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レオパレス問題(その2)(レオパレス「30年保証」裏付けた酷いアパートの次なる真相、レオパレス スポンサー決定でも茨の道の理由 賃料減額交渉 資金支援は金利14.5%という重荷、経営危機のレオパレス 500億円超の“救いの手”も…違法建築の補修「1千億円はかかる」の声〈AERA〉) [企業経営]

レオパレス問題については、昨年4月2日に取上げたままだった。一応スポンサーも決まったのを踏まえた今日は、(その2)(レオパレス「30年保証」裏付けた酷いアパートの次なる真相、レオパレス スポンサー決定でも茨の道の理由 賃料減額交渉 資金支援は金利14.5%という重荷、経営危機のレオパレス 500億円超の“救いの手”も…違法建築の補修「1千億円はかかる」の声〈AERA〉)である。

先ずは、本年9月4日付け幻冬舎GOLD ONLINEが掲載したウィステリア・グループ株式会社 会長兼代表取締役社長の藤本 好二氏による「レオパレス「30年保証」裏付けた酷いアパートの次なる真相」を紹介しよう。
https://gentosha-go.com/articles/-/28770?per_page=1
・『賃貸アパートの施工不良発覚から2年。昨年度の補修完了を目指すとしていたが、レオパレス21の改修工事は終わらない。業績も悪化の一途をたどっており、不動産オーナーからは心痛極まった声が上がっている。本件の構造的問題は何だったのか。ウィステリア・グループ株式会社の代表である藤本好二氏が書籍『不動産投資業者のリアル』(幻冬舎MC)で指摘しているのは…』、興味深そうだ。
・『「30年一括借り上げ保証」レオパレスの罪 ■「レオパレス21」訴訟で明らかになった、管理会社の闇  投資家が購入した不動産の管理を請け負う、管理会社。入居者募集や建物のメンテナンスなどの管理業務を、他に仕事を抱えている投資家自らが行うというのは現実的ではありません。ほとんどの場合、管理会社に業務委託することになります。 管理会社の系譜を辿ると、大きく二つに分かれます。一つは、もともと建築を手掛けていた会社が管理部門をつくったケース。もう一つは、内装など装飾を行っていた会社が管理事業を始めたというものです。近年は、管理だけに絞って事業を展開する会社も増えてきましたが、源流としてはこの二つになります。 いわゆる「サブリース」にまつわる問題の中心にいるのも、管理会社です。「かぼちゃの馬車」を運営していたスマートデイズも、もともとはその創業者が荒稼ぎをして引退するためにつくったスキームにおける管理会社部門でした。 管理会社のトラブルとして記憶に新しいのが、レオパレス21に対する訴訟です。 同社は「30年一括借り上げ保証」というサブリース契約を謳い、オーナーは入居者の有無にかかわらず安定した家賃収入が得られるというメリットを全面に押し出して管理を請け負っていました』、「オーナー」にとっては「30年一括借り上げ保証」が魅力的に思えたのだろう。
・『兵庫県、埼玉県…続々と判明したレオパレス21の不備  しかし実際には、早いもので10年も満たないうちに、家賃を減額したり、借り上げ契約を解除したりするようオーナーに強制的に迫った疑いがもたれています。 家賃減額や借り上げ契約解除は、オーナーを直接的に追い詰める非常に重要な事案です。もともとの立地がよく、物件としても魅力的であれば、たとえ契約解除がなされても賃貸経営を続けられるでしょう。しかし「30年保証」の甘い言葉により、そもそも賃貸需要が薄いような地域に物件を建ててしまったような場合には、ローン返済どころか負債ばかり増えていくことになります。 賃貸経営においては、まずはマーケティングを行ってその地域の賃貸需要をリサーチし、単身者向けやファミリー向けなど需要に合わせた建物を採算の取れる範囲内の金額で建設して運営するというのが基本です。建物の劣化により家賃の下落もあらかじめ考慮し、それも込みで経営が成り立つかを、投資する前に判断する必要があります。 ところが、「入居者の有無にかかわらず、30年間は安定した収入がある」というセールストークをそのまま受け入れ、マーケティングなど一切せずに投資を行ってしまったことが、レオパレス21に対する訴訟の前段であると思います』、「レオパレス21」側の「セールストーク」はさぞかし猛烈なものだったのだろう。
・『■「手抜き工事」「手抜き管理」も存在する  もちろん、レオパレス21側にも大きな問題があります。 レオパレス21はもともと仲介会社であり、1973年創業の古参です。その後、1985年から、都市型アパートとして「レオパレス21」を本格展開。バブルの勢いに乗って成長を続け、2018年4月現在では、約57万戸を管理しています。 現在のレオパレス21は、建設から完成後の借り上げ、管理までを一括して行う事業者です。そのビジネスモデルにも、「30年一括借り上げ」へとつながる伏線があります。個人的には、マンションやアパートを建設する時点で、かなりの利益を上げていたと推測します。 2018年5月、レオパレス21が1996年から2009年の間に建てたアパート38棟に関して、欠陥が指摘され、建築基準法の疑いが浮上しました。もともと、「レオパレスのアパートは壁が薄い」という噂が囁かれてきましたが、それが事実であると示されたわけです。具体的には、兵庫県や埼玉県など12都道府県で、天井裏に音漏れや延焼を防ぐための界壁がなかったり、施工が不十分だったりというのを、レオパレス21側が確認しました。 不良物件については、2019年10月までに補修工事を行うとしています※。 ※編集部注・・・補修工事は延期され「2020年6月末を目処」に完了するとの発表があったが、2020年8月末時点で終了していない』、「界壁」がなければ完全に違法である。
・『「30年一括借り上げ」でも利益を上げていたカラクリは  なお、発覚の経緯については、2018年3月29日と4月17日に、オーナー2人から、「行政が発行した確認通知書の内容と実際の建物に相違がある」と指摘を受け、調査を開始したと説明しています。184棟を確認した結果、168棟に違いが見つかったといいます。 そうした手抜き工事が示すのは、利益の水増しです。建設費を少しでも安く抑えれば、それは事業者の利益となります。 レオパレス21ブランドのアパートはどれもほぼ同じ仕様であり、同じ規格で大量に発注することで建設コストを安く抑えることができたはずです。それに加えて手抜き工事を行った上、相場より割高で販売するとしたら、通常で同様のアパートを建設するのに比べ2倍の利益が出てもおかしくありません。 建設時にそれだけ稼げれば、その一部を「30年一括借り上げ」の初期費用に回しても、十分に利益が出るわけです。逆から見れば、オーナーは自分が払ったお金の一部の返金を受けているだけともいえます。そしてそこから断続的に家賃を下げたり、契約解除を行ったりすれば、利益を確定できます(注:主語はレオパレス21)。 また、レオパレス21は自らのアパートの仲介も行っていたわけですから、建設地における賃貸需要も当然、分かっているはずです。それにもかかわらず近隣に何棟もの自社アパートを建設し、それらが競合するのを承知の上で数年で家賃の減額や借り上げ解除を迫るというのは、あらかじめスキームとして計画されたと疑われても仕方ありません。 その他に、管理面のトラブルもあります。2017年8月、静岡、岐阜、愛知などにアパートを所有するオーナー29人が、「レオパレス21が契約通りに修繕を行っていない」として、修繕契約の無効および支払った修繕費計1億4700万円の返却を求める訴訟を起こしています。 このオーナーたちは、レオパレス21と一括借り上げの契約を結んだ上、別途締結した修繕契約に基づいて、月々10万円ほどの修繕費を賃料から差し引くかたちで支払っていました。 訴えによれば、屋根の塗り替えなど一定期間で行うべき修繕がほとんど行われていなかったといいます』、「月々10万円ほどの修繕費」を集めておきながら、「屋根の塗り替えなど一定期間で行うべき修繕がほとんど行われていなかった」とは悪質だ。
・『投資家には管理会社の見極めが求められる  建物の修繕も、その実際の頻度や実施内容を見れば割高と思えるような設定をしている管理会社はいくつもありますが、訴訟にまで発展しているということは、おそらくオーナーからの度重なる修繕要求にもレオパレス21側が応じなかったのでしょう。 もし、これらすべてが真実であるとするなら、レオパレス21は投資家が関わってはいけない悪徳業者の一つであると言わざるを得ません。 そして管理面での訴訟は、他の管理会社でも同様に起こり得ることです・・・』、「投資家には管理会社の見極めが求められる」、とはいっても、見極めができないよう素人にまで客層を広げたことは罪深い。

次に、10月13日付け東洋経済オンライン「レオパレス、スポンサー決定でも茨の道の理由 賃料減額交渉、資金支援は金利14.5%という重荷」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/380801
・『建築した賃貸アパートの施工不良が発覚したレオパレス21。9月末にスポンサーが決まったと発表されたが、地に墜ちたブランドイメージ再生の足がかりは、いまだつかめていない。 そのレオパレスは10月9日、注目すべき数字を発表した。9月時点の入居率は78.09%にとどまったのだ』、興味深そうだ。
・『目標入居率の達成は絶望的に  同社のビジネスモデルは、賃貸アパートの貸し主(オーナー)から賃貸物件を一括して借り上げ、入居者に転貸するサブリース業だ。オーナーにまとめて固定賃料を支払っているため、入居者が一定数を下回ると、オーナーに支払う賃料が入居者から受け取る賃料を上回る「逆ザヤ」状態になる。損益分岐点となる入居率は80%で、それを下回ると現金の流出が続くことになる。 2021年3月期は施工不良問題の影響に加えて新型コロナウイルスが直撃。賃貸アパートをまとめて借り上げる法人向け需要がふるわない。頼みの綱の外国人需要も蒸発し、5月に80%を割り込んだ入居率は8月には78.18%と過去最低を更新し、9月はそれをさらに下回った。 同社経営企画部の竹倉慎二部長は「足元では法人契約は戻ってきている」というが、2021年3月期の目標として掲げた平均入居率81.63%(2020年3月期実績は80.78%)の達成は絶望的な状況だ。 資材や人件費の高騰、自治体との工事計画の調整も遅れ、補修工事も遅々として進まない。9月末に公表した2020年4~6月期決算では当期純損失として141億円を計上し、118億円の債務超過に転落した。 レオパレスは1000人規模の希望退職を募ることでコストを削減。保有不動産の売却によって現金の確保を急ぐが、債務超過の解消のためには、とにもかくにもスポンサー支援が不可欠だった』、なるほど。
・『金利14.5%で資金調達  そんな中、4~6月期決算と同時に公表されたのが、アメリカの投資ファンド「フォートレス・インベストメント・グループ」による合計572億円にのぼる資金支援だった。 具体的には、普通株の割り当てで約120億円を調達し、新株予約権をつけて300億円の融資を受ける。さらに子会社の太陽光発電会社レオパレス・パワーの優先株を発行し、150億円を調達する。調達した資金は、補修工事に340億円、子会社の借り入れ返済に134億円、社債返還に65億円を充てるという 驚くべきはその資金調達コストの高さだ。300億円の新株予約権付き融資の金利は、利息制限法の上限(15%)に近い年率14.5%だ。一定の入居率達成で年率10%に軽減されるとはいうものの、市場金利が0%に張りつく時代にあって法外な金利となっている。 子会社の150億円の優先株も最大7%の配当を支払うことになっており、年間で最大54億円もの収益圧迫要因となる。 そもそも債務超過の解消や子会社の借入金返済は、普通株の発行や子会社による優先株発行で実現できる。 不可思議なのは300億円の融資の必要性だ。借金の押し売りにも見えるが、レオパレスは「資金需要はいろいろなものが想定されるので……」(竹倉経営企画部長)と口を濁す』、「新株予約権付き融資の金利は・・・年率14.5%だ」、「優先株も最大7%の配当を支払うことになっており、年間で最大54億円もの収益圧迫要因」、とは本当に重い負担だ。「300億円の融資」の必要性は確かに不明だ。
・『フォートレスの正体とは  さらに、フォートレスはレオパレス・パワーの優先株を普通株に転換して、同社を手に入れることができる。レオパレス・パワーは賃貸アパートの屋上に太陽光パネルを置く売電事業を手掛けており、2020年3月期は4億4000万円の最終利益をあげている。 SMBC日興証券の田澤淳一シニアアナリストは、「(レオパレス・パワーから)あがってくる利益はファンドがすべて吸い取るということ。それでも(スポンサー候補がレオパレス側に示した)複数の提案の中で、これが唯一成立した条件だった」と解説する。 ある金融関係者も「レオパレスをつぶすわけにはいかなかった。施工不良は他社にもあり、国の監督責任も問われることにもなる。この低金利の中、地銀がレオパレスのオーナーに貸し込んでいるアパートローンは、2兆円ではきかないのではないか」と話す。 レオパレスにこのような過酷な条件を課すフォートレスとはいったいどんな存在なのか。 同社はニューヨークを本拠とする投資ファンドで、世界がリーマンショックにあえいでいた2009年から日本における不動産投資事業を本格化させた。 2017年にはソフトバンクの傘下に入るが、同年、全国10万6000戸にのぼる公営住宅不動産(旧雇用促進住宅)を取得。リフォームして、最低賃料2万円台をうたう「ビレッジハウス」として運用している。そのビレッジハウスの約5万戸で「複雑なリノベーション工事を実施・管理し、稼働率を約2倍にした」という。 法人契約が6割のレオパレスと、中低所得者中心のビレッジハウスでは入居者層が異なり、「賃貸営業を一緒に行うとシナジーも期待できる」(前出の田澤シニアアナリスト)という』、「地銀がレオパレスのオーナーに貸し込んでいるアパートローンは、2兆円ではきかないのではないか」、これでは「レオパレス」が万一、破綻した場合、「2兆円」超が宙に浮くことになり、「地銀」や「オーナー」は地獄に追い込まれることになる。
・『賃料減額要求がやってくる  だが、レオパレスの入居率を改善させるには適正な賃料設定が欠かせない。つまり賃料の減額だ。これは賃貸アパートのオーナーにとっては不利益になる。 レオパレスをはじめとするサブリース会社の多くは、オーナーに対して「10年間賃料固定」などとアピールしてきた。しかし、法的には10年契約の途中でも賃料を減額することが可能で、リーマンショック後、オーナーに賃料の減額や解約を突然通告するケースが続発。全国で賃料減額分の返還を求める訴訟も頻発した。 レオパレスは2011年ごろから契約を10年固定から2年固定に切り替える交渉を進め、その過程でオーナー側とのトラブルも発生した。いまでも数件が係争中だという。 同社は「2021年3月までは施工不良問題を理由に賃料の減額はしない」とオーナーに約束した。逆に言えば、2021年4月以降は、更新時期が到来した契約から「相場にあわせた賃料」(レオパレス)に順次変更されることになる。改定水準は不動産鑑定会社による客観的なものになるというが、賃料の実勢を考えると、大半の物件オーナーは減額を迫られるだろう。 「経年劣化や周辺環境にあわせて賃料が下がるのは当たり前」(都内のオーナー)という声もあるが、説明の過程で再び「サブリース問題」を抱えることは、もはや許されない。一方で、国土交通省は「(スポンサー決定で)局面は変わった。補修工事は早期に完了させるべきだ」(幹部)とする。 多額の金利負担に耐えながら賃料の見直しを進め、入居率を上げる。そして、補修工事を早期に終わらせる。スポンサーの資金支援を得て束の間の安息を得ても、レオパレスは結局「茨の道」を歩むことになる』、まずは、当面の「賃料」「減額」交渉に注目したい。

第三に、10月18日付けYahooニュースがライターの吉松こころ氏によるAERAdot記事を転載した「経営危機のレオパレス、500億円超の“救いの手”も…違法建築の補修「1千億円はかかる」の声〈AERA〉」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/1def571bb4c913537fe7d00624d28a8a747b76eb?page=1
・『違法建築問題で経営危機のレオパレスを、ソフトバンク系のファンドが救済する。倒産もささやかれる中でぎりぎりで踏みとどまった形だが、まだまだ予断を許さない状況であることには変わりないようだ。AERA 2020年10月19日号では、レオパレスの現状を取材した。 全国的な違法建築問題をきっかけに経営難に陥っていた賃貸住宅大手のレオパレス21に、救済の手がさしのべられた。同社は9月30日、ソフトバンクグループ子会社の米投資ファンド「フォートレス・インベストメント・グループ」から総額572億円の出資と融資を受けて経営再建を目指すと発表した。 レオパレスは6月5日、2020年3月期決算で802億円の純損失を計上。その後1千人以上の人員整理を公表したほか、自社株を相次ぎ売却したり、保有するホテルや賃貸住宅を簿価の半額程度で「投げ売り」したりと現金をかき集めている様子が明らかとなり、倒産の噂がささやかれる中での支援決定だった。 9月30日に発表した4~6月期決算によると、同社は6月末時点で約118億円の債務超過に陥っていた。だがファンドからの第三者割当増資で約119億円の出資を受け入れ、300億円を借り入れるほか、子会社にもファンドの出資を受け入れるなどして、債務超過を解消できるという。まさに土俵際で踏みとどまった形だ』、「自社株を相次ぎ売却したり、保有するホテルや賃貸住宅を簿価の半額程度で「投げ売り」したりと現金をかき集めている」、そこまでやっていたとは初めて知った。
・『オーナーとの契約標的  レオパレスは今後、ファンド主導で経営改善を進めることになる。不動産とファンドに詳しいコンサルタントの西村明彦さんは、改革は短期決戦とみる。 「ファンドの目的は買った株式の価値を上げ、売って利益を得ること。基本は1~2年、長くても3年で結果を出します」 ファンド側がすぐにでも着手すると考えられるのが、優良物件の選別だ。優良物件とは、入居率がよく安定して家賃が入ってくる物件や、大手法人が社宅にしている物件。そうではない物件は収益性が低い不良物件と見なされることになる。 レオパレスの場合、物件は各地のオーナーが建設・保有し、レオパレスが一定額の家賃収入を保証する「サブリース」という仕組みをとっている。オーナーにとっては入居の有無にかかわらず毎月一定の金額が入ってくるため、ローンを組んで賃貸住宅を建てるケースが多い。 だが今回、ファンド側は不良物件のオーナーに対して家賃保証の大幅な減額を要求するとみられる。応じなければ家賃保証の終了に追い込むこともあり得る。西村さんは「手慣れたファンドマネジャーたちによって、家賃減額交渉は一気に進むでしょう」と語る。 レオパレスの4~6月期の営業損益は68億円の赤字。最大の理由は入居率の低さだ。物件全体の入居率は79.43%。駅から遠い、近くに企業や大学などがないなどそもそも需要が少ない物件も多い上、違法建築問題が追い打ちをかけている。一般的にサブリースで家賃保証を行う側(この場合はレオパレス)が利益を得られる損益分岐点は入居率80%とされる。経営再建へ、入居率引き上げも極めて大きな課題だ』、「手慣れたファンドマネジャーたちによって、家賃減額交渉は一気に進むでしょう」、「オーナー」にとっては大変だ。
・『340億円で物件改修  だが、入居率を改善させるには、レオパレス信用不振のきっかけとなった違法建築問題の解決抜きには語れない。 同社によると、明らかな不備がある賃貸住宅は全国に1万3626棟あり、改修工事が完了しているのはその7.7%にあたる1055棟にすぎないという。上記以外にも1万6457棟で小屋裏の界壁(部屋と部屋を仕切る壁)などに軽微な不備が確認されている。 これらの改修を請け負うはずの施工会社が、レオパレスの信用不安から仕事を受けたがらなかったことも進捗が遅れている理由の一つ。工事が終わらず入居者募集を保留している部屋は、7月末時点で5万室に上る。これはレオパレスが管理する約57万室の8%超にあたる。 ファンドから調達した資金のうち、340億3300万円は「界壁等の施工不備に係る補修工事費用」として使用される。これにより工事が進むことが期待されるが、内部事情に詳しい元幹部からは「補修箇所は一律でなく様々なタイプがあるため、費用は1千億円はかかるだろう」との声も聞かれ、なお予断を許さない状況だ』、「費用は1千億円はかかる」ようなことでもなれば、大変だ。「レオパレス」からはまだまだ目が離せないようだ。
タグ:補修箇所は一律でなく様々なタイプがあるため、費用は1千億円はかかるだろう 340億円で物件改修 手慣れたファンドマネジャーたちによって、家賃減額交渉は一気に進むでしょう オーナーとの契約標的 118億円の債務超過 6月末時点で約118億円の債務超過 自社株を相次ぎ売却したり、保有するホテルや賃貸住宅を簿価の半額程度で「投げ売り」したりと現金をかき集めている 1千人以上の人員整理 802億円の純損失 「経営危機のレオパレス、500億円超の“救いの手”も…違法建築の補修「1千億円はかかる」の声〈AERA〉」 AERAdot 吉松こころ yahooニュース リーマンショック後、オーナーに賃料の減額や解約を突然通告するケースが続発。全国で賃料減額分の返還を求める訴訟も頻発 法的には10年契約の途中でも賃料を減額することが可能 賃料減額要求がやってくる 「レオパレス」が万一、破綻した場合、「2兆円」超が宙に浮くことになり、「地銀」や「オーナー」は地獄に追い込まれることになる 地銀がレオパレスのオーナーに貸し込んでいるアパートローンは、2兆円ではきかないのではないか フォートレスの正体とは 年間で最大54億円もの収益圧迫要因 150億円の優先株も最大7%の配当 年率14.5%だ 300億円の新株予約権付き融資の金利は 合計572億円にのぼる資金支援 フォートレス・インベストメント・グループ 金利14.5%で資金調達 9月時点の入居率は78.09% 目標入居率の達成は絶望的に 「レオパレス、スポンサー決定でも茨の道の理由 賃料減額交渉、資金支援は金利14.5%という重荷」 レオパレス、スポンサー決定でも茨の道の理由 賃料減額交渉、資金支援は金利14.5%という重荷」 東洋経済オンライン 投資家には管理会社の見極めが求められる 「月々10万円ほどの修繕費」を集めておきながら、「屋根の塗り替えなど一定期間で行うべき修繕がほとんど行われていなかった」とは悪質だ 「30年一括借り上げ」でも利益を上げていたカラクリは 「手抜き工事」「手抜き管理」も存在する 兵庫県、埼玉県…続々と判明したレオパレス21の不備 「レオパレス21」訴訟で明らかになった、管理会社の闇 「30年一括借り上げ保証」レオパレスの罪 「レオパレス「30年保証」裏付けた酷いアパートの次なる真相」 藤本 好二 幻冬舎GOLD ONLINE (その2)(レオパレス「30年保証」裏付けた酷いアパートの次なる真相、レオパレス スポンサー決定でも茨の道の理由 賃料減額交渉 資金支援は金利14.5%という重荷、経営危機のレオパレス 500億円超の“救いの手”も…違法建築の補修「1千億円はかかる」の声〈AERA〉) レオパレス問題
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不動産(その6)(タワマンの実態は「超高層レオパレス」 脆弱な外壁と修繕不可で“45年限界説”、テレワーク普及で「オフィス」は不要になるのか CBRE日本法人トップが語る今後の不動産市況、「不動産バブル」が日本で起きる可能性が高い理由) [産業動向]

不動産については、昨年9月8日に取上げた。久しぶりの今日は、(その6)(タワマンの実態は「超高層レオパレス」 脆弱な外壁と修繕不可で“45年限界説”、テレワーク普及で「オフィス」は不要になるのか CBRE日本法人トップが語る今後の不動産市況、「不動産バブル」が日本で起きる可能性が高い理由)である。

先ずは、本年3月20日付けデイリー新潮が掲載した不動産ジャーナリストの榊淳司氏による「タワマンの実態は「超高層レオパレス」 脆弱な外壁と修繕不可で“45年限界説”」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2020/03201100/?all=1&page=1
・『去年の10月12日、東海から東北にかけて襲い掛かった台風19号。これまでにない豪雨と強風は、各地に甚大な被害をもたらした。90名以上の方が亡くなり、約9万8千棟の住宅が被害を受けた。なかには跡形もなく流されたり、二度と住めなくなった住宅も少なくなかった。 その一方で、テレビや新聞、雑誌を始め、メディアで盛んに取り上げられたのが、神奈川県川崎市の武蔵小杉にあるタワーマンション2棟の浸水被害だった。下水が逆流して、電気が使えなくなるなど、一時的に「住めない」状況に追い込まれた。 被害が発生した10月13日からネット上で「トイレが使えない」、「ウンコ禁止」などあからさまな表現の書き込みが猛烈な勢いで拡散。続いて、メディアの取材が殺到した。 2棟のうち1棟は被害が比較的軽微で、数日のうちにほぼ復旧した。だが、「エレベーター使用不可」、「全階住戸内でのトイレ使用禁止」になった47階建てのタワマンでは、一応の復旧までにさらに1カ月近くかかったようだ。 戸建てに比べて、最新の設備を誇るタワマンは「災害に強い」というイメージがある。たしかに、地震で倒壊したり、水害で流されたりする心配は少ない。しかし、水も電気も来なくなれば、階段を何階も昇り降りしなければならない厄介な住宅なのだ。 タワマンは基本的に災害に弱い。そう考えるべきだろう。 台風19号は「100年に1度」とも称される激甚災害だった。タワマンの被害だけをあげつらうのは酷だという向きもあろう。しかし、タワマンの脆弱性は、何も災害時にかぎった話ではないのである。 タワマンとは一般的に、20階以上の集合住宅のことを指す。不動産や建築の専門家でもない限り、タワマンとは普通のマンションの階数を高く作ったもの、くらいにしか理解していないだろう。 ところが、タワマンの構造は19階以下の板状マンションとはかなり違う。その違いを分かりやすく言えば、タワマンは「超高層レオパレス」ともいうべき代物なのだ』、「超高層レオパレス」とは穏やかではないが、どういうことなのだろう。
・『外壁も戸境壁も脆弱  レオパレス21が建てた多くのアパートの外壁や戸境壁が、建築基準法に満たない薄い構造になっていたことはご存知の通りである。タワマンの外壁や戸境壁は、建築基準法を一応クリアしているものの、そこにはほぼ鉄筋コンクリートが使われていない。 まず外壁に使われているのはALCパネルというもの。これは「高温高圧蒸気養生された軽量気泡コンクリート」の頭文字をとって名付けられた建材で、「コンクリート」という名称を用いているものの、一般的なコンクリートとは似て非なるもの。軽量で丈夫な外壁パネル素材である。 そして、戸境壁に使われているのは乾式壁と呼ばれる素材。ここにもコンクリートは使われていない。分かりやすく言えば分厚い石膏ボードのようなもの。 私のところにマンション購入の相談にやってこられたある方は、財閥系大手が都心の一等地で開発分譲した大型のタワマンに、賃貸で住んでおられた。その方がおっしゃるには「隣の人がくしゃみをしたら、分かるんですよ。60万円も家賃を払っているのに」。掃除機をかけていても分かるらしい。それが乾式壁というものなのだ。 このALCパネルや乾式壁は、建築時には便利な建材だ。何といっても工場で大量生産したものを、現場で嵌めこめばいい。鉄筋や鉄骨を組んで、コンクリートを流し、乾かす必要がないのだ。だから、外壁や戸境壁を鉄筋コンクリートで作る通常のマンションなら、1層分を作るのに約1カ月かかるところ、タワマンの建築はひと月で2層出来てしまう。 タワマンの建設現場をご覧になったことのある方は、その建設スピードに驚かれたはずだ。タワマンはあっという間に空に向かって伸びていく。なぜなら、太い柱と床さえ鉄筋コンクリートで固めてしまえば、あとは工場から運ばれてきたALCパネルや乾式壁を嵌めこんでいけばいいのだから』、「外壁や戸境壁を鉄筋コンクリートで作る通常のマンションなら、1層分を作るのに約1カ月かかるところ、タワマンの建築はひと月で2層出来てしまう」、確かにすごい「スピード」だ。
・『このように施工はやりやすいのだが、中長期で考えるとタワマンの構造は厄介だ。通常のマンションは床と外壁の鉄筋コンクリート部分が継ぎ目なくつながっている。強力な地震で外壁に大きなひびでも入らない限り、雨水が浸入することはない。しかし、外壁にALCパネルを使っているタワマンは、いってみれば継ぎ目だらけ。継ぎ目にはコーキング剤と呼ばれる、接着と防水機能を持った粘液が使われる。これが固まって雨水の浸入を防ぐのだが、このコーキング剤は15年程度で劣化するとされている。だから、15年に1度程度、古いコーキング剤を掻き出して新しいものを注入しなければならない。 つまり、タワマンはその構造的に15年に1度程度の外壁修繕工事が必須になるのである。しかも、湾岸エリアにあるタワマンには塩分が混じった雨風が吹き付けるので、コーキング剤の劣化が早まる可能性も指摘されている。この15年が更に短くなる可能性すらあるのだ。 だが、タワマンは階数が高いため、外壁の修繕工事が通常のマンションに比べて格段に難しい。普通のマンションなら、建物のまわりに足場を組めば外壁の修繕工事は容易だ。しかし、工事用の足場は17階あたりまでしか組めない。それから上はどうするのか? 現状では、屋上からゴンドラを吊るして作業するやり方が採用されることが多い。しかし、これだと、強風時には作業ができないので、工事期間が長くなる。タワマンは建築時には1カ月に2層が出来てしまうのに、外壁の修繕工事は1カ月に1層。60階のタワマンなら計算上43カ月もかかることになる。 さらに深刻な問題はその費用だ。通常のマンションなら、外壁の補修を伴う大規模修繕工事の費用は戸当たり100万円程度が目安だ。しかし、タワマンの場合は戸当たり200万円以上。これも昨今の人件費の高騰で、値上がり傾向にある。今後は300万円程度を見込んだ方が良い。多くのタワマンでは、何とか第1回の大規模修繕は行える。しかし、2回目はエレベーターや上下水道管の取り換えが伴うので、1回目よりも費用がかさむと考えるべきだろう。 だから毎月徴収する修繕積立金の値上げが必要となる。値上げには、管理組合の総会で値上げ議案の議決という手続きを経る必要がある。賛成多数で値上げしても、経済的に払えない人も出てくる。 2回目の大規模修繕を乗り越えても、3回目はどうだろうか。おおよそ建築後45年から50年あたり。私は半分以上のタワマンでは、住民の経済的理由などで3回目以降の大規模修繕は不可能になると予測する。 通常のマンションは、細やかにメンテナンスを行えば50年以上住めるのはほぼ確実。現に60年以上も十分使用に耐えたマンションもあった。だが、タワマンに限っては「45年限界説」が有力そうである。(榊氏の略歴はリンク先参照)』、「タワマンは建築時には1カ月に2層が出来てしまうのに、外壁の修繕工事は1カ月に1層。60階のタワマンなら計算上43カ月もかかることになる」、「通常のマンションなら、外壁の補修を伴う大規模修繕工事の費用は戸当たり100万円程度が目安だ。しかし、タワマンの場合は戸当たり200万円以上・・・今後は300万円程度」、「タワマンに限っては「45年限界説」が有力そう」、入居者はこんな事情を知らない人が大半だろう。「メンテナンス」時期を迎えるにつれ、大きな社会問題になるだろう。

次に、8月15日付け東洋経済オンライン「テレワーク普及で「オフィス」は不要になるのか CBRE日本法人トップが語る今後の不動産市況」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/369052
・『不動産業界では、コロナ禍でホテルや商業施設の稼働が落ち込む一方、賃貸住宅や物流施設は堅調に推移するなど収益性に二極化が生じている。不動産の過半を占めるオフィスについても、テレワークの普及で不要論がささやかれる中、今後の不動産市況をどう見るべきか。日本国内でも不動産の取引仲介や運用、オフィス移転などを手がける、アメリカの不動産サービス大手CBRE・日本法人の坂口英治社長に聞いた(Qは聞き手の質問、Aは坂口氏の回答)』、興味深そうだ。
・『「不動産はむしろ見直されている」  Q:投資家の不動産投資意欲に変化はありますか。 A:当初はどれくらい価格が下がるかを見定めていたが、外資系ファンドを中心に、いよいよ痺れを切らした。年間の投資目標を見据えて投資しなければならない彼らにとっては、コロナ禍でも物流施設や賃貸住宅、データセンターといった賃料の下落リスクが限定的な物件なら投資しない理由はない。おっかなびっくりというよりも、これ以上我慢できずに買えるものを買いに行く、という状況だ。 今年3月に起きた株式市場の暴落を見て、機関投資家は株式のボラティリティの高さを意識した。他方で、不動産はキャッシュフローさえ安定していれば時価評価で一気に落ちるわけではないため、投資家から見直されている。 Q:お金を遊ばせたくないということでしょうか? A:そう。特に先進国では高齢化が進んで、年金投資家の声が強くなっている。彼らは一過性のキャピタルゲインよりも安定したリターンを求めるため、利回りが付いている投資商品にはお金が殺到している。 とりわけ物流施設では3%台の利回りが当たり前になってきている。江東区や羽田、千葉の湾岸部といった好立地なら、都心のグレードAオフィスビル並みのキャップレートに追いついてきている。それでもEコーマス需要の高まりを考えれば、立地がよければ買い手はつく。今後3%を切る物件が出てきてもおかしくない。 Q:過熱感がある? A:すべての不動産に資金が集まっているわけではない。ホテルや都市部の商業施設にはローンが付かず、イールドギャップ(投資利回りと借入金利の差)が取れない。現在のテナントが退去した後、埋め戻しができるのかという心配もあり、われわれでもマーケット予測が難しい』、「機関投資家は株式のボラティリティの高さを意識した。他方で、不動産は・・・投資家から見直されている」、なるほど。
・『Q:不振のホテルをあえて取得するオポチュニスティック(高リスク高リターン)な投資家もいるようです。 みんなそれをしたいはずだ。だが、ローンが付かないため出せる価格が非常に低く、その価格では物件オーナーが抱えるローンさえ返済できない。金融機関側には今のところ返済を迫る動きがないため、オーナーにとっては無理に売却するよりも金融機関と(条件変更などの)交渉をしたほうが得策だ。 Q:不動産の大部分を占めるオフィスビルの動向は? A:オフィス移転の相談は今年7月に入ってから増えている。売り上げが激減しているため固定費を削減しないと存続が危うい、銀行に自助努力を見せないといけないというテナントが多い。ただ、実際に移転や退去を進めるというよりは、どんな選択肢があるかを机の上に並べている(検討している)状態だ。 普通借家契約で入居しているなら退去に要する期間、原状回復費用、次のビルへの移転費用、移転先でフリーレントが付けられそうか。あるいは、(中途解約が原則不可能な)定期借家契約なら、居抜きや転貸での退去が可能か、ビルオーナーの承諾をどのように得るか、などのシミュレーションを行っている。 われわれはビルオーナーの特性を知っている。オーナーによってはビルに入居しているテナントと同じ業種を入居させることはダメ、エレベーターの混むコールセンターのような業態はダメ、といったルールもある。最近では、ビルオーナーに営業に行っても断られることが少なくなった。みな他社の動向を知りたいので、まずは話を聞いてみようというスタンスだ』、現在のところは、「他社の動向」をにらんだ模様眺めの段階にあるようだが、1社が交渉・移転段階に進むと、一斉に動き出す可能性がありそうだ。
・『オフィスへの考え方は二極化する  Q:「オフィス不要論」が叫ばれています。 A:在宅勤務が機能していると胸を張っている経営者がいるが、それは裏を返せば自社のオフィスがこれまで何も生み出していなかったと認めているようなものだ。通勤に時間をかけて会社に来ても、「1+1=2」になっていなかった。 オフィスは毎月賃料がかかる点で確かにコストだ。他方で、よい立地によい環境のオフィスを構えることが将来の成長につながる、などと投資として捉える企業もいる。在宅勤務ではこれまで築き上げてきた企業文化が維持できなくなってしまうし、社員教育も難しい。テナントからは、「海外でのオフィスのトレンドを教えてほしい」といった相談も来ている。 足元では企業業績に余裕がなく、また自社にとってどんなオフィスが必要かも手探り状態だが、もう少し時間が経てば企業の間でのオフィスに対する考え方は二極化(コストと考えるか、将来への成長投資と捉えるか)してくるだろう』、「オフィスへの考え方」はどちらに落ち着くのだろう。

第三に、10月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した株式会社さくら事務所創業者・会長の長嶋 修氏による「「不動産バブル」が日本で起きる可能性が高い理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/251358
・『不動産市場は減速したがバブル崩壊は起きていない  今年4月の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の発令以降、不動産市場に大激変が起きた。インバウンド需要を見込んでいたホテル、飲食店などの商業系は自粛ムードで閑古鳥が鳴く日々が続いた。こうした中、民主党から自民党に政権交代した2012年12月以降、長らく続いてきた不動産市場の上昇基調にもブレーキがかかり、「バブル崩壊か?」といった声も各種メディアから聞こえた。 しかし結論を言えば、そうしたことは一切起こっていない。理由は簡単で、1990年代やリーマン・ショック前のバブル崩壊とは異なり、今回は日米欧の同時金融緩和、とりわけ日米は無制限金融緩和を行うことで、金融システムが崩壊することを阻止したためだ。一時1万6000円台をつけた日経平均株価も現在は2万3000円台と、すっかりコロナ禍前の水準に戻っている。 国土交通省が8月29日発表した7月1日時点の基準地価は、全国平均(全用途)の変動率が前年比マイナス0.6%と、2017年以来3年ぶりの下落。商業地はマイナス0.3%と5年ぶりに下落に転じ、昨年、28年ぶりに上昇した地方圏の商業地は再び下落に転じた。住宅地はマイナス0.7%と下落幅を拡大させている。 以下、商業地と住宅地の状況について、詳しく見ていこう』、「不動産市場は減速したがバブル崩壊は起きていない」、とは一安心だ。
・『インバウンド需要の激減で不透明感が強まる商業地  商業地は新型コロナの影響が最も大きかった分野だ。地価押し上げの大きな要因となっていたインバウンド需要が今年に入って激減し、不透明感が強まっている。訪日外国人客がほぼ消滅したことに加え、緊急事態宣言などによる外出自粛や店舗への休業要請で国内の経済活動も大幅に停滞した。 かつてホテルや商業施設用の不動産取引が活況だった地方の観光地や、東京の銀座や新宿、大阪の道頓堀付近など、繁華街エリアにおいて値下がりが目立つ。 最高価格は東京都中央区の「明治屋銀座ビル」で、1平方メートル当たり4100万円。また、最も上昇率が大きかったのは住宅地、商業地とも、リゾート開発が活発な沖縄県宮古島市でプラス30%を超えた。 地域別では地方圏と名古屋圏の下げが大きい一方、札幌、仙台、広島、福岡の底堅さも目立つ。三大都市圏より高利回りを求めた投資マネーが流れ込み再開発が進んでいるためだ。 ホテル投資は今後しばらく冷え込むことになりそうだが、心配ない。そもそも都市部のホテル用地は新築マンション用地取得と競合しており、昨今は取得単価の高いホテルが圧勝してきた。そのため、新築マンションは年々発売戸数を減らしており、ホテルが撤退してもマンション用地に取って代わるだけだ。 東京・銀座に象徴される商業地も、仮に現在の店舗が撤退してもニーズは高く、多少の賃料下げはあってもすぐに埋まるだろう』、「ホテルが撤退してもマンション用地に取って代わるだけ」、なるほど。
・『コロナ前の活況に戻りつつある住宅地  東京、大阪、名古屋の3大都市圏の住宅地はすべてマイナスとなり、東京、大阪が下落したのは7年ぶり、名古屋は8年ぶりだ。 また、地方圏は住宅地がマイナス0.9%と下落幅が拡大。札幌、仙台、広島、福岡の4市は住宅地がプラス3.6%、商業地がプラス6.1%といずれも上昇を維持したものの、伸び率は縮んだ。 ところが現場は活況だ。 新築・中古の一戸建て市場は、一時は半減したものの、今では緊急事態宣言中のマイナス分を上回る勢いである。 マンションについても、8月の首都圏中古マンション取引件数は前年同月比プラス18.2%、平均価格は同プラス5.3%と絶好調。都心3区(千代田・中央・港区)の中古マンション成約平米単価は過去最高を更新した。 首都圏新築マンション発売戸数は前年同月比8.2%減だが都区部以外は大幅増で、契約率も68.5%と順調だ。 図表1:都心3区中古マンションの「在庫数」と「成約単価」(リンク先参照) 「コロナで都心居住が見直され、郊外や地方への移住が増える」「リモートワーク(在宅勤務)でオフィスの空室率が高まる」といった言説も、現実のものとはならなかった』、最後の部分は意外な感じがする。
・『世界的に割安感がある日本の不動産市場  日米欧が協調する形で大規模な金融緩和が行われ金融システムが維持されたことで、コロナによる経済的打撃が相対的に低く、かつ、空室率が低くて割安感のある、日本の不動産を物色する動きが活発化している。 とはいえ、投資マネーが向かう先は東京を中心とした大都市などが中心。価格帯でいえば100億円以上といった、ある程度のロットの不動産に限定されるためだ。 アベノミクス以降、国内不動産市場は「(1)価値維持ないしは上昇(市場全体の15%)」「(2)緩やかに下落(同70%)」「(3)無価値(同15%)」と極端な三極化が進行してきた。この先、(1)の不動産市場だけは、1980年後半以降にみられたバブル的な局面に突入する可能性もある。 ここでいう「バブル的」とは、例えば「マイナス利回りでの取引」だ。 90年バブル期やリーマン前のプチバブル期には不動産の買いが買いを呼び、得られる賃料を勘案すると利回りがマイナスとなってしまう価格帯での取引が散見された。その理屈は「賃料上昇は後からついてくる」といったもの。 今後、なかば実体経済を無視する形で、世界的に見ても相対的に割安感のある日本の不動産が、国内・海外マネーの標的になる可能性がある』、かつては、「日本の不動産」は「割高」と言われてきたが、いつの間にか逆の評価に変わったようだ。
・『商業用不動産の投資額で東京が世界一に  筆者は10月1日放送のNHK「クローズアップ現代+」に出演。世界的なコロナ禍の中、東京の不動産に注目が集まっており、1980年型の不動産バブルの兆しが垣間見えることを説明した。 2020年上半期の世界の商業用不動産投資額をみると、第2四半期の投資額は前年同期比55%減の1070億ドルとなり、新型コロナウイルスの影響が露呈した。渡航制限、経済への打撃、先行き不透明感など3月中旬から6月初旬にかけて新型コロナの影響が顕著となり、第2四半期の投資額はすべての地域において大幅な減少となった。 ところが、東京だけは投資の勢いが衰えていないのだ。都市別投資額をみると、第1四半期に続き東京が前年並みの150億ドルで1位に躍り出た一方、2位のニューヨークは109億ドルと4割減、3位のパリは83億ドルと3割減だ。落ち込みの大きいところではロサンゼルス54%減、上海48%減などが目立つ。 図表2:商業用不動産投資額 地域別(リンク先参照) 図表3:2020年上半期 投資活動が最も活発な10都市(リンク先参照)』、「商業用不動産の投資額で東京が世界一に」、初めて知ったが、やはり「割安感」があるからなのだろうか。
・『90年代のようなバブルが再び起きる可能性も  コロナ禍で日米欧とも史上空前の財政出動と金融緩和、とりわけ日米は無制限金融緩和をアナウンスすることで、リーマン・ショックのような金融システム破綻が回避され、当面の資金繰り不安がなくなると、市場には膨大なマネーが残る。 同時に日米欧はもちろん、新興国も一斉に利下げに動いた結果、世界中から金利が消えようとしている。 岡三証券によると、主要20カ国のうち、1年物金利がマイナスになったのは日欧15カ国。米国やカナダ、オーストラリアでも6年物まで年0.5%未満に下がり、明確なプラス水準を維持しているのは中国とインドだ。 国債・社債が運用益を生まなくなった今、あふれるマネーをどこに振り向けるのか。不動産は有望な選択肢ではあるが、とはいえ大きなリスクは取れない。 そうした中、相対的にコロナの感染者・死者数が少なく、経済的影響も小さかった日本の、とりわけ東京の不動産に資金が向かうのは必然ともいえるのだ。 アメリカ・ニューヨーク市はコロナ陽性率の上昇に伴い、市内の一部で2週間の学校閉鎖や事業の営業停止を実施。フランス・パリ首都圏もコロナ警戒レベルを最大に引き上げ、バー閉鎖など再び経済活動が停滞する。 そんな中、日本は「Go To トラベル」の対象に東京が追加されるなど、経済活動を回復させつつある。 日本の不動産市場の一部が過熱し始めた理由は、国内外からの投資マネーの増加だけではない。 日本政府や日銀は不動産市場を下支えしている。コロナの影響で収入が減った個人事業主などを支援する家賃支援給付金は、事実上、不動産市場への公的資金注入である。また、日銀によるREITやETFの買い入れ倍増は不動産・株式市場支援策だ。 こうしたことから、不動産や株式などのリスク資産の上昇を契機とした90年代のようなバブルが発生する可能性は高いと筆者は見ている』、「日本政府や日銀は不動産市場を下支えしている」、「バブルが発生する可能性は高いと筆者は見ている」、不吉なご託宣だ。
タグ:機関投資家は株式のボラティリティの高さを意識した。他方で、不動産は タワマンは「超高層レオパレス」ともいうべき代物 ダイヤモンド・オンライン 施工はやりやすいのだが、中長期で考えるとタワマンの構造は厄介 外壁や戸境壁を鉄筋コンクリートで作る通常のマンションなら、1層分を作るのに約1カ月かかるところ、タワマンの建築はひと月で2層出来てしまう タワマンに限っては「45年限界説」が有力そう 不動産 世界的に割安感がある日本の不動産市場 外壁も戸境壁も脆弱 コロナ前の活況に戻りつつある住宅地 「コロナで都心居住が見直され、郊外や地方への移住が増える」「リモートワーク(在宅勤務)でオフィスの空室率が高まる」といった言説も、現実のものとはならなかった オフィスへの考え方は二極化する 商業用不動産の投資額で東京が世界一に バブルが発生する可能性は高いと筆者は見ている デイリー新潮 不動産市場は減速したがバブル崩壊は起きていない 日本政府や日銀は不動産市場を下支えしている 「タワマンの実態は「超高層レオパレス」 脆弱な外壁と修繕不可で“45年限界説”」 東洋経済オンライン タワマンは建築時には1カ月に2層が出来てしまうのに、外壁の修繕工事は1カ月に1層。60階のタワマンなら計算上43カ月もかかることになる (その6)(タワマンの実態は「超高層レオパレス」 脆弱な外壁と修繕不可で“45年限界説”、テレワーク普及で「オフィス」は不要になるのか CBRE日本法人トップが語る今後の不動産市況、「不動産バブル」が日本で起きる可能性が高い理由) 「テレワーク普及で「オフィス」は不要になるのか CBRE日本法人トップが語る今後の不動産市況」 投資家から見直されている 榊淳司 通常のマンションなら、外壁の補修を伴う大規模修繕工事の費用は戸当たり100万円程度が目安だ。しかし、タワマンの場合は戸当たり200万円以上・・・今後は300万円程度 「「不動産バブル」が日本で起きる可能性が高い理由」 長嶋 修 オフィスに対する考え方は二極化(コストと考えるか、将来への成長投資と捉えるか) 不動産はむしろ見直されている インバウンド需要の激減で不透明感が強まる商業地 90年代のようなバブルが再び起きる可能性も 1社が交渉・移転段階に進むと、一斉に動き出す可能性 ホテルが撤退してもマンション用地に取って代わるだけ
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インバウンド戦略(その13)(コロナショック「インバウンド7割減」の衝撃度 観光客の約半分を占める中韓の減少が直撃、苦境下の「人気観光地」がいまするべきこと 『観光公害』著者が説く観光地の現状と対策、D・アトキンソン「日本の観光業復活は『検査』に懸かっている」) [経済政策]

インバウンド戦略については、昨年8月1日に取上げたままだった。コロナ禍にある今日は、(その13)(コロナショック「インバウンド7割減」の衝撃度 観光客の約半分を占める中韓の減少が直撃、苦境下の「人気観光地」がいまするべきこと 『観光公害』著者が説く観光地の現状と対策、D・アトキンソン「日本の観光業復活は『検査』に懸かっている」)である。なお、タイトルから「ビジット・ジャパン」はカットした。

先ずは、3月25日付け東洋経済オンライン「コロナショック「インバウンド7割減」の衝撃度 観光客の約半分を占める中韓の減少が直撃」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/339124
・『「数字としては非常に厳しい。状況はさらに厳しくなる」――。観光庁の田端浩長官は3月19日、霞が関の国土交通省で開かれた定例会見で「厳しい」という単語を繰り返した。 この日に発表された2020年2月の訪日外国人観光客数は、新型肺炎の影響で108万5100人(前年同月比58.3%減)と、東日本大震災直後だった2011年4月の同62.5%に次ぐ大幅な減少を記録した。 打撃となったのは、2019年の年間客数約3188万人のうち5割近くを占めた中国と韓国からの訪日客の減少だ。1月27日以降、政府が団体海外旅行を禁止した中国からの2月の訪日客は8万7200人と、2019年2月の72万3617人から9割近い減少となった』、「訪日外国人観光客数の前年同月比」は、4月から8月まで99.7~99.9%減少と落ち込みが続いている。
・『韓国の訪日客は約8割減  2019年夏から歴史認識や安全保障をめぐる問題で緊張が高まり、前年比で60%以上減少する月が続いていた韓国からの訪日客も、14万3900人(同79.9%減)といっそうの減速を見せている。ほかにも台湾や香港、アメリカなど日本への訪日客が多い国で軒並み2桁の減少率となった。 安倍晋三政権の下でビザの発給要件緩和や免税対象品の拡大により、2012年に836万人にすぎなかった訪日観光客数を足元で3000万人台に拡大し、2020年には4000万人の達成も視野に入れていた。 だが、もはや4000万人の目標達成は絶望的で、新型肺炎の収束見込みも立たないことから、激減がいつまで続くかもわからない。観光庁も「具体的に(訪日観光客の修正目標を)述べるのはなかなか困難な状況にある」(田端長官)というほかない。 観光需要の急減を受け、早くもエイチ・アイ・エスや帝国ホテルなど、旅行・宿泊業を中心に業績予想の下方修正が相次ぐ。さらに、クルーズ会社や着物レンタル会社など、倒産に追い込まれる零細観光業者も出てきた。 3月24日に日本百貨店協会が発表した2020年2月の訪日外国人客向けの売上高(全国91店を対象とする免税売上高)は、新型肺炎の影響に春節期間のズレ(2019年は2月だったが2020年は1月)も重なり、前年同月比65.4%減の約110億円と大幅減に終わった。 田端長官は事態の収束までは「国内での感染(拡大の)防止が最大の支援策」としたうえで、日本人の観光需要回復に力を入れる考えを示した。 2019年の訪日外国人による旅行消費額が4.8兆円なのに対し、日本人の国内旅行消費額は21.9兆円と4.6倍の規模を誇る。世界各国で出国の自粛措置が取られ、日本も水際対策を強化している。それだけに、観光庁としては、移動に制限のかからない日本人の国内旅行が比較的早く回復するとみている』、なるほど。
・『過去の知見をどれだけ生かせるか  3月19日の定例会見で田端長官は今後の対応について、「(2003年の)SARSや(2009年の)新型インフルエンザ流行のときも影響を受けたが、それらを乗り越えてきた。感染症の流行があったときに、どういう仕掛けをし、どんな施策で(観光需要が)回復したかという知見はある。それを基に準備を進めていく」と語った。 課題は日本人の観光需要を喚起するためのマーケティングの切り替えだ。従来、人口減少で日本人旅行客の市場規模が頭打ちになっているため、観光庁は外国人による訪日旅行の需要喚起に注力してきた。日本各地の観光地でも、外国人観光客の拡大を前提に、外国人のニーズに沿ったコンセプトの客室仕様を採用したホテルなどが増えつつある。 外国人観光客の取り込みに注力してきた観光行政が、こうした業態も含めて日本人の観光を増やす効果的なキャンペーンやプロモーションを打てるのか。強烈な逆風が吹き付ける中、観光行政の手腕が問われる』、政府はその後、コロナ禍が収まってないにも拘らず、GO TOトラベル キャンペーンで、国内旅行の喚起に躍起だ。

次に、4月13日付け東洋経済オンライン「苦境下の「人気観光地」がいまするべきこと 『観光公害』著者が説く観光地の現状と対策」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/343679
・『つい最近まで、訪日観光客の急激な増加による公共交通機関の大混雑やゴミ・騒音の問題など、いわゆる「オーバーツーリズム」に悩まされてきた人気観光地。それが一転して、苦しい状況に陥っている。 新型コロナウイルスの感染拡大によって世界的に移動が制限され、観光客が蒸発。収束の見通しが立っていないからだ。 このピンチを、今後のオーバーツーリズム解消のチャンスに変える戦略はあるのか。「コロナ後」を見据えて、観光地はどうあるべきか。 『観光公害』(祥伝社新書)の著者で、城西国際大学観光学部の佐滝剛弘教授に聞いた(インタビューは4月6日に実施)(Qは聞き手の質問、Aは佐滝氏の回答)』、興味深そうだ。
・『今回は戦後初めて直面する大打撃  Q:現在の観光地はどのような状況ですか。 A:3月下旬に訪れた京都と広島はホテルがガラガラで、外国人の姿もほとんど見かけなかったが、日本人の若い人がけっこういた。卒業旅行で海外にいけなくなった学生などが、「仕方ないから京都に行くか」と訪れていたのだろう。ハワイ気分を味わいたいのか、石垣島や宮古島もそこそこ混雑していた。 すべてが真っ暗な状況ではなく、地域によって多少の差があった。ただ、4月7日に緊急事態宣言が発令されて、様相がガラッと変わりそうだ。 今回のコロナ危機では日本人が旅行しないうえ、海外からも観光客が来ない。修学旅行需要や出張などのビジネス需要もない。しかも、いつ収束するかまったくメドが立たない。前例のない危機だ。東日本大震災やリーマンショックのときもひどかったが、全世界的に旅行ができなくなったわけではない。今回は、戦後初めて直面する大打撃だ。 Q:海外の有名観光地も、打撃を受けているのでしょうか。 A:アメリカやヨーロッパの多くの都市では、完全にロックダウンしている。交通機関は減便され、ありとあらゆる施設が閉まっている。欧米だけでなくアジア各国や、マチュピチュやナスカの地上絵があるペルーをはじめとする中南米など、観光業で成り立っている国でも感染が拡大してきて、日本以上に悲惨な状況になっている。 一方、海外では雇用や賃金を保障するなど国の支援が大きいので、観光業に携わる人の苦境度で言うと、見た目ほどではないかもしれない。日本では旅館や観光バス業界など、明日つぶれてもおかしくないところがたくさんある。観光業に従事する個人への影響度は、日本のほうがひどいかもしれない。 日本はつぶれるところがいくつか出てくる可能性があるので、もしかしたら回復は遅れる。日本は完全に観光客が止まっているわけではないが、実は海外より危ないかもしれない。) Q:経営が厳しくなっているところが多そうですね。 A:(新型コロナウイルスが流行する前は)人がたくさん来て、儲かっているように見えていたが、観光業は全体的に薄利多売だ。だから少しの期間でも、観光客が来なくなると苦しい。宿泊施設も運送業も、レジャー施設も相当厳しいのではないか。 例えば、JAL(日本航空)やANA(全日本空輸)などの基幹となる交通インフラを助けるのは理解を得られやすいと思う。しかし、税金で民間のホテルやレジャー施設を助けることになると、抵抗がある人は少なくないと思う。しかし、そこで働いている人たちは、ぎりぎりの賃金で生活をしのいでいる人が多く、このまま助けがないと、多くの人が苦境に陥るだろう』、日本では、前述のGO TOトラベル キャンペーン程度だが、低価格旅行はこれに入らないので、実効性は疑問だ。
・『海外では大事にされている観光産業  Q:日本と海外で、公的支援に対する考え方の違いがあるのでしょうか。 A:海外の多くの国では観光業の位置づけが高い。GDPに占める割合も大きく、観光産業が大事だという認識が国民全体に共有されている。欧米のほとんどの国では観光は産業の大きな柱だし、文化の保護や活用という観点からも大事にされている。 日本では、自治体の観光セクションは教育や福祉などと比べても地味な部署で、けっして花形の部署ではない。国の省庁においても「文化省」も「観光省」もなく、文化庁と観光庁どまりだ。つまり、役所の中でも一段下に見られている。製造業と同じぐらい大事な産業だととらえている人は少なく、こういう危機のときに公的に支援してもらえる確率も低い。 Q:拡大を続けてきたクルーズ船も、イメージが悪化して打撃が大きそうです。 A:船内ですべて楽しめるというクルーズ船の良さが裏目に出た。限られた空間だからこそ、感染が拡大してしまった。ダイヤモンド・プリンセス号の感染拡大は海外のどこでもトップニュースになって、「クルーズ船はこういうときに弱い」ということが、衝撃的な映像として世界に流れてしまった。 あのインパクトは当分消えないし、コロナが収束したとしても、クルーズ船に以前のように観光客が戻るかどうかはわからない。 Q:博多や長崎といったクルーズ船が寄港していた観光地も、影響を受けているのでしょうか。 A:もちろん一定の影響はあるが、クルーズ船は一見華やかに見えて、実は寄港先にあまりお金を落としていない。夕食を食べてお酒を飲み、宿泊施設に泊まることが最も観光地にお金を落とすのに、それら全部を船の中で済ませてしまう。しかも一気に何千人も来て、渋滞を起こしたりお店に殺到したりして、すぐに引き揚げていく。究極の「一見さん観光」だ。 クルーズ船が来るのは悪いことではないが、力を入れすぎていた観光地もある。1週間に1隻ぐらい来るならまだしも、自治体の予算で港を整備して2隻も3隻も同時に泊められるようにしようとする港もあるが、オーバーツーリズムを引き起こしかねないリスクがある』、「クルーズ船」誘致のため「自治体の予算で港を整備して2隻も3隻も同時に泊められるようにしようとする港もある」、いまや「オーバーツーリズム」を懸念するよりも、船が殆ど来てくれず、大赤字になることを心配すべきだ。
・『大事なのはリスクの分散  Q:いわゆる「オーバーツーリズム」になっていた観光地が、閑散としている今だからこそできる対策はありますか。 A:今回、早々と倒産した事業所の多くは、お客さんを中国人に絞っていたところ。そのため、コロナの蔓延がまず中国で始まったために影響を受けた。もう少しいろんなお客さんを受け入れたり、半分は日本人のために部屋をあけておいたりしたところは、急激にひどくはなっていない。 中国人の団体旅行客と契約したら部屋が毎日100%埋まるので、経営者にとってはある意味楽だった。それに乗っかったところが、最初につぶれた。今回はコロナだったが、2019年は韓国との関係悪化によって韓国に頼っていた九州などの観光地の一部は打撃を受けた。そういったリスクは今後も起こりうる。 Q:リスクの分散が大事だと。 A:今回はすべての国で移動が制限され、国内の客も来られないので、分散していてもダメだったかもしれないが、少なくとも倒産を遅らせることはできた。ブームに乗って、そこだけをターゲットに商売をするのは危なかったし、そのことがオーバーツーリズムを引き起こしていた。日本人の観光客が来ても、「外国人ばかりじゃないか」と不満を抱かれ、敬遠され始めていたところが実際に各地にあった。 これだけ長期間休業することは、平常時ならやりたくてもできない、天から与えられた「シンキングタイム」といえる。各施設が今後どういう戦略で臨んでいくのか、もう一度考え直す機会だ。リスクの分散に加え、先延ばしにしていた安全面などの対策が打てるかもしれない。 まだ危機の途中なので、どうしたら成功するのかはわからない。いったん収束した時点できちんと検証しないといけない。今回のケースが今後の教科書になる。 Q:コロナが収束した後、観光客はすぐに戻るものでしょうか。 A:少なくとも半年ぐらいは、宿泊や交通も含めて相当厳しい状況が続くだろう。夏休みも、国内外を自由に旅行できるかどうか。相当難しいと思う・・・収束したときに、旅行にお金をかけられる人がどれだけの割合になるかも問題だ。日本では不景気になると、真っ先にフリーランスや契約職員、アルバイトが切られて、正社員だけが守られる。今回の危機で「自分はクビにならない。ボーナスは多少下がるかもしれないけど、生活できなくなることはない」と安心している層と、すでに仕事がなくなって困っている層と、ここ十数年で進んだ社会の二極分化によって、完全に分かれてしまっている。 経済的に困っていない大企業の人は、収まればまたすぐに海外や国内に旅行するだろう。だが、経済的なダメージを受けた人はお金が多少入っても、まず家賃や子供の学費に回さなければいけない。旅行は二の次、三の次になる。コロナが収束したとしても、V字回復するかどうか、確証はない。 人は少しでも余裕ができれば、旅行に行きたいものだ。ひとたび旅の楽しさを知った人は、観光客として戻ると思う。ただ戻り方が、場所や人々の経済的な余力によって、まだら模様になるのは間違いない』、ウィズコロナといっても、感染拡大防止と「旅行」を両立させるのは至難の技だ。
・『日本の魅力がなくなったわけではない  Q:インバウンドの今後の見通しは? A:長期的なトレンドとしては、日本に来たいという人はこれからも絶対に増える。中国人の中にはまだ日本に来られない所得層の人がたくさんいて、これから豊かになっていく。東南アジアもそうだ。 今は一時的に落ち込んでいるが、これを機に日本に誰も来なくなるということには絶対にならない。日本の魅力がなくなったわけではないので、これからもラーメンやすしを食べに、あるいは桜や紅葉を見に観光客は来る。 ただ、数さえ来ればいいということを繰り返してはいけない。なるべく違う観光地に誘導するような施策をもっと強くして、日本全体で受け入れるようにしないといけない。「訪日客が戻ったはいいが、また京都は大混雑している」という事態にするべきではない。) Q:外国人観光客向けになってしまった施設は、今後どのような対策が必要なのでしょうか。 A:大阪の黒門市場や京都の錦市場は、ここ10年で完全に外国人のための商店街になってしまった。地元の人は「もう行きたくない」と言っている。行っても買いたいものが手前に置いていない。日本人も外国人も一緒に楽しめる場であるべきで、そこで交流が生まれればいい。今は外国人向けに偏ってしまって、日本人の客を失っている。 外国人しか行かない店に行っても、本来面白くないはずだ。私たちも海外に行って、地元の人がおいしそうに食べているレストランで食べるから楽しいのであって、周囲が観光客だけのお店に行っても、本物を味わったことにはならない。本当のおもてなしを私たちはもう一度取り戻さないといけないと思う。 「おもてなし」の掛け声を背景に、観光地では英語と韓国語、中国語を併記した4カ国語で表示するところが多いが、これもやりすぎだ。私たちがパリやロンドンに行って日本語の看板が至る所にあっても、決して楽しいとは思わない。片言の言葉で苦労しながら道を尋ねたり、料理を注文したりするのが旅の楽しみだと思う』、「4カ国語で表示するところが多いが、これもやりすぎだ」、「やりすぎ」ではなく、まだまだ少ないと思う。「片言の言葉で苦労しながら・・・」は、私個人的には同意できるが、観光客に押し付けるのは問題だ。
・『インバウンドは最大の安全保障  Q:真の意味で旅行客に喜んでもらうために、どうしたらいいか考えるべきだと。 A:その通り。厳しい指摘もしたが、外国人が日本にたくさん来ることには基本的に賛成だ。日本の文化を知ったり、日本に来たときに親切にされたりした経験は、日本のファンになってもらうという意味で、最大の安全保障になる。一度でもその国で親切にされたことがある人、おいしいものを食べた人、豊かな文化に触れた人が、その国と戦争したいと思うだろうか。観光というソフトパワーは、軍備の整備などよりもはるかに日本の平和に資する。 日本人に親切にしてもらった、お店で現地の人と親しく話をした外国人観光客が、たくさん日本に来て、素敵な思い出を胸に戻っていく。そういう人が中国や韓国、東南アジア、ヨーロッパに増えることは、間違いなくいいことだ。だからこそ、日本人も海外にたくさん行ってほしいし、海外の人も日本に来てほしい。 観光業の従事者は、当座をしのぐことで精いっぱいかもしれないが、コロナ後を見据えたリスクの分散を考えておく必要がある。そうしないと、また同じ危機がやってきたときに生き残れない』、第一の記事にもあったが、観光地も「外国人観光客」が殆どいない今こそ、本当に必要な「おもてなし」とは何かもう一度、冷静に考え直す好機にしてもらいたいものだ。

第三に、9月4日付けNewswek日本版が掲載し元外資系証券会社のアナリストで小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏による「D・アトキンソン「日本の観光業復活は『検査』に懸かっている」」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2020/09/d_1.php
・『<世界の観光業はコロナ禍で大打撃を受けているが、人が旅をやめることはない。今後は富裕層から順に回復していくだろう。ただし、日本は「観光立国4条件」を満たす国だが決定的な問題がある。本誌「コロナと脱グローバル化 11の予測」より> コロナ禍で脱グローバル化が起こるという議論があるようだが、そんなことは起こり得ないだろう。これまでにもペストやコレラなど、パンデミック(世界的大流行)は何度も起こったが、グローバル化が止まったことはかつて一度もなかった。 観光には「人の移動」が前提となるが、人類はある意味で、地球に誕生してからずっと移動してきた。アフリカにいた人類の祖先が気候変動の影響で絶滅の危機に瀕し、住む土地を求めてアジアやヨーロッパに移動したという世界史的事実が正しいとすれば、人間というのは移動する動物だ。つまり、人類の歴史は「観光」から始まったとも言える。 とはいえ、新型コロナウイルスが蔓延し、どの国でも観光業は止まっている。渡航が制限され、今年1~4月の国際観光収益は1950億ドルもの損失だ。グローバル化の潮流は変わらないが、影響は確かにある。世界観光機関は2017年、30年までに世界で18億人が外国旅行をすると予想していた。だが観光業は成長著しく、最近までその数は20億人を超えるのではないかと言われていた。この20億人はさすがに達成が難しくなり、当初の18億人程度にとどまるのではないか。 コロナ禍が世界の観光業にどのように影響するかといえば、業界の調整が進むとみている。調整される対象は「格安」だ。格安運賃の航空会社や、ぎりぎりの採算で経営している宿泊業などは生き残るのが難しい。私は最近、日本には低単価・低付加価値の企業が多過ぎて、これらの企業の生産性を上げなければならないと各地で訴えているが、それと通じるところがある。 【関連記事】「日本企業は今の半分に減るべきだ」デービッド・アトキンソン大胆提言』、アトキンソン氏は政府の成長戦略会議の委員になったようだ。「パンデミック・・・は何度も起こったが、グローバル化が止まったことはかつて一度もなかった・・・人類はある意味で、地球に誕生してからずっと移動してきた」、さすが説得力がある。
・『復活のためにPCR検査を  私は「おもてなし」などといった曖昧な概念に頼った日本の観光政策に疑問を抱き、15年に『新・観光立国論』、17年に『世界一訪れたい日本のつくりかた』(いずれも東洋経済新報社)という本を上梓した。観光大国になるには気候・自然・文化・食事の4条件を満たす必要があるが、日本はそれら全てを備えた国であり、データに基づいた政策を立てて実行すれば、世界有数の観光大国になれると訴えた。 ここ数年、日本の観光政策は随分と是正されてきていたと考えている。訪日観光客数も、15年の1974万人から19年には3188万人へと目覚ましい伸びを見せていた。世界で観光業の再開がいつ始まるかは政治的判断に左右されるので、私には分からない。それでも、日本が観光立国の4条件を満たしていることは今後も変わらない。) だが、観光業がどの程度回復するかという範囲に関しては、問題が2つある。1つは需要ではなく供給の問題。先ほど述べたように、格安航空会社などが倒産する可能性がある。 もう1つは感情・心理的な問題で、これはたぶん日本に特有だろう。政府はこの夏「Go Toトラベル」キャンペーンを打ち出したが、東京からは来てほしくないという感情が地方で爆発してしまった。全員が感染者であるわけがないのに、一緒くたにされて怖がられた。客観性も根拠もない暴論だが、とりわけ日本では起こりがちだ。 理由は明快で、PCR検査の体制が整っていないから。陽性なのか陰性なのかが分からないから、東京から来る人は全員感染者と捉えられてしまう。大きな批判を受けたGo Toキャンペーンの最大の問題は、その時期ではない。問題の本質は、検査体制などの不備だったと思う。 ただし、外国から日本に来る人は、出発前と到着後の少なくとも2回検査される。そうすると将来的に、国内に住む日本人より、海外の外国人に来てもらうほうが実は観光地にとってリスクが少ないという皮肉な状況になりかねない。インバウンドにせよアウトバウンドにせよ、あるいは国内旅行にせよ、検査が旅行の条件になるはずだ。究極的には観光業の回復は検査に懸かっている。 国同士の交渉次第だが、世界の観光業ではまずプライベートジェットで来るような富裕層、その後ビジネス客、FIT(海外個人旅行)の順に制限が緩和されていくだろう。あとは格安の団体旅行、つまりマスマーケットがどれだけ回復するか。クルーズ船は最後ではないか。 富裕層誘致の戦略に関しては、コロナ禍以前から日本は力を入れ始めていた。中国などアジアからの訪日客を大幅に増やす戦略を世界中から満遍なく来てもらう戦略に変え、大きな成果を上げていた。今後の課題は、欧米やオセアニアなど遠方から来る人と、世界の富裕層をいかに増やしていくかだ。遠方からの観光客は長く滞在し、多くのお金を落とすことがデータから分かっている』、「インバウンドにせよアウトバウンドにせよ、あるいは国内旅行にせよ、検査が旅行の条件になるはずだ。究極的には観光業の回復は検査に懸かっている」、「今後の課題は、欧米やオセアニアなど遠方から来る人と、世界の富裕層をいかに増やしていくかだ」、同感である。
・『「超過死亡」のデータ公表も  政府は20年に訪日客4000万人、消費額8兆円、そして30年には6000万人、15兆円という目標を掲げていた。人数だけを目標に据えるのではなく、観光客1人当たりの消費額を上げる戦略だ。実際その成果は上がり始めていて、訪日客数に占めるアジアの比率は昨年まで2年連続で下がっていた(例えば18年、アジアからの観光客は対前年比8.3%増だったのに対し、ヨーロッパは12.7%増、北米は10.4%増、オセアニアは11.7%増)。 【関連記事】日本の観光地、なぜこれほど「残念」なのか 優先すべきは情報発信より中身の「整備」) 富裕層についても、国立公園を中心に50カ所に世界水準のホテルを造るという戦略を打ち出していた。日本の強みである自然を生かした観光政策で、3密を避けるのにうってつけで、コロナ禍においても有望だ。 繰り返しになるが、そのためにも検査が不可欠だ。観光客を迎えるに当たって、いくら日本ではコロナが蔓延していないと言っても、データなしには信じてもらえない。 検査数が少ないこと、死亡数が過去の平均的水準をどれだけ上回っているかを示す「超過死亡」をタイムリーに公表していないこと。この2つが日本の決定的な問題だ。仮に検査体制をすぐに整えるのが難しくても、超過死亡のデータはもっと迅速に公表できるのではないか。このデータがあれば、コロナによる死亡者は最大でもこの人数だと示せる。国際的な比較ができる重要な指標だが、なかなか公表されない。 コロナ禍においても、グローバル化は止まらず、観光は死なない。だがウイルスと共存していくこれからの世界で、観光業の再生には賢い工夫が求められ、その実行には政治的判断が深く関わっている』、説得力溢れた主張だ。「超過死亡」については、国立感染症研究所の感染症疫学センターが公表しているが、素人が見ても難しくてよく理解できない。
タグ:船内ですべて楽しめるというクルーズ船の良さが裏目に出た 国の省庁においても「文化省」も「観光省」もなく、文化庁と観光庁どまりだ。つまり、役所の中でも一段下に見られている 海外では大事にされている観光産業 今回は戦後初めて直面する大打撃 佐滝剛弘 『観光公害』 「苦境下の「人気観光地」がいまするべきこと 『観光公害』著者が説く観光地の現状と対策」 GO TOトラベル キャンペーン 過去の知見をどれだけ生かせるか 韓国の訪日客は約8割減 「コロナショック「インバウンド7割減」の衝撃度 観光客の約半分を占める中韓の減少が直撃」 東洋経済オンライン (その13)(コロナショック「インバウンド7割減」の衝撃度 観光客の約半分を占める中韓の減少が直撃、苦境下の「人気観光地」がいまするべきこと 『観光公害』著者が説く観光地の現状と対策、D・アトキンソン「日本の観光業復活は『検査』に懸かっている」) インバウンド戦略 復活のためにPCR検査を デービッド・アトキンソン Newswek日本版 4カ国語で表示するところが多いが、これもやりすぎだ」、「やりすぎ」ではなく、まだまだ少ない 今後の課題は、欧米やオセアニアなど遠方から来る人と、世界の富裕層をいかに増やしていくかだ コロナが収束したとしても、クルーズ船に以前のように観光客が戻るかどうかはわからない 限られた空間だからこそ、感染が拡大 「D・アトキンソン「日本の観光業復活は『検査』に懸かっている」」 自治体の予算で港を整備して2隻も3隻も同時に泊められるようにしようとする港もある 日本の魅力がなくなったわけではない 「超過死亡」のデータ公表も インバウンドにせよアウトバウンドにせよ、あるいは国内旅行にせよ、検査が旅行の条件になるはずだ。究極的には観光業の回復は検査に懸かっている 観光地も「外国人観光客」が殆どいない今こそ、本当に必要な「おもてなし」とは何かもう一度、冷静に考え直す好機にしてもらいたいものだ インバウンドは最大の安全保障 観光客に押し付けるのは問題 片言の言葉で苦労しながら もう一度考え直す機会だ。リスクの分散に加え、先延ばしにしていた安全面などの対策が打てるかもしれない 人類はある意味で、地球に誕生してからずっと移動してきた 平常時ならやりたくてもできない、天から与えられた「シンキングタイム」 大事なのはリスクの分散 オーバーツーリズム は何度も起こったが、グローバル化が止まったことはかつて一度もなかった 寄港先にあまりお金を落としていない。夕食を食べてお酒を飲み、宿泊施設に泊まることが最も観光地にお金を落とすのに、それら全部を船の中で済ませてしまう パンデミック 「超過死亡」については、国立感染症研究所の感染症疫学センターが公表 成長戦略会議の委員 世界の観光業はコロナ禍で大打撃を受けているが、人が旅をやめることはない。今後は富裕層から順に回復していくだろう。ただし、日本は「観光立国4条件」を満たす国だが決定的な問題がある。本誌「コロナと脱グローバル化 11の予測」より
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日本の外交政策(その8)(「最後は身動き取れなくなった」安倍政権の外交 「トップダウン」が裏目に〈AERA〉、菅外交が早々に迫られるいくつかの「重要な選択」、「外交初心者」の菅首相次第という日本外交の不透明 菅新政権の課題) [外交]

安倍外交については、8月27日に取上げた。今日は、タイトルを変更して、日本の外交政策(その8)(「最後は身動き取れなくなった」安倍政権の外交 「トップダウン」が裏目に〈AERA〉、菅外交が早々に迫られるいくつかの「重要な選択」、「外交初心者」の菅首相次第という日本外交の不透明 菅新政権の課題)である。なお、番号は旧来のものと連続させた。

先ずは、9月9日付けAERAdot「「最後は身動き取れなくなった」安倍政権の外交 「トップダウン」が裏目に〈AERA〉」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/aera/2020090800017.html?page=1
・『思わぬ形で終わりを迎えることとなった安倍政権。韓国・北朝鮮関係では当初、「トップダウン外交」を武器に大胆な対応をみせたが、結果は振るわなかった。AERA 2020年9月14日号では、朝日新聞編集委員の牧野愛博さんがその外交手腕を振り返った。 「外交の安倍」を自任した安倍晋三首相の得意技は「トップダウン外交」だった。首相官邸が戦略を決め、首脳外交で合意を演出する。大胆な外交が可能になる半面、しばしば世論に流される結果を招く。韓国や北朝鮮との関係でも、当初は成果を出したが、最後は身動きが取れなくなった。 安倍首相は当初、日韓関係の改善に積極的だった。慰安婦問題の解決にこだわった朴槿恵(パククネ)政権に対し、2015年12月に日韓慰安婦合意を実現させた。合意当日、首相官邸前に右翼の街宣車が押しかけて抗議するなど、本来の支持層の反発を浴びてまでの決断だった。 安倍首相の決断の決め手は「世論」だった。当時、首相周辺は「慰安婦合意を実現すれば、右派に加えて中道左派までの支持を得られ、歴史に名を残す指導者になれます」と言いながら、安倍首相に決断を促したという』、「トップダウン外交」は世界の潮流でもあるようだ。「日韓慰安婦合意」は右派の「安倍首相」にとっては、確かに思い切った決断だったようだ。
・『慰安婦合意がやり玉に  だが、この思い切った外交は、17年5月に登場した文在寅(ムンジェイン)政権によって破壊される。文大統領は日本に強い関心があるわけではないが、韓国内の政治闘争の延長で朴槿恵前政権の政策を全面否定することに奔走した。そのやり玉に挙がったのが、日韓慰安婦合意だった。 文政権は18年11月、合意に基づく日本政府の拠出金でつくられた財団の解散を発表し、合意は崩壊した。 加えて18年10月、韓国大法院(最高裁)が日本企業に対し、元徴用工らへの損害賠償を命じた判決が、安倍首相の日韓関係改善への熱意を完全に消し去った。首相は判決前から、繰り返し、文大統領との首脳会談で、「賠償を命じる判決が出れば、関係の決定的な悪化を招く」と警告し、文氏も「重大な問題だと理解している」と語っていた。 安倍首相は当初、文氏に好感を抱いていたが、判決後には周囲に「文氏は言う事とやる事が全く違う」と漏らすなど、不信感を強めた。トップがやる気を失ったため、日韓外交は動かなくなった。 文政権の度重なる日本に配慮しない政策で、韓国に対する日本世論が極度に悪化したことも影響した。 同じ現象は、北朝鮮との関係でも見られた。 日本人拉致問題の解決を最重要課題に据えた安倍首相は、北朝鮮に接近し、14年に、北朝鮮が日本人拉致被害者らの再調査を行うなどとしたストックホルム合意を実現した。 ただ、北朝鮮に対する厳しい世論を意識した首相官邸は、北朝鮮が不十分な中間報告を提出することを警戒し、再調査は停滞。結局、日本政府は16年2月、再び独自制裁を決定。北朝鮮は再調査の中止と、拉致問題に関する特別調査委員会の解体を発表するに至った。 安倍首相は、18年に実現した南北や米朝の各首脳会談を受け、得意の「トップダウン外交」を目指したが、不信感を持った北朝鮮側が応じることはなかった。 次期首相が有力とされる菅義偉官房長官は、安倍政権の政策継承を唱える。自民党のベテラン議員の一人は「外交は恋愛とは違う。朝鮮半島に厳しい世論をみて、有権者の支持を得たいという誘惑に駆られる限り、次期政権でも朝鮮半島外交は何も変わらないだろう」と語った』、「次期政権でも朝鮮半島外交は何も変わらないだろう」、というの残念だ。「世論」に迎合的になりすぎるのも問題なのではなかろうか。

次に、9月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元外務審議官で日本総合研究所国際戦略研究所理事長の田中 均氏による「菅外交が早々に迫られるいくつかの「重要な選択」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/248724
・『菅新政権が16日、発足するが、向き合っていかなければならない外交課題も数多い。 コロナ危機により国際構造の変化は加速され、また、11月の米国大統領選挙ではトランプ大統領の再選可能性が低くなってきている。 単純に「安倍外交を継承する」では済まされない重要な選択を、早々に迫られることになる。 日本の国益を守るには大局観に基づく判断と精緻な戦略が必要だ』、興味深そうだ。
・『対米アプローチは見直し必要 「是々非々」でものを言う関係に  安倍外交に対する高い評価の一つはトランプ政権と盤石の関係を築いたことだ。 もちろん、そのためにトランプ大統領を喜ばせる行動に出たことも事実だろう。 ステルス戦闘機F-35の大量購入や、断念することにはなったが新型迎撃ミサイルシステム・イージス・アショアの配備などの膨大な武器の購入、米国がTPPから撤退した後、迅速に日米で貿易合意を締結したことなどについて、米国は安倍首相の努力と配慮を高く評価した。 しかしトランプ政権の対外政策の多くが日本の利益に合致していたわけではない。 TPPだけではなく、気候変動に関するパリ合意やイラン核合意など多国間協力からの撤退や「アメリカ・ファースト」を掲げる一方的行動は決して日本を利するものではない。 現在の情勢から見れば11月の大統領選挙でトランプ大統領が再選される可能性は低い。 コロナ対応に対する国民の一般的評価は低く、経済の急速な回復も望めない。人種差別反対より治安維持に重点を置いたような言動も批判を受けている。 2016年選挙でトランプ氏が勝利した要因の一つは、既成の政治とは縁のない未知の人物に対する期待票だったが、今回の選挙では知り尽くされた人物に対する批判票に直面することになる。 米国内では、コロナ禍での郵便投票の拡大で開票が混乱する恐れのほか、トランプ大統領は郵便投票には不正が伴うとして選挙結果を容易には認めないのではないかとの懸念も強い。 米国が大統領選挙結果を巡り混乱に陥ることは不可避かもしれない』、「大統領選挙結果を巡り混乱に陥ることは不可避かもしれない」、困ったことだ。
・『米国中心の求心力は低下 米国の政策を修正する努力を  トランプ大統領が再選されれば、これまでの日米蜜月的な雰囲気は継続されるだろうが、米国はさらに国際協調主義から遠のいていくだろうし、それは日本にとっても好ましいことではない。 バイデン大統領が選出されれば、伝統的に民主党政権は共和党政権ほど同盟国を重視することはないが、トランプ氏とは異なり、国際協力の道に立ち返るということになるのだろうか。 トランプ氏であれバイデン氏であれ、コロナ後の世界は米国を中心とした西側世界の求心力が低下していく難しい世界となる。 日本の米国への向き合い方も、対米配慮一辺倒というわけにはいかず、コロナ後の新たな情勢の展開に合わせて見直していく必要がある。 その基本は、日米同盟の中で安全保障面を含め日本の役割を増やしつつ、是々非々で米国にものを言い、米国の政策を修正する努力をするといったアプローチになるのではないか。 中でも対中関係が最も重要だ』、「日米同盟の中で安全保障面を含め日本の役割を増やしつつ、是々非々で米国にものを言い、米国の政策を修正する努力をするといったアプローチ」、なかなか難しそうだ。
・『米中対立には精緻な戦略で 守るべき「3つの基本的国益」  中国が新型コロナウイルスの最初の発生地でありながら感染防止にほぼ成功したと伝えられ、ほとんどの国で2020年は10%を超えるようなGDP(国内総生産)の落ち込みがある中で、唯一プラス成長を実現する可能性が高い。 急速に縮まってきた米中の国力の差は一層、縮まることになり、米中間の対立はさらに激化する。 米国の強硬な態度はトランプ再選戦略のための外交だと見る人も多いが、米中の対立は異なる体制間の覇権争いともいうべき構造的問題であり、対立は長く続く。 このまま推移すると、おそらく習近平国家主席が「中国の夢」として世界で突出する強国の実現を目標とする2049年(中華人民共和国創設100周年)に向けて、厳しい米中対峙は続くことになる。 バイデン民主党政権になればトランプ政権がとってきたハイテク分野での中国排除や中国との各種交流に対する制限をいったんは見直しするのだろうが、香港やウイグルでの人権問題に対する意識は高く、総じて対中姿勢が大きく変わることにはならないだろう。 日本にとっての守るべき基本的国益は次の三つだろう。 (1)自由民主主義体制を守るために、米国との同盟関係を通じ中国の覇権的行動を抑止する。 (2)貿易・投資・人の交流など中国との深い経済相互依存関係、並びに中国と密接な経済依存関係があるアジア諸国との経済相互依存体制は日本の繁栄のために失うことができない。 (3)この地域での米中軍事的衝突は日本に波及することは必至であり避けなければならない。軍事衝突の蓋然性が最も高いのは台湾を巡る問題だろう。 これら三つの基本的な国益が相互に矛盾しないよう緻密な戦略がなければならない。 まず必要なことは日本が米、中両国との間断なき戦略対話を行うことだ。 中国は米国との厳しい対立の継続を予想し日本との関係改善を望んでおり、例えば、香港問題では日本が静かに問題提起をし、中国の行動を変えさせていく余地はある。 第二に米中に共通の戦略的利益を見出すことだ。 米ソ冷戦時代に西側諸国と中国との関係が比較的、良好だったのはなぜか。 中国はソ連と国境紛争などを巡り関係が悪化しており、対ソ包囲網を作るうえで中国の存在は西側を利した。 だが現在では米中間には香港、台湾、南シナ海を含め共通の戦略的利益が存在しないことが対立激化の一つの理由だ。 その中で「北朝鮮非核化」は米中だけでなく日・韓・ロの共通利益であり、北朝鮮非核化問題を前進させることが米中対立を緩和させることにもなる』、「北朝鮮非核化」は中国、ロシアにとっては、米国などと「共通利益」と
するが、果たしてそうだろうか。両国が「北朝鮮」をコントロールできるのであれば、自陣営の対西側への対抗力は保持したい筈なのではなかろうか。
・『戦略的なパートナーシップづくりで「中国を変える」ことをめざす  第三に、パートナーシップづくりだ。 日本はASEAN諸国、豪、印、EU諸国などとの戦略的パートナーシップを強化すべきとともに、東アジアサミットやASEANプラス3などの中国を巻き込んだ地域協力を活性化するべきだろう。 もっともトランプ再選となれば米国は東アジアでの地域協力にも消極的な姿勢をとると思われる。 このように日本の戦略はやはり「中国を変える」ことを主目的にすることだ。 中国の成長率は、経済の成熟化や高齢化で今後、低下していかざるを得ず、国際社会との相互依存関係が希薄となっていけば、ますます低下していくことは自明だ。 そこに中国を変えていく鍵があるような気がする。 そのことを考えても、関係国との間断なき協議とパートナーシップづくりを続けることが重要だ』、天安門事件以降、「日本」は「中国を変える」ために、欧米よりソフトに接してきたが、反日教育の開始などで見事に裏切られてきた。同じ過ちを繰り返すのは愚の骨頂だ。少なくとも「中国を変える」などと思い上がった政策は採るべきではない。
・『拉致問題は包括的アプローチで 北朝鮮非核化と「一括解決」  安倍首相が辞任会見で、解決できず「痛恨の極み」と述べた北朝鮮拉致問題や、「断腸の思い」と語ったロシアとの平和条約については改めて考え方を整理する必要がある。 拉致問題については、安倍首相が初期の段階から強い想いを持ち続けた政治家の一人だし、政権のプライオリティとして取り組んできたのは間違いがない。 しかし北朝鮮は諸外国との懸案を自国の生存と関連付けて考えており、日本が拉致問題を核やミサイルという他の重要問題と切り離して解決しようとしても難しい。 一方で北朝鮮が望む経済協力や国交正常化も核やミサイル問題の解決なくしては実現できない。 従って拉致問題に必要なのは「包括的アプローチ」であり、北朝鮮の非核化の過程の中で一括解決するというアプローチをとらざるを得ない。 北朝鮮と恒常的な対話を行い包括的解決の糸口を見つけていかねばならないし、核問題解決のため日本は行動すべきだ。 また北朝鮮との問題を解決していくうえでも、韓国との関係は菅新政権のもとで「新たな出発」をしてもらいたいと思う。 韓国内の革新と保守の分断の激しさや「歴史を巡る反日」が文在寅大統領ほかの革新派の原点的な意味合いを持つが故に、徴用工や慰安婦問題の解決を困難にしている。 また文在寅政権は対北朝鮮融和に走り、日米韓の協力に熱心でない、あるいは中国との連携に走るという傾向がないわけではない。 しかしながら朝鮮半島の安定は日本の死活的利益であり、そのためには韓国との協力を捨象できるものではない』、「拉致問題は包括的アプローチで」、従来の姿勢を継続しろとのことだが、余りに硬直的過ぎて、これでは一歩も進まない。問題を分解して、妥協点を見出していく通常の「アプローチ」に変えることを検討すべきだ。
・『ロシアとは距離をとる必要 領土問題では進展見込めず  ロシアについては少し距離をとるアプローチが必要だ。 ここ数年、日ロの緊密な首脳同士の関係とは裏腹に領土問題についてのロシアの態度は硬化していく一方であり、ロシア側から前向きの姿勢が示されない限り、従来同様のアプローチを続けていくことは再考すべきと思う。 ロシアと欧米についてはサイバーによる選挙介入、ウクライナやベラルーシ問題、プーチン大統領政敵の暗殺を意図したといわれる事件などを通じ、関係は悪化する一方であり、国際社会における立場からいってもロシアにあまり寛容な態度をとるべきではない。 菅新政権はコロナ感染防止と経済回復、中長期的な経済財政構造、そして東京オリンピック・パラリンピック開催問題など山積する多様な国内課題に取り組まなければならないが、対外関係についてもコロナ後の新しい政治経済構造の中で幾つかの重要な選択を行わなければならない。 大局観をもって取り組んでもらいたいと思う』、同感である。

第三に、10月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した朝日新聞編集委員の牧野愛博氏による「「外交初心者」の菅首相次第という日本外交の不透明 菅新政権の課題」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/250435
・『菅義偉政権が発足、7年8カ月ぶりの首相交代で、注目が集まっているのが日本外交の行方だ。 「トップダウン外交」を売り物にした安倍政権下では、外務省の影響力は薄れ、結果的に中国やロシアとの外交が迷走する結果になった。 9月21日の米・トランプ大統領との電話会談を皮切りに、中国・習近平国家主席、韓国・文在寅大統領と電話協議などが相次いで行われたが、首相自身の外交ビジョンも含め、米中「新冷戦」や戦後最悪の日韓関係などの状況で菅政権の外交はどうなっていくのか、見えないところが多い』、興味深そうだ。
・『「安倍外交」の残滓が色濃く対中関係は二階氏が影響力?  菅氏は官房長官時代、外交そのものに強い関心を示したことはほとんどなかった。 典型がロシア外交で、安倍政権が北方領土問題の解決に向けてさまざま政策を打ち出しても、菅氏が口を出すことはなかった。 ただ、国内政治との関係から外交政策に意見することがしばしばあったという。 例えば日中関係では、菅氏は安倍政権が進めた日中関係改善の流れをおおむね支持していたという。 政府関係者の1人は「おそらく、企業と二階さんが原因だろう」と語る。 官房長官を務めていた菅氏の元には、多数の日本企業から「日中関係が冷え込んで商売にならない」という陳情が多数届いていたという。一方、二階俊博自民党幹事長は、自他共に認める「親中派」だ。 二階氏は17日、石破派のパーティーで「中国とは長い冬の時代もあったが、今や誰が考えても春」と語り、日本政府が保留している習近平中国国家主席の訪日への期待感を示した』、「二階氏」はやはり「習近平中国国家主席の訪日」を実現させたいようだ。
・『訪中で託した親書 「官邸官僚」が書き換え  もともと、日中接近の道筋は、安倍政権の「トップダウン外交」が描いた作品だった。 2017年5月、安倍首相が、訪中する二階幹事長に習近平主席宛ての親書を託した。外務省は親書を作成するにあたり、中国が推進する「一帯一路」構想について、「自由と民主主義に貢献する一帯一路を支持する」といった「厳格な条件付き賛成」論を展開した。 谷内正太郎国家安全保障局長の決裁を受けたうえで、首相官邸に提出したが、二階氏に親書を託す直前になって、今井尚哉首相秘書官が「総理の思いを十分伝えていない」と、「条件」の部分を大幅に削減してしまった。 外務省が再び案を練る時間もなく、怒った谷内氏と今井氏が激しく論争する場面もあったという。 こうした、官邸官僚の「忖度政治」は、7年8カ月の首相在任中に秘書官をほとんど代えなかった安倍前首相の政治手法の副産物だった。 霞が関の各省庁幹部が安倍氏にブリーフィングを行う場合、今井氏やその政策を担当する首相秘書官らが、横から「それは総理の考えではない」などと口を差し挟み、最後は安倍氏も苦笑するという光景が日常的に繰り返されていたという。 菅氏の場合、官房長官の時は、官邸官僚が忖度をし横からあれこれ口を出したという話はほとんど聞かない。 ただ、菅氏は内閣人事局を通じた各省庁の幹部人事をもとに、霞が関を巧みにコントロールしてきた。総務相時代も、自らが進めていたふるさと納税制度に異論を唱えた局長を外すなどのこわもてぶりは官僚の間で伝わっている。 安倍政権の場合は、官邸官僚が強制的に首相の応答要領や国会答弁などを書き換えることもしていたが、菅政権になると、霞が関の官僚が菅首相の考えを自ら忖度しようとするかもしれない』、「外務省は親書を作成するにあたり、中国が推進する「一帯一路」構想について・・・「厳格な条件付き賛成」論を展開した。 谷内正太郎国家安全保障局長の決裁を受けたうえで、首相官邸に提出したが、二階氏に親書を託す直前になって、今井尚哉首相秘書官が「総理の思いを十分伝えていない」と、「条件」の部分を大幅に削減」、「今井尚哉首相秘書官」は凄い権勢を振るっていたようだ。
・『米中対立のはざまでバランス外交を踏襲か  それに中国に関する外交では、菅氏の政治的な志向は外務省と相通じる点もある。 中国を巡る国際情勢は今、トランプ米政権が11月の大統領選を前に、過激な対中政策を展開している。 従来、日本や欧州諸国など自由主義陣営は「南シナ海などで力による現状変更を迫る中国に反対する」という姿勢で結束してきた。 日本が唱える「自由で開かれたインド太平洋構想」はその象徴だ。だが同時に、経済分野で中国を完全に排除することは、日本も欧州の企業も望んでいない。 このため、外交当局が反対するのは「中国による現状変更」であり、中国共産党の支配や、中国が唱える「一つの中国」政策には異を唱えていない。 ところが、米国の場合、ポンペオ国務長官が7月にカリフォルニアで行った演説で「自由世界が共産主義の中国を変えなければ、中国が私たちを変えるだろう」と語るなど、中国共産党支配を許さないという姿勢を強めている。 9月には米国務省のクラック次官が台湾を訪問し、蔡英文総統と会談した。中国は激しく反発し、台湾海峡で軍事演習を行うなど、対立はエスカレートし続けている。 こうしてみると、米国の過激な政策をなだめ、日本や欧州などが唱える「穏健な中国との対立路線」に引き戻したい外務省の思惑は、もともと、米中の間でうまく立ち回りたい菅首相の考えと一致するところも多いようにみえる。 10月6日には来日したポンぺオ米国務長官が菅首相を表敬、夕方からは日米豪印四カ国による安全保障対話(QUAD)が行われた。こうした外交舞台を皮切りに、菅政権は米中対立のはざまでうまく立ち回る政策を追求していくことになりそうだ。 ただ、近年の日本外交は安全保障政策に大きく左右されるようになった。 日本周辺の安全保障が安定していた時代は、外務省が日本の国際貢献の一つとして、自衛隊の海外派遣を提案し、主導していた。 ところが、第2次安倍政権の時代、中国が大きく台頭し、尖閣諸島を含む東シナ海や台湾海峡、南シナ海などでの軍事的影響力を強めている。 日本も、中国との外交摩擦は覚悟のうえで、2017年から護衛艦を南シナ海に長期派遣するなど、安全保障を優先的に考えざるを得ない状況になっている。 菅政権も、日本の安全保障を守るため、米国により比重を置いた政策を展開せざるを得ないだろう』、その通りなのだろう。
・『対韓関係は厳しい展開に もともとは融和路線だった  一方、厳しい展開が予想されるのが日韓関係だ。 菅氏は当初、韓国に融和的な姿勢を見せており、2015年12月の日韓慰安婦合意についても、安倍首相の政治決断を促す役割を担っていた。 政府関係者によれば、これは当時の李丙琪駐日韓国大使やその後任の柳興洙大使との親交が大きく影響していた。菅氏は李氏や柳氏としばしば食事を共にし、意見を交換していた。 李丙琪氏は駐日大使時代、菅氏に「慰安婦問題を解決しないと日韓関係が改善できない。日韓局長協議をやりたい」と提案し、菅氏も喜んで応じた。 ただ、局長級協議では、安倍首相と朴槿恵大統領の顔色をうかがって原則論を展開する場面が続き、進展が見られなかった。 李氏は国家情報院長に就任した後の2014年秋、韓国の国家安全保障会議(NSC)で「局長級協議では限界がある。高位級に格上げすべきだ」と提案した。 朴大統領はこの提案を受け入れ、菅官房長官と親交があり、国家情報院長のカウンターパートである谷内正太郎国家安全保障局長とも親しい李氏を対日交渉の責任者に指名した。 当時は日韓双方に信頼関係があったため、「日本の法的責任」という言葉を単なる「責任」と置き換えた。 逆に、日本側が元慰安婦1人あたりの事業費を積み上げた総額は10億円に届かない額だったが、李氏が「自分がポケットマネーを出してもいいから、世論に訴えやすい10円にしてほしい’(注:「億」が抜けている)」と訴えたことで、10億円になったという。 こうした外交当局のやり取りを、菅氏は側面から支えていたという』、なるほど。
・『「李・元駐日大使逮捕」で冷淡に 文政権との関係好転の兆し見えず  菅氏の韓国に対する姿勢が変わったのは、2017年11月。韓国のソウル中央地方検察庁が李丙琪氏を、李氏の院長時代に国家情報院が大統領府に秘密資金を提供した疑いで緊急逮捕した事件がきっかけだった。 この時から菅氏の韓国に対する姿勢は明らかに冷淡になった。 外務省が日韓関係に関するブリーフィングをするときも、「韓国案件は聞きたくない」と言い放ったこともあった。 政府関係者の1人は「あれだけ日韓関係に心を砕いた李丙琪氏を逮捕して、刑務所に送った文在寅政権を許せなかったようだ」と語る。 菅氏は、文在寅政権下で2人目の駐日大使となる、南官杓大使とは2019年5月の着任以来、1度しか会食していない。唯一の会食の際も、2人はぎこちない態度に終始し、和気あいあいだった李丙琪氏や柳興洙氏との関係に比べて極めて冷ややかな空気が漂っていたという。 菅氏は自民党総裁選中に日韓関係についての考えを問われ、「1965年に締結された日韓請求権協定が日韓関係の基本だ」と語り、日本企業に元徴用工らへの損害賠償を命じた韓国大法院(最高裁)判決が、請求権協定を破壊することになるという安倍政権からの日本政府の主張を繰り返した。 24日に韓国側の求めで行われたという両首脳の電話協議でも、菅首相は協議後、「このまま放置してならない旨を伝えた」と語っただけだ。 外務省はこの会談結果について「韓国側において日韓関係を健全な関係に戻すきっかけを作ることを求めた」と説明し、「関係改善は韓国の対応次第」とする安倍政権の姿勢を引き継いだ。日韓関係が好転する兆しは見えない。 日本政府関係者の1人は「日本企業の韓国資産を現金化する動きが止まらない限り、菅首相の訪韓はないだろう」と話す。 韓国が議長国となって、年内の実現を目指す日中韓首脳会議の開催は難しいとの認識を示した』、「菅氏の韓国に対する姿勢は明らかに冷淡になった」契機が、「あれだけ日韓関係に心を砕いた李丙琪氏を逮捕して、刑務所に送った文在寅政権を許せなかったようだ」、案外、「菅氏」は情に厚いところがあるようだが、本来、外交には情は禁物な筈だ。
・『影を落とす外務省の凋落 政治にあわせ強硬論台頭  こうしたなか、永田町・霞が関で懸念する声が出ているのが、外務省の凋落だ。 外務省は「官邸トップダウン外交」を標榜した安倍政権下で、存在感を大幅に低下させてきた。 総合外交政策局は本来、日本政府の外交・安全保障政策のとりまとめ役だったが、今では2014年に内閣官房に設置された国家安全保障局の「ご用伺い機関」(政府関係者の1人)になってしまっている。 国家安全保障局が関係省庁から吸い上げた情報をまとめた後、各省庁に問題のない範囲で提供するため、関係省庁による情報共有は進んだが、外務省主導で政策を仕切る場面は格段に減った。 そして、トップダウン外交を掲げた安倍首相と官僚の統率に力を入れた菅官房長官が仕切った安倍政権時代、外務省内にはより政治家の顔色をうかがう風潮が強くなった。 外務省では過去、「我々の仕事は外国との友好関係を維持すること。外国を攻撃するのが仕事ではない」という意識が強かった。 冷戦時代は、この職業倫理の唯一の例外はソ連課だけだといわれた。当時を知る外務省OBは「ソ連課の連中だけは、ソ連をあからさまに嫌っていた。でも他の地域担当課はそんなことはなかった」と語る。 しかし、冷戦後、中国が新たに台頭するなかで政治家の間で「外務省のチャイナスクール(中国語研修を受けた官僚)は、日中友好に傾きすぎる」という声が強まり、チャイナスクール出身者以外を中国課長やアジア大洋州局長に起用するケースが相次いだ。 この傾向が最近は、韓国を担当する北東アジア1課にも及んでいるという。 北東アジア1課内には「文政権とは何を話しても意味がない」という意見がしばしば飛び交うという。 外務省内では定期的に、在外公館に出る幹部らに対して、韓国の市民団体が世界各地に建立している慰安婦を象徴する少女像の問題を含む歴史認識問題についてブリーフィングを行っているが、最近の研修では、韓国を一方的に糾弾する雰囲気が目立つという』、「外務」官僚には特定の国に肩入れすることなく、冷静で客観的な判断が求められる筈だ。
・『道を踏み外しても助言者のいない危うさ  こうした状況からも、菅政権外交の行方は一にも二にも、外交にはそれほど関心がないとされてきた菅首相その人の器量にかかっているといえそうだ。 もし、道を踏み外しても、それを忠告する勇気のある外交官はもはやほとんど残っていない』、「菅氏」がふるさと納税制度に異論を述べた総務省高官を更迭したように、異論を唱える官僚を切り捨て、忖度して言うことをきく官僚を重用するという狭い「器量」のやり方を続ける限り、「道を踏み外しても助言者のいない危うさ」が大いにつきまとうだろう。
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日中関係(その5)(日本が中国の影響工作に警戒せねばならない訳 嫌中感に頼らない耐性を確立することが重要だ、強大高圧中国は天安門事件で日本が育てた―外交文書公開 無残な中身、「親中」政権なら短命に 菅氏が偉大な首相になるための条件とは何か) [外交]

日中関係については、6月30日に取上げた。今日は、(その5)(日本が中国の影響工作に警戒せねばならない訳 嫌中感に頼らない耐性を確立することが重要だ、強大高圧中国は天安門事件で日本が育てた―外交文書公開 無残な中身、「親中」政権なら短命に 菅氏が偉大な首相になるための条件とは何か)である。

先ずは、6月20日付け東洋経済オンラインが掲載したAPI地経学ブリーフィング 上席研究員の大矢伸氏による「日本が中国の影響工作に警戒せねばならない訳 嫌中感に頼らない耐性を確立することが重要だ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/371385
・『米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。 独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく』、なるほど。
・『中国の影響工作の広がり  中国の影響工作(Influence Operation)に関心が高まっている。オーストラリアにおける中国の影響に関しては、クライブ・ハミルトン氏が2018年2月に『目に見えぬ侵略』(“Silent Invasion”)を執筆。ブックセミナーでワシントンDCに来た際には、約束していた出版社が中国の圧力で断りを入れてきた話を披露、オーストラリアにおける「侵略」の深刻さを語った。 アメリカに関しては、2018年10月末に、フーバー研究所が『中国の影響とアメリカの国益―建設的警戒の促進―』(“Chinese Influence & American Interests ― Promoting Constructive Vigilance ―”)を発表。議会、メディアから教育、研究機関、シンクタンクまでアメリカ内で広範に中国の影響工作が浸透していると警鐘を鳴らした。 先月末(7月23日)、アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)が『日本における中国の影響』(China's Influence in Japan)という報告書を発表した。著者はニューヨークのカーネギー・カウンシル所属のデヴィン・スチュワート氏。 影響工作には、広報文化外交(public diplomacy)のような「正当な影響」(benign influence)と、隠密(covert)、威圧(coercive)、腐敗(corrupt)の3Cを特徴とする「不適切な影響」(malign influence)の2つがあるが、スチュワート氏はこの両方を分析の対象としている。 結論としては、中国との長い歴史的・文化的関係にもかかわらず、日本における中国の影響はほかの民主主義国に比べて限定的というもの。 日本で中国の影響が限定的である要因としてスチュワート氏は、日本固有の事由と他国も模倣できる事由と2つに分けられる。日本固有の事由については、それを「閉ざされた民主主義」(closed democracy)と総称しつつ、 ①中国との長い紛争(5回の戦争)の歴史で培われた警戒 ②日本の経済・文化的な孤立 ③国民の政治的無関心と実質的な単独政党制 ④厳しく統制されたメディア を挙げる。 後者の他国も模倣できる事由としては (1) 権力の行政府・官邸への集中 (2) 日本自身による対外PR攻勢 (3) 戦略分野への投資規制や外国人の政治献金の禁止といった法整備 を挙げている』、「CSIS」が「日本における中国の影響はほかの民主主義国に比べて限定的」、そうであればいいが、違和感も残る。
・『変動する日本の対中親近感  スチュワート氏の報告書は、多くのインタビューを行い多数の事例を紹介した価値のある報告書だが、分析に疑問を感じる部分もある。とくに、中国の影響が限定的である日本に固有な事由の総称として「閉ざされた民主主義」と指摘するが、日本の民主主義が閉ざされたものとの評価には議論の余地があろう。 また固有な事由の1つとして、長い対立の歴史に基づく中国への警戒を挙げるが、対中警戒感はつねに高かったわけではない。日本の対中世論について言えば、日中国交正常化後は長期にわたり良好だった。しかし、それは天安門事件、尖閣問題を含む対日強硬策の中で大きく悪化した。 世論調査で確認しよう。総理府(現・内閣府)の「外交に関する世論調査」の第1回目が行われた1978年は、日中平和友好条約が締結された年だが、日本人の中で「中国に親しみを感じる」は62.1%と高かった。その後1980年代には、日中友好の雰囲気の中で「親しみを感じる」はさらに高まり70%前後で推移。しかし、1989年6月の天安門事件の影響を受け、同年10月の調査では、「親しみを感じる」は前年度の68.5%から51.6%に急減した。 その後はこの比率はさらに減少、2000年代中頃は40%弱で推移した。1990年代から2000年代にかけての低迷は、中国における愛国主義運動と、それに対応する日本における謝罪疲れの中で「歴史問題」が繰り返されたことも要因であろう。 さらに、尖閣問題での中国の攻撃的姿勢が目立った2010年の調査では「中国への親しみ」は20.0%まで大きく低下(同年の「親しみを感じない」は77.8%に上昇)。その後「中国への親しみ」は現在まで低迷が続いている。 以上を踏まえれば、日本の対中警戒感は天智2年(西暦663年)の「白村江の戦い」以来の歴史に規定された不変のものではなく、時代や状況により変化しうる。したがって、「嫌中感」に頼らないシステムとしての「中国の影響力への耐性」を確立することが重要であろう。 また、日本は貿易や直接投資を通じた中国との経済的結びつきが強く、経済的視点から見た「中国の影響」への脆弱性にも留意が必要である。 2019年の日本の貿易総額に占める中国の構成比は21.3%と第1位で、第2位のアメリカの15.4%を大きく上回る。対中貿易構成比の20.7%(2010年)から21.3%(2019年)への上昇は、対ASEAN構成比の14.6%(2010年)から15.0%(2019年)への上昇よりも高い伸びであった。 また、日本から中国への直接投資は、フローで見れば、2009年69億ドル、2010年73億ドル、2011年126憶ドル、直近の2019年は144憶ドルとむしろ増加してきている。中国の経済規模の拡大を考えれば自然だが、前述のとおり2010年以降の日本の中国に対する親近感が低位にとどまることを考えれば、この「国民世論」と「経済的つながり」の乖離(デカップル)は興味深い。 「経済的つながり」は中国に影響工作の機会を与える。例えば、香港国家安全維持法に対するドイツ政府の反応が慎重な背景には、ドイツの自動車業界にとり中国が最重要市場であることが関係しているとみる識者は多い。日本にとっても日本企業のビジネス機会を考えれば、中国との経済的なつながりを断ち切ることは容易ではなく、また望ましくもない』、その通りだが、それ故の悩ましさもある。
・『自立的な政治・外交判断を制約するリスクも  さらに、「経済的つながり」には戦争抑止というプラスの効果があるとの指摘も以前よりある(ノーマン・エンジェル)。しかし、同時に「経済的つながり」の深さが、理念や価値観に基づく自立的な政治・外交判断を制約するリスクがある点には、つねに自覚的である必要があろう。 コロナウイルスをきっかけに、中国への依存度が高い日本のサプライ・チェーンに関して見直しが必要ではないかとの議論が盛んになった。 日本政府も2020年度補正予算で、中国からと限定はしていないものの、生産拠点が集中する国からの国内回帰や第3国移転を支援するために2435億円を計上した。医療関連品や重要物資など一定の分野で中国からの立地の移転が見込まれるが、日本の製造業全体が中国市場から撤退するという状況は想像しがたい。 とくに、中国市場を狙うために中国に工場を設立している場合には、こうした工場の多くが中国の外に移転する状況とはならないだろう。したがって、「経済的つながり」が残ることを前提としつつ影響工作への耐性を高める工夫が重要となる。 さらに、日本では中国による企業や大学における知財窃取・スパイ活動の検挙がアメリカのように頻繁ではない。この点は、スチュワート氏の指摘のように、「日本の閉鎖性」が中国の影響を防いだ可能性を否定するものではないが、情報管理や防諜体制が不十分で、単に中国の影響工作を探知・発見できていない可能性もある。 とくに、サイバー攻撃の探知・把握に関しては、わが国として早急にその能力強化を図る必要があろう。また、仮に現在の日本への影響工作が限定的に見えたとしても、それは中国が日本で影響工作を行う能力が不十分であることを意味しない、とのグローバル台湾研究所(Global Taiwan Institute)のラッセル・シャオ(Russel Hsiao)氏の指摘は重要であろう』、「日本」での「情報管理や防諜体制が不十分で、単に中国の影響工作を探知・発見できていない可能性もある」、大いにあり得る。
・『今こそ建設的警戒を  中国の影響工作に対しては欧州も警戒を強め、今年6月にEUとしての報告書をまとめた。アメリカにおいても司法省がチャイナ・イニシアチブという名前のもとで産業スパイや研究機関への違法行為への警戒を高めている。ポンペオ国務長官がニクソン大統領図書館で7月23日に行った対中演説でも、少し乱暴な言葉使いではあったが、中国人学生等による情報窃取に言及した。 アメリカでは大学や研究所の研究者を「非伝統的情報収集者」(non-traditional collectors)と位置づけて国益に反する技術情報の流出を防ぐ取り組みを強化している。 コロナウイルスや香港国家安全維持法等による中国への警戒感の世界的な高まりは、短期的には中国の影響工作への逆風となろう。しかし、そうした環境であればこそ、より戦略的で洗練された影響工作が展開される可能性もある。 幸い、日本においては政治指導者等が中国の言いなりとなるような「エリートの虜」(elite capture)現象は限定的と見受けられる。しかしながら、それは中国の影響工作に対して何らの対応も不要ということは意味しない。スチュワート氏も指摘しているが、基地や重要インフラの近接地の土地買収に関する安全保障上のスクリーニングについて、アメリカは法制整備済みだが、わが国ではまだ法制化されていない。 有志国との緊密な情報共有のためにも、政府職員に限定しない民間人もカバーするようなセキュリティー・クリアランス制度の導入も喫緊の課題である。また、秘密特許制度の導入や、防諜能力強化のための議論も必要であろう。中国との互恵的な交流を安定的に続けるためにも、今、建設的警戒(constructive vigilance)とそれに基づく仕組み作りが求められている』、「エリートの虜」はネット検索したが、適切なものは見つからなかった。「建設的警戒とそれに基づく仕組み作り」は確かに必要なのだろう。

次に、10月8日付け現代ビジネス「強大高圧中国は天安門事件で日本が育てた―外交文書公開、無残な中身」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/76185?imp=0
・『「わが国の有する価値観」より重視するもの  外務省はこのほど、中国共産党・政府が学生らの民主化運動を武力弾圧した天安門事件(1989年6月4日)に関係した外交文書ファイル9冊(計3123枚)の秘密指定を解除した。 このうち事件直後の極秘扱い文書「わが国の今後の対中政策」には、「わが国の有する価値観(民主・人権)」より「長期的、大局的見地」を重視するとはっきりと明記。 別の極秘文書には日本として中国を「息長く温かい目で見守っていく」と記し、流血の惨事の中、人民解放軍の発砲で死傷した市民の人権より、共産党政権に手を差し伸べる外交を優先したことが外交文書で裏付けられた。 事件から31年がたち、共産党は強権指導者・習近平国家主席の体制下で、中国国内の人権派弁護士らへの一斉弾圧のほか、香港市民、ウイグル人の人権問題もより深刻さを増す。 トランプ米政権による対中制裁強化だけでなく、欧州諸国の中国離れも進む中、日本政府は新型コロナウイルス感染で延期となった習氏の国賓訪日に向け再び動き出している。 中国強大化の原点は、皮肉なことに天安門事件にある。日本政府は、対中制裁を強めた欧米西側諸国を説得し、中国の国際的孤立回避に走り、率先して対中政府開発援助(ODA)を再開させた。 そして中国は日本を突破口に国際的孤立から抜け出そうと92年10月には天皇訪中まで実現させた。一方で天安門事件以降、中国の国防費はほぼ毎年2桁の伸び率を続けたが、日本をはじめ西側の開発資金が、軍事拡張路線を続ける中国の高度経済成長を支えた側面が強い。 習氏の国賓訪日を目指す対中外交を突き進む日本政府は、31年前の外交文書から教訓を汲み取る必要があるのではないだろうか』、「中国強大化の原点は、皮肉なことに天安門事件にある。日本政府は、対中制裁を強めた欧米西側諸国を説得し、中国の国際的孤立回避に走り、率先して対中政府開発援助(ODA)を再開させた」、もう少しこの経緯を詳しくみてみよう。
・『流血当日に対中非難は「限界」  外交文書を読んで分かるのは、外務省は流血の惨事を受け、中国情勢の分析や在留邦人の保護とともに、早くも翌月(89年7月)中旬に迫った仏アルシュ・サミット(先進7カ国首脳会議)対応を急いだことだ。事件当日の6月4日、「中国情勢に対する我が国の立場(主に西側向け)」という文書を作成した。こう明記された。 「今次事態は、基本的に我々とは政治社会体制及び価値観を異にする中国の国内問題。従って、我々の対中国非難にも自ら限界あり」「西側先進諸国が、一致して中国を弾劾するような印象を与えることは、中国を孤立化へ追いやり長期的、大局的見地から得策でない。まして、中国に対し、制裁措置等を共同して採ることには、日本は反対」 日本政府内では西側諸国が対中制裁を進める中、前年(88年)8月に訪中した竹下登首相が表明した第3次円借款(90~95年に8100億円)の扱いが焦点となった。外務省は6月21日付の「今後の対中経協(経済協力)政策について」で、第3次円借款を含め対中新規ODAを「当面は延期の姿勢」と決めた。 しかし文書には「政治公約であり、約束違反になるようなことはしない」「慎重対応につき『凍結』『中止』『根本的見直し』等の表現は使わぬように注意」「当面(少なくとも7月中旬のサミットまで)は“wait and see”の状況を維持」と記し、対中配慮の方針を明確にした。 対中ODA政策の基本的考え方として「軍による鎮圧行動、現在進行中の『反体制勢力』の逮捕など人道、人権上の問題を我が国の対中経協政策の基本政策そのものにこれを反映させることは、長期的な対中関係の見地から行き過ぎ」と明記しており、人権問題とODAを切り離した』、「人道、人権上の問題を我が国の対中経協政策の基本政策」と切り離したのは、1つの考え方だ。
・『「性善説」か「性悪説」か  外務省はアルシュ・サミットに向けて「中国問題に対する総理発言案」(7月11日)を作成した。宇野宗佑首相がサミットで米欧諸国をどう納得させるかを記した発言案だ。 「心に留めておくべきは、今の中国は、『弱い中国』であるということである。歴史的に中国は、弱い時には常に強い排外的な姿勢をとって来た。(中略)排外的な中国が、アジア・太平洋地域の平和と安定にとっていかに有害な存在であるかということも、我々はよく知っている」。 対中政策を記載した外交文書にはこのほか、「脆弱な政権故に対外的には強硬な姿勢に出てくる可能性もある」(6月28日)、「中国を冒険主義的対外政策に走らせる可能性すらないではない」(8月10日)という分析が相次いだ。 民主化運動の対応をめぐり中国共産党指導部は2分し、人権問題で国際的批判を受け、共産党は弱体化した。これ以上の圧力や国際的孤立は逆効果であり、このままでは、毛沢東時代の文化大革命以前の中国に戻ってしまう、という懸念が日本政府にはあった。 文革が終わり、1978年から改革・開放政策が始まり、日本のODAが資金面で下支えし、鄧小平や彼の下にいた胡耀邦、趙紫陽両総書記は日本を近代化のモデルにした。両総書記は経済だけでなく政治体制の改革に向けた青写真も描いた。 天安門事件は中国が政治的にも自由かつ民主的な雰囲気の中で起こった悲劇であり、国際社会は、中国という国が、武力弾圧があっても経済成長を果たせば、自由化・民主化に向かうのか、市民に銃口を向けることをためらわない強権国家が本性なのか、難しい判断を迫られた。いわば中国を「性善説」で見るか、それとも「性悪説」でとらえるか、という論争だった』、現時点でみると、「性悪説」が正解だったようだ。
・『米欧説得の裏にある「中国利権」  「孤立化という点では北朝鮮が良い例であり、金日成の下で今や世界で最も過激な国として19世紀のマルクス主義をそのまま信奉している国だが、中国を語るにあたってはこうした点をもにらみつつ中国の開放の動きをサポートすることが重要である」 アルシュ・サミットに臨む三塚博外相が、英外相ジェフリー・ハウに対してこう言って説得する場面が外相宛て電報に記されている。 このまま中国を孤立させれば、中国は北朝鮮になってしまう、と半ば脅すような文言で欧米諸国に迫り、中国の国際的孤立を回避させた。いわば日本は中国を国際社会に取り込むことでその変化を促すという「関与政策」で先行し、欧米諸国もそれに従った。 外交文書を分析して筆者は、果たして日本政府の狙いは、本当に外交文書に書かれていることだけなのか、という疑問を持っている。 つまり、中国は国際的に孤立すれば、排外的な「冒険主義的対外政策」に走り、日本やアジア、国際社会にとってマイナスになるから、サミットの宣言文言に中国を刺激する文言を入れないでおこう、ということなのか、という点である。 これに対して筆者は、日本政府には「中国利権」を守り、拡大したいという思惑があったのではないかと観察している。 天安門事件当時の栗山尚一外務審議官(政務)は生前、筆者のインタビューに対し、中国を追い詰めるアプローチを取らなかった「裏には日本の狭い意味での国益があった」と明かしたが、真意は何なのか。 事件当時に外交の第一線にいたチャイナスクール外交官は、当時を振り返った。 「改革・開放をサポートしてきたのは日本なんだ、という自負があった。その裏にはかつての戦争の贖罪意識や改革・開放路線を壊してはいけないという気持ちもあり、中国を支えていく、支えることが中国にとってもいいし、日本にとっても世界にとってもプラスであるという認識があった。(隣国である)日本は中国のことを最もよく知っているし、まだまだ中国をリードできるのは日本なんだという自信、責任感、気概みたいなものが…」。 外交文書にも日本は中国のことを世界で最もよく知っている、という自負の強さが表れている。さらに1980年代の中国で、日本の存在感は圧倒的で、中国は日本を頼りとし、日本もそれに応えた。 89年9月14日に、北京の日本大使館が外相宛てに発信した「わが国の対中経済協力(意見具申)」という極秘至急の電報の秘密指定も解除された。ここに記された内容は非常に興味深い。 「アルシュ・サミット以降もわが国の対中経済協力の再開が欧米諸国と比べて遅々として進まないことに対して中国側の一部には、わが国が実質的には厳しい経済制裁を実施しているのではないかとの不満がこうじつつあり、(中略)右をこのまま放置すれば、わが国に対するぬきがたい不信感を生じ、動乱後原則問題についてはせっかく適切なる態度をとってきたにもかかわらず、その対中効果をいちじるしく減さつし、対中外交全般に長期的悪影響を及ぼすおそれがある」 現場の日本大使館が東京の本省に対して、早く対中ODAを再開させなければ、欧米諸国に先を越されると危機感を抱いている。ぐずぐずしてすると対日不信が高まり、中国は日本からの経済協力を受け入れなくなると暗に示唆したような書き振りである。 日本大使館は同電報で「本省において対米欧関係を考慮」していることに苦言を呈し、米欧から「日本のODA再開」に批判が強まれば、実は米欧の方が「新規大型借款の如きのものは除き、ほぼ平常通り実施しているのが実情」だと指摘し、誤解を解くべきだと意見具申している。 この極秘電報からは、中国の改革・開放政策をリードするのは日本だけであり、米欧諸国が中国市場に進出し、「中国利権」に首を突っ込むことへの危機意識が読み取れる』、「天安門事件当時」、「980年代の中国で、日本の存在感は圧倒的で、中国は日本を頼りとし、日本もそれに応えた」、現在とは隔世の感がある、いい時代だったようだ。
・『「冒険対外政策」現実に  しかしながら中国が1枚上手だったようである。 当時中国外交を統括した元副首相・銭其琛が回顧したように92年10月の天皇訪中を利用して西側諸国の制裁包囲網を打ち破ると、90年代半ばからは「愛国」「反日」の足音が聞こえてきた。 江沢民国家主席は、天安門事件やソ連・東欧の崩壊で求心力を失った共産主義に代わって人民を団結させるため「愛国教育」を強化した。抗日戦争での日本軍の野蛮さを強調し、屈辱の歴史を前面に、「日本」を利用して被害者ナショナリズムを高揚させた。 このほかにも高度経済成長とともに90年代半ばには地下核実験や台湾海峡へのミサイル演習など、軍事面でも「大国」としての振る舞いが顕著となった。 外務省が天安門事件直後に外交文書で指摘した「冒険主義的対外政策」という懸念が現実のものとなり、事件後に中国を「温かい目」で見守ったチャイナスクール外交官らは、「裏切り」と感じた。 歴史問題をぶちまけた江沢民国家主席の国賓来日(1998年)や小泉純一郎首相の靖国神社参拝(2001~06年)で、日中関係が歴史問題でがんじがらめとなる中、親日指導者・胡耀邦氏のDNAを引き継ぐ胡錦濤国家主席も、インターネット上で膨れ上がる反日のうねりを抑えることはできなかった。 10年の尖閣諸島周辺での漁船衝突事件や12年の尖閣国有化を受け、共産党内部で勢いを増す対日強硬派に揚げ足を取られないよう、逆に民の声を利用して対日圧力を強めた。これが2005年と12年の大規模反日デモに発展した。 日中関係が緊張した12年にトップに就く習近平氏について、当時北京で駐在した筆者は、共産党内部の情報源から「江も胡も過渡期の指導者。革命世代を父に持ち血を引き継ぐ習こそ、毛沢東、鄧小平に次ぐ本格指導者だ」と聞いた。 習氏の真骨頂は、アヘン戦争(1840~42年)以来100年続いた屈辱の近代史を深く頭と心に刻み、「中華民族の偉大な復興」を実現するという強国路線にあり、14年春の欧州歴訪で習氏は「今や中国という獅子は目覚めたのだ」と踏み込んだ。 尖閣諸島を盗み取られたものと主張する共産党の歴史観では日本はターゲットになり、15年頃まで日中関係は緊張を続けた』、「92年10月の天皇訪中を利用して西側諸国の制裁包囲網を打ち破ると、90年代半ばからは「愛国」「反日」の足音が聞こえてきた。 江沢民国家主席は・・・求心力を失った共産主義に代わって人民を団結させるため「愛国教育」を強化した」、日本もなんとお人好しなのだろう。
・『チャイナスクールの中国観変  外務省の伝統的なチャイナスクール外交官の基本的な対中認識は、「日中関係を爆発させず、大局の中で日中間の火種を処理する」ことが重要であり、中国共産党を過度に刺激しない、という発想だ。 天安門事件外交文書で筆者が驚いたのは、武力弾圧直前の89年5月31日に学生らの民主化要求のうねりを目の当たりにした日本大使館の外交官が外相宛て文書でこう報告していたことだ。「わが国としては、或は国民の一部には反感するさえ存在することが明らかになった政府を相手とすることになるかもしれないという意味で、戦後の日中関係上殆ど経験したことのない局面を迎えたということができよう。極論すれば、現政府への支持・協力表明が一部国民からは反感をもって迎えられるという要素も十分考慮に入れつつ進める必要が出てきつつあると言えよう」 1972年の国交正常化以来、日本政府は中国共産党・政府だけを相手とした日中関係をつくりあげたが、政府に不満を持ち民主化を求める市民や学生も相手にしなければならないという発想転換である。 しかし事件後、東京の外務省は「中国における民主化要求の力を過大評価することは誤り」と指摘し、それ以降、共産党・政府だけを相手とし続けた。日中外交は、共産党の嫌がる人権や政治体制の問題を脇に置き、お互いに経済的な実利を追求することで両国関係の安定を維持する構造が固まった。 伝統的チャイナスクール外交官に対し、近年では中国ネット社会において影響力を増す改革派知識人と交流を深め、間接的に中国の民主化や改革を後押しようとするチャイナスクール外交官が登場している。 日中国交正常化から改革・開放、天安門事件世代までの外交官は、戦争への贖罪意識や、共産党体制の「民主化」という期待もあり、中国へのシンパシーや日中友好というウエットな関係が色濃かったが、最近では法の支配を無視した中国の海洋政策には米国など同盟諸国と連携して対抗するという意識を持つ外交官が大勢だ』、「最近では法の支配を無視した中国の海洋政策には米国など同盟諸国と連携して対抗するという意識を持つ外交官が大勢だ」、当然だろう。
・『価値観外交から経済関係重視へ  2012年に発足した第2次安倍晋三政権は当初、民主党前政権下の尖閣国有化の影響で日中が険悪な状態の中で、自由や民主主義、法の支配などを重視する価値観外交を展開し、中国に対して「言うべきことは言う」という姿勢を続けた。 しかし転機が2015~16年にやってくる。日中政治関係は冷え切ったままだったが、大量の中国人が観光で訪日し、インバウンド消費で地方も含めて日本の経済が活性化したことを好機ととらえ、官邸は対中経済関係重視に舵を切った。 17年5月、二階俊博自民党幹事長は北京で広域経済圏戦略「一帯一路」に関する国際会議に出席し、習近平国家主席と会談した。これで関係改善に向けた確固たる流れができた、と中国外務省幹部も認めている。 経済的な結びつけに加え、「米中新冷戦」が日中接近をもたらした状況は、天安門事件後と似ている。 対中経済協力と人権・海洋など懸案のバランスをどう取るか。最近、対中政策を管轄する複数の外務省幹部が口を合わせたかのように同じフレーズを口にする。 「10年後、20年後、30年後の日中関係、中国を考えなければならない」。幹部に共通する認識は、このまま放っておけば10年後、20年後に中国はどうなってしまうか分からない、という危機意識だ。東シナ海や南シナ海での野心的な攻勢だけでなく、一帯一路の下で北極海まで視野に入れ、宇宙戦略も強化している。 外務省幹部は、「中国に言うべきことは言い、コントロールしていかなければならない。是々非々で対応する」と語る』、「価値観外交から経済関係重視へ」への転換には「二階幹事長」の「訪中」「習近平国家主席と会談」がきっかけになった、忘れていた重要事実を思い出すことができた。
・『「利用価値」ある日本  安倍前首相は比較的、対中経済と懸案のバランスを取りながら日中関係を改善させたと評価できるだろう。2019年12月23日、安倍氏は北京の人民大会堂で習主席と笑顔で向き合った。 日本政府関係者によると、会談で安倍氏は、反政府活動が続いた香港情勢を提起し、「大変憂慮している」と述べ、「一国二制度の下で、自由で開かれた香港の繁栄が重要だ」と続けると、習氏は紙を見ながら「中国の内政問題だ」などと冷静に対応したが、安倍氏が次にウイグル問題を取り上げ「透明性をもった説明」を求めると、習氏は緊張した表情に変わった。そして紙も見ず、「テロとの闘いだ」などと反論したという。 習氏は周辺にとってよりセンシティブなのはウイグル問題であり、対外的に公表されることに神経を尖らせたのだ。 さらに中国全国人民代表大会(全人代)が今年5月末、香港統制を強化する国家安全法制導入を決定した際も、秋葉剛男外務事務次官が孔鉉佑駐日大使を外務省に呼び、「深い憂慮」を伝達した。「内政問題」と主張し続ける中国に異例の強い対応に出た。 果たして菅義偉・新首相はどういう対中関係を構築するのか。 日本の政界も世論も、習氏の国賓来日には反対論が強いが、あえて実現させようと突き進むようだ。習近平という強大な指導者を招待し、尖閣への中国公船進入や邦人拘束問題など日中間に横たわる懸案について習氏から直接、責任ある対応を引き出す「チャンス」と判断している。 いわば、ポンペオ米国務長官が、7月末に「失敗」と宣言した対中関与政策を継続するという選択肢だ。 コロナ問題や香港・ウイグルの人権問題、対外的に強硬な「戦狼外交」などで中国は米国との対立が激化するだけでなく、欧州とも溝が深まっている。 こうした中で日本が再び中国共産党に手を差し伸べる習氏の国賓訪日が、31年前の対中外交とだぶって見える。 中国共産党は戦後、一貫して日本には「利用価値」があると認識し、実際に利用してきたという歴史的事実を忘れてはならない』、その通りだ。「習氏の国賓訪日」は延期するべきだろう。

第三に、10月12日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した国際関係アナリストの北野幸伯氏による「「親中」政権なら短命に、菅氏が偉大な首相になるための条件とは何か」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/250935
・『総裁選に圧勝し、首相に就任した菅義偉氏。秋田県のイチゴ農家に生まれ、自力で大出世を果たした。菅氏は、これからどうなっていくのだろうか? 正しい方向に進めば、長期政権を実現できるだけでなく、偉大な首相になる可能性もある』、「正しい方向」とはどういうことだろう。
・『歴代首相で見えてくる長期政権の法則  まず「長期政権の法則」について話そう。 歴代首相の「連続在任期間ランキング」を見ると、1位が安倍晋三氏、2位が佐藤栄作氏、3位が吉田茂氏、4位が小泉純一郎氏、そして、5位が中曽根康弘氏、となっている。 彼らに共通点はあるだろうか? そう、「親米政権だった」(太字筆者、以下同じ)ということだ。 1位の安倍晋三氏は、タイプがまったく違うオバマ、トランプ両大統領の親友だった。 2位の佐藤栄作氏は、安倍氏の大叔父で、沖縄返還を実現している。 3位の吉田茂氏は、麻生太郎副総理の祖父で、代表的な親米政治家だ。 4位の小泉純一郎氏は、中国、ロシアとの関係を悪化させ、米国一辺倒の外交を展開した。 5位の中曽根康弘氏は、レーガン大統領の親友だった。「日本は不沈空母」発言はあまりに有名だ。 これらの顔ぶれを見ると、「親米首相は長期政権になりやすい」といえそうだ』、確かにその通りだ。
・『「悲惨な末路」になることが多い歴代の「親中首相」  では、逆に「親中首相」はどうだろうか 歴史を見ると、「親中首相」は「悲惨な末路」になることが多い。 いくつか例を挙げてみよう。 代表的なのが田中角栄氏だ。田中氏は、日中国交正常化を果たしたことで知られる。 彼は1972年7月、首相に就任した。 わずか2カ月後の72年9月には、日中国交正常化を成し遂げてしまった。 同じころ、米国のニクソン大統領とキッシンジャー大統領補佐官も、中国との国交正常化交渉を急いでいた。 結果的に田中氏は、米国を「出し抜いた」形になった(ちなみに、米国と中国の国交正常化は、1979年)。 田中氏の“フライング”にキッシンジャー氏は激怒し、「ジャップは最悪の裏切り者!」と叫んだといわれる。 そんな親中・田中氏は、1974年に辞任。1976年には、ロッキード事件で逮捕されてしまった。 田中派から出た竹下登氏は1987年、首相に就任。1989年、リクルート事件で辞任した。 竹下氏が立ち上げた経世会を引き継いだ橋本龍太郎氏は1996年に首相になり、98年に辞任している。 2004年に日歯連闇献金事件が発覚。政治家を引退せざるを得なくなった。その2年後の2006年、多臓器不全で亡くなっている』、「「悲惨な末路」になることが多い歴代の「親中首相」」、不思議な符合だ。
・『親米政権は長期化しやすく 親中政権は短期で終わりやすい  近年、際立った親中派政治家といえば、小沢一郎氏だろう。09年9月、民主党政権が誕生。この政権は、はっきりとした反米親中で、鳩山首相時代の日米関係は最悪になった。 鳩山政権で黒幕的存在だったのが小沢氏(当時幹事長)だ。 彼は2009年12月、大訪中団を率いて北京に行き、「私は人民解放軍の野戦軍司令官だ」と宣言した。 そのわずか1カ月後の2010年1月、政治資金規正法違反の容疑で、小沢氏の元秘書・石川知裕氏が逮捕される。 そして、同年6月、小沢氏は幹事長を辞めざるを得ない状況になった。同月、鳩山首相も辞任することになった。 これらの事実から、「親米政権は長期化しやすく、親中政権は短期で終わりやすい」という傾向がはっきり見える。 なぜ、そうなのか? 元外務省国際情報局長の孫崎享氏によると、米国からの自立を目指す政治家は米国に潰されるのだという。 同氏は、田中角栄、竹下登、橋本龍太郎、鳩山由紀夫、小沢一郎各氏などを「自主自立を目指した政治家」としているが、筆者は「親中派」だと思う。 米国に潰されるかどうか、その真偽はともかく、親米政権は長期化しやすく、親中政権は短期で終わりやすいのは事実だろう。 もし、菅氏が長期政権を目指すなら、中国に接近しすぎないよう、用心し続けるべきだ。 後述するが、現状「親米」であることは、日本の国益に合致してもいる』、「孫崎享氏」は「戦後史の正体」のなかで、「自主自立を目指した政治家」が米国の情報機関を通じた陰謀で潰されるの様子を描き、説得的だった。
・『菅氏が、「親中首相」という懸念は後退  菅氏が総裁選への出馬を決めた時、筆者は、「菅氏は親中首相になるのではないか」と懸念していた。 親中派のボス、二階幹事長の説得で出馬を決意したと報じられていたからだ。 しかし、その後の動向を見ると、二階氏が菅内閣に「圧倒的影響力を持っているわけではない」ことがわかってきた。 例えば、閣僚の顔ぶれを見ると、親米の細田派が5人で最も多い。 次いで、これも親米の麻生派が3人。 親中派では、竹下派、二階派、共に2人ずつにすぎない。 他に、無派閥4人、岸田派2人、石破派1人、石原派1人、公明1人。 二階氏の影響力は、限定的であることがわかる。 さらに、菅首相の就任後の振る舞いを見ても、希望が持てる。 菅氏が首相に就任すると、習近平・中国国家主席は、真っ先に祝電を送った。 そもそも、国家主席が日本の新首相に祝電を送るのは珍しい(中国の感覚では、元首である国家主席は、日本の天皇と同じ立場。日本の菅首相と同じ立場なのは、中国の李首相である)。 つまり、習近平氏は、菅氏を例外的に優遇したのだ。 ところが、菅氏は、この好意を完全にスルーした。 新首相は9月20日以降、次々と電話首脳会談をこなしていった。 順番は、9月20日、トランプ米大統領、モリソン豪首相。 9月22日、メルケル独首相、ミシェルEU大統領。 9月23日、ジョンソン英首相。 9月24日、文在寅・韓国大統領。 9月25日、モディ印首相、習近平・中国国家主席) 菅首相は、習近平氏の順番を、韓国の文在寅氏の後にしている(ちなみに、ロシアのプーチン大統領との会談はさらに遅く、9月29日だった)。 菅氏は、おそらく意図的に、習近平氏を“冷遇”したのだろう。 これにより、菅氏が、親中派のボス二階氏の“操り人形”ではないこと、習近平氏に忖度する意思はないこと、が見えてきた』、なるほど。
・『安倍政権からの「自由で開かれたインド太平洋」戦略を継承  「日本の首相には戦略がない」と、しばしば言われる。 しかし、安倍氏は、珍しく「戦略のある首相」だった。同氏は2012年12月、「セキュリティーダイヤモンド構想」を発表している。 これは、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国で、インド、太平洋の貿易ルートと法の支配を守るという構想だ。 要するに、「中国の海洋侵略を日米豪印で阻止しよう」という戦略なのだ。 さらに、安倍氏は2016年8月、アフリカ開発会議で、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を提唱した。 この「インド太平洋」という言葉をトランプ米大統領が気に入り、米国政府に採用された。 つまり、日本が提唱した大戦略を、米国政府が採用したのだ。 菅氏は、この戦略を継承しているのだろうか? 継承しているだけでなく、現状を見る限り、むしろ安倍前首相よりも、熱心に取り組んでいるようだ。 既述の電話会談。 菅氏は、トランプ米大統領、モリソン豪首相、メルケル独首相、ミシェルEU大統領、ジョンソン英首相、モディ印首相と、「自由で開かれたインド太平洋戦略」について協議している。 そして、菅首相による初めての「対面外交」は、ポンペオ米国務長官との10月6日の会談だった。 ここでも「自由で開かれたインド太平洋戦略」が話し合われた。 さらに、日本、米国、オーストラリア、インドの外相会議が開かれ、4カ国が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を推進していくことが確認された。 日本政府は、この4カ国グループに、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国を引き入れ、中国包囲網を強化拡大していく方針だ』、反安部だった私にとって「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、唯一支持できる政策だった。「菅首相」もこれを継承するのは結構なことだ。
・『ポンペオ国務長官による歴史的演説の意味  世界は現在、「米中覇権戦争」を軸に回っている。 ポンペオ国務長官は7月23日、歴史的演説を行った。 いわく、<21世紀を自由な世紀にすることを望み、習近平氏が夢見る中国の世紀にしたくないなら、中国にやみくもに関与していく従来の方法を続けてはならない。このままではいけないし、後戻りしてもいけない。トランプ大統領が明確にしたように、米国の経済、何よりも生活を守る戦略が必要だ。自由世界は、独裁体制に勝利しなければならない。> これは、自然に読めば、「中国共産党打倒宣言」といえるだろう。 <自由世界が変わらなければ、共産中国が私たちを変える。快適だから、便利だからという理由で、これまでのやり方に戻ることはできない。中国共産党から自由を確実に手に入れることは、この時代の使命であり、米国は、それを主導する用意が完全にできている。> これは、米国が「反中国共産党同盟」を率いる決意を示している。 「中国共産党打倒」の方針は、超党派で支持されていて、すでに国論になっている。 例えば、香港問題やウイグル問題の対中国制裁に反対する議員はまったくいない。 つまり、米中覇権戦争は、親中派といわれるバイデン氏が大統領になっても続いていく可能性が高い(例えば、トランプ氏は一貫して親プーチン、親ロシアである。しかし議会に阻まれて米ロ関係は一向に改善しない。世界最強の権力を持つ米大統領にも、できないことはあるのだ。バイデン氏が、中国との関係を改善しようとしても成功しないだろう)』、「米国」では「「中国共産党打倒」の方針は、超党派で支持されていて、すでに国論になっている」、結構なことだ。
・『中国は国際的に孤立すると日本を利用して危機脱出を計る  こういう状況下で、日本が絶対にしてはならないことは、中国側につくことだ。 中国は、「新型コロナウイルスのパンデミックを引き起こした」「香港の自由を圧殺している」「ウイグル人100万人を強制収容している」などで、極めて評判が悪く、世界的に孤立している。 当然中国は、平和ボケでナイーブな日本を自陣営に引き入れようとするだろう。 1989年、天安門事件で中国が孤立した際、この国は日本を利用して危機を乗り切った。 具体的にいうと、1992年、天皇陛下の訪中を実現させたのだ。 これを見た欧米は、「狡猾な日本が、中国の巨大市場を独占しようとしている」と解釈した。 そして、翌1993年、欧米諸国と中国の関係は改善に向かった。 問題はそこからだ。 中国政府は1994年から、国内では徹底した反日教育、欧米では強力な反日プロパガンダを開始した。 「利用済み」の日本は中国に切られ、今度は「悪魔化」の対象にされた。 当時のクリントン米大統領は、中国のプロパガンダに乗せられ、激しいジャパン・バッシングをしていた。 中国は、日本の恩を仇で返したのだ。 われわれは、歴史から教訓を得なければならない。 教訓は、「中国は国際的に孤立すると、日本を利用して危機脱出を図る」「だが、危機を抜けると、今度は日本を悪魔化してバッシングする」だ』、同感である。
・『菅氏が、「偉大な首相」になる方法  菅首相は現状、正しい方向に進んでいるように見える。 だが中国の工作力、親中派の影響は強力なので油断は禁物だ。 このまま、米豪印と共に「自由で開かれたインド太平洋戦略」を貫徹し、「偉大な首相」として歴史に名を刻んでいただきたい』、私は「菅首相」は評価しないが、「「自由で開かれたインド太平洋戦略」だけは大いに支持したい。
タグ:菅氏が、「偉大な首相」になる方法 教訓は、「中国は国際的に孤立すると、日本を利用して危機脱出を図る」「だが、危機を抜けると、今度は日本を悪魔化してバッシングする」だ 中国は国際的に孤立すると日本を利用して危機脱出を計る 「米国」では「「中国共産党打倒」の方針は、超党派で支持されていて、すでに国論になっている」 ポンペオ国務長官による歴史的演説の意味 安倍政権からの「自由で開かれたインド太平洋」戦略を継承 「戦後史の正体」 孫崎享氏 菅氏が、「親中首相」という懸念は後退 親米政権は長期化しやすく 親中政権は短期で終わりやすい 「悲惨な末路」になることが多い歴代の「親中首相」 親米首相は長期政権になりやすい 歴代首相で見えてくる長期政権の法則 「「親中」政権なら短命に、菅氏が偉大な首相になるための条件とは何か」 北野幸伯 ダイヤモンド・オンライン 「利用価値」ある日本 価値観外交から経済関係重視へ チャイナスクールの中国観変 92年10月の天皇訪中を利用して西側諸国の制裁包囲網を打ち破ると、90年代半ばからは「愛国」「反日」の足音が聞こえてきた。 江沢民国家主席は・・・求心力を失った共産主義に代わって人民を団結させるため「愛国教育」を強化した 「冒険対外政策」現実に 「天安門事件当時」、「980年代の中国で、日本の存在感は圧倒的で、中国は日本を頼りとし、日本もそれに応えた」、現在とは隔世の感がある 米欧説得の裏にある「中国利権」 現時点でみると、「性悪説」が正解だったようだ 「性善説」か「性悪説」か 流血当日に対中非難は「限界」 中国強大化の原点は、皮肉なことに天安門事件にある。日本政府は、対中制裁を強めた欧米西側諸国を説得し、中国の国際的孤立回避に走り、率先して対中政府開発援助(ODA)を再開させた 「わが国の有する価値観」より重視するもの 「強大高圧中国は天安門事件で日本が育てた―外交文書公開、無残な中身」 現代ビジネス 今こそ建設的警戒を 「日本」での「情報管理や防諜体制が不十分で、単に中国の影響工作を探知・発見できていない可能性もある」 自立的な政治・外交判断を制約するリスクも 「経済的つながり」は中国に影響工作の機会を与える。例えば、香港国家安全維持法に対するドイツ政府の反応が慎重な背景には、ドイツの自動車業界にとり中国が最重要市場であることが関係 変動する日本の対中親近感 日本における中国の影響はほかの民主主義国に比べて限定的 アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS) 中国の影響工作の広がり 「日本が中国の影響工作に警戒せねばならない訳 嫌中感に頼らない耐性を確立することが重要だ」 API地経学ブリーフィング 大矢伸 東洋経済オンライン (その5)(日本が中国の影響工作に警戒せねばならない訳 嫌中感に頼らない耐性を確立することが重要だ、強大高圧中国は天安門事件で日本が育てた―外交文書公開 無残な中身、「親中」政権なら短命に 菅氏が偉大な首相になるための条件とは何か) 日中関係
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資本主義(その4)(貨幣という「資本主義最大のミステリー」に挑む 「欲望」の時代の「哲学と資本主義」の謎を探る、私たちが貨幣に翻弄され「罠に落ちる」根本理由 経済と人間の本質を描ききる「欲望の貨幣論」、34歳天才経済学者が私有財産を否定する理由 データ搾取から移民までラディカルに考える、ポンコツの資本主義は完全に「オワコン」なのか うそのような10月のあとに待ち受けているもの) [経済]

資本主義については、1月22日に取上げた。今日は、(その4)(貨幣という「資本主義最大のミステリー」に挑む 「欲望」の時代の「哲学と資本主義」の謎を探る、私たちが貨幣に翻弄され「罠に落ちる」根本理由 経済と人間の本質を描ききる「欲望の貨幣論」、34歳天才経済学者が私有財産を否定する理由 データ搾取から移民までラディカルに考える、ポンコツの資本主義は完全に「オワコン」なのか うそのような10月のあとに待ち受けているもの)である。

先ずは、2月25日付け東洋経済オンラインが掲載したNHKエンタープライズ制作本部番組開発エグゼクティブ・プロデューサーの丸山 俊一氏による「貨幣という「資本主義最大のミステリー」に挑む 「欲望」の時代の「哲学と資本主義」の謎を探る」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/331030
・『「欲望が欲望を生みだす資本主義の先に何があるのか」 暗号資産(仮想通貨)が生まれ、キャッシュレス化が進む現象を捉え、資本主義の基本を成す貨幣に着目した異色のNHK経済教養ドキュメント「欲望の資本主義特別編欲望の貨幣論2019」が、『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る「欲望の資本主義」特別編』として書籍化された。 『欲望の資本主義3:偽りの個人主義を越えて』では、ハイエクに焦点を当てたが、今回の『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る』では、『貨幣論』や『会社はこれからどうなるのか』など、正統的な近代経済学の枠組みにとどまらず、さまざまな問いかけ、考察をしてきた日本を代表する経済学者である岩井克人氏が登場し、貨幣の本質に迫っている。 「欲望」をキーワードとして、資本主義のみならず、「民主主義」「哲学」などさまざまなアプローチで番組を企画してきたNHKエンタープライズ番組開発エグゼクティブ・プロデューサーの丸山俊一氏にその意図を聞いた(Qは聞き手の質問)』、「NHK経済教養ドキュメント「欲望の資本主義」」はなかなか考えさせられる番組だった。企画した「エグゼクティブ・プロデューサー」へのインタビューとは興味深そうだ。
・『「欲望の時代の哲学2020」で問われるもの  Q:哲学者マルクス・ガブリエルさんの新シリーズが始まりますね。 丸山:そうですね、前回は「欲望の資本主義2019」での鋭いGAFA批判などが印象に残っていますが、この制作チームでの映像取材はおよそ1年ぶりです。 Q:今回も、哲学の枠組みからはみ出したお話がたくさん出てくるのでしょうか? 丸山:彼とこの制作チームとの縁は、純粋に「哲学」をテーマとする番組企画ではなく、現実の「民主主義」「資本主義」のあり方について見解を求めることから始まりました。 2017年4月のNHKBS1スペシャル「欲望の民主主義~世界の景色が変わる時~」、そして「欲望の資本主義2018~闇の力が目覚める時~」は、それぞれ実際に社会で進行する分断、拡大する格差についてインタビューし、意見を求めたのが始まりです。その明快にしてフラットな言葉が、多くの視聴者、読者の方々に届き、大きな反響をいただき、こうしたシリーズとして今につながっています。 2018年初夏には、編集者の小林えみさんのご尽力で来日したタイミングで、「欲望の時代の哲学」「欲望の哲学史」と2つの企画をお送りしました。ともすればイデオロギー闘争ともなりかねないようなテーマでも、そうした情念から距離を取った論理的な言葉で、社会制度の中で過ごすうちにこびりつく疲労、葛藤、ルサンチマンなど、まとわりついたさまざまな感情から自由になるための思考のヒントを与えてくれました。 いま世の中には、さまざまな「世界」があふれています。それぞれのルールで自己完結した論理が交錯し、ネット上でも繰り広げられるバトル、誹謗中傷。みなそれぞれが信じる正義、正解を握りしめ、先鋭化していく言葉の数々……。そこには残念ながら開かれた対話はなく、勝手に信じる「世界」が乱立し、分断は広がっているように見えます。 「世界は存在しない」。 そんな社会状況の中にあっては、こんな逆説的な言葉が注目を集めないわけがありません。「島宇宙」ならぬ「島世界」に閉じこもろうとする人々に待ったをかける「世界は存在しない」というテーゼ。その発言の主、ガブリエルにも関心が集まっています。「欲望の資本主義」シリーズからのスピンオフ企画、今度の舞台はニューヨークです。 Q:今回の番組の見どころは? A:「人はみな、本来、自由の感覚、意志を持っています。ところが、現代の哲学、科学、テクノロジー、そして経済が人々の自由に影響を与え、自ら欲望の奴隷と化したという議論があります。私たち人間は自由です。自らがもたらした不自由の呪縛から、脱出せねばならない」 マンハッタンのビル街を遠く望み、心地よい風の吹くニューヨークの桟橋に1人たたずむガブリエルのこんな「闘争宣言」から番組は幕が開けます。「資本主義と民主主義の実験場」での思索の過程、そこから生まれる言葉は、戦後アメリカとの深い関係性とともに今ある日本のこれからを考えるときにも大いに響くことでしょう。 ガブリエルは、神でもヒーローでもありません。そもそもの言葉の定義に立ち返り、私たちの社会を、人間を、現実を見る眼、その認識の仕方の可能性を提示してくれる哲学者です。 パンクでポップな、スケボーで登場する、茶目っ気たっぷりな……考える人です。彼の言葉をきっかけにご一緒に考えてくださればうれしく思います』、「いま世の中には、さまざまな「世界」があふれています・・・そこには残念ながら開かれた対話はなく、勝手に信じる「世界」が乱立し、分断は広がっているように見えます。「世界は存在しない」」、どういうことだろう。
・『社会と個人、意識と無意識、時代の生む物語  Q:それにしても「欲望」というキーワードで、「資本主義」から「民主主義」「経済史」そして「哲学」と、さまざまな方向に企画が広がりましたね。 丸山:視聴者のみなさんの反響から素直に発想、発展していった結果ですが、もともと「資本主義」を考えようというときも、単に「強欲」批判という意味で「欲望」という言葉を持ってきたわけではありません。 もちろん、アメリカを象徴として世界に広がる極端な格差拡大、中間層の崩壊、そしてほんの一握りの大富豪を生む現在の資本主義のありようへの問題意識がベースにあることは間違いありませんが、「欲望」自体には両義性があると思います。だからこそ、真正面から取り組むにふさわしい、ややこしくて、面白い対象だとも思うのです。 欲望があるからこそ、ダイナミックな変化が生まれ、社会は活性化しますし、そもそも、それがなければ私たちも生きていけないでしょう。 しかし、同時にその方向性が何かの間違いでひとつねじ曲がれば、自らを苦しめるものにもなるわけです。変化を生む、イノベーションを生む、ということが強迫観念となって、自らを苦しめる皮肉な状況も起こります。自分で自分がわからなくなり、やめられない、止まらない……という、欲望の負の側面が浮上します』、「欲望」自体には両義性がある・・・欲望があるからこそ、ダイナミックな変化が生まれ、社会は活性化しますし、そもそも、それがなければ私たちも生きていけない・・・強迫観念となって、自らを苦しめる皮肉な状況も起こります」、的確な捉え方だ。
・『「欲望」は時代によって形を変えてきた  このお話は以前もしましたが、もともと10年前の映画、クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』を観たときにインスピレーションを得て生まれた企画です。無意識の中に植え付けられた思考、情動、それが欲望の形を規定しているとしたら。 社会の基底に、時代時代の駆動力となる「欲望」の形があり、例えば数百年単位で歴史の流れを振り返ってみたときにも、利子という「時が富を生む」という着想が社会に広まり覆うことで世の中が動き始める時代があり、そのうちに重商主義という空間の差異で富を生む時代があって……と、巨視的に時の流れを俯瞰して見れば、今という時代をどう捉えればよいのか? 「ポスト産業資本主義」と呼ばれる現代は、「モノからコト(事)、トキ(時)、イミ(意味)」などと消費の形が変化したとも言われるように、その重心が無形の体験などへと移り、さらに感情、ある意味精神の商品化という状況を生んでいます。工業主体の時代の物の機能などに付加価値がつくわかりやすい経済の構造ではなく、アイデア、想像力/創造力に経済の推進力がかかっているのです。 と同時にそれは、無形の、際限のない差異化の競争も意味するわけで、その構造をメタレベルで認識していないと、ゴールの見えないレースに疲れ、燃え尽きてしまう人も生んでしまいやすい側面を持っているのだと思います。 「欲望の資本主義」の中でも、かつてフランスの知性ダニエル・コーエンによる「現代の社会は、すべての人に創造的であれ!さもなくば死だ!と迫るようなもの、すべての人が芸術家となることを強制する社会は幸せとは言えない」という名文句がありました。 Q:そうした時代に求められる「企画」ということですね。 丸山:欲望のお話をしていると、いつも思い出すのは、モーリス・メーテルリンクの幸せの「青い鳥」です。ある意味、「ないものでねだり」、実は、探さなければいつも近くにいるのかもしれません。 限りない創造のエネルギーを与えてくれるのも、「やめられない、止まらない」と自縄自縛にさせるのも、どちらも欲望の仕業と考えると、実に裏腹な人間の性、業というモノと付き合っていくことの面白さと難しさを感じるわけですが、天使と悪魔に引き裂かれるなか、その綱渡りをどうすべきか、どう考えることで成立させるのか……、「欲望」シリーズの探究が終わらないゆえんです』、「幸せの「青い鳥」です。ある意味、「ないものでねだり」、実は、探さなければいつも近くにいるのかもしれません」、「限りない創造のエネルギーを与えてくれるのも、「やめられない、止まらない」と自縄自縛にさせるのも、どちらも欲望の仕業と考えると、実に裏腹な人間の性、業というモノと付き合っていくことの面白さと難しさを感じるわけですが・・・「欲望」シリーズの探究が終わらないゆえんです」、上手い言い方だ。
・『岩井克人氏による「欲望の貨幣論」  Q:そうした問題意識を反映して、このたび「欲望の貨幣論」も書籍化となりますね。 丸山:「欲望の資本主義」の特別編として2019年7月にお送りした「欲望の貨幣論」の中で、岩井克人さんへの取材、さらに書籍化のために改めてお願いしたインタビューをあわせ1冊の書籍にまとめました。 岩井さんのお言葉に加え、番組内で触れたトピックスについても解説をつけさせていただています。1993年の「貨幣論」以来、岩井さんが取り組んでこられた、欲望の表象たる貨幣への洞察が、仮想通貨=暗号資産、さらにキャッシュレス化などお金をめぐる状況が、デジタルテクノロジーで大きく変化する時代にマッチして語られています。 われわれの「欲望」シリーズの視点ともうまくリンクして、この時代に多くのみなさんに届けるべき内容になったと思います。 Q:あまりテレビではお見受けしない岩井先生が、よくご出演をお引き受けになられましたね。 丸山:それだけ、現在の状況に強い危機意識を持ってらっしゃったのだと思います。経済現象の本質を理論的に追究されるお仕事において研究者として輝かしい成果を上げられたわけですが、そのメッセージを多くの方々に今こそ届けなくてはならないという使命感もおありだったように感じました。 実際、貨幣への過剰な執着と同時に、一方では「お金がなくなる……」といった声もある今の世の中です。いよいよねじれ、錯綜する資本主義を考えるとき、歴史上の巨人たちの葛藤から学べること、まさに岩井さんのように徹底的に本質を考え、あえて抽象度の高い理論を突き詰めていくことで浮かび上がる逆説から学べることも多いと思います。 テクノロジーがすべてを牽引していくこの時代、いっそ「ビッグデータの言うままになるほうが幸せだ」という声もあります。経済の論理が、社会を、世の中の構造を大きく変えていくことを視野に入れていかねばなりません。 そうした時だからこそ、その中心にあって、実はその価値の根拠を誰も明確に捉えきれていないかもしれない貨幣という不思議な存在について、岩井さんの語りととも考える「資本主義最大のミステリー」にご一緒できれば、と思います。 そして、1つのクライマックスは、貨幣はこの人間社会にあって、なんのためにあるのか?その問いへの答えです。そして、それは単に倫理的な答えにとどまるものではなく、実際問題としての信用経済がなぜ危ういのか?という問いへの答えともなっています。ぜひそのあたりを、味わっていただきたいと思います。 そのほかにも、自由を守るためには自由放任とは決別しなくてはならないなどの強いメッセージもいただきましたが、そうした論理がなぜ導き出されるのか?ぜひこうした問いについて、改めて考えるきっかけとなれば、うれしく思います。 Q:実は岩井さんとのご縁は学生時代からだそうですね。 丸山:1985年に世に出た『ヴェニスの商人の資本論』、それ以前からの『現代思想』誌上でのご発言などにずっと触れていた身からすれば、少なからず岩井さんの思考の影響を受けてきたように思います。 他大学の学生でありながら、岩井さんの講義に潜り質問までしたエピソードについても少しだけ本書で触れましたが、こうして35年ぶりに「質問」の答えをいただき、映像で、活字でまとめさせていただくことになるとは、実に数奇な思いがします』、「丸山氏」は、「他大学の学生でありながら、岩井さんの講義に潜り質問までした」、熱心な学生だったようだ。
・『貨幣を通して人間存在の原点を考えるきっかけに  岩井さんの思考はいつも本質的なパラドックスへと導かれるのですが、そのパラドックスは、経済現象にとどまらず、貨幣、言語、法、社会……、そして人間存在の原点についても想いをはせることにつながるように感じます。 このパラドックスとどう付き合っていくべきか?これは、ある意味知的な喜びに満ちたミステリーであり、そこから逆に照射されるのは、実は私たちの意識の持ち方でもあるといつも感じます。そのとき、つねに何らかの「合理的」根拠を求めてしまうことがむしろ足かせとなることもあるのかもしれません。 わからないことをわからないままに付き合っていけるのも実は大事なセンス……、どうぞ、貨幣をきっかけに、市場、資本主義の逆説の謎を真摯に楽しむ旅にご一緒しましょう』、「岩井氏」については、次の記事で詳しくみてみよう。

次に、2月21日付け東洋経済オンラインが掲載した作家・研究者の佐々木 一寿氏による「私たちが貨幣に翻弄され「罠に落ちる」根本理由 経済と人間の本質を描ききる「欲望の貨幣論」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/329400
・『昨今、にわかに盛り上がっているのが「貨幣論」だ。ビットコインやリブラに代表される暗号資産(仮想通貨)、MMT(現代貨幣理論)、キャッシュレス化の流れなどが相まって、貨幣という「ありふれてはいるが不思議なもの」への関心はかつてないほど広まり、また注目度も高まってきている。 こうした状況の中で『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る「欲望の資本主義」特別編』が上梓された。貨幣の性質の核心を突く研究で知られる岩井氏は、今、“貨幣の本性”をどのように考察しているのか。最新、最前線の「貨幣論」を詳らかにみていく』、興味深そうだ。
・『貨幣とは何か、その不思議な性質  「あなたにとって貨幣(マネー)とは何か?」 この問いは、どんな人にとっても答えにくいものではないか。その答えによって自身の人間性が暴かれるような怖さがあり、それにおいそれと即答することはなかなかできない。 ただ、経済学者であれば「経済学者にとって貨幣とは何か」と読み替えて、よどみなく答えられるかもしれない。 貨幣とは、(1)価値交換、(2)価値測定、(3)価値保存、を行うものである、と。厳密に定義を説明しなくても、おそらく想像はつくだろうが、貨幣の存在によって、経済活動は便利かつ円滑に行うことができる。 貨幣がない物々交換の世界では、欲しいものを持っている人とモノを交換するために人探しから始めなければいけないし、さらには相手が私の持っているモノを欲している必要がある(“欲望の二重の一致”という)(1)。 釣った魚の価値を決めるのに、ほかの小魚の何匹分という測り方よりは、「価格」をつけたほうが便利だろう(2)。 また、将来欲しいものを買うために、物々交換用のモノを蓄えておくのは不便であるから、価値が変わらず腐りもしないコンパクトな金属片や証書のほうが使い勝手がいいに違いない(3)。 それなしの経済を考えることすら難しい、経済活動の根幹を支える貨幣は、しかし不思議な存在でもある。貨幣はなぜ、貨幣として使われうるのか。 『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る』で、岩井氏は「貨幣とは何か」に関しては、一般的に想像される以上に難問なのだと指摘する。とくに、貨幣を“貨幣“たらしめる理由(機能するメカニズム)に関して、経済学者の間ですら今でも意見が分かれるという。 岩井氏の結論としては、人々が貨幣を受け入れるのは、貨幣自体の価値的な根拠ではまったくなく、受け入れられてきた事実性(慣習)と、将来も皆が受け入れるであろうという(漠然とした根拠のない)予期によるものだという。 そして、貨幣に値打ちがあるからという「商品貨幣論」も、法律で定められているからという「貨幣法定論」も、歴史的事実に照らし合わせれば矛盾があると論じる。 つまり、価値にも法的強制力にも依拠しない、「貨幣を誰もが貨幣として受け入れてくれる」という一種の”社会的な思い込み”のみで機能しているというのが「貨幣の本質」だというのだ。 だれに聞いても、「ほかの人が500円の価値がある貨幣として受け取ってくれるから、私も500円の価値がある貨幣として受け取るのです」と答えるだけなのです。だれもが、「ほかの人が貨幣として受け取ってくれるから、私も貨幣として受け取るのです」と答えるのです。<中略>思い切って縮めてしまうと、以下になります。 「貨幣とは貨幣であるから貨幣である。」 これは、「自己循環論法」です。木で鼻をくくったような言い回しで申し訳ないのですが、別に奇をてらっているわけではありません。真理を述べているのです。貨幣の価値には、人間の欲望のような実体的な根拠は存在しません。それはまさにこの 「自己循環論法」によってその価値が支えられているのです。そして、この「自己循環論法」こそ、貨幣に関するもっとも基本的な真理です。(同書P47) 貨幣は、それを受け入れてくれるだろうという事実性や期待だけで機能している。それゆえに不安定さを本来的に抱えるものであり、みなが受け入れなくなればそれは価値を失ってしまう。 ただ、私たちはそのような貨幣に大きく依存しながら過ごしているし、貨幣がなければ経済は回らない。このことは、潜在的に大きな問題を抱えることになる』、「ほかの人が貨幣として受け取ってくれるから、私も貨幣として受け取るのです」、「この「自己循環論法」こそ、貨幣に関するもっとも基本的な真理です」、「貨幣は、それを受け入れてくれるだろうという事実性や期待だけで機能している。それゆえに不安定さを本来的に抱えるものであり、みなが受け入れなくなればそれは価値を失ってしまう」、なるほど。
・『貨幣の所有は「最も純粋な投機」  人はなぜお金を欲しがるのか。モノとして役に立たない貨幣は、皆が貨幣として受け入れなくなれば、それ自体はなんの魅力もなくなってしまう。 しかし、私もそうだが、たいていの人はお金がたくさん欲しい。 お金自体を自分で作るわけにはいかないため、いろいろなものの交換で貨幣を得ることになる。土地やモノなどいろいろなものの中に「労働」があり、私たちの労働を貨幣に換える行動がいわゆる「働いて稼ぐ」ことであるが、実は貨幣を所有することは最も純粋な投機なのだと岩井氏は言う(「投機」とは、自分が使うためでなくほかの人に売るために買うこと)。) たとえば、私は大学から給料というかたちでおカネをもらっています。その金額は ここでは述べませんが、それは私が行った教育や研究という仕事の対価です。通常は 商品に関して使う「売り買い」という言葉を、貨幣に関しても使ってみると、私は大学から私の仕事と交換に「おカネを買っている」のです。 <中略>おカネそのものには何の使い道もありません。その使い道のないおカネと交換に、缶コーヒーやTシャツやアパートを手に入れるためです。 <中略>私が今おカネを買うのは、自分でモノとして使うためではなく、将来、ほかの人に売るだけのためなのです。つまり、私はおカネが将来もおカネとしての価値を持ち続けることに賭けて、「投機」しているのです。おカネを使うこと――すなわち、それ自体何の使い道もないおカネをおカネとして流通させるという行為こそ、この世の中に存在する「もっとも純粋な投機」であると言えるのです。(同書P107~108) そして、この「純粋な投機」は、際限のないエスカレーションを起こす。 投機の対象は、自身が消費をするためにあるのではない。つまりそれ自体が欲しいのではなく、将来うまく売れる、つまり交換できそうなものであればなんでもよい。その意味で、最も純粋で象徴的な存在が貨幣である。 貨幣を所有することで、いろいろな可能性を選択できるようになる。無数にある、あらゆる可能性の要不要をすべて検討できないため、貨幣の所有欲は飽和することなく延々と続く。 さらには、今はまだ見えない、遠い将来に出現する便利なものを買うことにも使える。つまり、想像ができないものすら欲望できるのだ。 貨幣は交換のための単なる媒介手段でありながら、それゆえに、皆から果てしなく欲望されるモノとなる(“手段”から、欲望される“目的”へ)。 皆がみな、お金を欲するようになるのはこのような必然がある』、「おカネが将来もおカネとしての価値を持ち続けることに賭けて、「投機」している」、「交換のための単なる媒介手段でありながら、それゆえに、皆から果てしなく欲望されるモノとなる」、確かにその通りだ。
・『貨幣は人々の欲望を本来的に加速させ、不安定にする  皆がお金を欲するようになることで、実は面倒なことが起こってくる。もし貨幣量に限度があったらどうなるか。貨幣の奪い合いや囲い込みが起こり、流通する貨幣量が減少してしまうかもしれない。 これはケインズの主張する「流動性選好」の極端な例としても紹介されているが、詳しくは経済学の金融論に譲るとして、経済活動がとても不安定になりパフォーマンスの低下を招くことが知られている。 そして、一般的なケインズの理解による流動性選好よりもそれははるかに強力なのだ、と岩井氏は示唆をしたいようである。この考察こそが、岩井氏の長年構築してきた経済学が標準的な経済学と一線を画する重要なポイントとなる。 標準的な経済学は、極端な流動性選好はあったとしても一時的なものだと(そのモデルで)主張する。しかし、岩井氏のモデルでは、それがエスカレートしたまま破綻まで進む可能性を示すが(一般均衡理論 vs. 不均衡動学)、ここでは論が専門的になりすぎるため、話を貨幣に戻すことにしよう。 流動性選好(人々はお金を欲望する)によって流通する貨幣量が減ると、経済に大ダメージを与える。これへの処方箋として出てきたのが、“金本位制からの脱却”としての「管理通貨制度」である。 この処方箋はニクソンショックという事実に照らし合わせれば、50年前に出てきた比較的新しいスキームだが、岩井氏はその原型をケインズ(金本位制脱却の代表的な提唱者)と彼よりも前の時代のジョン・ローに見いだしている。 ジョン・ローへの評価が貨幣論、金融論のセンスを分けるといわんばかりの本書の記述は、もちろん一般の読者にもわかりやすく書かれているが、とくに専門家にとって非常に刺激的なものだろう。間違いなく本書の大きな見どころの1つである。 貨幣量の管理は、人々の欲望(自由放任)に任せては不安定になり、ひいては経済が成り立たなくなる。ここでは「神の見えざる手」は存在せず、貨幣量は流動性選好、もっと言えば“人々の欲望”のために、適切に絶妙に供給されなければ経済が回らない。 このような理由で、金本位制からの脱却を評価し、中央銀行の金融政策の必要性を肯定している』、「極端な流動性選好」があっても、「管理通貨制度」により「経済活動」の「不安定」化を防ぐことが可能だが、「貨幣量の管理」には、「「神の見えざる手」は存在せず・・・適切に絶妙に供給されなければ経済が回らない・・・中央銀行の金融政策の必要性を肯定」、「金融政策」の重要性を再認識した。
・『モノの値段が安定する条件  それでもモノの値段は本来的に不安定さを抱えている。その安定性を担保するものは何なのか。 それはある種の“ノイズ”であり、純粋性とは正反対となる“不完全さ”や、ある種の”粘性“といったものだという。ケインズとヴィクセルの名前が出ていることから、おそらく「賃金の下方硬直性」はその1つの例として念頭にあるものと想像する。おそらく経済の専門家であれば、このパートには驚く人もいるかもしれない。このあたりは岩井氏の真骨頂である。 岩井氏によるビットコインへの言及は幅広いが、ここで取り上げるべきは、「数量上限が一定である(増やせない)」という点だろう。これだけではないが、この点を重大だと見てビットコインの通貨としての不可能性を論じている。 仮想通貨に関しては、理論面で長年の考察を行っている岩井氏が奥深い記述をしているので、仮想通貨の運命に興味がある方であれば、ぜひじっくりと読んでみてほしい。 少し専門的になるが、現在の標準的な主流派経済学は「見えざる手」「レッセフェール(自由放任)」を数理的にモデル化して構築されている(新古典派による一般均衡理論)。 そして、新古典派は、均衡モデルが非常に得意であるが(例えば需要と供給のバランスによる価格決定モデル)、実はいわゆる“バブル”の分析を苦手としている。 岩井氏の依拠する数理モデル(不均衡動学)は、金融バブルやそのほかのスパイラル過程をうまく説明する。本書を読んで、株式市場を見るならば、そこでなにが起こっているのかがイメージしやすくなるだろう。金融市場の関係者に本書の読了を私が強くお勧めしたい理由でもある。 そして個人的に感じるのは、岩井氏の、パラドックス的な現象に弱くなってしまった経済学を立て直す作業への意志だ。それが本文の間から漏れ伝わってきて、非常に深い感慨を覚える』、「新古典派は・・・“バブル”の分析を苦手としている」、このため「理論で説明できないのがバブル」などと無責任に定義するしかないようだ。「岩井氏の依拠する数理モデル(不均衡動学)は、金融バブルやそのほかのスパイラル過程をうまく説明する」、大したものだ
・『貨幣論から経済学全体、そして人と社会のありようへ  本書は、貨幣論ではあるが、貨幣の性質から始まり、経済学全体、そして社会と人の歴史・生き方にまで考察が及ぶ。その視座の高さ、スコープの広さには驚かされる。人は自由たらんと欲望を大きくすることで、逆に不自由になってしまうという悲劇なども語られている。 欲する/欲されるの違いはあるにしても、貨幣が貨幣であることと、人が人であることは、そのパラドックスゆえに案外、似ているところがあるのかもしれない。そんなことを思わされてしまう、不思議な人間臭さのある貨幣論なのである』、「人間臭さのある貨幣論」とは言い得て妙だ。

第三に、2月10日付け東洋経済オンラインが掲載した経営共創基盤共同経営者/内閣府デジタル市場競争会議WG委員 の塩野 誠氏による「34歳天才経済学者が私有財産を否定する理由 データ搾取から移民までラディカルに考える」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/328937
・『昨年12月に発売された、『ラディカル・マーケット脱・私有財産の世紀』。本書はシカゴ大学ロースクールの教授エリック・ポズナー氏と、マイクロソフト首席研究員でもあり法学・経済学の研究者であるグレン・ワイル氏の二人が世に問うた、クリエイティブな思考実験の塊のような本だ。とくにワイル氏は、プリンストン大学を首席で卒業したのち、平均で5、6年はかかる経済学の博士号をたった1年で取得して経済学界に衝撃を与えた、34歳の若き俊英としてその名を知られた人物である。今回、経営共創基盤の塩野誠氏に、本書について解説してもらった』、「博士号をたった1年で取得」、凄い「天才」もいるものだ。
・『デジタル市場の未来を考える必読書  世の大学に「経済学部」は多く、そこで学んだ方も多いことだろう。しかし、日々の社会生活の中で、自分は大学で学んだ経済学を使いながらビジネスをしている、と断言できる方はそう多くはないのではないだろうか。 この本は、GAFAのデータ独占の問題や、移民問題、機関投資家による市場支配など、昨今話題の幅広い問題を取り上げている。一見、既存の経済学の分析範囲を超えているようにも思えるが、実はこれらの問題は経済学で考えていくことができるし、よりよい答えを導き出せると主張している。経済学を現実の問題に適用してみたいと考える人にはうってつけの本だ。 私はいま、デジタルプラットフォームの透明性と公正性に関して検討する政府関連の会議に出ている。GAFAに代表されるデジタルプラットフォームのデータ独占や公平性・透明性がテーマだが、こうした新しい事象をそもそもどう捉えて、どんなフレームワークで考えるべきなのか、そこから考える必要もあり、考え方の指針となるようなものに関心がある そうした立場から、この本を大変興味深く読むことができた。経済学の考え方を使って社会制度を設計しようと考えている官僚の方々はもちろん、進歩しつづけるITやフィンテックを使って社会課題の解決に取り組もうとしている方々に本書を推薦したいと思う。 では、本書は実際にどのような提案をしているのだろうか。本書が提案する「ラディカル(過激)な改革」の例として私が面白いと思った例は次のものだ。 +都市全体を売りに出す(土地が有効に活用されるようにする) +世の中の全ての財産を共有化して、使用権をオークションにかける(私有財産制をやめてみる) +自分の財産評価を自己申告制にして税金を支払う。より高い財産評価をする人が現れたら所有権が移転する(独占の弊害を取り除く) +投票権を貯められるようにする。そして、自分にとって重要な課題のときに、貯めた投票権を集中的に投票する(一人一票よりも投票者の選好の強さを反映できるようにする) どれも、「それは思いつかなかった!」という声が聞こえてきそうなクリエイティブな政策の数々である。 都市全体を見渡せば、もっとも景観のよい丘の上にスラム街ができていることがある。これでは観光客も呼びにくい。ある人がいったん土地を私有してしまうと、別の人がその土地のより有効な活用を思いついても、それを実現できなくなる。環境問題にとても関心があって、その課題に強くコミットしたい人も、選挙ではそうでない人と同じ一票しか投票できない。 このような事態は非効率ではないだろうか。これは、市場の失敗なのだろうか。より強い公的な介入がなければ、解決できないのだろうか。そうではなく、よりラディカルに市場の力を使うことで状況を改善できるというのがこの本の面白さだ。 では実際どうやって、という疑問が当然わくだろうが、これらの提案には経済学の詳細なロジックが伴っている。そして、読み手が「それはうまくいかないのでは」と思った次の瞬間には、その反論が用意してあるという形で議論が進む。 私有財産制の問題、独占の問題、投票制度の問題などについて、思考が行き詰まってしまった方々には、クリエイティブなアイディアを得るためにぜひ、一読していただきたいと思う』、「「ラディカル(過激)な改革」の例」、は知的な思考実験としては確かに面白い。「思考が行き詰まってしまった方々には、クリエイティブなアイディアを得る」、には参考になりそうだ。
・『「データ労働者組合」を作ろう  近年、GAFAなどのデジタルプラットフォームがその巨大化とともに、ビジネスだけでなく、社会に大きな影響を与えている。そうしたデジタルプラットフォーマーとビジネスや社会でどう付き合っていくべきか、誰にとっても関心のあるところだろう。 本書によれば、フェイスブックが毎年生み出している価値のうち、プログラマーに支払われる報酬は約1%にすぎないそうだ。そして価値の大半は、「データ労働者」であるユーザから無料で得ているのだという(一方でウォルマートは生み出した価値の40%を従業員の賃金に充てている)。 この問題をどう考えればいいだろうか。個人情報の保護を強化しよう、あるいはプラットフォーマーという優越的な地位の乱用を規制しよう、というのが従来的なやり方だろう。 一方本書の著者らは、デジタルプラットフォーマーに供給されるデータはわれわれの「労働」であると説く。となると、われわれは、データ提供という「労働」から対価を得るために、「データ労働者組合」を作ってはどうかという。非常に興味深い概念である。 筆者たちは本書を「ウィリアム・S・ヴィックリーの思い出に捧げる」としている。ヴィックリーとは何者だろうか。 彼は1961年に「投機への対抗措置、オークション、競争的封入入札」という論文を発表した経済学者で、この論文は社会問題の解決に資するオークションの力を示した最初の研究とされる。 ヴィックリーの研究によって「メカニズムデザイン」と呼ばれる経済学の領域が生まれ、彼は1996年にノーベル経済学賞を受賞した。筆者らによると、「ラディカル・マーケット」とは、市場を通した資源の配分(競争による規律が働き、すべての人に開かれた自由交換)という基本原理が十分に働くようになる制度的な取り決めであり、オークションはまさしくラディカル・マーケットだと言う。 ラディカル・マーケットというメカニズムを創造するために、新しい税制によって私有財産を誰でも使用可能な財産とすることや、公共財の効率的市場形成についても本書では詳述される。 なかでも移民労働力についての章では、「ビザをオークションにかける」や「個人が移住労働者の身元を引き受けるという個人間ビザ制度」というアイディアも出てくる。こうした移住システムに関するアイディアは、今後の日本にとっても、従来なかった新しい風景の見える思考実験として興味深いのではないだろうか』、「ラディカル・マーケット」とは面白そうな概念だ。
・『効率的な資源配分のために私有財産制をやめる  本書で筆者らが一貫して主張するのは、私的所有は効率的な資源配分を妨げる可能性がある、ということである。工場設備であれ、家庭内のプリンターであれ、個々に私的所有されているがゆえに不稼働となっているような、非効率なモノは多数存在する。 昨今、先進諸国の若者、いわゆるミレニアル世代のトレンドは「モノより経験」となっていることも後押しになって、車や家のシェアリングエコノミーがデジタルテクノロジーの進展とともに進んでいる。 こうした最先端のサービスでなくとも、古くは美術館の高価な絵画は公共財になっているために、市民が時間ベースで使用(鑑賞)することが可能となっていた。筆者たちの主張は過激かもしれないが、ビジネスにおいてもサブスクリプションはトレンドであり、ヴィックリーが生み出したオークションの概念は通信インフラの電波オークションからインターネットのアドテクノロジーまで世に浸透しているのだ。 グローバルな格差の拡大、成長の鈍化の中で資本主義に代わる選択肢が不在のなか、本書のクリエイティブで骨太なアイディアは読み手の思考方法をラディカルにすることだろう』、「効率的な資源配分のために私有財産制をやめる」、とは驚かされたが、「シェアリングエコノミー」、「サブスクリプション」の進展などを考慮すると、一考の余地がありそうだ。

第四に、10月10日付け東洋経済オンラインが掲載した経済評論家の山崎 元氏による「ポンコツの資本主義は完全に「オワコン」なのか うそのような10月のあとに待ち受けているもの」の4頁目までを紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/380732
・『新型コロナで明け暮れた2020年も10月となり、4月をスタートとする年度ベースでは第3四半期、西暦ベースでは第4四半期に入った。そろそろ世の中が落ち着くかと思えば、まったくそのようなことはなく、1日には東京証券取引所の取引がシステムトラブルによって終日停止した。そして、翌10月2日の日本時間の午前中にはアメリカのドナルド・トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染したという、冗談のようなニュースが飛び込んできた』、「ポンコツの資本主義は完全に「オワコン」なのか」、との挑戦的なタイトルに惹かれて紹介した次第だ。
・『うそのような10月なのに「市場は案外しぶとい」  東証の売買停止とトランプ感染に直接的な関係はないが、トランプ感染は株価に影響のある(日経平均はしばし急落した)イベントだったので、2日の取引が始まってからのニュースで、東証はほっとしたことだろう。 もしニュースが取引の開始前であれば、「前日手仕舞いができなかったので、こんなに損をした」というクレームの数とサイズがずっと大きかったはずだからだ。予想外なイベントが続いたが、その後の経済と市場は案外いつもと変わらない印象で動いている。経済と市場は「案外しぶとい」ものだという感を強くする。 本欄の筆者であるオバゼキ先生(小幡績氏)の前回の原稿「日本人はドコモの高い携帯料金に甘んじている」によると、大統領選挙までかんべえ先生(吉崎達彦氏)が毎週原稿を書くとよく、2021年にバブルが崩壊したらオバゼキ先生が毎週本欄を書くのがいいらしい。私は「招かれざる筆者」のようなので(笑)、執筆機会があるうちに書きたいことを書いておこう。 3流プロレスの筋書きを予想するがごとき「トランプの次の一手は?」的な当面の話をしばし離れて、資本主義の今後について考えてみる。 このテーマについてオバゼキ先生のファンは、先生の新著『アフターバブル近代資本主義は延命できるか』(東洋経済新報社)を是非読んでほしい。賛否いずれの立場の読者にとっても、「ぼんやりとした感想」を許さない、刺激に満ちた力作だ。 筆者は、昨今のいくつかの「資本主義批判」が気になっている。現状を資本主義だとして、このままの形で守りたいわけではないのだが、議論が急所から外れている点の居心地が悪いのだ。 気鋭の若手論者の書籍を2冊読んだ。白井聡『武器としての資本論』(東洋経済新報社)と斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)だ。両著はテイストが大きく異なるが「考えながら再読して楽しい」類いの良書で共にお勧めできる。 白井氏は「永続敗戦論」で示した、日本が所詮アメリカの子会社のような存在でしかない現実を的確に指摘していた点で小気味よい議論を展開した方だ。 直近を振り返ると「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げていた安倍前政権が、徹底的な対米追従を指向していて実は最も「戦後レジーム的」だったのは皮肉だった。「親会社」の社長的存在であるトランプ大統領に対して徹底的に機嫌を取る努力をした安倍前首相は、子会社の社員たる日本国民に対して、彼にできる最善の努力をしたのだろう。 一方、斎藤幸平氏は、最近人気の哲学者マルクス・ガブリエル氏へのインタビューなどでも注目されており、またカール・マルクスの研究者として、マルクス晩年の思索についてこれまで知られていなかった(少なくとも筆者は知らなかった)刺激的な文献解釈を発表している』、実務家の「山崎氏」が「資本主義」をどう料理するのだろうと懸念したが、「気鋭の若手論者の書籍を2冊読んだ」というので納得した。「「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げていた安倍前政権が、徹底的な対米追従を指向していて実は最も「戦後レジーム的」だったのは皮肉だった」、同感だ。
・『資本主義と経済成長を捨てるべきか?  白井氏が激賞している斎藤氏の著作の議論を追うと、そこには先鋭的な資本主義批判がある。 詳しくは斎藤氏の著作に当たってほしいが、同氏は気候変動問題の決定的重要性を説く。地球環境の問題を考えると、環境投資での経済成長を説く「グリーン・ニューディール」(同書の呼び名は「気候ケインズ主義」)も、環境技術の発達に期待するジオエンジニアリングも、経済政策としてのMMT(現代貨幣理論)も、「危機を生み出している資本主義という根本原因」を維持しようとしている点でダメなのだという。 「経済成長と気候変動問題が両立すると考えること」がそもそも甘いのだと指摘し、資本主義は経済成長を求めるので、「資本主義と経済成長を捨てた経済社会運営が必要だ」と主張している。こちらもなかなか小気味いい書きぶりだ。  経済成長と気候の関係については研究と議論の余地があるとしても、この本の議論の中で筆者が気になったのは、「資本は無限の価値増殖を目指す」(「が、地球は有限である」と続く。p37)という「資本」に対する見方だ。「無限の経済成長を目指す資本主義」(p118)、「資本とは、絶えず価値を増やしていく終わりなき運動である」(p132)といった表現もある。白井氏の著書にも「増えることそのものが資本の目的なのです」という言及がある。 同じ前提に立つ「違和感のある議論」の別バージョンとしては、人口減少などで経済成長に限界が生じるので、あるいは新興国の経済発展によって成長のために搾取できるフロンティアが減ったので、資本主義は早晩行き詰まるといった種類の議論もあった(10年くらい前の、民主党政権時代にはやった)。 いずれにあっても、「資本」はつねに増殖を目指すので、経済成長がないと資本主義は立ちゆかないということが前提とされた議論だ。しかし、果たして、「資本」とは、経済成長を「食料」として無限に大きくなろうとする一個の生き物のような存在なのだろうか』、どうなのだろう。
・『「単なるお金」としての資本  資本主義に対する批判者あるいは悲観論者は、「資本」がそれ自体の意思を持って動く抽象的でも具体的でもある単一の生命体のように思っているのではないか。まるで、資本という怪物がいるかのようだ。 しかし、彼らは、資本が単にその所有者が自由に処分できる「お金」にすぎないことを忘れている。資本のサイズは、消費とのバランスを比較しつつ、生身の経済主体がこれを決定する。 資本の具体的な形は、企業の設備だったり、無形の権利の価値だったり、運転資金だったりするのだが、資本家はこれらを少なくとも部分的には換金して処分できるので、資本はおおよそお金として機能する。そして、資本家は単なるバカではない。投資の収益の見通しやリスクの判断によって、自分の財産をどう使うかを決定する。 資本家は、自分が資本から得た利益を、再投資し続けることもできるが、消費してしまうこともできる。売り上げの減少が予想されるなら、設備への更新投資を減らすこともできる。いい投資機会がないと判断するなら、物を買うなり、飯を食うなり、目立つために使うなり、「GO TO 蕩尽!」が可能なのだ。ついでに言うと、人口減少経済では、資本家の人口も減少することを考えに入れておこう。 株式会社は、持っている資本を、いい投資機会があれば再投資すればいいし、リスクに見合う投資機会を見つけられなければ配当なり、自己株買いなりで株主に返すことができる。 投資される資本の量は資本家の判断によって調節可能なのだ。仮に、企業活動の環境に対する悪影響に対してかなり高いコストを支払わなければならないとすると、あるいは今後の経済が成長する見通しがないとすると、企業はビジネスを縮小して株主にお金を返すことを選択できる。 ついでに株式投資の話をしておくと、経済が成長する見込みでなくても、その予想が反映した株価が形成されていれば、株式投資ではリスクプレミアムを得ることができる仕組みになっている。 こと環境に関しては、経済全体として、環境コストの負担が正しくビジネスに課金されるなら、投資は当面縮小するかもしれない。しかし、その場合でも、資本は「リスクに見合うリターン」があると資本家が判断したビジネスに投資され、その投資の大きさは調整されるはずだ。もちろん資本家は「強欲」でありうるが、強欲な経済主体がつねに無謀なギャンブラーである訳ではない。金持ちは案外冷静だ(「金持ち喧嘩せず」と言うではないか)。 斎藤幸平氏の著書で、自身が提唱する「コモン」に関連して「ひとまず、宇沢弘文の『社会的共通資本』を思い浮かべてもらってもいい」とひとことあっさりと触れられているので、宇沢弘文『社会的共通資本』(岩波新書)を見ると、「地球環境」の章で定常状態と経済発展はジョン・スチュワート・ミルが可能であることを示しているとの言及がある。「安定的な経済的条件のもとでゆたかな、人間的社会が具体化されている」(p221)とある。 同書は、農業、国土のインフラ、都市、教育、医療、金融、地球環境などを「国家にも市場にも明け渡してはならぬ」となかなか格好のいい主張を述べる。社会的共通資本として専門的知見を踏まえてコミュニティーが管理すべきだというのだが、斎藤氏も宇沢氏も、現実的にワーク(機能)しそうな意思決定と社会運営の方法を提示しているとは言いがたい。 ちなみに、宇沢氏が著書で地球環境問題での対策として圧倒的に推しているのは「炭素税」だ。グローバルな貧富の差を調節するために1人あたりの国民所得に比例的に調整された炭素税を課税するといいというアイデアは納得的だ。これは、環境に対する費用を内部化することによって、資本主義を機能させようとする考え方だ。尚、ここで、「資本主義」とは、「私有財産の自由な売買に基づく競争システム」(F.A.ハイエク『隷従への道』から)といった程度の意味だ』、「経済が成長する見込みでなくても、その予想が反映した株価が形成されていれば、株式投資ではリスクプレミアムを得ることができる仕組みになっている」、とするが、マイナス成長経済の下では、期待収益率もマイナスとならざるを得ず、「株価形成」は困難になるのではなかろうか。プロの「山崎氏」なので、間違うことはないとは思うが、気になるところだ。
・『資本主義が問題なのではなく「使い方」が問題  今の日本では、社会的同調圧力を使った疑似社会主義的計画経済がしばし可能なのかもしれないが、新古典派経済学を激烈に批判した宇沢氏も計画経済を推しているわけではない。 専門家の知見とメンバーの熟議を経て「エッセンシャルな活動」を実現すべくコミュニティーを運営すると考えても、例えば、食料・医療は「エッセンシャル」だろうが、何をどの程度望むかは人によるし、数多ある分野の財やサービスに関して資源や労働の配分に関する「計画」の合意を形成する手続きは容易ではない。ビッグデータと計算機を使うとしても、結論の選択プロセスは独裁的なものに近づくのではないか。 個人の自由な選択の余地を残しながら、資源配分や生産活動を決定する仕組みとしては、先のハイエク的な意味での資本主義を使うのが、現実的で且つメンバーにとっても納得感がある方法ではないか。 結局、「資本主義」が問題なのではなく、その使い方が問題なのだろう。 もちろん、現在のままの資本主義がいいと言っているのではない。「炭素税」のように環境に対するコストを内部化する仕組みは是非必要だし、例えば大規模なベーシックインカムの導入を行って、弱者に優しい経済と資本主義的経済選択を両立させようとする「もっと優しい資本主義」が可能なはずだ。 ポンコツではあっても資本主義を手直しながら使うのが現実的な経済運営なのではないかという平凡な結論に行き着いた。資本主義は、結構しぶとい(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)』、「ポンコツではあっても資本主義を手直しながら使うのが現実的な経済運営」、そうであればいいが、前述の「株価形成」が引っかかる。紹介するのを止めようかとも考えたが、マーケットに近い人間の見方として、やはり紹介する意味はあると考えた次第である。
タグ:貨幣とは何か、その不思議な性質 資本主義 東洋経済オンライン 「ポンコツの資本主義は完全に「オワコン」なのか うそのような10月のあとに待ち受けているもの」 「欲望の時代の哲学2020」で問われるもの 佐々木 一寿 マルクス・ガブリエル デジタル市場の未来を考える必読書 効率的な資源配分のために私有財産制をやめる うそのような10月なのに「市場は案外しぶとい」 山崎 元 『ラディカル・マーケット脱・私有財産の世紀』 「データ労働者組合」を作ろう この「自己循環論法」こそ、貨幣に関するもっとも基本的な真理です ほかの人が貨幣として受け取ってくれるから、私も貨幣として受け取るのです 貨幣の所有は「最も純粋な投機」 (その4)(貨幣という「資本主義最大のミステリー」に挑む 「欲望」の時代の「哲学と資本主義」の謎を探る、私たちが貨幣に翻弄され「罠に落ちる」根本理由 経済と人間の本質を描ききる「欲望の貨幣論」、34歳天才経済学者が私有財産を否定する理由 データ搾取から移民までラディカルに考える、ポンコツの資本主義は完全に「オワコン」なのか うそのような10月のあとに待ち受けているもの) 丸山 俊一 『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る「欲望の資本主義」特別編』として書籍化 「貨幣という「資本主義最大のミステリー」に挑む 「欲望」の時代の「哲学と資本主義」の謎を探る」 NHK経済教養ドキュメント「欲望の資本主義特別編欲望の貨幣論2019」 欲望が欲望を生みだす資本主義の先に何があるのか 「欲望」は時代によって形を変えてきた 社会と個人、意識と無意識、時代の生む物語 岩井克人氏による「欲望の貨幣論」 「私たちが貨幣に翻弄され「罠に落ちる」根本理由 経済と人間の本質を描ききる「欲望の貨幣論」」 貨幣を通して人間存在の原点を考えるきっかけに 貨幣論から経済学全体、そして人と社会のありようへ 貨幣は人々の欲望を本来的に加速させ、不安定にする モノの値段が安定する条件 塩野 誠 「34歳天才経済学者が私有財産を否定する理由 データ搾取から移民までラディカルに考える」 「単なるお金」としての資本 資本主義が問題なのではなく「使い方」が問題 資本主義と経済成長を捨てるべきか?
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自殺(その2)(「芸能人の自殺が増えた」本当の理由 日本は若者の自殺がとんでもなく多い国だった、芸能人に「自殺連鎖」か?日本社会を覆う堪えられない閉塞感の実態) [社会]

自殺については、2月11日に取上げた。今日は、(その2)(「芸能人の自殺が増えた」本当の理由 日本は若者の自殺がとんでもなく多い国だった、芸能人に「自殺連鎖」か?日本社会を覆う堪えられない閉塞感の実態)である。

先ずは、9月28日付けJBPressが掲載したジャーナリストの青沼 陽一郎氏による「「芸能人の自殺が増えた」本当の理由 日本は若者の自殺がとんでもなく多い国だった」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62277
・『今年に入って、いわゆる芸能人の自殺が目立っている。 つい先日までの猛暑が嘘のように涼しさを増した9月最後の日曜日の朝に、メディアが一斉に速報したのは、女優の竹内結子の自殺だった。報道によると、27日未明に渋谷区の自宅マンションのクローゼット内でぐったりしているところを夫が見つけ、119番通報した。首つり自殺を図ったと見られている。40歳だった。 その2週間前の9月14日には、女優の芦名星が新宿区の自宅マンションで自殺。36歳だった。視聴率を稼ぎ、20年近く放送の続くテレビドラマ『相棒』シリーズに準レギュラーで出演もしていた。 さらにその2カ月前。7月18日には、俳優の三浦春馬が30歳の若さで自ら命を絶っている。やはり今月20日に都内の自宅で自殺した俳優の藤木孝(享年80歳)と芦名と過去にドラマで共演していたことや、竹内と映画での共演もあったことから、そこに奇妙な因果関係を見出したがる報道もある。 さらに遡れば、フジテレビの番組『テラスハウス』に出演していた22歳の女子プロレスラーの木村花が、5月23日に自殺している。正式な発表はないが、同番組での出演者とのやりとりを巡るSNS上での誹謗中傷が原因であるとされ、今月になってBPO(放送倫理・番組向上機構)の審理入りが決まった。 華やかに映る芸能界の裏側で、みんななにかに悩んでいた。そのギャップに多くの一般視聴者は驚き、そこに“心の闇”があった、などと使い古された曖昧な言葉で絡め取って、どこか落ち着かせようとする、そんな記事原稿も少なくない。 はたまた、新型コロナウイルスの蔓延による影響を説く、いわゆる自殺に関する専門家と呼ばれる連中の声もある。不要不急の外出の自粛が叫ばれ、人との接点も減った。俳優であれば、撮影や舞台の出演も先送りになったり、中止になったりする。ともすれば収入にも影響が及ぶ。いままでと違う日常。それだけでもストレスなのに、親しい人とも疎遠になって、心の内を聞いてもらえることもなくなった。それが自殺に結びついている。そういう見立てだ。 だが、問題はそんな単純なものはではない。ここに現れているのは、“日本の闇”そのものである』、「“日本の闇”」とはどういうことだろう。
・『若者の死因トップが「自殺」である日本  厚生労働省は今月、昨年2019年の「人口動態統計」を公表している。 そこで驚かされるのは、15歳から39歳までの死因の第1位がいずれも「自殺」であるとだ。5歳ごとの年齢階級別に表示される死因の順位を見るとわかる。2人に1人がなるとされる「がん」よりも多い。しかも、10歳から14歳まででは、「自殺」が死因の第2位を占め、2017年には同年齢階級の第1位になっている。 さらには、昨年の統計で40歳から49歳までの死因の第1位は「がん」だが、第2位は「自殺」となる。50歳から54歳まででは「自殺」が第3位、55歳から59歳までで第4位、60歳から64歳までで第5位に位置する。 国内の日本人の自殺者数は、3万2000人を超えた2003年をピークに、年々減少傾向にある。ところが、20代、30代の死因の第1位が「自殺」である傾向は、もう20年以上変わらないで推移しているのだ。 こんな国はない。こんなに若者が自ら死を選ぶ国は、先進国といわれるなかでも日本だけだ。 この事情は、国会議員の間でも問題視するところで、自殺問題に関する超党派の議員連盟もある。それでもこの傾向は変わらない。 米国、中国に次ぐ世界第3位の経済大国でありながら、若者にとっては生きづらい国であることを統計が示している。 相次ぐ芸能人の自殺の年齢層を見ても、この事情に当てはまっている。 もともとこの国は、同年齢層の自殺者が多いという異様な傾向にあって、それが芸能人の自殺報道の多発で浮き彫りになって来た、と受けとめるべきだ。いまのところ、コロナ・ストレスと自殺を関連づけるものは、なにもない。 仮に、新型コロナウイルスの影響が出ているのだとすると、来年に報告される自殺者の数は、20代、30代に限らず全体的に増えてくるはずだ。それも「新型コロナ関連死」であって、本来の20代、30代の自殺の多さを解決するものにはならない』、全世代での自殺率がOECD諸国で最も高いのは韓国である。若者のみならず、高齢者でも高いようだ。
・『「生きづらさ」を感じた時は  若者を自殺に追い込むもの。生きづらさ。長年続く傾向とその要因については、社会全体として包括的な議論が必要になってくるだろう。格差社会、貧困もそのひとつかも知れない。 むしろ、そうした事実と向き合って来なかったこの国の政治のほうが異常と言える。 ただ、著名人の自殺報道が相次ぐと、そこから連鎖も起きやすい。 そんな時の為に――。 置かれた環境の生きづらさから、自殺を考えたとき、この国は若者の自殺が多いこと、そんな客観的な事実から、生きづらいのは自分ばかりではないことを、再認識して欲しい。ひょっとしたら、隣にいる人もいまの生きづらさに、もがき苦しんでいるかも知れない。その可能性の高さは、統計が示す通りだ。だったら、ひとりで思い悩んでいることを、誰かに打ち明けてみる。どうせみんな生きづらいと感じているのだから。そう思いなおすことも、時として重要なことだ。 そんなことを、一瞬でいいから思い起こして欲しい、と切に願う』、電話やネットでの相談窓口もあるようだが、焼け石に水なのだろう。

次に、10月11日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリスト・作家の渋井哲也氏による「芸能人に「自殺連鎖」か?日本社会を覆う堪えられない閉塞感の実態」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/250927
・『竹内結子さんまで……なぜ著名人の自殺が相次ぐのか  芸能界で自殺が相次いでいる。5月23日に、恋愛リアリティショー番組『テラスハウス』(フジテレビ系)に出演していた、プロレスラーの木村花さん(享年22)が自殺した。新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、非常事態宣言が出されていた時期であり、国民が外出自粛を求められていたタイミングでもあった。コロナ禍での孤立感により、SNSに時間を費やし、誹謗中傷を気にしてしまう雰囲気もあった。木村さんの自殺を機に、ネット上における名誉毀損が、社会的な課題として国会でも議論された。 この時期は、朝や昼のワイドショーから夕方や夜のニュースまで、毎日のように、新型コロナウイルス関連の報道がなされていた。「感染者が何人いるのか」「どの県で感染者が出たのか」「クラスターがどこで発生したのか」というニュースばかりが流された印象だ。 学校は大学を含めて休校やオンライン授業となり、特に新入生は同級生の友達ができない状況が続いた。この頃、筆者が別件の取材で話を聞いた女性の子どもが小学1年生で、「担任は○○先生なんだ。でも、どんな人かわからないし、友達もまだいない」などと話していた。この子どもの言葉は、当時の若者の孤立状況の1つを示していた。 続いて、鷹野日南さん(享年20)が7月10日に、三浦春馬さん(享年30)が7月18日に、芦名星さん(享年36)が9月14日に、藤木孝さん(享年80)が9月20日に自殺した。中でも世間に衝撃を与えたのが、国民的女優の1人であった竹内結子さん(享年40)までもが、9月27日に自殺したことだ。三浦さんと芦名さん、藤木さんは、ドラマ『ブラッディ・マンデイ シーズン2』(TBS系)で、三浦と竹内は映画『コンフィデンスマンJP』シリーズで共演していた。そのため、SNSなどでは、「共演者の死を意識したことによる自殺の連鎖か?」とも騒がれた。 コロナ禍で日本社会にかつてない閉塞感が漂う中、足もとで「自殺」が増えていると言われる。その象徴として芸能人の自殺が続き、さらにその報道に触発されたのか、一般人の間でも「後追い自殺」と思われる現象が起きている。そんな仮説を頭の片隅に置きながら、足もとの傾向と取り組むべき課題を分析しよう。 足もとの自殺の傾向を知る上で、最も注目されているのが、警察庁の自殺統計のデータである。これを見ると、今年8月から顕著に自殺者数が増えていることがわかる。8月の自殺者は全国で1854人。昨年同月比で251人、16%増加した。男女別では男性が6%増だが、女性は40%も増えている。特に30代以下は、70%強も増えた。中高生、大学生とも過去10年の8月では、過去最多になっている。中でも、高校生は顕著だ。 2015年版の『自殺対策白書』によれば、18歳以下の自殺者で過去40年間の日別自殺者数を見ると、最も多い日は「9月1日」だった。そのため、毎年のように各メディアが「9月1日問題」を報道している。この日は夏休み明けを示しているが、学校が再開することによって精神的負担を感じる生徒が多いことも考えられる』、全世代の自殺者数は、昨年までは10年連続で減少していたが、本年は7月から前年同月を上回っている』、なるほど。
・『8月の自殺者増加は「9月1日」の前倒し? それだけでは説明できない  ただし、今年の場合はコロナ休校があったので、夏休みが短かかった。そのため、8月に自殺者が増えたのは、「『9月1日問題』が早まっただけではないか」との見方もある。しかし、なぜ男性ではなく女性の自殺者が急増したのかについての説明にはならない。 別の見方もある。鷹野さんと三浦さんが亡くなった7月は、自殺者数は過去3年間の平均よりも25%増加した。8月は、『ブラッディ・マンデイ』の共演者3人が自殺をする9月の前であり、その影響は加味されていない。三浦さんの自殺、もしくはその報道の影響が、8月の自殺者を増やしたのだろうか。 実際、有名人の自殺、またはその自殺に関連した報道が自殺の連鎖を呼ぶケースはある。後追い自殺や模倣自殺が起きることを「ウェルテル効果」といい、これはゲーテの『若きウェルテルの悩み』に由来する。主人公は最終的に自殺するが、これを読んだ当時の若者たちが自殺をしている。 日本でも、自殺の連鎖を生んだ作品があった。江戸時代の人形浄瑠璃で、近松門左衛門の『曽根崎心中』だ。結婚に反対された男女が、最後に心中をして、来世で一緒になることを誓うというストーリーだ。当時の「心中もの」の代表作である。 この作品の影響で、現実でも心中が連鎖した。そのため幕府は、「心中もの」上演を禁止した。実際に心中をして2人とも生き残った場合は、晒し者として、市民権を剥奪された。1人だけ生き残った場合は、殺人罪としていた。それでも、心中は相次いだと言われている』、9月の自殺者も「昨年同月比」で143人増加したので、「8月の自殺者増加は「9月1日」の前倒し」、ではなかったようだ。「後追い自殺や模倣自殺が起きることを「ウェルテル効果」」、上手いネーミングだ。
・『岡田有希子さんの「後追い」が急増 野猿の「解散」も引き金に  現代では、1986年、アイドルの岡田有希子さんが自殺したときのケースが有名だ。「松田聖子2世」と呼ばれるほど人気があったこと、自殺現場からの生中継が行われたり、現場写真が雑誌に掲載されたりしたことにより、報道はセンセーショナルに加熱した。その影響により、後追い自殺が増えたと言われた。 この年は「葬式ごっこ」が絡んだいじめ自殺報道も多くなされ、文部省(当時)がいじめ統計を取り始めたタイミングでもあった。岡田さんの自殺も相まって若年層の自殺が注目され、過度な報道があったことで、10代の自殺が増えたのではないかとも言われている。 警察庁の自殺統計によると、この1986年における19歳以下の自殺者は802人で、前年と比較して255人も増加した。翌87年になると一気に225人減少したことから、自殺報道の影響があったと見る専門家は多い。 こうした過去の事例を見るにつけ、今年8月の自殺急増にも、報道が影響した可能性はある。しかし警察庁の自殺統計によると、「20歳未満」の「原因・動機」で最も多いのは「学校問題」が最多で32人と、過去10年における8月の「原因・動機」別で最も多い。「家庭問題」や「健康問題」でも、同様の傾向がある。仮に、著名人の自殺報道がトリガーになったとしても、ベースとなる悩みは別にありそうだ。現段階では「学校問題」の詳細なデータは揃っていないので、これ以上のことには言及できない。 一方、著名人の自殺でなく音楽グループの解散をきっかけに自殺が起きたケースもある。とんねるずを中心としたグループ「野猿」が2001年5月、解散した。亡くなったのは福岡県の女子高生2人で、自殺した際のメモが見つかったが、その最後には「撤収」と書かれていたという。 2人は別々の高校に通学し、解散コンサートがある国立代々木競技場第一体育館を訪れていた。1人は入学以来、授業を欠席したことはなかった。同校の教諭は「『野猿が解散するなら、もうどうでもいい』などと友達に漏らしていたらしい」と話している(朝日新聞2001年5月16日)。もう1人も、「2年生になってから遅刻や欠席はない」とされていた。まじめな生徒たちだったようだが、解散も自殺も「もう目にすることはない」という意味で、少なくともこの2人にとっては、有名人が死亡したのと同様の喪失感があったのだろう。 著名人の自殺に後追い効果があると言われる中、三浦さんの共演者をはじめ、著名人の中でも自殺が連鎖しているように見えることは、ただの偶然なのか、仲間の死に心理的に影響を受けた後追い自殺や模倣自殺なのかは、現段階では知る由もない。しかし、これらの情報を受け止める側である視聴者や読者は、否応なく連鎖自殺を連想してしまう状況にある』、「「20歳未満」の「原因・動機」で最も多いのは「学校問題」が最多で32人と、過去10年における8月の「原因・動機」別で最も多い。「家庭問題」や「健康問題」でも、同様の傾向がある。仮に、著名人の自殺報道がトリガーになったとしても、ベースとなる悩みは別にありそうだ」、その通りなのだろう。
・『著名人「連鎖自殺」の深い影響 自殺報道のあり方とは  では、一般人を報道の影響から守るための取り組みは進んでいるのか。厚生労働省は「著名人の自殺に関する報道は『子どもや若者の自殺を誘発する可能性』があるため、WHOの『自殺報道ガイドライン』を踏まえた報道の徹底をお願いします」などのお願いを、三度出している。独自の「ガイドライン」を作成している報道機関もあり、朝日新聞は自社のガイドラインを公開している。 事件や自殺の報道は警察担当記者が中心に行うが、公式発表以外の情報を入手し、記事化するのも報道の役割である。どこまで報道するのかについて一定のガイドラインはあってもいいが、杓子定規に捉えると何も報道できなくなる。ただ、一般紙やテレビは、社内ガイドラインに従って、ケースバイケースで判断すべきだと筆者は思う。一方で、雑誌やスポーツ紙、夕刊紙は、一般紙やテレビとは違った独自の報道をするものだ。著名人の自殺に関しても同じことが言える。 ただし最近は、ネット上のポータルサイトであらゆるニュースが拡散されるため、媒体の垣根がなくなりつつある。独自スタイルの報道を続ける媒体の記事については検索上位に上がらない仕組みにしたり、ガイドラインに明らかに反する内容の記事については本文を載せないようにしたりと、ポータルサイト側にも工夫が必要だ。著名人の自殺が起きたときに、専門家などを臨時に召集して意見を聞き、判断するのもよいかもしれない。 さて、ここまでは主に著名人の自殺報道が世間に与える影響を見てきたが、それは自殺の誘発要因の1つに過ぎない可能性がある。自殺を考えるほど人が悩む根底には、コロナ禍による先の見えない社会不安など、さらに奥深い原因があるはずだ。各種機関のデータと共に、そのあたりの事情も考察してみよう。) マクロの観点で見た場合、よく言われるのは、完全失業率が高くなると自殺者が増える傾向があるということだ。「労働政策研究・研修機構」の調査によると、19年末から20年7年までの雇用者数の減少率は、男性で0.8%だったのに対し、女性は3.2%で、2.4ポイントの差があったという。女性の収入が減少した家庭では、2割が食費を切り詰めるほど困窮している。雇用問題は自殺に直結するとも言われているが、女性の自殺が増加したのは主に20代以下である。そのため、コロナ後の就労状況だけを自殺者数の増加に関連づけて語ることはできない。 しかし筆者は、コロナ禍における取材の過程で、女性たちのこうした声も耳にしている。 「自分に向き合う時間が増えて、将来への不安は増したかな。母親は緊急事態宣言を受けて休職し、宣言が明けて復職していました。コロナ問題で見通し立たないときは、辛かったです」(30代女性) 「普段は母親と喧嘩をすることもありましたが、ほどよい距離感だったと思います。コロナ問題があって、母親が家にいる時間に私もいることが多くなりました。そうすると、喧嘩まではいかなくても、細かいことがお互いに気になって、イライラすることが増えました」(20代女性)』、「独自スタイルの報道を続ける媒体の記事については検索上位に上がらない仕組みにしたり、ガイドラインに明らかに反する内容の記事については本文を載せないようにしたりと、ポータルサイト側にも工夫が必要だ」、後者はともかく、前者はそこまで「ポータルサイト」に要求するのは、無理があるような気がする。
・『電話相談では「自殺志向」が増加も若年層は少ない  コロナ問題は経済問題だけでなく、将来不安や人間関係にも影響を与えている。そんな中、今回の一連の著名人の自殺報道に際しては、相談窓口の情報が添えられていた。散々「いのちの電話」が紹介されたため、「自殺志向」の相談件数が増えるのは当然だ。 ただし電話相談では、若年層は少ない。全国の「いのちの電話」全体(宮崎と東京英語いのちの電話を除く)では、2019年で10代は2.8%(このうち、自殺関連相談は6.8%)。20代は7.2%(うち、自殺関連相談は12.3%)などと、高い比率ではない。合わせても1割程度だ。 「北海道いのちの電話」によると、電話相談の件数は、昨年平均は44件。竹内さんが亡くなった9月27日の翌日(28日)は48件、翌々日(29)は54件あった。このうち、自殺に関連する相談は28日は14件で全体の29.2%、29日は12件で22.2%と、昨年平均(11.7%、全国平均は11%)の2~3倍となっている。2日間で見れば102件で、10代は1人、20代は3人、30代は16人、40代は22人、50代は24人、60代は19人、70代以上が8人と、中高年層が多くなっている。 「三浦さんが亡くなったときは名前を挙げる相談はなかったが、竹内さんが亡くなった後には、名前を挙げている相談が数件あった」(事務局)』、確かに「電話相談」は若者の利用は少ないようだ。
・『SNS相談は若年層が多く「コロナ関連」が増加  2017年10月に、神奈川県座間市のアパートで男女9人が殺害された事件が起きた。被害者はツイッターで「死にたい」などとつぶやいていたことから、厚生労働省は、ツイッターやLINEなどを利用してSNS上で相談をする民間事業者に助成を始めた。若年層に届く相談を目指したのである。 その1つ、「東京メンタルヘルス・スクエア」のSNS相談の月別相談件数を見てみると、8月は1747件で、このうち女性が1400件と全体の80%を占めた。前年8月は全体が1041件で、女性の割合が793件と76%を占めていたため、今年8月は対前年同期比で女性比率が4ポイント増えたことになる。 特に多いのが若年層だ。相談件数を19歳以下に限ってみると404件で、女性全体に占める比率は28.8%となる。これは前月比で26件増加しており、年代比率としても2.1ポイント増加した。前年8月は251件で女性全体の31.6%だったため、今年の比率のほうが低くなったもものの、10代が全体の3割程度を占める状況は変わらない。20代でみると。447件で、女性全体の比率で約32%。前月比では8件減少だったものの、ほぼ同じ比率だ。前年同月が28%で、4ポイント増加した。つまり、20代以下で、6割前後を占めている。 相談内容を具体的に見てみよう。「自殺念慮」を思わせる相談は今年8月は57件で、年内で最も多い。「メンタル不調」と捉えられる相談は8月に503件(全体の28.7%)で、年内で最も多かった5月の566件よりは63件少なく、比率で見ても36.1%から7.4ポイント減っている。一方、コロナ関連の相談は280件で、8月が最多となっている。新型コロナを意識した相談が増えているということは、いわゆる「新しい生活様式」に関連したものだろう。 相談件数だけ見れば、徐々に増加しつつあり、悩みを抱える若年層の深刻さがうかがえる。対応件数の総数は「相談員のキャパシティによるものが大きい」(同団体)し、匿名であるため相談の効果を実証することが難しい。相談者がSOSを出せるようになるのか、メンタルクリニックなどに通院できるようになるのか、自殺しない気持ちになれるのかなど、何を目標にするのかでも接し方は違ってくる。相談をしやすくするのは第一歩ではあるが、その後のフォロー体制をいかにするかが課題となる。 コロナ禍による社会不安の中、自殺を選ぶ著名人が増え、それに触発される一般人も増えている。それぞれの現象の間に、どれほど強い関連性があるのかを明確に示すことは難しい。しかし、今目の前で起きていることが、真剣に向き合わなくてはいけない社会の大きな課題であることを、我々は肌で感じ取っている。これからも、注視していかなくてはならない』、「座間市のアパートで男女9人が殺害された事件」では、ツイッターで自殺をほのめかした若者をおびき出し、次々に惨殺、金品まで奪うという悪質極まりない事件だった。これを受けて「厚生労働省は、ツイッターやLINEなどを利用してSNS上で相談をする民間事業者に助成を始めた」ようだが、こうした悲惨な事件の再発防止に少しでも役立つことを期待したい。
タグ:後追い自殺や模倣自殺が起きることを「ウェルテル効果」 座間市のアパートで男女9人が殺害された事件 ツイッターで自殺をほのめかした若者をおびき出し、次々に惨殺、金品まで奪うという悪質極まりない事件 岡田有希子さんの「後追い」が急増 野猿の「解散」も引き金に 「「芸能人の自殺が増えた」本当の理由 日本は若者の自殺がとんでもなく多い国だった」 「芸能人に「自殺連鎖」か?日本社会を覆う堪えられない閉塞感の実態」 全世代での自殺率がOECD諸国で最も高いのは韓国 8月の自殺者増加は「9月1日」の前倒し? それだけでは説明できない 若者のみならず、高齢者でも高い 渋井哲也 20代、30代の死因の第1位が「自殺」である傾向は、もう20年以上変わらないで推移 「生きづらさ」を感じた時は WHOの『自殺報道ガイドライン』 若者にとっては生きづらい国 これを受けて「厚生労働省は、ツイッターやLINEなどを利用してSNS上で相談をする民間事業者に助成を始めた」ようだが、こうした悲惨な事件の再発防止に少しでも役立つことを期待したい ダイヤモンド・オンライン 若者の死因トップが「自殺」である日本 15歳から39歳までの死因の第1位がいずれも「自殺」 自殺 (その2)(「芸能人の自殺が増えた」本当の理由 日本は若者の自殺がとんでもなく多い国だった、芸能人に「自殺連鎖」か?日本社会を覆う堪えられない閉塞感の実態) JBPRESS 電話相談では「自殺志向」が増加も若年層は少ない 著名人「連鎖自殺」の深い影響 自殺報道のあり方とは 「20歳未満」の「原因・動機」で最も多いのは「学校問題」が最多で32人と、過去10年における8月の「原因・動機」別で最も多い。「家庭問題」や「健康問題」でも、同様の傾向がある。仮に、著名人の自殺報道がトリガーになったとしても、ベースとなる悩みは別にありそうだ 青沼 陽一郎 ここに現れているのは、“日本の闇”そのものである 独自スタイルの報道を続ける媒体の記事については検索上位に上がらない仕組みにしたり、ガイドラインに明らかに反する内容の記事については本文を載せないようにしたりと、ポータルサイト側にも工夫が必要だ SNS相談は若年層が多く「コロナ関連」が増加
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学術会議問題(その1)(「杉田官房副長官 和泉補佐官に政権批判した学者を外せと言われた」学術会議問題を前川喜平氏語る、日本学術会議問題は 「菅首相の任命決裁」 「甘利氏ブログ発言」で “重大局面”に、学術会議問題 菅内閣の任命拒否は「制度論」で見ればおかしい理由) [国内政治]

今日は、ホットな 学術会議問題(その1)(「杉田官房副長官 和泉補佐官に政権批判した学者を外せと言われた」学術会議問題を前川喜平氏語る、日本学術会議問題は 「菅首相の任命決裁」 「甘利氏ブログ発言」で “重大局面”に、学術会議問題 菅内閣の任命拒否は「制度論」で見ればおかしい理由)を取上げよう。

先ずは、10月4日付けAERAdot「「杉田官房副長官、和泉補佐官に政権批判した学者を外せと言われた」学術会議問題を前川喜平氏語る〈週刊朝日〉」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/wa/2020100400007.html?page=1
・『菅義偉首相が日本学術会議の推薦した委員の任命を拒否したことを受けて、学術界に激震が走った。政府からの独立を維持してきた学術界をも、菅政権は官僚と同様に支配しようと踏み込んできたからだ。いったい何が起こっているのか。元文部科学省事務次官の前川喜平氏が本誌インタビューで問題点を語った』、「前川氏」の見方とは興味深そうだ。
・『今回の問題は菅政権で起こるべくして起こったという感じですが、手を出してはいけないところに手を出してしまいました。 安倍政権は人事権によって官僚や審議会を支配してきました。その中心にいたのが菅さんです。気に入らない人間は飛ばす、気に入れば重用する。これは彼らの常とう手段なんです。 私が事務次官だったとき、文化審議会の文化功労者選考分科会の委員の候補者リストを官邸の杉田和博官房副長官のところにもっていきました。 候補者は文化人や芸術家、学者などで、政治的な意見は関係なしに彼らの実績や専門性に着目して選びます。それにもかかわらず杉田さんは「安倍政権を批判したから」として、二人の候補者を変えろと言ってきました。これは異例の事態でした。 他にも菅さんの分身とも言われる和泉洋人首相補佐官が文化審議会の委員から西村幸夫さんを外せ、と言ってきたこともありました。西村さんは日本イコモス委員長です。安倍首相の肝入りで「明治日本の産業革命遺産」が推薦され、15年に世界遺産に登録されましたが、この産業革命遺産の推薦を巡り難色を示していたのが、西村さんでした。任期が来たときに、文科省の原案では西村さんを留任させるつもりでしたが、和泉さんが「外せ」といい、外されました。 官僚についても同じようなことを繰り返してきましたよね。本来、内閣から独立している人事院を掌握し、「憲法の番人」と言われた内閣法制局も人事で思い通りにした。成功体験を積み重ねてきた。それで検察の人事にも手を出したが、これは失敗。でも、まだ諦めていないでしょうね。そしてその支配の手を学問の自由にも及ぼそうとしている』、官僚の人事はともかく、学問の世界にまで以前から手を広げていたようだ。
・『今回も官僚や審議会の人事に手をつっこむような感じでやってやろうと思ったんでしょうね。しかし、致命的なのは、日本学術会議が科学者の独立した機関だという理解がなかった点です。 憲法では「学問の自由」「思想の自由」が保障されている。国家権力が学問や思想を侵害してはならないとなっている。だから、日本学術会議の独立性は強いんです。 しかし、今回の任命の問題は、日本学術会議の独立性を脅かすことになる。日本にいる約87万人の科学者を敵に回したといっても過言ではありません。安倍さんも菅さんも法学部出身なのに、憲法を理解していないんでしょうかね。授業中、寝ていたのでしょうか。任命しないというのであれば、その理由をはっきりと説明するべきです。 日本学術会議法には「会員は(日本学術会議の)推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」とあります。「推薦に基づいて、任命する」というのは、原則的に、「推薦通りに任命する」ということを意味します。 総理大臣の任命についても、憲法に「天皇は、国会の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命する」とありますが、天皇陛下は拒否することはできません。「推薦に基づいて~」というのは、推薦通りに任命するのが原則なんです。 1983年の国会答弁を見ても、「推薦をされたように任命する」ということを政府が認めています。ただ、100歩譲って、任命しないというのであれば、日本学術会議が推薦した以上の理由をもって、説明しないといけない。彼らは学術的な実績を理由に推薦を受けています。その実績に「論文を盗用していた」などの明らかな問題があれば、拒否する理由になるでしょう。 日本学術会議は内閣総理大臣の所轄です。菅さんには推薦を拒否する理由を説明する責任がありますが、「自分たちの意に沿わないから」という以上の理由を説明できないでしょうね。 政権にとって都合の悪い人間を排除していけば、学術会議が御用機関となります。それでは彼らの狙いは何か。それは、軍事研究でしょう』、「「推薦に基づいて、任命する」というのは、原則的に、「推薦通りに任命する」ということを意味します」、「任命しないというのであれば、日本学術会議が推薦した以上の理由をもって、説明しないといけない」、説明責任を放棄しているようだ。
・『政府は日本の軍事力強化に力を入れてきています。防衛省では15年に「安全保障技術研究推進制度」を導入しました。防衛省が提示するテーマに従って研究開発するものに、お金を提供する制度です。導入当初は3億円だった予算規模は、今では100億円にもなっています。 他方で、日本学術会議では、1950年と67年に「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明」と、「軍事目的のための科学研究を行なわない声明」の二つの声明を出している。戦争に協力した反省からです。2017年にはこの二つの声明を継承することを表明しています。 このときの日本学術会議会長の大西隆さんは「自衛目的に限定するなら、軍事研究を容認していい」という考えでしたが、他の委員から反対があり、「認めるべきではない」となった。 菅政権にとっては学術会議のこういった人たちが目の上のたんこぶなんですね。最終的には日本の大学で軍事研究を進め、独自の軍事技術を持って、兵器をつくっていきたい、ひいては戦争に強い日本をつくりたいのでしょう。 学者の方々は官僚のように“大人しい羊の群れ”ではないので、一筋縄ではいかないと思います。今回任命されなかった方々は憲法学者や刑法学者、行政法学者など日本のトップクラスの人たちです しかし、今回の任命拒否は非常に怖いものでもある。1930年代に起こった滝川事件や天皇機関説事件といった学問の弾圧を思い起こさせる。大学や学術の世界を国の意向に沿ったものにしようとしている。 安倍政権では集団的自衛権や検事長の定年延長について、憲法や法の解釈を都合よく変更してきました。定年延長では法を変えようとまでした。今度は日本学術会議法まで変えようとするかもしれません。 今回の問題は、これまでの人事とは異次元の問題と見るべきだと思います』、「今回の任命拒否は非常に怖いものでもある。1930年代に起こった滝川事件や天皇機関説事件といった学問の弾圧を思い起こさせる。大学や学術の世界を国の意向に沿ったものにしようとしている・・・これまでの人事とは異次元の問題と見るべきだと思います」、説得力溢れた主張である。

次に、10月10日付けYahooニュースが掲載した元東京地検特捜部検事で郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士の郷原信郎氏による「日本学術会議問題は、「菅首相の任命決裁」、「甘利氏ブログ発言」で、“重大局面”に」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/byline/goharanobuo/20201010-00202356/
・『10月7日にアップした【「日本学術会議任命見送り問題」と「黒川検事長定年延長問題」に共通する構図】で、「日本学術会議任命見送り問題」について、「黒川検事長定年延長問題」と対比しつつ詳述した。2つの重要な事実が報じられたことで、この問題は、重大な局面を迎えている』、「郷原氏」の見解とは興味深そうだ。
・『菅首相は、推薦者名簿を見ることなく、会員任命を決裁していた  一つは、この「任命見送り」について、【学術会議問題「会長が会いたいなら会う」 菅首相】と題する記事(朝日)で、 首相が任命を決裁したのは9月28日で、6人はその時点ですでに除外され、99人だったとも説明した。学術会議の推薦者名簿は「見ていない」としている。と報じられたことだ。 この問題が表面化した当時、菅首相は、官邸での記者団の質問に対して、立ち止まることもなく「法に基づき適切に対応してきた」と述べ、その後、内閣記者会のインタビューに対して「総合的、俯瞰的活動を確保する観点から、今回の人事も判断した」と説明していた。 もし、首相が任命を決裁した段階で、6人の学術会議の推薦者が既に除外されていたとすれば、誰がどのような理由で、或いは意図で除外したのかが問題になる。そして、6人の任命見送りの問題表面化直後に、菅首相が任命決裁の際に学術会議の推薦者名簿を見ていなのに「法に基づき適切に対応」と発言したとすると、この「適切」というのは、どういう意味だったのかが重大な問題となる。 国会閉会中審査でも、政府側は、日本学術会議会員の任命見送りについて、「憲法15条1項の規定に明らかな通り、公務員の選定・罷免権は国民固有の権利」としている。「選定・罷免権を国民に代わって行使するのが内閣の長である内閣総理大臣なので、日本学術会議の会員の任命権も、その選定・罷免権のうちの一つであり、総理大臣には、学術会議の推薦者を任命する義務はなく、一定の裁量がある」という趣旨であろう。 そうだとすると、菅首相が、学術会議の推薦者名簿を見ることなく、6名の任命見送りを決裁したことは、「任命権を適切に行使した」と言えるのだろうか。そして、任命の可否を判断すべき立場の人物に「適切に判断させた」、つまり、判断を委ねたというのであれば、6人の任命見送りが問題とされた際に、その判断が適切だったか否かを、自ら確認しなければならないのが当然である。それを行うこともなく「適切に対応」と答えたとすれば、総理大臣としての責任は免れない。 前記記事によれば、菅首相は、「(日本学術会議の)会長がお会いになりたいというのであれば、会わせて頂く」と述べたとのことだが、会長との面談以前に、まず行うべきことは、任命見送りの経過と、それを「適切」と判断した理由について、自ら、公の場で説明することである』、「任命の可否を判断すべき立場の人物に「適切に判断させた」」のは、自らの責任回避のつもりだったのかも知れないが、飛んでもない落とし穴にはまったようだ。
・『甘利氏による「中国『千人計画』」に関する日本学術会議批判  もう一つの重大な問題は、日本学術会議に関する甘利明衆議院議員のブログ発言だ。 甘利氏が、今年8月6日に、自らの公式ブログ「国会リポート」で、 日本学術会議は防衛省予算を使った研究開発には参加を禁じていますが、中国の「外国人研究者ヘッドハンティングプラン」である「千人計画」には積極的に協力しています。他国の研究者を高額な年俸(報道によれば生活費と併せ年収8,000万円!)で招聘し、研究者の経験知識を含めた研究成果を全て吐き出させるプランでその外国人研究者の本国のラボまでそっくり再現させているようです。そして研究者には千人計画への参加を厳秘にする事を条件付けています。中国はかつての、研究の「軍民共同」から現在の「軍民融合」へと関係を深化させています。つまり民間学者の研究は人民解放軍の軍事研究と一体であると云う宣言です。軍事研究には与しないという学術会議の方針は一国二制度なんでしょうか。 と述べ、それが、ツイッター等で、広く拡散された。 この「千人計画」の話がテレビのワイドショー等でも取り上げられたことに関して、BuzFeed Japnのネット記事【日本学術会議が「中国の軍事研究に参加」「千人計画に協力」は根拠不明。「反日組織」と拡散したが…】は、ファクトチェックを行った結果、学術会議側は、中国の軍事研究への協力について「そのような事業、計画などはありません」と明確に否定し、「実際の事業は覚書が結ばれて以降、行われていないのが実態」「そもそも学術会議の予算面の問題から、国際的な研究プロジェクトなどを実施することは、中国以外の国ともできていない」と説明したとしている。ファクトチェックの結果は、 つまり、軍事研究や千人計画以前に、学術会議として他国との間で「研究(計画)に協力」しているという事実がない というものだとしている。 甘利氏は、自民党税調会長であり、過去に経産大臣、経済財政担当大臣等の主要閣僚を務めた自民党の大物政治家である。ブログ発言によって、日本学術会議に関して、根拠のない非難を行ったとすれば、法的、政治的責任が問題になる』、「甘利氏」ともあろう大物が「学術会議」にケチをつけるつもりで、悪質なフェイクニュースを流したものだ。
・『甘利氏ブログ発言の法的責任をめぐる問題  法的責任に関して問題となるのは、日本学術会議に対する「名誉棄損」の成否だ。 公的機関の名誉権の有無、名誉棄損の客体になるか否かについては、これまで、主として地方自治体ついて、名誉権侵害による民事上の請求の是非に関して議論されてきた。 平成15年2月19日東京高判(判時1825号75頁)は、地方公共団体の社会的評価を保護すべき必要性があるのみならず、その合理性も認められ、名誉権の侵害を理由とする損害賠償等の請求の余地が全くないということはできない との趣旨の判示をし、地方自治体にも名誉権の侵害による損害賠償請求の余地があることを認めている。 日本学術会議は、国の機関であり、独立した民事上の請求の主体ではない。しかし、刑事上の名誉棄損罪の客体が「人の名誉」である。この場合の人とは、「自然人」「法人」「法人格の無い団体」などが含まれるとされていること(大判大正15年3月24日刑集5巻117頁)からすると、それ自体法人格はない日本学術会議も、名誉棄損罪の客体にはなり得ると考えられる。この点については、地方自治体の名誉権に関する上記東京高裁判決の「地方公共団体の社会的評価を保護すべき必要性がある」との判示を参考にすべきだろう。 もし、前述の甘利氏のブログの記述について、日本学術会議の会長名で、名誉棄損罪での告訴が行われた場合、同会議が、独立して社会的評価を保護する必要がある機関なのか否かという観点から、告訴の受理の要否が真剣に検討されることになるであろう』、「学術会議」が「名誉棄損罪で」「告訴」する余地はありそうだが、実際には波風を立てることを嫌ってしないだろう。
・『甘利氏に重大な説明責任、菅首相の説明責任にも関係  重大なことは、菅首相が、6人の会員の任命見送りについて、誰がどのように判断したのかと、甘利氏のブログ発言とが関連している可能性があることである。自民党の有力政治家である甘利氏のブログ発言が、その後、自民党内や政府内部での、日本学術会議の会員任命問題への議論に影響を与え、今回の任命見送りの背景になったとすれば、甘利氏は、日本学術会議に関するブログ発言について、一層重大な説明責任を負うことになる。 甘利氏は、2016年1月28日、週刊文春が報じたUR口利き金銭授受疑惑の責任を取って内閣府特命担当大臣(経済財政政策)を辞任し、それ以降、「睡眠障害」を理由に国会を欠席し、その後、検察の不起訴処分が確定するや、「名前も不明の弁護士の調査結果」で「違法性はないとの結論だった」としただけで、それ以上の説明責任は果たさなかった。 発足したばかりの菅政権にとって、重大な問題となっている日本学術会議問題に関する自らのブログ発言について、日本学術会議側からの告訴の有無に関わらず、今度こそ、「十分な説明責任」を果たすべきである』、同感である。

第三に、10月12日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した総務省出身で室伏政策研究室代表・政策コンサルタントの室伏謙一氏による「学術会議問題、菅内閣の任命拒否は「制度論」で見ればおかしい理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/250948
・『日本学術会議の新たな会員のうち6人について、菅内閣が任命を拒否したことを巡って大きな騒動になっている。そもそも、この問題は、任命手続が関係法令に照らして適正なものであったのか。制度論や組織の在り方、特に政府との関係性の面から見て解説してみたい』、「総務省出身」者の見解とは興味深そうだ。
・『日本学術会議を巡る騒動 関係法令に照らして適正だったか  日本学術会議の新たな会員のうち6人について、菅内閣が任命を拒否したことを巡って、与野党、メディア、言論人に一般人を巻き込んだある種の騒動になっている。しかも拒否をした理由が安保法制、政府側の用語で言えば平和安全法制に反対したからだとされており、研究者の一部のみならず、安保法制反対勢力やメディア関係者からも大きな反発が巻き起こり、官邸前などで抗議デモが行われるまでに至っている。 一方、政府というより菅内閣側は、任命拒否の理由について明確な説明を未だ行っていない(従って、安保法制に反対したから、というのは推測の域を出ないものであるということなるが…)。 この騒動、というより問題の本質は、今回の任命手続が関係法令に照らして適正なものであったのか、そして、組織の在り方、特に政府との関係性にある。 任命手続については、多くのメディアにおいてこれまで解説が行われてきているのでここでは詳細なところまで踏み込まないが、基本的な枠組みは、会員または連携会員による推薦その他の情報に基づき、候補者委員会が候補者名簿を作成、総会の承認を得て、会員の候補者を内閣総理大臣に推薦し、内閣総理大臣が任命するというもの。根拠規定は以下のとおり。 日本学術会議法(昭和23年法律第121号)(抄)(第七条 日本学術会議は、二百十人の日本学術会議会員(以下「会員」という。)をもつて、これを組織する。 2 会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。 3~8 (略) 第十七条 日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。 日本学術会議会則(平成十七年日本学術会議規則第三号)(抄)(会員及び連携会員の選考の手続) 第八条 会員及び連携会員(前条第一項に基づき任命された連携会員を除く。以下この項、次項及び第四項において同じ。)は、幹事会が定めるところにより、会員及び連携会員の候補者を、別に総会が定める委員会に推薦することができる。 2 前項の委員会は、前項の推薦その他の情報に基づき、会員及び連携会員の候補者の名簿を作成し、幹事会に提出する。 3 幹事会は、前項の会員の候補者の名簿に基づき、総会の承認を得て、会員の候補者を内閣総理大臣に推薦することを会長に求めるものとする。 4 幹事会は、第二項の連携会員の候補者の名簿に基づき、連携会員の候補者を決定し、その任命を会長に求めるものとする。 5 幹事会は、前条第一項に基づき任命される連携会員の候補者を決定し、その任命を会長に求めるものとする。 6 その他選考の手続に関し必要な事項は、幹事会が定める。 日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦手続を定める内閣府令(平成十七年内閣府令第九十三号)(抄) 日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦は、任命を要する期日の三十日前までに、当該候補者の氏名及び当該候補者が補欠の会員候補者である場合にはその任期を記載した書類を提出することにより行うものとする』、なるほど。
・『今回の任命拒否は「手続的におかしい」  ポイントは内閣総理大臣に任命されることとされているが、その任命が学術会議から推薦されたものの事実上の追認なのか、あくまでも推薦されたものを参考にしつつあくまでも内閣総理大臣が任命するのかということであるが、これまでの説明では前者であるとされており、過去に国会でもその旨政府としての見解が示されており、これが変更されたとの説明はなされていない。 従って、今回の任命拒否は「手続的におかしい」という話になっているわけである。 では、なぜそのような手続になっているのかというと、これが学術会議の組織の在り方と密接に関係している。すなわち、日本学術会議は内閣総理大臣の所轄ではあるものの、政府から独立して職務を行うこととされており、学術会議の設置根拠である日本学術会議法第2条にもその旨規定されている。加えて言えば、法において「所管」ではなく「所轄」とされていることからもその独立性は明らかである(警察庁と国家公安委員会、都道府県公安委員会と警察本部などとの関係に類似している)。 しかし、この点が理解されていない以前に正確に知られていないため、独立性と手続の適正性の問題で議論すべきところが、「学術会議は既得権益」だの「老人の集まり」だの「機能していない」だのといった、まあありがちな、端的に言って的外れな意見が噴出してしまっているということなのだろう。 ところが、その程度の的外れな意見というか批判程度なら「分かっとらんなぁ」で済むのであろうが、言論人・知識人、メディア人、さらには政治家まで「学術会議を民営化しろ」「給与が高すぎる」「廃止しろ」などと言い出している始末である』、「日本学術会議は内閣総理大臣の所轄ではあるものの、政府から独立して職務を行うこととされており、学術会議の設置根拠である日本学術会議法第2条にもその旨規定されている。加えて言えば、法において「所管」ではなく「所轄」とされていることからもその独立性は明らかである」、「所轄」の意味が深く理解できた。「独立性と手続の適正性の問題で議論すべきところが、「学術会議は既得権益」だの「老人の集まり」だの「機能していない」だのといった、まあありがちな、端的に言って的外れな意見が噴出してしまっている」、「的外れな意見が噴出」しているのは、政府の目くらましなのかも知れない。
・『「民営化」や「廃止」の議論がおかしい理由  日本学術会議の特別の機関としての職務は、同会議ホームページによれば、「科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること」「科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること」であり、その役割は、「政府に対する政策提言」「国際的な活動」「科学者間ネットワークの構築」「科学の役割についての世論啓発」である。 従って、当然のことながら収益事業を行っているわけではないし、民間事業者などが代替できるものでもないのであるから、「民営化」などに馴染むものではないどころか、その余地がない。 「廃止」の主張に至っては、これまでの活動を評価・総括した上で不要であるか、ほかの組織等によってその機能が代替可能ということであればまだしも、ただなんとなくムカついたから、菅内閣の決定を批判したからというのであれば、話にならない。 行政組織をその程度の認識で改廃できると考えているのだとしたら、「行政組織とはなんぞや」ということについて一から勉強すべきであろうし、その程度のことも認識しない、解しない者は政治家としての資質に欠ける。少なくとも国会などにおいて政策論争をする資質を有しないとされても仕方あるまい。 さらに、加藤官房長官が記者会見において、学術会議の委員の手当てについて、令和元年度の決算ベースでは総額約4500万円と説明したことも手伝ってか、学術会議の委員は高給取りであるかのような話まで出てきている。 これも端的に言って誤りであり、根拠なき勝手なイメージである』、「収益事業を行っているわけではないし、民間事業者などが代替できるものでもないのであるから、「民営化」などに馴染むものではないどころか、その余地がない」、「民営化」とは馬鹿なことを恥ずかしげもなく主張するものだ。「加藤官房長官」の「委員の手当」の「説明」も特権的地位にあるとの印象を与えるための情報操作のようだ。
・『「既得権」などというには程遠い手当しか支給されていない  学術会議の委員は非常勤の特別職の国家公務員として扱われるが、支給される手当は非常勤の一般職の国家公務員と同じ扱いであり、勤務1日につき3万4200円を上限としてその範囲内で定められた額が支給される。 加藤官房長官の答弁にある令和元年度決算ベースの4500万円という数字を、学術会議の会員数210で割れば、1人当たり概ね年間21万円となる。旅費についても一般職の国家公務員と同様であり、会員は一般職国家公務員の俸給表の10級扱いなので、職務での移動につかえるのは普通席、エコノミークラスである(もちろん自腹で追加料金を支払って利用することはできるが、あくまでも自腹である)。 これでも「高いだ」「もらいすぎだ」と言われるのであれば、もう話にならないが、「既得権」などというには程遠い手当しか支給されていないということは誰の目にも明らかであろう。 今般の学術会議の委員の任命を巡る議論は、無用に拡散させるようなことをせず、また論点をすり替えるような姑息なこともせず、制度論を踏まえた冷静な議論が望まれる。 (ちなみに、日本学術会議は、中央省庁等改革前は旧総理府の特別の機関であり、省庁再編後は一時期総務省の特別の機関でもあった。つまり、その事務局は内閣府・総務省の旧総理府・総務庁系のポストであり、人事ローテーションにも組み込まれている。筆者が役人を辞めていなければ、今ごろ騒動に巻き込まれていた可能性もゼロではないので、対岸の火事、他人事〈ひとごと〉を決め込めるような心理にはなれないのである…)』、確かに「「既得権」などというには程遠い手当しか支給されていない」、マスコミも菅政権の「論点をすり替え」の情報操作に惑わされずに、「制度論を踏まえた冷静な議論」をすべきだ。「室伏氏」が「役人を辞めていなければ、今ごろ騒動に巻き込まれていた可能性もゼロではない」、この問題に詳しい理由も納得できた。
タグ:マスコミも菅政権の「論点をすり替え」の情報操作に惑わされずに、「制度論を踏まえた冷静な議論」をすべきだ 「既得権」などというには程遠い手当しか支給されていない 「加藤官房長官」の「委員の手当」の「説明」も特権的地位にあるとの印象を与えるためのようだ 収益事業を行っているわけではないし、民間事業者などが代替できるものでもないのであるから、「民営化」などに馴染むものではないどころか、その余地がない 民営化」や「廃止」の議論がおかしい理由 独立性と手続の適正性の問題で議論すべきところが、「学術会議は既得権益」だの「老人の集まり」だの「機能していない」だのといった、まあありがちな、端的に言って的外れな意見が噴出してしまっている 日本学術会議は内閣総理大臣の所轄ではあるものの、政府から独立して職務を行うこととされており、学術会議の設置根拠である日本学術会議法第2条にもその旨規定されている。加えて言えば、法において「所管」ではなく「所轄」とされていることからもその独立性は明らかである 内閣総理大臣に任命されることとされているが、その任命が学術会議から推薦されたものの事実上の追認 今回の任命拒否は「手続的におかしい」 日本学術会議を巡る騒動 関係法令に照らして適正だったか 「学術会議問題、菅内閣の任命拒否は「制度論」で見ればおかしい理由」 室伏謙一 ダイヤモンド・オンライン 自らのブログ発言について、日本学術会議側からの告訴の有無に関わらず、今度こそ、「十分な説明責任」を果たすべきである 甘利氏に重大な説明責任、菅首相の説明責任にも関係 甘利氏ブログ発言の法的責任をめぐる問題 「甘利氏」ともあろう大物が「学術会議」にケチをつけるつもりで、悪質なフェイクニュースを流したものだ 甘利氏による「中国『千人計画』」に関する日本学術会議批判 「任命の可否を判断すべき立場の人物に「適切に判断させた」」のは、自らの責任回避のつもりだったのかも知れないが、飛んでもない落とし穴にはまったようだ 「日本学術会議問題は、「菅首相の任命決裁」、「甘利氏ブログ発言」で、“重大局面”に」 郷原信郎 yahooニュース これまでの人事とは異次元の問題と見るべき 今回の任命拒否は非常に怖いものでもある。1930年代に起こった滝川事件や天皇機関説事件といった学問の弾圧を思い起こさせる。大学や学術の世界を国の意向に沿ったものにしようとしている 任命しないというのであれば、日本学術会議が推薦した以上の理由をもって、説明しないといけない 「推薦に基づいて、任命する」というのは、原則的に、「推薦通りに任命する」ということを意味します 手を出してはいけないところに手を出してしまいました 「「杉田官房副長官、和泉補佐官に政権批判した学者を外せと言われた」学術会議問題を前川喜平氏語る〈週刊朝日〉」 AERAdot (その1)(「杉田官房副長官 和泉補佐官に政権批判した学者を外せと言われた」学術会議問題を前川喜平氏語る、日本学術会議問題は 「菅首相の任命決裁」 「甘利氏ブログ発言」で “重大局面”に、学術会議問題 菅内閣の任命拒否は「制度論」で見ればおかしい理由) 学術会議問題
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パンデミック(経済社会的視点)(その8)(コロナ感染源の中国人を イタリア人が嫌っていない意外な理由、医療水準世界2位だったイタリアで「コロナ医療崩壊」が起きたワケ 「こうなることは、わかっていた」、「新型コロナ対応・民間臨時調査会」(コロナ民間臨調)が日本のコロナ対応検証報告書を発表) [国内政治]

パンデミック(経済社会的視点)については、9月15日に取上げた。今日は、(その8)(コロナ感染源の中国人を イタリア人が嫌っていない意外な理由、医療水準世界2位だったイタリアで「コロナ医療崩壊」が起きたワケ 「こうなることは、わかっていた」、「新型コロナ対応・民間臨時調査会」(コロナ民間臨調)が日本のコロナ対応検証報告書を発表)である。

先ずは、9月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した漫画家・文筆家のヤマザキマリ氏による「コロナ感染源の中国人を、イタリア人が嫌っていない意外な理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/248508
・『世界を駆けてきた、漫画家で文筆家のヤマザキマリ氏。1年の半分を東京で、残りの半分を夫の実家であるイタリアで過ごしているが、コロナ禍で約10カ月、東京の自宅に閉じこもることを余儀なくされているそう。そのときの経験を基に綴ったのが、新著『たちどまって考える』(中公新書ラクレ)である。ヤマザキマリ氏が暮らすイタリアでは、中国人が多い北部地域から感染拡大が広がり、医療崩壊まで引き起こす事態になるも、少なくとも周囲のイタリア人は、中国への反感を何ら抱いていないという。その意外な理由とは、何だろうか』、「周囲のイタリア人は、中国への反感を何ら抱いていない」、驚いた。その理由は何なのだろう。
・『人との距離が近いイタリアと 遠い日本の「異なる生活習慣」  イタリアやブラジル、そしてアメリカなど、新型コロナウイルスは世界中のあらゆる国の人々の間に容赦なく広がっていますが、その傾向を見ていると、日常における人との接触が濃厚なところほど感染が拡大しやすいのではないかということが、気になり出しました。 なぜ、感染が著しく拡大した国とそうでない国があるのか。たとえば、感染拡大が比較的抑えられ続けている日本と対比してみても、欧米では日本のように普段からマスクをする習慣がなく、「やれ抗菌だ、やれ除菌だ」といった衛生への神経質さもない、ということも要因の1つになっているのではないかと思うのです。そういったことを考え合わせてもなお、人と接触することの多い文化圏の人たちにとっては、つくづく相性の悪いウイルスだったと言えるでしょう。 たとえばイタリアの人たちは、恋人や夫婦に限らず、誰とでもくっつきたがる性質があるように思います。うちの義父母や義妹、隣人や友人も、私とは頻繁に抱擁を交わしますし、出会ったときと別れるときには必ず頬にキスもする。人間同士の接触に慣れていない人種には違和感を覚えるところでもあるのですが、彼らにとってはいちいち意識にとめていない、ごく当たり前の振る舞いなのです。 習慣化しているとしても、とにかくCovid-19は人間同士の接触や会話によってどんどん感染するウイルスなわけですから、人に近づかなければ感染はしないわけです。至極単純なことです。 日本ではまず夫婦間でも不必要にベタベタすることはないし、親子でも頻繁に抱き合ったり頬にキスをしたりしません。街角で知り合いにあって抱擁したりキスをしたりすることもなければ、握手ですらそんなに頻繁には交わしません。 満員電車の中でも皆じっと黙り続けていますから、おしゃべりによる飛沫が閉鎖空間の中で散らばることもない。もっとも、感染の要因に関しては、このパンデミックのすべてが終わって何年か経たなければわからないことかもしれないですし、人間同士の接触云々よりも、人種における生物学的な理由が大きく起因しているのかもわかりません。だとしても、人と人が常に触り合っている国民と、人に触られたがらない国民では、風邪やインフルエンザ同様、感染者数に差が出るのは当然ではないかと思うわけです』、その通りなのかも知れない。
・『人間らしいつながりを持つ国ほど新型コロナでダメージを受けている  3月から4月にかけて、イタリアでうなぎ上りに感染者数や感染死者数が増えていくのを見ながら、私は彼らの日常生活の習慣に強い懸念を感じました。ちょうどその頃、舅から友人のお葬式に行って何十人もの人たちと、知らず知らずのうちに挨拶代わりの抱擁を交わしたという話を聞き、「危ないじゃないですか!」と漏らすと、「あんな悲しい場で、抱き合って慰め合うなというのか」と反論されました。そのとき私は、イタリアにおける感染拡大とこの国民性との間の深い関わりを感じたのでした。 家族の結びつきの強さや人との距離の近さが感染率を上げているとなれば、新型コロナウイルスは、とても非情でタチの悪いウイルスということになります。この世知辛い世の中において、人間らしいつながりを重視する文化習慣を持つ国ほど、大きなダメージを被ってしまうわけですから。 脳科学者の中野信子さんとの対談のときに出た話題ですが、色々な国の事情を見ていても、多方面に興味が旺盛で、視野を広げたいと考える行動パターンを持つ人のほうが、感染症にかかる確率が高くなるそうです。まあ、もっともなことです。年間何十回も飛行機に乗って移動し、国内外の様々な文化圏を旅することを人生の燃料としてきた私など、いくらでも病気に感染する確率は高くなるでしょう。実際、ワクチンを摂取しないでいると、その年に流行るインフルエンザは全て、旅先か飛行機での移動中にかかっていました。 つまり、行動意欲が少なく人付き合いも悪い人には、今回のウイルスは関心を示さないということになります。現代社会のあり方の象徴のようなウイルスです』、「家族の結びつきの強さや人との距離の近さが感染率を上げているとなれば、新型コロナウイルスは、とても非情でタチの悪いウイルスということになります」、確かにその通りだ。
・『なぜイタリア北部で感染爆発が? 現地で暮らして見えた中国との蜜月  「頬へのキス」のような濃厚接触が挨拶になっているのは、もちろんイタリアだけではありません。フランスやスペインにしても、アメリカやブラジルにしても、家族間や友人など人間同士の濃厚接触が生活習慣の中にあります。なのに、なぜ中国に続いてイタリアが、しかも北部だけ、あれほど急激に感染爆発を起こしたのか。 その状況について、イタリアの報道でも適切な推察や説明をしてくれる人がなかなか現れず、非常にもどかしい思いをしていました。私はウイルス感染に関しては門外漢ですが、北イタリアに長く住み、飛行機で頻繁に行き来する立場にいる人間として、イタリアと中国との関係で見えていることがあったからです  イタリア北部で起きたパンデミックにつながるあれこれは、私がイタリア中部のフィレンツェに留学していた1980年代半ばにはすでに始まっていました。中国国内で鄧小平がリーダーシップを発揮していた時代です。当時、改革開放路線の政策が一気に進み、中国の市場は開放され、そこから海外との貿易が盛んになり始めていましたが、その中国の状況と反比例するように、イタリアの経済は脆弱化していきました。そしてその傾いたイタリアに、海外への進出を狙う中国企業が介入し始めたのです。 私は油絵と美術史の勉強を続ける傍ら、貧乏な彼氏との生活を回らせようと、商売を始めました。覚えているのは、そのときの取引先がどんどん中国の資本に変わっていったことです。フィレンツェ近郊のプラートは、織物産業や皮革産業で有名なルネサンス時代から続く古都なのですが、そのプラートに革製品を仕入れに行くたびに、地元の工場の経営者が中国人に代わっていました。今から約30年近く前のことです。 未婚のまま子どもができたことで、貧乏な彼氏とは別れて一旦日本に戻り、しばらくして今の夫と出会って結婚したわけですが、再びイタリアに戻ってきたときには、イタリア北部には以前にも増して、中国の影響力が広がっていました。 たとえば、夫の知り合いのイタリア人が経営する自動車部品工場やセラミック関連工場は、逆に中国に移転していました。それは、中国で製品をつくってイタリアに持ち込んだほうが、コストはずっと安くつくからです。しかも、彼ら曰く「中国製品はもう『安かろう、悪かろう』じゃないんだよ。逆にイタリアでつくると『高かろう、悪かろう』になってしまうんだ」とのこと。中国での生産請け負いの拡大は、もう歯止めが利かない状態になっていました。 北イタリアのロンバルディア州、ヴェネト州、エミリア・ロマーニャ州などの6州には、イタリア経済の半分を支えるとされる中小企業や工場が集中しています。その地域にある企業が、こうした流れの中で中国と密接な関わりと依存を強めていき、現在に至るまでイタリア経済における中国の存在感が薄まることはありません。 日本からヴェネト州のパドヴァにある我が家へ戻るとき、日本からの直行便がないので、大抵フランクフルトやパリ、ロンドンといったハブ空港で乗り換えて、最寄りの空港であるヴェネツィアに向かうのですが、いつの頃からか飛行機のビジネスクラスは、いつも観光客ではない中国人で占められるようになりました。 「なんでこんなに中国のビジネスマンが」と最初こそ驚きましたが、それだけ北イタリアと中国の都市はビジネスの関係が濃厚で、人の往来も頻繁になっていたのです。このように、イタリアと中国の浅からぬ関係性は、普段の当たり前の暮らしの中ですら実感することが多々あります。 たとえば、パドヴァの家で過ごしている間に舅から、「今度の水曜日、僕の友だちの事業主の家でパーティがあるから、マリも一緒に行こう」と誘われて行けば、ビジネス目的で滞在しているという中国人に会うことが珍しくありません』、「1980年代半ば」から「傾いたイタリアに、海外への進出を狙う中国企業が介入し始めた」、「いつの頃からか飛行機のビジネスクラスは、いつも観光客ではない中国人で占められるようになりました」、両国の関係はかなり長く深いようだ。「「中国製品はもう『安かろう、悪かろう』じゃないんだよ。逆にイタリアでつくると『高かろう、悪かろう』になってしまうんだ」、確かにその通りだろう。。
・『イタリア全土で中国人が増え 大半が北部に集中している  実際、パドヴァからそう離れてもいない観光都市であるヴェネツィアでは、カフェやレストランといった飲食店の多くが中国人たちに買収されています。オーナーが中国人だといっても、お店の見た目は従来のイタリア式ですから、街を観光客目線で歩いている分にはそんな内部の変化に気がつくことはありません。今現在イタリア全土には約30万人の中国人が暮らしていますが、その大半が北部に集中していると言われています。 ちなみに、8月のイタリアの報道では、ミラノの住民登録簿において、イタリア姓の数を中国姓の数が上回ったということが話題になっていました。これだけでも、ミラノやロンバルディア州全体にどれだけ中国人が多いのか、その現状がうかがえると思います』、「ミラノの住民登録簿において、イタリア姓の数を中国姓の数が上回った」、驚くべき中国人の進出ぶりだ。
・『現代のパンデミックと経済の密接な関係  さらに遡れば14歳のとき、初めてのヨーロッパ旅行で偶然出会ったマルコじいさん(今の夫であるベッピーノの祖父)の友人で、イタリア在住のイギリス人社会学者が、「そのうち、中国が世界を席巻するほどの経済力をもつ日がくるから、ビジネスを目論むやつは中国語を今から学んでおいたほうがいい」と周りに話していました。イタリアに来て間もない10代の私には、何でそのイギリス人がイタリアに暮らしながらもやたらと中国を推すのか、さっぱりわかりませんでしたが、彼にはこうなることがわかっていたわけです。 資金繰りに困った工場が中国人に買収され、北イタリアに“中国の街”ができ始めた頃、確かにイタリア人にも中国への怨嗟のような感情があったのを覚えています。義父の友人で企業を運営しているような人はたいてい「憎たらしいチネーゼめ、奴らに支配されてたまるか」とあからさまに不満と怒りを吐露していました。 しかし、今回のパンデミックに際して驚いたのは、イタリア国内で「中国に出張に行ったイタリア人が帰国後、会食した相手に最初に感染させた」ことが確認されても、中国に対するネガティブな感情がメディアには見られなかったことです。ましてアメリカと中国のように、戦争を仕掛けそうな勢いでの政府同士の中傷合戦もありません。 悪感情がないどころか、医療崩壊が起きた後、キューバと並んで中国からも医療団が送られてきたことに、「いやあ、中国からあの人たちが来てくれて本当に助かっているよ」とうちの義父も電話越しに感謝を示していました。「あの人たちは武漢で経験を積んできているから、頼もしいんだ」と、その声はむしろ期待に満ちていました。 日本でこの話をすると「危ない。イタリアは中国に飲み込まれつつあるのでは」と警鐘を鳴らす人もいます。テレビの報道番組に出てこの件について触れると、皆イタリアの冷静さに驚いていました。 でも実際、今のイタリアは中国に頼らなければ経済が成り立たないし、もう他に手段がない。そう考えると、今という時代に発生するパンデミックには、経済というものが今までにないレベルで密接に関わっているということを、痛感させられます。 ※本稿は、ヤマザキマリ『たちどまって考える』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです (本の紹介はリンク先参照)』、「今のイタリアは中国に頼らなければ経済が成り立たないし、もう他に手段がない」、「イタリア」が「中国」の一帯一路を欧州主要国の中で唯一受け入れたのも頷ける。

次に、同じ漫画家・文筆家のヤマザキ マリ氏が9月29日付けPRESIDENT Onlineに掲載した「医療水準世界2位だったイタリアで「コロナ医療崩壊」が起きたワケ 「こうなることは、わかっていた」」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/38834
・『新型コロナウイルス感染拡大により、イタリアでは医療崩壊が起き、ロックダウンを余儀なくされた。こうした事態に至っても、イタリア人の多くは落ち着いていた。それはなぜなのか。1年の半分をイタリアで過ごしている文筆家のヤマザキマリ氏が解説する――。 ※本稿は、ヤマザキマリ『たちどまって考える』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです』、「イタリアでは医療崩壊」、興味深そうだ。
・『かつてイタリアの医療は「世界第2位」の高水準だった  今回のパンデミックによって、イタリアは医療崩壊を起こしました。高齢化社会であることや感染者の増加を遅らせる対策を優先しなかったことなど、その理由については様々な角度からの分析がされていますが、イタリア人にとっては予測できたことでもあったようです。 かつてイタリアの医療は、そのものの質や国民の健康度、システムの平等性といった指標から世界第2位(2000年、WHO調べ)と評価されるほどの高い水準を誇っていました。 ところが失政や世界的な金融危機などを受けて政府は深刻な財政難に陥り、医療費の削減を積極的に行いました。病院の統廃合などを通じて病床数を減らし、早期退職を募っては医療従事者の数も減らした。そこであぶれたイタリアの医師たちは、海外の病院などへ流出していきました。 イタリアはコロナ対策として、引退していた医者や医療関係者2万人の再雇用や、ある程度履修した医大生や看護学校生たちの早期卒業による就業、といった対応をとったと報道されています。しかし医療スタッフ不足は、そもそも政治が招いた結果だったわけです』、「イタリアの医療は」「2000年」には「世界第2位」と評価されたとは初めて知った。「政府は深刻な財政難に陥り、医療費の削減を積極的に行いました・・・医療スタッフ不足は、そもそも政治が招いた結果だったわけです」、「医療費の削減」は日本も含めた先進国に共通した政策だが、完全に裏目に出たようだ。
・『医療崩壊を予想していたイタリア人  ただし、フィレンツェ留学時代から、事故による怪我などで3回イタリアの病院に入院した私の経験からすれば、当時から医療の現場には余裕がなかったように思います。 3回のうち2回は病床が満員という理由で、病院の廊下に設らえたベッドで寝て、点滴や診察もその状態で受けました。 27歳で出産したときは、産んで早々「病室が足りないので、できれば早く退院してくれ」と急き立てられたことが忘れられません。医療水準は高かったにもかかわらず、すでに医療費削減が行われていて、医療事業がうまく回っていなかったのです。 そんな経験もあって、今回、初期段階にイタリアがPCR検査を大々的に始めたときから、医療崩壊が起きるであろうことは、私も予測していました。そしてイタリア人同士でも、医療崩壊に対して「大変だ!」と騒ごうものなら、「今更何を言っているんだ。こんなことになるのはわかっていたことだろう」と言い返されるほど、既知の問題でした』、「医療崩壊を予想していたイタリア人」、政府を悪者にせず、自分たちの責任と割り切るとはさすがだ。
・『赤の他人と議論するイタリア人、友達に限定する日本人  夫とも医療崩壊について話したのですが、「医療費削減を政府が推し進めたとき、俺は『イタリアは本当にバカだ』と思った。でも、考えておくべきだった。医療については『イタリアのあれが悪い、これが悪い』だけで改善することではなかったんだ」と言っていました。そして自分たちの非を一旦責め、認めることで解決の糸口を見た、というようなことを話していました。 こうした自問自答の末に反省し、前へ進める答えへ向かうという思考パターンは、イタリア人たちとの会話でよく感じていることです。 もちろん、日本人にも同じような思考パターンをもつ人は大勢います。しかしイタリア人ほど、会話といったコミュニケーションのなかでそうした思考の流れをたどり、それを生かす機会は多くないのではないでしょうか。問いを気の置けない友だちに限定しがちなのが日本人なら、赤の他人とでも議論を交わしたいイタリア人。そんな感覚が私にはあります』、「赤の他人とでも議論を交わし」「自問自答の末に反省し、前へ進める答えへ向かうという思考パターンは、イタリア人たちとの会話でよく感じていることです」、狭いSNSサークルの中だけに閉じこもりがちな「日本人」も、考え直すべきだろう。
・『「昨日と同じ明日」が来るとは思っていない  パンデミックをきっかけにあらたに気づかされたことは多々ありますが、イタリア人たちにとって厳格なロックダウンの経験は、さほど動揺させられるようなものではなかったように見えています。コロナ以前の10年ほどの間だけでも、イタリアを含むヨーロッパはシリアやアフリカの国々から押し寄せた難民の受け入れやEU離脱問題など、絶えず大きな課題と向き合ってきた地域ですから。 イタリアの人たちも、昨日と同じ明日が平穏にやってくることを当然と考えている人は少ないんじゃないかと思います。 新型コロナウイルス対策のロックダウンによって、イタリアでは2カ月近くにおよぶ自宅隔離が強いられました。外出できるのは食料の買い出しなど最低限のみ。しかも最初の頃は外出理由を記した許可申請書を持ち歩かなければなりませんでした。夫はその間、窓ガラスを割られていた車を見かけたと言っていましたが、少なくとも彼が暮らすヴェネト州では、外出禁止を起因とした大きな犯罪や暴動はなく、人々は厳しい行動制限を守っていました』、「イタリア人」が「2カ月近くにおよぶ自宅隔離」に耐えたのは改めて驚かされる。
・『一般人による「家庭内演技動画」が流行  それでもロックダウン中、メンタル面の問題はあったようです。毎日あらゆる人々とコミュニケーションをとるのが大好きな国民ですから、直に話せるのは身近な家族だけ、という限定的な人間関係に耐えられず、鬱症状や精神的なパニックを起こした人が増えたらしい。一方で動画サイトやSNSなどでは、彼らが自宅隔離をどんなふうに過ごしているか垣間見られるものも、多数投稿されていました。 たとえば「もう我慢できない! カフェを飲みにバールに行く!」とジャケットを着込んで出ていく熟年男性の動画。玄関を出て本当にバールに向かったのかと思えば、そのままキッチンの窓の外に立ち、そこから「マスター、エスプレッソを1杯」と注文を投げた相手は自分の妻。 妻もそれを受けて「いらっしゃい。はい、どうぞ」と出窓の床板をバールのカウンターに見立て、バリスタになり切って淹れたてのコーヒーを出していました。「1ユーロだったかな?」「ええ。また来てね」と、男性がカ ップをぐいっと飲み干したあとも会話のやりとりが続きます。そして、背景には動画を撮っている娘さんらしき笑い声が……。 一時期、こうした一般の人による家庭内演技動画がたくさんアップされていました(笑)。家族揃って、大の大人が小芝居を楽しんでいて、視聴者をも楽しませている。受け入れ難い日常の異変のなかでも、こんなふうに乗り切ることができるなんて、彼らのエネルギッシュな想像力と行動力には憧れすら覚えます』、「家庭内演技動画」で、「乗り切ることができるなんて、彼らのエネルギッシュな想像力と行動力には憧れすら覚えます」、その通りだろう。
・『コロナ禍の人々に響いた「誰も寝てはならぬ」  思わず心を動かされ、涙がにじんだ映像もありました。フィレンツェ5月音楽祭劇場が配信していた少年少女の合唱です。プッチーニのオペラ『トゥーランドット』のアリア「誰も寝てはならぬ」を、ビデオ通話を利用してリモートで合唱していたのです。 イタリア人なら誰でも知っているだろうこの曲は、最後に「夜明けとともに、私は勝つ!」という歌詞で盛り上がるのですが、清らかな声の癒やしとともに、コロナ禍にいる人々に響いたと思います。ほかの団体の企画にも、イタリアをはじめとするヨーロッパの子どもたち700人がこの曲をリモートで合唱している動画がありました』、「少年少女」が「「誰も寝てはならぬ」を、ビデオ通話を利用してリモートで合唱」、「清らかな声の癒やしとともに、コロナ禍にいる人々に響いた」のは確かだろう。
・『音楽はストンと人の内側に入ってくる  自宅隔離中、音楽の力を感じさせる映像がSNSにはたくさん投稿されていましたよね。音楽は言語とは違って、脳を疲れさせることなく、ストンと人の内側に入ることができます。私もクラシックからブラジル音楽、日本のポップスまであらゆるジャンルの音楽を聴きますが、とにかく何かにむしゃくしゃしているようなときは音楽を聴くと、気持ちがすっと切り替わります。 イタリアのお国柄を形容するときに「マンジャーレ(食べる)、カンターレ(歌う)、アモーレ(愛する)」というフレーズが付いて回りますが、彼らはこれを微妙な気持ちで受け止めています。日本人が「スシ、ゲイシャ、サムライ」と形容されるのと同じ気持ちになると言えば、わかってもらえるでしょうか。イタリア人だからといって国民全員がオペラやサッカーのファンというわけでもないように、短絡的なステレオタイプでまとめられたくはないはずです。それでも、子どもたちによる「誰も寝てはならぬ」の合唱をこの時期に聴いて、グッと心にくるものを共有できる素地は、多くのイタリア人がもっているのだと思います。 個人主義で群れるのを嫌い、時には親族や家族ですら信用せず、社会のあり方に対して常に懐疑的なイタリア人たちですが、“表現”による感動や高揚感を分かち合うことで他者との繋がりを確かめる。ああいった彼らの動画を見ていると、心細い状況の中における“表現”の重要性と、人々が一体化することの本質的な意味を考えさせられました』、「“表現”による感動や高揚感を分かち合うことで他者との繋がりを確かめる」、うらやましくなるような国民性だ。

第三に、10月8日付けでAsia Pacific Initiative(本文で説明)が発表した「「新型コロナ対応・民間臨時調査会」(コロナ民間臨調)が日本のコロナ対応検証報告書を発表、10月後半から一般発売」を紹介しよう。
https://apinitiative.org/2020/10/08/12257/
・『一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(所在地:東京都港区、理事長:船橋洋一、以下API)は、日本の新型コロナウイルス感染症に対する対応を検証する「新型コロナ対応・民間臨時調査会」(小林喜光委員長=コロナ民間臨調)を発足させ、日本政府の取り組みを中心に検証してきました。その成果である報告書『新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書』を・・・から電子書籍を10月18日に、紙書籍を10月23日に刊行いたします・・・「日本モデル」とは、そしてベストプラクティスと課題は何か  日本はどのような危機や困難に直面していたのか。政府の当事者や専門家は、この難局をどう乗り越え、成果を上げたのか。ベストプラクティスは何か。あるいは、対応がうまくいかず、課題を残したところはどこか。教訓は何か。それらを検証した調査・検証報告書です』、原発問題では臨調が3つ出来たが、今回、早くも「調査・検証報告書」を出したとは手際の良さに驚かされた。
・『政府の責任者など83名を対象に延べ101回のヒアリングとインタビューをもとに執筆  コロナ民間臨調は、高い専門知識と見識を有する各界の指導的立場にある識者4名で構成する委員会のもと、個別の分野の専門家19名によって構成されるワーキング・グループを設置。委員会の指導の下、ワーキング・グループメンバーが安倍晋三首相(当時)、菅義偉官房長官(当時)、加藤勝信厚生労働相(当時)、西村康稔新型コロナウイルス感染症対策担当相、萩生田光一文部科学相はじめ政府の責任者など83名を対象に延べ101回のヒアリングとインタビューを実施、原稿を執筆、報告書を作成しました。行政官と専門家会議関係者等へのヒアリングとインタビューは、すべてお名前を出さないバックグランド・ブリーフィングの形で行いました。なお、今後、報告書の英語版も作成し、世界に発信していく予定です』、「今後、報告書の英語版も作成し、世界に発信していく予定」、大いに発信してほしい。
・『報告書のポイント(一部抜粋)  「日本モデル」とは何か  本報告書では「日本モデル」を「法的な強制力を伴う行動制限措置を採らず、クラスター対策による個別症例追跡と罰則を伴わない自粛要請と休業要請を中心とした行動変容策の組み合わせにより、感染拡大の抑止と経済ダメージ限定の両立を目指した日本政府のアプローチ」と定義した。第1部第1章において、日本政府が実施した対応と措置が、どのような疫学的な視点と所見をもって行われたのか、それがどのような結果をもたらしたのか。そして、次のパンデミックの波に備える観点から、その結果の中で効果のあったケースと今後に課題を残したケースの疫学的ファクターを分析し、評価した』、意欲的な取組だ。
・『「想定外」だった大規模パンデミック、「備え」の欠如  今回のパンデミックの威力は政府の想定外であり、「最悪のシナリオ」を含め、あらゆるパターンの想定を怠っていた。2012年に制定された新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)は、短期の自粛要請しか想定しておらず、自粛が長期にわたった場合の経済的補償の要否の検討をそもそも欠いていた。実働部隊となる感染研や保健所は年々予算と人員を減らされていた。PCR検査の検査能力は当初一日300人程度にとどまった。厚労省幹部は「喉元を過ぎると熱さを忘れてしまった」と反省の弁を述べた』、「反省」を今後に生かしてほしいものだ。
・『試行錯誤の連続だった官邸の司令塔機能構築(1月下旬~)  1月23日、武漢ロックダウンを受けて1月26日から総理連絡会議を開始。最初の議題は武漢からの邦人帰国。各省からの情報が総理連絡会議に伝えられ、省庁横断的に情報共有される仕組みとなった。官邸はさらに3月中旬から、各省庁の縦割り行政の隙間を埋め、官民と自治体を連携させるタスクフォースを起動させた。「総力戦でやらざるをえなかった」と菅官房長官が振り返るように、前例やマニュアルがない中、官邸の司令塔機能の構築は試行錯誤の連続であった』、東京都など「自治体」との「連携」は実際にはギスギスしたようだ。
・『ダイヤモンド・プリンセス号、批判と誤解を招いた危機コミュニケーションの失敗(2月上旬)  2月4日、ダイヤモンド・プリンセス号(DP号)が横浜入港後に実施したPCR検査で31名中10名の陽性が確認されると、政府に衝撃が走った。同24日深夜、菅官房長官を中心に関係大臣、危機管理監、関係省庁幹部が集まり、それ以降、連日夜、都内のホテルで対応を協議した。個室管理等の徹底により船内の乗客の感染拡大は実際にはある程度抑止できていたにもかかわらず、逐次的な感染者数の公表等により世間に誤解を与えた。下船する乗客へのPCR検査実施の範囲については、官邸と厚労省の間で当初大きな考え方の隔たりがあった』、「逐次的な感染者数の公表等により世間に誤解を与えた」、とは、あれだけ批判を受けた割には、政府に遠慮し過ぎた表現だ。
・『突然の一斉休校指示(2月26、27日)  2月24日の専門家による「瀬戸際」発言が「ターニングポイント」(官邸スタッフ)となり、総理室は急遽方針を転換して大規模イベントの自粛と全国一律の一斉休校要請を決断した。突然の指示に萩生田文科相は「もう決めたんですか」と不満を述べるとともに「本当にやるんですか、どこまでやるんですか」と疑問を呈したが、最後は安倍首相が「国の責任で全て対応する」と引き取った。安倍首相は、この一斉休校を難しい判断であったと振り返り、当時は学校でのパニック防止と、子どもから高齢者への感染拡大を懸念していたと述べた』、明らかに「安倍首相」の独断専行で、「国の責任で全て対応する」ことなど不可能なのに、これも遠慮し過ぎた表現だ。
・『欧州からの流入阻止の遅れ(3月)  感染研の調べによれば、3月中旬以降、欧州等で感染した人々の流入が、国内での感染拡大の一因となった。専門家会議は3月17日に「要望書」という形で政府に水際対策の強化を求めた。実は当時、官邸の一部も欧州からの流入を懸念していたが、一斉休校要請に対する世論の反発と批判の大きさから消耗していたこともあり十分な指導力を発揮することができなかった。ある官邸スタッフは、「今振り返るとあのとき欧州旅行中止措置をとっておくべきだったと思う。あれが一番、悔やまれるところだ」と忸怩たる思いを吐露した』、「十分な指導力を発揮することができなかった」理由は、言い訳に過ぎない。中国からの流入阻止も習近平国賓訪問を控えて遅れたとの批判が抜けている。
・『都知事「ロックダウン」発言で遅れた緊急事態宣言(3月下旬)  3月23日に小池都知事が「ロックダウン」に言及し、東京都で食料品の買い占め等が生じた様子を目の当たりにした官邸は、緊急事態宣言発出により国民が一層のパニックに陥るのではないかと懸念した。こうした誤解を払拭するまで緊急事態宣言は発出すべきでないとの慎重論が政府内に広がった。西村コロナ対策担当相は都知事の発言が「一つの大きなターニングポイントになった」と述懐し、ロックダウン発言によって「結果としては緊急事態宣言が遅れた部分があったと思います」と振り返った。さらに、官邸の戦いには、感染症拡大と経済社会の維持のほか、都道府県知事との権限調整をめぐる戦いもあった。東京都の休業要請など、より強い、積極的な措置を志向する地方自治体のリーダー間の競争を背景に、中央政府を中心とした調整は難航した』、「緊急事態宣言が「遅れた」一因が、「都知事「ロックダウン」発言」だったとは、「都知事」も無責任な「発言」をしたものだ。
・『安倍首相「一番難しかったのは緊急事態宣言」(4月7日)  安倍首相は、一番難しかった決断は緊急事態宣言を出すことだったと述べた。強制力を持たない宣言の脆さについて、8割削減が達成できるか「心配だった」と不安の中での宣言だったと語った。その上で、「あの法律の下では国民みんなが協力してくれないことには空振りに終わってしまう。空振りに終わらせないためにも国民の皆さんの気持ちと合わせていかなければならない。そのあたりが難しかった」と振り返った。宣言に対しては菅官房長官はじめ政府内では経済への配慮から慎重論が強かった。菅長官は経済、中でも経済弱者への負担が巨大になることを懸念していた』、「菅官房長官」が「慎重」だったとは初めて知った。
・『命と生計を両立させるため「維持と継続」の経済対策  感染防止と経済活動の二律背反(トレードオフ)関係は、政府に難しいジレンマを突き付けた。この克服のため、政府はソフトロックダウンによる行動変容政策に加え、「雇用の維持と事業の継続」(緊急経済対策の柱の一つ)を目的とした大規模な経済・財政・金融政策を実行した。企業側に史上最高水準となる豊富な内部留保が存在したことや、もともと慢性的な人手不足状態であったなどの外部要因も重なり、少なくとも7月までの対応においては企業の倒産件数と失業率の急上昇は回避することができ、まずまず健闘したといえる。しかし、財務省幹部は「単に今ある事業は全部継続させるべきだという発想は、経済の発展にとって望ましくない」と述べ、このような形での「雇用の維持と事業の継続」の経済対策の再現性に疑問符をつけている』、「財務省幹部」の「疑問符」は正論だが、緊急事態ではないものねだりに近い。
・『官邸と専門家会議の「交渉」:接触機会「最低7割、極力8割」削減、緊急事態宣言の解除基準(4~5月)  危機下の感染拡大防止と経済・生活の維持の「両立」の最適解を求めて、官邸と専門家会議は時に衝突し、双方の「交渉」(専門家の一人の表現)を余儀なくされた。その一例が「最低7割、極力8割」の接触機会削減の方針だった。尾身諮問委員会会長は、「数理的な前提をおいて計算するとそうなるという予想を政府に申し上げたら、理解したけれども、8割だけ言うというのは採用できないと、非常にはっきり言われました」と振り返った。最後は、安倍首相と尾身諮問委員会会長とのトップ同士で話し合い、7割も8割も両方とも残す表現にすることで「交渉」は妥結した。 両者はまた、緊急事態宣言解除の基準をめぐっても衝突した。官邸スタッフによれば、専門家会議の「直近2週間の10万人あたりの累積新規感染者数が0.5人未満程度」の数値基準案に対して安倍首相は「東京都で解除できなくなる」、菅官房長官は「一桁違うのではないか」と難色を示した。最後は「直近2週間」を「直近1週間」とした上で、「0.5人未満程度」を満たさない場合であっても、感染経路の不明割合等を加味して判断することで合意した』、「官邸と専門家会議は時に衝突」、は当然だが、最終的には政府が決めるべきで、両者の合意を取り繕うのは、政府の責任逃れだ。
・『マスク需給逼迫の中、値崩れ効果を狙った「アベノマスク」について官邸スタッフは「総理室の一部が突っ走った。あれは失敗」と認めた。(4月~)  4月1日に安倍首相が発表した1世帯当たり2枚の布マスク全戸配布、いわゆる「アベノマスク」は、厚労省や経産省との十分な事前調整なしに首相周辺主導で決定された政策であった。背景にあったのは、使い捨てマスクの需給の逼迫。値崩れ効果を狙ったが、緊急経済対策や給付金に先立ち、政府の国民への最初の支援が布マスク2枚といった印象を国民に与え、政策コミュニケーションとしては問題の多い施策だった。配布の遅れもあり、官邸スタッフは「総理室の一部が突っ走った、あれは失敗だった」と振り返った』、その通りだ。
・『PCR検査の「目詰まり」と戦略の曖昧さは「日本モデル」のアキレス腱  パンデミックへの備えを怠ったため、政府はPCR等検査を広範に実施することができなかった。そのことに対する国民の不安と不満、そして不信が募った。厚労省のこうした姿勢は世論の強い批判と世界の対日不信を懸念する官邸との間に緊張をもたらした。安倍首相は5月4日、その状態を「目詰まり」であると発言し、厚労省に圧力をかけた。それに対して、厚労省は「不安解消のために、希望者に広く検査を受けられるようにすべきとの主張について」と題された内部限りの資料を用いて、「広範な検査の実施には問題がある」との説明をひそかに官邸中枢と一部の有力国会議員に行った。厚労省の資料は広範なPCR等検査の導入を求める主張への反論に過ぎず、検査体制戦略を明確にしたものではない。結局、7月16日、分科会が「検査体制の基本的な考え・戦略」をまとめ、ここで初めて戦略が固まった。PCR等検査が開始されてから、すでに半年が経過していた。日本政府部内でのPCR等検査をめぐるくい違いとそれに対する曖昧な説明と姿勢は「日本モデル」のアキレス腱となった。 当時、厚労省が説明に用いた内部資料を、報告書巻末に収録した』、「厚労省は・・・「広範な検査の実施には問題がある」との説明をひそかに官邸中枢と一部の有力国会議員に行った」、とは初耳だが、ありそうなことだ。
・『欧米型の医療崩壊はなぜ起こらなかったのか  日本は、東京都など特に感染者が多かった地域で医療崩壊寸前の厳しいところまで行ったが、何とか乗り越えることができた。2009年の新型インフルエンザパンデミックの経験から疑似症患者が直接医療機関に押しかけないようにしたことや、DP号の経験から生み出された「神奈川モデル」にならった患者・医療資源の適正配置、日本の優れた集中治療が最後の防波堤となり死亡者を減らした。日本のECMOの治療成績は、世界各国と比べて非常に優れていた。また、高齢者施設の常態的な感染症対策も死亡者数減少に寄与した。日常的に訓練ができていた医療機関・介護施設は速やかに対応ができた。一方で、医療現場は個人防護具(PPE)や消毒液が不足していたため相当の混乱と負担があった。人材、資材、資金のすべてが充足しないと医療、介護は容易に崩壊する。新興感染症対策に備えての高度な医療人材育成は喫緊の課題である』、医療機関での院内感染多発が「医療崩壊」につながりかねなかった点にも触れるべきだ。
・『なぜ専門家会議は「前のめり」になったのか  専門家たちは「3密」の発見などを通じて感染拡大抑止の対策立案の際のリスク分析・評価などの科学的助言の面で大きな役割を果たした。しかし、対策・政策の発信までも専門家が担う状態が生まれた。ある意味、彼らは「官邸に利用された」(厚労省関係者)のだが、彼らの役割と影響力が高まると、今度は「ありがた迷惑」(官邸スタッフ)な存在とみられるようにもなった。6月24日、専門家会議の「廃止」(西村コロナ担当相)発表と同じタイミングで、自分達の反省と政府への苦言を「前のめり」という表現に込めて発表した「次なる波に備えた専門家助言組織のあり方について」(いわゆる「卒業論文」)の発表の内実を、尾身氏は明らかにした。政府は専門家会議との協同を効果的に行ったが、専門家会議とのより丁寧な対話を行い、また専門家会議の役割を国民にもっと明確に周知、理解させるべきだった』、「政府は専門家会議との協同を効果的に行った」、余りに忖度した表現だ。むしろ、役割を明確に分けるべきところを、曖昧にして政府の責任逃れ使ったため、「官邸に利用された」との批判になる一方、「彼らの役割と影響力が高まると、今度は「ありがた迷惑」、というのは全て役割分担の不明瞭さから生じている筈だ。
・『加藤厚労相「デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れが最大の課題」  国民一人当たり10万円の特別定額給付金の支給において、日本ではマイナンバーと振込先の金融機関口座が紐づけられておらず、政策執行に時間を要した。感染症対策の出発点となる患者発生動向等の把握(サーベイランス)の脆弱性も政府対応の足を引っ張った。患者発生届の手書き、FAX、システムへの手入力などアナログな仕組みは、全国的な感染拡大状況のリアルタイムでの把握を困難にし、保健所職員を疲弊させた。厚労省は慌てて患者情報把握のためのHER-SYSと医療機関の人員・物資の備蓄状況を網羅するG-MISの開発に取りかかり、情報共有の効率化・迅速化を図ったが、その本格的な導入・展開は5月以降までずれこんだ。新型コロナウイルス危機は、日本の「デジタル敗戦」でもあった。加藤厚労相は「デジタルトランスフォーメーションの遅れが最大の課題だった」と「敗戦」の弁を語った』、「HER-SYS」も使い勝手の悪さへの批判があることを無視したようだ。
・『国境再開は、「検査能力の関数」  パンデミックが世界に拡がるとともに、各国は国境を閉鎖した。人の移動、モビリティの権利を強力に制限し、国境を次々と閉鎖することは、これまでの国境管理の考え方からすれば「禁じ手」であった。欧米にならって日本も入管法などの法制度を援用して「鎖国」に踏み切ったが、その後、茂木外相のイニシアティブもあり日本は国際的な人の往来再開を進めてきた。しかし、ここでも「国境をどこまで開けられるかは、検査能力の関数」(内閣官房幹部)であり、検疫のオペレーション強化がカギとなった』、「検査」の効率化にも言及すべきだ。
・『コロナ対応は「泥縄だったけど、結果オーライ」  8月28日、安倍首相はコロナ対応を振り返り、「今までの知見がない中において、その時々の知見を生かしながら、我々としては最善を尽くしてきたつもり」と述べた。官邸スタッフはその実態を次のように表現した。「泥縄だったけど、結果オーライだった。」』、異論はない。
それにしても、この報告書を一般紙で取上げたのは、毎日、朝日、中日程度だったのは不可解だ。全体に政府の立場も十分に忖度した当たり障りのないものなのに、取上げないのは何故なのだろう。
タグ:PRESIDENT ONLINE Asia Pacific Initiative 「イタリア人」が「2カ月近くにおよぶ自宅隔離」に耐えたのは驚きだ 家族の結びつきの強さや人との距離の近さが感染率を上げているとなれば、新型コロナウイルスは、とても非情でタチの悪いウイルスということになります “表現”による感動や高揚感を分かち合うことで他者との繋がりを確かめる 人との距離が近いイタリアと 遠い日本の「異なる生活習慣」 ヤマザキマリ 周囲のイタリア人は、中国への反感を何ら抱いていない 「コロナ感染源の中国人を、イタリア人が嫌っていない意外な理由」 突然の一斉休校指示(2月26、27日) 政府の責任者など83名を対象に延べ101回のヒアリングとインタビューをもとに執筆 かつてイタリアの医療は「世界第2位」の高水準だった 『新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書』 経済社会的視点 ダイヤモンド・プリンセス号、批判と誤解を招いた危機コミュニケーションの失敗(2月上旬) 清らかな声の癒やしとともに、コロナ禍にいる人々に響いた 狭いSNSサークルの中だけに閉じこもりがちな「日本人」も、考え直すべきだろう ダイヤモンド・オンライン なぜイタリア北部で感染爆発が? 現地で暮らして見えた中国との蜜月 (その8)(コロナ感染源の中国人を イタリア人が嫌っていない意外な理由、医療水準世界2位だったイタリアで「コロナ医療崩壊」が起きたワケ 「こうなることは、わかっていた」、「新型コロナ対応・民間臨時調査会」(コロナ民間臨調)が日本のコロナ対応検証報告書を発表) 人と人が常に触り合っている国民と、人に触られたがらない国民では、風邪やインフルエンザ同様、感染者数に差が出るのは当然ではないかと思うわけです 今のイタリアは中国に頼らなければ経済が成り立たないし、もう他に手段がない 「少年少女」が「「誰も寝てはならぬ」を、ビデオ通話を利用してリモートで合唱」 政府は深刻な財政難に陥り、医療費の削減を積極的に行いました・・・医療スタッフ不足は、そもそも政治が招いた結果だったわけです いつの頃からか飛行機のビジネスクラスは、いつも観光客ではない中国人で占められるようになりました 『たちどまって考える』(中公新書ラクレ) 「昨日と同じ明日」が来るとは思っていない 「医療水準世界2位だったイタリアで「コロナ医療崩壊」が起きたワケ 「こうなることは、わかっていた」」 パンデミック 医療崩壊を予想していたイタリア人 音楽はストンと人の内側に入ってくる 「中国製品はもう『安かろう、悪かろう』じゃないんだよ。逆にイタリアでつくると『高かろう、悪かろう』になってしまうんだ コロナ禍の人々に響いた「誰も寝てはならぬ」 「想定外」だった大規模パンデミック、「備え」の欠如 試行錯誤の連続だった官邸の司令塔機能構築(1月下旬~) 「「新型コロナ対応・民間臨時調査会」(コロナ民間臨調)が日本のコロナ対応検証報告書を発表、10月後半から一般発売」 イタリア全土で中国人が増え 大半が北部に集中している その傾いたイタリアに、海外への進出を狙う中国企業が介入し始めた ミラノの住民登録簿において、イタリア姓の数を中国姓の数が上回った 一般人による「家庭内演技動画」が流行 現代のパンデミックと経済の密接な関係 新型コロナ対応・民間臨時調査会 ヤマザキ マリ 人間らしいつながりを持つ国ほど新型コロナでダメージを受けている 「日本モデル」とは何か 報告書のポイント(一部抜粋) 「イタリア」が「中国」の一帯一路を欧州主要国の中で唯一受け入れたのも頷ける コロナ対応は「泥縄だったけど、結果オーライ」 国境再開は、「検査能力の関数」 自問自答の末に反省し、前へ進める答えへ向かうという思考パターンは、イタリア人たちとの会話でよく感じていることです 加藤厚労相「デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れが最大の課題」 なぜ専門家会議は「前のめり」になったのか 欧米型の医療崩壊はなぜ起こらなかったのか PCR検査の「目詰まり」と戦略の曖昧さは「日本モデル」のアキレス腱 マスク需給逼迫の中、値崩れ効果を狙った「アベノマスク」について官邸スタッフは「総理室の一部が突っ走った。あれは失敗」と認めた。(4月~) 官邸と専門家会議の「交渉」:接触機会「最低7割、極力8割」削減、緊急事態宣言の解除基準(4~5月) 命と生計を両立させるため「維持と継続」の経済対策 安倍首相「一番難しかったのは緊急事態宣言」(4月7日) 都知事「ロックダウン」発言で遅れた緊急事態宣言(3月下旬) 中国からの流入阻止も習近平国賓訪問を控えて遅れたとの批判が抜けている 欧州からの流入阻止の遅れ(3月) 赤の他人と議論するイタリア人、友達に限定する日本人
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トランプ大統領(その48)(「中国にとって好ましいのはトランプ氏勝利」笹川平和財団・渡部氏、強行退院したトランプが直面する「ウィズ・コロナ選挙戦」の難題、強引な退院でもトランプ大統領が不利なワケ 大統領再選阻止 バイデン有利に働く3つの要因) [世界情勢]

トランプ大統領については、7月23日に取上げた。今日は、(その48)(「中国にとって好ましいのはトランプ氏勝利」笹川平和財団・渡部氏、強行退院したトランプが直面する「ウィズ・コロナ選挙戦」の難題、強引な退院でもトランプ大統領が不利なワケ 大統領再選阻止 バイデン有利に働く3つの要因)である。

先ずは、10月5日付け日経ビジネスオンライン「「中国にとって好ましいのはトランプ氏勝利」笹川平和財団・渡部氏」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00198/100200001/?P=1
・『4年前、日経ビジネスは「もしトランプが大統領になったら…(通称もしトラ)」という連載特集を企画した。前回の米大統領選では当初、ドナルド・トランプ氏は民主党のヒラリー・クリントン氏に対し劣勢だった。トランプ氏がそこから巻き返し、仮に勝利したら何が起こるかを、各界の著名人や識者に予想してもらった。その後の結果は言うまでもない。「もし」をはるかに越えて、世界は変わっていった。 トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染するなど状況が混沌とする中、11月3日に迫った米大統領選で米国民はトランプ大統領とバイデン前副大統領のどちらを選択するのか。そして、その行方が世界、日本の未来にどう影響を与えるのか。今回も予想されるシナリオを聞いていく。 初回は、米ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)に上席研究員として在籍したこともあり、日米やアジアの安全保障・外交に詳しい渡部恒雄・笹川平和財団上席研究員に「もしトランプが再選したら」を聞いた(Qは聞き手の質問)。  今後の主な登場予定 ・パトリック・ハーラン氏(タレント、パックン)「イラク戦争を始めたあのブッシュですら恋しくなる」 ・石破茂氏(衆院議員) ・前嶋和弘氏(上智大学教授) ・シーラ・スミス(米外交問題評議会日本担当シニアフェロー)』、興味深そうだ。
・『Q:トランプ大統領の4年間をどう評価しますか。 渡部恒雄・笹川平和財団上席研究員(以下、渡部氏):トランプ氏は2つの面で実績を上げました。1つは世界における米国の役割を縮小し、求心力を弱めたこと。アフガニスタンやイラクなどへの関与を減らしました。もう1つは米国内における伝統的な三権分立や法的手続きの尊重、そしてマイノリティーへの配慮などを軽視して、大統領権限を拡大した。 これを実績と言うのは皮肉ではありません。彼自身が選挙戦で訴えて有権者がそれを選んだ。それを実行したから実績と言えるでしょう。野党やマイノリティーからすれば米国の民主主義の伝統を壊しているということになりますが。 ただ、その代償は小さくありません。アフガニスタンやイラクへの関与を減らしたのは、米国にとって負担は減ったものの、世界の安定や秩序は壊れました。米国の負担減とともに世界が多極化の道に進んでしまったことは、コインの表と裏の関係です』、「米国にとって負担は減ったものの、世界の安定や秩序は壊れました。米国の負担減とともに世界が多極化の道に進んでしまったことは、コインの表と裏の関係です」、困ったことだ。
・『Q:対中国では追加関税を課したり、米国内からの締め出したりするなど強硬な姿勢も見せました。中国にとってトランプ氏はどう見えたでしょうか。 渡部氏:むしろ、いい大統領だったのではないでしょうか。世界への関与を減らした結果、米国の求心力は弱まりました。アフリカや中東、中南米などには、中国の関与が高まりつつあります。一帯一路など、構想実現に向けて動きやすくなった。 ロシアのクリミア併合や中国の香港に対する措置など、従来の米国なら秩序を維持すべく指導力を発揮してきたが、その力がなくなったことでやりたい放題になっています。世界はこの代償を払わないといけません。なかなか元の世界には戻れない。相当な時間がかかるでしょう』、「中国」や「ロシア」にとっては、米国の「指導力を発揮してきたが、その力がなくなったことでやりたい放題になっています。世界はこの代償を払わないといけません。なかなか元の世界には戻れない。相当な時間がかかるでしょう」、これも困ったことだ。
・『Q:米国の環太平洋経済連携協定(TPP)離脱はあったものの、日本への影響は限定的だったように感じます。 渡部氏:安倍晋三前首相がトランプ大統領と個人的な関係を強化した策がプラスに働いたのではないでしょうか。米国のTPP離脱はマイナスでしたが、結果的に「TPP11」をまとめて存在感をアピールした。「災い転じて福となす」ですね。 トランプ氏との親密な関係は不興を買ってもいいはずなのに、TPP11や日欧経済連携協定(EPA)をまとめたことで、世界の自由貿易秩序を維持したいオーストラリアや欧州からの評価も高まった。日米間の交渉も、農産物の関税引き下げをTPPレベルにとどめてうまく米国の圧力をかわした。積極策が奏功しました』、「日本」にとって「TPP11」や「EPA」を「まとめたことで」「オーストラリアや欧州からの評価も高まった」、のはプラスの効果だ。
・『Q:トランプ政権の4年を振り返ったところで、本題の「もしトラ」に移りたいと思います。トランプ大統領が再選した場合、どのような未来を想像しますか。 渡部氏:世界の分断がより拡大し、多極化が進むでしょう。 1945年以降、米国は強力な軍事力と経済力を背景に、民主主義に基づいたルールや規範作りで世界をリードしてきました。そのルールを守らないとそれなりの制裁があります。こういう既存のルールを各国がリスペクトして、指導力のある米国が欧州や日本を巻き込んで世界を抑制してきましたが、トランプ大統領はそれを壊しつつあり、求心力の低下でルールが流動化してきています』、「トランプ大統領が再選した場合」「世界の分断がより拡大し、多極化が進むでしょう」、「トランプ大統領はそれ(既存のルール)を壊しつつあり、求心力の低下でルールが流動化してきています」、なかなかやり憎い世界になりそうだ。
・『日本にとって好ましいのは……  Q:では中国が世界の覇権を握りますか。 渡部氏:いや、中国の影響力が及ぶ国や地域は増えるでしょうが、圧倒的な覇権を握るほどの力はない。本来であれば、米国の存在感が弱まればどこかが強まってもいいのですが、世界もそれぞれ分断を抱えています。欧州もEUからの英国離脱に加えて、東欧と西欧の経済格差問題も抱えている。ギリシャやイタリアなど南部は中東からの難民問題もあって、欧州が一枚岩にはなれません。ロシアも経済が弱い。 どこがリードを取るわけでもなく、その都度、国や地域同士で決める多極化が進むことになるでしょう』、「どこがリードを取るわけでもなく、その都度、国や地域同士で決める多極化が進むことになるでしょう」、その通りになるのかも知れない。
・『Q:中国やロシアにとっては、バイデン氏よりトランプ大統領の続投が好ましい。 渡部氏:そうですね。中国やロシアが望むような世界にますます近づいて、日本や欧州が期待するようなルールベースの世界にはなかなか戻れなくなる。既に影響は出ていますが、本格的な影響はこれから出てくると思います。この代償を世界が長い時間をかけて穴埋めしていくことになる。 Q:日本は歴代最長政権だった安倍さんが退き、菅政権へと移行しました。 渡部氏:トランプ氏は個人的なつながりを重要視するタイプです。菅さんがすぐに安倍さんと同様の関係を築くのは不可能です。ただ良い点が1つあります。菅さんは安倍政権を長く支えた人だということ。安倍さんをうまく活用すればいい。 安倍さんはトランプ大統領とべったり追随していたように思う人も多いですが、独自の動きもしています。先に述べたTPP11や日欧EPAなどで、既存の自由貿易のルールや秩序を守る姿勢を見せて海外からの評価を高めた。日米同盟を基軸にしながらも、欧州や東南アジア、インド、アフリカなどともうまくマルチ外交してリスクをヘッジしてきた。こういうかじ取りを菅さんが理解し、実行できるかが課題です。 トランプ氏はビジネスマンの経験しかない。ジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)の回顧録で、中国が新疆ウイグル自治区で住民の強制収容所の設置を容認する発言をしたり、自分の再選のために米国の農産物を買ってくれと持ちかけたりしたことが暴露されました。強権的な「ストロングマン」が好きなトランプ氏と渡り合うためには、安倍さんのように中国やロシアとも話ができれば強みになるでしょう』、「トランプ氏と渡り合うためには、安倍さんのように中国やロシアとも話ができれば強みになるでしょう」、その通りなのだろう。
・『Q:「もしトラ」ではありますが、バイデン氏が大統領になった場合も聞かせてください。 渡部氏:米国の国民感情からしても対中姿勢を軟化するわけにはいきません。圧倒的な軍事力で対抗するのではなく、知恵を使ってうまく中国を誘導しようとするでしょう。バイデン氏は環境問題を訴えていますが、温暖化ガスの排出量で米中は世界のトップ2ですから、中国の協力も必要と考えています。 ただ、バイデン氏が当選しても、トランプ政権時代の代償を簡単に穴埋めできるかと言えば、そうではないでしょう。トランプ氏は国防費を増やしましたが、バイデン氏はしないと思います。そうした中で世界の秩序を守るリーダーに返り咲きたくとも、低下した求心力を戻すには時間がかかる。米国内の半数を占めるトランプ派からの邪魔も入るでしょう。 米国は過去にも同様な経験をしています。ベトナム戦争の失敗で、経済だけでなく軍事への自信を失墜し、道徳的な指導力も失ってしまった。回復したのはレーガン政権のときでしょうか。かなり時間はかかりました』、「米国は・・・ベトナム戦争の失敗で、経済だけでなく軍事への自信を失墜し、道徳的な指導力も失ってしまった。回復したのはレーガン政権のときでしょうか。かなり時間はかかりました」、やはり回復には時間がかかりそうだ。
・『Q:トランプ氏と比較的うまく渡り合ってきた日本にとって、バイデン氏よりもトランプ氏再選の方がいいのでしょうか。 渡部氏:短期的に見ると、そう思う人もいるかもしれません。やり方を変えなくていい方が楽と考える官僚も少なくないでしょう。ただ、トランプ政権の長期化は、世界に与えるダメージの拡大につながります。民主主義のルールや秩序が崩壊していけば、それを修正するための時間はより長期化します。 バイデン氏が当選してもすぐには元の世界には戻らない。それでも、民主主義の維持や日本の今後を中長期的な視点で考えれば、バイデン氏が当選した方がいいと私は考えます』、「トランプ政権の長期化は、世界に与えるダメージの拡大につながります」、「バイデン氏が当選した方がいい」、同感である。

次に、10月6日付けNewsweek日本版が掲載した在米作家冷泉彰彦氏による「強行退院したトランプが直面する「ウィズ・コロナ選挙戦」の難題」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2020/10/post-1191_1.php
・『<感染判明から5日目でホワイトハウスに戻ったトランプ、退院を強行したと形容したほうが自然> 10月2日(金)にヘリコプターで搬送され、メリーランド州の軍人病院に緊急入院したトランプ大統領は、週明け5日(月)の夕刻、退院して同じようにヘリでホワイトハウスに戻りました。この間、主治医は何度も会見に応じましたが、大統領の正確な容体ははっきりしません。 ただ主治医の発表や、補佐官のコメントなどを総合しますと、「発熱はあったが解熱剤を使わずに下がった」「血中酸素濃度の低下が2回起きた」「酸素吸入の措置は全く取られなかったわけではない」ということのようです。また、薬剤の投与としては「リジェネロン社製のカクテル抗体」「レムデシベル」「ステロイド剤のデキタメタゾン」の3種が使用されたとのことです。 通常ですと、こうした薬剤が効力を発揮して肺炎症状が抑制もしくは快方に向かったとしても、最初の陽性結果が10月1日の木曜日で、入院がその2日目、そして今回の退院が5日目というのは非常に早いと言えます。退院を強行したという形容が自然です。 どうして退院を焦ったのか? それは選挙に落ちるのが怖いからでしょう。一刻も早く選挙戦に戻りたいし、入院患者というイメージを払拭したいからに違いありません。 ですが、これからのトランプ大統領は2つの大きな困難を抱えていくことになると見られます』、「退院を強行した」ことで、「2つの大きな困難を抱えていく」、どういうことだろう。
・『もう再入院はできない  1つは治療法に事実上の制限があるということです。例えば一度退院しておいて、再び病院に戻るということとなると、「重態ではないのか」という憶測を生んでしまいます。投票日まで30日を切った現在、それは避けたいはずです。 より難しいのは、仮に肺炎が深刻化した場合のECMO(体外式膜型人工肺)による治療の問題です。ECMOというのは、コロナで傷付いた肺を休めて治癒を待つ療法ですが、その間の生命維持は人工の肺に血液を循環させて酸素交換を行うことで確保します。 今回の新型コロナの場合は、できるだけ肺に負荷をかけないこと、その一方で、全身を安静にするために通常は長期間にわたって鎮静剤を使用します。仮に救命のためにそのような治療が必要となると、合衆国大統領の場合は憲法修正25条により副大統領に一時的な指揮権を移譲する必要が出てきます。これは、選挙におけるイメージを壊滅的に低下させますし、選挙結果はともかくトランプが大統領職を失う可能性に直結します。 ですからECMO治療というのは事実上、選択不可能で、そのために安全性の十分に確認されていない薬剤による治療などを焦って行っていると考えられます』、「選挙戦」を考慮すると、「治療法に事実上の制限がある」というのは確かなようだ。
・『2つ目の困難というのは、大統領自身が有症患者であることは、先週以来現在もウイルスを周囲に感染「させる」可能性がある状態が続いていることを意味します。しかしながら、支持者に「強い自分」を見せるため、また「アンチ・マスク」を主張してきた手前、トランプは行動パターンを変えることができていません。 現地時間10月5日(月)夕刻に退院してきた際にも、ホワイトハウスのバルコニーに上がるとマスクを外して写真撮影に応じ、そのまま館内に入るという行動がテレビに流れてしまいました。こうなると、大統領自身が「スプレッダー」として動き回っていることになります。 また現時点で、大統領が一体いつの時点で罹患したのかが不明です。ホワイトハウスの主治医は、「最後に陰性反応だったのはいつか?」という質問に一切答えようとせず、もしかすると現在公表されている10月1日(木)より以前に、すでに罹患していた可能性もあります。 つまり、現在と未来だけでなく、過去においても大統領が周囲に感染を拡大する(した)可能性があり、しかもその事実関係が極めて曖昧だし、同時に行動変容はイメージダウンになるので不可能になるという思い込みから脱することもできていないわけです。 選挙戦への一刻も早い復帰を焦って退院を強行したと思われる大統領ですが、今後もこの「ウィズ・コロナ選挙戦」を続けるというのは、大変な無理があるとしか言いようがありません』、既に最高裁裁判官の任命式で集団感染が起きたようだ。「大統領自身が「スプレッダー」として動き回っている」のはまさに異常事態だ。

第三に、10月8日付け東洋経済オンラインが掲載した米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長の:渡辺 亮司氏による「強引な退院でもトランプ大統領が不利なワケ 大統領再選阻止、バイデン有利に働く3つの要因」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/379901
・『10月5日夕方、新型コロナウイルス感染で入院していたアメリカのトランプ大統領が退院。今やコロナ感染者の続出で「ホットスポット」と化したホワイトハウスに戻った。ホワイトハウス到着後、大統領は2階のバルコニーでマスクをはずし、あたかもコロナを克服したかのような素振りを見せた。退院直前、大統領は「コロナを恐れるな」ともツイートした。 だが、大統領は選挙戦への影響懸念から早期退院を要求していたと言われ、医師団によると大統領はまだ完全には回復していない。当面、大統領の健康状態について国民の懸念は残るだろう。全米で最も優れた医師団が大統領の治療にあたり、回復に期待が持てるものの、今や奇跡が起こらないかぎり選挙戦の挽回は困難にみえる。 ①大統領の感染でコロナが再び選挙戦の最大の争点になったこと、②信憑性を疑われる経済復興策、③大統領不在の選挙キャンペーンといった3点の理由から再選阻止の最後の一撃となるかもしれない』、米国大統領選挙では、かねてから10月に「オクトーバーサプライス」が起きると言われているが、「新型コロナウイルス感染」がこれに相当することになるのだろうか。まだ目が離せない。
・『再びコロナが選挙戦の最大の争点に  まず、大統領のコロナ感染で、選挙戦の話題がコロナ対策の失敗に集中してしまい、再選が阻まれる公算が大きい。大統領が感染する前の9月7~9日に保守系メディアのフォックスニュースが実施した世論調査では、「コロナ対策ではどちらの候補が勝るか」との質問に、52%がバイデン前副大統領、44%がトランプ大統領と答え、バイデン氏が上回っていた。選挙戦で大統領はコロナ問題に言及することを避け、パンデミックをまるで過去のことのように語ってきた。 大統領は感染発表直前の10月1日のイベントでも「パンデミックの終焉は間近に迫っている」と語ったばかりであったが、実際には直近で中西部を中心にコロナ感染は拡大していた。また、トランプ陣営は9月のギンズバーグ最高裁判事の死後、選挙戦の話題をコロナから後任判事指名承認に切り替える試みを行っていた。 だが、トランプ氏の感染とともに、コロナから国民の目をそらそうとする努力は水の泡となった。今後、大統領選までメディアや国民の注目はコロナに集まることが避けられない。 再選を阻む2点目の理由がトランプ氏の経済復興策が信憑性を失ったことだ。これまで世論調査における有権者の評価で、トランプ氏がバイデン氏よりもつねに上回ってきたのは、経済運営であった。 政権は全米の州政府に対しコロナ関連の活動規制を緩和し経済の早期再開を促してきた。だが、大統領の感染でパンデミックを過小評価した経済復興策は失敗であったことが顕著となった。大統領が自らの経済政策の物差しにも利用してきた株価も感染発覚後に乱高下した。 過去数カ月、バイデン陣営は大統領がコロナ収束に苦戦しているとの主張を展開し、経済復興にはまずはコロナ対策が先決と訴えてきた。だが、今や大統領感染でバイデン氏がそれを国民に証明する必要がなくなった。専門家の助言に従って行動すべきとのバイデン氏の主張が正しかったとの認識が今後広まるかもしれない。引き続き、大統領は国民のコロナ感染リスクをないがしろにして、経済活動の早期再開を訴え続けるかもしれないが、もはやこれは説得性に欠ける』、「バイデン氏」ら民主党支持者にしてみれば、「トランプ氏」の感染は、腹の中ではザマーミロだろう。
・『「重要なのはコロナ、愚か者!」となるのか  「重要なのはコロナ、愚か者!(It’s the COVID, stupid!)」という言い回しが当地専門家の間で聞かれる。これは1992年大統領選で勝利を収めたビル・クリントン候補の選挙参謀であったジェームズ・カービル氏が当時、選挙本部の白板に「重要なのは経済、愚か者(THE ECONOMY, STUPID)」と戦略を記載し、クリントン陣営のキャッチフレーズとして流行ったものを今流になぞらえたものだ。 ジョージ・H・W・ブッシュ政権が低迷する経済に有効な策を打ち出すことができなかった点について、クリントン陣営はとことん追及する狙いがあった。だが11月の大統領選で経済問題は引き続き重要であるものの、現在の不景気の主因でもあるのがコロナ問題だ。大統領感染でコロナ問題は、選挙戦で最重要課題とならざるをえない。 再選を阻む3点目の理由が、選挙キャンペーンの中枢にいるはずのトランプ氏がしばらく不在となることだ。さらにはビル・ステピエン選対本部長やロンナ・マクダニエル共和党全国委員長、ケイリー・マクナニー大統領報道官、そしてキャンペーンを手伝っているクリス・クリスティ前ニュージャージー州知事などの大統領側近が相次いで感染し、トランプ陣営は危機的状況にある。 トランプ氏の感染発表後、選対本部は大統領が登壇を予定していた支持者集会などを相次いで中止し、支持者集会は副大統領の討論会開催の10月7日までバーチャルなものに変更した。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の推奨する発症から10日間の自己隔離に従えば、大統領は選挙までの残り3分の1程度は支持者集会などで対面でのキャンペーン活動ができない』、「退院を強行した」後は、健康ぶりをアピールするなど必死なようだ。夕方のテレビニュースによれば、明日は、ホワイトハウスに支持者を集めて演説をするようだ。
・『活動の活発さという点で両者が逆転  一方、バイデン氏は激戦州などで対面での選挙活動を本格化している。同氏は大統領が感染を発表した10月に入り激戦州ミシガンやフロリダに飛んで「地上戦」を展開している。バイデン氏は直近までコロナ感染に配慮し対面での選挙活動を控えていたため、トランプ氏はバイデン氏を自宅の地下室に隠れていると批判してきたが、今や立場が逆転している。 2020年大統領選ではコロナ感染懸念から郵便投票が拡大し、約6割の有権者が期日前投票すると予想されている。2016年大統領選の約4割からは大幅な上昇となる。フロリダ大学の「アメリカ選挙プロジェクト」によると、すでに300万人以上が投票済みという。うち投票者の登録政党を公表している州では、民主党登録者が54%と共和党登録者の24%を大幅に上回る。残り1カ月、トランプ陣営は郵便投票での追い上げと、支持者に投票所に行くように働きかける必要がある。だが、コロナ感染で大統領や選対本部長が本格的に指揮を執れず、そのダメージは大きい。 現状、当地のアメリカ政治専門家の大半は6~8割の確率でバイデン氏勝利を予想している。だが、トランプ氏の支持基盤は強固であり、世論調査の平均支持率は何が起きてもほとんど上下せず常に40%台前半で推移し底堅い。したがって、激戦州で数ポイントほど挽回できれば射程圏内に入る。 トランプ氏不在の選挙キャンペーンは試練に直面する中、10月3日、トランプ陣営は「MAGA作戦(Make America Great Again、アメリカを再び偉大に)」を打ち出した。支持者集会にペンス副大統領やトランプ一族を総動員し、大統領復帰まで持ち堪える構えだ バイデン氏が勝利を逃すことになりかねないリスクもある。バイデン陣営がトランプ氏のコロナ感染について同情せず中傷し、国民からの反発を招くことだ。だが、コロナの危険を訴えているものの、バイデン陣営はトランプ氏を批判するテレビCMを中断し大統領の早期回復を祈るなど、今のところ微妙なバランスをとっている』、「バイデン陣営」は紳士的な姿勢のようだ。
・『早い退院でも、挽回のハードルは高い  また、仮にトランプ氏が早期回復し、アメリカがコロナ感染の危機から復活することを自ら体現し、コロナを過去のものとして勝利宣言できれば状況は一変するかもしれない。大統領は10月5日、予想以上に早く退院した。有事に国としてまとまる「Rally ‘round the flag(国旗の下に団結)」の効果で支持率が上昇する可能性は残されている。 例えば、ロナルド・レーガン元大統領は1期目の1981年3月、首都ワシントンで銃撃され、入院。この暗殺未遂事件後、レーガン大統領の支持率は11ポイント上昇した。英国のボリス・ジョンソン首相も感染後に大幅な支持率上昇が見られた。 だが、保守系メディアでは大統領の復活を望む声が高い一方、同様のことが起こりうるかは疑問視されている。マスク着用などを軽視し、自らそして多くの国民を危険にさらした同氏への同情はあまり広がらないとも見られているからだ。大統領の感染後にABCニュース・IPSOSが行った世論調査では「大統領がコロナ感染リスクを十分、真剣に捉えていなかった」とする回答は72%にも上った。 2016年大統領選のオクトーバーサプライズであったバラエティ番組「アクセス・ハリウッド」でのトランプ氏の失言発覚も、今回の大統領の感染発表と同じく大統領選の32日前であった。2016年にはトランプ氏の奇跡の挽回が見られた。だが、2020年は前述の通り期日前投票の有権者が急増していることからも、挽回に残された時間が限られ、よりハードルは高くなっている』、「マスク着用などを軽視し、自らそして多くの国民を危険にさらした同氏への同情はあまり広がらないとも見られている」、当然だ。これからしばらく、「トランプ氏」の空元気ぶりを我慢して観ることにしよう。
タグ:米国にとって負担は減ったものの、世界の安定や秩序は壊れました。米国の負担減とともに世界が多極化の道に進んでしまったことは、コインの表と裏の関係です もう1つは米国内における伝統的な三権分立や法的手続きの尊重、そしてマイノリティーへの配慮などを軽視して、大統領権限を拡大 1つは世界における米国の役割を縮小し、求心力を弱めたこと トランプ大統領はそれ(既存のルール)を壊しつつあり、求心力の低下でルールが流動化してきています トランプ氏は2つの面で実績 渡部恒雄 「「中国にとって好ましいのはトランプ氏勝利」笹川平和財団・渡部氏」 日経ビジネスオンライン 早い退院でも、挽回のハードルは高い (その48)(「中国にとって好ましいのはトランプ氏勝利」笹川平和財団・渡部氏、強行退院したトランプが直面する「ウィズ・コロナ選挙戦」の難題、強引な退院でもトランプ大統領が不利なワケ 大統領再選阻止 バイデン有利に働く3つの要因) トランプ大統領 活動の活発さという点で両者が逆転 明日は、ホワイトハウスに支持者を集めて演説 冷泉彰彦 中国」や「ロシア」にとっては、米国の「指導力を発揮してきたが、その力がなくなったことでやりたい放題になっています。世界はこの代償を払わないといけません。なかなか元の世界には戻れない。相当な時間がかかるでしょう 「重要なのはコロナ、愚か者!」となるのか 日本にとって好ましいのは… 再びコロナが選挙戦の最大の争点に ③大統領不在の選挙キャンペーン 「強行退院したトランプが直面する「ウィズ・コロナ選挙戦」の難題」 Newsweek日本版 トランプ政権の長期化は、世界に与えるダメージの拡大につながります バイデン氏が当選した方がいい ②信憑性を疑われる経済復興策 世界の分断がより拡大し、多極化が進むでしょう トランプ大統領が再選した場合 ①大統領の感染でコロナが再び選挙戦の最大の争点になった 今や奇跡が起こらないかぎり選挙戦の挽回は困難 「強引な退院でもトランプ大統領が不利なワケ 大統領再選阻止、バイデン有利に働く3つの要因」 渡辺 亮司 東洋経済オンライン 既に最高裁裁判官の任命式で集団感染 大統領自身が「スプレッダー」として動き回っている ウイルスを周囲に感染「させる」可能性 2つ目の困難 どこがリードを取るわけでもなく、その都度、国や地域同士で決める多極化が進むことになるでしょう もう再入院はできない 2つの大きな困難を抱えていく 感染判明から5日目でホワイトハウスに戻ったトランプ、退院を強行 ベトナム戦争の失敗で、経済だけでなく軍事への自信を失墜し、道徳的な指導力も失ってしまった。回復したのはレーガン政権のときでしょうか。かなり時間はかかりました トランプ氏と渡り合うためには、安倍さんのように中国やロシアとも話ができれば強みになるでしょう
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