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電子契約・電子署名(その1)(在宅勤務を阻む「ハンコ問題」、激論の舞台裏 デジタル化を突き付けられた日本の課題、「脱ハンコ」は「脱中央集権」で国民の信頼を得なければ成功しない いまだに響く住基ネットの失敗、「ハンコ警察」の大誤解、ムダな印鑑を一掃しても社会の効率は良くならない) [経済政策]

今日は、菅内閣発足以来、注目されている電子契約・電子署名(その1)(在宅勤務を阻む「ハンコ問題」、激論の舞台裏 デジタル化を突き付けられた日本の課題、「脱ハンコ」は「脱中央集権」で国民の信頼を得なければ成功しない いまだに響く住基ネットの失敗、「ハンコ警察」の大誤解、ムダな印鑑を一掃しても社会の効率は良くならない)を取上げよう。

先ずは、4月25日付け東洋経済オンライン「在宅勤務を阻む「ハンコ問題」、激論の舞台裏 デジタル化を突き付けられた日本の課題」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/346741
・『緊急事態宣言が出ている中で、捺印のために社員に長時間の通勤を求めるのはいかがなものか――。 フリマアプリを手がけるメルカリは4月8日、取引先との契約締結時に必要な捺印や署名の手続きを電子契約サービスに切り替える方針を発表した。同社の櫻井由章・執行役員CLO(最高法務責任者)はその背景について、冒頭のように話す。 メルカリは新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2月中旬から全社員が在宅勤務に移行している。現状は特定の社員が週に1回、捺印のために出社している。メルカリ社内で行われる契約書の捺印は1カ月に約400件に上る。このうち約9割で物理的な捺印が必要な状況だったという』、「メルカリ」では「現状は特定の社員が週に1回、捺印のために出社」、「契約書の捺印は1カ月に約400件」、やはり負担になるようだ。
・『大臣発言の2日後に印鑑廃止を決断  契約先はフリマアプリ事業の取引先のほか、スマホ決済サービス「メルペイ」で取引のある銀行や加盟店などさまざまだ。出社時には1日で100件近い捺印をこなすことになる。「ハンコを個人の自宅に持ち帰るのは現実的ではない。契約書をその人の自宅に郵送するとなると紛失したり、同居する家族が見てしまったりするリスクがある」(櫻井氏)。 メルカリ社内の一部の部署ではすでに電子契約を導入していたが、今回の在宅勤務移行を受け、全社への導入を急いでいる。ただ、電子契約は契約の相手先の了承を得られなければ実現しない。「取引先によっては契約書の原本への捺印を義務づける規則がある」(同)。そのため、同社では社印の捺印ではなく、権限者の署名や電子署名へ変更すべく取引先の理解を求めている。 電子契約の導入を進めるのはメルカリだけではない。IT大手やベンチャー企業を中心に、導入の動きが急速に広がっている。4月17日にはGMOインターネットが、レンタルサーバーなど自社サービスの顧客の手続きで印鑑を完全に廃止し、取引先との契約も電子契約のみにすると発表した。 政府の竹本直一IT担当大臣が4月14日の記者会見で、在宅勤務の中での押印問題について問われ、対応策としては「民間で話し合ってもらうしかない」と発言。これを受けた形でGMOの熊谷正寿社長が翌日、「決めました。GMOは印鑑を廃止します」と自身のツイッターに投稿。その2日後に正式発表に至った。 そもそも電子契約とは何なのか。ハンコを用いた契約では、締結する当事者同士が契約書に捺印していた。一方で電子契約は、改ざん不可能な「電子署名」と、誰がいつ契約に同意して署名したかを電子的に刻印する「タイムスタンプ」の2つからなる。それぞれに専門業者がおり、電子契約サービス各社はこうした業者からシステムを仕入れ、使いやすくなるよう設計・開発している。 国内で電子契約を導入しているのはまだ8万社程度にすぎない。このうち約8割となる6万5000社に導入し、シェアトップを走るのが、弁護士ドットコムの電子契約サービス「クラウドサイン」だ。コロナの影響で在宅勤務に移行する企業が増えた3月は、前年同月比で導入社数が1.7倍以上、契約送信件数は2倍以上に増えたという。先述のメルカリが全社導入を進めているのもクラウドサインだ』、「電子契約は契約の相手先の了承を得られなければ実現しない」、「電子契約は、改ざん不可能な「電子署名」と、誰がいつ契約に同意して署名したかを電子的に刻印する「タイムスタンプ」の2つからなる。それぞれに専門業者がおり、電子契約サービス各社はこうした業者からシステムを仕入れ、使いやすくなるよう設計・開発している」、「シェアトップを走るのが、弁護士ドットコムの電子契約サービス「クラウドサイン」、なるほど。
・『野村HDやサントリーが相次いで導入  クラウドサインはその名の通り、クラウド型のサービスで、契約書をクラウドサイン上にアップロードすると、契約相手にメールが届く。相手方が承認すれば契約完了だ。他社サービスも同様だが、契約書を送信する側がサービスを利用していれば、受信する側が導入する必要はない。クラウドサインの場合、月額の固定料金と契約の送信1件当たりの従量課金がかかる。 弁護士ドットコムの橘大地・取締役クラウドサイン事業部長は、「以前は業務効率化やコスト削減のために導入したいという声が最も多かったが、足元は急な在宅勤務への移行で、明日から導入したいという問い合わせが急増している」と話す。また、導入企業の大半を占めるのは中小企業だったが、「最近は大企業での全社導入がトレンドだ」(橘氏)という。具体的には、野村ホールディングスやサントリーホールディングス、KDDIなどが名を連ねる。 電子契約を取り巻く法制度は、ハンコでの契約と異なる。契約当事者同士が裁判になった際の証拠の有効性を規定する電子署名法や、税務上必要な書類の電子管理を定めた電子帳簿保存法などがある。前者ではきちんと電子署名が記録されているか、後者では国内で認定されたタイムスタンプが正確に記録されているかが求められている。 「安心安全な電子署名を普及させたい」と話すのは、2019年末に電子契約サービス「Great Sign(グレート・サイン)」を開始したベンチャー企業「TREASURY(トレジャリー)」の山下誠路社長だ。グレート・サインでは、何らかの障害で電子署名がきちんと記録されなかった場合にアラートを出すなど、正確性にこだわる。 「他社のサービスでは電子署名がついていないのに課金されたり、その契約書が何カ月も放置されていたりする。タイムスタンプがつくまでに時間がかかる業者もある。署名の見方を知らない人も多い。いざ裁判になって電子署名の証明書が無効だったときのリスクは大きい」(山下氏)。 民間企業の動きを受け、政府与党も動き出した。自民党の行政改革推進本部規制改革チームは4月6日、新型コロナウイルスに対応するデジタル規制改革についての緊急提言を安倍首相に申し入れた。この中に「押印原則の徹底的見直し」も盛り込まれた。 規制改革チームの座長を務める同党の小林史明衆院議員は、「今回の改革には、押印が必要な手続きがあったとして、そもそもそれは必要なものなのか、本当に印鑑が必要なのか、印鑑証明のある実印を必要としない手続きにおける認証の有効性はどうなのか、という3つの観点がある。政治・行政が規制を見直すのと同時に、民間に対してもメッセージを出すことで、商慣習を変えるきっかけにしたい」と話す』、「押印原則の徹底的見直し」は是非とも実現すべきだろう。
・『電子契約とハンコは共存できるか  2019年末に施行したデジタル手続法を受け、国は行政手続きのオンライン化を進めている。小林議員によると、2019年来精査してきた2万近い手続きのうち、印鑑証明のある実印が必要な手続きはわずか200弱。残りは一般的な印鑑や署名、本人確認書類を求めるものだったという。 小林議員は「3月末に行う手続きを今デジタル化しても恩恵を受けるのは来年だ。4~6月に迫っている手続きの見直しを優先的にやっている。民間企業からも聞き取りを行い、ニーズの高いところの優先順位を上げていく」と語る。 では、こうした動きをハンコ業界はどう受け止めているのか。「今の流れは必然的なことだとは思うが、ハンコだけを悪としてとらえないでほしい。非常時だからこそ民間同士で信頼関係があれば、今回はハンコではなく、メールで同意したことにすることもできるはず」。そう話すのは、ハンコの製造業者などで構成する業界団体・全日本印章業協会の徳井孝生会長だ。 自身もハンコの製造・販売業を札幌市内で営む徳井氏は、「職人が手で仕上げたものほど偽造しづらく、法人の実印には強くおすすめしている。(電子契約はパソコンやスマートフォンなど)機器を使いこなせない人、経済的に購入できない人を置き去りにしてしまう。ハンコを希望する人が1人でもいるのであれば(電子とハンコは)共存していくべき」と訴える。 コロナをきっかけに、あらゆる手続きや業務のデジタル化が注目されることになった。日本特有の商慣習で、伝統のあるハンコが悪者になった感があるが、コロナを起点に、日々の業務の効率化を考えさせられたことは間違いない』、「(電子とハンコは)共存していくべき」、立場上やむを得ないのかも知れないが、どう考えても無理がありそうだ。

次に、10月18日付け現代ビジネスが掲載した大蔵省出身で早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「「脱ハンコ」は「脱中央集権」で国民の信頼を得なければ成功しない いまだに響く住基ネットの失敗」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/76445?imp=0
・『「脱ハンコ」の手段はマイナンバーカードだが  菅義偉政権は、脱ハンコを進める方針だ。「脱ハンコフィーバーはいいことだ」と私は思う。 しかし、脱ハンコのためには、文書が正しいことを、別の手段で証明する必要がある。「ハンコは無駄だからやめにしよう」というだけでは、不十分なのだ。  住基ネットの概要 総務省HPより(リンク先参照) 脱ハンコは、「電子署名」によってなされる。これについて、日本はすでに住基ネットで失敗している。その後継者がマイナンバーカードだ。 したがって、「脱ハンコ」を進めるというのは、「マイナンバーカードの活用をはかる。その利用範囲を広げる」ということだ。これを進めるには、なぜ住基ネットが失敗したかの反省から始める必要がある』、日本の行政機構は無謬性の建前に縛られて、過去の政策を殆ど反省しないのは大いに問題だ。
・『住基ネットは無残な失敗に終わった  住民基本台帳ネットワーク(「住基ネット」)は、2002年8月5日に 第1次稼動し、2003年8月25日から本格稼働が始まった。これは、日本における初めての総背番号制だ。 住民基本台帳の情報をデータベース化し、各市町村のデータをネットワークでつないだ。住民基本台帳は、氏名、生年月日、性別、住所などが記載された住民票を編成したもので、住民に関する事務処理の基礎となる。電子証明書が格納された「住基カード」が発行された。 住基ネットには、2002年から毎年130億円が使われ、13年間で2100億円。自治体の初期費用・維持費用も合わせると1兆円近い税金が使われた。 それにもかかわらず住基カードは普及せず、カードの交付枚数は710万枚(2015年3月)にとどまった。普及率は5.5%にすぎなかった。 そして、2015年末に更新手続きが終わった。つまり、住基ネットは、無残な失敗に終わったのだ』、「1兆円近い税金が使われた」にも拘らず、「無残な失敗に終わった」とはやれやれだ。
・『ほとんど使い途がなかったから使われなかった  国民の側からみて、住基カードで何が便利になったのだろうか? 総務省の説明を読むと、まず、「パスポート申請に住民票の写しの提出が不要となる」としてある。 しかし、それでは窓口にいかないで済むのかといえば、依然として「戸籍謄本・抄本」などの書類が必要とされた。つまり、市町村役場やパスポートセンターの窓口に足を運ぶ必要があったのだ。 あるいは、「従来は、住んでいる市町村でしか交付を受けられなかった住民票の写しを、住基カードの提示で、全国どこの市町村でも交付を受けることができるようになった」とされた。 また、「引っ越しの場合、従来は、それまで住んでいた市町村で転出届の手続をし、転出証明書の交付を受けた上で、引っ越し先の市町村で転入届を行う必要があった。それが、住基カードの交付を受けていると、郵送またはインターネットにより住んでいる市町村に提出すれば、転出証明書がなくても引っ越し先の市町村において転入届を行うことができるようになった」とされていた。 確かに、従来より手続きは少なくなるだろう。しかし、パスポート申請や住民票の写し取得は、頻繁に利用するサービスではない。引っ越しも、一生に数回というのが普通だ。 こうしたことのために住基カードを持つ必要があるのかどうか、疑問だ。少なくとも、生活に重大な支障が出るようなことはない。また、膨大なコストをかけてシステムを構築するメリットがあるかどうか、疑問だ。 「自宅でいつでもPCとインターネットを通じて申請や届出をすることが可能となった」との説明もあったのだが、こうした感激的な効果はなかったのだ』、確かに「住基カード」は存在意義が問われる存在だった。
・『国民は何を心配したか?  どんなメリットがあるのかが、はっきりしない。それなのに、なぜ政府は熱心に導入しようとするのか? この裏には何かあるのではないか? 多くの国民が、このように考えた。 とくに問題とされたのは、国民監視やプライバシー侵害、情報流出の危険性だ。そして、「監視・徴税強化社会はNO」とのスローガンの下で、各地で違憲訴訟などの住基ネット訴訟が相次いだ。 これに対しては、2008年に最高裁が住基ネット合憲の判決を下した。その理由の要旨は、住基ネットが扱う情報は「秘匿性の高い情報とはいえない」、住基ネットの仕組みは「外部からの不正アクセスで情報が容易に漏えいする具体的危険はない」とのことだ。 ところで、「メリットがはっきりしないのに導入に熱心」というのは、マイナンバーカードでも同じだ。これについては、10月11日の「『脱ハンコ』、面倒になっては本末転倒〜使えるサービスほとんどなし」述べた。 なぜ導入したいのか? 真の目的は何なのか? 課税強化か? 国民監視か? それほどでなくても、「ITベンダーと利権確保か? 天下り先確保が本当の目的か?」等々の疑念が出てくる。 政府は、これらの1つ1つに、誠実に答える必要がある。マイナンバーカードのような仕組みは、国民の国に対する信頼がなければ、成功しない。 住基ネットの場合、世論の反対が強く、政府が望んだ民間情報とのひも付けができなかった。そのため、使い途がなく、それが上記のような疑念を増幅させるという悪循環に陥ったのだ』、「マイナンバーカード」も運転免許証や健康保険証を組み込むようだが、私は紛失や情報漏洩の場合のリスクが飛躍的に大きくなるので、反対である。
・『認証局という中央集権的組織が裏に控える  住基ネットやマイナンバーカードが疑いの目で見られる大きな理由は、それが中央集権型の仕組みだからだ。 現在の電子署名は、背後に「認証局」と呼ばれる中央集権的な組織が控えている。ここが、電子署名の正当性を証明する。 電子署名が普及しない大きな原因は、認証局から電子証明を貰うのが簡単ではないことだ。このため「クラウド署名」のような便宜的方法が使われる。 「住民基本台帳カード」の場合には、「地方自治情報センター」と呼ばれる組織が認証局となっていた。マイナンバーカード の場合にも認証局がある。それは、「地方公共団体情報システム機構(JIS)」と呼ばれる組織だ。これは、実は、『地方自治情報センター』が名称を変えたものだ。 なお、2016年1月18日から19日にかけて、地方公共団体情報システム機構で障害が起こり、一部の自治体でカード交付ができなくなったことがある』、なるほど。
・『中央集権的でない「脱ハンコ」はありうる  以上で述べたことをまとめよう。 「脱ハンコ」のためには、電子署名のシステムを導入しなければならない。住基ネットはそのための仕組みであったし、その失敗を受けて作られたマイナンバーカードも、電子署名のためのものだ。 それを支えているのは、認証局を中心とする中央集権組織だ。中央集権的組織が支える仕組みだから、国民監視やプライバシー侵害、情報流出の危険性などを、原理的に否定することはできない。 では、脱ハンコの実現のためには、そうした危険のあるものを受入れざるをえないのか? そうではない。マイナンバーカードなどに対してなされている批判に応え、かつ電子署名を簡単に行なうための仕組みは、原理的には存在する。まだ実用段階になっていなが、そのための仕組みが開発されつつある。 それは、中央集権的機構のかわりにブロックチェーンを用いるものだ。ブロックチェーンを用いて分散IDと呼ばれる仕組みを作れば、認証局なしの電子署名システムができる。これは、「Trusted Web」と呼ばれる仕組みだ。 内閣が主催する「デジタル市場競争会議」が2020 年 6 月 16 日に公表した『デジタル市場競争に係る中期展望レポート(案)~ Society 5.0 におけるデジタル市場のあり方~』も、分散IDの重要性に言及している。 住基ネットが出発した2002年には、こうした技術はなかった。しかし、その後ブロックチェーン技術が発達し、こうした仕組みの構築が可能となりつつある。 新しい技術を積極的に導入し、プライバシー侵害や国民管理を防ぐ努力がなされるべきだ』、確かに「ブロックチェーンを用いて分散IDと呼ばれる仕組み」を作る方法は分散型で合理的だ。

第三に、10月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「「ハンコ警察」の大誤解、ムダな印鑑を一掃しても社会の効率は良くならない」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/251968
・『ハンコ撲滅の「正義のお仕置き」で大炎上する企業が続出か?  先日、ある有名な企業が炎上した。 きっかけは、この会社を辞めた人間によるSNSへの投稿だった。この企業、対外的には電子契約や電子署名などを積極的に採用していくと触れ回っていたが、実際の社内では、デジタルに弱い経営陣や取引先に確認をしてもらうための決済書類で、ハンコ文化がバリバリに残っていた。その結果、デジタル対応とアナログ対応の両方を相手によって使い分けなくてはならず、社員の負担が増えているという。 辞めた社員は、こうした内部事情を暴露してしまったのだ。それを受けてSNS上には「ハンコ警察」が登場、この企業を厳しく断罪した。 《こんな時代にムダなハンコを社員に強いるなんてブラックだ!》《若い社員がジジイ連中に合わせるのではなく、ジジイ側がもっと勉強して時代に合わせろ!》という感じで、世代間論争まで勃発。さらに、これをマスコミやワイドショーが取り上げたことで、株価にまで影響が出始めた。ついにはこの企業は、社長の謝罪会見にまで追い込まれてしまったのである――。 「えっ!?そんなこと、あったっけ?」と戸惑う方も多いだろう。誤解をさせて申し訳ない。この炎上話は実はまったくのフィクションである。 ただ、2020年10月時点で与太話であっても、近い将来こうした「ハンコ警察」による正義のお仕置きで、大炎上する企業が出てこないとは言い切れない。ご存じのように、菅政権が行政手続きのハンコを99%廃止するなど、「ムダなハンコ」を一掃する動きが加速する中で、ハンコは「ムダの象徴」として風当たりがかなり強くなっているからだ。 「いやいや、今、河野太郎さんたちが進めているのは、あくまでムダなハンコ業務であって、印鑑そのものを失くせなどと言っているわけじゃない。さすがにみんな、それくらいの違いはわかってるって」という冷めた声が聞こえてきそうだ。しかし、ここ最近起きているギスギスした人間トラブルを見ていただきたい。) 悪質なあおり運転、芸能人への度を越した誹謗中傷、他県ナンバー狩り、自粛警察、マスク警察……我々の社会には、自分の「正義」から少しでも外れたことをする他人を激しく攻撃して、この世から消えろと言わんばばかりに徹底的に追い込む人が、かなりいらっしゃるのだ。 ならば、「脱ハンコ」という社会正義実現のために、それを邪魔する人を監視・排除しようとする「はんこ警察」が登場したって、何も不思議ではないではないか。 実際、すでにSNSやネットには「脱ハンコに反対する人=既得権益にしがみつく人」といった構図で批判をする人はチラホラと現れてきており、印章産業が盛んな山梨の長崎幸太郎県知事や印章業界で働く人々は、過度な「脱ハンコ」ムーブメントが盛り上がることで、日本社会の非効率的な面などのさまざまな弊害が全てハンコのせいにされ、スケープゴートにされるのではないかという危機感を抱いている』、「「脱ハンコ」という社会正義実現のために、それを邪魔する人を監視・排除しようとする「はんこ警察」が登場したって、何も不思議ではないではないか」、マスクと違って、迷惑になる訳ではないので、出現しないことを願う。
・『「脱ハンコ」に過度な期待が持てない理由  では、「ハンコ警察」がはんこを使う人たちを叩くような殺伐とした社会にならないためには、どうすればいいのだろうか。 個人的には、「脱ハンコ」「ハンコ廃止」というものに過度な期待を持たせないということが、極めて重要になってくるのではないかと考えている。確かに、「スタンプラリー」などと揶揄される、役所などの非効率極まりないハンコ業務をなくしてデジタル化すれば、作業効率が上がるのは間違いない。役所とやりとりをする企業のデジタル化も促進されるだろう。 が、それがそのまま日本社会の効率を良くするのかというと、その効果は限定的だ。実は日本のハンコというものは、諸外国の「サイン」にあたる承認機能だけではなく、我々の社会の中で非常に大きな社会的機能を担っているからだ。 それは「身分証明」である。 たとえば、銀行で口座を開設するためには、免許や保険証などの本人確認書類だけではなく、印鑑が必要だ。ネットバンキングだけの場合は印鑑不要ということもあるが、それでも窓口での手続きや収納サービスを利用すれば、印鑑を求められるケースが圧倒的に多い。 このときのいわゆる「銀行印」は、シャチハタなどがダメなことからもわかるように、単なる「サイン」のような意味合いではない。大きな額の取引をする際に、本人であることを確認することも目的としている。だから、届出をしたときの「銀行印」と捺印したものに少しでも誤差があれば認められない。承認ではなく、完全に「身分証明」としての用途を期待されているわけだ。 財産を管理するための「身分証明」ということなので、当然、財産に影響を及ぼすような高い買い物をする場合も、このようなハンコが必要となる。だから、住宅ローンを組むのにも、賃貸を借りるのにも、そして自動車を購入するのにも、「実印」の捺印と印鑑証明の提出が求められるのだ。 公共料金のようなものを引き落とす手続きをするには、印鑑が必要になる場合も多い。アルバイトで採用される際にも、いまだに印鑑の持参を求めるところはたくさんある』、「承認ではなく、完全に「身分証明」としての用途を期待されている」、確かにその通りなのだろう。
・『組織からハンコを追い出しても社会ではハンコがないと生きられない  つまり、どんなに役所や企業の中からハンコを追い出したところで、組織から一歩外に飛び出して個人に戻れば、「ハンコID」がないことには経済活動もままならないというのが、日本社会の現実なのだ。 この大きな矛盾を解消しない限り、日本社会の効率など良くなるわけがない。つまり、我々が本当に問題視しなくてはいけないのはハンコ文化ではなく、「実印」「銀行印」に象徴される「ハンコによる身分証明」という慣習なのだ。 これは、ハンコ文化のある他国を見ても明らかだろう。ご存知のように、ハンコ文化というのは東アジア地域に限定されたもので、日本以外は中国、韓国、台湾に定着している。が、これらの国のハンコは、「社会の効率が悪いのはハンコ文化のせいだ」など目の敵にされていない。 ハンコ文化の源流である中国では、政府や企業が発行する書類に社印のようなものを押す慣習があるが、個人で印鑑を使うようなシーンはない。銀行口座を開設するときなども、身分証明書の提示とサインだけなので、印鑑は日本でいうところの「木彫りの熊」のような鑑賞用とされている』、「我々が本当に問題視しなくてはいけないのはハンコ文化ではなく、「実印」「銀行印」に象徴される「ハンコによる身分証明」という慣習なのだ」、その通りなのかも知れない。
・『中国、台湾、韓国では脱ハンコと効率アップは無関係  戦前、日本が統治していた影響で印鑑登録制度が残る台湾では、すでに電子署名法により、印鑑と手書きの電子サインの両立が可能になっているので、「脱ハンコで効率アップだ!」などという議論はされてない。同じく日本の印鑑登録制度を引きずる韓国でも、脱ハンコの動きが進められているが、それは印鑑の偽造が横行したという不正行為対策という意味合いが強く、「効率アップ」は目的としていない。 なぜこれらの国では、日本のように「ハンコ=ムダの象徴」という位置づけにならないのかというと、「ハンコによる身分証明」という慣習がないからだ。 韓国と台湾には、確かに日本統治のなごりで印鑑登録制度はあるが、それとは別に身分証明の制度がある。台湾は顔写真付きの国民身分証が発行され、今後はこれに運転免許やスマホのデータを連動したデジタルIDになっていくという。韓国でも出生した段階で住民登録番号が付与されるので、これが本人確認に用いられる。 中国も同様で、国民1人1人に固有の番号が記載された身分証明書が存在して、公的サービスを受けたり、鉄道のチケットを購入したりする際に、切符の偽造・転売対策でこれを提示する。 さて、ここまでお話をすれば、もうおわかりいただけたことだろう。中国、台湾、韓国にはハンコ文化があっても、日本のように「効率」の問題が取り沙汰されないのは、日本以外の国ではほぼ当たり前に普及している国民識別番号制度によって、「本人確認」という作業がシステム化されているからなのだ。 それは言い換えれば、政府がハンコを目の敵にして「脱ハンコ」「ハンコ廃止」などと声高に叫ばなくとも、他国で当たり前になっている「国民識別番号制度」が普及するだけで、日本社会でいろいろと言われている問題は、かなり改善される可能性が高いということだ。 少なくとも、コロナの給付金を払うのに3ヵ月かかりましたとか、年金の記録が消えてしまいましたというような、台湾などのデジタル行政の進む国から憐れみの目で見られるような今の状況は、大きく変わるはずだ。 が、ご承知のように、ハンコ文化の迫害は進んでも、日本で「国民識別番号制度」が普及する気配はない。社会保障や税金の分野で個人を特定するマイナンバーカードでさえ、9月時点で普及率は全国で2割弱にとどまっている』、「他国で当たり前になっている「国民識別番号制度」が普及するだけで、日本社会でいろいろと言われている問題は、かなり改善される可能性が高い」、「ハンコ文化の迫害は進んでも、日本で「国民識別番号制度」が普及する気配はない」、菅政権も「ハンコ」よりも「マイナンバー」の普及をもっと明確に打ち出すべきだろう。
・『日本ではなぜハンコしか「本人確認」の方法がないのか  世界では番号1つで公的・私的サービスの本人確認ができるのが当たり前の状況の中で、なぜ日本だけがこんな状況なのかというと、左派勢力やマスコミが中心となって「国民総背番号制」という言葉をつくり、激しく反対をしてきたからだ。 実は日本でも、北欧の福祉国家が導入したのと同時期の1970年、佐藤栄作内閣で「国民識別番号制度」を導入すべきだという議論がなされたことがある。さまざまな保障や福祉サービスをワンストップで受けるには、このシステムははるかに効率がいいからだ。 しかし、これに「プライバシーが丸裸だ」「軍国主義に逆戻り」「囚人みたいで嫌だ」と猛烈に反対したのが、労組、マスコミ、そしてえらい学者センセイたちだった。 「総背番号制 反対へ国民運動 学者・文化人ら旗揚げ」(1972年11月16日 朝日新聞) こうして立ち上げられたのが、「国民総背番号制に反対しプライバシーを守る中央会議」だ。労組と学者、文化人を中心に、この団体は「プライバーを守れ」というかけ声のもとで勢力を拡大。1985年4月になるとさらに活動の幅を広げて、外国人登録法による指名捺印制度の廃止も訴えた。 このときに代表委員として法務大臣や警察庁長官、政令指定都市の市長などに声明を送ったのは、名古屋大学教授の北川隆吉氏である。多くの業績を残した社会学者だ。 そんな立派な学者だからだろう、「学者の国会」と呼ばれた日本学術会議の会員も務めた過去があり、指紋捺印の反対運動の3年後、1988年6月には再び日本学術会議第14期会員に選ばれた。 政府、特に法務官僚や警察官僚からすれば、国が進めたい政策をことごとく邪魔する北川氏が日本学術会議会員に戻ってくるということを、苦々しく思っていたはずだ。が、どうすることもできない。その5年前の中曽根内閣時代に、「形だけの任命をしていく」と国会答弁をしてしまっているからだ。 今回の学術会議への人事介入の黒幕であると報じられた杉田和博官房副長官も、おそらくその1人だったはずだ。この時期の杉田氏は、警備・公安畑でキャリアを積み、外国人犯罪や不法滞在を扱う外事課長も務めていた。まさしく指紋捺印制度の成立へ向けて動いていた側の人間だ。 こういう過去から続く因縁が、菅政権で一気に爆発してしまったのかもしれない』、これは少々うがち過ぎの感がある。「総背番号制」に反対してきたのは左派としているが、左派に政策を左右するほどの力はなく、中小企業経営者の強烈な反対の方が影響力が大きかった筈だ。
・『うまくいかない社会の問題を全てハンコ文化のせいにする愚  話が脇に逸れてしまったが、このような経緯からもわかるように、日本が他国と比べて様々な分野で効率が悪いのは「ハンコ文化」のせいではない。諸外国が公的サービスを効率化するためなどの名目で続々と導入していた「国民識別番号制度」に反対する一部の人々によって、「国民総番号制」という恐怖訴求ワードが広められたことで、行政サービスの効率化に頑なに背を向けていたからなのだ。 そういう本質的なところをうやむやにして、社会の中でうまく回っていない問題をすべて「ハンコ」に押し付けるというのは、あまりにも理不尽であるし、なんの問題解決にもつながらない。ハンコを使っている人間を目にするとイライラするという「ハンコ警察」予備軍の方には、ぜひともそれを知っていただきたい。 「国民総番号制度」の長きにわたる反対運動を振り返ってみてもわかるように、立派な学者センセイたちが反対の声をあげたからといって、それが必ずしも国民の幸せにつながるわけではないのだ。学者と政府が対立すると、我々は条件反射で「政府が悪い」という印象を受けがちだが、歴史を振り返れば「学者が暴走をする」ということもたくさんあった。特に自粛警察などと同じく、声高に「我こそは正義だ」と胸を張るような学者はちょっと危険だ。 そのような意味では、今回も立派な学者センセイたちが「学術会議に人事介入をしたら学問の自由を奪われる!」「この国家の暴走を放っておいたら、全体主義へまっしぐらだ」などと喉を枯らしていることも、一歩引いて見る必要があるのではないか。 「立派な学者センセイがそう言っているのだから」と鵜呑みにするのではなく、本当にそれが国民のためになる話なのかを、歴史に学んで冷静に考えてみたい』、「社会の中でうまく回っていない問題をすべて「ハンコ」に押し付けるというのは、あまりにも理不尽であるし、なんの問題解決にもつながらない」、同感である。「マイナンバーカード」に運転免許証などを組み込むのは前述の通り反対だが、「マイナンバー」を核に所得や資産の把握を進め、公正な課税体系を目指してもらいたい。
タグ:「「ハンコ警察」の大誤解、ムダな印鑑を一掃しても社会の効率は良くならない」 「在宅勤務を阻む「ハンコ問題」、激論の舞台裏 デジタル化を突き付けられた日本の課題」 東洋経済オンライン (その1)(在宅勤務を阻む「ハンコ問題」、激論の舞台裏 デジタル化を突き付けられた日本の課題、「脱ハンコ」は「脱中央集権」で国民の信頼を得なければ成功しない いまだに響く住基ネットの失敗、「ハンコ警察」の大誤解、ムダな印鑑を一掃しても社会の効率は良くならない) ブロックチェーンを用いて分散IDと呼ばれる仕組み 住基カード 電子契約は、改ざん不可能な「電子署名」と、誰がいつ契約に同意して署名したかを電子的に刻印する「タイムスタンプ」の2つからなる ほとんど使い途がなかったから使われなかった マイナンバーカード」に運転免許証などを組み込むのは前述の通り反対だが、「マイナンバー」を核に所得や資産の把握を進め、公正な課税体系を目指してもらいたい 窪田順生 社会の中でうまく回っていない問題をすべて「ハンコ」に押し付けるというのは、あまりにも理不尽であるし、なんの問題解決にもつながらない うまくいかない社会の問題を全てハンコ文化のせいにする愚 承認ではなく、完全に「身分証明」としての用途を期待されている 現状は特定の社員が週に1回、捺印のために出社 日本ではなぜハンコしか「本人確認」の方法がないのか 中央集権的でない「脱ハンコ」はありうる 組織からハンコを追い出しても社会ではハンコがないと生きられない 電子署名 ハンコ文化の迫害は進んでも、日本で「国民識別番号制度」が普及する気配はない 電子契約 野村HDやサントリーが相次いで導入 「脱ハンコ」に過度な期待が持てない理由 (電子とハンコは)共存していくべき」、立場上やむを得ないのかも知れないが、どう考えても無理がありそうだ 現代ビジネス 国民は何を心配したか? 弁護士ドットコムの電子契約サービス「クラウドサイン」 「脱ハンコ」という社会正義実現のために、それを邪魔する人を監視・排除しようとする「はんこ警察」が登場したって、何も不思議ではないではないか 自社サービスの顧客の手続きで印鑑を完全に廃止し、取引先との契約も電子契約のみにする 無残な失敗に終わった ダイヤモンド・オンライン Trusted Web メルカリ 他国で当たり前になっている「国民識別番号制度」が普及するだけで、日本社会でいろいろと言われている問題は、かなり改善される可能性が高い 1兆円近い税金が使われた GMOインターネット 電子契約は契約の相手先の了承を得られなければ実現しない 大臣発言の2日後に印鑑廃止を決断 住基ネットは無残な失敗に終わった なぜ住基ネットが失敗したかの反省から始める必要がある ハンコ撲滅の「正義のお仕置き」で大炎上する企業が続出か? 中国、台湾、韓国では脱ハンコと効率アップは無関係 我々が本当に問題視しなくてはいけないのはハンコ文化ではなく、「実印」「銀行印」に象徴される「ハンコによる身分証明」という慣習なのだ 認証局という中央集権的組織が裏に控える 「「脱ハンコ」は「脱中央集権」で国民の信頼を得なければ成功しない いまだに響く住基ネットの失敗」 それぞれに専門業者がおり 「脱ハンコ」の手段はマイナンバーカードだが 「マイナンバーカード」も運転免許証や健康保険証を組み込むようだが、私は紛失や情報漏洩の場合のリスクが飛躍的に大きくなるので、反対である 電子契約とハンコは共存できるか 押印原則の徹底的見直し 野口 悠紀雄 契約書の捺印は1カ月に約400件
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