インフラ輸出(その11)(国が推進「オールジャパン鉄道輸出」悲惨な実態 円借款事業でも車両は海外メーカー製導入へ、あれから6年 日本が勝ち取った「タイ新幹線計画」は幻に終わるのか?、日本協力の在来線高速化にインドネシアが中国招請 高速鉄道計画で飲まされた煮え湯 今度は在来線高速化計画でも?) [インフラ輸出]
インフラ輸出については、昨年1月18日に取上げた。今日は、(その11)(国が推進「オールジャパン鉄道輸出」悲惨な実態 円借款事業でも車両は海外メーカー製導入へ、あれから6年 日本が勝ち取った「タイ新幹線計画」は幻に終わるのか?、日本協力の在来線高速化にインドネシアが中国招請 高速鉄道計画で飲まされた煮え湯 今度は在来線高速化計画でも?)である。
先ずは、昨年9月18日付け東洋経済オンラインが掲載したアジアン鉄道ライターの高木 聡氏による「国が推進「オールジャパン鉄道輸出」悲惨な実態 円借款事業でも車両は海外メーカー製導入へ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/375911
・『案の定というほかない。9月9日、ミャンマーの現地紙ミャンマータイムズは、ミャンマー国鉄(MR)幹部の話として、日本が円借款事業として進める「ヤンゴン・マンダレー鉄道整備事業(フェーズⅡ)」向けの電気式気動車180両をスペインの鉄道車両メーカー、CAFと三菱商事から調達する計画であると報じた。 現地の鉄道関係者によると、CAFの受注はほぼ確定しているという。この通り進めば、日本企業の受注を前提とした「本邦技術活用条件(STEP)適用案件」(日本企業からの調達が求められる)にて、日本の車両メーカーの応札なしという事態が再び発生したことになる。 これまでも筆者はミャンマーにおける鉄道整備事業を追跡し、その危うさを指摘してきたが、最悪の方向に進みつつある。政府が推し進める「オールジャパンの鉄道輸出」の悲惨な実態をレポートする』、「「本邦技術活用条件(STEP)適用案件・・・にて、日本の車両メーカーの応札なしという事態」、どういうことだろう。
・『「日本製」24両で打ち止めか ヤンゴン・マンダレー鉄道整備事業は、ミャンマー第1の都市ヤンゴンと第2の都市マンダレーの間、約620kmの老朽化した設備を改修・近代化する事業である。新型車両の導入により、所要時間は現行の約14時間から8時間に短縮される予定だ。さらに、これと並行して、ヤンゴンの「環状線改良事業」も進んでいる。 車両関係でいえば合計270両という大量受注のチャンスが車両メーカーにはあった。しかし、5月16日付記事「再び中古車両頼み?日本の鉄道輸出『前途多難』」でお伝えした通り、環状線改良事業においても入札不調から調達期限を遵守できず、苦肉の策として中古車両を無償譲渡し、なんとか日本側の面目を保っている状況である。フェーズⅡ向け車両をCAFが受注すれば、実際に日本から輸出されるのは「フェーズⅠ」と呼ばれる先行整備区間向けの24両のみという結果に終わることになる。 折しも、フェーズⅠ向けのうち最初の6両がメーカーの新潟トランシスから出荷され、9月5日にミャンマーに上陸したところだった。ちなみに、同国はコロナ禍で外国人入国禁止措置が続いているが、車両立ち上げに関わる関係者はチャーター便にて現地入りしている。) 車両については、今後の246両も新潟トランシスが同一設計の車両(環状線向けは通勤仕様)を導入するだろうというのが一般的な見方だった。ただでさえ製造コストのかさむ電気式気動車であり、同社にとっては初の製造である。量産に移行してようやくペイできるかどうかといったところだろう。それでも、続いての入札には参加しなかったのだ。 筆者の個人的感覚で大変恐縮であるが、この新型車両が公の場に現れたとき、「これはないな……」というのが第一印象であった。良く言えばノスタルジックな車両、悪く言えば時代遅れなのである。 もちろん、日本の最新技術が搭載されていることは百も承知である。筆者がいうのはそのデザインである。そこからは、予算を限界まで削ったのであろうことが伝わってくる。新生MRのフラッグシップとなる車両である。これが発注者たるMRが要望した姿なのだろうかと。この時に悪い予感はあった。だから、案の定なのである』、「デザイン」はともかく、「電気式気動車」の「続いての入札には参加しなかった」理由は何なのだろう。
・『国内メーカーの製造能力に課題 それからもう一つ、JICAが公開している「ミャンマー国ヤンゴン・マンダレー鉄道整備事業フェーズⅡ準備調査ファイナルレポート」には車両の調達計画について気になる記述がある。 「現地組立を行わないことが決まったのち、特急列車用車両の調達についての検討が行われ、最終的に 180 両を調達することが決まった。複数の日本の車両製造業者に本プロジェクト期間中の製造能力を確認した結果、第一編成の引き渡しが着手から 36 か月、第二編成以降の引渡しは 1ヶ月/編成(6 両)の間隔が必要と判明したことから、平成 25 年(※)5月までに調達が可能と判断し MR に提案した。しかしながら、最終段階にて MR 側は 2024 年 12 月までにすべての調達が終了するよう強く要請し、結果として、日本側は調達のスケジュールの前倒しをすることでその要請を受け入れることとしたが、詳細設計において、メーカーの製造能力とスケジュールに関する詳細な調査が必要である」(原文ママ)(※平成25年は2025年の誤記であると思われる) なお、このレポートには同時に、前提条件として、「フェーズⅠの車両と共通して運用するために同じ仕様とすることが求められる」とも書かれていることを付け加えておく。 前述のミャンマータイムズの報道には、フェーズⅠ向けの新潟トランシス製車両の今後の到着予定も記されており、それによれば今年12月、そして2021年2月、4月の計3回に分けて残りの18両が現地に搬入されるという。これが正しければ、新潟トランシスでは現状、生産可能なのは2カ月に1編成(6両)ということになる。 さて、CAFと三菱商事という組み合わせを聞いて、思い当たる節がある方もいるのではないかと思う。フィリピンのマニラ首都圏大量旅客輸送システム拡張事業(マニラLRT1号線の延伸計画)である。 「本邦技術活用条件(STEP)適用案件」ながら、2016年に応札者なしで初回入札が不調に終わり、その後も応じる国内メーカーはなく、2017年に三菱商事とCAFのコンソーシアムが受注した。 この入札不調の後、国土交通省は「鉄道産業の抱える課題及び対応の方向性」を発表(2016年8月22日付記事「鉄道『オールジャパン」のちぐはぐな実態』」参照)したわけであるが、状況は何も変わらなかったのだ。 今回もマニラと同じスキームだとすれば、車両製造はCAFが実施することになるものの、電気式気動車の主回路装置部分については三菱電機が納入することになるだろう。新潟トランシス製車両も同社製の電装品を採用している。 ミャンマータイムズの記事によると、金額は180両で4億900万米ドルといい、1両あたり日本円にしておよそ2億4000万円だ。新潟トランシス製車両よりもやや安い』、「2016年に応札者なしで初回入札が不調に終わり、その後も応じる国内メーカーはなく、2017年に三菱商事とCAFのコンソーシアムが受注した」、「入札が不調に終わ」った理由は何だったのだろう。
・『日本の「鉄道輸出」の未来は? 現地報道によれば、環状線向け車両66両についてもCAF製車両が導入されるようだ。こうなってくると、今後の日本には2つの未来が待ち構えているといえそうだ。 まず1つ目は、日本の重電メーカー+海外車両メーカーという組み合わせが鉄道海外輸出の主流になるという未来である。日本製よりも安く、デザインなどもより柔軟に対応できる。しかも核心部は日本製であるため信頼が持てる。 日本政府の言う「官民一体」に当たらないだけで、現にこのような組み合わせの車両輸出は多い。円借款案件でもデリーメトロや北京地下鉄、武漢都市鉄道、マニラLRT2号線などがそうだ。当時「本邦技術活用条件(STEP)適用案件」という枠組みがなく、政府間契約において日本メーカーが全く海外メーカーに太刀打ちできなかったというのが正しいわけだが、これらの反省から、近年の鉄道案件は基本的に日本タイドとなった。 それが、いつの間にやら安倍政権の下「オールジャパン」などと掲げられるようになった。 ミャンマー向け車両受注では、すでにJR東日本・JR北海道向けに、類似した仕様の電気式気動車を量産している川崎重工が大本命と関係者の誰しもが予想していた。しかし同社は応札しなかった。 ほかに電気式気動車を製造する可能性があるメーカーとしては日本車輛製造、日立製作所なども挙げられるが、前者はアメリカ、そしてインドネシア案件で大幅な損失を出しており、当分海外案件には手を出さないだろうというのがもっぱらの噂である。車両輸出に積極的な後者は、タイのバンコクレッドライン、ベトナムのホーチミンメトロと円借款案件を抱えており手いっぱいだ。 その結果、海外案件から最も遠いと思われていた新潟トランシスが受注したわけであるが、フェーズⅡには繋がらなかった。 このような状況を反映してか、2018年には「円借款・本邦技術活用条件(STEP)の制度改善」が実施されており、入札不調の場合などの「原産地ルール」がやや緩和されている。日本製品が使用されていれば、どこで組み立てられようが構わないのである。つまり、「オールジャパンの鉄道輸出」など、実態の伴わない幻影になってゆく可能性が高い』、「近年の鉄道案件は基本的に日本タイドとなった。 それが、いつの間にやら安倍政権の下「オールジャパン」などと掲げられるようになった」、実際には「日本タイド」にはなっていないようだ。
・『日本への信頼失墜を招く恐れも? そして2点目は、CAF製車両がミャンマーの環境に適さず、走行が困難になった場合、ミャンマー政府からの日本への信頼が失墜するという未来である。 これは最悪のシナリオだ。日本製機器が採用されても、その他の装置や仕様は完全にヨーロッパタイプの車両となる模様だ。ただでさえ車両メンテナンスに苦慮しているMRで2種類の新型車両が入ることになる。それだけではなく、すでに日本側は「鉄道車両維持管理・サービス向上プロジェクト」などを通じて、日本製の気動車車両の導入を前提とした教育を行っている。そこにヨーロッパタイプの車両が入ったとき、MRが対応できるかどうかは未知数である。 また、安く車両を売ってメンテナンスで稼ぐ(消耗品も含め純正品以外使えない)というヨーロッパ式のシステムに資金力のないMRが対応できないことが予想される。故障したら最後、スペアパーツが購入できず、車両は車庫で朽ち果てることにもなりかねない。 故障で使えないということになれば、メーカーがどこであれ日本が入れた車両であることに変わりはなく、言い逃れはできないだろう。最終的に日本が無償援助などでリハビリをすることになれば、結局高くつくのである。中国、韓国・インド、それにドイツがミャンマーへの鉄道支援を着々と進めている中で、これは大きな足かせにもなるだろう。 そもそもMRは当初、より安価でメンテナンスが容易な機関車+客車編成の導入を求めていた。とくに特急用車両ならば、費用対効果で見れば圧倒的に有利な方式である。しかし、今や日本では大型ディーゼル機関車も客車もほとんど生産していない。だから、日本側は電気式気動車の導入を半ば強引に提案した。しかし、それすらも導入できなかったのである。あまりにもだらしない話である。 簡単に言えば、日本は海外に鉄道車両を輸出できるほどの力がないのである。それを政府が認めないから歪が出るのだ。いっそのこと、「鉄道設備・信号輸出」にでも名前を変えたらどうだろうか。車両輸出に比べれば、まだ健闘している。すべてを「オールジャパン」でやるというのは非現実的だ』、「日本は海外に鉄道車両を輸出できるほどの力がないのである。それを政府が認めないから歪が出るのだ」、政府が「インフラ輸出」の旗を振り続けているのは、余りに無責任だ。
・『日本は「身の丈」を考えよ 筆者は日本の車両メーカーに技術がないと言っているのではない。電気式気動車にしても国内需要の少なさでコストダウンは難しく、従来の液体式気動車もメンテナンス技術が失われつつある。大型ディーゼル機関車も然りだ。海外輸出を満たせるほどの国内需要がないのが最大の要因だと言いたいのだ。 現状、日本が海外向けに生産できるのは通勤電車と新幹線だけというのは業界の人間ならば誰しもが認めることだ。しかし、世界に日本の高性能な通勤電車、そして新幹線を必要とする国がどれほどあるのだろうか。 政府は世界に日本の技術を広めるなどという崇高な理想を語る前に、国内の疲弊しきった鉄道システムを再興させることのほうが先決ではないか。利益至上主義で長距離・夜行列車は消え、台風が来るたびに被災したローカル線が復活することなく消えていく世の中だ。これは途上国以下のレベルである。 「官民一体となった鉄道インフラ輸出」など、言わば「人口が減ったから外国人を呼べばいい」と同じ安直な発想だ。身の丈も考えずに「オールジャパン」「鉄道海外輸出」と振りかざす日本政府、国交省ならびに関係者は猛省すべきである。そして、JICAは国民の血税をつぎ込んだ揚げ句、誰も得をしない開発援助案件など実行すべきでない』、全く同感である。
次に、1月18日付けYahooニュースが転載したGLOBE「あれから6年 日本が勝ち取った「タイ新幹線計画」は幻に終わるのか?」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/69d69b0185612363662dcbe1ff782fe69ef9691d
・『タイの首都バンコクと北部チェンマイを結ぶ高速鉄道(672キロ)の建設が、ぴくりとも動かない。日本とタイの政府の間で、新幹線の投入に合意してからまもなく6年。日本のインフラ輸出の目玉の一つと期待された事業は、まぼろしと消えゆくのか』、「6年」経っても「ぴくりとも動かない」とはただ事ではない。
・『6年越し1ミリも進まず その舞台裏は バンコクから北へ約700キロ。観光客にも人気の古都チェンマイとの間には、飛行機や長距離バスが頻繁に往来している。格安航空なら片道数千円だ。チェンマイ中心部の人口は13万人程度。在来線で14時間かかるところが、高速鉄道で3時間半に短縮されたとしても、集客力には疑問符がつきまとう。 日本とタイの両国政府がバンコク―チェンマイに新幹線を整備する協力(正しくは「定」?)に合意したのは、2015年のこと。いまも実現に向けて調査が続いている。関係者の間では「永遠の調査路線」とも呼ばれ、タイの地元紙もときおり、「廃案検討」(英字紙バンコクポスト)と伝える。 鉄道ビジネスにかかわる日本企業の幹部は、あっさりと言う。「進まないのはなぜかって? 採算に合わない。それに尽きる」。事業費は、総額5000億バーツ(約1兆7千億円)近くと試算されている。一期工事として、バンコクから約380キロほど先にある都市ピッサヌロークまでに区切って建設するとしても、2700億バーツ、日本円にして1兆円近くかかるという。 日本政府はタイ政府に円借款を供与し、日本製の車両や信号など新幹線システムを売ったり沿線開発にかかわったりすることで、日本企業が潤うともくろんだ。この区間が赤字になったとしても日本には関係なく、タイ政府が公共交通を支えるだろう、と。 だが、タイ側は「新幹線」の運営会社を両国で設立し、日本企業も沿線でのビジネスだけでなく鉄道事業の経営を担ってほしい、と期待した。赤字になれば、ともに責任を負う仕組みだ。 日本企業はそっぽを向いてしまった。「中国の国有企業じゃあるまいし、民間企業がそんなリスクをとれるわけがない。日本政府の出資はさらにありえないでしょう。非現実的な計画を、両国の政治家がアドバルーンとして打ち上げた」。この幹部は解説する。 そんな計画が、どうして生まれ落ちたのだろう。 時計の針を、2014年まで巻き戻してみよう。 14年5月。タイで軍事クーデターによって成立した政権が発足した。元陸軍司令官のプラユット暫定首相が、軍事政権発足後に初めて来日したのは15年2月のこと。安倍晋三首相(当時)と会談し、いくつかの経済協力に合意した。「新幹線」は含まれていなかったが、日本はその呼び水として在来線の複線化工事などを約束した。翌3月。第3回国連防災世界会議に出席するため再び来日したプラユット氏に対し、安倍氏は新幹線を念頭に「鉄道協力」を持ちかけた。一行には、2月は東海道新幹線を東京から新大阪まで、3月は東北新幹線を東京から仙台まで試乗してもらった。 二つの来日の受け入れにかかわった日本政府高官は当時、私の取材に対して、こう話していた。「タイ側の反応はとても良かった。ほっとした。タイは中国とも話を進めており、全路線をとられてしまうわけにはいかない。新幹線をなんとしても走らせたい」 日本政府は焦っているように見えた。理由がある。これに先立つ14年12月。プラユット氏は中国を訪問していた。習近平国家主席、李克強首相と会談した。高速鉄道の北京―天津間を夫人とともに試乗し、高速鉄道の整備に向けた協力に合意した。ラオスに近い東北部ノンカイからバンコクを通りタイ湾に抜けるルート(約734キロ)など2区間である。「鉄道を中国から買い、タイからはコメやゴムを売る」という物々交換のような約束も、話題になった。 中国の動きが日本を刺激した。巻き返すべく、日本政府はプラユット氏の2度の来日をとらえて攻勢をかけたのだった。15年5月には、和泉洋人首相補佐官をバンコクに派遣した。安倍政権、菅義偉政権を通じて首相補佐官を務める和泉氏は、国土交通省(旧建設省)出身。国際協力銀行(JBIC)の前田匡史総裁(当時専務)とともに、日本のインフラ輸出の旗振り役である。その和泉氏が、タイ政府との間で高速鉄道の整備を協力する約束をとりつけた。この月末にタイのプラジン運輸相(当時)が来日し、閣僚間で正式に合意する。和泉氏も立ち合った。 日本の国土交通省の発表によれば、覚書には「バンコク~チェンマイ間高速鉄道に関し、日本の高速鉄道技術(新幹線)の導入を前提として詳細な事業性調査や事業スキーム等を日タイ間で協議」することが書き込まれている。 プラジン氏はタイメディアに対して「(タイ政府が)12年から調査をしており、日本側が納得できるデータが集まっている」と語り、翌16年にも着工できるとの考えを示した。今から思えば、あまりに甘い見通しである。 もっとも百戦錬磨の和泉氏らが、その見通しを真に受けていたとは思えない。タイの鉄道建設は時間がかかる。高速鉄道にしても、1990年代から計画はあったが、通貨危機や政変もあって立案されては消えていった。日本は中国と競い合いながら10年ほど前から強い関心を寄せてきた。日本の政治家や官僚は、タイ側の甘いささやきにのってみせることで、新幹線輸出を勝ち取った絵を描きたかったのだろう。 このとき合意を受けて、朝日新聞も「タイ、新幹線を採用 日本と合意」(15年5月28日朝刊)と報じた。「JR東日本、日立製作所、三菱重工業が連合を組み、事業への参加を検討している。インフラ輸出を成長戦略の柱の一つに掲げる安倍政権は、新幹線のトップセールスに力を入れている」。1兆円を超す総事業費の調達を課題としながらも、実現すれば「2007年の台湾に続く2例目の新幹線輸出」と期待が記されていた』、「タイの鉄道建設は時間がかかる。高速鉄道にしても、1990年代から計画はあったが、通貨危機や政変もあって立案されては消えていった。日本は中国と競い合いながら10年ほど前から強い関心を寄せてきた。日本の政治家や官僚は、タイ側の甘いささやきにのってみせることで、新幹線輸出を勝ち取った絵を描きたかったのだろう」、客観的にみれば、どう考えても日本側は中国よりも不利だ。
・『しかし、いや、案の定というべきか。プラジン氏がささやいた16年の着工はありえなかった。採算が疑問視されるなかで、日・タイ両政府は16年、バンコクからピッサヌロークまでを優先して建設することで合意した。全線の整備に踏み出すには、あまりにも採算が見通せなかったからだ。黒字化には一日あたり5万人以上の乗客が必要だが、1万人程度にとどまるとみられていた。 翌17年12月、日本政府は建設に向けた調査報告書をまとめ、タイ政府に渡した。ピッサヌロークまでの事業費は2700億バーツ(1兆円弱)、開業目標は2025年。タイの交通当局は当時「沿線開発によって長期的には黒字になる」と日本の国土交通省から説明を受けたと語っている。調査費は約7億円を使った。今も調査が続いているが、問題なのは巨額の円借款を用いることを前提とする事業にもかかわらず、結果の詳細は今も公表されていないことだ。日本政府は「政府間で協議中で事業費なども調整中のため公表の予定はない」(国土交通省鉄道局)と説明する。 タイに先行にして進むインドへの新幹線輸出にしても、工期の大幅な遅れと事業費の膨張が予想されている。こうした現況について、日本政府は想定とのずれや今後の見通しについて、きちんと情報開示すべきだ。 習政権の対外戦略「一帯一路」に沿って雲南省からラオスを抜けてタイまで高速鉄道を延ばしたい中国。安倍政権(当時)のもとでインフラ輸出を経済政策アベノミクスの一つの目玉とする日本。日中両国を競わせて、インフラ整備をよりお得に進めたいタイ。そんな3カ国の思惑が交錯しながら、タイを舞台にする高速鉄道の計画は動いてきた。 興味深い事実がある。タイを舞台にした日中の高速鉄道輸出の競いあいは、国際入札ではない。日中とも軍政の指名によって事業を獲得している。米国のオバマ政権(当時)が軍政に距離をおく傍らで進んだ。 オバマ氏は退任までプラユット氏をホワイトハウスには入れなかった。「早期の民政復帰」や「人権の尊重」を求めて高官の交流も止めていた。 それに比べれば、日本政府は中国政府同様、タイが軍事政権であるということは気にかけなかった。タイは日本企業にとって5千社以上が進出する東南アジアの拠点である。政治体制を問わぬよう日本の経済界の日本政府への要望が強かったからだ。日本の政府や企業には「日本が引くと中国に攻め込まれる」という危機感もあった。軍政時代のミャンマーに対して、日本が欧米に歩調をあわせて距離をとったことは、中国に商機を奪われた失敗として記憶に刻まれていた。 タイ軍政と米国との首脳会談が成立したのは、人権問題で中国以外の国に対してはオバマ政権ほどに注文をつけなかったトランプ政権になってからだ。台頭する中国を牽制する意味もあって、オバマ氏がやはり距離を置いていたフィリピンの強権的なドゥテルテ政権とも関係を修復した。 人権や民主主義をより重視するバイデン次期政権は、非民主的な国々に対してどんな対応をとるのか。価値観をどのような形でビジネスに持ち込むか。2019年に軍政から総選挙を通じて民政へ移管したタイではあるが、野党つぶしなどを受けて、親軍政勢力が政権を維持している。王室を含む権威主義的な体制に対して若者が批判を強めて街に出ている。タイなどの政治情勢とバイデン次期政権の動きしだいでは、日本はアジアで鉄道を含む経済協力のあり方を問われることになるかもしれない さて、タイの高速鉄道は、中国が協力する路線の歩みものろい。バンコク―ノンカイ線(約606キロ)は着工から3年で、建設できたのは3・5キロだけ。中国メディアに「かたつむり」と揶揄されるほどだ。 中国人技術者の滞在ビザの問題や建設資金の調達方法でもめた。タイ政府も世論も中国主導の建設を警戒した。中国の政府系銀行による高い金利を嫌って自ら調達することに切り替えた。車両など高速鉄道システムや技術は買っても、土木工事は自国の企業中心に持ち込んだ。ようやく工事が始まったのは2017年のこと。車両などの納入契約がまとまったのは20年末になってからだ。現在も環境アセスメントを終えられず、着工できない区間もある。第一区間とするナコンラチャシマ(約250キロ)までの開業目標は、23年から25年へ先送りされている』、「バンコクからピッサヌロークまでを優先して建設することで合意」、最終目的地である空港が入らなくて、採算がとれるのだろうか。「問題なのは巨額の円借款を用いることを前提とする事業にもかかわらず、結果の詳細は今も公表されていないことだ。日本政府は「政府間で協議中で事業費なども調整中のため公表の予定はない」(国土交通省鉄道局)と説明する」、少なくとも「協議」終了後は公開すべきだろう。
・『『王国の鉄路』や『タイ鉄道と日本軍』の著者で、タイの鉄道に詳しい横浜市立大学教授の柿崎一郎氏は指摘する。「中国だけでやっていれば今ごろ開業していたかもしれない。タイ政府は自らの利益や合法性を損なわないように中国主導を認めなかった。かたつむりかもしれないが、タイのペースで進めている。中国とラオスの鉄路は2021年末につながるが、中国からタイまでが一本の鉄路で結ばれるまでにはまだ10年かかるかもしれない」 1950年代の東西冷戦時代、ラオスがまだ「西側」だったころのこと。共産ドミノを回避したい米国は、ラオスへの生命線となるタイ東北部の鉄路を、国道とあわせて無償援助で敷いた。同じルートでいま、中国の技術を用いた鉄道が作られつつある。「国際情勢の変化を映している。米国にとって東南アジアの戦略的重要性が減った。その隙をついて、中国は権威主義的な政権との距離を縮めている」と柿崎氏。 タイ政府がもっとも力を入れる高速鉄道も視界不良だ。首都圏の3空港をつなぎ、日本企業も進出する東部経済回廊(EEC)を走る路線である。タイ最大の財閥チャロンポカパン(CP)グループが中国企業との協力で整備する。21年に着工し、26年の開業を目指すが、用地の引き渡しが遅れ、関係する企業の動きは鈍い。 中学時代をタイで過ごした柿崎氏がバンコク―チェンマイ間の寝台列車に初めて乗ったのは、1980年代半ば。日本製の車両だった。大学生からタイ鉄道研究を始め、約4000キロに及ぶタイの鉄路を乗り尽くしている。「もっとも必要なのはバンコク首都圏の渋滞を解消する都市鉄道の新設と、1割ほどしか進んでいない在来線の複線化でしょう」 バンコク北部で、壮大な新しい駅の建設が佳境を迎えている。バンスー中央駅。この駅とともに2021年11月にレッドライン(約26キロ)と呼ばれる都市交通も開業する予定だ。合計で2700億円規模の円借款が投じられ、三菱重工業や住友商事など日本企業が参画している。赤いつややかな車両は、日立製作所が笠戸事業所(山口県)で製造したものだ。電化がほとんど進んでいないタイでは珍しい電車で、最高時速120キロで走る。 プラットホームは24を数え、東南アジア最大だという。ホームの4本はレッドライン、8本は在来線、残る12本は高速鉄道用に残しておくそうだ。日本の新幹線や中国の高速鉄道が立派なホームに滑りこむ日は、いつか来るのだろうか』、「タイ政府は自らの利益や合法性を損なわないように中国主導を認めなかった」、「タイ政府は」意外に賢明なやり方をしているようだ。「タイ」で「もっとも必要なのはバンコク首都圏の渋滞を解消する都市鉄道の新設と、1割ほどしか進んでいない在来線の複線化でしょう」、新幹線計画よりは現実的だ。今後の「タイ政府」の舵取りを注目したい。
第三に、1月22日付けJBPressが掲載したフリーランス記者の大塚 智彦氏による「日本協力の在来線高速化にインドネシアが中国招請 高速鉄道計画で飲まされた煮え湯、今度は在来線高速化計画でも?」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63758
・『王毅外相に直接要請 地元報道によると、1月12日にインドネシア訪問中の中国・王毅外相とルフト・パンジャイタン調整相(海事・投資担当)が会談。その中で、ジャカルタ―バンドン間の「高速鉄道計画」を、バンドンからさらに延伸してジャカルタ―スラバヤを結ぶ「高速化計画」につなげ、途中から一体化する構想への財政面での参加・支援をインドネシア側から中国に求めたのだという。 報道によれば、このインドネシア側の意向は、ジョコ・ウィドド大統領から習近平国家主席にもすでに伝えられていたという。 中国側はインドネシア側の要請を受けて「計画を調査する」との姿勢を見せ、今後専門家チームをインドネシアに派遣する予定だ。インドネシアの大規模インフラ整備計画への参画は、中国が世界的に進める「一帯一路」構想にもかなっており、前向きに検討する可能性が極めて高いとみられる』、「インドネシア側」が「中国」にすり寄っているのであれば、突き放してみるのも一考に値する。
・『日本の消極姿勢で中国参加要請か ジャカルタ―バンドンの「高速鉄道計画」をさらに延伸し、ジャカルタ―スラバヤの「高速化計画」と一体化させるという案は、昨年6月にアイルランガ調整相(経済担当)がジョコ・ウィドド大統領の意向として突如表明。このときジョコ大統領は「日本に再度参加してもらおう」との考えを持っていることも伝えられた。 しかしバンドンまでの「高速鉄道計画」で建設中の線路と、スラバヤまでの「高速化計画」で改良予定の在来線の線路とではゲージ(軌間・線路の幅)が異なるため、技術的には極めて困難だ。そのため日本側は報道を通じて知ったジョコ大統領の意向に困惑、消極的な姿勢に終始せざるを得なかった。 ところがこうした日本の姿勢を、インドネシア側は「インドネシアと中国の共同事業体への参加を日本が拒否した」と受け止めていた模様だ。 中国が受注したバンドンまでの「高速鉄道計画」は2016年に着工したものの、当初の完工予定である2019年という目標は土地収用などが難航したことなどから、2021年に延期されていた。 さらに2020年には折からのコロナ禍により建設は実質的に中断に追い込まれ、工期の見直しが再度行われ、完工は2022年9月まで再び延期されている。 共同事業体であるインドネシア・中国高速鉄道(KCIC)は、土地収用はほぼ終わり2020年末までに建設工事全体の進捗率を70%とすることを目標にするとしていた』、「ゲージ(軌間・線路の幅)が異なるため、技術的には極めて困難だ。そのため日本側は報道を通じて知ったジョコ大統領の意向に困惑、消極的な姿勢に終始せざるを得なかった。 ところがこうした日本の姿勢を、インドネシア側は「インドネシアと中国の共同事業体への参加を日本が拒否した」と受け止めていた模様だ」、日本も遠慮せず、もっとハッキリ主張すべきだ。
・『中国以外からの投資も歓迎 2015年9月に日中が争っていた「高速鉄道計画」が中国に受注されることになった際、当時の菅義偉官房長官は「(日本が入札から外された)経緯については理解できない。全く遺憾である」と厳しい姿勢を見せ、受注過程の不透明さに対する不満を露わにした。 そこに日本がFS中の「高速化計画」にまで「中国の参加要請」したことに関して、日本はこれまでのところ静観しているが、今後のインドネシア側の説明次第では態度を硬化させる可能性もあるだろう。 インドネシア側は「高速化計画に関しては、中国にだけ投資面での参画を求めているわけではなく、国際社会に広く募っている」として理解と支持を求めている。「もちろん日本の参加も待っている」としているが、日本以外の有力な投資参加国として韓国の名前も取りざたされており、状況は不透明になってきている』、フィージビリティ・スタディ(FS)をする際には、予め条件を明確にしてからやらないと、またまたタダ働きさせられてしまうことになる。
・『日本は中国の出方に要警戒 インドネシアの「高速鉄道計画」では煮え湯を飲まされた日本ではあるが、これまでのように「安全や技術、運用といった面での優位性」だけでは、海外のインフラ投資において「とにかく財政面で有利な条件を提示する」中国に太刀打ちできない可能性が高まっている。 協力するにしても民間企業が主体となる日本としては採算性を度外視するわけにはいかず、かつ鉄道運行に関わる安全性確保も図らねばならないというのが原則的な考え方である。 これに対し中国は「金は出す、労働者も派遣し突貫工事で短期に完成させる」という、国家総動員での中国方式を使い、インドネシアのみならずアフリカや東南アジアでのインフラ整備計画などに臨んでいる。 インドネシアが、「高速化計画」の財政面で再び中国に依存する事態になれば、高速化事業そのものへの中国の発言力や介入が強まる懸念も出てくる。 中国主導で進捗が遅れている「高速鉄道計画」と、日本が協力する「高速化計画」とをドッキングさせ、中国の財政力と日本の技術力とを引き出し、2つの鉄道計画をうまく成就させようという腹積もりなのかも知れないが、インドネシア政府の思惑に従ってしまうと、中国への技術流出の懸念なども高まる。かといって中国を目の前にして、海外でのインフラ事業展開のチャンスから手を引いてしまうのは、日本のインフラ産業の将来を閉ざすことににもなりかねない。果たして日本はどう対応するのか。中国の出方を見守りながら、難しい判断を求められることになる』、日本は「インドネシア」から手を引いて、勝手にやれと突き放すのも一案とは思うが、少なくとも、面子を捨てて、「インフラ輸出」の旗を下して、自然体で、損しないよう上手く立ち回るべきなのではなかろうか。
先ずは、昨年9月18日付け東洋経済オンラインが掲載したアジアン鉄道ライターの高木 聡氏による「国が推進「オールジャパン鉄道輸出」悲惨な実態 円借款事業でも車両は海外メーカー製導入へ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/375911
・『案の定というほかない。9月9日、ミャンマーの現地紙ミャンマータイムズは、ミャンマー国鉄(MR)幹部の話として、日本が円借款事業として進める「ヤンゴン・マンダレー鉄道整備事業(フェーズⅡ)」向けの電気式気動車180両をスペインの鉄道車両メーカー、CAFと三菱商事から調達する計画であると報じた。 現地の鉄道関係者によると、CAFの受注はほぼ確定しているという。この通り進めば、日本企業の受注を前提とした「本邦技術活用条件(STEP)適用案件」(日本企業からの調達が求められる)にて、日本の車両メーカーの応札なしという事態が再び発生したことになる。 これまでも筆者はミャンマーにおける鉄道整備事業を追跡し、その危うさを指摘してきたが、最悪の方向に進みつつある。政府が推し進める「オールジャパンの鉄道輸出」の悲惨な実態をレポートする』、「「本邦技術活用条件(STEP)適用案件・・・にて、日本の車両メーカーの応札なしという事態」、どういうことだろう。
・『「日本製」24両で打ち止めか ヤンゴン・マンダレー鉄道整備事業は、ミャンマー第1の都市ヤンゴンと第2の都市マンダレーの間、約620kmの老朽化した設備を改修・近代化する事業である。新型車両の導入により、所要時間は現行の約14時間から8時間に短縮される予定だ。さらに、これと並行して、ヤンゴンの「環状線改良事業」も進んでいる。 車両関係でいえば合計270両という大量受注のチャンスが車両メーカーにはあった。しかし、5月16日付記事「再び中古車両頼み?日本の鉄道輸出『前途多難』」でお伝えした通り、環状線改良事業においても入札不調から調達期限を遵守できず、苦肉の策として中古車両を無償譲渡し、なんとか日本側の面目を保っている状況である。フェーズⅡ向け車両をCAFが受注すれば、実際に日本から輸出されるのは「フェーズⅠ」と呼ばれる先行整備区間向けの24両のみという結果に終わることになる。 折しも、フェーズⅠ向けのうち最初の6両がメーカーの新潟トランシスから出荷され、9月5日にミャンマーに上陸したところだった。ちなみに、同国はコロナ禍で外国人入国禁止措置が続いているが、車両立ち上げに関わる関係者はチャーター便にて現地入りしている。) 車両については、今後の246両も新潟トランシスが同一設計の車両(環状線向けは通勤仕様)を導入するだろうというのが一般的な見方だった。ただでさえ製造コストのかさむ電気式気動車であり、同社にとっては初の製造である。量産に移行してようやくペイできるかどうかといったところだろう。それでも、続いての入札には参加しなかったのだ。 筆者の個人的感覚で大変恐縮であるが、この新型車両が公の場に現れたとき、「これはないな……」というのが第一印象であった。良く言えばノスタルジックな車両、悪く言えば時代遅れなのである。 もちろん、日本の最新技術が搭載されていることは百も承知である。筆者がいうのはそのデザインである。そこからは、予算を限界まで削ったのであろうことが伝わってくる。新生MRのフラッグシップとなる車両である。これが発注者たるMRが要望した姿なのだろうかと。この時に悪い予感はあった。だから、案の定なのである』、「デザイン」はともかく、「電気式気動車」の「続いての入札には参加しなかった」理由は何なのだろう。
・『国内メーカーの製造能力に課題 それからもう一つ、JICAが公開している「ミャンマー国ヤンゴン・マンダレー鉄道整備事業フェーズⅡ準備調査ファイナルレポート」には車両の調達計画について気になる記述がある。 「現地組立を行わないことが決まったのち、特急列車用車両の調達についての検討が行われ、最終的に 180 両を調達することが決まった。複数の日本の車両製造業者に本プロジェクト期間中の製造能力を確認した結果、第一編成の引き渡しが着手から 36 か月、第二編成以降の引渡しは 1ヶ月/編成(6 両)の間隔が必要と判明したことから、平成 25 年(※)5月までに調達が可能と判断し MR に提案した。しかしながら、最終段階にて MR 側は 2024 年 12 月までにすべての調達が終了するよう強く要請し、結果として、日本側は調達のスケジュールの前倒しをすることでその要請を受け入れることとしたが、詳細設計において、メーカーの製造能力とスケジュールに関する詳細な調査が必要である」(原文ママ)(※平成25年は2025年の誤記であると思われる) なお、このレポートには同時に、前提条件として、「フェーズⅠの車両と共通して運用するために同じ仕様とすることが求められる」とも書かれていることを付け加えておく。 前述のミャンマータイムズの報道には、フェーズⅠ向けの新潟トランシス製車両の今後の到着予定も記されており、それによれば今年12月、そして2021年2月、4月の計3回に分けて残りの18両が現地に搬入されるという。これが正しければ、新潟トランシスでは現状、生産可能なのは2カ月に1編成(6両)ということになる。 さて、CAFと三菱商事という組み合わせを聞いて、思い当たる節がある方もいるのではないかと思う。フィリピンのマニラ首都圏大量旅客輸送システム拡張事業(マニラLRT1号線の延伸計画)である。 「本邦技術活用条件(STEP)適用案件」ながら、2016年に応札者なしで初回入札が不調に終わり、その後も応じる国内メーカーはなく、2017年に三菱商事とCAFのコンソーシアムが受注した。 この入札不調の後、国土交通省は「鉄道産業の抱える課題及び対応の方向性」を発表(2016年8月22日付記事「鉄道『オールジャパン」のちぐはぐな実態』」参照)したわけであるが、状況は何も変わらなかったのだ。 今回もマニラと同じスキームだとすれば、車両製造はCAFが実施することになるものの、電気式気動車の主回路装置部分については三菱電機が納入することになるだろう。新潟トランシス製車両も同社製の電装品を採用している。 ミャンマータイムズの記事によると、金額は180両で4億900万米ドルといい、1両あたり日本円にしておよそ2億4000万円だ。新潟トランシス製車両よりもやや安い』、「2016年に応札者なしで初回入札が不調に終わり、その後も応じる国内メーカーはなく、2017年に三菱商事とCAFのコンソーシアムが受注した」、「入札が不調に終わ」った理由は何だったのだろう。
・『日本の「鉄道輸出」の未来は? 現地報道によれば、環状線向け車両66両についてもCAF製車両が導入されるようだ。こうなってくると、今後の日本には2つの未来が待ち構えているといえそうだ。 まず1つ目は、日本の重電メーカー+海外車両メーカーという組み合わせが鉄道海外輸出の主流になるという未来である。日本製よりも安く、デザインなどもより柔軟に対応できる。しかも核心部は日本製であるため信頼が持てる。 日本政府の言う「官民一体」に当たらないだけで、現にこのような組み合わせの車両輸出は多い。円借款案件でもデリーメトロや北京地下鉄、武漢都市鉄道、マニラLRT2号線などがそうだ。当時「本邦技術活用条件(STEP)適用案件」という枠組みがなく、政府間契約において日本メーカーが全く海外メーカーに太刀打ちできなかったというのが正しいわけだが、これらの反省から、近年の鉄道案件は基本的に日本タイドとなった。 それが、いつの間にやら安倍政権の下「オールジャパン」などと掲げられるようになった。 ミャンマー向け車両受注では、すでにJR東日本・JR北海道向けに、類似した仕様の電気式気動車を量産している川崎重工が大本命と関係者の誰しもが予想していた。しかし同社は応札しなかった。 ほかに電気式気動車を製造する可能性があるメーカーとしては日本車輛製造、日立製作所なども挙げられるが、前者はアメリカ、そしてインドネシア案件で大幅な損失を出しており、当分海外案件には手を出さないだろうというのがもっぱらの噂である。車両輸出に積極的な後者は、タイのバンコクレッドライン、ベトナムのホーチミンメトロと円借款案件を抱えており手いっぱいだ。 その結果、海外案件から最も遠いと思われていた新潟トランシスが受注したわけであるが、フェーズⅡには繋がらなかった。 このような状況を反映してか、2018年には「円借款・本邦技術活用条件(STEP)の制度改善」が実施されており、入札不調の場合などの「原産地ルール」がやや緩和されている。日本製品が使用されていれば、どこで組み立てられようが構わないのである。つまり、「オールジャパンの鉄道輸出」など、実態の伴わない幻影になってゆく可能性が高い』、「近年の鉄道案件は基本的に日本タイドとなった。 それが、いつの間にやら安倍政権の下「オールジャパン」などと掲げられるようになった」、実際には「日本タイド」にはなっていないようだ。
・『日本への信頼失墜を招く恐れも? そして2点目は、CAF製車両がミャンマーの環境に適さず、走行が困難になった場合、ミャンマー政府からの日本への信頼が失墜するという未来である。 これは最悪のシナリオだ。日本製機器が採用されても、その他の装置や仕様は完全にヨーロッパタイプの車両となる模様だ。ただでさえ車両メンテナンスに苦慮しているMRで2種類の新型車両が入ることになる。それだけではなく、すでに日本側は「鉄道車両維持管理・サービス向上プロジェクト」などを通じて、日本製の気動車車両の導入を前提とした教育を行っている。そこにヨーロッパタイプの車両が入ったとき、MRが対応できるかどうかは未知数である。 また、安く車両を売ってメンテナンスで稼ぐ(消耗品も含め純正品以外使えない)というヨーロッパ式のシステムに資金力のないMRが対応できないことが予想される。故障したら最後、スペアパーツが購入できず、車両は車庫で朽ち果てることにもなりかねない。 故障で使えないということになれば、メーカーがどこであれ日本が入れた車両であることに変わりはなく、言い逃れはできないだろう。最終的に日本が無償援助などでリハビリをすることになれば、結局高くつくのである。中国、韓国・インド、それにドイツがミャンマーへの鉄道支援を着々と進めている中で、これは大きな足かせにもなるだろう。 そもそもMRは当初、より安価でメンテナンスが容易な機関車+客車編成の導入を求めていた。とくに特急用車両ならば、費用対効果で見れば圧倒的に有利な方式である。しかし、今や日本では大型ディーゼル機関車も客車もほとんど生産していない。だから、日本側は電気式気動車の導入を半ば強引に提案した。しかし、それすらも導入できなかったのである。あまりにもだらしない話である。 簡単に言えば、日本は海外に鉄道車両を輸出できるほどの力がないのである。それを政府が認めないから歪が出るのだ。いっそのこと、「鉄道設備・信号輸出」にでも名前を変えたらどうだろうか。車両輸出に比べれば、まだ健闘している。すべてを「オールジャパン」でやるというのは非現実的だ』、「日本は海外に鉄道車両を輸出できるほどの力がないのである。それを政府が認めないから歪が出るのだ」、政府が「インフラ輸出」の旗を振り続けているのは、余りに無責任だ。
・『日本は「身の丈」を考えよ 筆者は日本の車両メーカーに技術がないと言っているのではない。電気式気動車にしても国内需要の少なさでコストダウンは難しく、従来の液体式気動車もメンテナンス技術が失われつつある。大型ディーゼル機関車も然りだ。海外輸出を満たせるほどの国内需要がないのが最大の要因だと言いたいのだ。 現状、日本が海外向けに生産できるのは通勤電車と新幹線だけというのは業界の人間ならば誰しもが認めることだ。しかし、世界に日本の高性能な通勤電車、そして新幹線を必要とする国がどれほどあるのだろうか。 政府は世界に日本の技術を広めるなどという崇高な理想を語る前に、国内の疲弊しきった鉄道システムを再興させることのほうが先決ではないか。利益至上主義で長距離・夜行列車は消え、台風が来るたびに被災したローカル線が復活することなく消えていく世の中だ。これは途上国以下のレベルである。 「官民一体となった鉄道インフラ輸出」など、言わば「人口が減ったから外国人を呼べばいい」と同じ安直な発想だ。身の丈も考えずに「オールジャパン」「鉄道海外輸出」と振りかざす日本政府、国交省ならびに関係者は猛省すべきである。そして、JICAは国民の血税をつぎ込んだ揚げ句、誰も得をしない開発援助案件など実行すべきでない』、全く同感である。
次に、1月18日付けYahooニュースが転載したGLOBE「あれから6年 日本が勝ち取った「タイ新幹線計画」は幻に終わるのか?」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/69d69b0185612363662dcbe1ff782fe69ef9691d
・『タイの首都バンコクと北部チェンマイを結ぶ高速鉄道(672キロ)の建設が、ぴくりとも動かない。日本とタイの政府の間で、新幹線の投入に合意してからまもなく6年。日本のインフラ輸出の目玉の一つと期待された事業は、まぼろしと消えゆくのか』、「6年」経っても「ぴくりとも動かない」とはただ事ではない。
・『6年越し1ミリも進まず その舞台裏は バンコクから北へ約700キロ。観光客にも人気の古都チェンマイとの間には、飛行機や長距離バスが頻繁に往来している。格安航空なら片道数千円だ。チェンマイ中心部の人口は13万人程度。在来線で14時間かかるところが、高速鉄道で3時間半に短縮されたとしても、集客力には疑問符がつきまとう。 日本とタイの両国政府がバンコク―チェンマイに新幹線を整備する協力(正しくは「定」?)に合意したのは、2015年のこと。いまも実現に向けて調査が続いている。関係者の間では「永遠の調査路線」とも呼ばれ、タイの地元紙もときおり、「廃案検討」(英字紙バンコクポスト)と伝える。 鉄道ビジネスにかかわる日本企業の幹部は、あっさりと言う。「進まないのはなぜかって? 採算に合わない。それに尽きる」。事業費は、総額5000億バーツ(約1兆7千億円)近くと試算されている。一期工事として、バンコクから約380キロほど先にある都市ピッサヌロークまでに区切って建設するとしても、2700億バーツ、日本円にして1兆円近くかかるという。 日本政府はタイ政府に円借款を供与し、日本製の車両や信号など新幹線システムを売ったり沿線開発にかかわったりすることで、日本企業が潤うともくろんだ。この区間が赤字になったとしても日本には関係なく、タイ政府が公共交通を支えるだろう、と。 だが、タイ側は「新幹線」の運営会社を両国で設立し、日本企業も沿線でのビジネスだけでなく鉄道事業の経営を担ってほしい、と期待した。赤字になれば、ともに責任を負う仕組みだ。 日本企業はそっぽを向いてしまった。「中国の国有企業じゃあるまいし、民間企業がそんなリスクをとれるわけがない。日本政府の出資はさらにありえないでしょう。非現実的な計画を、両国の政治家がアドバルーンとして打ち上げた」。この幹部は解説する。 そんな計画が、どうして生まれ落ちたのだろう。 時計の針を、2014年まで巻き戻してみよう。 14年5月。タイで軍事クーデターによって成立した政権が発足した。元陸軍司令官のプラユット暫定首相が、軍事政権発足後に初めて来日したのは15年2月のこと。安倍晋三首相(当時)と会談し、いくつかの経済協力に合意した。「新幹線」は含まれていなかったが、日本はその呼び水として在来線の複線化工事などを約束した。翌3月。第3回国連防災世界会議に出席するため再び来日したプラユット氏に対し、安倍氏は新幹線を念頭に「鉄道協力」を持ちかけた。一行には、2月は東海道新幹線を東京から新大阪まで、3月は東北新幹線を東京から仙台まで試乗してもらった。 二つの来日の受け入れにかかわった日本政府高官は当時、私の取材に対して、こう話していた。「タイ側の反応はとても良かった。ほっとした。タイは中国とも話を進めており、全路線をとられてしまうわけにはいかない。新幹線をなんとしても走らせたい」 日本政府は焦っているように見えた。理由がある。これに先立つ14年12月。プラユット氏は中国を訪問していた。習近平国家主席、李克強首相と会談した。高速鉄道の北京―天津間を夫人とともに試乗し、高速鉄道の整備に向けた協力に合意した。ラオスに近い東北部ノンカイからバンコクを通りタイ湾に抜けるルート(約734キロ)など2区間である。「鉄道を中国から買い、タイからはコメやゴムを売る」という物々交換のような約束も、話題になった。 中国の動きが日本を刺激した。巻き返すべく、日本政府はプラユット氏の2度の来日をとらえて攻勢をかけたのだった。15年5月には、和泉洋人首相補佐官をバンコクに派遣した。安倍政権、菅義偉政権を通じて首相補佐官を務める和泉氏は、国土交通省(旧建設省)出身。国際協力銀行(JBIC)の前田匡史総裁(当時専務)とともに、日本のインフラ輸出の旗振り役である。その和泉氏が、タイ政府との間で高速鉄道の整備を協力する約束をとりつけた。この月末にタイのプラジン運輸相(当時)が来日し、閣僚間で正式に合意する。和泉氏も立ち合った。 日本の国土交通省の発表によれば、覚書には「バンコク~チェンマイ間高速鉄道に関し、日本の高速鉄道技術(新幹線)の導入を前提として詳細な事業性調査や事業スキーム等を日タイ間で協議」することが書き込まれている。 プラジン氏はタイメディアに対して「(タイ政府が)12年から調査をしており、日本側が納得できるデータが集まっている」と語り、翌16年にも着工できるとの考えを示した。今から思えば、あまりに甘い見通しである。 もっとも百戦錬磨の和泉氏らが、その見通しを真に受けていたとは思えない。タイの鉄道建設は時間がかかる。高速鉄道にしても、1990年代から計画はあったが、通貨危機や政変もあって立案されては消えていった。日本は中国と競い合いながら10年ほど前から強い関心を寄せてきた。日本の政治家や官僚は、タイ側の甘いささやきにのってみせることで、新幹線輸出を勝ち取った絵を描きたかったのだろう。 このとき合意を受けて、朝日新聞も「タイ、新幹線を採用 日本と合意」(15年5月28日朝刊)と報じた。「JR東日本、日立製作所、三菱重工業が連合を組み、事業への参加を検討している。インフラ輸出を成長戦略の柱の一つに掲げる安倍政権は、新幹線のトップセールスに力を入れている」。1兆円を超す総事業費の調達を課題としながらも、実現すれば「2007年の台湾に続く2例目の新幹線輸出」と期待が記されていた』、「タイの鉄道建設は時間がかかる。高速鉄道にしても、1990年代から計画はあったが、通貨危機や政変もあって立案されては消えていった。日本は中国と競い合いながら10年ほど前から強い関心を寄せてきた。日本の政治家や官僚は、タイ側の甘いささやきにのってみせることで、新幹線輸出を勝ち取った絵を描きたかったのだろう」、客観的にみれば、どう考えても日本側は中国よりも不利だ。
・『しかし、いや、案の定というべきか。プラジン氏がささやいた16年の着工はありえなかった。採算が疑問視されるなかで、日・タイ両政府は16年、バンコクからピッサヌロークまでを優先して建設することで合意した。全線の整備に踏み出すには、あまりにも採算が見通せなかったからだ。黒字化には一日あたり5万人以上の乗客が必要だが、1万人程度にとどまるとみられていた。 翌17年12月、日本政府は建設に向けた調査報告書をまとめ、タイ政府に渡した。ピッサヌロークまでの事業費は2700億バーツ(1兆円弱)、開業目標は2025年。タイの交通当局は当時「沿線開発によって長期的には黒字になる」と日本の国土交通省から説明を受けたと語っている。調査費は約7億円を使った。今も調査が続いているが、問題なのは巨額の円借款を用いることを前提とする事業にもかかわらず、結果の詳細は今も公表されていないことだ。日本政府は「政府間で協議中で事業費なども調整中のため公表の予定はない」(国土交通省鉄道局)と説明する。 タイに先行にして進むインドへの新幹線輸出にしても、工期の大幅な遅れと事業費の膨張が予想されている。こうした現況について、日本政府は想定とのずれや今後の見通しについて、きちんと情報開示すべきだ。 習政権の対外戦略「一帯一路」に沿って雲南省からラオスを抜けてタイまで高速鉄道を延ばしたい中国。安倍政権(当時)のもとでインフラ輸出を経済政策アベノミクスの一つの目玉とする日本。日中両国を競わせて、インフラ整備をよりお得に進めたいタイ。そんな3カ国の思惑が交錯しながら、タイを舞台にする高速鉄道の計画は動いてきた。 興味深い事実がある。タイを舞台にした日中の高速鉄道輸出の競いあいは、国際入札ではない。日中とも軍政の指名によって事業を獲得している。米国のオバマ政権(当時)が軍政に距離をおく傍らで進んだ。 オバマ氏は退任までプラユット氏をホワイトハウスには入れなかった。「早期の民政復帰」や「人権の尊重」を求めて高官の交流も止めていた。 それに比べれば、日本政府は中国政府同様、タイが軍事政権であるということは気にかけなかった。タイは日本企業にとって5千社以上が進出する東南アジアの拠点である。政治体制を問わぬよう日本の経済界の日本政府への要望が強かったからだ。日本の政府や企業には「日本が引くと中国に攻め込まれる」という危機感もあった。軍政時代のミャンマーに対して、日本が欧米に歩調をあわせて距離をとったことは、中国に商機を奪われた失敗として記憶に刻まれていた。 タイ軍政と米国との首脳会談が成立したのは、人権問題で中国以外の国に対してはオバマ政権ほどに注文をつけなかったトランプ政権になってからだ。台頭する中国を牽制する意味もあって、オバマ氏がやはり距離を置いていたフィリピンの強権的なドゥテルテ政権とも関係を修復した。 人権や民主主義をより重視するバイデン次期政権は、非民主的な国々に対してどんな対応をとるのか。価値観をどのような形でビジネスに持ち込むか。2019年に軍政から総選挙を通じて民政へ移管したタイではあるが、野党つぶしなどを受けて、親軍政勢力が政権を維持している。王室を含む権威主義的な体制に対して若者が批判を強めて街に出ている。タイなどの政治情勢とバイデン次期政権の動きしだいでは、日本はアジアで鉄道を含む経済協力のあり方を問われることになるかもしれない さて、タイの高速鉄道は、中国が協力する路線の歩みものろい。バンコク―ノンカイ線(約606キロ)は着工から3年で、建設できたのは3・5キロだけ。中国メディアに「かたつむり」と揶揄されるほどだ。 中国人技術者の滞在ビザの問題や建設資金の調達方法でもめた。タイ政府も世論も中国主導の建設を警戒した。中国の政府系銀行による高い金利を嫌って自ら調達することに切り替えた。車両など高速鉄道システムや技術は買っても、土木工事は自国の企業中心に持ち込んだ。ようやく工事が始まったのは2017年のこと。車両などの納入契約がまとまったのは20年末になってからだ。現在も環境アセスメントを終えられず、着工できない区間もある。第一区間とするナコンラチャシマ(約250キロ)までの開業目標は、23年から25年へ先送りされている』、「バンコクからピッサヌロークまでを優先して建設することで合意」、最終目的地である空港が入らなくて、採算がとれるのだろうか。「問題なのは巨額の円借款を用いることを前提とする事業にもかかわらず、結果の詳細は今も公表されていないことだ。日本政府は「政府間で協議中で事業費なども調整中のため公表の予定はない」(国土交通省鉄道局)と説明する」、少なくとも「協議」終了後は公開すべきだろう。
・『『王国の鉄路』や『タイ鉄道と日本軍』の著者で、タイの鉄道に詳しい横浜市立大学教授の柿崎一郎氏は指摘する。「中国だけでやっていれば今ごろ開業していたかもしれない。タイ政府は自らの利益や合法性を損なわないように中国主導を認めなかった。かたつむりかもしれないが、タイのペースで進めている。中国とラオスの鉄路は2021年末につながるが、中国からタイまでが一本の鉄路で結ばれるまでにはまだ10年かかるかもしれない」 1950年代の東西冷戦時代、ラオスがまだ「西側」だったころのこと。共産ドミノを回避したい米国は、ラオスへの生命線となるタイ東北部の鉄路を、国道とあわせて無償援助で敷いた。同じルートでいま、中国の技術を用いた鉄道が作られつつある。「国際情勢の変化を映している。米国にとって東南アジアの戦略的重要性が減った。その隙をついて、中国は権威主義的な政権との距離を縮めている」と柿崎氏。 タイ政府がもっとも力を入れる高速鉄道も視界不良だ。首都圏の3空港をつなぎ、日本企業も進出する東部経済回廊(EEC)を走る路線である。タイ最大の財閥チャロンポカパン(CP)グループが中国企業との協力で整備する。21年に着工し、26年の開業を目指すが、用地の引き渡しが遅れ、関係する企業の動きは鈍い。 中学時代をタイで過ごした柿崎氏がバンコク―チェンマイ間の寝台列車に初めて乗ったのは、1980年代半ば。日本製の車両だった。大学生からタイ鉄道研究を始め、約4000キロに及ぶタイの鉄路を乗り尽くしている。「もっとも必要なのはバンコク首都圏の渋滞を解消する都市鉄道の新設と、1割ほどしか進んでいない在来線の複線化でしょう」 バンコク北部で、壮大な新しい駅の建設が佳境を迎えている。バンスー中央駅。この駅とともに2021年11月にレッドライン(約26キロ)と呼ばれる都市交通も開業する予定だ。合計で2700億円規模の円借款が投じられ、三菱重工業や住友商事など日本企業が参画している。赤いつややかな車両は、日立製作所が笠戸事業所(山口県)で製造したものだ。電化がほとんど進んでいないタイでは珍しい電車で、最高時速120キロで走る。 プラットホームは24を数え、東南アジア最大だという。ホームの4本はレッドライン、8本は在来線、残る12本は高速鉄道用に残しておくそうだ。日本の新幹線や中国の高速鉄道が立派なホームに滑りこむ日は、いつか来るのだろうか』、「タイ政府は自らの利益や合法性を損なわないように中国主導を認めなかった」、「タイ政府は」意外に賢明なやり方をしているようだ。「タイ」で「もっとも必要なのはバンコク首都圏の渋滞を解消する都市鉄道の新設と、1割ほどしか進んでいない在来線の複線化でしょう」、新幹線計画よりは現実的だ。今後の「タイ政府」の舵取りを注目したい。
第三に、1月22日付けJBPressが掲載したフリーランス記者の大塚 智彦氏による「日本協力の在来線高速化にインドネシアが中国招請 高速鉄道計画で飲まされた煮え湯、今度は在来線高速化計画でも?」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63758
・『王毅外相に直接要請 地元報道によると、1月12日にインドネシア訪問中の中国・王毅外相とルフト・パンジャイタン調整相(海事・投資担当)が会談。その中で、ジャカルタ―バンドン間の「高速鉄道計画」を、バンドンからさらに延伸してジャカルタ―スラバヤを結ぶ「高速化計画」につなげ、途中から一体化する構想への財政面での参加・支援をインドネシア側から中国に求めたのだという。 報道によれば、このインドネシア側の意向は、ジョコ・ウィドド大統領から習近平国家主席にもすでに伝えられていたという。 中国側はインドネシア側の要請を受けて「計画を調査する」との姿勢を見せ、今後専門家チームをインドネシアに派遣する予定だ。インドネシアの大規模インフラ整備計画への参画は、中国が世界的に進める「一帯一路」構想にもかなっており、前向きに検討する可能性が極めて高いとみられる』、「インドネシア側」が「中国」にすり寄っているのであれば、突き放してみるのも一考に値する。
・『日本の消極姿勢で中国参加要請か ジャカルタ―バンドンの「高速鉄道計画」をさらに延伸し、ジャカルタ―スラバヤの「高速化計画」と一体化させるという案は、昨年6月にアイルランガ調整相(経済担当)がジョコ・ウィドド大統領の意向として突如表明。このときジョコ大統領は「日本に再度参加してもらおう」との考えを持っていることも伝えられた。 しかしバンドンまでの「高速鉄道計画」で建設中の線路と、スラバヤまでの「高速化計画」で改良予定の在来線の線路とではゲージ(軌間・線路の幅)が異なるため、技術的には極めて困難だ。そのため日本側は報道を通じて知ったジョコ大統領の意向に困惑、消極的な姿勢に終始せざるを得なかった。 ところがこうした日本の姿勢を、インドネシア側は「インドネシアと中国の共同事業体への参加を日本が拒否した」と受け止めていた模様だ。 中国が受注したバンドンまでの「高速鉄道計画」は2016年に着工したものの、当初の完工予定である2019年という目標は土地収用などが難航したことなどから、2021年に延期されていた。 さらに2020年には折からのコロナ禍により建設は実質的に中断に追い込まれ、工期の見直しが再度行われ、完工は2022年9月まで再び延期されている。 共同事業体であるインドネシア・中国高速鉄道(KCIC)は、土地収用はほぼ終わり2020年末までに建設工事全体の進捗率を70%とすることを目標にするとしていた』、「ゲージ(軌間・線路の幅)が異なるため、技術的には極めて困難だ。そのため日本側は報道を通じて知ったジョコ大統領の意向に困惑、消極的な姿勢に終始せざるを得なかった。 ところがこうした日本の姿勢を、インドネシア側は「インドネシアと中国の共同事業体への参加を日本が拒否した」と受け止めていた模様だ」、日本も遠慮せず、もっとハッキリ主張すべきだ。
・『中国以外からの投資も歓迎 2015年9月に日中が争っていた「高速鉄道計画」が中国に受注されることになった際、当時の菅義偉官房長官は「(日本が入札から外された)経緯については理解できない。全く遺憾である」と厳しい姿勢を見せ、受注過程の不透明さに対する不満を露わにした。 そこに日本がFS中の「高速化計画」にまで「中国の参加要請」したことに関して、日本はこれまでのところ静観しているが、今後のインドネシア側の説明次第では態度を硬化させる可能性もあるだろう。 インドネシア側は「高速化計画に関しては、中国にだけ投資面での参画を求めているわけではなく、国際社会に広く募っている」として理解と支持を求めている。「もちろん日本の参加も待っている」としているが、日本以外の有力な投資参加国として韓国の名前も取りざたされており、状況は不透明になってきている』、フィージビリティ・スタディ(FS)をする際には、予め条件を明確にしてからやらないと、またまたタダ働きさせられてしまうことになる。
・『日本は中国の出方に要警戒 インドネシアの「高速鉄道計画」では煮え湯を飲まされた日本ではあるが、これまでのように「安全や技術、運用といった面での優位性」だけでは、海外のインフラ投資において「とにかく財政面で有利な条件を提示する」中国に太刀打ちできない可能性が高まっている。 協力するにしても民間企業が主体となる日本としては採算性を度外視するわけにはいかず、かつ鉄道運行に関わる安全性確保も図らねばならないというのが原則的な考え方である。 これに対し中国は「金は出す、労働者も派遣し突貫工事で短期に完成させる」という、国家総動員での中国方式を使い、インドネシアのみならずアフリカや東南アジアでのインフラ整備計画などに臨んでいる。 インドネシアが、「高速化計画」の財政面で再び中国に依存する事態になれば、高速化事業そのものへの中国の発言力や介入が強まる懸念も出てくる。 中国主導で進捗が遅れている「高速鉄道計画」と、日本が協力する「高速化計画」とをドッキングさせ、中国の財政力と日本の技術力とを引き出し、2つの鉄道計画をうまく成就させようという腹積もりなのかも知れないが、インドネシア政府の思惑に従ってしまうと、中国への技術流出の懸念なども高まる。かといって中国を目の前にして、海外でのインフラ事業展開のチャンスから手を引いてしまうのは、日本のインフラ産業の将来を閉ざすことににもなりかねない。果たして日本はどう対応するのか。中国の出方を見守りながら、難しい判断を求められることになる』、日本は「インドネシア」から手を引いて、勝手にやれと突き放すのも一案とは思うが、少なくとも、面子を捨てて、「インフラ輸出」の旗を下して、自然体で、損しないよう上手く立ち回るべきなのではなかろうか。
タグ:東洋経済オンライン 高木 聡 インフラ輸出(その11)(国が推進「オールジャパン鉄道輸出」悲惨な実態 円借款事業でも車両は海外メーカー製導入へ、あれから6年 日本が勝ち取った「タイ新幹線計画」は幻に終わるのか?、日本協力の在来線高速化にインドネシアが中国招請 高速鉄道計画で飲まされた煮え湯 今度は在来線高速化計画でも?) 「国が推進「オールジャパン鉄道輸出」悲惨な実態 円借款事業でも車両は海外メーカー製導入へ」 日本が円借款事業として進める「ヤンゴン・マンダレー鉄道整備事業(フェーズⅡ)」向けの電気式気動車180両をスペインの鉄道車両メーカー、CAFと三菱商事から調達する計画であると報じた 「本邦技術活用条件(STEP)適用案件 にて、日本の車両メーカーの応札なしという事態 「日本製」24両で打ち止めか 「デザイン」はともかく、「電気式気動車」の「続いての入札には参加しなかった」理由は何なのだろう 国内メーカーの製造能力に課題 「2016年に応札者なしで初回入札が不調に終わり、その後も応じる国内メーカーはなく、2017年に三菱商事とCAFのコンソーシアムが受注した」、「入札が不調に終わ」った理由は何だったのだろう 日本の「鉄道輸出」の未来は? 近年の鉄道案件は基本的に日本タイドとなった。 それが、いつの間にやら安倍政権の下「オールジャパン」などと掲げられるようになった」、実際には「日本タイド」にはなっていないようだ。 日本への信頼失墜を招く恐れも? 日本は海外に鉄道車両を輸出できるほどの力がないのである。それを政府が認めないから歪が出るのだ」、政府が「インフラ輸出」の旗を振り続けているのは、余りに無責任だ 日本は「身の丈」を考えよ 身の丈も考えずに「オールジャパン」「鉄道海外輸出」と振りかざす日本政府、国交省ならびに関係者は猛省すべきである。そして、JICAは国民の血税をつぎ込んだ揚げ句、誰も得をしない開発援助案件など実行すべきでない yahooニュース globe 「あれから6年 日本が勝ち取った「タイ新幹線計画」は幻に終わるのか?」 タイの首都バンコクと北部チェンマイを結ぶ高速鉄道(672キロ)の建設が、ぴくりとも動かない 6年越し1ミリも進まず その舞台裏は タイの鉄道建設は時間がかかる。高速鉄道にしても、1990年代から計画はあったが、通貨危機や政変もあって立案されては消えていった。日本は中国と競い合いながら10年ほど前から強い関心を寄せてきた。日本の政治家や官僚は、タイ側の甘いささやきにのってみせることで、新幹線輸出を勝ち取った絵を描きたかったのだろう」、客観的にみれば、どう考えても日本側は中国よりも不利だ 「バンコクからピッサヌロークまでを優先して建設することで合意」、最終目的地である空港が入らなくて、採算がとれるのだろうか 「問題なのは巨額の円借款を用いることを前提とする事業にもかかわらず、結果の詳細は今も公表されていないことだ。日本政府は「政府間で協議中で事業費なども調整中のため公表の予定はない」(国土交通省鉄道局)と説明する」、少なくとも「協議」終了後は公開すべきだろう タイ政府は自らの利益や合法性を損なわないように中国主導を認めなかった」、「タイ政府は」意外に賢明なやり方をしているようだ 「タイ」で「もっとも必要なのはバンコク首都圏の渋滞を解消する都市鉄道の新設と、1割ほどしか進んでいない在来線の複線化でしょう」、新幹線計画よりは現実的だ。今後の「タイ政府」の舵取りを注目したい JBPRESS 大塚 智彦 「日本協力の在来線高速化にインドネシアが中国招請 高速鉄道計画で飲まされた煮え湯、今度は在来線高速化計画でも?」 王毅外相に直接要請 日本の消極姿勢で中国参加要請か ゲージ(軌間・線路の幅)が異なるため、技術的には極めて困難だ。そのため日本側は報道を通じて知ったジョコ大統領の意向に困惑、消極的な姿勢に終始せざるを得なかった。 ところがこうした日本の姿勢を、インドネシア側は「インドネシアと中国の共同事業体への参加を日本が拒否した」と受け止めていた模様だ」、日本も遠慮せず、もっとハッキリ主張すべきだ 中国以外からの投資も歓迎 フィージビリティ・スタディ(FS)をする際には、予め条件を明確にしてからやらないと、またまたタダ働きさせられてしまうことになる 日本は中国の出方に要警戒 日本は「インドネシア」から手を引いて、勝手にやれと突き放すのも一案とは思うが、少なくとも、面子を捨てて、「インフラ輸出」の旗を下して、自然体で、損しないよう上手く立ち回るべきなのではなかろうか。