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台湾(その2)(大前研一「米軍予想"6年以内に台湾有事"はそもそもアメリカが元凶だ」 沖縄 横須賀 横田は標的になる、台湾有事に備え「日本の曖昧性」放置できない事情 アメリカとともに対中抑止構築のための議論を台湾有事に備え「日本の曖昧性」放置できない事情、米国の専門家も危惧 台湾防衛で米国の「弾除け」に使われる日本 日本に「台湾の防衛は日本の防衛」と認める覚悟はあるのか?) [世界情勢]

台湾については、昨年8月4日に取上げた。今日は、(その2)(大前研一「米軍予想"6年以内に台湾有事"はそもそもアメリカが元凶だ」 沖縄 横須賀 横田は標的になる、台湾有事に備え「日本の曖昧性」放置できない事情 アメリカとともに対中抑止構築のための議論を台湾有事に備え「日本の曖昧性」放置できない事情、米国の専門家も危惧 台湾防衛で米国の「弾除け」に使われる日本 日本に「台湾の防衛は日本の防衛」と認める覚悟はあるのか?)である。

先ずは、6月3日付けプレジデント 2021年6月18日号が掲載したビジネス・ブレークスルー大学学長の 大前 研一氏による「大前研一「米軍予想"6年以内に台湾有事"はそもそもアメリカが元凶だ」 沖縄、横須賀、横田は標的になる」を紹介しよう。
・『米国追随で中国と敵対するな2021  年4月16日(日本時間17日)に行われた菅義偉首相とジョー・バイデン米大統領による日米首脳会談を受け、両国が発表した共同声明に、台湾問題が盛り込まれた。これは1972年の日中国交正常化以来初めてのことだ。 フィリップ・デービッドソン米インド太平洋軍司令官(当時)が3月に米上院軍事委員会の公聴会で、中国が6年以内に台湾に武力侵攻する可能性があると発言するなど、ここにきてアメリカは中国に対する警戒を強めている。共同声明で台湾に言及したのは、中国をけん制したいアメリカの意向であり、日本はそれに従ったのだろう。 日本はこれまでも、事あるごとにアメリカの尻馬に乗ってきた。だから今回もアメリカと歩調を合わせ、対中国強硬姿勢をとることをよしとしているのかもしれない。しかし、同盟国だからといって無条件でアメリカに追随し中国と敵対してはならない。アメリカは歴史的に見て、態度を急変する癖があるのだ。日本はこのことをよくわかっておかなければならない。 たとえばアメリカの中東戦略。ジョージ・W・ブッシュはイラクに民主主義を導入するという名目で戦争を仕掛け、イスラム教スンニ派の独裁的指導者であるサダム・フセインを追放し、後に処刑した。ところが、スンニ派のフセインがいなくなった後に民主的選挙を行うと、当然に多数派であるシーア派による政権が発足した。すると、シーア派の盟主であってアメリカと敵対関係にあるイランの影響が強まり、イラクの政情は著しく不安定化したのである。そうしているうちにアメリカはイラクに興味を失って、混乱を残したままイラクから撤退してしまったのだ。 ブッシュの次に大統領に選ばれたバラク・オバマも、アフガニスタンで混乱を発生させた。アメリカの真の敵は9.11の首謀者であるウサマ・ビン・ラディンをかくまう、イスラム原理主義勢力のアルカイダとタリバンの逃避地になっているアフガニスタンだと、米軍のアフガニスタン増派を実行した。しかし、ビン・ラディンが潜伏していたのはアフガニスタンではなくパキスタンだった。アフガニスタンでは、アメリカはNATO同盟国も巻き込み200兆円も使ったにもかかわらず、20年間ほとんど何の成果も上げられず混乱を残したまま、21年9月11日までの完全撤兵が決まった。 エジプトもそうだ。2011年、オバマは中東で市民による非暴力の民主化運動、いわゆる「アラブの春」が始まるとこれを歓迎し、後押しを明言した。しかし、エジプトで30年にわたって独裁を続けていたムバラクが追放され、民主主義に基づいた選挙が行われたものの、その結果政権を握ったのが反米のムスリム同胞団だとわかると態度を一変。裏で糸を引いて自分たちの息がかかった軍人にクーデターを起こさせ、親米の軍事政権を樹立させてしまったのである。民主主義はどこにいった、という批判には耳を貸さなかった。 このように、アメリカという国は、自由、平等、民主という崇高な理念の伝道師のような顔をしてやってきても、それが本当に根づくまで責任をもたないどころか、場合によっては自分たちの都合で、その理念を曲げてしまうことさえ躊躇しないのだ』、「アメリカという国は、自由、平等、民主という崇高な理念の伝道師のような顔をしてやってきても・・・本当に根づくまで責任をもたないどころか、場合によっては自分たちの都合で、その理念を曲げてしまうことさえ躊躇しない」、その通りだ。
・『50年前に犯したニクソンの歴史的愚行  バイデン政権の要職の顔ぶれを見ると、トランプ政権ほどではないものの明らかに反中色が濃い。バイデン自身はこれまで中国に対してそれほど厳しい姿勢はとってこなかったはずだが、アメリカ人の中国に対するイメージを徹底的におとしめたトランプの後遺症が残っていることを考えると、中国に甘い顔をできないことは理解できなくもない。 だからといって、中国が台頭をしてきてアメリカを脅かそうとしているから気に食わないというのは、そもそも筋が通らずおかしな話だろう。なにしろ、今の中国をつくったのはアメリカ自身だからだ。 1971年に中華人民共和国(共産党)が国連に加盟し安全保障理事会の常任理事国メンバーになると、それまで常任理事国だった中華民国(国民党)は国連から追放された。ベトナム戦争終結に中国の協力が必要になったため、当時のニクソン米大統領とキッシンジャー大統領補佐官が画策したのだ。これは翌年のニクソン訪中、さらに79年の米中国交樹立につながっていく。 このニクソン・キッシンジャー外交は今でも高く評価されているようだが、私に言わせればとんでもない愚行だった。2人ともアジアの歴史に疎かったのだ。 中国は第2次世界大戦の戦勝国だったが、当時の連合国側で中国代表とされていたのは国民党政権(中華民国)で、事実カイロ会談に中国代表として参加していたのは、毛沢東ではなく蒋介石だった。終戦後、中国では国民党と共産党との内戦が再開。49年に毛沢東が北京で中華人民共和国の建国を宣言すると、国民党は台湾に逃れて政権を維持、現在も中華民国こそが中国の正統政権と主張している。 アメリカがどうしても中華人民共和国を国連に引き入れたかったのであれば、その前に共産党政権と国民党政権の間に立って和平協定を締結させ、ひとつの中国にすべきだったのである。それで2度と国共で戦闘をしないよう、国共内戦の最後の戦場となった福建省の厦門アモイあるいは金門島か馬祖島に議会を置く。ニクソンとキッシンジャーがそのような提案をすれば、〓小平ならきっと受け入れたはずだ。 結局、敗戦国で立場の弱い日本もアメリカに従わないわけにはいかず、田中角栄が周恩来と握手して日中国交正常化した。そのせいでそれまで仲の良かった台湾(中華民国)には、大使も送れなくなってしまったのである。 アメリカはその後も中華人民共和国をWTOに加盟させたり、大量の学生を自国に留学させ成長と発展のノウハウを教えて送り返したりと、中国の発展に手を差し伸べ続けた。同時にアップルなどのアメリカ企業の生産工場としても利用していった。その結果、中国は成長する経済力を背景に軍事力も高め、気がつけばアメリカの覇権を脅かすほどになっていた。まさに現在の中国の脅威の原因は、中華民国を国連から追い出し、中華人民共和国を国連安保理の常任理事国にしたニクソン・キッシンジャー外交であり、アメリカ自身なのだ』、「現在の中国の脅威の原因は、中華民国を国連から追い出し、中華人民共和国を国連安保理の常任理事国にしたニクソン・キッシンジャー外交であり、アメリカ自身なのだ」、その通りだ。
・『台湾有事では日本も戦場に  さて、今後6年以内にも起こりうると言われる米中間で台湾有事が勃発したら、日本も無傷ではいられない。安倍前政権が集団的自衛権を認める安保法を策定したから、アメリカが有事の際、日本も参戦できるようになった。日本は戦争に関わりたくないから基地を使わないでくれとは言えないのである。まず、沖縄の嘉手納や普天間は間違いなく狙われる。アメリカ第7艦隊が配備されている横須賀、それから横田も中国の攻撃対象となるだろう。佐世保や岩国もやられるかもしれない。台湾問題でアメリカと共同歩調をとると言ったら、そこまで覚悟しなければならないのだ。 米中にも相当な被害が及ぶと思われる。米中は政治的には対立しているが、経済的には現在供給不足が深刻な半導体や先述のアップル製品が代表されるように、サプライチェーンがガッチリ構築されて結びついている。従って、台湾有事となれば、経済活動が世界規模で停滞するだろう。 台湾自体は物理的に破壊される可能性大。軍事大国化した中国相手では、いざ事が起これば、カナダやオーストラリアあたりに逃台湾有事は誰にとってもいいことはひとつもないげ出す台湾人は続出するだろう。つまり、台湾有事は誰にとってもいいことはひとつもないのだ』、「台湾有事は誰にとってもいいことはひとつもない」、同感である。
・『英連邦のような緩やかな連合体の「中華連邦」をつくるしかない  中国と台湾に関しての私の持論は、ニクソン・キッシンジャー以前に戻り、英連邦のような緩やかな連合体の「中華連邦(コモンウェルス・オブ・チャイナ)」をつくるしかないということだ。実際、私が台湾の経済顧問を務めていたときに、当時の李登輝総統にこれを提案したことがある。彼はたいへん乗り気だったが、北京側が連邦制を認めたがらなかったため残念ながらそのときは実現しなかった。だが、香港や新疆ウイグル自治区の統治で世界中から非難を受けている今なら、台湾を無傷で統治できるようになる連邦制を中国が受け入れる可能性はゼロではないだろう。 ただ、キッシンジャーを超えるような外交力はバイデン政権にはないだろう。日本がアメリカに「中華連邦」のような構想を提言する手もあるが、「ジョー」「ヨシ」と呼び合って首脳同士の親密さをアピールする程度の外交力では期待するだけ無駄であろう。 本稿で述べたとおり、中東だけでなくまさに中国に対しても態度を急変させてきたアメリカに従属して、今(日本にとっては2000年も付き合いがある)中国と敵対することは絶対にしてはならない。中国とは経済的結びつきを強化して、日本は衰退からの脱却を図る。米中のはざまに置かれた日本外交は、このことを確実に肝に銘じるべきである』、習近平時代になって、「中華連邦」は現実味を失った。なにやら、現在の「戦狼外交」に突き進む習近平にとっては物笑いの種にしかならないだろう。

次に、6月7日付け東洋経済オンラインが掲載した調査報道チームのAPI地経学ブリーフィングによる「台湾有事に備え「日本の曖昧性」放置できない事情 アメリカとともに対中抑止構築のための議論を」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/432231
・『米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。 独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく』、興味深そうだ。
・『アメリカの戦略的曖昧性政策  台湾有事が勃発した際、日米両国はそれぞれ、もしくはともにどのような対応をするのか。これは過去50年にわたる東アジアの国際政治において非常に敏感な問いとして扱われ、その答えは曖昧にされてきた。 中国と国交正常化をするなかで日米両国は台湾の主権問題に関する中華人民共和国政府の立場を「認識する」(アメリカ)または「十分理解し、尊重する」(日本)としたが、自国の立場は明確にせず、あくまでも両岸問題が当事者間で平和的に解決されるよう求めてきた。 しかし中国の軍事力が増大し、米中関係、中台関係の融和的時代がともに終焉を迎えている今、日米ともにその従来の曖昧な立場を見直す声が出ている。中国に対して、両岸問題は武力ではなく平和的な方法でしか解決の道はないと思わせ続けるために、日米は台湾有事への対応を粛々と検討し、備え、対中抑止の一貫としてそれを戦略的に発信するべき時に来ている。 台湾有事をめぐる日米の曖昧な立場は、それぞれ異なる歴史的、戦略的背景のもとで形成された。アメリカの政策は一般的に「戦略的曖昧性(Strategic Ambiguity)」と呼ばれる。これは両岸問題の平和的な解決を実現するために、アメリカがいつ、どのように、台湾の防衛に介入するかを曖昧にすることで、北京、台湾の両政府による挑発的・冒険的な行為を抑制するという政策だ。) 1979年、アメリカは台湾の中華民国政府と同盟関係を解消したが、国内法の台湾関係法によって台湾防衛に寄与し続けることを約束した。一方で、中華人民共和国政府を「中国の唯一の合法政府」と認めた限り、アメリカは台湾の法的な独立(De jure independence)を能動的に支持しない立場をとった。 アメリカが軍事的に介入する可能性を残すことで中国の台湾侵攻を抑止し、アメリカが介入しない可能性を残すことで台湾の冒険的な行為も抑止するという「二重の抑止(Dual deterrence)」を確立し、台湾海峡における一方的な現状変更を防ごうとしてきたのである。 この戦略的曖昧性政策の是非は、冷戦終結後ソ連が崩壊し、米中関係が見直されるたびに議論されてきた。2000年2月には、両岸問題は「平和的」かつ「台湾の人々の同意のもとに(with the assent of the people of Taiwan)」解決されなければいけないとクリントン大統領が発言したが、これは台湾の民主化という大きな変化を汲み取ったうえでの政策の更新であった』、「アメリカが軍事的に介入する可能性を残すことで中国の台湾侵攻を抑止し、アメリカが介入しない可能性を残すことで台湾の冒険的な行為も抑止するという「二重の抑止(Dual deterrence)」を確立」、という「戦略的曖昧性政策」は微妙なバランスの上に成立している。
・『「戦略的明瞭性」よりも  最近では昨年9月にアメリカ・外交問題評議会会長リチャード・ハース氏等の記事を発端に、本政策の見直し議論が活発化している。香港での一連の動向や人民解放軍による台湾海峡での威嚇行為などから「当事者間での平和的解決」への悲観的観測が広がっていること、戦略的曖昧性政策の基盤であったアメリカの圧倒的な軍事的優位性が揺らいでいることを受け、アメリカは中国が台湾侵攻を行えば介入すると明言し対中抑止を強化すべきという意見が提示されたのだ。 こうした「戦略的明瞭性」政策への転換を求める声に対し、アメリカの国家安全保障会議・インド太平洋調整官カート・キャンベル氏は先月上旬、「戦略的明瞭性」よりも、外交や防衛技術革新、アメリカの軍事力を背景にして、中国政府に一貫したシグナルを送ることこそが台湾海峡の平和と安定に最も効果的な方法だと継続性を訴えた。 アメリカの同盟国であり、台湾と地理的に近接する日本もまた、台湾有事における対応を曖昧にしてきた。だがここで特筆すべきは、日本の曖昧性はアメリカのそれと本質的に異なり、北京・台湾それぞれに向けた「二重の抑止」を目指した戦略に基づくものではないということだ。 冷戦時代、この議題が国会で議論されることはあっても、その焦点は台湾有事におけるアメリカの在日米軍基地使用を認めるのかという議論が中心だった。日米同盟における事前協議制度について本稿で詳しくは扱わないが、現行の日米安保条約では、もしアメリカ政府が台湾での「戦闘作戦行動」のために在日米軍基地を使用する場合、日本政府への事前協議が求められており、その際日本の立場は「イエスもノーもありえる」というのが政府の見解だ。 日中国交正常化の2カ月後である1972年11月に発表された政府統一見解において、当時の大平正芳外相は、台湾有事における日米安保条約の運用について「わが国としては、今後の日中両国間の友好関係をも念頭に置いて慎重に配慮する所存」であると述べた』、「日本の曖昧性はアメリカのそれと本質的に異なり、北京・台湾それぞれに向けた「二重の抑止」を目指した戦略に基づくものではない」、「焦点は台湾有事におけるアメリカの在日米軍基地使用を認めるのかという議論が中心」、なるほど。
・『玉虫色の統一見解  しかし当時の外交資料によれば、日本政府は即座にアメリカ政府に対して、この「をも」という助詞に注目するよう訴え、「日米関係の重要性はわが国にとって最も重要であり、安保条約の運用にあたってはこの点を第一義的に考慮する」と説明した。台湾防衛をめぐる日米同盟と対中外交の対立をくぐり抜けるために作られた、まさに玉虫色の統一見解だった。 冷戦後、日米ガイドラインの見直しに伴い周辺事態法が制定された際も、日本が米軍への後方支援を行う「周辺事態」に台湾有事が認定されるか否かはあくまで事態の性質によるという答弁がされてきた。 日中国交正常化交渉に携わった外交官、故・栗山尚一氏は回顧録でこう語っている。 「万が一に台湾海峡有事になった時に日本がどう対応するかは、アメリカにとっては当然のことながら一大関心事なのです。一大関心時だけれど、あらかじめ日本を問い詰めれば、藪から蛇が出るような形になりかねないとアメリカは分かっている。 日本の責任ある政治家も、問い詰められた時に台湾を守るとはっきり言うことは、いろいろな意味で問題が起きるとわかっているのですね。したがって、端的に言えば、どっちとも言わないということに意味があるのだということで理解していると思うのです」(栗山尚一著、中島琢磨、服部龍二、江藤名保子編、『外交証言録沖縄返還・日中国交正常化・日米「密約」』(岩波書店、2010年)117-118ページ)) アメリカの同盟国であり、台湾と地理的に近接する日本もまた、台湾有事における対応を曖昧にしてきた。だがここで特筆すべきは、日本の曖昧性はアメリカのそれと本質的に異なり、北京・台湾それぞれに向けた「二重の抑止」を目指した戦略に基づくものではないということだ。 冷戦時代、この議題が国会で議論されることはあっても、その焦点は台湾有事におけるアメリカの在日米軍基地使用を認めるのかという議論が中心だった。日米同盟における事前協議制度について本稿で詳しくは扱わないが、現行の日米安保条約では、もしアメリカ政府が台湾での「戦闘作戦行動」のために在日米軍基地を使用する場合、日本政府への事前協議が求められており、その際日本の立場は「イエスもノーもありえる」というのが政府の見解だ。 日中国交正常化の2カ月後である1972年11月に発表された政府統一見解において、当時の大平正芳外相は、台湾有事における日米安保条約の運用について「わが国としては、今後の日中両国間の友好関係をも念頭に置いて慎重に配慮する所存」であると述べた』、「今後の日中両国間の友好関係をも念頭に置いて」、とは「曖昧性」の極致だ。
・『玉虫色の統一見解  しかし当時の外交資料によれば、日本政府は即座にアメリカ政府に対して、この「をも」という助詞に注目するよう訴え、「日米関係の重要性はわが国にとって最も重要であり、安保条約の運用にあたってはこの点を第一義的に考慮する」と説明した。台湾防衛をめぐる日米同盟と対中外交の対立をくぐり抜けるために作られた、まさに玉虫色の統一見解だった。 冷戦後、日米ガイドラインの見直しに伴い周辺事態法が制定された際も、日本が米軍への後方支援を行う「周辺事態」に台湾有事が認定されるか否かはあくまで事態の性質によるという答弁がされてきた。 日中国交正常化交渉に携わった外交官、故・栗山尚一氏は回顧録でこう語っている。 「万が一に台湾海峡有事になった時に日本がどう対応するかは、アメリカにとっては当然のことながら一大関心事なのです。一大関心時だけれど、あらかじめ日本を問い詰めれば、藪から蛇が出るような形になりかねないとアメリカは分かっている。 日本の責任ある政治家も、問い詰められた時に台湾を守るとはっきり言うことは、いろいろな意味で問題が起きるとわかっているのですね。したがって、端的に言えば、どっちとも言わないということに意味があるのだということで理解していると思うのです」(栗山尚一著、中島琢磨、服部龍二、江藤名保子編、『外交証言録沖縄返還・日中国交正常化・日米「密約」』(岩波書店、2010年)117-118ページ)』、「あらかじめ日本を問い詰めれば、藪から蛇が出るような形になりかねないとアメリカは分かっている」、「曖昧さ」を残すのも外交交渉ノテクニックのようだ。
・『対中抑止戦略から考える台湾有事への政策を  しかし米中パワーバランスが変化し台湾有事の蓋然性が相対的に高まる今日、日本は従来の曖昧性を再検討し、対中抑止という観点から台湾有事への対応を検討・準備し、対内的に議論、対外的に発信する時期に来ている。 まず台湾有事と一言にいってもそのシナリオによって日本の自衛隊の活動範囲や内容はおのずと変わってくるため、想定されうるシナリオごとに外交、軍事、経済面それぞれで対応できるよう粛々と準備を行う必要がある。 日本には台湾関係法のように、平時から台湾と直接的に軍事協力を行う法律的根拠はないが、たとえば台湾有事の際に同時に在日米軍基地や南西諸島という日本の国土が攻撃されれば、日本は自衛権を発動し自衛隊を動員することになる。よって、日本はまず日米安保条約の運用、もしくは南西諸島防衛という文脈から、平時から台湾とも情報交換などの協力を行っていく必要がある。  また、台湾有事の日本の対応の選定には、言うまでもなく日本の世論が重要になるため、平時からさまざまなシナリオへの国民理解を醸成していく必要がある。軍事面以外でも、主権国家ではなく経済地域としても加入できる多国間貿易協定への台湾の加入をサポートするなど、戦略的に国際社会を巻き込む努力が必要だ。 一方、こうした台湾有事をめぐる日本の準備や議論の主たる目的は対中抑止であり、最終的には中国がそれをどう受け止め認識するかが重要だということを忘れてはならない。そこで注意すべきは、日本の台湾統治の歴史から中国政府・国民が日本の意図を誤認識する危険性、またはそれを政治利用する危険性である。 中国にとって、中国「百年来の屈辱 (century of humiliation)」の時代に台湾を統治していた日本が台湾の防衛に関わることは歴史的・政治的に重大な意味を持ち、従来から中国政府は台湾防衛における日本の役割が拡大することを非常に警戒し、アメリカ以上に猛反発してきた』、「中国「百年来の屈辱 ・・・」の時代に台湾を統治していた日本」、中国にも複雑な感情があるようだ。
・『日米間での焦燥感や不信感が生まれるリスクも  もし日米が共同で台湾との協力を深めても、中国が日本だけをターゲットに批判キャンペーンを繰り広げ、さらには経済的な報復を行うなど、地経学的な争いに発展する可能性は高い。その場合、経済界を中心に日本の世論は動揺し、分断され、結果として日米間の足並みが崩れ、日米間での焦燥感や不信感が生まれるリスクも考慮する必要がある。 また台湾有事に向けた準備や協力に関して戦略的な発信の努力を怠れば、逆に習近平政権が台湾への強硬政策に乗り出す国内政治上の口実を与えてしまう危険性もある。日本政府は台湾海峡の平和と安定が日本国民の生命と財産を守るうえで重要であること、台湾海峡での一方的な現状変更を支持しないことを繰り返し発信し、この原則の下に日本の対応を説明していく必要があるだろう。 (寺岡 亜由美/プリンストン大学 国際公共政策大学院安全保障学博士候補生)』、「日本政府は台湾海峡の平和と安定が日本国民の生命と財産を守るうえで重要であること、台湾海峡での一方的な現状変更を支持しないことを繰り返し発信し、この原則の下に日本の対応を説明していく必要」、曖昧さがあっても、具体的問題で大いに情報発信してゆくべきだ。

第三に、7月2日付けJBPressが掲載した軍事社会学者の北村 淳氏による「米国の専門家も危惧、台湾防衛で米国の「弾除け」に使われる日本 日本に「台湾の防衛は日本の防衛」と認める覚悟はあるのか?」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65874
・『岸信夫防衛大臣は米メディア(ブルームバーグ)のインタビューに答える形で、台湾の平和と安定は「日本に直結している」との認識を示した。台湾の防衛が日本の防衛と直結していることを認めたことになる。 日本が中国を仮想敵に据えている限り、台湾の防衛と日本の防衛は切っても切り離せない関係にあるというのは極めて当然の原理である。しかしながら、日本の防衛大臣や総理大臣がこの“原理”を公に語ることは稀であるため、アメリカ軍や政府関係者たちの間で岸大臣の発言は歓迎されている。 日本の防衛大臣が「台湾の防衛は日本の防衛」という趣旨を語ったということは、「中国に攻撃された台湾を防衛するため、アメリカが軍事的支援を実施する場合、日本も当然アメリカの同盟軍としての役割を果たすであろう」とアメリカの軍人や政治家、安全保障専門家などの多くは(単純に)理解しがちで岸大臣ある。したがって、日本の「決意」はアメリカの国益と一致しており、大いに歓迎されるのである』、「岸大臣の発言は」「歓迎されている」とはいえ、ここまで明確に述べるのは問題がありそうだ。本来は審議会などで審議すべきだろう。
・『「不安定な状態」を維持したいアメリカ  ここでいうアメリカの「国益」とは、「中国と台湾の間に不安定な状態が続くこと」を意味する。日本がアメリカの同盟国としての役割を果たすことは、「不安定な状態」の維持に寄与するというわけだ。) ただし注意が必要なのは、「不安定」といっても、アメリカの軍事的介入が必要になるほど激しい軍事対立では困る、というのがアメリカ側の真意だ。そうではなく、「中国が台湾に軍事侵攻する危険性が高いものの、現実に軍事攻撃が実施されることはない」という「曖昧な不確定戦争」といった状態が続いているのが望ましいのだ。 このような状況ならば、アメリカが実際に中国軍と戦火を交える必要はないものの、台湾を軍事的に支援する大義名分を掲げて、台湾海峡や東シナ海、南シナ海に空母艦隊や爆撃機などを展開させて「アメリカが台湾という民主主義国家を守っている」というデモンストレーションを展開することができる。 そして日本政府や日本国民が「台湾の防衛は日本の防衛」と認識しているのならば、アメリカ軍による台湾防衛のためのデモンストレーションはそのまま日本防衛のデモンストレーションにもなるのである。 したがって、アメリカ軍が日本国内に確保してある軍事拠点を大手を振って好き勝手に用いても何も気が咎(とが)めることはない。なんといってもアメリカ軍は台湾防衛(すなわち日本の防衛)のために巨額の運用費がかかる空母部隊や爆撃機などで中国側を“威嚇”しているのだ』、なるほど。
・『自衛隊が“多国籍軍”の先鋒に  では万が一、中国による台湾に対する軍事攻撃が実際に起きた場合には何が起こるのか。その場合、沖縄、佐世保、岩国、横須賀、横田といった米軍基地は最良の前進軍事拠点となる。日米安保条約や日米地位協定の取り決め以上に日本側が「台湾防衛は日本防衛」と考えているからには、日本各地に点在する軍事施設を米軍が自由に用いることが保証されることは疑う余地がない(と米軍側は考えるであろう)。 そして「台湾の防衛は日本の防衛」であるならば、アメリカが主導して編成する台湾支援“多国籍軍”(注)の先鋒として、自衛隊艦隊や航空戦隊、それに水陸両用部隊などが投入されることになるであろう。なんといっても台湾を巡る戦闘においては、日本の地理的位置は民主国家のうちでも群を抜いているからだ。多国籍軍の先鋒を務める海・空・陸自衛隊諸部隊は、数千発の各種ミサイルが降り注いで生活のインフラを破壊された台湾の人々を救援・救出するため、台湾に接近上陸することになる。 (注)中国が安保理常任理事国である以上、国連軍が編成されることはあり得ず、アメリカが音頭を取って編成する多国籍軍の可能性が高い。ただし、相手が中国であるため、多国籍軍に参加し軍隊を派遣する国がいくつ集まるかは大いに疑問である。 このような困難かつ危険極まりない先鋒任務をアメリカ自身が行う必要はない。「台湾の防衛は日本の防衛」である以上、隣国の日本が「唯一に近い日本の真の友好国」である台湾の人々を救出するのは当然だからだ』、「多国籍軍」とはいっても、日本の他には、オーストラリア、ニュージーランド程度で、他のアジア諸国は参加をためらうだろう。
・『弾除け的に使われる“属国”  このシナリオのように、属国や従属国を弾除け的に使うのは、アメリカの軍事的師匠筋にあたるイギリスがしばしば用いた伝統的手法である。 イギリスは第一次世界大戦きっての激戦であったガリポリ上陸戦で、最も困難な激戦地点にオーストラリア軍とニュージーランド軍の部隊を投入した。) 同様に第二次世界大戦においても、日本との戦端が開かれた場合に、イギリスの極東最大の拠点である香港を日本軍が攻略することは目に見えていたため、全滅する可能性が高い香港防衛部隊をカナダ軍にあたらせていた。 そしてヨーロッパ戦線でも、ディエッペ上陸作戦の主力としてカナダ軍部隊を投入した。ディエッペ上陸作戦は、西ヨーロッパ全域を占領したドイツ軍への反抗拠点を確保する実験的上陸作戦であり、極めて危険な自殺的作戦であった。 このようにイギリスは、英連邦内の“二級国家”オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどの“二級国民”による志願兵部隊を、当初より多大な犠牲が見込まれる作戦に投入したのである。 一方の“二級国家”側も、イギリスの本意は承知してはいたものの、真の独立国としての地位を勝ち取るために自国民の犠牲はやむを得なかった。結局、第二次世界大戦後、イギリス自身の軍弾除け的に使われる“属国”事的地位が低下したことも相俟って、それら諸国は真の独立国家としての地位を獲得したのである』、「弾除け的に使われる“属国”」、とは哀れだ。日本がこんな使われ方をされても文句はいえないだろう。
・『日本列島に撃ち込まれる長射程ミサイル  アメリカにとっても、台湾を巡って中国と本格的な戦争へ突き進むことは99.9%避けなければならない。しかし、中国による台湾への軍事攻撃に際して何もしないのではアメリカの軍事的威信は地に墜ちる。そこで台湾の人々を救出するという大義を押し立てて、アメリカの“属国”である日本の“二級国民”を危険かつ困難な先鋒部隊として台湾に突入させ、自らは「出動宣伝効果」は極めて大きい空母部隊2セットを沖縄南方200海里沖付近と沖縄西方100海里沖付近に展開させ、多国籍軍先鋒を務める勇敢な自衛隊部隊を支援する態勢をとるのである。 そして、台湾問題に日本が軍事介入したことを口実に中国軍が日本列島に長射程ミサイルを連射して、日本の戦略要地が大損害を受けた場合には、国連安保理で停戦協議を開始するのだ。 話を冒頭に戻そう。アメリカ側の多くの人々は、日本が「台湾の防衛は日本の防衛」と認識していることを歓迎している。だが、日本の防衛政策の現実を熟知している専門家の間では、「台湾の防衛は日本の防衛」ということは日本が上記のような流れに巻き込まれることを意味し、とても日本政府がその種のシナリオを是認した上で何らかの具体的戦略を持っているとは考え難い、との疑義が持たれている』、どう考えても「台湾の防衛は日本の防衛」などと安易に発言すべきではない。岸大臣はここまでの覚悟で発言したのかも知れないが、国民の大多数はそのまで覚悟している訳ではない。
タグ:台湾 (その2)(大前研一「米軍予想"6年以内に台湾有事"はそもそもアメリカが元凶だ」 沖縄 横須賀 横田は標的になる、台湾有事に備え「日本の曖昧性」放置できない事情 アメリカとともに対中抑止構築のための議論を台湾有事に備え「日本の曖昧性」放置できない事情、米国の専門家も危惧 台湾防衛で米国の「弾除け」に使われる日本 日本に「台湾の防衛は日本の防衛」と認める覚悟はあるのか?) プレジデント 大前 研一 「大前研一「米軍予想"6年以内に台湾有事"はそもそもアメリカが元凶だ」 沖縄、横須賀、横田は標的になる」 「アメリカという国は、自由、平等、民主という崇高な理念の伝道師のような顔をしてやってきても・・・本当に根づくまで責任をもたないどころか、場合によっては自分たちの都合で、その理念を曲げてしまうことさえ躊躇しない」、その通りだ アメリカがどうしても中華人民共和国を国連に引き入れたかったのであれば、その前に共産党政権と国民党政権の間に立って和平協定を締結させ、ひとつの中国にすべきだった 「現在の中国の脅威の原因は、中華民国を国連から追い出し、中華人民共和国を国連安保理の常任理事国にしたニクソン・キッシンジャー外交であり、アメリカ自身なのだ」、その通りだ。 「台湾有事は誰にとってもいいことはひとつもない」、同感である。 習近平時代になって、「中華連邦」は現実味を失った。なにやら、現在の「戦狼外交」に突き進む習近平にとっては物笑いの種にしかならないだろう。 東洋経済オンライン API地経学ブリーフィング 「台湾有事に備え「日本の曖昧性」放置できない事情 アメリカとともに対中抑止構築のための議論を」 「アメリカが軍事的に介入する可能性を残すことで中国の台湾侵攻を抑止し、アメリカが介入しない可能性を残すことで台湾の冒険的な行為も抑止するという「二重の抑止(Dual deterrence)」を確立」、という「戦略的曖昧性政策」は微妙なバランスの上に成立している。 「日本の曖昧性はアメリカのそれと本質的に異なり、北京・台湾それぞれに向けた「二重の抑止」を目指した戦略に基づくものではない」、「焦点は台湾有事におけるアメリカの在日米軍基地使用を認めるのかという議論が中心」、なるほど。 「今後の日中両国間の友好関係をも念頭に置いて」、とは「曖昧性」の極致だ。 「あらかじめ日本を問い詰めれば、藪から蛇が出るような形になりかねないとアメリカは分かっている」、「曖昧さ」を残すのも外交交渉ノテクニックのようだ。 「中国「百年来の屈辱 ・・・」の時代に台湾を統治していた日本」、中国にも複雑な感情があるようだ。 「日本政府は台湾海峡の平和と安定が日本国民の生命と財産を守るうえで重要であること、台湾海峡での一方的な現状変更を支持しないことを繰り返し発信し、この原則の下に日本の対応を説明していく必要」、曖昧さがあっても、具体的問題で大いに情報発信してゆくべきだ。 JBPRESS 北村 淳 「米国の専門家も危惧、台湾防衛で米国の「弾除け」に使われる日本 日本に「台湾の防衛は日本の防衛」と認める覚悟はあるのか?」 「岸大臣の発言は」「歓迎されている」とはいえ、ここまで明確に述べるのは問題がありそうだ。本来は審議会などで審議すべきだろう。 「多国籍軍」とはいっても、日本の他には、オーストラリア、ニュージーランド程度で、他のアジア諸国は参加をためらうだろう。 「弾除け的に使われる“属国”」、とは哀れだ。日本がこんな使われ方をされても文句はいえないだろう。
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金融業界(その8)(三菱UFJ、「半沢頭取」が逆風下で挑む抜本改革 「13人抜き」エースが描く銀行の生存戦略とは?、三菱UFJ銀が「新卒年収1000万円」特別枠…従来型「一括採用」は縮小に向かう?、SBIホールディングス<上>新生銀行の筆頭株主に躍り出る、SBIホールディングス<下>着々と進む第4のメガバンク構想) [金融]

金融業界については、(その8)(三菱UFJ、「半沢頭取」が逆風下で挑む抜本改革 「13人抜き」エースが描く銀行の生存戦略とは?、三菱UFJ銀が「新卒年収1000万円」特別枠…従来型「一括採用」は縮小に向かう?、SBIホールディングス<上>新生銀行の筆頭株主に躍り出る、SBIホールディングス<下>着々と進む第4のメガバンク構想)である。

先ずは、4月12日付け東洋経済オンライン「三菱UFJ、「半沢頭取」が逆風下で挑む抜本改革 「13人抜き」エースが描く銀行の生存戦略とは?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/421767
・『「伝統的な商業銀行が成長ドライバーになるのは難しい」――。 昨年末の会見で三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の亀澤宏規社長がこう断言するほど、銀行を取り巻く経営環境は厳しい。低金利が長引き、従来の預金と貸し出しを中心としたビジネスモデルでは立ち行かなくなっているからだ。 向かい風が吹く中、4月1日付で傘下の三菱UFJ銀行の頭取が交代した。新頭取に就いたのは、13人の副頭取や専務を抜き、常務から抜擢された半沢淳一氏(56)だ。  変革期にある銀行をどう舵取りするのか。半沢新頭取に聞いた(Qは聞き手の質問、Aは半沢氏の回答)』、「3人の副頭取や専務を抜き、常務から抜擢」とは味なことをやるものだ。
・『経営課題の解決で成長余地はある  Q:銀行の成長性をどう見通していますか。 A:国内商業銀行の業務のうち、預金・貸し出しについて言えば、厳しいのは間違いない。純粋に利ザヤが縮小しているからだ。ここを改善するのが(成長への)いちばん大きな道ではあるものの、残念ながら当面の間は無理だと言わざるをえない。 一方で取引先の経営課題を解決し、手数料をいただく余地は十分にある。コロナ禍において経営課題を感じていない顧客はいない。アフターコロナへの対応、デジタル化の進展、非対面取引の増加に加え、気候変動にも対応しなければいけない。 こうした課題に対し、顧客に言われてから動くのではなく、自ら(解決策を)提案する。これはわれわれがやりきれていなかった部分だ。タイミングをとらえた提案をきちんと行えば、収益を上げることはできる。コスト削減と両軸で取り組み、収益性を上げていく。 Q:収益力を高めるうえで特に重点を置く分野は? A:3つある。国内収益基盤の強化、グローバル事業の強靭化、環境・社会課題の解決への貢献だ』、「取引先の経営課題を解決し、手数料をいただく余地は十分にある」、のは理屈の上ではそお通りだが、現実にはかなり困難だ。
・『経営課題の解決で成長余地はある  Q:銀行の成長性をどう見通していますか。 A:国内商業銀行の業務のうち、預金・貸し出しについて言えば、厳しいのは間違いない。純粋に利ザヤが縮小しているからだ。ここを改善するのが(成長への)いちばん大きな道ではあるものの、残念ながら当面の間は無理だと言わざるをえない。 一方で取引先の経営課題を解決し、手数料をいただく余地は十分にある。コロナ禍において経営課題を感じていない顧客はいない。アフターコロナへの対応、デジタル化の進展、非対面取引の増加に加え、気候変動にも対応しなければいけない。 こうした課題に対し、顧客に言われてから動くのではなく、自ら(解決策を)提案する。これはわれわれがやりきれていなかった部分だ。タイミングをとらえた提案をきちんと行えば、収益を上げることはできる。コスト削減と両軸で取り組み、益性を上げていく。 Q:収益力を高めるうえで特に重点を置く分野は? A:3つある。国内収益基盤の強化、グローバル事業の強靭化、環境・社会課題の解決への貢献だ。 国内では(富裕層向けビジネスの)ウェルスマネジメントや法人向けの分野で課題解決型の提案を行い、デジタル化も進める。この5年間で店舗に来店する顧客の数は半分になったが、ネットでの取引は2.5倍に増えている。顧客起点で考え、オンライン上の取引でも使い勝手のいいサービスを作っていく。 グローバル事業はこれまで海外銀行を買収してきたが、2019年のインドネシア・バンクダナモンの子会社化で一定のメドがついた。量的な拡大を終え、これからはしっかりとシナジーをあげて果実をとる。 Q:買収子会社とは具体的にどんなシナジーを考えていますか? A:例えば東南アジアには4つの子会社を持っている。その4行の間でのシナジーもあるし、4行とMUFGとの連携や、2020年2月に出資して業務提携した東南アジアの配車アプリ大手のGrab社との連携も考えられる。 わかりやすいのはGrab社との連携だろう。現在、(子会社の)タイのアユタヤ銀行でGrabのドライバーや加盟店に対する融資を行うビジネスが始まっている。これをインドネシアなどにも広げる。将来は対象をGrabのユーザーにも広げることも考えられる』、「Grab社との連携」は確かに実を結びそうだ。
・『本館を建て替え提案力を高める  環境・社会問題においては特に、気候変動対応に焦点が当たっている。もはや環境問題というより、産業構造の問題になっている。そうした流れに対応できるよう、顧客の支援を行う。 これらを実現するには、グループの総合力を発揮して、スピード感を持って付加価値の高い提案を行うことが必要だ。 そのために、銀行の本館を建て替えようと考えている。そこに持ち株会社(MUFG)と傘下の銀行・信託・証券を集約する。本部の人員数を減らし、管理コストも引き下げながら提案力を高める。 現在はグループ内で丸の内と大手町に9つのビルがあり、1万9000人が働いている。これまでは(1カ所に)この人数を集約するのは難しかった。) それがコロナ禍で在宅勤務の比率が上がり、実現可能になった。現在、銀行の本部は50~60%の社員が在宅勤務だ。 新しい働き方にも適したビルのあり方を考えながら、2022年度中には詳細を固めて取り壊し、着工したいと考えている。 Q:足元では新型コロナの影響により、多くの企業が資金難に陥っています。 資金需要は2020年の4~5月をピークに落ち着いていたが、2021年3月ごろからまた少しずつ増えてきた。特にホテル、小売り、旅行、サービスなど個人消費関連の企業は厳しく、資金ニーズが増えている。 緊急事態宣言は解除されたものの、(感染再拡大への)懸念を持ちながら経済活動をしている。おそらく2021年度もコロナ禍以前の状態に戻ることは難しい』、「現在はグループ内で丸の内と大手町に9つのビルがあり、1万9000人が働いている」、「コロナ禍で在宅勤務の比率が上がり」、「1カ所にこの人数を集約」、果たして上手くいくのだろうか。
・『事業再生ノウハウを持った人員で対応  回復の遅い会社は注視が必要だ。コロナで産業構造が変わり、元の状態に戻れない企業には、ビジネスを変えるための新しい業務内容を提案しなければいけない。 (半沢氏の略歴はリンク先参照) その意味で、2021年度は重要な1年になる。2020年度も大変だった年であることは間違いないが、まずは「(資金で)つなぐ」1年だった。 しかし足元では「この企業はコロナ前(の経営状態)に戻る」「この企業は戻らない」という違いが明確に見えてきている。2021年度は将来を展望し、その企業をどうするかという(提案型の)支援の比重が高まる。 Q:経営が厳しい企業の支援に対応する社内体制は十分ですか。 事業再生の経験をしている人がどの程度残っているかという問題はある。ただ、融資担当の部署には2000年頃からずっと融資を担当し、ノウハウを持っている人材がいる。注視しなければいけない数百社については、本部の融資部で個別に対応していく。それがコロナ禍で在宅勤務の比率が上がり、実現可能になった。現在、銀行の本部は50~60%の社員が在宅勤務だ。 新しい働き方にも適したビルのあり方を考えながら、2022年度中には詳細を固めて取り壊し、着工したいと考えている。 Q:足元では新型コロナの影響により、多くの企業が資金難に陥っています。 資金需要は2020年の4~5月をピークに落ち着いていたが、2021年3月ごろからまた少しずつ増えてきた。特にホテル、小売り、旅行、サービスなど個人消費関連の企業は厳しく、資金ニーズが増えている。 緊急事態宣言は解除されたものの、(感染再拡大への)懸念を持ちながら経済活動をしている。おそらく2021年度もコロナ禍以前の状態に戻ることは難しい』、「個人消費関連の企業」の「厳し」さはまだ続かざるを得ないだろう。
・『事業再生ノウハウを持った人員で対応  回復の遅い会社は注視が必要だ。コロナで産業構造が変わり、元の状態に戻れない企業には、ビジネスを変えるための新しい業務内容を提案しなければいけない。 その意味で、2021年度は重要な1年になる。2020年度も大変だった年であることは間違いないが、まずは「(資金で)つなぐ」1年だった。 しかし足元では「この企業はコロナ前(の経営状態)に戻る」「この企業は戻らない」という違いが明確に見えてきている。2021年度は将来を展望し、その企業をどうするかという(提案型の)支援の比重が高まる。 Q:経営が厳しい企業の支援に対応する社内体制は十分ですか。 A:事業再生の経験をしている人がどの程度残っているかという問題はある。ただ、融資担当の部署には2000年頃からずっと融資を担当し、ノウハウを持っている人材がいる。注視しなければいけない数百社については、本部の融資部で個別に対応していく』、「注視しなければいけない数百社」、「本部」直轄とはやれやれだろう。

次に、5月3日付け弁護士ドットコム「三菱UFJ銀が「新卒年収1000万円」特別枠…従来型「一括採用」は縮小に向かう?」を紹介しよう。
https://www.bengo4.com/c_5/n_12983/
・『三菱UFJ銀行が、大卒1年目から年収1000万円以上になる可能性がある、新たな新卒採用の仕組みを導入することが3月に報じられ、話題になりました。 日本経済新聞によると、三菱UFJ銀行の従来の新卒採用では、一律300万円程度の年収でしたが、今回の新しい仕組みでは、デジタル技術などの専門人材を対象に、全体の1割程度にあたる40人程度について、年収に差をつけることになります。 大和証券も3月、ITや金融の専門知識をもつ人材を対象に、初任給を月40万円以上(一般的な総合職は25万5000円)とする報酬体系をもうけると発表しました。このコースの場合、トレーダーとしての能力次第で年収5000万円となる可能性もあるそうです。 このような「特別枠」をもうけることの意味はなんなのでしょうか。従来の新卒一括採用にどのような影響を及ぼすのでしょうか。新卒採用などの人材採用に詳しい神戸大学大学院経営学研究科の服部泰宏准教授に聞きました。(新志有裕、白井楓花、Qは聞き手の質問、Aは服部氏の回答)』、「新卒採用」の「一括方式」がいよいよ崩れつつあるようだ。
・『新卒で特別枠をもうける意味は  Q:三菱UFJ銀行のような特別枠をもうける動きをどう捉えていますか。 A:金融工学やデジタル系を専門にしている人材が労働市場に少なく、高い報酬を払わないとキープできないため、特別枠で採用するということです。 従来の新卒一括採用のように、会社の中で長い時間をかけて育てて長期で雇用するという想定ではないでしょう。 社内で育成しにくいような特定のスキルを買われて特別枠採用となった人材なので、入社後は特定の業種・部署に限定された仕事をすることになるはずです。 Q:ただ、新卒採用の段階から、そのような採用枠をもうける意味はあるのでしょうか。 A:1つは、労働市場へのメッセージですね。新卒採用というのは、企業にとって数少ない外とのタッチポイントです。 また、社内に対しても、「新しい取り組みに挑戦し、変わろうとしている」というメッセージにもなります。「現在こういう人材を必要としているということをわかってほしい」、「必要なスキルを持っている人にはしっかり払います」と伝えたいのでしょう』、内外への「メッセージ」は確かに重要な役割だ。
・『従来型の新卒一括採用の社員から、嫉妬や反発は出ない?  Q:特別枠で入社した専門人材は、伝統的な組織にはなじまないのではないでしょうか。 A:確かに、入り口の部分である採用だけでなく、会社の組織自体を変えていく必要があります。 ただ、特別枠は一定の職種や事業を切り分ける形で設置されているので、たとえ組織全体は変えられないにしても、一部の部署だけを少し違う働き方に変えて、専門人材にとって心地よい雰囲気にする工夫は可能でしょう。 さらに「新卒年収1000万」のような特殊な人材を許容しやすい人を上司に置くことによって対処するという手もあります。 Q:新卒から年収差を設けることに対して、従来型の新卒一括採用の社員から、嫉妬の反発の声が出てくる可能性がありますが、どう対処すればいいのでしょうか。 参考になるのは、アメリカのカーネギー・メロン大学のデニス・ルソー教授が提唱した「I-deals」という考え方です。給与差を受け入れてもらうために、会社、給与の高い社員、一般社員の三者関係を考えるというものです。 例えば、プロ野球選手で「この人は1億円ももらっていて羨ましいけれど、でもこの人がホームランをたくさん打ってくれるおかげで、自分の年俸も上がっているのかもしれない。しょうがない」と思うような心理状況にもっていくことですね。 そういう三角形の枠組みでマネジメントしていくということが一つ解決策になると思います。 Q:プロ野球選手を例にすると、彼らは成績で報酬が左右され、不安定な側面もあるのですが、特別枠の人材もそのような位置付けに近くなるのでしょうか。 A:そうですね、彼らもリスクを負っています。例えば、特別枠入社の人材は長期雇用が前提でないでしょうし、給与が単に年功で上がっていくわけではなく、むしろ業績や評価次第で下がることもあるでしょう。新卒一括採用の人材にはないリスクです。 また、もし能力が期待されていたレベルに達しなかった時に、その人はAIのような特定の分野でずっと生きてきたために、会社での居場所がなくなってしまうリスクもあります。ずっとその分野でスキルを磨いてきたということもあり、他の分野に転身しにくいのです。 このようなリスクを一般社員が認識することも、彼らが給与差を納得する上で重要です』、「給与差を受け入れてもらう」ための工夫は確かに重要だ。
・『仕事に直結しない文学部の学生は不利になる?  Q:今後、特別枠採用が広がることで、特別枠が特別でなくなり、従来型の新卒一括採用が大幅に縮小する可能性はありますか。 会社によるでしょう。例えば、あるIT企業にとっては、枠をもうけることは当たり前のことかもしれません。他方、クラシックな企業では、結局は従来の正社員の区分に入れることができず、嘱託や契約社員にしてしまうこともあるでしょう。 人材採用の切迫性や、今までの組織の慣行に左右される話なので、一気に特別枠導入へ進んでいくということは想定し難いですし、またそうあるべきでもないです。 特別採用枠は、一定の部署を切り離した形で行われることが多いので、やはり「例外」として扱われるケースが多く残ると思います。 また、現在の定年退職の仕組みを考えると、新卒一括採用以外の方法でその欠員を補うのは、今の日本企業の枠組みでは難しい。ですから、新卒一括採用の仕組み自体は今後も残っていくでしょう。 Q:それでも、新卒で年収1000万円という話を聞くと、仕事に直結するスキルを身に付けておいた方がいい、という流れが強くなりそうです。 A:確かに、一部の領域においては、例えば、「文系だったらどこでもいいよね」という感覚から、「もう少し分野を考えよう」となっている面もあります。 他方で、やはり「ポテンシャル」の名の下に、ちゃんと考えることができる力や、物事の本質を見抜けるという能力が大事だ、という企業も少なくありません。 理系の世界でも、工学部の学生の方が即戦力だけれども、結局は理学部数学科の学生の方がしっかり考えていていい、と考える企業も存在しています。「統計なんて入社してからでもできるし、経営のことについては2年間MBAに通えばいい。だったら、文学部でゲーテの卒業論文を書いた学生でもいいじゃないか。この学生はしっかり考える力があるはず」と考える企業は意外に多いはずです』、「やはり「ポテンシャル」の名の下に、ちゃんと考えることができる力や、物事の本質を見抜けるという能力が大事だ、という企業も少なくありません」、なるほど。
・『新卒一括採用はどう変わる?  Q:そのような流れの中で。新卒一括採用のあり方は今後、どう変わりますか。 A:社内の人脈であったり、その企業での仕事の進め方といったような企業固有の知識を身につける人は、おそらく従来型の新卒一括採用で入社した人材です。また、企業経営に関わるのも、新卒一括採用の人材を想定しているでしょう。 しかし、特別枠が広がる中で、従来型の新卒一括採用も変わっていく必要があります。 一つは、学生側のキャリアプランが短期的な視点になってきていることに応じて、長期雇用が前提であっても、「最初の数年間はこういうことをしてもらうよ」といった、少し先を見たコミュニケーションが大事になります。 また、学生が求めている情報をきちんと出していかなくてはいけない。 今は、ジョブ型雇用のように、職種に直結する採用が、新卒でも中途でも見え隠れするからこそ、新卒一括採用においては、ジェネラルな思考力のような、逆側の側面もきちんと発していった方がいいのではないでしょうか。 時代の雰囲気として、スローなキャリア形成がネガティブに捉えられがちで、企業として、本当に言いたいことを言いにくくなっている部分もあります。それでもきちんと主張していくことが、新卒一括採用の今後のあるべき姿だと思います。 情報をお寄せください! 弁護士ドットコムニュースでは「LINE」で情報募集しています。働いていて疑問に思ったことや、法律に関するトラブルなど、弁護士ドットコムニュースの記者に取材してほしい社会問題はありますか。 以下からLINE友だち登録をして、ご連絡ください』、「時代の雰囲気として、スローなキャリア形成がネガティブに捉えられがちで、企業として、本当に言いたいことを言いにくくなっている部分もあります。それでもきちんと主張していくことが、新卒一括採用の今後のあるべき姿だと思います」、その通りだろう。

第三に、4月14日付け日刊ゲンダイが掲載した経済ジャーナリストの真保紀一郎氏による「SBIホールディングス<上>新生銀行の筆頭株主に躍り出る」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/287867
・『金融界でSBIホールディングスの動きが注目されている。このところ、新生銀行株を買い続けているからだ。 昨年3月末段階では、SBIは新生銀行株の約9%を保有する第3位株主だった。ところがそこから買い増していき、昨年末には13%を超えた。新生銀行は前身の日本長期信用銀行時代に経営が悪化し一時、国有化された。そのため、新生銀行となってからも、政府系の預金保険機構が筆頭株主であり続けていた。しかし昨年末、ついにSBIが筆頭株主となった。 今年に入ってもSBIの保有株は増え続け、3月30日に提出された大量保有報告書によると、持ち株比率は16・5%にまで上昇している。 新生銀行株保有の目的について、SBIは一貫して「純投資」と説明していたが、今ではこの言葉を額面どおりに受け止める人はどこにもいない』、ずいぶん急速に買い増しをしているようだ。
・『1月末に起きた事件とは  というのも1月末に、ある「事件」が起き、そこから買い増しのスピードが上がっているからだ。 1月27日、マネックス証券、新生銀行、新生証券の3社は、金融商品仲介業務における包括的業務提携に関する基本合意書を締結した。今後、新生銀行は、利用者に対して投資信託などマネックス証券の金融商品を販売していくというものだった。 これがSBIの逆鱗に触れた、と金融界ではいわれている。 提携発表の2日後、SBIの21年3月期の第3四半期決算発表があった。この席でグループ会社のSBI証券・高村正人社長は「どういう理由でああいう選択をされたのか、よくわからない」と不快さを隠そうとしなかった。 ネット証券の世界で、現在ダントツなのがSBI証券で、営業収益(売上高)は1244億円。一方、マネックス証券は3位ながら営業収益は279億円と、SBI証券の5分の1にすぎない。 取り扱っている投資信託の銘柄数も、マネックス証券1200に対してSBI証券2600と倍以上。しかも、SBIは新生銀行の筆頭株主だ。 そうであるなら、新生銀行の提携相手はSBI証券であるべきだ、とSBIが考えても不思議はない。 事実、SBIは提携が発表された1月27日までの1カ月間、新生銀行株を買い付けていなかったが、翌28日以降、連日のように買い付けている。そのため金融界からは「SBIの意趣返し」、あるいは「新生銀行にプレッシャーをかけて提携を白紙撤回させるつもりでは」などといった声が聞こえてくる。 では、なぜSBIは新生銀行にこだわるのか。 新生銀行はいまだ資本注入された公的資金を返済し終えていない。一時国有化されてから23年が経つが、今でも再建途上にある。それほど魅力的な銀行とも思えない。 しかし、SBIを率いる北尾吉孝社長にとっては違う。北尾氏の頭の中には「第4のメガバンク」構想があり、その実現に向け、着々と手を打ちつつある。新生銀行への執着もその一環と考えるとわかりやすい。果たして北尾氏の考える第4のメガバンクとはいかなるものなのか』、「第4のメガバンク」構想とは、「北尾氏」らしい発想だ。

第四に、この続きを、4月15日付け日刊ゲンダイ「SBIホールディングス<下>着々と進む第4のメガバンク構想」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/287934
・『2000年に第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行が経営統合し、日本にメガバンク時代が到来した。それ以降も銀行の経営統合は相次ぎ、現在は、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンクが覇権を争っている。 その3メガバンクに対抗して、「第4のメガバンク構想」を掲げるのがSBIホールディングスであり、同社を率いる北尾吉孝社長である。 第2次安倍政権が誕生し、黒田日銀総裁が「日銀バズーカ」を発動させて以来、日本は超低金利時代が続いている。それにより、一時のデフレ状態を脱することはできた一方で、低金利が金融機関、中でも地方銀行の経営を直撃した。 地方経済は疲弊しており、地方銀行は融資先が見つからない。そこで以前は国債で運用していたが、いまではマイナス金利で利ザヤが稼げない。そのため、昨年9月の中間決算では、6割の上場地方銀行が減益か赤字となった。 そこに救いの手を差し出そうというのがSBIホールディングスだ。2019年秋に島根銀行の株式34%を取得したのを皮切りに、これまでに地方銀行7行と資本業務提携を結んでいる。 提携先の銀行は、財務が改善されるだけでなく、SBIグループのSBI証券の金融商品を銀行顧客に販売できるようになる。 同時にフィンテックへの対応も可能になる。今後の金融機関の成長のカギを握るのがフィンテックだが、資本力のない地方銀行が開発・導入するのは難しい。そこで、数多くのフィンテックベンチャーに投資しているSBIと提携すれば、SBIの持つフィンテックを自行に導入することができる。 つまりSBIは、地方銀行に資金とともに商品、そして最新テクノロジーを提供することで、蘇らせようというのである』、「SBI」の力で「蘇る」のは一定の条件がある筈だ。
・『事実、第1号案件である島根銀行は、本業の儲けを示すコア業務純益が20年3月期まで4期連続で赤字だったが黒転したもようだ。これは明らかにSBI効果だ。 SBIは現在7行の資本提携先を10行にまで増やしていく方針だ。昨日、本欄で紹介した新生銀行がここに加われば、他の地方銀行より規模は大きく、取引先も大手が多いため、メガバンク構想の核となる可能性がある。 もちろん3メガバンクに比べれば資金量は数十分の一程度に過ぎない。それでも北尾氏には、ネット証券では後発のSBI証券を業界トップに押し上げ、先日には口座数で証券業界のガリバー、野村証券を上回ったという実績がある。 SBI証券がここまで大きく成長できたのは、証券業界がネット証券の誕生で業界地図が大きく書き換えられたからだ。野村証券に入社し、その後ソフトバンクに転じ孫正義氏の懐刀となった北尾氏は、金融とITの親和性を誰よりも熟知している。 北尾氏は、フィンテックによって銀行業界の地図も大きく変わると予測する。地殻変動が起きればそこにチャンスが生まれる。北尾氏は新生銀行や地銀との関係を築きながら、虎視眈々と狙っている』、6月30日付けのブログで取上げたように「SBI」は実はソーシャルレンディングで失敗している。ただ、地銀戦略は一応、上手くいっているようだ。
タグ:金融業界 (その8)(三菱UFJ、「半沢頭取」が逆風下で挑む抜本改革 「13人抜き」エースが描く銀行の生存戦略とは?、三菱UFJ銀が「新卒年収1000万円」特別枠…従来型「一括採用」は縮小に向かう?、SBIホールディングス<上>新生銀行の筆頭株主に躍り出る、SBIホールディングス<下>着々と進む第4のメガバンク構想) 東洋経済オンライン 「三菱UFJ、「半沢頭取」が逆風下で挑む抜本改革 「13人抜き」エースが描く銀行の生存戦略とは?」 「3人の副頭取や専務を抜き、常務から抜擢」とは味なことをやるものだ。 「取引先の経営課題を解決し、手数料をいただく余地は十分にある」、のは理屈の上ではそお通りだが、現実にはかなり困難だ。 「Grab社との連携」は確かに実を結びそうだ。 「現在はグループ内で丸の内と大手町に9つのビルがあり、1万9000人が働いている」、「コロナ禍で在宅勤務の比率が上がり」、「1カ所にこの人数を集約」、果たして上手くいくのだろうか。 「個人消費関連の企業」の「厳し」さはまだ続かざるを得ないだろう。 「注視しなければいけない数百社」、「本部」直轄とはやれやれだろう。 弁護士ドットコム 「三菱UFJ銀が「新卒年収1000万円」特別枠…従来型「一括採用」は縮小に向かう?」 「新卒採用」の「一括方式」がいよいよ崩れつつあるようだ。 内外への「メッセージ」は確かに重要な役割だ。 「給与差を受け入れてもらう」ための工夫は確かに重要だ。 「やはり「ポテンシャル」の名の下に、ちゃんと考えることができる力や、物事の本質を見抜けるという能力が大事だ、という企業も少なくありません」、なるほど。 「時代の雰囲気として、スローなキャリア形成がネガティブに捉えられがちで、企業として、本当に言いたいことを言いにくくなっている部分もあります。それでもきちんと主張していくことが、新卒一括採用の今後のあるべき姿だと思います」、その通りだろう。 日刊ゲンダイ 真保紀一郎 「SBIホールディングス<上>新生銀行の筆頭株主に躍り出る」 ずいぶん急速に買い増しをしているようだ。 「第4のメガバンク」構想とは、「北尾氏」らしい発想だ。 「SBIホールディングス<下>着々と進む第4のメガバンク構想」 「SBI」の力で「蘇る」のは一定の条件がある筈だ。 6月30日付けのブログで取上げたように「SBI」は実はソーシャルレンディングで失敗している。ただ、地銀戦略は一応、上手くいっているようだ。
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外食産業(その3)(ロイヤルホスト「双日と提携」で業績復活なるか ノウハウに魅力 航空関連ビジネス再建に本腰、コロナ禍も快走!マックが「店外」で圧倒する真因 最高益の裏に持ち帰り・宅配の"綿密戦略"あり、かっぱ寿司社長がデータ不正取得で告訴…背後にある「回転ずし戦争」の熾烈) [産業動向]

外食産業については、昨年11月18日に取上げた。今日は、(その3)(ロイヤルホスト「双日と提携」で業績復活なるか ノウハウに魅力 航空関連ビジネス再建に本腰、コロナ禍も快走!マックが「店外」で圧倒する真因 最高益の裏に持ち帰り・宅配の"綿密戦略"あり、かっぱ寿司社長がデータ不正取得で告訴…背後にある「回転ずし戦争」の熾烈)である。

先ずは、3月24日付け東洋経済オンライン「ロイヤルホスト「双日と提携」で業績復活なるか ノウハウに魅力、航空関連ビジネス再建に本腰」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/418147
・『売上高は前期比40%減の843億円、営業損益は前期の46億円の黒字から192億円の赤字に転落。最終赤字は275億円――。 レストラン「ロイヤルホスト」などを展開するロイヤルホールディングス(HD)の2020年12月期決算は、非常に厳しい結果となった。 ロイヤルHDの主要事業は大きく5つある。ロイヤルホストや「てんや」などの外食事業、「リッチモンドホテル」を展開するホテル事業、空港や高速道路などでの食堂事業(コントラクト事業)、関西国際空港などでの機内食事業、そしてセントラルキッチンの運営などを行う食品事業だ』、なるほど。
・『崩れた「完璧なポートフォリオ」  リスク分散を図る多角化経営は安定的で、ロイヤルHDの強みでもあった。例えば、2018年12月期は台風21号が関西国際空港を襲い、機内食事業が大きな被害を受けた。しかし、ホテル事業が伸び、営業利益は微減益に踏みとどまる。外食企業の多角化経営は珍しく、業界内でも異彩を放っていた。 「ロイヤルHDの事業は隙がない、完璧な事業ポートフォリオだと思っていた」。ある上場居酒屋チェーンの社長はそう振り返る。 しかし、コロナ禍で状況は一変。リスクが分散されていたはずの全事業で甚大な被害が出た。外出自粛やインバウンド(訪日客)喪失により外食、ホテル、機内食、コントラクトが深刻なダメージを受け、付随して食品事業も低迷。2020年12月期は主要5事業すべてが赤字に転落した。 同社はロイヤルホストなど不採算店舗70店程度を閉鎖し、315人の希望退職も実施した。減損処理などで特別損失が大きく膨らみ、多額の最終赤字計上を余儀なくされた。2019年末に49.6%あった自己資本比率は2020年末には19.7%へ急落した。 苦境を脱するウルトラCとして2月15日に発表したのが総合商社・双日との資本業務提携だ。第三者割当増資により双日から100億円、みずほ銀行や日本政策投資銀行などから60億円を調達。双日には新株予約権も発行し、最大78億円の追加調達を行う構えだ。 同日の会見でロイヤルHDの菊地唯夫会長は、「アライアンスの必要性については(2020年の)9月ごろから感じていた」と語った。出資額や期待されるシナジー、スピード感などを考慮して双日を選んだという。 一方、非資源事業の強化が経営課題の双日にとって、ロイヤルHDへの出資は願ってもない話だった。同社の藤本昌義社長は「(ロイヤルHDへの出資提案は)渡りに船という感じだった。(ロイヤルHDは)われわれがもっていない顧客基盤を持っており、千載一遇のチャンス」と顔をほころばせる』、「完璧な事業ポートフォリオだと思っていた」、「しかし、コロナ禍で状況は一変。リスクが分散されていたはずの全事業で甚大な被害が出た。外出自粛やインバウンド(訪日客)喪失により外食、ホテル、機内食、コントラクトが深刻なダメージを受け、付随して食品事業も低迷。2020年12月期は主要5事業すべてが赤字に転落」、コロナ禍の影響は予想外のダメージを与えたようだ。
・『なぜ双日を選んだのか  ロイヤルHDは、双日のネットワークを生かした物流・調達面での経営効率化や、海外展開などでシナジー効果をにらむ。だが、双日は売上高で総合商社第7位。東南アジアで小売事業を展開しているとはいえ、双日同様に有力な食品子会社を持つ三菱商事や伊藤忠商事、川上部門に強い丸紅などには大きく水をあけられている。提携相手が双日である必然性はみえてこない。 しかし、菊地会長は「仮に総合商社すべてを選べるとしても、双日さんを選んだ」と断言する。大きな理由が、双日の持つ航空機産業や空港運営での経験だ。 双日は、航空機の累計販売件数では900機以上と国内シェア第1位だ。「ボーイングの販売代理店としても60年以上の歴史を有しており、国内外でのエアラインとの関係も強固」(藤本社長)。オセアニアのパラオ国際空港の運営を手がけたり、グループ会社であるJALUXが空港内売店「BLUE SKY」を展開するなど、空港関連事業のノウハウも豊富だ。) 主要5事業の中で、ロイヤルHDが最も手を焼いているのが祖業である機内食事業で、空港内のコントラクト事業も厳しい。2020年12月の月次売上高はそれぞれ前年同月比85%減、同60.4%減と低調で、他事業と比べてもコロナ禍からの回復の遅れが鮮明となっている。 菊地会長は「(機内食事業は)誰かの力を借りないと立て直せない」と判断。機内食事業を担う100%子会社「ロイヤルインフライトケイタリング」の持ち分60%を双日に譲渡し、ロイヤルHDは出資比率を40%に引き下げて持ち分法適用会社に移行する。機内食事業の喫緊の課題は製造工場の稼働率向上で、今後は双日の多様な販路とノウハウを使い、空港内店舗などさまざまな需要を掘り起こしていく』、「機内食事業」で「持ち分60%を双日に譲渡」、はなかなかいい組み合わせだ。
・『外食は「てんや」に回復の兆し  今回の双日との提携について、外食業界に詳しい、いちよし経済研究所の鮫島誠一郎主席研究員も「機内食の販路を広げることが期待できる」と評価する。 一方、航空関連以外の事業は基本的に自力再建路線をもくろむ。「昨年10~11月にホテルの平均稼働率は7割を超えた。インバウンドがないと厳しいホテルも片手の指の数ぐらいはあるが、国内で人が動けば基本的にホテル事業は回復していく」。菊地会長はホテル事業の先行きをこのように見通す。 鮫島氏も空港内以外のコントラクト事業の先行きは明るいと語る。「百貨店内店舗がやや苦戦するだろうが、介護施設などはコロナのクラスターが発生しない限り、需要が戻っていくだろう」 外食事業や食品事業でも明るい兆しが見え始めた。1つがてんやの回復だ。2回目の緊急事態宣言下では、定価650円の上天丼弁当(並盛)を500円で販売するなどの持ち帰り向け施策が奏功。既存店の売上高も、1月が前年同月比10.7%減、2月も同3.4%減とほぼ前年並みに戻りつつある。 コロナ影響の大きかった都心の駅前立地店が多かったてんやだが、2020年12月に郊外型モデルとなる「天ぷらてんや」を神奈川県平塚市に出店。モデルが確立すれば徐々に出店数を増やしていき、最終的にはフランチャイズ方式での多店舗展開を狙う。 レストラン「ロイヤルホスト」も2月の既存店売上高は昨年同月比23.6%減。2020年10月には前年比4.7%減まで戻した実績を鑑みると、行政からの時短要請がなくなれば、売り上げ回復も期待できる』、「外食事業や食品事業でも明るい兆しが見え始めた」のは確かなようだ。
・『調達資金の一部を食品事業に投入  一方、コロナ禍で家庭用の冷凍食品「ロイヤルデリ」は急伸した。「レストランクオリティの味を家庭でも楽しめる」というコンセプトのもと、自社のセントラルキッチンで作った冷凍食品を販売している。 巣ごもり消費による需要増で、2020年1~3月と比べ、同10~12月の売り上げは約6.6倍に伸びた。 かつて業界屈指の優等生とされたロイヤルHDも、コロナという外的要因によって業績は悪化した。「われわれの事業はヒトが移動することで成り立っていたビジネスだということを改めて感じた」と菊地会長は振り返る。 双日や銀行団から調達した資金の一部は、冷食をはじめとする食品事業の設備強化に充てる考え。「さらなる販路拡大のため(多様なチャネルをもつ)双日さんの力を借りたい」(ロイヤルHDの黒須康宏社長)と今後の展開に期待を寄せる。双日との提携がロイヤルHDの「復活への狼煙」となる』、「ロイヤルHDの「復活への狼煙」」は果たして上がるのだろうか。

次に、6月13日付け東洋経済オンライン「コロナ禍も快走!マックが「店外」で圧倒する真因 最高益の裏に持ち帰り・宅配の"綿密戦略"あり」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/433772
・『快進撃はどこまで続くか――。 新型コロナウイルスが痛撃した外食産業において、数少ない勝ち組とされる日本マクドナルドホールディングス(HD)。今2021年12月期の第1四半期(1~3月期)は、売上高758億円(前年同期比5.0%増)、営業益92億円(同19.7%増)と好スタートを切った。 2020年度も営業利益は過去最高を更新したが、今2021年度はそれを上回る、売上高2995億円(前期比3.9%増)、営業利益320億円(同2.3%増)を計画。直近4~5月の既存店売上高も前年超えが続いている』、「快進撃はどこまで続くか」は確かに注目点だ。
・『CMでも「コロナ特別対応」  コロナ禍でも顧客の利用拡大を導いた要因の1つが、コロナ対策や商品を巧みにアピールしたCM戦略での工夫だ。 コロナ感染拡大当初は、衛生管理の取り組みなど安心・安全をアピールした。「コロナ初期はスピード重視。簡素な広告で、非接触での商品購入も可能であることなどをいち早く伝えることに注力した」(日本マクドナルドのズナイデン房子・最高マーケティング責任者)。 商品の打ち出しでは、値段の安さを全面的に押し出す手法から転換。堺雅人さん起用のチキンマックナゲットのCMは「親子間の会話」をテーマにした内容で打ち出し、月見バーガーでも同様のテーマを踏襲した。コロナ禍だからこそ「人と人とのつながり」にフォーカスしたCMは反響を呼び、CM総合研究所のCM好感度調査(2020年1~12月度)では企業別で総合1位を獲得した。 とはいえマクドナルドも多くの飲食店と同様、コロナの影響を少なからず受けた。 オフィス街を中心に来店客が減った結果、2021年1~3月期の既存店の客数は前年同期比4.6%減。一方で客単価が同14.2%増えた。郊外や住宅街の家族客を中心に、持ち帰りでのまとめ買いが伸びて客数の落ち込みを吸収した形だ。 1971年に出した日本1号店が持ち帰り専門だったこともあり、従来「店外戦略」には強かったマクドナルド。コロナ禍での躍進の裏には、この店外戦略において、矢継ぎ早に新規策を打ち出し需要を取り込んだ成果が大きい。 代表例が、コロナ前からほぼ全店で導入されていた、商品をスマートフォン等で事前に注文・決済できる「モバイルオーダー」のブラッシュアップだ。 モバイルオーダー利用には専用アプリのインストールが必要だったが、2020年4月に同機能をマクドナルド公式アプリ(2020年3月末時点で累計ダウンロード数6600万件)に追加して統合。 同年9月には、アプリのインストールや会員登録すら必要ない、Webサイト経由のオーダーにも対応できるようにした。 車を利用する顧客向けの対策も強化。コロナ禍ではドライブスルーの利用が急増し、専用レーンや店前の道路では渋滞が頻発した。そこで大型店ではレーンを増設し、小型店も受け取りポイントを増やすなどの改善策を進めた。 モバイルオーダーで事前に注文して店舗内の駐車場で待っていれば、顧客の車までスタッフが届けにきてくれる新サービス「パーク&ゴー」も投入。2020年5月に導入を始め、2021年3月末時点での対応店舗数は860店と急ピッチで拡大した』、「1971年に出した日本1号店が持ち帰り専門だったこともあり、従来「店外戦略」には強かったマクドナルド。コロナ禍での躍進の裏には、この店外戦略において、矢継ぎ早に新規策を打ち出し需要を取り込んだ成果が大きい」、創業時の強味がいまだに強味になるというのはすごいことだ。
・『今年中に全都道府県で宅配に対応  一連の対応の速さについて、ある外食チェーン幹部は舌を巻く。「コロナ禍で多くの飲食店が一斉にテイクアウトに踏み切ったが、付け焼き刃程度で売り上げの数%にすら届いていないケースも多い。もともとテイクアウトに強いマックに本腰を入れられたら到底かなわない」。 自社の宅配サービス「マックデリバリー」の対応店舗数は2019年末に257店だったが、2021年3月末には756店に拡大。ウーバーイーツの対応店舗拡充に加え、昨秋には出前館も導入し、何らかの宅配に対応する店舗は2021年3月末時点で1629店(全店の約55%)となった。2021年度中には宅配を47都道府県すべてに導入する方針という。 さらに、読売新聞の販売店の配達スタッフがマックデリバリーの配送業務を担う、業種の垣根を超えた取り組みも進めている。「デリバリーでは住所が不明確なケースもあるが、地域を知り尽くしている新聞配達員なら、スピーディーなデリバリーが可能」(中澤啓二執行役員)。 数々の取り組みが好循環を生む中、今年3月、約7年間にわたり日本マクドナルドHDを率いてきたサラ・カサノバ社長が退任。後任の社長には元取締役の日色保氏が就き、カサノバ氏は会長職に就任した。 日色社長はジョンソン・エンド・ジョンソンの日本法人社長を経て、2018年に日本マクドナルドHDへ入社。2019年3月には事業会社である日本マクドナルド社の社長に就任していた。 マクドナルド入社当初から「組織や人材の育成経験が豊富」(カサノバ氏)との評価を受けていた日色氏。優秀な人材の採用と育成に注力する方針を掲げる。 同社では2020年度は店舗数こそ微増程度だったが、採用を重点的に強化し、働くクルーの数は1年間で約15万人から約17万人へと急増。目下、宅配業務と店舗業務両方をこなせるクルーの育成にも注力しており、今後さらに人材への投資を強める考えだ。 改装など店舗投資も積極化させる。活況ゆえに、店舗では顧客の待ち時間が長くなるケースも多発。そのためドライブスルーのレーン増設に加え、ハンバーガーの製造能力が2倍になるような新型キッチンの導入も進める』、「読売新聞の販売店の配達スタッフがマックデリバリーの配送業務を担う、業種の垣根を超えた取り組みも進めている」、面白いアイデアだが、「新聞販売店」を警戒するユーザーもいることは要注意だ。
・『ファストフードの競争は熾烈化  3月までは店外でのまとめ買い需要が好決算に結び付いた日本マクドナルドだが、直近の既存店の客単価を見ると、前年の反動で4月は9.7%減、5月は13.7%減と前年同月割れが続く。客数増により既存店売上高自体は伸びを確保しているものの、店舗改装や購買利便性を上げる施策のさらなる投入により、客数拡大をどこまで維持できるかが、今後の成長の鍵を握るだろう。 足元では、多くのプレーヤーがコロナ禍でも堅調なファストフード業態に参入している。 松屋フーズホールディングスはライスバーガー専門店「米(my)バーガー/こめ松」を4月よりデリバリー限定で展開。ロイヤルホールディングスも5月にバターチキン専門店「Lucky Rocky Chicken」を出店し、鳥貴族ホールディングスも8月に新業態「トリキバーガー」を都内でオープンする予定だ。 大手を中心に、モバイルオーダーや宅配などマクドナルドが強みをもつ領域を強化する動きが広まり、胃袋を取り合う争いは苛烈化している。マクドナルドも絶えずサービスをブラッシュアップできなければ、コロナ禍で磨いた「勝利の方程式」が通用し続ける保証はない。)数々の取り組みが好循環を生む中、今年3月、約7年間にわたり日本マクドナルドHDを率いてきたサラ・カサノバ社長が退任。後任の社長には元取締役の日色保氏が就き、カサノバ氏は会長職に就任した。 日色社長はジョンソン・エンド・ジョンソンの日本法人社長を経て、2018年に日本マクドナルドHDへ入社。2019年3月には事業会社である日本マクドナルド社の社長に就任していた。 マクドナルド入社当初から「組織や人材の育成経験が豊富」(カサノバ氏)との評価を受けていた日色氏。優秀な人材の採用と育成に注力する方針を掲げる。 同社では2020年度は店舗数こそ微増程度だったが、採用を重点的に強化し、働くクルーの数は1年間で約15万人から約17万人へと急増。目下、宅配業務と店舗業務両方をこなせるクルーの育成にも注力しており、今後さらに人材への投資を強める考えだ。 改装など店舗投資も積極化させる。活況ゆえに、店舗では顧客の待ち時間が長くなるケースも多発。そのためドライブスルーのレーン増設に加え、ハンバーガーの製造能力が2倍になるような新型キッチンの導入も進める。 ▽ファストフードの競争は熾烈化(3月までは店外でのまとめ買い需要が好決算に結び付いた日本マクドナルドだが、直近の既存店の客単価を見ると、前年の反動で4月は9.7%減、5月は13.7%減と前年同月割れが続く。客数増により既存店売上高自体は伸びを確保しているものの、店舗改装や購買利便性を上げる施策のさらなる投入により、客数拡大をどこまで維持できるかが、今後の成長の鍵を握るだろう。 足元では、多くのプレーヤーがコロナ禍でも堅調なファストフード業態に参入している。 松屋フーズホールディングスはライスバーガー専門店「米(my)バーガー/こめ松」を4月よりデリバリー限定で展開。ロイヤルホールディングスも5月にバターチキン専門店「Lucky Rocky Chicken」を出店し、鳥貴族ホールディングスも8月に新業態「トリキバーガー」を都内でオープンする予定だ。 大手を中心に、モバイルオーダーや宅配などマクドナルドが強みをもつ領域を強化する動きが広まり、胃袋を取り合う争いは苛烈化している。マクドナルドも絶えずサービスをブラッシュアップできなければ、コロナ禍で磨いた「勝利の方程式」が通用し続ける保証はない』、「多くのプレーヤーがコロナ禍でも堅調なファストフード業態に参入」、競争が一段と激化するなかで、「マクドナルド」は「勝利の方程式」をどう磨いていくのか注目される。

第三に、7月8日付け日刊ゲンダイ「かっぱ寿司社長がデータ不正取得で告訴…背後にある「回転ずし戦争」の熾烈」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/291596
・『回転ずしチェーン「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトの田辺公己社長(45)が、営業秘密を不正に受け取っていたとして、同業大手の「はま寿司」から不正競争防止法違反の疑いで告訴された。警視庁は先月28日、カッパ本社や田辺社長の自宅を家宅捜索した。 田辺氏は、はま寿司の親会社「ゼンショーHD」出身で、元はま寿司の取締役だった。2020年11月、カッパの顧問に転じた直後から12月中旬にかけて、数回にわたり、元同僚からはま寿司社内で共有されていた日次売り上げデータなどを、個人的にメールで送付してもらっていた。その後、田辺氏は副社長を経て、21年2月、カッパの社長に就任している。田辺氏は東海大開発」工学部卒。はま寿司の取締役を務めた後17年と18年に同じくゼンショー傘下のジョリーパスタとココスジャパンの社長を歴任している。 外食大手のコロワイドが、300億円を投じ、社運をかけてカッパを買収したのは14年10月。かつてカッパは業界内で圧倒的なシェアを誇っていたが、「安かろう、まずかろう」という悪いイメージを払拭できないまま、業界4位に低迷。21年3月期の前期売上高は、3位のはま寿司に倍近い差をつけられている。コロワイド創業者の蔵人金男会長はカッパを買収して以来、社長のクビを5回スゲ替えるなど異常事態が続いていた。データの不正取得の背景には、売り上げが伸びない田辺氏の焦りがあったのかもしれない』、「コロワイド創業者の蔵人金男会長はカッパを買収して以来、社長のクビを5回スゲ替えるなど異常事態が続いていた」、それにしても、「田辺氏」はかつて「はま寿司の取締役を務めた」とはいえ、「かっぱ寿司」社長なのに、「はま寿司社内で共有されていた日次売り上げデータなどを、個人的にメールで送付してもらっていた」、驚くような違法行為だ。
・『■「はま寿司」から転職後3カ月で社長就任  外食ジャーナリストの中村芳平氏がこう言う。 「ライバル会社に移ったとはいえ、はま寿司が元取締役を告訴までしたということは、両者の関係はもともとうまくいっていなかったのではないか。田辺氏も、はま寿司に残っていても出世の目がないとみて、出たのでしょう。自らコロワイドに売り込んだ可能性もあります。親会社のコロワイ1としても、メリットがなければ受け入れない。しかもコロワイドに移籍して、わずか3カ月で社長に就任している。田辺氏は不正取得をしてでも、実績を上げなければならない立場だったのでしょう」 ここ数年、ライバル会社に移った社員が「内部情報」を持ち出すケースが相次いでいる。19年には、アシックスからプーマの関連会社に転職した社員によるデータの持ち出しが発覚。21年にはソフトバンクから楽天モバイルに移った社員が5Gに関する情報を持ち出し、それぞれ摘発されている。 「回転ずし業界はトップのスシローが商品開発力や人材育成において、一歩も二歩も抜け出している。その一方で、このままではカッパは先細りするだけです。コロワイドはカッパを買収した際、1年か2年で立て直せると踏んでいた。ところが今のコロワイドには、立て直せる人材もおらず、育てる能力もない。だから今回のような事件が起きてしまったのでしょう」(中村芳平氏) ただでさえ、不振にあえいでいるというのに、イメージダウンは必至だ』、「今のコロワイドには、立て直せる人材もおらず、育てる能力もない。だから今回のような事件が起きてしまったのでしょう」、お粗末極まる事件だ。
タグ:外食産業 (その3)(ロイヤルホスト「双日と提携」で業績復活なるか ノウハウに魅力 航空関連ビジネス再建に本腰、コロナ禍も快走!マックが「店外」で圧倒する真因 最高益の裏に持ち帰り・宅配の"綿密戦略"あり、かっぱ寿司社長がデータ不正取得で告訴…背後にある「回転ずし戦争」の熾烈) 東洋経済オンライン 「ロイヤルホスト「双日と提携」で業績復活なるか ノウハウに魅力、航空関連ビジネス再建に本腰」 「完璧な事業ポートフォリオだと思っていた」、「しかし、コロナ禍で状況は一変。リスクが分散されていたはずの全事業で甚大な被害が出た。外出自粛やインバウンド(訪日客)喪失により外食、ホテル、機内食、コントラクトが深刻なダメージを受け、付随して食品事業も低迷。2020年12月期は主要5事業すべてが赤字に転落」、コロナ禍の影響は予想外のダメージを与えたようだ。 「機内食事業」で「持ち分60%を双日に譲渡」、はなかなかいい組み合わせだ。 「外食事業や食品事業でも明るい兆しが見え始めた」のは確かなようだ 「ロイヤルHDの「復活への狼煙」」は果たして上がるのだろうか。 「コロナ禍も快走!マックが「店外」で圧倒する真因 最高益の裏に持ち帰り・宅配の"綿密戦略"あり」 「快進撃はどこまで続くか」は確かに注目点だ 「1971年に出した日本1号店が持ち帰り専門だったこともあり、従来「店外戦略」には強かったマクドナルド。コロナ禍での躍進の裏には、この店外戦略において、矢継ぎ早に新規策を打ち出し需要を取り込んだ成果が大きい」、創業時の強味がいまだに強味になるというのはすごいことだ。 「読売新聞の販売店の配達スタッフがマックデリバリーの配送業務を担う、業種の垣根を超えた取り組みも進めている」、面白いアイデアだが、「新聞販売店」を警戒するユーザーもいることは要注意だ。 「多くのプレーヤーがコロナ禍でも堅調なファストフード業態に参入」、競争が一段と激化するなかで、「マクドナルド」は「勝利の方程式」をどう磨いていくのか注目される。 日刊ゲンダイ 「かっぱ寿司社長がデータ不正取得で告訴…背後にある「回転ずし戦争」の熾烈」 「コロワイド創業者の蔵人金男会長はカッパを買収して以来、社長のクビを5回スゲ替えるなど異常事態が続いていた」、それにしても、「田辺氏」はかつて「はま寿司の取締役を務めた」とはいえ、「かっぱ寿司」社長なのに、「はま寿司社内で共有されていた日次売り上げデータなどを、個人的にメールで送付してもらっていた」、驚くような違法行為だ。 「今のコロワイドには、立て直せる人材もおらず、育てる能力もない。だから今回のような事件が起きてしまったのでしょう」、お粗末極まる事件だ。
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スガノミクス(その8)(菅総理の「誇大妄想」が悲しい途上国日本 古賀茂明 連載「政官財の罪と罰」、作家・佐藤優が読み解く 菅首相がじんわりと怖いのはなぜか 緊急事態宣言とオリンピック開催が両立する菅首相の頭の中の論理、菅政権は末期に 酒取引停止問題で露呈した限界 首相の指導力が急低下 募る衆院選への不安) [国内政治]

スガノミクスについては4月16日に取上げた。今日は、(その8)(菅総理の「誇大妄想」が悲しい途上国日本 古賀茂明 連載「政官財の罪と罰」、作家・佐藤優が読み解く 菅首相がじんわりと怖いのはなぜか 緊急事態宣言とオリンピック開催が両立する菅首相の頭の中の論理、菅政権は末期に 酒取引停止問題で露呈した限界 首相の指導力が急低下 募る衆院選への不安)である。

先ずは、7月6日付けAERAdot「菅総理の「誇大妄想」が悲しい途上国日本 古賀茂明 連載「政官財の罪と罰」」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/wa/2021070300016.html?page=1
・『6月18日、政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太方針)と「成長戦略実行計画」を決定した。 しかし、その中身にはほとんど意味はない。これらの文書に書かれた項目のほとんどが、各省庁の予算要求の根拠にするための作文に過ぎず、何年か経って振り返ると、大きな目標のほとんどが未達成のままだからだ。 今回の発表劇を見て、私は、2013年6月14日を思い出した。「日本再興戦略」が発表された日だ。12年12月に総理の座に就いた安倍晋三氏は、海外に出かけると、「ジャパン・イズ・バック」、「バイ・マイ・アベノミクス」と胸を張り、大改革を断行するとPRしていた。ところが、当日示された日本再興戦略の中に描かれた「改革」は小粒なものばかり。市場の期待は大きく裏切られ、安倍総理の会見途中で株が暴落。それ以来、安倍総理がいくら大騒ぎをしても、成長戦略に期待する向きはなくなった。 今回は、菅義偉政権最初の成長プランだから、注目度は上がるはずだったが、はっきり言って誰も期待していなかった。ただそれは、菅政権にとってむしろ幸運だったようだ。期待が低かった分、落胆も小さく、市場への影響もなかったからだ。 90年代には携帯電話、液晶パネル、太陽光発電、風力発電などで日本企業が常に世界の上位を占めていたが、それは遠い過去の栄光だ。IT化では、先進国の最後尾に取り残され、先週は、半導体不足で自動車生産が停滞し、鉱工業生産が大幅減少と報じられた。昔は、世界の半導体市場で多くの日本企業がランキング上位を占めていたのが夢のようだ。この間、成長戦略が毎年出されたが、何の意味もなかった。 しかし、だからと言って成長戦略が不要という訳ではない。特に、経済の停滞が著しい日本にとっては、過去の失敗と決別するためにも、新規事業がどんどん生まれ育って行く「ビジネス環境」の整備は喫緊の課題だ。 実は、上述の13年の「戦略」は、そうした認識に基づき、「20 年までに、世界銀行のビジネス環境ランキングで日本が現在の先進国15 位から3位以内に入る」という目標を記していた。先進国とは、OECD(経済協力開発機構)加盟国である』、「13年の「戦略」」は「世界銀行のビジネス環境ランキング」を目標に掲げていただけ、まだ良心的だった。
・『しかし、最近、この話は全く聞かなくなった。それもそのはず、実は、日本の順位は20年版世銀ランキングで、OECD諸国中18位と下がっている。世界全体では、28位のロシアにも及ばず29位。31位の中国に抜かれる寸前だ。もはや先進国とも呼べない状況なのである。失態続きの経済産業省と菅政権は、こうした実態を隠すために、今回の実行計画にこの目標は掲げなかった。 ちなみに、OECD3位は遥か彼方でほぼ実現不可能なのだが、その3位の座にいるのは、何と菅政権が大嫌いな韓国だ。「目標は韓国です」とは、恥ずかしくて言えるはずもない。選挙前に最大の支持層である岩盤右翼の人々がそれを聞いたら、気絶するかもしれない。菅総理は、こうした事実を隠すため、「日本が世界の成長を牽引して行く」と述べている。本気で言っているとしたら「誇大妄想」というしかないだろう。 不都合な真実から目をそらしても状況は改善しない。日本の産業を立て直すには菅政権に退場してもらうしかなさそうだ』、「日本の順位は20年版世銀ランキングで、OECD諸国中18位と下がっている。世界全体では、28位のロシアにも及ばず29位。31位の中国に抜かれる寸前」、「OECD3位・・・の座にいるのは、何と菅政権が大嫌いな韓国だ」、惨憺たる状況だ。格好をつけずに、実態に即した施策が強く求められている。

次に、7月9日付けJBPress「作家・佐藤優が読み解く、菅首相がじんわりと怖いのはなぜか 緊急事態宣言とオリンピック開催が両立する菅首相の頭の中の論理」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66006
・『「民主主義の消費期限はもう切れているのかもしれない」と話すのは作家で元外務省主任分析官の佐藤優(さとう・まさる)氏だ。コロナの封じ込めに成功した中国を見て、非常事態への対応には非民主な体制の方が強いのではないかと多くの人が不安を抱いた。民主主義が崩壊し、独裁のような形に変わっていくほど、私たちの社会や経済は追い詰められた状況にあるのだろうか。 ウラジーミル・プーチン、習近平、ドナルド・トランプ、金正恩など11人の独裁者を解説する『悪の処世術』(宝島社新書)を上梓した佐藤氏に話を聞いた。(聞き手:長野光 シード・プランニング研究員、Qは聞き手の質問)(※記事の最後に佐藤優氏の動画インタビューが掲載されているので是非ご覧ください)』、興味深そうだ。
・『恐怖政治の仕組みを上手く作ったプーチン大統領  Q:数々の政敵や反体制派をむごたらしく葬ってきたロシアのプーチン大統領こそ、現代の危険な独裁者というイメージにぴったりといった印象を受けます。プーチン大統領の人間性について教えてください。 佐藤優氏(以下、佐藤):反体制派に毒を飲ませたり、記者を殺したりしてもプーチンに得はありません。ロシアは直接選挙ですし、ロシア国民は知的水準も高い。そんな乱暴なことをしたら大統領に当選できません。「プーチンはバカだ」というプーチン観がありますが、そこまでバカな奴が20年以上も権力を握れるはずもない。 一度、「ロシアは怖い」という価値判断を外してロシアを見てみたら面白いですよ。国会議事堂に乱入して銃乱射するような国が民主主義国だと本当に言えますか。ロシアだってロシアなりの基準で民主主義国なんです。 『ウラジーミル・プーチンの大戦略』(2021年7月発売予定、東京堂出版)の著者、アレクサンドル・カザコフは僕のモスクワ大学の同級生で、プーチンの側近グループの一人です。 この本では、デモクラシー(民主主義)が機能しなくなって、今の世界のトレンドはフォビアクラシー(phobiacracy、恐怖政治)だと言っている。プーチンは恐怖政治の仕組みを上手に作っています。忖度の構造を作るのが上手い。そして、日本にもフォビアクラシーがあります。 Q:日本の今の政権に恐怖政治の要素が見られるということですか。 佐藤:菅さん(菅義偉首相)はかなり怖い。彼がやっているのは、完全にフォビアクラシー(恐怖政治)です。少しでも反発する者が出てきたらバサッと切りますから。あれだけ頼りにしている尾身さん(新型コロナウイルス感染症対策分科会・尾身茂会長)だって、近々切られる可能性が十分あると思う』、「日本にもフォビアクラシーがあります・・・菅義偉首相がやっているのは、完全にフォビアクラシー(恐怖政治)です。少しでも反発する者が出てきたらバサッと切りますから」、「菅政治」は「フォビアクラシー」とは言い得て妙だ。
・『菅首相がオリンピックに固執する論理  佐藤:「オリンピックをやめたら、自分の政権が潰れる。だから権力に固執している」と考えると、菅さんという人を読み違える。オリンピックをやれば感染者が増え、世界の変異株がたくさん入って来るなんてことは、彼も百も承知でしょう。 菅さんは、このコロナの中、権力に空白が生じることで政治や経済に混乱が生じないように、自分がやり続けることが唯一の選択肢だと信じている。そして、安定か混乱か、どちらを取るかと考えた場合に、混乱を避けるためにはオリンピックに突入せざるを得ないから苦渋の選択をする、と。 政治は究極の人知を超えた世界にあります。ヒトラーだって、最初から独裁者になると思っていなかった。最初は国民に選ばれた、と思う。その次に神様に選ばれた、と思うようになる。菅さんも神がかり的なところがあると思う。本人でさえ総理大臣になると思っていなかったんだから。今、このコロナ禍の日本で首相をやっているのは自分の天命だと思っていると思う。 彼は究極の現実主義者ですよ。河井克行(元法相)や河井案里(元参院議員)は、ガネーシャの会で菅さんの応援団だった人です。菅原一秀(前経済産業相)や吉川貴盛(元農相)、自分に近かった総務官僚、自分の息子も誰も守らない。単に冷たいというレベルではなく、「混乱を避けるために、申し訳ないけど事実だったらしょうがない、責任を取ってもらうしかない」という思想で切り捨てる。これは官僚や政治家としては怖いですよ。 Q:「ルールを破ったら仲間であろうと容赦しない」という姿勢は、国民の側からすると公正なもので悪くないようにも思えますが。 佐藤:そう思います。コロナの予防接種も思うように進んでいないし、オリンピック開催の不安もあるにも関わらず、菅政権の支持率は30%ある。これはかなり高い。 混乱への恐れ、そういう感覚は国民の中でかなり強いと思います。今の政権が素晴らしいとは思わなくても、安定か混乱かだったら国民は安定を選択する。ただ、この安定か混乱かという選択は、ともすれば独裁を是認する方向に行きかねません』、「この安定か混乱かという選択は、ともすれば独裁を是認する方向に行きかねません」、確かにそのリスクに要注意だ。
・『もう一人の“独裁者”、習近平はどう見る?  Q:長い一人っ子政策の末、人口動態がいびつになった中国。成長が難しくなり、社会や経済の問題に政治が対処できなくなる時、次に民衆の心の拠り所になる可能性として宗教を想定している習近平は、先回りしてキリスト教をはじめ、外国の宗教を体制内部に取り込もうと目論んでいる、と書かれています。習近平政権は自分たちの作り上げたカルチャーが、宗教によって変容される可能性を恐れないのでしょうか。 佐藤:そもそも共産党体制自体に、理想的な社会を作っていこうという宗教的な要素があります。今までのようなマルクス・レーニン主義や毛沢東思想によって体制を維持できなくなったら、帝国を維持するために民心を安定させる宗教を取り込もうとするのは必然です。 でも、中国国内の地下教会や法輪功、「イスラム国」(IS)等は、極端に政治化して共産党体制とぶつかるから困る。矛盾せずに並存できる宗教といえば、カトリック教会です。 カトリック教会は、旧東欧の共産圏とも中南米の独裁政権とも上手くやってきました。今はまだ司教の任命権の問題があり、バチカンと手を握れていませんが、共産党体制に反発せずに社会問題を処理するという点ではカトリックが魅力的です。 それから、創価学会(創価学会インターナショナル)の活動も同時に公認することになるでしょう。創価学会は、日本では戦時中、軍部と対立していましたが、今は自公政権の中で与党化しています。中国共産党政権の中で与党化することも可能ですよ。 Q:日本では創価学会は公明党を持っています。創価学会を大々的に取り入れる場合、中国政府は政治に関与してくる可能性を懸念するのではないでしょうか。 佐藤:そうは思いません。一国二制度の下で、香港とマカオでは創価学会インターナショナルの活動は認められています。それから、中国の各大学には池田思想研究所があります。創価学会が政治活動をしているのは日本だけで、世界百数十カ国の創価学会インターナショナルは政治活動をしていません。政治との関係においては折り合いをつけやすい教団なんです』、「共産党体制に反発せずに社会問題を処理するという点ではカトリックが魅力的です。 それから、創価学会・・・の活動も同時に公認することになるでしょう」、なるほど。
・『トランプが勝ちを想定した民主主義のゲーム  Q:「私は低学歴の人たちが好きだ」と言い放ったトランプ大統領は、下品さを見せびらかすことで、大衆にこいつは気取っていないと思わせて引きつけた。トランプの強さは支持者がカルト化したところにある、と記されています。なぜ米国人は理想主義者のサンダース氏より、ヒールレスラーのトランプ氏をより熱狂的に求めたのでしょうか。 佐藤:政治は論理だけではなく感情で動きます。トランプは安定した支持者さえ掴んでいればこのゲームに勝てると計算していた。最後まで選挙結果を認めなかったことも、次の大統領選挙を考えれば正しいやり方です。 民主党はトランプの逆打ちばかりしています。イランで対話を再開し、イエメンのフーシ派のテロ組織指定を撤回し、アフガニスタンからの米軍撤退に関しては政策がぶれました。 もっとも、アフガニスタンから米軍が撤退しても、米国の民間戦争会社が国際機関や米国企業を防衛しています。軍服からガードマンの服に変えているだけで、本質的な違いはありません。 Q:トランプには政治家になって実現したい具体的な事柄が存在しない。「アメリカファースト」はそのような国づくりを理想としているのではなく、自己表現の一つに過ぎない、と書かれています。政治をエンターテイメントにできるのが不真面目な政治家の強みだと思いますが、これは危険なことでしょうか。 佐藤:危険だけど止められない。ウクライナのゼレンスキー大統領は元コメディアンです。「大統領」というテレビドラマに出たら大ヒットして、その勢いで大統領になっちゃった。プロレスみたいになってるんですよ、民主主義って。 そうなると民主主義以外の選択肢、恐怖政治の方が国民は幸せなんじゃないか。そういう発想も出てくる。 Q:民主主義が崩壊して独裁のような形に変わっていくほど、現在は追い詰められた状況だということでしょうか』、「アフガニスタンから米軍が撤退しても、米国の民間戦争会社が国際機関や米国企業を防衛しています。軍服からガードマンの服に変えているだけで、本質的な違いはありません」、確かにその通りなのだろう。
・『今後生まれてくる社会主義でも共産主義でもない体制  佐藤:中国はコロナを封じ込めることに成功している。この意味は相当に大きい。民主主義の消費期限が切れているのかもしれない。でも社会主義は、ソビエト型の社会主義の負の遺産のせいで無理です。そうすると、恐らく出てくるのは一種のファシズムでしょう。国家の暴力を背景にして、雇用を確保して、経済的な再分配をしていくという思想です。 Q:コミュニズムを装ったような形で、ということですか。 佐藤:利潤を追求する起業家精神は尊重するという点では、コミュニズムとは違います。経済は統制しないで競争はやらせる。でも、競争の成果物は取り上げて、貧しい人々に再分配する、というやり方です。中国は比較的近いと思いますが、共産主義という看板を掲げなくなると思います。 日本で言うとまず、年収3000万円くらいまでの人はいてもいい。でも、年間10億円、20億円稼ぐ奴からは全部召し上げて資産に課税する。消費税はがーんと上げる。それを原資として再分配し、最低700~800万円の世帯収入は皆に保証する、というイメージです。 Q:米国のような超富裕層の少ない日本では、資産家に大きく課税するという考え方は都合がいいと考える人は少なくないかもしれないですね。 佐藤:今のところは事実上、MMT(現代貨幣理論)で世の中が動いてしまっているわけでしょう。いくら国債売っても大丈夫なんだ、と。あれは絨毯にガソリンを撒いているようなものです。すぐに火はつかないけど、朝鮮半島や台湾海峡の有事等、国際情勢によって一気に火がついて極端なハイパーインフレになります。 その時、MMTだと、増税で対応するということになっているけど、そんなことが短期間でできるのか。そうなると、リバタリアン(自由主義)的な発想じゃなくて国家が乗り出してくると僕は思う。 Q:金正恩には求愛を恫喝で示すという独特な表現様式がある、と書かれています。当たり屋のようにトラブルを持ち込み、恫喝し困った相手を交渉の場に引きずり出して、注文をつけて相手が少しでも譲歩したら儲けもの、というあの質の悪いやり口を金正恩総書記はどこから学んだのでしょうか』、「今のところは事実上、MMT・・・で世の中が動いてしまっているわけでしょう・・・あれは絨毯にガソリンを撒いているようなものです。すぐに火はつかないけど、朝鮮半島や台湾海峡の有事等、国際情勢によって一気に火がついて極端なハイパーインフレになります」、同感である。
・『「北朝鮮の人々は今の北朝鮮にそこそこ満足している」  佐藤: 金日成や金正日の時には北朝鮮から輸出するものもあったし、第三世界の支援もしていた。金日成の主体思想に惹かれる人もそれなりにいました。金正日の時はリビアにトンネルを掘っていたし、土木工事なんかで儲けていたんです。 ところが、国連の制裁が加わって、だんだんそういうことができなくなって、ハッキングして仮想通貨を盗むとか犯罪国家的になっていった。ある意味、北朝鮮に対する制裁が効いてるんですよね。 ただし、核兵器を持っているから、迂闊なことはできない。北朝鮮は自分の身を守るために、核兵器が米国に到達するような形にしておかないといけない、と思い込んでいます。特に、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の多弾頭化に成功すれば、北朝鮮の安全は保障されるということになります。 北朝鮮は貧乏ですが、朝鮮戦争直後に比べて人口が増えているし、1990年代後半に多くの餓死者を出した「苦難の行軍」の時期と比べても豊かになっています。 北朝鮮のキャリアパスでは平壌に住むのが頂点だし、農村から地方の中核都市に移ることによって人の移動がある。それを目指して頑張るから、あの体制内でも、みんなそれなりに幸せにやっています。閉ざされた環境の中で、たとえ低い生活水準でも人々はそれを甘受して、そこそこの幸せを感じる、ということは十分あるんです。 Q:「私が20世紀の独裁者の中で最も興味を持っているのが、アルバニアに君臨したエンベル・ホッジャである」と本書で書かれています。日本で一般的に語られる国際政治の主要な人物の中では比較的マイナーな存在ですが、なぜこの独裁者に格別の興味を示されるのでしょうか。 佐藤:政治家にとって一番重要なことは、国民を飢えさせず食べさせることです。アルバニアは荒れた土地の小国なのに、エンベル・ホッジャは自力でちゃんと生き残って国民を食わせることができた。大したものです。しかも、ソ連や中国と喧嘩しながら衛星国にならず、バランスを取っていた。本来だったらユーゴスラビアに吸収されてしまうような小さい国ですからね。 Q:エンベル・ホッジャが尊敬していたのは、鉄の規律で民衆を徹底的に押さえつけ、平等な世界を実現しようとしたソ連の独裁者ヨシフ・スターリンでした。アルバニアもロシアもその後、破滅的な辛い時代に突入しますが、それは過度な理想主義者に無理に矯正された反動でバランスを崩して転倒した結果のように見受けます。完璧な世界の実現を目指す真面目すぎる政治家もまた、ならず者以上に危険な存在なのでしょうか』、「過度な理想主義者」の失敗例は、カンボジアのポルポト政権も記憶に新しいところだ。
・『究極の自己責任社会だった旧ソ連  佐藤:理想で世の中を動かそうとしても短期間しか動かない。最後は恐怖で動かすしかないし、理想的な社会を作るには恐怖政治になる。ただ、恐怖政治だとしても、その仕組みが機能している限りにおいては長期間続くんです。 ソ連はある意味で、非常にいい社会でした。共産主義の理想である「労働時間の短縮」が実現されていました。1日3時間くらいしか働かない。土日は2回休むし、夏休みは2カ月ある。クーポン券が労働組合から配られるから、夏の間はリゾートホテルでみんな遊んでいたんです。 Q:生活が安定して様々なものが享受できたとしても、人々は精神的に幸せにはなれないのでしょうか。 佐藤:旧ソ連はそれなりに幸せだったんです。住宅はタダで分けてくれる仕組みがあって、普通の労働者は別荘を持っていた。郊外のログハウスに10人くらいで集まって、手作りの料理を持ち寄って飲んで・・・。全然悪くない、楽しい生活ですよ。 別荘に集まってタイプライターで詩や作品を作ることもありました。どんな反体制文書でも、製本して20部作って配るくらいは全然問題ない。日本の学術論文の読者だって、実際は3人くらいでしょう。知的な活動をしている人は、20部程度発行できれば満足ですよ。 一人の人が一生の間に知り合える人は150人で、人事評価をきちんとできる人数は8人だと言われています。人というのは10人、15人の人がいればわりと満足なんです。今の日本の場合、10人、15人の友達に会いたいと言っても難しいでしょう。仕事で都合つかないとか、収入に余裕がなくてカツカツだとか。 Q:競争志向型の人は、ソ連時代はどうしていたのでしょうか。 佐藤:ソ連のエリートはハイリスク・ローリターンだったんです。腐っていない卵を買えるくらいの特権しかなかったんです。国家の指導的な立場になっても、政争に巻き込まれてシベリア送りや刑務所送りになるリスクがあった。でも、そこそこの生活でよければ政争に巻き込まれることはない。 しかし、人々はミネラルウォーターやビールを飲む時は、光にかざしてチェックする必要がありました。品質管理がないから、ネズミのうんこが入っている可能性がある。それを飲んで腹を壊しても自己責任、だからみんな一生懸命に目を凝らしていた。究極の自己責任社会だったんです』、「理想的な社会を作るには恐怖政治になる。ただ、恐怖政治だとしても、その仕組みが機能している限りにおいては長期間続くんです。 ソ連はある意味で、非常にいい社会でした。共産主義の理想である「労働時間の短縮」が実現されていました。1日3時間くらいしか働かない。土日は2回休むし、夏休みは2カ月ある。クーポン券が労働組合から配られるから、夏の間はリゾートホテルでみんな遊んでいたんです」、「ソ連」にもそんないい面があったとは初めて知った。
・『今の自由民主主義を守るには  Q:不安が多い社会では、強くて賢くて大いなる何かに導かれたいという願望が人々の間で高まりやすくなる。民主主義による意思決定のシステムが面倒に思えてくる。民主主義のシステムの綻びが大きくなり始めた今、20世紀の妖怪たちが息を吹き返そうとしている、と本書の冒頭で書かれています。この底流にある問題意識を教えてください。 佐藤:私は自由民主主義を守りたいと思う。 自由になると格差がつきすぎるけど、平等にすると競争がなくなって息苦しくなる。自由民主主義というのは、異なるベクトルの間で折り合いをつけていきます。その折り合いをつける基準は、フランス革命の自由、平等、友愛というスローガンの友愛ではないか。 では、その友愛はどう作られるのか。率直に意見を交わして、信頼が積み重なっていくと、その信頼関係がある人たちの間では、折り合いがつけられる。そういうネットワークを、自分の手が触れられるチャンスがある時に作る努力を怠らないこと、それが大事だと思う。(構成:添田愛沙)』、「信頼関係」はテーマ毎に成立する集団が変わってくる筈で、「佐藤氏」が言うほど簡単ではなさそうだ。

第三に、7月16日付け東洋経済オンラインが掲載した政治ジャーナリストの泉 宏氏による「菅政権は末期に、酒取引停止問題で露呈した限界 首相の指導力が急低下、募る衆院選への不安」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/441218
・『コロナ感染抑止策の一環として政府が画策した酒取引停止要請が全面撤回を余儀なくされた。関係する金融機関や酒事業者団体の反発に加え、与党内からも不満が噴出したからだ。 東京でのコロナ感染再拡大による東京五輪・パラリンピックの無観客開催などで苦境が続く菅義偉首相の指導力は一段と低下。頼みのワクチン接種の混乱による内閣支持率の低迷もあって、与党内には次期衆院選への不安も拡大している』、「今のドタバタ劇」はいまだに収まってないようだ。
・『「西村発言」に与野党から批判の声  今のドタバタ劇の主役を演じたのは、コロナ担当の西村康稔経済再生相だ。東京への4度目の緊急事態宣言発令を決めた7月8日の政府対策本部後の記者会見で、酒類提供停止の要請を拒む飲食店の情報を取引金融機関に流し、順守を働き掛けてもらう方針を表明した。 西村氏の発言は、政府がコロナ感染拡大の主犯と位置付ける飲酒を制限するための窮余の一策ともみえた。しかし、取引関係で強い立場にある金融機関を政府が動かすことは、金融機関にとって優越的地位の乱用との批判を招きかねない。野党からは「憲法違反」との声があがる一方、酒事業団体を有力な支持母体とする自民党からも不満が噴出した。 西村氏は9日に金融機関への要請は撤回したが、酒類販売事業者に求めた酒の提供を続ける飲食店との取引停止要請については続ける意向を表明。しかし、自民党が政府に強い不満を伝えたことから、こちらも13日に撤回した。 さらに政府は、酒類販売事業者への支援金をめぐり、給付要件として「酒類提供停止に応じない飲食店との取引停止」を求めていた6月11日付の都道府県向け文書も14日夜に廃止すると発表。まさに、「西村発言で始まった朝令暮改の連鎖で、菅内閣の統治能力や判断力の欠如を露呈」(立憲民主幹部)する結果となった。 問題は、不当な圧力ともみられる取引停止要請が西村氏のスタンドプレーだったのかという疑問だ。主要野党による調査の結果、内閣官房コロナ対策室と国税庁が連名で、酒造メーカーや販売団体に飲食店への酒類取引停止を求める文書を8日付で送付していたことが判明した。) 文書の題名の末尾には「依頼」と記載されており、コロナ対策室が菅首相に事前説明していたことも明らかになった。「まさに政府ぐるみの要請」(自民幹部)だったわけで、菅首相は9日の段階で西村氏発言について「承知していない」としらを切ったが、主要野党は「すべては最高指揮官の菅首相の責任」と勢いづいた。 深刻化する事態に焦った菅首相は14日午前、「先週の事務方の説明の中で言及しているということだが、要請の具体的内容について議論したことはない」と釈明。そのうえで「すでに要請は撤回されているが、多くの皆様に大変ご迷惑をおかけしたことをお詫びしたい」と陳謝した。 集中砲火を浴びた西村氏も、「できるだけ多くの方に協力いただきたいという強い思いからの発言だったが、趣旨を十分に伝えきれず反省している」と釈明。野党からの辞任要求には「私の責任は何としても感染拡大を収めることだ」と繰り返した』、「菅首相」は「責任」を回避し切れなくなると、やむなく「陳謝した」ようだ。
・『与党の重鎮からも苦言が相次ぐ  その一方、麻生太郎副総理兼財務相は13日の記者会見で、「海外出張中に途中段階の報告を受けたが、違うんじゃないかと思って『放っておけ』と言っ た」と苦々し気に発言。梶山弘志経済産業相も「強い違和感を覚えた。了承した事実はない」と明言した。 自民党の二階俊博幹事長は13日午前の総務会で「誤解を受けることがないよう、今後は事前に党に相談してもらい、発言には慎重を尽くしてもらいたい」と苦言を呈した。 緊急事態宣言の発令と同時進行となったのが、今回の一連の迷走劇だ。その経過や結果は、「内閣全体が感染急拡大への焦りで正常な判断ができず、世論の反発で慌てふためいて、西村氏に責任をかぶせて逃げ切りを図った」(閣僚経験者)とみられても仕方がない。 14日午前の菅首相の陳謝も、14、15両日に開催された衆参両院内閣委員会の閉会中審査で、野党の追及をかわす意図があったのは間違いない。閉会中審査で野党の厳しい追及を受けた西村氏は、これまでの「ああいえばこういう」式のしたたかな答弁ぶりが影を潜めた。「私の判断ミス」と殊勝な表情で謝罪し続け、菅首相をかばう姿勢も際立った。 西村氏の説明によると、酒類取引停止に関する金融機関と酒類販売業者への要請を策定したのは、西村氏が所管する内閣官房コロナ対策室。西村氏は「関係者との意見交換の中で最終的に出てきたのが今回の対策」と繰り返したが、発案者については言葉を濁した。) 西村氏は、その対策を菅首相らに示したのは7日のコロナ対策関係閣僚会議だったことも認めた。ただ、菅首相や出席閣僚は関心を示さず、議論の対象にもならなかったと説明。菅首相の「具体的に議論していない」との釈明を裏付けてみせた。 しかし、「金融機関を利用しての関係業者への圧力という異様な提案に何も反応しなかったとすれば、菅首相らの認識不足はひどすぎる」(経済閣僚経験者)との指摘も多い。菅首相サイドは「西村氏が余計なことを言ったからだ」と不満たらたらだが、「内閣全体の責任であることは明らか」(自民長老)にみえる』、「「金融機関を利用しての関係業者への圧力という異様な提案に何も反応しなかったとすれば、菅首相らの認識不足はひどすぎる」、その通りだ。
・『「自公以外」がネット上でトレンド入り  酒類販売事業団体はそもそも自民党の有力な支援組織で、酒類の小売業者は全国小売酒販政治連盟を結成している。今回の要請に対して同連盟会長らが自民党本部を訪れ、「得意先からの注文を拒否することは、長年培ってきた信頼関係を毀損する。取引停止に対する財政的支援が何ら担保されないまま、一方的に協力を求めることは承服できない」とする要望書を突き付けた。 こうした動きと連動する形でネット上では「自民党と公明党以外に投票します」との書き込みがあふれ、ツイッターでは「自公以外」というワードがトレンド入りする事態となった。 これについて自民党内には「所詮はネットの声」(ベテラン議員)と軽視する見方もあったが、若手議員の間では「都議選の自民敗北は、ネットでの都民の反発を見誤った結果」と指摘する声が相次いだ。東京が地盤の有力閣僚も「『自公以外』という言葉がネットを通じて無党派層に広がれば、自民は壊滅的打撃を受けかねない」と危機感を露わにした。 騒動の最中である14日、菅首相は来日中の国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と会談。「今回の東京大会はオリンピックの歴史を書き換える」(バッハ氏)などと大会成功への連携と協力を確認してみせた。 その五輪は1週間後に開幕となる。ところが、主催都市・東京の新規感染者数は増える一方で、感染症専門家の多くは「五輪開幕時には7日間平均で1000人を大きく超える」と予測している。 菅首相は西村氏の対応について「感染防止のために朝から夜まで頭がいっぱいで」と擁護してみせた。しかし、現状をみる限り、「西村氏以上に、五輪、コロナ、ワクチンで頭がいっぱいなのが菅首相」(自民長老)というのが実態かもしれない』、確かに「菅首相」は私が見ても余裕を失って政権末期を感じさせる。
タグ:「アフガニスタンから米軍が撤退しても、米国の民間戦争会社が国際機関や米国企業を防衛しています。軍服からガードマンの服に変えているだけで、本質的な違いはありません」、確かにその通りなのだろう 「13年の「戦略」」は「世界銀行のビジネス環境ランキング」を目標に掲げていただけ、まだ良心的だった。 JBPRESS AERAdot 「理想的な社会を作るには恐怖政治になる。ただ、恐怖政治だとしても、その仕組みが機能している限りにおいては長期間続くんです。 ソ連はある意味で、非常にいい社会でした。共産主義の理想である「労働時間の短縮」が実現されていました。1日3時間くらいしか働かない。土日は2回休むし、夏休みは2カ月ある。クーポン券が労働組合から配られるから、夏の間はリゾートホテルでみんな遊んでいたんです」、「ソ連」にもそんないい面があったとは初めて知った。 「共産党体制に反発せずに社会問題を処理するという点ではカトリックが魅力的です。 それから、創価学会・・・の活動も同時に公認することになるでしょう」、なるほど。 「過度な理想主義者」の失敗例は、カンボジアのポルポト政権も記憶に新しいところだ。 『悪の処世術』 「日本の順位は20年版世銀ランキングで、OECD諸国中18位と下がっている。世界全体では、28位のロシアにも及ばず29位。31位の中国に抜かれる寸前」、「OECD3位・・・の座にいるのは、何と菅政権が大嫌いな韓国だ」、惨憺たる状況だ。格好をつけずに、実態に即した施策が強く求められている。 「菅総理の「誇大妄想」が悲しい途上国日本 古賀茂明 連載「政官財の罪と罰」」 「作家・佐藤優が読み解く、菅首相がじんわりと怖いのはなぜか 緊急事態宣言とオリンピック開催が両立する菅首相の頭の中の論理」 (その8)(菅総理の「誇大妄想」が悲しい途上国日本 古賀茂明 連載「政官財の罪と罰」、作家・佐藤優が読み解く 菅首相がじんわりと怖いのはなぜか 緊急事態宣言とオリンピック開催が両立する菅首相の頭の中の論理、菅政権は末期に 酒取引停止問題で露呈した限界 首相の指導力が急低下 募る衆院選への不安) 「今のところは事実上、MMT・・・で世の中が動いてしまっているわけでしょう・・・あれは絨毯にガソリンを撒いているようなものです。すぐに火はつかないけど、朝鮮半島や台湾海峡の有事等、国際情勢によって一気に火がついて極端なハイパーインフレになります」、同感である。 スガノミクス 「日本にもフォビアクラシーがあります・・・菅義偉首相がやっているのは、完全にフォビアクラシー(恐怖政治)です。少しでも反発する者が出てきたらバサッと切りますから」、「菅政治」は「フォビアクラシー」とは言い得て妙だ。 「この安定か混乱かという選択は、ともすれば独裁を是認する方向に行きかねません」、確かにそのリスクに要注意だ。 「信頼関係」はテーマ毎に成立する集団が変わってくる筈で、「佐藤氏」が言うほど簡単ではなさそうだ。 東洋経済オンライン 泉 宏 「菅政権は末期に、酒取引停止問題で露呈した限界 首相の指導力が急低下、募る衆院選への不安」 「今のドタバタ劇」はいまだに収まってないようだ。 「菅首相」は「責任」を回避し切れなくなると、やむなく「陳謝した」ようだ。 「「金融機関を利用しての関係業者への圧力という異様な提案に何も反応しなかったとすれば、菅首相らの認識不足はひどすぎる」、その通りだ。 確かに「菅首相」は私が見ても余裕を失って政権末期を感じさせる。
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パンデミック(経済社会的視点)(その17)(タワマンに外車…浪費癖が仇になった経産省キャリア2人の給付金詐欺とお粗末過ぎた国会の女子トイレ盗撮、ワクチン不足・酒提供への圧力で露呈した「やりすぎる日本」という負けパターン、ジョンソン首相 若者をコロナ実験のモルモットに ワクチン接種進む英国 一気に集団免疫を狙う危うさ) [パンデミック]

パンデミック(経済社会的視点)(その17)(タワマンに外車…浪費癖が仇になった経産省キャリア2人の給付金詐欺とお粗末過ぎた国会の女子トイレ盗撮、ワクチン不足・酒提供への圧力で露呈した「やりすぎる日本」という負けパターン、ジョンソン首相 若者をコロナ実験のモルモットに ワクチン接種進む英国 一気に集団免疫を狙う危うさ)である。

先ずは、6月26日付けAERAdot「タワマンに外車…浪費癖が仇になった経産省キャリア2人の給付金詐欺とお粗末過ぎた国会の女子トイレ盗撮」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/dot/2021062600017.html?page=1
・『経済産業省の職員3人が相次いでとんでもない事件を起こし、霞が関に激震が走っている。 警視庁に6月25日、コロナ関連の国の給付金550万円をだまし取った詐欺容疑で逮捕されたのは、経産省の経済産業政策局産業資金課の係長、桜井真容疑者(28)と、同局産業組織課の新井雄太郎容疑者(28)。 2人ともキャリア官僚だが、驚いたことに、だまし取った家賃支援給付金の管轄は経産省中小企業庁。職場で堂々と詐欺を働いたというのだ。 2人は慶応高校時代の同級生で、桜井容疑者は慶応大学からメガバンクに就職したが、退職し、経産省に2018年入省した。 新井容疑者は慶応大学から東京大学のロースクールに進学し司法試験に合格し、20年に同省に入省した。 2人は共謀して所有していたペーパーカンパニー「新桜商事」(本社東京都文京区)を使って、家賃支援給付金をだまし取ることを計画。コロナ禍で売上が減少したと虚偽の書類などを作成して、家賃支援給付金を申請した。今年1月に約550万円を会社名義の口座に入金させたという。 「桜井容疑者は高級外車2台を所有している上、1か月分の給料以上になる約50万円の家賃の千代田区一番町のタワーマンション14階に住み、派手な生活をしているという情報が警視庁に寄せられていた。贈収賄を視野に捜査が始まったが、ふたを開けたら家賃支援給付金詐欺だった」(捜査関係者) 2人は新井容疑者の東京都文京区の自宅と親族宅と桜井容疑者の神奈川県の実家の計3か所へ月々200万円の家賃を支払っているというニセの賃貸借契約書を作成し、給付金をだまし取ったという。 「申告書、添付書類などは新井容疑者が大半を作成したようだ。一方、カネを派手に使っていたのは、桜井容疑者で、高級時計や外車を購入していた」(前出の捜査関係者) ちなみに桜井容疑者の住んでいた千代田区一番町の分譲タワーマンションは、不動産業者のサイトで見ると、約90平方メートルの物件で2億円近い値段がついている』、「贈収賄を視野に捜査が始まったが、ふたを開けたら家賃支援給付金詐欺だった」、「捜査関係者」もこの結果には驚いたことだろう。
・『賃貸に出ている部屋の家賃はいずれも50万円前後と超高級だ。経産省幹部はこうため息をつく。 「会社設立、その代表者となれば当然、営業活動をして利益をあげることが目的。国家公務員という立場で会社設立すること自体、兼業禁止が前提なので法に触れかねないのに…」 問題の「新桜商事」の法人登記簿によれば、19年11月に設立されている。当初は新井容疑者が代表取締役だったが、20年3月に新井容疑者の親族に変更されていた。会社の「目的」欄には<商標権、意匠権、知的財産権の取得、譲渡、使用許諾>とある。 知的財産権はまさに経産省が所管するものだ。2人が省内の情報をもとにひと儲けを企んだ可能性もある。前出の経産省幹部は法人登記を見てこう絶句した。 「これはヤバイ。経産省の情報などをもとに、稼ごうとしていたのか?家賃支援給付金もうちですよ。国家公務員として、自分の仕事をしている経産省をネタに詐欺、商売しようとするなんて…」 逮捕された2人は、経産省の出世コースの一つとされる経済産業政策局に在籍していた。産業資金課の桜井容疑者は、企業の資金調達を担当。新井容疑者は産業組織課で不正競争の防止などの仕事をしていた。2人を知る同僚はこう話す。 「2人とも頭の回転が速くて、1を言えばすぐに10を把握できるやり手でしたよ。部下からの信頼も厚かった。桜井容疑者は羽振りがよさそうだという噂はあった。だが、高校から慶応なので家が金持ちなのかな、と思っていた。将来を嘱望されていた2人がこんなバカなことで捕まるのか。信じられない」 警視庁は現在、2人の認否を明らかにしていない。 「2人は認めるような供述をしたり、また翻したりと逮捕にかなり動揺しているようだ。家賃支援給付金は経産省の担当だが、審査に便宜を図ったなどの事実は、今のところ確認されていない」(前出の捜査関係者) 他省庁の官僚は今回の事件についてこう語る』、僅か500万円で絵に描いたようなエリートコースを棒に振ったことになるが、発覚するとは夢にも思わなかったのだろう。
・『「経産省と聞いて、やりかねない気がしました。若手はもとより全体に言えることですが、今の官僚に使命感やロイヤリティを求めるのは幻想で、モラルが崩壊しています。給付金は支給の遅れを政治家から非難され、審査プロセスがどんどん簡素化、悪く言えば、適当になっています。そうした内情を理解した上での犯行でしょう。だからこそ一層、悪質だと思います」 また衆院は25日、国会議事堂内の女子トイレで起こった盗撮事件について、経産省の男性職員が盗み撮りを認めたと発表した。警視庁麹町署が捜査中だという。 4月23日午後5時45分ごろ、衆院2階の女子トイレの個室にいた女性が盗撮に気づき、発覚したという。 「男性職員は女性トイレに忍び込んで、ドアの上からスマートフォンを差し出して、盗撮に及んだようだ。女性が声をあげて助けを求めたことから、ばれてしまった。日本で最も警備が厳しい国会内でそんなことすれば、すぐ捕まるに決まっている。とんでもない不祥事が続き、もう情けない」(前出・経産省幹部)』、「女子トイレ」「盗撮事件」はバカバカしくてコメントする気にもなれない。

次に、7月15日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「ワクチン不足・酒提供への圧力で露呈した「やりすぎる日本」という負けパターン」を紹介しようhttps://diamond.jp/articles/-/276788
・『ワクチン接種で自治体にプレッシャー、酒提供に対する過剰な圧力  「ワクチン不足」が問題になっている。7月後半のワクチン供給は、自治体が希望する量の3分の1程度にとどまる見通しだという。 政府与党側はさまざまな釈明をしているが、つきつめていけばワクチン接種事業を、身の丈を超えて「過剰」に進めてしまったことが原因だ。 「1日100万回」「7月末までに高齢者接種完了」「10〜11月には希望者全員接種完了」という3つの目標を掲げた政府は、自治体が最も恐れる総務省から「早く接種を」とプレッシャーをかけさせたり、「打ち手」確保のために報酬を上げたりして、自治体のワクチン接種の尻を叩いた。さらに、それだけでは目標達成が不安だったのか、企業の職域接種までスタートさせた。 その甲斐あって、7月9日には会見で菅首相が、「先進国の中でも最も速いスピード」などと胸を張れるようになったワケだが、実力以上に背伸びをした結果、供給が追いつかなくなった。要は、見栄を張るために「やりすぎ」てしまったのだ。 この「やりすぎ」というのは、もうひとつ大きな問題になっている「酒提供をめぐる圧力」にも当てはまる。酒類の提供停止に協力をしない飲食店を、政府としてどうにか従わせたいという気持ちはわからんでもないが、それを法的根拠ゼロで、金融機関や酒卸業者にやらせるというのは明らかに度を越している。表現はマイルドだが、「暴力団排除」の手法とほぼ同じだからだ。 このように「やりすぎ」が招いた失敗が相次いでいるのを見ると、菅政権の先行きにかなり不安を感じてしまう。これは日本のさまざまな組織を壊滅させ、産業を衰退させてきた「負けパターン」だからだ。 身近なところで言えば、現在苦境に立たされているコンビニがわかりやすい』、「ワクチン接種」や「酒提供をめぐる圧力」では確かに「やりすぎ」たようだ。特に、「法的根拠ゼロで、金融機関や酒卸業者にやらせるというのは明らかに度を越している」。
・『「やりすぎ」がもたらす害、コンビニも三菱電機も…数えきれないほどの実例  ご存じのように、日本は世界一のコンビニ大国で、社会インフラと言ってもいいほど全国に店舗網が張り巡らされている。店舗では多種多様な商品、サービスが提供され、店員の接客も他国と比べものにならないほど丁寧である。しかし、これらの経営方針は、人口減少が急速進む日本においては「やりすぎ」として、マイナスに働いている。 店舗が多すぎるがゆえの過当競争で、コンビニ経営の厳しさが増し、「24時間営業」「弁当の値引き販売」などをめぐって、オーナーとFC本部の対立が激化している。また、店員もかつてよりやらなくてはいけない仕事が劇的に増え、もともと低賃金・長時間拘束というデメリットも相まって深刻な人手不足を起こしている。つまり、これまでは成長の原動力だった拡大路線やドミナント戦略(同じ地域に同じチェーン店舗を集中出店する戦略)が時代の変化で、「やりすぎ」となったことで、コンビニチェーンというビジネスモデルを根底から揺るがしているのだ。 また、「酒提供をめぐる圧力」と同様に、「やりすぎ」が不正を招くパターンも実は多い。 例えば、数年前から日本を代表する「ものづくり企業」で相次いで発覚し、最近も三菱電機で35年以上も続いていたことが明らかになった「検査不正」だ。 高品質をうたう日本では、それを担保するように、他国よりも厳しい品質チェツクを義務付けてきた。しかし、それは実際に現場でものをつくっている人々たちからすれば「やりすぎ」だった。だから、建前としてはルールを守りつつ、実際は自分たちが効率良く仕事ができるような「マイルール」で検査をしていたのだ。つまり、本質的なところで言えば、検査不正というのは「過剰な品質チェック」が呼び水になっている。 他にも近年で、致命的なダメージを受けた組織を思い浮かべていただきたい。 東芝、日本郵便、レオパレス21…不正内容の細かな違いはあるが、つきつめていけば、「過剰なノルマ」が影響している。事業やインフラ拡大という「やりすぎ」の尻拭いが現場に押し付けられ、不正行為を誘発しているのだ。 最近の菅政権の迷走ぶりを見ていると、このような「やりすぎ」が引き起こす「負けパターン」にどっぷりとハマってしまったように見えてしまう。 と言うと、「何をやりすぎだというのだ、むしろコロナ対策などぜんぜんやってないじゃないか」という声が飛んできそうだ。しかし、この1年、ハタから見ていて「ちょっとやりすぎじゃないですかね」と心配してしまうものがある。 それは、「過剰な医師会擁護」だ』、「検査不正というのは「過剰な品質チェック」が呼び水になっている」、「東芝、日本郵便、レオパレス21…不正内容の細かな違いはあるが、つきつめていけば、「過剰なノルマ」が影響している」、「この1年、ハタから見ていて「ちょっとやりすぎじゃないですかね」と心配してしまうものがある。 それは、「過剰な医師会擁護」だ」、同感である。
・『医療体制の改革はなぜ進まない?過剰な医師会擁護の理由  ご存じのように、世界を見渡せば、1日の新規感染者が2万人、3万人という国でも「病床のひっ迫」が叫ばれていないのに、日本では1日の新規感染者が5000人というような水準で、「医療崩壊」のアラートが鳴る。 なぜこんなおかしなことが起きるのかというと、「急性期病床」が世界一というほど多いからだ。 『「多すぎる病院」が、コロナ禍で医療現場の危機を招きかねない理由』の中で詳しく解説したが、日本は医療従事者の数は他の先進国とそれほど変わらないにもかかわらず、急な容態の悪化などで用いられる急性期の病床が「異常」というほど多い。それはつまり、医療従事者1人あたりの負担が「異常」なほど重いということだ。 だから、他の先進国のようにコロナ患者に対応できない。これが人口1300万の世界有数の巨大都市・東京で、コロナ患者が1000人出たらもうアウトという「脆弱な医療体制」の構造的な原因であり、「コロナ死を防ぐ」ため、政治が手をつけなくてはいけないところだ。 だが、政府としてはこのあたりはあまり突っ込みたくない。というか、できる限り、国民にはスルーしてもらいたい。なぜなら、これまで日本で病床が足りないと政治に働きかけてきた日本医師会は、自民党最大の支持団体だからだ。 だから、政府も自民党も、いつまで経っても解消されない「病床ひっ迫」については深く掘り下げたくない。しかし、現実問題として病床はひっ迫している。コロナ患者を受け入れている医療機関は、野戦病院のようになって、一部の医療従事者の負担はすさまじいことになった。 となると政治としては当然、この「悲劇」を引き起こしている原因と、この問題を解決するためにリーダーシップを発揮して動いていますよ、というパフォーマンスが必要になる。ストレートに言えば、「こいつらがいるからいつまでも病床がひっ迫するんですよ」というスケープゴートだ。ここまで言えばもうお分かりだろう。それが、「若者」と「飲食店」だ。 「病床がひっ迫しているのは、路上飲みをするような非常識な若者がいるから」、「医療従事者の皆さんが寝る間も惜しんで戦っているのに、居酒屋で酒を提供するなんて不謹慎だ」。そんなストーリーを定着させれば、「日本の脆弱な医療体制」から目を背けられる。 役所のリリースや会見を右から左へ流すマスコミの協力もあって、今のところこの戦略はうまくいっている。しかし、手痛い誤算もあった。国民に過剰に「病床ひっ迫」の恐ろしさを煽り続けてきたことが裏目に出て、東京オリンピック・パラリンピックが、「無観客」へ追い込まれてしまったのだ。医療体制の改革はなぜ進まない?過剰な医師会擁護の理由 ご存じのように、世界を見渡せば、1日の新規感染者が2万人、3万人という国でも「病床のひっ迫」が叫ばれていないのに、日本では1日の新規感染者が5000人というような水準で、「医療崩壊」のアラートが鳴る。 なぜこんなおかしなことが起きるのかというと、「急性期病床」が世界一というほど多いからだ。 『「多すぎる病院」が、コロナ禍で医療現場の危機を招きかねない理由』の中で詳しく解説したが、日本は医療従事者の数は他の先進国とそれほど変わらないにもかかわらず、急な容態の悪化などで用いられる急性期の病床が「異常」というほど多い。それはつまり、医療従事者1人あたりの負担が「異常」なほど重いということだ。 だから、他の先進国のようにコロナ患者に対応できない。これが人口1300万の世界有数の巨大都市・東京で、コロナ患者が1000人出たらもうアウトという「脆弱な医療体制」の構造的な原因であり、「コロナ死を防ぐ」ため、政治が手をつけなくてはいけないところだ。 だが、政府としてはこのあたりはあまり突っ込みたくない。というか、できる限り、国民にはスルーしてもらいたい。なぜなら、これまで日本で病床が足りないと政治に働きかけてきた日本医師会は、自民党最大の支持団体だからだ。 だから、政府も自民党も、いつまで経っても解消されない「病床ひっ迫」については深く掘り下げたくない。しかし、現実問題として病床はひっ迫している。コロナ患者を受け入れている医療機関は、野戦病院のようになって、一部の医療従事者の負担はすさまじいことになった。 となると政治としては当然、この「悲劇」を引き起こしている原因と、この問題を解決するためにリーダーシップを発揮して動いていますよ、というパフォーマンスが必要になる。ストレートに言えば、「こいつらがいるからいつまでも病床がひっ迫するんですよ」というスケープゴートだ。ここまで言えばもうお分かりだろう。それが、「若者」と「飲食店」だ。 「病床がひっ迫しているのは、路上飲みをするような非常識な若者がいるから」、「医療従事者の皆さんが寝る間も惜しんで戦っているのに、居酒屋で酒を提供するなんて不謹慎だ」。そんなストーリーを定着させれば、「日本の脆弱な医療体制」から目を背けられる。 役所のリリースや会見を右から左へ流すマスコミの協力もあって、今のところこの戦略はうまくいっている。しかし、手痛い誤算もあった。国民に過剰に「病床ひっ迫」の恐ろしさを煽り続けてきたことが裏目に出て、東京オリンピック・パラリンピックが、「無観客」へ追い込まれてしまったのだ』、「急性期の病床が「異常」というほど多い・・・他の先進国のようにコロナ患者に対応できない」、「日本医師会は、自民党最大の支持団体・・・政府も自民党も、いつまで経っても解消されない「病床ひっ迫」については深く掘り下げたくない」、「「こいつらがいるからいつまでも病床がひっ迫するんですよ」というスケープゴートだ・・・それが、「若者」と「飲食店」だ」、「若者」と「飲食店」が「スケープゴート」とは、言われてみれば、その通りなのかも知れない。
・『五輪か医師会か、板挟みになった結果、政府が選んだ答え  「人類がコロナに打ち勝った証に」なんて誰も望んでいないようなことを真顔で言ったことからもわかるように、日本政府は五輪を政治利用する気マンマンだった。景気浮揚、支持率アップ、選挙大勝などなどさまざまな下心があったので、通常の国際スポーツ大会と比べたら「やりすぎ」というほど肩入れをしてきた。 だから東京五輪は平常開催したかった。そもそも欧米の感覚では、今の日本の新規感染者数は「うまく抑え込んでいるなあ」というレベルなので当然だ。しかし、それをやってしまうと、「医療崩壊だ!」と危機を叫ぶ日本医師会のスタンスと矛盾してしまう。菅政権からすれば、「前門のIOC、後門の医師会」という感じで、完全に板挟み状態だった。そして最終的に日本は医師会を取った。 アスリートファーストではなく、医師会ファーストだったともいえる。 しかし、これはIOCからすればまったく納得いかないだろう。バッハ会長が無観客五輪を「理解に苦しむ」と述べたが、あれは嫌味でもなんでもなく、なぜ日本のような先進国でこんなに医療体制が弱いのか、とシンプルに意味がわからないのだ』、「「前門のIOC、後門の医師会」という感じで、完全に板挟み状態だった。そして最終的に日本は医師会を取った・・・バッハ会長が無観客五輪を「理解に苦しむ」と述べたが、あれは嫌味でもなんでもなく、なぜ日本のような先進国でこんなに医療体制が弱いのか、とシンプルに意味がわからないのだ」、確かにバッハ会長には理解不能だろう。
・『あらゆることを「過剰」に盛り上げてしまう日本人の気質  このような「やりすぎ」が引き起こす混乱は、五輪だけではなく、社会のいたるところへ広がっている。 ワクチンをめぐる情報戦も「やりすぎ」だ。かなり盛ったデマ情報が飛びかう一方で、ワクチンを嫌がる人を情報弱者扱いで蔑んだり、その逆にワクチン接種をする人々を脅したり口汚く罵るなど、コミュニケーションが「過剰」になっている。 なんでもかんでも過剰にやりすぎてしまう「やりすぎる日本」の悪い部分が、コロナ禍のギスギスした世相で、一気に噴出している印象だ。 この1年半、我々を苦しめてきたのは実はウィルスではなく、異なる価値観への憎悪など、あらゆることを「過剰」に盛り上げてしまう日本人の気質のせいのような気もする。 かつての日本では「過剰」「やりすぎ」は良いことだった。成長のきっかけであり、日本の優位性の象徴だった。 例えば、五輪でも万博でもイベントは過剰に盛り上げて、国をあげてお祭り騒ぎをすることで、景気回復や国威発揚につながるとされた。また、インフラも「やりすぎ」くらいが正解とされた。その代表が、電車や新幹線だ。ここまで秒単位で正確な電車は世界を見渡しても、類を見ない。 社会全体がこんなノリなので、労働者も過剰に働くことが「正しい」とされた。家庭を顧みずに残業や土日出社は当たり前の滅私奉公スタイルは他国から見れば明らかに「やりすぎ」だが、日本人にはそれほど違和感はない。他にも、過剰に低い賃金、過剰に長い会議、過剰に丁寧な社内文書、などなど、我々の身の回りには他国の人から見ると「過剰」に映ることが山ほどあるのだ。 これらをすべて否定するつもりはないが、菅政権への国民の反発を見てもわかるように、もはや「やりすぎ」をゴリ押しして、世の中を動かせなくなってきたのも事実なのだ。 今の日本に一番不足しているのは、何事もそれほどのめり込まず、「ほどほど」というバランス感覚なのかもしれない』、「「やりすぎる日本」という負けパターン」は、確かにパンデミックや東京五輪問題に、新たな切り口を提供してくれた。

三に、7月13日付けJBPressが転載したFinancial Times「ジョンソン首相、若者をコロナ実験のモルモットに ワクチン接種進む英国、一気に集団免疫を狙う危うさ」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66037
・『我々が一つ、新型コロナウイルスのパンデミックから学んでいるべきことは、全員が運命をともにしている、ということだ。 共通の取り組みだけがコロナを抑制できる。誰かのマスク着用が自分の保護になる。 だが、ボリス・ジョンソン英首相は規則にうんざりしている。集団的な行動に取って代わり、今後は「個人の責任」でやっていかなければならないと首相は言う。 ここで本当に意味するところは、疫学者が「集団免疫」と呼ぶものを一気に達成することを目指し、ウイルスを自由に蔓延させるつもりだ、ということだ。 この国の子供が図らずも実験のコマになる。 英国内の新規感染者数は現在、1日当たり2万5000人を上回っており、大半の欧州諸国より格段に多い。 そんなことはお構いなしだ。動揺と逸脱、Uターンを繰り返した1年半を経て、新たな基本計画は「不可逆」だとジョンソン氏は言う。 7月19日、社会的な交流にかけられていた事実上すべての法的制限措置が解除される。 イングランドの新たな制度(スコットランド、ウェールズ、北アイルランドはそれぞれ独自の規則を定める)では、ナイトクラブの営業再開が認められ、ソーシャルディスタンシング(対人距離の確保)を終え、競技場や音楽イベントの会場に人数制限なしで観衆が戻ることが許される。 マスクの着用は義務ではなくなり、今後は個々人がこうした「スーパースプレッダー」イベントに参加するリスクを推し量ることを強いられる』、後述のように「成人人口の3分の2がワクチン接種を2回済ませている」、とはいえ、「社会的な交流にかけられていた事実上すべての法的制限措置が解除」とは、思い切ったことをするものだ。
・『感染爆発は計算ずく  政府自身の計算でも、その結果として起きることは爆発的な感染拡大だ。 ジョンソン氏は、1日当たりの新規感染者数が7月19日までに5万人に達するかもしれないと話している。サジド・ジャビド保健相は、この数字が夏のうちに倍増するかもしれないと予想している。 その影響を受けるのは圧倒的に若者だ。 つまり、まだワクチン接種の対象ではない18歳未満と、せいぜい1回しか接種していない20代だ。そして18歳未満の層だけでも人口の約20%を占めている。 ジョンソン氏はロックダウン(都市封鎖)が好きではない。パンデミックの発生当初に事態を掌握することに失敗した後、制限策について過剰な約束をしては期待を裏切る結果しか出せなかった。 元側近のドミニク・カミングス氏によれば、首相はかつて、法的な規制を厳しくするくらいなら、遺体が路上に積み上がるに任せた方がましだと言い放った。 ジョンソン氏は、そうした言葉を使ったことを否定するが、ダウニング街(首相官邸)の関係者は、ジョンソン氏のムードをよく反映した表現だと話している。 ジョンソン氏は先月、残っている法的制限策を撤廃したいと考えていたが、デルタ株(インド型の変異ウイルス)の病原性のために延期を強いられた。 そして今、同僚たちに向かって、何があっても今度は前言を翻さないと断言している』、「首相はかつて、法的な規制を厳しくするくらいなら、遺体が路上に積み上がるに任せた方がましだと言い放った」、よほど規制が嫌いなようだ。
・『ワクチン接種が隠れ蓑  その結果は、向こう見ずな賭けだ。 それも疫学や、現在のロックダウンの慎重な費用対効果の分析に基づくものではなく、似たような考えを持った保守党議員の騒々しい要求によって拍車がかかった首相の気質が牽引するギャンブルになる。 ジョンソン氏が隠れ蓑にするのは、ワクチン接種キャンペーンの成功だ。 首相によれば、7月19日までに成人人口の3分の2がワクチン接種を2回済ませている。そしてワクチン接種の進展のおかげで、新規感染者と入院・死亡する人の数の連動が劇的に薄れた証拠がふんだんにある。 今では、新型コロナに感染した人の大半は、数日休むだけで回復する。多くの感染者は無症状だ。 首相は、物語の半分だけしか語っていない。 3分の2がワクチン接種を済ませたという数字は、3分の1がワクチンを1回しか接種していないか未接種であることを意味している。 また、「double jabbed(2回接種)」も感染を完全に防げるわけではない。 コロナに感染して自然免疫を獲得した人の存在を割り引いて考えても、感染しやすい成人がまだかなり大勢残っている。ここに子供を加えれば、新型コロナはターゲットに事欠かない。 持病のために重症化リスクが高い人や高齢者が差し迫ったリスクにさらされる。 こうした人が新規感染者全体に占める割合は低いが、感染者が現在のペースで増えていけば、小さな割合が大きな数字を生み出す。 ジョンソン氏の実験の中心に据えられた子供について言えば、当初の感染を軽くやり過ごしても、後々いわゆる「ロングCovid」に苦しむ羽目になる恐れがある』、「ジョンソン氏」のやり方が、「疫学や、現在のロックダウンの慎重な費用対効果の分析に基づくものではなく、似たような考えを持首相の気質が牽引するギャンブルになる」、困ったことだ。
・『集団免疫の本質  政府の首席医療アドバイザーを務めるイングランドのクリス・ウィッティ首席医務官は先日、ロングCovidを患う子供の増加を食い止める唯一の方法は、感染ペースを抑え、ワクチン接種を拡充することだと警告した。 だが、政府はまだ18歳未満のワクチン接種を承認しておらず、集団免疫戦略はいずれにせよ、子供の間でウイルスを蔓延させることにかかっている。 今でなければ、いつなのか――。 首相が口にするこの修辞疑問文には、簡単に答えが出る。コロナ対策の制限措置は、感染ペースが制御可能なレベルにまで下がり、ワクチン接種がもっと進んだ時になってから徐々に撤廃していくべきだ。 もちろん、我々はいずれ、コロナウイルスの存在とともに暮らしていかねばならないが、コロナ制御へ至るルートは、子供を疫学的なモルモットにするのではなく、ワクチン接種を通る道であるべきだ。 ジョンソン氏は、規制を放り込んで燃やす焚き火に気分を良くするかもしれない。また、規制が撤廃される7月19日を「フリーダム・デイ(自由の日)」に指定することに歓喜している人もいるだろう。 だが、それは幻想だ。「個人の責任」に関する首相のブラフや大言壮語によって新型コロナが倒されることはない』、「ジョンソン氏」の壮大な「ギャンブル」の結果はどうなるのだろうか。
タグ:パンデミック (経済社会的視点) (その17)(タワマンに外車…浪費癖が仇になった経産省キャリア2人の給付金詐欺とお粗末過ぎた国会の女子トイレ盗撮、ワクチン不足・酒提供への圧力で露呈した「やりすぎる日本」という負けパターン、ジョンソン首相 若者をコロナ実験のモルモットに ワクチン接種進む英国 一気に集団免疫を狙う危うさ) AERAdot 「タワマンに外車…浪費癖が仇になった経産省キャリア2人の給付金詐欺とお粗末過ぎた国会の女子トイレ盗撮」 「贈収賄を視野に捜査が始まったが、ふたを開けたら家賃支援給付金詐欺だった」、「捜査関係者」もこの結果には驚いたことだろう。 僅か500万円で絵に描いたようなエリートコースを棒に振ったことになるが、発覚するとは夢にも思わなかったのだろう。 「女子トイレ」「盗撮事件」はバカバカしくてコメントする気にもなれない。 ダイヤモンド・オンライン 窪田順生 「ワクチン不足・酒提供への圧力で露呈した「やりすぎる日本」という負けパターン」 「ワクチン接種」や「酒提供をめぐる圧力」では確かに「やりすぎ」たようだ。特に、「法的根拠ゼロで、金融機関や酒卸業者にやらせるというのは明らかに度を越している 「検査不正というのは「過剰な品質チェック」が呼び水になっている」、「東芝、日本郵便、レオパレス21…不正内容の細かな違いはあるが、つきつめていけば、「過剰なノルマ」が影響している」、「この1年、ハタから見ていて「ちょっとやりすぎじゃないですかね」と心配してしまうものがある。 それは、「過剰な医師会擁護」だ」、同感である。 「急性期の病床が「異常」というほど多い・・・他の先進国のようにコロナ患者に対応できない」、「日本医師会は、自民党最大の支持団体・・・政府も自民党も、いつまで経っても解消されない「病床ひっ迫」については深く掘り下げたくない」、「「こいつらがいるからいつまでも病床がひっ迫するんですよ」というスケープゴートだ・・・それが、「若者」と「飲食店」だ」、「若者」と「飲食店」が「スケープゴート」とは、言われてみれば、その通りなのかも知れない。 「「前門のIOC、後門の医師会」という感じで、完全に板挟み状態だった。そして最終的に日本は医師会を取った・・・バッハ会長が無観客五輪を「理解に苦しむ」と述べたが、あれは嫌味でもなんでもなく、なぜ日本のような先進国でこんなに医療体制が弱いのか、とシンプルに意味がわからないのだ」、確かにバッハ会長には理解不能だろう。 「「やりすぎる日本」という負けパターン」は、確かにパンデミックや東京五輪問題に、新たな切り口を提供してくれた。 JBPRESS Financial Times 「ジョンソン首相、若者をコロナ実験のモルモットに ワクチン接種進む英国、一気に集団免疫を狙う危うさ」 後述のように「成人人口の3分の2がワクチン接種を2回済ませている」、とはいえ、「社会的な交流にかけられていた事実上すべての法的制限措置が解除」とは、思い切ったことをするものだ。 「首相はかつて、法的な規制を厳しくするくらいなら、遺体が路上に積み上がるに任せた方がましだと言い放った」、よほど規制が嫌いなようだ。 「ジョンソン氏」のやり方が、「疫学や、現在のロックダウンの慎重な費用対効果の分析に基づくものではなく、似たような考えを持首相の気質が牽引するギャンブルになる」、困ったことだ。 「ジョンソン氏」の壮大な「ギャンブル」の結果はどうなるのだろうか。
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中国経済(その9)(中国にとって米中対立よりもっと怖い出生率低下 産児制限再緩和も人口ピークは25年に前倒し、中国共産党・習近平のジャック・マー叩きがもたらす"ある誤算" 中国経済と技術発展に深刻な副作用、中国政府が配車アプリDiDiを米国上場直後に「撃墜」 致命的な原因とは?) [世界情勢]

中国経済については、5月29日に取上げた。今日は、(その9)(中国にとって米中対立よりもっと怖い出生率低下 産児制限再緩和も人口ピークは25年に前倒し、中国共産党・習近平のジャック・マー叩きがもたらす"ある誤算" 中国経済と技術発展に深刻な副作用、中国政府が配車アプリDiDiを米国上場直後に「撃墜」 致命的な原因とは?)である。

先ずは、6月2日付け東洋経済オンラインが転載したブルームバーグ「中国にとって米中対立よりもっと怖い出生率低下 産児制限再緩和も人口ピークは25年に前倒し」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/431840
・『経済大国としての一層の台頭を米国が阻止しようとしているとして中国は懸念を強めるが、より大きな脅威は国内にあるのかもしれない。出生率の低下だ』、「米中対立よりもっと怖い出生率低下」、確かにその通りだろう。
・『中国が産児制限緩和へ、子供3人まで容認  5月に発表された国勢調査によると、習近平国家主席が「一人っ子政策」をやめ、子供を2人までもうけることを2015年に容認したものの、昨年の出生数は約60年ぶりの少なさとなった。ブルームバーグ・エコノミクスはこれらの数値に基づき、中国の人口は25年にピークに達すると予測。当局の想定よりはるかに早い時期だ。 中国共産党中央政治局は5月31日、産児制限をさらに緩和。夫婦1組につき3人まで子供をもうけることを認め、「段階的に定年を適切に引き上げていく」方針も示した。 中国が産児制限緩和へ、子供3人まで容認-少子高齢化の歯止め狙う 人口世界一の中国は30年までに国民14億人の約4分の1が60歳以上になる。 出生率低下に悩む国はいずれもうまくいっていない。1980年代に米経済を追い抜く勢いだった日本は、生産年齢人口の減少と債務負担増加に苦しんでいる』、「産児制限緩和」したところで、焼け石に水だろう。
・『移民の受け入れは切り札にならない  中国のエコノミストは、人口高齢化に伴う収入・支出減少がもたらすディスインフレ傾向に対処するため、年金と医療、教育への支出を増やすことを提案している。だがそれは予算への圧力となり、債務水準をさらに高める可能性がある。 米国と欧州は移民受け入れで出生率の低下を相殺したが、権威主義的な政治体制の中国に移り住みたいと考える外国人は極めて少ない。 産児制限の再緩和だけで少子高齢化の流れに歯止めをかけることは難しい。子育てにかかるコストが膨らみ続けていることを踏まえると、習政権が生産性向上と農村部から都市部への人口移動を促す投資で出生率低下の悪影響を打ち消すことができるかどうかが当面の問題となっている』、「権威主義的な政治体制の中国に移り住みたいと考える外国人は極めて少ない」、「農村部から都市部への人口移動を促す投資」、は社会の安定性維持とのバランスで、そんなに簡単ではなさそうだ。

次に、7月6日付けPRESIDENT Onlineが掲載した大蔵省出身で一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「中国共産党・習近平のジャック・マー叩きがもたらす"ある誤算" 中国経済と技術発展に深刻な副作用」を紹介しよう。
ttps://president.jp/articles/-/47531
・『2020年11月、電子商取引大手アリババグループ傘下のアントグループの新規株式公開(IPO)が突然中止され、創業者のジャック・マーが一時消息不明となるなど、世界に大きな衝撃が走った。明らかに民間IT企業の抑え込みに政策転換した中国共産党、習近平の本当の狙いとは。野口悠紀雄一橋大学名誉教授は「一連の動きは今後の米中デジタル戦争の行方に重大な影響を与える」と指摘する──。(第1回/全3回) ※本稿は、野口悠紀雄『良いデジタル化 悪いデジタル化』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです』、興味深そうだ。
・『アントグループの上場停止事件  中国で重大な地殻変動が起きつつあるのかもしれない。共産党内部の権力抗争ではない。共産党と新しい民間新興勢力との衝突である。これは、長期的には中国の成長の阻害要因となり、米中バランスに本質的な影響を与える可能性がある。 共産党と新しい民間新興勢力との確執がはっきりした形で表れたのが、アリババ集団傘下の金融会社アントグループの上場停止事件だった。 アントは、電子マネーAliPayの発行主体。中国最大のeコマースであるアリババの子会社だ。2014年に設立されたばかりだが、急成長。その企業価値は、約1500億ドル(約16兆円)にもなるといわれた。 これは、アメリカシティグループ(約11.5兆円)の時価総額を超え、三菱UFJフィナンシャル・グループなど日本の3大メガ銀行の時価総額の合計(13.3兆円)を上回るものだ。設立されてからわずか6年のうちに、世界最大の金融企業になってしまったのだ。 アントは2020年11月に香港と上海市場での上場を計画していた。これによって345億ドル(約3兆6000億円)という史上空前規模の資金が調達できると考えられていた。これは、みずほフィナンシャルの時価総額にも相当する額だ』、「アリババ集団傘下の金融会社アントグループの」「企業価値は」、「日本の3大メガ銀行の時価総額の合計(13.3兆円)を上回る」、と見込まれていたとは、その当時の人気は過熱していたようだ。
・『習近平vsジャック・マー  発行計画は順調に進んでいた。ところが上場予定日直前の11月3日に、当局が突然、待ったをかけ、上場は中止されてしまった。 アリババ創業者のジャック・マー氏が、シンポジウムで、当局に対する批判的コメントをしたのが原因だったといわれる。それを読んだ習近平国家主席が、激怒したというのだ。 そうしたことがあったのかもしれない。しかしこれは、失言と当局の反発という単発的な偶発事件ではない。その底流には、深い原理的対立がある。これは、いずれ表面化するはずだった矛盾が表面化したものだと考えることができる。 12月14日には、中国政府がアリババとテンセントのそれぞれの傘下企業に対し、独占禁止法違反で罰金を科すと発表した。中国政府による巨大ネット企業への管理が強化されたのだ』、「中国政府による巨大ネット企業への管理が、さらに強化された」、「失言と当局の反発という単発的な偶発事件ではない」ことは確かなようだ。 
・『アリババに対しても当局が圧力  2020年のアリババ集団によるネット通販セール「独身の日」が、11月12日深夜0時に終了した。セール期間中の取扱高は4982億元(約7兆7000億円)。2019年の2684億元を大きく上回った。 ところが、セール前日の10日に、規制当局である国家市場監督管理総局が、独占的な行為を規制する新たな指針の草案を公表した。取引先の企業にライバル企業と取引しないよう「二者択一」を求めることは法律違反にあたるとしている。 このように、アリババを取り巻く事業の環境も急激に変化している。この措置を受けて、11日に香港株式市場でアリババの株価は前日比9.8%安となった』、「独占的な行為を規制する新たな指針の草案」、そのものは日本などでは当然のもので、中国がこれまで甘過ぎたのを修正しているのだろう。
・『「想定外」だったIT企業の急成長  アリババやアントが急成長できたのは、これまで、その活動に対する規制があまり強くなかったからである。 もともと中国の改革開放政策は、鄧小平の「抓大放小(大をつかみ小を放つ=大企業は国家が掌握し、小企業は市場に任せる)」という方針によって行われてきた。 4大商業銀行(中国工商銀行、中国建設銀行、中国銀行、中国農業銀行)は「大」であると考えられたので、当初は国有企業だった。現在は、民営化されたが、公的企業の色彩が強い。 それに対してeコマースは民間に任された。そして、自由な経済活動が認められた。あまり重要な産業とは思われなかったからだ。 ところがその後、インターネットの普及に伴ってeコマースが急成長し、そこで用いる通貨としてAliPayが作られた。それが一般の取引にも用いられるようになり、多数の人がAliPayを使うようになったのだ。現在、その利用者数は10億人を超すといわれている』、「eコマースは民間に任された。そして、自由な経済活動が認められた。あまり重要な産業とは思われなかったからだ」、「その後、インターネットの普及に伴ってeコマースが急成長し、そこで用いる通貨としてAliPayが作られた・・・現在、その利用者数は10億人を超す」、なるほど。
・『ハイテク企業に対する中国での規制強化の動き  もともとアリババは、ファーウェイなどとは違って、国の後ろ盾がない企業だった。 eコマースは国の産業に大きな影響がないと考えられたために、これまで比較的自由な活動が認められてきたのだ。ところが、実はeコマースや電子マネーが重要であることが分かってきた。 このため、中国当局は、2、3年前から金融の管理強化に乗り出していた。ここにきて、巨大ハイテク企業への圧力を一段と強め、アントとマー氏を標的にしているのではないかとの見通しが広がっている。さらに、ビッグデータの運用方法にも制限がかかる可能性があるといわれる。 アントの企業価値評価は4000億ドルに達してしかるべきだとの見方もあった。そうなると、評価額は資産規模で世界最大の銀行である中国工商銀行に並ぶ。こうした状態は、放置するわけにはいかないのだろう。 アントの上場中止は、中国の技術開発に大きな影響を与えると考えられる。それは、中国の長期的な観点から考えると、決して望ましいものではない』、「実はeコマースや電子マネーが重要であることが分かってきた。 このため、中国当局は、2、3年前から金融の管理強化に乗り出していた。ここにきて、巨大ハイテク企業への圧力を一段と強め、アントとマー氏を標的にしているのではないかとの見通しが広がっている」、当局にしたら当然の動きなのだろう。
・『「ウミガメ族」が支えた中国経済の発展  もともと中国におけるITは、中国の若者がアメリカの大学院で勉強し、それを中国に持ち帰ったことによって発展したものだ。 アメリカにとどまった人たちも最初は多かったのだが、中国での経済発展に伴って、中国に戻る若者が増えたのだ。彼らは「ウミガメ族」と呼ばれる。 こうした人々が中国の著しい発展を支えたのは、間違いない事実だ。それは中国国内において活躍の機会があるという期待に基づいたものであった。 そして実際、中国国内では、アリババやアントだけでなく、多数のユニコーン企業が現れた。その状況は、アメリカのそれに似たものになった。中国でも活躍の機会があるという期待が、これまでは満たされてきた』、「「ウミガメ族」が支えた中国経済の発展」、しかし、「中国でも活躍の機会があるという期待」が裏切られつつあることは重大だ。
・『帰国を取りやめ「アメリカンドリーム」を目指す中国人  ところが、アントの上場中止事件で、「先端IT企業といえども、共産党のさじ加減次第でどうにでもなる」ということが分かった。自由な活動が制約なしにできるわけではなく、共産党の鼻息をうかがいながらでしか活動ができない。 そうなれば、優秀な人間は、アメリカでの勉学を終えた後、中国に戻るのでなく、アメリカにとどまることを選ぶだろう。 Zoomの創業者エリック・ヤン氏は、中国の大学で学位を取ったあと、アメリカのIT企業に参加し、その後独立した。そして、新型コロナ下で事業を急拡大し、売り上げが急増した。まさにアメリカンドリームを実現しているわけだ。 こうしたことを見れば、それに続こうとする者が出てくるだろう。それは、アメリカの技術力を高めることになる。そして、中国の発展にとってはマイナスに働く。中国の経済発展は大きな打撃を受けることになるだろう』、「中国」「当局」にとっては覚悟の上だろう。
・『科学技術の発展に「最も重要なこと」  科学技術の発展にとって最も重要なのは、自由な活動が認められることだ。このことは、すでに第2次世界大戦中に、アメリカがヨーロッパから優秀な人材を受け入れたことで実証されている。 そして、1990年代におけるIT革命も、アメリカ人によって実現されたというよりは、インド人や中国人によってなされた。そうした人々が、中国の経済発展によって中国に移ったのだ。 しかし、今回の事件をきっかけに、その揺り戻しが起こるかもしれない。これは、中国の経済発展にとって深刻な問題となる可能性がある。 以上で述べたことは、中国共産党としても十分認識していることであろう。 したがって、今回の決定は、単なる偶発的・一時的なものではなく、周到な検討の結果行われたものだろう。その意味でも、重要なものだ』、「今回の決定は、単なる偶発的・一時的なものではなく、周到な検討の結果行われたものだろう」、深い考察で参考になる。

第三に、7月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した作家・ジャーナリストの莫 邦富氏による「中国政府が配車アプリDiDiを米国上場直後に「撃墜」、致命的な原因とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/276787
・『IPOからわずか2日で中国の取り締まり対象に  最近、中国で話題を集めた会社といえば、大手配車サービスの「滴滴出行(DiDi、ディディ)」だろう。 中国をはじめ、15カ国、4000以上の都市で事業を展開している同社は、6月末にニューヨーク証券取引所でIPO(新規株式公開)を果たし、初値が公開価格を約19%上回る16.65ドルで、初日の終値は14.14ドルというスタートを切った。終値ベースの時価総額は685億ドル(約7兆6300億円)になり、44億ドル(約4900億円)を調達できた。 アメリカで上場した中国企業のなかで、2014年に上場したアリババが250億ドルと過去最高を記録したが、DiDiが調達できた44億ドルは、それに次ぐ過去2番目の規模となったわけだ。 2018年、米中貿易戦争が始まって以来、中国企業が米国市場を敬遠する傾向を強めているなか、DiDiの上場は久しぶりの超大型IPO案件だといえよう。しかし、上場からわずか2日後の7月2日に、中国のサイバースペース管理局(CAC)は中国全土において、DiDiの新規会員登録の停止、4日には同社のアプリケーションの削除、さらに9日には同社系列のアプリ25件全体の削除を命じた。決済サービス大手の支付宝(アリペイ)と微信支付(ウィーチャットペイ)などもDiDiへのアクセスを停止した。 DiDiはわずか2日間で、注目を集めた新規上場会社から中国国内の取り締まり対象会社になってしまったのだ。米株式市場で急落するDiDiの株価を見て、事態をのみ込めなかった人も多いだけに、人々はDiDiの米国上場と中国政府への対応に大きな関心を寄せた』、「DiDiはわずか2日間で、注目を集めた新規上場会社から中国国内の取り締まり対象会社になってしまった」、まるで米国投資家を馬鹿にしたような上場劇だ。
・『政府の締め付けに焦っていたDiDi、短期間の上場作戦  DiDiは数年前にウーバー中国事業などネット配車会社を相次いで併合し、中国国内のネット配車市場シェアの90%を占めるまで成長した。アクティブユーザーは3億7700万人(グローバル市場では4億9300万人)を擁し、中国のユニコーン企業のトップ3に食い込んだ。 ただ、ここまでシェアを広げるために、20回以上も資金誘致作戦を仕掛けてきた。資金を大きくつぎ込んできた大株主らは、できるだけ短期間で投資の利益を確実に手に入れたいと考え、DiDiを速やかに上場させ、株価を高くして、つぎ込んだ資金を現金化して撤退する作戦を展開してきた。昨年、アントフィナンシャルサービスグループが上場直前に停止されたショックを受け、焦りも相当覚えたようだ。 しかし、中国国内のA株市場(原則的に中国の国内投資家のみが売買)へ上場するには、独占禁止法違反の疑いがある同社は上場審査をパスできる可能性が低かった。 例えば、今年4月に、EC(電子商取引)大手アリババグループは独占禁止法違反で3050億円に上る罰金が科されている。これは中国では同法違反で科された罰金額としては最高額だった。 さらに、DiDiは2018年から2020年までの3年間だけでも353億元の赤字を出していて、同社の中国国内での上場を困難にした。香港上場も視野に入れてはいたが、資金調達のことを考えると、やはり米国上場の魅力に勝てない。) ますます強化されてくる中国政府の上場規制を見て、これまで上場の兆しがなかったDiDiは米国上場という秘密作戦を急がせた。6月10日に米証券監督管理委員会にIPO申請を行ってから、6月30日に上場を成功させた。わずか20日という上場作戦のスピードは人々を驚かせた。この電撃戦同然の上場はDiDi側の焦りを如実にあらわした。 だが、米国上場に。成功した喜びに浸る間もなく、すぐに中国政府からの容赦ない規制の集中パンチをくらわされた』、「20回以上も資金誘致作戦を仕掛けてきた。資金を大きくつぎ込んできた大株主らは、できるだけ短期間で投資の利益を確実に手に入れたいと考え、DiDiを速やかに上場させ、株価を高くして、つぎ込んだ資金を現金化して撤退する作戦を展開してきた」、大株主からの圧力で歪む悪例だ。
・『中央省庁の人的移動情報の収集・使用が問題に  DiDiの上場目論見書によると、ソフトバンクグループがDiDiの株式を22.2%、ウーバーが12%持っている。外資企業が株主の1位と2位を占めるこうした資本構成を見た中国市場は、DiDiの米国上場は外国投資家が現金化して撤退する作戦だと受け止め、DiDiに対する支持や同情の姿勢を見せなかった。 さらに、6年前の2015年に新華社通信から配信されたある記事が、DiDiにさらに致命的な一撃を与えた。 この記事は、DiDi研究院が同社の配車アプリを利用した顧客のビックデータを駆使して、7月13日から14日にかけて最高気温40℃の時間帯の、北京の中央省庁の人的移動を分析した調査リポートだ。 リポートは時間軸に基づいて、中央省庁の人的移動を詳細にわたって分析していた。例えば、「公安省は24時間無休」「国土資源省は残業時間がもっとも長い」といった調査結果を出しただけでなく、「国家発展と改革委員会の朝の出勤ピークは6時から、6時~8時までに到着したタクシー利用者は同委員会の1日のタクシー利用者の39.8%を占める」「科技省を出る利用者は16~18時に集中している。定時退社を好む傾向がある」と細部にわたり個人情報が盛り込まれていた。 この調査リポートは、発表当時、それほど注目されなかった。しかし、法律違反による個人情報の収集・使用問題がクローズアップされている今、リポートの内容は中国の読者に大きな衝撃を与えている。そこでDiDi研究院が米国カリフォルニア州シリコンバレーに位置するマウンテンビュー(Mountain View)にある所在地問題も話題になり、DiDiがビッグデータを通じて中国の中央省庁の移動規則を監視しており、その情報は米国側が所有しているといった印象を広げた。 「環球時報」は、DiDiのことを「人々の移動に関する個人情報を最も詳細に把握していたIT企業であることに疑いはない」と指摘したうえ、「いかなるIT企業も、国家よりも詳細な中国人の個人情報を保管する存在になってはいけない。自由にデータを活用する権利は、さらに与えてはならない」と警告した。 こうした世論を背景に、サイバースペース管理局は7月10日、100万ユーザー以上のデータを保有する企業は、海外で株式を上場する前に国家安全保障上の審査を受ける必要がある、と発表した。 報道によると、2021年上半期、米国で上場した中国企業は38社(SPACおよびOTCを除く)、調達した金額は合計135億3700万ドル(約1兆4960億円)に達した。現在、少なくとも23社の中国企業が上場の準備中だという。 サイバースペース管理局の今回の発表は、これから中国当局がデータの扱いに関する規制をさらに強化し、重要データが外国での上場後に外国政府に悪用されるリスクを回避するために、企業の国内上場を推進する方針を意味するものだとみられる。DiDiの米国上場による米中間の政治的、経済的攻防戦の波紋はまだ広がりつつある』、「DiDi研究院が米国カリフォルニア州シリコンバレーに位置」、「DiDiがビッグデータを通じて中国の中央省庁の移動規則を監視しており、その情報は米国側が所有しているといった印象を広げた」、極めて不運な展開だが、大株主の圧力で上場を無理に急ぐというのも問題だ。アメリカの株式市場が中国企業に甘いのも問題だが、これは今回の件で変わる可能性もあるだろう。
タグ:中国経済 (その9)(中国にとって米中対立よりもっと怖い出生率低下 産児制限再緩和も人口ピークは25年に前倒し、中国共産党・習近平のジャック・マー叩きがもたらす"ある誤算" 中国経済と技術発展に深刻な副作用、中国政府が配車アプリDiDiを米国上場直後に「撃墜」 致命的な原因とは?) 東洋経済オンライン ブルームバーグ 「中国にとって米中対立よりもっと怖い出生率低下 産児制限再緩和も人口ピークは25年に前倒し」 「産児制限緩和」したところで、焼け石に水だろう。 「権威主義的な政治体制の中国に移り住みたいと考える外国人は極めて少ない」、「農村部から都市部への人口移動を促す投資」、は社会の安定性維持とのバランスで、そんなに簡単ではなさそうだ。 PRESIDENT ONLINE 野口 悠紀雄 「中国共産党・習近平のジャック・マー叩きがもたらす"ある誤算" 中国経済と技術発展に深刻な副作用」 「アリババ集団傘下の金融会社アントグループの」「企業価値は」、「日本の3大メガ銀行の時価総額の合計(13.3兆円)を上回る」、と見込まれていたとは、その当時の人気は過熱していたようだ。 「中国政府による巨大ネット企業への管理が、さらに強化された」、「失言と当局の反発という単発的な偶発事件ではない」ことは確かなようだ。 「独占的な行為を規制する新たな指針の草案」、そのものは日本などでは当然のもので、中国がこれまで甘過ぎたのを修正しているのだろう。 「eコマースは民間に任された。そして、自由な経済活動が認められた。あまり重要な産業とは思われなかったからだ」、「その後、インターネットの普及に伴ってeコマースが急成長し、そこで用いる通貨としてAliPayが作られた・・・現在、その利用者数は10億人を超す」、なるほど。 「実はeコマースや電子マネーが重要であることが分かってきた。 このため、中国当局は、2、3年前から金融の管理強化に乗り出していた。ここにきて、巨大ハイテク企業への圧力を一段と強め、アントとマー氏を標的にしているのではないかとの見通しが広がっている」、当局にしたら当然の動きなのだろう。 「「ウミガメ族」が支えた中国経済の発展」、しかし、「中国でも活躍の機会があるという期待」が裏切られつつあることは重大だ。 「中国」「当局」にとっては覚悟の上だろう。 「今回の決定は、単なる偶発的・一時的なものではなく、周到な検討の結果行われたものだろう」、深い考察で参考になる。 ダイヤモンド・オンライン 莫 邦富 「中国政府が配車アプリDiDiを米国上場直後に「撃墜」、致命的な原因とは?」 「DiDiはわずか2日間で、注目を集めた新規上場会社から中国国内の取り締まり対象会社になってしまった」、まるで米国投資家を馬鹿にしたような上場劇だ。 「20回以上も資金誘致作戦を仕掛けてきた。資金を大きくつぎ込んできた大株主らは、できるだけ短期間で投資の利益を確実に手に入れたいと考え、DiDiを速やかに上場させ、株価を高くして、つぎ込んだ資金を現金化して撤退する作戦を展開してきた」、大株主からの圧力で歪む悪例だ。 「DiDi研究院が米国カリフォルニア州シリコンバレーに位置」、「DiDiがビッグデータを通じて中国の中央省庁の移動規則を監視しており、その情報は米国側が所有しているといった印象を広げた」、極めて不運な展開だが、大株主の圧力で上場を無理に急ぐというのも問題だ。アメリカの株式市場が中国企業に甘いのも問題だが、これは今回の件で変わる可能性もあるだろう。
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テスラ(その1)(テスラを侮る人に知ってほしい「評価される訳」 利益の源泉をハードからソフトへ移しつつある、焦点:起こるべくして起きたテスラの「中国トラブル」、コラム:ビットコインで方針一転 テスラの根深いガバナンス問題、テスラの運転支援システム「人身事故続発」のなぜ 運転手の監視ゆるい?オートパイロットの盲点) [産業動向]

今日は、テスラ(その1)(テスラを侮る人に知ってほしい「評価される訳」 利益の源泉をハードからソフトへ移しつつある、焦点:起こるべくして起きたテスラの「中国トラブル」、コラム:ビットコインで方針一転 テスラの根深いガバナンス問題、テスラの運転支援システム「人身事故続発」のなぜ 運転手の監視ゆるい?オートパイロットの盲点)を取上げよう。なお、EVでは、5月20日に取上げた。

先ずは、本年4月19日付け東洋経済オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「テスラを侮る人に知ってほしい「評価される訳」 利益の源泉をハードからソフトへ移しつつある」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/422534
・『テスラの時価総額はトヨタの3倍  テスラは、自動車のハードとソフトの切り離しに成功し、「購入後にインターネット経由でアップグレードできる」という新しいビジネスモデルを確立した。EV(電気自動車)や自動運転の時代になると、自動車メーカーの付加価値の源泉はハードからソフトに移行せざるをえないが、それを実現する仕組みができたのだ。テスラの時価総額がトヨタを抜いたのは、そのためだ。 アメリカのEV専業の自動車メーカー、テスラの株価は、2020年1月には100ドル程度だったが、2021年1月末には880ドルになった。 その時価総額は、2020年1月末に1000億ドル(約10兆9900億円)を突破し、フォルクスワーゲンを抜いた。そして、7月1日には、トヨタ自動車を抜いて、自動車メーカーとして世界第1位になった。 2021年4月中旬の株価は680ドル程度。時価総額は6498億ドルで、トヨタ自動車の2157億ドルの約3倍だ。 テスラの年間販売台数は、わずか50万台だ。それに対して、トヨタは1000万台を超える。利益も、トヨタが年間2兆円超であるのに対して、テスラはごく最近まで赤字を続けていた。 それなのに、なぜ時価総額が世界一になるのだろうか? これからは、ガソリン車の生産は禁止され、自動車はEVになるからか?しかし、EVを生産しているのはテスラだけではない。 「単なるバブルではないか」、と多くの人が考えるだろう。事実、そのように解説した記事もたくさんある。 しかし、テスラの株価急騰は、バブルだとして切り捨ててしまうことのできない、非常に重要な変化を反映している。 テスラは、これまでなかったまったく新しいビジネスモデルを構築しつつあるのだ。 このことを知るには、テスラ社のウェブサイトにアクセスして、「コネクティビティ」や「アップグレード」というページを見るとよい。) 「コネクティビティ」とは、音楽やメディアのストリーミング、交通情報表示など、データを必要とする機能の利用だ。購入時に「スタンダード」であっても、購入後に月額990円を払えば、機能がより高度の「プレミアムコネクティビティ」を利用できる。 「アップグレード」とは、購入後に、車の機能アップさせることだ。購入者のニーズに合わせてテスラ車をカスタマイズできる。 来店する必要はなく、Wi-Fiに接続して、ボタンを押すだけでよい。 つまり、購入した後で、車を買い替えたりハードウェアを取り替えたりすることなく、機能をアップデートすることができるのだ。 例えば、「Model S」には、低価格モデルの「Model S 60」と高価格モデルの「Model S 75」がある。低価格モデルのバッテリーの容量は、高価格モデルのそれより小さい。 「Model S 60」を購入したユーザーが、使っているうちに、「やはり大容量バッテリーのほうがよかった」と考えたとする。そして、購入したときよりは所得も増えていたとする。 そんなときには、Wi-Fiに接続してアップグレードのボタンを押し、9000ドル払うことに同意すれば、それで完了だ』、「テスラの時価総額はトヨタの3倍」は、私も「単なるバブルではないか」と考えていたが、「自動車のハードとソフトの切り離しに成功し、「購入後にインターネット経由でアップグレードできる」という新しいビジネスモデルを確立した」、とは確かに画期的で、時価総額もそれを反映している可能性がありそうだ。
・『自動運転もインターネット経由で可能に  購入後にアップできるのは、以上だけではない。 購入したときにつけなかったナビが必要になったら、簡単に購入できる。 クルマを買ったときには暖房シートをつけなかったが、その後寒い地域に転居して、必要になったとする。この場合も、ソフトウェアをアップデートするだけでよい。 さらに驚くべきことに、同じ手続きで、より高度な自動運転もできるようになるのだ。 自動運転には、レベル1からレベル5までのレベルがある。テスラの最新モデル車は、完全自動運転に必要な半導体をすでに搭載している。 また、「FSD(フルセルフドライビング)」という自動運転ソフトが提供されており、適時更新することで、より高度の自動運転が可能となる。 現在の自動運転機能は高速道路など一定の条件下に限られているが、ソフトウェアの更新によって、複雑な市街地での自動運転技術も可能になるという(ただし、テスラ車が2021年末までにレベル5の完全自動運転機能を実現するのは難しいと見られている)。) 「購入した後で機能をアップグレードできる」と聞くと、最初は魔術のように思える。 だがよく考えてみると、スマートフォンでは、日常的にやっていることだ。新しいアプリをダウンロードすれば、新しい機能が使えるようになる。 また、ゲームアプリなどでは、「アプリ内課金」というものがある。 アプリのダウンロードと基本機能は無料。そして、追加機能を購入するのは有料という仕組みだ。 ソフトウェアであれば、いちいち修理工場に持っていかなくとも、インターネットを通じてアップデートできる。それはスマートフォンであろうが自動車であろうが、同じことだ。 テスラのビジネスモデルは、自動車版の「アプリ内課金」なのである。 テスラは、最初に高性能なモデルを製造し、つぎに機能を制限したモデルを割引料金で販売するのだ。 そして、購入後のアップグレードという方式を可能にすることによって、低価格モデルを簡単に提供し、それによって売り上げを伸ばすことができる』、「最初に高性能なモデルを製造し、つぎに機能を制限したモデルを割引料金で販売するのだ。 そして、購入後のアップグレードという方式を可能にすることによって、低価格モデルを簡単に提供し、それによって売り上げを伸ばすことができる」、確かに上手い方法だ。
・『ハードとソフトの切り離し  ここまできて、「納得がいかない」と首をひねる方が多いのではないだろうか? カーナビのアップグレードをインターネット経由でできるのは、わかる。自動運転も、内容は高度だが、ソフトウェアであることに変わりはないから、インターネット経由でアップグレードできるのもわかる。 しかし、バッテリーや暖房シートは、ハードウェアだ。 それらを、なぜインターネットでアップグレードできるのだろう? この手品の種明かしは、あっけないほど簡単だ。 低価格モデルである「Model S 60」には、高価格モデルである「Model S 75」に搭載されているのと同じバッテリーが、最初から搭載されているのだ。 ただし、ソフトウェアを調整して、その容量を20パーセント落としているのである。 だから、低価格モデルと高価格モデルを生産するために、テスラは、バッテリーパックを2種類作ったり、組み立てラインを2種類用意したりする必要はない。プログラムに数行を付け加えるだけで終わりだ。 ただし、こうしたことができるのは、車のハードウェアとソフトウェアの切り離しを実現できたからだ。 いまの自動車には、ソフトウェアによって制御される部品が多数ある。しかし、システムごとに、ハードとソフトが結びついており、切り離せない。 これでは、上で述べたようなことはできない。 テスラは「モデル3」以降、ハードとソフトの切り離しを実現したのだ。これは、伝統的メーカーよりも6年以上も早かった。そのために、上で述べた「購入後のアップグレード」という新しいビジネスモデルを導入できたのである。) 以上のようなシステムを通じて、テスラは顧客の車両から走行データを収集できる。 これは、自動運転のシステムを開発するための貴重なビッグデータになる。 走行距離でいえば、グーグルの子会社であるウェイモが圧倒的なデータを蓄積している。しかし、テスラは顧客の車両からそれよりさらに多くのデータを収集している可能性がある。 だから、自動運転の分野でも、テスラが世界のトップになる可能性がある。 2019年、テスラは、完全自動運転技術を使ってライドシェア市場に参入する構想を発表した。これは、「テスラネットワーク(自動運転タクシーネットワーク)構想」と呼ばれる。 これを用いると、テスラ車の所有者は、自分が乗らない時間には、自分の車を自動運転モードのタクシーとすることによって、収益を得ることができる。 また、テスラは、Uberと同じように、利用のたびに顧客からプラットフォーム料金を徴収できるだろう。 これも、テスラの収益に寄与することになる』、「低価格モデルである「Model S 60」には、高価格モデルである「Model S 75」に搭載されているのと同じバッテリーが、最初から搭載されているのだ。 ただし、ソフトウェアを調整して、その容量を20パーセント落としているのである。 だから、低価格モデルと高価格モデルを生産するために、テスラは、バッテリーパックを2種類作ったり、組み立てラインを2種類用意したりする必要はない。プログラムに数行を付け加えるだけで終わりだ。 ただし、こうしたことができるのは、車のハードウェアとソフトウェアの切り離しを実現できたからだ」、「ハードウェアとソフトウェアの切り離し」とは画期的だ。「「テスラネットワーク・・・構想」・・・を用いると、テスラ車の所有者は、自分が乗らない時間には、自分の車を自動運転モードのタクシーとすることによって、収益を得ることができる」、面白い構想だ。
・『ソフトウェアの価値を利用できるこれまでの自動車産業は、ハードウェアの生産だった。 EVになると部品数が劇的に減少し、組み立ても容易になることから、ビジネスモデルの再構築が必要といわれてきた。 それは、ソフトウェアによって付加価値を生むような仕組みだ。 自動運転になれば、ソフトウェアの比重が増大し、自動車産業は、ハードウェアの生産ではなく、ソフトウェアを付加価値の源泉とせざるをえなくなる。 現在のような系列構造と巨大な生産体系を維持しようとすれば、制御不能なレガシーになってしまう危険がある。 テスラは、以上で述べたビジネスモデルを開発したことにより、ソフトウェアによって収益をあげることに成功したのだ。 ソフトウェアとデータに利益の源泉が移れば、爆発的な成長が可能になる。これこそが、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる企業群が実現したことだ。テスラは、自動車の生産において、そのことを可能にしつつある。 その時価総額が急激に増加している基本的な理由は、ここにある。 日本の自動車産業は、このように大きな変化に対応できるのだろうか?』、「日本の自動車産業」はエンジンというレガシーを抱えているだけに、「対応」は容易ではなさそうだ、

次に、4月24日付けロイター「焦点:起こるべくして起きたテスラの「中国トラブル」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/tesla-china-idJPKBN2CA0KY
・『テスラが販売台数の急増に見合うサービス態勢を整えることに四苦八苦していた中、中国でテスラへの反感がこれまでにじわじわと蓄積されていた以上、起こるべくして起きた事態とも言える。 テスラはメディアによる一斉攻撃を浴び、規制当局の「お叱り」も受けた。これは外国の大手ブランドにとって中国がいかに危険な場所になり得るか、そして国家の厳しい統制を受けたメディアが批判姿勢に転じた場合、たった1つの苦情案件処理の間違いがいかに大変な危機に転じ得るかを物語っている。 またテスラと言えば業界の慣習を顧みないことで知られ、その象徴的存在が創業者のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)だ。めったに誤りを認めない企業文化は米国でこそ、それなりのファンを獲得しているものの、中国では逆効果でしかない。マスク氏の名声ゆえに、中国政府は外国自動車メーカーとして初めてテスラに地元企業と合弁なしの事業展開を認めたのは確かだが、今やテスラはずっと長い歴史を持つライバルメーカーたちが何年も前に得た教訓を学びつつある。 テスラが直面するトラブルは、主に同社の北米事業に関係しているとはいえ、マスク氏や経営幹部らが認識してきた問題の大きさも浮き彫りにしている。ハードウエアに不具合が生じた場合に車両を修理する能力が、猛スピードで伸びる販売台数に圧倒されてしまったのだ。 カークホーン最高財務責任者(CFO)は1月、投資家に対して「サービスの拡充がテスラの将来戦略にとって本当に大事になっている」と認めた。 では今週、テスラはどんな事態に見舞われたのか。発端は上海国際モーターショーが始まった19日、ブレーキが効かないという苦情に対するテスラ側の対応に怒った1人の顧客女性がテスラの展示車両の屋根に上り、不満を叫んだことだ。この動画はソーシャルメディアで拡散された。 騒動がさらに拡大したのは、テスラの対外関係担当バイスプレジデント、グレース・タオ氏がこの女性が「やらせ」ではないかと疑問を呈した後だった。 タオ氏は地元メディアのインタビューで「事実は分からないが多分、彼女はかなりのプロで、(誰かが)背後にいるはずだと思う。われわれは妥協するつもりはない。これは新車開発のプロセスにすぎない」と発言。直後にテスラはあわてて火消しに走り、報道の撤回を求めてきた、とこのメディアが20日、メッセージアプリの微信(ウィーチャット)で明かした。 <次第に弱気化> テスラのコメントは次第に「前非を悔いる」姿勢へと転じていく。当初の「妥協せず」から20日は「謝罪と自主的な調査」の表明に変わり、そして21日夜には「規制当局と協力して調査」していると説明した。 国営新華社通信は、テスラの謝罪は「不誠実」だと述べた上で、「問題のある上級幹部」の更迭を要求。共産党機関紙、人民日報系のタブロイド「環球時報」もタオ氏の発言を取り上げてテスラの「大失態」と呼び、中国に進出している外国企業にとって1つの教訓になると解説した。 中国国営中央テレビ(CCTV)の報道番組の元総合司会者で2014年にテスラに入ったタオ氏には連絡が取れず、テスラもさらなるコメント要請には応じていない。 調査会社シノ・オート・インサイツのアナリスト、テュー・リー氏は「中国ではテスラ車の品質とサービスに関する不平不満がソーシャルメディア上にずっと書き込まれている。そのほとんどを同社の地元チームは20日まで無視してきたようだ」と述べた。 中国で販売されるテスラ車は、同社の上海工場で生産されており人気が高い。世界一の大きさを持つ中国EV市場において、テスラの販売シェアは30%を占める』、これは確かに広報対応のお粗末さによる部分も大きいようだ。
・『<マスク氏は沈黙> だがテスラへのプレッシャーは積み重なっていた。 先月には、中国人民解放軍が車載カメラなどから軍事機密が漏れる懸念を理由にテスラ車の利用を禁止した、と複数の関係者がロイターに語った。その翌日、マスク氏はオンラインイベントで「もしテスラが中国であれどこであれ、スパイ活動のために車両を使っていれば、工場は閉鎖されてしまう」と強調し、すぐにスパイ行為を否定した。 テスラは昨年、米国の広報チームをほとんど解体したようだが、中国では引き続き広報担当者を雇用している。 それでも外部との対話に関する限り、テスラが大きく依存しているのはマスク氏のツイッターだ。マスク氏のアカウントは5000万人超のフォロワーを抱えている。ただ22日までの時点で、今回の中国における問題でマスク氏は沈黙したまま。一方、短文投稿サイトの微博(ウェイボ)にはテスラ車オーナーから突然の加速やハンドルの不調といった品質面のクレームが殺到している。 環球時報の胡錫進編集長は22日、テスラを中国から追い出すつもりはないと強調。「われわれの究極のゴールは、外国企業に中国市場へ適応し、中国の法規制をしっかり守るとともに、中国の文化と消費者を尊重して中国経済にとってプラス要素になってもらうことにある。それが教訓であれ支援であれ、全ては同じ目標を示している」と述べた』、「今回の中国における問題でマスク氏は沈黙したまま」、当面、「沈黙」を続ける方がよさそうだ。
「コラム
第三に、5月15日付けロイター「ビットコインで方針一転、テスラの根深いガバナンス問題」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/tesla-bitcoi-breakingviews-idJPKBN2CV0BK
・『暗号資産(仮想通貨)ビットコインは、最も名高い応援団メンバーを失った。米電気自動車(EV)大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が12日、ビットコインによるEV購入の受け付け停止をツイッターで表明したのだ。その理由として「採掘(マイニング)と決済のための化石燃料、特に石炭の使用が急増していること」を挙げた。マスク氏の言い分は正しい。だがそうした決定は、ビットコイン自体よりもテスラが抱える問題を、より浮き彫りにしている。 マスク氏は業界の事情を薄々知っている誰かから、ビットコイン採掘のための発電に「ダーティー」なエネルギーが膨大に必要だと教わったのかもしれない。実際、ケンブリッジ大学オルタナティブ金融センターによる調査の最新データを見ると、ビットコイン採掘者が現在使用している電力は年間ベースで147テラワット時と、英国の年間電力消費のほぼ半分に達することが分かる。採掘者が使う電力のうち、大部分が水力である再生可能エネルギー発電の比率は39%にすぎない。 マスク氏は、温室効果ガス排出量ゼロのエネルギー導入を加速する企業の「テクノキング」を自称する人物だ。3カ月前にビットコインを支払い手段として受け入れると決めた時、その彼が電力使用の実態を知らなかったか、あえて軽視していたことになる。 「マスター・オブ・コイン」の肩書を持つカークホーン最高財務責任者(CFO)もこの計画に同意した。カークホーン氏は第1・四半期決算発表後の電話会議で、テスラが手軽でリスクの低いリターンを得る手段として現金15億ドル(約1650億円)をビットコインに換えたと説明した。日々2桁台の変動率を示すビットコインについて、恐るべき油断ぶりを露呈する発言だ。 ビットコインの受け付け停止という「手のひら返し」は、テスラのCEOにして筆頭株主であるマスク氏への監視が相変わらず緩い実態を強く示唆している。米金融規制当局が改善を働きかけてきたが、その甲斐もなかった。 マスク氏は以前、EV生産で何度も「大風呂敷」を広げた挙げ句、納車目標を達成することができなかった。マスク氏が2016年に手掛けた太陽光発電企業の買収は、いとこが設立した同社の救済目的だったのではないかとの疑念もくすぶっている。その2年後にマスク氏は、テスラの非公開化を検討しているとツイッターに投稿し、証券法に違反。2000万ドルの罰金を支払った上に、会長職を退任せざるを得なくなった。 マスク氏のこうした振る舞いを許したのは、同氏の友人や家族で固められた取締役会の怠惰だ。取締役の構成はその時からある程度変化し、年金積立金管理運用独立法人(GPIF)の最高投資責任者だった水野弘道氏など、適格な人物が社外取締役に加わっている。とはいえこの「新体制」でさえマスク氏の行動をそれほど制御できていないのは、何とも心配すべき兆候だ。 ●背景となるニュース *暗号資産(仮想通貨)ビットコインは12日、価格が一時13%急落した。テスラのマスク最高経営責任者(CEO)が、ビットコインでの電気自動車(EV)購入受け付けを停止するとツイッターに投稿したことが原因。マスク氏は「ビットコインの採掘(マイニング)と決済で化石燃料、特に石炭の使用が急増していることをわれわれは懸念している」とつぶやいた。 *テスラは、採掘作業がより持続可能なエネルギーに移行すればすぐにこの受け付け停止措置を解除する方針。マスク氏は、エネルギー消費の少ない他の暗号資産にも目を向けていると述べた。 *テスラは2月8日、それまでに15億ドル相当のビットコインを購入したことを明らかにするとともに、決済でビットコインを受け入れる意向を示した。同社はその後、保有分の約1割を売却した。マスク氏は今回、テスラは残りのビットコインを売るつもりはないと明言した。(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)』、「ビットコイン採掘者が現在使用している電力は・・・英国の年間電力消費のほぼ半分に達する」、とは確かに壮大な無駄だ。しかし、「マスク氏」がそんなことも知らずにいたとも思えない。いずれにしろ、同氏の発言のブレにより「ビットコイン」価格が乱高下させたのは、好ましいことではない。

第四に、7月12日付け東洋経済オンラインが転載したThe New York Times「テスラの運転支援システム「人身事故続発」のなぜ 運転手の監視ゆるい?オートパイロットの盲点」を紹介しよう。
・『2019年8月のある日。ベンジャミン・マルドナドさんは10代の息子を乗せてカリフォルニア州の高速道路を運転していた。サッカー大会の帰りだった。前を走っていたトラックが速度を落としたため、方向指示器を点滅させて右に車線変更した数秒後、マルドナドさんの運転するフォード「エクスプローラー」は、運転支援システム「オートパイロット」を使って時速約100キロメートルで走行していたテスラ「モデル3」とぶつかった』、なるほど。
・『衝突の一瞬前までテスラ車を減速せず  このテスラ車が撮影した6秒間の動画および同車に記録されたデータからは、オートパイロットも運転手も、衝突のほんの一瞬前まで車を減速させていなかったことがわかる。 オートパイロットとは、車両が自らステアリング、ブレーキ、アクセルを操るというテスラご自慢のシステムだ。警察の報告書によると、助手席に乗っていたジョバニ・マルドナドさん(15)はシートベルトを着用しておらず、車外に投げ出されて死亡した。 テスラの主力工場から7キロと離れていない場所で起きたこの事故は、テスラを相手取った訴訟に発展している。オートパイロット絡みの事故は本件も含め全体として増えており、技術的な欠陥を指摘する声が強まっている。ライバルメーカーが採用する同様のシステムの開発にも疑問符がつく可能性がある。 2003年に設立されたテスラとそのCEOイーロン・マスク氏は、自動車業界に派手な挑戦を挑み、熱狂的なファンや顧客を巻き込んで、既存の自動車メーカーも一目を置かざるをえない電気自動車の新たなスタンダードをつくり出している。テスラの時価総額は現在、大手自動車メーカー数社分を足し合わせた額よりも大きくなっている。) だが、オートパイロットに関連した事故は、そうしたテスラの地位を脅かす要因ともなりかねない。規制当局が行動に乗り出す可能性が浮上しているためだ。アメリカ運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)は現在、オートパイロットが関連した事故約20件について調査を進めている。 2016年以降、オートパイロットが障害物の検知に失敗して発生した事故で、テスラ車を運転していた人の少なくとも3人が死亡している。うち2件は、高速道路を横切るトレーラーに対してオートパイロットがブレーキをかけなかったケース。もう1件は、コンクリート壁を認識できずに激突したケースだ。 NHTSAは6月、2016年以降にオートパイロットが関与した8件の事故で少なくとも10人が死亡したことを示すリストを公開した。ここにはジョバニ・マルドナドさんの死亡事故は含まれていない』、「2016年以降にオートパイロットが関与した8件の事故で少なくとも10人が死亡」、「事故」が予想以上に多いことに驚かされた。
・『事故を未然に防ぐシステムのはずが…  テスラの信用は揺らぎ、自動運転の専門家からは「マスク氏とテスラが唱えてきたほかの主張も疑問視せざるをえない」といった声があがるようになっている。例えばマスク氏はこれまでに何度も、テスラは完全自動運転の完成に近づいていると公言してきた。完全自動運転とは、ほとんどの状況下で車両の自律運転が可能となる技術を指す。テスラ以外の自動車メーカーやテクノロジー企業が「実現は何年も先になる」としている技術だ。 マスク氏とテスラは、数回にわたるコメントの求めに応じなかった。 オートパイロットは「自動運転システム」ではない。車線変更などの運転操作を代行し、事故を未然に防ぐ「運転支援」を目的としたソフトウェア、カメラ、センサーによって構成されるシステムだからだ。テスラの幹部は、操作をコンピューターに委ねれば、ミスを犯したり、注意散漫になったりしがちな人間の運転よりも安全になると主張している。 テスラで人工知能部門の責任者を務めるアンドレイ・カーパシー氏は6月、自動運転に関するオンラインワークショップで次のように語った。「コンピューターは(運転中に)インスタグラムをチェックしたりしない」。 オートパイロットが作動している間、運転手が緊張を緩めるのはいいが、完全に気をそらすことは想定されていない。ステアリングをきちんと保持し、視線を道路から外さず、いざシステムが混乱したり、障害物や危険な交通状況を認識できなかったりした場合には、いつでも運転を代われるようにしておくことが大前提になっているわけだ。) ところがオートパイロットの作動中、前方を見ている以外にほとんどやることのなくなった運転手には、誘惑に負けて注意がおろそかになってしまう人もいる。ツイッターなどではこれまでも、テスラ車の運転席に座りながら読書したり眠ったりする運転手の動画が投稿されてきた。 問題が浮上すると、テスラはたいてい運転手を責めてきた。オートパイロットの使用中にステアリングから手を離したり、安全確認を怠ったりする運転手が悪い、という理屈だ。 だが、オートパイロットに関連した事故を調査した国家運輸安全委員会(NTSB)は、同システムには不適切な使用を防ぐ仕組みや運転手に対する効果的な監視が欠けていると結論づけている』、「オートパイロットは「自動運転システム」ではない。車線変更などの運転操作を代行し、事故を未然に防ぐ「運転支援」を目的としたソフトウェア、カメラ、センサーによって構成されるシステムだからだ」、誤解され易いところだ。「テスラの幹部は、操作をコンピューターに委ねれば、ミスを犯したり、注意散漫になったりしがちな人間の運転よりも安全になると主張」、しかし、「オートパイロットの作動中、前方を見ている以外にほとんどやることのなくなった運転手には、誘惑に負けて注意がおろそかになってしまう人もいる」、こうした建前と現実のギャップを無視する訳にはいかない。
・『他社に劣るゆるい監視システム  ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターなどが提供している類似のシステムは、運転手の視線をカメラで追跡し、運転手がよそ見をすると警告が出る仕組みになっている。GMの運転支援システム「スーパークルーズ」では、警告が数回続くと機能がオフになり、運転手が自ら運転しなければならなくなる。 これに対しオートパイロットは運転手の視線を追跡せず、ステアリングに手を置いているかどうかだけを監視する。運転手がステアリングに手を置いている時間が1回あたり数秒だったとしても、作動し続ける場合もある。 カーネギーメロン大学で自動運転を研究するラジ・ラジクマール教授によれば、「簡単にだませるうえ、あまり一貫した監視がなされていないため、本質的に脆弱な監視システム」ということになる。 NHTSAは現時点で、オートパイロットの変更や無効化をテスラに強制しているわけではないが、6月には、この種のシステムに関する事故の報告をすべての自動車メーカーに義務づけると発表した。) テスラに対しては、今年に入ってからだけでもいくつもの訴訟が起こされている。フロリダ州キー・ラーゴで2019年に発生した事故に関連して今年4月に同州裁判所に提訴された事案も、その1つだ。 オートパイロットを作動させたテスラ「モデルS」がT字型交差点で停止できず、路肩に駐車していたシボレー「タホ」に衝突し、ナイベル・レオンさん(22)が死亡した。カリフォルニア州では、バンで走行中にオートパイロットを作動させていたテスラ車に後方から追突され、脊椎に重傷を負ったダレル・カイルさん(55)が5月に訴えを起こしている』、「テスラ」の「監視システム」が「オートパイロットは運転手の視線を追跡せず、ステアリングに手を置いているかどうかだけを監視する」というのは深刻な問題だ。私でも居眠り防止のため、視線の「監視システム」をつけている。
・『オートパイロットには欠陥があると提訴  ジョバニ・マルドナドさんが死亡した事故は、テスラ車に記録された動画とデータが入手可能になった珍しい事案だ。マルドナドさんの弁護士を務めるベンジャミン・スワンソン氏はテスラから動画とデータを入手し、ニューヨーク・タイムズと共有した。 ベンジャミン・マルドナドさんと妻のアドリアナ・ガルシアさんはテスラを相手取ってカリフォルニア州アラメダ郡高等裁判所に提訴。訴状では、オートパイロットには欠陥があり、交通状況に対応できなかったとしている。運転手も被告とされた。 オートパイロットが誤作動、もしくは欠陥を抱えていたとの申し立てに対し、テスラはまだ裁判資料の中で反応を示していない。ただ、テスラの弁護士を務めるライアン・マッカーシー氏がスワンソン氏の事務所に送った電子メールは法廷に証拠として提出されており、その中でマッカーシー氏は次のように述べていた。責任はテスラでなく、運転手にある――。 事故を起こしたテスラ車に保存された動画には、同車が中央の車線を飛ばしながら左右の車を追い抜いていく様子が映っている。マルドナドさんがウィンカーを出したのは衝突の4秒前。エクスプローラーは左側の車線にとどまったまま方向指示器を4回点滅。5回目の点滅で中央のレーンへと車線を変えた。裁判資料によると、マルドナドさんはバックミラーでテスラ車が急接近してくるのに気づき、元の車線に戻ろうとしたという。 テスラ車はこの動画のほぼ最初から最後まで時速約111キロを維持していたが、衝突の直前には一時的に時速112キロを超過、速度を落としたのは最後の1秒だったことが車両のデータから明らかになっている。(執筆:Neal E. Boudette記者)』、「カリフォルニア州アラメダ郡高等裁判所」での裁判の行方が大いに注目される。
タグ:「ビットコインで方針一転、テスラの根深いガバナンス問題」 野口 悠紀雄 東洋経済オンライン 「低価格モデルである「Model S 60」には、高価格モデルである「Model S 75」に搭載されているのと同じバッテリーが、最初から搭載されているのだ。 ただし、ソフトウェアを調整して、その容量を20パーセント落としているのである。 だから、低価格モデルと高価格モデルを生産するために、テスラは、バッテリーパックを2種類作ったり、組み立てラインを2種類用意したりする必要はない。プログラムに数行を付け加えるだけで終わりだ。 ただし、こうしたことができるのは、車のハードウェアとソフトウェアの切り離しを実現 「テスラを侮る人に知ってほしい「評価される訳」 利益の源泉をハードからソフトへ移しつつある」 「最初に高性能なモデルを製造し、つぎに機能を制限したモデルを割引料金で販売するのだ。 そして、購入後のアップグレードという方式を可能にすることによって、低価格モデルを簡単に提供し、それによって売り上げを伸ばすことができる」、確かに上手い方法だ。 「ハードウェアとソフトウェアの切り離し」とは画期的だ。「「テスラネットワーク・・・構想」・・・を用いると、テスラ車の所有者は、自分が乗らない時間には、自分の車を自動運転モードのタクシーとすることによって、収益を得ることができる」、面白い構想だ。 「テスラの時価総額はトヨタの3倍」は、私も「単なるバブルではないか」と考えていたが、「自動車のハードとソフトの切り離しに成功し、「購入後にインターネット経由でアップグレードできる」という新しいビジネスモデルを確立した」、とは確かに画期的で、時価総額もそれを反映している可能性がありそうだ。 テスラ (その1)(テスラを侮る人に知ってほしい「評価される訳」 利益の源泉をハードからソフトへ移しつつある、焦点:起こるべくして起きたテスラの「中国トラブル」、コラム:ビットコインで方針一転 テスラの根深いガバナンス問題、テスラの運転支援システム「人身事故続発」のなぜ 運転手の監視ゆるい?オートパイロットの盲点) 「今回の中国における問題でマスク氏は沈黙したまま」、当面、「沈黙」を続ける方がよさそうだ。 これは確かに広報対応のお粗末さによる部分も大きいようだ。 「焦点:起こるべくして起きたテスラの「中国トラブル」 ロイター 「日本の自動車産業」はエンジンというレガシーを抱えているだけに、「対応」は容易ではなさそうだ、 「2016年以降にオートパイロットが関与した8件の事故で少なくとも10人が死亡」、「事故」が予想以上に多いことに驚かされた。 「テスラの運転支援システム「人身事故続発」のなぜ 運転手の監視ゆるい?オートパイロットの盲点」 The New York Times 「ビットコイン採掘者が現在使用している電力は・・・英国の年間電力消費のほぼ半分に達する」、とは確かに壮大な無駄だ。しかし、「マスク氏」がそんなことも知らずにいたとも思えない。いずれにしろ、同氏の発言のブレにより「ビットコイン」価格が乱高下させたのは、好ましいことではない。 「オートパイロットは「自動運転システム」ではない。車線変更などの運転操作を代行し、事故を未然に防ぐ「運転支援」を目的としたソフトウェア、カメラ、センサーによって構成されるシステムだからだ」、誤解され易いところだ。 「テスラの幹部は、操作をコンピューターに委ねれば、ミスを犯したり、注意散漫になったりしがちな人間の運転よりも安全になると主張」、しかし、「オートパイロットの作動中、前方を見ている以外にほとんどやることのなくなった運転手には、誘惑に負けて注意がおろそかになってしまう人もいる」、こうした建前と現実のギャップを無視する訳にはいかない。 「テスラ」の「監視システム」が「オートパイロットは運転手の視線を追跡せず、ステアリングに手を置いているかどうかだけを監視する」というのは深刻な問題だ。私でも居眠り防止のため、視線の「監視システム」をつけている 「カリフォルニア州アラメダ郡高等裁判所」での裁判の行方が大いに注目される。
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コーポレート・ガバナンス問題(その10)(みずほ銀行に見る…社外取締役は「田んぼのカカシ以下」、インタビュー前編/東レ社長 日覺昭廣 「経営を欧米向けにわかりやすく。おかしな話だ」、インタビュー後編/東レ社長 日覺昭廣 「社外役員3分の1以上」には根拠も意味もない) [企業経営]

コーポレート・ガバナンス問題については、昨年11月16日に取上げた。今日は、(その10)(みずほ銀行に見る…社外取締役は「田んぼのカカシ以下」、インタビュー前編/東レ社長 日覺昭廣 「経営を欧米向けにわかりやすく。おかしな話だ」、インタビュー後編/東レ社長 日覺昭廣 「社外役員3分の1以上」には根拠も意味もない)である。なお、タイトルから「日本企業の」をカット。

先ずは、昨年12月22日付け日刊ゲンダイが掲載した評論家の佐高信氏による「みずほ銀行に見る…社外取締役は「田んぼのカカシ以下」」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/282980
・『富士銀行、第一勧業銀行、そして日本興業銀行が合併してスタートしたみずほにも社外取締役はいる。外から経営をチェックするために存在しているのだが、この国の会社ではほとんどが“社内”取締役になっている。ズバリと直言する人間ではなく、イエスマンもしくはイエスウーマンだけを指名するからである。たとえば竹中平蔵の後に経済財政政策担当大臣となった“おんな竹中平蔵”の大田弘子がみずほフィナンシャルグループの社外取締役となった。しかし、彼女が経営陣に厳しい注文をつけたという話は聞かない。 社外取締役全般について言えることだが、私はある雑誌でこうコメントしたことがある。 「社外取締役は単なるお飾り。初めから『ノー』と言わない人と会社から認定された“うなずき人形”のようなもので、御用学者ならぬ御用取締役です。田んぼの中のカカシはそこにいるだけで役に立っているが、『ノー』と言わない社外取締役はカカシ以下でしかない」) 1997年6月29日、旧第一勧銀の頭取、会長を歴任した宮崎邦次が総会屋への利益供与事件で自殺した。それに関して2007年7月6日号の「週刊朝日」が宮崎の遺書を報じた。 「今回の不祥事について大変ご迷惑をかけ、申し訳なくお詫び申し上げます。真面目に働いておられる全役職員そして家族の方々、先輩のみなさまに最大の責任を感じ、且、当行の本当に良い仲間の人々が逮捕されたことは、断腸の思いで、6月13日相談役退任の日に、身をもって責任を全うする決意をいたしました。逮捕された方々の今後の処遇、家族の面倒等よろしくお願い申し上げます。スッキリした形で出発すれば素晴らしい銀行になると期待し確信しております」 「宮崎」と記した遺書の最後に「佐高先生に褒められるような銀行に」という1行があったというのだが、現在のみずほに私を社外取締役にするような勇気はない。(敬称略)』、「社外取締役は単なるお飾り。初めから『ノー』と言わない人と会社から認定された“うなずき人形”のようなもので、御用学者ならぬ御用取締役です。田んぼの中のカカシはそこにいるだけで役に立っているが、『ノー』と言わない社外取締役はカカシ以下でしかない」、言い得て妙だ。「「宮崎」と記した遺書の最後に「佐高先生に褒められるような銀行に」という1行があったというのだが、現在のみずほに私を社外取締役にするような勇気はない」、遺書に「佐高先生に褒められるような銀行に」、初めて知った。

次に、本年7月10日付け東洋経済Plus「インタビュー前編/東レ社長 日覺昭廣 「経営を欧米向けにわかりやすく。おかしな話だ」」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27474
・『「答えはすべて現場にある」――。現場主義を貫く東レでは、社内の声を重視し、長い目線で事業を育てる経営を続けてきた。 そうした中、これまで半世紀以上の時間と多額の費用を費やしてきた炭素繊維や水処理膜が育ってきた。炭素繊維は飛行機などの軽量化につながり、二酸化炭素の削減に貢献できる素材だ。いずれの分野も世界シェアの上位は日本企業だ。 東レの日覺昭廣社長は、その背景に日本ならではの経営環境があると考えている。経営の在り方について欧米追従の流れが強まる中、「ルール作りは欧米人がやるものという感覚を捨てるべき」と警鐘を鳴らす(Qは聞き手の質問、Aは日覺社長の回答)。 後編:「社外役員3分の1以上には、根拠も意味もない」 Q:最近の新聞で東レは、業績低迷で投資家や株主のプレッシャーに耐えられなくなり、ガバナンス改革の波に屈して取締役体制を変えざるを得なくなったと、書かれていました。 A:それは間違いだ。業績に結び付けるのは完全に余計だよね。 景気回復のこちら(コロナ影響からの立ち直りが鈍い側)に航空機やアパレルなどの主要な事業を持っているから一時的に下がってしまっているだけ。また回復するわけだから。業績と取締役体制の変更(2020年6月に社外取締役を全体の3分の1に増やした)は一切、関係がない。 Q:日本では、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、委員会設置会社と機関設計が3つも林立しています。 経営の実態を分析もせず、仕組みばかりたくさん作るというのはいかがなものか。容れ物先行では、物事は解決しない。すべての仕組みに一長一短がある。 それぞれ何が問題なのか、何が欠けているのか。それを解決するにはどう運用するのがいいのか。現場から考えれば答えは出る。(当局や専門家などの)経営現場の経験のない人が考えて解決するほど(経営は)甘くはない』、「現場主義を貫く東レ」にとって、政府が旗を振る理念型の「コーポレート・ガバナンス」改革は腹立たしいのだろう。
・『監査役会設置会社は素晴らしい  Q:これら3つの中で、特に評価している仕組みはありますか? A:日本では東証1部上場企業のうち、アメリカ式の委員会設置会社はわずか数%だ。委員会設置会社へのつなぎと見られていた監査等委員会設置会社も30数%にとどまる。従来の監査役会設置会社が60数%と依然主流だ。この傾向はずっと続くと思う。 監査役は議決権を持たない日本独自の制度のため、会計監査人と混同されるなど欧米ではよく理解されていない。だが、素晴らしい制度だ。 監査役は指揮命令系統から独立し、取締役と対等な立場で取締役を監視している。監査役会は半数以上を社外監査役で構成し、かつ常勤監査役の選任が会社法で定められており、独立性と監査の実効性が確保されている。同時に(単独で権限を行使できる)「独任制」という強力な権限も保有している。 取締役が執行と監督を兼ねることが多い日本において、取締役のパフォーマンスを現場に即して監査することができる非常に理にかなったシステムだ。それなのに、監査役というものが欧米にないから、彼らがわかりやすいように変えようという。おかしな話だ。 正しいことを論理的に説明することで日本発のすばらしいシステムにしようという気概がほしい。委員会設置会社への移行を強制するよりも、監査役による機関設計を海外の機関投資家に理解していただくことを考えるべきだ。(国際的な)ルール作りは欧米人がやるもの、という感覚を捨てなければいけない』、「委員会設置会社への移行を強制するよりも、監査役による機関設計を海外の機関投資家に理解していただくことを考えるべき」、同感である。
・『欧米は原則主義、日本は細則主義  Q:企業経営の形やガバナンスコードを欧米追従にすることには反対です か。 A:まあ、向こうのコードも、内容自体を見るとそんなに変なことは書かれていない。「企業価値」を高めましょうとかね。ただし、彼らが言っている企業価値というのは株価、いわゆる時価総額だ。 私は、時価総額は企業価値の2割程度だと思っている。企業価値の8割は企業の社会的責務を果たすことだ。でも欧米のコードではそれが一切、触れられていない。株価ばかりというのはお粗末だ。 Q:文化的、風土的に違うところに同じやり方をしてもうまくいかないと? A:欧米ではコードが原則としてあり、事業活動や経営を見て詳細を判断する。しかし、日本ではコード遵守を厳格に運営する。 例えばISO(国際標準化機構)規格でも同様で、日本では事細かくがんじがらめにしてしまう。何事も物事を一律に決められるものではない。フレキシブルに対応できるようにしていないと、かえって現場の力を削ぎ、競争力を弱めることになってしまう。そこが日本の悪いところだ。 にっかく・あきひろ/1949年生まれ、兵庫県出身。1973年東京大学大学院修了、東レ入社。2001年エンジニアリング部門長、2002年取締役。2010年6月から現職(撮影:梅谷秀司) 会社では、手続きよりも生産現場で本当に正しいことをやっているかどうかが大事なはずだ。日本も本来、昔は匠の世界だった。ところがISOでは、ちゃんと(工程や品質試験などの)記録を取っていますね、残していますね、ということだけが問われる。だからある意味で、ISO規格は日本の製造業を堕落させた運動だと私は思っている。 原則主義の欧米では、企業がコード通りにしていなくても、実態に照らして成長発展するのにふさわしい体制であればよし、とされるところがある。コードが目的化しないように運用されているが、日本ではそうなっていない。 機関投資家がスチュワードシップ・コード(の運用)を厳格化した結果、われわれ(経営者)に対して「社外取締役を増やさないと困る」と言ってきたのもまさに細則主義だからだろう』、国際財務報告基準(IFRS)では、欧米は原則主義、日本は細則主義とされる。
https://globis.jp/article/7958
・『「東レがうらやましい」と言われた  Q:欧米式の企業統治では長期的な目線で事業経営が難しいのでしょうか。 A:昔、デュポンのチャールズ・ホリデー元会長に、「東レがうらやましい」と言われたことがある。1960年頃に世界中で炭素繊維の開発が始まった。でもアメリカの企業は「何年やってもモノになるかわからない」ということで、やはり投資家や株主の賛同を得るのは難しかったようだ。 アメリカでは株主の代表が取締役で、求められているのは株価を上げて株主が短期的に利益を出せるようにすること。そういう環境では長期的な視点で事業を育てることは不可能だろう。経営者も、クビにされたらおしまいだから。 結局、炭素繊維も水処理膜も開発を続けて事業化までいけたのは、長期目線で取り組むことができた日本企業ばかりになった。 Q:日本企業も昔から欧米流の企業統治をしていたら、炭素繊維や水処理膜の今日のような成功はなかったと。 A:それはできなかっただろう。株主の代表である取締役とか、アクティビスト(物言う株主)からダメだと言われたらやろうとしてもできないわけだから。 それでもやろうとしたら辞めさせられる。デュポンの前CEOのエレン・クレマンさんなんかも、アクティビストと軋轢があって思いどおりに経営できなかった(筆者注:アクティビストの株主から事業再編のために会社の4分割を要求されるが拒否。だがその後、退任に追い込まれた)。 Q:ダイバーシティについて。経営中枢に女性の視点を入れると事業に広がりが出るという見方もありますが、どう思いますか。 A:それは(エンドユーザーに女性が多い)資生堂さんやユニクロさん(ファーストリテイリング)なら意味があるかもしれない。 でも、素材産業では女性の視点を入れるということ自体に意味はない。もっといえば、女性を何割入れてとか、取締役に女性を入れてとか、そういったことを外野の経営経験もない人が言ったりルールをつくったりするのは最悪だ。 問題は、やれ自由だ、ダイバーシティだというと、あたかもそれが正しいように聞こえてしまうこと。言葉の響きで。でもそれに何の意味があるのか。ダイバーシティが目的ではないはずだ。 後編「社外役員3分の1以上には、根拠も意味もない」』、「炭素繊維も水処理膜も開発を続けて事業化までいけたのは、長期目線で取り組むことができた日本企業ばかりになった」、「デュポンのチャールズ・ホリデー元会長に、「東レがうらやましい」と言われたことがある」、も分かる気がする。

第三に、この続きを、7月12日付け東洋経済Plus「インタビュー後編/東レ社長 日覺昭廣 「社外役員3分の1以上」には根拠も意味もない」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27475
・『「重要な経営方針は、会社をよくわかっている社内の人間で決めるべきだ」。折に触れてそうした考えを述べてきた東レの日覺昭廣社長。 だがそんな東レも昨年、ついに経営体制の見直しに動いた。従来は社内取締役が17人、社外取締役が2人だったが、社内取締役を8人に減らし社外取締役を4人に増やすことで、社外取締役比率を「3分の1」に引き上げたのだ。 自身の経営哲学とのせめぎ合いの中で最低限の対応をとった日覺社長は、「いい加減なアイデアで決めた数字で企業を縛るべきではない」と話す。(前編:「経営を欧米向けにわかりやすく。おかしな話だ」) Q:今回のコーポレートガバナンス(CG)・コードの改訂では、上場企業の社外取締役の割合を少なくとも3分の1以上にすることを求めています。 A:3分の1以上や過半数といった数字にはそもそも何の根拠もないし、まったく意味がない。 もし、誰かが経営の現場で何が起きているのかといった事実を調査して、「課題の本質原因や不祥事が起きる理由は社外取締役が3分の1以上いないからだ」という分析結果に至って決めた数字なら、多少は意義があるかもしれない。 だが実際は、経営経験のない人が連想ゲームのように何となく決めた数字だろう。社外取締役の比率は企業の自主性を尊重するべきだ。いい加減なアイデアで決めた数字で企業を縛るべきではない』、「実際は、経営経験のない人が連想ゲームのように何となく決めた数字だろう。社外取締役の比率は企業の自主性を尊重するべきだ。いい加減なアイデアで決めた数字で企業を縛るべきではない」、筋論だが、現実には「社内取締役を8人に減らし社外取締役を4人に増やすことで、社外取締役比率を「3分の1」に引き上げた」、という弾力性ももつようだ。
・『このままだと賛成できない  Q:それでも、東レは2020年6月の株主総会を経て、「社外比率3分の1以上」という基準に合わせました。 A:日本の金融機関や機関投資家では(投資家の行動規範であるスチュワードシップ・コードの強化で)投資方針と議決権行使の結果を開示して外部に公表することが求められるようになってきた。 例えば、ある機関投資家が「社外取締役が3分の1以上でない企業への投資は推奨しません」などの方針を公表したうえで、後で議決権行使がその方針に沿っているかの結果も公表しなければならない。 それで、以前までは「(社外取締役が3分の1以上いなくても)東レのガバナンスは問題ない」と言ってくれていた機関投資家から、「これからは今までのようにはいかなくなる」と言われるようになった。 東レの社外取締役比率が3分の1未満だと、機関投資家が(株主総会での日覺氏の取締役の再任に)賛成した場合、方針と齟齬がある結果を公表しなければならなくなる。彼らはそれはできないから、「このままだと賛成票は入れられない」と。だから対応した。それによって別に困ることもないしね。 Q:社内取締役を8人、社外取締役を4人にし、同時に執行役員制度を採り入れた意図は何ですか? A:取締役会の体制を変えて社内取締役を減らすに当たって、事業をわかっている人間が事業を判断するという部分は変えないつもりだった。 それで執行役員を30人置くことにした。それまで社内取締役だった人はみんな執行役員に就いた。今までどおり経営業務は専門能力を持った役員で実行するということを、執行役員制度で明確化したかった。 社内取締役の人数は、取締役会に最低限必要な代表者は何人なのかを考えて決めた。繊維、フィルム、炭素繊維などの事業や、研究、エンジニアリング、生産がそれぞれわかる人から代表を選ぶと結果的に8人になった。それに対して社外取締役は3分の1以上にする必要があるということで4人になった。 執行役員制度の導入で、実質的に取締役体制を変える前とさほど変わらない状態を維持できている』、「執行役員制度の導入で、実質的に取締役体制を変える前とさほど変わらない状態を維持できている」、なるほど。
・『社外取に「監視・監督」は不可能  Q:社外取締役は「経営執行の監視・監督」が第一義的な役割だとされています。 社外の目で企業を監視するなんて不可能だ。 社外からは、それこそROE(自己資本利益率)が悪いからその事業をやめろとか、その程度のことは言えるかもしれない。 けれども、社外から内部で何が起こっているかなんて、わかるわけがない。もしも部長と課長とか上司と部下がつるんで何かやったら、社内からでも絶対に不正なんて暴けない。ましてや社外の、現場を知らない人が不正を暴いたり、監視したりするなどということはできないはずだ。 Q:今回のコード改訂では、社外取締役は経営経験者が望ましいとされています。東レの社外取締役4人のうち経営経験者は1人(元住友精密工業社長の神永晉氏)だけです。 A:経営経験者を社外取締役にしたほうがよい、という考え方には賛同できない。一口に企業経営と言っても事業によってぜんぶ違う。自動車会社の経営経験者を素材会社に持ってきても意味がないし、同じ繊維の会社でも東レと他社では異なる。 それなのに社外の経営経験者のアドバイスを受けて「いい意見をもらった」と喜ぶようなトップはよっぽどレベルが低いから、すぐに辞めたほうがいい。大事なのは経営経験の有無ではなく、社外取締役にどんなポテンシャルがあるかだ。 Q:コード改訂は海外を中心とした投資家の考え方に合わせるのが目的とされています。 A:間違った考え方だ。日本の従来のやり方が、欧米では「やっていない」「理解されない」から変えましょう、というのでは理屈にならない。 日本でしかやっていないことでも、そっちのほうがいい仕組みかもしれない。何でも海外の投資家がわかりやすいほうに持っていこうとすること自体が誤りの原点だ。 欧米のコードにしても、変わってきている。彼らも日本の(公益への企業貢献を重んじる)公益資本主義を一生懸命勉強している。 公益資本主義のルールを改訂し、日本から発信しないといけない。どうも日本は劣等感の塊で、明治以降の舶来主義だ。もう少し自信をもって、自律的に考えていかないとダメだ』、「公益資本主義のルールを改訂し、日本から発信しないといけない。どうも日本は劣等感の塊で、明治以降の舶来主義だ。もう少し自信をもって、自律的に考えていかないとダメだ」、同感である。
・『女性、外国人の「登用ありき」はおかしい  Q:取締役への女性や外国人の登用が注目されていますが、東レではどちらもいません。 女性や外国人でふさわしい人材がいるのであれば取締役にすればいい。だが、登用ありきにすることはおかしい。目的は、女性や外国人を取締役に入れることではなく、会社を成長させることのはずだ。 東レには今、海外子会社含め外国人の社長が26人いて、うち2人は(東レ本体の)執行役員だ。女性の幹部も増えており理事が1人、部長は19人、課長級は115人いる。女性の活躍推進のための研修も5、6年以上前からやっている。女性には家庭での役割などハンディがあるので、女性をサポートするための議論や情報交換もしている。 いずれこうした人たちが取締役になるかもしれない。だが、女性や外国人をとにかく取締役会に入れようということでただちに誰かを昇格させるとか、社外から人を連れてこよう、というのはまったく意味がない。適性があるかどうかで考えるべきだろう。 Q:東レが社外取締役を2人から4人に増やして1年経ちました。何か変わりましたか。 A:社外取締役を増やしてから、そのポテンシャルや経験をいかに経営に生かすかを考えるようになった。 それまでは決議事項をきっちり決議するのが取締役会だったが、これでは社外取締役はなかなか議論に入ってこられない。決議事項は、それまでに経営会議や事業本部で何回も議論して固まってから上がってくるものだからだ。 そこで新たに「協議事項」というものを多く設けることにした。長期ビジョンや中期経営計画をつくるとき、あるいは大型のM&Aの検討などの会社の方向性を考える際に、早い段階から社外も含めた取締役で話し合ってもらう。結論がまったく固まっていないタイミングで議論することで、いろいろな意見が出てくるようになった。 これならば、さまざまな知識や経験を持つ社外の方からの違った意見を生かせる。社外取締役をどうせ一定人数置くのならば、有効なものにしたい。 前編:「経営を欧米向けにわかりやすく。おかしな話だ」』、「新たに「協議事項」というものを多く設けることにした。長期ビジョンや中期経営計画をつくるとき、あるいは大型のM&Aの検討などの会社の方向性を考える際に、早い段階から社外も含めた取締役で話し合ってもらう。結論がまったく固まっていないタイミングで議論することで、いろいろな意見が出てくるようになった」、なかなかいいアイデアだ。
タグ:コーポレート・ガバナンス問題 (その10)(みずほ銀行に見る…社外取締役は「田んぼのカカシ以下」、インタビュー前編/東レ社長 日覺昭廣 「経営を欧米向けにわかりやすく。おかしな話だ」、インタビュー後編/東レ社長 日覺昭廣 「社外役員3分の1以上」には根拠も意味もない) 日刊ゲンダイ 佐高信 「みずほ銀行に見る…社外取締役は「田んぼのカカシ以下」」 「社外取締役は単なるお飾り。初めから『ノー』と言わない人と会社から認定された“うなずき人形”のようなもので、御用学者ならぬ御用取締役です。田んぼの中のカカシはそこにいるだけで役に立っているが、『ノー』と言わない社外取締役はカカシ以下でしかない」、言い得て妙だ。 「「宮崎」と記した遺書の最後に「佐高先生に褒められるような銀行に」という1行があったというのだが、現在のみずほに私を社外取締役にするような勇気はない」、遺書に「佐高先生に褒められるような銀行に」、初めて知った。 東洋経済Plus 「インタビュー前編/東レ社長 日覺昭廣 「経営を欧米向けにわかりやすく。おかしな話だ」」 「現場主義を貫く東レ」にとって、政府が旗を振る理念型の「コーポレート・ガバナンス」改革は腹立たしいのだろう。 「委員会設置会社への移行を強制するよりも、監査役による機関設計を海外の機関投資家に理解していただくことを考えるべき」、同感である。 国際財務報告基準(IFRS)では、欧米は原則主義、日本は細則主義とされる。 「炭素繊維も水処理膜も開発を続けて事業化までいけたのは、長期目線で取り組むことができた日本企業ばかりになった」、「デュポンのチャールズ・ホリデー元会長に、「東レがうらやましい」と言われたことがある」、も分かる気がする。 「インタビュー後編/東レ社長 日覺昭廣 「社外役員3分の1以上」には根拠も意味もない」 「実際は、経営経験のない人が連想ゲームのように何となく決めた数字だろう。社外取締役の比率は企業の自主性を尊重するべきだ。いい加減なアイデアで決めた数字で企業を縛るべきではない」、筋論だが、現実には「社内取締役を8人に減らし社外取締役を4人に増やすことで、社外取締役比率を「3分の1」に引き上げた」、という弾力性ももつようだ 「執行役員制度の導入で、実質的に取締役体制を変える前とさほど変わらない状態を維持できている」、なるほど。 「公益資本主義のルールを改訂し、日本から発信しないといけない。どうも日本は劣等感の塊で、明治以降の舶来主義だ。もう少し自信をもって、自律的に考えていかないとダメだ」、同感である。 「新たに「協議事項」というものを多く設けることにした。長期ビジョンや中期経営計画をつくるとき、あるいは大型のM&Aの検討などの会社の方向性を考える際に、早い段階から社外も含めた取締役で話し合ってもらう。結論がまったく固まっていないタイミングで議論することで、いろいろな意見が出てくるようになった」、なかなかいいアイデアだ。
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生物(その1)(「あえて怠け者を許す」働きアリの不思議な生態 人間が軽視する「働かないアリ」の生存理由、人間と同じ?「働きアリは早死にする」衝撃事実 アリの社会でも経済学の理論が見出せる) [科学]

今日は、生物(その1)(「あえて怠け者を許す」働きアリの不思議な生態 人間が軽視する「働かないアリ」の生存理由、人間と同じ?「働きアリは早死にする」衝撃事実 アリの社会でも経済学の理論が見出せる)を取上げよう。

先ずは、昨年12月9日付け東洋経済オンラインが掲載した生物学者の五箇 公一氏による「「あえて怠け者を許す」働きアリの不思議な生態 人間が軽視する「働かないアリ」の生存理由」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/374615
・『働きアリの世界では、なぜか働かない「怠け者」のアリが存在する。なぜ彼らのような一見、無駄飯食いに見える存在を生かしているのか? 『NHKクローズアップ現代+』の解説を務める一方で、『全力!脱力タイムズ』などさまざまなメディアに出演する異色の生物学者・五箇公一氏による『これからの時代を生き抜くための生物学入門』より一部抜粋・再構成してお届けする。 生物の進化を語るうえで外せない巨人・ダーウィン。彼に触れずして、これから先も話ができないので、ここでダーウィンの進化論についてまとめて話しておきましょう。 ダーウィンの進化論はまさに現在の生物学の礎になっている重要な理論ですが、進化論という響きに難解さを感じる人は少なくないはずです。実際に、生物学や生態学の専門書、あるいはネットの解説なんかを読んでもやたらと硬く難しく語っているものが多くて、いっそう理解を遠ざけている節があります。だいたい学者や専門家という人種は、物事を難しく語ることはできても、簡単にわかりやすく伝えることが苦手な人は多いし、なかにはわざと難しく伝えたがる人も少なくありませんから(笑)』、「わざと難しく伝えたがる人」は、「わざと難しく伝え」ることで、権威付けになると勘違いしているが、かなり多数いることも事実だ。
・『「進化論」とはどんな理論か?  ダーウィンの進化論とは、ざっくりいえば、生物は「変化」を続けており、変化の結果、生き残ってたくさんの子どもを残す上で有利な形質を持つ個体が、不利な形質を持つ個体を押しのけて世の中のメジャーとなり、最終的に不利な形質を持つ個体が滅ぶ、という理論です。 つまり生物の世界は個体間で生存と繁殖(自分の遺伝子を残す)のための厳しい競争が繰り広げられており、ある環境下で「生存率」と「繁殖率」の高いほうの個体が生き残り、その個体の形質が集団中に広がって固定する。こうしてそれぞれの生息環境に特化した形質を持つ生物集団が作り出される。これこそがさまざまな形を持つ種が生み出される「原動力」であるとする理論です。 だからダーウィンの進化論を記述した本のタイトルは「種の起源」とされています(原題:自然選択、あるいは生存闘争における有利な種の保存による、種の起源論)。 ダーウィン自身はこの理論を、自らの探検旅行での観察データから思いついたとされます。彼は1800年代にビーグル号という軍艦に乗ってイギリスから世界中の海洋を5年かけて旅して、その間、大陸や島の多種の生物を観察し、あるいは化石を発掘し、集めてきました。そんな調査の結果から、彼は、なぜこの地球にはさまざまな種が存在し、種ごとに決まった地域に住んでいるのか、そして、なぜ化石でしか見られない生物種たちは滅んでしまったのか、といった生物の時間的・空間的な多様性を作り出しているメカニズムに関心を抱き、その原理として「生物はつねに変化を続ける」という理論を打ち出したのでした。 難しく感じる進化論の理論自体は、実にシンプルで、当たり前のことをいっているだけなのです。 進化論以前は、「生物種は神が創られた」とするキリスト教の創造論が主流とされていましたから、ダーウィンのこの新理論は当時の生物学の概念を根底から揺るがすものであり、生物学のその後の進歩を支える革命的なものでした』、「世界中の海洋を5年かけて旅して、その間、大陸や島の多種の生物を観察し、あるいは化石を発掘し、集めてきました。そんな調査の結果から、彼は、なぜこの地球にはさまざまな種が存在し、種ごとに決まった地域に住んでいるのか、そして、なぜ化石でしか見られない生物種たちは滅んでしまったのか、といった生物の時間的・空間的な多様性を作り出しているメカニズムに関心を抱き、その原理として「生物はつねに変化を続ける」という理論を打ち出した」、やはり超人的だ。
・『今も昔も誤解されやすい進化論  一方で、ダーウィンの進化論は誤った解釈をされやすい理論でもありました。 ダーウィンの進化論では、さまざまな形質を持つ個体間で生存競争が繰り広げられ、生息環境において相対的に有利な性質を持つ個体がより多く生き残り、より多くの子孫を残すことができるとされます。 つまり自然環境が適応力の強い生物だけをすくい取り、弱い生物を振り落とすふるいの役割を果たしており、この自然環境による生物の選別を「自然選択」といいます。 この自然選択はつねに動的であり、環境が変われば「ふるい」の形も変わり、すくわれる形質も変わってきます。生物の持つ形質の有利・不利はいってみれば時代とともに変遷し、逆転も起こりえます。つまり生物の形や性質には完成形というものはない、という点を見落としてしまう人が多いのです。 こうした見落としをしてしまう人は、自然界は弱肉強食・適者生存で成り立っており、弱い個体や、役に立たない形質は、すべて淘汰され、「洗練された」生物だけが生き残ると進化論を解釈してしまうことがあります。 そしてこうした解釈をする人たちにとって自然界や、あるいは人間社会において、一見無駄と思える形質を持つ個体や、ほかよりも弱そうな個体、あるいは「普通とは違う」と判断される人物は「不完全」「不適格」「できそこない」といった無用ともいえる存在に見えることも多々あるようです。 進化の本当の意味は、生物の「試行錯誤」の繰り返しであり、その試行=形や性質の変化が「正解」か「誤り」かを決めるのはそのときそのときの自然環境にすぎず、当然人間が決めることではありません。 そして生物は、たとえ今自分が持っている形質が「正解」だったとしても「いつまた環境が変化するかもしれない」という不確実性に備えて、つねに「新しい変化」=「遺伝子の変異」を生み出し続けます。そして、生物の世界では、人間から見て「無駄じゃね?」と思える形質が意外と生き残っていることがあり、そうした「一見無駄と思われる形質」にも実は存在意義がちゃんとあったりするのです』、「自然界は弱肉強食・適者生存で成り立っており、弱い個体や、役に立たない形質は、すべて淘汰され、「洗練された」生物だけが生き残ると進化論を解釈してしまうことがあります」、ナチスも誤った解釈で有名だ。「「一見無駄と思われる形質」にも実は存在意義がちゃんとあったりするのです」、なるほど。
・『とっても不思議な「働きアリ」の生態  この事例を実証されたのが日本で私が注目している昆虫学者のひとり、北海道大学の長谷川英祐先生です。生態学の分野では無双のベストセラー『働かないアリに意義がある』(メディアファクトリー新書)の著者です。この著書のタイトルのとおり、長谷川先生はアリの巣の中で働きもせずにゴロゴロしているだけの働きアリの存在意義を明らかにされました。 アリという昆虫は、その遺伝的構造が特殊で、基本はすべての個体がメスでオスは交尾の時期にだけ生産されます。そして女王とその娘たちである働きアリから成る「家族単位」で生活しています。働きアリは自分たちの巣を守るためだけに、エサの採集、女王が産む子どもたちの育児、そして敵の襲来に対する防御などを行います。自分に与えられた使命を、生涯をかけて果たすように遺伝子によってプログラミングされているのです。 働きアリにとってはそうした生き方こそが自分の遺伝子を共有する姉妹たちの生存率を上げることになり、ひいては働きアリの持つ遺伝子が次の世代に残る確率を最大化することにつながるようにできているのです。こうしたアリの徹底した社会システムを「真社会性」といいます。 ダーウィンの「自然選択説」に基づけば、真社会性昆虫の巣では、全員が否が応でも働き者になるはずです。もし、少しでも「怠け者」が出てくれば、ほかの巣とエサや住処をめぐる競争で負けてしまいます。だから「怠け者」の存在する余地なんて「理論上は」寸分もないことになります。 しかし、事実は理論より奇なり。実際にアリの巣を観察していると、ほかの働きアリがせっせと働いているのを尻目に、1日中、なにもしないで巣穴でゴロゴロして過ごす「怠け者」が存在することがわかったのです。怠け者といえどエサは必要ですから、彼らもちゃんとエサだけは食べます。まさに無駄飯食いです。こんな働きアリが巣に居候されたのでは、全個体が働き者という巣が別に存在したら、その巣に競争で負けてしまい、子孫を残すことが難しくなります。なので「怠け者」を作り出す遺伝子は自然界からは淘汰されて消滅してしまうはずです。 ところが怠け者にもちゃんと存在意義があったのです。この怠け者がいる巣から、働き者のアリを除去してみると、今まで怠けていたアリたちが働き者に変化して、せっせと働き出すことがわかったのです。 どうやらこの「怠け者」たちは、労働量が不足する事態が発生したときに巣全体の労働量を補填するための予備軍らしいということがわかりました。もし、予備軍がなく、巣全体で100%の労働パフォーマンスを発揮し続けていたら、不測の事態が生じたときにパンクしてしまうことになるでしょう。 アリの巣は最初からこの不測の事態を織り込み済みで、つねに怠け者が生じるように遺伝的にプログラミングされているのです。 怠け者を「予備軍」と読み替えるだけで、皆さんの中でも、その存在に対する印象がガラリと変わると思います。結局「怠け者」というレッテルは人間の先入観がもたらしたものにすぎず、実際には彼らは働かずにじっと力を蓄えて待機する、という「仕事」をしているのです』、「この「怠け者」たちは、労働量が不足する事態が発生したときに巣全体の労働量を補填するための予備軍らしいということがわかりました」、「結局「怠け者」というレッテルは人間の先入観がもたらしたものにすぎず、実際には彼らは働かずにじっと力を蓄えて待機する、という「仕事」をしているのです」、なるほど。
・『すべてをアリ任せにするアリノスササラダニ  このほかにも自然界では一見、無駄と思える形質が観察されます。例えば、自分の専門のダニの世界にも変なのがいます。アリノスササラダニというダニは、カドフシアリというアリの巣の中に居候していて、移動するのも、脱皮をするのも、エサを食べるのも、産卵するのも、すべてアリ任せで、まるで介護老人のような生活をしています。 アリのほうはとにかくせっせとダニの世話をして、巣を引っ越すときも大事にダニを抱えて持っていきます。 これもダーウィン流自然選択説から見たら、ありえない生き方になります。このダニは明らかにアリにとっては遺伝的なつながりが皆無の別種であり、そんなものの世話をする暇があるなら、自分たちの巣の幼虫の世話に集中すべきです。 ところがこのアリの巣を観察していると、アリたちはエサ不足になると、このダニを食べてしまうことがわかったのです。つまりこの居候のダニは、いざというときのための「非常食」だったわけです。 一方のダニのほうはなぜ食べられるかもしれないリスクを無視してアリの世話になる生き方をしているのか?おそらく、ダニがアリの巣の外で単独で生きていくとなれば、天敵に襲われる可能性が高いからです。 そうであれば、たまに食べられるかもしれないとしてもアリの巣の中で世話してもらう生活のほうが、自分の子孫を残せる確率が「相対的に」高いと考えられます。こうしてアリとダニ双方がいつ訪れるかわからない食料不足という不確実性によって共生関係を進化させてきたと考えられるのです』、「アリとダニ双方がいつ訪れるかわからない食料不足という不確実性によって共生関係を進化させてきたと考えられる」、こんな「共生関係」があるとは驚かされた。
・『生物の多様性とは「希望」である  「働かないアリにも意味がある」ことを発見された長谷川先生は、以下のようにも指摘しています。「生物の進化の背景には、短期的・瞬間的な適応力の最大化という自然選択だけでなく、持続性という長期的な適応力も重要な要素として存在する」。 自然選択説を単純な「不要物排除論」として捉えるのは人間の主観にすぎず、自然界で繰り広げられる進化のメカニズムとプロセスは、人間の想像をはるかに超える複雑さと奇想天外さに満ちているのです。 生物は変化を続けます。それは遺伝子が変異をし続けるからです。適応力が極端に弱い変異はすぐに淘汰されて自然界から消滅することでしょう。適応力は弱いけど、自然界の中で微妙なバランスでマイノリティーとして残る変異もあります。あるいは箸にも棒にもかからないどうでもいい変異が自然界でぶらぶらとほっつき歩くこともあります。 自然界にはさまざまな遺伝子の変異が蓄積され、いろいろな遺伝子からいろいろな種が生み出され、とてつもなく多くの種が豊かな生態系を作り、この地球には生物が織りなす多様な世界が展開されるようになりました。これが皆さんもたまに耳にする「生物多様性」の正体です。 遺伝子、種、そして生態系というそれぞれのレベルでの多様性は過去から現在までの進化のたまものであるとともに、生物たちの未来に対する「備え」=「希望」でもあるのです』、「生物多様性」の理解がより深まったようだ。

次に、12月19日付け東洋経済オンラインが掲載した取材記者グループのFrontline Pressによる「人間と同じ?「働きアリは早死にする」衝撃事実 アリの社会でも経済学の理論が見出せる」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/394734
・『虫眼鏡で小さなアリを覗いてみると、そこでは人間社会と同じことが繰り広げられていた――。30年以上、アリの生態や行動を研究してきた琉球大学農学部の辻和希(つじ・かずき)教授の研究はそんな意外なことを教えてくれる。辻氏は「最も基礎的な研究が最も応用に役立つ」を信念として、アリを観察し続けてきた。その目に、私たちが織りなす人間社会はどう映っているのか。 夢の実現や社会の改革に向けて地道な努力を重ねる研究者たちを紹介する「ニッポンのすごい研究者」。第3回のテーマは「アリと人間」について聞く(Qは聞き手の質問、Aは辻氏の回答)』、興味深そうだ。
・『アリも協力したり、反発したりする  Q:研究のきっかけは何だったのでしょうか。 A:子どものころから昆虫が好きでした。春休み、夏休み、冬休み。そういう中で「スキーができるから私は冬休みが好き」という子どももたくさんいたと思うんですけど、私は断然、昆虫でした。昆虫がたくさんいる夏休みが好きでしてね。夏休みに家族で旅行に行くと、私だけ放っておかれて、ずっと昆虫採集している。そういう生活を送っていました。 普通の虫好きの子どもと同じようにチョウチョやトンボ、カブトムシを追いかけ回していたんですが、母が言うには、物心つくかつかないかの1歳ぐらいのときに、よく軒先でアリの行列をじっと眺めていたらしい。 本格的にアリを研究対象にするのは修士課程に入ってからなんです。でも、本当は1歳のときからすでに魅せられていたのかもしれません。アリを研究対象に選んだのは、実はそこまで深い熱意があったからではないんです。指導教官の勧めでした。「女王アリがいないアリがいるらしい。面白いから、その生態を研究してみたら」と。 それで、アミメアリ(東南アジアから東アジアに広く生息する小型のアリ)を研究対象に選びました。いざ研究を始めてみると、その面白さにのめり込んでしまって……。 アリと人間は当然違いますけど、社会を構成するという点は共通しています。人と人の間で集団の力学が働くのと同じように、アリも協力したり、反発し合ったりと集団の力学が働いている。それが研究でわかるんです。 生物が集団でいるとどういうことが起こるのか。それを知ることができる点に引き込まれました。 Q:アリの集団の中で起きている興味深い事例があるそうですね。 A:2013年に「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」(オンライン版)に掲載された論文にまとめました。その内容は「働かないアリは働きアリよりも長生き」というものです。 (つじ・かずき氏の略歴はリンク先参照) アミメアリを使って実験したところ、働きアリの労働に「ただ乗り」して、労働せずに産卵ばかりするアリが交じっていることを発見しました。 観察していると、働きアリは働かないアリの分まで労働するため早死にする。働かないアリは多くの子を産みますが、産まれてきたアリも遺伝的に働かないので、働かないアリのコロニーは次世代の個体を残せなくなるんです。 行動経済学で言われてきた「力を合わせれば大きな成果が得られるが、他者の働きに期待して怠ける者がいれば協力が成り立たなくなる」という「公共財ゲーム」のジレンマを、アリ社会の中にも見出せました』、「働きアリは働かないアリの分まで労働するため早死にする。働かないアリは多くの子を産みますが、産まれてきたアリも遺伝的に働かないので、働かないアリのコロニーは次世代の個体を残せなくなる」、「働かないアリ」が少数派の間は大丈夫だが、多数派になると「次世代の個体を残せなくなる」、なるほど。
・『裏切り者がいないかを監視し、厳しく罰する  ほかにも「裏切り者がいないか監視し、見つけたら厳しく罰する」という習性も見つかっています。一般に、幼虫を育てたり、エサを捕ったりするのが働きアリの仕事で、産卵を担当するのは女王アリです。こうした役割分担を守らずに、産卵する働きアリもいます。 アリ社会では「産卵=働かないこと」を意味するので、産卵する働きアリが出現すると、他の働きアリが産卵を妨害したり、卵を破壊したりします。どうです?人間社会を彷彿とさせるでしょう? しかも、その「取り締まり」の度合いが集団の成熟度によって異なるということも突き止めました。働きアリの数が100匹未満の若い集団の場合、ほとんどの卵が壊されます。 ところが200匹以上の成熟した集団になると、破壊された卵は20%程度でした。つまり集団がまだ非力な時には規律が優先され「強い取り締まり」が働きますが、集団が成長すると「取り締まり」が緩んで働きアリの利己的行動もそこそこ許容されるのです。 これは「集団vs.集団」と「個体vs.個体」という2つのレベルの競争が同時に働く中で、種全体とかもっと大きなメタ集団のなかでどんな遺伝子の戦略が生き残っていくかを研究した理論で予測したのですが、私たちの実験はその理論を裏付けて実証したわけです。 これらの研究成果は観察だけでは達成できません。「動的ゲーム理論」という複雑な数式を使う数理モデルで分析して、結論を導き出しています』、「働きアリの数が100匹未満の若い集団の場合、ほとんどの卵が壊されます。 ところが200匹以上の成熟した集団になると、破壊された卵は20%程度でした。つまり集団がまだ非力な時には規律が優先され「強い取り締まり」が働きますが、集団が成長すると「取り締まり」が緩んで働きアリの利己的行動もそこそこ許容されるのです」、「これらの研究成果は観察だけでは達成できません。「動的ゲーム理論」という複雑な数式を使う数理モデルで分析して、結論を導き出しています」、ずいぶん先進的なのに驚かされた。
・『アリの社会でも「国際分業論」が成り立つ?  Q:今はどんな研究をされているのですか。 A:現代の人間社会で一般的になった「グローバル経済」がアリの社会でも起きているのではないか。今はそれをテーマに研究しています。国際分業によって生産性を最大化させる、国際経済学の「国際分業論」。それが成り立つかどうか、アリの巣を使って検証しているんです。 経済学はマクロになればなるほど、そのモデルが正しいか否かについて、実際の社会で実験して確かめることができません。 国際分業する国と分業しない国を、条件や背景を一定にしながら、何年も両方の国の経済状況を観察することは難しいですよね? でも、アリならできるんです。経済学モデルの通りにアリに行動させたときに、効用が高まるか、つまりアリの個体数が増えるかということを観察していくことで、そのモデルが正しいかがわかります。 もしモデルと違う結果が出たら、モデルの仮定が間違っていたのではないかということも指摘できる。 実は、ヒアリやアルゼンチンアリの世界では、巣同士で分業が強く働いているであろうされています。彼らには侵略性もある。こうしたメカニズムを解き明かすことにつながるのではないかと考えています。) Q:近年はそのヒアリやアルゼンチンアリなどが人体に影響を与えたり、在来種を駆逐したりしています。外来アリにどう対応したらいいのでしょうか。アリの専門家としてできることは何ですか。 A:ヒアリやアルゼンチンアリのように、人の生命や生態系に影響を及ぼす恐れがある特定外来生物に指定されているアリに関しては、日本に定着した場合の影響力が大きいので、殺虫剤を使って防除するというのは一つの手だと思います。もちろん、それで十分なはずはありません。 先ほど説明した分業モデルの実証を通して「なぜ在来アリを駆逐するほど侵略性が高いのか」の基礎研究を深めていくつもりです。外来アリは日本でも社会問題になってきたので、頑張って社会貢献したいと思います。 でも同時に、「これまでないがしろにされてきた基礎的な研究を継続していたからこそ、こういった対策が取れるんですよ」という点も示せたら、と思っています。 社会に対する寄与をあえて意識せず、研究者それぞれがそれぞれのテーマを掘り下げていく。その掘り下げた研究成果が結果的に社会への寄与につながっていくんじゃないか。私はそう信じています』、「国際分業論」を検証するには、経済学モデルの通りにアリに行動させたときに、効用が高まるか、つまりアリの個体数が増えるかということを観察していくことで、そのモデルが正しいかがわかります。 もしモデルと違う結果が出たら、モデルの仮定が間違っていたのではないかということも指摘できる。ただ、比較優位などを、「アリ」の「行動」にどのように結びつけてゆくのだろう。
・『人間とアリと微生物の共通点  基礎的研究を通して、アリの集団には「働かないアリ」「裏切り者」がいることがわかりました。「裏切り者」が進化することで、社会の共同を破壊する現象が起こっていることも明らかにすることができました。 こういう「ペイオフ構造」を有するゲームが自然界で成り立っているのは、既知の生物では人間とアリと微生物だけなんです。 ただ、裏切り者が進化していく裏側では、共同するアリが集団の中にすごくたくさんいるのもまた事実です。局所的には裏切り者のアリが共同するアリの働きを食い物にしていますけど、おおむね集団の秩序は維持されているわけです。 人間の社会も同じだと思います。いつの時代も利己的な振る舞いをする人や団体がいて、利己的な行動は広がりやすいという特徴を持っている。それでも私たちの社会の共同性は維持されている。それがなぜかということを知りたくて、私はアリの研究を続けているわけなんです』、「アリの研究」を通じて「人間の社会」を研究するとは、なかなか面白そうだ。
タグ:(その1)(「あえて怠け者を許す」働きアリの不思議な生態 人間が軽視する「働かないアリ」の生存理由、人間と同じ?「働きアリは早死にする」衝撃事実 アリの社会でも経済学の理論が見出せる) 生物 東洋経済オンライン 五箇 公一 「「あえて怠け者を許す」働きアリの不思議な生態 人間が軽視する「働かないアリ」の生存理由」 「わざと難しく伝えたがる人」は、「わざと難しく伝え」ることで、権威付けになると勘違いしているが、かなり多数いることも事実だ。 「世界中の海洋を5年かけて旅して、その間、大陸や島の多種の生物を観察し、あるいは化石を発掘し、集めてきました。そんな調査の結果から、彼は、なぜこの地球にはさまざまな種が存在し、種ごとに決まった地域に住んでいるのか、そして、なぜ化石でしか見られない生物種たちは滅んでしまったのか、といった生物の時間的・空間的な多様性を作り出しているメカニズムに関心を抱き、その原理として「生物はつねに変化を続ける」という理論を打ち出した」、やはり超人的だ 「自然界は弱肉強食・適者生存で成り立っており、弱い個体や、役に立たない形質は、すべて淘汰され、「洗練された」生物だけが生き残ると進化論を解釈してしまうことがあります」、ナチスも誤った解釈で有名だ。 「「一見無駄と思われる形質」にも実は存在意義がちゃんとあったりするのです」、なるほど。 「この「怠け者」たちは、労働量が不足する事態が発生したときに巣全体の労働量を補填するための予備軍らしいということがわかりました」、「結局「怠け者」というレッテルは人間の先入観がもたらしたものにすぎず、実際には彼らは働かずにじっと力を蓄えて待機する、という「仕事」をしているのです」、なるほど アリとダニ双方がいつ訪れるかわからない食料不足という不確実性によって共生関係を進化させてきたと考えられる」、こんな「共生関係」があるとは驚かされた。 「生物多様性」の理解がより深まったようだ。 Frontline Press 「人間と同じ?「働きアリは早死にする」衝撃事実 アリの社会でも経済学の理論が見出せる」 「働きアリは働かないアリの分まで労働するため早死にする。働かないアリは多くの子を産みますが、産まれてきたアリも遺伝的に働かないので、働かないアリのコロニーは次世代の個体を残せなくなる」、「働かないアリ」が少数派の間は大丈夫だが、多数派になると「次世代の個体を残せなくなる」、なるほど。 「働きアリの数が100匹未満の若い集団の場合、ほとんどの卵が壊されます。 ところが200匹以上の成熟した集団になると、破壊された卵は20%程度でした。つまり集団がまだ非力な時には規律が優先され「強い取り締まり」が働きますが、集団が成長すると「取り締まり」が緩んで働きアリの利己的行動もそこそこ許容されるのです」、「これらの研究成果は観察だけでは達成できません。「動的ゲーム理論」という複雑な数式を使う数理モデルで分析して、結論を導き出しています」、ずいぶん先進的なのに驚かされた。 「国際分業論」を検証するには、経済学モデルの通りにアリに行動させたときに、効用が高まるか、つまりアリの個体数が増えるかということを観察していくことで、そのモデルが正しいかがわかります。 もしモデルと違う結果が出たら、モデルの仮定が間違っていたのではないかということも指摘できる。ただ、比較優位などを、「アリ」の「行動」にどのように結びつけてゆくのだろう。 「アリの研究」を通じて「人間の社会」を研究するとは、なかなか面白そうだ。
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新自由主義(その1)(田原総一朗「竹中平蔵氏に大批判 その異常さを日本は受容できない」 連載「ギロン堂」、「竹中平蔵氏と新自由主義」はなぜ力を持っているのか 前川喜平氏が激白する「改革圧力」との闘い、世界は変わった!「大きな政府」へ舵を切ったアメリカ 日本はどうする?) [経済政策]

今日は、新自由主義(その1)(田原総一朗「竹中平蔵氏に大批判 その異常さを日本は受容できない」 連載「ギロン堂」、「竹中平蔵氏と新自由主義」はなぜ力を持っているのか 前川喜平氏が激白する「改革圧力」との闘い、世界は変わった!「大きな政府」へ舵を切ったアメリカ 日本はどうする?)を取上げよう。

先ずは、昨年12月2日付けAERAdot「田原総一朗「竹中平蔵氏に大批判 その異常さを日本は受容できない」 連載「ギロン堂」」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/wa/2020120100049.html?page=1
・『菅政権の「成長戦略会議」メンバーの竹中平蔵氏が各所から批判を浴びている。その状況について、ジャーナリストの田原総一朗氏は米国や英国の2大政党が掲げる政策の役割という文脈で読み解く。 先日、「サンデー毎日」で佐高信氏と対談した。テーマは竹中平蔵という人物についてであった。 菅義偉首相は内閣の柱として、竹中氏を中核とする「成長戦略会議」なる組織を設置した。安倍前政権下で成長戦略を担った西村康稔氏を担当相とする経済政策は問題ありとして、全面的に対抗するためである。佐高氏は、その竹中氏を「弱肉強食の新自由主義者で、危険極まりない」と批判している。 気になるのは、ここへ来て竹中氏が各所から集中砲火的に批判を浴びていることである。 たとえば、文藝春秋の12月号では、藤原正彦氏の「亡国の改革至上主義」なる竹中氏批判が大きな売り物になっているが、藤原氏は安倍前首相を「戦後初めて自主外交を展開した」と絶賛しているのである。その藤原氏が、竹中氏を「小泉内閣から安倍内閣に至る二十年間にわたり政権の中枢にいて、ありとあらゆる巧言と二枚舌を駆使し、新自由主義の伝道師として日本をミスリードし、日本の富をアメリカに貢いできた、学者でも政治家でも実業家でもない疑惑の人物」として批判している。 さらに、中央公論でも神津里季生、中島岳志の両氏が新自由主義者だと批判し、週刊朝日でも竹中氏が主張するベーシックインカムは「経済オンチ」だと厳しく批判している。また、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した佐々木実氏も、著書で竹中氏を「日本で最も危険な男」と描いている。 こうした集中的な竹中氏批判を読んで、私は坂野潤治氏の言葉を思い出した。坂野氏は近代史の研究者として、私が最も信頼している人物である。 米国や英国には2大政党がある。米国には共和党と民主党があり、共和党は生産性を向上させるために自由競争を重視する。だが、自由競争が続くと、勝者と敗者の格差が大きくなり、生活が苦しくなる敗者が圧倒的に多くなる。そこで民主党政権になる。民主党は格差を縮めるために多くの規制を設け、多数の敗者を助けるために、大規模な社会保障を設ける。 だが、規制を設けると経済が低迷し、社会保障の規模を大きくすると財政事情が悪化する。そこで次の選挙では共和党が勝つ。言ってみれば、共和党は小さな政府、民主党は大きな政府で、それが順番に政権を取っている。英国も同様だ。 坂野氏によれば、日本は自民党も野党も大きな政府で、野党は自民党を批判するだけで、政策ビジョンを持っていないために自民党政権が続いているというのである。自民党の田中派、大平派などは典型的な大きな政府だった。 ところが、経済が悪化して財政事情が極めて悪くなったので、小泉内閣は思い切って小さな政府に転換した。それを仕切ったのが竹中氏だったのである。スローガンは「痛みを伴う構造改革」で少なからぬ拒否反応が出た。さらに、経済悪化の中で、日本の企業は正社員をリストラできないので、非正規社員を雇用できるように法改正した。これが、のちに批判の的となった。 言ってみれば、野党はもちろん、保守層にとっても、竹中氏の小さな政府は異常であり、受け入れられないのだ。つまり、竹中氏批判は、大きな政府を変えるな、ということなのではないだろうか。 ※週刊朝日  2020年12月11日号』、「藤原正彦氏の「亡国の改革至上主義」で、竹中氏を「小泉内閣から安倍内閣に至る二十年間にわたり政権の中枢にいて、ありとあらゆる巧言と二枚舌を駆使し、新自由主義の伝道師として日本をミスリードし、日本の富をアメリカに貢いできた、学者でも政治家でも実業家でもない疑惑の人物」として批判」、とは痛烈だ。「小泉内閣は思い切って小さな政府に転換した。それを仕切ったのが竹中氏だった・・・スローガンは「痛みを伴う構造改革」で少なからぬ拒否反応が出た」、「「痛みを伴う構造改革」は既得権者を抵抗勢力として、多用された。

次に、本年1月27日付けエコノミストOnline「「竹中平蔵氏と新自由主義」はなぜ力を持っているのか 前川喜平氏が激白する「改革圧力」との闘い」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210118/se1/00m/020/003000d
・『「#竹中平蔵を政治から排除しよう」「#竹中平蔵つまみだせ」 テレビ等で発言するたびに、Twitter上ではこのようなハッシュタグが数万~数十万単位で投稿されるのが、パソナ会長竹中平蔵氏。 菅義偉首相のブレーンの一人であることも周知の事実である。 竹中氏の掲げる「新自由主義」と「構造改革」はかくも国民に不人気だが、実際のところ、霞が関の官僚はどのように思っているのだろうか。 第1次安倍政権時代に「改革圧力」に抵抗したという前川喜平氏に、リアルな霞が関の裏話を語ってもらった(Qは聞き手の質問)』、硬骨漢として鳴らした「前川喜平氏」の見解とは興味深そうだ。
・『かつての霞が関はもっと闘っていた  Q:人事をテコに官邸主導を図る内閣人事局の仕組みがなかった安倍2次政権以前は、各省はいたずらに官邸に追従せず、政策論議ができていたのですか? 前川 第2次政権以前の官邸には、調整役の官僚はいて、政策の絵図を一方的に描いて各省に降ろす、今みたいな「官邸官僚」は、いませんでした。 政策や制度設計は基本的に、各省がそれぞれ、責任とプライドをもって進めていたのです。各省の独立性は高かったのですね。 むろん、時に政権は、看板に掲げたテーマについて、各省に方針を打ち出してきましたが、「司」として、どうしても譲れないと思ったものは、省内で再検討し、押しとどめようとしてきたのです。 折からの圧力が強く、その時は否応なく受け入れざるを得なかった場合でも、「もう、決まってしまったのだから仕方ない」と諦めず、機を見て修正しよう、という姿勢は捨てないでいました。 例えば、教育改革を主要課題に掲げた安倍1次政権は、首相自ら、私的諮問機関の教育再生会議を設置して、「徳育の教科化」を目指しましたが、当時の伊吹文明文科相が「(全体のために個人が犠牲になることを説く)修身科の復活のようなことはすべきではない」と考えて、やり過ごす格好でブレーキをかけたのです。 具体的には、伊吹氏は、教育再生会議が言い出した教科化を文科省に引き取って、中央教育審議会で議論すると道筋を立てた。そのうえで、中教審の会長に、教科化に反対していた劇作家・評論家の山崎正和氏を据えるという芸当をみせた。実際、中教審は見送りを答申し、教科化は立ち消えになりました(※1)。 (※1 安倍2次政権で「道徳の教科化」が実現。安倍氏は今度は、考えの通じた下村博文氏を文科相に充て、官邸に新たに設置した教育再生実行会議も担当させた。下村氏もまた、櫻井よしこ氏を中教審委員に任命。思想的に共鳴するメンバーで態勢を固めて推進した) Q:伊吹氏は国会で、再生会議と文科省・中教審との関係を問われて、再生会議の好きにはさせない、という意思を示していたそうですね(※2)。 (※2 2006年10月31日、教育基本法に関する特別委員会で、伊吹氏は民主党議員の質問に対し、「(再生会議で)学校教育、中教審の守備範囲に落ちてくる意見があれば、私どもの方に引き取る」と発言) 前川 今みたいに官邸にひれ伏して、「ご無理ごもっとも」で何でもやってしまうようなことはなかったのですね。司として、政策を吟味する関門になっていた。 とくに伊吹さんは永田町や霞が関で“イブキング”の異名があったくらいで、当時私は大臣官房総務課長として伊吹さんの側に仕えていたのですが、「安倍君は何を考えているのかね」なんて、上から目線で言っていましたよ(笑)』、「第2次政権以前の官邸には、調整役の官僚はいて、政策の絵図を一方的に描いて各省に降ろす、今みたいな「官邸官僚」は、いませんでした。 政策や制度設計は基本的に、各省がそれぞれ、責任とプライドをもって進めていたのです。各省の独立性は高かったのですね」、「今みたいに官邸にひれ伏して、「ご無理ごもっとも」で何でもやってしまうようなことはなかったのですね。司として、政策を吟味する関門になっていた。 とくに伊吹さんは永田町や霞が関で“イブキング”の異名があったくらいで、当時私は大臣官房総務課長として伊吹さんの側に仕えていたのですが、「安倍君は何を考えているのかね」なんて、上から目線で言っていましたよ」、「伊吹」氏は、自民党の数少ない硬骨漢だが、政界を引退するようだ。
・『小泉政権の教育「改悪」……前川氏はどうやって止めたのか  Q:前川さん自身も、竹中平蔵氏が旗振り役となった小泉政権の新自由主義改革では、“抵抗勢力”になりました。地方分権や国・地方の歳出削減を図った「三位一体の改革」(※3)で、義務教育費の国庫負担金の廃止が俎上にあがったときには、立ちはだかった。 (※3 ①国が自治体へ支出する「国庫支出金(補助金・負担金)」の削減 ②自治体の財源不足を補うために国が配分する「地方交付税」の見直し ③国から地方への税源移譲、を一体的に進める改革) 前川 あの頃は、小泉構造改革の嵐が政治行政に広く吹いて、教育行政も無風ではいられませんでした。 その一つが、2002年から始まった「三位一体の改革」における義務教育費の国庫負担金(※4)の廃止論議です。 (※4 都道府県・政令指定都市が負担している公立小中学校・特別支援学校の教職員の給与について、その半分(06年度以降は3分の1)を国が負担する制度。三位一体の改革以前の02年度予算で約3兆円) 少し背景説明をしますと、「三位一体」は、小泉改革の一環として、当時総務相の片山虎之助氏が言い出したものです。 総務省は地方分権を旗印にしながら、最終的には、所管する地方交付税交付金の削減を狙っていたのです。 交付税の財布である「地方交付税特別会計」が破たん状態でしたから。交付税削減こそ、「三位一体」の真の目的でした。 そこで総務省はまず、「国庫支出金(負担金・補助金)」の削減と「税源移譲」に着手した。 国の支出金を削減する代わりに、国の税源を移譲して地方税収を増やす、つまり、地方の自主財源が増えて、地方分権になるからいいだろう、というわけです。 そして、地方税収が増えたのだからと、返す刀で“本丸”の交付税の削減にかかろうと企んでいたのですね。税源移譲ができれば、それだけ交付金が削減できる算段です。 彼らはこうした策を、竹中氏が仕切る経済財政諮問会議を舞台に進めようとしていた。 Q:何かこう……、交付税を削減するために、国庫支出金が犠牲になるような話ですね。 前川 ええ。そしてこの時、総務省が目を付けたのが、義務教育費の国庫負担金です。 折も折、私は学校教育の財政を担当する、初等中等教育局の財務課長でした。 全国津々浦々の義務教育の質を守る司として、ここは譲れなかった。 なぜなら、国が都道府県に支出するこのお金があるからこそ、財源の乏しい自治体でも、一定の教育環境を守ることができていたからです。 負担金を、交付税削減の人身御供に差し出すわけにはいかなかったのです。 Q:闘いの日々になった。 前川 総務省は時を追うにつれ、圧力を強めてきました。 まず中学校の教職員分(の負担金)を寄こせ、次に小学校分だ、と――。交付税の削減を見据え、3兆円の税源移譲を狙ってきた。 ところが、シミュレーションしてみると、地方税に振り替えるという3兆円分の多くは、税源の豊かな(課税対象の多い)東京都に行く形になってしまい、他の道府県の税収はさして増えない。 つまり、大半の自治体では、移譲により得られる税収額が、これまで得ていた負担金額を下回ることになる。 総務省は地方交付税で補填するというが、彼らは、ゆくゆくは交付税の削減をもくろんでいるのだから、まったくアテにならない話です。 だから、義務教育費国庫負担金が廃止されれば、税収の乏しい自治体は従来の教育水準が守れなくなるだろうし、自治体間の格差が出てくることも明らかでした。 また一方では、税源移譲をしたくない財務省が、負担金の「交付金化」というクセ球を投げてきた。 地方の自由度を高めるための交付金化だと説明していましたが、狙いは予算の削減でした。 Q:前門の総務省、後門の財務省ですね。 前川 だから私はもう、負担金死守のために関係課の課長とタッグを組んで、総務・財務両省や諮問会議を相手にドンパチの勢いで議論しました。 直属の上司の局長は、青年将校が暴れていると、まあ、黙認しているようでした(笑)。 小泉政権は官邸主導と言われましたが、今の安倍・菅政権とは違って、丁々発止の議論ができたのですね。ここは決定的な違いです。 Q:議論がいよいよ胸突き八丁にさしかかると、前川さんはブログを立ち上げて、負担金の意義や改革の危険性を訴えました。「子どもたちのため、ここで諦めるわけにはいかない。だからこうして皆さんに説明しているのだ」と。負担金が廃止された場合の、近未来ディストピア短編小説を書いた回まである。 前川 改革論議で我々は一貫して負担金の必要性を主張してきましたが、総務省や財務省に比べて、発言の機会が少なかったのです。諮問会議でも発言の機会がなかなかない。 そのうえ、メディアでは「省益のために負担金を守ろうとしている」なんて、ステレオタイプの批判が繰り返されていた。 ならば、負担金の意義を直接世論に訴えようと試みたわけです。 何とか理解してもらいたいと、シミュレーション小説までね……。 月刊誌に実名で「三位一体の改革」を批判する論文を書いたりもしました。とにかく、あの手この手で抵抗しました』、「前門の総務省、後門の財務省ですね・・・私はもう、負担金死守のために関係課の課長とタッグを組んで、総務・財務両省や諮問会議を相手にドンパチの勢いで議論しました」、「負担金の意義を直接世論に訴えようと・・・シミュレーション小説までね……。 月刊誌に実名で「三位一体の改革」を批判する論文を書いたりもしました」、すごい戦いだったようだ。
・『「新自由主義が世の中を良くする」という風潮があった  Q:激しい折衝の末、「三位一体」が実質的に決着したのは05年秋。国庫負担金は、国の負担率が3分の1へ縮小されたものの、存続させることができました。 前川 私はそれまでに、初等中等教育局の筆頭課である初等中等教育企画課の課長になっていて、最後、この問題の取りまとめに当たりました。 当時自民党の政策責任者だった与謝野馨政調会長の力を借りて話を収めました。 私は、与謝野氏の文科相時代に秘書官を務めていたこともあって、パイプがありました。 改革論議の最中には、自ら負担金制度を見直して、自治体が、あてがわれた総額の枠内で裁量的にお金を使えるよう、地方分権に沿う改革もしました。 このように、省内や各省間で徹底的に論議して、制度を維持したり、設計し直したりするのが本来の官僚の仕事であって、官僚の生きがいです。 負担金を巡る議論は、防衛戦ではありましたが、思いっきり議論ができたという意味では、実は意外と楽しくもあったのです。 Q:官僚の本質が伝わってくる示唆深いお話です。一方、いったんは受け入れざるを得なくて、他日に修正を期した政策も? 前川 振り返れば、格好いいことばかりでありません。 とりわけ、小泉政権以降、「新自由主義が世の中を良くする」という思想が政府内外で強く、司から見ると、明らかに質が悪いと思われる規制緩和まで、時に強いられてきました。 Q:具体的には? 前川 最たるものが、03年から構造改革特区で認められた「株式会社立学校」です。 従来の文科行政は、学校の設置については、国・自治体と、公益法人である学校法人にしか認めていませんでした。 学校教育は公益性の高い仕事ゆえ、営利追求の民間企業にはなじまない、という考えからです。 なのに、規制緩和論者たちが、「教育は『官製市場』でケシカラン。民間参入を促して、競争原理によって教育の質を高めよう」と迫り、「株式会社立学校」ができるようになってしまったのですね。 しかし、結論からいうと、この規制緩和は、やはり大失敗だったと言わざるを得ない。 現在、「株式会社立学校」の大半を占めるのは広域通信制高校で20校ほどありますが、これが非常に質が悪いのです。 Q:どういうことですか? 前川 はい。一方に、本当は勉強なんてしたくないけど高校卒業資格は欲しいという、生徒側の需要が残念ながら存在していました。 そしてもう一方に、それならば、授業料さえ払えば、ロクに勉強しなくても卒業できてしまう学校をつくって利益を上げようと企む人が出てきてしまった。 立派な教育を提供する気などもとよりなくて、学校教育に金儲けのチャンスを見いだしているだけの人たちです。 市場に任せてみたら、このような堕落した「需要と供給の一致」が起こってしまったのです。 特に悪質だったのは、15~16年に発覚したウイッツ青山学園高校の事例です。 テーマパークへの旅行をスクーリングとしたり、名前だけ入学させて、国からの就学支援金を不正に受給したりしていました』、「省内や各省間で徹底的に論議して、制度を維持したり、設計し直したりするのが本来の官僚の仕事であって、官僚の生きがいです」、「規制緩和論者たちが、「教育は『官製市場』でケシカラン。民間参入を促して、競争原理によって教育の質を高めよう」と迫り、「株式会社立学校」ができるようになってしまったのですね。 しかし、結論からいうと、この規制緩和は、やはり大失敗だったと言わざるを得ない。 現在、「株式会社立学校」の大半を占めるのは広域通信制高校で20校ほどありますが、これが非常に質が悪いのです・・・特に悪質だったのは、15~16年に発覚したウイッツ青山学園高校の事例です。 テーマパークへの旅行をスクーリングとしたり、名前だけ入学させて、国からの就学支援金を不正に受給したりしていました」、本当に酷い失敗例だ。
・『教育に「市場原理」を導入したのは誰だったのか  Q:規制緩和したら、新自由主義者のもくろみに反して、悪質なものが生まれてしまった。 前川 そうです。教育の質を守るためには、やはり市場に委ねるだけではだめで、何らかの質の保証システム、つまり規制が必要だと、特区の実験は改めて示したのですね。 実際、政府の特区・評価委員会が12年に「株式会社立学校」の審査をしましたが、その時すでに「株式会社立学校」の質の悪さを把握していた我々文科省は、「ここで方向転換をしよう」と図ったのです。 学校の実態を示す資料をそろえて、廃止すべきだと主張した。 当時の平野博文文科相も「こんなのは、おかしい」と後押ししてくれました。委員会の評価を「廃止」に持っていく寸前だったのです。 ところがその時、制度を存続させようと、平野氏に接触してきた人がいた。 そして、こんなふうに、ささやいた。 「最終的には廃止に持っていきますが、いきなり廃止にするとハレーションが起きるかもしれないから、今回は是正措置にとどめた方がいい」 Q:声の主は、いったい誰ですか? 前川 あの和泉洋人氏ですよ。 彼はその折、内閣官房の地域活性化統合事務局長として特区制度の実質的な元締めのような立場にいて、さらに平野氏と昵懇の間柄でした。 そこで、特区を推進したい和泉氏は平野氏を説き伏せたのです。廃止の空手形を切ったようなものです。 Q:平野氏は説得されてしまった? 前川 ええ、平野氏は「それなら段階を踏もう」とトーンダウンしてしまった。 結局、まずは是正措置でいくという評価に落ち着いてしまいました。残念なことに、和泉氏にひっくり返されたのです。 ただ、その後、是正の指導をしたのに、青山学園の問題が出てきたわけです。 本来ならば、「株式会社立学校」はもう廃止に持っていかないといけない。 なのに、和泉氏の約束は果たされず、私自身も退官を迎えてしまいました。 学校の質の維持を預かってきた者として、これは心残りです。心ある後輩に後を託したい思いです。前川喜平氏の略歴はリンク先参照』、「和泉氏の約束は果たされず、私自身も退官を迎えてしまいました。学校の質の維持を預かってきた者として、これは心残りです」、現在の内閣の下では、「心残り」になる部分が増えざるを得ないのかも知れない。

第三に、3月18日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した評論家の中野剛志氏による「世界は変わった!「大きな政府」へ舵を切ったアメリカ、日本はどうする?」を紹介しよう。
・『アメリカのバイデン政権は3月12日、巨額の「財政赤字」を計上する200兆円規模の追加経済対策を成立させた。さらに、それにとどまらず、インフラ投資などに重点を置いた第二弾の経済対策によって、長期的な経済成長を目指す計画だという。この政策をめぐって、アメリカの経済学者は「何」を論じているか? それを概観すれば、アメリカが明確に「大きな政府」を志向し始めたことがわかる。アメリカはすでに、「財政赤字の拡大」を恐れて増税議論を始める経済学者すらいる日本とは、まったく違う「道」へ と舵を切ったのだ』、興味深そうだ。
・『財政赤字を懸念する声に、「世界は変わった」とアメリカ財務長官  3月12日、バイデン政権の1.9兆ドル(約200兆円)の大型追加経済対策が成立した。 この追加経済対策は「米国救済計画(American Rescue Plan)」と名付けられ、一人最大1400ドル(約15万円)の現金給付(年収8万ドル以上の高所得者を除く)や、失業給付の特例加算、ワクチンの普及など医療対策、そして3000億ドルの地方政府支援などから構成される。 さらに、バイデン政権は、第二弾として、インフラ投資など、より広範な経済対策に重点を置いた「より良い回復のための計画(Build Back Better Recovery Plan)」を計画している。 これは、前代未聞と言っていいほどの財政赤字を伴う政策だ。第一弾の1.9兆ドルに、20年3~12月に発動された経済対策を合わせると、その規模は5.8兆ドル程度(名目GDP比で約28%)となる。これは、通常の年間歳出(19会計年度は4.4兆ドル)を上回り、リーマン・ショック時の経済対策(08~09年で1.5兆ドル程度)をはるかにしのぐ規模である。 しかし、財務長官のジャネット・イエレンは、怯まなかった。 米国は、歴史的な超低金利水準にある。そのような時は、政府債務の水準を気にするよりも、国民を救うために「大きな行動(big act)」、すなわち大規模な財政支出を行うべきだと彼女は力説した。財政赤字を懸念する声に対して、イエレンは「世界は変わったのだ」と言い切った』、「第一弾の1.9兆ドルに、20年3~12月に発動された経済対策を合わせると、その規模は5.8兆ドル程度(名目GDP比で約28%)となる。これは、通常の年間歳出(19会計年度は4.4兆ドル)を上回り、リーマン・ショック時の経済対策(08~09年で1.5兆ドル程度)をはるかにしのぐ規模」、財政支出規模の大きさには驚かされた。
・『サマーズとクルーグマンは「何」を論争したのか?  たしかに、低金利状態においては、財政支出を拡大する余地が十分にあるという見解は、米国の主流派経済学者の間でも、コンセンサスになっているようである。 とは言え、この空前の規模の追加経済対策は、論争を引き起こした。 特に、ハーバード大学のローレンス・サマーズによる批判が注目を集めた。 というのも、サマーズは、先進国経済が低成長、低インフレ、低金利から抜け出せない「長期停滞」に陥っているという議論を展開し、その対策として積極的な財政政策の有効性を説いてきた経済学者だったからだ。 しかも、サマーズは、リーマン・ショックの翌年の2009年から2010年まで国家経済会議委員長を務めていたが、当時の経済対策の規模は過少だったと認めている。そのサマーズが、バイデン政権の積極財政に異を唱えたのは、やや意外性をもって受け止められた。 もちろん、サマーズは宗旨替えをしたわけではなく、依然として積極財政論者である。彼は、米国救済計画の企図には同意し、緊縮財政を拒否したことも評価している。彼が問題にしたのは、救済に充てられる予算の規模であった。議会予算局が推計した米国経済の需給ギャップに比べて、米国救済計画の予算規模はあまりにも大きすぎるため、高インフレを招く可能性があると彼は指摘した。 これに反論したのが、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンである。 クルーグマンは言う。そもそもパンデミックとの戦いは戦争のようなものだ。戦時中に、「完全雇用の達成までどの程度の刺激策が必要か」などという議論をする者がいるか。戦争に勝つのに必要なだけ財政支出を行うに決まっているではないか。 そうサマーズを挑発した上で、クルーグマンは、サマーズの指摘するインフレのリスクについては、こう反論した。第一に、本当の需給ギャップなど、誰も分かりはしない。第二に、米国救済計画の内訳を見ると、インフレを招くような景気刺激策は少ない。第三に、インフレが起き始めたら、金融引き締め政策をやればよいだけの話だ』、「パンデミックとの戦いは戦争のようなものだ。戦時中に、「完全雇用の達成までどの程度の刺激策が必要か」などという議論をする者がいるか」、との「クルーグマン」の主張は荒過ぎる印象だ。
・『アメリカで進む「経済政策における静かな革命」  なお、サマーズの議論をよく吟味してみると、彼は、財政赤字を懸念する日本の経済学者とは、まったく異なる議論をしていることが分かる。 というのも、サマーズは、インフラ投資などを中心とした第二弾の「より良い回復のための計画」により期待しているのである。そして、生活困窮者の救済を中心とした第一弾の「米国救済計画」が高インフレを招いてしまった場合、第二弾のインフラ投資などを行う余地がなくなることを懸念しているのだ。 それゆえ、サマーズは、後日、批判に対してこう答えている。 「私の見解では、1.9兆ドルの規模自体は何も間違っていないし、景気刺激策の全体では、もっとずっと大きい規模でも支持するだろう。しかし、米国救済計画の実質的な部分は、単に今年や来年の所得を支援するためのものではなく、今後十年あるいはその先も見据えた、持続可能で包摂的な経済成長の促進に向けられるべきだ。」 つまり、サマーズは「積極財政」を肯定したうえで、インフレ・リスクを回避するには、その「使途」をより長期的な公共投資へと振り向けた方がよいと論じているのだ。「積極財政」を肯定するという点において、サマーズもクルーグマンも差異はないと言えるだろう。そして、このような認識を示す有識者は、彼らにとどまらない。 テキサス大学のジェームズ・ガルブレイスは、第一弾の短期的な救済策に続いて、第二弾として、インフラ投資や気候変動対策などの経済政策が計画されていることを高く評価している。「最も重要なのは、バイデンの計画が、財政赤字だの国家債務だのに関する標語に一切、言及していないことだ」とガルブレイスは言う。 つまり、バイデン政権の経済政策は、短期の景気刺激策で終わるものではなく、将来、緊縮財政に逆戻りするものではないという意志が示されている点が優れているというのだ。 さらに、ウォーリック大学名誉教授のロバート・スキデルスキーは、「経済政策における静かな革命」が進行していると指摘する。 積極財政が単に需要を刺激するだけであるなら、確かに高インフレのリスクはあろう。だが、供給能力をも強化する公共投資であれば、高インフレは回避されるだけでなく、将来の経済成長が可能になる(これは、サマーズと同じ考え方であろう)。今日、財政政策は、金融政策よりも強力な景気対策というにとどまらない。それは、気候変動対策や感染症対策に資本を振り向け、社会をより良くするための手段なのである。これこそが、新しい財政運営のルールであるとスキデルスキーは言う。 コロンビア大学のアダム・トーズもまた、バイデン政権の追加経済対策は、「新しい経済時代の夜明け」であると宣言している。 過去30年間、米国の経済政策を運営するテクノクラートたちは、低インフレの維持を最優先して、財政金融政策を引き締め気味に運営し、失業を放置し、労働者の地位を弱めてきた。バイデン政権は、そういう時代を終らせようとしている。これは、民主的勝利であるとトーズは評するのである。 ちなみに、世論調査によると、米国民の7割が1.9兆ドルの追加経済対策を支持し、その規模についても「適正」が41%、「少なすぎる」が25%であった。 先日論じたように、バイデン政権の大統領補佐官ジェイク・サリバンも、公共投資や産業政策の重要性を説き、過去四十年間の新自由主義は終わったと明示的に述べた。世界は、「大きな政府」の時代へと変わりつつある。 そういう大きな議論が始まっているのだ。 ちなみに日本の長期金利は、イエレンが「歴史的な低金利水準」と言った米国の十分の一以下である。にもかかわらず、未だに財政赤字の拡大を恐れ、歳出抑制どころか増税の議論を始める者すらいる始末である。「大きな政府」への転換については、議論すらされていない。 中野剛志(なかの・たけし)1971年神奈川県生まれ。評論家。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』『日本経済学新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』『世界を戦争に導くグローバリズム』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『国力論』(以文社)、『国力とは何か』(講談社現代新書)、『保守とは何だろうか』(NHK出版新書)、『官僚の反逆』(幻冬社新書)、『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室【基礎知識編】』『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』(KKベストセラーズ)など。『MMT 現代貨幣理論入門』(東洋経済新報社)に序文を寄せた。最新刊は『小林秀雄の政治学』(文春新書)』、「過去四十年間の新自由主義は終わった・・・世界は、「大きな政府」の時代へと変わりつつある。 そういう大きな議論が始まっている」、あれほど根強かった「新自由主義」が「終わった」とは俄かには信じ難いが、本家本元のアメリカでは事実のようだ。
タグ:新自由主義 (その1)(田原総一朗「竹中平蔵氏に大批判 その異常さを日本は受容できない」 連載「ギロン堂」、「竹中平蔵氏と新自由主義」はなぜ力を持っているのか 前川喜平氏が激白する「改革圧力」との闘い、世界は変わった!「大きな政府」へ舵を切ったアメリカ 日本はどうする?) AERAdot 「田原総一朗「竹中平蔵氏に大批判 その異常さを日本は受容できない」 連載「ギロン堂」」 竹中氏が各所から集中砲火的に批判を浴びている 「藤原正彦氏の「亡国の改革至上主義」で、竹中氏を「小泉内閣から安倍内閣に至る二十年間にわたり政権の中枢にいて、ありとあらゆる巧言と二枚舌を駆使し、新自由主義の伝道師として日本をミスリードし、日本の富をアメリカに貢いできた、学者でも政治家でも実業家でもない疑惑の人物」として批判」、とは痛烈だ。 「小泉内閣は思い切って小さな政府に転換した。それを仕切ったのが竹中氏だった・・・スローガンは「痛みを伴う構造改革」で少なからぬ拒否反応が出た」、「「痛みを伴う構造改革」は既得権者を抵抗勢力として、多用された。 エコノミストOnline 「「竹中平蔵氏と新自由主義」はなぜ力を持っているのか 前川喜平氏が激白する「改革圧力」との闘い」 硬骨漢として鳴らした「前川喜平氏」の見解とは興味深そうだ。 「第2次政権以前の官邸には、調整役の官僚はいて、政策の絵図を一方的に描いて各省に降ろす、今みたいな「官邸官僚」は、いませんでした。 政策や制度設計は基本的に、各省がそれぞれ、責任とプライドをもって進めていたのです。各省の独立性は高かったのですね」、 「今みたいに官邸にひれ伏して、「ご無理ごもっとも」で何でもやってしまうようなことはなかったのですね。司として、政策を吟味する関門になっていた。 とくに伊吹さんは永田町や霞が関で“イブキング”の異名があったくらいで、当時私は大臣官房総務課長として伊吹さんの側に仕えていたのですが、「安倍君は何を考えているのかね」なんて、上から目線で言っていましたよ」、「伊吹」氏は、自民党の数少ない硬骨漢だが、政界を引退するようだ。 「前門の総務省、後門の財務省ですね・・・私はもう、負担金死守のために関係課の課長とタッグを組んで、総務・財務両省や諮問会議を相手にドンパチの勢いで議論しました」、 負担金の意義を直接世論に訴えようと・・・シミュレーション小説までね……。 月刊誌に実名で「三位一体の改革」を批判する論文を書いたりもしました」、すごい戦いだったようだ。 「省内や各省間で徹底的に論議して、制度を維持したり、設計し直したりするのが本来の官僚の仕事であって、官僚の生きがいです」、 「規制緩和論者たちが、「教育は『官製市場』でケシカラン。民間参入を促して、競争原理によって教育の質を高めよう」と迫り、「株式会社立学校」ができるようになってしまったのですね。 しかし、結論からいうと、この規制緩和は、やはり大失敗だったと言わざるを得ない。 現在、「株式会社立学校」の大半を占めるのは広域通信制高校で20校ほどありますが、これが非常に質が悪いのです・・・特に悪質だったのは、15~16年に発覚したウイッツ青山学園高校の事例です。 テーマパークへの旅行をスクーリングとしたり、名前だけ入学させて、国 「和泉氏の約束は果たされず、私自身も退官を迎えてしまいました。学校の質の維持を預かってきた者として、これは心残りです」、現在の内閣の下では、「心残り」になる部分が増えざるを得ないのかも知れない。 ダイヤモンド・オンライン 中野剛志 「世界は変わった!「大きな政府」へ舵を切ったアメリカ、日本はどうする?」 「第一弾の1.9兆ドルに、20年3~12月に発動された経済対策を合わせると、その規模は5.8兆ドル程度(名目GDP比で約28%)となる。これは、通常の年間歳出(19会計年度は4.4兆ドル)を上回り、リーマン・ショック時の経済対策(08~09年で1.5兆ドル程度)をはるかにしのぐ規模」、財政支出規模の大きさには驚かされた。 「パンデミックとの戦いは戦争のようなものだ。戦時中に、「完全雇用の達成までどの程度の刺激策が必要か」などという議論をする者がいるか」、との「クルーグマン」の主張は荒過ぎる印象だ。 「過去四十年間の新自由主義は終わった・・・世界は、「大きな政府」の時代へと変わりつつある。 そういう大きな議論が始まっている」、あれほど根強かった「新自由主義」が「終わった」とは俄かには信じ難いが、本家本元のアメリカでは事実のようだ。
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