SSブログ

最低賃金(その1)(日本の最低賃金を1500円に引き上げたら起こる「三つの悪いこと」、「最低賃金1178円」が国際的に見た常識的な水準だ コロナを「言い訳」にしてはならない4つの理由、「時給930円」を払えない経営者は 今の業態に見切りをつけるべき理由) [経済政策]

今日は、最低賃金(その1)(日本の最低賃金を1500円に引き上げたら起こる「三つの悪いこと」、「最低賃金1178円」が国際的に見た常識的な水準だ コロナを「言い訳」にしてはならない4つの理由、「時給930円」を払えない経営者は 今の業態に見切りをつけるべき理由)を取上げよう。

先ずは、6月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「日本の最低賃金を1500円に引き上げたら起こる「三つの悪いこと」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/273063
・『日本の最低賃金はあまりにも低すぎる   私は、日本の最低賃金は低いと思っています。2020年はコロナ禍を理由に最低賃金はほぼ据え置きでした。今年もコロナ禍が理由にされるのだと思いますが、それで国民の生活が成り立つのかという疑問が湧いています。 厚生労働省が公開している最新の最低賃金の全国加重平均は、時給902円。傾向としては東京都の1013円が筆頭で、神奈川県の1012円がそれに次ぐのですが、それ以外の都道府県では首都圏、関西圏、愛知など大都市圏が900~950円程度、それ以外の道県では800円程度の水準です。 この最低賃金が注目を集めるのは、実質的に多くの職場で非正規労働者の賃金が、この最低賃金に張り付いている例が多いからです。これをなんとかして引き上げてほしいと、全国に4000万人ほどいらっしゃる非正規労働者は思っているのですが、なにしろ立場が弱く、なかなか政治家にはその声が伝わらないようです。 それでどれくらいの水準がいいのかというと、労働者の控えめな願望は全国一律1000円以上に早くのせていきたいというのがひとつの目安なのですが、全国労働組合総連合(全労連)がそれを上回る興味深い調査報告を発表しました』、「最低賃金が注目を集めるのは、実質的に多くの職場で非正規労働者の賃金が、この最低賃金に張り付いている例が多いから」、なるほど。
・『25歳の若者が人間らしく暮らすには最低賃金が全国一律で1500円必要  それによれば、25歳の若者が人間らしく暮らすためには、最低賃金は全国一律で1500円が必要だというのです。 計算根拠としては、先に一人暮らしの25歳若者が必要な生活費を社会保険料込みで積み上げて「月25万円」と算出したうえで、それを週40時間労働で逆算したということです。 まず、ここから二つの解釈ができます。一つは、現在の最低賃金で週40時間労働だと「月25万円」の水準に全然到達できないということ。そしてもう一つは、現在の最低賃金でその水準に到達するには、週60時間働かなければ無理だということです。 この試算がもう一つ興味深いのは、従来必要とされてきた大都市圏と地方都市の格差は、以前ほどではなくなってきたという主張です。全国一律がいいという背景には、地方都市では自動車が不可欠で交通費を含めれば生活費が高い一方で、大都市でもチェーン店の発達で外食や衣類など物価が下がってきているという理由があるからだそうです』、「大都市圏と地方都市の格差は、以前ほどではなくなってきた」、そこまで縮小したとは、信じ難い。
・『最低賃金が高くて豊かなオーストラリアで起きる現象  さて、低い最低賃金で働く若者が増えている今の日本の状況では、デフレ経済からの脱却は難しいと思います。一方で、最低賃金が高くてかつ豊かな国の一つに、オーストラリアがあります。10年ほど前でしたが、シドニーに出張で出掛けたときにランチがあまりに高くて驚いたことがあります。日本だと1000円ぐらいの普通のランチが、どのお店でも日本円にしてだいたい2500円ぐらいしたのです。 それで聞いてみると、お店のウェーター の時給が2000円ぐらいだというのです。オーストラリアの法律では、パートタイム従業員の最低賃金が19.84オーストラリアドルです。これは日本円にすると、だいたい1700円ぐらい。シドニーの生活は、給料も高いけれど物価も高いというわけです。 とはいえ、幸福度の調査でみると、当時のオーストラリアは世界1位を3年連続で記録しているような状態でした。現在は、北欧諸国に抜かれてランクは落ちましたが、それでもオーストラリアは12位で、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスよりもまだ上にいます。ちなみに日本は62位で、全体の中位3分の1グループ、上下にいるのはジャマイカ、エクアドル、ボリビアといった国々です。 そこから類推すれば、日本もオーストラリアのように最低賃金を1500円に上げれば、国民の生活水準も上がり、全労連が調査の前提にしたような人間らしい生活もできるようになるし、いいことが起きそうな気がしてきます』、「日本は62位で、全体の中位3分の1グループ、上下にいるのはジャマイカ、エクアドル、ボリビアといった国々」、ずいぶん落ちぶれたものだ。
・『最低賃金を1500円に引き上げると起きる経済学から予測できる「悪いこと」  さて、ここで「ちょっと待ってよ」というお話をします。 実は最低賃金政策は経済学にとっては基本的な題材で、引き上げを行った場合何が起きるのか、いいことだけでなく悪いこともすべてわかっています。 そこで、最低賃金を1500円に引き上げるという、労働者にとってはとてもいい政策を本当に実施すると、どんな悪いことが起きるのかを解説しましょう。 最低賃金のような政策のことを、経済学では「下限価格統制」といいます。よく似た例をいうと、日本では以前、米価が国によって決まっていました。それよりも安く売られている自主流通米は、法律上は厳密にいうと違法で、米は農協を通じてもっと高い価格で買い上げられなければいけなかったのです。 あまり安い市場価格で取引されると、米の生産者が廃業してしまう。それでは農業の未来が困るということで、米の下限価格が設定されていたのです。 このように、米の価格が市場価格よりも高く統制されると何が起きるかというと、米の需要が減ります。米は高いからパンを食べようという国民が増えるのです。これは農協の望まぬ方向なのですが、実際に1980年頃はそのように国民の米離れが進みました。 最低賃金の引き上げも、これと同じ問題を引き起こします。需要よりも高い水準に法律で賃金の下限を決めてしまうため、需要、すなわち求人が減るのです。実際、最低賃金を高く設定しているヨーロッパ諸国では伝統的に若者の失業が大きな社会問題になっています』、なるほど。
・『最低賃金の引き上げは失業や政府のサービス低下につながる  もし日本で最低賃金を1500円に引き上げると、経済学的にはヨーロッパと同じことが起きるでしょう。企業はなんとか人を雇わずに経営をしようと、デジタルトランスフォーメーション(DX)への投資をさらに加速させて、日本全体で求人が恒久的に減ってしまうはずです。そして少なくなった仕事を若者が奪い合う、“求職ウォーズ”が社会問題になる。それでは本末転倒の未来でしょう。 しかし、それを回避する経済政策もあります。国が下限価格統制を行うと必ずその商品はだぶつきます。 例えば、酪農が盛んなデンマークではバターに下限価格が設定されています。デンマーク国内ではバターの価格が高く、結果としてバターが余ってしまいます。それを国が買い上げて、安い価格で海外にバラまくことを画策します。こうしてできたのが、スーパーで安く売られているデンマーククッキーです。 日本の場合、最低賃金を引き上げると余るのは、バターではなく労働力です。そこで、政府が余った労働力を買い上げることになります。結果として政府が無理に仕事を作る政策が横行します。道路を掘ったあとで埋めるとか、デジタルをやめて紙で処理する仕事を増やすなどして国民のために仕事を確保するわけです。 それで何が起きるかというと、政府のサービスが低下するのです。今、政府が脱ハンコとか言い出していますが、そもそも日本の行政に紙とハンコが多すぎるのは、雇用を維持する必要からです。それを行政改革やデジタル庁で変えていこうというのであれば、雇用は減ることになります。つまり、政府を効率化したいのであれば、最低賃金は引き上げるべきではないという話になるのです』、「日本の行政に紙とハンコが多すぎるのは、雇用を維持する必要からです」、言い過ぎなような気がする。
・『最低賃金を引き上げるとヤミ労働市場が拡大する  そしてもうひとつ、最低賃金の引き上げは経済学的にはさらに都合が悪い事態が起きることがわかっています。それがヤミ労働市場の拡大です。 アメリカでは、最低賃金を下回る低い賃金で働いてくれる人たちがたくさんいます。不法入国者と呼ばれる人たちです。雇われる側は仕事が欲しいし、雇う側もコストが安くて都合がいい。最低賃金が高く設定されるほど、ヤミ労働市場は広がります。 では、日本の場合はどうでしょう。最低賃金を破る企業はおそらくごく少数だと思われますが、日本の法律では企業に対してきちんとした抜け道が用意されています。自営業者に認定するのです。 わかりやすい例が、ウーバーイーツです。ウーバーイーツの配達員はウーバーが雇用しているわけではなく、みんな自営業者です。自営業者とは賃金ではなく、売り上げで働く人たちです。ですから結果的に時給が400円になろうが、その低収入は自己責任として受け入れざるをえない働き方です。 日本では他にも、美容師の業界や保育士の業界で、従業員ではなく自営業者としてしか雇用契約を結ばない企業が存在していて、最低賃金問題以上のうあしき社会問題になっています。もし、今のタイミングで日本の政府が最低賃金を1500円に引き上げたら、おそらく自営業者が激増するでしょう。 そして、企業も従業員を時給で雇う代わりに、レジ打ちを100回こなしていくらとか、弁当を100個作っていくらとか、出来高に応じて外注費を支払うようになるでしょう。そして計算してみるとわかるはずですが、その外注費を労働時間で割れば、おそらくは1500円に引き上げられた最低賃金よりも低い金額になるはずです。 とどのつまり、最低賃金を適正な形で上げていくためには、国が経済成長するしかないのです。日本の最低賃金が安いと私が感じていても、単純に引き上げればいいというものでもない。解決策は日本経済にもっと発展してもらうしかないということで、経済学から導かれる結論は結構残念なものだったというわけです』、「自営業者に認定する」という「抜け道」ががあるのは事実だ。他方、「最低賃金」を引き上げたことで、生産性を上げようと企業が努力すれば、いいインパクトになる可能性もあるのではなかろうか。

次に、6月30日付け東洋経済オンラインが掲載した元外資系証券のアナリストで小西美術工藝社社長 のデービッド・アトキンソン氏による「「最低賃金1178円」が国際的に見た常識的な水準だ コロナを「言い訳」にしてはならない4つの理由」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/437170
・『オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。 退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼は、このままでは「①人口減少によって年金と医療は崩壊する」「②100万社単位の中小企業が破綻する」という危機意識から、『日本企業の勝算』で日本企業が抱える「問題の本質」を徹底的に分析し、企業規模の拡大、特に中堅企業の育成を提言している。 今回は、「国際的に見た常識的な最低賃金の水準」と、「コロナ禍を言い訳にして最低賃金を据え置いてはならない理由」を説明してもらう』、興味深そうだ。
・『国際的に最低賃金の水準は収斂している  最低賃金をめぐる議論がヒートアップしています。 中小企業経営者の利益を代表する日本商工会議所は据え置きを主張しているのに対して、全国労働組合総連合は全国一律に1500円までの引き上げを訴えています。 分析の面白いところは、分析を深めるほどに、毎日のように新しい発見があることにあります。今回もある発見をしたので、紹介します。 実は、先進国の最低賃金は一定の水準に収斂していることがわかりました。OECDのデータによると、日本を除く大手先進国の購買力調整済み最低賃金は平均11.4ドルです。2001年では、最も高い国の最低賃金は最も低い先進国の3.6倍もありましたが、2020年では1.6倍まで近づいています。 生産性と労働生産性は国によってかなり異なっているのにもかかわらず、最低賃金の絶対値がここまで収斂していることは、非常に興味深いです。当然、同じ金額になれば、労働生産性の相対的に低い国の場合、労働分配率はかなり高くなります。 おそらく、これはグローバル化の影響ではないでしょうか。確かに、EUでは各国の最低賃金を底上げして、高い金額に収斂させていくという政策的な動きもあります。なお、この表では、アメリカの最低賃金は連邦政府の7.25ドルではなく、各州の最低賃金を最低賃金で働いている人口で加重平均したものが使われています。 この国際水準を日本に当てはめると、日本の最低賃金は1178円となります。 日本の最低賃金は2001年では、ポーランドの1.8倍、韓国の2.0倍でしたが、2020年では、ポーランドより3%だけ高く、韓国より8%安くなってしまっています。 世界のどこでも、企業側は最低賃金の引き上げに必ず反対します。大昔から、最低賃金を引き上げると失業者は増える、企業は倒産する、その結果経済が崩壊すると言います。日本も例外ではありません。 日本商工会議所は、2020年には「雇用を守るため」と、据え置きを主張し、その結果、最低賃金の引き上げは全国平均でたったの1円になりました。今年もコロナ禍が収まっておらず、影響が大きいことを理由に、日本商工会議所は据え置きを訴えています。 しかし、去年はともかく、今年この理屈を振りかざすには問題があります』、「日本の最低賃金は2001年では、ポーランドの1.8倍、韓国の2.0倍でしたが、2020年では、ポーランドより3%だけ高く、韓国より8%安くなってしまっています」、国際的にみれば、日本もずいぶん安くなったものだ。
・『コロナを言い訳にしてはならない4つの理由 理由1:コロナ禍でも海外では引き上げを続けている  まず、新型コロナの経済に対するダメージは、日本より諸外国のほうがかなり深刻だったのに、2020年にアメリカでは5.1%、欧州は5.2%も最低賃金を引き上げています。2021年もアメリカは4.3%、欧州は2.5%引き上げました。 海外では最低賃金を引き上げたのに、日本では据え置きになった理由の1つは、おそらく、日本が「合成の誤謬」に弱いからです。 確かに、コロナ禍において、飲食・宿泊と娯楽業は大変な打撃を受けています。ただ、コロナの打撃はこれら3業種にほとんど集中しています。これらの業種の労働者は、海外でも日本と同様に全雇用者の1割程しか占めていないので、これらの業種には別途支援策を設けたうえで、最低賃金を引き上げています。 労働者の1割が働いている業界が大変だからといって、引き上げても問題のない9割の雇用者の最低賃金を引き上げないわけにいかないというのが、日本以外の先進国の対応です。 日本は影響が大きかった1割だけに焦点を当てて強調し、据え置きを訴えているのです。これは合成の誤謬以外の何物でもありません』、「日本」の姿勢は、なんとか引き上げを回避したいというのが見え見えだ。
・『理由2:経済回復にタイミングを合わせられる  今年の引き上げはタイミングも重要です。日本の場合、最低賃金の引き上げは10月から実施されます。今年は世界経済が約6%成長すると言われています。 仮に、今年最低賃金を引き上げなければ、次の引き上げのタイミングは来年の10月になってしまいます。ワクチンの接種が広がり、経済活動の回復の本格化が期待される今年の下半期に合わせて、個人消費をさらに刺激するためには、最低賃金も引き上げるべきでしょう』、その通りだ。
・『理由3:小規模事業者の労働分配率は大企業より低い  また、「小規模事業者の労働分配率は80%だから、最低賃金の引き上げには耐えられない」という指摘を受けることがありますが、この主張はまやかしです。 節税のために役員報酬を増やすことが認められているので、約6割の企業が赤字決算となっているのは有名な話です。さらに、赤字企業の実に94%を小規模事業者が占めます。景気と関係なく、昭和26年から赤字企業の比率がずっと上がっていますので、明らかに不自然な動きです。節税目的で赤字にしている企業が多いと考えるのが自然です。 法人企業統計を分析すると、2019年では、小規模事業者の従業員の労働分配率は51.5%で、大企業の52.5%より低いのです。大企業の人件費の中で、役員報酬は2.8%でしたが、小規模事業者はそれが38.2%も占めています。 つまり、小規模事業者の従業員の労働分配率は大企業並みに低いのですが、小規模事業者は残りの利益の大半を役員に分配して法人税を抑えているので、全体の労働分配率が高く見えるだけなのです』、「小規模事業者の従業員の労働分配率は大企業並みに低いのですが、小規模事業者は残りの利益の大半を役員に分配して法人税を抑えているので、全体の労働分配率が高く見えるだけなのです」、統計のクセをよく見ているには、さすがだ。
・『弱いところを見極め、ピンポイントで補助するべき 理由4:地方は地方創生など別のやり方で守るべき  最低賃金を引き上げたら、「地方が大変になる」というのも同じようにまやかしです。地方では小規模事業者で働く比率が高いので、小規模事業者の労働分配率が8割だというまやかしを誤解して、地方は大変なことになると言っているだけだからです。 そもそも、半分以上の中小企業の雇用者は大都市圏で働いています。地方には中小企業の数は少ないので、この地方崩壊説も意図的な合成の誤謬だと言わざるをえません。 地方の小規模事業者が大変だというのなら、地方創生などの施策でピンポイントに支援するべきです。全雇用者の最低賃金の引き上げを阻害するために、中小企業の雇用全体のうち、少数しか占めない地方の問題を悪用するべきではありません。 諸外国では企業が最低賃金の引き上げに応じ、実際に賃金を毎年引き上げているので、日本が今年も引き上げないと、日本の給料水準はさらに諸外国から引き離されることになります。 人口が減少している間は、個人消費を守り、さらに増やすには、所得の増加しか方法はありません。財政出動で持続的に支えるのは不可能です。 日本は今年こそ、キチンとした根拠とエビデンスに基づいて、総合的な判断ができるかどうかが問われています』、同感である。なお、7月15日付け日経新聞は、「最低賃金3%上げ930円 全国平均、最大の28円増 全都道府県800円超へ、雇用・消費のコロナ後見据え」とまずまずになったようだ。

第三に、8月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「「時給930円」を払えない経営者は、今の業態に見切りをつけるべき理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/278560
・『「時給930円」に悲鳴をあげる中小企業経営者の皆さんに「廃業」のご提案  連日のメダルラッシュで日本中が歓喜の声に溢れる中で、対照的に絶望のどん底につき落とされている人々がいる。従業員に時給930円を支払えない経営者のみなさんだ。 先月の厚生労働省の審議会で、今年度の最低賃金が、すべての都道府県で28円引き上げられ、全国平均で「時給930円」という目安となった。これを受けて、一部の中小企業経営者の方たちを中心に、「ノストラダムスの大予言」ばりの日本終末論が唱えられている。 「時給930円なんて無茶な話を通したら、中小企業の倒産が続出して日本経済はおしまいだ!」 「28円も賃上げするならバイトを1人クビにするしかない!賃上げのせいで日本中に失業者があふれかえるぞ!」 ツッコミたいことは山ほどあるが、このような恐怖や不安で頭を抱えている人たちがいらっしゃることは紛れもない事実だ。そして、困っている人を見ればどうにかしてあげたいと思うのも、人として極めて自然な感情だ。 そこで、“28円ショック”にお悩みの経営者のみなさんに提案したい。もうおやめになったらいかがだろう。 事業をたためと言っているのではなく、今のビジネスモデル、今の業態を維持することにスパッと見切りをつけて、新規事業へと舵を切っていったらどうか、と申し上げているのだ。 賃上げ分、従業員の数を減らすなどして今年度をどうにか乗り切ったとしても、世界的な潮流である賃上げは来年以降も続いていく。時給930円を捻出できない今の事業にしがみついているより、リスクはあっても事業転換にチャレンジをして、時給930円が余裕で払えるようなビジネスモデルを構築していった方がはるかに将来性がある。最低賃金スレスレで、稼げない仕事を続けさせられる従業員にとっても、そちらの方がハッピーだ』、「「廃業」のご提案」とは思い切った「提案」だ。
・『国が「業態転換」を支援して進めようとしている  と聞くと、殺意を覚える経営者の方もいるかもしれない。苦しい状況でも、自分の仕事への誇りを失うことなく、歯を食いしばって頑張っている日本の宝・中小企業を、このバカライターはおちょくっているのだ。SNS名物「誹謗中傷」で徹底的に追い込んで抹殺してやる…とスマホをいじり始めた経営者の方もいらっしゃるかもしれないが、早まらないで聞いていただきたい。 これは何も筆者がテキトーに思いついた話ではなく、日本政府が言っていることなのだ。 7月31日、経済産業省が、最低賃金の引き上げで影響が出そうな中小企業が「業態転換」を進めていくための補助金の受け付けを始めた、というニュースがあった。事業再構築補助金に「最低賃金枠」を設けて、従業員の1割以上が最低賃金に近い水準の賃金で雇う企業には投資額の最大75%を補助するという』、「事業再構築補助金に「最低賃金枠」を設けて、従業員の1割以上が最低賃金に近い水準の賃金で雇う企業には投資額の最大75%を補助」、「「業態転換」を進めていく」ためにこんな「補助金」まで新設したとは政府は本気のようだ。
・『日本を待ち受ける厳しい世界 変化できない経営者は失格  「商売ナメんな!そんな簡単にできるならとっくにやっている!」「これまで代々受け継いできた商売だし、世話になっている取引先もあるのに換えられるかよ」という中小企業経営者からの大ブーイングが聞こえてきそうだ。 筆者もクライアントに中小企業経営者がいるので、業態転換が簡単ではないことはよくわかっているつもりだ。身内や友人の中には、資金繰りに窮して会社をたたまざるを得なくなったしまった中小企業経営者もいるので、商売の厳しさも知っている。 ただ、一方で、そのような厳しい世界だからこそ、「業態転換」に挑むしか道がないのではないかと強く感じる。 従業員をフルタイムでひと月働かせても月収16万しか払えない事業というのは、残念ながら既にビジネスモデルが破綻している。これを改善する、もしくは根本から見直すのは経営者として当然の責務だ。その努力をしないで、従業員の賃金を抑えて利益を確保しようという経営センスの方が、よほど商売をナメているのではないか。 さらにもっと厳しいことを言わせていただくと、時給930円を捻出できないほど追いつめられているのに心の底から「変わらなくていい」と思っているのだとしたら、そもそも経営者としての資質がない。 経営とは「時代の変化」に対応をしていくことだからだ。 例えば、日本は人口減少でこれから毎年、鳥取県の人口と同じくらいの人口が消えていく。技能実習生という「隠れ移民」を増やしてもたかが知れているので、内需は急速に縮小していく。これまで何もしなくても売れたものがどんどん売れなくなってくる。 こういう厳しい状況なので、「業態転換なんてできるわけがない!」と開き直るような経営者が、これまで通り「社長」として会社に君臨して、従業員を低賃金でコキ使うことができるだろうか。できるわけがない。 つまり、「変わることができない企業」は自然淘汰されていってしまうのだ』、その通りだ。
・『中華麺の老舗フランチャイズが幕を閉じた本当の理由  変われなかった中小企業は潰れた時、周囲から「最低賃金を引き上げたせいだ!」とか「コロナ禍のあおりをモロに受けた!」なんていろいろなことを言われる。しかし、原因をしっかりと分析してみると、単なる「自然淘汰」だった、ということがよくある。 それを象徴するような企業倒産がつい最近あった。 中華麺の製造販売を主体に、ラーメン店「元祖札幌や」のフランチャイズ展開も行っていた南京軒食品(東京都品川区)だ。創業1914年。従業員は57人、埼玉に工場を持つこの中小企業は、個人経営のラーメン店を多く取引先として麺を卸していたという。そんな南京軒食品が4月21日、東京地裁へ民事再生法の適用を申請した。 これを受けてメディアは『コロナで相次ぐ「ラーメン店」倒産。老舗フランチャイズが100年の歴史に幕』(日刊工業新聞7月31日)という感じで報じ、いかにもコロナが悪いと匂わせているが、実は南京軒食品は17年2月期から19年2月期まで3期連続で減収、当期損益も3期連続で赤字となっていた。 残念ながら、コロナ禍の前から既にビジネスモデルが破綻していたのだ。 なぜこうなってしまったのかというと「時代による淘汰」も大きい。「全国製麺協同組合連合会の活動」(平成24年度)を見ると、生めん類の生産量の推移は、平成7年の約72万トンをピークに下降して、平成23年には約54万トンまで落ち込んでおり、「市場が伸び悩むなかでの競争激化による淘汰が進行している」とはっきりと書かれている。そして、その淘汰の中でも減少傾向にあるのは中小工場。そう、南京軒食品がそれにあたる。 これに拍車をかけたのが、「自家製麺ブーム」だ。ラーメン好きの方ならばおわかりだろうが、最近の個人経営のラーメン店は店内に製麺機を置き、自家製麺を使用しているところが多い。かつてはラーメン屋はスープで勝負していたが、この10年ほどで「自家製麺」に力を入れるようにもなった。この取引先側の大きな意識変化が、中小の製麺製造販売店の経営に打撃にならないわけがないのだ。 一見すると、南京軒食品の100年の歴史に幕を下ろしたのは「コロナ」のように映る。しかし、実際は10年前から指摘されていた「競争激化による淘汰」と「自家製麺ブーム」という時代の変化に対して「業態転換」で対応できなかったということが大きいのだ。 それはつまり、「最低賃金も払えない」「業態転換もできない」という中小企業は残念ながら、南京軒食品と同じ道をたどってしまうということだ。 だからこそ、生き残るために「業態転換」にチャレンジをしていただきたいのだ。 もしそれでもなお業態を換えたくない、かといって時給930円も払えないという経営者の方は不本意かもしれないが、潔く会社をたたんでいただいた方がいいかもしれない』、「一見すると、南京軒食品の100年の歴史に幕を下ろしたのは「コロナ」のように映る。しかし、実際は10年前から指摘されていた「競争激化による淘汰」と「自家製麺ブーム」という時代の変化に対して「業態転換」で対応できなかったということが大きいのだ」、表面だけでなく、実態を見極めることの大切さを示している。「それはつまり、「最低賃金も払えない」「業態転換もできない」という中小企業は残念ながら、南京軒食品と同じ道をたどってしまうということだ」、その通りだ。
・『失業しても労働者に戻ることが可能な現代日本 今こそ賃上げで改革を!  日本の低賃金は先進国でもダントツに低く、外国人労働者の人権問題にまで発展しているので、この先も間違いなく賃上げは続く。そこで時代に逆らって低賃金を続けても、労働監督署から目をつけられたり、SNSでブラック企業だと叩かれたり、経営者として良いことは何ひとつない。 中小企業経営者の業界団体である日本商工会議所はよく「賃上げで会社が倒産したら失業者があふれかえる、彼らの家族が路頭に迷ってもいいのか!」みたいな脅しをしているが、小西美術工藝社のデービッド・アトキンソン氏がさまざまデータを示しているように、世界では賃上げと失業が連動するようなデータはない。 これは冷静に考えれば当然で、時給930円を払えない中小企業が潰れても、失業者が出ても、世の中には時給1000円を払える中小企業も山ほどあるので、条件がいい方で雇われていく。失業者は死ぬまで失業者ではなく、時が経過すれば労働者になるのだ。 「最低賃金で働いている人間はスキルもないので再就職も難しい。今勤めている会社が潰れたら死ぬしかない!」と耳を疑うようなことをいう評論家も多いが、日本は技能実習生という「低賃金奴隷」を輸入するほど、深刻な人手不足だ。最低賃金で働いている人も視野を広げれば、働き先は山ほどある。 また、この手の議論になると、何かにつけて「最低賃金を上げた韓国では」という話になるが、かの国は日本人がドン引きするほどの超格差社会で、賃金うんぬんの前に、財閥系企業に入れない若者が死ぬまで低賃金という構造的な問題があるので、まったく参考にならない(『最低賃金を引き上げても日本経済が韓国の二の舞にならない理由』参照)。 賃上げよりも税金をタダに、という人もいるが、どんなに税金をタダにしても、フルタイムで1年間働いて年収200万に満たないという、日本の異常な低賃金を改善しないことには、人口減少で冷え込む一方の国内消費はいつまで経っても活性化しないので、税収も増えない。景気が良くなる要素がゼロなので、低賃金労働者の貧困を固定化して、事態をさらに悪化させていくだけだ。 中小企業の税金をタダにしても、それが労働者に還元されない。日本は半世紀、手厚い中小企業支援策を続けてきたが、その結果が先進国最低レベルの賃金だ。中小企業経営者に渡す賃上げ支援は大概、経費扱いできるベンツやキャバクラに消えていくものだ。 昨年10月、野村総合研究所が、コロナで休業を経験した労働者がどれほど休業手当を受け取っていたのかを調べたところ、パートやアルバイトで働く女性ではわずか30.9%にとどまっていたように、国が経営者に「従業員のために使ってね」と渡した金は、ほとんど現場まで届かないものなのだ。 だから、今の日本には「賃上げ」しかない。それはコロナでも変わらない。いや、コロナだからこそ、労働者に直接カネを渡す「賃上げ」が必要だ。 中小企業経営者の中には、「社員は家族」みたいなことを言う人が多いが、もし本当に血のつながった家族が、時給930円で朝から晩までこき使われていたら、きっと怒るはずだ。 常軌を逸した低賃金にあえぐ「家族」を救うため、そろそろ経営者も腹を決めて「身を切る改革」に踏み切るべきではないか』、「日本は半世紀、手厚い中小企業支援策を続けてきたが、その結果が先進国最低レベルの賃金だ。中小企業経営者に渡す賃上げ支援は大概、経費扱いできるベンツやキャバクラに消えていくものだ」、「常軌を逸した低賃金にあえぐ「家族」を救うため、そろそろ経営者も腹を決めて「身を切る改革」に踏み切るべきではないか」、同感である。
タグ:最低賃金 (その1)(日本の最低賃金を1500円に引き上げたら起こる「三つの悪いこと」、「最低賃金1178円」が国際的に見た常識的な水準だ コロナを「言い訳」にしてはならない4つの理由、「時給930円」を払えない経営者は 今の業態に見切りをつけるべき理由) ダイヤモンド・オンライン 鈴木貴博 「日本の最低賃金を1500円に引き上げたら起こる「三つの悪いこと」」 「大都市圏と地方都市の格差は、以前ほどではなくなってきた」、そこまで縮小したとは、信じ難い。 「日本は62位で、全体の中位3分の1グループ、上下にいるのはジャマイカ、エクアドル、ボリビアといった国々」、ずいぶん落ちぶれたものだ。 「日本の行政に紙とハンコが多すぎるのは、雇用を維持する必要からです」、言い過ぎなような気がする。 「自営業者に認定する」という「抜け道」ががあるのは事実だ。他方、「最低賃金」を引き上げたことで、生産性を上げようと企業が努力すれば、いいインパクトになる可能性もあるのではなかろうか。 東洋経済オンライン デービッド・アトキンソン 「「最低賃金1178円」が国際的に見た常識的な水準だ コロナを「言い訳」にしてはならない4つの理由」 「日本の最低賃金は2001年では、ポーランドの1.8倍、韓国の2.0倍でしたが、2020年では、ポーランドより3%だけ高く、韓国より8%安くなってしまっています」、国際的にみれば、日本もずいぶん安くなったものだ。 コロナを言い訳にしてはならない4つの理由 理由1:コロナ禍でも海外では引き上げを続けている 理由2:経済回復にタイミングを合わせられる 理由3:小規模事業者の労働分配率は大企業より低い 弱いところを見極め、ピンポイントで補助するべき 理由4:地方は地方創生など別のやり方で守るべき 7月15日付け日経新聞は、「最低賃金3%上げ930円 全国平均、最大の28円増 全都道府県800円超へ、雇用・消費のコロナ後見据え」とまずまずになったようだ。 窪田順生 「「時給930円」を払えない経営者は、今の業態に見切りをつけるべき理由」 「「廃業」のご提案」とは思い切った「提案」だ。 「事業再構築補助金に「最低賃金枠」を設けて、従業員の1割以上が最低賃金に近い水準の賃金で雇う企業には投資額の最大75%を補助」、「「業態転換」を進めていく」ためにこんな「補助金」まで新設したとは政府は本気のようだ。 「変わることができない企業」は自然淘汰されていってしまうのだ』、その通りだ 一見すると、南京軒食品の100年の歴史に幕を下ろしたのは「コロナ」のように映る。しかし、実際は10年前から指摘されていた「競争激化による淘汰」と「自家製麺ブーム」という時代の変化に対して「業態転換」で対応できなかったということが大きいのだ」、表面だけでなく、実態を見極めることの大切さを示している。「それはつまり、「最低賃金も払えない」「業態転換もできない」という中小企業は残念ながら、南京軒食品と同じ道をたどってしまうということだ」、その通りだ。 「日本は半世紀、手厚い中小企業支援策を続けてきたが、その結果が先進国最低レベルの賃金だ。中小企業経営者に渡す賃上げ支援は大概、経費扱いできるベンツやキャバクラに消えていくものだ」、「常軌を逸した低賃金にあえぐ「家族」を救うため、そろそろ経営者も腹を決めて「身を切る改革」に踏み切るべきではないか」、同感である。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感