異次元緩和政策(その37)(アメリカの物価上昇のウラで…日本は「悪いインフレ」の悪夢に飲み込まれるかもしれない、訪れるコロナ経済の「出口戦略」…日本の「ゾンビ企業」消滅のカウントダウンが始まった、アメリカ雇用完全復活でFRBの政策変更前倒しも ドル相場は例年になく底堅く さらに上昇へ) [経済政策]
異次元緩和政策については、本年5月15日に取上げた。今日は、(その37)(アメリカの物価上昇のウラで…日本は「悪いインフレ」の悪夢に飲み込まれるかもしれない、訪れるコロナ経済の「出口戦略」…日本の「ゾンビ企業」消滅のカウントダウンが始まった、アメリカ雇用完全復活でFRBの政策変更前倒しも ドル相場は例年になく底堅く さらに上昇へ)である。
先ずは、7月28日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「アメリカの物価上昇のウラで…日本は「悪いインフレ」の悪夢に飲み込まれるかもしれない」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85604
・『原油価格の高騰や米国消費者物価指数の急上昇など、このところインフレの話題を見聞きするケースが増えている。日本経済の現状が変わらないまま、国内にもインフレが波及すると非常にやっかいなことになるが、そもそも物価上昇というのはどのようなメカニズムで発生するのだろうか』、興味深そうだ。
・『インフレには大きく分けて2種類ある 米国ではコロナ後の景気回復期待から企業が先行投資を加速しており、物価が猛烈な勢いで上がっている。2021年3月の消費者物価指数は前年同月比で2.6%だったが、4月は4.2%、5月は5.0%、そして6月は5.4%になった。これは2008年8月以来、約13年ぶりの水準である。2008年8月と言えば、リーマンショック直前で米国はまさにバブル経済の頂点にあった。コロナからの急回復という特殊要因はあるものの、異常な物価上昇であることは間違いない。 原油先物価格はこのところ上昇を続けており、7月初旬には一時、1バレル=75ドルを突破した。コロナ後の景気回復期待に加えて、石油輸出国機構にロシアなどの非加盟国を加えたOEPCプラスが増産に合意できなかったことなどが背景となっている。 日本はまだコロナ終息を見通せる段階ではなく、消費の急回復といった現象は見られない。だが困ったことに、諸外国でインフレが進むと、そのインフレは日本にも波及する可能性がある。景気回復が実現できない中で物価上昇が進むと国民生活は苦しくなるので、諸外国の動向には気を配っておく必要があるだろう。 米国のインフレが長期間継続するのか、またそれが日本にも波及するのかを正確に予想することはできないが、状況に対して適切に対応するためには、インフレがなぜ発生するのか知っておいた方がよい。 一般的にインフレは景気が良い時に発生する。景気がよくなって店舗に並ぶ商品がたくさん売れるようになると、値段を上げても客足が落ちなくなる。利益を最大化するためには値上げした方がよいとの判断が働く。その店舗に商品を納入している卸会社も同じように考えるので、景気がよくなると、同時多発的に値上げが起こり、社会全体の物価は上昇していく。 これは財・サービス市場での話だが、同じようなメカニズムは貨幣市場でも発生する。 景気がよくなり、次々と商品が売れる状況では、より多くの在庫を抱えておかないと品切れを起こすリスクが高まる。品切れで販売できないというのは極めて大きな機会損失であり、店舗としては何としても避けたい事態である。 ところが多くの事業者は、手元に大量の余剰資金は抱えていないので、在庫を増やすためには銀行から借り入れを増やさなければならない。結果として貨幣需要が増大し、銀行は利益を最大化するため金利を引き上げる。金利上昇は物価上昇を誘発するので、さらに物価が上がる。このようなインフレは需要が起点になっているのでディマンドプル・インフレとも呼ばれる』、「ディマンドプル・インフレ」は金融政策で抑制が可能な良質なインフレだ。
・『不景気下でのインフレは最悪 景気拡大に伴うインフレの場合、タイムラグこそ生じるものの、賃金も上がっていくので国民はあまり不満を感じない。だが、物価上昇は景気が悪い時にも発生する。それは商品価格の上昇が引き金となるコストプッシュ・インフレである。 コストプッシュ・インフレで最もわかりやすいのは1970年代に発生したオイルショックだろう。1973年、OPEC加盟6カ国は1バレルあたり3.01ドルだった原油公示価格を5.15ドルに引き上げ、に翌年1月からは一気に11.65ドルに引き上げる決定を行った。原油市場は大混乱となり、70年代後半には原油価格は30ドルを突破するまでに上昇。これを受けて先進各国ではあらゆる製品やサービスの価格が上昇し、インフレが一気に進んだ。 日本でも1973年から1980年にかけて物価は約2倍に高騰し、「狂乱物価」などという言葉が新聞の見出しを飾った。原油など重要な資源の価格が高騰すると、景気の良い悪いにかかわらず物価が上昇するので、国民生活は大きな打撃を受ける。企業の業績はむしろ悪化するので、賃上げもままならない。不景気化で物価上昇が進むと、いわゆるスタグフレーションという状況に陥るが、そうなってしまえば、そこから回復させるのは容易なことではない。 だが、当時の日本経済は60年代から長期にわたる好景気が続いており(いざなぎ景気)、この景気が一段落した後も田中角栄元首相による列島改造ブームが発生するなど成長が続いていた。原油価格の高騰で成長率こそ低下したが、ディマンドプル・インフレとコストプッシュ・インフレが併存する形で、何とか豊かな国民生活は維持された。 昭和時代の経済について、十把一絡げで「高度成長」と呼ぶ人も多いが、厳密には高度成長というのは1955年からオイルショックまでの極めて成長率の高い時代のことを指す。オイルショック以降は「低成長時代」と呼ばれるようになったが、バブル崩壊以降は、とうとうゼロ成長になってしまった。このため「低成長時代」という言葉は事実上、消滅した状況にある。 若い世代の人がバブル世代の上司に対して「高度成長時代の人は○×だから」と揶揄しているが、バブル世代は60年代生まれなので、実は彼等は典型的な低成長時代の人たちである。つまり失われた30年があまりにも酷い状況だったことから、低成長時代の人たちですら、高度成長に見えてしまっているという悲しい現実がある』、なるほど。
・『日本への波及を防ぐには成長しかないが… 米国で発生しているインフレは一過性のものであるとの見方も有力だが、一方でバイデン政権は巨額の財政出動に邁進しており、景気は今後、長期にわたって継続するとの予想も少なくない。景気が持続的に拡大すれば物価は上がりやすくなるし、財政出動が巨額になれば金利上昇を誘発するので、これも物価を上げる要因となる。 金利の上昇や、政府債務の増大は、景気にとってマイナス要因であり、いわゆる悪いインフレを誘発する可能性があるものの、米国の場合、景気拡大効果の方が大きいだろう。景気拡大による良いインフレに、若干悪いインフレの要因が加わり、物価の上昇が続くというシナリオが今のところ最有力候補だ。 では日本はどうだろうか。日本はワクチン接種の遅れから景気回復はまだ先になるとの予想が多い。しかも、米国や欧州が脱炭素やAI(人工知能)など、新しいテクノロジーに対する巨額投資を行っている中、日本はこうした先行投資をほとんど実施していない。コロナ終息後の反動以外に、日本の景気が急拡大する要因がないため、当分の間、低い成長率が続くだろう。 経済が日本国内だけで完結していれば、低成長とゼロ金利、物価上昇の停滞が続くことになるが、諸外国の物価と金利がさらに上がった場合にはそうはいかなくなる。諸外国の物価が上がれば輸入品の価格は上昇するし、債券市場の金利が上がると、日本の国債市場も無縁ではいられない。 輸入物価と金利が同時に上昇すると、いくら不景気であっても、日本国内の物価は上昇に転じるしかなくなる。企業の業績が伸びない中でのインフレなので賃金も上がりにくい。最悪のケースとしてはスタグフレーションということもあり得るという話になる。 こうした状況から脱却するためには、日本も諸外国と同レベルの成長を実現する必要があるが、現時点でその見通しは立てにくい。諸外国の景気があまり良くならない方が日本にとってはむしろ好都合という、皮肉な状況となっているのが現実だ』、「債券市場の金利が上がると」、日本の国債の発行利回りも上がり、国債費が膨張、市場は大混乱に陥るだろう。
次に、8月3日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの町田 徹氏による「訪れるコロナ経済の「出口戦略」…日本の「ゾンビ企業」消滅のカウントダウンが始まった」を紹介しよう』
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85790?imp=0
・『「カネ余り」というつっかえ棒 内外の金融・資本市場の一部でインフレ懸念が根強く囁かれる中で、米連邦準備制度理事会(FRB)は7月27、28の両日、連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、ゼロ金利政策と量的緩和政策を維持することを全会一致で決めた。 28日発表のFOMCの声明の特色は、米景気について「依然として新型コロナウイルスの拡大状況に左右されている」「経済の先行きへのリスクは残っている」としたうえで、引き続き「雇用の最大化と物価の安定という目標を推進するために、あらゆる手段を使うことを約束する」としたことである。 これらは、当面の金融政策の対応として適切であり、十分に頷ける対応と言える。 注目すべきは、FRBがコロナ危機の収束後の懸案となるテーパリング(国債などの資産を買い入れる量的緩和の縮小)についても丁寧に言及したことだ。FRBのパウエル議長は28日の記者会見で、テーパリングの開始に触れ、「今後複数の会合」で経済情勢の進捗を確認すると表明した。 このため、関係者の間では、テーパリングの開始時期は、早くとも今年11月2、3日開催のFOMC以降との見方から安心感が広がったのである。 昨年来の新型コロナ危機の最大の特色の一つは、パンデミックが世界経済の歴史的な減速を招いたにもかかわらず、2008年のリーマン・ショックとは異なり、株式相場の暴落や金融危機は一時的なものにとどまり、大きな混乱に繋がらなかったことにある。 この背景には、FRBを始めとした各国の中央銀行がそろって大胆な金融緩和に踏み込み、市場に潤沢な資金を供給して世界的なカネ余り状況を作り出したことがある。 それだけに、カネ余りというつっかえ棒を失えば、日本では、コロナショック以前から軋みが見えていた金融機関やゾンビ企業の実態が露呈しかねない。国内経済が大きく動揺するリスクがあるのだ。FRBが見せたテーパリングの開始に向けた配慮は、改めて、コロナ危機の次にそうしたリスクが待ち構えていることを連想させずにはおかない』、「日本」では「テーパリング」が論議すら一切されてない状況で、「FRB」が「テーパリング」に踏み切れば、日本の円は暴落するリスクがある。
・『米国経済はなかなか急回復しない 今回、FRBが決めたのは、政策金利のフェデラル・ファンド(FF)レートの誘導目標を0.00~0.25%とする金融政策と、市場から米国債を月800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を月400億ドル買い入れている量的緩和策の維持だ。 FOMCの声明文によると、政策維持の目的は、従来、FRBが掲げてきた「雇用の最大化と物価安定に向けてさらなる大きな前進を遂げる」ことにある。 その一方で、一部のマスメディアなどで行き過ぎや長期化が懸念されているインフレについては、「2%のインフレ達成を目指している」と改めてFRBの政策目標を確認したうえで、この「長期目標を下回る状態が続いている」との認識を示した。 そして「当面は2%よりやや上のインフレ達成を目指す。そうすることで、インフレ率が長期的に平均で2%になり、長期インフレ予測が2%で安定するようにする」との方針を表明したのである。 今後インフレ率が急騰したとしても、それは一時的な要因の影響であり、コロナ危機に伴う供給制約が改善すれば、いずれ落ち着くとの見方を維持した形なのだ。 そうした前提の下で、米国の景気動向については「依然としてウイルスの拡大状況に左右されている」と断言した。「ワクチン接種の普及により、公衆衛生の危機が景気に及ぼす影響は引き続き小さくなる可能性が高いものの、経済の先行きへのリスクは残っている」というのである。 実際のところ、FRBが懸念を示したように、米国ではここへきて新型コロナの感染が再拡大している。ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、1日当たりの新規感染者数は7月3日の4739人を底に増加に転じ、7月30日には19万4608人と1月16日(20万1858人)以来およそ半年ぶりの高水準を記録した。 原因として、ワクチン接種の頭打ちのほか、デルタ株の拡大、経済活動の再開などがあげられるという。ニューヨーク州やニューヨーク市、カリフォルニア州では公務員にワクチン接種か週1度のコロナ検査を義務付けるなど、様々な対策に追われている。 FRBが、今後一本調子でコロナ危機が速やかに終息し、経済の急回復が続くとみていないのは妥当な見方だろう』、「今後一本調子でコロナ危機が速やかに終息」するとみていないのはともかく、「経済の急回復が続く」可能性はあり、インフレが深刻化するリスクはあるだろう。
・『議論開始は11月以降から? 半面、新型コロナのパンデミックが世界の実態経済を歴史的な減速に追い込む中で、この経済危機が金融・資本市場に波及しなかったのは特筆すべきことだ。その裏に、積極的な財政出動と金融緩和が寄与したことは周知である。 それだけに、金融・資本市場関係者は、コロナ危機終息後、金融政策の正常化のために行われるテーパリングに神経質だ。 FRBのパウエル議長は28日の記者会見で、こうした市場関係者の懸念に対しても十分過ぎるほどの心配りを見せた。テーパリング開始に向けては、「今後複数の会合」を通じて経済情勢の進捗を確認すると表明したのである。 市場関係者は、パウエル議長が「今後複数の会合」と言う以上、それは9月に予定している次回のFOMCではなく、11月初めか、12月中旬のFOMCのことと受け止めて、胸を撫で下ろした。 しかも、パウエル議長は資産購入政策の変更時期について、重ねて「今後のデータ次第だ」とも述べている。つまり、テーパリング開始をまだ既定路線としていないとも述べているのだ。 テーパリング開始に対して神経質な市場との対話に、神経質なほどの配慮を見せたと言って良いだろう。 経済紙の報道によると、FRBのブレイナード理事はFOMCの翌々日にあたる30日、講演で、米経済の現状について、就業者数がコロナ危機前の水準をなお680万人下回っていることを挙げて、FRBの目標に「まだ距離がある」とも述べた。 そのうえで、経済の回復ぶりが「9月のデータが手に入れば進展の程度をもっと自信をもって評価できる」と語り、9月分の米雇用統計の公表後に開催される11月のFOMC以降にテーパリングの開始議論を行うとの見方を裏付けたという』、なるほど。
・『そのときは遠からずやってくる とはいえ、FRBが実際にテーパリングを始めれば、その影響は大きい。米国以外の経済が揺さぶられる懸念もある。長期間にわたって低金利が続いた結果、膨らんだ新興国や途上国のドル建て債務の返済や借り換えに問題が生じる恐れがあるのだ。 日本でも、米国へのドル資金の還流が本格化すれば、米国よりもワクチンの接種で後れを取りコロナ危機からの脱却が遅れているにもかかわらず、日銀が想定しているよりも早い時期に金融緩和策の修正を迫られるリスクがある。 そうなれば、政府の国債の利払い負担は増す。政府の要請と支援を受けて、ゾンビ企業への安易な融資を増やしてきた日本の金融機関はもちろん、政策支援で経営がひと息ついていた脆弱な企業の資金繰りも覚束なくなる可能性が高い。 実際のところ、日本の金融機関は、一部の地方銀行などを中心にコロナ前から続く低金利政策により資金運用難に陥っていたところが少なくないだけに、事態は予断を許さない。 昔に比べれば、各国の中央銀行は、自国の政策が他国の経済に影響を及ぼすスピルオーバーを意識するようになったとされるが、FRBがテーパリングの開始に当たって、経営の不健全な日本の金融機関やゾンビ企業にまで配慮するとは考えにくい。が、その時期は遠からず、確実にやって来る』、「日本」への影響で最も懸念すべきは、資本の対外流出、「円」の暴落、国債利回り上昇と国債費の増大、などだろう。
第三に、8月13日付け東洋経済オンラインが掲載した みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏による「アメリカ雇用完全復活でFRBの政策変更前倒しも ドル相場は例年になく底堅く、さらに上昇へ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/447789
・『世界中で新型コロナウイルスのデルタ変異株が蔓延し問題視されている。しかし、FRB(連邦準備制度理事会)の政策運営は変わらず正常化プロセスに関してファイティングポーズを解いておらず、その限りにおいて、アメリカの金利とドルの相互連関的な上昇を見込む基本認識は変える必要がないと筆者は考えている。 8月2日、ウォラーFRB理事は「向こう2回分の雇用統計が自分自身の予想どおりになれば、2022年の利上げに向けた体制を整えるため、テーパリング(量的緩和の段階的縮小)に早期に着手し、迅速に進める必要がある」と述べている。 これは9月にテーパリングを決定し、10月に着手するとことを示唆したものだ。今後2回分とは7月・8月分を意味しており、同理事の予想とは具体的に「その2カ月間で雇用が160万~200万人増加した場合、失われた雇用の85%が9月までに回復することになるため、テーパリング開始を遅らせる理由はない」というものだった』、第二の記事での「ブレイナード理事」よりも早目を見込んでいるようだ。
・『ウォラー想定の実現は十分ありうる この点、8月6日に発表されたアメリカの7月雇用統計は非農業部門雇用者数(NFP)の変化に関し、前月比プラス94.3万人と市場予想の中心(同プラス85.0万人)を超え、もともと強い結果が上方修正された6月(同プラス93.8万人)からも加速した。2020年4月時点で失われた雇用は未曾有の2236万人に達していたが、今年7月時点で570万人まで圧縮されている。これで約75%の雇用復元が完了したことになり、緩和縮小は妥当な判断に思える(下図)。 (外部配信先では図表を閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) 2021年の雇用回復を振り返ると、年初来7カ月間で月平均61.7万人の増加、過去3カ月間では月平均83.2万人の増加となる。ウォラー理事の「2カ月で160万~200万人の増加」は難易度の高い予想だが、非現実的とは言えない。今回、94万人の増加を果たしたので、8月分(9月3日発表)が70万人弱の増加でウォラー理事の想定が実現する。過去3カ月の増勢に照らせば、十分可能性はある。 前掲図に示すように、アメリカ経済の雇用が減少したのはコロナ禍の初期に相当する2020年3~4月および、感染第2波によりロックダウンが実施された2020年12月の計3カ月間だけだ。その前後の2020年10~12月や2021年1月は雇用の増勢こそ鈍っていたものの、減少したわけではなかった。こうした事実は7月に全米経済研究所(NBER)が今次後退局面の「谷」を2020年4月、すなわち後退局面は2020年3月と4月の2カ月間しかなかったという異例の判断を下したことと符合している』、「今次後退局面」は僅か「2カ月間しかなかった」というのには驚かされた。
・『あと1年で雇用は完全回復へ 下図は筆者が折に触れて参考にしている前回の後退局面との比較である。コロナショックを伴う今次局面とリーマンショックを伴う前回局面では雇用回復の軌道がまったく異なっているのが一目瞭然だ。景気の「山」から起算した雇用の喪失・復元幅は今回のほうが比較にならないほど大きい。 例えば、前回局面では雇用喪失のピークは2010年2月の869万人だった。まずそこまで悪化するのに26カ月かかっている。これに対し、今回は「山」から2カ月後が喪失のピークという異例の軌道を描いている。だから景気後退局面がわずか2カ月間と判定されたのだろう。急性的に悪化した今次局面と、慢性的に徐々に悪化していった前回局面との対比はあまりにも鮮明である。 ちなみに現在(2021年7月時点)は景気の「山」から起算して17カ月目に相当するが、上述したように雇用喪失は570万人まで圧縮されている。前回局面で17カ月目にはまだ692万人が喪失したままだったので、当時の回復軌道を明確に上回ったことになる。今後、月平均で50万人程度の増勢が続くと保守的に仮定しても、あと1年もあればコロナ禍で失われた雇用は完全に復元されることになる。 すなわち来年の今頃には景気の遅行系列である雇用の「量」という面から見ても「コロナが終わった」という状態になる。) 前月比で非農業部門雇用者数の増加が90万人を超えたり、失業率が0.5%ポイントも低下したりする動きは過去に経験のないものだ。そのように実体経済の回復軌道が異なるのだから、金融政策の正常化プロセスの軌道も異なってくるのが自然であり、1年かけてテーパリングを完了した前回の経験を踏襲する必要はない。 かかる状況下、今年9月にテーパリングを決定、10月(遅くとも12月)に着手、2022年6月(遅くとも7月)に7~8カ月かけて完了というイメージはそれほどズレたものではないように思える。 セントルイス連銀のブラード総裁は7月30日、今秋にテーパリングを開始し、2022年初頭に完了させ、必要に応じて2022年中の利上げ実施を可能にするため「かなり速いペース」でテーパリングを進めることにも言及していた。2022年中の利上げを前提にした政策運営はFOMC(連邦公開市場委員会)の中でも極端な意見だろうが、雇用市場を筆頭とするアメリカの今の景気回復ペースを踏まえれば、無理な話でもないように思えてくる。 もしくは、テーパリングの期間を今年秋から来年秋まで、前回と同じ1年間と保守的に見積もったとしても、終了は2022年9月ないし10月になる。この軌道で正常化プロセスを進めたとしても、現在のドットチャートが示唆する「2023年に2回利上げ」という前提は大きく揺るがないだろう』、「2023年に2回利上げ」とは「日本」は大変だ。
・『ドルは底堅く、年内に115円まで上昇も 以上のようにFRBの政策運営が順調に進むことが見えている中、先進国で圧倒的に景気回復が出遅れている日本の円が対ドルで上昇する芽はほとんどないように思える。もちろん、新たな変異株の登場は常に世界経済のリスクだが、そうなればなおの事、ワクチン調達に優れる欧米市場は評価されやすいだろう。 今年4~6月期、為替市場では明確にドル全面安が進んだが、円高に振れることはほとんどなかった。これは日米実体経済の大きすぎる格差を前提に取引する向きが多かったからではないのか。当面、ドル円相場の底値は例年になく堅いものだと予想され、年内に115円付近までの上昇はあっても不思議ではないと考える。)ちなみに、7月の失業率は5.4%と前月の5.9%から0.5%ポイントも低下しており、2020年3月以来1年4カ月ぶりの低水準を記録している。現在、FRBスタッフ見通しで想定される自然失業率(4.0%)までには距離があるが、確実にそこへ接近している』、「テーパリング」が行われれば、私は円の暴落があってもおかしくないと思う。
先ずは、7月28日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「アメリカの物価上昇のウラで…日本は「悪いインフレ」の悪夢に飲み込まれるかもしれない」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85604
・『原油価格の高騰や米国消費者物価指数の急上昇など、このところインフレの話題を見聞きするケースが増えている。日本経済の現状が変わらないまま、国内にもインフレが波及すると非常にやっかいなことになるが、そもそも物価上昇というのはどのようなメカニズムで発生するのだろうか』、興味深そうだ。
・『インフレには大きく分けて2種類ある 米国ではコロナ後の景気回復期待から企業が先行投資を加速しており、物価が猛烈な勢いで上がっている。2021年3月の消費者物価指数は前年同月比で2.6%だったが、4月は4.2%、5月は5.0%、そして6月は5.4%になった。これは2008年8月以来、約13年ぶりの水準である。2008年8月と言えば、リーマンショック直前で米国はまさにバブル経済の頂点にあった。コロナからの急回復という特殊要因はあるものの、異常な物価上昇であることは間違いない。 原油先物価格はこのところ上昇を続けており、7月初旬には一時、1バレル=75ドルを突破した。コロナ後の景気回復期待に加えて、石油輸出国機構にロシアなどの非加盟国を加えたOEPCプラスが増産に合意できなかったことなどが背景となっている。 日本はまだコロナ終息を見通せる段階ではなく、消費の急回復といった現象は見られない。だが困ったことに、諸外国でインフレが進むと、そのインフレは日本にも波及する可能性がある。景気回復が実現できない中で物価上昇が進むと国民生活は苦しくなるので、諸外国の動向には気を配っておく必要があるだろう。 米国のインフレが長期間継続するのか、またそれが日本にも波及するのかを正確に予想することはできないが、状況に対して適切に対応するためには、インフレがなぜ発生するのか知っておいた方がよい。 一般的にインフレは景気が良い時に発生する。景気がよくなって店舗に並ぶ商品がたくさん売れるようになると、値段を上げても客足が落ちなくなる。利益を最大化するためには値上げした方がよいとの判断が働く。その店舗に商品を納入している卸会社も同じように考えるので、景気がよくなると、同時多発的に値上げが起こり、社会全体の物価は上昇していく。 これは財・サービス市場での話だが、同じようなメカニズムは貨幣市場でも発生する。 景気がよくなり、次々と商品が売れる状況では、より多くの在庫を抱えておかないと品切れを起こすリスクが高まる。品切れで販売できないというのは極めて大きな機会損失であり、店舗としては何としても避けたい事態である。 ところが多くの事業者は、手元に大量の余剰資金は抱えていないので、在庫を増やすためには銀行から借り入れを増やさなければならない。結果として貨幣需要が増大し、銀行は利益を最大化するため金利を引き上げる。金利上昇は物価上昇を誘発するので、さらに物価が上がる。このようなインフレは需要が起点になっているのでディマンドプル・インフレとも呼ばれる』、「ディマンドプル・インフレ」は金融政策で抑制が可能な良質なインフレだ。
・『不景気下でのインフレは最悪 景気拡大に伴うインフレの場合、タイムラグこそ生じるものの、賃金も上がっていくので国民はあまり不満を感じない。だが、物価上昇は景気が悪い時にも発生する。それは商品価格の上昇が引き金となるコストプッシュ・インフレである。 コストプッシュ・インフレで最もわかりやすいのは1970年代に発生したオイルショックだろう。1973年、OPEC加盟6カ国は1バレルあたり3.01ドルだった原油公示価格を5.15ドルに引き上げ、に翌年1月からは一気に11.65ドルに引き上げる決定を行った。原油市場は大混乱となり、70年代後半には原油価格は30ドルを突破するまでに上昇。これを受けて先進各国ではあらゆる製品やサービスの価格が上昇し、インフレが一気に進んだ。 日本でも1973年から1980年にかけて物価は約2倍に高騰し、「狂乱物価」などという言葉が新聞の見出しを飾った。原油など重要な資源の価格が高騰すると、景気の良い悪いにかかわらず物価が上昇するので、国民生活は大きな打撃を受ける。企業の業績はむしろ悪化するので、賃上げもままならない。不景気化で物価上昇が進むと、いわゆるスタグフレーションという状況に陥るが、そうなってしまえば、そこから回復させるのは容易なことではない。 だが、当時の日本経済は60年代から長期にわたる好景気が続いており(いざなぎ景気)、この景気が一段落した後も田中角栄元首相による列島改造ブームが発生するなど成長が続いていた。原油価格の高騰で成長率こそ低下したが、ディマンドプル・インフレとコストプッシュ・インフレが併存する形で、何とか豊かな国民生活は維持された。 昭和時代の経済について、十把一絡げで「高度成長」と呼ぶ人も多いが、厳密には高度成長というのは1955年からオイルショックまでの極めて成長率の高い時代のことを指す。オイルショック以降は「低成長時代」と呼ばれるようになったが、バブル崩壊以降は、とうとうゼロ成長になってしまった。このため「低成長時代」という言葉は事実上、消滅した状況にある。 若い世代の人がバブル世代の上司に対して「高度成長時代の人は○×だから」と揶揄しているが、バブル世代は60年代生まれなので、実は彼等は典型的な低成長時代の人たちである。つまり失われた30年があまりにも酷い状況だったことから、低成長時代の人たちですら、高度成長に見えてしまっているという悲しい現実がある』、なるほど。
・『日本への波及を防ぐには成長しかないが… 米国で発生しているインフレは一過性のものであるとの見方も有力だが、一方でバイデン政権は巨額の財政出動に邁進しており、景気は今後、長期にわたって継続するとの予想も少なくない。景気が持続的に拡大すれば物価は上がりやすくなるし、財政出動が巨額になれば金利上昇を誘発するので、これも物価を上げる要因となる。 金利の上昇や、政府債務の増大は、景気にとってマイナス要因であり、いわゆる悪いインフレを誘発する可能性があるものの、米国の場合、景気拡大効果の方が大きいだろう。景気拡大による良いインフレに、若干悪いインフレの要因が加わり、物価の上昇が続くというシナリオが今のところ最有力候補だ。 では日本はどうだろうか。日本はワクチン接種の遅れから景気回復はまだ先になるとの予想が多い。しかも、米国や欧州が脱炭素やAI(人工知能)など、新しいテクノロジーに対する巨額投資を行っている中、日本はこうした先行投資をほとんど実施していない。コロナ終息後の反動以外に、日本の景気が急拡大する要因がないため、当分の間、低い成長率が続くだろう。 経済が日本国内だけで完結していれば、低成長とゼロ金利、物価上昇の停滞が続くことになるが、諸外国の物価と金利がさらに上がった場合にはそうはいかなくなる。諸外国の物価が上がれば輸入品の価格は上昇するし、債券市場の金利が上がると、日本の国債市場も無縁ではいられない。 輸入物価と金利が同時に上昇すると、いくら不景気であっても、日本国内の物価は上昇に転じるしかなくなる。企業の業績が伸びない中でのインフレなので賃金も上がりにくい。最悪のケースとしてはスタグフレーションということもあり得るという話になる。 こうした状況から脱却するためには、日本も諸外国と同レベルの成長を実現する必要があるが、現時点でその見通しは立てにくい。諸外国の景気があまり良くならない方が日本にとってはむしろ好都合という、皮肉な状況となっているのが現実だ』、「債券市場の金利が上がると」、日本の国債の発行利回りも上がり、国債費が膨張、市場は大混乱に陥るだろう。
次に、8月3日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの町田 徹氏による「訪れるコロナ経済の「出口戦略」…日本の「ゾンビ企業」消滅のカウントダウンが始まった」を紹介しよう』
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85790?imp=0
・『「カネ余り」というつっかえ棒 内外の金融・資本市場の一部でインフレ懸念が根強く囁かれる中で、米連邦準備制度理事会(FRB)は7月27、28の両日、連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、ゼロ金利政策と量的緩和政策を維持することを全会一致で決めた。 28日発表のFOMCの声明の特色は、米景気について「依然として新型コロナウイルスの拡大状況に左右されている」「経済の先行きへのリスクは残っている」としたうえで、引き続き「雇用の最大化と物価の安定という目標を推進するために、あらゆる手段を使うことを約束する」としたことである。 これらは、当面の金融政策の対応として適切であり、十分に頷ける対応と言える。 注目すべきは、FRBがコロナ危機の収束後の懸案となるテーパリング(国債などの資産を買い入れる量的緩和の縮小)についても丁寧に言及したことだ。FRBのパウエル議長は28日の記者会見で、テーパリングの開始に触れ、「今後複数の会合」で経済情勢の進捗を確認すると表明した。 このため、関係者の間では、テーパリングの開始時期は、早くとも今年11月2、3日開催のFOMC以降との見方から安心感が広がったのである。 昨年来の新型コロナ危機の最大の特色の一つは、パンデミックが世界経済の歴史的な減速を招いたにもかかわらず、2008年のリーマン・ショックとは異なり、株式相場の暴落や金融危機は一時的なものにとどまり、大きな混乱に繋がらなかったことにある。 この背景には、FRBを始めとした各国の中央銀行がそろって大胆な金融緩和に踏み込み、市場に潤沢な資金を供給して世界的なカネ余り状況を作り出したことがある。 それだけに、カネ余りというつっかえ棒を失えば、日本では、コロナショック以前から軋みが見えていた金融機関やゾンビ企業の実態が露呈しかねない。国内経済が大きく動揺するリスクがあるのだ。FRBが見せたテーパリングの開始に向けた配慮は、改めて、コロナ危機の次にそうしたリスクが待ち構えていることを連想させずにはおかない』、「日本」では「テーパリング」が論議すら一切されてない状況で、「FRB」が「テーパリング」に踏み切れば、日本の円は暴落するリスクがある。
・『米国経済はなかなか急回復しない 今回、FRBが決めたのは、政策金利のフェデラル・ファンド(FF)レートの誘導目標を0.00~0.25%とする金融政策と、市場から米国債を月800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を月400億ドル買い入れている量的緩和策の維持だ。 FOMCの声明文によると、政策維持の目的は、従来、FRBが掲げてきた「雇用の最大化と物価安定に向けてさらなる大きな前進を遂げる」ことにある。 その一方で、一部のマスメディアなどで行き過ぎや長期化が懸念されているインフレについては、「2%のインフレ達成を目指している」と改めてFRBの政策目標を確認したうえで、この「長期目標を下回る状態が続いている」との認識を示した。 そして「当面は2%よりやや上のインフレ達成を目指す。そうすることで、インフレ率が長期的に平均で2%になり、長期インフレ予測が2%で安定するようにする」との方針を表明したのである。 今後インフレ率が急騰したとしても、それは一時的な要因の影響であり、コロナ危機に伴う供給制約が改善すれば、いずれ落ち着くとの見方を維持した形なのだ。 そうした前提の下で、米国の景気動向については「依然としてウイルスの拡大状況に左右されている」と断言した。「ワクチン接種の普及により、公衆衛生の危機が景気に及ぼす影響は引き続き小さくなる可能性が高いものの、経済の先行きへのリスクは残っている」というのである。 実際のところ、FRBが懸念を示したように、米国ではここへきて新型コロナの感染が再拡大している。ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、1日当たりの新規感染者数は7月3日の4739人を底に増加に転じ、7月30日には19万4608人と1月16日(20万1858人)以来およそ半年ぶりの高水準を記録した。 原因として、ワクチン接種の頭打ちのほか、デルタ株の拡大、経済活動の再開などがあげられるという。ニューヨーク州やニューヨーク市、カリフォルニア州では公務員にワクチン接種か週1度のコロナ検査を義務付けるなど、様々な対策に追われている。 FRBが、今後一本調子でコロナ危機が速やかに終息し、経済の急回復が続くとみていないのは妥当な見方だろう』、「今後一本調子でコロナ危機が速やかに終息」するとみていないのはともかく、「経済の急回復が続く」可能性はあり、インフレが深刻化するリスクはあるだろう。
・『議論開始は11月以降から? 半面、新型コロナのパンデミックが世界の実態経済を歴史的な減速に追い込む中で、この経済危機が金融・資本市場に波及しなかったのは特筆すべきことだ。その裏に、積極的な財政出動と金融緩和が寄与したことは周知である。 それだけに、金融・資本市場関係者は、コロナ危機終息後、金融政策の正常化のために行われるテーパリングに神経質だ。 FRBのパウエル議長は28日の記者会見で、こうした市場関係者の懸念に対しても十分過ぎるほどの心配りを見せた。テーパリング開始に向けては、「今後複数の会合」を通じて経済情勢の進捗を確認すると表明したのである。 市場関係者は、パウエル議長が「今後複数の会合」と言う以上、それは9月に予定している次回のFOMCではなく、11月初めか、12月中旬のFOMCのことと受け止めて、胸を撫で下ろした。 しかも、パウエル議長は資産購入政策の変更時期について、重ねて「今後のデータ次第だ」とも述べている。つまり、テーパリング開始をまだ既定路線としていないとも述べているのだ。 テーパリング開始に対して神経質な市場との対話に、神経質なほどの配慮を見せたと言って良いだろう。 経済紙の報道によると、FRBのブレイナード理事はFOMCの翌々日にあたる30日、講演で、米経済の現状について、就業者数がコロナ危機前の水準をなお680万人下回っていることを挙げて、FRBの目標に「まだ距離がある」とも述べた。 そのうえで、経済の回復ぶりが「9月のデータが手に入れば進展の程度をもっと自信をもって評価できる」と語り、9月分の米雇用統計の公表後に開催される11月のFOMC以降にテーパリングの開始議論を行うとの見方を裏付けたという』、なるほど。
・『そのときは遠からずやってくる とはいえ、FRBが実際にテーパリングを始めれば、その影響は大きい。米国以外の経済が揺さぶられる懸念もある。長期間にわたって低金利が続いた結果、膨らんだ新興国や途上国のドル建て債務の返済や借り換えに問題が生じる恐れがあるのだ。 日本でも、米国へのドル資金の還流が本格化すれば、米国よりもワクチンの接種で後れを取りコロナ危機からの脱却が遅れているにもかかわらず、日銀が想定しているよりも早い時期に金融緩和策の修正を迫られるリスクがある。 そうなれば、政府の国債の利払い負担は増す。政府の要請と支援を受けて、ゾンビ企業への安易な融資を増やしてきた日本の金融機関はもちろん、政策支援で経営がひと息ついていた脆弱な企業の資金繰りも覚束なくなる可能性が高い。 実際のところ、日本の金融機関は、一部の地方銀行などを中心にコロナ前から続く低金利政策により資金運用難に陥っていたところが少なくないだけに、事態は予断を許さない。 昔に比べれば、各国の中央銀行は、自国の政策が他国の経済に影響を及ぼすスピルオーバーを意識するようになったとされるが、FRBがテーパリングの開始に当たって、経営の不健全な日本の金融機関やゾンビ企業にまで配慮するとは考えにくい。が、その時期は遠からず、確実にやって来る』、「日本」への影響で最も懸念すべきは、資本の対外流出、「円」の暴落、国債利回り上昇と国債費の増大、などだろう。
第三に、8月13日付け東洋経済オンラインが掲載した みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏による「アメリカ雇用完全復活でFRBの政策変更前倒しも ドル相場は例年になく底堅く、さらに上昇へ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/447789
・『世界中で新型コロナウイルスのデルタ変異株が蔓延し問題視されている。しかし、FRB(連邦準備制度理事会)の政策運営は変わらず正常化プロセスに関してファイティングポーズを解いておらず、その限りにおいて、アメリカの金利とドルの相互連関的な上昇を見込む基本認識は変える必要がないと筆者は考えている。 8月2日、ウォラーFRB理事は「向こう2回分の雇用統計が自分自身の予想どおりになれば、2022年の利上げに向けた体制を整えるため、テーパリング(量的緩和の段階的縮小)に早期に着手し、迅速に進める必要がある」と述べている。 これは9月にテーパリングを決定し、10月に着手するとことを示唆したものだ。今後2回分とは7月・8月分を意味しており、同理事の予想とは具体的に「その2カ月間で雇用が160万~200万人増加した場合、失われた雇用の85%が9月までに回復することになるため、テーパリング開始を遅らせる理由はない」というものだった』、第二の記事での「ブレイナード理事」よりも早目を見込んでいるようだ。
・『ウォラー想定の実現は十分ありうる この点、8月6日に発表されたアメリカの7月雇用統計は非農業部門雇用者数(NFP)の変化に関し、前月比プラス94.3万人と市場予想の中心(同プラス85.0万人)を超え、もともと強い結果が上方修正された6月(同プラス93.8万人)からも加速した。2020年4月時点で失われた雇用は未曾有の2236万人に達していたが、今年7月時点で570万人まで圧縮されている。これで約75%の雇用復元が完了したことになり、緩和縮小は妥当な判断に思える(下図)。 (外部配信先では図表を閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) 2021年の雇用回復を振り返ると、年初来7カ月間で月平均61.7万人の増加、過去3カ月間では月平均83.2万人の増加となる。ウォラー理事の「2カ月で160万~200万人の増加」は難易度の高い予想だが、非現実的とは言えない。今回、94万人の増加を果たしたので、8月分(9月3日発表)が70万人弱の増加でウォラー理事の想定が実現する。過去3カ月の増勢に照らせば、十分可能性はある。 前掲図に示すように、アメリカ経済の雇用が減少したのはコロナ禍の初期に相当する2020年3~4月および、感染第2波によりロックダウンが実施された2020年12月の計3カ月間だけだ。その前後の2020年10~12月や2021年1月は雇用の増勢こそ鈍っていたものの、減少したわけではなかった。こうした事実は7月に全米経済研究所(NBER)が今次後退局面の「谷」を2020年4月、すなわち後退局面は2020年3月と4月の2カ月間しかなかったという異例の判断を下したことと符合している』、「今次後退局面」は僅か「2カ月間しかなかった」というのには驚かされた。
・『あと1年で雇用は完全回復へ 下図は筆者が折に触れて参考にしている前回の後退局面との比較である。コロナショックを伴う今次局面とリーマンショックを伴う前回局面では雇用回復の軌道がまったく異なっているのが一目瞭然だ。景気の「山」から起算した雇用の喪失・復元幅は今回のほうが比較にならないほど大きい。 例えば、前回局面では雇用喪失のピークは2010年2月の869万人だった。まずそこまで悪化するのに26カ月かかっている。これに対し、今回は「山」から2カ月後が喪失のピークという異例の軌道を描いている。だから景気後退局面がわずか2カ月間と判定されたのだろう。急性的に悪化した今次局面と、慢性的に徐々に悪化していった前回局面との対比はあまりにも鮮明である。 ちなみに現在(2021年7月時点)は景気の「山」から起算して17カ月目に相当するが、上述したように雇用喪失は570万人まで圧縮されている。前回局面で17カ月目にはまだ692万人が喪失したままだったので、当時の回復軌道を明確に上回ったことになる。今後、月平均で50万人程度の増勢が続くと保守的に仮定しても、あと1年もあればコロナ禍で失われた雇用は完全に復元されることになる。 すなわち来年の今頃には景気の遅行系列である雇用の「量」という面から見ても「コロナが終わった」という状態になる。) 前月比で非農業部門雇用者数の増加が90万人を超えたり、失業率が0.5%ポイントも低下したりする動きは過去に経験のないものだ。そのように実体経済の回復軌道が異なるのだから、金融政策の正常化プロセスの軌道も異なってくるのが自然であり、1年かけてテーパリングを完了した前回の経験を踏襲する必要はない。 かかる状況下、今年9月にテーパリングを決定、10月(遅くとも12月)に着手、2022年6月(遅くとも7月)に7~8カ月かけて完了というイメージはそれほどズレたものではないように思える。 セントルイス連銀のブラード総裁は7月30日、今秋にテーパリングを開始し、2022年初頭に完了させ、必要に応じて2022年中の利上げ実施を可能にするため「かなり速いペース」でテーパリングを進めることにも言及していた。2022年中の利上げを前提にした政策運営はFOMC(連邦公開市場委員会)の中でも極端な意見だろうが、雇用市場を筆頭とするアメリカの今の景気回復ペースを踏まえれば、無理な話でもないように思えてくる。 もしくは、テーパリングの期間を今年秋から来年秋まで、前回と同じ1年間と保守的に見積もったとしても、終了は2022年9月ないし10月になる。この軌道で正常化プロセスを進めたとしても、現在のドットチャートが示唆する「2023年に2回利上げ」という前提は大きく揺るがないだろう』、「2023年に2回利上げ」とは「日本」は大変だ。
・『ドルは底堅く、年内に115円まで上昇も 以上のようにFRBの政策運営が順調に進むことが見えている中、先進国で圧倒的に景気回復が出遅れている日本の円が対ドルで上昇する芽はほとんどないように思える。もちろん、新たな変異株の登場は常に世界経済のリスクだが、そうなればなおの事、ワクチン調達に優れる欧米市場は評価されやすいだろう。 今年4~6月期、為替市場では明確にドル全面安が進んだが、円高に振れることはほとんどなかった。これは日米実体経済の大きすぎる格差を前提に取引する向きが多かったからではないのか。当面、ドル円相場の底値は例年になく堅いものだと予想され、年内に115円付近までの上昇はあっても不思議ではないと考える。)ちなみに、7月の失業率は5.4%と前月の5.9%から0.5%ポイントも低下しており、2020年3月以来1年4カ月ぶりの低水準を記録している。現在、FRBスタッフ見通しで想定される自然失業率(4.0%)までには距離があるが、確実にそこへ接近している』、「テーパリング」が行われれば、私は円の暴落があってもおかしくないと思う。
タグ:異次元緩和政策 (その37)(アメリカの物価上昇のウラで…日本は「悪いインフレ」の悪夢に飲み込まれるかもしれない、訪れるコロナ経済の「出口戦略」…日本の「ゾンビ企業」消滅のカウントダウンが始まった、アメリカ雇用完全復活でFRBの政策変更前倒しも ドル相場は例年になく底堅く さらに上昇へ) 現代ビジネス 加谷 珪一 「アメリカの物価上昇のウラで…日本は「悪いインフレ」の悪夢に飲み込まれるかもしれない」 「債券市場の金利が上がると」、日本の国債の発行利回りも上がり、国債費が膨張、市場は大混乱に陥るだろう 町田 徹 「訪れるコロナ経済の「出口戦略」…日本の「ゾンビ企業」消滅のカウントダウンが始まった」 「日本」では「テーパリング」が論議すら一切されてない状況で、「FRB」が「テーパリング」に踏み切れば、日本の円は暴落するリスクがある。 「今後一本調子でコロナ危機が速やかに終息」するとみていないのはともかく、「経済の急回復が続く」可能性はあり、インフレが深刻化するリスクはあるだろう。 「日本」への影響で最も懸念すべきは、資本の対外流出、「円」の暴落、国債利回り上昇と国債費の増大、などだろう。 東洋経済オンライン 唐鎌 大輔 「アメリカ雇用完全復活でFRBの政策変更前倒しも ドル相場は例年になく底堅く、さらに上昇へ」 第二の記事での「ブレイナード理事」よりも早目を見込んでいるようだ。 「今次後退局面」は僅か「2カ月間しかなかった」というのには驚かされた。 「2023年に2回利上げ」とは「日本」は大変だ。 「テーパリング」が行われれば、私は円の暴落があってもおかしくないと思う。