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資本市場(その7)(東証の市場区分再編で「プライム落ち」に企業がおびえなくていい理由、東証の「市場改革」は何が大きくズレているのか 日本の企業統治に不足しているものは何か) [金融]

資本市場については、本年7月5日に取上げた。今日は、(その7)(東証の市場区分再編で「プライム落ち」に企業がおびえなくていい理由、東証の「市場改革」は何が大きくズレているのか 日本の企業統治に不足しているものは何か)である。

先ずは、7月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「東証の市場区分再編で「プライム落ち」に企業がおびえなくていい理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/277865
・『2022年4月に東京証券取引所が市場区分を再編する。東証第1部などを含む現在の4市場から「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場体制へ移行するのだ。それを受けて、最上位市場であるプライム市場での上場を目指して苦心している企業があると聞くが、企業は「プライム落ち」におびえる必要はない。その理由を解説しよう』、どういうことなのだろう。
・『東証の市場再編で第1次市場判定の通知あり  東京証券取引所は、7月9日に同取引所に上場している企業に対して、市場再編後にどの市場に属するかの第1次判定を通知した。 現在の東京証券取引所は、東証第1部、東証第2部、東証マザーズ、ジャスダック(スタンダード・グロース)の4市場に分かれているが、これが、「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に再編される。この中で、優良企業が属するとされる東証プライム市場に、現在の1部上場企業が残ることができるかどうかが話題になっている。 プライム市場の上場維持基準は、株主数800人以上、流通株式数2万単位以上、流通株式時価総額100億円以上、流通株式比率35%以上、純資産がプラス、などとなっている。加えて、社外取締役の割合や取締役会の多様性、気候変動対策に対する情報開示などについて、従来よりも厳しい注文が付く方向だ。 移行措置があるので、これらを満たさない場合に直ちに「プライム落ち」するわけではないが、プライム市場での上場を目指して苦心している企業があると聞く。 例えば、「流通株」を35%以上にするために、創業家に持ち株を放出してもらったり、株式を保有する親密取引先企業に対して保有目的の区分を「政策投資」から「純投資」に変えてもらったりするなどの対策がある。 しかし、あえて言いたい。プライム上場を維持することに大きな意味があるとは限らない。個々の企業は、この機会に自社が何のために上場しているのかをよく考えてみるべきだろう』、「上場」はファイナンスの必要性はなくても、学生の採用などメリットは様々だ。
・『「プライム落ち」=「TOPIX除外」というわけではない  上場企業が必ずしもプライム市場にこだわらなくてもいい最大の理由は、「プライム落ち」が直ちに「TOPIX(東証株価指数)からの除外」を意味するわけではないからだ。TOPIXから除外されると、日本銀行やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの機関投資家が大量に保有するTOPIX連動のインデックスファンド(3月末時点で50兆円以上ある)の投資銘柄から外れる。その結果、数パーセントの安定株主を失うことになる。株主対策上、「数パーセント」が大きな問題になる企業は存在するに違いない。 しかし、まずTOPIXは株価指標としての連続性を保たなければならない。指標として、2000年4月に銘柄入れ替えを実施した日経平均株価のような「不連続」を引き起こしてはまずい。また、採用銘柄の変更や銘柄のウェイト変更の際に、インデックスファンドの売買が他の市場参加者(主に高速取引業者や証券会社の自己売買部門)に利用される恐れがある。そうなればインデックス自体が下方バイアスを持って、インデックスファンドの保有主体が損をする問題が起こりかねない。 こうしたもろもろの問題が懸念されて、市場区分とTOPIXとの間の対応は直接的なものとはされないことになった。 市場区分の再編と共にTOPIXも改訂されるが、変化は段階的で緩やかであり、また見直し後のTOPIXの「浮動株時価総額ウェイト」は、現在のTOPIXの99%以上をカバーすると予想されている(「証券アナリストジャーナル」2021年7月号、能木絵美「TOPIX(東証株価指数)等の見直しの概要」による。能木氏は東京証券取引所 情報サービス部インデックス・グループ 運用企画課長である)。 新TOPIXの採用銘柄の条件及び移行措置もそれなりに複雑だが、主な採用基準は「流通時価総額100億円以上」だ。 つまり大まかに言うと、「プライム」から外れても流通時価総額が100億円以上ある上場企業は、TOPIXに採用され続けてインデックスファンドの保有対象となる』、「「プライム」から外れても」「TOPIXに採用され続けてインデックスファンドの保有対象となる」、のであれば、実害はなさそうだ。
・『この措置は、指標としてのTOPIXの連続性を維持する上でも、それ以上にTOPIX連動のインデックスファンドの保有者の利益の上でも妥当だ。ただ、「TOPIX落ち」を脅し材料にして一連の「ガバナンス改革」を押し付けたり、成長しない上場企業の尻をたたいたりしようとした「意識高い系有識者」(←もちろん皮肉だ)にとっては不満なことだろう。 「プライム落ち」が直ちに「TOPIX除外」を意味するのでない以上、プライム上場にこだわるか否かは、主としてメンツの問題に過ぎない。「名にこだわらずに、実を取ればいい」と考える冷静な企業経営者がいてもおかしくはない。 まず、株式の保有構造には個々の企業に事情がある。また一般論として、独立した社外取締役を多く持つことや、取締役会に多様性を持たせることなどは良いことだし、気候変動に関連する情報の開示なども企業の社会的責任の観点から好ましいことだ。しかし、取締役に適当な人材がいなかったり、企業にとって手間やコストが過大であったりする場合に、「プライム」にこだわることが得策でない場合があるだろう。 十分な収益を上げて大きな流通時価総額を持っている会社は、最上位ではないスタンダード市場に上場しているとしても、投資家から見て十分一流企業であるし、それなりの株価で評価されるはずだ。企業は収益やビジネスで評価されるのであって、市場区分によって収益が上がるわけではない』、理屈の上ではその通りだが、これまでの「1部上場」が「プライム落ち」すれば、経営者はみっともない思いをさせられるケースが殆どではないだろうか。
・『「東証1部上場」のブランド価値は劣化 一流企業」は取引所が決めなくていい  過去には、「東証1部上場企業」が新卒学生の採用や金融機関との取引などでブランド価値を持っていた時代があった。今でも、小さな地方銀行などで「東証1部上場」、今後は「プライム上場」にこだわる会社があるかもしれない。 しかし率直に言って、東証が「1部上場」を安売りしすぎて、今や2000社以上が1部上場銘柄となると、「東証1部上場」という事実に、かつてのようなブランド価値はなくなっている。これは、東証の経営戦略上の失敗であったかもしれない。 「プライム」とそれ以外の区分を強調する市場再編は、プライム上場企業に「一流企業」としてのブランド価値を持たせようとする東証の戦略なのだろう。けれども、「ブランド」の価値というものは一朝一夕に構築できるものではない。 加えて、そもそも「一流企業」を証券取引所が決める必要はない。米経済誌「Forbes(フォーブス)」が毎年発表するランキングのようなものでもいいし、米国のS&P500種株価指数のような、情報会社が発表する株価指数の採用銘柄を基準に判断するのでも構わない。 ランキングは目的に応じて作るといい。また、株価指数はTOPIXのように「統計指標」「デリバティブの原資産」「インデックス運用のターゲット」「運用評価のベンチマーク」といった複数の機能を兼ねると、例えば、「インデックス運用のターゲット」としては最適ではなくなる場合がある』、「東証が「1部上場」を安売りしすぎて、今や2000社以上が1部上場銘柄となると、「東証1部上場」という事実に、かつてのようなブランド価値はなくなっている。これは、東証の経営戦略上の失敗であったかもしれない」、「安売りしすぎ」で「かつてのようなブランド価値はなくなっている」とはお粗末だ。
・『「東証プライム指数」が誕生しても上場企業や投資家は慌てなくていい  今後、プライム市場の上場銘柄を対象とした株価指数が作られて、この指数をターゲットとするインデックスファンドが設定されたり、デリバティブが上場されたり、年金運用などのベンチマークに採用するように誘導されたりするのかもしれない。だが、上場企業も投資家も、しばらくは慌てるに及ばない。 「東証プライム指数」に投資する資金が、少なくとも10兆円を超えるくらいから気にし始めることで十分だろう。 企業は、「プライム入り」を気にするよりも、本業で収益を上げることに注力すべきだ。社長の意地だけを理由にプライム入りを目指すのは本末転倒。収益が十分上がれば、株価が高く評価されて流通時価総額100億円はクリアできるだろうし、成長資金が必要な場合は株式市場で資金調達ができるだろう。 市場区分がどこであっても価値のある企業を投資家は放っておかないだろうし、良いビジネス・アイデアの下に投資家とのコミュニケーションを的確に行うなら資金調達は可能なはずだ。 もちろん、相対的に小規模な企業でも株式が取引できて、株式で資金調達ができることに意義はある。しかし、流通時価総額が100億円に満たないような会社は、上場を維持するコストが上場のベネフィットに見合うのかどうかを冷静に検討する必要があるだろう(各社の事情によるので、一様ではないはずだ)』、「企業は、「プライム入り」を気にするよりも、本業で収益を上げることに注力すべきだ。社長の意地だけを理由にプライム入りを目指すのは本末転倒」、その通りだが、現実にはそうはいきそうもない。
・『ベンチマークを急に変えるようなら運用者としての見識を疑おう  投資家の側は、市場区分にこだわらずに個々の企業を評価すればいい。機関投資家の運用ベンチマークは当面TOPIXでいいはずだ。元々TOPIXでリスク・リターンを考えて資産配分しているのだし、プライム指数についてはまだ十分なデータがない。「プライム銘柄」の方が「TOPIX銘柄」よりも投資対象として優れていると判断できる論理的な理由もない。 年金基金などで、ベンチマークをいきなりプライム指数に変える向きがあれば、運用者としての見識を疑うべきだ。 また、将来「プライム指数連動インデックスファンド」が登場した場合に、この指数がどのように使われているかについては、十分注意を払う必要がある。株価指数「JPX日経インデックス400」(運用のターゲットとしては構造的な欠陥を持っている)のように、鳴り物入りで登場してもその後に注目されない指数になる場合もあり得る。 付け加えると、「運用のターゲットとして」のTOPIXは、例えば日経平均と比較して相対的に優れているが、欠点がないわけではない。プライム指数連動インデックスファンドが同様の欠点を引き継がないかについて、投資家は十分注意しておきたい』、「年金基金などで、ベンチマークをいきなりプライム指数に変える向きがあれば、運用者としての見識を疑うべきだ。 また、将来「プライム指数連動インデックスファンド」が登場した場合に、この指数がどのように使われているかについては、十分注意を払う必要がある」、その通りだ。

次に、8月15日付け東洋経済オンラインが掲載した財務省出身で慶應義塾大学大学院准教授の小幡 績氏による「東証の「市場改革」は何が大きくズレているのか 日本の企業統治に不足しているものは何か」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/448260
・『今回は東証のTOPIX(東証株価指数)改革についてとりあげたい。この連載でも山崎元さんが「東証の『プライム創設』で新TOPIXはどうなるのか」で指摘されていたが、私に言わせればこれはコーポレートガバナンス(企業統治)も金融も経済もわかっていない人々による改革だ。最重要である「2つの軸」で180度間違っているのではないか。今回は、それを説明しよう』、手厳しい批判だ。
・『なぜ皆がTOPIXにこだわるのか  東証は市場再編およびTOPIXという株式指標の変更を2022年4月から実施する。 これまでの東証1部、2部、マザーズ、および取引所再編で統合されたジャスダック市場を、プライム、スタンダード、グロースの3つに再編するというものだ。 要は、統合後、そのままになっていたものをわかりやすく整理するというもので、これ自体はおかしなことではない。 おかしいのは、これにかこつけて出てきた下心だ。それはTOPIXという株価水準指標を改革するということである。理由は「市場区分が変わるから、いままでの東証1部すべてを含んでいたTOPIXという代表指標を変える」ということだが、実は本音の意図は逆だ。 TOPIXという指標の評判が悪いため、投資家たちのニーズに合うようにTOPIXを変えたい。そして日本株を世界の機関投資家にもっと買ってもらいたい。いきなり変えるのも唐突だから、整理がなされていない市場区分の市場再編をします、その結果、TOPIXも変わります、ということだ。 実際、市場再編はさほど話題に上らずに、TOPIXの変更にすべての注目が集まっている。再編が関係するのは、東証1部が選抜されて東証プライムに移行し、落ちるとTOPIXから外れるから企業も投資家も右往左往している。すべてはTOPIXなのである。 では、なんでそんなにTOPIXという指標が重要なのか。 それは、世界中の機関投資家が、株価指数をベンチマークにして投資・運用しているからだ。彼らに株を買ってもらえなければ株価は上がらず、取引してもらえなければ、取引所に手数料は入らず、取引所が立ち行かなくなってしまう。 機関投資家の主流はパッシブで、株価指数(インデックス)に投資する。アクティブと呼ばれる運用者が自分で銘柄選択をする場合でも、インデックスをベンチマークにして、その構成に近い投資を行い、運用者としての特徴を投資家(資金の出資者)にアピールする、つまり自分の「味」を出すためには、少しそこからずらすだけである。 この結果、市場の投資資金のほとんどはインデックスに流れ込む。だから、インデックスは重要なのである。 個人投資家でさえ、初心者もプロも正しい投資はインデックスのETF(上場投資信託)である。日本で有名な日経平均株価は225銘柄のインデックスであるが、個別銘柄の名目の価格(例えばファーストリテイリング1株約7万5430円、ソフトバンクグループは同6647円、8月13日現在)をウェイトとするために、非常に偏っており(前述の2銘柄などのウェイトが極端に高い)もので、ベンチマークにはふさわしくない。 よって、普通の運用者は皆TOPIXをベンチマークとして使う。世間で日経平均が圧倒的に有名なのは「株価指数とはブランドだから」ということに尽きる。同様に、先物やオプションで日経平均が使われるのは、みんなが使うから使うだけのことであり、彼らは運用に興味はなく、高速のトレーディングや短期のセンチメントで売買することが商売だからである。ただ、彼らも取引所の主要顧客であり、収入源の一つである』、「市場の投資資金のほとんどはインデックスに流れ込む。だから、インデックスは重要」、「日経平均株価」は「非常に偏っており・・・ベンチマークにはふさわしくない。 よって、普通の運用者は皆TOPIXをベンチマークとして使う」、なるほど。
・『インデックス投資が主流になって、どうなった?  さて、この結果、インデックス投資が主流になってしまい、リサーチを丹念に行う小型株ファンドはもちろん、アクティビストファンド、ヘッジファンドも大規模運用者に押し流されて埋もれかけている。だから、アクティビストは埋もれないように過激化し、世界中で猛威を振るって、企業経営を混乱させている。 一方、HFTと呼ばれる、高速取引を行うトレーダーたちは「ナノセカンド(=10億分の1秒)」を争い、隙間のサヤ取りをしたり、サヤ取りと見せかけて、ナノセカンド単位での仕手筋的な動きをしたりして、稼ぐ。それは取引所にも利益にはなるが、そのためにシステムに過度な負荷がかかり、コストもかかる。実際、結果的にシステムの不調の責任をとる形で社長が辞任したことは記憶に新しい。これが、ここ10年の相場の現実だ。 投資家たちはローコストのインデックスファンドだけ、少し出資者の色を出すならESG(環境・社会・ガバナンス)などプラスして社会貢献を求めるのが流行している。この結果、個別の企業の隠れた価値を見抜いて賭ける投資家はほとんど存在しなくなってしまったのである。 インデックスファンドは、いちいち個別の企業を丁寧に分析する暇はなく、エンゲージメントと称して経営者と対話するというが、結局は株主議決権行使アドバイス会社に従うだけだ。さらにこのアドバイス会社も結局は客観基準で、形式的な議論に終始しないと網羅的に一貫性のあるアドバイスはできないから、要は、形式的な判断になる』。かつては、機関投資家にもアナリストがいたが、存在意義は薄らいでいるのだろう。 
・『「大機関投資家の離反」を恐れた改革?  これらの結果、世界の大規模機関投資家たちは、インデックスに含まれるほぼすべての会社に投資し、ガバナンスは不在になりがちだ。お茶を濁すために、議決権行使をするが、それもブランド活用となり、議決権行使アドバイザーも客観基準という名の形式基準、イメージ基準で投資するから、投資家サイドは誰も個別の企業の分析をしなくっているのに等しいのだ。 これが東証へのインデックス改革の要求へと結びつく。「俺たち投資家は忙しいんだ。だから、そのまま投資して儲かるようなインデックスを作れよ。そうでなければ面倒だから投資しないよ。TOPIXにも、さらには日本そのものへの投資を止めちゃうよ」ということなのである。だから、この恐怖におびえて、東証と日本政府は一丸となって、TOPIXの見直しを行おうとしているのである。 つまり、私に言わせれば、市場構造改革という名の下に行われようとしている今回の改革とは、ガバナンスとは無関係(それどころか改悪)であり、180度誤った方向の変更なのである。 東証、証券取引所は誰のためにあるのか。誰のどんなことのためにあるのか。この2つの最重要点について、根本的に誤っているのだ。 第1に、取引所は、資金調達をして経営を発展させようとしている企業と、それに対して出資をする投資家の保護のためにあるはずだ。今回の東証改革は、どちらの役にも立っていない。 取引所の役割は、第1に企業の資金調達を助けることである。そのためには、良い投資家を呼んでくることが必要である。よい投資家とは誰か。真の長期的な企業価値を理解し、その最大化を追求する投資家である。結論から言えば、多くのインデックス投資家は、それには当たらない。ましてやナノセカンドの高速取引をするトレーダーは問題外である。本来、東証がやるべきなのは、長期に企業とともに企業価値を最大化する仲間となる投資家を増やすことである。 取引所の第2の役割とは、企業へ出資する投資家を保護する役割である。投資家が持つリスクをとって出資する意欲を阻害しないように、投資対象となる企業を監視する、ということである。これこそが、ガバナンスである』、「市場構造改革という名の下に行われようとしている今回の改革とは、ガバナンスとは無関係(それどころか改悪)であり、180度誤った方向の変更なのである。 東証、証券取引所は誰のためにあるのか。誰のどんなことのためにあるのか。この2つの最重要点について、根本的に誤っているのだ」、極めて手厳しい批判だ。
・『東証が企業のガバナンスに責任を担うことが重要  例えば、硬直的な制度は東芝の大混乱を招いた根本的原因のひとつにもなった。すなわち「帳簿上債務超過が2期連続なら上場廃止」という形式基準一辺倒で、2兆円以上の価値が確実にある子会社を実質基準で判断せずに上場廃止を迫った。結局、血迷った東芝は、自ら「もっとも望まない投資家」を呼び込んでしまった。 このようなことが起きないようにすることが最重要である。企業の健全性を実質的に東証が判断する、そのような手間、暇、コスト、そして実質的に判断するという、責任を負ったガバナンスを東証が自ら担うことが必要である。 しかし、そのような役割にはしり込みをしておきながら、プライムというあたかも東証が保証するブランドをインデックス投資家に提供するようなことは積極的に行おうとしている。これは根本的な間違いではないか。 さらに、このプライムの基準は問題ではないか。第1に、そもそも企業を規模でプライムとスタンダードに分けていることだ。「大きければよい」という時代は19世紀に終わった。量より質である。だから、流通時価総額100億円以上ならプライムという高級市場でそれ以下なら普通のスタンダード、というのはおかしい。 第2に、流通株式という基準を用い、さらにこの基準を従来から変更していることである。要は、売買できる株式だけを時価総額の算定の中に入れるということである。株式を上場しても、創業者が自分や一族で保有している分や、大企業が子会社を上場した場合に、大株主として残ったような場合には、普通の状況では、彼らの持ち分は市場に出てくることはないから、市場に流通する株式の実質割合は低いということになる。 このときに、このような類の株式は除いて、残りの株式だけで、その企業の時価総額を算出するということである。その結果として、流通時価総額が100億円を超えるかどうかで、プライムに残るかどうか(現状東証1部の企業は)が決まる、ということだ。 そして、今回はおそらく、銀行などの政策保有株、企業の株式持ち合いなどを排除することを目的のひとつとして、流通株式の定義の変更を行ったのであろう。 この基準変更は、根本的な哲学が間違っているのではないか。つまるところ彼らの哲学は、株式が流通している企業のほうが偉いということである。だから、銀行が持っていても、目的が純投資であり、売買の実績があれば、流通に入れるという。なにをかいわんやである』、「この基準変更は、根本的な哲学が間違っているのではないか。つまるところ彼らの哲学は、株式が流通している企業のほうが偉いということである。だから、銀行が持っていても、目的が純投資であり、売買の実績があれば、流通に入れるという。なにをかいわんやである」、同感である。
・『大規模な機関投資家を見過ぎていないか  なぜいい企業だと思い、創業時から出資したのに、その株を手放さなくてはいけないのか。なぜちょこまか売買する必要があるのか。その企業を信頼し、将来を嘱望していればこそ売らないのだ。これは世の中の常識だ。ビンテージカーでも中古マンションでも歴史的な美術品でも、よいものはめったに売りに出ない。オークションなど市場に出回っているものは、言ってみれば、何らかの訳あり品だけなのである。 企業も同じだ。実際、M&A市場においても、「良いもの」は売りに出ない。創業者、大株主は死んでも手放さない。それなのに、短期に売買されればされるほど偉くてプライム市場に残り、誰も売らない超優良企業はプライム落ちをするものもある、そうした側面があるのである。 象徴的なことに、プライムから外すかどうかの基準に売買代金回転率が入っている。トレーダーが売り買いする企業は残るのである。デイトレーダーが好きな銘柄は残り、個人投資家が長期保有し続ける銘柄は外される、のである。 なぜ、こんな馬鹿げたことになっているのか。なぜ100億円以上の時価総額の大きな企業だけがプライムなのか。なぜ、株式が毎日売買される企業が偉いようにみなされるのか。 それは、インデックス投資家が売買しやすいからである。大規模な機関投資家にとっては、時価総額20億円の企業はどんなに魅力的であっても投資対象にならない。日本株を1兆円運用しているときに、時価総額20億円の企業にその5%の1億円を投資して、その企業の株価が倍になっても儲けは1億円だ。1兆円の0.01%だ。チリが積もっても山にならない。 だから、大規模機関投資家は時価総額の大きな企業からインデックスに目をつぶって投資するのである。実際には目はつぶらない。日本に投資するかどうか、アジアにおける中国以外の国の中で日本に何%投資するかは判断するが、日本の中でどの企業に投資するかは自分で判断せずにインデックスに頼るのである。こういうときに便利なインデックスが欲しいのである。そして、東証は、彼らのためだけに全力でTOPIX改革を行っているように見えるのである。 では、東証はどうすればいいのか。 それは、長くなったので次回にしよう。ガバナンスの本質もそこで議論したい。ただ、最重要ポイントだけを言っておくと、日本のガバナンスに足りないのは、制度でもなく、社外取締役でもなく、終身雇用が悪いのでもない。良い株主、投資家が少なすぎることに尽きる。 企業価値の長期的な最大化を目指し、自らも積極的に企業を理解し、独自に判断する投資家が増加し、彼らが株主にならない限り、ガバナンスはよくなりようがないのだ(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースや競馬論などを語るコーナーです。あらかじめご了承ください)』、「短期に売買されればされるほど偉くてプライム市場に残り、誰も売らない超優良企業はプライム落ちをするものもある、そうした側面があるのである。 象徴的なことに、プライムから外すかどうかの基準に売買代金回転率が入っている。トレーダーが売り買いする企業は残るのである。デイトレーダーが好きな銘柄は残り、個人投資家が長期保有し続ける銘柄は外される、のである」、確かにその通りだ。どうも今回の改革は、極めて問題が多いようだ。
タグ:資本市場 (その7)(東証の市場区分再編で「プライム落ち」に企業がおびえなくていい理由、東証の「市場改革」は何が大きくズレているのか 日本の企業統治に不足しているものは何か) ダイヤモンド・オンライン 山崎 元 「東証の市場区分再編で「プライム落ち」に企業がおびえなくていい理由」 「上場」はファイナンスの必要性はなくても、学生の採用などメリットは様々だ。 「「プライム」から外れても」「TOPIXに採用され続けてインデックスファンドの保有対象となる」、のであれば、実害はなさそうだ。 理屈の上ではその通りだが、これまでの「1部上場」が「プライム落ち」すれば、経営者はみっともない思いをさせられるケースが殆どではないだろうか。 「安売りしすぎ」で「かつてのようなブランド価値はなくなっている」とはお粗末だ。 「企業は、「プライム入り」を気にするよりも、本業で収益を上げることに注力すべきだ。社長の意地だけを理由にプライム入りを目指すのは本末転倒」、その通りだが、現実にはそうはいきそうもない。 「年金基金などで、ベンチマークをいきなりプライム指数に変える向きがあれば、運用者としての見識を疑うべきだ。 また、将来「プライム指数連動インデックスファンド」が登場した場合に、この指数がどのように使われているかについては、十分注意を払う必要がある」、その通りだ。 東洋経済オンライン 小幡 績 「東証の「市場改革」は何が大きくズレているのか 日本の企業統治に不足しているものは何か」 手厳しい批判だ。 「市場の投資資金のほとんどはインデックスに流れ込む。だから、インデックスは重要」、「日経平均株価」は「非常に偏っており・・・ベンチマークにはふさわしくない。 よって、普通の運用者は皆TOPIXをベンチマークとして使う」、なるほど。 かつては、機関投資家にもアナリストがいたが、存在意義は薄らいでいるのだろう。 「市場構造改革という名の下に行われようとしている今回の改革とは、ガバナンスとは無関係(それどころか改悪)であり、180度誤った方向の変更なのである。 東証、証券取引所は誰のためにあるのか。誰のどんなことのためにあるのか。この2つの最重要点について、根本的に誤っているのだ」、極めて手厳しい批判だ。 「この基準変更は、根本的な哲学が間違っているのではないか。つまるところ彼らの哲学は、株式が流通している企業のほうが偉いということである。だから、銀行が持っていても、目的が純投資であり、売買の実績があれば、流通に入れるという。なにをかいわんやである」、同感である。 「短期に売買されればされるほど偉くてプライム市場に残り、誰も売らない超優良企業はプライム落ちをするものもある、そうした側面があるのである。 象徴的なことに、プライムから外すかどうかの基準に売買代金回転率が入っている。トレーダーが売り買いする企業は残るのである。デイトレーダーが好きな銘柄は残り、個人投資家が長期保有し続ける銘柄は外される、のである」、確かにその通りだ。どうも今回の改革は、極めて問題が多いようだ。
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