電気自動車(EV)(その10)(「大逆転はここから始まる」トヨタがEVより"水素車"にこだわる本当の理由 EVシフトの盲点「蓄電池の限界」、三部敏宏社長が明かす決断の背景 ホンダが「脱エンジン」に舵を切った真意、EV化で見え始めた欧米の異なる思惑 日本の競争力を脅かす「LCA」とは) [産業動向]
電気自動車(EV)については、5月20日に取上げた。今日は、(その10)(「大逆転はここから始まる」トヨタがEVより"水素車"にこだわる本当の理由 EVシフトの盲点「蓄電池の限界」、三部敏宏社長が明かす決断の背景 ホンダが「脱エンジン」に舵を切った真意、EV化で見え始めた欧米の異なる思惑 日本の競争力を脅かす「LCA」とは)である。
先ずは、5月29日付けPRESIDENT Onlineが掲載した元外務省職員、EnergyShift発行人兼統括編集長(afterFITメディア事業部長)の前田 雄大氏による「「大逆転はここから始まる」トヨタがEVより"水素車"にこだわる本当の理由 EVシフトの盲点「蓄電池の限界」」を紹介しよう。なお、筆者の略歴は最終頁にある)
https://president.jp/articles/-/46422
・『自動車の電動化(EVシフト)が進んでいる。「EnergyShift」発行人の前田雄大さんは「トヨタをはじめする日本勢が電動化で出遅れているとの見方があるが、それは間違いだ。トヨタがEVよりも水素自動車(FCV)にこだわり続けているのには理由がある」という――』、どんな理由なのだろう。
・『なぜ「EV化」ではトヨタの名前がないのか 2016年のパリ協定の発効以後、国際社会では着々と脱炭素化が進展していた。加えて昨年9月、中国の習近平国家主席が連総会で、2060年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言。アメリカも脱炭素を全面に打ち出すバイデン政権が発足したことで、その流れは決定的となった。 自動車のEV化はもはや世界的な潮流だ。欧州勢は2017年にいち早くガソリン車の廃止を打ち出し、ハイブリッドを飛び越していち早くEV化に着手。中国、北米もEV化とガソリン車廃止の施策を発表し、世界の主要市場はEV化という流れで一本化している。 日本の主力産業である自動車産業も例外ではない。だが、この過熱するEV戦線に日本勢、特にその筆頭であるトヨタの存在感がないのである。 2020年、EVを積極的に展開する米国のテスラ社の時価総額がトヨタを上回ったことは衝撃を与えた。また、2020年の世界におけるEV売上ランキングにおいて日本勢がトップ10社に入らなかったことも重なり、日本では「EV出遅れ論」もささやかれる。 リーフを一早く開発し、EV化に10年以上も取り組んできた日産や限定的に市場投入している例を除けば、市場においてEVで勝負できている日本企業は無いに等しい。 ドイツのVWはIDシリーズ、フォードは北米でマスタングのEVシリーズを展開。韓国は現代自動車がIONIQシリーズを投入し、中国はNIOや40万円台の低価格EVで話題となった上汽通用五菱汽車など続々と新興企業が成長している。しかし、本来そこにいるはずのトヨタの名前がない。それはなぜなのだろうか』、確かに不思議だ。
・『EV化が世界の一大潮流になっているのに… 世界がEV競争へとこの数年向かっていた間、トヨタはどこに向かっていたのか。 結論から言えば、その答えは「水素」である。厳密には「ハイブリッドの後に水素」という構想があった。先日行われた決算報告でも、引き続きその戦略がトヨタの中核を形成していることが分かる。 たしかに燃費の良いハイブリッド車が世界で売れているのも事実だ。トヨタの見立てはあながち間違ってはいない。しかし、EV化が世界の一大潮流になった今、なぜトヨタは“水素”に固執しているのか。それは、ハイブリッドで他の追随は許さないポジションを取ったトヨタの、次の一手への布石というべきものだと言える。 ハイブリッド車は、ガソリンで駆動するエンジンに加え、モータ、バッテリーおよびパワーコントロールユニットを組み合わせたものだ。走行中に発電した電気をバッテリーに貯め、バッテリーの残量を使ってモーター駆動でも走る。 トヨタの車両電動化のコア技術・CASE技術出典:トヨタホームページより (図表1)「トヨタの車両電動化のコア技術・CASE技術」はリンク先参照) 図表とおり、エンジンを排して充電器を付ければEVになる。しかしトヨタはEVをHVの次の選択として選ばなかった。蓄電池は高価であり、コストがかかった。長い充電時間の割に航続距離が短いという欠点もあった。そこでたどり着いたのが、水素であった』、検討した当時の技術的制約のなかでは「水素」だったのだろうが、「技術的制約」も変化している筈だ。
・『水素に張ったトヨタは予想を外したのか この図表のとおり、ハイブリッド車のエンジンを燃料電池(水素を燃料に発電する装置)に置き換え、ガソリンタンクの代わりに高圧水素タンクを搭載した。それが燃料自動車(FCV)だ。自社が磨き上げたコアとなる電動化技術を生かす形で、トヨタは20年以上の研究開発を経て、2014年に初の量産型FCV「MIRAI」につながった。 しかしその後、脱炭素化の流れは一気に進んだ。エネルギーを貯蔵する役割としての蓄電池の役割がより重要となり、性能がこの数年で急速に向上し、価格も下がった。 課題とされていたEVの航続距離、充電時間、コストは、テスラ社がブレークスルーを見せ、航続距離は米国の環境保護局(EPA)基準で400キロ以上を確保。充電も独自の急速充電で30分強と大幅に短縮させた。価格はより安価になり、EVが競争力を持ち始めた。 こうした世界の動きを見ると、蓄電池を搭載するEVに軍配が上がり、水素に張ったトヨタは予想を外したと見る向きも少なからずある。 この主張は、一定程度、正しい。 たしかに水素は扱いが難しい気体であり、まだ輸送も商業的に十分に確立したとは言えない。また、エネルギー効率の悪さというデメリットもある。ただ、後者については、水素は地球上で最も豊富な元素であり、再生可能エネルギーと水があれば、使う場所で生産することができ、デメリットは相殺できる。 問題はコストと供給網不足、この2点だ』、「世界の動きを見ると、蓄電池を搭載するEVに軍配が上がり、水素に張ったトヨタは予想を外したと見る向きも少なからずある」、なるほど。
・『高コストと供給網不足という大問題 水素は、再エネ由来のグリーン水素、化石燃料由来のブラウン水素、ブラウン水素の製造過程でCO2を回収してCO2フリーとしたブルー水素などがある。最も低コストのブラウン水素でもガソリンに比べて高く、日本政府が掲げる目標の4倍以上の価格だ。 商業ベースに乗るにはかなり道のりがある。EVの電費が、ガソリン車の燃費よりも経済性があるのとは対照的だ。 加えて水素は、まだ供給網が確立されていない。トヨタが水素戦略を推し進め、政府がそこをある程度バックアップしている日本ですら、現時点で全国に130強の水素ステーションしかない。EVに関して充電インフラ不足が懸念として指摘されているが、充電インフラが2019年時点で2万を超えている現状から鑑みれば、そのインフラ不足は明らかである。 世界を見ても、アメリカ、欧州、中国いずれもEV充電スタンドの大規模増設を方針と打ち出しており、また、スタンドさえあればそれらの国では自由に電気にアクセスできるのに対して、水素はまだそうしたアクセスも確立されていない。 したがって、現時点の比較でみると、あくまで燃料電池車(FCV)とEVの比較では、EVの方が競争力を有しているという指摘は妥当なのである』、確かにその通りのようだ。
・『「水素自動車は乗用車」と決めつけてはいけない 無論、こうした状況をトヨタはもちろん認識している。EVを決して排除しているわけではなく、今年の決算発表では蓄電池を搭載したバッテリー電気自動車(BEV)のラインナップの拡充することにも触れている。 しかし、「焦らず、水素戦略を実行していけばよい」というのがトヨタの立場だ。そして、著者には、トヨタがEV化の盲点を突く考えを持っているように思う。 先ほど、大きな問題としてコストと供給網不足を列挙したが、こちらについては、理論上、需要が増えれば、供給量も増えるので規模の経済が働き、コストが低減していく。その結果、コスト安を受けてさらに需要が拡大していくので大した問題ではない。水素利活用が世界的に始まったいま、時間が解消する話である。 最も重要なのは、トヨタは水素を乗用車の文脈だけに限って考えているわけではないという点だ。トヨタが開発しているFCスタックと呼ばれる燃料電池は、水素を原料とした高性能発電機と捉えた方がもはや適切な状況にある。 初代MIRAI用に燃料電池(FC)システムを開発して以降、トヨタはさまざまな業界と対話をしてきた結果、汎用性のあるFCシステムの需要があることつかんだ。第2世代のFCシステムは、乗用車以外の転用を念頭に、コンパクトかつ高性能な仕様を実現させている。 モジュール化されたFCシステムは、トラック・バス・鉄道・船舶などのモビリティや定置式発電機などさまざまな用途に活用することが可能となったとトヨタは説明する』、確かに用途は広くした方が費用回収などでも有利だ。
・『トヨタが「長距離輸送トラック」に着目した理由 トヨタが水素にこだわる理由はこの点にある。 EVについては乗用車については蓄電池を多く積むことで、個人の使用であれば航続距離のニーズを十分に満たすレベルまで向上した。しかし、船舶やトラックといった長距離になると、それを賄い切れるほどの蓄電性能はまだなく、性能向上するにはかなりのイノベーションが必要となる。トヨタはまさにこの穴を水素で突く考えなのだ。 水素を原料とするFCシステムは長距離の航続距離の実現が可能であり、かつ、水素の充電は3分もあればフル充填じゅうてんが可能である利点がある。 そこでトヨタがまず着目したのが、長距離輸送トラックだ。商用トラックはエネルギー需要量が乗用車よりも多いため、水素需要創出にはもってこいの車両である。すでに北米では日野自動車と提携してFCシステムを搭載した大型トラックの共同開発を行っており、中国でも現地自動車メーカーと提携し、FCトラックの導入準備を進めている。 同様に長距離輸送を前提とする船舶や鉄道、バスへのFCシステム導入も視野に入れ、そこでの水素需要創出もトヨタは虎視眈々たんたんと狙っている。 さらに、国内企業と連携し、産業用の定置式FC発電機を共同開発も進めている。工場等の非常用ディーゼル発電機の置き換えや、港湾での荷役機械、停泊船舶への電力供給などを用途として想定しているとのことで、輸送セクターにとらわれずに貪欲に水素需要の創出に取り組んでいる』、「産業用」の「水素需要創出」ははるかに大規模なものだろう。
・『トヨタが狙った展開がようやく訪れつつある トヨタがFCV販売で苦戦する中、世界各国は水素に着目をしてこなかった。しかし、再エネのコストが劇的に低下を見せ始めた2019年ころより、欧州から風向きが変わり始めた。 2020年7月には欧州委員会が水素戦略を発表し、巨額の資金を投じる考えを示している。また、世界最大の大型トラック市場を有する中国では、政府が自動車の電動化の文脈で、トラックなどの商用車についてFCVの適用に言及。アメリカも政権の施策パッケージの中でグリーン水素の利活用に触れている。 そうした水素利活用の方向性は、先般、開催された先進7カ国(G7)環境・気候大臣会合においても確認された。成果文書では、水素の重要性と商業規模での水素の推進に言及がされたほか、将来の国際的な水素市場の発展を実現すべく努力という形で記載された。 いま、水素について追い風が吹いている。まさに、トヨタが狙った展開がようやく訪れつつある状況ではないか』、「水素の重要性と商業規模での水素の推進」、たまたま一致しただけなのではなかろうか。
・『「水素は地球上で最も豊富な元素」という重要な事実 振り返ればプリウスを最初投入したときにも数年は泣かず飛ばずの時期があった。しかし、トヨタの長期展望がはまって今はヒットしている。同様に水素についても、トヨタは思い描いた戦略を着々と進め、その狙いに国際社会がようやくはまり始めた。 脱炭素化の進展がトヨタの想像を上回って到来しているのも事実だろう。蓄電池の想像以上の進化、テスラをはじめとするEV新勢力の台頭、欧州の周到な自動車産業復権の狙い等々、トヨタとして加味をしなければならない事項は多い。 特に、これから本腰を入れるEVに関しては、後発となったのは間違いのない事実だ。 それでもなお、現行のハイブリッド戦線で、当面、トヨタとして十分に戦っていけるだろう。その間に、着々と進めている水素戦略が花開くのか、それとも、ついに全力を出したEV路線で猛追からの逆転を果たすのか。いずれの形であれ、国際エネルギー機関が報告したように、世界はエネルギーの大部分を再生可能エネルギーに頼るようになり、そのコストが限りなく低減する未来がじきに来る。 そのときに、基本に立ち返って、水素は地球上で最も豊富な元素、というトヨタの着眼点が効いてくると筆者は考える。実は、そこまで行くと乗用車でもFCVがEVに対して競争力を持つ。 トヨタの水素戦略は、EVシフト、そして脱炭素の進展の先を見越した大戦略だ。トヨタ、そして日本勢の巻き返しはこれから始まる。「世界に日本あり」を脱炭素の文脈でぜひ示してほしい。(最後に筆者の前田 雄大氏の略歴はリンク先参照)』、「筆者」は「トヨタ」への見方が甘いようだ。「トヨタ、そして日本勢の巻き返しはこれから始まる」、そうなってほしいとは思うが、甘いような気がする。
次に、7月27日付け東洋経済Plus「三部敏宏社長が明かす決断の背景 ホンダが「脱エンジン」に舵を切った真意」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27650
・『ホンダが新たにブチ上げた電動化戦略。2040年までに新車をEV、FCVにするという思い切った計画だ。異例の決断の背景に何があるのか。 「まさかここまで踏み込んで具体的な時期や数字を出すとは思わなかった」。あるホンダ系部品メーカー幹部は、ホンダが新たにブチ上げた電動化の戦略に驚きを隠さなかった。 ホンダの三部敏宏社長は4月23日の就任会見で、グローバルで売る新車を2040年までに全て電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にする目標を打ち出した。日本政府が掲げる2050年温室効果ガス排出実質ゼロに歩調を合わせた形で、「自動車メーカーとしてまずTank to Wheel(車の走行時)のカーボンフリーを達成する責務がある」(三部社長)と力を込めた。 ガソリン車だけでなくハイブリッド車(HV)すら販売しない中長期の目標を表明したのは、日本の自動車メーカーで初めてだ。HVも含めたフルラインナップでの電動車戦略を推し進めるトヨタ自動車に対し、ホンダはそれと異なる道を行く決断を下したといえる』、「ガソリン車だけでなくHVすら販売しない」、確かに思い切った戦略だ。
・『「エンジンのホンダ」がなぜ? ホンダはかつて、マクラーレン・ホンダがF1で一世を風靡したように、「エンジンのホンダ」と呼ばれるほどエンジン開発に力を注いできた。 1970年代には新型エンジンを開発してアメリカの環境規制をいち早くクリアするなど、エンジン開発を成長に結びつけてきた。技術畑の三部氏もそんな開発の現場に身を置いてキャリアを築いてきた一人だ。 にもかかわらずEVとFCVに思い切って舵を切る背景には、世界的に加速する「脱エンジン車」への強い危機感がある。 アメリカのゼネラル・モーターズ(GM)は35年までにガソリン車を全廃し、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)は2030年にVWブランドで欧州販売の7割以上をEVにする目標を掲げる。国単位でもイギリスが2030年、フランスは40年までにガソリン車の新車販売を禁止する。アメリカはカリフォルニア州などが2035年までにZEV(ゼロ・エミッション・ビークル、走行時に排ガスを出さない車)以外の販売を禁じる方針だ。 こうした流れの中、ホンダは2016年発売のFCV「クラリティ FUEL CELL」の累計販売台数が約1800台(2020年末)、初の量産型EV「Honda e」は年間販売目標が日欧で1万台強にとどまる。将来的な電動車の本命とされるEV、FCVへ対応が進んでいるとはいい難い状況だった。 ホンダは自前主義で独立路線を貫いてきたが、今後は米国では提携関係にあるGM、中国では電池大手のCATLと組んでEV中心の電動化戦略を推し進める。 自動車メーカーにとってCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)と呼ばれる次世代技術への研究開発投資は重く、提携を生かしてEVやFCVの開発につなげる計画を描く。効率化を図るため、今後は車種の絞り込みに動く可能性も十分ある』、「ホンダ」の四輪事業は後述のように殆ど儲かってないので、「車種の絞り込み」の可能性は大いにある。
・『急展開に伴うリスクも ただ、EV化の急速な推進にはリスクもはらむ。1つはGMとの関係だ。提携では、GMがバッテリーなどのEV分野の開発、ホンダはエンジンの開発をそれぞれ担う。EVはコストの3~4割を占めるとされるバッテリー価格をどう引き下げていくかが販売価格を決めるうえでカギを握る。 GMは目下、韓国のLG化学と組んで米国内に電池工場を建設する巨額投資を進めている。EV拡大で腹を決めたホンダにとって、電池の確保という面でGMは心強い存在のはずだ。 だが、バッテリー技術の開発や投資でGMに主導権を握られたままだと、ホンダの新車開発がGMの動向に左右されかねない。それを防ぐためには、アメリカの電池調達で複数の取引先を開拓する必要があるだろう。 また、ホンダがEV、FCVへの集中投資を鮮明にした中、GM向けにエンジン開発を続けることにメリットが見えづらい。 もう1つのリスクはサプライチェーン(部品供給網)の維持だ。「ホンダの戦略はサプライヤーによっては死活問題だ」。あるホンダ系部品メーカーの幹部はそう語る。 将来的にガソリン車を“捨てる”というホンダの決断は、エンジン関連の部品メーカーには経営戦略の大転換を迫るものだからだ。エンジン周りとは別の部品メーカーも「われわれとしても考え方を変える。守備範囲(取り扱う部品)を広げないと生き残れない」(幹部)と危機感を示す。 これまでホンダ系のサプライヤーは再編を繰り返してきた。ホンダが大株主のサプライヤーもあり、今後はメーカー主導の再編が起きる可能性もある。ホンダは単に目標を掲げるだけではなく、電動化時代に対応できる取引関係を構築していくことが不可欠だ。 提携拡大とサプライチェーン維持に潜むリスクをどうコントロールできるか。それはホンダにとっての試練であり、電動化戦略の実現に向けた重要なポイントでもある』、「エンジン関連の部品メーカー」にとっては、生き残りのためには「守備範囲」の拡大は不可欠だろう。
・『四輪事業は低収益にあえぐ ミニバン市場を開拓した「オデッセイ」や「ステップワゴン」、軽自動車で「スーパーハイトワゴン」市場を作り上げた「N-BOX」など、ホンダはこれまで独自性のある商品を投入することで一定の存在感を示してきた。 しかし現在、ホンダの四輪事業は長年にわたるヒット車不足と低収益性にあえぐ状態が定着している。お膝元の日本ですら、登録車の販売台数上位20車種(2020年度)に入るのは3車種(フィット、フリード、ステップワゴン)のみ。営業利益率は1.5%と、トヨタ(8%)やスバル(6%)と比べて大きく水を開けられている。 八郷隆弘前社長時代、ホンダは2010年代前半の拡大戦略で膨れ上がった生産体制や、創業者・故本田宗一郎氏時代から聖域とされてきた本田技術研究所の再編にも踏み切った。こうした構造改革の効果が今後本格的に現れてくるのが2021年度以降となる。 ホンダはグローバルで推し進める新たな電動化戦略のために、研究開発に今後6年間で5兆円を投資する。将来に向けた投資を計画通り推し進めるためにも、現行車種のラインナップでしっかりと収益を上げていくことも欠かせない。 国内外の自動車メーカーがこぞってEVを投入する中、商品性と収益性の高いモデルを投入し、「ホンダらしさ」をどうユーザーに示していくか。「課題はたくさんあるが、同時に取り組んでいくしかない」と覚悟を語る三部新社長の双肩にホンダの将来がかかっている』、新生「ホンダ」で「ホンダらしさ」をどうユーザーに示していくか、「三部新社長」に期待したい。
第三に、8月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「EV化で見え始めた欧米の異なる思惑、日本の競争力を脅かす「LCA」とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/279590
・『EUと米国で自動車電動化政策に「ある違い」が出た。EUではガソリン車に加えてハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)とも禁止。一方、米国はPHVと燃料電池車(FCV)も許した「良いとこ取り」な方針だ。他方、工業製品評価に「ライフサイクルアセスメント」(LCA)が強化されると、火力発電中心の日本経済にとって大きな打撃である。メード・イン・ジャパン製品の競争力は失われるかもしれない』、LCAとはどんなものなのだろう。
・『EUに続き米国でも自動車電動化の規制表明 世界的な脱炭素の流れが、自動車産業を取り巻く環境を大きく変化させている。7月、欧州委員会は2035年にEU圏内でのガソリン車の販売を事実上禁止し、電気自動車(EV)などへの移行を目指す方針を示した。欧州委員会は、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)とも禁止する見込みだ。 一方、米国のバイデン大統領は大統領令に署名し、30年の新車販売に占めるEV、PHVと燃料電池車(FCV)の割合を50%に引き上げると表明した。世界最大の自動車市場である中国も、新車販売に思い切った規制をかけることを鮮明にしている。 こうした脱炭素の背景には、専門家の想定を上回る地球の気温上昇がある。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、21年~40年に産業革命前と比較した気温上昇幅が1.5度に達するとの予測を公表した。地球物理学の専門家に聞くと、現在の地球環境は相当厳しく、緊急事態だ。 今後、世界全体で自動車などの原材料の生産、利用、廃棄の際に排出される二酸化炭素量を評価する「ライフサイクルアセスメント」(LCA)が強化され、再生可能エネルギーを用いて生産された素材、部材、完成品を求める企業や消費者が増えるだろう。わが国経済は官民総力を挙げて、経済活動の根幹であるエネルギー政策から対策を進めなければならない』、「LCA」で「自動車などの原材料の生産、利用、廃棄の際に排出される二酸化炭素量を評価」することになると、例えば、日本の鉄鋼製品は高炉で鉄鉱石から作るが、欧米ではくず鉄を電炉で作るので、日本が著しく不利になる。
・『米国は雇用に配慮し「良いとこ取り」の妥協案 現在、世界には3つの大きな新車販売市場がある。大きい順に、中国(20年の販売実績、2531万台)、米国(同1458万台)、EU(同994万台)だ。現在、米欧が自動車の電動化に関する政策を、より厳しい方向に引き上げている。ポイントはPHVとHVの扱い方だ。厳しい順に並べると、EU、米国、中国となる。 まず、欧州委員会は35年に販売できる新車をEVなど走行時に温室効果ガスを排出しない車に限定し、HV、PHVを含むガソリン車、ディーゼル車の新車販売を事実上禁じる方針だ。欧州委員会はFCVも電動化の手段として重視しているが、FCVの場合、水素を700気圧にまで圧縮する高圧タンクの製造コストが高い。そのため、EUは電動化のメインとしてEVを重視し、関連する政策の立案を急いでいる。EU市民の間では、気候変動問題への危機感が強く、欧州委員会はその方向に進まざるを得ない。 2番目に基準が厳しいのが米国だ。米国は、30年に新車販売の半分をEV、PHV、FCVにする方針だ。欧州と異なり米国はPHVを含める。公約に気候変動への取り組みを掲げたバイデン大統領は脱炭素への取り組みを進めなければならない。 その一方で、バイデン政権は産業、雇用にも配慮しなければならない。環境と経済の両方に配慮した結果、EVとエンジン車の「良いとこ取り」をしたPHVを含めることで妥協点を見いだしたといえる。ただし、カリフォルニア州は35年までにすべての新車をゼロエミッション車にする計画であり、米国の自動車電動化は加速する可能性がある。 3番目が中国だ。中国はEV、PHV、FCVを「新エネルギー車」(NEV)に区分して補助金などの対象とし、HVは低燃費車として優遇する。中国では豪雨や大気汚染が深刻化しており、脱炭素への取り組みは待ったなしだ。ただ、中国は製造技術面に弱さがあるため、PHVに加えてHVも重視する。HVおよび内燃機関の製造に強みを持つわが国は、EU、米国、中国ほどの踏み込んだ政策を示せていない。このように主要国はそれぞれの事情を考慮して電動化を進めている』、日本もそろそろ「電動化」「政策」の枠組みを示すべきだろう。
・『工業製品の評価にLCAが与える影響 欧米大手は先行して対策を急ぐ 自動車の電動化が急がれているのは、温室効果ガスの排出によって、想定を上回るペースで地球温暖化問題が深刻化しているからだ。特に、過去に例を見ない洪水や山火事に見舞われているEU各国の危機感は非常に強く、脱炭素関連政策の立案が急ピッチで進んでいる。 まず、23年に欧州委員会は、炭素の「国境調整」(環境規制が緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける制度)の導入を目指している。それに加えて欧州委員会は、原材料の調達、生産、廃棄によって排出される二酸化炭素の量を評価するLCAの確立にも取り組んでいる。現状では、24年7月から車載バッテリーや産業用の充電池を対象に、ライフサイクル各段階での二酸化炭素排出量の計測と第3者による証明実施が予定されている。 工業製品などの価値評価にLCAが与えるインパクトは大きい。LCAに対応するために独フォルクスワーゲンは洋上風力発電事業に参入した。走行時にEVは温室効果ガスを出さない。しかし、生産工程ではガスが排出される。同社は、EVライフサイクルの中で温室効果ガスの排出量が大きいバッテリー製造を中心に再生可能エネルギーを用いた自動車生産を目指している。 また、米国でもLCAを重視する企業が増えている。20年7月、アップルは30年までに、自社のビジネス、サプライチェーン全体、および製品のライフサイクルすべてにおいてカーボンニュートラルを達成すると発表した。マイクロソフトはさらに野心的で、30年に「カーボンネガティブ」(排出量<吸収量)を達成し、50年までに1975年の創業以来に直接、および電力消費によって間接的に排出した二酸化炭素を完全に除去すると表明した。 製品のライフサイクル全体でどれだけ温室効果ガスの排出を抑えられているかが、顧客企業や消費者により厳しく評価される時代が到来している』、「LCA」については欧米企業に比べ「日本企業」の取り組みは遅れているようだ。
・『火力発電による日本製品は競争力を失う LCAを基準にした製品やサービスの評価の定着は、火力発電によって電力を供給しているわが国経済にとって大きなマイナスの影響を与える恐れがある。火力発電を主とするエネルギー政策の下で生産活動が続けば、メード・イン・ジャパンの製品の競争力は大きく低下する、場合によっては失われるかもしれない。 わが国に求められることは、経済活動の基礎であるエネルギー政策の転換を進めることだ。具体的な方策として、再生可能エネルギーの切り札といわれる洋上風力発電をはじめ、太陽光発電、水力発電などの推進が待ったなしである。 洋上風力発電に関しては、わが国には大型の風車を生産できるメーカーがない。その状況下、まず、海外の風力発電機メーカーからの調達を進める。その上で海外の再生可能エネルギーを支えるインフラ導入の事例を参考にして、再生可能エネルギーを中心とする発電源構成を目指すことになるだろう。 そうした取り組みが遅れると、欧州などでLCAを基準とするサプライチェーンおよびバリューチェーンの整備が進行し、わが国企業のシェア、および競争力は低下する可能性が高まる。 例えば、鉄鋼メーカーであれば高炉にコークスを投入して銑鉄を生産することは難しくなることが懸念される。脱炭素のために水素を用いた製鉄技術の確立が目指されているが、水素利用(再生可能エネルギーを用いた製造、運搬、貯蔵)のコストは高い。 コストを吸収することが難しい場合、かつてワープロの登場によってタイプライターの需要が消え、パソコンがワープロを淘汰したように、個々の企業だけでなく産業そのものの存続が危ぶまれる展開も考えられる。そうしたリスクにどう対応するか、政府は迅速に、エネルギー政策をはじめ産業政策のグランドデザインを提示し、経済全体が向かうべき方向を示さなければならない』、一時は電力会社は石炭火力を増設しようとしたが、「LCA」の考え方とは完全に逆行するものだ。もっと、「LCA」などの国際的潮流を的確に捉えた戦略立案が望まれる。
先ずは、5月29日付けPRESIDENT Onlineが掲載した元外務省職員、EnergyShift発行人兼統括編集長(afterFITメディア事業部長)の前田 雄大氏による「「大逆転はここから始まる」トヨタがEVより"水素車"にこだわる本当の理由 EVシフトの盲点「蓄電池の限界」」を紹介しよう。なお、筆者の略歴は最終頁にある)
https://president.jp/articles/-/46422
・『自動車の電動化(EVシフト)が進んでいる。「EnergyShift」発行人の前田雄大さんは「トヨタをはじめする日本勢が電動化で出遅れているとの見方があるが、それは間違いだ。トヨタがEVよりも水素自動車(FCV)にこだわり続けているのには理由がある」という――』、どんな理由なのだろう。
・『なぜ「EV化」ではトヨタの名前がないのか 2016年のパリ協定の発効以後、国際社会では着々と脱炭素化が進展していた。加えて昨年9月、中国の習近平国家主席が連総会で、2060年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言。アメリカも脱炭素を全面に打ち出すバイデン政権が発足したことで、その流れは決定的となった。 自動車のEV化はもはや世界的な潮流だ。欧州勢は2017年にいち早くガソリン車の廃止を打ち出し、ハイブリッドを飛び越していち早くEV化に着手。中国、北米もEV化とガソリン車廃止の施策を発表し、世界の主要市場はEV化という流れで一本化している。 日本の主力産業である自動車産業も例外ではない。だが、この過熱するEV戦線に日本勢、特にその筆頭であるトヨタの存在感がないのである。 2020年、EVを積極的に展開する米国のテスラ社の時価総額がトヨタを上回ったことは衝撃を与えた。また、2020年の世界におけるEV売上ランキングにおいて日本勢がトップ10社に入らなかったことも重なり、日本では「EV出遅れ論」もささやかれる。 リーフを一早く開発し、EV化に10年以上も取り組んできた日産や限定的に市場投入している例を除けば、市場においてEVで勝負できている日本企業は無いに等しい。 ドイツのVWはIDシリーズ、フォードは北米でマスタングのEVシリーズを展開。韓国は現代自動車がIONIQシリーズを投入し、中国はNIOや40万円台の低価格EVで話題となった上汽通用五菱汽車など続々と新興企業が成長している。しかし、本来そこにいるはずのトヨタの名前がない。それはなぜなのだろうか』、確かに不思議だ。
・『EV化が世界の一大潮流になっているのに… 世界がEV競争へとこの数年向かっていた間、トヨタはどこに向かっていたのか。 結論から言えば、その答えは「水素」である。厳密には「ハイブリッドの後に水素」という構想があった。先日行われた決算報告でも、引き続きその戦略がトヨタの中核を形成していることが分かる。 たしかに燃費の良いハイブリッド車が世界で売れているのも事実だ。トヨタの見立てはあながち間違ってはいない。しかし、EV化が世界の一大潮流になった今、なぜトヨタは“水素”に固執しているのか。それは、ハイブリッドで他の追随は許さないポジションを取ったトヨタの、次の一手への布石というべきものだと言える。 ハイブリッド車は、ガソリンで駆動するエンジンに加え、モータ、バッテリーおよびパワーコントロールユニットを組み合わせたものだ。走行中に発電した電気をバッテリーに貯め、バッテリーの残量を使ってモーター駆動でも走る。 トヨタの車両電動化のコア技術・CASE技術出典:トヨタホームページより (図表1)「トヨタの車両電動化のコア技術・CASE技術」はリンク先参照) 図表とおり、エンジンを排して充電器を付ければEVになる。しかしトヨタはEVをHVの次の選択として選ばなかった。蓄電池は高価であり、コストがかかった。長い充電時間の割に航続距離が短いという欠点もあった。そこでたどり着いたのが、水素であった』、検討した当時の技術的制約のなかでは「水素」だったのだろうが、「技術的制約」も変化している筈だ。
・『水素に張ったトヨタは予想を外したのか この図表のとおり、ハイブリッド車のエンジンを燃料電池(水素を燃料に発電する装置)に置き換え、ガソリンタンクの代わりに高圧水素タンクを搭載した。それが燃料自動車(FCV)だ。自社が磨き上げたコアとなる電動化技術を生かす形で、トヨタは20年以上の研究開発を経て、2014年に初の量産型FCV「MIRAI」につながった。 しかしその後、脱炭素化の流れは一気に進んだ。エネルギーを貯蔵する役割としての蓄電池の役割がより重要となり、性能がこの数年で急速に向上し、価格も下がった。 課題とされていたEVの航続距離、充電時間、コストは、テスラ社がブレークスルーを見せ、航続距離は米国の環境保護局(EPA)基準で400キロ以上を確保。充電も独自の急速充電で30分強と大幅に短縮させた。価格はより安価になり、EVが競争力を持ち始めた。 こうした世界の動きを見ると、蓄電池を搭載するEVに軍配が上がり、水素に張ったトヨタは予想を外したと見る向きも少なからずある。 この主張は、一定程度、正しい。 たしかに水素は扱いが難しい気体であり、まだ輸送も商業的に十分に確立したとは言えない。また、エネルギー効率の悪さというデメリットもある。ただ、後者については、水素は地球上で最も豊富な元素であり、再生可能エネルギーと水があれば、使う場所で生産することができ、デメリットは相殺できる。 問題はコストと供給網不足、この2点だ』、「世界の動きを見ると、蓄電池を搭載するEVに軍配が上がり、水素に張ったトヨタは予想を外したと見る向きも少なからずある」、なるほど。
・『高コストと供給網不足という大問題 水素は、再エネ由来のグリーン水素、化石燃料由来のブラウン水素、ブラウン水素の製造過程でCO2を回収してCO2フリーとしたブルー水素などがある。最も低コストのブラウン水素でもガソリンに比べて高く、日本政府が掲げる目標の4倍以上の価格だ。 商業ベースに乗るにはかなり道のりがある。EVの電費が、ガソリン車の燃費よりも経済性があるのとは対照的だ。 加えて水素は、まだ供給網が確立されていない。トヨタが水素戦略を推し進め、政府がそこをある程度バックアップしている日本ですら、現時点で全国に130強の水素ステーションしかない。EVに関して充電インフラ不足が懸念として指摘されているが、充電インフラが2019年時点で2万を超えている現状から鑑みれば、そのインフラ不足は明らかである。 世界を見ても、アメリカ、欧州、中国いずれもEV充電スタンドの大規模増設を方針と打ち出しており、また、スタンドさえあればそれらの国では自由に電気にアクセスできるのに対して、水素はまだそうしたアクセスも確立されていない。 したがって、現時点の比較でみると、あくまで燃料電池車(FCV)とEVの比較では、EVの方が競争力を有しているという指摘は妥当なのである』、確かにその通りのようだ。
・『「水素自動車は乗用車」と決めつけてはいけない 無論、こうした状況をトヨタはもちろん認識している。EVを決して排除しているわけではなく、今年の決算発表では蓄電池を搭載したバッテリー電気自動車(BEV)のラインナップの拡充することにも触れている。 しかし、「焦らず、水素戦略を実行していけばよい」というのがトヨタの立場だ。そして、著者には、トヨタがEV化の盲点を突く考えを持っているように思う。 先ほど、大きな問題としてコストと供給網不足を列挙したが、こちらについては、理論上、需要が増えれば、供給量も増えるので規模の経済が働き、コストが低減していく。その結果、コスト安を受けてさらに需要が拡大していくので大した問題ではない。水素利活用が世界的に始まったいま、時間が解消する話である。 最も重要なのは、トヨタは水素を乗用車の文脈だけに限って考えているわけではないという点だ。トヨタが開発しているFCスタックと呼ばれる燃料電池は、水素を原料とした高性能発電機と捉えた方がもはや適切な状況にある。 初代MIRAI用に燃料電池(FC)システムを開発して以降、トヨタはさまざまな業界と対話をしてきた結果、汎用性のあるFCシステムの需要があることつかんだ。第2世代のFCシステムは、乗用車以外の転用を念頭に、コンパクトかつ高性能な仕様を実現させている。 モジュール化されたFCシステムは、トラック・バス・鉄道・船舶などのモビリティや定置式発電機などさまざまな用途に活用することが可能となったとトヨタは説明する』、確かに用途は広くした方が費用回収などでも有利だ。
・『トヨタが「長距離輸送トラック」に着目した理由 トヨタが水素にこだわる理由はこの点にある。 EVについては乗用車については蓄電池を多く積むことで、個人の使用であれば航続距離のニーズを十分に満たすレベルまで向上した。しかし、船舶やトラックといった長距離になると、それを賄い切れるほどの蓄電性能はまだなく、性能向上するにはかなりのイノベーションが必要となる。トヨタはまさにこの穴を水素で突く考えなのだ。 水素を原料とするFCシステムは長距離の航続距離の実現が可能であり、かつ、水素の充電は3分もあればフル充填じゅうてんが可能である利点がある。 そこでトヨタがまず着目したのが、長距離輸送トラックだ。商用トラックはエネルギー需要量が乗用車よりも多いため、水素需要創出にはもってこいの車両である。すでに北米では日野自動車と提携してFCシステムを搭載した大型トラックの共同開発を行っており、中国でも現地自動車メーカーと提携し、FCトラックの導入準備を進めている。 同様に長距離輸送を前提とする船舶や鉄道、バスへのFCシステム導入も視野に入れ、そこでの水素需要創出もトヨタは虎視眈々たんたんと狙っている。 さらに、国内企業と連携し、産業用の定置式FC発電機を共同開発も進めている。工場等の非常用ディーゼル発電機の置き換えや、港湾での荷役機械、停泊船舶への電力供給などを用途として想定しているとのことで、輸送セクターにとらわれずに貪欲に水素需要の創出に取り組んでいる』、「産業用」の「水素需要創出」ははるかに大規模なものだろう。
・『トヨタが狙った展開がようやく訪れつつある トヨタがFCV販売で苦戦する中、世界各国は水素に着目をしてこなかった。しかし、再エネのコストが劇的に低下を見せ始めた2019年ころより、欧州から風向きが変わり始めた。 2020年7月には欧州委員会が水素戦略を発表し、巨額の資金を投じる考えを示している。また、世界最大の大型トラック市場を有する中国では、政府が自動車の電動化の文脈で、トラックなどの商用車についてFCVの適用に言及。アメリカも政権の施策パッケージの中でグリーン水素の利活用に触れている。 そうした水素利活用の方向性は、先般、開催された先進7カ国(G7)環境・気候大臣会合においても確認された。成果文書では、水素の重要性と商業規模での水素の推進に言及がされたほか、将来の国際的な水素市場の発展を実現すべく努力という形で記載された。 いま、水素について追い風が吹いている。まさに、トヨタが狙った展開がようやく訪れつつある状況ではないか』、「水素の重要性と商業規模での水素の推進」、たまたま一致しただけなのではなかろうか。
・『「水素は地球上で最も豊富な元素」という重要な事実 振り返ればプリウスを最初投入したときにも数年は泣かず飛ばずの時期があった。しかし、トヨタの長期展望がはまって今はヒットしている。同様に水素についても、トヨタは思い描いた戦略を着々と進め、その狙いに国際社会がようやくはまり始めた。 脱炭素化の進展がトヨタの想像を上回って到来しているのも事実だろう。蓄電池の想像以上の進化、テスラをはじめとするEV新勢力の台頭、欧州の周到な自動車産業復権の狙い等々、トヨタとして加味をしなければならない事項は多い。 特に、これから本腰を入れるEVに関しては、後発となったのは間違いのない事実だ。 それでもなお、現行のハイブリッド戦線で、当面、トヨタとして十分に戦っていけるだろう。その間に、着々と進めている水素戦略が花開くのか、それとも、ついに全力を出したEV路線で猛追からの逆転を果たすのか。いずれの形であれ、国際エネルギー機関が報告したように、世界はエネルギーの大部分を再生可能エネルギーに頼るようになり、そのコストが限りなく低減する未来がじきに来る。 そのときに、基本に立ち返って、水素は地球上で最も豊富な元素、というトヨタの着眼点が効いてくると筆者は考える。実は、そこまで行くと乗用車でもFCVがEVに対して競争力を持つ。 トヨタの水素戦略は、EVシフト、そして脱炭素の進展の先を見越した大戦略だ。トヨタ、そして日本勢の巻き返しはこれから始まる。「世界に日本あり」を脱炭素の文脈でぜひ示してほしい。(最後に筆者の前田 雄大氏の略歴はリンク先参照)』、「筆者」は「トヨタ」への見方が甘いようだ。「トヨタ、そして日本勢の巻き返しはこれから始まる」、そうなってほしいとは思うが、甘いような気がする。
次に、7月27日付け東洋経済Plus「三部敏宏社長が明かす決断の背景 ホンダが「脱エンジン」に舵を切った真意」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27650
・『ホンダが新たにブチ上げた電動化戦略。2040年までに新車をEV、FCVにするという思い切った計画だ。異例の決断の背景に何があるのか。 「まさかここまで踏み込んで具体的な時期や数字を出すとは思わなかった」。あるホンダ系部品メーカー幹部は、ホンダが新たにブチ上げた電動化の戦略に驚きを隠さなかった。 ホンダの三部敏宏社長は4月23日の就任会見で、グローバルで売る新車を2040年までに全て電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にする目標を打ち出した。日本政府が掲げる2050年温室効果ガス排出実質ゼロに歩調を合わせた形で、「自動車メーカーとしてまずTank to Wheel(車の走行時)のカーボンフリーを達成する責務がある」(三部社長)と力を込めた。 ガソリン車だけでなくハイブリッド車(HV)すら販売しない中長期の目標を表明したのは、日本の自動車メーカーで初めてだ。HVも含めたフルラインナップでの電動車戦略を推し進めるトヨタ自動車に対し、ホンダはそれと異なる道を行く決断を下したといえる』、「ガソリン車だけでなくHVすら販売しない」、確かに思い切った戦略だ。
・『「エンジンのホンダ」がなぜ? ホンダはかつて、マクラーレン・ホンダがF1で一世を風靡したように、「エンジンのホンダ」と呼ばれるほどエンジン開発に力を注いできた。 1970年代には新型エンジンを開発してアメリカの環境規制をいち早くクリアするなど、エンジン開発を成長に結びつけてきた。技術畑の三部氏もそんな開発の現場に身を置いてキャリアを築いてきた一人だ。 にもかかわらずEVとFCVに思い切って舵を切る背景には、世界的に加速する「脱エンジン車」への強い危機感がある。 アメリカのゼネラル・モーターズ(GM)は35年までにガソリン車を全廃し、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)は2030年にVWブランドで欧州販売の7割以上をEVにする目標を掲げる。国単位でもイギリスが2030年、フランスは40年までにガソリン車の新車販売を禁止する。アメリカはカリフォルニア州などが2035年までにZEV(ゼロ・エミッション・ビークル、走行時に排ガスを出さない車)以外の販売を禁じる方針だ。 こうした流れの中、ホンダは2016年発売のFCV「クラリティ FUEL CELL」の累計販売台数が約1800台(2020年末)、初の量産型EV「Honda e」は年間販売目標が日欧で1万台強にとどまる。将来的な電動車の本命とされるEV、FCVへ対応が進んでいるとはいい難い状況だった。 ホンダは自前主義で独立路線を貫いてきたが、今後は米国では提携関係にあるGM、中国では電池大手のCATLと組んでEV中心の電動化戦略を推し進める。 自動車メーカーにとってCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)と呼ばれる次世代技術への研究開発投資は重く、提携を生かしてEVやFCVの開発につなげる計画を描く。効率化を図るため、今後は車種の絞り込みに動く可能性も十分ある』、「ホンダ」の四輪事業は後述のように殆ど儲かってないので、「車種の絞り込み」の可能性は大いにある。
・『急展開に伴うリスクも ただ、EV化の急速な推進にはリスクもはらむ。1つはGMとの関係だ。提携では、GMがバッテリーなどのEV分野の開発、ホンダはエンジンの開発をそれぞれ担う。EVはコストの3~4割を占めるとされるバッテリー価格をどう引き下げていくかが販売価格を決めるうえでカギを握る。 GMは目下、韓国のLG化学と組んで米国内に電池工場を建設する巨額投資を進めている。EV拡大で腹を決めたホンダにとって、電池の確保という面でGMは心強い存在のはずだ。 だが、バッテリー技術の開発や投資でGMに主導権を握られたままだと、ホンダの新車開発がGMの動向に左右されかねない。それを防ぐためには、アメリカの電池調達で複数の取引先を開拓する必要があるだろう。 また、ホンダがEV、FCVへの集中投資を鮮明にした中、GM向けにエンジン開発を続けることにメリットが見えづらい。 もう1つのリスクはサプライチェーン(部品供給網)の維持だ。「ホンダの戦略はサプライヤーによっては死活問題だ」。あるホンダ系部品メーカーの幹部はそう語る。 将来的にガソリン車を“捨てる”というホンダの決断は、エンジン関連の部品メーカーには経営戦略の大転換を迫るものだからだ。エンジン周りとは別の部品メーカーも「われわれとしても考え方を変える。守備範囲(取り扱う部品)を広げないと生き残れない」(幹部)と危機感を示す。 これまでホンダ系のサプライヤーは再編を繰り返してきた。ホンダが大株主のサプライヤーもあり、今後はメーカー主導の再編が起きる可能性もある。ホンダは単に目標を掲げるだけではなく、電動化時代に対応できる取引関係を構築していくことが不可欠だ。 提携拡大とサプライチェーン維持に潜むリスクをどうコントロールできるか。それはホンダにとっての試練であり、電動化戦略の実現に向けた重要なポイントでもある』、「エンジン関連の部品メーカー」にとっては、生き残りのためには「守備範囲」の拡大は不可欠だろう。
・『四輪事業は低収益にあえぐ ミニバン市場を開拓した「オデッセイ」や「ステップワゴン」、軽自動車で「スーパーハイトワゴン」市場を作り上げた「N-BOX」など、ホンダはこれまで独自性のある商品を投入することで一定の存在感を示してきた。 しかし現在、ホンダの四輪事業は長年にわたるヒット車不足と低収益性にあえぐ状態が定着している。お膝元の日本ですら、登録車の販売台数上位20車種(2020年度)に入るのは3車種(フィット、フリード、ステップワゴン)のみ。営業利益率は1.5%と、トヨタ(8%)やスバル(6%)と比べて大きく水を開けられている。 八郷隆弘前社長時代、ホンダは2010年代前半の拡大戦略で膨れ上がった生産体制や、創業者・故本田宗一郎氏時代から聖域とされてきた本田技術研究所の再編にも踏み切った。こうした構造改革の効果が今後本格的に現れてくるのが2021年度以降となる。 ホンダはグローバルで推し進める新たな電動化戦略のために、研究開発に今後6年間で5兆円を投資する。将来に向けた投資を計画通り推し進めるためにも、現行車種のラインナップでしっかりと収益を上げていくことも欠かせない。 国内外の自動車メーカーがこぞってEVを投入する中、商品性と収益性の高いモデルを投入し、「ホンダらしさ」をどうユーザーに示していくか。「課題はたくさんあるが、同時に取り組んでいくしかない」と覚悟を語る三部新社長の双肩にホンダの将来がかかっている』、新生「ホンダ」で「ホンダらしさ」をどうユーザーに示していくか、「三部新社長」に期待したい。
第三に、8月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「EV化で見え始めた欧米の異なる思惑、日本の競争力を脅かす「LCA」とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/279590
・『EUと米国で自動車電動化政策に「ある違い」が出た。EUではガソリン車に加えてハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)とも禁止。一方、米国はPHVと燃料電池車(FCV)も許した「良いとこ取り」な方針だ。他方、工業製品評価に「ライフサイクルアセスメント」(LCA)が強化されると、火力発電中心の日本経済にとって大きな打撃である。メード・イン・ジャパン製品の競争力は失われるかもしれない』、LCAとはどんなものなのだろう。
・『EUに続き米国でも自動車電動化の規制表明 世界的な脱炭素の流れが、自動車産業を取り巻く環境を大きく変化させている。7月、欧州委員会は2035年にEU圏内でのガソリン車の販売を事実上禁止し、電気自動車(EV)などへの移行を目指す方針を示した。欧州委員会は、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)とも禁止する見込みだ。 一方、米国のバイデン大統領は大統領令に署名し、30年の新車販売に占めるEV、PHVと燃料電池車(FCV)の割合を50%に引き上げると表明した。世界最大の自動車市場である中国も、新車販売に思い切った規制をかけることを鮮明にしている。 こうした脱炭素の背景には、専門家の想定を上回る地球の気温上昇がある。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、21年~40年に産業革命前と比較した気温上昇幅が1.5度に達するとの予測を公表した。地球物理学の専門家に聞くと、現在の地球環境は相当厳しく、緊急事態だ。 今後、世界全体で自動車などの原材料の生産、利用、廃棄の際に排出される二酸化炭素量を評価する「ライフサイクルアセスメント」(LCA)が強化され、再生可能エネルギーを用いて生産された素材、部材、完成品を求める企業や消費者が増えるだろう。わが国経済は官民総力を挙げて、経済活動の根幹であるエネルギー政策から対策を進めなければならない』、「LCA」で「自動車などの原材料の生産、利用、廃棄の際に排出される二酸化炭素量を評価」することになると、例えば、日本の鉄鋼製品は高炉で鉄鉱石から作るが、欧米ではくず鉄を電炉で作るので、日本が著しく不利になる。
・『米国は雇用に配慮し「良いとこ取り」の妥協案 現在、世界には3つの大きな新車販売市場がある。大きい順に、中国(20年の販売実績、2531万台)、米国(同1458万台)、EU(同994万台)だ。現在、米欧が自動車の電動化に関する政策を、より厳しい方向に引き上げている。ポイントはPHVとHVの扱い方だ。厳しい順に並べると、EU、米国、中国となる。 まず、欧州委員会は35年に販売できる新車をEVなど走行時に温室効果ガスを排出しない車に限定し、HV、PHVを含むガソリン車、ディーゼル車の新車販売を事実上禁じる方針だ。欧州委員会はFCVも電動化の手段として重視しているが、FCVの場合、水素を700気圧にまで圧縮する高圧タンクの製造コストが高い。そのため、EUは電動化のメインとしてEVを重視し、関連する政策の立案を急いでいる。EU市民の間では、気候変動問題への危機感が強く、欧州委員会はその方向に進まざるを得ない。 2番目に基準が厳しいのが米国だ。米国は、30年に新車販売の半分をEV、PHV、FCVにする方針だ。欧州と異なり米国はPHVを含める。公約に気候変動への取り組みを掲げたバイデン大統領は脱炭素への取り組みを進めなければならない。 その一方で、バイデン政権は産業、雇用にも配慮しなければならない。環境と経済の両方に配慮した結果、EVとエンジン車の「良いとこ取り」をしたPHVを含めることで妥協点を見いだしたといえる。ただし、カリフォルニア州は35年までにすべての新車をゼロエミッション車にする計画であり、米国の自動車電動化は加速する可能性がある。 3番目が中国だ。中国はEV、PHV、FCVを「新エネルギー車」(NEV)に区分して補助金などの対象とし、HVは低燃費車として優遇する。中国では豪雨や大気汚染が深刻化しており、脱炭素への取り組みは待ったなしだ。ただ、中国は製造技術面に弱さがあるため、PHVに加えてHVも重視する。HVおよび内燃機関の製造に強みを持つわが国は、EU、米国、中国ほどの踏み込んだ政策を示せていない。このように主要国はそれぞれの事情を考慮して電動化を進めている』、日本もそろそろ「電動化」「政策」の枠組みを示すべきだろう。
・『工業製品の評価にLCAが与える影響 欧米大手は先行して対策を急ぐ 自動車の電動化が急がれているのは、温室効果ガスの排出によって、想定を上回るペースで地球温暖化問題が深刻化しているからだ。特に、過去に例を見ない洪水や山火事に見舞われているEU各国の危機感は非常に強く、脱炭素関連政策の立案が急ピッチで進んでいる。 まず、23年に欧州委員会は、炭素の「国境調整」(環境規制が緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける制度)の導入を目指している。それに加えて欧州委員会は、原材料の調達、生産、廃棄によって排出される二酸化炭素の量を評価するLCAの確立にも取り組んでいる。現状では、24年7月から車載バッテリーや産業用の充電池を対象に、ライフサイクル各段階での二酸化炭素排出量の計測と第3者による証明実施が予定されている。 工業製品などの価値評価にLCAが与えるインパクトは大きい。LCAに対応するために独フォルクスワーゲンは洋上風力発電事業に参入した。走行時にEVは温室効果ガスを出さない。しかし、生産工程ではガスが排出される。同社は、EVライフサイクルの中で温室効果ガスの排出量が大きいバッテリー製造を中心に再生可能エネルギーを用いた自動車生産を目指している。 また、米国でもLCAを重視する企業が増えている。20年7月、アップルは30年までに、自社のビジネス、サプライチェーン全体、および製品のライフサイクルすべてにおいてカーボンニュートラルを達成すると発表した。マイクロソフトはさらに野心的で、30年に「カーボンネガティブ」(排出量<吸収量)を達成し、50年までに1975年の創業以来に直接、および電力消費によって間接的に排出した二酸化炭素を完全に除去すると表明した。 製品のライフサイクル全体でどれだけ温室効果ガスの排出を抑えられているかが、顧客企業や消費者により厳しく評価される時代が到来している』、「LCA」については欧米企業に比べ「日本企業」の取り組みは遅れているようだ。
・『火力発電による日本製品は競争力を失う LCAを基準にした製品やサービスの評価の定着は、火力発電によって電力を供給しているわが国経済にとって大きなマイナスの影響を与える恐れがある。火力発電を主とするエネルギー政策の下で生産活動が続けば、メード・イン・ジャパンの製品の競争力は大きく低下する、場合によっては失われるかもしれない。 わが国に求められることは、経済活動の基礎であるエネルギー政策の転換を進めることだ。具体的な方策として、再生可能エネルギーの切り札といわれる洋上風力発電をはじめ、太陽光発電、水力発電などの推進が待ったなしである。 洋上風力発電に関しては、わが国には大型の風車を生産できるメーカーがない。その状況下、まず、海外の風力発電機メーカーからの調達を進める。その上で海外の再生可能エネルギーを支えるインフラ導入の事例を参考にして、再生可能エネルギーを中心とする発電源構成を目指すことになるだろう。 そうした取り組みが遅れると、欧州などでLCAを基準とするサプライチェーンおよびバリューチェーンの整備が進行し、わが国企業のシェア、および競争力は低下する可能性が高まる。 例えば、鉄鋼メーカーであれば高炉にコークスを投入して銑鉄を生産することは難しくなることが懸念される。脱炭素のために水素を用いた製鉄技術の確立が目指されているが、水素利用(再生可能エネルギーを用いた製造、運搬、貯蔵)のコストは高い。 コストを吸収することが難しい場合、かつてワープロの登場によってタイプライターの需要が消え、パソコンがワープロを淘汰したように、個々の企業だけでなく産業そのものの存続が危ぶまれる展開も考えられる。そうしたリスクにどう対応するか、政府は迅速に、エネルギー政策をはじめ産業政策のグランドデザインを提示し、経済全体が向かうべき方向を示さなければならない』、一時は電力会社は石炭火力を増設しようとしたが、「LCA」の考え方とは完全に逆行するものだ。もっと、「LCA」などの国際的潮流を的確に捉えた戦略立案が望まれる。
タグ:電気自動車 (EV) (その10)(「大逆転はここから始まる」トヨタがEVより"水素車"にこだわる本当の理由 EVシフトの盲点「蓄電池の限界」、三部敏宏社長が明かす決断の背景 ホンダが「脱エンジン」に舵を切った真意、EV化で見え始めた欧米の異なる思惑 日本の競争力を脅かす「LCA」とは) PRESIDENT ONLINE 前田 雄大 「「大逆転はここから始まる」トヨタがEVより"水素車"にこだわる本当の理由 EVシフトの盲点「蓄電池の限界」」 検討した当時の技術的制約のなかでは「水素」だったのだろうが、「技術的制約」も変化している筈だ。 「世界の動きを見ると、蓄電池を搭載するEVに軍配が上がり、水素に張ったトヨタは予想を外したと見る向きも少なからずある」、なるほど。 確かに用途は広くした方がよさそうだ。 「産業用」の「水素需要創出」ははるかに大規模なものだろう。 「水素の重要性と商業規模での水素の推進」、たまたま一致しただけなのではなかろうか。 「筆者」は「トヨタ」への見方が甘いようだ。「トヨタ、そして日本勢の巻き返しはこれから始まる」、そうなってほしいとは思うが、甘いような気がする。 東洋経済Plus 「三部敏宏社長が明かす決断の背景 ホンダが「脱エンジン」に舵を切った真意」 「ガソリン車だけでなくHVすら販売しない」、確かに思い切った戦略だ。 「ホンダ」の四輪事業は後述のように殆ど儲かってないので、「車種の絞り込み」の可能性は大いにある。 「エンジン関連の部品メーカー」にとっては、生き残りのためには「守備範囲」の拡大は不可欠だろう。 新生「ホンダ」で「ホンダらしさ」をどうユーザーに示していくか、「三部新社長」に期待したい。 ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫 「EV化で見え始めた欧米の異なる思惑、日本の競争力を脅かす「LCA」とは」 LCAとはどんなものなのだろう。 「LCA」で「自動車などの原材料の生産、利用、廃棄の際に排出される二酸化炭素量を評価」することになると、例えば、日本の鉄鋼製品は高炉で鉄鉱石から作るが、欧米ではくず鉄を電炉で作るので、日本が著しく不利になる。 日本もそろそろ「電動化」「政策」の枠組みを示すべきだろう。 「LCA」については欧米企業に比べ「日本企業」の取り組みは遅れているようだ。 一時は電力会社は石炭火力を増設しようとしたが、「LCA」の考え方とは完全に逆行するものだ。もっと、「LCA」などの国際的潮流を的確に捉えた戦略立案が望まれる。