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安全保障(その9)(中国などの外国資本が「水源地の山林」を買っているという噂は本当か、寺島実郎「本質を見誤ると日本は米中関係に翻弄」 経済安保論を単純な「中国封じ込め」に歪めるな、日本の「産業スパイ対策」がどうにも甘すぎる事情 経済安保が重要な中 いいようにやられている) [外交・防衛]

安全保障については、2019年9月9日に取上げた。今日は、(その9)(中国などの外国資本が「水源地の山林」を買っているという噂は本当か、寺島実郎「本質を見誤ると日本は米中関係に翻弄」 経済安保論を単純な「中国封じ込め」に歪めるな、日本の「産業スパイ対策」がどうにも甘すぎる事情 経済安保が重要な中 いいようにやられている)である。

先ずは、本年3月9日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの福崎 剛氏による「中国などの外国資本が「水源地の山林」を買っているという噂は本当か」を紹介しよう。
・『近年のキャンプブームに加え、コロナ禍で密を避けようとキャンプ場に出かける人が増え、プライベートキャンプ用に山林を求めるニーズが高くなってきている。林業の衰退もあり、かつて資産家の象徴だった山はいまや数十万円から数百万円で簡単に購入できるほど不動産価値が下がっている。そんな日本の山を買いあさる外国人がいるという噂(うわさ)を耳にした人は少なくないだろう。しかも狙われているのは、良質な水源地の山林だという。こうした話は本当なのだろうか』、興味深そうだ。
・『なぜ、日本の山林が外国人に買われるのか(山林は、水源の涵養(かんよう)機能を持っている。わかりやすく説明すれば、山林の土壌が降水を一時的に貯留することにより、河川へ流れ込む水の量を平準化している。降水の河川への流量を自動調整するように働くため、洪水を緩和するのである。また、雨水が山林の土壌を通過することにより、濾(ろ)過する効果がもたらされて水質を浄化する機能を果たす。 つまり、きれいな水源を維持するためには、山林が必要というわけだ。この水源を狙って外国人が土地取引をしているのではないかというのが噂(うわさ)になっているのである。 この件について、全国の山林を手広く扱う「山林バンク」の辰己昌樹代表は次のように話してくれた。 「何年も前のことですが、某大手新聞社から中国人が水源林を買っているらしいが、売ったことはあるかと取材で聞かれたことがあります。売ったこともありませんし、私の知る限り外国人が水源を目的に山林を買ったという話も直接聞いたことはありません」 山林の不動産を扱うベテラン業者でさえ、直接外国人から取引を持ちかけられたことがないというのだ。 とはいえ、もしも日本の水源地を外国人に押さえられたら、海外へ水資源を持ち出されるという不安は拭いきれない。豊かな水資源に恵まれる日本だが、水資源の乏しい国にとっては大金を払ってでも良質な水源は欲しいものである。世界では約8.4億人が給水サービスを利用できず、またトイレ(衛生施設)を使えない人が約23億人もいるとして、SDGs(持続可能な開発目標)では「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保」(ゴール6)を定めているほどだ。 だからこそ、割安な日本の水源地を含む山林が狙われているのである』、なるほど。
・『21世紀の世界は「水戦争」の時代  「外国人が水源地の山を買っている」という噂話には、主に2つのエピソードが結びつけられて拡散したのではないかと思われる。 一つ目は、2008年に公開された映画『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』がきっかけだろう。このドキュメンタリー映画は、世界で起きているさまざまな水資源の争奪を描いたもので、例えば開発途上国に水道事業の民営化を迫る水メジャーと呼ばれるような企業が水資源を独占し、アフリカのある国では水道代が高騰し、貧しい国民の多くが安全で衛生的な飲料水を飲めない状況が起きていると問題提起したのである。 この映画公開後には、東京財団政策研究部から政策提言「日本の水源林の危機~グローバル資本の参入から『森と水の循環』を守るには~」(2009年1月)が発表された。 この提言の序章にある「日本の森と水が狙われている ~水源林を守り、『森と水の循環』を維持せよ」の中で、紀伊半島の奥地水源林(三重県大台町)に中国資本が触手を伸ばした、との記載がある。しかし、断念したということで、中国が水源林を買ったとは明言していない(ちなみに水源林とは、雨水を吸収し浄化しつつ水源の枯渇を防いだり、河川に流れ込む水を調整したりする機能を持つ森林にあたる)。 「世界の水戦争」がすでに、日本でも身近に迫っているという危機感があったのは確かだろう。 2012年には、「水源地買収 さらなる規制を」の小見出しで、産経新聞が水源地買収問題で意見書を国に提出した15の自治体を記事にした(3月26日付)。この中で、北海道ニセコ町の15の水源地のうち2つが外資所有になっており、「水道水源保護条例」を制定するきっかけになったと報じている。 二つ目は、中国が抱える水問題である。2012年頃の中国は、水資源量が世界の5パーセント程度しかなく、しかも河川の水量の7割近くが飲料に適さないほど汚染されていたのである。水資源が不足している中国の事情から、日本の水源林を狙って購入しているというイメージが一人歩きしてしまったのだろう。 さらに、2011年に東日本大震災が起きたことで、デマや流言飛語が広まりやすくなっていたこともある。「復興」という絆を共有し、頑張ろうと奮い立って日本中が敏感になっていたときに、北海道のニセコ町で水源地を含む山林が外国資本に買われていたことがわかったのだ』、「北海道ニセコ町の15の水源地のうち2つが外資所有になっており、「水道水源保護条例」を制定するきっかけになった」、「保護条例」は下記にみるようにかなり守られたと考えられるようだ。
・『外国資本はどのくらい日本の水源林を購入しているのか  外国人が日本の土地を簡単に取得できることを問題視する向きもあるが、今のところ水源林の売買に関しては取引を制限する国の法律はない。では、外国人または外国資本は日本の山林をどのくらい購入しているのだろうか? 農林水産省の令和元年(2019年)5月31日付のプレスリリース「外国資本による森林買収に関する調査の結果について」では、平成30(2018)年1月から12月までの期間における外国資本による森林買収について都道府県別に調査発表されている。 これを見ると1年間で30件の森林が買収されており、そのうち13件が中国人または中国系法人である。中でも北海道の倶知安町の17ヘクタールの森林が買収されており、利用目的が未定になっていることが気がかりだ。 だが、利用目的を見る限り「水源確保」を目的にしているわけではない。もちろん、地下水を含む水源の事業化を目論(もくろ)んでいないとは断定できないが、各自治体は防御策を講じている。 例えば、ニセコ町では2011年に「水道水源保護条例」と「地下水保全条例」が施行され、届け出や許可のない水源地の開発や地下水の揚水を規制しており、水資源の無秩序な採取を防いでいる。翌年の2012年には北海道で水資源の保全に関する条例が可決されて、全道で外資による水源地(山林)の買収に規制をかけた。また、他の多くの自治体でも同様の規制をかけて、水源地の山林を守っているのが現状である』、「届け出や許可のない水源地の開発や地下水の揚水を規制」、いいことだ。
・『日本の水源地は守られるのか?  海外では、外国資本による土地取引を制限している国も少なくない。しかし、日本には水源地や山林を守るような法律は今のところない。ただし、土地取引の規制に関する措置は設けられている。これは全国に一般的に適用される『事後届出制』と、地価の上昇の程度等によって区域や期間を限定して適用される『事前届出制』である『注視区域』制度と『監視区域』制度、そして『許可制』である『規制区域』制度から構成されている。要するに、土地を取得した場合に所有者の移転の届け出を義務づけているのだ。 山林を購入した場合は契約した後に届け出が必要になる。ほとんどの山林は都市計画区域外にあたるので、1万平方メートル(約3025坪)以上であれば、買い主が2週間以内に、市・区役所、町村役場の国土利用計画法担当窓口へ届け出なければならない。1万平方メートル未満なら「森林の土地の所有者となった届出」を出すことになる。実はこうした所有権の移転の届け出によって、外資による森林買収の取引監視の強化にもつながっているのである』、「所有権の移転の届け出」が「外資による森林買収の取引監視の強化にもつながっている」、とは思わぬ効用だ。
・『中国などの外国資本が「水源地の山林」を買っているという噂は本当か  ヤマケイ新書『山を買う』福崎剛/著、山と渓谷社/刊、224ページ。山林購入者のインタビューを交え、山を所有する魅力について紹介しているほか、本稿で触れた「外国人による日本の山林買収」についても取り上げている。 なお、日本の水源地を守ることに関しては、今のところ先に紹介した各自治体の「水道水源保護条例」や「地下水保全条例」によって、開発や事業化を防いでいる状況だ。国土交通省の水管理・国土保全局は、「地下水関係条例の調査結果」(平成30年10月)国土交通省調査結果.pdfを公表し、47都道府県で80条例、601地方公共団体で740条例を制定していることがわかった。 これらの条例の目的は主に4つで、(1)地盤沈下、(2)地下水量の保全または地下水涵養、(3)地下水質の保全、(4)水源地域の保全に分かれる。この中で最も多い条例数は、地下水質の保全で420、続いて地盤沈下が412、そして地下水量の保全または地下水涵養が363となっている。これだけ条例で規制をかけているため、素直に考えて水源地を買収されても地下水を採取することが難しい。水源地の開発行為の制限もあり、土地を買収されて勝手に活用される心配はしなくてよさそうだ。 また、こうした条例に罰則規定を設けている地方公共団体も多く、懲役や罰金の規定がある条例がほとんどだ。また、氏名の公表や過料を定めている条例もある。この罰則規定がどこまで外国資本から日本の水資源を守れるのか、その効果はわからない。しかし、こうした条例による規制がかけられることで、水源地のある山林は守られているというわけである』、「水源地の開発行為の制限もあり、土地を買収されて勝手に活用される心配はしなくてよさそうだ」、一安心である。

次に、6月22日付け東洋経済オンラインが掲載した多摩大学学長の寺島実郎氏による「「本質を見誤ると日本は米中関係に翻弄」 経済安保論を単純な「中国封じ込め」に歪めるな」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/435658
・『経済安全保障論において、国際的ルール形成に関与していくことの重要性をいちはやく見抜き、学長を務める多摩大学に「ルール形成戦略研究所」を置いた寺島実郎氏。 寺島氏は現在の「中国封じ込め」のための経済安保論には「事の本質を見誤ってはいけない」「話を歪めてはいけない」と警告を発する。どういう意味か。 著名な外交評論家が述べた「日米関係は米中関係だ」という指摘を踏まえ、日本の外交姿勢はどうあるべきか、どうすれば強権化する中国と正対できるのか、思考を巡らせる(Qは聞き手の質問、Aは寺島氏の回答)』、興味深そうだ。
・『経済安保論の本質を冷静に見抜け  Q:アメリカと中国の対立が激しくなるに伴い、経済安全保障の論議が熱を帯びています。 A:日本がアメリカと一体化して中国の脅威を封じ込めるという文脈の中で登場しているのが今の「経済安全保障」論だが、事の本質を見誤ってはいけない。 国民の生活に欠かすことができない食料やエネルギーを途絶えさせないために国は何をすべきか、という本来の経済安保論はきわめて重要で、エネルギー問題については私自身が長い間、携わってきた。 だが、今の経済安保論はさまざまな意味で歪められている。米中対立の激化、日米同盟の強化を盛んに強調する人たちが、政治的な意図に満ちた経済安保論を繰り広げている。 私たちは今、いかに冷静で、かつ事の本質を見抜ける力を持っているかどうかが問われている。まずは以下の数字を確認したい。 2020年、アメリカと中国の貿易総額は5592億ドルで、前年と比べると3億ドル増えていた。一方、日本とアメリカのそれは1833億ドルで、前年比で350億ドルも減った。つまり、コロナ禍で日米間の取引が大きく後退していた時、米中間はしっかり手を握り合っていたということだ。 数字を見れば明らかなように、米中間の貿易総額は日米間のそれの3.1倍にも達している。米中デカップリングだ、新冷戦だと騒がれているが、当のアメリカと中国は、日本とアメリカ以上の取引をしっかりと続けている。 事の本質を見抜かないと、私たちは米中関係に翻弄されることになる。 Qどういう姿勢が必要でしょうか。 A:どんなに不条理なことがあってもアメリカについていくしかないというのが日本人の固定観念になってしまっている。 かつて外交評論家の松本重治が「日米関係は米中関係だ」と、本質を突く指摘をした。日米関係は中国というファクターに絶えず掻き回されてきたという意味だ。 第2次世界大戦において、日本はアメリカに敗北したと総括しがちだが、米中の連携に敗れたという側面も押さえておかなくてはならない。ここでヘンリー・ルース(1898?1967年)というアメリカの出版人、雑誌界の大物だった人物を紹介したい。 彼の父親はキリスト教の宣教師として中国で布教活動をしていたため、14歳まで中国で過ごした。ルースは1922年に『タイム社』を設立し、その後は「チャイナ・ロビー」として、日中戦争を率いた中国国民党の指導者・蒋介石や妻の宋美齢を支持するようなメディアキャンペーンを展開し、アメリカ世論を「中国支持」へと誘導した』、「コロナ禍で日米間の取引が大きく後退していた時、米中間はしっかり手を握り合っていたということだ。 数字を見れば明らかなように、米中間の貿易総額は日米間のそれの3.1倍にも達している」、冷徹な判断が必要なようだ。「日米関係は中国というファクターに絶えず掻き回されてきたという意味だ。 第2次世界大戦において、日本はアメリカに敗北したと総括しがちだが、米中の連携に敗れたという側面も押さえておかなくてはならない」、その通りだ。
・『もし蒋介石が毛沢東に敗れていなかったら?  ところが第2次世界大戦が終結すると、蒋介石は共産党の毛沢東に敗れてしまう。自分たちが支持していた蒋介石が台湾に追放されたことから、ルースは台湾を支持する形で大陸中国と対峙するポジションへと立ち位置を移す。そのうえで、かつて「敵」としていた日本を中国共産党の防波堤とするために、アメリカが援助していくことが必要だと説いた。 ルースが死去する1967年まで、アメリカの対東アジア政策は彼の影響を強く受けて展開された、といえる。 このような歴史的な背景をも踏まえたとき、もし蒋介石が毛沢東に敗れずに本土の中国を掌握していたら日本の戦後復興は20年も30年も遅れただろうということだ。中国本土との連携が途切れていなければ、アメリカが日本の戦後復興を援助する必要性などないからだ。 ヘンリー・ルースに象徴されるように、アメリカの政策というのは国益にかなうかどうかで右にも左にもいく。日本が脅威であるときには中国と手を結び、中国を抑えたいというときには日本をうまく利用する。 Qどういう姿勢が必要でしょうか。 A:どんなに不条理なことがあってもアメリカについていくしかないというのが日本人の固定観念になってしまっている。 かつて外交評論家の松本重治が「日米関係は米中関係だ」と、本質を突く指摘をした。日米関係は中国というファクターに絶えず掻き回されてきたという意味だ。 第2次世界大戦において、日本はアメリカに敗北したと総括しがちだが、米中の連携に敗れたという側面も押さえておかなくてはならない。ここでヘンリー・ルース(1898?1967年)というアメリカの出版人、雑誌界の大物だった人物を紹介したい。 彼の父親はキリスト教の宣教師として中国で布教活動をしていたため、14歳まで中国で過ごした。ルースは1922年に『タイム社』を設立し、その後は「チャイナ・ロビー」として、日中戦争を率いた中国国民党の指導者・蒋介石や妻の宋美齢を支持するようなメディアキャンペーンを展開し、アメリカ世論を「中国支持」へと誘導した』、なるほど。
・『もし蒋介石が毛沢東に敗れていなかったら?  ところが第2次世界大戦が終結すると、蒋介石は共産党の毛沢東に敗れてしまう。自分たちが支持していた蒋介石が台湾に追放されたことから、ルースは台湾を支持する形で大陸中国と対峙するポジションへと立ち位置を移す。そのうえで、かつて「敵」としていた日本を中国共産党の防波堤とするために、アメリカが援助していくことが必要だと説いた。 ルースが死去する1967年まで、アメリカの対東アジア政策は彼の影響を強く受けて展開された、といえる。 このような歴史的な背景をも踏まえたとき、もし蒋介石が毛沢東に敗れずに本土の中国を掌握していたら日本の戦後復興は20年も30年も遅れただろうということだ。中国本土との連携が途切れていなければ、アメリカが日本の戦後復興を援助する必要性などないからだ。 ヘンリー・ルースに象徴されるように、アメリカの政策というのは国益にかなうかどうかで右にも左にもいく。日本が脅威であるときには中国と手を結び、中国を抑えたいというときには日本をうまく利用する。 Q:ニクソン大統領による電撃訪中(1972年)も日本の頭越しでした。 A:ニクソン訪中は日本にとって戦後もっとも大きなトラウマになっている。頭越しにアメリカと中国が握手し合ったときの日本の当惑たるや、まるで世界史から取り残されたような焦燥感が支配していた。 ニクソン訪中以降、日本の意識の底には、米中対立の激化への期待が根強くある、といえる。「アメリカと中国が対立していてくれればアメリカは日本側に向いてくれる」という深層心理があるのだ。私は日米経済摩擦がもっとも激しかった1980年代にワシントンに駐在していたので、アメリカ人の日本人観は痛いほどわかる。アメリカに対する過剰依存と過剰期待の態度をとる日本と比べれば、中国との関係のほうがわかりやすい力学で動くと捉えられている』、「もし蒋介石が毛沢東に敗れずに本土の中国を掌握していたら日本の戦後復興は20年も30年も遅れただろうということだ」、「日本」は「毛沢東」に感謝すべきなのかも知れない。
・『真の経済安全保障の議論を  Q:デジタル化が社会インフラとして進んでいくと、あらゆる情報機器を通じて私たちの個人情報が中国に抜き取られていくという指摘があります。 A:中国がデータリズムの時代を掌握しようとしているのは事実だろう。だが、もし日本人が本当の情報感受性を持ち合わせているのであれば、中国に対する危機感と同じ問題意識において「アメリカから情報を抜き取られることはよいのか?」と、冷静に考えなくてはならない。 (寺島実郎(てらしま・じつろう)/1947年北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、三井物産入社。アメリカ・三井物産ワシントン事務所所長、三井物産常務執行役員、三井物産戦略研究所会長等を経て、現在は(一財)日本総合研究所会長、多摩大学学長。国土交通省・国土審議会計画推進部会委員、経済産業省・資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員等、国の審議会委員も多数を務める。) 例えば、一部の海外メディアが「対中国を念頭に日本が『ファイブ・アイズ』へ参加し、6番目の締結国となる可能性がある」と報じたように、日本国内には、アメリカを中心とした機密情報共有の枠組みへの参加が認められるよう積極的に動く人たちがいる。このような国家間の情報共有ネットワークに参画することの本質的な意味を理解する必要があると思う。 Q:アメリカの力を借りずに中国と真に向き合えるでしょうか。 A:アメリカへの過剰依存から脱却せよと私が言い続けるのは、それが中国と正対するための条件だからだ。日本にはアメリカと一体化することで中国にプレッシャーを与えられる、強いメッセージを送れるという思い込みがある。しかし私に言わせれば、まったく逆だ。 中国やロシアの有識者と議論をしていると、彼らは日本をアメリカのプロテクトレイト(保護領)としか見ていないことに気づく。実際、アメリカの文献にもそう記されることがある。自力で国を築いてきた中国やロシアが、アメリカの保護領とされる日本と1対1で正対し、真剣な議論をするだろうか。 Q:日本は中国と正対できるでしょうか。 A:世界GDPに占める日本の比重の低下は著しい。1994年、世界GDPの実に17.9%を日本が占めていたが、今どうなっているか。去年は6.0%にまで落ちた。異様な勢いで日本の埋没が進んでいる。 悲願だった小型ジェット旅客機(MRJ)の国産化プロジェクトは挫折し、コロナ禍において国産ワクチンの開発も大きく出遅れている。一方、中国はそのどちらも一歩進んでいる。 日本の埋没している現状に健全な危機感を抱きつつ、私は今チャンスだとも思っている。中国が強権化し、安全保障の議論をしなければならないこの状況は、日本がどういう国であろうとするのかを日本人自身が真剣に考えるには、またとない機会だからだ。 そのうえで、真の経済安全保障についても議論を深めたい。真っ先に議論しなければならないのは「食と農」だ。戦後日本は、「食と農」を犠牲にして、工業生産力モデルで経済復興を果たしたといえる。その結果、食料自給率はカロリーベースで37%という、欧米諸国に比べても驚くほど低い水準に陥っている。 さらにコロナによってマスクも医療用手袋も防護服も海外に依存している現実を目の当たりにした。国民の安全を担保するためには何が必要なのか、あらためて経済安全保障という観点から議論されるべきだ』、「日本にはアメリカと一体化することで中国にプレッシャーを与えられる、強いメッセージを送れるという思い込みがある。しかし私に言わせれば、まったく逆だ。 中国やロシアの有識者と議論をしていると、彼らは日本をアメリカのプロテクトレイト(保護領)としか見ていないことに気づく。実際、アメリカの文献にもそう記されることがある」、「日本の埋没している現状に健全な危機感を抱きつつ、私は今チャンスだとも思っている。中国が強権化し、安全保障の議論をしなければならないこの状況は、日本がどういう国であろうとするのかを日本人自身が真剣に考えるには、またとない機会だからだ」、その通りだ。
・『真の意味の経済安全保障を日本はリードせよ  経済安保に関わるルール形成についても、大いに議論してもらいたい。アメリカのGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)や中国のBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)といった巨大IT関連企業による情報独占の問題をどう制御していくか。肥大化するマネーゲームをコントロールするため金融取引税をはじめとした国際的な連携体制をどう構築していくか。資本主義の歪みを正し、健全に発展させていくための議論こそ真の意味での経済安全保障であり、ここでこそ日本はリーダーシップを発揮してほしい。 国民の安全・安心のための産業基盤づくりの第一歩として、私が率いる一般財団法人日本総合研究所は日本医師会等と連携する形で、「医療・防災産業創生協議会」を設立した。コロナのような感染症や自然災害に対応できる体制を国家として築いていくために医療と防災に関する産業を興していこうという構想だ。国会でもこの構想を支持する超党派議員連盟が結成され、7月にも発足する。経済安全保障とは異なる話題だと思うかもしれないが、食も含めた医療・防災こそ経済安全保障につながるものだと思う。 経済安全保障の論議は奥が深い。単純な「中国封じ込め」のための経済安保論へと、話を歪めてはいけない。国民の生活をいかに守っていくか、そんな真の経済安保論議が必要だ』、「肥大化するマネーゲームをコントロールするため金融取引税をはじめとした国際的な連携体制をどう構築していくか。資本主義の歪みを正し、健全に発展させていくための議論こそ真の意味での経済安全保障であり、ここでこそ日本はリーダーシップを発揮してほしい」、同感である。

第三に、6月23日付け東洋経済オンライン「日本の「産業スパイ対策」がどうにも甘すぎる事情 経済安保が重要な中、いいようにやられている」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/436008
・『「政治、安全保障と経済はもはや表裏一体であり、教科書的な純粋な経済というのは存在しない。今まで以上に経済安全保障や地政学の影響を受けながら、経済は動いていくと思う。その経済の中の生き物である企業は、当然のことながら経済安全保障を意識して経営をしなければならない」 6月15日の経済同友会記者会見で、代表幹事を務めるSOMPOホールディングスグループCEO社長の櫻田謙悟氏はこう語った。 しかし、日本企業から安全保障に関わる機密情報の流出が後を絶たない。経済安全保障の重要性が高まる一方で、日本企業は産業スパイにいいようにやられている。 積水化学工業では2020年10月、元社員がスマホのタッチパネルに使われる「導電性微粒子」技術を中国・潮州三環グループにメールで送信し、不正競争防止法違反罪に問われた。中国企業は、SNS「リンクトイン」を通じて元社員に接触し接待を重ねていた。元社員は解雇後、別の中国企業に転職したとされる。大阪地検が在宅起訴し、今年6月17日に初公判が開かれた。被告は起訴内容を認めている。 ほかにも2018年11月、電子通信器機製造販売の川島製作所で元役員の情報漏洩が発覚。翌2019年6月には、電子部品製造会社・NISSHAで営業秘密を抜き取り、中国企業に転職した元社員が逮捕され、その後、元社員には実刑判決が下っている。さらに2020年1月、ソフトバンク元社員が報酬の見返りにロシア元外交官に情報を渡したとして逮捕され、有罪判決を受けた。 先端技術の流出防止は警察外事課の仕事だが、ある県警の公安警察官は「企業は規模が大きくなるほど情報管理は自前でやると言い、協力が得にくい」とぼやく。情報処理推進機構が20年に行った調査によれば、中途退職者による漏洩は36.3%と、4年前に比べ増えている』、「企業は規模が大きくなるほど情報管理は自前でやると言い、協力が得にくい」、見栄だけで言っている面もあり、困ったことだ。「中途退職者による漏洩は36.3%と、4年前に比べ増えている」、退職金規定を見直す必要があるかも知れない。
・『日本にも必要な「セキュリティークリアランス」  ソフトバンクは事件以降の対応について、『週刊東洋経済』の取材に書面で回答した。退職予定者の端末から社内情報へのアクセスを制限し端末操作の監視を強化したほか、全役員・全社員にセキュリティー研修を毎年実施し、未受講者にはアカウントの停止や重要情報へのアクセスの遮断を行ったという。さらにAI(人工知能)で端末の操作履歴を監視し、疑わしい挙動を自動検知するシステムも導入したことを明らかにした。積水化学、NISSHAにも同じく取材を申し込んだが、回答はなかった。 産業スパイの被害に遭う日本企業が目立ち始めている状況について、日本大学危機管理学部の小谷賢教授は「民間でもセキュリティークリアランスを導入しなければ、内部不正は防げない。欧米企業との共同開発から日本企業が締め出されることになりかねない」と指摘する。 セキュリティークリアランスとは、日本でいえば一部の国家公務員に課される「秘密取扱者適格性確認」のことで、欧米では民間でも一般的だ。海外企業と共同開発を進める一部の日本企業は、民間にもこの制度を導入するよう政府に働きかけている。だが、借金の状況や親族の個人情報などを詳細に記入する「身上明細書」が日本弁護士連合会に問題視されるなど、導入は依然ハードルが高い。 政府の側でスパイ対策に力が入るのは公安調査庁だ。2020年4月に内閣官房の国家安全保障局に経済班が設置されたが、経済安保に特化して情報収集・分析している官庁はない。前出の小谷教授は「経産省はやや腰が重いように見えるので、人員の余力、分析能力から公安調査庁が適任ではないか」と話す』、「借金の状況や親族の個人情報などを詳細に記入する「身上明細書」が日本弁護士連合会に問題視されるなど、導入は依然ハードルが高い」、人権保護もないがしろにすべきでないのは当然だ。
・『専門チーム発足で腕をまくる公安調査庁  かつて公安調査庁は過激派の衰退やオウム真理教事件の終結とともに「法務省の盲腸」ともいわれたが、2021年2月に長官・次長直轄の「経済安全保障関連調査プロジェクトチーム」を発足。海外企業の土地買収や投資を調査する調査一部、国内外のスパイを監視する調査第二部の調査官を中心に20人を集結させ、活路を見いだす。2021年度予算では、経済安保に関連する情報収集・分析機能強化の一環で、70人以上の増員を行う見通しだ。 6月7日、全国局長・事務所長会議で和田雅樹長官は「懸念国はわが国が保有する機微な技術、データ、製品などの獲得に向けた動きを活発化させている。当庁には技術流出の実態解明や未然防止に資する情報の収集、分析が強く求められている」と語っている。プロジェクトチームでは東京大学先端科学技術研究センターと連携を深め、先端技術の情報収集や企業への啓発活動を進めている。「専用のホームページ経由、また企業訪問の際に、スパイ行為をうかがわせる情報の提供もある」(同庁幹部)という。 課題は専門知識を持った人材の確保だ。今年4月にマイナビで調査官を公募したところ、約1400人のプレエントリーがあったが、同幹部は「国家公務員の給与規定が壁となり、理想に近い人材ほど待遇面で採用が難しい」と漏らす。 人材のあり方、さらにはスパイ防止法の制定やファイブアイズ(米英など5カ国の諜報同盟)への参加などを含め、国民の支持を得つつ法の整備を進めていく必要がありそうだ。) Q:どういう意味でしょうか。 A:明治維新に始まる日本の近代化を支えたエネルギーは、やはり西洋との緊張関係の中で生まれたものだった。西洋列強がアジア各国を次々に植民地にしていったことへの苛立ちがあったろうし、このままでは日本ものみ込まれるという焦りもあっただろう。アジアから西洋列強を追い返し、アジアを独立させたいという義侠心もあったはずだ。そうした心情、すなわち「アジア主義」の考え方が、明治維新初期の日本には確実にあった。 ところが、結果的に日本も西洋列強のような帝国主義へと堕ちていった。初志とはかけはなれ、日本自身も覇権主義国家に成り果て、アジアと日本に破滅をもたらした。このことへの深い反省が戦後日本の起点になっているはずだ』、「公安調査庁」に情報漏洩、知的財産権などの経済犯罪に対応できるのか、私は難しいように思うやることが、左翼対策などやることがなくなったので、やらせるというのは無理が多いように思う。
・『覇権をもって秩序に挑戦すれば破滅する  私は、日本の失敗の歴史をこそ中国と共有したいと思っている。覇権をもって秩序に挑戦をすれば必ず破滅をもたらす。一時的には繁栄を手にできるかもしれないが、大日本帝国はそれで滅んだ。「覇道の道、覇権主義はあなたたちのためにはならない」という助言は、経験者である日本だからこそいえる話だ。 中国は当然「侵略してきた君たちに言われる筋合いはないよ」と反論するでしょう。それでもあえて言うのが隣国・日本としての責務だと思う。また、そう言い続けるためには日本も過去に対して反省している姿勢を示さなければならない。中国と真剣に向き合うためには、それくらいの覚悟が必要だ。 日本と中国には2000年におよぶ付き合いがある。関係がいいときも悪いときもあったが、日本は漢字から法制度まで実に多くのことを中国から学び、独自に発展させてきた。勝海舟は「日本の文物、シナから学ばなかったものは1つもない」と言ったが、その通りだと思う。 今日や明日の国益だけを見て判断するのではなく、米中どちらにもつかない道、自主独立の道を念頭におきながら100年後、200年後の東洋、アジアを構想する。そのくらいの心構えで現実に臨みたい。)』、「「覇道の道、覇権主義はあなたたちのためにはならない」という助言」、現在の思いあがった中国には通用しないと思うが、一応助言してみる価値はあるかも知れない。
タグ:「もし蒋介石が毛沢東に敗れずに本土の中国を掌握していたら日本の戦後復興は20年も30年も遅れただろうということだ」、「日本」は「毛沢東」に感謝すべきなのかも知れない。 「借金の状況や親族の個人情報などを詳細に記入する「身上明細書」が日本弁護士連合会に問題視されるなど、導入は依然ハードルが高い」、人権保護もないがしろにすべきでないのは当然だ。 「企業は規模が大きくなるほど情報管理は自前でやると言い、協力が得にくい」、見栄だけで言っている面もあり、困ったことだ。「中途退職者による漏洩は36.3%と、4年前に比べ増えている」、退職金規定を見直す必要があるかも知れない。 「日本の「産業スパイ対策」がどうにも甘すぎる事情 経済安保が重要な中、いいようにやられている」 「「本質を見誤ると日本は米中関係に翻弄」 経済安保論を単純な「中国封じ込め」に歪めるな」 「肥大化するマネーゲームをコントロールするため金融取引税をはじめとした国際的な連携体制をどう構築していくか。資本主義の歪みを正し、健全に発展させていくための議論こそ真の意味での経済安全保障であり、ここでこそ日本はリーダーシップを発揮してほしい」、同感である。 寺島実郎 「公安調査庁」に情報漏洩、知的財産権などの経済犯罪に対応できるのか、私は難しいように思うやることが、左翼対策などやることがなくなったので、やらせるというのは無理が多いように思う。 「日本にはアメリカと一体化することで中国にプレッシャーを与えられる、強いメッセージを送れるという思い込みがある。しかし私に言わせれば、まったく逆だ。 中国やロシアの有識者と議論をしていると、彼らは日本をアメリカのプロテクトレイト(保護領)としか見ていないことに気づく。実際、アメリカの文献にもそう記されることがある」、「日本の埋没している現状に健全な危機感を抱きつつ、私は今チャンスだとも思っている。中国が強権化し、安全保障の議論をしなければならないこの状況は、日本がどういう国であろうとするのかを日本人自身が 「コロナ禍で日米間の取引が大きく後退していた時、米中間はしっかり手を握り合っていたということだ。 数字を見れば明らかなように、米中間の貿易総額は日米間のそれの3.1倍にも達している」、冷徹な判断が必要なようだ。「日米関係は中国というファクターに絶えず掻き回されてきたという意味だ。 第2次世界大戦において、日本はアメリカに敗北したと総括しがちだが、米中の連携に敗れたという側面も押さえておかなくてはならない」、その通りだ。 「「覇道の道、覇権主義はあなたたちのためにはならない」という助言」、現在の思いあがった中国には通用しないと思うが、一応助言してみる価値はあるかも知れない。 安全保障 (その9)(中国などの外国資本が「水源地の山林」を買っているという噂は本当か、寺島実郎「本質を見誤ると日本は米中関係に翻弄」 経済安保論を単純な「中国封じ込め」に歪めるな、日本の「産業スパイ対策」がどうにも甘すぎる事情 経済安保が重要な中 いいようにやられている) 「中国などの外国資本が「水源地の山林」を買っているという噂は本当か」 ダイヤモンド・オンライン 福崎 剛 東洋経済オンライン 「水源地の開発行為の制限もあり、土地を買収されて勝手に活用される心配はしなくてよさそうだ」、一安心である。 「所有権の移転の届け出」が「外資による森林買収の取引監視の強化にもつながっている」、とは思わぬ効用だ。 「届け出や許可のない水源地の開発や地下水の揚水を規制」、いいことだ。 「北海道ニセコ町の15の水源地のうち2つが外資所有になっており、「水道水源保護条例」を制定するきっかけになった」、「保護条例」は下記にみるようにかなり守られたと考えられるようだ。
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資本主義(その6)(世界的経済学者の資本主義論:これならあり得る資本主義終焉シナリオ 資本主義を攻撃するなら ターゲットはここだ、貧困がなくならないのは 皆の財産を誰かが奪っているからでは? 究極の格差解決法、私たちが働いた稼ぎを横取りする「職場の独裁権力」を倒すには 会社を所有すべきなのは 本当は誰なのか) [経済]

資本主義については、9月5日に取上げたばかりだが、今日は、(その6)(世界的経済学者の資本主義論:これならあり得る資本主義終焉シナリオ 資本主義を攻撃するなら ターゲットはここだ、貧困がなくならないのは 皆の財産を誰かが奪っているからでは? 究極の格差解決法、私たちが働いた稼ぎを横取りする「職場の独裁権力」を倒すには 会社を所有すべきなのは 本当は誰なのか)である。筆者のヤニス・バルファキス氏は、経済学部教授として長年にわたり、英国、オーストラリア、ギリシャ、米国で教鞭。2015年、ギリシャ経済危機のさなかにチプラス政権の財務大臣に就任。緊縮財政策を迫るEUに対して大幅な債務減免を主張し、注目。2016年、DiEM25((Democracy in Europe Movement 2025:民主的ヨーロッパ運動2025)を共同で設立。2018年、米国の上院議員バーニー・サンダース氏らとともにプログレッシブ・インターナショナル(Progressive International)を立ち上げる。世界中の人々に向けて、民主主義の再生を語り続けている。

先ずは、9月6日付け現代ビジネスが掲載したヤニス・バルファキス氏による「ベストセラー経済学者が描く、これならあり得る資本主義終焉シナリオ 資本主義を攻撃するなら、ターゲットはここだ」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/86799
・『資本主義論にまったく新たな視野を提供する本をお届けする。経済思想家・経済学者 にしてギリシャ元財務大臣でもあったヤニス・バルファキスの新著『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』だ。 資本主義は、経済成長によって社会に富をもたらす最良の経済制度だというが、現代の許容しがたいほどの格差と貧困の元凶でもあり、そのダークサイドは拡大する一方だ。では、仮にこの忌々しい資本主義が消滅したら、その後の経済社会は、「新たな ユートピア」となるのか、「進化形の共産主義 」になるのか、あるいは誰も見たことのないカタチなのか。その答えを導き出すためにバルファキスが採用した著述スタイルは、なんと「経済SF小説」だった。 物語は、語り手「私(ヤンゴ)」 が、無二の友人だったアイリスの埋葬に立ち会う場面から始まる。時は2035年。アイリスががんで亡くなる直前、「私」 は日記を預かっていた。この中身を書籍にして世の人たちに知らしめてほしい、と。 日記を読んだ「私」は驚愕した。アイリスたちが、「私」の仲間の1人であるコスタのつくり出したマシン「HALPEVAN」によって、「もう一つの世界」につながり、そこで暮らす自分たちの分身と言葉を交わした2025年の記録の一部始終が綴られていたからだ。銀行も株式市場もなく、企業の利益を独占する資本家もいない、テクノ封建主義が行き過ぎた現代社会とはまったくちがう公平な制度の中で、人々は生きていた。 このパラレルワールドへの分岐点は2008年だった。そう、リーマンショックがあった年だ。2011年に「ウォール街を占拠せよ」と叫んだ、強欲な資本家と政治家に対する民衆の抗議活動はほどなく終わったが、「もう一つの世界」では別の発展をたどることになっていたのだ。一体、何が起きてそうなったのか? では、目の前の常識が根本から覆る物語の旅に出ることにしよう。語り手以外の登場人物は3人+3人。過激なリベラリスト&フェミニストのアイリスと「もう一つの世界」に生きる分身サイリス、元リーマン・ブラザーズのリバタリアンの金融エンジニアにして現代資本主義の申し子イヴァと分身イヴ、ギリシャ・クレタ島出身の天才エンジニアだが大企業に絶望し 世捨て人となったコスタと分身コスティだ。 3人の中で最初に「もう一つの世界」の分身に出会ったのは、パラレルワールドにつながるマシン「HALPEVAN」の開発者であるコスタだった。分身コスティから明かされた驚愕の出来事を、まずは資本主義を打倒するまでの経緯からお読みいただきたい。今回はその1回目だ』、ありきたりの資本主義論ではなく、興味深そうだ。
・『2008年から2011年、世界を変えた3年間  コスティから届いた報告を使えば、もう一つの世界の存在について、アイリスとイヴァを説得しやすかった。とはいえ、いちばんの問題はその世界が出現した経緯の説明だろう。それが難しい理由のひとつは、彼らの世界が現在、極めてうまくいっていることをコスティがしきりに話したがり、彼の言葉を借りれば「世界を変えた3年間」、すなわち2008年から2011年までの話をあまりしたがらなかったからだ。そのため、コスタにはふたりに話せることがあまりなかった。コスティが送ってきた情報の断片を使ってコスタにできることは、最初から説明することだった。あの誰でもよく知っている「ウォール街を占拠せよ運動」である』、なるほど。
・『「大量破壊金融商品」を狙え!  もう一つの世界でも、同じように「ウォール街を凍結せよ運動」が発生した。だが、世界中に広がった時には「資本主義を凍結せよ」、略してOCという名前で呼ばれた。当時、コスタはウォール街で起きた占拠運動と、世界各地で起きた同様の運動に大いに興奮した。スペインでは怒れる者たちの抗議デモが発生し、債務危機と緊縮財政に憤った数万人の若者が街の広場を占拠した。 ギリシャでは2011年春の3ヵ月間、やはり緊縮財政に異議を唱える市民がアテネ市内のシンタグマ広場を占拠した。2016年にはパリで「立ち上がる夜運動」が起こり、労働法の改正案に腹を立てた労働者がレピュブリーク広場で市民討論会を開いた。ところが、ああ、運動は起きるのも速かったが、勢いが衰えるのも速かった。特に2009年初めに、発足直後のオバマ政権がウォール街に屈したあとでは。2015年夏に、ギリシャの左派政権が「国境なき寡頭政」に屈したあとでは。OCと「ウォール街を占拠せよ運動」との大きな違いは、広場や通りや建物などの特定の場所を占拠しても無駄だと、OC反逆者が理解していたことだった。 「資本主義は場所には存在しない。時間と金融取引のなかに存在する」即席のリーダーのひとりであるエスメラルダは言った。 彼女が率いたグループは「クラウドショーターズ」と呼ばれた。コスティによれば、彼らこそ、金融資本主義の脆弱さと、攻撃対象を狙い撃ちしたデジタル反逆の威力、このふたつを初めて見せつけたグループだという。彼らの最初の成功は「大量破壊金融商品」に狙いを定めた時だった。2008年に世界金融危機を引き起こす一因となったCDO、つまり「債務担保証券」である。 CDOとは、複数の社債やローンを束ねて、これを担保資産に発行される証券を指す。リーマン・ブラザーズでCDOの製造に関与していたイヴァは、その仕組みを知り尽くしていた。こんなふうに想像すればわかりやすいだろう。CDOの組成者が、小さな債務を箱のなかにたくさん投入する。ジルが地元銀行から借りた住宅ローンのうちの数ポンド。トヨタが日本の年金基金に支払う積立金の一部。ギリシャの銀行がドイツの銀行から借りた融資のうちの数ユーロ。アメリカ政府がJPモルガンに支払う債務のうちの数ドルなど。どのCDOもさまざまなタイプの無数の担保資産から成り、それぞれ債務不履行リスクも利回りも違う』、「発足直後のオバマ政権がウォール街に屈した」とは、危機に陥ったリーマン・ブラザーズの救済に失敗、7000億ドルの公的資金投入で市場鎮静化を図ったことを指す。「国境なき寡頭政」とは、ドイツを中心とするEU体制のこと。「CDO」は確かに「大量破壊金融商品」となった。
・『欲に目が眩み、みずからカモになった銀行  CDOの最大のセールスポイントは、その証券化商品が「安全だ」という虚構にあった。そして、CDOは多様な人や組織の多様な債務で構成されるため、複数債務が同時に焦げつく恐れはない、という謳い文句で売りに出された。さらには、どのCDOも極めて複雑であり、どんな人にも─組成者自身にも─その価値が評価できず、販売価格については上限がないも同然だった。CDOを組成し、売却し、取引する者はただ市場の決定に委ね、市場のほうでもよくわかっていると断言できる者はいなかった。 CDOは、ジェイムズ・ボンド映画に登場する悪党の発明品だ。ペテンそのものだ。まったく不透明な紙切れでありながら、安全で大きな利益を生むように思えた。その安心感によって、CDOの組成者の予想をはるかに超える勢い─と、はるかに高値─で購入者が群がった。その高値に驚く銀行家の様子を見て、さらに注文が殺到し、価格が急騰した。 莫大なマネーを生み出したことから、CDOを組成した銀行家は、騙されやすいカモに不良債権を売りつけるという、本来の目的をすぐに忘れた。自分たちが売り出したCDOでほかの投資家が儲けると、指をくわえて見ていることができず、リーマン・ブラザーズのような銀行は欲に目が眩んで、みずからのCDOを買い戻し始めた。買い戻せば買い戻すほど、すでに高い価格はますます高騰し、手元のCDOの価値も跳ね上がり、ボーナスも跳ね上がった。その儲けに狂乱状態に陥った銀行は、巨額の資金を互いに貸し付け合い、より多くのCDOを買い漁った。 要するに、銀行はみずからが仕掛けた罠に頭から飛び込んでいったのだ。そしてCDO内の不良債権がすべて焦げ付き、2008年に市場が暴落すると、投資銀行はみずから掘った底なしの穴に落ちた。その様子を目の当たりにした政治家と、連邦準備制度理事会(FRB)やイングランド銀行、欧州中央銀行(ECB)などの世界のおもな中央銀行は、慌てて金融機関を救済しようとした。その時だった。エスメラルダ率いるクラウドショーターズが、ストライキを呼びかけたのは』、「銀行はみずからが仕掛けた罠に頭から飛び込んでいったのだ。そしてCDO内の不良債権がすべて焦げ付き、2008年に市場が暴落すると、投資銀行はみずから掘った底なしの穴に落ちた」、その通りだ。その後の「クラウドショーターズ」の話は筆者のフィクションである。
・『水道料金の支払いを2ヵ月遅らせるだけでいい  エスメラルダはイヴァと同じように大手金融機関で働いていたが、世界金融危機が起きる直前に退職していた。そのため、業界の裏の事情を熟知していた。クラウドショーターズは彼女の専門知識を活かして、中央銀行の目論見を外科的かつスタイリッシュに阻んだ。ほとんどの人が理解していないことを、彼らは理解していた。なにもかも民営化したことから、資本主義は「金融ゲリラ攻撃」に極めて脆弱になっていた。特にエスメラルダが理解していたのは、単純な債権からCDOをつくり出す、「証券化」と呼ばれる不遜で皮肉なプロセスが、武力によらない草の根革命にとって絶好の攻撃対象だったことだ。 電気やガスなどの公益事業会社が民営化された結果、各家庭や中小企業に送られた電話や水道、電気料金の請求書はすべて、民間企業に支払う債務となった。だがそれらの民間企業は当の債務を、とっくの昔にどこかの金融機関に転売していた。それでは、その金融機関は具体的になにを購入したのか。市井の人たちが生み出す将来の収入の流れを回収する権利である。そして、その権利を使って彼らはなにをしたのか。その収入源を小さく切り刻んでいろいろなCDOに紛れ込ませ、さらに別の─それこそ世界中の!─金融機関に売却したのだ。 エスメラルダとその仲間には、CDOの中身を特定する優れた技術的能力があった。苦心してソフトウエアを書き上げると、各CDOのどの債務がどの世帯の債務なのか、その請求書や債務の支払期限はいつなのか、誰に対する債務なのか、特定のCDOを誰がその時々で保有していたのかを正確に突き止めた。その膨大なデータベースをもとに、エスメラルダたちは各世帯に連絡を取った。彼らのほとんどが激しい怒りを爆発させた。大手投資銀行のやり口にも。投資銀行家が待ち望んでいる救済措置に対しても。そこでエスメラルダたちは、費用がかからず、攻撃対象を絞った短期の支払い遅延ストライキに突入するよう、怒れる世帯に呼びかけた。エスメラルダはその運動を、クラウドショーティング(大衆による短期支払い遅延運動)と呼んだ。 クラウドショーターズが市民に呼びかけた檄文は、シンプルだった。実際、エスメラルダがヨークシャー地方の住民に呼びかけた初期の檄文は、プラーク(銘板)となってロンドンの国会議事堂を飾っている。 私たちに力を貸してほしい。あなたがその日の食事をテーブルに載せるのにも苦労しているというのに、そのあなたの法外な水道料金の請求書で利益を得ている者どもを、引きずり下ろすために。水道料金の支払いを2ヵ月間、遅らせるだけでいい。遅延料金の心配はいらない。クラウドファンディングで集めて私たちが補てんする。団結すれば揺るがず、分裂すれば倒れる! 同様のプラークはワシントンDCの議会議事堂のエントランスも、アテネのシンタグマ広場に面した国会議事堂も飾っている』、「水道料金の支払いを2ヵ月遅らせる」、ようなことが起きれば、確かに金融市場は大混乱する。
・『ゴールドマン・サックスを終わらせる  その呼びかけは瞬く間に拡散した。英国中の、やがて世界中の人びとがクラウドショーターズの活動を熱心に見守り、その訴えに従った。綿密に連携を図った支払い遅延ストライキは次々にCDO市場の崩壊を招き、その影響はおもな証券取引所にも及んだ。3週間もしないうちに中央銀行は悟った。民営化した公益事業会社が破綻の危機に瀕して、救済措置を必要としているというのに、金融機関が抱える数兆ドルの債務を救うわけにはいかない。 ほんの数ヵ月のあいだに2度も3度も続けて、数兆ドルをウォール街に投入するよう連邦議会を説得するのは不可能であり、アメリカ政府は、ゴールドマン・サックスやJPモルガンといった、金融業界の巨獣の歴史を終わらせるより仕方なかった。すさまじい波紋が生じた。アメリカの銀行を凌ぐ業績悪化によって、欧州の銀行も営業を停止する。ロンドンの金融街がメルトダウンを起こす。各国政府は、ガスや水道などの破綻した民間企業の再国営化を余儀なくされる。FRB、ECB、イングランド銀行、日本銀行、さらには中国人民銀行までが金融業界の空白に介入して、市民に銀行口座を提供せざるを得なかった。 エスメラルダとクラウドショーターズは、グローバル金融の衰退に大きな役割を果たしたものの、彼らだけでOC革命の炎を燃え上がらせることはできなかった。すでに崩壊の道をたどっていたウォール街の息の根を止めることはできたが、資本主義の凍結はそう簡単ではなかった。そこで重要な役割を担ったのが、別のテクノ反逆者たちだった。(翻訳/江口泰子))』、何が「資本主義の凍結」をもたらしたのだろう。

次に、4番目の記事、9月10日付け現代ビジネス「貧困がなくならないのは、皆の財産を誰かが奪っているからでは? ベストセラー経済学者が構想する究極の格差解決法」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/87011
・(冒頭の部分は初めの記事と同じなので紹介を省略)ヒエラルキーのない会社の仕組み、大株主が存在できない社会に続き、今回は国民全員が中央銀行に口座を持つ仕組みをお読みいただこう(資本主義が打倒されるまでの経緯の1回目はこちら、2回目はこちらを!)。
・『中央銀行が全市民に配当を払う  コスティの世界では、中央銀行は毎月、市民の年齢に応じて一定額を「配当」口座に振り込む。そのおもな原資は企業から国への支払いだ。実のところ、国はあらゆる企業が納める総収入の5パーセントで、全市民に対する社会給付を賄っている。「相続」が赤ん坊の誕生とともにまとめて振り込まれるいっぽう、「配当」は誕生から毎月振り込まれて、赤ん坊が子どもになり、やがて10代を経て成人するまで市民を貧困から守ってくれる。 「配当」のおかげで、市民は貧困に陥る不安が取り除かれるだけでなく、生活保護を受ける際の屈辱もなければ、容赦ない審査や手続きもない。事業活動に関心はないが社会に貴重な貢献をもたらす者に、「配当」は充分な収入を保証する。なかにはその価値を市場が正しく評価できないような、たとえば介護部門や環境保全、非商業的な芸術といった活動も含まれる。「怠惰な生活を送る権利のためにもだよ」コスティが、挑発するようにつけ加えた』、「配当」はベーシックインカムのようなものらしい。
・『「税金なし、生活保護なし」でも貧困から脱出できる  「配当」の特長のなかでもコスティが特に高く評価していたのは、貧困世帯を永続的に貧困に閉じ込めておくセーフティネットから、彼らを解放することだ。貧困者を搦め捕る「安全網」のかわりに、「配当」は堅固なプラットフォームとして機能する。 貧しい者や恵まれない者も2本の足で立って、よりよい生活が始められる。若者はいろいろな職種を試すことができ、シュメール時代の陶芸から天体物理学まで、「それじゃ食べていけない」といわれる知識を学ぶこともできる。コスタの世界では当たり前になったギグ・エコノミーのような搾取は、「配当」があるだけで不可能になる。実際、ギグ・エコノミーは、収容所群島ならぬ「ゼロ時間契約群島」を生み出してきた。 これまでさまざまなタイプのベーシックインカムが提案され、そのうちの多くが1970年代以降に登場したことは、コスタも知っていた。だが、コスタはどの案にもあまり賛成ではなかった。多くの左派と同じように彼もまた、怠惰に暮らす権利は基本的にブルジョア階級のものだと考えていた。とはいえ、コスタの最大の懸念は、勤勉なプロレタリア階級の税金を、一日中テレビの前に座って過ごす怠け者のために使えば、社会の分断を招くだけではないか、という点にあった。「労働者階級の連帯とは対極を成す」と、コスタは言った。 「だけど、君は忘れてるんじゃないか。ここでは誰も所得税も消費税も支払わない。『配当』とは、社会の資本を共同所有する全市民に対するリターンなんだよ」 確かにコスタはその点を見落としていた。実際、「配当」に対するコスタの評価が急上昇したのは、コスティの世界には税金がふたつしかないと彼が説明した時だった。つまり法人税と土地税だけだ。所得税はない。売上税も付加価値税もない。収入に対して誰も税金を支払わない。財かサービスかを問わず、なにを購入しようと誰も国に1ペニーも支払わない。 コスタにはすぐに理解しがたかった。だが、いったん合点がいくと「配当」は実に理にかなっていた。そこには、1970〜80年代に提案されたベーシックインカムとは明らかな違いがあったのだ。つまり「配当」の原資は税金ではなかった。コスティの世界の「配当」とは、市民が集団的に生産する資本ストックの共同所有者として、市民一人ひとりが受け取る「本来の配当」だったのだ。たとえ彼らのしていることが、一般的には仕事と認めがたいものであっても、やはり市民全員に受け取る権利があった』、「配当」が「市民が集団的に生産する資本ストックの共同所有者として、市民一人ひとりが受け取る「本来の配当」」であれば、確かに「ベーシックインカムとは明らかな違いがあった」。
・『稼ぐだけ稼いで配当を払わないのがビッグテック  オーストリアの哲学者ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインは、驚くような名言を残している。「私的言語は成り立たない」。本来、言語は集団的にしか生み出されない。アイリスはよく、富もまた同じだと指摘した。資本主義者と不労所得収入者が喧伝した「富は個人が生み出し、徴税を通して国が集産化する」という通説とは完全に矛盾し、「富は言語と同じく集団的にしか生み出されない」とアイリスは主張したのだ。そして「その後初めて、私物化する権力を持つ者によって私物化される」。 その考えを敷衍するためにアイリスは、近代以前の資本のかたちを例に挙げた。農地や作物のタネといった資本は、数世代にわたる小作農の労働によって集団的に発達し、それを地主が占有した。今日、アップルやサムスン、グーグル、マイクロソフトのデバイスが基盤とするインフラや部品はもともと、政府の助成金を使って開発するか、共有のアイデアを利用することで可能になったものだ。共有のアイデアは、民話や民謡と同じように社会のなかで発達した。 社会的に生み出されたそれらの資本を、ビッグテックはなにもかも貪欲に占有し、しかもその過程で莫大なカネを稼ぎながら、社会にはなんの配当も支払ってこなかった。それどころか、私たちがグーグルで検索するたび、アプリを使ってフェイスブックのなかを見てまわるたび、インスタグラムに写真を投稿するたびに、そのデータによってビッグテックの資本ストックが増大する。配当をすべて搔き集めているのは、いったい誰なのだ? この問題の解決策として、コスタが長く考えていた方法がふたつあった。ひとつは、ビッグテックの課税率を引き上げる。もっと過激なふたつ目は、グーグルなどのビッグテックをいっそ国営化する。だがコスティの説明を聞いたいま、「配当」は徴税や国営化よりもはるかに優れた方法に思えた。資本ストックに対するリターンを共有する権利が、誰の手にも入るのだ。 企業の資本はそもそも市民の共同投資であり、企業活動はその上に成り立っている。リターンは共同投資の反映にすぎない。そして、それぞれの企業がそのようなかたちで社会に負う社会資本の量を、正確に弾き出すのは不可能であるため、企業の収入から社会に還元する割合を決める唯一の方法は、民主的な決定ということになる。すなわち法的ルールによって、企業収入の一部(コスティの会社の場合は5パーセント)が自動的に中央銀行に徴収される。それを原資として、一部が赤ん坊全員の「相続」と市民全員の「配当」として振り込まれる。コスティや彼の同僚が企業収入の一部を基本給のかたちで平等に分け合うように、社会もまた企業の資本配当の一部を、基本所得(ベーシックインカム)のかたちで平等に分け合うのだ。 なんてすばらしいアイデアなんだ! コスタは感心した。本能的な懐疑心は、この時点でほとんど払拭されていた。とはいえ、疑問は尽きなかった。株式市場を通じた投資がなく、起業にあたって資金調達ができないのなら、コスティが勤めるような会社はどうやって創業されたのか。そして、もしコスティが会社を辞めて、新たな就職先を探す時にはどうするのか? まったくの手ぶらで会社を去るはめになるのだろうか』、「農地や作物のタネといった資本は、数世代にわたる小作農の労働によって集団的に発達し、それを地主が占有した」、「今日、アップルやサムスン、グーグル、マイクロソフトのデバイスが基盤とするインフラや部品はもともと、政府の助成金を使って開発するか、共有のアイデアを利用することで可能になったものだ。共有のアイデアは、民話や民謡と同じように社会のなかで発達した。 社会的に生み出されたそれらの資本を、ビッグテックはなにもかも貪欲に占有し、しかもその過程で莫大なカネを稼ぎながら、社会にはなんの配当も支払ってこなかった」、言われてみれば、その通りだ。
・『株式市場がない世界  事業には人材と資源が必要だ。コスティの世界の新規採用システムには、確かに自発性や民主的な特徴はあるにせよ、コスタの世界のシステムとさほど大きな違いはない。ところが、資源の配分においては著しい違いがあった。 コスタが労働市場から自分を解放する前、彼が勤めた会社はどこも、企業に対する忠誠心を示す踏み絵として、事実上、自社株の購入を迫った。そして入社すると、実際に株式購入選択権を提示された。これは、あらかじめ定めた低価格で自社株を購入できる、合法的だが取り消しの利く権利だ。取締役や従業員を裕福にする強力なツールである反面、懲罰的な仕掛けでもある。おいしそうなニンジンを鼻先にぶらさげておいて、上司が絶妙なタイミングでその餌を引っ込めることもできる。 いっぽう、コスティの世界は対照的だった。コスティは採用が決まったその日に株式を1株、当然のように与えられた。もちろん無料で。なんの条件もなく。学生が図書館のカードを手渡されるか、新入社員がセキュリティ用の社員証を支給されるように。企業の株を余分に購入しようなどという考えは、コスティには思い浮かばなかった。実際、1人1株制度は非常に評判がよく、株を売ったり買ったりするという考えは、議決権か愛する赤ん坊を売買するのと同じくらい言語道断なものだった。 それに対して、コスタの世界では株式市場を通じて、個人の銀行口座のものであれ、大きな年金基金のものであれ、保有資産を投資に活用でき、その重要なメカニズムを使って企業が生まれ、大きく成長できた。だが株式市場がないコスティの世界では、どうやって保有資産を活用するのだろうか。企業はどうやって資金調達するのか。蓄えたおカネが投資にまわる仕組みは? 労働者が働いて生み出したおカネは、どのように新たな機械類に、新たな生産手段に生まれ変わるのだろうか。 「個人のパーキャプ口座から、企業に直接貸し付けるんだ」コスティが言った』、「パーキャプ口座」とは何なのだろう。
・『基本給と「配当」で生活し「積立」を企業に貸す  コスティは採用が決まると、彼のパーキャプ口座の資産を企業に貸し付けてはどうかと持ちかけられた。コスティに企業の所有権は購入できない。だが企業に、それも特に自分が働く企業に貸し付けることはでき、また積極的にそう勧められる。新しく働く会社に貸し付ける動機は、次のふたつからだ。 まずは相互の関係性を深めるため。もうひとつはより実際的な話であり、もし自社で働く者から貸し付けを受けないならば、企業は赤の他人の貸し付けに頼らなければならず、下手をすると、リスクと金利の高いプレミアム貸し付けを利用しなければならないからだ。もちろん新卒のパーキャプ口座の「積立」に、なにほどの残高があるわけではない。だが「相続」から貸し付けることもできた。この世に生まれるとともに社会が用意してくれた資金を、初めて活用する機会というわけだ。 よその企業に貸し付けることもでき、コスティもその方法を選んだ。コスティは長年、基本給と「配当」だけで生計を立て、「積立」に振り込まれたボーナスには手をつけず、その分を複数の企業に貸し付けてきた。コスティが選んだのは、製品やサービスを幅広い地域社会に提供している企業だった。支援の必要があるとコスティが感じた企業であり、コスティは利息を受け取った。会社を辞める時には、自分のパーキャプをそのまま「持ち運ぶ」ことができ、転職先の企業に貸し付けることも可能だった。そのような単純な貯蓄の自由市場を介して、企業は市民のパーキャプ口座を活用でき、市民のほうでも流動性の高い市場にアクセスして、パーキャプの残高をうまく運用できた。 それでは、会社を辞める時にはどうするのか。それについては極めてシンプルだ。仕事を終了して、パーキャプとともに会社を去る。解雇の場合はもちろんもっと痛みを伴う。新人を募集する際には、誰でもほかのメンバーを招いて即席の人事委員会を設置した。それと同じように解雇の場合にも、誰でも調査委員会を設置して、業績が悪いか不正行為の疑われる同僚を追放するかどうかを検討する。調査委員会はあらゆる関係者から話を聞いたあとで、完全に透明性の保たれた状況でその頭の痛い問題について審議し、全員の投票で決定を下す。 この世に誕生すると同時にパーキャプ口座が与えられるおかげで、いろいろなことが容易になる。企業に入る際にも離職の際にもパーキャプは持ち運べる。自分の意志で辞めた時でも解雇された時でも、企業には高額の退職金や補償金を支払う法的な義務はない。もちろんコスティの貢献を認めた場合か、解雇に伴う不快感を慰めるために、同僚が彼らの基本給かボーナスの一部を慰労金のようなかたちで、コスティに譲るよう可決することは可能だ。だがそうでないなら、コスティはただ自分のパーキャプとともに会社を去る。基本給と「配当」で生活し「積立」を企業に貸す コスティは採用が決まると、彼のパーキャプ口座の資産を企業に貸し付けてはどうかと持ちかけられた。コスティに企業の所有権は購入できない。だが企業に、それも特に自分が働く企業に貸し付けることはでき、また積極的にそう勧められる。新しく働く会社に貸し付ける動機は、次のふたつからだ。 まずは相互の関係性を深めるため。もうひとつはより実際的な話であり、もし自社で働く者から貸し付けを受けないならば、企業は赤の他人の貸し付けに頼らなければならず、下手をすると、リスクと金利の高いプレミアム貸し付けを利用しなければならないからだ。もちろん新卒のパーキャプ口座の「積立」に、なにほどの残高があるわけではない。だが「相続」から貸し付けることもできた。この世に生まれるとともに社会が用意してくれた資金を、初めて活用する機会というわけだ。 よその企業に貸し付けることもでき、コスティもその方法を選んだ。コスティは長年、基本給と「配当」だけで生計を立て、「積立」に振り込まれたボーナスには手をつけず、その分を複数の企業に貸し付けてきた。コスティが選んだのは、製品やサービスを幅広い地域社会に提供している企業だった。支援の必要があるとコスティが感じた企業であり、コスティは利息を受け取った。会社を辞める時には、自分のパーキャプをそのまま「持ち運ぶ」ことができ、転職先の企業に貸し付けることも可能だった。そのような単純な貯蓄の自由市場を介して、企業は市民のパーキャプ口座を活用でき、市民のほうでも流動性の高い市場にアクセスして、パーキャプの残高をうまく運用できた。 それでは、会社を辞める時にはどうするのか。それについては極めてシンプルだ。仕事を終了して、パーキャプとともに会社を去る。解雇の場合はもちろんもっと痛みを伴う。新人を募集する際には、誰でもほかのメンバーを招いて即席の人事委員会を設置した。それと同じように解雇の場合にも、誰でも調査委員会を設置して、業績が悪いか不正行為の疑われる同僚を追放するかどうかを検討する。調査委員会はあらゆる関係者から話を聞いたあとで、完全に透明性の保たれた状況でその頭の痛い問題について審議し、全員の投票で決定を下す。 この世に誕生すると同時にパーキャプ口座が与えられるおかげで、いろいろなことが容易になる。企業に入る際にも離職の際にもパーキャプは持ち運べる。自分の意志で辞めた時でも解雇された時でも、企業には高額の退職金や補償金を支払う法的な義務はない。もちろんコスティの貢献を認めた場合か、解雇に伴う不快感を慰めるために、同僚が彼らの基本給かボーナスの一部を慰労金のようなかたちで、コスティに譲るよう可決することは可能だ。だがそうでないなら、コスティはただ自分のパーキャプとともに会社を去る』、「パーキャプ口座」は必ずしも自分が勤務する「企業」のものでなくてもいいのであれば、その「企業」の「パーキャプ口座」自体を売買の対象にしてもよさそうなものだ。
・『パートナーと仲違いした時は入札で会社所有者を決める  コスティは限られた行数のなかで、会社法の重要なふたつの特徴について教えてくれた。ひとつは、小規模の法人かパートナーシップを解消する際の手続きについてだ。ふたりのパートナー(共同経営者)が仲違いして、お互い目も合わせなくなった時、過半数の投票を行なっても、どちらが会社を所有し、どちらが辞めるのかを決定できない。そこでその場合は、シュートアウト条項を用いる。 具体的に言えば、自分がその企業を引き続き所有する際の金額を書き入れた紙を封印して、双方が提出する。その際、入札額の高かったほうが企業を所有することになる。しかしながら、その者は落札額と同額を、みずからのパーキャプから企業に貸し付けなければならず、落札額に応じて国税も支払う。シュートアウト条項は、その会社の債務返済能力と社会貢献能力をより高く評価するパートナーのほうが、引き続き会社を所有するようにつくられている。 そして、コスティが詳しく教えてくれた会社法のふたつ目の特徴は、コスタの懸念に充分に応えるものだった。すなわち、企業は自社で働く者以外─消費者、地域社会、社会全体─の利益をどう考えているのか。(翻訳/江口泰子)』、「シュートアウト条項」はよく考えられているようだ。

第三に、9番目の記事、9月16日付け現代ビジネス「私たちが働いた稼ぎを横取りする「職場の独裁権力」を倒すには 会社を所有すべきなのは、本当は誰なのか」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/87220
・(冒頭の部分は初めの記事と同じなので紹介を省略)分身コスティから明かされた、資本主義打倒後の世界。それは、ピラミッド構造ではないフラット組織の会社、大株主が存在できない経済、国民全員が中央銀行に口座を持つ仕組み、そして銀行がない社会だった。それらの報告をコスタから聞いたアイリスとイヴァの議論は、資本主義の正体を暴き出すものになった。その物語をお読みいただこう(資本主義が打倒されるまでの経緯の1回目はこちら、2回目はこちらを!)。
・『資本主義の破壊力から自然環境を守る方法とは?  資本主義が誘発する気候変動は、アイリスとコスタ以上にイヴァを動揺させた。ふたりと違ってイヴァには息子がいる。その息子に自分が滅びゆく地球を遺すように感じていたのだ。それを除けば、資本主義を葬っても、いいことはなにひとつない。資本主義が気候と自然に及ぼす破滅的な影響を無効にするためには、巨額の資金が不可欠だ。株式市場には、グリーン投資に資金を供給する仕組みが必要であり、二酸化炭素や私たちの暮らしを脅かす環境汚染物質に、適正な税金をかける必要がある。 「忘れちゃったの、イヴァ? 古いことわざにもあるでしょ、馬に鞭は打てないって」アイリスが指摘した』、なるほど。
・『女王も国家も巨大企業を支配できない  株式保有とうまく管理された株式市場は、歴史に勢いを吹き込んだ。東インド会社において、所有と事業活動とを切り離したことが、可変的で圧倒的な力を解放した。やがて歯止めがきかなくなり、大英帝国をも凌ぐ力を持ち、株主の利益だけに責任を負った。国内において、東インド会社の官僚制は女王陛下の政府を腐敗させ、大きな支配を及ぼした。海外においては、総勢20万人の私兵がアジア諸国や大西洋に浮かぶ島々の、それまでなんの問題もなく機能していた経済を破壊し、現地の人びとを確実に、システマチックに搾取した。 とはいえ、東インド会社が特殊だったわけではない。その後、東インド会社をテンプレートに多くの会社が生まれた。そのうちのひとつアングロ・ペルシアン石油(現BP)は、1953年に米英の秘密情報機関と協力して、イラン最後の民主政権の転覆を図った。あるいは、アメリカのコングロマリットであるITT(国際電話電信会社)は、1973年にチリで発生した軍事クーデターで重要な役割を果たした。もっと最近の例をあげれば、アマゾン、フェイスブック、グーグル、エクソンモービルなどがそうだ。これらの巨大企業相手に、どんな国民国家の支配も実質的に及ばない。 リベラルは馬脚をあらわした。権力の過度の集中を見て見ぬ振りをした時、リベラルの本性が露になったとアイリスは非難する。東インド会社の支配下にある社会の自由は、全体主義政権の支配下にある社会の自由と変わらない。つまり、そこに自由などない。だからこそ、りんごの売買と株式の売買とは似て非なるものだ。大量のりんごは最悪の場合でも、大量の腐ったサイダーを生産するだけだが、流動性の高い株式に投資する巨額の資金は、市場にも国家にもコントロールできない、悪魔のような力を解放しかねない』、「ITT・・・は、1973年にチリで発生した軍事クーデターで重要な役割を果たした」、左翼政権を残忍な方法で倒した裏に「ITT」がいたとは初めて知った。「権力の過度の集中を見て見ぬ振りをした時、リベラルの本性が露になったとアイリスは非難する。東インド会社の支配下にある社会の自由は、全体主義政権の支配下にある社会の自由と変わらない。つまり、そこに自由などない」、なるほど。
・『巨大企業に「ご近所」はない  「リベラリズムの致命的な偽善は」アイリスはさらに非難する。「近所の肉屋、パン屋、ビール醸造者の存在を喜んでおきながら、恥ずべき東インド会社やフェイスブック、アマゾンを擁護したこと。これらの巨大企業にご近所はない。パートナーもいない。道徳感情にも配慮せず、競合を破滅させるためには手段も選ばない。パートナーシップを匿名の株主に替えることで、私たちはリバイアサン(怪物)を生み出してしまった。それがついには、イヴァ、あなたのようなリベラルが大切だとおっしゃる、あらゆる価値を台なしにして否定したのよ」 話しているあいだに、自分の言葉につい感情が昂ったこともあり、アイリスはコスティが描き出す世界について、思わず熱っぽく語っていた。 「藁にもすがろうってわけね、アイリス」イヴァの顔には憐れみの表情がありありと浮かんでいた。「市場の美点は、最も適した組織のかたちが生き残る自然の生息環境だってこと。それ以外は架空の世界でしか生き残れない。1人1株の原則に基づく民主的な企業が、どんな意味でも優れているのなら、いま、ここに存在しているはず。ところが実際、それはコスタが空想する報告のなかにしかない」 それを合図にコスタが口を開いた。「ある環境で進化したシステムが証明するのは、そのシステムが、その環境でみずからを複製するのが得意だということだけだ。僕たちが暮らしたくなるようなシステムを生むわけでもない。さらに重要なことに、より長く生き残る能力を表しているわけでもない。環境は変わる。時に急激に、時にシステム自体が及ぼす悪影響によって。ほかのシステムを打ち負かすことは、それらのシステムと調和して生きる以上に、自己破壊を招くかもしれない。 ウイルスがいい例だ。エボラウイルスは感染力と複製力が極めて強く、宿主の致死率は、たとえば新型コロナウイルスと比べてもはるかに高い。新型コロナウイルスは「比較的無害」でありながら、2020年に資本主義を屈服させた。問題は、株式取引と資本主義がこれまでほかのシステムを打ち負かしてきたかどうかではない。そのふたつの影響として、宿主である社会が果たして生き残れるのかどうかなんだよ! そして、それについて言えば、君たちふたりがまだ考えていない、別の要素も考慮に入れるべきだ」 「へえ、そうなの?」とイヴァ。「まあ、そう言うんなら、ご親切に教えてくださらない? 私たちが見落としたという、その要素を」 「テクノロジーだよ、もちろん」それがコスタの答えだった』、なるほど。
・『株式市場とテクノロジーが出会って生み出したもの  「もし今日の株式市場の影響を正しく評価するのならば」コスタが続ける。「アイリスが指摘したように、17世紀に株式市場が誕生したことだけや、あるいはイヴァ、君が披露したように、株式市場が広く浸透したという事実だけで捉えることはできない。株式市場の進化を、環境との関係も踏まえて考えなければ。取引可能な株の導入のおかげで、企業は理論上、制限がなくなったのかもしれない。ところが、実際に制限がなくなったのは、ある技術が発明されたあとだ。1864年に英国の理論物理学者ジェイムズ・クラーク・マクスウェルが発見して、活用した電磁気学が可能にした技術だよ。 さて、僕は確信を持ってこう認めるが、もしマクスウェルがかの電磁方程式を考え出したのが、たとえば15世紀だったなら、ほんのひと握りの数学者仲間が大いに刺激を受けて終わりだっただろう。それ以上のことはなにも起こらない。ところが、トーマス・エジソンがマクスウェルの方程式を使って送電網を開発したからこそ、世界に電力を供給することになった。エジソンにそのような偉業が達成できたのも、株式市場を介して巨額の資金を調達できたからだ。君に言う必要もないだろうがね、イヴァ。ニューヨークのパールストリートにエジソンが開設した世界初の発電所は、株主が所有していた」 「まさにそれが私の言いたかったことよ」イヴァがにっこり微笑んだ。「マクスウェルの方程式がなければ、発電も電話も、レーダーもレーザーも、デジタルのものはなにひとつなかったに違いない。だけど株式市場がなかったら、GEやベル電話会社、アマゾンなどのネットワーク企業が必要とする巨額の資金は調達できず、科学者の描いた設計図は、ダ・ヴィンチのヘリコプターの設計図とともに、博物館に展示されて終わりだった。だからこそ、株式市場を禁じた先進社会を思い描くなんて、まったくどうかしてる」 「ちょっと待って、イヴァ」コスタが口を挟んだ。「株式市場が技術と遭遇して、どちらも変化を遂げた。お互いに変化して共進化を遂げた。そして、新たなものを生み出した。ガルブレイスの言うテクノストラクチャーだ。そしてそのプロセスのなかで、株式市場と技術はそのふたつの環境も変えたんだ」』、「「マクスウェルの方程式がなければ、発電も電話も、レーダーもレーザーも、デジタルのものはなにひとつなかったに違いない。だけど株式市場がなかったら、GEやベル電話会社、アマゾンなどのネットワーク企業が必要とする巨額の資金は調達できず、科学者の描いた設計図は、ダ・ヴィンチのヘリコプターの設計図とともに、博物館に展示されて終わりだった」、なかなか面白い見方だ。「株式市場が技術と遭遇して、どちらも変化を遂げた・・・ガルブレイスの言うテクノストラクチャーだ。そしてそのプロセスのなかで、株式市場と技術はそのふたつの環境も変えたんだ」、なるほど。
・『規律と美徳を破壊したものの正体  歴史を猛烈な勢いで前に進めた本当の原動力は株式市場ではない、とコスタは言った。エジソンが抱いたような壮大な野心に融資するためには、株式市場は流動性がまったく足りなかった。コスタが改めてイヴァに指摘したように、20世紀の変わり目にあれだけの発電所、送電網、工場や配電網の建設を賄うだけの資金は、銀行にも株式市場にも調達できなかった。あれだけ大きな規模のプロジェクトを軌道に乗せるためには、同じくらい大きな規模の信用ネットワークが必要だったのだ。 株式保有と技術は手を取り合って、株主が所有する巨大銀行の誕生を促した。巨大銀行は、新たな種類の巨大債務を生み出し、新たな巨大企業に積極的に融資した。そしてそれは、世のトーマス・エジソンやヘンリー・フォードたちに対する、巨額の当座貸越のかたちを取った。もちろん、彼らが借りた資金は実際には存在しない─まだ、この時点では。それどころか、彼らは巨大企業を築く資金を、その巨大企業が将来、生み出す利益から前借りしているようなものだった。 その信用供与枠が生んだ大量の資金は、製鋼法のベッセマー転炉やパイプライン、機械、送信機を製造し、ケーブルを設置しただけではない。企業の吸収合併にも使われて、もとの巨大ネットワーク企業を凌ぐカルテルが誕生した。民間とはいえ、旧ソ連のような「計画化体制」が登場して世界中に広がり、大企業家や金融業界の大物が手を組み、みずからのためにみずからが思い描く未来をつくり上げた。それがガルブレイスの言う、大企業のなかの専門家集団「テクノストラクチャー」である。コスティの世界でテクノ・サンディカリストたちが引きずり下ろそうとしたのも、そのテクノストラクチャーだった。 コスタが説明する。「テクノストラクチャーは、20世紀のあいだに何度も制御不能な状態に肥大し、市場の規律や公共の美徳といった考えを圧倒した。ウイルスと同じように、テクノストラクチャーも繰り返し宿主を病気にした。彼らが民間債務を貪欲に求めたことから、1929年に株価が暴落し、1930年代には大恐慌が発生して、第2次世界大戦の悲劇を招いた。その影響を受けて、戦後の各国政府は巨大銀行を去勢し、テクノストラクチャーを鎖につないだ。ところが1970年代初めになると、彼らは軛を逃れて、国の制約を振り払った。やがて彼らを支援し、扇動したのが、サッチャー首相とレーガン大統領が起こした政治的反乱だったんだよ』、「ウイルスと同じように、テクノストラクチャーも繰り返し宿主を病気にした。彼らが民間債務を貪欲に求めたことから、1929年に株価が暴落し、1930年代には大恐慌が発生して、第2次世界大戦の悲劇を招いた。その影響を受けて、戦後の各国政府は巨大銀行を去勢し、テクノストラクチャーを鎖につないだ。ところが1970年代初めになると、彼らは軛を逃れて、国の制約を振り払った。やがて彼らを支援し、扇動したのが、サッチャー首相とレーガン大統領が起こした政治的反乱だったんだよ」、「サッチャー」「レーガン」革命についてのユニークな解釈だ。
・『地球という惑星の正気を取り戻すには  こうして、テクノストラクチャーは再び支配力を掌中に収めたんだ。そして、将来価値を略奪する彼らの試みは新たな高みに達し、2008年にまたもや世界金融恐慌を招いた。今回は一掃すべき世界戦争の瓦礫はなく、中央銀行が大量のお札を刷り、そのぴかぴかの公的資金を注入されてテクノストラクチャーは素早く復活した。だけどその頃にはウイルスはその宿主をひどく病気にして、みずからの環境を略奪してしまい、完全な回復は望めなかった。肥大して、炎症を起こしたテクノストラクチャーは、新たな流動性を真の生産力に、質のいい仕事に、カーボンニュートラルな経済に転換できなかった。 その状況の恐ろしい危険を身に沁みて理解するためには、環境の略奪によって発生した2020年の本物のウイルスが必要だった。それでもなお、その時もまた、各国政府はテクノストラクチャーに巨額の資金をつぎ込むことが妥当だと考えた。彼らがまるで救命ボートででもあるかのように、病気の原因にしがみついたんだ。 2023年になる頃には、テクノストラクチャーと寡頭政の支配者たちは、この地球を─制御不能に陥った環境危機と社会危機に捕らわれたこの惑星を─ますます牛耳っていた。だからこそ僕が危惧するのは、地球という惑星の正気を取り戻すためには、株の取引を禁止するだけでは不充分ではないか、ということなんだ」(翻訳/江口泰子)→次回に続く』、「各国政府はテクノストラクチャーに巨額の資金をつぎ込むことが妥当だと考えた。彼らがまるで救命ボートででもあるかのように、病気の原因にしがみついたんだ。 2023年になる頃には、テクノストラクチャーと寡頭政の支配者たちは、この地球を─制御不能に陥った環境危機と社会危機に捕らわれたこの惑星を─ますます牛耳っていた」、「テクノストラクチャーと寡頭政の支配者たち」はまだ強力なようだ。崩すきっかけは何なのだろう。これ以降で、参考になる記事が出たら紹介したい。
タグ:資本主義 (その6)(世界的経済学者の資本主義論:これならあり得る資本主義終焉シナリオ 資本主義を攻撃するなら ターゲットはここだ、貧困がなくならないのは 皆の財産を誰かが奪っているからでは? 究極の格差解決法、私たちが働いた稼ぎを横取りする「職場の独裁権力」を倒すには 会社を所有すべきなのは 本当は誰なのか) ヤニス・バルファキス 英国、オーストラリア、ギリシャ、米国で教鞭。2015年、ギリシャ経済危機のさなかにチプラス政権の財務大臣に就任。緊縮財政策を迫るEUに対して大幅な債務減免を主張し、注目 2016年、DiEM25((Democracy in Europe Movement 2025:民主的ヨーロッパ運動2025)を共同で設立。2018年、米国の上院議員バーニー・サンダース氏らとともにプログレッシブ・インターナショナル(Progressive International)を立ち上げる。世界中の人々に向けて、民主主義の再生を語り続けている 現代ビジネス 「ベストセラー経済学者が描く、これならあり得る資本主義終焉シナリオ 資本主義を攻撃するなら、ターゲットはここだ」 ありきたりの資本主義論ではなく、興味深そうだ。 「発足直後のオバマ政権がウォール街に屈した」とは、危機に陥ったリーマン・ブラザーズの救済に失敗、7000億ドルの公的資金投入で市場鎮静化を図ったことを指す。 「国境なき寡頭政」とは、ドイツを中心とするEU体制のこと。「CDO」は確かに「大量破壊金融商品」となった。 「銀行はみずからが仕掛けた罠に頭から飛び込んでいったのだ。そしてCDO内の不良債権がすべて焦げ付き、2008年に市場が暴落すると、投資銀行はみずから掘った底なしの穴に落ちた」、その通りだ。その後の「クラウドショーターズ」の話は筆者のフィクションである。 「水道料金の支払いを2ヵ月遅らせる」、ようなことが起きれば、確かに金融市場は大混乱する。 何が「資本主義の凍結」をもたらしたのだろう。 「貧困がなくならないのは、皆の財産を誰かが奪っているからでは? ベストセラー経済学者が構想する究極の格差解決法」 「配当」はベーシックインカムのようなものらしい。 「配当」が「市民が集団的に生産する資本ストックの共同所有者として、市民一人ひとりが受け取る「本来の配当」」であれば、確かに「ベーシックインカムとは明らかな違いがあった」。 「農地や作物のタネといった資本は、数世代にわたる小作農の労働によって集団的に発達し、それを地主が占有した」、「今日、アップルやサムスン、グーグル、マイクロソフトのデバイスが基盤とするインフラや部品はもともと、政府の助成金を使って開発するか、共有のアイデアを利用することで可能になったものだ。共有のアイデアは、民話や民謡と同じように社会のなかで発達した。 社会的に生み出されたそれらの資本を、ビッグテックはなにもかも貪欲に占有し、しかもその過程で莫大なカネを稼ぎながら、社会にはなんの配当も支払ってこなかった」、 「パーキャプ口座」とは何なのだろう。 「パーキャプ口座」は必ずしも自分が勤務する「企業」のものでなくてもいいのであれば、その「企業」の「パーキャプ口座」自体を売買の対象にしてもよさそうなものだ。 「シュートアウト条項」はよく考えられているようだ。 「私たちが働いた稼ぎを横取りする「職場の独裁権力」を倒すには 会社を所有すべきなのは、本当は誰なのか」 「ITT・・・は、1973年にチリで発生した軍事クーデターで重要な役割を果たした」、左翼政権を残忍な方法で倒した裏に「ITT」がいたとは初めて知った。「権力の過度の集中を見て見ぬ振りをした時、リベラルの本性が露になったとアイリスは非難する。東インド会社の支配下にある社会の自由は、全体主義政権の支配下にある社会の自由と変わらない。つまり、そこに自由などない」、なるほど。 「「マクスウェルの方程式がなければ、発電も電話も、レーダーもレーザーも、デジタルのものはなにひとつなかったに違いない。だけど株式市場がなかったら、GEやベル電話会社、アマゾンなどのネットワーク企業が必要とする巨額の資金は調達できず、科学者の描いた設計図は、ダ・ヴィンチのヘリコプターの設計図とともに、博物館に展示されて終わりだった」、なかなか面白い見方だ。「株式市場が技術と遭遇して、どちらも変化を遂げた・・・ガルブレイスの言うテクノストラクチャーだ。そしてそのプロセスのなかで、株式市場と技術はそのふたつの環 「各国政府はテクノストラクチャーに巨額の資金をつぎ込むことが妥当だと考えた。彼らがまるで救命ボートででもあるかのように、病気の原因にしがみついたんだ。 2023年になる頃には、テクノストラクチャーと寡頭政の支配者たちは、この地球を─制御不能に陥った環境危機と社会危機に捕らわれたこの惑星を─ますます牛耳っていた」、「テクノストラクチャーと寡頭政の支配者たち」はまだ強力なようだ。崩すきっかけは何なのだろう。これ以降で、参考になる記事が出たら紹介したい。
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今日は更新を休むので、明日にご期待を!

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物流問題(その8)(破格の配送料金に中小の物流業者は困惑 ヤフーの出店者が驚いたヤマトの“格安配送”、協業の狙いはクール便の配送以外にもあるヤ マト独走に待った!佐川・日本郵便連合の勝算、半導体の次にくる世界経済の時限爆弾:【前編】国際海運業界で層、【後編】「スエズ危「中国人クルー」争奪戦の深機」よりも怖い!船員の反乱リスク) [産業動向]

物流問題については、昨年3月26日に取上げた。今日は、(その8)(破格の配送料金に中小の物流業者は困惑 ヤフーの出店者が驚いたヤマトの“格安配送”、協業の狙いはクール便の配送以外にもあるヤ マト独走に待った!佐川・日本郵便連合の勝算、半導体の次にくる世界経済の時限爆弾:【前編】国際海運業界で「中国人クルー」争奪戦の深層、【後編】「スエズ危機」よりも怖い!船員の反乱リスク)である。

先ずは、本年5月23日付け東洋経済Plus「破格の配送料金に中小の物流業者は困惑 ヤフーの出店者が驚いたヤマトの“格安配送”」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27008
・『拡大が続くネット通販市場。宅配需要を取り込もうと物流業者がしのぎを削る。中でも勢いづくのが王者ヤマトだ。 宅配便首位のヤマト運輸と大手EC(ネット通販)事業者のヤフーが発表した物流サービスが業界に波紋を呼んでいる。 首都圏のある運送企業の経営者は「配送料の数字を見たときは衝撃を受けた。あのヤマトがここまで安くするのか」と苦々しい表情でそう口にした。 今年3月、ヤマトとヤフーが「Yahoo!ショッピング」や「PayPay(ペイペイ)モール」出店者向けの配送サービスをリニューアルし、「全国一律」で破格の料金を打ち出したからだ。 例えば60サイズ(3辺計で60センチメートル、重量は2キログラムまで)の荷物は全国どこに運んでも382円。これは、ヤフーの競合である楽天が提供する自社物流サービス「楽天スーパーロジスティクス」よりも2割近く安い。 配送サービスのリニューアルに伴って開いた3月の説明会で、ヤフーのショッピング統括本部事業開発室の山下滋室長は「今回、提示した配送料は値下げ感が強いと思う。『ヤマトがこの値段で運んでくれるのか』と驚く出店者も多かった」と自信を見せた』、「「楽天スーパーロジスティクス」よりも2割近く安い」、確かに驚きの安値を打ち出したものだ。
・『連携の強化で競合に追いつく  ヤマトとヤフーが手を組んだのは2020年3月。ヤマト運輸の親会社であるヤマトホールディングスは、ヤフーを傘下とするZホールディングス(以下、ZHD)と業務提携に向け基本合意。「Yahoo!ショッピング」や「ペイペイモール」の出店者向けサービスを提供すると発表した。 両社は、商品の在庫管理なども含め受注から宅配までをヤマトが一括で請け負う物流アウトソーシングサービスを提供してきたが、今回、それをリニューアルした。ヤフーでEC事業を統括する畑中基・コマースカンパニー執行役員ショッピング統括本部長は、「楽天やアマゾンと比べて現状は配送が周回遅れとなっている。ヤマトと連携を強化して競合に追いつくつもりだ」と意気込む。 ECの需要自体は旺盛で、2019年の国内におけるBtoC向けECの市場規模は19.4兆円(前年比7.6%増)となった。ヤフーはさらなるECの拡大を図るうえで物流サービスの強化を重要な要素と考えており、ヤマトとしても連携を強化すれば宅配需要の安定的な増加を取り込める。 国内EC最大手のアマゾンは目下、個人ドライバーと配送拠点の案件をマッチングする「アマゾンフレックス」を拡大し、物流の自前化に余念がない。アマゾンはコスト削減意識が非常に強いため、事業者に委託する手数料の削減を図る狙いだろう。 一方、楽天は今年3月に日本郵政と資本業務提携を発表。 これまで自前の配送サービス「Rakuten EXPRESS」を展開しており、中小運送会社に荷物の配送を委託していたが、5月末で荷物の委託を終了することを決めた。今後は日本郵便への配送委託を拡大する構えだ。 7月には日本郵便との合弁でJP楽天ロジスティクスを設立する』、物流戦国時代に突入したようだ。
・『破格の料金でもヤマトは儲かる?  ヤフー向けに用意したヤマトの配送料金は他の運送業者から言わせると破格だが、「採算がとれる前提でサービスを提供している。利用者が増えれば十分な荷物数を確保できるはずだ」(ヤマト運輸のEC事業部の中西優シニアマネージャー)という。 この配送料を適用してもらうためには、倉庫での商品の保管業務や出荷作業もヤマトに委託しなければならない。「3PL(物流一括受託)大手と比べても、ヤマトの保管料や作業費は高い。確かに配送料は安いが、(出荷作業代行など)附帯する業務で利益を確保するつもりだろう」(物流企業の幹部)。 それでも、業界首位による配送料の“値下げ”が及ぼす影響は大きい。 関西のある運送企業の幹部は、今回の料金体系を前に「かなわんなぁ……」と困り果てる。「全国の配送拠点を維持するために、荷物を確保しなければならないヤマトの立場は理解できる。だが、ベンチマークとなるヤマトが配送料を値下げすれば、ただでさえ厳しい価格競争が激化してしまう」(同幹部)からだ。 宅配便の競争激化は大手といえど無縁ではいられない。2021年5月の決算説明の場で、日本郵便の上尾崎幸治執行役員は「2021年1~3月期の荷物数の伸び幅は、2020年10~12月期の伸び幅と比べて弱い。同業他社が攻勢をかけており状況は厳しい」と語った』、「この配送料を適用してもらうためには、倉庫での商品の保管業務や出荷作業もヤマトに委託しなければならない。「・・・ヤマトの保管料や作業費は高い。確かに配送料は安いが、・・・附帯する業務で利益を確保するつもりだろう」、なるほど。
・『都内ではすでに事業者に余剰感  EC市場拡大の恩恵に預かろうと、宅配に新規参入する事業者は後を絶たない。人口縮小で企業間物流の先細りが懸念されるなか、いかに需要旺盛なEC関連の物流業務を受託できるかが、物流各社の大きな課題だ。 路線トラック大手の「。同社の 田口義隆社長は「置き配が浸透すれば、企業間物流のように再配達のない効率的なオペレーションが可能だ。ローコストを武器にサービスを拡大していきたい」と語る。柱である法人向けの貨物運送の荷物量が減少傾向なため、宅配便や冷凍冷蔵物流など、新たな収益源の確保を急いでいる。 また、物流の川上に該当する倉庫内業務でも、EC事業者から業務を受託するうえで、宅配が欠かせなくなってきている。 間接材EC大手モノタロウなどから配送受託している3PL(物流一括受託)大手のSBSホールディングスは、全国都市部での宅配網構築を進めている。同社の鎌田正彦社長は「EC拡大で3PL市場も成長が続いている。足回り(宅配サービス)を持っていることが強みとなり、本業である3PLの新規受託が狙える」と意気込む。 同じく3PL大手のセンコーグループホールディングスも宅配事業の強化を進めている。2018年8月に子会社が軽貨物配送に参入して以降、規模拡大が続いており、2023年3月期の稼働台数3000台(2021年3月時点で1250台程度)を目指している。 冒頭の運送企業の経営者は「少なくとも首都圏は荷物の配送を担う軽貨物配送事業者の余剰感が出てきている」と打ち明ける。宅配需要の増加は続いても、物流事業者が押し寄せて需給バランスが崩れ、“買い手市場”となることで、荷主からの「値下げ圧力」が増す可能性も否定できない。 いかに適正な配送料を確保しながら必要な荷物量を獲得できるか。過当競争に突入しつつある宅配業界で、物流各社の舵取りはいっそう難しくなりそうだ』、「セイノーホールディングスは、2020年8月頃からグループ会社を通じてコストを抑えた宅配サービスを始めている」、「倉庫内業務でも、EC事業者から業務を受託するうえで、宅配が欠かせなくなってきている」、「宅配サービス」は周辺業界からの参入もあって。「過当競争に突入しつつある」、今後の「物流各社」の展開を注視したい。

次に、9月15日付け東洋経済Plus「協業の狙いはクール便の配送以外にもあるヤマト独走に待った!佐川・日本郵便連合の勝算」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/28188
・『業界首位を走るヤマトの原動力となっている領域を佐川・日本郵便連合で狙いに行く。 EC(ネット通販)荷物を囲い込もうと猛攻勢をかける業界首位に対抗すべく、宅配大手2社が連携強化に踏み切った。 9月10日、宅配業界2位の佐川急便・本村正秀社長と3位の日本郵便・衣川和秀社長が記者会見し、小型荷物の宅配やクール便の取り扱いなどでの協業に基本合意したと発表した。日本郵便の衣川社長は「競争分野を残しつつも、足りない部分を相互補完し、安定した物流サービスを提供していきたい」と語った。 両社は2004年ごろからメール便の分野で提携していたが、今回の協業によって領域が広がる。まず2022年1月以降をメドに、日本郵便が取り扱うクール便の配送の一部が佐川に委託される。これまで日本郵便は「大口顧客のクール便のニーズに対応しきれずにいた」(日本郵便の衣川社長)が、佐川の配送網を活用することで、投資コストを抑えつつもクール便を強化できるというわけだ。 佐川も日本郵便のサービスを取り扱うことで商品ラインナップを拡充する構えだ。2021年10月以降をメドに国際スピード郵便(EMS)、同年11月以降に投函可能な小型荷物の「ゆうパケット」を取り扱い始めるが、配送は日本郵便に委託する。いずれも成長が期待されるEC物流において需要が見込めるサービスだ』、「宅配大手2社が連携強化」することで、「ヤマト独走」に対抗しようとしているようだ。
・『日本郵便が佐川にアプローチ  今回の協業は、日本郵便からのアプローチをきっかけに検討が始まった。佐川の本村社長は「2021年初めごろに、クール便の配送を委託できないかと依頼があり、そこから今回の協業へと発展した」と話す。 だが、事情に詳しい業界関係者は「協業に積極的だったのはむしろ佐川だ。弱点である小型荷物を日本郵便に委託しつつ、EC荷物を獲得したいのだろう」と明かす。 これまで企業間物流を強化してきた佐川はBtoB荷物が中心だったが、EC荷物が増えたことで、宅配便の取扱個数の半分をBtoC荷物が占めるようになった。「投函できる小型荷物の要望が顧客から挙がっており、対応する必要があった」(佐川の本村社長)。日本郵便からしても、佐川を通じて取扱個数を増やせるのであればメリットは大きい。 佐川と日本郵便が協業拡大で対抗を狙うのが、宅配便首位のヤマト運輸だ。同社は2020年ごろから大口顧客の囲い込みを本格化しており、宅配便の取扱個数を大きく伸ばし続けている』、「佐川」は、「弱点である小型荷物を日本郵便に委託しつつ、EC荷物を獲得したい」、「日本郵便」も「佐川を通じて取扱個数を増やせるのであればメリットは大きい」、とウィンウィンの関係のようだ。
・『値下げでヤマト独走  足元の状況を見ると、ヤマト独り勝ちの構図は明らかだ。2021年4~7月のヤマトの宅配便の取扱個数は7.4億個(前年同期比9.4%増)だった。対して、佐川は4.6億個(同0.3%増)とほぼ横ばい。日本郵便に至っては3.3億個(同14.3%減)と取扱個数を大きく減らしているのが実情だ。 ヤマト独走の原動力となっているのが、投函可能な小型荷物「ネコポス」だ。2021年4~7月のネコポスの取扱個数は1.2億個(前年同期比50.7%増)と大きく伸びた。 象徴的だったのが、フリーマーケットアプリ大手のメルカリ専用の配送サービスをめぐる明暗だ。2020年10月、日本郵便がゆうパケットを175円から200円へ値上げしたのに対し、ヤマトはネコポスを195円から175円へ値下げしたことで、メルカリの利用者がヤマトに流出した。 加えて、ヤマトは2021年4月から、ヤフーのECモール出店者向けの物流代行サービスで、全国一律の格安配送を提供。配送料を安く抑えることで大口顧客を中心に囲い込もうという算段だ。ヤマトが強める価格攻勢の動きを、佐川と日本郵便としては見過ごせない。 前述の業界幹部は「敵の敵は味方というわけだ。佐川と日本郵便はお互いに手を組んで共通の敵であるヤマトに対抗したいのだろう」と説明する』、「日本郵便がゆうパケットを175円から200円へ値上げしたのに対し、ヤマトはネコポスを195円から175円へ値下げしたことで、メルカリの利用者がヤマトに流出した」、「日本郵便」も馬鹿な「値上げ」をしたものだ。
・『敵はヤマトだけではない  ただ、敵はヤマトだけではない。価格を武器にデリバリープロバイダのような中小運送会社が勢力を拡大しており、EC荷物をめぐる競争は激化する一方だ。3PL(物流の一括受託)大手のSBSホールディングスなど宅配サービスを展開する企業も登場し始めた。 今回の提携拡大による日本郵便と佐川の業績への貢献は、今のところ限定的なようだ。日本郵便の衣川社長は「売り上げで年間十数億円、利益で数億円規模だろう。業績にそこまで大きな影響はない」と見込む。 まずは対ヤマトという軸で連携する日本郵便と佐川。今後は地方都市での共同配送なども検討する。他社を巻き込んだ協業に発展できれば、「物流業界でのパラダイムシフトを目指す」(日本郵便の衣川社長)という宣言も現実味を帯びるだろう。 多方面から攻勢をかけられる日本郵便と佐川だが、協業の真価が問われる』、「日本郵便と佐川」の「協業」を注視したい。

第三に、7月13日付け東洋経済Plusが掲載した財新 編集部による「半導体の次にくる世界経済の時限爆弾【前編】国際海運業界で「中国人クルー」争奪戦の深層」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27476
・『国際海運業界が深刻な「船員不足」にあえいでいる。船員の主要な派遣国だったインドや東南アジアで、新型コロナの変異株が猛威をふるっているためだ。 世界の貿易を支える国際海運業界で、中国人クルーの争奪戦が起きている。その理由を探ると、業界が直面する未曾有の「船員不足」の実態が浮かび上がった。 船員不足は世界の物流を狂わせ、日本の製造業を悩ます半導体不足を上回るインパクトをもたらしかねない。東洋経済の提携先である「財新」のレポートを前編、後編でお届けする。 中国人船長の紹波(シャオ・ボー)氏は、船上での勤務をもう8カ月余り続けている。にもかかわらず、彼は(上陸して休暇を取ることなく)次の航海に出る決心をした。紹氏によれば、国際海運業界では(船員の雇用者である船主が)インドや東南アジア出身のクルーを下船させ、中国人に置き換える動きが加速している。彼のようなベテラン船長は、今や引く手あまたなのだ。 「船主は私たちに(下船せず)船上で勤務し続けてほしいと望んでいる。少し前まで月4000ドル(約44万円)だった上級職の船員の賃金相場は、月5500ドル(約61万円)に上がった」(紹氏) 全世界の貿易量の9割は、海上輸送によって運ばれている。穀物や石油、鉄鉱石など代表的なコモディティー(商品)はもちろん、衣料や家電製品などの消費財からマスクや防護服などの防疫物資に至るまで、国際輸送の大部分を陰で支えているのが紹氏のような船乗りたちだ。 最近、中国人船員の求人が急増している背景には、新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)が引き起こした、船員の需給の構造変化がある。インドで見つかった感染力の強い変異株(デルタ株)の流行が東南アジアにも広がり、船員の供給に深刻な打撃を与えているのである』、「パンデミック」が思わぬところに影響を与えているようだ。
・『コロナ前は半数がフィリピン人とインド人  パンデミックが始まるまで、船主や海運会社は英語が堪能で人件費が安い、フィリピン人やインド人の船員を好んで採用していた。国際海運会議所(訳注:世界各国の船主協会を会員とする国際組織。本部はロンドン)がまとめたデータによれば、2019年には世界の国際貿易商船に約164万人が乗務。そのうちフィリピン人が50万人、インド人が24万人に上り、2カ国だけで全体の半数近くを占めていた。 ところが、2021年4月頃から変異株の流行がインドから周辺諸国に急拡大。それまで感染を相対的に抑え込んでいた東南アジアにも伝播し、国際航路の船上で乗組員の集団感染が次々に発生した。 シンガポールで船員の労務管理に従事するギルバート・リウ氏によれば、変異株が出現する前から、船主はフィリピン向けの求人を大幅に減らしていたという。フィリピン人船員が新型コロナの陰性証明書を偽造するケースが相次ぎ、不信感が広がったためだ。 世界最大の船員派遣国だったフィリピンは、2020年の派遣者数が21万7000人と、前年より約30万人も減少。現地メディアの報道によれば、フィリピンの約50社の船員派遣会社が閉鎖に追い込まれた。 フィリピン人が抜けた穴を埋めたのは、当初はインド人だった。ここ数年、欧米の船主を中心にインド人船員の採用が増加していたが、パンデミックでその流れが加速した。 ところが、変異株の流行がインドから始まったことで、再び状況が急変した。インドに寄港した船やインド人船員が乗り込んだ船で変異株のクラスターが発生し、船主の多くがインド人の採用を躊躇せざるをえなくなった。 冒頭の紹氏が船長を務める船は、主に中国と東南アジアを結ぶ航路を運航し、パンデミックの前からインド人クルーが日常的に乗務していた。ところが変異株が出現すると、当時乗務していた4人のインド人は一刻も早く下船するよう(船主から)命じられたという。 というのも、船内での集団感染は船主にとって経営上の大きなリスクだからだ。仮にある港でクルーの感染が確認されれば、その船は運航の中断を余儀なくされ、乗組員全員が(上陸を許されず)船上で隔離される。 5月4日、マーシャル諸島船籍の貨物船「オーボンヌ号」がインドから南アフリカのダーバン港に到着した際、フィリピン人乗組員21名のうち14名に新型コロナの陽性反応が出た。そして南アフリカ当局がとった隔離措置により、同号は数週間にわたって港に足止めされた。 仮に積載量18万トン級のばら積み貨物船の運航が中断した場合、船主は1日当たり約2万ドル(約220万円)の傭船料収入を失う。そのうえ、隔離中も乗組員の賃金を支払わなければならない。船主たちはそれを恐れて、インドや東南アジアからの採用を避けているのだ』、確かに「感染者」を出すと、「船主」は莫大な損失を被るようだ。
・『中国人だけで埋め合わせるのは不可能  国際海運業界にとって、これは船員の供給源の半分を失ったに等しい非常事態だ。そんな中、船主たちの大きな期待を集めているのが、船員の総登録者数が165万人にのぼる中国人なのである。前出のリウ氏によれば、中国人は勤勉で、仕事の質が(他国の船員と比べて)相対的に高く、しかもほぼ全員が新型コロナのワクチンを接種済みであることが魅力だという。 とはいえ、目下の深刻な船員不足を中国人だけで埋め合わせるのは不可能だ。広東省深圳市の海運労務サービス会社で船員募集を担当している李海兵(リー・ハイビン)氏は、(船主からの引き合い急増で)最近は船員募集の告知を数日おきに大量に出している。 「船主はみな中国人を欲しがっている。だが中国国内の船員市場はすでに人手不足だ。おかげで賃金相場が跳ね上がっている」(李氏) 中国の船員登録数は世界最大だが、その多くは国内航路に乗務している。船員の組合である中国海員建設工会が4月1日に発表したデータによれば、165万人の登録者数のうち過半数の87万人は河川や湖の航路に乗務しており、海上航路の乗組員は半数弱の78万人だった。 さらに、海上航路の乗組員のうち国際航路の登録者数は57万人で、そのうち現役のクルーは30万人にすぎない。国際航路の賃金急騰に惹かれて転職者も増えてはいるが、需要にまったく追いついていないのが実態だ。 「インドや東南アジアのコロナ禍がさらに3~5カ月続けば、国際航路の船員不足はますます悪化し、世界経済のサプライチェーンの深刻な脅威になるだろう」。リウ氏はそう警鐘を鳴らした』、「中国の船員登録数」「165万人」「のうち過半数の87万人は河川や湖の航路に乗務」、「海上航路の乗組員は半数弱の78万人」、「海上航路の乗組員のうち国際航路の登録者数は57万人で、そのうち現役のクルーは30万人にすぎない」、意外に少ないようだ。「フィリピン人」や「インド人」の代わりにはなりそうにない。

第四に、この続きを7月13日付け東洋経済Plus「半導体の次にくる世界経済の時限爆弾【後編】「スエズ危機」よりも怖い!船員の反乱リスク」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27477
・『新型コロナの変異株に対する水際対策の強化で、国際航路の船員の交替が困難になっている。現役クルーの乗務は長期化し、感染リスクも高まっている。 国際海運業界の深刻な船員不足は、現役のクルーに過剰な負担を強いている。 彼らのストレスが限界を超えれば、世界の物流の安定を根底から揺るがしかねない。東洋経済の提携先の「財新」による、レポートの後編をお届けする。「船員不足の問題に比べれば、スエズ運河の事故の影響は取るに足らないものだ」――。 今年5月、国際船舶管理者協会のマーク・オニール会長はイギリスのフィナンシャル・タイムズの取材に対してそう発言した。 エジプトのスエズ運河で今年3月に起きた大型コンテナ船の座礁事故は、全世界に衝撃を与えた。欧州とアジアを結ぶ物流の大動脈がわずか6日間詰まっただけで、世界中の企業活動や市民生活に多大な影響が及ぶことをまざまざと示したのは記憶に新しい。 だがオニール会長に言わせれば、国際海運業界が直面する船員不足の深刻さは、スエズ運河の事故とは比較にならない未曾有の危機なのだ。 前編で述べたように、船員不足の引き金を引いたのはインドから始まった新型コロナウイルスの変異株の大流行である。その影響により、船主たちは国際航路の乗組員の半分近くを派遣していたインドやフィリピンの船員を採用できなくなった。 船主たちは慌てて、中国人船員の採用を増やすことで対応しようとしている。だが、仮に必要な人数のクルーを確保できたとしても、次なる難題が待ち構えている。変異株の流入を防ぐために世界中の港が水際対策を強化し、乗組員の円滑な交替が妨げられていることだ』、「世界中の港が水際対策を強化し、乗組員の円滑な交替が妨げられている」、確かに深刻な障害だ。
・『「乗船は容易、下船は困難」のジレンマ  例えばシンガポールは、過去14日間にインドへの渡航歴がある外国人の入国を禁止するとともに、インドへの渡航歴がある船員の(シンガポール港での)交替も禁止した。その後、同様の措置が東南アジア各国に広がった。 アラブ首長国連邦(UAE)のフジャイラ港は、過去14日以内にインドに寄港した船の乗組員の交代を禁止。韓国はインドから来た船の乗組員にPCR検査の陰性証明書の提出を求め、交代時には14日間の隔離を徹底している。 中国の港では現在、中国人乗組員の交替しか許可していない。5月21日、華南最大級のコンテナ港である広東省深圳市の塩田港で、荷役作業員への新型コロナの感染が確認された。これをきっかけに、5月28日までに中国沿海部の29カ所の港が防疫措置のレベルを引き上げたためだ。 これらの港では、「高リスク地域」への寄港歴がある船はPCR検査で乗組員全員の陰性が確認されなければ接岸が認められない。インドから来た船やインド人船員が乗務する船は、事前に(港湾当局に)申請して許可を得なければ錨泊地(入港前の待機場所)に入ることもできない。 そんななか、中国人船員たちを悩ませているのが「乗船するのは容易だが、下船は困難」というジレンマだ。個人の希望に応じた交替が難しいため、乗務期間が長くなる一方なのである。 中国人船長の紹波(シャオ・ボー)氏が指揮をとる船は、6月2日に浙江省寧波市の北侖港に入港した。彼はもともと、ここで下船して休暇を取る計画だった。ところが防疫措置の影響で(次の出港までに)交替できるメドが立たず、休暇を先送りせざるをえなくなった。 紹氏によれば、彼が次に下船できるチャンスは最低でも3カ月後だという。国際航路は1回の航海にかかる時間が長く、最長数カ月に及ぶこともある。通常のローテーションでは、乗組員たちは最低2回の航海を終えてから交替し、休暇を取る。逆に言えば、下船のタイミングを一度逃せば、さらに数カ月間の洋上生活を強いられる可能性があるのだ。 それだけではない。新型コロナの変異株の流行拡大で、船員の感染リスクも高まっている。船上の医療体制は陸上とは比較にならず、仮に重症化すれば命を落とす可能性がはるかに高い。船員という職業は、今や「命がけ」なのだ』、「通常のローテーションでは、乗組員たちは最低2回の航海を終えてから交替し、休暇を取る。逆に言えば、下船のタイミングを一度逃せば、さらに数カ月間の洋上生活を強いられる可能性がある」、「船上の医療体制は陸上とは比較にならず、仮に重症化すれば命を落とす可能性がはるかに高い。船員という職業は、今や「命がけ」」、「船員」への影響の深刻さは想像以上だ。
・『下船を求める船員がストライキも  中国人船員の李洪灯(リー・ホンドン)氏は6月16日、7カ月間の船上勤務を終えて寄港先のスペインから帰国した。李氏の証言によれば、彼の下船が実現したのは、一緒に乗務していた20人のクルーとともにストライキを打ったおかげだ。 「私たちの船の次の目的地は、新型コロナの流行が深刻なインドでした。もし船内で感染したら、(重症化した場合に)命を救う手立てがありません。だから乗務継続を拒否したんです」(李氏) 李氏は続けて、彼の船で実際に起きた不幸についても語った。船内の厨房で働いていた中国人の調理師が尿路結石の発作を起こし、治療が間に合わなかったために海外で死亡したという。 「なかなか下船できないうえに、急病にかかった場合もすぐに病院へ運んでもらえない。船員の命は大きな危険にさらされています」(李氏) 船員の感染リスクの高まりは、国際物流の安定を足下から揺さぶる大問題だ。 今年4月、南アフリカからシンガポールに向かっていたイタリア船籍のコンテナ船で、新型コロナに感染した船長が航海中に死亡した。その後、この船はアジア各国の港湾当局から入港を拒否され、遠路イタリアへ戻るしかなくなった。結果、積み荷のコンテナの配送は数カ月も遅れてしまった。 「船員の人手不足やコロナ感染は、貨物船の運航スケジュールを狂わせる。それがグローバルな物の流れに打撃を与えれば、(コモディティーや消費財の値上がりを通じた)インフレが加速しかねない」。シンガポール国立大学のビジネススクール准教授を務める呉培源(ウー・ペイユアン)氏は、そう指摘する。 それでなくても、海上運賃はすでにコロナ発生前の数倍に値上がりしている。防疫措置の強化で港の荷役作業が滞り、荷主の需要に輸送力供給が追いつかなくなっているためだ。上海航運交易所のデータによれば、上海の輸出コンテナ運賃指数は過去最高値を更新し続け、6月11日時点では3704ポイントと1年前の3.6倍になった。船員たちのストレスが限界を超え、人手不足がさらに悪化すれば、運賃高騰に拍車がかかる可能性が否定できない』、「船員たちのストレスが限界を超え、人手不足がさらに悪化すれば、運賃高騰に拍車がかかる可能性が否定できない」、その通りだろう。ただ、残念ながら日本のデフレ克服には力不足だろう。
タグ:「日本郵便がゆうパケットを175円から200円へ値上げしたのに対し、ヤマトはネコポスを195円から175円へ値下げしたことで、メルカリの利用者がヤマトに流出した」、「日本郵便」も馬鹿な「値上げ」をしたものだ。 「日本郵便と佐川」の「協業」を注視したい。 東洋経済Plus 「半導体の次にくる世界経済の時限爆弾【前編】国際海運業界で「中国人クルー」争奪戦の深層」 「パンデミック」が思わぬところに影響を与えているようだ。 確かに「感染者」を出すと、「船主」は莫大な損失を被るようだ。 「中国の船員登録数」「165万人」「のうち過半数の87万人は河川や湖の航路に乗務」、「海上航路の乗組員は半数弱の78万人」、「海上航路の乗組員のうち国際航路の登録者数は57万人で、そのうち現役のクルーは30万人にすぎない」、意外に少ないようだ。「フィリピン人」や「インド人」の代わりにはなりそうにない。 「半導体の次にくる世界経済の時限爆弾【後編】「スエズ危機」よりも怖い!船員の反乱リスク」 「世界中の港が水際対策を強化し、乗組員の円滑な交替が妨げられている」、確かに深刻な障害だ。 「通常のローテーションでは、乗組員たちは最低2回の航海を終えてから交替し、休暇を取る。逆に言えば、下船のタイミングを一度逃せば、さらに数カ月間の洋上生活を強いられる可能性がある」、「船上の医療体制は陸上とは比較にならず、仮に重症化すれば命を落とす可能性がはるかに高い。船員という職業は、今や「命がけ」」、「船員」への影響の深刻さは想像以上だ。 「船員たちのストレスが限界を超え、人手不足がさらに悪化すれば、運賃高騰に拍車がかかる可能性が否定できない」、その通りだろう。ただ、残念ながら日本のデフレ克服には力不足だろう。
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保険(その4)(採用者数を減らして「質」を高めよ 生保レディ「大量採用&大量脱落」の悪循環、元金融庁幹部が語る保険行政のあり方 「金融庁は保険会社依存をやめよ」、インタビュー/第一生命社長 稲垣精二 「営業職員の販売モデルは非常にいいシステムだ」) [金融]

保険については、3月4日に取上げた。今日は、(その4)(採用者数を減らして「質」を高めよ 生保レディ「大量採用&大量脱落」の悪循環、元金融庁幹部が語る保険行政のあり方 「金融庁は保険会社依存をやめよ」、インタビュー/第一生命社長 稲垣精二 「営業職員の販売モデルは非常にいいシステムだ」)である。

先ずは、4月7日付け東洋経済Plus「採用者数を減らして「質」を高めよ 生保レディ「大量採用&大量脱落」の悪循環」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26653
・『古くて新しい課題――。 生命保険会社の営業職員チャネルの「大量採用・大量脱落(ターンオーバー)」の問題はこのように表現されることが多い。 今回インタビューをした生命保険協会の会長を務める明治安田生命の根岸秋男社長も、「ターンオーバー、ノルマ、給与の3つは生保営業の本質的なテーマであり、積年の課題だ」と危機感をにじませる』、興味深そうだ。
・『採用と離職の「悪循環」  ターンオーバーは、大量に採用した営業職員が、①新規契約の獲得などのノルマを達成できず、②その結果として給与が下がり、③揚げ句の果てに離職を余儀なくされ(または、雇用契約が打ち切りとなる)、さらに、④営業職員を大量採用するという悪循環の下に繰り返されてきた。 営業職員の在籍率を見ると、この仕事を続けていくことがいかに難しいことなのかがよくわかる。会社によって異なるが、2年目(入社後25カ月目)の在籍率はおおむね50~70%台で、3年目(入社後37カ月目)の在籍率は30~50%台、6年目(61カ月目)になると20%前後まで下がる。 つまり、5年以内に実に10人のうち8人が辞めていく計算になる。 では、ターンオーバーのいったい何が問題なのか。それは、結果的に「顧客の信頼を損なう」という一点に尽きる。 生命保険商品は長期にわたる契約が多い。契約の際に「一生涯お守りします」と約束しておきながら、ターンオーバーの結果、担当者がコロコロと変わる。それでは契約者からの信頼は得られない。 さらに、営利企業の社員である以上、目標の達成を求められることは当然だが、過重なノルマを課せられていることは、顧客ニーズとかけ離れた保障の提案や過度な顧客訪問活動を引き起こしてしまう原因となりかねない。 ビジネスパーソンなら、社内にやってくる保険会社の営業職員に声をかけられた経験はあるだろう。エレベーター前や休憩室などで複数の営業職員が待機していることもある。営業職員の知人や友人、家族などから「保険に入ってほしい」などと言われた人も多いのではないだろうか。 生命保険会社の中には、コロナ禍においても営業職員に対面での営業活動を行わせていた会社もあった。そして、それが顧客や営業職員の大きなクレームにつながっていた。 さらに、ターンオーバーは、退職した多くの営業職員が生保会社や生保業界に対して「良くない印象」を持ったまま辞めていく事態を引き起こしている。顧客満足度調査を行うJ.D.パワー社の「生命保険契約満足度調査」によると、生保レディによる販売を中心とする国内の生保会社の顧客満足度は、代理店チャネルを中心とする生保会社と比べて例年低い水準にある。 営業職員の離職者は年間約4.3万人(2019年度、生保15社の集計値)になる。毎年これだけの人数が、少なからず良い印象を持たずに業界を去っていくことは、中長期的にみて生保業界にとっても決してプラスにはならないだろう』、「5年以内に実に10人のうち8人が辞めていく」、とは確かに離職者が多いようだ。「毎年これだけの人数が、少なからず良い印象を持たずに業界を去っていくことは、中長期的にみて生保業界にとっても決してプラスにはならない」、その通りだ。
・『大量採用を見直し、厳選採用を  こうした中、大手生保の一角である明治安田生命の根岸社長が「(営業職員の)職業的な魅力度に課題がある」「仕事と処遇が見合っていない」という踏み込んだ発言が出たのは前向きに捉えたい。同社では2021年度から、営業職員の給与体系やノルマなどを見直すことにしている。 しかし、ターンオーバー問題を現実的に解決するもっとも近道は、採用人数を減らすことにある。これまでのように目標を採用者数に置くのではなく、採用者数を絞り込んで営業職員の質を高めていくべきだ。 根岸社長も含め、生保会社の複数の幹部や社員から、「保険の募集人として成功するかしないかは実際にやってみなければわからない。大量に営業職員を採用する理由はそこにある」という声が聞かれた。だが、本当にそうだろうか? これまで数十年間にわたって綿々とターンオーバーを繰り返してきた結果、皮肉なことだが、「どんな人が成功して」「どんな人が挫折する」ということは十分なデータとして蓄積され、採用段階でかなり精度高く、見極められるのではないだろうか。 金融行政に長く関わり、現在SBI生命保険の社長を務める小野尚氏は「これだけ経営学が発達した世の中で、『当たるも八卦当たらぬも八卦』という採用手法は科学的ではない」と断言する。 そのうえで、小野氏は「(ネットでの情報収集などで)お客様の金融リテラシーは高まっており、高度な金融知識と高い倫理観を持たないと、営業職員がお客様から信頼を得ることは難しい」と訴える。 それができなければ、複数の生保商品を比較検討できる保険ショップや、簡便な手続きと安い保険料が売りのネット系生保を顧客は選ぶことになるだろう。 今こそ、生命保険各社は旧態依然のビジネスモデルからの脱却が求められている』、「生保会社の複数の幹部や社員から、「保険の募集人として成功するかしないかは実際にやってみなければわからない。大量に営業職員を採用する理由はそこにある」という声」、は言い訳なのだろう。「これだけ経営学が発達した世の中で、『当たるも八卦当たらぬも八卦』という採用手法は科学的ではない」、その通りだろう。

次に、4月7日付け東洋経済Plus「元金融庁幹部が語る保険行政のあり方 「金融庁は保険会社依存をやめよ」」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26649
・『新型コロナウイルス一色に染まった2020年度は、営業職員を通じた契約を主力にする生命保険会社にとっては苦難の1年だった。 対面の強みが一転して弱みに転じ、営業活動の自粛を余儀なくされた。その一方、非対面を強みに新規契約を急拡大させたのがインターネット販売を中核に置く生保各社だ。 中でも、2008年に営業を開始したライフネット生命、アクサダイレクト生命に続き、2016年2月からネット専用保険の販売を開始したSBI生命保険は好調だ。同社の2020年4~12月の新契約件数は前年同期比約183%増の約1.8万件となった。 その同社の社長に2019年4月に就任したのが、金融庁の監督局保険課長や総務企画局総括審議官などを歴任した小野尚氏だ。規制当局と生命保険経営の両方の経験を持つ小野氏に、生命保険ビジネスや金融庁による生命保険行政の課題について聞いた(Qは聞き手の質問、Aは小野氏の回答)』、「規制当局と生命保険経営の両方の経験を持つ小野氏」への質問とは興味深そうだ。
・『コロナ禍でシンプルな保険商品が選ばれた  Q:2020年度は新型コロナを抜きには語れない1年になりました。御社はどんな影響を受けましたか。 A:当社は個人向け保険では、インターネット販売に加えて保険ショップなどを通じた販売を行っている。住宅ローンや事業ローンの利用者向けに、金融機関を通じて団体信用生命保険(団信)も取り扱っている。 緊急事態宣言などで保険ショップや金融機関は影響を受けたが、ネット販売は想定以上に好調で、2020年4~6月の個人向け保険の新契約件数は、前年同期比で3倍以上伸びた。 Q:ネット販売が好調だったのはなぜでしょうか。 A:理由は3つある。1つ目は、コロナの影響で多くの人が巣ごもりになり、インターネットを活用する人が非常に増えた。(保険商品の購入も)ネット利用のハードルが相当下がったと思う。 2つ目は、コロナの恐怖を身近に感じて死や病気に対してのリスク意識が高まり、保険未加入の人たちのニーズを喚起した。3つ目は、在宅の時間が増え、加入している生命保険の見直しにつながった。 特に(20~30代の)若い世代で、あまり保険に関心がなかった人たちが「いつ新型コロナにかかるか、わからない」と不安に思い、保険に加入してくれたようだ。 伝統的な(主契約に特約を多く付けた)フルセットの生命保険に入っている人が(コロナを機に)保障内容を見直して、シンプルで安い当社の保険に切り替えてくれたということもある。 おの・ひさし/1959年生まれ、宮崎県出身。1983年東京大学教養学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。2004年金融庁監督局保険課長、2015年総務企画局総括審議官などを経て、2017年7月退官。日本信用情報機構常務執行役員などを経て、2019年4月にSBI生命保険社長に就任。一般社団法人全国団信推進協会の業務執行理事も務める(撮影:梅谷秀司)』、「ネット販売」が好調な理由のうち、「2つ目は、コロナの恐怖を身近に感じて死や病気に対してのリスク意識が高まり、保険未加入の人たちのニーズを喚起した。3つ目は、在宅の時間が増え、加入している生命保険の見直しにつながった」、というのはいかにも生命保険らしい。
・『ビジネスモデルは時代に合っていない  Q:保険契約加入の約5割を占める営業職員チャネルは、大量採用・大量脱落(ターンオーバー)問題は長年の課題でした。生命保険行政にも携わった小野さんは、営業職員チャネルのあり方についてどう考えていますか。 A:個人的な見解だが、まず言っておきたいのは、(生命保険各社の)営業職員チャネルが戦後の生保業界の発展に果たした役割は大きいということだ。今では国民の約8割が生命保険に加入するなど、日本は世界でも有数の保険大国になっている。 経済が拡大し、年功序列で給与も上がっていく中、夫と専業主婦の妻、子ども2~3人という平均的な世帯では、死亡保障に各種特約を付帯させたフルカバーの生命保険に入っていれば安心できた。そこに、大量の営業職員を投入して人海戦術で保険を獲得する戦術は時代の要請にマッチしていた。 だが、終身雇用は主流でなくなり、少子化が進んで単身世帯も増えている。女性が働くのは普通になり、共働きの家庭も多い。しかも、職場や家庭はセキュリテイが厳しくなり、顧客訪問も容易ではない。こうした時代や環境の変化に、今の営業職員チャネルのビジネスモデルは合わなくなっている。 Q:ビジネスモデルを変えることは難しいのでしょうか? A:これは私自身の反省点でもあるが、(営業職員チャネルが抱える問題点については)行政側にも責任があった。保険業には専門性が高い領域もあり、保険会社に行政が依存してしまっている。そのため、(金融庁が保険会社に対して)「新しいビジネスモデルに変えなくて良いのですか」などと問い掛けることができない。 例えば、銀行にはリレーションシップバンキングの必要性や(融資に際して)目利き力を発揮するよう求めるなど、新しいビジネスモデルを提示することはできていた。だが、保険会社に対しては現状追認しかできない。 金融庁も生命保険会社も現状を変えようとしないのは、生命保険商品の開発にあたって金融庁の審査が必要な「認可制」をいまだに維持していることにも表れている。(標準的に90日間の審査日数を要する)認可制が残っていることで、商品開発の創意工夫や開発のスピードを削いでしまっている。 私が金融庁にいたとき、「こんな認可制は早くやめましょう」と提案したが賛同を得られず、特に保険会社から「維持したい」という声が多かった。 Q:保険会社側から反対意見が出たのですか? A:一般的に商品開発の世界では、開発した側が製造物責任を負う。だが、現状の認可制を維持すれば、当局が商品の認可をしているのだから、自分たちがフルにリスクを取らなくていいという判断が働くのだろう。加えて、(商品開発のハードルを保つことで)競争を抑制しようという意図があるのだと思う。 銀行も証券も商品開発の自由度があるのに、保険だけ認可制というのはどう考えてもバランスがとれない。当局も認可制廃止の働きかけをしないし、保険会社も動こうとしない。規模も組織も「大きな巨艦」になって、変えることが難しくなっている。 Q:特に伝統的な国内の生保各社は、商品開発の先行メリットなど、既得権益を守ろうと必死ですね。 A:SBI生命のような「ニューカマー」からみると、既存の保険会社に有利に働く規制やルールが多く存在していることを改めて実感する。 例えば、当社が金融機関を通じて販売する団信の会計上のルールの問題がある。団信を販売した場合、翌年度に契約者に支払う配当金を見込んで、1年間分の契約者配当準備金を前年度に積み立てないといけない。保険料収入以上の準備金の積み立てが必要となるため、会社の体力がある既存の生保を守り、ニューカマーの新規参入を阻んでいるルールになっている。 銀行窓販における規制も問題だ。当社の就業不能保険は疾病だけでなく、ケガや精神疾患で働けなくなった場合も保障対象にしている。だが、窓販規制によって、疾病以外の保障が含まれている場合は金融機関で販売ができない。2005年に銀行窓販が解禁されたときにできたルールを硬直的に守っているためだが、近年は精神疾患の保障に対する消費者ニーズは非常に強くあり、こうした規制がいまだにあるのはおかしい』、「保険だけ認可制というのはどう考えてもバランスがとれない。当局も認可制廃止の働きかけをしないし、保険会社も動こうとしない。規模も組織も「大きな巨艦」になって、変えることが難しくなっている」、「窓販規制によって、疾病以外の保障が含まれている場合は金融機関で販売ができない。2005年に銀行窓販が解禁されたときにできたルールを硬直的に守っているためだが、近年は精神疾患の保障に対する消費者ニーズは非常に強くあり、こうした規制がいまだにあるのはおかしい」、保険行政は余りに保守的過ぎる。 
・「苦情」にこそ真実がある  Q:保険会社の社員や営業職員からよく聞くのは、「勇気を出して会社側に意見を言っても取り合ってくれない」「黙殺される」という声です。現場でパワハラやモラハラ、保険業法違反が起きていると伝えても、真面目に受け止めようとしない風土が保険会社にあるようです。 A:経営陣が現場に行って、社員や職員の声に耳をしっかりと傾ける姿勢を徹底すべきだ。各社は内部通報制度などを設けているが、形だけを整えて内実が伴わないと意味がない。 元行政官の立場からあえて厳しいことを言うと、行政側も自分たちから降りていって現場の声を聞きに行くべきだと思う。問題が発生したら報告書を出させるだけではなく、現場で何が起きているのかを把握すべきだろう。 私が監督局の保険課長時代に、(多くの生損保会社が行政処分を受けた)保険金・給付金の不払い問題を見つけたきっかけは、契約者からの1通の投書だった。「主人が死亡したが、なんだかんだと理由を付けられて保険金が下りなかった」という内容で、それを基に調べたところ、ほかにもそうした事例があったことがわかった。 Q:1人の声を大事にするのは、とても重要なことだと思います。 A:私はずっとそう思っていたので……。「あの保険課長は苦情ばっかり読んでいる」と揶揄されることもあったが、私はそこにこそ真実があると思っていた。 金融庁は、金融サービス利用者相談室などを設けて顧客からの苦情などを受け付けているほか、私が総括審議官のときに、金融機関の社員・職員などからの意見や批判を、(弁護士や大学教授などの)中立的な立場の専門家が受け付けて、金融庁の幹部にフィードバックする「金融行政モニター」という通報機関も設置した。もちろん、保険会社の社員や営業職員も活用できる。 Q:営業職員チャネルは今後、どうあるべきでしょうか。 A:当社が中心に置く非対面チャネルと、営業職員の対面チャネルとを比べたときに、対面チャネルが生き残る道は、双方向のコミュニケーションを大切にすることだ。 一方的な押し売りではなく、お客様のニーズや相談を真摯に聞いてあげて適切にアドバイスや情報提供してあげられるかにかかっている。もしそれができなければ、お客様はすべて非対面のインターネットなどで手続きをしてしまうだろう。 (ネットでの情報収集などで)お客様の金融リテラシーは以前より高まっており、相当高度な金融知識と高い倫理観を持たないと、お客様の信頼を得ることは困難だと思う』、「(多くの生損保会社が行政処分を受けた)保険金・給付金の不払い問題を見つけたきっかけは、契約者からの1通の投書」、初めて知ったが、まさに「「苦情」にこそ真実がある」を示した例だ。「対面チャネルが生き残る道は、双方向のコミュニケーションを大切にすることだ。 一方的な押し売りではなく、お客様のニーズや相談を真摯に聞いてあげて適切にアドバイスや情報提供してあげられるかにかかっている」、理屈の上ではその通りだが、大量の処理が前提なので、個別対応には自ずと限界がある。

第三に、5月11日付け東洋経済Plus「インタビュー/第一生命社長 稲垣精二 「営業職員の販売モデルは非常にいいシステムだ」」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26942
・『生命保険大手・第一生命で相次ぐ営業職員による金銭詐取事件。事件の背景には何があるのか。稲垣精二社長を直撃した。 金銭搾取事件の闇はどこまで深いのか――。 第一生命が2020年10月に公表した、山口県の元営業職員(89)による約19億5000万円の巨額詐欺事件。その後、和歌山県や福岡県、神奈川県のほか、北海道と長野県でも元営業職員らによる金銭搾取事件が相次いで明らかになった。 北海道のケースは、旭川支社の60代の元営業職員が契約者3人から654万円を、長野県のケースでは松本支社の70代の元営業職員が8人から合計4836万円をそれぞれだましとっている。2人の元営業職員はいずれも懲戒解雇となっているが、北海道は2012年から2018年まで、長野県のケースは2011年から2020年にかけてと、不正が長期間に及んでいることが特徴だ。 同社は現在、全契約者を対象とした伏在調査(他に同様の事案がないか調べること)に着手し、まずは出金を伴う手続きなど合計61万件を対象に調べた。北海道と長野県の2事案はこの調査によって発覚したもので、不正を働いた営業職員が所属している営業拠点は全国に広がっていることから、今後の調査次第では新たな不正事案が出てくる可能性もある。 営業職員による一連の不祥事に対して、同社の稲垣精二社長はどのように向き合っていくのか。営業職員チャネルの今後のあり方を含めて聞いた(Qは聞き手の質問、Aは稲垣氏の回答)』、「山口県」の事件は有名だが、「和歌山県や福岡県、神奈川県のほか、北海道と長野県」でもあったのは初めて知った。
・『新しい不祥事の可能性はゼロとは言えない  Q:金銭不祥事に関する2020年12月末の記者会見で、稲垣社長は「今後も新たな不正が発覚するかもしれない」と言っていました。その後、2021年2月に北海道と長野で新たな不正が判明しました。 A:被害に遭った契約者の方々には本当に申し訳なく思っている。契約者貸し付けの利用者など、(これまでの不祥事案から考えて)リスクが高い層に対して個別通知や電話をする中で新たな事案が発覚した。今後は全契約者に対しての案内や確認作業を、2021年12月末の完了を目指して行っている。 残念ながら、「新たな不祥事案が出てくる可能性はゼロ」と力強く言い切ることはできない。ただ、過去の膿はすべて出しきる一方で、新たな不正事案を二度と発生させないという強い決意で経営陣、社員一同が気持ちを新たにしている。ゴールデンウィーク明けから始める経営陣と全社員とのタウンホールミーティング(対話集会)を通じて、その思いを共有化していきたい。 Q:今回発覚した北海道の事案は6年半、長野県の事案は9年間、山口県の巨額詐欺事件については18年もの長期にわたって不正が行われていました。なぜ、長期間にわたって不祥事が発覚しなかったのでしょうか。 A:「金銭的な優遇制度がある」などと持ちかけて金銭を預かる話法が典型的だが、営業職員に対する顧客の信頼を逆手に取った事例と考えている。営業職員は転勤もなく、長期的に対面で顧客との信頼関係を築けるという意味では、優れた販売チャネルと考えていた。それだけにショックは非常に大きい。 今回の事案を受けて、契約者に対して「金銭は一切受け取りません」などの案内を徹底したり、契約者貸し付けが続いている顧客に対して本社側が(契約の現状などを)直接確認するなど、モニタリングの重要性を痛感している。 再発防止を狙いに新設したコンプライアンス・リスク分析室ではAI(人工知能)など最新技術も導入して、多角的にモニタリング強化に努めている。 いながき・せいじ/1963年生まれ。1986年慶應義塾大学経済学部卒、第一生命保険入社。経営企画部長などを経て、2017年に第一生命社長に就任。第一生命ホールディングスの社長を兼務(撮影:梅谷秀司)』、「営業職員に対する顧客の信頼を逆手に取った事例・・・営業職員は転勤もなく、長期的に対面で顧客との信頼関係を築けるという意味では、優れた販売チャネルと考えていた。それだけにショックは非常に大きい」、銀行では顧客との癒着防止のため、定期的な転勤があるが、これがないと、不正が発生し易くなる。こうした転勤を前提にせずにやる保険会社は、より緻密な不正防止策が必要だろう。
・『働ける年齢の上限は80歳までに  Q:不正事案では60代~80代の高齢の営業職員が問題を起こしているケースが目立ちます。ベテランの営業職員に対し、周囲の人はなかなか物を言えない雰囲気があるのではないですか。 A:(不正事案が長年にわたって発覚しなかった)反省として、そうした部分はあったように思う。例えば、山口県の事案では(80歳を超える元営業職員に)「特別調査役」などの称号を与えてしまった。高齢の営業職員からの契約の引き継ぎについても、必要性は認識していたものの、なかなか着手することができなかった。 Q:生涯現役社会において、高齢職員の活躍はある意味好ましいことだと思いますが、弊害を生むことにもなりかねません。 A:契約を(後進の営業職員に)どう引き継いでいくかというのは大きな課題と考えており、今後対応策を検討していきたい。 70歳を超えていても顧客にしっかりと寄り添って対応ができ、金融知識が豊富な営業職員はたくさんいる。年齢で一律に(業務の適性を)判断するのも時代に逆行するのかと思う。 今回の事案を受けて、働ける年齢の上限は80歳までと決めた。高齢の職員に対しては認知症のテストや金融・ITリテラシーのチェックなどを行って、しっかりと顧客に説明できる適性を維持できているか、判断できる仕掛けを取り入れていく。 Q:今後の調査で新たな不正事案が発覚した場合、公表するお考えですか? A:もし新たな事案が発覚した場合は、警察への届け出のタイミングなど調整が必要な場合もあるが、速やかに公表していきたい。当社からの発表やマスコミの報道などによって、顧客の注意喚起にもつながると考えている。 Q:2021年度からの3カ年を対象とした第一生命グループの中期経営計画の中で、営業職員の採用基準や採用期間を見直す方向性を打ち出しました。 A:営業職員の採用数についてはこれまで、営業拠点ごとに目標値が設定されていたが、2021年度はこの目標値を撤廃したうえで、上限値を設定する。これらには顧客に長期的に寄り添える人材をしっかりと見極めて採用しようという狙いがあり、採用のサイクルも従来の「毎月ごと」から「四半期ごと」に変更している。 この結果、2021年度の採用数は前年度から3割程度減る可能性があるが、数を減らすことが目的ではない。あくまで採用の「量から質」への転換を図り、営業成績で社内の基準をクリアした「高能率」の営業職員を多く育てていきたいという思いがある。 また、2021年度は現場の営業目標も撤廃している。2022年度以降の目標をどうするかは、2021年度の状況を見てから判断したい。 Q:ただ問題は、営業拠点の採用数や営業目標をなくしたからといって、個々の営業職員には以前と変わらずノルマが課せられており、ノルマ未達なら給与が減ったり、資格が下がってしまうということです。 A:現在、営業職員の資格や給与設計などの評価制度の見直しに着手しており、2022年度から採用する営業職員に適用することを考えている。 まだ組合との交渉前なので詳細は話せないが、入社5年以内の営業職員の給与水準がより安定化するような給与体系に見直すことを検討している。 われわれの経験値から、入社5年目を超えて150~200人ぐらいの顧客数を持てると、紹介や保障の見直しなどが増えて、その後も長く働き続けられる営業職員が多い。そのため、5年を超えて自立している職員については今の制度で大きな問題はないと考えている』、「現在、営業職員の資格や給与設計などの評価制度の見直しに着手しており、2022年度から採用する営業職員に適用することを考えている。 まだ組合との交渉前なので詳細は話せないが、入社5年以内の営業職員の給与水準がより安定化するような給与体系に見直すことを検討している」、「入社5年目を超えて150~200人ぐらいの顧客数を持てると、紹介や保障の見直しなどが増えて、その後も長く働き続けられる営業職員が多い。そのため、5年を超えて自立している職員については今の制度で大きな問題はないと考えている」、なるほど。
・『営業職員チャネルはグループの中核に  Q:第一生命グループは営業職員だけでなく、代理店や銀行窓販、通販・ネット、新設した少額短期保険会社など、多様な販売網を持っています。その中で営業職員チャネルの位置付けをどのように考えていますか。 A:営業職員の販売モデルは、最も長く顧客に寄り添える非常にいいシステムだと思っている。もちろん今回発覚したような課題は多いが、そこを克服しながら、営業職員チャネルをグループの中核に据えていきたいと思っている。これは私の本心だ。 Q:今回のような金銭搾取事案が発生したにもかかわらず、なぜ、営業職員のモデルが一番いいのでしょうか。 A:生命保険の販売においては、人生におけるリスクや考えたくもないようなことを、しっかりと認識していただき、人生設計を立ててもらうことが必要だ。そのニーズ喚起には人間によるコンサルティングが最適であり、ネットなど非対面では困難な部分が多い。 生命保険の販売手法として対面が最適なのは、諸外国を見てもそうで、代理店などのヒューマンチャネルが販売網の中心であり、ネット経由の販売の比率は日本と同様に小さい。 保険金の支払い時などの局面でも営業職員が強みを発揮する場面が多い。東日本大震災のときは営業職員が被災地を回って安否確認をしたり、保険金・給付金の請求手続きや支払いも積極的に行ったことで、対面のよさが改めて見直されている。 不祥事案は二度と発生させない決意で臨んでおり、ほとんどの営業職員は「お客さま第一」で行動している。顧客の信頼を逆手に取るような営業職員が一部いたからといって、まじめに活動し、顧客の信頼を得ている大多数の職員を否定するようなことをしたくない。)』、「生命保険の販売においては、人生におけるリスクや考えたくもないようなことを、しっかりと認識していただき、人生設計を立ててもらうことが必要だ。そのニーズ喚起には人間によるコンサルティングが最適であり、ネットなど非対面では困難な部分が多い。 生命保険の販売手法として対面が最適」、「人生におけるリスクや考えたくもないようなこと」で脅すのはやはり人間でないとダメなようだ。
タグ:保険 (その4)(採用者数を減らして「質」を高めよ 生保レディ「大量採用&大量脱落」の悪循環、元金融庁幹部が語る保険行政のあり方 「金融庁は保険会社依存をやめよ」、インタビュー/第一生命社長 稲垣精二 「営業職員の販売モデルは非常にいいシステムだ」) 東洋経済Plus 「採用者数を減らして「質」を高めよ 生保レディ「大量採用&大量脱落」の悪循環」 「5年以内に実に10人のうち8人が辞めていく」、とは確かに離職者が多いようだ。「毎年これだけの人数が、少なからず良い印象を持たずに業界を去っていくことは、中長期的にみて生保業界にとっても決してプラスにはならない」、その通りだ。 「生保会社の複数の幹部や社員から、「保険の募集人として成功するかしないかは実際にやってみなければわからない。大量に営業職員を採用する理由はそこにある」という声」、は言い訳なのだろう。「これだけ経営学が発達した世の中で、『当たるも八卦当たらぬも八卦』という採用手法は科学的ではない」、その通りだろう。 「元金融庁幹部が語る保険行政のあり方 「金融庁は保険会社依存をやめよ」」 「規制当局と生命保険経営の両方の経験を持つ小野氏」への質問とは興味深そうだ。 「ネット販売」が好調な理由のうち、「2つ目は、コロナの恐怖を身近に感じて死や病気に対してのリスク意識が高まり、保険未加入の人たちのニーズを喚起した。3つ目は、在宅の時間が増え、加入している生命保険の見直しにつながった」、というのはいかにも生命保険らしい。 「保険だけ認可制というのはどう考えてもバランスがとれない。当局も認可制廃止の働きかけをしないし、保険会社も動こうとしない。規模も組織も「大きな巨艦」になって、変えることが難しくなっている」、「窓販規制によって、疾病以外の保障が含まれている場合は金融機関で販売ができない。2005年に銀行窓販が解禁されたときにできたルールを硬直的に守っているためだが、近年は精神疾患の保障に対する消費者ニーズは非常に強くあり、こうした規制がいまだにあるのはおかしい」、保険行政は余りに保守的過ぎる。 「(多くの生損保会社が行政処分を受けた)保険金・給付金の不払い問題を見つけたきっかけは、契約者からの1通の投書」、初めて知ったが、まさに「「苦情」にこそ真実がある」を示した例だ。「対面チャネルが生き残る道は、双方向のコミュニケーションを大切にすることだ。 一方的な押し売りではなく、お客様のニーズや相談を真摯に聞いてあげて適切にアドバイスや情報提供してあげられるかにかかっている」、理屈の上ではその通りだが、大量の処理が前提なので、個別対応には自ずと限界がある。 「インタビュー/第一生命社長 稲垣精二 「営業職員の販売モデルは非常にいいシステムだ」」 「山口県」の事件は有名だが、「和歌山県や福岡県、神奈川県のほか、北海道と長野県」でもあったのは初めて知った。 「営業職員に対する顧客の信頼を逆手に取った事例・・・営業職員は転勤もなく、長期的に対面で顧客との信頼関係を築けるという意味では、優れた販売チャネルと考えていた。それだけにショックは非常に大きい」、銀行では顧客との癒着防止のため、定期的な転勤があるが、これがないと、不正が発生し易くなる。 こうした転勤を前提にせずにやる保険会社は、より緻密な不正防止策が必要だろう。 「現在、営業職員の資格や給与設計などの評価制度の見直しに着手しており、2022年度から採用する営業職員に適用することを考えている。 まだ組合との交渉前なので詳細は話せないが、入社5年以内の営業職員の給与水準がより安定化するような給与体系に見直すことを検討している」、「入社5年目を超えて150~200人ぐらいの顧客数を持てると、紹介や保障の見直しなどが増えて、その後も長く働き続けられる営業職員が多い。そのため、5年を超えて自立している職員については今の制度で大きな問題はないと考えている」、なるほど。 「生命保険の販売においては、人生におけるリスクや考えたくもないようなことを、しっかりと認識していただき、人生設計を立ててもらうことが必要だ。そのニーズ喚起には人間によるコンサルティングが最適であり、ネットなど非対面では困難な部分が多い。 生命保険の販売手法として対面が最適」、「人生におけるリスクや考えたくもないようなこと」で脅すのはやはり人間でないとダメなようだ。
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複合機業界(その1)(在宅勤務の拡大とペーパーレス化が逆風に 出荷額は「10年で4割減」 複合機ビジネスの生存策、後藤新社長が背負う重責と課題 ヘルスケアに託す富士フイルム「古森後」の成長、「『もの売り』から『こと売り』に変えていく」 複合機世界1位リコー「野武士営業」からの脱却) [産業動向]

今日は、複合機業界(その1)(在宅勤務の拡大とペーパーレス化が逆風に 出荷額は「10年で4割減」 複合機ビジネスの生存策、後藤新社長が背負う重責と課題 ヘルスケアに託す富士フイルム「古森後」の成長、「『もの売り』から『こと売り』に変えていく」 複合機世界1位リコー「野武士営業」からの脱却)を取上げよう。

先ずは、7月9日付け東洋経済Plus「在宅勤務の拡大とペーパーレス化が逆風に 出荷額は「10年で4割減」、複合機ビジネスの生存策」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27449
・『ペーパーレス化に、コロナ禍による在宅勤務拡大が加わり、複合機ビジネスが苦境に立たされている。変貌を遂げつつある複合機ビジネスの「いま」。 ペーパーレス化による市場縮小に直面する複合機業界が、コロナ禍によって一層の苦境に立たされている。 モノクロ印刷機からカラー印刷機への置き換え需要もあったことから、2019年までは市場の縮小は緩やかなものにとどまっていた。そこに直撃したのがコロナ禍による在宅勤務の拡大だ。 オフィスへの出社減少は印刷量の激減に直結する。リコーによると、コロナの感染が急拡大した2020年4~5月のプリントボリューム(印刷量、PV)は、欧米で前年同期比5割超、アジア圏でも3~4割の大幅な減少となった。2020年の複写機・複合機の世界出荷額は前年比22%減の6547億円。2007年に1兆0600億円あった出荷額は、この10年余りで4割も減少している』、「出荷額は、この10年余りで4割も減少」、とは本当に厳しそうだ。
・『リカーリングモデルに限界  複合機各社は、2021年もPVはコロナ前の水準に戻らないと踏む。必要なのはビジネスモデルの変革だ。リコーの山下良則社長は「小手先の対応では乗り切れない」(2020年8月の決算説明会)と覚悟をにじませる。 これまで主流だったビジネスモデルは、複合機本体の料金を抑え、トナーや印刷用紙など消耗品を安定的に買ってもらう「リカーリングモデル」だった。ただ、印刷量が激減したことでこのモデルには限界が近づいている。 今後はオフィスのDX化を支援するITサービスの提供にシフトする。情報を紙へ印刷することは減っても、情報をデジタルデータとして活用することへのニーズは強いからだ。デジタルデータの活用だけでなく、どのようにセキュリティを高め、保管・管理するか。紙以上に繊細な扱いが必要になる。 在宅勤務の広がりにより、社内のデジタルデータを社外で活用しやすくする環境整備も企業の悩みの種に加わった。こうした課題を解決するサービスの拡充も急務だ。複合機各社はピンチを商機に変えようと、変革に注力している』、確かに「課題を解決するサービスの拡充も急務だ」。
・『リコー:強力な営業部隊がDX化をパッケージ支援  「OA(事務機器)メーカー」から「デジタルサービスの会社」への転換を掲げるのが、2020年の複合機出荷額世界1位(IDC調べ。A3機とA4機の出荷額を合算)のリコーだ。狙うのは複合機にこだわらないDX支援事業だ。 リコーの武器は、自社の営業マンが顧客を直接訪問することで築く強力な販売網だ。代理店販売に依存する他社と異なり、DX化の難しい中小・中堅企業の悩みを直接聞くことができる。外部のソフトウェアも組み込みながら、業種ごとに最適なITサービスをパッケージ化して販売することで効率的にDX化を支援する。 2021年3月期のパッケージサービスの国内販売本数は前年比64%増の約7万本だった。中でもヨーロッパの売上高は前年比27%増の1236億円(オフィスサービス事業)と大きく伸びた。それでも開拓済みの顧客は国内では10%、ヨーロッパでは5%に過ぎず、まだまだ開拓余地はある。 さらに他社協業も積極化させる。従来、業界内では複合機の中でも主力機器は技術力向上のためにも自前で生産すべきという風潮が強かった。だが、リコーは複合機の本体のみで競争力が決まる時代ではなくなったと判断し、自らの持つ高い生産能力を生かし、他社へのOEM供給を加速させる。 複合機が収益の過半を占めるリコーだが、複合機にこだわらない独自の事業にも意欲的だ。最近では自社製の360度カメラを使ったバーチャルツアー作成・公開サービスが話題を集めた。このことはリコーにおいて複合機がITサービス提供に活用するデバイスの一つという位置づけへと変化したことを示している。 2021年3月期は454億円の営業赤字に沈んだが、複合機依存の収益モデルからいかに早く転換できるかが試されている』、「自社の営業マンが顧客を直接訪問することで築く強力な販売網だ。代理店販売に依存する他社と異なり、DX化の難しい中小・中堅企業の悩みを直接聞くことができる」、顧客ニーズの把握・提案はお手のものだろう。
・『キヤノン:紙もデジタルも、両面作戦  複合機で世界出荷額2位のキヤノン。2020年12月期の複合機売上高は5100億円、前年比約2割減となったのと対照的に、自宅でも使われるインクジェットプリンター(IJP)の売上高は同11%増の3198億円と、在宅勤務需要を追い風に好調だった。 キヤノンの本間利夫副社長は「仕事において紙を使う作業を完全になくすことはできない」と述べる。一方で、デジタルデータも重視する両にらみの戦略をとる。キヤノンが追求するのは、従来の「紙の印刷」に加え、デジタルデータとして生成される情報の処理も含めた「総プリントボリューム」だ。 複合機、IJPともに世界市場の上位につけていることが強みだ。従来、ITサービスはオフィス向けがメインターゲットだったが、家庭向けに多く使われるIJPへもセキュリティ強化サービスなどを提供し、在宅勤務への対応を目指す。 2020年には複合機とインクジェットプリンターの事業部を統合し、印刷関連事業の開発・生産能力を向上させてきた。欧米では複合機の販売台数がコロナ前の2019年並みに回復する月もあるなど明るい兆候もある。ITサービスだけでなく、機器の販売でも一歩も引かない姿勢だ』、なるほど。
・『富士フイルム:「ゼロックス後」のフロンティア開拓できるか  ゼロックスとの合弁を解消し、4月に社名を変更したのが富士フイルムビジネスイノベーション(旧富士ゼロックス)だ。2021年3月期の複合機などドキュメントソリューション事業の売上高は前年比約1割減の8547億円だった。 ゼロックスとの合弁解消により、アジア太平洋地域のみに制限された販売地域規定も消えた。今後の課題は新たに販売地域に加わったアメリカとヨーロッパの攻略だ。「ゼロックスと離れてチャンスは広がった」と真茅久則社長は自信満々だ。 2020年の複合機世界シェアはゼロックスを含めれば1位だったが、富士フイルムビジネスイノベーション単体では6位にすぎない。欧米地域では、富士フイルムブランドの拡販とOEM供給の二兎を追う。すでにOEM供給はスタートしており、富士フイルムブランドの拡販も早い時期に開始できると真茅社長は語る。 こうした戦略を支えるのが、独自の暗号化技術をはじめとした高い技術力をもった製品・ITサービスだ。アメリカの基準に準拠した高いセキュリティ性をもつ複合機のほか、在宅支援となるITサービス「ドキュワークス」(クラウド上で文章データを管理し、効率よく編集・整理できるITソフト)はコロナ感染拡大時、数カ月で数十万本と売り上げが急増した。 2021年度中に「今までの世の中にない」(真茅社長)ような、革新性ある複合機やITソフトの投入を目指すとするが、その具体像はまだ見えない』、「アメリカの基準に準拠した高いセキュリティ性をもつ複合機のほか、在宅支援となるITサービス「ドキュワークス」・・・はコロナ感染拡大時、数カ月で数十万本と売り上げが急増」、頼もしい商品群だ。
・『セイコーエプソン:学校向けを新規開拓  苦境にある複合機業界にあえて飛び込む企業もある。「インクジェット複合機」を武器にするセイコーエプソンだ。小川恭範社長は「複合機市場は縮小しているが、オフィス市場向けは開拓できておらず、拡大の余地がある」と話す。 レーザー印刷が主流の複合機市場にセイコーエプソンが本格参入したのは2017年。シェアはまだ数%だが、レーザー印刷に比べてインクジェット複合機は熱を使わないため消費電力が少ない。 ただ、ライバル各社が営業・保守網を全国に張りめぐらせているのに比べ、セイコーエプソンのそれは見劣りする。そこで目をつけたのがプロジェクターの販売を通じて関係が深い、学校や教育委員会など教育機関向けだ。一定枚数までは定額で印刷できる料金プランを打ち出すなど、教育需要の取り込みに躍起だ。 学校現場は保護者向けの連絡や小テストなど紙の印刷量が多い。レーザー印刷の印刷スピードは毎分60~80枚ほどであるのに対し、インクジェット複合機は毎分で最大100枚印刷できる。素早く印刷できることは教員の長時間労働を緩和するとアピールする』、「プロジェクターの販売を通じて関係が深い、学校や教育委員会など教育機関向け」、に目をつけたとはさすがだ。

次に、5月13日付け東洋経済Plus「後藤新社長が背負う重責と課題 ヘルスケアに託す富士フイルム「古森後」の成長」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26946
・『20年にわたって会社を率いてきた古森重隆氏が退いた後、富士フイルムはどんな成長軌道を描くのか。舵取りを託された後藤禎一氏の重責と課題を追った。 富士フイルムを20年にわたって率いてきた「カリスマ」、古森重隆氏が6月に会長兼CEOの職を退く。 中核事業を維持しつつ、同時にイノベーションを起こす、成熟企業の「両利きの経営」のお手本とされる富士フイルムがここに至るまでは紆余曲折があった。 2005年3月期に当時主力の写真フィルム関連事業が赤字に転落し、「本業消失の危機」に陥る。CEOの古森氏は「第二の創業」を掲げて改革の大ナタをふるい、目をつけたのが、写真フィルム製造で培ってきた技術が生かせるヘルスケア領域だった』、「本業消失の危機」から「目をつけたのが、写真フィルム製造で培ってきた技術が生かせるヘルスケア領域だった」、さすがだ。
・『ヘルスケア進出で経営が安定  古森氏が就任した2000年当時、売上高の6割、営業利益の3分の2を写真フィルム関連事業が占めていたが、ヘルスケア部門への進出に成功したことで経営が安定した。2兆円規模の売上高や1500億円程度の営業利益規模を大きく変えることなく、事業構造を大きく入れ替えた。 新型コロナのため、2021年3月期の営業利益は前期比11%減の1654億円となった。キヤノンなど競合他社に比べてコロナ影響を軽微に抑えられたのは、構造改革で事業が多角化し、コロナ影響を受けづらいヘルスケア事業を収益源に育て上げたためだ。 古森前会長は3月末の社長交代会見で、「コロナ禍でもしなやかに対応できる強さが磨かれてきたと感じている。後進に託す適切な時期がきた」と語った。 古森氏の後を継ぐのは、医療機器事業に長年携わってきた取締役であり、メディカルシステム事業部長を務める後藤禎一氏だ。 4月15日に発表した2024年3月期までの中期経営計画では、売上高2兆7000億円、営業利益2600億円を目標に掲げた。2021年3月期の業績が売上高2兆1925億円、営業利益1654億円だったことを考えれば、かなりの急成長が必要だ。 成長の牽引役は、積極的に買収を進めているバイオCDMO(開発製造受託)などのヘルスケアセグメントだ。後藤氏はこの分野を成長領域と位置づけるほか、パソコンなどの需要が高まる半導体・ディスプレイ向け材料を有するマテリアルズセグメントの成長にも期待を寄せる。 中計の中でとくに目を引くのは投資計画だ。前の中計期間中の2018年3月期からの3年間に投じた設備投資と研究開発費の総額は約7100億円。このとき、ヘルスケア&マテリアルズセグメントだけで約3600億円を投じたが、2022年3月期から始まる新しい中計期間中には、ヘルスケアセグメントだけで、さらに多い5940億円を投じる。これは、全事業への投資総計の約半分にあたる額だ。 ヘルスケアセグメントは現在、会社全体の売上高の25%を占める。2024年3月期にはこの数字を32%に引き上げる計画であることを踏まえても、投資額は莫大だ。これらの投資額を賄うために運転資金の回収期間であるCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を短縮させる』、「新しい中計期間中には、ヘルスケアセグメントだけで・・・全事業への投資総計の約半分にあたる額だ」、「売上高では25%から「32%に引き上げる計画」、「投資額を賄うために運転資金の回収期間であるCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を短縮させる」、とはなかなか巧みだ。
・『複合機事業のアキレス腱  ヘルスケアに投じる5940億円とは別枠でM&Aも積極化させる。後藤氏は「今までのM&Aを通じて加速力や(案件への)敏感さを身に着けた。コロナ禍で売りに出ることが予想されていなかった会社も売りに出るだろう。今もノック(打診)をしている会社がある」と語る。ただ、買収に伴うのれんなど財務的なリスクへの目配りだけでなく、目利き力も問われることになる。 莫大な投資からも伺えるように、後藤氏がヘルスケアセグメントに寄せる期待は大きい。後藤氏は、「2030年度(2031年3月期)にへルスケアで売上高の約半分を占めるイメージ」と述べる。化粧品から液晶フィルムまで事業の多角化を進めてきた古森氏と異なり、後藤氏は古森氏が育てた事業の幹を太くする方針だろう。 こうした積極的な投資姿勢を支えるのが、現在の「キャッシュカウ」である複合機事業だ。稼ぎ頭として期待される同事業は、アキレス腱にもなりかねないリスクをはらむ。 事務機子会社は2020年、アメリカのゼロックスとのブランドライセンスや販売地域を規定した契約打ち切りを発表、2021年4月に富士ゼロックスから富士フイルムビジネスイノベーションに社名を変更した。その結果、ゼロックスブランドを使用できなくなるが、代わりに、ブランドの契約上、今まで販売できなかった欧米市場にも自社ブランドの複合機を販売できるようになる。 ただ、2021年以降、リコーは年4~5%、コニカミノルタは年3~4%のペースで印刷量が減少していくとみるのに対し、「(富士フイルムは市場の縮小)率を年2~3%とみており、やや見通しが甘いのでは」(三菱UFJモルガンスタンレー証券の小宮知希氏)という指摘もある。富士フイルムの主要顧客はよりペーパーレス化も加速していくと考えられる大企業が多く、甘い市場見通しには不安も漂う。 【2021年5月13日14時55分追記】初出時の記事の表記を一部見直しました』、「印刷量が減少していく」速度が同業他社比小さいという「見通しの甘さ」は、確かに大丈夫かと「不安」を感じさせる。
・『ゼロックスとのブランド解消後の戦略は?  コロナ影響でオフィスでの印刷量が激減したこともあり、複合機事業の売上高は2024年3月期に8200億円、営業利益は820億円を見込む。ゼロックスとのブランド契約を解消すると決めた2020年には2025年3月期に売上高約1兆3000億円、営業利益約1700億円を目指したことを踏まえると、大幅な下方修正になる。 真茅氏は、「コロナ影響(による)見直しはあったが、2020年に掲げた目標は環境が回復すれば達成できる。ハード・ソフトの両輪で全世界を攻める」と語る。 主要市場のアジアに加え、欧米ではOEM供給(他社ブランドへの製品の製造・供給)と自社ブランドの拡販を同時に進める。富士フイルムにとって、OEM供給は最終製品の販売網を整備する手間がかからない一方、ゼロックスブランドに比べて知名度の低い自社ブランドの複合機販売は、販売網の整備も必要なため時間がかかる。 まずはOEM供給で収益基盤を確立しながら、ゆくゆくはOEM供給と自社ブランド拡販の2本柱に育て上げる計画だ。すでにOEMについては数社と取引が始まっているという。オフィスのIT化・効率化を支援するサービスソフトウェア販売は、堅牢性・高いセキュリティー性などハードの特徴と組み合わせることで訴求力を高めていく。 複合機などの既存事業でキャッシュを生み出しつつ、ヘルスケアなどの成長分野をどれだけ早く大樹へと育て上げられるのか。古森氏の後を継ぐ後藤氏は早速、その手腕を問われることになる』、「複合機などの既存事業でキャッシュを生み出しつつ、ヘルスケアなどの成長分野をどれだけ早く大樹へと育て上げられるのか」、バランスの良い事業ポートフォリオを遺すとは、さすが「古森氏」だけある。

第三に、8月11日付け東洋経済Plus「「『もの売り』から『こと売り』に変えていく」 複合機世界1位リコー「野武士営業」からの脱却」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27734
・『「野武士」とも評される強力な営業部隊を持ち、業界を牽引してきたリコー。複合機販売だけでは生き残れないと、ITサービスのパッケージ販売に力を入れる。 2020年の複合機出荷額が世界1位のリコー。「士」とも評される強力な営業部隊を持ち、業績を拡大してきた。だが、ペーパーレス化の進展に加え、新型コロナウイルスの感染拡大によりテレワークが浸透したことで印刷量は激減。2021年3月期は454億円の営業赤字に。過去最大の赤字を計上した2018年3月期以来の試練の年となった。 ただ、ここ最近注力してきたITサービスを柱とするビジネスモデルへの転換は着実に進みつつある。2020年3月期には、リコージャパンのITサービス事業の売上高が複合機事業を逆転した。ITサービス事業をどのように拡大していくのか、日本国内の販売戦略を担うリコージャパンの坂主智弘社長に聞いた(Qは聞き手の質問、Aは坂主氏の回答)』、「野武士」がこの厳しい環境をどう生き延びてゆくのだろう。
・『これからはサービスが主役  Q:コロナ後、オフィスを取り巻く環境や働き方はどう変わっていくのでしょうか。 A:一番の問題は、労働人口が減少していくことだ。2040年に国内の生産労働人口は2020年比で2割減少するという試算もある。 働き手が減るなか、仕事の質を保っていくために、人手をかけてやっている仕事をなるべくAI(人工知能)などを用いて自動化する。人にしかできない創造性を発揮する仕事に集中できる支援を行うことが求められる。 (そのときには)DaaS(Device as a Service)と呼ばれる端末とサービスをセットにした商品を、サブスクリプション(継続課金)の形で提供していくビジネスが主流になるかもしれない。端末は主役ではなくなり、(仕事のパフォーマンスをより向上させるための)サービスが主役になる。つねに新しい価値を提供していかないと顧客から必要とされなくなっていくだろう。 Q:サービスが主役ですか。 A:リコーの顧客の中心である中小企業は、業務のIT化という課題を認識しながらも「いずれ対処しよう」という様子見の状態だった。それがコロナによりすぐに対処しなきゃいけないと意識が変わったのを感じている。 リコーは(企業のDX化を支援するための)製品・サービス・サポートをセットにした「スクラムパッケージ」という商品を販売している。2021年3月期の販売本数は前年比64%増の約7万本と好調だった。 なかでも、PCやクラウドサービスを一括で提供し、リモートワーク環境を整えられる「テレワークまるごとパック」が人気だ。国内のリコー製品を使っている(中小企業以外も含む)顧客でスクラムパッケージも利用している比率は約10%。2023年3月期には20%にまで高めたい。 Q:「スクラムパッケージ」の提供はコロナ以前の2017年からですね。 A:2016年頃からペーパレス化により複合機が提供できる価値は減少してきていると意識してきた。(価格競争が激しいため)複合機のシェアを追い続けると、安くてもいいから買ってくださいになってしまい、持続的な成長は不可能だ。 そこでシェアを追うのをやめ、複合機に依存した事業構造からの転換を図った。国内だけで営業先の100万事業所を生かし、顧客の働き方改革を支援することで、新しい価値を提供するITサービス事業を収益の柱にしようと決めた。 
坂主智弘(さかぬし・ともひろ) 1958年生まれ。1982年明治学院大学社会学部社会学科卒業、同年リコー入社。2010年リコージャパン執行役員、2017年販売事業本部長、取締役専務執行役員などを経て、2018年代表取締役社長就任』、「複合機のシェアを追い続けると、安くてもいいから買ってくださいになってしまい、持続的な成長は不可能だ。 そこでシェアを追うのをやめ、複合機に依存した事業構造からの転換を図った」、なるほど。
・『営業現場も変わった  Q:中小企業にITを浸透させるのは大変ではないですか。 当社の武器は強固な直販網だ。直販網を通じて顧客の業種・業務ごとにフローをヒアリングし、課題を類型化することで、課題解決に必要なITソリューションやエッジデバイス(顧客とインターネットをつなぐ接点となる端末)をパッケージ化できた。 働き方改革を支援するといっても、営業マンが顧客の業務課題を聞き取り、複数あるITソフトやエッジデバイスからどの製品を組み合わせて提供するのが最適かを判断するのは難しい。 やはり、ITの専門知識がある社員でないとわからないことも多い。一方で、8000人の営業マンにITの専門知識を教育するのは時間がかかる。そこで、営業マン1人でもスムーズに顧客にソリューションを提案できる方法としてパッケージ化に至った。 営業ツールとしても工夫した。製品だけでなく、営業提案書や活用事例を紹介する動画など営業ツールもパッケージ化し、ある程度学習すれば効果的な提案ができる仕組みも組み込んだ。こうしたパッケージ商品は欧州でも展開しており、販売を伸ばしている。 Q:2020年3月期には、リコージャパンのITサービス事業の売上高が複合機事業を逆転しました。 A:サービスビジネスは複合機と違い、販売したらあとは保守・点検専門の社員だけに任せておけばいいというものではない。 顧客を開拓するだけでなく、顧客にサービスを継続してもらう、もしくは追加で別のサービスを導入してもらわなければ持続的に成長できない。そこで営業マンや保守・点検、ICT専門の社員など顧客と接点を持てる社員全員がチームとなって、顧客の課題を聞き取り、つねに多様な観点から顧客にソリューションを提供できるように営業方法も変化させている。 当社は「野武士」といわれるほど強い営業力をもっていた。が、それはあくまで「もの売り」についての話。今後は、「こと売り」で営業力を発揮しないとならない。評価法や教育システムを変えることで「こと売り」思考を根付かせる。 従来のように営業マン1人ひとりを評価するだけでなく、チームでどれだけ顧客にITソリューションを提供できたかを評価する制度を整えた。従来のイメージのような「野武士」じゃなくなるかもしれない』、「サービスビジネスは複合機と違い、販売したらあとは保守・点検専門の社員だけに任せておけばいいというものではない。 顧客を開拓するだけでなく、顧客にサービスを継続してもらう、もしくは追加で別のサービスを導入してもらわなければ持続的に成長できない。そこで営業マンや保守・点検、ICT専門の社員など顧客と接点を持てる社員全員がチームとなって、顧客の課題を聞き取り、つねに多様な観点から顧客にソリューションを提供できるように営業方法も変化させている」、なるほど。
・『すべてを自前主義でやるのではない  Q:ITソリューションは今後どう展開しますか。 A:2020年3月にリコーグループとしてデジタルサービスの会社になると正式に表明した。(リコーの山下良則社長は)コロナ後、出社を前提とした働き方に完全には戻らないだろうと言っていたが、コロナ後の働き方に役に立てるサービスを準備しようと6月にはニューノーマルに対応した働き方を支援するソリューションサービス群「RDPS」(RICOH Digital Processing Service)を発表した。 「RDPS」とは「スクラムパッケージ」などのITサービスと、「EDWプラットフォーム」(エッジデバイスにITサービスをつなぐためのプラットフォーム)、複合機などのエッジデバイスで構成されるサービス群だ。 「RDPS」のコンセプトはオフィスだけでなく、すべての働く場でアナログデータとデジタルデータを相互に変換し、顧客に新たな価値を提供していくこと。手書きの書類だけでなく、音声などのアナログデータをデジタル化し、処理しやすい形にすることが求められる。 逆もまたしかりで、デジタルデータを複合機やプロジェクターで紙、映像といったアナログデータとして出力するニーズもある。リコーは複合機やカメラなどを手がけるエッジデバイスメーカー。アナログデータをキャプチャリングする技術、デジタルデータをアナログデータとして出力する技術ももっている。 2021年6月には、(RDPSの1つとして)「仕事のAI」というITソリューションを発表した。コールセンターに集まった情報などをAIが分析・分類し、重要度順に並べる。分析・分類に人手を割く必要がなく、また情報が分類されていることで効率的に情報を活用できる。 今「仕事のAI」が対応している業種は、食品業界だけだ。大手出版社などと組んでAIに情報を蓄積し、校正や保険の契約書づくりなど対応できる業務も広げていく。 Q:「EDWプラットフォーム」とは具体的にどのようなものなのですか。 A:「EDWプラットフォーム」上では、当社だけでなくパートナー企業のデバイスとアプリケーションを連携させるためのAPI(アプリケーションソフトウェアとプログラムをつなぐための手順やデータ形式)や開発キットなどを公開・提供している。これにより、当社と他社、他社同士で新たなソリューションを開発することができる。 中小企業にITソリューションを提供しているという意味では競合の大塚商会やスキャナーで高シェアを誇る富士通子会社のPFUなども「EDWプラットフォーム」のパートナー。例えば、PFUの提供するスキャナーと当社のソリューションを「EDWプラットフォーム」上で連携させて、納品書をPFUのスキャナーで読み取り、読み取ったデータを当社のAIソリューションが項目ごとに文字データ化。仕入れ管理システムなどと連携しやすくできるサービスを提供している。 自社のデバイスやソリューションは生かしつつも、すべてを自前主義で作るのではなく、他社との協力も進めるつもりだ』、「自社のデバイスやソリューションは生かしつつも、すべてを自前主義で作るのではなく、他社との協力も進めるつもりだ」、上手いやり方だ。「野武士」は「営業マンや保守・点検、ICT専門の社員など顧客と接点を持てる社員全員がチームとなって、顧客の課題を聞き取り、つねに多様な観点から顧客にソリューションを提供できるように営業方法も変化させている」、方式に上手く対応できるのだろうか。
タグ:複合機業界 (その1)(在宅勤務の拡大とペーパーレス化が逆風に 出荷額は「10年で4割減」 複合機ビジネスの生存策、後藤新社長が背負う重責と課題 ヘルスケアに託す富士フイルム「古森後」の成長、「『もの売り』から『こと売り』に変えていく」 複合機世界1位リコー「野武士営業」からの脱却) 東洋経済Plus 「在宅勤務の拡大とペーパーレス化が逆風に 出荷額は「10年で4割減」、複合機ビジネスの生存策」 「出荷額は、この10年余りで4割も減少」、とは本当に厳しそうだ。 確かに「課題を解決するサービスの拡充も急務だ」。 リコー:強力な営業部隊がDX化をパッケージ支援 「自社の営業マンが顧客を直接訪問することで築く強力な販売網だ。代理店販売に依存する他社と異なり、DX化の難しい中小・中堅企業の悩みを直接聞くことができる」、顧客ニーズの把握・提案はお手のものだろう。 キヤノン:紙もデジタルも、両面作戦 富士フイルム:「ゼロックス後」のフロンティア開拓できるか 「アメリカの基準に準拠した高いセキュリティ性をもつ複合機のほか、在宅支援となるITサービス「ドキュワークス」・・・はコロナ感染拡大時、数カ月で数十万本と売り上げが急増」、頼もしい商品群だ。 セイコーエプソン:学校向けを新規開拓 「プロジェクターの販売を通じて関係が深い、学校や教育委員会など教育機関向け」、に目をつけたとはさすがだ。 「後藤新社長が背負う重責と課題 ヘルスケアに託す富士フイルム「古森後」の成長」 「本業消失の危機」から「目をつけたのが、写真フィルム製造で培ってきた技術が生かせるヘルスケア領域だった」、さすがだ。 「新しい中計期間中には、ヘルスケアセグメントだけで・・・全事業への投資総計の約半分にあたる額だ」、「売上高では25%から「32%に引き上げる計画」、「投資額を賄うために運転資金の回収期間であるCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を短縮させる」、とはなかなか巧みだ。 「印刷量が減少していく」速度が同業他社比小さいという「見通しの甘さ」は、確かに大丈夫かと「不安」を感じさせる。 「複合機などの既存事業でキャッシュを生み出しつつ、ヘルスケアなどの成長分野をどれだけ早く大樹へと育て上げられるのか」、バランスの良い事業ポートフォリオを遺すとは、さすが「古森氏」だけある。 「「『もの売り』から『こと売り』に変えていく」 複合機世界1位リコー「野武士営業」からの脱却」 「野武士」がこの厳しい環境をどう生き延びてゆくのだろう。 「複合機のシェアを追い続けると、安くてもいいから買ってくださいになってしまい、持続的な成長は不可能だ。 そこでシェアを追うのをやめ、複合機に依存した事業構造からの転換を図った」、なるほど。 「サービスビジネスは複合機と違い、販売したらあとは保守・点検専門の社員だけに任せておけばいいというものではない。 顧客を開拓するだけでなく、顧客にサービスを継続してもらう、もしくは追加で別のサービスを導入してもらわなければ持続的に成長できない。そこで営業マンや保守・点検、ICT専門の社員など顧客と接点を持てる社員全員がチームとなって、顧客の課題を聞き取り、つねに多様な観点から顧客にソリューションを提供できるように営業方法も変化させている」、なるほど。 「自社のデバイスやソリューションは生かしつつも、すべてを自前主義で作るのではなく、他社との協力も進めるつもりだ」、上手いやり方だ。「野武士」は「営業マンや保守・点検、ICT専門の社員など顧客と接点を持てる社員全員がチームとなって、顧客の課題を聞き取り、つねに多様な観点から顧客にソリューションを提供できるように営業方法も変化させている」、方式に上手く対応できるのだろうか。
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カメラ業界(「デジカメ三強」が描く市場縮小後の残存戦略 名門オリンパス撤退 出荷台数はピーク時の1割、、「α9」が変えた創造と革新 カメラ市場の「破壊者」ソニー、「カメラの雄」は復活できるか キヤノン、「ソニー追撃」の成否、「ミラーレス出遅れ」からの復活劇 ニコン 巨額赤字で迎える正念場) [産業動向]

今日は、カメラ業界(「デジカメ三強」が描く市場縮小後の残存戦略 名門オリンパス撤退 出荷台数はピーク時の1割、「α9」が変えた創造と革新 カメラ市場の「破壊者」ソニー、「カメラの雄」は復活できるか キヤノン、「ソニー追撃」の成否、「ミラーレス出遅れ」からの復活劇 ニコン 巨額赤字で迎える正念場)を取上げよう。

先ずは、1月25日付け東洋経済オンライン「「デジカメ三強」が描く市場縮小後の残存戦略 名門オリンパス撤退、出荷台数はピーク時の1割」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/405575
・『スマートフォンの登場やコロナ禍などにより、デジタルカメラ市場が空前の逆風にさらされている。 2020年のデジカメの出荷台数はピークだった2010年の10分の1に沈んでいる。2020年6月にはカメラの名門・オリンパスが慢性的な赤字に耐えきれず、映像事業を投資ファンドに売却すると発表した。 ミラーレスカメラの躍進という良いニュースもあるが、残った各社は逆風にさらされるカメラ市場をどう生き抜いていくのか。その戦略の巧拙が問われる局面にある。キヤノン、ソニー、ニコンのカメラ「三強」を軸に、その戦略の成否を追った』、「2020年のデジカメの出荷台数はピークだった2010年の10分の1」とは落ち込んだものだ。
・『①ニコンはカメラ事業を継続できるか  ニコンの2021年3月期の業績は、750億円の営業赤字と過去最悪規模になる見通しだ。手軽に写真を撮影できるスマートフォンの躍進に押され、デジタルカメラの市場は急速に縮小。さらに、ソニーが参入して躍進したミラーレスカメラでもニコンは出遅れた。多くのニコンユーザーはいま、大いなる不安を抱いている。それはすなわち、「ニコンはカメラ事業を本当に継続できるのか」ということだ』、「ニコン」は瀬戸際まで追い詰められているようだ。
・『②カメラ市場を「破壊」したソニー  「デジタルカメラ市場を破壊したのはソニーだった」。大手カメラメーカーのある幹部の表情は苦々しそうだ。デジカメ市場を牽引する製品は、一眼レフからミラーレスカメラへ大きくシフトした。ソニーはその変革を主導し、一眼ミラーレス市場で約4割のシェアを占める、圧倒的な存在感をみせている。ソニーがもたらした「創造的破壊」とは何だったのか』、「創造的破壊」とはいかにも「ソニー」らしい。
・『③キヤノン、「ソニー追撃」の成否  かつて優良企業の代名詞として知られていたキヤノン。そのキヤノンの業績が低迷している。2020年4~6月期は四半期として初めてとなる88億円の最終赤字に転落した。赤字の主因は大きく2つあり、1つは複合機などのオフィス向け事業が新型コロナウイルスの影響で振るわなかったこと。もう1つは、キヤノンの「祖業」でもあるカメラの販売不振にあった』、経団連会長企業となった「優良企業」も形なしのようだ。(以下のインタビュー記事は省略)

次に、1月18日付け東洋経済Plus「「α9」が変えた創造と革新 カメラ市場の「破壊者」ソニー」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/25837
・『「デジタルカメラ市場を破壊したのはソニーだった」 大手カメラメーカーのある幹部は苦々しそうに振り返る。 というのも、2020年のデジカメ出荷台数は、2010年のピーク1億2146万台の10分の1以下になる見込みだからだ。ここまで市場が縮小した主因は、手軽に撮影できるスマートフォンが急速に普及したからだ。スマホを使えば、撮った写真を簡単に加工でき、他人と共有することもできる。SNSに手軽に投稿できるなど、スマホは写真の楽しみ方を大きく広げた』、「スマホは写真の楽しみ方を大きく広げた」、のは確かだ。
・『ミラーレス市場で圧倒的な存在感  ただ、この幹部が言う「破壊」の意味はマイナス面ばかりではない。ソニーは伝統的なデジカメ市場のあり方を大きく変え、新しい時代のカメラ市場を作り出す「創造的破壊」を行ったと受け止めることもできる。 この10年間、市場縮小以外にも多くの変化がカメラ市場に起きた。最も大きいのは、市場を牽引する製品が一眼レフからミラーレスカメラへシフトしたことだ。その流れを創り出し、一眼ミラーレス市場で約4割のシェアを占めて圧倒的な存在感をみせているのがソニーだ。 2010年当時のソニーのデジカメシェアは、キヤノンに次ぐ2位だった。ただ、その中身はコンパクトデジカメ2410万台に対し、一眼カメラが95万台。キヤノンの一眼カメラが570万台、ニコンが396万台であることに比べると、プロ・ハイアマチュア層向けカメラでソニーの存在感は薄かった(数字は2010年4月~2011年3月の出荷台数、テクノ・システム・リサーチ調べ)。 2019年に退職したニコンの元社員は、「(ソニーのカメラ事業は)家電メーカーが家電としてデジカメを売っているだけだった」と評する。ソニーが、コニカミノルタのカメラ事業を買収し、一眼レフカメラ事業に参入したのは2006年のことだった。だが、一眼レフ市場はフィルムカメラ時代から高いブランド力を持つキヤノンとニコンの寡占状態で、この2強の牙城を崩すのは簡単ではなかった。 ところが、2010年代前半にスマホが急速に普及したことで状況は一変。まずコンパクトデジカメの需要がスマホに奪われ、それに合わせてソニーもデジカメの売上高を大きく落とし、ソニーの市場シェアは一時3位に転落した。 そこでソニーは戦略を大きく転換。2013年ごろからカメラ製品のラインナップをミラーレス一眼中心に切り替え、さらにプロやハイアマ向けの上位機種の拡大を図った。ミラーレスの性能向上を実現するカギは、光を電気信号に変換する半導体、イメージセンサーの技術だが、CMOSイメージセンサーで世界シェアの過半を握るソニーには一日の長があった。コニカミノルタが培ってきた光学技術とCMOSセンサーの強みで勝負したのだ』、「コニカミノルタが培ってきた光学技術とCMOSセンサーの強みで勝負した」、なるほど。 
・『ミラーレスを変えた「α9」  一眼レフはレンズを通して入ってくる光をボディ内のミラーに反射させ、ミラーの後ろにあるイメージセンサー(撮像素子)に画像を記録するのに対し、ミラーレス一眼は文字どおりミラーがなく、光をイメージセンサーに直接当てて画像を記録する。その分、ボディを一眼レフより小さくできる。 ただ、ミラーレス一眼は一眼レフと比べ、撮影に若干の遅れが生じる。ピントを自動で合わせるオートフォーカス(AF)の速度も遅く、スポーツ競技など一瞬を捉える場面や連写が必要な撮影では不利だとされていた。そのため、キヤノンとニコンは一眼ミラーレスカメラの開発に消極的だった。 ソニーはそれを一変させた。当時の担当者が「ミラーレス一眼の歴史的な転換点」と胸を張ったのが、2017年に発売したフルサイズミラーレス「α9」だ。 CMOSイメージセンサーに、メモリーを内蔵した積層構造を世界で初めて導入し、信号を滞りなく高速で処理。シャッタータイミングを逃しにくくなり、AF速度も一眼レフと同等以上の性能を実現した。 調査会社テクノ・システム・リサーチの大森鉄男シニアアナリストは「α9が一眼レフにはない撮影体験を実現したことで、カメラ市場の構造が変わり、ソニーがリーディングカンパニーになった」と話す。一眼レフよりも小型なのにそれをこえるAF性能や連写速度を実現し、通信社世界大手のAP通信が撮影機材をソニーの製品に切り替えた』、「「α9」・・・CMOSイメージセンサーに、メモリーを内蔵した積層構造を世界で初めて導入し、信号を滞りなく高速で処理。シャッタータイミングを逃しにくくなり、AF速度も一眼レフと同等以上の性能を実現」、確かに画期的だ。
・『ソニーが描く将来のカメラ戦略は何か。ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ社カメラ事業部長の田中健二氏は、「カメラはデジタルデータを扱うもの。だからこそ、構造的にはミラーレスしかないと考えていた」と話す。 ソニーはカメラのことを単なる撮影機材ではなく、デジタルデータを扱う機器であるとみなしている。今後、カメラで撮影した情報量は増加していく。ミラーを通してではなく、光をそのままデジタルに変換して情報量を容易に増やせるようにする必要がある。その意味で、ソニーがミラーレスを強化したのは、今後の技術進歩を踏まえると、「ごく自然なこと」(田中氏)だった。 ソニーのミラーレスカメラは、静止画だけでなく動画でも高精細に撮影できる描写力が評価されている。特に人や動物の瞳を自動で検出してピントを合わせる「瞳AF」機能は、プロカメラマンからも高い評価を受ける。田中氏は「プロダクトありきではなく、価値という一点を追求するからこそ、ミラー(がある一眼レフ)や静止画にこだわる必要はない」とソニーの開発思想を話す。デジカメの性能をただ向上させていくだけではなく、カメラで何ができるかを問う姿勢だ』、「価値という一点を追求するからこそ、ミラー(がある一眼レフ)や静止画にこだわる必要はない」・・・「デジカメの性能をただ向上させていくだけではなく、カメラで何ができるかを問う姿勢だ」、他社とは発想が全く違うようだ。
・『ユーチューバーに人気の新型カメラ  ソニーが販売する製品群も、従来のレンズ交換式カメラとは異なるものが目立ち始めた。代表的なものが2020年6月に発売されたビデオブログ(Vlog)用コンパクトデジタルカメラ「VLOGCAM ZV-1」だ。 Vlogとは「ビデオブログ」の略で、文章ではなく動画でブログを表現するもの。「VLOGCAM ZV-1」はそのVlogに特化したカメラで、ボタンひとつでピントを合わせ、背景をぼかせるなど簡単な操作で高精細な動画を撮れる。VlogerやYouTuberらの使用で人気に火がついた。 「動画に詳しくないけど新しく始めたいという人にはすごい最適なカメラだと思う」。アメリカに留学しながらYouTuberとして活躍するHarukiさんは、自身の動画の1コマで使用する「VLOGCAM ZV-1」を評価する。 SNS慣れした若年層の、高画質な動画を手軽に投稿したいというニーズをとらえ、同製品は入荷待ちが続出するほどの売れ行きだ。田中氏は「静止画だけでなく、動画や業界・顧客のパイを広げる商品も展開することで成長を続ける」と話す。 スマホの普及とともに、ユーザーがカメラに求める機能や価値も変わった。エントリー機種でカメラに親しんでもらい、次第に高機能・高価な機種に乗り換えてもらうビジネスモデルは、もはや通用しない。次々と顧客ニーズに合わせてカメラという製品の形を変えていくソニーの戦略は、衰退市場でカメラが生き残る方向性を示している。』、「Vlogとは「ビデオブログ」の略で、文章ではなく動画でブログを表現するもの。「VLOGCAM ZV-1」はそのVlogに特化したカメラで、ボタンひとつでピントを合わせ、背景をぼかせるなど簡単な操作で高精細な動画を撮れる。VlogerやYouTuberらの使用で人気に火がついた」、「ソニー」の目のつけどころは確かなようだ。

第三に、1月18日付け東洋経済Plus「「カメラの雄」は復活できるか キヤノン、「ソニー追撃」の成否」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/25834
・『キヤノンが四半期として初めて最終赤字に転落した――。 2020年7月末に発表された同社の年4~6月期決算は88億円の純損失を計上した。キヤノンは優良企業の代名詞として知られていたが、その苦境ぶりを示す決算となった。 赤字の主因は主に2つ。1つは売上高の約半分を占める複合機などオフィス向け事業の苦戦だ。新型コロナウイルスの影響で複合機の稼働率や販売が落ち込んだ。もう1つはキヤノンの祖業であるカメラの販売不振だ』、収益の柱が2つともコケたら赤字もやむを得ない。
・『ミラーレスに出遅れた  カメラ映像機器工業会がとりまとめた2020年4~6月のデジタルカメラ出荷数量は、前年同期比65.3%減の約143万台に落ち込んだ。手軽に写真を撮れるスマートフォンの普及により、デジカメ市場は2010年をピークに縮小の一途をたどっている。2019年の市場規模は2010年比で約8分の1の規模だ。そこを新型コロナが直撃した。 「本当に激しい落ち込みで、販売活動や購買活動も停止して、(販売は)どん底だった」。キヤノンでデジカメ事業を手がけるイメージコミュニケーション事業本部長の戸倉剛常務執行役員はそう振り返る。キヤノンは製品別の損益を開示していないが、「デジカメ事業単体だけみると大赤字」(業界アナリスト)だったとみられる。 新型コロナの影響でどん底に落ちていたデジカメ市場について、戸倉氏は「(縮小していく)デジカメ市場の将来(の底)を下回った状態だった」と分析する。しかし、7月以降はデジカメの出荷台数も緩やかな回復基調に入った。 デジカメ市場で長らくトップシェアを誇っているキヤノンを悩ませたのは、ソニーの躍進に代表されるミラーレスカメラへの対応だった。縮小続きのデジカメ市場にあって、この数年ミラーレスカメラだけは唯一成長した。新型コロナで2020年の出荷台数は落ち込んだが、その落ち込み幅は、半減した一眼レフに比べ、ミラ-レスは3割減にとどまった(2020年1~10月の出荷台数)。 ソニーは2017年5月、一眼レフを超える連写速度を誇る50万円台のプロ・ハイアマ向けフルサイズミラーレス「α9」を投入。それに続き、キヤノンも2018年にフルサイズミラーレスカメラ「EOS R」をはじめとするRシリーズを発売した。しかし、ミラーレスで出遅れた影響が残り、ミラーレスカメラのシェアはソニーの41.8%に対し、キヤノンは23.8%にとどまっている(2019年実績、テクノ・システム・リサーチ)。 キヤノンがソニー追撃を狙って投入したのが、2020年7月発売の「EOS R5」だ。デジカメとして世界初となる8K動画撮影に対応し、静止画においても毎秒約20コマを連写できるなど世界トップクラスの性能を誇る。価格帯はソニーα9と同等の50万円台にもかかわらず、生産が追いつかないほどの人気ぶりだ。「3カ月以上待っているがまだこない」と怒り出すプロカメラマンもいる』、「EOS R5」が「ソニーα9と同等の50万円台にもかかわらず、生産が追いつかないほどの人気ぶり」、いい製品はよく売れるようだ。
・『「デジカメ1000万台」を見据える  R5のヒットに気を緩めず、キヤノンは次の手を打っている。同社の田中稔三副社長は「最終的には映像にこだわりをもつユーザーの市場規模に落ち着いていく」と話す。 具体的には、デジカメの年間出荷台数が1000万台を切る時代をにらんでいるようだ。それに向けて「事業の開発・生産・販売の体制や製品ラインナップなど、すべてのスリム化を加速する」(田中氏)方針を示している。 従来のカメラの形式にこだわらず、映像機器分野での新しい領域の拡大も図る。キーワードの1つが「映像入力機器としてのカメラ」だ。戸倉氏は「エントリー層も含めて機能やサービスを増やし、付加価値を高めていく。レンズ交換式カメラだけでは視野が狭い。これまでは『快速・快適・高画質』がコンセプトだったが、画質は一定程度あれば十分というユーザーもいることから『快画質』にコンセプトを変えた」と話す。 従来は、できるだけ高精細に撮影するためにカメラの性能を高めていくのが当たり前だった。ところが、スマホでの撮影体験が多くなり、特に若いユーザーを中心に、写真を加工し、SNSにアップして楽しむことが増えた。 そうした新時代のカメラを象徴する「キヤノンらしくない」(戸倉氏)新商品が、2019年12月に発売された「iNSPiC REC」だ。iNSPiC RECはスマホとも連携できる装着型のカメラで、価格は1万円台半ば。安価なコンパクトデジカメの半額程度だ。 画質はデジカメに及ばないが、耐衝撃・防水性能を持ち、スマホを濡らしたり、落としたくない場所で手軽に撮影できるようにした。「スマホと共存できる」(戸倉氏)を商品開発のコンセプトにした。 新しいコンセプトのカメラは、デジカメの売り方も変えた。従来はユーザーがデジカメのエントリー機種を購入し、その後ラインナップに沿って上位機にステップアップしていくことが想定されていた。これに対し、新コンセプトのカメラに「上位機」や「エントリー機種」という概念はない。「ニューコンセプトの製品で(上位機にステップアップすることと)同様のことができるかはわからない」(戸倉氏)。 ステップアップを前提にした売り方が難しくなる以上、使い方や機能に特化した新しいコンセプトカメラを投入し続ける必要がある。キヤノンは2020年12月に望遠鏡型カメラ「PowerShot ZOOM」を発売しており、新コンセプトのカメラが今後も増えていくとみられる』、「新コンセプトのカメラが今後も増えていく」、楽しみだ。
・『「産業の目」としてのカメラを育成  BtoBの分野でも新たなカメラの取り組みが進む。例えば、工場などの生産現場では異常検知や入荷作業時のバーコード読み取りを、センサーではなく、LAN機能を搭載したネットワークカメラを使って対応できる製品を2018年に開発した。2020年には物流倉庫などで使用できる無人搬送車(AGV)向けの誘導システムも発売。これは、AGVに搭載したカメラで周囲の状況を認識し、操作できる。 さらに、5G時代が本格的に到来すれば、機器の「目」にあたるセンサーの需要が飛躍的に増大する。同じような機能を持たせれば、映像入力機器の重要性も高まる。キヤノンが得意とする技術を生かし、5G時代で差別化を図ることも可能だ。 カメラ市場の概念を変えつつ、岐路に立たされているカメラ事業を再び安定軌道に戻せるのか。業界最大手のキヤノンの一挙一動がカメラ市場の行く末を大きく左右しそうだ』、「「産業の目」としてのカメラを育成」、も大いに楽しみだ。

第四に、1月18日付け東洋経済Plus「「ミラーレス出遅れ」からの復活劇 ニコン、巨額赤字で迎える正念場」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/25839
・『スマホの普及に押され、ピーク時の10分の1以下に落ち込んだデジカメ市場。オリンパスが事業撤退を決めるなど、デジカメ市場には逆風が吹く。残るキヤノンとソニー、ニコンはどんな戦略で生き残りを図ろうとしているのか。カメラ「三強」の実像に迫った。 ニコンはカメラ事業を本当に継続できるのか――。 多くのカメラユーザーはいま、大いなる不安を抱いている。 2020年4~9月期のニコンの営業損益は466億円の赤字(前期は175億円の黒字)に転落。2021年3月期も750億円の営業赤字(前期は67億円の黒字)と、過去最悪規模となる見通しだ』、興味深そうだ。
・『「オリンパスの次はニコンか」  ニコンの業績が急激に悪化しているのは、売り上げの約4割(2020年3月期実績)を占めるカメラなどの映像事業が大赤字だからだ。2021年3月期の映像事業は450億円の営業赤字が見込まれている。2020年3月期も171億円の赤字で、2期連続の赤字となる見込みだ。 手軽に撮影ができるスマートフォンに押され、デジタルカメラの市場規模は急速に縮小している。そこに新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけ、2020年のデジカメ出荷台数はピークだった2010年の10分の1以下に落ち込みそうだ。 悪いニュースも相次ぐ。2020年6月にはオリンパスが慢性的な赤字が続く映像事業を投資ファンド、日本産業パートナーズ(JIP)に譲渡すると発表。デジカメ市場からの撤退を決めた。当面はJIPのもとで「オリンパス」ブランドのデジカメ事業が継続されるが、オリンパスから切り離されたことで先行きの不透明感も増している。カメラユーザーが集まるネットサイト上では、「次はニコンか」と不安の声も出ている。 デジカメ市場を支えるプロやハイアマチュアの顧客層は、撮影対象やシーンに合わせて使い分ける交換用カメラレンズを購入してきた。ニコンであれば、ミラーレスでも使用できる一眼レフのレンズだけでも約400種類あり、中には100万円を超える高額品もある。「赤字がこれだけ続くと、ニコンもカメラ事業から撤退し、これまで購入してきたレンズ資産が無に帰すのでは」と不安視するプロカメラマンもいる。 映像事業の不振からか、ニコンは2020年10月、プロユーザー向けの新たなサービス規定を発表。1万円の年会費を無料にした一方で、従来無料だった機材の点検を有料化し、修理料金の割引を従来の5割引から2割引に変えた。修理には数万円かかることが一般的だ。同年9月にもデジカメ修理中の代替機・使用機材の貸し出しを中止すると発表したものの、批判を受けて2週間後に方針を撤回している。 対応が二転三転したことで、かえってニコンのカメラ事業に対するユーザーの疑念を招いた。ニコンで映像事業を担当する池上博敬常務執行役員は「プロを大事にする姿勢は変わらない」と話すが、一度傷ついたイメージを修復するのは容易ではなさそうだ』、「これまで購入してきたレンズ資産が無に帰すのでは」と不安視するプロカメラマンもいる」、とすると、「オリンパスの次はニコンか」と心配するのも頷ける。
・『ミラーレスカメラで出遅れ  ライバルであるソニーがミラーレスカメラで躍進する一方、ニコンのカメラ事業が赤字続きなのはなぜか。それは市場が縮小しているだけではなく、同社の製品戦略に課題があったからだ。最も顕著なのはミラーレスカメラでの出遅れだ。 ニコンは2011年からミラーレスカメラを投入しているが、2015年を最後にミラーレスの新製品投入を中断。入門機から高級機までのラインアップの充実も後手に回った。 デジカメ市場が縮小し続ける中、ミラーレスカメラだけは唯一、成長を続けている。新型コロナ禍からの回復も早く、今やデジカメ業界での新たな牽引役と言っていい。それだけに、ニコンのミラーレス製品での出遅れは致命的ともいえる。 ミラーレスカメラへのシフトが遅れたことについて、池上氏は「(一眼レフとの)食い合いを恐れたというより、市場を冷静に見ていなかった面がある」と振り返る。 ミラーレスは構造上、連写するスピードの遅さが一眼レフに比べた場合の難点とされてきたが、ソニーが2017年5月に50万円台のプロ・ハイアマ向けのフルサイズミラーレス「α9」を投入。状況が一変した。 α9によって、ソニーは一眼レフの独壇場だったスポーツ競技の撮影や報道の世界を開拓した。ニコンは2018年9月以降に20万円台と40万円台の、キヤノンが同年10月には20万円台のフルサイズミラーレスカメラをそれぞれ投入し、「ミラーレス戦争」が幕を開けた。 ところが、キヤノンやソニーが廉価版からフルサイズミラーレスや最上位機種を相次いで投入し、ラインナップをそろえていったのに対し、ニコンはこうした動きに追随できないまま。デジカメの市場シェアは2019年にソニーに抜かれ、一眼ミラーレスカメラだけでみれば、富士フイルムとオリンパスの後塵を拝している(2019年生産台数ベース、テクノ・システム・リサーチ調べ)。 ニコンの池上氏は「勝負はこれから」(池上氏)と事業継続に自信をみせる。2020年10月から、宮城県の工場で手掛けるデジタル一眼レフカメラ本体の生産をタイ工場に集約し、2022年3月期には2016年3月期比で事業運営費を59%削減する計画を打ち出した』、「宮城県の工場で手掛けるデジタル一眼レフカメラ本体の生産をタイ工場に集約」、本来の勝負は機能の改善・強化といった高付加価値化なのに、生産の海外移転でコスト削減とは的が完全にズレている印象だ。ただ、キレイゴトを言う余裕もないのかも知れない。
・『海外人員を2000人削減  映像事業以外も含めて全社で海外人員を2000人削減する一方、2021年3月期はフルサイズミラーレス3モデル、レンズ7本を新投入するなど、ハイエンド製品を中心にラインアップを拡充する。「今期(2021年3月期)も来期(2022年3月期)もミラーレスに集中し、ボディ・レンズともに拡充していく。レンズは2022年までに(現在の18本を)30本弱までそろえたいと思っている」と池上氏は話す。 2021年3月期の映像事業の売上高は1400億円を見通す。これはコロナ禍の異常値であるとみて、ニコンの馬立稔和社長は「(映像事業は)売上高が1500億円以下でも黒字を出せる筋肉質な構造にしたい」と意気込む。 生産過程を共通化することでコストを削減し、他社と差異化を図れる画像エンジンなどの部分にしっかりコストをかけていく。池上氏は「(競合他社との)差異化に必要な投資を行っていける」と話すが、リストラは2017年に全社で約1000人を削減し、2017年には海外工場を閉鎖している。たび重なるリストラにニコンの研究開発規模は縮小している。 2020年3月期の映像事業の研究開発費は211億円。それに対し、キヤノンのインクジェットプリンター・カメラを含むイメージング事業の研究開発費は2019年12月期で730億円だ。従業員数も、2011年3月期に1万5362人だったが、2020年3月期には9376人と、約3分の2になっている。 ミラーレスで出遅れたニコンの再起はあるのか。まさに正念場を迎えている』、私は「ニコン」の「デジカメ」を使っていることもあり、「ニコン」には頑張ってもらいたいが、前述の通り「本来の勝負は機能の改善・強化といった高付加価値化なのに、生産の海外移転でコスト削減とは的が完全にズレている」のには失望した。 
タグ:カメラ業界 (「デジカメ三強」が描く市場縮小後の残存戦略 名門オリンパス撤退 出荷台数はピーク時の1割、、「α9」が変えた創造と革新 カメラ市場の「破壊者」ソニー、「カメラの雄」は復活できるか キヤノン、「ソニー追撃」の成否、「ミラーレス出遅れ」からの復活劇 ニコン 巨額赤字で迎える正念場) 「「デジカメ三強」が描く市場縮小後の残存戦略 名門オリンパス撤退、出荷台数はピーク時の1割」 東洋経済オンライン 「価値という一点を追求するからこそ、ミラー(がある一眼レフ)や静止画にこだわる必要はない」・・・「デジカメの性能をただ向上させていくだけではなく、カメラで何ができるかを問う姿勢だ」、他社とは発想が全く違うようだ。 「「α9」・・・CMOSイメージセンサーに、メモリーを内蔵した積層構造を世界で初めて導入し、信号を滞りなく高速で処理。シャッタータイミングを逃しにくくなり、AF速度も一眼レフと同等以上の性能を実現」、確かに画期的だ 「「α9」が変えた創造と革新 カメラ市場の「破壊者」ソニー」 「創造的破壊」とはいかにも「ソニー」らしい。 経団連会長企業となった「優良企業」も形なしのようだ。 「Vlogとは「ビデオブログ」の略で、文章ではなく動画でブログを表現するもの。「VLOGCAM ZV-1」はそのVlogに特化したカメラで、ボタンひとつでピントを合わせ、背景をぼかせるなど簡単な操作で高精細な動画を撮れる。VlogerやYouTuberらの使用で人気に火がついた」、「ソニー」の目のつけどころは確かなようだ。 「ニコン」は瀬戸際まで追い詰められているようだ。 東洋経済Plus 「コニカミノルタが培ってきた光学技術とCMOSセンサーの強みで勝負した」、なるほど。 「スマホは写真の楽しみ方を大きく広げた」、のは確かだ。 「2020年のデジカメの出荷台数はピークだった2010年の10分の1」とは落ち込んだものだ。 「「カメラの雄」は復活できるか キヤノン、「ソニー追撃」の成否」 収益の柱が2つともコケたら赤字もやむを得ない。 「EOS R5」が「ソニーα9と同等の50万円台にもかかわらず、生産が追いつかないほどの人気ぶり」、いい製品はよく売れるようだ。 「新コンセプトのカメラが今後も増えていく」、楽しみだ。 「「産業の目」としてのカメラを育成」、も大いに楽しみだ。 「「ミラーレス出遅れ」からの復活劇 ニコン、巨額赤字で迎える正念場」 「これまで購入してきたレンズ資産が無に帰すのでは」と不安視するプロカメラマンもいる」、とすると、「オリンパスの次はニコンか」と心配するのも頷ける。 「宮城県の工場で手掛けるデジタル一眼レフカメラ本体の生産をタイ工場に集約」、本来の勝負は機能の改善・強化といった高付加価値化なのに、生産の海外移転でコスト削減とは的が完全にズレている印象だ。ただ、キレイゴトを言う余裕もないのかも知れない。 私は「ニコン」の「デジカメ」を使っていることもあり、「ニコン」には頑張ってもらいたいが、前述の通り「本来の勝負は機能の改善・強化といった高付加価値化なのに、生産の海外移転でコスト削減とは的が完全にズレている」のには失望した。
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薬物(その3)(マッキンゼーが加担した「不正」驚愕の全容 大量の中毒死招いたオピオイド販促を後押し、日本人が知らない「大麻」が違法薬物になった理由 栃木県の大麻農家を訪れる昭和天皇の写真も、日本が「大麻解禁」を検討し始めた深刻な理由とは)  [社会]

薬物については、昨年2月12日に取上げた。今日は、(その3)(マッキンゼーが加担した「不正」驚愕の全容 大量の中毒死招いたオピオイド販促を後押し、日本人が知らない「大麻」が違法薬物になった理由 栃木県の大麻農家を訪れる昭和天皇の写真も、日本が「大麻解禁」を検討し始めた深刻な理由とは)である。

先ずは、昨年12月11日付け東洋経済オンラインが転載したThe New York Times「マッキンゼーが加担した「不正」驚愕の全容 大量の中毒死招いたオピオイド販促を後押し」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/395167
・『麻薬入りの医療用鎮痛剤オピオイドの中毒問題に加担したとの批判が強まる中、コンサルティング大手マッキンゼーは製薬企業パーデュー・ファーマに対するコンサルティングは自社の基準を満たしていなかったことを認め、徹底的な内部調査を行うと発表した。証拠文書が削除された可能性も調査するという。同社としては異例の対応といえる。 世界で最も権威あるコンサルティング会社マッキンゼーが強烈な批判にさらされるきっかけとなったのは、ニューヨーク・タイムズによる11月の報道だ。マッキンゼーはパーデューの医療用鎮痛剤「オキシコンチン」の販売を「ターボがかかったように加速させる」方法を検討し、過剰摂取となる量のオキシコンチンを患者に販売した医薬品販売業者にリベートを支払うよう提案していた、とニューヨーク・タイムズは報じた。 これを受けて民主、共和両党の議員からはマッキンゼーに対する調査を求める声があがっている。マッキンゼーに勤務する有力な医師も、実態を把握していた取締役は辞職するべきだと語った』、超一流コンサルティング・ファームとしては、信じ難いような不祥事だ。
・『証拠書類隠滅の疑いも  パーデューの破産手続きに関連して最近提出された文書によると、マッキンゼーの2人のシニアパートナーはパーデューに関連した文書を破棄するかどうか話し合っていた。マッキンゼーが自社の過ちを認めることはほとんどなく、オピオイドの販売促進でパーデューを手助けした件でも同社は自らの責任を認めたわけではない。 極めて中毒性の高いオピオイド系鎮痛剤をめぐっては、数十万人規模での乱用が社会問題となっていたにもかかわらず、だ。マッキンゼーはオピオイド事業についてはクライアントへの助言を世界的に停止し、「オピオイド関連の調査」にも協力していると明かした。 マッキンゼーは12月5日、ウェブサイト上で発表した声明にこう記した。「オピオイド危機のさなかに弊社がクライアントに提供していたサービスを顧みれば、私たちの社会で広がる中毒問題の大きさや、アメリカで何百万という家庭に与えるオピオイド乱用の深刻な悪影響を、十分には把握していなかったといわざるをえない」。 同社は声明でこう続けた。「問題の事業については徹底的な調査を進めている。その対象には、文書削除の可能性に触れた2018年の電子メールも含まれる。この問題に関する当局の調査には、今後とも全面的に協力していく」。 パーデューは公共医療制度に対する虚偽請求、医師への違法なキックバック支払いなどで刑事告訴され、少し前に罪状を認めている。マッキンゼーは今のところオピオイド事業と関連した告発、告訴は受けておらず、マッキンゼーが提案したリベートによる販売促進プログラムが実行に移されたことを示す証拠もない。 マッキンゼーの広報担当者は、このリベートは販売促進を意図したものではなかったと主張する。マッキンゼーが過剰摂取や乱用を促したとする説はすべて間違っている、と同社は声明で述べた。 「とはいえ、弊社事業を取り巻くさまざまな背景要素や、弊社事業がもたらす影響を考慮する責任があることは認識している。パーデューに提供したサービスは、そうした基準を満たしてはいなかった」 一方のパーデューは今年秋の声明に、オキシコンチンの不適切な販売促進活動について「深く反省しており、責任を認める」と記している。 アメリカ疾病対策センター(CDC)によると、アメリカではオピオイド関連の過剰摂取で1999〜2019年に45万人近くが死亡している。パーデューのオキシコンチンは発売当時、市場に出回っている処方薬の鎮痛剤の中でも最も中毒性の高い製品の1つだった』、「オピオイド関連の過剰摂取で1999〜2019年に45万人近くが死亡」、「オキシコンチンは発売当時、市場に出回っている処方薬の鎮痛剤の中でも最も中毒性の高い製品の1つだった」、にも拘らず、「オキシコンチンの不適切な販売促進活動」していたとは言い訳の余地もない。
・『身内からも会社を公然と批判する声  こうした問題が明るみに出たことで、マッキンゼーでは身内からも会社を公然と批判する声があがるようになっている。ここには、かつて同社に在籍した人たちだけでなく、現職の従業員も含まれる。 マッキンゼー所属のディナ・マリー・ピタ医師は11月下旬、多数の同僚に向けた電子メールにこう書いた。会社は「単なる軌道修正ではなく、根本から変わらなければならない」ということが、今回の報道で明らかになった——。 ピタ氏はメールをこう結んだ。「同じ過ちを繰り返さないためには、人材ではなく、組織が変わる必要がある。ただ、この件に関与していた幹部は(患者に)害を与える可能性が大きいことを知りながら共謀した。幹部は(不正に)関与した責任を取らなくてはいけない。巨額の退職金を受け取ることなく、辞職すべきだ」。 あるマッキンゼーの元コンサルタントは、ニューヨーク・タイムズの報道でパーデュー案件を監督していたことが明らかになった2人のシニアパートナーに激怒している。マーティン・エリング氏と医師の資格を持つアーナブ・ガタク氏だ。 2人はオピオイド危機のさなかにオキシコンチンの販売促進に協力しただけでなく、マサチューセッツ州からパーデューおよび同社取締役の一部が告訴されると、文書破棄の可能性についてメールで議論を進めた。 「私の見るところ、この人道に対する罪を強力に手助けすることで、これらのシニアコンサルタントはマッキンゼーという偉大な名前に、もう少しで誰もが恐れる致命的な汚点を残すところだった」。2001〜2003年に同社でアソシエイトとして勤務したエラン・ジマーマン氏は、リンクトインで公開した書簡にこうつづった』、「幹部は(不正に)関与した責任を取らなくてはいけない。巨額の退職金を受け取ることなく、辞職すべきだ」、当然だろう。民事裁判で損害賠償を請求される可能性もあるのではなかろうか。
・『高まる政治的プレッシャー  マッキンゼーは議会でも批判の的になっている。共和党所属のジョシュ・ホーリー上院議員(ミズーリ州選出)は12月初旬、文書破棄の有無に加えて、パーデュー関連の案件で得た収益の額など追加の情報を問いただす質問状を、マッキンゼーでグローバル・マネージング・パートナーを務めるケビン・スニーダー氏宛てに送付。12月15日までに会社として回答するよう求めた。 「マッキンゼーがオピオイド危機を深刻化させる行為に積極的に手を染めていた可能性を考えると、コンサルティング会社に違法行為を報告する義務を課したり、連邦犯罪に関与したコンサルタントに特別な刑事罰を与えたりすることを議会として検討しなくてはならない」とホーリー氏は記した。 民主党所属のブライアン・シャッツ上院議員(ハワイ州選出)は、11月のニューヨーク・タイムズの報道を受けて、すぐさまこうツイートした。「次期司法長官がこのような犯罪者を1人残らず追及することは極めて重要だ」。 ニュージャージー州のフィル・マーフィー知事(民主党所属)は11月、マッキンゼーがパーデューに行った助言、中でも患者がオキシコンチンを過剰摂取した場合に、CVSのようなドラッグストアなどにリベートを支払うという提案は「常軌を逸している」と報道陣に語った。ただ、その一方で同知事は、同州とマッキンゼーとの多岐にわたるビジネス関係は維持するとした。 ニューヨーク・タイムズはエリング、ガタクの両氏にコメントを求める電子メールを送ったが、返答はなかった。エリング氏はマッキンゼーが多数の製薬企業のために巨大なオフィスを構えるニュージャージー州を何年にもわたって拠点としてきた。 こうした製薬企業の中には、マッキンゼーのクライアントの中でも最大級のものがいくつか含まれる。ところが、同社のウェブサイト上で最近更新されたエリング氏のプロフィールを見ると、バンコクに転勤となったようだ。マッキンゼーの中では、タイの市場規模は比較的小さい。 一方、2000年からマッキンゼーのシニアパートナーを務め、ニュージャージー州での勤務歴もあるガタク氏は、ペンシルベニア大学で医学博士号を取得している。同氏はマッキンゼーで、発展途上国における医療ケア水準向上の必要性について報告書を執筆していた』、「エリング氏のプロフィールを見ると、バンコクに転勤となったようだ」、取り敢えず「バンコック」でほとぼりが冷めるのを待つのも知れない。
・『独裁政権も含まれる顧客リスト  マッキンゼーについては、独裁政権など物議をかもすクライアントにコンサルティングを提供してきた実態がさまざまな報道で明らかになっている。これを受けて同社は、引き受ける案件の選定基準変更を進めていると明かした。 「コンサルティング業界は調査の対象となる事案をたくさん抱えている。マッキンゼーの名前が取り沙汰されるのが今回で最後だと考えてはならない」。11月、ニューヨーク・タイムズがマッキンゼーの不正を報じた数時間後、北米担当マネージング・パートナー、リズ・ヒルトン・シーゲル氏率いるマッキンゼーの最高経営幹部数名は従業員向けにメモを作成し、そこにこう記した。 「過去を変えることはできないが、過去から学ぶことはできる」』、少なくとも顧客の不正を拡大するようなアドバイスは回避すべきではなかろうか。

次に、6月1日付け東洋経済オンラインが掲載した一般社団法人の大麻博物館による「日本人が知らない「大麻」が違法薬物になった理由 栃木県の大麻農家を訪れる昭和天皇の写真も」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/430218
・『日本人は、稲作より古い1万年以上前から大麻という「農作物」を衣食住に利用してきた。繊維を布や魚網に加工し、茎を屋根材に、種子(麻の実)を食用に、葉を薬に用いるなど、ほんの70年ほど前まで、大麻は日本人にとって非常に身近な存在だったのである。 大麻は、なぜ日本で禁止薬物になったのか? その意外な歴史背景を、書籍『日本人のための大麻の教科書「古くて新しい農作物」の再発見』より一部抜粋・再構成してお届けする。 明治時代以降、海外産の繊維の輸入が増えるに従って、国内産の大麻の生産量は落ち続けていました。しかし、政府は1942年に原麻生産協会を設立し、麻類の増産奨励を行っています。長野県大麻協会が発行した『大麻のあゆみ』には、太平洋戦争当時、全生産量の90%が軍需用だったと記録されています。 敗戦後の1945年、日本はポツダム宣言を受諾し、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の占領下に置かれました。アメリカ軍が主体となったGHQが日本を占領したため、GHQには米軍の印象が強いのですが、本来は11カ国で構成された極東委員会の決定を遂行する機関でした』、「1万年以上前から大麻という「農作物」を衣食住に利用してきた。繊維を布や魚網に加工し、茎を屋根材に、種子(麻の実)を食用に、葉を薬に用いるなど、ほんの70年ほど前まで、大麻は日本人にとって非常に身近な存在だった」、「GHQ」がこれを変えたのだろうか。
・『日本初の「大麻取扱事件の摘発者」とは?  同年10月12日、GHQは「日本に於ける麻薬製品および記録の管理に関する件」という覚書(メモランダム)を発行しました。麻薬の定義は「あへん、コカイン、モルヒネ、ヘロイン、マリファナ(カンナビス・サティバ・エル)、それらの種子と草木、いかなる形であれ、それらから派生したあらゆる薬物、あらゆる化合物あるいは製剤を含む」とされ、当時の厚生省はこの指令に基づき11月24日、厚生省令第四六号「麻薬原料植物の栽培、麻薬の製造、輸入及輸出等禁止に関する件」を交付しました。 しかし、日本人はこの時点でもまだ戦前と同様、「マリファナとはインド大麻(※1930年に制定された麻薬取締規則において、日本の大麻(繊維型)と区別するために、海外の大麻(薬用型)が「インド大麻」として規制された)のことであり、農作物としての大麻は無関係である」と考えていました。そのため1946年春から夏にかけて、例年どおりに大麻の栽培は行われていました。 ところが、1946年にある事件が起こります。GHQの京都軍政部により、京都府で栽培されていた大麻が発見され、農家2名を含む4名の民間人がGHQの命令違反で検挙されたのです。不運にも、彼らが日本の大麻取扱事件の初の摘発者となりました。 京都府は麻薬採取の目的ではなかったことを訴え、京都大学薬学科、刈米・木村両博士の鑑定書を添付し、インド大麻ではないことを証明しようとしました。しかし、関係者の努力は実らず、「その栽培の目的如何にかかわらず、また麻薬含有の多少を問はず、その栽培を禁止し、種子を含めて本植物を絶滅せよ」との命令が下されたのです。 占領期とはいえ、「植物を絶滅せよ」という命令は常軌を逸しているとしか思えません。この状況を放置しておけば、衣料や漁網などの生活用品を生産できなくなります。専業の大麻農家も少なくなかったため、数万人規模で農家の困窮が起きます。さらに、大麻の種子はお盆を越すと発芽率が著しく悪くなるため、一年以上この状況が続いて発芽する種子が激減すれば、大麻農業は壊滅的な打撃を受ける危険がありました。 こうした報告を受け、占領下にあった政府はGHQへの事情説明と折衝を続けました。農林省は1946年11月に農政局長名で、終戦連絡事務局(GHQとの折衝を担当する機関)に大麻の栽培許可を要望しています。全面的な禁止を回避し、「農作物としての大麻」を守ろうとしたのです。 国を挙げての再三にわたる折衝の結果、1947年2月、連合軍総司令官より「繊維の採取を目的とする大麻の栽培に関する件」という覚書が出され、一定の制約条件の下、大麻栽培が許可されました。制約とは、栽培許可面積を全国で5000町歩とし、栽培許可県を青森、岩手、福島、栃木、群馬、新潟、長野、島根、広島、熊本、大分、宮崎県に限るというものです。 このときに初めて、日本の大麻を規制する厚生・農林省令第一号「大麻取締規則」が制定されたのです。法制定に関わった元内閣法制局長官の林修三氏はのちの1965年「時の法令530号」で、「先方は、黒人の兵隊などが大麻から作った麻薬を好むので、ということであったが、私どもは、なにかのまちがいではないかとすら思ったものである」と語っているほどです』、日米間の考え方には大きな開きがあったようだ。
・『昭和天皇と大麻  同年9月、昭和天皇が栃木県国府村(現・栃木市国府町)を訪問されています。「国府村農協組合にて大麻製造御高覧」という説明文がついた写真が残っていますが、ご訪問の真意はわかっていません。国府町で伺った話によると、大麻農業の存続を危惧して動揺する農民たちを、「これからも大麻はつくれるから、安心してください」と励ますためだったとされています。 生物学者であり、植物にも造詣が深かった昭和天皇の有名な言葉に「雑草という草はない。どんな植物でも、みな名前があって、それぞれ自分の好きな場所で生を営んでいる。人間の一方的な考え方でこれを雑草と決めつけてしまうのはいけない」というものがあります。占領下におけるGHQの命令に、心を痛めておられたのではないでしょうか。 その後、大麻の取り締まりを強化するため、前年までの取締規則を法制化するようGHQから要請があり、1948年7月10日に「大麻取締法」が制定されました。同時に「麻薬取締法」が制定されましたが、これは農家が取り扱う従来の農作物としての大麻と、医師などが取り扱う麻薬類を分けるための措置でした。 この法律の最も大きな問題と考えられる点を紹介します。それは、通常の法律は「総則」の冒頭に制定の「目的」が書かれるのですが、なぜか大麻取締法にはこの目的が書かれていないまま70年以上が経過しているという点です。 このため、そもそも農家を保護するための苦肉の策だったものが、いつの間にか大麻事犯を取り締まる法律へと変化しているのです。 また、日本が主権を回復した際には、大麻取締法の廃止が前提条件となっていました。1952年、サンフランシスコ講和条約が発効され、日本の主権が回復し、占領時の法制について再検討が行われます。大麻取締法の廃止は優先順位が高く、内閣法制局は少なくとも栽培免許制の廃止を行うよう働きかけました。厚生省も同様に取締法の廃止の必要性を認めていたものの、決定には至らず、見送られることになったのです。 ここまで、大麻取締法が制定されるまでの流れを時系列で追いかけました。強調しておきますが、大麻取締法は本来、「農作物としての大麻」を守り抜こうとした結果でもあるのです。 大麻取締法が制定された1948年、大麻栽培の免許取得者数は2万3902人でした。その数は意外なことに年々増加し、1954年には3万7313人となっています。増加の要因は戦後の復興需要に伴うもので、1950年に発行された『実験麻類栽培新編』によると、当時の大麻繊維の利用先は下駄の芯縄52%、畳経糸32%、漁網12%、荷縄4%でした』、「昭和天皇の有名な言葉に「雑草という草はない。どんな植物でも、みな名前があって、それぞれ自分の好きな場所で生を営んでいる。人間の一方的な考え方でこれを雑草と決めつけてしまうのはいけない」」、味わい深い言葉だ。「大麻取締法は本来、「農作物としての大麻」を守り抜こうとした結果でもあるのです」、なるほど。
・『ターニングポイントは「1961年」の国連条約  しかし、1954年を境に免許取得者は減少に転じ、1964年には7042人、1974年には1378人まで激減。その要因は高度経済成長期の生活スタイルの急激な変化です。化学繊維の普及も進んだことから、それまでは大麻でなければ担えなかった需要が、急速に失われていったのです。 また、この間の国際的な動きに、1961年に国連が採択した「麻薬に関する単一条約」があります。この条約で大麻が指定されたことから、世界的に大麻への規制圧力が高まりました。日本がこれまでに大麻取締法を廃止できなかった大きな理由は、この条約にあります。
 農作物としての需要が激減するなか、1960年代には欧米を中心にベトナム戦争への反対運動などを契機としたヒッピー文化が隆盛し、マリファナ喫煙が流行しました。その影響は大麻を喫煙する習慣がなかった日本にも波及しました。 大麻農業の保護を目的として制定された大麻取締法はいつの間にか「違法な薬物」を取り締まるための法律として機能するようになりました。そして、農作物という側面が忘れ去られた大麻は「ダメ。ゼッタイ。」な存在へと変わっていったのです』、「大麻農業の保護を目的として制定された大麻取締法はいつの間にか「違法な薬物」を取り締まるための法律として機能するようになりました」、「なぜか大麻取締法にはこの目的が書かれていないまま70年以上が経過」、こんないい加減な扱いが背景にあるのかも知れない。

第三に、9月9日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの矢部 武氏による「日本が「大麻解禁」を検討し始めた深刻な理由とは」を紹介しよう。
・『世界的に広がる合法大麻ビジネス  日本では非合法薬物として禁止されている大麻だが、世界はいま、「グリーンラッシュ」と呼ばれる「合法大麻」ビジネスが活況を呈している。 合法大麻は使途によって、病気の治療に使用される「医療用」、繊維や建材、食品などに使われる「産業用」、そして「嗜好(しこう)用」に分かれるが、北米や欧州、アフリカ、中南米、アジアなど世界各国はこれらを続々と解禁・合法化し、経済成長しているのである。 このような海外の状況に影響を受けたのか、厚生労働省は今年1月、有識者検討会を立ち上げ、医療用大麻の解禁と大麻使用罪の創設を含めた大麻取締法の改正を検討し始めた。そして6月にこれらを明記した検討会の報告書を発表し、来年の法改正をめざす考えを示した。 はたして日本も、医療用大麻を合法化するのだろうか。 この質問に答える前にまず、医療用大麻をすでに合法化している世界47カ国の中で、日本と地理的にも文化的にも近いアジアの韓国やタイなどの状況を紹介し、アジアの「合法大麻」市場の将来の可能性を探ってみたい』、「医療用大麻の解禁」を「検討し始めた」、漸く思い腰を上げたようだ。
・『タイでは700以上の診療所が大麻治療を開始  2019年2月に東南アジアで初めて医療用大麻を合法化したタイでは、医師の処方箋があれば患者は大麻由来の医薬品や乾燥大麻を使用することが可能となった。 タイ国内では現在、758の病院・診療所に医療用大麻を処方する許可が与えられ、約700の大麻業者に生産・加工・販売のライセンスが付与されているが、同時に嗜好目的の乱用を防ぐための対策も行われている。 たとえば、医療用大麻を使用できる条件として、がん、てんかん、糖尿病、緑内障、パーキンソン病、リウマチ、統合失調症、高血圧、PTSD、中毒離脱症状など38の病気・症状を持つ患者に限定し、処方は政府の許可を受けた病院、診療所のみが行うことになっている。 これらはインターネットで検索できるので、患者は最寄りの診療所を見つけて予約することが可能だ。 実はタイでは1934年の麻薬取締法によって禁止されるまで大麻は薬として使われ、伝統代替医療でハーブなどと一緒に大麻の葉が使用されていた。そのため、現在も大麻に親しみを持つ人は少なくなく、紅茶や料理に大麻の葉を入れて写真を撮り、SNSに投稿して盛り上がっている患者もいるという。 タイ政府は医療用大麻ビジネスを経済成長にとって重要と位置づけ、将来的には大麻治療を国内のタイ人だけでなく、外国人観光客も利用できるように「医療用大麻ツーリズム」の準備を進めている。 政府の担当閣僚は、「タイは多くの外国人にとって有名な観光地だが、医療用大麻ツーリズムはもう一つの大きな魅力になるだろう」と話している。 開始まであと数年かかるとされるが、実現されれば日本の患者もタイへ行って治療を受け、病気が治ったり、改善したりという人が出てくるかもしれない。 タイではまた、新規の大麻産業を育成するための試みも行われている。 2019年10月、大麻業界専門のコンサルタント会社「エレベーテッド・エステート(EE)」はバンコクのリゾート地で、国内の大麻企業関係者と海外の大麻専門家や投資家などを招き、大麻ビジネス国際会議「カンナビス(大麻)・エキスポ2019:アジアのグリーンラッシュ」を開催した。 国内の大麻企業関係者にビジネスのノウハウを学んでもらい、同時に海外の企業関係者や投資家にタイでのビジネスチャンスを探ってもらうのが主な目的だという。 EEの創業者兼CEOのチョクワン・キティ・チョパカ氏は、タイが医療用大麻を合法化した意義についてこう話す。 「大麻の医療使用と研究を認める決定をしたことは、以前は違法だった薬物に対するタイ社会の受容と世界的地位の向上に向けた変化を表しています。大麻が“エッセンシャルな経済作物”となり、経済成長を促し、同時に研究・医療・娯楽の面で人々に利益をもたらすことは今やリアルの可能性です」 タイの医療用大麻市場は2024年に200億バーツ(約680億円)規模になると推定されている』、「タイの医療用大麻市場は2024年に200億バーツ(約680億円)規模になると推定」、「タイ」であれば、外国人観光客の集客にも寄与しそうだ。
・『東アジアでは韓国が医療用大麻を合法化  タイとほぼ時を同じくして、韓国も医療用大麻を合法化した。 2018年7月、韓国の食品医薬品安全省(MFDS)は「治療の選択肢を広げるため」として、がん、てんかん、エイズ、多発性硬化症などの患者に大麻由来の医薬品の使用を認める決定をした。そして11月に国会が大麻の医療使用を認める麻薬取締法(NCA)の改正案を可決し、翌19年3月に合法化した。 韓国は大麻由来のてんかん治療薬「エピディオレックス」、多発性硬化症治療薬「サティベックス」、抗がん剤治療の吐き気止めやエイズの消耗症候群の治療薬「マリノール」「セサメット」などを海外から輸入し、患者に提供している。 韓国の合法化はタイと異なり、乾燥大麻の使用を認めていない。また、使用できる医薬品も限られているため、患者の支援団体などから、「もっと幅広い使用を認めてほしい」との要望が出ているという。 しかし、厳しい大麻禁止政策を続けてきた韓国が東アジアで初めて医療用大麻を合法化したのは「画期的」として、世界の合法大麻市場からは驚きをもって受け止められている』、「韓国」が「がん、てんかん、エイズ、多発性硬化症などの患者に大麻由来の医薬品の使用を認める決定」、「大麻由来の医薬品」は想像以上に幅広いようだ。
・『フィリピンやマレーシアでも合法化への動きが加速  タイや韓国で起きたことは他のアジアの国々にも影響を与え、合法化に向けた動きが活発化している。 フィリピンは2019年1月、議会下院がてんかん、多発性硬化症、関節炎などの患者に大麻使用を認める「思いやりのある医療用大麻法(CMCM)」法案を可決した。上院では否決されたものの、その後再提出され、審議は現在も継続されている。元大統領で下院議長も務めたグロリア・アロヨ氏をはじめ有力議員の多くが法案を強く支持しており、合法化される可能性は高いとみられる。 合法化による経済的なメリットも重要視されている。タガログ語と英語が公用語のフィリピンは、カナダや米国など英語圏のサプライチェーン(製品の調達・流通・販売など)と強いつながりを持つため、医療用大麻を合法化すれば国内だけでなく、海外との取引による収益増加が期待できるというのである。 また、マレーシアはアジアの中でも特に厳しい大麻禁止政策をとってきたことで有名だが、実は最近、閣僚が政策見直しを示唆する発言を行った。 2019年6月、ズルキフリ・アフマド保健大臣(当時)が「過去40年間に及ぶ薬物戦争(厳しい薬物禁止政策)は失敗だった」と認め、「薬物の非犯罪化と、医療用大麻の合法化が必要となるだろう」と述べたのである。 マレーシアは2018年にがん患者など数百人に大麻オイルと乾燥大麻を販売した男性に死刑判決が下され、当時のマハティール・モハマド首相が判決の撤回を求めるなど大きな論争を巻き起こした。 皮肉なことにこれをきっかけに大麻犯罪に対する死刑判決の廃止と危険薬物法(DDA)の改正による医療用大麻の合法化を求める声が一気に高まった。その結果、政府関係者や国会議員、イスラム教徒活動家などが大麻解禁についての議論を積極的に行うようになったのである。 医療用大麻の啓発活動などを行っているNPO団体「大麻に関するマレーシア意識向上協会(MASA)」のハリッシュ・クマール代表は、「医療用大麻の合法化は2~5年くらいの間に実現するだろう」と言う。 この他、インド、スリランカ、ネパールなどでも合法化への動きが活発化している』、「医療用大麻の合法化」の波はずいぶん広がりを見せているようだ。
・『急成長が期待されるアジアの医療用大麻市場  国際的な大麻関連業界向けのコンサルティング会社「プロヒビッション・パートナーズ(PP)」は、「アジアの医療用大麻市場は2024年までに58億ドル(約6380億円)になる」と予測している。 その大きな理由とされているのは、アジアで急速に進行している高齢化による医療費増大の問題である。つまり、高齢者特有のさまざまな病気の治療に効果的とされる医療用大麻を合法化することで、各国は医療費を抑制でき、同時に合法大麻市場の成長を期待できるというわけだ。 米国の経済ニュース専門チャンネルのCNBCは、「アジアで勢いを増す医療用大麻市場」(2019年7月14日)と題するリポートのなかで、世界一高い日本の高齢化率や医療費増大の問題について触れ、「日本は医療用大麻の巨大な消費市場になる可能性が高い」と報じた。 もちろん日本が医療用大麻を解禁した場合の話だが、その可能性が高くなってきたことは冒頭でも述べた。 CNBCはまた、約14億の人口を抱える中国についても今後高齢化が急速に進むことが予想され、将来の医療用大麻の巨大市場になる可能性があることを指摘した。 中国はこれまでアヘン戦争のトラウマもあって、精神活性作用のある成分THC(テトラヒドロカンナビノール)を含む医療用大麻の使用を禁止してきた。 しかし、CNBCの報道によれば、最近、医療用大麻への関心が高まり、政府の支援を受けて研究調査が積極的に行われているという。そして、2018年11月に香港で開催された「カンナビス(大麻)投資家シンポジウム」に中国の投資家が多く参加していたそうだ。 アジアの医療用大麻市場の急成長が期待されるもう一つの理由は、マレーシアのように厳しい大麻禁止政策を進めてきた国がそれを見直し、医療用大麻を合法化するケースが増えると予想されていることである』、「中国はこれまでアヘン戦争のトラウマもあって・・・医療用大麻の使用を禁止してきた」、「しかし・・・最近、医療用大麻への関心が高まり、政府の支援を受けて研究調査が積極的に行われている」、なるほど。
・『日本でも厚労省が医療用大麻の解禁を検討  日本でも厚生労働省が医療用大麻の解禁を含む大麻取締法の改正を検討し始めたことは先述したが、そのきっかけとなったのは2019年4月に行われた参議院の国会質疑である。 そこで、医師でもある秋野公造議員(公明党)が大麻由来のてんかん治療薬「エピディオレックス」の日本での使用の可能性について質問したのに対し、厚労省の担当者が「研究者である医師が厚労大臣の許可を受けて輸入した薬を治験の対象とされる薬物として患者に用いることは可能だ」との見解を示したのである。 イギリスの製薬会社「GWファーマシューティカルズ」によって開発されたエピディオレックスは韓国や米国など世界30カ国以上で承認されている。 日本の大麻取締法は大麻由来の医薬品の使用や輸入、治験を禁止しているため、この治験を行うには法改正が必要となる。このようななかで、せっかく法改正を行うのであれば、医療用大麻の全面的な解禁を検討してほしいという声が患者や医療関係者などから出ている。これまでのところ、厚労省はエピディオレックス以外の医薬品を認めるかどうかについてはっきりさせていない。 先述した韓国ではサティベックスやマリノールなども認めているが、日本はどうするのか。また、医療用大麻を合法化した47カ国の多くが認めている乾燥大麻の使用を認めるのかどうかも焦点となるだろう。 医療用大麻はさまざまな病気の治療に効果的とされているが、患者(あるいは病気)によっては乾燥大麻でないと効果を得られないというケースも少なくない。だから、多くの国で医薬品とともに乾燥大麻も認めているのである。 大麻取締法改正のもう一つの柱は、すでに禁止されている所持や栽培に加え、使用そのものを規制する「使用罪」の創設である。 これについては、「大麻解禁が進む世界の流れに逆行する」「使用罪を加えることで乱用を抑制できるという法的根拠が乏しい」「大麻に対する社会的スティグマを助長する」などの反対意見が多く出ている。 また、仮に使用罪が創設されると、精神活性作用のあるTHC入りの医薬品や乾燥大麻の使用を認めるのが難しくなり、医療用大麻の合法化が限定的になってしまう可能性が高くなる。 厚労省には人々の病気の治療や健康増進に役立つような政策を進めてほしいが、まずは、来年の通常国会に提出される予定の大麻取締法の改正案がどういう中身になるのか、注視していく必要がある』、「使用そのものを規制する「使用罪」の創設」、は「医療用大麻を合法化」とバランスを取るためなのだろうか。「医療用大麻の合法化が限定的になってしまう可能性が高くなる」、のであれば、やるべきではないようだ。
タグ:薬物 (その3)(マッキンゼーが加担した「不正」驚愕の全容 大量の中毒死招いたオピオイド販促を後押し、日本人が知らない「大麻」が違法薬物になった理由 栃木県の大麻農家を訪れる昭和天皇の写真も、日本が「大麻解禁」を検討し始めた深刻な理由とは) 東洋経済オンライン The New York Times 「マッキンゼーが加担した「不正」驚愕の全容 大量の中毒死招いたオピオイド販促を後押し」 超一流コンサルティング・ファームとしては、信じ難いような不祥事だ。 「オピオイド関連の過剰摂取で1999〜2019年に45万人近くが死亡」、「オキシコンチンは発売当時、市場に出回っている処方薬の鎮痛剤の中でも最も中毒性の高い製品の1つだった」、にも拘らず、「オキシコンチンの不適切な販売促進活動」していたとは言い訳の余地もない。 「幹部は(不正に)関与した責任を取らなくてはいけない。巨額の退職金を受け取ることなく、辞職すべきだ」、当然だろう。民事裁判で損害賠償を請求される可能性もあるのではなかろうか。 「エリング氏のプロフィールを見ると、バンコクに転勤となったようだ」、取り敢えず「バンコック」でほとぼりが冷めるのを待つのも知れない。 少なくとも顧客の不正を拡大するようなアドバイスは回避すべきではなかろうか。 大麻博物館 「日本人が知らない「大麻」が違法薬物になった理由 栃木県の大麻農家を訪れる昭和天皇の写真も」 「1万年以上前から大麻という「農作物」を衣食住に利用してきた。繊維を布や魚網に加工し、茎を屋根材に、種子(麻の実)を食用に、葉を薬に用いるなど、ほんの70年ほど前まで、大麻は日本人にとって非常に身近な存在だった」、「GHQ」がこれを変えたのだろうか。 日米間の考え方には大きな開きがあったようだ。 「昭和天皇の有名な言葉に「雑草という草はない。どんな植物でも、みな名前があって、それぞれ自分の好きな場所で生を営んでいる。人間の一方的な考え方でこれを雑草と決めつけてしまうのはいけない」」、味わい深い言葉だ。「大麻取締法は本来、「農作物としての大麻」を守り抜こうとした結果でもあるのです」、なるほど。 「大麻農業の保護を目的として制定された大麻取締法はいつの間にか「違法な薬物」を取り締まるための法律として機能するようになりました」、「なぜか大麻取締法にはこの目的が書かれていないまま70年以上が経過」、こんないい加減な扱いが背景にあるのかも知れない。 ダイヤモンド・オンライン 矢部 武 「日本が「大麻解禁」を検討し始めた深刻な理由とは」 「医療用大麻の解禁」を「検討し始めた」、漸く思い腰を上げたようだ。 「タイの医療用大麻市場は2024年に200億バーツ(約680億円)規模になると推定」、「タイ」であれば、外国人観光客の集客にも寄与しそうだ。 「韓国」が「がん、てんかん、エイズ、多発性硬化症などの患者に大麻由来の医薬品の使用を認める決定」、「大麻由来の医薬品」は想像以上に幅広いようだ。 「医療用大麻の合法化」の波はずいぶん広がりを見せているようだ。 「中国はこれまでアヘン戦争のトラウマもあって・・・医療用大麻の使用を禁止してきた」、「しかし・・・最近、医療用大麻への関心が高まり、政府の支援を受けて研究調査が積極的に行われている」、なるほど。 「使用そのものを規制する「使用罪」の創設」、は「医療用大麻を合法化」とバランスを取るためなのだろうか。「医療用大麻の合法化が限定的になってしまう可能性が高くなる」、のであれば、やるべきではないようだ。
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医療問題(その33)(「幽霊病床」問題で露呈した 日本の病院に根付く深刻な不正受給体質、今うつ病 老いては認知症?  精神科医が見た3.76倍の「なりやすさ」、がん治療で世界に取り残される日本 なぜ手術至上主義から抜け出せないのか ドキュメント「癌からの生還」#02) [生活]

医療問題については、7月24日に取上げた。今日は、(その33)(「幽霊病床」問題で露呈した 日本の病院に根付く深刻な不正受給体質、今うつ病 老いては認知症?  精神科医が見た3.76倍の「なりやすさ」、がん治療で世界に取り残される日本 なぜ手術至上主義から抜け出せないのか ドキュメント「癌からの生還」#02)である。

先ずは、9月9日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「「幽霊病床」問題で露呈した、日本の病院に根付く深刻な不正受給体質」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/281676
・『「幽霊病床」に感じる病院の不正の匂い  「新型コロナ患者をすぐに受け入れできます!」と自己申告しておきながら、実は「病床使用率0%」。そんな「幽霊病床」の実態が明らかになった。 日本テレビが入手した、コロナ患者をすぐに受け入れ可能な「即応病床」と申告している東京都内172の病院の病床使用率をまとめたリストによれば、病床使用率が100%を超えている医療機関は50施設、40%未満が27施設。0%が7施設あったという。 ご存じのように、「即応病床」には国から補助金が支払われている。コロナ患者の治療には、医療従事者の確保などで病院経営的に負担が重い。そこで、重症用ベッド1床につき最大1950万円、重症以外でも最大900万円、さらに緊急時に備えてベッドを空けておく「空床確保料」まで支払われる。 つまり、この補助金を申請した病院というのは、「人手不足だ」とか「施設が古い」などの言い訳をせず積極的にコロナ患者を受け入れなくてはいけないのだ。が、現実は使用率40%にも満たない病院がゴロゴロある。もちろん、たまたま同じタイミングで回復して一斉に退院したということもあるかもしれないが、あの四文字が頭に浮かぶ方も多いのではないか。 そう、「不正受給」である』、「重症用ベッド1床につき最大1950万円、重症以外でも最大900万円、さらに緊急時に備えてベッドを空けておく「空床確保料」まで支払われる」、「補助金」がこんなにも手厚いとは初めて知った。それを「不正受給」するとは悪質だ。「不正受給」があれば、当然返還請求すべきだ。
・『過去にも繰り返されてきた「幽霊スキーム」で不正受給  「我々の命を救ってくださるお医者様になんて失礼なことを言うのだ!」と怒りでワナワナと震える方も多いだろうが、持続化給付金の不正受給が後を立たないことからもわかるように、世の中には「もらえるもんはちょっとズルしてでももらったほうが得じゃん」と補助金・助成金制度を悪用するような人が一定数存在する。それは、病院経営者といえども変わらない。 そこに加えて、歴史の教訓もある。現実には存在しないものを「ある」と虚偽の申告して、国からカネをせしめる、いわば「幽霊スキーム」というのは、かなり古くから報告されている病院経営者の伝統的な不正テクニックなのだ。 ●『“幽霊看護婦”で水増し報酬 1年半で5000万円 「悪質」と都カンカン 立ち入り検査へ』(読売新聞1975年2月18日) ●『安田系3病院 “幽霊医師・職員”168人 大阪府が「保険医療」取り消しへ』(同上1997年5月20日) ●『医療界の黙認(幽霊医師 診療報酬不正請求:上)』(朝日新聞西部本社版 2000年5月26日) これらの不正に登場する「幽霊」とは、要は「水増し」のことだ。診療報酬をより高く請求できるように、医師や看護師の人員数を粉飾する。ちなみに、医師の水増しの場合、大学医学部の大学院生や研修医が「名義貸し」をするスタイルも多かった。 もちろん、このような不正は発覚後、さまざまな再発防止策がなされたので、近年になるとかなり減少している。しかし、手を替え、品を替え今もひっそりと似たようなことが続けられている可能性は高い。 例えば、2012年に約23億円と当時で過去最大規模の診療報酬不正受給が発覚した愛知県の医療法人が用いた幽霊看護師スキームは、「看護師の配置が手厚い病棟では入院料が高くなる制度を悪用、看護師の数を水増しし請求していた」(日本経済新聞2012年3月21日)というものである。 いかがだろう。今回の「幽霊病床」と微妙に被って見えないか。それも当然で、「幽霊病床」が仮に不正であるとすれば、これは「即応病床の水増し」によって補助金を不正受給しているということだ。制度が異なるだけで、これまでの数多とあった診療報酬不正受給とフォーマットはそれほど変わらないのだ。 さらに筆者が「幽霊病床」に不正の匂いを感じてしまうのは、これがコロナ禍のはるか以前から、日本に医療崩壊を引き起こしかねないと指摘されていた、ある構造的な問題と根っこの部分で同じということが大きい。 それは、「なんちゃって急性期病床」だ』、「病院経営者の伝統的な不正テクニック」、改めてよくやるものだと呆れた。「なんちゃって急性期病床」とは、どういうことなのだろう。
・『「なんちゃって急性期病床」とは? 日本の脆弱な医療体制の根本原因  なじみのない言葉に戸惑う方も多いと思うので、ひとつずつ順を追って説明しよう。まず、「急性期病床」とは、重症患者用の病床のことで、今回コロナ重症患者などはここに収容される。実はこの急性期病床が人口あたりの数において、日本は他の先進国と比べてケタ違いに多いのだ。 だったら、コロロ患者のたらい回しや、入院を断られて自宅療養で死ぬなんてことが起きないじゃないか」と思うだろうが、そこに日本の医療特有の「病巣」がある。 急性期病床は他国を圧倒するほど大量にあふれているが、そこで治療にあたる医療従事者数は他国とそれほど変わらない水準だ。病床というのは医療従事者がいなくては機能しないので、他国より多い病床に人員を振り分けていくと当然、一つひとつの病床は他国よりも人手不足になる。それはつまり、他国よりも医療体制が「脆弱」ということだ。 これが他の先進国よりも医療インフラが充実している日本で、コロナ患者が入院できずに門前払いにされる根本的な原因だ。 「急性期病床」を名乗ってはいるが、現実問題として医師も看護師も不足しているので、重症者を受け入れることができない。救急患者受け入れの要請があっても断らないといけないし、治療に多くの人的リソースを割かねばならぬコロナ患者などは論外だ。 このような「名ばかり急性期病床」のことを「なんちゃって急性期病床」と呼ぶ。初耳だという人もいるだろうが、医療行政の世界では当たり前のように使われている。例えば今年4月15日の財政制度分科会の財務省資料にはこんな説明がある。 <急性期を選択して報告しながら実際には医療資源投入量が少ない低密度医療しか行わない病床(いわゆる「なんちゃって急性期」の病床)のあり方を見直す必要> ここで言う「低密度医療」とは要するに、検査入院などのムダな入院だ。海外では1日で退院させるようなものでも、日本では1週間入院させるなどの問題がかねてから指摘されている。日本の現行の医療制度では、空きベッドをなるべく埋めて、診療報酬を多くもらうことが病院の経営だ。そのため、元気な人や軽症者にさまざまな理由をこじつけて、なるべく長くベッドに寝てもらう、というおかしなバイアスがかかってしまうのだ。 ちなみに、この「見直し」はコロナで医療がひっ迫しているからということで唱えられているわけではない。遥か以前からずっと、「なんちゃって急性期病床」を減らすべきだということが言われていたのだ』、「急性期病床は他国を圧倒するほど大量にあふれているが、そこで治療にあたる医療従事者数は他国とそれほど変わらない水準だ・・・他国より多い病床に人員を振り分けていくと当然、一つひとつの病床は他国よりも人手不足になる。それはつまり、他国よりも医療体制が「脆弱」ということだ。 これが他の先進国よりも医療インフラが充実している日本で、コロナ患者が入院できずに門前払いにされる根本的な原因だ」、その通りなのだろう。「「名ばかり急性期病床」のことを「なんちゃって急性期病床」と呼ぶ」、なるほど。
・『「病床再編」に反対する一部の病院経営者 「おいしい病床」を保持したい  冷静に考えれば当然だ。「急性期病床」と申告しておきながら、重症患者を受け入れてくれないのでは税金の無駄遣い以外の何ものでもない。「なんちゃって急性期病床」が増えても、地域内の限られた医療従事者の分散が進行するだけで、救急患者のたらい回しなどは一向に解消されない。 そこで、都道府県では2025年の医療体制を示す「地域医療構想」を策定し、急性期病床の比率を下げて、リハビリなどを施す回復期病床に切り替えるという、「病床再編」というシナリオを描いていた(参照:厚労省資料PDF:)。地域内の「なんちゃって急性期病床」が減れば、本当の急性期医療を行う病院に医師や看護師など医療資源を集中できるはずだ。医療費の無駄も削減できるので、一石二鳥だ。 しかし、これにノーを突きつけているのが、一部の病院経営者である。 「多くの病院はベッドの役割分担に抵抗している。医療スタッフの配置が手厚い急性期病床は1日4〜5万程度と、回復期より2割ほど入院代が高いといわれる。急性期を減らすと収入減につながるのを懸念しているのだ」(日本経済新聞2019年3月3日) もっとストレートに言ってしまえば、「急性期病床の方がおいしい」のである。インセンティブがつけば当然、自分たちの医療資源を度外視して、無理をしてでも急性期病床をつくっていく病院も増える。この結果が、「世界一急性期病床が多い」という日本の異常な状態を招いたというのは容易に想像できよう。 そして、これは裏を返せば、一部の病院にとって、「なんちゃって急性期病床」というものが、もはやなくてはならないものになっているという現実を物語っている』、「急性期病床は・・・回復期より2割ほど入院代が高いといわれる。急性期を減らすと収入減につながるのを懸念」、抵抗があるかえ¥らといって、「病床再編」が進んでいないのは問題だ。
・『そうでもしないと病院経営が立ち行かなくなるという現実  先ほども申し上げたように、「なんちゃって急性期病床」は医療従事者不足や、設備が古いなどの理由で、実際は急性期患者を受け入れることが不可能だ。そのため、重症の患者の受け入れを断って、本来ならば日帰りで済むような手術をした患者や、検査入院、リハビリなどに転用されている。 重症患者なのに医療を受けられないという点では、医療機関としては倫理的にも間違っていることは言うまでもない。しかし、そうでもしないと存続できないほど、経営が行き詰まっている病院があるのもまた事実なのだ。 過去にあった、幽霊医師、幽霊看護師も実は同じことがいえる。これらは私腹を肥やすためというよりも、傾いた病院を存続させるための「水増し」というパターンが多い。 この構造は、持続化給付金など中小企業向けの補助金の不正受給でもまったく同じだ。中には、最初からパクる気マンマンの悪人もいるが、多くは経営に行き詰まった中小零細企業だ。時代に対応できず競争力もない。事業を転換するだけの力もない。厳しい言い方だが、経営者として資質のない人が最後にたどりつくのが「不正受給」という、シビアな現実があるのだ。 このような経営者の厳しい現実があるからこそ、「幽霊病床」に不正の匂いを感じてしまう。 現在、多くの病院が大変厳しい経営環境に追い込まれているが、中でも特に深刻な事態に追い込まれているのが、「なんちゃって急性期病床」で生計を立ててきた病院だ。 コロナによって通常医療は激減している。マスクと手洗いでインフルエンザも風邪も劇的に減少し、自粛によって、子どもたちの部活の怪我や、交通事故も減少。高齢者のムダな検査入院なども減っている。これまでのように「なんちゃって急性期病床」を埋める機会が減って、経営危機に陥っているのだ。 さりとて、「なんちゃって急性期病床」なので、ガチンコでコロナ患者を受け入れるだけの能力はない。受け入れたくても受け入れることができない。しかし、背に腹はかえられないので、「即応病床」という申告だけをした。実際に受け入れなくても、これで補助金さえもらえれば、どうにか存続できるからだ。 そんな「なんちゃって急性期病床」のスキームを応用しなんちゃってコロナ病床」が今、日本の病院には山ほどあるはずだ。その中のほんの氷山の一角が、「幽霊病床」として表面化しているのではないか。 つまり、この現象は、それだけ日本の病院が壊滅的な状態に陥っているというSOSである可能性が高いのだ。 データを客観的に精査していけば、日本の医療体制を強化するには、「世界一、急性期病床が多い」という異常事態を改善していくしかないことは明らかだ。 病床を増やせ、増やせと叫ぶ人もいるが、それは過重労働のブラック企業が、人員拡充せずに新規事業を始めるようなもので、疲弊する現場の医療従事者をさらに追い詰めることになりかねない。 日本の医療を長く蝕んできた「なんちゃって急性期病床」というシステムエラーにもつながる「幽霊病床」が注目を集めた今こそ、日本政府はぜひ抜本的な「病床再編」を進めていただきたい』、同感だが、総裁選挙に血道を挙げている自民党にはそんな力や意思はなさそうだ。

次に 9月11日付けForbesが掲載したコラムニストの小出 将則氏による「今うつ病、老いては認知症?  精神科医が見た3.76倍の「なりやすさ」を紹介しよう。
https://forbesjapan.com/articles/detail/43213/1/1/1
・『もうすぐ敬老の日。わが国では65歳以上が3600万人を超え、総人口の3割近くを占める世界一の高齢社会。これに伴って増えているのが認知症で、長寿を喜べぬ現実に医療がどう関わるかは重苦しい課題だ。 一方、がんや糖尿病などと並び、精神疾患が五大疾病となって10年。精神疾患の中心となるうつ病の対策も待ったなしだが、認知症とうつ病との関係はまだ十分に周知されていないように思われる。今回は私が経験した両疾患を同時に抱える患者像を通して、「認知症とうつ病のあいだ」をお伝えする』、興味深そうだ。 
・『冬木昭子さん(仮名)の場合  冬木昭子さん(仮名)は70代前半の元教師。4年前、不眠と動悸を訴えて、私のクリニックを訪れた。仲のよかった知人とささいなことですれ違いとなり、連絡が取れなくなってから不安になったという。ちょうどその時、歯が悪くなり、歯医者で義歯(入れ歯)を考えないといけないと言われ、「自分の老い」を実感。不安が徐々に大きくなるにつれて動悸が増え、眠れなくなった。 経歴や診察室での様子から、老齢期に入り、精神的、身体的ストレスが重なって反応性抑うつに陥ったものと診断した。 しっかりと話を聴き、抗うつ薬と依存性の無いタイプの睡眠導入薬を処方して経過を見守った。 当初は大好物のシャインマスカットを食べる気も失せていたのが、何回か調子の波を乗り越え、半年後には自作童話を自費出版したいと語るまでに回復した。2時間物の映画にも出かけられるようになり、1年半でいったん診察終了とした。 その1年後、コロナ第1波のさなかに「寝つきの悪いときがある」と冬木さんが受診した。 ただ前回と違って読書はできるし、食事もおいしい。「元気です。旦那とけんかしなければ。アハハ」と、テンションはむしろ高めに感じ取れた。  
診察して双極性うつ病と判断した。うつ病は落ち込みの時期だけがある単極性と、気分の高揚する時期もある双極性に大別されるが、彼女は後者だった。治療ではあえて本格的な薬を使わず、話を傾聴しながらフォローした。 診察室での話題はもっぱらコロナ。ところが今年に入り、家族から電話が入った。本人には内緒でと断り、「最近、認知が入ってきているみたいです」と心配する声が受話器から伝わってきた。同じことを繰り返し家族に聞くことが目立ってきたという。 次の診察で冬木さんに問いかけた。「最近、物忘れなどで困ることは?」。返事は「そうなんです。初期です。自分で思います」。 そこで、長谷川式認知症スケール(HDS-R)というスクリーニング検査をした。年月日がすべて答えられず、直前の記憶力をみる問題も6点中2点と低下。さらにアルツハイマー型認知症に使う検査ADASを実施したところ、基準点より少し悪かった。初期認知症の疑いが強まったため、地元の認知症センターを紹介すると、こちらと同じ結果だった。 センター受診後、当院に現れた時の冬木さんの言葉にどきっとした。「ショックが大きかった。それで“うつ”になった」 おそらく、豊富な知識を武器に教壇に立ってきた冬木さんにとって、「記憶が無くなっていく」認知症になることは恐怖以外の何物でもなかったのだろう。もし、自分が同じ状況に陥ったらと想像すると、よく分かる』、確かに「豊富な知識を武器に教壇に立ってきた冬木さんにとって、「記憶が無くなっていく」認知症になることは恐怖以外の何物でもなかったのだろう」、その通りだ。 
・『うつ病の人が認知症になるとはどういうことか?  うつ病や認知症にもいろいろなタイプがあるが、ここでは代表的な「内因性うつ病」と「アルツハイマー型認知症」の場合を考えてみよう。 誰でも憂うつになったり、物忘れをしたりということはある。ときおり、当院にも「僕はうつ病です」とか「私は認知症です」と治療を求めてくる人がいるが、そういったケースの大半は違う。当人に病気の自覚のないことが両疾患の特徴だからだ。 だから、本人に病気であることを知ってもらうことが治療のスタートラインとなる。 内因性うつ病では、はっきりとした原因がなくとも気分の沈みや興味の減退が2週間以上にわたって続く。患者はうつ病の原因を環境についていけない自身の弱さに求め、「できない自分が悪い」とみずからを責める。彼らにはまず「これは脳の機能不全による病気で、あなたのせいではない」と伝える。 一方アルツハイマー型認知症では、直近の記憶を失うため、たとえば今日が何月何日か答えられない。物忘れの自覚がなく、取り繕おうとして嘘の話を作る。朝食を済ませた後に何を食べたか、すぐに思い出せないのは生理的な物忘れだが、「ご飯はまだかね」と真顔で家族に尋ねたら認知症だ。財布をどこに置いたか分からなくなり、家族が隠したと訴える「物盗られ妄想」もよくある症状だ。 ただ、初期のうちは本人も物忘れに自覚的で不安になるケースは多い。冬木さんの場合もこれに当てはまる。 彼女は症状が進む前に家族が「発見」し、診断につながったわけだが、それ以前の診察でははっきりとした徴候は見当たらなかった。 初期の認知症では物忘れが軽いので、診察場面だけでは病状を察知しにくい。八千代病院の川畑信也神経内科部長によると、アルツハイマー病患者520人のうち、異変に気付いて1年以内に物忘れ外来を受診したのは9%に過ぎない(「『認知症の正体 診断・治療・予防の最前線』飯島裕一著、佐古泰司著、PHP研究所刊」より)』、「初期のうちは本人も物忘れに自覚的で不安になるケースは多い」、しかし、「アルツハイマー病患者520人のうち、異変に気付いて1年以内に物忘れ外来を受診したのは9%に過ぎない」、なるほど。
・『海馬の働き。うつ病では元に戻るが、認知症では「戻らない」  ここで押さえておくべきは、認知症の初期症状のひとつに抑うつがあることだ。しかもうつ病の抑うつとの見分けが難しい。 高齢者の抑うつは意欲の減退(アパシーと呼ぶ)が前面に出ることが多い。涙あふれる悲しみというよりは、枯山水のようなエネルギー低下といえば、理解しやすいだろうか。 違いを見分けるには、やはり認知症の中核症状である物忘れに注目するのがよい。 うつ病が悪化すると、一時的に認知症(とくにアルツハイマー型)と同じ「海馬」がやられる。 海馬は大脳辺縁系という脳の中心部にあり、短期記憶が蓄えられる場所だが、うつ病では海馬の働きが元に戻るのに対し、認知症では戻らない点が異なる。抑うつが治まっても物忘れが回復しなければ認知症といえる。 このため、精神科医は高齢者の抑うつ症状がうつ病から来るのか、初期認知症から来るのかどうしても迷った場合、まずうつ病の治療をする。それで改善しなければ、さらに認知症の精査治療をしていくという具合だ。 もうひとつ、大事なことがある』、「うつ病では海馬の働きが元に戻るのに対し、認知症では戻らない点が異なる。抑うつが治まっても物忘れが回復しなければ認知症といえる」、なるほど。
・『若いころのうつ病は、認知症を「通常の3.76倍」引き起こす?  それはうつ病自体が認知症のリスク因子になることだ。 専門家の研究では、若いころにうつ病になると、アルツハイマー型認知症になる可能性は通常の3.76倍、老年期にうつ病になると2.34倍も高くなる。また、病院受診したアルツハイマー型認知症患者のうち半数近くがうつ病かそれに近い状態との報告もある。 冬木さんばかりでなく、うつ病の患者が後に認知症となるケースは当院でも数多く経験している。 60代の男性Aさん。スーパーの副店長をしていた40代の頃、過労でうつ病になり、仕事を辞めることになった。その後、いらいらがひどくなり、隣人ともめ警察沙汰となって、当院を受診。若年性認知症を疑い、頭部MRIを撮ったところ、大脳が萎縮していた。今では毎朝、日付を妻に確認しながら生活している。 若いころのうつ病は、認知症を「通常の3.76倍」引き起こす? それはうつ病自体が認知症のリスク因子になることだ。 専門家の研究では、若いころにうつ病になると、アルツハイマー型認知症になる可能性は通常の3.76倍、老年期にうつ病になると2.34倍も高くなる。また、病院受診したアルツハイマー型認知症患者のうち半数近くがうつ病かそれに近い状態との報告もある。 冬木さんばかりでなく、うつ病の患者が後に認知症となるケースは当院でも数多く経験している。 60代の男性Aさん。スーパーの副店長をしていた40代の頃、過労でうつ病になり、仕事を辞めることになった。その後、いらいらがひどくなり、隣人ともめ警察沙汰となって、当院を受診。若年性認知症を疑い、頭部MRIを撮ったところ、大脳が萎縮していた。今では毎朝、日付を妻に確認しながら生活している。 80代の女性Bさんは2年半前、頭がもやもやすると当院を訪ねてきた。もともと神経質で、老年期のうつ病と診断し、抗うつ薬で改善した。しばらくして物忘れが目立ち始め、HDS-Rで10点しか取れず、認知症の治療を開始した。その後はむしろ抗うつ薬を止めたほうが気分は落ち着いた』、「若いころにうつ病になると、アルツハイマー型認知症になる可能性は通常の3.76倍、老年期にうつ病になると2.34倍も高くなる」、「うつ病」と「アルツハイマー型認知症」に、こんなに相関があるとは初めて知った。
・『生活習慣病、70代Cさんの場合  複雑な要因がからんで、診断や治療に悩むこともある。 70代の男性Cさん。胃潰瘍や高血圧、脂質異常などの生活習慣病で治療していた。ことし7月、新型コロナワクチン接種2回目を終えた2週間後から「頭がボーっとなり、体がだるくて」かかりつけ医受診。内科的異常はないのに眠れず、食欲不振で体重が減り、集中力も低下した。 内科治療で改善しないため、当院に紹介された。HDS-Rでは軽度認知症領域の18点。だが、これだけで診断するのは危険だ。うつ病の悪化時には認知症スクリーニングの検査結果が低く出ることがあるからだ。 さらにビタミン測定やADAS検査を行い、それでも確定しないため、原則に従って抗うつ薬処方から開始した。そもそもコロナワクチン後遺症の可能性も捨てきれない。臨床現場は難しい』、「臨床現場」の難しさが理解できた。
・『194万部のベストセラー「恍惚の人」……  ここまでうつ病と認知症の関係を述べてきて気になることがある。それは「認知症」という用語だ。 認知症という言葉が使われ始めたのは2004年と比較的新しい。それ以前に使われていた「痴呆」は言葉の意味が侮蔑的で病気の本質を正確に表していないとして、識者会議に諮(はか)られ、認知症に取って代えられた。 痴呆(ちほう)は確かに、耳に強く残る言葉だった。ただ、より記憶に残る言葉がある──「恍惚」 高度経済成長晩期の1972年、有吉佐和子の小説「恍惚の人」は年間売上げ194万部のベストセラーとなった。「こうこつ」という響きが、当時小学5年生だった私の耳に文字通りうっとりと残った。これがきっかけで認知症高齢者の介護問題に陽が当たった。 「恍惚」の出典は江戸時代の国史書「日本外史」で、頼山陽が戦国時代の武将三好長慶を称した「老いて病み、恍惚として人を知らず」から来ているという』、「「恍惚の人」は年間売上げ194万部のベストセラーとなった」、よく覚えている。
・『太宰治は認知症になっていたか?  ただ、読書好きの私にとって恍惚といえば、むしろ太宰治だ。 「撰ばれてあることの恍惚と不安と二つ我にあり」(「晩年『葉』」より) 処女作の、しかも冒頭にフランスの詩人ヴェルレエヌを持ってくるなんてと思うが、太宰の人生を知るにつれ、このエピグラム(注)にうなずいた。 新宿の歩道で石がひとりでに歩くのを見て不思議に思わず、直後に子どもが糸を結んで引きずっていたのを知り、欺かれたことにさびしさを感じるでもなく、ただ「そんな天変地異をも平気で受け入れ得た彼自身の自棄(やけ)が淋しかった」と書いた太宰。 2020年の日本人男性の平均寿命は81.64歳。歴史に「もし」はないが、40歳まで1年を残して入水した太宰が天寿を全うしたら、うつ病と認知症の関係に従って「恍惚の人」となっていたかどうか──』、私には「天寿を全う」するような「太宰」は想像できない。
(注)エピグラム:警句(Wikipedia)

第三に、8月13日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した金田信一郎氏(肩書下記)による「がん治療で世界に取り残される日本。なぜ手術至上主義から抜け出せないのか ドキュメント「癌からの生還」#02」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/278928
・『元日経ビジネス記者でジャーナリスト歴30年の金田信一郎は2020年3月、突然ステージ3の食道癌に襲われた。紹介された東京大学医学部附属病院(東大病院)に入院し、癌手術の第一人者で病院長が主治医になったが、曖昧な治療方針に違和感を拭えず、セカンドオピニオンを求めて転院。しかし転院先でも土壇場で手術をせず放射線による治療を選択し、今では以前とほぼ同じ日常を取り戻した。金田は先頃、自らの体験を題材にしたノンフィクション『ドキュメント がん治療選択』(ダイヤモンド社)を上梓した。2021年7月20日発売のニューズウィーク日本版(7月27日号)「ドキュメント 癌からの生還」特集では、200日の闘病記を16ページのルポルタージュにして収録。金田の闘いは、思考停止に陥った日本の医療体制、そして患者にも強烈な問いを投げ掛けている。「それが本当に最適な治療なのですか」と。どうすれば、この流れに歯止めをかけられるのか。以下に続く記事で金田は、その糸口を探るべく、元主治医たちのもとを訪ねる(本記事は2021年7月20日発売のニューズウィーク日本版(7月27日号)「ドキュメント 癌からの生還」の記事を転載しました、本文は敬称略)』、興味深そうだ。 
・『日本特有の手術至上主義  こんな調査結果がある。 がん治療で世界に取り残される日本。なぜ手術至上主義から抜け出せないのか(先進各国で、肺癌ステージ1期の患者が、どのような治療を受けたか比較したデータだ。数字を見渡すと、欧米では「手術から放射線治療(SBRT)へ」という流れが見て取れる。 アメリカでは手術比率が71.9%(2005年)から60.3%(2012年)に減少し、逆に放射線治療が13.5%から25.8%に上昇している。欧州の調査(2015~16年)では、オランダで手術が47%に対して、放射線治療が41%と拮抗していることが分かる。 一方、日本の医療は全く様相が異なる。日本の肺癌1期の手術数は3万件(2014年)に上るが、同期間に放射線治療を受けた患者は1600人と全体の5%程度にとどまった。 「その後も、この比率は大きく変化していない」 この比較表を作成した大船中央病院放射線治療センター長(放射線医師)の武田篤也は、危機感を覚えている。日本の放射線治療が、欧米諸国に比べて劣っているわけではない。「もっと放射線治療のメリットを広めていかないと、『癌は切除するもの』が常識となって、本来、放射線を受けたかった人が手術に回されていく」 なぜ、日本だけが手術に偏った治療を続けているのか。外科の力が強く、「癌は切除したほうがいい」という考え方が根強いという理由だけではない。その背景には、医療を硬直化させている構図がある。 その原点をたどっていくと、ある転換点が浮かび上がってくる。 かつて日本の医療現場は、医師の裁量と自由度が高い「聖域」とされていた。診療所や開業医を中心に医療が展開され、彼らを中核に据えた日本医師会が強い政治的発言力を持つ時代が続いた。 だが、1990年を境にして様相が一変する。それまでの経済成長期には医療費の上昇をGDPの成長が覆い隠していたが、バブル崩壊で経済が停滞するなかで、医療費だけが膨らみ続けた。1990年に国民医療費のGDP比は4.6%だったが、2000年には約6%、2011年には8%近くまで上昇する。 2000年以降の急上昇の局面で医療の効率化が求められ、医師の裁量に大きく委ねられていた状態が問題視されるようになった。この時期、開業医比率が大きく減少し、抵抗力を失っていくなか、データによって成果が高いとされる治療に絞り込む、「標準化」の波が襲ってくる。 既に欧米では、1990年代初頭から「エビデンス革命」が吹き荒れていた。1991年、カナダの医師ゴードン・ガイヤットが「エビデンスに基づく医療(EBM)」を提唱。続いて第一人者のカナダの医師デービッド・サケットが論文(「エビデンスに基づく医療 それは何であり、何でないのか」)を発表し、世界に広まっていく。 経験知による医療の死角を克服するためにも、臨床試験等による結果(エビデンス)を重視して治療法を決める──。その方法論は、医療費の肥大化に悩む日本にも到来する。 2000年代、日本ではエビデンスを基にした「標準治療」を確立する動きが加速する。06年には「がん医療の均てん化(全国どこでも癌の標準的な専門医療を受けられるよう、医療技術等の格差の是正を図ること)」を謳ったがん対策基本法が成立。実績が高い治療法を示した「診療ガイドライン」がネット上で公開され、全国の医療現場に広まっていった。 そこに日本独特の、全国で一本化された診療報酬制度が「総額の上限」として機能し、医療費の抑制に成功する。2011年以降も、国民医療費はGDP比8%以下の水準で推移している。 その決定システムには、政官業の微妙な力学が働いている。まず、官(財務省)が医療費の引き下げを要請するが、一方で業(医療界)が引き上げの必要性を訴える。すると、官(厚生労働省)が調整し、政(内閣)が妥結策を最終決定する。この政官業のトライアングルがバランスを取り、医療費を一定の比率に保つ。 だが、この決定過程には、医療の中心にいるはずの患者の視点が欠落している。そして、一見すると均衡しているかに見える医療は、「患者不在」のまま、その中身が大きな変化を遂げることになる。(2021年8月15日公開記事へ続く)』、「日本ではエビデンスを基にした「標準治療」を確立」、「実績が高い治療法を示した「診療ガイドライン」がネット上で公開」、などは好ましいことだが、「患者不在」は確かに問題だ。「日本特有の手術至上主義」も困ったことだが、何故なのだろう。
・『どうしたら、自分に合った「がん治療」にめぐり合えるのか――。  突然、告げられた進行がん。 最初に入院した東大病院からは、抗がん剤1クールを終えて逃亡。 ようやく見つけた“神の手”を持つ外科医のいる転院先では、土壇場になって手術を回避。 抗がん剤治療の最中、執念で多くの名医に話を聞きながら、自分に合った治療を探し求めていく。 「切らずに治す方法はないのか」。 自分にぴったり合う治療法を探し求めて、奮闘した記録をすべて残した『ドキュメントがん治療選択』。 もがき、苦しみ、身体にメスを入れる直前、自分に合う治療法を探し当てた。だから、生き延びた――。 多くのがん患者や家族が悩む「治療選択」。それを考え抜く一つの道筋を描いたノンフィクション』、筆者は「手術至上主義」から脱出して、いろいろ経験して、結果も良かったのは幸運だ。
・『【ポイント1】突然のがん告知で焦るすべての人に向けた、自分に合う治療法の選び方が分かる 【ポイント2】セカンドオピニオン、転院するときのリアルなやり取りが分かる 【ポイント3】手術、放射線、抗がん剤で迷ったときのヒントが分かる 【ポイント4】本書を読み終えたら、きっと自分で治療法を選びたくなる ▽がんと告知されたら、まず読もう(【目次】■まえがき「東大病院をやめることにした」。その一言に、周囲は驚愕した。ステージ3のがんを抱えて、コロナ禍の中を「最適な医療」を求める旅がスタートする。 ■第一章 罹患 突然の嘔吐、そして地元のクリニックで胃カメラを入れると、そこには火山のように突起したガンがあった。「すぐに東大病院に行くように」。いきなり、最高の医療が提供されたかに思ったが……。 ■第二章 東大病院918号室 豪華な病棟のベッドに横たわっていた。強烈な抗がん剤が5日間連続で投与される。だが、病状も治療も納得できる説明がない。 ■第三章 逃亡 「何かがおかしい」。決裂覚悟で、セカンドオピニオンの紹介状を手に、東大病院を去る。 ■第四章 がんセンター5A病棟 資料を読みあさり、専門家を訪ね、「神の手」の名医に辿り着いた。だが、ふと疑問が沸いてくる。「手術でいいのか?」 ■第五章 疑念 「壮絶ですよ」。同じ食道がんの手術をした先輩から、生々しい話を聞かされる。なんとか、臓器を失わない方法はないのだろうか。 ■第六章 大転換 偶然知った放射線の名医から「できる」と言われて、メスが入る直前に、「放射線に転換する」と宣言する。 ■第七章 再々検査 前例の少ない抗がん剤5クールと放射線28回。副作用で免疫が急降下して、ドクターストップがかかる寸前に追い込まれる。そして、ついに最後の治療がスタートすることが決まる。 ■第八章 最後の夜 5回目となる入院で、がん告知から7ヵ月目にしてすべての治療を終えた。最後の点滴を終えて針が抜けると、夜が明けて、がんセンターの病棟に日が昇ってくる。 ■あとがき 同じ時期にガンの闘病をした友人が、病院が示す治療を拒否して半年で命を落とした。今も、年に100万人を数える新規がん患者たち。その人々が、納得できる「医療選択」ができる時代を考える』、全体として、バランスの取れた力作だ。特に、「同じ時期にガンの闘病をした友人が、病院が示す治療を拒否して半年で命を落とした」ケースも取上げているのは公平だ。
タグ:医療問題 (その33)(「幽霊病床」問題で露呈した 日本の病院に根付く深刻な不正受給体質、今うつ病 老いては認知症?  精神科医が見た3.76倍の「なりやすさ」、がん治療で世界に取り残される日本 なぜ手術至上主義から抜け出せないのか ドキュメント「癌からの生還」#02) ダイヤモンド・オンライン 窪田順生 「「幽霊病床」問題で露呈した、日本の病院に根付く深刻な不正受給体質」 「重症用ベッド1床につき最大1950万円、重症以外でも最大900万円、さらに緊急時に備えてベッドを空けておく「空床確保料」まで支払われる」、「補助金」がこんなにも手厚いとは初めて知った。それを「不正受給」するとは悪質だ。「不正受給」があれば、当然返還請求すべきだ。 「病院経営者の伝統的な不正テクニック」、改めてよくやるものだと呆れた。「なんちゃって急性期病床」とは、どういうことなのだろう。 「急性期病床は他国を圧倒するほど大量にあふれているが、そこで治療にあたる医療従事者数は他国とそれほど変わらない水準だ・・・他国より多い病床に人員を振り分けていくと当然、一つひとつの病床は他国よりも人手不足になる。それはつまり、他国よりも医療体制が「脆弱」ということだ。 これが他の先進国よりも医療インフラが充実している日本で、コロナ患者が入院できずに門前払いにされる根本的な原因だ」、その通りなのだろう。「「名ばかり急性期病床」のことを「なんちゃって急性期病床」と呼ぶ」、なるほど。 「急性期病床は・・・回復期より2割ほど入院代が高いといわれる。急性期を減らすと収入減につながるのを懸念」、抵抗があるかえ¥らといって、「病床再編」が進んでいないのは問題だ。 同感だが、総裁選挙に血道を挙げている自民党にはそんな力や意思はなさそうだ。 Forbes 小出 将則 「今うつ病、老いては認知症?  精神科医が見た3.76倍の「なりやすさ」 、確かに「豊富な知識を武器に教壇に立ってきた冬木さんにとって、「記憶が無くなっていく」認知症になることは恐怖以外の何物でもなかったのだろう」、その通りだ。 「初期のうちは本人も物忘れに自覚的で不安になるケースは多い」、しかし、「アルツハイマー病患者520人のうち、異変に気付いて1年以内に物忘れ外来を受診したのは9%に過ぎない」、なるほど。 「うつ病では海馬の働きが元に戻るのに対し、認知症では戻らない点が異なる。抑うつが治まっても物忘れが回復しなければ認知症といえる」、なるほど。 「若いころにうつ病になると、アルツハイマー型認知症になる可能性は通常の3.76倍、老年期にうつ病になると2.34倍も高くなる」、「うつ病」と「アルツハイマー型認知症」に、こんなに相関があるとは初めて知った。 「臨床現場」の難しさが理解できた。 「「恍惚の人」は年間売上げ194万部のベストセラーとなった」、よく覚えている。 私には「天寿を全う」するような「太宰」は想像できない。 (注)エピグラム:警句(Wikipedia) 金田信一郎 「がん治療で世界に取り残される日本。なぜ手術至上主義から抜け出せないのか ドキュメント「癌からの生還」#02」 「日本ではエビデンスを基にした「標準治療」を確立」、「実績が高い治療法を示した「診療ガイドライン」がネット上で公開」、などは好ましいことだが、「患者不在」は確かに問題だ。「日本特有の手術至上主義」も困ったことだが、何故なのだろう。 筆者は「手術至上主義」から脱出して、いろいろ経験して、結果も良かったのは幸運だ。 全体として、バランスの取れた力作だ。特に、「同じ時期にガンの闘病をした友人が、病院が示す治療を拒否して半年で命を落とした」ケースも取上げているのは公平だ。
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GAFA(その5)(バイデン政権入りした「GAFA解体論者」の正体 オバマ政権時のリベンジを果たせるか、作業員が震え上がる「アマゾン」恐怖の労務管理 強力な監視に加えて 手違いによる解雇も続発、反トラスト法成立ならアマゾン物流部門を売却へ 大手販売業者約85%が同社の物流サービス利用) [産業動向]

GAFAについては、2月14日に取上げた。今日は、(その5)(バイデン政権入りした「GAFA解体論者」の正体 オバマ政権時のリベンジを果たせるか、作業員が震え上がる「アマゾン」恐怖の労務管理 強力な監視に加えて 手違いによる解雇も続発、反トラスト法成立ならアマゾン物流部門を売却へ 大手販売業者約85%が同社の物流サービス利用)である。

先ずは、3月12日付け東洋経済オンラインが転載したThe New York Times「バイデン政権入りした「GAFA解体論者」の正体 オバマ政権時のリベンジを果たせるか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/416467
・『ジョー・バイデン大統領は3月5日、国家経済会議(NEC)でテクノロジー・競争政策を担当する大統領特別補佐官にコロンビア大学法科大学院のティム・ウー教授(48)を起用した。巨大テクノロジー企業批判の急先鋒が政権に加わったことになる。 ウー氏の起用は、民主党内の革新派や独占的行為の取り締まりを求める団体から幅広い支持を集めている。バイデン政権がGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)のような巨大テック企業の規模と影響力に対峙する方針であることを示す人事だ。 そうした方針には、議会と協力して反トラスト法(独占禁止法)を強化する法整備を進めることも含まれる。バイデン氏は大統領選挙期間中、テック企業を解体する選択肢も排除しないと述べていた』、米国政府も漸く「巨大テック企業の規模と影響力に対峙」し始めたようだ。
・『バイデンがとる対決型アプローチ  テック企業と対決するアプローチは、トランプ政権の延長ともいえる。トランプ前政権では昨年末、連邦と州の規制当局が反トラスト法違反でフェイスブックとグーグルを提訴している。アマゾンとアップルに対する調査も続いている。 バイデン氏は、投稿された問題コンテンツに対しソーシャルメディア企業の法的責任を免除する通信品位法第230条(セクション230)にも厳しい見方を示している。セクション230は「即刻廃止すべきだ」と同氏は2020年1月、ニューヨーク・タイムズの編集委員会に語った。 巨大テック企業は新たな反トラスト法や規制強化に激しく抵抗し、首都ワシントンで極めて強力なロビー活動を繰り広げるようになっている。 ウー氏は、今日のアメリカ経済は悪徳資本家が跋扈した19世紀末の金ぴか時代に似てきていると話し、一握りの企業が力を持ちすぎるのは危険だと警鐘を鳴らす。 「富の極端な集中は巨大な格差につながり、貧困に苦しむ人々を多数生み出すことになる。そうした状況では、国粋主義を掲げる過激なリーダーを待ち望む声が強まりやすい」。ウー氏は2018年の著書『The Curse of Bigness: Antitrust in the New Gilded Age(原題)』にそう記した。 「私たちの日常生活で特に目立つのは、グーグル、フェイスブック、アマゾンをはじめとするテックプラットフォームの巨大な力だ」(ウー氏)』、「一握りの企業が力を持ちすぎるのは危険だと警鐘を鳴らす」、その通りだ。
・『新設の特命ポストにGAFA解体論者  競争政策に特化したウー氏のポジションは、NECで新設となる。同氏は、企業が従業員に押しつけている競業禁止規定のほか、農業や製薬業界で力を増す大企業の存在も重要問題として扱うことになる。ちなみにホワイトハウス高官への起用は、閣僚と違って上院の承認を必要としない。 バイデン氏はまだ、司法省反トラスト局の局長と連邦取引委員会(FTC)の委員長を公式に指名していない。どちらも商業分野の競争を規制する主要機関だ。革新派は、テック企業やテック企業をクライアントとする法律事務所の出身者ではなく、ウー氏のような左派の論客をこうしたポストに据えるべきだと声高に訴えている。 「ティムは長きにわたって反トラスト法を擁護してきた。巨大テック企業を解体し、コントロール下に置くべきだと当局にも迫ってきた」。民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出)は「彼がこの役職に就くことをうれしく思う」とする声明を発表した。 ウー氏はこれまでに何度も学界を離れ、政府の役職に就いてきた。オバマ政権では2011年と2012年にFTCの特別顧問を務めた後、NECで競争政策の策定に携わっている。オバマ政権はフェイスブック、グーグル、アマゾンといったテック企業への対応が生ぬるかったことで有名だが、ウー氏はその後、後悔の弁を口にするようになった。 2期8年にわたったバラク・オバマ大統領の任期中に、巨大テック企業は合併や買収を通じてますます巨大化した。ウー氏はこれを受けて民主党内で軌道修正が進んだと話す。利用者のデータを保護する、優越的な地位を濫用しない、プラットフォームからフェイクニュースを根絶するという約束を、テック企業がないがしろにしている現実を見せつけられたからだという。 ウー氏は、巨大通信事業者の独占に反対し、「ネットワーク中立性」を提唱したことで知られる。ネットワーク中立性とは、消費者はインターネット上のコンテンツに対するアクセスで差別や区別を受けるべきではない、とする規制概念だ』、「バラク・オバマ大統領の任期中に、巨大テック企業は合併や買収を通じてますます巨大化した。ウー氏はこれを受けて民主党内で軌道修正が進んだと話す」、当然の方向転換だ。
・『フェイスブック解体を訴えたことも  同氏の矛先は近年、ネット上で言論、検索、小売りを支配するゲートキーパー(門番)となったフェイスブック、グーグル、アマゾンなどに向けられるようになっている。 連邦と州が反トラスト法違反でフェイスブックを調査していたころ、ウー氏はフェイスブックの共同創業者クリス・ヒューズと連携し、フェイスブック解体を訴えた。 上院司法委員会の反トラスト小委員会で委員長を務める民主党のエイミー・クロブシャー上院議員(ミネソタ州選出)は、ウー氏の起用は反トラスト法の運用に新時代を切り開くものだと言う。クロブシャー氏は、反トラスト法を強化する一連の法案を提出している。 「法律の強化が済んでいない現状では、運用と解釈がカギになる」とクロブシャー氏。「今回の人事は、競争政策に必要な、いいカンフル剤になる」と言う』、「フェイスブックの共同創業者クリス・ヒューズと連携し、フェイスブック解体を訴えた」、「共同創業者」が「解体を訴えた」、のにはどんな事情があったのだろう。「バイデン政権」がどれだけ「反トラスト法を強化」できるのか注目したい。

次に、6月23日付け東洋経済オンラインが転載したThe New York Times「作業員が震え上がる「アマゾン」恐怖の労務管理 強力な監視に加えて、手違いによる解雇も続発」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/435984
・『アマゾンでは新型コロナウイルス関連の休職から復職しようした従業員が誤って解雇されている。ある女性は重症になった夫への傷病手当金が停止されパニックに陥った。生産性の低い日が1日あっただけで解雇された従業員もいた。 ニューヨーク市内にあるアマゾン唯一のフルフィルメントセンター(物流拠点)「JFK8」内部ではコロナ禍の中、アマゾンの労務管理の横暴ぶりとその恐ろしさがむき出しになっていたことがニューヨーク・タイムズの取材で明らかになった。 顧客満足度の追求に取りつかれていることで有名なアマゾンは、売上高を記録的に伸ばし、目覚ましい利益を上げた。だが、何十万人という倉庫作業員の管理では、重大なミスや意思疎通の失敗、高い離職率が際立つ場面もあった。 以下がそのポイントだ』、「顧客満足度の追求」に取り組むのはともかく、「倉庫作業員の管理では、重大なミスや意思疎通の失敗、高い離職率が際立つ場面もあった」、とは問題だ。
・『8カ月で作業員入れ替えペース  1.大量採用の背後に高い離職率 アマゾンは2020年、アメリカの企業史に残る大量採用を行った。3カ月で35万人と、セントルイスの全人口を上回る人数を雇用した。15ドル以上の時給に加え、福利厚生も与えた。 ところが、これまで報じられてこなかったデータによると、コロナ禍となる以前からアマゾンでは、時給で働く倉庫作業員の離職率が毎週およそ3%に達していた。年間に置き換えた離職率は約150%。この離職率が続いた場合、だいたい8カ月ごとに全作業員をそっくり入れ替えなければならなくなる計算だ。 アマゾンの広報担当ケリー・ナンテルは、離職率に対する質問にこうコメントした。「人員減は1つのデータにすぎず、単体で用いられると全体の脈絡という肝心なポイントが見えなくなる」。 シアトルにある本社では、経営陣の一部が離職率に懸念を募らせている。このままいけば、働き手が足りなくなるおそれがあるというわけだ。最近まで人事部門で倉庫作業員の実態把握チームを率いていたポール・ストループは、従業員が短期間で入れ替わっていくことについて社内で「長期的な考えが聞かれなかった」ことに失望している。気候変動が深刻化しているにもかかわらず、化石燃料を使い続けるようなものだ、とストループは言った。 「自分で自分の首を絞めていると知りながら、それでも会社は化石燃料(のように人材)を消費し続けている」』、「離職率」が高く、「8カ月で作業員入れ替えペース」、とはいくら何でも非効率だろう。
・『理由もなく解雇されていく従業員  2.システムのバグで理由もなく解雇される従業員 バグだらけのシステムのせいで、福利厚生を失ったり、誤って解雇されたりするケースもあった。 アマゾンで労務管理システムの開発・運営に関わったことのある現職および元従業員25人以上は取材に対し、同システムの不備はいら立ちとパニックの原因になっていたと嘆いた。パンデミックが始まってからの数カ月で状況はさらに悪化したという。問題に対処しようと柔軟性を高めたシステムは依然バグだらけ。休暇を申請した従業員が無断欠勤で処罰され、職場放棄という理由で解雇されていった。 「アマゾンに残って働きたい」。JFK8の従業員だったダン・カヴァグナロは最後に送信したメールでこうした一文を目立たせ、雇用継続を願い出た。が、返答はなく、結局、手違いで解雇された。 コスタリカのバックオフィスで労務管理業務に携わっていたダンジェロ・パディリャは、理由もなく従業員が解雇されるケースをたくさん見てきたと話した。 「そういった状況は毎日目にした」とパディリャ。 前出の広報担当ナンテルは、アマゾンはパンデミックの間、休暇申請の承認を迅速化し、申請の増加に対応するために500人を雇い入れたと述べた。さらに従業員を解雇する前には、働き続ける意思があるのかどうかを確認するため本人に連絡する努力を怠らなかったとコメントした』、「システムのバグで理由もなく解雇される従業員」、不当解雇で訴えられれば、敗訴しそうだ。
・『3.ガチガチの監視体制で広がる恐怖の職場文化  アマゾンは物流拠点内で従業員の動きを細かく追跡している。作業に時間がかかりすぎたり、待機状態が長くなりすぎたりすると、解雇の危険にさらされる。 2019年のある日、たまたまトラブルが重なるまで、ダヤナ・サントスは作業効率でトップクラスの成績を誇っていた。この日、サントスは通勤に使っているバスが遅延したことから、担当の持ち場が変わり、新しいワークステーションを見つけるために倉庫内を探し回る羽目になった。サントスに驚愕のしらせが届いたのは、その午後だ。作業の手を休めている時間「タイムオフ・タスク(TOT)」が目立つので解雇する、というしらせだった。 生産性が低かったり、TOTが一定の数値に達したりして解雇される作業員は実際にはごくわずかだが、従業員はそうした事実を知らない。JFK8の内部ガイドラインにはこう記されている。従業員の生産性を追跡する目的は「全員の違反を記録することではなく、TOTによる監査が行われていると作業員に知らしめることにある」──。 このシステムはもともと従業員の作業効率を下げる問題を洗い出す目的で作られたものだ。しかし今では、従業員に巨大な影を落とし、不安だらけのネガティブな職場環境を生み出すようになったと危惧する声が一部の幹部からあがるようになっている。こうした幹部には、アマゾンの倉庫で労務管理の原型をつくった人々も含まれる。 サントスとTOTについてニューヨーク・タイムズが問い合わせを行った後、アマゾンは生産性の低い日が1日あっただけで従業員が解雇されることのないように方針を変更したと発表した。サントスと同様の理由で解雇された従業員は、サントスも含め再雇用の対象となる。同社は、方針の見直しは何カ月も前から検討していた、としている』、「作業効率でトップクラスの成績」の従業員に解雇処分するのに、事情聴取もなかったというのは驚きだ。同社は「生産性の低い日が1日あっただけで従業員が解雇されることのないように方針を変更」、当然すぎる対応だ。
・『高い黒人作業員の解雇率 4.強まる人種差別への懸念  アマゾンという巨大ネット通販企業は、大部分が有色人種の労働によって成り立っている。2019年の内部資料によると、JFK8従業員の6割以上は黒人かラティーノ(中南米系)だ。 そして倉庫で働く黒人作業員は、同内部資料によると、低生産性や素行不良、常習的欠勤といった理由で、白人作業員に比べ5割近くも多く解雇されている(アマゾンは、それがどのような内部資料なのか具体的な情報が示されなければデータを確認することはできない、とコメントした)。 アマゾンの大ファンとして2015年にJFK8で働き始めた黒人作業員デリック・パーマーは、何度も成績優秀者に選ばれている。 しかし、絶え間ない監視に加え、大半の作業員は怠けているという前提でつくられた職場の仕組み、昇進の機会がないことなどから、「マイノリティーの従業員の多くは、自分たちは単に使われているだけだと感じていた」とパーマーは話した。アラバマ州のアマゾン倉庫で労働組合を結成しようとする動きは先日失敗に終わったが、労組結成を支持していた黒人従業員の間でも、パーマーが語ったのと似たような感覚が広がっていた』、「絶え間ない監視に加え、大半の作業員は怠けているという前提でつくられた職場の仕組み」、「職場」の雰囲気は悪そうだ。
・『創業者ベゾスが株主に宛てた驚愕の手紙  5.元凶は創業者ベゾスの「人間使い捨て思想」  近視眼的な雇用モデル、昇進機会の欠如、テクノロジーによって推し進められる採用・監視・管理……。従業員を苦しめている労務管理手法の大本をたどると、その一部は創業者ジェフ・ベゾスの考え方に行き着く。 従業員の固定は「凡庸への道」──。アマゾンで幹部を長年務め、同社倉庫における労務管理の原型を作り上げたデビッド・ニーカークによれば、これがベゾスの信念だった。 社内では、たいていの従業員は勤続期間が長くなるにつれ残業を嫌がるようになるというデータが示された。ベゾスは「人間は本質的に怠惰だ」と確信していた、とニーカークは証言する。「欲しいもの、必要なものを手に入れるのに最小限のエネルギーで済ませようとするのが人間。これがベゾスの考え方だった」(ニーカーク)。 簡単かつ瞬時に注文できる仕組みからデータの幅広い活用に至るまで、こうしたベゾ」、の信念がアマゾンのビジネスの隅々にまで埋め込まれている。 ベゾスは自らが生み出したシステムについて最近、驚くような譲歩を口にした。株主に宛てた文書で、アラバマ州の倉庫で労組結成の動きがあったことは「従業員の成功のために、より優れたビジョンが求められている」ことを示していると述べ、こう約束したのだ。アマゾンは「地球上で最高の雇用主になる」──。 だが、市場でアマゾンが支配的な地位を築くことを可能にしたシステムをどう見直すつもりなのかは、はっきりしない。 アマゾンから手違いで解雇されたカヴァグナロが問いかける。「従業員の使い捨て問題に、彼らは本当に対処するつもりなのだろうか。何かが変わるなんてこと、あるのだろうか」=敬称略=』、「創業者ジェフ・ベゾスの考え方に行き着く。 従業員の固定は「凡庸への道」──」、こんな考え方では、「退職率」の高さも問題にならないことになる。「アマゾンは「地球上で最高の雇用主になる」との「ベゾス」の「約束」は、単なるリップサビースなのではなかろうか。

第三に、6月23日付け東洋経済オンラインが転載したブルームバーグ「反トラスト法成立ならアマゾン物流部門を売却へ 大手販売業者約85%が同社の物流サービス利用」を紹介しよう。
・『米アマゾン・ドット・コムは迅速な配送を可能にしている国内の配送センター・倉庫網を運営する物流サービス部門の売却を余儀なくされる可能性もある。米大手テクノロジー企業に対する反トラスト(独占禁止)関連法案を手掛けたプラミラ・ジャヤパル下院議員(民主、ワシントン州)のスポークスマンが明らかにした。 ジャヤパル議員らが11日提出した法案は、アマゾンが販売業者に対しオンライン店舗での優遇措置と引き換えに自社の物流サービスを利用するよう促すことができないようにする内容。下院司法委員会・反トラスト小委員会の民主党議員が昨年10月にまとめた報告書によれば、アマゾンの大手販売業者の85%近くが同社のフルフィルメントサービスを利用し、商品の保管や梱包(こんぽう)、配送の料金を支払っている。 同法案は23日に下院司法委で他の関連5法案と共に審議される予定。 法案が成立することは決してないかもしれないが、こうした動きはアマゾンの市場支配力の抑制という議会の狙いを浮き彫りにしている。 バンク・オブ・アメリカ(BofA)の昨年のリポートによれば、アマゾンの物流事業の価値は2025年には最大2300億ドル(約25兆4000億円)となる見通しだ。これは米コカ・コーラの時価総額を上回る。 アマゾンの広報担当はコメントを控えた。 米テクノロジー大手に反トラスト法案、下院超党派議員が公表 原題:Amazon Could Be Forced To Sell Logistics Business Under Bill(抜粋))』、「法案が成立することは決してないかもしれないが、こうした動きはアマゾンの市場支配力の抑制という議会の狙いを浮き彫りにしている」、「アマゾンの市場支配力の抑制」は時期は、この「法案」はともかく、やがては実現する可能性があるのかも知れない。
タグ:GAFA (その5)(バイデン政権入りした「GAFA解体論者」の正体 オバマ政権時のリベンジを果たせるか、作業員が震え上がる「アマゾン」恐怖の労務管理 強力な監視に加えて 手違いによる解雇も続発、反トラスト法成立ならアマゾン物流部門を売却へ 大手販売業者約85%が同社の物流サービス利用) 東洋経済オンライン The New York Times 「バイデン政権入りした「GAFA解体論者」の正体 オバマ政権時のリベンジを果たせるか」 米国政府も漸く「巨大テック企業の規模と影響力に対峙」し始めたようだ。 「一握りの企業が力を持ちすぎるのは危険だと警鐘を鳴らす」、その通りだ。 「バラク・オバマ大統領の任期中に、巨大テック企業は合併や買収を通じてますます巨大化した。ウー氏はこれを受けて民主党内で軌道修正が進んだと話す」、当然の方向転換だ。 「フェイスブックの共同創業者クリス・ヒューズと連携し、フェイスブック解体を訴えた」、「共同創業者」が「解体を訴えた」、のにはどんな事情があったのだろう。「バイデン政権」がどれだけ「反トラスト法を強化」できるのか注目したい。 「作業員が震え上がる「アマゾン」恐怖の労務管理 強力な監視に加えて、手違いによる解雇も続発」 「顧客満足度の追求」に取り組むのはともかく、「倉庫作業員の管理では、重大なミスや意思疎通の失敗、高い離職率が際立つ場面もあった」、とは問題だ。 「離職率」が高く、「8カ月で作業員入れ替えペース」、とはいくら何でも非効率だろう。 「システムのバグで理由もなく解雇される従業員」、不当解雇で訴えられれば、敗訴しそうだ。 「作業効率でトップクラスの成績」の従業員に解雇処分するのに、事情聴取もなかったというのは驚きだ。同社は「生産性の低い日が1日あっただけで従業員が解雇されることのないように方針を変更」、当然すぎる対応だ。 「絶え間ない監視に加え、大半の作業員は怠けているという前提でつくられた職場の仕組み」、「職場」の雰囲気は悪そうだ。 「創業者ジェフ・ベゾスの考え方に行き着く。 従業員の固定は「凡庸への道」──」、こんな考え方では、「退職率」の高さも問題にならないことになる。「アマゾンは「地球上で最高の雇用主になる」との「ベゾス」の「約束」は、単なるリップサビースなのではなかろうか。 ブルームバーグ 「反トラスト法成立ならアマゾン物流部門を売却へ 大手販売業者約85%が同社の物流サービス利用」 「法案が成立することは決してないかもしれないが、こうした動きはアマゾンの市場支配力の抑制という議会の狙いを浮き彫りにしている」、「アマゾンの市場支配力の抑制」は時期は、この「法案」はともかく、やがては実現する可能性があるのかも知れない。
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