SNS(ソーシャルメディア)(その10)(「クラブハウス」の狂乱が日本に残したもの、クラブハウスが下火になっても「音声メディア」の可能性が広がり続ける必然~『ボイステック革命』(緒方憲太郎 著)を読む、SNSがアメリカと日本にもたらした「真逆の現象」 どちらもコミュニケーション不全状態に) [メディア]
SNS(ソーシャルメディア)については、4月12日に取上げた。今日は、(その10)(「クラブハウス」の狂乱が日本に残したもの、クラブハウスが下火になっても「音声メディア」の可能性が広がり続ける必然~『ボイステック革命』(緒方憲太郎 著)を読む、SNSがアメリカと日本にもたらした「真逆の現象」 どちらもコミュニケーション不全状態に)である。
先ずは、7月5日付け日経ビジネスオンライン「「クラブハウス」の狂乱が日本に残したもの」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00324/070100003/
・『米中と比べ、「聴く文化」は日本にはまだ浸透していない。米調査会社のリポートを見ても、日本で少なくとも月に1回ポッドキャストを開く人口は米中の3分の1にすぎない。 この状況を一変させたのが2021年初頭に日本で巻き起こった音声SNS「Clubhouse(クラブハウス)」ブームだ。招待制も相まって熱狂の渦を巻き起こした。数カ月で騒ぎは沈静化したものの、「聴く習慣」を日本にもたらした効果は大きい。 コロナ禍で働き方が多様化し、リモートワークが一気に普及した点も音声市場にとって追い風となっている。長時間にわたるオンライン会議やデスクワークで、「目の疲れ」が慢性化しているためだ。 日本に「聴く習慣」が根付き、「聴く文化」へと昇華していくためには良質なコンテンツは欠かせない。音声メディア「Voicy(ボイシー)」を運営するVoicy代表取締役最高経営責任者の緒方憲太郎氏による著書『ボイステック革命 ~GAFAも狙う新市場争奪戦~』から一部抜粋・再編集して掲載する。 今、世界で音声市場が成熟しつつあるのは、アメリカと中国だ。米調査会社のMAGNA(マグナ)による「The Podcasting Report(2019年7月)」によると、「少なくとも月に1回はポッドキャストを開く人口」(インターネットの普及率に応じて補正した値)はアメリカが26%、中国が29%と大きく、日本は8%にとどまっている。これを「日本はすっかり出遅れている」としか見ないか、「日本の伸びしろはすさまじく大きい」と考えるか。 まずはそれぞれの市場を簡単に見ていこう。 アメリカについては、既にスマートスピーカーやポッドキャストに焦点を当てて説明したが、もう少し音声市場拡大の背景にある特徴について紹介したい。 アメリカはもともと、スマートスピーカーやワイヤレスイヤホンなどのデバイスが普及する随分前から、「聴く」文化が定着していた。国土が広く、車社会のため、通勤や移動するとき、運転しながら音声を楽しむ人が多い。 ラジオも発達しており、英語、スペイン語、ロシア語などのさまざまな言語、ニュース、スポーツ、カントリーやR&Bなどのさまざまなジャンルの音楽などで細分化された専門ラジオ局があり、その数は全米で1万5000以上といわれている。 車の中で本を「聴く」ことも当たり前になっていて、早いうちからカセットテープやCDによる「オーディオブック」市場が形成されていた。そしてスマホの普及で、これらがそのままポッドキャストやスマホで聞くオーディオブックなどに置き換わってきた。アメリカのオーディオ出版社協会(APA)によると、2019年のアメリカのオーディオブックの売り上げは、前年比16%増の12億ドル(約1300億円)に上り、8年連続の2ケタ成長を続けている』、「「少なくとも月に1回はポッドキャストを開く人口」・・・はアメリカが26%、中国が29%と大きく、日本は8%にとどまっている」、これは大きな開きだ。ただ、「中国」が多い理由は何故なのだろう。
・『世界で巻き起こるVoiceTech革命 GAFAと呼ばれる米IT大手が音声への投資を続けている。米グーグルや米アマゾン・ドット・コム、米… こうした背景からも、スマートスピーカーへの抵抗感は低かったことが考えられる。スマートスピーカーは、今や「1家に1台」から「1部屋に1台」の時代になっているともいわれ、アメリカ人が音声コンテンツに触れる時間はどんどん長くなっている。 ポッドキャストコンテンツの成長ぶりも前述の通りだ。大手IT各社が競い合うようにポッドキャストに投資しているほか、大手新聞社やテレビ局、ラジオ局などの既存マスメディアも、質の高いポッドキャスト専用番組を制作している。 例えば、実録クライム(犯罪)系の連続シリーズとして制作された「Dirty John(ダーティ・ジョン)」は、リリースから6週間で1000万回以上、累計5200万回以上ダウンロードされた。ニューヨーク・タイムズのニュース番組「The Daily(ザ・デイリー)」は1日で200万人が聴く人気コンテンツになっている』、「スマートスピーカーは、今や「1家に1台」から「1部屋に1台」の時代になっているともいわれ、アメリカ人が音声コンテンツに触れる時間はどんどん長くなっている」、日本とはずいぶん違うものだ。
・『ポッドキャストに目をつけたスポティファイ 注目すべきは、スポティファイが2019年に、ポッドキャストコンテンツの制作スタジオGimlet Media(ギムレット・メディア)とParcast(パーキャスト)の2社を買収し、オリジナル番組で差別化の勝負に出たことだ。さらに配信サービスのAnchor(アンカー)、広告プラットフォームを展開するMegaphone(メガフォン)、スポーツやポップカルチャーの番組を得意とするThe Ringer(ザ・リンガー)などを次々と買収している。 また、オバマ元大統領夫妻、世界1位のポッドキャスト番組を運営するコメディアンのジョー・ローガン、イギリスのヘンリー王子とメーガン妃らと相次いでポッドキャストの独占契約を結んでいる。スポティファイの担当者は、音楽よりも(ポッドキャストのような)音声コンテンツの方が課金につながりやすいという趣旨の発言をしている。同社が、「音楽の次」のコンテンツとして、ポッドキャスティングをターゲットとしているのは明白だ。 前述の通り、アメリカのポッドキャスト市場は急速に成長しており、今やアメリカの12歳以上の人口の37%がポッドキャストを聴いているとの試算もある。ポッドキャストの広告市場も急拡大しており、2021年は10億ドルを超えて、3年前の3倍近くになると予測されている。良質な音声コンテンツがリスナーを増やし、さらなる投資を生むという好循環が起こっていると言えそうだ』、「同社が、「音楽の次」のコンテンツとして、ポッドキャスティングをターゲットとしているのは明白」、「今やアメリカの12歳以上の人口の37%がポッドキャストを聴いているとの試算も」、日米でこれほど違いがあるのも珍しい。
・『広告よりも有料課金が大きい中国 もともと中国では、文字入力の煩雑さなどから音声入力のニーズが高く、音声認識の技術も進んでいた。そして現在の中国のポッドキャスト市場は、有料コンテンツのユーザーの多さが一つの特徴となっており、その規模は70億ドルと、アメリカの音声市場(130億ドル)の半分以上にも達する。広告市場よりも、有料課金コンテンツ市場の方が圧倒的に大きい。 中国では人口の29%がインターネットアクセスを持つとされているが、そのうちの53%が月に最低1回はポッドキャストを聴いていると推計されている。多くのユーザーが、ビジネスやプレゼンテーションスキルなどの学習コンテンツを有料で購入している。 主なプレーヤーを見てみよう。 中国の音声配信サービスでトップシェアを占めるのが、日本版の名称としては「himalaya(ヒマラヤ)」で知られる「シマラヤFM」だ。中国では6億以上のアプリダウンロード、月間1億1000万のアクティブユーザーを持つ。配信者は約600万人で、主にプロのクリエイターが配信するPGC(Professionally Generated Contents:プロ生成コンテンツ)が中心だ。 ヒマラヤは、版権を取得して音声化した作品を提供することで、優良な音声コンテンツを提供してきた。ユーザーは、音声コンテンツのリスナーとなるだけでなく、ヒマラヤが版権を持つコンテンツを音声化する配信者としても参加できる仕組みだ。例えば、人気の小説投稿サイトとヒマラヤが提携し、権利を取得した小説をヒマラヤ内で公開。ユーザーはその小説を音声化して配信する。ユーザー投票によって選ばれた配信者には報酬が支払われる。 さまざまな課金システムがあり、コンテンツの単品販売、月額料金によるサブスクリプション、投げ銭(ギフティング)などがある。ユーザーと配信者がコミュニケーションを取ることもできる。 チンティンFM(QingTing FM、以下チンティン)も、ヒマラヤと同様にPGCが中心。スマートスピーカーやインターネットテレビ、5G搭載の自動車などのハードウエア製品と提携してユーザーを伸ばしているのが特徴だ。アクティブユーザー数は月間1億3000万。ヒマラヤはスマホアプリが中心だが、チンティンはこうした多様なハードウエアを介した戦略を取っている。チンティンもヒマラヤと同様、配信者に報酬を支払ってコンテンツの充実を図っている。2019年には1年間で1000万元(約1億5000万円)を売り上げた作品が登場したり、プロではない配信者の作品が3カ月で100万元(1500万円)を売り上げたりしている。 ライチFM(Lizhi FM)は、ヒマラヤやチンティンとは異なり、素人のオリジナル作品を中心とした音声配信サービスだ。ユーザー層は若者が多く、1990~2000年代生まれの若者がユーザーの約60%を占めている。約590万人のアクティブ配信者による1億7000万本以上のコンテンツが公開されており、アクティブユーザーは月間5100万人に上る。中国最大のUGC(User Generated Contents:ユーザー生成コンテンツ)音声コミュニティーだ。 インタラクティブ性が強く、配信者とユーザー間のコミュニティーとなっている面があり、インスタグラムやユーチューブに近い特性を持っていると言える。ライブ配信では投げ銭課金の売り上げが伸びている。2020年1月には音声配信サービスで中国初のナスダック上場を果たしている。) 中国では、「ナレッジシェア(知識の共有)」としてテキストや動画、音声などにお金を払う文化が浸透しているといわれており、ヒマラヤやチンティンはその文脈に沿って成長してきた。その一方で、プロコンテンツを作るための作品の著作権使用料が負担になっているとされる。このため近年は、ヒマラヤも広告ビジネスに力を入れ始めている。2018年には米スターバックスの中国法人とコラボし、音声コンテンツ番組へのリンクを印字したカップ飲料を300万杯限定で販売。コンドームの英デュレックスは、恋愛や性の悩みについて語るチャンネルを立ち上げた。 また、米ケンタッキー・フライド・チキンの店内に公式ラジオ局を作り24時間生配信をした番組は、1842万回再生・最大同時聴取数6万5000人を記録している。音声コンテンツのマネタイズ手法が多様化してきていると言えるだろう』、「もともと中国では、文字入力の煩雑さなどから音声入力のニーズが高く、音声認識の技術も進んでいた。そして現在の中国のポッドキャスト市場は、有料コンテンツのユーザーの多さが一つの特徴となっており、その規模は70億ドルと、アメリカの音声市場(130億ドル)の半分以上にも達する」、なるほど、同じ漢字を使っているとはいえ、日中の違いも大きいようだ。
・『なぜ日本の音声コンテンツは未成熟だったのか 急拡大しているアメリカや中国に比べると、日本の音声市場はようやく成長し始めたところだ。 市場の規模もそうだが、聴かれているコンテンツの内容についても、アメリカ・中国などの成長市場とは異なる。じっくり聴くタイプのポッドキャストやオーディオブックなどは、日本ではまだそれほど多く聴かれていない。音楽や、BGM的にさらっと聴き流すタイプのコンテンツが中心である。 音声の聴取は、大きく分けて2パターンある。一つは、例えば事務作業などの仕事をしているときや、勉強をしているときなど、視覚を使い、思考しているときに聴くものだ。聴くものは、思考の邪魔にならないような音楽などが中心となる。日本のラジオは比較的こちらに入るものが多いだろう。 もう一つは、体を使い、思考はそれほどしていないときに聴くものだ。家事や運動、何かの袋詰めや畑仕事など、反復作業をしているときをイメージしてもらうとよいだろう。こうした場合は、BGM的なものでなくても、思考や集中力が必要な学習コンテンツ、オーディオブックなどもマッチする。 日本の音声コンテンツは、前者のBGM的なものは多くあるが、後者の、集中して聴き思考を要するものは諸外国に比較して少ない。情報欲求や学びの欲求が高まる中、思考や学びにつながる音声コンテンツの需要はもっと広がるはずだ。 これはあくまでも私個人の印象なのだが、アメリカや中国などに比べて、日本ではこれまで、「視覚で楽しむ」傾向が強かったように感じられる。ユーチューブですら音を消して見る人が多いし、テレビ番組も、特にバラエティーや情報番組などでは字幕を多用し、視覚情報で楽しむ傾向が強い。このためか、これまでなかなか良質な「面白い」音声コンテンツが生まれる土壌がなかった』、「日本の音声コンテンツは、前者のBGM的なものは多くあるが、後者の、集中して聴き思考を要するものは諸外国に比較して少ない。情報欲求や学びの欲求が高まる中、思考や学びにつながる音声コンテンツの需要はもっと広がるはずだ」、後半部分は本当だろうかと疑問に思う。
・『「聴く習慣」の広がり 聴く習慣がないから良質な音声コンテンツが生まれないのか、良質な音声コンテンツがないから聴く習慣が生まれないのか。おそらくそのどちらでもあるのだろう。私がボイシーのサービスを立ち上げたときも、一番苦労したのは「聴く習慣」を広げることだった。 海外でポッドキャストが急成長している一方、日本でポッドキャストに注目が集まるようになってきたのはつい最近のこと。日本ではまだ、ポッドキャスト専門の制作スタジオや配信サービスは少なく、これまでは、ラジオ局が電波で流している番組をそのままポッドキャストに仕立てたものが多かった。「ポッドキャストといえば、英語学習者が海外の英語コンテンツを聴くためのもの」といったイメージもあったのではないだろうか。 世界的な広告代理店インター・パブリック・グループ・オブ・カンパニーズ(IPG)傘下のマーケティング調査会社であるマグナグローバル(MAGNA)は、日本でこれまでポッドキャストがなかなか伸びなかった理由として、日本ではもともと、海外に比べてデジタルで音声を聴く習慣がないことを挙げている。一例として、「スポティファイが上陸した2016年時点で、音楽市場の8割をCDが占めており、歴史的に、レコードレーベルは楽曲をストリーミングサービスに提供することに抵抗感を持っていた」ことを挙げている。 インターネットを介してアプリなどで聴ける音声コンテンツの老舗といえば、2010年にサービスを開始した「radiko(ラジコ)」がある。ラジオの電波が届かないところを補完する目的で始まり、当初は関東や関西の一部のエリアのみが対象だったが、徐々に対象地域やラジオ局が広がり、現在では民放ラジオ全99局の番組を聴くことができる。スマホのアプリで聴くことができるため、今では「ラジオは聴かないけどラジコは聴く」という若者も多い。 そして2010年代後半から、ほかにもさまざまな音声配信サービスが生まれ始めた。2016年にボイシーがサービスを開始しているほか、2017年には中国発のヒマラヤ、エキサイトの社内ベンチャーとして生まれた「Radiotalk」が始まった。 2018年には韓国の「Spoon(スプーン)」が上陸、ライブ配信やコミュニティー機能を持つ「stand.fm」も開始した。2020年になると、HIKAKINなどの人気ユーチューバーを抱えるUUUMが、「REC.」を立ち上げている。そして2021年に入り、音声SNSのクラブハウスブームが巻き起こったことで、「音声」にようやく注目が集まり始めた。 ただ実は、それよりも前の2020年12月の時点で、「1カ月に1回以上ポッドキャストを聴く人の割合」は14.2%、人口の推定で1123万人にまで増えていたことが、デジタル音声広告を手掛けるオトナルと朝日新聞の共同調査で分かっている。この調査では、ポッドキャストを聴いている人のうちの47.1%は、聴き始めたのが1年以内と回答。そのきっかけとして22.5%が、「スポティファイやAmazon Musicでポッドキャストが聴けるようになったから」と答えている。海外でのポッドキャストブームが、日本にも波及し始めていると言えるだろう。 日本でも「機は熟した」と言えそうだ。私自身も今年に入ってから、音声ビジネスに関する取材が急激に増え、他業界の人からも「ちょっと話を聞きたい」と声を掛けられることが多くなった。 その背景としては、グローバルの動きと同様、音声認識などのテクノロジーの進化と、スマートスピーカーやワイヤレスイヤホンなどのデバイスの普及などがあるだろう。 デバイスの進化が進んでいたところに世界中を襲ったのが、新型コロナウイルスの感染拡大だった。感染拡大を抑えるために、各国でロックダウンや外出自粛が行われ、リモートワークが推進されるようになった。オンライン会議が増え、イヤホンをしながら仕事をする習慣が広がると同時に、いわゆる「Zoom疲れ」「パソコンやスマホの画面疲れ」も引き起こした。そうした人たちが、音声に目を(耳を)向け始めたのは、ある意味自然なことだっただろう』、「海外でのポッドキャストブームが、日本にも波及し始めていると言えるだろう。 日本でも「機は熟した」と言えそうだ」、なるほど。
・『クラブハウスの上陸による「気付き」 そのタイミングで上陸したのが音声SNSのクラブハウスだ。Zoomと違って画面がないので、着替えたり身だしなみを整えたりする必要がなく、何かをしながらでも気軽に参加できる。招待制、iPhoneのみの対応といったハードルにもかかわらず、人と自由に会えない生活が続き、気軽な雑談さえできない寂しさを埋めるのにちょうどいい場として、日本でも爆発的に参加者が増え、ちょっとした「クラブハウスブーム」が起きた。 アメリカのアプリ調査会社センサータワーによると、クラブハウスのユーザーは2020年の5月には数千人程度だったが、2021年2月19日にはアプリのダウンロード数が1000万を超えた。このうち700万は1月25日以降で、日本は約150万を占める。 ポッドキャストの場合、15分から30分程度のものも多いが、1時間程度の番組もあったりと、聴くのに比較的まとまった時間がかかる。一方クラブハウスは、より雑談を聴くのに近く、さまざまな会話が行われているルームを少しずつのぞき見(のぞき聴き)する感覚なので、時間の長さよりもタイミングが勝負。細切れの時間でも十分楽しめる。今まで、わざわざラジオやポッドキャストを聴いたりしなかったような、隙間時間にも入り込んできた。クラブハウスのおかげで「聴く習慣」がついた人も多いはずだ。 上陸から2、3カ月がたつと、当初のブームは沈静化したものの、多くの人が音声の可能性に目を向けるきっかけになった。クラブハウスで話してみて、これまでのテキストや動画での発信と、音声による発信の違いに気付いた人も多いだろう。 また、誰もが目の疲れを感じていたのではないだろうか。一日中パソコンやスマホの画面を凝視し続ける生活には限界がある。特にコロナ下のリモートワークでは、「Zoom疲れ」という言葉が聞かれたように、映像コミュニケーションを負担に感じたり、パソコン画面を見続けることに疲れたりして、画面から離れ目を休ませたいというニーズも増えたようだ。 当初は、「クラブハウスが出てきたせいで、日本の音声サービスは危ないんじゃないか」「海外サービスに蹂躙(じゅうりん)されるんじゃないか」といった意見をよく見かけたが、たくさんの人がクラブハウスを使い、特性について理解を進めるにつれ、そうした意見は聞かれなくなってきた。むしろ、クラブハウスによって日本の音声業界は活性化したし、私もそうしたメッセージを意識的に伝えてきた。 ボイシーについても、当初は「クラブハウスは競合になるのではないか」という見方をしていた人が多かったが、私自身は相乗効果を得られる相手だということを実感している。それはデータにも表れており、ボイシーのユーザー数はクラブハウス上陸前に比べて、3カ月で2.5倍になった。また、リスナーが増えただけでなく、「ボイシーでしゃべりたい」という人も増えた。 それは数字にもはっきり表れている。クラブハウスは、「誰かとしゃべりたい。人の声が聴きたい」という欲求は満たしてくれるが、やはり発信者にしてみると物足りなさが残る。話したことが残らないと、自分の世界観を表現し、維持したいという欲求は満たされないからだ。 ボイシーはおそらく、「自分の声を残しておきたい」「自分の場所をつくりたい」「フォロワーの反応も知りたい」といった欲求を持った発信者や、「クラブハウスで話すことの楽しさを知り、もっとやってみたくなった」という人たちの、受け皿になったのだと思う。 クラブハウスブームの数カ月前までは、1カ月に5人くらいしか新しいパーソナリティーを増やしていなかったが、2021年2月には一気に50人ほど増えた。パーソナリティーへの応募数自体が増え(パーソナリティーは応募者の中からボイシーが選考している)、かつそのレベルも上がったからだ』、「クラブハウスは、「誰かとしゃべりたい。人の声が聴きたい」という欲求は満たしてくれるが、やはり発信者にしてみると物足りなさが残る。話したことが残らないと、自分の世界観を表現し、維持したいという欲求は満たされないからだ。「ボイシーはおそらく、「自分の声を残しておきたい」「自分の場所をつくりたい」「フォロワーの反応も知りたい」といった欲求を持った発信者や、「クラブハウスで話すことの楽しさを知り、もっとやってみたくなった」という人たちの、受け皿になったのだと思う」、さて「クラブハウス」や「ボイシー」は今後、どうなってゆくのだろう。
次に、9月30日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した情報工場チーフ・エディターの吉川清史氏による「クラブハウスが下火になっても「音声メディア」の可能性が広がり続ける必然~『ボイステック革命』(緒方憲太郎 著)を読む」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/282749
・『視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のチーフ・エディターである吉川清史が豊富な読書量と取材経験などからレビューします』、興味深そうだ。
・『「クラブハウス」ブームが示した「声」の可能性 2021年初頭のインターネット界隈で話題をさらったものといえば、「クラブハウス」が筆頭に挙がるのではないだろうか。これは周知の通り、米国発の「音声」に特化したSNSだ。本国でサービスがローンチされたのは2020年4月だが、2021年1月に本格的に日本上陸を果たす。すると、何人もの有名人が発信を始めたこともあり、またたく間に利用者が拡大、一大ブームとなった。 だが、3月に入る頃には、早くも人気が沈静化。もちろん使用が習慣化しているユーザーも少なくないのだろうが、今では話題に上ることも少なくなった。 人気が衰えた理由については、さまざまなメディアで考察されているが、おそらく、参加が「招待制」だったことが大きいのではないか。7月に「ベータ版」終了とともに自由に参加できるようになったが、当初は既存ユーザーから招待されなければ入会できず、しかも招待枠が1人2枠しか与えられていなかった。 また、5月にAndroid版アプリが配布されるまで、iPhoneでしか使えず、アプリの使い勝手も決して良いとはいえなかった。さらに、発信された音声は録音不可で、リツイートのように拡散できない仕様になっていた。クローズドなサービスのまま人気が爆発したために、ユーザー拡大のチャンスを逸したのだろう。 しかし、クラブハウスが示した「音声メディア」の可能性はついえたわけではない。フェイスブックは今年4月に、音声特化型SNSサービスの新設を発表、6月に米国で「Live Audio Rooms」という名でスタートした。ツイッターも、昨年12月からテストを行っていた音声チャットサービス「Space」を、今年5月からフォロワー数600人以上のユーザー限定で正式スタートしている。 アップルやアマゾン、スポティファイなどで配信されているポッドキャストの人気も高い。今年7月期放送の深夜ドラマ「お耳に合いましたら。」(テレビ東京系)は、元乃木坂46の伊藤万理華さん扮する主人公がポッドキャスト番組を始めるストーリーで、スポティファイのポッドキャスト番組との連動も注目された。 本書『ボイステック革命』では、国内の音声メディアVoicy(ボイシー)の創業者でCEOを務める緒方憲太郎氏が、クラブハウス人気で弾みがついた「ボイステック(音声関連のテクノロジー)」市場の現状と可能性について詳細に解説している。 緒方氏が主宰するボイシーは2016年に創業。現在、ビジネスのプロや芸能人などの「声のブログ」、4大マスメディアの記事が声で聴ける「メディアチャンネル」、企業が発信する「声の社外報」「声のオウンドメディア」など500以上のチャンネルが楽しめる音声プラットフォームとなっている。昨今の「音声ブーム」や、コロナ禍の「巣ごもり需要」もあり、昨年末時点で約100万人だった月間ユーザー数は、今年3月には約250万人と、急激に増加している』、ずいぶん急速に「月間ユーザー数」が増えたものだ。
・『「ながら聴き」と手軽な発信が音声メディアのメリット 緒方氏によると、音声メディアの最大のメリットは「ながら聴き」ができることだ。昔ながらのラジオも同様だが、流しておけば、家事や仕事、食事など何か別のことをしながら楽しめる。この点で音声は、テキストや動画に比べ、圧倒的に有利だ。 さらに、ながら聴きを容易にしているのが、Amazon Echo、Google Homeといったスマートスピーカーや、アップルのAirPodsをはじめとするワイヤレスイヤホンの普及だ。私の知人にも、仕事から帰宅してから寝るまで、ほぼワイヤレスイヤホンを付けっ放しという人がいる。 音声コンテンツを「発信」する側の手軽さもメリットだ。ポッドキャストの場合、スマホの録音ボタンをタッチしてしゃべるだけで、コンテンツができ上がる。10分のコンテンツを作るのに(録り直しをしなければ)10分しかかからない。テキストや動画の場合、こうはいかないだろう。動画は編集の手間と時間がかかるし、文章を書くにはそれなりの時間がかかる。 これまで多忙で、SNSなどに投稿する時間がなかった人たちでも、音声メディアならば気軽に発信側にもなれる。忙しくてスマホの画面チェックもままならなかった人でも「ながら聴き」で情報収集の幅を広げられる。このようにして音声メディアは、ネットコミュニティーへの参加者を格段に増やす働きをする可能性があるのだ。 そもそも、インターネット上の情報発信やコミュニケーションは、当初は技術的な制約からテキストベースで始まった。その後、日進月歩の技術進化により大きな画像や動画もストレスなく送信、閲覧できるようになったものの、利用者数の多いツイッターやLINEのコミュニケーションは、テキストによるものが主流だ。 テキストで伝えられる情報量は、リアルな対面に比べ圧倒的に少ない。画像や動画、さらにはVR(仮想現実)などが使えるのであれば、より多くの情報が伝えられ、コミュニケーションを深められるはずだ。それなのに、VRはさほど普及せずに、現状、多くの人がテキストのコミュニケーションで満足している。 おそらく現代のネットユーザーの多くは、「深いコミュニケーション」をネットに求めていないのだろう。それよりも、手軽さを優先させる。浅いコミュケーションや情報交換を、多く行う。ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、著書『広く弱くつながって生きる』(幻冬舎新書)の中で、「浅く、広く、弱い」つながりこそが、これからの時代の人間関係のあり方と述べている。 おそらく、これからもテキストによるコミュニケーションは主流であり続けると思われる。そして、それに次ぐネットでのコミュニケーション手段として「音声」が台頭してくるのではないだろうか』、「これからもテキストによるコミュニケーションは主流であり続けると思われる。そして、それに次ぐネットでのコミュニケーション手段として「音声」が台頭してくるのではないだろうか」、なるほど。
・『声はうそをつかない その人の全てが表れる 緒方氏は、音声の「本人性」の高さも強調する。テキストは、たとえ署名があったとしても、本当に本人が書いたかどうかわからない。手書きならば筆跡でわかるかもしれないが、画面上の文字で判断するのは難しい。画像や動画も、いわゆる「盛っている」ことがままあり、アップした本人の本当の姿であることは、むしろまれだ。その点、音声は、声質や話し方に個性や「人となり」が表れやすい。 音楽・音声ジャーナリストの山﨑広子氏が著した『声のサイエンス―ーあの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか』(NHK出版新書)によると、人が声を出す時には、口だけでなく、体のさまざまな器官を総動員しており、そのため声には、身長、体格、顔の骨格、性格、生育歴、体調から心理状態まで、その人の全てが表れる。言葉でうそはつけても、声はうそをつかないのだという。 緒方氏は、「ボイステック」の事例として、2012年に設立された医療系ボイステックベンチャー企業PSTによる、「声」をAI分析して、うつ病や認知症、パーキンソン病などの診断に役立てる試みを紹介している。 また山﨑氏は、私たちのほとんどは普段「作り声」を出しているが、「本物の声」を出すことで、心身を健全に保つとともに、人の心を動かせるのだと述べている。 ボイシーでは、人気を集めるパーソナリティー(メディアで話をする人)は、豊かな人生を生きる、人間として魅力のある人が多いのだそうだ。彼らはおそらく「本物の声」で話しているのだろう。そのために、話の内容だけでなく、その人の生き方が声を通して伝わり、ファンになるリスナーが後を絶たないとのことだ。 コロナ禍は、テクノロジーでは補強しきれない、生身の「人間」の弱さを改めて認識させることになった。GAFAをはじめとするテック企業が今、音声に注目するのは、もしかしたら生身の人間が持つ力を取り戻そうとする動きなのかもしれない』、「コロナ禍は、テクノロジーでは補強しきれない、生身の「人間」の弱さを改めて認識させることになった。GAFAをはじめとするテック企業が今、音声に注目するのは、もしかしたら生身の人間が持つ力を取り戻そうとする動きなのかもしれない」、「生身の人間が持つ力を取り戻そうとする動き」であればいいのだが・・・。
第三に、10月15日付け東洋経済オンラインが掲載した作家・元外務省主任分析官の佐藤 優氏による「SNSがアメリカと日本にもたらした「真逆の現象」 どちらもコミュニケーション不全状態に」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/462069
・『いまの社会は、SNSの発達などによりコミュニケーションツールは非常に充実しています。しかし、本当にそれによって私たちはコミュニケーションをうまく行えているでしょうか?ちょっと考えてみても、じつに怪しく心もとない感じがします。私は、SNSがじつは人間関係を結びつけるどころか、むしろ分断するツールになると思っています。その理由を拙著『読解力の強化書』をもとに解説します』、「SNSがじつは・・・人間関係を・・・分断するツールになる」、とは思い切った仮設だ。
・『ある現象によって分断されるアメリカ SNSが私たちを分断するツールになる──。そんな危険性が巷に知られるようになったのは、2008年、バラク・オバマがマケインを破り大統領に就任した際の、選挙戦にさかのぼります。 当時、民主党のオバマ陣営はSNSを駆使してライバルに大きな差をつけて勝利しました。陣営と支持者たちの間で、SNSを通じてさまざまなやり取りが行われました。それが集票につながった、最初の大統領選挙だと言われています。 その後、あるリサーチャーによる調査によって、面白い現象が明らかになりました。民主党と共和党のそれぞれのブログコミュニティーのつながりを解析したのです。すると、それぞれのつながりの中で完結し、両党の間でのコミュニケーションがほとんど行われていなかったのです。 このことによって、SNSは同質性の高い集団の中においてはコミュニケーションを活性化させる働きが強い一方、立場や意見が違う者同士を排除する閉鎖性が強いツールであることが指摘されるようになりました。 その後、共和党のドナルド・トランプが登場し、民主党のヒラリー・クリントン候補を破った大統領選挙では、この傾向にますます拍車が掛かりました。この頃から言われるようになったのが、「エコーチェンバー現象」と言われるものです。 エコーチェンバー現象とは、ある人物の意見や主張が、肯定され評価されながら、集団内のメンバーによって繰り返される現象を言います。それはあたかもこだまが鳴り響くかのように反響し、共鳴して、集団内で一層大きく強力なものになっていきます』、「SNSは同質性の高い集団の中においてはコミュニケーションを活性化させる働きが強い一方、立場や意見が違う者同士を排除する閉鎖性が強いツールであることが指摘されるように」、「エコーチェンバー現象」によって、「こだまが鳴り響くかのように反響し、共鳴して、集団内で一層大きく強力なものになっていきます」、SNSの危険性を的確に指摘している。
・『主義主張の違うもの同士の対立を煽った トランプの過激なツイッターの投稿が、支持者たちの間でリツイートされながら、エコーチェンバー現象によって大きな力になっていった。それによって巷の予想を裏切り、多くの支持を集めたトランプは大統領に就任します。 彼は大統領就任後もSNSの力を最大限利用し、ときに相手をおとしめ誹謗するかのようなツイートを上げながら、自らの支持者をより熱狂的なトランプ教の信者に仕立て上げます。彼が行ったことは、民主主義の下での国民同士の対話ではなく、主義主張の違う者同士の対立と敵対感情を煽り、結果的にアメリカを分断することでした。 その結末が、2021年1月6日、1000名近いトランプ支持者が、選挙の不正を訴え、バイデンの大統領就任を阻止するべく、連邦議会を襲撃した事件です。そして彼らの多くが、トランプこそがさまざまな陰謀からアメリカや国民を救う救世主であり、バイデンなどの民主党やその支持者は、自らの利権と権力をほしいままにするために真実を歪め不正を働く、悪の集団だと信じていました。 この事件によって、ここ数年の間でアメリカに深刻な社会的な分断が起きていることが明らかになりました。同質性の高い内輪のコミュニケーションだけで完結し、異質なものを排除する。エコーチェンバー現象によって自己正当化が行われ、対立や分断が深まる。その結果が、この事件だと言えるでしょう。 他者の存在を意識し、認識するところから始まる、本来の民主主義の理念はすでにそこにはありません。 代わってはびこったのが、自分たちと立場を異にする者に対する敵愾心や恐れでしょう。そして誰かが自分たちの立場や利益を脅かそうと目論んでいるに違いない、という被害妄想、被害者意識が生まれてくる。それによって自己保身的に他者を排除したり、攻撃したりする排外主義が大手を振って台頭しているのです。 言葉を換えて言うならば、アメリカ人が対象を理解しようとする「読解力」を決定的に失ってしまった、ということに他なりません』、「はびこったのが、自分たちと立場を異にする者に対する敵愾心や恐れでしょう。そして誰かが自分たちの立場や利益を脅かそうと目論んでいるに違いない、という被害妄想、被害者意識が生まれてくる。それによって自己保身的に他者を排除したり、攻撃したりする排外主義が大手を振って台頭しているのです」、ツイッター社やフェイスブック社が、「トランプ」のフェイクニュースなどを阻止したのも、SNSのマイナス面を意識した行動なのだろう。
・『「異質な意見」が入りにくくなりがちに 翻って日本はどうでしょうか?アメリカほど深刻な分断が起きているわけではありません。しかしながら、日本の場合は、社会全体が一つのコンセンサスに基づいて一元化しがちです。アメリカのように分断、分裂化するほどの社会的なダイナミズムがあるわけではありませんが、同調圧力が高く、エコーチェンバー現象が起きやすい文化的な土壌があるように思います。 その上にネットやSNSツールの持つ閉鎖性が重なることで、同じ考え方や価値観を持った、同質性の高い者同士でネットワークが完結し、異質な意見が入り込みにくくなりがちです。自分たちの考えや意見が、あたかも多数派のように錯覚してしまうのです。 自分にとって心地よく都合の良い情報ばかりに囲まれ、いつしかそれが当たり前になってしまう。しかもSNSでやり取りするのは、皆自分と同じ意見の人たちばかり……。それが続くとどうなるか? 自分の意見や価値観が大多数の意見だと錯覚し、自分にとって異質な情報、都合の悪い情報を受け入れる許容力がなくなってしまうでしょう。コミュニケーションツールはたくさんあり、その中でのやり取りは膨大ですが、その内容は非常に貧困でワンパターンなものばかりです。 一見コミュニケーションがたくさんあるようで、じつはコミュニケーション不全の状態といってよいでしょう。そこでは決定的に「読解力」が失われていくことになるのです。 その流れの中で起きているのが、ときに過剰に思える日本礼賛ムードだと思います。テレビの番組でも、相変わらず日本の伝統文化や科学技術などを外国人に紹介し、彼らが驚き、賞賛する様子を映すという、日本礼賛番組がゴールデンタイムに流されます。 このような日本礼賛ものは、最近はとくにYouTubeなどに比重が移ってきているように感じます。「中国人が日本のラーメンのおいしさに絶句!」「日本の街の美しさに驚く欧米人」といったタイトルの動画が目立ちます。 あたかも、日本人が他国民に比べて文化度が高く、手先が器用で繊細で、創造的なセンスにあふれた国民であるような気持ちになる。 ですが、ちょっと目を転じれば、多くの国々にもモノづくりの確固とした歴史や伝統があり、古くからの地場産業が栄え、世界的なブランドが出ている地域がたくさんあります。それらに目を向けようとせず、十分な比較や検証もなく、自分たちの文化が優れている、特殊だと考えるのは単なる思い込みで、自己満足的な妄想に近いのです』、「日本礼賛ムード」のなかでも特にいやらしいのは、政府が旗を振るクール・ジャパン運動や、NHKの番組だ。これについては、このブログの2019年8月26日にも取り上げた。
・『ワイプで人の表情を抜く目的は? テレビの話が出たついでにもう1つ。ワイドショーなどで、出演者たちの表情をワイプ(注)で抜くことがいまや当たり前になっています。悲惨なニュースには悲しい出演者の顔を映し出し、楽しい話の時には笑顔が映る。30年ほど前にはなかった映像手法だと思います。果たしてそのような映像が必要かと私などは思いますが、ワイプで誰かの表情を確かめないと安心できないということなのでしょうか。 1つの出来事に対する反応や判断は人それぞれですから、いろんな反応、表情があったっていい。ところがワイプに出て来る表情は、皆同じです。もし、心和むような話の時に苦虫をかみつぶしたような表情をしていたら?きっとツイッターなどでさんざんに叩かれるでしょう。 ある出来事に対して、誰もが同じ感覚、同じ感情を持たなければいけない。そんな同調圧力のようなものを感じるのは、私だけではないと思います。 皆が笑っている時につまらなそうにしていたり、皆が悲しんでいる時に平然としていたりするのを許さない。いまの日本の社会の同調圧力、異質なものを認めないという傾向が表れているようにも思えます。つまり、異質なものに対する耐性が弱いということでしょう。自分と異質なものに対する恐怖心が、かなり強くなっているのではないでしょうか』、「いまの日本の社会の同調圧力、異質なものを認めないという傾向が表れているようにも思えます。つまり、異質なものに対する耐性が弱いということでしょう。自分と異質なものに対する恐怖心が、かなり強くなっているのではないでしょうか」、強く同感する。
(注)ワイプ:画面Aが紙芝居のように横に引き抜かれて、次の画面Bに替わること(Wikipedia)
先ずは、7月5日付け日経ビジネスオンライン「「クラブハウス」の狂乱が日本に残したもの」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00324/070100003/
・『米中と比べ、「聴く文化」は日本にはまだ浸透していない。米調査会社のリポートを見ても、日本で少なくとも月に1回ポッドキャストを開く人口は米中の3分の1にすぎない。 この状況を一変させたのが2021年初頭に日本で巻き起こった音声SNS「Clubhouse(クラブハウス)」ブームだ。招待制も相まって熱狂の渦を巻き起こした。数カ月で騒ぎは沈静化したものの、「聴く習慣」を日本にもたらした効果は大きい。 コロナ禍で働き方が多様化し、リモートワークが一気に普及した点も音声市場にとって追い風となっている。長時間にわたるオンライン会議やデスクワークで、「目の疲れ」が慢性化しているためだ。 日本に「聴く習慣」が根付き、「聴く文化」へと昇華していくためには良質なコンテンツは欠かせない。音声メディア「Voicy(ボイシー)」を運営するVoicy代表取締役最高経営責任者の緒方憲太郎氏による著書『ボイステック革命 ~GAFAも狙う新市場争奪戦~』から一部抜粋・再編集して掲載する。 今、世界で音声市場が成熟しつつあるのは、アメリカと中国だ。米調査会社のMAGNA(マグナ)による「The Podcasting Report(2019年7月)」によると、「少なくとも月に1回はポッドキャストを開く人口」(インターネットの普及率に応じて補正した値)はアメリカが26%、中国が29%と大きく、日本は8%にとどまっている。これを「日本はすっかり出遅れている」としか見ないか、「日本の伸びしろはすさまじく大きい」と考えるか。 まずはそれぞれの市場を簡単に見ていこう。 アメリカについては、既にスマートスピーカーやポッドキャストに焦点を当てて説明したが、もう少し音声市場拡大の背景にある特徴について紹介したい。 アメリカはもともと、スマートスピーカーやワイヤレスイヤホンなどのデバイスが普及する随分前から、「聴く」文化が定着していた。国土が広く、車社会のため、通勤や移動するとき、運転しながら音声を楽しむ人が多い。 ラジオも発達しており、英語、スペイン語、ロシア語などのさまざまな言語、ニュース、スポーツ、カントリーやR&Bなどのさまざまなジャンルの音楽などで細分化された専門ラジオ局があり、その数は全米で1万5000以上といわれている。 車の中で本を「聴く」ことも当たり前になっていて、早いうちからカセットテープやCDによる「オーディオブック」市場が形成されていた。そしてスマホの普及で、これらがそのままポッドキャストやスマホで聞くオーディオブックなどに置き換わってきた。アメリカのオーディオ出版社協会(APA)によると、2019年のアメリカのオーディオブックの売り上げは、前年比16%増の12億ドル(約1300億円)に上り、8年連続の2ケタ成長を続けている』、「「少なくとも月に1回はポッドキャストを開く人口」・・・はアメリカが26%、中国が29%と大きく、日本は8%にとどまっている」、これは大きな開きだ。ただ、「中国」が多い理由は何故なのだろう。
・『世界で巻き起こるVoiceTech革命 GAFAと呼ばれる米IT大手が音声への投資を続けている。米グーグルや米アマゾン・ドット・コム、米… こうした背景からも、スマートスピーカーへの抵抗感は低かったことが考えられる。スマートスピーカーは、今や「1家に1台」から「1部屋に1台」の時代になっているともいわれ、アメリカ人が音声コンテンツに触れる時間はどんどん長くなっている。 ポッドキャストコンテンツの成長ぶりも前述の通りだ。大手IT各社が競い合うようにポッドキャストに投資しているほか、大手新聞社やテレビ局、ラジオ局などの既存マスメディアも、質の高いポッドキャスト専用番組を制作している。 例えば、実録クライム(犯罪)系の連続シリーズとして制作された「Dirty John(ダーティ・ジョン)」は、リリースから6週間で1000万回以上、累計5200万回以上ダウンロードされた。ニューヨーク・タイムズのニュース番組「The Daily(ザ・デイリー)」は1日で200万人が聴く人気コンテンツになっている』、「スマートスピーカーは、今や「1家に1台」から「1部屋に1台」の時代になっているともいわれ、アメリカ人が音声コンテンツに触れる時間はどんどん長くなっている」、日本とはずいぶん違うものだ。
・『ポッドキャストに目をつけたスポティファイ 注目すべきは、スポティファイが2019年に、ポッドキャストコンテンツの制作スタジオGimlet Media(ギムレット・メディア)とParcast(パーキャスト)の2社を買収し、オリジナル番組で差別化の勝負に出たことだ。さらに配信サービスのAnchor(アンカー)、広告プラットフォームを展開するMegaphone(メガフォン)、スポーツやポップカルチャーの番組を得意とするThe Ringer(ザ・リンガー)などを次々と買収している。 また、オバマ元大統領夫妻、世界1位のポッドキャスト番組を運営するコメディアンのジョー・ローガン、イギリスのヘンリー王子とメーガン妃らと相次いでポッドキャストの独占契約を結んでいる。スポティファイの担当者は、音楽よりも(ポッドキャストのような)音声コンテンツの方が課金につながりやすいという趣旨の発言をしている。同社が、「音楽の次」のコンテンツとして、ポッドキャスティングをターゲットとしているのは明白だ。 前述の通り、アメリカのポッドキャスト市場は急速に成長しており、今やアメリカの12歳以上の人口の37%がポッドキャストを聴いているとの試算もある。ポッドキャストの広告市場も急拡大しており、2021年は10億ドルを超えて、3年前の3倍近くになると予測されている。良質な音声コンテンツがリスナーを増やし、さらなる投資を生むという好循環が起こっていると言えそうだ』、「同社が、「音楽の次」のコンテンツとして、ポッドキャスティングをターゲットとしているのは明白」、「今やアメリカの12歳以上の人口の37%がポッドキャストを聴いているとの試算も」、日米でこれほど違いがあるのも珍しい。
・『広告よりも有料課金が大きい中国 もともと中国では、文字入力の煩雑さなどから音声入力のニーズが高く、音声認識の技術も進んでいた。そして現在の中国のポッドキャスト市場は、有料コンテンツのユーザーの多さが一つの特徴となっており、その規模は70億ドルと、アメリカの音声市場(130億ドル)の半分以上にも達する。広告市場よりも、有料課金コンテンツ市場の方が圧倒的に大きい。 中国では人口の29%がインターネットアクセスを持つとされているが、そのうちの53%が月に最低1回はポッドキャストを聴いていると推計されている。多くのユーザーが、ビジネスやプレゼンテーションスキルなどの学習コンテンツを有料で購入している。 主なプレーヤーを見てみよう。 中国の音声配信サービスでトップシェアを占めるのが、日本版の名称としては「himalaya(ヒマラヤ)」で知られる「シマラヤFM」だ。中国では6億以上のアプリダウンロード、月間1億1000万のアクティブユーザーを持つ。配信者は約600万人で、主にプロのクリエイターが配信するPGC(Professionally Generated Contents:プロ生成コンテンツ)が中心だ。 ヒマラヤは、版権を取得して音声化した作品を提供することで、優良な音声コンテンツを提供してきた。ユーザーは、音声コンテンツのリスナーとなるだけでなく、ヒマラヤが版権を持つコンテンツを音声化する配信者としても参加できる仕組みだ。例えば、人気の小説投稿サイトとヒマラヤが提携し、権利を取得した小説をヒマラヤ内で公開。ユーザーはその小説を音声化して配信する。ユーザー投票によって選ばれた配信者には報酬が支払われる。 さまざまな課金システムがあり、コンテンツの単品販売、月額料金によるサブスクリプション、投げ銭(ギフティング)などがある。ユーザーと配信者がコミュニケーションを取ることもできる。 チンティンFM(QingTing FM、以下チンティン)も、ヒマラヤと同様にPGCが中心。スマートスピーカーやインターネットテレビ、5G搭載の自動車などのハードウエア製品と提携してユーザーを伸ばしているのが特徴だ。アクティブユーザー数は月間1億3000万。ヒマラヤはスマホアプリが中心だが、チンティンはこうした多様なハードウエアを介した戦略を取っている。チンティンもヒマラヤと同様、配信者に報酬を支払ってコンテンツの充実を図っている。2019年には1年間で1000万元(約1億5000万円)を売り上げた作品が登場したり、プロではない配信者の作品が3カ月で100万元(1500万円)を売り上げたりしている。 ライチFM(Lizhi FM)は、ヒマラヤやチンティンとは異なり、素人のオリジナル作品を中心とした音声配信サービスだ。ユーザー層は若者が多く、1990~2000年代生まれの若者がユーザーの約60%を占めている。約590万人のアクティブ配信者による1億7000万本以上のコンテンツが公開されており、アクティブユーザーは月間5100万人に上る。中国最大のUGC(User Generated Contents:ユーザー生成コンテンツ)音声コミュニティーだ。 インタラクティブ性が強く、配信者とユーザー間のコミュニティーとなっている面があり、インスタグラムやユーチューブに近い特性を持っていると言える。ライブ配信では投げ銭課金の売り上げが伸びている。2020年1月には音声配信サービスで中国初のナスダック上場を果たしている。) 中国では、「ナレッジシェア(知識の共有)」としてテキストや動画、音声などにお金を払う文化が浸透しているといわれており、ヒマラヤやチンティンはその文脈に沿って成長してきた。その一方で、プロコンテンツを作るための作品の著作権使用料が負担になっているとされる。このため近年は、ヒマラヤも広告ビジネスに力を入れ始めている。2018年には米スターバックスの中国法人とコラボし、音声コンテンツ番組へのリンクを印字したカップ飲料を300万杯限定で販売。コンドームの英デュレックスは、恋愛や性の悩みについて語るチャンネルを立ち上げた。 また、米ケンタッキー・フライド・チキンの店内に公式ラジオ局を作り24時間生配信をした番組は、1842万回再生・最大同時聴取数6万5000人を記録している。音声コンテンツのマネタイズ手法が多様化してきていると言えるだろう』、「もともと中国では、文字入力の煩雑さなどから音声入力のニーズが高く、音声認識の技術も進んでいた。そして現在の中国のポッドキャスト市場は、有料コンテンツのユーザーの多さが一つの特徴となっており、その規模は70億ドルと、アメリカの音声市場(130億ドル)の半分以上にも達する」、なるほど、同じ漢字を使っているとはいえ、日中の違いも大きいようだ。
・『なぜ日本の音声コンテンツは未成熟だったのか 急拡大しているアメリカや中国に比べると、日本の音声市場はようやく成長し始めたところだ。 市場の規模もそうだが、聴かれているコンテンツの内容についても、アメリカ・中国などの成長市場とは異なる。じっくり聴くタイプのポッドキャストやオーディオブックなどは、日本ではまだそれほど多く聴かれていない。音楽や、BGM的にさらっと聴き流すタイプのコンテンツが中心である。 音声の聴取は、大きく分けて2パターンある。一つは、例えば事務作業などの仕事をしているときや、勉強をしているときなど、視覚を使い、思考しているときに聴くものだ。聴くものは、思考の邪魔にならないような音楽などが中心となる。日本のラジオは比較的こちらに入るものが多いだろう。 もう一つは、体を使い、思考はそれほどしていないときに聴くものだ。家事や運動、何かの袋詰めや畑仕事など、反復作業をしているときをイメージしてもらうとよいだろう。こうした場合は、BGM的なものでなくても、思考や集中力が必要な学習コンテンツ、オーディオブックなどもマッチする。 日本の音声コンテンツは、前者のBGM的なものは多くあるが、後者の、集中して聴き思考を要するものは諸外国に比較して少ない。情報欲求や学びの欲求が高まる中、思考や学びにつながる音声コンテンツの需要はもっと広がるはずだ。 これはあくまでも私個人の印象なのだが、アメリカや中国などに比べて、日本ではこれまで、「視覚で楽しむ」傾向が強かったように感じられる。ユーチューブですら音を消して見る人が多いし、テレビ番組も、特にバラエティーや情報番組などでは字幕を多用し、視覚情報で楽しむ傾向が強い。このためか、これまでなかなか良質な「面白い」音声コンテンツが生まれる土壌がなかった』、「日本の音声コンテンツは、前者のBGM的なものは多くあるが、後者の、集中して聴き思考を要するものは諸外国に比較して少ない。情報欲求や学びの欲求が高まる中、思考や学びにつながる音声コンテンツの需要はもっと広がるはずだ」、後半部分は本当だろうかと疑問に思う。
・『「聴く習慣」の広がり 聴く習慣がないから良質な音声コンテンツが生まれないのか、良質な音声コンテンツがないから聴く習慣が生まれないのか。おそらくそのどちらでもあるのだろう。私がボイシーのサービスを立ち上げたときも、一番苦労したのは「聴く習慣」を広げることだった。 海外でポッドキャストが急成長している一方、日本でポッドキャストに注目が集まるようになってきたのはつい最近のこと。日本ではまだ、ポッドキャスト専門の制作スタジオや配信サービスは少なく、これまでは、ラジオ局が電波で流している番組をそのままポッドキャストに仕立てたものが多かった。「ポッドキャストといえば、英語学習者が海外の英語コンテンツを聴くためのもの」といったイメージもあったのではないだろうか。 世界的な広告代理店インター・パブリック・グループ・オブ・カンパニーズ(IPG)傘下のマーケティング調査会社であるマグナグローバル(MAGNA)は、日本でこれまでポッドキャストがなかなか伸びなかった理由として、日本ではもともと、海外に比べてデジタルで音声を聴く習慣がないことを挙げている。一例として、「スポティファイが上陸した2016年時点で、音楽市場の8割をCDが占めており、歴史的に、レコードレーベルは楽曲をストリーミングサービスに提供することに抵抗感を持っていた」ことを挙げている。 インターネットを介してアプリなどで聴ける音声コンテンツの老舗といえば、2010年にサービスを開始した「radiko(ラジコ)」がある。ラジオの電波が届かないところを補完する目的で始まり、当初は関東や関西の一部のエリアのみが対象だったが、徐々に対象地域やラジオ局が広がり、現在では民放ラジオ全99局の番組を聴くことができる。スマホのアプリで聴くことができるため、今では「ラジオは聴かないけどラジコは聴く」という若者も多い。 そして2010年代後半から、ほかにもさまざまな音声配信サービスが生まれ始めた。2016年にボイシーがサービスを開始しているほか、2017年には中国発のヒマラヤ、エキサイトの社内ベンチャーとして生まれた「Radiotalk」が始まった。 2018年には韓国の「Spoon(スプーン)」が上陸、ライブ配信やコミュニティー機能を持つ「stand.fm」も開始した。2020年になると、HIKAKINなどの人気ユーチューバーを抱えるUUUMが、「REC.」を立ち上げている。そして2021年に入り、音声SNSのクラブハウスブームが巻き起こったことで、「音声」にようやく注目が集まり始めた。 ただ実は、それよりも前の2020年12月の時点で、「1カ月に1回以上ポッドキャストを聴く人の割合」は14.2%、人口の推定で1123万人にまで増えていたことが、デジタル音声広告を手掛けるオトナルと朝日新聞の共同調査で分かっている。この調査では、ポッドキャストを聴いている人のうちの47.1%は、聴き始めたのが1年以内と回答。そのきっかけとして22.5%が、「スポティファイやAmazon Musicでポッドキャストが聴けるようになったから」と答えている。海外でのポッドキャストブームが、日本にも波及し始めていると言えるだろう。 日本でも「機は熟した」と言えそうだ。私自身も今年に入ってから、音声ビジネスに関する取材が急激に増え、他業界の人からも「ちょっと話を聞きたい」と声を掛けられることが多くなった。 その背景としては、グローバルの動きと同様、音声認識などのテクノロジーの進化と、スマートスピーカーやワイヤレスイヤホンなどのデバイスの普及などがあるだろう。 デバイスの進化が進んでいたところに世界中を襲ったのが、新型コロナウイルスの感染拡大だった。感染拡大を抑えるために、各国でロックダウンや外出自粛が行われ、リモートワークが推進されるようになった。オンライン会議が増え、イヤホンをしながら仕事をする習慣が広がると同時に、いわゆる「Zoom疲れ」「パソコンやスマホの画面疲れ」も引き起こした。そうした人たちが、音声に目を(耳を)向け始めたのは、ある意味自然なことだっただろう』、「海外でのポッドキャストブームが、日本にも波及し始めていると言えるだろう。 日本でも「機は熟した」と言えそうだ」、なるほど。
・『クラブハウスの上陸による「気付き」 そのタイミングで上陸したのが音声SNSのクラブハウスだ。Zoomと違って画面がないので、着替えたり身だしなみを整えたりする必要がなく、何かをしながらでも気軽に参加できる。招待制、iPhoneのみの対応といったハードルにもかかわらず、人と自由に会えない生活が続き、気軽な雑談さえできない寂しさを埋めるのにちょうどいい場として、日本でも爆発的に参加者が増え、ちょっとした「クラブハウスブーム」が起きた。 アメリカのアプリ調査会社センサータワーによると、クラブハウスのユーザーは2020年の5月には数千人程度だったが、2021年2月19日にはアプリのダウンロード数が1000万を超えた。このうち700万は1月25日以降で、日本は約150万を占める。 ポッドキャストの場合、15分から30分程度のものも多いが、1時間程度の番組もあったりと、聴くのに比較的まとまった時間がかかる。一方クラブハウスは、より雑談を聴くのに近く、さまざまな会話が行われているルームを少しずつのぞき見(のぞき聴き)する感覚なので、時間の長さよりもタイミングが勝負。細切れの時間でも十分楽しめる。今まで、わざわざラジオやポッドキャストを聴いたりしなかったような、隙間時間にも入り込んできた。クラブハウスのおかげで「聴く習慣」がついた人も多いはずだ。 上陸から2、3カ月がたつと、当初のブームは沈静化したものの、多くの人が音声の可能性に目を向けるきっかけになった。クラブハウスで話してみて、これまでのテキストや動画での発信と、音声による発信の違いに気付いた人も多いだろう。 また、誰もが目の疲れを感じていたのではないだろうか。一日中パソコンやスマホの画面を凝視し続ける生活には限界がある。特にコロナ下のリモートワークでは、「Zoom疲れ」という言葉が聞かれたように、映像コミュニケーションを負担に感じたり、パソコン画面を見続けることに疲れたりして、画面から離れ目を休ませたいというニーズも増えたようだ。 当初は、「クラブハウスが出てきたせいで、日本の音声サービスは危ないんじゃないか」「海外サービスに蹂躙(じゅうりん)されるんじゃないか」といった意見をよく見かけたが、たくさんの人がクラブハウスを使い、特性について理解を進めるにつれ、そうした意見は聞かれなくなってきた。むしろ、クラブハウスによって日本の音声業界は活性化したし、私もそうしたメッセージを意識的に伝えてきた。 ボイシーについても、当初は「クラブハウスは競合になるのではないか」という見方をしていた人が多かったが、私自身は相乗効果を得られる相手だということを実感している。それはデータにも表れており、ボイシーのユーザー数はクラブハウス上陸前に比べて、3カ月で2.5倍になった。また、リスナーが増えただけでなく、「ボイシーでしゃべりたい」という人も増えた。 それは数字にもはっきり表れている。クラブハウスは、「誰かとしゃべりたい。人の声が聴きたい」という欲求は満たしてくれるが、やはり発信者にしてみると物足りなさが残る。話したことが残らないと、自分の世界観を表現し、維持したいという欲求は満たされないからだ。 ボイシーはおそらく、「自分の声を残しておきたい」「自分の場所をつくりたい」「フォロワーの反応も知りたい」といった欲求を持った発信者や、「クラブハウスで話すことの楽しさを知り、もっとやってみたくなった」という人たちの、受け皿になったのだと思う。 クラブハウスブームの数カ月前までは、1カ月に5人くらいしか新しいパーソナリティーを増やしていなかったが、2021年2月には一気に50人ほど増えた。パーソナリティーへの応募数自体が増え(パーソナリティーは応募者の中からボイシーが選考している)、かつそのレベルも上がったからだ』、「クラブハウスは、「誰かとしゃべりたい。人の声が聴きたい」という欲求は満たしてくれるが、やはり発信者にしてみると物足りなさが残る。話したことが残らないと、自分の世界観を表現し、維持したいという欲求は満たされないからだ。「ボイシーはおそらく、「自分の声を残しておきたい」「自分の場所をつくりたい」「フォロワーの反応も知りたい」といった欲求を持った発信者や、「クラブハウスで話すことの楽しさを知り、もっとやってみたくなった」という人たちの、受け皿になったのだと思う」、さて「クラブハウス」や「ボイシー」は今後、どうなってゆくのだろう。
次に、9月30日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した情報工場チーフ・エディターの吉川清史氏による「クラブハウスが下火になっても「音声メディア」の可能性が広がり続ける必然~『ボイステック革命』(緒方憲太郎 著)を読む」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/282749
・『視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のチーフ・エディターである吉川清史が豊富な読書量と取材経験などからレビューします』、興味深そうだ。
・『「クラブハウス」ブームが示した「声」の可能性 2021年初頭のインターネット界隈で話題をさらったものといえば、「クラブハウス」が筆頭に挙がるのではないだろうか。これは周知の通り、米国発の「音声」に特化したSNSだ。本国でサービスがローンチされたのは2020年4月だが、2021年1月に本格的に日本上陸を果たす。すると、何人もの有名人が発信を始めたこともあり、またたく間に利用者が拡大、一大ブームとなった。 だが、3月に入る頃には、早くも人気が沈静化。もちろん使用が習慣化しているユーザーも少なくないのだろうが、今では話題に上ることも少なくなった。 人気が衰えた理由については、さまざまなメディアで考察されているが、おそらく、参加が「招待制」だったことが大きいのではないか。7月に「ベータ版」終了とともに自由に参加できるようになったが、当初は既存ユーザーから招待されなければ入会できず、しかも招待枠が1人2枠しか与えられていなかった。 また、5月にAndroid版アプリが配布されるまで、iPhoneでしか使えず、アプリの使い勝手も決して良いとはいえなかった。さらに、発信された音声は録音不可で、リツイートのように拡散できない仕様になっていた。クローズドなサービスのまま人気が爆発したために、ユーザー拡大のチャンスを逸したのだろう。 しかし、クラブハウスが示した「音声メディア」の可能性はついえたわけではない。フェイスブックは今年4月に、音声特化型SNSサービスの新設を発表、6月に米国で「Live Audio Rooms」という名でスタートした。ツイッターも、昨年12月からテストを行っていた音声チャットサービス「Space」を、今年5月からフォロワー数600人以上のユーザー限定で正式スタートしている。 アップルやアマゾン、スポティファイなどで配信されているポッドキャストの人気も高い。今年7月期放送の深夜ドラマ「お耳に合いましたら。」(テレビ東京系)は、元乃木坂46の伊藤万理華さん扮する主人公がポッドキャスト番組を始めるストーリーで、スポティファイのポッドキャスト番組との連動も注目された。 本書『ボイステック革命』では、国内の音声メディアVoicy(ボイシー)の創業者でCEOを務める緒方憲太郎氏が、クラブハウス人気で弾みがついた「ボイステック(音声関連のテクノロジー)」市場の現状と可能性について詳細に解説している。 緒方氏が主宰するボイシーは2016年に創業。現在、ビジネスのプロや芸能人などの「声のブログ」、4大マスメディアの記事が声で聴ける「メディアチャンネル」、企業が発信する「声の社外報」「声のオウンドメディア」など500以上のチャンネルが楽しめる音声プラットフォームとなっている。昨今の「音声ブーム」や、コロナ禍の「巣ごもり需要」もあり、昨年末時点で約100万人だった月間ユーザー数は、今年3月には約250万人と、急激に増加している』、ずいぶん急速に「月間ユーザー数」が増えたものだ。
・『「ながら聴き」と手軽な発信が音声メディアのメリット 緒方氏によると、音声メディアの最大のメリットは「ながら聴き」ができることだ。昔ながらのラジオも同様だが、流しておけば、家事や仕事、食事など何か別のことをしながら楽しめる。この点で音声は、テキストや動画に比べ、圧倒的に有利だ。 さらに、ながら聴きを容易にしているのが、Amazon Echo、Google Homeといったスマートスピーカーや、アップルのAirPodsをはじめとするワイヤレスイヤホンの普及だ。私の知人にも、仕事から帰宅してから寝るまで、ほぼワイヤレスイヤホンを付けっ放しという人がいる。 音声コンテンツを「発信」する側の手軽さもメリットだ。ポッドキャストの場合、スマホの録音ボタンをタッチしてしゃべるだけで、コンテンツができ上がる。10分のコンテンツを作るのに(録り直しをしなければ)10分しかかからない。テキストや動画の場合、こうはいかないだろう。動画は編集の手間と時間がかかるし、文章を書くにはそれなりの時間がかかる。 これまで多忙で、SNSなどに投稿する時間がなかった人たちでも、音声メディアならば気軽に発信側にもなれる。忙しくてスマホの画面チェックもままならなかった人でも「ながら聴き」で情報収集の幅を広げられる。このようにして音声メディアは、ネットコミュニティーへの参加者を格段に増やす働きをする可能性があるのだ。 そもそも、インターネット上の情報発信やコミュニケーションは、当初は技術的な制約からテキストベースで始まった。その後、日進月歩の技術進化により大きな画像や動画もストレスなく送信、閲覧できるようになったものの、利用者数の多いツイッターやLINEのコミュニケーションは、テキストによるものが主流だ。 テキストで伝えられる情報量は、リアルな対面に比べ圧倒的に少ない。画像や動画、さらにはVR(仮想現実)などが使えるのであれば、より多くの情報が伝えられ、コミュニケーションを深められるはずだ。それなのに、VRはさほど普及せずに、現状、多くの人がテキストのコミュニケーションで満足している。 おそらく現代のネットユーザーの多くは、「深いコミュニケーション」をネットに求めていないのだろう。それよりも、手軽さを優先させる。浅いコミュケーションや情報交換を、多く行う。ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、著書『広く弱くつながって生きる』(幻冬舎新書)の中で、「浅く、広く、弱い」つながりこそが、これからの時代の人間関係のあり方と述べている。 おそらく、これからもテキストによるコミュニケーションは主流であり続けると思われる。そして、それに次ぐネットでのコミュニケーション手段として「音声」が台頭してくるのではないだろうか』、「これからもテキストによるコミュニケーションは主流であり続けると思われる。そして、それに次ぐネットでのコミュニケーション手段として「音声」が台頭してくるのではないだろうか」、なるほど。
・『声はうそをつかない その人の全てが表れる 緒方氏は、音声の「本人性」の高さも強調する。テキストは、たとえ署名があったとしても、本当に本人が書いたかどうかわからない。手書きならば筆跡でわかるかもしれないが、画面上の文字で判断するのは難しい。画像や動画も、いわゆる「盛っている」ことがままあり、アップした本人の本当の姿であることは、むしろまれだ。その点、音声は、声質や話し方に個性や「人となり」が表れやすい。 音楽・音声ジャーナリストの山﨑広子氏が著した『声のサイエンス―ーあの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか』(NHK出版新書)によると、人が声を出す時には、口だけでなく、体のさまざまな器官を総動員しており、そのため声には、身長、体格、顔の骨格、性格、生育歴、体調から心理状態まで、その人の全てが表れる。言葉でうそはつけても、声はうそをつかないのだという。 緒方氏は、「ボイステック」の事例として、2012年に設立された医療系ボイステックベンチャー企業PSTによる、「声」をAI分析して、うつ病や認知症、パーキンソン病などの診断に役立てる試みを紹介している。 また山﨑氏は、私たちのほとんどは普段「作り声」を出しているが、「本物の声」を出すことで、心身を健全に保つとともに、人の心を動かせるのだと述べている。 ボイシーでは、人気を集めるパーソナリティー(メディアで話をする人)は、豊かな人生を生きる、人間として魅力のある人が多いのだそうだ。彼らはおそらく「本物の声」で話しているのだろう。そのために、話の内容だけでなく、その人の生き方が声を通して伝わり、ファンになるリスナーが後を絶たないとのことだ。 コロナ禍は、テクノロジーでは補強しきれない、生身の「人間」の弱さを改めて認識させることになった。GAFAをはじめとするテック企業が今、音声に注目するのは、もしかしたら生身の人間が持つ力を取り戻そうとする動きなのかもしれない』、「コロナ禍は、テクノロジーでは補強しきれない、生身の「人間」の弱さを改めて認識させることになった。GAFAをはじめとするテック企業が今、音声に注目するのは、もしかしたら生身の人間が持つ力を取り戻そうとする動きなのかもしれない」、「生身の人間が持つ力を取り戻そうとする動き」であればいいのだが・・・。
第三に、10月15日付け東洋経済オンラインが掲載した作家・元外務省主任分析官の佐藤 優氏による「SNSがアメリカと日本にもたらした「真逆の現象」 どちらもコミュニケーション不全状態に」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/462069
・『いまの社会は、SNSの発達などによりコミュニケーションツールは非常に充実しています。しかし、本当にそれによって私たちはコミュニケーションをうまく行えているでしょうか?ちょっと考えてみても、じつに怪しく心もとない感じがします。私は、SNSがじつは人間関係を結びつけるどころか、むしろ分断するツールになると思っています。その理由を拙著『読解力の強化書』をもとに解説します』、「SNSがじつは・・・人間関係を・・・分断するツールになる」、とは思い切った仮設だ。
・『ある現象によって分断されるアメリカ SNSが私たちを分断するツールになる──。そんな危険性が巷に知られるようになったのは、2008年、バラク・オバマがマケインを破り大統領に就任した際の、選挙戦にさかのぼります。 当時、民主党のオバマ陣営はSNSを駆使してライバルに大きな差をつけて勝利しました。陣営と支持者たちの間で、SNSを通じてさまざまなやり取りが行われました。それが集票につながった、最初の大統領選挙だと言われています。 その後、あるリサーチャーによる調査によって、面白い現象が明らかになりました。民主党と共和党のそれぞれのブログコミュニティーのつながりを解析したのです。すると、それぞれのつながりの中で完結し、両党の間でのコミュニケーションがほとんど行われていなかったのです。 このことによって、SNSは同質性の高い集団の中においてはコミュニケーションを活性化させる働きが強い一方、立場や意見が違う者同士を排除する閉鎖性が強いツールであることが指摘されるようになりました。 その後、共和党のドナルド・トランプが登場し、民主党のヒラリー・クリントン候補を破った大統領選挙では、この傾向にますます拍車が掛かりました。この頃から言われるようになったのが、「エコーチェンバー現象」と言われるものです。 エコーチェンバー現象とは、ある人物の意見や主張が、肯定され評価されながら、集団内のメンバーによって繰り返される現象を言います。それはあたかもこだまが鳴り響くかのように反響し、共鳴して、集団内で一層大きく強力なものになっていきます』、「SNSは同質性の高い集団の中においてはコミュニケーションを活性化させる働きが強い一方、立場や意見が違う者同士を排除する閉鎖性が強いツールであることが指摘されるように」、「エコーチェンバー現象」によって、「こだまが鳴り響くかのように反響し、共鳴して、集団内で一層大きく強力なものになっていきます」、SNSの危険性を的確に指摘している。
・『主義主張の違うもの同士の対立を煽った トランプの過激なツイッターの投稿が、支持者たちの間でリツイートされながら、エコーチェンバー現象によって大きな力になっていった。それによって巷の予想を裏切り、多くの支持を集めたトランプは大統領に就任します。 彼は大統領就任後もSNSの力を最大限利用し、ときに相手をおとしめ誹謗するかのようなツイートを上げながら、自らの支持者をより熱狂的なトランプ教の信者に仕立て上げます。彼が行ったことは、民主主義の下での国民同士の対話ではなく、主義主張の違う者同士の対立と敵対感情を煽り、結果的にアメリカを分断することでした。 その結末が、2021年1月6日、1000名近いトランプ支持者が、選挙の不正を訴え、バイデンの大統領就任を阻止するべく、連邦議会を襲撃した事件です。そして彼らの多くが、トランプこそがさまざまな陰謀からアメリカや国民を救う救世主であり、バイデンなどの民主党やその支持者は、自らの利権と権力をほしいままにするために真実を歪め不正を働く、悪の集団だと信じていました。 この事件によって、ここ数年の間でアメリカに深刻な社会的な分断が起きていることが明らかになりました。同質性の高い内輪のコミュニケーションだけで完結し、異質なものを排除する。エコーチェンバー現象によって自己正当化が行われ、対立や分断が深まる。その結果が、この事件だと言えるでしょう。 他者の存在を意識し、認識するところから始まる、本来の民主主義の理念はすでにそこにはありません。 代わってはびこったのが、自分たちと立場を異にする者に対する敵愾心や恐れでしょう。そして誰かが自分たちの立場や利益を脅かそうと目論んでいるに違いない、という被害妄想、被害者意識が生まれてくる。それによって自己保身的に他者を排除したり、攻撃したりする排外主義が大手を振って台頭しているのです。 言葉を換えて言うならば、アメリカ人が対象を理解しようとする「読解力」を決定的に失ってしまった、ということに他なりません』、「はびこったのが、自分たちと立場を異にする者に対する敵愾心や恐れでしょう。そして誰かが自分たちの立場や利益を脅かそうと目論んでいるに違いない、という被害妄想、被害者意識が生まれてくる。それによって自己保身的に他者を排除したり、攻撃したりする排外主義が大手を振って台頭しているのです」、ツイッター社やフェイスブック社が、「トランプ」のフェイクニュースなどを阻止したのも、SNSのマイナス面を意識した行動なのだろう。
・『「異質な意見」が入りにくくなりがちに 翻って日本はどうでしょうか?アメリカほど深刻な分断が起きているわけではありません。しかしながら、日本の場合は、社会全体が一つのコンセンサスに基づいて一元化しがちです。アメリカのように分断、分裂化するほどの社会的なダイナミズムがあるわけではありませんが、同調圧力が高く、エコーチェンバー現象が起きやすい文化的な土壌があるように思います。 その上にネットやSNSツールの持つ閉鎖性が重なることで、同じ考え方や価値観を持った、同質性の高い者同士でネットワークが完結し、異質な意見が入り込みにくくなりがちです。自分たちの考えや意見が、あたかも多数派のように錯覚してしまうのです。 自分にとって心地よく都合の良い情報ばかりに囲まれ、いつしかそれが当たり前になってしまう。しかもSNSでやり取りするのは、皆自分と同じ意見の人たちばかり……。それが続くとどうなるか? 自分の意見や価値観が大多数の意見だと錯覚し、自分にとって異質な情報、都合の悪い情報を受け入れる許容力がなくなってしまうでしょう。コミュニケーションツールはたくさんあり、その中でのやり取りは膨大ですが、その内容は非常に貧困でワンパターンなものばかりです。 一見コミュニケーションがたくさんあるようで、じつはコミュニケーション不全の状態といってよいでしょう。そこでは決定的に「読解力」が失われていくことになるのです。 その流れの中で起きているのが、ときに過剰に思える日本礼賛ムードだと思います。テレビの番組でも、相変わらず日本の伝統文化や科学技術などを外国人に紹介し、彼らが驚き、賞賛する様子を映すという、日本礼賛番組がゴールデンタイムに流されます。 このような日本礼賛ものは、最近はとくにYouTubeなどに比重が移ってきているように感じます。「中国人が日本のラーメンのおいしさに絶句!」「日本の街の美しさに驚く欧米人」といったタイトルの動画が目立ちます。 あたかも、日本人が他国民に比べて文化度が高く、手先が器用で繊細で、創造的なセンスにあふれた国民であるような気持ちになる。 ですが、ちょっと目を転じれば、多くの国々にもモノづくりの確固とした歴史や伝統があり、古くからの地場産業が栄え、世界的なブランドが出ている地域がたくさんあります。それらに目を向けようとせず、十分な比較や検証もなく、自分たちの文化が優れている、特殊だと考えるのは単なる思い込みで、自己満足的な妄想に近いのです』、「日本礼賛ムード」のなかでも特にいやらしいのは、政府が旗を振るクール・ジャパン運動や、NHKの番組だ。これについては、このブログの2019年8月26日にも取り上げた。
・『ワイプで人の表情を抜く目的は? テレビの話が出たついでにもう1つ。ワイドショーなどで、出演者たちの表情をワイプ(注)で抜くことがいまや当たり前になっています。悲惨なニュースには悲しい出演者の顔を映し出し、楽しい話の時には笑顔が映る。30年ほど前にはなかった映像手法だと思います。果たしてそのような映像が必要かと私などは思いますが、ワイプで誰かの表情を確かめないと安心できないということなのでしょうか。 1つの出来事に対する反応や判断は人それぞれですから、いろんな反応、表情があったっていい。ところがワイプに出て来る表情は、皆同じです。もし、心和むような話の時に苦虫をかみつぶしたような表情をしていたら?きっとツイッターなどでさんざんに叩かれるでしょう。 ある出来事に対して、誰もが同じ感覚、同じ感情を持たなければいけない。そんな同調圧力のようなものを感じるのは、私だけではないと思います。 皆が笑っている時につまらなそうにしていたり、皆が悲しんでいる時に平然としていたりするのを許さない。いまの日本の社会の同調圧力、異質なものを認めないという傾向が表れているようにも思えます。つまり、異質なものに対する耐性が弱いということでしょう。自分と異質なものに対する恐怖心が、かなり強くなっているのではないでしょうか』、「いまの日本の社会の同調圧力、異質なものを認めないという傾向が表れているようにも思えます。つまり、異質なものに対する耐性が弱いということでしょう。自分と異質なものに対する恐怖心が、かなり強くなっているのではないでしょうか」、強く同感する。
(注)ワイプ:画面Aが紙芝居のように横に引き抜かれて、次の画面Bに替わること(Wikipedia)
タグ:SNS ソーシャルメディア (その10)(「クラブハウス」の狂乱が日本に残したもの、クラブハウスが下火になっても「音声メディア」の可能性が広がり続ける必然~『ボイステック革命』(緒方憲太郎 著)を読む、SNSがアメリカと日本にもたらした「真逆の現象」 どちらもコミュニケーション不全状態に) 日経ビジネスオンライン 「「クラブハウス」の狂乱が日本に残したもの」 緒方憲太郎氏による著書『ボイステック革命 ~GAFAも狙う新市場争奪戦~』 「「少なくとも月に1回はポッドキャストを開く人口」・・・はアメリカが26%、中国が29%と大きく、日本は8%にとどまっている」、これは大きな開きだ。ただ、「中国」が多い理由は何故なのだろう。 「スマートスピーカーは、今や「1家に1台」から「1部屋に1台」の時代になっているともいわれ、アメリカ人が音声コンテンツに触れる時間はどんどん長くなっている」、日本とはずいぶん違うものだ。 「同社が、「音楽の次」のコンテンツとして、ポッドキャスティングをターゲットとしているのは明白」、「今やアメリカの12歳以上の人口の37%がポッドキャストを聴いているとの試算も」、日米でこれほど違いがあるのも珍しい。 「もともと中国では、文字入力の煩雑さなどから音声入力のニーズが高く、音声認識の技術も進んでいた。そして現在の中国のポッドキャスト市場は、有料コンテンツのユーザーの多さが一つの特徴となっており、その規模は70億ドルと、アメリカの音声市場(130億ドル)の半分以上にも達する」、なるほど、同じ漢字を使っているとはいえ、日中の違いも大きいようだ。 「日本の音声コンテンツは、前者のBGM的なものは多くあるが、後者の、集中して聴き思考を要するものは諸外国に比較して少ない。情報欲求や学びの欲求が高まる中、思考や学びにつながる音声コンテンツの需要はもっと広がるはずだ」、後半部分は本当だろうかと疑問に思う。 「海外でのポッドキャストブームが、日本にも波及し始めていると言えるだろう。 日本でも「機は熟した」と言えそうだ」、なるほど。 「クラブハウスは、「誰かとしゃべりたい。人の声が聴きたい」という欲求は満たしてくれるが、やはり発信者にしてみると物足りなさが残る。話したことが残らないと、自分の世界観を表現し、維持したいという欲求は満たされないからだ。「ボイシーはおそらく、「自分の声を残しておきたい」「自分の場所をつくりたい」「フォロワーの反応も知りたい」といった欲求を持った発信者や、「クラブハウスで話すことの楽しさを知り、もっとやってみたくなった」という人たちの、受け皿になったのだと思う」、さて「クラブハウス」や「ボイシー」は今後、どう ダイヤモンド・オンライン 吉川清史 「クラブハウスが下火になっても「音声メディア」の可能性が広がり続ける必然~『ボイステック革命』(緒方憲太郎 著)を読む」 ずいぶん急速に「月間ユーザー数」が増えたものだ。 「これからもテキストによるコミュニケーションは主流であり続けると思われる。そして、それに次ぐネットでのコミュニケーション手段として「音声」が台頭してくるのではないだろうか」、なるほど。 「コロナ禍は、テクノロジーでは補強しきれない、生身の「人間」の弱さを改めて認識させることになった。GAFAをはじめとするテック企業が今、音声に注目するのは、もしかしたら生身の人間が持つ力を取り戻そうとする動きなのかもしれない」、「生身の人間が持つ力を取り戻そうとする動き」であればいいのだが・・・。 東洋経済オンライン 佐藤 優 「SNSがアメリカと日本にもたらした「真逆の現象」 どちらもコミュニケーション不全状態に」 「SNSがじつは・・・人間関係を・・・分断するツールになる」、とは思い切った仮設だ。 「SNSは同質性の高い集団の中においてはコミュニケーションを活性化させる働きが強い一方、立場や意見が違う者同士を排除する閉鎖性が強いツールであることが指摘されるように」、「エコーチェンバー現象」によって、「こだまが鳴り響くかのように反響し、共鳴して、集団内で一層大きく強力なものになっていきます」、SNSの危険性を的確に指摘している。 「はびこったのが、自分たちと立場を異にする者に対する敵愾心や恐れでしょう。そして誰かが自分たちの立場や利益を脅かそうと目論んでいるに違いない、という被害妄想、被害者意識が生まれてくる。それによって自己保身的に他者を排除したり、攻撃したりする排外主義が大手を振って台頭しているのです」、ツイッター社やフェイスブック社が、「トランプ」のフェイクニュースなどを阻止したのも、SNSのマイナス面を意識した行動なのだろう。 「日本礼賛ムード」のなかでも特にいやらしいのは、政府が旗を振るクール・ジャパン運動や、NHKの番組だ。これについては、このブログの2019年8月26日にも取り上げた。 「いまの日本の社会の同調圧力、異質なものを認めないという傾向が表れているようにも思えます。つまり、異質なものに対する耐性が弱いということでしょう。自分と異質なものに対する恐怖心が、かなり強くなっているのではないでしょうか」、強く同感する。 (注)ワイプ:画面Aが紙芝居のように横に引き抜かれて、次の画面Bに替わること(Wikipedia)