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暗号資産(仮想通貨)(その20)(かつての仮想通貨バブルとは何が違うのか ビットコイン「史上最高値」700万円超えの真贋、焦点は供給量が10兆円を超す「テザー」 金融当局が警戒する「ステーブルコイン」の膨張、ビットコイン「爆上げ」のウラで「大型アップデート」のヤバすぎる中身 買いなのか、売りなのか…?) [金融]

暗号資産(仮想通貨)については、9月28日に取上げた。今日は、(その20)(かつての仮想通貨バブルとは何が違うのか ビットコイン「史上最高値」700万円超えの真贋、焦点は供給量が10兆円を超す「テザー」 金融当局が警戒する「ステーブルコイン」の膨張、ビットコイン「爆上げ」のウラで「大型アップデート」のヤバすぎる中身 買いなのか、売りなのか…?)である。

先ずは、11月18日付け東洋経済Plus「かつての仮想通貨バブルとは何が違うのか ビットコイン「史上最高値」700万円超えの真贋」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/28800
・『一時は下火になったビットコインの価格が息を吹き返している。11月には史上最高値を更新。いったい何が起きているのか。 「日本円を持っていてもしかたがない。各国がマネーを大量に刷って法定通貨の価値は薄まっている。法定通貨で長年貯金しておくことなど愚かなこと」 ビットコインを大量保有する30代男性はそう言い切る。懸念するのは円やドルなどの通貨価値が下がるインフレだ。日本では2020年の資金決済法の改正で、法令上の呼称が「仮想通貨」から「暗号資産」に変わった。その筆頭格であるビットコインの価格は11月11日、777万円をつけ史上最高値を更新した(価格は国内大手交換所のビットフライヤー)。 前出の男性は、国家のような発行主体のない仕組みに魅せられて2014年からビットコインを購入した。保有価値については明言を避けるが、2ケタ億円に迫るとみられる。当面は円などには換えず、「ビットコインで“貯金”しておく」という』、税務署は「暗号資産」で億り人などが発生していることに着目しているらしいので、個人だと税務申告が大変だろう。
・『上場企業が「長期保有」を表明  こうした動きは個人だけではない。東証1部上場企業で、パソコンやスマートフォン向けオンラインゲームを手がけるネクソンもそうだ。今年4月に1億ドル(約110億円)相当のビットコインを取得した。 その後のビットコインの価格変動により、2021年6月末に約45億円の評価損計上を迫られたが、9月末には17億円の損失戻し入れとなった。市況に翻弄されているともいえるが、同社は意に介さない。11月9日に開いた2021年1~9月決算説明会で、植村士朗CFOは次のように述べた。 「通貨として保有しているので目先の上下は気にしていない。中長期的に保有する通貨として、価値を見いだしている」 暗号資産は、銀行などの第三者を介さずにネット上でやりとりできる「財産的価値」で、円などの法定通貨と交換できる。ただ暗号資産そのものに価値が保証されているわけではない。そのため価格は市場の期待に大きく左右される。 2017~2018年にかけての“仮想通貨バブル”をピークに完全に下火になっていた。2020年後半からにわかに値を上げ、2021年4月に690万円と当時の最高値をつけた。が、その後はビットコインをめぐっては悪材料が続いた。 電気自動車メーカー・テスラのCEOであるイーロン・マスク氏が、電力を大量消費する環境負荷の高さを批判。2021年はじめには「私はビットコインのサポーターだ」と発言するなど、「親ビットコイン派」として期待が高まっていただけに冷や水となった。9月には中国政府が暗号資産関連サービスの全面禁止を発表した。 しかし市場はそれらをこなした。ここに来て再び値を上げ最高値を更新しているのは、ビットコイン先物に連動する上場投資信託(ETF)が10月にアメリカで初上場したことなどを好感したようだ』、「マスク氏」の発言は、相場操縦的色彩が濃厚だ。「ビットコイン先物に連動する上場投資信託(ETF)が10月にアメリカで初上場」、は市場に厚みをもたらすいいニュースだ。
・『機関投資家の金も流れ込む  購入層の裾野拡大によって相場が支えられていることも大きい。値上がり期待で買う個人だけなく、ネクソンのような事業会社が購入している動きは、2017年にはみられなかった。 相場への影響力という点だと注目すべきは機関投資家の参入だろう。「グレイスケール」など暗号資産に投資するアメリカのファンドを通じて、機関投資家マネーが流れ込んでいる。コロナ禍を受けた景気対策で金余りとインフレ懸念が加速したこともあって、ビットコインに投資する動きは一段と広がっている。 アメリカの暗号資産交換所大手「クラーケン」の調査によると、グレイスケール(注)などを通じてビットコイン市場に流入した機関投資家の資金は、10月第3週だけで14.7億ドル(約1600億円)を超えた。これは過去最高の水準だという。なお、ビットコインで運用するグレイスケールのファンドの運用資産残高は、直近で400億ドル超(4.4兆円超)に達する。 暗号資産の中で史上最高値をつけているのはビットコインだけではない。時価総額でビットコインに次ぐ2位のイーサリアムも同様だ。イーサリアムの場合、いわば暗号資産の周辺領域の拡大が価格上昇の要因として指摘できそうだ。 ビットコインなどと同様にブロックチェーン(暗号資産を支える根幹のデジタル技術)の上で発行されるものの、法律上では暗号資産に該当しないものがある。たとえば、ドルなど法定通貨の価値に価格が連動するステーブルコイン、法的には有価証券に該当し「デジタル証券」と紹介されるセキュリティトークン、デジタルアートやオンラインゲームで用いられるNFT(非代替性トークン)などだ。 また、暗号資産を持つ人たちの間で融資などの金融サービスが活発となっている。「ディーファイ」(DeFi=decentralized finance)と呼ばれ、「分散型金融」と訳されるこのサービスは、金融機関のような仲介者がなく、プログラムによって自律的にサービスを提供するのが特徴だ。ディーファイ上で運用される暗号資産の総額は約1100億ドル(約12兆円)にも上る。 これらNFTやディーファイで主に使われているのが、イーサリアムのブロックチェーンだ。既存の金融市場とは異なる市場が暗号資産を含めたブロックチェーン上で生まれており、そのような動きに対する期待もイーサリアムの価格には織り込まれている』、「ドルなど法定通貨の価値に価格が連動するステーブルコイン・・・「デジタル証券」と紹介されるセキュリティトークン、デジタルアートやオンラインゲームで用いられるNFT(非代替性トークン・・・「ディーファイ」(DeFi)ずいぶん裾野が広がったようだ。
(注)グレイスケール:米投資会社で、暗号資産(仮想通貨)を中心とする投資ファンドを運用(coindesk)
・『日本は置いてけぼり?  ひるがえって日本はどうか。クラーケン・ジャパンの代表である千野剛司氏は、暗号資産取引高をみて「日本は置いてけぼりになりつつある」と見る。 欧米を中心に交換所サービスを展開するクラーケンの現物取引高は、2021年1~9月で約52兆円。年後半にビットコインなどの価格が上がった2020年の年間取引高と比べても約4.7倍と大きく増えた。 一方、金融庁登録の国内交換所が加盟する日本暗号資産取引業協会によると、日本国内の現物取引高は約29兆円(2021年1~9月)。2020年の1年間と比べると2.6倍になっているが、取引高はクラーケン1社より低いうえに伸び率も見劣りする。 2017年にビットコインの価格が高騰したとき、世界の中でも日本円での取引が最も多く、一時は「仮想通貨の先進国」と呼ばれた。が、2018年に起きた国内交換所の流出事件を挟んで、その覇気は失われたかのようだ。 それでも、暗号資産は独自のサービスや経済圏が形成され、機関投資家や企業が保有するなど、その意義も変わりつつある。日本にかつての熱気はないものの、暗号資産をめぐる新たな潮流に目を背けてばかりはいられないだろう』、「日本は置いてけぼり?」といった事態は避けたいものだ。

次に、11月18日付け東洋経済Plus「焦点は供給量が10兆円を超す「テザー」 金融当局が警戒する「ステーブルコイン」の膨張」、を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/28801
・『暗号資産の高騰に注目が集まる中、世界的な規制の動向がその価格動向を大きく左右しかねない。 「気持ち悪いくらい予想が当たっている」。金融界の動向を長年分析してきたマネックス証券チーフ・アナリストの大槻奈那氏が、思わずそう口にする相場予想サイトがある。「The Economy Forecast Agency(EFA)」だ。 同サイトでは、ビットコインなど暗号資産の5~15年後までの予想価格が「独自分析」に基づき掲載されている。2021年3月に掲載されていた予想価格を大槻氏が改めてみると、その後のビットコイン価格の推移はチャートの波動を含めてほぼ一致していた。 ドル建てのビットコイン価格は、11月に6万8900ドルの史上最高値をつけたばかり。同サイトは12月に7万ドル台をつけ、2022年の年末には14万ドル超の水準に達することを予想する(11月16日時点)。大槻氏もさすがにこの予想には首をかしげる。先行きは金融当局の規制動向に左右されると考えるからだ』、「大槻氏もさすがにこの予想には首をかしげる」、良心的なアナリストらしい。
・『国際機関が注目する暗号資産  一時は完全に下火になっていた暗号資産の価格が2020年から再び値上がりする中、その動向への注目度は国際的に高まっている。 各国の為替政策の監視などを行うIMF(国際通貨基金)。半年に1度まとめる「国際金融安定性報告書」の2021年10月版は暗号資産に一章を割いた。その主題は「暗号資産ブームが金融の安定性に新たな課題を突きつける」というものだった。 報告書は、革新的な金融サービスなどをもたらすと暗号資産を評価する一方で複数のリスクを指摘した。その1つが「安定した(ステーブル)」という言葉を冠する「ステーブルコイン」をめぐるものだ。 ステーブルコインは、価値の裏付けとなる資産をコインの発行企業が保有することで価格を安定させる。代表格は香港に拠点を置くテザー社の発行する「テザー(USDT)」。1USDT=1ドルといったように、多くのステーブルコインはアメリカドルに価値を固定させることを目指す。 IMFによれば、市場に供給されているステーブルコインは1200億ドル(約13兆円)に迫る。GDP世界3位の日本国内の現金(預金を除く)が約111兆円なので、無視できない規模といえるだろう。 では、どのように使われているのか。「海外では機関投資家などが暗号資産取引を行うときに入れる担保として多く使われている」。そう解説するのは、アメリカの暗号資産交換所大手「クラーケン」の日本法人代表である千野剛司氏だ。 担保に使う場合、法定通貨を金融機関経由で国際送金すると時間がかかってしまい資金効率は下がる。電子データであるビットコインなら簡単に送金できるが、価格変動の激しさがネックとなって担保価値が大きく変動する。 それに対してステーブルコインは、簡単に送金でき、ビットコインのように大きく価格が動かないので使い勝手がいい。実際、世界の主要交換所の取引高に占める比率でも、テザーを筆頭にステーブルコインが過半となっている』、IMFが取上げたとは、金融システムの安定にとって、無視できない存在になったからだろう。「世界の主要交換所の取引高に占める比率でも、テザーを筆頭にステーブルコインが過半となっている」、「ステーブルコイン」の比重がここまで高まっていたとは初めて知った。
・『取り付け騒ぎの可能性  存在感が高まっているものの、IMFは警告する。ステーブルコインの裏付け資産の中身に投資家が懸念を持ったとき、「一部のステーブルコインに対しては取り付け騒ぎが起こる可能性があり、その影響が金融システムに波及しかねない」というのだ。 明示はしていないが、この「一部のステーブルコイン」はテザーを指すとみられる。テザー社の公表資料では、2021年6月末時点の裏付け資産630億ドルのうち、半分がコマーシャルペーパー(CP)だ。 CPは企業が短期資金調達のために無担保で発行する約束手形。テザー社はCPが取得しているという信用格付けを公表している。その格付は信用力の高いA格がほとんどだが、どんな企業が発行したCPなのかは明らかにしていない。 そのために疑念が晴れない。アメリカの投資会社であるヒンデンブルグ・リサーチは、テザー社が保有するCPに関する情報提供者に100万ドル(約1億1000万円)の報奨金を出すと発表した。ヒンデンブルグ・リサーチは企業の不正や疑惑を告発しつつ、株の空売りを仕掛けることで知られる。 当局も目を光らせている。2021年10月にはCFTC(米国商品先物取引委員会)が、テザーの裏付け資産について、過去の説明に虚偽または誤解を招くものがあったとして罰金の支払いを命じている。また、アメリカの当局は、ステーブルコインの発行企業を預金取扱機関である銀行として実質的に扱うことで、厳しい監督規制を課す方向へと舵を切っている。 既存の金融秩序に足並みをそろえるように迫る規制はむしろ、ステーブルコインの存在意義を当局が認める第一歩になるとみる向きは少なくない。ただ、規制の動きが具体化した際には暗号資産市場の混乱要因になりそうだ。ステーブルコインはいまや暗号資産の世界で「経済活動の血流」のような役割を担っているからだ。 先述したような取引時における担保としてだけでなく、「ディーファイ(DeFi=decentralized finance)」でもステーブルコインは使われている。ディーファイは「分散型金融」と訳され、暗号資産を持つ人たちの間で融資などの金融サービスが活発に行われている』、「ステーブルコインはいまや暗号資産の世界で「経済活動の血流」のような役割を担っている」、「取引時における担保としてだけでなく、「ディーファイ(DeFi=decentralized finance)」でもステーブルコインは使われている」、「アメリカの当局は、ステーブルコインの発行企業を預金取扱機関である銀行として実質的に扱うことで、厳しい監督規制を課す方向へと舵を切っている」、銀行並みの規制が課されれば大きな影響が避けられない。
・『規制への耐久力が試される  「どのような手順でどこまで規制するかをしっかり検討してくれないと、ディーファイなど新たに生まれた市場やイノベーションが台無しになりかねない」(クラーケン・ジャパンの千野氏)。アメリカであれば、規制とイノベーション促進のバランスをうまく取るだろうとの期待がある一方、その締め付けが予想以上に厳しくなるという懸念も拭えない。 詐欺的なサービスも少なくないディーファイは別として、マネックスの大槻アナリストは、新たな規制が暗号資産市場に与えるマイナスインパクトは過去より小さくなるだろうと見込む。流れ込む資金が巨大化し、参加者が多くなった市場は金融当局も潰しにくい。要は、「Too big to fail(大きすぎてつぶせない)」だ。 ただ、大槻氏はこうも語る。 「株式投資家には、企業の成長をサポートしつつ配当を含めたトータルリターンを得るという目的がある。では、暗号資産市場の投資家たちは何を求めているのか。投機だけなのだろうか。新しい金融システムへの期待が背景にあるなら成長もありうるが、投機だけならいつ消えても誰も迷惑しない市場である」 暗号資産やブロックチェーンに心酔する人たちからすれば、辛辣な意見に聞こえるかもしれない。だが、大槻氏のように市場の拡大に一定の理解を示す側からもこのような声が出るのは、暗号資産市場の健全性を証明すると同時に、その脆弱さを表しているといえる。規制のインパクトの大小もそこにかかってきそうだ』、「Too big to fail」は金融システムには当てはまるとしても、「暗号資産」の世界にあまで当てはまるのだろうか。

第三に、11月12日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの砂川 洋介氏による「ビットコイン「爆上げ」のウラで「大型アップデート」のヤバすぎる中身 買いなのか、売りなのか…?」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/88689?imp=0
・『ビットコイン「大型アップデート」に戦々恐々…!  史上最高値を更新しているビットコインで、11月中旬に4年ぶりとなる大型アップデートが実施される。 前回の大型アップデートが行われたのは2017年8月。まだ「仮想通貨」と呼ばれ、世間で暗号資産への関心がようやく高まってきた状況だったが、当時の大混乱を筆者は今も鮮明に覚えている。何しろビットコインが大分裂を引き起こしたからだ。 当時はスケーラビリティ問題(処理許容量が限界に達することで送金などの手続きに時間がかかる問題)をめぐって、ビットコインのマイニングを行っている人や組織の「マイナー」の覇権争いが発生し、新規格のビットコインが誕生。それがビットコインキャッシュだった。 ビットコインキャッシュは、プロトコルに規定された検証規則を緩和することによって発生するハードフォーク(ブロックチェーンの分岐)で誕生した。この影響で価格が乱高下するなど不安に満ちたイベントだったのだが、今回の大型アップデートはそれ以来のことである。 今回も波乱があるのか、しっかりとチェックしておかねばならないだろう』、「しっかり」教えてもらいたいものだ。
・『今回も「分裂」が起きる…のか?  今回の大型アップデートのプロジェクト名は「Taproot(タップルート)」で、技術的な問題の解決とセキュリティ面での向上が実行される予定だ。 夏にかけて実施されていた「Speedy Trial」という方法で、マイナー間の合意形成の状況などは確認できる。これは、約3ヶ月間の実装テスト期間を設けて、その期間に90%以上のマイナーがTaprootの支持を表明すればアップデートが実施されるというロジックだ。 Speedy Trialは、既に5月1日から開始されており、90%超の支持率を得ている。 つまりマイナー間の合意形成は取れているため、計画通り11月中旬にはアップデートが実施される見込みだ。 マイナー間での合意形成が取れている以上、2017年のような突然新しい暗号資産が誕生するといったハードフォークは起こることはないだろう』、「マイナー間の合意形成は取れているため、計画通り11月中旬にはアップデートが実施される見込み」、なるほど。
・『いいこと尽くめ…?  では、今回のTaprootによって変わるポイントは何か? それは、電子署名(送金情報などメッセージが改ざんされていないかどうかを承認する技術)がこれまでのEliptic Curve Digital Signature Algorithm(ECDSA、楕円曲線DSA)から、シュノア(Schnorr)署名と呼ばれる署名方式に変わることである。 シュノア署名ではビットコインを送金するために複数の署名が必要となる「マルチシグニチャー(通称:マルチシグ)」が簡略化できる予定だ。 マルチシグによる送金データはセキュリティが高い一方、ブロックに占める割合が大きい点が課題だったが、シュノア署名ではマルチシグを1つの署名に集約できるようになり、1つに集約された署名が一人分の署名と同じ容量になることでブロックサイズが節約される。 つまり、シュノア署名によってトランザクションに必要な署名の数が大幅に減るので、従来よりも素早く署名を集めることができ、取引スピードが向上するわけだ。 さらに、必要な署名の数が減ることから取引にかかる手数料も安くなる。 簡単に説明すると、良いこと尽くしのアップデートなのだ』、「良いこと尽くしのアップデートなのだ」、有難い話だ。
・『「過ち」は二度と繰り返さない  ビットコインキャッシュ誕生の混乱を少しだけ振り返っておきたい。 2017年夏の騒動は、簡単に説明すると、マイニングに対して大きな計算能力を提供することで支配力を持っているビットコインのマイナー、開発者、事業者などのコミュニティ間での意見の相違が発生し、ビットコインユーザーを巻き込んでの大騒動となった。 元々、ビットコインは売買や送金など取引量が増加した際、その取引の承認に時間がかかることでスピーディーな機能性を維持できないといった問題を抱えていた。これがスケーラビリティ問題である。その問題を解決する対応策が「Segwit」と呼ばれる1ブロック当たりに書き込める情報量を実質的に大きくする方法だった。 ところが、この対応策に異を唱えるマイナーを中心とした団体が、直前になって別の対応策を推進し、ビットコインキャッシュをハードフォークさせるという選択を実行した。 2017年5月頃からスケーラビリティ問題が市場で話題となったことで、年始の5万円水準から怒涛の上昇を見せていたビットコインは30万円水準で上値が重くなり、突然のビットコインキャッシュ誕生という事態を受けて、7月20日末には20万円割れ寸前まで急落するなど乱高下となったのだ。 その後、8月1日21時頃(日本時間)にハードフォークが行われて、無事にビットコインキャッシュが誕生。各暗号資産交換所でビットコインキャッシュの売買がスタートするまで1週間ほどかかるなど混乱をきたしながら、売買スタート後は、ビットコイン、ビットコインキャッシュともに年末まで右肩上がりの展開となった。 事なきを得たとはいえ、当時、史上初めてのビットコインによるハードフォークの裏側は、単なるマイナーの覇権争いが原因だったのだ。 暗号資産ブームの流れもあり、価格はともに上昇するなど価格面では結果オーライとなったとはいえ、「ビットコインは中央集権的な存在ではない」という表現が適切では無くなるなど、関係者や利用者に残した傷跡は深かった。 このような2017年のもめごとを二度と繰り返してはいけないと考えたことから、今回の大型アップデートは「Speedy Trial」という方式で慎重に合意形成を進めた。よって、今回は2017年の時のような混乱は避けられるだろう』、「暗号資産」業界も失敗を糧に進化しているようだ。
・『買いか、売りか  では、利用者が最も気になるポイント、今回の大型アップデートは買い材料なのか?それとも売り材料なのか? 2021年は暗号資産のアップデートが頻繁に発生した。 今年3月のSymbolローンチは、NEM(XEM)の大型アップデートによって誕生しているし、暗号資産時価総額2位のイーサリアムも「ETHEREUM 2.0」という大型アップデートが継続中である。 国内暗号資産では、Zaifに上場しているCMSが、10月末に新しい通貨ペアであるCMS:XYMのエアドロップを実施するというリリースを行っている』、ここに出てくる「大型アップデート」の例を見る限り、進化しており、「買い材料」のように思える。
・『分厚いマーケット  それぞれイベントを発表、もしくはイベントが近くなった際、対象の暗号資産は買われているので、イベントを控える暗号資産は価格が上昇しやすいと考えておいた方が良いだろう。 もちろん地合いも大きく影響するだろうが、少なくてもイベント通過までは売りポジションは作りにくい。 イベント通過後は、思惑先行の売りが出やすいことから多少の乱高下はあるだろうが、ビットコイン先物を原資産としたETF(上場投資信託)の売買も始まるなどマーケットは、日に日に分厚くなっている。 利益確定売りのタイミングで買いを入れてくる投資家の存在も忘れてはならない』、「イベントを控える暗号資産は価格が上昇しやすいと考えておいた方が良いだろう」、確かにそうなのかも知れないが、最近の堅調な相場を反映して、強気に偏っている可能性もあることを留意しておく必要があるだろう。
タグ:暗号資産(仮想通貨) (その20)(かつての仮想通貨バブルとは何が違うのか ビットコイン「史上最高値」700万円超えの真贋、焦点は供給量が10兆円を超す「テザー」 金融当局が警戒する「ステーブルコイン」の膨張、ビットコイン「爆上げ」のウラで「大型アップデート」のヤバすぎる中身 買いなのか、売りなのか…?) 東洋経済Plus 「かつての仮想通貨バブルとは何が違うのか ビットコイン「史上最高値」700万円超えの真贋」 税務署は「暗号資産」で億り人などが発生していることに着目しているらしいので、個人だと税務申告が大変だろう。 「マスク氏」の発言は、相場操縦的色彩が濃厚だ。「ビットコイン先物に連動する上場投資信託(ETF)が10月にアメリカで初上場」、は市場に厚みをもたらすいいニュースだ。 「ドルなど法定通貨の価値に価格が連動するステーブルコイン・・・「デジタル証券」と紹介されるセキュリティトークン、デジタルアートやオンラインゲームで用いられるNFT(非代替性トークン・・・「ディーファイ」(DeFi)ずいぶん裾野が広がったようだ。 (注)グレイスケール:米投資会社で、暗号資産(仮想通貨)を中心とする投資ファンドを運用(coindesk) 「日本は置いてけぼり?」といった事態は避けたいものだ。 「焦点は供給量が10兆円を超す「テザー」 金融当局が警戒する「ステーブルコイン」の膨張」 「大槻氏もさすがにこの予想には首をかしげる」、良心的なアナリストらしい。 IMFが取上げたとは、金融システムの安定にとって、無視できない存在になったからだろう。「世界の主要交換所の取引高に占める比率でも、テザーを筆頭にステーブルコインが過半となっている」、「ステーブルコイン」の比重がここまで高まっていたとは初めて知った。 「ステーブルコインはいまや暗号資産の世界で「経済活動の血流」のような役割を担っている」、「取引時における担保としてだけでなく、「ディーファイ(DeFi=decentralized finance)」でもステーブルコインは使われている」、「アメリカの当局は、ステーブルコインの発行企業を預金取扱機関である銀行として実質的に扱うことで、厳しい監督規制を課す方向へと舵を切っている」、銀行並みの規制が課されれば大きな影響が避けられない。 「Too big to fail」は金融システムには当てはまるとしても、「暗号資産」の世界にあまで当てはまるのだろうか。 現代ビジネス 砂川 洋介 「ビットコイン「爆上げ」のウラで「大型アップデート」のヤバすぎる中身 買いなのか、売りなのか…?」 「しっかり」教えてもらいたいものだ。 「マイナー間の合意形成は取れているため、計画通り11月中旬にはアップデートが実施される見込み」、なるほど。 「良いこと尽くしのアップデートなのだ」、有難い話だ。 「暗号資産」業界も失敗を糧に進化しているようだ。 ここに出てくる「大型アップデート」の例を見る限り、進化しており、「買い材料」のように思える。 「イベントを控える暗号資産は価格が上昇しやすいと考えておいた方が良いだろう」、確かにそうなのかも知れないが、最近の堅調な相場を反映して、強気に偏っている可能性もあることを留意しておく必要があるだろう。
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キシダノミクス(その1)(岸田首相「任期中の改憲」掲げたモヤッとする思惑 「自民党のリベラル」宏池会の領袖がなぜ?、岸田政権の経済政策を「アホダノミクス」と命名 「アホノミクスのパクリで新鮮味なし」、安倍、麻生よ ただで済むと思うな…岸田総理の「壮絶な復讐」がいよいよ始まった) [国内政治]

今日は、キシダノミクス(その1)(岸田首相「任期中の改憲」掲げたモヤッとする思惑 「自民党のリベラル」宏池会の領袖がなぜ?、岸田政権の経済政策を「アホダノミクス」と命名 「アホノミクスのパクリで新鮮味なし」、安倍、麻生よ ただで済むと思うな…岸田総理の「壮絶な復讐」がいよいよ始まった)を取上げよう。前回これに相当するのは、10月18日付け「日本の政治情勢(その57)」である。

先ずは、11月13日付け東洋経済オンラインが掲載した政治ジャーナリストの泉 宏氏による「岸田首相「任期中の改憲」掲げたモヤッとする思惑 「自民党のリベラル」宏池会の領袖がなぜ?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/468522
・『第2次岸田文雄政権が11月10日に発足し、衆院選で自民党単独での絶対安定多数確保という勝利を踏まえて、岸田首相が自らの任期(3年)中に自民党が党是とする憲法改正の実現を目指す意向を明確にしたことが注目されている。 岸田首相は「自民党のリベラルの牙城」とされる宏池会(岸田派)の領袖。急進的な改憲派だった安倍晋三元首相とはまったく違う立場だけに、自民党内には「本来、改憲に慎重なはず」(閣僚経験者)といぶかる向きが多く、「党内の保守派の支持取り付けを狙った陽動作戦」(同)と揶揄する声も相次ぐ。 その一方で、過去の改憲論議も踏まえると「国会での憲法論議が本格化するのは、リベラル派の首相が旗振り役になった場合」(首相経験者)との見方も出る。野党第1党の立憲民主党も、「改憲に前向きな世論の動向などから、今後は衆参両院の憲法審査会での改憲論議には参加せざるをえない」(幹部)とされ、次期通常国会から憲法審での改憲論議が本格・具体化する可能性は大きい。 もちろん、自民党が提起している憲法9条への自衛隊明記など4項目を軸とする改憲案で与野党が合意し、国民投票にかけられる事態はほぼありえないとされる。ただ、立憲、共産両党も含めた改憲反対勢力が憲法審での改憲論議に応じれば、「数国会にわたる憲法審査会の審議で、具体的な改憲条項で合意する見込みがある」(自民幹部)との指摘は多い』、私も「リベラル派の首相」が「憲法改正の実現を目指す意向を明確にしたこと」には驚かされ、失望した。
・『衆院での改憲勢力は過去最大に  今回衆院選での日本維新の会の大躍進などで、衆院のいわゆる改憲勢力は与党の公明党も含めると約4分の3と過去最大となった。このため、憲法審査会での本格論議さえ始まれば、岸田首相の任期中での国民投票の実施により、初めての憲法改正が実現する可能性は「十分ありうる」(首相経験者)ことにもなる。 もちろん、実現には「本格政権」が必要条件とされる。ただ、来夏の参院選で与党が勝利すれば、実態的に岸田政権の3年の任期も保証される。ここにきての岸田首相の「改憲発言」はそうした状況を見据えたものとみられ、周辺からは「憲法改正を岸田政権の最大のレガシー(政治的遺産)にする狙い」との声も出る。 岸田首相は11月10日夜の第2次政権発足を受けた記者会見で「自民党総裁としては憲法改正が重要な課題。今回の総選挙の結果を踏まえ、茂木敏充幹事長に党是である憲法改正を進めるため、党内の体制を強化するとともに、国民的議論のさらなる喚起と国会における精力的な議論を進めるよう指示した」と明快な口調で語った。 さらに岸田首相は、改憲勢力の日本維新の会、国民民主党の議席増を念頭に「改正を実現するためには、与野党の枠を超えて3分の2以上の賛成が得られるようにしっかりと努力を続けていくことが大事だ」とも強調した。 これは、9条改正を軸とする自民党の改憲案には慎重な与党・公明党を意識した発言にもみえる。 今回衆院選で41議席を獲得し、公明党を抜いて第3党に躍り出た維新は、岸田政権の改憲への取り組みについて「やるやる詐欺だ」(吉村洋文大阪府知事)と批判。しかし、岸田首相から協力を求められれば、「第3党として早期改憲実現を目指すのは当然」(維新幹部)との立場だからだ。 さらに、立憲、共産両党と一線を画して議席を増やした国民民主党も、玉木雄一郎代表が衆院選後、「憲法審査会を毎週開いたらいい」と改憲論議促進を求めた。これも踏まえ、維新代表の松井一郎大阪市長も「来年の参院選の投票と同日で改憲の国民投票を実施するべきだ」と発言した。 第2次岸田政権発足前日の11月9日には、維新、国民民主両党が、幹事長・国対委員長会談で、衆参両院での憲法審査会定例日開催を与党側に要求することで合意した。まさに、国会での「第3勢力」となった両党が改憲論議の旗振り役となった格好だ』、「維新、国民民主両党」が「改憲論議の旗振り役となった格好だ」、やれやれ。
・『自民党も維新、国民民主との連携強化に着手  これとこれと並行して自民党も維新、国民民主両党との連携強化に着手。茂木幹事長が11月9日夜に維新の馬場伸幸幹事長と会食し、「国民投票法を何としても一度は国民の手に委ねたい」と早期の改憲国会発議と国民投票実施で協力要請した。 こうした状況も踏まえ、岸田首相は10日夜の記者会見で憲法改正への具体的な取り組みを問われると「新しい内閣がスタートしたことを受け、また今回の衆院選の結果を受けたうえで、より憲法改正についてしっかりと取り組んでいかないといけない。こうした声は党内にも高まっていると受け止めている」と真剣な表情で語った。 さらに「国会の議論と、国民の皆さんの憲法改正に対する理解の2つは車の両輪。この両方がそろわないと憲法改正は実現しない。ともにしっかりと進めていかなければならないと思っている」とし、自民党政調会長時代の地方行脚での経験も持ち出して改憲実現への意欲を熱っぽく訴えた。 これまで、衆参の憲法審査会では立憲民主などが開催に抵抗し、前通常国会での開催は、衆院4回、参院6回にとどまった。しかし、今回の衆院選での野党陣営の改憲勢力の拡大で、自民内には「維新、国民を巻き込める今こそが、改憲論議を一気に進めるチャンス」(国対幹部)との声が強まっている。 確かに与党に維新、国民を加えると、衆参両院で改憲の国会発議に必要な3分の2以上となる。しかも維新と国民は衆院で計52議席となり、公明党の32議席を大きく上回る。このため、岸田首相周辺にも「維新、国民と連携すれば、公明党は改憲論議に乗らざるをえなくなる」との期待が膨らむ。 とはいっても、岸田首相があえて任期中の改憲実現を声高に叫ぶことへの自民党内の抵抗も少なくない。岸田派になお強い影響力を持つとされる宏池会前会長の古賀誠元幹事長も「改憲実現に前のめりになるのは、本来の宏池会の理念から大きく外れている」などと厳しく批判する。 その一方で自民党最大派閥の細田派(清和会)は11月11日の総会で、安倍元首相の派閥復帰と会長就任を決め、「安倍派」に衣替えした。安倍氏はあいさつで、首相在任中から「悲願」と繰り返してきた改憲実現について「立党以来の党是だ。議論の先頭に立とう」と呼び掛けた』、「安倍氏」はさしずめ悲願達成といったところだろう。
・『呉越同舟の「岸田・安倍共闘」は波乱必至  岸田首相が改憲実現に踏み出すのなら、全面支援する考えをアピールした格好だ。しかし、安倍氏が党内保守勢力を束ねて、国会での改憲論議に圧力を加えれば、立憲など反改憲勢力が反発し「憲法審査会での改憲論議本格化への雰囲気が壊れ、元の木阿弥にもなりかねない」(岸田派幹部)というリスクもはらむ。 そもそも岸田首相にとって改憲実現への意欲表明は「反岸田色の強い党内保守派の支持取り付けによる政権安定化が狙い」であることは間違いない。そのうえで、「自然な流れで改憲実現にこぎつけられれば、政権の最大のレガシーになる」との願望もにじむ。 しかし、そうした思惑が与野党だけでなく国民にも見透かされれば、岸田首相が売り物とする「誠実さ」にも疑問符が付き、内閣支持率下落の要因ともなりかねない。 第2次岸田政権発足までの一連の党・内閣人事で目立った“安倍離れ”に安倍氏がいらだつ中、「改憲での岸田・安倍共闘」という“政局的呉越同舟”の結末は、まだまだ波乱必至というのが実相といえそうだ』、「「改憲での岸田・安倍共闘」という“政局的呉越同舟”」、の行方は確かに大いに注目される。

次に、11月16日付け日刊ゲンダイが掲載した同志社大教授の浜矩子氏による「岸田政権の経済政策を「アホダノミクス」と命名 「アホノミクスのパクリで新鮮味なし」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/297284
・『「新しい資本主義」とは結局、何なのか――。岸田首相の衆院選での訴えを聞いても、政府の会議の提言を見ても、いまひとつよく分からない。安倍政権と菅政権の経済政策を「アホノミクス」「スカノミクス」と命名して断罪してきた闘うエコノミストは、岸田政権の経済政策に何を見るのか、何と呼ぶのか(Qは聞き手の質問、Aは浜氏の回答)。 Q:岸田政権については何かネーミングされましたか? A:「アホダノミクス」にしました。「アホノミクス」のパクリであるという意味と、「困ったときのアホ頼み」の2つを掛け合わせて。どうしてもアホノミクスの大将が背後霊のように見えてしまう。所信表明演説のひとつの軸になっていた「成長と分配の好循環」は、2016年からアホノミクスの大将が使い始めた言葉です。それ以前は「成長による富の創出」という言い方をして、「分配ばかりだった民主党政権の下では、経済が縮小均衡で全然ダメだったじゃないか」と批判していたのですが、あまりにも分配に冷たいので評判が悪いと察知したと見えて、選挙向けに「成長と分配の好循環」という言葉を使い始めたんですね。アホダノミクス男はそれをそのままパクっているわけで、新鮮味は全くないですし、基本的にアホノミクスと同じ路線だということです。 Q:岸田さんは当初、「分配」に重きを置いているように見えましたが。 A:「成長なくして分配なし」「分配なくして成長なし」。いずれにしても、そういう言い方はやはり、成長することが基本的な狙いです。一見路線を変えているように見せながら、実は何も変わっていない。もうひとつ、パクリといえば「分厚い中間層の復活」もそうです。あれは民主党政権で野田首相が盛んに使っていた言葉。本当にパクリ男だなあと思いました。 Q:独自性も新しさもなく、安倍路線の踏襲に過ぎないと。 A:アホノミクスの大将のように21世紀版の大日本帝国を構築するというような野望はなさそうですが、憲法改正はやるんだと言っている。ただ、それも引っ込め気味。そういう意味では、構えがよく分からない面もある。まあ、スカノミクス親父もあまり分からなかったけれど、アホダノミクス男は基本的に弱虫なんですかね。だから決然として自分がやるべきことを貫くという感じがない。いろいろ言われると、すぐ既定路線に戻ってしまう』、「「アホノミクス」のパクリであるという意味と、「困ったときのアホ頼み」の2つを掛け合わせて。どうしてもアホノミクスの大将が背後霊のように見えてしまう」、「アホダノミクス男は基本的に弱虫なんですかね。だから決然として自分がやるべきことを貫くという感じがない。いろいろ言われると、すぐ既定路線に戻ってしまう」、なるほど。「基本的に弱虫」とは言い得て妙だ。
・『「丁寧な説明」を多用するワケ  Q:覚悟の問題ですか? A:「丁寧な説明」ということを所信表明で繰り返し言っていました。これもアホノミクス以来使われる言葉ですけれど、岸田さんは宏池会ですよね。それで、大平正芳さん(元首相・宏池会第3代会長)の所信表明演説とちょっと読み比べてみたんです。格調も何もまるで違うのですが、「ああ、なるほど」と思ったのは、大平さんは「国民に率直に真実を語って参ります」と言っているんですね。一方、岸田演説には「率直」も「真実」も、どこにも出てこない。あまりにも不都合な真実が多すぎるから、率直には語れないのでしょう。「丁寧な説明」をあれほど多用するのは、率直に語れば済むことなのに不都合で語れないから、ああでもないこうでもないと言って、説明でごまかす。大平演説を読んで非常によく分かりました。 Q:大平元首相との比較は興味深いですね。 A:「ロッキード問題」などがあった時代ですからね。自分がどんなに泥をかぶっても、やらなきゃいけないことがある。国民の政治に対する不信感に強い危機意識を持ち、経済運営のあり方も変えなくちゃいけない、もはや今まで通りではいかない、と言っていました。そういう危機意識がアホダノミクス男からは全然伝わってこない。だから、今の日本の資本主義体制の回り方ではダメだという強い思いを持って「新しい資本主義」というものを打ち出しているとは到底思えません。ただ、体裁を整えているだけで、コミットメントの浅さというか、軽さというか』、「「丁寧な説明」をあれほど多用するのは、率直に語れば済むことなのに不都合で語れないから、ああでもないこうでもないと言って、説明でごまかす」、「大平演説」には「国民の政治に対する不信感に強い危機意識を持ち、経済運営のあり方も変えなくちゃいけない、もはや今まで通りではいかない、と言っていました。そういう危機意識がアホダノミクス男からは全然伝わってこない」、やはり「大平」氏のような政治家のスケールには欠けるようだ。
・『「新しい資本主義」は定義矛盾です  Q:その「新しい資本主義」ですが、いったい何なんでしょう? 資本主義が限界に来ているという議論はありますが。 A:「新しい資本主義実現会議」というのが発足したけれど、メンバーに新しい人ってあまりいない気がします。この人たちで新しい資本主義の形が考えられるとは到底思われないような、安倍政権時代の「未来投資会議」とか、今までと同じような方向性を持った人々がそこにいる。「新しい資本主義」という言い方自体が、定義矛盾というか、資本主義は資本主義なので、それを新しくするって、たぶんできないんだと思うんですね。 Q:定義矛盾ですか? A:そもそも資本主義という言葉で何を言い表そうとしているのかさえ定かではありません。資本主義的生産体制のことなのか。そうであるはずですけれど、資本主義的生産体制というものを岸田さんが分かっているのかも非常に疑問です。「なんとか資本主義」のような言葉が盛んに使われていますが、資本主義は資本主義なので、そういう尾ひれをくっつければ、また資本主義を生き永らえさせることができる、活性化することができる、と考えること自体、ちょっと的外れかなと思います。資本主義が限界に来ているということであれば、そうでないものを持ってこないといけない。資本主義の延命にしがみついていることが、「新しい資本主義」という言葉を生み出しているのではないかと思います。 Q:問題は、資本主義を新しくすることではないと? A:資本主義が資本の力を封じ込めることができなくなっているところに、問題があるんじゃないかと思うんですよね。経済がグローバル化し、金融化し、フィンテック化し、IT化している中では、資本主義の仕組みに資本を封じ込めることができなくなっていて、資本が縦横無尽に国境を超えて増殖し、凶暴性を発揮しているわけです。この資本の凶暴性をどうコントロールするのか、というような議論をする場をつくるのであれば意味がありますが、資本をコントロールできなくなった資本主義の延命のために、新しい飾りつけをしようと考えているのでは、非常にまずいと思います』、「資本主義の仕組みに資本を封じ込めることができなくなっていて、資本が縦横無尽に国境を超えて増殖し、凶暴性を発揮しているわけです。この資本の凶暴性をどうコントロールするのか、というような議論をする場をつくるのであれば意味がありますが、資本をコントロールできなくなった資本主義の延命のために、新しい飾りつけをしようと考えているのでは、非常にまずいと思います」、同感である。
・『フワフワした「体裁整え方男」  Q:「分配」政策として、保育士や介護士などの給料を引き上げるとか、賃上げした企業には税制優遇するなどについては、どうお考えですか? A:エッセンシャルワーカーの待遇改善も、非正規雇用者やフリーランスに対する保護を手厚くするのも、当然ながらやらなくてはいけない。問題は、どう政策が関わっていくのかです。まず、賃上げした企業に減税するのはおかしい。内部留保のある企業に、さらに減税という形で余り金を与えるのは、いかにも安直な人気取りで筋が通りません。こういう場面でこそ必要なのが、アホダノミクス男が得意だという「聞く力」ですよ。どのような政策対応や環境整備を政策にすれば賃金を上げられるのか、待遇を改善できるのか。「やりたいけれどできないんです。この障害を取り除いていただければできます」というのをきちんと聞き取って、「さあ、おっしゃる通りにしましたから、もう賃上げできないとは言わせませんよ」というところまで詰めていく。こうした姿勢や構えこそが、本当に「聞く」「耳を傾ける」ことだと思うんです。ご用聞きを全国一斉に派遣するようなことを言ってもらえば、少しは成果に期待する感じになりますよね。 Q:最後に、岸田首相の一番の懸念材料は? 「体裁整え方男」だという感じがするのが非常に心配です。アホノミクスもスカノミクスもおぞましかったけれど、アホダノミクスは、腰がなく、押されたら押された方向に流れて行ってしまうフワフワ感がある。吹けば飛ぶような存在の軽さ、中身のなさが、わずか1カ月で露呈してしまったことが懸念材料ですね。(浜矩子氏の略歴はリンク先参照)』、「賃上げした企業に減税するのはおかしい。内部留保のある企業に、さらに減税という形で余り金を与えるのは、いかにも安直な人気取りで筋が通りません」、「「体裁整え方男」だという感じがするのが非常に心配です」、その通りだ。

第三に、11月19日付け現代ビジネス「安倍、麻生よ、ただで済むと思うな…岸田総理の「壮絶な復讐」がいよいよ始まった」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/89437?imp=0
・『前編の「岸田総理がウラで「ほくそ笑む」…メディアが報じない「甘利おろし」の全真相」では、10月31日の衆院選で敗北した甘利明氏の、幹事長を辞任するまでの一部始終をで(注:「で」は不要?)お伝えした。 安倍晋三氏、そして麻生太郎氏にこき使われ、馬車馬のような扱いを受けてきたという岸田総理の復讐劇はまだまだ続く……』、「岸田総理の復讐劇」とは興味深そうだ。
・『さんざん小馬鹿にされてきた  岸田文雄総理は、一日を終え床に就く前、その日に起きたことをノートに書き記している。ノートの中身については「悪口も書いてあるから他人には見せられない」と告白している。 それは、誰に対する悪口雑言なのか? 想像すればすぐわかる。岸田は長年、安倍と麻生に牛馬のようにこき使われ、辛酸を舐めてきたのだ。 「第二次・第三次安倍政権では外相を務めるも、安倍は岸田を使い走りとして扱い、ロシア外交では『経済分野協力担当大臣』にいきなり世耕弘成を指名し、岸田の面目を丸潰れにしたこともある。 そもそも外相になったこと自体、外交懇談の際、下戸の安倍に代わって酒を飲むのが役目だった、などと揶揄されていた。 麻生には宏池会における格下の舎弟扱いをされ、『小者』として粗略にされ続けてきた。岸田が何度も、『なぜこんな目に遭うのか』などと、愚痴をこぼすのを聞いたことがある者も多い」(自民党幹部) 耐えに耐え、総理にたどり着くことはできた。だが、重鎮どもは「俺のおかげでお前は総理になれた」とばかり、好き勝手なことを言う。 こいつらを消すことはできないか—。それが岸田の悲願だったところ、いま、同士討ちで一人がついに脱落した。 暗闇に眼鏡を光らせ、手垢がついたノートをそっと撫でながら、岸田はひそかにほくそ笑む。 邪魔者はあと二人—。 安倍と麻生は、依然として岸田のことを無能無害な傀儡だと思っている。そこに、付け入る隙がある。岸田は早速、手を打った。甘利の後任に、茂木敏充を充てたことだ。 「これは意外な妙手」と評価するのは、自民党閣僚関係者の一人である。 「茂木は竹下派の会長代行だが、上にへつらい、下には傲岸という性格なので、青木幹雄が掌握する派閥主流派からは毛嫌いされている。 その茂木が幹事長になることで、彼が会長になって派閥を『茂木派』に変えて乗っ取る可能性がなくなった。つまり岸田は、竹下派主流派に上手く恩を売ったことになる」 茂木は安倍に近いため、安倍もこの人事には納得しているとされるが、実はこれは、岸田が練りに練った「安倍潰し」に向けた布石だ。 「岸田が総裁選を勝ち抜けたのは、竹下派が参院を中心に支持を固めたことが大きかった。 岸田は竹下派に気を使い、古川禎久(法務相)、西銘恒三郎(復興相)、二之湯智(国家公安委員長)らを入閣させ、総裁候補の大本命・小渕優子も党の要職(組織運動本部長)に就け厚遇している。 安倍は細田派(清和研)を安倍派に代替えして会長の座に就いたが、岸田派=宏池会との激突が表面化した時、竹下派の主流派が岸田に付く可能性が高いことは大きな意味を持つ」(同)』、「岸田は、竹下派主流派に上手く恩を売ったことになる」 茂木は安倍に近いため、安倍もこの人事には納得しているとされるが、実はこれは、岸田が練りに練った「安倍潰し」に向けた布石だ」、「安倍派」と「岸田派=宏池会との激突が表面化した時、竹下派の主流派が岸田に付く可能性が高いことは大きな意味を持つ」、岸田首相も意外に策士的要素があるようだ。
・『安倍凋落は既定路線  さらにもう一つの布石は、参院から衆院へ鞍替えした林芳正(元文科相)を、茂木の後任にする人事の検討である。 「安倍は林の外相就任に、『党の反対を押し切って強引に鞍替えした人が、いきなりポストを得るのはおかしいじゃないか』と文句を付けているが、それは焦りの裏返しだ。 岸田にとって林は、自派閥を乗っ取られかねない怖い存在だが、外相にして閣内に取り込めば、その危惧もなくなる。 一方で安倍は、同じ山口を地盤にする林が表舞台に出て力を付けたら、地元を侵食されて求心力を失ってしまう。安倍と林、双方を封じる巧妙な人事を岸田は狙った」(別の自民党幹部) 今回の総選挙で自民党は表面上「勝った」ことになっている。しかしその裏で、安倍は著しく評判を落とした。 自民党中堅議員の一人がこう話す。 「安倍さんは選挙期間中、全国あちこちを飛び回って応援弁士をしましたが、応援した候補のうち、なんと27人が選挙区で敗れました。 ゴリ押しして公認候補にした元秘書の初村滝一郎も長崎1区で惨敗し、比例復活もできなかった。つまり、『選挙に強い』という安倍さんの威光が、すっかり霞んでしまったのです」 安倍の凋落は、もはやこれで既定路線。残る麻生をどう始末するか。 「次期衆院議長に細田博之(元幹事長)が内定しているが、実は岸田は、麻生を衆院議長にしようと画策していた。衆院議長はなんの権限もない名誉職。麻生が猛反発したため、今回は諦めた。 岸田は、徐々に麻生も政権の中枢から遠ざけ始めている。まずは麻生の義弟・鈴木俊一財務相をどこかのタイミングで切るだろう。 麻生は義兄弟同士で財務省と結んで求心力を維持しているが、そこを断ち切ってしまえば、単なる81歳の老人でしかない。来夏の参院選までに、必ず動きがある」(別の自民党幹部) 次に「岸田ノート」に名前を書かれるのは誰なのか。虐げられ、コケにされてきた男の、暗い復讐劇がいま幕を開ける』、「『選挙に強い』という安倍さんの威光が、すっかり霞んでしまったのです」 安倍の凋落は、もはやこれで既定路線」、「岸田は、徐々に麻生も政権の中枢から遠ざけ始めている。まずは麻生の義弟・鈴木俊一財務相をどこかのタイミングで切るだろう。 麻生は義兄弟同士で財務省と結んで求心力を維持しているが、そこを断ち切ってしまえば、単なる81歳の老人でしかない」、実直そうな「岸田首相」が、そこまで冷徹な策士だとは、俄かには信じ難いが、実直一本やりのつまらない人間よりはましだと思う。
タグ:東洋経済オンライン (その1)(岸田首相「任期中の改憲」掲げたモヤッとする思惑 「自民党のリベラル」宏池会の領袖がなぜ?、岸田政権の経済政策を「アホダノミクス」と命名 「アホノミクスのパクリで新鮮味なし」、安倍、麻生よ ただで済むと思うな…岸田総理の「壮絶な復讐」がいよいよ始まった) キシダノミクス 泉 宏 「岸田首相「任期中の改憲」掲げたモヤッとする思惑 「自民党のリベラル」宏池会の領袖がなぜ?」 私も「リベラル派の首相」が「憲法改正の実現を目指す意向を明確にしたこと」には驚かされ、失望した。 「維新、国民民主両党」が「改憲論議の旗振り役となった格好だ」、やれやれ。 「安倍氏」はさしずめ悲願達成といったところだろう。 「「改憲での岸田・安倍共闘」という“政局的呉越同舟”」、の行方が大いに注目される。 「「改憲での岸田・安倍共闘」という“政局的呉越同舟”」、の行方は確かに大いに注目される。 日刊ゲンダイ 浜矩子 「岸田政権の経済政策を「アホダノミクス」と命名 「アホノミクスのパクリで新鮮味なし」 「「アホノミクス」のパクリであるという意味と、「困ったときのアホ頼み」の2つを掛け合わせて。どうしてもアホノミクスの大将が背後霊のように見えてしまう」、「アホダノミクス男は基本的に弱虫なんですかね。だから決然として自分がやるべきことを貫くという感じがない。いろいろ言われると、すぐ既定路線に戻ってしまう」、なるほど。「基本的に弱虫」とは言い得て妙だ。 「「丁寧な説明」をあれほど多用するのは、率直に語れば済むことなのに不都合で語れないから、ああでもないこうでもないと言って、説明でごまかす」、「大平演説」には「国民の政治に対する不信感に強い危機意識を持ち、経済運営のあり方も変えなくちゃいけない、もはや今まで通りではいかない、と言っていました。そういう危機意識がアホダノミクス男からは全然伝わってこない」、やはり「大平」氏のような政治家のスケールには欠けるようだ。 「資本主義の仕組みに資本を封じ込めることができなくなっていて、資本が縦横無尽に国境を超えて増殖し、凶暴性を発揮しているわけです。この資本の凶暴性をどうコントロールするのか、というような議論をする場をつくるのであれば意味がありますが、資本をコントロールできなくなった資本主義の延命のために、新しい飾りつけをしようと考えているのでは、非常にまずいと思います」、同感である。 「賃上げした企業に減税するのはおかしい。内部留保のある企業に、さらに減税という形で余り金を与えるのは、いかにも安直な人気取りで筋が通りません」、「「体裁整え方男」だという感じがするのが非常に心配です」、その通りだ。 現代ビジネス 「安倍、麻生よ、ただで済むと思うな…岸田総理の「壮絶な復讐」がいよいよ始まった」 「岸田総理の復讐劇」とは興味深そうだ。 「岸田は、竹下派主流派に上手く恩を売ったことになる」 茂木は安倍に近いため、安倍もこの人事には納得しているとされるが、実はこれは、岸田が練りに練った「安倍潰し」に向けた布石だ」、「安倍派」と「岸田派=宏池会との激突が表面化した時、竹下派の主流派が岸田に付く可能性が高いことは大きな意味を持つ」、岸田首相も意外に策士的要素があるようだ。 「『選挙に強い』という安倍さんの威光が、すっかり霞んでしまったのです」 安倍の凋落は、もはやこれで既定路線」、「岸田は、徐々に麻生も政権の中枢から遠ざけ始めている。まずは麻生の義弟・鈴木俊一財務相をどこかのタイミングで切るだろう。 麻生は義兄弟同士で財務省と結んで求心力を維持しているが、そこを断ち切ってしまえば、単なる81歳の老人でしかない」、実直そうな「岸田首相」が、そこまで冷徹な策士だとは、俄かには信じ難いが、実直一本やりのつまらない人間よりはましだと思う。
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中国経済(その13)(中国から外国企業が「大脱出」する予兆が見え始めた 駐在員は歓迎されなくなった、三峡ダム2題:世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由、決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性) [世界経済]

中国経済については、10月25日に取上げた。今日は、(その13)(中国から外国企業が「大脱出」する予兆が見え始めた 駐在員は歓迎されなくなった、三峡ダム2題:世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由、決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性)である。

先ずは、10月26日付けPRESIDENT Onlineがニューズウィーク日本版を転載した「「ニューズウィーク日本版」現地取材:中国から外国企業が「大脱出」する予兆が見え始めた 駐在員は歓迎されなくなった」を照会しよう。
https://president.jp/articles/-/51153
・『<人質外交に新たな規制、そして「自給自足」体制の構築。中国に限界を感じる外資企業の幹部があげる悲鳴が聞こえ始めてきた:メリンダ・リウ> 中国の特色ある企業ミステリー——沈棟の著書はそんな本だ。沈と元妻の段偉紅は、かつては全てを手に入れた大金持ちだった。だが温家宝前首相の親族関連の資産をめぐり、段の名前がニュースの見出しになった。そして2017年9月、段は消息を絶った。 沈は外国に移住し、中国の富裕層と権力者の汚職を告発する回顧録を書いた。本の出版直前、段は出し抜けに元夫に電話して出版中止を懇願した。さもないと息子が危険だ、と。 その後『レッド・ルーレット——現代中国の富・権力・腐敗・報復についてのインサイダー物語』は出版され、評判を呼んだ。中国のVIPに焦点を当てた内容だったが、外国人の経営幹部も警告を読み取った。中国の「人質外交」である。 現地駐在の経営幹部は「中国での潜在的ビジネスパートナーが4年間も行方不明になりかねない」現実を認識しつつあると、米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのアジア安全保障イニシアチブ上級研究員のデクスター・ロバーツは言う』、「「中国での潜在的ビジネスパートナーが4年間も行方不明になりかねない」現実を認識しつつある」、のであれば、商売上がったりだ。
・『相次ぐ規制強化とスローガンの刷新  外国人経営者が不安と混乱を覚えるのも無理はない。中国では今年に入ってから、規制強化とスローガンの刷新が相次いでいる。テクノロジー業界の大物、暗号資産、過剰なスター崇拝、外国への依存度が高過ぎるサプライチェーンなど、締め付けのターゲットはさまざまだ。 8月には、左派ブロガーの李光満が「深遠なる変革」を予言した。「資本市場は成り金資本家の天国ではなくなる。文化市場は女々しい男性アイドルの天国ではなくなり、ニュースや評論は……欧米文化を崇拝することはなくなるだろう」 この予言が話題になると、一部の政府当局者は事態の沈静化に動いた。財政・通商担当の劉鶴副首相は、「民間企業、イノベーション、起業家の発展を支援する」と宣言し、中国の都市雇用の80%は民間企業が生み出していると指摘した。 こうした複雑なメッセージは、複雑な臆測を呼んだ。ある視点から見ると、目先の未来は明るく見える。ユニバーサル・スタジオは北京近郊に新しいテーマパークを開園。スターバックスは7~9月に162店舗をオープンし、コロナ禍以前の水準を回復した。上海の米国商工会議所が発表した21年の報告書によれば、調査回答企業の60%が対中投資を昨年から増やしたと答えた。 最も劇的だったのは9月25日、1028日間にわたり中国の対米・カナダ関係を緊張させてきた騒動が終結したことだ。カナダで拘束・保釈中だった通信機器大手・華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)が、米司法省との司法取引に合意して中国への帰国が認められたのだ。ほぼ同時に、スパイ容疑で中国に身柄を拘束されていた2人のカナダ人も釈放され、母国に送還された。 だが視点を変えると、この一件は「人質外交」の露骨な事例だ。中国当局は何年もの間、カナダ人2人の拘束と孟の逮捕は無関係だと主張していた。だが孟が自由の身になると、2人をすぐに釈放した。「中国の国力がこの結果をもたらしたのだ」と、人民日報系タブロイド紙・環球時報の論説は勝ち誇った。 中国駐在の外国企業幹部の中には、習近平国家主席が唱え始めた「共同富裕」という新しいスローガンに不安を感じている向きもある。中国の知識人の間でも論争が起こり、北京大学の張維迎教授(経済学)は、「(これでは政府の)市場介入がますます増え……中国を共同貧困へと導くだけだ」と批判している』、「(これでは政府の)市場介入がますます増え……中国を共同貧困へと導くだけだ」と批判」、その通りだ。
・『新しい「文革」の始まり?  このスローガンは「美しいフレーズだが、見ていて心配だ」と、上海の多国籍企業に所属する日本人幹部(匿名希望)は言った。「60年代の中国のように暴力的でも感情的でもないが、もっと洗練された形で『文化大革命』が始まるのではないか。今回は規制を使って外国企業を徐々に追い出そうとしている」 この幹部は3年前、中国当局が外資系企業内部に共産党の支部を作るよう党員に促す告知を目にしたという。「党は究極の権威だ。会社に何か要求してきたら? それは依頼であって既に依頼ではない」 そのため、現地駐在の外資幹部の間には不安と疑念が広がっている。「不安を抱えて息を潜めている会社もある」と、アトランティック・カウンシルのロバーツは言う。「駐在員は歓迎されなくなったと感じている。いずれ、もうここにいたくないと思うようになるだろう」 中国に残りたいと望む人々も、変化を痛感している。数十年かけて地方でいくつも企業を立ち上げた欧米人起業家は、規制の山や裏切り、官僚主義の壁に疲れ果てたという。撤退する気はないが、「私は中国を愛している。だが中国が私を愛してくれなければ何もできない」と語る。 半導体、金融、医療など、当面は大事にされる分野もあるだろうが、中国政府の最終目標は技術的な「自給自足」だ。さらにデータの使用や送信に関する規制が強化されていることもあり、外国企業は厳しい選択に直面している。 在中国EU商工会議所が9月初めに公表した年次報告書にはこうある。「国家安全保障の概念が中国経済の多くの分野に拡大され、自給自足の方針が強化されるなか、ますます多くの欧州企業が技術の現地化とサプライチェーンの国内完結か、市場からの退場かの選択を迫られている」 EU商工会議所が半年足らず前に出した報告書のトーンは今回とは全く異なる。前回はコロナ禍が収まり(デルタ株はまだ広がっていなかった)、中国経済は急回復しつつあるように見えたため楽観的なムードが支配的だった。だが今はどうか。EU商工会議所のイエルク・ブトケ会頭に悲観的な気分を1から10までで表すとどのくらいかと聞くと「8くらいだ」との答えが返ってきた。 こうした悲観論の根底には複雑に絡み合ったさまざまな事情があるが、中国のエネルギー危機もその1つだ。中国東北部の3省は「予想外で前例のない」大停電に見舞われ、電力使用の割当制を導入したと、環球時報は報じた。工場が操業停止に追い込まれたり、妊婦が高層マンションの20階まで歩いて上がる羽目になったりと、このところ停電の話題が中国メディアをにぎわせている。 電力不足の原因の1つは、中国経済、特に電力を大量に消費する建設・製造業がコロナ後の急回復を遂げている点にある。建設ブームの余波で、21年第1四半期に中国の二酸化炭素(CO2)排出量はこの10年間で最大級の増加率を記録したと中国の研究所は報告している』、「自給自足の方針が強化されるなか、ますます多くの欧州企業が技術の現地化とサプライチェーンの国内完結か、市場からの退場かの選択を迫られている」、「中国東北部の3省は「予想外で前例のない」大停電に見舞われ、電力使用の割当制を導入」、これでは。「市場からの退場」を選択するEU系企業も増えるだろう。
・『炭素排出ゼロを目指す中国政府  一方で、習は炭素排出量を30年までに減少に転じさせ、60年には実質的な排出ゼロを達成すると宣言。中国政府は主要地域の自治体に年末までGDP単位当たりの電力消費量を監視するよう命じた。 「グリーン化」に成功すれば、習の大きな功績となる。そのため地方の党官僚は習に忖度して過剰なまでに排出量減らしに努めているようだ。それでもピークアウト目標の30年までには炭素排出量が「制御不能なほど急増する」時期が多くあるだろうと、EU商工会議所はみている。 同会議所の加盟企業には、自国の法律などで排出削減を義務付けられた企業が少なくない。その場合、どこから電力を調達するかが問題になる。「中国で排出ゼロを達成できなければ、本国などで法令遵守義務を果たせなくなり、中国からの撤退を余儀なくされる場合もあり得る」と、報告書は指摘している。 今はまだ中国からの外国企業の大脱出は起きていないが、コロナ下での強権的な規制に嫌気が差したり、以前ほど歓迎されていないと感じて中国を去った外国人は少なくない。 外国人の流出が最も顕著なのは大都市だ。外国のパスポートを所持する上海在住者(16万3954人)と北京在住者(6万2812人)は、1年前に比べて28%超も減った。中国の税制が変わり、家賃や学費の税控除が受けられなくなったため、年末までにはさらに多くの外国人が中国から出て行くとみられる。 中国の大都市で働く外国人の減少は看過できない問題だとEU商工会議所の報告書は指摘している。「先進国出身のグローバルな人材の流出が止まらなければ、イノベーションに支障を来す」恐れがあるからだ。 「中国では多様な人材がイノベーションを支えてきた」と、ブトケは言う。「だが今では外国人の居住率は世界の最低レベルだ。ルクセンブルクのような小国でも外国人人口は上海と北京を合わせたよりも多い」) 一方で、中国経済は今年に入ってコロナ後の力強い回復基調を見せたものの、今は足踏み状態に陥っている。国内消費が期待されたほど伸びていないのは、家計所得、特に低賃金の出稼ぎ労働者の所得が伸び悩んでいるためだろう』、「外国のパスポートを所持する上海在住者・・・と北京在住者・・・は、1年前に比べて28%超も減った」、「「先進国出身のグローバルな人材の流出が止まらなければ、イノベーションに支障を来す」恐れがある」、その通りだ。
・『「ほとんど階級闘争」の言説  上海在住の日本企業の幹部は、問題の根源には極端に大きい貧富の格差があると話す。「上海では配達員が10元(約170円)で昼食を済ます横で、ビジネスマンが500元を惜しみなくはたいて豪勢な食事をしている。これは危険な状況だ」 この幹部が指摘するように、中国では所得格差の指標であるジニ係数がアジア諸国の平均の0.34よりはるかに高く、アメリカの0.41よりもさらに高い0.47前後で、「極めて不平等な状態」だ(1.0が最も不平等な状態)。 彼が恐れる最悪のシナリオは、経済が不安定になるかバブルがはじけて低所得層の不満が爆発することだ。当局は民衆の怒りをそらすため外国人を格好の標的に仕立てるだろう。 既に持てる者と持たざる者の対立をあおるような政治的レトリックが飛び交っている。最近ブルームバーグ主催のフォーラムで、PR会社アプコの中国法人会長、ジム・マクレガーは左派ブロガーの李の主張を問題にした。 李は、最近の中国政府の規制強化の動きを文化大革命を彷彿させる「社会主義の本質への回帰」だと賛美したのだ。「富豪は階級の敵だと言わんばかりの……ほとんど階級闘争のような」言説だと、マクレガーは危惧する。 もっとも、今の状況を毛沢東時代の文革に例えれば、重要な違いを見逃すことになる。「毛は(集団的な指導)体制を壊して権力を一手に握るため、混乱を引き起こそうとした」と、調査会社ガベカル・ドラゴノミクスの共同創業者アーサー・クローバーは言う。それに対し「習は儒教的な国家の復興を目指している」というのだ。 文革のトラウマゆえ、中国の人々は混乱よりは極端な儒教的統治のほうがましだと思っているのかもしれない。どちらも、中国の持続的な成長を支える創造性とイノベーションを育むには役立ちそうにないが』、「中国では所得格差の指標であるジニ係数がアジア諸国の平均の0.34よりはるかに高く、アメリカの0.41よりもさらに高い0.47前後で、「極めて不平等な状態」だ」、「アメリカ」より「格差」が大きいとは危険な兆候だ。

次に、昨年10月24日付けNewsweek日本版が掲載したノンフィクション作家の譚璐美(たん・ろみ)氏による「世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由」を紹介しよう。見逃していたため、遅れたことをお詫びする。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/10/post-94797_1.php
・『<世界最大のダムが「決壊する!」と注目を浴びたが、今も決壊しないまま。そこで専門家に話を聞き、堤体の構造や今夏の洪水時に何が行われたかを検証した。三峡ダムは本当に大丈夫なのか。なぜ決壊しないのか> (本記事は2020年10月13日号「中国ダムは時限爆弾なのか」特集収録の記事の前編です) 中国では今年6月半ばの梅雨入り以来、62日間にわたって大雨と集中豪雨が続き、190以上の河川が氾濫し、四川省から江蘇省まで至る所で洪水が発生した。6300万人以上が被災し、5万棟以上の家屋が倒壊する被害が出た。 ネット上では、長江沿川の町や村が冠水する様子や、世界最大の三峡ダムの放流状況が刻一刻と伝えられ、今しもダムが決壊するのではと不安視する声があふれた。 YouTubeには「三峡ダムの決壊シミュレーション」まで登場し、もし決壊すれば、約30億立方メートルの濁流が下流を襲い、武漢、南京が水没し、上海付近の原子力発電所や軍事基地まで甚大な被害を受けるだろうと危機感をあおった。4億人が被災するとの試算もあった。 幸いにも三峡ダムは決壊しなかったが、たまたま決壊を免れただけで、いつかまた危機が訪れるのか。それともダムの構造は強固で、決壊は杞憂にすぎないのか。豪雨の季節が過ぎた9月上旬になっても、長江上流域ではまだ洪水が続いていた。 三峡ダムは70万キロワットの発電機32基を備え、総発電量は2250万キロワット。放流量を調節して下流の洪水被害を防ぐ機能も持つ、世界最大の多目的ダムだ。堤体(ダムの本体)の重さで水の力を支える構造の重力式コンクリートダムで、2009年に長江中流域の湖北省宜昌市に近い三峡地区に建設された。 いま振り返れば、三峡ダムの決壊説に沸いていたのは主として欧米や台湾の中国系メディアと日本メディア(私も記事を書いた)だけで、コメントしているのもごく限られた人物ばかりだった。あるいは科学的考察が不十分だったのではないか。日本や欧米の水利専門家はこの状況をどう捉えていたのだろうか。 そんな疑問に駆られ、改めて信頼できる専門家に話を聞き、中国ダム事情と三峡ダムについて検証した。 京都大学防災研究所水資源環境研究センターの角哲也教授は、日本の河川、特にダム工学研究の第一人者で、黄河の環境問題を扱った『生命体「黄河」の再生』の編著者の1人として中国の事情にも明るい。 角教授は「決壊説」を一蹴する。その説明に入る前に、やや遠回りになるが黄河の話から始めよう』、「ダム工学研究の第一人者で・・・中国の事情にも明るい」、とは信頼できそうだ。
・『ビルと違って半永久的に堅牢  黄河は長江に次ぐ中国第2の河川で、水源の青海省からチベット高原、黄土高原を横切り、西安や洛陽を経て、渤海湾へ注ぐ。 その中流域にあるのが三門峡ダムだ。1960年代に中国が社会主義の兄貴と慕うソ連(当時)の設計で建設されたダムだったが、竣工直後から貯水池(ダム湖)に黄砂がたまり、20年で約40%が埋まった。 私の記憶では、1980年代に「黄河は死んだ」と聞かされた。水量が減り、生活用水や工業用水を垂れ流した揚げ句、毒々しい赤色や紫色の溜水ができて大量の魚が死滅したからだ。 「黄河の最大の特徴は、シルトと呼ばれる細かい粒子の土砂が黄土高原から運ばれて高密度で河川に含まれていること。上流域の開発が断流と呼ばれる流れの変化をもたらし、下流に(流れ切れない)土砂が堆積して河床が上昇し、洪水を多発させました」と、角教授は口火を切った。 そこで三門峡ダムに土砂を通過させる改修工事が行われ、その後、下流に水と土砂の調節を目的として小浪底ダムが建設された。 日本ではダムに堆積する土砂を排出する方法を「通砂」「排砂」と呼ぶが、中国では「調水調砂」と呼び、下流の河床の調整と「通砂」を同時に行う考え方をするという。 「小浪底ダムは三門峡ダムと連携して調水調砂を行い、また密度流(ダム湖の底をはう高濃度の土砂の流れ。これを利用して通砂が行われる)の効果を高めるために、世界初の『人工密度流』という排砂方法も実施されました」 「人工密度流」とは、上流ダム群の放流に合わせて、下流ダムの貯水池内に堆積した土砂を高圧水ジェットで攪拌し、より高密度の流れを人工的につくり出してダムの底部にある排砂管から下流へ排出することだ。黄河は特にシルトが圧倒的に多く、その特徴を生かした方法と言える。 ここから分かるのは、中国の河川管理・洪水管理の技術が決して劣っているわけではないということだ。では、実際のところ、長江の三峡ダムはどうだったのか。 長江は中国最長の河川で全長約6300キロ。チベット高原を水源とし、四川盆地から東へ流れて、河口部の上海で東シナ海へ注ぐ。 上流域の成都や重慶、中流域の武漢は中国屈指の工業都市で、中下流域の安徽省、江蘇省は全中国の農産物の約40%を占める穀倉地帯だ。下流域の南京から上海までは商業都市がひしめき、長江はこれら19の省・市・自治区を結ぶ水運の大動脈である。 噂されている三峡ダム決壊説について質問すると、角教授は「コンクリートダムは決壊しません!」と、明快に言い切った。 コンクリートは砂と砂利と水とセメントを混ぜた自然素材で、アルカリ性である。空気に触れると中性に変化し、劣化する。例えばビルを建てた場合、コンクリートの中には鉄筋を入れるので、鉄筋が腐食するとコンクリートも劣化してもろくなるし外気に触れる部分は風化する。 一方、ダムには鉄筋がほとんど入っていないので、堤体の水につかっていない下流側の表面など劣化する部分はあっても、水につかった部分や堤体内部はアルカリ性のまま変化せず、半永久的に堅牢だと言ってもよい。 「コンクリートダムの決壊というのは、基礎岩盤が脆弱だったり、地震や水圧で河床部が変形したり、岩盤との接合部分がズレたりすることで起こります」) では、三峡ダムの岩盤は安全なのか。調べてみると、三峡ダムは先カンブリア紀の花崗岩中に造られたとされており、どうやら良好だ。先カンブリア紀は地質時代の年代区分の1つで約5億4100万年前(諸説ある)までのおよそ40億年間を指し、花崗岩は御影石とも呼ばれて堅牢な性質を持っている。 2019年にグーグルアースの航空写真で、「三峡ダムが歪(ゆが)んでいる」という噂が広まったこともある。あれは本当なのだろうか。 「笑い話でしょう」と、角教授はにべもない。「でも、ダムは本来、動くようにできています」 コンクリートは温度により膨張・収縮するため、堤体は建設時の温度対策として、15メートル幅のブロックをジョイントでつなぎ合わせて造られる。ジョイントにはゴム製の止水板を設けてある。その後も、水圧や気温の変化などの影響で、ダムは年間数ミリ単位で常に上下流方向に動いている。 ただし、これは「動いている」と体感できるほどのものではない。 既に多くの専門家が指摘しているが、グーグルアースの写真は航空カメラで撮影され、レンズの中心に光束が集まる中心投影になるため、レンズの中心から対象物までの距離の違いによって対象物の像にズレが生じる。 三峡ダムの「歪み」はこのズレだったようだ。現在は正しく修正されている』、「コンクリートダムは決壊しません!」、一安心だ。「ダムには鉄筋がほとんど入っていないので、堤体の水につかっていない下流側の表面など劣化する部分はあっても、水につかった部分や堤体内部はアルカリ性のまま変化せず、半永久的に堅牢」、初めて知った。
・『放流量を操作し洪水をならす  それよりもっと気になっていたことがある。中国中央電視台(CCTV)によると、8月17日、「第5号洪水」(洪水に番号が付けられていた)の発生が発表された後、三峡ダムの流入量は過去最大の毎秒7万5000立方メートルに達し、11門全ての放水ゲートから過去最大となる毎秒4万8000立方メートルを放流した。 それでも追い付かず、水位は夏期の実績最高の167メートルを記録。堤頂の標高は185メートルだから、間もなく越水するのではないかとの声が高まった。実態はどうだったのだろうか。 「いいえ、越水はしません。(定められた)最高水位の175メートルになれば、ゲートを全て開けて、洪水を通過させればよいのです。このグラフを見てください」と、差し出されたのは、中国側の公式記録を基に角教授の研究室で作成した、5月12日から9月12日までの日別の記録だった(下図参照)。 角教授は次のように分析した。 前提として、ダムの役割には(1)洪水調節、(2)水資源の確保、(3)発電、(4)河川の環境保全の4つがある。これらを担うのが管理者(この場合は長江水利委員会)の役目だ。 洪水調節において管理者は、平時から気象情報をチェックして今後の予測雨量や台風情報を収集し、気象の変化に合わせて、流入量に応じた放流量を調節する。ここで重要なのはダムの貯水容量である。) 先日、角教授らの属するダム工学会が公開した動画によれば、洪水時のダムの操作には3段階あり、第1段階の平常時(下流へ必要な水量だけ放流する)、第2段階の大雨時(あらかじめ確保したダムの洪水調節容量を用いて、流入量に応じて放流量を調節する)、第3段階の異常豪雨時(緊急放流とも呼ばれ、ダムの容量では処理し切れない際、上部のゲートを開けて洪水をそのまま通過させる)に分けられる。 三峡ダムのデータを見ると、平常時から大雨時、異常豪雨時へと段階を踏んで、操作方法を変化させていった様子がはっきり見て取れる。 まず6月上旬に、大雨が予想される梅雨期に備えて、あらかじめ貯水池の貯水量を減らす事前放流を行った。7月中旬に長江中下流で洪水が発生したことから、ダムでは洪水をため込んで増水を防いだ。 特に7月18日のピーク時には毎秒6万立方メートルの流入量を毎秒3万5000立方メートルまで減らす放流を行った。この際に水位は一時164メートルまで高まったが、その後流入量が低下した際に、再度事前放流を行って容量回復を行ったことにより、7月27日の次の洪水ピーク時にも放流量を低減させた。 それでも豪雨はやまず、最後のピークは8月19日に訪れた。ダム流入量で毎秒7万立方メートルを超えて記録的に増加し、11門の放水ゲートを全て開放して放流を行った。ただしその間も、流入量から毎秒2万立方メートルを差し引いた程度の放流を保ち続け、これにより貯水位は165メートルを超えたが、その後流入量が減少した。 「洪水ピーク時の複数回の事前放流がなければ、水位はもっと上昇していた危険性もあった。長江水利委員会は下流の洪水と上流の洪水を見ながら放流量を巧みに操作し、洪水をならしながら無事に通過させました」と、角教授は太鼓判を押した。 ※後編:「決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性」に続く』、「長江水利委員会は下流の洪水と上流の洪水を見ながら放流量を巧みに操作し、洪水をならしながら無事に通過させました」、日本のお粗末なダムの「放流量」調節より遥かに上手そうだ。 

第三に、この続きを、昨年10月24日付けNewsweek日本版が掲載したノンフィクション作家の譚璐美(たん・ろみ)氏による「決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/10/post-94801_1.php
・『<「決壊説」が繰り返されてきたが、専門家によれば、中国の河川管理・洪水管理の技術は決して劣ってはいない。だが、問題は他にある。汚職と環境破壊、三峡ダムの相反する「致命的な欠陥」も明らかになった> (本記事は2020年10月13日号「中国ダムは時限爆弾なのか」特集収録の記事の後編です)※前編:「世界が騒いだ中国・三峡ダムが『決壊し得ない』理由」から続く』、相反する「致命的な欠陥」とは何なのだろう。
・『黄河と異なる「河床低下」問題  なるほど。三峡ダムは当面は決壊しそうにない。だが問題がないわけではない。 例えば、三峡ダムの周辺では地質のもろさが問題になっている。2005年の土木学会「第34回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集」には、三峡ダム周辺の地区は「砂岩、泥岩、砂泥互層、頁岩(石灰を含む)、ジュラ紀と三畳紀上統の地層が分布し......長江周辺の90%以上の地滑りは、ジュラ紀と三畳紀の地層に発生している」とする論文がある。 そして貯水池周辺で計283カ所の地滑りと斜面崩壊が起きていることが報告されている。岩盤は安全でも、周辺の地質が緩ければ、貯水池に土砂が流入するなど影響が及びそうだ。 また、角教授の話では、黄河の三門峡ダムなどでの経験を生かし、長江でも土砂管理に取り組んでいるものの、黄河とは違った堆砂(堆積する土砂)の問題があるという。 長江は土砂の粒径が粗く、ダム湖にとどまりやすいために、ダムからの放流水は土砂が少ない清水となります。黄河では調水調砂でダム下流の『河床上昇』がうまくコントロールされたが、長江ではむしろ土砂が不足するために『河床低下』、さらに河口部まで土砂が供給されずに『海岸浸食』が起きている。河床が低下することで、長江に接続する湖との水の交換が変化したり、上海の海岸線が年々減退したりしているのです」と、角先生は眉をひそめた。 これは重大な指摘だ。土砂の供給量が減少すると、河口デルタが縮小するだけでなく、川が運ぶ栄養豊富な土壌がもたらす河口や沿岸域の干潟が劣化し、さらには河床低下が海からの塩水遡上(そじょう)をもたらし、塩分濃度が高まって魚類が死滅したり、農作物が塩害を受けたりするなど、甚大な悪影響を及ぼすことになる。 これはメコン川などでも大きな課題となってきており、広域的な課題解決のための連携が必要だ。 一方、上智大学大学院地球環境学研究科の黄光偉教授は、三峡ダムの問題点について「重慶市にもっと着目すべき」と指摘する。 「重慶は人口3000万人の工業都市です。世界でどこのダムの上流にこんな重要都市がありますか? 中国だけです。その重慶で堆砂による河床上昇が起こり、洪水が頻発しているのです」 浮遊砂と掃流砂という、大粒で重い堆砂が貯水池に大量にたまるのは大きな問題だ。しかも、三峡ダムの上流には狭い峡谷が連なり、地質がもろく、崖崩れや地滑りが頻発して岩石や土砂が長江に流れ込む。 その結果、全長660キロにも及ぶ、ダム湖からバックウォーター(背水池)に掃流砂が大量にたまる。 重慶はそのバックウォーターの先端にある。堆砂がたまって河床が上がった重慶では、水位が上がり、水害が頻繁に起きているのだ。これは見過ごせない一大事である。 2020年現在、バックウォーターの堆砂は16億トンに上るという推量もあり、2030年には40億トンまで増えて、どうにも対処できなくなる。「そうなる前に三峡ダムを破壊すべきだ」と、一部の三峡ダム批判派が主張するゆえんでもある』、「長江は土砂の粒径が粗く、ダム湖にとどまりやすいために、ダムからの放流水は土砂が少ない清水となります。黄河では調水調砂でダム下流の『河床上昇』がうまくコントロールされたが、長江ではむしろ土砂が不足するために『河床低下』、さらに河口部まで土砂が供給されずに『海岸浸食』が起きている」、「長江」と「黄河」でずいぶん異なるようだ。「重慶はそのバックウォーターの先端にある。堆砂がたまって河床が上がった重慶では、水位が上がり、水害が頻繁に起きているのだ・・・2020年現在、バックウォーターの堆砂は16億トンに上るという推量もあり、2030年には40億トンまで増えて、どうにも対処できなくなる。「そうなる前に三峡ダムを破壊すべきだ」と、一部の三峡ダム批判派が主張するゆえんでもある」、大変だ。
・『建設への意見書は発禁処分に  ところで、日本のダムは「異常洪水時」の緊急放流に際して、事前警報でサイレンを鳴らし、沿川の自治体に事前通告して、住民が避難する時間をつくることが鉄則だという。では、中国はどうだったか。 中国のSNS上には、「ダムが警報なしに放流した」「堤防をブルドーザーで破壊したが、住民に予告しなかった」「深夜に急に浸水し、着の身着のまま逃げ出した」などという不満が相次いだ。 被災者は避難する十分な時間も与えられずに、家も田畑も財産も失って逃げ出したことが推察できる。これは行政の怠慢で、政治の問題ではないのか。 三峡ダムは1912年、孫文が国家建設のために「鉱山開発」「鉄道網の普及」「三峡ダムによる発電」を構想したことに始まるが、日中戦争で計画倒れに終わった。 1949年に中華人民共和国が誕生した後も、長引く政治運動で手を付けられず、文化大革命が終息した後の80年代にようやく現実味を帯びてきた。だが、発展途上の中国ではまだ「時期尚早」との声が高かった。 1989年1月、光明日報の記者の戴晴(タイ・チン)が編纂した『長江 長江』が出版された。三峡ダム建設計画について水利専門家や有識者、政治家に取材して編纂した意見書だ。「資金不足」「技術力不足」「生態系の破壊」「大量の移住者が出る」などの理由で、慎重論がほとんどだった。 その中で、戦前、米イリノイ大学で工学博士号を取得した著名な水利学者で、清華大学の黄万里(ホアン・ワンリー)教授は、堆砂の深刻さを問題視した。 「長江の三峡地区は堆積性河段(土砂が沈殿・堆積する河床部分)で、このような場所にダムを造ってはいけない。宜昌市の砂礫の年間流動量を推算すると、およそ1億トンに上る。上流域にも土砂が堆積し、ダム完成後10年以内に重慶港が土砂で塞がれる事態が発生する恐れがある」 同書をきっかけに、三峡ダムプロジェクト論争が熱を帯びた。李鵬(リー・ポン)首相を中心とする中国政府が強引に計画を推し進めるなか、同年6月4日、天安門事件が起きた。政府は民主化運動を武力で弾圧し、戴晴は「騒乱と暴乱の世論作りのために準備した」との罪で逮捕・拘禁され、今に至るまで中国では意思発表の場はない。 『長江 長江』も出版を禁止され、焼却処分になった。同書で取材を受けた有識者らも共産党から除名、降格、失業、亡命を余儀なくされた』、「「ダムが警報なしに放流した」「堤防をブルドーザーで破壊したが、住民に予告しなかった」・・・被災者は避難する十分な時間も与えられずに、家も田畑も財産も失って逃げ出したことが推察できる」、こんな荒っぽい行政を続けることは出来ない筈だ。「李鵬・・・首相を中心とする中国政府が強引に計画を推し進めるなか、同年6月4日、天安門事件が起きた。政府は民主化運動を武力で弾圧し、戴晴は「騒乱と暴乱の世論作りのために準備した」との罪で逮捕・拘禁され・・・『長江 長江』も出版を禁止され、焼却処分に」、「天安門事件」をはさんでいたとは初めて知った。
・『日本企業が知った「環境無視」  そして1992年4月、徹底した言論統制の下、全国人民代表大会で「三峡プロジェクト建設決議」が、強行採択された。 1994年12月、着工式が盛大に挙行された。当初予算の総工費約2000億元(約232億ドル)は、1年で2500億元に増え、インフレでさらに膨らみつつあった。大幅な不足資金は外資に頼り、建設技術と重要機材も外国製を購入、技術移転も強要するという「おんぶにだっこ」のスタイルだった。 国際入札が始まると、世界中の企業の注目が集まった。最初は870件で合計38億ドルの発注だった。ゼネラル・エレクトリック(GE)のカナダ子会社や米キャタピラー、ドイツのデマーグ、クルップなどが受注した。 1995年の建設機械、1997年の水力発電機の国際入札でも日本企業は敗退した。 1999年5月、総額2億ドルの水力発電所変電変圧施設の国際入札。満を持して応札した日本の三菱電機・住友商事連合は、計17グループがひしめくなかで最も技術的に優れ、最低価格で応札した。 ところが、中国は9月、日本より数千万ドル高いドイツのシーメンスとスイスのABBの連合が落札したと発表した。 衝撃を受けた日本は、各種ルートをたどって理由を問いただし、11月末、日中投資促進機構の訪中団が北京を訪れた際、個別に会談した中国の呉儀(ウー・イー)国務委員と対外貿易省の常暁村(チャン・シアオツン)機電局長から、こう告げられた。 「日本企業連合を排したのは、融資条件の中に環境保護規定の遵守が入っていたからだ」 この前年、アメリカは国内の環境保護機運の高まりを背景に、国際入札からの撤退を表明していた。それに動揺した日本は、入札前日に急きょ「環境保護規定」を盛り込んだのだ。 中国はその規定が邪魔だと判断して日本を退けた。当初から環境保護などまるで無視していたのである。 中国政府はダム建設予定地に住む120万人以上を強制移転させたが、2000年1月、移転費用の1割に当たる4億7300万元(5700万ドル)を地元政府や移転企業が不正流用した事実が発覚した。 だがこれは氷山の一角にすぎなかった。李鵬以下、中央から地方へ建設予算が振り分けられるたびに、各レベルの役人が着服し、果ては現場で工事を請け負う建設会社もコンクリートの品質をごまかしていた疑いが持たれたのだ。李の息子と娘は、長江三峡集団傘下の長江電力グループの企業トップに就任し、「電力ファミリー」の異名をとどろかせた。 2009年、三峡ダムが完成すると、竣工式はわずか8分で終了した。汚職の責任を押し付けられたくない政府高官がみな出席しなかったからだ。その様子を見て、地元の人々は「豆腐渣(トウフーチャー、おから)」ダムだと揶揄した』、「総額2億ドルの水力発電所変電変圧施設の国際入札。満を持して応札した日本の三菱電機・住友商事連合は、計17グループがひしめくなかで最も技術的に優れ、最低価格で応札した。 ところが、中国は9月、日本より数千万ドル高いドイツのシーメンスとスイスのABBの連合が落札」、「アメリカは国内の環境保護機運の高まりを背景に、国際入札からの撤退を表明していた。それに動揺した日本は、入札前日に急きょ「環境保護規定」を盛り込んだのだ。 中国はその規定が邪魔だと判断して日本を退けた」、「日本」の対米追随の足元を見られたようだ。
・『相反する課題をどう解決する  環境破壊と汚職にまみれた三峡ダムの「悲劇」は、取りも直さず、今夏の豪雨による被災者の悲劇に通じている。 今年7月下旬、香港メディアが豪雨の甚大な被害を報じる一方、管制メディアの新華社ネットは洪水を擬人化し、ちゃかしてみせた。人民網は、湖南省で水没した名所、鳳凰古城の惨状を「まるで桃源郷にいるようだ」と美化した。 無論、SNSには人々の怒りの声があふれ返ったが、それらは瞬時に中国政府によって削除された。戦前、魯迅が慈しんだ「声なき民の声」は今も昔と同じように記録に残ることはない。 現在、中国では長江上流の金沙江に巨大なダムを次々に建設している。最先端技術を誇る烏東徳ダムは一部稼働を始めた。渓洛渡ダムは発電量1万3860メガワットで世界第3位だ。これに向家覇ダムと白鶴灘ダムを加えたダム4基の発電量は、三峡ダムの発電量の2倍になる。 こうしたスーパーダム群が、三峡ダムの堆砂を少しでも減少させるために役立つのか。あるいは、中国のはるか奥地まで堆砂問題を拡大させようとしているのだろうか。 「これらのダムには、三峡ダムの堆砂を軽減する目的もありました」と、前出の黄光偉教授は言う。 「しかしダムをいくつ造っても、堆砂や洪水、水質汚染、水問題などをバラバラに研究していては問題解決にならない。問題を1つ解決しても、さらに出てくる問題のほうが多いのが現状です。研究者は『学融合』して協力し合い、統合的なアプローチをすることが大事。私自身は、今後は生態系の復元が最も大切なポイントだと考えています」 三峡ダムは、今後も決壊するかどうかに関心が集まるだろう。だが真の問題は、上流の河床上昇と下流の河床低下という、相反する課題をどう解決するかだ。海岸浸食と生態系の破壊という根深い問題も秘めていることが浮き彫りになった。 国民不在の政治体質はさらに根深い。容易ならざる事態はこれからも続く。 <2020年10月13日号「中国ダムは時限爆弾なのか」特集より>』、「ダム4基の発電量は、三峡ダムの発電量の2倍になる。 こうしたスーパーダム群が、三峡ダムの堆砂を少しでも減少させるために役立つのか。あるいは、中国のはるか奥地まで堆砂問題を拡大させようとしているのだろうか」、「真の問題は、上流の河床上昇と下流の河床低下という、相反する課題をどう解決するかだ。海岸浸食と生態系の破壊という根深い問題も秘めていることが浮き彫りになった。 国民不在の政治体質はさらに根深い。容易ならざる事態はこれからも続く」、習近平氏の強権政治のもとでは、問題解決は難しそうだ。
タグ:中国経済 (その13)(中国から外国企業が「大脱出」する予兆が見え始めた 駐在員は歓迎されなくなった、三峡ダム2題:世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由、決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性) PRESIDENT ONLINE ニューズウィーク日本版 「ニューズウィーク日本版」現地取材:中国から外国企業が「大脱出」する予兆が見え始めた 駐在員は歓迎されなくなった 『レッド・ルーレット——現代中国の富・権力・腐敗・報復についてのインサイダー物語』 「「中国での潜在的ビジネスパートナーが4年間も行方不明になりかねない」現実を認識しつつある」、のであれば、商売上がったりだ。 「(これでは政府の)市場介入がますます増え……中国を共同貧困へと導くだけだ」と批判」、その通りだ。 「自給自足の方針が強化されるなか、ますます多くの欧州企業が技術の現地化とサプライチェーンの国内完結か、市場からの退場かの選択を迫られている」、「中国東北部の3省は「予想外で前例のない」大停電に見舞われ、電力使用の割当制を導入」、これでは。「市場からの退場」を選択するEU系企業も増えるだろう。 「外国のパスポートを所持する上海在住者・・・と北京在住者・・・は、1年前に比べて28%超も減った」、「「先進国出身のグローバルな人材の流出が止まらなければ、イノベーションに支障を来す」恐れがある」、その通りだ。 「中国では所得格差の指標であるジニ係数がアジア諸国の平均の0.34よりはるかに高く、アメリカの0.41よりもさらに高い0.47前後で、「極めて不平等な状態」だ」、「アメリカ」より「格差」が大きいとは危険な兆候だ。 Newsweek日本版 譚璐美 「世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由」 「ダム工学研究の第一人者で・・・中国の事情にも明るい」、とは信頼できそうだ。 「コンクリートダムは決壊しません!」、一安心だ。「ダムには鉄筋がほとんど入っていないので、堤体の水につかっていない下流側の表面など劣化する部分はあっても、水につかった部分や堤体内部はアルカリ性のまま変化せず、半永久的に堅牢」、初めて知った。 「長江水利委員会は下流の洪水と上流の洪水を見ながら放流量を巧みに操作し、洪水をならしながら無事に通過させました」、日本のお粗末なダムの「放流量」調節より遥かに上手そうだ。 「決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性」 相反する「致命的な欠陥」とは何なのだろう。 「長江は土砂の粒径が粗く、ダム湖にとどまりやすいために、ダムからの放流水は土砂が少ない清水となります。黄河では調水調砂でダム下流の『河床上昇』がうまくコントロールされたが、長江ではむしろ土砂が不足するために『河床低下』、さらに河口部まで土砂が供給されずに『海岸浸食』が起きている」、 「長江」と「黄河」でずいぶん異なるようだ。「重慶はそのバックウォーターの先端にある。堆砂がたまって河床が上がった重慶では、水位が上がり、水害が頻繁に起きているのだ・・・2020年現在、バックウォーターの堆砂は16億トンに上るという推量もあり、2030年には40億トンまで増えて、どうにも対処できなくなる。「そうなる前に三峡ダムを破壊すべきだ」と、一部の三峡ダム批判派が主張するゆえんでもある」、大変だ。 「「ダムが警報なしに放流した」「堤防をブルドーザーで破壊したが、住民に予告しなかった」・・・被災者は避難する十分な時間も与えられずに、家も田畑も財産も失って逃げ出したことが推察できる」、こんな荒っぽい行政を続けることは出来ない筈だ。 「李鵬・・・首相を中心とする中国政府が強引に計画を推し進めるなか、同年6月4日、天安門事件が起きた。政府は民主化運動を武力で弾圧し、戴晴は「騒乱と暴乱の世論作りのために準備した」との罪で逮捕・拘禁され・・・『長江 長江』も出版を禁止され、焼却処分に」、「天安門事件」をはさんでいたとは初めて知った。 「総額2億ドルの水力発電所変電変圧施設の国際入札。満を持して応札した日本の三菱電機・住友商事連合は、計17グループがひしめくなかで最も技術的に優れ、最低価格で応札した。 ところが、中国は9月、日本より数千万ドル高いドイツのシーメンスとスイスのABBの連合が落札」、「アメリカは国内の環境保護機運の高まりを背景に、国際入札からの撤退を表明していた。それに動揺した日本は、入札前日に急きょ「環境保護規定」を盛り込んだのだ。 中国はその規定が邪魔だと判断して日本を退けた」、「日本」の対米追随の足元を見られたようだ。 「ダム4基の発電量は、三峡ダムの発電量の2倍になる。 こうしたスーパーダム群が、三峡ダムの堆砂を少しでも減少させるために役立つのか。あるいは、中国のはるか奥地まで堆砂問題を拡大させようとしているのだろうか」、「真の問題は、上流の河床上昇と下流の河床低下という、相反する課題をどう解決するかだ。海岸浸食と生態系の破壊という根深い問題も秘めていることが浮き彫りになった。 国民不在の政治体質はさらに根深い。容易ならざる事態はこれからも続く」、習近平氏の強権政治のもとでは、問題解決は難しそうだ。
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金融業界(その12)(新生銀行VS SBI:「新生銀の株価は安すぎる」業界初の敵対的買収にSBIが絶対の自信を持つワケ 株価が上がれば公的資金も返せる、新生銀行の本当の「敵」は、SBIなのか…?「TOB攻防」から見えてきたもの 「登場人物」たちの立場を整理する、SBI北尾社長「新生銀行は泥棒」発言の真意…決算説明会に込められた「本気のビジョン」) [金融]

金融業界については、10月17日に取上げた。今日は、(その12)(新生銀行VS SBI:「新生銀の株価は安すぎる」業界初の敵対的買収にSBIが絶対の自信を持つワケ 株価が上がれば公的資金も返せる、新生銀行の本当の「敵」は、SBIなのか…?「TOB攻防」から見えてきたもの 「登場人物」たちの立場を整理する、SBI北尾社長「新生銀行は泥棒」発言の真意…決算説明会に込められた「本気のビジョン」)である。

先ずは、11月8日付けPRESIDENT Onlineが掲載した経済ジャーナリストの森岡 英樹氏による「「新生銀の株価は安すぎる」業界初の敵対的買収にSBIが絶対の自信を持つワケ 株価が上がれば公的資金も返せる」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/51588
・『「敵対的だから良い・悪いという類いの判断ではない」  「基本的には、経営統合が敵対的なTOBという形態で行われることは、決して好ましい形ではないのではないかと思っている」 「敵対的だから良い・悪いという類いの判断ではなく、基本的には個々の案件の状況をしっかりと総合的に考えて、対象となっている企業の企業価値の中長期的な向上に資するか否か、利益相反はないかといった点などを総合的に考慮したうえで、個々の金融機関において個別に判断される性格のものだろうと考えている」 前者は、地方銀行協会の柴田久会長(静岡銀行頭取)が9月15日の記者会見で、SBIホールディングスによる新生銀行への敵対的なTOBについて聞かれ、答えたもの。後者は全国銀行協会の髙島誠会長(三井住友銀行頭取)が10月14日の記者会見で、敵対的なTOBについて聞かれ、答えたものだ』、地銀協「会長」発言は、やはり「敵対的買収」に警戒的だ。
・『両者の発言に温度差が生まれた背景(両者の答えの温度差は、柴田氏がSBIによる新生銀行へのTOBという個別案件について聞かれたのに対し、髙島氏は一般的な敵対的なTOBについて聞かれたという違いもあるが、それに加え、柴田氏の母体である静岡銀行が、今回のSBIによる新生銀行へのTOBの引き金となったマネックスグループと資本業務提携していることと関係している。 柴田氏は記者会見で、「静岡銀行とマネックスは親密な関係にあると認識している。新生銀行はホワイトナイトを探すといった報道もあるが、静岡銀行に対してホワイトナイトに関する打診はあったか、また、打診があった場合はどのように対応する予定か」と聞かれ、「静岡銀行の持分法適用会社であるマネックスが、今回、さまざまな報道で名前が挙がっていることは承知しているが、本件はあくまで新生銀行とマネックス、SBIの三者間の話であり、静岡銀行としてこの場でお知らせする決定事項はない」と回答し、SBIによる新生銀行TOBに距離を置く』、「静岡銀行」としては当然の対応だ。それにしても、「新生銀行」が株主のSBIのライバルの「マネックス」と提携するとは、初めからケンカ腰だったのは何か理由でもあったのだろうか。
・『最後には大株主である国との交渉が残る  このSBI(北尾吉孝社長)と新生銀行のTOBをめぐる確執は泥沼化の様相を呈している。SBIは9月10日から12月8日まで新生銀行に対してTOB(株式公開買い付け)を行っており、出資比率を48%まで引き上げたい意向だ。買い付け価格は新生銀株の9月9日終値の1440円を39%上回る1株2000円に設定されている。 これに対して新生銀行は10月21日、条件付きでTOBに反対すると発表した。買い付け株数に上限があることや買い取り価格が十分でないことから「株主共同の利益に資さない」(工藤英之・新生銀行社長)というのが理由だ。SBIが懸念解消に向け条件を変更するなら賛同に回るとしたが、SBIは即刻、条件変更に応じない姿勢を表明。両者の確執は銀行界初の「敵対的TOB」に発展した。 SBIが買い付け株数の上限を撤廃し、50%超の株式を取得するには、改めて銀行法第52条など法令上の許可が必要で、SBIが新生銀行の親会社になるために、銀行持ち株会社の認可を取得しなければならないためだ。その上で最後には大株主で新生銀行株の20%程度を有する国(預金保険機構)との交渉が残る』、「SBIが買い付け株数の上限」をつけたのは、その範囲であれば、規制上、問題がないためのようだ。
・『「地銀の株価は安すぎる。うちと組めばもっと上がる」  今後の焦点は、新生銀行が11月25日に開催する臨時株主総会に移る。新生銀行はTOBに対する買収防衛策を諮はかる予定で、SBI以外の株主に新株予約権(1株当たり普通株式0.8株)を無償で割り当てる。株主総会で過半の株主が買収防衛策の発動に賛成すれば、TOBが成立してもSBIの保有株の価値が大きく低下するため、SBIが実質的に経営を支配するだけの株式比率を維持できなくなる。 SBIはすでに株主総会の票読みを始めており、買収防衛策に過半の賛成が得られず、結果的に48%の株式を握るシナリオに自信を示しているが、総会の帰趨きすうは予断を許さない。 SBIがTOB成立に自信を持つ背景には、新生銀行を含む地銀連携「第4のメガバンク構想」への自負がある。北尾氏は16年頃から「地銀の株価は安すぎる。うちと組めばもっと上がる」と地銀経営者に誘い水をかけてきた。その後、18年に地銀投資を手掛ける私募投信「SBI地域銀行価値創造ファンド」を立ち上げ、第4のメガバンク構想を推し進めている。これまでに第二地銀を中心に8行に資本出資しており、「当面、10行程度まで広げる」(北尾氏)との意向を表明している。新生銀行へのTOBはその中核に位置付けられる』、「地銀」であれば、SBIとの提携でこれまで果たせなかった機能を持つことができ、メリットは確かにあるが、既に証券子会社を持っている「新生銀行」ではメリットがあるかどうかははっきりしない。
・『新聞広告で新生銀行の株主に「エール」  その自信は新生銀行がTOBに対して買収防衛策の導入検討を発表した直後の9月22日、日経新聞に掲載されたSBIの「質的転換で活性化する地域金融機関」と題する全面広告に如実に表れている。 SBIの資産運用ノウハウを活用しながら、コスト削減を行い、21年3月期の純利益が黒字に転換した島根銀行をはじめ、福島、筑邦、清水、東和、仙台、きらやか、筑波の各銀行がSBIとの資本提携を機に収益がV字回復したか、棒グラフで示されている広告で、「新生銀行もSBIが買収すればこれ以上の収益改善が見込めると言っているようなものだ」(メガバンク幹部)と受け止められた。 広告では「『一燈照隅、万燈照国』という言葉のように、各行が愛する地域を照らす『一燈』となることで、燈火は広がり、『万燈』となって、国全体をくまなく照らすでしょう」と、中国の古典に精通した北尾氏ならではの格言が躍った。新生銀行の株主へのエールだろう。 北尾氏は以前から「新生銀行を(地方)銀行の銀行にしたい」と周囲に語っていた。「第4のメガバンク構想」では、SBIが過半を出資して持株会社を設立し、そこに全国の地銀やベンチャーキャピタル、運用会社などが出資して協力関係を築く。持株会社は参加する地銀等の業務システムやフィンテックなどのインフラや資産運用の受託ほか、人材の供給、マネーロンダリングの対応など幅広い商品・サービスを提供する、いわば「プラットフォーム」と言っていい』、なるほど。
・『地銀の人材育成とフィンテック事業をサポートしてきた  北尾氏によれば、「第4のメガバンク構想」は唐突なアイデアではないという。SBIと地域金融機関は過去5年にわたり親密な関係構築に努めてきた。北尾氏はそれを2つのフェーズに分けて説明する。 まずSBIの金融商品やサービスを通じて地域金融機関の企業価値の向上に貢献したのが第1フェーズで、金融商品仲介業サービスで地域金融機関と連携した。また、地銀7行と共同で「マネープラザ」を設立し、地域住民の資産形成ニーズに応えているほか、資産運用の高度化として地域金融機関と共同出資の「SBI地方創生アセットマネジメント」を設立し、運用ノウハウの高度化や人材育成を図ってきた。 次ぐ第2フェーズでは、地域金融機関に機能的なAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)基盤を低価格で提供することでフィンテ「ック企業のサービスやシステムの導入をサポートしているほか、ジョイントベンチャーの設立等を進めている。また、事業承継ファンドの創設を通じ、地方の中小企業の事業承継ニーズに応えていると指摘する。今回の「第4のメガバンク構想」は、こうした一連の基盤の上に構想されたプロジェクトと位置付けられる』、「第4のメガバンク構想」のなかで「新生銀行」が果たす役割は何なのだろう。
・『「第4のメガバンク構想は地銀のため」は本当か  北尾氏によれば、「第4のメガバンク」は、「第4」と銘打っているものの、従来の3メガバンクとは一線を画する新しい発想・哲学に基づく「新メガバンク」であると豪語する。そのコンセプトは「社会課題解決型ビジネスモデル」であり、地方創生のためには地域金融機関の機能強化が欠かせないと説く。 例えば、地域金融機関にとって重たい負荷となっているシステム開発については、プライベートクラウドサービスを共同持株会社のもとで、参加地域金融機関と共有することで、大幅なコスト削減が実現できると見ている。また、マネーロンダリング対応では、証券会社など35社を糾合した「証券コンソーシアム」を設立、本人確認を共同プラットフォーム化するなどの実績がある。 代々の家業から中国の歴史・文化に精通する北尾氏は、論語を紐解く。「第4のメガバンク構想」も「世のため、人のため」であり、「地銀のため」と説く。利益は後でついてくるというのが哲学だ。しかし、証券会社そしてベンチャー業界という生き馬の眼を抜く熾烈な競争社会を生き延びてきた北尾氏が、ただ人のために尽くすからというわけではなかろう。そこには北尾氏一流の算盤勘定があるとみるべきだ』、「北尾氏」は弁舌が立つが、私は個人的には信用していない。
・『地銀が傘下に入れば、間接的に公的資金を注入できる  鍵は政治との関係にある。「第4のメガバンク構想」の雛形は、「信用金庫業界の中央銀行といっていい『信金中央金庫』や農林系統金融機関の資産運用を一手に担う『農林中央金庫』のようなイメージではないだろうか」(地銀幹部)と受け止められている。 実はこの構想は、自民党の金融調査会「地域金融機関経営力強化プロジェクトチーム」の提言とオーバーラップしている。金融調査会の会長である山本幸三氏は、プロジェクトチームの提言について、「地銀も信金中央金庫のような系統運用機関を創るべきだ。地銀のトップたちに提言し、どう対応するか見ている段階だ」と指摘している。 だが、その裏に隠された最大のテーマは、地方経済のセーフティーネットという役割と見られている。なぜなら「第4のメガバンク構想」の最大の効用は、持ち株会社を通じて地銀が公的資金を受けられることにあるためだ。「共同持株会社を通じて傘下の地銀が経営危機に陥った場合に、間接的に公的資金を注入する受け皿ではないのか」(メガバンク幹部)との声も聞かれる』、なるほど。
・『約3500億円もの公的資金をどう返済するのか  一方、新生銀行はTOB期限までにホワイトナイトを見つけることが最大の眼目。だが、SBIが提示したTOB価格が高いことに加え、ホワイトナイトが成功しても、買収後の新生銀行の企業価値を早期に引き上げるのは容易なことではない。 また、TOBの行方を左右するのは新生銀の公的資金の返済プランにかかっている。新生銀行は1998年から公的資金の注入を受け、1500億円を返したが、約3500億円が未返済となっている。 2000年に当時の谷垣禎一金融再生委員長は公的資金の返済に関し、政府保有の新生銀株の時価総額が500億円を超えることが条件との趣旨の国会答弁を行っている。公的資金返済に必要な新生銀の株価は、市場価格を大幅に上回る1株7500円程度となる。公的資金を司り、新生銀行の約2割の普通株を所有する国(預金保険機構など)、金融庁の出方が最大の鍵を握る』、「公的資金返済に必要な新生銀の株価は、市場価格を大幅に上回る1株7500円程度」、絶望的だが、そもそも金融庁が普通株に転換したことにも一因がある。
・『新生銀行の存在価値そのものが問われている  「敵対的だから良い・悪いという類いの判断ではなく、基本的には個々の案件の状況をしっかりと総合的に考えて、対象となっている企業の企業価値の中長期的な向上に資するか否か、利益相反はないかといった点などを総合的に考慮したうえで、個々の金融機関において個別に判断される性格のものだろうと考えている」 冒頭に全銀協の髙島会長がこう指摘したように、TOBの帰趨は、ひとえにSBIが買収することで、新生銀行の企業価値が向上するかどうかにかかっている。SBIに代わるホワイトナイトについても同様である。新生銀行の企業価値が向上し、株価が上昇すれば公的資金返済への筋道も見えてこよう。 大手証券による大手銀行へのTOBは異例の「敵対的なTOB」に発展した。証券会社が銀行を買収することも異例だが、皮肉にも今回のTOB最大の効用は、大手行で唯一、公的資金が残る新生銀行の企業価値を社会が再認識する契機になったことではなかろうか。問われているのは、新生銀行の存在意義そのものである。 新生銀行がこのままの状態であり続けるほうが国民にとって有益なのか、SBIが買収するほうが有益なのか。それとも第三のホワイトナイトの手に委ねられるべきか。国民も公的資金を通じた有力なステークホールダーであることは忘れてはならない』、前身の長期信用銀行の破綻処理に長い時間がかかったため、優良取引先が逃げ出し、残った取引先は、他行が手を出さないような不信企業ばかりになり、顧客基盤が著しく劣化した。今さら「存在意義」でもないような気もする。

次に、11月17日付け現代ビジネスが掲載した株式会社J’s PR 代表取締役の三ツ谷 誠氏による「新生銀行の本当の「敵」は、SBIなのか…?「TOB攻防」から見えてきたもの 「登場人物」たちの立場を整理する」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/89192?imp=0
・『「小説さながら」の攻防劇  去る2021年9月9日、SBIホールディングス(と正確を期せばその完全子会社であるSBI地銀ホールディングス)は、2019年に資本・業務提携を申し込んで以来、継続的に協働・提携を協議していた新生銀行に対し、発行済み株数の48%を上限として、取得価格を2,000円と設定した株式公開買い付け(TOB)に踏み切った。 そのような判断に踏み切った理由について、様々な経済記事が、新生銀行が2021年1月SBI証券ではなくマネックス証券との包括提携を突如表明したことが、北尾吉孝社長を筆頭とするSBI経営陣が工藤社長以下新生銀行経営陣へ抱いていた不信感を決定的にしたため、と推測している。 このSBIのTOBに対し新生銀行の経営陣がどう対応するのかが注目されていたが、新生銀行は10月21日、TOBに対して反対意見を表明、銀行セクターとしては本邦初の敵対的買収の攻防劇が始まっている。 そして攻防の舞台は11月25日に設定された新生銀行の臨時株主総会に移っている。ここでの注目点は新生銀行の株主が、新生銀行の現経営陣が発動を期す買収防衛策を支持するかどうか、そのために必要な過半数の議決権を新生銀行経営陣が集められるかどうか、となっている。 この買収劇については、格調高くは山崎豊子、生々しくは清水一行や真山仁、そうした作家の企業小説を思わせるストーリー仕立てに描写することもできよう。 そもそも新生銀行がその前身である日本長期信用銀行の時代に遡り、バブル崩壊と公的資金の導入、小泉政権のもと外資系のリップルウッドによる買収、外国人経営者の跋扈、リーマン後のあおぞら銀行との統合構想の破綻など、ドラマティックと言うにはあまり血生臭いバックグラウンドを抱えていることも一因だ。 そして、渦巻く人間の相関も、このイベントを看取るテキストとして材料に欠かない』、「攻防劇」は確かに「小説さながら」だ。
・『財政界の大物たちが織りなす「絵巻物」  まず、菅前首相とSBIホールディングスの北尾社長の関係、また北尾氏がTOB成立後に新生銀行に送り込む内諾を得ているのが、地銀再編を強く推進しようとしていた元金融庁長官の五味廣文氏であること。 逆に新生銀行の工藤社長がマネックス証券の松本大氏と東大の同期であり、かつゴールドマン・サックス出身者が新生銀行サイドに数多い(松本氏も含み)こと、更には岸田首相がまさにその旧長銀のOBでもあること。こうした政財官の大物たちの織り成す絵巻物としてこのイベントを眺める記事も多く見られている。 筆者もそうした人間の感情や思惑の織り成すドラマが嫌いではないし、個人的には野村證券の事業法人部をそのキャリアの基盤とするSBIの北尾氏と、第一勧銀を振り出しとしながらも、みずほ証券でやはり事業法人部を経験した、共に「事法マン」の、つまりは投資銀行家の二人の社長、二人のプロが、この件にどう向き合うのか、凌ぎ合うのか、そこにはとても強い興味を持っている。 アウトサイダーの筆者は外部から今回の買収劇を記すほかないが、まず「敵対的買収」という言葉が、誰が誰の敵対者なのか、から整理しておこう。 買収者、この場合のSBIホールディングス、は誤解の多い話にはなるが、新生銀行の現株主にとっての敵対者ではない、逆に彼らは彼らが思う「無能で無責任な」現経営者を排除することで、新生銀行が本来そうあるべき企業価値を実現させていこうとする現株主にとっての味方、救世主なのだ、と考えることも可能だ。 もちろん、それを判断するのは現株主であって、本件については、買収後、当面は上場を維持しても政府持ち分とSBIホールディングスの持ち分の合計が90%を超えた段階でのスクィーズアウト(残る株を買い上げ、上場を廃止すること)が想定されている以上、現実的に提示された買取価格2,000円がそれぞれの株主の期待する株価から推して妥当なのかどうか、を判断するということになる。 2021年11月4日時点で1,865円の新生銀行株価に対して、12月8日、延長されたTOB期間の最後の日の株価、若しくはそれ以後、それぞれの尺度で想定していた株価、と比較し、そこで2,000円で手放してもいいかどうか、その判断はそれぞれの株主に委ねられており、そこには自由もあるし、敵対性はない』、その通りだ。
・『従業員は誰の味方か  だから、あくまでも敵対的買収者が敵対するのは、その企業の企業価値を毀損している現経営陣に対して、なのだ。 ただ、敵対的買収が問題にされるのは、特に日本企業において顕著な傾向だが、企業が事実上、その企業に勤める従業員にとっての「かけがえのない」共同体、村、であり、経営陣についても、従業員共同体の利益を代表する、かつて従業員だった人々の集まりというケースが多いからだ。 現在でも底流に生きている第二次安倍内閣のもとでの「日本再興戦略」が問題にした日本企業の内部留保の多さも、それは従業員共同体をとにかく守るためのものだから、と考えると辻褄が合う。 そのような企業にとっては、自分たちの利益の守護者である自分たちの代表が構成する経営陣に牙を剥く買収者は、自分たちにとっての敵対的買収者でもあると従業員全体が感じることだろう。 しかし、終身雇用制度が揺らぎ、「働き方改革」が指し示す方向の中に、かつては自明だった従業員共同体としての企業というある種の「神話」は存在しなくなってしまった。 新生銀行買収について、SBIホールディングスの北尾氏は、10月28日に行われた2022年3月期第二四半期の決算説明会の中で、新生銀行の従業員の一部から、早く買収して欲しい、という手紙が来ていた、という話を披露していた。 今回の事例、新生銀行について言えば、既にバブルの崩壊やリーマンショックなどを経て、従業員共同体の利益代表という状態からは完全に異なる経営陣が経営を担ってきたので、従業員がその観点から買収者を敵対視はしていない、それは自明だろう。 従業員もまた、株主とは異なる立場で、どちらの経営者が従業員としての自分にとって、より良い世界を提示してくれるのか、を注意深く観察している、そういうことだろう。 今回の買収劇のひとつのクライマックスは11月25日の臨時株主総会である。このXデーを迎えるまでに行われる水面下の攻防については、後編〈SBI北尾社長「新生銀行は泥棒」発言の真意…決算説明会に込められた「本気のビジョン」〉にて、筆者の読みを詳細に紹介していこう』、「新生銀行について言えば、既にバブルの崩壊やリーマンショックなどを経て、従業員共同体の利益代表という状態からは完全に異なる経営陣が経営を担ってきたので、従業員がその観点から買収者を敵対視はしていない、それは自明だろう。 従業員もまた、株主とは異なる立場で、どちらの経営者が従業員としての自分にとって、より良い世界を提示してくれるのか、を注意深く観察している」、「新生銀行」は伝統的日本企業とは既に全く異なる構造に変化したようだ。

第三に、この続きを、11月17日付け現代ビジネスが掲載した株式会社J’s PR 代表取締役の三ツ谷 誠氏による「SBI北尾社長「新生銀行は泥棒」発言の真意…決算説明会に込められた「本気のビジョン」」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/89193?imp=0
・『新生銀行に対するSBIホーディングスの敵対的買収が注目を集めている。「敵対的」という言葉、「第4のメガバンク構想」を展開するSBI北尾吉孝社長の剛腕から、二項対立のウラに「善悪」の脚色が入ることも多いが、本当の「敵」はどこにいるのか。実は最大の「敵」とは、新生銀行の現経営陣なのではないか…? 前編記事はこちら:新生銀行の本当の「敵」は、SBIなのか…?「TOB攻防」から見えてきたもの』、「最大の「敵」とは、新生銀行の現経営陣なのではないか」、どういう根拠で判断したのだろう。
・『新生銀行サイドの「防衛計画」  今回のSBIホールディングスによる新生銀行買収劇の一つのクライマックス、11月25日の臨時株主総会についてだが、筆者のこれまでの経験から推測すれば、総会決議をめぐる議決権行使勧誘の攻防が水面下で繰り広げられているであろうことは容易に想像がつく。 おそらく新生銀行サイドは、株主名簿には表れない本当の株主を追って、実質株主判明調査を行い、株主名簿上にはステートストリートバンクなどのカストディアン(投資家に代わって有価証券の管理を行う機関)名でしか現れない存在を絞り込む。 さらにその背後に、フィディリティなのかキャピタルなのか、最終的な議決権行使の主体(つまりは本当に自社に投資を行っている投資機関)を炙り出し、その機関の議決権行使担当者に、買収防衛策発動に対する賛成票を投じるよう、説得を試みているに違いない。 11月5日には新生銀行の買収防衛策に対して、米国の議決権行使助言会社で強い影響力を誇るグラスルイスが、11月8日にはISSが、賛成票を投じることを株主に推奨したという記事が幾つかの報道機関に書かれていたが、グラスルイスやISSなど議決権行使助言会社を味方につけることも、とても重要な活動になる。 機関投資家は受託者責任を遂行するために、経営参加権についてもそれを重視し、適切な投資先の経営への参加や関与を行ういわば義務があるが、株主総会の時期が、決算期が集中するなどの理由で重なってくると、限られたスタッフで膨大な数の投資先の議案を検証していく余裕はない。 議決権行使助言会社の存在意義はそこにあり、信頼性の高い(とされる)助言会社のレポートや推奨に従って議決権を行使することで、一定の受託者責任は果たされることになる』、「新生銀行サイドは・・・実質株主判明調査を行い・・・カストディアン・・・名でしか現れない存在を絞り込む。 さらにその背後に・・・最終的な議決権行使の主体・・・を炙り出し、その機関の議決権行使担当者に、買収防衛策発動に対する賛成票を投じるよう、説得を試みているに違いない」、さらに「グラスルイスやISSなど議決権行使助言会社を味方につけ」、裏工作もなかなか大変なようだ。
・『「選挙活動」で票集め  ただ、今回の事例について言えば、11月の臨時株主総会という時期の問題もあって、グラスルイスやISSの推奨が、それぞれの機関投資家の議決権行使にどれだけストレートに効果をもたらすのか、については議論の余地があるだろう。 しかし、新生銀行の経営陣が、的確に急所を突いたいわば選挙活動を行っていることは、容易に推察が可能だ。新型コロナ感染症の影響で、嘗てのように実際に対面するロードショーを行うことはできないにしても、リモート会議の活用などで、実質株主判明調査で炙り出された「選挙人名簿」を使った選挙活動は、行われているに違いない。 その際に、彼らが株主の説得に使っている資料は、10月21日にリリースされた「SBI地銀ホールディングス株式会社による当行株式の公開買付けに対する当行取締役会の意見」だろう。 興味のある方には一読を薦めるが、そこで示されたTOBへの反対(条件を満たせば賛同)の要点は、 1.今回のSBIサイドの提案が銀行持株会社の認可を必要とされる50%までの株式買付(現時点での保有割合は19.85%)ではなく、その上限を48%に設定していることで、残存株主に対しての不利益性や(不利益を被らないための)強圧性が生じるため 2.買付価格の2,000円が枠組みの設定上、十分なプレミアムを乗せた価格にはならないし、なにより現経営陣の経営努力を反映した本源的な価格としても妥当性を欠く の2点となる。逆に言えば、48%という上限枠を撤廃し、2,000円という価格についてもう少し高い価格設定を示してくれれば、友好的な買収として再び協議の場に付く用意はある、という提示だ』、「TOBへの反対(条件を満たせば賛同)」、よく練られた態度表明だ。
・『「泥棒」発言に込められたもの  この論点の1については、銀行持株会社への移行そのものが、バイオ関係事業にも強い意欲を持って事業展開を行う北尾氏にとって呑み込み難い(バイオだけではなく自由な事業構想の展開に制約を設けるもの)対案となっているだろう。 この提案に対するSBIホールディングスの回答は、同じ10月21日に出されたリリースで確認できる。彼らは新生銀行の示した賛同のための2つの条件を即座に拒否した。 また、10月28日に開かれたSBIホールディングスの2022年3月期第二四半期説明会で、北尾氏は、2,000円という価格については、強い表現でいっさい価格を上げるつもりはないことを明言している。 以前、SBIホールディングスの「第4のメガバンク構想」について記事を書いたが、北尾氏の本決算説明会、2Q決算説明会は動画でも公開されているので、興味がある方はその動画の視聴をお勧めする。2022年3月期第2四半期SBIホールディングス株式会社決算説明会 (sbigroup.co.jp) この説明会での発言については、一部報道で、北尾氏がバブル崩壊時に投入された公的資金について、なお3,490億円の返済を終えていない新生銀行の経営陣について、「泥棒」というとても激しい表現で彼らを非難した箇所が取り上げられていたが、実際に説明会の動画を視聴したうえで北尾氏の一番重い発言は、新生銀行の現経営陣には、経営の根幹をなすビジョンや理念、そこが欠如している、という発言であると筆者には感じられた。 決算説明会そのものは、約2時間、180ページにも亘るスライドを使って、決算内容、それぞれの事業の状況、ビジョンや構想など北尾氏が語り続ける、いつもの構成だ。 本稿の主題となる新生銀行に関係するパートはあくまで全体の構想の一部として扱われていたが、そこで使われたスライドがそのまま今回の買収劇においても、対機関投資家に対する買収者サイドの説得のためのシナリオを構成していると考えられるだろう。 また、直接には今回の買収について語っているスライドではないが、ベトナムのTPバンク、韓国のSBI貯蓄銀行、また、提携した地銀各行の業績の改善、住信SBIネット銀行の業績の伸長など、これまでの決して長くはない時間軸で彼らが達成してきた実績が、新生銀行との統合でもたらされるリテール分野や法人分野でのシナジーの説明以上に、株主に対する説得や共感の材料を提供している』、「これまでの決して長くはない時間軸で彼らが達成してきた実績」は、「新生銀行との統合でもたらされるリテール分野や法人分野でのシナジー」と余り関係ないように思える。
・『雄大な構想力か、抜け目のないビジョンか  北尾氏が理念やビジョンの欠如を糾弾するとき、そこには、このような説明会で示される彼自身の雄大な構想力(世界規模で、業界の枠組みを超え、なおかつ急速にデジタル化されていく社会における金融業の未来を見据えた構想力)が、その批判の根源に存在するのだろう。 IRの技術的な観点で言えば、さすがに180枚のスライドを使った2時間にも及ぶ独演会というのは、相手に届かせるためのメッセージ、という意味で、どうなのか、という議論や、スライドそのもののきれいさやデザインなど、好みの問題にはなるものの、指摘すべきものがない訳ではない。 一方で、新生銀行のスライドはデザインも優れたものだし、他の金融機関の作成する説明資料と比べ、今後の企業価値向上に対する施策提示にしても、小さな意味のビジョンについても、おかしなものではない。 実際、新生銀行のIR活動はホームページを見る限り、充実していて、アナリストに対してのIR Dayも行っているし、IR活動に対する熱心さや教科書的な意味での理解の水準を示す「統合報告書」もしっかりと作成、SDGs対応への気配りもしっかりとなされている。 IR Dayでの質疑応答など、開示されているペーパーにも記されているように、工藤社長は自社の株価について、ノンバンクのバリュエーション評価と既存の銀行のバリュエーション評価の違いを挙げ、もっと実質的な意味でレイクや昭和リースなど実質的な意味においてノンバンクである自社をそのような視点で評価して欲しい、というニュアンスの回答など、株価評価を変えていくための発言も行っている。 しかし、その射程が、北尾氏が暗号資産について語り、地銀再生について語り、既存の枠組みを超えた日本経済そのものを牽引する意気込みのビジョンを提示し、それに向かって驀進していく勢いと比べたとき、いささか卑小に過ぎると思うのは筆者だけだろうか。 途中、筆者は本件を2人の投資銀行家の戦いとして、興味を持って見つめている、と書いたが、そもそもSBIホールディングスのTOBを呼び込んだ2021年1月のマネックスとの包括提携そのものが、今回の買収防衛策が実現しようとするものがポイズンピル(既存株主に新株予約権を発行することで買収者の持ち分をコントロールする防衛策)であるように、クラウンジュエル(そのために買収を企図した部門や事業を先に切り離してしまう防衛策)だった可能性もあるだろう』、「クラウンジュエル」「だった可能性」、残念ながら私には込み入り過ぎて理解不能だ。
・『勝敗を決める一手  それぞれの一手、一手に興味は尽きない。 また、多くの報道が中立性を守り本件では議決権行使自体を行わないだろう、と予想していた預金保険機構が12日の〆切りで質問書を両社に送ったということも11月5日の時点で報道されている。 12.5%の株を保有する預金保険機構と9.28%の株を保有する整理回収機構がどう出るのか、によっても買収防衛策の決議に必要な株数は変わってしまうし、実質的には政府が与したサイドが、少なくともこの局面の勝者にはなる。 そのような動きの背景にあるものを想像することには楽しみがあるし、人物や組織が織り成すドラマがある。 その後、11月12日には北尾氏が機関投資家向けに説明会を開催した事、仮に臨時株主総会で買収防衛策が可決された場合、TOBを撤回する意向である事などについての報道が見られた。いずれにせよ、11月25日、臨時株主総会の行方を興味深く見守りたい』、「預金保険機構が12日の〆切りで質問書を両社に送った」のは念のため的なもので、投票ではやはり中立を守るのではなかろうか。「臨時株主総会」の結果が楽しみだ。
タグ:金融業界 (その12)(新生銀行VS SBI:「新生銀の株価は安すぎる」業界初の敵対的買収にSBIが絶対の自信を持つワケ 株価が上がれば公的資金も返せる、新生銀行の本当の「敵」は、SBIなのか…?「TOB攻防」から見えてきたもの 「登場人物」たちの立場を整理する、SBI北尾社長「新生銀行は泥棒」発言の真意…決算説明会に込められた「本気のビジョン」) PRESIDENT ONLINE 森岡 英樹 「「新生銀の株価は安すぎる」業界初の敵対的買収にSBIが絶対の自信を持つワケ 株価が上がれば公的資金も返せる」 地銀協「会長」発言は、やはり「敵対的買収」に警戒的だ。 「静岡銀行」としては当然の対応だ。それにしても、「新生銀行」が株主のSBIのライバルの「マネックス」と提携するとは、初めからケンカ腰だったのは何か理由でもあったのだろうか。 「SBIが買い付け株数の上限」をつけたのは、その範囲であれば、規制上、問題がないためのようだ。 「地銀」であれば、SBIとの提携でこれまで果たせなかった機能を持つことができ、メリットは確かにあるが、既に証券子会社を持っている「新生銀行」ではメリットがあるかどうかははっきりしない。 「第4のメガバンク構想」のなかで「新生銀行」が果たす役割は何なのだろう。 「北尾氏」は弁舌が立つが、私は個人的には信用していない。 「公的資金返済に必要な新生銀の株価は、市場価格を大幅に上回る1株7500円程度」、絶望的だが、そもそも金融庁が普通株に転換したことにも一因がある。 前身の長期信用銀行の破綻処理に長い時間がかかったため、優良取引先が逃げ出し、残った取引先は、他行が手を出さないような不信企業ばかりになり、顧客基盤が著しく劣化した。今さら「存在意義」でもないような気もする。 現代ビジネス 三ツ谷 誠 「新生銀行の本当の「敵」は、SBIなのか…?「TOB攻防」から見えてきたもの 「登場人物」たちの立場を整理する」 「攻防劇」は確かに「小説さながら」だ。 「新生銀行について言えば、既にバブルの崩壊やリーマンショックなどを経て、従業員共同体の利益代表という状態からは完全に異なる経営陣が経営を担ってきたので、従業員がその観点から買収者を敵対視はしていない、それは自明だろう。 従業員もまた、株主とは異なる立場で、どちらの経営者が従業員としての自分にとって、より良い世界を提示してくれるのか、を注意深く観察している」、「新生銀行」は伝統的日本企業とは既に全く異なる構造に変化したようだ。 「SBI北尾社長「新生銀行は泥棒」発言の真意…決算説明会に込められた「本気のビジョン」」 「最大の「敵」とは、新生銀行の現経営陣なのではないか」、どういう根拠で判断したのだろう。 「新生銀行サイドは・・・実質株主判明調査を行い・・・カストディアン・・・名でしか現れない存在を絞り込む。 さらにその背後に・・・最終的な議決権行使の主体・・・を炙り出し、その機関の議決権行使担当者に、買収防衛策発動に対する賛成票を投じるよう、説得を試みているに違いない」、さらに「グラスルイスやISSなど議決権行使助言会社を味方につけ」、裏工作もなかなか大変なようだ。 「TOBへの反対(条件を満たせば賛同)」、よく練られた態度表明だ。 「これまでの決して長くはない時間軸で彼らが達成してきた実績」は、「新生銀行との統合でもたらされるリテール分野や法人分野でのシナジー」と余り関係ないように思える。 「クラウンジュエル」「だった可能性」、残念ながら私には込み入り過ぎて理解不能だ。 「預金保険機構が12日の〆切りで質問書を両社に送った」のは念のため的なもので、投票ではやはり中立を守るのではなかろうか。「臨時株主総会」の結果が楽しみだ。
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年金制度(その5)(現在56歳以下の老後「3000万円超必要」の驚愕試算 1965年以降出生者9割が老後生活資金を賄えない、河野太郎氏の「年金額の最低保障」構想を実現すべき8つの理由) [国内政治]

年金制度については、昨年11月22日に取上げた。今日は、(その5)(現在56歳以下の老後「3000万円超必要」の驚愕試算 1965年以降出生者9割が老後生活資金を賄えない、河野太郎氏の「年金額の最低保障」構想を実現すべき8つの理由)である。

先ずは、本年11月15日付け東洋経済オンラインが掲載した大蔵省出身で 一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「現在56歳以下の老後「3000万円超必要」の驚愕試算 1965年以降出生者9割が老後生活資金を賄えない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/467641
・『老後生活資金に2000万円必要という金融庁の報告が、2019年に関心を集めた。しかし、「どれだけの貯蓄が必要か?」という疑問は、うやむやのままにされ、忘れられている。マクロ経済スライドによる年金額の削減や、支給開始年齢が70歳に引き上げられる可能性を考えると、必要貯蓄額はこれよりかなり多くなる。 昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第56回』、うっかり忘れかけていたニュースだが、ないがしろには出来ない重要な問題なので、これを機によく見てみよう。
・『老後生活資金2000万円問題  2019年6月に「老後生活に2000万円の貯蓄が必要」という金融庁・金融審議会の報告書が発表されて、大きな関心を集めた。 ところで、報告書は極めて奇妙な経過をたどった。 まず野党が「年金だけで老後生活を送れると思っていたが、100年安心年金というのはウソだったのか?」と、政府を追及した。 ところが、この追及は見当違いである。なぜなら、政府は、「年金だけで老後生活を送れる」とは約束していないからだ。 政府が約束してきたのは、つぎのことだ。 厚生年金については、モデル世帯の所得代替率を、ほぼ50%に維持する(注)。2025年までに支給開始年齢を65歳に引き上げる。年金保険料率は、現在以上の引き上げは行わない。 「100年安心」とは、「このような内容の年金制度を100年維持できる」ということだ。 このことと、「老後に備えて一定の蓄えが必要」ということは、なんら矛盾しない。 だから政府は、野党の追及に対して、「それは見当違いだ」と言えばよかったのだ。 (注)「所得代替率」とは、年金を受け取り始める時点(65歳)での年金額が、現役モデル世帯の手取り収入額(ボーナス込み)と比較して、どのくらいの割合かを示す指標。 ところが、麻生太郎財務大臣(当時)は、「あたかも公的年金だけでは足りないかのような誤解、不安を与えた」として、報告書の受け取りを拒否するという挙に及んだのである。 これに対して、野党は「逃げ工作、隠蔽工作だ」と批判した。 それ以来、この問題は深く議論されることがなく、うやむやのままで放置されている。 先般の総選挙でも、この問題が議論されることはなかった。 したがって、「老後生活に向けてどのような準備をすべきか?」という指針は、いまだにうやむやのままになっている。 しかし、これから老後を迎える人々にとって、これは大変重要な問題だ。うやむやのままにしておくことはできない』、ピント外れの「攻撃をした野党も情けないが、「「あたかも公的年金だけでは足りないかのような誤解、不安を与えた」として、報告書の受け取りを拒否するという挙に及んだ」「麻生太郎財務大臣」も大問題だ。
・『政府は何を恐れたのか?  いったい、政府は、何を恐れて報告書の受け取りを拒否したのだろうか? 私は次のようなことだと思う。 前記報告書は、・必要生活費(実支出)=月26.4万円(年316.8万円) ・実収入=月20.9万円(年250.8万円) ・不足額=5.5万円(年66万円) という厚生労働省の資料を援用して、必要年数=30年として必要額=1980万円としている。なお、実収入のうち、社会保障給付が月19.2万円(年約230万円)だ。 これは、「老後の生活費のうち7割強を年金が保障する」としているように読める(もちろん生活費も年金も、人によって異なる。これは、標準的な世帯に関するものだ。具体的な数字が人によって異なることは言うまでもない)。 しかし実は、これは政府が約束していることとは異なる。 あとで詳しく述べるように、年金の実際の支給額が生活費の7割より少なくなることは、政府が約束している範囲内でも、十分ありうることなのである。 しかし、報告書を受け取れば、「生活費の約7割を年金が保障する」という約束に縛られてしまうことになる。 政府が受け取りを拒否したのは、これに関する言質を与えたくなかったからだと思う。 本来、野党が追及すべきだったのは、「(標準世帯の場合に)老後生活費の約7割を年金が保障してくれるのですね」ということだったのだ。「2000万円必要とはけしからん」と追及するのでなく、「2000万円準備すれば、それで十分なのですね」と確認すればよかったのである』、「報告書を受け取れば、「生活費の約7割を年金が保障する」という約束に縛られてしまうことになる。 政府が受け取りを拒否したのは、これに関する言質を与えたくなかったからだと思う」「本来、野党が追及すべきだったのは、「(標準世帯の場合に)老後生活費の約7割を年金が保障してくれるのですね」ということだったのだ」、なるほど。
・『「マクロ経済スライド」で年金が減る  以上で述べたことを言いかえれば、「老後生活における大きな不確実性は、年金額そのものにもある」ということだ。これについて、以下に説明しよう。 まず第1に、政府が約束している範囲でも、年金額が老後生活費の約7割にならない可能性がある。 これは、マクロ経済スライドという仕組みによる。 「マクロ経済スライド」とは、現役人口の減少や平均余命の延びに合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みだ。 毎年の切り下げ率は、公的年金の被保険者の減少率(およそ0.6%)と平均余命の延びを考慮した一定率(およそ0.3%)の合計である0.9%とされている。 「所得代替率5割が確保される」と言われると、すべての受給者の代替率が5割であるように受け止める人が多いだろう。しかし、財政検証でいう所得代替率とは、新規裁定される受給者についてのものである。 マクロ経済スライドが実行されれば、裁定後時間がたった受給者の代替率は、これより低くなる。毎年実行されれば、10年で約9%、20年で17%ほど減らされることになる。 ところで、実際には、マクロ経済スライドの発動に制約が加えられている。 すなわち、「適用すると年金名目額が減少してしまう場合には、調整は年金額の伸びがゼロになるまでにとどめる」という限定化がなされているのだ。 つまり、年金の名目額を引き下げることはない。だから、物価上昇率が0.9%以上にならなければ発動されない。 実際、マクロ経済スライドは、2004年に導入されたにもかかわらず、2015年までの期間に、一度も発動されなかった。 ただし、調整できなかった分を、賃金・物価が上昇したときに調整する仕組み(キャリーオーバー)が2018年4月から導入された。 この措置は、すでに実施されている。今後も、キャリーオーバーによって年金が減額される可能性が十分ある。 また、名目年金額を減らさないという制約が、外される可能性もありえなくはない。そうなれば、実際に受給できる年金額はかなり減る』、「マクロ経済スライドは、2004年に導入されたにもかかわらず、2015年までの期間に、一度も発動されなかった。 ただし、調整できなかった分を、賃金・物価が上昇したときに調整する仕組み・・・が2018年4月から導入された。 この措置は、すでに実施されている」、「実際に受給できる年金額はかなり減る」、現実は厳しいようだ。
・『あまりに楽観的な財政検証  第2の、より重大な問題は、政府が言う意味での「100年安心年金」でさえ実現できる保障はないことだ。なぜなら、財政見通しが甘すぎるからだ。 2019年の財政検証では、実質賃金の上昇率が実質GDPの成長率より高いという、何とも奇妙な仮定が置かれている。 実質賃金が上昇すれば、保険料率を一定としても、保険料収入は増加する。他方で、年金給付は、その年度に新規裁定される分は増えるが、既裁定の年金は増えない。既裁定年金は、インフレ率に対してだけスライドする。 だから、年金財政は好転するのだ。 年金財政が維持できるとする大きな理由は、実質賃金上昇率として非現実的に高い値を仮定しているからだ。しかし、こんな都合のよいことが起こるはずがない。 したがって、将来何らかの対処が必要になることは明らかだ。政府が「行わない」としている措置が必要になることもありうる。 保険料引き上げや基礎年金に対する国庫負担率の引き上げなどが考えられるが、難しいだろう。政治的に抵抗が少ないのは、マクロ経済スライドの強化と支給開始年齢の引き上げだ。) 支給開始年齢を70歳にまで引き上げる措置が取られる可能性は、十分ある。2年で1歳ずつ引き上げ、10年間かけて行うだろう。仮に、65歳への引上げが完了する2025年から開始するなら、2035年に完了する。 これは、老後に向けての必要資金に大きな影響を与える。 上記金融庁の試算で、収入のうち、社会保障給付は月19.2万円(230万円)だ。5年間では約1150万円だ。 1960年に生まれた人は、2025年に65歳となり、年金を受けられる。したがって、1960年以前に生まれた人は、上記措置の影響を受けず、65歳から年金を受給する。 2035年で70歳となる人は、1965年に生まれた人だ。70歳支給開始になるのが2035年であるとすれば、1965年以降に生まれた人は、70歳にならないと年金を受給できないことになる。 このように、70歳支給開始の影響をフルに受けるのは、1965年以降に生まれた人々だ。今年56歳以下だ。 それらの人々は、単純に考えれば、5年間分の年金額に相当する額を2000万円に加えて、自分で用意しなければならない』、「70歳支給開始の影響をフルに受けるのは、1965年以降に生まれた人々だ。今年56歳以下だ。 それらの人々は、単純に考えれば、5年間分の年金額に相当する額を2000万円に加えて、自分で用意しなければならない」、「2000万円」が必要とは大変だ。
・『65歳時点で約3150万円の蓄積が必要  したがって、標準的な場合には、65歳の時点で、約3150万円の蓄積が必要ということになる。 高齢者世帯の貯蓄保有額を参照すると、これはきわめて厳しい状況だ。 厚生労働省、2019年国民生活基礎調査によれば、貯蓄額が3000万円を超えている世帯は、全世帯で8.9%、高齢者世帯で10.8%でしかない。 したがって、実に約9割の人々が老後生活資金を賄えないことになる。生活保護の支えが必要な人も出てくるだろう。 以上で述べた問題がありうることを考えて、将来に向かう年金制度を用意するのは、現在世代の責任だ。われわれは未来の世代に対する責任を果たしているとはいえない』、「65歳時点で約3150万円の蓄積が必要」とはますます大変だ。「生活保護の支えが必要な人」が続出するのだろう。

次に、9月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「河野太郎氏の「年金額の最低保障」構想を実現すべき8つの理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/282703
・『自民党の総裁選で筆者が注目している政策は、河野太郎氏が提言した「最低限の年金を保障する案」だ。ぜひ実行に移すべきで、国民年金(基礎年金)の財源を全額税金負担にするところからスタートすれば、「いいことだらけ」といえる。その八つの理由を解説しよう』、「河野太郎氏」は現在は無役となったが、普段は厳しい山崎氏が珍しく褒めちぎっているので、紹介しよう。
・『自民党の総裁選で最も注目される政策構想とは?  自由民主党の総裁選が注目を集めている。現在、4候補の政策が出そろって議論が始まった段階だが、筆者は、河野太郎規制改革担当大臣が提言した「最低限の年金を保障する案」(以下、「保障年金構想」と呼ぶことにする)に注目している。 河野氏が首相になった場合だけでなく、その他3氏のいずれかが首相になった場合でも、ぜひ実行に移すといい。 来年度から実現することが可能なはずだし(つまり来年の参議院選挙前にだ)、早ければ早いほどいい。 現在の日本にあって、効果的で望ましい「格差対策」であるし、将来の日本にとって必要で適切な「セーフティーネット」だ。 さて、「保障年金構想」と呼んでみたものの、現在、条件(何歳から、いくら支給するのかなど)として具体的な詳細が提示されているわけではない。だが、公的年金の保険料を払わなかった人に対しても、一定額の年金を支給するような年金制度を意味していることは確実だ。そうなのだとすると、現在の国民年金(基礎年金)の財源を全額税金にするところからスタートするといい。 年金制度を変更する場合には、激変緩和措置が必要だ。例えば、現在年金を受け取っている人への給付額をいきなり大幅に削減するような施策は、国民にとって好ましくないし、政治的にも不可能に近い。しかし、現在の基礎年金を全額財政の負担に切り替えることは簡単にできる。 総裁選候補者の討論会では、高市早苗前総務大臣が、現時点では2分の1負担の基礎年金の財源を全て税にすると「12.3兆円分」の巨額な負担が生じると懸念を示した。ただ、アベノミクスの積極的な継承を主張している高市氏の考え方を踏まえて、当面この額の国債を発行して日本銀行に買わせることを考えてみよう(直接的に日銀が買っても市中銀行から間接的に買っても、おおよその効果は同じだ)。すると、公平で大規模な経済対策になるのと同時に、金融緩和の実効性を高めるデフレ対策になり得る。 後でも触れるが、河野氏は高市氏的な経済政策を取り入りつつ、「保障年金構想」を実行するプランを練るといい』、なるほど。
・『年金の全額税負担は「いいことだらけ」である理由  さて、基礎年金の財源を全額税負担にすることから保障年金構想をスタートすると、どのような「いいこと」があるのか。実は、いいことはたくさんある。少し考えただけでも多数のメリットが思い浮かび、まるで「いいことだらけ」の様相を呈する。 さっそく、ご紹介しよう。 (1)相対的に貧しい若者の「手取り」が直ちに増える 直ちに生じるメリットで、この構想の最大のメリットともいえるものは、若者を中心とする低所得で経済的に恵まれない人から、現在月額1万6610円も一律に負担させている保険料を取らずに済むことだ。彼らには、お金が必要だ。 保障年金構想は、年金保険料負担世代(20歳から59歳まで)にとって月額1万6610円の現金給付と同等の効果を持つ。年間約19万9000円の“給付”だが、「一時金」ではなく継続的にもらえるお金(実際には負担の軽減だが)で、毎月使える「手取り収入」が増えることの効果は大きい。 「現金給付をもう一度検討」と述べている岸田文雄前政務調査会長には、「実質的に広く現金給付を行うのと同様の効果を持ち、継続的である点ではさらに強力な政策だ」と説明すると、理解してもらえるはずだ。) 日本に限らず世界的な問題として、経済的「格差の拡大」がある。格差対策では、超富裕層に対して多くの社会的な費用負担を求める「上の方の格差対策」も重要だが、何といっても現実に生活を圧迫されている低所得層に向けた「下の方の格差対策」の緊急性・重要性が大きい。 基礎年金の全額税負担は、支給のための事務負担(昨年問題になった日本の行政の苦手分野だ)もない。予算を組み替えて、国債を発行すれば直ちに実行できる』、「基礎年金の財源を全額税負担にする」「保障年金構想」は、「「いいことだらけ」である」。「相対的に貧しい若者の「手取り」が直ちに増える」、すごい褒めようだ
・『(2)消費の下支え  昨年の一時金支給では、一律に支給された10万円の多くが消費に回らず貯蓄に回って、「景気対策」として有効でなかったように見えたことが、一部で批判の対象になった。 しかし、そもそも所得が伸びない中で、不確実な新型コロナウイルスの不安が加わったというのが当時の状況だった。給付を受けた国民の多くが、いわば「10万円で一番買いたかったものは、安心のための貯金だった」というのが、その背景だろう。 保障年金構想が実現すれば、これまで徴収されていた毎月1万6610円が継続的に手元に残るのだから、国民はより安心してお金を使うことができる。 サラリーマンなら、毎月差し引かれる社会保険料が減って、1万6610円手取りが増えるのだ。 心が明るくなる話だと思う』、「これまで徴収されていた毎月1万6610円が継続的に手元に残るのだから、国民はより安心してお金を使うことができる」、その通りだ。
・『(3)より確実なセーフティーネット  保障年金制度の下では、現役時代の経済的な困窮などによって年金保険料を納めることができなかった人でも将来、一定額の年金を受け取ることが期待できる。 もちろん、今でも日本の年金はそれなりに安定したセーフティーネットの機能を果たしているが、これが一層強化される』、「セーフティーネット」が「より確実」になることは確かだ。
・『(4)高齢者の生活保護が減る 無年金、あるいはごく少額の年金しか受け取れない高齢者で、経済的に困窮している方は生活
保護を利用する場合が少なくない。 つまり年金を多く支払うと、生活保護の支出を抑える効果がなにがしか働くはずだ。 自治体等での生活保護に関連する事務(一部には陰で「水際対策」などと呼ばれる意地悪行為も含まれる)が減るのもいいことだ。もちろん受給者にとっても、生活保護で受け取るより年金としてお金を受け取る方が気分は良かろう』、その通りだ。 ・『(5)お金の使い道は自由だ! 経済対策や何らかの給付を検討する場合、率直に言うなら利益誘導の力学や、他人に対するお節介の心が働いて、「使用目的」を限ったものが提示されがちだ。 「教育クーポン」「家賃補助」「地域振興券」「商品券」「Go To何々」の類いだが、これらに望ましい側面があるとしても、利用者・業者の両面で受益の大きさに濃淡が生じる。いわば、政府による国民生活への介入だ。 付け加えると、使用目的を限った支給策には、行政側でも利用者側でも、多大な手間がかかる場合がある。 その点、現役世代の年金保険料の徴収をやめ、月額1万6610円手取り収入を増やして、使える現金を渡す方法なら、受益者は「自分にとって最も良いと思うお金の使い道」を自由に考えることができる。 党名に「自由」と入る党の政策にふさわしい。河野氏が総裁を目指している政党の名前は、「利益誘導党」とか「国民指導党」ではなかったはずだ』、「使用目的を限った支給策には、行政側でも利用者側でも、多大な手間がかかる場合がある・・・、現役世代の年金保険料の徴収をやめ、月額1万6610円手取り収入を増やして、使える現金を渡す方法なら、受益者は「自分にとって最も良いと思うお金の使い道」を自由に考えることができる」、つまり選択の自由を与えるわけだ。 ・『(6)第3号被保険者問題の発展的解決 現在の公的年金制度には、サラリーマンの妻(第3号被保険者)は国民年金(基礎年金)の保険料を負担しなくても将来の国民年金部分の給付が受けられる「ゆがんだメリット」が付いている。働いて収入のある女性は年金保険料を負担する一方で、サラリーマンの妻は負担が必要ないという対比は、女性の職業進出に対してネガティブなインセンティブとなっている。 基礎年金を全額税金負担にしてしまえば、この不公平が解決する。 女性の社会的活躍に熱心な野田聖子幹事長代行にも、評価してもらえるのではないか』、日本の年金制度の恥部である「第3号被保険者問題」が解消するのはいいことだ。 ・『(7)年金事務の著しい効率化 基礎年金の財源を全て税負担にすると、国民年金への加入勧奨、国民年金保険料の徴収、免除申請への対応など、国民年金(基礎年金)に関連する「事務」のいくつかが「廃止」できる。効率化などというケチなものではなくて、廃止だ。もちろん、コストカットの効果は大きい。 経済的に困窮している現役世代の手元に現金が残る一方で、経済的強者(高所得者、富裕層等)が税金を多く負担する「格差対策」を行うことが、同時に「行政の効率化」にもつながるのだ。理想的な政策ではないか』、これまで問題が多かった年金事務所などが効率化されるのは、望ましい。 ・『(8)デフレ対策としても強力だ 自民党が「挙党体制」を目指すには、高市氏やその後見人である安倍晋三前首相にも喜んでもらわなければなるまい。 財務省と日銀の協力が前提だが、保障年金構想の速やかな実行は、当面の財源を国債としてこれを日銀が購入するなら、前述のように財政の拡張と金融緩和の実質的な拡大として機能する。まさに、第2次安倍政権が発足した当初のオリジナル・アベノミクスの趣旨にかなうものだ。 民間経済に広く公平に現金が出回るのだから、デフレ対策のための金融緩和策としては、日銀による上場投資信託(ETF)買い入れのような政策よりもはるかに筋が良い』、「デフレ対策としても強力」で、「日銀による上場投資信託(ETF)買い入れのような政策よりもはるかに筋が良い」、その通りだ。 ・『河野首相(仮)に保障年金実現で気をつけてほしい2つのこと 実行者は誰でもいいと先ほど書いたが(実際にそう思うけれども)、せっかくだから構想の提唱者である河野氏が首相になると仮定しよう。 河野首相は、保障年金構想を実現するに当たって何に気をつけるべきか。 思うに、つまずきのもとになりかねない石が二つある。 【1】財源論でつまずくな! 一つ目の石は、河野氏が「財源をセットで同時に手当てしなければならない」という思考の枠組みの罠にはめられて(はめる人は官僚だ)しまうことだ。その結果、例えば消費税の増税とセットで保障年金構想を実現しようとして、「財政の緊縮化による景気後退・デフレへの逆戻り」や「消費税率引き上げによる政治的逆風」(野党には格好の攻撃材料だ)などの災いを自ら招くことだ。 財源としては消費増税も視野に入ると、河野氏は一度目の討論会でも述べたようだが(財務省に気に入られたいマスコミは、こういう話は大きく報じるはずなので、要注意だ)、ここは、振り上げた拳を下ろして冷静になってほしい。 少なくとも今、消費税率を引き上げるのは、マクロ経済政策としても政治的戦略としても「全く愚かなこと」だ。 そもそも、お金には大きさ(数字)はあっても、色は着いていない。新規の支出(ないし減税)に対してその都度「財源」を一対一対応で同時に手当てしなければならないとする予算の慣行は、企業経営で言うなら、製品ごとにバラバラにビジネスの資金を都合せよとルール化するくらいの巨大な財務的非効率だ。行政改革のためにも、この思考から早く脱却すべきだ。 加えて、経済政策の運営には、マクロ経済的な状況を踏まえた「タイミング」の問題がある。 年金の支出に対して長期的には、誰かの税負担の増加が必要だ。しかし、それを行うべきタイミングは、デフレ目前の低インフレに困っている「今」ではない。 消費税率を引き上げたいと企図する官僚は、保障年金構想に絡めて消費税率の引き上げを狙ってくるだろうが、その企みには乗らない方がいい。) なお、前述の通り、国民年金(基礎年金)の保険料負担がなくなることによる、勤労者の負担軽減は年間約19万9000円に及ぶ。この額は、普通の勤労者にとって野党が主張する「消費税率5%引き下げ」の年間のメリットをかなり上回るはずだ。 正直なところ筆者は選挙で与党に肩入れしたいとは特段思っていないが、保障年金構想の速やかな実行には、「消費税率5%引き下げによる野党共闘」を軽く吹っ飛ばすくらいのインパクトがあるに違いない(構想の主な受益者は20歳以上の若い有権者である)。 保障年金構想には、野党もすかさず相乗りすべきだ』、「財源論でつまずくな!」はなかなかいいアドバイスだ。 ・『【2】実行に時にじゅう間をかけるな! もう一つのつまずきの石は、構想の実現に時間をかけて、その間に政治的な勢いを失うことだ。 「有識者会議での検討が1年、党内で議論が1年、3年目に法案を通そう……」というような悠長なプロセスを想定してはならない。政権発足後のフレッシュで勢いがある間に具体的な成果を得るべきだ。 官僚機構の問題か、政治家の問題かはここでは論じないが、かつての「改革」の失敗例を思い出すと、官僚に時間を渡すことがいかにまずいかが、河野氏にはよく分かるだろう(他の3氏も分かるだろうが)。 小泉純一郎内閣時代の郵政民営化は、一気に民営化を実施せずに時間をかけるプロセスを許したために、現在「ぐずぐずの状況」になっている。 民主党政権が設立した当時の看板政策だったはずの年金改革は、検討期間を経て3年目に法案成立を目指すのんびりしたスケジュールを引いたために、政権の支持低下とともに立ち枯れてしまった。 同じく民主党政権の政策だった「子ども手当」は、満額で実行すると大きな効果があったはずだった。ところが、財源を理由に当初の5兆円を半値に値切られて、その後に増額できずにいるうちに形と金額を少し変えた児童手当に巻き戻ってしまった。 保障年金構想は素晴らしい。新政権の政治的な勢いがあるうちに、ぜひ形にしてほしい』、「かつての「改革」の失敗例を思い出すと、官僚に時間を渡すことがいかにまずいか」、「新政権の政治的な勢いがあるうちに、ぜひ形にしてほしい」、残念ながら首相は岸田氏になったが、政策としての筋の良さはあるので、岸田氏も取り組んでほしいものだ。

タグ:「現在56歳以下の老後「3000万円超必要」の驚愕試算 1965年以降出生者9割が老後生活資金を賄えない」 野口 悠紀雄 (その5)(現在56歳以下の老後「3000万円超必要」の驚愕試算 1965年以降出生者9割が老後生活資金を賄えない、河野太郎氏の「年金額の最低保障」構想を実現すべき8つの理由) 東洋経済オンライン 年金制度 うっかり忘れかけていたニュースだが、ないがしろには出来ない重要な問題なので、これを機によく見てみよう。 ピント外れの「攻撃をした野党も情けないが、「「あたかも公的年金だけでは足りないかのような誤解、不安を与えた」として、報告書の受け取りを拒否するという挙に及んだ」「麻生太郎財務大臣」も大問題だ。 「報告書を受け取れば、「生活費の約7割を年金が保障する」という約束に縛られてしまうことになる。 政府が受け取りを拒否したのは、これに関する言質を与えたくなかったからだと思う」「本来、野党が追及すべきだったのは、「(標準世帯の場合に)老後生活費の約7割を年金が保障してくれるのですね」ということだったのだ」、なるほど。 「マクロ経済スライドは、2004年に導入されたにもかかわらず、2015年までの期間に、一度も発動されなかった。 ただし、調整できなかった分を、賃金・物価が上昇したときに調整する仕組み・・・が2018年4月から導入された。 この措置は、すでに実施されている」、「実際に受給できる年金額はかなり減る」、現実は厳しいようだ。 「70歳支給開始の影響をフルに受けるのは、1965年以降に生まれた人々だ。今年56歳以下だ。 それらの人々は、単純に考えれば、5年間分の年金額に相当する額を2000万円に加えて、自分で用意しなければならない」、「2000万円」が必要とは大変だ。 「65歳時点で約3150万円の蓄積が必要」とはますます大変だ。「生活保護の支えが必要な人」が続出するのだろう。 ダイヤモンド・オンライン 山崎 元 「河野太郎氏の「年金額の最低保障」構想を実現すべき8つの理由」 「河野太郎氏」は現在は無役となったが、普段は厳しい山崎氏が珍しく褒めちぎっているので、紹介しよう。 「基礎年金の財源を全額税負担にする」「保障年金構想」は、「「いいことだらけ」である」。「相対的に貧しい若者の「手取り」が直ちに増える」、すごい褒めようだ 「これまで徴収されていた毎月1万6610円が継続的に手元に残るのだから、国民はより安心してお金を使うことができる」、その通りだ。 「セーフティーネット」が「より確実」になることは確かだ。 「使用目的を限った支給策には、行政側でも利用者側でも、多大な手間がかかる場合がある・・・、現役世代の年金保険料の徴収をやめ、月額1万6610円手取り収入を増やして、使える現金を渡す方法なら、受益者は「自分にとって最も良いと思うお金の使い道」を自由に考えることができる」、つまり選択の自由を与えるわけだ。 日本の年金制度の恥部である「第3号被保険者問題」が解消するのはいいことだ。 これまで問題が多かった年金事務所などが効率化されるのは、望ましい。 「デフレ対策としても強力」で、「日銀による上場投資信託(ETF)買い入れのような政策よりもはるかに筋が良い」、その通りだ。 「財源論でつまずくな!」はなかなかいいアドバイスだ。 「かつての「改革」の失敗例を思い出すと、官僚に時間を渡すことがいかにまずいか」、「新政権の政治的な勢いがあるうちに、ぜひ形にしてほしい」、残念ながら首相は岸田氏になったが、政策としての筋の良さはあるので、岸田氏も取り組んでほしいものだ。
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電池(その1)(次世代電池の最有力候補「全固体電池」の現在地 研究室では一部成果も、実用化までは茨の道、トヨタが衝撃の発表「EV投入には課題がある」 大検証!夢の「全固体電池」は実際どこまでスゴいのか、アメリカの電池工場投資ですれ違い トヨタとパナの間に「すき間風」が吹いている)  [イノベーション]

今日は、電池(その1)(次世代電池の最有力候補「全固体電池」の現在地 研究室では一部成果も、実用化までは茨の道、トヨタが衝撃の発表「EV投入には課題がある」 大検証!夢の「全固体電池」は実際どこまでスゴいのか、アメリカの電池工場投資ですれ違い トヨタとパナの間に「すき間風」が吹いている)を取上げよう。なお、関連したテーマでは、電気自動車(EV)を8月18日に取上げた。

先ずは、4月22日付け東洋経済オンライン「次世代電池の最有力候補「全固体電池」の現在地 研究室では一部成果も、実用化までは茨の道」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/423933
・『カーボンニュートラル(二酸化炭素排出量の実質ゼロ)実現のキーテクノロジーの1つが蓄電池だ。特に電気自動車(EV)の普及には現在主流のリチウムイオン電池を超えることが求められており、次世代電池の有力候補とされるのが全固体電池だ。電池は正極材、負極材と電解質で構成されるが、液体の電解質(電解液)を使うリチウムイオン電池に対し、全固体電池は文字通り、固体の電解質を使う。 全固体電池はリチウムイオン電池よりも高性能(大容量、高出力など)が可能で、安全性も高まると期待されている。一方、そうした優位性を本当に実現できるのか疑問の声もある。全固体電池の材料研究で最前線に立つ東京工業大学・菅野了次教授に、全固体電池の開発の現状、課題などを聞いた(Qは聞き手の質問、Aは菅野氏の回答)』、「リチウムイオン電池よりも高性能(大容量、高出力など)が可能で、安全性も高まると期待」、興味深そうだ。
・『リチウムイオン電池を超えるのに四苦八苦  Q:全固体電池になればEVは航続距離が飛躍的に延びる、充電時間が短縮されるなどと言われています。さらに全固体電池を搭載したEVを2022年にも市場投入すると発表したメーカーもあります。一方、全固体電池が現行のリチウムイオン電池を大きく上回る性能を実用できるか疑問の声もあります。全固体電池で飛躍的な性能向上は可能なのでしょうか。また研究室レベルではどこまで「見えている」のでしょうか。 A:明確に答えるのは難しい質問だが、材料の基礎研究の立場から説明したい。 まず、電池というのは正極と負極と電解質の組み合わせでできている。正極と負極でエネルギーが決まり、電解質が抵抗になる。電池は発明されてから長い期間、電解質には水溶液を使っていた。それが有機溶媒系に変わったのがリチウムイオン電池だ。これで使える電圧が一気に上がり、エネルギー密度(体積や重量あたりの容量)は格段に高まった。リチウムイオン電池は本当に革新的な電池だ。 次のステップとして、多くの人々がリチウムイオン電池を超える電池を作ろうと試みており、1つの可能性として固体電池がある。しかし、リチウムイオン電池があまりにもすばらしいので、なかなかそれを超えることができず、われわれも四苦八苦している。 Q:電解質を固体にすれば性能が大きく向上するのではないのですか。 A:エネルギー密度は基本的に正極と負極で決まるので、電解質が固体になったからといって、基本的にそんなに変わるわけではない。固体電池を研究してきたわれわれは固体電池にメリットがあると言ってきたが、なかなか示すことができていないのが実情だ。) Q:あまりメリットがないのですか……。 A:(電解質を)固体にするメリットとして期待されたのは、まず液漏れがしないことだ。有機溶媒は液漏れすると揮発性で着火して危険なので、それがなくれば電池がバッと燃えることもなくなるだろう、と考えられる。 さらに積層が可能になる。正極と負極の間の電解質が液体だと積層できない。固体にすると積み重ねることができるので、パッケージにした場合にエネルギー密度が上がるというメリットが考えられる。 電池に電流が流れる際には、電解質を介して正極と負極の間をリチウムイオンが移動する。液体の電解液ではマイナスイオンとプラスイオンの両方が動くのでリチウムイオンが実際に動いている量はそれほど大きくない。 なおかつ、電解質が液体の場合、リチウムイオンの電極と電解質の界面(境界面)での移動時の抵抗が大きい。リチウムイオンが分厚いコートを着ており、反応時にはこのコートを脱がないといけないといったことをイメージするといい。そのコートを脱ぐときの抵抗が非常に大きい。 電解質が固体になると、このコートがいらないのでリチウムイオンが速く動き、大きな電流を取れる、すなわちパワーを上げることができるのではないか、充電時間が短くできるのではないか、と考えられた。もっとも、これまで研究してきたものの、実際にはあまりメリットがなかった』、「リチウムイオン電池があまりにもすばらしいので、なかなかそれを超えることができず、われわれも四苦八苦している」、「パワーを上げることができるのではないか、充電時間が短くできるのではないか、と考えられた。もっとも、これまで研究してきたものの、実際にはあまりメリットがなかった』、研究者らしく正直だ。
・『研究室ではリチウムイオン電池を超える可性  ただ、リチウムイオン電池に使われている電解液と同等もしくはそれより低い抵抗の固体の電解質が見つかっている。そういう抵抗の低い物質を用いると、固体電池がリチウムイオン電池以上の特性を持つことができるかもしれないという状況まできた。それが現状だ。研究室レベルでは大きな電流が取れることがわかった。それをどう実用化するかでいろいろなメーカーや国家のプロジェクトがトライしている。 Q:固体にしたからエネルギー密度が上がるわけではなく、固体によって液体の欠陥を回避できるのでエネルギー密度を上げることができる、と理解すればよいのですか。 A:電池が固体になるメリットとしてはまず大きな電流が取れる。ただし、それはプロセスがそれなりに進展した場合。パワーを上げることができ、充電時間が短くなる。 また、低温や高温に強くなる。リチウムイオン電池はマイナス30度で凍るが固体なら凍らない。リチウムイオン電池は基本的には60度以上の場合は冷却装置がいるが、固体電池なら冷却装置がいらなくなる。100度でも150度でも大丈夫だ。 さらに、電解質がもう少し改善されればエネルギー密度そのものも上げられるのではないかと考えている。リチウムイオン電池では電解液の抵抗が大きいために正極と負極を薄いシートにして電極内の抵抗を減らしている。固体電池であれば電極を厚くできる可能性がある。ただし、これはまだ可能性の話だ。 正極と負極と電解質の材料の組み合わせで電池の性能は決まる。リチウムイオン電池は基礎研究段階で、ほぼすべての組み合わせは出尽くした感がある。 一方、固体電池はまだリチウムイオン電池より性能が低いものの、材料の組み合わせ次第で性能をもっと上げられるのではないか、と考えている。現在は液体の製造プロセスと似たプロセスで固体電池を作るのが主流だが、固体電池に最適化した製造プロセスを見つけることでもっと高い性能を目指せるかもしれない。そこは製造技術の開発の課題になってくる』、「研究室レベルでは大きな電流が取れることがわかった。それをどう実用化するかでいろいろなメーカーや国家のプロジェクトがトライしている」、「固体電池はまだリチウムイオン電池より性能が低いものの、材料の組み合わせ次第で性能をもっと上げられるのではないか、と考えている」、大いに頑張ってもらいたいものだ。
・『試験電池では約3倍のエネルギー密度も  Q:リチウムイオン電池は限界に近づいているが、固体電池にはまだ可能性がある、ということですね。今見えている範囲でエネルギー密度や充電時間(の短縮)がどこまで可能と感じていますか。 A:材料に関しては、2016年に正極材料当たりの重量で比較してリチウムイオン電池よりも2倍以上の出力が可能になることを実験で示した。試験電池ではエネルギー密度が約3倍、充電性能が約1.6倍といった性能が出ている。これらは車載用を想定したもので、車載用以外でもいろいろな研究成果が出ている。 Q:研究室レベルではリチウムイオン電池の性能を上回る結果が出ている、と。 A:国家プロジェクトではリチウムイオン電池よりはるかに高い目標を打ち出している。死に物狂いでやっており、多分数年後に達成できる。ただ、それを実用の電池に展開していくには別の課題がある。 Q:別の課題とは? A:まずプロセス、製造技術の問題がある。安全性の問題もある。いったん、電池ができても実用化までにはさまざまな課題をクリアする必要がある。 Q:電解質が固体になれば安全になるのではないのですか。 A:「安全だ」と言いたいところだが、電池はエネルギーの缶詰であり、気をつけて使わないといけない。固体電池でEV用に期待されているのは硫化物系の電解質だが、硫化水素の問題もあり安全性に気を配る必要がある。 ある程度の危険は当然ある中で、材料や電池の構成などで危険を最小化する技術開発が行われている。コストをかければ解決できる問題がほとんどだと考えるが、市場で許容されるコストで安全性をクリアできるかは実用化する企業の判断になる。 リチウムイオン電池にも安全性の規格があるが、固体電池でも安全性の規格作りが必要だ。固体電池なら温度特性など安全性の基準を少し緩くできるかな、とは思う。それは期待であり、実際に大きな電池を作って危険性を潰してみないとわからない。リチウムイオン電池も、今の安全性の規格ができあがるまでにさまざまな取り組みをしてきた。 つまり、電池である以上、全固体電池であろうが安全には気をつけないといけない。電池は内部短絡(電池内部で正極と負極が接触すること)がいちばん恐ろしい。内部短絡が起こると破損や発火が起きやすい。固体電池では内部短絡の反応がマシになってほしい』、「試験電池では約3倍のエネルギー密度も」、「電池である以上、全固体電池であろうが安全には気をつけないといけない」、なるほど。
・『エネルギーの缶詰。ある程度の危険はある  Q:「全固体ならば安全」と安易に取り扱ってはいけないということですね。 その通りだ。電池はエネルギーの缶詰である以上、乾電池でも鉛蓄電池でも使い方次第では危険になる。それでも電池を使うメリットは非常に大きい。全固体電池はリチウムイオン電池より性能が非常によくなる可能性がある。安全性もその1つだ。ただし、確立するには時間がかかる。 リチウムイオン電池が実用化されたのは1991年。最初はビデオカメラに入った。その後、いろいろな製品に使われて現在は自動車にも使われるようになった。ここまでに20年から30年かかった。この間にいろいろな経験をしてきた。リチウムイオン電池はすばらしい電池だがまだ課題がある。 材料の開発は1991年からもっと前にさかのぼる。ノーベル化学賞を受賞したスタンリー・ウィッティンガム氏の研究は1976年の成果。同じくノーベル化学賞受賞の吉野彰さんたちの研究は1980年代のものだ。材料研究の期間が20年から25年。世の中に出てからさらに20年から30年かけて自動車にまで使われるようになった。電池はそれくらい進化のスピードが遅い。使い続けながらいろんな危険性を潰して安心して使えるようにしていくデバイスだ。 固体電池も似たような道をたどるだろう。リチウムイオン電池は素晴らしい電池だがこの先50年、100年を支える電池なのか。そうは思わない。では、次は何になるかというとさしあたり全固体電池に期待がある。 Q:リチウムイオン電池の時間軸に当てはめると、全固体電池の材料開発はどのあたりにあるのでしょうか? A:リチウムイオン電池でいえば吉野さんたちのプロジェクトが成果が出た1985年くらいのレベルまでは来ているのかな、と。当時の時間軸よりも開発が速く進むとすれば5年以内には実用化できるだろう。 Q:中国のNIOは近いうちに固体電池を搭載し飛躍的に性能が向上したEVを出すと言っています。 A:航続距離を延ばすなら電池を多く積めばいい。発想の転換をすれば基準はいくらでも変わる。それに、固体といっても、液体から固体の間にいろんなレベルがあるので、その中間状態の電池を含めて固体と呼ぶこともできる。デバイス側、EVの性能要求を満たすならそういう電池もアリだろう。 Q:全固体電池の実用化に向けては、電極と電解質をどう接合するかが難問といわれます。 研究室レベルの電池の動作ではあまり問題になっていない。だが、実用化に当たっては大きな問題だと認識している。結局、電極と電解質の境界面、界面の問題だ。電池の電気化学反応は界面で起こるので、まず電極と電解質をきちんと接合させる必要がある。そのうえで、界面で高速に反応させなければならない、という2つ課題がある』、「リチウムイオン電池でいえば吉野さんたちのプロジェクトが成果が出た1985年くらいのレベルまでは来ているのかな、と。当時の時間軸よりも開発が速く進むとすれば5年以内には実用化できるだろう」、「5年以内には実用化できるだろう」とは嬉しい話だ。
・『20年代後半に市場の主流を目指す  われわれ基礎研究者が注目しているのは、接合した後、いかにそこを高速でイオンを動かすか。電極表面に別の物質をコートするなどして、電極と電解質の界面でリチウムイオンを高速で動かすことで「解決できるだろう」と主張している。 もう1つ、界面の接合をいかにうまくとるか、という工学的な課題がある。これはなかなか難しい。われわれ基礎研究者は「柔らかい材料を使って押さえつけたらいけるだろう」と考える。硫化物の場合、幸い柔らかいので少しの圧力でもうまく接合できる。ただ、工学の研究者は実際の製品を作る場合や、何十年も使い続ける際に課題が生じるので、「そんなにうまくいくわけがない。何とかしてくれ」と言う。 完全に問題を解決するのは難しいが、電極と電解質の材料の最適な組み合わせによって一定程度は解決していけると考えている。 Q:NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の全固体電池のプロジェクトでは第1世代の全固体電池が2020年代後半から車載用蓄電池市場で主流となることを想定しています。開発の現状からすると、市場で主流になるにはまだまだ時間がかかるのではないでしょうか? それはNEDOに聞いていただきたいが、スケジュールどおり粛々と進んでいる。目標は変わっていない』、「「NEDO」が「第1世代の全固体電池が2020年代後半から車載用蓄電池市場で主流となることを想定」、しているのは、学者の見方というより政治的なメッセージのようだ。

次に、11月13日付け東洋経済Plus「トヨタが衝撃の発表「EV投入には課題がある」 大検証!夢の「全固体電池」は実際どこまでスゴいのか」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/28791
・『「次世代電池」の筆頭格、全固体電池。現在のリチウムイオン電池の性能を飛躍的に向上させることが期待されているが、現時点でどこまで実現できているのか。 EV(電気自動車)の競争力を飛躍的に高める、“夢の電池”――。 そう期待されてきた次世代電池の筆頭格が、全固体のリチウムイオン電池だ。 全固体電池とは、電池の正極と負極の間にあり、リチウムイオンが移動して電気を流す「電解質」に、現在使われている液体ではなく固体の材料を用いたものだ。 研究機関などの実験では、全固体電池は液系の電池と比べて複数のメリットがあることが分かっている。電解質が固体であることにより重量や体積あたりのエネルギー量(エネルギー密度)を高められるため航続距離を長くでき、燃えにくい。EVの充電時間が短くなり、寿命も長い。さらに、電池が高温になっても耐えられるため、車載電池の劣化を防ぐために必要な冷却機構も不要になる。 これが実用化されればEVの抱える課題の解決につながるとあって、開発競争はここ数年激しさを増してきた。電池メーカーや自動車メーカーに加え、素材メーカーやスタートアップも相次ぎ参入している。関連特許の出願数などで先頭集団を走っているのは、日本のトヨタ自動車』、「トヨタ」と提携した「パナソニック」はこれには参加しないようだ。
・『トヨタ「EVへの投入には課題」  が、そのトヨタから衝撃的な発表があった。 「現時点では、全固体電池をハイブリッド車(HV)に活用することが性能的には一番近道だ」 今年9月にトヨタ自動車が開催した電池戦略の説明会。登壇した開発トップの前田昌彦チーフ・テクノロジー・オフィサー(CTO)は、トヨタが2020年代前半の実用化を目指す全固体電池を、EVではなくまずHV向けに投入する方針であることを明らかにした。全固体電池はイオンの動きが速く充電と放電を早くできることから、HV向けの電池として適している、というのがその理由だ。 一方で、全固体電池のEVへの投入については「技術課題がかなりある」(前田CTO)とし、早期の実用化には慎重な姿勢を示した。 課題は大きく2つ。EVに搭載するにはエネルギー密度がまだ十分でないこと。そしてもう1つが、電池の寿命に問題があることだ。 だがそもそも、全固体電池は長寿命なのがメリットとされていたはずだ。それにもかかわらず、寿命に問題があるとはどういうことなのか。 原因は、電池の充放電を繰り返すことで固体の電解質が収縮し、電極に用いられる材料との間にすき間が生じてしまう点にある。すると、イオンが正極と負極の間を通りにくくなってしまい、電池の劣化が進む。 この課題解決に向けて、トヨタはすき間の発生を抑える材料を開発中だ。前田CTOは「新材料を見つけられれば(実用化が)すごく早まる可能性があるし、見つからなければ時間がかかる。正直、楽観できる状況ではない」と話す。 全固体電池の開発でトップを走るトヨタですら難儀するところに、この技術の難しさが透けて見える。 全固体電池をHVから採用するというトヨタの判断について、車載電池に詳しい名古屋大学の佐藤登・客員教授は「HVでは搭載されている電池容量の40~60%の中央部分で小刻みに充放電を行うので、電池容量を広範囲で使うEV用と比べて電池の膨張収縮が緩和される。結果として電池の劣化が抑制されることになり、合理的な判断だ」と話す。 経営コンサルティング会社のアーサー・ディ・リトル(ADL)・ジャパンの粟生真行プリンシパルも「全固体電池の市場実績を積むという点で、HVから投入することは手堅い」と評価する。 走行中にもし全固体電池の機能に問題が生じても、HVであればエンジンで走り続けることができる。一方、EVに搭載してもしトラブルが起これば、ブランドの毀損も含めてダメージが大きいからだ』、「全固体電池」をまずは「HV」に利用するというのは、確かに合理的な選択だ。
・『高い実用化のハードル  実用化に向けた課題は、エネルギー密度や寿命の短さだ「けではない。 全固体電池の開発を支援する国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」によれば、全固体電池のメリットとして指摘される燃えにくさや出力性能の高さなども、実際の電池で実現できるかは検証中の段階だという。航続距離の長さにつながるエネルギー密度も、今のところは現行のリチウムイオン電池と変わらない。 現時点で実証が済んでいるのは、「高温で劣化しにくい」(NEDOの古川善規スマートコミュニティ・エネルギーシステム部部長)という点だけだという。 製造技術にも難しい課題がある。全固体電池に用いられている硫化物系の電解質は、水と結合すると有害な物質である硫化水素が発生する。そのため、製造設備では空気中の水分と反応しないよう厳密に湿度を管理する必要があり、コストがかさむ。 NEDOの古川氏は「全固体電池はゲームチェンジにつながる技術ではあるが、量産効果でコストを下げて、徐々に現在の電池を置き換えていくシナリオにならざるをえない」と語る。 NEDOでは、市場シェアにおいて2020年代半ば以降に現行の電池から全固体電池にシフトするというロードマップを掲げてきたが、「今のところ遅れ気味だ」(古川氏)。 100億円の予算をつけたNEDOのプロジェクトでは、リチウムイオン電池の研究を行うLIBTEC(リブテック)を中心に行われている開発に、トヨタのほか、2020年代後半に全固体電池の実用化を目指す日産自動車やホンダも参画している。 トヨタが目下直面する、電池の劣化を招くすき間の問題をはじめ、電池の基礎的な構造の開発はプロジェクトに参加する各社が協調して行う。一方、電池の最終性能に直結する部分は、各社が独自に進める競争領域だ。 プロジェクトの最終年度は2022年度で、足元では開発された第1世代の試作品の性能を評価中だという。 目指すのは、重量あたりのエネルギー密度が既存のリチウムイオン電池の2倍程度の全固体電池を開発することだ。実現すれば、EVに搭載する電池容量を半分にできる。たとえば、50kWh(キロワット時)の電池であればこれまで250kg搭載する必要があったところを、125kgに減らせる計算だ。 製造コストは2030年時点で1kWhあたり1万円を目指しており、現行のリチウムイオン電池とほぼ変わらない。ただ計画通り高いエネルギー密度を実現できれば車両の重さを軽くすることができ、電費面などでのメリットは大きい』、「NEDOのプロジェクト」の進捗は「今のところ遅れ気味だ」。「重量あたりのエネルギー密度が既存のリチウムイオン電池の2倍程度の全固体電池を開発することだ。実現すれば、EVに搭載する電池容量を半分にできる」、大きなメリットだ。
・『中国・NIOの全固体電池はホンモノか  海外でも、全固体電池の実用化に向けた動きは活発だ。 いち早く、2022年の10〜12月期にも全固体電池を搭載したEVを投入すると発表しているのが中国の上海蔚来汽車(NIO)だ。同社は、フラッグシップモデル「ET7」で150kWhの電池を搭載したモデルを発売する計画だ。航続距離は1000km超と、ガソリン車に負けない長距離を走れる。ただ、NIOが開発している全固体電池について日本の電池技術者たちは「全固体というよりは、電解質がゲル状の『半固体電池』なのではないか」と口をそろえる。 欧米の自動車メーカーも、勃興する全固体電池のスタートアップ企業へ出資し共同で実用化を狙っている。 ドイツのBMWやアメリカのフォード・モーターは、アメリカのスタートアップ企業で全固体電池を開発するソリッドパワーに出資し、供給を受ける計画だ。 独フォルクスワーゲン(VW)も、アメリカの新興勢・クアンタムスケープとともに2024年にも全固体電池の商用生産を始め、2025年以降に量産型のEVを発売する予定だ。 両社は年内にも全固体電池の試験生産ラインの建設場所を決定する方針で、ドイツ北部が有力候補だ。生産能力は当初は年間1GWhから始め、20GWhを追加する計画。EVに必要な台数に換算すると、数十万台分を賄える生産能力だ。 クアンタムスケープの開発する全固体電池の重量あたりのエネルギー密度は、1kgあたり300~400Wh超と、現行の電池の2倍程度を実現しているようだ。同社はEVの航続距離は最大8割延ばせると説明する。 また、38万km走行しても当初の電池容量の8割を維持できるという驚異的な性能を持つと自信を示す。VWによれば、自社のEVに搭載すれば、航続距離を3割延ばせ、450km分を充電するのに必要な時間は現在の半分以下の12分に減らせるという。 VWで電池開発を率いるフランク・ブローメ氏は「全固体電池はリチウムイオン電池開発の最終決戦だ」と言い切る』、「クアンタムスケープの開発する全固体電池の重量あたりのエネルギー密度は、1kgあたり300~400Wh超と、現行の電池の2倍程度を実現しているようだ。同社はEVの航続距離は最大8割延ばせると説明する。 また、38万km走行しても当初の電池容量の8割を維持できるという驚異的な性能を持つと自信を示す」、日本よりずいぶん進んでいるようだ。
・『焦点はコスト  焦点となるのが、全固体電池のコストを現行の電池と比べてどこまで引き下げられるかだ。 VWの場合は、液系リチウムイオン電池の低コスト化を進めており、2030年までに現行比で半減を目指している。EV販売世界首位のテスラもコストの半減を目指し、新型電池「4680」の開発を進めている。 前出のADLジャパンの粟生氏は「リチウムイオン電池も進化する中、全固体電池のEV向け投入は、コスト・性能等で大きな優位性がない限り市場の訴求力が弱く、現時点では難しい」と指摘する。 全固体電池が車載電池の真のゲームチェンジャーになるためには、現在のリチウムイオン電池を圧倒的に凌ぐ性能と価格競争力が求められそうだ』、世界的に激化している「全固体電池」開発競争が車載電池の真のゲームチェンジャーになるため」の「焦点はコスト」のようだ。

第三に、10月29日付け東洋経済Plus「アメリカの電池工場投資ですれ違い トヨタとパナの間に「すき間風」が吹いている」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/28660#:~:text=%E3%80%8C%E4%B8%A1%E7%A4%BE%E3%81%A7%E7%B5%84%E3%82%80%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C,%E3%81%AE%E3%81%99%E3%82%8C%E9%81%95%E3%81%84%E3%81%8C%E8%A6%8B%E3%81%88%E9%9A%A0%E3%82%8C%E3%81%99%E3%82%8B%E3%80%82&text=%E6%98%A8%E5%B9%B4%E3%80%81%E5%90%88%E5%BC%81%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E8%BB%8A%E8%BC%89%E9%9B%BB%E6%B1%A0,%E5%88%9D%E3%82%81%E3%81%A6%E5%BB%BA%E8%A8%AD%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%A8%E7%99%BA%E8%A1%A8%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82
・『「両社で組むことが最善の選択」として電池の合弁会社を立ち上げたが、方針のすれ違いが見え隠れする。 よそよそしい。昨年、合弁による車載電池の新会社を始動させたトヨタ自動車とパナソニックが、だ。 10月18日、トヨタはアメリカに電池工場を初めて建設すると発表した。9月には、2030年までに電池関連で設備に1兆円、開発に5000億円を投じる計画を発表しており、その一環でアメリカにおける車載電池生産に約3800億円を振り向ける。 新工場の運営を担う新会社にはトヨタが90%、豊田通商が10%出資し、トヨタグループが単独で運営する形を取る。2025年からの稼働を目指す(建設場所や生産能力は非公表)。 この計画には1つの疑問が残る。車載電池の開発・製造を行うトヨタとパナソニックの合弁企業、プライム プラネット エナジー&ソリューションズ(PPES)の名前がないからだ。同社は、トヨタが51%、パナソニックが49%を出資している。 当時、パナソニックはEV専業メーカーのテスラ向け事業での巨額投資を回収できておらず、単独で大規模な設備投資を続けることは難しいと判断。一方、トヨタは電動車の需要拡大を見据え、実質的な内製化で競争力を高める狙いがあり、PPESの設立に至った。 合弁会社にはパナソニックが持っていた国内3工場と中国・大連市の工場が移管されたが、アメリカに拠点はない。アメリカでの電池供給でも一定の役割を担うはずだったPPESが関与していないことについて、トヨタ幹部は「パナソニックにはいろんな企業と組んでいる事情もあり、51対49の資本関係で期待する投資の規模感やスピード感に賛同してもらえなかった」と話す』、「パナソニックにはいろんな企業と組んでいる事情もあり」、とはいえ、参加を見送ったのは解せない。
・『「アメリカはトヨタの戦略」  トヨタにとって北米は年間約280万台を販売する最重要市場。すでに約25%はハイブリッド車(HV)中心の電動車だが、30年には70%(15%が電気EVと燃料電池車、55%がHVとプラグインHV)に増えると想定している。 EVに搭載される電池の容量はHVの50~100倍となるため、EVの販売が本格化すると、莫大な量の電池が必要になる。加えて、電池は現状EVの製造コストの3~4割を占めるほか、安全性確保のために輸送コストもかさむ。現地でいかに安く安定的に電池を調達できるかが、他社との競争でカギを握る。 北米では米系自動車メーカーが韓国系電池メーカーと組み大型電池工場を建設する動きが加速している。ゼネラル・モーターズはLGエナジーソリューション、フォードモーターはSKイノベーションと提携。欧米系のステランティスはLG、サムスンSDIとそれぞれ組む。米中デカップリング(分断)で中国系電池メーカーのアメリカ進出が難しい中、韓国系電池メーカーが勢いづいている。 そうした動きをトヨタも警戒している。一般に電池工場の建設には2~3年を要する。補助金など優遇措置を得るうえでも、進出する州政府との調整が欠かせない。トヨタは2025年頃から電池の生産能力増強のペースを上げる計画だ。周回遅れとならないよう、PPES抜きで事実上“単独”でアメリカの工場建設に踏み切った形だ。 パナソニックで電池事業を担うエナジー社が10月25日に開いた事業説明会で、只信一生社長CEOにトヨタのアメリカの電池工場建設について聞くと、「トヨタの戦略なので、コメントする立場にない」と述べるにとどまった。 前出のトヨタ幹部が「パナソニックはいろんな企業と組んでいるから」と述べたその代表格がテスラだ。パナソニックはPPES設立後もテスラ向けの円筒形電池事業を自社に残し継続している。パナソニックは2021年にテスラと共同運営するネバダ州の電池工場の生産能力を100億円投じて1割引き上げた。 欧州でも電池工場の新設を検討中だ。テスラが年内の稼働を予定するドイツ工場向けの供給が念頭にある。テスラはアメリカのテキサス州にも新工場を建設中で、パナソニックにも協力を求めている。 もともとパナソニックはテスラに電池を独占供給するパートナーだったが、テスラが近年、車載電池世界首位の中国・CATL(寧徳時代新能源科技)や2位のLGエナジーソリューションとも提携したことで状況は一変。現状、CATLやLGは電池をテスラの中国・上海工場向けに供給するが、ほかの地域でも供給を始める可能性は十分ある。 パナソニックでテスラ事業を担当する佐藤基嗣副社長は「(投資の)優先順位は北米が1番で、次が欧州」とかねて話している。電池事業は、順調に販売台数を伸ばすテスラ向けを最優先するとなれば、PPESでの展開には慎重にならざるをえない。そうした事情が、投資を急ぎたいトヨタの不満を招いたのではないか。 新会社設立を発表した2019年、トヨタの好田博昭氏(現PPES社長)は「電池の性能を高めながら量を拡大するうえでは両社で組むことが最善の選択肢」と語っていた。が、すき間風が吹いたアメリカの電池工場投資の一件で、合弁会社の期待値は急速にしぼんでしまったようにみえる』、「EVに搭載される電池の容量はHVの50~100倍となるため、EVの販売が本格化すると、莫大な量の電池が必要になる。加えて、電池は現状EVの製造コストの3~4割を占めるほか、安全性確保のために輸送コストもかさむ。現地でいかに安く安定的に電池を調達できるかが、他社との競争でカギを握る」、「電池工場の建設には2~3年を要する。補助金など優遇措置を得るうえでも、進出する州政府との調整が欠かせない。トヨタは・・・周回遅れとならないよう。、PPES抜きで事実上“単独”でアメリカの工場建設に踏み切った形だ」、他方、「パナソニック」は「順調に販売台数を伸ばすテスラ向けを最優先するとなれば、PPESでの展開には慎重にならざるをえない」、なるほどスレ違いも生じるワケだ。
タグ:電池 (その1)(次世代電池の最有力候補「全固体電池」の現在地 研究室では一部成果も、実用化までは茨の道、トヨタが衝撃の発表「EV投入には課題がある」 大検証!夢の「全固体電池」は実際どこまでスゴいのか、アメリカの電池工場投資ですれ違い トヨタとパナの間に「すき間風」が吹いている) 東洋経済オンライン 「次世代電池の最有力候補「全固体電池」の現在地 研究室では一部成果も、実用化までは茨の道」 「リチウムイオン電池よりも高性能(大容量、高出力など)が可能で、安全性も高まると期待」、興味深そうだ。 「リチウムイオン電池があまりにもすばらしいので、なかなかそれを超えることができず、われわれも四苦八苦している」、「パワーを上げることができるのではないか、充電時間が短くできるのではないか、と考えられた。もっとも、これまで研究してきたものの、実際にはあまりメリットがなかった』、研究者らしく正直だ。 「研究室レベルでは大きな電流が取れることがわかった。それをどう実用化するかでいろいろなメーカーや国家のプロジェクトがトライしている」、「固体電池はまだリチウムイオン電池より性能が低いものの、材料の組み合わせ次第で性能をもっと上げられるのではないか、と考えている」、大いに頑張ってもらいたいものだ。 「試験電池では約3倍のエネルギー密度も」、「電池である以上、全固体電池であろうが安全には気をつけないといけない」、なるほど。 「リチウムイオン電池でいえば吉野さんたちのプロジェクトが成果が出た1985年くらいのレベルまでは来ているのかな、と。当時の時間軸よりも開発が速く進むとすれば5年以内には実用化できるだろう」、「5年以内には実用化できるだろう」とは嬉しい話だ。 「「NEDO」が「第1世代の全固体電池が2020年代後半から車載用蓄電池市場で主流となることを想定」、しているのは、学者の見方というより政治的なメッセージのようだ。 東洋経済Plus 「トヨタが衝撃の発表「EV投入には課題がある」 大検証!夢の「全固体電池」は実際どこまでスゴいのか」 「トヨタ」と提携した「パナソニック」はこれには参加しないようだ。 「全固体電池」をまずは「HV」に利用するというのは、確かに合理的な選択だ。 「NEDOのプロジェクト」の進捗は「今のところ遅れ気味だ」。「重量あたりのエネルギー密度が既存のリチウムイオン電池の2倍程度の全固体電池を開発することだ。実現すれば、EVに搭載する電池容量を半分にできる」、大きなメリットだ。 「クアンタムスケープの開発する全固体電池の重量あたりのエネルギー密度は、1kgあたり300~400Wh超と、現行の電池の2倍程度を実現しているようだ。同社はEVの航続距離は最大8割延ばせると説明する。 また、38万km走行しても当初の電池容量の8割を維持できるという驚異的な性能を持つと自信を示す」、日本よりずいぶん進んでいるようだ。 、世界的に激化している「全固体電池」開発競争が車載電池の真のゲームチェンジャーになるため」の「焦点はコスト」のようだ。 「アメリカの電池工場投資ですれ違い トヨタとパナの間に「すき間風」が吹いている」 「パナソニックにはいろんな企業と組んでいる事情もあり」、とはいえ、参加を見送ったのは解せない。 「EVに搭載される電池の容量はHVの50~100倍となるため、EVの販売が本格化すると、莫大な量の電池が必要になる。加えて、電池は現状EVの製造コストの3~4割を占めるほか、安全性確保のために輸送コストもかさむ。現地でいかに安く安定的に電池を調達できるかが、他社との競争でカギを握る」、「電池工場の建設には2~3年を要する。補助金など優遇措置を得るうえでも、進出する州政府との調整が欠かせない。トヨタは・・・周回遅れとならないよう。、PPES抜きで事実上“単独”でアメリカの工場建設に踏み切った形だ」、他方、「
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エネルギー(その7)(脱炭素達成のカギを握る「寒すぎる家」の大問題 家が暖かくなれば「空き家問題」も解決に向かう、脱炭素時代に日本も対岸の火事ではいられない 異常な高騰の先に待つ「エネルギー危機」の現実味) [産業動向]

エネルギーについては、3月22日に取上げた。今日は、(その7)(脱炭素達成のカギを握る「寒すぎる家」の大問題 家が暖かくなれば「空き家問題」も解決に向かう、脱炭素時代に日本も対岸の火事ではいられない 異常な高騰の先に待つ「エネルギー危機」の現実味)である。

先ずは、3月21日付け東洋経済オンラインが掲載した建築家・大学教授の竹内 昌義氏による「脱炭素達成のカギを握る「寒すぎる家」の大問題 家が暖かくなれば「空き家問題」も解決に向かう」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/416975
・『「脱炭素」が世界の潮流になっている。ようやく日本でも菅義偉内閣が「2050年までの脱炭素」を掲げたとおり、国内でも今後さまざまな分野で大きな変革がやってきそうだ。 本当にできるのだろうか。具体的なロードマップとなると、実はかなりお寒い状態だ。もちろん影響力が大きいのはEV(電気自動車)だ。電気が水素などの再生可能エネルギーで作られていることが前提だが、ようやく日本の自動車メーカーも脱炭素に舵を切った。今後は、ほとんどの自動車が電気自動車になっていくことだろう。日本の自動車メーカーが世界の潮流に取り残されることなくEVの加速化にどんな手を打つのかに期待したい』、興味深そうだ。
・『日本の住宅は時代遅れの基準さえクリアできず  一方、日本で脱炭素化が世界のなかで最も遅れている分野の1つが、建築だ。日本の全エネルギーの約3分の1が建築分野(一般用住宅と業務用)で消費されている。にもかかわらず「日本の住宅が『暖房しても寒い』根本的な理由」でも書いたとおり、住宅業界ではなんと1999年に決められた基準を「次世代省エネ基準」(2020年省エネ水準)として、いかにも近未来の基準のように使っているのだ。 しかも「次世代の基準」などと言うのは大間違いで、実態はもはや時代遅れ。表のように今最も厳しいドイツの基準と比べると、年間に使用する灯油タンクの量(床面積100平方メートルの家)換算ではなんと約7倍にもなる。さらに驚くのは、日本の住宅の大半がこの「時代遅れの新基準」さえクリアできていないということだ。 春を迎えるというのに、本当に寒すぎる話だが、それだけに、もはや「脱炭素」を実現する「ロードマップの1丁目1番地」に据えるべきなのが、建物の高断熱・高気密化による省エネルギーだと言えよう。 実際、環境先進国のドイツでは、化石燃料に由来しない創エネルギーと同時に始めた建物の断熱化が、想定を上回るほど効果的に機能している。エネルギーの消費量を減らすことは、エネルギーを作るよりも容易だ。 下の写真は高断熱化改修されたドイツの建物である。 このように、窓以外の壁に断熱材を貼ることで、高断熱を実現している。同国政府は今後「化石燃料を買わなくてよくなるための投資」として位置づけ、手厚い補助金をつけている。 では、建築分野で二酸化炭素をどのくらい減らせるのだろうか。例えば先進国ドイツでは2021年以降のすべての新築建物は脱炭素化を実現するよう、法律化されている。一方、日本では前述の「次世代省エネ基準」(1999年に策定)の義務化さえ、見送ったばかりだ』、「今最も厳しいドイツの基準と比べると、年間に使用する灯油タンクの量(床面積100平方メートルの家)換算ではなんと約7倍にもなる。さらに驚くのは、日本の住宅の大半がこの「時代遅れの新基準」さえクリアできていないということだ」、初めて知って改めて驚かされた。
・『エネルギーを作り、消費エネルギーを抑える  建物の寿命は長い。2050年脱炭素を実現するのであれば、今すぐにでも脱炭素化に向けて日本の建築も脱炭素化しなければならない。もはや「2020年基準」のような生ぬるい基準では時代遅れだ。だが太陽光などでエネルギーを作る一方、消費量は従来よりも抑制された住宅が当たり前になれば、住宅分野の脱炭素化は一気に解決する。 これはそれほど難しい技術ではない。 (創エネルギー)-(消費エネルギー)=ゼロ(以上)になればいいのである。 では具体的にどうすれば「プラスマイナスゼロレベルの住宅」が実現するだろうか。まず創エネルギーのほうだが、一般家庭で標準的に導入されている4〜5kWの太陽光発電で十分だ。一方、消費エネルギーはどうか。前出の「2020基準」では足らないが「その半分程度の燃費」で済む断熱性能を持つ住宅なら、ちょうどバランスが取れる勘定だ。 では「2020年基準の半分程度の消費量」とはどれくらいだろうか。実は 一般社団法人「20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」(通称「HEAT20」)が決めた3つのグレード(G1、G2、G3の3つで、G3が最も厳しい)のうち、真ん中のレベルである「G2レベル」がこれに当たる。 さきほどの表にこのG1~G3のレベルを付け加えると以下のようになる。 自動車の脱炭素化も進むが、建築分野でもあと5年以内をメドに、このレベルを義務化して、建物の脱炭素化を加速化する必要がある。 前述のように、この制度は建物の断熱に客観的な指標があるため、プランに応じて選択できるだけでなく、一般の人々の断熱に対する認識も新たにできる。また県産の木材を一定以上使用することも条件として含まれているため、地元の工務店が多く申請することで地域の産業振興にも役立つ。「設計適合証(住宅)」の実績は、2018年度29件、2019年度48件、2020年度も昨年10月末時点で57件となっていて、徐々に広がりをみせている。 ただ、県としての予算規模が小さく、この制度を利用する工務店も待ち構えていて、すぐに予算の上限に達してしまう。有効なのだが枠の拡大が課題だと言えるだろう。 一方、山形では県だけではなく、山形市の動きも活発化している。やはり県と同じように健康住宅の後押しを検討中だ。今後、県と市の両方からの助成金がつけば、高性能住宅を建てる人にとってのメリットはより大きくなるので、この流れが加速化することが期待できる』、「地方自治体」ごとに工夫をこらしているようだ 。
・『鳥取県は「健康省エネ住宅」を知事が積極アピール  もう1つは、鳥取県の「とっとり健康省エネ住宅『NE-ST』だ。やはり山形県と同様「HEAT20」のG1~G3に呼応する「T-G1」「T-G2」「T-G3」の3つのグレードを設定。国の基準を超え、ヨーロッパの先進地域との比較もできるような表になっている。 こちらは今年から申請が始まったばかりだが、「T-G1」「T-G2」「T-G3」の申請状況はそれぞれ19、20、2戸の申し込みがあった。しかも、このプロジェクトは平井伸治鳥取県知事が積極的に後押しをしているため、随時受け付けをしていることが特徴だ。同時に工務店や設計事務所に対する技術講習会など、県の建築技術を底上げする啓蒙活動も積極的に行っている。 これら2つの県の施策は補助金を使っても、それ以上に効果が出るレバレッジの利いた優れた政策と言える。地方自治体で国の基準を超えて義務化することは難しくても、このように助成を前提にすることで、国を超えた基準に誘導することが可能になる。また「松竹梅」と並べることで、梅よりは竹、竹よりは松、とより高いレベルに引き上げる効果もある。) とはいえ、残念ながら国がギアを上げるのはまだこれからだ。また「義務化」は口で言うほど簡単には実現できない。その点、地方自治体のなかには補助金というアメを使い、身近な視点から取り組んでいるところがある。 例えば高齢者などがヒートショックで亡くなるのは建物の断熱性能が低いことが原因の1つだ。高性能の断熱住宅建設へ補助金をつければ、ヒートショック死を減らし、エネルギー消費量も減り、自治体での脱炭素化促進も期待できるという好循環ができるというわけだ。 以下では、具体的でかつより高い断熱性基準を設定して、それをクリアする住宅に補助金を充てる先進的な自治体のケースを2つ紹介していこう』、「地方自治体のなかには補助金というアメを使い、身近な視点から取り組んでいるところがある」、アメが過大にならないか気を付ける必要がある。
・『断熱性能や気密性能を重視する「やまがた健康住宅制度」  まずは山形県の健康住宅認証制度だ。住宅の断熱性能や気密性能が県の定めた基準に適合しているものを「やまがた健康住宅」として認定。80万円を上限に住宅ローンへの利子補給などを行うものだ。これは県産木材多用型住宅建設や耐震建て替え支援なども含む「やまがた安心住まいづくり総合支援制度」の一部として制度化されている。 2018年4月の施行ですでに3期目が終了しようとしているが、筆者の知る限り、このような「健康住宅制度」は日本初だった。前出の「HEAT20」の基準に対応、G1レベルを★1つ、G2レベルを★2つ、G3レベルを★3つとよりわかりやすい形にして、それぞれに見合った補助金を充てる。自動車風に言えば★2つなら、国の「2020年基準」よりも「燃費が2倍いい」住宅ということになる。) 今は山形、鳥取の2県だけだが、他の自治体も検討しているという情報もある。全国にこの制度が広がり、断熱に関する技術も広まれば「技術の習得が難しい」としてレベルの低い「2020年の省エネ基準」さえ、導入が見送られた障壁もなくなるはずだ。何から何までいいことずくめだ』、「断熱に関する技術も広まれば「技術の習得が難しい」としてレベルの低い「2020年の省エネ基準」さえ、導入が見送られた障壁もなくなるはず」、確かに「何から何までいいことずくめだ」。
・『高断熱化住宅推進で空き家も「金のなる木」に  現在、日本では空き家問題が一段と深刻化している。 単純に新しい建物が好まれるのは理解できるが、欧米に比べれば日本の新築信仰は異常だ。実際、空き家問題の本質の1つは、その中古の家が寒すぎて使えないことなのではないだろうか。 なぜなら、寒い家は冬季に暖房をガンガンせざるをえないが、効率が悪いこともあり窓が結露、カビが生えやすくなり健康被害をもたらしやすい。古くなればなるほど、住みたくない家になるという悪循環だ。 一方、高断熱化した住宅はどうか。まわりの住宅よりも性能がよければ、人気が出る。賃貸に出しても入居者は確保され、流通ルートに乗り、資本を稼げる「ストック」として活用されるようになる。このように賃貸アパートやマンションなどで考えても、断熱性能が上がれば退去リスクは減り、稼働率が上がる。 実際、いったん一定以上の高断熱住宅に住むと次も同じような高断熱の賃貸、あるいは新規の購入をするようになる。結局、自治体が補助金を出すのは一見ムダのように思えるがそうではない。産業化されていくことで地域の優良なストックがたまり、そこに住む人々を豊かにしていく。冒頭述べたようにヒ ートショックの被害も抑えることができるし、地方への移住・定住・セカンドハウス取得などの促進にも寄与するはずだ』、古い中古住宅を「高断熱化」するには相当のコストがかかる筈だ。どの程度かかるかのケースがほしいところだ。

次に、11月12日付け東洋経済Plus「脱炭素時代に日本も対岸の火事ではいられない 異常な高騰の先に待つ「エネルギー危機」の現実味」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/28792
・『世界中で吹き荒れるエネルギー価格高騰の嵐。日本も改革を急がなければ、"危機"が現実化するのは遠くない。 パーフェクトストーム――。 エネルギー市場の関係者は、この秋から深刻化している世界的なエネルギー需給逼迫の状況を、多重的な災厄の襲来に例えてこう表現する。 9~10月にかけ、天然ガス価格は史上最高値を連日更新した。ヨーロッパの天然ガスとアジアのLNG(液化天然ガス)のスポット価格は一時、100万BTU(英国熱量単位)当たり30ドル台半ばにまで急騰した。 これは原油に換算すると、1バレル=200ドルを超える水準だ。同期間に1バレル=70~80ドル台で推移していた原44電力需要が急速に増加した一方、再生可能エネルギー導入に大きく舵を切ったヨーロッパ各国では、風況が例年より悪く、風力発電の出力が低下した。そこにロシアからの天然ガスの供給制限や、南米や中国などをはじめとした世界的なLNG需要の増加が重なった』、「天然ガス・・・のスポット価格は・・・原油に換算すると、1バレル=200ドルを超える水準」、ここまで急騰したとは初めて知った。
・『各地で停電、工場の操業停止も  天然ガスの価格高騰と在庫不足に加えて、発電用の石炭価格も最高値を更新。世界各国で同時多発的に電力卸価格の上昇や停電を引き起こした。 中でもヨーロッパでは、電力卸価格が急上昇。イギリスでは電力・ガスの小売り料金にプライスキャップ(上限価格)が課されているため、調達価格の高騰に耐えきれなくなったエネルギー供給事業者の破綻が9~10月に相次いだ。 石炭在庫が不足したインドでは、北部の州で停電が頻発したほか、中国では20の省・地域で計画停電が実施され、工場の操業が止まるなどサプライチェーンへの影響が広まった。国内炭の増産や電力市場改革を進め、中国の電力需給は10月以降に持ち直したものの、北半球の国々はこれから冬場の本格的な需要期を迎え、需給逼迫の長期化が懸念されている。 日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一・研究理事は、「脱炭素の流れで、風力やガス火力などのエネルギー源への偏在リスクが高まっている。特定の電源に集中した国ほど、電力卸価格の振れ幅が激しくなりやすい状況だ」と指摘する。 日本の立場は極めて脆弱だ。 日本が調達するLNGの大半は長期契約かつ原油価格リンク(連動)のため、価格変動の直接的な影響は受けにくい。ただ、厳冬となれば今年1月に起きたような燃料不足が再発してもおかしくはない。火力発電設備の不足もあり、今冬の東京電力管内などの電力需給は過去10年間でもっとも厳しくなる見通しだ』、「日本が調達するLNGの大半は長期契約かつ原油価格リンク(連動)のため、価格変動の直接的な影響は受けにくい。ただ、厳冬となれば今年1月に起きたような燃料不足が再発してもおかしくはない。火力発電設備の不足もあり、今冬の東京電力管内などの電力需給は過去10年間でもっとも厳しくなる見通しだ」、「今冬」は要注意のようだ。
・『埋まらない新興国との断絶   化石燃料から再エネへと移行が進む中、エネルギー需給の長期見通しは、世界的な脱炭素の潮流とも切り離せなくなっている。 危機のさなか、イギリスのグラスゴーで10月末から開催されてきたCOP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)では、パリ協定で示された今世紀末までに気温の上昇を1.5度に抑える目標達成のため、どこまで各国が新たな数値目標に踏み込めるかが最大の焦点となった。 ただ、経済成長のため安価なエネルギー源を求める新興国と、脱炭素の議論を先導するヨーロッパなど先進国の間には依然断絶がある。今日の大気中の温室効果ガスの大部分は先進国が過去に排出したものという、「共通だが差異ある責任論」が新興国には根強いためだ。 UNEP(国連環境計画)の報告書では、COP26開幕以前に各国が提示した排出量削減目標だけでは、66%の確率で今世紀末までに2.7度上昇が進むという衝撃的なシナリオが提示された。COP26の会期中、インドが新たに2070年のカーボンニュートラル目標を表明するなど一定の前進はあったものの、短期目標と具体的な行動を新たに掲げる国は少なく、「従来の予測を好転させる効果はない」とUNEPは11月9日に発表している』、「COP26開幕以前に各国が提示した排出量削減目標だけでは、66%の確率で今世紀末までに2.7度上昇が進むという衝撃的なシナリオが提示された」、大変だ。
・『大幅な価格変動は「新常態になる」  脱炭素移行期のエネルギー転換がどのような形で進むかについては、専門機関によってシナリオが分かれる。 国際エネルギー機関(IEA)が5月に公表した報告書では、2050年までにエネルギー関連のCO₂排出をネットゼロにするためのロードマップを提示。その中で、エネルギー供給に占める化石燃料の割合は現状の約8割から約2割に大幅に縮小していく必要があることを示した。 一方、アメリカのエネルギー情報局(EIA)が10月に出した見通しでは、世界のエネルギー供給で見たときに、2050年の世界の石油需要は2020年比で約4割増えると予測する。新興国の人口増加や経済成長により、化石燃料抜きでは世界のエネルギー需要がまかなえないとしているためだ。 ESG投資の圧力が強まる中で民間資源メジャーの上流開発投資額は年々明らかに減少しており、化石燃料の需給ギャップは構造的に発生しやすくなっている。「エネルギー価格がスパイクする(大きく振れる)状況が、脱炭素時代の新常態となる」(エネルギー事情に詳しい住友商事元執行役員の高井裕之氏)。 こうした状況は日本にとって好ましいものではないだろう。エネルギー資源の約9割を海外からの輸入に、そして電源構成のうち7割以上をLNG、石炭などの化石燃料に依存する日本は、エネルギー価格変動の影響を特に受けやすいためだ。 電力価格上昇を警戒する日本の産業界では原発待望論が高まっているが、使用済み核燃料の問題は未解決のまま。再エネや新エネの育成も道半ばだ。世界で起きている激動を直視して構造改革を急がなければ、エネルギー危機が現実化するのは遠くない』、「エネルギー価格がスパイクする(大きく振れる)状況が、脱炭素時代の新常態だ」、由々しい事態だが、「原発待望論が高まっているが、使用済み核燃料の問題は未解決のまま」、安易な原発依存はすべきではない。
タグ:古い中古住宅を「高断熱化」するには相当のコストがかかる筈だ。どの程度かかるかのケースがほしいところだ。 エネルギー 「脱炭素時代に日本も対岸の火事ではいられない 異常な高騰の先に待つ「エネルギー危機」の現実味」 東洋経済オンライン 「天然ガス・・・のスポット価格は・・・原油に換算すると、1バレル=200ドルを超える水準」、ここまで急騰したとは初めて知った 「脱炭素達成のカギを握る「寒すぎる家」の大問題 家が暖かくなれば「空き家問題」も解決に向かう」 竹内 昌義 (その7)(脱炭素達成のカギを握る「寒すぎる家」の大問題 家が暖かくなれば「空き家問題」も解決に向かう、脱炭素時代に日本も対岸の火事ではいられない 異常な高騰の先に待つ「エネルギー危機」の現実味) 「断熱に関する技術も広まれば「技術の習得が難しい」としてレベルの低い「2020年の省エネ基準」さえ、導入が見送られた障壁もなくなるはず」、確かに「何から何までいいことずくめだ」。 「日本が調達するLNGの大半は長期契約かつ原油価格リンク(連動)のため、価格変動の直接的な影響は受けにくい。ただ、厳冬となれば今年1月に起きたような燃料不足が再発してもおかしくはない。火力発電設備の不足もあり、今冬の東京電力管内などの電力需給は過去10年間でもっとも厳しくなる見通しだ」、「今冬」は要注意のようだ。 「地方自治体」ごとに工夫をこらしているようだ 。 「今最も厳しいドイツの基準と比べると、年間に使用する灯油タンクの量(床面積100平方メートルの家)換算ではなんと約7倍にもなる。さらに驚くのは、日本の住宅の大半がこの「時代遅れの新基準」さえクリアできていないということだ」、初めて知って改めて驚かされた。 「COP26開幕以前に各国が提示した排出量削減目標だけでは、66%の確率で今世紀末までに2.7度上昇が進むという衝撃的なシナリオが提示された」、大変だ。 「エネルギー価格がスパイクする(大きく振れる)状況が、脱炭素時代の新常態だ」、由々しい事態だが、「原発待望論が高まっているが、使用済み核燃料の問題は未解決のまま」、安易な原発依存はすべきではない。 「地方自治体のなかには補助金というアメを使い、身近な視点から取り組んでいるところがある」、アメが過大にならないか気を付ける必要がある。 東洋経済Plus
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日本の構造問題(その22)(今 必要とされているアーキテクトとは 「抽象化してゼロベースで全体構想を考える」ことができる人、「失われた30年」は なぜ起こったのか? アーキテクト人材なくして 日本の再生はない 具体と抽象を行き来する問題発見・解決の新技法、これでよいのか安 い日本 ビッグマック指数で中国やポーランドの下位 賃金が低水準 国際的地位も下落) [経済政治動向]

日本の構造問題については、9月10日に取上げた。今日は、(その22)(今 必要とされているアーキテクトとは 「抽象化してゼロベースで全体構想を考える」ことができる人、「失われた30年」は なぜ起こったのか? アーキテクト人材なくして 日本の再生はない 具体と抽象を行き来する問題発見・解決の新技法、これでよいのか安 い日本 ビッグマック指数で中国やポーランドの下位 賃金が低水準 国際的地位も下落)である。

先ずは、9月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したビジネスコンサルタントの細谷功氏と経営共創基盤共同経営者の坂田幸樹氏による「今、必要とされているアーキテクトとは、「抽象化してゼロベースで全体構想を考える」ことができる人」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/283231
・『ニューノーマルの時代にはこれまでの勝ちパターンは通用しない。変革期に必要な新しい思考回路が求められている。それがアーキテクト思考だ。アーキテクト思考とは「新しい世界をゼロベースで構想できる力」のこと。『具体⇔抽象トレーニング』著者の細谷功氏と、経営共創基盤(IGPI)共同経営者の坂田幸樹氏の2人が書き下ろした『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考 具体と抽象を行き来する問題発見・解決の新技法』が、9月29日にダイヤモンド社から発売される。混迷の時代を生きるために必要な新しいビジネスの思考力とは何か。それをどう磨き、どう身に付けたらいいのか。本連載では、同書の発刊を記念してそのエッセンスをお届けする』、初めて接した概念だが、興味深そうだ。
・『アーキテクトは、根本的な世界観を提示する  今回はアーキテクト思考の概要についてご紹介します。前回お話したような変革期のビジネスにおいていま不足しているものの考え方、つまりゼロベースで白紙の状態から抽象度の高い全体構想を構築するための思考法を、ここでは「アーキテクト思考」と定義しました。 英語のArchitectとは文字通りには建築家を意味します。ITの世界でも「アーキテクチャー」(CPU等の基本的な設計思想)という言葉に現れるように、情報システムの複雑な構成単位を組み合わせた全体の基本的な思想や構造を設計する人が「ITアーキテクト」という表現で用いられています。 本連載で定義する(カタカナの)「アーキテクト」とは、本書では「全体構想家」を意味し、その元々の語源である建築家のように、白紙に抽象度の高いコンセプトや将来像を構想できる人のことを意味します。 誰かが設定したフィールドでプレイするのではなく、そのフィールドそのものを更地から想像し、そこにどんなプレイヤーを呼んでどんなゲームをするのかという全体の場を設計する、そのための思考がアーキテクト思考です。 VUCA(注)とデジタルトランスフォーメーション(DX)によって20世紀とは大きくルールの変わったこれからのビジネスにおいて、ボトルネックとなるのは上記のアーキテクトの不足ではないかというのがここでの仮説です。 本記事ではそのアーキテクトの思考回路や思考プロセスについて明確にするとともに、そのビジネスにおける実践イメージを、フレームワークや事例を通じてつかんでもらいたいと思います。 アーキテクトとは、狭義では現在実際に用いられている建築家あるいはITアーキテクトを意味しますが、本書での対象はそのコアスキルをさらに一般化してビジネスを含めたあらゆる領域に拡大し、各々の領域で「抽象化してゼロベースで全体構想を考える」ことができる人とします。 旧来の慣習にとらわれずに新たな場を作る起業家はもちろん、新規事業開発者も「ビジネスアーキテクト」であり、その他の領域でも、例えばデジタル技術を駆使して都市計画を作り上げる「スマートアーキテクト」、コミュニティを立ち上げる「コミュニティアーキテクト」、何らかの組織やグループを立ち上げる「グループアーキテクト」、新たなドキュメント体系を作り上げる「ドキュメントアーキテクト」、様々なコンセプトをゼロから作り上げる「コンセプトアーキテクト」等、何にでも適用は可能です。さらに言えば、私たちは皆「自分自身の人生のアーキテクト」であることも必要となるでしょう。 他にも、いま日本が世界的に圧倒的な競争力を持っている数少ない分野として挙げられるのが「ゲーム」や「アニメ」ということになりますが、ここでの強みは単に表面的な面白さのみならず、そこに何らかの「世界観」が提示されていることではないでしょうか? このように根本的な世界観を提示することもアーキテクトには求められます』、「アーキテクト」は確かに興味深い概念だ。
(注)VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べた合成語(Wikipedia)。
・『アーキテクト思考に求められるのは「抽象化能力」  では、そのようなアーキテクトが身に付ける必要がある「アーキテクト思考」とは、どのようなものでしょうか? それを実践する「アーキテクト」像を一枚の絵で表現すれば下図の通りになります。 全体を俯瞰して抽象化してゼロベースで構想を練って、新たな場としての世界観を構築するためのアーキテクト思考。それを一言で表現すれば「抽象化思考」です。 目に見える具体的な事象から、目に見えない抽象の世界を俯瞰して描き、個別の構成要素に関係性を与えて全体の構造を作り上げる力です。これは、目に見える世界において更地に建築物を構想するのに類似しています』、「抽象化思考」は日本人にはハードルが高そうだ。
・『アーキテクト思考と非アーキテクト思考の違い  この全体像を理解するために、まずアーキテクト思考の特徴を、それとは真逆の非アーキテクト思考との比較で示せば下図の通りです。 まず建物や都市の構想を描くべく、高所から全体を眺められることは必須の能力です。「自分の組織の視点で」とか「自分の立場の視点で」ではなく、対象とする系(システム全体だったり、ビジネス全体だったりといった構成要素が関係しあった全体像)を常に全体からとらえることが、まずアーキテクト思考の第一歩です。 さらにそれを真っ白なキャンバスから描くべくゼロベースで考えられることが必須。ゼロベースとは、様々なしがらみや過去の遺物を忘れて、現時点でベストと思える情報や技術を最大限に生かして最高の構想を描くことを意味します。 これとは逆の発想が、既にある既存の資産をどうやったら最大に活用できるかを考え、いまある枠組みにあたかも穴埋め問題を解くように「埋めていく」考え方で、これは非アーキテクト思考の発想といえます。 そのためには、他者の動きに反応するのではなく、自ら始めに能動的に動く姿勢が必須となります。単に他者が出した案に反対するだけなのは論外として、既にあるものの改善を考えるのではなく、一から(ゼロから)代案を考えることがアーキテクト思考の実践には求められます。(細谷氏・坂田氏の略歴、本の紹介はリンク先参照)』、「既にあるものの改善を考えるのではなく、一から(ゼロから)代案を考えることがアーキテクト思考の実践には求められます」、ますます日本人にはハードルが高そうだ。

次に、この続き、9月30日付けダイヤモンド・オンライン「「失われた30年」は、なぜ起こったのか?
アーキテクト人材なくして、日本の再生はない 具体と抽象を行き来する問題発見・解決の新技法」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/283402
・・・アーキテクト思考とモノづくり思考の違い  前回はアーキテクト思考とは? そしてその実践者たるアーキテクトとはこんなスキルセットを持った人であるという定義を示しました。 ところが第一回で述べたように、このような人は(もともと全ての人が全ての場面でこのような思考を持つ必要はなく、限られた場面で必要となるとはいえ)VUCAの時代といわれる現在のビジネス環境において、その必要度に比べて実際の人材は不足していると言えます。 ここでは、なぜこのようなアーキテクト思考を持った人が必要以上に少ないかを考えてみましょう。それは一言で表現すれば「これまでの日本が得意とし、重要だと思っていた価値観と全く逆の価値観が必要とされる」からです。「日本が得意であること」の象徴的なものが品質の高い画一的な製品を低コスト短納期で作るための、いわゆる「モノづくり」の価値観です。 アーキテクト思考を、20世紀終わりまでに世界を席巻して日本の高度成長の原動力となった(いまも世界の中では強みとなっている)モノづくり思考と比較して下表のように比較してみます(下図)』、アーキテクト思考とモノづくり思考の違いの図はなかなかよく出来た分かり易い図だ。
・変革期に必要なのは、枠の決められた世界の最適化ではなく、枠そのものを新たに作り上げる能力
 アーキテクト思考とは「抽象化してゼロベースで全体構想を考えること」でした。これはいわゆる「三現主義」と呼ばれる現場・現物・現実という典型的な具体の世界を重視してきたモノづくりの思考とある意味で対照をなします。 なぜ抽象化が必要かといえば、変革期に必要なのは枠の決められた世界を最適化するのではなく、枠そのものを新たに作り上げる能力だからです。 もちろん抽象化するためには、初めに具体的事象の観察が求められるので、正確にいえば抽象重視というよりは抽象「化」を重視するということになります。 モノづくりの方法論として世界中に有名になったカイゼン(KAIZENは英語の辞書にも載っています)活動というのは、「いまあるもの」の改善です。つまり、これは「白紙にゼロベースで構想する」アーキテクト思考とは異なる頭の使い方が求められたということです。 改善というのは既に80点、90点とれているものを100点(あるいはそれ以上)にするという発想です。この場合に必要なのは、「足りていない10点、20点」にひたすら目を向けてそこをつぶしに行くという「引き算型」の思考回路になりがちですが、逆にゼロベースで物事を考えるときにはわずかな材料からでも更地に構想を考えるという、むしろ「足し算型」の発想が求められます。 これらの違いを一言で表現すれば、川上の発想と川下の発想の違いということになります。 建物の構想から建築やITシステムの構想から開発という流れを考えればイメージしやすいかと思いますが、仕事のまだ様々なことがぼんやりとして抽象的で明確に決まっていない川上と、様々な仕様が明確に決まって様々な領域の専門家が関与する川下とでは必要となるスキルや価値観が(時には180度違うと言ってよいほど)異なります。 もちろん抽象化するためには、初めに具体的事象の観察が求められるので、正確にいえば抽象重視というよりは抽象「化」を重視するということになります』、「改善というのは既に80点、90点とれているものを100点・・・・にするという発想です。この場合に必要なのは、「足りていない10点、20点」にひたすら目を向けてそこをつぶしに行くという「引き算型」の思考回路になりがちですが、逆にゼロベースで物事を考えるときにはわずかな材料からでも更地に構想を考えるという、むしろ「足し算型」の発想が求められます」、「仕事のまだ様々なことがぼんやりとして抽象的で明確に決まっていない川上と、様々な仕様が明確に決まって様々な領域の専門家が関与する川下とでは必要となるスキルや価値観が・・・異なります」、なるほど分かり易い説明だ。
・一世代前のモノづくりの強みはVUCAの時代、デジタル化の時代には、強力な障害となって立ちはだかる  もっとも川上で必要となるゼロからの構想や高度な抽象化は組織ではなく、個人のなせるわざであるというのは、建築の世界を見ればわかりやすいでしょう。例えば建築物の基本コンセプトを構想する世界に名だたる建築家や会社をゼロから立ち上げた創業者たちもそのほとんどが個人名で仕事をする人たちです。 これに対してモノづくりで大事なのは、全社員一丸となって画一的な品質管理を定められた厳格なルールの下で行うことであり、この世界では一人ひとりの個性や多様性はできるだけ排除することが望まれます。 工場における品質管理の最大の敵は「バラつき」だからです。工場の品質向上の活動の多くは「いかにしてバラつきを減らすか」に腐心しています(究極にばらつきを排除した状態が機械化です)が、後述のように抽象化に必要なのは多様な思考の軸であるがゆえに多様性が重要なのです。 これまで日本の強さだったモノづくり思考は、画一的で厳格にルールを守るという日本人の特性と、ものの見事に合致して世界を席巻する製造業が出来上がりました。 ところが皮肉なことに『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)でクレイトン・クリステンセンが語った通り、「一時代の強み」は新しいイノベーションが起こってパラダイムが変わったときの次の世代には弱みとなります。 このような一世代前のモノづくりの強みはVUCA(注)の時代、デジタル化の時代には、ある意味強力な障害となって我々の前に立ちはだかるのです。 ここに一石を投じ、ビジネスの世界でも「アーキテクト思考」の実践者を増やして新たな変革につなげる個人を一人でも増やすことが本連載の狙いです。 次回は今回簡単に述べた「川上と川下の違い」について、「具体と抽象」を切り口にさらに詳細に見ていくことにしましょう。(細谷氏と坂田氏の略歴、本の紹介はリンク先参照)』、「これまで日本の強さだったモノづくり思考は、画一的で厳格にルールを守るという日本人の特性と、ものの見事に合致して世界を席巻する製造業が出来上がりました。 ところが皮肉なことに『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)でクレイトン・クリステンセンが語った通り、「一時代の強み」は新しいイノベーションが起こってパラダイムが変わったときの次の世代には弱みとなります」、最近の成長率低迷を見事に説明している。
(注)VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べた合成語(Wikipedia)

第三に、11月7日付け現代ビジネスが掲載した大蔵省出身で一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「これでよいのか安い日本。ビッグマック指数で中国やポーランドの下位 賃金が低水準、国際的地位も下落」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/88921
・ビッグマック指数は、その国の賃金水準を判断する基準になる。このところ日本のビッグマック指数はかなり低い値になっており、韓国、タイ、パキスタンなどより低い。9月以降の円安によってさらに低くなり、いまや、中国やポーランドより下位になってしまった』、なるほど。
・ビッグマック価格がアメリカの6割という「安い日本」  英誌『エコノミスト』が毎年、世界各国のビッグマックの価格を調査、公表している。 2021年6月の数字を見ると、日本のビッグマック価格は390円。1ドル=109.94円で換算すると3.54ドル。それに対してアメリカでは5.65ドル。だから日本のビッグマック価格は、アメリカの62.8%でしかない。 「安い日本」といわれるが、まさにそのとおりだ。 以上のことが、「ビッグマック指数」という指標で表わされている。これはつぎの算式で計算されたものだ。 [(ドル表示の日本のビッグマック価格)÷(アメリカのビッグマック価格)-1]x100  上述の日本の場合は、3.54÷5.65-1]x100=−37.2 なお、アメリカのビッグマック指数は、定義によって常にゼロだ。 この値がマイナスで絶対値が大きいと、日本人は、アメリカに行った時に「物価が高い」と感じることになる。一般に、ビッグマック指数が小さい国の人が大きい国に行けば、物価が高いと感じる。ビッグマック指数は、その国の通貨の購買力を表わしているわけだ。 2021年6月におけるいくつかの国、地域のビッグマック指数をみると、つぎのとおりだ。 指数がプラスの国として、スイス(24.7)、ノルウェイ(11.5)、スウエーデン(9.6)などがある。 マイナスでも日本より指数が大きい国・地域として、EU(マイナス11.1)、韓国(マイナス29.2)、アルゼンチン(マイナス30.2)、タイ(マイナス31.0)、パキスタン(マイナス36.3)などがある。 いまや日本人は、世界の多くの国に行ったときに、物価が高いと感じる。6月時点でビッグマック指数が日本より低い国は、スリランカ(マイナス37.9)、中国(マイナス38.8)、ポーランド(マイナス39.2)、コロンビア(マイナス40.3)くらいしかなかった』、「いまや日本人は、世界の多くの国に行ったときに、物価が高いと感じる」、情けない限りだ。
・円安が進んで順位はさらに低下し、中国に抜かれる  ところで、以上で紹介したのは今年6月の数字だ。その後、円安が進んで、10月には1ドル=114円程度になった。 日米のビッグマック価格が変わらないとすれば、日本のビッグマック価格は3.42ドルになるから、アメリカの60.5%だ。そしてビッグマック指数は、マイナス39.5となる。 他国のビッグマック指数が6月時点と変らなければ、日本は中国やポーランドに抜かれたことになる。 日本より低いのは、コロンビアのほか、ウクライナ、マレーシア、インドネシア、トルコ、アゼルバイジャン、南アフリカ、ロシア、レバノンしかない。 これでよいのだろうか?』、全ての原因は日銀の黒田総裁の異次元緩和の行き過ぎである。米国やECBが出口の模索を始めたのに、1人取り残された形だ。やれやれ。
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不動産(その8)(JTB エイベックスの本社ビルを相次いで取得 海外ファンドが日本の不動産に「強気」になる理由、築40年超「老朽マンション」丸ごと建て替えの顛末 イトーピアがブリリアタワーに生まれ変わる日、実は続出「マンション管理会社が突然撤退」の怖さ 管理組合と「立場逆転」 大きな転換期に) [産業動向]

不動産については、8月2日に取上げた。今日は、(その8)(JTB エイベックスの本社ビルを相次いで取得 海外ファンドが日本の不動産に「強気」になる理由、築40年超「老朽マンション」丸ごと建て替えの顛末 イトーピアがブリリアタワーに生まれ変わる日、実は続出「マンション管理会社が突然撤退」の怖さ 管理組合と「立場逆転」 大きな転換期に)である。

先ずは、10月1日付け東洋経済Plus「JTB、エイベックスの本社ビルを相次いで取得 海外ファンドが日本の不動産に「強気」になる理由」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/28337?mtest=b&utm_campaign=EDtkprem_2110&utm_content=459435&utm_medium=article&utm_source=edTKO#contd
・『海外マネーが日本の不動産市場に流れ込んでいる。国内投資家と違い、リスクをはらむ物件に対しても投資をいとわない投資家たちの実像とは。 JR浜松町駅から東京モノレールで1駅。東京湾を望む天王洲アイル駅に直結する20階建ての高層ビルに、旅行代理店大手JTBは本社を構える。 8月末、JTBはこのビルを売却した。買い手企業は公表されていないが、イギリスの不動産ファンド「サヴィルズ」系列のファンドが約200億円で取得したことが東洋経済の取材でわかった。JTBの広報担当者は「守秘義務があるため回答できない」としている。 2021年にはビル1棟で数百億円や数千億円の不動産売買が成立しており、決して高額な取引ではない。それでも不動産業界でこの取引が話題になったのは「天王洲」という立地だ』、どういうことなのだろう。
・『割安でも天王洲には手を出さない  「どれだけ物件価格が割安でも、天王洲には手を出さない」 別の不動産ファンドの幹部はこぼす。 天王洲は住所こそ東京都品川区だが、都心部へのアクセスは東京モノレールとりんかい線に頼る。JR山手線や地下鉄駅が最寄りのオフィス街と比べて交通利便性に劣るため、オフィス需要が弱く、景気後退期には空室増や賃料下落の影響を受けやすいとされている。 JTBはビル売却後もリースバック方式で入居を続ける。リースバック後の推定賃料から割り戻した期待利回りは3%前半から中盤。2%台で流通する都心部のビルと比較すれば収益面では一見上回っているが、都心のビルに比べて賃料下落や空室が埋まらないリスクが相対的に高い臨海部に立つことを考慮すると、高利回りだからといって容易に手が出せる案件ではない。 JTBビルをめぐる取引は、リスクをはらむ物件に対しても投資をいとわない海外不動産ファンドの強気な投資姿勢を象徴する。コロナ禍の混乱とは一線を画し、彼らは投資の手を緩めない。 2021年3月、近鉄グループホールディングスが国内のホテル8棟をアメリカの不動産ファンド大手「ブラックストーン・グループ」に売却すると発表した。売却価格は非公表だが、帳簿価格は8棟で計423億円だ。 ブラックストーンが近鉄グループと接触したのは2020年春ごろにさかのぼる。初の緊急事態宣言にも動じず、同社はすでにコロナ禍の収束を見越したホテル投資を検討していた。リーマンショックのような金融危機と異なり、経済の落ち込みは一時的にすぎないという判断から、稼働が落ち込んだホテルを積極的に物色していた。 2021年7月には、ドイツの不動産ファンド「パトリツィア」が日本で本格的に不動産投資を行うと表明した。同ファンドはヨーロッパを中心に470億ユーロ(約6兆円、2021年3月末時点)の不動産を運用する「クジラ」だ。賃貸マンションやオフィス、インダストリアル(物流施設、工場、データセンター、研究開発施設など)分野を対象に、今後3~4年以内に日本で3000億円規模の投資を行う予定だ。 アメリカの不動産サービス大手JLLによれば、海外機関投資家による日本への不動産投資額は2020年に1兆5548億円を記録し、前年から1.5倍以上増加した。国内の不動産投資額の34%を海外勢が占めた計算になり、2007年以来の水準となる。2021年上半期の投資額は減少したが、これは市場で流通する不動産が少ないためで、投資需要そのものは引き続き旺盛だ』、「海外機関投資家による日本への不動産投資額は2020年に1兆5548億円を記録し、前年から1.5倍以上増加した。国内の不動産投資額の34%を海外勢が占めた計算に」、かなり重要なプレイヤーになったようだ。
・『存在感が高まる日本の不動産  日本に資金が集まる背景には、コロナ禍で経済や社会が混乱した欧米の代替市場として、相対的に影響が軽微なアジア地域に注目が集まっていることがある。中でも「シンガポールは不動産市場が小さく、オーストラリアもオフィスビルや賃貸マンションのストックが少ない」(JLLの内藤康二リサーチディレクター)。そこで人口が多く、投資対象となりうる不動産も豊富な日本の存在感が高まった。 日本の金融機関からの調達金利の低さも魅力だ。不動産ファンドは投資家から集めた出資金で不動産を取得するが、実際は購入資金の過半を金融機関からの融資で賄う。三井住友トラスト基礎研究所の調査では、日本の不動産を投資対象とする私募ファンドの平均LTV(ローントゥバリュー、不動産価格に対する借入金の割合)は7月時点で平均52%。取得する不動産の利回りが低くても、それ以上に金融機関からの調達金利が低ければ利ざやが取れる。 調達条件はファンドや金融機関によりさまざまだが、日本の不動産に対してはおおむね0.5~1%弱の水準でシニアローン(ほかの債券に比べて返済順位が優先されるが、比較的金利が低い)を調達できている。「シンガポールの金融機関から調達した場合、金利は1.5%前後。香港は1.7%、ソウルなら3%だ」(JLLの内藤氏)とされ、日本の金利の低さが際立つ。 果敢な投資の背景には、低金利のみならず、ファンド運用担当者が描く投資戦略も関係しているという指摘がある。 冒頭のJTBビルはその好例だ。ある不動産仲介会社の幹部は、「リースバック期間満了後にJTBが退去した場合、より高い賃料で後継テナントを誘致できれば(海外ファンドのサヴィルズにとって)高値づかみとは言い切れない」と指摘する。 リースバック期間は5年や10年といった長期が通例だが、この幹部によれば、JTBのリースバック期間はそれより短いという。交通アクセスが悪く、後継テナントの埋め戻しに苦労するのではという見方に対しては、「天王洲から羽田空港まではモノレールで1本。モノは言いよう」と返す。 ▽エイベックスビル取得は高値づかみか(「720億円は高すぎる」 3月にカナダの不動産ファンド「ベントール・グリーンオーク」が約720億円で取得したエイベックスの本社ビル(東京・南青山)について、同ビルの取得を検討したある不動産会社幹部はこう漏らす。 エイベックスビルは複数の企業が取得を検討したが、撮影スタジオなど賃料が見込みづらい用途が点在し、大型ビルの場合、延べ床面積に占める賃貸可能面積は70%前後が通常だが、エイベックスビルでは50%強しかなかった。大型ビルの割に賃料が見込めないため、提示できる金額が伸び悩んだ。 グリーンオークはなぜ高値を提示できたのか。グリーンオークの広報担当者からのコメントは得られなかったが、前出の仲介会社幹部は「1棟借りをするテナントの確保に自信があったのでは」と指摘する。本社ビルを探す企業に照準を定め、ビルを1棟借りできる希少な機会と考えたのではないかという見方だ。 複数の不動産関係者によれば、2022年3月に予定されているエイベックスの退去後、すでに後継テナントがビルを1棟借りする方向で交渉が進んでいるという。成約した場合の賃料は坪単価で4万円超と、南青山のオフィスビルとしては高水準となる可能性がある。1棟借りの場合は実質的に延べ床面積すべてを賃貸することになるため、賃貸可能面積の少なさというデメリットは薄れる。 グリーンオークは後継テナントが見つからなかった場合に備えて別の手も打っていた。別の海外不動産ファンドの首脳は「入札時からゼネコンと組み、ビルを建て替える計画を描いていた」と打ち明ける。建て替えによって容積率や賃貸可能面積が増えれば、工事費や工事期間中の機会損失を考慮しても、収益が伸びる余地がある。 海外不動産ファンドの元運用担当者は「日本企業は高値づかみを嫌うが、外資系企業(外資系投資ファンド)は投資家から預かった資金を使わないまま返還することを嫌う。慎重になるあまり投資機会を逃す『見逃し三振』より、結果的に高値づかみだったとしてもバットを振るほうが評価される」と分析する。コロナショックをもろともしない海外投資家たちによる不動産の奪い合いは、終わりそうにない』、「日本の」「金融機関」からは「おおむね0.5~1%弱の水準で」「調達できている」。「シンガポールの金融機関から調達した場合、金利は1.5%前後。香港は1.7%、ソウルなら3%」、確かに日本の金融機関の貸出金利は目立って低いようだ。「グリーンオークは」、「エイベックスの退去後、すでに後継テナントがビルを1棟借りする方向で交渉が進んでいるという。成約した場合の賃料は坪単価で4万円超と、南青山のオフィスビルとしては高水準となる可能性がある。1棟借りの場合は実質的に延べ床面積すべてを賃貸することになるため、賃貸可能面積の少なさというデメリットは薄れる」、「後継テナントが見つからなかった場合に備えて別の手も打っていた・・・「入札時からゼネコンと組み、ビルを建て替える計画を描いていた」、代替策を周到に用意する外資系の積極的な姿勢は、日系も学ぶべきだ。

次に、10月14日付け東洋経済オンライン「築40年超「老朽マンション」丸ごと建て替えの顛末 イトーピアがブリリアタワーに生まれ変わる日」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/461741
・『築40年超の都会の老朽マンションが本当に建て替わるのか――。 JR山手線「浜松町」駅の東側、旧芝離宮恩賜庭園を越えた場所に立つ「イトーピア浜離宮」(東京・港区)。1979年に竣工した総戸数328戸のマンションは目下、全420戸のタワーマンションへの建て替え工事が進む。 老朽マンションの建て替えが社会問題化して久しい。だが、国内にあるすべてのマンション約675万戸のうち、実際の建て替え事例は、準備中を含めても今年4月時点でわずか303件だ。オーナー間の合意形成に手間取ったり、立地が悪く建て替えの事業化が困難だったりすることが、建て替えが進まない理由に挙げられる。 翻って、イトーピアは好立地かつ容積率に余裕があり、オーナーの多くは建て替えに賛成。好条件が揃っており、すぐにでも建て替えへと移行できたように思える。が、建て替えが正式に決議されるまでの道のりは決して平坦ではなかった。何が壁として立ちはだかったのか。 週刊東洋経済10月16日号(10月11日発売)では「実家のしまい方」を特集。老朽化した戸建てやマンション、空き家・空き地問題について、広く取り上げている』、「好条件が揃っており、すぐにでも建て替えへと移行できたように思える。が、建て替えが正式に決議されるまでの道のりは決して平坦ではなかった」、どういうことだろう。
・『契機は2011年の東日本大震災だった  「デベロッパーやコンサルタントへの丸投げではいけない。われわれの手で建て替えを実現させるという意志が大切だ」。 旧イトーピアの管理組合理事長として尽力した林俊幸さん(71)は、建て替え実現の秘訣について、オーナーの主体性が重要だと説く。 イトーピアで建て替えの議論が始まったのは、2000年代中頃。築25年を超えていたが、管理状態は良好で居住環境にも不満はなく、建て替え機運は高まらないまま時は流れた。 転機は2011年3月に発生した東日本大震災だ。建物の損傷は軽微だったが、老朽化や耐震性不足への懸念が頭をもたげた。 耐震補強、免震改修、建て替えなどの方策を議論し、建て替えが最も合理的と結論。アンケートでは約7割のオーナーが建て替えに賛成したため、2014年11月、本丸である建て替え決議の前段階にあたる推進決議を管理組合総会に諮った。 だが、賛成率が規定に届かず、否決に。反対票は多くなかったが、建て替えに関心を持たず、賛否を表明しなかったオーナーがいたためだ。「理事会とオーナーとの間でコミュニケーションが不足していた」(林さん)。建て替え説明会は総会直前に開催したきりで、無関心層への接触が不足していた。 まとまりかけた意見を無駄にしたくない、と当時理事だった林さんは理事長に名乗りを上げた。就任後に意識したのは人任せにしないこと。イトーピアは賃貸住戸が大半で、オーナーの8割以上は外部に居住していた。これまでの理事会では、遠方のオーナーとの連絡はコンサルタントに任せがちで、主体的に動く雰囲気ではなかったという。 そこで説明会のほかに、遠隔地のオーナーとはチャットで連絡を取り、時には海外の所有者に英語や中国語で建て替えの意義を説いた。行政との意見交換やセミナーにも頻繁に出向いた結果、建て替えに協力するデベロッパーのコンペを自ら開催できるほど、知識をつけた。 2015年秋からのコンペにはデベロッパー6社が名乗りを上げ、各社の提案を比較検討した結果、オーナーにとって最も条件のよい、東京建物を主体とするグループを選定した』、当初は、「賛成率が規定に届かず、否決に。反対票は多くなかったが、建て替えに関心を持たず、賛否を表明しなかったオーナーがいたためだ・・・建て替え説明会は総会直前に開催したきりで、無関心層への接触が不足していた」、「イトーピアは賃貸住戸が大半で、オーナーの8割以上は外部に居住」、「これまでの理事会では、遠方のオーナーとの連絡はコンサルタントに任せがちで、主体的に動く雰囲気ではなかったという」、やはり「オーナー」への丁寧な説明が必要だ。
・『好況で一転、転出しないオーナー  建て替えが既定路線になりかけた直後、ある問題が浮上した。当初計画では、オーナーの20%は建て替え後のタワーマンションを保有せず転出する、というのが前提だった。ところが、マンション市況の好転などを受けて、保有を希望するオーナーが増加。2016年秋に行った意向調査では、転出を希望するオーナーは5%にも満たなかった。 困惑したのは東京建物だ。建て替えで増えた住戸を分譲することで収益を得る同社にとって、転出するオーナーの減少は販売住戸の減少を意味し、事業採算性が狂う。そのため、オーナー側に負担を求めた。 むろん、オーナーも易々とは譲れない。イトーピアは建て替えに際して容積率の割り増しを受けるが、その条件として各住戸の面積を25平方メートル以上にする必要があった。イトーピアには20平方メートルのワンルーム住戸が複数存在し、そのオーナーは当初から5平方メートル分の増床費用が持ち出しとなる。さらなる負担増はハードルが高い。 落としどころを探る中で合い言葉となったのは、「満足の最大化より不満の最小化」(林さん)だ。 ワンルーム住戸のオーナーには、年金暮らしの高齢者もいるため、これ以上の負担増は避けたかった。結局、当初は一般分譲価格より有利な価格で増床できる権利を全オーナーに与える予定だったが、ワンルームのオーナーのみに限定。増床できないオーナーからは不満も漏れたが、5平方メートルの増床費用に耐えられず、転出を余儀なくされるオーナーを出さないことを優先した。 想定外の事態はその後も続いた。建て替えが正式に事業化する直前の2017年10月、大規模マンションへ保育所の設置を求める通達が国から発せられた。待機児童解消を掲げる港区からも保育所の設置を要請され、当初の計画になかった保育所の設置スペース確保が急務となった。保育所を設置すれば、やはり東京建物の販売住戸が減る。 さらには法改正によって、外壁材に含まれるアスベストの除去が義務化された。イトーピアの場合、解体工事とは別途、アスベスト除去工事を行うと、工事費は見積もり時点より1億円以上も膨らんでしまう』、好条件のように見えても、様々な問題が出てくるものだ。
・『配置を効率化、何とか販売住戸増やす  膝詰めの協議を重ねた結果、ワンルーム住戸を複数保有するオーナーは、建て替え後のタワーマンションでは面積の大きいファミリー住戸1つだけを保有することで手を打った。住戸配置の効率性が高まり、東京建物の販売住戸が増えたことで、コスト増を吸収できた。こうして2018年10月、満を持して建て替え決議を上程。賛成率約85%で可決された。 都心かつ容積率の割り増しを受けられるなど、条件に恵まれていたイトーピアでさえ、オーナーの負担をめぐって幾度もアクシデントに見舞われた。それでも、オーナー間の合意形成やデベロッパーとの交渉も理事会が主体的に行ったことが奏功したと、林さんは振り返る。 建て替え後、名称は「ブリリアタワー浜離宮」へと変わり、2023年9月に竣工となる予定だ』、「オーナー間の合意形成やデベロッパーとの交渉も理事会が主体的に行ったことが奏功」、やはり他人任せにせず、主体的に取り組む必要がありそうだ。

第三に、11月8日付け東洋経済オンライン「実は続出「マンション管理会社が突然撤退」の怖さ 管理組合と「立場逆転」、大きな転換期に」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/466647
・『「明日から清掃やゴミ出しの管理はどうすればいいのか」 東京都渋谷区のマンションで理事長を務める男性は途方に暮れた。独立系の管理会社が、9月末をもって突然撤退したためだ。 管理会社は契約上、撤退の3カ月前までに管理組合に通告する必要がある。理事長の元に管理会社の担当者からメールが送られてきたのは、きっかり3カ月前にあたる6月末だった。 この管理会社には20年前から管理を委託していたが、委託費は当時の安い料金で据え置かれたまま。「早く手を引きたかったのだろう」と男性。急いで後継の管理会社を探し、10月下旬に地場企業への委託が決まった』、「管理会社」は儲かるビジネスと思っていたが、必ずしもそうでもないようだ。
・『管理会社からの「三行半」が続出  今やマンション管理組合と管理会社の立場は逆転した。 これまでは管理組合が管理会社を選ぶ側にあった。「お前たちの代わりなんて、いくらでもいる」。管理会社に捨てぜりふを吐いて、リプレース(管理会社の変更)を実施した管理組合もかつてはあった。 だが現在は、管理会社が管理組合に「三行半(みくだりはん)」をつきつけるケースが続出している。 三行半の背景には、管理会社側の厳しい経営状況がある。これまでは委託費を安く提案し、管理戸数の獲得に邁進してきた。管理を担えば修繕工事など派生する仕事の受注も見込めるためだ。 ただ、ここ数年、人件費や資材費の上昇で管理会社の安値攻勢は限界を迎えた。大手管理会社の幹部は「社員の人手が不足しているため、管理戸数を伸ばすよりも、採算の取れる物件を厳選して受託している」と話す。 変調はほかにもある。マンションに襲いかかる「2つの老い」だ。 まず、マンションの老朽化が進行し、1回目の大規模修繕工事のメドとされてきた築12年を経過したマンションが全体の8割に達している。同時に、管理組合の理事の引き受け手も高齢化しており、「理事長の後継者がいない」と悩む管理組合が増えた。 さらに、新型コロナウイルスの影響で、新たなトラブルが多発している。 「風鈴がうるさくて仕事に集中できない」「掃除機の音がうるさい」「ドライヤーの音が気になる」 騒音は昔からの典型的なトラブルだが、住民の自宅滞在時間が増えたことで神経質な反応がみられるようになった。 タバコの煙を巡るトラブルや、共用部分の置き配問題などが深刻化しているマンションも少なくない』、「人件費や資材費の上昇で管理会社の安値攻勢は限界を迎えた。大手管理会社の幹部は「社員の人手が不足しているため、管理戸数を伸ばすよりも、採算の取れる物件を厳選して受託」、「マンションの老朽化が進行し、1回目の大規模修繕工事のメドとされてきた築12年を経過したマンションが全体の8割に」、「老朽化が」ここまで「進行」しているとは驚きだ。
・『上がり続ける管理費や修繕積立金  管理費や修繕積立金も上がり続けている。賃金の上昇や資材価格の高騰が背景にある。東京カンテイの調査によると、2020年の首都圏マンションの管理費、修繕積立金はともに、6年前に比べて約20%も上昇している。 急激な環境の変化に、国や業界団体も対策を打ち出す。国土交通省は今年6月に「マンション標準規約」を改正し、WEB総会や置き配の留意事項を明確にした。 国交省は来年4月にも「管理計画認定制度」を実施し、長期修繕計画の作成など管理組合の運営状況について適否を判断する。マンション管理業協会も来年4月に、管理組合の運営状況を点数化する新制度を実施する。 こういった新制度への準備を急ぐ管理組合は多いが、新制度の乱立に戸惑いを見せる関係者もいる。 マンション管理のあり方が大きく変わろうとしている。この「転換期」にどう対応するべきか。マンション住民や管理組合、そして管理会社など関係者は柔軟な姿勢で対応することが求められる』、「マンション管理のあり方」では、これまでは不適切なケースが問題化したが、今後は適正・健全な方向に変わるとすれば望ましい。
タグ:不動産 (その8)(JTB エイベックスの本社ビルを相次いで取得 海外ファンドが日本の不動産に「強気」になる理由、築40年超「老朽マンション」丸ごと建て替えの顛末 イトーピアがブリリアタワーに生まれ変わる日、実は続出「マンション管理会社が突然撤退」の怖さ 管理組合と「立場逆転」 大きな転換期に) 東洋経済Plus 「JTB、エイベックスの本社ビルを相次いで取得 海外ファンドが日本の不動産に「強気」になる理由」 どういうことなのだろう。 「海外機関投資家による日本への不動産投資額は2020年に1兆5548億円を記録し、前年から1.5倍以上増加した。国内の不動産投資額の34%を海外勢が占めた計算に」、かなり重要なプレイヤーになったようだ。 「日本の」「金融機関」からは「おおむね0.5~1%弱の水準で」「調達できている」。「シンガポールの金融機関から調達した場合、金利は1.5%前後。香港は1.7%、ソウルなら3%」、確かに日本の金融機関の貸出金利は目立って低いようだ。「グリーンオークは」、「エイベックスの退去後、すでに後継テナントがビルを1棟借りする方向で交渉が進んでいるという。成約した場合の賃料は坪単価で4万円超と、南青山のオフィスビルとしては高水準となる可能性がある。1棟借りの場合は実質的に延べ床面積すべてを賃貸することになるため、賃貸可 「後継テナントが見つからなかった場合に備えて別の手も打っていた・・・「入札時からゼネコンと組み、ビルを建て替える計画を描いていた」、代替策を周到に用意する外資系の積極的な姿勢は、日系も学ぶべきだ。 東洋経済オンライン 「築40年超「老朽マンション」丸ごと建て替えの顛末 イトーピアがブリリアタワーに生まれ変わる日」 「好条件が揃っており、すぐにでも建て替えへと移行できたように思える。が、建て替えが正式に決議されるまでの道のりは決して平坦ではなかった」、どういうことだろう。 当初は、「賛成率が規定に届かず、否決に。反対票は多くなかったが、建て替えに関心を持たず、賛否を表明しなかったオーナーがいたためだ・・・建て替え説明会は総会直前に開催したきりで、無関心層への接触が不足していた」、「イトーピアは賃貸住戸が大半で、オーナーの8割以上は外部に居住」、「これまでの理事会では、遠方のオーナーとの連絡はコンサルタントに任せがちで、主体的に動く雰囲気ではなかったという」、やはり「オーナー」への丁寧な説明が必要だ。 好条件のように見えても、様々な問題が出てくるものだ。 「オーナー間の合意形成やデベロッパーとの交渉も理事会が主体的に行ったことが奏功」、やはり他人任せにせず、主体的に取り組む必要がありそうだ。 「実は続出「マンション管理会社が突然撤退」の怖さ 管理組合と「立場逆転」、大きな転換期に」 「管理会社」は儲かるビジネスと思っていたが、必ずしもそうでもないようだ。 「人件費や資材費の上昇で管理会社の安値攻勢は限界を迎えた。大手管理会社の幹部は「社員の人手が不足しているため、管理戸数を伸ばすよりも、採算の取れる物件を厳選して受託」、「マンションの老朽化が進行し、1回目の大規模修繕工事のメドとされてきた築12年を経過したマンションが全体の8割に」、「老朽化が」ここまで「進行」しているとは驚きだ。 「マンション管理のあり方」では、これまでは不適切なケースが問題化したが、今後は適正・健全な方向に変わるとすれば望ましい。
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ホテル(その4)(価格崩壊に債務超過も、「ホテル生存競争」の過酷 続く外出自粛で見えぬ回復の兆し、極まる困窮、資金調達に315人リストラも 藤田観光の奔走劇 名門ホテルが経営危機に直面「切迫財務」の全内幕、GoToトラベルは劇薬 慣れてしまうと本末転倒 「椿山荘は売らない」藤田観光社長が覚悟する茨道) [産業動向]

ホテルについては、8月29日に取上げた。今日は、(その4)(価格崩壊に債務超過も、「ホテル生存競争」の過酷 続く外出自粛で見えぬ回復の兆し、極まる困窮、資金調達に315人リストラも 藤田観光の奔走劇 名門ホテルが経営危機に直面「切迫財務」の全内幕、GoToトラベルは劇薬 慣れてしまうと本末転倒 「椿山荘は売らない」藤田観光社長が覚悟する茨道)である。

先ずは、9月18日付け東洋経済オンライン「価格崩壊に債務超過も、「ホテル生存競争」の過酷 続く外出自粛で見えぬ回復の兆し、極まる困窮」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/455070
・『「自助努力ではどうしようもない。政府が国民に外出するなと言う以上、マーケティングも無意味」「緊急事態宣言が出ている間はもうだめだ、首都圏はどうにもならない――」 自粛要請で集客すらできない状況が続き、ホテル会社幹部は怒りと諦めの声を漏らす』、興味深そうだ。 
・『あの帝国ホテルも赤字  ハイシーズンを潰され続けた業界に回復の兆しは見えず、ついに困窮極まりつつある。東京、大阪を中心とする都市部の不振は深刻だ。シティホテル全体の稼働率(観光庁調べ)は4月が29%、5月は23%、6月も28%にとどまった。感染者数が激増したことで出張は自粛。音楽ライブなどのイベントも中止され、観光需要も消失した。 御三家の一角・帝国ホテルの2021年4〜6月期決算は、約30億円の営業赤字。客室稼働率は2割を下回った。婚礼は件数こそ増加したが、列席者を親族に限定するなど少人数化が著しい。法人宴会も停滞したままだ。 「リーガロイヤルホテル大阪」を運営するロイヤルホテルも、25億円の営業赤字に終わった。大阪の稼働率は約25%と低い。) ビジネスホテルも全体の稼働率は40%付近の推移だ。同業態は「競争が厳しく稼働率が80%を超えないと値上げできない」(業界幹部)と言われており、到底黒字化できるレベルではない。 黒字を確保する郊外型ホテルもあるが、本来の価格水準には戻せていない。当面は地域や近隣ホテルの価格をにらむ、1円単位の消耗戦が続く見通しだ。 東京、大阪にまして厳しいのは京都だ。国内観光客の戻りは極めて鈍く、6月の宿泊施設の稼働率は17.3%。全国最下位の奈良と同レベルだった。 予約サイトをのぞくと、価格崩壊の実情は衝撃的。大手ビジネスホテルでもツインルーム宿泊で1泊3000円台(2人利用)。中には7連泊以上で1人1泊1400円(同)のプランもある。秋の行楽シーズンでも、需要が復活するとは見ていないのだ』、「大手ビジネスホテル」の「予約サイト」での「価格崩壊」は確かに「衝撃的」だ。
・『横浜のシンボルが債務超過に  首都圏では横浜も価格下落が目立つ。高級ホテルであっても1人1泊1万円を下回り、5000円台のプランすら散見される。 直近までみなとみらい地区は開業ラッシュだった。2019年に2300室超を誇るアパホテルやインターコンチネンタル横浜Pier8が出店。2020年にはオークウッドスイーツ横浜、さらにカハラ・ホテル&リゾート 横浜も出店している。 訪日客やMICE(大規模国際会議や見本市などを開く施設)、都市開発による需要をつかむ目論見はコロナによって砕かれた。「外資を含め供給がかなり増えたが、横浜は日帰り客も多く、過剰になっている」(横浜のホテル幹部)。 そんな中、1991年に開業し地域のランドマークでもある「ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル」(運営会社・横浜グランドインターコンチネンタルホテル)は大幅な需要減が影響し、2020年12月末、債務超過に転落している。 昨年来、銀行借り入れや融資枠(コミットメントライン)を設定し、資金確保に動いた企業は多かったが、資本増強策に乗り出すケースも相次いでいる。 一時債務超過寸前となり、3月に宴会場の太閤園を創価学会に売却した藤田観光。同社は9月、日本政策投資銀行の飲食・宿泊業向け支援ファンドから150億円を調達する。京都ホテルも9月に同ファンドから10億円、6月末で債務超過となったホテル運営会社のグリーンズも10月に60億円を調達する。 ただ、懸念されるのは、これからは大幅なコスト削減が見込めない点だ。家賃減額や清掃など業務委託費の見直し、社員出向、雇用調整金の活用など、多くの企業がすでに手を尽くしている。 変異株の脅威も続く。デルタ株が蔓延しミュー株も確認されるなど、水際対策には期待できない。感染者数が増える冬を前に、宿泊業もより厳重な対策や制限を課される可能性がある。 つまり、ワクチン接種が進んでも業況は好転せず、負のスパイラルに陥るリスクがある』、「横浜のシンボルが債務超過に」、というのも当然だろう。ただ、ここにきて、コロナ新規感染者数が激減したのは朗報だ。
・『状況次第で倒産急増も  「金融庁などが資金繰りを支援するように指針を出しても、銀行は不良債権を抱えるわけにはいかない」。銀行出身のホテル幹部が語るように、今後は人員削減や店舗閉鎖など、踏み込んだリストラ・構造改革を実行できなければ、借り入れや資本増強策の難易度は増していく。 足元では銀行の返済猶予等で倒産件数が急増しているわけではないが、今後は注意が必要だ。 帝国データバンク情報部の田中祐実氏はこう語る。「コロナ緊急融資を受けた企業は借り入れが増え、追加の融資を断られるケースも散見される。追加の資金が出ない状況が続けば倒産件数が高水準で推移する可能性もある」。その一方で、余力があるうちに廃業や事業売却を選択するケースも増えているという。 緊急事態宣言のたびに回復シナリオは遅れ、宿泊需要の停滞は長期化している。有効な策を見いだせない中、ホテル業界は一段と過酷な生存競争に突入している』、ホテル業界は航空会社や鉄道会社と並んで、コロナ禍の影響直撃で、忍耐の時期がもうしばらく続きそうだ。

次に、9月29日付け東洋経済Plus「資金調達に315人リストラも、藤田観光の奔走劇 名門ホテルが経営危機に直面「切迫財務」の全内幕」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/28605#contd
・『前代未聞の観光不況を招いたコロナ禍。有力ホテルチェーンの藤田観光が直面した経営危機の舞台裏に迫った。 「先祖から受け継いだ椿山荘、太閤園、箱根はわれわれのアイデンティティー。ギリギリまで売却は考えたくなかった――」 「ホテル椿山荘東京」などを運営する藤田観光の野﨑浩之取締役(財務担当)は、2021年3月に宴会場「太閤園」を創価学会へ譲渡した取引について、こう振り返る。 前代未聞の観光不況を招いたコロナ禍。客足が一気に引いたホテル各社が直面したのが、資金繰りの懸念だ。業績悪化で毀損した財務への対応や早期退職などのリストラ、資産売却も珍しくはなかった。 国内有数のホテルチェーンである藤田観光も、こうした企業の1つ。文字どおり企業の存続を賭けた危機対応と財務戦略に奔走し、賃金カットや従業員315人の早期退職、資産売却も実行するほどだった。 舞台裏ではどのような正念場があったのか。見えてきたのは、スピード感が求められる緊急対応の現場だった』、興味深そうだ。
・『「訪日客が来ない」どころではない  2020年1月のことだ。伊勢宜弘社長は振り返る。「海外でコロナ感染が広がっていると聞いたが、パンデミックになるとは思ってもいなかった。SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)のように一過性で終わるものだと考えていた」。 藤田観光の収益柱は「ワシントンホテル」などのビジネスホテル。「春節の時期に中国人観光客が来訪できなければ打撃を受ける」。1~2月はそうした認識にとどまっていた。だが、事態は次第に深刻さを増す。2020年3月下旬の株主総会を迎える頃には「訪日客が来ない」どころの問題でないことが明確になりつつあった。 運営方式にもよるが、ホテル経営は一定程度の客数と単価の掛け算で成り立っている。とくにビジネスホテルは高い客室稼働率を前提としたモデルだ。価格は安くても多くの客を集め、低コストで運営することで利益を生み出す。客足が減れば採算は急悪化し、赤字に転落する。 まず懸念したのは資金繰りだ。「資金がショートすれば会社は潰れる。どこまで持つのか、最悪のケースを想定してシミュレーションを行った」(野﨑取締役)。メドとしたのは、月末に30億~40億円の現金があれば、不測の事態にも対応できるということ。2020年12月の決算期末にこのレベルの現金を残すことが目標となった。 「ご快諾いただいたところからお借りします」――。経営陣はとにかくスピード感を重視して要請に回った。この当時、各銀行は比較的柔軟な姿勢だったようだ。無担保を絶対条件としたにもかかわらず、2020年4月に計12行、約200億円の融資を引き出すことに成功する。 【2021年10月29日11時37分追記】初出時に記載した融資した金融機関数を上記のように修正いたします』、「SARS・・・、MERS・・・のように一過性で終わるもの」、ではなかっただけに影響は深刻だ。
・『資本増強かなわずリストラ着手  当面の資金を確保したが、一息つく暇すらなかった。2020年4月、初の緊急事態宣言発令によって臨時休業を余儀なくされ、業績がさらに悪化することがわかっていたからだ。緊急対策として交通費や残業などの抑制、賃料の減額交渉、委託業務の内製化などコスト削減策を打ち出すとともに、伊勢社長や野﨑取締役をはじめ、水面下でごく少数の幹部が資本増強策の検討に入っていった。 2020年1~3月期は60億円の最終赤字を計上し、自己資本は161億円となった。このペースで赤字が積み重なれば、期末にも債務超過に転落する恐れがある。債務超過は、全資産を売却しても負債が残る財務状態を指す。銀行からの借り入れはほぼ不可能になり、株価下落などで株主への影響もある。 また、椿山荘の宴会場では結婚式を手がけている。顧客にとっては300万~400万円など、高額を支払う大イベントだけに、不安が広がる事態だけは避けなければならなかった。 資本増強の手段としては公募増資もあるが、株式の希薄化を避け、確実に調達するため、優先株発行による調達を最優先とした。優先株は議決権がないが、普通株式よりも配当が優先される。親密な取引先を中心に直接出向き、「ほうぼうを回ってお願いした」(伊勢社長)という。 しかし、支援要請する間も、必要とされる資金の額は膨れ上がっていく。2020年は夏場以降、Go Toトラベル効果で箱根の高級旅館などが急回復したが、料金が安く都市部を中心に立地するビジネスホテルへの恩恵は微々たるものだった。雇用の維持も難しくなり、12月には早期退職の募集発表に踏み切っている。 結局、2020年度は4~6月期に73億円、7~9月期に37億円、10~12月期に52億円と大幅な最終赤字を計上。営業キャッシュフローは通期で170億円のマイナスとなった。期末の現金および現金同等物こそ37億円と計画どおりだったが、自己資本はわずか13億円まで毀損した。 財務の健全性を取り戻すためには百億円単位の資金調達が必要だが、取引先との交渉はまとまらない。最終的には投資ファンドとも接触したものの、条件が折り合わず断念することになる』、「支援要請する間も、必要とされる資金の額は膨れ上がっていく」、「自己資本はわずか13億円まで毀損した」、優良資産が救いの神だ。
・『泊まり込みで太閤園の従業員に説明  もはや2021年3月末の債務超過転落は避けられない。残された選択肢は資産売却しかなかった。 資産の中でも早期の売却が可能だったのが、大阪の宴会場「太閤園」だった。太閤園は藤田観光のルーツである藤田財閥の創始者・藤田伝三郎氏の邸宅が基になっている。開業は1959年、レストラン4店舗と宴会場が12室あり、結婚式などを手がけてきた。都市部の中で緑に囲まれ、大阪城もすぐそばの一等地だ(帳簿価格約60億円)。銀行を介して購入に名乗りを上げたのは、宗教法人「創価学会」だった。 苦渋の決断だが、ほかに手はなかった。2月12日、取締役会での決議を終えると伊勢社長はその足で大阪に飛び、泊まり込みで従業員に説明を行っている。「従業員には本当に申し訳なかった。大切な売却益を箱根や椿山荘の再開発など、藤田観光の永遠のものに投資をしていくと約束した」(伊勢社長)。 3月には譲渡が行われ、藤田観光は332億円の売却益を計上。自己資本も246億円(3月末)へと大幅な回復を遂げた。 コロナ前、太閤園は営業利益で年間3~4億円程度の貢献だった。百年分以上の利益を一度に計上した取引は、経営効率から見れば悪いものではないだろう。野﨑取締役は厳しい表情で振り返る。「本家本元の一つを守り切れなかったことは、大変申し訳なかったと思っている。よい取引だったと思いたい」。 売却の選択肢に椿山荘がなかったわけではないが、可能性は低かった。事業継続のためにリースバックするとしても、それに見合った賃料は払えない。また、一帯は自治体が指定する「風致地区」で環境保全が必要とされる。仮にデベロッパーなどが購入し、マンション開発を進めることなども難しい条件だった』、「太閤園」の「譲渡」で「332億円の売却益を計上。自己資本も246億円(3月末)へと大幅な回復」、「百年分以上の利益を一度に計上した取引は、経営効率から見れば悪いものではないだろう」、その通りだ。
・『再成長の実現へ政投銀の助け船  大幅な財務の回復を果たしても、残る懸念事項があった。コロナで滞っていた箱根リゾートの再開発だ。すでに多くの銀行から借り入れを実施しており、これ以上の新規借り入れは厳しい。自己資本を一段と厚くしない限り、プロジェクトの再始動は困難な状況だった。 そこで浮上してきたのが「日本政策投資銀行が飲食や宿泊業界を支援するファンドを組成する」との報道だ。官民とも大企業向けの支援策が乏しい中、まさに渡りに船だった。まずは事実確認から始め、即座に要請に至ったという。条件は優先株発行による調達で、普通株式より上乗せとなる優先配当率は4%。「優先株は一般的には8~9%。4%はありがたいスキームだと思った」(野﨑取締役)。 運転資金、不採算店等の撤退、箱根での設備投資。この3項目を目的として7月に支援ファンドの出資が決定。藤田観光はこれと同時に、2018年に営業を終了した「箱根ホテル小涌園」の跡地に建てる、同名の新ホテルの着工を宣言した。9月28日には資金が振り込まれ、長きにわたる財務の危機対応に、ようやく1つの区切りがついた。 緊急事態宣言が解除され、コロナ感染者数も減少し、足元で箱根リゾートや椿山荘の宿泊予約は増加。結婚式の件数も着実に回復している。それでも、伊勢社長は「第6波、第7波がある前提で事業を進めていく」と、警戒を緩める様子はない。現在は全事業でビジネスモデルの抜本的な見直しを進めているが、再成長のメドがつくまでは、財務も気の抜けない危機対応が続く』、前向きな「箱根リゾートの再開発」に「日本政策投資銀行」の「ファンド」の「支援」で取り組むとは、大したものだ。

第三に、9月29日付け東洋経済Plus「GoToトラベルは劇薬、慣れてしまうと本末転倒 「椿山荘は売らない」藤田観光社長が覚悟する茨道」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/28630
・『前代未聞の観光不況を招いたコロナ禍。有力ホテルチェーンの藤田観光が直面した経営危機の舞台裏に迫った。 「ホテル椿山荘東京」などを運営する藤田観光は、コロナ禍で主力のビジネスホテルをはじめ、全事業が急激に落ち込んだ。債務超過寸前となり、早期退職や大阪の宴会場「太閤園」の売却など、身を削る対策を重ねてきた。 だが、資金確保を進め、箱根リゾートの開発プロジェクトも再始動するなど、反転攻勢に出つつある。伊勢宜弘社長はコロナ禍をどう切り抜け、成長路線に回帰しようと考えているのか(Qは聞き手の質問、Aは伊勢氏の回答)』、興味深そうだ。
・『直面した債務超過転落の危機  Q:早期から資金調達など財務の対策を余儀なくされました。 A:2020年4月に12の銀行から約200億円を借り入れ、資金繰りには何とか手を打った。だが、12月末にも債務超過に転落する可能性があった。上場会社だと、一度でも債務超過になると投資家、利用者の方に不安を与えてしまう。それは絶対回避しようとやってきた。 【2021年10月29日11時38分追記】初出時に記載した銀行の行数を上記のように修正いたします。 Go Toトラベル効果もあって12月末は免れたが、2021年1~3月は結婚式、宿泊とも客が少ない時期で、海外客も来られない。3月末には債務超過に転落する可能性が再び出てきた。そこで、いろいろな得意先や取引先に増資の件をお願いして回った。 だが、金額的に間に合わなかったため、やむなく大阪の宴会場である太閤園を売却することになった。その後も、資本を充実させなければ次に何かを進めることも難しくなるので、日本政策投資銀行の飲食・宿泊業支援ファンドに優先株を発行し、150億円を調達した。第一に考えたのは既存株主の権利で、希薄化させないこと。投資ファンドによる出資は後で希薄化が生じる。それはなんとか回避したいと思っていた。 Q:太閤園は332億円の売却益となり、財務の改善に大幅に貢献しました。取引としてはどう評価していますか。また、椿山荘を売却する可能性はあったのでしょうか。 A:従業員には大変申し訳なかったが、よい選択だったと思っている。やはり現在の運営の利益と売却益は格段に違う。撤退が決まり、従業員には「大切な売却益を原資として、箱根や椿山荘の再開発など藤田観光の永遠のものに投資をしていく」と約束をした。 全国的に知名度のある椿山荘だと、受け取られ方も異なる。(仮に売却していたら)加速度的に「藤田観光は大丈夫なのか」と憶測を呼ぶことになったと思う。山県有朋公が創設した歴史があり、会社としても意味合いが違う。売却してリースバックする手もあるが、手放してしまったらそこで終わり。よほど会社がおかしくならない限り、椿山荘は死守してやっていきたい。(伊勢氏の略歴はリンク先参照)』、「全国的に知名度のある椿山荘だと、受け取られ方も異なる。(仮に売却していたら)加速度的に「藤田観光は大丈夫なのか」と憶測を呼ぶことになったと思う」、その通りで、「太閤園」売却で済んでよかったようだ。
・『GoToは劇薬でもある  Q:とくに「ワシントンホテル」など、主力のビジネスホテルが大きな打撃を受けました。 A:コロナ前まではインバウンドの恩恵を受け、客室稼働率も90%など満室が当たり前という状況だったが、それがほぼゼロもしくは臨時休業となった。宿泊客の半分は海外客だが、それがピタリと止まってしまった。ここ数年はビジネスホテル事業に注力してきたので、大きな打撃になったのは致し方なかったと思っている。 事業を今一度固めることが必要だ。予約機能の本部への集約や自動チェックイン機の導入など、運営体系を見直し、筋肉質な体質を目指している。お客様が戻って最も利益を出せるのがビジネスホテルだ。事業ごと売却する手もあるが、そこまではしない。1年以内に戻ってくると思われるインバウンドを含めたお客様のため、なんとかしのいでいく。 Q:Go Toトラベルでは全室に露天風呂を備えた高級旅館「箱根小涌園 天悠」が過去最高の稼働率になるなど、密を避けるニーズをとらえた面もありました。 A:2020年10月、11月の稼働率は平日を含め、ほぼ100%だった。年明け以降は緊急事態宣言の発令やまん延防止等重点措置の影響で大幅に下がったが、週末については比較的高稼働で推移している。 これは「海外需要の国内消費」ということだと思っている。海外に行くべきシーズンでも行けない。その分国内で消費しようと高単価の宿泊施設の稼働が上がっている。「海外への交通費がかからないなら、箱根でいいところに泊まろう」という方が多い。 天悠も6室ある特別客室(2名で1泊十数万円)の予約は好調だ。すべて部屋食で、露天風呂もより大きなものが付いている。なるべく単価を下げず、高い価格でも満足して滞在いただけるお客様に来ていただこうと考えている。 Q:再開の検討が進むGo Toトラベルについてはどう考えていますか。 A:平日と週末で補助率の格差を付けることなどが重要になる。前回は価格帯が高い施設に恩恵が偏ったので、平準化されればと。インバウンドが戻るまで宿泊業界は厳しいので、期間も延ばしてやってもらいたい。ワクチン接種や陰性証明についても、接種できない方が不公平になりすぎないようにできればいいと思っている。 地域共通クーポンも重要だ。土産店など外部の方からは「国から補助があるホテルやレストランはいいですよね」という話を聞いた。たくさんのお客様に来ていただき、地域の土産店などでクーポンを使っていただくことも必要だ。 また、Go Toは劇薬でもある。「ないと商売にならなくなる」状態は本末転倒だ。どの会社も厳しいが、徐々に補助率を下げるなどして正常な形に戻していかないと、やめたときに大きな影響が出てしまうだろう』、「Go Toトラベルでは全室に露天風呂を備えた高級旅館「箱根小涌園 天悠」が過去最高の稼働率になるなど、密を避けるニーズをとらえた面もありました。 2020年10月、11月の稼働率は平日を含め、ほぼ100%だった」、かなり効いたようだ。
・『椿山荘を高単価へ立て直し  Q:椿山荘はコロナ前から結婚式のテコ入れを進めています。時期は未定ですが、将来、宴会場のあるバンケット棟などの建て替えも見据えています。どう変わるのでしょうか。 A:バブル時は年間3000組超の結婚式を手がけていた。今は約2000組で、それでも利益を出せる売り方が必要だ。金太郎飴のように組数を入れるだけではなく、お二人の希望に合わせた料理など、いろいろなことを試しながら単価の高い式を受注していこうと思っている。 そうは言っても、マーケットが縮小していくのは確かだ。さらに、コロナの影響で宴会、展示会も含めた会議などができなくなっている。そこで、新たにサービス付き高齢者住宅などを建て替え後に作る。富裕層をターゲットに「ご自分の庭が椿山荘です」という形だ。 テナントに誘致した再生医療クリニックや周辺の医療施設とも連携し、医療も住まいも食事もなんでもできるようにしたい。料理とサービスは得意なのでぜひやっていきたい。どうすれば事業の採算が合うかということは今調べている。貴重なわれわれの所有地なので、売却ではなく「生涯の利用権」などの制度になると思う。 ホテル椿山荘東京はラグジュアリーホテルのカテゴリーに入る。高い料金に納得して利用していただくお客様を迎えていきたい。国内客、海外客の割合の目安はないが、コロナ後は手薄だった欧米客を増やしていく。そのために、強みである庭園で椿を植樹し、東京雲海など、海外にもアピールできる材料を整えてきた。 Q:箱根は2023年の開業に向けて、「箱根ホテル小涌園」が着工しました。どんなリゾートを目指しますか? A:新ホテルは温泉テーマパーク「小涌園ユネッサン」を利用する層に泊まっていただきたい。1人1泊1万5000円から2万円程度で、若年層のファミリーも含め、3世代で楽しめるホテルにする。食事もビュッフェ形式で、家族でわいわい食べる形がニーズに合っている。 箱根という国内でも屈指のリゾート地で温泉に入り、プールでも広い庭でも遊んでいただき、1万5000円で泊まって「また来たい」と思ってもらえればいいのかなと。 自由な往来が可能になり宿泊需要が戻れば、最初に稼働が回復してくるのはリゾートだ。実際、直近の予約は伸びているし、11月の予約も回復している。紅葉などがテレビで取り上げられれば、お客様もどんどん来ていただけると思っている』、「サービス付き高齢者住宅などを建て替え後に作る。富裕層をターゲットに「ご自分の庭が椿山荘です」という形だ」、一般客と分けないと、「椿山荘」のイメージダウンになりかねない。リゾートをかかえたホテルは、どんなに厳しくても、夢があるのが救いのようだ。
タグ:ホテル (その4)(価格崩壊に債務超過も、「ホテル生存競争」の過酷 続く外出自粛で見えぬ回復の兆し、極まる困窮、資金調達に315人リストラも 藤田観光の奔走劇 名門ホテルが経営危機に直面「切迫財務」の全内幕、GoToトラベルは劇薬 慣れてしまうと本末転倒 「椿山荘は売らない」藤田観光社長が覚悟する茨道) 東洋経済オンライン 「価格崩壊に債務超過も、「ホテル生存競争」の過酷 続く外出自粛で見えぬ回復の兆し、極まる困窮」 「大手ビジネスホテル」の「予約サイト」での「価格崩壊」は確かに「衝撃的」だ。 「横浜のシンボルが債務超過に」、というのも当然だろう。ただ、ここにきて、コロナ新規感染者数が激減したのは朗報だ。 ホテル業界は航空会社や鉄道会社と並んで、コロナ禍の影響直撃で、忍耐の時期がもうしばらく続きそうだ。 東洋経済Plus 「資金調達に315人リストラも、藤田観光の奔走劇 名門ホテルが経営危機に直面「切迫財務」の全内幕」 「SARS・・・、MERS・・・のように一過性で終わるもの」、ではなかっただけに影響は深刻だ。 「支援要請する間も、必要とされる資金の額は膨れ上がっていく」、「自己資本はわずか13億円まで毀損した」、優良資産が救いの神だ。 「太閤園」の「譲渡」で「332億円の売却益を計上。自己資本も246億円(3月末)へと大幅な回復」、「百年分以上の利益を一度に計上した取引は、経営効率から見れば悪いものではないだろう」、その通りだ。 前向きな「箱根リゾートの再開発」に「日本政策投資銀行」の「ファンド」の「支援」で取り組むとは、大したものだ。 「GoToトラベルは劇薬、慣れてしまうと本末転倒 「椿山荘は売らない」藤田観光社長が覚悟する茨道」 「全国的に知名度のある椿山荘だと、受け取られ方も異なる。(仮に売却していたら)加速度的に「藤田観光は大丈夫なのか」と憶測を呼ぶことになったと思う」、その通りで、「太閤園」売却で済んでよかったようだ。 「Go Toトラベルでは全室に露天風呂を備えた高級旅館「箱根小涌園 天悠」が過去最高の稼働率になるなど、密を避けるニーズをとらえた面もありました。 2020年10月、11月の稼働率は平日を含め、ほぼ100%だった」、かなり効いたようだ。 「サービス付き高齢者住宅などを建て替え後に作る。富裕層をターゲットに「ご自分の庭が椿山荘です」という形だ」、一般客と分けないと、「椿山荘」のイメージダウンになりかねない。リゾートをかかえたホテルは、どんなに厳しくても、夢があるのが救いのようだ。
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