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金融業界(その12)(新生銀行VS SBI:「新生銀の株価は安すぎる」業界初の敵対的買収にSBIが絶対の自信を持つワケ 株価が上がれば公的資金も返せる、新生銀行の本当の「敵」は、SBIなのか…?「TOB攻防」から見えてきたもの 「登場人物」たちの立場を整理する、SBI北尾社長「新生銀行は泥棒」発言の真意…決算説明会に込められた「本気のビジョン」) [金融]

金融業界については、10月17日に取上げた。今日は、(その12)(新生銀行VS SBI:「新生銀の株価は安すぎる」業界初の敵対的買収にSBIが絶対の自信を持つワケ 株価が上がれば公的資金も返せる、新生銀行の本当の「敵」は、SBIなのか…?「TOB攻防」から見えてきたもの 「登場人物」たちの立場を整理する、SBI北尾社長「新生銀行は泥棒」発言の真意…決算説明会に込められた「本気のビジョン」)である。

先ずは、11月8日付けPRESIDENT Onlineが掲載した経済ジャーナリストの森岡 英樹氏による「「新生銀の株価は安すぎる」業界初の敵対的買収にSBIが絶対の自信を持つワケ 株価が上がれば公的資金も返せる」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/51588
・『「敵対的だから良い・悪いという類いの判断ではない」  「基本的には、経営統合が敵対的なTOBという形態で行われることは、決して好ましい形ではないのではないかと思っている」 「敵対的だから良い・悪いという類いの判断ではなく、基本的には個々の案件の状況をしっかりと総合的に考えて、対象となっている企業の企業価値の中長期的な向上に資するか否か、利益相反はないかといった点などを総合的に考慮したうえで、個々の金融機関において個別に判断される性格のものだろうと考えている」 前者は、地方銀行協会の柴田久会長(静岡銀行頭取)が9月15日の記者会見で、SBIホールディングスによる新生銀行への敵対的なTOBについて聞かれ、答えたもの。後者は全国銀行協会の髙島誠会長(三井住友銀行頭取)が10月14日の記者会見で、敵対的なTOBについて聞かれ、答えたものだ』、地銀協「会長」発言は、やはり「敵対的買収」に警戒的だ。
・『両者の発言に温度差が生まれた背景(両者の答えの温度差は、柴田氏がSBIによる新生銀行へのTOBという個別案件について聞かれたのに対し、髙島氏は一般的な敵対的なTOBについて聞かれたという違いもあるが、それに加え、柴田氏の母体である静岡銀行が、今回のSBIによる新生銀行へのTOBの引き金となったマネックスグループと資本業務提携していることと関係している。 柴田氏は記者会見で、「静岡銀行とマネックスは親密な関係にあると認識している。新生銀行はホワイトナイトを探すといった報道もあるが、静岡銀行に対してホワイトナイトに関する打診はあったか、また、打診があった場合はどのように対応する予定か」と聞かれ、「静岡銀行の持分法適用会社であるマネックスが、今回、さまざまな報道で名前が挙がっていることは承知しているが、本件はあくまで新生銀行とマネックス、SBIの三者間の話であり、静岡銀行としてこの場でお知らせする決定事項はない」と回答し、SBIによる新生銀行TOBに距離を置く』、「静岡銀行」としては当然の対応だ。それにしても、「新生銀行」が株主のSBIのライバルの「マネックス」と提携するとは、初めからケンカ腰だったのは何か理由でもあったのだろうか。
・『最後には大株主である国との交渉が残る  このSBI(北尾吉孝社長)と新生銀行のTOBをめぐる確執は泥沼化の様相を呈している。SBIは9月10日から12月8日まで新生銀行に対してTOB(株式公開買い付け)を行っており、出資比率を48%まで引き上げたい意向だ。買い付け価格は新生銀株の9月9日終値の1440円を39%上回る1株2000円に設定されている。 これに対して新生銀行は10月21日、条件付きでTOBに反対すると発表した。買い付け株数に上限があることや買い取り価格が十分でないことから「株主共同の利益に資さない」(工藤英之・新生銀行社長)というのが理由だ。SBIが懸念解消に向け条件を変更するなら賛同に回るとしたが、SBIは即刻、条件変更に応じない姿勢を表明。両者の確執は銀行界初の「敵対的TOB」に発展した。 SBIが買い付け株数の上限を撤廃し、50%超の株式を取得するには、改めて銀行法第52条など法令上の許可が必要で、SBIが新生銀行の親会社になるために、銀行持ち株会社の認可を取得しなければならないためだ。その上で最後には大株主で新生銀行株の20%程度を有する国(預金保険機構)との交渉が残る』、「SBIが買い付け株数の上限」をつけたのは、その範囲であれば、規制上、問題がないためのようだ。
・『「地銀の株価は安すぎる。うちと組めばもっと上がる」  今後の焦点は、新生銀行が11月25日に開催する臨時株主総会に移る。新生銀行はTOBに対する買収防衛策を諮はかる予定で、SBI以外の株主に新株予約権(1株当たり普通株式0.8株)を無償で割り当てる。株主総会で過半の株主が買収防衛策の発動に賛成すれば、TOBが成立してもSBIの保有株の価値が大きく低下するため、SBIが実質的に経営を支配するだけの株式比率を維持できなくなる。 SBIはすでに株主総会の票読みを始めており、買収防衛策に過半の賛成が得られず、結果的に48%の株式を握るシナリオに自信を示しているが、総会の帰趨きすうは予断を許さない。 SBIがTOB成立に自信を持つ背景には、新生銀行を含む地銀連携「第4のメガバンク構想」への自負がある。北尾氏は16年頃から「地銀の株価は安すぎる。うちと組めばもっと上がる」と地銀経営者に誘い水をかけてきた。その後、18年に地銀投資を手掛ける私募投信「SBI地域銀行価値創造ファンド」を立ち上げ、第4のメガバンク構想を推し進めている。これまでに第二地銀を中心に8行に資本出資しており、「当面、10行程度まで広げる」(北尾氏)との意向を表明している。新生銀行へのTOBはその中核に位置付けられる』、「地銀」であれば、SBIとの提携でこれまで果たせなかった機能を持つことができ、メリットは確かにあるが、既に証券子会社を持っている「新生銀行」ではメリットがあるかどうかははっきりしない。
・『新聞広告で新生銀行の株主に「エール」  その自信は新生銀行がTOBに対して買収防衛策の導入検討を発表した直後の9月22日、日経新聞に掲載されたSBIの「質的転換で活性化する地域金融機関」と題する全面広告に如実に表れている。 SBIの資産運用ノウハウを活用しながら、コスト削減を行い、21年3月期の純利益が黒字に転換した島根銀行をはじめ、福島、筑邦、清水、東和、仙台、きらやか、筑波の各銀行がSBIとの資本提携を機に収益がV字回復したか、棒グラフで示されている広告で、「新生銀行もSBIが買収すればこれ以上の収益改善が見込めると言っているようなものだ」(メガバンク幹部)と受け止められた。 広告では「『一燈照隅、万燈照国』という言葉のように、各行が愛する地域を照らす『一燈』となることで、燈火は広がり、『万燈』となって、国全体をくまなく照らすでしょう」と、中国の古典に精通した北尾氏ならではの格言が躍った。新生銀行の株主へのエールだろう。 北尾氏は以前から「新生銀行を(地方)銀行の銀行にしたい」と周囲に語っていた。「第4のメガバンク構想」では、SBIが過半を出資して持株会社を設立し、そこに全国の地銀やベンチャーキャピタル、運用会社などが出資して協力関係を築く。持株会社は参加する地銀等の業務システムやフィンテックなどのインフラや資産運用の受託ほか、人材の供給、マネーロンダリングの対応など幅広い商品・サービスを提供する、いわば「プラットフォーム」と言っていい』、なるほど。
・『地銀の人材育成とフィンテック事業をサポートしてきた  北尾氏によれば、「第4のメガバンク構想」は唐突なアイデアではないという。SBIと地域金融機関は過去5年にわたり親密な関係構築に努めてきた。北尾氏はそれを2つのフェーズに分けて説明する。 まずSBIの金融商品やサービスを通じて地域金融機関の企業価値の向上に貢献したのが第1フェーズで、金融商品仲介業サービスで地域金融機関と連携した。また、地銀7行と共同で「マネープラザ」を設立し、地域住民の資産形成ニーズに応えているほか、資産運用の高度化として地域金融機関と共同出資の「SBI地方創生アセットマネジメント」を設立し、運用ノウハウの高度化や人材育成を図ってきた。 次ぐ第2フェーズでは、地域金融機関に機能的なAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)基盤を低価格で提供することでフィンテ「ック企業のサービスやシステムの導入をサポートしているほか、ジョイントベンチャーの設立等を進めている。また、事業承継ファンドの創設を通じ、地方の中小企業の事業承継ニーズに応えていると指摘する。今回の「第4のメガバンク構想」は、こうした一連の基盤の上に構想されたプロジェクトと位置付けられる』、「第4のメガバンク構想」のなかで「新生銀行」が果たす役割は何なのだろう。
・『「第4のメガバンク構想は地銀のため」は本当か  北尾氏によれば、「第4のメガバンク」は、「第4」と銘打っているものの、従来の3メガバンクとは一線を画する新しい発想・哲学に基づく「新メガバンク」であると豪語する。そのコンセプトは「社会課題解決型ビジネスモデル」であり、地方創生のためには地域金融機関の機能強化が欠かせないと説く。 例えば、地域金融機関にとって重たい負荷となっているシステム開発については、プライベートクラウドサービスを共同持株会社のもとで、参加地域金融機関と共有することで、大幅なコスト削減が実現できると見ている。また、マネーロンダリング対応では、証券会社など35社を糾合した「証券コンソーシアム」を設立、本人確認を共同プラットフォーム化するなどの実績がある。 代々の家業から中国の歴史・文化に精通する北尾氏は、論語を紐解く。「第4のメガバンク構想」も「世のため、人のため」であり、「地銀のため」と説く。利益は後でついてくるというのが哲学だ。しかし、証券会社そしてベンチャー業界という生き馬の眼を抜く熾烈な競争社会を生き延びてきた北尾氏が、ただ人のために尽くすからというわけではなかろう。そこには北尾氏一流の算盤勘定があるとみるべきだ』、「北尾氏」は弁舌が立つが、私は個人的には信用していない。
・『地銀が傘下に入れば、間接的に公的資金を注入できる  鍵は政治との関係にある。「第4のメガバンク構想」の雛形は、「信用金庫業界の中央銀行といっていい『信金中央金庫』や農林系統金融機関の資産運用を一手に担う『農林中央金庫』のようなイメージではないだろうか」(地銀幹部)と受け止められている。 実はこの構想は、自民党の金融調査会「地域金融機関経営力強化プロジェクトチーム」の提言とオーバーラップしている。金融調査会の会長である山本幸三氏は、プロジェクトチームの提言について、「地銀も信金中央金庫のような系統運用機関を創るべきだ。地銀のトップたちに提言し、どう対応するか見ている段階だ」と指摘している。 だが、その裏に隠された最大のテーマは、地方経済のセーフティーネットという役割と見られている。なぜなら「第4のメガバンク構想」の最大の効用は、持ち株会社を通じて地銀が公的資金を受けられることにあるためだ。「共同持株会社を通じて傘下の地銀が経営危機に陥った場合に、間接的に公的資金を注入する受け皿ではないのか」(メガバンク幹部)との声も聞かれる』、なるほど。
・『約3500億円もの公的資金をどう返済するのか  一方、新生銀行はTOB期限までにホワイトナイトを見つけることが最大の眼目。だが、SBIが提示したTOB価格が高いことに加え、ホワイトナイトが成功しても、買収後の新生銀行の企業価値を早期に引き上げるのは容易なことではない。 また、TOBの行方を左右するのは新生銀の公的資金の返済プランにかかっている。新生銀行は1998年から公的資金の注入を受け、1500億円を返したが、約3500億円が未返済となっている。 2000年に当時の谷垣禎一金融再生委員長は公的資金の返済に関し、政府保有の新生銀株の時価総額が500億円を超えることが条件との趣旨の国会答弁を行っている。公的資金返済に必要な新生銀の株価は、市場価格を大幅に上回る1株7500円程度となる。公的資金を司り、新生銀行の約2割の普通株を所有する国(預金保険機構など)、金融庁の出方が最大の鍵を握る』、「公的資金返済に必要な新生銀の株価は、市場価格を大幅に上回る1株7500円程度」、絶望的だが、そもそも金融庁が普通株に転換したことにも一因がある。
・『新生銀行の存在価値そのものが問われている  「敵対的だから良い・悪いという類いの判断ではなく、基本的には個々の案件の状況をしっかりと総合的に考えて、対象となっている企業の企業価値の中長期的な向上に資するか否か、利益相反はないかといった点などを総合的に考慮したうえで、個々の金融機関において個別に判断される性格のものだろうと考えている」 冒頭に全銀協の髙島会長がこう指摘したように、TOBの帰趨は、ひとえにSBIが買収することで、新生銀行の企業価値が向上するかどうかにかかっている。SBIに代わるホワイトナイトについても同様である。新生銀行の企業価値が向上し、株価が上昇すれば公的資金返済への筋道も見えてこよう。 大手証券による大手銀行へのTOBは異例の「敵対的なTOB」に発展した。証券会社が銀行を買収することも異例だが、皮肉にも今回のTOB最大の効用は、大手行で唯一、公的資金が残る新生銀行の企業価値を社会が再認識する契機になったことではなかろうか。問われているのは、新生銀行の存在意義そのものである。 新生銀行がこのままの状態であり続けるほうが国民にとって有益なのか、SBIが買収するほうが有益なのか。それとも第三のホワイトナイトの手に委ねられるべきか。国民も公的資金を通じた有力なステークホールダーであることは忘れてはならない』、前身の長期信用銀行の破綻処理に長い時間がかかったため、優良取引先が逃げ出し、残った取引先は、他行が手を出さないような不信企業ばかりになり、顧客基盤が著しく劣化した。今さら「存在意義」でもないような気もする。

次に、11月17日付け現代ビジネスが掲載した株式会社J’s PR 代表取締役の三ツ谷 誠氏による「新生銀行の本当の「敵」は、SBIなのか…?「TOB攻防」から見えてきたもの 「登場人物」たちの立場を整理する」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/89192?imp=0
・『「小説さながら」の攻防劇  去る2021年9月9日、SBIホールディングス(と正確を期せばその完全子会社であるSBI地銀ホールディングス)は、2019年に資本・業務提携を申し込んで以来、継続的に協働・提携を協議していた新生銀行に対し、発行済み株数の48%を上限として、取得価格を2,000円と設定した株式公開買い付け(TOB)に踏み切った。 そのような判断に踏み切った理由について、様々な経済記事が、新生銀行が2021年1月SBI証券ではなくマネックス証券との包括提携を突如表明したことが、北尾吉孝社長を筆頭とするSBI経営陣が工藤社長以下新生銀行経営陣へ抱いていた不信感を決定的にしたため、と推測している。 このSBIのTOBに対し新生銀行の経営陣がどう対応するのかが注目されていたが、新生銀行は10月21日、TOBに対して反対意見を表明、銀行セクターとしては本邦初の敵対的買収の攻防劇が始まっている。 そして攻防の舞台は11月25日に設定された新生銀行の臨時株主総会に移っている。ここでの注目点は新生銀行の株主が、新生銀行の現経営陣が発動を期す買収防衛策を支持するかどうか、そのために必要な過半数の議決権を新生銀行経営陣が集められるかどうか、となっている。 この買収劇については、格調高くは山崎豊子、生々しくは清水一行や真山仁、そうした作家の企業小説を思わせるストーリー仕立てに描写することもできよう。 そもそも新生銀行がその前身である日本長期信用銀行の時代に遡り、バブル崩壊と公的資金の導入、小泉政権のもと外資系のリップルウッドによる買収、外国人経営者の跋扈、リーマン後のあおぞら銀行との統合構想の破綻など、ドラマティックと言うにはあまり血生臭いバックグラウンドを抱えていることも一因だ。 そして、渦巻く人間の相関も、このイベントを看取るテキストとして材料に欠かない』、「攻防劇」は確かに「小説さながら」だ。
・『財政界の大物たちが織りなす「絵巻物」  まず、菅前首相とSBIホールディングスの北尾社長の関係、また北尾氏がTOB成立後に新生銀行に送り込む内諾を得ているのが、地銀再編を強く推進しようとしていた元金融庁長官の五味廣文氏であること。 逆に新生銀行の工藤社長がマネックス証券の松本大氏と東大の同期であり、かつゴールドマン・サックス出身者が新生銀行サイドに数多い(松本氏も含み)こと、更には岸田首相がまさにその旧長銀のOBでもあること。こうした政財官の大物たちの織り成す絵巻物としてこのイベントを眺める記事も多く見られている。 筆者もそうした人間の感情や思惑の織り成すドラマが嫌いではないし、個人的には野村證券の事業法人部をそのキャリアの基盤とするSBIの北尾氏と、第一勧銀を振り出しとしながらも、みずほ証券でやはり事業法人部を経験した、共に「事法マン」の、つまりは投資銀行家の二人の社長、二人のプロが、この件にどう向き合うのか、凌ぎ合うのか、そこにはとても強い興味を持っている。 アウトサイダーの筆者は外部から今回の買収劇を記すほかないが、まず「敵対的買収」という言葉が、誰が誰の敵対者なのか、から整理しておこう。 買収者、この場合のSBIホールディングス、は誤解の多い話にはなるが、新生銀行の現株主にとっての敵対者ではない、逆に彼らは彼らが思う「無能で無責任な」現経営者を排除することで、新生銀行が本来そうあるべき企業価値を実現させていこうとする現株主にとっての味方、救世主なのだ、と考えることも可能だ。 もちろん、それを判断するのは現株主であって、本件については、買収後、当面は上場を維持しても政府持ち分とSBIホールディングスの持ち分の合計が90%を超えた段階でのスクィーズアウト(残る株を買い上げ、上場を廃止すること)が想定されている以上、現実的に提示された買取価格2,000円がそれぞれの株主の期待する株価から推して妥当なのかどうか、を判断するということになる。 2021年11月4日時点で1,865円の新生銀行株価に対して、12月8日、延長されたTOB期間の最後の日の株価、若しくはそれ以後、それぞれの尺度で想定していた株価、と比較し、そこで2,000円で手放してもいいかどうか、その判断はそれぞれの株主に委ねられており、そこには自由もあるし、敵対性はない』、その通りだ。
・『従業員は誰の味方か  だから、あくまでも敵対的買収者が敵対するのは、その企業の企業価値を毀損している現経営陣に対して、なのだ。 ただ、敵対的買収が問題にされるのは、特に日本企業において顕著な傾向だが、企業が事実上、その企業に勤める従業員にとっての「かけがえのない」共同体、村、であり、経営陣についても、従業員共同体の利益を代表する、かつて従業員だった人々の集まりというケースが多いからだ。 現在でも底流に生きている第二次安倍内閣のもとでの「日本再興戦略」が問題にした日本企業の内部留保の多さも、それは従業員共同体をとにかく守るためのものだから、と考えると辻褄が合う。 そのような企業にとっては、自分たちの利益の守護者である自分たちの代表が構成する経営陣に牙を剥く買収者は、自分たちにとっての敵対的買収者でもあると従業員全体が感じることだろう。 しかし、終身雇用制度が揺らぎ、「働き方改革」が指し示す方向の中に、かつては自明だった従業員共同体としての企業というある種の「神話」は存在しなくなってしまった。 新生銀行買収について、SBIホールディングスの北尾氏は、10月28日に行われた2022年3月期第二四半期の決算説明会の中で、新生銀行の従業員の一部から、早く買収して欲しい、という手紙が来ていた、という話を披露していた。 今回の事例、新生銀行について言えば、既にバブルの崩壊やリーマンショックなどを経て、従業員共同体の利益代表という状態からは完全に異なる経営陣が経営を担ってきたので、従業員がその観点から買収者を敵対視はしていない、それは自明だろう。 従業員もまた、株主とは異なる立場で、どちらの経営者が従業員としての自分にとって、より良い世界を提示してくれるのか、を注意深く観察している、そういうことだろう。 今回の買収劇のひとつのクライマックスは11月25日の臨時株主総会である。このXデーを迎えるまでに行われる水面下の攻防については、後編〈SBI北尾社長「新生銀行は泥棒」発言の真意…決算説明会に込められた「本気のビジョン」〉にて、筆者の読みを詳細に紹介していこう』、「新生銀行について言えば、既にバブルの崩壊やリーマンショックなどを経て、従業員共同体の利益代表という状態からは完全に異なる経営陣が経営を担ってきたので、従業員がその観点から買収者を敵対視はしていない、それは自明だろう。 従業員もまた、株主とは異なる立場で、どちらの経営者が従業員としての自分にとって、より良い世界を提示してくれるのか、を注意深く観察している」、「新生銀行」は伝統的日本企業とは既に全く異なる構造に変化したようだ。

第三に、この続きを、11月17日付け現代ビジネスが掲載した株式会社J’s PR 代表取締役の三ツ谷 誠氏による「SBI北尾社長「新生銀行は泥棒」発言の真意…決算説明会に込められた「本気のビジョン」」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/89193?imp=0
・『新生銀行に対するSBIホーディングスの敵対的買収が注目を集めている。「敵対的」という言葉、「第4のメガバンク構想」を展開するSBI北尾吉孝社長の剛腕から、二項対立のウラに「善悪」の脚色が入ることも多いが、本当の「敵」はどこにいるのか。実は最大の「敵」とは、新生銀行の現経営陣なのではないか…? 前編記事はこちら:新生銀行の本当の「敵」は、SBIなのか…?「TOB攻防」から見えてきたもの』、「最大の「敵」とは、新生銀行の現経営陣なのではないか」、どういう根拠で判断したのだろう。
・『新生銀行サイドの「防衛計画」  今回のSBIホールディングスによる新生銀行買収劇の一つのクライマックス、11月25日の臨時株主総会についてだが、筆者のこれまでの経験から推測すれば、総会決議をめぐる議決権行使勧誘の攻防が水面下で繰り広げられているであろうことは容易に想像がつく。 おそらく新生銀行サイドは、株主名簿には表れない本当の株主を追って、実質株主判明調査を行い、株主名簿上にはステートストリートバンクなどのカストディアン(投資家に代わって有価証券の管理を行う機関)名でしか現れない存在を絞り込む。 さらにその背後に、フィディリティなのかキャピタルなのか、最終的な議決権行使の主体(つまりは本当に自社に投資を行っている投資機関)を炙り出し、その機関の議決権行使担当者に、買収防衛策発動に対する賛成票を投じるよう、説得を試みているに違いない。 11月5日には新生銀行の買収防衛策に対して、米国の議決権行使助言会社で強い影響力を誇るグラスルイスが、11月8日にはISSが、賛成票を投じることを株主に推奨したという記事が幾つかの報道機関に書かれていたが、グラスルイスやISSなど議決権行使助言会社を味方につけることも、とても重要な活動になる。 機関投資家は受託者責任を遂行するために、経営参加権についてもそれを重視し、適切な投資先の経営への参加や関与を行ういわば義務があるが、株主総会の時期が、決算期が集中するなどの理由で重なってくると、限られたスタッフで膨大な数の投資先の議案を検証していく余裕はない。 議決権行使助言会社の存在意義はそこにあり、信頼性の高い(とされる)助言会社のレポートや推奨に従って議決権を行使することで、一定の受託者責任は果たされることになる』、「新生銀行サイドは・・・実質株主判明調査を行い・・・カストディアン・・・名でしか現れない存在を絞り込む。 さらにその背後に・・・最終的な議決権行使の主体・・・を炙り出し、その機関の議決権行使担当者に、買収防衛策発動に対する賛成票を投じるよう、説得を試みているに違いない」、さらに「グラスルイスやISSなど議決権行使助言会社を味方につけ」、裏工作もなかなか大変なようだ。
・『「選挙活動」で票集め  ただ、今回の事例について言えば、11月の臨時株主総会という時期の問題もあって、グラスルイスやISSの推奨が、それぞれの機関投資家の議決権行使にどれだけストレートに効果をもたらすのか、については議論の余地があるだろう。 しかし、新生銀行の経営陣が、的確に急所を突いたいわば選挙活動を行っていることは、容易に推察が可能だ。新型コロナ感染症の影響で、嘗てのように実際に対面するロードショーを行うことはできないにしても、リモート会議の活用などで、実質株主判明調査で炙り出された「選挙人名簿」を使った選挙活動は、行われているに違いない。 その際に、彼らが株主の説得に使っている資料は、10月21日にリリースされた「SBI地銀ホールディングス株式会社による当行株式の公開買付けに対する当行取締役会の意見」だろう。 興味のある方には一読を薦めるが、そこで示されたTOBへの反対(条件を満たせば賛同)の要点は、 1.今回のSBIサイドの提案が銀行持株会社の認可を必要とされる50%までの株式買付(現時点での保有割合は19.85%)ではなく、その上限を48%に設定していることで、残存株主に対しての不利益性や(不利益を被らないための)強圧性が生じるため 2.買付価格の2,000円が枠組みの設定上、十分なプレミアムを乗せた価格にはならないし、なにより現経営陣の経営努力を反映した本源的な価格としても妥当性を欠く の2点となる。逆に言えば、48%という上限枠を撤廃し、2,000円という価格についてもう少し高い価格設定を示してくれれば、友好的な買収として再び協議の場に付く用意はある、という提示だ』、「TOBへの反対(条件を満たせば賛同)」、よく練られた態度表明だ。
・『「泥棒」発言に込められたもの  この論点の1については、銀行持株会社への移行そのものが、バイオ関係事業にも強い意欲を持って事業展開を行う北尾氏にとって呑み込み難い(バイオだけではなく自由な事業構想の展開に制約を設けるもの)対案となっているだろう。 この提案に対するSBIホールディングスの回答は、同じ10月21日に出されたリリースで確認できる。彼らは新生銀行の示した賛同のための2つの条件を即座に拒否した。 また、10月28日に開かれたSBIホールディングスの2022年3月期第二四半期説明会で、北尾氏は、2,000円という価格については、強い表現でいっさい価格を上げるつもりはないことを明言している。 以前、SBIホールディングスの「第4のメガバンク構想」について記事を書いたが、北尾氏の本決算説明会、2Q決算説明会は動画でも公開されているので、興味がある方はその動画の視聴をお勧めする。2022年3月期第2四半期SBIホールディングス株式会社決算説明会 (sbigroup.co.jp) この説明会での発言については、一部報道で、北尾氏がバブル崩壊時に投入された公的資金について、なお3,490億円の返済を終えていない新生銀行の経営陣について、「泥棒」というとても激しい表現で彼らを非難した箇所が取り上げられていたが、実際に説明会の動画を視聴したうえで北尾氏の一番重い発言は、新生銀行の現経営陣には、経営の根幹をなすビジョンや理念、そこが欠如している、という発言であると筆者には感じられた。 決算説明会そのものは、約2時間、180ページにも亘るスライドを使って、決算内容、それぞれの事業の状況、ビジョンや構想など北尾氏が語り続ける、いつもの構成だ。 本稿の主題となる新生銀行に関係するパートはあくまで全体の構想の一部として扱われていたが、そこで使われたスライドがそのまま今回の買収劇においても、対機関投資家に対する買収者サイドの説得のためのシナリオを構成していると考えられるだろう。 また、直接には今回の買収について語っているスライドではないが、ベトナムのTPバンク、韓国のSBI貯蓄銀行、また、提携した地銀各行の業績の改善、住信SBIネット銀行の業績の伸長など、これまでの決して長くはない時間軸で彼らが達成してきた実績が、新生銀行との統合でもたらされるリテール分野や法人分野でのシナジーの説明以上に、株主に対する説得や共感の材料を提供している』、「これまでの決して長くはない時間軸で彼らが達成してきた実績」は、「新生銀行との統合でもたらされるリテール分野や法人分野でのシナジー」と余り関係ないように思える。
・『雄大な構想力か、抜け目のないビジョンか  北尾氏が理念やビジョンの欠如を糾弾するとき、そこには、このような説明会で示される彼自身の雄大な構想力(世界規模で、業界の枠組みを超え、なおかつ急速にデジタル化されていく社会における金融業の未来を見据えた構想力)が、その批判の根源に存在するのだろう。 IRの技術的な観点で言えば、さすがに180枚のスライドを使った2時間にも及ぶ独演会というのは、相手に届かせるためのメッセージ、という意味で、どうなのか、という議論や、スライドそのもののきれいさやデザインなど、好みの問題にはなるものの、指摘すべきものがない訳ではない。 一方で、新生銀行のスライドはデザインも優れたものだし、他の金融機関の作成する説明資料と比べ、今後の企業価値向上に対する施策提示にしても、小さな意味のビジョンについても、おかしなものではない。 実際、新生銀行のIR活動はホームページを見る限り、充実していて、アナリストに対してのIR Dayも行っているし、IR活動に対する熱心さや教科書的な意味での理解の水準を示す「統合報告書」もしっかりと作成、SDGs対応への気配りもしっかりとなされている。 IR Dayでの質疑応答など、開示されているペーパーにも記されているように、工藤社長は自社の株価について、ノンバンクのバリュエーション評価と既存の銀行のバリュエーション評価の違いを挙げ、もっと実質的な意味でレイクや昭和リースなど実質的な意味においてノンバンクである自社をそのような視点で評価して欲しい、というニュアンスの回答など、株価評価を変えていくための発言も行っている。 しかし、その射程が、北尾氏が暗号資産について語り、地銀再生について語り、既存の枠組みを超えた日本経済そのものを牽引する意気込みのビジョンを提示し、それに向かって驀進していく勢いと比べたとき、いささか卑小に過ぎると思うのは筆者だけだろうか。 途中、筆者は本件を2人の投資銀行家の戦いとして、興味を持って見つめている、と書いたが、そもそもSBIホールディングスのTOBを呼び込んだ2021年1月のマネックスとの包括提携そのものが、今回の買収防衛策が実現しようとするものがポイズンピル(既存株主に新株予約権を発行することで買収者の持ち分をコントロールする防衛策)であるように、クラウンジュエル(そのために買収を企図した部門や事業を先に切り離してしまう防衛策)だった可能性もあるだろう』、「クラウンジュエル」「だった可能性」、残念ながら私には込み入り過ぎて理解不能だ。
・『勝敗を決める一手  それぞれの一手、一手に興味は尽きない。 また、多くの報道が中立性を守り本件では議決権行使自体を行わないだろう、と予想していた預金保険機構が12日の〆切りで質問書を両社に送ったということも11月5日の時点で報道されている。 12.5%の株を保有する預金保険機構と9.28%の株を保有する整理回収機構がどう出るのか、によっても買収防衛策の決議に必要な株数は変わってしまうし、実質的には政府が与したサイドが、少なくともこの局面の勝者にはなる。 そのような動きの背景にあるものを想像することには楽しみがあるし、人物や組織が織り成すドラマがある。 その後、11月12日には北尾氏が機関投資家向けに説明会を開催した事、仮に臨時株主総会で買収防衛策が可決された場合、TOBを撤回する意向である事などについての報道が見られた。いずれにせよ、11月25日、臨時株主総会の行方を興味深く見守りたい』、「預金保険機構が12日の〆切りで質問書を両社に送った」のは念のため的なもので、投票ではやはり中立を守るのではなかろうか。「臨時株主総会」の結果が楽しみだ。
タグ:金融業界 (その12)(新生銀行VS SBI:「新生銀の株価は安すぎる」業界初の敵対的買収にSBIが絶対の自信を持つワケ 株価が上がれば公的資金も返せる、新生銀行の本当の「敵」は、SBIなのか…?「TOB攻防」から見えてきたもの 「登場人物」たちの立場を整理する、SBI北尾社長「新生銀行は泥棒」発言の真意…決算説明会に込められた「本気のビジョン」) PRESIDENT ONLINE 森岡 英樹 「「新生銀の株価は安すぎる」業界初の敵対的買収にSBIが絶対の自信を持つワケ 株価が上がれば公的資金も返せる」 地銀協「会長」発言は、やはり「敵対的買収」に警戒的だ。 「静岡銀行」としては当然の対応だ。それにしても、「新生銀行」が株主のSBIのライバルの「マネックス」と提携するとは、初めからケンカ腰だったのは何か理由でもあったのだろうか。 「SBIが買い付け株数の上限」をつけたのは、その範囲であれば、規制上、問題がないためのようだ。 「地銀」であれば、SBIとの提携でこれまで果たせなかった機能を持つことができ、メリットは確かにあるが、既に証券子会社を持っている「新生銀行」ではメリットがあるかどうかははっきりしない。 「第4のメガバンク構想」のなかで「新生銀行」が果たす役割は何なのだろう。 「北尾氏」は弁舌が立つが、私は個人的には信用していない。 「公的資金返済に必要な新生銀の株価は、市場価格を大幅に上回る1株7500円程度」、絶望的だが、そもそも金融庁が普通株に転換したことにも一因がある。 前身の長期信用銀行の破綻処理に長い時間がかかったため、優良取引先が逃げ出し、残った取引先は、他行が手を出さないような不信企業ばかりになり、顧客基盤が著しく劣化した。今さら「存在意義」でもないような気もする。 現代ビジネス 三ツ谷 誠 「新生銀行の本当の「敵」は、SBIなのか…?「TOB攻防」から見えてきたもの 「登場人物」たちの立場を整理する」 「攻防劇」は確かに「小説さながら」だ。 「新生銀行について言えば、既にバブルの崩壊やリーマンショックなどを経て、従業員共同体の利益代表という状態からは完全に異なる経営陣が経営を担ってきたので、従業員がその観点から買収者を敵対視はしていない、それは自明だろう。 従業員もまた、株主とは異なる立場で、どちらの経営者が従業員としての自分にとって、より良い世界を提示してくれるのか、を注意深く観察している」、「新生銀行」は伝統的日本企業とは既に全く異なる構造に変化したようだ。 「SBI北尾社長「新生銀行は泥棒」発言の真意…決算説明会に込められた「本気のビジョン」」 「最大の「敵」とは、新生銀行の現経営陣なのではないか」、どういう根拠で判断したのだろう。 「新生銀行サイドは・・・実質株主判明調査を行い・・・カストディアン・・・名でしか現れない存在を絞り込む。 さらにその背後に・・・最終的な議決権行使の主体・・・を炙り出し、その機関の議決権行使担当者に、買収防衛策発動に対する賛成票を投じるよう、説得を試みているに違いない」、さらに「グラスルイスやISSなど議決権行使助言会社を味方につけ」、裏工作もなかなか大変なようだ。 「TOBへの反対(条件を満たせば賛同)」、よく練られた態度表明だ。 「これまでの決して長くはない時間軸で彼らが達成してきた実績」は、「新生銀行との統合でもたらされるリテール分野や法人分野でのシナジー」と余り関係ないように思える。 「クラウンジュエル」「だった可能性」、残念ながら私には込み入り過ぎて理解不能だ。 「預金保険機構が12日の〆切りで質問書を両社に送った」のは念のため的なもので、投票ではやはり中立を守るのではなかろうか。「臨時株主総会」の結果が楽しみだ。
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