ゴーン問題(その3)(日産ゴーン事件「最後の証人」が示した重大見解 東大教授は法廷で「虚偽記載ではない」と述べた、逃亡中のゴーンが本誌独占取材に実名で語った陰謀の「黒幕」、ゴーン氏報酬の助言し、掌返しで追放した人たち 責任追及を免れてきた利益相反行為の弁護士) [司法]
ゴーン問題については、昨年3月25日に取上げたままだった。今日は、(その3)(日産ゴーン事件「最後の証人」が示した重大見解 東大教授は法廷で「虚偽記載ではない」と述べた、逃亡中のゴーンが本誌独占取材に実名で語った陰謀の「黒幕」、ゴーン氏報酬の助言し、掌返しで追放した人たち 責任追及を免れてきた利益相反行為の弁護士)である。なお、タイトルから「逃亡」は削除した。
先ずは、本年5月27日付け東洋経済オンライン「日産ゴーン事件「最後の証人」が示した重大見解 東大教授は法廷で「虚偽記載ではない」と述べた」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/430516
・『「虚偽記載ではないと考えます」――。 東京大学の田中亘教授はそう証言した。4月22日、東京地方裁判所104号法廷でのことだ。 2018年11月に起きたカルロス・ゴーン氏の逮捕劇から2年半余り、ゴーン氏は国外に逃亡したが、同氏とともに逮捕された日産自動車・元代表取締役グレッグ・ケリー被告(64)の裁判が2020年9月から続いている。この日、田中教授は弁護側(ケリー被告側)からの証人として出廷した。 ケリー被告の容疑は金融商品取引法違反で、元CEO(最高経営責任者)のカルロス・ゴーン氏(67)と共謀し、ゴーン氏の役員報酬を実際よりも低く記載した有価証券報告書(有報)を提出したというもの。 2010年度から2017年度のゴーン氏の報酬が合計170億円だったのに、実際の記載は合計79億円だけだったので「虚偽記載」だというのが、検察の起訴事実である。これらに対し、ケリー被告は公判で「未払い報酬を隠すためにゴーンと共謀した事実はない」と一貫して否認している』、「ゴーン氏」逃亡後は、マスコミ報道も激減したので、貴重な続報だ。
・『虚偽記載ではなく「不記載」 田中教授が見解を示すうえで着目したのは、日産が有報に書いた「支払われた報酬は」という文言だった。 この開示の仕方は、内閣府令が役員報酬1億円以上の役員について個別の報酬開示を義務づけた2010年以前から、日産に限らず多くの上場企業が行ってきた。内閣府令が施行された後も、同じ形式で開示をしていた。 その事業年度の役員への対価はすべて「当期の役員報酬」とみなされる。内閣府令は、既払いか未払いかについて特に定めておらず、「役員報酬は未払い分を含めて開示しなければならない」と解釈するのが法律家の間では常識なのだという。 金融商品取引法は、「虚偽記載」と「不記載」を明確に分けている。投資家の判断に影響を与えるような重要な情報について、虚偽の数字や文章を書くのが虚偽記載、書かないことが不記載である。田中教授の見解は後者だ。 虚偽記載も不記載も、証券取引等監視委員会が課徴金の対象となると金融庁に勧告すれば、金融庁が当該企業に課徴金の納付命令を出せる。 日産は2020年2月に金融庁から24億円の課徴金納付命令を受けて、それに応じている。あくまでこれは行政処分だ。だが、検察が「特に悪質だ」と判断すれば起訴し、刑事責任の有無を問う』、「投資家の判断に影響を与えるような重要な情報について、虚偽の数字や文章を書くのが虚偽記載、書かないことが不記載である。田中教授の見解は後者だ。 虚偽記載も不記載も、証券取引等監視委員会が課徴金の対象となると金融庁に勧告すれば、金融庁が当該企業に課徴金の納付命令を出せる」、とはいっても、「不記載」より「虚偽記載:の方がはるかに悪質だ。
・『「投資家の判断」に影響を与えたか 法廷での証言から、虚偽記載ではないという田中教授の考え方はこうなる。 日産自動車の有価証券報告書。 日産の有報に書かれた「支払われた報酬は」という文言から、一般投資家は「既払いの役員報酬額が書かれているのだな」と読む。未払い分を含めた役員報酬のすべてを開示すべきと解釈されている内閣府令の趣旨を一般投資家は熟知していないだろうから「既払いの報酬はこのくらいかな」としか考えない。 機関投資家などプロの投資家ではどうか。内閣府令を熟知したプロの投資家ならば、「支払われた報酬は」と書いてあっても「報酬はすべて支払い済みであり、他に未払い報酬はないのだろう」と推察するかもしれない。 とはいえ「支払われた金額は」という書き方に、プロの投資家ならば違和感を覚えるかもしれない。その場合でも「もしかしたら未払い報酬は不記載であり、本当はあるのかもしれない」と慎重になり、他の自動車メーカーに分散投資するなどして開示に不備があるリスクを低減しようとする。だから、未払い報酬が不記載でも大きな影響はないというのが田中教授の見解だ。 この見解と正反対の証言をしたのが証券取引等監視委員会だ。 田中教授が出廷する2日前、証券取引等監視委員会の谷口義幸・開示検査課長が証言台に立った。かつて役員報酬の個別開示を企画立案した官僚であり、日産の有報を虚偽記載だと判断した責任者だ。2012年から2015年には東北大学で教鞭を取った経験もある。 谷口氏の説明はこうだった。「(日産の有報に記載された)『支払われた報酬』というのは、前置きのような文章だと一般投資家は理解する。前後の文脈から、そして総合的に見れば、内閣府令で求められている報酬(受け取るもしくは、受け取る見込みの報酬)が記載されていることは明らかだから、一般投資家は未払い報酬を含むと読む」。一般投資家が内閣府令を“熟知”しているという前提である。 だが、虚偽記載か不記載かは「個々にいろいろ勘案して決めている」。ゴーン氏の役員報酬を虚偽記載だと判断した理由や個別具体的な事情については「お話をしないことになっている」と、明確な根拠を示さなかった』、「証券取引等監視委員会の谷口義幸・開示検査課長」は「判断した理由や個別具体的な事情については「お話をしないことになっている」と、明確な根拠を示さなかった」、なるほど。
・『「田中証言は到底無視できない」 当局とは正反対の田中見解を、本裁判を担当している下津健司裁判長はどう受け止めたのだろうか。 株式会社商事法務の発刊する『会社法コンメンタール』。ビジネスに関する判例や法解釈をまとめた全22巻の大著だが、その第8巻「機関(2)」(2009年2月発行)の「第361条(取締役の報酬等)」「第379条(会計参与の報酬等)」「第379条(監査役の報酬等)」の計498ページ(索引除く)のうち、85ページを執筆したのが当時35歳だった田中教授だった。 会社関係の法務に詳しいある弁護士は、「(田中教授は)商法学者の中でもホープ中のホープ」とし、「下津裁判長はもちろんのこと、法務省のお偉方は田中証言を到底無視できない」と指摘する。 田中教授はケリー裁判の最後の証人だった。本裁判は被告人のケリー氏本人への尋問が始まっている。5月27日までで計6日間の主尋問が行われ、5月28日から計6日間の検察側尋問が始まる。 ケリー氏はゴーン氏との共謀を否定しており、司法取引をした大沼敏明・元秘書室長の証言についても「ケリー氏に指示されて未払い報酬の仕組みを考えた」などの主要部分をことごとく否定している。結審は7月7日の予定。はたして田中見解は判決にどう影響するのか。ゴーン事件の結末を最後まで見届ける必要があるだろう。 2020年1月8日、逃亡したゴーン氏がレバノンで行った会見で「田中先生」と口にしたため、後日、東洋経済は田中教授にインタビューした。全文(「ゴーン事件は日本にとって恥ずかしいことだと思う」)は『東洋経済プラス』で無料でお読み頂けます』、「「(田中教授は)商法学者の中でもホープ中のホープ」とし、「下津裁判長はもちろんのこと、法務省のお偉方は田中証言を到底無視できない」と指摘する」、さてどうなるのだろう。
次に、10月2日付けNewsweek日本版が掲載した自動車業界担当記者のアイリーン・ファルケンバーグハル 氏による「逃亡中のゴーンが本誌独占取材に実名で語った陰謀の「黒幕」を紹介しよう。
・『<自らの失脚は、一部の日産幹部が画策して日本の検察と共謀した「でっち上げ」だと主張> 自分を裏切った人間に仕返しするためではなく、自らの汚名をそそぐために、本当のことを話したいと、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長は私たちに語った。 自分の失脚は、役員報酬の開示をめぐる不正とされるものとは全く関係がないと、新著『壊れた連合』のプロモーションのために先頃レバノンの自宅で本誌のインタビューに答えたゴーンは主張した。日本側が経営の実権をフランスに譲り渡すことを恐れたのが真相だという。 ゴーンは新著で、ビジネス界での特筆すべき成功、その輝かしいキャリアに終止符を打った「陰謀」、そして2018年11月19日の逮捕について語っている。 この著書でゴーンは初めて、自らの追放を画策したと考えている日産幹部の実名を挙げた。まず、内部監査室本部長を務めていたクリスティーナ・ムレイは、社内でゴーンのスキャンダルを探っていたと、同書は記している』、「ゴーンのスキャンダルを探っていた」、ありそうなことだ。
・『画策したのは日産の幹部たち チーフ・パフォーマンス・オフィサー(CPO)の職にあったホセ・ムニョス(現在は現代自動車のグローバル最高執行責任者)も、追放計画に共謀したという。また、日産のベテラン幹部だった川口均(現在は副社長を退任)も関与したとしている。 こうした幹部たちが日本政府と一緒になって、逮捕の理由をでっち上げたと、ゴーンは語った。「この謀略は、いわば日産のオールド・ボーイズが画策したものだと思う。日産で長年働いていて......(ルノーと資本提携を結ぶ以前の時代に)郷愁を抱いている人たちのことだ」 転機になったのは18年6月にルノーと日産と三菱自動車の3社連合の全体を監督するようになったときだったと、ゴーンは振り返る。「(オールド・ボーイズたちは)自分たちの自治が奪われることを恐れた......そこで、日本政府の一部の支援を得て検察と共謀した。まさかそんなことが起きるとは、想像もしていなかった」) この出来事は単なるビジネス上の事件ではなく、国際問題という性格を持っていたと、ゴーンは指摘する。「私が逮捕されたとき......ルノーはCEOだった私を守ろうとせず、すぐに厄介払いした。フランスの大統領と財務大臣は、1つのビジネス上の取引よりも日本とフランスの関係のほうが重要だと言った」 自分の失脚の背景には人種差別とナショナリズムもあったと、ゴーンは言う。「私は日本で人気のある人物の1人ではあったが、外国人だというだけの理由で一部の日本人に嫌われていることにも気付いていた。日本有数の大企業で実権を持っているために、なおさら嫌われていたのだと思う......それでも構わないと、私は思っていた」 「けれども、タカタやオリンパス、東芝など、日本の企業でスキャンダルが持ち上がっても、日本人経営幹部は1人も刑事責任を問われなかった。私は思った。『責任を問われるべき日本人が1人もいないなんてあり得ない』」 ゴーンの逮捕と起訴は世界中で大きなニュースになり、19年末の逃亡劇はそれに輪を掛けて大きな話題を呼んだ。しかし、ゴーン自身は、「日本で大企業を立て直した唯一の外国人、そして、3つの大陸で2社、のちに3社の経営者として成功した唯一の人物として記憶されたい」と語る。 そして言う。「私は、この地球上で日本から逃げ出すことに成功した数少ない人物の1人だ」と』、「フランスの大統領と財務大臣は、1つのビジネス上の取引よりも日本とフランスの関係のほうが重要だと言った」、「フランス」から見捨てられたようだ。
第三に、11月20日付け東洋経済オンラインが転載したブルームバーグ「ゴーン氏報酬の助言し、掌返しで追放した人たち 責任追及を免れてきた利益相反行為の弁護士」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/470352
・『日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が羽田空港で身柄を拘束されてから3年の間、権勢を誇っていた元会長排除のために日産社内でどのような力関係が働いたかについて多くのことが明らかになってきた。一連の過程で主要な役割を果たしたにも関わらず、その役回りについて追及を免れてきた存在がある。弁護士だ。 世界最大級の法律事務所であるレイサム・アンド・ワトキンス(L&W)所属の一部の弁護士らは長年にわたりゴーン元会長の報酬のあり方について日産に助言を行っていた。その中にゴーン元会長が起訴された理由の一つとなった収入の総額を隠した報酬パッケージの問題が含まれていた。 一方で、2018年にゴーン元会長の報酬問題が刑事事件の捜査対象となった際には、深刻な利益相反になるとの警告が日産取締役会に寄せられていたにも関わらず、同事務所は不正行為の調査担当に採用された。 会社によるゴーン元会長の不正行為の調査に「彼らが関与することに私は当初から懸念を抱いていた」と日産の元グローバル法務担当のラビンダ・パッシ氏は話す。パッシ氏は昨年、L&Wが日産の最善の利益のために行動していたかどうかについて疑問を呈したことで解雇されたとして、不当解雇で日産を訴えた。 「私は信じられないほど驚き、ショックを受けた。同じ弁護士が自身の関与した仕事を含む事案を調査するということがどのように思われるか。不正行為があってもおかしくない状況だった」。 日産は、ルノーとのより緊密な統合を進めようとしたゴーン元会長の計画が自分たちの地位を脅かし、自社の独立性が損なわれることを恐れた。しかし、社内の関係者らが自ら引き金を引くことはしなかった。 多くの主要な局面で、1980年代から日産の法務を担ってきたL&Wの存在があったことが数百枚に及ぶ文書やインタビュー、ゴーン元会長とともに逮捕されたグレッグ・ケリー元日産取締役の公判での証言などに基づいたブルームバーグの調査で明らかになった。 利益相反の立場にあるとのパッシ氏の指摘にも関わらず、日産が裁判対応も含めてゴーン元会長関連の案件処理に追われる中、L&Wは同社の最上位の顧問法律事務所の地位にとどまった。 日産はまた、世界各地で株主やビジネスパートナー、元従業員らから起こされた多くの訴訟にも直面している。ゴーン元会長のハリウッド映画的な逮捕・逃亡劇は人々の記憶から薄れたかもしれないが、日産にとっては赤字脱却や自動車業界の急激な変化に対抗するための努力の妨げとなっており、長引く影響として残っている。 日産広報担当の百瀬梓氏は「当社は確固たる、徹底した、かつ適切な社内調査」を進め、ゴーン元会長とケリー元取締役に「重大な不正行為があったことを確認」したとコメント。「その内容は、その後複数の政府機関が自身で実施した、綿密で独立した調査結果によって裏付けられています」とした。 百瀬氏はまた、「L&Wのクライアントは常に日産であり、日産の調査に関わることによる利益相反はありません。L&Wに利益相反があった、または利益相反の可能性により確固たる調査が行えなかったという主張は、事実に基づいたものではありません」とも述べた。 L&Wはブルームバーグに宛てた声明文で、同社は「内部調査への弊社の関与については定期的に日産や同社の役員、パッシ氏を含む従業員らと議論してきた。彼ら全員が弊社の関与の継続について許可し、同意した」とコメント。 さらに、「レイサムは内部調査が偏っていたとするいかなる指摘にも強く異議を唱える。また、日米の多くの独立機関や司法当局がそれぞれ綿密な独立した捜査を実施し、内部調査と矛盾しない結論に至ったことも指摘しておく」とも述べた。 L&Wの東京オフィスのパートナーである小林広樹弁護士は、3月のケリー元取締役の公判でL&Wと日産の関係を詳細に説明した。小林氏らL&Wの東京オフィスの弁護士は日産の大株主であるルノーとの契約や子会社の設立、商業上の契約まであらゆることについて助言した。それには役員報酬の案件も含まれていたという。 2018年の初頭、ゴーン元会長は、10年に報酬1億円以上の役員に関して有価証券報告書への報酬額の開示が義務づけられて以降、自主的に放棄していた収入の一部を取り戻す方法を探っていた。 ブルームバーグが確認した電子メールによると、18年7月3日、小林氏は、当時日産の法務責任者だったハリ・ナダ専務に、ゴーン元会長の退職前に退職金から元会長への報酬を支払う場合に求められる開示内容の要件について助言を行っていた。 このやり取りは、ナダ専務やケリー元取締役を介してL&Wに転送されたゴーン元会長からの質問に対する返答という形でなされた。弁護士らはまた、日産がゴーン元会長のためにブラジルやフランス、レバノンで購入した不動産物件を元会長に売却する可能性に関してもナダ専務に助言を行った。 小林氏が送信した電子メールによると、ナダ専務とケリー元取締役は、もし株主がゴーン元会長への早期の退職金支払いを承認したとしても「取締役報酬の開示をやり直す必要はない」とL&Wから伝えられたという。 ただ、遅くともその年の4月ごろまでには、L&Wはナダ専務に別件で助言を与えるようになっていた。事情に詳しい関係者とブルームバーグが確認した文書によると、ナダ専務は公開されない給与を用意するという刑事事件に発展する可能性がある行為について、ゴーン元会長が不利になるような情報を求めていた。 L&Wからナダ専務あてに送られたある電子メールでは、日産が有価証券報告書でゴーン元会長の報酬について完全に説明することができなかった場合、日本の当局から罰金や罰則、責任者の収監などを含めた介入を受ける可能性があることなどが説明されている。 電子メールの内容は、L&Wが日産社内の少人数のグループと仕事をしていたナダ専務に対して、金融商品取引法に違反している可能性がある報酬の支払い方法について助言を行っていたことを示している。資料によると、それらの電子メールのいくつかはナダ専務の会社のメールアドレスではなく、個人のアドレス宛てに送られていた。 報酬問題で主要なアドバイザーを務めていたにも関わらず、L&Wはゴーン元会長の逮捕後に、当時の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)から社内調査に関する正式な依頼を受け、これを引き受けた。事情に詳しい関係者によると、西川元社長はナダ専務の意見を受けてL&Wを起用したという。19年に日産を退社した西川氏はコメントを控えた。 小林氏はゴーン元会長とケリー元取締役の逮捕から1年半後の19年9月の日産取締役会で社内調査の結果を発表し、この調査が最終的に両社の不正に関する公的な説明となった。 ゴーン元会長の広報担当者であるジュン・アイセンウォーター氏は「日産がL&Wと実施した日産の内部調査は利益相反の問題で汚点がついており、独立したものではない」とコメント。「まさに捜査対象となっていた案件について法務上のアドバイスを与えていたということで、日産の長年にわたる外部顧問としてL&Wは独立して事実を指摘する存在ではなかった」。 ケリー元取締役の米国における代理人を務めるジェームス・ウェアハム氏はL&Wについて自らが助言した案件についての調査を主導したという意味で「地球上で最も利益相反となっている法律事務所」だと表現。調査に関わることに同意するべきではなかったとした。 少なくとも六つの法律事務所が当時パッシ氏が率いていた日産の法務部門に対し、ナダ専務とL&Wに調査の責任者を継続させることについての法的なリスクや利益相反を警告した。そのうちの一つはルノー、もう一つは日産が採用した事務所だった。 「L&Wは調査の対象となっている事実に関与しており、証人として呼ばれる可能性があることを認めていることから、独立しているとはみなされない」。日産に採用された法律事務所のアレン・アンド・オーヴェリーは19年1月の書簡でこのように述べた。 ゴーン元会長らの逮捕を巡る状況を精査するためにルノーに採用されたクイン・エマニュエル・アークハート・サリバンは、「レイサムは日産の役員報酬問題のさまざまな側面に深く、長期にわたって関与してきた。その結果がゴーン元会長にかけられた嫌疑の基礎となっている」とした。 調査の評価のためにパッシ氏によって雇われたクリアリー・ゴットリーブ・スティーン・アンド・ハミルトンと森・濱田松本法律事務所などもL&Wは刑事訴訟や内部調査の手続きから距離を置かれるべきだと警鐘を鳴らしていた。 クリアリー・ゴットリーブはこの記事に関するコメントを控えた。アレン・アンド・オーヴェリーとクイン・エマニュエル、森・濱田松本にもコメントを求めたが返答はなかった。 元裁判官で19年に刑事手続きのアドバイス役として日産の法務部門に採用された山室恵弁護士も、L&Wが利益相反の可能性があるにも関わらずゴーン元会長の調査に関与していることに衝撃を受けたと日産の担当弁護士に伝えていたことが、19年7月の山室氏と担当弁護士らとの会合の要旨で明らかになっている。山室氏は取材に対してコメントを控えるとした。 その年の年末までには、ゴーン元会長の調査に携わったL&Wの東京オフィスの弁護士2人が退社していた。この弁護士らの当時の考えに詳しい複数の関係者によると、利益相反の案件に関わることで自分たちのキャリアに傷が付くことを恐れたためという。 ブルームバーグが確認した文書によると、日産の法務部門の責任者だったパッシ氏もナダ専務やL&Wが内部調査に関与することは、会社にとってリスクにつながると反対していた。裁判において日産を守れるかどうか危うくなるというのが理由だ。 その兆候は既に出始めているのかもしれない。日産はこのほど、米テネシー州で投資家が提起したゴーン元会長の報酬体系や内部調査に関する文書の提出を求める集団訴訟で和解に合意した。 日産はまた、多くの地域で元従業員から不当解雇で訴えられてもいる。そのうちのいくつかはゴーン元会長の件が関係している。 ゴーン元会長の逮捕以降、日産は調査のために数億ドル(数百億円)もの費用をかけて対応してきた。その規模はゴーン元会長が記載しなかったとされる約90億円を大きく上回っている』、「ゴーン元会長の逮捕以降、日産は調査のために数億ドル(数百億円)もの費用をかけて対応してきた。その規模はゴーン元会長が記載しなかったとされる約90億円を大きく上回っている」、収益基盤の弱い「日産」にとっては大きな負担だ。「ゴーン元会長の調査に携わったL&Wの東京オフィスの弁護士2人が退社・・・利益相反の案件に関わることで自分たちのキャリアに傷が付くことを恐れたためという」、「L&W」の脱法行為を如実に示しているようだ。
先ずは、本年5月27日付け東洋経済オンライン「日産ゴーン事件「最後の証人」が示した重大見解 東大教授は法廷で「虚偽記載ではない」と述べた」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/430516
・『「虚偽記載ではないと考えます」――。 東京大学の田中亘教授はそう証言した。4月22日、東京地方裁判所104号法廷でのことだ。 2018年11月に起きたカルロス・ゴーン氏の逮捕劇から2年半余り、ゴーン氏は国外に逃亡したが、同氏とともに逮捕された日産自動車・元代表取締役グレッグ・ケリー被告(64)の裁判が2020年9月から続いている。この日、田中教授は弁護側(ケリー被告側)からの証人として出廷した。 ケリー被告の容疑は金融商品取引法違反で、元CEO(最高経営責任者)のカルロス・ゴーン氏(67)と共謀し、ゴーン氏の役員報酬を実際よりも低く記載した有価証券報告書(有報)を提出したというもの。 2010年度から2017年度のゴーン氏の報酬が合計170億円だったのに、実際の記載は合計79億円だけだったので「虚偽記載」だというのが、検察の起訴事実である。これらに対し、ケリー被告は公判で「未払い報酬を隠すためにゴーンと共謀した事実はない」と一貫して否認している』、「ゴーン氏」逃亡後は、マスコミ報道も激減したので、貴重な続報だ。
・『虚偽記載ではなく「不記載」 田中教授が見解を示すうえで着目したのは、日産が有報に書いた「支払われた報酬は」という文言だった。 この開示の仕方は、内閣府令が役員報酬1億円以上の役員について個別の報酬開示を義務づけた2010年以前から、日産に限らず多くの上場企業が行ってきた。内閣府令が施行された後も、同じ形式で開示をしていた。 その事業年度の役員への対価はすべて「当期の役員報酬」とみなされる。内閣府令は、既払いか未払いかについて特に定めておらず、「役員報酬は未払い分を含めて開示しなければならない」と解釈するのが法律家の間では常識なのだという。 金融商品取引法は、「虚偽記載」と「不記載」を明確に分けている。投資家の判断に影響を与えるような重要な情報について、虚偽の数字や文章を書くのが虚偽記載、書かないことが不記載である。田中教授の見解は後者だ。 虚偽記載も不記載も、証券取引等監視委員会が課徴金の対象となると金融庁に勧告すれば、金融庁が当該企業に課徴金の納付命令を出せる。 日産は2020年2月に金融庁から24億円の課徴金納付命令を受けて、それに応じている。あくまでこれは行政処分だ。だが、検察が「特に悪質だ」と判断すれば起訴し、刑事責任の有無を問う』、「投資家の判断に影響を与えるような重要な情報について、虚偽の数字や文章を書くのが虚偽記載、書かないことが不記載である。田中教授の見解は後者だ。 虚偽記載も不記載も、証券取引等監視委員会が課徴金の対象となると金融庁に勧告すれば、金融庁が当該企業に課徴金の納付命令を出せる」、とはいっても、「不記載」より「虚偽記載:の方がはるかに悪質だ。
・『「投資家の判断」に影響を与えたか 法廷での証言から、虚偽記載ではないという田中教授の考え方はこうなる。 日産自動車の有価証券報告書。 日産の有報に書かれた「支払われた報酬は」という文言から、一般投資家は「既払いの役員報酬額が書かれているのだな」と読む。未払い分を含めた役員報酬のすべてを開示すべきと解釈されている内閣府令の趣旨を一般投資家は熟知していないだろうから「既払いの報酬はこのくらいかな」としか考えない。 機関投資家などプロの投資家ではどうか。内閣府令を熟知したプロの投資家ならば、「支払われた報酬は」と書いてあっても「報酬はすべて支払い済みであり、他に未払い報酬はないのだろう」と推察するかもしれない。 とはいえ「支払われた金額は」という書き方に、プロの投資家ならば違和感を覚えるかもしれない。その場合でも「もしかしたら未払い報酬は不記載であり、本当はあるのかもしれない」と慎重になり、他の自動車メーカーに分散投資するなどして開示に不備があるリスクを低減しようとする。だから、未払い報酬が不記載でも大きな影響はないというのが田中教授の見解だ。 この見解と正反対の証言をしたのが証券取引等監視委員会だ。 田中教授が出廷する2日前、証券取引等監視委員会の谷口義幸・開示検査課長が証言台に立った。かつて役員報酬の個別開示を企画立案した官僚であり、日産の有報を虚偽記載だと判断した責任者だ。2012年から2015年には東北大学で教鞭を取った経験もある。 谷口氏の説明はこうだった。「(日産の有報に記載された)『支払われた報酬』というのは、前置きのような文章だと一般投資家は理解する。前後の文脈から、そして総合的に見れば、内閣府令で求められている報酬(受け取るもしくは、受け取る見込みの報酬)が記載されていることは明らかだから、一般投資家は未払い報酬を含むと読む」。一般投資家が内閣府令を“熟知”しているという前提である。 だが、虚偽記載か不記載かは「個々にいろいろ勘案して決めている」。ゴーン氏の役員報酬を虚偽記載だと判断した理由や個別具体的な事情については「お話をしないことになっている」と、明確な根拠を示さなかった』、「証券取引等監視委員会の谷口義幸・開示検査課長」は「判断した理由や個別具体的な事情については「お話をしないことになっている」と、明確な根拠を示さなかった」、なるほど。
・『「田中証言は到底無視できない」 当局とは正反対の田中見解を、本裁判を担当している下津健司裁判長はどう受け止めたのだろうか。 株式会社商事法務の発刊する『会社法コンメンタール』。ビジネスに関する判例や法解釈をまとめた全22巻の大著だが、その第8巻「機関(2)」(2009年2月発行)の「第361条(取締役の報酬等)」「第379条(会計参与の報酬等)」「第379条(監査役の報酬等)」の計498ページ(索引除く)のうち、85ページを執筆したのが当時35歳だった田中教授だった。 会社関係の法務に詳しいある弁護士は、「(田中教授は)商法学者の中でもホープ中のホープ」とし、「下津裁判長はもちろんのこと、法務省のお偉方は田中証言を到底無視できない」と指摘する。 田中教授はケリー裁判の最後の証人だった。本裁判は被告人のケリー氏本人への尋問が始まっている。5月27日までで計6日間の主尋問が行われ、5月28日から計6日間の検察側尋問が始まる。 ケリー氏はゴーン氏との共謀を否定しており、司法取引をした大沼敏明・元秘書室長の証言についても「ケリー氏に指示されて未払い報酬の仕組みを考えた」などの主要部分をことごとく否定している。結審は7月7日の予定。はたして田中見解は判決にどう影響するのか。ゴーン事件の結末を最後まで見届ける必要があるだろう。 2020年1月8日、逃亡したゴーン氏がレバノンで行った会見で「田中先生」と口にしたため、後日、東洋経済は田中教授にインタビューした。全文(「ゴーン事件は日本にとって恥ずかしいことだと思う」)は『東洋経済プラス』で無料でお読み頂けます』、「「(田中教授は)商法学者の中でもホープ中のホープ」とし、「下津裁判長はもちろんのこと、法務省のお偉方は田中証言を到底無視できない」と指摘する」、さてどうなるのだろう。
次に、10月2日付けNewsweek日本版が掲載した自動車業界担当記者のアイリーン・ファルケンバーグハル 氏による「逃亡中のゴーンが本誌独占取材に実名で語った陰謀の「黒幕」を紹介しよう。
・『<自らの失脚は、一部の日産幹部が画策して日本の検察と共謀した「でっち上げ」だと主張> 自分を裏切った人間に仕返しするためではなく、自らの汚名をそそぐために、本当のことを話したいと、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長は私たちに語った。 自分の失脚は、役員報酬の開示をめぐる不正とされるものとは全く関係がないと、新著『壊れた連合』のプロモーションのために先頃レバノンの自宅で本誌のインタビューに答えたゴーンは主張した。日本側が経営の実権をフランスに譲り渡すことを恐れたのが真相だという。 ゴーンは新著で、ビジネス界での特筆すべき成功、その輝かしいキャリアに終止符を打った「陰謀」、そして2018年11月19日の逮捕について語っている。 この著書でゴーンは初めて、自らの追放を画策したと考えている日産幹部の実名を挙げた。まず、内部監査室本部長を務めていたクリスティーナ・ムレイは、社内でゴーンのスキャンダルを探っていたと、同書は記している』、「ゴーンのスキャンダルを探っていた」、ありそうなことだ。
・『画策したのは日産の幹部たち チーフ・パフォーマンス・オフィサー(CPO)の職にあったホセ・ムニョス(現在は現代自動車のグローバル最高執行責任者)も、追放計画に共謀したという。また、日産のベテラン幹部だった川口均(現在は副社長を退任)も関与したとしている。 こうした幹部たちが日本政府と一緒になって、逮捕の理由をでっち上げたと、ゴーンは語った。「この謀略は、いわば日産のオールド・ボーイズが画策したものだと思う。日産で長年働いていて......(ルノーと資本提携を結ぶ以前の時代に)郷愁を抱いている人たちのことだ」 転機になったのは18年6月にルノーと日産と三菱自動車の3社連合の全体を監督するようになったときだったと、ゴーンは振り返る。「(オールド・ボーイズたちは)自分たちの自治が奪われることを恐れた......そこで、日本政府の一部の支援を得て検察と共謀した。まさかそんなことが起きるとは、想像もしていなかった」) この出来事は単なるビジネス上の事件ではなく、国際問題という性格を持っていたと、ゴーンは指摘する。「私が逮捕されたとき......ルノーはCEOだった私を守ろうとせず、すぐに厄介払いした。フランスの大統領と財務大臣は、1つのビジネス上の取引よりも日本とフランスの関係のほうが重要だと言った」 自分の失脚の背景には人種差別とナショナリズムもあったと、ゴーンは言う。「私は日本で人気のある人物の1人ではあったが、外国人だというだけの理由で一部の日本人に嫌われていることにも気付いていた。日本有数の大企業で実権を持っているために、なおさら嫌われていたのだと思う......それでも構わないと、私は思っていた」 「けれども、タカタやオリンパス、東芝など、日本の企業でスキャンダルが持ち上がっても、日本人経営幹部は1人も刑事責任を問われなかった。私は思った。『責任を問われるべき日本人が1人もいないなんてあり得ない』」 ゴーンの逮捕と起訴は世界中で大きなニュースになり、19年末の逃亡劇はそれに輪を掛けて大きな話題を呼んだ。しかし、ゴーン自身は、「日本で大企業を立て直した唯一の外国人、そして、3つの大陸で2社、のちに3社の経営者として成功した唯一の人物として記憶されたい」と語る。 そして言う。「私は、この地球上で日本から逃げ出すことに成功した数少ない人物の1人だ」と』、「フランスの大統領と財務大臣は、1つのビジネス上の取引よりも日本とフランスの関係のほうが重要だと言った」、「フランス」から見捨てられたようだ。
第三に、11月20日付け東洋経済オンラインが転載したブルームバーグ「ゴーン氏報酬の助言し、掌返しで追放した人たち 責任追及を免れてきた利益相反行為の弁護士」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/470352
・『日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が羽田空港で身柄を拘束されてから3年の間、権勢を誇っていた元会長排除のために日産社内でどのような力関係が働いたかについて多くのことが明らかになってきた。一連の過程で主要な役割を果たしたにも関わらず、その役回りについて追及を免れてきた存在がある。弁護士だ。 世界最大級の法律事務所であるレイサム・アンド・ワトキンス(L&W)所属の一部の弁護士らは長年にわたりゴーン元会長の報酬のあり方について日産に助言を行っていた。その中にゴーン元会長が起訴された理由の一つとなった収入の総額を隠した報酬パッケージの問題が含まれていた。 一方で、2018年にゴーン元会長の報酬問題が刑事事件の捜査対象となった際には、深刻な利益相反になるとの警告が日産取締役会に寄せられていたにも関わらず、同事務所は不正行為の調査担当に採用された。 会社によるゴーン元会長の不正行為の調査に「彼らが関与することに私は当初から懸念を抱いていた」と日産の元グローバル法務担当のラビンダ・パッシ氏は話す。パッシ氏は昨年、L&Wが日産の最善の利益のために行動していたかどうかについて疑問を呈したことで解雇されたとして、不当解雇で日産を訴えた。 「私は信じられないほど驚き、ショックを受けた。同じ弁護士が自身の関与した仕事を含む事案を調査するということがどのように思われるか。不正行為があってもおかしくない状況だった」。 日産は、ルノーとのより緊密な統合を進めようとしたゴーン元会長の計画が自分たちの地位を脅かし、自社の独立性が損なわれることを恐れた。しかし、社内の関係者らが自ら引き金を引くことはしなかった。 多くの主要な局面で、1980年代から日産の法務を担ってきたL&Wの存在があったことが数百枚に及ぶ文書やインタビュー、ゴーン元会長とともに逮捕されたグレッグ・ケリー元日産取締役の公判での証言などに基づいたブルームバーグの調査で明らかになった。 利益相反の立場にあるとのパッシ氏の指摘にも関わらず、日産が裁判対応も含めてゴーン元会長関連の案件処理に追われる中、L&Wは同社の最上位の顧問法律事務所の地位にとどまった。 日産はまた、世界各地で株主やビジネスパートナー、元従業員らから起こされた多くの訴訟にも直面している。ゴーン元会長のハリウッド映画的な逮捕・逃亡劇は人々の記憶から薄れたかもしれないが、日産にとっては赤字脱却や自動車業界の急激な変化に対抗するための努力の妨げとなっており、長引く影響として残っている。 日産広報担当の百瀬梓氏は「当社は確固たる、徹底した、かつ適切な社内調査」を進め、ゴーン元会長とケリー元取締役に「重大な不正行為があったことを確認」したとコメント。「その内容は、その後複数の政府機関が自身で実施した、綿密で独立した調査結果によって裏付けられています」とした。 百瀬氏はまた、「L&Wのクライアントは常に日産であり、日産の調査に関わることによる利益相反はありません。L&Wに利益相反があった、または利益相反の可能性により確固たる調査が行えなかったという主張は、事実に基づいたものではありません」とも述べた。 L&Wはブルームバーグに宛てた声明文で、同社は「内部調査への弊社の関与については定期的に日産や同社の役員、パッシ氏を含む従業員らと議論してきた。彼ら全員が弊社の関与の継続について許可し、同意した」とコメント。 さらに、「レイサムは内部調査が偏っていたとするいかなる指摘にも強く異議を唱える。また、日米の多くの独立機関や司法当局がそれぞれ綿密な独立した捜査を実施し、内部調査と矛盾しない結論に至ったことも指摘しておく」とも述べた。 L&Wの東京オフィスのパートナーである小林広樹弁護士は、3月のケリー元取締役の公判でL&Wと日産の関係を詳細に説明した。小林氏らL&Wの東京オフィスの弁護士は日産の大株主であるルノーとの契約や子会社の設立、商業上の契約まであらゆることについて助言した。それには役員報酬の案件も含まれていたという。 2018年の初頭、ゴーン元会長は、10年に報酬1億円以上の役員に関して有価証券報告書への報酬額の開示が義務づけられて以降、自主的に放棄していた収入の一部を取り戻す方法を探っていた。 ブルームバーグが確認した電子メールによると、18年7月3日、小林氏は、当時日産の法務責任者だったハリ・ナダ専務に、ゴーン元会長の退職前に退職金から元会長への報酬を支払う場合に求められる開示内容の要件について助言を行っていた。 このやり取りは、ナダ専務やケリー元取締役を介してL&Wに転送されたゴーン元会長からの質問に対する返答という形でなされた。弁護士らはまた、日産がゴーン元会長のためにブラジルやフランス、レバノンで購入した不動産物件を元会長に売却する可能性に関してもナダ専務に助言を行った。 小林氏が送信した電子メールによると、ナダ専務とケリー元取締役は、もし株主がゴーン元会長への早期の退職金支払いを承認したとしても「取締役報酬の開示をやり直す必要はない」とL&Wから伝えられたという。 ただ、遅くともその年の4月ごろまでには、L&Wはナダ専務に別件で助言を与えるようになっていた。事情に詳しい関係者とブルームバーグが確認した文書によると、ナダ専務は公開されない給与を用意するという刑事事件に発展する可能性がある行為について、ゴーン元会長が不利になるような情報を求めていた。 L&Wからナダ専務あてに送られたある電子メールでは、日産が有価証券報告書でゴーン元会長の報酬について完全に説明することができなかった場合、日本の当局から罰金や罰則、責任者の収監などを含めた介入を受ける可能性があることなどが説明されている。 電子メールの内容は、L&Wが日産社内の少人数のグループと仕事をしていたナダ専務に対して、金融商品取引法に違反している可能性がある報酬の支払い方法について助言を行っていたことを示している。資料によると、それらの電子メールのいくつかはナダ専務の会社のメールアドレスではなく、個人のアドレス宛てに送られていた。 報酬問題で主要なアドバイザーを務めていたにも関わらず、L&Wはゴーン元会長の逮捕後に、当時の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)から社内調査に関する正式な依頼を受け、これを引き受けた。事情に詳しい関係者によると、西川元社長はナダ専務の意見を受けてL&Wを起用したという。19年に日産を退社した西川氏はコメントを控えた。 小林氏はゴーン元会長とケリー元取締役の逮捕から1年半後の19年9月の日産取締役会で社内調査の結果を発表し、この調査が最終的に両社の不正に関する公的な説明となった。 ゴーン元会長の広報担当者であるジュン・アイセンウォーター氏は「日産がL&Wと実施した日産の内部調査は利益相反の問題で汚点がついており、独立したものではない」とコメント。「まさに捜査対象となっていた案件について法務上のアドバイスを与えていたということで、日産の長年にわたる外部顧問としてL&Wは独立して事実を指摘する存在ではなかった」。 ケリー元取締役の米国における代理人を務めるジェームス・ウェアハム氏はL&Wについて自らが助言した案件についての調査を主導したという意味で「地球上で最も利益相反となっている法律事務所」だと表現。調査に関わることに同意するべきではなかったとした。 少なくとも六つの法律事務所が当時パッシ氏が率いていた日産の法務部門に対し、ナダ専務とL&Wに調査の責任者を継続させることについての法的なリスクや利益相反を警告した。そのうちの一つはルノー、もう一つは日産が採用した事務所だった。 「L&Wは調査の対象となっている事実に関与しており、証人として呼ばれる可能性があることを認めていることから、独立しているとはみなされない」。日産に採用された法律事務所のアレン・アンド・オーヴェリーは19年1月の書簡でこのように述べた。 ゴーン元会長らの逮捕を巡る状況を精査するためにルノーに採用されたクイン・エマニュエル・アークハート・サリバンは、「レイサムは日産の役員報酬問題のさまざまな側面に深く、長期にわたって関与してきた。その結果がゴーン元会長にかけられた嫌疑の基礎となっている」とした。 調査の評価のためにパッシ氏によって雇われたクリアリー・ゴットリーブ・スティーン・アンド・ハミルトンと森・濱田松本法律事務所などもL&Wは刑事訴訟や内部調査の手続きから距離を置かれるべきだと警鐘を鳴らしていた。 クリアリー・ゴットリーブはこの記事に関するコメントを控えた。アレン・アンド・オーヴェリーとクイン・エマニュエル、森・濱田松本にもコメントを求めたが返答はなかった。 元裁判官で19年に刑事手続きのアドバイス役として日産の法務部門に採用された山室恵弁護士も、L&Wが利益相反の可能性があるにも関わらずゴーン元会長の調査に関与していることに衝撃を受けたと日産の担当弁護士に伝えていたことが、19年7月の山室氏と担当弁護士らとの会合の要旨で明らかになっている。山室氏は取材に対してコメントを控えるとした。 その年の年末までには、ゴーン元会長の調査に携わったL&Wの東京オフィスの弁護士2人が退社していた。この弁護士らの当時の考えに詳しい複数の関係者によると、利益相反の案件に関わることで自分たちのキャリアに傷が付くことを恐れたためという。 ブルームバーグが確認した文書によると、日産の法務部門の責任者だったパッシ氏もナダ専務やL&Wが内部調査に関与することは、会社にとってリスクにつながると反対していた。裁判において日産を守れるかどうか危うくなるというのが理由だ。 その兆候は既に出始めているのかもしれない。日産はこのほど、米テネシー州で投資家が提起したゴーン元会長の報酬体系や内部調査に関する文書の提出を求める集団訴訟で和解に合意した。 日産はまた、多くの地域で元従業員から不当解雇で訴えられてもいる。そのうちのいくつかはゴーン元会長の件が関係している。 ゴーン元会長の逮捕以降、日産は調査のために数億ドル(数百億円)もの費用をかけて対応してきた。その規模はゴーン元会長が記載しなかったとされる約90億円を大きく上回っている』、「ゴーン元会長の逮捕以降、日産は調査のために数億ドル(数百億円)もの費用をかけて対応してきた。その規模はゴーン元会長が記載しなかったとされる約90億円を大きく上回っている」、収益基盤の弱い「日産」にとっては大きな負担だ。「ゴーン元会長の調査に携わったL&Wの東京オフィスの弁護士2人が退社・・・利益相反の案件に関わることで自分たちのキャリアに傷が付くことを恐れたためという」、「L&W」の脱法行為を如実に示しているようだ。
タグ:(その3)(日産ゴーン事件「最後の証人」が示した重大見解 東大教授は法廷で「虚偽記載ではない」と述べた、逃亡中のゴーンが本誌独占取材に実名で語った陰謀の「黒幕」、ゴーン氏報酬の助言し、掌返しで追放した人たち 責任追及を免れてきた利益相反行為の弁護士) ゴーン問題 東洋経済オンライン 「日産ゴーン事件「最後の証人」が示した重大見解 東大教授は法廷で「虚偽記載ではない」と述べた」 「ゴーン氏」逃亡後は、マスコミ報道も激減したので、貴重な続報だ。 「投資家の判断に影響を与えるような重要な情報について、虚偽の数字や文章を書くのが虚偽記載、書かないことが不記載である。田中教授の見解は後者だ。 虚偽記載も不記載も、証券取引等監視委員会が課徴金の対象となると金融庁に勧告すれば、金融庁が当該企業に課徴金の納付命令を出せる」、とはいっても、「不記載」より「虚偽記載:の方がはるかに悪質だ。 「証券取引等監視委員会の谷口義幸・開示検査課長」は「判断した理由や個別具体的な事情については「お話をしないことになっている」と、明確な根拠を示さなかった」、なるほど。 「「(田中教授は)商法学者の中でもホープ中のホープ」とし、「下津裁判長はもちろんのこと、法務省のお偉方は田中証言を到底無視できない」と指摘する」、さてどうなるのだろう。 Newsweek日本版 アイリーン・ファルケンバーグハル 「逃亡中のゴーンが本誌独占取材に実名で語った陰謀の「黒幕」 「ゴーンのスキャンダルを探っていた」、ありそうなことだ。 「フランスの大統領と財務大臣は、1つのビジネス上の取引よりも日本とフランスの関係のほうが重要だと言った」、「フランス」から見捨てられたようだ。 ブルームバーグ 「ゴーン氏報酬の助言し、掌返しで追放した人たち 責任追及を免れてきた利益相反行為の弁護士」 世界最大級の法律事務所であるレイサム・アンド・ワトキンス(L&W) 長年にわたりゴーン元会長の報酬のあり方について日産に助言 「ゴーン元会長の逮捕以降、日産は調査のために数億ドル(数百億円)もの費用をかけて対応してきた。その規模はゴーン元会長が記載しなかったとされる約90億円を大きく上回っている」、収益基盤の弱い「日産」にとっては大きな負担だ。「ゴーン元会長の調査に携わったL&Wの東京オフィスの弁護士2人が退社・・・利益相反の案件に関わることで自分たちのキャリアに傷が付くことを恐れたためという」、「L&W」の脱法行為を如実に示しているようだ。