エネルギー(その8)(再生可能エネばかりを重視したヨーロッパがはまったエネルギー危機、世界同時多発エネルギー危機の真因 スケープゴートになった脱炭素政策 すべては化石資源の上流投資縮小から始まった、三菱商事社長が激白「2兆円」巨額投資の使い道 「エネルギー激変期」に総合商社の雄が大勝負) [産業動向]
エネルギーについては、11月14日に取上げたばかりだが、余りの市場混乱を受けた今日は、(その8)(再生可能エネばかりを重視したヨーロッ
パがはまったエネルギー危機、世界同時多発エネルギー危機の真因 スケープゴートになった脱炭素政策 すべては化石資源の上流投資縮小から始まった、三菱商事社長が激白「2兆円」巨額投資の使い道 「エネルギー激変期」に総合商社の雄が大勝負)である。
先ずは、10月14日付けNewsweek日本版が掲載した民主主義防衛財団エネルギー問題上級顧問のブレンダ・シェーファー氏による「再生可能エネばかりを重視したヨーロッパがはまったエネルギー危機」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/10/post-97270_1.php
・『<現在のエネルギー需給の逼迫を招いた原因は、再生エネルギーへの過剰投資とエネルギー地政学の軽視にあり> エネルギー危機が世界中に広がっている。燃料価格の高騰や供給の不足に加え、停電も頻発している。アメリカでも一部の州は電力の安定供給に四苦八苦している。 こんな危機は数十年ぶりだから、誰もが不意を突かれた。エネルギーの供給が不安定になれば経済だけでなく安全保障にも環境にも、さらには公衆衛生にも甚大な影響が及ぶことを、みんな忘れていた。 エネルギーはどんな商品にも使われており、全ての商品価格に影響を及ぼす。エネルギーなくして製造業は成り立たず、その価格と供給の安定は一国の経済的競争力を維持する上で死活的に重要だ。また電気代と燃料費は国民生活に必須な支出項目であり、その急激な上昇は貧困層を直撃する。電力供給に不安があれば、政府機関やインフラも維持できない。エネルギー安保の重要性は明らかで、いわゆる国家安全保障と同等に扱われねばならない。 ヨーロッパを見るがいい。ガスや石炭、電気の価格が高騰し、スペインでは家庭用電気料金の値上げに抗議するデモが起きた。イギリスでは給油待ちのトラックが長蛇の列を成している。まるで1970年代のような光景だ。このまま天然ガスをはじめとするエネルギーの不足が続けば、ヨーロッパは暖房のない冬を覚悟しなければならない。 こうした惨状に、世界各国は学ぶべきだ。ヨーロッパはエネルギー市場の再編に知恵を絞り、多額の資金を投じてきたが、見るも無惨な状況に陥った。何が間違っていたのか。他国にとっての教訓は何か』、「こんな危機は数十年ぶりだから、誰もが不意を突かれた。エネルギーの供給が不安定になれば経済だけでなく安全保障にも環境にも、さらには公衆衛生にも甚大な影響が及ぶことを、みんな忘れていた」、その通りだ。
・『現実の複雑さを無視した議論 ヨーロッパのエネルギー問題をめぐる議論は、もっぱら再生可能エネルギー派と化石燃料派の対決という構図で行われてきた。これは文化戦争であり、後者は風力も太陽光も安定性を欠く(そもそもヨーロッパの大半の地域は日照が少ない)から、そんなものには依存できないと論ずる。逆に前者は、化石燃料は価格が変動しやすいし、ロシア産の天然ガスに依存することのリスクは大きいと指摘する。 だが現実はもっと複雑だ。エネルギー安全保障の実現には、市場原理と技術、政策、地政学のバランスを慎重に保つ必要がある。市場原理に委ねようとする右派の思想と、そうはさせまいとする左派の思想。そのせめぎ合いこそが今日のエネルギー危機につながった。 EUはエネルギー市場自由化の一環として、特定企業(ロシアのガスプロムなど)と固定価格で長期の供給契約を結ぶ方式をやめて、日々のスポット価格をベースにした契約に移行するよう促してきた。それは市場原理派の勝利を意味していたが、必ずしも安定供給と価格のバランスに関する綿密な分析を踏まえた上の判断ではなかった』、「エネルギー安全保障の実現には、市場原理と技術、政策、地政学のバランスを慎重に保つ必要がある。市場原理に委ねようとする右派の思想と、そうはさせまいとする左派の思想。そのせめぎ合いこそが今日のエネルギー危機につながった」、明快な解説だ。
・『EUの誤算でロシア有利の状況に そのため、この政策はいくつかの点でネガティブな結果を招いた。まず、日々変動するスポット価格を基準にした結果、天然ガスの価格支配力を持つロシア側の優位性が一段と高まった。ロシアはヨーロッパ向け天然ガスの最大の供給国であり、生産力には十分な余裕がある。だから供給量の調節によって、いくらでも市場価格を操作できる。 それだけではない。固定価格方式の排除は供給の安定を困難にする。天然ガスの生産とパイプライン敷設には巨額の投資と長年に及ぶ開発期間が必要だ。それほどの投資をする意欲はなかなか生まれないから、供給側の数は限られる。結果、ロシアの市場支配力が高まった。そのロシアが欧州地域への供給拡大に後ろ向きであることも、今回の危機の要因となっている。 ロシア産天然ガスの供給減を補うには割高な液化天然ガス(LNG)の輸入を増やすしかない。しかしLNGは従来から東アジア諸国が買っており、その価格水準はヨーロッパより高い。それでも買いたければ、ヨーロッパはアジア諸国以上の価格を受け入れるしかない。 価格は市場原理に委ねると言いながら、EUはしばしば政治的な目的を優先してきた。総電力に占める再生可能エネルギーの割合を増やすよう加盟国に義務付けているし、電力会社が最も採算性の高い燃料(石炭)を使うことも許さない。しかも大半の国が電気料金やガス料金に規制を設けているから、電力会社はコストを消費者に転嫁できない。 問題はそれだけではない。太陽光や風力に頼る場合、発電量は天候に左右される。しかし電力会社は電力の安定供給と停電回避を求められているので、悪天候時のバックアップ用に在来の(つまり天然ガスや石炭を燃やす)火力発電施設も維持しなければならない。 言うまでもないが、そうした余剰発電能力の維持には費用がかかる。しかしその費用は、再生可能エネルギー事業者ではなく、電力会社が負担し、最終的には消費者に転嫁される。しかもエネルギー価格の上昇を受けて、イギリスを含む各国政府は新たに価格上限を設けた。これでは市場の自由を放棄したに等しい。 ヨーロッパは長期に及ぶ寒波の到来といった急激な電力需要増への対策を用意していない。自国内で電力不足が予想される場合、各国政府はどんな犠牲を払っても国内向けの天然ガスを確保しようとする。例えば厳冬となった2010年の初め、一部の国は国内の暖房用電力を確保するため、ルール違反を承知でパイプラインから他国向けのガスを抜き取った。今年もガスの供給量が落ち込んでいるから、同様な事態が起きる可能性がある。) また、再生可能エネルギーに莫大な投資をしながら、ヨーロッパは電力供給の要となる送配電網への投資をおろそかにしてきた。電力の安定供給には蓄電システムやバックアップ電源の確保、送配電網の整備など複雑な体制づくりが必要で、とても民間だけでは対応できない。 電力会社に適切な蓄電とバックアップの体制を義務付けるのが無理なら、政府自身がその責任を果たすしかない。電気自動車のために補助金を大盤振る舞いして電力の使用を増やす一方で、そこで生じる需要増に見合うだけの電力供給体制を用意しないとすれば、大規模停電のお膳立てをしているようなものだ』、極めて手厳しい欧州政府への批判だ。
・『エネルギー地政学への関与をやめた欧州 最後に、ヨーロッパ各国はエネルギー地政学への関与をやめてしまった。EUはかつて、域内の天然ガスパイプライン網を構築し、カスピ海沿岸からの新しい天然ガス輸送プロジェクトなどを進め、エネルギー安全保障の強化に成功した。 こうしてヨーロッパにおけるガス供給の安全は高まり、多くの地域でロシアの独占は失われた。だが現在の欧州委員会はエネルギー政策を気候政策の一部としており、安全保障や手頃な価格のエネルギー供給にはほとんど注意を払っていない。 地中海東部などの比較的近い場所でも新しい天然ガス資源が発見されているのに、EUの指導者たちは環境活動家の圧力に屈し、新たに利用可能な資源の開発に真剣に取り組もうとしていない。 また福島第一原発の事故以来、ドイツを含む一部の諸国が原子力発電所の閉鎖や順次廃止に踏み切ったため、安全で安定したクリーンなエネルギー源が失われたことも、現下のエネルギー危機の要因の1つだ。 アメリカも同じ道を歩み、遠からずヨーロッパ的な危機を招くのだろうか? 状況は似ている。今年2月の寒波で起きたテキサス州の電力危機や8月のカリフォルニア州の計画停電は、今後起こりそうな事態の前触れかもしれない。 アメリカもエネルギー地政学に背を向けようとしている。バイデン政権はパンデミックでエネルギー需要が急減した後、国内の石油・ガス生産の再開を抑制している。石油・ガスへの民間投資も、化石燃料からの撤退を求める国際社会の圧力や世論の動向、そして投資家の意向によって抑えられている。 アメリカ政府はOPEC(石油輸出国機構)からの輸入を増やせばいいと考えているようだが、それでは化石燃料の生産地がアメリカから外国に移るだけで、環境問題の改善にはならない。またエネルギー安全保障上の新たな懸念も生じる。) アメリカ政府が国内の化石燃料生産を抑え続けるなら、1970年代のようにOPECが価格と供給を支配することになる。これでは気候や環境面の利点がほとんどなく、地政学上の問題が増加するだけだ。 バイデン政権はまた、国内のエネルギー供給の安定を確保できるはずだった複数のパイプライン敷設計画を中止させた。 このことは天然ガスの価格に重大な影響を及ぼす。LNGに対する需要は世界中で増えているから、米国産天然ガスも多くは輸出に振り向けられる。そうなれば、国内のエネルギー価格は高騰する』、「アメリカ政府が国内の化石燃料生産を抑え続けるなら、1970年代のようにOPECが価格と供給を支配することになる。これでは気候や環境面の利点がほとんどなく、地政学上の問題が増加するだけだ」、その通りだ。
・『欧州の危機を反面教師にせよ またアメリカは連邦レベルでも州レベルでも、運輸産業などにおけるエネルギー消費の「電化」を推進している。国内最大のエネルギー消費地であるカリフォルニア州やニューヨーク州、テキサス州は今でも電力の構造的な不足を抱えているのに、政府が電力消費の増加を促している。しかも電力需要の増加に対応できる送配電網は整備されていない。 今こそ世界各国はヨーロッパのエネルギー政策の失敗をつぶさに検証し、現在のエネルギー危機を、同じ過ちを犯さないための警鐘と捉えるべきだ。電力の生産・供給・販売は民間企業でもできる。しかし電力不足で大規模停電が起きた場合、国民は政府の責任を問う。手頃な価格でエネルギーを安定供給できないような国に、未来はない』、「国内最大のエネルギー消費地であるカリフォルニア州やニューヨーク州、テキサス州は今でも電力の構造的な不足を抱えているのに、政府が電力消費の増加を促している」、アメリカでも政策は整合性を著しく欠いているようだ。
次に、10月22日付け日経ビジネスオンラインが掲載したエネルギーアナリスト/ポスト石油戦略研究所代表の大場 紀章氏による「世界同時多発エネルギー危機の真因、スケープゴートになった脱炭素政策 すべては化石資源の上流投資縮小から始まった」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00237/102100014/
・『昨今の原油高や欧州での電力・ガス価格の高騰などは、なぜ起きているのか。急激に動き出した各国の脱炭素政策の影響はあるのだろうか。エネルギーアナリストでポスト石油戦略研究所代表の大場紀章氏に解説してもらった。 現在、世界同時多発的にエネルギー危機が発生している。特に、欧州での電力・ガス価格の高騰、中国での計画停電、そして原油価格高騰によるガソリン高が話題になっている。 こうした問題を受けて「脱炭素政策の行き過ぎによるもの」という指摘がある。全く無関係とまでは言わないが、ほとんどナンセンスと言っていい。そう説明がしたい人による説明だろう。 そもそも「脱炭素政策」というのは、この2年で急に世界で起きたムーブメントであり、そのような短期間でエネルギー供給の構造が大きく変わるということはない。 それでは、なぜエネルギー価格が一斉に上昇しているのか。価格高騰原因は、どこを起点にして、何を前提にして考えるかによって様々な説明があり得る。究極的には神学論争となるが、筆者が最も説得力があると考えているのは、化石資源開発の停滞問題である』、「「脱炭素政策の行き過ぎによるもの」という指摘がある。全く無関係とまでは言わないが、ほとんどナンセンスと言っていい」、「価格高騰原因は・・・・様々な説明があり得る・・・筆者が最も説得力があると考えているのは、化石資源開発の停滞問題である」、なるほど。
・『石油業界の懸念が的中した 覚えておられる方もいるかもしれないが、2014年から2016年にかけて原油価格が大幅に下落した時期があった。きっかけは2014年春に上海株式市場が混乱し、中国経済の失速懸念が出たことだった。 世界のエコノミストが予想経済成長率を軒並み下方修正した結果、それまで1バレル100ドル程度で推移していた原油価格が急落。さらに同年秋の石油輸出国機構(OPEC)総会で、市場が期待していた減産合意を行わなかったことで、原油価格はさらに下落し、歯止めが効かなくなった。このOPECの動きは後に「シェール潰し」などと呼ばれた。 その結果、石油やガスの上流投資は大幅に削減され、投資額がピークだった2014年比で2016年は45%の減少となった』、
・『化石資源の上流投資額は2014年がピークだった その後、原油価格は徐々に回復したが、石油・ガス業界は数十万人のリストラに踏み切るなどダメージが大きく、上流投資が戻って来ない状況が続いていた。そこに到来したのが、新型コロナウイルス感染拡大による経済の停滞だ。コロナ禍によって再び原油価格は下落し、上流投資はさらに減って2020年は2014年比で58%減となった。 一般に、石油・ガス開発は、開発サイクルの速いシェールを除けば、投資から生産まで少なくとも5~6年はかかる。このため2015年以降の上流投資不足が2020~2021年ごろの供給に影響を及ぼすだろうと、石油業界はかねて懸念していた。 ところが、2020年はコロナ禍で石油需要が縮小してしまったため、この懸念はひとまず表出せずに済んだ。だが、徐々に世界経済が回復するにつれて、供給力不足の問題が原油価格の高騰という形で現れてきたというのが筆者の見立てである』、「石油・ガス開発は・・・投資から生産まで少なくとも5~6年はかかる。このため2015年以降の上流投資不足が2020~2021年ごろの供給に影響を及ぼすだろうと、石油業界はかねて懸念・・・2020年はコロナ禍で石油需要が縮小してしまったため、この懸念はひとまず表出せずに済んだ。だが、徐々に世界経済が回復するにつれて、供給力不足の問題が原油価格の高騰という形で現れてきたというのが筆者の見立てである」、なるほど。
・『脱炭素トレンドは上流投資縮小より後の話 脱炭素やカーボンニュートラルというトレンドは、2019年の英国による宣言を皮切りに顕在化した。2019年にEU各国が英国に続いて宣言し、2020年には中国、そして日本も続いた。米国もバイデン政権が誕生すると、この動きに追随した。 だが、いずれも石油・ガス上流投資が縮小した後に起きており、直接関係がない。確かに今年に入り石油メジャーが脱炭素のために石油開発を縮小するという動きはあったが、現在の生産量には全く影響していないだろう』、「脱炭素トレンドは上流投資縮小より後の話」、その通りなのだろう。
・『英国の危機は不幸な事態がたまたま重なった 現在起きている世界エネルギー危機の中でも、最も深刻な事態となっているのは英国だろう。不幸にも様々な事態が、たまたま重なって危機に陥ったと筆者はみている。 まず、上流投資縮小の影響が最も出た地域の1つが欧州の北海油田・ガス田であり、生産量が大きく縮小している。それに加え、欧州の排出権価格(EU-ETS)の高騰で石炭火力から天然ガス火力へのシフトが起き、天然ガス需要が増えていた。そこへきて、たまたま風が弱い時期が続き、風力発電の出力が低下した。 加えて、計画していたロシアからのガスパイプラインの稼働時期が米国の制裁のため遅れていることや、米国のLNG(液化天然ガス)輸出基地の投資が縮小していたことも影響した。中国が国内の石炭炭鉱の生産性向上のために生産抑制政策を打ち出し、LNG調達量を増やしたことで、アジアのLNG価格が高騰。その結果、米国のLNGが欧州ではなくアジアに向かったことが追い打ちをかけている。 こうして欧州の天然ガス在庫量が例年を下回り、ガス価格の高騰から電力価格が急激に上昇。その影響で小売事業者が破綻するといった事態が連鎖的に発生しているのだと考えられる。 一部には、風力発電の出力低下を電力不足の要因とする声もあるが、欧州で再エネを主因とする言説はマジョリティではない。むしろ、だからこそ風力開発を加速すべきだとさえ言われている』、「たまたま風が弱い時期が続き、風力発電の出力が低下・・・計画していたロシアからのガスパイプラインの稼働時期が米国の制裁のため遅れ・・・米国のLNG輸出基地の投資が縮小していたことも影響」、多くの要因が重なったようだ。
・『短期的にはCO2排出量を増やす方策で、この冬をしのぐ 世界的なエネルギー価格の高騰は、元をたどれば石油・ガスの上流投資の縮小に起因しているため、現在の状況はすぐには解決しない。欧州で石炭火力や石油火力を稼働させたり、中国で石炭を増産するなど、短期的にはCO2排出量を増やす方策を講じながら、なんとか今年の冬を越すしかない。 上流側の打開策としては、OPEC加盟国とロシアなどでつくる「OPECプラス」による減産解除の前倒しやロシアの天然ガスパイプラインの稼働、そして中国による石炭の増産がある。時期は読み通せないが、エネルギー価格の高騰が続けば、いずれ動き出すだろう。 天然ガスと石炭の需給は、この3つの方策で緩むはずだ。ガスと石炭は発電用燃料としての利用が中心なので、3つの方策によって電力価格の高騰はしばらくの間は乗り切れるだろう。 石油に関しては、EV(電気自動車)が欧州や中国でいくら売れても、世界の道を走る車が内燃機関から電動車に入れ替わるには、長い時間を要する。つまり、輸送の電動化は短期的な石油需要削減の効果はほとんどない。加えて、OPECプラスの増産余地はさほど大きくない。このため、原油高は世界経済が減速するまで高止まりが続く可能性がある。 国際エネルギー機関(IEA)は、石油が不足していても上流投資の増額は不要で、再エネに今の3倍投資すべきだとした。ただ、現状を直視すれば「石油投資はまだ必要」だとメッセージを出すのがIEAの本来の役割だろう』、「現状を直視すれば「石油投資はまだ必要」だとメッセージを出すのがIEAの本来の役割だろう」、その通りだ。
・『上流開発の不足を甘く見ていた 結局、現在のエネルギー危機は、脱炭素トレンドとは無関係で、単に社会が化石資源の上流開発の不足を甘く見ていたため発生したのである。 一方、脱炭素トレンドは、「これからは化石資源に頼らずとも再生可能エネルギーで賄える」と人々に信じさせたという意味で、上流投資の問題に気づくのを遅らせたという影響はあったかもしれない。 サウジアラビアの元石油大臣だったアハマド・ザキ・ヤマニは、「石器時代は石が不足して終わったのではないように、石油時代も石油が枯渇して終わるのではないだろう」と言ったといわれる。 これは、石器に代わる鉄器などのより良い道具が出現したことが、石器時代を終わらせたという意味だが、現在起きていることは、鉄器が十分供給される前に、石の供給を止めた結果、道具が不足してしまったという状況にあたる。新しい道具は使い方が異なるので、うまく扱わなければケガをすることもあるだろう。 石油時代を終わらせるには、投資を先に止めるのではなく、それに代わるものを普及させることで、石油を無用のものとするしかない。そうでなければ、現在起きているような危機を繰り返すことになるだろう。(大場氏の略歴はリンク先参照)』、「現在のエネルギー危機は、脱炭素トレンドとは無関係で、単に社会が化石資源の上流開発の不足を甘く見ていたため発生したのである。 一方、脱炭素トレンドは、「これからは化石資源に頼らずとも再生可能エネルギーで賄える」と人々に信じさせたという意味で、上流投資の問題に気づくのを遅らせたという影響はあったかもしれない」、なるほど。
第三に、11月22日付け東洋経済オンライン「三菱商事社長が激白「2兆円」巨額投資の使い道 「エネルギー激変期」に総合商社の雄が大勝負」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/470519
・『総合商社大手の三菱商事は10月18日、温室効果ガス(GHG)排出量を2050年に実質ゼロにする方針を公表。あわせてエネルギートランスフォーメーション(EX)関連投資へ2030年までに2兆円を投じる方針を明らかにした。 現在は世界的に脱炭素が叫ばれ、再生可能エネルギーの普及が進む、まさに「エネルギーの移行期」だ。三菱商事にとっても再エネの導入拡大や水素・アンモニア事業への投資など、脱炭素社会を見据えたビジネスモデルへ転換させていくことは喫緊の課題となっている。 一方、足元では急速な再エネの普及が電力供給の不安定さを誘発する一因となり、天然ガスや石炭など化石燃料の価格高騰につながった。一足飛びに脱炭素を急げば、エネルギー価格の高騰や電力不足を招きかねない事態になっている。 資源の安定供給に深く携わってきた商社トップは、現在のエネルギー市場の激変をどう見るか。三菱商事の垣内威彦社長を直撃した(Qは聞き手の質問、Aは垣内氏の回答)、「エネルギー」取扱高、商社NO.1の「三菱商事」社長へのインタビューとは興味深そうだ。
・『異常なのは天然ガス価格 Q:世界的に資源価格が高騰しています。 原油価格は1バレル=60~70ドル前後が妥当な水準だ。(足元の)80ドル前後は決しておかしなレベルではない。 いま異例の価格をつけているのは天然ガスだ。異常気象の影響を受けて、欧州と中国が大量に天然ガスを買っている。 重要なのは、現在のようなエネルギーの移行期には需給のバランスが取りにくくなるということだ。世界的に再エネの比率が明らかに増えてきている。再エネは天候によって出力が変動する電源で、猛暑や厳冬といった事情で需要が変化すれば、需給が不安定になりやすい。 その結果、資源、電力価格の上昇につながる。これは企業にとっては大きな問題だ。エネルギーは最も基礎的な素材だから、エネルギー価格が2倍、3倍と上がってしまえば事業の採算をとりづらくなってしまう。 Q:エネルギー移行期に商社が果たす役割は? A:移行期の局面で、エネルギーを安定供給するためには天然ガスやLNG(液化天然ガス)を活用するほかない。特に日本ではそうだ。 (脱化石燃料の)流れに逆行するようだが、われわれは局面に応じてLNGの増産や再投資をする覚悟があると、10月に公表した「カーボンニュートラル社会へのロードマップ」の中で示した。エネルギーの安定供給に必要ならばこそこそ黙って投資するのではなく、腹を括って実行しようと決断した。 長期で見たときに究極のエネルギーは何かというと、水素やアンモニアだろう。ただ、当面はコスト上の問題や安定供給を考えるとCO2(二酸化炭素)を分離・回収した上で、天然ガスから比較的安価なブルー水素・ブルーアンモニアが製造されることになる』、「移行期の局面で、エネルギーを安定供給するためには天然ガスやLNG・・・を活用するほかない。特に日本ではそうだ・・・エネルギーの安定供給に必要ならばこそこそ黙って投資するのではなく、腹を括って実行しようと決断した」、なるほど。
・『「半歩先」を予測してきた どちらも元になる素材は天然ガスだ。つまり、天然ガスは繋ぎのエネルギーとして、長期にわたって生き残る。そんな宿命を背負った燃料になるだろう。 やがては(生成時にCO2を排出しない)グリーン水素があるはずだが、イノベーションを起こさないと実現は難しい。2030年までの話と2050年の話をするのでは大違いだ。 Q:社内でも議論があったのではないでしょうか? (垣内氏の略歴はリンク先参照) A:ロードマップの策定に当たっては、社会の変化に対して三菱商事がどう対応するべきかを議論した。グループ(部門)の壁を越えて議論することが重要だ。社長就任以来、組織がたこつぼ化しないようにと、ずっと心掛けてきた。 2年ほど前から天然ガス、石油化学ソリューション、電力ソリューションの3グループを中心に議論を重ねてきた。このロードマップをしっかり理解し、全社員が一丸となって前に進んでいかなければならない。 当社が今日までやって来られたのは将来を予測し、半歩先を歩んできたからだ。例えば、かつて(1969年に)東京ガスとともに日本へ初めてLNGを導入したときも半歩先を歩むという姿勢があったからこそ、上手くいったのだと思う。外部環境や価値観の変化といった難しい局面をこれまで何度も乗り越えてきた。そのことを忘れてはいけない。 Q:一方、再エネにも投資を加速する計画です。 A:2030年度までにエネルギートランスフォーメーション(EX)関連投資に2兆円を投じる。このうち、約半分ほどは洋上風力を中心とする再エネに投資し、再エネの持分容量を660万kWに倍増させる見通しだ。発電機の大型化が進む風力はまだまだコストダウンを図れる。 資源についても次世代で必要とされる競争力の高い案件には力を入れていきたい。一般炭権益を売却し、電化に欠かせない銅などへ資産の入れ替えを進めてきた。2022年度にはペルーのケジャベコ銅鉱山が生産を開始する』、「半歩先を歩むという姿勢があったからこそ、上手くいったのだと思う」、「半歩先を歩む」、というのも、余り先行し過ぎずにやる絶妙なバランスなのだろう。
・『AIやデジタル化も活用 Q:2兆円というと巨額ですね。 A:再エネや鉱山開発、アンモニアなどを進めるとお金がかかる。それなりの試算をした上で約2兆円という金額を出している。私が社長に就任して6年弱の間にグロスで5兆円を投資し、約3兆円を回収している。2030年までに2兆円というと年間2000億円程度だ。三菱商事のポートフォリオからすれば、無理のない金額だ。 Q:脱炭素はピンチとチャンスどちらですか。 A:当社は2050年に温室効果ガス排出量をネット(実質)ゼロにする方針を掲げており、全社を挙げて実現に取り組んでいる。 今後、自らカーボンニュートラルを達成できない企業は、未達となる排出量分の炭素クレジットを購入しなさいという仕組みが導入される可能性がある。当社の排出量(2020年度)は2530万トン。仮に炭素クレジットが1トン当たり150ドルかかる前提なら、金額は約38億ドル(約4300億円)にものぼる。早めに手を打って再エネを推進していくことが重要だ。 脱炭素の移行期に、単純にエネルギーを置き換えるだけというのは原始的な発想。AI(人工知能)やデジタル化といったイノベーションを組み合わせ、省エネなどにつなげることも重要だ。それが企業価値を高めることにもつながる』、「私が社長に就任して6年弱の間にグロスで5兆円を投資し、約3兆円を回収・・・2030年までに2兆円というと年間2000億円程度だ。三菱商事のポートフォリオからすれば、無理のない金額だ」、「回収」がかなりあるのに驚かされた。「脱炭素の移行期に、単純にエネルギーを置き換えるだけというのは原始的な発想。AI(人工知能)やデジタル化といったイノベーションを組み合わせ、省エネなどにつなげることも重要」、なるほど上手いやり方だ。
パがはまったエネルギー危機、世界同時多発エネルギー危機の真因 スケープゴートになった脱炭素政策 すべては化石資源の上流投資縮小から始まった、三菱商事社長が激白「2兆円」巨額投資の使い道 「エネルギー激変期」に総合商社の雄が大勝負)である。
先ずは、10月14日付けNewsweek日本版が掲載した民主主義防衛財団エネルギー問題上級顧問のブレンダ・シェーファー氏による「再生可能エネばかりを重視したヨーロッパがはまったエネルギー危機」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/10/post-97270_1.php
・『<現在のエネルギー需給の逼迫を招いた原因は、再生エネルギーへの過剰投資とエネルギー地政学の軽視にあり> エネルギー危機が世界中に広がっている。燃料価格の高騰や供給の不足に加え、停電も頻発している。アメリカでも一部の州は電力の安定供給に四苦八苦している。 こんな危機は数十年ぶりだから、誰もが不意を突かれた。エネルギーの供給が不安定になれば経済だけでなく安全保障にも環境にも、さらには公衆衛生にも甚大な影響が及ぶことを、みんな忘れていた。 エネルギーはどんな商品にも使われており、全ての商品価格に影響を及ぼす。エネルギーなくして製造業は成り立たず、その価格と供給の安定は一国の経済的競争力を維持する上で死活的に重要だ。また電気代と燃料費は国民生活に必須な支出項目であり、その急激な上昇は貧困層を直撃する。電力供給に不安があれば、政府機関やインフラも維持できない。エネルギー安保の重要性は明らかで、いわゆる国家安全保障と同等に扱われねばならない。 ヨーロッパを見るがいい。ガスや石炭、電気の価格が高騰し、スペインでは家庭用電気料金の値上げに抗議するデモが起きた。イギリスでは給油待ちのトラックが長蛇の列を成している。まるで1970年代のような光景だ。このまま天然ガスをはじめとするエネルギーの不足が続けば、ヨーロッパは暖房のない冬を覚悟しなければならない。 こうした惨状に、世界各国は学ぶべきだ。ヨーロッパはエネルギー市場の再編に知恵を絞り、多額の資金を投じてきたが、見るも無惨な状況に陥った。何が間違っていたのか。他国にとっての教訓は何か』、「こんな危機は数十年ぶりだから、誰もが不意を突かれた。エネルギーの供給が不安定になれば経済だけでなく安全保障にも環境にも、さらには公衆衛生にも甚大な影響が及ぶことを、みんな忘れていた」、その通りだ。
・『現実の複雑さを無視した議論 ヨーロッパのエネルギー問題をめぐる議論は、もっぱら再生可能エネルギー派と化石燃料派の対決という構図で行われてきた。これは文化戦争であり、後者は風力も太陽光も安定性を欠く(そもそもヨーロッパの大半の地域は日照が少ない)から、そんなものには依存できないと論ずる。逆に前者は、化石燃料は価格が変動しやすいし、ロシア産の天然ガスに依存することのリスクは大きいと指摘する。 だが現実はもっと複雑だ。エネルギー安全保障の実現には、市場原理と技術、政策、地政学のバランスを慎重に保つ必要がある。市場原理に委ねようとする右派の思想と、そうはさせまいとする左派の思想。そのせめぎ合いこそが今日のエネルギー危機につながった。 EUはエネルギー市場自由化の一環として、特定企業(ロシアのガスプロムなど)と固定価格で長期の供給契約を結ぶ方式をやめて、日々のスポット価格をベースにした契約に移行するよう促してきた。それは市場原理派の勝利を意味していたが、必ずしも安定供給と価格のバランスに関する綿密な分析を踏まえた上の判断ではなかった』、「エネルギー安全保障の実現には、市場原理と技術、政策、地政学のバランスを慎重に保つ必要がある。市場原理に委ねようとする右派の思想と、そうはさせまいとする左派の思想。そのせめぎ合いこそが今日のエネルギー危機につながった」、明快な解説だ。
・『EUの誤算でロシア有利の状況に そのため、この政策はいくつかの点でネガティブな結果を招いた。まず、日々変動するスポット価格を基準にした結果、天然ガスの価格支配力を持つロシア側の優位性が一段と高まった。ロシアはヨーロッパ向け天然ガスの最大の供給国であり、生産力には十分な余裕がある。だから供給量の調節によって、いくらでも市場価格を操作できる。 それだけではない。固定価格方式の排除は供給の安定を困難にする。天然ガスの生産とパイプライン敷設には巨額の投資と長年に及ぶ開発期間が必要だ。それほどの投資をする意欲はなかなか生まれないから、供給側の数は限られる。結果、ロシアの市場支配力が高まった。そのロシアが欧州地域への供給拡大に後ろ向きであることも、今回の危機の要因となっている。 ロシア産天然ガスの供給減を補うには割高な液化天然ガス(LNG)の輸入を増やすしかない。しかしLNGは従来から東アジア諸国が買っており、その価格水準はヨーロッパより高い。それでも買いたければ、ヨーロッパはアジア諸国以上の価格を受け入れるしかない。 価格は市場原理に委ねると言いながら、EUはしばしば政治的な目的を優先してきた。総電力に占める再生可能エネルギーの割合を増やすよう加盟国に義務付けているし、電力会社が最も採算性の高い燃料(石炭)を使うことも許さない。しかも大半の国が電気料金やガス料金に規制を設けているから、電力会社はコストを消費者に転嫁できない。 問題はそれだけではない。太陽光や風力に頼る場合、発電量は天候に左右される。しかし電力会社は電力の安定供給と停電回避を求められているので、悪天候時のバックアップ用に在来の(つまり天然ガスや石炭を燃やす)火力発電施設も維持しなければならない。 言うまでもないが、そうした余剰発電能力の維持には費用がかかる。しかしその費用は、再生可能エネルギー事業者ではなく、電力会社が負担し、最終的には消費者に転嫁される。しかもエネルギー価格の上昇を受けて、イギリスを含む各国政府は新たに価格上限を設けた。これでは市場の自由を放棄したに等しい。 ヨーロッパは長期に及ぶ寒波の到来といった急激な電力需要増への対策を用意していない。自国内で電力不足が予想される場合、各国政府はどんな犠牲を払っても国内向けの天然ガスを確保しようとする。例えば厳冬となった2010年の初め、一部の国は国内の暖房用電力を確保するため、ルール違反を承知でパイプラインから他国向けのガスを抜き取った。今年もガスの供給量が落ち込んでいるから、同様な事態が起きる可能性がある。) また、再生可能エネルギーに莫大な投資をしながら、ヨーロッパは電力供給の要となる送配電網への投資をおろそかにしてきた。電力の安定供給には蓄電システムやバックアップ電源の確保、送配電網の整備など複雑な体制づくりが必要で、とても民間だけでは対応できない。 電力会社に適切な蓄電とバックアップの体制を義務付けるのが無理なら、政府自身がその責任を果たすしかない。電気自動車のために補助金を大盤振る舞いして電力の使用を増やす一方で、そこで生じる需要増に見合うだけの電力供給体制を用意しないとすれば、大規模停電のお膳立てをしているようなものだ』、極めて手厳しい欧州政府への批判だ。
・『エネルギー地政学への関与をやめた欧州 最後に、ヨーロッパ各国はエネルギー地政学への関与をやめてしまった。EUはかつて、域内の天然ガスパイプライン網を構築し、カスピ海沿岸からの新しい天然ガス輸送プロジェクトなどを進め、エネルギー安全保障の強化に成功した。 こうしてヨーロッパにおけるガス供給の安全は高まり、多くの地域でロシアの独占は失われた。だが現在の欧州委員会はエネルギー政策を気候政策の一部としており、安全保障や手頃な価格のエネルギー供給にはほとんど注意を払っていない。 地中海東部などの比較的近い場所でも新しい天然ガス資源が発見されているのに、EUの指導者たちは環境活動家の圧力に屈し、新たに利用可能な資源の開発に真剣に取り組もうとしていない。 また福島第一原発の事故以来、ドイツを含む一部の諸国が原子力発電所の閉鎖や順次廃止に踏み切ったため、安全で安定したクリーンなエネルギー源が失われたことも、現下のエネルギー危機の要因の1つだ。 アメリカも同じ道を歩み、遠からずヨーロッパ的な危機を招くのだろうか? 状況は似ている。今年2月の寒波で起きたテキサス州の電力危機や8月のカリフォルニア州の計画停電は、今後起こりそうな事態の前触れかもしれない。 アメリカもエネルギー地政学に背を向けようとしている。バイデン政権はパンデミックでエネルギー需要が急減した後、国内の石油・ガス生産の再開を抑制している。石油・ガスへの民間投資も、化石燃料からの撤退を求める国際社会の圧力や世論の動向、そして投資家の意向によって抑えられている。 アメリカ政府はOPEC(石油輸出国機構)からの輸入を増やせばいいと考えているようだが、それでは化石燃料の生産地がアメリカから外国に移るだけで、環境問題の改善にはならない。またエネルギー安全保障上の新たな懸念も生じる。) アメリカ政府が国内の化石燃料生産を抑え続けるなら、1970年代のようにOPECが価格と供給を支配することになる。これでは気候や環境面の利点がほとんどなく、地政学上の問題が増加するだけだ。 バイデン政権はまた、国内のエネルギー供給の安定を確保できるはずだった複数のパイプライン敷設計画を中止させた。 このことは天然ガスの価格に重大な影響を及ぼす。LNGに対する需要は世界中で増えているから、米国産天然ガスも多くは輸出に振り向けられる。そうなれば、国内のエネルギー価格は高騰する』、「アメリカ政府が国内の化石燃料生産を抑え続けるなら、1970年代のようにOPECが価格と供給を支配することになる。これでは気候や環境面の利点がほとんどなく、地政学上の問題が増加するだけだ」、その通りだ。
・『欧州の危機を反面教師にせよ またアメリカは連邦レベルでも州レベルでも、運輸産業などにおけるエネルギー消費の「電化」を推進している。国内最大のエネルギー消費地であるカリフォルニア州やニューヨーク州、テキサス州は今でも電力の構造的な不足を抱えているのに、政府が電力消費の増加を促している。しかも電力需要の増加に対応できる送配電網は整備されていない。 今こそ世界各国はヨーロッパのエネルギー政策の失敗をつぶさに検証し、現在のエネルギー危機を、同じ過ちを犯さないための警鐘と捉えるべきだ。電力の生産・供給・販売は民間企業でもできる。しかし電力不足で大規模停電が起きた場合、国民は政府の責任を問う。手頃な価格でエネルギーを安定供給できないような国に、未来はない』、「国内最大のエネルギー消費地であるカリフォルニア州やニューヨーク州、テキサス州は今でも電力の構造的な不足を抱えているのに、政府が電力消費の増加を促している」、アメリカでも政策は整合性を著しく欠いているようだ。
次に、10月22日付け日経ビジネスオンラインが掲載したエネルギーアナリスト/ポスト石油戦略研究所代表の大場 紀章氏による「世界同時多発エネルギー危機の真因、スケープゴートになった脱炭素政策 すべては化石資源の上流投資縮小から始まった」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00237/102100014/
・『昨今の原油高や欧州での電力・ガス価格の高騰などは、なぜ起きているのか。急激に動き出した各国の脱炭素政策の影響はあるのだろうか。エネルギーアナリストでポスト石油戦略研究所代表の大場紀章氏に解説してもらった。 現在、世界同時多発的にエネルギー危機が発生している。特に、欧州での電力・ガス価格の高騰、中国での計画停電、そして原油価格高騰によるガソリン高が話題になっている。 こうした問題を受けて「脱炭素政策の行き過ぎによるもの」という指摘がある。全く無関係とまでは言わないが、ほとんどナンセンスと言っていい。そう説明がしたい人による説明だろう。 そもそも「脱炭素政策」というのは、この2年で急に世界で起きたムーブメントであり、そのような短期間でエネルギー供給の構造が大きく変わるということはない。 それでは、なぜエネルギー価格が一斉に上昇しているのか。価格高騰原因は、どこを起点にして、何を前提にして考えるかによって様々な説明があり得る。究極的には神学論争となるが、筆者が最も説得力があると考えているのは、化石資源開発の停滞問題である』、「「脱炭素政策の行き過ぎによるもの」という指摘がある。全く無関係とまでは言わないが、ほとんどナンセンスと言っていい」、「価格高騰原因は・・・・様々な説明があり得る・・・筆者が最も説得力があると考えているのは、化石資源開発の停滞問題である」、なるほど。
・『石油業界の懸念が的中した 覚えておられる方もいるかもしれないが、2014年から2016年にかけて原油価格が大幅に下落した時期があった。きっかけは2014年春に上海株式市場が混乱し、中国経済の失速懸念が出たことだった。 世界のエコノミストが予想経済成長率を軒並み下方修正した結果、それまで1バレル100ドル程度で推移していた原油価格が急落。さらに同年秋の石油輸出国機構(OPEC)総会で、市場が期待していた減産合意を行わなかったことで、原油価格はさらに下落し、歯止めが効かなくなった。このOPECの動きは後に「シェール潰し」などと呼ばれた。 その結果、石油やガスの上流投資は大幅に削減され、投資額がピークだった2014年比で2016年は45%の減少となった』、
・『化石資源の上流投資額は2014年がピークだった その後、原油価格は徐々に回復したが、石油・ガス業界は数十万人のリストラに踏み切るなどダメージが大きく、上流投資が戻って来ない状況が続いていた。そこに到来したのが、新型コロナウイルス感染拡大による経済の停滞だ。コロナ禍によって再び原油価格は下落し、上流投資はさらに減って2020年は2014年比で58%減となった。 一般に、石油・ガス開発は、開発サイクルの速いシェールを除けば、投資から生産まで少なくとも5~6年はかかる。このため2015年以降の上流投資不足が2020~2021年ごろの供給に影響を及ぼすだろうと、石油業界はかねて懸念していた。 ところが、2020年はコロナ禍で石油需要が縮小してしまったため、この懸念はひとまず表出せずに済んだ。だが、徐々に世界経済が回復するにつれて、供給力不足の問題が原油価格の高騰という形で現れてきたというのが筆者の見立てである』、「石油・ガス開発は・・・投資から生産まで少なくとも5~6年はかかる。このため2015年以降の上流投資不足が2020~2021年ごろの供給に影響を及ぼすだろうと、石油業界はかねて懸念・・・2020年はコロナ禍で石油需要が縮小してしまったため、この懸念はひとまず表出せずに済んだ。だが、徐々に世界経済が回復するにつれて、供給力不足の問題が原油価格の高騰という形で現れてきたというのが筆者の見立てである」、なるほど。
・『脱炭素トレンドは上流投資縮小より後の話 脱炭素やカーボンニュートラルというトレンドは、2019年の英国による宣言を皮切りに顕在化した。2019年にEU各国が英国に続いて宣言し、2020年には中国、そして日本も続いた。米国もバイデン政権が誕生すると、この動きに追随した。 だが、いずれも石油・ガス上流投資が縮小した後に起きており、直接関係がない。確かに今年に入り石油メジャーが脱炭素のために石油開発を縮小するという動きはあったが、現在の生産量には全く影響していないだろう』、「脱炭素トレンドは上流投資縮小より後の話」、その通りなのだろう。
・『英国の危機は不幸な事態がたまたま重なった 現在起きている世界エネルギー危機の中でも、最も深刻な事態となっているのは英国だろう。不幸にも様々な事態が、たまたま重なって危機に陥ったと筆者はみている。 まず、上流投資縮小の影響が最も出た地域の1つが欧州の北海油田・ガス田であり、生産量が大きく縮小している。それに加え、欧州の排出権価格(EU-ETS)の高騰で石炭火力から天然ガス火力へのシフトが起き、天然ガス需要が増えていた。そこへきて、たまたま風が弱い時期が続き、風力発電の出力が低下した。 加えて、計画していたロシアからのガスパイプラインの稼働時期が米国の制裁のため遅れていることや、米国のLNG(液化天然ガス)輸出基地の投資が縮小していたことも影響した。中国が国内の石炭炭鉱の生産性向上のために生産抑制政策を打ち出し、LNG調達量を増やしたことで、アジアのLNG価格が高騰。その結果、米国のLNGが欧州ではなくアジアに向かったことが追い打ちをかけている。 こうして欧州の天然ガス在庫量が例年を下回り、ガス価格の高騰から電力価格が急激に上昇。その影響で小売事業者が破綻するといった事態が連鎖的に発生しているのだと考えられる。 一部には、風力発電の出力低下を電力不足の要因とする声もあるが、欧州で再エネを主因とする言説はマジョリティではない。むしろ、だからこそ風力開発を加速すべきだとさえ言われている』、「たまたま風が弱い時期が続き、風力発電の出力が低下・・・計画していたロシアからのガスパイプラインの稼働時期が米国の制裁のため遅れ・・・米国のLNG輸出基地の投資が縮小していたことも影響」、多くの要因が重なったようだ。
・『短期的にはCO2排出量を増やす方策で、この冬をしのぐ 世界的なエネルギー価格の高騰は、元をたどれば石油・ガスの上流投資の縮小に起因しているため、現在の状況はすぐには解決しない。欧州で石炭火力や石油火力を稼働させたり、中国で石炭を増産するなど、短期的にはCO2排出量を増やす方策を講じながら、なんとか今年の冬を越すしかない。 上流側の打開策としては、OPEC加盟国とロシアなどでつくる「OPECプラス」による減産解除の前倒しやロシアの天然ガスパイプラインの稼働、そして中国による石炭の増産がある。時期は読み通せないが、エネルギー価格の高騰が続けば、いずれ動き出すだろう。 天然ガスと石炭の需給は、この3つの方策で緩むはずだ。ガスと石炭は発電用燃料としての利用が中心なので、3つの方策によって電力価格の高騰はしばらくの間は乗り切れるだろう。 石油に関しては、EV(電気自動車)が欧州や中国でいくら売れても、世界の道を走る車が内燃機関から電動車に入れ替わるには、長い時間を要する。つまり、輸送の電動化は短期的な石油需要削減の効果はほとんどない。加えて、OPECプラスの増産余地はさほど大きくない。このため、原油高は世界経済が減速するまで高止まりが続く可能性がある。 国際エネルギー機関(IEA)は、石油が不足していても上流投資の増額は不要で、再エネに今の3倍投資すべきだとした。ただ、現状を直視すれば「石油投資はまだ必要」だとメッセージを出すのがIEAの本来の役割だろう』、「現状を直視すれば「石油投資はまだ必要」だとメッセージを出すのがIEAの本来の役割だろう」、その通りだ。
・『上流開発の不足を甘く見ていた 結局、現在のエネルギー危機は、脱炭素トレンドとは無関係で、単に社会が化石資源の上流開発の不足を甘く見ていたため発生したのである。 一方、脱炭素トレンドは、「これからは化石資源に頼らずとも再生可能エネルギーで賄える」と人々に信じさせたという意味で、上流投資の問題に気づくのを遅らせたという影響はあったかもしれない。 サウジアラビアの元石油大臣だったアハマド・ザキ・ヤマニは、「石器時代は石が不足して終わったのではないように、石油時代も石油が枯渇して終わるのではないだろう」と言ったといわれる。 これは、石器に代わる鉄器などのより良い道具が出現したことが、石器時代を終わらせたという意味だが、現在起きていることは、鉄器が十分供給される前に、石の供給を止めた結果、道具が不足してしまったという状況にあたる。新しい道具は使い方が異なるので、うまく扱わなければケガをすることもあるだろう。 石油時代を終わらせるには、投資を先に止めるのではなく、それに代わるものを普及させることで、石油を無用のものとするしかない。そうでなければ、現在起きているような危機を繰り返すことになるだろう。(大場氏の略歴はリンク先参照)』、「現在のエネルギー危機は、脱炭素トレンドとは無関係で、単に社会が化石資源の上流開発の不足を甘く見ていたため発生したのである。 一方、脱炭素トレンドは、「これからは化石資源に頼らずとも再生可能エネルギーで賄える」と人々に信じさせたという意味で、上流投資の問題に気づくのを遅らせたという影響はあったかもしれない」、なるほど。
第三に、11月22日付け東洋経済オンライン「三菱商事社長が激白「2兆円」巨額投資の使い道 「エネルギー激変期」に総合商社の雄が大勝負」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/470519
・『総合商社大手の三菱商事は10月18日、温室効果ガス(GHG)排出量を2050年に実質ゼロにする方針を公表。あわせてエネルギートランスフォーメーション(EX)関連投資へ2030年までに2兆円を投じる方針を明らかにした。 現在は世界的に脱炭素が叫ばれ、再生可能エネルギーの普及が進む、まさに「エネルギーの移行期」だ。三菱商事にとっても再エネの導入拡大や水素・アンモニア事業への投資など、脱炭素社会を見据えたビジネスモデルへ転換させていくことは喫緊の課題となっている。 一方、足元では急速な再エネの普及が電力供給の不安定さを誘発する一因となり、天然ガスや石炭など化石燃料の価格高騰につながった。一足飛びに脱炭素を急げば、エネルギー価格の高騰や電力不足を招きかねない事態になっている。 資源の安定供給に深く携わってきた商社トップは、現在のエネルギー市場の激変をどう見るか。三菱商事の垣内威彦社長を直撃した(Qは聞き手の質問、Aは垣内氏の回答)、「エネルギー」取扱高、商社NO.1の「三菱商事」社長へのインタビューとは興味深そうだ。
・『異常なのは天然ガス価格 Q:世界的に資源価格が高騰しています。 原油価格は1バレル=60~70ドル前後が妥当な水準だ。(足元の)80ドル前後は決しておかしなレベルではない。 いま異例の価格をつけているのは天然ガスだ。異常気象の影響を受けて、欧州と中国が大量に天然ガスを買っている。 重要なのは、現在のようなエネルギーの移行期には需給のバランスが取りにくくなるということだ。世界的に再エネの比率が明らかに増えてきている。再エネは天候によって出力が変動する電源で、猛暑や厳冬といった事情で需要が変化すれば、需給が不安定になりやすい。 その結果、資源、電力価格の上昇につながる。これは企業にとっては大きな問題だ。エネルギーは最も基礎的な素材だから、エネルギー価格が2倍、3倍と上がってしまえば事業の採算をとりづらくなってしまう。 Q:エネルギー移行期に商社が果たす役割は? A:移行期の局面で、エネルギーを安定供給するためには天然ガスやLNG(液化天然ガス)を活用するほかない。特に日本ではそうだ。 (脱化石燃料の)流れに逆行するようだが、われわれは局面に応じてLNGの増産や再投資をする覚悟があると、10月に公表した「カーボンニュートラル社会へのロードマップ」の中で示した。エネルギーの安定供給に必要ならばこそこそ黙って投資するのではなく、腹を括って実行しようと決断した。 長期で見たときに究極のエネルギーは何かというと、水素やアンモニアだろう。ただ、当面はコスト上の問題や安定供給を考えるとCO2(二酸化炭素)を分離・回収した上で、天然ガスから比較的安価なブルー水素・ブルーアンモニアが製造されることになる』、「移行期の局面で、エネルギーを安定供給するためには天然ガスやLNG・・・を活用するほかない。特に日本ではそうだ・・・エネルギーの安定供給に必要ならばこそこそ黙って投資するのではなく、腹を括って実行しようと決断した」、なるほど。
・『「半歩先」を予測してきた どちらも元になる素材は天然ガスだ。つまり、天然ガスは繋ぎのエネルギーとして、長期にわたって生き残る。そんな宿命を背負った燃料になるだろう。 やがては(生成時にCO2を排出しない)グリーン水素があるはずだが、イノベーションを起こさないと実現は難しい。2030年までの話と2050年の話をするのでは大違いだ。 Q:社内でも議論があったのではないでしょうか? (垣内氏の略歴はリンク先参照) A:ロードマップの策定に当たっては、社会の変化に対して三菱商事がどう対応するべきかを議論した。グループ(部門)の壁を越えて議論することが重要だ。社長就任以来、組織がたこつぼ化しないようにと、ずっと心掛けてきた。 2年ほど前から天然ガス、石油化学ソリューション、電力ソリューションの3グループを中心に議論を重ねてきた。このロードマップをしっかり理解し、全社員が一丸となって前に進んでいかなければならない。 当社が今日までやって来られたのは将来を予測し、半歩先を歩んできたからだ。例えば、かつて(1969年に)東京ガスとともに日本へ初めてLNGを導入したときも半歩先を歩むという姿勢があったからこそ、上手くいったのだと思う。外部環境や価値観の変化といった難しい局面をこれまで何度も乗り越えてきた。そのことを忘れてはいけない。 Q:一方、再エネにも投資を加速する計画です。 A:2030年度までにエネルギートランスフォーメーション(EX)関連投資に2兆円を投じる。このうち、約半分ほどは洋上風力を中心とする再エネに投資し、再エネの持分容量を660万kWに倍増させる見通しだ。発電機の大型化が進む風力はまだまだコストダウンを図れる。 資源についても次世代で必要とされる競争力の高い案件には力を入れていきたい。一般炭権益を売却し、電化に欠かせない銅などへ資産の入れ替えを進めてきた。2022年度にはペルーのケジャベコ銅鉱山が生産を開始する』、「半歩先を歩むという姿勢があったからこそ、上手くいったのだと思う」、「半歩先を歩む」、というのも、余り先行し過ぎずにやる絶妙なバランスなのだろう。
・『AIやデジタル化も活用 Q:2兆円というと巨額ですね。 A:再エネや鉱山開発、アンモニアなどを進めるとお金がかかる。それなりの試算をした上で約2兆円という金額を出している。私が社長に就任して6年弱の間にグロスで5兆円を投資し、約3兆円を回収している。2030年までに2兆円というと年間2000億円程度だ。三菱商事のポートフォリオからすれば、無理のない金額だ。 Q:脱炭素はピンチとチャンスどちらですか。 A:当社は2050年に温室効果ガス排出量をネット(実質)ゼロにする方針を掲げており、全社を挙げて実現に取り組んでいる。 今後、自らカーボンニュートラルを達成できない企業は、未達となる排出量分の炭素クレジットを購入しなさいという仕組みが導入される可能性がある。当社の排出量(2020年度)は2530万トン。仮に炭素クレジットが1トン当たり150ドルかかる前提なら、金額は約38億ドル(約4300億円)にものぼる。早めに手を打って再エネを推進していくことが重要だ。 脱炭素の移行期に、単純にエネルギーを置き換えるだけというのは原始的な発想。AI(人工知能)やデジタル化といったイノベーションを組み合わせ、省エネなどにつなげることも重要だ。それが企業価値を高めることにもつながる』、「私が社長に就任して6年弱の間にグロスで5兆円を投資し、約3兆円を回収・・・2030年までに2兆円というと年間2000億円程度だ。三菱商事のポートフォリオからすれば、無理のない金額だ」、「回収」がかなりあるのに驚かされた。「脱炭素の移行期に、単純にエネルギーを置き換えるだけというのは原始的な発想。AI(人工知能)やデジタル化といったイノベーションを組み合わせ、省エネなどにつなげることも重要」、なるほど上手いやり方だ。
タグ:エネルギー (その8)(再生可能エネばかりを重視したヨーロッパがはまったエネルギー危機、世界同時多発エネルギー危機の真因 スケープゴートになった脱炭素政策 すべては化石資源の上流投資縮小から始まった、三菱商事社長が激白「2兆円」巨額投資の使い道 「エネルギー激変期」に総合商社の雄が大勝負) Newsweek日本版 ブレンダ・シェーファー 「再生可能エネばかりを重視したヨーロッパがはまったエネルギー危機」 「こんな危機は数十年ぶりだから、誰もが不意を突かれた。エネルギーの供給が不安定になれば経済だけでなく安全保障にも環境にも、さらには公衆衛生にも甚大な影響が及ぶことを、みんな忘れていた」、その通りだ。 「エネルギー安全保障の実現には、市場原理と技術、政策、地政学のバランスを慎重に保つ必要がある。市場原理に委ねようとする右派の思想と、そうはさせまいとする左派の思想。そのせめぎ合いこそが今日のエネルギー危機につながった」、明快な解説だ。 極めて手厳しい欧州政府への批判だ。 「アメリカ政府が国内の化石燃料生産を抑え続けるなら、1970年代のようにOPECが価格と供給を支配することになる。これでは気候や環境面の利点がほとんどなく、地政学上の問題が増加するだけだ」、その通りだ。 「国内最大のエネルギー消費地であるカリフォルニア州やニューヨーク州、テキサス州は今でも電力の構造的な不足を抱えているのに、政府が電力消費の増加を促している」、アメリカでも政策は整合性を著しく欠いているようだ。 日経ビジネスオンライン 大場 紀章 「世界同時多発エネルギー危機の真因、スケープゴートになった脱炭素政策 すべては化石資源の上流投資縮小から始まった」 「「脱炭素政策の行き過ぎによるもの」という指摘がある。全く無関係とまでは言わないが、ほとんどナンセンスと言っていい」、「価格高騰原因は・・・・様々な説明があり得る・・・筆者が最も説得力があると考えているのは、化石資源開発の停滞問題である」、なるほど。 「シェール潰し」とは上手く表現したものだ。 「石油・ガス開発は・・・投資から生産まで少なくとも5~6年はかかる。このため2015年以降の上流投資不足が2020~2021年ごろの供給に影響を及ぼすだろうと、石油業界はかねて懸念・・・2020年はコロナ禍で石油需要が縮小してしまったため、この懸念はひとまず表出せずに済んだ。だが、徐々に世界経済が回復するにつれて、供給力不足の問題が原油価格の高騰という形で現れてきたというのが筆者の見立てである」、なるほど 「脱炭素トレンドは上流投資縮小より後の話」、その通りなのだろう。 「たまたま風が弱い時期が続き、風力発電の出力が低下・・・計画していたロシアからのガスパイプラインの稼働時期が米国の制裁のため遅れ・・・米国のLNG輸出基地の投資が縮小していたことも影響」、多くの要因が重なったようだ。 「現状を直視すれば「石油投資はまだ必要」だとメッセージを出すのがIEAの本来の役割だろう」、その通りだ。 「現在のエネルギー危機は、脱炭素トレンドとは無関係で、単に社会が化石資源の上流開発の不足を甘く見ていたため発生したのである。 一方、脱炭素トレンドは、「これからは化石資源に頼らずとも再生可能エネルギーで賄える」と人々に信じさせたという意味で、上流投資の問題に気づくのを遅らせたという影響はあったかもしれない」、なるほど。 東洋経済オンライン 「三菱商事社長が激白「2兆円」巨額投資の使い道 「エネルギー激変期」に総合商社の雄が大勝負」 「エネルギー」取扱高、商社NO.1の「三菱商事」社長へのインタビューとは興味深そうだ。 「移行期の局面で、エネルギーを安定供給するためには天然ガスやLNG・・・を活用するほかない。特に日本ではそうだ・・・エネルギーの安定供給に必要ならばこそこそ黙って投資するのではなく、腹を括って実行しようと決断した」、なるほど。 「半歩先を歩むという姿勢があったからこそ、上手くいったのだと思う」、「半歩先を歩む」、というのも、余り先行し過ぎずにやる絶妙なバランスなのだろう。 「私が社長に就任して6年弱の間にグロスで5兆円を投資し、約3兆円を回収・・・2030年までに2兆円というと年間2000億円程度だ。三菱商事のポートフォリオからすれば、無理のない金額だ」、「回収」がかなりあるのに驚かされた。「脱炭素の移行期に、単純にエネルギーを置き換えるだけというのは原始的な発想。AI(人工知能)やデジタル化といったイノベーションを組み合わせ、省エネなどにつなげることも重要」、なるほど上手いやり方だ。