異次元緩和政策(その38)(世界でエネルギー価格が高騰 忍び寄るインフレの足音は日本にも?、米中銀資産購入を月150億ドルペースで縮小決定 インフレ高進は一時的との確信度合いは弱める、日銀もついに「テーパリング」するときが来た 日本銀行が犯した「5つの間違い」とは一体何か) [経済政策]
異次元緩和政策については、8月14日に取上げた。今日は、(その38)(世界でエネルギー価格が高騰 忍び寄るインフレの足音は日本にも?、米中銀資産購入を月150億ドルペースで縮小決定 インフレ高進は一時的との確信度合いは弱める、日銀もついに「テーパリング」するときが来た 日本銀行が犯した「5つの間違い」とは一体何か)である。
先ずは、10月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「世界でエネルギー価格が高騰、忍び寄るインフレの足音は日本にも?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/283820
・『世界的にエネルギー価格が上昇し、インフレの足音が忍び寄っている。特に石炭価格の上昇が鮮明で、各国が石炭をし烈に奪い合っている。世界全体でエネルギー資源、自動車、生鮮食料品などの供給が、需要に追い付いていない状況だ。10月から、わが国でもマーガリンやコーヒー豆などが値上がりした。物価の上昇ペースが鈍かった日本にもインフレの波が押し寄せつつある』、「日本にもインフレの波が押し寄せつつある」、本当だろうか。
・『物価の上昇ペースが鈍かった日本 インフレの波が押し寄せつつある(世界的にエネルギー価格が上昇し、インフレの足音が忍び寄っている。主要国の物価動向を見ると、まず目に付くのがエネルギー価格の上昇で、企業間物価の上昇が顕著になっていることだ。それが、徐々に川下の消費者物価にも波及し始めている。 エネルギーの中でも、特に石炭価格の上昇が鮮明化している。中国、米国、欧州各国など世界各国が石炭をし烈に奪い合っている。その背景には、中国とオーストラリアの対立、気候変動問題の深刻化、新型コロナウイルス感染再拡大による物流の寸断とそれによる供給制約の深刻化など複合的な要因が絡む。世界全体でエネルギー資源、自動車、生鮮食料品などの供給が、需要に追い付いていない状況だ。 今後、世界的にインフレ懸念は一段と強まる可能性がある。10月から、わが国でもマーガリンやコーヒー豆などが値上がりした。物価の上昇ペースが鈍かったわが国経済にもインフレの波が徐々に押し寄せつつある。世界的な供給制約は長期化する恐れがあるだけに、今後のインフレ動向が国内外の経済、および金融市場に与える影響は軽視できない』、「物価の上昇ペースが鈍かったわが国経済にもインフレの波が徐々に押し寄せつつある」、やはり事実のようだ。
・『各国の物価動向を見ると上昇圧力が強くなっている 今春以降、多くの国で企業間物価指数の上昇が鮮明だ。その状況が続くと、企業はコストの上昇に呼応して製品やサービスの価格を引き上げ始める。米国ではその動きが顕著だ。2020年12月、前年同月比で0.8%だった米国の生産者物価指数の上昇率は、21年8月には同8.3%まで跳ね上がった。その背景には、コロナ感染再拡大によって世界経済の供給制約が顕在化し、鉱山やエネルギー資源、自動車などの工業製品、あらゆる製品に用いられる半導体などの供給が減少、あるいは停滞したことがある。 また、コロナワクチン接種の増加などによって人々の移動が徐々に緩和されつつあるため、経済活動の正常化が進み、需要が盛り返しつつある。一方、供給サイドでは人手不足も発生している。その結果、米国をはじめ主要国では消費者物価指数が上昇している。 8月の米消費者物価指数の上昇率は前年対比5.3%だった。米国では国内の需要が旺盛であるため、企業はコストの増加分を最終価格に転嫁しやすい。7月の米家計貯蓄率は9.6%と高い。貯蓄が消費に回ることもインフレを押し上げるだろう。 中国でも徐々に消費者物価指数に上昇圧力がかかりつつある。また、ユーロ圏の物価推移を見ると、7月の生産者物価指数は前年同月比で12.1%上昇した。それはいずれ、川下の消費者物価指数の上昇圧力として作用することになる。これまで、主要国ではほとんどインフレに対して警戒する必要を感じてこなかったが、ここへ来て、世界的にインフレの足音が近づいていることは間違いない』、「米消費者物価指数の上昇率は」10月では前年対比6.2%と、1990年以来の高い上昇となった。FRBは依然として、上昇が一時的とみているようだが、旗色が悪くなってきた。
・『石炭価格が上昇している背景 中国とオーストラリアの対立(エネルギーや生鮮食品、さらにはタンカーの船賃まで幅広く物価が上昇する中、石炭価格の上昇が鮮明だ。過去1年間で石炭価格は約3.5倍も上昇して最高値を更新している。さらに足元、石炭価格の上昇の勢いは強まっている。需給は極めてタイトだ。天然ガスなどのエネルギー資源の価格も上昇している。 石炭価格が上昇している背景として見逃せないのが、世界最大の石炭消費国である中国と、インドネシアと並ぶ石炭輸出大国であるオーストラリアの対立だ。新型コロナウイルスの発生源を巡って中豪関係は悪化した。中国はオーストラリア産石炭の輸入を制限し、インドネシアやロシアからの輸入増加を重視した。 オーストラリアからの石炭調達が減少することもあり、中国は火力発電などに必要な石炭を確保できなくなっている。その結果、最近の中国では停電が発生し、遼寧省瀋陽市では信号が消えた。電力供給不足は生産活動にも深刻な影響を与える。中国国内の生産量を増やそうにも、追加の投資を行い、炭鉱を開発するには時間がかかる。不動産大手・恒大集団(エバーグランデ)の債務問題に加え、石炭不足による電力需給のひっ迫も中国経済にマイナス要因である。 同様の事態が世界各国でも発生している。脱炭素への取り組みが進む中、燃焼時の温室効果ガス発生量が相対的に少ない、液化天然ガスを用いた火力発電を重視する国が増えている。その一方で、世界的な気候変動の影響で冷暖房のための電力需要が急速に増えている。加えて、コロナワクチン接種などによる経済の正常化によって、電力需要が急速に伸びている。 そうした中、各国は石炭火力発電を重視せざるを得なくなっている。4月にドイツでは最新鋭の石炭火力発電所が稼働し始めた。経済運営のために世界各国が石炭を奪い合う状況はしばらく続くだろう』、「経済の正常化によって、電力需要が急速に伸びている・・・各国は石炭火力発電を重視せざるを得なくなっている」、やむを得ない「石炭火力」依存だ。
・『わが国にも忍び寄るインフレの足音 英国ではトラック運転手の不足によってガソリン供給が減少している。その結果、一部の買いだめ行動がハーディング現象(周りへの同調や行動追随)を引き起こしてパニックが起きた。米国ではハリケーンの襲来によってメキシコ湾での原油生産が減っている。原油の需給もひっ迫している。 そうした状況下、わが国にインフレの足音が近づいている。10月から、マーガリン、輸入車、電力・ガス、小麦などが値上がりした。異常気象の影響によって葉物野菜など生鮮食料品も値上がりしている。8月、わが国の企業物価指数は前年同月比5.5%上昇した。消費者物価は総合指数が同0.4%下落し、生鮮食品を除く総合指数は横ばい(同0.0%)だった。物価上昇の勢いは強まるとみておくべきだ。 今後、世界経済の供給制約はより深刻化する可能性がある。コロナ感染が再拡大すれば世界の物流がひっ迫する。中豪の対立は一段と深刻化する恐れがある。また、新興国でのワクチン接種の遅れは物流寸断を長引かせ、電子部品などの生産や鉱山資源などの供給が遅れる要因だ。 その結果、世界的なインフレ圧力は一段と強まる可能性がある。FRBのパウエル議長は、物価上昇は一時的としながらも「予想以上に長引く可能性」に言及し始めた。 その一方で、世界経済の回復ペースは徐々に鈍化する恐れもある。コロナ感染再拡大に加えて、中国のエバーグランデのデフォルトリスクが高まっている。仮に、エバーグランデの債務がクロスデフォルトのような状況に陥れば、中国の不動産市況は悪化し、中国の景気減速はさらに進むだろう。物価上昇懸念は金利を上昇させ、株価の下落リスクも高まる。いずれも世界経済にはマイナスだ。 今後、インフレ圧力が強まると同時に、世界経済の減速懸念が高まる展開は軽視できない。それは、需要が縮小均衡に向かうわが国経済にとって大きな逆風になるはずだ』、「インフレ圧力が強まると同時に、世界経済の減速懸念が高まる展開」、となれば典型的なスタグフレーションだ。やれやれ・・・。
次に、11月5日付け東洋経済オンラインが転載したブルームバーグ「米中銀資産購入を月150億ドルペースで縮小決定 インフレ高進は一時的との確信度合いは弱める」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/466587
・『米連邦公開市場委員会(FOMC)は2、3両日に開催した定例会合で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを0-0.25%で据え置くことを決定した。毎月実施している資産購入については、月額150億ドル(約1兆7000億円)のペースで縮小を開始すると表明。新型コロナウイルス禍に導入した緊急支援策の解除を始める。インフレ高進については、一時的との認識について従来よりも確信の度合いを弱めた』、いわゆるテーパリング開始を決定した。「インフレ高進については、一時的との認識について従来よりも確信の度合いを弱めた」、一時は自信満々だったのに、弱気になったようだ。
・『市場関係者の見方は以下の通り。 ◎FOMC決定、150億ドルが最大のテーパリングペースを意味-BMO FOMCの決定は、150億ドルが当面のテーパリング(資産購入の段階的縮小)の最大のペースになることを意味しているとBMOキャピタル・マーケッツのストラテジスト、ベン・ジェフリー氏は指摘した。 ・2年債がアウトパフォームする一方で5年債が売られている理由はこれで説明される ・「FOMCは英中銀やカナダ中銀よりも遅く始める可能性もあり、後手に回って結局は劇的な利上げを行う必要に迫られるリスクがある」 ◎11月からのテーパリング、可及的速やかな開始望む意向を示唆-RBC FOMCが12月ではなく11月のテーパリング(資産購入の段階的縮小)開始を決めたことは、「若干タカ派的であり、できるだけ速やかに開始したい金融当局の意向を示唆している」と、RBCウェルス・マネジメントのシニア・ポートフォリオストラテジスト、トム・ギャレットソン氏が指摘した。 ・発表されたペースでの今月からのテーパリング開始は、それが来年6月までに終了し、金融政策の次の段階が設定されることを示唆 ・市場が来年に想定している利上げ回数はあまりにも多く、RBCの基本シナリオでは最初の利上げは2022年12月 ・金融当局が資産購入を今月と来月に月額150億ドルずつ縮小するとのFOMC決定を踏まえたコメント) FOMCのインフレに関する文言、タカ派色少し強めた-BNYメロン FOMCがインフレに関する文言を「一過性と予想される」に変えたことは、11月の声明にタカ派色を添えたとバンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNYメロン)のストラテジスト、ジョン・ベリス氏が指摘した。 ・「150億ドルのテーパリングは予想されていただけに、これでほんの少しだけタカ派色が強まった」 ・市場はまだ大きく動いていないかもしれないが、トレーダーはパウエルFRB議長がインフレとテーパリングのペースをどう詳しく説明するかに注目するだろう ・「議長がインフレに関する質問にどう対処するか、テーパリングのペースを変える能力に関してどう話すのかが、より重要かもしれない」 ◎ドル売りは限定的に、FOMCのテーパリング調整余地で-ウェルズF」、FOMC決定で、テーパリングペースを調整する余地を自らに与え、これがドルへの影響を限定的なものにするだろうと、ウェルズ・ファーゴのストラテジスト、エリック・ネルソン氏(ニューヨーク在勤)が指摘した。 ・テーパリングは「必要になれば加速できる」 ・「そのことが利上げ観測のハト派的な再評価を限定的にし、ドルをここで支えている」 備考:ドルはFOMC決定の発表直後に下落したが、その後は下げを消した』、「利上げ観測のハト派的な再評価を限定的にし、ドルをここで支えている」、とは、利上げをそれほどしないだろうとの見方が限定的になったので、ドルがそれだけ堅調になったとの意味である。
第三に、9月5日付け東洋経済オンラインが掲載した財務省出身で慶應義塾大学大学院准教授の小幡 績氏による「日銀もついに「テーパリング」するときが来た 日本銀行が犯した「5つの間違い」とは一体何か」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/453017
・『ジェローム・パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、注目された8月27日のジャクソンホール会議での講演で「まもなくテーパリング(緩和縮小、国債などの買い入れ額を削減すること)する」と明確に述べた。ついに、アメリカの中央銀行であるFEDはテーパリングを開始しようとしている。 さあ、日本銀行もテーパリングを開始すべきときがやってきた。即時開始すべきだ。今回は、日銀がすぐさまとるべき金融政策の変更を提言したい』、「日本銀行もテーパリングを開始すべきときがやってきた」、との衝撃的な見解を示したのは、私が知る限り小幡氏だけである。
・『日米2つの中央銀行の差は歴然 FEDと日本銀行とのパフォーマンスの差は歴然だ。ともに量的緩和を行ったが、アメリカは、行った2度とも脱出に成功している(ちなみにFEDは量的緩和という言葉を自らは決して使わない。バランスシート政策あるいは資産買い入れプログラムと呼んでいる)。 1度目は、世界金融危機(2008年のリーマンショック)のときのベン・バーナンキFRB議長(当時)だ。2013年に「バーナンキショック」などと投機関係者には八つ当たりされたが、しかし、自分が広げた風呂敷は、しっかりたたむメドをつけて去っていった。 だから、その後FEDのバランスシートはしっかりと縮小し、今回のコロナショックへの対応で、国債などの資産買い入れを大規模に行うことができた。そして、また、今回もその資産買い入れ政策の役割が終わったら、さっと引き揚げることに成功しつつある。資産買い入れ政策は危機対応の緊急政策であって、ドカンとやって、さっと引き揚げる。これが戦略の要諦である。アフガニスタンが、その反対の例だ。 一方、日本銀行は、言ってみれば昨今のアフガニスタンよりもひどい状況だ。2001年に量的緩和を開始し、福井俊彦総裁(当時)が2006年に解除した。これは、パウエル議長と同様、きちんと幕引きをして去っていったのだが、現在は見るも無残な状況になっており、国債発行残高の半分は日本銀行が保有するという有様だ。 しかし、日本銀行は、もともと世界的に珍しく、長期国債を恒常的に買ってきた中央銀行であった。当時は日銀ルール(銀行券ルール)という、紙幣の流通量以下に長期国債の保有額を抑えるという自主ルールがあった。自主ルールではあったが、強力な歯止めとして、これを破るのは日銀としては絶対のタブーだった。しかし、黒田東彦総裁があっさりと無視し、外し、現在はこのタガは外れっぱなしどころか、ほとんどの人が忘れている。もう2度と戻ってくることはないだろう。 つまり、FEDも量的緩和(資産買い入れ)という危険な政策をとったが、危機対応であるという認識は保持し、隙あらば撤回するという姿勢で臨み、退却に成功した。一方、日本はそれに失敗しただけでなく、危機対応であるという認識が一般には薄れてしまい、今では日銀自身も諦めたかのような状況だ』、日米の金融政策の大きな格差はどうして生じたのだろう。小幡氏が以下で謎解きをしてくれるようだ。
・『日銀は何を間違えたのか? さて、日銀は何が悪かったのか。何を間違えてしまったのか。 第1に、2001年に量的緩和というものを発明してしまったことだ。この量的緩和こそが本当の量的緩和だが、それは長期国債を買い入れることではない。短期金利を政策目標にすることから、日銀当座預金残高を政策指標とすることに変更したことだった。これは、短期金利市場を壊すという副作用があるが、長期国債の市場を壊すよりは罪が軽く、「コストのかかるおまじない」に過ぎなかった。 しかし、これにより、量的緩和という画期的なおもちゃが、金融市場を知らないばかりか、日本経済の将来に対して無邪気で無責任な人々に与えられてしまった。日銀の政策手段が、王道の金利操作だけでなく、資産の買い入れ(このときは超短期国債であったにせよ)という邪道なものまで追加されてしまったのである。これが、後にリーマンショック後の政策、そしてアベノミクスによるリフレ政策という最悪の事態を招くこととなる』、「「コストのかかるおまじない」に過ぎなかった」、とは手厳しい批判だ。
・『第2に、量的緩和のイメージから、誤ったマネタリズムを振りかざす、いわゆる有識者の政策マーケットへの参入を招いてしまったことだ。彼ら(厳密に言うとマネタリズムを強引に都合よく解釈した「誤った」マネタリストたち)は、「とにかくマネーそのものを増やせ」と主張した。 実際、日銀の当初の量的緩和はそれを実行していたのだから、日銀がそれを否定するには、日銀の行った量的緩和と巷の誤ったマネタリストたちの主張する無邪気なマネタリズムを区別する厳密な議論が必要となった。結局、世間、メディア、政治家達には理解ができず、単純なお金が増えるというイメージに訴えかける彼らの主張がはびこることとなった。 彼らは「デフレと円高を解消し、日本経済の問題は一挙に解決し、バラ色の日本経済がやってくる」と騒いだ。これ以降、まともな「アカデミックな金融政策論争」は不可能になり、お金を日銀が刷ればすべて解決するというイメージが、どうして誤りなのかを説得することに政策論争のリソースがつぎ込まれるという不毛な10年間となった。この結果、経済政策は金融政策だけでなく、すべての分野で不在となり、日本経済の停滞に寄与した』、「まともな「アカデミックな金融政策論争」は不可能になり、お金を日銀が刷ればすべて解決するというイメージが、どうして誤りなのかを説得することに政策論争のリソースがつぎ込まれるという不毛な10年間となった」、その主犯の「「誤った」マネタリストたち」の罪はまことに深い。
・『第3の間違いは、このマネタリストの圧力により「インフレターゲット2%」を日銀が導入してしまったことだ。 これが現在も日銀の金融政策を縛っている。欧米主要国の多くが2%ターゲットをとっているから、日銀だけそれをターゲットとして数量的な目標を設定しないのは無責任だ、という議論に押されて導入してしまった。 だが、日本ではそもそもインフレ率が継続的に2%を超えていたのは、1990年のバブルのときまでさかのぼらなければならない。しかも、その当時は、世界的に日本の物価は異常に高すぎるとして、物価をとにかく下げろ、内外価格差是正、ということが経済政策の大きな目標の1つだった。 すなわち、2%という「達成不可能なゴール」、かつ「達成されることは日本経済にとって非常に悪いことであるゴール」を設定することになってしまった。 この結果、日銀の政策は、いわゆるデフレマインド、実際のところは、貧乏くさい萎縮マインドを改善する、というある程度意味のある効果を伴ったときはよかった。だが、現在の異次元緩和の主人公である黒田総裁自身が「日本経済の問題は需要不足ではないことが明らかになった」と宣言した後、7年たっても、なお2%のインフレ率達成がゴールとされ続けている。 これは不必要どころか、副作用の大きいリフレ政策を行うことを強いられていることにほかならない。長期国債を大量に購入するという政策からの出口を議論できなくなってしまったという最大の困難をもたらしている』、「2%という「達成不可能なゴール」、かつ「達成されることは日本経済にとって非常に悪いことであるゴール」を設定することになってしまった」、「副作用の大きいリフレ政策を行うことを強いられている」、これは日銀が犯した重大なミスだ。
・『さて、それ以外にも、日銀はさまざま過ちを犯している。第4として、上場株式ETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)というリスク資産を中央銀行が買うという前代未聞の政策を行った。これは、いかなる角度からも意味不明であり、200%いや1000%誤りである。 ただし、日経平均株価が8000円台などの場合には、株価下支え効果がてきめんにあった。実際、アベノミクスでは、円安誘導、異常国債買い入れとともに、株価の急回復をもたらした』、「リスク資産を中央銀行が買うという前代未聞の政策」は「いかなる角度からも意味不明であり、200%いや1000%誤り」、その通りだ。
・『中央銀行が企業の株式を買うことは無意味 しかし、理論的には、意味がまったくないし、中央銀行が企業の株式を買うということはまったく意味がない。「リスクプレミアムに働きかける」というが、株式トレーダーのリスクプレミアムに働きかけることは理論的だけでなく、道義的、社会的にもやってはならないことであり、実体経済における設備投資や人的資本投資という実物投資行動へのリスクプレミアムに働きかけるものでなくてはならない。そこへ到達できる金融市場における唯一の道は金利であり、株価とは無関係である。 さらに、現在は、イールドカーブコントロールと呼ばれる、長期金利を直接コントロールするためのターゲット水準を設けている。今は10年物国債金利をゼロ程度にすることで、長期金利をゼロに釘付けにしている。これは、短期金利市場を政策金利で殺していると同時に、長期金利市場までをも殺すことによって、金融市場を完全に長短ともに殺してしまっている、という重大な罪を犯している。これが第5の誤りだ。 実は、この第5の誤りと第4の誤りは、第3の誤りの副作用として生じたものである。長期国債のさらなる買い入れを、世間から、メディアから、そして自ら宣言した政策方針によって迫られてしまい、逃げ場がなくなった。 しかし「長期国債をこれ以上買ってはいけない」という日銀最後の良心が働き、それをなんとしても防ぐために、何でもいいから、国債を買う以外の手段をとれ、ということで苦し紛れに行ったものである。罪深いが、これが罪を犯した根本の原因ではない。それは日銀もわかっているはずだ』、「「長期国債をこれ以上買ってはいけない」という日銀最後の良心が働き、それをなんとしても防ぐために、何でもいいから、国債を買う以外の手段をとれ、ということで苦し紛れに行ったものである」、痛烈な日銀批判だ。
・『日銀は「過ち」をどうすべきか? では、このような経緯、環境の下で、今、日本銀行は、どのように、罪滅ぼし、いやさらなる罪を犯すことを止めるように動くべきか。第1と第2の過ちは取り返しがつかない。もう、そうなってしまっているから時計の針は元に戻せない。根本的な罪は、第3の過ち「インフレターゲット2%」、物価目標の存在である。これを撤廃するのが、根本的な解決の1つである。 日銀が行うべきもっとも重要なことは、継続的な物価下落(いわゆるデフレスパイラル)とはとことん戦うが、物価が安定的にプラスあるいはゼロ付近であれば、物価自体ではなく、景気の安定化という本来の目的を直接的な政策目標とする、と宣言することである。 もはやデフレではなく、デフレスパイラルが起こる恐れは小さいのだから「物価そのものではなく、景気減速を防止するために最大限の金融政策を行う」と宣言するべきである。 しかし、これが理想ではあるが、現実的ではない。なぜなら、中央銀行の政策目標は一義的には物価であり、物価の安定を通じて、景気安定、経済の長期的な発展に資するものである、という主張は理論的には否定できない。また、現実にも、その考え方を文字通りに捉えるべきだと考える経済学者、セントラルバンカーが数多くいるからだ。 今、このような根本的な論争をしている場合ではない。危機対応、異次元緩和という異常事態の是正であるから、このような根本の議論は長期的な課題として後回しにするべきである。 最小限やっておくべきことは「物価は重要だが、2%という絶対水準にこだわるのではなく、ある程度柔軟に考える」というスタンスをはっきり打ち出すことである。これは、はっきりとは打ち出されてはいないが、暗には成立しており、日銀は、この考え方で動いている。はっきりさせたほうがよいことはよいが、すべてを犠牲にして無理してやることもない。) なんといっても、日銀がまず第1に、誰の目から見てもやるべきことがある。それはテーパリングである。しかし、それは国債ではなく株である。「上場株式の買い入れ」という百害あって一利なしの政策をとっているのだから、即刻これを止めるのである。ETF(上場投資信託)、J-REIT(上場不動産投資信託)のテーパリングである』、「ETF・・・、J-REIT・・・のテーパリング」、とは面白いアイデアだ。
・『日銀はただちに少額でいいから株を売却せよ これは誰もが賛成するはずだ。とにかく株価を高くして儲けたいという仕手筋のような投機家以外は賛成するはずである。 そこで、テーパリングだけでなく、さらに踏み込んで、即時、売却を開始するのである。 日銀は株を持つべきでない。また株式市場は今大暴落の底にあるわけでもない。また、世界的に株式は上昇局面にあり、日本株は相対的に鈍いとはいえ、ゆるやかな上昇基調にはある。ここで売らずにどこで売る。明日にでも、日銀が株の売却を始めるのである。 ただし、それは本当に需給に影響を与えないほどの小規模で行う。例えば1日10億円程度ではじめる。これなら年間でも2000億円程度であり、ほとんどインパクトはない。 もちろん、このペースでいけば、売却終了に30年もかかってしまう。それでもいい。売らないよりはましだ。そして「日銀が株を売る」というニュースのインパクトはかなりあり、株価は一時的には大幅に下落するだろう。だが、それは一時のショックであり、その後は止まるだろうし、相場が上昇基調なら、緩やかにそのショックによる下落分は回復していくだろう。その後は、1日当たり15億円、20億円と売却額を少しずつ増やしていけばよい。 しかし、株式市場関係者、そして株価を異常に気にする官邸は、強く懸念を持つだろう。「需給には影響なくとも、そのニュースインパクトでショックを与えてしまう。だから、やめろ」と。 この政策の問題点は、ニュースによりショックが起こる可能性がある、という1点に尽きる。それならば、対策を採っておけばよい。 それは、現物のETFは相場状況によらず、淡々と一定額売っていくのだが、相場のセンチメントが大きく揺らぎ、株式市場のリスクプレミアムが異常に大きくなった場合には、そのときこそ、買い入れを行えばよいのである。そして、それは企業経営にひずみをもたらさない、議決権などガバナンスをあいまいにするという副作用をなくすために、日経平均、TOPIX(東証株価指数)先物を売買することにすればよいのだ。 これは「日銀がヘッジファンド化する」という批判を受けるであろう。だが、そんなことはない。むしろ理論的には正統派である。企業経営に影響を与えず、市場のセンチメントがおかしくなることを防ぐだけなのだから、センチメントに直接関係あるのは先物市場であるから、そこで売買を行うのは、リスクプレミアムへの働き方としては、直接的、正統的である。 私は、日銀が明日からETF、J-REIT毎日定額売却し、市場センチメントが崩れるようなことがあれば、先物を用いて株式市場のリスクプレミアムに働きかける。そのような政策を日銀に提案したい』、「日銀が明日からETF、J-REIT毎日定額売却し、市場センチメントが崩れるようなことがあれば、先物を用いて株式市場のリスクプレミアムに働きかける。そのような政策を日銀に提案したい」、私も賛成だ。
・『日銀が株売却の次に行うこととは? そして、その次に行うことは、イールドカーブコントロールの“テーパリング”である。こちらは量ではなく、金利を直接コントロールしている。金融政策とは、金利を通じて経済に働きかけることであるから、これは長期金利市場を殺すという重大な副作用があるものの、政策としては本筋である。したがって、これを枠組みは維持したまま、テーパリングならぬ出口に向かって進めるのである。 それは、利上げ、つまり10年物金利をゼロ付近から、0.2%、0.5%と上げていくのが普通だが、これは利上げ、というインパクトを名実ともにもたらしてしまう。 今回のFEDのテーパリングの打ち出しで、最新の注意を払ったのは、「国債買い入れ量は減らすが、金利は上げない」というメッセージであった。つまり、この2つは別物であり「金利引き上げはより一層慎重に行う」というメッセージを繰り返し強く伝えることだった。 日銀も同じである。金利は上げない。その代わり、ターゲット年限を短くしていくのである。つまり、10年から残存期間9年の国債の市場利回りをゼロ程度に、とし、次は8年、7年、6年、5年としていくのである。 そして、最後には短期金利ゼロのみ、と金利政策において、正常化を図るのである。短期金利をゼロにするのがゼロ金利政策の核であり、短期金利操作は金融政策の王道であり、本来はすべてである。だから、これこそが本当の正常化である。 そして、これにより、長期金利市場を少しずつ生き返らせるのである。10年物の金利がどのように動くか。それを丁寧に観察して、金融政策を調節していくのである。そして、これはアメリカのテーパリングからの同国長期金利の変動の動向と歩調を合わせるようにして、調節していくのである。 したがって、このイールドターゲット短期化政策は、今、FEDがテーパリングを始めるのに合わせて行うのが適切である。もちろん、アメリカに少し先行させながら、日本は後追いで良いのである。 「こちらもショックがあるのでは」という意見もあるだろう。だが、現実には、10年物の金利はゼロでくぎ付けだが、15年、20年の金利は市場で日銀の買い入れ額をにらみながらも一応生きている。したがって、まったくの断絶があるわけではない。生きている残存期間11年金利の市場から10年へと波及してくることになる。 ETFの売却、イールドカーブコントロールの年限の“テーパリング”、実際には短期化、この2つを日銀の次の政策変更として提案したい』、「イールドカーブコントロールの年限の“テーパリング”」、もいいアイデアだ。「アメリカに少し先行させながら、日本は後追いで良いのである」、現実味があってよさそうだ。今回の小幡氏の提案は、なかなかの力作だ。
先ずは、10月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「世界でエネルギー価格が高騰、忍び寄るインフレの足音は日本にも?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/283820
・『世界的にエネルギー価格が上昇し、インフレの足音が忍び寄っている。特に石炭価格の上昇が鮮明で、各国が石炭をし烈に奪い合っている。世界全体でエネルギー資源、自動車、生鮮食料品などの供給が、需要に追い付いていない状況だ。10月から、わが国でもマーガリンやコーヒー豆などが値上がりした。物価の上昇ペースが鈍かった日本にもインフレの波が押し寄せつつある』、「日本にもインフレの波が押し寄せつつある」、本当だろうか。
・『物価の上昇ペースが鈍かった日本 インフレの波が押し寄せつつある(世界的にエネルギー価格が上昇し、インフレの足音が忍び寄っている。主要国の物価動向を見ると、まず目に付くのがエネルギー価格の上昇で、企業間物価の上昇が顕著になっていることだ。それが、徐々に川下の消費者物価にも波及し始めている。 エネルギーの中でも、特に石炭価格の上昇が鮮明化している。中国、米国、欧州各国など世界各国が石炭をし烈に奪い合っている。その背景には、中国とオーストラリアの対立、気候変動問題の深刻化、新型コロナウイルス感染再拡大による物流の寸断とそれによる供給制約の深刻化など複合的な要因が絡む。世界全体でエネルギー資源、自動車、生鮮食料品などの供給が、需要に追い付いていない状況だ。 今後、世界的にインフレ懸念は一段と強まる可能性がある。10月から、わが国でもマーガリンやコーヒー豆などが値上がりした。物価の上昇ペースが鈍かったわが国経済にもインフレの波が徐々に押し寄せつつある。世界的な供給制約は長期化する恐れがあるだけに、今後のインフレ動向が国内外の経済、および金融市場に与える影響は軽視できない』、「物価の上昇ペースが鈍かったわが国経済にもインフレの波が徐々に押し寄せつつある」、やはり事実のようだ。
・『各国の物価動向を見ると上昇圧力が強くなっている 今春以降、多くの国で企業間物価指数の上昇が鮮明だ。その状況が続くと、企業はコストの上昇に呼応して製品やサービスの価格を引き上げ始める。米国ではその動きが顕著だ。2020年12月、前年同月比で0.8%だった米国の生産者物価指数の上昇率は、21年8月には同8.3%まで跳ね上がった。その背景には、コロナ感染再拡大によって世界経済の供給制約が顕在化し、鉱山やエネルギー資源、自動車などの工業製品、あらゆる製品に用いられる半導体などの供給が減少、あるいは停滞したことがある。 また、コロナワクチン接種の増加などによって人々の移動が徐々に緩和されつつあるため、経済活動の正常化が進み、需要が盛り返しつつある。一方、供給サイドでは人手不足も発生している。その結果、米国をはじめ主要国では消費者物価指数が上昇している。 8月の米消費者物価指数の上昇率は前年対比5.3%だった。米国では国内の需要が旺盛であるため、企業はコストの増加分を最終価格に転嫁しやすい。7月の米家計貯蓄率は9.6%と高い。貯蓄が消費に回ることもインフレを押し上げるだろう。 中国でも徐々に消費者物価指数に上昇圧力がかかりつつある。また、ユーロ圏の物価推移を見ると、7月の生産者物価指数は前年同月比で12.1%上昇した。それはいずれ、川下の消費者物価指数の上昇圧力として作用することになる。これまで、主要国ではほとんどインフレに対して警戒する必要を感じてこなかったが、ここへ来て、世界的にインフレの足音が近づいていることは間違いない』、「米消費者物価指数の上昇率は」10月では前年対比6.2%と、1990年以来の高い上昇となった。FRBは依然として、上昇が一時的とみているようだが、旗色が悪くなってきた。
・『石炭価格が上昇している背景 中国とオーストラリアの対立(エネルギーや生鮮食品、さらにはタンカーの船賃まで幅広く物価が上昇する中、石炭価格の上昇が鮮明だ。過去1年間で石炭価格は約3.5倍も上昇して最高値を更新している。さらに足元、石炭価格の上昇の勢いは強まっている。需給は極めてタイトだ。天然ガスなどのエネルギー資源の価格も上昇している。 石炭価格が上昇している背景として見逃せないのが、世界最大の石炭消費国である中国と、インドネシアと並ぶ石炭輸出大国であるオーストラリアの対立だ。新型コロナウイルスの発生源を巡って中豪関係は悪化した。中国はオーストラリア産石炭の輸入を制限し、インドネシアやロシアからの輸入増加を重視した。 オーストラリアからの石炭調達が減少することもあり、中国は火力発電などに必要な石炭を確保できなくなっている。その結果、最近の中国では停電が発生し、遼寧省瀋陽市では信号が消えた。電力供給不足は生産活動にも深刻な影響を与える。中国国内の生産量を増やそうにも、追加の投資を行い、炭鉱を開発するには時間がかかる。不動産大手・恒大集団(エバーグランデ)の債務問題に加え、石炭不足による電力需給のひっ迫も中国経済にマイナス要因である。 同様の事態が世界各国でも発生している。脱炭素への取り組みが進む中、燃焼時の温室効果ガス発生量が相対的に少ない、液化天然ガスを用いた火力発電を重視する国が増えている。その一方で、世界的な気候変動の影響で冷暖房のための電力需要が急速に増えている。加えて、コロナワクチン接種などによる経済の正常化によって、電力需要が急速に伸びている。 そうした中、各国は石炭火力発電を重視せざるを得なくなっている。4月にドイツでは最新鋭の石炭火力発電所が稼働し始めた。経済運営のために世界各国が石炭を奪い合う状況はしばらく続くだろう』、「経済の正常化によって、電力需要が急速に伸びている・・・各国は石炭火力発電を重視せざるを得なくなっている」、やむを得ない「石炭火力」依存だ。
・『わが国にも忍び寄るインフレの足音 英国ではトラック運転手の不足によってガソリン供給が減少している。その結果、一部の買いだめ行動がハーディング現象(周りへの同調や行動追随)を引き起こしてパニックが起きた。米国ではハリケーンの襲来によってメキシコ湾での原油生産が減っている。原油の需給もひっ迫している。 そうした状況下、わが国にインフレの足音が近づいている。10月から、マーガリン、輸入車、電力・ガス、小麦などが値上がりした。異常気象の影響によって葉物野菜など生鮮食料品も値上がりしている。8月、わが国の企業物価指数は前年同月比5.5%上昇した。消費者物価は総合指数が同0.4%下落し、生鮮食品を除く総合指数は横ばい(同0.0%)だった。物価上昇の勢いは強まるとみておくべきだ。 今後、世界経済の供給制約はより深刻化する可能性がある。コロナ感染が再拡大すれば世界の物流がひっ迫する。中豪の対立は一段と深刻化する恐れがある。また、新興国でのワクチン接種の遅れは物流寸断を長引かせ、電子部品などの生産や鉱山資源などの供給が遅れる要因だ。 その結果、世界的なインフレ圧力は一段と強まる可能性がある。FRBのパウエル議長は、物価上昇は一時的としながらも「予想以上に長引く可能性」に言及し始めた。 その一方で、世界経済の回復ペースは徐々に鈍化する恐れもある。コロナ感染再拡大に加えて、中国のエバーグランデのデフォルトリスクが高まっている。仮に、エバーグランデの債務がクロスデフォルトのような状況に陥れば、中国の不動産市況は悪化し、中国の景気減速はさらに進むだろう。物価上昇懸念は金利を上昇させ、株価の下落リスクも高まる。いずれも世界経済にはマイナスだ。 今後、インフレ圧力が強まると同時に、世界経済の減速懸念が高まる展開は軽視できない。それは、需要が縮小均衡に向かうわが国経済にとって大きな逆風になるはずだ』、「インフレ圧力が強まると同時に、世界経済の減速懸念が高まる展開」、となれば典型的なスタグフレーションだ。やれやれ・・・。
次に、11月5日付け東洋経済オンラインが転載したブルームバーグ「米中銀資産購入を月150億ドルペースで縮小決定 インフレ高進は一時的との確信度合いは弱める」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/466587
・『米連邦公開市場委員会(FOMC)は2、3両日に開催した定例会合で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを0-0.25%で据え置くことを決定した。毎月実施している資産購入については、月額150億ドル(約1兆7000億円)のペースで縮小を開始すると表明。新型コロナウイルス禍に導入した緊急支援策の解除を始める。インフレ高進については、一時的との認識について従来よりも確信の度合いを弱めた』、いわゆるテーパリング開始を決定した。「インフレ高進については、一時的との認識について従来よりも確信の度合いを弱めた」、一時は自信満々だったのに、弱気になったようだ。
・『市場関係者の見方は以下の通り。 ◎FOMC決定、150億ドルが最大のテーパリングペースを意味-BMO FOMCの決定は、150億ドルが当面のテーパリング(資産購入の段階的縮小)の最大のペースになることを意味しているとBMOキャピタル・マーケッツのストラテジスト、ベン・ジェフリー氏は指摘した。 ・2年債がアウトパフォームする一方で5年債が売られている理由はこれで説明される ・「FOMCは英中銀やカナダ中銀よりも遅く始める可能性もあり、後手に回って結局は劇的な利上げを行う必要に迫られるリスクがある」 ◎11月からのテーパリング、可及的速やかな開始望む意向を示唆-RBC FOMCが12月ではなく11月のテーパリング(資産購入の段階的縮小)開始を決めたことは、「若干タカ派的であり、できるだけ速やかに開始したい金融当局の意向を示唆している」と、RBCウェルス・マネジメントのシニア・ポートフォリオストラテジスト、トム・ギャレットソン氏が指摘した。 ・発表されたペースでの今月からのテーパリング開始は、それが来年6月までに終了し、金融政策の次の段階が設定されることを示唆 ・市場が来年に想定している利上げ回数はあまりにも多く、RBCの基本シナリオでは最初の利上げは2022年12月 ・金融当局が資産購入を今月と来月に月額150億ドルずつ縮小するとのFOMC決定を踏まえたコメント) FOMCのインフレに関する文言、タカ派色少し強めた-BNYメロン FOMCがインフレに関する文言を「一過性と予想される」に変えたことは、11月の声明にタカ派色を添えたとバンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNYメロン)のストラテジスト、ジョン・ベリス氏が指摘した。 ・「150億ドルのテーパリングは予想されていただけに、これでほんの少しだけタカ派色が強まった」 ・市場はまだ大きく動いていないかもしれないが、トレーダーはパウエルFRB議長がインフレとテーパリングのペースをどう詳しく説明するかに注目するだろう ・「議長がインフレに関する質問にどう対処するか、テーパリングのペースを変える能力に関してどう話すのかが、より重要かもしれない」 ◎ドル売りは限定的に、FOMCのテーパリング調整余地で-ウェルズF」、FOMC決定で、テーパリングペースを調整する余地を自らに与え、これがドルへの影響を限定的なものにするだろうと、ウェルズ・ファーゴのストラテジスト、エリック・ネルソン氏(ニューヨーク在勤)が指摘した。 ・テーパリングは「必要になれば加速できる」 ・「そのことが利上げ観測のハト派的な再評価を限定的にし、ドルをここで支えている」 備考:ドルはFOMC決定の発表直後に下落したが、その後は下げを消した』、「利上げ観測のハト派的な再評価を限定的にし、ドルをここで支えている」、とは、利上げをそれほどしないだろうとの見方が限定的になったので、ドルがそれだけ堅調になったとの意味である。
第三に、9月5日付け東洋経済オンラインが掲載した財務省出身で慶應義塾大学大学院准教授の小幡 績氏による「日銀もついに「テーパリング」するときが来た 日本銀行が犯した「5つの間違い」とは一体何か」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/453017
・『ジェローム・パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、注目された8月27日のジャクソンホール会議での講演で「まもなくテーパリング(緩和縮小、国債などの買い入れ額を削減すること)する」と明確に述べた。ついに、アメリカの中央銀行であるFEDはテーパリングを開始しようとしている。 さあ、日本銀行もテーパリングを開始すべきときがやってきた。即時開始すべきだ。今回は、日銀がすぐさまとるべき金融政策の変更を提言したい』、「日本銀行もテーパリングを開始すべきときがやってきた」、との衝撃的な見解を示したのは、私が知る限り小幡氏だけである。
・『日米2つの中央銀行の差は歴然 FEDと日本銀行とのパフォーマンスの差は歴然だ。ともに量的緩和を行ったが、アメリカは、行った2度とも脱出に成功している(ちなみにFEDは量的緩和という言葉を自らは決して使わない。バランスシート政策あるいは資産買い入れプログラムと呼んでいる)。 1度目は、世界金融危機(2008年のリーマンショック)のときのベン・バーナンキFRB議長(当時)だ。2013年に「バーナンキショック」などと投機関係者には八つ当たりされたが、しかし、自分が広げた風呂敷は、しっかりたたむメドをつけて去っていった。 だから、その後FEDのバランスシートはしっかりと縮小し、今回のコロナショックへの対応で、国債などの資産買い入れを大規模に行うことができた。そして、また、今回もその資産買い入れ政策の役割が終わったら、さっと引き揚げることに成功しつつある。資産買い入れ政策は危機対応の緊急政策であって、ドカンとやって、さっと引き揚げる。これが戦略の要諦である。アフガニスタンが、その反対の例だ。 一方、日本銀行は、言ってみれば昨今のアフガニスタンよりもひどい状況だ。2001年に量的緩和を開始し、福井俊彦総裁(当時)が2006年に解除した。これは、パウエル議長と同様、きちんと幕引きをして去っていったのだが、現在は見るも無残な状況になっており、国債発行残高の半分は日本銀行が保有するという有様だ。 しかし、日本銀行は、もともと世界的に珍しく、長期国債を恒常的に買ってきた中央銀行であった。当時は日銀ルール(銀行券ルール)という、紙幣の流通量以下に長期国債の保有額を抑えるという自主ルールがあった。自主ルールではあったが、強力な歯止めとして、これを破るのは日銀としては絶対のタブーだった。しかし、黒田東彦総裁があっさりと無視し、外し、現在はこのタガは外れっぱなしどころか、ほとんどの人が忘れている。もう2度と戻ってくることはないだろう。 つまり、FEDも量的緩和(資産買い入れ)という危険な政策をとったが、危機対応であるという認識は保持し、隙あらば撤回するという姿勢で臨み、退却に成功した。一方、日本はそれに失敗しただけでなく、危機対応であるという認識が一般には薄れてしまい、今では日銀自身も諦めたかのような状況だ』、日米の金融政策の大きな格差はどうして生じたのだろう。小幡氏が以下で謎解きをしてくれるようだ。
・『日銀は何を間違えたのか? さて、日銀は何が悪かったのか。何を間違えてしまったのか。 第1に、2001年に量的緩和というものを発明してしまったことだ。この量的緩和こそが本当の量的緩和だが、それは長期国債を買い入れることではない。短期金利を政策目標にすることから、日銀当座預金残高を政策指標とすることに変更したことだった。これは、短期金利市場を壊すという副作用があるが、長期国債の市場を壊すよりは罪が軽く、「コストのかかるおまじない」に過ぎなかった。 しかし、これにより、量的緩和という画期的なおもちゃが、金融市場を知らないばかりか、日本経済の将来に対して無邪気で無責任な人々に与えられてしまった。日銀の政策手段が、王道の金利操作だけでなく、資産の買い入れ(このときは超短期国債であったにせよ)という邪道なものまで追加されてしまったのである。これが、後にリーマンショック後の政策、そしてアベノミクスによるリフレ政策という最悪の事態を招くこととなる』、「「コストのかかるおまじない」に過ぎなかった」、とは手厳しい批判だ。
・『第2に、量的緩和のイメージから、誤ったマネタリズムを振りかざす、いわゆる有識者の政策マーケットへの参入を招いてしまったことだ。彼ら(厳密に言うとマネタリズムを強引に都合よく解釈した「誤った」マネタリストたち)は、「とにかくマネーそのものを増やせ」と主張した。 実際、日銀の当初の量的緩和はそれを実行していたのだから、日銀がそれを否定するには、日銀の行った量的緩和と巷の誤ったマネタリストたちの主張する無邪気なマネタリズムを区別する厳密な議論が必要となった。結局、世間、メディア、政治家達には理解ができず、単純なお金が増えるというイメージに訴えかける彼らの主張がはびこることとなった。 彼らは「デフレと円高を解消し、日本経済の問題は一挙に解決し、バラ色の日本経済がやってくる」と騒いだ。これ以降、まともな「アカデミックな金融政策論争」は不可能になり、お金を日銀が刷ればすべて解決するというイメージが、どうして誤りなのかを説得することに政策論争のリソースがつぎ込まれるという不毛な10年間となった。この結果、経済政策は金融政策だけでなく、すべての分野で不在となり、日本経済の停滞に寄与した』、「まともな「アカデミックな金融政策論争」は不可能になり、お金を日銀が刷ればすべて解決するというイメージが、どうして誤りなのかを説得することに政策論争のリソースがつぎ込まれるという不毛な10年間となった」、その主犯の「「誤った」マネタリストたち」の罪はまことに深い。
・『第3の間違いは、このマネタリストの圧力により「インフレターゲット2%」を日銀が導入してしまったことだ。 これが現在も日銀の金融政策を縛っている。欧米主要国の多くが2%ターゲットをとっているから、日銀だけそれをターゲットとして数量的な目標を設定しないのは無責任だ、という議論に押されて導入してしまった。 だが、日本ではそもそもインフレ率が継続的に2%を超えていたのは、1990年のバブルのときまでさかのぼらなければならない。しかも、その当時は、世界的に日本の物価は異常に高すぎるとして、物価をとにかく下げろ、内外価格差是正、ということが経済政策の大きな目標の1つだった。 すなわち、2%という「達成不可能なゴール」、かつ「達成されることは日本経済にとって非常に悪いことであるゴール」を設定することになってしまった。 この結果、日銀の政策は、いわゆるデフレマインド、実際のところは、貧乏くさい萎縮マインドを改善する、というある程度意味のある効果を伴ったときはよかった。だが、現在の異次元緩和の主人公である黒田総裁自身が「日本経済の問題は需要不足ではないことが明らかになった」と宣言した後、7年たっても、なお2%のインフレ率達成がゴールとされ続けている。 これは不必要どころか、副作用の大きいリフレ政策を行うことを強いられていることにほかならない。長期国債を大量に購入するという政策からの出口を議論できなくなってしまったという最大の困難をもたらしている』、「2%という「達成不可能なゴール」、かつ「達成されることは日本経済にとって非常に悪いことであるゴール」を設定することになってしまった」、「副作用の大きいリフレ政策を行うことを強いられている」、これは日銀が犯した重大なミスだ。
・『さて、それ以外にも、日銀はさまざま過ちを犯している。第4として、上場株式ETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)というリスク資産を中央銀行が買うという前代未聞の政策を行った。これは、いかなる角度からも意味不明であり、200%いや1000%誤りである。 ただし、日経平均株価が8000円台などの場合には、株価下支え効果がてきめんにあった。実際、アベノミクスでは、円安誘導、異常国債買い入れとともに、株価の急回復をもたらした』、「リスク資産を中央銀行が買うという前代未聞の政策」は「いかなる角度からも意味不明であり、200%いや1000%誤り」、その通りだ。
・『中央銀行が企業の株式を買うことは無意味 しかし、理論的には、意味がまったくないし、中央銀行が企業の株式を買うということはまったく意味がない。「リスクプレミアムに働きかける」というが、株式トレーダーのリスクプレミアムに働きかけることは理論的だけでなく、道義的、社会的にもやってはならないことであり、実体経済における設備投資や人的資本投資という実物投資行動へのリスクプレミアムに働きかけるものでなくてはならない。そこへ到達できる金融市場における唯一の道は金利であり、株価とは無関係である。 さらに、現在は、イールドカーブコントロールと呼ばれる、長期金利を直接コントロールするためのターゲット水準を設けている。今は10年物国債金利をゼロ程度にすることで、長期金利をゼロに釘付けにしている。これは、短期金利市場を政策金利で殺していると同時に、長期金利市場までをも殺すことによって、金融市場を完全に長短ともに殺してしまっている、という重大な罪を犯している。これが第5の誤りだ。 実は、この第5の誤りと第4の誤りは、第3の誤りの副作用として生じたものである。長期国債のさらなる買い入れを、世間から、メディアから、そして自ら宣言した政策方針によって迫られてしまい、逃げ場がなくなった。 しかし「長期国債をこれ以上買ってはいけない」という日銀最後の良心が働き、それをなんとしても防ぐために、何でもいいから、国債を買う以外の手段をとれ、ということで苦し紛れに行ったものである。罪深いが、これが罪を犯した根本の原因ではない。それは日銀もわかっているはずだ』、「「長期国債をこれ以上買ってはいけない」という日銀最後の良心が働き、それをなんとしても防ぐために、何でもいいから、国債を買う以外の手段をとれ、ということで苦し紛れに行ったものである」、痛烈な日銀批判だ。
・『日銀は「過ち」をどうすべきか? では、このような経緯、環境の下で、今、日本銀行は、どのように、罪滅ぼし、いやさらなる罪を犯すことを止めるように動くべきか。第1と第2の過ちは取り返しがつかない。もう、そうなってしまっているから時計の針は元に戻せない。根本的な罪は、第3の過ち「インフレターゲット2%」、物価目標の存在である。これを撤廃するのが、根本的な解決の1つである。 日銀が行うべきもっとも重要なことは、継続的な物価下落(いわゆるデフレスパイラル)とはとことん戦うが、物価が安定的にプラスあるいはゼロ付近であれば、物価自体ではなく、景気の安定化という本来の目的を直接的な政策目標とする、と宣言することである。 もはやデフレではなく、デフレスパイラルが起こる恐れは小さいのだから「物価そのものではなく、景気減速を防止するために最大限の金融政策を行う」と宣言するべきである。 しかし、これが理想ではあるが、現実的ではない。なぜなら、中央銀行の政策目標は一義的には物価であり、物価の安定を通じて、景気安定、経済の長期的な発展に資するものである、という主張は理論的には否定できない。また、現実にも、その考え方を文字通りに捉えるべきだと考える経済学者、セントラルバンカーが数多くいるからだ。 今、このような根本的な論争をしている場合ではない。危機対応、異次元緩和という異常事態の是正であるから、このような根本の議論は長期的な課題として後回しにするべきである。 最小限やっておくべきことは「物価は重要だが、2%という絶対水準にこだわるのではなく、ある程度柔軟に考える」というスタンスをはっきり打ち出すことである。これは、はっきりとは打ち出されてはいないが、暗には成立しており、日銀は、この考え方で動いている。はっきりさせたほうがよいことはよいが、すべてを犠牲にして無理してやることもない。) なんといっても、日銀がまず第1に、誰の目から見てもやるべきことがある。それはテーパリングである。しかし、それは国債ではなく株である。「上場株式の買い入れ」という百害あって一利なしの政策をとっているのだから、即刻これを止めるのである。ETF(上場投資信託)、J-REIT(上場不動産投資信託)のテーパリングである』、「ETF・・・、J-REIT・・・のテーパリング」、とは面白いアイデアだ。
・『日銀はただちに少額でいいから株を売却せよ これは誰もが賛成するはずだ。とにかく株価を高くして儲けたいという仕手筋のような投機家以外は賛成するはずである。 そこで、テーパリングだけでなく、さらに踏み込んで、即時、売却を開始するのである。 日銀は株を持つべきでない。また株式市場は今大暴落の底にあるわけでもない。また、世界的に株式は上昇局面にあり、日本株は相対的に鈍いとはいえ、ゆるやかな上昇基調にはある。ここで売らずにどこで売る。明日にでも、日銀が株の売却を始めるのである。 ただし、それは本当に需給に影響を与えないほどの小規模で行う。例えば1日10億円程度ではじめる。これなら年間でも2000億円程度であり、ほとんどインパクトはない。 もちろん、このペースでいけば、売却終了に30年もかかってしまう。それでもいい。売らないよりはましだ。そして「日銀が株を売る」というニュースのインパクトはかなりあり、株価は一時的には大幅に下落するだろう。だが、それは一時のショックであり、その後は止まるだろうし、相場が上昇基調なら、緩やかにそのショックによる下落分は回復していくだろう。その後は、1日当たり15億円、20億円と売却額を少しずつ増やしていけばよい。 しかし、株式市場関係者、そして株価を異常に気にする官邸は、強く懸念を持つだろう。「需給には影響なくとも、そのニュースインパクトでショックを与えてしまう。だから、やめろ」と。 この政策の問題点は、ニュースによりショックが起こる可能性がある、という1点に尽きる。それならば、対策を採っておけばよい。 それは、現物のETFは相場状況によらず、淡々と一定額売っていくのだが、相場のセンチメントが大きく揺らぎ、株式市場のリスクプレミアムが異常に大きくなった場合には、そのときこそ、買い入れを行えばよいのである。そして、それは企業経営にひずみをもたらさない、議決権などガバナンスをあいまいにするという副作用をなくすために、日経平均、TOPIX(東証株価指数)先物を売買することにすればよいのだ。 これは「日銀がヘッジファンド化する」という批判を受けるであろう。だが、そんなことはない。むしろ理論的には正統派である。企業経営に影響を与えず、市場のセンチメントがおかしくなることを防ぐだけなのだから、センチメントに直接関係あるのは先物市場であるから、そこで売買を行うのは、リスクプレミアムへの働き方としては、直接的、正統的である。 私は、日銀が明日からETF、J-REIT毎日定額売却し、市場センチメントが崩れるようなことがあれば、先物を用いて株式市場のリスクプレミアムに働きかける。そのような政策を日銀に提案したい』、「日銀が明日からETF、J-REIT毎日定額売却し、市場センチメントが崩れるようなことがあれば、先物を用いて株式市場のリスクプレミアムに働きかける。そのような政策を日銀に提案したい」、私も賛成だ。
・『日銀が株売却の次に行うこととは? そして、その次に行うことは、イールドカーブコントロールの“テーパリング”である。こちらは量ではなく、金利を直接コントロールしている。金融政策とは、金利を通じて経済に働きかけることであるから、これは長期金利市場を殺すという重大な副作用があるものの、政策としては本筋である。したがって、これを枠組みは維持したまま、テーパリングならぬ出口に向かって進めるのである。 それは、利上げ、つまり10年物金利をゼロ付近から、0.2%、0.5%と上げていくのが普通だが、これは利上げ、というインパクトを名実ともにもたらしてしまう。 今回のFEDのテーパリングの打ち出しで、最新の注意を払ったのは、「国債買い入れ量は減らすが、金利は上げない」というメッセージであった。つまり、この2つは別物であり「金利引き上げはより一層慎重に行う」というメッセージを繰り返し強く伝えることだった。 日銀も同じである。金利は上げない。その代わり、ターゲット年限を短くしていくのである。つまり、10年から残存期間9年の国債の市場利回りをゼロ程度に、とし、次は8年、7年、6年、5年としていくのである。 そして、最後には短期金利ゼロのみ、と金利政策において、正常化を図るのである。短期金利をゼロにするのがゼロ金利政策の核であり、短期金利操作は金融政策の王道であり、本来はすべてである。だから、これこそが本当の正常化である。 そして、これにより、長期金利市場を少しずつ生き返らせるのである。10年物の金利がどのように動くか。それを丁寧に観察して、金融政策を調節していくのである。そして、これはアメリカのテーパリングからの同国長期金利の変動の動向と歩調を合わせるようにして、調節していくのである。 したがって、このイールドターゲット短期化政策は、今、FEDがテーパリングを始めるのに合わせて行うのが適切である。もちろん、アメリカに少し先行させながら、日本は後追いで良いのである。 「こちらもショックがあるのでは」という意見もあるだろう。だが、現実には、10年物の金利はゼロでくぎ付けだが、15年、20年の金利は市場で日銀の買い入れ額をにらみながらも一応生きている。したがって、まったくの断絶があるわけではない。生きている残存期間11年金利の市場から10年へと波及してくることになる。 ETFの売却、イールドカーブコントロールの年限の“テーパリング”、実際には短期化、この2つを日銀の次の政策変更として提案したい』、「イールドカーブコントロールの年限の“テーパリング”」、もいいアイデアだ。「アメリカに少し先行させながら、日本は後追いで良いのである」、現実味があってよさそうだ。今回の小幡氏の提案は、なかなかの力作だ。
タグ:ダイヤモンド・オンライン 異次元緩和政策 (その38)(世界でエネルギー価格が高騰 忍び寄るインフレの足音は日本にも?、米中銀資産購入を月150億ドルペースで縮小決定 インフレ高進は一時的との確信度合いは弱める、日銀もついに「テーパリング」するときが来た 日本銀行が犯した「5つの間違い」とは一体何か) 真壁昭夫 「世界でエネルギー価格が高騰、忍び寄るインフレの足音は日本にも?」 「日本にもインフレの波が押し寄せつつある」、本当だろうか。 「物価の上昇ペースが鈍かったわが国経済にもインフレの波が徐々に押し寄せつつある」、やはり事実のようだ。 「米消費者物価指数の上昇率は」10月では前年対比6.2%と、1990年以来の高い上昇となった。FRBは依然として、上昇が一時的とみているようだが、旗色が悪くなってきた。 「経済の正常化によって、電力需要が急速に伸びている・・・各国は石炭火力発電を重視せざるを得なくなっている」、やむを得ない「石炭火力」依存だ。 「インフレ圧力が強まると同時に、世界経済の減速懸念が高まる展開」、となれば典型的なスタグフレーションだ。やれやれ・・・。 東洋経済オンライン ブルームバーグ 「米中銀資産購入を月150億ドルペースで縮小決定 インフレ高進は一時的との確信度合いは弱める」 いわゆるテーパリング開始を決定した。「インフレ高進については、一時的との認識について従来よりも確信の度合いを弱めた」、一時は自信満々だったのに、弱気になったようだ。 「利上げ観測のハト派的な再評価を限定的にし、ドルをここで支えている」、とは、利上げをそれほどしないだろうとの見方が限定的になったので、ドルがそれだけ堅調になったとの意味である。 小幡 績 「日銀もついに「テーパリング」するときが来た 日本銀行が犯した「5つの間違い」とは一体何か」 「日本銀行もテーパリングを開始すべきときがやってきた」、との衝撃的な見解を示したのは、私が知る限り小幡氏だけである。 、日米の金融政策の大きな格差はどうして生じたのだろう。小幡氏が以下で謎解きをしてくれるようだ。 「「コストのかかるおまじない」に過ぎなかった」、とは手厳しい批判だ。 「まともな「アカデミックな金融政策論争」は不可能になり、お金を日銀が刷ればすべて解決するというイメージが、どうして誤りなのかを説得することに政策論争のリソースがつぎ込まれるという不毛な10年間となった」、その主犯の「「誤った」マネタリストたち」の罪はまことに深い。 「2%という「達成不可能なゴール」、かつ「達成されることは日本経済にとって非常に悪いことであるゴール」を設定することになってしまった」、「副作用の大きいリフレ政策を行うことを強いられている」、これは日銀が犯した重大なミスだ。 「リスク資産を中央銀行が買うという前代未聞の政策」は「いかなる角度からも意味不明であり、200%いや1000%誤り」、その通りだ。 「「長期国債をこれ以上買ってはいけない」という日銀最後の良心が働き、それをなんとしても防ぐために、何でもいいから、国債を買う以外の手段をとれ、ということで苦し紛れに行ったものである」、痛烈な日銀批判だ。 「ETF・・・、J-REIT・・・のテーパリング」、とは面白いアイデアだ。 「日銀が明日からETF、J-REIT毎日定額売却し、市場センチメントが崩れるようなことがあれば、先物を用いて株式市場のリスクプレミアムに働きかける。そのような政策を日銀に提案したい」、私も賛成だ。 「イールドカーブコントロールの年限の“テーパリング”」、もいいアイデアだ。「アメリカに少し先行させながら、日本は後追いで良いのである」、現実味があってよさそうだ。今回の小幡氏の提案は、なかなかの力作だ。