資本主義(その8)(「無形資産」の時代に新しく資本家になる人の特徴 必要なのは工場でも土地でもない多様な可能性、「新しい資本主義」とは何か? それは「データ資本主義」「資本なき資本主義」である 検討するまでもない。なのに日本は未だ、日本人が知らない「脱成長でも豊かになれる」根拠 若き経済思想家・斎藤幸平が語る貧困解決策) [経済]
資本主義については、11月4日に取上げた。今日は、(その8)(「無形資産」の時代に新しく資本家になる人の特徴 必要なのは工場でも土地でもない多様な可能性、「新しい資本主義」とは何か? それは「データ資本主義」「資本なき資本主義」である 検討するまでもない。なのに日本は未だ、日本人が知らない「脱成長でも豊かになれる」根拠 若き経済思想家・斎藤幸平が語る貧困解決策)である。
先ずは、11月16日付け東洋経済オンラインが掲載した NHK「欲望の資本主義」プロデューサー/東京藝術大学客員の丸山 俊一氏による「「無形資産」の時代に新しく資本家になる人の特徴 必要なのは工場でも土地でもない多様な可能性」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/468550
・『人が持つ技術や能力などの人的資産、デジタルソフトウェアなど、モノとしての実体が存在しない「無形資産」。肥大化する無形資産は、私たちの生活にどのような影響を与えるのか。 NHK「欲望の資本主義2021」での発言や『無形資産が経済を支配する』(共著)が話題のジョナサン・ハスケル教授に、無形資産の肥大化の影響を聞いた。番組の未公開部分も多数収録した『欲望の資本主義5:格差拡大 社会の深部に亀裂が走る時』から、一部を抜粋してお届けする(Qは聞き手の質問)』、興味深そうだ。
・『無形資産は格差を拡大も縮小もさせる Q:世界的に人々の間で格差が広がっていますが、無形資産と格差はどのような関係にあるのでしょうか。無形資産の肥大化は資本家と中産階級、労働者階級といった階層構造にも影響を与えていますか。 ※無形資産=モノとしての実体が存在しない資産。特許や著作権などの知的資産、人が持つ技術や能力などの人的資産が代表例。その他、ブランド力などの市場関連資産、顧客情報・顧客基盤などの顧客関連資産や、企業文化、経営能力、人工知能システムなどのデジタルソフトウェアなど、多くの無形資産があると考えられている ハスケル:無形資産が肥大化するという経済のトレンドは格差を拡大していくはずです。なぜなら、無形資産には、容易に規模を拡大できるという経済特性があるからです。 例えば、「ハリー・ポッター」シリーズはイギリスの大変重要な輸出品ですが、仮に私がその著者であったとしたら、その小説を世界中に売ることができます。 しかし、私が車を作って売っているとしたら、何度も繰り返して一台の車を売り続けることはできません。 つまり、「ハリー・ポッター」という知的財産を所有している人が得る利益は、有形資産を売買している人々が得る利益に比べて非常に大きくなり、それが格差に反映されるのです。そうした無形資産の肥大化とグローバリゼーションやインターネットが組み合わさって、格差を広げているのだと私は考えています。 Q:将来にわたって、格差は拡大し続けるということでしょうか。 ハスケル:それは予測の難しい問題です。無形資産は反対方向に働く二つの力を内包しているからです。とても興味深い特徴です。 先ほど申し上げたとおり、無形資産には規模を拡大しやすいという特徴があり、それは格差を拡大する方向に働く力です。 一方で、無形資産には、『無形資産が経済を支配する』で私たちが「スピルオーバー(波及)」と呼んだもう一つの特性があります。 自動車の作り方を完全に真似するのは大変難しいことですが、デザインを真似るのはとても簡単です。例えば、アイフォン(iPhone)の発売から1年半も経たないうちに、世界中のスマートフォンはどれも、アイフォンそっくりのデザインになっていました。それが、私たちがスピルオーバーと呼ぶ現象です。 これはほんの一例ですが、デザインという無形資産が他者に波及したのです。それには大きな投資は要りません。つまり、スピルオーバーの観点からは、無形資産には平等化を進める力があるとも言えるのです。それは、格差を広げる力とは逆方向に働く力です。 理由はわかりませんが、現時点では格差を広げる方向の力が、反対方向に働く力よりも強いようです。それが、将来的にどう変化するのかを予測するのは非常に難しく、まだ答えは出ていません。 いずれにせよ、無形資産には格差を広げる方向に働く力と、縮める方向に働く力という、逆方向に向かう二つの力があることは確かです』、「無形資産には格差を広げる方向に働く力と、縮める方向に働く力という、逆方向に向かう二つの力がある」、「現時点では格差を広げる方向の力が、反対方向に働く力よりも強いようです」、なるほど。
・『ICT革命が無形資産を肥大化 Q:無形資産が経済を支配するようになった、あるいは将来的にそうなるとすれば、転換点はどこにあるのでしょうか。著書『無形資産が経済を支配する』では「1990年代半ばに、アメリカで無形資産への投資が有形資産への投資を上回った」と指摘しておられますが、それが変化を加速させたとお考えですか。 ハスケル:私たちが収集しているデータによれば、開発途上国でもその傾向は強くなっていますが、先進国ではそれよりずっと、無形資産への投資が急増しています。データは、アメリカがその動きをリードしてきたことを示しています。ご指摘のとおり、アメリカでは1990年代の初めに無形資産への投資が有形資産への投資を上回りました。 この時期はICT(情報通信技術)革命が急速に拡大した時期と重なりますから、その影響を強く受けた変化であったことは間違いありません。インターネットが登場し、コンピューターが私たちの日常生活の一部になりました。コンピューターは有形資産のハードウェアですが、無形資産であるソフトウェアがなければそれを利用することはできません。 インターネットを構築するシステムも、通信システムも、ハードウェアとソフトウェアの両者で成り立っています。そのため、ハードウェアへの投資に加え、ソフトウェア=無形資産への投資が必要になり、その規模は有形資産への投資を上回る規模となりました。それが1990年代に起こったできごとの一つです。) さらに、ICT革命に伴い、1990年代には、ICT業界だけでなく、他の多くの業界でも無形資産への投資が広がりました。アメリカを筆頭に、他の国々でも小売や金融、旅行などさまざまな業界で、コンピューターとソフトウェアを使った業務形態の変化が始まりました。 例えば、銀行や旅行会社、航空会社は業務のオンライン化を推進しました。無形資産とは無縁と考えられていた運輸業界までもが、業務形態を変えるために無形資産への投資を余儀なくされたのです。 産業構造における無形資産への投資は、革命と呼べるような劇的な変化で、ICT業界にとどまらず、幅広い産業分野にまたがる現象になっていったのです。 Q:そして、その傾向は、今日まで続いているということですね。 ハスケル:さまざまな局面で増減を示しながらも、大きな潮流としてはそのとおりです。1990年代前半にアメリカで無形資産への投資が有形資産の投資を上回って以降、他の諸国にも同様の傾向は波及し、無形資産への投資でアメリカを追い上げました。それは今も続いています。 2008年に端を発した金融危機以降は無形資産への投資が鈍化しましたが、世界的に長期的な増加傾向であることは間違いありません』、「1990年代前半にアメリカで無形資産への投資が有形資産の投資を上回って以降、他の諸国にも同様の傾向は波及し、無形資産への投資でアメリカを追い上げました。それは今も続いています」、なるほど。
・『芸術家が資本家になる Q:現在、新型コロナウイルスの影響で、社会のデジタル化に拍車がかかっています。無形資産の増大は、経済にどのような影響を与えるとお考えですか。 ハスケル:コロナ禍において無形資産が経済発展をもたらす可能性はいくつかあると思います。一つは、状況改善につながる良い変化を生む可能性です。 例えば、私はこれまで週5日出勤することや、通勤に長時間かけることにストレスを感じ、違和感を抱いていました。一方で、コロナ禍でのロックダウンによって通勤しなくてよくなった今、それにも違和感があり望ましくないと感じています。私としては、その中間がよいと思っているのです。コロナをきっかけに、それが実現するかもしれません。 これが無形資産とどう関係するのか考えてみましょう。ホワイトカラーや専門職の人々の多くがリモートで仕事ができるのは、通信手段や機器の発達のおかげです。パソコンやインターネットを使ったオンライン会議で、場所に縛られずに仕事ができるからです。 しかし、現状では、多くの人はそのような働き方ができません。接客などリモートでは難しい仕事があるのはもちろんですが、企業の事業マネージメントの制約でリモートワークが進まないケースも多く見られます。) リモートワークをさらに広げるには、多くの企業がビジネスモデルを転換させなければなりません。今までのやり方を大きく変える必要があるのです。同じ場所に集まっている人たちではなく、それぞれ離れた場所にいる人たちをマネージングしなければなりません。 リモートであっても、労働者の意欲を向上させたり、仕事に集中させたり、社内のイノベーションや協力体制を維持したりする方法を探るのです。 コロナを経済成長のきっかけにするためには、このような新たなマネージメント技術やビジネスモデルといった無形資産に大きな投資をする必要があります』、「コロナを経済成長のきっかけにするためには、このような新たなマネージメント技術やビジネスモデルといった無形資産に大きな投資をする必要があります」、その通りだ。
・『「ハリー・ポッター」のストーリーこそが資本 Q:資本主義の形や社会は変わるのでしょうか。 ハスケル:無形資産が支配する経済では、資本家の富を生み出す源が変わります。保有する資本そのものが変わるためです。 もう一度、「ハリー・ポッター」の話に戻ってみます。原作者はイギリス人作家のJ・K・ローリングですが、彼女は工場も土地も所有していません。過去の資本家たちが富を築く基盤としたものを何も持っていないのです。 ローリングが保有しているのは無形資産です。具体的には、自らが生み出した素晴らしいストーリーが資本です。資本主義社会の中で、他の資本家とは異なる形態の資本を保有しているのです。 もちろん、世界的な大ベストセラーは、いわゆる無形資産の中でもかなり特殊な例です。検討すべきなのは、もっと幅広い意味で資本的な無形資産を持つ人々が、どのような可能性を秘めているかということです。 例えば、コンピューター・プログラミングの技術や、優れたデザインを生み出す才能、研究開発の能力なども無形資産と言えますが、当然のことながら、無形資産の経済は、それだけでは成り立ちません。 とりわけ重要なのは、これらの作業をコーディネートできる人材や、企業などの大きな組織の中でマネージメントができる人材です。フェイスブックやグーグルのような大企業で、創造力にあふれた人たちをまとめられる人材ですね。 そうした人材が保有していると考えられる無形資産は、優れたプログラミング能力やエンジニアリング能力ではなく、人間関係のマネージングや、クリエーティブな人たちのマネージングに長けた能力です。 無形資産の経済では、このように例えば知性のような無形の資産を持つ人が資本家になることが考えられるのです。それは詩人かもしれませんし、歴史家かもしれません。古代ギリシャや日本の古典を研究する学者かもしれません。多様な可能性を持った面白い資本家が誕生するかもしれないのです』、「創造力にあふれた人たちをまとめられる人材ですね。 そうした人材が保有していると考えられる無形資産は・・・人間関係のマネージングや、クリエーティブな人たちのマネージングに長けた能力です」、「多様な可能性を持った面白い資本家が誕生するかもしれない」、面白い時代になったものだ。
次に、11月21日付け現代ビジネスが掲載した大蔵省出身で一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「「新しい資本主義」とは何か? それは「データ資本主義」「資本なき資本主義」である 検討するまでもない。なのに日本は未だ」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/89435?imp=0
・『グーグルなど巨大IT企業は、工場や機械などの「資本」でなく、情報やデータを用いて経済価値を生み出している。こうした部門がアメリカ経済を牽引している。日本再生に必要なのは、「資本なき資本主義」に向けて産業構造を変えることだ』、「資本なき資本主義」とは面白い概念だ。
・『世界はすでに「新しい資本主義」に変わっている 岸田文雄内閣は、「新しい資本主義」が何かを決めるために、「新しい資本主義実現会議」を作って検討するのだと言う。 新しい資本主義が何かと検討するのは、大変結構なことだ。しかし、この答えは、いまさら改めて検討するまでもなく、明らかである。それは「資本なき資本主義」だ。「データ資本主義」といってもよい。 これは、単なる概念上のものではない。すでに現実世界を大きく変えてしまっている。世界がこの方向に向けて大きく転換したにもかかわらず、日本経済は「古い資本主義」から脱却できないでいる。日本経済が停滞するのは、このためだ』、「日本経済は「古い資本主義」から脱却できないでいる。日本経済が停滞するのは、このためだ」、意外な「日本経済」「停滞」要因だ。
・『GAMMAの時価総額は、日本の上場企業全体の1.4倍! 「新しい資本主義」がどんなものかを見るには、アメリカの巨大IT企業が行なっていることを見ればよい。 これらの企業群はGAFA+Mとよばれてきた(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)。そのなかのフェイスブックが「メタ・プラットフォーム」と社名を変えたので、GAMMAと言うべきかもしれない。ここでは、その呼び名を用いることにしよう。 GAMMAの驚くべき成長は、その時価総額が日本企業の総額の1.4倍になってしまったことを見ても、明らかだ。具体的には、次の通りだ。 GAMMA5社の時価総額合計は、9.4兆ドルだ(2021年11月13日)。1ドル=114円で換算すると1072兆円になる。他方で、東証上場企業の時価総額合計は、2021年10月末で、762兆円だ。GAMMAの雇用者は、124万人だ。これらの人々だけで、日本の上場企業全体が作り出した1.4倍の価値を作り出したことになる』、「GAMMAの時価総額は、日本の上場企業全体の1.4倍」とは確かにすごいことだ。
・『「資本なき資本主義」は「データ資本主義」 これまでの経済においては、工場や機械設備あるいは店舗などの資本設備が、経済的価値を産み出してきた。そのために、「資本主義」と呼ばれた。ところが、新しい資本主義において価値を産み出すのは、これらのものではない。 実際、GAMMA企業は、基本的には工場も店舗も機械設備も持っていない。その代わりに「データ」を持っている。そして、これが経済的な価値を産み出している。 データといっても、これまでのデータでなく、「ビックデータ」と呼ばれる極めて規模の大きなデータだ。そして、それらがこれらの企業の収益の基本的な源泉になっている。このために「データ資本主義」と呼ばれることもある。 先に「資本なき資本主義」と言ったが、正確にいうと、資本がまったく不必要になったわけではない。工場や店舗など目に見える資本(有形固定資産)の重要性が減少し、その代わりに、情報やデータなどの見えない資本(無形資産)が重要性を増したということだ(ただし、企業会計では、ビッグデータの価値のほとんどを資産としてカウントしていない)。 「データ資本主義」をもう広く捉えれば、「情報資本主義」ということになる。あるいは、「デジタル資本主義」といってもよい』、「工場や店舗など目に見える資本(有形固定資産)の重要性が減少し、その代わりに、情報やデータなどの見えない資本(無形資産)が重要性を増したということだ」、確かにその通りだ。
・『「情報・データ処理サービス」部門の驚異的発展 ところで、GAMMA企業は、アメリカ経済のなかでどのような位置を占めているのだろうか? GAMMAの従業員数は、124万人だ(2019年)。ここからアマゾン(80万人)を除くと、44万人になる。一方、アメリカ商務省の統計には「情報・データ処理サービス」という産業分類があり、この部門の雇用者は、45.4万人だ(2019年)。 両者はほぼ一致している。したがって、「情報・データ処理サービス」とは、GAMMAからアマゾンを除いたものと考えることができるだろう。 この部門の2020年の1人あたり賃金は、18万3801ドルだ。1ドル=114円で換算すれば、2095万円になる。全産業の平均賃金7万1456ドル(814.6万円)の2.6倍だ。しかも、2013年から61%増という驚異的な伸び率だ。 日本の平均賃金は371万円(法人企業統計調査。金融業を除く全産業平均)であるから、その5.6倍ということになる。「情報・データ処理サービス」という産業分類は、日本には存在しない。 アメリカの場合にも、昔からあった分類ではない。比較的最近時点に作られたものだ。 「資本なき資本主義」の成長は、統計項目の立て方にも影響するほど顕著なものとなっているのだ』、「GAMMAからアマゾンを除いた:」「情報・データ処理サービス」「部門の2020年の1人あたり賃金は、18万3801ドルだ・・・2095万円・・・全産業の平均賃金7万1456ドル(814.6万円)の2.6倍」、やはりかなり高いようだ。
・『「データ資本主義」雇用者は全体の15%。製造業の2倍 ただしそうはいっても、「情報・データ処理サービス」の雇用者45.4万人は、アメリカ経済全体の雇用者1億3217万人の0.3%でしかない。だから、アメリカ経済の中のごく一部のことだと思われるかもしれない。 しかし、情報を中心とした経済活動を行なっているのは、「情報・データ処理サービス」部門だけではない。同様の経済活動を行なっている部門が他にもある。それは次の部門だ(カッコ内は雇用者数、万人)。 ・第1は、「情報」(253)。「情報・データ処理サービス」は、ここに含まれる。 ・第2は、「金融・保険」(635)。この部門は、店舗などがあるから、厳密には「資本なき」とはいえないが、データを扱っているという意味で「データ資本主義」の範疇に入れられるだろう ・第3は、「専門的、科学技術的サービス」(911)。 ・第4は 、 「 企業経営」(226)。アメリカでは、「企業経営」が独立した1つの産業分類になっている。 これらが、広い意味での「データ資本主義」の範疇に入るものだ。 以上4部門の雇用者を合計すると、2026万人となる。これは、雇用者総数の15.3%であり、製造業の1184万人(9.0%)の2倍近い。 アメリカの産業がすでに「資本なき資本主義」に向けて大きく変貌していることが分かる。 さらに注目すべきは、この分野への雇用者の顕著な移動が生じていることだ。2013年から2020年の雇用者の増加率を見ると、つぎのとおりだ。 産業全体で5.33%であるのに対して、「情報」は3.9%(うち、「情報・データ処理サービス」44.2%)、「金融・保険」は11.1%、「専門的、科学技術的サービス」は17.0%、「企業経営」14.4%。 これに対して、製造業は0.83%という低い伸び率だ。 このように、アメリカの産業別雇用は大きく変化している。日本の経済が停滞を続けている理由は、このような産業構造の転換ができていないことだ』、「4部門の雇用者を合計すると、2026万人となる。これは、雇用者総数の15.3%であり、製造業の1184万人(9.0%)の2倍近い。 アメリカの産業がすでに「資本なき資本主義」に向けて大きく変貌していることが分かる」、羨ましいようなすごいダイナミズムだ。
・『製造業も「工場なし」に移行 アメリカの変貌は、以上で述べたことだけではない。製造業でも生じている。それは、「ファブレス」(工場がない)という形態への移行である。その典型がアップルだ。同社は工場を持っていない。半導体のクアルコムやエヌビディアもそうだ。 これらの企業は、製造工程を、鴻海やTSMCなどEMS(電子機器受託サービス)とよばれる企業に任せている。 そして、開発、設計、販売など、付加価値の高い仕事に集中している。つまり、製造業も、情報産業になっているのだ。そのために高収益化している。アップルの驚異的な成長の基本的な要因は、ファブレス化なのである。 製造業においても、経済価値を生み出しているのは、いまや工場や機械ではない。開発や設計などになっている。つまり、「工場という資本のない製造業」に移行しているのだ』、「「工場という資本のない製造業」に移行」、確かに日本の立ち遅れは明らかだ。
・『政府の役割は補助金をバラまくことではない デジタル化が重要と言われる。確かにその通りだ。しかし、必要なのは、ファックスをメールに切り替えることだけではない。あるいは、印鑑を電子署名にすることだけではない。経済と産業構造全体を変革していくことが重要なのだ。そうでなければ、日本の再生はありえない そのために政府が行なうべきことは何か? これまで見たアメリカ産業構造の転換は、アメリカ政府が主導し補助金を出すことによって実現したものではない。マーケットの力が実現したものだ。 政府が行うべきは、成長をリードすることではない。人気取りのバラマキ政策を行うことでもない。半導体の工場を日本に誘致するために補助金を出すことでもない。 そうではなく、成長を阻害している要因を取り除くことだ。とりわけ重要なのは、古い体制の既得権益と戦うことだ』、「政府が行うべきは、成長をリードすることではない。人気取りのバラマキ政策を行うことでもない。半導体の工場を日本に誘致するために補助金を出すことでもない。 そうではなく、成長を阻害している要因を取り除くことだ」、痛烈な政府批判で、まさに正論だ。
第三に、12月2日付け東洋経済オンライン「日本人が知らない「脱成長でも豊かになれる」根拠 若き経済思想家・斎藤幸平が語る貧困解決策」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/471566
・『「格差社会や気候変動の根本原因は資本主義にある」と指摘し、晩年マルクスの思想を援用し「脱資本主義」「脱成長」を説く斎藤幸平氏(34)。マルクス研究における最高峰の賞「ドイッチャー記念賞」を日本人初、史上最年少で受賞した気鋭の経済思想家は、同世代や近い世代の若者の貧困をどう見ているのか。 貧困に陥った若者たちの実態に4日連続で迫る特集「見過ごされる若者の貧困」4日目の第2回は、その解決策を斎藤氏に聞いた(1~3日目の記事はこちらからご覧ください)(Qは聞き手の質問、Aは斎藤氏の回答)。 【4日目のそのほかの記事】第1回:竹中平蔵「私が弱者切り捨て論者というのは誤解」 第3回:コロナで生活苦しい人に「使ってほしい制度」8つ』、興味深そうだ。
・『コロナ禍で格差拡大の構図がはっきりした Q:コロナ禍で、厳しい状況に置かれる若者が増えています。 A:確かに、コロナ禍によって経済格差の拡大に拍車がかかり、そのシワ寄せは若い世代に行っています。ただ、日本での経済格差の拡大はバブル崩壊以降、ずっと起こっていることです。 終身雇用・年功序列型賃金を前提とした日本型雇用システムが収縮して、非正規雇用が増加し、雇用が不安定化。正社員になれても、労働者を使い捨てる、いわゆるブラック企業も増え、労働状況は極めて悪化していきました。 貯蓄ゼロ世帯(2人以上世帯)は1987年に3.3%だったのが、2017年には31.2%にまで増え、ここ30年間の上昇傾向は明らかです。とりわけ深刻なのが20代、30代の単身世帯で、貯蓄ゼロ世帯が激増し、多くの人が、基本的な生活を維持していくことすら困難な状況に陥っています。 Q:すでにあった格差がさらに広がっているということですか。 A:富裕層を見れば、アベノミクス下での日本では年間所得が1億円以上の世帯が1万以上増えました。世界的にも(アマゾン創業者の)ジェフ・ベソスや(テスラCEOの)イーロン・マスクら大富豪トップ8人は、この5年間でそれぞれ資産を2倍以上に増やしています。 株価も日米ともにコロナ禍でGDPが大幅に下がったにもかかわらず、歴史的な高値を記録しました。富める者たちは安全なテレワークで働きながら、株高を利用して資産を運用し、さらに富を増やしているわけです。 一方、経済が落ち込み、非正規雇用を中心に多くの人が失業しました。仕事があったとしても、テレワークができない介護・保育・医療などに従事するエッセンシャルワーカーたちは健康を危険にさらしながら、低賃金、過重労働を強いられています。 困っている側がますます困窮する一方、持てる側はさらに富を増やしていく。その格差拡大の構図がはっきりしたのがこのコロナ禍だと思います。 Q:その根本的な原因は資本主義にあるとお考えですか。 A:はい、資本主義が原因です。トマ・ピケティが指摘するように、資本主義では、労働者の所得の増大率よりも、資産を持っている人たちのリターンのほうがつねに大きい。 その格差を緩和するために、第2次世界大戦後は、経済のパイを大きくしながら、給料を上げるなどして労働分配率を高め、大きくなった部分を労働者に再配分するモデルが目指されてきました。 いわゆる「ケインズの時代」で、1970年代ぐらいまでは、先進国の労働者たちは豊かになり続けていた。マルクスの言う、貧しくなった労働者が革命を起こす、という流れではなかった。ですが、それは資本主義の歴史における、むしろ例外的な時期ではないかと言われ始めています。 そうした高度成長期が終わり、1980年代以降、とくに21世紀に入ってからは、パイ自体がなかなか大きくならなくなった。規制緩和をしたり、民営化したり、さまざまな金融政策もするわけですが、それでもかつてのようには経済が成長しない。 そこでゼロサムゲームで労働者と資本の間で取り合いが始まる。資本側が労働者の面倒を見なくなり、労働者側は取り分を奪われてしまう。それが新自由主義です』、「ゼロサムゲームで労働者と資本の間で取り合いが始まる。資本側が労働者の面倒を見なくなり、労働者側は取り分を奪われてしまう。それが新自由主義です」、その通りだ。
・『マルクスが唱えた窮乏化法則が当てはまっている 先進国全般で労働者の賃金が下がり、競争が激化し、雇用も不安定化している。ギグエコノミーのような、アプリ一つで注文が来たときだけ「働き」が成立する、超不安定雇用まで蔓延しています。 (斎藤氏の略歴はリンク先参照) 資本主義の発展とともに労働者がどんどん貧しく苦しくなるという、かつてマルクスが唱えた窮乏化法則が、現在の状況に当てはまっている。 しかも、資本主義によって人間性が破壊されるだけでなく、地球環境問題も修復不可能な状態になりつつある。 人類の経済活動の痕跡が地層に残る時代という意味をもつ「人新世」という地質学の用語があり、国連なども使用するようになっていますが、そこに含意されているのは資本主義が引き起こした深刻な環境危機です。 Q:コロナ禍も「人新世」の産物だと指摘されています。 A:はい。気候変動をはじめとする環境危機をとりわけ加速させたのが、冷戦終結後のグローバル化です。この30年間で資本主義が世界中を覆い、ファストファッションで安い洋服が買え、ファストフードでは300円でご飯が食べられるようになった。 けれども、その安い農産物・畜産品を生産するために、手つかずだった自然、とくに中南米、東南アジアの熱帯雨林まで乱開発をし、人々の生活も自然環境も破壊していった。 こうした過程で、未知のウイルスを持った動物が森から追い出されて人間の生活圏に入ってくる。さらに複雑な生態系を壊してブタだけを育てるようなモノカルチャーは、ウイルスが変異しやすい環境を作り出す。このようなことを続けていれば、未知のウイルスがグローバルなパンデミックを起こすはずだと以前から警告されていました。 もちろん、グローバル化した世界ではウイルスの移動も早く、爆発的なスピード広がり、世界を大混乱に陥れたわけです。) Q:コロナ禍でも気候変動でも危機が起きたときシワ寄せが行くのは貧しい層です。 A:もちろんコロナ禍の被害も甚大ですが、気候危機の被害の深刻さに比べれば、リハーサルにすぎません。コロナ禍での緊急事態は何カ月かの期間限定ですが、気候変動はもはや不可逆的な変化で、これから毎年のようにスーパー台風がやってくる。いわば慢性的な緊急事態が続き、世界中で水不足や食料不足などが次々、起こります。すでにアフリカの人たちは飢饉に苦しんでいます。 格差があると危機に対応できないということが一つの認識になりつつあるわけですが、それはどこか遠い国の出来事ではなく、日本の経済的弱者や中間層も遅かれ早かれ、同様に苦しむようになるでしょう。 Q:この状態を脱するためにはどうすればよいのでしょうか。 A:繰り返しますが、経済格差も気候変動も、引き起こしたのは資本主義です。このことを前提にして、新しい経済システムづくりをしていかなければいけないと考えています。 『人新世の「資本論」』(集英社新書)で論じたことですが、2つの危機をのりこえるには、「脱成長」型の社会に移行しなくてはなりません。 私たちはお金を手に入れるために、あまりにも働きすぎ、あまりにもモノを作りすぎ、その結果、健康を害し、環境を破壊している。そうしたサイクルそのものから抜け出すべきなのです』、「コロナ禍の被害も甚大ですが、気候危機の被害の深刻さに比べれば、リハーサルにすぎません。コロナ禍での緊急事態は何カ月かの期間限定ですが、気候変動はもはや不可逆的な変化で、これから毎年のようにスーパー台風がやってくる。いわば慢性的な緊急事態が続き、世界中で水不足や食料不足などが次々、起こります」、確かに緊急の課題だ。「私たちはお金を手に入れるために、あまりにも働きすぎ、あまりにもモノを作りすぎ、その結果、健康を害し、環境を破壊している。そうしたサイクルそのものから抜け出すべきなのです」、なるほど。
・『人間誰もが必要とするものを「コモン」化する 無限の利潤獲得を目的とする資本主義のために働くのではなく、自然環境も人間の身体も有限であることを前提に、持続可能なペースで幸福を追求する。労働者も環境も食いつぶすような経済システムとは手を切り、経済自体をスケールダウン、スローダウンさせていく。それが脱成長です。 そこに向かう過程として、人間誰もが必要とするもの、たとえば水道、電力、住宅や医療・教育などを共有財産にして、人々の手で管理し、無償もしくは、安価に提供する「コモン」化が必要だと考えています。 なぜ安価にできるかといえば、たとえばパリ市は民営だった水道を「市民営化」という形で「コモン」化をしましたが、民営時代は経営陣の高額報酬や株主配当、不透明な経営で料金が高騰していたのです。生きるのに必要なものを脱民営化・脱商品化し、人々の手でマネージメントしていくことで費用を下げていくことができるのです。足りなければ、そこに公的資金をもっと入れていったほうがいい。 かつては少しずつ上がる給料で家のローンや子どもの教育費用、医療費、老後の資金を賄っていた。企業からのお金に依存して、人生設計を行ってきたのです。今の問題は、日本型の安定雇用が壊れたに、教育なり医療なりに多額のお金がかかる制度がそのまま残っていること。当然収支が合わないわけです。 また、失職して収入を失うと同時に、家も子どもの教育も老後も、すべてを失う仕組みは、今ある仕事にすがりつかせる強制力として働く。いわば貨幣の支配です。 その支配を和らげるためにも、生活の基盤となるシステムを安価にし、収入に依存せず、皆がある程度平等な機会を持てる社会にしていく。コモン化によって、貨幣の動きや市場経済に依存しない領域が増えていくことが、すなわち脱成長経済です。) 資本主義は技術を発展させて生産効率を上げ、さらに大量に作ろうというモデルです。ですが、高めた生産力については違う使い方をして、今までと同じ量を作り、その分労働時間を減らす。そうすれば過剰な生産が減り、環境にも優しい。 経済成長を何らかの方法で回復させることで、男性正社員を優遇してきた日本型雇用にすがりつこうとするのは論外です。かつての社会は、女性に家事や子育てを押し付け、パートとして差別的な雇用を採用してきました。労働時間の短縮は、家事や子育てなどもより平等に行う社会の条件です。そうした共通経験が、環境に優しいエッセンシャルワークやケアを重視する社会の価値観を生み出していくのではないでしょうか。 人々が市場から稼ぐプレッシャーから解放され、同時に、環境にも優しいケアを中心とした社会ができていく。それがコモン型の社会、「脱成長コミュニズム」です。 Q:海外ではそういった取り組みが進んでいると聞きます。 A:例えばバルセロナでは、この数年で安価に住める公営住宅を大幅に拡充しました。また町の中に、スーパーブロックと呼ばれる自動車が入れないエリアを広げる計画を進めています。 公共交通を拡充し、車を使うインセンティブを下げてCO2の排出量を減らすのと同時に、それまで車に占有されていた道路を、近隣住民が使える共有スペース、「コモン」に転換していく』、「人間誰もが必要とするもの、たとえば水道、電力、住宅や医療・教育などを共有財産にして、人々の手で管理し、無償もしくは、安価に提供する「コモン」化が必要だ」、現在のPFIなどの民営化とは逆の発想だ。
・『格差と気候変動を同時に解決する新たな道筋 車の移動は不平等です。何百万円という車を買える人たちが道路を特権的に占拠し、事故が起これば運転する人ではなく歩行者が死ぬという、極めて暴力的な構造がある。それを是正して、自転車と公共交通機関を優先した、より平等で誰もが安全に移動できる街づくりをする。それはCO2の排出を抑えた、地球にとっても優しい社会になる。格差と気候変動を同時に解決する新たな道筋になるわけです。 これまで経済の成長だけを考えていたところに、環境とか、「コモン」を拡大して不平等を解消する視点を取り入れることで、私たちの考え方自体が大きく変わる。我慢と捉えられがちだった環境対策のイメージがむしろ生活の豊かさに結びついていく。そんな発想の転換もできるんじゃないかと考えています。 Q:そのためには財源が必要になってきますが。 A:経済格差の是正を同時に進めるためにも、大企業や富裕層への課税を強化すべきです。金融資産課税でもいいし、不動産などの資産に直接、富裕税として課税をしてもいい。ここまで下げられてきた法人税や所得税ももっと上げていけばいい。 とにかく、大胆に格差を是正し、社会を平等にしていく必要がある。先進国の貧困問題は、富が偏りすぎているせいで、サービスや必需品にアクセスできない人が多いだけなので、格差是正が実現すれば、今ある貧困問題はかなりの部分が解決すると考えています。) Q:ベーシックインカムについてはどうお考えですか。 A:今の日本で議論されているベーシックインカムは、例えば月7万円を配る代わりに社会保障をすべて削る、究極の「自己責任社会」になりかねない。さらに「ベーシックインカムの分給料を下げる」という企業側の要求もはねのけられず、結局ますますお金に依存する社会になることを危惧しています。 ですので、私はベーシックインカムよりもベーシックサービス、必要なものを無償化して現物給付で渡す「コモン化」の道を選びたい。それによって貨幣の支配を弱め、市場に頼らずに生きていける領域を増やしていくほうがよいと考えています。 Q:日本の若者は、自分が苦しい状況にあっても、今の社会のあり方を肯定している人も多い。海外では2011年に起こったニューヨーク「ウォール街を占拠せよ」運動や、グレタ・トゥーンベリさんの気候危機への問題提起など、「ジェネレーション・レフト(左翼世代)」と呼ばれる若い世代の社会に対する動きが見られますが、日本の現状をどう見ていますか。 A:雇用が崩れ、教育・医療など必要な支出の負担が重くなる中、何とかお金を稼がなくては、というマインドが一部の若い人たちの間に広がっています。本来は「もっと普通に暮らせるようにしろ」と怒るべきなのに、日本人は自助、自力で何とかするようにすり込まれている。資本の側から見れば非常に扱いやすい。 再配分が機能する、フェアな社会にすることに想像力が働かず、既存のシステムの中で自分だけは生き残ろうという思想が強固になっているのは、非常に残念です。でもそれも仕方のない話で、希望が持てる社会運動もないし、訴えかけて応えてくれる政党もない。 Q:それはある意味必然的なことだと。 A:だからこそ私は『人新世の「資本論」』を書きました。まずは「今のこの社会はおかしい」と言ったり考えたりするためのボキャブラリーやツールを提唱したかった。私の専門は経済思想ですが、哲学や思想には、生きづらさや閉塞感を言語化し、批判するための言葉や、認識のフレームワークを与える力があるからです』、「まずは「今のこの社会はおかしい」と言ったり考えたりするためのボキャブラリーやツールを提唱したかった」、大いにやってくれることを期待している。これにより、それに「応えてくれる政党」も出てくるだろう。
・『世界中の若者たちが異議申し立てをしている 今、世界中で若者たちが怒っています。1990年代にはすでに、気候危機は確実に起こると言われていた。にもかかわらず、この30年間資本主義は世界中をマーケットにして富むものを富ませる一方で、地球環境をもはや待ったなしにまでさせてしまった。 そのツケを払わされる10代、20代の世界中の若者たちが今、絶望と同時に怒りをもって、新自由主義、さらに資本主義自体に異議申し立てをしています。現在の社会システムを抜本的に変えなければ、見捨てられるのは自分たちだと。 それに呼応して、アメリカのサンダースやオカシオ=コルテスのように、資本主義の行き詰まりを批判する政治家も出て、社会を動かし始めている。 日本では岸田さんが総裁就任前に新自由主義批判、金融資産課税などを持ち出していましたが、結局腰砕けに終わった。 政治も経済も、全体の状況を大きく動かしていくためには、やはり若者をはじめとしたさまざまな人たちが声を上げて、変化を求める運動が不可欠です。「今の社会はおかしい。変えていくべきだ」と、声を上げてほしいと思います』、今の日本人が大人し過ぎるのは情けない。「声を上げる」ようにするには、何が必要なのだろうか、私にも皆目見当がつかない。
先ずは、11月16日付け東洋経済オンラインが掲載した NHK「欲望の資本主義」プロデューサー/東京藝術大学客員の丸山 俊一氏による「「無形資産」の時代に新しく資本家になる人の特徴 必要なのは工場でも土地でもない多様な可能性」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/468550
・『人が持つ技術や能力などの人的資産、デジタルソフトウェアなど、モノとしての実体が存在しない「無形資産」。肥大化する無形資産は、私たちの生活にどのような影響を与えるのか。 NHK「欲望の資本主義2021」での発言や『無形資産が経済を支配する』(共著)が話題のジョナサン・ハスケル教授に、無形資産の肥大化の影響を聞いた。番組の未公開部分も多数収録した『欲望の資本主義5:格差拡大 社会の深部に亀裂が走る時』から、一部を抜粋してお届けする(Qは聞き手の質問)』、興味深そうだ。
・『無形資産は格差を拡大も縮小もさせる Q:世界的に人々の間で格差が広がっていますが、無形資産と格差はどのような関係にあるのでしょうか。無形資産の肥大化は資本家と中産階級、労働者階級といった階層構造にも影響を与えていますか。 ※無形資産=モノとしての実体が存在しない資産。特許や著作権などの知的資産、人が持つ技術や能力などの人的資産が代表例。その他、ブランド力などの市場関連資産、顧客情報・顧客基盤などの顧客関連資産や、企業文化、経営能力、人工知能システムなどのデジタルソフトウェアなど、多くの無形資産があると考えられている ハスケル:無形資産が肥大化するという経済のトレンドは格差を拡大していくはずです。なぜなら、無形資産には、容易に規模を拡大できるという経済特性があるからです。 例えば、「ハリー・ポッター」シリーズはイギリスの大変重要な輸出品ですが、仮に私がその著者であったとしたら、その小説を世界中に売ることができます。 しかし、私が車を作って売っているとしたら、何度も繰り返して一台の車を売り続けることはできません。 つまり、「ハリー・ポッター」という知的財産を所有している人が得る利益は、有形資産を売買している人々が得る利益に比べて非常に大きくなり、それが格差に反映されるのです。そうした無形資産の肥大化とグローバリゼーションやインターネットが組み合わさって、格差を広げているのだと私は考えています。 Q:将来にわたって、格差は拡大し続けるということでしょうか。 ハスケル:それは予測の難しい問題です。無形資産は反対方向に働く二つの力を内包しているからです。とても興味深い特徴です。 先ほど申し上げたとおり、無形資産には規模を拡大しやすいという特徴があり、それは格差を拡大する方向に働く力です。 一方で、無形資産には、『無形資産が経済を支配する』で私たちが「スピルオーバー(波及)」と呼んだもう一つの特性があります。 自動車の作り方を完全に真似するのは大変難しいことですが、デザインを真似るのはとても簡単です。例えば、アイフォン(iPhone)の発売から1年半も経たないうちに、世界中のスマートフォンはどれも、アイフォンそっくりのデザインになっていました。それが、私たちがスピルオーバーと呼ぶ現象です。 これはほんの一例ですが、デザインという無形資産が他者に波及したのです。それには大きな投資は要りません。つまり、スピルオーバーの観点からは、無形資産には平等化を進める力があるとも言えるのです。それは、格差を広げる力とは逆方向に働く力です。 理由はわかりませんが、現時点では格差を広げる方向の力が、反対方向に働く力よりも強いようです。それが、将来的にどう変化するのかを予測するのは非常に難しく、まだ答えは出ていません。 いずれにせよ、無形資産には格差を広げる方向に働く力と、縮める方向に働く力という、逆方向に向かう二つの力があることは確かです』、「無形資産には格差を広げる方向に働く力と、縮める方向に働く力という、逆方向に向かう二つの力がある」、「現時点では格差を広げる方向の力が、反対方向に働く力よりも強いようです」、なるほど。
・『ICT革命が無形資産を肥大化 Q:無形資産が経済を支配するようになった、あるいは将来的にそうなるとすれば、転換点はどこにあるのでしょうか。著書『無形資産が経済を支配する』では「1990年代半ばに、アメリカで無形資産への投資が有形資産への投資を上回った」と指摘しておられますが、それが変化を加速させたとお考えですか。 ハスケル:私たちが収集しているデータによれば、開発途上国でもその傾向は強くなっていますが、先進国ではそれよりずっと、無形資産への投資が急増しています。データは、アメリカがその動きをリードしてきたことを示しています。ご指摘のとおり、アメリカでは1990年代の初めに無形資産への投資が有形資産への投資を上回りました。 この時期はICT(情報通信技術)革命が急速に拡大した時期と重なりますから、その影響を強く受けた変化であったことは間違いありません。インターネットが登場し、コンピューターが私たちの日常生活の一部になりました。コンピューターは有形資産のハードウェアですが、無形資産であるソフトウェアがなければそれを利用することはできません。 インターネットを構築するシステムも、通信システムも、ハードウェアとソフトウェアの両者で成り立っています。そのため、ハードウェアへの投資に加え、ソフトウェア=無形資産への投資が必要になり、その規模は有形資産への投資を上回る規模となりました。それが1990年代に起こったできごとの一つです。) さらに、ICT革命に伴い、1990年代には、ICT業界だけでなく、他の多くの業界でも無形資産への投資が広がりました。アメリカを筆頭に、他の国々でも小売や金融、旅行などさまざまな業界で、コンピューターとソフトウェアを使った業務形態の変化が始まりました。 例えば、銀行や旅行会社、航空会社は業務のオンライン化を推進しました。無形資産とは無縁と考えられていた運輸業界までもが、業務形態を変えるために無形資産への投資を余儀なくされたのです。 産業構造における無形資産への投資は、革命と呼べるような劇的な変化で、ICT業界にとどまらず、幅広い産業分野にまたがる現象になっていったのです。 Q:そして、その傾向は、今日まで続いているということですね。 ハスケル:さまざまな局面で増減を示しながらも、大きな潮流としてはそのとおりです。1990年代前半にアメリカで無形資産への投資が有形資産の投資を上回って以降、他の諸国にも同様の傾向は波及し、無形資産への投資でアメリカを追い上げました。それは今も続いています。 2008年に端を発した金融危機以降は無形資産への投資が鈍化しましたが、世界的に長期的な増加傾向であることは間違いありません』、「1990年代前半にアメリカで無形資産への投資が有形資産の投資を上回って以降、他の諸国にも同様の傾向は波及し、無形資産への投資でアメリカを追い上げました。それは今も続いています」、なるほど。
・『芸術家が資本家になる Q:現在、新型コロナウイルスの影響で、社会のデジタル化に拍車がかかっています。無形資産の増大は、経済にどのような影響を与えるとお考えですか。 ハスケル:コロナ禍において無形資産が経済発展をもたらす可能性はいくつかあると思います。一つは、状況改善につながる良い変化を生む可能性です。 例えば、私はこれまで週5日出勤することや、通勤に長時間かけることにストレスを感じ、違和感を抱いていました。一方で、コロナ禍でのロックダウンによって通勤しなくてよくなった今、それにも違和感があり望ましくないと感じています。私としては、その中間がよいと思っているのです。コロナをきっかけに、それが実現するかもしれません。 これが無形資産とどう関係するのか考えてみましょう。ホワイトカラーや専門職の人々の多くがリモートで仕事ができるのは、通信手段や機器の発達のおかげです。パソコンやインターネットを使ったオンライン会議で、場所に縛られずに仕事ができるからです。 しかし、現状では、多くの人はそのような働き方ができません。接客などリモートでは難しい仕事があるのはもちろんですが、企業の事業マネージメントの制約でリモートワークが進まないケースも多く見られます。) リモートワークをさらに広げるには、多くの企業がビジネスモデルを転換させなければなりません。今までのやり方を大きく変える必要があるのです。同じ場所に集まっている人たちではなく、それぞれ離れた場所にいる人たちをマネージングしなければなりません。 リモートであっても、労働者の意欲を向上させたり、仕事に集中させたり、社内のイノベーションや協力体制を維持したりする方法を探るのです。 コロナを経済成長のきっかけにするためには、このような新たなマネージメント技術やビジネスモデルといった無形資産に大きな投資をする必要があります』、「コロナを経済成長のきっかけにするためには、このような新たなマネージメント技術やビジネスモデルといった無形資産に大きな投資をする必要があります」、その通りだ。
・『「ハリー・ポッター」のストーリーこそが資本 Q:資本主義の形や社会は変わるのでしょうか。 ハスケル:無形資産が支配する経済では、資本家の富を生み出す源が変わります。保有する資本そのものが変わるためです。 もう一度、「ハリー・ポッター」の話に戻ってみます。原作者はイギリス人作家のJ・K・ローリングですが、彼女は工場も土地も所有していません。過去の資本家たちが富を築く基盤としたものを何も持っていないのです。 ローリングが保有しているのは無形資産です。具体的には、自らが生み出した素晴らしいストーリーが資本です。資本主義社会の中で、他の資本家とは異なる形態の資本を保有しているのです。 もちろん、世界的な大ベストセラーは、いわゆる無形資産の中でもかなり特殊な例です。検討すべきなのは、もっと幅広い意味で資本的な無形資産を持つ人々が、どのような可能性を秘めているかということです。 例えば、コンピューター・プログラミングの技術や、優れたデザインを生み出す才能、研究開発の能力なども無形資産と言えますが、当然のことながら、無形資産の経済は、それだけでは成り立ちません。 とりわけ重要なのは、これらの作業をコーディネートできる人材や、企業などの大きな組織の中でマネージメントができる人材です。フェイスブックやグーグルのような大企業で、創造力にあふれた人たちをまとめられる人材ですね。 そうした人材が保有していると考えられる無形資産は、優れたプログラミング能力やエンジニアリング能力ではなく、人間関係のマネージングや、クリエーティブな人たちのマネージングに長けた能力です。 無形資産の経済では、このように例えば知性のような無形の資産を持つ人が資本家になることが考えられるのです。それは詩人かもしれませんし、歴史家かもしれません。古代ギリシャや日本の古典を研究する学者かもしれません。多様な可能性を持った面白い資本家が誕生するかもしれないのです』、「創造力にあふれた人たちをまとめられる人材ですね。 そうした人材が保有していると考えられる無形資産は・・・人間関係のマネージングや、クリエーティブな人たちのマネージングに長けた能力です」、「多様な可能性を持った面白い資本家が誕生するかもしれない」、面白い時代になったものだ。
次に、11月21日付け現代ビジネスが掲載した大蔵省出身で一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「「新しい資本主義」とは何か? それは「データ資本主義」「資本なき資本主義」である 検討するまでもない。なのに日本は未だ」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/89435?imp=0
・『グーグルなど巨大IT企業は、工場や機械などの「資本」でなく、情報やデータを用いて経済価値を生み出している。こうした部門がアメリカ経済を牽引している。日本再生に必要なのは、「資本なき資本主義」に向けて産業構造を変えることだ』、「資本なき資本主義」とは面白い概念だ。
・『世界はすでに「新しい資本主義」に変わっている 岸田文雄内閣は、「新しい資本主義」が何かを決めるために、「新しい資本主義実現会議」を作って検討するのだと言う。 新しい資本主義が何かと検討するのは、大変結構なことだ。しかし、この答えは、いまさら改めて検討するまでもなく、明らかである。それは「資本なき資本主義」だ。「データ資本主義」といってもよい。 これは、単なる概念上のものではない。すでに現実世界を大きく変えてしまっている。世界がこの方向に向けて大きく転換したにもかかわらず、日本経済は「古い資本主義」から脱却できないでいる。日本経済が停滞するのは、このためだ』、「日本経済は「古い資本主義」から脱却できないでいる。日本経済が停滞するのは、このためだ」、意外な「日本経済」「停滞」要因だ。
・『GAMMAの時価総額は、日本の上場企業全体の1.4倍! 「新しい資本主義」がどんなものかを見るには、アメリカの巨大IT企業が行なっていることを見ればよい。 これらの企業群はGAFA+Mとよばれてきた(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)。そのなかのフェイスブックが「メタ・プラットフォーム」と社名を変えたので、GAMMAと言うべきかもしれない。ここでは、その呼び名を用いることにしよう。 GAMMAの驚くべき成長は、その時価総額が日本企業の総額の1.4倍になってしまったことを見ても、明らかだ。具体的には、次の通りだ。 GAMMA5社の時価総額合計は、9.4兆ドルだ(2021年11月13日)。1ドル=114円で換算すると1072兆円になる。他方で、東証上場企業の時価総額合計は、2021年10月末で、762兆円だ。GAMMAの雇用者は、124万人だ。これらの人々だけで、日本の上場企業全体が作り出した1.4倍の価値を作り出したことになる』、「GAMMAの時価総額は、日本の上場企業全体の1.4倍」とは確かにすごいことだ。
・『「資本なき資本主義」は「データ資本主義」 これまでの経済においては、工場や機械設備あるいは店舗などの資本設備が、経済的価値を産み出してきた。そのために、「資本主義」と呼ばれた。ところが、新しい資本主義において価値を産み出すのは、これらのものではない。 実際、GAMMA企業は、基本的には工場も店舗も機械設備も持っていない。その代わりに「データ」を持っている。そして、これが経済的な価値を産み出している。 データといっても、これまでのデータでなく、「ビックデータ」と呼ばれる極めて規模の大きなデータだ。そして、それらがこれらの企業の収益の基本的な源泉になっている。このために「データ資本主義」と呼ばれることもある。 先に「資本なき資本主義」と言ったが、正確にいうと、資本がまったく不必要になったわけではない。工場や店舗など目に見える資本(有形固定資産)の重要性が減少し、その代わりに、情報やデータなどの見えない資本(無形資産)が重要性を増したということだ(ただし、企業会計では、ビッグデータの価値のほとんどを資産としてカウントしていない)。 「データ資本主義」をもう広く捉えれば、「情報資本主義」ということになる。あるいは、「デジタル資本主義」といってもよい』、「工場や店舗など目に見える資本(有形固定資産)の重要性が減少し、その代わりに、情報やデータなどの見えない資本(無形資産)が重要性を増したということだ」、確かにその通りだ。
・『「情報・データ処理サービス」部門の驚異的発展 ところで、GAMMA企業は、アメリカ経済のなかでどのような位置を占めているのだろうか? GAMMAの従業員数は、124万人だ(2019年)。ここからアマゾン(80万人)を除くと、44万人になる。一方、アメリカ商務省の統計には「情報・データ処理サービス」という産業分類があり、この部門の雇用者は、45.4万人だ(2019年)。 両者はほぼ一致している。したがって、「情報・データ処理サービス」とは、GAMMAからアマゾンを除いたものと考えることができるだろう。 この部門の2020年の1人あたり賃金は、18万3801ドルだ。1ドル=114円で換算すれば、2095万円になる。全産業の平均賃金7万1456ドル(814.6万円)の2.6倍だ。しかも、2013年から61%増という驚異的な伸び率だ。 日本の平均賃金は371万円(法人企業統計調査。金融業を除く全産業平均)であるから、その5.6倍ということになる。「情報・データ処理サービス」という産業分類は、日本には存在しない。 アメリカの場合にも、昔からあった分類ではない。比較的最近時点に作られたものだ。 「資本なき資本主義」の成長は、統計項目の立て方にも影響するほど顕著なものとなっているのだ』、「GAMMAからアマゾンを除いた:」「情報・データ処理サービス」「部門の2020年の1人あたり賃金は、18万3801ドルだ・・・2095万円・・・全産業の平均賃金7万1456ドル(814.6万円)の2.6倍」、やはりかなり高いようだ。
・『「データ資本主義」雇用者は全体の15%。製造業の2倍 ただしそうはいっても、「情報・データ処理サービス」の雇用者45.4万人は、アメリカ経済全体の雇用者1億3217万人の0.3%でしかない。だから、アメリカ経済の中のごく一部のことだと思われるかもしれない。 しかし、情報を中心とした経済活動を行なっているのは、「情報・データ処理サービス」部門だけではない。同様の経済活動を行なっている部門が他にもある。それは次の部門だ(カッコ内は雇用者数、万人)。 ・第1は、「情報」(253)。「情報・データ処理サービス」は、ここに含まれる。 ・第2は、「金融・保険」(635)。この部門は、店舗などがあるから、厳密には「資本なき」とはいえないが、データを扱っているという意味で「データ資本主義」の範疇に入れられるだろう ・第3は、「専門的、科学技術的サービス」(911)。 ・第4は 、 「 企業経営」(226)。アメリカでは、「企業経営」が独立した1つの産業分類になっている。 これらが、広い意味での「データ資本主義」の範疇に入るものだ。 以上4部門の雇用者を合計すると、2026万人となる。これは、雇用者総数の15.3%であり、製造業の1184万人(9.0%)の2倍近い。 アメリカの産業がすでに「資本なき資本主義」に向けて大きく変貌していることが分かる。 さらに注目すべきは、この分野への雇用者の顕著な移動が生じていることだ。2013年から2020年の雇用者の増加率を見ると、つぎのとおりだ。 産業全体で5.33%であるのに対して、「情報」は3.9%(うち、「情報・データ処理サービス」44.2%)、「金融・保険」は11.1%、「専門的、科学技術的サービス」は17.0%、「企業経営」14.4%。 これに対して、製造業は0.83%という低い伸び率だ。 このように、アメリカの産業別雇用は大きく変化している。日本の経済が停滞を続けている理由は、このような産業構造の転換ができていないことだ』、「4部門の雇用者を合計すると、2026万人となる。これは、雇用者総数の15.3%であり、製造業の1184万人(9.0%)の2倍近い。 アメリカの産業がすでに「資本なき資本主義」に向けて大きく変貌していることが分かる」、羨ましいようなすごいダイナミズムだ。
・『製造業も「工場なし」に移行 アメリカの変貌は、以上で述べたことだけではない。製造業でも生じている。それは、「ファブレス」(工場がない)という形態への移行である。その典型がアップルだ。同社は工場を持っていない。半導体のクアルコムやエヌビディアもそうだ。 これらの企業は、製造工程を、鴻海やTSMCなどEMS(電子機器受託サービス)とよばれる企業に任せている。 そして、開発、設計、販売など、付加価値の高い仕事に集中している。つまり、製造業も、情報産業になっているのだ。そのために高収益化している。アップルの驚異的な成長の基本的な要因は、ファブレス化なのである。 製造業においても、経済価値を生み出しているのは、いまや工場や機械ではない。開発や設計などになっている。つまり、「工場という資本のない製造業」に移行しているのだ』、「「工場という資本のない製造業」に移行」、確かに日本の立ち遅れは明らかだ。
・『政府の役割は補助金をバラまくことではない デジタル化が重要と言われる。確かにその通りだ。しかし、必要なのは、ファックスをメールに切り替えることだけではない。あるいは、印鑑を電子署名にすることだけではない。経済と産業構造全体を変革していくことが重要なのだ。そうでなければ、日本の再生はありえない そのために政府が行なうべきことは何か? これまで見たアメリカ産業構造の転換は、アメリカ政府が主導し補助金を出すことによって実現したものではない。マーケットの力が実現したものだ。 政府が行うべきは、成長をリードすることではない。人気取りのバラマキ政策を行うことでもない。半導体の工場を日本に誘致するために補助金を出すことでもない。 そうではなく、成長を阻害している要因を取り除くことだ。とりわけ重要なのは、古い体制の既得権益と戦うことだ』、「政府が行うべきは、成長をリードすることではない。人気取りのバラマキ政策を行うことでもない。半導体の工場を日本に誘致するために補助金を出すことでもない。 そうではなく、成長を阻害している要因を取り除くことだ」、痛烈な政府批判で、まさに正論だ。
第三に、12月2日付け東洋経済オンライン「日本人が知らない「脱成長でも豊かになれる」根拠 若き経済思想家・斎藤幸平が語る貧困解決策」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/471566
・『「格差社会や気候変動の根本原因は資本主義にある」と指摘し、晩年マルクスの思想を援用し「脱資本主義」「脱成長」を説く斎藤幸平氏(34)。マルクス研究における最高峰の賞「ドイッチャー記念賞」を日本人初、史上最年少で受賞した気鋭の経済思想家は、同世代や近い世代の若者の貧困をどう見ているのか。 貧困に陥った若者たちの実態に4日連続で迫る特集「見過ごされる若者の貧困」4日目の第2回は、その解決策を斎藤氏に聞いた(1~3日目の記事はこちらからご覧ください)(Qは聞き手の質問、Aは斎藤氏の回答)。 【4日目のそのほかの記事】第1回:竹中平蔵「私が弱者切り捨て論者というのは誤解」 第3回:コロナで生活苦しい人に「使ってほしい制度」8つ』、興味深そうだ。
・『コロナ禍で格差拡大の構図がはっきりした Q:コロナ禍で、厳しい状況に置かれる若者が増えています。 A:確かに、コロナ禍によって経済格差の拡大に拍車がかかり、そのシワ寄せは若い世代に行っています。ただ、日本での経済格差の拡大はバブル崩壊以降、ずっと起こっていることです。 終身雇用・年功序列型賃金を前提とした日本型雇用システムが収縮して、非正規雇用が増加し、雇用が不安定化。正社員になれても、労働者を使い捨てる、いわゆるブラック企業も増え、労働状況は極めて悪化していきました。 貯蓄ゼロ世帯(2人以上世帯)は1987年に3.3%だったのが、2017年には31.2%にまで増え、ここ30年間の上昇傾向は明らかです。とりわけ深刻なのが20代、30代の単身世帯で、貯蓄ゼロ世帯が激増し、多くの人が、基本的な生活を維持していくことすら困難な状況に陥っています。 Q:すでにあった格差がさらに広がっているということですか。 A:富裕層を見れば、アベノミクス下での日本では年間所得が1億円以上の世帯が1万以上増えました。世界的にも(アマゾン創業者の)ジェフ・ベソスや(テスラCEOの)イーロン・マスクら大富豪トップ8人は、この5年間でそれぞれ資産を2倍以上に増やしています。 株価も日米ともにコロナ禍でGDPが大幅に下がったにもかかわらず、歴史的な高値を記録しました。富める者たちは安全なテレワークで働きながら、株高を利用して資産を運用し、さらに富を増やしているわけです。 一方、経済が落ち込み、非正規雇用を中心に多くの人が失業しました。仕事があったとしても、テレワークができない介護・保育・医療などに従事するエッセンシャルワーカーたちは健康を危険にさらしながら、低賃金、過重労働を強いられています。 困っている側がますます困窮する一方、持てる側はさらに富を増やしていく。その格差拡大の構図がはっきりしたのがこのコロナ禍だと思います。 Q:その根本的な原因は資本主義にあるとお考えですか。 A:はい、資本主義が原因です。トマ・ピケティが指摘するように、資本主義では、労働者の所得の増大率よりも、資産を持っている人たちのリターンのほうがつねに大きい。 その格差を緩和するために、第2次世界大戦後は、経済のパイを大きくしながら、給料を上げるなどして労働分配率を高め、大きくなった部分を労働者に再配分するモデルが目指されてきました。 いわゆる「ケインズの時代」で、1970年代ぐらいまでは、先進国の労働者たちは豊かになり続けていた。マルクスの言う、貧しくなった労働者が革命を起こす、という流れではなかった。ですが、それは資本主義の歴史における、むしろ例外的な時期ではないかと言われ始めています。 そうした高度成長期が終わり、1980年代以降、とくに21世紀に入ってからは、パイ自体がなかなか大きくならなくなった。規制緩和をしたり、民営化したり、さまざまな金融政策もするわけですが、それでもかつてのようには経済が成長しない。 そこでゼロサムゲームで労働者と資本の間で取り合いが始まる。資本側が労働者の面倒を見なくなり、労働者側は取り分を奪われてしまう。それが新自由主義です』、「ゼロサムゲームで労働者と資本の間で取り合いが始まる。資本側が労働者の面倒を見なくなり、労働者側は取り分を奪われてしまう。それが新自由主義です」、その通りだ。
・『マルクスが唱えた窮乏化法則が当てはまっている 先進国全般で労働者の賃金が下がり、競争が激化し、雇用も不安定化している。ギグエコノミーのような、アプリ一つで注文が来たときだけ「働き」が成立する、超不安定雇用まで蔓延しています。 (斎藤氏の略歴はリンク先参照) 資本主義の発展とともに労働者がどんどん貧しく苦しくなるという、かつてマルクスが唱えた窮乏化法則が、現在の状況に当てはまっている。 しかも、資本主義によって人間性が破壊されるだけでなく、地球環境問題も修復不可能な状態になりつつある。 人類の経済活動の痕跡が地層に残る時代という意味をもつ「人新世」という地質学の用語があり、国連なども使用するようになっていますが、そこに含意されているのは資本主義が引き起こした深刻な環境危機です。 Q:コロナ禍も「人新世」の産物だと指摘されています。 A:はい。気候変動をはじめとする環境危機をとりわけ加速させたのが、冷戦終結後のグローバル化です。この30年間で資本主義が世界中を覆い、ファストファッションで安い洋服が買え、ファストフードでは300円でご飯が食べられるようになった。 けれども、その安い農産物・畜産品を生産するために、手つかずだった自然、とくに中南米、東南アジアの熱帯雨林まで乱開発をし、人々の生活も自然環境も破壊していった。 こうした過程で、未知のウイルスを持った動物が森から追い出されて人間の生活圏に入ってくる。さらに複雑な生態系を壊してブタだけを育てるようなモノカルチャーは、ウイルスが変異しやすい環境を作り出す。このようなことを続けていれば、未知のウイルスがグローバルなパンデミックを起こすはずだと以前から警告されていました。 もちろん、グローバル化した世界ではウイルスの移動も早く、爆発的なスピード広がり、世界を大混乱に陥れたわけです。) Q:コロナ禍でも気候変動でも危機が起きたときシワ寄せが行くのは貧しい層です。 A:もちろんコロナ禍の被害も甚大ですが、気候危機の被害の深刻さに比べれば、リハーサルにすぎません。コロナ禍での緊急事態は何カ月かの期間限定ですが、気候変動はもはや不可逆的な変化で、これから毎年のようにスーパー台風がやってくる。いわば慢性的な緊急事態が続き、世界中で水不足や食料不足などが次々、起こります。すでにアフリカの人たちは飢饉に苦しんでいます。 格差があると危機に対応できないということが一つの認識になりつつあるわけですが、それはどこか遠い国の出来事ではなく、日本の経済的弱者や中間層も遅かれ早かれ、同様に苦しむようになるでしょう。 Q:この状態を脱するためにはどうすればよいのでしょうか。 A:繰り返しますが、経済格差も気候変動も、引き起こしたのは資本主義です。このことを前提にして、新しい経済システムづくりをしていかなければいけないと考えています。 『人新世の「資本論」』(集英社新書)で論じたことですが、2つの危機をのりこえるには、「脱成長」型の社会に移行しなくてはなりません。 私たちはお金を手に入れるために、あまりにも働きすぎ、あまりにもモノを作りすぎ、その結果、健康を害し、環境を破壊している。そうしたサイクルそのものから抜け出すべきなのです』、「コロナ禍の被害も甚大ですが、気候危機の被害の深刻さに比べれば、リハーサルにすぎません。コロナ禍での緊急事態は何カ月かの期間限定ですが、気候変動はもはや不可逆的な変化で、これから毎年のようにスーパー台風がやってくる。いわば慢性的な緊急事態が続き、世界中で水不足や食料不足などが次々、起こります」、確かに緊急の課題だ。「私たちはお金を手に入れるために、あまりにも働きすぎ、あまりにもモノを作りすぎ、その結果、健康を害し、環境を破壊している。そうしたサイクルそのものから抜け出すべきなのです」、なるほど。
・『人間誰もが必要とするものを「コモン」化する 無限の利潤獲得を目的とする資本主義のために働くのではなく、自然環境も人間の身体も有限であることを前提に、持続可能なペースで幸福を追求する。労働者も環境も食いつぶすような経済システムとは手を切り、経済自体をスケールダウン、スローダウンさせていく。それが脱成長です。 そこに向かう過程として、人間誰もが必要とするもの、たとえば水道、電力、住宅や医療・教育などを共有財産にして、人々の手で管理し、無償もしくは、安価に提供する「コモン」化が必要だと考えています。 なぜ安価にできるかといえば、たとえばパリ市は民営だった水道を「市民営化」という形で「コモン」化をしましたが、民営時代は経営陣の高額報酬や株主配当、不透明な経営で料金が高騰していたのです。生きるのに必要なものを脱民営化・脱商品化し、人々の手でマネージメントしていくことで費用を下げていくことができるのです。足りなければ、そこに公的資金をもっと入れていったほうがいい。 かつては少しずつ上がる給料で家のローンや子どもの教育費用、医療費、老後の資金を賄っていた。企業からのお金に依存して、人生設計を行ってきたのです。今の問題は、日本型の安定雇用が壊れたに、教育なり医療なりに多額のお金がかかる制度がそのまま残っていること。当然収支が合わないわけです。 また、失職して収入を失うと同時に、家も子どもの教育も老後も、すべてを失う仕組みは、今ある仕事にすがりつかせる強制力として働く。いわば貨幣の支配です。 その支配を和らげるためにも、生活の基盤となるシステムを安価にし、収入に依存せず、皆がある程度平等な機会を持てる社会にしていく。コモン化によって、貨幣の動きや市場経済に依存しない領域が増えていくことが、すなわち脱成長経済です。) 資本主義は技術を発展させて生産効率を上げ、さらに大量に作ろうというモデルです。ですが、高めた生産力については違う使い方をして、今までと同じ量を作り、その分労働時間を減らす。そうすれば過剰な生産が減り、環境にも優しい。 経済成長を何らかの方法で回復させることで、男性正社員を優遇してきた日本型雇用にすがりつこうとするのは論外です。かつての社会は、女性に家事や子育てを押し付け、パートとして差別的な雇用を採用してきました。労働時間の短縮は、家事や子育てなどもより平等に行う社会の条件です。そうした共通経験が、環境に優しいエッセンシャルワークやケアを重視する社会の価値観を生み出していくのではないでしょうか。 人々が市場から稼ぐプレッシャーから解放され、同時に、環境にも優しいケアを中心とした社会ができていく。それがコモン型の社会、「脱成長コミュニズム」です。 Q:海外ではそういった取り組みが進んでいると聞きます。 A:例えばバルセロナでは、この数年で安価に住める公営住宅を大幅に拡充しました。また町の中に、スーパーブロックと呼ばれる自動車が入れないエリアを広げる計画を進めています。 公共交通を拡充し、車を使うインセンティブを下げてCO2の排出量を減らすのと同時に、それまで車に占有されていた道路を、近隣住民が使える共有スペース、「コモン」に転換していく』、「人間誰もが必要とするもの、たとえば水道、電力、住宅や医療・教育などを共有財産にして、人々の手で管理し、無償もしくは、安価に提供する「コモン」化が必要だ」、現在のPFIなどの民営化とは逆の発想だ。
・『格差と気候変動を同時に解決する新たな道筋 車の移動は不平等です。何百万円という車を買える人たちが道路を特権的に占拠し、事故が起これば運転する人ではなく歩行者が死ぬという、極めて暴力的な構造がある。それを是正して、自転車と公共交通機関を優先した、より平等で誰もが安全に移動できる街づくりをする。それはCO2の排出を抑えた、地球にとっても優しい社会になる。格差と気候変動を同時に解決する新たな道筋になるわけです。 これまで経済の成長だけを考えていたところに、環境とか、「コモン」を拡大して不平等を解消する視点を取り入れることで、私たちの考え方自体が大きく変わる。我慢と捉えられがちだった環境対策のイメージがむしろ生活の豊かさに結びついていく。そんな発想の転換もできるんじゃないかと考えています。 Q:そのためには財源が必要になってきますが。 A:経済格差の是正を同時に進めるためにも、大企業や富裕層への課税を強化すべきです。金融資産課税でもいいし、不動産などの資産に直接、富裕税として課税をしてもいい。ここまで下げられてきた法人税や所得税ももっと上げていけばいい。 とにかく、大胆に格差を是正し、社会を平等にしていく必要がある。先進国の貧困問題は、富が偏りすぎているせいで、サービスや必需品にアクセスできない人が多いだけなので、格差是正が実現すれば、今ある貧困問題はかなりの部分が解決すると考えています。) Q:ベーシックインカムについてはどうお考えですか。 A:今の日本で議論されているベーシックインカムは、例えば月7万円を配る代わりに社会保障をすべて削る、究極の「自己責任社会」になりかねない。さらに「ベーシックインカムの分給料を下げる」という企業側の要求もはねのけられず、結局ますますお金に依存する社会になることを危惧しています。 ですので、私はベーシックインカムよりもベーシックサービス、必要なものを無償化して現物給付で渡す「コモン化」の道を選びたい。それによって貨幣の支配を弱め、市場に頼らずに生きていける領域を増やしていくほうがよいと考えています。 Q:日本の若者は、自分が苦しい状況にあっても、今の社会のあり方を肯定している人も多い。海外では2011年に起こったニューヨーク「ウォール街を占拠せよ」運動や、グレタ・トゥーンベリさんの気候危機への問題提起など、「ジェネレーション・レフト(左翼世代)」と呼ばれる若い世代の社会に対する動きが見られますが、日本の現状をどう見ていますか。 A:雇用が崩れ、教育・医療など必要な支出の負担が重くなる中、何とかお金を稼がなくては、というマインドが一部の若い人たちの間に広がっています。本来は「もっと普通に暮らせるようにしろ」と怒るべきなのに、日本人は自助、自力で何とかするようにすり込まれている。資本の側から見れば非常に扱いやすい。 再配分が機能する、フェアな社会にすることに想像力が働かず、既存のシステムの中で自分だけは生き残ろうという思想が強固になっているのは、非常に残念です。でもそれも仕方のない話で、希望が持てる社会運動もないし、訴えかけて応えてくれる政党もない。 Q:それはある意味必然的なことだと。 A:だからこそ私は『人新世の「資本論」』を書きました。まずは「今のこの社会はおかしい」と言ったり考えたりするためのボキャブラリーやツールを提唱したかった。私の専門は経済思想ですが、哲学や思想には、生きづらさや閉塞感を言語化し、批判するための言葉や、認識のフレームワークを与える力があるからです』、「まずは「今のこの社会はおかしい」と言ったり考えたりするためのボキャブラリーやツールを提唱したかった」、大いにやってくれることを期待している。これにより、それに「応えてくれる政党」も出てくるだろう。
・『世界中の若者たちが異議申し立てをしている 今、世界中で若者たちが怒っています。1990年代にはすでに、気候危機は確実に起こると言われていた。にもかかわらず、この30年間資本主義は世界中をマーケットにして富むものを富ませる一方で、地球環境をもはや待ったなしにまでさせてしまった。 そのツケを払わされる10代、20代の世界中の若者たちが今、絶望と同時に怒りをもって、新自由主義、さらに資本主義自体に異議申し立てをしています。現在の社会システムを抜本的に変えなければ、見捨てられるのは自分たちだと。 それに呼応して、アメリカのサンダースやオカシオ=コルテスのように、資本主義の行き詰まりを批判する政治家も出て、社会を動かし始めている。 日本では岸田さんが総裁就任前に新自由主義批判、金融資産課税などを持ち出していましたが、結局腰砕けに終わった。 政治も経済も、全体の状況を大きく動かしていくためには、やはり若者をはじめとしたさまざまな人たちが声を上げて、変化を求める運動が不可欠です。「今の社会はおかしい。変えていくべきだ」と、声を上げてほしいと思います』、今の日本人が大人し過ぎるのは情けない。「声を上げる」ようにするには、何が必要なのだろうか、私にも皆目見当がつかない。
タグ:資本主義 (その8)(「無形資産」の時代に新しく資本家になる人の特徴 必要なのは工場でも土地でもない多様な可能性、「新しい資本主義」とは何か? それは「データ資本主義」「資本なき資本主義」である 検討するまでもない。なのに日本は未だ、日本人が知らない「脱成長でも豊かになれる」根拠 若き経済思想家・斎藤幸平が語る貧困解決策) 東洋経済オンライン 丸山 俊一 「「無形資産」の時代に新しく資本家になる人の特徴 必要なのは工場でも土地でもない多様な可能性」 「無形資産には格差を広げる方向に働く力と、縮める方向に働く力という、逆方向に向かう二つの力がある」、「現時点では格差を広げる方向の力が、反対方向に働く力よりも強いようです」、なるほど。 「1990年代前半にアメリカで無形資産への投資が有形資産の投資を上回って以降、他の諸国にも同様の傾向は波及し、無形資産への投資でアメリカを追い上げました。それは今も続いています」、なるほど。 「コロナを経済成長のきっかけにするためには、このような新たなマネージメント技術やビジネスモデルといった無形資産に大きな投資をする必要があります」、その通りだ。 「創造力にあふれた人たちをまとめられる人材ですね。 そうした人材が保有していると考えられる無形資産は・・・人間関係のマネージングや、クリエーティブな人たちのマネージングに長けた能力です」、「多様な可能性を持った面白い資本家が誕生するかもしれない」、面白い時代になったものだ。 現代ビジネス 野口 悠紀雄 「「新しい資本主義」とは何か? それは「データ資本主義」「資本なき資本主義」である 検討するまでもない。なのに日本は未だ」 「資本なき資本主義」とは面白い概念だ。 「日本経済は「古い資本主義」から脱却できないでいる。日本経済が停滞するのは、このためだ」、意外な「日本経済」「停滞」要因だ。 「GAMMAの時価総額は、日本の上場企業全体の1.4倍」とは確かにすごいことだ。 「工場や店舗など目に見える資本(有形固定資産)の重要性が減少し、その代わりに、情報やデータなどの見えない資本(無形資産)が重要性を増したということだ」、確かにその通りだ。 「GAMMAからアマゾンを除いた:」「情報・データ処理サービス」「部門の2020年の1人あたり賃金は、18万3801ドルだ・・・2095万円・・・全産業の平均賃金7万1456ドル(814.6万円)の2.6倍」、やはりかなり高いようだ。 「4部門の雇用者を合計すると、2026万人となる。これは、雇用者総数の15.3%であり、製造業の1184万人(9.0%)の2倍近い。 アメリカの産業がすでに「資本なき資本主義」に向けて大きく変貌していることが分かる」、羨ましいようなすごいダイナミズムだ。 「「工場という資本のない製造業」に移行」、確かに日本の立ち遅れは明らかだ。 「政府が行うべきは、成長をリードすることではない。人気取りのバラマキ政策を行うことでもない。半導体の工場を日本に誘致するために補助金を出すことでもない。 そうではなく、成長を阻害している要因を取り除くことだ」、痛烈な政府批判で、まさに正論だ。 東洋経済オンライン「日本人が知らない「脱成長でも豊かになれる」根拠 若き経済思想家・斎藤幸平が語る貧困解決策」 マルクスの思想を援用し「脱資本主義」「脱成長」を説く斎藤幸平氏 「ゼロサムゲームで労働者と資本の間で取り合いが始まる。資本側が労働者の面倒を見なくなり、労働者側は取り分を奪われてしまう。それが新自由主義です」、その通りだ。 「コロナ禍の被害も甚大ですが、気候危機の被害の深刻さに比べれば、リハーサルにすぎません。コロナ禍での緊急事態は何カ月かの期間限定ですが、気候変動はもはや不可逆的な変化で、これから毎年のようにスーパー台風がやってくる。いわば慢性的な緊急事態が続き、世界中で水不足や食料不足などが次々、起こります」、確かに緊急の課題だ。「私たちはお金を手に入れるために、あまりにも働きすぎ、あまりにもモノを作りすぎ、その結果、健康を害し、環境を破壊している。そうしたサイクルそのものから抜け出すべきなのです」、なるほど。