フランス(その3)(フランスで起こっている見過ごせない"異変" コロナ禍芸術が軽視されているこのモヤモヤ感、「日本推し」候補がフランス大統領選で人気の背景 急激に支持率を高めているザムール氏の主張、フランス大統領選挙 候補者たちの熾烈な争い 3つのシナリオとそれぞれがはらむ問題を分析) [世界情勢]
フランスについては、2017年5月18日に取上げた。久しぶりの今日は、(その3)(フランスで起こっている見過ごせない"異変" コロナ禍芸術が軽視されているこのモヤモヤ感、「日本推し」候補がフランス大統領選で人気の背景 急激に支持率を高めているザムール氏の主張、フランス大統領選挙 候補者たちの熾烈な争い 3つのシナリオとそれぞれがはらむ問題を分析)である。
先ずは、昨年2月28日付け東洋経済オンラインが掲載した国際ジャーナリスト・エッセイストのドラ・トーザン氏によるを紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/413809
・『「文化の国」であることを誇りにしているフランスに大きな異変が起きています。フランスは、新型コロナウイルスによるパンデミックの最中、生活と社会における「文化的な部分」を完全に停止(あるいは放棄)してしまったのです。多くのフランス人と同じように、私も自国の文化および文明の基礎に何が起きているのか、いまだに理解できずにいます。 すでにイタリアやスペインでは美術館が営業を開始しています。日本では昨春の緊急事態宣言時こそ閉まっていましたが、その後は多くが営業をしています。一方、フランスでは昨年10月以降、美術館や劇場、映画館、オペラ劇場、コンサートホール、そしてすべての記念建造物(エッフェル塔やベルサイユ宮殿、城など)は閉鎖されたままです』、「「文化の国」であることを誇りにしているフランス」で「パンデミックの最中、生活と社会における「文化的な部分」を完全に停止」、とは大変なことだ。
・『美術館や劇場は「閉鎖」したまま 文化と美術の国として、美が重要視され、芸術家が高く評価されているこのフランスにおいて、なぜエマニュエル・マクロン大統領や、彼の政権は文化を完全に「軽視」するようになってしまったのでしょうか。 これまでも多くのところで言及してきましたが、フランスには日本の文化庁の10倍もの予算を持つ文化省があります。文化はフランスの歴代の政治家によって、創造産業としてだけではなく、主要な経済主体として国の重要な一部と扱われてきました。1959年に文化省(当時は文化通信省)を設立した、シャルル・ドゴール大統領(当時)は、1965年「文化はすべてを支配し、われわれの文明の必須条件である」と話しています。 ところが、10月末から12月半ばまで続いた二度目のロックダウン中は、こうした施設の営業再開がいつになるかの見通しは示されませんでした。多くの人は、クリスマス休暇に合わせて12月15日に営業が再開すると期待していましたが、それも実現しませんでした。夜間外出禁止であれば、せめて日中だけでもという声もありましたが、それもなし。制限付きの営業再開すら許されていないのです。 クリスマス前には、フランス国民がクリスマスショッピングできるように、小売店は営業することが許されました。画廊や図書館、教会は開いています。それなのになぜ、ルーブル美術館はいつまで経っても閉館しているのでしょうか(ちなみに、美術品を維持するために、美術館は閉館中も空調管理やセキュリティ対策が必要で、これには毎月1000万ユーロかかります)。 こうした中、美術館の営業再開への嘆願や圧力が高まりつつあります。映画館やレストランへ行ってストレスを発散できなくなったフランス国民は意気消沈し始めており、この傾向は文化および行楽施設が数多くあるパリで特に顕著です。美術館に行くことは、フランス人にとってストレス解消や現実逃避、そして夢想することなのです。今のような状態では特にこうした場所を必要としています。) フランスにおける最初のロックダウン(2020年3~5月)の後、2020年夏まではほぼすべての美術館が営業していました。インターネットによる予約制にしたり、来場できる人数を減らしたり、というシステムも非常によく機能していました。もちろん、外国人観光客が激減していたことで訪れる人も例年を大きく下回っていましたが、それでもフランスに1200ある美術館、そして8000ある歴史的建造物を訪れる人は数多くいました。 苦しんでいるのは美術館だけではありません。映画業界もパンデミックによる影響を大きく受けています。2020年の「カンヌ映画祭」は中止になり、2021年に関しては現在のところ、5月から7月に延期されています。フランスでは10月以降、映画館は閉鎖されたままです。上述の通り、劇場やコンサートホールも閉鎖されたままで、バレエや舞台、音楽祭などは軒並み全公演中止となっています』、「美術館に行くことは、フランス人にとってストレス解消や現実逃避、そして夢想することなのです。今のような状態では特にこうした場所を必要としています。 フランスにおける最初のロックダウン(2020年3~5月)の後、2020年夏まではほぼすべての美術館が営業していました」、「「美術館に行くことは、フランス人にとって」重要なのに、「2020年夏以降、併催された背景には何があったのだろう。
・『「今、必要なのはインタラクション」 文化は「必須ではない」産業なのか――。「必須ではない」と認識されたことの衝撃は、多くの芸術家および芸術関連事業の従事者にとってかなりおおきく、そして屈辱的なものでした。 何が必須か、必須ではないかを決めるのは誰なのでしょうか。私たちが生きていくのに必要なのは食料だけなのでしょうか。それは「生きる」ことの定義ではなく、「生き延びる」ことの定義ではないでしょうか。 「今、私に必要なのはインタラクションです。コンサートへ行き、人々の演劇や歌を生で聴かなければいけません。絵画や彫刻に関しても同様です。芸術は私に力を与えてくれます。この『光』なしに過ごすことは狂おしいのです」。これはフランスの雑誌のインタビューで、女優のキャロル・ブーケが話していたことです。 「国民の健康保護という名目で、すべての文化的生活を禁止するのは普通ではない」と考え、新たな方法で文化や芸術を人々が体験できるような実験を行うところも出てきました。例えば、ルーブル美術館は館内が見渡せるオンラインビューイングやバーチャルツアーなどを始めています。こうした取り組みはパンデミック前にはなかったもので、これは美術館ファンのみならず、従来は美術館に興味がなかった人が美術のすばらしさに触れるきっかけにもなるでしょう。 多くの国と違って、フランスには芸術業界に従事する人(intermittents du spectacle=芸術分野における非正規労働者)を保護する特有のシステムがあり、こうした人々は無職期間中に一定の手当てを受け取ることができます(受け取るには、前年最低507時間の労働実績が必要です)。政府はすべての休業に対する補償を8月末まで延長すると決めており、これは芸術家が収入を維持するうえでは大きなことです。 もっとも、文化や芸術に携わる人々は収入があればいい、というわけではありません。4つのホールを持つパリのアポロ劇場の理事であるマイダ・デルマスさんは、漫談師や一人芝居をする役者などがいかにコロナ危機に立ち向かったかをこう語ります。) 「最初のロックダウン後、昨年4月に私たちはいくつかのライブ配信をすることを決めました。劇場の業界はとても閉鎖的かつ保守的で、デジタル化に対してはかなり否定的ですが、私たちは2014年に投資をしており、準備はできていました。メインホールにはロボットカメラを設置してありますし、そのほか5台のカメラと監督が1人います。 アーティストは観客を求めており、それは喜劇におけるアーティストに特に言えることです。そこで私たちは、観客の代わりに座席にインタラクティブなモニターを設置して、世界中から(座席に座って)観客として配信に参加する人を20人選んだのです」(デルマスさん) もちろん、選ばれなかった人もオンラインで配信を視聴できました。配信料は1人10~35ユーロ(再生は不可)。配信はもちろん、本物の観客を前にしたときに感じる情熱や感情の代わりを果たすことはできませんが、ショーの新たな体験方法を提案するだけでなく、世界中のフランス語を話す観客を魅了できる取り組みとなったわけです』、「劇場の業界はとても閉鎖的かつ保守的で、デジタル化に対してはかなり否定的です」、とはいえ、「ショーの新たな体験方法を提案」する動きも出てきたようだ。
・『芸術は生で共有されることに基づいている フランスでは、文化はつねに国の重要な財源として考えられてきました。実際、この国では65万人もの人が文化・芸術分野で雇用されているのです(自動車業界より多いのです!)。 芸術における演出の大部分は、それが観客と「共有」されるという事実に基づいています。美しい彫刻であれ、すばらしい歌声であれ、観客が生で触れることでしか感じ取れない感情があります。 それを「届ける」ことは、文化や芸術に携わる人々にとっては仕事以上のものであり、生きていくうえでまさに不可欠なものなのです。彼らは自らの創造を演奏し、演じ、見せ、そして共有したいと思っており、必要としています。一方の観客側も、精神的バランスを保つため、美術館や劇場、映画館へ足を運び、芸術や文化に生で触れることを必要としているのです。 息苦しい状況が続く中、現文化相のロズリン・バシュローは、美術館や劇場の再開や音楽祭の開催を政府に説得しようと、さまざまな案を模索しています。この夏も野外フェスティバルを行うことを許可したばかりです。参加できる人数は5000人、観客は着席のまま、一定距離を開ける、という制限付きではありますが、これは前向きな1歩でもあります。 営業再開の判断をすることは容易なことではないでしょう。しかし、すべてを閉鎖し、「そのまま」にしておくことは正しい判断とは思えません。「ウイズコロナ」すなわち、ウイルスとともに暮らしていかなければならない状況で、文化や芸術はこれまで以上に大切なものとなっているのです』、フランスの「文化や芸術」分野への「ウイズコロナ」への取り組みが遅れているというのは、意外な驚きだった。
次に、10月21日付け東洋経済オンラインが掲載した『フランス・ジャポン・エコー』編集長・仏フィガロ東京特派員のレジス・アルノー 氏による「「日本推し」候補がフランス大統領選で人気の背景 急激に支持率を高めているザムール氏の主張」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/463481
・『「フランスは日本のように運営されるべきか?」。これは、2022年4月24日に行われるフランスの大統領選挙で問われるかもしれない問題である。9月まで、フランス国民は、エマニュエル・マクロン大統領と、その挑戦者で極右政党「国民戦線」党首のマリーヌ・ルペンの対決に備えていた。 両人は、対立する陣営を代表している――エマニュエル・マクロン大統領は、フランスを自由貿易や人的交流にもっと開放することを提案する「グローバリスト」を、ルペンは、フランスの国境を強化し、移民や国際競争への対応を制限することを提案する「ナショナリスト」を率いている』、興味深そうだ。
・『理想とする国のモデルは「日本」 マクロン大統領はなんだかんだ依然人気で優勢だが、先月から、エリック・ゼムールという『フィガロ』誌の元記者が、マリーヌ・ルペンを有力な対立候補の座から下ろし、代わってフランス社会の全面的な見直しを提案して、議論の中心に身を置いている。 フランスの共産主義者にとってソ連がモデルであったように、ゼムールのモデルはなんと日本であると最近のインタビューで彼自身が話している。 「この40年間、日本は移民を拒否してきており、結果失業率は3%程度だ。貿易黒字でもある。犯罪の少ない社会で、刑務所の収容者数は半分にすぎない。生産性も高く、ロボット化も進んでいる。これもすべては、日本が移民という安易な方法で問題を解決しなかったからだ」と説明し、記者たちを唖然とさせた。 フランスの名門「パリ政治学院」を卒業したゼムールは、『コティディアン・ド・パリ』紙などで働いた後、1996年から保守系日刊紙『フィガロ』で政治を中心にカバーしているほか、雑誌のコラムやテレビに出演するなど活躍。政治記者の経験を生かして、ジャック・シラク元大統領の評伝なども執筆している。 そんなゼムールのスタンスは、先のインタビューからわかるように、完全に「反移民」である。同氏は移民、特にイスラム系移民の受け入れ政策は、フランスのアイデンティティにとって致命的な脅威であると考えおり、移民受け入れは、メリットよりも問題点のほうがはるかに多いと主張している。 さらに、ゼムールはこうも考えている。移民コミュニティの人口における動きは、「ネイティブ」のフランス人に比べて非常にダイナミックなうえ、移民の生活様式はあまりにも従来のフランス人のそれとは異なっているため、フランス社会は、30年後には、敵対的で苦々しいコミュニティに深く分断された「大きなレバノンのような国」になってしまう――。 実際、フランスは過去50年間、人口と労働力の両面で移民政策をとってきており、現在フランスに住む人の7.6%が外国人である。フランスでは、外国人の人権は、家族と一緒に暮らす権利を含め、広く保障されている。不法滞在者であっても、出身国に強制送還されることはほとんどない』、「外国人」への開放への後進国「日本」をよりによってお手本にするとは・・・。
・『日本とフランスの難民政策の如実な違い 翻って日本にはまだ公式な移民政策がない。積極的に外国人を受け入れることもなく、あくまでも一時的な労働力としてしぶしぶ受け入れているだけで、人権が保障されるべき存在とは考えられていないように見える。犯罪を犯した外国人は速やかに拘束される(これは外国人に限ったことではないが)。ひとたび有罪判決を受けて国外退去となれば、それがどんなに軽微な犯罪であっても、特別に許可が得られなければ一生日本に足を踏み入れることができない。 外国人に対する両国の考え方の違いは、それぞれの難民政策にも如実に表れている。日本は40年間で3550人の難民申請者に保護を与えているが、フランスは2019年の1年間に3万6275人の難民申請者を保護している。つまり、フランスは2019年の40日間で、日本の40年間と同じ数の難民を保護を与えている。 一方、治安については議論の余地がないほど日本のほうが安全だ。フランスから日本を訪れた人は、つねに清潔で秩序が保たれていることに驚かされる。6歳の子どもたちが学校帰り、午後遅く1人で東京の道路を横断する光景が日常的に見られるのにフランスからの訪問者は目を疑う。フランスに帰国すると、パスポートをなくしたり、財布を忘れたりしても、後で奇跡的に無傷で戻ってきたという思い出話をする。 フランスでは、今や強盗はインフルエンザと同じくらい一般的な出来事のようだ。国連が発表した薬物と犯罪に関する最新の数値によると、2016年のフランスの人口10万あたりの強盗発生率は日本の88.5倍にもなっている。 「この前、パリの一流ホテルに泊まったとき、バスルームにバスタブの栓がなかった。フロントに理由を尋ねると、『客がよく盗むから』との回答だった。言うまでもなく、彼は新しい栓を用意してくれなかった」とパリから戻ったフランス人の友人が先月話してくれた。 ゼムールは、日本の強い製造業についてもうらやましく思っている。世界銀行によると、日本のGDPの29.1%を占める製造業が、フランスでは16.3%しか占めていない。貿易に関しては、日本は過去30年間のうち25年間は貿易黒字を記録している。一方、フランスは2005年以降、ずっと貿易赤字を出し続けている。 失業率についても、日本はOECD諸国の中で最も低く、フランスは最も高い水準にある。過去30年間で、日本の最高失業率は2002年で、そのときは5.4%で天井を打っている。同じ期間、フランスの失業率は7%を下回ったことがない。最新の統計では、日本の失業率は2.8%、フランスの失業率は7.9%となっている』、「ゼムール氏」の「日本」の紹介はいい面だけを強調し過ぎている。
・『日本のことを実はよくわかっていない? もっとも、ゼムールは日本に一度も足を踏み入れたことがない。彼は、日本の社会モデルの欠陥、すなわち、人口動態のデス・スパイラル、女性の社会的地位の低さ、若者の絶望などを見ていない。日本の生産性は、製造業を除いて決して高くもない。 フランス人は彼の「日本礼賛論」を受け入れるだろうか?世論調査によれば、その可能性がないわけではない。ゼムールは現在、すべての世論調査で投票動向の2位か3位につけている。つまり、もし今日、大統領選挙が行われるとしたら、彼は第2ラウンドに進む資格を得て、マクロン大統領と対戦し、彼を打ち負かす可能性があるということだ。 フランスの歴史上、これほど急速に人気を博した候補者はいないと、すべての世論調査機関が認めている。同氏はすでに、移民と安全保障を中心に大統領選挙を大きく変えている。確かなことは、彼の政治プログラムによって、フランスが見習うべき社会のモデルとして、日本にスポットライトが当てられるということだ。 非常に分裂的な人物であるゼムールは、フランスでは崇拝されると同時に嫌われてもいる。同氏の集会は、2016年のドナルド・トランプ前アメリカ大統領のキャンペーンのように、暴力的に支持者と反対者を対立することが多くなっている。 ゼムールの反対勢力の1つが極左だが、大統領選には極左も立候補しており、ゼムールはこうした候補らに「人種差別主義者」と呼ばれている。ゼムールにとって極左は「敵」だ。もし極左が大統領選に勝利し、ゼムールが亡命せざるを得ないようなことになれば、同氏は自らが「モデル国家」としている国で難民申請をすることができる。そう、日本だ』、「ゼムール氏」は「日本に一度も足を踏み入れたことがない」とはいえ、ジャーナリストだっただけあって一応、筋がとおっている。ただし、「日本」の実態を知れば、理想視できない筈だ。
第三に、本年1月2日付け東洋経済オンラインが掲載した第
一生命経済研究所 主席エコノミストの田中 理氏による「フランス大統領選挙、候補者たちの熾烈な争い 3つのシナリオとそれぞれがはらむ問題を分析」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/479294
・『昨年12月にドイツでオーラフ・ショルツ首相が率いる新政権が誕生し、欧州政局の次の注目点は今年4月のフランス大統領選挙となる。エマニュエル・マクロン大統領の正式な出馬表明はまだだが、主要各党の候補者が出揃い、選挙戦は事実上スタートしている。投開票日まで3カ月以上もあり、選挙戦の行方は流動的だが、現時点で蓋然性の高いシナリオを考察する』、興味深そうだ。
・『マクロン大統領がリード、熾烈な2番手争い 最近の世論調査によれば、マクロン大統領が25%前後の支持でリードしている。それを追うのが、2017年の前回選挙の決選投票でマクロン氏と対峙した極右政党・国民連合(前回の国民戦線から党名を変更)のマリーヌ・ルペン候補、新たな極右候補で無所属のエリック・ゼムール候補、伝統的な2大政党の一角で中道右派(フランスの政治用語では右派)・共和党のヴァレリー・ペクレス候補で、15%前後の支持率で熾烈な2番手争いを繰り広げている。 フランスの大統領選挙は2回投票制で行われ、4月10日の初回投票で過半数を獲得した候補がいない場合、上位2名が同月24日の決選投票に進み、より多くの支持を集めた候補が勝者となる。まずはどの候補が決選投票に残るかが、最終的な勝者を占ううえで重要となってくる。) 前回選挙では選挙戦が本格的にスタートして以降、主要候補の公金横領疑惑が浮上し、世論調査は大きく変動した。 ただ、今回は上位4候補とそれに続く他候補との支持率の差は大きい。かつての政権与党で党勢低落が著しい中道左派(フランスの政治用語では左派)・社会党のアンヌ・イダルゴ候補、環境政党・欧州エコロジー=緑の党のヤニック・ジャドー候補、前回選挙の初回投票で4位につけた極左政党・不服従のフランスのジャン=リュック・メランション候補の間で左派票が割れ、左派は候補者一本化もできそうにない。決選投票に進出する可能性があるのは前述の4候補に絞られよう。 2021年に各党の支持は目まぐるしく変動している。当初はルペン候補がリードしていたが、ゼムール氏の出馬で極右票が割れ、マクロン大統領に逆転を許した。フランス国民の間で極右大統領誕生への警戒は根強く、前回の決選投票ではマクロン氏が反極右票を集めて圧勝した。ルペン氏は今回、ユーロ離脱などの極端な主張を封印し、支持層拡大に努めてきた。だが、新たな極右候補の登場で、ルペン氏の政策穏健化に不満を持つ有権者がゼムール支持に流れている』、「ルペン氏の政策穏健化に不満を持つ有権者がゼムール支持に流れている」、なるほど。
・『極右ではルペン氏を追い上げるゼムール氏 ゼムール氏の支持基盤は極右だけにとどまらない。ゼムール支持の有権者に、前回選挙でどの候補に投票したかを尋ねると、28%のルペン候補とほぼ並ぶのが、共和党のフランソワ・フィヨン候補の27%だ。伝統的な中道右派政党のフィヨン氏を支持した有権者がルペン支持に転向した割合は少ないが、ゼムール支持に転向した割合は多い。 ゼムール氏は代表的な右派系新聞フィガロの政治記者などを経て、作家やテレビのコメンテーターとして長年活躍してきた人物だ。反移民、反イスラム、治安強化、フランスのアイデンティティ回復などを訴えている。人種差別的な発言が物議を醸すことも少なくないが、歴史や古典への造詣が深い知識人としての一面も持つ。 そのゼムール氏も陣営内の問題が相次いで発覚し、一時の勢いはない。代わりに急速に支持を伸ばしているのが共和党のぺクレス氏だ。ぺクレス氏の支持は当初10%前後で低迷していたが、有力候補を破って共和党の予備選を制した後は、一躍、ポスト・マクロンの最有力候補に躍り出た。 マクロン大統領にとって、政策が似通うぺクレス氏は攻撃材料に乏しく、決選投票の世論調査でも接戦が予想されている。フランスでも新型コロナウイルスの感染が再拡大しており、1日当たりの新規感染者が過去のピーク時を上回っている。今後、一段と感染が広がり、感染予防の強化を余儀なくされる場合、政権批判が広がる恐れがある』、「新型コロナウイルスの感染が再拡大」が「政権批判が広がる恐れがある」のは確かだ。
・『極右候補1本化、ペクレス猛追ならマクロン敗退も マクロン大統領にとっては、決選投票の相手がぺクレス氏ではなく、ルペン氏やゼムール氏となる場合も侮れない。大統領就任後、マクロン氏の強引な改革手法や国家運営に反発する国民も少なくなく、政治刷新と変革を掲げて勝利した前回と比べて反マクロンの逆風が吹いている。特にゼムール氏は共和党支持層の一部を取り込む素地を持っており、決選投票に進出した場合、世論調査が示唆する以上の支持を集める可能性がある。 また、ルペン氏とゼムール氏のいずれかが出馬を取り止める場合、残る極右候補が初回投票を首位で突破する公算が大きい。ぺクレス氏は最近の世論調査で、右派票のみならず中道票や左派票の一部も取り込んでいる。今のところ可能性は低いが、極右候補の一本化とぺクレス候補がマクロン大統領を逆転する事態が重なれば、マクロン大統領が初回投票で敗退する恐れすらある。 ぺクレス氏は多くの大統領を輩出してきたドゴール派の伝統政党の一員で、初の女性大統領の栄冠を勝ち取った場合も、政策面で大きな不安はない。直後に控える下院(国民議会)選挙でも共和党が勝利し、安定した政権基盤を築くことが予想される。 ただ、ドイツ政界を16年もの長きにわたって率いてきたアンゲラ・メルケル首相が引退したのに続き、メルケル後の欧州連合(EU)のリーダーと目されたマクロン大統領が再選に失敗すれば、EUのリーダシップに対する不安が広がる恐れがある。首「マクロン大統領が再選に失敗すれば、EUのリーダシップに対する不安が広がる恐れがある」、言われてみれば、その通りだ。都パリが所在するイル=ド=フランス地域圏首長を務めるぺクレス氏は、ニコラ・サルコジ大統領の時代に高等教育・研究開発相と予算相を歴任した経験豊富な政治家だが、EUや国際社会でのプレゼンスは未知数だ』、「新型コロナウイルスの感染が再拡大」が「政権批判が広がる恐れがある」のは確かだ。
・『マクロン氏は議会過半数を失い、EUでも波乱含み マクロン氏が再選を果たした場合も、2期目の政権運営には不安が残る。前回選挙を前に同氏が旗揚げした中道政党・共和国前進は、大統領選直後の下院選挙を制し、議会の過半数を握った。だが、大統領や政権の支持低迷とともに離党者が相次ぎ、昨年5月には議会の過半数を失った。地方議会選挙でも苦戦続きで、マクロン氏が大統領選を制した場合も、共和国前進が議会の過半数を握るのは困難とみられている。再選後のマクロン大統領は共和党など他党の協力を仰ぎながらの議会運営を余儀なくされる。 フランスでは大統領が主に外交を、首相が主に内政を担当する。欧州やフランスの戦略的自立や主権強化を訴えるマクロン大統領は、EU離脱後の英国領海での漁業権問題や、アメリカ・英国・オーストラリアによる新たな安全保障の枠組み(AUKUS)などをめぐって、他国との対立姿勢を露わにすることも少なくない。何事にも慎重姿勢だったドイツのメルケル前首相に代わり、マクロン大統領がEUのリーダーとしての地位を固める場合、他国や他地域との関係はこれまで以上に緊張をはらんだものとなりそうだ。 こうしてみると4月のフランス大統領選は、マクロン大統領再選、共和党の政権奪還、極右大統領誕生のいずれのシナリオの場合にも不安要素を抱える。選挙戦はこれから本格化する。今回はどんなドラマが待ち構えているのか、その行方に注目が集まる』、「4月のフランス大統領選は、マクロン大統領再選、共和党の政権奪還、極右大統領誕生のいずれのシナリオの場合にも不安要素を抱える」、今後の展開が注目される。
先ずは、昨年2月28日付け東洋経済オンラインが掲載した国際ジャーナリスト・エッセイストのドラ・トーザン氏によるを紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/413809
・『「文化の国」であることを誇りにしているフランスに大きな異変が起きています。フランスは、新型コロナウイルスによるパンデミックの最中、生活と社会における「文化的な部分」を完全に停止(あるいは放棄)してしまったのです。多くのフランス人と同じように、私も自国の文化および文明の基礎に何が起きているのか、いまだに理解できずにいます。 すでにイタリアやスペインでは美術館が営業を開始しています。日本では昨春の緊急事態宣言時こそ閉まっていましたが、その後は多くが営業をしています。一方、フランスでは昨年10月以降、美術館や劇場、映画館、オペラ劇場、コンサートホール、そしてすべての記念建造物(エッフェル塔やベルサイユ宮殿、城など)は閉鎖されたままです』、「「文化の国」であることを誇りにしているフランス」で「パンデミックの最中、生活と社会における「文化的な部分」を完全に停止」、とは大変なことだ。
・『美術館や劇場は「閉鎖」したまま 文化と美術の国として、美が重要視され、芸術家が高く評価されているこのフランスにおいて、なぜエマニュエル・マクロン大統領や、彼の政権は文化を完全に「軽視」するようになってしまったのでしょうか。 これまでも多くのところで言及してきましたが、フランスには日本の文化庁の10倍もの予算を持つ文化省があります。文化はフランスの歴代の政治家によって、創造産業としてだけではなく、主要な経済主体として国の重要な一部と扱われてきました。1959年に文化省(当時は文化通信省)を設立した、シャルル・ドゴール大統領(当時)は、1965年「文化はすべてを支配し、われわれの文明の必須条件である」と話しています。 ところが、10月末から12月半ばまで続いた二度目のロックダウン中は、こうした施設の営業再開がいつになるかの見通しは示されませんでした。多くの人は、クリスマス休暇に合わせて12月15日に営業が再開すると期待していましたが、それも実現しませんでした。夜間外出禁止であれば、せめて日中だけでもという声もありましたが、それもなし。制限付きの営業再開すら許されていないのです。 クリスマス前には、フランス国民がクリスマスショッピングできるように、小売店は営業することが許されました。画廊や図書館、教会は開いています。それなのになぜ、ルーブル美術館はいつまで経っても閉館しているのでしょうか(ちなみに、美術品を維持するために、美術館は閉館中も空調管理やセキュリティ対策が必要で、これには毎月1000万ユーロかかります)。 こうした中、美術館の営業再開への嘆願や圧力が高まりつつあります。映画館やレストランへ行ってストレスを発散できなくなったフランス国民は意気消沈し始めており、この傾向は文化および行楽施設が数多くあるパリで特に顕著です。美術館に行くことは、フランス人にとってストレス解消や現実逃避、そして夢想することなのです。今のような状態では特にこうした場所を必要としています。) フランスにおける最初のロックダウン(2020年3~5月)の後、2020年夏まではほぼすべての美術館が営業していました。インターネットによる予約制にしたり、来場できる人数を減らしたり、というシステムも非常によく機能していました。もちろん、外国人観光客が激減していたことで訪れる人も例年を大きく下回っていましたが、それでもフランスに1200ある美術館、そして8000ある歴史的建造物を訪れる人は数多くいました。 苦しんでいるのは美術館だけではありません。映画業界もパンデミックによる影響を大きく受けています。2020年の「カンヌ映画祭」は中止になり、2021年に関しては現在のところ、5月から7月に延期されています。フランスでは10月以降、映画館は閉鎖されたままです。上述の通り、劇場やコンサートホールも閉鎖されたままで、バレエや舞台、音楽祭などは軒並み全公演中止となっています』、「美術館に行くことは、フランス人にとってストレス解消や現実逃避、そして夢想することなのです。今のような状態では特にこうした場所を必要としています。 フランスにおける最初のロックダウン(2020年3~5月)の後、2020年夏まではほぼすべての美術館が営業していました」、「「美術館に行くことは、フランス人にとって」重要なのに、「2020年夏以降、併催された背景には何があったのだろう。
・『「今、必要なのはインタラクション」 文化は「必須ではない」産業なのか――。「必須ではない」と認識されたことの衝撃は、多くの芸術家および芸術関連事業の従事者にとってかなりおおきく、そして屈辱的なものでした。 何が必須か、必須ではないかを決めるのは誰なのでしょうか。私たちが生きていくのに必要なのは食料だけなのでしょうか。それは「生きる」ことの定義ではなく、「生き延びる」ことの定義ではないでしょうか。 「今、私に必要なのはインタラクションです。コンサートへ行き、人々の演劇や歌を生で聴かなければいけません。絵画や彫刻に関しても同様です。芸術は私に力を与えてくれます。この『光』なしに過ごすことは狂おしいのです」。これはフランスの雑誌のインタビューで、女優のキャロル・ブーケが話していたことです。 「国民の健康保護という名目で、すべての文化的生活を禁止するのは普通ではない」と考え、新たな方法で文化や芸術を人々が体験できるような実験を行うところも出てきました。例えば、ルーブル美術館は館内が見渡せるオンラインビューイングやバーチャルツアーなどを始めています。こうした取り組みはパンデミック前にはなかったもので、これは美術館ファンのみならず、従来は美術館に興味がなかった人が美術のすばらしさに触れるきっかけにもなるでしょう。 多くの国と違って、フランスには芸術業界に従事する人(intermittents du spectacle=芸術分野における非正規労働者)を保護する特有のシステムがあり、こうした人々は無職期間中に一定の手当てを受け取ることができます(受け取るには、前年最低507時間の労働実績が必要です)。政府はすべての休業に対する補償を8月末まで延長すると決めており、これは芸術家が収入を維持するうえでは大きなことです。 もっとも、文化や芸術に携わる人々は収入があればいい、というわけではありません。4つのホールを持つパリのアポロ劇場の理事であるマイダ・デルマスさんは、漫談師や一人芝居をする役者などがいかにコロナ危機に立ち向かったかをこう語ります。) 「最初のロックダウン後、昨年4月に私たちはいくつかのライブ配信をすることを決めました。劇場の業界はとても閉鎖的かつ保守的で、デジタル化に対してはかなり否定的ですが、私たちは2014年に投資をしており、準備はできていました。メインホールにはロボットカメラを設置してありますし、そのほか5台のカメラと監督が1人います。 アーティストは観客を求めており、それは喜劇におけるアーティストに特に言えることです。そこで私たちは、観客の代わりに座席にインタラクティブなモニターを設置して、世界中から(座席に座って)観客として配信に参加する人を20人選んだのです」(デルマスさん) もちろん、選ばれなかった人もオンラインで配信を視聴できました。配信料は1人10~35ユーロ(再生は不可)。配信はもちろん、本物の観客を前にしたときに感じる情熱や感情の代わりを果たすことはできませんが、ショーの新たな体験方法を提案するだけでなく、世界中のフランス語を話す観客を魅了できる取り組みとなったわけです』、「劇場の業界はとても閉鎖的かつ保守的で、デジタル化に対してはかなり否定的です」、とはいえ、「ショーの新たな体験方法を提案」する動きも出てきたようだ。
・『芸術は生で共有されることに基づいている フランスでは、文化はつねに国の重要な財源として考えられてきました。実際、この国では65万人もの人が文化・芸術分野で雇用されているのです(自動車業界より多いのです!)。 芸術における演出の大部分は、それが観客と「共有」されるという事実に基づいています。美しい彫刻であれ、すばらしい歌声であれ、観客が生で触れることでしか感じ取れない感情があります。 それを「届ける」ことは、文化や芸術に携わる人々にとっては仕事以上のものであり、生きていくうえでまさに不可欠なものなのです。彼らは自らの創造を演奏し、演じ、見せ、そして共有したいと思っており、必要としています。一方の観客側も、精神的バランスを保つため、美術館や劇場、映画館へ足を運び、芸術や文化に生で触れることを必要としているのです。 息苦しい状況が続く中、現文化相のロズリン・バシュローは、美術館や劇場の再開や音楽祭の開催を政府に説得しようと、さまざまな案を模索しています。この夏も野外フェスティバルを行うことを許可したばかりです。参加できる人数は5000人、観客は着席のまま、一定距離を開ける、という制限付きではありますが、これは前向きな1歩でもあります。 営業再開の判断をすることは容易なことではないでしょう。しかし、すべてを閉鎖し、「そのまま」にしておくことは正しい判断とは思えません。「ウイズコロナ」すなわち、ウイルスとともに暮らしていかなければならない状況で、文化や芸術はこれまで以上に大切なものとなっているのです』、フランスの「文化や芸術」分野への「ウイズコロナ」への取り組みが遅れているというのは、意外な驚きだった。
次に、10月21日付け東洋経済オンラインが掲載した『フランス・ジャポン・エコー』編集長・仏フィガロ東京特派員のレジス・アルノー 氏による「「日本推し」候補がフランス大統領選で人気の背景 急激に支持率を高めているザムール氏の主張」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/463481
・『「フランスは日本のように運営されるべきか?」。これは、2022年4月24日に行われるフランスの大統領選挙で問われるかもしれない問題である。9月まで、フランス国民は、エマニュエル・マクロン大統領と、その挑戦者で極右政党「国民戦線」党首のマリーヌ・ルペンの対決に備えていた。 両人は、対立する陣営を代表している――エマニュエル・マクロン大統領は、フランスを自由貿易や人的交流にもっと開放することを提案する「グローバリスト」を、ルペンは、フランスの国境を強化し、移民や国際競争への対応を制限することを提案する「ナショナリスト」を率いている』、興味深そうだ。
・『理想とする国のモデルは「日本」 マクロン大統領はなんだかんだ依然人気で優勢だが、先月から、エリック・ゼムールという『フィガロ』誌の元記者が、マリーヌ・ルペンを有力な対立候補の座から下ろし、代わってフランス社会の全面的な見直しを提案して、議論の中心に身を置いている。 フランスの共産主義者にとってソ連がモデルであったように、ゼムールのモデルはなんと日本であると最近のインタビューで彼自身が話している。 「この40年間、日本は移民を拒否してきており、結果失業率は3%程度だ。貿易黒字でもある。犯罪の少ない社会で、刑務所の収容者数は半分にすぎない。生産性も高く、ロボット化も進んでいる。これもすべては、日本が移民という安易な方法で問題を解決しなかったからだ」と説明し、記者たちを唖然とさせた。 フランスの名門「パリ政治学院」を卒業したゼムールは、『コティディアン・ド・パリ』紙などで働いた後、1996年から保守系日刊紙『フィガロ』で政治を中心にカバーしているほか、雑誌のコラムやテレビに出演するなど活躍。政治記者の経験を生かして、ジャック・シラク元大統領の評伝なども執筆している。 そんなゼムールのスタンスは、先のインタビューからわかるように、完全に「反移民」である。同氏は移民、特にイスラム系移民の受け入れ政策は、フランスのアイデンティティにとって致命的な脅威であると考えおり、移民受け入れは、メリットよりも問題点のほうがはるかに多いと主張している。 さらに、ゼムールはこうも考えている。移民コミュニティの人口における動きは、「ネイティブ」のフランス人に比べて非常にダイナミックなうえ、移民の生活様式はあまりにも従来のフランス人のそれとは異なっているため、フランス社会は、30年後には、敵対的で苦々しいコミュニティに深く分断された「大きなレバノンのような国」になってしまう――。 実際、フランスは過去50年間、人口と労働力の両面で移民政策をとってきており、現在フランスに住む人の7.6%が外国人である。フランスでは、外国人の人権は、家族と一緒に暮らす権利を含め、広く保障されている。不法滞在者であっても、出身国に強制送還されることはほとんどない』、「外国人」への開放への後進国「日本」をよりによってお手本にするとは・・・。
・『日本とフランスの難民政策の如実な違い 翻って日本にはまだ公式な移民政策がない。積極的に外国人を受け入れることもなく、あくまでも一時的な労働力としてしぶしぶ受け入れているだけで、人権が保障されるべき存在とは考えられていないように見える。犯罪を犯した外国人は速やかに拘束される(これは外国人に限ったことではないが)。ひとたび有罪判決を受けて国外退去となれば、それがどんなに軽微な犯罪であっても、特別に許可が得られなければ一生日本に足を踏み入れることができない。 外国人に対する両国の考え方の違いは、それぞれの難民政策にも如実に表れている。日本は40年間で3550人の難民申請者に保護を与えているが、フランスは2019年の1年間に3万6275人の難民申請者を保護している。つまり、フランスは2019年の40日間で、日本の40年間と同じ数の難民を保護を与えている。 一方、治安については議論の余地がないほど日本のほうが安全だ。フランスから日本を訪れた人は、つねに清潔で秩序が保たれていることに驚かされる。6歳の子どもたちが学校帰り、午後遅く1人で東京の道路を横断する光景が日常的に見られるのにフランスからの訪問者は目を疑う。フランスに帰国すると、パスポートをなくしたり、財布を忘れたりしても、後で奇跡的に無傷で戻ってきたという思い出話をする。 フランスでは、今や強盗はインフルエンザと同じくらい一般的な出来事のようだ。国連が発表した薬物と犯罪に関する最新の数値によると、2016年のフランスの人口10万あたりの強盗発生率は日本の88.5倍にもなっている。 「この前、パリの一流ホテルに泊まったとき、バスルームにバスタブの栓がなかった。フロントに理由を尋ねると、『客がよく盗むから』との回答だった。言うまでもなく、彼は新しい栓を用意してくれなかった」とパリから戻ったフランス人の友人が先月話してくれた。 ゼムールは、日本の強い製造業についてもうらやましく思っている。世界銀行によると、日本のGDPの29.1%を占める製造業が、フランスでは16.3%しか占めていない。貿易に関しては、日本は過去30年間のうち25年間は貿易黒字を記録している。一方、フランスは2005年以降、ずっと貿易赤字を出し続けている。 失業率についても、日本はOECD諸国の中で最も低く、フランスは最も高い水準にある。過去30年間で、日本の最高失業率は2002年で、そのときは5.4%で天井を打っている。同じ期間、フランスの失業率は7%を下回ったことがない。最新の統計では、日本の失業率は2.8%、フランスの失業率は7.9%となっている』、「ゼムール氏」の「日本」の紹介はいい面だけを強調し過ぎている。
・『日本のことを実はよくわかっていない? もっとも、ゼムールは日本に一度も足を踏み入れたことがない。彼は、日本の社会モデルの欠陥、すなわち、人口動態のデス・スパイラル、女性の社会的地位の低さ、若者の絶望などを見ていない。日本の生産性は、製造業を除いて決して高くもない。 フランス人は彼の「日本礼賛論」を受け入れるだろうか?世論調査によれば、その可能性がないわけではない。ゼムールは現在、すべての世論調査で投票動向の2位か3位につけている。つまり、もし今日、大統領選挙が行われるとしたら、彼は第2ラウンドに進む資格を得て、マクロン大統領と対戦し、彼を打ち負かす可能性があるということだ。 フランスの歴史上、これほど急速に人気を博した候補者はいないと、すべての世論調査機関が認めている。同氏はすでに、移民と安全保障を中心に大統領選挙を大きく変えている。確かなことは、彼の政治プログラムによって、フランスが見習うべき社会のモデルとして、日本にスポットライトが当てられるということだ。 非常に分裂的な人物であるゼムールは、フランスでは崇拝されると同時に嫌われてもいる。同氏の集会は、2016年のドナルド・トランプ前アメリカ大統領のキャンペーンのように、暴力的に支持者と反対者を対立することが多くなっている。 ゼムールの反対勢力の1つが極左だが、大統領選には極左も立候補しており、ゼムールはこうした候補らに「人種差別主義者」と呼ばれている。ゼムールにとって極左は「敵」だ。もし極左が大統領選に勝利し、ゼムールが亡命せざるを得ないようなことになれば、同氏は自らが「モデル国家」としている国で難民申請をすることができる。そう、日本だ』、「ゼムール氏」は「日本に一度も足を踏み入れたことがない」とはいえ、ジャーナリストだっただけあって一応、筋がとおっている。ただし、「日本」の実態を知れば、理想視できない筈だ。
第三に、本年1月2日付け東洋経済オンラインが掲載した第
一生命経済研究所 主席エコノミストの田中 理氏による「フランス大統領選挙、候補者たちの熾烈な争い 3つのシナリオとそれぞれがはらむ問題を分析」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/479294
・『昨年12月にドイツでオーラフ・ショルツ首相が率いる新政権が誕生し、欧州政局の次の注目点は今年4月のフランス大統領選挙となる。エマニュエル・マクロン大統領の正式な出馬表明はまだだが、主要各党の候補者が出揃い、選挙戦は事実上スタートしている。投開票日まで3カ月以上もあり、選挙戦の行方は流動的だが、現時点で蓋然性の高いシナリオを考察する』、興味深そうだ。
・『マクロン大統領がリード、熾烈な2番手争い 最近の世論調査によれば、マクロン大統領が25%前後の支持でリードしている。それを追うのが、2017年の前回選挙の決選投票でマクロン氏と対峙した極右政党・国民連合(前回の国民戦線から党名を変更)のマリーヌ・ルペン候補、新たな極右候補で無所属のエリック・ゼムール候補、伝統的な2大政党の一角で中道右派(フランスの政治用語では右派)・共和党のヴァレリー・ペクレス候補で、15%前後の支持率で熾烈な2番手争いを繰り広げている。 フランスの大統領選挙は2回投票制で行われ、4月10日の初回投票で過半数を獲得した候補がいない場合、上位2名が同月24日の決選投票に進み、より多くの支持を集めた候補が勝者となる。まずはどの候補が決選投票に残るかが、最終的な勝者を占ううえで重要となってくる。) 前回選挙では選挙戦が本格的にスタートして以降、主要候補の公金横領疑惑が浮上し、世論調査は大きく変動した。 ただ、今回は上位4候補とそれに続く他候補との支持率の差は大きい。かつての政権与党で党勢低落が著しい中道左派(フランスの政治用語では左派)・社会党のアンヌ・イダルゴ候補、環境政党・欧州エコロジー=緑の党のヤニック・ジャドー候補、前回選挙の初回投票で4位につけた極左政党・不服従のフランスのジャン=リュック・メランション候補の間で左派票が割れ、左派は候補者一本化もできそうにない。決選投票に進出する可能性があるのは前述の4候補に絞られよう。 2021年に各党の支持は目まぐるしく変動している。当初はルペン候補がリードしていたが、ゼムール氏の出馬で極右票が割れ、マクロン大統領に逆転を許した。フランス国民の間で極右大統領誕生への警戒は根強く、前回の決選投票ではマクロン氏が反極右票を集めて圧勝した。ルペン氏は今回、ユーロ離脱などの極端な主張を封印し、支持層拡大に努めてきた。だが、新たな極右候補の登場で、ルペン氏の政策穏健化に不満を持つ有権者がゼムール支持に流れている』、「ルペン氏の政策穏健化に不満を持つ有権者がゼムール支持に流れている」、なるほど。
・『極右ではルペン氏を追い上げるゼムール氏 ゼムール氏の支持基盤は極右だけにとどまらない。ゼムール支持の有権者に、前回選挙でどの候補に投票したかを尋ねると、28%のルペン候補とほぼ並ぶのが、共和党のフランソワ・フィヨン候補の27%だ。伝統的な中道右派政党のフィヨン氏を支持した有権者がルペン支持に転向した割合は少ないが、ゼムール支持に転向した割合は多い。 ゼムール氏は代表的な右派系新聞フィガロの政治記者などを経て、作家やテレビのコメンテーターとして長年活躍してきた人物だ。反移民、反イスラム、治安強化、フランスのアイデンティティ回復などを訴えている。人種差別的な発言が物議を醸すことも少なくないが、歴史や古典への造詣が深い知識人としての一面も持つ。 そのゼムール氏も陣営内の問題が相次いで発覚し、一時の勢いはない。代わりに急速に支持を伸ばしているのが共和党のぺクレス氏だ。ぺクレス氏の支持は当初10%前後で低迷していたが、有力候補を破って共和党の予備選を制した後は、一躍、ポスト・マクロンの最有力候補に躍り出た。 マクロン大統領にとって、政策が似通うぺクレス氏は攻撃材料に乏しく、決選投票の世論調査でも接戦が予想されている。フランスでも新型コロナウイルスの感染が再拡大しており、1日当たりの新規感染者が過去のピーク時を上回っている。今後、一段と感染が広がり、感染予防の強化を余儀なくされる場合、政権批判が広がる恐れがある』、「新型コロナウイルスの感染が再拡大」が「政権批判が広がる恐れがある」のは確かだ。
・『極右候補1本化、ペクレス猛追ならマクロン敗退も マクロン大統領にとっては、決選投票の相手がぺクレス氏ではなく、ルペン氏やゼムール氏となる場合も侮れない。大統領就任後、マクロン氏の強引な改革手法や国家運営に反発する国民も少なくなく、政治刷新と変革を掲げて勝利した前回と比べて反マクロンの逆風が吹いている。特にゼムール氏は共和党支持層の一部を取り込む素地を持っており、決選投票に進出した場合、世論調査が示唆する以上の支持を集める可能性がある。 また、ルペン氏とゼムール氏のいずれかが出馬を取り止める場合、残る極右候補が初回投票を首位で突破する公算が大きい。ぺクレス氏は最近の世論調査で、右派票のみならず中道票や左派票の一部も取り込んでいる。今のところ可能性は低いが、極右候補の一本化とぺクレス候補がマクロン大統領を逆転する事態が重なれば、マクロン大統領が初回投票で敗退する恐れすらある。 ぺクレス氏は多くの大統領を輩出してきたドゴール派の伝統政党の一員で、初の女性大統領の栄冠を勝ち取った場合も、政策面で大きな不安はない。直後に控える下院(国民議会)選挙でも共和党が勝利し、安定した政権基盤を築くことが予想される。 ただ、ドイツ政界を16年もの長きにわたって率いてきたアンゲラ・メルケル首相が引退したのに続き、メルケル後の欧州連合(EU)のリーダーと目されたマクロン大統領が再選に失敗すれば、EUのリーダシップに対する不安が広がる恐れがある。首「マクロン大統領が再選に失敗すれば、EUのリーダシップに対する不安が広がる恐れがある」、言われてみれば、その通りだ。都パリが所在するイル=ド=フランス地域圏首長を務めるぺクレス氏は、ニコラ・サルコジ大統領の時代に高等教育・研究開発相と予算相を歴任した経験豊富な政治家だが、EUや国際社会でのプレゼンスは未知数だ』、「新型コロナウイルスの感染が再拡大」が「政権批判が広がる恐れがある」のは確かだ。
・『マクロン氏は議会過半数を失い、EUでも波乱含み マクロン氏が再選を果たした場合も、2期目の政権運営には不安が残る。前回選挙を前に同氏が旗揚げした中道政党・共和国前進は、大統領選直後の下院選挙を制し、議会の過半数を握った。だが、大統領や政権の支持低迷とともに離党者が相次ぎ、昨年5月には議会の過半数を失った。地方議会選挙でも苦戦続きで、マクロン氏が大統領選を制した場合も、共和国前進が議会の過半数を握るのは困難とみられている。再選後のマクロン大統領は共和党など他党の協力を仰ぎながらの議会運営を余儀なくされる。 フランスでは大統領が主に外交を、首相が主に内政を担当する。欧州やフランスの戦略的自立や主権強化を訴えるマクロン大統領は、EU離脱後の英国領海での漁業権問題や、アメリカ・英国・オーストラリアによる新たな安全保障の枠組み(AUKUS)などをめぐって、他国との対立姿勢を露わにすることも少なくない。何事にも慎重姿勢だったドイツのメルケル前首相に代わり、マクロン大統領がEUのリーダーとしての地位を固める場合、他国や他地域との関係はこれまで以上に緊張をはらんだものとなりそうだ。 こうしてみると4月のフランス大統領選は、マクロン大統領再選、共和党の政権奪還、極右大統領誕生のいずれのシナリオの場合にも不安要素を抱える。選挙戦はこれから本格化する。今回はどんなドラマが待ち構えているのか、その行方に注目が集まる』、「4月のフランス大統領選は、マクロン大統領再選、共和党の政権奪還、極右大統領誕生のいずれのシナリオの場合にも不安要素を抱える」、今後の展開が注目される。
タグ:フランス (その3)(フランスで起こっている見過ごせない"異変" コロナ禍芸術が軽視されているこのモヤモヤ感、「日本推し」候補がフランス大統領選で人気の背景 急激に支持率を高めているザムール氏の主張、フランス大統領選挙 候補者たちの熾烈な争い 3つのシナリオとそれぞれがはらむ問題を分析) 東洋経済オンライン ドラ・トーザン 「フランスで起こっている見過ごせない"異変" コロナ禍芸術が軽視されているこのモヤモヤ感」 「「文化の国」であることを誇りにしているフランス」で「パンデミックの最中、生活と社会における「文化的な部分」を完全に停止」、とは大変なことだ。 「美術館に行くことは、フランス人にとってストレス解消や現実逃避、そして夢想することなのです。今のような状態では特にこうした場所を必要としています。 フランスにおける最初のロックダウン(2020年3~5月)の後、2020年夏まではほぼすべての美術館が営業していました」、「「美術館に行くことは、フランス人にとって」重要なのに、「2020年夏以降、併催された背景には何があったのだろう。 「劇場の業界はとても閉鎖的かつ保守的で、デジタル化に対してはかなり否定的です」、とはいえ、「ショーの新たな体験方法を提案」する動きも出てきたようだ。 フランスの「文化や芸術」分野への「ウイズコロナ」への取り組みが遅れているというのは、意外な驚きだった。 レジス・アルノー 「「日本推し」候補がフランス大統領選で人気の背景 急激に支持率を高めているザムール氏の主張」 「外国人」への開放への後進国「日本」をよりによってお手本にするとは・・・。 「ゼムール氏」の「日本」の紹介はいい面だけを強調し過ぎている。 「ゼムール氏」は「日本に一度も足を踏み入れたことがない」とはいえ、ジャーナリストだっただけあって一応、筋がとおっている。ただし、「日本」の実態を知れば、理想視できない筈だ。 田中 理 「フランス大統領選挙、候補者たちの熾烈な争い 3つのシナリオとそれぞれがはらむ問題を分析」 「ルペン氏の政策穏健化に不満を持つ有権者がゼムール支持に流れている」、なるほど。 「新型コロナウイルスの感染が再拡大」が「政権批判が広がる恐れがある」のは確かだ。 「4月のフランス大統領選は、マクロン大統領再選、共和党の政権奪還、極右大統領誕生のいずれのシナリオの場合にも不安要素を抱える」、今後の展開が注目される。