インフラ輸出(その13)(中国にさらわれたインドネシア高速鉄道プロジェクトはいま… 予想外に膨らんだコスト 営業開始から数年で経営破綻の可能性も、日立、英新幹線受注で狙う「高速鉄道トップ」の座 アルストムやシーメンスと肩を並べる存在に?、台湾鉄道の信頼回復担う「日立製新型特急」の実力 相次ぐ事故と座席供給不足のイメージ払拭狙う) [インフラ輸出]
インフラ輸出については、昨年8月5日に取上げた。今日は、(その13)(中国にさらわれたインドネシア高速鉄道プロジェクトはいま… 予想外に膨らんだコスト 営業開始から数年で経営破綻の可能性も、日立、英新幹線受注で狙う「高速鉄道トップ」の座 アルストムやシーメンスと肩を並べる存在に?、台湾鉄道の信頼回復担う「日立製新型特急」の実力 相次ぐ事故と座席供給不足のイメージ払拭狙う)である。
先ずは、昨年9月24日付けJBPressが掲載した立命館アジア太平洋大学客員教授の塚田 俊三氏による「中国にさらわれたインドネシア高速鉄道プロジェクトはいま… 予想外に膨らんだコスト、営業開始から数年で経営破綻の可能性も」を紹介しよう。なお、文中の注記は省略
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67048
・『インドネシアの首都ジャカルタと第三の都市バンドンとを結ぶ高速鉄道プロジェクトは、ご承知の通り、日本が先行して準備を進めいていたにも拘わらず、途中から中国が参戦し、最終的には、中国側に契約を奪われた。日本にとっては苦々しい思いが残るプロジェクトである。 2015年9月に中国に発注され、今月でちょうど6年になるそのプロジェクトは、現在どのような状態にあるのだろうか? 残念ながらそれは、中国の当初の売り込み時点での提案からかけ離れたものとなっている。当初、2019年には操業開始としていたが、プロジェクトは、操業どころか、今もなお工事中である。プロジェクトコストに至っては、その総額は大きく膨れ上がり、当初の予定価格を4割も上回るとされている。 着工当時は大きな脚光を浴びて登場したプロジェクトが、今どうしてこのような残念な状況に陥っているのであろうか? 事業者側(中国側)に非があったからなのか? あるいは、発注者側(インドネシア側)に十分なプロジェクト実施能力がなかったからなのか? 本稿においては、これまでの経緯を詳しくレヴューするとともに、その契約の裏に隠された構造を明らかにすることにより、これらの問いに答えてみたい』、「インドネシア高速鉄道プロジェクト」の現状とは興味深そうだ。
・『初めから疑問視されていたプロジェクトの経済性 上記のプロジェクトの構想は、突然浮かび上がったものではなかった。当初は、インドネシアの二大都市であるジャカルタとスラバヤとを高速鉄道で結ぶとする構想であった。だが、実際にこれら2つの都市を結ぶとなると、730kmもの鉄道路線を建設する必要があり(東京—広島間に匹敵する距離)、その投資額は巨額となり、インドネシアの当時の財政事情からみて、到底取り上げられるようなプロジェクトではなかった。 しかし、このプロジェクトに対する地元政財界の関心は高く、その推進派は、代替案として、プロジェクトを二期に分け、第一期でジャカルタとバンドンを結び、第二期でスラバヤまで延伸するという案を出してきた。一見すると現実的な案に見えるが、これは当初案以上に難しいプロジェクトであった。 というのも、ジャカルタ—バンドン間はわずか142kmしかなく、日本でいえば、東京—静岡間に当たり、高速鉄道を走らせるにはいかにも中途半端な距離であった。加えて、バンドンは標高700mの高地にあり、これを沿岸都市であるジャカルタから結ぶとなると大変な勾配を車両が駆け上らなければならない。更に、数多くのトンネル(13カ所)を建設する必要があった。また、一部経路は、人口集積地を通ることから、路線全体の4割弱は高架に、1割は地下に路線を建設する必要があり、建設コストは並外れて高いものになると予想された。 JICAが2012年に行ったフィージビリティスタディ(F/S調査)でも、建設費の半分は政府が出さなければ採算は取れないとしていた』、「JICAが2012年に行ったフィージビリティスタディ(F/S調査)でも、建設費の半分は政府が出さなければ採算は取れないとしていた」、始めから無理のある計画だったようだ。
・『日中の受注合戦 では、このように採算がとれそうもないプロジェクトが、どうして、国の最優先プロジェクトにまで伸し上がったのであろうか? それは、このプロジェクトがインフラ開発を最優先に掲げる3人の有力政治家の着目するところとなり、それ以来、このプロジェクトは、経済ベースでというよりは、むしろ政治家ベースで議論が進められるようになったからである。 1人目は日本の安倍晋三首相(当時)だ。2012年末に発足した第二次安倍政権は、海外インフラの開発をその優先課題として取り上げ、中でも、日本技術の粋ともいえる新幹線技術の輸出には格段の力を入れた。 他方、中国の習近平総書記は2013年に一帯一路構想を打ち出し、その拡大を、海外進出政策の核として推進していた。中でも、新幹線技術については、日本に劣らぬ高い技術を有することを世界に誇示したいと考えていた。彼が2人目の政治家だ。 3人目はもちろんインドネシアのジョコ・ウィドド大統領である。2014年10月に大統領に就任したジョコ氏は、就任早々、インフラ・プランを打ち出し、これを政権の最優先施策とするとした。同大統領は、当初は、ジャカルタとバンドンとを結ぶ高速鉄道プロジェクトはコストがかかりすぎるとして懐疑的に見ていたが、途中で、「日中間の競争をうまく利用すれば、有利な条件を引き出せるかもしれない」と考え、その可能性を探るべく、翌年3月に、先ず日本を訪れ、安倍総理に会い、また、その足で中国を訪れ、習近平総書記とも会い、両首脳からプロジェクトに対する支援を取り付けた。こうしてインドネシアの高速鉄道計画は、3人の政治家の思惑が激しく交錯するプロジェクトとなった。 他方、F/S調査については、日本は2012年に既に実施していたが、その内容は採算面で問題ありとするものであったこともあり、インドネシアは、中国に対してもF/S調査を実施するよう上記訪問中に求めた。これを受けて、中国側は即座にF/S調査に取り掛かり、わずか3カ月で報告書を仕上げた(環境影響調査に至ってはわずか7日間で)。JICAのF/S調査が1年弱を要したことを考えると、中国側のF/S調査はいかにも拙速との感を免れないが、いずれにせよ、報告書の内容は、JICAのそれとは際立った対照を見せた。プロジェクトの操業開始時期は、JICAが2023年とみていたのに対し、中国側は大統領選が行われる2019年には操業を開始できるとした。建設コストについても、JICAは61億ドルを要するとみていたところを、中国は55億ドルで完成できるとした。 これ以降、高速鉄道プロジェクトを巡る日中間の競争は激しさを増す。そのような中で、中国側は、2015年4月突如プロジェクト企画書をインドネシア政府に提出したが、これは、日本側から見れば、不意打ちとも映る行為であった。このように激しさを増す両国間の競争を見て、インドネシア政府は、2015年7月、日中両国の事業者に対し、それぞれ提案を出すよう求めた。その後の2カ月は、両国間の競争は、入札を巡る技術的な競争の域を超え、現地でのロビー合戦に発展した。 2015年8月、習近平主席の特使としてジャカルタを訪問した中国の徐紹史・国家発展改革員会主任らと会談するジョコ・ウィドド大統領。中国側はこの時、高速鉄道事業化に向けた報告書を提出した(写真:新華社/アフロ) 両国事業者の提案に対する審査結果は、関係者の間では、2015年9月初めに出るとみられていたところ、9月3日インドネシア政府は、突如会見を開き、その場において、高速鉄道プロジェクトはキャンセルすると発表した。同時に、仮に実施するとしても、G-Gベース(政府対政府ベース)では難しく、business-to-businessベース(企業対企業ベース)で進めるしかないとした。この背景には、インドネシア政府が、これ以上海外からの借入れ(政府の債務保証も含む)を増やせば、政府の対外債務の上限に達することが明らかになったことがある。 この予想外の発表を受けて、中国側はいち早く対応し、2015年9月半ば、改訂版入札書をインドネシア側に再提出した。そこで、プロジェクトはbusiness-to-businessベースに切り替えることを明確にするとともに、インドネシア政府からは一切の政府支出を求めないし、政府保証も不要とした。 中国側の提案はインドネシア側の要望を全面的に受け入れたものであったことから、9月下旬、インドネシア政府は、高速鉄道プロジェクトは中国に発注すると発表した。インドネシア政府のこの唐突な発表を受け、菅官房長官は即座にジョコ政権に対し遺憾の意を表明したが、時すでに遅しであった。 この発表を受けて、中国の国営企業(中国鉄道建設公社)は、インドネシアの国営企業3社(建設会社のWijaya Karyaがリーディングカンパニー)との間で、高速鉄道プロジェクトの実施に関する契約を締結し、両者の出資による特別目的会社(SPC)を設置することに合意した。総コストは、55億ドルと見積もり、建設期間は、2016年から2019年までとし、その後50年間は政府から得るコンセッションの下、高速鉄道サービスを提供し、その事業収入をもって初期投資コストを回収するとするBOT(=Build Operate Transfer。民間が施設を建設・維持管理・運営し、契約期間終了後に公共へ所有権を移転する方式)に準じた契約構造を取るとした。更に、本プロジェクトの建設に係る必要資金は、中国開発銀行を通じて提供するとし、融資比率は、総コストの75%、grace periodは10年間、融資期間は50年とした』、「インドネシア政府が、これ以上海外からの借入れ(政府の債務保証も含む)を増やせば、政府の対外債務の上限に達することが明らかになった」、「プロジェクトはbusiness-to-businessベースに切り替え・・・インドネシア政府からは一切の政府支出を求めないし、政府保証も不要」、こんな成行きになるのは始めから想像できた筈だ。「インドネシア政府が」、日中を競わせて好条件を引き出そうとするのであれば、日本が手を引いたのは当然だ。
・『遅れに遅れたプロジェクトの建設 契約当時、ジョコ大統領は日中間の競争を巧みに利用し、インドネシアに有利な条件を引き出したとして、大きな喝采を浴びた。だが、プロジェクトが実際に始まると形勢は大きく変わり、中国ぺースで事が運び、インドネシア側は、常に守勢に立たされることになった。 プロジェクトは2016年1月に開催された起工式で始まった。この起工式はジョコ大統領の列席の下華々しく開催されたが、その後は、土地収用が思うように進まず、建設工事はなかなか始まらなかった。運輸省からの「建設」許可は、直ぐには発出されず、2016年8月まで待たされた。また、路線の一部が空軍基地に掛かったことから、49haの土地は翌年3月まで明け渡されなかった。 このような土地収用の遅れに対し中国側からは再三にわたりその促進を促されていた。このため、インドネシアは、国営企業大臣を北京に派遣し、中国政府への直接説明を行ったほどであった。 中国開発銀行からも厳しい条件が提示され、土地収用が100%終了しなければ、融資は開始しないとされた。同行が資金を供給し始めたのは、起工式から2年半も経った2018年5月からであった。 このように出足は大きく遅れたが、2018年半ばからは建設工事は徐々に進み始め、2019年に入るとそのスピードは加速化し、2019年5月には、工事進捗の象徴ともいえる最初のトンネルが完成した。 一方、工事が進み始めると、逆に、周辺地域の環境への影響が増大し、地元企業、住民からの苦情が相次ぎ、2020年初めには2週間の工事中止命令が出されたほどであった。これに追い打ちをかけるように、2020年3月からは、新型コロナが蔓延し始め、このため、建設工事は一時中断された。 このように個別問題は次々と発生したものの、工事全体的としては、順調に進み始め、2021年3月時点では、70%が完了した。このまま順調に進めば、工事は2022年末までには完成するであろうとの見通しを出せるまでになった』、「工事全体的としては、順調に進み始め、2021年3月時点では、70%が完了した。このまま順調に進めば、工事は2022年末までには完成するであろうとの見通しを出せるまでになった」、なるほど。
・『膨れ上がったプロジェクトコスト 建設工事の遅れは、ここに来て漸く解決の目途が付いたが、ここで別の問題が浮上してきた。それは、コストオーバーラン問題であった。プロジェクトコストは、契約締結当時は55億ドルとされていたが、その翌年には、早くも、61億ドルに膨れ上がり、この9月1日の国会での国営建設会社の証言によれば、75~80億ドルに達するであろうとされた。 このような大幅なコストオーバーランが発生したのは、そもそも中国が拙速で準備したF/S調査のコスト見積もりが低過ぎたことに起因するが、勿論中国側が、これを認める訳はなく、このコストオーバーランは、主に、土地収用の遅れ等によるものとされた。 このように言われてしまうのは、一つには、プロジェクトは(特別目的会社が下請けに出した)インドネシアの国営建設会社によって実施されていたからである。このようなアレンジの下では、プロジェクトの遅れや費用の拡大は、工事の実施業者の責任とされがちである。 上記の国営建設会社がSPCと結んだサブコントラクトは、Engineering, Procurement and Construction契約(EPC契約)に基づくものであったが、Engineering部分は中国鉄道建設公団に委託して行われ、そこでは、資機材等は、中国の高速鉄道の規格に準じたものとすべしとされ、また、Procurementに関しては、中国開発銀行の貸付条件に従い、その資機材等はすべて中国サプライヤーから購入しなければならないとされた。通常のEPC契約であれば、これら資機材等については、幾つかのサプライヤーから見積もりを取り、それらを見比べたうえ、最も安価なものを購入するのが通常であるが、このプロジェクトにおいては、このような原則は働かず、全ての資機材、システムは、中国のサプライヤーから、しかも、その言い値で購入するしかない。このようなアレンジの下では、資機材やシステムの購入価格は、高いものにつきがちであり、今回のコストオーバーランの背景には実は、このような要因が隠されていたと推察される。 このコストオーバーランは、国営企業が負担しうる額を遥かに超えていたので、国営企業省は、この問題を政府レベルでの討議に持ち込んだ。これに対するジョコ大統領の指示は、「本件国有鉄道の運営は、ジャカルタ-バンドン間だけでは、営業距離が短く、商業的には成り立たないので、これをスラバヤまで延伸すべきであり、このためには、日本側と協議を行い、その参画の可能性を当たってみるべきだ」とするものであった。これを受け、2020年7月、インドネシア側は、日本との交渉に入った。しかし、日本側は、これまでの経緯もあり、当然のことながら後向きの回答を行った。 このような回答を受けたインドネシアは、今度は、中国側との折衝に入り、そこでSPCへの追加の資本投入を求めた(2021年1月)。その交渉結果は、“いつもの通り”明らかにされていないが、中国側からもいい返事はもらえなかったのであろうと推定される。 これら2つの打開策が受け入れられなかったことから、インドネシア政府は、自ら動かざるを得なくなり、国営企業省は、本年7月に国会に対し、国営企業への追加の資本投入を認めるよう求めた。これを受けて、下院VI委員会は、3つの国営企業に対する33兆ルピアの資本注入を認め、その一部はSPCへの追加出資に当てられることとなった。ただ、この金額だけでは、コストオーバーランをカバーするには十分ではなかったので、現在更なる追加支援策について下院VI委員会で議論されている模様である』、「通常のEPC契約であれば、これら資機材等については、幾つかのサプライヤーから見積もりを取り、それらを見比べたうえ、最も安価なものを購入するのが通常であるが、このプロジェクトにおいては、このような原則は働かず、全ての資機材、システムは、中国のサプライヤーから、しかも、その言い値で購入するしかない。このようなアレンジの下では、資機材やシステムの購入価格は、高いものにつきがちであり、今回のコストオーバーランの背景には実は、このような要因が隠されていたと推察」、こんな一方的契約では「コストオーバーラン」も当然だ。
・『政府が乗り出さざるを得なくなった理由 先にみたように、このプロジェクトは、business-to-businessベースで進めることが合意されたのであるから、インドネシア政府は、大幅なコストオーバーランが出たとしても、それは民間ベースで処理すればよいとして突き放しておけばよかったはずあるが、何故に、政府が、財政資金を使ってまで、その解決に乗り出さざるを得なくなったのであろうか? 以下、ここに至るまでの、経緯を分析することによって、この問いに答えたい。 ●中国側は、ジャカルタ-バンドン間の高速鉄道という、コスト高で、到底採算がとれそうもないプロジェクトを、コストを(人為的に)低く見積もり、その上で、これをいわゆるBOTベースで進めれば商業ベースに乗りうるとして売り込みをかけた。 ●インドネシア側は、この提案に乗り、中国側に契約を付与した。その後、プロジェクトは建設段階に入るが、その過程で、大幅なコストオーバーランが生じた。通常のBOTプロジェクトであれば、プロジェクトは、海外企業が実施するので、コストオーバーラン問題も、外国側に(中国側に)に処理させておけばよかったはずである。 ●だが、このプロジェクトは上手く仕組まれており、プロジェクトを実施するために設置された特別目的会社は、インドネシアの企業で、しかも、その資本の6割は国営企業が保有している。このような体制の下では、コストオーバーランが起きれば、インドネシアの国営企業が大半を負担しなければならなくなる。 ●ところが、これら国営企業は、既に多額の対外債務を抱えており、このような支払を行えるような財務状況にはない。このまま放置すれば、国営企業は破産に追い込まれることとなるので、このような事態を避けるため、国営企業の保有者である政府は、国営企業に対する財政支援に乗り出さざるを得なくなった。これが、本来は民間ベースで進められるべきであったプロジェクトに、政府が財政支援を行わなければならなくなった理由である』、「本来は民間ベースで進められるべきであったプロジェクトに、政府が財政支援を行わなければならなくなった理由」、こうしたシナリオは「中国側」が密かにつくったのではなかろうか。
・『今後更に起きうる、より大きな問題 上記の問題は、数年間の建設期間中の問題であるが、プロジェクトは一旦完成すれば、その後50年間事業運営されることになる。従って、この間、もしも、経営が成り立たなくなれば、それは累積し、より大きな問題となる可能性がある。特に懸念されるのが、キャッシュフローの問題である。 というのは、先に述べたように、このプロジェクトは、高速鉄道プロジェクトとしては、中途半端な距離であり、また、ジャカルタ、バンドンの二都市間には、既に既存路線が走っていることから、十分な運賃収入が見込めない。また、鉄道事業は、一種の装置産業であることから、(多額の減価償却費は勿論)高い維持管理費を払う必要がある。このような状況下では、営業段階に入ると、すぐに赤字経営に陥る可能性がある。 それでも最初の数年間は、債務の弁済は猶予されているので、何とかしのいでいけるとしても、grace periodが終わる2026年からは毎年債務支払義務が発生する。この毎年の債務の支払は、SPCの経営に重い負担となる。なんとなれば、その金額は、元本に50年間の累積金利を足し合わせたものを40年間の均等払いとして計算される。これが、例えば、ADBからの融資であれば、その金利は1%弱(今年8月段階では0.856%)と低利であり、50年間の累積金利はそれほど高くはならないが、それが中国開発銀行からの融資である場合は、その金利は6%台と高く、50年間の累積金利額も多額となる。要するに、2026年からは、この債務負担がSPCの経営に重く圧し掛かり、数年もしないうち経営破綻に陥ってしまう可能性が高い』、「中国開発銀行からの融資である場合は、その金利は6%台と高く、50年間の累積金利額も多額となる」、まるで高利貸だ。
・『インドネシア側が今後取りうる対応 このように、このプロジェクトは、一旦事業運営段階に入れば、営業赤字に陥り、その赤字額は雪だるま式に増え続けていくと予想される。ということであれば、このプロジェクトについては、早めに見切りをつけ、出来るだけ早く撤退した方がいいということになる。 だが、できるだけ早くと言っても、建設途中の今、これを投げ出し、巨大な施設を錆び付かせてしまうことは、現実的な方策とは言えない。兎にも角にも、残り3割の工事は終わらせ、鉄道プロジェクトとして一応完成させるべきであろう。プロジェクトが完成すれば、インドネシアは、専門家パネルを設置し、そこで、このプロジェクトを継続し、次の営業段階に入るべきか、あるいは、ここでプロジェクトをストップさせ、その解散に踏み切るべきかを、ファイナンスの問題を中心に検討する必要があろう。 おそらくそこで出て来るである結論は、このままプロジェクトを継続すれば、累積赤字は年々増えていくことが予想されるので、傷口を最小に抑えるためのには、営業段階に入る前にこのプロジェクトをストップさせ、早期にSPCを解散させてしまうべきだ、ということになろう。) するとSPCはdefaultを起こすことになるので、中国開発銀行は、即座に債権の回収に乗り出すであろう。その際、SPCが有する唯一の資産はプロジェクト資産、即ちジャカルタ-バンドン間の高速鉄道施設、であるから、中国開発銀行はこれを先ず差し押さえるであろう。すると、高速鉄道施設の所有権は中国側に移ることとなるが、これは必ずしもインドネシア側にとって悪いことではない。というのは、インドネシアは、この赤字を生むだけの巨大な「ホワイトエレファント」を手放すことができるようになるからである。 高速鉄道が中国の手に渡れば、中国側は、これを遊ばせておこうとはせず、直に事業運営に入ろうとするであろう。その際、鉄道サービスだけでは十分採算がとれないとして、必ずや、周辺地域での土地開発の権利の付与を求めて来ると予想される。 中国側がこの土地開発権を得たとしても、それだけでは十分ではないとみた場合は、更に要求を拡大し、(他国で行ったように)原油や他の地下資源の採掘権も併せ、要求して来る可能性がある。 そこまで、中国側の要求が拡大すれば、インドネシアとしてはこれを頑としてはねのけなければならない。というのは、中国からの借り入れ事案においては一旦債務の罠にはまってしまうと、どんどん深みにはまってしまい、ついには身動きがとれなくなる恐れがあるからである。これは、どこかで食い止める必要があり、このためには、断固とした姿勢で交渉に臨む必要がある。 ただ、中国側も、インドネシアはスリランカやタジキスタンのような小国とは異なることは十分承知しているので、両国間の関係を悪化させてまで強引な要求を持ち出すことは避けようとするかもしれず、その場合は、インドネシア側も、中国側と対等に交渉できよう』、「中国からの借り入れ事案においては一旦債務の罠にはまってしまうと、どんどん深みにはまってしまい、ついには身動きがとれなくなる恐れがある」、「これは、どこかで食い止める必要があり、このためには、断固とした姿勢で交渉に臨む必要がある」、「インドネシア」にそんな芸当が出来るだろうか。
・『おわりに 以上、本プロジェクトについてその経緯をレヴューし、その隠された構造を明らかにしてきたが、ここで冒頭で取り上げた2つの問いに戻りたい。 第一の問い〈プロジェクトの遅れやコストオーバーランは事業者の非か〉に関しては、事業者側の非というよりは、むしろそれは戦略だったといった方が適切であろう。 中国側が設定した工事の完成時期は、技術者の積み上げに拠って弾き出したものではなく、ジョコ大統領の再選時期に合わせて、政治的に設定されたものであり、初めから無理と分かっていたと言えよう。プロジェクトコストも、日本との競争に勝つために、JICAのそれよりは低めに出したというだけのことである。一旦これで受注を獲得すれば、工事の執行段階で、何かと理由をつけて、これを変えることはできるとみていたのであろう。 BOT契約においては最初に出したコミットメントはこれを守らなければならないが、請負契約の場合は、正当な事由があればこれを変更できるので、契約の運用形態も、(当初これに基づくとされていた)BOTから、徐々に請負契約的なものに替えられていったように見える。中国側はこれを意識的にやったとは言わないが、少なくともインドネシア側は、この微妙な契約の変質に気が付かなかったと言える。 第二の問い〈インドネシアは十分なプロジェクト実施能力を有していたのかどうか〉に関しては、プロジェクトの実施能力が欠けていたとまでは言わないが、事業者に最初にコミットした約束を守らせることができなかったという点で事業監督能力が不足していたと言えよう。 というのは、事業を的確に監督するためには資機材の価格を始めとするコスト関係情報を十分に把握している必要があるが、高速鉄道に関する情報は、中国側に独占的に保有されており、インドネシア側はこのような情報を持たないので、サプライヤーの言い値をそのまま受け入れるしかなく、プロジェクトコストは徐々に膨らんでいった。 要するに、このプロジェクトは、発注段階までは、インドネシアのペースで運んだが、一旦、実施段階に入ると中国ペースで進み、建築工事はいつの間にかBOTというよりは、むしろ請負契約に近い形で運用されてしまった。最後には、当初払わなくてもいいとされていた財政資金をインドネシア政府がつぎ込むこまざるを得なくなった。一方、中国側は、当初は儲からないとみられてきたプロジェクトから、その資機材等の納入を通じ、着実に利益を上げていった。 このように契約が中国ペースで運用されてしまったことの背景には、インドネシア側が(中国版)高速鉄道に関する詳細情報を持っていなかったことに由来するが、この‟情報の非対称性“の影響がより顕著な形で現れるのは、プロジェクトが運営段階に入ってからである。この段階で何か問題が起きたとしても、高速鉄道の経営に関する十分な情報を持たないインドネシア側は中国側と有効に議論できず、結局は相手方の言いなりになるしかない。このような状況下では、プロジェクトは長く持てば持つほど、不利になり、相手側に取り込まれてしまう恐れがあるので、このプロジェクトについては、先に述べたように、早めに撤退し、SPCを解散した方がより賢明な選択といえよう。 ただ、この最後の手段を取るに当たって、一点チェックしなければならないことがある。それは中国側と結んだ契約書である。中国側が途上国と結ぶ契約は、通常、対外秘とされ、国際慣習に添わない不利益条項が多々含まれている。注意を要するのは、キャンセル条項である。これまで、中国とのプロジェクトを途中で破棄したいとする途上国は幾つかあったが、その際降りかかってくるペナルティーの額があまりにも大きいので、マレーシアの例に見られるように、これを諦めた国が多い。途上国が中国と契約を締結するときは、その内容に格段の注意を払う必要があるが、今回インドネシアが中国と結んだ契約はそのような不利益条項を含んでいなかったことを希望する』、「これまで、中国とのプロジェクトを途中で破棄したいとする途上国は幾つかあったが、その際降りかかってくるペナルティーの額があまりにも大きいので、マレーシアの例に見られるように、これを諦めた国が多い」、こんな「国際慣習に添わない不利益条項が多々含まれている」、「対外秘とされ」るわけだ。「中国側」の不正な手口には怒りを覚える。
次に、本年1月12日付け東洋経済オンラインが掲載した欧州鉄道フォトライターの橋爪 智之氏による「日立、英新幹線受注で狙う「高速鉄道トップ」の座 アルストムやシーメンスと肩を並べる存在に?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/501814
・『2021年12月、日立製作所のグループ企業である日立レールがフランスのアルストムと共同で英国の高速鉄道HS2向け新型車両の製造・保守を受注したニュースは、センセーショナルに伝えられた。新型車両の設計から製造、導入後12年間の保守業務までを請け負い、その契約金額は19億7000万ポンド(約2957億円)という大型契約だ。日本の鉄道技術が世界で認められたということを誇らしく感じた方も多かっただろう。 だが気になるのは、ライバルであるはずのアルストムと共同受注という点だ。アルストムと言えばTGVで有名な会社である。なぜ同社と手を組むのか、日立とアルストムの役割分担はどうなるのか、不思議に思われるのではないだろうか』、興味深そうだ。
・『日立は当初別メーカーと共同で応札 今回の日立による受注については、まず英国の高速鉄道HS2プロジェクトの入札がどのように進んでいたかを知る必要がある。 2017年、車両納入に関する最初の入札では、アルストム、ボンバルディア、シーメンス、日立、タルゴの5社が最終候補に挙げられていた。しかしその翌年、ボンバルディアは日立と共同での応札が決まり、一方でシーメンスとアルストムは当時、合併が取り沙汰されていたため、万が一この合併が実現した場合に入札に参加するメーカーが減ることが懸念された。そのため、競争を維持するためにCAFを追加でリストアップすることになった。 入札に対し、各社はそれぞれ自社の優位性をアピールしている。 アルストムは、「従来のネットワークでも新しいHS2インフラでも同様に快適な、ワールドクラスのモダンで柔軟性のある列車」を提供すると述べた。同社はフランスのTGV、「イタロ」のブランドで知られるイタリアのNTV社に納入したAGV、アメリカのアムトラック向けに製造中のAvelia Liberty(アヴェリア・リバティ)、モロッコと韓国の高速鉄道など、数多くの高速列車を納入した実績がある。 日立は「日本が世界に誇る」新幹線への取り組み、ボンバルディアはヨーロッパと中国における世界最大の高速鉄道ネットワークでの国際的な経験を強調した。 両社は共同で、イタリアのトレニタリア社に「フレッチャロッサ1000(ミッレ)」ETR400型を納入しており、「現在ヨーロッパで最も速く、かつ最も静かな高速列車」であると述べている。ETR400型は、営業最高時速360kmで走行するように設計されているが、インフラの関係で現状は300kmで営業運転している。 シーメンスは英国と欧州大陸を結ぶ国際列車「ユーロスター」を筆頭に、ドイツ、スペイン、中国、ロシアといった国々で運用されている高速列車Velaro(ヴェラロ)の優位性をアピールした。すでに英国内でユーロスターとして運用実績のあるヴェラロを例に、「英国の鉄道事業における存在感、技術知識、グローバルな高速化の経験により、シーメンスこそ理想的なパートナー」であると述べた』、なるほど。
・『TGVやAGVの技術ではない ところが最終決定へと至る前に、また業界内で大きな動きがあった。アルストムとシーメンスの合併話が破談となったことで、これまでどおりアルストムとシーメンスはそれぞれ独自に入札へ参加することとなったが、今度はアルストムがボンバルディアを買収するという話が持ち上がったのだ。最終的に、この合併は欧州委員会によって承認され、2021年3月をもってボンバルディアはアルストムへ吸収合併されることになった。 結局、日立とアルストムの共同受注という結果に至ったが、ここでいう「アルストム」とは、「旧来のアルストム」ではなく、「元ボンバルディアで、買収されそのまま事業を引き継いだアルストム」ということになる。 つまりアルストムと言っても、今回のHS2の受注を勝ち取ったのはTGVやAGVの技術ではなく、日立+旧ボンバルディアの技術ということになる。 日立+旧ボンバルディアと言えば、先のレポートでご紹介したZEFIRO(ゼフィロ) V300プラットフォームで、イタリアのフレッチャロッサ・ミッレでお馴染みの技術だ。その点について、日立は「HS2向けの新型車両は、ZEFIROと新幹線の技術を融合した車両になる」と説明している。車体にはアルミニウムを採用し、騒音対策としてより空力を考慮したデザインを採用するという。 新幹線車両の知的財産権はJRが保有しているので、そのままそれらの技術を用いるとは考えにくいが、これまで新幹線の製造現場で蓄積してきた経験や技術は、HS2車両の製造でも生かされるだろう。アルミニウム製車体の製造も、英国ニュートン・エイクリフ工場にはIEP(Intercity Express Programme)向け800(801/802)系車両の製造を任された段階で、日本で使用されているものと同じ摩擦攪拌接合の最新式溶接機を導入しており、日立としてはお手の物だ』、「日立+旧ボンバルディア」は確かに強力な組み合わせだ。
・『世界有数の高速列車メーカーに? 日立はほかに、運行システムと制御システムを担当するとしている。特に制御システムに関しては、同社が得意としているSiC(炭化ケイ素)を用いた低損失パワーデバイスを採用。従来のIGBTに代わるSiCインバーターに関しては、すでに国内外で多くの採用実績があるため、開発に大きな支障はないだろう。 今後、日立とアルストムは開発を進め、2025年から製造を開始する予定だ。製造を担当するのは日立のニュートン・エイクリフ工場とアルストムのダービー工場だが、このダービー工場が旧ボンバルディアの工場という点も、ボンバルディアの影響が色濃く残っていることを示しているといえるだろう。 HS2向け車両の受注は、日立が世界へ向けてより大きく踏み出す一歩となることは間違いない。このプロジェクトの成功いかんでは、アルストムやシーメンスに並ぶ世界有数の高速列車メーカーとして、確固たる地位を築くことになるはずだ』、「日立が世界へ向けてより大きく踏み出す一歩となる」、今後の展開が楽しみだ。
第三に、1月20日付け東洋経済オンラインが掲載した東アジアライターの小井関 遼太郎氏による「台湾鉄道の信頼回復担う「日立製新型特急」の実力 相次ぐ事故と座席供給不足のイメージ払拭狙う」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/503429
・『2021年の暮れも押し迫った12月29日、日立製作所が製造した台湾鉄路管理局(台鉄)の都市間特急用新型車両「EMU3000」が、台北と東部の台東を結ぶ東部幹線の特急列車として営業運転を始めた。 台湾ではかねて、東部方面への移動需要に対して鉄道の座席数がまったく足りず、指定券を入手しづらい「一票難求」と呼ばれる状態が続いてきた。従来車両は編成が短く、全席指定のうえ立席での乗車も不可能と、どうしても利用したい人々を見捨てるような状況だった。それに加え、台鉄では近年、多数の乗客が死亡する大事故が相次いで発生しており、信頼性とイメージの回復は必須の課題となっている。 このたび運行が始まった新型特急は、こうした問題を解決するための救世主となりうるのか』、興味深そうだ。
・『真っ白なボディでイメージ一新 黒いフェイスに白のボディが特徴的なEMU3000は、2024年までに計600両(12両×50編成)が投入される予定で、台鉄史上最大規模かつ国際的にもまれに見る増備計画となる。今までの台鉄にはなかった斬新なデザインは、現地鉄道ファンの間で「ペンギン」や「くろさぎ」などといったあだ名で運行前から人目を集め、一般の人々の間でも注目されている。 台鉄は2019年から車両や駅構内のデザインをリフレッシュし、国営鉄道のイメージを一新しようと「台鉄美学復興(FUTURE—RENAISSANCE)」と銘打ち、外部デザイナーと連携しながら新たなコンセプトによる車両の開発を進めてきた。通勤型電車の「EMU900」や観光列車の一種である「鳴日号」がその例だ。EMU3000は第3弾に当たり、日立側が当初提案した「TEMU1000」(タロコ号)をベースとしたデザイン案を突き返して再検討を進めた。その結果として生まれた、シンプルかつ落ち着きのあるデザインは今までの台鉄に見られなかった意匠が感じられる。 こうした努力の結果、EMU3000は台湾の公共交通車両として初めて日本の「グッドデザイン・ベスト100」に選出されている。 EMU3000は第1陣の納入分として3編成・36両が台湾に到着しており、まずは東部幹線の特急列車3往復に投入された。当面は同線方面を走ることになる。 時刻表を見ると、今回12月29日のダイヤ改正でEMU3000へ車両を置き換えた列車は、従来と比べて所要時間が10分ほど延びている(樹林―台東間の場合)。所要時間が延びてでも新型車両に置き換えなければならない「切羽詰まった事情」とはどのようなものだろうか』、どんな「事情」なのだろう。
・『振り子式車両は輸送力不足 台湾は全体的に山がちで、西部と東部の海岸沿いに人口が密集している。とくに東部海岸エリアは険しい山や峡谷が続く。戦前の日本統治時代から建設が始まった鉄道は、2005年に東部の主要都市である花蓮までの複線化が実現したものの、線形が悪くスピードが出しにくい悪条件を伴う。 台鉄は、台北―花蓮―台東間の所要時間が高速バスより長く競争力が劣るとみて、振り子式電車の「TEMU1000」(タロコ号)や、車体傾斜式の「TEMU2000」(プユマ号)を相次いで導入し速達性の向上を図ってきた。しかし、これらの列車は8両編成と短く、さらに振り子式車両であることから高速走行時の揺れを考慮して立席をなくし、全席指定制とした。こうした事情もあって、増え続ける旅客需要に対する抜本的な改善策とはならなかった。 今回投入されたEMU3000は12両編成で、従来と比べ座席数が1.4倍となる。これにより、「一票難求(注)」問題は解決が進むことだろう。しかし、振り子式車両ではないことから、カーブでの通過速度が従来のTEMU1000よりも遅いため、スピードダウンを余儀なくされたことになる。 台北と東部各都市を結ぶ交通については、台鉄が振り子式電車を導入してスピードアップを図る一方、道路も2020年に宜蘭―花蓮間の改善工事完了で「蘇花改道路」が開通し、最大で1時間ほどの所要時間短縮が実現した。マイカーの通行量が増加したほか、高速バスも「北花線回遊号」と呼ばれるコンセントを備えた車両による新路線を開設するなど、サービスの改善が見られる。 こうした状況の中、台鉄としては高速バスに打ち勝つべく、速度面以外での付加価値を利用客に訴える必要性が高まった。そこで登場したのが、EMU3000のビジネスクラス(商務艙、定員30人)だ。台湾を初めて走った機関車の愛称から名付けられた「騰雲座艙」と呼ばれるこのシートは、横3席×10列の30席という広々とした座席配置を誇る。 フットレストがないことやリクライニングの角度が比較的浅いことなど気になる点はあるものの、ソフト面では車内限定弁当、ハーゲンダッツのアイスクリーム、もしくはパイナップルケーキなどのいずれか1つと飲み物が選択できる飲食物の無料サービスが提供される。また、主要駅を中心に専用のチケットカウンターを設け、乗車変更も無料で受け付ける。 そのサービス内容は航空会社のエグゼクティブクラスを多分に意識している。対応に当たる客室乗務員も投入に合わせて特別に募集し、チャイナエアラインによる訓練を受けたという肝いりだ。料金は距離に応じて普通車の1.4倍~2.2倍で、長距離客に対する配慮がみられる』、「線形が悪くスピードが出しにくい悪条件」、「高速バス」との競争など、大変なようだ。
(注)一票難求:一枚の切符さえ手 に入れるのが非常に難しい。
・『トイレは編成中全車両に 2列×2列の座席が並ぶ普通車の居住性も大幅に改善された。全席にUSBの充電ソケットと100Vのコンセントを備え、Wi-Fiのサービスもある。また、編成中すべての車両に大型の荷物置き場とトイレを設置している。 トイレの数は一見過多にも感じるが、台鉄は通勤車両も4両に1箇所トイレを設置しているほか、自転車搭載スペースも設けるなど、長距離利用者を考慮した設計が特徴だ。 筆者はEMU3000の運行開始直後、台北駅を平日夜6時台に出発する台東行き438次列車に宜蘭まで乗車した。土休日の帰省・行楽需要は比較的旺盛だが、平日の普通席利用率は5割に満たない。一方、新設されたビジネスクラスは満席だった。 列車が入線する際にカメラを構える人も多かった。乗客に新型車両の印象を聞くと、「荷物置き場が増設されキャリーケースを足元に置かずに済む」「客室扉がガラス製なので、開放的で圧迫感がない」といった声が聞かれた。 東部幹線の優等列車は高速鉄道(新幹線)との接続を考慮して台北近郊の副都心に停車する列車が多いが、この列車は台北を出ると、東部幹線の北部側の主要駅である宜蘭まで停まらない直達型の停車パターンとなっている。 台北駅を出るとすぐに加速し、台北近郊を高速で走行。山間部に入るとその足並みは落ちるものの、持ち前の加速力を発揮して加減速を繰り返し、雪山山脈のふもとを越える。振り子式のTEMU1000やTEMU2000に比べると騒音やカーブでの振動が気になるものの、車体の傾きによる不快感は低減された。山間区間を抜け、太平洋の海岸線を左手に臨むと列車は再び加速を重ね、宜蘭に到着した。 翌朝、台北に戻るために利用したのは411次列車のビジネスクラス。車内は満席で、発車するとすぐに専用エプロンを身に付けた客室乗務員が、事前予約していた軽食と飲料を運んできた。軽食類はカートから直接選ぶこともできる。メニューにある限定弁当は時間帯によって提供する区間が決まっており、短距離区間だと選択できない場合があるなど、ソフト面でも長距離客に対する配慮が見られる。 ビジネスクラスの座席は広々とスペースを取っており、カーブの多い山間部でもしっかりとしたホールド感を感じられる一方、フットレストやブランケットといった設備やサービスはなく、基本的に「広めの普通車シート」と表現するのが妥当そうだ。 車内のWi-FiはSSIDがビジネスクラスの6号車を示す「EMU3000-6」で、同クラスの乗客に対して優先的に提供していることがわかる。ただ、パスワードなしで隣接車両からも接続できることや走行区間による電波の障害を考えると改善の余地がありそうだ』、「普通車の居住性も大幅に改善・・・全席にUSBの充電ソケットと100Vのコンセントを備え、Wi-Fiのサービス・・・編成中すべての車両に大型の荷物置き場とトイレを設置」、なるほど。
・『安定したメンテナンスに課題 EMU3000は、日立の鉄道車両工場である笠戸事業所(山口県下松市)で完成品として組み上げられ、台湾まで船で輸送される。 台湾の鉄道ファンの間からは「まるで日本の列車に乗っているようだ」といった好感の声もある一方、「地元で組み上げられたものではないので、はたして台鉄にしっかりメンテナンスするだけの技術が備わっているのか」と疑問を投げかける声も聞こえてくる。 実際、投入初日からトイレの故障や乗降ドアの不具合が発生した。また、TEMU2000(プユマ号)についても「日本製でそんなに古くないのに、座席に相当のガタがきている」と苦情を訴える乗客もいるようだ。 車両の保守作業については、同じ日立製の英国向け車両であるクラス800シリーズの場合、日頃の運用に必要な保守点検作業も同社が長期スパンで受注し、車両の細かい点検補修ができる体制が整っている。一方、台湾の場合は部品の純国産化を目指す政府の方針もあり、保守作業は基本的に台鉄のスタッフが担うことになるという。 加えて、台湾ならではの「外交事情」が複雑に絡む一面もある。入札書類では中国本土メーカーの参加を明確に禁止しており、契約書でも主要機器については中国が加盟していない、「政府調達に関する協定(GPA)」加盟国しか供給できないように定めている。「中国製部品を使ってほしくない」と訴える台鉄側の意向もあったといわれ、設計・生産での調整には苦労の跡が忍ばれる』、「台湾の場合は部品の純国産化を目指す政府の方針もあり、保守作業は基本的に台鉄のスタッフが担うことになる」、「入札書類では中国本土メーカーの参加を明確に禁止」、などの制約のなかでやる必要があるようだ。
・『「台鉄改革」の一歩に 台鉄のスピードアップや前述の道路改良など改善が進む東部各都市への交通網だが、長期的視点ではこれだけにとどまらない。日本の国土交通大臣に当たる交通部部長の王國材氏は先ごろ、台湾全土に高速鉄道網を拡げる「高鐵環島計画」を発表し、実際に宜蘭地区への高速鉄道延伸に向けたルートの選定が進んでいる。日本の新幹線と異なり、台湾の高速鉄道は在来線を運行する台鉄とは別会社の運営で、対立関係にある。高速鉄道が完成すれば厳しい競争になることは間違いない。 台鉄の計画からは、今からそれに対抗しようとする様子が垣間見られる。発表によると、EMU3000は今後、東部幹線のみならず西部幹線に直通するルートにも投入する予定という。これによって運用が減るTEMU2000を比較的需要の少ない南回り線を経由するルートにも転用し、速達性の劣る気動車や客車列車を置き換える目論見があるようだ。また、EMU3000の契約には観光列車として使われる特別仕様車4編成の製造も含まれており、ツアー客に特化したサービスを提供する予定だ。 台鉄は目下、輸送力の確保に加え、高品質のサービスと多様なルートの提供でイメージの一新を目指している。台湾の鉄道文化研究の第一人者である台湾師範大学の洪致文教授はEMU3000導入について、「当局の徹底した乗客目線の姿勢に、利用客の反応はおおむね好評だ。これをきっかけに、今後さまざまな面で台湾鉄道が変わっていくことが期待できる」と評価する。 EMU3000は「台鉄改革」の一手として、重大事故の連続で失った信頼を取り戻す救済者となるだろうか』、「EMU3000は「台鉄改革」の一手として、重大事故の連続で失った信頼を取り戻す救済者と」なってほしいものだ。
先ずは、昨年9月24日付けJBPressが掲載した立命館アジア太平洋大学客員教授の塚田 俊三氏による「中国にさらわれたインドネシア高速鉄道プロジェクトはいま… 予想外に膨らんだコスト、営業開始から数年で経営破綻の可能性も」を紹介しよう。なお、文中の注記は省略
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67048
・『インドネシアの首都ジャカルタと第三の都市バンドンとを結ぶ高速鉄道プロジェクトは、ご承知の通り、日本が先行して準備を進めいていたにも拘わらず、途中から中国が参戦し、最終的には、中国側に契約を奪われた。日本にとっては苦々しい思いが残るプロジェクトである。 2015年9月に中国に発注され、今月でちょうど6年になるそのプロジェクトは、現在どのような状態にあるのだろうか? 残念ながらそれは、中国の当初の売り込み時点での提案からかけ離れたものとなっている。当初、2019年には操業開始としていたが、プロジェクトは、操業どころか、今もなお工事中である。プロジェクトコストに至っては、その総額は大きく膨れ上がり、当初の予定価格を4割も上回るとされている。 着工当時は大きな脚光を浴びて登場したプロジェクトが、今どうしてこのような残念な状況に陥っているのであろうか? 事業者側(中国側)に非があったからなのか? あるいは、発注者側(インドネシア側)に十分なプロジェクト実施能力がなかったからなのか? 本稿においては、これまでの経緯を詳しくレヴューするとともに、その契約の裏に隠された構造を明らかにすることにより、これらの問いに答えてみたい』、「インドネシア高速鉄道プロジェクト」の現状とは興味深そうだ。
・『初めから疑問視されていたプロジェクトの経済性 上記のプロジェクトの構想は、突然浮かび上がったものではなかった。当初は、インドネシアの二大都市であるジャカルタとスラバヤとを高速鉄道で結ぶとする構想であった。だが、実際にこれら2つの都市を結ぶとなると、730kmもの鉄道路線を建設する必要があり(東京—広島間に匹敵する距離)、その投資額は巨額となり、インドネシアの当時の財政事情からみて、到底取り上げられるようなプロジェクトではなかった。 しかし、このプロジェクトに対する地元政財界の関心は高く、その推進派は、代替案として、プロジェクトを二期に分け、第一期でジャカルタとバンドンを結び、第二期でスラバヤまで延伸するという案を出してきた。一見すると現実的な案に見えるが、これは当初案以上に難しいプロジェクトであった。 というのも、ジャカルタ—バンドン間はわずか142kmしかなく、日本でいえば、東京—静岡間に当たり、高速鉄道を走らせるにはいかにも中途半端な距離であった。加えて、バンドンは標高700mの高地にあり、これを沿岸都市であるジャカルタから結ぶとなると大変な勾配を車両が駆け上らなければならない。更に、数多くのトンネル(13カ所)を建設する必要があった。また、一部経路は、人口集積地を通ることから、路線全体の4割弱は高架に、1割は地下に路線を建設する必要があり、建設コストは並外れて高いものになると予想された。 JICAが2012年に行ったフィージビリティスタディ(F/S調査)でも、建設費の半分は政府が出さなければ採算は取れないとしていた』、「JICAが2012年に行ったフィージビリティスタディ(F/S調査)でも、建設費の半分は政府が出さなければ採算は取れないとしていた」、始めから無理のある計画だったようだ。
・『日中の受注合戦 では、このように採算がとれそうもないプロジェクトが、どうして、国の最優先プロジェクトにまで伸し上がったのであろうか? それは、このプロジェクトがインフラ開発を最優先に掲げる3人の有力政治家の着目するところとなり、それ以来、このプロジェクトは、経済ベースでというよりは、むしろ政治家ベースで議論が進められるようになったからである。 1人目は日本の安倍晋三首相(当時)だ。2012年末に発足した第二次安倍政権は、海外インフラの開発をその優先課題として取り上げ、中でも、日本技術の粋ともいえる新幹線技術の輸出には格段の力を入れた。 他方、中国の習近平総書記は2013年に一帯一路構想を打ち出し、その拡大を、海外進出政策の核として推進していた。中でも、新幹線技術については、日本に劣らぬ高い技術を有することを世界に誇示したいと考えていた。彼が2人目の政治家だ。 3人目はもちろんインドネシアのジョコ・ウィドド大統領である。2014年10月に大統領に就任したジョコ氏は、就任早々、インフラ・プランを打ち出し、これを政権の最優先施策とするとした。同大統領は、当初は、ジャカルタとバンドンとを結ぶ高速鉄道プロジェクトはコストがかかりすぎるとして懐疑的に見ていたが、途中で、「日中間の競争をうまく利用すれば、有利な条件を引き出せるかもしれない」と考え、その可能性を探るべく、翌年3月に、先ず日本を訪れ、安倍総理に会い、また、その足で中国を訪れ、習近平総書記とも会い、両首脳からプロジェクトに対する支援を取り付けた。こうしてインドネシアの高速鉄道計画は、3人の政治家の思惑が激しく交錯するプロジェクトとなった。 他方、F/S調査については、日本は2012年に既に実施していたが、その内容は採算面で問題ありとするものであったこともあり、インドネシアは、中国に対してもF/S調査を実施するよう上記訪問中に求めた。これを受けて、中国側は即座にF/S調査に取り掛かり、わずか3カ月で報告書を仕上げた(環境影響調査に至ってはわずか7日間で)。JICAのF/S調査が1年弱を要したことを考えると、中国側のF/S調査はいかにも拙速との感を免れないが、いずれにせよ、報告書の内容は、JICAのそれとは際立った対照を見せた。プロジェクトの操業開始時期は、JICAが2023年とみていたのに対し、中国側は大統領選が行われる2019年には操業を開始できるとした。建設コストについても、JICAは61億ドルを要するとみていたところを、中国は55億ドルで完成できるとした。 これ以降、高速鉄道プロジェクトを巡る日中間の競争は激しさを増す。そのような中で、中国側は、2015年4月突如プロジェクト企画書をインドネシア政府に提出したが、これは、日本側から見れば、不意打ちとも映る行為であった。このように激しさを増す両国間の競争を見て、インドネシア政府は、2015年7月、日中両国の事業者に対し、それぞれ提案を出すよう求めた。その後の2カ月は、両国間の競争は、入札を巡る技術的な競争の域を超え、現地でのロビー合戦に発展した。 2015年8月、習近平主席の特使としてジャカルタを訪問した中国の徐紹史・国家発展改革員会主任らと会談するジョコ・ウィドド大統領。中国側はこの時、高速鉄道事業化に向けた報告書を提出した(写真:新華社/アフロ) 両国事業者の提案に対する審査結果は、関係者の間では、2015年9月初めに出るとみられていたところ、9月3日インドネシア政府は、突如会見を開き、その場において、高速鉄道プロジェクトはキャンセルすると発表した。同時に、仮に実施するとしても、G-Gベース(政府対政府ベース)では難しく、business-to-businessベース(企業対企業ベース)で進めるしかないとした。この背景には、インドネシア政府が、これ以上海外からの借入れ(政府の債務保証も含む)を増やせば、政府の対外債務の上限に達することが明らかになったことがある。 この予想外の発表を受けて、中国側はいち早く対応し、2015年9月半ば、改訂版入札書をインドネシア側に再提出した。そこで、プロジェクトはbusiness-to-businessベースに切り替えることを明確にするとともに、インドネシア政府からは一切の政府支出を求めないし、政府保証も不要とした。 中国側の提案はインドネシア側の要望を全面的に受け入れたものであったことから、9月下旬、インドネシア政府は、高速鉄道プロジェクトは中国に発注すると発表した。インドネシア政府のこの唐突な発表を受け、菅官房長官は即座にジョコ政権に対し遺憾の意を表明したが、時すでに遅しであった。 この発表を受けて、中国の国営企業(中国鉄道建設公社)は、インドネシアの国営企業3社(建設会社のWijaya Karyaがリーディングカンパニー)との間で、高速鉄道プロジェクトの実施に関する契約を締結し、両者の出資による特別目的会社(SPC)を設置することに合意した。総コストは、55億ドルと見積もり、建設期間は、2016年から2019年までとし、その後50年間は政府から得るコンセッションの下、高速鉄道サービスを提供し、その事業収入をもって初期投資コストを回収するとするBOT(=Build Operate Transfer。民間が施設を建設・維持管理・運営し、契約期間終了後に公共へ所有権を移転する方式)に準じた契約構造を取るとした。更に、本プロジェクトの建設に係る必要資金は、中国開発銀行を通じて提供するとし、融資比率は、総コストの75%、grace periodは10年間、融資期間は50年とした』、「インドネシア政府が、これ以上海外からの借入れ(政府の債務保証も含む)を増やせば、政府の対外債務の上限に達することが明らかになった」、「プロジェクトはbusiness-to-businessベースに切り替え・・・インドネシア政府からは一切の政府支出を求めないし、政府保証も不要」、こんな成行きになるのは始めから想像できた筈だ。「インドネシア政府が」、日中を競わせて好条件を引き出そうとするのであれば、日本が手を引いたのは当然だ。
・『遅れに遅れたプロジェクトの建設 契約当時、ジョコ大統領は日中間の競争を巧みに利用し、インドネシアに有利な条件を引き出したとして、大きな喝采を浴びた。だが、プロジェクトが実際に始まると形勢は大きく変わり、中国ぺースで事が運び、インドネシア側は、常に守勢に立たされることになった。 プロジェクトは2016年1月に開催された起工式で始まった。この起工式はジョコ大統領の列席の下華々しく開催されたが、その後は、土地収用が思うように進まず、建設工事はなかなか始まらなかった。運輸省からの「建設」許可は、直ぐには発出されず、2016年8月まで待たされた。また、路線の一部が空軍基地に掛かったことから、49haの土地は翌年3月まで明け渡されなかった。 このような土地収用の遅れに対し中国側からは再三にわたりその促進を促されていた。このため、インドネシアは、国営企業大臣を北京に派遣し、中国政府への直接説明を行ったほどであった。 中国開発銀行からも厳しい条件が提示され、土地収用が100%終了しなければ、融資は開始しないとされた。同行が資金を供給し始めたのは、起工式から2年半も経った2018年5月からであった。 このように出足は大きく遅れたが、2018年半ばからは建設工事は徐々に進み始め、2019年に入るとそのスピードは加速化し、2019年5月には、工事進捗の象徴ともいえる最初のトンネルが完成した。 一方、工事が進み始めると、逆に、周辺地域の環境への影響が増大し、地元企業、住民からの苦情が相次ぎ、2020年初めには2週間の工事中止命令が出されたほどであった。これに追い打ちをかけるように、2020年3月からは、新型コロナが蔓延し始め、このため、建設工事は一時中断された。 このように個別問題は次々と発生したものの、工事全体的としては、順調に進み始め、2021年3月時点では、70%が完了した。このまま順調に進めば、工事は2022年末までには完成するであろうとの見通しを出せるまでになった』、「工事全体的としては、順調に進み始め、2021年3月時点では、70%が完了した。このまま順調に進めば、工事は2022年末までには完成するであろうとの見通しを出せるまでになった」、なるほど。
・『膨れ上がったプロジェクトコスト 建設工事の遅れは、ここに来て漸く解決の目途が付いたが、ここで別の問題が浮上してきた。それは、コストオーバーラン問題であった。プロジェクトコストは、契約締結当時は55億ドルとされていたが、その翌年には、早くも、61億ドルに膨れ上がり、この9月1日の国会での国営建設会社の証言によれば、75~80億ドルに達するであろうとされた。 このような大幅なコストオーバーランが発生したのは、そもそも中国が拙速で準備したF/S調査のコスト見積もりが低過ぎたことに起因するが、勿論中国側が、これを認める訳はなく、このコストオーバーランは、主に、土地収用の遅れ等によるものとされた。 このように言われてしまうのは、一つには、プロジェクトは(特別目的会社が下請けに出した)インドネシアの国営建設会社によって実施されていたからである。このようなアレンジの下では、プロジェクトの遅れや費用の拡大は、工事の実施業者の責任とされがちである。 上記の国営建設会社がSPCと結んだサブコントラクトは、Engineering, Procurement and Construction契約(EPC契約)に基づくものであったが、Engineering部分は中国鉄道建設公団に委託して行われ、そこでは、資機材等は、中国の高速鉄道の規格に準じたものとすべしとされ、また、Procurementに関しては、中国開発銀行の貸付条件に従い、その資機材等はすべて中国サプライヤーから購入しなければならないとされた。通常のEPC契約であれば、これら資機材等については、幾つかのサプライヤーから見積もりを取り、それらを見比べたうえ、最も安価なものを購入するのが通常であるが、このプロジェクトにおいては、このような原則は働かず、全ての資機材、システムは、中国のサプライヤーから、しかも、その言い値で購入するしかない。このようなアレンジの下では、資機材やシステムの購入価格は、高いものにつきがちであり、今回のコストオーバーランの背景には実は、このような要因が隠されていたと推察される。 このコストオーバーランは、国営企業が負担しうる額を遥かに超えていたので、国営企業省は、この問題を政府レベルでの討議に持ち込んだ。これに対するジョコ大統領の指示は、「本件国有鉄道の運営は、ジャカルタ-バンドン間だけでは、営業距離が短く、商業的には成り立たないので、これをスラバヤまで延伸すべきであり、このためには、日本側と協議を行い、その参画の可能性を当たってみるべきだ」とするものであった。これを受け、2020年7月、インドネシア側は、日本との交渉に入った。しかし、日本側は、これまでの経緯もあり、当然のことながら後向きの回答を行った。 このような回答を受けたインドネシアは、今度は、中国側との折衝に入り、そこでSPCへの追加の資本投入を求めた(2021年1月)。その交渉結果は、“いつもの通り”明らかにされていないが、中国側からもいい返事はもらえなかったのであろうと推定される。 これら2つの打開策が受け入れられなかったことから、インドネシア政府は、自ら動かざるを得なくなり、国営企業省は、本年7月に国会に対し、国営企業への追加の資本投入を認めるよう求めた。これを受けて、下院VI委員会は、3つの国営企業に対する33兆ルピアの資本注入を認め、その一部はSPCへの追加出資に当てられることとなった。ただ、この金額だけでは、コストオーバーランをカバーするには十分ではなかったので、現在更なる追加支援策について下院VI委員会で議論されている模様である』、「通常のEPC契約であれば、これら資機材等については、幾つかのサプライヤーから見積もりを取り、それらを見比べたうえ、最も安価なものを購入するのが通常であるが、このプロジェクトにおいては、このような原則は働かず、全ての資機材、システムは、中国のサプライヤーから、しかも、その言い値で購入するしかない。このようなアレンジの下では、資機材やシステムの購入価格は、高いものにつきがちであり、今回のコストオーバーランの背景には実は、このような要因が隠されていたと推察」、こんな一方的契約では「コストオーバーラン」も当然だ。
・『政府が乗り出さざるを得なくなった理由 先にみたように、このプロジェクトは、business-to-businessベースで進めることが合意されたのであるから、インドネシア政府は、大幅なコストオーバーランが出たとしても、それは民間ベースで処理すればよいとして突き放しておけばよかったはずあるが、何故に、政府が、財政資金を使ってまで、その解決に乗り出さざるを得なくなったのであろうか? 以下、ここに至るまでの、経緯を分析することによって、この問いに答えたい。 ●中国側は、ジャカルタ-バンドン間の高速鉄道という、コスト高で、到底採算がとれそうもないプロジェクトを、コストを(人為的に)低く見積もり、その上で、これをいわゆるBOTベースで進めれば商業ベースに乗りうるとして売り込みをかけた。 ●インドネシア側は、この提案に乗り、中国側に契約を付与した。その後、プロジェクトは建設段階に入るが、その過程で、大幅なコストオーバーランが生じた。通常のBOTプロジェクトであれば、プロジェクトは、海外企業が実施するので、コストオーバーラン問題も、外国側に(中国側に)に処理させておけばよかったはずである。 ●だが、このプロジェクトは上手く仕組まれており、プロジェクトを実施するために設置された特別目的会社は、インドネシアの企業で、しかも、その資本の6割は国営企業が保有している。このような体制の下では、コストオーバーランが起きれば、インドネシアの国営企業が大半を負担しなければならなくなる。 ●ところが、これら国営企業は、既に多額の対外債務を抱えており、このような支払を行えるような財務状況にはない。このまま放置すれば、国営企業は破産に追い込まれることとなるので、このような事態を避けるため、国営企業の保有者である政府は、国営企業に対する財政支援に乗り出さざるを得なくなった。これが、本来は民間ベースで進められるべきであったプロジェクトに、政府が財政支援を行わなければならなくなった理由である』、「本来は民間ベースで進められるべきであったプロジェクトに、政府が財政支援を行わなければならなくなった理由」、こうしたシナリオは「中国側」が密かにつくったのではなかろうか。
・『今後更に起きうる、より大きな問題 上記の問題は、数年間の建設期間中の問題であるが、プロジェクトは一旦完成すれば、その後50年間事業運営されることになる。従って、この間、もしも、経営が成り立たなくなれば、それは累積し、より大きな問題となる可能性がある。特に懸念されるのが、キャッシュフローの問題である。 というのは、先に述べたように、このプロジェクトは、高速鉄道プロジェクトとしては、中途半端な距離であり、また、ジャカルタ、バンドンの二都市間には、既に既存路線が走っていることから、十分な運賃収入が見込めない。また、鉄道事業は、一種の装置産業であることから、(多額の減価償却費は勿論)高い維持管理費を払う必要がある。このような状況下では、営業段階に入ると、すぐに赤字経営に陥る可能性がある。 それでも最初の数年間は、債務の弁済は猶予されているので、何とかしのいでいけるとしても、grace periodが終わる2026年からは毎年債務支払義務が発生する。この毎年の債務の支払は、SPCの経営に重い負担となる。なんとなれば、その金額は、元本に50年間の累積金利を足し合わせたものを40年間の均等払いとして計算される。これが、例えば、ADBからの融資であれば、その金利は1%弱(今年8月段階では0.856%)と低利であり、50年間の累積金利はそれほど高くはならないが、それが中国開発銀行からの融資である場合は、その金利は6%台と高く、50年間の累積金利額も多額となる。要するに、2026年からは、この債務負担がSPCの経営に重く圧し掛かり、数年もしないうち経営破綻に陥ってしまう可能性が高い』、「中国開発銀行からの融資である場合は、その金利は6%台と高く、50年間の累積金利額も多額となる」、まるで高利貸だ。
・『インドネシア側が今後取りうる対応 このように、このプロジェクトは、一旦事業運営段階に入れば、営業赤字に陥り、その赤字額は雪だるま式に増え続けていくと予想される。ということであれば、このプロジェクトについては、早めに見切りをつけ、出来るだけ早く撤退した方がいいということになる。 だが、できるだけ早くと言っても、建設途中の今、これを投げ出し、巨大な施設を錆び付かせてしまうことは、現実的な方策とは言えない。兎にも角にも、残り3割の工事は終わらせ、鉄道プロジェクトとして一応完成させるべきであろう。プロジェクトが完成すれば、インドネシアは、専門家パネルを設置し、そこで、このプロジェクトを継続し、次の営業段階に入るべきか、あるいは、ここでプロジェクトをストップさせ、その解散に踏み切るべきかを、ファイナンスの問題を中心に検討する必要があろう。 おそらくそこで出て来るである結論は、このままプロジェクトを継続すれば、累積赤字は年々増えていくことが予想されるので、傷口を最小に抑えるためのには、営業段階に入る前にこのプロジェクトをストップさせ、早期にSPCを解散させてしまうべきだ、ということになろう。) するとSPCはdefaultを起こすことになるので、中国開発銀行は、即座に債権の回収に乗り出すであろう。その際、SPCが有する唯一の資産はプロジェクト資産、即ちジャカルタ-バンドン間の高速鉄道施設、であるから、中国開発銀行はこれを先ず差し押さえるであろう。すると、高速鉄道施設の所有権は中国側に移ることとなるが、これは必ずしもインドネシア側にとって悪いことではない。というのは、インドネシアは、この赤字を生むだけの巨大な「ホワイトエレファント」を手放すことができるようになるからである。 高速鉄道が中国の手に渡れば、中国側は、これを遊ばせておこうとはせず、直に事業運営に入ろうとするであろう。その際、鉄道サービスだけでは十分採算がとれないとして、必ずや、周辺地域での土地開発の権利の付与を求めて来ると予想される。 中国側がこの土地開発権を得たとしても、それだけでは十分ではないとみた場合は、更に要求を拡大し、(他国で行ったように)原油や他の地下資源の採掘権も併せ、要求して来る可能性がある。 そこまで、中国側の要求が拡大すれば、インドネシアとしてはこれを頑としてはねのけなければならない。というのは、中国からの借り入れ事案においては一旦債務の罠にはまってしまうと、どんどん深みにはまってしまい、ついには身動きがとれなくなる恐れがあるからである。これは、どこかで食い止める必要があり、このためには、断固とした姿勢で交渉に臨む必要がある。 ただ、中国側も、インドネシアはスリランカやタジキスタンのような小国とは異なることは十分承知しているので、両国間の関係を悪化させてまで強引な要求を持ち出すことは避けようとするかもしれず、その場合は、インドネシア側も、中国側と対等に交渉できよう』、「中国からの借り入れ事案においては一旦債務の罠にはまってしまうと、どんどん深みにはまってしまい、ついには身動きがとれなくなる恐れがある」、「これは、どこかで食い止める必要があり、このためには、断固とした姿勢で交渉に臨む必要がある」、「インドネシア」にそんな芸当が出来るだろうか。
・『おわりに 以上、本プロジェクトについてその経緯をレヴューし、その隠された構造を明らかにしてきたが、ここで冒頭で取り上げた2つの問いに戻りたい。 第一の問い〈プロジェクトの遅れやコストオーバーランは事業者の非か〉に関しては、事業者側の非というよりは、むしろそれは戦略だったといった方が適切であろう。 中国側が設定した工事の完成時期は、技術者の積み上げに拠って弾き出したものではなく、ジョコ大統領の再選時期に合わせて、政治的に設定されたものであり、初めから無理と分かっていたと言えよう。プロジェクトコストも、日本との競争に勝つために、JICAのそれよりは低めに出したというだけのことである。一旦これで受注を獲得すれば、工事の執行段階で、何かと理由をつけて、これを変えることはできるとみていたのであろう。 BOT契約においては最初に出したコミットメントはこれを守らなければならないが、請負契約の場合は、正当な事由があればこれを変更できるので、契約の運用形態も、(当初これに基づくとされていた)BOTから、徐々に請負契約的なものに替えられていったように見える。中国側はこれを意識的にやったとは言わないが、少なくともインドネシア側は、この微妙な契約の変質に気が付かなかったと言える。 第二の問い〈インドネシアは十分なプロジェクト実施能力を有していたのかどうか〉に関しては、プロジェクトの実施能力が欠けていたとまでは言わないが、事業者に最初にコミットした約束を守らせることができなかったという点で事業監督能力が不足していたと言えよう。 というのは、事業を的確に監督するためには資機材の価格を始めとするコスト関係情報を十分に把握している必要があるが、高速鉄道に関する情報は、中国側に独占的に保有されており、インドネシア側はこのような情報を持たないので、サプライヤーの言い値をそのまま受け入れるしかなく、プロジェクトコストは徐々に膨らんでいった。 要するに、このプロジェクトは、発注段階までは、インドネシアのペースで運んだが、一旦、実施段階に入ると中国ペースで進み、建築工事はいつの間にかBOTというよりは、むしろ請負契約に近い形で運用されてしまった。最後には、当初払わなくてもいいとされていた財政資金をインドネシア政府がつぎ込むこまざるを得なくなった。一方、中国側は、当初は儲からないとみられてきたプロジェクトから、その資機材等の納入を通じ、着実に利益を上げていった。 このように契約が中国ペースで運用されてしまったことの背景には、インドネシア側が(中国版)高速鉄道に関する詳細情報を持っていなかったことに由来するが、この‟情報の非対称性“の影響がより顕著な形で現れるのは、プロジェクトが運営段階に入ってからである。この段階で何か問題が起きたとしても、高速鉄道の経営に関する十分な情報を持たないインドネシア側は中国側と有効に議論できず、結局は相手方の言いなりになるしかない。このような状況下では、プロジェクトは長く持てば持つほど、不利になり、相手側に取り込まれてしまう恐れがあるので、このプロジェクトについては、先に述べたように、早めに撤退し、SPCを解散した方がより賢明な選択といえよう。 ただ、この最後の手段を取るに当たって、一点チェックしなければならないことがある。それは中国側と結んだ契約書である。中国側が途上国と結ぶ契約は、通常、対外秘とされ、国際慣習に添わない不利益条項が多々含まれている。注意を要するのは、キャンセル条項である。これまで、中国とのプロジェクトを途中で破棄したいとする途上国は幾つかあったが、その際降りかかってくるペナルティーの額があまりにも大きいので、マレーシアの例に見られるように、これを諦めた国が多い。途上国が中国と契約を締結するときは、その内容に格段の注意を払う必要があるが、今回インドネシアが中国と結んだ契約はそのような不利益条項を含んでいなかったことを希望する』、「これまで、中国とのプロジェクトを途中で破棄したいとする途上国は幾つかあったが、その際降りかかってくるペナルティーの額があまりにも大きいので、マレーシアの例に見られるように、これを諦めた国が多い」、こんな「国際慣習に添わない不利益条項が多々含まれている」、「対外秘とされ」るわけだ。「中国側」の不正な手口には怒りを覚える。
次に、本年1月12日付け東洋経済オンラインが掲載した欧州鉄道フォトライターの橋爪 智之氏による「日立、英新幹線受注で狙う「高速鉄道トップ」の座 アルストムやシーメンスと肩を並べる存在に?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/501814
・『2021年12月、日立製作所のグループ企業である日立レールがフランスのアルストムと共同で英国の高速鉄道HS2向け新型車両の製造・保守を受注したニュースは、センセーショナルに伝えられた。新型車両の設計から製造、導入後12年間の保守業務までを請け負い、その契約金額は19億7000万ポンド(約2957億円)という大型契約だ。日本の鉄道技術が世界で認められたということを誇らしく感じた方も多かっただろう。 だが気になるのは、ライバルであるはずのアルストムと共同受注という点だ。アルストムと言えばTGVで有名な会社である。なぜ同社と手を組むのか、日立とアルストムの役割分担はどうなるのか、不思議に思われるのではないだろうか』、興味深そうだ。
・『日立は当初別メーカーと共同で応札 今回の日立による受注については、まず英国の高速鉄道HS2プロジェクトの入札がどのように進んでいたかを知る必要がある。 2017年、車両納入に関する最初の入札では、アルストム、ボンバルディア、シーメンス、日立、タルゴの5社が最終候補に挙げられていた。しかしその翌年、ボンバルディアは日立と共同での応札が決まり、一方でシーメンスとアルストムは当時、合併が取り沙汰されていたため、万が一この合併が実現した場合に入札に参加するメーカーが減ることが懸念された。そのため、競争を維持するためにCAFを追加でリストアップすることになった。 入札に対し、各社はそれぞれ自社の優位性をアピールしている。 アルストムは、「従来のネットワークでも新しいHS2インフラでも同様に快適な、ワールドクラスのモダンで柔軟性のある列車」を提供すると述べた。同社はフランスのTGV、「イタロ」のブランドで知られるイタリアのNTV社に納入したAGV、アメリカのアムトラック向けに製造中のAvelia Liberty(アヴェリア・リバティ)、モロッコと韓国の高速鉄道など、数多くの高速列車を納入した実績がある。 日立は「日本が世界に誇る」新幹線への取り組み、ボンバルディアはヨーロッパと中国における世界最大の高速鉄道ネットワークでの国際的な経験を強調した。 両社は共同で、イタリアのトレニタリア社に「フレッチャロッサ1000(ミッレ)」ETR400型を納入しており、「現在ヨーロッパで最も速く、かつ最も静かな高速列車」であると述べている。ETR400型は、営業最高時速360kmで走行するように設計されているが、インフラの関係で現状は300kmで営業運転している。 シーメンスは英国と欧州大陸を結ぶ国際列車「ユーロスター」を筆頭に、ドイツ、スペイン、中国、ロシアといった国々で運用されている高速列車Velaro(ヴェラロ)の優位性をアピールした。すでに英国内でユーロスターとして運用実績のあるヴェラロを例に、「英国の鉄道事業における存在感、技術知識、グローバルな高速化の経験により、シーメンスこそ理想的なパートナー」であると述べた』、なるほど。
・『TGVやAGVの技術ではない ところが最終決定へと至る前に、また業界内で大きな動きがあった。アルストムとシーメンスの合併話が破談となったことで、これまでどおりアルストムとシーメンスはそれぞれ独自に入札へ参加することとなったが、今度はアルストムがボンバルディアを買収するという話が持ち上がったのだ。最終的に、この合併は欧州委員会によって承認され、2021年3月をもってボンバルディアはアルストムへ吸収合併されることになった。 結局、日立とアルストムの共同受注という結果に至ったが、ここでいう「アルストム」とは、「旧来のアルストム」ではなく、「元ボンバルディアで、買収されそのまま事業を引き継いだアルストム」ということになる。 つまりアルストムと言っても、今回のHS2の受注を勝ち取ったのはTGVやAGVの技術ではなく、日立+旧ボンバルディアの技術ということになる。 日立+旧ボンバルディアと言えば、先のレポートでご紹介したZEFIRO(ゼフィロ) V300プラットフォームで、イタリアのフレッチャロッサ・ミッレでお馴染みの技術だ。その点について、日立は「HS2向けの新型車両は、ZEFIROと新幹線の技術を融合した車両になる」と説明している。車体にはアルミニウムを採用し、騒音対策としてより空力を考慮したデザインを採用するという。 新幹線車両の知的財産権はJRが保有しているので、そのままそれらの技術を用いるとは考えにくいが、これまで新幹線の製造現場で蓄積してきた経験や技術は、HS2車両の製造でも生かされるだろう。アルミニウム製車体の製造も、英国ニュートン・エイクリフ工場にはIEP(Intercity Express Programme)向け800(801/802)系車両の製造を任された段階で、日本で使用されているものと同じ摩擦攪拌接合の最新式溶接機を導入しており、日立としてはお手の物だ』、「日立+旧ボンバルディア」は確かに強力な組み合わせだ。
・『世界有数の高速列車メーカーに? 日立はほかに、運行システムと制御システムを担当するとしている。特に制御システムに関しては、同社が得意としているSiC(炭化ケイ素)を用いた低損失パワーデバイスを採用。従来のIGBTに代わるSiCインバーターに関しては、すでに国内外で多くの採用実績があるため、開発に大きな支障はないだろう。 今後、日立とアルストムは開発を進め、2025年から製造を開始する予定だ。製造を担当するのは日立のニュートン・エイクリフ工場とアルストムのダービー工場だが、このダービー工場が旧ボンバルディアの工場という点も、ボンバルディアの影響が色濃く残っていることを示しているといえるだろう。 HS2向け車両の受注は、日立が世界へ向けてより大きく踏み出す一歩となることは間違いない。このプロジェクトの成功いかんでは、アルストムやシーメンスに並ぶ世界有数の高速列車メーカーとして、確固たる地位を築くことになるはずだ』、「日立が世界へ向けてより大きく踏み出す一歩となる」、今後の展開が楽しみだ。
第三に、1月20日付け東洋経済オンラインが掲載した東アジアライターの小井関 遼太郎氏による「台湾鉄道の信頼回復担う「日立製新型特急」の実力 相次ぐ事故と座席供給不足のイメージ払拭狙う」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/503429
・『2021年の暮れも押し迫った12月29日、日立製作所が製造した台湾鉄路管理局(台鉄)の都市間特急用新型車両「EMU3000」が、台北と東部の台東を結ぶ東部幹線の特急列車として営業運転を始めた。 台湾ではかねて、東部方面への移動需要に対して鉄道の座席数がまったく足りず、指定券を入手しづらい「一票難求」と呼ばれる状態が続いてきた。従来車両は編成が短く、全席指定のうえ立席での乗車も不可能と、どうしても利用したい人々を見捨てるような状況だった。それに加え、台鉄では近年、多数の乗客が死亡する大事故が相次いで発生しており、信頼性とイメージの回復は必須の課題となっている。 このたび運行が始まった新型特急は、こうした問題を解決するための救世主となりうるのか』、興味深そうだ。
・『真っ白なボディでイメージ一新 黒いフェイスに白のボディが特徴的なEMU3000は、2024年までに計600両(12両×50編成)が投入される予定で、台鉄史上最大規模かつ国際的にもまれに見る増備計画となる。今までの台鉄にはなかった斬新なデザインは、現地鉄道ファンの間で「ペンギン」や「くろさぎ」などといったあだ名で運行前から人目を集め、一般の人々の間でも注目されている。 台鉄は2019年から車両や駅構内のデザインをリフレッシュし、国営鉄道のイメージを一新しようと「台鉄美学復興(FUTURE—RENAISSANCE)」と銘打ち、外部デザイナーと連携しながら新たなコンセプトによる車両の開発を進めてきた。通勤型電車の「EMU900」や観光列車の一種である「鳴日号」がその例だ。EMU3000は第3弾に当たり、日立側が当初提案した「TEMU1000」(タロコ号)をベースとしたデザイン案を突き返して再検討を進めた。その結果として生まれた、シンプルかつ落ち着きのあるデザインは今までの台鉄に見られなかった意匠が感じられる。 こうした努力の結果、EMU3000は台湾の公共交通車両として初めて日本の「グッドデザイン・ベスト100」に選出されている。 EMU3000は第1陣の納入分として3編成・36両が台湾に到着しており、まずは東部幹線の特急列車3往復に投入された。当面は同線方面を走ることになる。 時刻表を見ると、今回12月29日のダイヤ改正でEMU3000へ車両を置き換えた列車は、従来と比べて所要時間が10分ほど延びている(樹林―台東間の場合)。所要時間が延びてでも新型車両に置き換えなければならない「切羽詰まった事情」とはどのようなものだろうか』、どんな「事情」なのだろう。
・『振り子式車両は輸送力不足 台湾は全体的に山がちで、西部と東部の海岸沿いに人口が密集している。とくに東部海岸エリアは険しい山や峡谷が続く。戦前の日本統治時代から建設が始まった鉄道は、2005年に東部の主要都市である花蓮までの複線化が実現したものの、線形が悪くスピードが出しにくい悪条件を伴う。 台鉄は、台北―花蓮―台東間の所要時間が高速バスより長く競争力が劣るとみて、振り子式電車の「TEMU1000」(タロコ号)や、車体傾斜式の「TEMU2000」(プユマ号)を相次いで導入し速達性の向上を図ってきた。しかし、これらの列車は8両編成と短く、さらに振り子式車両であることから高速走行時の揺れを考慮して立席をなくし、全席指定制とした。こうした事情もあって、増え続ける旅客需要に対する抜本的な改善策とはならなかった。 今回投入されたEMU3000は12両編成で、従来と比べ座席数が1.4倍となる。これにより、「一票難求(注)」問題は解決が進むことだろう。しかし、振り子式車両ではないことから、カーブでの通過速度が従来のTEMU1000よりも遅いため、スピードダウンを余儀なくされたことになる。 台北と東部各都市を結ぶ交通については、台鉄が振り子式電車を導入してスピードアップを図る一方、道路も2020年に宜蘭―花蓮間の改善工事完了で「蘇花改道路」が開通し、最大で1時間ほどの所要時間短縮が実現した。マイカーの通行量が増加したほか、高速バスも「北花線回遊号」と呼ばれるコンセントを備えた車両による新路線を開設するなど、サービスの改善が見られる。 こうした状況の中、台鉄としては高速バスに打ち勝つべく、速度面以外での付加価値を利用客に訴える必要性が高まった。そこで登場したのが、EMU3000のビジネスクラス(商務艙、定員30人)だ。台湾を初めて走った機関車の愛称から名付けられた「騰雲座艙」と呼ばれるこのシートは、横3席×10列の30席という広々とした座席配置を誇る。 フットレストがないことやリクライニングの角度が比較的浅いことなど気になる点はあるものの、ソフト面では車内限定弁当、ハーゲンダッツのアイスクリーム、もしくはパイナップルケーキなどのいずれか1つと飲み物が選択できる飲食物の無料サービスが提供される。また、主要駅を中心に専用のチケットカウンターを設け、乗車変更も無料で受け付ける。 そのサービス内容は航空会社のエグゼクティブクラスを多分に意識している。対応に当たる客室乗務員も投入に合わせて特別に募集し、チャイナエアラインによる訓練を受けたという肝いりだ。料金は距離に応じて普通車の1.4倍~2.2倍で、長距離客に対する配慮がみられる』、「線形が悪くスピードが出しにくい悪条件」、「高速バス」との競争など、大変なようだ。
(注)一票難求:一枚の切符さえ手 に入れるのが非常に難しい。
・『トイレは編成中全車両に 2列×2列の座席が並ぶ普通車の居住性も大幅に改善された。全席にUSBの充電ソケットと100Vのコンセントを備え、Wi-Fiのサービスもある。また、編成中すべての車両に大型の荷物置き場とトイレを設置している。 トイレの数は一見過多にも感じるが、台鉄は通勤車両も4両に1箇所トイレを設置しているほか、自転車搭載スペースも設けるなど、長距離利用者を考慮した設計が特徴だ。 筆者はEMU3000の運行開始直後、台北駅を平日夜6時台に出発する台東行き438次列車に宜蘭まで乗車した。土休日の帰省・行楽需要は比較的旺盛だが、平日の普通席利用率は5割に満たない。一方、新設されたビジネスクラスは満席だった。 列車が入線する際にカメラを構える人も多かった。乗客に新型車両の印象を聞くと、「荷物置き場が増設されキャリーケースを足元に置かずに済む」「客室扉がガラス製なので、開放的で圧迫感がない」といった声が聞かれた。 東部幹線の優等列車は高速鉄道(新幹線)との接続を考慮して台北近郊の副都心に停車する列車が多いが、この列車は台北を出ると、東部幹線の北部側の主要駅である宜蘭まで停まらない直達型の停車パターンとなっている。 台北駅を出るとすぐに加速し、台北近郊を高速で走行。山間部に入るとその足並みは落ちるものの、持ち前の加速力を発揮して加減速を繰り返し、雪山山脈のふもとを越える。振り子式のTEMU1000やTEMU2000に比べると騒音やカーブでの振動が気になるものの、車体の傾きによる不快感は低減された。山間区間を抜け、太平洋の海岸線を左手に臨むと列車は再び加速を重ね、宜蘭に到着した。 翌朝、台北に戻るために利用したのは411次列車のビジネスクラス。車内は満席で、発車するとすぐに専用エプロンを身に付けた客室乗務員が、事前予約していた軽食と飲料を運んできた。軽食類はカートから直接選ぶこともできる。メニューにある限定弁当は時間帯によって提供する区間が決まっており、短距離区間だと選択できない場合があるなど、ソフト面でも長距離客に対する配慮が見られる。 ビジネスクラスの座席は広々とスペースを取っており、カーブの多い山間部でもしっかりとしたホールド感を感じられる一方、フットレストやブランケットといった設備やサービスはなく、基本的に「広めの普通車シート」と表現するのが妥当そうだ。 車内のWi-FiはSSIDがビジネスクラスの6号車を示す「EMU3000-6」で、同クラスの乗客に対して優先的に提供していることがわかる。ただ、パスワードなしで隣接車両からも接続できることや走行区間による電波の障害を考えると改善の余地がありそうだ』、「普通車の居住性も大幅に改善・・・全席にUSBの充電ソケットと100Vのコンセントを備え、Wi-Fiのサービス・・・編成中すべての車両に大型の荷物置き場とトイレを設置」、なるほど。
・『安定したメンテナンスに課題 EMU3000は、日立の鉄道車両工場である笠戸事業所(山口県下松市)で完成品として組み上げられ、台湾まで船で輸送される。 台湾の鉄道ファンの間からは「まるで日本の列車に乗っているようだ」といった好感の声もある一方、「地元で組み上げられたものではないので、はたして台鉄にしっかりメンテナンスするだけの技術が備わっているのか」と疑問を投げかける声も聞こえてくる。 実際、投入初日からトイレの故障や乗降ドアの不具合が発生した。また、TEMU2000(プユマ号)についても「日本製でそんなに古くないのに、座席に相当のガタがきている」と苦情を訴える乗客もいるようだ。 車両の保守作業については、同じ日立製の英国向け車両であるクラス800シリーズの場合、日頃の運用に必要な保守点検作業も同社が長期スパンで受注し、車両の細かい点検補修ができる体制が整っている。一方、台湾の場合は部品の純国産化を目指す政府の方針もあり、保守作業は基本的に台鉄のスタッフが担うことになるという。 加えて、台湾ならではの「外交事情」が複雑に絡む一面もある。入札書類では中国本土メーカーの参加を明確に禁止しており、契約書でも主要機器については中国が加盟していない、「政府調達に関する協定(GPA)」加盟国しか供給できないように定めている。「中国製部品を使ってほしくない」と訴える台鉄側の意向もあったといわれ、設計・生産での調整には苦労の跡が忍ばれる』、「台湾の場合は部品の純国産化を目指す政府の方針もあり、保守作業は基本的に台鉄のスタッフが担うことになる」、「入札書類では中国本土メーカーの参加を明確に禁止」、などの制約のなかでやる必要があるようだ。
・『「台鉄改革」の一歩に 台鉄のスピードアップや前述の道路改良など改善が進む東部各都市への交通網だが、長期的視点ではこれだけにとどまらない。日本の国土交通大臣に当たる交通部部長の王國材氏は先ごろ、台湾全土に高速鉄道網を拡げる「高鐵環島計画」を発表し、実際に宜蘭地区への高速鉄道延伸に向けたルートの選定が進んでいる。日本の新幹線と異なり、台湾の高速鉄道は在来線を運行する台鉄とは別会社の運営で、対立関係にある。高速鉄道が完成すれば厳しい競争になることは間違いない。 台鉄の計画からは、今からそれに対抗しようとする様子が垣間見られる。発表によると、EMU3000は今後、東部幹線のみならず西部幹線に直通するルートにも投入する予定という。これによって運用が減るTEMU2000を比較的需要の少ない南回り線を経由するルートにも転用し、速達性の劣る気動車や客車列車を置き換える目論見があるようだ。また、EMU3000の契約には観光列車として使われる特別仕様車4編成の製造も含まれており、ツアー客に特化したサービスを提供する予定だ。 台鉄は目下、輸送力の確保に加え、高品質のサービスと多様なルートの提供でイメージの一新を目指している。台湾の鉄道文化研究の第一人者である台湾師範大学の洪致文教授はEMU3000導入について、「当局の徹底した乗客目線の姿勢に、利用客の反応はおおむね好評だ。これをきっかけに、今後さまざまな面で台湾鉄道が変わっていくことが期待できる」と評価する。 EMU3000は「台鉄改革」の一手として、重大事故の連続で失った信頼を取り戻す救済者となるだろうか』、「EMU3000は「台鉄改革」の一手として、重大事故の連続で失った信頼を取り戻す救済者と」なってほしいものだ。
タグ:(その13)(中国にさらわれたインドネシア高速鉄道プロジェクトはいま… 予想外に膨らんだコスト 営業開始から数年で経営破綻の可能性も、日立、英新幹線受注で狙う「高速鉄道トップ」の座 アルストムやシーメンスと肩を並べる存在に?、台湾鉄道の信頼回復担う「日立製新型特急」の実力 相次ぐ事故と座席供給不足のイメージ払拭狙う) インフラ輸出 JBPRESS 塚田 俊三氏による「中国にさらわれたインドネシア高速鉄道プロジェクトはいま… 予想外に膨らんだコスト、営業開始から数年で経営破綻の可能性も」 「インドネシア高速鉄道プロジェクト」の現状とは興味深そうだ。 「JICAが2012年に行ったフィージビリティスタディ(F/S調査)でも、建設費の半分は政府が出さなければ採算は取れないとしていた」、始めから無理のある計画だったようだ。 「インドネシア政府が、これ以上海外からの借入れ(政府の債務保証も含む)を増やせば、政府の対外債務の上限に達することが明らかになった」、「プロジェクトはbusiness-to-businessベースに切り替え・・・インドネシア政府からは一切の政府支出を求めないし、政府保証も不要」、こんな成行きになるのは始めから想像できた筈だ。「インドネシア政府が」、日中を競わせて好条件を引き出そうとするのであれば、日本が手を引いたのは当然だ。 「工事全体的としては、順調に進み始め、2021年3月時点では、70%が完了した。このまま順調に進めば、工事は2022年末までには完成するであろうとの見通しを出せるまでになった」、なるほど。 「通常のEPC契約であれば、これら資機材等については、幾つかのサプライヤーから見積もりを取り、それらを見比べたうえ、最も安価なものを購入するのが通常であるが、このプロジェクトにおいては、このような原則は働かず、全ての資機材、システムは、中国のサプライヤーから、しかも、その言い値で購入するしかない。このようなアレンジの下では、資機材やシステムの購入価格は、高いものにつきがちであり、今回のコストオーバーランの背景には実は、このような要因が隠されていたと推察」、こんな一方的契約では「コストオーバーラン」も当然だ 「本来は民間ベースで進められるべきであったプロジェクトに、政府が財政支援を行わなければならなくなった理由」、こうしたシナリオは「中国側」が密かにつくったのではなかろうか。 「中国開発銀行からの融資である場合は、その金利は6%台と高く、50年間の累積金利額も多額となる」、まるで高利貸だ。 「中国からの借り入れ事案においては一旦債務の罠にはまってしまうと、どんどん深みにはまってしまい、ついには身動きがとれなくなる恐れがある」、「これは、どこかで食い止める必要があり、このためには、断固とした姿勢で交渉に臨む必要がある」、「インドネシア」にそんな芸当が出来るだろうか。 「これまで、中国とのプロジェクトを途中で破棄したいとする途上国は幾つかあったが、その際降りかかってくるペナルティーの額があまりにも大きいので、マレーシアの例に見られるように、これを諦めた国が多い」、こんな「国際慣習に添わない不利益条項が多々含まれている」、「対外秘とされ」るわけだ。「中国側」の不正な手口には怒りを覚える。 東洋経済オンライン 橋爪 智之氏による「日立、英新幹線受注で狙う「高速鉄道トップ」の座 アルストムやシーメンスと肩を並べる存在に?」 「日立+旧ボンバルディア」は確かに強力な組み合わせだ。 「日立が世界へ向けてより大きく踏み出す一歩となる」、今後の展開が楽しみだ。 小井関 遼太郎氏による「台湾鉄道の信頼回復担う「日立製新型特急」の実力 相次ぐ事故と座席供給不足のイメージ払拭狙う」 どんな「事情」なのだろう。 「線形が悪くスピードが出しにくい悪条件」、「高速バス」との競争など、大変なようだ。 (注)一票難求:一枚の切符さえ手 に入れるのが非常に難しい。 「普通車の居住性も大幅に改善・・・全席にUSBの充電ソケットと100Vのコンセントを備え、Wi-Fiのサービス・・・編成中すべての車両に大型の荷物置き場とトイレを設置」、なるほど。 「台湾の場合は部品の純国産化を目指す政府の方針もあり、保守作業は基本的に台鉄のスタッフが担うことになる」、「入札書類では中国本土メーカーの参加を明確に禁止」、などの制約のなかでやる必要があるようだ。 「EMU3000は「台鉄改革」の一手として、重大事故の連続で失った信頼を取り戻す救済者と」なってほしいものだ。