事件一般(その1)(京アニ放火事件で関心高まる「防火設備」 学ぶべき教訓は何か、京アニ事件「犯人野放し」批判で検証 病歴と犯罪の知られざる関係性、「京都アニメーション放火事件」など続発する事件は「下級国民によるテロリズム」なのか?、“人を殺して死のうと思った”事件続発 「孤立を防げ」の連呼が逆に危険な理由) [社会]
今日は、事件一般(その1)(京アニ放火事件で関心高まる「防火設備」 学ぶべき教訓は何か、京アニ事件「犯人野放し」批判で検証 病歴と犯罪の知られざる関係性、「京都アニメーション放火事件」など続発する事件は「下級国民によるテロリズム」なのか?、“人を殺して死のうと思った”事件続発 「孤立を防げ」の連呼が逆に危険な理由)を取上げよう。
先ずは、2019年7月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した株式会社さくら事務所 マンション管理コンサルタントの土屋輝之氏による「京アニ放火事件で関心高まる「防火設備」、学ぶべき教訓は何か」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/209374
・『34人が死亡、34人が重軽傷という大惨事になった京都アニメーション放火事件。3階建てのビルが丸ごと焼けるという事態に、驚いた人も多いはずだ。京アニの建物の状況がどうだったのかは今後の検証を待たねばならないが、この未曾有の大火災からオフィスビルやマンションが学ぶべき教訓を考えてみよう』、興味深そうだ。
・『ホテルニュージャパン火災を超える死者が出てしまった 3階建てのビルが全焼した京アニ。34人もの死者を出すというのは、未曾有の大火事といっていい。過去、とりわけ規模が大きい火災が起きると、それを契機に消防法を見直す、という流れになってきた。例えば死者118人を出した1972年の大阪・千日デパート火災。1982年の東京・ホテルニュージャパン火災(死者33人)、さらに2001年の新宿・歌舞伎町ビル火災(同44人)などだ。 死者100人を超える千日デパート火災は別格としても、今回の京アニは、ホテルニュージャパン火災を超える死者が出てしまった。 もちろん、犯人がガソリンを撒いて火をつけるという暴挙に出たわけだから、通常の火災とは訳が違う。おそらく爆風が事務所内を駆け巡り、通常の火災以上に、中にいた人たちはパニックに陥ったはずだ。 しかし、この特殊要因を考慮に入れても、鉄筋コンクリートの建物で各フロアがあれほどの勢いで全焼するというのは、かなり考えにくい。本稿執筆時点(7月19日)での情報を見る限り、その一番大きな理由は、すでに多くのメディアで指摘されているように、1階から3階までを貫く、らせん階段があったこと、そして「区画」されていなかったため、と考えられる。 オフィスビルであれマンションであれ、防火シャッターや防火扉によってスペースを区切り、火の手が急激に広がらないような対策をするが、具体的な基準は「建物の用途」や「床面積」によって異なる。 オフィスビルの場合、不特定多数の人が訪れる場所ではなく社員たちは建物の中をよく知っているから、避難にはさほど手間取らないと考えられる。かつ、危険物を扱うような業務内容ではないだろうし、ごく小規模なビルである。これらを考えると、緩めの基準が適用されたはずで、吹き抜けた形状のらせん階段もOKが出たのだろう。もしもっと大きなビルであったり、用途が異なる場合であれば、こうした形状のらせん階段はNGだった可能性が高い。 そして、らせん階段部分に防火扉や防火シャッターがあって区画されていればまだしも、それがなかったとなると、らせん階段が炎や爆風の通り道となって、建物の内部全体があっという間に炎と煙に包まれても不思議ではない』、建物の構造について言及している数少ない記事だ。
・『避難階段から屋上に出られなかったのはなぜか? らせん階段や吹き抜けは開放感を演出できるので、戸建住宅でも多く設置されているが、各フロアが区画されず、連続性のある構造というのは、火の手が回るのも、煙が充満するのも極めて早い。防火の観点からは、かなり危険だといえるのだ。 もちろん、条件さえ満たしていれば、区画されないらせん階段を設置することは法令で認められている。しかし、「法令で認められているから絶対に安心」ではないのだ。ここに防火の難しさがある。 次に気になるのは、らせん階段とは別に屋上につながる階段が建物内にあったにもかかわらず、屋上に抜けるドアから外に出られなかったこと。各フロア別の死者数を見ると、19人とダントツで多いのは、3階から屋上に抜けるドア前の階段スペースだった。このドアが開かなかった理由は定かではないが、内部からカギが開くようにしていなければならないはずの場所だ。 そして、この階段は防火扉で区画されていたのか、もしそうなら防火区画として適切に機能していたか、今後検証すべきだろう。というのも、せっかく防火扉などが設置されているのに、扉の前にモノを置いているなどで正常に作動せず、大火災になった例が後を絶たないからだ。2013年に起きた福岡市整形外科医院火災(死者10人)でも、防火扉が閉まらないようにロープで固定されるなどして、作動しなかったことが明らかになった。 同じく、過去の火災事例では、せっかくの避難通路なのに、可燃性のモノを置いていたばかりに火の手が回ってしまい、逃げられなかったというケースも散見される』、「屋上に抜けるドアから外に出られなかったこと」、「この階段は防火扉で区画されていたのか、もしそうなら防火区画として適切に機能していたか、今後検証すべきだろう」、この点についての続報は見た記憶がない。
・『一般家庭や会社では何に注意すべきか? このような痛ましい大火災が起きると、自宅マンションや会社の防火態勢がどうなっているのか、気になる人は少なくないはずだ。 そこで、3つのことをご提案したい。 まずは日々の点検。これは建物の防火管理者を中心に行うものだが、避難経路や防火扉・防火シャッター前にモノを置いていないかをチェックするのだ。 前述したように、ここにモノが置いてあるばかりに防火扉が作動しなかったり、避難経路に可燃物が置いてあって火が燃え広がり、避難できなかった、という悲劇は繰り返されている。 そもそも防火扉や防火シャッターがどこに設置してあるのか、無頓着な人も多いはず。デパートなどでは、防火シャッターの下のスペースは赤いビニールテープなどで囲ってあったりする。「ここにモノを置くな」と注意を促すためである。防火管理者のみならず、社員や住人全員が、こうした意識を共有すべきである。 そして半年ごとの点検。これは、消防法など、法令に基づく設備の点検であり、必須であるのはいうまでもない。 さらに年に1度の避難訓練。避難経路を自分の目で確かめ、実際に通ってみたり、防火扉、防火シャッターの場所を確認するいい機会である。また、建物の防火システムがどのように作動するか、皆さんはご存じだろうか? 例えば、あるマンションでは、あるフロアで火災が起きた場合、火災報知機が鳴るのはそのフロアと、1つ上のフロアのみ。そしてエレベーターは避難階で停止し、エントランスの自動ドアは開かなくなる、という仕組みとなっている。これは外部から入ってくる人を食い止めるためで、住民は非常用出口(誘導灯で表示されている)から外に出られる。 こういう仕組みを知らないまま火事に遭遇した場合、エレベーターが止まったとパニックになった挙句、避難階段で転んで怪我をする、というような事態になりかねない。火災など災害時には、誰もが慌てて正常な判断が難しくなる。だからこそ、避難訓練で非常時のシミュレーションをすることはとても大切なのだ』、ロンドンはかつての大火の経験から「避難訓練」が義務付けられており、シティの近代的ビルでの「訓練」は壮観である。
・『隣戸に逃げる経路は確保できているか? また、マンションでは、非常時にはベランダに出て、隣戸との仕切りの板(「隔て板」と呼ぶ)を蹴破るなどして逃げるという避難経路が設定されているが、実はこの隔て板、意外と硬くて、非力な女性や高齢者、子どもの力では容易に蹴破れないことをご存じだろうか? ぜひ、避難訓練の際には、隔て板を蹴破ってみる機会も設けて、実際にどれくらい硬いかを、住民の皆さんで確かめていただきたい。最近では、蹴破るタイプではなく、レバーを回して板を外せるタイプも発売されている。大規模修繕に合わせて隔て板を交換するのも手だろう。 そして最後に煙対策。いざ火災に遭遇した場合、焼かれる以前に煙を吸い込んでしまい、一酸化炭素中毒で亡くなる方が少なくない。火災現場でもうもうと立ち上がる黒い煙で、人間はわずか1〜2分で簡単に意識を失い、死に至る。 もし不幸にしてそんな現場に遭遇してしまった場合には、ぜひビニール袋を口にあてて、袋の中で呼吸していただきたい。これで数分間は持ちこたえられるから、逃げるための時間稼ぎに有効だ。私は不測の事態に備えて、いつも財布の中にビニール袋を折りたたんで持ち歩いている。 京アニのケースのように、ガソリンを撒かれるという事態は、そうそう起きるものではない。しかし、火災の危険性はどんな建物でも少なからずある。「あのケースは特殊だった」で終わらせず、この事件から得るべき教訓を得ていただきたいと願う』、「ビニール袋を口にあてて、袋の中で呼吸していただきたい。これで数分間は持ちこたえられるから、逃げるための時間稼ぎに有効だ」、貴重なノウハウだ、出来るだけ「ビニール袋」を持ち歩くようにしよう。
次に、7月26日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したフリーランス・ライターのみわよしこ氏による「京アニ事件「犯人野放し」批判で検証、病歴と犯罪の知られざる関係性」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/209741
・『京アニ事件の疑問は増すばかり 社会は悲しみを乗り越えられるか 京都市伏見区にある「京都アニメーション」第1スタジオへの放火が報道されてから、1週間になる。心より、亡くなられた34名の方々のご冥福と、負傷された34名の方のご回復を祈りたい。 また、自身も火傷を負って重体と伝えられる容疑者・A氏(41歳)に対しても、1人の人間として回復を望む。できれば、回復後は適切なサポートのもとで取り調べを受け、人生と事件への歩み、そして自分の事件に対する思いを、自ら語ってほしい。 A氏と事件のディテールについての報道が重ねられるたびに、私は「とはいえ、なぜあんなことを?」という疑問が増えるばかりなのだ。 ちょうど1週間前の事件当日、仕事をしながら目に飛び込んでくる報道を時折り横目で見ながら、気になっていることがあった。身柄を確保されたA氏が、事件直後、「さいたま市在住の41歳の男」と報道されていたことだ。 警察は当然、実名と居住地と年齢を同時に把握していたはずだ。実名をメディアに公表することに対して警察が慎重な場合、考えられる可能性の1つは、本人の精神疾患や精神障害による人権への配慮だ。 ともあれ、事件当日の夜間から翌日にかけてA氏の実名報道が開始され、「精神的な疾患がある」「訪問看護を受けていた」「生活保護を受給していた」といった情報とともに拡散され始めた。SNSには、「なぜ野放しに?」「公金で生きさせる必要はなかった」といった意見が次々と現れ始めた。 精神障害を持つ当事者を主体に、誰もが地域で充実した暮らしを営める社会を実現するために活動してきた、「認定NPO法人地域精神保健福祉機構(コンボ)」という千葉県の団体がある。コンボは取材に対して「精神疾患のある人が事件に関与した場合、事件と精神疾患に関連性があるのかどうかが定まっていない時点でメディアは病歴を報じ、その内容がSNSで無軌道に拡散してしまいます。この状況を、大変憂慮しております」と答えた。 事件の翌々日にあたる7月20日、コンボは今回の事件報道に関する見解と、精神疾患を持つ当事者たちへのメッセージを公表している。 見解では、精神疾患という病歴を報道すると、事件の原因や動機という印象を与えたり、精神障害者は危険という偏見を助長したりすることが「過去の例から見て明らか」とされる。メッセージでは、怖れから外出もままならない辛い時間を乗り切るための知恵や、理解者や仲間に思いを受け止めてもらうことの重要性など、具体的で有益なアドバイスが並ぶ。身近に理解者や仲間がいない人々のために、思いを吐き出すフォームも設置された。 しかし、過去とは異なる成り行きも見受けられる。コラムニストのオバタカズユキ氏は、事件直後から「精神疾患と犯行を安易に結びつけないで」という注意喚起の声がSNSのあちこちに上がったのを発見し、「嬉しい誤算」「この世の中もまだまだ捨てたものじゃない」と思ったという(『NEWSポストセブン』記事による)。重大事件のたびに、悲しみや怒りや憤りを受け止めてきた私たちは、私たちそれぞれの力で、社会を緩やかに成熟させているのかもしれない』、「事件直後から「精神疾患と犯行を安易に結びつけないで」という注意喚起の声がSNSのあちこちに上がった」、確かに「社会」は「緩やかに成熟」しているようだ。
・『「精神障害者だから重大犯罪」 データに見るその信憑性 まず、「精神障害者だから重大な犯罪を起こす」という事実はあるのだろうか。 『平成30年版犯罪白書』をもとに、2017年の刑法犯と精神障害者による犯罪を整理したものが、以下の表だ。検挙された事件に対して、検挙された人のうち精神障害者等(知的障害者を含む)とその他の人々の比率を、「全犯罪」「殺人」「放火」「殺人+放火」「殺人と放火を除く」のそれぞれに対して求めたものだ。 殺人や放火の件数は減少傾向にあり、2017年も年間1500件に満たなかった。不幸にして、被害者や被害者家族になってしまった人々にとっては、「少ないから良い」と言える問題ではないけれども、そもそも件数が少ないことには留意が必要になりそうだ。 全犯罪のうち精神障害者によるものは非常に少なく、全体の1.5%にとどまる。殺人と放火に関しては精神障害者によって行われた比率が高く、殺人で13.4%、放火で18.7%、殺人と放火の合計で15.5%となる。とはいえ、これらの総件数がそもそも少ない上に、精神障害者ではない人々によって行われた件数のほうが圧倒的に多い(全犯罪で98.5%、殺人で86.6%、放火で81.3%、殺人+放火で84.5%)。 では、「精神障害者は犯罪を発生させやすい」と言えるだろうか。犯罪白書と統計の年次が揃わず恐縮だが、『平成30年版障害者白書』によれば、2016年、精神障害者(392.4万人)と知的障害者(108.2万人)の合計は500.6万人であった(犯罪白書では、「精神障害者等」に知的障害者が含まれるため、合計を計算)。障害者として公認されていない人々も多いため、精神障害と知的障害の重複を考慮しない限り、この人数が最少の見積もりとなる。 同年の日本の総人口は、1億2693.3万人であった。精神障害者でも知的障害者でもない人は1億2192.7人となる。これらのことから、精神障害者および知的障害者の犯罪者発生率を求めると0.07%、そのいずれでもない人からの犯罪者発生率は0.2%となる。つまり、精神障害者と知的障害者は犯罪者になりにくいのだ』、「精神障害者および知的障害者の犯罪者発生率を求めると0.07%」、「精神障害者と知的障害者は犯罪者になりにくい」、なるほど。
・『将来の犯罪につながるかは誰にも予見できない しかしながら、「ヤバい人を識別して隔離すれば、ヤバいことは起こらない」と確実に言えるのなら、話は異なってくる。2002年の池田小学校事件の後、この考え方を基本とした「心身喪失者等医療観察法」(以下、医療観察法)が制定され、2005年に施行開始されて、現在に至っている。 この法律の目的は、軽いものでも犯罪を発生させた精神障害者を「触法精神障害者」として治療することだ。しかし国会での審議において、将来を予見できるという可能性は否定され、趣旨が再犯予防から医療と福祉へと転換した経緯がある。) 問題は、今日の「落ちていた500円玉を拾ってネコババ」が、将来の重大犯罪につながるかどうかは、その人が精神障害者であろうがなかろうが、誰にも予見できないということだ。 しかし精神障害者である場合、医療観察法施設に入院させることが可能だ。懲役とは異なり、出所の見通しがあるわけではない。「人権侵害」という法曹や精神医療関係者からの批判は、当時も現在も続いている。 とはいえ、今回の京都の放火事件のA氏には、下着泥棒やコンビニ強盗の前科があり、実刑にも服してきた。「いずれかの時点で医療観察法が適用されていれば、今回の事件は予防できた」という考え方には、一定の説得力はありそうだ。医療観察法に対して肯定的ではない弁護士たちは、どう考えているだろうか』、人権侵害の恐れがある「予防」的措置には、慎重であるべきだ。
・『「二度と起きてほしくない」その希望を実現するには 障害者の状況に詳しく、日弁連や政府の委員会で長年にわたって活動している弁護士の池原毅和さんは、警察が逮捕の直後に行った情報公開と報道に「逮捕直後に疾患歴の正確性が確保できているか疑問があります」と釘をさす。 「精神科を受診した経歴、治療中という事実、精神疾患の診断名だけでは、概括的すぎます。犯罪行為との関係の有無は判断のしようがないはずです。けれども一般の方々は、『だから』『なるほど』と短絡的に、動機や犯行内容を理解しがちです。報道機関としては、犯罪との関連性を示せない情報は出さない対応や、『病歴や病名だけでは、ほとんど犯罪との関連性を検証できない』という医学的解説を加える必要があると思います」(池原さん) とはいえ、一般市民には知る権利がある。司法福祉分野の問題や刑事政策に取り組む弁護士の吉広慶子さんによれば、単純な解答はなく、「メディアによる報道は、国民の知る権利とプライバシー権との利益衡量になります」ということだ。 「捜査機関によるメディアへの情報提供には、捜査の都合や防犯など、数多くの意味合いが含まれることもあります。しかし、保護受給歴を警察が明らかにする必要性はないように思います。精神疾患の有無への言及も、精神鑑定など今後の方向性の説明に必要な範囲に限るべきではと思います」(吉広さん) しかし「もしも予防できるのであれば」という思いは、誰もが抱くことだろう。 「このような極めて稀な犯罪を防ぐために精神疾患の人を監視下に置くと、大量の“偽陽性者”を出してしまいます。精神疾患の判定自体、クリアなものではありません。いつの間にか、誰もが監視対象となり、多様性や寛容性を欠いた生きづらい社会になり、精神疾患者による問題行動は増加する可能性があります」(池原さん)』、「社会」の「多様性や寛容性」の維持はなんとしてでも守る必要がある。
・『「閉じ込めておけばよかった」で終わらせると何にもならない 予防の網に、誰もが絡め取られてしまう可能性はありそうだ。 「罪を犯す人には、社会的ステータスが高い人も、初犯の人も、精神疾患のない人もいます。長い人生で、精神的に、あるいは経済的に不安定な状態になることは、誰にでもあります。そのとき、極端な逸脱行動を取る前にシグナルを察知して、ケアできる体制を考えることが必要ではないでしょうか」(吉広さん) A氏は、数多くの近隣トラブルを抱えていたという。 「近隣は、『地域の厄介者』として『触らぬ神に祟りなし』という対応だったのではないでしょうか。もちろん、周囲の人々が何をしても、起きることは起きてしまう場合があります。でも、不安定だったAさんが安定するために、当時どういうフォローをなし得たのか。じっくり考えることが、今後に活きると思います。 今回、『やっぱり危ないやつだった』『なぜ放置しておいたんだ。閉じ込めておけばよかった』と騒いで終わりにしてしまうと、毎回同じ反応を繰り返すだけでしょう」(吉広さん) 悲惨さを言い表す言葉も思い浮かばない事件だ。だからこそ、これまでとは異なる考え方や方向性が求められていることは、確かであるように思われる』、実際には難しい問題だ。
第三に、昨年8月26日付けダイヤモンド・オンライン「「京都アニメーション放火事件」など続発する事件は「下級国民によるテロリズム」なのか?【橘玲の日々刻々】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/212972
・『死者35人、負傷者33人という多くの被害者を出した「京都アニメーション放火事件」は、放火や殺人というよりまぎれもない「テロ」です。しかし犯人は、いったい何の目的で「テロ」を行なったのでしょうか。 報道によれば、容疑者はさいたま市在住の41歳の男性で、2006年に下着泥棒で逮捕され、2012年にコンビニ強盗で収監されたあとは、生活保護を受けながら家賃4万円のアパートで暮らしていたとされます。事件の4日前に起こした近隣住民とのトラブルでは、相手の胸ぐらと髪をつかんで「殺すぞ。こっちは余裕ねえんだ」と恫喝し、7年前の逮捕勾留時には、部屋の壁にハンマーで大きな穴が開けられていたとも報じられています。 身柄を確保されたとき、容疑者は「小説をパクリやがって」と叫んだとされます。アニメーション会社は、容疑者と同姓同名の応募があり、一次審査を形式面で通過しなかったと説明しています。 ここからなんらかの被害妄想にとらわれていたことが疑われますが、精神疾患と犯罪を安易に結びつけることはできません。これは「人権問題」ではなく、そもそも重度の統合失調症では妄想や幻聴によって頭のなかが大混乱しているので、今回のような犯罪を計画し、実行するだけの心理的なエネルギーが残っていないのです。欧米の研究でも、精神疾患がアルコールやドラッグの乱用に結びついて犯罪に至ることはあっても、病気そのものを理由とする犯罪は一般よりはるかに少ないことがわかっています。 じつは、あらゆるテロに共通する犯人の要件がひとつあります。それが、「若い男」です。ISIS(イスラム国)にしても、欧米で続発する銃撃事件にしても、女性や子ども、高齢者が大量殺人を犯すことはありません。 これは生理学的には、男性ホルモンであるテストステロンが攻撃性や暴力性と結びつくことで説明されます。思春期になると男はテストステロンの濃度が急激に上がり、20代前半で最高になって、それ以降は年齢とともに下がっています。欧米の銃撃事件の犯人の年齢は、ほとんどがこの頂点付近にかたまっています。 日本の「特殊性」は、川崎のスクールバス殺傷事件の犯人が51歳、今回の京アニ放火事件の容疑者が41歳、元農水省事務次官長男刺殺事件の被害者が44歳など、世間に衝撃を与えた事件の関係者の年齢が欧米よりかなり上がっていることです。さまざまな調査で、20代の若者の「生活の充実度」や「幸福度」がかなり高いことがわかっています。日々の暮らしに満足していれば、「社会に復讐する」理由はありません。 このように考えると、日本の社会の歪みが「就職氷河期」と呼ばれた1990年代半ばから2000年代はじめに成人した世代に集中していることがわかります。当時、正社員になることができず、その後も非正規や無職として貧困に喘ぐ彼らは、ネットの世界では自らを「下級国民」と呼んでいます。とりわけ低所得の男性は結婚もできず、社会からも性愛からも排除されてしまいます。 この国で続発するさまざまな事件は、「下級国民のテロリズム」なのかもしれません。そんな話を、新刊の『上級国民/下級国民』で書いています』、「重度の統合失調症では妄想や幻聴によって頭のなかが大混乱しているので、今回のような犯罪を計画し、実行するだけの心理的なエネルギーが残っていない」、「日本の社会の歪みが「就職氷河期」と呼ばれた1990年代半ばから2000年代はじめに成人した世代に集中」、「当時、正社員になることができず、その後も非正規や無職として貧困に喘ぐ彼らは、ネットの世界では自らを「下級国民」と呼んでいます。とりわけ低所得の男性は結婚もできず、社会からも性愛からも排除」、「この国で続発するさまざまな事件は、「下級国民のテロリズム」なのかもしれません」、面白い見方で、特に「下級国民のテロリズム」とは言い得て妙だ。
第四に、本年1月20日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「“人を殺して死のうと思った”事件続発、「孤立を防げ」の連呼が逆に危険な理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/293752
・『少年が通っていた高校のコメントは「模倣犯」を生みやすい!? 東京大学前の歩道で高校生の男女と男性の3人が刃物で切りつけられた事件で、逮捕された17歳少年が通っている進学校の対応が称賛されている。 事件の翌日、「保護者・学校関係者の皆さんにご心配をおかけしたことについて、学校としてお詫びをします」というコメントを出すとともに、「勉学だけが学校生活のすべてではないというメッセージ」をコロナ禍で生徒たちに、しっかりと届けることができなかったと反省の弁まで述べたのだ。 これを受けて、ネットやSNS上で「学校側として言える最善のコメント」「危機管理体制がしっかりしている」などとベタ褒めされている。 仕事柄、多くの学校の危機管理に関わってきた経験がある筆者もこれにはまったく同感だ。誰に対して、何について謝罪をしているのかということも明確だし、反省から再発防止まで、紋切り型のコピペ文章ではなく自分たちの言葉でしっかりとまとめられている。 ただ、「学校の危機管理」ということをちょっと脇に置いて、「模倣犯を出さない」という視点から見ると、この高校の出したコメントはやや問題がある。次のように「言ってはいけないこと」まで言及してしまっているからだ。 <『密』をつくるなという社会風潮のなかで、個々の生徒が分断され、そのなかで孤立感を深めている生徒が存在しているのかもしれません。今回の事件も、事件に関わった本校生徒の身勝手な言動は、孤立感にさいなまれて自分しか見えていない状況のなかで引き起こされたものと思われます。> 「これのどこが悪い!教育者らしい的確な分析ではないか!」というお叱りを受けるかもしれないが、この手の事件が起きた際、「孤立によって引き起こされた」などと原因を推測したり、「孤立を防げ」などと声高に叫ぶことは、少年と同じような心理状態に陥っている人にかえって悪影響を及ぼす恐れがあるのだ。 見ず知らずの他人を傷つけているので「少年による刺傷事件」だと勘違いしている人も多いが、今回の少年がやったことは「拡大自殺」と呼ばれる自殺の形態のひとつだからだ』、「拡大自殺」とは初めて聞いた。
・『なぜ原因を推測で言ってはいけないのか メディアでもちょこちょこ報じられるようになったのでご存じの方も多いだろうが、「拡大自殺」というのは、人生に絶望したり、社会に憎悪を抱いたりした人が、無関係の人を大勢巻き込む形で自殺を図ることだ。昨年10月の京王線刺傷事件や、年末の大阪で24人が犠牲になったクリニック放火事件もこの「拡大自殺」だと言われている。 と聞くと、「やはり日本でも格差が広がって社会が分断されているからだ」と感じる人もいるだろうが、これは近年になって急にあらわれた現象ではない。 古くは昭和13年に、岡山県の山村で男が親族や近隣住民を次々と猟銃で殺害し、最後に自殺をした「津山30人殺し」なども、凶行前に遺書を準備していたことから「拡大自殺」だったと言われている。これ以降も、「死にたい!」と叫びながら、見ず知らずの人を切りつけるような「拡大自殺」事件は定期的に発生している。今回、事件を起こした17歳少年もその系譜である可能性が高い。「人を殺して罪悪感を背負って切腹しようと考えた」と言っているからだ。 さて、では今回の事件が「拡大自殺」だったとしたら、なぜ「孤立感にさいなまれて引き起こした」みたいに、原因を推測で言ってはいけないのか。 WHO(世界保健機関)の「自殺対策を推進するために メディア関係者に知ってもらいたい 基礎知識 2017年最新版」から引用しよう。 「有名人の死を報道する上で自殺の原因がすぐにはわからない場合は注意が必要である。有名人の死として考えられる原因を、メディアが不確かな情報に基づいて推測することで悪影響を及ぼす可能性がある」 どんな悪影響かというと「影響を受けやすい人による模倣」、つまりは後追い自殺だ。 例えば、有名人が自殺してメディアが「恋人に別れを告げられて絶望した」「育児ノイローゼが引き起こした」などと原因を憶測で報じてしまうと、その有名人のファンで、なおかつ失恋したり育児のノイローゼになっていたりする人は影響を受けて、亡くなった有名人と自分を重ねて、同じ行動に走ってしまうケースがあるのだ。 実際に、いのち支える自殺対策推進センターによれば昨年、2人の著名人が自殺してから10日間程度、自殺者数が急増しているという。特に衝撃的なのが次の分析だ。 「自殺日を含めた10日間で、約200人が女性俳優の自殺・自殺報道の影響を受けて亡くなった可能性がある」(厚生労働省 著名人の自殺に関する報道にあたってのお願い 令和3年12月19日)』、「自殺日を含めた10日間で、約200人が女性俳優の自殺・自殺報道の影響を受けて亡くなった可能性がある」、「著名人が自殺」した「原因を憶測で報じてしまうと、その有名人のファンで、なおかつ失恋したり育児のノイローゼになっていたりする人は影響を受けて、亡くなった有名人と自分を重ねて、同じ行動に走ってしまうケースがある」、気を付けるべきことのようだ。
・『「拡大自殺の後追い」が起こる可能性 さて、ここまで言えば、なぜ、今回の少年が東大前で他人を切りつけた原因を「孤立感にさいなまれて引き起こした」などと推測で語ることを避けるべきなのか、ご理解いただけたのではないか。 今回の少年がやったことは「拡大自殺」という自殺の一種なので、「模倣」や「後追い」を防ぐためには情報発信には細心の注意を払わなくてはいけない。有名人の自殺のようにセンセーショナルに報道をしてさまざまな憶測が飛び交うようであれば、当然「影響を受けやすい人による模倣」が引き起こされてしまうからだ。 例えば、今回のような事件でマスコミの“動機予想合戦”が繰り広げられて、「孤立感にさいなまれて自分しか見えていない状況のなかで引き起こされた」というストーリーが社会に広まったらどんなことが起きるか。 まず、少年と同じように「なりたいものになれない」「思うように生きられない」という境遇にある人や、孤立感にさいなまれている人はこのストーリーに関心を持つ。「あ、オレと同じかも」と自分と少年を重ねてしまう者も現れるだろう。 そうなれば次に起きるのは「模倣」だ。有名人の自殺に影響を受けて、同じように命を断つ人があらわれてしまうのと同じ現象だ。この少年のように精神的に追い込まれて、「もう死ぬしかない」という考えが頭によぎると、少年と同じアクションに走ってしまうのだ。 つまり、自分が死ぬため、たまたま目に入った人を殺すという「拡大自殺の後追い」である』、「拡大自殺の後追い」に巻き込まれた被害者こそ最大の被害者だ。
・『「拡大自殺」にも早急に報道ガイドラインを 今回の事件の原因を早々に「孤立感にさいなまれて自分しか見えていない状況のなかで引き起こされた」などと推測をしたり、「このような人がでないように孤立を防げ」と声高に叫んだりすることが、実はかなり危険な行為だということがおわかりいただけたと思う。しかし、ここで断っておきたいのは、コメントを出した高校を批判しているわけではないということだ。 確かに、事件の当事者でもない高校側が、捜査もしっかりと進んでいない発生翌日に、少年の心情や犯行に及んだ原因まで言及するというのは「蛇足」である。通常は「捜査に全面的に協力して、事実関係が判明し次第、ご説明します」くらいに留めるのが定石だ。 ただ、生徒や保護者の不安を一刻も早くとりのぞきたいという思いからしたことだと考えれば、そこまで責められない。多くの子どもがコロナ禍で孤立を感じているのは事実なので、「君たちは独りじゃないよ」としっかり言って励ますというのは、教育者という立場からは当然だ。問題はそんな「身内向けのメッセージ」を報道機関にまで発表してしまったことだ。 メディアというのは「拡声器」なので、発信者側の意図を無視して、強いワードをチョキンと切り取って、「わかりやすいストーリー」に落とし込む。例えば、次の通りだ。 ●「孤立し自分しか見えず」と高校 東大前刺傷事件で謝罪コメント(共同通信 1月16日) ●【東大刺傷】逮捕少年通う高校が謝罪「孤立感にさいなまれ引き起こされた」(日刊スポーツ 1月16日) こういうニュースが大量に拡散されれば、「孤立している人はあのような事件を起こしがちなんだな」と受け取る人が増えて、「孤立を防げ」の大合唱が始まる。一見すると、「孤立する人に手を差し伸べる機運が高まっている」ので良いことだと錯覚するが、それはあくまで「孤立していない人」の視点だ。 本当に孤立している人たちには心の余裕がないので、「わかりやすいストーリー」を示されたらそこに飛びついてしまう。つまり、「孤立している人が無差別殺人を起こしました」というニュースを朝から晩まで流されると、「孤立している人」は精神的に追いつめられる。そして、人によっては「あなたが進むべき道はこっちですよ」と暗示にかけられて誘導されてしまうのだ。 情報操作の世界では、これは「アナウンス効果」と呼ばれる。 自殺報道がまさしくこれだ。今はだいぶ自制してきたが、かつてマスコミは有名人が自殺をすると、それを1週間くらいぶっ続けで扱った。通夜、葬式、出棺まですべて中継し、自殺の手法をCGで詳しく解説した。家族や友人、幼なじみ、果てはなじみの店まで探して、店員や常連客にまで追悼コメントをしゃべらせて、ワイドショーのコメンテーターたちは、ああでもない、こうでもないと好き勝手に自殺の理由を推測していた。神妙な顔をしていたが、やっていることは完全に「祭り」だった。 マスコミ側は、「故人をしのぶ」「愛したファンのため」「このような悲劇を繰り返さない」ともっともらしいことを言って、自分たちの行いを正当化したが、なんのことはない。亡くなった有名人の熱心なファンや、自殺の動機だと推測されるようなことと同じ悩みを抱えている人たちに、「あなたが進む道はこっちですよ」と煽っていたのである。 海外から十数年遅れで、ようやく自殺報道はガイドライン遵守の動きが出てきた。「人を殺して死のうと思った」と他人を道連れにする「拡大自殺」にも、早急に報道ガイドラインが必要なのではないか』、厚労省の傘下の(社)いのち支える自殺対策推進センターは、下記のような啓発・提言等を行っている。
https://jscp.or.jp/action/
確かに「拡大自殺」にも対象を広げるべきだろう。
先ずは、2019年7月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した株式会社さくら事務所 マンション管理コンサルタントの土屋輝之氏による「京アニ放火事件で関心高まる「防火設備」、学ぶべき教訓は何か」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/209374
・『34人が死亡、34人が重軽傷という大惨事になった京都アニメーション放火事件。3階建てのビルが丸ごと焼けるという事態に、驚いた人も多いはずだ。京アニの建物の状況がどうだったのかは今後の検証を待たねばならないが、この未曾有の大火災からオフィスビルやマンションが学ぶべき教訓を考えてみよう』、興味深そうだ。
・『ホテルニュージャパン火災を超える死者が出てしまった 3階建てのビルが全焼した京アニ。34人もの死者を出すというのは、未曾有の大火事といっていい。過去、とりわけ規模が大きい火災が起きると、それを契機に消防法を見直す、という流れになってきた。例えば死者118人を出した1972年の大阪・千日デパート火災。1982年の東京・ホテルニュージャパン火災(死者33人)、さらに2001年の新宿・歌舞伎町ビル火災(同44人)などだ。 死者100人を超える千日デパート火災は別格としても、今回の京アニは、ホテルニュージャパン火災を超える死者が出てしまった。 もちろん、犯人がガソリンを撒いて火をつけるという暴挙に出たわけだから、通常の火災とは訳が違う。おそらく爆風が事務所内を駆け巡り、通常の火災以上に、中にいた人たちはパニックに陥ったはずだ。 しかし、この特殊要因を考慮に入れても、鉄筋コンクリートの建物で各フロアがあれほどの勢いで全焼するというのは、かなり考えにくい。本稿執筆時点(7月19日)での情報を見る限り、その一番大きな理由は、すでに多くのメディアで指摘されているように、1階から3階までを貫く、らせん階段があったこと、そして「区画」されていなかったため、と考えられる。 オフィスビルであれマンションであれ、防火シャッターや防火扉によってスペースを区切り、火の手が急激に広がらないような対策をするが、具体的な基準は「建物の用途」や「床面積」によって異なる。 オフィスビルの場合、不特定多数の人が訪れる場所ではなく社員たちは建物の中をよく知っているから、避難にはさほど手間取らないと考えられる。かつ、危険物を扱うような業務内容ではないだろうし、ごく小規模なビルである。これらを考えると、緩めの基準が適用されたはずで、吹き抜けた形状のらせん階段もOKが出たのだろう。もしもっと大きなビルであったり、用途が異なる場合であれば、こうした形状のらせん階段はNGだった可能性が高い。 そして、らせん階段部分に防火扉や防火シャッターがあって区画されていればまだしも、それがなかったとなると、らせん階段が炎や爆風の通り道となって、建物の内部全体があっという間に炎と煙に包まれても不思議ではない』、建物の構造について言及している数少ない記事だ。
・『避難階段から屋上に出られなかったのはなぜか? らせん階段や吹き抜けは開放感を演出できるので、戸建住宅でも多く設置されているが、各フロアが区画されず、連続性のある構造というのは、火の手が回るのも、煙が充満するのも極めて早い。防火の観点からは、かなり危険だといえるのだ。 もちろん、条件さえ満たしていれば、区画されないらせん階段を設置することは法令で認められている。しかし、「法令で認められているから絶対に安心」ではないのだ。ここに防火の難しさがある。 次に気になるのは、らせん階段とは別に屋上につながる階段が建物内にあったにもかかわらず、屋上に抜けるドアから外に出られなかったこと。各フロア別の死者数を見ると、19人とダントツで多いのは、3階から屋上に抜けるドア前の階段スペースだった。このドアが開かなかった理由は定かではないが、内部からカギが開くようにしていなければならないはずの場所だ。 そして、この階段は防火扉で区画されていたのか、もしそうなら防火区画として適切に機能していたか、今後検証すべきだろう。というのも、せっかく防火扉などが設置されているのに、扉の前にモノを置いているなどで正常に作動せず、大火災になった例が後を絶たないからだ。2013年に起きた福岡市整形外科医院火災(死者10人)でも、防火扉が閉まらないようにロープで固定されるなどして、作動しなかったことが明らかになった。 同じく、過去の火災事例では、せっかくの避難通路なのに、可燃性のモノを置いていたばかりに火の手が回ってしまい、逃げられなかったというケースも散見される』、「屋上に抜けるドアから外に出られなかったこと」、「この階段は防火扉で区画されていたのか、もしそうなら防火区画として適切に機能していたか、今後検証すべきだろう」、この点についての続報は見た記憶がない。
・『一般家庭や会社では何に注意すべきか? このような痛ましい大火災が起きると、自宅マンションや会社の防火態勢がどうなっているのか、気になる人は少なくないはずだ。 そこで、3つのことをご提案したい。 まずは日々の点検。これは建物の防火管理者を中心に行うものだが、避難経路や防火扉・防火シャッター前にモノを置いていないかをチェックするのだ。 前述したように、ここにモノが置いてあるばかりに防火扉が作動しなかったり、避難経路に可燃物が置いてあって火が燃え広がり、避難できなかった、という悲劇は繰り返されている。 そもそも防火扉や防火シャッターがどこに設置してあるのか、無頓着な人も多いはず。デパートなどでは、防火シャッターの下のスペースは赤いビニールテープなどで囲ってあったりする。「ここにモノを置くな」と注意を促すためである。防火管理者のみならず、社員や住人全員が、こうした意識を共有すべきである。 そして半年ごとの点検。これは、消防法など、法令に基づく設備の点検であり、必須であるのはいうまでもない。 さらに年に1度の避難訓練。避難経路を自分の目で確かめ、実際に通ってみたり、防火扉、防火シャッターの場所を確認するいい機会である。また、建物の防火システムがどのように作動するか、皆さんはご存じだろうか? 例えば、あるマンションでは、あるフロアで火災が起きた場合、火災報知機が鳴るのはそのフロアと、1つ上のフロアのみ。そしてエレベーターは避難階で停止し、エントランスの自動ドアは開かなくなる、という仕組みとなっている。これは外部から入ってくる人を食い止めるためで、住民は非常用出口(誘導灯で表示されている)から外に出られる。 こういう仕組みを知らないまま火事に遭遇した場合、エレベーターが止まったとパニックになった挙句、避難階段で転んで怪我をする、というような事態になりかねない。火災など災害時には、誰もが慌てて正常な判断が難しくなる。だからこそ、避難訓練で非常時のシミュレーションをすることはとても大切なのだ』、ロンドンはかつての大火の経験から「避難訓練」が義務付けられており、シティの近代的ビルでの「訓練」は壮観である。
・『隣戸に逃げる経路は確保できているか? また、マンションでは、非常時にはベランダに出て、隣戸との仕切りの板(「隔て板」と呼ぶ)を蹴破るなどして逃げるという避難経路が設定されているが、実はこの隔て板、意外と硬くて、非力な女性や高齢者、子どもの力では容易に蹴破れないことをご存じだろうか? ぜひ、避難訓練の際には、隔て板を蹴破ってみる機会も設けて、実際にどれくらい硬いかを、住民の皆さんで確かめていただきたい。最近では、蹴破るタイプではなく、レバーを回して板を外せるタイプも発売されている。大規模修繕に合わせて隔て板を交換するのも手だろう。 そして最後に煙対策。いざ火災に遭遇した場合、焼かれる以前に煙を吸い込んでしまい、一酸化炭素中毒で亡くなる方が少なくない。火災現場でもうもうと立ち上がる黒い煙で、人間はわずか1〜2分で簡単に意識を失い、死に至る。 もし不幸にしてそんな現場に遭遇してしまった場合には、ぜひビニール袋を口にあてて、袋の中で呼吸していただきたい。これで数分間は持ちこたえられるから、逃げるための時間稼ぎに有効だ。私は不測の事態に備えて、いつも財布の中にビニール袋を折りたたんで持ち歩いている。 京アニのケースのように、ガソリンを撒かれるという事態は、そうそう起きるものではない。しかし、火災の危険性はどんな建物でも少なからずある。「あのケースは特殊だった」で終わらせず、この事件から得るべき教訓を得ていただきたいと願う』、「ビニール袋を口にあてて、袋の中で呼吸していただきたい。これで数分間は持ちこたえられるから、逃げるための時間稼ぎに有効だ」、貴重なノウハウだ、出来るだけ「ビニール袋」を持ち歩くようにしよう。
次に、7月26日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したフリーランス・ライターのみわよしこ氏による「京アニ事件「犯人野放し」批判で検証、病歴と犯罪の知られざる関係性」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/209741
・『京アニ事件の疑問は増すばかり 社会は悲しみを乗り越えられるか 京都市伏見区にある「京都アニメーション」第1スタジオへの放火が報道されてから、1週間になる。心より、亡くなられた34名の方々のご冥福と、負傷された34名の方のご回復を祈りたい。 また、自身も火傷を負って重体と伝えられる容疑者・A氏(41歳)に対しても、1人の人間として回復を望む。できれば、回復後は適切なサポートのもとで取り調べを受け、人生と事件への歩み、そして自分の事件に対する思いを、自ら語ってほしい。 A氏と事件のディテールについての報道が重ねられるたびに、私は「とはいえ、なぜあんなことを?」という疑問が増えるばかりなのだ。 ちょうど1週間前の事件当日、仕事をしながら目に飛び込んでくる報道を時折り横目で見ながら、気になっていることがあった。身柄を確保されたA氏が、事件直後、「さいたま市在住の41歳の男」と報道されていたことだ。 警察は当然、実名と居住地と年齢を同時に把握していたはずだ。実名をメディアに公表することに対して警察が慎重な場合、考えられる可能性の1つは、本人の精神疾患や精神障害による人権への配慮だ。 ともあれ、事件当日の夜間から翌日にかけてA氏の実名報道が開始され、「精神的な疾患がある」「訪問看護を受けていた」「生活保護を受給していた」といった情報とともに拡散され始めた。SNSには、「なぜ野放しに?」「公金で生きさせる必要はなかった」といった意見が次々と現れ始めた。 精神障害を持つ当事者を主体に、誰もが地域で充実した暮らしを営める社会を実現するために活動してきた、「認定NPO法人地域精神保健福祉機構(コンボ)」という千葉県の団体がある。コンボは取材に対して「精神疾患のある人が事件に関与した場合、事件と精神疾患に関連性があるのかどうかが定まっていない時点でメディアは病歴を報じ、その内容がSNSで無軌道に拡散してしまいます。この状況を、大変憂慮しております」と答えた。 事件の翌々日にあたる7月20日、コンボは今回の事件報道に関する見解と、精神疾患を持つ当事者たちへのメッセージを公表している。 見解では、精神疾患という病歴を報道すると、事件の原因や動機という印象を与えたり、精神障害者は危険という偏見を助長したりすることが「過去の例から見て明らか」とされる。メッセージでは、怖れから外出もままならない辛い時間を乗り切るための知恵や、理解者や仲間に思いを受け止めてもらうことの重要性など、具体的で有益なアドバイスが並ぶ。身近に理解者や仲間がいない人々のために、思いを吐き出すフォームも設置された。 しかし、過去とは異なる成り行きも見受けられる。コラムニストのオバタカズユキ氏は、事件直後から「精神疾患と犯行を安易に結びつけないで」という注意喚起の声がSNSのあちこちに上がったのを発見し、「嬉しい誤算」「この世の中もまだまだ捨てたものじゃない」と思ったという(『NEWSポストセブン』記事による)。重大事件のたびに、悲しみや怒りや憤りを受け止めてきた私たちは、私たちそれぞれの力で、社会を緩やかに成熟させているのかもしれない』、「事件直後から「精神疾患と犯行を安易に結びつけないで」という注意喚起の声がSNSのあちこちに上がった」、確かに「社会」は「緩やかに成熟」しているようだ。
・『「精神障害者だから重大犯罪」 データに見るその信憑性 まず、「精神障害者だから重大な犯罪を起こす」という事実はあるのだろうか。 『平成30年版犯罪白書』をもとに、2017年の刑法犯と精神障害者による犯罪を整理したものが、以下の表だ。検挙された事件に対して、検挙された人のうち精神障害者等(知的障害者を含む)とその他の人々の比率を、「全犯罪」「殺人」「放火」「殺人+放火」「殺人と放火を除く」のそれぞれに対して求めたものだ。 殺人や放火の件数は減少傾向にあり、2017年も年間1500件に満たなかった。不幸にして、被害者や被害者家族になってしまった人々にとっては、「少ないから良い」と言える問題ではないけれども、そもそも件数が少ないことには留意が必要になりそうだ。 全犯罪のうち精神障害者によるものは非常に少なく、全体の1.5%にとどまる。殺人と放火に関しては精神障害者によって行われた比率が高く、殺人で13.4%、放火で18.7%、殺人と放火の合計で15.5%となる。とはいえ、これらの総件数がそもそも少ない上に、精神障害者ではない人々によって行われた件数のほうが圧倒的に多い(全犯罪で98.5%、殺人で86.6%、放火で81.3%、殺人+放火で84.5%)。 では、「精神障害者は犯罪を発生させやすい」と言えるだろうか。犯罪白書と統計の年次が揃わず恐縮だが、『平成30年版障害者白書』によれば、2016年、精神障害者(392.4万人)と知的障害者(108.2万人)の合計は500.6万人であった(犯罪白書では、「精神障害者等」に知的障害者が含まれるため、合計を計算)。障害者として公認されていない人々も多いため、精神障害と知的障害の重複を考慮しない限り、この人数が最少の見積もりとなる。 同年の日本の総人口は、1億2693.3万人であった。精神障害者でも知的障害者でもない人は1億2192.7人となる。これらのことから、精神障害者および知的障害者の犯罪者発生率を求めると0.07%、そのいずれでもない人からの犯罪者発生率は0.2%となる。つまり、精神障害者と知的障害者は犯罪者になりにくいのだ』、「精神障害者および知的障害者の犯罪者発生率を求めると0.07%」、「精神障害者と知的障害者は犯罪者になりにくい」、なるほど。
・『将来の犯罪につながるかは誰にも予見できない しかしながら、「ヤバい人を識別して隔離すれば、ヤバいことは起こらない」と確実に言えるのなら、話は異なってくる。2002年の池田小学校事件の後、この考え方を基本とした「心身喪失者等医療観察法」(以下、医療観察法)が制定され、2005年に施行開始されて、現在に至っている。 この法律の目的は、軽いものでも犯罪を発生させた精神障害者を「触法精神障害者」として治療することだ。しかし国会での審議において、将来を予見できるという可能性は否定され、趣旨が再犯予防から医療と福祉へと転換した経緯がある。) 問題は、今日の「落ちていた500円玉を拾ってネコババ」が、将来の重大犯罪につながるかどうかは、その人が精神障害者であろうがなかろうが、誰にも予見できないということだ。 しかし精神障害者である場合、医療観察法施設に入院させることが可能だ。懲役とは異なり、出所の見通しがあるわけではない。「人権侵害」という法曹や精神医療関係者からの批判は、当時も現在も続いている。 とはいえ、今回の京都の放火事件のA氏には、下着泥棒やコンビニ強盗の前科があり、実刑にも服してきた。「いずれかの時点で医療観察法が適用されていれば、今回の事件は予防できた」という考え方には、一定の説得力はありそうだ。医療観察法に対して肯定的ではない弁護士たちは、どう考えているだろうか』、人権侵害の恐れがある「予防」的措置には、慎重であるべきだ。
・『「二度と起きてほしくない」その希望を実現するには 障害者の状況に詳しく、日弁連や政府の委員会で長年にわたって活動している弁護士の池原毅和さんは、警察が逮捕の直後に行った情報公開と報道に「逮捕直後に疾患歴の正確性が確保できているか疑問があります」と釘をさす。 「精神科を受診した経歴、治療中という事実、精神疾患の診断名だけでは、概括的すぎます。犯罪行為との関係の有無は判断のしようがないはずです。けれども一般の方々は、『だから』『なるほど』と短絡的に、動機や犯行内容を理解しがちです。報道機関としては、犯罪との関連性を示せない情報は出さない対応や、『病歴や病名だけでは、ほとんど犯罪との関連性を検証できない』という医学的解説を加える必要があると思います」(池原さん) とはいえ、一般市民には知る権利がある。司法福祉分野の問題や刑事政策に取り組む弁護士の吉広慶子さんによれば、単純な解答はなく、「メディアによる報道は、国民の知る権利とプライバシー権との利益衡量になります」ということだ。 「捜査機関によるメディアへの情報提供には、捜査の都合や防犯など、数多くの意味合いが含まれることもあります。しかし、保護受給歴を警察が明らかにする必要性はないように思います。精神疾患の有無への言及も、精神鑑定など今後の方向性の説明に必要な範囲に限るべきではと思います」(吉広さん) しかし「もしも予防できるのであれば」という思いは、誰もが抱くことだろう。 「このような極めて稀な犯罪を防ぐために精神疾患の人を監視下に置くと、大量の“偽陽性者”を出してしまいます。精神疾患の判定自体、クリアなものではありません。いつの間にか、誰もが監視対象となり、多様性や寛容性を欠いた生きづらい社会になり、精神疾患者による問題行動は増加する可能性があります」(池原さん)』、「社会」の「多様性や寛容性」の維持はなんとしてでも守る必要がある。
・『「閉じ込めておけばよかった」で終わらせると何にもならない 予防の網に、誰もが絡め取られてしまう可能性はありそうだ。 「罪を犯す人には、社会的ステータスが高い人も、初犯の人も、精神疾患のない人もいます。長い人生で、精神的に、あるいは経済的に不安定な状態になることは、誰にでもあります。そのとき、極端な逸脱行動を取る前にシグナルを察知して、ケアできる体制を考えることが必要ではないでしょうか」(吉広さん) A氏は、数多くの近隣トラブルを抱えていたという。 「近隣は、『地域の厄介者』として『触らぬ神に祟りなし』という対応だったのではないでしょうか。もちろん、周囲の人々が何をしても、起きることは起きてしまう場合があります。でも、不安定だったAさんが安定するために、当時どういうフォローをなし得たのか。じっくり考えることが、今後に活きると思います。 今回、『やっぱり危ないやつだった』『なぜ放置しておいたんだ。閉じ込めておけばよかった』と騒いで終わりにしてしまうと、毎回同じ反応を繰り返すだけでしょう」(吉広さん) 悲惨さを言い表す言葉も思い浮かばない事件だ。だからこそ、これまでとは異なる考え方や方向性が求められていることは、確かであるように思われる』、実際には難しい問題だ。
第三に、昨年8月26日付けダイヤモンド・オンライン「「京都アニメーション放火事件」など続発する事件は「下級国民によるテロリズム」なのか?【橘玲の日々刻々】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/212972
・『死者35人、負傷者33人という多くの被害者を出した「京都アニメーション放火事件」は、放火や殺人というよりまぎれもない「テロ」です。しかし犯人は、いったい何の目的で「テロ」を行なったのでしょうか。 報道によれば、容疑者はさいたま市在住の41歳の男性で、2006年に下着泥棒で逮捕され、2012年にコンビニ強盗で収監されたあとは、生活保護を受けながら家賃4万円のアパートで暮らしていたとされます。事件の4日前に起こした近隣住民とのトラブルでは、相手の胸ぐらと髪をつかんで「殺すぞ。こっちは余裕ねえんだ」と恫喝し、7年前の逮捕勾留時には、部屋の壁にハンマーで大きな穴が開けられていたとも報じられています。 身柄を確保されたとき、容疑者は「小説をパクリやがって」と叫んだとされます。アニメーション会社は、容疑者と同姓同名の応募があり、一次審査を形式面で通過しなかったと説明しています。 ここからなんらかの被害妄想にとらわれていたことが疑われますが、精神疾患と犯罪を安易に結びつけることはできません。これは「人権問題」ではなく、そもそも重度の統合失調症では妄想や幻聴によって頭のなかが大混乱しているので、今回のような犯罪を計画し、実行するだけの心理的なエネルギーが残っていないのです。欧米の研究でも、精神疾患がアルコールやドラッグの乱用に結びついて犯罪に至ることはあっても、病気そのものを理由とする犯罪は一般よりはるかに少ないことがわかっています。 じつは、あらゆるテロに共通する犯人の要件がひとつあります。それが、「若い男」です。ISIS(イスラム国)にしても、欧米で続発する銃撃事件にしても、女性や子ども、高齢者が大量殺人を犯すことはありません。 これは生理学的には、男性ホルモンであるテストステロンが攻撃性や暴力性と結びつくことで説明されます。思春期になると男はテストステロンの濃度が急激に上がり、20代前半で最高になって、それ以降は年齢とともに下がっています。欧米の銃撃事件の犯人の年齢は、ほとんどがこの頂点付近にかたまっています。 日本の「特殊性」は、川崎のスクールバス殺傷事件の犯人が51歳、今回の京アニ放火事件の容疑者が41歳、元農水省事務次官長男刺殺事件の被害者が44歳など、世間に衝撃を与えた事件の関係者の年齢が欧米よりかなり上がっていることです。さまざまな調査で、20代の若者の「生活の充実度」や「幸福度」がかなり高いことがわかっています。日々の暮らしに満足していれば、「社会に復讐する」理由はありません。 このように考えると、日本の社会の歪みが「就職氷河期」と呼ばれた1990年代半ばから2000年代はじめに成人した世代に集中していることがわかります。当時、正社員になることができず、その後も非正規や無職として貧困に喘ぐ彼らは、ネットの世界では自らを「下級国民」と呼んでいます。とりわけ低所得の男性は結婚もできず、社会からも性愛からも排除されてしまいます。 この国で続発するさまざまな事件は、「下級国民のテロリズム」なのかもしれません。そんな話を、新刊の『上級国民/下級国民』で書いています』、「重度の統合失調症では妄想や幻聴によって頭のなかが大混乱しているので、今回のような犯罪を計画し、実行するだけの心理的なエネルギーが残っていない」、「日本の社会の歪みが「就職氷河期」と呼ばれた1990年代半ばから2000年代はじめに成人した世代に集中」、「当時、正社員になることができず、その後も非正規や無職として貧困に喘ぐ彼らは、ネットの世界では自らを「下級国民」と呼んでいます。とりわけ低所得の男性は結婚もできず、社会からも性愛からも排除」、「この国で続発するさまざまな事件は、「下級国民のテロリズム」なのかもしれません」、面白い見方で、特に「下級国民のテロリズム」とは言い得て妙だ。
第四に、本年1月20日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「“人を殺して死のうと思った”事件続発、「孤立を防げ」の連呼が逆に危険な理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/293752
・『少年が通っていた高校のコメントは「模倣犯」を生みやすい!? 東京大学前の歩道で高校生の男女と男性の3人が刃物で切りつけられた事件で、逮捕された17歳少年が通っている進学校の対応が称賛されている。 事件の翌日、「保護者・学校関係者の皆さんにご心配をおかけしたことについて、学校としてお詫びをします」というコメントを出すとともに、「勉学だけが学校生活のすべてではないというメッセージ」をコロナ禍で生徒たちに、しっかりと届けることができなかったと反省の弁まで述べたのだ。 これを受けて、ネットやSNS上で「学校側として言える最善のコメント」「危機管理体制がしっかりしている」などとベタ褒めされている。 仕事柄、多くの学校の危機管理に関わってきた経験がある筆者もこれにはまったく同感だ。誰に対して、何について謝罪をしているのかということも明確だし、反省から再発防止まで、紋切り型のコピペ文章ではなく自分たちの言葉でしっかりとまとめられている。 ただ、「学校の危機管理」ということをちょっと脇に置いて、「模倣犯を出さない」という視点から見ると、この高校の出したコメントはやや問題がある。次のように「言ってはいけないこと」まで言及してしまっているからだ。 <『密』をつくるなという社会風潮のなかで、個々の生徒が分断され、そのなかで孤立感を深めている生徒が存在しているのかもしれません。今回の事件も、事件に関わった本校生徒の身勝手な言動は、孤立感にさいなまれて自分しか見えていない状況のなかで引き起こされたものと思われます。> 「これのどこが悪い!教育者らしい的確な分析ではないか!」というお叱りを受けるかもしれないが、この手の事件が起きた際、「孤立によって引き起こされた」などと原因を推測したり、「孤立を防げ」などと声高に叫ぶことは、少年と同じような心理状態に陥っている人にかえって悪影響を及ぼす恐れがあるのだ。 見ず知らずの他人を傷つけているので「少年による刺傷事件」だと勘違いしている人も多いが、今回の少年がやったことは「拡大自殺」と呼ばれる自殺の形態のひとつだからだ』、「拡大自殺」とは初めて聞いた。
・『なぜ原因を推測で言ってはいけないのか メディアでもちょこちょこ報じられるようになったのでご存じの方も多いだろうが、「拡大自殺」というのは、人生に絶望したり、社会に憎悪を抱いたりした人が、無関係の人を大勢巻き込む形で自殺を図ることだ。昨年10月の京王線刺傷事件や、年末の大阪で24人が犠牲になったクリニック放火事件もこの「拡大自殺」だと言われている。 と聞くと、「やはり日本でも格差が広がって社会が分断されているからだ」と感じる人もいるだろうが、これは近年になって急にあらわれた現象ではない。 古くは昭和13年に、岡山県の山村で男が親族や近隣住民を次々と猟銃で殺害し、最後に自殺をした「津山30人殺し」なども、凶行前に遺書を準備していたことから「拡大自殺」だったと言われている。これ以降も、「死にたい!」と叫びながら、見ず知らずの人を切りつけるような「拡大自殺」事件は定期的に発生している。今回、事件を起こした17歳少年もその系譜である可能性が高い。「人を殺して罪悪感を背負って切腹しようと考えた」と言っているからだ。 さて、では今回の事件が「拡大自殺」だったとしたら、なぜ「孤立感にさいなまれて引き起こした」みたいに、原因を推測で言ってはいけないのか。 WHO(世界保健機関)の「自殺対策を推進するために メディア関係者に知ってもらいたい 基礎知識 2017年最新版」から引用しよう。 「有名人の死を報道する上で自殺の原因がすぐにはわからない場合は注意が必要である。有名人の死として考えられる原因を、メディアが不確かな情報に基づいて推測することで悪影響を及ぼす可能性がある」 どんな悪影響かというと「影響を受けやすい人による模倣」、つまりは後追い自殺だ。 例えば、有名人が自殺してメディアが「恋人に別れを告げられて絶望した」「育児ノイローゼが引き起こした」などと原因を憶測で報じてしまうと、その有名人のファンで、なおかつ失恋したり育児のノイローゼになっていたりする人は影響を受けて、亡くなった有名人と自分を重ねて、同じ行動に走ってしまうケースがあるのだ。 実際に、いのち支える自殺対策推進センターによれば昨年、2人の著名人が自殺してから10日間程度、自殺者数が急増しているという。特に衝撃的なのが次の分析だ。 「自殺日を含めた10日間で、約200人が女性俳優の自殺・自殺報道の影響を受けて亡くなった可能性がある」(厚生労働省 著名人の自殺に関する報道にあたってのお願い 令和3年12月19日)』、「自殺日を含めた10日間で、約200人が女性俳優の自殺・自殺報道の影響を受けて亡くなった可能性がある」、「著名人が自殺」した「原因を憶測で報じてしまうと、その有名人のファンで、なおかつ失恋したり育児のノイローゼになっていたりする人は影響を受けて、亡くなった有名人と自分を重ねて、同じ行動に走ってしまうケースがある」、気を付けるべきことのようだ。
・『「拡大自殺の後追い」が起こる可能性 さて、ここまで言えば、なぜ、今回の少年が東大前で他人を切りつけた原因を「孤立感にさいなまれて引き起こした」などと推測で語ることを避けるべきなのか、ご理解いただけたのではないか。 今回の少年がやったことは「拡大自殺」という自殺の一種なので、「模倣」や「後追い」を防ぐためには情報発信には細心の注意を払わなくてはいけない。有名人の自殺のようにセンセーショナルに報道をしてさまざまな憶測が飛び交うようであれば、当然「影響を受けやすい人による模倣」が引き起こされてしまうからだ。 例えば、今回のような事件でマスコミの“動機予想合戦”が繰り広げられて、「孤立感にさいなまれて自分しか見えていない状況のなかで引き起こされた」というストーリーが社会に広まったらどんなことが起きるか。 まず、少年と同じように「なりたいものになれない」「思うように生きられない」という境遇にある人や、孤立感にさいなまれている人はこのストーリーに関心を持つ。「あ、オレと同じかも」と自分と少年を重ねてしまう者も現れるだろう。 そうなれば次に起きるのは「模倣」だ。有名人の自殺に影響を受けて、同じように命を断つ人があらわれてしまうのと同じ現象だ。この少年のように精神的に追い込まれて、「もう死ぬしかない」という考えが頭によぎると、少年と同じアクションに走ってしまうのだ。 つまり、自分が死ぬため、たまたま目に入った人を殺すという「拡大自殺の後追い」である』、「拡大自殺の後追い」に巻き込まれた被害者こそ最大の被害者だ。
・『「拡大自殺」にも早急に報道ガイドラインを 今回の事件の原因を早々に「孤立感にさいなまれて自分しか見えていない状況のなかで引き起こされた」などと推測をしたり、「このような人がでないように孤立を防げ」と声高に叫んだりすることが、実はかなり危険な行為だということがおわかりいただけたと思う。しかし、ここで断っておきたいのは、コメントを出した高校を批判しているわけではないということだ。 確かに、事件の当事者でもない高校側が、捜査もしっかりと進んでいない発生翌日に、少年の心情や犯行に及んだ原因まで言及するというのは「蛇足」である。通常は「捜査に全面的に協力して、事実関係が判明し次第、ご説明します」くらいに留めるのが定石だ。 ただ、生徒や保護者の不安を一刻も早くとりのぞきたいという思いからしたことだと考えれば、そこまで責められない。多くの子どもがコロナ禍で孤立を感じているのは事実なので、「君たちは独りじゃないよ」としっかり言って励ますというのは、教育者という立場からは当然だ。問題はそんな「身内向けのメッセージ」を報道機関にまで発表してしまったことだ。 メディアというのは「拡声器」なので、発信者側の意図を無視して、強いワードをチョキンと切り取って、「わかりやすいストーリー」に落とし込む。例えば、次の通りだ。 ●「孤立し自分しか見えず」と高校 東大前刺傷事件で謝罪コメント(共同通信 1月16日) ●【東大刺傷】逮捕少年通う高校が謝罪「孤立感にさいなまれ引き起こされた」(日刊スポーツ 1月16日) こういうニュースが大量に拡散されれば、「孤立している人はあのような事件を起こしがちなんだな」と受け取る人が増えて、「孤立を防げ」の大合唱が始まる。一見すると、「孤立する人に手を差し伸べる機運が高まっている」ので良いことだと錯覚するが、それはあくまで「孤立していない人」の視点だ。 本当に孤立している人たちには心の余裕がないので、「わかりやすいストーリー」を示されたらそこに飛びついてしまう。つまり、「孤立している人が無差別殺人を起こしました」というニュースを朝から晩まで流されると、「孤立している人」は精神的に追いつめられる。そして、人によっては「あなたが進むべき道はこっちですよ」と暗示にかけられて誘導されてしまうのだ。 情報操作の世界では、これは「アナウンス効果」と呼ばれる。 自殺報道がまさしくこれだ。今はだいぶ自制してきたが、かつてマスコミは有名人が自殺をすると、それを1週間くらいぶっ続けで扱った。通夜、葬式、出棺まですべて中継し、自殺の手法をCGで詳しく解説した。家族や友人、幼なじみ、果てはなじみの店まで探して、店員や常連客にまで追悼コメントをしゃべらせて、ワイドショーのコメンテーターたちは、ああでもない、こうでもないと好き勝手に自殺の理由を推測していた。神妙な顔をしていたが、やっていることは完全に「祭り」だった。 マスコミ側は、「故人をしのぶ」「愛したファンのため」「このような悲劇を繰り返さない」ともっともらしいことを言って、自分たちの行いを正当化したが、なんのことはない。亡くなった有名人の熱心なファンや、自殺の動機だと推測されるようなことと同じ悩みを抱えている人たちに、「あなたが進む道はこっちですよ」と煽っていたのである。 海外から十数年遅れで、ようやく自殺報道はガイドライン遵守の動きが出てきた。「人を殺して死のうと思った」と他人を道連れにする「拡大自殺」にも、早急に報道ガイドラインが必要なのではないか』、厚労省の傘下の(社)いのち支える自殺対策推進センターは、下記のような啓発・提言等を行っている。
https://jscp.or.jp/action/
確かに「拡大自殺」にも対象を広げるべきだろう。
タグ:(その1)(京アニ放火事件で関心高まる「防火設備」 学ぶべき教訓は何か、京アニ事件「犯人野放し」批判で検証 病歴と犯罪の知られざる関係性、「京都アニメーション放火事件」など続発する事件は「下級国民によるテロリズム」なのか?、“人を殺して死のうと思った”事件続発 「孤立を防げ」の連呼が逆に危険な理由) ダイヤモンド・オンライン 建物の構造について言及している数少ない記事だ。 土屋輝之氏による「京アニ放火事件で関心高まる「防火設備」、学ぶべき教訓は何か」 ロンドンはかつての大火の経験から「避難訓練」が義務付けられており、シティの近代的ビルでの「訓練」は壮観である。 「屋上に抜けるドアから外に出られなかったこと」、「この階段は防火扉で区画されていたのか、もしそうなら防火区画として適切に機能していたか、今後検証すべきだろう」、この点についての続報は見た記憶がない。 人権侵害の恐れがある「予防」的措置には、慎重であるべきだ。 「精神障害者および知的障害者の犯罪者発生率を求めると0.07%」、「精神障害者と知的障害者は犯罪者になりにくい」、なるほど。 「事件直後から「精神疾患と犯行を安易に結びつけないで」という注意喚起の声がSNSのあちこちに上がった」、確かに「社会」は「緩やかに成熟」しているようだ。 みわよしこ氏による「京アニ事件「犯人野放し」批判で検証、病歴と犯罪の知られざる関係性」 「ビニール袋を口にあてて、袋の中で呼吸していただきたい。これで数分間は持ちこたえられるから、逃げるための時間稼ぎに有効だ」、貴重なノウハウだ、出来るだけ「ビニール袋」を持ち歩くようにしよう。 実際には難しい問題だ。 「社会」の「多様性や寛容性」の維持はなんとしてでも守る必要がある。 窪田順生氏による「“人を殺して死のうと思った”事件続発、「孤立を防げ」の連呼が逆に危険な理由」 「重度の統合失調症では妄想や幻聴によって頭のなかが大混乱しているので、今回のような犯罪を計画し、実行するだけの心理的なエネルギーが残っていない」、「日本の社会の歪みが「就職氷河期」と呼ばれた1990年代半ばから2000年代はじめに成人した世代に集中」、「当時、正社員になることができず、その後も非正規や無職として貧困に喘ぐ彼らは、ネットの世界では自らを「下級国民」と呼んでいます。とりわけ低所得の男性は結婚もできず、社会からも性愛からも排除」、「この国で続発するさまざまな事件は、「下級国民のテロリズム」なのか ダイヤモンド・オンライン「「京都アニメーション放火事件」など続発する事件は「下級国民によるテロリズム」なのか?【橘玲の日々刻々】」 「拡大自殺」とは初めて聞いた。 「拡大自殺の後追い」に巻き込まれた被害者こそ最大の被害者だ。 「自殺日を含めた10日間で、約200人が女性俳優の自殺・自殺報道の影響を受けて亡くなった可能性がある」、「著名人が自殺」した「原因を憶測で報じてしまうと、その有名人のファンで、なおかつ失恋したり育児のノイローゼになっていたりする人は影響を受けて、亡くなった有名人と自分を重ねて、同じ行動に走ってしまうケースがある」、気を付けるべきことのようだ。 WHO(世界保健機関)の「自殺対策を推進するために メディア関係者に知ってもらいたい 基礎知識 2017年最新版」 厚労省の傘下の(社)いのち支える自殺対策推進センターは、下記のような啓発・提言等を行っている。 https://jscp.or.jp/action/ 確かに「拡大自殺」にも対象を広げるべきだろう。 事件一般