金融業界(その13)(ついに新生銀行を手に入れたが…SBI「第4のメガバンク構想」に立ちはだかる深刻な問題 実現する前に地銀の体力がもつのか、2022年地銀再編を促すキーファクター MUFGやSBIの動向は?、「言うべきことを言わない」と金融庁が糾弾したみずほ銀行から学べる本当の教訓) [金融]
金融業界については、昨年11月17日に取上げた。今日は、(その13)(ついに新生銀行を手に入れたが…SBI「第4のメガバンク構想」に立ちはだかる深刻な問題 実現する前に地銀の体力がもつのか、2022年地銀再編を促すキーファクター MUFGやSBIの動向は?、「言うべきことを言わない」と金融庁が糾弾したみずほ銀行から学べる本当の教訓)である。
先ずは、昨年12月20日付けPRESIDENT Onlineが掲載した法政大学大学院 教授の真壁 昭夫氏による「ついに新生銀行を手に入れたが…SBI「第4のメガバンク構想」に立ちはだかる深刻な問題 実現する前に地銀の体力がもつのか」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/52943
・『“第4のメガバンク”実現へついに動き出す 12月11日、SBIホールディングスとSBI地銀ホールディングス(以下SBI)は、新生銀行に対して実施した株式公開買い付け(TOB)が成立したと発表した。TOBで議決権比率は47.77%に達し、SBIは新生銀行を連結子会社化する。 今回のTOBは、基本的にSBIが“第4のメガバンク”を目指す重要な取り組みとみられる。SBIは地方銀行8行と戦略的資本・業務提携を結び、金融商品ラインナップの拡充などを進めている。SBIは、そこに新生銀行の消費者金融や有価証券関連のビジネスを結び付けることで収益を拡大し、大手メガバンク3行に伍する金融ビジネスの確立を狙っているのだろう。各地方銀行と新生銀行の協業が加速すれば、SBIの銀行ビジネスは相応の成果を上げることができそうだ。 ただ、そこにリスクがあることは忘れてはならない。特に、わが国の超低金利環境は長期化する可能性が高い。それによって提携する地方銀行の経営体力が低下し、期待したほど収益力が上向かない展開も想定される。早期の成果実現に向けてSBIがどのように銀行ビジネスの効率性向上に取り組むかが注目される。SBIの取り組み次第では、銀行業界での再編が加速する展開もあるかもしれない』、今回のTOB劇では、「新生銀行」の企業価値が、公的資金を返済できるところまで向上するかが最も重要なポイントであって、「SBI」の「“第4のメガバンク”実現」は実は二義的問題である。
・『政府の「買収防衛策反対」が決定打に SBIによるTOB成立に決定的な影響を与えたのは、政府(金融庁や新生銀行の株式を保有する預金保険機構など)が、新生銀行が成立を目指した買収防衛策に賛成しなかったことだ。 これまでの経緯を簡単に振り返ると、9月上旬にSBIは新生銀行に対するTOBを発表した。10月に入ると、新生銀行はTOBに条件付きで反対すると正式に発表し、11月下旬に臨時の株主総会を開催して買収防衛策の発動をめざした。その時点で、SBIによるTOBは敵対的なものに発展した。また、新生銀行は買収者から自行を助けてくれる“白馬の騎士(ホワイトナイト、友好的な買収者を指す)”の獲得も目指したが、ホワイトナイトは現れなかった。 11月に入ると状況は大きく変わった。新生銀行の株式の約2割を保有する政府が買収防衛策の発動に賛成しない方針を固めたのだ。その結果、新生銀行は買収防衛策を撤回し、SBIによるTOBが成立するに至った』、「新生銀行」が「公的資金返済」のメドも示さず、単純な「買収防衛策」発動を目指しても、「公的資金返済」を強く求めている「政府」にとっては、「賛成しない」のは当然であろう。
・『約3500億円もの公的資金を回収したい 政府が賛成しなかった理由の一つは、新生銀行の買収防衛策がすべての株主を公平に扱っているとはいいがたいとの判断があったからだろう。12月13日に預金保険機構が新生銀行の買収防衛策に「正当かというと疑義が残ると言わざるを得ない」との見解を示したのは、そうした認識の表れといえる。 また、政府は、旧日本長期信用銀行時代に注入した公的資金(約3500億円)を回収したい。政府は新生銀行に民間の一上場企業として独り立ちしてもらいたい。しかし、これまでの経営の実績や経営計画を振り返ると、公的資金返済のめどはたっていない。その一方で、SBIは積極的な買収・提携戦略やデジタル技術の活用などによって急速に証券や銀行ビジネスの成長を実現してきた。経済合理性の観点から考えると、SBIの提案は政府などの株主に新生銀行のさらなる成長期待を与えただろう。 以上の内容から政府は新生銀行の買収防衛策に反対したと考えられる。同様の判断から一部の投資ファンドも新生銀行が一時目指した買収防衛策に疑義を持ったようだ』、公的資金3500億円分は1株7500円で普通株に転換されているので、政府が損を出さずに売却できるためには、株価が1株7500円以上になっている必要があるが、現実の株価は2078円と1/3以下と程遠い。SBIの剛腕をもってしても、かなり難しそうだ。
・『超低金利環境で地銀はどこも厳しいが… 新生銀行買収によって、SBIが掲げる第4のメガバンク構想は相応の成果を上げる可能性が高まった。最も重要なことは、買収によって提携する地方銀行、および新生銀行のビジネスチャンス拡大が見込まれることだ。 わが国では、ゼロ金利政策などを背景に超低金利環境が続き、地方銀行の収益環境は厳しさを増している。特に、銀行の重要な収益源である短期と長期の金利差は縮小傾向で推移してきた。2000年1月初旬の10年国債の流通利回り(長期金利)と無担保コール翌日物金利の差は1.7ポイント程度あった(長期金利が1.7%、翌実物の金利がほぼゼロ)。 その後、日本銀行は金融緩和策を強化し2001年から量的緩和政策が実施された。リーマンショック後も日本銀行は緩和的な金融政策を続けた。2013年4月以降は異次元の金融緩和の実施によって長短の金利差は一段と縮小した。足許の長短金利差は0.10%程度だ。銀行が預金を集め、中長期の資金を貸し出すことによって利ザヤを稼ぐことは難しくなっている』、こうした「異次元の金融緩和」の副作用は深刻だ。
・『カードローン事業で収益源を増やしたい その一方で、企業は内部に資金をため込み、借り入れのニーズが少ない。財務省が発表する年次別法人企業統計調査によると2020年度末の金融と保険業を除くわが国企業の利益剰余金(新聞報道などで内部留保と呼ばれる)は約484兆円の過去最高に達した。コロナ禍の発生によって一時的に資金需要が増えた場面はあったが、わが国企業全体として資金需要は弱い。 銀行にとって、資金を貸したくても、借りてくれる企業は少ない。結果的に、多くの地方銀行が投資信託の販売などによって収益を得なければならなくなっている。経営体力が相対的に小さい地方銀行が自力で成長期待が相対的に高い海外事業を強化し、海外企業への信用供与などに取り組むことも難しい。 SBIと提携する地方銀行にとって、相対的に厚い利ザヤが期待されるカードローン事業で新生銀行と協業することは、収益源の多角化につながる。新生銀行の証券化商品ビジネスも、地方銀行の収益獲得に資す可能性がある。新生銀行にとっても、地方銀行との協業の強化によって、地域ブランド創生などビジネスチャンスは増えるだろう』、もともと「新生銀行」など長期信用系の銀行は、「地方銀行」とのつながりは強かった。しかも「新生銀行」は傘下に消費者金融事業を抱えているだけに、「カードローン事業」での「協業」は上手くいく可能性がある。
・『第4のメガバンク構想に立ちはだかる問題 ただし、SBIの第4のメガバンク構想が想定通りの成果につながらないリスクはある。その一つが、超低金利環境が長引き、想定外に地方銀行の経営体力が低下する展開だ。 SBIが地方銀行との提携を増やした根底には、急速に地方銀行の経営体力が低下する可能性は低いとの見方があるはずだ。その見方に基づき、まずはデジタル技術の導入などによって地方銀行の事業運営の効率性を高める。そのうえでSBIは新生銀行のノウハウを持ち込むことによって銀行ビジネスの成長を加速させたい。 その事業戦略にとって、超低金利環境の長期化の影響は軽視できない。わが国では人口の減少などによって経済の縮小均衡化が加速している。本来であれば、政府はエネルギー政策の転換を急いで新しい産業の創生に取り組まなければならないが、今のところ岸田政権にはそうした考えが見られない。経済全体で新しい需要の創出を目指した取り組みが加速する展開は期待しづらい』、「エネルギー政策の転換を急いで新しい産業の創生」、など夢物語でしかない。
・『カードローン事業で収益源を増やしたい その一方で、企業は内部に資金をため込み、借り入れのニーズが少ない。財務省が発表する年次別法人企業統計調査によると2020年度末の金融と保険業を除くわが国企業の利益剰余金(新聞報道などで内部留保と呼ばれる)は約484兆円の過去最高に達した。コロナ禍の発生によって一時的に資金需要が増えた場面はあったが、わが国企業全体として資金需要は弱い。 銀行にとって、資金を貸したくても、借りてくれる企業は少ない。結果的に、多くの地方銀行が投資信託の販売などによって収益を得なければならなくなっている。経営体力が相対的に小さい地方銀行が自力で成長期待が相対的に高い海外事業を強化し、海外企業への信用供与などに取り組むことも難しい。 SBIと提携する地方銀行にとって、相対的に厚い利ザヤが期待されるカードローン事業で新生銀行と協業することは、収益源の多角化につながる。新生銀行の証券化商品ビジネスも、地方銀行の収益獲得に資す可能性がある。新生銀行にとっても、地方銀行との協業の強化によって、地域ブランド創生などビジネスチャンスは増えるだろう』、「新生銀行」はもともとつながりがある「地方銀行」との「協業」はかなりやっていた筈で、さらに追加的にどの程度「強化」できるかは疑問だ。
・『第4のメガバンク構想に立ちはだかる問題 ただし、SBIの第4のメガバンク構想が想定通りの成果につながらないリスクはある。その一つが、超低金利環境が長引き、想定外に地方銀行の経営体力が低下する展開だ。 SBIが地方銀行との提携を増やした根底には、急速に地方銀行の経営体力が低下する可能性は低いとの見方があるはずだ。その見方に基づき、まずはデジタル技術の導入などによって地方銀行の事業運営の効率性を高める。そのうえでSBIは新生銀行のノウハウを持ち込むことによって銀行ビジネスの成長を加速させたい。 その事業戦略にとって、超低金利環境の長期化の影響は軽視できない。わが国では人口の減少などによって経済の縮小均衡化が加速している。本来であれば、政府はエネルギー政策の転換を急いで新しい産業の創生に取り組まなければならないが、今のところ岸田政権にはそうした考えが見られない。経済全体で新しい需要の創出を目指した取り組みが加速する展開は期待しづらい』、なるほど。
・『企業のアニマルスピリットにどう影響するか そのため、成長期待が高まって資金需要が盛り上がる展開を想定することは難しい。日本銀行が異次元の金融緩和を続ける可能性は高い。かなりの期間にわたって国内の長短の金利差は足許のような低水準で推移する、あるいはさらに縮小することが考えられる。それに加えて、地域によっては急速に過疎化が進行し、都市部以上のスピードで資金需要が低下することも考えられる。 その結果としてデジタル技術導入によるコスト削減や新生銀行のカードローンビジネスによる収益強化などのシナジー効果が発揮されるよりも前に、地方銀行の経営体力が弱まる展開は排除できない。その場合、SBIの銀行ビジネスが持続的に収益を獲得することは難しくなる恐れがある。 そうしたリスクに対応するために、SBIは新生銀行と地方銀行の協業強化を急ぐだろう。それに加えて、SBIは傘下の銀行勢と異業種企業の提携や、より多くの地方銀行との提携を進めることによって、事業運営の効率性を一段と高めようとするだろう。それが、わが国の個人や企業のアニマルスピリットにどういった影響を与えるかが見ものだ』、「傘下の銀行勢と異業種企業の提携」、といっても、銀行法の制約から限定的だろう。簡単なものであれば、既に実行されている筈だ。
次に、 1月8日付け日刊ゲンダイが掲載した金融ジャーナリストの小林佳樹氏による「2022年地銀再編を促すキーファクター MUFGやSBIの動向は?」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/299647
・『2022年、地銀再編は進むであろうか。その帰趨を占うキーファクターはいくつかある。 まず試金石とみられるのが年末に経営統合を発表した愛知銀行と中京銀行のケースだ。名古屋に本店を置く両行は、22年10月に共同持ち株会社を設立し、その傘下に両行がぶら下がった後、2年後の24年をめどに合併する計画だ。統合後の預金量は5兆円規模、貸出残高で地域トップの地銀グループが誕生することになる。 愛知銀行の伊藤行記頭取は経営統合の狙いについて、「単独でシェアを増やすことは難しく、長い将来を見据えたときに、経営統合が必要だ」とした上で、「生き残りのためではなく、愛知の(融資)シェアはトップになる。攻めの統合だ」と強調した。事実、中京地区の金融機関の競争が厳しい。貸出金利も“名古屋レート”と呼ばれるほどシビアだ。厳しい競争に打ち勝つためには経営統合による規模拡大が必要だということであろう。 こうした経営を取り巻く厳しい環境が両行を統合へと舵を切らせたと言っていいが、同時に、資本政策を巡る大株主との関係も統合を決断させた要因となっている。中京銀行は、三菱UFJ銀行の前身である旧東海銀行と親密な関係にあり、歴代頭取も東海銀行出身者が就いていた。だが、1990年代後半からの金融危機のあおりを受け、2000年代初頭に経営危機に陥り、02年に東海銀行などが合併して誕生した旧UFJ銀行から資本支援を受けた。この関係から現在も三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が中京銀行株の39%を保有する持ち分法適用会社となっている。 だが、グローバルに事業展開するMUFGは、国際的な自己資本規制(バーゼル3)の適用を受けており、「株式などのリスク資産、とりわけ銀行株については基本的に保有そのものが抑制される方向にある」(エコノミスト)とされる。このためMUFGは中京銀行株の売却を検討してきた経緯がある。愛知銀行と中京銀行の経営統合の背景には、メガバンクの戦略転換も影を落としている。22年の地銀再編を占うキーファクターはメガバンクが大株主となっている親密地銀の資本政策といえそうだ』、合併しても、「貸出金利も“名古屋レート”と呼ばれるほどシビア」なのが多少緩和する程度だろう。
・『SBIはどうなるか また、昨年、金融界の話題を席巻したSBIホールディングスの動向もキーファクターとなる。昨年末にSBIが新生銀行に仕掛けたTOB(株式公開買い付け)が成立。さらにSBIは株式を買い増し完全子会社化する方針である。SBIは地銀を糾合する「第4のメガバンク構想」を進めており、新生銀行をそのプラットフォームの中核に据える考えでいる。SBIはすでに第二地銀を中心に8行に出資しており、市場では、「新生銀行の買収手続きと並行して、SBIが次に狙う出資地銀の物色に入っている」(市場関係者)とされる。地銀再編は22年も進展を予感させる』、「SBI」、「新生銀行」は台風の目のようだ。
第三に、1月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した広報コンサルタントの風間 武氏による「みずほが「経営陣一新」、それでもメディアの辛口批判がやまない理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/294035
・『みずほの再出発に、早くも黄信号がともった。相次いだシステム障害問題の幕引きとなるはずだった新経営陣のお披露目会見では、社外取締役への不信がメディアから噴出した。現状のガバナンス体制へ“NO”が突き付けられたかたちだ。みずほフィナンシャルグループ(FG)と銀行のトップ2人を引責辞任に追い込んでなお、メディアが納得しない理由とは何か? ――。信頼回復へ第一歩を踏み出すための処方箋を探る』、興味深そうだ。
・『「みずほの顔」の坂井社長突然の降板という番狂わせ 「本日のご説明に先立ち、ご報告がございます」 1月17日に開いた記者会見の冒頭、みずほ銀行の藤原弘治頭取は厳しい表情でこう切り出した。 問題の陣頭指揮をとってきた坂井辰史FG社長が体調不良で、医師の指導により治療に専念せざるを得ないことを明かした。後任となる木原正裕執行役への交代が2月1日付へ2カ月早まった経緯を説明するためだった。 坂井社長は、これまで会見を取り仕切ってきたいわば“みずほの顔”だ。致し方ない事情とはいえ、“主役不在”のなんとも釈然としない会見がこうして始まった。) みずほはこの日、再発防止に向けてシステムの総点検や人材の増員などを盛り込んだ業務改善計画を金融庁に提出した。本来、策定の最高責任者である坂井社長がメインの説明者となるべきはずだった。 一般に、企業不祥事においては、経営陣の引責辞任や再発防止策の監督官庁への提出・発表のタイミングで、新旧経営陣のバトンタッチが行われることが多い。企業側としては、トップ交代劇によってメディア、ひいては世論の納得を勝ち取ろうとする。 旧経営陣が問題解決へ道筋をつけ、メディアからの批判や不信を一手に引き受けて舞台上から消える。新経営陣は初会見で過去との決別を宣言し、抱負を語る。メディアもいったんは矛を収め、お手並み拝見と模様眺めのスタンスへと変わる。 みずほも過去の不祥事において、下表の通り、トップ交代劇を繰り返してきた。 【みずほの不祥事と「経営責任明確化」の歴史】(リンク先参照) ところが、今回は、坂井社長降板による番狂わせにより、狙い通りの演出効果を発揮できなかった。 代わりにメディアの関心が集まったのは、後任トップ木原氏の所信表明ではなく、同席した社外取締役の甲斐中辰夫、小林いずみ両氏の発言だった』、「社外取締役」に焦点が当たったのも当然だ。
・『新聞各社の社説が一致したガバナンス体制への不信 新聞で最も読まれない記事、と揶揄されることもある「社説」。筆者も記者時代はそんな陰口をたたいたこともあったが、社論が込められていて軽んずるべきではない。今回は、メディアの真意を読み取る手掛かりとしたい。 各社には論説委員と呼ばれる専門記者がいる。局長、部長経験者というベテラン中のベテランが中心で、草稿をベースに議論を交わし練り上げ、最終稿として掲載される。つまりは、ある問題に対する社としての主張・見解の総括となる。 みずほの発表を受けた各社の社説で、一点、共通して厳しく指摘されていることがある。社外取締役の責任だ。 毎日新聞(20日付)「歴代経営陣を選んだ社外取締役の責任も、あいまいなままだ。(中略)人選は、社外取締役が主導している。失策を重ねた旧経営陣を選んだ責任を明確にしないままでは、新経営陣の正当性が疑われる」 日経新聞(20日付)「一連の障害を通じて、みずほの企業統治(コーポレートガバナンス)が十分に機能していないこともはっきりした。社外取締役を登用した取締役会は業務執行を適切に監督する役割を果たせなかったと言わざるを得ない」 読売新聞、朝日新聞 は昨年11月に金融庁が業務改善命令を出した段階で、社説を掲載している。 読売新聞(11月28日付)「金融庁は、取締役会の機能不全も問題視した。みずほFGは13人の取締役のうち6人が社外取締役で、大手企業の元社長らが並ぶ。危機対応の強化や企業統治の改革を迫る必要があった」 朝日新聞(11月28日付)「金融庁は今回の処分で、(中略)執行側だけでなく監督側の機能不全も指摘した。問われているのは企業統治総体の変革だ」 各社の社説がそろって手厳しい通り、17日の会見でも社外取締役の責任についての質問が相次いだ。 なお、みずほFGの社外取締役と重要な兼職については下記の通りだ(1月17日現在。みずほFGの公式サイトから引用)』、「新聞各社が共通して「社外取締役」の責任を取上げたのも当然だ。
・『会見で浮き彫りになった社外取締役の限界 みずほFGは2014年6月、メガバンク3社としては初めて「委員会等設置会社」(15年会社法改正から「指名委員会等設置会社」)へ移行した。前年に発覚した暴力団などへの不正融資事件を受けたコーポレート・ガバナンス(企業統治)強化をうたったものだった。 取締役会が経営を監督する一方、業務執行については執行役にゆだね、監視と執行を分離している。取締役会に監査、指名、報酬の三つの委員会を置き、各委員会のメンバーの過半数は社外取締役にしなければならない。人事や報酬の決定で外部視点を持つ社外取締役が強い権限を持つことになる。 みずほはガバナンス強化の“優等生”であっただけに、会見での社外取締役への追及も厳しかった。 矛先が向かったのは、取締役会議長でもある小林いずみ(注)氏だった。 「金融庁からの行政処分での指摘について認識はどうか?」 「コスト構造改革を進めることで歪みが生じることをどう考え、議論してきたのか?」 小林氏は、見ていて気の毒になるほど繰り返し「反省」を口にしながら、取締役会トップとして本問題への見解を初めて明らかにした。 経営陣の人選については、「経営チーム全体として最強となるようなあり方について、十分な目配りをしていたかというと十分ではなかったと反省している」。ガバナンス全体については、「巨大グループとしての各業態子会社のガバナンスについて十分な目配りが出来ていたかというと、自分としてまだ十分でなかったという非常に強い反省を持っている」と認めた。 会見の模様をネット中継したメディアは、日経新聞、NHKはじめ多数あり、社会的注目度の高さをうかがわせた。いわば衆人環視の下、社外取締役の限界があらわになったと言わざるを得ない。 各社がコメントを引用している青山学院大の八田進二名誉教授は、産経新聞記事(1月18日付)で、「実務型の社外取締役が現場で声を吸い上げ、みずほの歴史的、制度的課題にメスを入れなければ組織は変わらない」と締めくくっている』、「八田」氏の指摘は妥当だ。
(注)小林いずみ:成蹊大学卒、三菱化成、メリルリンチ日本証券の社長、ANA社外取締役などを歴任。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E6%9E%97%E3%81%84%E3%81%9A%E3%81%BF
・『報道と向き合うことが信頼回復の第一歩 会見と社説でメディアから指摘されたことは、その背後にある世論の認識であると受け止めるべきだろう。そして、信頼回復はメディアを通じてしかできないのが冷厳な事実だ。 現状のままでは、もはや何を語ってもメディアの理解は得られまい。 筆者の呼ぶところの“説明責任の迷路”( 詳しくは『三菱電機の相次ぐ「検査不正」、メディアが納得しない本当の理由とは』を参照)に陥っていると考える。 状況打開の次のチャンスは、4月1日以降の新経営陣の着任会見となる。メディアを納得させる具体的な善後策を示せるかに、全てがかかっている』、今度こそ「信頼回復」してほしいものだ。
第四に、1月24日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したプリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役の秋山進氏による「「言うべきことを言わない」と金融庁が糾弾したみずほ銀行から学べる本当の教訓」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/293768
・『幹部向けのリスクマネジメント研修をやる際に、「最近の事件で最も印象に残ったものは何ですか」と聞く。たいてい「みずほ銀行のシステムトラブル」の話が出る。実際に、振り込みができなくなったりして、大きな社会問題になった。会社は信用を失い、その結果、経営陣は退任することになった。その後もシステム障害は頻発し、経営陣が頭を下げる写真はもう見飽きたほどだろう。 事件の印象をさらに強くしたのが、金融庁による業務改善命令の文書である(詳細はhttps://www.fsa.go.jp/news/r3/ginkou/20211126/20211126.html)。 他の原因についても述べられてはいるが、この文書によると、社員の「言うべきことを言わない、言われたことしかしない姿勢」がシステム上、ガバナンス上のトラブルを起こした真因だという』、興味深そうだ。
・『「言うべきことを言わない」の「言うべき」とは何か さて、では、この「言うべきことを言わない」「言われたことしかしない」というのはいったい何のことを指すのか。考えてみると意外に難しい。 「言うべきことを言わない」から考えてみよう。言うべき――べきというからには、何かに照らして「すべきこと」が決まっているはずと考えられよう。では、その参照先とは何か。以下のようなものがありえる。 ・職業倫理に照らして――金融事業者、またはシステム開発者(運用)としてのあるべき姿 ・会社の経営理念や、行動指針に照らしてのあるべき姿 これらは一般的であり、おそらく金融庁の文書が言いたいのはこのことであろう。 しかしながら、組織の中の人間というのは、それ以外にもたくさんの「べき」に取り囲まれているのだ。 ・(○○事業部と対抗する)○○事業部の一員としてのあるべき姿 ・(○○派閥と対抗する)○○派閥のリーダーXさんの部下としてのあるべき姿 さらには ・子育てや住宅ローンにお金のかかる、一家の大黒柱としてのあるべき姿 これらのあるべき姿は、表向きは語られないが、実際のところは大変強い力を持つ。そして、これらは時として職業倫理や経営理念の求めるあるべき姿と真っ向から対立することもある。 そのような状況下にある組織の構成員に向かって、職業倫理や経営理念に照らして言うべきことを言え、と言ったところで、できるならとっくにしているのであって、そんなことは先刻承知、重々わかっていても、それができないからしていないのである。「職業倫理や経営理念に照らして」は、個々人に求めるのは厳しいものがある。「言うはやすし、行うは難し」の典型例といえるだろう。 たとえば、組織の中でマイナス情報を上げることは絶対的に好まれない。古今東西、およそ組織の体をなすものの上層部にとっての苦心は、マイナス情報をいかに上に上げさせるかに集約されるといっても過言ではない。多くの情報将校、インテリジェントスタッフが、トップの好まないマイナス情報を上に上げただけで左遷されたり、クビになったり、はなはだしきは斬首されたりした。どんな組織でも、余計な一言を言ったばかりに、トップの逆鱗に触れて職場を追われたという話の一つや二つはあるはずだ。ある情報を上に上げることが、いかに組織のためになるとわかっていようと、学費のかかる子どもの親としては、それを言ったばかりに路頭に迷うことになっては困るのだ。“言うべきことを言え”などと命じたところで、かしこまりました、と「言うべきこと」が上申されるわけがないのである。 マイナス情報を上げてほしいなら、「言うべきこと」などといった抽象論ではなく、具体的にどのような情報を欲しているか(NEED TO KNOW)を優先順位の整理を行った上で、トップ以下、各層の管理職が下に対して明確に定義する必要がある。好例としてはナポレオンの「午前二時の勇気」がある。 ナポレオンは、「寝室に退いたら、原則として我を起こすな。よい報告は翌朝でいい。しかし、悪い報告のときは、即刻我を起こせ。なぜなら我が決断と指揮命令がいるだろうから。不完全な報告で幕僚もいないときに決断を下す勇気を、我は『午前二時の勇気』と呼ぶ。その勇気において、我、人後に落ちず」と述べたという。(佐々淳行『重大事件に学ぶ「危機管理」』、「マイナス情報を上げてほしいなら、「言うべきこと」などといった抽象論ではなく、具体的にどのような情報を欲しているか・・・を優先順位の整理を行った上で、トップ以下、各層の管理職が下に対して明確に定義する必要がある」、「ナポレオンの「午前二時の勇気」」は本当によく練られた格言だ。
・『言われたことしかやらない姿勢とは何か 「言われたことしかやらない姿勢」がシステムトラブルの真因というのも不思議である。言われたことしかやらないというのは、「個別具体的で限定された行為のみをやる姿勢」と考えられるが、ここで思い出されるのは、SL(状況適応)理論である。 「指示的行動」⇒具体的な指示命令を与え、仕事の達成をきめ細かく監督する関わり方 「共労的行動」⇒部下に援助や指示を与え、問題解決や意思決定への参加を促す関わり方(図1はリンク先参照) つまり、部下の発達度がきわめて低ければ、行動をすべて管理して、なになにをせよ、と細かく命じる、これが教示型(指示型)。慣れてくれば、なになにをせよ、と指示はするが、本人にも裁量を持たせて、がんばってくれ、と見守るのが説得型(コーチ型)。さらに発達度が上がれば、本人の裁量を増やし、やり方にあまり口は出さず援助にとどめ、責任は持つのが参加型(援助型)。最も高度に発達した部下には、すべての権限を委譲して任せるのが委任型である。 指示を受けたことだけをするというのは、単純労働的な非熟練労働者に適用される「教示型」の仕事の進め方である。この方法が、銀行の高度なシステム開発に使われたとはいったいどういうことか。部下の発達度が低いのだろうか。 メガ銀行は最も優秀な人(少なくとも賢い人)たちが集まる会社の一つである。ベテランも多数いるのだ。それに、複雑なシステム開発の業務を担う人たちが、マニュアル的労働と同じような教示型で達成できるわけがないし、高度な内容を達成するのに、そのような自由度の低い仕事の仕方を本来は好むはずがない。つまり、これは、システム開発を担当した人たちにとっての自衛手段、リスクヘッジなのだ。 システムを担当した人たちの胸のうちはこんなふうではないだろうか。 ・かなりの確率で失敗が見込まれる状況であり、経営陣はシステムには興味がなく、できるだけ関わり合いたくないと思っている(何か起こったら、知らん顔をして、こちらの責任問題にするに決まっている)。 ・上司たちも、できれば我関せずで、支援的活動は見込めない(説得型ではない)。・成功しても特に褒められることもないが、失敗したらどえらく怒られる(左遷される)。 ・もし失敗したら、失敗の犯人捜しが行われる。その際には、“従前”と異なること、変わったこと、新しく挑戦したこと、など“余計なこと”が真っ先に疑われる(少なくともみずほ銀行の問題のシステムが組まれた時点では、銀行は前例主義の強いカルチャーに支配されている)。 ・抽象的な目標をもとにその内容を自分の裁量で決定し遂行すると(委任型)、失敗したらその責任は自分に帰することになる。そこで、すべての実施すべき行為をブレークダウンして具体化し、きわめて保守的な範囲を自分の業務範囲と設定し、その上で何をやるかを上司に指定してもらい(教示型)、それだけを実施するという方法を採る。 ・そうすれば、何か問題が起こっても「自分の持ち場については完璧に遂行しました」と言えるので、疑いがかからずに、責任を問われなくて済む。余計な提案もしていない(何かあったときに降りかかる火の粉を最小限にすることができる)。 ・もし、自分の持ち場と、他人の持ち場との間の連結で問題が起こったとしても、自分としては上司に指定されたことはしっかりとやっているので、自分の責任ではないと言い逃れができる。 だいたいこんなところであろう。 「言われたことしかしない姿勢」というのは、本来は高い能力のある人たちが、あえて委任型から教示型に仕事のやり方を退化させ、自己の裁量を大幅に下げることによって「責任追及から逃れる」ためにしているリスクヘッジの行為なのである。 本来、システム構築はクリエイティブであり、委任型や参加型の仕事の進め方でなければ成功しない。幾度にもわたる失敗からの自信喪失、または過度の細かいチェックの強制によって、あるいは時限爆弾のようにどこに埋まっているかわからない不具合の存在によって、現場の社員を教示型へ逃避させてしまったのではないか。そして、このような仕事のやり方が真因ではないとまではいわないが、むしろ、問題が起こることが高い確率で予測されたからこそ、言われたことしかやらない仕事のやり方に変えたというのが実際のところであろう。 このように、「言うべきことを言わない、言われたことしかしない姿勢」がそもそも何のことを言っているのかを把握すること自体が難しい。それを改善するのはもっと難しい。おそらく金融庁は、公開された文書とは別に表に出せない具体的な指導をしているはずであろうから、みずほ銀行側に十分に真意は伝わっているのであろう。 しかし、もし、この文書を見たどこかの社長が、これを教訓として(あるいはおこがましいが「他山の石」として?)、自分の会社の組織にリスクを感じ、思いつきのように「言うべきことを言わない、言われたことしかしない姿勢ではみずほ銀行のようなことが起こってしまう。皆さん、言うべきことは言ってください。言われていないこともどんどん実施してください……」などと命じても、聞く側はちんぷんかんぷんで、何ら実質的な内容は伝わっていないし、仮に表面的な言葉の意味が伝わったところで、「言うべきこと」「やるべきこと」は決して実行されないということをこそ、教訓として学び取るべきであろう。 「言うべきことを言わない姿勢」を非難するのではなく、役員および管理職が「どんな情報を欲しているか、下の人間は何を言うべきか」をあらかじめ明確にして、部下に伝える。そして、可能な限り、情報を上げた人が不利益を被らないような予防措置を講じておく。そうやって、初めて情報は上にも伝わり始める』、「「言われたことしかしない姿勢」というのは、本来は高い能力のある人たちが、あえて委任型から教示型に仕事のやり方を退化させ、自己の裁量を大幅に下げることによって「責任追及から逃れる」ためにしているリスクヘッジの行為なのである」、「「言うべきことを言わない姿勢」を非難するのではなく、役員および管理職が「どんな情報を欲しているか、下の人間は何を言うべきか」をあらかじめ明確にして、部下に伝える。そして、可能な限り、情報を上げた人が不利益を被らないような予防措置を講じておく。そうやって、初めて情報は上にも伝わり始める」、その通りなのだろう。
・『言われたことしかやらない姿勢とは何か 「言われたことしかやらない姿勢」がシステムトラブルの真因というのも不思議である。言われたことしかやらないというのは、「個別具体的で限定された行為のみをやる姿勢」と考えられるが、ここで思い出されるのは、SL(状況適応)理論である。 「指示的行動」⇒具体的な指示命令を与え、仕事の達成をきめ細かく監督する関わり方 「共労的行動」⇒部下に援助や指示を与え、問題解決や意思決定への参加を促す関わり方 (図1はリンク先参照) つまり、部下の発達度がきわめて低ければ、行動をすべて管理して、なになにをせよ、と細かく命じる、これが教示型(指示型)。慣れてくれば、なになにをせよ、と指示はするが、本人にも裁量を持たせて、がんばってくれ、と見守るのが説得型(コーチ型)。さらに発達度が上がれば、本人の裁量を増やし、やり方にあまり口は出さず援助にとどめ、責任は持つのが参加型(援助型)。最も高度に発達した部下には、すべての権限を委譲して任せるのが委任型である。 指示を受けたことだけをするというのは、単純労働的な非熟練労働者に適用される「教示型」の仕事の進め方である。この方法が、銀行の高度なシステム開発に使われたとはいったいどういうことか。部下の発達度が低いのだろうか。 メガ銀行は最も優秀な人(少なくとも賢い人)たちが集まる会社の一つである。ベテランも多数いるのだ。それに、複雑なシステム開発の業務を担う人たちが、マニュアル的労働と同じような教示型で達成できるわけがないし、高度な内容を達成するのに、そのような自由度の低い仕事の仕方を本来は好むはずがない。つまり、これは、システム開発を担当した人たちにとっての自衛手段、リスクヘッジなのだ。 システムを担当した人たちの胸のうちはこんなふうではないだろうか。 ・かなりの確率で失敗が見込まれる状況であり、経営陣はシステムには興味がなく、できるだけ関わり合いたくないと思っている(何か起こったら、知らん顔をして、こちらの責任問題にするに決まっている)。 ・上司たちも、できれば我関せずで、支援的活動は見込めない(説得型ではない)。 ・成功しても特に褒められることもないが、失敗したらどえらく怒られる(左遷される)。 ・もし失敗したら、失敗の犯人捜しが行われる。その際には、“従前”と異なること、変わったこと、新しく挑戦したこと、など“余計なこと”が真っ先に疑われる(少なくともみずほ銀行の問題のシステムが組まれた時点では、銀行は前例主義の強いカルチャーに支配されている)。 ・抽象的な目標をもとにその内容を自分の裁量で決定し遂行すると(委任型)、失敗したらその責任は自分に帰することになる。そこで、すべての実施すべき行為をブレークダウンして具体化し、きわめて保守的な範囲を自分の業務範囲と設定し、その上で何をやるかを上司に指定してもらい(教示型)、それだけを実施するという方法を採る。 ・そうすれば、何か問題が起こっても「自分の持ち場については完璧に遂行しました」と言えるので、疑いがかからずに、責任を問われなくて済む。余計な提案もしていない(何かあったときに降りかかる火の粉を最小限にすることができる)。 ・もし、自分の持ち場と、他人の持ち場との間の連結で問題が起こったとしても、自分としては上司に指定されたことはしっかりとやっているので、自分の責任ではないと言い逃れができる。 だいたいこんなところであろう。 「言われたことしかしない姿勢」というのは、本来は高い能力のある人たちが、あえて委任型から教示型に仕事のやり方を退化させ、自己の裁量を大幅に下げることによって「責任追及から逃れる」ためにしているリスクヘッジの行為なのである。 本来、システム構築はクリエイティブであり、委任型や参加型の仕事の進め方でなければ成功しない。幾度にもわたる失敗からの自信喪失、または過度の細かいチェックの強制によって、あるいは時限爆弾のようにどこに埋まっているかわからない不具合の存在によって、現場の社員を教示型へ逃避させてしまったのではないか。そして、このような仕事のやり方が真因ではないとまではいわないが、むしろ、問題が起こることが高い確率で予測されたからこそ、言われたことしかやらない仕事のやり方に変えたというのが実際のところであろう。 このように、「言うべきことを言わない、言われたことしかしない姿勢」がそもそも何のことを言っているのかを把握すること自体が難しい。それを改善するのはもっと難しい。おそらく金融庁は、公開された文書とは別に表に出せない具体的な指導をしているはずであろうから、みずほ銀行側に十分に真意は伝わっているのであろう。 しかし、もし、この文書を見たどこかの社長が、これを教訓として(あるいはおこがましいが「他山の石」として?)、自分の会社の組織にリスクを感じ、思いつきのように「言うべきことを言わない、言われたことしかしない姿勢ではみずほ銀行のようなことが起こってしまう。皆さん、言うべきことは言ってください。言われていないこともどんどん実施してください……」などと命じても、聞く側はちんぷんかんぷんで、何ら実質的な内容は伝わっていないし、仮に表面的な言葉の意味が伝わったところで、「言うべきこと」「やるべきこと」は決して実行されないということをこそ、教訓として学び取るべきであろう』、「「言われたことしかしない姿勢」というのは、本来は高い能力のある人たちが、あえて委任型から教示型に仕事のやり方を退化させ、自己の裁量を大幅に下げることによって「責任追及から逃れる」ためにしているリスクヘッジの行為なのである」、「このような仕事のやり方が真因ではないとまではいわないが、むしろ、問題が起こることが高い確率で予測されたからこそ、言われたことしかやらない仕事のやり方に変えたというのが実際のところであろう」、深く掘り下げると、面白いことが隠れているものだ。
先ずは、昨年12月20日付けPRESIDENT Onlineが掲載した法政大学大学院 教授の真壁 昭夫氏による「ついに新生銀行を手に入れたが…SBI「第4のメガバンク構想」に立ちはだかる深刻な問題 実現する前に地銀の体力がもつのか」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/52943
・『“第4のメガバンク”実現へついに動き出す 12月11日、SBIホールディングスとSBI地銀ホールディングス(以下SBI)は、新生銀行に対して実施した株式公開買い付け(TOB)が成立したと発表した。TOBで議決権比率は47.77%に達し、SBIは新生銀行を連結子会社化する。 今回のTOBは、基本的にSBIが“第4のメガバンク”を目指す重要な取り組みとみられる。SBIは地方銀行8行と戦略的資本・業務提携を結び、金融商品ラインナップの拡充などを進めている。SBIは、そこに新生銀行の消費者金融や有価証券関連のビジネスを結び付けることで収益を拡大し、大手メガバンク3行に伍する金融ビジネスの確立を狙っているのだろう。各地方銀行と新生銀行の協業が加速すれば、SBIの銀行ビジネスは相応の成果を上げることができそうだ。 ただ、そこにリスクがあることは忘れてはならない。特に、わが国の超低金利環境は長期化する可能性が高い。それによって提携する地方銀行の経営体力が低下し、期待したほど収益力が上向かない展開も想定される。早期の成果実現に向けてSBIがどのように銀行ビジネスの効率性向上に取り組むかが注目される。SBIの取り組み次第では、銀行業界での再編が加速する展開もあるかもしれない』、今回のTOB劇では、「新生銀行」の企業価値が、公的資金を返済できるところまで向上するかが最も重要なポイントであって、「SBI」の「“第4のメガバンク”実現」は実は二義的問題である。
・『政府の「買収防衛策反対」が決定打に SBIによるTOB成立に決定的な影響を与えたのは、政府(金融庁や新生銀行の株式を保有する預金保険機構など)が、新生銀行が成立を目指した買収防衛策に賛成しなかったことだ。 これまでの経緯を簡単に振り返ると、9月上旬にSBIは新生銀行に対するTOBを発表した。10月に入ると、新生銀行はTOBに条件付きで反対すると正式に発表し、11月下旬に臨時の株主総会を開催して買収防衛策の発動をめざした。その時点で、SBIによるTOBは敵対的なものに発展した。また、新生銀行は買収者から自行を助けてくれる“白馬の騎士(ホワイトナイト、友好的な買収者を指す)”の獲得も目指したが、ホワイトナイトは現れなかった。 11月に入ると状況は大きく変わった。新生銀行の株式の約2割を保有する政府が買収防衛策の発動に賛成しない方針を固めたのだ。その結果、新生銀行は買収防衛策を撤回し、SBIによるTOBが成立するに至った』、「新生銀行」が「公的資金返済」のメドも示さず、単純な「買収防衛策」発動を目指しても、「公的資金返済」を強く求めている「政府」にとっては、「賛成しない」のは当然であろう。
・『約3500億円もの公的資金を回収したい 政府が賛成しなかった理由の一つは、新生銀行の買収防衛策がすべての株主を公平に扱っているとはいいがたいとの判断があったからだろう。12月13日に預金保険機構が新生銀行の買収防衛策に「正当かというと疑義が残ると言わざるを得ない」との見解を示したのは、そうした認識の表れといえる。 また、政府は、旧日本長期信用銀行時代に注入した公的資金(約3500億円)を回収したい。政府は新生銀行に民間の一上場企業として独り立ちしてもらいたい。しかし、これまでの経営の実績や経営計画を振り返ると、公的資金返済のめどはたっていない。その一方で、SBIは積極的な買収・提携戦略やデジタル技術の活用などによって急速に証券や銀行ビジネスの成長を実現してきた。経済合理性の観点から考えると、SBIの提案は政府などの株主に新生銀行のさらなる成長期待を与えただろう。 以上の内容から政府は新生銀行の買収防衛策に反対したと考えられる。同様の判断から一部の投資ファンドも新生銀行が一時目指した買収防衛策に疑義を持ったようだ』、公的資金3500億円分は1株7500円で普通株に転換されているので、政府が損を出さずに売却できるためには、株価が1株7500円以上になっている必要があるが、現実の株価は2078円と1/3以下と程遠い。SBIの剛腕をもってしても、かなり難しそうだ。
・『超低金利環境で地銀はどこも厳しいが… 新生銀行買収によって、SBIが掲げる第4のメガバンク構想は相応の成果を上げる可能性が高まった。最も重要なことは、買収によって提携する地方銀行、および新生銀行のビジネスチャンス拡大が見込まれることだ。 わが国では、ゼロ金利政策などを背景に超低金利環境が続き、地方銀行の収益環境は厳しさを増している。特に、銀行の重要な収益源である短期と長期の金利差は縮小傾向で推移してきた。2000年1月初旬の10年国債の流通利回り(長期金利)と無担保コール翌日物金利の差は1.7ポイント程度あった(長期金利が1.7%、翌実物の金利がほぼゼロ)。 その後、日本銀行は金融緩和策を強化し2001年から量的緩和政策が実施された。リーマンショック後も日本銀行は緩和的な金融政策を続けた。2013年4月以降は異次元の金融緩和の実施によって長短の金利差は一段と縮小した。足許の長短金利差は0.10%程度だ。銀行が預金を集め、中長期の資金を貸し出すことによって利ザヤを稼ぐことは難しくなっている』、こうした「異次元の金融緩和」の副作用は深刻だ。
・『カードローン事業で収益源を増やしたい その一方で、企業は内部に資金をため込み、借り入れのニーズが少ない。財務省が発表する年次別法人企業統計調査によると2020年度末の金融と保険業を除くわが国企業の利益剰余金(新聞報道などで内部留保と呼ばれる)は約484兆円の過去最高に達した。コロナ禍の発生によって一時的に資金需要が増えた場面はあったが、わが国企業全体として資金需要は弱い。 銀行にとって、資金を貸したくても、借りてくれる企業は少ない。結果的に、多くの地方銀行が投資信託の販売などによって収益を得なければならなくなっている。経営体力が相対的に小さい地方銀行が自力で成長期待が相対的に高い海外事業を強化し、海外企業への信用供与などに取り組むことも難しい。 SBIと提携する地方銀行にとって、相対的に厚い利ザヤが期待されるカードローン事業で新生銀行と協業することは、収益源の多角化につながる。新生銀行の証券化商品ビジネスも、地方銀行の収益獲得に資す可能性がある。新生銀行にとっても、地方銀行との協業の強化によって、地域ブランド創生などビジネスチャンスは増えるだろう』、もともと「新生銀行」など長期信用系の銀行は、「地方銀行」とのつながりは強かった。しかも「新生銀行」は傘下に消費者金融事業を抱えているだけに、「カードローン事業」での「協業」は上手くいく可能性がある。
・『第4のメガバンク構想に立ちはだかる問題 ただし、SBIの第4のメガバンク構想が想定通りの成果につながらないリスクはある。その一つが、超低金利環境が長引き、想定外に地方銀行の経営体力が低下する展開だ。 SBIが地方銀行との提携を増やした根底には、急速に地方銀行の経営体力が低下する可能性は低いとの見方があるはずだ。その見方に基づき、まずはデジタル技術の導入などによって地方銀行の事業運営の効率性を高める。そのうえでSBIは新生銀行のノウハウを持ち込むことによって銀行ビジネスの成長を加速させたい。 その事業戦略にとって、超低金利環境の長期化の影響は軽視できない。わが国では人口の減少などによって経済の縮小均衡化が加速している。本来であれば、政府はエネルギー政策の転換を急いで新しい産業の創生に取り組まなければならないが、今のところ岸田政権にはそうした考えが見られない。経済全体で新しい需要の創出を目指した取り組みが加速する展開は期待しづらい』、「エネルギー政策の転換を急いで新しい産業の創生」、など夢物語でしかない。
・『カードローン事業で収益源を増やしたい その一方で、企業は内部に資金をため込み、借り入れのニーズが少ない。財務省が発表する年次別法人企業統計調査によると2020年度末の金融と保険業を除くわが国企業の利益剰余金(新聞報道などで内部留保と呼ばれる)は約484兆円の過去最高に達した。コロナ禍の発生によって一時的に資金需要が増えた場面はあったが、わが国企業全体として資金需要は弱い。 銀行にとって、資金を貸したくても、借りてくれる企業は少ない。結果的に、多くの地方銀行が投資信託の販売などによって収益を得なければならなくなっている。経営体力が相対的に小さい地方銀行が自力で成長期待が相対的に高い海外事業を強化し、海外企業への信用供与などに取り組むことも難しい。 SBIと提携する地方銀行にとって、相対的に厚い利ザヤが期待されるカードローン事業で新生銀行と協業することは、収益源の多角化につながる。新生銀行の証券化商品ビジネスも、地方銀行の収益獲得に資す可能性がある。新生銀行にとっても、地方銀行との協業の強化によって、地域ブランド創生などビジネスチャンスは増えるだろう』、「新生銀行」はもともとつながりがある「地方銀行」との「協業」はかなりやっていた筈で、さらに追加的にどの程度「強化」できるかは疑問だ。
・『第4のメガバンク構想に立ちはだかる問題 ただし、SBIの第4のメガバンク構想が想定通りの成果につながらないリスクはある。その一つが、超低金利環境が長引き、想定外に地方銀行の経営体力が低下する展開だ。 SBIが地方銀行との提携を増やした根底には、急速に地方銀行の経営体力が低下する可能性は低いとの見方があるはずだ。その見方に基づき、まずはデジタル技術の導入などによって地方銀行の事業運営の効率性を高める。そのうえでSBIは新生銀行のノウハウを持ち込むことによって銀行ビジネスの成長を加速させたい。 その事業戦略にとって、超低金利環境の長期化の影響は軽視できない。わが国では人口の減少などによって経済の縮小均衡化が加速している。本来であれば、政府はエネルギー政策の転換を急いで新しい産業の創生に取り組まなければならないが、今のところ岸田政権にはそうした考えが見られない。経済全体で新しい需要の創出を目指した取り組みが加速する展開は期待しづらい』、なるほど。
・『企業のアニマルスピリットにどう影響するか そのため、成長期待が高まって資金需要が盛り上がる展開を想定することは難しい。日本銀行が異次元の金融緩和を続ける可能性は高い。かなりの期間にわたって国内の長短の金利差は足許のような低水準で推移する、あるいはさらに縮小することが考えられる。それに加えて、地域によっては急速に過疎化が進行し、都市部以上のスピードで資金需要が低下することも考えられる。 その結果としてデジタル技術導入によるコスト削減や新生銀行のカードローンビジネスによる収益強化などのシナジー効果が発揮されるよりも前に、地方銀行の経営体力が弱まる展開は排除できない。その場合、SBIの銀行ビジネスが持続的に収益を獲得することは難しくなる恐れがある。 そうしたリスクに対応するために、SBIは新生銀行と地方銀行の協業強化を急ぐだろう。それに加えて、SBIは傘下の銀行勢と異業種企業の提携や、より多くの地方銀行との提携を進めることによって、事業運営の効率性を一段と高めようとするだろう。それが、わが国の個人や企業のアニマルスピリットにどういった影響を与えるかが見ものだ』、「傘下の銀行勢と異業種企業の提携」、といっても、銀行法の制約から限定的だろう。簡単なものであれば、既に実行されている筈だ。
次に、 1月8日付け日刊ゲンダイが掲載した金融ジャーナリストの小林佳樹氏による「2022年地銀再編を促すキーファクター MUFGやSBIの動向は?」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/299647
・『2022年、地銀再編は進むであろうか。その帰趨を占うキーファクターはいくつかある。 まず試金石とみられるのが年末に経営統合を発表した愛知銀行と中京銀行のケースだ。名古屋に本店を置く両行は、22年10月に共同持ち株会社を設立し、その傘下に両行がぶら下がった後、2年後の24年をめどに合併する計画だ。統合後の預金量は5兆円規模、貸出残高で地域トップの地銀グループが誕生することになる。 愛知銀行の伊藤行記頭取は経営統合の狙いについて、「単独でシェアを増やすことは難しく、長い将来を見据えたときに、経営統合が必要だ」とした上で、「生き残りのためではなく、愛知の(融資)シェアはトップになる。攻めの統合だ」と強調した。事実、中京地区の金融機関の競争が厳しい。貸出金利も“名古屋レート”と呼ばれるほどシビアだ。厳しい競争に打ち勝つためには経営統合による規模拡大が必要だということであろう。 こうした経営を取り巻く厳しい環境が両行を統合へと舵を切らせたと言っていいが、同時に、資本政策を巡る大株主との関係も統合を決断させた要因となっている。中京銀行は、三菱UFJ銀行の前身である旧東海銀行と親密な関係にあり、歴代頭取も東海銀行出身者が就いていた。だが、1990年代後半からの金融危機のあおりを受け、2000年代初頭に経営危機に陥り、02年に東海銀行などが合併して誕生した旧UFJ銀行から資本支援を受けた。この関係から現在も三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が中京銀行株の39%を保有する持ち分法適用会社となっている。 だが、グローバルに事業展開するMUFGは、国際的な自己資本規制(バーゼル3)の適用を受けており、「株式などのリスク資産、とりわけ銀行株については基本的に保有そのものが抑制される方向にある」(エコノミスト)とされる。このためMUFGは中京銀行株の売却を検討してきた経緯がある。愛知銀行と中京銀行の経営統合の背景には、メガバンクの戦略転換も影を落としている。22年の地銀再編を占うキーファクターはメガバンクが大株主となっている親密地銀の資本政策といえそうだ』、合併しても、「貸出金利も“名古屋レート”と呼ばれるほどシビア」なのが多少緩和する程度だろう。
・『SBIはどうなるか また、昨年、金融界の話題を席巻したSBIホールディングスの動向もキーファクターとなる。昨年末にSBIが新生銀行に仕掛けたTOB(株式公開買い付け)が成立。さらにSBIは株式を買い増し完全子会社化する方針である。SBIは地銀を糾合する「第4のメガバンク構想」を進めており、新生銀行をそのプラットフォームの中核に据える考えでいる。SBIはすでに第二地銀を中心に8行に出資しており、市場では、「新生銀行の買収手続きと並行して、SBIが次に狙う出資地銀の物色に入っている」(市場関係者)とされる。地銀再編は22年も進展を予感させる』、「SBI」、「新生銀行」は台風の目のようだ。
第三に、1月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した広報コンサルタントの風間 武氏による「みずほが「経営陣一新」、それでもメディアの辛口批判がやまない理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/294035
・『みずほの再出発に、早くも黄信号がともった。相次いだシステム障害問題の幕引きとなるはずだった新経営陣のお披露目会見では、社外取締役への不信がメディアから噴出した。現状のガバナンス体制へ“NO”が突き付けられたかたちだ。みずほフィナンシャルグループ(FG)と銀行のトップ2人を引責辞任に追い込んでなお、メディアが納得しない理由とは何か? ――。信頼回復へ第一歩を踏み出すための処方箋を探る』、興味深そうだ。
・『「みずほの顔」の坂井社長突然の降板という番狂わせ 「本日のご説明に先立ち、ご報告がございます」 1月17日に開いた記者会見の冒頭、みずほ銀行の藤原弘治頭取は厳しい表情でこう切り出した。 問題の陣頭指揮をとってきた坂井辰史FG社長が体調不良で、医師の指導により治療に専念せざるを得ないことを明かした。後任となる木原正裕執行役への交代が2月1日付へ2カ月早まった経緯を説明するためだった。 坂井社長は、これまで会見を取り仕切ってきたいわば“みずほの顔”だ。致し方ない事情とはいえ、“主役不在”のなんとも釈然としない会見がこうして始まった。) みずほはこの日、再発防止に向けてシステムの総点検や人材の増員などを盛り込んだ業務改善計画を金融庁に提出した。本来、策定の最高責任者である坂井社長がメインの説明者となるべきはずだった。 一般に、企業不祥事においては、経営陣の引責辞任や再発防止策の監督官庁への提出・発表のタイミングで、新旧経営陣のバトンタッチが行われることが多い。企業側としては、トップ交代劇によってメディア、ひいては世論の納得を勝ち取ろうとする。 旧経営陣が問題解決へ道筋をつけ、メディアからの批判や不信を一手に引き受けて舞台上から消える。新経営陣は初会見で過去との決別を宣言し、抱負を語る。メディアもいったんは矛を収め、お手並み拝見と模様眺めのスタンスへと変わる。 みずほも過去の不祥事において、下表の通り、トップ交代劇を繰り返してきた。 【みずほの不祥事と「経営責任明確化」の歴史】(リンク先参照) ところが、今回は、坂井社長降板による番狂わせにより、狙い通りの演出効果を発揮できなかった。 代わりにメディアの関心が集まったのは、後任トップ木原氏の所信表明ではなく、同席した社外取締役の甲斐中辰夫、小林いずみ両氏の発言だった』、「社外取締役」に焦点が当たったのも当然だ。
・『新聞各社の社説が一致したガバナンス体制への不信 新聞で最も読まれない記事、と揶揄されることもある「社説」。筆者も記者時代はそんな陰口をたたいたこともあったが、社論が込められていて軽んずるべきではない。今回は、メディアの真意を読み取る手掛かりとしたい。 各社には論説委員と呼ばれる専門記者がいる。局長、部長経験者というベテラン中のベテランが中心で、草稿をベースに議論を交わし練り上げ、最終稿として掲載される。つまりは、ある問題に対する社としての主張・見解の総括となる。 みずほの発表を受けた各社の社説で、一点、共通して厳しく指摘されていることがある。社外取締役の責任だ。 毎日新聞(20日付)「歴代経営陣を選んだ社外取締役の責任も、あいまいなままだ。(中略)人選は、社外取締役が主導している。失策を重ねた旧経営陣を選んだ責任を明確にしないままでは、新経営陣の正当性が疑われる」 日経新聞(20日付)「一連の障害を通じて、みずほの企業統治(コーポレートガバナンス)が十分に機能していないこともはっきりした。社外取締役を登用した取締役会は業務執行を適切に監督する役割を果たせなかったと言わざるを得ない」 読売新聞、朝日新聞 は昨年11月に金融庁が業務改善命令を出した段階で、社説を掲載している。 読売新聞(11月28日付)「金融庁は、取締役会の機能不全も問題視した。みずほFGは13人の取締役のうち6人が社外取締役で、大手企業の元社長らが並ぶ。危機対応の強化や企業統治の改革を迫る必要があった」 朝日新聞(11月28日付)「金融庁は今回の処分で、(中略)執行側だけでなく監督側の機能不全も指摘した。問われているのは企業統治総体の変革だ」 各社の社説がそろって手厳しい通り、17日の会見でも社外取締役の責任についての質問が相次いだ。 なお、みずほFGの社外取締役と重要な兼職については下記の通りだ(1月17日現在。みずほFGの公式サイトから引用)』、「新聞各社が共通して「社外取締役」の責任を取上げたのも当然だ。
・『会見で浮き彫りになった社外取締役の限界 みずほFGは2014年6月、メガバンク3社としては初めて「委員会等設置会社」(15年会社法改正から「指名委員会等設置会社」)へ移行した。前年に発覚した暴力団などへの不正融資事件を受けたコーポレート・ガバナンス(企業統治)強化をうたったものだった。 取締役会が経営を監督する一方、業務執行については執行役にゆだね、監視と執行を分離している。取締役会に監査、指名、報酬の三つの委員会を置き、各委員会のメンバーの過半数は社外取締役にしなければならない。人事や報酬の決定で外部視点を持つ社外取締役が強い権限を持つことになる。 みずほはガバナンス強化の“優等生”であっただけに、会見での社外取締役への追及も厳しかった。 矛先が向かったのは、取締役会議長でもある小林いずみ(注)氏だった。 「金融庁からの行政処分での指摘について認識はどうか?」 「コスト構造改革を進めることで歪みが生じることをどう考え、議論してきたのか?」 小林氏は、見ていて気の毒になるほど繰り返し「反省」を口にしながら、取締役会トップとして本問題への見解を初めて明らかにした。 経営陣の人選については、「経営チーム全体として最強となるようなあり方について、十分な目配りをしていたかというと十分ではなかったと反省している」。ガバナンス全体については、「巨大グループとしての各業態子会社のガバナンスについて十分な目配りが出来ていたかというと、自分としてまだ十分でなかったという非常に強い反省を持っている」と認めた。 会見の模様をネット中継したメディアは、日経新聞、NHKはじめ多数あり、社会的注目度の高さをうかがわせた。いわば衆人環視の下、社外取締役の限界があらわになったと言わざるを得ない。 各社がコメントを引用している青山学院大の八田進二名誉教授は、産経新聞記事(1月18日付)で、「実務型の社外取締役が現場で声を吸い上げ、みずほの歴史的、制度的課題にメスを入れなければ組織は変わらない」と締めくくっている』、「八田」氏の指摘は妥当だ。
(注)小林いずみ:成蹊大学卒、三菱化成、メリルリンチ日本証券の社長、ANA社外取締役などを歴任。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E6%9E%97%E3%81%84%E3%81%9A%E3%81%BF
・『報道と向き合うことが信頼回復の第一歩 会見と社説でメディアから指摘されたことは、その背後にある世論の認識であると受け止めるべきだろう。そして、信頼回復はメディアを通じてしかできないのが冷厳な事実だ。 現状のままでは、もはや何を語ってもメディアの理解は得られまい。 筆者の呼ぶところの“説明責任の迷路”( 詳しくは『三菱電機の相次ぐ「検査不正」、メディアが納得しない本当の理由とは』を参照)に陥っていると考える。 状況打開の次のチャンスは、4月1日以降の新経営陣の着任会見となる。メディアを納得させる具体的な善後策を示せるかに、全てがかかっている』、今度こそ「信頼回復」してほしいものだ。
第四に、1月24日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したプリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役の秋山進氏による「「言うべきことを言わない」と金融庁が糾弾したみずほ銀行から学べる本当の教訓」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/293768
・『幹部向けのリスクマネジメント研修をやる際に、「最近の事件で最も印象に残ったものは何ですか」と聞く。たいてい「みずほ銀行のシステムトラブル」の話が出る。実際に、振り込みができなくなったりして、大きな社会問題になった。会社は信用を失い、その結果、経営陣は退任することになった。その後もシステム障害は頻発し、経営陣が頭を下げる写真はもう見飽きたほどだろう。 事件の印象をさらに強くしたのが、金融庁による業務改善命令の文書である(詳細はhttps://www.fsa.go.jp/news/r3/ginkou/20211126/20211126.html)。 他の原因についても述べられてはいるが、この文書によると、社員の「言うべきことを言わない、言われたことしかしない姿勢」がシステム上、ガバナンス上のトラブルを起こした真因だという』、興味深そうだ。
・『「言うべきことを言わない」の「言うべき」とは何か さて、では、この「言うべきことを言わない」「言われたことしかしない」というのはいったい何のことを指すのか。考えてみると意外に難しい。 「言うべきことを言わない」から考えてみよう。言うべき――べきというからには、何かに照らして「すべきこと」が決まっているはずと考えられよう。では、その参照先とは何か。以下のようなものがありえる。 ・職業倫理に照らして――金融事業者、またはシステム開発者(運用)としてのあるべき姿 ・会社の経営理念や、行動指針に照らしてのあるべき姿 これらは一般的であり、おそらく金融庁の文書が言いたいのはこのことであろう。 しかしながら、組織の中の人間というのは、それ以外にもたくさんの「べき」に取り囲まれているのだ。 ・(○○事業部と対抗する)○○事業部の一員としてのあるべき姿 ・(○○派閥と対抗する)○○派閥のリーダーXさんの部下としてのあるべき姿 さらには ・子育てや住宅ローンにお金のかかる、一家の大黒柱としてのあるべき姿 これらのあるべき姿は、表向きは語られないが、実際のところは大変強い力を持つ。そして、これらは時として職業倫理や経営理念の求めるあるべき姿と真っ向から対立することもある。 そのような状況下にある組織の構成員に向かって、職業倫理や経営理念に照らして言うべきことを言え、と言ったところで、できるならとっくにしているのであって、そんなことは先刻承知、重々わかっていても、それができないからしていないのである。「職業倫理や経営理念に照らして」は、個々人に求めるのは厳しいものがある。「言うはやすし、行うは難し」の典型例といえるだろう。 たとえば、組織の中でマイナス情報を上げることは絶対的に好まれない。古今東西、およそ組織の体をなすものの上層部にとっての苦心は、マイナス情報をいかに上に上げさせるかに集約されるといっても過言ではない。多くの情報将校、インテリジェントスタッフが、トップの好まないマイナス情報を上に上げただけで左遷されたり、クビになったり、はなはだしきは斬首されたりした。どんな組織でも、余計な一言を言ったばかりに、トップの逆鱗に触れて職場を追われたという話の一つや二つはあるはずだ。ある情報を上に上げることが、いかに組織のためになるとわかっていようと、学費のかかる子どもの親としては、それを言ったばかりに路頭に迷うことになっては困るのだ。“言うべきことを言え”などと命じたところで、かしこまりました、と「言うべきこと」が上申されるわけがないのである。 マイナス情報を上げてほしいなら、「言うべきこと」などといった抽象論ではなく、具体的にどのような情報を欲しているか(NEED TO KNOW)を優先順位の整理を行った上で、トップ以下、各層の管理職が下に対して明確に定義する必要がある。好例としてはナポレオンの「午前二時の勇気」がある。 ナポレオンは、「寝室に退いたら、原則として我を起こすな。よい報告は翌朝でいい。しかし、悪い報告のときは、即刻我を起こせ。なぜなら我が決断と指揮命令がいるだろうから。不完全な報告で幕僚もいないときに決断を下す勇気を、我は『午前二時の勇気』と呼ぶ。その勇気において、我、人後に落ちず」と述べたという。(佐々淳行『重大事件に学ぶ「危機管理」』、「マイナス情報を上げてほしいなら、「言うべきこと」などといった抽象論ではなく、具体的にどのような情報を欲しているか・・・を優先順位の整理を行った上で、トップ以下、各層の管理職が下に対して明確に定義する必要がある」、「ナポレオンの「午前二時の勇気」」は本当によく練られた格言だ。
・『言われたことしかやらない姿勢とは何か 「言われたことしかやらない姿勢」がシステムトラブルの真因というのも不思議である。言われたことしかやらないというのは、「個別具体的で限定された行為のみをやる姿勢」と考えられるが、ここで思い出されるのは、SL(状況適応)理論である。 「指示的行動」⇒具体的な指示命令を与え、仕事の達成をきめ細かく監督する関わり方 「共労的行動」⇒部下に援助や指示を与え、問題解決や意思決定への参加を促す関わり方(図1はリンク先参照) つまり、部下の発達度がきわめて低ければ、行動をすべて管理して、なになにをせよ、と細かく命じる、これが教示型(指示型)。慣れてくれば、なになにをせよ、と指示はするが、本人にも裁量を持たせて、がんばってくれ、と見守るのが説得型(コーチ型)。さらに発達度が上がれば、本人の裁量を増やし、やり方にあまり口は出さず援助にとどめ、責任は持つのが参加型(援助型)。最も高度に発達した部下には、すべての権限を委譲して任せるのが委任型である。 指示を受けたことだけをするというのは、単純労働的な非熟練労働者に適用される「教示型」の仕事の進め方である。この方法が、銀行の高度なシステム開発に使われたとはいったいどういうことか。部下の発達度が低いのだろうか。 メガ銀行は最も優秀な人(少なくとも賢い人)たちが集まる会社の一つである。ベテランも多数いるのだ。それに、複雑なシステム開発の業務を担う人たちが、マニュアル的労働と同じような教示型で達成できるわけがないし、高度な内容を達成するのに、そのような自由度の低い仕事の仕方を本来は好むはずがない。つまり、これは、システム開発を担当した人たちにとっての自衛手段、リスクヘッジなのだ。 システムを担当した人たちの胸のうちはこんなふうではないだろうか。 ・かなりの確率で失敗が見込まれる状況であり、経営陣はシステムには興味がなく、できるだけ関わり合いたくないと思っている(何か起こったら、知らん顔をして、こちらの責任問題にするに決まっている)。 ・上司たちも、できれば我関せずで、支援的活動は見込めない(説得型ではない)。・成功しても特に褒められることもないが、失敗したらどえらく怒られる(左遷される)。 ・もし失敗したら、失敗の犯人捜しが行われる。その際には、“従前”と異なること、変わったこと、新しく挑戦したこと、など“余計なこと”が真っ先に疑われる(少なくともみずほ銀行の問題のシステムが組まれた時点では、銀行は前例主義の強いカルチャーに支配されている)。 ・抽象的な目標をもとにその内容を自分の裁量で決定し遂行すると(委任型)、失敗したらその責任は自分に帰することになる。そこで、すべての実施すべき行為をブレークダウンして具体化し、きわめて保守的な範囲を自分の業務範囲と設定し、その上で何をやるかを上司に指定してもらい(教示型)、それだけを実施するという方法を採る。 ・そうすれば、何か問題が起こっても「自分の持ち場については完璧に遂行しました」と言えるので、疑いがかからずに、責任を問われなくて済む。余計な提案もしていない(何かあったときに降りかかる火の粉を最小限にすることができる)。 ・もし、自分の持ち場と、他人の持ち場との間の連結で問題が起こったとしても、自分としては上司に指定されたことはしっかりとやっているので、自分の責任ではないと言い逃れができる。 だいたいこんなところであろう。 「言われたことしかしない姿勢」というのは、本来は高い能力のある人たちが、あえて委任型から教示型に仕事のやり方を退化させ、自己の裁量を大幅に下げることによって「責任追及から逃れる」ためにしているリスクヘッジの行為なのである。 本来、システム構築はクリエイティブであり、委任型や参加型の仕事の進め方でなければ成功しない。幾度にもわたる失敗からの自信喪失、または過度の細かいチェックの強制によって、あるいは時限爆弾のようにどこに埋まっているかわからない不具合の存在によって、現場の社員を教示型へ逃避させてしまったのではないか。そして、このような仕事のやり方が真因ではないとまではいわないが、むしろ、問題が起こることが高い確率で予測されたからこそ、言われたことしかやらない仕事のやり方に変えたというのが実際のところであろう。 このように、「言うべきことを言わない、言われたことしかしない姿勢」がそもそも何のことを言っているのかを把握すること自体が難しい。それを改善するのはもっと難しい。おそらく金融庁は、公開された文書とは別に表に出せない具体的な指導をしているはずであろうから、みずほ銀行側に十分に真意は伝わっているのであろう。 しかし、もし、この文書を見たどこかの社長が、これを教訓として(あるいはおこがましいが「他山の石」として?)、自分の会社の組織にリスクを感じ、思いつきのように「言うべきことを言わない、言われたことしかしない姿勢ではみずほ銀行のようなことが起こってしまう。皆さん、言うべきことは言ってください。言われていないこともどんどん実施してください……」などと命じても、聞く側はちんぷんかんぷんで、何ら実質的な内容は伝わっていないし、仮に表面的な言葉の意味が伝わったところで、「言うべきこと」「やるべきこと」は決して実行されないということをこそ、教訓として学び取るべきであろう。 「言うべきことを言わない姿勢」を非難するのではなく、役員および管理職が「どんな情報を欲しているか、下の人間は何を言うべきか」をあらかじめ明確にして、部下に伝える。そして、可能な限り、情報を上げた人が不利益を被らないような予防措置を講じておく。そうやって、初めて情報は上にも伝わり始める』、「「言われたことしかしない姿勢」というのは、本来は高い能力のある人たちが、あえて委任型から教示型に仕事のやり方を退化させ、自己の裁量を大幅に下げることによって「責任追及から逃れる」ためにしているリスクヘッジの行為なのである」、「「言うべきことを言わない姿勢」を非難するのではなく、役員および管理職が「どんな情報を欲しているか、下の人間は何を言うべきか」をあらかじめ明確にして、部下に伝える。そして、可能な限り、情報を上げた人が不利益を被らないような予防措置を講じておく。そうやって、初めて情報は上にも伝わり始める」、その通りなのだろう。
・『言われたことしかやらない姿勢とは何か 「言われたことしかやらない姿勢」がシステムトラブルの真因というのも不思議である。言われたことしかやらないというのは、「個別具体的で限定された行為のみをやる姿勢」と考えられるが、ここで思い出されるのは、SL(状況適応)理論である。 「指示的行動」⇒具体的な指示命令を与え、仕事の達成をきめ細かく監督する関わり方 「共労的行動」⇒部下に援助や指示を与え、問題解決や意思決定への参加を促す関わり方 (図1はリンク先参照) つまり、部下の発達度がきわめて低ければ、行動をすべて管理して、なになにをせよ、と細かく命じる、これが教示型(指示型)。慣れてくれば、なになにをせよ、と指示はするが、本人にも裁量を持たせて、がんばってくれ、と見守るのが説得型(コーチ型)。さらに発達度が上がれば、本人の裁量を増やし、やり方にあまり口は出さず援助にとどめ、責任は持つのが参加型(援助型)。最も高度に発達した部下には、すべての権限を委譲して任せるのが委任型である。 指示を受けたことだけをするというのは、単純労働的な非熟練労働者に適用される「教示型」の仕事の進め方である。この方法が、銀行の高度なシステム開発に使われたとはいったいどういうことか。部下の発達度が低いのだろうか。 メガ銀行は最も優秀な人(少なくとも賢い人)たちが集まる会社の一つである。ベテランも多数いるのだ。それに、複雑なシステム開発の業務を担う人たちが、マニュアル的労働と同じような教示型で達成できるわけがないし、高度な内容を達成するのに、そのような自由度の低い仕事の仕方を本来は好むはずがない。つまり、これは、システム開発を担当した人たちにとっての自衛手段、リスクヘッジなのだ。 システムを担当した人たちの胸のうちはこんなふうではないだろうか。 ・かなりの確率で失敗が見込まれる状況であり、経営陣はシステムには興味がなく、できるだけ関わり合いたくないと思っている(何か起こったら、知らん顔をして、こちらの責任問題にするに決まっている)。 ・上司たちも、できれば我関せずで、支援的活動は見込めない(説得型ではない)。 ・成功しても特に褒められることもないが、失敗したらどえらく怒られる(左遷される)。 ・もし失敗したら、失敗の犯人捜しが行われる。その際には、“従前”と異なること、変わったこと、新しく挑戦したこと、など“余計なこと”が真っ先に疑われる(少なくともみずほ銀行の問題のシステムが組まれた時点では、銀行は前例主義の強いカルチャーに支配されている)。 ・抽象的な目標をもとにその内容を自分の裁量で決定し遂行すると(委任型)、失敗したらその責任は自分に帰することになる。そこで、すべての実施すべき行為をブレークダウンして具体化し、きわめて保守的な範囲を自分の業務範囲と設定し、その上で何をやるかを上司に指定してもらい(教示型)、それだけを実施するという方法を採る。 ・そうすれば、何か問題が起こっても「自分の持ち場については完璧に遂行しました」と言えるので、疑いがかからずに、責任を問われなくて済む。余計な提案もしていない(何かあったときに降りかかる火の粉を最小限にすることができる)。 ・もし、自分の持ち場と、他人の持ち場との間の連結で問題が起こったとしても、自分としては上司に指定されたことはしっかりとやっているので、自分の責任ではないと言い逃れができる。 だいたいこんなところであろう。 「言われたことしかしない姿勢」というのは、本来は高い能力のある人たちが、あえて委任型から教示型に仕事のやり方を退化させ、自己の裁量を大幅に下げることによって「責任追及から逃れる」ためにしているリスクヘッジの行為なのである。 本来、システム構築はクリエイティブであり、委任型や参加型の仕事の進め方でなければ成功しない。幾度にもわたる失敗からの自信喪失、または過度の細かいチェックの強制によって、あるいは時限爆弾のようにどこに埋まっているかわからない不具合の存在によって、現場の社員を教示型へ逃避させてしまったのではないか。そして、このような仕事のやり方が真因ではないとまではいわないが、むしろ、問題が起こることが高い確率で予測されたからこそ、言われたことしかやらない仕事のやり方に変えたというのが実際のところであろう。 このように、「言うべきことを言わない、言われたことしかしない姿勢」がそもそも何のことを言っているのかを把握すること自体が難しい。それを改善するのはもっと難しい。おそらく金融庁は、公開された文書とは別に表に出せない具体的な指導をしているはずであろうから、みずほ銀行側に十分に真意は伝わっているのであろう。 しかし、もし、この文書を見たどこかの社長が、これを教訓として(あるいはおこがましいが「他山の石」として?)、自分の会社の組織にリスクを感じ、思いつきのように「言うべきことを言わない、言われたことしかしない姿勢ではみずほ銀行のようなことが起こってしまう。皆さん、言うべきことは言ってください。言われていないこともどんどん実施してください……」などと命じても、聞く側はちんぷんかんぷんで、何ら実質的な内容は伝わっていないし、仮に表面的な言葉の意味が伝わったところで、「言うべきこと」「やるべきこと」は決して実行されないということをこそ、教訓として学び取るべきであろう』、「「言われたことしかしない姿勢」というのは、本来は高い能力のある人たちが、あえて委任型から教示型に仕事のやり方を退化させ、自己の裁量を大幅に下げることによって「責任追及から逃れる」ためにしているリスクヘッジの行為なのである」、「このような仕事のやり方が真因ではないとまではいわないが、むしろ、問題が起こることが高い確率で予測されたからこそ、言われたことしかやらない仕事のやり方に変えたというのが実際のところであろう」、深く掘り下げると、面白いことが隠れているものだ。
タグ:今回のTOB劇では、「新生銀行」の企業価値が、公的資金を返済できるところまで向上するかが最も重要なポイントであって、「SBI」の「“第4のメガバンク”実現」は実は二義的問題である。 真壁 昭夫氏による「ついに新生銀行を手に入れたが…SBI「第4のメガバンク構想」に立ちはだかる深刻な問題 実現する前に地銀の体力がもつのか」 PRESIDENT ONLINE (その13)(ついに新生銀行を手に入れたが…SBI「第4のメガバンク構想」に立ちはだかる深刻な問題 実現する前に地銀の体力がもつのか、2022年地銀再編を促すキーファクター MUFGやSBIの動向は?、「言うべきことを言わない」と金融庁が糾弾したみずほ銀行から学べる本当の教訓) 金融業界 「八田」氏の指摘は妥当だ。 「新聞各社が共通して「社外取締役」の責任を取上げたのも当然だ。 「社外取締役」に焦点が当たったのも当然だ。 風間 武氏による「みずほが「経営陣一新」、それでもメディアの辛口批判がやまない理由」 ダイヤモンド・オンライン 「SBI」、「新生銀行」は台風の目のようだ。 合併しても、「貸出金利も“名古屋レート”と呼ばれるほどシビア」なのが多少緩和する程度だろう。 小林佳樹氏による「2022年地銀再編を促すキーファクター MUFGやSBIの動向は?」 日刊ゲンダイ 「傘下の銀行勢と異業種企業の提携」、といっても、銀行法の制約から限定的だろう。簡単なものであれば、既に実行されている筈だ。 「新生銀行」はもともとつながりがある「地方銀行」との「協業」はかなりやっていた筈で、さらに追加的にどの程度「強化」できるかは疑問だ。 「エネルギー政策の転換を急いで新しい産業の創生」、など夢物語でしかない。 もともと「新生銀行」など長期信用系の銀行は、「地方銀行」とのつながりは強かった。しかも「新生銀行」は傘下に消費者金融事業を抱えているだけに、「カードローン事業」での「協業」は上手くいく可能性がある。 こうした「異次元の金融緩和」の副作用は深刻だ。 公的資金3500億円分は1株7500円で普通株に転換されているので、政府が損を出さずに売却できるためには、株価が1株7500円以上になっている必要があるが、現実の株価は2078円と1/3以下と程遠い。SBIの剛腕をもってしても、かなり難しそうだ。 「新生銀行」が「公的資金返済」のメドも示さず、単純な「買収防衛策」発動を目指しても、「公的資金返済」を強く求めている「政府」にとっては、「賛成しない」のは当然であろう。 「「言われたことしかしない姿勢」というのは、本来は高い能力のある人たちが、あえて委任型から教示型に仕事のやり方を退化させ、自己の裁量を大幅に下げることによって「責任追及から逃れる」ためにしているリスクヘッジの行為なのである」、「このような仕事のやり方が真因ではないとまではいわないが、むしろ、問題が起こることが高い確率で予測されたからこそ、言われたことしかやらない仕事のやり方に変えたというのが実際のところであろう」、深く掘り下げると、面白いことが隠れているものだ。 「「言われたことしかしない姿勢」というのは、本来は高い能力のある人たちが、あえて委任型から教示型に仕事のやり方を退化させ、自己の裁量を大幅に下げることによって「責任追及から逃れる」ためにしているリスクヘッジの行為なのである」、「「言うべきことを言わない姿勢」を非難するのではなく、役員および管理職が「どんな情報を欲しているか、下の人間は何を言うべきか」をあらかじめ明確にして、部下に伝える。そして、可能な限り、情報を上げた人が不利益を被らないような予防措置を講じておく。そうやって、初めて情報は上にも伝わり始め 「マイナス情報を上げてほしいなら、「言うべきこと」などといった抽象論ではなく、具体的にどのような情報を欲しているか・・・を優先順位の整理を行った上で、トップ以下、各層の管理職が下に対して明確に定義する必要がある」、「ナポレオンの「午前二時の勇気」」は本当によく練られた格言だ。 秋山進氏による「「言うべきことを言わない」と金融庁が糾弾したみずほ銀行から学べる本当の教訓」 今度こそ「信頼回復」してほしいものだ。 (注)小林いずみ:成蹊大学卒、三菱化成、メリルリンチ日本証券の社長、ANA社外取締役などを歴任。