デジタル通貨(その3)(中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会における開会挨拶、FRB中銀デジタル通貨創設是非巡る討議資料公表 デジタル資産取り組む上で資料発表は重要節目、日の丸大連合が描く「国産デジタル通貨」の正体 NTTやメガバンクなど70社超が一斉に集う意味) [金融]
デジタル通貨については、昨年10月13日に取上げた。今日は、(その3)(中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会における開会挨拶、FRB中銀デジタル通貨創設是非巡る討議資料公表 デジタル資産取り組む上で資料発表は重要節目、日の丸大連合が描く「国産デジタル通貨」の正体 NTTやメガバンクなど70社超が一斉に集う意味)である。
先ずは、昨年3月28日付け日本銀行の理事の内田 眞一氏による挨拶「中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会における開会挨拶」を紹介しよう。
https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2021/ko210326a.htm/
・『本日は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する連絡協議会にご参加頂き、誠にありがとうございます。 日本銀行では、昨年10月に「中央銀行デジタル通貨に関する取り組み方針」を公表したあと、この方針に沿って、実証実験の内容の検討や、実験に参加する外部ベンダーの選定など、開始準備を進めてまいりました。 この結果、本年4月から、CBDCの基本的な機能や具備すべき特性が技術的に実現可能かどうかを検証するための概念実証(Proof of Concept)をスタートします。その後、さらに必要と判断されれば、民間事業者や消費者が実地に参加する形でのパイロット実験を行うことも視野に入れて検討いたします。 日本銀行として「現時点でCBDCを発行する計画はない」という考え方に変わりはありません。決済システムの将来像は、使える技術(テクノロジー)に依存します。その時々の技術水準を所与として、便利で安全な決済システムを作っていけばよいのであって、そこにCBDCが必要となるかどうかは何とも言えません。ただ、現時点で分かっている技術的な要因や内外の情勢などを踏まえると、将来、「CBDCを一つの要素とする決済システム」が世界のスタンダードとなる可能性は相応にあります。そうした中で、今から実験を進めることは必要なステップであると考えています。 CBDCのプロジェクトが各国で盛り上がってきたのは、ここ1、2年のことです。わが国においても、当初は、「現金が安全に使えて、国民のほとんどが預金口座を持っている日本でCBDCは必要だろうか」とか、「具体的なユースケースが思いつかないし、あるとしてもここまで大がかりなことをしなくても解決策はあるのではないか」といった受け止め方が一般的であったように思います。このことは今も事実ですが、同時に、各国でCBDCが真剣に検討されている文脈を理解しておくことも必要です』、「日本銀行として「現時点でCBDCを発行する計画はない」という考え方に変わりはありません」、仮に一般向けにも発行するとなると、民間銀行の存立基盤がなくなってしまうので、一大事だ。
・『一昨年来、グローバル・ステーブルコインを巡って、G7やG20をはじめとして国際的な議論が行われてきましたが、これはより広範な問いかけのきっかけにすぎません。すなわち、我々は「デジタル社会における決済システムのあるべき姿」を考える必要に迫られています。この問いかけは本質的であり、例えば、バンクとノンバンクの役割をどう考えるのか、中央銀行などの公的セクターはどのような公共財を提供すべきなのか、データの活用とプライバシーの問題をどう調整するのか、等々の問題を提起するものです。いずれも、CBDCがあろうとなかろうと避けては通れない大きな問題です。 これらに対する答えは、決済や金融のロジックだけで導き出せるものではないかもしれませんし、国によって違うかもしれません。例えば、データの利用やそれを通じた顧客との接点作りは、デジタル社会のビジネスを動かしている主要なドライバーです。そうしたデータの利用範囲をプライバシーとの関係でどう画していくかは、各国がデジタル社会と向き合っていく際の基本的なルールといえます。現にこのことは、各国がCBDCを導入するかどうかを判断するうえで重要な背景の一つとなっていますし、今後、CBDCの具体的なデザインに大きく影響してくるものと考えられます。 テクノロジーの進歩によって、将来の決済システムが、より便利になっていくことは間違いないと思います。ただ、安全になるかどうかははっきりしません。現代においても、現金を持ち運ぶ危険が減少した一方、ネット上ではお金が盗まれたり、個人情報が漏洩したりすることが心配されています。このように、便利さと安全性は時にトレードオフの関係にあり、中央銀行や預金保険制度はこれを補完する役割を担ってきました。デジタル社会における便利さと安全性の最も良いバランスは何か、その際の中央銀行、バンク、ノンバンクの果たすべき役割は何なのか、いずれも重たい課題です。 これらの答えを今出すということではありませんが、その答えの結果として、将来、CBDCというパーツが必要となる可能性があるということです。ここに、実証実験を開始すること、そしてそれと並行して関係者の皆様方と対話を行うことの意義があるのだと思います。 もう少し具体的に申し上げますと、仮にCBDCを発行する場合、その設計は、決済システムの将来像と擦り合わせながら行っていかなければならないと考えています。将来の決済システムは、全体として、より便利で安全になる必要がありますが、それは、必ずしもCBDC自体があらゆる便利な機能を持つことを意味しません。実際、現在も、現金が物理的に適度に不便であること(嵩張ることや盗難の危険)が、預金やその他の決済サービスとの適切な棲み分けを可能にし、全体として便利さと安全性のバランスが図られています。CBDCのある世界においても、こうした役割分担は必須です。公共財として提供されるCBDCをいわば材料にして、便利な決済サービスという料理を完成させるのは、民間の皆様であるべきだと思っています』、「G7やG20をはじめとして国際的な議論が行われてきました」、これは実は中国が先行してCBDCの導入を急いでいるため、これに対抗して主要国としても研究を急いだことがある。
・『私は、中央銀行がイノベーションを生み出せないとは思っていません。これまでも金融政策やプルーデンス、決済などの分野で新しいアイデアを実現してきました。しかし、中央銀行が個人や企業との接点に立って、その多様なニーズに応えていくことは全く不可能です。そして、この分野では、競争が行われるべきです。より便利で、時々の、あるいは個々の人々のニーズに合ったサービスを提供することに成功した主体が利益を得るべきだと思います。そうした2層構造がうまく機能するように「材料」、「種」となるCBDCを設計していくためには、決済の主要な担い手である皆様との密接な対話が必要です。皆様におかれては、ぜひ、デジタル社会における決済システム像を一緒に考え、また、その中におけるビジネスのイメージを膨らませながら、このプロジェクトにお付き合い頂きたいと思っております。 ご清聴ありがとうございました』、「中央銀行が個人や企業との接点に立って、その多様なニーズに応えていくことは全く不可能です。そして、この分野では、競争が行われるべきです。より便利で、時々の、あるいは個々の人々のニーズに合ったサービスを提供することに成功した主体が利益を得るべきだと思います』、日銀としては、あくまで民間銀行が主体であるべきとの立場だ。
次に、1月23日付け東洋経済オンラインが転載したブルームバーグ「FRB中銀デジタル通貨創設是非巡る討議資料公表 デジタル資産取り組む上で資料発表は重要節目」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/504778
・『米連邦準備制度理事会(FRB)は20日、米国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)創設の是非を巡る討議資料を発表した。CBDC創設の検討で重要な一歩となる。民間の暗号資産(仮想通貨)の急成長や、開発で先行する中国などの動向に対処する上で、ドルの優位を確保するのに役立つとする動きだ』、ドルの番人のFRBとしては、検討資料公開によって民間での議論を喚起したいのだろう。
・『CBDC創設には議会の立法化による法的な認可が理想的 FRBはCBDC発行が賢明であるかどうか確固たる判断を下しておらず、いずれにしてもホワイトハウスや議会の支持がないままプロセスを進める意図はないと表明しており、近いうちに発行される可能性はまずない。しかし、FRBがデジタル資産への取り組み強化を目指す上で、今回の資料発表は最も重要な節目と言える。 発行の場合の意義付けについてFRBは、「CBDCの導入は米国の通貨における極めて重要なイノベーションを意味するだろう」と討議資料で指摘した。この資料の内容に関して5月20日までの意見公募期間を設けており、CBDC創設には議会の立法化による法的な認可が理想的だと説明している』、確かに「議会の立法化による法的な認可」があれば、最も理想的だ。
・『CBDC創設のプラス面とマイナス面 資料ではCBDC発行のプラス面として、国際金融システムにおける突出した通貨としてのドルの地位確保のほか、国境をまたぐ決済の改善や一段と包摂的な金融システムの整備、新たなテクノロジーでのドル使用の利便性向上などを列挙。一方で、従来型の銀行から預金が引き揚げられたり、金融機関への取り付け騒ぎの頻発化・深刻化を招いたりする潜在的なマイナス面も警告した。 このほか個人のプライバシー保護と犯罪予防のための透明性確保の両立、サイバー攻撃対策などの課題にも言及している。FRB当局者は記者団との電話会議で、意見公募期間終了後に次のステップを検討するとしたが、CBDCが最終的にいつ導入される可能性があるかを巡って具体的なスケジュールは示さなかった。 FRBは口座の提供やCBDC決済の促進について、当局自体がその役割を果たすのではなく従来型の銀行やノンバンクに委ねる考えを示唆した。討議資料はパウエルFRB議長が昨年5月の時点で公表予定を明らかにし、これまでの検討の成果としてまとめられた。ボストン連銀は2月にもCBDCの技術面に関する別のリポートを公表する見通し』、「FRBは口座の提供やCBDC決済の促進について、当局自体がその役割を果たすのではなく従来型の銀行やノンバンクに委ねる考えを示唆」、資本主義下では当然だろう。
第三に、1月24日付け東洋経済オンライン「日の丸大連合が描く「国産デジタル通貨」の正体 NTTやメガバンクなど70社超が一斉に集う意味」:NTT、イオン、メガバンク3行――。日本を代表する大企業らが集結し、2022年度中に商用化を目指すのが、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用したデジタル通貨「DCJPY(仮称)」だ。 通貨価値は銀行預金の日本円に紐づけられているため、実物資産の裏付けがないビットコインのように、荒い値動きがないとされる。送金・決済用の通貨として、当面は日本国内限定での提供を予定している。 『週刊東洋経済』1月24日(月)発売号では「全解明 暗号資産&NFT」を特集。米国発第2次ビットコインブームやデジタル通貨の行方などについて、まとめている。 オールジャパンの取り組みは、一体何を目指しているのか。DCJPYの普及組織「デジタル通貨フォーラム」の事務局長を務めるディーカレットの時田一広社長を直撃した(Qは聞き手の質問。Aは時田氏の回答)』、興味深そうだ。
・『銀行口座の日本円が裏付け資産 Q:まず、DCJPYの特徴や仕組みについて教えてください。 A:民間銀行の債務である預金として発行するスキームを検討している。現在、ステーブルコイン(法定通貨などと連動する通貨)が有望な支払い手段と捉えられながらも 、銀行預金などと比べて規制が強まることが世界的に懸念されている。 その点、日本円預金を裏付け資産とするスキームをとることで、このような問題を乗り越えることが可能と考えている。DCJPYも幅広い意味でステーブルコインの一種と位置づけている。 そのうえで、DCJPYは(発行・送金・償却する)共通領域と(アプリ・サービスを展開できる)付加領域との2層構造に分かれているのが特徴だ。銀行などの金融機関が共通領域を通じてDCJPYを発行したり、管理したりすることになる。 Q:通貨の管理者を設けたという意味では、ビットコインなどの暗号資産の主流からは外れています。そうした仕組みにした理由は。 A:暗号資産は、「パーミッション型(通貨の管理者が存在)」と「パーミッションレス型(管理者を設けずに不特定多数の参加者でネットワークを構築)」に分かれる。DCJPYは前者だが、ビットコインなどの一般的な暗号資産は後者にあたる。 パーミッションレス型を否定するつもりはまったくないし、両方あっていいと思う。だが、DCJPYは(通貨価値に連動するのが日本円という)法定通貨なので、(責任の所在が明らかになるなどの理由で)より安全なパーミッション型を選ばざるをえなかった。) Q:DCJPYを導入すると、どんなメリットがあるのでしょうか。 A:企業側のメリットが特に分かりやすい。デジタル通貨の一番の意義は(2層構造の付加領域に)プログラムを書けることだ。通貨の取引・決済にプログラムができると、例えば取引と決済を自動化できる「スマートコントラクト」を実装できる。 すると、「月末締めの翌月払い」などで、今まで企業などの経理が手作業でやっていた業務を自動化できる。事務作業の正確性を高めたり、事務コストを下げられたりするなどのメリットが生まれる。そういった企業がサービスを作るようになれば、利用しているユーザーである個人にも恩恵が出てくるはずだ。 Q:DCJPYが企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)にも寄与すると? A:そうだ。デジタル通貨フォーラムには、(2021年末時点で)74の企業・団体が参加してくれているが、いずれも自分たちのビジネスのデジタル化を進めるなら、通貨をデジタル化した方がいいと気が付いている。その考えがない企業・団体はここにはいない』、「取引と決済を自動化できる「スマートコントラクト」は確かに便利そうだ。
・『参加する企業・団体は1年で倍増 Q:2020年6月にフォーラムの前身となる「デジタル通貨勉強会」を立ち上げてから、参加企業・団体が増え続けています。 (時田氏の略歴はリンク先参照) デジタル通貨勉強会は当時、メガバンク3行などとともに「日本におけるデジタル通貨の見通しをつけよう」と立ち上げた。 2020年11月にデジタル通貨フォーラムとなり、DCJPYのユースケースなどを1年余り研究してきたが、その間、参加企業・団体の数は2倍近くに膨らんだ。足元でも多くの企業・団体から問い合わせを新たにいただいている。 Q:フォーラムに参加した企業・団体のみにメリットが生まれ、囲い込みと見ることもできませんか? A:まず、囲い込みはない。フォーラムへの無理な勧誘はしておらず、ほとんどの企業・団体は先方から問い合わせをいただいて参加してもらっている。排他的なことはこれまでしていないし、これからするつもりもない。 Q:DCJPYの商用化実現に向けたロードマップは。 A:2022年度中にはDCJPYとその運用を支える一部プラットフォームの実用化を目指している。 フォーラムでは、10の分科会に分かれてユースケースの研究・実証を進めているが、特に商用化に向けた動きが早いのは「電力取引」と「NFT(非代替性トークン)」の分科会だ。いずれの分野もブロックチェーン技術の実装が進んでいたため、デジタル通貨のニーズが強くある。 Q:DCJPYの商用化によって、企業の新たなビジネス展開も視野に入ります。 A:電力取引分科会では、DCJPYのブロックチェーン技術を使い、再生可能エネルギーの利用率を可視化するビジネスを検討している。DCJPYに対応した電力取引市場で売買した企業の再エネ利用率を捉え、それを銀行などの金融機関に提供するモデルだ。これは2021年度中にPoC(概念実証)を終えて、商用化を急ぎたい。 一方、NFT分科会では2022年中にもDCJPYを使ったNFTのマーケットプレースの実証実験を実施する予定だ』、「囲い込みはない。フォーラムへの無理な勧誘はしておらず、ほとんどの企業・団体は先方から問い合わせをいただいて参加してもらっている。排他的なことはこれまでしていないし、これからするつもりもない」、決済は幅広く開放的にやるのが原則で、閉鎖的な考え方はとるべきでない。
・『日銀や金融庁の大物OBが助言 Q:フォーラムの運営には、元金融庁長官などの大物も関わってきます。商用化に向けては省庁との制度のすり合わせなども重要になってきますね。 A:フォーラムの座長には元日銀決済機構局長の山岡浩巳氏、シニアアドバイザーには元金融庁長官の遠藤俊英氏に就任していただいた。フォーラムには、オブザーバーとして日銀や金融庁、財務省、経産省、総務省が参加しているので、省庁などの窓口はこの人たちでやっている。山岡氏や遠藤氏には、その知見からフォーラムに対してアドバイスをいただいている。 Q:DCJPYの最終的なビジョンをどう考えていますか。 A:社会インフラになることだ。(DCJPYを発行・管理する役割になる)銀行だけでも全国に100行ぐらいある。(フォーラムにすでに参加している)メガバンクなどの大きい銀行だけではなく、地方銀行とか信用金庫といった地場の金融機関にも提携先を広げていく。 全国の銀行に対して、「同じプラットフォームに乗ってください」というお願いをこれからしようとしているところだ。時間軸は今後20年ぐらいかかるかもしれないが、日本中の北から南まで、全国にくまなく行き届くことを目指したい』、「フォーラム」がこれからどう発展していくのか、楽しみだ。
先ずは、昨年3月28日付け日本銀行の理事の内田 眞一氏による挨拶「中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会における開会挨拶」を紹介しよう。
https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2021/ko210326a.htm/
・『本日は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する連絡協議会にご参加頂き、誠にありがとうございます。 日本銀行では、昨年10月に「中央銀行デジタル通貨に関する取り組み方針」を公表したあと、この方針に沿って、実証実験の内容の検討や、実験に参加する外部ベンダーの選定など、開始準備を進めてまいりました。 この結果、本年4月から、CBDCの基本的な機能や具備すべき特性が技術的に実現可能かどうかを検証するための概念実証(Proof of Concept)をスタートします。その後、さらに必要と判断されれば、民間事業者や消費者が実地に参加する形でのパイロット実験を行うことも視野に入れて検討いたします。 日本銀行として「現時点でCBDCを発行する計画はない」という考え方に変わりはありません。決済システムの将来像は、使える技術(テクノロジー)に依存します。その時々の技術水準を所与として、便利で安全な決済システムを作っていけばよいのであって、そこにCBDCが必要となるかどうかは何とも言えません。ただ、現時点で分かっている技術的な要因や内外の情勢などを踏まえると、将来、「CBDCを一つの要素とする決済システム」が世界のスタンダードとなる可能性は相応にあります。そうした中で、今から実験を進めることは必要なステップであると考えています。 CBDCのプロジェクトが各国で盛り上がってきたのは、ここ1、2年のことです。わが国においても、当初は、「現金が安全に使えて、国民のほとんどが預金口座を持っている日本でCBDCは必要だろうか」とか、「具体的なユースケースが思いつかないし、あるとしてもここまで大がかりなことをしなくても解決策はあるのではないか」といった受け止め方が一般的であったように思います。このことは今も事実ですが、同時に、各国でCBDCが真剣に検討されている文脈を理解しておくことも必要です』、「日本銀行として「現時点でCBDCを発行する計画はない」という考え方に変わりはありません」、仮に一般向けにも発行するとなると、民間銀行の存立基盤がなくなってしまうので、一大事だ。
・『一昨年来、グローバル・ステーブルコインを巡って、G7やG20をはじめとして国際的な議論が行われてきましたが、これはより広範な問いかけのきっかけにすぎません。すなわち、我々は「デジタル社会における決済システムのあるべき姿」を考える必要に迫られています。この問いかけは本質的であり、例えば、バンクとノンバンクの役割をどう考えるのか、中央銀行などの公的セクターはどのような公共財を提供すべきなのか、データの活用とプライバシーの問題をどう調整するのか、等々の問題を提起するものです。いずれも、CBDCがあろうとなかろうと避けては通れない大きな問題です。 これらに対する答えは、決済や金融のロジックだけで導き出せるものではないかもしれませんし、国によって違うかもしれません。例えば、データの利用やそれを通じた顧客との接点作りは、デジタル社会のビジネスを動かしている主要なドライバーです。そうしたデータの利用範囲をプライバシーとの関係でどう画していくかは、各国がデジタル社会と向き合っていく際の基本的なルールといえます。現にこのことは、各国がCBDCを導入するかどうかを判断するうえで重要な背景の一つとなっていますし、今後、CBDCの具体的なデザインに大きく影響してくるものと考えられます。 テクノロジーの進歩によって、将来の決済システムが、より便利になっていくことは間違いないと思います。ただ、安全になるかどうかははっきりしません。現代においても、現金を持ち運ぶ危険が減少した一方、ネット上ではお金が盗まれたり、個人情報が漏洩したりすることが心配されています。このように、便利さと安全性は時にトレードオフの関係にあり、中央銀行や預金保険制度はこれを補完する役割を担ってきました。デジタル社会における便利さと安全性の最も良いバランスは何か、その際の中央銀行、バンク、ノンバンクの果たすべき役割は何なのか、いずれも重たい課題です。 これらの答えを今出すということではありませんが、その答えの結果として、将来、CBDCというパーツが必要となる可能性があるということです。ここに、実証実験を開始すること、そしてそれと並行して関係者の皆様方と対話を行うことの意義があるのだと思います。 もう少し具体的に申し上げますと、仮にCBDCを発行する場合、その設計は、決済システムの将来像と擦り合わせながら行っていかなければならないと考えています。将来の決済システムは、全体として、より便利で安全になる必要がありますが、それは、必ずしもCBDC自体があらゆる便利な機能を持つことを意味しません。実際、現在も、現金が物理的に適度に不便であること(嵩張ることや盗難の危険)が、預金やその他の決済サービスとの適切な棲み分けを可能にし、全体として便利さと安全性のバランスが図られています。CBDCのある世界においても、こうした役割分担は必須です。公共財として提供されるCBDCをいわば材料にして、便利な決済サービスという料理を完成させるのは、民間の皆様であるべきだと思っています』、「G7やG20をはじめとして国際的な議論が行われてきました」、これは実は中国が先行してCBDCの導入を急いでいるため、これに対抗して主要国としても研究を急いだことがある。
・『私は、中央銀行がイノベーションを生み出せないとは思っていません。これまでも金融政策やプルーデンス、決済などの分野で新しいアイデアを実現してきました。しかし、中央銀行が個人や企業との接点に立って、その多様なニーズに応えていくことは全く不可能です。そして、この分野では、競争が行われるべきです。より便利で、時々の、あるいは個々の人々のニーズに合ったサービスを提供することに成功した主体が利益を得るべきだと思います。そうした2層構造がうまく機能するように「材料」、「種」となるCBDCを設計していくためには、決済の主要な担い手である皆様との密接な対話が必要です。皆様におかれては、ぜひ、デジタル社会における決済システム像を一緒に考え、また、その中におけるビジネスのイメージを膨らませながら、このプロジェクトにお付き合い頂きたいと思っております。 ご清聴ありがとうございました』、「中央銀行が個人や企業との接点に立って、その多様なニーズに応えていくことは全く不可能です。そして、この分野では、競争が行われるべきです。より便利で、時々の、あるいは個々の人々のニーズに合ったサービスを提供することに成功した主体が利益を得るべきだと思います』、日銀としては、あくまで民間銀行が主体であるべきとの立場だ。
次に、1月23日付け東洋経済オンラインが転載したブルームバーグ「FRB中銀デジタル通貨創設是非巡る討議資料公表 デジタル資産取り組む上で資料発表は重要節目」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/504778
・『米連邦準備制度理事会(FRB)は20日、米国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)創設の是非を巡る討議資料を発表した。CBDC創設の検討で重要な一歩となる。民間の暗号資産(仮想通貨)の急成長や、開発で先行する中国などの動向に対処する上で、ドルの優位を確保するのに役立つとする動きだ』、ドルの番人のFRBとしては、検討資料公開によって民間での議論を喚起したいのだろう。
・『CBDC創設には議会の立法化による法的な認可が理想的 FRBはCBDC発行が賢明であるかどうか確固たる判断を下しておらず、いずれにしてもホワイトハウスや議会の支持がないままプロセスを進める意図はないと表明しており、近いうちに発行される可能性はまずない。しかし、FRBがデジタル資産への取り組み強化を目指す上で、今回の資料発表は最も重要な節目と言える。 発行の場合の意義付けについてFRBは、「CBDCの導入は米国の通貨における極めて重要なイノベーションを意味するだろう」と討議資料で指摘した。この資料の内容に関して5月20日までの意見公募期間を設けており、CBDC創設には議会の立法化による法的な認可が理想的だと説明している』、確かに「議会の立法化による法的な認可」があれば、最も理想的だ。
・『CBDC創設のプラス面とマイナス面 資料ではCBDC発行のプラス面として、国際金融システムにおける突出した通貨としてのドルの地位確保のほか、国境をまたぐ決済の改善や一段と包摂的な金融システムの整備、新たなテクノロジーでのドル使用の利便性向上などを列挙。一方で、従来型の銀行から預金が引き揚げられたり、金融機関への取り付け騒ぎの頻発化・深刻化を招いたりする潜在的なマイナス面も警告した。 このほか個人のプライバシー保護と犯罪予防のための透明性確保の両立、サイバー攻撃対策などの課題にも言及している。FRB当局者は記者団との電話会議で、意見公募期間終了後に次のステップを検討するとしたが、CBDCが最終的にいつ導入される可能性があるかを巡って具体的なスケジュールは示さなかった。 FRBは口座の提供やCBDC決済の促進について、当局自体がその役割を果たすのではなく従来型の銀行やノンバンクに委ねる考えを示唆した。討議資料はパウエルFRB議長が昨年5月の時点で公表予定を明らかにし、これまでの検討の成果としてまとめられた。ボストン連銀は2月にもCBDCの技術面に関する別のリポートを公表する見通し』、「FRBは口座の提供やCBDC決済の促進について、当局自体がその役割を果たすのではなく従来型の銀行やノンバンクに委ねる考えを示唆」、資本主義下では当然だろう。
第三に、1月24日付け東洋経済オンライン「日の丸大連合が描く「国産デジタル通貨」の正体 NTTやメガバンクなど70社超が一斉に集う意味」:NTT、イオン、メガバンク3行――。日本を代表する大企業らが集結し、2022年度中に商用化を目指すのが、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用したデジタル通貨「DCJPY(仮称)」だ。 通貨価値は銀行預金の日本円に紐づけられているため、実物資産の裏付けがないビットコインのように、荒い値動きがないとされる。送金・決済用の通貨として、当面は日本国内限定での提供を予定している。 『週刊東洋経済』1月24日(月)発売号では「全解明 暗号資産&NFT」を特集。米国発第2次ビットコインブームやデジタル通貨の行方などについて、まとめている。 オールジャパンの取り組みは、一体何を目指しているのか。DCJPYの普及組織「デジタル通貨フォーラム」の事務局長を務めるディーカレットの時田一広社長を直撃した(Qは聞き手の質問。Aは時田氏の回答)』、興味深そうだ。
・『銀行口座の日本円が裏付け資産 Q:まず、DCJPYの特徴や仕組みについて教えてください。 A:民間銀行の債務である預金として発行するスキームを検討している。現在、ステーブルコイン(法定通貨などと連動する通貨)が有望な支払い手段と捉えられながらも 、銀行預金などと比べて規制が強まることが世界的に懸念されている。 その点、日本円預金を裏付け資産とするスキームをとることで、このような問題を乗り越えることが可能と考えている。DCJPYも幅広い意味でステーブルコインの一種と位置づけている。 そのうえで、DCJPYは(発行・送金・償却する)共通領域と(アプリ・サービスを展開できる)付加領域との2層構造に分かれているのが特徴だ。銀行などの金融機関が共通領域を通じてDCJPYを発行したり、管理したりすることになる。 Q:通貨の管理者を設けたという意味では、ビットコインなどの暗号資産の主流からは外れています。そうした仕組みにした理由は。 A:暗号資産は、「パーミッション型(通貨の管理者が存在)」と「パーミッションレス型(管理者を設けずに不特定多数の参加者でネットワークを構築)」に分かれる。DCJPYは前者だが、ビットコインなどの一般的な暗号資産は後者にあたる。 パーミッションレス型を否定するつもりはまったくないし、両方あっていいと思う。だが、DCJPYは(通貨価値に連動するのが日本円という)法定通貨なので、(責任の所在が明らかになるなどの理由で)より安全なパーミッション型を選ばざるをえなかった。) Q:DCJPYを導入すると、どんなメリットがあるのでしょうか。 A:企業側のメリットが特に分かりやすい。デジタル通貨の一番の意義は(2層構造の付加領域に)プログラムを書けることだ。通貨の取引・決済にプログラムができると、例えば取引と決済を自動化できる「スマートコントラクト」を実装できる。 すると、「月末締めの翌月払い」などで、今まで企業などの経理が手作業でやっていた業務を自動化できる。事務作業の正確性を高めたり、事務コストを下げられたりするなどのメリットが生まれる。そういった企業がサービスを作るようになれば、利用しているユーザーである個人にも恩恵が出てくるはずだ。 Q:DCJPYが企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)にも寄与すると? A:そうだ。デジタル通貨フォーラムには、(2021年末時点で)74の企業・団体が参加してくれているが、いずれも自分たちのビジネスのデジタル化を進めるなら、通貨をデジタル化した方がいいと気が付いている。その考えがない企業・団体はここにはいない』、「取引と決済を自動化できる「スマートコントラクト」は確かに便利そうだ。
・『参加する企業・団体は1年で倍増 Q:2020年6月にフォーラムの前身となる「デジタル通貨勉強会」を立ち上げてから、参加企業・団体が増え続けています。 (時田氏の略歴はリンク先参照) デジタル通貨勉強会は当時、メガバンク3行などとともに「日本におけるデジタル通貨の見通しをつけよう」と立ち上げた。 2020年11月にデジタル通貨フォーラムとなり、DCJPYのユースケースなどを1年余り研究してきたが、その間、参加企業・団体の数は2倍近くに膨らんだ。足元でも多くの企業・団体から問い合わせを新たにいただいている。 Q:フォーラムに参加した企業・団体のみにメリットが生まれ、囲い込みと見ることもできませんか? A:まず、囲い込みはない。フォーラムへの無理な勧誘はしておらず、ほとんどの企業・団体は先方から問い合わせをいただいて参加してもらっている。排他的なことはこれまでしていないし、これからするつもりもない。 Q:DCJPYの商用化実現に向けたロードマップは。 A:2022年度中にはDCJPYとその運用を支える一部プラットフォームの実用化を目指している。 フォーラムでは、10の分科会に分かれてユースケースの研究・実証を進めているが、特に商用化に向けた動きが早いのは「電力取引」と「NFT(非代替性トークン)」の分科会だ。いずれの分野もブロックチェーン技術の実装が進んでいたため、デジタル通貨のニーズが強くある。 Q:DCJPYの商用化によって、企業の新たなビジネス展開も視野に入ります。 A:電力取引分科会では、DCJPYのブロックチェーン技術を使い、再生可能エネルギーの利用率を可視化するビジネスを検討している。DCJPYに対応した電力取引市場で売買した企業の再エネ利用率を捉え、それを銀行などの金融機関に提供するモデルだ。これは2021年度中にPoC(概念実証)を終えて、商用化を急ぎたい。 一方、NFT分科会では2022年中にもDCJPYを使ったNFTのマーケットプレースの実証実験を実施する予定だ』、「囲い込みはない。フォーラムへの無理な勧誘はしておらず、ほとんどの企業・団体は先方から問い合わせをいただいて参加してもらっている。排他的なことはこれまでしていないし、これからするつもりもない」、決済は幅広く開放的にやるのが原則で、閉鎖的な考え方はとるべきでない。
・『日銀や金融庁の大物OBが助言 Q:フォーラムの運営には、元金融庁長官などの大物も関わってきます。商用化に向けては省庁との制度のすり合わせなども重要になってきますね。 A:フォーラムの座長には元日銀決済機構局長の山岡浩巳氏、シニアアドバイザーには元金融庁長官の遠藤俊英氏に就任していただいた。フォーラムには、オブザーバーとして日銀や金融庁、財務省、経産省、総務省が参加しているので、省庁などの窓口はこの人たちでやっている。山岡氏や遠藤氏には、その知見からフォーラムに対してアドバイスをいただいている。 Q:DCJPYの最終的なビジョンをどう考えていますか。 A:社会インフラになることだ。(DCJPYを発行・管理する役割になる)銀行だけでも全国に100行ぐらいある。(フォーラムにすでに参加している)メガバンクなどの大きい銀行だけではなく、地方銀行とか信用金庫といった地場の金融機関にも提携先を広げていく。 全国の銀行に対して、「同じプラットフォームに乗ってください」というお願いをこれからしようとしているところだ。時間軸は今後20年ぐらいかかるかもしれないが、日本中の北から南まで、全国にくまなく行き届くことを目指したい』、「フォーラム」がこれからどう発展していくのか、楽しみだ。
タグ:「取引と決済を自動化できる「スマートコントラクト」は確かに便利そうだ。 東洋経済オンライン「日の丸大連合が描く「国産デジタル通貨」の正体 NTTやメガバンクなど70社超が一斉に集う意味」: 「フォーラム」がこれからどう発展していくのか、楽しみだ。 「囲い込みはない。フォーラムへの無理な勧誘はしておらず、ほとんどの企業・団体は先方から問い合わせをいただいて参加してもらっている。排他的なことはこれまでしていないし、これからするつもりもない」、決済は幅広く開放的にやるのが原則で、閉鎖的な考え方はとるべきでない。 「FRB中銀デジタル通貨創設是非巡る討議資料公表 デジタル資産取り組む上で資料発表は重要節目」 「FRBは口座の提供やCBDC決済の促進について、当局自体がその役割を果たすのではなく従来型の銀行やノンバンクに委ねる考えを示唆」、資本主義下では当然だろう。 確かに「議会の立法化による法的な認可」があれば、最も理想的だ。 ドルの番人のFRBとしては、検討資料公開によって民間での議論を喚起したいのだろう。 ブルームバーグ 東洋経済オンライン 「中央銀行が個人や企業との接点に立って、その多様なニーズに応えていくことは全く不可能です。そして、この分野では、競争が行われるべきです。より便利で、時々の、あるいは個々の人々のニーズに合ったサービスを提供することに成功した主体が利益を得るべきだと思います』、日銀としては、あくまで民間銀行が主体であるべきとの立場だ。 「G7やG20をはじめとして国際的な議論が行われてきました」、これは実は中国が先行してCBDCの導入を急いでいるため、これに対抗して主要国としても研究を急いだことがある。 「日本銀行として「現時点でCBDCを発行する計画はない」という考え方に変わりはありません」、仮に一般向けにも発行するとなると、民間銀行の存立基盤がなくなってしまうので、一大事だ。 「中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会における開会挨拶」 内田 眞一 (その3)(中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会における開会挨拶、FRB中銀デジタル通貨創設是非巡る討議資料公表 デジタル資産取り組む上で資料発表は重要節目、日の丸大連合が描く「国産デジタル通貨」の正体 NTTやメガバンクなど70社超が一斉に集う意味) デジタル通貨