異次元緩和政策(その39)(2022年の視点:コロナ後の懸念はデフレよりインフレ 政府・日銀にやっかいな課題=鈴木明彦氏、FRBはゼロ成長下で利上げに着手することになる 経済のオーバーキル懸念が強まり後半は修正か、元日銀審議委員の白井さゆり慶大教授に聞く アメリカの歴史的な金融引き締めで何が起こるか) [経済政策]
異次元緩和政策については、昨年11月24日に取上げた。今日は、(その39)(2022年の視点:コロナ後の懸念はデフレよりインフレ 政府・日銀にやっかいな課題=鈴木明彦氏、FRBはゼロ成長下で利上げに着手することになる 経済のオーバーキル懸念が強まり後半は修正か、元日銀審議委員の白井さゆり慶大教授に聞く アメリカの歴史的な金融引き締めで何が起こるか)である。
先ずは、本年1月3日付けロイターが掲載した三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究主幹の鈴木明彦氏による「2022年の視点:コロナ後の懸念はデフレよりインフレ、政府・日銀にやっかいな課題=鈴木明彦氏」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/column-akihiko-suzuki-idJPKBN2J60CD
・『世界的には新型コロナウイルスのオミクロン株感染が拡大し、新型コロナとの戦いが続いているものの、日本の新規感染者数は落ち着いている。もちろん、再び感染が拡大することは想定すべきだが、遅ればせながらワクチン接種が進んだことで、感染抑制に効果があったことは間違いない。 新型コロナ感染をゼロにするというのは現実的ではないが、3度目のワクチン接種を円滑に進め、水際対策によって海外からの感染拡大を抑え、国内でも「Go Toトラベル」など感染拡大のリスクがある施策の再開には十分注意を払い、感染対策をしっかりと取っていけば、2020年春のような大混乱は回避できるのではないか。 アフターコロナとまではいかないが、ウイズコロナでも経済社会が混乱しないような「新たな日常」の構築ができてきていると期待したい』、コロナの方は第六波到来で「新たな日常」とは程遠いが、金融政策の方はどうなのだろう。
・『<日銀の新型コロナ対応も縮小> 日銀の新型コロナ対応策も、感染拡大による金融市場や経済への影響が落ち着くにつれて、縮小方向にかじが切られている。新型コロナ対応金融支援特別オペの影響で急増していたマネタリーベースは、2021年3月末をピークに前年比増加額が縮小に転じている。 2021年12月の金融政策決定会合では、国内の金融環境は全体として改善しており、特に大企業金融については、CP・社債市場の発行環境は良好になっているとした上で、新型コロナ対応のCP・社債の買い入れ額の増額措置を2022年3月末で終了することが決まった。 一方、中小企業の資金繰りは、改善傾向にあるものの一部に厳しさが残っているとして、新型コロナ対応特別オペについては、カテゴリーⅠのプロパー融資分については、カテゴリーを変えずにプラス0.2%の付利を維持し、マクロ加算残高への2倍加算も維持したまま、2022年9月末まで延長されることになった。 しかし、プラス0.1%の利息が付くカテゴリーⅡのうち、大企業向けや住宅ローンなど民間債務担保分は、延長されずに2022年3月末で終了することになった。 また、新型コロナ対応の中小企業向けの制度融資分(緊急経済対策における無利子・無担保融資や新型コロナ対応として信用保証協会の保証の認定を受けて実行した融資)については、カテゴリーⅢに移行し付利金利がゼロ%となり、マクロ加算残高への2倍加算をやめて同額加算とした上で、2022年9月末まで延長されることになった。 2022年4月以降は、CP・社債の買い入れや新型コロナ対応オペの利用が縮小していく見込みであり、マネタリーベースの増加ペースもさらに低下してくるだろう』、「CP・社債の買い入れや新型コロナ対応オペの利用が縮小」する程度では、正常化には程遠い。
・『<デフレとの戦いが再開するのか> 日銀の新型コロナ対応が縮小してくれば、しばらく休戦状態だったデフレとの戦いが再開するのが自然な流れだ。しかし、デフレ脱却の機運は盛り上がりそうにもない。 想定以上の消費者物価の上昇に直面してテーパリング(資産購入の削減)を加速している米国に限らず、世界的に今やインフレ警戒モードに入っている。日本の物価上昇率は相変わらず低いが、それでもエネルギーはじめ資源価格が高騰するなか、日本だけがインフレと無縁というわけには行かない。 11月の全国消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)は、前年同月比プラス0.5%とエネルギー価格を中心にやや上昇してきた。さらに「Go Toトラベル」が中断していることにより消費者物価が0.3%ポイント強押し上げられる一方で、携帯通信料金の引き下げによって1.5%ポイント弱押し下げられていることを考えると、政策等の要因を除いた消費者物価の実勢は同1.6─1.7%になりそうだ。2%の物価安定目標には届かないものの、日本としてはかなりの上昇率だ。少なくともデフレではない。 さらに2022年2月、3月とエネルギー関連以外でも価格の引き上げが見込まれる。コスト上昇を吸収して販売価格に転嫁しないという日本的企業行動もいよいよ限界にきている可能性がある。4月には携帯電話料金の引き下げ効果が、7─8割程度はく落する。公表ベースでも消費者物価上昇率が2%を超えてきて、世の中ではデフレ脱却ムードが高まるかもしれない』、「4月には携帯電話料金の引き下げ効果が、7─8割程度はく落する。公表ベースでも消費者物価上昇率が2%を超えてきて、世の中ではデフレ脱却ムードが高まるかもしれない」、その場合、長期金利の上昇が懸念材料だ。
・『<デフレより怖いインフレ> もっとも、デフレ脱却を歓迎するムードは広がらないだろう。今や日銀の懸念は、デフレよりもインフレではないか。今年の賃上げ交渉である程度の賃上げは続くであろうが、消費者物価が2%も上がっていたら、実質所得はまず増えそうもない。 2022年はデフレではなく、インフレが経済に及ぼす悪影響に注意しなければならない。物価上昇は一時的かもしれない。しかし、一時的と思ってのん気に構えていた米連邦準備理事会(FRB)は、今や一時的ではなかったと誤りを認めて、テーパリングの前倒し、さらにその後の利上げを模索している。 地球温暖化防止、長引く米中の対立という環境変化を考えると、これまでのように効率性を追求してコストを抑えるというビジネスモデルを続けることは難しくなっており、脱炭素社会の構築や経済安全保障のためのコスト拡大は、避けられなくなっている。 日本の物価が、米国と同じように上がってくるということはないとしても、1985年のプラザ合意以降続いていた円高の流れも終わり、物価を取り巻く環境がデフレをもたらすものから、インフレをもたらすものに、構造的に変わってきている可能性は否定できない。 少なくとも、所得があまり増えていない日本では、米国よりマイルドなインフレでも経済に与えるダメージが大きくなる。デフレ脱却を推進してきた黒田東彦日銀総裁も、円安が物価上昇を通じて家計所得に及ぼすマイナスの影響については、心配するようになっている』、「物価を取り巻く環境がデフレをもたらすものから、インフレをもたらすものに、構造的に変わってきている可能性は否定できない。 少なくとも、所得があまり増えていない日本では、米国よりマイルドなインフレでも経済に与えるダメージが大きくなる。デフレ脱却を推進してきた黒田東彦日銀総裁も、円安が物価上昇を通じて家計所得に及ぼすマイナスの影響については、心配するようになっている」、なるほど。
・『<見直しが必要となる政府・日銀の共同声明> 2022年はデフレでも円高でもないが、相変わらず日本経済は元気がないという年になるかもしれない。あれだけデフレ脱却が重要と言い聞かせられてきたのに、いざ物価が上がりそうになると「これは悪いインフレです」では、はしごを外されたようなものだ。川上の原材料価格が上がった物価上昇が経済にとってマイナス効果があるのは当然だとしても、そうであれば、何が何でも物価を2%上げることが大事という主張に矛盾があった。 2013年1月の政府・日銀の共同声明もいよいよ10年目に入る。この声明で日銀が約束した2%の物価安定目標はいまだに達成できず、デフレ脱却宣言も出せないままだ。もっとも、共同声明自体は、何が何でも2%の物価目標を達成すればいいという考え方に立っていない。 共同声明には、2%の物価安定目標に関して「日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組の進展に伴い持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくと認識している」という一文が付されている。 この考え方に立てば、円安や原材料高による物価上昇は、たとえ2%を超える上昇をもたらしたとしても「偽りのデフレ脱却」である。しかし、それでも、2022年は久々の物価上昇に合わせて、デフレ脱却宣言や共同声明の見直しが議論されるようになるのではないか。 *本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載された内容です。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。)(鈴木明彦氏の略歴はリンク先参照)』、確かに「デフレ脱却宣言や共同声明」は「見直す」べきだ。
次に、2月3日付け東洋経済オンラインが掲載したみずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏による「FRBはゼロ成長下で利上げに着手することになる 経済のオーバーキル懸念が強まり後半は修正か」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/508614
・『金融市場のテーマは依然としてアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)の正常化プロセスの現状および展望に集中している。「資産価格の影響はどうあれ、手を緩めることはなさそう」という見方が正しそうだが、本当にこれを貫けるかどうかはいまだ予断を許さない。 1月28日にニューヨーク連邦準備銀行(以下NY連銀)のブログ「Liberty Street Economics」が『The Global Supply Side of Inflationary Pressures』と題した論考を掲載している。ここでは同行エコノミストが開発した定量分析の手法を用いてアメリカ、ユーロ圏そしてOECD加盟国で発生している生産者物価指数(PPI)や消費者物価指数(CPI)の上昇に関し、どの程度が供給制約に起因しているのかが明らかにされている。 分析手法を厳密に解説することは避けるが、結論は「サプライチェーンの崩壊やエネルギー市場動向などにといったグローバルな供給要因が先進国で最近見られる主要物価指数の動向と関わっている」という至極意外性のないものである。 だが、定量分析を通じてインフレ高進が供給制約という国際的な要因に根差していることを理解したうえで、「国内の金融政策ではそうしたインフレ圧力の源泉に対して限定的な効果しかもたらさないだろう(domestic monetary policy actions would have only a limited effect on these sources of inflationary pressures)」と論じていることは興味深い』、「国内の金融政策ではそうしたインフレ圧力の源泉に対して限定的な効果しかもたらさないだろう」、というので拍子抜けだ。
・『金融政策は供給能力に合わせて需要を減らすもの そもそもサプライチェーン崩壊という「供給」不足に起因する物価高に対して、FRBがやろうとしていることは引き締めを通じて「需要」超過を軽減しようとする行為である。減少した供給量に合わせて需要量も減少させようという縮小均衡の発想なので、当然、景気は減速する。しかし、需要は徐々にしか減らないのでインフレ圧力も徐々にしか後退しない。「患部と処方箋が若干ずれている」というのが今のFRBの金融政策姿勢に対して抱かれる違和感の正体である。 現下で著しくなるアメリカの実体経済の減速に関し、最も重要な地区連銀であるNY連銀からこうした分析が見られていることは興味深い。NY連銀は金融政策に関連する諸取引を管理するシステム公開市場勘定(SOMA)の管理者であり、NY連銀総裁はFOMC(連邦公開市場委員会)の常任メンバーかつ副議長である。 今後、アメリカ経済が失速することはある程度見えた未来でもある。上述のNY連銀ブログと同日28日に公表された2021年10~12月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前期比年率6.9%と非常に高かった。39年ぶりの高成長率だが、これはもはや過去の数字である。 足元の経済・金融情勢の悪化を踏まえ、市場参加者における2022年1~3月期予想は引き下げが進んでおり、アトランタ連銀のリアルタイムGDP予想「GDPNow」は先週28日時点の推計で前期比年率0.1%のほぼゼロ成長と試算している。こうした状況を踏まえて3月にテーパリングが完了し、利上げに着手されるわけで、オーバーキル懸念を企図してイールドカーブのフラットニングが進むのは至極当然といえる。 ちなみに高成長を実現した10~12月期も6.9%のうち4.9%ポイントが在庫投資の寄与であり、モノ不足に対応するための予備的な企業部門の行動を反映していそうである。真っ当に考えれば、2022年1~3月期以降、これが取り崩される公算は大きく、アトランタ連銀推計の示すゼロ成長推計に大きな違和感はない。もっとも、縮小均衡によるインフレ抑制を覚悟しているのならば、こうした景気減速もインフレ抑制のための予定調和の動きではある。 ちなみに、上述したNY連銀ブログの最後には「供給要因はいずれ財の物価よりもサービスの物価に反映されてくる」とあり、そうした影響がラグを伴って顕現化する可能性こそが「われわれの分析における重要な警告(An important caveat of our analysis)」だと記されている。サービス物価とは要するに賃金であり、パウエルFRB議長も会見で繰り返し賃金上昇の危うさを指摘したことが思い返される。 しかし、雇用・賃金情勢は景気の代表的な遅行系列であり、金融政策の効果が半年~1年程度のラグを伴って表れるという標準的な考え方を取るならば、その過熱を見計らって引き締めるとやはりオーバーキルに至りやすいと考えられる』、現在、主要中央銀行は、こうしたラグなどを織り込んで、フォワードルッキングな金融政策運営を謳っているが、まだ願望の段階に止まっており、その成功例はまだ出ていない。
・『秋には政策が逆方向へ旋回するのではないか そのような懸念もあり、筆者は4回以上の利上げを現時点で当然視する姿勢には賛同できない。最大でも3月・6月・9月の利上げを経て、株価を筆頭とする経済・金融情勢をなだめすかす方向に旋回する公算は大きいと考えている。中間選挙直前ともなれば、インフレ情勢もさることながら、実体経済に寄り添う姿勢が世論の好意的な評価を受けやすくなっている可能性もあるだろう。 なお、現状のタカ派姿勢が長く続かないことについて、市場も理解している節がある。前回の本欄への寄稿『FRBの金融正常化で市場に漂うオーバーキル懸念』でも議論したように、正常化プロセスにとって「最後のテーマ」である中立金利(利上げの終点)の水準イメージをOIS(Overnight Index Swap、固定金利と変動金利翌日物レートを交換するスワップ取引)で見れば1.75%、30年金利で見れば2.20%などが示されており、いずれもドットチャート(FOMCメンバーの予想)の示す2.50%よりも低い。 年内の利上げ回数を増やしたところで最終的に行き着く利上げの終点は変わらないというのが市場の見立てである。「最終的に行き着く水準は同じ」と考えられている事実は、短期的に数多くの利上げを押し込む政策運営は持続性がないと思われている証左でもある。 景気の腰折れ(オーバーキル)を回避するという観点からすれば、供給能力の復調を待ちつつ、今後3年間で年2~3回の利上げを実施するといった姿勢が、物価と成長率の安定を両立させるうえでは無難な選択肢となってくるように思える』、「景気の腰折れ・・・を回避するという観点からすれば、供給能力の復調を待ちつつ、今後3年間で年2~3回の利上げを実施するといった姿勢が、物価と成長率の安定を両立させるうえでは無難な選択肢となってくる」、あくまで「アメリカ」での話であることを念のため付け加えておきたい。
第三に、2月3日付け東洋経済Plus「元日銀審議委員の白井さゆり慶大教授に聞く アメリカの歴史的な金融引き締めで何が起こるか」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/29664/?utm_campaign=EDtkprem_2201&utm_source=edTKO&utm_medium=article&utm_content=508697&login=Y&_ga=2.71531539.1051327066.1643071219-441898887.1641535678#tkol-cont
・『FRBの金融引き締めへの大転換はどう進められるのか。元日本銀行審議委員で国際経済に詳しい白井さゆり慶応義塾大学教授に聞いた。 アメリカのインフレと金融政策の行方に世界の関心が集まっている。約40年ぶりの伸びとなったインフレに直面し、米連邦準備制度理事会(FRB)はコロナ危機初期に復活したゼロ金利と大規模量的緩和(QE)を今年3月に終える構えだ。その後の量的引き締め(QT)開始も視野に入れている。 FRBの金融引き締めへの大転換はどう進められるのか。世界の市場や日欧の金融政策にどのような影響を与えるのか。元日本銀行審議委員で国際経済に詳しい白井さゆり慶応義塾大学教授に聞いた(Qは聞き手の質問、Aは白井氏の回答)』、興味深そうだ。
・『賃金と物価のスパイラルが発生 Q:FRBがタカ派的(金融引き締めに前向き)な姿勢を強めています。 A:FRBのインフレに対する見方がガラッと変わったのは2021年11月下旬だった。テーパリング(量的緩和の規模縮小)を開始した11月初めのFOMC(連邦公開市場委員会)開催の時点では、パウエルFRB議長はインフレを「一時的」だと言っていた。 ところが、11月下旬にパウエル氏が再任され、バイデン大統領と会見を行ったときから、インフレが重大な懸念だと強調するようになった。おそらく大統領からパウエル氏に対し、インフレに対する懸念が伝えられたのではないか。インフレは大統領支持率低下の主因になっているからだ。それもあって12月のFOMCでテーパリングを加速して2022年3月に終えることを決めた。 Q:アメリカのインフレは実際にも歴史的高水準となっています。 A:インフレ圧力はほかの先進国と比べてはるかに強い。直近の消費者物価指数は前年同月比7%、(食品とエネルギーを除く)コアで5.5%上がっているが、インフレ基調を示すあらゆる指標が上昇している。 インフレ期待も5年、10年といった長期ですべて上がっている。市場の期待インフレ率を示す10年のブレークイーブンインフレ率(BEI)も最近は2.5%程度と、2%程度だったここ5年間より一段上の水準にある。 もう1つ注目されているのが労働需給の逼迫による賃金上昇だ。 Q:平均時給は前年同月比で5%近く上昇しています。 A:高インフレで実質賃金が低下しているため国民の不満は大きいが、人手不足で賃金が上がり、そのコストを販売価格に転嫁するという「賃金と物価のスパイラル」が起きつつある。先進国ではアメリカだけだ。労働市場のタイト感が非常に強い。金融政策の正常化を急ぐ必要があるのは事実で、インフレ重視の方向に転換せざるをえない。 Q:1月26日のFOMCでは3月半ばの次回FOMCでの利上げ開始決定が強く示唆されました。 A:ただ、パウエル氏は利上げの回数やペースに関する具体的言及は避け、“humble and nimble”(慎重かつ機敏)に対応していくと言った。これはインフレの両方向の動きに対応するということだ。 Q:といいますと。 A:アメリカのインフレの背景には、世界的なコロナ禍によるサプライチェーン毀損の影響に加え、コロナ禍でのパソコンやゲーム、家具といったモノ(財)への需要増大、エネルギー価格の高騰といった要因がある。そのため、インフレはいずれ必ず下がっていくが、いつどの程度までかというと不確実性が高い。 FRBとしては、インフレが年末にかけ目標の2%近くまで下がっていけばそれほど利上げしない。それが“humble”。一方、インフレが2%を大きく超えて高止まりすれば利上げを加速する。それが“nimble”という意味だ。 「毎回のFOMCでの連続利上げ(年7回)はあるか」という記者の質問に対し、パウエル氏が明確に否定しなかったので非常にタカ派と受け止められたが、議長の発言自体は両方の可能性を考えたものだった』、「パウエル氏が再任され、バイデン大統領と会見を行ったときから、インフレが重大な懸念だと強調するようになった。おそらく大統領からパウエル氏に対し、インフレに対する懸念が伝えられたのではないか」、「パウエル氏」がインフレに対抗する姿勢が弱いのには、失望させられた。
・『QTは早ければ5~6月開始も Q:利上げは今年何回程度が予想されますか。 A:市場は年内5回(計1.25%)の利上げを織り込みつつあるが、私は4回実施され、あとはインフレ動向次第でもう1回程度増やすと見ている。今年前半に一度に0.5%の利上げを行う可能性もある。コンテナ船の滞留などの供給制約が今なお続いている状況を見ると、インフレ率が年内に2%台まで下がるのは難しいかもしれない。 Q:FRBは利上げ開始後に、バランスシート(総資産)を縮小するQTにも着手する構えです。(白井さゆり氏の略歴はリンク先参照) A:QTの開始時期やペースについてパウエル氏は今後2回程度のFOMCで議論すると言っており、早ければ5月か6月にもありうる。 利上げは短期金利を引き上げるものだが、QTはFRBの保有資産の減額を通じて長期金利の引き上げにつながる。現在は過去の利上げ局面に比べてイールドカーブがフラット(平坦)化しており、さらにフラット化すれば金融機関にとっては苦しい状況になる。大幅なフラット化を防ぐためには、FRBは利上げ後にQTを急ぐ必要がある。 一方、QTには利上げの引き締め効果を一段と強める働きがある。「シャドーレート(影のFFレート)」と言われるように、FFレートがゼロでも、量的緩和によって実質的なFFレートはマイナスの領域(今回はマイナス2%程度)まで低下した。QTはそれと逆で、シャドーレートが上がっていく。それだけ景気を下押しする影響は大きくなる。 Q:前回の引き締め局面では利上げを2015年12月に開始し、QTは2017年10月に開始と長い時間をかけましたが、今回は急です。 A:前回の利上げ開始時のインフレ率は2%未満で、失業率は5%程度だった。インフレ圧力が弱かったので、引き締めを急ぐ必要がなかった。 しかし、パウエル氏も話していたように、今回は状況がまったく違う。引き締めを急ぐ必要があるので、市場に及ぼす影響は大きい。パウエル氏は今のFRBの資産規模(約9兆ドル)は非常に大きいので、相当減らす必要があると言った。ただ、あくまでFFレートが主要な政策調整手段だと言い、QTの具体的な規模や引き締め効果についてはいっさい語らなかった。話を複雑にして市場が混乱するのを避けようとしたのだろう。 Q:QTの基本方針では、FRBは保有債券の売却ではなく、主に元本償還分の再投資額を減らすこと(ロールオフ)を通じて行うとしています。 A:前回のQTのときと違い、FRBの保有債券には満期の比較的短いものが多いので、資産を減らそうと思えばかなり早く減らせる。また、前回はすべてロールオフによる減額だったが、今回は「主に」ロールオフと言っている。資産規模が巨大なので、場合によっては売却を通じた減額もありうる。 いずれにせよ、前回は毎月500億ドル程度の減額ペースだったが、今回はそれより減額幅を大きく増やすことになるだろう。増やすにしても、最初は市場への影響を考えて少なめにし、徐々に増やしていくのか。それによって長期金利など市場への影響も変わるため、大きな注目点となる』、「主に元本償還分の再投資額を減らすこと(ロールオフ)を通じて行うとしています・・・前回のQTのときと違い、FRBの保有債券には満期の比較的短いものが多いので、資産を減らそうと思えばかなり早く減らせる」、「前回は毎月500億ドル程度の減額ペースだったが、今回はそれより減額幅を大きく増やすことになるだろう」、なるほど。
・『流動性の逆転で資産バブル修正へ Q:FRBはインフレに対して「ビハインド・ザ・カーブ(後手に回っている)」という批判もあります。 A:今のインフレは国内の要因よりも、サプライチェーン混乱などの国際的な要因のほうが大きいので、FRBが「一時的」と言っていたのは理解できる。アメリカ国内の需給ギャップも依然マイナスだ。ただ、思った以上に状況が改善しないので、FRBは慌てて考え方を変えた。 このことは、今のインフレがいかにわかりにくく予測しにくいものであるかを示しており、あまりFRBを責められないのではないか。 Q:この先、FRBは景気後退や市場の大混乱を避けながら金融政策の正常化を進めていくことができるでしょうか。 A:各国が未曾有のコロナ危機に直面し、金融財政政策を思い切ってやったことは正しかったと思う。ただ、その規模は莫大だった。特にアメリカの場合、中央銀行のバランスシート拡大(4.2兆ドルから2倍強の約9兆ドルへ)のほとんどが資産買い入れによるものだった。 その結果、大量の流動性が供給され、あらゆるリスク資産が値上がりした。ただでさえ高い不動産価格がさらに上昇し、ハイイールド債や暗号資産(仮想通貨)も上がった。本来なら逆に動くものも連動して一緒に動いた。 今後、そうした大量の流動性がQTで減っていけば、影響は避けられない。どれだけ円滑にやっていくかが課題だが、かなりの難路となろう』、「中央銀行のバランスシート拡大・・・のほとんどが資産買い入れによるものだった。 その結果、大量の流動性が供給され、あらゆるリスク資産が値上がりした。ただでさえ高い不動産価格がさらに上昇し、ハイイールド債や暗号資産(仮想通貨)も上がった。本来なら逆に動くものも連動して一緒に動いた。 今後、そうした大量の流動性がQTで減っていけば、影響は避けられない。どれだけ円滑にやっていくかが課題だが、かなりの難路となろう」、今後「リスク資産」の「値下がり」はどこまでいくのか、確かに注目点だ。
・『長期金利高騰なら景気や市場への打撃大 Q:リスクシナリオをどう考えますか。 A:最大のリスクはインフレが高止まりし、11月の中間選挙に向けてアメリカ国民の不満が高まって、FRBが想定以上の急激な引き締めに追い込まれることだ。金融市場の安定よりもインフレの抑制のほうが重要との見方が高まりつつあるため、株式などの市場はショックを受けやすくなっている。そのショックが世界全体に波及するというのが最悪シナリオだ。 長期金利が高騰すれば、アメリカ景気を牽引してきた好調な住宅市場が崩れ、資産価値下落で個人消費にも打撃が大きい。足元のアメリカの長期金利(10年物国債利回り)は1.8%前後で、インフレ収束期待や景気の不確実性からさほど上がっていないが、もし2018年のように3%を超えてくれば影響は大きくなるだろう。 Q:これまでのアメリカの資産インフレは「バブル」と言えますか。 A:バブルは発生している。普通の人の手が届かない不動産価格になっているのは事実だし、株価もコロナ禍前から歴史的に高すぎる水準にあった。とくに一部のテック系成長株は非常に高くなっていたので、反動があっても仕方がない。今後は業績などで銘柄をしっかり選別する必要がある。 Q:ビットコインなどの仮想通貨はどう見ていますか。 A:仮想通貨を通じたイノベーションに関心が高まっているのは事実であり、世界的に一定の需要はあり続けるだろう。ただ、価格の変動が非常に激しく、株価との相関が非常に強まっている。株と同様に下落しやすくなったという意味で気をつけたほうがいい。 Q:アメリカの利上げに伴い、ドル建ての対外債務を抱える発展途上国や新興国などへの影響も懸念されます。 A:世界的に国家の借金が増え、企業もコロナ下で運転資金のための借り入れを増やしており、債務は全体的に増大している。アメリカの金利上昇につれ、世界の資本はアメリカに回帰するため、途上国や新興国では外国資本が入りにくくなって金利が上昇している。経常赤字の国ほど影響を受けやすい。一部の低所得国では債務の返済が難しくなるだろう。 問題はアメリカの金利がどこまで上がるかだが、過去ほどには上がらないはずだ。リーマンショック前のFF金利は5%以上だったが、FRBがいま予想している長期的なFF金利は2.5%だ。経済が成熟化し、高齢化するにつれ、(景気に中立的な)自然利子率が低下傾向にあるためで、それほど利上げをしなくても済む状況にある。 そのため、過去にはアメリカが利上げしたことでアジア通貨危機や中南米の債務危機などが起こったが、今回はそこまでの金利の上昇はないだろう。その意味では比較的安心できる。 Q:今回のアメリカの金融政策の歴史的意味をどう考えますか。 A:コロナ禍での財政出動は近代史ではかつてない規模だが、金融緩和もはるかに大規模で迅速なものだった。しかし、今年はそれほど財政出動ができないし、記録的なインフレで金融緩和も予想以上の速さで修正する必要が高まっている。本当に歴史に残る状況だ。 ただ、アメリカは日欧に先んじて金融政策の正常化に舵を切ることができたことも事実だ。市場がFRBのタカ派的スタンスを織り込んだことで、今後の政策運営がやりやすくなった面もある。市場の想定以上に政策がうまくいき、あまり利上げをしないですめば、グッドサプライズとなるだろう』、「FRBがいま予想している長期的なFF金利は2.5%だ。経済が成熟化し、高齢化するにつれ、・・・自然利子率が低下傾向にあるためで、それほど利上げをしなくても済む状況にある。 そのため、過去にはアメリカが利上げしたことでアジア通貨危機や中南米の債務危機などが起こったが、今回はそこまでの金利の上昇はないだろう。その意味では比較的安心できる」、韓国も安心できるようだ。
・『イギリスは追加利上げと早期QTへ Q:欧州や日本の金融政策に与える影響はどう見ていますか。 A:ECB(欧州中央銀行)は2月3日に理事会を開く。利上げ(マイナス金利政策の修正)は見込まれないが、最近はトーンを変えてきており、昨年12月の理事会ではPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)を今年3月で終了することを決定した。ユーロ圏における足元の高いインフレ率についても「一時的」という言葉を使わなくなっている。 ただ、ECBは2022年末にはインフレ率が目標の2%を下回るとの見方を維持している。2021年12月のインフレ率は5%に達したが、コアでは2.6%とアメリカより大幅に低いうえ、ドイツが2020年に引き下げた付加価値税率を翌年に元へ戻した一時的影響が大きいためだ。景気の基調も強くない。 そのため、ECBはおそらく2022年に利上げはしないが、インフレ次第では年末ぐらいに対応を急ぐ可能性はある。3日の理事会でインフレにどう言及するかが注目される。 2月3日にはイングランド銀行も金融政策委員会を開く。2021年12月に(日米欧の主要中銀で初めて)利上げを行ったが、インフレを警戒して追加利上げが予想される。政策金利が0.5%になれば、ロールオフをすると言っており、アメリカより早く3月にもQTを開始する可能性が高い。 Q:日本でもエネルギー価格の上昇など物価上昇圧力は高まっていますが、日銀に何らかの動きがありうるでしょうか。 A:年内利上げという噂が1月にあったが、それはありえない。確かに、携帯通信料の値下げの影響がなくなる春以降はインフレ率が一時的に2%を超える可能性はある。ただ、コモディティー価格の上昇要因を含めて年後半には再び低下していくと予想される。 一方、今年は貸出支援基金やコロナオペが前半に終わり、社債やCP(コマーシャルペーパー)の保有も減らすので、日銀のバランスシートは確実に縮小していく。それは、「インフレ率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大を続ける」という2016年からのフォワードガイダンス(FG)を非常にわかりにくいものにする。IMF(国際通貨基金)はそのFGを撤廃すべきだと勧告している』、「FG」が今や政策の邪魔になりつつあるのであれば、「IMF」の「勧告」通り、「撤廃」すべきだ。
・『引き締めではなく市場機能を強化すべき また、アメリカの金利上昇につれて、日本の長期金利も上がりやすくなっている。であれば、YCC(イールドカーブコントロール)でプラスマイナス0.25%に設定している10年国債金利の変動幅を0.3%程度に上げるのに最もいい時期だと思う。 それは利上げではなく、変動幅を拡大して市場の機能を高めることになる。長期金利の操作対象年限を10年から5年に短縮するという案は明らかな引き締めであり、黒田(東彦)総裁が採用することはないと思うが、採りうるのはYCCの柔軟性を高めることだろう』、「YCCで「プラスマイナス0.25%に設定している10年国債金利の変動幅を0.3%程度に上げるのに最もいい時期だと思う」、「市場機能を強化すべき」、同感である。
先ずは、本年1月3日付けロイターが掲載した三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究主幹の鈴木明彦氏による「2022年の視点:コロナ後の懸念はデフレよりインフレ、政府・日銀にやっかいな課題=鈴木明彦氏」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/column-akihiko-suzuki-idJPKBN2J60CD
・『世界的には新型コロナウイルスのオミクロン株感染が拡大し、新型コロナとの戦いが続いているものの、日本の新規感染者数は落ち着いている。もちろん、再び感染が拡大することは想定すべきだが、遅ればせながらワクチン接種が進んだことで、感染抑制に効果があったことは間違いない。 新型コロナ感染をゼロにするというのは現実的ではないが、3度目のワクチン接種を円滑に進め、水際対策によって海外からの感染拡大を抑え、国内でも「Go Toトラベル」など感染拡大のリスクがある施策の再開には十分注意を払い、感染対策をしっかりと取っていけば、2020年春のような大混乱は回避できるのではないか。 アフターコロナとまではいかないが、ウイズコロナでも経済社会が混乱しないような「新たな日常」の構築ができてきていると期待したい』、コロナの方は第六波到来で「新たな日常」とは程遠いが、金融政策の方はどうなのだろう。
・『<日銀の新型コロナ対応も縮小> 日銀の新型コロナ対応策も、感染拡大による金融市場や経済への影響が落ち着くにつれて、縮小方向にかじが切られている。新型コロナ対応金融支援特別オペの影響で急増していたマネタリーベースは、2021年3月末をピークに前年比増加額が縮小に転じている。 2021年12月の金融政策決定会合では、国内の金融環境は全体として改善しており、特に大企業金融については、CP・社債市場の発行環境は良好になっているとした上で、新型コロナ対応のCP・社債の買い入れ額の増額措置を2022年3月末で終了することが決まった。 一方、中小企業の資金繰りは、改善傾向にあるものの一部に厳しさが残っているとして、新型コロナ対応特別オペについては、カテゴリーⅠのプロパー融資分については、カテゴリーを変えずにプラス0.2%の付利を維持し、マクロ加算残高への2倍加算も維持したまま、2022年9月末まで延長されることになった。 しかし、プラス0.1%の利息が付くカテゴリーⅡのうち、大企業向けや住宅ローンなど民間債務担保分は、延長されずに2022年3月末で終了することになった。 また、新型コロナ対応の中小企業向けの制度融資分(緊急経済対策における無利子・無担保融資や新型コロナ対応として信用保証協会の保証の認定を受けて実行した融資)については、カテゴリーⅢに移行し付利金利がゼロ%となり、マクロ加算残高への2倍加算をやめて同額加算とした上で、2022年9月末まで延長されることになった。 2022年4月以降は、CP・社債の買い入れや新型コロナ対応オペの利用が縮小していく見込みであり、マネタリーベースの増加ペースもさらに低下してくるだろう』、「CP・社債の買い入れや新型コロナ対応オペの利用が縮小」する程度では、正常化には程遠い。
・『<デフレとの戦いが再開するのか> 日銀の新型コロナ対応が縮小してくれば、しばらく休戦状態だったデフレとの戦いが再開するのが自然な流れだ。しかし、デフレ脱却の機運は盛り上がりそうにもない。 想定以上の消費者物価の上昇に直面してテーパリング(資産購入の削減)を加速している米国に限らず、世界的に今やインフレ警戒モードに入っている。日本の物価上昇率は相変わらず低いが、それでもエネルギーはじめ資源価格が高騰するなか、日本だけがインフレと無縁というわけには行かない。 11月の全国消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)は、前年同月比プラス0.5%とエネルギー価格を中心にやや上昇してきた。さらに「Go Toトラベル」が中断していることにより消費者物価が0.3%ポイント強押し上げられる一方で、携帯通信料金の引き下げによって1.5%ポイント弱押し下げられていることを考えると、政策等の要因を除いた消費者物価の実勢は同1.6─1.7%になりそうだ。2%の物価安定目標には届かないものの、日本としてはかなりの上昇率だ。少なくともデフレではない。 さらに2022年2月、3月とエネルギー関連以外でも価格の引き上げが見込まれる。コスト上昇を吸収して販売価格に転嫁しないという日本的企業行動もいよいよ限界にきている可能性がある。4月には携帯電話料金の引き下げ効果が、7─8割程度はく落する。公表ベースでも消費者物価上昇率が2%を超えてきて、世の中ではデフレ脱却ムードが高まるかもしれない』、「4月には携帯電話料金の引き下げ効果が、7─8割程度はく落する。公表ベースでも消費者物価上昇率が2%を超えてきて、世の中ではデフレ脱却ムードが高まるかもしれない」、その場合、長期金利の上昇が懸念材料だ。
・『<デフレより怖いインフレ> もっとも、デフレ脱却を歓迎するムードは広がらないだろう。今や日銀の懸念は、デフレよりもインフレではないか。今年の賃上げ交渉である程度の賃上げは続くであろうが、消費者物価が2%も上がっていたら、実質所得はまず増えそうもない。 2022年はデフレではなく、インフレが経済に及ぼす悪影響に注意しなければならない。物価上昇は一時的かもしれない。しかし、一時的と思ってのん気に構えていた米連邦準備理事会(FRB)は、今や一時的ではなかったと誤りを認めて、テーパリングの前倒し、さらにその後の利上げを模索している。 地球温暖化防止、長引く米中の対立という環境変化を考えると、これまでのように効率性を追求してコストを抑えるというビジネスモデルを続けることは難しくなっており、脱炭素社会の構築や経済安全保障のためのコスト拡大は、避けられなくなっている。 日本の物価が、米国と同じように上がってくるということはないとしても、1985年のプラザ合意以降続いていた円高の流れも終わり、物価を取り巻く環境がデフレをもたらすものから、インフレをもたらすものに、構造的に変わってきている可能性は否定できない。 少なくとも、所得があまり増えていない日本では、米国よりマイルドなインフレでも経済に与えるダメージが大きくなる。デフレ脱却を推進してきた黒田東彦日銀総裁も、円安が物価上昇を通じて家計所得に及ぼすマイナスの影響については、心配するようになっている』、「物価を取り巻く環境がデフレをもたらすものから、インフレをもたらすものに、構造的に変わってきている可能性は否定できない。 少なくとも、所得があまり増えていない日本では、米国よりマイルドなインフレでも経済に与えるダメージが大きくなる。デフレ脱却を推進してきた黒田東彦日銀総裁も、円安が物価上昇を通じて家計所得に及ぼすマイナスの影響については、心配するようになっている」、なるほど。
・『<見直しが必要となる政府・日銀の共同声明> 2022年はデフレでも円高でもないが、相変わらず日本経済は元気がないという年になるかもしれない。あれだけデフレ脱却が重要と言い聞かせられてきたのに、いざ物価が上がりそうになると「これは悪いインフレです」では、はしごを外されたようなものだ。川上の原材料価格が上がった物価上昇が経済にとってマイナス効果があるのは当然だとしても、そうであれば、何が何でも物価を2%上げることが大事という主張に矛盾があった。 2013年1月の政府・日銀の共同声明もいよいよ10年目に入る。この声明で日銀が約束した2%の物価安定目標はいまだに達成できず、デフレ脱却宣言も出せないままだ。もっとも、共同声明自体は、何が何でも2%の物価目標を達成すればいいという考え方に立っていない。 共同声明には、2%の物価安定目標に関して「日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組の進展に伴い持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくと認識している」という一文が付されている。 この考え方に立てば、円安や原材料高による物価上昇は、たとえ2%を超える上昇をもたらしたとしても「偽りのデフレ脱却」である。しかし、それでも、2022年は久々の物価上昇に合わせて、デフレ脱却宣言や共同声明の見直しが議論されるようになるのではないか。 *本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載された内容です。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。)(鈴木明彦氏の略歴はリンク先参照)』、確かに「デフレ脱却宣言や共同声明」は「見直す」べきだ。
次に、2月3日付け東洋経済オンラインが掲載したみずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏による「FRBはゼロ成長下で利上げに着手することになる 経済のオーバーキル懸念が強まり後半は修正か」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/508614
・『金融市場のテーマは依然としてアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)の正常化プロセスの現状および展望に集中している。「資産価格の影響はどうあれ、手を緩めることはなさそう」という見方が正しそうだが、本当にこれを貫けるかどうかはいまだ予断を許さない。 1月28日にニューヨーク連邦準備銀行(以下NY連銀)のブログ「Liberty Street Economics」が『The Global Supply Side of Inflationary Pressures』と題した論考を掲載している。ここでは同行エコノミストが開発した定量分析の手法を用いてアメリカ、ユーロ圏そしてOECD加盟国で発生している生産者物価指数(PPI)や消費者物価指数(CPI)の上昇に関し、どの程度が供給制約に起因しているのかが明らかにされている。 分析手法を厳密に解説することは避けるが、結論は「サプライチェーンの崩壊やエネルギー市場動向などにといったグローバルな供給要因が先進国で最近見られる主要物価指数の動向と関わっている」という至極意外性のないものである。 だが、定量分析を通じてインフレ高進が供給制約という国際的な要因に根差していることを理解したうえで、「国内の金融政策ではそうしたインフレ圧力の源泉に対して限定的な効果しかもたらさないだろう(domestic monetary policy actions would have only a limited effect on these sources of inflationary pressures)」と論じていることは興味深い』、「国内の金融政策ではそうしたインフレ圧力の源泉に対して限定的な効果しかもたらさないだろう」、というので拍子抜けだ。
・『金融政策は供給能力に合わせて需要を減らすもの そもそもサプライチェーン崩壊という「供給」不足に起因する物価高に対して、FRBがやろうとしていることは引き締めを通じて「需要」超過を軽減しようとする行為である。減少した供給量に合わせて需要量も減少させようという縮小均衡の発想なので、当然、景気は減速する。しかし、需要は徐々にしか減らないのでインフレ圧力も徐々にしか後退しない。「患部と処方箋が若干ずれている」というのが今のFRBの金融政策姿勢に対して抱かれる違和感の正体である。 現下で著しくなるアメリカの実体経済の減速に関し、最も重要な地区連銀であるNY連銀からこうした分析が見られていることは興味深い。NY連銀は金融政策に関連する諸取引を管理するシステム公開市場勘定(SOMA)の管理者であり、NY連銀総裁はFOMC(連邦公開市場委員会)の常任メンバーかつ副議長である。 今後、アメリカ経済が失速することはある程度見えた未来でもある。上述のNY連銀ブログと同日28日に公表された2021年10~12月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前期比年率6.9%と非常に高かった。39年ぶりの高成長率だが、これはもはや過去の数字である。 足元の経済・金融情勢の悪化を踏まえ、市場参加者における2022年1~3月期予想は引き下げが進んでおり、アトランタ連銀のリアルタイムGDP予想「GDPNow」は先週28日時点の推計で前期比年率0.1%のほぼゼロ成長と試算している。こうした状況を踏まえて3月にテーパリングが完了し、利上げに着手されるわけで、オーバーキル懸念を企図してイールドカーブのフラットニングが進むのは至極当然といえる。 ちなみに高成長を実現した10~12月期も6.9%のうち4.9%ポイントが在庫投資の寄与であり、モノ不足に対応するための予備的な企業部門の行動を反映していそうである。真っ当に考えれば、2022年1~3月期以降、これが取り崩される公算は大きく、アトランタ連銀推計の示すゼロ成長推計に大きな違和感はない。もっとも、縮小均衡によるインフレ抑制を覚悟しているのならば、こうした景気減速もインフレ抑制のための予定調和の動きではある。 ちなみに、上述したNY連銀ブログの最後には「供給要因はいずれ財の物価よりもサービスの物価に反映されてくる」とあり、そうした影響がラグを伴って顕現化する可能性こそが「われわれの分析における重要な警告(An important caveat of our analysis)」だと記されている。サービス物価とは要するに賃金であり、パウエルFRB議長も会見で繰り返し賃金上昇の危うさを指摘したことが思い返される。 しかし、雇用・賃金情勢は景気の代表的な遅行系列であり、金融政策の効果が半年~1年程度のラグを伴って表れるという標準的な考え方を取るならば、その過熱を見計らって引き締めるとやはりオーバーキルに至りやすいと考えられる』、現在、主要中央銀行は、こうしたラグなどを織り込んで、フォワードルッキングな金融政策運営を謳っているが、まだ願望の段階に止まっており、その成功例はまだ出ていない。
・『秋には政策が逆方向へ旋回するのではないか そのような懸念もあり、筆者は4回以上の利上げを現時点で当然視する姿勢には賛同できない。最大でも3月・6月・9月の利上げを経て、株価を筆頭とする経済・金融情勢をなだめすかす方向に旋回する公算は大きいと考えている。中間選挙直前ともなれば、インフレ情勢もさることながら、実体経済に寄り添う姿勢が世論の好意的な評価を受けやすくなっている可能性もあるだろう。 なお、現状のタカ派姿勢が長く続かないことについて、市場も理解している節がある。前回の本欄への寄稿『FRBの金融正常化で市場に漂うオーバーキル懸念』でも議論したように、正常化プロセスにとって「最後のテーマ」である中立金利(利上げの終点)の水準イメージをOIS(Overnight Index Swap、固定金利と変動金利翌日物レートを交換するスワップ取引)で見れば1.75%、30年金利で見れば2.20%などが示されており、いずれもドットチャート(FOMCメンバーの予想)の示す2.50%よりも低い。 年内の利上げ回数を増やしたところで最終的に行き着く利上げの終点は変わらないというのが市場の見立てである。「最終的に行き着く水準は同じ」と考えられている事実は、短期的に数多くの利上げを押し込む政策運営は持続性がないと思われている証左でもある。 景気の腰折れ(オーバーキル)を回避するという観点からすれば、供給能力の復調を待ちつつ、今後3年間で年2~3回の利上げを実施するといった姿勢が、物価と成長率の安定を両立させるうえでは無難な選択肢となってくるように思える』、「景気の腰折れ・・・を回避するという観点からすれば、供給能力の復調を待ちつつ、今後3年間で年2~3回の利上げを実施するといった姿勢が、物価と成長率の安定を両立させるうえでは無難な選択肢となってくる」、あくまで「アメリカ」での話であることを念のため付け加えておきたい。
第三に、2月3日付け東洋経済Plus「元日銀審議委員の白井さゆり慶大教授に聞く アメリカの歴史的な金融引き締めで何が起こるか」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/29664/?utm_campaign=EDtkprem_2201&utm_source=edTKO&utm_medium=article&utm_content=508697&login=Y&_ga=2.71531539.1051327066.1643071219-441898887.1641535678#tkol-cont
・『FRBの金融引き締めへの大転換はどう進められるのか。元日本銀行審議委員で国際経済に詳しい白井さゆり慶応義塾大学教授に聞いた。 アメリカのインフレと金融政策の行方に世界の関心が集まっている。約40年ぶりの伸びとなったインフレに直面し、米連邦準備制度理事会(FRB)はコロナ危機初期に復活したゼロ金利と大規模量的緩和(QE)を今年3月に終える構えだ。その後の量的引き締め(QT)開始も視野に入れている。 FRBの金融引き締めへの大転換はどう進められるのか。世界の市場や日欧の金融政策にどのような影響を与えるのか。元日本銀行審議委員で国際経済に詳しい白井さゆり慶応義塾大学教授に聞いた(Qは聞き手の質問、Aは白井氏の回答)』、興味深そうだ。
・『賃金と物価のスパイラルが発生 Q:FRBがタカ派的(金融引き締めに前向き)な姿勢を強めています。 A:FRBのインフレに対する見方がガラッと変わったのは2021年11月下旬だった。テーパリング(量的緩和の規模縮小)を開始した11月初めのFOMC(連邦公開市場委員会)開催の時点では、パウエルFRB議長はインフレを「一時的」だと言っていた。 ところが、11月下旬にパウエル氏が再任され、バイデン大統領と会見を行ったときから、インフレが重大な懸念だと強調するようになった。おそらく大統領からパウエル氏に対し、インフレに対する懸念が伝えられたのではないか。インフレは大統領支持率低下の主因になっているからだ。それもあって12月のFOMCでテーパリングを加速して2022年3月に終えることを決めた。 Q:アメリカのインフレは実際にも歴史的高水準となっています。 A:インフレ圧力はほかの先進国と比べてはるかに強い。直近の消費者物価指数は前年同月比7%、(食品とエネルギーを除く)コアで5.5%上がっているが、インフレ基調を示すあらゆる指標が上昇している。 インフレ期待も5年、10年といった長期ですべて上がっている。市場の期待インフレ率を示す10年のブレークイーブンインフレ率(BEI)も最近は2.5%程度と、2%程度だったここ5年間より一段上の水準にある。 もう1つ注目されているのが労働需給の逼迫による賃金上昇だ。 Q:平均時給は前年同月比で5%近く上昇しています。 A:高インフレで実質賃金が低下しているため国民の不満は大きいが、人手不足で賃金が上がり、そのコストを販売価格に転嫁するという「賃金と物価のスパイラル」が起きつつある。先進国ではアメリカだけだ。労働市場のタイト感が非常に強い。金融政策の正常化を急ぐ必要があるのは事実で、インフレ重視の方向に転換せざるをえない。 Q:1月26日のFOMCでは3月半ばの次回FOMCでの利上げ開始決定が強く示唆されました。 A:ただ、パウエル氏は利上げの回数やペースに関する具体的言及は避け、“humble and nimble”(慎重かつ機敏)に対応していくと言った。これはインフレの両方向の動きに対応するということだ。 Q:といいますと。 A:アメリカのインフレの背景には、世界的なコロナ禍によるサプライチェーン毀損の影響に加え、コロナ禍でのパソコンやゲーム、家具といったモノ(財)への需要増大、エネルギー価格の高騰といった要因がある。そのため、インフレはいずれ必ず下がっていくが、いつどの程度までかというと不確実性が高い。 FRBとしては、インフレが年末にかけ目標の2%近くまで下がっていけばそれほど利上げしない。それが“humble”。一方、インフレが2%を大きく超えて高止まりすれば利上げを加速する。それが“nimble”という意味だ。 「毎回のFOMCでの連続利上げ(年7回)はあるか」という記者の質問に対し、パウエル氏が明確に否定しなかったので非常にタカ派と受け止められたが、議長の発言自体は両方の可能性を考えたものだった』、「パウエル氏が再任され、バイデン大統領と会見を行ったときから、インフレが重大な懸念だと強調するようになった。おそらく大統領からパウエル氏に対し、インフレに対する懸念が伝えられたのではないか」、「パウエル氏」がインフレに対抗する姿勢が弱いのには、失望させられた。
・『QTは早ければ5~6月開始も Q:利上げは今年何回程度が予想されますか。 A:市場は年内5回(計1.25%)の利上げを織り込みつつあるが、私は4回実施され、あとはインフレ動向次第でもう1回程度増やすと見ている。今年前半に一度に0.5%の利上げを行う可能性もある。コンテナ船の滞留などの供給制約が今なお続いている状況を見ると、インフレ率が年内に2%台まで下がるのは難しいかもしれない。 Q:FRBは利上げ開始後に、バランスシート(総資産)を縮小するQTにも着手する構えです。(白井さゆり氏の略歴はリンク先参照) A:QTの開始時期やペースについてパウエル氏は今後2回程度のFOMCで議論すると言っており、早ければ5月か6月にもありうる。 利上げは短期金利を引き上げるものだが、QTはFRBの保有資産の減額を通じて長期金利の引き上げにつながる。現在は過去の利上げ局面に比べてイールドカーブがフラット(平坦)化しており、さらにフラット化すれば金融機関にとっては苦しい状況になる。大幅なフラット化を防ぐためには、FRBは利上げ後にQTを急ぐ必要がある。 一方、QTには利上げの引き締め効果を一段と強める働きがある。「シャドーレート(影のFFレート)」と言われるように、FFレートがゼロでも、量的緩和によって実質的なFFレートはマイナスの領域(今回はマイナス2%程度)まで低下した。QTはそれと逆で、シャドーレートが上がっていく。それだけ景気を下押しする影響は大きくなる。 Q:前回の引き締め局面では利上げを2015年12月に開始し、QTは2017年10月に開始と長い時間をかけましたが、今回は急です。 A:前回の利上げ開始時のインフレ率は2%未満で、失業率は5%程度だった。インフレ圧力が弱かったので、引き締めを急ぐ必要がなかった。 しかし、パウエル氏も話していたように、今回は状況がまったく違う。引き締めを急ぐ必要があるので、市場に及ぼす影響は大きい。パウエル氏は今のFRBの資産規模(約9兆ドル)は非常に大きいので、相当減らす必要があると言った。ただ、あくまでFFレートが主要な政策調整手段だと言い、QTの具体的な規模や引き締め効果についてはいっさい語らなかった。話を複雑にして市場が混乱するのを避けようとしたのだろう。 Q:QTの基本方針では、FRBは保有債券の売却ではなく、主に元本償還分の再投資額を減らすこと(ロールオフ)を通じて行うとしています。 A:前回のQTのときと違い、FRBの保有債券には満期の比較的短いものが多いので、資産を減らそうと思えばかなり早く減らせる。また、前回はすべてロールオフによる減額だったが、今回は「主に」ロールオフと言っている。資産規模が巨大なので、場合によっては売却を通じた減額もありうる。 いずれにせよ、前回は毎月500億ドル程度の減額ペースだったが、今回はそれより減額幅を大きく増やすことになるだろう。増やすにしても、最初は市場への影響を考えて少なめにし、徐々に増やしていくのか。それによって長期金利など市場への影響も変わるため、大きな注目点となる』、「主に元本償還分の再投資額を減らすこと(ロールオフ)を通じて行うとしています・・・前回のQTのときと違い、FRBの保有債券には満期の比較的短いものが多いので、資産を減らそうと思えばかなり早く減らせる」、「前回は毎月500億ドル程度の減額ペースだったが、今回はそれより減額幅を大きく増やすことになるだろう」、なるほど。
・『流動性の逆転で資産バブル修正へ Q:FRBはインフレに対して「ビハインド・ザ・カーブ(後手に回っている)」という批判もあります。 A:今のインフレは国内の要因よりも、サプライチェーン混乱などの国際的な要因のほうが大きいので、FRBが「一時的」と言っていたのは理解できる。アメリカ国内の需給ギャップも依然マイナスだ。ただ、思った以上に状況が改善しないので、FRBは慌てて考え方を変えた。 このことは、今のインフレがいかにわかりにくく予測しにくいものであるかを示しており、あまりFRBを責められないのではないか。 Q:この先、FRBは景気後退や市場の大混乱を避けながら金融政策の正常化を進めていくことができるでしょうか。 A:各国が未曾有のコロナ危機に直面し、金融財政政策を思い切ってやったことは正しかったと思う。ただ、その規模は莫大だった。特にアメリカの場合、中央銀行のバランスシート拡大(4.2兆ドルから2倍強の約9兆ドルへ)のほとんどが資産買い入れによるものだった。 その結果、大量の流動性が供給され、あらゆるリスク資産が値上がりした。ただでさえ高い不動産価格がさらに上昇し、ハイイールド債や暗号資産(仮想通貨)も上がった。本来なら逆に動くものも連動して一緒に動いた。 今後、そうした大量の流動性がQTで減っていけば、影響は避けられない。どれだけ円滑にやっていくかが課題だが、かなりの難路となろう』、「中央銀行のバランスシート拡大・・・のほとんどが資産買い入れによるものだった。 その結果、大量の流動性が供給され、あらゆるリスク資産が値上がりした。ただでさえ高い不動産価格がさらに上昇し、ハイイールド債や暗号資産(仮想通貨)も上がった。本来なら逆に動くものも連動して一緒に動いた。 今後、そうした大量の流動性がQTで減っていけば、影響は避けられない。どれだけ円滑にやっていくかが課題だが、かなりの難路となろう」、今後「リスク資産」の「値下がり」はどこまでいくのか、確かに注目点だ。
・『長期金利高騰なら景気や市場への打撃大 Q:リスクシナリオをどう考えますか。 A:最大のリスクはインフレが高止まりし、11月の中間選挙に向けてアメリカ国民の不満が高まって、FRBが想定以上の急激な引き締めに追い込まれることだ。金融市場の安定よりもインフレの抑制のほうが重要との見方が高まりつつあるため、株式などの市場はショックを受けやすくなっている。そのショックが世界全体に波及するというのが最悪シナリオだ。 長期金利が高騰すれば、アメリカ景気を牽引してきた好調な住宅市場が崩れ、資産価値下落で個人消費にも打撃が大きい。足元のアメリカの長期金利(10年物国債利回り)は1.8%前後で、インフレ収束期待や景気の不確実性からさほど上がっていないが、もし2018年のように3%を超えてくれば影響は大きくなるだろう。 Q:これまでのアメリカの資産インフレは「バブル」と言えますか。 A:バブルは発生している。普通の人の手が届かない不動産価格になっているのは事実だし、株価もコロナ禍前から歴史的に高すぎる水準にあった。とくに一部のテック系成長株は非常に高くなっていたので、反動があっても仕方がない。今後は業績などで銘柄をしっかり選別する必要がある。 Q:ビットコインなどの仮想通貨はどう見ていますか。 A:仮想通貨を通じたイノベーションに関心が高まっているのは事実であり、世界的に一定の需要はあり続けるだろう。ただ、価格の変動が非常に激しく、株価との相関が非常に強まっている。株と同様に下落しやすくなったという意味で気をつけたほうがいい。 Q:アメリカの利上げに伴い、ドル建ての対外債務を抱える発展途上国や新興国などへの影響も懸念されます。 A:世界的に国家の借金が増え、企業もコロナ下で運転資金のための借り入れを増やしており、債務は全体的に増大している。アメリカの金利上昇につれ、世界の資本はアメリカに回帰するため、途上国や新興国では外国資本が入りにくくなって金利が上昇している。経常赤字の国ほど影響を受けやすい。一部の低所得国では債務の返済が難しくなるだろう。 問題はアメリカの金利がどこまで上がるかだが、過去ほどには上がらないはずだ。リーマンショック前のFF金利は5%以上だったが、FRBがいま予想している長期的なFF金利は2.5%だ。経済が成熟化し、高齢化するにつれ、(景気に中立的な)自然利子率が低下傾向にあるためで、それほど利上げをしなくても済む状況にある。 そのため、過去にはアメリカが利上げしたことでアジア通貨危機や中南米の債務危機などが起こったが、今回はそこまでの金利の上昇はないだろう。その意味では比較的安心できる。 Q:今回のアメリカの金融政策の歴史的意味をどう考えますか。 A:コロナ禍での財政出動は近代史ではかつてない規模だが、金融緩和もはるかに大規模で迅速なものだった。しかし、今年はそれほど財政出動ができないし、記録的なインフレで金融緩和も予想以上の速さで修正する必要が高まっている。本当に歴史に残る状況だ。 ただ、アメリカは日欧に先んじて金融政策の正常化に舵を切ることができたことも事実だ。市場がFRBのタカ派的スタンスを織り込んだことで、今後の政策運営がやりやすくなった面もある。市場の想定以上に政策がうまくいき、あまり利上げをしないですめば、グッドサプライズとなるだろう』、「FRBがいま予想している長期的なFF金利は2.5%だ。経済が成熟化し、高齢化するにつれ、・・・自然利子率が低下傾向にあるためで、それほど利上げをしなくても済む状況にある。 そのため、過去にはアメリカが利上げしたことでアジア通貨危機や中南米の債務危機などが起こったが、今回はそこまでの金利の上昇はないだろう。その意味では比較的安心できる」、韓国も安心できるようだ。
・『イギリスは追加利上げと早期QTへ Q:欧州や日本の金融政策に与える影響はどう見ていますか。 A:ECB(欧州中央銀行)は2月3日に理事会を開く。利上げ(マイナス金利政策の修正)は見込まれないが、最近はトーンを変えてきており、昨年12月の理事会ではPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)を今年3月で終了することを決定した。ユーロ圏における足元の高いインフレ率についても「一時的」という言葉を使わなくなっている。 ただ、ECBは2022年末にはインフレ率が目標の2%を下回るとの見方を維持している。2021年12月のインフレ率は5%に達したが、コアでは2.6%とアメリカより大幅に低いうえ、ドイツが2020年に引き下げた付加価値税率を翌年に元へ戻した一時的影響が大きいためだ。景気の基調も強くない。 そのため、ECBはおそらく2022年に利上げはしないが、インフレ次第では年末ぐらいに対応を急ぐ可能性はある。3日の理事会でインフレにどう言及するかが注目される。 2月3日にはイングランド銀行も金融政策委員会を開く。2021年12月に(日米欧の主要中銀で初めて)利上げを行ったが、インフレを警戒して追加利上げが予想される。政策金利が0.5%になれば、ロールオフをすると言っており、アメリカより早く3月にもQTを開始する可能性が高い。 Q:日本でもエネルギー価格の上昇など物価上昇圧力は高まっていますが、日銀に何らかの動きがありうるでしょうか。 A:年内利上げという噂が1月にあったが、それはありえない。確かに、携帯通信料の値下げの影響がなくなる春以降はインフレ率が一時的に2%を超える可能性はある。ただ、コモディティー価格の上昇要因を含めて年後半には再び低下していくと予想される。 一方、今年は貸出支援基金やコロナオペが前半に終わり、社債やCP(コマーシャルペーパー)の保有も減らすので、日銀のバランスシートは確実に縮小していく。それは、「インフレ率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大を続ける」という2016年からのフォワードガイダンス(FG)を非常にわかりにくいものにする。IMF(国際通貨基金)はそのFGを撤廃すべきだと勧告している』、「FG」が今や政策の邪魔になりつつあるのであれば、「IMF」の「勧告」通り、「撤廃」すべきだ。
・『引き締めではなく市場機能を強化すべき また、アメリカの金利上昇につれて、日本の長期金利も上がりやすくなっている。であれば、YCC(イールドカーブコントロール)でプラスマイナス0.25%に設定している10年国債金利の変動幅を0.3%程度に上げるのに最もいい時期だと思う。 それは利上げではなく、変動幅を拡大して市場の機能を高めることになる。長期金利の操作対象年限を10年から5年に短縮するという案は明らかな引き締めであり、黒田(東彦)総裁が採用することはないと思うが、採りうるのはYCCの柔軟性を高めることだろう』、「YCCで「プラスマイナス0.25%に設定している10年国債金利の変動幅を0.3%程度に上げるのに最もいい時期だと思う」、「市場機能を強化すべき」、同感である。
タグ:「CP・社債の買い入れや新型コロナ対応オペの利用が縮小」する程度では、正常化には程遠い。 (その39)(2022年の視点:コロナ後の懸念はデフレよりインフレ 政府・日銀にやっかいな課題=鈴木明彦氏、FRBはゼロ成長下で利上げに着手することになる 経済のオーバーキル懸念が強まり後半は修正か、元日銀審議委員の白井さゆり慶大教授に聞く アメリカの歴史的な金融引き締めで何が起こるか) 異次元緩和政策 コロナの方は第六波到来で「新たな日常」とは程遠いが、金融政策の方はどうなのだろう。 洋経済オンライン 確かに「デフレ脱却宣言や共同声明」は「見直す」べきだ。 「物価を取り巻く環境がデフレをもたらすものから、インフレをもたらすものに、構造的に変わってきている可能性は否定できない。 少なくとも、所得があまり増えていない日本では、米国よりマイルドなインフレでも経済に与えるダメージが大きくなる。デフレ脱却を推進してきた黒田東彦日銀総裁も、円安が物価上昇を通じて家計所得に及ぼすマイナスの影響については、心配するようになっている」、なるほど。 「4月には携帯電話料金の引き下げ効果が、7─8割程度はく落する。公表ベースでも消費者物価上昇率が2%を超えてきて、世の中ではデフレ脱却ムードが高まるかもしれない」、その場合、長期金利の上昇が懸念材料だ。 鈴木明彦氏による「2022年の視点:コロナ後の懸念はデフレよりインフレ、政府・日銀にやっかいな課題=鈴木明彦氏」 ロイター 唐鎌 大輔氏による「FRBはゼロ成長下で利上げに着手することになる 経済のオーバーキル懸念が強まり後半は修正か」 「国内の金融政策ではそうしたインフレ圧力の源泉に対して限定的な効果しかもたらさないだろう」、というので拍子抜けだ。 現在、主要中央銀行は、こうしたラグなどを織り込んで、フォワードルッキングな金融政策運営を謳っているが、その成功例はまだ出ていない。 現在、主要中央銀行は、こうしたラグなどを織り込んで、フォワードルッキングな金融政策運営を謳っているが、まだ願望の段階に止まっており、その成功例はまだ出ていない。 「景気の腰折れ・・・を回避するという観点からすれば、供給能力の復調を待ちつつ、今後3年間で年2~3回の利上げを実施するといった姿勢が、物価と成長率の安定を両立させるうえでは無難な選択肢となってくる」、あくまで「アメリカ」での話であることを念のため付け加えておきたい。 東洋経済Plus「元日銀審議委員の白井さゆり慶大教授に聞く アメリカの歴史的な金融引き締めで何が起こるか」 「パウエル氏が再任され、バイデン大統領と会見を行ったときから、インフレが重大な懸念だと強調するようになった。おそらく大統領からパウエル氏に対し、インフレに対する懸念が伝えられたのではないか」、「パウエル氏」がインフレに対抗する姿勢が弱いのには、失望させられた。 「主に元本償還分の再投資額を減らすこと(ロールオフ)を通じて行うとしています・・・前回のQTのときと違い、FRBの保有債券には満期の比較的短いものが多いので、資産を減らそうと思えばかなり早く減らせる」、「前回は毎月500億ドル程度の減額ペースだったが、今回はそれより減額幅を大きく増やすことになるだろう」、なるほど。 「中央銀行のバランスシート拡大・・・のほとんどが資産買い入れによるものだった。 その結果、大量の流動性が供給され、あらゆるリスク資産が値上がりした。ただでさえ高い不動産価格がさらに上昇し、ハイイールド債や暗号資産(仮想通貨)も上がった。本来なら逆に動くものも連動して一緒に動いた。 今後、そうした大量の流動性がQTで減っていけば、影響は避けられない。どれだけ円滑にやっていくかが課題だが、かなりの難路となろう」、今後「リスク資産」の「値下がり」はどこまでいくのか、確かに注目点だ。 「FRBがいま予想している長期的なFF金利は2.5%だ。経済が成熟化し、高齢化するにつれ、・・・自然利子率が低下傾向にあるためで、それほど利上げをしなくても済む状況にある。 そのため、過去にはアメリカが利上げしたことでアジア通貨危機や中南米の債務危機などが起こったが、今回はそこまでの金利の上昇はないだろう。その意味では比較的安心できる」、韓国も安心できるようだ。 「FG」が今や政策の邪魔になりつつあるのであれば、「IMF」の「勧告」通り、「撤廃」すべきだ。 「YCCで「プラスマイナス0.25%に設定している10年国債金利の変動幅を0.3%程度に上げるのに最もいい時期だと思う」、「市場機能を強化すべき」、同感である。