ウクライナ(その1)(大前研一「日本のマスコミが報道しないウクライナ危機の裏側」 複眼的な視点で世界を見よ、やっぱり軍事音痴だったバイデンが「プーチンの侵略を招く」とボルトンが警告、緊迫するウクライナ情勢 日本人が知らない「失敗国家」の数奇 旧ソ連の優等生だったウクライナが直面した「失われた30年」) [世界情勢]
今日は、緊迫しているウクライナ(その1)(大前研一「日本のマスコミが報道しないウクライナ危機の裏側」 複眼的な視点で世界を見よ、やっぱり軍事音痴だったバイデンが「プーチンの侵略を招く」とボルトンが警告、緊迫するウクライナ情勢 日本人が知らない「失敗国家」の数奇 旧ソ連の優等生だったウクライナが直面した「失われた30年」)を取上げよう。
先ずは、本年プレジデント 2022年2月4日号が掲載したビジネス・ブレークスルー大学学長の大前 研一氏による「大前研一「日本のマスコミが報道しないウクライナ危機の裏側」 複眼的な視点で世界を見よ」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/53674
・『ロシア軍がウクライナに侵攻? 2021年12月3日、米紙ワシントン・ポストは、米情報機関が作成した報告書の内容などとして、ロシアが2022年早々にも大規模なウクライナ侵攻を計画していると報道した。報道によれば、最大17万5000人を動員した多正面作戦になる見通しだという。 ウクライナと周辺国の地図ウクライナと周辺国の地図 この報道を受けて、同月7日に米国のバイデン大統領とロシアのプーチン大統領が、ウクライナ情勢についてビデオ会談で話し合った。バイデンは「ウクライナの国境周辺で、ロシアが軍備を増強させたのは由々しき問題だ。ウクライナに侵攻したら経済制裁などを講じる」とプーチンに伝えたという。しかし私にいわせれば、会談はプーチンの圧勝だった。バイデンの発言はさっぱり意味がわからない。 ウクライナの問題は、プーチンの立場を理解すれば別の見方になる。彼にはソ連邦崩壊後のトラウマがあるのだ。ソ連時代からの経緯を振り返れば、「寂しい」のひと言だろう。 1991年にソビエト連邦が崩壊すると、ウクライナ、ベラルーシなど14の国が独立した。2000年代に入ると、ソ連の一部だったバルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニア、ソ連の衛星国だったチェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキアがEUに加盟した。 バルト三国などは厳しい条件をクリアして、通貨もユーロ圏に入った。かつてのCOMECON(経済相互援助会議)経済圏が、あれよあれよという間に失われたのだ。 バルト三国や衛星国がEUに入り、ロシアと自由主義陣営との境界線はモスクワに近づいてきた。冷戦時代の中立国フィンランドがEUに入り、自国であったエストニアもEUとNATOに加わった結果、ロシア第二の都市であるサンクトペテルブルクが“国境の街”になったほどだ。 プーチンは自分が“皇帝”になってからも、社会主義陣営の領域が次々に削られていくのを見てきた。残ったのはベラルーシとウクライナだけだ。 ベラルーシはプーチンが手練手管を用いて抑え込み、旧CIS(独立国家共同体)のなかで最も親ロシアの国だ。「欧州最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコ大統領は、自分が悪者だと自覚して、プーチンの陰に隠れている。 私がベラルーシを訪れたとき、国民の多くが「EUに入りたい」と希望していた。ルカシェンコの下では将来性がなく、EU経済のなかで活躍したいのだ。「ロシアはあくまでも貿易で儲けさせてくれる国だ」と考えるほど賢い人たちだった。 一方、ウクライナはロシアを刺激しないために中立を保ち、政権はロシア寄りと欧州寄りが交互に移り変わってきた。ロシア寄りのヤヌコーヴィチ元大統領が悪事を重ねて蓄財したのに対して、現在のゼレンスキー大統領はEU・米国にかなり寄っている。プーチンからすれば、ベラルーシはしばらく安泰だが、ウクライナは危ないのだ。 ウクライナ国民の大半は、本音ではEUと関係を深めたいと考えている。14年にクリミア半島がロシアに併合されて以降、「次は自分たちではないか」と危惧しているのだ。 一方で、ロシアに併合されたい人たちもいる。ウクライナ東部のルガンスク人民共和国とドネツク人民共和国だ。どちらも親ロシアの人が多く、14年にウクライナからの独立を宣言した。ウクライナ政府は独立を認めず、反政府組織として扱っている。 おそらく独立は、ロシアが仕掛けたものではない。ルガンスクとドネツクの人たちは、クリミア併合を見て「俺たちもロシアへ行きたい」と考えたのだ。理由の1つはウクライナ政府への不満と不信感だ。 ウクライナ政権は、クチマ、ユーシェンコ、ヤヌコーヴィチなど悪い政治家が多く、ソ連崩壊直後の頃から評判がよくない。悪い政治家の治世に両地域は愛想を尽かしたのだ』、「米国のバイデン大統領とロシアのプーチン大統領が、ウクライナ情勢についてビデオ会談で話し合った」、しかし私にいわせれば、会談はプーチンの圧勝」、「ウクライナ政権は、クチマ、ユーシェンコ、ヤヌコーヴィチなど悪い政治家が多く、ソ連崩壊直後の頃から評判がよくない。悪い政治家の治世に両地域は愛想を尽かしたのだ」、なるほど。
・『欧米目線だけで世界を見るのをやめよ クリミア併合も、同じ経緯だった。日本の報道では「ロシアがクリミア半島を収奪した」という印象が強いが、欧米から見た一面にすぎない。 92年からウクライナの一部だったクリミアは、14年3月に議会が独立を宣言してクリミア自治共和国となった。住民投票では9割以上がロシアへの編入に賛成した』、「クリミア」は「ロシア人」の別荘地なので、「住民投票では9割以上がロシアへの編入に賛成」、したのは当然の結果だ。
・『プーチンの大きな悩み この圧倒的な投票結果から、クリミアは「ロシアに入れてください」と申し入れ、ロシア議会が承認した格好だ。つまり、住民の意思を反映する民主的な手続きはしっかり踏んでいる。米国が後押しした「アラブの春」諸国や11年の南スーダン独立より民主的だろう。 クリミアはもともとロシアの別荘地で、人口約250万人のうち、ロシア人が約6割いて、ウクライナ人は3割に満たない。ロシア系にいわせれば、クリミア半島はウクライナ国内で差別されている。ロシアの別荘地として栄えた頃と違い、まるで発展していない。 ロシアに併合されたあとは、ロシアのタマン半島と結ぶクリミア大橋ができて、自動車も鉄道も行き来している。地つづきになって経済発展が期待できるのだ。 ただし、ロシアがクリミアを併合したことで、双方がハッピーになったわけではない。プーチンの大きな悩みが第二幕だ。 ウクライナのダメな政府は、クリミアの人たちに年金を用意していなかった。高齢者が多いクリミアの年金は、ロシアが負担することになる。収奪するどころか、プーチンの本音は、お荷物を背負い込んだ気分だろう。 ロシア国内は、旧ソ連の頃から年金の積み立てが少ない。そもそもプーチン人気は、エリツィン時代に困窮した年金生活者を救ったことで高まった。年金は長年の大問題であり、救済がプーチンの得意技だった。彼はクリミアで同じ悩みを抱えている。 もしロシア併合を望んでいるルガンスクとドネツクまで受け入れたら、ロシアの年金制度は破綻しかねない。バイデンはロシア軍が10万人規模で配備されたと騒いでいるが、プーチンには収奪の意思はない、と私は見る。仮に侵攻するとしたら首都キエフを押さえ、(残っているかどうかは不明だが)年金資金を収奪するしかないだろう。 軍事でいえば、ヨーロッパにはNATO(北大西洋条約機構)がある。冷戦時代にソ連に対抗するため、軍事的協力と集団防衛を約束して設立したものだ。バルト三国をはじめとする旧東側諸国も、2000年以降に続々とNATOに加盟した。 プーチンにとっては、NATO軍がどんどん迫ってくるようなものだ。緩衝地帯になっているウクライナとベラルーシまで加盟したら、目と鼻の先にNATO軍のミサイルが配備されたような思いになるだろう。 原発事故が起きたチェルノブイリは、ウクライナ北部にある。ロシアとの国境が近く、ロシアのブリャンスクは甚大な被害を受けた。ベラルーシとも近く、三国の境界のようなエリアだ。 もしチェルノブイリにNATO軍の短距離ミサイルが配備されたら、モスクワまでは至近距離だ。モスクワが東京なら、大阪に配備されるぐらいの距離感だ。プーチンは、ウクライナが反ロシアの橋頭堡になることだけは絶対に避けたいだろう』、「ウクライナのダメな政府は、クリミアの人たちに年金を用意していなかった。高齢者が多いクリミアの年金は、ロシアが負担することになる。収奪するどころか、プーチンの本音は、お荷物を背負い込んだ気分だろう」、年金の積み立て不足の穴埋めまでさせられるのではかなわない筈だ。「もしチェルノブイリにNATO軍の短距離ミサイルが配備されたら、モスクワまでは至近距離だ。モスクワが東京なら、大阪に配備されるぐらいの距離感だ。プーチンは、ウクライナが反ロシアの橋頭堡になることだけは絶対に避けたいだろう」、無理からぬところだ。
・『プーチンが抱えるジレンマ 実はロシアにとって、ウクライナにはもう1つ特別な意味がある。歴史的には、ウクライナは“ロシアの親”にあたるのだ。 ウクライナの首都キエフには、9世紀から13世紀にかけてキエフ大公国があった。11世紀に欧州で最も発展した国の1つだったが、1240年にモンゴル軍に攻め込まれて崩壊した。 ロシア正教は、キエフ大公国の正教会から派生したといわれる。つまり、宗教上の祖先はキエフなのだ。その点は、ベラルーシと大きく違う。ベラルーシはいま可愛がっているポチで、ウクライナはご先祖さまなのだ。 だからといって、軍隊を使ってルガンスクとドネツクを取りにいけば、年金生活者をさらに引き受けることになる。プーチンが抱えるジレンマだ。プーチンはとにかく現状維持を希望しているのだ。 バイデンは、ウクライナとロシアの関係も、プーチンの葛藤も理解していないだろう。彼らはそもそも歴史に目を向けない。「新疆ウイグル自治区の綿は強制労働の産物だ」と非難するとき、自分たちが19世紀に綿花栽培でアフリカから違法に連れてきた奴隷たちに強制労働させたことを忘れている。 彼らは他国が軍事的な動きを見せると「キャーッ」と騒ぐ癖がある。1962年のキューバ危機では、カストロ政権がソ連軍のミサイル基地を建設すると知って、ケネディ大統領が大騒ぎした。当時を思い出せば、プーチンの危機感も想像がつくだろう。キューバからワシントンDCは約2000キロメートルあるが、ウクライナの国境からモスクワはわずか700キロメートルしかない。 従って、米国が「NATOの東方拡大はありません」、あるいはウクライナがNATOに加わってもミサイル配備はしません、と約束すればプーチン、そしてロシア国民も落ち着くはずだ。 日本の報道は、米国の目線で伝えるから本当の事情がわからなくなる。政治家もマスコミも、もう米国の目線のみで考えるのはやめたほうがいい』、「キューバからワシントンDCは約2000キロメートルあるが、ウクライナの国境からモスクワはわずか700キロメートルしかない」、「プーチンの危機感も」、理解できる。「政治家もマスコミも、もう米国の目線のみで考えるのはやめたほうがいい」、同感である。
次に、1月25日付けNewsweek日本版が掲載した「やっぱり軍事音痴だったバイデンが「プーチンの侵略を招く」とボルトンが警告」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/01/post-97928_1.php
・『<ロシアがウクライナに侵攻しても「小規模な侵攻」なら見逃すと口を滑らし、戦力投入も後手に回るバイデンの姿勢は、侵攻への「ゴーサイン」に等しいと懸念が高まっている> ロシアによるウクライナ侵攻が秒読みともみられるなか、ドナルド・トランプ前米大統領の国家安全保障問題担当補佐官だったジョン・ボルトンが、ジョー・バイデン米大統領の弱腰を批判した。 ボルトンは1月23日付のニューヨーク・ポスト紙に意見記事を寄せ、この中で、バイデンの過去の発言を厳しく批判した。バイデンは19日に、ロシアによるウクライナ侵攻が全面侵略ではなく「小規模な侵攻」ならば、アメリカとして制裁を見送る可能性を示唆するような発言を行った。 また「プーチンが先に行動を起こすのを待ってからNATOと共に対応を決める」というバイデンの戦術は、必ずや失敗に終わると断言。「プーチンはウクライナに対して全面侵略を行わなくとも、大きな利益を手にすることができる」ということを、ホワイトハウスは「まだ理解できていない」と批判し、バイデンの「不適切で一貫性のない方針」はウクライナに対する「ロシアの軍事行動に対する抑止力」にはなっておらず、「臆病なやり方」はプーチンの「要求をエスカレートさせるだけ」だと指摘した』、「アフガニスタン」問題でミソを付けた「バイデン」が、「ウクライナ」問題でも不手際を見せているとは残念だ。
・『「厳しい制裁で圧力をかけるべき」 「プーチン相手に無難で手堅い対応を取るバイデンのようなやり方では、危険にさらされているウクライナなどの国を永続的に守ることはできないだろう」とボルトンは記事の中で述べ、こう続けた。「NATOが何らかの妥協をすれば今すぐ軍事紛争が起きるのを回避することはできるかもしれないが、それによって近いうちに紛争が起きるリスクが増大するという悪循環に陥る危険がある」 米国連大使(2005~2006年)を務めた経験もあるボルトンは、バイデンが軍事紛争を抑止するためには、プーチンに対して厳しい制裁という方法で圧力をかけるべきだと主張する。ロシアがウクライナに侵攻した場合、NATOの他の同盟諸国と共に、海底ガスパイプライン「ノルドストリーム2」計画の停止も辞さないと表明するなどの方法を取るべきだと述べた。 既に完成して稼働に向けた準備を進めているノルドストリーム2は、ロシア産天然ガスをバルト海経由でヨーロッパ本土に運ぶパイプラインで、ヨーロッパのロシア産ガスへの依存度を高めるという批判の声もある。また同パイプラインの完成により、ウクライナを通る既存ルートの利用が減るため、ウクライナにとってはロシアから受け取ってきた経由料を失うことも意味する。) ボルトンは意見記事の中で、「最後の希望は、バイデンが今すぐ方針転換をして先手を取り、ロシア軍がウクライナとの国境から撤退するまで、ノルドストリーム2を稼働させないと表明することだ」と述べ、さらにこう続けた。 「差し迫って必要なのは、さらなる武器とNATOの部隊を動員することだ。戦闘のためではない。ウクライナ軍と共に訓練および演習を行うことで、ロシアにとっての不確実性とリスクを増大させるためだ。これを実行するためには、当然ながらヨーロッパ諸国、とりわけフランスとドイツが強硬な姿勢を示す必要があるが、今はおそらくそれが欠けている。プーチンはそれも織り込み済みで、バイデンのこれまでの声明や先週の一連の交渉では、それを変えることはできていない。今、時間を味方につけているのはプーチンの方だ」 バイデンの「小規模な侵攻」発言に対しては、米共和党の数多くの議員や、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領から反発の声が上がっている。 ゼレンスキーは20日、「小規模な侵攻や小国などというものは存在しないことを、大国に再認識してもらいたい」とツイッターに投稿し、さらにこう続けた。「愛する人を失うのに、小さな犠牲や小さな悲しみなどというものがないのと同じだ」』、タレント出身の「ゼレンスキー大統領」は、この発言はまともだが、ロシア寄りの発言も多い問題人物だ。
・『ホワイトハウス報道官が発言を修正 トランプの大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)だったキャスリーン・マクファーランドはFOXニュースに対して、バイデンの発言はプーチンにとって、ウクライナ侵攻の「ゴーサイン」を意味したと主張した。 「バイデン大統領が先週、プーチンにゴーサインを出すような発言をしたことで、今やプーチンがどんな行動に出る可能性もあると思う。ウクライナ侵攻の可能性もあるし、ハイブリッド戦争を仕掛ける可能性もある。今すぐ、もしくは今後1年の間に、彼は何らかの方法で自分の目的を達するだろう」 ホワイトハウスのジェン・サキ報道官はその後、ロシア軍がウクライナとの国境を越える動きがあれば、それは全て「新たな侵攻」であり、「アメリカと同盟諸国は迅速に厳しく、一致団結して」対応すると説明。バイデンの発言を事実上修正した』、「サキ報道官」が「発言を事実上修正」せざるを得ない「バイデンの発言」はお粗末過ぎる。
第三に、2月2日付けJBPressが掲載した三菱UFJリサーチ&コンサルティングの副主任研究員の土田 陽介氏による「緊迫するウクライナ情勢、日本人が知らない「失敗国家」の数奇 旧ソ連の優等生だったウクライナが直面した「失われた30年」」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68706
・『ウクライナ情勢が緊迫化している。1991年12月、旧ソ連邦の崩壊伴い独立した現在のウクライナは、典型的な「失敗国家」ないしは「破綻国家」としての歴史を歩んでいる。さらにウクライナは、ヨーロッパとロシアの「緩衝国家」であり、双方の思惑の中で翻弄されるという数奇な運命を辿っている。 ウクライナを巡る国際政治に関しては、諸賢による分析が数多い。そうした分析とはあえて距離を置き、独立以来のウクライナの歩みを経済面から振り返り、ウクライナという国が持つ特殊性を確認してみたい。こうした作業も、緊迫化するウクライナ情勢を理解する上での一助になると考えられるためである。 ウクライナの一人当たり名目GDP(国内総生産)は、独立から30年の間、4000米ドル(約50万円)を天井に増減を繰り返している(図1)。その水準は常にロシアの半分以下であり、ヨーロッパ(欧州連合<EU>)の10分の1程度に過ぎない。実質GDPに至っては独立直前の6割程度の規模にとどまっており、非常に厳しい状況だ。 (図1 ウクライナの一人当たりGDPの推移はリンク先参照) それに、ウクライナは世界でも富の偏在が激しい国の一つだろう。ソ連崩壊に伴う混乱に乗じて巨万の富を成した極少数の新興企業家(オリガルヒ)がいる一方で、時代の荒波にさらわれたまま貧しい生活を強いられる人々は数多い。汚職も蔓延し、巨大な規模の地下経済の下で非合法な活動が行われていると言われる。 ソ連時代のウクライナは、先進的な工業国だった』、「ソ連時代のウクライナは、先進的な工業国だった」、「一人当たり名目GDP・・・は、独立から30年の間、4000米ドル(約50万円)を天井に増減を繰り返している(図1)。その水準は常にロシアの半分以下であり、ヨーロッパ(欧州連合<EU>)の10分の1程度に過ぎない」、ずいぶん落ち込んだものだ。
・『旧ソ連崩壊で味わったウクライナの艱難辛苦 ウクライナは旧ソ連で最も西側にあり、ポーランドやスロバキア、ハンガリー、ルーマニア、モルドバといった国々と国境を接していた。つまりヨーロッパの旧共産圏と旧ソ連との「中間地点」にあったため、ソ連は戦略的な観点からウクライナの工業化を優先したのである。 特に重視されたのは軍需産業であり、航空・宇宙産業だった。ソ連のロケット設計を担ったユージュノエや製造を受け持ったユージュマシュ、航空機製造のアントノフなどがその象徴的な企業である。ソ連と旧共産圏に軍需品や航空機を効率的に供給するための拠点として、ソ連はウクライナの重化学工業化に努めたわけだ。 またウクライナと言えば、1986年に悲惨な事故を起こしたチェルノブイリ原発の存在が思い浮かぶ。そのチェルノブイリ原発からは、旧共産圏のヨーロッパ諸国に電力が輸出された。言い換えれば、当時で世界最大級の原発がチェルノブイリに存在した事実もまた、ソ連時代におけるウクライナの特殊な性格を物語っている。 そのウクライナにとって、1989年の東欧革命と1991年のソ連崩壊は輸出市場の崩壊を意味した。とりわけ痛手だったのが、北大西洋条約機構(NATO)に対抗して設立されたワルシャワ条約機構(WTO)の崩壊だった。旧共産圏で軍事同盟が崩壊したことが、今日まで続くウクライナ経済の混乱の端緒である。 ソ連崩壊を受けて独立したウクライナは、大統領制を導入するとともに、他の諸国と同様に計画経済を放棄して市場経済の導入を試みることになる。ウクライナもまた他の共和国と同様に「体制転換」を果たしたわけだが、ウクライナの場合は憲法の制定が1996年まで遅れるなど、旧共産圏の中でも政治の混乱が顕著だった。 こうした中で、政治と経済の混乱に乗じたオリガルヒが産業を独占。市場経済の導入に向けた改革が遅れることになった。加えて、最大の輸出相手国であるロシアの経済が「転換不況」にあえいでいたことが、ウクライナの経済の発展を外需面から阻んだ。結果、ウクライナはロシア以上に深刻な「転換不況」を経験することになる』、「1989年の東欧革命と1991年のソ連崩壊は輸出市場の崩壊を意味」、「ウクライナはロシア以上に深刻な「転換不況」を経験する」、大変だったようだ。
・『旧ソ連のエリートだったウクライナの没落 ウクライナの現在の通貨フリヴニャは、1996年9月に導入されたものだ。独立直後の通貨はカルボーヴァネツィ(通称クーポン)だったが、フリヴニャ導入の際に1フリヴニャ=10万クーポンで交換された。つまりフリヴニャの導入はデノミそのものであり、その際のレートが当時の経済の混乱を良く示している。 結局、ウクライナの経済は1991年から1999年までマイナス成長が続き、この間に実質GDPは約6割も減少した(図2)。ソ連のエリートだったウクライナの経済は、東欧革命とソ連崩壊という環境の変化を受けて、文字通り「没落」したわけだ。この挫折を乗り越えることができないまま、ウクライナは2000年代を迎えるのである。 (図2 ウクライナの実質GDPの推移 はリンク先参照) 2000年代に入ると、ウクライナの経済はようやく成長軌道に乗った。そのドライバーは個人消費や建設投資だったが、それを金融面から刺激したのは国外から流入した資金だった。個人の借入は自動車ローンや住宅ローンが中心で、固定相場制度の下、金利が低い外貨で行われたが、その供給元は主にヨーロッパ系の銀行だった。 しかしながら、2008年秋に生じた世界金融危機を受けて資金が逆回転したことで、通貨フリヴニャが暴落を余儀なくされた。そのため外貨で借入を行っていた家計は返済の負担に耐えられず、ローンのデフォルトが相次いだ。国際収支危機に陥ったウクライナは翌2009年に国際通貨基金(IMF)に金融支援を要請することになる。 IMFは金融支援の条件として、歳出の切りつめと同時に、年金・医療・教育などの分野で構造改革を求めた。とはいえ、安定した政治なしに実のある構造改革など不可能であるばかりか、かえってウクライナの社会や経済の混乱に拍車をかけた。こうした点に関して、欧米のルールベースの経済援助には問題があったと言わざるを得ない。 結局、個人消費や建設投資に代わる成長のけん引役を見つけることができないまま、ウクライナの経済は再び低迷することになる。しかし、国内の政治の混乱は収束しないばかりか酷さを増す一方であり、経済の立て直しなど進まなかった。そうした中で、2014年2月下旬にロシアによるクリミア侵攻が発生するのである』、「IMFは金融支援の条件として、歳出の切りつめと同時に、年金・医療・教育などの分野で構造改革を求めた」、「安定した政治なしに実のある構造改革など不可能であるばかりか、かえってウクライナの社会や経済の混乱に拍車をかけた」、確かに「ルールベースの経済援助には問題があった」。
・『ウクライナの経済が経験した「失われた30年」 クリミア危機により、ウクライナは工業化が進んでいた東部の2州(ドネツクとルガンスク)を失うとともに、ロシアとの貿易関係が事実上、断絶した(図3)。当然、経済はさらに落ち込むことになり、IMFが金融支援に乗り出すが、その際もIMFはウクライナに対して無謀な構造改革を義務付けた。(図3 輸出入総額に占める対ロシア取引の割合 はリンク先参照) それ以降、通貨安で輸出が堅調に増える局面もあったが、国としての発展戦略を欠いたまま、ウクライナ経済は低成長が続いた。2019年に就任したゼレンスキー大統領も、仮想通貨のマイニングを経済の発展戦略に据え置こうとするなど、腰を据えて経済を立て直そうという気概を持っていない。そうした矢先、今回の事態が生じたわけだ。 今回の情勢の悪化を受け、ウクライナの経済は再びマイナス成長に陥るだろう。その後も厳しい状況が続くが、ロシアとの経済関係が実質的に破綻している中で、ウクライナの経済が立ち直るためには、やはり欧米、特にヨーロッパによる支援は不可欠な要素になると考えられる。問題は、その気がヨーロッパにあるかどうかだ。 EUの隣国に対する経済支援はIMFと同様に、基本的にルールベースで行われる。つまり支援に当たって構造改革の要求を求めるわけだが、長期にわたる混乱で疲弊しきったウクライナに、果たしてルールを守る能力などあるだろうか。ルールが守れないとしてウクライナを突き放し続けるなら、ウクライナの経済の安定など永遠に見込めない』、「長期にわたる混乱で疲弊しきったウクライナに、果たしてルールを守る能力などあるだろうか。ルールが守れないとしてウクライナを突き放し続けるなら、ウクライナの経済の安定など永遠に見込めない」、同感である。
先ずは、本年プレジデント 2022年2月4日号が掲載したビジネス・ブレークスルー大学学長の大前 研一氏による「大前研一「日本のマスコミが報道しないウクライナ危機の裏側」 複眼的な視点で世界を見よ」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/53674
・『ロシア軍がウクライナに侵攻? 2021年12月3日、米紙ワシントン・ポストは、米情報機関が作成した報告書の内容などとして、ロシアが2022年早々にも大規模なウクライナ侵攻を計画していると報道した。報道によれば、最大17万5000人を動員した多正面作戦になる見通しだという。 ウクライナと周辺国の地図ウクライナと周辺国の地図 この報道を受けて、同月7日に米国のバイデン大統領とロシアのプーチン大統領が、ウクライナ情勢についてビデオ会談で話し合った。バイデンは「ウクライナの国境周辺で、ロシアが軍備を増強させたのは由々しき問題だ。ウクライナに侵攻したら経済制裁などを講じる」とプーチンに伝えたという。しかし私にいわせれば、会談はプーチンの圧勝だった。バイデンの発言はさっぱり意味がわからない。 ウクライナの問題は、プーチンの立場を理解すれば別の見方になる。彼にはソ連邦崩壊後のトラウマがあるのだ。ソ連時代からの経緯を振り返れば、「寂しい」のひと言だろう。 1991年にソビエト連邦が崩壊すると、ウクライナ、ベラルーシなど14の国が独立した。2000年代に入ると、ソ連の一部だったバルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニア、ソ連の衛星国だったチェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキアがEUに加盟した。 バルト三国などは厳しい条件をクリアして、通貨もユーロ圏に入った。かつてのCOMECON(経済相互援助会議)経済圏が、あれよあれよという間に失われたのだ。 バルト三国や衛星国がEUに入り、ロシアと自由主義陣営との境界線はモスクワに近づいてきた。冷戦時代の中立国フィンランドがEUに入り、自国であったエストニアもEUとNATOに加わった結果、ロシア第二の都市であるサンクトペテルブルクが“国境の街”になったほどだ。 プーチンは自分が“皇帝”になってからも、社会主義陣営の領域が次々に削られていくのを見てきた。残ったのはベラルーシとウクライナだけだ。 ベラルーシはプーチンが手練手管を用いて抑え込み、旧CIS(独立国家共同体)のなかで最も親ロシアの国だ。「欧州最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコ大統領は、自分が悪者だと自覚して、プーチンの陰に隠れている。 私がベラルーシを訪れたとき、国民の多くが「EUに入りたい」と希望していた。ルカシェンコの下では将来性がなく、EU経済のなかで活躍したいのだ。「ロシアはあくまでも貿易で儲けさせてくれる国だ」と考えるほど賢い人たちだった。 一方、ウクライナはロシアを刺激しないために中立を保ち、政権はロシア寄りと欧州寄りが交互に移り変わってきた。ロシア寄りのヤヌコーヴィチ元大統領が悪事を重ねて蓄財したのに対して、現在のゼレンスキー大統領はEU・米国にかなり寄っている。プーチンからすれば、ベラルーシはしばらく安泰だが、ウクライナは危ないのだ。 ウクライナ国民の大半は、本音ではEUと関係を深めたいと考えている。14年にクリミア半島がロシアに併合されて以降、「次は自分たちではないか」と危惧しているのだ。 一方で、ロシアに併合されたい人たちもいる。ウクライナ東部のルガンスク人民共和国とドネツク人民共和国だ。どちらも親ロシアの人が多く、14年にウクライナからの独立を宣言した。ウクライナ政府は独立を認めず、反政府組織として扱っている。 おそらく独立は、ロシアが仕掛けたものではない。ルガンスクとドネツクの人たちは、クリミア併合を見て「俺たちもロシアへ行きたい」と考えたのだ。理由の1つはウクライナ政府への不満と不信感だ。 ウクライナ政権は、クチマ、ユーシェンコ、ヤヌコーヴィチなど悪い政治家が多く、ソ連崩壊直後の頃から評判がよくない。悪い政治家の治世に両地域は愛想を尽かしたのだ』、「米国のバイデン大統領とロシアのプーチン大統領が、ウクライナ情勢についてビデオ会談で話し合った」、しかし私にいわせれば、会談はプーチンの圧勝」、「ウクライナ政権は、クチマ、ユーシェンコ、ヤヌコーヴィチなど悪い政治家が多く、ソ連崩壊直後の頃から評判がよくない。悪い政治家の治世に両地域は愛想を尽かしたのだ」、なるほど。
・『欧米目線だけで世界を見るのをやめよ クリミア併合も、同じ経緯だった。日本の報道では「ロシアがクリミア半島を収奪した」という印象が強いが、欧米から見た一面にすぎない。 92年からウクライナの一部だったクリミアは、14年3月に議会が独立を宣言してクリミア自治共和国となった。住民投票では9割以上がロシアへの編入に賛成した』、「クリミア」は「ロシア人」の別荘地なので、「住民投票では9割以上がロシアへの編入に賛成」、したのは当然の結果だ。
・『プーチンの大きな悩み この圧倒的な投票結果から、クリミアは「ロシアに入れてください」と申し入れ、ロシア議会が承認した格好だ。つまり、住民の意思を反映する民主的な手続きはしっかり踏んでいる。米国が後押しした「アラブの春」諸国や11年の南スーダン独立より民主的だろう。 クリミアはもともとロシアの別荘地で、人口約250万人のうち、ロシア人が約6割いて、ウクライナ人は3割に満たない。ロシア系にいわせれば、クリミア半島はウクライナ国内で差別されている。ロシアの別荘地として栄えた頃と違い、まるで発展していない。 ロシアに併合されたあとは、ロシアのタマン半島と結ぶクリミア大橋ができて、自動車も鉄道も行き来している。地つづきになって経済発展が期待できるのだ。 ただし、ロシアがクリミアを併合したことで、双方がハッピーになったわけではない。プーチンの大きな悩みが第二幕だ。 ウクライナのダメな政府は、クリミアの人たちに年金を用意していなかった。高齢者が多いクリミアの年金は、ロシアが負担することになる。収奪するどころか、プーチンの本音は、お荷物を背負い込んだ気分だろう。 ロシア国内は、旧ソ連の頃から年金の積み立てが少ない。そもそもプーチン人気は、エリツィン時代に困窮した年金生活者を救ったことで高まった。年金は長年の大問題であり、救済がプーチンの得意技だった。彼はクリミアで同じ悩みを抱えている。 もしロシア併合を望んでいるルガンスクとドネツクまで受け入れたら、ロシアの年金制度は破綻しかねない。バイデンはロシア軍が10万人規模で配備されたと騒いでいるが、プーチンには収奪の意思はない、と私は見る。仮に侵攻するとしたら首都キエフを押さえ、(残っているかどうかは不明だが)年金資金を収奪するしかないだろう。 軍事でいえば、ヨーロッパにはNATO(北大西洋条約機構)がある。冷戦時代にソ連に対抗するため、軍事的協力と集団防衛を約束して設立したものだ。バルト三国をはじめとする旧東側諸国も、2000年以降に続々とNATOに加盟した。 プーチンにとっては、NATO軍がどんどん迫ってくるようなものだ。緩衝地帯になっているウクライナとベラルーシまで加盟したら、目と鼻の先にNATO軍のミサイルが配備されたような思いになるだろう。 原発事故が起きたチェルノブイリは、ウクライナ北部にある。ロシアとの国境が近く、ロシアのブリャンスクは甚大な被害を受けた。ベラルーシとも近く、三国の境界のようなエリアだ。 もしチェルノブイリにNATO軍の短距離ミサイルが配備されたら、モスクワまでは至近距離だ。モスクワが東京なら、大阪に配備されるぐらいの距離感だ。プーチンは、ウクライナが反ロシアの橋頭堡になることだけは絶対に避けたいだろう』、「ウクライナのダメな政府は、クリミアの人たちに年金を用意していなかった。高齢者が多いクリミアの年金は、ロシアが負担することになる。収奪するどころか、プーチンの本音は、お荷物を背負い込んだ気分だろう」、年金の積み立て不足の穴埋めまでさせられるのではかなわない筈だ。「もしチェルノブイリにNATO軍の短距離ミサイルが配備されたら、モスクワまでは至近距離だ。モスクワが東京なら、大阪に配備されるぐらいの距離感だ。プーチンは、ウクライナが反ロシアの橋頭堡になることだけは絶対に避けたいだろう」、無理からぬところだ。
・『プーチンが抱えるジレンマ 実はロシアにとって、ウクライナにはもう1つ特別な意味がある。歴史的には、ウクライナは“ロシアの親”にあたるのだ。 ウクライナの首都キエフには、9世紀から13世紀にかけてキエフ大公国があった。11世紀に欧州で最も発展した国の1つだったが、1240年にモンゴル軍に攻め込まれて崩壊した。 ロシア正教は、キエフ大公国の正教会から派生したといわれる。つまり、宗教上の祖先はキエフなのだ。その点は、ベラルーシと大きく違う。ベラルーシはいま可愛がっているポチで、ウクライナはご先祖さまなのだ。 だからといって、軍隊を使ってルガンスクとドネツクを取りにいけば、年金生活者をさらに引き受けることになる。プーチンが抱えるジレンマだ。プーチンはとにかく現状維持を希望しているのだ。 バイデンは、ウクライナとロシアの関係も、プーチンの葛藤も理解していないだろう。彼らはそもそも歴史に目を向けない。「新疆ウイグル自治区の綿は強制労働の産物だ」と非難するとき、自分たちが19世紀に綿花栽培でアフリカから違法に連れてきた奴隷たちに強制労働させたことを忘れている。 彼らは他国が軍事的な動きを見せると「キャーッ」と騒ぐ癖がある。1962年のキューバ危機では、カストロ政権がソ連軍のミサイル基地を建設すると知って、ケネディ大統領が大騒ぎした。当時を思い出せば、プーチンの危機感も想像がつくだろう。キューバからワシントンDCは約2000キロメートルあるが、ウクライナの国境からモスクワはわずか700キロメートルしかない。 従って、米国が「NATOの東方拡大はありません」、あるいはウクライナがNATOに加わってもミサイル配備はしません、と約束すればプーチン、そしてロシア国民も落ち着くはずだ。 日本の報道は、米国の目線で伝えるから本当の事情がわからなくなる。政治家もマスコミも、もう米国の目線のみで考えるのはやめたほうがいい』、「キューバからワシントンDCは約2000キロメートルあるが、ウクライナの国境からモスクワはわずか700キロメートルしかない」、「プーチンの危機感も」、理解できる。「政治家もマスコミも、もう米国の目線のみで考えるのはやめたほうがいい」、同感である。
次に、1月25日付けNewsweek日本版が掲載した「やっぱり軍事音痴だったバイデンが「プーチンの侵略を招く」とボルトンが警告」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/01/post-97928_1.php
・『<ロシアがウクライナに侵攻しても「小規模な侵攻」なら見逃すと口を滑らし、戦力投入も後手に回るバイデンの姿勢は、侵攻への「ゴーサイン」に等しいと懸念が高まっている> ロシアによるウクライナ侵攻が秒読みともみられるなか、ドナルド・トランプ前米大統領の国家安全保障問題担当補佐官だったジョン・ボルトンが、ジョー・バイデン米大統領の弱腰を批判した。 ボルトンは1月23日付のニューヨーク・ポスト紙に意見記事を寄せ、この中で、バイデンの過去の発言を厳しく批判した。バイデンは19日に、ロシアによるウクライナ侵攻が全面侵略ではなく「小規模な侵攻」ならば、アメリカとして制裁を見送る可能性を示唆するような発言を行った。 また「プーチンが先に行動を起こすのを待ってからNATOと共に対応を決める」というバイデンの戦術は、必ずや失敗に終わると断言。「プーチンはウクライナに対して全面侵略を行わなくとも、大きな利益を手にすることができる」ということを、ホワイトハウスは「まだ理解できていない」と批判し、バイデンの「不適切で一貫性のない方針」はウクライナに対する「ロシアの軍事行動に対する抑止力」にはなっておらず、「臆病なやり方」はプーチンの「要求をエスカレートさせるだけ」だと指摘した』、「アフガニスタン」問題でミソを付けた「バイデン」が、「ウクライナ」問題でも不手際を見せているとは残念だ。
・『「厳しい制裁で圧力をかけるべき」 「プーチン相手に無難で手堅い対応を取るバイデンのようなやり方では、危険にさらされているウクライナなどの国を永続的に守ることはできないだろう」とボルトンは記事の中で述べ、こう続けた。「NATOが何らかの妥協をすれば今すぐ軍事紛争が起きるのを回避することはできるかもしれないが、それによって近いうちに紛争が起きるリスクが増大するという悪循環に陥る危険がある」 米国連大使(2005~2006年)を務めた経験もあるボルトンは、バイデンが軍事紛争を抑止するためには、プーチンに対して厳しい制裁という方法で圧力をかけるべきだと主張する。ロシアがウクライナに侵攻した場合、NATOの他の同盟諸国と共に、海底ガスパイプライン「ノルドストリーム2」計画の停止も辞さないと表明するなどの方法を取るべきだと述べた。 既に完成して稼働に向けた準備を進めているノルドストリーム2は、ロシア産天然ガスをバルト海経由でヨーロッパ本土に運ぶパイプラインで、ヨーロッパのロシア産ガスへの依存度を高めるという批判の声もある。また同パイプラインの完成により、ウクライナを通る既存ルートの利用が減るため、ウクライナにとってはロシアから受け取ってきた経由料を失うことも意味する。) ボルトンは意見記事の中で、「最後の希望は、バイデンが今すぐ方針転換をして先手を取り、ロシア軍がウクライナとの国境から撤退するまで、ノルドストリーム2を稼働させないと表明することだ」と述べ、さらにこう続けた。 「差し迫って必要なのは、さらなる武器とNATOの部隊を動員することだ。戦闘のためではない。ウクライナ軍と共に訓練および演習を行うことで、ロシアにとっての不確実性とリスクを増大させるためだ。これを実行するためには、当然ながらヨーロッパ諸国、とりわけフランスとドイツが強硬な姿勢を示す必要があるが、今はおそらくそれが欠けている。プーチンはそれも織り込み済みで、バイデンのこれまでの声明や先週の一連の交渉では、それを変えることはできていない。今、時間を味方につけているのはプーチンの方だ」 バイデンの「小規模な侵攻」発言に対しては、米共和党の数多くの議員や、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領から反発の声が上がっている。 ゼレンスキーは20日、「小規模な侵攻や小国などというものは存在しないことを、大国に再認識してもらいたい」とツイッターに投稿し、さらにこう続けた。「愛する人を失うのに、小さな犠牲や小さな悲しみなどというものがないのと同じだ」』、タレント出身の「ゼレンスキー大統領」は、この発言はまともだが、ロシア寄りの発言も多い問題人物だ。
・『ホワイトハウス報道官が発言を修正 トランプの大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)だったキャスリーン・マクファーランドはFOXニュースに対して、バイデンの発言はプーチンにとって、ウクライナ侵攻の「ゴーサイン」を意味したと主張した。 「バイデン大統領が先週、プーチンにゴーサインを出すような発言をしたことで、今やプーチンがどんな行動に出る可能性もあると思う。ウクライナ侵攻の可能性もあるし、ハイブリッド戦争を仕掛ける可能性もある。今すぐ、もしくは今後1年の間に、彼は何らかの方法で自分の目的を達するだろう」 ホワイトハウスのジェン・サキ報道官はその後、ロシア軍がウクライナとの国境を越える動きがあれば、それは全て「新たな侵攻」であり、「アメリカと同盟諸国は迅速に厳しく、一致団結して」対応すると説明。バイデンの発言を事実上修正した』、「サキ報道官」が「発言を事実上修正」せざるを得ない「バイデンの発言」はお粗末過ぎる。
第三に、2月2日付けJBPressが掲載した三菱UFJリサーチ&コンサルティングの副主任研究員の土田 陽介氏による「緊迫するウクライナ情勢、日本人が知らない「失敗国家」の数奇 旧ソ連の優等生だったウクライナが直面した「失われた30年」」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68706
・『ウクライナ情勢が緊迫化している。1991年12月、旧ソ連邦の崩壊伴い独立した現在のウクライナは、典型的な「失敗国家」ないしは「破綻国家」としての歴史を歩んでいる。さらにウクライナは、ヨーロッパとロシアの「緩衝国家」であり、双方の思惑の中で翻弄されるという数奇な運命を辿っている。 ウクライナを巡る国際政治に関しては、諸賢による分析が数多い。そうした分析とはあえて距離を置き、独立以来のウクライナの歩みを経済面から振り返り、ウクライナという国が持つ特殊性を確認してみたい。こうした作業も、緊迫化するウクライナ情勢を理解する上での一助になると考えられるためである。 ウクライナの一人当たり名目GDP(国内総生産)は、独立から30年の間、4000米ドル(約50万円)を天井に増減を繰り返している(図1)。その水準は常にロシアの半分以下であり、ヨーロッパ(欧州連合<EU>)の10分の1程度に過ぎない。実質GDPに至っては独立直前の6割程度の規模にとどまっており、非常に厳しい状況だ。 (図1 ウクライナの一人当たりGDPの推移はリンク先参照) それに、ウクライナは世界でも富の偏在が激しい国の一つだろう。ソ連崩壊に伴う混乱に乗じて巨万の富を成した極少数の新興企業家(オリガルヒ)がいる一方で、時代の荒波にさらわれたまま貧しい生活を強いられる人々は数多い。汚職も蔓延し、巨大な規模の地下経済の下で非合法な活動が行われていると言われる。 ソ連時代のウクライナは、先進的な工業国だった』、「ソ連時代のウクライナは、先進的な工業国だった」、「一人当たり名目GDP・・・は、独立から30年の間、4000米ドル(約50万円)を天井に増減を繰り返している(図1)。その水準は常にロシアの半分以下であり、ヨーロッパ(欧州連合<EU>)の10分の1程度に過ぎない」、ずいぶん落ち込んだものだ。
・『旧ソ連崩壊で味わったウクライナの艱難辛苦 ウクライナは旧ソ連で最も西側にあり、ポーランドやスロバキア、ハンガリー、ルーマニア、モルドバといった国々と国境を接していた。つまりヨーロッパの旧共産圏と旧ソ連との「中間地点」にあったため、ソ連は戦略的な観点からウクライナの工業化を優先したのである。 特に重視されたのは軍需産業であり、航空・宇宙産業だった。ソ連のロケット設計を担ったユージュノエや製造を受け持ったユージュマシュ、航空機製造のアントノフなどがその象徴的な企業である。ソ連と旧共産圏に軍需品や航空機を効率的に供給するための拠点として、ソ連はウクライナの重化学工業化に努めたわけだ。 またウクライナと言えば、1986年に悲惨な事故を起こしたチェルノブイリ原発の存在が思い浮かぶ。そのチェルノブイリ原発からは、旧共産圏のヨーロッパ諸国に電力が輸出された。言い換えれば、当時で世界最大級の原発がチェルノブイリに存在した事実もまた、ソ連時代におけるウクライナの特殊な性格を物語っている。 そのウクライナにとって、1989年の東欧革命と1991年のソ連崩壊は輸出市場の崩壊を意味した。とりわけ痛手だったのが、北大西洋条約機構(NATO)に対抗して設立されたワルシャワ条約機構(WTO)の崩壊だった。旧共産圏で軍事同盟が崩壊したことが、今日まで続くウクライナ経済の混乱の端緒である。 ソ連崩壊を受けて独立したウクライナは、大統領制を導入するとともに、他の諸国と同様に計画経済を放棄して市場経済の導入を試みることになる。ウクライナもまた他の共和国と同様に「体制転換」を果たしたわけだが、ウクライナの場合は憲法の制定が1996年まで遅れるなど、旧共産圏の中でも政治の混乱が顕著だった。 こうした中で、政治と経済の混乱に乗じたオリガルヒが産業を独占。市場経済の導入に向けた改革が遅れることになった。加えて、最大の輸出相手国であるロシアの経済が「転換不況」にあえいでいたことが、ウクライナの経済の発展を外需面から阻んだ。結果、ウクライナはロシア以上に深刻な「転換不況」を経験することになる』、「1989年の東欧革命と1991年のソ連崩壊は輸出市場の崩壊を意味」、「ウクライナはロシア以上に深刻な「転換不況」を経験する」、大変だったようだ。
・『旧ソ連のエリートだったウクライナの没落 ウクライナの現在の通貨フリヴニャは、1996年9月に導入されたものだ。独立直後の通貨はカルボーヴァネツィ(通称クーポン)だったが、フリヴニャ導入の際に1フリヴニャ=10万クーポンで交換された。つまりフリヴニャの導入はデノミそのものであり、その際のレートが当時の経済の混乱を良く示している。 結局、ウクライナの経済は1991年から1999年までマイナス成長が続き、この間に実質GDPは約6割も減少した(図2)。ソ連のエリートだったウクライナの経済は、東欧革命とソ連崩壊という環境の変化を受けて、文字通り「没落」したわけだ。この挫折を乗り越えることができないまま、ウクライナは2000年代を迎えるのである。 (図2 ウクライナの実質GDPの推移 はリンク先参照) 2000年代に入ると、ウクライナの経済はようやく成長軌道に乗った。そのドライバーは個人消費や建設投資だったが、それを金融面から刺激したのは国外から流入した資金だった。個人の借入は自動車ローンや住宅ローンが中心で、固定相場制度の下、金利が低い外貨で行われたが、その供給元は主にヨーロッパ系の銀行だった。 しかしながら、2008年秋に生じた世界金融危機を受けて資金が逆回転したことで、通貨フリヴニャが暴落を余儀なくされた。そのため外貨で借入を行っていた家計は返済の負担に耐えられず、ローンのデフォルトが相次いだ。国際収支危機に陥ったウクライナは翌2009年に国際通貨基金(IMF)に金融支援を要請することになる。 IMFは金融支援の条件として、歳出の切りつめと同時に、年金・医療・教育などの分野で構造改革を求めた。とはいえ、安定した政治なしに実のある構造改革など不可能であるばかりか、かえってウクライナの社会や経済の混乱に拍車をかけた。こうした点に関して、欧米のルールベースの経済援助には問題があったと言わざるを得ない。 結局、個人消費や建設投資に代わる成長のけん引役を見つけることができないまま、ウクライナの経済は再び低迷することになる。しかし、国内の政治の混乱は収束しないばかりか酷さを増す一方であり、経済の立て直しなど進まなかった。そうした中で、2014年2月下旬にロシアによるクリミア侵攻が発生するのである』、「IMFは金融支援の条件として、歳出の切りつめと同時に、年金・医療・教育などの分野で構造改革を求めた」、「安定した政治なしに実のある構造改革など不可能であるばかりか、かえってウクライナの社会や経済の混乱に拍車をかけた」、確かに「ルールベースの経済援助には問題があった」。
・『ウクライナの経済が経験した「失われた30年」 クリミア危機により、ウクライナは工業化が進んでいた東部の2州(ドネツクとルガンスク)を失うとともに、ロシアとの貿易関係が事実上、断絶した(図3)。当然、経済はさらに落ち込むことになり、IMFが金融支援に乗り出すが、その際もIMFはウクライナに対して無謀な構造改革を義務付けた。(図3 輸出入総額に占める対ロシア取引の割合 はリンク先参照) それ以降、通貨安で輸出が堅調に増える局面もあったが、国としての発展戦略を欠いたまま、ウクライナ経済は低成長が続いた。2019年に就任したゼレンスキー大統領も、仮想通貨のマイニングを経済の発展戦略に据え置こうとするなど、腰を据えて経済を立て直そうという気概を持っていない。そうした矢先、今回の事態が生じたわけだ。 今回の情勢の悪化を受け、ウクライナの経済は再びマイナス成長に陥るだろう。その後も厳しい状況が続くが、ロシアとの経済関係が実質的に破綻している中で、ウクライナの経済が立ち直るためには、やはり欧米、特にヨーロッパによる支援は不可欠な要素になると考えられる。問題は、その気がヨーロッパにあるかどうかだ。 EUの隣国に対する経済支援はIMFと同様に、基本的にルールベースで行われる。つまり支援に当たって構造改革の要求を求めるわけだが、長期にわたる混乱で疲弊しきったウクライナに、果たしてルールを守る能力などあるだろうか。ルールが守れないとしてウクライナを突き放し続けるなら、ウクライナの経済の安定など永遠に見込めない』、「長期にわたる混乱で疲弊しきったウクライナに、果たしてルールを守る能力などあるだろうか。ルールが守れないとしてウクライナを突き放し続けるなら、ウクライナの経済の安定など永遠に見込めない」、同感である。
タグ:ウクライナ (その1)(大前研一「日本のマスコミが報道しないウクライナ危機の裏側」 複眼的な視点で世界を見よ、やっぱり軍事音痴だったバイデンが「プーチンの侵略を招く」とボルトンが警告、緊迫するウクライナ情勢 日本人が知らない「失敗国家」の数奇 旧ソ連の優等生だったウクライナが直面した「失われた30年」) プレジデント 大前 研一氏による「大前研一「日本のマスコミが報道しないウクライナ危機の裏側」 複眼的な視点で世界を見よ」 「米国のバイデン大統領とロシアのプーチン大統領が、ウクライナ情勢についてビデオ会談で話し合った」、しかし私にいわせれば、会談はプーチンの圧勝」、「ウクライナ政権は、クチマ、ユーシェンコ、ヤヌコーヴィチなど悪い政治家が多く、ソ連崩壊直後の頃から評判がよくない。悪い政治家の治世に両地域は愛想を尽かしたのだ」、なるほど。 「クリミア」は「ロシア人」の別荘地なので、「住民投票では9割以上がロシアへの編入に賛成」、したのは当然の結果だ。 「ウクライナのダメな政府は、クリミアの人たちに年金を用意していなかった。高齢者が多いクリミアの年金は、ロシアが負担することになる。収奪するどころか、プーチンの本音は、お荷物を背負い込んだ気分だろう」、年金の積み立て不足の穴埋めまでさせられるのではかなわない筈だ。「もしチェルノブイリにNATO軍の短距離ミサイルが配備されたら、モスクワまでは至近距離だ。モスクワが東京なら、大阪に配備されるぐらいの距離感だ。プーチンは、ウクライナが反ロシアの橋頭堡になることだけは絶対に避けたいだろう」、無理からぬところだ。 「キューバからワシントンDCは約2000キロメートルあるが、ウクライナの国境からモスクワはわずか700キロメートルしかない」、「プーチンの危機感も」、理解できる。「政治家もマスコミも、もう米国の目線のみで考えるのはやめたほうがいい」、同感である。 Newsweek日本版 「やっぱり軍事音痴だったバイデンが「プーチンの侵略を招く」とボルトンが警告」 「アフガニスタン」問題でミソを付けた「バイデン」が、「ウクライナ」問題でも不手際を見せているとは残念だ。 タレント出身の「ゼレンスキー大統領」は、この発言はまともだが、ロシア寄りの発言も多い問題人物だ。 「サキ報道官」が「発言を事実上修正」せざるを得ない「バイデンの発言」はお粗末過ぎる。 JBPRESS 土田 陽介氏による「緊迫するウクライナ情勢、日本人が知らない「失敗国家」の数奇 旧ソ連の優等生だったウクライナが直面した「失われた30年」」 「ソ連時代のウクライナは、先進的な工業国だった」、「一人当たり名目GDP・・・は、独立から30年の間、4000米ドル(約50万円)を天井に増減を繰り返している(図1)。その水準は常にロシアの半分以下であり、ヨーロッパ(欧州連合<EU>)の10分の1程度に過ぎない」、ずいぶん落ち込んだものだ。 「1989年の東欧革命と1991年のソ連崩壊は輸出市場の崩壊を意味」、「ウクライナはロシア以上に深刻な「転換不況」を経験する」、大変だったようだ。 「IMFは金融支援の条件として、歳出の切りつめと同時に、年金・医療・教育などの分野で構造改革を求めた」、「安定した政治なしに実のある構造改革など不可能であるばかりか、かえってウクライナの社会や経済の混乱に拍車をかけた」、確かに「ルールベースの経済援助には問題があった」。 「長期にわたる混乱で疲弊しきったウクライナに、果たしてルールを守る能力などあるだろうか。ルールが守れないとしてウクライナを突き放し続けるなら、ウクライナの経済の安定など永遠に見込めない」、同感である。