SSブログ

日本の構造問題(その25)(「成績良ければ医学部目指せ」が日本経済を悪化させる意外な理由、コロナで露呈した日本社会の欺瞞と脆弱性、上級国民が唱える「バラマキ立国論」では 庶民の賃金が上がらないシンプルな理由) [経済政治動向]

日本の構造問題については、1月17日に取上げた。今日は、(その25)(「成績良ければ医学部目指せ」が日本経済を悪化させる意外な理由、コロナで露呈した日本社会の欺瞞と脆弱性、上級国民が唱える「バラマキ立国論」では 庶民の賃金が上がらないシンプルな理由)である。

先ずは、2月3日付けダイヤモンド・オンライン「「成績良ければ医学部目指せ」が日本経済を悪化させる意外な理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/294257
・『「日本における医学部偏重は、経済悪化の一因になっているんです」。著書『お金のむこうに人がいる』で、「お金の流れ」ではなく「人の動き」で経済を見直す経済観を提示した元ゴールドマン・サックス金利トレーダーの田内学氏がある日、そうつぶやきました。「え? それどういうこと?」と、本人に訊きました。(構成:編集部/今野良介) 「諸君は国から4億円近くの出資を受けて医者になるのだ。コスパ最高とかラッキーで得したと思ってないか?(中略)そんな腐った根性の人間は医師になる資格がない。さっさと退学しろ」 これは、「グランドジャンプ」に連載中の漫画『Dr.Eggs ドクターエッグス』(三田紀房・作)の中のセリフです。 「成績が良い」という理由だけで国立大学医学部を受験し、見事入学を果たした医師の卵である主人公が、真の医師になるまでのリアルな学生生活を描いたマンガです。第一話では大学初日のオリエンテーションで、指導教官である古堂というキャラクターから、このきついセリフを投げかけられます。 『ドラゴン桜』で有名な三田紀房節とでも言いたくなるインパクトの強いこのセリフ。マンガでは主人公の覚悟を促すために使われていますが、私はこのセリフを見て、現在の日本社会における「優秀な人のタイトルコレクションによる経済損失」の問題をひと言で表していると感じました』、「優秀な人のタイトルコレクションによる経済損失」とは言い得て妙だ。
・『「医学部進学」という日本特有の勲章  日本は異常なまでの医学部偏重主義が蔓延していると言われています。多くの学校の先生が、成績の良い子にはとりあえず医学部を行かせようとしますし、医学部に進学する生徒数が多い高校ランキングなんかも発表されています。東大理三(主に医学部に進む)にでも合格しようものなら、子どもも親も勲章でも授かったかのような扱われ方をします。 「人を助けたい」という思いから医者を目指す学生がほとんどだと信じたいですが、周りからの評価を気にして医学部を目指す学生がいるのも事実です。そうした学生たちは、漠然と医者を目指しているために、医者ではない道に進むこともしばしばです。そして彼らの中には、次の勲章探しにと、医者にならずに就職活動を始める人たちもいます。 僕がゴールドマン・サックスのトレーダーだった当時、デスクの採用担当もしていたので、毎年多くの学生のエントリーシートを読みました。驚いたことに、たった100人しかいない東大医学部の学生のうちの数人が、毎年、ゴールドマン・サックスという一企業に就職を希望しました。 冒頭のセリフにもあるように、医学部で医者一人を育てるには多額のお金がかかると言われています。これには学生が支払う授業料だけでなく、国などからの援助も含まれています。 税金を使って医者の卵を育てても、医者にならずに別の道に進む人は毎年たくさんいることがしばしば問題として取り上げられ、「税金のムダ遣いだ」と言われることがあります。「さっさと退学しろ」と先生が言いたくなったとしても、無理はないでしょう』、確かに近年の「医学部」選好の高まりは異常だ。私の学生時代はここまで偏重してなかったと思う。
・『「ムダ遣い」は税金だけの話ではない  これは、税金が投入されている国立大学だけの問題ではありません。 私立大学の医学部であっても、「先生、医学部卒業したけど、僕は外資系金融で働きます」という学生に、「そうか! バリバリ稼いでこいよ!」と言える先生はなかなかいないのではないでしょうか。 せっかく手塩にかけて6年間育てた学生が医者にならなかったときに、「自分の労力がムダになったのではないか」と寂しく感じる。これは、国立私立関係なく同じだと思います。 医者を育てるときに必要なのは、4億円(金額については諸説あり)というお金ではありません。その金額が表しているのは、さまざまな人の労力の集合です。たとえば、学生を直接指導する先生や医療関係者の人件費。テキストや機材などの物の購入にもまた、その生産活動に携わる人すべてにお金が支払われています。 「経済」というと「お金の流れ」だけに目が行きがちですが、重要なのは、お金によって費やされた誰かの労力やその生産物が、社会にとって有効に使われるかどうかです。 そして、働く人がいなければ、お金を流す量を増やしてもどうにもなりません。昨年、医療サービスの提供が滞ったとき、どれだけ政府が予算を増やしても、医療従事者の人数を急に増やすことはできませんでした。 私は、昨年9月に『お金のむこうに人がいる』という本を書きました。実体経済を正しく把握するためには、お金の流れだけを見るのではなく、その向こう側にいる「人」に注目する必要があります。お金が流れていても、労力を有効に使えなければ、私たちの生活が豊かになることはないからです。 これから少子高齢化で働く人の数は減っていきます。労力を無駄にしないことや、未来の社会に必要な人材を育てることがますます必要になっていくと思います。 「税金がもったいない」「お金がもったいない」だけではなく、「労力がもったいない」と一人ひとりが思って行動を変えないと、社会全体がますます困窮していきます。 もちろん、医者を目指した人が、結果的に他の道に行くこと自体は悪いことではありません。目指す過程の中で、別のモチベーションが生まれることもあると思います。ただ、医学部の教職員の労力や、そこで学んだことをなるべく無駄にしないようにキャリアを積み上げられた方が、社会にとっても、自分にとっても幸せなことだとわたしは思います。 かくいう私自身、情報工学を専攻しながら、金融の世界に進みました。しかし、プログラミングで鍛えた論理的思考力が金融での仕事に活かされましたし、「社会のために役立つ仕事に就いてほしい」という教授の想いが、『お金のむこうに人がいる』という本を書く動機につながりました。S教授、ありがとうございました』、「情報工学」と「金融」は、金融工学が出現したように極めて近い領域だ。
・『「お金のむこうに人がいる」ことを考えた理由  お金のむこうに人がいる』という本では、お金にまつわる11個の「謎」を解いていきます。初めは自分の財布の中のお金について考え、徐々に財布を大きくしていきます。財布を社会全体まで広げたときに、新たな「謎」に気づきます。 この謎こそが、今の私たちが、社会を構成する一人ひとりが解かなければならない謎です。 【第1部】「社会」は、あなたの財布の外にある。 第1話 なぜ、紙幣をコピーしてはいけないのか? 第2話 なぜ、家の外ではお金を使うのか? 第3話 価格があるのに、価値がないものは何か? 第4話 お金が偉いのか、働く人が偉いのか? 【第2部】「社会の財布」には外側がない。 第5話 預金が多い国がお金持ちとは言えないのはなぜか? 第6話 投資とギャンブルは何が違うのか? 第7話 経済が成長しないと生活は苦しくなるのか? 【第3部】社会全体の問題はお金で解決できない。 第8話 貿易黒字でも、生活が豊かにならないのはなぜか? 第9話 お金を印刷し過ぎるから、モノの価格が上がるのだろうか? 第10話 なぜ、大量に借金しても潰れない国があるのか? 最終話 未来のために、お金を増やす意味はあるのか? おわりに 「僕たちの輪」はどうすれば広がるのか?)(田内学氏の略歴はリンク先参照)』、なかなかよく練られた内容のようだ。

次に、2月23日付け日刊ゲンダイが掲載した東大名誉教授の養老孟司氏と、精神科医の名越康文氏の対談「コロナで露呈した日本社会の欺瞞と脆弱性」を紹介しよう』、興味深そうだ。
・『【東大理Ⅲ信仰」の危うさが引き起こした悲劇  コロナ禍が3年目に突入し、今なお31都道府県が「まん延防止等重点措置」の適用下にある。この間、さまざまな事件、現象があり、あらためて現代社会が抱える諸問題が浮き彫りになった。賢者のおふたりにコロナ禍を振り返りながら、日本社会の本質について語り合っていただいた(Qは聞き手の質問)。 Q:昨年の秋以降、「京王線刺傷事件」「大阪クリニック放火殺人事件」「東大前刺傷事件」と、他人を巻き込んで自殺を図ろうとする事件が相次ぎました。 名越 事件後、いろんな人に「先生、取材が殺到して、大変でしょ」と言われるんですよ。ところが、最近は一切ないんですね。かつては異常な事件があると、精神科医に話を聞くということが当たり前でしたが、それがなくなってきている。なんか、地続き感というか、日常的な感じになってきていますね。 養老 東大前の事件でいうと「東大理Ⅲ信仰」みたいなものは、僕が現役(教授)のころから非常に気になっていましてね。要するに成績がある程度良い子は理Ⅲに行けるということで、そういう学生が入ってくるようになったんです。医者に適性があるとかないとか、関係ないんですよ。成績が良いからと。僕なんか生き物が好きだから医学部に行っているんだけれども、そうじゃない。で、どうなるかというと、物理とか化学とかは非常にできる。でも医学は物理や化学と違ってややこしくて、とくに解剖なんかは暗記ものばっかりですから、気の利いた学生はあまり評価しない。そんな子が増えちゃったから、「こんなところでやってけねえよ」と思うようになりましたね。 Q:最近はテレビ番組でも東大生をブランド化している風潮があります。 養老 なぜか知らないけど、理Ⅲは特別なものだってことになっている。今度の事件に関していえば、(東大を目指す受験勉強の中で)高2ぐらいからちょっとおかしくなってくるというのは、ごく普通にあるわけです。中学、高校でおとなしい優等生というのは一番気をつけなきゃいけない。ただ、僕らのころだと入学してから問題を起こしていました。今は入学する前になってしまっている。 名越 知識の集積を競う方法は、AIが社会を動かそうとしている現代において、もうかなり、むなしさが漂ってきている気がします。そもそも考えるとは何かとか、人生において意味のある発想の持ち方とは何か、ということを考えることで人間として自立していく、という過程が必要な気がします』、「僕らのころだと入学してから問題を起こしていました。今は入学する前になってしまっている」、なるほど。
・『コロナ禍で多用される「科学的根拠」の信憑性  Q:コロナ禍では専門家の方々、あるいは政治家の口から「科学的根拠」という言葉が頻繁に聞かれました。それを真に受ける人も少なくないと思いますが。 名越 コロナは怖い病気ということを論説している人もいれば、恐れる必要はないということを論説している人もいます。本当に同じ病気の解説なのかと思うぐらい内容が違うんですよ。普通だったら6割ぐらいはかぶるだろうに、もう本当にバラバラで、それ自体、十分興味深い現象が起きています。 養老 いま言われた「科学的根拠」というものが入ってきたら絶対に信用しない(笑い)。 名越 僕もね、いろいろ読んでたんですけど、だんだんと自分の頭が割れそうになってきて。これはもう、まとめたり単純化して統一しようとすると誤るなと思うしかないわけです。 Q:メディアの報じ方はいかがでしょうか。 名越 テレビに出ていて思ったのは、それまで一貫性がないことがメディアであって、だからこそ日に日に変わる情報の中で中立でいられるわけですし、我々も冷静でいられたのですが、コロナに関してはまったく反対で、一貫しなければならないという強迫性を感じます。たとえば、副反応という言葉。最初のころは「副作用」と言う人もいましたが、協定も結ばれていないのに1週間ぐらいですべてのテレビが「副反応」と呼びだしたという印象です。 養老 副作用だと薬についてということになる。副反応だと患者のせいだということになるからです。体が勝手に反応したんだ、薬のせいじゃないんだということです。これは裏がありますね。 名越 明らかに操作的ですね。 Q:科学的真実はどこにあるのか、どうやったら見極められるのでしょうか。 養老 分野によると思いますね。何もかも一緒にして科学的とやろうとするから、できない。「おまえ、科学的に生きているか」と聞かれたら、どう答えますか。私が若いときに一番悩んだ問題です。基礎科学をやっていたから生き方も科学的でなければならない。ところが現実は全然違う原理で生きているわけです。それを上手に割り切ることができる人、あるいは二重基準で生きられればいいのでしょうが、僕は不器用でそこはできない。そのストレスの中でほとんど暮らしてきたようなもので、そのストレスがいろんな本を生み出したのです。 「科学的根拠」をふりかざす日本社会の欺瞞と脆弱性が次々と露呈してきている。(つづく)(養老孟司氏の略歴はリンク先参照) (名越康文氏の略歴はリンク先参照)』、「副作用だと薬についてということになる。副反応だと患者のせいだということになるからです。体が勝手に反応したんだ、薬のせいじゃないんだということです」、「明らかに操作的ですね」、「副反応」にそんな意味があったとは初めて知った。続編はまだ公開されてないが、公開され次第、紹介するつもりである。

第三に、2月25日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「上級国民が唱える「バラマキ立国論」では、庶民の賃金が上がらないシンプルな理由」を紹介しよう。
・『「バラマキ」で上級国民だけが潤う  「とにかく今の日本はケチケチしないでカネをバラまきゃいいんだよ! 政府支出が増えれば経済は成長するってことが分かってるんだから」「その通り! 財政出動すればするほど、景気も良くなって自然と賃金も上がっていく! それを邪魔する財務省こそが日本のがんだ!」 そんな激アツの論争が今、永田町で盛んに交わされている。財政健全化なんてみみっちい話は忘れて、じゃんじゃん金を刷ってバラまけばあっという間に景気が上向いて、日本は再び黄金時代を迎える…と、言うなれば「バラマキ立国論」が空前のブームとなっているのだ。 きっかけは、昨年の自民党総裁選で「プライマリーバランス黒字化目標凍結」を掲げた、高市早苗政調会長である。昨年12月に財政政策検討本部を発足したことで、自民党内の「積極財政派」が一気に勢いづき、若手議員を中心に「責任ある積極財政を推進する議員連盟」も設立されている。 「バラマキ立国論」で唱えられている、日本復活シナリオは極めてシンプルだ。 政府がケチケチしないで金をバラまけば、公共事業やらさまざまな分野で需要が増す。それに対応する企業は設備投資をするので、生産性も上がる。そうなると黙っていても従業員の賃金も上がっていく。消費も活発になるので商品やサービスも値上げができる。それを受けてさらに賃上げという好循環が生まれて、あれよあれよという間に、「デフレ脱却、日本経済奇跡の復活」を果たして「めでたし、めでたし」というワケだ。 と聞くと、「なるほど! なんでこんな簡単な話に気づかなかったんだ!」と納得する方もいらっしゃるかもしれないが、残念ながらこのバラマキで潤うのは、ブームに熱狂している政治家をはじめほんのひと握りの「上級国民」の皆さんだけだ。われわれ一般庶民には、ほとんど恩恵はない』、「自民党内の「積極財政派」が一気に勢いづき、若手議員を中心に「責任ある積極財政を推進する議員連盟」も設立」、「きっかけ」は「高市早苗政調会長」のようだ。 
・『庶民は上級国民と反比例して貧しくなるのみ  まず、政治家にとってバラマキほどありがたいものはない、というのは先の衆院選を見れば明らかだろう。全国民への現金給付を公約に掲げた政党が多くあったように、バラマキは最強の選挙対策だ。また、バラマキは自治体や企業の間で熾烈な争奪戦になるので、「口利き」が本業である政治家は引く手あまたで、食いっぱぐれがない。 官僚や公務員にとってもバラマキは悪くない。公共事業や助成事業が増えれば、民間からの接待も増えるし天下りが拡大するからだ。会社経営者やコンサルタントもうれしい悲鳴が止まらない。国が中小企業への事業承継関連の補助金を増額したところ、中小企業経営者とこの分野のコンサルに“事業承継バブル”が起きたことからも分かるように、この手の人たちにとって、バラマキとは現金つかみ取りのボーナスタイムなのだ。 では、額に汗水垂らして働くわれら一般庶民もそんな恩恵を授かることができるのかというと、残念ながらほとんどの人は関係ない。 むしろバラマキによって、先進国最低レベルで韓国にまで抜かれてしまった低賃金が、これまで以上にビタッと「固定化」される恐れがある。「天からカネが降ってきた」とこの世の春を謳歌する「上級国民」の皆さんと対照的に、庶民はこれまで以上に、激安スーパーや激安グルメへ依存を強めて「安いニッポン」の深みへさらにハマってしまうのである。 なぜそんなことが断言できるのかというと、答えはシンプルだ。「バラマキによるバブルは末端の労働者の賃金にまで波及しない」というのは、さまざまなデータを見れば一目瞭然だからだ。 直近でわかりやすいのが、「協力金バブル」だろう。コロナ禍によって時短や休業を余儀なくされた飲食店を救済するという名目のバラマキで、このおかげで倒産を免れた事業者も多くいた。一方で平時の売り上げを軽く上回るほどの臨時収入となって、旅行や高級外車へ消えてしまったという話もあった。 では、そんな「協力金バブル」の恩恵は、飲食店で働く従業員まで届いたのかというと、賃金が上がったというデータもないように影響はほぼゼロだ。なぜかというと、従業員の生活のためにとバラまかれたはずのカネが、経営者のところでストップしてしまうからだ』、「バラマキによるバブルは末端の労働者の賃金にまで波及しない」、「「協力金バブル」の恩恵は、飲食店で働く従業員まで届いたのかというと、賃金が上がったというデータもないように影響はほぼゼロだ。なぜかというと、従業員の生活のためにとバラまかれたはずのカネが、経営者のところでストップしてしまうからだ」、なるほど。
・『コロナ禍で歴史的なバラマキも、庶民に還元なし  この構造的な問題の一端が分かるのが、20年11月に公表された野村総合研究所の調査だ。コロナで休業を経験した労働者がどれほど休業手当を受け取っていたのかを調べたところ、正社員(女性)は62.8%と、どうにか6割の人が休業手当を受け取れているのに対して、なんとパートやアルバイトで働く女性では、わずか30.9%にとどまっていることが分かったのである。 労働基準法では、企業に対して正規、非正規を問わず休業手当の支払いを義務付けている。新型コロナによる休業に関しても、事業者側が「コロナで客が減ったんで今月は給料払えないわ」と開き直らないよう、国が休業手当の一部を補償する雇用調整助成金や、中小企業で働く人向けの休業支援金・給付金という制度をつくって、金をバラまいた。 が、そのカネは経営者のところでストップして、パートやアルバイトで生計を立てる女性の7割は泣き寝入りをしていたというわけである。 断っておくが、これをもってして経営者側が「搾取」をしているなどと主張をしたいわけではない。 飲食店などの小さな事業者にとっては、とにかく「店をつぶさない」が最優先事項となる。なので、国から「このお金で従業員の賃金を上げてくださいね」とか「これで生産性向上に取り組んでくださいね」と金を渡されても、言われた通りの使い方にはならず、会社存続のための「運転資金」に消えてしまう。もしバラマキによって資金難を乗り越えて多少の余裕ができても、それは賃金には還元されない。現金給付を受けた国民の多くが「貯金」をしたように、飲食店などの零細事業者は、先行きが不安なので、何かあった時に備えておかなければいけないからだ。 つまり、事業者に対して行われるバラマキというのはどんなに注文をつけたところで、ほぼ100%、「会社存続」に注ぎ込まれるので、労働者には還」、「元されないものなのだ。 バラマキによって“死に体の事業者”が延命する一方で、そこで働く従業員の待遇はまったく改善されないという醜悪な現実は、2021年の「異常な倒産件数」を見ればよくわかる。 帝国データバンクによれば、なんと前年比23.0%減の6015件で、1966年に次いで過去3番目に少ない、歴史的な超低水準となったのだ。あれだけ経済が止まっていたのにこの結果ということは、歴史的なバラマキが行われたということだ。しかし、そのすさまじい額のカネは、末端の労働者にはゼロ還元だ。 厚生労働省が2月8日に発表した、2021年度の労働者1人当たりの平均現金給与総額は前年より0.3%増だったが、実質賃金指数は前年で横ばい。つまり、日本政府の歴史的なバラマキは、「つぶれそうな法人」を救っただけで、「低賃金にあえぐ個人」には何の恩恵もなかったのである』、「事業者に対して行われるバラマキというのはどんなに注文をつけたところで、ほぼ100%、「会社存続」に注ぎ込まれるので、労働者には還元されないものなのだ」、「日本政府の歴史的なバラマキは、「つぶれそうな法人」を救っただけで、「低賃金にあえぐ個人」には何の恩恵もなかったのである」、なるほど。
・『いざという時に、データを無視して論理が飛躍する日本  これは何もコロナ禍だけの話ではない。過去30年、政府は「日本企業の99.7%を占める中小企業が成長をすれば、日本経済も成長をする」というロジックで、中小企業に対して積極的なバラマキをしてきた。しかし、賃金は上がっていない。 中小企業白書2021年版の「企業規模別従業員一人当たりの付加価値額(労働生産性)の推移」を見てみても、中小企業の生産性は03年から19年まできれいに横ばいだ。この16年間、「ものづくり補助金」だなんだとさまざまなバラマキ政策を進めてきたのにもかかわらず、まったく効果が出ていない。 という話をすると、積極財政派の皆さんは「それはバラマキの量が足りないからだ! けた違いに金を刷って配れば経済成長する」というようなことを主張する。ほんのちょっとでも動きがあるのならまだ分かるが、これまで「効果ゼロ」なのに、なぜ「もっと増やせば効果がある」という話になるのかは理解に苦しむ。 そのあたりは、前政権の「経済ブレーン」も指摘している。バブル期の銀行アナリスト時代から30年にわたって、日本経済を分析してきたデービッド・アトキンソン氏は、人材への投資など明確な目標を持つ政府支出は必要だとしつつ、「インフレ率2%目標を達成するまで財政出動すべきだ」といった抽象的なバラマキ政策には賛同できないとして、このように述べている。 <1990年代に入ってから、日本政府は1000兆円以上の負債を増やしてきたにもかかわらず、GDPが横ばいで成長していない事実を深く考えるべきです。今まで政府支出を大きく増やしてきたのにGDPが成長していない中で、なぜ今「財政出動をすればGDPが成長する」と言えるのか、大変疑問に思います>(東洋経済オンライン22年2月3日) ただ、アトキンソン氏はご存じないかもしれないが、こういう論理の飛躍は、日本ではそれほど珍しくない。「国難」、を前にすると、それまで積み上げた客観的なデータがスコーンとどこかへ飛んでいって、どこからともなく、自分たちの都合のいい解釈が登場して、それにみんなが飛びついて大惨事――。ということが幾度となく繰り返されてきた』、「1990年代に入ってから、日本政府は1000兆円以上の負債を増やしてきたにもかかわらず、GDPが横ばいで成長していない事実を深く考えるべきです。今まで政府支出を大きく増やしてきたのにGDPが成長していない中で、なぜ今「財政出動をすればGDPが成長する」と言えるのか、大変疑問に思います」、との「アトキンソン氏」の主張はその通りだ。「「国難」を前にすると、それまで積み上げた客観的なデータがスコーンとどこかへ飛んでいって、どこからともなく、自分たちの都合のいい解釈が登場して、それにみんなが飛びついて大惨事――。ということが幾度となく繰り返されてきた」、「日本」の悪弊だ。
・『心地よいストーリーが好きな日本人、80年たっても変わらず  分かりやすいのが、太平洋戦争だ。開戦前、帝国陸海軍、そして政府のエリートたちが何度分析をしても、「アメリカにボロ負けをする」という結論は変わらなかった。アメリカの石油生産能力は日本の700倍、陸軍の「戦争経済研究班」も「対英米との経済戦力の差は20:1」と白旗を揚げていた。若手エリート官僚などを集めた「総力戦研究所」でも「緒戦は優勢ながら、徐々に米国との産業力、物量の差が顕在化し、やがてソ連が参戦して、開戦から3〜4年で日本が敗れる」とほぼ現実通りの敗戦シナリオまで読めていた。 しかし、この「日本必敗」の分析があるにもかかわらず、「先制攻撃をすれば勝てる」という主張が主流になっていく。真珠湾攻撃を立案した山本五十六は、海軍大臣への意見書でこう述べている。 〈日米戦争に於て我の第一に遂行せざるべからざる要項は開戦劈頭敵主力艦隊を猛撃撃 破して米国海軍及米国民をして救う可からざる程度に其の志気を喪失せしむること是なり〉(軍備に関する意見) 要は、「先制攻撃を仕掛けて壊滅的な被害を与えれば、アメリカ人は日本人と違って根性がないので、震え上がってすぐに降伏する」というわけだ。冷静に考えれば、なんともご都合主義で支離滅裂なロジックだが、これに軍部も政府も、そして国民もわっと飛びついた。 「何度シミュレーションしても日本は負ける」という話よりもはるかに単純明快で、明るい未来を抱けるので、心情的に支持しやすいからだ。 このように「科学的データより日本人にとって心地よいストーリーの方が好き」という国民性は80年たっても変わらない。 ということは、今の永田町のムードを見る限り、史上空前のバラマキ政策を掲げる積極財政派が自民党内で主導権を握れば、その勢いのまま参院選で大勝して、日本の「バラマキ立国論」をさらに加速していく可能性が高いということだ。 実際、岸田文雄首相との「冷戦」が伝えられる安倍晋三元首相も、「責任ある積極財政を推進する議員連盟」で講演を行うなど、党内の「反岸田勢力」が「積極財政」の旗のもとに続々と集結している。 「上級国民」の間でこういう「勢い」が出てきた政策は、もう誰も止められない。 対米戦争に関しても、当時のエリートたちは内心「負けるよなあ」と思いながら結局、誰にも止められなかった。戦後、昭和天皇は「私も随分、軍部と戦ったけれど勢いがああなった」(初代宮内庁長官・田島道治の『拝謁記』から)と振り返っている。 当時、陸海軍の最高指揮権を持っていた天皇でさえも食い止めることができないほど、心地よいストーリーに飛びついた時の日本人の「勢い」の暴走は恐ろしいものなのだ。 庶民には低賃金を固定化させるだけでなんのメリットもない「バラマキ立国論」だが、ここまで来るともはや覚悟を決めて受け入れるしかないのかもしれない』、「天皇でさえも食い止めることができないほど、心地よいストーリーに飛びついた時の日本人の「勢い」の暴走は恐ろしいものなのだ」、確かにその通りだ。
タグ:(その25)(「成績良ければ医学部目指せ」が日本経済を悪化させる意外な理由、コロナで露呈した日本社会の欺瞞と脆弱性、上級国民が唱える「バラマキ立国論」では 庶民の賃金が上がらないシンプルな理由) 「天皇でさえも食い止めることができないほど、心地よいストーリーに飛びついた時の日本人の「勢い」の暴走は恐ろしいものなのだ」、確かにその通りだ。 「1990年代に入ってから、日本政府は1000兆円以上の負債を増やしてきたにもかかわらず、GDPが横ばいで成長していない事実を深く考えるべきです。今まで政府支出を大きく増やしてきたのにGDPが成長していない中で、なぜ今「財政出動をすればGDPが成長する」と言えるのか、大変疑問に思います」、との「アトキンソン氏」の主張はその通りだ。「「国難」を前にすると、それまで積み上げた客観的なデータがスコーンとどこかへ飛んでいって、どこからともなく、自分たちの都合のいい解釈が登場して、それにみんなが飛びついて大惨事―― 「事業者に対して行われるバラマキというのはどんなに注文をつけたところで、ほぼ100%、「会社存続」に注ぎ込まれるので、労働者には還元されないものなのだ」、「日本政府の歴史的なバラマキは、「つぶれそうな法人」を救っただけで、「低賃金にあえぐ個人」には何の恩恵もなかったのである」、なるほど。 「バラマキによるバブルは末端の労働者の賃金にまで波及しない」、「「協力金バブル」の恩恵は、飲食店で働く従業員まで届いたのかというと、賃金が上がったというデータもないように影響はほぼゼロだ。なぜかというと、従業員の生活のためにとバラまかれたはずのカネが、経営者のところでストップしてしまうからだ」、なるほど。 「自民党内の「積極財政派」が一気に勢いづき、若手議員を中心に「責任ある積極財政を推進する議員連盟」も設立」、「きっかけ」は「高市早苗政調会長」のようだ。 窪田順生氏による「上級国民が唱える「バラマキ立国論」では、庶民の賃金が上がらないシンプルな理由」 ダイヤモンド・オンライン 「副作用だと薬についてということになる。副反応だと患者のせいだということになるからです。体が勝手に反応したんだ、薬のせいじゃないんだということです」、「明らかに操作的ですね」、「副反応」にそんな意味があったとは初めて知った。続編はまだ公開されてないが、公開され次第、紹介するつもりである。 「僕らのころだと入学してから問題を起こしていました。今は入学する前になってしまっている」、なるほど。 「コロナで露呈した日本社会の欺瞞と脆弱性」 名越康文 養老孟司 日刊ゲンダイ 「お金のむこうに人がいる」 「情報工学」と「金融」は、金融工学が出現したように極めて近い領域だ。 確かに近年の「医学部」選好の高まりは異常だ。私の学生時代はここまで偏重してなかったと思う。 「優秀な人のタイトルコレクションによる経済損失」とは言い得て妙だ。 ダイヤモンド・オンライン「「成績良ければ医学部目指せ」が日本経済を悪化させる意外な理由」 日本の構造問題
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感