異次元緩和政策(その40)(日銀に忍び寄る黒田総裁更迭の足音…誰が首に鈴をつけるのか、黒田日銀総裁の「絶対矛盾」がもたらす歯切れのよさに失笑を禁じえない、今のマクロ経済学は間違っている=吉川洋) [経済政策]
異次元緩和政策については、2月3日に取上げた。今日は、(その40)(日銀に忍び寄る黒田総裁更迭の足音…誰が首に鈴をつけるのか、黒田日銀総裁の「絶対矛盾」がもたらす歯切れのよさに失笑を禁じえない、異次元緩和を問う① 今のマクロ経済学は間違っている=吉川洋)である。
先ずは、2月9日付け日刊ゲンダイ「 日銀に忍び寄る黒田総裁更迭の足音…誰が首に鈴をつけるのか」を紹介しよう。「政界」、「官界」、「財界」担当記者の対談と思われる。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/301072
・『官界通(以下=官) 日本銀行の黒田東彦総裁(77)の任期は来年4月までだが、満了を待たずに交代させる話が、首相官邸で出ているのか? 政界通(同=政) 早耳だな。確かに、くすぶっている。 財界通(同=財) それは、岸田文雄首相が進めている「脱・安倍カラー」の一環か? 政 それだけではない。在任9年になっても目標とした物価上昇率2%が実現しない一方、悪い物価上昇と景気低迷が重なる「スタグフレーション」に陥る懸念が出てきたからだ。 財 原油など資源や穀物の相場が上がり、企業のコストが膨らみ、生活用品にも値上げが続く。でも、2%目標を実現できていない黒田日銀が、米欧の中央銀行のように物価抑制のための利上げ策は取れない。そんな局面を乗り切るには、総裁を代えて、閉塞感に包まれている金融市場の雰囲気を一新したい、というわけか。 官 でも、不祥事もなく、本人が「辞めたい」と言い出さない限り、更迭は難しいぞ。 政 問題は、そこだ。中学校からエリート学歴で大事にされてきた黒田氏に、自ら退く発想はないだろう。では、誰が「そろそろ退任されては」と首に鈴をつけるか。普通なら監督官庁で人事案を決める鈴木俊一財務相の仕事だが、人柄がいい鈴木氏には向かない。 財 鈴木氏は、麻生太郎・前財務相の義弟だ。安倍政権で9年も財務相を続けた麻生氏が交代したのも、脱・安倍カラーの象徴。しかも、麻生氏は自民党の副総裁になり、岸田政権を支えている。その役を引き受けても、おかしくない。 政 その通り。ただ、麻生氏は、異次元緩和で地方銀行などの経営が悪化した副作用を追及される黒田氏を擁護してきた。強硬姿勢へ変わるには、理由が必要だ。 官 黒田氏が2月2日の衆院予算委員会で副作用について「異次元緩和の影響を認めるか」と追及されたとき、「認めません」と語気を強めた。この答弁に、与野党から失笑が漏れた。「もう辞めたら」という雰囲気だったな』、「副作用について「異次元緩和の影響を認めるか」と追及されたとき、「認めません」と語気を強めた」、苦笑せざるを得ない。確かに「任期は来年4月」を待たずに交代させるには相当な力業が必要だろう。
次に、2月11日付け日刊ゲンダイが掲載した同志社大学教授の 浜矩子氏による「黒田日銀総裁の「絶対矛盾」がもたらす歯切れのよさに失笑を禁じえない」を紹介しよう。
・『日銀の黒田東彦総裁の話はいつも「このボタンを押すと、このセンテンスが出てくる」という感じで、同じ言葉が繰り返されることが多いのですが、1月17、18日の金融政策決定会合の直後に行われた記者会見は、いつにも増して「ボタン」が押され、“面白い”発見がありました。 輸入価格の上昇により、ガソリンや食料品などの値段が上がっています。会見では記者から「日銀の目標である物価上昇率2%にずいぶん近づいてきています」と、何度も質問されたのですが、黒田総裁は「決定会合の見通しは2023年度末でもまだ1%程度」「金融政策を変える必要は全くありません」と繰り返しました。 この発言は、ものすごくおかしい。2%という、自分たちが9年間達成できなかった目標に、ようやく近づいてきているのだから、まともな金融政策責任者なら喜ぶはずです。異常な金融政策を解除し、いよいよ正常な道に戻れるのですからね。自分たちの力ではなく、供給サイドのリスクが物価上昇をもたらしている、という予期せぬ力学が働いていることを踏まえつつ、ここを正常化への足がかりにする。そう考えるのが、まともな政策責任者の発想でしょう』、「何度も質問されたのですが、黒田総裁は「決定会合の見通しは2023年度末でもまだ1%程度」「金融政策を変える必要は全くありません」と繰り返しました」、「供給サイドのリスクが物価上昇をもたらしている」のを無視して、「決定会合の見通し」にだけこだわるのは確かに異常だ。
・『記者会見で露呈した苦し紛れの構図 ところが黒田総裁は、正常化や出口について「全く考えておりません」「全く変わっておりません」「利上げの議論など全くしておりません」の一辺倒。一体、何回「全く」という言葉を使ったことか。その底流にあるのは、2%になっては絶対に困る、2%になりそうだという雰囲気すら広がっては困るということ。 なぜそうなるかというと、2%を達成して異次元緩和の世界から帰還しなければならなくなると、国債の買い支えという政府の指令に従えなくなってしまうからです。それで「全く」という言葉を繰り返す。いかに金融と財政が一体運営になっているか、最初から「財政ファイナンス」が狙いだったのかが分かります。そうした事実が、総裁自らの口からどんどんこぼれ出てくる会見でした。 2%の目標をセットした人たちが、2%に絶対ならすまじと踏ん張る。だから、やたら大見えを切って「全く考えていない」と歯切れよく言ってしまう。この「絶対矛盾がもたらす歯切れよさ」という苦し紛れの構図には失笑を禁じえません。 さらに黒田総裁は、物価と賃金がスパイラル状に押し上げ合っていくことを期待する発言もしていましたが、一方で、物価上昇率は2%にならない、と断じた。アホダノミクスの目指す「物価と賃金の好循環」を狙うとしながら、その実、財政ファイナンスをやめなきゃいけなくなる物価上昇は困るわけです。全くつじつまが合っていませんよね。これも矛盾。まさに、ダブルの矛盾が露呈した黒田会見でした。 いまの日本の現状は、中央銀行が政策を柔軟に動かさないがゆえに、弱者がより弱い立場に追い込まれ、生活が行き詰まっている。金融政策が弱い者イジメなどというナンセンスは、世界広しといえど、そうあることではありません。決定的に矛盾した政策をやっているからであり、アホダノミクス男はそこをどう解決するのか。これは大問題です』、「絶対矛盾がもたらす歯切れよさ」よは言い得て妙だ。「アホダノミクスの目指す「物価と賃金の好循環」を狙うとしながら、その実、財政ファイナンスをやめなきゃいけなくなる物価上昇は困るわけです。全くつじつまが合っていませんよね」、同感である。
第三に、3月7日付けエコノミストOnlineが掲載した東大名誉教授で立正大学学長の吉川洋氏による「異次元緩和を問う① 今のマクロ経済学は間違っている=吉川洋」を紹介しよう。
・『2013年4月に日本銀行が始めた“異次元”金融緩和は、2%インフレ目標が未達成のまま、9年が経過しようとする今もなお続いている。連載「異次元緩和を問う」では、この実験的政策の帰結から何をくみ取るべきなのか、経済学者やエコノミストに問うてゆく。 著書『デフレーション』(日本経済新聞出版)を滞在中のパリで書き上げたのは2012年11月。マイルドなデフレ(物価下落)に対し金融政策の効果は限られると論じた。日銀に大胆な金融緩和を求める安倍政権が、衆院選の勝利を受けて誕生する直前のことだ。 当時なされていた議論は明快だった。「デフレは“貨幣的現象”だから、貨幣の量を増やせば止まる。量的緩和をやらない日銀が悪い」と。私は「それは違う」と述べた。根底にあるマクロ経済学のモデルが間違っているからだ。 モデルでは、長期的な均衡としてマネーの量と物価が比例する「貨幣数量説」が成り立つとし、将来への期待が絶大な役割を果たす。いま中央銀行がマネーを出し続けると言えば、合理的な消費者は物価が上がるに違いないと思い、そう思ったとたんに物価が上がる──と結論づける。ポール・クルーグマンはじめ、米国の著名な経済学者が1990年代後半から盛んに繰り広げていた議論だ。 確かに期待は、株価や地価、為替など資産市場では非常に大きな役割を果たす。「市場参加者が株価は上がると思っている」と市場参加者が思えば株を買い、実際に株価が上がる。 だが、消費者物価は株価とは違う。人々も価格をつける企業もマネーの量など意識していない。逆に、誰もが頭に入れている政策変数といえば消費税率だ。だから増税前に駆け込み需要が発生する。 そもそも、日銀自身、四半期ごとに行う世論調査で「2%のインフレ目標を知っているか」と聞いているが、「よく知らない」「見聞きしたことがない」との回答が半分以上を占め続けている(図)。 この9年を振り返ると「だから言っただろう」という気分になる。異次元緩和に効果はなかったことは、事実を確認すれば明らかだ。 「日銀がマネーを出せばデフレが止まり、実体経済も回復する」という論理だったが、まず物価に影響を与えられなかったことははっきりしている。肝心の実体経済を見てみると、13~19年度を平均した実質GDP(国内総生産)成長率は欧米より低い0・9%。一番ひどいのは実質消費で0・1%とほとんど伸びていない。だから閉塞(へいそく)感が強いままなのだ。 『デフレーション』では、先進国で日本だけがデフレに陥った要因を、名目賃金の下落だと指摘していた。皮肉なことに、異次元緩和への注目度が薄れる段になって賃上げが重要課題として浮上している』、「先進国で日本だけがデフレに陥った要因を、名目賃金の下落だと指摘」、その通りだ。「ポール・クルーグマン」は最近になって、かつての自分の主張が間違っていたと認めた。
・『デフレの要因は賃金下落 名目賃金には下方硬直性がある。ところが、賃金を通し物価を下がりにくくする「デフレストッパー」が日本だけ雇用形態の変化などにより外れてしまった。 米国や欧州の物価の推移をみると、95年以降モノの値段は日本と同様に下がる一方、サービスは上がっている。サービスは労働集約的で、価格は名目賃金と連動するが、欧米で名目賃金は上がっているからだ。モノとサービスを合わせた消費者物価は、サービスの価格が上がっているため下がらなかった。 20年に「研究生活をしめくくる『卒業論文』のようなもの」と記した著書『マクロ経済学の再構築』(岩波書店)を刊行。主流マクロ経済学を、都合のいい非現実的な仮定に基づいた「砂上の楼閣」と断じた。 今のマクロ経済学は、合理的・代表的な消費者を想定したミクロのモデルを相似拡大して全体を理解しようとする。そこに中央銀行というプレーヤーが登場し、期待に働きかける。難しい理論モデルが作られ、どんどん洗練されてきたが、モデルには何の根拠もなく、むしろ害悪をもたらしている。 足元を見ても、資源価格の上昇を発端とした米国のインフレは賃金上昇とのスパイラルに陥りつつあり、FRB(米連邦準備制度理事会)の対応は後手に回っている。FRBはインフレ5%の段階でも「一時的」だとしきりに言っていた。それは金融緩和で物価上昇を目指す時、2%のインフレ目標を一時的に超えること(オーバーシュート)が正しいとするモデルが念頭にあったからだ。 日銀も今後、インフレ2%が近づいた時にモデル通りオーバーシュートさせるのか、緩和基調を手じまいするのか。難しい局面を迎える。 『マクロ経済学の再構築』では、再構築の柱にケインズの有効需要の理論を置き、ミクロの裏付けとして統計物理学の手法を用いた。一方で、ケインズ経済学において不況の際に有効需要を補う方策とされる財政支出を処方箋とはしない』、「主流マクロ経済学を、都合のいい非現実的な仮定に基づいた「砂上の楼閣」と断じた」、「今のマクロ経済学は、合理的・代表的な消費者を想定したミクロのモデルを相似拡大して全体を理解しようとする。そこに中央銀行というプレーヤーが登場し、期待に働きかける。難しい理論モデルが作られ、どんどん洗練されてきたが、モデルには何の根拠もなく、むしろ害悪をもたらしている」、「FRB・・・の対応は後手に回っている。FRBはインフレ5%の段階でも「一時的」だとしきりに言っていた。それは金融緩和で物価上昇を目指す時、2%のインフレ目標を一時的に超えること・・・が正しいとするモデルが念頭にあったからだ」、手厳しい批判だ。
・『財政支出を勧めない理由 短期の実体経済の動きが有効需要で決まるのは確かだ。といっても目先の数字だけではない経済成長を目指す視点に立てば、持続性のある需要かどうかが問われる。だから、需要を創出するようなイノベーションこそが重要だ。 たとえば財政支出で大仏を作れば、GDPは増える。だが、大仏を作ってメリットはあるのか。今の日本では、日銀が国債を無制限に買う方針を掲げているため財政規律が緩み、意味のある財政支出なのか疑わしいものが混じってきている。それこそが、異次元緩和の副作用だ。 対照的に米国の主流派経済学者は、金融政策の限界が認識された2010年代後半から、低金利下で長期停滞から脱するための経済政策として財政支出を論じ始めた。 低金利環境は借り手にとって有利だから、意味のある財政支出であれば財政負荷が小さい今、国債で行えばいいという論は半分正しい。だが、「政策」は常に総合的な判断だ。低金利はいつまで続くのか。世界的に長期金利は上がり始めており、日本だけが日銀が国債を買うことで抑え続けられるだろうか。 財政の持続性では、名目成長率と長期金利の関係が重要となる。成長率が金利を上回る現状はあくまで一時的だ。そのなかで財政支出を拡大することはギャンブルに等しい。 金利は資源配分に対して手旗信号的な役割を果たす。3%の金利とは、企業が融資を受けて設備投資する時、リターンが3%を超えるものしかできないということだ。 0%の金利が意味するところは「なんでもあり」。資源配分機能が失われ、異常な状態だ。それこそ大仏でもいいとなる。国民は納得できるのか。私は納得しない』、「名目成長率」は2021年1-3月期-1.9%、4-6月期+6.1%、7-9月期-0.1%、10-12月期-0.9%、長期金利は10年物長期国債の利回りが昨日で0.185%だ。「金利は資源配分、に対して手旗信号的な役割を果たす」のがも本来の姿だが、現在のような「指し値オペ」では日銀の誘導値そのものだ。結局、「「なんでもあり」。資源配分機能が失われ、異常な状態だ」、「吉川洋氏」のみならず私も到底「納得」できない。
先ずは、2月9日付け日刊ゲンダイ「 日銀に忍び寄る黒田総裁更迭の足音…誰が首に鈴をつけるのか」を紹介しよう。「政界」、「官界」、「財界」担当記者の対談と思われる。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/301072
・『官界通(以下=官) 日本銀行の黒田東彦総裁(77)の任期は来年4月までだが、満了を待たずに交代させる話が、首相官邸で出ているのか? 政界通(同=政) 早耳だな。確かに、くすぶっている。 財界通(同=財) それは、岸田文雄首相が進めている「脱・安倍カラー」の一環か? 政 それだけではない。在任9年になっても目標とした物価上昇率2%が実現しない一方、悪い物価上昇と景気低迷が重なる「スタグフレーション」に陥る懸念が出てきたからだ。 財 原油など資源や穀物の相場が上がり、企業のコストが膨らみ、生活用品にも値上げが続く。でも、2%目標を実現できていない黒田日銀が、米欧の中央銀行のように物価抑制のための利上げ策は取れない。そんな局面を乗り切るには、総裁を代えて、閉塞感に包まれている金融市場の雰囲気を一新したい、というわけか。 官 でも、不祥事もなく、本人が「辞めたい」と言い出さない限り、更迭は難しいぞ。 政 問題は、そこだ。中学校からエリート学歴で大事にされてきた黒田氏に、自ら退く発想はないだろう。では、誰が「そろそろ退任されては」と首に鈴をつけるか。普通なら監督官庁で人事案を決める鈴木俊一財務相の仕事だが、人柄がいい鈴木氏には向かない。 財 鈴木氏は、麻生太郎・前財務相の義弟だ。安倍政権で9年も財務相を続けた麻生氏が交代したのも、脱・安倍カラーの象徴。しかも、麻生氏は自民党の副総裁になり、岸田政権を支えている。その役を引き受けても、おかしくない。 政 その通り。ただ、麻生氏は、異次元緩和で地方銀行などの経営が悪化した副作用を追及される黒田氏を擁護してきた。強硬姿勢へ変わるには、理由が必要だ。 官 黒田氏が2月2日の衆院予算委員会で副作用について「異次元緩和の影響を認めるか」と追及されたとき、「認めません」と語気を強めた。この答弁に、与野党から失笑が漏れた。「もう辞めたら」という雰囲気だったな』、「副作用について「異次元緩和の影響を認めるか」と追及されたとき、「認めません」と語気を強めた」、苦笑せざるを得ない。確かに「任期は来年4月」を待たずに交代させるには相当な力業が必要だろう。
次に、2月11日付け日刊ゲンダイが掲載した同志社大学教授の 浜矩子氏による「黒田日銀総裁の「絶対矛盾」がもたらす歯切れのよさに失笑を禁じえない」を紹介しよう。
・『日銀の黒田東彦総裁の話はいつも「このボタンを押すと、このセンテンスが出てくる」という感じで、同じ言葉が繰り返されることが多いのですが、1月17、18日の金融政策決定会合の直後に行われた記者会見は、いつにも増して「ボタン」が押され、“面白い”発見がありました。 輸入価格の上昇により、ガソリンや食料品などの値段が上がっています。会見では記者から「日銀の目標である物価上昇率2%にずいぶん近づいてきています」と、何度も質問されたのですが、黒田総裁は「決定会合の見通しは2023年度末でもまだ1%程度」「金融政策を変える必要は全くありません」と繰り返しました。 この発言は、ものすごくおかしい。2%という、自分たちが9年間達成できなかった目標に、ようやく近づいてきているのだから、まともな金融政策責任者なら喜ぶはずです。異常な金融政策を解除し、いよいよ正常な道に戻れるのですからね。自分たちの力ではなく、供給サイドのリスクが物価上昇をもたらしている、という予期せぬ力学が働いていることを踏まえつつ、ここを正常化への足がかりにする。そう考えるのが、まともな政策責任者の発想でしょう』、「何度も質問されたのですが、黒田総裁は「決定会合の見通しは2023年度末でもまだ1%程度」「金融政策を変える必要は全くありません」と繰り返しました」、「供給サイドのリスクが物価上昇をもたらしている」のを無視して、「決定会合の見通し」にだけこだわるのは確かに異常だ。
・『記者会見で露呈した苦し紛れの構図 ところが黒田総裁は、正常化や出口について「全く考えておりません」「全く変わっておりません」「利上げの議論など全くしておりません」の一辺倒。一体、何回「全く」という言葉を使ったことか。その底流にあるのは、2%になっては絶対に困る、2%になりそうだという雰囲気すら広がっては困るということ。 なぜそうなるかというと、2%を達成して異次元緩和の世界から帰還しなければならなくなると、国債の買い支えという政府の指令に従えなくなってしまうからです。それで「全く」という言葉を繰り返す。いかに金融と財政が一体運営になっているか、最初から「財政ファイナンス」が狙いだったのかが分かります。そうした事実が、総裁自らの口からどんどんこぼれ出てくる会見でした。 2%の目標をセットした人たちが、2%に絶対ならすまじと踏ん張る。だから、やたら大見えを切って「全く考えていない」と歯切れよく言ってしまう。この「絶対矛盾がもたらす歯切れよさ」という苦し紛れの構図には失笑を禁じえません。 さらに黒田総裁は、物価と賃金がスパイラル状に押し上げ合っていくことを期待する発言もしていましたが、一方で、物価上昇率は2%にならない、と断じた。アホダノミクスの目指す「物価と賃金の好循環」を狙うとしながら、その実、財政ファイナンスをやめなきゃいけなくなる物価上昇は困るわけです。全くつじつまが合っていませんよね。これも矛盾。まさに、ダブルの矛盾が露呈した黒田会見でした。 いまの日本の現状は、中央銀行が政策を柔軟に動かさないがゆえに、弱者がより弱い立場に追い込まれ、生活が行き詰まっている。金融政策が弱い者イジメなどというナンセンスは、世界広しといえど、そうあることではありません。決定的に矛盾した政策をやっているからであり、アホダノミクス男はそこをどう解決するのか。これは大問題です』、「絶対矛盾がもたらす歯切れよさ」よは言い得て妙だ。「アホダノミクスの目指す「物価と賃金の好循環」を狙うとしながら、その実、財政ファイナンスをやめなきゃいけなくなる物価上昇は困るわけです。全くつじつまが合っていませんよね」、同感である。
第三に、3月7日付けエコノミストOnlineが掲載した東大名誉教授で立正大学学長の吉川洋氏による「異次元緩和を問う① 今のマクロ経済学は間違っている=吉川洋」を紹介しよう。
・『2013年4月に日本銀行が始めた“異次元”金融緩和は、2%インフレ目標が未達成のまま、9年が経過しようとする今もなお続いている。連載「異次元緩和を問う」では、この実験的政策の帰結から何をくみ取るべきなのか、経済学者やエコノミストに問うてゆく。 著書『デフレーション』(日本経済新聞出版)を滞在中のパリで書き上げたのは2012年11月。マイルドなデフレ(物価下落)に対し金融政策の効果は限られると論じた。日銀に大胆な金融緩和を求める安倍政権が、衆院選の勝利を受けて誕生する直前のことだ。 当時なされていた議論は明快だった。「デフレは“貨幣的現象”だから、貨幣の量を増やせば止まる。量的緩和をやらない日銀が悪い」と。私は「それは違う」と述べた。根底にあるマクロ経済学のモデルが間違っているからだ。 モデルでは、長期的な均衡としてマネーの量と物価が比例する「貨幣数量説」が成り立つとし、将来への期待が絶大な役割を果たす。いま中央銀行がマネーを出し続けると言えば、合理的な消費者は物価が上がるに違いないと思い、そう思ったとたんに物価が上がる──と結論づける。ポール・クルーグマンはじめ、米国の著名な経済学者が1990年代後半から盛んに繰り広げていた議論だ。 確かに期待は、株価や地価、為替など資産市場では非常に大きな役割を果たす。「市場参加者が株価は上がると思っている」と市場参加者が思えば株を買い、実際に株価が上がる。 だが、消費者物価は株価とは違う。人々も価格をつける企業もマネーの量など意識していない。逆に、誰もが頭に入れている政策変数といえば消費税率だ。だから増税前に駆け込み需要が発生する。 そもそも、日銀自身、四半期ごとに行う世論調査で「2%のインフレ目標を知っているか」と聞いているが、「よく知らない」「見聞きしたことがない」との回答が半分以上を占め続けている(図)。 この9年を振り返ると「だから言っただろう」という気分になる。異次元緩和に効果はなかったことは、事実を確認すれば明らかだ。 「日銀がマネーを出せばデフレが止まり、実体経済も回復する」という論理だったが、まず物価に影響を与えられなかったことははっきりしている。肝心の実体経済を見てみると、13~19年度を平均した実質GDP(国内総生産)成長率は欧米より低い0・9%。一番ひどいのは実質消費で0・1%とほとんど伸びていない。だから閉塞(へいそく)感が強いままなのだ。 『デフレーション』では、先進国で日本だけがデフレに陥った要因を、名目賃金の下落だと指摘していた。皮肉なことに、異次元緩和への注目度が薄れる段になって賃上げが重要課題として浮上している』、「先進国で日本だけがデフレに陥った要因を、名目賃金の下落だと指摘」、その通りだ。「ポール・クルーグマン」は最近になって、かつての自分の主張が間違っていたと認めた。
・『デフレの要因は賃金下落 名目賃金には下方硬直性がある。ところが、賃金を通し物価を下がりにくくする「デフレストッパー」が日本だけ雇用形態の変化などにより外れてしまった。 米国や欧州の物価の推移をみると、95年以降モノの値段は日本と同様に下がる一方、サービスは上がっている。サービスは労働集約的で、価格は名目賃金と連動するが、欧米で名目賃金は上がっているからだ。モノとサービスを合わせた消費者物価は、サービスの価格が上がっているため下がらなかった。 20年に「研究生活をしめくくる『卒業論文』のようなもの」と記した著書『マクロ経済学の再構築』(岩波書店)を刊行。主流マクロ経済学を、都合のいい非現実的な仮定に基づいた「砂上の楼閣」と断じた。 今のマクロ経済学は、合理的・代表的な消費者を想定したミクロのモデルを相似拡大して全体を理解しようとする。そこに中央銀行というプレーヤーが登場し、期待に働きかける。難しい理論モデルが作られ、どんどん洗練されてきたが、モデルには何の根拠もなく、むしろ害悪をもたらしている。 足元を見ても、資源価格の上昇を発端とした米国のインフレは賃金上昇とのスパイラルに陥りつつあり、FRB(米連邦準備制度理事会)の対応は後手に回っている。FRBはインフレ5%の段階でも「一時的」だとしきりに言っていた。それは金融緩和で物価上昇を目指す時、2%のインフレ目標を一時的に超えること(オーバーシュート)が正しいとするモデルが念頭にあったからだ。 日銀も今後、インフレ2%が近づいた時にモデル通りオーバーシュートさせるのか、緩和基調を手じまいするのか。難しい局面を迎える。 『マクロ経済学の再構築』では、再構築の柱にケインズの有効需要の理論を置き、ミクロの裏付けとして統計物理学の手法を用いた。一方で、ケインズ経済学において不況の際に有効需要を補う方策とされる財政支出を処方箋とはしない』、「主流マクロ経済学を、都合のいい非現実的な仮定に基づいた「砂上の楼閣」と断じた」、「今のマクロ経済学は、合理的・代表的な消費者を想定したミクロのモデルを相似拡大して全体を理解しようとする。そこに中央銀行というプレーヤーが登場し、期待に働きかける。難しい理論モデルが作られ、どんどん洗練されてきたが、モデルには何の根拠もなく、むしろ害悪をもたらしている」、「FRB・・・の対応は後手に回っている。FRBはインフレ5%の段階でも「一時的」だとしきりに言っていた。それは金融緩和で物価上昇を目指す時、2%のインフレ目標を一時的に超えること・・・が正しいとするモデルが念頭にあったからだ」、手厳しい批判だ。
・『財政支出を勧めない理由 短期の実体経済の動きが有効需要で決まるのは確かだ。といっても目先の数字だけではない経済成長を目指す視点に立てば、持続性のある需要かどうかが問われる。だから、需要を創出するようなイノベーションこそが重要だ。 たとえば財政支出で大仏を作れば、GDPは増える。だが、大仏を作ってメリットはあるのか。今の日本では、日銀が国債を無制限に買う方針を掲げているため財政規律が緩み、意味のある財政支出なのか疑わしいものが混じってきている。それこそが、異次元緩和の副作用だ。 対照的に米国の主流派経済学者は、金融政策の限界が認識された2010年代後半から、低金利下で長期停滞から脱するための経済政策として財政支出を論じ始めた。 低金利環境は借り手にとって有利だから、意味のある財政支出であれば財政負荷が小さい今、国債で行えばいいという論は半分正しい。だが、「政策」は常に総合的な判断だ。低金利はいつまで続くのか。世界的に長期金利は上がり始めており、日本だけが日銀が国債を買うことで抑え続けられるだろうか。 財政の持続性では、名目成長率と長期金利の関係が重要となる。成長率が金利を上回る現状はあくまで一時的だ。そのなかで財政支出を拡大することはギャンブルに等しい。 金利は資源配分に対して手旗信号的な役割を果たす。3%の金利とは、企業が融資を受けて設備投資する時、リターンが3%を超えるものしかできないということだ。 0%の金利が意味するところは「なんでもあり」。資源配分機能が失われ、異常な状態だ。それこそ大仏でもいいとなる。国民は納得できるのか。私は納得しない』、「名目成長率」は2021年1-3月期-1.9%、4-6月期+6.1%、7-9月期-0.1%、10-12月期-0.9%、長期金利は10年物長期国債の利回りが昨日で0.185%だ。「金利は資源配分、に対して手旗信号的な役割を果たす」のがも本来の姿だが、現在のような「指し値オペ」では日銀の誘導値そのものだ。結局、「「なんでもあり」。資源配分機能が失われ、異常な状態だ」、「吉川洋氏」のみならず私も到底「納得」できない。
タグ:(その40)(日銀に忍び寄る黒田総裁更迭の足音…誰が首に鈴をつけるのか、黒田日銀総裁の「絶対矛盾」がもたらす歯切れのよさに失笑を禁じえない、今のマクロ経済学は間違っている=吉川洋) 異次元緩和政策 浜矩子氏による「黒田日銀総裁の「絶対矛盾」がもたらす歯切れのよさに失笑を禁じえない」 「副作用について「異次元緩和の影響を認めるか」と追及されたとき、「認めません」と語気を強めた」、苦笑せざるを得ない。確かに「任期は来年4月」を待たずに交代させるには相当な力業が必要だろう。 エコノミストOnline 日刊ゲンダイ「 日銀に忍び寄る黒田総裁更迭の足音…誰が首に鈴をつけるのか」 日刊ゲンダイ 「絶対矛盾がもたらす歯切れよさ」よは言い得て妙だ。「アホダノミクスの目指す「物価と賃金の好循環」を狙うとしながら、その実、財政ファイナンスをやめなきゃいけなくなる物価上昇は困るわけです。全くつじつまが合っていませんよね」、同感である。 「名目成長率」は2021年1-3月期-1.9%、4-6月期+6.1%、7-9月期-0.1%、10-12月期-0.9%、長期金利は10年物長期国債の利回りが昨日で0.185%だ。「金利は資源配分、に対して手旗信号的な役割を果たす」のがも本来の姿だが、現在のような「指し値オペ」では日銀の誘導値そのものだ。結局、「「なんでもあり」。資源配分機能が失われ、異常な状態だ」、「吉川洋氏」のみならず私も到底「納得」できない。 「主流マクロ経済学を、都合のいい非現実的な仮定に基づいた「砂上の楼閣」と断じた」、「今のマクロ経済学は、合理的・代表的な消費者を想定したミクロのモデルを相似拡大して全体を理解しようとする。そこに中央銀行というプレーヤーが登場し、期待に働きかける。難しい理論モデルが作られ、どんどん洗練されてきたが、モデルには何の根拠もなく、むしろ害悪をもたらしている」、「FRB・・・の対応は後手に回っている。FRBはインフレ5%の段階でも「一時的」だとしきりに言っていた。それは金融緩和で物価上昇を目指す時、2%のインフレ目 『マクロ経済学の再構築』(岩波書店) 「先進国で日本だけがデフレに陥った要因を、名目賃金の下落だと指摘」、その通りだ。「ポール・クルーグマン」は最近になって、かつての自分の主張が間違っていたと認めた。 吉川洋氏による「異次元緩和を問う① 今のマクロ経済学は間違っている=吉川洋」 何度も質問されたのですが、黒田総裁は「決定会合の見通しは2023年度末でもまだ1%程度」「金融政策を変える必要は全くありません」と繰り返しました」、「供給サイドのリスクが物価上昇をもたらしている」のを無視して、「決定会合の見通し」にだけこだわるのは確かに異常だ。