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経済学(その5)(『人新世の「資本論」』30万部の斎藤幸平 若き経済思想家の真意、リーマン危機から世界を”救った”男:独占インタビュー①ケインズ経済学の神髄 宇沢弘文氏の教えから昇華、清滝教授の「独自モデル」、ビジネススクールでも教えてくれない 武器としての経済学) [経済政治動向]

経済学については、昨年5月16日に取上げた。今日は、(その5)(『人新世の「資本論」』30万部の斎藤幸平 若き経済思想家の真意、リーマン危機から世界を”救った”男:独占インタビュー①ケインズ経済学の神髄 宇沢弘文氏の教えから昇華、清滝教授の「独自モデル」、ビジネススクールでも教えてくれない 武器としての経済学)である。

先ずは、昨年6月16日付け日経ビジネスオンライン「『人新世の「資本論」』30万部の斎藤幸平 若き経済思想家の真意」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00290/061000005/
・『経済思想家・斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』(集英社新書)が30万部超の異例のヒットとなっている。 人類の経済活動が地球全体に影響を及ぼす時代=「人新世」。現代の環境危機の解決策を、マルクスの新解釈の中に見いだすという硬派な内容ながら、コロナ禍にあって売れ続けている。1987年生まれの若き思想家が本書を執筆した背景とは(Qは聞き手の質問、Aは斎藤氏の回答)。 (斎藤幸平 氏の略歴はリンク先参照) Q:ベストセラーとなっている『人新世の「資本論」』。ヒットの理由を著者としてどのように分析していますか。 A:これほど多くの人に手に取ってもらえたのは、「このままの生活を、将来にわたって維持することは可能なのか」という問題から、誰もが目をそらせなくなってきたからだと思います。 今の私たちが享受している豊かさは、環境負荷や劣悪な労働環境を途上国に押し付け、外部化することで成り立ってきました。しかし、気候変動の問題一つをとってみても、近年は日本も、スーパー台風や集中豪雨、夏の酷暑など、様々な形で危機に直面するようになりました。新型コロナなど未知のウイルスによる感染症の拡大も、元をたどれば、森林などを乱開発した資本主義に原因があります。「これはまずいんじゃないのか?」という気配が高まったことと、本書の発売のタイミングが合致したのは大きいと思います。 タイトルにある「人新世」という言葉が示す通り、現代はグローバル資本主義の下で人類の活動が地球全体にインパクトを与える時代です。新型コロナウイルスが物流や人の流れに乗り、極めて短期間で世界全体に広まっていったように、さらに問題のスケールが大きい気候変動についても同じことが生じている。先進国で排出された二酸化炭素や温室効果ガスの影響は、地球上のあちこちで山火事や水不足を引き起こし、被害は今のままでは拡大の一途です。 そうした環境危機を目の当たりにして、「資本主義そのものに緊急ブレーキをかける必要がある」という本書の主張を、頭ごなしに否定はできない時代になってきた。多くの人が時代の変化や問題の深刻化を意識し始めたことが、反響につながったと考えています』、出版不況のなかで、「30万部超の異例のヒット」とは大したものだ。「気候変動の問題一つをとってみても、近年は日本も、スーパー台風や集中豪雨、夏の酷暑など、様々な形で危機に直面するようになりました。新型コロナなど未知のウイルスによる感染症の拡大も、元をたどれば、森林などを乱開発した資本主義に原因があります。「これはまずいんじゃないのか?」という気配が高まったことと、本書の発売のタイミングが合致したのは大きいと思います」、なるほど。
・『エコロジストとしてのマルクスの発見  Q:マルクスの思想の中に、実は現在の環境問題にも応用可能なエコロジストの視点があったのだという、本書の柱になっているこのアイデアは、どのようなきっかけで見つけたのでしょう? マルクスというと、とりわけ一定年齢層以上の人にとっては、ソ連やスターリン主義、冷戦構造の中での共産主義の暗いイメージが強くありますよね。ソ連崩壊後、マルクス経済学は、大学でも教えるところが少なくなってきました。しかし一方で、その後もマルクス研究を続けていた人たちは、「ようやくソ連や冷戦から解放され、マルクスをマルクスとして純粋に読むことができるようになった」と、彼の思想を捉え返そうとしたんです。 そうした動きと並行する形で、近年「メガ」(MEGA=Marx-Engels-Gesamtausgabe)と呼ばれる新たな『マルクス・エンゲルス全集』の編纂が進められ、私も含め世界各国の研究者が参加するこの国際的全集プロジェクトによって、これまで埋もれていた手稿や研究ノートの読解作業が行われています。 その新資料をひもといていくことで、20世紀のマルクスの読まれ方というのは、ソ連のスターリン主義にどっぷり浸かってゆがめられたものであり、本来マルクスが考えていた思想から乖離していたことも分かってきました。また、マルクスの死後にエンゲルスが『資本論』の編集過程で切り捨てた部分も明らかになった。そうして見えてきた「本来のマルクス」の持っていた考えの一つが、環境と資本主義との関係に対する関心です。実はマルクスは、環境破壊に対して深い問題意識を持ち、自然科学を熱心に学んでいました。 今まで知られてこなかった、そうしたエコロジストとしてのマルクスの思想を掘り起こすことは、単に新たなマルクス像を示すばかりでなく、「人新世」の環境問題、つまり人類は資本主義の下での技術革新と経済成長だけで環境危機を突破できるのか、という最大の問題に対し、非常に重要な視点を与えてくれると私は考えました。 こうしたドイツでの「MEGA」の編纂を通じた発見を経て、帰国後はマルクスの研究を現代の文脈にどう生かしていくべきなのかという課題に取り組み、その中で『人新世の「資本論」』の執筆に取りかかったのです。) Q:マルクスを研究対象として選んだ経緯は? A:米国の大学に入ってすぐ、ハリケーン・カトリーナの被災地でボランティアをする機会がありました。そこで格差問題の深刻さを目の当たりにし、その頃からマルクスに傾倒し始めました。もう一つのきっかけは、ベルリンの大学院に入った直後に起きた東日本大震災と原発事故です。当時、ベルリンでも数十万人規模の反原発デモが起き、それを見ながら資本主義とエコロジーの問題を考えたいと思うようになりました。 Q:今、研究や執筆の最大の原動力となっているものは何でしょう。 A:真面目に働いているのに、生活が立ち行かないほど追い込まれてしまう人が大勢いる社会は、端的に言っておかしいですよね。一部の人たちが、本来不要なものをどんどん消費する一方で、必要なものにも事欠く人たちが大勢いる。しかもその無駄な消費のための労働で、地球環境を破壊し続けている。そうした矛盾した社会構造を生み出してしまう資本主義とは、本当に合理的なのか、問題提起をしていきたい。このような社会や経済を変えなければならないと強く思っているんです。 つまり、不合理に対する違和感や怒りが研究の原動力ですね。ドイツでは、先ほどお話しした大規模な反原発デモの後、メルケル首相が2022年までに国内の原発を止めると宣言しました。人々がデモによって社会を変えていく姿を目の前で見て、それが民主主義のあり方であり、力だと実感しました。私は理論の面から人々の運動を下支えしたいのです。 日本では民主主義というと、議会制民主主義のことしか思い浮かばないかもしれませんが、議会政治には限界があります。例えば、気候変動の問題で最も影響を受ける子どもたちや途上国の人たちは、自分たちの未来を左右する米国の意思決定のプロセスからは排除されている。だから、私たちは議会民主主義だけを民主主義だと捉えてはならず、民主主義を拡張していくためにも、デモや学校ストライキや、様々なアクションを起こして、政治家や企業を動かさなければならない。それこそが民主主義なんです。 A:大学で学生たちに教える中で、いわゆる「Z世代」(1990年代後半から2010年代にかけて生まれた世代)の中に、先行世代とは異なる新しい価値観が根付きつつあると感じることはありますか。 A:ハンガーストライキや環境危機を訴えるライブを開催するなど、実際にアクションを起こしている高校生・大学生が日本でも増えてきました。ただし、日本の若者たちがすべて、スウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんのような考え方を持っているかと言えば、無論そんなことはなく、彼らの多くはファストファッションやファストフードに囲まれて育ち、それが当たり前だと思ってきた者たちです。でもそれは、今まで深く考える機会がなかったから。私のゼミでも、学んでいく過程で、少なからぬ学生が気候変動や格差社会といった問題を「自分ごと」として考え始めています』、「実はマルクスは、環境破壊に対して深い問題意識を持ち、自然科学を熱心に学んでいました。 今まで知られてこなかった、そうしたエコロジストとしてのマルクスの思想を掘り起こすことは、単に新たなマルクス像を示すばかりでなく、「人新世」の環境問題、つまり人類は資本主義の下での技術革新と経済成長だけで環境危機を突破できるのか、という最大の問題に対し、非常に重要な視点を与えてくれると私は考えました」、「議会民主主義だけを民主主義だと捉えてはならず、民主主義を拡張していくためにも、デモや学校ストライキや、様々なアクションを起こして、政治家や企業を動かさなければならない。それこそが民主主義なんです」、なるほど。
・『SDGsは批判してはいけないという空気があった  Q:本の冒頭で、現在多くの企業が取り組むSDGs(持続可能な開発目標)について、気候変動に対して本質的な効果は無く、むしろ危機的な状況から目を背けさせる有害な「アリバイ作り」だと断じています。 この1年ほど、SDGsに代表されるように「環境問題に配慮しないとまずいよね」「途上国の人権問題についても、企業は責任を持たなければならないよね」といった考えが“ブーム”で、SDGsは批判しちゃいけないものだという空気になっている。けれど実際には、本書でもエビデンスを挙げて指摘したように、とりわけ今の日本で広まっているレベルのSDGsの認識では、気候変動に対して効果は無いんです。 むしろ、マルクスがかつて、宗教を資本主義が引き起こす苦悩を和らげる「大衆のアヘン」だと批判したように、「これをやっていれば大丈夫」という誤った認識を持ち、真に必要な大きなアクションから目を背けさせてしまう。 私が投げかけたやや挑発的な批判に対し、SDGsにうすうす疑問を抱いていた人は「ああ、やっぱりそうか」と納得し、SDGsの効果を信じていた人にとっては、認識が崩れるショックや憤りもあったでしょう。普段はマルクスの話には興味の無い読者層も含め、多くの方に手に取っていただけるきっかけとなったと思います。 Q:では、企業はSDGsに取り組まない方がいい……? 企業にいるビジネスパーソンは、自分の仕事として何をすべきだと考えますか。 A:SDGsをビジネスの商機と捉えている程度では、問題は全く解決しません。企業が今すぐにでも行うべきなのはむしろ、供給過剰の是正です。具体的には、生産量そのものを3割減らす。食品であっても衣料品であっても、現代ではあらゆる企業が過剰な在庫を抱えています。それを3割減らすだけでも、環境危機に対処するための時間稼ぎになる。本来不要なものを減らすわけですから、消費者に大きな影響は無いばかりか、技術革新も特に必要ない。今すぐにでも始められる取り組みです』、「今の日本で広まっているレベルのSDGsの認識では、気候変動に対して効果は無いんです」、「むしろ、「これをやっていれば大丈夫」という誤った認識を持ち、真に必要な大きなアクションから目を背けさせてしまう」、その通りだ。
・『技術の力のみで社会は変えられない  Q:フリマアプリ「メルカリ」のように不用品を手軽に売れるサービスや、ものを所有しないシェアリングエコノミーなど、そうした新たな消費の形について、エコロジーの観点からどう思いますか。 A:転売を簡単にするサービスが普及すると、「数回使ったら売って、また次のものを買おう」というマインドを醸成し、消費することへのハードルが下がっていきます。場合によっては、これまで以上に短いスパンで様々なアイテムが消費されていく原動力になり、結果として消費量や輸送量が増えていく。エコロジー的な視点から言えば逆効果とも言えます。 シェアリングエコノミーについては、確かに効率化や資源の有効活用ができて良い面もある。ただし、どのような社会関係の下で運用されるかによって、生み出される結果は大きく異なります。 極端な例を挙げると、プライベートジェットをシェアするサービスもある。飛行機を維持管理するのは高コストなので、資産家同士で共同所有しようというわけです。このようなサービスが普及し、個人が気軽にジェット機を飛ばせるようになれば、当然ながらさらに環境負荷は膨らみ、資源の有効活用とは真逆の結果を生み出します。また、Uberの配達員システムのような労働力のシェアの形が、格差社会を拡大している面もある。 シェアリングエコノミーはネット社会の中で発達したある種の「技術」であり、肝心なのは、技術によって資本主義の抱える問題の本質を変えられるわけではないということです。むしろ、気候変動や格差社会化を加速させる結果すら生む。技術の力のみで社会を変えていけるという技術信仰には、常にそうした落とし穴があります。 Q:別の社会システムに今すぐ移行できない以上、私たちは将来的にまだ資本主義社会を生きていかなければなりません。企業人としてはどうすべきか。 A:資本主義を一朝一夕にストップするのは不可能だと、もちろん私も思います。ただし、それは資本主義の抱える問題を、今すぐ是正しなくていいということではありません。今の社会では、大手企業で働いていても「毎日イケイケで楽しい!」という人たちはどんどん減って、多くの人が「つらいなぁ」と日々思いながら長時間労働をしたり、劣悪な雇用条件に不安を覚えたりしている。それを改善するためにも、企業の中にいてこそ変えていけることが多くある。その最も分かりやすい例として、労働組合が担うべき役割は今でもあるんです。 ところが今、労働組合の多くは、男性正社員たちの既得権益擁護団体のようなものになってしまっている。そうでなく、自分たちの製品の環境への影響や、同じ職場で働いている非正規雇用者、女性の待遇の不均衡といった問題に対して声を上げるべきです。資本主義社会の抱える問題は、そうした働き方も含め、互いにクロスしている。気候変動問題も、単に二酸化炭素や温室効果ガスを削減するというテクニカルな話だけではなく、それに付随する長時間労働やジェンダー差別、途上国への劣悪な労働の押し付けを同時に是正していかなければ、二酸化炭素がいくら減ったところで、よい社会にはなりません。 アクションを起こせば、最初はコンフリクト(衝突、対立、不一致)を生みますが、これからの時代に企業を生き残らせるためにも、立ち上がって価値観をアップデートすることは必要です。グレタさんたちの世代が、これから消費者となり、経営者となり、20~30年後には政治のリーダーになっていく。今の日本は、それでも昔の方法にしがみつこうとしていますが、世界的な潮流に取り残されないためには、そうした大きなトレンドの変化を押さえておかなければなりません。 著者が薦める本 カール・マルクス『資本論』 (国民文庫) 私自身の研究のモチベーションと同様、マルクス自身も現実の問題にコミットして研究を続けた学者でした。そうした彼の生きざまにも影響を受けました。資本主義の矛盾や、資本主義に代わり得る社会のビジョンをこれほど深く考え抜いた本は他に無い。19世紀に書かれた本でありながら、現代でも様々な問題を考えるうえで、まずはここに立ち返り、さらに思考を発展させていく土台となる座右の書です。(斎藤氏)技術の力のみで社会は変えられない Q:フリマアプリ「メルカリ」のように不用品を手軽に売れるサービスや、ものを所有しないシェアリングエコノミーなど、そうした新たな消費の形について、エコロジーの観点からどう思いますか。 A:転売を簡単にするサービスが普及すると、「数回使ったら売って、また次のものを買おう」というマインドを醸成し、消費することへのハードルが下がっていきます。場合によっては、これまで以上に短いスパンで様々なアイテムが消費されていく原動力になり、結果として消費量や輸送量が増えていく。エコロジー的な視点から言えば逆効果とも言えます。 シェアリングエコノミーについては、確かに効率化や資源の有効活用ができて良い面もある。ただし、どのような社会関係の下で運用されるかによって、生み出される結果は大きく異なります。 極端な例を挙げると、プライベートジェットをシェアするサービスもある。飛行機を維持管理するのは高コストなので、資産家同士で共同所有しようというわけです。このようなサービスが普及し、個人が気軽にジェット機を飛ばせるようになれば、当然ながらさらに環境負荷は膨らみ、資源の有効活用とは真逆の結果を生み出します。また、Uberの配達員システムのような労働力のシェアの形が、格差社会を拡大している面もある。 シェアリングエコノミーはネット社会の中で発達したある種の「技術」であり、肝心なのは、技術によって資本主義の抱える問題の本質を変えられるわけではないということです。むしろ、気候変動や格差社会化を加速させる結果すら生む。技術の力のみで社会を変えていけるという技術信仰には、常にそうした落とし穴があります。 Q:別の社会システムに今すぐ移行できない以上、私たちは将来的にまだ資本主義社会を生きていかなければなりません。企業人としてはどうすべきか。 A:資本主義を一朝一夕にストップするのは不可能だと、もちろん私も思います。ただし、それは資本主義の抱える問題を、今すぐ是正しなくていいということではありません。今の社会では、大手企業で働いていても「毎日イケイケで楽しい!」という人たちはどんどん減って、多くの人が「つらいなぁ」と日々思いながら長時間労働をしたり、劣悪な雇用条件に不安を覚えたりしている。それを改善するためにも、企業の中にいてこそ変えていけることが多くある。その最も分かりやすい例として、労働組合が担うべき役割は今でもあるんです。 ところが今、労働組合の多くは、男性正社員たちの既得権益擁護団体のようなものになってしまっている。そうでなく、自分たちの製品の環境への影響や、同じ職場で働いている非正規雇用者、女性の待遇の不均衡といった問題に対して声を上げるべきです。資本主義社会の抱える問題は、そうした働き方も含め、互いにクロスしている。気候変動問題も、単に二酸化炭素や温室効果ガスを削減するというテクニカルな話だけではなく、それに付随する長時間労働やジェンダー差別、途上国への劣悪な労働の押し付けを同時に是正していかなければ、二酸化炭素がいくら減ったところで、よい社会にはなりません。 アクションを起こせば、最初はコンフリクト(衝突、対立、不一致)を生みますが、これからの時代に企業を生き残らせるためにも、立ち上がって価値観をアップデートすることは必要です。グレタさんたちの世代が、これから消費者となり、経営者となり、20~30年後には政治のリーダーになっていく。今の日本は、それでも昔の方法にしがみつこうとしていますが、世界的な潮流に取り残されないためには、そうした大きなトレンドの変化を押さえておかなければなりません。 著者が薦める本 カール・マルクス『資本論』 (国民文庫) 私自身の研究のモチベーションと同様、マルクス自身も現実の問題にコミットして研究を続けた学者でした。そうした彼の生きざまにも影響を受けました。資本主義の矛盾や、資本主義に代わり得る社会のビジョンをこれほど深く考え抜いた本は他に無い。19世紀に書かれた本でありながら、現代でも様々な問題を考えるうえで、まずはここに立ち返り、さらに思考を発展させていく土台となる座右の書です。(斎藤氏)』、「フリマアプリ「メルカリ」のように不用品を手軽に売れるサービスや、ものを所有しないシェアリングエコノミーなど」、「技術の力のみで社会は変えられない」、「労働組合が担うべき役割は今でもあるんです。 ところが今、労働組合の多くは、男性正社員たちの既得権益擁護団体のようなものになってしまっている。そうでなく、自分たちの製品の環境への影響や、同じ職場で働いている非正規雇用者、女性の待遇の不均衡といった問題に対して声を上げるべきです」、その通りだろう。「人新世の「資本論」が売れているということは、日本もまだ捨てたものでもないのかも知れない。

次に、9月15日付け東洋経済Plus「リーマン危機から世界を”救った”男:独占インタビュー①ケインズ経済学の神髄 宇沢弘文氏の教えから昇華、清滝教授の「独自モデル」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/575314
・『世界的な金融危機が発生したあのとき、アメリカで1人の経済学者が重要な役割を果たした。希代の理論家が語った白熱の100分を全5回で配信。 中央銀行が大規模な金融資産の購入を通じてマーケットの流動性を高める「非伝統的な金融政策」。その理論化を主導し、2008年のリーマンショックの鎮火に貢献したのが、プリンストン大学の清滝信宏教授だ。 日本人初のノーベル経済学賞受賞も期待されている清滝氏が、恩師である宇沢弘文氏と自身の理論のつながり、アメリカ当局との関わり、そして日本経済への提言まで、すべてを語った(Qは聞き手の質問、Aは清滝氏の回答)。 Q:清滝さんにとって、経済学の研究はどのような問題意識から始まったのですか? A:よく「社会的分業」と呼ばれるが、私たち一人ひとりの生活は、ほかの人の経済活動に大きく依存している。 一人ひとりは、消費や生産を行うとき、自分の利益や周囲のことだけを考えてバラバラに決めているのに、社会的分業はこうした利己的で分権的な個人の決定とうまく調和している。これは考えれば考えるほど不思議で、アダム・スミス以来の大きなテーマだ。 【ワンポイント解説】アダム・スミス(1723〜1790年)イギリスの道徳哲学者、経済学者。当時の重商主義(輸出入関係の商人を重視)を批判し、年々の労働の生産物こそが国富であるとして、個々人の活動が「見えざる手」(市場機構)に導かれて生産の増大をもたらす過程を、社会的分業の観点から分析した。主著は「国富論」「道徳感情論」。 通常の経済学では、市場経済における価格メカニズムが、個々の主体が選択した多数の財の需要と供給を同時に均衡するように調整しているため、分権的な決定と社会的分業は両立すると考えている。 ところが、これを「異時点間」、資金の貸し借りを含めた、現在と将来の財(商品・サービス)の交換という場面まで拡張すると、市場経済はもっと微妙で複雑な動きをしているのではないかというのが、そもそもの問題意識だった。 Q:時間という要素が入ると、不確実性が生じて単純な話ではなくなりますね。 A:現在だけを対象にするなら、いま財を交換して取引は終わる。一人ひとりの意思決定を阻害する要因は入りづらい。 これに対して、資金の貸し借りは、現在の財と将来の財に対する請求権を交換することを意味するが、将来、資金を返す段階になって状況が変わったり気が変わったりすると、返済しないことがある。そうなると、現在と将来の財の交換を歪ませる要因になる。 現実の経済では、担保を取ることでこの問題にある程度対応している。もし返済が滞れば、借り手は担保資産を失う、あるいは担保資産によって借金を返済する。この担保資産は、土地や建物、機械などの有形資産であったり、評判などの無形資産であったりする。こういった要素が、個々の主体の決定と社会的分業を調和させるうえで重要な役割を持つようになる。 Q:通常の経済学より、もっと考えなければならない要素が増えると。 A:さまざまな資産(担保)価値、そしてその資産価値を左右する「将来の期待」が入ってくる。うまくいっているときは、普通の価格理論よりもっと精巧な動き方をしている姿を描き出せるし、逆に、それは複雑で微妙な仕組みだから、時にはうまくいかなくなることもある。 実は、貨幣理論も同じような構図にある。もし信用が完璧でみなが確実に約束を守るなら、お互いの財の貸し借りだけで済んでしまい、別に貨幣はなくてもよい。 しかし、みなが必ずしも約束を守らないので信用が制約されると、将来の必要時に備えてお金を貯めておくとか、借り入れが難しければ貯めたお金で賄うといった行動が出てくる。だから貨幣経済というのは、信用の制約と強く結びついているわけだ』、単純な経済モデルに、現実的な要素を入れることで現実に近づけようとする意欲的な取り組みだ。
・『宇沢弘文先生に大きな影響を受けた  Q:それはまさにケインズ経済学の神髄といった感じですが、大学生のときから、このような問題意識を持っていたのですか。 宇沢弘文先生のゼミに入っていた影響が大きい。宇沢先生のやり方は少し変わっていて、学生にケインズの『雇用、利子および貨幣の一般理論』を読ませたうえで、「そのモデルを作れ」と言う。 【ワンポイント解説】宇沢弘文(1928〜2014年) 日本を代表する数理経済学者。世界的に評価の高い経済成長理論の2部門モデルなど多数の功績を残し、「社会的共通資本」の概念も提唱。後年は公害など社会問題にも取り組んだ。 普通、大学の学部生がそんなことをしても大抵うまくいかない。僕らはうんうんうなりながら、いろいろと一貫性のあるモデルを作ろうと努力した。そのときはほとんど失敗したが、「どうもケインズの理論は、完全競争モデルではなく、不完全競争モデルのほうが相性がいいのではないか」といった感じで、あの時期はとても多くのことを考えた。 【ワンポイント解説】ジョン・メイナード・ケインズ(1883〜1946年) 20世紀を代表するイギリスの経済学者。不確実性を基礎とした有効需要論を打ち立て、政府の金融・財政政策を支持した。その学説は1970年代以降、完全雇用を前提とする新古典派の復活でいったん下火になったが、リーマン危機以後は人気を取り戻した。 Q:清滝さんは「独占的競争」についても有名な論文を書かれていますが、それも当時からの問題意識によるものなのですね。 A:そうだ。独占的競争を想定すると、需要の制約が比較的すんなりと出てくる。 【ワンポイント解説】独占的競争 完全競争市場と独占市場の中間に位置する状態の1つ。①競合する多数の生産者がいる、②製品は差別化されている、③長期的には参入と退出は自由、の3つの条件で定義される。現実の多くの市場構造と近いと考えられる。 それと同時にあの時代に考えていたのは、「ケインズ理論とは価格が即座には調整されない価格硬直性を前提としたものだ」というアメリカ流のケインズ経済学の認識はどうも不十分だということ。 僕たちは、「金融と実物生産・雇用の間に密接な相互連関がある」とするところに、ケインズ理論の本質があると議論していた。当時のモデル作りはほとんど失敗したが問題意識は残っていて、アメリカに行ってから、「もっとうまく(ケインズ的な)モデルを作れないか」という思いが再び湧き上がってきた。そうした意味で、僕は宇沢先生にものすごく影響を受けた。) Q:アメリカ留学では、ハーバード大学の博士課程でオリヴィエ・ブランチャード教授などが指導教員になりました。 【ワンポイント解説】オリヴィエ・ブランチャード 1948年生まれ。フランス生まれのアメリカ経済学者。マクロ経済学の代表的な教科書を記し、2008〜2015年にはIMF(国際通貨基金)のチーフエコノミストとしても活躍した。現在はピーターソン国際経済研究所シニアフェロー。 ブランチャード先生から「おまえは何をやりたいのか」と聞かれ、私は「今のマクロ経済学に銀行や金融の制約という要素を入れて研究してみたい」と言った。すると、「そんなことできっこない。だいたい、おもしろいかどうかもわからない」と言われましたね(笑)。 ブランチャード先生はそのころ、私の関心に否定的だったが、おそらく「できっこない」というのは正しかったと思う。1980年代初めに、もし大学院生がそんなことをやったら、たぶんうまくいかなかっただろう。 代わりに取り組んだのが独占的競争の研究だ。このアプローチでケインズ理論を考えることは、当時のアメリカでもオリバー・ハートやマーティン・ワイツマンなどがやり始めていた。日本から持って行った問題意識と、アメリカで学んだ道具を一緒に合わせて博士論文を書き上げた。 Q:本当にやりたいことは、すぐにはできなかったのですね。 A:しばらく経って、やっぱりやるべきことはこれだけではないなと思い立ち、金融や借り入れの制約を取り入れた研究を始めたり、貨幣理論に取り組んだりした。それが、ランドル・ライト(現ウィスコンシン大学ビジネススクール教授)との仕事だ。 【ワンポイント解説】清滝=ライトモデル 清滝教授が共同研究で構築した貨幣理論の1つ。従来の経済学では明確に説明できなかった「貨幣が社会的に信用されるとそれがなぜ流通し、交換・生産・消費を活発にするのか」をサーチ理論を用いて数理モデルで説明した。 当時、僕が(助教授として)働いていたのがウィスコンシン大学で、そこにはマーク・ガートラー(現ニューヨーク大学教授)やケネス・ロゴフ(現ハーバード大学教授)らもいて、いろいろ議論できた。 さらにその後渡英して、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに行き、ジョン・モーア(現エディンバラ大学教授)と一緒に仕事をした。最初は「清滝=ライトモデル」を拡張するつもりだったが、そのうちに拡張するよりもっと信用のところに焦点を当ててモデルを作ろうということになった。 ただ、それはロンドンにいる間にはできず、僕がミネソタ大学に移ってから、モーアがミネソタに来たり、僕がロンドンに行ったりしながら共同研究を進めた。そうして1990年代初めにできたのが、いわゆる「清滝=モーアモデル」だ』、「宇沢弘文先生」が「ゼミ」で「学生にケインズの『雇用、利子および貨幣の一般理論』を読ませたうえで、「そのモデルを作れ」と言う」、「僕らはうんうんうなりながら、いろいろと一貫性のあるモデルを作ろうと努力した。そのときはほとんど失敗したが、「どうもケインズの理論は、完全競争モデルではなく、不完全競争モデルのほうが相性がいいのではないか」といった感じで、あの時期はとても多くのことを考えた」、「やっぱりやるべきことはこれだけではないなと思い立ち、金融や借り入れの制約を取り入れた研究を始めたり、貨幣理論に取り組んだりした。それが、ランドル・ライト・・・との仕事だ」、さすが宇沢氏の指導は「清滝」氏に大きな影響を与えたようで、さすがだ。
・『信用と資産価値の相互作用を理論化  Q:清滝=モーアモデルは、清滝さんの論文の中でも最も注目されているものの1つです。詳しく教えてください。 標準的な経済学では、土地や建物、機械などの資産は生産要素としてだけ扱われてきた。しかし、「人は必ずしも約束を守らない」といった信用の制約がある経済では、そうした資産は担保としても有用だ。 すると、資産(担保)の価格が上がれば上がるほど、信用も大きくなると同時に、信用が大きくなればなるほど、市場を通じて資産価値にも影響を与えるという相互作用が生まれる。これを何とか理論化しようした。 具体例を挙げたほうがわかりやすいだろう。たとえば日本では、1980年代後半に円高不況を受けて金融緩和が進み、同時に日本経済の将来に関して楽観的な期待が広がり、株や不動産などの資産価格が上昇を続けた。そうすると、お金を借りている人は資産(担保)価値が上がれば信用枠が大きくなるため、よりたくさんのお金を借りられるようになった。 一方で「負債のテコ作用」というものもある。たとえば、資産の50%を借金で賄っている人は、資産価値が10%上がると、負債を除いた純資産価値(資産−負債)は大体20%上がることになる(金利を無視すれば負債価値は一定のため)。 通常の経済学では、価格が上がれば需要は減るのだが、以上の2つの作用(担保価値の上昇による信用力の向上と負債のテコ作用)から、資産価格が上がると、純資産価値はそれ以上に増えてもっと借りられるようになるので、信用枠いっぱいまで借りている主体では「価格が上がると、需要は増える」という逆説的なことが起こる。 そういう企業や家計が借り入れをして資産をどんどん購入すると、純資産価値は今期だけでなく、来期も再来期も増えるだろうという予想が生まれてくる。そして、それが今期の資産価格にさらに跳ね返ってくるという増幅作用が働く。こうしたことを理論化したのが、清滝=モーアモデルだ。) Q:このモデルは、資産デフレの説明にも使えますね。 A:上昇にも使えるし、収縮にも使える。たとえば、日本銀行がバブル経済に対応して1990年から金融引き締めを本格化すると、(価格上昇から価格下落へ)逆回転を始めた。 資産価格の上昇のことを「バブル」と考える人がいるが、先ほど話したように、僕たちはそれを増幅作用と、資産に担保価値が乗っているという形で考える。そして、信用枠いっぱいまで借りている主体の純資産が一度増えると、資産需要増が続くため、景気が持続する面もある。 それがマイナス方向の場合には、いったん信用を制約された主体の資産需要が縮小すると、回復に時間がかかる。資産需要の停滞が長引くと予想されると、信用の制約のない主体(たとえばウォーレン・バフェットなど)も価格が低くなければ買わないので、現在の資産価格は大きく下落する。 借り手の純資産はテコ作用でさらに大きく減少するため、資産価値の下落、信用や生産の縮小が進行してしまう。多分、日本の人々にはなじみが深いのではないか。 Q:いやというほど味わいました……。 A:(著名な官庁エコノミストの)香西秦さんには、「昔、自分がこうした話をすると理論に基づいていないと文句を言われたものだが、こうしてきちっと理論化してくれたのでとても助かる」と言っていただいたことがある。 今まで直感的に理解していたことを、目に見える形にして、何が前提条件でどこが肝心のメカニズムなのかということを示すのが重要だ。その分析を数式で表現し、理論的に整合的に説明したことが僕たちの貢献だと思う』、「バブル」は通常の経済学では説明がつかないが、「清滝=モーアモデル」なら説明できるというのは画期的だ。まさに、今後のノーベル経済学賞候補にふさわしいようだ。

第三に、本年5月2日付け日経ビジネスオンラインが掲載した大阪大学大学院経済学研究科准教授の安田 洋祐氏による「ビジネススクールでも教えてくれない、武器としての経済学」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00448/042500003/
・『最新の経済学は、米グーグルや米アマゾン・ドット・コムをはじめ、多くの米国企業で導入されています。しかし日本に目を向けてみれば、直感、場当たり的、劣化コピー、根性論で進められている仕事も少なくありません。なぜ米国企業は、経済学を積極的に採用しているのか。本当に経済学はビジネスの役に立つのか。役立てるにはどうしたらいいのか。『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。 仕事の「直感」「場当たり的」「劣化コピー」「根性論」を終わらせる』 から一部を抜粋し、著者の1人、安田洋祐氏がビジネスと経済学の掛け合わせによる新しい可能性を探ります。1回目は、従来、近くて遠い存在であった経済学とビジネスの新しい可能性について』、「ビジネスと経済学の掛け合わせによる新しい可能性」とは興味深そうだ。
・『経済学は、本当は仕事に役立つ学問  「経済学」という学問は、今、日本社会で活用されている以上に、本当はもっとビジネスに役立つ学問です。ただもしかしたら、みなさんの中には「学問は、ビジネスにはほとんど役に立たない」──もっというと「学問は、暮らしや社会には、直接的にも間接的にもほとんど関わりがない」と感じている方もいるのではないでしょうか。 特に、人文科学や社会科学の場合は、何かしらの学問分野を学び、「賢くなった」「ものの見方や考え方が変わった」という形で、得るものはあっても、それで自分の仕事がうまくいったり、日々の暮らしがよくなったりすることはないんじゃないか。そう感じる方も少なくないと思います。 学問というのは、机上で学ぶだけでなく、学んだことを実社会のなかで使ってこそ、その真価は発揮されます。一方で、多くの学問について、学んだ内容を役立てるために欠かせない、肝心な使い方まではきちんと伝わっていないようにも感じます。とりわけ、わたしが専門とする経済学は「実社会において非常に役立つ武器であるにもかかわらず、その真価をあまり発揮できていない学問」の最たるものではないか。そう強く感じています。 ここであえて「武器」という強い言葉を使いましたが、それはもちろん、他人を攻撃したり、何かを破壊したりするという意味ではありません。真意は「暮らしの改善や利益の拡大に役立つ心強いツール」ということです。あと、本物の武器と同じように、ライバルより先に使うと有利になるという意図も込められています』、「経済学は「実社会において非常に役立つ武器であるにもかかわらず、その真価をあまり発揮できていない学問」の最たるものではないか。そう強く感じています」、経済学者の責任でもあるのではなかろうか。
・『「経済学は役に立たない」と言われる理由  武器は、その仕組みや、それが何に使えるのかを知っているだけでは、役に立ちません。当たり前ですが、実際に使ってみて初めて役に立ちます。 この「使う」という視点は、経済学の教育で乏しいように思います。「知る」とか「理解する」でとどまっているのですね。経済データの扱い方を知るとか、市場の仕組みを理解するというように。いわば教科書できれいなサイエンスを学ぶことで止まっている。そこから一歩踏み込んで、現実の問題を解決していく。実は、経済学はそれができる段階にとっくに達しています。 もちろん現実で起こる出来事は、教科書に書かれていることと同じではありません。似ているものはあっても、完全に同じものはない。きれいなサイエンスは、現実を把握するための物差しとしては非常に有用ですが、それだけでは対処できないのです。 例えば、わたしはある野菜の市場設計に携わったことがあります。教科書の市場理論は、もちろん役に立ちます。しかし教科書のなかでは、どんな商品も一緒くたに「財」として扱われてしまう。野菜もボールペンも、どれも「財」として抽象的に扱われるのです。 しかし野菜の市場設計を考えるためには、野菜ならではの難しさを考慮しなければいけません。具体的には、野菜は放置すると腐るから、受け渡し場所は冷蔵施設があるところにしようとか。決められた納期を守るために、物流もきちんと確保しなければいけないとか。農家のなかにはIT機器の操作に慣れていない人もいるので、ごく簡単な操作で、それなりによい取引ができるルールにしようとか。 つまり、個別の問題に向き合って解決していく必要があるわけです。これはサイエンスというよりは、エンジニアリングという言葉のほうがしっくりきます。「サイエンスで問題に接近していき、エンジニアリングで解決する」というイメージですね。 現在の大学の経済学教育では、このエンジニアリングに関する要素が決定的に欠けているように感じます。ほとんど教えていない、という大学も少なくないでしょう。サイエンスは大切ですが、それだけではバランスがよくありません。 経済学を実社会において役立てるためには、「サイエンス」と「エンジニアリング」の両方が必須です。そして、経済に関する「サイエンス」と「エンジニアリング」を合わせたものが「武器としての経済学」なのです』、「経済に関する「サイエンス」と「エンジニアリング」を合わせたものが「武器としての経済学」なのです」、経済にも「エンジニアリング」があるとは初めて知った。
・『日本企業はなぜ経済学者を雇わないのか  自然科学では、エンジニアリングの重視は当たり前です。経済学は歴史が浅く、本格的に科学となったのはおそらく20世紀半ばくらいでしょうか。最近ようやくエンジニアリングを重視できる段階に入ったのだと思います。 細かいことをいうと、2002年にアルヴィン・ロス氏という学者が「The Economist as Engineer」という論文を公刊し、それが学界のムードを変えました。 「えっ、ムードってなに?」と思われるかもしれませんが、雰囲気って大切なんですよ。学問は人間がつくっているもので、自分はどういうものをつくるか、他者がつくったどういうものを評価するかに、学界のムードは大きく影響するんですね。 ロス自身、エンジニアリングな経済学を発展させてきた人です。彼は腎移植マッチングや研修医制度の設計などで多大な貢献をして、2012年にノーベル賞を授与されています。 話を戻しましょう。エンジニアリングな経済学の歴史はまだ若いです。特にいま日本社会の中枢にいる年代の人は、よほど学び続けている方でない限り、エンジニアリングな経済学をほぼご存じないでしょう。経済学部出身の方でも、ほとんどキャッチアップできていないのではないでしょうか。厳しい言い方になってしまうかもしれませんが、だからこそ、いまだに経済学が日本企業の武器になっていないのです。 わたしが残念に思うのは、もし企業が経済学博士を積極的に雇用したり、ビジネスパーソンと経済学者が幅広く人事交流する機会があったりしたら、エンジニアリングな経済学はもっと早く日本社会に広まっていたであろうことです。 もちろん、こうした流れを生み出せなかった責任は、サイエンス教育にばかり特化して、エンジニアリングを疎(おろそ)かにしてきた大学にもあります。この点では、日本は米国に少なくとも20年は後れをとっています。では、この状況を変えるためにどうすればよいのでしょうか』、「責任は、サイエンス教育にばかり特化して、エンジニアリングを疎(おろそ)かにしてきた大学にもあります。この点では、日本は米国に少なくとも20年は後れをとっています」、「米国に少なくとも20年は後れ」とは致命的だ。
・『まずは「ざっくりとした知識」で十分  このようにお伝えすると、「経済のサイエンスとエンジニアリングをいまから勉強する、の……?」と思って、ゲンナリされた方もいるかもしれません。 ですが、ご安心ください。足りなければ、すでに経済学のサイエンスとエンジニアリングを身につけている仲間を加えればいいのです。「経済学の父」とも呼ばれるアダム・スミスが説いた「分業の利益」を思い出してください。1人で、あるいは自社で全部行う必要はありませんし、それは多くの場合、むしろ非効率でしょう。「サイエンス」と「エンジニアリング」の両面から経済学をビジネスに役立てる、そのために経済学者がいるのです。 手前味噌に聞こえるかもしれませんが、経済学者を事業チームに引き入れるのは、現状を変える有効な手段です。役に立つ武器をもっている専門家を仲間にして、自分たちで使っていくわけですね。 その際には、経済学だけでなく、経済学者をうまく使うことが大切です。例えば、『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。』の共著者のうち、唯一のビジネスパーソンで、わたしを含む多くの経済学者を使ってきた今井さんは、経済学者とビジネスパーソンとで、「先生と生徒」の関係にならないことが重要だと強調していました。つい経済学者を「先生」のようなポジションに置いてしまいがちですが、そうすると「生徒」側はビジネスの事情や性質を「先生」に教えにくくなってしまうといいます。 ビジネスパーソンに求められるのは、経済学や経済学者が、個別のビジネス課題に対して、どのような形で役に立つのか、そのざっくりとしたイメージをつかむこと。それができていれば、ニーズが生じたときに、適切な経済学者を見つける「仲間さがし」もきっとうまくいくはずです。 経済学がビジネスにとってどんな武器となり得るのか、経済学者がビジネスにどんな価値を提供できるのか、という少し具体的な提案は、これからのこの連載で、お伝えしたいと思います』、「経済学者とビジネスパーソンとで、「先生と生徒」の関係にならないことが重要だと強調していました。つい経済学者を「先生」のようなポジションに置いてしまいがちですが、そうすると「生徒」側はビジネスの事情や性質を「先生」に教えにくくなってしまうといいます」、なるほど。 「ビジネスパーソンに求められるのは、経済学や経済学者が、個別のビジネス課題に対して、どのような形で役に立つのか、そのざっくりとしたイメージをつかむこと」、「少し具体的な提案は、これからのこの連載で、お伝えしたいと思います」、今後の展開が楽しみだ。
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