スタートアップ(その7)(「会社辞め 起業したい人」に学んでほしい7大失敗 事業を失敗に導く人の姿勢には共通点がある、ユニコーン不足の日本 なくせるか「起業家に不利な金融契約」、日本経済が世界から遅れる原因作った「真犯人」 なぜこんなにも新興企業が少ないのか) [イノベーション]
スタートアップについては、2020年4月29日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その7)(「会社辞め 起業したい人」に学んでほしい7大失敗 事業を失敗に導く人の姿勢には共通点がある、ユニコーン不足の日本 なくせるか「起業家に不利な金融契約」、日本経済が世界から遅れる原因作った「真犯人」 なぜこんなにも新興企業が少ないのか)である。なお、タイトルを「ベンチャー」から「スタートアップ」に変更した。
先ずは、昨年5月6日付け東洋経済オンラインが掲載した新規事業家の守屋 実氏による「「会社辞め、起業したい人」に学んでほしい7大失敗 事業を失敗に導く人の姿勢には共通点がある」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/464429
・『コロナ禍で独立や副業を考える人が少なくありません。ただ、「あらかたの起業は失敗する。その中で、粘り強く頑張っていくのには意志が不可欠だ」と語るのが、52の事業をおこしてきた新規事業家の守屋実氏です。『起業は意思が10割』の著者である守屋氏が自らの経験を基に、独立起業の成功例とよくある失敗例を解説します』、「52の事業をおこしてきた」とは興味深そうだ。
・『社会がどんどん変わる中で求められる人材も変わる 人生100年時代の中で何歳まで働くかは、すべての人において大きな課題といえるでしょう。そこで知っておいてほしいことは、日本の企業の平均寿命は30年もたないということです。東京商工リサーチの調査によると、2020年に倒産した企業の平均寿命は23.3年でした。 一般的によく言われている企業の平均寿命30年説をベースに考えると、20代で就職し、30年勤め上げて、50代くらいで会社がなくなるということを意味します。何の準備もしていないでその時点で放り出されることを考えると怖さも感じます。 また、「大企業だから安泰」ということでもありません。先日、長年JRに勤務してきた方が、「50代の私もこのままいけるとは思えない。40代、30代はましてそうだ」と語っていました。コロナ禍となり、大企業の安定はいっそう揺らいでいるといえるのです。 企業が何を考えているかは、自分(社員)ではなく、企業を主語に考えるとわかりやすいです。僕は、「企業の帽子をかぶって考えてみよう」という表現をよく使います。 社会がどんどん変わる中で、事業の転換も求められるようになります。それに合わせて、求められる人材も変わっていきます。この道20年、30年と染まりきった人を変えるよりは、何物にも染まってない20代の若手を採用したほうがてっとり早いと、企業が考えてもおかしくはないでしょう。 高度経済成長期には、年齢とともに役職も給料も上がっていきました。こうした時代は、1社で勤め上げる幸せもあったでしょう。しかし、現在は上の役職が詰まり、10年働いてもその組織で自分が一番下ということがありえます。また、管理職になったものの、部下はいないというケースもありえます。 現在は「昭和96年」ではなく、平成も終わり、令和の時代になっています。環境が大きく変わる中、昭和と同じ働き方を続けるよりは、もっと自分に合った働き方をしたほうが個人にとっても幸せではないでしょうか。 今は、SNSでは簡単に誰とでもつながれますし、隙間時間にリモートで仕事をすることもできます。組織の中にいると、「自分なりの課題意識を持って動く」という習慣がつきにくい。むしろ、そうした行動が抑制される力が働きがちです。 しかし、考えて行動し、従来の仕事の概念から飛び出したほうが、結果的に会社にとっても個人にとってもプラスのことが多いのではないかと僕は考えています』、「2020年に倒産した企業の平均寿命は23.3年」、一般的企業の「平均寿命」はもっと長いと思われる。「考えて行動し、従来の仕事の概念から飛び出したほうが、結果的に会社にとっても個人にとってもプラスのことが多いのではないか」、同感である。
・『重要なのは「会社のプロ」から「仕事のプロ」への展開 これからの時代に重要なことは、「会社のプロ」から「仕事のプロ」に転換することです。「仕事のプロ」とは、1つの仕事を極めて何社からも依頼がくる存在のことです。弁護士や医師などはわかりやすい例でしょう。ちなみに、僕は「起業(新規事業)のプロ」です。「会社のプロ」は1社の名刺で(社内で)たくさんの仕事をしますが、今後は複数の名刺で1つの仕事をすることが求められます。 自分の好きや得意を生かすという視点に立つと、「仕事のプロ」へのヒントが見つかるかもしれません。よく「自分には特別なことは何もない」とおっしゃる方がいますが、「20年間自動車メーカーで働いている」「10年間経理部にいる」といった経歴があれば、十分にその道のプロであるはずです。 「仕事のプロ」のほうが自分を生かすことができ、純粋に楽しいですし、さらに1社でうまくいかなくても複数社と関係性を構築しているという意味でリスクも少ないと思います。 こうした「仕事のプロ」になるために踏まえておいたほうがよいことは、大きく3つあると考えています。 1つ目は、「人は考えたようにはならず、行ったようになる」ということです。起業に向けて勉強することは大切です。しかし、セミナーに行くことや本を読むことをずっと続けていれば、「セミナーに行き本を読む人」になります。「仕事のプロ」になろうと思うのであれば、小さなところから動いてみることです。 副業が許されているならば、どんどんやってみればいい。許されていないのであれば、無報酬でNPOに参画したり、起業した人の手伝いをしてみたりしてもよいでしょう。「行ったように人はなる」ので、自分がやりたいことに直結する動きをすることが重要です。 2つ目は、「特定の領域において想定しうるすべての失敗を経験した人をプロという」ということです。挑戦には失敗がつきものなので、「失敗しないようにしたい」と思っているとプロにはなれません。大事なことは、失敗しても挑戦をやめないことです。失敗をしながらも継続していくことで量稽古を積んでいくと、「初見でも既視感」という域に達することができます。これは、複利の恩恵ともいえるでしょう。 3つ目は、「意志ある先に道は拓ける」ということです。簡単にいうと、「仕事のプロ」になるという意志を持ち続けるということです。) 私は「起業のプロ」ですが、起業が簡単なことだとは思いません。それどころか、あらかたの起業は失敗します。その失敗の中で、粘り強く頑張っていくのには意志が不可欠です。ときどき、「強い意志を持つほどの原体験がありません」という方がいます。 しかし、僕はどんなものでも原体験にはなりうると思うんです。例えば、「顧客からこんなことを言われた」「家族と話していたらこんな話題になった」といったことが事業につながることもある。意志の資源となるものは、意識をすればいくらでも転がっているのです。 実際に、意志を持って会社から独立した方のエピソードをご紹介します。障害のある方に特化したBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)プラットフォーム「NEXT HERO」を運営しているVALT JAPAN(ヴァルトジャパン)の事例です。 2014年に創業したヴァルトジャパンは、データ入力や清掃、部品の検品などの仕事を企業や自治体から受注し、全国の就労継続支援事業所に発注する仕組みを作っています』、「「会社のプロ」から「仕事のプロ」に転換することです。「仕事のプロ」とは、1つの仕事を極めて何社からも依頼がくる存在のことです」、これは「会社」で「仕事」をしている人にはすぐには難しい。
・『精神疾患の患者会で受けた衝撃 代表の小野貴也さんは、もともと製薬会社でMRをしていました。ある時、小野さんは精神疾患の方々の患者会に参加します。そこで、小野さんは衝撃を受けます。多くの方が「仕事の成功体験がなくてつらい」という話をしていたからです。 それまで小野さんは、効果の高い薬を使ってもらうことで、患者の方のQOLを上げられると考えていました。しかし、大事なことは薬を使ってもらうことではなく、仕事における成功体験を積んでもらうことなのではないか、と思うようになったのです。 調べると、病気から復活し再就職しても仕事を軌道に乗せられず、ふたたび病気を繰り返している方が多いことや、就労継続支援事業所の平均月給が1万円台(B型事業所)であるということなどがわかってきました。さらには、少なくない企業が障害者法定雇用率2.3%を達成できず、納付金を支払っている現状も見えてきました。つまり、障害のある方が仕事で充実感を得る場が極端に少ないことがわかったのです。 そこで小野さんはヴァルトジャパンを立ち上げます。「誰かに喜んでもらいたい」「もっと社会に貢献したい」という障害者の方の純粋な気持ちを、「仕事」を通じて叶えたいという意志が起業の根底にはありました。 ヴァルトジャパンは、就労継続支援事業所が自ら営業をしにくいという課題を解決したり、間に入り民間企業の求める発注に安定的に応えられるよう品質管理をしたりといった責任を負いました。これにより、企業と事業所の双方が安心して受発注を行うことができるようになりました。) とはいえ、小野さんの事業は最初から順風満帆にいったわけではありません。初めのうちは全国の就労支援事業所に電話やFAXをして登録を促し、民間企業にも説明を続けました。その中では、無下に断られることも1度や2度ではありませんでした。 また、当初は納品する商品の質にムラがあることもしばしばあり、小野さん自身が手を動かし埋め合わせることもありました。他にも、資金調達の際には銀行やVC(ベンチャーキャピタル)に、「事業としてスケールするイメージが持てない」という理由で断られることが続きました。 しかし創業して7年が経った現在では、ヴァルトジャパンは1000件の事業所が利用し、ワーカーは1万2000人にも及んでいます。 受託案件も1500件を超えました。平均月給も、国は10年間で約1万2000円から約1万6000円まで引き上げるのが精一杯だったのに対し、ヴァルトジャパンは3カ月で約4万5000円にまで向上させることができました。加えて、直近では2億円の調達にも成功したのです』、「ヴァルトジャパン」は「創業して7年が経った現在では・・・1000件の事業所が利用し、ワーカーは1万2000人」、「受託案件も1500件を超えました」、はいいとしても、「平均月給」は低過ぎる印象だ。
・『意思ある先に道が拓けることを実感 僕は小野さんの奮闘を横でサポートしていて、意志ある先に道が拓けるということを改めて痛感したのでした。 独立起業の成功例としてヴァルトジャパンをお伝えしましたが、続いて、よくある失敗例を紹介しましょう。僕は、事業を失敗に導く姿勢やマインドを、「7つの大罪」と呼んでいます。 【事業を失敗へ導く7つの大罪】 第1の大罪 意志なき起業→意志がなければ、挑戦もできず、たくさんの失敗を乗り越えることもできない。 第2の大罪 経験なき理屈→自分で経験せずに手軽に理屈で学ぼうとすると、つまずく。大事なのは行動し、体験から学ぶこと。 第3の大罪 顧客なき事業→顧客に価値を生む視点がなければ、モノあふれの時代ではうまくいかない。 第4の大罪 熱狂なき業務→「目の前の業務をこなす」という感覚では、顧客に熱は届かない。 第5の大罪 挑戦なき失敗→挑戦して失敗するどころか、挑戦もしないケースが多い。100%安全な起業や新規事業はありえない。 第6の大罪 利他なき利己→自分を守ろうとする保身やことなかれ主義からは、新たな価値は生まれない。起業で必要なのは利他の視点。 第7の大罪 自問なき他答→大切なのは誰かに答えをもらうことではない。重要なのは、他人の答えに頼らずに、自ら問い、考え、行動をすること。 中でも、最も多い失敗は、「挑戦なき失敗」ではないかと思います。例えば、ヴァルトジャパンの小野さんの成功の陰には、無数の挑戦なき失敗者がいます。多くの人が「こんなサービスあったらいいのにな」「この状況、なんとかならないかな」と感じますが、自分で解決しようと行動を起こす人は1%もいないのではないかと思います。 さらに、ほとんどの人が度重なる苦戦に「やっぱり難しいな」と諦めてしまい、小野さんのように失敗しながらも7年間頑張り続ける人はやはり1%ほど。「1%×1%」、つまり計算上では1万分の1の確率になる、ということです。まさに「挑戦なき失敗」です。この事例から、挑戦の継続が重要であることがおわかりいただけたのではないでしょうか』、「挑戦の継続が重要」、その通りだ。
・『顧客が何を求めているかを知ることが大事 また、さまざまな方から事業計画の説明を受けている中で「顧客なき事業」の失敗も散見されます。モノ不足の時代には、大量に色々なものを提供すれば顧客がつきました。 しかし今は、商品・サービスが腐る程ある時代です。「ただ作れば売れる」という時代ではありません。こうした社会で大事なことは、顧客が何を求めているかを知ることです。それは、ネットで情報を集めたり企画書を綿密に書いたりするだけでは不十分です。 大事なのは、顧客のところに何度話を聞きにいったかであり、実際に何度価値提供を試みることができたかです。顧客の役に立たないことがわかったら、ピボット(方向転換)することも視野に入れなければいけません。 これからもっと起業する人は増えていくでしょう。その際には、ぜひこの「7つの大罪」を踏まえて歩み出してください。コロナ禍で多くの課題が顕在化した今こそ、多くの起業が求められています。とはいえ、すぐに大きなリスクを背負って独立しろとはいいません。 まずは、「仕事のプロ」となるべく、意志を持って、自身をどう社会に生かしていくかを考えていってはいかがでしょうか』、「まずは、「仕事のプロ」となるべく、意志を持って、自身をどう社会に生かしていくかを考えていってはいかがでしょうか」、同感である。
次に、4月25日付け日経ビジネスオンライン「ユニコーン不足の日本、なくせるか「起業家に不利な金融契約」」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00030/042200360/
・『経済産業省はこのほど「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」を公表した。新興企業への国内投資額は2021年に7801億円と、過去5年で3.1倍に拡大。年間1兆円の大台が視野に入ってきたが、米国の42兆円、中国の13兆円と比べてまだ小規模だ。日本企業の新陳代謝が遅れ、国際競争に負けるという危機感がある。 経産省のガイダンスではスタートアップ企業が資金調達の際に投資家へ説明すべき事項、適正に企業価値を算定できない場合の影響、ベンチャーキャピタル(VC)や経営者の持ち分比率についての考え方など、創業前からのステージごとに注意点を列挙した。3月に公正取引委員会と示した指針と併せ、円滑なマネー供給を促す狙いだ。 未上場で企業価値が10億ドルを超える「ユニコーン」は米国で520社、中国で167社なのに対し、日本は6社しかない(それぞれ2月時点の集計)。電子決済やデータ活用などIT(情報技術)系で米中やインドのユニコーンが拡大した一方、日本は国際的に活躍する新興企業が限られている。 (図:主要国のユニコーン企業) 2022年2月時点 (出所:経団連資料から作成) 経産省の動きに合わせて経団連は3月、2027年までに日本のスタートアップ企業数を現在の10倍の約10万社、スタートアップへの年間投資額は約10倍の10兆円規模にする目標を掲げた。この達成へと突破すべき壁として、経産省と同様にファイナンス問題に目を向けている。運転資金や設備投資が必要なのは言うまでもないが、出資者による経営への関わり方が成長を大きく左右するためだ。「日本の若者は保守的」と決めつけるのでなく、そもそも日本だと萎縮しやすい制度になっていないか今こそ検証と改革が求められる。(図:年間1兆円の大台が視野に) 国内スタートアップへの投資額 (出所:ユーザベース,「2021年 Japan Startup Finance」) 経団連の副会長であるディー・エヌ・エーの南場智子会長は「日本の企業価値トップ10社を見ると、創業時にVCが支援してからこの規模に成長したケースが1件も入っていない」と、記者会見で嘆いた。世界だと企業価値トップ10社のうち、米アップルやマイクロソフトを含む8社は上場前にVCが支援していた。「日本のVCも頑張ってゼロからここまで成長してきたが、『もっと大きな成功を収めよう』と誘っていけるキャピタリストはどれほどいるのか」(南場氏)』、「未上場で企業価値が10億ドルを超える「ユニコーン」は米国で520社、中国で167社なのに対し、日本は6社しかない」、確かに致命的な格差だ。
・起業家の金融リスク 多くの新興企業はブランド力や豊富な独自資金などがない状態で立ち上がるので、どうしても金融機関のほうが「優越的な地位」にはなりがちだ。経産省の指針では投資契約を結ぶとき、起業家にとって「不利な条項が少ない形で締結することが重要」と指摘した。そもそも不利なことが複数あるという前提なのだが、できるだけ抑制することを目指している。特に、起業家が個人として抱えるリスクの大きさが課題という。 例えば、ミドリムシからバイオ燃料や健康食品を作っているユーグレナ。出雲充社長に創業時の話を聞くと「オフィスに置くコピー機のリースでさえ、私の個人保証だった」と振り返る。ただ、こうしたリース債務や借入金のような明らかな負債だけが責任の対象となるのではない。出雲氏は「エクイティファイナンス(株式発行による資金調達)も、日本のスタートアップ資金調達だと真のエクイティとは言えない」と苦言を呈する。 業績が悪くなったりVCにとって不都合が生じたりした場合、スタートアップ側が株式を買い戻すように求められるからだ。創業から間もない会社は、最悪の場合に売却して現金化できる設備が少なく、累積赤字が拡大している場合もある。実質的に起業家の個人保証となっており、第三者割当増資や株主割当増資であっても、エクイティのはずがデットファイナンス(借り入れ)に近い性格といえる。 公正取引委員会と経産省はこれを問題視している。経営状態が良好でも、出資者が「起業家への買い取り請求権」をちらつかせて搾取することもあるという。例えばある企業は出資者と定めた計画どおりに事業を進めていたが、知的財産権を出資者に無償譲渡するよう求められた。これに応じなければ、出資者から企業側が株式を買い戻すよう迫られる状況だったため、やむなく知財を譲渡した。ここまでくると独占禁止法上の「優越的地位の濫用(らんよう)」に当たるおそれがあるというが、他にも不透明な理由で買い取り請求権が行使される例は散見されるという。 VCなどからスタートアップが出資を受けるとき「もし将来の契約違反があれば、その時に損害賠償請求すれば十分ではないか」と交渉することもできる。ただ、何らかの経営判断と業績の因果関係を立証し、損害額を算定するのは手間がかかる。このためVCが手っ取り早く起業家の行動をコントロールする手段として、買い取り請求権を設定しておくことが多いという。創業期の企業だと法務チームがなく、「弁護士等の専門家に相談する余裕もない状況で契約する」(経団連の分析)という状況も課題だ。 スタートアップでは起業家が過半の株式を保有した状態で、取締役会で大きな影響を及ぼすことも多い。ただ、起業家とその会社を一体とみなして連帯責任を求める出資契約の条項については、「グローバルな観点からはあまり例が無い」(公取委と経産省の指針)。過度に責任を求めると起業を増やせないため、VCなどによる買い取り請求権の対象は会社そのものに限定し、経営者個人には設定しないよう求めている』、「VCなどからスタートアップが出資を受けるとき「もし将来の契約違反があれば、その時に損害賠償請求すれば十分ではないか」と交渉することもできる。ただ、何らかの経営判断と業績の因果関係を立証し、損害額を算定するのは手間がかかる。このためVCが手っ取り早く起業家の行動をコントロールする手段として、買い取り請求権を設定しておくことが多いという」、株式なのに「買い取り請求権を設定」する理由が理解できた。
・『大企業も課題 複数の政府関係者は「既存の大企業も、スタートアップ育成に向けた課題が多い」と語る。実は産業界に対し、新興企業への支援策をさらに具体的に打ち出すよう求める声も政府内にあった。ただ、積極的にリスクを取ることに慎重な大企業も多い。なかなか一枚岩にはできなかったという。 ここ数年、大企業がスタートアップに投資する社内組織としてコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)を活用する例も増えてきた。しかし、1件あたりの投資額はまだ限定的で、買い取り請求権についても起業家にとって不利なケースがあるという。経産省は「CVCが急速に増加する中でスタートアップの成長について理解が不足したまま、自社の優位性を確保する商慣行が生じていたりする」と指摘する。 そもそも事業会社は金融機関ではないので、他社に大規模に出資してハンズオンで関わっていくような専門人材は多くない。南場氏は「大企業がマイノリティー出資をするというより、事業会社として自社内に取り込むM&A(合併・買収)を積極化して、スタートアップのエコシステムに貢献してほしい」と提言する。 日本のVCにとってイグジットの選択肢が少ないことは、前々から課題として指摘されてきた。大企業への株式譲渡が盛んではないため、国際的には小粒の状態でも投資先を新規上場(IPO)させて利益を確定する。起業家もVCも「世界的な大勝ち」を狙いにくく、出資時にせせこましい契約条件を付ける背景にもなっている。スタートアップへのくびきを少なくしつつ資金を循環させるには、大企業の取り組みも欠かせない』、「事業会社として自社内に取り込むM&A・・・を積極化」してゆけば、確かに「スタートアップ」への「資金を循環」が円滑化する可能性がある。
第三に、5月26日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)のリチャード・カッツ氏による「日本経済が世界から遅れる原因作った「真犯人」 なぜこんなにも新興企業が少ないのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/591483
・『世界の「SONY」や「HONDA」を生んだ時代のように、日本を再びスタートアップの国にするという目標は、岸田文雄首相が5月5日に行われたロンドンでの講演で発表した4つの目標のうちの1つであった。 「ですから、日本に再び創業ブームを起こすことが、私の切なる願いです」。賞賛に値する目標である。しかし、歴代の首相も高い目標を掲げてはきたが、残念ながら実現に必要な施策を打つことはできなかった。岸田首相はそうならないことを期待したいが……』、興味深そうだ。
・『スタートアップが必要なワケ より多くのスタートアップを生み出すための提案について論じる前に、なぜスタートアップが重要なのか、そしてなぜ日本は遅れを取っているのかを確認したい。 「スタートアップ」や「アントレプレナー」という言葉を聞くと、ベンチャーキャピタル(VC)の資金を投入されたシリコンバレーにあるハイテク企業を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、シリコンバレーにあるハイテク企業の数はわずか2000社である。 一方、OECDの統計によると、アメリカには毎年5万社以上の高成長企業(従業員10人以上で、3年連続で年率20%以上の成長を遂げた企業)が存在する。韓国は1万6000社、イギリスは1万3000社、フランスは1万社である。このうちハイテク企業はごく一部で、VC資金を得ている企業は極めて少ない。日本ではこのような企業の数を測定していないため、日本のスタートアップ政策は盲目的に行われている。 国民の生活水準を向上させるためには、成長性の高い中小企業を継続的に創出していくことが不可欠だ。1980年代から1990年代にかけてのアメリカでは、設立5年未満の企業の参入と、効率の悪い老舗企業の閉鎖によって、就業者当たりの製造業生産高の成長率60%という驚くべき結果がもたらされた。 一方、1980年以降、アメリカの新興企業の起業数が鈍化したときに何が起きたかを考えてみていただきたい。2015年までに、就業者1人当たりの生産高は1980年の起業数であったときと比較して3%低くなり、平均家計所得は1600ドル低下した。長年にわたる所得喪失の総額は何倍にも膨らんだ』、「日本では」「高成長企業(従業員10人以上で、3年連続で年率20%以上の成長を遂げた企業)」「のような企業の数を測定していないため、日本のスタートアップ政策は盲目的に行われている」、政策的に重要になったにも拘らず、統計が存在しないとはお粗末極まる。恐らく、官庁間の利権争いが背景にあるのだろう。
・『設立後最初の10年間の成長が低調 残念ながら、日本では高成長している中小企業の数があまりにも少ない。それが、実質世帯所得(価格調整済み)が1995年以降低迷を続けている理由の1つである。日本には数多くの中小企業があるのは確かだが、創立後最初の10年間の成長はOECD諸国の中で最も低調で、老舗中小企業の数がOECD諸国の中で最も多い。 おそらく最大のハードルは、意欲的な若い企業が事業拡大に必要な融資を受けられないことだろう。また、岸田首相が挙げた技術や人的資本という2つの問題も、中小企業の成長を妨げている。 しかし残念ながら、岸田首相もスタートアップを語るとき、VC出資企業の魅力に魅了されすぎているようだ。例えば、岸田首相のプランを推進するため自民党内に結成されたスタートアップ議連は、2027年までにVC投資額を10倍の10兆円(770億ドル)にすることを目標としている。このようなVC投資は魅力的だが、VCから投資を受けた企業だけが注目されるべきではない。 3月には経団連がほぼ同じ内容の提言を出しているが、その内容はシリコンバレー型ベンチャーに終始している。しかもスタートアップ議連の提言では、スタートアップの企業数を10倍に増やすとしている。 しかしこれでは、1社当たりの投資額は現状と変わらず、諸外国と比較してかなり少額になってしまう。そのため、スタートアップ議連の中心人物である平井卓也・前デジタル化担当相がPensions & Investmentsに対して語った、日本は「エンジェル」投資家に対する減税措置も必要であるとの発言は心強い。 エンジェル投資家とは、ベンチャー・キャピタルの資金を必要としない、あるいは資金を得られない革新的な企業に「種銭」を出資する投資家である。平井氏は、具体的なことは何も語らなかった。関係者によると、平井氏のさまざまな提案は、少なくとも部分的には、岸田首相のプログラム作成に携わった政府関係者との議論を反映している可能性が高いという』、「日本は「エンジェル」投資家に対する減税措置も必要であるとの発言は心強い」、しかし財務省が抵抗している筈だ。
・『「華やか」なことが重要なわけではない 岸田首相は、技術に関しても華やかさを追い求めている可能性がある。首相は5つの分野における「国家戦略」を提案したが、その1つ目として挙げられたのが人工知能(AI)だ。これは、超伝導技術やナノテクノロジーを成長の特効薬と考えた過去の戦略と似ている。日本企業は既存の技術すらうまく使いこなせていないのだから、この優先順位は見当違いのように思える。 国の成長を最も後押しするのは、デジタル機器を製造する少数の企業ではない。たとえデジタル技術やソフトウェアが輸入品であったとしても、デジタルを活用して自社を向上させることができる他多数の企業である。 新興企業は老舗企業よりも、新技術を活用して経済全体の成長を促進する手段を開発する可能性が高い。例えば、ネット印刷を手がけるラクスルはネットを利用した宅配便のオークションシステムを構築した。 これによって、配達員の1キロ走行あたりの配達荷物数を大幅に増やすことができた。配達員の収入アップと顧客のコストダウンを達成しただけではなく、地球温暖化防止にも貢献している。このような企業が何万社も生まれたとき、日本は復活を果たすだろう。 日本と諸外国、そして日本の大企業と中小企業の間に存在するデジタル・デバイドは、もはや深い溝と化している。IMD(国際経営開発研究所)は、日本のデジタル競争力を64カ国中62位と評価した。 日本の高校生は数学、科学、共同問題解決能力において80カ国中トップクラスに位置する一方で、デジタルに関する教師の知識、デジタルを教える能力、そして教師を支援するリソースにおいては最下位に位置していることが、この低い順位の1つの要因だ』、「IMD・・・は、日本のデジタル競争力を64カ国中62位と評価」、「日本の高校生は数学、科学、共同問題解決能力において80カ国中トップクラスに位置する一方で、デジタルに関する教師の知識、デジタルを教える能力、そして教師を支援するリソースにおいては最下位に位置していることが、この低い順位の1つの要因だ」、主に「教育面」の立ち遅れが主因とは情けない限りだ。
・『デジタルスキルの教育がない残念さ 政府の教育アドバイザーである鈴木寛氏は、アメリカに拠点を置くジャパン・ズーミナーにおいて、この低迷の理由はデジタルスキルが大学入試に含まれていないことであると説明した。このため、学校の教師はデジタルスキルを教える必要がないと考えているのだ。 2025年からは情報が入試科目に加わるが、教師に対しては誰が教えるのだろうか。岸田首相が 「人的資本への投資は成長戦略の中核」と言うのであれば、このような問題を優先して解決すべきだ。 政治家になる前は銀行員だった岸田首相は、日本の銀行がいかに若い企業、特に女性創業者に対する融資に抵抗を持っているかを理解している。しかも銀行が融資を行う場合、信用スコアの低い創業後50年の企業より、創業後10年の健全な企業に対して高い金利を課す。これは、「ゾンビ」企業を生かし続けようとする政治的圧力が生んだ結果である。 このような状況を政治的に是正するのは難しいが、ここで提案する措置は、政治的・予算的なコストを抑えながら高い経済的利益を得られるというアドバンテージがある。もし岸田首相がこれらの措置を講じられないのであれば、再分配と成長を両立させる「新しい資本主義」の達成に向けた、より難しい解決策に望みはあるのだろうか。) 新興企業は、顧客探しに苦労している。平井氏が指摘するように、GDPの16%を財やサービスの購入に充てている国・地方自治体に対して売り込みができれば新興企業は助かるだろう。 日本では長い間、政府調達において中小企業を優遇するための「別予算」を用意していたが、そのほとんどが老舗企業に割り当てられていた。政府はようやく2015年、創業10年未満の中小企業に対する「別予算」を設けた。 しかし、その額はごくわずかだ。2021年の調達額は770億円にすぎず、国の調達額全体の0.8%と微々たる割合である。もし、政府が新興企業からの調達を拡大すれば、振興企業の収益が増えるだけでなく、銀行融資を受けやすくなり、民間企業に対する売り上げも拡大するだろう』、「銀行が融資を行う場合、信用スコアの低い創業後50年の企業より、創業後10年の健全な企業に対して高い金利を課す。これは、「ゾンビ」企業を生かし続けようとする政治的圧力が生んだ結果である」、これは根拠のない誤解に過ぎない。「創業10年未満の中小企業に対する「別予算」・・・その額はごくわずかだ。2021年の調達額は770億円にすぎず、国の調達額全体の0.8%と微々たる割合」、これを引き上げれば、大企業の既得権を奪うことにはなるが、やむを得ないだろう。
・『エンジェル投資家に対する減税措置 エンジェル投資家に対する減税措置は、高成長の新興企業を大きく後押しすることになる。エンジェル投資家の多くは元起業家で、新興企業に対する資金提供だけではなく指導も行う。2019年、アメリカのエンジェル投資家は6万4000社に対して1社あたり平均37万6000ドルの合計240億ドルを投資した。これはVCから資金を得たスーパースター企業の20倍にあたる。 諸外国では、巧みに設計された税制優遇措置がエンジェル投資ブームを生み出してきた。しかし、税制優遇措置が微々たるものである日本では、ブームは起きなかった。現在、投資対象企業が設立3年未満の場合、所得金額から控除されるのは年間最大でたったの800万円である。その他、設立3年から10年未満の企業に対する投資に対しては、株式等譲渡益からの控除を受けることができる。 アメリカでは、投資先1社につき40万ドルが控除の上限となっている。経済産業省は何年もこの上限を引き上げようと試みているが、財務省がこれを拒否してきた。エンジェル投資家の出資により起業が増えれば税収も増加するのだから、この考えは近視眼的と言える。岸田首相は、財務省の抵抗に打ち勝つ必要がある。 あらゆる富裕国は研究開発に対して補助金を支出しているが、日本では従業員250人未満の企業に対する補助金の割合は全体の8%にすぎない。これはOECD加盟国の中で最も低い。日本における補助はすべて税額控除で行われているため、税額控除はすでに利益を得ている企業しか利用できないというのがこの理由だ。 スタートアップ企業が利益を得るには数年を要する。諸外国ではこのジレンマを解決するために、「繰越」制度を導入している。つまり、税額控除を受けたがまだ利益を出していない企業は、数年後に利益が出た時にその控除を使うことができるのである。 イギリスでは、この繰越期間は無期限とされており、アメリカとカナダでは、繰越期間は20年間と定められている。日本では、安倍政権下で廃止されるまでは、1年間しか使えなかった。この点でも同様に、岸田首相が財務省に打ち勝つことが前進の条件となる』、財務大臣を経験した「岸田首相」がその気になれば、財務省の抵抗に「打ち勝つ」ことも可能な筈だ。
・『二重課税されない仕組みが必要 合同会社という企業形態が生まれたことで、多くの国で起業が盛んに行われるようになった。1988年にアメリカでLLC(リミテッド・ライアビリティー・カンパニー)が認可されると、高成長を遂げる革新的な企業が続々と誕生した。 LLCの強みは、「二重課税」を回避できることだ。従来の株式会社では、まず企業の利益に対して税金を課され、次に利益分配の段階でオーナー・株主個人に対して税金を課される。 LLCの場合、利益に対して一度だけ課税されるため、外部からの出資をより多く呼び込むことができる。2006年、経済産業省の石井芳明氏が合同会社制度の導入を推進した際、石井氏は二重課税の排除も提案した。しかし、このときも財務省が減税に対して拒否権を発動した。 日本では銀行が中小企業の経営者に対し、企業が債務不履行に陥った場合に備えるための「個人保証」を要求するケースが他国と比較してはるかに多い。つまり、企業経営者は自宅や生活資金などを失う可能性があるのだ。そのようなリスクを取る人が少ないのは当然である。 2014年、金融庁はついに銀行に対し、個人保証の利用を減らすよう申し入れした。これを受けて、個人保証を必要とした中小企業向け新規融資の割合(金額ではなく件数)は、2015年の88%から2021年の70%へと徐々に減少している。 ただし、金融庁の新規融資のデータには、既存顧客に対する融資のロールオーバーと新規顧客に対する融資の両方が含まれている。ありうることだが、多くが前者であったとすれば、新興企業にはほとんど役に立たなかったということになる』、「2006年、経済産業省の石井芳明氏が合同会社制度の導入を推進した際、石井氏は二重課税の排除も提案した。しかし、このときも財務省が減税に対して拒否権を発動」、岸田首相が自ら財務省を説得して導入させるべきだ。
・『GPIFが果たせる重要な役割 岸田内閣は、巨大な年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に対して、VCファンドへの投資を拡大することを求めている。GPIF単独での投資ではなく、国内外の独立したVCファンドを通じて投資するかぎり、GPIFの投資は大いに新興企業に貢献するだろう。 なお、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)は、新興企業ではなく親会社の利益を図るものであるため、GPIFはCVC経由の投資を行うべきではない。 創業ブームを起こすためのソリューションを考えるのは難しいことではない。難しいのは、政治的、官僚的な抵抗に打ち勝つことだ。これまで日本の政策立案者は、「どうしても10キロ痩せたいのに、必要な手段を取らない人」のような行動を繰り返してきた。岸田首相の提案内容の詳細が明らかになれば、首相にその意志と実行力があるかどうかが明らかになるだろう』、「岸田首相」はよく聞くだけでなく、「財務省」を積極的に指導する強力は姿勢も示すべきだろう。
先ずは、昨年5月6日付け東洋経済オンラインが掲載した新規事業家の守屋 実氏による「「会社辞め、起業したい人」に学んでほしい7大失敗 事業を失敗に導く人の姿勢には共通点がある」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/464429
・『コロナ禍で独立や副業を考える人が少なくありません。ただ、「あらかたの起業は失敗する。その中で、粘り強く頑張っていくのには意志が不可欠だ」と語るのが、52の事業をおこしてきた新規事業家の守屋実氏です。『起業は意思が10割』の著者である守屋氏が自らの経験を基に、独立起業の成功例とよくある失敗例を解説します』、「52の事業をおこしてきた」とは興味深そうだ。
・『社会がどんどん変わる中で求められる人材も変わる 人生100年時代の中で何歳まで働くかは、すべての人において大きな課題といえるでしょう。そこで知っておいてほしいことは、日本の企業の平均寿命は30年もたないということです。東京商工リサーチの調査によると、2020年に倒産した企業の平均寿命は23.3年でした。 一般的によく言われている企業の平均寿命30年説をベースに考えると、20代で就職し、30年勤め上げて、50代くらいで会社がなくなるということを意味します。何の準備もしていないでその時点で放り出されることを考えると怖さも感じます。 また、「大企業だから安泰」ということでもありません。先日、長年JRに勤務してきた方が、「50代の私もこのままいけるとは思えない。40代、30代はましてそうだ」と語っていました。コロナ禍となり、大企業の安定はいっそう揺らいでいるといえるのです。 企業が何を考えているかは、自分(社員)ではなく、企業を主語に考えるとわかりやすいです。僕は、「企業の帽子をかぶって考えてみよう」という表現をよく使います。 社会がどんどん変わる中で、事業の転換も求められるようになります。それに合わせて、求められる人材も変わっていきます。この道20年、30年と染まりきった人を変えるよりは、何物にも染まってない20代の若手を採用したほうがてっとり早いと、企業が考えてもおかしくはないでしょう。 高度経済成長期には、年齢とともに役職も給料も上がっていきました。こうした時代は、1社で勤め上げる幸せもあったでしょう。しかし、現在は上の役職が詰まり、10年働いてもその組織で自分が一番下ということがありえます。また、管理職になったものの、部下はいないというケースもありえます。 現在は「昭和96年」ではなく、平成も終わり、令和の時代になっています。環境が大きく変わる中、昭和と同じ働き方を続けるよりは、もっと自分に合った働き方をしたほうが個人にとっても幸せではないでしょうか。 今は、SNSでは簡単に誰とでもつながれますし、隙間時間にリモートで仕事をすることもできます。組織の中にいると、「自分なりの課題意識を持って動く」という習慣がつきにくい。むしろ、そうした行動が抑制される力が働きがちです。 しかし、考えて行動し、従来の仕事の概念から飛び出したほうが、結果的に会社にとっても個人にとってもプラスのことが多いのではないかと僕は考えています』、「2020年に倒産した企業の平均寿命は23.3年」、一般的企業の「平均寿命」はもっと長いと思われる。「考えて行動し、従来の仕事の概念から飛び出したほうが、結果的に会社にとっても個人にとってもプラスのことが多いのではないか」、同感である。
・『重要なのは「会社のプロ」から「仕事のプロ」への展開 これからの時代に重要なことは、「会社のプロ」から「仕事のプロ」に転換することです。「仕事のプロ」とは、1つの仕事を極めて何社からも依頼がくる存在のことです。弁護士や医師などはわかりやすい例でしょう。ちなみに、僕は「起業(新規事業)のプロ」です。「会社のプロ」は1社の名刺で(社内で)たくさんの仕事をしますが、今後は複数の名刺で1つの仕事をすることが求められます。 自分の好きや得意を生かすという視点に立つと、「仕事のプロ」へのヒントが見つかるかもしれません。よく「自分には特別なことは何もない」とおっしゃる方がいますが、「20年間自動車メーカーで働いている」「10年間経理部にいる」といった経歴があれば、十分にその道のプロであるはずです。 「仕事のプロ」のほうが自分を生かすことができ、純粋に楽しいですし、さらに1社でうまくいかなくても複数社と関係性を構築しているという意味でリスクも少ないと思います。 こうした「仕事のプロ」になるために踏まえておいたほうがよいことは、大きく3つあると考えています。 1つ目は、「人は考えたようにはならず、行ったようになる」ということです。起業に向けて勉強することは大切です。しかし、セミナーに行くことや本を読むことをずっと続けていれば、「セミナーに行き本を読む人」になります。「仕事のプロ」になろうと思うのであれば、小さなところから動いてみることです。 副業が許されているならば、どんどんやってみればいい。許されていないのであれば、無報酬でNPOに参画したり、起業した人の手伝いをしてみたりしてもよいでしょう。「行ったように人はなる」ので、自分がやりたいことに直結する動きをすることが重要です。 2つ目は、「特定の領域において想定しうるすべての失敗を経験した人をプロという」ということです。挑戦には失敗がつきものなので、「失敗しないようにしたい」と思っているとプロにはなれません。大事なことは、失敗しても挑戦をやめないことです。失敗をしながらも継続していくことで量稽古を積んでいくと、「初見でも既視感」という域に達することができます。これは、複利の恩恵ともいえるでしょう。 3つ目は、「意志ある先に道は拓ける」ということです。簡単にいうと、「仕事のプロ」になるという意志を持ち続けるということです。) 私は「起業のプロ」ですが、起業が簡単なことだとは思いません。それどころか、あらかたの起業は失敗します。その失敗の中で、粘り強く頑張っていくのには意志が不可欠です。ときどき、「強い意志を持つほどの原体験がありません」という方がいます。 しかし、僕はどんなものでも原体験にはなりうると思うんです。例えば、「顧客からこんなことを言われた」「家族と話していたらこんな話題になった」といったことが事業につながることもある。意志の資源となるものは、意識をすればいくらでも転がっているのです。 実際に、意志を持って会社から独立した方のエピソードをご紹介します。障害のある方に特化したBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)プラットフォーム「NEXT HERO」を運営しているVALT JAPAN(ヴァルトジャパン)の事例です。 2014年に創業したヴァルトジャパンは、データ入力や清掃、部品の検品などの仕事を企業や自治体から受注し、全国の就労継続支援事業所に発注する仕組みを作っています』、「「会社のプロ」から「仕事のプロ」に転換することです。「仕事のプロ」とは、1つの仕事を極めて何社からも依頼がくる存在のことです」、これは「会社」で「仕事」をしている人にはすぐには難しい。
・『精神疾患の患者会で受けた衝撃 代表の小野貴也さんは、もともと製薬会社でMRをしていました。ある時、小野さんは精神疾患の方々の患者会に参加します。そこで、小野さんは衝撃を受けます。多くの方が「仕事の成功体験がなくてつらい」という話をしていたからです。 それまで小野さんは、効果の高い薬を使ってもらうことで、患者の方のQOLを上げられると考えていました。しかし、大事なことは薬を使ってもらうことではなく、仕事における成功体験を積んでもらうことなのではないか、と思うようになったのです。 調べると、病気から復活し再就職しても仕事を軌道に乗せられず、ふたたび病気を繰り返している方が多いことや、就労継続支援事業所の平均月給が1万円台(B型事業所)であるということなどがわかってきました。さらには、少なくない企業が障害者法定雇用率2.3%を達成できず、納付金を支払っている現状も見えてきました。つまり、障害のある方が仕事で充実感を得る場が極端に少ないことがわかったのです。 そこで小野さんはヴァルトジャパンを立ち上げます。「誰かに喜んでもらいたい」「もっと社会に貢献したい」という障害者の方の純粋な気持ちを、「仕事」を通じて叶えたいという意志が起業の根底にはありました。 ヴァルトジャパンは、就労継続支援事業所が自ら営業をしにくいという課題を解決したり、間に入り民間企業の求める発注に安定的に応えられるよう品質管理をしたりといった責任を負いました。これにより、企業と事業所の双方が安心して受発注を行うことができるようになりました。) とはいえ、小野さんの事業は最初から順風満帆にいったわけではありません。初めのうちは全国の就労支援事業所に電話やFAXをして登録を促し、民間企業にも説明を続けました。その中では、無下に断られることも1度や2度ではありませんでした。 また、当初は納品する商品の質にムラがあることもしばしばあり、小野さん自身が手を動かし埋め合わせることもありました。他にも、資金調達の際には銀行やVC(ベンチャーキャピタル)に、「事業としてスケールするイメージが持てない」という理由で断られることが続きました。 しかし創業して7年が経った現在では、ヴァルトジャパンは1000件の事業所が利用し、ワーカーは1万2000人にも及んでいます。 受託案件も1500件を超えました。平均月給も、国は10年間で約1万2000円から約1万6000円まで引き上げるのが精一杯だったのに対し、ヴァルトジャパンは3カ月で約4万5000円にまで向上させることができました。加えて、直近では2億円の調達にも成功したのです』、「ヴァルトジャパン」は「創業して7年が経った現在では・・・1000件の事業所が利用し、ワーカーは1万2000人」、「受託案件も1500件を超えました」、はいいとしても、「平均月給」は低過ぎる印象だ。
・『意思ある先に道が拓けることを実感 僕は小野さんの奮闘を横でサポートしていて、意志ある先に道が拓けるということを改めて痛感したのでした。 独立起業の成功例としてヴァルトジャパンをお伝えしましたが、続いて、よくある失敗例を紹介しましょう。僕は、事業を失敗に導く姿勢やマインドを、「7つの大罪」と呼んでいます。 【事業を失敗へ導く7つの大罪】 第1の大罪 意志なき起業→意志がなければ、挑戦もできず、たくさんの失敗を乗り越えることもできない。 第2の大罪 経験なき理屈→自分で経験せずに手軽に理屈で学ぼうとすると、つまずく。大事なのは行動し、体験から学ぶこと。 第3の大罪 顧客なき事業→顧客に価値を生む視点がなければ、モノあふれの時代ではうまくいかない。 第4の大罪 熱狂なき業務→「目の前の業務をこなす」という感覚では、顧客に熱は届かない。 第5の大罪 挑戦なき失敗→挑戦して失敗するどころか、挑戦もしないケースが多い。100%安全な起業や新規事業はありえない。 第6の大罪 利他なき利己→自分を守ろうとする保身やことなかれ主義からは、新たな価値は生まれない。起業で必要なのは利他の視点。 第7の大罪 自問なき他答→大切なのは誰かに答えをもらうことではない。重要なのは、他人の答えに頼らずに、自ら問い、考え、行動をすること。 中でも、最も多い失敗は、「挑戦なき失敗」ではないかと思います。例えば、ヴァルトジャパンの小野さんの成功の陰には、無数の挑戦なき失敗者がいます。多くの人が「こんなサービスあったらいいのにな」「この状況、なんとかならないかな」と感じますが、自分で解決しようと行動を起こす人は1%もいないのではないかと思います。 さらに、ほとんどの人が度重なる苦戦に「やっぱり難しいな」と諦めてしまい、小野さんのように失敗しながらも7年間頑張り続ける人はやはり1%ほど。「1%×1%」、つまり計算上では1万分の1の確率になる、ということです。まさに「挑戦なき失敗」です。この事例から、挑戦の継続が重要であることがおわかりいただけたのではないでしょうか』、「挑戦の継続が重要」、その通りだ。
・『顧客が何を求めているかを知ることが大事 また、さまざまな方から事業計画の説明を受けている中で「顧客なき事業」の失敗も散見されます。モノ不足の時代には、大量に色々なものを提供すれば顧客がつきました。 しかし今は、商品・サービスが腐る程ある時代です。「ただ作れば売れる」という時代ではありません。こうした社会で大事なことは、顧客が何を求めているかを知ることです。それは、ネットで情報を集めたり企画書を綿密に書いたりするだけでは不十分です。 大事なのは、顧客のところに何度話を聞きにいったかであり、実際に何度価値提供を試みることができたかです。顧客の役に立たないことがわかったら、ピボット(方向転換)することも視野に入れなければいけません。 これからもっと起業する人は増えていくでしょう。その際には、ぜひこの「7つの大罪」を踏まえて歩み出してください。コロナ禍で多くの課題が顕在化した今こそ、多くの起業が求められています。とはいえ、すぐに大きなリスクを背負って独立しろとはいいません。 まずは、「仕事のプロ」となるべく、意志を持って、自身をどう社会に生かしていくかを考えていってはいかがでしょうか』、「まずは、「仕事のプロ」となるべく、意志を持って、自身をどう社会に生かしていくかを考えていってはいかがでしょうか」、同感である。
次に、4月25日付け日経ビジネスオンライン「ユニコーン不足の日本、なくせるか「起業家に不利な金融契約」」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00030/042200360/
・『経済産業省はこのほど「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」を公表した。新興企業への国内投資額は2021年に7801億円と、過去5年で3.1倍に拡大。年間1兆円の大台が視野に入ってきたが、米国の42兆円、中国の13兆円と比べてまだ小規模だ。日本企業の新陳代謝が遅れ、国際競争に負けるという危機感がある。 経産省のガイダンスではスタートアップ企業が資金調達の際に投資家へ説明すべき事項、適正に企業価値を算定できない場合の影響、ベンチャーキャピタル(VC)や経営者の持ち分比率についての考え方など、創業前からのステージごとに注意点を列挙した。3月に公正取引委員会と示した指針と併せ、円滑なマネー供給を促す狙いだ。 未上場で企業価値が10億ドルを超える「ユニコーン」は米国で520社、中国で167社なのに対し、日本は6社しかない(それぞれ2月時点の集計)。電子決済やデータ活用などIT(情報技術)系で米中やインドのユニコーンが拡大した一方、日本は国際的に活躍する新興企業が限られている。 (図:主要国のユニコーン企業) 2022年2月時点 (出所:経団連資料から作成) 経産省の動きに合わせて経団連は3月、2027年までに日本のスタートアップ企業数を現在の10倍の約10万社、スタートアップへの年間投資額は約10倍の10兆円規模にする目標を掲げた。この達成へと突破すべき壁として、経産省と同様にファイナンス問題に目を向けている。運転資金や設備投資が必要なのは言うまでもないが、出資者による経営への関わり方が成長を大きく左右するためだ。「日本の若者は保守的」と決めつけるのでなく、そもそも日本だと萎縮しやすい制度になっていないか今こそ検証と改革が求められる。(図:年間1兆円の大台が視野に) 国内スタートアップへの投資額 (出所:ユーザベース,「2021年 Japan Startup Finance」) 経団連の副会長であるディー・エヌ・エーの南場智子会長は「日本の企業価値トップ10社を見ると、創業時にVCが支援してからこの規模に成長したケースが1件も入っていない」と、記者会見で嘆いた。世界だと企業価値トップ10社のうち、米アップルやマイクロソフトを含む8社は上場前にVCが支援していた。「日本のVCも頑張ってゼロからここまで成長してきたが、『もっと大きな成功を収めよう』と誘っていけるキャピタリストはどれほどいるのか」(南場氏)』、「未上場で企業価値が10億ドルを超える「ユニコーン」は米国で520社、中国で167社なのに対し、日本は6社しかない」、確かに致命的な格差だ。
・起業家の金融リスク 多くの新興企業はブランド力や豊富な独自資金などがない状態で立ち上がるので、どうしても金融機関のほうが「優越的な地位」にはなりがちだ。経産省の指針では投資契約を結ぶとき、起業家にとって「不利な条項が少ない形で締結することが重要」と指摘した。そもそも不利なことが複数あるという前提なのだが、できるだけ抑制することを目指している。特に、起業家が個人として抱えるリスクの大きさが課題という。 例えば、ミドリムシからバイオ燃料や健康食品を作っているユーグレナ。出雲充社長に創業時の話を聞くと「オフィスに置くコピー機のリースでさえ、私の個人保証だった」と振り返る。ただ、こうしたリース債務や借入金のような明らかな負債だけが責任の対象となるのではない。出雲氏は「エクイティファイナンス(株式発行による資金調達)も、日本のスタートアップ資金調達だと真のエクイティとは言えない」と苦言を呈する。 業績が悪くなったりVCにとって不都合が生じたりした場合、スタートアップ側が株式を買い戻すように求められるからだ。創業から間もない会社は、最悪の場合に売却して現金化できる設備が少なく、累積赤字が拡大している場合もある。実質的に起業家の個人保証となっており、第三者割当増資や株主割当増資であっても、エクイティのはずがデットファイナンス(借り入れ)に近い性格といえる。 公正取引委員会と経産省はこれを問題視している。経営状態が良好でも、出資者が「起業家への買い取り請求権」をちらつかせて搾取することもあるという。例えばある企業は出資者と定めた計画どおりに事業を進めていたが、知的財産権を出資者に無償譲渡するよう求められた。これに応じなければ、出資者から企業側が株式を買い戻すよう迫られる状況だったため、やむなく知財を譲渡した。ここまでくると独占禁止法上の「優越的地位の濫用(らんよう)」に当たるおそれがあるというが、他にも不透明な理由で買い取り請求権が行使される例は散見されるという。 VCなどからスタートアップが出資を受けるとき「もし将来の契約違反があれば、その時に損害賠償請求すれば十分ではないか」と交渉することもできる。ただ、何らかの経営判断と業績の因果関係を立証し、損害額を算定するのは手間がかかる。このためVCが手っ取り早く起業家の行動をコントロールする手段として、買い取り請求権を設定しておくことが多いという。創業期の企業だと法務チームがなく、「弁護士等の専門家に相談する余裕もない状況で契約する」(経団連の分析)という状況も課題だ。 スタートアップでは起業家が過半の株式を保有した状態で、取締役会で大きな影響を及ぼすことも多い。ただ、起業家とその会社を一体とみなして連帯責任を求める出資契約の条項については、「グローバルな観点からはあまり例が無い」(公取委と経産省の指針)。過度に責任を求めると起業を増やせないため、VCなどによる買い取り請求権の対象は会社そのものに限定し、経営者個人には設定しないよう求めている』、「VCなどからスタートアップが出資を受けるとき「もし将来の契約違反があれば、その時に損害賠償請求すれば十分ではないか」と交渉することもできる。ただ、何らかの経営判断と業績の因果関係を立証し、損害額を算定するのは手間がかかる。このためVCが手っ取り早く起業家の行動をコントロールする手段として、買い取り請求権を設定しておくことが多いという」、株式なのに「買い取り請求権を設定」する理由が理解できた。
・『大企業も課題 複数の政府関係者は「既存の大企業も、スタートアップ育成に向けた課題が多い」と語る。実は産業界に対し、新興企業への支援策をさらに具体的に打ち出すよう求める声も政府内にあった。ただ、積極的にリスクを取ることに慎重な大企業も多い。なかなか一枚岩にはできなかったという。 ここ数年、大企業がスタートアップに投資する社内組織としてコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)を活用する例も増えてきた。しかし、1件あたりの投資額はまだ限定的で、買い取り請求権についても起業家にとって不利なケースがあるという。経産省は「CVCが急速に増加する中でスタートアップの成長について理解が不足したまま、自社の優位性を確保する商慣行が生じていたりする」と指摘する。 そもそも事業会社は金融機関ではないので、他社に大規模に出資してハンズオンで関わっていくような専門人材は多くない。南場氏は「大企業がマイノリティー出資をするというより、事業会社として自社内に取り込むM&A(合併・買収)を積極化して、スタートアップのエコシステムに貢献してほしい」と提言する。 日本のVCにとってイグジットの選択肢が少ないことは、前々から課題として指摘されてきた。大企業への株式譲渡が盛んではないため、国際的には小粒の状態でも投資先を新規上場(IPO)させて利益を確定する。起業家もVCも「世界的な大勝ち」を狙いにくく、出資時にせせこましい契約条件を付ける背景にもなっている。スタートアップへのくびきを少なくしつつ資金を循環させるには、大企業の取り組みも欠かせない』、「事業会社として自社内に取り込むM&A・・・を積極化」してゆけば、確かに「スタートアップ」への「資金を循環」が円滑化する可能性がある。
第三に、5月26日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)のリチャード・カッツ氏による「日本経済が世界から遅れる原因作った「真犯人」 なぜこんなにも新興企業が少ないのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/591483
・『世界の「SONY」や「HONDA」を生んだ時代のように、日本を再びスタートアップの国にするという目標は、岸田文雄首相が5月5日に行われたロンドンでの講演で発表した4つの目標のうちの1つであった。 「ですから、日本に再び創業ブームを起こすことが、私の切なる願いです」。賞賛に値する目標である。しかし、歴代の首相も高い目標を掲げてはきたが、残念ながら実現に必要な施策を打つことはできなかった。岸田首相はそうならないことを期待したいが……』、興味深そうだ。
・『スタートアップが必要なワケ より多くのスタートアップを生み出すための提案について論じる前に、なぜスタートアップが重要なのか、そしてなぜ日本は遅れを取っているのかを確認したい。 「スタートアップ」や「アントレプレナー」という言葉を聞くと、ベンチャーキャピタル(VC)の資金を投入されたシリコンバレーにあるハイテク企業を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、シリコンバレーにあるハイテク企業の数はわずか2000社である。 一方、OECDの統計によると、アメリカには毎年5万社以上の高成長企業(従業員10人以上で、3年連続で年率20%以上の成長を遂げた企業)が存在する。韓国は1万6000社、イギリスは1万3000社、フランスは1万社である。このうちハイテク企業はごく一部で、VC資金を得ている企業は極めて少ない。日本ではこのような企業の数を測定していないため、日本のスタートアップ政策は盲目的に行われている。 国民の生活水準を向上させるためには、成長性の高い中小企業を継続的に創出していくことが不可欠だ。1980年代から1990年代にかけてのアメリカでは、設立5年未満の企業の参入と、効率の悪い老舗企業の閉鎖によって、就業者当たりの製造業生産高の成長率60%という驚くべき結果がもたらされた。 一方、1980年以降、アメリカの新興企業の起業数が鈍化したときに何が起きたかを考えてみていただきたい。2015年までに、就業者1人当たりの生産高は1980年の起業数であったときと比較して3%低くなり、平均家計所得は1600ドル低下した。長年にわたる所得喪失の総額は何倍にも膨らんだ』、「日本では」「高成長企業(従業員10人以上で、3年連続で年率20%以上の成長を遂げた企業)」「のような企業の数を測定していないため、日本のスタートアップ政策は盲目的に行われている」、政策的に重要になったにも拘らず、統計が存在しないとはお粗末極まる。恐らく、官庁間の利権争いが背景にあるのだろう。
・『設立後最初の10年間の成長が低調 残念ながら、日本では高成長している中小企業の数があまりにも少ない。それが、実質世帯所得(価格調整済み)が1995年以降低迷を続けている理由の1つである。日本には数多くの中小企業があるのは確かだが、創立後最初の10年間の成長はOECD諸国の中で最も低調で、老舗中小企業の数がOECD諸国の中で最も多い。 おそらく最大のハードルは、意欲的な若い企業が事業拡大に必要な融資を受けられないことだろう。また、岸田首相が挙げた技術や人的資本という2つの問題も、中小企業の成長を妨げている。 しかし残念ながら、岸田首相もスタートアップを語るとき、VC出資企業の魅力に魅了されすぎているようだ。例えば、岸田首相のプランを推進するため自民党内に結成されたスタートアップ議連は、2027年までにVC投資額を10倍の10兆円(770億ドル)にすることを目標としている。このようなVC投資は魅力的だが、VCから投資を受けた企業だけが注目されるべきではない。 3月には経団連がほぼ同じ内容の提言を出しているが、その内容はシリコンバレー型ベンチャーに終始している。しかもスタートアップ議連の提言では、スタートアップの企業数を10倍に増やすとしている。 しかしこれでは、1社当たりの投資額は現状と変わらず、諸外国と比較してかなり少額になってしまう。そのため、スタートアップ議連の中心人物である平井卓也・前デジタル化担当相がPensions & Investmentsに対して語った、日本は「エンジェル」投資家に対する減税措置も必要であるとの発言は心強い。 エンジェル投資家とは、ベンチャー・キャピタルの資金を必要としない、あるいは資金を得られない革新的な企業に「種銭」を出資する投資家である。平井氏は、具体的なことは何も語らなかった。関係者によると、平井氏のさまざまな提案は、少なくとも部分的には、岸田首相のプログラム作成に携わった政府関係者との議論を反映している可能性が高いという』、「日本は「エンジェル」投資家に対する減税措置も必要であるとの発言は心強い」、しかし財務省が抵抗している筈だ。
・『「華やか」なことが重要なわけではない 岸田首相は、技術に関しても華やかさを追い求めている可能性がある。首相は5つの分野における「国家戦略」を提案したが、その1つ目として挙げられたのが人工知能(AI)だ。これは、超伝導技術やナノテクノロジーを成長の特効薬と考えた過去の戦略と似ている。日本企業は既存の技術すらうまく使いこなせていないのだから、この優先順位は見当違いのように思える。 国の成長を最も後押しするのは、デジタル機器を製造する少数の企業ではない。たとえデジタル技術やソフトウェアが輸入品であったとしても、デジタルを活用して自社を向上させることができる他多数の企業である。 新興企業は老舗企業よりも、新技術を活用して経済全体の成長を促進する手段を開発する可能性が高い。例えば、ネット印刷を手がけるラクスルはネットを利用した宅配便のオークションシステムを構築した。 これによって、配達員の1キロ走行あたりの配達荷物数を大幅に増やすことができた。配達員の収入アップと顧客のコストダウンを達成しただけではなく、地球温暖化防止にも貢献している。このような企業が何万社も生まれたとき、日本は復活を果たすだろう。 日本と諸外国、そして日本の大企業と中小企業の間に存在するデジタル・デバイドは、もはや深い溝と化している。IMD(国際経営開発研究所)は、日本のデジタル競争力を64カ国中62位と評価した。 日本の高校生は数学、科学、共同問題解決能力において80カ国中トップクラスに位置する一方で、デジタルに関する教師の知識、デジタルを教える能力、そして教師を支援するリソースにおいては最下位に位置していることが、この低い順位の1つの要因だ』、「IMD・・・は、日本のデジタル競争力を64カ国中62位と評価」、「日本の高校生は数学、科学、共同問題解決能力において80カ国中トップクラスに位置する一方で、デジタルに関する教師の知識、デジタルを教える能力、そして教師を支援するリソースにおいては最下位に位置していることが、この低い順位の1つの要因だ」、主に「教育面」の立ち遅れが主因とは情けない限りだ。
・『デジタルスキルの教育がない残念さ 政府の教育アドバイザーである鈴木寛氏は、アメリカに拠点を置くジャパン・ズーミナーにおいて、この低迷の理由はデジタルスキルが大学入試に含まれていないことであると説明した。このため、学校の教師はデジタルスキルを教える必要がないと考えているのだ。 2025年からは情報が入試科目に加わるが、教師に対しては誰が教えるのだろうか。岸田首相が 「人的資本への投資は成長戦略の中核」と言うのであれば、このような問題を優先して解決すべきだ。 政治家になる前は銀行員だった岸田首相は、日本の銀行がいかに若い企業、特に女性創業者に対する融資に抵抗を持っているかを理解している。しかも銀行が融資を行う場合、信用スコアの低い創業後50年の企業より、創業後10年の健全な企業に対して高い金利を課す。これは、「ゾンビ」企業を生かし続けようとする政治的圧力が生んだ結果である。 このような状況を政治的に是正するのは難しいが、ここで提案する措置は、政治的・予算的なコストを抑えながら高い経済的利益を得られるというアドバンテージがある。もし岸田首相がこれらの措置を講じられないのであれば、再分配と成長を両立させる「新しい資本主義」の達成に向けた、より難しい解決策に望みはあるのだろうか。) 新興企業は、顧客探しに苦労している。平井氏が指摘するように、GDPの16%を財やサービスの購入に充てている国・地方自治体に対して売り込みができれば新興企業は助かるだろう。 日本では長い間、政府調達において中小企業を優遇するための「別予算」を用意していたが、そのほとんどが老舗企業に割り当てられていた。政府はようやく2015年、創業10年未満の中小企業に対する「別予算」を設けた。 しかし、その額はごくわずかだ。2021年の調達額は770億円にすぎず、国の調達額全体の0.8%と微々たる割合である。もし、政府が新興企業からの調達を拡大すれば、振興企業の収益が増えるだけでなく、銀行融資を受けやすくなり、民間企業に対する売り上げも拡大するだろう』、「銀行が融資を行う場合、信用スコアの低い創業後50年の企業より、創業後10年の健全な企業に対して高い金利を課す。これは、「ゾンビ」企業を生かし続けようとする政治的圧力が生んだ結果である」、これは根拠のない誤解に過ぎない。「創業10年未満の中小企業に対する「別予算」・・・その額はごくわずかだ。2021年の調達額は770億円にすぎず、国の調達額全体の0.8%と微々たる割合」、これを引き上げれば、大企業の既得権を奪うことにはなるが、やむを得ないだろう。
・『エンジェル投資家に対する減税措置 エンジェル投資家に対する減税措置は、高成長の新興企業を大きく後押しすることになる。エンジェル投資家の多くは元起業家で、新興企業に対する資金提供だけではなく指導も行う。2019年、アメリカのエンジェル投資家は6万4000社に対して1社あたり平均37万6000ドルの合計240億ドルを投資した。これはVCから資金を得たスーパースター企業の20倍にあたる。 諸外国では、巧みに設計された税制優遇措置がエンジェル投資ブームを生み出してきた。しかし、税制優遇措置が微々たるものである日本では、ブームは起きなかった。現在、投資対象企業が設立3年未満の場合、所得金額から控除されるのは年間最大でたったの800万円である。その他、設立3年から10年未満の企業に対する投資に対しては、株式等譲渡益からの控除を受けることができる。 アメリカでは、投資先1社につき40万ドルが控除の上限となっている。経済産業省は何年もこの上限を引き上げようと試みているが、財務省がこれを拒否してきた。エンジェル投資家の出資により起業が増えれば税収も増加するのだから、この考えは近視眼的と言える。岸田首相は、財務省の抵抗に打ち勝つ必要がある。 あらゆる富裕国は研究開発に対して補助金を支出しているが、日本では従業員250人未満の企業に対する補助金の割合は全体の8%にすぎない。これはOECD加盟国の中で最も低い。日本における補助はすべて税額控除で行われているため、税額控除はすでに利益を得ている企業しか利用できないというのがこの理由だ。 スタートアップ企業が利益を得るには数年を要する。諸外国ではこのジレンマを解決するために、「繰越」制度を導入している。つまり、税額控除を受けたがまだ利益を出していない企業は、数年後に利益が出た時にその控除を使うことができるのである。 イギリスでは、この繰越期間は無期限とされており、アメリカとカナダでは、繰越期間は20年間と定められている。日本では、安倍政権下で廃止されるまでは、1年間しか使えなかった。この点でも同様に、岸田首相が財務省に打ち勝つことが前進の条件となる』、財務大臣を経験した「岸田首相」がその気になれば、財務省の抵抗に「打ち勝つ」ことも可能な筈だ。
・『二重課税されない仕組みが必要 合同会社という企業形態が生まれたことで、多くの国で起業が盛んに行われるようになった。1988年にアメリカでLLC(リミテッド・ライアビリティー・カンパニー)が認可されると、高成長を遂げる革新的な企業が続々と誕生した。 LLCの強みは、「二重課税」を回避できることだ。従来の株式会社では、まず企業の利益に対して税金を課され、次に利益分配の段階でオーナー・株主個人に対して税金を課される。 LLCの場合、利益に対して一度だけ課税されるため、外部からの出資をより多く呼び込むことができる。2006年、経済産業省の石井芳明氏が合同会社制度の導入を推進した際、石井氏は二重課税の排除も提案した。しかし、このときも財務省が減税に対して拒否権を発動した。 日本では銀行が中小企業の経営者に対し、企業が債務不履行に陥った場合に備えるための「個人保証」を要求するケースが他国と比較してはるかに多い。つまり、企業経営者は自宅や生活資金などを失う可能性があるのだ。そのようなリスクを取る人が少ないのは当然である。 2014年、金融庁はついに銀行に対し、個人保証の利用を減らすよう申し入れした。これを受けて、個人保証を必要とした中小企業向け新規融資の割合(金額ではなく件数)は、2015年の88%から2021年の70%へと徐々に減少している。 ただし、金融庁の新規融資のデータには、既存顧客に対する融資のロールオーバーと新規顧客に対する融資の両方が含まれている。ありうることだが、多くが前者であったとすれば、新興企業にはほとんど役に立たなかったということになる』、「2006年、経済産業省の石井芳明氏が合同会社制度の導入を推進した際、石井氏は二重課税の排除も提案した。しかし、このときも財務省が減税に対して拒否権を発動」、岸田首相が自ら財務省を説得して導入させるべきだ。
・『GPIFが果たせる重要な役割 岸田内閣は、巨大な年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に対して、VCファンドへの投資を拡大することを求めている。GPIF単独での投資ではなく、国内外の独立したVCファンドを通じて投資するかぎり、GPIFの投資は大いに新興企業に貢献するだろう。 なお、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)は、新興企業ではなく親会社の利益を図るものであるため、GPIFはCVC経由の投資を行うべきではない。 創業ブームを起こすためのソリューションを考えるのは難しいことではない。難しいのは、政治的、官僚的な抵抗に打ち勝つことだ。これまで日本の政策立案者は、「どうしても10キロ痩せたいのに、必要な手段を取らない人」のような行動を繰り返してきた。岸田首相の提案内容の詳細が明らかになれば、首相にその意志と実行力があるかどうかが明らかになるだろう』、「岸田首相」はよく聞くだけでなく、「財務省」を積極的に指導する強力は姿勢も示すべきだろう。
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