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ウクライナ(その4)(核兵器や極超音速兵器の準備は着々と進められていた…「プーチン大統領が承認している」ロシア軍の“大規模戦争戦略”とは 『現代ロシアの軍事戦略』より #1、ウクライナの悲劇招いた「核の傘」喪失 米・NATOが出した“青信号”、ウクライナで苦戦するロシア軍 その失敗の本質) [世界情勢]

ウクライナについては、3月10日に取上げた。今日は、5月上旬までの記事をまとめた、(その4)(核兵器や極超音速兵器の準備は着々と進められていた…「プーチン大統領が承認している」ロシア軍の“大規模戦争戦略”とは 『現代ロシアの軍事戦略』より #1、ウクライナの悲劇招いた「核の傘」喪失 米・NATOが出した“青信号”、ウクライナで苦戦するロシア軍 その失敗の本質)である。

先ずは、4月31日付け文春オンラインが掲載した東京大学先端科学技術研究センター専任講師の軍事アナリストの小泉 悠氏による「核兵器や極超音速兵器の準備は着々と進められていた…「プーチン大統領が承認している」ロシア軍の“大規模戦争戦略”とは 『現代ロシアの軍事戦略』より #1」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/52996
・『ウクライナへの全面侵攻を続けているロシア。今後、核兵器を使用するのではないかという懸念も強まっており、世界各国がロシアの軍事動向を注視している。 ここでは、軍事アナリスト・小泉悠氏の著書『現代ロシアの軍事戦略』(筑摩書房)から一部を抜粋し、ロシアの核戦略について紹介する。(全2回の1回目/後編に続く)』、興味深そうだ。
・『破滅を避けながら核戦争を戦う  ソ連は1983年、NATOが核兵器を使用しない限り核使用には訴えないとする「先制不使用(NFU)」を宣言したが、これはソ連を中心とするワルシャワ条約機構軍の通常戦力がNATOに対して優勢に立っていたからできたことである。 これに対して、ワルシャワ条約機構軍の全面侵攻を通常戦力のみで阻止するのは困難であると見ていたNATOは、「柔軟反応戦略」を採用し、開戦劈頭に西ドイツ国内で戦術核兵器を使用することで通常戦力の劣勢を補う方針を基本としていた。 ところが、ソ連の崩壊とロシアの国力低下、そして中・東欧諸国のNATO加盟によって状況は180度逆転してしまった。通常戦力で劣勢に陥り、ハイテク戦力でもNATOに水を開けられたロシアでは、こうした状況下で「地域的核抑止」と呼ばれる戦略を採用する。 NATOの「柔軟反応戦略」を東西逆にして焼き直したものであり、戦略核戦力によって全面核戦争へのエスカレーションを阻止しつつ、戦術核兵器の大量使用によって通常戦力の劣勢を補うというのがその骨子である。核による破滅を避けながらも核戦争を戦うということだ。 ロシアは、ソ連末期の1991年にゴルバチョフ大統領が発出した大統領核イニシアティブ(PNI)と、これに続く1992年のエリツィン大統領のPNIに基づいて戦術核兵器の多くを退役させ、残りを国防省第12総局(12GUMO)が管理する集中保管施設に移管したことになっている。 だが、これ以降、その実態は検証されておらず、ロシアが30年前の約束をまだ守っているのかは全く不透明である。現在のロシア軍が実際にどの程度の戦術核兵器を保有しているのかについても公式の情報では一切明らかにされておらず、大方の推定では1000~2000発前後の戦術核弾頭が現在も有事の使用を想定して準備状態に置かれていると見られている。 いずれにしても、通常兵器や対宇宙作戦、電磁波領域作戦などを動員した損害限定戦略が失敗に終わった場合には、戦術核兵器が使用される可能性が現在も残されていることは疑いない』、「ワルシャワ条約機構軍の全面侵攻を通常戦力のみで阻止するのは困難であると見ていたNATOは、「柔軟反応戦略」を採用し、開戦劈頭に西ドイツ国内で戦術核兵器を使用することで通常戦力の劣勢を補う方針を基本としていた」、「戦術核兵器を使用」が当初はNATOの戦略だったとは初めて知った。
・『「エスカレーション抑止」と呼ばれる核戦略  一方、これと並行して発展してきたのが「エスカレーション抑止」とか「エスカレーション抑止のためのエスカレーション(E2DE)」と呼ばれる核戦略である。限定的な核使用によって敵に「加減された損害」を与え、戦闘の継続によるデメリットがメリットを上回ると認識させることによって、戦闘の停止を強要したり、域外国の参戦を思いとどまらせようというものだ(Sokov 2014)。 その実態については、「スタビリノスチ2009」演習に際して軍事評論家のゴリツが『自由ヨーロッパ・ラジオ(RFE)』ロシア語版のインタビューに答えた内容がわかりやすいだろう。ゴリツが描くエスカレーション抑止型核使用とは次のようなものである(Радио Свобода 2008.9.22.)。 (前略)戦略的な性格を持つロシアの指揮・参謀部演習は、1999年頃から行われるようになりました。現在まで、それらは全て1つのシナリオの下に行われています。侵略者がロシアの同盟国かロシア自体を攻撃するという想定です。通常戦力は相対的に劣勢であるため、我々は防勢に廻ります。そしてある時点で、我が戦略航空隊がまず、核兵器によるデモンストレーション的な攻撃を仮想敵の人口希薄な地域に行います。我が戦略爆撃機はこれを模擬するために、通常、英国近傍のフェロー諸島の辺りを飛行しています。これでも侵略者を止めることができない場合には、訓練用戦略ミサイルを1発か2発発射します。その後はこの世の終わりですから、計画しても無意味ですね。 ゴリツは民間の(しかも多分に反体制的な)軍事評論家であるが、彼の語るエスカレーション抑止のあり方は、ロシア軍内部における議論の動向と非常によく合致している。特に重要なのは、ゴリツがデモンストレーションと限定的な損害惹起を区別している点だ。 つまり、限定的な核使用とひとくちに言っても、そこには「見せつける」ための核使用から、実際にある程度の損害を与えて相手を思いとどまらせることまでの幅が存在するということである。 米海軍系のシンクタンクである海軍分析センター(CNA)は、膨大な数のロシアの軍事出版物分析に基づき、エスカレーション抑止戦略に関する2本の詳細な分析レポート(Kofman, Fink, and Edmonds 2020/ Kofman and Fink 2020)を2020年に公表しているが、ここではエスカレーション抑止型核使用の諸段階がより詳しく整理されている。 その第1段階はゴリツのいう「デモンストレーション」であり、この中には兵力の動員や演習による威嚇から特定の目標に対する単発の限定攻撃(核または非核攻撃)までが含まれる。 一方、これでも所期の目的(戦闘の停止や未参戦国の戦闘加入)を阻止できない場合に行われるのが第2段階の「適度な損害の惹起」で、紛争のレベルに合わせてもう少し規模や威力の大きな攻撃を敵の重要目標に対して実施し、このままでは全面核戦争に至りかねないというシグナルを発する――というものである。 ロシアの「抑止」概念においては、相手の行動を変容させるために小規模なダメージを与えることが重視される。軍事力行使の閾値下においては、こうした「抑止」が米国大統領選への介入などといった形を取ったが、軍事的事態においては限定核使用による「損害惹起」がこれに相当するということになろう』、「ロシアの「抑止」概念においては、相手の行動を変容させるために小規模なダメージを与えることが重視」、「限定核使用による「損害惹起」がこれに相当」、なるほど。
・『公開された機密文書の中身  ただし、ロシアが本当にこうした核戦略を採用しているのかどうかは、今ひとつはっきりしない。軍事政策の指針である『ロシア連邦軍事ドクトリン』に記載された核使用基準にはエスカレーション抑止を匂わせる文言は見られないが、これらのドクトリンには公表されない部分があるとも言われるためである。 例えば2010年版『ロシア連邦軍事ドクトリン』が採択された際、国防省を代表してそのとりまとめ作業に当たったナゴヴィツィン副参謀総長(当時)によると、同文書には公開部分とは別に非公開部分が存在しており、後者には「戦略的抑止手段としての核兵器の使用」を含めた具体的な軍事力の運用に関する規定が記載されているという。 さらにメドヴェージェフ大統領(当時)はこれと同時に『核抑止の分野における2020年までのロシア連邦国家政策の基礎』を承認したが、その内容は非公表とされたため、エスカレーション抑止はこちらに盛り込まれたのではないかという憶測が生まれた。 一方、2017年にプーチン大統領が承認したロシア海軍の長期戦略文書『2030年までの期間における海軍活動の分野におけるロシア連邦国家政策の基礎』には、「軍事紛争がエスカレーションする場合には、非戦略核兵器を用いた力の行使に関する準備及び決意をデモンストレーションすることは実効的な抑止のファクターとなる」と述べられている。 ゴリツの言う2段階のエスカレーション抑止を想起するならば、ここでいう「デモンストレーション」が単なる威嚇のみを意味せず、限定的ながら実際に核使用に及ぶ事態が含まれていることは明らかであろう。 さらに2020年6月には、機密扱いであった『核抑止政策の基礎』の改訂版が突如として公開された。注目されるのは、その第1章において「軍事紛争が発生した場合の軍事活動のエスカレーション阻止並びにロシア連邦及び(又は)その同盟国に受入可能な条件での停止を保障する」ことが核抑止の目的の1つに数えられたことであろう。まさに「エスカレーション抑止」そのものである。 このようにしてみると、ロシアがエスカレーション抑止を核戦略に組み込んでいることは、まず疑いがないようにも思われる。米国もこの点については懸念を強めており、2017年には、在独米軍がロシアの限定核攻撃を受けたという想定で図上演習が行われたとされる(Kaplan 2020)。 また、トランプ政権下で策定された2018年版『核態勢見直し』(NPR2018)ではこうした事態に対応する手段として、トライデントⅡD ‒ 5潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に低出力型核弾頭を搭載したバージョン(LYT)を開発する方針が決定された。 仮にロシアが「エスカレーション抑止」型核使用を行なった場合、米側もまた全面核戦争の危険を冒すことなくロシアに反撃するため、ごく小威力の核弾頭を搭載したミサイルで同程度の反撃を行うというものである。 だが、ロシアがしきりにエスカレーション抑止をちらつかせるのは心理戦であるという見方も根強い。ポーランド国際関係研究所(PISM)のヤツェク・ドゥルカレチが指摘するように、それがいかに限定的なものであったとしても、ひとたび核兵器を使用すれば、敵がどのような反応を示すのかはかなり不確実であると言わざるを得ないからである(Durkalec 2015)。 また、2020年版『核抑止政策の基礎』の内容を分析した米CSIS(戦略国際問題研究所)のオリガ・オライカーは、エスカレーション抑止についての言及が核抑止の全般的な性質について述べた第1章だけにおいてなされており、具体的な核使用基準を列挙した第3章には含まれなかったことに注目する。つまり、エスカレーション抑止とは「最悪の場合にはこういうことも起こりうる」というシナリオの1つに過ぎず、具体的な核使用戦略ではないという(Oliker 2020)。) さらにオライカーは、ロシアが両者を意図的に混同させようとしているとも主張している。仮にエスカレーション抑止が具体的な核使用戦略ではないのだとしても、現実にロシア側にはそのようなアイデアが存在し、そのための手段(低出力核弾頭搭載ミサイルなど)をロシア軍が保有している以上、実際にそのような核使用を行う可能性をNATOは常に払拭できなくなるためである。 ウィーン軍縮不拡散センターのウルリヒ・クーンも、ロシアの狙いは、核運用政策を敢えて曖昧なままにしておくことで「エスカレーション抑止」のような核使用が実際にありうるかもしれないと西側に「思わせる」ことにあるとしている(Kühn 2018)』、「ロシアの狙いは、核運用政策を敢えて曖昧なままにしておくことで「エスカレーション抑止」のような核使用が実際にありうるかもしれないと西側に「思わせる」ことにある」、その通りなのかも知れない。
・『通常兵器によるエスカレーション抑止を図るとしたら?  それでは、核兵器以外の方法でエスカレーション抑止を図るとしたらどうだろうか。デモンストレーションや損害惹起を目的とするならば、その手段はなにも核兵器に限らず、通常弾頭型の長距離PGMでも同じ効果が得られるのではないか。 しかも、これならば通常戦力の敗北が核使用に直結せず、両者の間にもう一段階、「エスカレーションの梯子」を設けることができるではないか ―― こうした考えに基づいて、近年のロシア軍では通常兵器を用いたエスカレーション抑止戦略が盛んに議論されるようになった。前述したCNAの研究チームによると、現在のロシアにおいて主流となっているのは、こうした非核エスカレーション論であるという。 実際、現行の2014年版『ロシア連邦軍事ドクトリン』には、「軍事的な性格を有する戦略的抑止力の実施枠組みにおいて、ロシア連邦は精密誘導兵器の使用を考慮する」という一文が初めて盛り込まれた。核兵器によるエスカレーション抑止については曖昧な態度を取りつつも、非核エスカレーション抑止についてはそれがロシアの軍事政策に含まれることが非常に明確な形で宣言されたことになる。 プーチン大統領も首相時代に発表した国防政策論文の中で「非核の長距離精密誘導兵器が広範に使用されることで、グローバルな紛争を含めた決勝兵器としての地位をますます確固とするだろう」と述べており(Путин 2012)、非核エスカレーション抑止論が高いレベルでの支持を受けていることが窺われよう。 しかも、非核エスカレーション抑止論は、単なる理論ではない。2010年代を通じて巡航ミサイルなどの長距離PGMに集中的な投資を行なった結果、現在のロシア軍は米国に次ぐ巨大な通常型PGM戦力を保有するに至っているからである。 その意味では、「ツェントル2019」に続いて実施された「グロム2019」演習が非常に興味深い。軍管区大演習の後に実施される通常の戦略核部隊演習とは異なり、「グロム2019」の訓練項目には「長距離精密誘導兵器の使用のための訓練」が含まれていた。 ロシア国防省が公開した映像を見ると、「グロム2019」ではICBM、SLBM、ALCMといった古典的な戦略核兵器に加え、カリブルSLCMや9M728GLCMなど、多様な非核PGMの実弾発射訓練が実施されたことが確認できる。非核PGMの増強が、ロシアのエスカレーション抑止戦略を新たな段階に押し進めたことを如実に示して見せたのが「グロム2019」であったと言えよう。 このようにして見ると、2020年のナゴルノ・カラバフ紛争でロシアがアゼルバイジャンに限定的なミサイル攻撃を行なったのではないか、という『ニューヨーク・タイムズ』の報道(第3章を参照)は非常に意味深長に見えてくる。ロシア軍が本当にこのような攻撃を行なったのだとすると、それは場当たり的なものなどではなく、核戦略家たちの間で長年議論され、精緻化されてきたエスカレーション抑止戦略をロシアがついに実行に移したものと考えられるためだ。 ロシアの非核エスカレーション抑止戦略は現在も発展の過程にある。現在、ロシアの軍事思想家たちの関心を集めているのは、その手段として極超音速兵器を用いることだ』、「2020年のナゴルノ・カラバフ紛争でロシアがアゼルバイジャンに限定的なミサイル攻撃を行なったのではないか、という『ニューヨーク・タイムズ』の報道・・・は非常に意味深長に見えてくる。ロシア軍が本当にこのような攻撃を行なったのだとすると、それは場当たり的なものなどではなく、核戦略家たちの間で長年議論され、精緻化されてきたエスカレーション抑止戦略をロシアがついに実行に移したものと考えられるためだ」、なるほど。
・『極超音速兵器とレーザー兵器  「極超音速」とは一般的にマッハ5以上の超高速領域を言い、これほどの速度を発揮できる兵器は従来、大気圏外を飛行する弾道ミサイルに限られてきた。 だが、近年、米中露をはじめとする世界の主要国では、大気圏内でも極超音速を発揮できる兵器の開発が熱心に進められており、2018年のプーチン大統領による教書演説では2つの極超音速ミサイルが紹介された。ICBMで加速され、マッハ20以上の速度で飛行するとされる「アヴァンガルド」と、戦闘機から発射される射程2000キロ、最大速度マッハ10の「キンジャール」である。 ただ、同じ極超音速ミサイルといっても、両者の性格はかなり異なる。アヴァンガルドの「売り」は、従来の核弾頭よりもはるかに低い高度を飛行し、地上のレーダーからは探知しにくいことと、複雑に飛行軌道を変化させることでミサイル防衛(MD)システムに迎撃されにくいこととされている。要は従来型の核弾頭をより迎撃されにくいよう改良したものであって、どちらかと言えは古典的な戦略核抑止力に関わる兵器と見ることができる。 一方、キンジャールも在来型の空対地ミサイルに比べて速度と機動性の高さを「売り」にしている点では同じだが、その弾頭は基本的に通常型(非核)であり、核弾頭を搭載しなくても目標を高い精度で攻撃できるとされている。在来型の防空システムを突破する能力を持ったこの種のミサイルによれば、低速の巡航ミサイルよりもはるかに高い確度で非核エスカレーション攻撃を遂行することができる、という見込みが立てられそうだ。 また、米国は2017年と2018年にシリアに対する巡航ミサイル攻撃を行なっているが、その政治的インパクトはさておき、実際の軍事的効果はごく限られたものであった。2018年について言えば、シリア空軍のシャイラト基地は60発近いトマホークの集中攻撃を受けながら、数日後には機能を回復してしまった。 いかに射程が長く、誘導が精密であろうと、着弾してしまえばその威力は1発の500キロ爆弾と変わらないのである。目標が堅固に掩体されていたり、分散化されている場合には、やはりその効果は大幅に減殺されよう。 だが、超高速で落下してくる極超音速兵器ならば、滑走路に深い穴を穿つなどして目標の機能をより長期間にわたって機能不全に陥れうる。非核兵器の弱点である破壊力の弱さを、極超音速のもたらす運動エネルギーがある程度カバーするということだ。したがって、キンジャールのような極超音速兵器は、通常弾頭型であってもエスカレーション抑止の有力な手段となることが期待されるのである。 そのような意味で、2020年12月の『軍事思想』に掲載された論文「戦略的抑止を確保するための新たな兵器の役割について」(Евсюков и Хряпин 2020)は、多くの示唆を与えるものとして多くのロシア軍事専門家の注目を集めた。 同論文によると、敵の防空網をかい潜って目標を精密に打撃できるキンジャールは、「政治的、倫理的、その他の理由」で核兵器が使用できない状況においても使用できる有力な打撃手段であると同時に、そのデモンストレーション使用によって軍事紛争の烈度や範囲を限定する効果を見込めるという。海軍向けに開発が進められているツィルコン極超音速対艦ミサイルについても、今後、対地攻撃バージョンが開発されれば、その一翼を担うことになるはずだ。 また、同論文は地上配備型レーザー兵器ペレスウェートも、敵の人工衛星に限定的な損害を与えることで同様の役割を果たすとしており、こうなるとエスカレーション抑止はさらに広い概念に発展しつつあることになる。 ただ、非核「エスカレーション抑止」もまた万能ではない。前述したCNAの報告書においても指摘されているとおり、敵が戦闘の停止や参戦の見送りを決断するに足るダメージのレベルを見積もることはもとより極めて困難であり、これが(核兵器ほどの心理的衝撃をもたらさない)通常戦力によるものであるとすればその複雑性はさらに増加するためである。 ジョンソンが指摘するように、この意味で非核手段はロシア軍においても核兵器のそれを代替し得るとはみなされておらず、両者の関係性についての議論は現在も議論が進んでいる(Johnson 2018)。 物理空間からサイバー空間に至るまで、あるいは核兵器からレーザー兵器までのあらゆる手段を用いて敗北を回避しながら戦う ―― これが「弱い」ロシアが2020年代初頭までにたどり着いた大規模戦争戦略であると言えよう』、「物理空間からサイバー空間に至るまで、あるいは核兵器からレーザー兵器までのあらゆる手段を用いて敗北を回避しながら戦う ―― これが「弱い」ロシアが2020年代初頭までにたどり着いた大規模戦争戦略」、なるほど。

次に、4月21日付けエコノミストOnlineが掲載した国際問題評論家の丸山浩行氏による「ウクライナの悲劇招いた「核の傘」喪失 米・NATOが出した“青信号”」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220421/se1/00m/020/001000d
・『ウクライナの悲劇が深刻になっている。1991年の旧ソ連崩壊後、NATO(北大西洋条約機構)1色に塗りつぶされてきた東欧の政治地図を、プーチン大統領は力によって変更しようとしている。ロシア軍は首都キーウ攻略戦に敗れ、一転して、東部ドンバス地方のルハンスク、ドネツク2州や南東部マリウポリで総攻撃を開始した。何がこの悲劇を招いたのか。核兵器をめぐる動きを中心に歴史と背景をひもといてみよう』、歴史的考察とは興味深そうだ。
・『悲劇の発端「ブダペスト覚書」  ウクライナの悲劇は1994年の「ブダペスト覚書」から始まった。91年のソ連崩壊と同時に独立を果たしウクライナは、自国の命運を左右する難題に直面した。領内に残された旧ソ連の核兵器約1900発の処理という難題である。ウクライナには二つの選択肢があった。一つは、この1900発の核兵器を接収、領有し、ウクライナが米ロに次ぐ第3の強大な核兵器保有国となることだった。二つ目は、それをすべてロシアに移送、返還して、非核保有国として独立国家ウクライナの安全と繁栄を探る道である。 米英仏ロ中の5大核保有国は、当然、ウクライナが核を持つことを拒否し、強烈な外交圧力をくわえた。ウクライナはやむなく2つ目の道を選択し、94年に、旧ソ連の核兵器をすべてロシアに移送するとともに、80年成立の「核拡散防止条約(NPR)」に加盟して、非核保有国となる道を選んだのである。 しかし、ウクライナには大きな不安材料があった。非核保有国となったウクライナに対して、ロシアが核攻撃の脅しや核攻撃をしかけてきたら、果たして5大核保有国のどの国が「核の傘」を提供して、ウクライナの安全を保証してくれるのか、という至極もっともな懸念である。 現在、NPR加盟国は191カ国。5大核保有国を除く非核保有の186カ国は、すべて、今でも、当時のウクライナとおなじ安全保障懸念をかかえている。核保有国のどれかが自国に核威嚇や核攻撃の牙を剥いたら、非核保有国は丸裸の無防備状態にあるからだ。 だから、非核保有国は、特権的な5大核保有国に、①非核保有国には核の脅しや核攻撃をしかけないという「消極的な安全の保証」、②特定の核保有国が核威嚇や、核攻撃の脅しのもとに侵略してきた場合、他の核保有国が非核保有国を防衛してくれるという「積極的な安全の保証」すなわち「核の傘」の、2つの安全の保証を迫ったのである。 だが、5大核保有国はこの要求に応じなかった。それでも78年の第1回国連軍縮特別総会で、それぞれ、核保有国との軍事同盟に加盟していない非核保有国は「核威嚇や核攻撃のターゲットにしない」という「消極的な安全の保証」を渋々言明した。けれども、一番大事な「積極的な安全の保証」(核の傘)の要求は、きっぱりと拒否して顧みることはなかった。 核兵器を持った5大国と非核保有186カ国の間に見られる、この力の落差。ウクライナは、核拡散防止条約体制下の冷酷な現実を熟知していた。けれども、ウクライナには、インド、パキスタン、イスラエルのように核拡散防止条約加盟を拒否して核武装に走ることも、北朝鮮のように一旦加盟後に脱退して核兵器保有にまい進することもなかった。 心細い「消極的な安全の保証」より、せめて、もう一段強力な「積極的な安全の保証」(核の傘)を、とウクライナが外交努力を重ねた成果が、94年12月15日に、ハンガリーの首都ブダペストで開かれた欧州安全保障協力機構(OSCE)会議で、領内の核兵器をロシア移送後に非核保有国となったウクライナ、ベラルーシ、カザフスタン3国と米英ロの核保有3国が署名した「ブダペスト覚書」(正式名称「ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナの核拡散防止条約加盟に関連した安全保証上の覚書」)である。 「ブダペスト覚書」は、非核保有国となったベラルーシ、カザフスタン、ウクライナ3国にその代償として、米英ロの核保有3国が以下の3点の保証を約束していた。すなわち、①3国の独立・主権・既存国境の尊重(「力による現状変更の禁止」)、②3国に対する通常兵器・核兵器による脅威・武力行使を抑制(「消極的な安全の保証」)、③3国が特定の核保有国による侵略の犠牲者または核兵器使用の侵略脅威の対象となった場合、3国に支援を提供(「核の傘」提供と「積極的な安全の保証」)の3点である。 フランス、中国もまた、別々の書面で類似の約束をした。しかし、この「ブダペスト覚書」には、安全の保証国となった核保有3国に約束履行や軍事援助を義務づける「法的拘束力」の規定がなく、美辞麗句をならべただけの空文に終わる弱点があった』、「「ブダペスト覚書」には、安全の保証国となった核保有3国に約束履行や軍事援助を義務づける「法的拘束力」の規定がなく、美辞麗句をならべただけの空文に終わる弱点があった」、こんな事実は初めて知った。
・『親米革命でロシアは侵略国に変貌  それから約20年後の2014年、「ブダペスト覚書」が破られる大事件が突発した。安全の保証国ロシアが、突然、被保証国のウクライナに軍事侵略の牙を剥いたのだ。 ウクライナ東部2州に軍事介入したばかりか、ロシアは、ウクライナ領クリミア半島を占領し、自国に併合してしまったのである。その口実とされたのが、同年2月に勃発した「マイダン革命」だ。すなわち、親西欧の市民運動「ユーロマイダイン」が首都キーウの独立広場で起こした民衆蜂起で、親ロ派のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ政権を打倒した政変である。 これを「米国扇動の革命による親米国家の出現である」と非難したロシアのプーチン大統領は、反ロの新国家ウクライナには「安全保証のいかなる義務も負っていない」と断言し、「ブダペスト覚書」違反やその白紙化、死文化を正当化したのである。 米英など他の保証国は、ロシアの行動は「「ブダペスト覚書」の義務違反だ、と非難したが、ウクライナに軍事援助を与え、ロシアの暴挙を阻止する具体的な行動はとらなかった。 安全の「保証国」から真逆の「侵略国」への変貌。ロシアの態度豹変のうらには、東欧諸国の怒涛のようなロシア離れやNATO加盟に対するプーチン大統領の焦燥感、不安感があったようである。 米ソ冷戦初期の1949年に12カ国の原加盟国からスタートしたNATOは、91年のソ連やその軍事同盟「ワルシャワ条約機構」の崩壊後に、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、アルバニア、エストニア、リトアニア、ラトビアなどを次々と吸収して、30カ国のメンバーを抱える巨大な軍事同盟に膨張した。 プーチン大統領の期待に反して、ロシア盟主の「集団安全保障条約機構(CSTO)」にとどまったのは、ベラルーシ、アルメニア、カザフスタン、キリギリスタン、タジキスタン5カ国にすぎない。肝心の東欧諸国の政治地図は、ロシアに与したのがベラルーシ1国だけで、それ以外の国はすべてNATO加盟の1色に塗りつぶされてしまったのだ。つまり、NATOに加盟しその「核の傘」に入ってしまったのである。 しかし、NATO非加盟でその核の傘に入らない例外が1国だけあった。核使用の威嚇下のロシアの大規模な軍事侵略に対して丸裸、無防備状態におかれたウクライナである。91年の独立以来、親ロ派保守政権と親西欧革新政権が交互に政権交代をくりかえした不安的な政権運営のせいで、NATOの早期加盟の国論統一が不可能だったからである。 ▽核威嚇で米・NATOを試したプーチン大統領(「核を含む武力による現状変更」をいとわないプーチン大統領下のロシアにとって、丸裸、無防備状態のウクライナは、かっこうの攻撃ターゲットである。オレンジ革命(2004年)、マイダン革命(14年)など親西欧の草の根民主化運動による親ロ派ヤヌコヴィチ大統領の失脚・追放や、ポロシェンコ(14~19年)、ゼレンスキー(19年~)など相次ぐ親欧米派大統領の誕生を見たプーチン大統領は、これを、持論の「米国扇動による親ロ政権打倒やNATOの攻撃的・侵略的な東方拡大策動」の証左ととらえた。 プーチン大統領からみれば、NATOの核の傘の外にあるウクライナやその親欧米派政権は、ロシアの核威嚇下の大規模軍事侵攻によって簡単に掃討、転覆できるはずであった。まず、米国やNATOの反応を試すために、核威嚇のシグナルを送った。2月19日、ロシア軍は自慢の核戦力を総動員して、ロシアに対する核攻撃への迅速な反撃作戦の大々的な演習をバイデン米大統領に誇示してみせた。つぎに、2月27日、ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長を呼びつけ、じきじきに、テレビカメラの前で、「ロシア核抑止力を特別警戒態勢におけ」と下命した。 この核威嚇のシグナルに、バイデン大統領やストルテンベルグNATO事務総長は、「核保有の米軍とロシア軍の交戦は第3次核世界大戦の引き金になる恐れがあるから、米軍およびNATO軍はウクライナに直接軍事支援はしない」と何度も言明した。プーチン大統領からみれば、この言明は、ロシア軍のウクライナ全面侵攻作戦への青信号であった。 これで、ウクライナへの米軍、NATO軍の直接軍事支援はない、と確信したプーチン大統領は、2月24日から、首都キーウの北部戦線、オデーサの南部戦線、東部2州の東部戦線の3方面から、20万人のロシア軍をウクライナ領内に進撃させる侵略戦争を開始した。この電撃作戦によって短期間にキーウを占領し、ゼレンスキー大統領打倒、傀儡(かいらい)親ロ政権樹立をもって、ウクライナをロシア色1色に塗り変え、東欧地図のロシア色への塗り変え戦略の橋頭保にしようとしたのだ。 しかし、ウクライナ軍の想定外の抵抗という誤算があった。たしかに、NATO軍の直接武力支援はなかったが、ウクライナ軍の強靭な抵抗によって、主進撃路の北部戦線で多大な損失を被ったロシア軍は退却を余儀なくされ、サブ進撃路の東部、南部の両戦線に、明確な戦略目的のない転進を迫られている。しかも、この間、3戦線の進撃路上のウクライナ都市は、無差別ミサイル攻撃で廃墟と化し、多数の住民がロシア軍の戦争犯罪行為によって殺害されている。 「ブダペスト覚書」の白紙化からはじまったウクライナの悲劇は、いま、そのピークに達しようとしている。ウクライナの安全の「保証国」から「侵略国」にかわり、東欧地図の塗り変えという侵略の牙を剥いたロシアは、全世界の非難を浴びている。 おなじ「保証国」だった英米中仏は、ロシアの侵略を阻止する支援をあたえず、悲劇の深刻化、長期化を招いた責任の一端がある。ウクライナは、NATO加盟の国論の統一ができず、その核の傘に入らなかった結果、国土・都市の破壊や人命損失という過酷な代償を払っている。 ウクライナの悲劇を、いつ、だれが、どのように終わらせるのか。ロシア、米英仏中などの特権的核保有国、ウクライナ自身やそれを支援する世界中の国民の責任がいま問われているのである』、「2014年、「ブダペスト覚書」が破られる大事件が突発した。安全の保証国ロシアが、突然、被保証国のウクライナに軍事侵略の牙を剥いたのだ。 ウクライナ東部2州に軍事介入したばかりか、ロシアは、ウクライナ領クリミア半島を占領し、自国に併合してしまったのである。その口実とされたのが、同年2月に勃発した「マイダン革命」だ。すなわち、親西欧の市民運動「ユーロマイダイン」が首都キーウの独立広場で起こした民衆蜂起で、親ロ派のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ政権を打倒した政変である。 これを「米国扇動の革命による親米国家の出現である」と非難したロシアのプーチン大統領は、反ロの新国家ウクライナには「安全保証のいかなる義務も負っていない」と断言し、「ブダペスト覚書」違反やその白紙化、死文化を正当化したのである」、「ロシア軍は自慢の核戦力を総動員して、ロシアに対する核攻撃への迅速な反撃作戦の大々的な演習をバイデン米大統領に誇示してみせた。つぎに、2月27日、ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長を呼びつけ、じきじきに、テレビカメラの前で、「ロシア核抑止力を特別警戒態勢におけ」と下命した。 この核威嚇のシグナルに、バイデン大統領やストルテンベルグNATO事務総長は、「核保有の米軍とロシア軍の交戦は第3次核世界大戦の引き金になる恐れがあるから、米軍およびNATO軍はウクライナに直接軍事支援はしない」と何度も言明した。プーチン大統領からみれば、この言明は、ロシア軍のウクライナ全面侵攻作戦への青信号であった」、「バイデン大統領やストルテンベルグNATO事務総長」はロシアの「ウクライナ侵攻」に肩を貸したと非難されても当然だ。米国外交のお粗末極まりない敗北である。

第三に、5月21日付けNewsweek日本版が掲載した元CIS分析官のグレン・カール氏による「ウクライナで苦戦するロシア軍、その失敗の本質」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/glenn/2022/05/post-81_3.php
・<ヒトラーを蹴散らした歴史を誇るロシア軍がなぜ? 失敗の原因は軍事ドクトリンと経験にある> ウクライナではロシア軍が苦戦を続け、逆にウクライナ軍が見事な応戦を見せている。軍事専門家の目にも驚きの展開だ。 この流れは、侵攻開始当初から見られた。2月24日、ロシア軍はウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊の空港を急襲したが、明らかな戦術ミスによって失敗に終わった。ウクライナ軍は少なくとも輸送機1機を撃墜し、ロシアが誇る空挺部隊を退けた。 以来、ロシア軍は苦しんでいる。民間人の居住区域を空爆し、いくつかの都市を破壊したが制圧できた所は一つもない。侵攻開始から2カ月半が過ぎた今も、ロシア軍は大量の装甲車両と兵力を維持しているが、ウクライナ軍はロシア軍部隊の4分の1以上を「戦闘不能」の状態に追い込んでいる。 強力で非情に見えるのに、実は無能なロシア軍──。この特徴は今後も変わることがないだろう。 ウクライナでのロシア軍の戦いぶりは、その歴史と軍事ドクトリンを反映したものだ。第2次大戦時のスターリンの赤軍以来、ロシア軍は同じことを続けている。民間人を標的にし、相手国の戦闘員と民間人の人権を侵害する。大砲やロケット弾、装甲車、兵器と兵力を大量に投入する一方で、兵站(へいたん)を軽んじる。 民間人を標的にするのは戦争犯罪だ。ところがロシアの軍事ドクトリンは、民間人を戦争における正当な標的と見なしている。「自国の死傷者を減らすためなら、(相手国での)大規模な破壊や民間人の巻き添え死は許容される」と、ロシアの著名な軍事戦略家アレクセイ・アルバトフは2000年に書いた。そうした行為が国際社会から非難されても、ロシア政府は「無視」すべきだと、彼は付け加えている』、「ロシアの軍事ドクトリンは、民間人を戦争における正当な標的と見なしている。「自国の死傷者を減らすためなら、(相手国での)大規模な破壊や民間人の巻き添え死は許容される」、驚くべきことだ。
・『残虐さは軍事ドクトリンから  軍事ドクトリンと実際の戦闘の内容は、軍の能力と経験に基づく部分が大きい。ロシア軍は1994年のチェチェン紛争で自軍に多くの死傷者を出し、膠着状態に陥って撤退した。だがウラジーミル・プーチンを大統領の座に押し上げた99年の第2次チェチェン紛争では、ロシアは訓練不足の歩兵に攻撃させる代わりに大砲を大量に配備してチェチェンの首都グロズヌイを破壊し、多数の民間人を殺害。2015年にも、ロシアはシリア内戦への軍事介入で同じ戦術を使い、成功を収めた。 ロシアの戦争のやり方は、ウクライナでも変わっていない。地面にロシア語で「子供たち」と書かれていた南東部マリウポリの劇場への空爆は残虐なものだったが、これも意図的であり、民間人を攻撃するロシア軍のドクトリンを示す例だ。 前線の兵士の独断と意図的な方針が合わさることにより、ロシア軍が組織的な人権侵害を行った記録もある。スターリンが、ドイツ軍に対抗して進軍する自国軍に略奪とレイプを許可していたというのがそれだ。ソ連兵がドイツ人女性を集団レイプしているという報告を受けると、「兵士のやりたいようにやらせろ」と指示した。 この流れは今も続いている。欧州人権裁判所は21年、ロシア軍が08年にジョージア(グルジア)に侵攻した際に民間人を「非人道的」に扱い、捕虜を拷問したと結論付けた。) いまロシア軍は、ウクライナで同じような行為を繰り返している。100万人ともされるウクライナ市民のロシアへの強制連行に、裁判なしの民間人の処刑。ロシア兵がウクライナ女性をレイプした事例も多数報告されている。プーチンは、ウクライナのブチャで戦争犯罪を働いたとされる部隊に名誉称号まで付与した。 ロシアの軍事戦略は、自国の広大な面積と脆弱な地理的条件に基づいている。およそ1000年にわたり東西から侵略を受けてきたロシアの歴代指導者は、中欧の脆弱な平原に位置する緩衝国を支配することで戦略的な安全保障を模索してきた。 ロシアの戦略家が安全保障と帝国の確立を求めてきた場所が、まさに現在のウクライナだ。プーチンは長年にわたってNATOに対し、ロシアにとってウクライナは自国存亡の問題だと警告してきた。ウクライナが親欧路線を強めるなか、「わが国には侵攻以外に選択肢がなかった」とも述べている。 ロシアの軍事文化は貴族社会で発展し、農民が多数死傷しても犯罪的とも言えるほど意に介さず、おびただしい数の兵士を送り込んで圧倒する戦術を特徴とした。自国兵士を軽視するボリシェビキの姿勢にも、類を見ない残忍さがあった。こうした以前からの傾向は、最近ウクライナで傍受されたロシア軍の無線通信にも表れ、「われわれは使い捨ての駒。平和な市民を殺している」と嘆く兵士の声が記録されている。 このような歴史から生まれたロシアの軍事ドクトリンは、いくつかの前提を基にしている。まずロシアは地理的な広さと脆弱性から、戦略的な奇襲に備えておかなければならない。ロシアは戦略的に唯一無二の国だが、西側は自分たちが提案する「軍事改革」(核兵器削減、軍備管理交渉、紛争削減措置など)を通じてわが国の弱体化をもくろんでいる。 さらにロシアの軍事・経済基盤は、敵対する可能性の高いアメリカやNATOより技術的に劣っている......。そのためロシア軍の計画立案者たちは先制攻撃、すなわち「エスカレーション・ドミナンス」に重点を置く。敵にとっての犠牲を増大させる用意があることを示しつつ、応戦すれば危険なことになり得ると思わせて優位に立とうという考え方だ。 ウクライナへの一方的な侵攻は、まさにこの戦略的先制攻撃だ。そしてプーチンが侵攻3日目にして核兵器使用をちらつかせたことも、優位に立って敵を無力化させようとするロシアの典型的なやり方だ。 ロシアの軍事ドクトリンは、先制と奇襲、大規模攻撃の威力による衝撃とスピードを重視してきた。ロシアの戦略担当者は、経済的・技術的に優位な立場にある西側諸国に対して主導権を握るために、短期の通常戦争に重点を置き、核戦争の脅威を利用して西側の優位性に対抗してきたのだ。この点でもウクライナ侵攻は、ロシアの戦略的ドクトリンに合致している』、「ロシアの軍事ドクトリンは、先制と奇襲、大規模攻撃の威力による衝撃とスピードを重視してきた。ロシアの戦略担当者は、経済的・技術的に優位な立場にある西側諸国に対して主導権を握るために、短期の通常戦争に重点を置き、核戦争の脅威を利用して西側の優位性に対抗してきたのだ。この点でもウクライナ侵攻は、ロシアの戦略的ドクトリンに合致」、その通りだ。
・『兵站を軽視したツケは大きい  ロシアは将来の戦争においても、今回のウクライナ侵攻と同じアプローチを、そして同じ失敗を繰り返す可能性が高い。それはロシアが、第2次大戦時の米軍司令官オマー・ブラッドリーの「素人は戦略を語り、プロは兵站を語る」という言葉に耳を傾けてこなかったからだ。 ロシア軍の戦闘部隊は米軍部隊よりも保有している火器は多いが、支援車両や補給車両はずっと少ない。その結果、ロシア軍は何度も燃料切れに陥り、より機敏に動けるウクライナ軍の餌食になってきた。 ロシア軍には通信のトラブルが少なくなかった。軍の装備は長年にわたり修理が行き届かないままの状態で、戦場に配備されている。無線は機能せず、兵士たちが装備の使い方について十分な訓練を受けていないケースも多い。) さらに大隊や連隊レベルに有能な将校が不足しており、部隊間の連携やリーダーシップがうまく機能していない。そのため、将校たちが前線に出ざるを得なくなった。結果として、侵攻当初に前線に就いたロシア軍将校20人のうち、実に12人がウクライナ軍に殺害されている。 しかしトラックや整備士を増やすだけでは、ロシア側は問題を解決できない。 兵站業務には、従軍期間がわずか1年という、訓練不足で士気も低い徴用兵が割り当てられることが珍しくない。腐敗も兵站能力を弱体化させている。横行する腐敗によって軍予算の20~40%が不正流用され、そのために質の低い、あるいは不十分な数の装備しか購入できない事態が慢性化している。 米国防総省によれば、いまロシアは地上戦闘部隊の約75%をウクライナに投入している。侵攻からの2カ月余りで、このうち4分の1の部隊が戦闘不能な状態に陥り、その過半数が精鋭部隊だった。戦闘用の装備も少なくとも25%が破壊され、これらを元のレベルに立て直すには何年もかかるだろう』、「将校たちが前線に出ざるを得なくなった。結果として、侵攻当初に前線に就いたロシア軍将校20人のうち、実に12人がウクライナ軍に殺害されている」、「兵站業務には、従軍期間がわずか1年という、訓練不足で士気も低い徴用兵が割り当てられることが珍しくない。腐敗も兵站能力を弱体化させている。横行する腐敗によって軍予算の20~40%が不正流用され、そのために質の低い、あるいは不十分な数の装備しか購入できない事態が慢性化」、お粗末過ぎる実態だ。
・『活かされなかったアフガン侵攻の教訓  歴史は未来を見通す窓である。10年に及んだ旧ソ連のアフガニスタン侵攻はソ連の荒廃を招いたが、それでも指導部や軍の専門家は、アナリストが指摘したいくつもの誤りを一切修正しなかった。例えば、いくつかのポイントは次のように修正されるべきだった。 「現地の協力勢力を、ロシア流に当てはめて組織し直そうとするな」 「彼らがわれわれの大義のために進んで戦おうとしなければ、われわれは敗れる」 さらにここに、「アメリカによる敵対勢力への武器供与の意思を過小評価してはならない」という新たなポイントを加えたい。 ロシア軍は将来の紛争でも圧倒的に優位に立つことを狙うだろう。指導部は即座に全面戦争の脅しをかけ、また核兵器を使って敵を守勢に立たせようとする。軍は兵站の大幅な不足に苦しみ、それが軍全体の動きを減速させるかストップさせる。指揮権は上層部に集中し、連隊以下には回ってこない。それでもロシア軍は、とてつもない数の火器を保有し、それを使用し続ける。 多くの兵士が訓練不足のまま戦場に送られ、戦争犯罪や人権侵害を働くだろう。20年にロシアで発表された報告書は「兵士たちの専門的な訓練のレベルが低下し続けている」と指摘。国内のアナリストも、兵士たちには効果的に機能するための士気が欠けていると警告してきた。 ロシア軍の残虐性も、将来の紛争に受け継がれる可能性が高い。徴用兵の間には長年、「デダフシチーナ」という残虐なしごきの伝統がある。上官が若い兵士を殴ったり、あるいはレイプしたりするのだ。 今後10年、あるいはそれ以上にわたり、ロシア軍の低迷は続くだろう。それでも、プーチンの帝国主義的な野望は消え去らないが』、「20年にロシアで発表された報告書は「兵士たちの専門的な訓練のレベルが低下し続けている」と指摘。国内のアナリストも、兵士たちには効果的に機能するための士気が欠けていると警告してきた。 ロシア軍の残虐性も、将来の紛争に受け継がれる可能性が高い」、これほど学習能力を欠いた組織も珍しい。
タグ:ウクライナ (その4)(核兵器や極超音速兵器の準備は着々と進められていた…「プーチン大統領が承認している」ロシア軍の“大規模戦争戦略”とは 『現代ロシアの軍事戦略』より #1、ウクライナの悲劇招いた「核の傘」喪失 米・NATOが出した“青信号”、旧ソ連地域研究知りすぎると“消される”…ロシア最大の民間軍事会社「ワグネル」のヤバい実態 事実上の「ロシア軍別動隊」、ウクライナで苦戦するロシア軍 その失敗の本質) 文春オンライン 小泉 悠氏による「核兵器や極超音速兵器の準備は着々と進められていた…「プーチン大統領が承認している」ロシア軍の“大規模戦争戦略”とは 『現代ロシアの軍事戦略』より #1」 「ワルシャワ条約機構軍の全面侵攻を通常戦力のみで阻止するのは困難であると見ていたNATOは、「柔軟反応戦略」を採用し、開戦劈頭に西ドイツ国内で戦術核兵器を使用することで通常戦力の劣勢を補う方針を基本としていた」、「戦術核兵器を使用」が当初はNATOの戦略だったとは初めて知った。 「ロシアの「抑止」概念においては、相手の行動を変容させるために小規模なダメージを与えることが重視」、「限定核使用による「損害惹起」がこれに相当」、なるほど。 「ロシアの狙いは、核運用政策を敢えて曖昧なままにしておくことで「エスカレーション抑止」のような核使用が実際にありうるかもしれないと西側に「思わせる」ことにある」、その通りなのかも知れない。 「2020年のナゴルノ・カラバフ紛争でロシアがアゼルバイジャンに限定的なミサイル攻撃を行なったのではないか、という『ニューヨーク・タイムズ』の報道・・・は非常に意味深長に見えてくる。ロシア軍が本当にこのような攻撃を行なったのだとすると、それは場当たり的なものなどではなく、核戦略家たちの間で長年議論され、精緻化されてきたエスカレーション抑止戦略をロシアがついに実行に移したものと考えられるためだ」、なるほど。 「物理空間からサイバー空間に至るまで、あるいは核兵器からレーザー兵器までのあらゆる手段を用いて敗北を回避しながら戦う ―― これが「弱い」ロシアが2020年代初頭までにたどり着いた大規模戦争戦略」、なるほど。 エコノミストOnline 丸山浩行氏による「ウクライナの悲劇招いた「核の傘」喪失 米・NATOが出した“青信号”」 歴史的考察とは興味深そうだ。 「「ブダペスト覚書」には、安全の保証国となった核保有3国に約束履行や軍事援助を義務づける「法的拘束力」の規定がなく、美辞麗句をならべただけの空文に終わる弱点があった」、こんな事実は初めて知った。 「2014年、「ブダペスト覚書」が破られる大事件が突発した。安全の保証国ロシアが、突然、被保証国のウクライナに軍事侵略の牙を剥いたのだ。 ウクライナ東部2州に軍事介入したばかりか、ロシアは、ウクライナ領クリミア半島を占領し、自国に併合してしまったのである。その口実とされたのが、同年2月に勃発した「マイダン革命」だ。すなわち、親西欧の市民運動「ユーロマイダイン」が首都キーウの独立広場で起こした民衆蜂起で、親ロ派のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ政権を打倒した政変である。 これを「米国扇動の革命による親米国家の出現 、「ロシア軍は自慢の核戦力を総動員して、ロシアに対する核攻撃への迅速な反撃作戦の大々的な演習をバイデン米大統領に誇示してみせた。つぎに、2月27日、ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長を呼びつけ、じきじきに、テレビカメラの前で、「ロシア核抑止力を特別警戒態勢におけ」と下命した。 この核威嚇のシグナルに、バイデン大統領やストルテンベルグNATO事務総長は、「核保有の米軍とロシア軍の交戦は第3次核世界大戦の引き金になる恐れがあるから、米軍およびNATO軍はウクライナに直接軍事支援はしない」と何度も言明した。プー Newsweek日本版 グレン・カール氏による「ウクライナで苦戦するロシア軍、その失敗の本質」 「ロシアの軍事ドクトリンは、民間人を戦争における正当な標的と見なしている。「自国の死傷者を減らすためなら、(相手国での)大規模な破壊や民間人の巻き添え死は許容される」、驚くべきことだ。 「ロシアの軍事ドクトリンは、先制と奇襲、大規模攻撃の威力による衝撃とスピードを重視してきた。ロシアの戦略担当者は、経済的・技術的に優位な立場にある西側諸国に対して主導権を握るために、短期の通常戦争に重点を置き、核戦争の脅威を利用して西側の優位性に対抗してきたのだ。この点でもウクライナ侵攻は、ロシアの戦略的ドクトリンに合致」、その通りだ。 「将校たちが前線に出ざるを得なくなった。結果として、侵攻当初に前線に就いたロシア軍将校20人のうち、実に12人がウクライナ軍に殺害されている」、「兵站業務には、従軍期間がわずか1年という、訓練不足で士気も低い徴用兵が割り当てられることが珍しくない。腐敗も兵站能力を弱体化させている。横行する腐敗によって軍予算の20~40%が不正流用され、そのために質の低い、あるいは不十分な数の装備しか購入できない事態が慢性化」、お粗末過ぎる実態だ。 「20年にロシアで発表された報告書は「兵士たちの専門的な訓練のレベルが低下し続けている」と指摘。国内のアナリストも、兵士たちには効果的に機能するための士気が欠けていると警告してきた。 ロシア軍の残虐性も、将来の紛争に受け継がれる可能性が高い」、これほど学習能力を欠いた組織も珍しい。
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