政府の賃上げ要請(その5)(日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている、日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている) [経済政策]
政府の賃上げ要請については、2019年2月9日に取上げた。久しぶりの今日は、(その5)(日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている、日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている)である。
先ずは、昨年10月20日付け東洋経済オンラインが掲載した経済評論家・百年コンサルティング代表 の鈴木 貴博氏による「日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている」を紹介しよう。
・『「日本人従業員の平均年収は433万円です」 そう聞くだけでムカっとする方が多いのではないでしょうか? この数字は別にうそでも何でもなく、国税庁が毎年9月に発表する民間給与実態統計調査の最新数字です。 アベノミクスで企業は儲かり株価も上がった一方で、実質賃金はぜんぜん増えていないという話があります。同時に格差が拡大したことで裕福な社会人と、生活が不安定な社会人の間にも収入ギャップが開いています。 そこで今回は平均値で見ていてもわからない日本人ビジネスパーソンの所得事情を、国税庁の民間給与実態統計調査を細かくみることで解明していきます。 まずは発表されたばかりの令和2(2020)年度版の統計の概容からわかることから見ていきましょう。この調査は2020年12月31日現在の民間企業に働く会社員の給与をまとめたものですから、コロナ禍の実態をしっかりと表しているはずです。 まず目につく数字ですがコロナ前の2019年12月と比べて給与所得者数が62万人も減少しています。このうち1年を通じて勤務した人の減少は10万人しかないので、コロナ禍において単純計算でみると52万人規模で非正規労働者が職を失ったことがわかります』、「52万人規模で非正規労働者が職を失った」、とは驚いた。何があったのだろう。
・『会社員1人当たり21万円の減収 2020年の給与の総額は前の年から5.4%減りました。減った総額は約12兆4000億円です。もっとわかりやすくいえば会社員1人当たり21万円の減収です。1人10万円の特別給付金がもらえたわりには損をしているような気がしていましたが、やはり減った金額のほうが大きかったようです。 ただ統計上、過去3年間は名目給与として毎年9万円ぐらい上がっていて、コロナ禍で久しぶりに21万円ダウンした計算なので、トータルでみると上がったほうが大きいことになります。それって実感と合わないと思う方も多いのではないでしょうか? 庶民の実感とは何かといえば、若い会社員は安い給料で働かされている気がするし、中年の会社員は昔と比べて給与の上昇が抑えられている気がするし、高齢の会社員はつねに首切りの恐怖を感じている気がするという具合で、それぞれの世代にそれぞれの不満が見られます。 実際はどうなのでしょうか? 幸いにして民間給与実態統計調査は1978年まで年代別の統計をさかのぼることができます。そこで日本人の給料に関するさまざまな都市伝説を解明してみたいと思います』。「給料に関するさまざまな都市伝説を解明してみたい」、興味深そうだ。
・『都市伝説1バブル入社組は昭和組と比較して損をしている ドラマ『半沢直樹』で活躍する銀行マンの世代はバブル入社組と呼ばれています。就活は楽勝で、大企業の側は内定者を確保するために豪華なフランス料理をごちそうしたり、内定者研修は豪勢なリゾートホテルで行ったり。いい思いをして入社したとたんにバブルがはじけ、その後、悲惨なサラリーマン生活をすることになった。これが都市伝説です。 では給与の実態はどうなのでしょうか? 民間給与実態統計調査では1980年に社会人になった昭和の会社員と1990年に社会人になったバブル入社組会社員それぞれの、その後の給与グラフを追うことができます。最初にお断りしておきますと、今回の分析では男性サラリーマン同士のグラフを比較します。 「男女平等の時代に、なんて時代錯誤な!」と感じる方もいらっしゃると思います。そのとおりで、男女平等の時代なのに男女間に給与の不平等が存在していることが統計から非常によくわかります。そこで男女を分けてみないと「世代間格差の実態が見えてこない」という事情があるのです。男女間の不平等については後で整理します。(外部配信先では図やグラフなどを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) 1980年にサラリーマンになった昭和組と1990年にサラリーマンになったバブル入社組のその後の給与を比較すると、昭和組は40歳以降、安定高値の給料をもらえていた一方で、バブル組はどちらかというと頭打ちで40代は低い給与に甘んじていたように見えます。これはバブル組と会話をしているときによく聞くぼやきとも合致しています』、「昭和組は40歳以降、安定高値の給料をもらえていた一方で、バブル組はどちらかというと頭打ちで40代は低い給与に甘んじていたように見えます」、やはり事実だったようだ。
・『昭和組も50代はバブル組同様に抑え込まれている そこだけを見ると一見バブル入社組は損をしているように思えますが、実はそうでもないのが面白いところです。バブル入社組の給料が低く抑えられた40代は昭和組では50代に相当するのですが、この昭和組の50代も給料はまっ平になってしまっていてバブル組同様に抑え込まれているのです。結局、バブル組が50代に突入した2020年調査では昭和組の50代とほぼ同じ水準までバブル組が上昇しています。 さらに重要なことですが、実はバブル組は入社時点でそれまでの世代と比較して100万円も初任給が高かったという特徴があります。実は私は1986年入社で年代的にはバブル組に一見近いのですが、給与的には昭和組世代で、就活当時の大企業の大卒初任給はどこも横並びの200万円でした。それが4年間のバブルで高騰したのをみて、 「なんで若い連中は初任給がそんなに高いんだ?」と不満を感じた世代です。 しかもまだ転職がめずらしい時代だったせいで釣った魚の給与水準に変更はないということで、バブル期に優遇されたのはこれから内定する学生ばかり。私見ですが1986年組ぐらいまでの世代がいちばん20代のサラリーマン時代に割を食った世代ではないかと思います。さて、次の都市伝説を検証してみましょう』、「実はバブル組は入社時点でそれまでの世代と比較して100万円も初任給が高かったという特徴があります」、「1986年組ぐらいまでの世代がいちばん20代のサラリーマン時代に割を食った世代ではないかと思います」、なるほど。
・『都市伝説2氷河期世代が最も損をしている バブル崩壊後の就職が困難だった時代、1993年から2005年の間に社会人になった世代のことを就職氷河期世代と呼びます。正社員になることすら難しかった世代であると同時に、就職できても給与が低くおさえられ、バブル期世代に強い憎しみを抱いているとされるのが都市伝説なのですが、実態はどうなのでしょうか? グラフはここでも男性サラリーマン同士の比較です。まずグラフで目につくところは、社会人スタート時点の年収水準はバブル組と変わらないという点です。ただその後は徐々にバブル組との差が開き、その状態が15年ほど続いた後、40代に入ってようやくバブル組のラインに追い付きます。その間の差は累計で約600万円、年収換算でいえば15年間ずっと約40万円も低くおさえられてきたことがわかります』、「就職氷河期世代」の「年収水準は」、「徐々にバブル組との差が開き、その状態が15年ほど続いた後、40代に入ってようやくバブル組のラインに追い付きます。その間の差は累計で約600万円、年収換算でいえば15年間ずっと約40万円も低くおさえられてきた」、確かに割を食わされてきたようだ。
・『氷河期世代は正社員になれたかどうかが分水嶺 ただし彼らが社会人として育った2000年代というのが日本経済にとってはそもそも最悪の時代で、そこがちょっとよくなりかけた後、リーマンショックが起き、東日本大震災が起きてという連続でした。後述する男女間格差と比較すれば、氷河期世代は「正社員のポジションをつかめるかどうかが大きな分水嶺になった」という格差だと私には読み取れます。 ちなみにここでそれ以降の世代も同じグラフにのせてみました。このグラフを見ると、これまで日本企業が行ってきた給与制度改革の全貌が浮かび上がってきます。それは終身雇用と年功序列が前提だった昭和の仕組みを是正し、就職や転職が盛んな若い世代の給与水準を上げ、逆に40代以降の給与水準を抑えるというのが基本思想なのですが、それでも40代から50代の20年間に給与カーブのピークが来る形は変わっていないのです。 さすがに60歳になると役職定年がはいり、65歳、70歳と会社には残れても給与は大幅に下がるのですが、それでも興味深いことに65歳の平均給与は25歳よりも高いし、70歳の平均給与は新入社員よりも高いと国税庁の統計は語っています。 この結果を言い換えると、「日本企業の給与システムは、経営者が思っているほどには大きく変わってはいない」ということです。変化がないのはサラリーマンにとってはいいことに見えますが、大きな変化がないことで、とてつもなく不利を被る人も出てきます。 その象徴といえるのが女性の会社員です。) 日本では1999年にいわゆる男女雇用機会均等法の改正が成立して、外形的には雇用における男女の差別がなくなりました。一方でこれは国際問題にもなっていますが、女性の管理職がいつまでたっても増えない、女性の活躍機会が日本は先進国と比較して極端に少ないという状況が続いています。 日本の給与制度というものは基本的にポジションが上がることで上昇します。正確には管理職のポジションに就くために必要な等級ないしは職能に達することで給与水準は上がります。つまり管理職になっている女性が少ない会社では、女性の平均給与は低くなってしまうということです。 そして民間企業の給与の実態調査を見ると一目瞭然で男女間の格差が開いています。とはいえ左側のグラフは少しミスリードな部分があります。国税庁が公表している男女の年代別データは正社員と非正規労働者が合計されています。 男女別、年代時代別に見ていくと? 正社員だけに限るとこの調査からは男女それぞれの給与の全体平均しかわかりません。それでも男性社員は平均年齢46.8歳で正社員の平均給与が550万円であるのに対して、女性は平均年齢46.7歳と年齢は大きく違わないのに正社員の平均給与は384万円と正社員平均でもかなり低い。同じ平均年齢で、同じ正社員の男女差は160万円以上も開いています。 一方で年代別時代別に分析をしようとすると国税庁の統計数値では非正規労働者が混在してしまいます。女性の非正規労働者は全体の38%と、男性の12%よりも高いので、女性の平均給与はその影響でも低くなります。さらに30代よりも50代女性のほうがパート率が高いなどの世代間の違いもあります。 これらの要素を独自に補正して作成したのが右のグラフです。同じ昭和入社の社員同士で比較すると、昭和入社の社員間では均等法が成立した後でもやはり女性社員の平均給与は低くおさえられたままです。 しかしこの点には企業側からは有力な反論があって、 「残念ながら、彼女たちが入社した時代、20代、30代では社会制度がそうなってはいなかったことで、管理職となるための教育ができていない。給与をあげたくてもあげられないのだ」ということです。) だったら、均等法導入後の入社組であれば、この格差は埋まったのでしょうか。次のグラフを見ると結構、衝撃的です。 男女雇用機会均等法が導入された後、確かに女性社員の給与は大きく上がりました。20代から30代前半にかけて累計すれば昭和の時代よりも1400万円は高いかたちで、社会人の出だしでの格差は一見埋まっています。 しかし30代に入り、男性社員が主任となり、リーダーとなり、より上の管理職へと上がっていく時期に、あくまで世代平均ではありますが、女性正社員の給与グラフは昭和の女性のほうに近づいていくのです。 この現象にも日本企業からは有力な反論があります。 「機会は均等なのだけれどたまたまフェアに評価をしてみたところわが社の女性社員は昇進できるスキルをもっていなかった。これは結果の不平等であって社会的には認められている範囲内だ」という反論です。 ただし、たまたま日本全体を平均してここまでの状態になるというのはたまたまとは言えないでしょう。そして結果の不平等は特に欧州では必ず是正しなければいけない項目です。このあたり、日本の政治が変えていくべき課題があることは明白でしょう』、「「機会は均等なのだけれどたまたまフェアに評価をしてみたところわが社の女性社員は昇進できるスキルをもっていなかった。これは結果の不平等であって社会的には認められている範囲内だ」という反論です。 ただし、たまたま日本全体を平均してここまでの状態になるというのはたまたまとは言えないでしょう。そして結果の不平等は特に欧州では必ず是正しなければいけない項目です。このあたり、日本の政治が変えていくべき課題があることは明白」、その通りだ。
・『平均からは格差の分布を見られない さて、給与の格差という意味ではもうひとつ、絶対に無視できない大きな問題があります。それは給与水準が低く抑えられている非正規労働者層が拡大しているという問題です。 今の日本には3段階の格差があります。富裕層と庶民の格差、男女の格差、そして正規・非正規間の格差です。それらすべての平均値をとったのが冒頭の「日本人の平均年収は433万円です」という数字であって、平均からは格差の分布を見ることができません。 そこで次のグラフをご覧いただきたいと思います。 このグラフはたとえば年収100万円未満の男性が男性従業員全体の何%なのかといった具合に、男女別年収階層別の世の中の人数分布を示したものです。総じて男性よりも女性のほう収入階層の低い人が多いことがわかりますが、それ以上に目立つのはいわゆる低所得層に相当する人数が男女ともに多いことです。 年収200万円未満の層が全体の30%、女性に限れば38%がこの所得水準に入ってきます。確かに統計数字だけを見ていると日本人の平均は433万円近辺にくるのでしょうが、平均数字はどうしても年収700万円以上の裕福な会社員の数字にひっぱられてしまうわけです。 そして年収700万円を超える層はほぼ男性に偏っていて、男性全体の20%がそれに該当します。この層がアベノミクスでどんどん豊かになっている層であって、国民全体では給与は増えていない。この秋、物価が上昇する中では、国民感覚では実質給与はむしろ下がっていきます。 年功序列と男女格差をなんとかしようと過去30年にわたって国も経済団体もチャレンジをしてきたわけですが、結果をこのように分析してみるとわかるとおり、改善されたのはほんの部分的なことであって、依然、わが国の給与制度には本質的な問題がとり残されたままなのです』、「年功序列と男女格差をなんとかしようと過去30年にわたって国も経済団体もチャレンジをしてきたわけですが、結果をこのように分析してみるとわかるとおり、改善されたのはほんの部分的なことであって、依然、わが国の給与制度には本質的な問題がとり残されたまま」、との結果には改めて驚かされた。
次に、6月15日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)のリチャード・カッツ 氏による「日本人の給料が上がらないのは「企業が渋る」から 「骨太」打ち出した岸田首相が本当はすべきこと」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/596702
・『まさに「大山鳴動して鼠一匹」である。岸田政権は「新しい資本主義」を具体的な政策として打ち出すために、有識者や新興企業関係者などの改革派を交えて6カ月間奔走した。だが、6月7日に閣議決定されたその実行計画は、多くの参加者を大きく失望させる、形だけのものであった。 具体的には、岸田首相が掲げる「健全な成長と平等な所得分配は互いに必要である」という基本理念に対する自民党内や金融市場からの「社会主義を推進している」という非難に簡単に屈する形になった。「成長の果実を再分配しなければ、消費と需要は増えない」という主張は社会主義ではない。これは、標準的なマクロ経済学における、長年の評決なのである』、「岸田政権は「新しい資本主義」を具体的な政策として打ち出すために、有識者や新興企業関係者などの改革派を交えて6カ月間奔走した。だが、6月7日に閣議決定されたその実行計画は、多くの参加者を大きく失望させる、形だけのものであった」、私も失望した。
・『実質的な方策に欠けた中身 岸田首相の"譲歩"のせいで、政策文書は「成長と分配の好循環」の必要性を訴えるレトリックに終始しているが、それを実現するための実質的な方策は極めて乏しい。 岸田首相の妥協は、就任直後に年収1億円以上の人にキャピタルゲインと配当課税の強化を求めたことで株価が下落し、いわゆる「岸田ショック」を招いたことに端を発する。動揺した岸田氏は、この提案を撤回した。7月の参議院選挙を前にして、経団連を怒らせるわけにはいかないと判断したのだ、とある関係者は語る。 参院選での勝利を確実にするには、安倍晋三氏などの前任者が打ち出した失敗策の焼き直し案しか残されていない。 例えば、賃金について、岸田首相は企業に対して年3%の賃上げを求めるという過去の意味のない要求を繰り返した。また、最低賃金を時給1000円にするという長年の目標も繰り返したが、その達成期限は示さなかった。 一定の賃上げを行った企業に与えられる一時的な減税の水準を引き上げることを提案したが、企業が一時的な税制優遇の見返りのために永続的な賃上げを行うことはないのは歴史が証明している。また、看護師など特定の職業に就く公務員の賃上げも約束した。 成長戦略の重要な要素――新興企業の数を今後5年間で10倍に増やす――に言及が及ぶと、改革者たちの不満はさらに高まった。科学技術・イノベーション会議が主導する官民合同チームは、日本の起業率を低く抑えている主要な問題点(銀行のような重要な問題は除外されているが)について、第一級の分析を行った。 例えば、初期段階の資金を提供する「エンジェル投資家」に対する税制優遇措置、新興企業が必要とする収入と信用を与える政府調達、資金難の新企業が優秀な人材を引き寄せるためのストックオプションの利用などだ。だが、最終文書では、これらの課題に関する具体的な提案は極力避けられている』、私も大いに失望させられた。
・『参院選を見据えた内容になってしまった 「参議院選挙が終わるまで待ってほしい」 不満の声を挙げた参加者の一部は、こう言われたという。官邸としては、具体的な救済策、特に税制や労働問題などに言及して、各省庁や利権団体の対立が表面化し、選挙で自民党が不利になることをおそれたのだろう。 例えば財務省は、新興企業の育成に必要な減税措置に繰り返し反対している。官邸は、年末までに「5カ年計画」を発表し、具体的な内容を盛り込むと約束した。しかし、複数の参加者と話をしたところ、そのプランが本当に充実したものになるのか、期待こそすれ、自信はあまりないといった様子であった。 ある関係者は、岸田首相が限られた政治資金を防衛費の増額に費やし、議論を呼ぶ経済対策のための資金を十分に残せないことを懸念した。また、自民党内の岸田派は比較的小さく、安倍氏や麻生太郎氏が率いる強力で保守的な派閥を疎外するわけにはいかないと強調する者もいた。 岸田首相のリーダーシップのあり方がさらに事態を悪化させている。複数の情報筋による指摘によると、1つには岸田首相自身は以前から賃金問題に関心を持っていたものの、「新しい資本主義の形」を作るために何が必要かを考えたことがなかったという。実際、このコンセプト自体は岸田首相自身のものではなく、重要な側近である元大蔵省官僚の木原誠二官房副長官が考案したと言われている。 さらに岸田首相は、安倍氏が集団安全保障で、菅義偉氏が脱炭素化で行ったように、自民党や官僚にいくつかの重要な優先事項を課しながら、トップダウン方式で指導できるような首相ではなく、「聞き上手」を自称する合意形成者である』、「岸田首相自身は以前から賃金問題に関心を持っていたものの、「新しい資本主義の形」を作るために何が必要かを考えたことがなかったという。実際、このコンセプト自体は岸田首相自身のものではなく、重要な側近である元大蔵省官僚の木原誠二官房副長官が考案」、やはり本人が真剣に考えたものではないようだ。
・『真の成長と分配による好循環を引き起こすには さまざまな権力者の意見が異なる場合、岸田首相自身が解決策を押しつけるのではなく、権力者が妥協点を見いだせるように仕向ける。このスタイルは、ある状況下では生産的かもしれないが、岸田首相が主張するような大きな経済的「軌道修正」を生み出すことはできない。 では、参院選での勝利によって、岸田首相が年末に予定されている「5カ年計画」において、より積極的な主張をできるとなったらどう変わるか。その場合、真の「成長と分配の好循環」を引き起こすために、どのような手を打つことができるだろうか。 当初、岸田首相は前述のように、富裕層の株式所得に対する税率を引き上げることを提案していた。現在は一律20%である。その結果、主に投資によって年間1億円以上の所得を得ている人は、アッパーミドルクラスよりも全体の税率が低くなっている。 とはいえ、1億円以上の所得を持つ納税者は全体の0.01%程度に過ぎない。そのため、通常の所得税と同様、投資所得にもいくつかの区分を設けない限り、所得の平準化にはあまり効果がない。 いずれにせよ、多くの日本人の所得が低迷している最大の原因は、この国の少数の真の富裕層にあるのではなく、企業所得と家計所得の差である。企業は「内部留保」、つまり賃上げや投資、あるいは税金で経済に還元されない利益をため込んでいるのだ。 さらに悪いことに、過去数十年間、東京都は企業減税のために消費税増税を行い、家計から企業へ繰り返し所得を移転してきた。政府は1998年以降大企業に対する法人税率を大幅に引き下げ、現在は30%になっている。 経団連と経済産業省は、企業は余分な現金を使って賃金や投資を増やし、それによって1人当たりのGDPを押し上げるので、法人税減税によって誰もが恩恵を受けると主張した。事実上、政府は企業と取引をしていたのだ。もし、われわれが法人税を下げれば、企業は賃金を上げてくれるだろうと。しかし、企業がその約束を果たすことはなかった』、本来であれば、二重課税批判には目をつぶってでも、内部留保課税も考えるべきだ。
・『企業の内部留保だけが膨れ上がっている 11月26日の「新しい資本主義実現会議」では、この取引がいかに失敗したかを示す資料が配布された。2000年から2020年にかけて、国内数千の大企業の年間利益はほぼ倍増(18兆円増)したが、労働者への報酬は0.4%減、設備投資は5.3%減となった。 その結果、内部留保は20年間で154兆円も膨れ上がった。これは1年間のGDPの3分の1にも相当する。もし、企業がその余剰資金を賃金に回していたら、今日の生活水準は大幅に向上し、消費者の需要も高まっていただろう。中小企業でも同じパターンがみられており、ため込んだ現金が増える一方で、労働者の報酬は減少した。 このパターンは、岸田首相が「健全な成長も健全な分配も、他方なくしては存在しえない」と正しく指摘した通りである。労働者が作ったものを買うだけの収入がなければ、経済が成長するわけがない。国内で製品を売ることができず、円安にならないと海外で売ることができないのであれば、企業はなぜ拡大投資をするのだろうか。 経済協力開発機構(OECD)加盟国全体の中で、日本は労働時間当たりのGDPの増加と時間当たり賃金の増加の間に最大のギャップがある。そしてもちろん、消費税増税は消費者需要をさらに抑制する。 それにもかかわらず、閣議の議事録によれば、このデータは議論の場にも上げられなかった。同資料は元大蔵省官僚で、現在は東京政策研究財団にいる森信茂樹氏により作成された。われわれが、閣議メンバーがこの情報を見たと認識している根拠はこれのみである』、「森信茂樹氏」は「元大蔵省官僚」には珍しく、国民経済全体の観点から主張する好人物だ。
・『3%の賃上げを「期待」するのみ 岸田首相もほかの議員も、賃上げを行った企業に対する非効率な税額控除を引き上げる以上の具体的な改善策を提案することはなかった。岸田氏は、新型コロナウイルスによるパンデミック以前の水準まで売上を回復させた企業は3%の賃上げを行うことを「期待する」と述べただけである。「期待」は「行動」ではない。 もし法人税減税が日本の成長と財政赤字を悪化させているなら、なぜ減税を撤回しないのだろうか。その結果得られる収入で消費税を下げたらどうだろうか。そうすれば、企業と家計の間でより公正な所得分配が行われるのではないか。閣議では、誰もこの選択肢について言及しなかった。 企業が賃金を上げるような措置をとったらどうだろうか。例えば、日本の法律ではすでに正規と非正規、男女間の同一労働、同一賃金が義務づけられている。しかし、政府機関には違反を調査し、違反者を罰する義務はない。 一方、フランスでは、労働監督官が違反を調査し、同国政府はすでに女性の賃金が低いとして数社に罰金を科している。今回も、日本の労働監督官を同じように活用しようという議論は起こらなかった。 最低賃金の引き上げは、驚くほど強力な波及効果をもたらす。最低賃金以下の人たちだけでなく、最低賃金を15〜20%上回る人たちの所得も上昇させるからだだ。 パートタイム労働者の平均賃金はわずか1100円であり、彼らは全従業員のほぼ3分の1を占めているため、生活水準や消費需要への影響は劇的なものとなるであろう。残念ながら、岸田氏は十数年前に打ち出された最低賃金目標、時給1000円を繰り返しただけで、この目標をいつ達成するかは明言していない。現在、最低賃金は930円だ』、「最低賃金の引き上げ」については、日本経済アナリストのデビッド・アトキンソン氏がかねてから強く主張している。
・『最低賃金は1145円程度にする必要がある 岸田首相はまた、1000円を超える引き上げの可能性についても言及しなかった。2020年の最低賃金は全国平均賃金のわずか45%であり、OECD21カ国中、日本は18位となる。典型的な富裕国では52%である(貧困レベルを超えるには、全国平均賃金の半分の所得が必要である)。日本は富裕国の水準を目標にすべきだ。そのためには現状を踏まえて、最低賃金を1145円程度にする必要がある。 起業の数を10倍にするという目標については、先鋭のエキスパートによる専門チームが6カ月の期間中、さまざまな想像力を駆使してアイデアを出した。ところが、岸田内閣では、成長と分配の悪循環を解消するための同様の委員会は設置されなかった。 したがって、6月に承認された案は、11月に議論された案とほとんど変わりはない。こうしたやり方は、岸田首相の屈服が長引かないかどうかという心配を増幅させる。 日本と改革派と同様、私は岸田首相による次の5カ年計画では、この骨組みにもっと肉付けしてくれるのではないかと期待している。しかし期待だけで、確信は今のところない』、「岸田首相による次の5カ年計画」にせいぜい期待するほかなさそうだ。
先ずは、昨年10月20日付け東洋経済オンラインが掲載した経済評論家・百年コンサルティング代表 の鈴木 貴博氏による「日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている」を紹介しよう。
・『「日本人従業員の平均年収は433万円です」 そう聞くだけでムカっとする方が多いのではないでしょうか? この数字は別にうそでも何でもなく、国税庁が毎年9月に発表する民間給与実態統計調査の最新数字です。 アベノミクスで企業は儲かり株価も上がった一方で、実質賃金はぜんぜん増えていないという話があります。同時に格差が拡大したことで裕福な社会人と、生活が不安定な社会人の間にも収入ギャップが開いています。 そこで今回は平均値で見ていてもわからない日本人ビジネスパーソンの所得事情を、国税庁の民間給与実態統計調査を細かくみることで解明していきます。 まずは発表されたばかりの令和2(2020)年度版の統計の概容からわかることから見ていきましょう。この調査は2020年12月31日現在の民間企業に働く会社員の給与をまとめたものですから、コロナ禍の実態をしっかりと表しているはずです。 まず目につく数字ですがコロナ前の2019年12月と比べて給与所得者数が62万人も減少しています。このうち1年を通じて勤務した人の減少は10万人しかないので、コロナ禍において単純計算でみると52万人規模で非正規労働者が職を失ったことがわかります』、「52万人規模で非正規労働者が職を失った」、とは驚いた。何があったのだろう。
・『会社員1人当たり21万円の減収 2020年の給与の総額は前の年から5.4%減りました。減った総額は約12兆4000億円です。もっとわかりやすくいえば会社員1人当たり21万円の減収です。1人10万円の特別給付金がもらえたわりには損をしているような気がしていましたが、やはり減った金額のほうが大きかったようです。 ただ統計上、過去3年間は名目給与として毎年9万円ぐらい上がっていて、コロナ禍で久しぶりに21万円ダウンした計算なので、トータルでみると上がったほうが大きいことになります。それって実感と合わないと思う方も多いのではないでしょうか? 庶民の実感とは何かといえば、若い会社員は安い給料で働かされている気がするし、中年の会社員は昔と比べて給与の上昇が抑えられている気がするし、高齢の会社員はつねに首切りの恐怖を感じている気がするという具合で、それぞれの世代にそれぞれの不満が見られます。 実際はどうなのでしょうか? 幸いにして民間給与実態統計調査は1978年まで年代別の統計をさかのぼることができます。そこで日本人の給料に関するさまざまな都市伝説を解明してみたいと思います』。「給料に関するさまざまな都市伝説を解明してみたい」、興味深そうだ。
・『都市伝説1バブル入社組は昭和組と比較して損をしている ドラマ『半沢直樹』で活躍する銀行マンの世代はバブル入社組と呼ばれています。就活は楽勝で、大企業の側は内定者を確保するために豪華なフランス料理をごちそうしたり、内定者研修は豪勢なリゾートホテルで行ったり。いい思いをして入社したとたんにバブルがはじけ、その後、悲惨なサラリーマン生活をすることになった。これが都市伝説です。 では給与の実態はどうなのでしょうか? 民間給与実態統計調査では1980年に社会人になった昭和の会社員と1990年に社会人になったバブル入社組会社員それぞれの、その後の給与グラフを追うことができます。最初にお断りしておきますと、今回の分析では男性サラリーマン同士のグラフを比較します。 「男女平等の時代に、なんて時代錯誤な!」と感じる方もいらっしゃると思います。そのとおりで、男女平等の時代なのに男女間に給与の不平等が存在していることが統計から非常によくわかります。そこで男女を分けてみないと「世代間格差の実態が見えてこない」という事情があるのです。男女間の不平等については後で整理します。(外部配信先では図やグラフなどを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) 1980年にサラリーマンになった昭和組と1990年にサラリーマンになったバブル入社組のその後の給与を比較すると、昭和組は40歳以降、安定高値の給料をもらえていた一方で、バブル組はどちらかというと頭打ちで40代は低い給与に甘んじていたように見えます。これはバブル組と会話をしているときによく聞くぼやきとも合致しています』、「昭和組は40歳以降、安定高値の給料をもらえていた一方で、バブル組はどちらかというと頭打ちで40代は低い給与に甘んじていたように見えます」、やはり事実だったようだ。
・『昭和組も50代はバブル組同様に抑え込まれている そこだけを見ると一見バブル入社組は損をしているように思えますが、実はそうでもないのが面白いところです。バブル入社組の給料が低く抑えられた40代は昭和組では50代に相当するのですが、この昭和組の50代も給料はまっ平になってしまっていてバブル組同様に抑え込まれているのです。結局、バブル組が50代に突入した2020年調査では昭和組の50代とほぼ同じ水準までバブル組が上昇しています。 さらに重要なことですが、実はバブル組は入社時点でそれまでの世代と比較して100万円も初任給が高かったという特徴があります。実は私は1986年入社で年代的にはバブル組に一見近いのですが、給与的には昭和組世代で、就活当時の大企業の大卒初任給はどこも横並びの200万円でした。それが4年間のバブルで高騰したのをみて、 「なんで若い連中は初任給がそんなに高いんだ?」と不満を感じた世代です。 しかもまだ転職がめずらしい時代だったせいで釣った魚の給与水準に変更はないということで、バブル期に優遇されたのはこれから内定する学生ばかり。私見ですが1986年組ぐらいまでの世代がいちばん20代のサラリーマン時代に割を食った世代ではないかと思います。さて、次の都市伝説を検証してみましょう』、「実はバブル組は入社時点でそれまでの世代と比較して100万円も初任給が高かったという特徴があります」、「1986年組ぐらいまでの世代がいちばん20代のサラリーマン時代に割を食った世代ではないかと思います」、なるほど。
・『都市伝説2氷河期世代が最も損をしている バブル崩壊後の就職が困難だった時代、1993年から2005年の間に社会人になった世代のことを就職氷河期世代と呼びます。正社員になることすら難しかった世代であると同時に、就職できても給与が低くおさえられ、バブル期世代に強い憎しみを抱いているとされるのが都市伝説なのですが、実態はどうなのでしょうか? グラフはここでも男性サラリーマン同士の比較です。まずグラフで目につくところは、社会人スタート時点の年収水準はバブル組と変わらないという点です。ただその後は徐々にバブル組との差が開き、その状態が15年ほど続いた後、40代に入ってようやくバブル組のラインに追い付きます。その間の差は累計で約600万円、年収換算でいえば15年間ずっと約40万円も低くおさえられてきたことがわかります』、「就職氷河期世代」の「年収水準は」、「徐々にバブル組との差が開き、その状態が15年ほど続いた後、40代に入ってようやくバブル組のラインに追い付きます。その間の差は累計で約600万円、年収換算でいえば15年間ずっと約40万円も低くおさえられてきた」、確かに割を食わされてきたようだ。
・『氷河期世代は正社員になれたかどうかが分水嶺 ただし彼らが社会人として育った2000年代というのが日本経済にとってはそもそも最悪の時代で、そこがちょっとよくなりかけた後、リーマンショックが起き、東日本大震災が起きてという連続でした。後述する男女間格差と比較すれば、氷河期世代は「正社員のポジションをつかめるかどうかが大きな分水嶺になった」という格差だと私には読み取れます。 ちなみにここでそれ以降の世代も同じグラフにのせてみました。このグラフを見ると、これまで日本企業が行ってきた給与制度改革の全貌が浮かび上がってきます。それは終身雇用と年功序列が前提だった昭和の仕組みを是正し、就職や転職が盛んな若い世代の給与水準を上げ、逆に40代以降の給与水準を抑えるというのが基本思想なのですが、それでも40代から50代の20年間に給与カーブのピークが来る形は変わっていないのです。 さすがに60歳になると役職定年がはいり、65歳、70歳と会社には残れても給与は大幅に下がるのですが、それでも興味深いことに65歳の平均給与は25歳よりも高いし、70歳の平均給与は新入社員よりも高いと国税庁の統計は語っています。 この結果を言い換えると、「日本企業の給与システムは、経営者が思っているほどには大きく変わってはいない」ということです。変化がないのはサラリーマンにとってはいいことに見えますが、大きな変化がないことで、とてつもなく不利を被る人も出てきます。 その象徴といえるのが女性の会社員です。) 日本では1999年にいわゆる男女雇用機会均等法の改正が成立して、外形的には雇用における男女の差別がなくなりました。一方でこれは国際問題にもなっていますが、女性の管理職がいつまでたっても増えない、女性の活躍機会が日本は先進国と比較して極端に少ないという状況が続いています。 日本の給与制度というものは基本的にポジションが上がることで上昇します。正確には管理職のポジションに就くために必要な等級ないしは職能に達することで給与水準は上がります。つまり管理職になっている女性が少ない会社では、女性の平均給与は低くなってしまうということです。 そして民間企業の給与の実態調査を見ると一目瞭然で男女間の格差が開いています。とはいえ左側のグラフは少しミスリードな部分があります。国税庁が公表している男女の年代別データは正社員と非正規労働者が合計されています。 男女別、年代時代別に見ていくと? 正社員だけに限るとこの調査からは男女それぞれの給与の全体平均しかわかりません。それでも男性社員は平均年齢46.8歳で正社員の平均給与が550万円であるのに対して、女性は平均年齢46.7歳と年齢は大きく違わないのに正社員の平均給与は384万円と正社員平均でもかなり低い。同じ平均年齢で、同じ正社員の男女差は160万円以上も開いています。 一方で年代別時代別に分析をしようとすると国税庁の統計数値では非正規労働者が混在してしまいます。女性の非正規労働者は全体の38%と、男性の12%よりも高いので、女性の平均給与はその影響でも低くなります。さらに30代よりも50代女性のほうがパート率が高いなどの世代間の違いもあります。 これらの要素を独自に補正して作成したのが右のグラフです。同じ昭和入社の社員同士で比較すると、昭和入社の社員間では均等法が成立した後でもやはり女性社員の平均給与は低くおさえられたままです。 しかしこの点には企業側からは有力な反論があって、 「残念ながら、彼女たちが入社した時代、20代、30代では社会制度がそうなってはいなかったことで、管理職となるための教育ができていない。給与をあげたくてもあげられないのだ」ということです。) だったら、均等法導入後の入社組であれば、この格差は埋まったのでしょうか。次のグラフを見ると結構、衝撃的です。 男女雇用機会均等法が導入された後、確かに女性社員の給与は大きく上がりました。20代から30代前半にかけて累計すれば昭和の時代よりも1400万円は高いかたちで、社会人の出だしでの格差は一見埋まっています。 しかし30代に入り、男性社員が主任となり、リーダーとなり、より上の管理職へと上がっていく時期に、あくまで世代平均ではありますが、女性正社員の給与グラフは昭和の女性のほうに近づいていくのです。 この現象にも日本企業からは有力な反論があります。 「機会は均等なのだけれどたまたまフェアに評価をしてみたところわが社の女性社員は昇進できるスキルをもっていなかった。これは結果の不平等であって社会的には認められている範囲内だ」という反論です。 ただし、たまたま日本全体を平均してここまでの状態になるというのはたまたまとは言えないでしょう。そして結果の不平等は特に欧州では必ず是正しなければいけない項目です。このあたり、日本の政治が変えていくべき課題があることは明白でしょう』、「「機会は均等なのだけれどたまたまフェアに評価をしてみたところわが社の女性社員は昇進できるスキルをもっていなかった。これは結果の不平等であって社会的には認められている範囲内だ」という反論です。 ただし、たまたま日本全体を平均してここまでの状態になるというのはたまたまとは言えないでしょう。そして結果の不平等は特に欧州では必ず是正しなければいけない項目です。このあたり、日本の政治が変えていくべき課題があることは明白」、その通りだ。
・『平均からは格差の分布を見られない さて、給与の格差という意味ではもうひとつ、絶対に無視できない大きな問題があります。それは給与水準が低く抑えられている非正規労働者層が拡大しているという問題です。 今の日本には3段階の格差があります。富裕層と庶民の格差、男女の格差、そして正規・非正規間の格差です。それらすべての平均値をとったのが冒頭の「日本人の平均年収は433万円です」という数字であって、平均からは格差の分布を見ることができません。 そこで次のグラフをご覧いただきたいと思います。 このグラフはたとえば年収100万円未満の男性が男性従業員全体の何%なのかといった具合に、男女別年収階層別の世の中の人数分布を示したものです。総じて男性よりも女性のほう収入階層の低い人が多いことがわかりますが、それ以上に目立つのはいわゆる低所得層に相当する人数が男女ともに多いことです。 年収200万円未満の層が全体の30%、女性に限れば38%がこの所得水準に入ってきます。確かに統計数字だけを見ていると日本人の平均は433万円近辺にくるのでしょうが、平均数字はどうしても年収700万円以上の裕福な会社員の数字にひっぱられてしまうわけです。 そして年収700万円を超える層はほぼ男性に偏っていて、男性全体の20%がそれに該当します。この層がアベノミクスでどんどん豊かになっている層であって、国民全体では給与は増えていない。この秋、物価が上昇する中では、国民感覚では実質給与はむしろ下がっていきます。 年功序列と男女格差をなんとかしようと過去30年にわたって国も経済団体もチャレンジをしてきたわけですが、結果をこのように分析してみるとわかるとおり、改善されたのはほんの部分的なことであって、依然、わが国の給与制度には本質的な問題がとり残されたままなのです』、「年功序列と男女格差をなんとかしようと過去30年にわたって国も経済団体もチャレンジをしてきたわけですが、結果をこのように分析してみるとわかるとおり、改善されたのはほんの部分的なことであって、依然、わが国の給与制度には本質的な問題がとり残されたまま」、との結果には改めて驚かされた。
次に、6月15日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)のリチャード・カッツ 氏による「日本人の給料が上がらないのは「企業が渋る」から 「骨太」打ち出した岸田首相が本当はすべきこと」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/596702
・『まさに「大山鳴動して鼠一匹」である。岸田政権は「新しい資本主義」を具体的な政策として打ち出すために、有識者や新興企業関係者などの改革派を交えて6カ月間奔走した。だが、6月7日に閣議決定されたその実行計画は、多くの参加者を大きく失望させる、形だけのものであった。 具体的には、岸田首相が掲げる「健全な成長と平等な所得分配は互いに必要である」という基本理念に対する自民党内や金融市場からの「社会主義を推進している」という非難に簡単に屈する形になった。「成長の果実を再分配しなければ、消費と需要は増えない」という主張は社会主義ではない。これは、標準的なマクロ経済学における、長年の評決なのである』、「岸田政権は「新しい資本主義」を具体的な政策として打ち出すために、有識者や新興企業関係者などの改革派を交えて6カ月間奔走した。だが、6月7日に閣議決定されたその実行計画は、多くの参加者を大きく失望させる、形だけのものであった」、私も失望した。
・『実質的な方策に欠けた中身 岸田首相の"譲歩"のせいで、政策文書は「成長と分配の好循環」の必要性を訴えるレトリックに終始しているが、それを実現するための実質的な方策は極めて乏しい。 岸田首相の妥協は、就任直後に年収1億円以上の人にキャピタルゲインと配当課税の強化を求めたことで株価が下落し、いわゆる「岸田ショック」を招いたことに端を発する。動揺した岸田氏は、この提案を撤回した。7月の参議院選挙を前にして、経団連を怒らせるわけにはいかないと判断したのだ、とある関係者は語る。 参院選での勝利を確実にするには、安倍晋三氏などの前任者が打ち出した失敗策の焼き直し案しか残されていない。 例えば、賃金について、岸田首相は企業に対して年3%の賃上げを求めるという過去の意味のない要求を繰り返した。また、最低賃金を時給1000円にするという長年の目標も繰り返したが、その達成期限は示さなかった。 一定の賃上げを行った企業に与えられる一時的な減税の水準を引き上げることを提案したが、企業が一時的な税制優遇の見返りのために永続的な賃上げを行うことはないのは歴史が証明している。また、看護師など特定の職業に就く公務員の賃上げも約束した。 成長戦略の重要な要素――新興企業の数を今後5年間で10倍に増やす――に言及が及ぶと、改革者たちの不満はさらに高まった。科学技術・イノベーション会議が主導する官民合同チームは、日本の起業率を低く抑えている主要な問題点(銀行のような重要な問題は除外されているが)について、第一級の分析を行った。 例えば、初期段階の資金を提供する「エンジェル投資家」に対する税制優遇措置、新興企業が必要とする収入と信用を与える政府調達、資金難の新企業が優秀な人材を引き寄せるためのストックオプションの利用などだ。だが、最終文書では、これらの課題に関する具体的な提案は極力避けられている』、私も大いに失望させられた。
・『参院選を見据えた内容になってしまった 「参議院選挙が終わるまで待ってほしい」 不満の声を挙げた参加者の一部は、こう言われたという。官邸としては、具体的な救済策、特に税制や労働問題などに言及して、各省庁や利権団体の対立が表面化し、選挙で自民党が不利になることをおそれたのだろう。 例えば財務省は、新興企業の育成に必要な減税措置に繰り返し反対している。官邸は、年末までに「5カ年計画」を発表し、具体的な内容を盛り込むと約束した。しかし、複数の参加者と話をしたところ、そのプランが本当に充実したものになるのか、期待こそすれ、自信はあまりないといった様子であった。 ある関係者は、岸田首相が限られた政治資金を防衛費の増額に費やし、議論を呼ぶ経済対策のための資金を十分に残せないことを懸念した。また、自民党内の岸田派は比較的小さく、安倍氏や麻生太郎氏が率いる強力で保守的な派閥を疎外するわけにはいかないと強調する者もいた。 岸田首相のリーダーシップのあり方がさらに事態を悪化させている。複数の情報筋による指摘によると、1つには岸田首相自身は以前から賃金問題に関心を持っていたものの、「新しい資本主義の形」を作るために何が必要かを考えたことがなかったという。実際、このコンセプト自体は岸田首相自身のものではなく、重要な側近である元大蔵省官僚の木原誠二官房副長官が考案したと言われている。 さらに岸田首相は、安倍氏が集団安全保障で、菅義偉氏が脱炭素化で行ったように、自民党や官僚にいくつかの重要な優先事項を課しながら、トップダウン方式で指導できるような首相ではなく、「聞き上手」を自称する合意形成者である』、「岸田首相自身は以前から賃金問題に関心を持っていたものの、「新しい資本主義の形」を作るために何が必要かを考えたことがなかったという。実際、このコンセプト自体は岸田首相自身のものではなく、重要な側近である元大蔵省官僚の木原誠二官房副長官が考案」、やはり本人が真剣に考えたものではないようだ。
・『真の成長と分配による好循環を引き起こすには さまざまな権力者の意見が異なる場合、岸田首相自身が解決策を押しつけるのではなく、権力者が妥協点を見いだせるように仕向ける。このスタイルは、ある状況下では生産的かもしれないが、岸田首相が主張するような大きな経済的「軌道修正」を生み出すことはできない。 では、参院選での勝利によって、岸田首相が年末に予定されている「5カ年計画」において、より積極的な主張をできるとなったらどう変わるか。その場合、真の「成長と分配の好循環」を引き起こすために、どのような手を打つことができるだろうか。 当初、岸田首相は前述のように、富裕層の株式所得に対する税率を引き上げることを提案していた。現在は一律20%である。その結果、主に投資によって年間1億円以上の所得を得ている人は、アッパーミドルクラスよりも全体の税率が低くなっている。 とはいえ、1億円以上の所得を持つ納税者は全体の0.01%程度に過ぎない。そのため、通常の所得税と同様、投資所得にもいくつかの区分を設けない限り、所得の平準化にはあまり効果がない。 いずれにせよ、多くの日本人の所得が低迷している最大の原因は、この国の少数の真の富裕層にあるのではなく、企業所得と家計所得の差である。企業は「内部留保」、つまり賃上げや投資、あるいは税金で経済に還元されない利益をため込んでいるのだ。 さらに悪いことに、過去数十年間、東京都は企業減税のために消費税増税を行い、家計から企業へ繰り返し所得を移転してきた。政府は1998年以降大企業に対する法人税率を大幅に引き下げ、現在は30%になっている。 経団連と経済産業省は、企業は余分な現金を使って賃金や投資を増やし、それによって1人当たりのGDPを押し上げるので、法人税減税によって誰もが恩恵を受けると主張した。事実上、政府は企業と取引をしていたのだ。もし、われわれが法人税を下げれば、企業は賃金を上げてくれるだろうと。しかし、企業がその約束を果たすことはなかった』、本来であれば、二重課税批判には目をつぶってでも、内部留保課税も考えるべきだ。
・『企業の内部留保だけが膨れ上がっている 11月26日の「新しい資本主義実現会議」では、この取引がいかに失敗したかを示す資料が配布された。2000年から2020年にかけて、国内数千の大企業の年間利益はほぼ倍増(18兆円増)したが、労働者への報酬は0.4%減、設備投資は5.3%減となった。 その結果、内部留保は20年間で154兆円も膨れ上がった。これは1年間のGDPの3分の1にも相当する。もし、企業がその余剰資金を賃金に回していたら、今日の生活水準は大幅に向上し、消費者の需要も高まっていただろう。中小企業でも同じパターンがみられており、ため込んだ現金が増える一方で、労働者の報酬は減少した。 このパターンは、岸田首相が「健全な成長も健全な分配も、他方なくしては存在しえない」と正しく指摘した通りである。労働者が作ったものを買うだけの収入がなければ、経済が成長するわけがない。国内で製品を売ることができず、円安にならないと海外で売ることができないのであれば、企業はなぜ拡大投資をするのだろうか。 経済協力開発機構(OECD)加盟国全体の中で、日本は労働時間当たりのGDPの増加と時間当たり賃金の増加の間に最大のギャップがある。そしてもちろん、消費税増税は消費者需要をさらに抑制する。 それにもかかわらず、閣議の議事録によれば、このデータは議論の場にも上げられなかった。同資料は元大蔵省官僚で、現在は東京政策研究財団にいる森信茂樹氏により作成された。われわれが、閣議メンバーがこの情報を見たと認識している根拠はこれのみである』、「森信茂樹氏」は「元大蔵省官僚」には珍しく、国民経済全体の観点から主張する好人物だ。
・『3%の賃上げを「期待」するのみ 岸田首相もほかの議員も、賃上げを行った企業に対する非効率な税額控除を引き上げる以上の具体的な改善策を提案することはなかった。岸田氏は、新型コロナウイルスによるパンデミック以前の水準まで売上を回復させた企業は3%の賃上げを行うことを「期待する」と述べただけである。「期待」は「行動」ではない。 もし法人税減税が日本の成長と財政赤字を悪化させているなら、なぜ減税を撤回しないのだろうか。その結果得られる収入で消費税を下げたらどうだろうか。そうすれば、企業と家計の間でより公正な所得分配が行われるのではないか。閣議では、誰もこの選択肢について言及しなかった。 企業が賃金を上げるような措置をとったらどうだろうか。例えば、日本の法律ではすでに正規と非正規、男女間の同一労働、同一賃金が義務づけられている。しかし、政府機関には違反を調査し、違反者を罰する義務はない。 一方、フランスでは、労働監督官が違反を調査し、同国政府はすでに女性の賃金が低いとして数社に罰金を科している。今回も、日本の労働監督官を同じように活用しようという議論は起こらなかった。 最低賃金の引き上げは、驚くほど強力な波及効果をもたらす。最低賃金以下の人たちだけでなく、最低賃金を15〜20%上回る人たちの所得も上昇させるからだだ。 パートタイム労働者の平均賃金はわずか1100円であり、彼らは全従業員のほぼ3分の1を占めているため、生活水準や消費需要への影響は劇的なものとなるであろう。残念ながら、岸田氏は十数年前に打ち出された最低賃金目標、時給1000円を繰り返しただけで、この目標をいつ達成するかは明言していない。現在、最低賃金は930円だ』、「最低賃金の引き上げ」については、日本経済アナリストのデビッド・アトキンソン氏がかねてから強く主張している。
・『最低賃金は1145円程度にする必要がある 岸田首相はまた、1000円を超える引き上げの可能性についても言及しなかった。2020年の最低賃金は全国平均賃金のわずか45%であり、OECD21カ国中、日本は18位となる。典型的な富裕国では52%である(貧困レベルを超えるには、全国平均賃金の半分の所得が必要である)。日本は富裕国の水準を目標にすべきだ。そのためには現状を踏まえて、最低賃金を1145円程度にする必要がある。 起業の数を10倍にするという目標については、先鋭のエキスパートによる専門チームが6カ月の期間中、さまざまな想像力を駆使してアイデアを出した。ところが、岸田内閣では、成長と分配の悪循環を解消するための同様の委員会は設置されなかった。 したがって、6月に承認された案は、11月に議論された案とほとんど変わりはない。こうしたやり方は、岸田首相の屈服が長引かないかどうかという心配を増幅させる。 日本と改革派と同様、私は岸田首相による次の5カ年計画では、この骨組みにもっと肉付けしてくれるのではないかと期待している。しかし期待だけで、確信は今のところない』、「岸田首相による次の5カ年計画」にせいぜい期待するほかなさそうだ。
タグ:政府の賃上げ要請 (その5)(日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている、日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている) 東洋経済オンライン 鈴木 貴博氏による「日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている」 「52万人規模で非正規労働者が職を失った」、とは驚いた。何があったのだろう。 「給料に関するさまざまな都市伝説を解明してみたい」、興味深そうだ。 都市伝説1バブル入社組は昭和組と比較して損をしている 「昭和組は40歳以降、安定高値の給料をもらえていた一方で、バブル組はどちらかというと頭打ちで40代は低い給与に甘んじていたように見えます」、やはり事実だったようだ。 「実はバブル組は入社時点でそれまでの世代と比較して100万円も初任給が高かったという特徴があります」、「1986年組ぐらいまでの世代がいちばん20代のサラリーマン時代に割を食った世代ではないかと思います」、なるほど。 都市伝説2氷河期世代が最も損をしている 「就職氷河期世代」の「年収水準は」、「徐々にバブル組との差が開き、その状態が15年ほど続いた後、40代に入ってようやくバブル組のラインに追い付きます。その間の差は累計で約600万円、年収換算でいえば15年間ずっと約40万円も低くおさえられてきた」、確かに割を食わされてきたようだ。 「「機会は均等なのだけれどたまたまフェアに評価をしてみたところわが社の女性社員は昇進できるスキルをもっていなかった。これは結果の不平等であって社会的には認められている範囲内だ」という反論です。 ただし、たまたま日本全体を平均してここまでの状態になるというのはたまたまとは言えないでしょう。そして結果の不平等は特に欧州では必ず是正しなければいけない項目です。このあたり、日本の政治が変えていくべき課題があることは明白」、その通りだ。 「年功序列と男女格差をなんとかしようと過去30年にわたって国も経済団体もチャレンジをしてきたわけですが、結果をこのように分析してみるとわかるとおり、改善されたのはほんの部分的なことであって、依然、わが国の給与制度には本質的な問題がとり残されたまま」、との結果には改めて驚かされた。 リチャード・カッツ 氏による「日本人の給料が上がらないのは「企業が渋る」から 「骨太」打ち出した岸田首相が本当はすべきこと」 「岸田政権は「新しい資本主義」を具体的な政策として打ち出すために、有識者や新興企業関係者などの改革派を交えて6カ月間奔走した。だが、6月7日に閣議決定されたその実行計画は、多くの参加者を大きく失望させる、形だけのものであった」、私も失望した。 私も大いに失望させられた。 「岸田首相自身は以前から賃金問題に関心を持っていたものの、「新しい資本主義の形」を作るために何が必要かを考えたことがなかったという。実際、このコンセプト自体は岸田首相自身のものではなく、重要な側近である元大蔵省官僚の木原誠二官房副長官が考案」、やはり本人が真剣に考えたものではないようだ。 本来であれば、二重課税批判には目をつぶってでも、内部留保課税も考えるべきだ。 「森信茂樹氏」は「元大蔵省官僚」には珍しく、国民経済全体の観点から主張する好人物だ。 「最低賃金の引き上げ」については、日本経済アナリストのデビッド・アトキンソン氏がかねてから強く主張している。 「岸田首相による次の5カ年計画」にせいぜい期待するほかなさそうだ。