ペット(その3)(だから私は「人間」より「猫」を信用するようになった…小学2年生の養老孟司が「敗戦の日」に体験したこと 大人たちの言うことがガラリと変わった、家族を優しく守ってくれる「吠えない」大型犬) [生活]
ペットについては、昨年2月16日に取上げた。今日は、(その3)(だから私は「人間」より「猫」を信用するようになった…小学2年生の養老孟司が「敗戦の日」に体験したこと 大人たちの言うことがガラリと変わった、“犬&猫の日”に知りたい ペットに元気で長生きしてもらうための新常識、家族を優しく守ってくれる「吠えない」大型犬)である。
先ずは、本年8月15日付けPRESIDENT Onlineが掲載した解剖学者で東京大学名誉教授の養老 孟司氏による「だから私は「人間」より「猫」を信用するようになった…小学2年生の養老孟司が「敗戦の日」に体験したこと 大人たちの言うことがガラリと変わった」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/60483
・『1945年8月15日。敗戦は日本社会を根底から変えた。解剖学者の養老孟司さんは「小学2年生だった私は、あの日を境に世の中ががらりと変わったのを見た。だから私は人間の言葉を信用せず、猫を信用するようになった」という――。 ※本稿は、養老孟司『まるありがとう』(西日本出版社)の一部を再編集したものです』、興味深そうだ。
・『猫は「しゃべらない」から信用できる 「養老さんにとってまるとはどんな存在ですか?」と聞かれて、よく「ものさしです」と答えた。 人間社会に長くいると、判断に迷うことがある。まるを眺めていれば、人間社会の“常識”に毒されず、物事の本質を見誤ることはないだろう。ものさしにする、というのはそういう意味である。そう思う理由の一つに、まるがしゃべらない、ということがある。 私は、人がしゃべったことは基本的には信用しない。そうなった原因は、1945(昭和20)年8月15日の体験である。 当時、私は小学2年生で、大人たちが敵襲に備え、「鬼畜米英」「本土決戦」「一億玉砕」などと言って一生懸命、訓練をしていたのを憶えている。ところが、あの日を境に、世の中ががらりと変わってしまった。「本土決戦」も「一億玉砕」も、そう言うのだから当然やるものと思っていたが、結局やらなかった。もしやったら最悪の状態になっただろうからやらなくてよかったが、どうせやらないのなら、そんなことを言うなよ、と思った。 戦後は一転して「マッカーサー万歳」となり、全体主義から個人尊重の世の中となった。その体験は私の人間形成に大きく影響し、理系に進んだのも研究対象が人間ではなく、「物」であることが大きい。物は決して嘘をつかない。医学部で解剖学を専攻したのも、死体は決してものを言わないから、作業していて気分が落ち着いた。死体が物かどうかは少し詳しい説明が必要だが、とにかくものを言わないことは確かである』、「人間社会に長くいると、判断に迷うことがある。まるを眺めていれば、人間社会の“常識”に毒されず、物事の本質を見誤ることはないだろう。ものさしにする、というのはそういう意味である。そう思う理由の一つに、まるがしゃべらない、ということがある」、「理系に進んだのも研究対象が人間ではなく、「物」であることが大きい。物は決して嘘をつかない。医学部で解剖学を専攻したのも、死体は決してものを言わないから、作業していて気分が落ち着いた」、なるほど。
・『物事の実態を言葉で伝えるのは不可能である 人間社会はある意味、言葉が支配する社会である。 ところが、物事の実態をそのまま言葉で伝えるのは難しい、というより不可能である。よくいって、せいぜい実態を補完するものでしかないのに、それを絶対視しようとするから、戦前戦中の日本のように、言葉に実態を合わせようとするようなちぐはぐが起きる。 だいたい言葉が介在する世界は相手の話を一応は聞かなければならない。黙っていたら、返答を求められる。そういう世界は面倒で、疲れる。 その点、まるはしゃべらない。嫌なものは嫌だし、好きなものは好き。気楽なものだ。配慮もなければ、忖度もない。実に正直である。寝床で添い寝をしていて、朝起きると、えさをくれという。言葉で「くれ」と言えないので、鳴くか、寝ている私の顔をなめるか。こちらはああ腹が減っているんだなと気付く。それで用事は足りる。えさをやって腹が膨れると、ごちそうさまも言わなければ、ありがとうも言わない。はい、さようならという感じでどこかへぷいと行ってしまう』、「物事の実態をそのまま言葉で伝えるのは難しい、というより不可能である。よくいって、せいぜい実態を補完するものでしかないのに、それを絶対視しようとするから、戦前戦中の日本のように、言葉に実態を合わせようとするようなちぐはぐが起きる」、学者なのに「言葉」の役割をここまで限定的に捉えるとは珍しい。
・『人間は自分の興味のある物しか憶えていない まるやその前のチロだけではなく、わが家はだいたい猫を飼っていた。子どもの頃、いつも不思議に思っていたのは、彼らが何年たってもしゃべらないことだった。 言葉を話すか、話さないか。これは人間と動物の大きな違いである。どうして動物はしゃべれないのか。それは、動物が感覚を頼りに生きていることと関係がある。 例えば視覚も、すごく敏感に物の違いを見ている。チンパンジーの子どもは「カメラアイ」を持っている。カメラアイというのは、目に映った物をカメラのように、ぱっと映像の形で記憶してしまう能力のことで、「写真記憶」「直観像記憶」ともいわれる。 人間は、自分の興味ある物に焦点を合わせて見るから、そこしか憶えていない。見た物の大半は家に帰ったら忘れてしまうが、チンパンジーの子どもは目に映った物の細部を短時間で記憶する。大きな部屋に人を100人集めたとして、私たちはそれをすべて同一の「人」と認識できるが、それができるのは人間だけである。 動物はこれをやらない。まずそれぞれの違いに気付く。例えば、その部屋にまるを連れてきたとすると、どうなるか。おそらく別の個体が100人並んでいると感じるだろう。チンパンジーのカメラアイも、こうした感覚を優先する動物としての能力の一つと私は思う』、「大きな部屋に人を100人集めたとして、私たちはそれをすべて同一の「人」と認識できるが、それができるのは人間だけである。 動物はこれをやらない。まずそれぞれの違いに気付く。例えば、その部屋にまるを連れてきたとすると、どうなるか。おそらく別の個体が100人並んでいると感じるだろう」、「人間」と「動物」の「認識」の違いが理解できた。
・『人間はなぜしゃべれるのか 同じように、動物は言葉を感覚的に音として捉えている。まるが名前を呼ばれて反応しているのは、おそらく声のトーンによって自分が呼ばれていることを聞き分けているからであろう。 あるいは、白板に黒いペンで「白」と私が書くとしよう。まるはおそらく白色を連想しない。なぜなら、その文字が黒いからである。同じように黒いペンで、「赤いリンゴ」と書いても、まるが認識するのは、そう書かれた黒い線だけであろう。 反対に、人間はなぜしゃべれるのか。それは、意識が優先するからである。人間の意識には、感覚から得た刺激をすぐに脳みその中でたちまち意味に変換し、「同じ」にしてしまうという働きがある。 私たちがその部屋へ行き、100人の個体を見ても、「人」という概念で一括りにできる。それゆえ、認識を共有して、言葉のやりとりが可能になるのである。だが、それが良いことずくめであるとは限らない』、「人間はなぜしゃべれるのか。それは、意識が優先するからである。人間の意識には、感覚から得た刺激をすぐに脳みその中でたちまち意味に変換し、「同じ」にしてしまうという働きがある。 私たちがその部屋へ行き、100人の個体を見ても、「人」という概念で一括りにできる。それゆえ、認識を共有して、言葉のやりとりが可能になるのである」、「人間の意識」には重要な役割があることが理解できた。
・『人間は実態よりも意味を優先してしまう 人間は意識を優先させるがため、何にでも意味を付けようとする。ほうっておくと、実態よりも意味を優先して、ちぐはぐを起こす。自然をコントロールしようとして森林を破壊してしまうのも人間だし、資源を見つければ根こそぎ取り尽くしてしまうのも人間である。先ほどの戦前戦中の言葉の問題も、構造は同じといえよう。 人間社会で暮らしていると、自然に人間社会の垢がたまってくるので、感覚の世界を時々、確認したくなる。まるをものさし、つまりある種の基準として観察することで、私は自分の生き物としての自然な感覚を忘れないように、生身の自分を調整していたのである。 人間社会を見れば、西洋はアジアと比べてはるかに意識中心の世界である。 その意識は、自分が見たり触ったり感じたりした物事を、どんどん抽象化して「同じ」にする。いつもいうように、リンゴとミカンがあれば「果物」に抽象化する。それにサンマが加わると「食べ物」になる。抽象化は、このように階層を成していて、「同じ」を繰り返して突き詰めていくと、最後は一つになる。 その頂点は何か。私はそれが、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教のような一神教における「神様」であると思っている。ところが、自然を基礎に置く日本人は、物事をそれほど理屈中心で考えない。だから、神様も「八百万やおよろず」である。そのような日本人の信仰を、私は「実感信仰」と呼んでいる。西洋のように、唯一神にはならない。ちなみに、西洋的な抽象化の階層でいえば、「実感」は最下層にある』、「人間社会で暮らしていると、自然に人間社会の垢がたまってくるので、感覚の世界を時々、確認したくなる。まるをものさし、つまりある種の基準として観察することで、私は自分の生き物としての自然な感覚を忘れないように、生身の自分を調整していたのである」、「まるをものさし、つまりある種の基準として観察することで、私は自分の生き物としての自然な感覚を忘れないように、生身の自分を調整していた」、「まる」を「ものさし」「として観察する」、養老氏にかかると、飼い猫まで特殊な役割を担うようだ。
・『マッカーサーが言った「日本人12歳説」 戦後の日本を統治した連合軍司令官のダグラス・マッカーサーが言った「日本人12歳説」をご存じだろう。議会の委員会で質問に答え「現代文明の基準で測ると、私たちアングロサクソンが45歳であるのに対して、日本人はまだ12歳の少年のようだ」と述べた。彼らが信仰のように大事にしてきた民主主義、自由主義の理想や思想的価値観をものさしにして「成熟度」を測ると、そういう見方になる。 こういう考え方をするのは西洋人ばかりではない。日本人も、西洋側からの視点に立って日本的な感覚を「素朴」とか「原始的」などといいがちである。だが、果たしてそうだろうか。明治以来、日本人は西洋についてよく知ろうとしてきたが、自分たちの特性については西洋型を前提にして批判するという形でしか考えてこなかっただけであろう。だからそのような捉え方になるのである。 例えば日本ではよく、その場の空気で大切なことが決まる。それは悪いことのように思われがちであるが、言葉で言い表せない微妙なところを空気で補完しているわけで、あながち悪いことと言い切れない。いや、そもそも日本人がそれでうまくいくのなら、むしろ良いことなのではないか』、「明治以来、日本人は西洋についてよく知ろうとしてきたが、自分たちの特性については西洋型を前提にして批判するという形でしか考えてこなかっただけであろう」、「その場の空気で大切なことが決まる。それは悪いことのように思われがちであるが、言葉で言い表せない微妙なところを空気で補完しているわけで、あながち悪いことと言い切れない。いや、そもそも日本人がそれでうまくいくのなら、むしろ良いことなのではないか」、確かに同調圧力も前向きに考えるとは興味深い。
・『日本人は「談合」を悪いことだと思っていない だいたい日本人は公共工事の談合を、心の底ではそれほど悪いことだと思っていないだろう。現代では法律で禁止されているが、それは建前で実態は今も因習として残っている。 西洋的フェアネス(公正)の精神からすると非常にアンフェアネス(不公正)ということになるが、みんなが順番に落札者になれるように、入札業者同士で事前に話し合って「調整」することで、誰も損をしない。それによって、新規参入が阻まれ工事が手抜きになるなどという人もいるだろうが、ひょっとしたら西洋化以前は、日本人は談合と併せてそうしたことをきれいに排除する手だてを持っていたかもしれない。なかったかもしれないし、あったかもしれない。そんなことは今となっては、誰にも分からない。 大相撲で、対戦相手がもう一勝できなければ番付が下がるという局面でわざと負けてやる「人情相撲」がある。これも西洋的な価値観を基準にすると、著しくスポーツマンシップに反することになるが、例えば優勝争いに影響しない消化試合で星の貸し借りをして、果たして誰が損をするのだろう』、「公共工事の談合を、心の底ではそれほど悪いことだと思っていないだろう。現代では法律で禁止されているが、それは建前で実態は今も因習として残っている」、「大相撲」での「人情相撲」もこうした「因習」だろう。
・『一夜にして世の中ががらりと変わったのを見た 言葉は意識中心の世界が生み出したと述べたが、空気や呼吸といった感覚で大事なことが決まる仕組みが良い場合もあるはずである。どちらが良いかは、時と場合による。少なくとも言葉の世界が、何にもまして高尚とは限らない。 あまり意味を考えてはいけない、理屈にしない方がいい場合もある。「雰囲気」とは、そういうことである。現代人は理屈に合うものが正しいと信じているが、人間そのものが元来、理屈にあったものではない。だいたい、どうして虫なんか調べるんですかと聞かれても、説明できないではないか。大切なものほど、言葉になんかできないのである。 私には、戦後の日本人が民主主義、自由主義を本気になって受け入れたと思えない。日本に西洋で発生した理想主義が本当の意味で根付くのか。平和、人権、民主主義と声高に叫んでいる人を見ると、「あんた、本気で言ってるの?」と言いたくなる。決して揶揄ではない。そういう人ほど言葉に依存している、つまり意識の世界にいるからである。 時代が酷くなったら、おそらく人権や平和、民主主義を強く叫んでいる人から順番に壊れていく。一番大きな理由は、先ほど述べた敗戦の体験である。1945年8月15日、一夜にして世の中ががらりと変わったのを見てしまったからである』、「現代人は理屈に合うものが正しいと信じているが、人間そのものが元来、理屈にあったものではない。だいたい、どうして虫なんか調べるんですかと聞かれても、説明できないではないか。大切なものほど、言葉になんかできないのである」、「大切なものほど、言葉になんかできないのである」、言い得て妙だ。 「私には、戦後の日本人が民主主義、自由主義を本気になって受け入れたと思えない。日本に西洋で発生した理想主義が本当の意味で根付くのか。平和、人権、民主主義と声高に叫んでいる人を見ると、「あんた、本気で言ってるの?」と言いたくなる。決して揶揄ではない。そういう人ほど言葉に依存している、つまり意識の世界にいるからである。時代が酷くなったら、おそらく人権や平和、民主主義を強く叫んでいる人から順番に壊れていく」、「西洋で発生した理想主義が本当の意味で根付くのか」、どうも根付いてはいないようだ。
次に、昨年9月17日付けNewsweek日本版「家族を優しく守ってくれる「吠えない」大型犬」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/09/post-97110_1.php
・『<ディアハウンド、アイリッシュセッター、ボルゾイ、秋田犬.....。アメリカン・ケネルクラブと本誌が推薦する、行儀よくおとなしい大型犬たち> ほえるのは犬の習性だが、大型犬には意外にほえない種類もいる。ただし、全くほえない犬種はバセンジーだけだと、愛犬家団体アメリカン・ケネルクラブ(AKC)のジェリー・クライン獣医務担当最高責任者は言う。 「ほえるのは犬のコミュニケーション方法──人間の会話みたいなもの。(大きさに関係なく)生まれつきあまりほえない犬種もあれば、よくほえる犬種もある。牧畜犬や番犬など品種改良された本来の用途とも関係しているかもしれない」 外に動物がいるのを見てほえる犬もいれば、退屈だから、注意を引きたいから、あるいは飼い主や仲間と離れて不安でほえる犬もいる。「よくほえる犬には(どんな犬でもそうだが)精神的刺激をたっぷり与え、よく運動させ、人と交流させるのが一番だ。そうすれば満足して無駄ほえが減る」と、クラインは言う。 めったにほえない大型犬を飼いたい人に、本誌おすすめの犬種をいくつか紹介しよう(AKCが「ほえない犬」と認めているのは01~07のみ)』、最後に、私の経験を述べる。
01. ニューファンドランド 威厳のある大型犬で、優しくてたくましく、しかも驚くほど静か。家庭で飼うのに向いていて「子守犬」として知られる。
02. グレーハウンド しなやかな体軀で走りは世界最速の犬として知られ、それだけに日常的に走り回れるような環境が不可欠だ。クラインによれば、ほとんどほえないことでも知られるという。「人懐っこくて社交的、家庭では行儀よく物静かな犬だ。
03. ディアハウンド スコットランド原産のコーシングハウンド(獲物を高速で追う猟犬)で、最も体高の高い犬種の1つと考えられている。成犬は行儀がよく静かで忠実な家庭犬だ。
04. アザワク 西アフリカ原産のサイトハウンド(嗅覚より視覚で獲物を追う猟犬)で、スリムで俊敏。家族を守る習性があるとされる。あまりほえたりうなったりしないところが飼い主(とご近所)にはありがたい。
05. グレートデーン 「人を喜ばせるのが好きで、人懐っこく、人と触れ合うのが大好きな大型犬」とクラインは評する。ジャーマンマスティフとも呼ばれ、ほとんどほえないのも魅力だ。
06. チャウチャウ ずんぐりした頑丈そうな体格とライオンのような風貌で、世界でも特に個性的な犬種。純血種は、あまりほえない犬を飼いたい人たちに大人気だ。
07. シャーペイ 中国原産で、知らない人間には冷たくよそよそしいが、家族にはとことん忠実。クラインによれば「とても知能が高く」、何か異変を感じたとき以外はほえないといわれる。
08. セントバーナード アルプス西部原産の大型職業犬は振る舞いも「聖人」。救助犬として活躍する勇敢な犬で、忍耐強く、静かで威厳があり、家族の大切な「友」だ。
09. アイリッシュセッター 猟犬として交配して作られた美しい犬で、健康や陽気な性質を維持するには多くの運動が必要。知能が高く、飼い主と強い絆を結べることから、家族が危機だと感じるとほえる。
10. ローデシアンリッジバック 優れた猟犬や番犬としてアフリカ南部で飼育されてきた。均整が取れた外貌を持ち、あまりほえたり、いびきをかいたりしないことでも有名だ。
11. アフガンハウンド 豊かで柔らかく、光沢のある被毛を特徴とする極めて魅力的な犬種。毛づくろいは大変だが、めったにほえず、比較的少ない運動量で済むため、ペットとして飼いやすい。
12. チヌーク ハイキングやドッグスポーツにも、人間の子供と遊ぶのにも優秀な能力を発揮する万能型だ。ほかの多くの犬種よりずっと静かだが、穴掘りをしたがる性向で飼い主を困らせることも。 13. ダルメシアン 白い被毛に黒い斑点模様があまりにも有名。大型犬の中では小ぶりで、非常におとなしく、よそ者がテリトリーに侵入してもほえない場合もある。
14. サルーキ 現存する犬種の中で最古の歴史を持つとされる。体重がとても軽くて足が速く、家族である人間に非常に忠実だとか。グレーハウンドと近縁なので、ほとんどほえないのも納得だ。
15. ボルゾイ 別名はロシアンハンティングサイトハウンド。狩猟犬として作り出され、皇帝や貴族に愛されるペットとして人気に。高貴な雰囲気が漂い、とりわけ静かで落ち着いた性格のため、ほえることも少ない。
16. コリー テレビドラマ『名犬ラッシー』で何十年も子供たちを楽しませた純粋種の牧羊犬は、幼い子のいる家庭にぴったり。穏やかで、通常はごくまれにしかほえない。
17. グレートピレニーズ 家畜の群れを捕食動物から保護する牧畜犬として用いられ、多くの場合、コンパニオンドッグに最適だ。訓練中は手がかかることもあるが、のんびりしていてとてもおとなしい。 18. 秋田犬 日本犬種で唯一の大型犬で、秋田県が原産。印象的な外貌を持ち、知的で用心深く、群れを守ろうとする性向がある。場合によってはしつけが大変だが、おおらかな性格なので、ほえ声が問題になることは少ない。
19. オーストラリアンキャトルドッグ 家畜を誘導して移動させる職業犬として活躍してきた。がっしりした体型で、活動的で賢く、主人にとことん忠実とされる。行動は落ち着いていて、気質は穏やか。非常に興奮したときでさえ、ほえない傾向がある。
20. バーニーズマウンテンドッグ 人間のためにさまざまな役割を果たしてきた多用途型の犬で、フレンドリーで穏やかな性格だ。サイズは超大型だが、威圧感はない。見知らぬ人に対しても多くの場合はほえずに、相手から離れることを選ぶ。
私は「秋田犬」の子犬を飼ったことがある。保健所で処分される前に引き取ったが、人間不信に陥っていたので、それを払拭するのに手間取った。庭の大きな犬小屋で飼った。体重は40Kg、無駄吠えは殆どしないので、助かった。
先ずは、本年8月15日付けPRESIDENT Onlineが掲載した解剖学者で東京大学名誉教授の養老 孟司氏による「だから私は「人間」より「猫」を信用するようになった…小学2年生の養老孟司が「敗戦の日」に体験したこと 大人たちの言うことがガラリと変わった」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/60483
・『1945年8月15日。敗戦は日本社会を根底から変えた。解剖学者の養老孟司さんは「小学2年生だった私は、あの日を境に世の中ががらりと変わったのを見た。だから私は人間の言葉を信用せず、猫を信用するようになった」という――。 ※本稿は、養老孟司『まるありがとう』(西日本出版社)の一部を再編集したものです』、興味深そうだ。
・『猫は「しゃべらない」から信用できる 「養老さんにとってまるとはどんな存在ですか?」と聞かれて、よく「ものさしです」と答えた。 人間社会に長くいると、判断に迷うことがある。まるを眺めていれば、人間社会の“常識”に毒されず、物事の本質を見誤ることはないだろう。ものさしにする、というのはそういう意味である。そう思う理由の一つに、まるがしゃべらない、ということがある。 私は、人がしゃべったことは基本的には信用しない。そうなった原因は、1945(昭和20)年8月15日の体験である。 当時、私は小学2年生で、大人たちが敵襲に備え、「鬼畜米英」「本土決戦」「一億玉砕」などと言って一生懸命、訓練をしていたのを憶えている。ところが、あの日を境に、世の中ががらりと変わってしまった。「本土決戦」も「一億玉砕」も、そう言うのだから当然やるものと思っていたが、結局やらなかった。もしやったら最悪の状態になっただろうからやらなくてよかったが、どうせやらないのなら、そんなことを言うなよ、と思った。 戦後は一転して「マッカーサー万歳」となり、全体主義から個人尊重の世の中となった。その体験は私の人間形成に大きく影響し、理系に進んだのも研究対象が人間ではなく、「物」であることが大きい。物は決して嘘をつかない。医学部で解剖学を専攻したのも、死体は決してものを言わないから、作業していて気分が落ち着いた。死体が物かどうかは少し詳しい説明が必要だが、とにかくものを言わないことは確かである』、「人間社会に長くいると、判断に迷うことがある。まるを眺めていれば、人間社会の“常識”に毒されず、物事の本質を見誤ることはないだろう。ものさしにする、というのはそういう意味である。そう思う理由の一つに、まるがしゃべらない、ということがある」、「理系に進んだのも研究対象が人間ではなく、「物」であることが大きい。物は決して嘘をつかない。医学部で解剖学を専攻したのも、死体は決してものを言わないから、作業していて気分が落ち着いた」、なるほど。
・『物事の実態を言葉で伝えるのは不可能である 人間社会はある意味、言葉が支配する社会である。 ところが、物事の実態をそのまま言葉で伝えるのは難しい、というより不可能である。よくいって、せいぜい実態を補完するものでしかないのに、それを絶対視しようとするから、戦前戦中の日本のように、言葉に実態を合わせようとするようなちぐはぐが起きる。 だいたい言葉が介在する世界は相手の話を一応は聞かなければならない。黙っていたら、返答を求められる。そういう世界は面倒で、疲れる。 その点、まるはしゃべらない。嫌なものは嫌だし、好きなものは好き。気楽なものだ。配慮もなければ、忖度もない。実に正直である。寝床で添い寝をしていて、朝起きると、えさをくれという。言葉で「くれ」と言えないので、鳴くか、寝ている私の顔をなめるか。こちらはああ腹が減っているんだなと気付く。それで用事は足りる。えさをやって腹が膨れると、ごちそうさまも言わなければ、ありがとうも言わない。はい、さようならという感じでどこかへぷいと行ってしまう』、「物事の実態をそのまま言葉で伝えるのは難しい、というより不可能である。よくいって、せいぜい実態を補完するものでしかないのに、それを絶対視しようとするから、戦前戦中の日本のように、言葉に実態を合わせようとするようなちぐはぐが起きる」、学者なのに「言葉」の役割をここまで限定的に捉えるとは珍しい。
・『人間は自分の興味のある物しか憶えていない まるやその前のチロだけではなく、わが家はだいたい猫を飼っていた。子どもの頃、いつも不思議に思っていたのは、彼らが何年たってもしゃべらないことだった。 言葉を話すか、話さないか。これは人間と動物の大きな違いである。どうして動物はしゃべれないのか。それは、動物が感覚を頼りに生きていることと関係がある。 例えば視覚も、すごく敏感に物の違いを見ている。チンパンジーの子どもは「カメラアイ」を持っている。カメラアイというのは、目に映った物をカメラのように、ぱっと映像の形で記憶してしまう能力のことで、「写真記憶」「直観像記憶」ともいわれる。 人間は、自分の興味ある物に焦点を合わせて見るから、そこしか憶えていない。見た物の大半は家に帰ったら忘れてしまうが、チンパンジーの子どもは目に映った物の細部を短時間で記憶する。大きな部屋に人を100人集めたとして、私たちはそれをすべて同一の「人」と認識できるが、それができるのは人間だけである。 動物はこれをやらない。まずそれぞれの違いに気付く。例えば、その部屋にまるを連れてきたとすると、どうなるか。おそらく別の個体が100人並んでいると感じるだろう。チンパンジーのカメラアイも、こうした感覚を優先する動物としての能力の一つと私は思う』、「大きな部屋に人を100人集めたとして、私たちはそれをすべて同一の「人」と認識できるが、それができるのは人間だけである。 動物はこれをやらない。まずそれぞれの違いに気付く。例えば、その部屋にまるを連れてきたとすると、どうなるか。おそらく別の個体が100人並んでいると感じるだろう」、「人間」と「動物」の「認識」の違いが理解できた。
・『人間はなぜしゃべれるのか 同じように、動物は言葉を感覚的に音として捉えている。まるが名前を呼ばれて反応しているのは、おそらく声のトーンによって自分が呼ばれていることを聞き分けているからであろう。 あるいは、白板に黒いペンで「白」と私が書くとしよう。まるはおそらく白色を連想しない。なぜなら、その文字が黒いからである。同じように黒いペンで、「赤いリンゴ」と書いても、まるが認識するのは、そう書かれた黒い線だけであろう。 反対に、人間はなぜしゃべれるのか。それは、意識が優先するからである。人間の意識には、感覚から得た刺激をすぐに脳みその中でたちまち意味に変換し、「同じ」にしてしまうという働きがある。 私たちがその部屋へ行き、100人の個体を見ても、「人」という概念で一括りにできる。それゆえ、認識を共有して、言葉のやりとりが可能になるのである。だが、それが良いことずくめであるとは限らない』、「人間はなぜしゃべれるのか。それは、意識が優先するからである。人間の意識には、感覚から得た刺激をすぐに脳みその中でたちまち意味に変換し、「同じ」にしてしまうという働きがある。 私たちがその部屋へ行き、100人の個体を見ても、「人」という概念で一括りにできる。それゆえ、認識を共有して、言葉のやりとりが可能になるのである」、「人間の意識」には重要な役割があることが理解できた。
・『人間は実態よりも意味を優先してしまう 人間は意識を優先させるがため、何にでも意味を付けようとする。ほうっておくと、実態よりも意味を優先して、ちぐはぐを起こす。自然をコントロールしようとして森林を破壊してしまうのも人間だし、資源を見つければ根こそぎ取り尽くしてしまうのも人間である。先ほどの戦前戦中の言葉の問題も、構造は同じといえよう。 人間社会で暮らしていると、自然に人間社会の垢がたまってくるので、感覚の世界を時々、確認したくなる。まるをものさし、つまりある種の基準として観察することで、私は自分の生き物としての自然な感覚を忘れないように、生身の自分を調整していたのである。 人間社会を見れば、西洋はアジアと比べてはるかに意識中心の世界である。 その意識は、自分が見たり触ったり感じたりした物事を、どんどん抽象化して「同じ」にする。いつもいうように、リンゴとミカンがあれば「果物」に抽象化する。それにサンマが加わると「食べ物」になる。抽象化は、このように階層を成していて、「同じ」を繰り返して突き詰めていくと、最後は一つになる。 その頂点は何か。私はそれが、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教のような一神教における「神様」であると思っている。ところが、自然を基礎に置く日本人は、物事をそれほど理屈中心で考えない。だから、神様も「八百万やおよろず」である。そのような日本人の信仰を、私は「実感信仰」と呼んでいる。西洋のように、唯一神にはならない。ちなみに、西洋的な抽象化の階層でいえば、「実感」は最下層にある』、「人間社会で暮らしていると、自然に人間社会の垢がたまってくるので、感覚の世界を時々、確認したくなる。まるをものさし、つまりある種の基準として観察することで、私は自分の生き物としての自然な感覚を忘れないように、生身の自分を調整していたのである」、「まるをものさし、つまりある種の基準として観察することで、私は自分の生き物としての自然な感覚を忘れないように、生身の自分を調整していた」、「まる」を「ものさし」「として観察する」、養老氏にかかると、飼い猫まで特殊な役割を担うようだ。
・『マッカーサーが言った「日本人12歳説」 戦後の日本を統治した連合軍司令官のダグラス・マッカーサーが言った「日本人12歳説」をご存じだろう。議会の委員会で質問に答え「現代文明の基準で測ると、私たちアングロサクソンが45歳であるのに対して、日本人はまだ12歳の少年のようだ」と述べた。彼らが信仰のように大事にしてきた民主主義、自由主義の理想や思想的価値観をものさしにして「成熟度」を測ると、そういう見方になる。 こういう考え方をするのは西洋人ばかりではない。日本人も、西洋側からの視点に立って日本的な感覚を「素朴」とか「原始的」などといいがちである。だが、果たしてそうだろうか。明治以来、日本人は西洋についてよく知ろうとしてきたが、自分たちの特性については西洋型を前提にして批判するという形でしか考えてこなかっただけであろう。だからそのような捉え方になるのである。 例えば日本ではよく、その場の空気で大切なことが決まる。それは悪いことのように思われがちであるが、言葉で言い表せない微妙なところを空気で補完しているわけで、あながち悪いことと言い切れない。いや、そもそも日本人がそれでうまくいくのなら、むしろ良いことなのではないか』、「明治以来、日本人は西洋についてよく知ろうとしてきたが、自分たちの特性については西洋型を前提にして批判するという形でしか考えてこなかっただけであろう」、「その場の空気で大切なことが決まる。それは悪いことのように思われがちであるが、言葉で言い表せない微妙なところを空気で補完しているわけで、あながち悪いことと言い切れない。いや、そもそも日本人がそれでうまくいくのなら、むしろ良いことなのではないか」、確かに同調圧力も前向きに考えるとは興味深い。
・『日本人は「談合」を悪いことだと思っていない だいたい日本人は公共工事の談合を、心の底ではそれほど悪いことだと思っていないだろう。現代では法律で禁止されているが、それは建前で実態は今も因習として残っている。 西洋的フェアネス(公正)の精神からすると非常にアンフェアネス(不公正)ということになるが、みんなが順番に落札者になれるように、入札業者同士で事前に話し合って「調整」することで、誰も損をしない。それによって、新規参入が阻まれ工事が手抜きになるなどという人もいるだろうが、ひょっとしたら西洋化以前は、日本人は談合と併せてそうしたことをきれいに排除する手だてを持っていたかもしれない。なかったかもしれないし、あったかもしれない。そんなことは今となっては、誰にも分からない。 大相撲で、対戦相手がもう一勝できなければ番付が下がるという局面でわざと負けてやる「人情相撲」がある。これも西洋的な価値観を基準にすると、著しくスポーツマンシップに反することになるが、例えば優勝争いに影響しない消化試合で星の貸し借りをして、果たして誰が損をするのだろう』、「公共工事の談合を、心の底ではそれほど悪いことだと思っていないだろう。現代では法律で禁止されているが、それは建前で実態は今も因習として残っている」、「大相撲」での「人情相撲」もこうした「因習」だろう。
・『一夜にして世の中ががらりと変わったのを見た 言葉は意識中心の世界が生み出したと述べたが、空気や呼吸といった感覚で大事なことが決まる仕組みが良い場合もあるはずである。どちらが良いかは、時と場合による。少なくとも言葉の世界が、何にもまして高尚とは限らない。 あまり意味を考えてはいけない、理屈にしない方がいい場合もある。「雰囲気」とは、そういうことである。現代人は理屈に合うものが正しいと信じているが、人間そのものが元来、理屈にあったものではない。だいたい、どうして虫なんか調べるんですかと聞かれても、説明できないではないか。大切なものほど、言葉になんかできないのである。 私には、戦後の日本人が民主主義、自由主義を本気になって受け入れたと思えない。日本に西洋で発生した理想主義が本当の意味で根付くのか。平和、人権、民主主義と声高に叫んでいる人を見ると、「あんた、本気で言ってるの?」と言いたくなる。決して揶揄ではない。そういう人ほど言葉に依存している、つまり意識の世界にいるからである。 時代が酷くなったら、おそらく人権や平和、民主主義を強く叫んでいる人から順番に壊れていく。一番大きな理由は、先ほど述べた敗戦の体験である。1945年8月15日、一夜にして世の中ががらりと変わったのを見てしまったからである』、「現代人は理屈に合うものが正しいと信じているが、人間そのものが元来、理屈にあったものではない。だいたい、どうして虫なんか調べるんですかと聞かれても、説明できないではないか。大切なものほど、言葉になんかできないのである」、「大切なものほど、言葉になんかできないのである」、言い得て妙だ。 「私には、戦後の日本人が民主主義、自由主義を本気になって受け入れたと思えない。日本に西洋で発生した理想主義が本当の意味で根付くのか。平和、人権、民主主義と声高に叫んでいる人を見ると、「あんた、本気で言ってるの?」と言いたくなる。決して揶揄ではない。そういう人ほど言葉に依存している、つまり意識の世界にいるからである。時代が酷くなったら、おそらく人権や平和、民主主義を強く叫んでいる人から順番に壊れていく」、「西洋で発生した理想主義が本当の意味で根付くのか」、どうも根付いてはいないようだ。
次に、昨年9月17日付けNewsweek日本版「家族を優しく守ってくれる「吠えない」大型犬」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/09/post-97110_1.php
・『<ディアハウンド、アイリッシュセッター、ボルゾイ、秋田犬.....。アメリカン・ケネルクラブと本誌が推薦する、行儀よくおとなしい大型犬たち> ほえるのは犬の習性だが、大型犬には意外にほえない種類もいる。ただし、全くほえない犬種はバセンジーだけだと、愛犬家団体アメリカン・ケネルクラブ(AKC)のジェリー・クライン獣医務担当最高責任者は言う。 「ほえるのは犬のコミュニケーション方法──人間の会話みたいなもの。(大きさに関係なく)生まれつきあまりほえない犬種もあれば、よくほえる犬種もある。牧畜犬や番犬など品種改良された本来の用途とも関係しているかもしれない」 外に動物がいるのを見てほえる犬もいれば、退屈だから、注意を引きたいから、あるいは飼い主や仲間と離れて不安でほえる犬もいる。「よくほえる犬には(どんな犬でもそうだが)精神的刺激をたっぷり与え、よく運動させ、人と交流させるのが一番だ。そうすれば満足して無駄ほえが減る」と、クラインは言う。 めったにほえない大型犬を飼いたい人に、本誌おすすめの犬種をいくつか紹介しよう(AKCが「ほえない犬」と認めているのは01~07のみ)』、最後に、私の経験を述べる。
01. ニューファンドランド 威厳のある大型犬で、優しくてたくましく、しかも驚くほど静か。家庭で飼うのに向いていて「子守犬」として知られる。
02. グレーハウンド しなやかな体軀で走りは世界最速の犬として知られ、それだけに日常的に走り回れるような環境が不可欠だ。クラインによれば、ほとんどほえないことでも知られるという。「人懐っこくて社交的、家庭では行儀よく物静かな犬だ。
03. ディアハウンド スコットランド原産のコーシングハウンド(獲物を高速で追う猟犬)で、最も体高の高い犬種の1つと考えられている。成犬は行儀がよく静かで忠実な家庭犬だ。
04. アザワク 西アフリカ原産のサイトハウンド(嗅覚より視覚で獲物を追う猟犬)で、スリムで俊敏。家族を守る習性があるとされる。あまりほえたりうなったりしないところが飼い主(とご近所)にはありがたい。
05. グレートデーン 「人を喜ばせるのが好きで、人懐っこく、人と触れ合うのが大好きな大型犬」とクラインは評する。ジャーマンマスティフとも呼ばれ、ほとんどほえないのも魅力だ。
06. チャウチャウ ずんぐりした頑丈そうな体格とライオンのような風貌で、世界でも特に個性的な犬種。純血種は、あまりほえない犬を飼いたい人たちに大人気だ。
07. シャーペイ 中国原産で、知らない人間には冷たくよそよそしいが、家族にはとことん忠実。クラインによれば「とても知能が高く」、何か異変を感じたとき以外はほえないといわれる。
08. セントバーナード アルプス西部原産の大型職業犬は振る舞いも「聖人」。救助犬として活躍する勇敢な犬で、忍耐強く、静かで威厳があり、家族の大切な「友」だ。
09. アイリッシュセッター 猟犬として交配して作られた美しい犬で、健康や陽気な性質を維持するには多くの運動が必要。知能が高く、飼い主と強い絆を結べることから、家族が危機だと感じるとほえる。
10. ローデシアンリッジバック 優れた猟犬や番犬としてアフリカ南部で飼育されてきた。均整が取れた外貌を持ち、あまりほえたり、いびきをかいたりしないことでも有名だ。
11. アフガンハウンド 豊かで柔らかく、光沢のある被毛を特徴とする極めて魅力的な犬種。毛づくろいは大変だが、めったにほえず、比較的少ない運動量で済むため、ペットとして飼いやすい。
12. チヌーク ハイキングやドッグスポーツにも、人間の子供と遊ぶのにも優秀な能力を発揮する万能型だ。ほかの多くの犬種よりずっと静かだが、穴掘りをしたがる性向で飼い主を困らせることも。 13. ダルメシアン 白い被毛に黒い斑点模様があまりにも有名。大型犬の中では小ぶりで、非常におとなしく、よそ者がテリトリーに侵入してもほえない場合もある。
14. サルーキ 現存する犬種の中で最古の歴史を持つとされる。体重がとても軽くて足が速く、家族である人間に非常に忠実だとか。グレーハウンドと近縁なので、ほとんどほえないのも納得だ。
15. ボルゾイ 別名はロシアンハンティングサイトハウンド。狩猟犬として作り出され、皇帝や貴族に愛されるペットとして人気に。高貴な雰囲気が漂い、とりわけ静かで落ち着いた性格のため、ほえることも少ない。
16. コリー テレビドラマ『名犬ラッシー』で何十年も子供たちを楽しませた純粋種の牧羊犬は、幼い子のいる家庭にぴったり。穏やかで、通常はごくまれにしかほえない。
17. グレートピレニーズ 家畜の群れを捕食動物から保護する牧畜犬として用いられ、多くの場合、コンパニオンドッグに最適だ。訓練中は手がかかることもあるが、のんびりしていてとてもおとなしい。 18. 秋田犬 日本犬種で唯一の大型犬で、秋田県が原産。印象的な外貌を持ち、知的で用心深く、群れを守ろうとする性向がある。場合によってはしつけが大変だが、おおらかな性格なので、ほえ声が問題になることは少ない。
19. オーストラリアンキャトルドッグ 家畜を誘導して移動させる職業犬として活躍してきた。がっしりした体型で、活動的で賢く、主人にとことん忠実とされる。行動は落ち着いていて、気質は穏やか。非常に興奮したときでさえ、ほえない傾向がある。
20. バーニーズマウンテンドッグ 人間のためにさまざまな役割を果たしてきた多用途型の犬で、フレンドリーで穏やかな性格だ。サイズは超大型だが、威圧感はない。見知らぬ人に対しても多くの場合はほえずに、相手から離れることを選ぶ。
私は「秋田犬」の子犬を飼ったことがある。保健所で処分される前に引き取ったが、人間不信に陥っていたので、それを払拭するのに手間取った。庭の大きな犬小屋で飼った。体重は40Kg、無駄吠えは殆どしないので、助かった。
タグ:「人間社会に長くいると、判断に迷うことがある。まるを眺めていれば、人間社会の“常識”に毒されず、物事の本質を見誤ることはないだろう。ものさしにする、というのはそういう意味である。そう思う理由の一つに、まるがしゃべらない、ということがある」、「理系に進んだのも研究対象が人間ではなく、「物」であることが大きい。物は決して嘘をつかない。医学部で解剖学を専攻したのも、死体は決してものを言わないから、作業していて気分が落ち着いた」、なるほど。 養老 孟司氏による「だから私は「人間」より「猫」を信用するようになった…小学2年生の養老孟司が「敗戦の日」に体験したこと 大人たちの言うことがガラリと変わった」 PRESIDENT ONLINE ペット (その3)(だから私は「人間」より「猫」を信用するようになった…小学2年生の養老孟司が「敗戦の日」に体験したこと 大人たちの言うことがガラリと変わった、家族を優しく守ってくれる「吠えない」大型犬) 「物事の実態をそのまま言葉で伝えるのは難しい、というより不可能である。よくいって、せいぜい実態を補完するものでしかないのに、それを絶対視しようとするから、戦前戦中の日本のように、言葉に実態を合わせようとするようなちぐはぐが起きる」、学者なのに「言葉」の役割をここまで限定的に捉えるとは珍しい。 「大きな部屋に人を100人集めたとして、私たちはそれをすべて同一の「人」と認識できるが、それができるのは人間だけである。 動物はこれをやらない。まずそれぞれの違いに気付く。例えば、その部屋にまるを連れてきたとすると、どうなるか。おそらく別の個体が100人並んでいると感じるだろう」、「人間」と「動物」の「認識」の違いが理解できた。 「人間はなぜしゃべれるのか。それは、意識が優先するからである。人間の意識には、感覚から得た刺激をすぐに脳みその中でたちまち意味に変換し、「同じ」にしてしまうという働きがある。 私たちがその部屋へ行き、100人の個体を見ても、「人」という概念で一括りにできる。それゆえ、認識を共有して、言葉のやりとりが可能になるのである」、「人間の意識」には重要な役割があることが理解できた。 「人間社会で暮らしていると、自然に人間社会の垢がたまってくるので、感覚の世界を時々、確認したくなる。まるをものさし、つまりある種の基準として観察することで、私は自分の生き物としての自然な感覚を忘れないように、生身の自分を調整していたのである」、「まるをものさし、つまりある種の基準として観察することで、私は自分の生き物としての自然な感覚を忘れないように、生身の自分を調整していた」、「まる」を「ものさし」「として観察する」、養老氏にかかると、飼い猫まで特殊な役割を担うようだ。 「明治以来、日本人は西洋についてよく知ろうとしてきたが、自分たちの特性については西洋型を前提にして批判するという形でしか考えてこなかっただけであろう」、「その場の空気で大切なことが決まる。それは悪いことのように思われがちであるが、言葉で言い表せない微妙なところを空気で補完しているわけで、あながち悪いことと言い切れない。いや、そもそも日本人がそれでうまくいくのなら、むしろ良いことなのではないか」、確かに同調圧力も前向きに考えるとは興味深い。 ・『日本人は「談合」を悪いことだと思っていない だいたい日本人は 西洋的フェアネス(公正)の精神からすると非常にアンフェアネス(不公正)ということになるが、みんなが順番に落札者になれるように、入札業者同士で事前に話し合って「調整」することで、誰も損をしない。それによって、新規参入が阻まれ工事が手抜きになるなどという人もいるだろうが、ひょっとしたら西洋化以前は、日本人は談合と併せてそうしたことをきれいに排除する手だてを持っていたかもしれない。なかったかもしれないし、あったかもしれない。そんなことは今となっては、誰にも分からない。 大相撲で、対戦相手がもう一勝できなければ番 「現代人は理屈に合うものが正しいと信じているが、人間そのものが元来、理屈にあったものではない。だいたい、どうして虫なんか調べるんですかと聞かれても、説明できないではないか。大切なものほど、言葉になんかできないのである」、「大切なものほど、言葉になんかできないのである」、言い得て妙だ。 「私には、戦後の日本人が民主主義、自由主義を本気になって受け入れたと思えない。日本に西洋で発生した理想主義が本当の意味で根付くのか。平和、人権、民主主義と声高に叫んでいる人を見ると、「あんた、本気で言ってるの?」と言いたくな Newsweek日本版「家族を優しく守ってくれる「吠えない」大型犬」 01. ニューファンドランド 02. グレーハウンド 03. ディアハウンド 04. アザワク 05. グレートデーン 06. チャウチャウ 07. シャーペイ 08. セントバーナード 09. アイリッシュセッター 10. ローデシアンリッジバック 11. アフガンハウンド 12. チヌーク 13. ダルメシアン 14. サルーキ 15. ボルゾイ 16. コリー 17. グレートピレニーズ 18. 秋田犬 19. オーストラリアンキャトルドッグ 20. バーニーズマウンテンドッグ 私は「秋田犬」の子犬を飼ったことがある。保健所で処分される前に引き取ったが、人間不信に陥っていたので、それを払拭するのに手間取った。庭の大きな犬小屋で飼った。体重は40Kg、無駄吠えは殆どしないので、助かった。
キシダノミクス(その7)(岸田首相の「資産所得倍増プラン」 じつは日本からの「資金流出」リスクを抱えていた…!、ここにきて 岸田総理が直面する「三重苦」の正体…「何もしなかったツケ」がいよいよ回り始めた、岸田新体制が始動「超重量級」人事でも不安募る訳 反主流を懐柔し 安倍派も手玉にとったが…) [国内政治]
キシダノミクスについては、7月18日に取上げた。今日は、(その7)(岸田首相の「資産所得倍増プラン」 じつは日本からの「資金流出」リスクを抱えていた…!、ここにきて 岸田総理が直面する「三重苦」の正体…「何もしなかったツケ」がいよいよ回り始めた、岸田新体制が始動「超重量級」人事でも不安募る訳 反主流を懐柔し 安倍派も手玉にとったが…)である。
先ずは、7月27日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「岸田首相の「資産所得倍増プラン」、じつは日本からの「資金流出」リスクを抱えていた…!」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/97893?imp=0
・『岸田文雄首相が資産所得倍増プランを打ち出すなど、政府が国民に対して資産形成を促している。日本人の資産運用は銀行預金が中心であり、投資へのシフトは進んでいなかったが、最近では、将来の生活に不安を抱える若年層を中心に関心が高まっているとされる。だが一連の政策に落とし穴はないのだろうか』、興味深そうだ。
・『資産の半分以上が現預金 日本における家計部門の金融資産は2000兆円突破しており、このうち現預金が半分以上を占めている。米国では約10%、欧州でも30%しか現預金の比率はなく、日本人の現金好きは突出している。政府も以前から「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げ、投資へのシフトを促してきたが、日本人の行動はほとんど変わらなかった。 ここに来て政府が、少額投資非課税制度(NISA)の拡充など、投資促進策を強く打ち出している背景には、年金財政の悪化がある。日本の公的年金は維持可能性に疑問符が付く状態となっており、少なくとも2割から3割の減額は確実と言われる。 一方、日本人の所得は伸び悩んでおり、このままでは老後の生活を維持できない国民が急増する可能性が高い。公的年金の不足を補うため、政府はやむなく、自己責任での投資を促しているというのが偽らざるを現実である。 こうした事情が背景にあるとはいえ、個人が積極的に資産形成を行う必要性は以前から指摘されており、証券投資を促す方向性自体は間違っていない。だが、今の日本の経済状況において投資促進策を誤った形で実施すると、場合によっては経済にマイナスの影響を与える可能性もある。最大のリスクは資金が日本ではなく海外に流出するキャピタルフライトだろう。 先程、日本人の個人金融資産は2000兆円を突破しており、うち1000兆円以上が現預金になっていると説明したが、実際にこの金額がキャッシュとして銀行に死蔵されているわけではない。一連の現預金は、貸し出しや債券引き受けなど信用創造の結果として積み上げられたものであり、預金者から見れば資産として、銀行側から見れば負債として帳簿上に記載されているだけの数字である。 こうした状況で、多くの国民が現預金を投資に回した場合、どのような動きになるだろうか。仮に引き出された預金が国内の証券購入に充てられた場合、金融市場にほとんど変化は生じない。誰かが現預金を引き出して証券を購入しても、証券を売った人の口座に入金されるだけなので、日本全体で見た場合、銀行口座の資金総額は同じになる(株価が一定の場合)』、円安が進行しているが、最大の懸念はこうした「資金が日本ではなく海外に流出するキャピタルフライト」だ。
・『円安と金利上昇を招く? では、どのような時に金融資産の構成に変化が生じるだろうか。それは証券の時価総額が増えた時である。例えば企業の業績期待が高まり株価が上昇した場合や、企業が積極的に増資を行い、市場から資金を調達するケースでは、株式や社債の時価総額が増えていく。国民から見れば、株式や債券の資産額が増え、現預金との比率も変化する。銀行預金とは別に、株式や社債という新しい資産が出来上がっているので、直接金融も信用創造の一つとみなしてよいだろう。 これは国民の資産が増えていることと同義であり、理想的な姿と言って良い。政府も、貯蓄から投資へのシフトによってこうした好循環が発生すると期待している。だが、日本の株式市場の期待値が低く、多くの国民が日本企業の株式を購入しなかった場合、話は変わってくる。 銀行預金を引き出した国民が、米国や欧州、あるいは中国といった海外に投資を行った場合、資金が外貨に両替され国外に流出するので、為替市場では円安が進みやすくなる。こうした動きが一定範囲に収まっているのであれば、大きな問題は生じないし、海外投資から得られた利益は逆に国内に還流するので、国民所得の増加をもたらす。ポジティブな意味で国民が海外投資を行うことは、むしろ日本経済にとってプラスと考えてよい。 だが、もっとネガティブな意味で(つまり資産を日本円で保有していることがリスクであると国民が考えた場合)外国資産を保有するようになると事態は急変する。国内の貯蓄が一気に取り崩され、大量の資金が海外流出する可能性も否定できない。 現時点において、日本では企業部門と家計部門が貯蓄過剰であり、政府が大幅な資金不足の状態にある。つまり企業と家計の貯蓄は、銀行預金を通じて国債購入に充てられており、この巨額の貯蓄があるからこそ、日本国債は安定的に消化されてきた。 もし多くの国民が資金を海外に逃がした場合、国債の買い手がいなくなり、その後は日銀以外に国債を買う主体がいなくなってしまう。つまり、資金の多くが海外に向かった場合、円安と金利上昇(国債価格の下落)の引き金を引いてしまう可能性があるのだ』、確かに「資金の多くが海外に向かった場合、円安と金利上昇(国債価格の下落)の引き金を引いてしまう可能性」は最大のリスクだ。
・『成長戦略とセットである必要 繰り返しになるが、国民が適切な範囲で海外投資を行うことはむしろ日本経済や金融システムにもプラスの効果をもたらす。上記で説明したのは最悪のケースであり、貯蓄から投資へのシフトが、すぐに円安や国債価格の下落を招くわけではない。しかしながら、政策の道筋を誤った場合、こうしたリスクが発生する可能性があることについては十分に理解しておく必要があるだろう。) 「貯蓄から投資へ」という政策は、単純に預金から投資にお金を動かすことではない。先ほども説明したように、株式の時価総額が増えるという形で資金を循環させることに意味がある。 新たな信用創造として株式という資産が増え、経済に好影響を与えるとともに、国民の資産も増加していく。米国において現預金の比率が低く、株式の資産比率が高いのは、政府が資金の移動を促したのではなく、直接金融が活発になって株式の時価総額増えた結果に過ぎない。 最も大事なことは、日本経済が再び成長軌道に戻る道筋を描くことであり、これが実現すれば、自動的に貯蓄から投資へのシフトは進む。あくまで先に来るのは成長期待であって資金シフトではないという本質を忘れてはならないだろう。 国民や企業の過剰貯蓄が国債という借金の消化に向かっている以上、国内株式の時価総額を増やす政策が伴わなければ(つまり成長戦略が実施されなければ)、貯蓄の取崩しと資金流出が発生し、国債消化に支障を来たすことになる。資金循環は全体のバランスが重要であり、より俯瞰的な視点が求められる』、「あくまで先に来るのは成長期待であって資金シフトではないという本質を忘れてはならないだろう」、その通りだ。
次に、8月11日付け現代ビジネスが掲載した政治・教育ジャーナリストで大妻女子大非常勤講師の清水 克彦氏による「ここにきて、岸田総理が直面する「三重苦」の正体…「何もしなかったツケ」がいよいよ回り始めた」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/98482?imp=0
・『実は参院選前からあった早期の内閣改造計画 「様々な課題を考えると、できるだけ早く新しい体制をスタートさせなければならない」 8月6日、広島市で行われた平和祈念式典の後、記者会見でこのように語った岸田首相は、9月上旬との報道が多かった自民党役員人事と内閣改造を10日に実施した。人事が全国紙などの予想よりも早いという兆候は、参議院選挙以前からあった。 「小渕優子元経済産業相は入るだろう。大きなサプライズだ」 こんな声が漏れ聞こえてきたのは7月になったばかりの頃であった。自民党幹部には、選挙前の段階で官邸から早い段階での改造の意思が示されており、安倍元首相の死でそれが8月10日に先送りされた、と見るべきである。 もっとも、岸田首相の脳裏には、安倍元総理の死を契機に旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と特に自民党議員との深いつながりが問題視され、内閣支持率が急速に低下したことがある。 さらに、想像を超える拡がりを見せている新型コロナウイルス第7波への対策、物価高や原油高への対応、そして、台湾情勢の悪化に伴う防衛力の強化や安倍元首相の国葬に向けての準備、など、懸案事項が一気に増えたこともある。 加えて言えば、人事となると自民党各派閥からの猟官運動が避けられない。これは党内基盤が強くない岸田首相にとって頭の痛いことだ。 安倍元首相の影響力を排除し、岸田カラーの内閣を作るために、「人事は9月と見せかけ、奇襲攻撃をかけた」(自民党中堅議員)と見ることもできる』、「人事は9月と見せかけ、奇襲攻撃をかけた」とは「岸田首相」もなかなかやるものだ。
・『第2次岸田改造内閣から見えるもの 自民党役員人事と内閣改造の焦点は、以下の3点であった。 (1)安倍カラーから岸田カラーになり得たか? (2)新役員や新閣僚の旧統一教会との関係、その濃淡はどうか? (3)菅前首相の取り込みやサプライズ人事はあるのか? まず、自民党役員人事では、麻生副総裁、茂木幹事長を留任させて、党の骨格を維持し、麻生派と茂木派を懐柔した。 そして、総務会長には二階俊博前幹事長や公明党とパイプがある遠藤利明氏、衆議院選挙区の「10増10減」という難題を抱える選挙対策委員長には、菅前首相に近い森山裕氏を据えて挙党体制の体裁を整えた。 閣僚人事では、安倍派が4人、茂木派が3人、麻生派が4人で、岸田派は3人という配分で、「最大派閥だから……」と1人増を求めていた安倍派からの要望を「人事はドント方式ではない」と却下した。 岸田カラーが出たのはここからだ。安倍派からは、岸田首相に近い福田系の松野博一官房長官に留任させ、安倍直系の萩生田光一経産相を政調会長に横滑りさせた。また、福田系でも安倍系でもない西村康稔前経財相を経産相に据えたことで安倍派がぐらつかないようくさびを打った。 旧統一教会との関係が指摘された閣僚7人は交代させ、コロナ対策に当たる山際経財相のみ留任させた。菅前首相や菅氏を支持する無派閥議員を取り込むため、菅氏に近い河野太郎氏をデジタル相に起用した。 党内第4派閥を率いているに過ぎない岸田首相は、逆ピラミッドのような形での政権運営を余儀なくされている。 【図】党内第4派閥を率いている岸田政権の人事(リンク先参照) 安倍派、茂木派、麻生派、さらには菅グループまでを取り込むことで、難局突破を図ろうという意図が見える人事である。 政調会長に決まった萩生田氏は、直前まで、「旧統一教会の会合で挨拶したと報じられたから大臣を外されたのかなあ」と語っていたが、岸田首相とも近い萩生田政調会長なら、茂木幹事長の暴走をけん制できる、との判断も働いている。 さらに言えば、コロナ対策と防衛力の強化に向け、経験者の加藤勝信、浜田靖一両氏をそれぞれ厚労相や防衛相に配したのも、直面する重要課題で成果を上げたいと意気込む岸田首相の思いがストレートに出た人事と言えるだろう。 ちなみに、前述した小渕優子氏の入閣が見送られたのは、2014年の政治資金規正法違反事件で、小渕氏の関係先が家宅捜索された際、証拠が保存されていたパソコンが、事前にドリルで穴を開けられ破壊されていたとの報道が、再び蒸し返される懸念があったためだ。 小渕氏の後見役である青木幹雄元参議院会長が、彼女の将来性を担保するため、「入閣は次でいい」と判断したことが大きい。 このようにして岸田新体制はスタートすることになったが、今後、閣僚の中から旧統一教会との濃い関係が明るみに出れば、かつて第2次橋本改造内閣が、ロッキード事件で有罪が確定した佐藤孝行氏を入閣させたばかりに崩壊したのと同じ轍を踏む危険性もはらんでいる。 ただ、難題は旧統一教会問題だけではない。とりわけ3つの壁は大きい。言うなれば三重苦である』、「3つの壁」とは何なのだろう。
・『「何もしない内閣」から脱皮できるか? 1つ目は国内問題。新型コロナウイルス対策、経済対策、そして前述した「10増10減」だ。岸田内閣は、これまで「何もしない内閣」と揶揄されながら、いろいろやりすぎた菅前内閣よりも高い支持率を維持してきた不思議な内閣である。 しかし、重症化リスクは少ないとは言うものの、「BA.5」によるコロナ感染者の爆発的な増加は、もはや「行動制限はしない」「メリハリのきいた対策をとる」などといった口先介入では出口が見えない状況となっている。 第7波となって以降、岸田内閣がやってきたことと言えば、若者への3回目ワクチン接種の呼びかけと高齢者などを対象にした4回目ワクチン接種の推進、そして都道府県に丸投げの「対策強化宣言」を新設した程度だ。 医療機関への負担を軽減し、感染防止策と社会経済活動をある程度両立させようとするなら、現在、「2類」となっている感染症上の分類を「5類」に下げ、感染者の全数報告の見直しを急ぐべきだ。それと同時に、抗原検査キットのネット販売、「BA.5」に効果があるとされるワクチンの輸入も急務となる。 筆者は先頃、抗原検査キットで感染の有無を調べてみたが、キットでは、今年3月に打った3回目ワクチン接種による抗体がわずかながら残っていることが示された。逆を言えば、わずかな抗体など、すぐになくなるわけで、幅広い世代に4回目のワクチン接種を拡大すべきであろう。 経済対策もここまでは非常にしょぼい。 ガソリン代や電気代の高騰、食料品の価格上昇も、コロナ同様、出口が見えない。10月には6000品目もの値上げが生活を直撃する見通しだ。 それにもかかわらず、政府が電気代対策として「節電すればポイント付与」を発表したときは、筆者が勤務している在京ラジオ局の報道フロアから、「うそでしょ?」「何、このしょぼさ!」と、仕事を忘れ怒りの声が上がったものだ。 秋の臨時国会で大規模な補正予算案を組むこと。そして、期間限定で構わないので、ガソリン税や消費税の引き下げを断行すべきだ。 「財務省支配」の岸田内閣では望むべくもないが、それくらいやれば、国民は「岸田さんに長期政権を任せてもいい」という気持ちになり、本当の意味で、「黄金の3年間」(次の国政選挙まで好きなようにやれる3年間)が担保されるように思うのである。 そして、衆議院選挙区の「10増10減」に伴う措置だ。 1票の格差を是正するため、政府の「衆議院議員選挙区画定審議会」がまとめた新たな区割り案では、25の都道府県、140選挙区の区割りが変わることになる。言葉は悪いが、選挙区の変更は「泥棒が刑法をいじるようなもの」で、衆議院議員の利害が激突するため遅々として進まない。 誰を支部長にするか、公明党から早くも上がる「選挙区が増える東京などの一部は、うちの候補で統一してほしい」という要求にどう答えるか、その答えが出ない間は、岸田首相は「解散」という伝家の宝刀を抜けない。茂木幹事長と森山選挙対策委員長の力量が試されることになる』、「公明党から早くも上がる「選挙区が増える東京などの一部は、うちの候補で統一してほしい」という要求にどう答えるか、その答えが出ない間は、岸田首相は「解散」という伝家の宝刀を抜けない」、確かに「伝家の宝刀を抜けない」というのは苦しいだろう。
・『安倍元首相の国葬は両刃の剣 依然として批判の声が根強い安倍元首相の国葬もネックになる。国会での議論や国民への十分な説明もないまま閣議で国葬を決めたことは、旧統一教会との関係も相まって依然としてモヤ感が残る。 まずは費用だ。2020年の中曽根元総理の内閣・自民党合同葬ですら、内閣・自民党負担と国費でそれぞれ9000万円余り、合計1億8000万円余りかかっている。 政府は、日本武道館で行われる来月27日の国葬を6000人規模で調整しているが、国葬となれば費用はかさみ、その全てが国費=税金で賄われることになる。もちろん、「森友・加計・桜を見る会」の問題や、アベノミクスに代表される安倍政治の総括ができていないという点でも疑問が残る。 それ以上に懸念されるのが、国葬によって各国からの弔問が相次ぐ点だ。すでに、アメリカからはオバマ元大統領、フランスからはマクロン大統領の来日が検討されている。 2020年4月、小渕首相(当時)が脳梗塞で倒れ、その後死去した際、内閣・自民党合同葬には、アメリカや韓国の現職大統領が来日したほか、80を超える国と地域から特使が派遣された。安倍元首相の場合、その比ではあるまい。 特に台湾である。安倍元首相の死去を受け、台湾は頼清徳副総統を訪日させた。頼副総統は7月11日、安倍元首相の自宅を弔問し、翌12日には告別式が行われた増上寺を訪問している。 もし国葬に蔡英文総統が「出席したい」と言えば、岸田首相は腹を括れるだろうか。頼副総統ですら、日台国交断絶以降、台湾最高位の政治家の来日で、中国の猛反発を招いた。 岸田首相にとって、各国からの要人を迎える弔問外交はプラスになる話だが、台湾に関しては、台湾を訪問したアメリカ議会下院のペロシ議長と会談し、中国の反発を受けたばかりである。加えて、ロシアが誰かを派遣してくる場合、どう対応するかも問われることになる。 つまり、安倍元首相の国葬は、保守層を食い止め、岸田外交をアピールする機会であると同時に、国内外で批判や反発を呼ぶリスクも高い催しなのだ』、「国葬」は「国内外で批判や反発を呼ぶリスクも高い催し」、なのにも拘らず、「岸田首相」があっさりと「国葬」を決めたのには驚かされた。
・『中国・習近平との亀裂は深刻化する 3つ目は中国が、台湾だけでなく日本も標的にし始めた点である。 中国が、ペロシ議長訪台に対抗して台湾を6カ所から取り囲み、大規模な軍事演習を実施したことは、海軍をはじめとする軍事力をアメリカに向けて誇示し、日本に対しても、EEZ(排他的経済水域)内に弾道ミサイルを撃ち込むことで、「尖閣諸島海域は中国のもの。台湾と一緒にいつでも制圧できる」と脅しをかけたことを意味している。 中国外交の特徴としては、やられたらやり返す「戦狼外交」が挙げられるが、まさに2倍返し、3倍返しで、その底力を台湾、アメリカ、そして日本に見せつけたわけだ。 中国国内では、ロシアと共同歩調をとる習近平総書記に対し、共産党の長老から「国益を考えればアメリカと協調すべき」との声もあったが、ペロシ議長の訪台は、そういう声に蓋をする契機ともなった。秋の共産党大会での総書記として3選が決まれば、さらに攻勢に出てくるのは明らかである。 こうした中、8月7日、防衛省に近い東京・市ヶ谷のホテルでは、日本戦略研究フォーラムが主催する台湾有事を想定したシミュレーションが実施された。元防衛相や元自衛隊幹部らが集まってのシミュレーションは、去年の同時期に続いてのものだ。ただ今年は、緊迫度が格段に増した。
・2027年8月、中国が実弾訓練を開始、尖閣諸島近くに200隻の漁船団が接近。 ・防衛省は、中国に先んじて自衛隊を尖閣諸島に上陸させる計画を準備。 ・しかし、9月7日、中国漁船団は尖閣諸島に上陸。9月13日には台湾をミサイルで攻撃するという「複合事態」に発展。 ・日本政府はひとまず「存立危機事態」と認定し、アメリカ軍に支援を求めるが、「台湾優先」の意思が示される。 このような想定で行われたシミュレーションはあくまでバーチャルなものだが、習近平総書記が3選されれば、リアルになる可能性は一段と高まる。 今年は、9月29日に日中国交正常化50年という節目を迎えるが、祝賀ムードどころか、岸田首相はいやがうえにも「動き出した巨大なトラ」と対峙しなければならなくなった。 防衛費の相当な増額を、アメリカをはじめ国際社会に公約した岸田首相が、どこまでの上積みを決断するか、アメリカなどと連携して中国の動きをどのように抑止していくのか、その覚悟も問われることになる』、さしあたりは年末の来年度予算編成で、「防衛費」をGDP比2%に出来るか否かが、注目される。
第三に、8月13日付け東洋経済オンラインが掲載した政治ジャーナリストの泉 宏氏による「岸田新体制が始動「超重量級」人事でも不安募る訳 反主流を懐柔し、安倍派も手玉にとったが…」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/610878
・『8月10日夕、第2次岸田改造内閣が発足した。永田町での大方の予想を裏切る時期に行った岸田文雄首相の電撃人事。故安倍晋三元首相の「国葬」の是非に旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題が絡むなど、「党内調整は超難題」(自民幹部)とみられたが、結果的には岸田流人事のしたたかさが際立った。 「国難突破」を掲げて人事に臨んだ岸田首相は、党・内閣の骨格は維持しながら、党内反主流派の重鎮らの取り込みで挙党態勢を構築。注目の安倍派への対応も、同派幹部をバランスよく要職に配して不満を吸収し、各派幹部も多くが「合格点」と評価した。 安倍氏死去で党内の権力構図が一変する中、岸田首相は今回の人事で各派閥や実力者への配慮を重視。菅義偉前首相を旗頭とする党内反主流勢力を巧みに懐柔する一方、「主亡き安倍派」の内部対立を見透かした人事で、同派を手玉にとったからだ。 これにより当面、政権が窮地に陥る事態は回避され、与党内では「岸田首相が求心力を維持する」(公明幹部)との見方が広がる』、「安倍氏死去で党内の権力構図が一変する中、岸田首相は今回の人事で各派閥や実力者への配慮を重視。菅義偉前首相を旗頭とする党内反主流勢力を巧みに懐柔する一方、「主亡き安倍派」の内部対立を見透かした人事で、同派を手玉にとった」、なかなかの策士のようだ。
・『コロナ感染拡大、物価高騰、旧統一教会問題… ただ、コロナ第7波の感染爆発は収まる気配がなく、物価高騰も含めた批判拡大もあって、各メディアが実施した緊急世論調査でも内閣支持率は政権発足後最低水準のまま増減が交錯する状況で、党内と国民の評価には乖離が際立つ。 しかも、これまでの国政選挙を通じた旧統一教会と自民党の“癒着”は「底なし沼の様相」(閣僚経験者)で、故安倍氏の関わりも絡んで、国民レベルでの「国葬」反対の声も大きい。 岸田首相は「国葬外交での大勝負」(側近)を狙うが、それに先立つ国会での閉会中審査などでの野党の集中攻撃を交わして、首尾よく9月27日の国葬にたどり着けるかどうかは、なお予断を許さない状況だ。 一部側近だけの極秘シナリオに沿った電撃改造人事は、経過や結果を検証すれば「練りに練ったしたたかで巧妙な岸田流が奏功」(自民長老)したといえる。 8月5日夕の臨時役員会・総務会で党役員人事の一任を取り付けで始まった党・内閣人事は、週末も含めた3日間の党内調整を経て9日夜にはすべての人事が固まり、10日夕には新体制発足という手際のよさだった。 岸田首相(自民党総裁)は、10日午前の自民臨時総務会で新執行部の人事を決めた。麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長と高木毅国会対策委員長を再任し、遠藤利明選挙対策委員長を総務会長に横すべりさせ、政調会長に萩生田光一経済産業相、選対委員長に森山裕総務会長代行を起用した』、「一部側近だけの極秘シナリオに沿った電撃改造人事は、経過や結果を検証すれば「練りに練ったしたたかで巧妙な岸田流が奏功」・・・したといえる」、なるほど。
・『党4役のうち3人は派閥領袖 人事のポイントとなったのは萩生田、森山両氏の党4役就任。萩生田氏は故安倍氏の最側近で岸田首相とも親しく、森山氏は菅義偉前首相や二階俊博元幹事長と盟友関係にある。しかも、萩生田氏以外の4役は派閥領袖で「超重量級の挙党態勢」(岸田派幹部)となった。 これを受けて発足した新内閣は、林芳正外相、鈴木俊一財務相、松野博一官房長官という「骨格」が留任する一方、19閣僚中14人が交代する大幅改造。ただ、重要閣僚とされる経済産業、厚生労働、防衛各相には経験者を配し、閣僚経験者の再入閣は5人。初入閣の9人は、ほとんどが各派の推薦リストを踏まえた「党内バランス優先の人事」(官邸筋)となった。 岸田首相は新内閣発足後の官邸記者会見で「有事に対応する『政策断行内閣』」とし、「経験と実力を兼ね備えた閣僚を起用した」と胸を張った。ただ、閣僚の顔ぶれをみると「目玉もなく、実務優先で地味だが、要所に岸田首相の意図がにじむ人事」(自民長老)となったことは間違いない。 それを象徴したのが、最も注目された「安倍派」への対応だった。 安倍派からの起用は留任も含め4人だったが、経済安保相の高市早苗、厚労相の加藤勝信両氏は「もともと故安倍氏の側近」として知られるだけに、「前内閣より手厚い配置」(岸田派幹部)ともみえる。 ただ、留任した松野氏は故安倍氏と距離があるとされ、「安倍派内の親安倍と反安倍を組み合わせた巧妙な人事」(同)でもある。 また、茂木派の加藤厚労相と麻生派の河野太郎デジタル相も、両派の派内事情を踏まえた起用とみられている。「茂木氏のライバルで本籍・安倍派」(茂木派幹部)といわれる加藤氏と、「菅前首相の最側近」(麻生派幹部)として知られる河野氏だけに、党内では「入閣させることで、派閥内での動きを封じる狙いがある」(自民長老)との見方も広がる』、「安倍派内の親安倍と反安倍を組み合わせた巧妙な人事」、「河野氏」を「入閣させることで、派閥内での動きを封じる狙い」、など、「岸田首相」は見かけによらず策士だ。
・『防衛相に無派閥の浜田靖一氏が起用された事情 さらに、年末に向けた政権の重要課題の1つとなる防衛費増強の担当閣僚に無派閥の浜田靖一氏を起用したことにも、岸田首相の意図がにじむ。当初は「今回総務相になった寺田稔氏の起用が有力」(岸田派幹部)だったが、「財務省出身の寺田氏では党内保守派が反発すると判断し、有力な防衛族の浜田氏起用でバランスを取った」(同)とされる。 他方、与党・公明党の斉藤鉄夫国土交通相の留任も自民党内に波紋を広げた。9月の公明党人事で退任が予定されていた山口那津男同党代表の続投説が強まる中、山口氏が要求したのが斉藤氏の留任だった。 自民党内では「有力な利権ポストを取り戻せ」(茂木派幹部)との声が多かっただけに、「岸田首相と山口氏の間で何らかの裏取引があったのでは」(同)との臆測も飛び交う。 ただ、岸田首相にとって、こうした「永田町特有の人事の駆け引き」(自民長老)以上に重要だったのが「“脱旧統一教会”という難題への対応」(官邸筋)だった。 岸田首相は旧統一教会との何らかの関わりが指摘された前内閣の7人の閣僚を外したが、留任させた山際大志郎経済再生相(コロナ担当兼務)も含め新たに7人の関わりが発覚し、野党からは「もはや自民党は、統一教会関係者排除では組閣ができないというずぶずぶの関係を証明した」(小池晃共産党書記長)と激しく攻撃されている。 これを受けて野党側は早期の臨時国会召集を求めており、その前段として9月上旬に想定される衆参両院での閉会中審査は「旧統一教会問題で大荒れになる」(立憲民主幹部)ことは確実だ』、「留任させた山際大志郎経済再生相(コロナ担当兼務)も含め新たに7人の関わりが発覚し、野党からは「もはや自民党は、統一教会関係者排除では組閣ができないというずぶずぶの関係を証明した」・・・と激しく攻撃」、「山際」の「旧統一教会との」かかわり発覚は余りにお粗末だ。
・『副大臣・政務官と旧統一教会の関わりにも注目 しかも、12日午後に実施された副大臣・政務官人事で登用された議員からも、合計10人(副大臣4、政務官6)が過去に何らかの「関わり」を持っていたことが判明し、改めて問題の根深さを浮き彫りにした。 ただ、ほとんどが自己申告に基づくもので、岸田首相は差し替え人事などは行わない方針。しかし、今後の調査などで本人の説明以上の「深い関わり」が発覚すれば、国民の不信が拡大し、さらなる内閣支持率の下落につながりることは確実だ。 各種世論調査をみても、国民の圧倒的多数が政府・与党の”脱・旧統一教会“を求めており、今後も事態が暗転するようなら、自民党が避けている「党による徹底調査と処分」に追い込まれる可能性も少なくない。 国際的にも「過去に例がないほど重要な外交イベント」(外務省幹部)となる「9・27国葬」まで、なお1カ月半もの時間が残っている。 「安倍氏の国葬と旧統一教会の関係での反対論やコロナ感染爆発の展開次第では延期の可能性もあり得る」(自民長老)だけに、電撃人事を成功させた岸田首相にとっても、「当分はおちおち休みもとれない追い詰められた状況」(同)が続くことは間違いない』、「国民の圧倒的多数が政府・与党の”脱・旧統一教会“を求めており、今後も事態が暗転するようなら、自民党が避けている「党による徹底調査と処分」に追い込まれる可能性も少なくない」、「追い込まれる」よりは、「党による徹底調査と処分」に積極的に打って出る方がいいのではなかろうか。
先ずは、7月27日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「岸田首相の「資産所得倍増プラン」、じつは日本からの「資金流出」リスクを抱えていた…!」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/97893?imp=0
・『岸田文雄首相が資産所得倍増プランを打ち出すなど、政府が国民に対して資産形成を促している。日本人の資産運用は銀行預金が中心であり、投資へのシフトは進んでいなかったが、最近では、将来の生活に不安を抱える若年層を中心に関心が高まっているとされる。だが一連の政策に落とし穴はないのだろうか』、興味深そうだ。
・『資産の半分以上が現預金 日本における家計部門の金融資産は2000兆円突破しており、このうち現預金が半分以上を占めている。米国では約10%、欧州でも30%しか現預金の比率はなく、日本人の現金好きは突出している。政府も以前から「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げ、投資へのシフトを促してきたが、日本人の行動はほとんど変わらなかった。 ここに来て政府が、少額投資非課税制度(NISA)の拡充など、投資促進策を強く打ち出している背景には、年金財政の悪化がある。日本の公的年金は維持可能性に疑問符が付く状態となっており、少なくとも2割から3割の減額は確実と言われる。 一方、日本人の所得は伸び悩んでおり、このままでは老後の生活を維持できない国民が急増する可能性が高い。公的年金の不足を補うため、政府はやむなく、自己責任での投資を促しているというのが偽らざるを現実である。 こうした事情が背景にあるとはいえ、個人が積極的に資産形成を行う必要性は以前から指摘されており、証券投資を促す方向性自体は間違っていない。だが、今の日本の経済状況において投資促進策を誤った形で実施すると、場合によっては経済にマイナスの影響を与える可能性もある。最大のリスクは資金が日本ではなく海外に流出するキャピタルフライトだろう。 先程、日本人の個人金融資産は2000兆円を突破しており、うち1000兆円以上が現預金になっていると説明したが、実際にこの金額がキャッシュとして銀行に死蔵されているわけではない。一連の現預金は、貸し出しや債券引き受けなど信用創造の結果として積み上げられたものであり、預金者から見れば資産として、銀行側から見れば負債として帳簿上に記載されているだけの数字である。 こうした状況で、多くの国民が現預金を投資に回した場合、どのような動きになるだろうか。仮に引き出された預金が国内の証券購入に充てられた場合、金融市場にほとんど変化は生じない。誰かが現預金を引き出して証券を購入しても、証券を売った人の口座に入金されるだけなので、日本全体で見た場合、銀行口座の資金総額は同じになる(株価が一定の場合)』、円安が進行しているが、最大の懸念はこうした「資金が日本ではなく海外に流出するキャピタルフライト」だ。
・『円安と金利上昇を招く? では、どのような時に金融資産の構成に変化が生じるだろうか。それは証券の時価総額が増えた時である。例えば企業の業績期待が高まり株価が上昇した場合や、企業が積極的に増資を行い、市場から資金を調達するケースでは、株式や社債の時価総額が増えていく。国民から見れば、株式や債券の資産額が増え、現預金との比率も変化する。銀行預金とは別に、株式や社債という新しい資産が出来上がっているので、直接金融も信用創造の一つとみなしてよいだろう。 これは国民の資産が増えていることと同義であり、理想的な姿と言って良い。政府も、貯蓄から投資へのシフトによってこうした好循環が発生すると期待している。だが、日本の株式市場の期待値が低く、多くの国民が日本企業の株式を購入しなかった場合、話は変わってくる。 銀行預金を引き出した国民が、米国や欧州、あるいは中国といった海外に投資を行った場合、資金が外貨に両替され国外に流出するので、為替市場では円安が進みやすくなる。こうした動きが一定範囲に収まっているのであれば、大きな問題は生じないし、海外投資から得られた利益は逆に国内に還流するので、国民所得の増加をもたらす。ポジティブな意味で国民が海外投資を行うことは、むしろ日本経済にとってプラスと考えてよい。 だが、もっとネガティブな意味で(つまり資産を日本円で保有していることがリスクであると国民が考えた場合)外国資産を保有するようになると事態は急変する。国内の貯蓄が一気に取り崩され、大量の資金が海外流出する可能性も否定できない。 現時点において、日本では企業部門と家計部門が貯蓄過剰であり、政府が大幅な資金不足の状態にある。つまり企業と家計の貯蓄は、銀行預金を通じて国債購入に充てられており、この巨額の貯蓄があるからこそ、日本国債は安定的に消化されてきた。 もし多くの国民が資金を海外に逃がした場合、国債の買い手がいなくなり、その後は日銀以外に国債を買う主体がいなくなってしまう。つまり、資金の多くが海外に向かった場合、円安と金利上昇(国債価格の下落)の引き金を引いてしまう可能性があるのだ』、確かに「資金の多くが海外に向かった場合、円安と金利上昇(国債価格の下落)の引き金を引いてしまう可能性」は最大のリスクだ。
・『成長戦略とセットである必要 繰り返しになるが、国民が適切な範囲で海外投資を行うことはむしろ日本経済や金融システムにもプラスの効果をもたらす。上記で説明したのは最悪のケースであり、貯蓄から投資へのシフトが、すぐに円安や国債価格の下落を招くわけではない。しかしながら、政策の道筋を誤った場合、こうしたリスクが発生する可能性があることについては十分に理解しておく必要があるだろう。) 「貯蓄から投資へ」という政策は、単純に預金から投資にお金を動かすことではない。先ほども説明したように、株式の時価総額が増えるという形で資金を循環させることに意味がある。 新たな信用創造として株式という資産が増え、経済に好影響を与えるとともに、国民の資産も増加していく。米国において現預金の比率が低く、株式の資産比率が高いのは、政府が資金の移動を促したのではなく、直接金融が活発になって株式の時価総額増えた結果に過ぎない。 最も大事なことは、日本経済が再び成長軌道に戻る道筋を描くことであり、これが実現すれば、自動的に貯蓄から投資へのシフトは進む。あくまで先に来るのは成長期待であって資金シフトではないという本質を忘れてはならないだろう。 国民や企業の過剰貯蓄が国債という借金の消化に向かっている以上、国内株式の時価総額を増やす政策が伴わなければ(つまり成長戦略が実施されなければ)、貯蓄の取崩しと資金流出が発生し、国債消化に支障を来たすことになる。資金循環は全体のバランスが重要であり、より俯瞰的な視点が求められる』、「あくまで先に来るのは成長期待であって資金シフトではないという本質を忘れてはならないだろう」、その通りだ。
次に、8月11日付け現代ビジネスが掲載した政治・教育ジャーナリストで大妻女子大非常勤講師の清水 克彦氏による「ここにきて、岸田総理が直面する「三重苦」の正体…「何もしなかったツケ」がいよいよ回り始めた」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/98482?imp=0
・『実は参院選前からあった早期の内閣改造計画 「様々な課題を考えると、できるだけ早く新しい体制をスタートさせなければならない」 8月6日、広島市で行われた平和祈念式典の後、記者会見でこのように語った岸田首相は、9月上旬との報道が多かった自民党役員人事と内閣改造を10日に実施した。人事が全国紙などの予想よりも早いという兆候は、参議院選挙以前からあった。 「小渕優子元経済産業相は入るだろう。大きなサプライズだ」 こんな声が漏れ聞こえてきたのは7月になったばかりの頃であった。自民党幹部には、選挙前の段階で官邸から早い段階での改造の意思が示されており、安倍元首相の死でそれが8月10日に先送りされた、と見るべきである。 もっとも、岸田首相の脳裏には、安倍元総理の死を契機に旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と特に自民党議員との深いつながりが問題視され、内閣支持率が急速に低下したことがある。 さらに、想像を超える拡がりを見せている新型コロナウイルス第7波への対策、物価高や原油高への対応、そして、台湾情勢の悪化に伴う防衛力の強化や安倍元首相の国葬に向けての準備、など、懸案事項が一気に増えたこともある。 加えて言えば、人事となると自民党各派閥からの猟官運動が避けられない。これは党内基盤が強くない岸田首相にとって頭の痛いことだ。 安倍元首相の影響力を排除し、岸田カラーの内閣を作るために、「人事は9月と見せかけ、奇襲攻撃をかけた」(自民党中堅議員)と見ることもできる』、「人事は9月と見せかけ、奇襲攻撃をかけた」とは「岸田首相」もなかなかやるものだ。
・『第2次岸田改造内閣から見えるもの 自民党役員人事と内閣改造の焦点は、以下の3点であった。 (1)安倍カラーから岸田カラーになり得たか? (2)新役員や新閣僚の旧統一教会との関係、その濃淡はどうか? (3)菅前首相の取り込みやサプライズ人事はあるのか? まず、自民党役員人事では、麻生副総裁、茂木幹事長を留任させて、党の骨格を維持し、麻生派と茂木派を懐柔した。 そして、総務会長には二階俊博前幹事長や公明党とパイプがある遠藤利明氏、衆議院選挙区の「10増10減」という難題を抱える選挙対策委員長には、菅前首相に近い森山裕氏を据えて挙党体制の体裁を整えた。 閣僚人事では、安倍派が4人、茂木派が3人、麻生派が4人で、岸田派は3人という配分で、「最大派閥だから……」と1人増を求めていた安倍派からの要望を「人事はドント方式ではない」と却下した。 岸田カラーが出たのはここからだ。安倍派からは、岸田首相に近い福田系の松野博一官房長官に留任させ、安倍直系の萩生田光一経産相を政調会長に横滑りさせた。また、福田系でも安倍系でもない西村康稔前経財相を経産相に据えたことで安倍派がぐらつかないようくさびを打った。 旧統一教会との関係が指摘された閣僚7人は交代させ、コロナ対策に当たる山際経財相のみ留任させた。菅前首相や菅氏を支持する無派閥議員を取り込むため、菅氏に近い河野太郎氏をデジタル相に起用した。 党内第4派閥を率いているに過ぎない岸田首相は、逆ピラミッドのような形での政権運営を余儀なくされている。 【図】党内第4派閥を率いている岸田政権の人事(リンク先参照) 安倍派、茂木派、麻生派、さらには菅グループまでを取り込むことで、難局突破を図ろうという意図が見える人事である。 政調会長に決まった萩生田氏は、直前まで、「旧統一教会の会合で挨拶したと報じられたから大臣を外されたのかなあ」と語っていたが、岸田首相とも近い萩生田政調会長なら、茂木幹事長の暴走をけん制できる、との判断も働いている。 さらに言えば、コロナ対策と防衛力の強化に向け、経験者の加藤勝信、浜田靖一両氏をそれぞれ厚労相や防衛相に配したのも、直面する重要課題で成果を上げたいと意気込む岸田首相の思いがストレートに出た人事と言えるだろう。 ちなみに、前述した小渕優子氏の入閣が見送られたのは、2014年の政治資金規正法違反事件で、小渕氏の関係先が家宅捜索された際、証拠が保存されていたパソコンが、事前にドリルで穴を開けられ破壊されていたとの報道が、再び蒸し返される懸念があったためだ。 小渕氏の後見役である青木幹雄元参議院会長が、彼女の将来性を担保するため、「入閣は次でいい」と判断したことが大きい。 このようにして岸田新体制はスタートすることになったが、今後、閣僚の中から旧統一教会との濃い関係が明るみに出れば、かつて第2次橋本改造内閣が、ロッキード事件で有罪が確定した佐藤孝行氏を入閣させたばかりに崩壊したのと同じ轍を踏む危険性もはらんでいる。 ただ、難題は旧統一教会問題だけではない。とりわけ3つの壁は大きい。言うなれば三重苦である』、「3つの壁」とは何なのだろう。
・『「何もしない内閣」から脱皮できるか? 1つ目は国内問題。新型コロナウイルス対策、経済対策、そして前述した「10増10減」だ。岸田内閣は、これまで「何もしない内閣」と揶揄されながら、いろいろやりすぎた菅前内閣よりも高い支持率を維持してきた不思議な内閣である。 しかし、重症化リスクは少ないとは言うものの、「BA.5」によるコロナ感染者の爆発的な増加は、もはや「行動制限はしない」「メリハリのきいた対策をとる」などといった口先介入では出口が見えない状況となっている。 第7波となって以降、岸田内閣がやってきたことと言えば、若者への3回目ワクチン接種の呼びかけと高齢者などを対象にした4回目ワクチン接種の推進、そして都道府県に丸投げの「対策強化宣言」を新設した程度だ。 医療機関への負担を軽減し、感染防止策と社会経済活動をある程度両立させようとするなら、現在、「2類」となっている感染症上の分類を「5類」に下げ、感染者の全数報告の見直しを急ぐべきだ。それと同時に、抗原検査キットのネット販売、「BA.5」に効果があるとされるワクチンの輸入も急務となる。 筆者は先頃、抗原検査キットで感染の有無を調べてみたが、キットでは、今年3月に打った3回目ワクチン接種による抗体がわずかながら残っていることが示された。逆を言えば、わずかな抗体など、すぐになくなるわけで、幅広い世代に4回目のワクチン接種を拡大すべきであろう。 経済対策もここまでは非常にしょぼい。 ガソリン代や電気代の高騰、食料品の価格上昇も、コロナ同様、出口が見えない。10月には6000品目もの値上げが生活を直撃する見通しだ。 それにもかかわらず、政府が電気代対策として「節電すればポイント付与」を発表したときは、筆者が勤務している在京ラジオ局の報道フロアから、「うそでしょ?」「何、このしょぼさ!」と、仕事を忘れ怒りの声が上がったものだ。 秋の臨時国会で大規模な補正予算案を組むこと。そして、期間限定で構わないので、ガソリン税や消費税の引き下げを断行すべきだ。 「財務省支配」の岸田内閣では望むべくもないが、それくらいやれば、国民は「岸田さんに長期政権を任せてもいい」という気持ちになり、本当の意味で、「黄金の3年間」(次の国政選挙まで好きなようにやれる3年間)が担保されるように思うのである。 そして、衆議院選挙区の「10増10減」に伴う措置だ。 1票の格差を是正するため、政府の「衆議院議員選挙区画定審議会」がまとめた新たな区割り案では、25の都道府県、140選挙区の区割りが変わることになる。言葉は悪いが、選挙区の変更は「泥棒が刑法をいじるようなもの」で、衆議院議員の利害が激突するため遅々として進まない。 誰を支部長にするか、公明党から早くも上がる「選挙区が増える東京などの一部は、うちの候補で統一してほしい」という要求にどう答えるか、その答えが出ない間は、岸田首相は「解散」という伝家の宝刀を抜けない。茂木幹事長と森山選挙対策委員長の力量が試されることになる』、「公明党から早くも上がる「選挙区が増える東京などの一部は、うちの候補で統一してほしい」という要求にどう答えるか、その答えが出ない間は、岸田首相は「解散」という伝家の宝刀を抜けない」、確かに「伝家の宝刀を抜けない」というのは苦しいだろう。
・『安倍元首相の国葬は両刃の剣 依然として批判の声が根強い安倍元首相の国葬もネックになる。国会での議論や国民への十分な説明もないまま閣議で国葬を決めたことは、旧統一教会との関係も相まって依然としてモヤ感が残る。 まずは費用だ。2020年の中曽根元総理の内閣・自民党合同葬ですら、内閣・自民党負担と国費でそれぞれ9000万円余り、合計1億8000万円余りかかっている。 政府は、日本武道館で行われる来月27日の国葬を6000人規模で調整しているが、国葬となれば費用はかさみ、その全てが国費=税金で賄われることになる。もちろん、「森友・加計・桜を見る会」の問題や、アベノミクスに代表される安倍政治の総括ができていないという点でも疑問が残る。 それ以上に懸念されるのが、国葬によって各国からの弔問が相次ぐ点だ。すでに、アメリカからはオバマ元大統領、フランスからはマクロン大統領の来日が検討されている。 2020年4月、小渕首相(当時)が脳梗塞で倒れ、その後死去した際、内閣・自民党合同葬には、アメリカや韓国の現職大統領が来日したほか、80を超える国と地域から特使が派遣された。安倍元首相の場合、その比ではあるまい。 特に台湾である。安倍元首相の死去を受け、台湾は頼清徳副総統を訪日させた。頼副総統は7月11日、安倍元首相の自宅を弔問し、翌12日には告別式が行われた増上寺を訪問している。 もし国葬に蔡英文総統が「出席したい」と言えば、岸田首相は腹を括れるだろうか。頼副総統ですら、日台国交断絶以降、台湾最高位の政治家の来日で、中国の猛反発を招いた。 岸田首相にとって、各国からの要人を迎える弔問外交はプラスになる話だが、台湾に関しては、台湾を訪問したアメリカ議会下院のペロシ議長と会談し、中国の反発を受けたばかりである。加えて、ロシアが誰かを派遣してくる場合、どう対応するかも問われることになる。 つまり、安倍元首相の国葬は、保守層を食い止め、岸田外交をアピールする機会であると同時に、国内外で批判や反発を呼ぶリスクも高い催しなのだ』、「国葬」は「国内外で批判や反発を呼ぶリスクも高い催し」、なのにも拘らず、「岸田首相」があっさりと「国葬」を決めたのには驚かされた。
・『中国・習近平との亀裂は深刻化する 3つ目は中国が、台湾だけでなく日本も標的にし始めた点である。 中国が、ペロシ議長訪台に対抗して台湾を6カ所から取り囲み、大規模な軍事演習を実施したことは、海軍をはじめとする軍事力をアメリカに向けて誇示し、日本に対しても、EEZ(排他的経済水域)内に弾道ミサイルを撃ち込むことで、「尖閣諸島海域は中国のもの。台湾と一緒にいつでも制圧できる」と脅しをかけたことを意味している。 中国外交の特徴としては、やられたらやり返す「戦狼外交」が挙げられるが、まさに2倍返し、3倍返しで、その底力を台湾、アメリカ、そして日本に見せつけたわけだ。 中国国内では、ロシアと共同歩調をとる習近平総書記に対し、共産党の長老から「国益を考えればアメリカと協調すべき」との声もあったが、ペロシ議長の訪台は、そういう声に蓋をする契機ともなった。秋の共産党大会での総書記として3選が決まれば、さらに攻勢に出てくるのは明らかである。 こうした中、8月7日、防衛省に近い東京・市ヶ谷のホテルでは、日本戦略研究フォーラムが主催する台湾有事を想定したシミュレーションが実施された。元防衛相や元自衛隊幹部らが集まってのシミュレーションは、去年の同時期に続いてのものだ。ただ今年は、緊迫度が格段に増した。
・2027年8月、中国が実弾訓練を開始、尖閣諸島近くに200隻の漁船団が接近。 ・防衛省は、中国に先んじて自衛隊を尖閣諸島に上陸させる計画を準備。 ・しかし、9月7日、中国漁船団は尖閣諸島に上陸。9月13日には台湾をミサイルで攻撃するという「複合事態」に発展。 ・日本政府はひとまず「存立危機事態」と認定し、アメリカ軍に支援を求めるが、「台湾優先」の意思が示される。 このような想定で行われたシミュレーションはあくまでバーチャルなものだが、習近平総書記が3選されれば、リアルになる可能性は一段と高まる。 今年は、9月29日に日中国交正常化50年という節目を迎えるが、祝賀ムードどころか、岸田首相はいやがうえにも「動き出した巨大なトラ」と対峙しなければならなくなった。 防衛費の相当な増額を、アメリカをはじめ国際社会に公約した岸田首相が、どこまでの上積みを決断するか、アメリカなどと連携して中国の動きをどのように抑止していくのか、その覚悟も問われることになる』、さしあたりは年末の来年度予算編成で、「防衛費」をGDP比2%に出来るか否かが、注目される。
第三に、8月13日付け東洋経済オンラインが掲載した政治ジャーナリストの泉 宏氏による「岸田新体制が始動「超重量級」人事でも不安募る訳 反主流を懐柔し、安倍派も手玉にとったが…」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/610878
・『8月10日夕、第2次岸田改造内閣が発足した。永田町での大方の予想を裏切る時期に行った岸田文雄首相の電撃人事。故安倍晋三元首相の「国葬」の是非に旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題が絡むなど、「党内調整は超難題」(自民幹部)とみられたが、結果的には岸田流人事のしたたかさが際立った。 「国難突破」を掲げて人事に臨んだ岸田首相は、党・内閣の骨格は維持しながら、党内反主流派の重鎮らの取り込みで挙党態勢を構築。注目の安倍派への対応も、同派幹部をバランスよく要職に配して不満を吸収し、各派幹部も多くが「合格点」と評価した。 安倍氏死去で党内の権力構図が一変する中、岸田首相は今回の人事で各派閥や実力者への配慮を重視。菅義偉前首相を旗頭とする党内反主流勢力を巧みに懐柔する一方、「主亡き安倍派」の内部対立を見透かした人事で、同派を手玉にとったからだ。 これにより当面、政権が窮地に陥る事態は回避され、与党内では「岸田首相が求心力を維持する」(公明幹部)との見方が広がる』、「安倍氏死去で党内の権力構図が一変する中、岸田首相は今回の人事で各派閥や実力者への配慮を重視。菅義偉前首相を旗頭とする党内反主流勢力を巧みに懐柔する一方、「主亡き安倍派」の内部対立を見透かした人事で、同派を手玉にとった」、なかなかの策士のようだ。
・『コロナ感染拡大、物価高騰、旧統一教会問題… ただ、コロナ第7波の感染爆発は収まる気配がなく、物価高騰も含めた批判拡大もあって、各メディアが実施した緊急世論調査でも内閣支持率は政権発足後最低水準のまま増減が交錯する状況で、党内と国民の評価には乖離が際立つ。 しかも、これまでの国政選挙を通じた旧統一教会と自民党の“癒着”は「底なし沼の様相」(閣僚経験者)で、故安倍氏の関わりも絡んで、国民レベルでの「国葬」反対の声も大きい。 岸田首相は「国葬外交での大勝負」(側近)を狙うが、それに先立つ国会での閉会中審査などでの野党の集中攻撃を交わして、首尾よく9月27日の国葬にたどり着けるかどうかは、なお予断を許さない状況だ。 一部側近だけの極秘シナリオに沿った電撃改造人事は、経過や結果を検証すれば「練りに練ったしたたかで巧妙な岸田流が奏功」(自民長老)したといえる。 8月5日夕の臨時役員会・総務会で党役員人事の一任を取り付けで始まった党・内閣人事は、週末も含めた3日間の党内調整を経て9日夜にはすべての人事が固まり、10日夕には新体制発足という手際のよさだった。 岸田首相(自民党総裁)は、10日午前の自民臨時総務会で新執行部の人事を決めた。麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長と高木毅国会対策委員長を再任し、遠藤利明選挙対策委員長を総務会長に横すべりさせ、政調会長に萩生田光一経済産業相、選対委員長に森山裕総務会長代行を起用した』、「一部側近だけの極秘シナリオに沿った電撃改造人事は、経過や結果を検証すれば「練りに練ったしたたかで巧妙な岸田流が奏功」・・・したといえる」、なるほど。
・『党4役のうち3人は派閥領袖 人事のポイントとなったのは萩生田、森山両氏の党4役就任。萩生田氏は故安倍氏の最側近で岸田首相とも親しく、森山氏は菅義偉前首相や二階俊博元幹事長と盟友関係にある。しかも、萩生田氏以外の4役は派閥領袖で「超重量級の挙党態勢」(岸田派幹部)となった。 これを受けて発足した新内閣は、林芳正外相、鈴木俊一財務相、松野博一官房長官という「骨格」が留任する一方、19閣僚中14人が交代する大幅改造。ただ、重要閣僚とされる経済産業、厚生労働、防衛各相には経験者を配し、閣僚経験者の再入閣は5人。初入閣の9人は、ほとんどが各派の推薦リストを踏まえた「党内バランス優先の人事」(官邸筋)となった。 岸田首相は新内閣発足後の官邸記者会見で「有事に対応する『政策断行内閣』」とし、「経験と実力を兼ね備えた閣僚を起用した」と胸を張った。ただ、閣僚の顔ぶれをみると「目玉もなく、実務優先で地味だが、要所に岸田首相の意図がにじむ人事」(自民長老)となったことは間違いない。 それを象徴したのが、最も注目された「安倍派」への対応だった。 安倍派からの起用は留任も含め4人だったが、経済安保相の高市早苗、厚労相の加藤勝信両氏は「もともと故安倍氏の側近」として知られるだけに、「前内閣より手厚い配置」(岸田派幹部)ともみえる。 ただ、留任した松野氏は故安倍氏と距離があるとされ、「安倍派内の親安倍と反安倍を組み合わせた巧妙な人事」(同)でもある。 また、茂木派の加藤厚労相と麻生派の河野太郎デジタル相も、両派の派内事情を踏まえた起用とみられている。「茂木氏のライバルで本籍・安倍派」(茂木派幹部)といわれる加藤氏と、「菅前首相の最側近」(麻生派幹部)として知られる河野氏だけに、党内では「入閣させることで、派閥内での動きを封じる狙いがある」(自民長老)との見方も広がる』、「安倍派内の親安倍と反安倍を組み合わせた巧妙な人事」、「河野氏」を「入閣させることで、派閥内での動きを封じる狙い」、など、「岸田首相」は見かけによらず策士だ。
・『防衛相に無派閥の浜田靖一氏が起用された事情 さらに、年末に向けた政権の重要課題の1つとなる防衛費増強の担当閣僚に無派閥の浜田靖一氏を起用したことにも、岸田首相の意図がにじむ。当初は「今回総務相になった寺田稔氏の起用が有力」(岸田派幹部)だったが、「財務省出身の寺田氏では党内保守派が反発すると判断し、有力な防衛族の浜田氏起用でバランスを取った」(同)とされる。 他方、与党・公明党の斉藤鉄夫国土交通相の留任も自民党内に波紋を広げた。9月の公明党人事で退任が予定されていた山口那津男同党代表の続投説が強まる中、山口氏が要求したのが斉藤氏の留任だった。 自民党内では「有力な利権ポストを取り戻せ」(茂木派幹部)との声が多かっただけに、「岸田首相と山口氏の間で何らかの裏取引があったのでは」(同)との臆測も飛び交う。 ただ、岸田首相にとって、こうした「永田町特有の人事の駆け引き」(自民長老)以上に重要だったのが「“脱旧統一教会”という難題への対応」(官邸筋)だった。 岸田首相は旧統一教会との何らかの関わりが指摘された前内閣の7人の閣僚を外したが、留任させた山際大志郎経済再生相(コロナ担当兼務)も含め新たに7人の関わりが発覚し、野党からは「もはや自民党は、統一教会関係者排除では組閣ができないというずぶずぶの関係を証明した」(小池晃共産党書記長)と激しく攻撃されている。 これを受けて野党側は早期の臨時国会召集を求めており、その前段として9月上旬に想定される衆参両院での閉会中審査は「旧統一教会問題で大荒れになる」(立憲民主幹部)ことは確実だ』、「留任させた山際大志郎経済再生相(コロナ担当兼務)も含め新たに7人の関わりが発覚し、野党からは「もはや自民党は、統一教会関係者排除では組閣ができないというずぶずぶの関係を証明した」・・・と激しく攻撃」、「山際」の「旧統一教会との」かかわり発覚は余りにお粗末だ。
・『副大臣・政務官と旧統一教会の関わりにも注目 しかも、12日午後に実施された副大臣・政務官人事で登用された議員からも、合計10人(副大臣4、政務官6)が過去に何らかの「関わり」を持っていたことが判明し、改めて問題の根深さを浮き彫りにした。 ただ、ほとんどが自己申告に基づくもので、岸田首相は差し替え人事などは行わない方針。しかし、今後の調査などで本人の説明以上の「深い関わり」が発覚すれば、国民の不信が拡大し、さらなる内閣支持率の下落につながりることは確実だ。 各種世論調査をみても、国民の圧倒的多数が政府・与党の”脱・旧統一教会“を求めており、今後も事態が暗転するようなら、自民党が避けている「党による徹底調査と処分」に追い込まれる可能性も少なくない。 国際的にも「過去に例がないほど重要な外交イベント」(外務省幹部)となる「9・27国葬」まで、なお1カ月半もの時間が残っている。 「安倍氏の国葬と旧統一教会の関係での反対論やコロナ感染爆発の展開次第では延期の可能性もあり得る」(自民長老)だけに、電撃人事を成功させた岸田首相にとっても、「当分はおちおち休みもとれない追い詰められた状況」(同)が続くことは間違いない』、「国民の圧倒的多数が政府・与党の”脱・旧統一教会“を求めており、今後も事態が暗転するようなら、自民党が避けている「党による徹底調査と処分」に追い込まれる可能性も少なくない」、「追い込まれる」よりは、「党による徹底調査と処分」に積極的に打って出る方がいいのではなかろうか。
タグ:現代ビジネス キシダノミクス (その7)(岸田首相の「資産所得倍増プラン」 じつは日本からの「資金流出」リスクを抱えていた…!、ここにきて 岸田総理が直面する「三重苦」の正体…「何もしなかったツケ」がいよいよ回り始めた、岸田新体制が始動「超重量級」人事でも不安募る訳 反主流を懐柔し 安倍派も手玉にとったが…) 加谷 珪一氏による「岸田首相の「資産所得倍増プラン」、じつは日本からの「資金流出」リスクを抱えていた…!」 円安が進行しているが、最大の懸念はこうした「資金が日本ではなく海外に流出するキャピタルフライト」だ。 確かに「資金の多くが海外に向かった場合、円安と金利上昇(国債価格の下落)の引き金を引いてしまう可能性」は最大のリスクだ。 「あくまで先に来るのは成長期待であって資金シフトではないという本質を忘れてはならないだろう」、その通りだ。 清水 克彦氏による「ここにきて、岸田総理が直面する「三重苦」の正体…「何もしなかったツケ」がいよいよ回り始めた」 「人事は9月と見せかけ、奇襲攻撃をかけた」とは「岸田首相」もなかなかやるものだ。 「3つの壁」とは何なのだろう。 「公明党から早くも上がる「選挙区が増える東京などの一部は、うちの候補で統一してほしい」という要求にどう答えるか、その答えが出ない間は、岸田首相は「解散」という伝家の宝刀を抜けない」、確かに「伝家の宝刀を抜けない」というのは苦しいだろう。 「国葬」は「国内外で批判や反発を呼ぶリスクも高い催し」、なのにも拘らず、「岸田首相」があっさりと「国葬」を決めたのには驚かされた。 さしあたりは年末の来年度予算編成で、「防衛費」をGDP比2%に出来るか否かが、注目される。 東洋経済オンライン 泉 宏氏による「岸田新体制が始動「超重量級」人事でも不安募る訳 反主流を懐柔し、安倍派も手玉にとったが…」 「安倍氏死去で党内の権力構図が一変する中、岸田首相は今回の人事で各派閥や実力者への配慮を重視。菅義偉前首相を旗頭とする党内反主流勢力を巧みに懐柔する一方、「主亡き安倍派」の内部対立を見透かした人事で、同派を手玉にとった」、なかなかの策士のようだ。 「一部側近だけの極秘シナリオに沿った電撃改造人事は、経過や結果を検証すれば「練りに練ったしたたかで巧妙な岸田流が奏功」・・・したといえる」、なるほど。 「安倍派内の親安倍と反安倍を組み合わせた巧妙な人事」、「河野氏」を「入閣させることで、派閥内での動きを封じる狙い」、など、「岸田首相」は見かけによらず策士だ。 「留任させた山際大志郎経済再生相(コロナ担当兼務)も含め新たに7人の関わりが発覚し、野党からは「もはや自民党は、統一教会関係者排除では組閣ができないというずぶずぶの関係を証明した」・・・と激しく攻撃」、「山際」の「旧統一教会との」かかわり発覚は余りにお粗末だ。 「国民の圧倒的多数が政府・与党の”脱・旧統一教会“を求めており、今後も事態が暗転するようなら、自民党が避けている「党による徹底調査と処分」に追い込まれる可能性も少なくない」、「追い込まれる」よりは、「党による徹底調査と処分」に積極的に打って出る方がいいのではなかろうか。
政府財政問題(その9)(絶対に「減税」はやりたくない…岸田首相が「ガソリン補助金」にこだわり続ける"危険すぎる理由" 「政府は市場に勝てる」と思っているのではないか、積極財政派を増長させた財務省の巨大なジレンマ 国債の円滑消化が財政のコスト意識を希薄化) [経済政策]
政府財政問題については、7月11日に取上げた。今日は、(その9)(絶対に「減税」はやりたくない…岸田首相が「ガソリン補助金」にこだわり続ける"危険すぎる理由" 「政府は市場に勝てる」と思っているのではないか、積極財政派を増長させた財務省の巨大なジレンマ 国債の円滑消化が財政のコスト意識を希薄化)である。
先ずは、7月28日付けPRESIDENT Onlineが掲載した経済ジャーナリストの磯山 友幸氏による「絶対に「減税」はやりたくない…岸田首相が「ガソリン補助金」にこだわり続ける"危険すぎる理由" 「政府は市場に勝てる」と思っているのではないか」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/60026
・『補助金がなければガソリンは200円を超えている ガソリンの高値が続いている。いよいよ夏の行楽シーズンの到来だが、愛車を満タンにするだけで1万円札が飛んでいく。日々の生活に車が不可欠な人にとっては、さらに負担は重い。賃金が増えない中でどこから資金を捻出するか。値上がりしているのは、電気代もガス代も食料品も軒並みである。 それでも今のガソリン価格は、政府が巨額の補助金を投じて必死に価格を抑えている結果だ。石油情報センターの調査では、7月19日時点でレギュラーガソリンは1リットル当たり171.4円。3週連続で値下がりしているものの、経済産業省が1リットルあたり36.6円の補助金を石油元売会社に出しており、実態としては、依然として200円を超えている。 世界経済の減速懸念から原油の国際価格は若干下落傾向にあるとはいえ、為替の円安が進んでいることもあって、国内ガソリン価格が早期に下落する見込みは立っていない。経産省の補助金も膨らむ一方で、いつまで政府が価格を抑え続けられるのか。「出口」がまったく見えなくなってきた』、発展途上国ではよくある「補助金」政策だが、先進国では珍しい。
・『膨れ上がる補助金…総額1兆6000億円を投じることに 岸田文雄内閣が石油元売会社への補助金を出し始めたのは、今年1月27日から。当初は1リットルあたり5円を支給していた。その予算は2021年度の補正予算から800億円が充てられた。しかし、その後、ウクライナ戦争が始まったこともあり原油価格は高騰。経産省は補助金を3月10日から25円に引き上げた。昨年度の予備費から3600億円余りを支出することとした。 岸田首相は4月26日に記者会見に臨み、「総合緊急対策」を公表。その柱の第1として原油価格高騰への対策を掲げた。1兆5000億円を投じて新たな補助制度を設けるとし、補塡ほてんの上限を35円に引き上げて、「仮にガソリン価格が200円を超える事態になっても、市中のガソリンスタンドでの価格は、当面168円程度の水準に抑制します」と大見得を切った。さらに35円を超えて補助が必要になった場合、価格上昇分の2分の1を補助するとした。 この方針を受けて、4月28日からは発動基準は「172円以上」から岸田氏の表明した「168円以上」に下げ、補助額も35円プラス超過分の半額補助に引き上げた。期間は4月末までだったものを、9月末までに延長した。これによって政府は、総額1兆6000億円の巨額の資金を投じることになった。 要は、政府が「市場価格」に対抗して、「公定価格」を貫き通そうとしているわけだ。世界につながっている市場の価格を、政府がカネを注ぎ込むことでコントロールできると思っているのか。本当に政府は市場に勝てるのか』、小売価格を「補助金」で強引に引下げている形になる。
・『補助金よりも「揮発油税」の引き下げをすべき ガソリンを使う消費者の負担を下げたいと思うのなら、真っ先に「揮発油税」を引き下げるべきだったという声は根強い。 ガソリンには1リットル当たり24.3円の揮発油税(国税)と4.4円の地方揮発油税が「本則税率」として定められているが、租税特別措置として、さらに25.1円(国税24.3円、地方0.8円)が上乗せされていた。2008年には租税特別措置が廃止されたが、合計金額の53.8円が「当分の間」の暫定税率に据え置かれた。 もともと、ガソリン価格が高騰した時には特別税率の25.1円分を廃止する「トリガー(引き金)条項」が付いていたが、東日本大震災の復興予算を名目にトリガー条項が凍結されている。多くの識者から、これを解除すべきだ、という声が上がったわけだ。 野党の国民民主党は真っ先に、凍結解除による減税を主張。岸田首相が検討するとしたことで、2022年度予算案に賛成した。ところが、岸田首相はその後、まったくトリガー条項の凍結を解除する姿勢を見せずに今日に至っている』、「国民民主党」は「岸田首相」に騙された形で、全くみっともない限りだ。
・『政府が減税よりも補助金にこだわるワケ トリガー条項の凍結解除による、国と地方の税収減は1年間で計1兆5700億円になると財務省は試算している。すでに補助金への財政負担は半年余りでこの金額を上回っている。にもかかわらず、なぜ政府は、減税ではなく補助金にこだわるのか。 揮発油税は国と地方の一般会計に充てられるため、財務省からすれば使い勝手の良い税源を失いたくない、というのが本音だろう。過去の経緯から暫定税率の上乗せ分はいずれ廃止されるのが本来だったはずで、いったんトリガー条項でその分を減税すると二度と元に戻せなくなる、と考えているのだろう。 また、所管の経産省からすれば、補助金を元売会社に出せば、元売りに恩を売る形になり、役所としての権限強化につながる。減税してもその分価格が下がるだけなので、元売りから感謝されることはない。霞が関全体からすれば、予算規模は大きければ大きいほど、予算執行を通じた権限が増す。政治家にとっても話は同じで、補助金で業界に恩を売れば、選挙でも支持を得られる可能性が高まる。まさに、政官業の「鉄のトライアングル」の結束の結果だと言っていい。 今後、仮に原油価格が上昇を続けた場合、補助金なら元売りが手にする金額が増え続けるというメリットもある。減税はいったん引き下げたら、後は石油元売り会政府は、減税ではなく補助金にこだわるの社の自助努力で価格を抑えるしかないが、岸田首相はすでに上昇分の半額補助を打ち出している』、「なぜ政府は、減税ではなく補助金にこだわるのか」、「財務省からすれば使い勝手の良い税源を失いたくない」、「経産省からすれば、補助金を元売会社に出せば、元売りに恩を売る形になり、役所としての権限強化につながる」、やはり、省益を抜きにすれば、本来は「減税」で対応すべきだ。
・『補助金の大判振る舞いは、選挙戦略の一環だった 問題はそんな大盤振る舞いをいつまで続けられるか、だ。あくまで緊急事態に対処するための時限的な措置という建前だから、現状の9月末までという期限を守って、補助金を廃止することになるのか。 その場合、仮に今のままの原油価格で推移したとすると、いきなりガソリン価格が35円以上も跳ね上がることになる。当然、政権への批判が噴出することになるだろう。9月末のガソリン価格が200円弱で推移していたら、補助金を止め、トリガー条項を発動させて25.1円の減税に切り替えることもできる。だが、200円を大きく上回っていた場合、減税分だけでは穴埋めできず、補助金を止めれば価格が急騰することになる。そうなると、永遠に「出口」が見えなくなり、原油価格の下落を祈る以外に方法がなくなってしまう。 岸田内閣は、7月の参議院選挙に勝つことを最優先に、いくつもの「出口戦略」を先送りしてきた。4月にガソリンの補助金をぶち上げたのもインフレ対策を強調する選挙戦略の一環だったと見ることもできる』、「参議院選挙」勝利を受けて、「先送り」してきた「出口戦略」のいくつかは、実行されるのだろう。
・『市場原理を敵視する岸田政権 さらに、企業が余剰人材を解雇せずに抱えさせる「雇用調整助成金」の期限も6月末から9月末に延長されている。新型コロナウイルス蔓延で経済が凍りついたタイミングでは、雇用調整助成金の効果は大きかったが、長く続ければ「麻薬状態」になり、本来必要な労働移動を疎外してしまう。にもかかわらず、「出口」を先送りしてきたのだ。世界的なインフレと円安によって輸入物価が猛烈に上昇する中で、雇用調整助成金を打ち切れば、一気に失業者が増える懸念もある。 岸田首相は就任前の総裁選時から「新自由主義的政策は取らない」と言い、「新しい資本主義」を標語として掲げてきた。何を具体的に実行しようとしているのかは、いまだに分からないが、どうも「市場原理」を敵視しているように見える。ガソリン市場にせよ、労働市場にせよ、政府がコントロールできると考えているのではないか。 だが、赤字財政の中で膨大な予算を使い続ければ、結局は日本の国力が低下し、円はどんどん弱くなる。するとさらに輸入原油の円建て価格は上昇し、ガソリン価格は上がっていく。そんな負の連鎖につながっていくことになりかねないだろう』、「どうも「市場原理」を敵視しているように見える。ガソリン市場にせよ、労働市場にせよ、政府がコントロールできると考えているのではないか。 だが、赤字財政の中で膨大な予算を使い続ければ、結局は日本の国力が低下し、円はどんどん弱くなる。するとさらに輸入原油の円建て価格は上昇し、ガソリン価格は上がっていく。そんな負の連鎖につながっていくことになりかねないだろう」、同感である。
次に、8月1日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学 経済学部教授の土居 丈朗氏による「積極財政派を増長させた財務省の巨大なジレンマ 国債の円滑消化が財政のコスト意識を希薄化」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/607860
・『7月29日に、岸田文雄内閣は2023年度予算の概算要求基準を閣議了解した。これを皮切りに、来年度予算をめぐる駆け引きが展開されてゆく。今秋にも佳境を迎えることになる予算編成をにらんだ動きは、すでに始まっている』、興味深そうだ。
・『財政拡張圧力が目白押し 特に、6月7日に閣議決定された「骨太方針2021」には、基礎的財政収支黒字化の達成年度である「2025年度」は明記されなかった一方、予算規模の拡大の予兆となる文言が多数盛り込まれた。 1つには、グリーントランスフォーメーション(GX)への投資である。「骨太方針2021」には、「150兆円超の官民の投資を先導するために十分な規模の政府資金を、将来の財源の裏付けをもった『GX経済移行債(仮称)』により先行して調達し、複数年度にわたり予見可能な形で、速やかに投資支援に回していく」と記されている。 GX経済移行債は、新たな形の国債を想定している。そして、国債増発を先行して、GXを促す政府支出を行い、その借金返済は後に回す、ということを暗に示唆している。一部には、10年間に20兆円の政府支出が想定されているという。年平均にすれば2兆円である。 もう1つは、防衛費である。経済政策に関する言及がもっぱらである「骨太方針」で、防衛費に言及があるのは稀なことだが、「骨太方針2021」には、かなりの紙幅を割いて防衛費の増額の必要性が記されている。 その背景は、東洋経済オンラインの拙稿「日本の防衛費は『対GDP比2%』へ倍増できるのか」でも記しているが、NATO(北大西洋条約機構)諸国は、国防予算を対GDP(国内総生産)比2%以上とする目標を設けており、「骨太方針2021」には、その事実の紹介という形をとりつつ「対GDP比2%」と明記された。あくまで、日本の防衛費を「対GDP比2%」にするとまでは書かれていないが、「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」と記された。 このように、来年度予算に向けた歳出増圧力は、例年以上に強まっている。安倍晋三元首相が、襲撃事件で世を去った後でも、積極財政派の勢いは衰えていない。) 積極財政派は、国債残高が未曽有の規模に達していても、さらなる国債増発に何の躊躇もない。目下、日本国債は、金利がほとんどゼロで発行できる。これが大前提の認識である。 しかし、こうした国債発行の環境は、自然体で何の努力もなく実現しているわけでは決してない。量的緩和政策の下で日本銀行の国債の大量買い入れによるところも大きいし、もう1つは財務省理財局の国債の円滑消化努力も無視できない』、「日本国債は、金利がほとんどゼロで発行できる」のは、確かに「日本銀行の国債の大量買い入れ」、「財務省理財局の国債の円滑消化努力」などがあってのものだ。
・『国債の円滑消化とはどんなものか? 国家財政のことを真剣に考えると、ひとたび国債を発行すると決まれば、その発行コストをできるだけ低減させる政策努力は、国民がより少ない負担で財政支出の恩恵を享受するために重要である。それが、国債の円滑消化という政策努力である。 もし国債が円滑に消化できなければどうなるか。例えば、政府が、金利がほぼゼロの状態を長期に享受しようとして、強引に長期国債を、民間金融機関が買いたい量(入札での応募額)よりも多く発行しようとしたらどうなるか。その際は、政府が発行したい量(入札での募集額)未満しか取引が成立しない。 このように、応募額が募集額に満たない状態を、「未達」ともいう。こうした未達が多発すれば、民間金融機関などの投資家にとって金利(利回り)が低すぎて国債は魅力が足りない、と理解される。そうなると、政府は発行時の国債金利を引き上げざるを得なくなる。 それは、日銀が国債を大量に買い入れる状況であっても起こりうる。というのも、日銀が国債を買い入れているのは、いったん発行され民間金融機関などに購入された国債が売買される流通市場での取引である。他方、政府が直面するのは発行市場である。両市場の国債金利は、結果的に連動する傾向があるものの、それぞれの金利は独立して決まる。 だからこそ、財政運営上、国債を発行して賄わざるを得ない限り、余分な費用がかからないようにするには、国債をより低い金利で発行できるようにする必要がある。つまり、未達のような波乱が国債の発行市場で起こらないようにすることが、政策当局に求められる。まさに、財務省理財局はそれを担っているのである。 ところが、国債の円滑消化という財務省理財局の政策努力が、目下政界であらぬ方向に作用してしまっている。 それは、国債発行コストが半永久的にゼロであるとの認識を、積極財政派に植え付けたことである。相当に苦労した国債の円滑消化という政策努力を払っているにもかかわらず、それがあたかも当然視され、国債増発のコスト意識の麻痺という帰結をもたらしたとは、何とも皮肉である。 国債の円滑消化は、国債残高が増えれば増えるほど難度が上がる。1998年度は、1年間に60兆円にも満たない国債を発行市場で起債すればよかったが、コロナ禍でさらに増大して今や1年間に200兆円もの国債を発行市場で起債しなければならなくなった。その増加の主な要因は、借換債の起債である。国債残高が増えれば増えるほど、借換債の発行額も増えざるを得ない。 国民に余分な利払い負担を負わせないようにするには、国債の円滑消化が必要で、その実現可能性を高めるには、国債残高をできるだけ抑えなければならない。そのためにも、財政健全化が不可欠であるーー。本来、国債の円滑消化は、そのように位置づけられるべきである。 ところが、今の政界では、国債を円滑に消化できればできるほど、財政健全化は不要という動きにつながってしまっている。それは、財務省の意図に反しているだろうが、国債の円滑消化が、積極財政派がますます財政健全化は不要と主張するという結果を生んでしまっている。 財務省も財務省で、ジレンマがある。財政健全化の重要性を理解してもらい国債増発を抑えたいが、いったん発行するとなれば国債金利はできるだけ低く抑えて発行したい。でも、低く抑えられれば、それだけ財政健全化の必要性を感じてもらいにくくなる。 金利が低いうちに国債で資金を借りて、将来への投資を行うべきという政策論は、国債の円滑消化を可能にする財政健全化があってこそのものである。本末を転倒させてはいけない』、「金利が低いうちに国債で資金を借りて、将来への投資を行うべきという政策論は、国債の円滑消化を可能にする財政健全化があってこそのものである。本末を転倒させてはいけない」、同感である。
・『もはや財務省のサボタージュしかない? 国債の円滑消化は、政策努力なしには実現しない。国債残高を抑えることで、円滑消化も実現しやすくなることを、忘れてはならない。こうした国債の円滑消化の有りがたみを理解してもらうには、もはや財務省が円滑消化の政策努力をわざとサボタージュする以外にないのかもしれない。財務省が円滑消化の努力を拒絶すれば、国債の発行金利はたちまち上昇する。そうなる前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要がある』、「国債の発行金利はたちまち上昇する。そうなる前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要がある」、これは多分に、比喩的な表現だが、「「国債の発行(流通)金利」が一旦、上昇し始めると上昇が止まらなくなり、「そうなる前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要」というのは初めから無理な命題となる。無論、筆者の本意は、「国債の発行金利」が「上昇」する前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要がある」と、単純に表現したと考えれば、無理な命題ではなくなることは、言うまでもない。
先ずは、7月28日付けPRESIDENT Onlineが掲載した経済ジャーナリストの磯山 友幸氏による「絶対に「減税」はやりたくない…岸田首相が「ガソリン補助金」にこだわり続ける"危険すぎる理由" 「政府は市場に勝てる」と思っているのではないか」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/60026
・『補助金がなければガソリンは200円を超えている ガソリンの高値が続いている。いよいよ夏の行楽シーズンの到来だが、愛車を満タンにするだけで1万円札が飛んでいく。日々の生活に車が不可欠な人にとっては、さらに負担は重い。賃金が増えない中でどこから資金を捻出するか。値上がりしているのは、電気代もガス代も食料品も軒並みである。 それでも今のガソリン価格は、政府が巨額の補助金を投じて必死に価格を抑えている結果だ。石油情報センターの調査では、7月19日時点でレギュラーガソリンは1リットル当たり171.4円。3週連続で値下がりしているものの、経済産業省が1リットルあたり36.6円の補助金を石油元売会社に出しており、実態としては、依然として200円を超えている。 世界経済の減速懸念から原油の国際価格は若干下落傾向にあるとはいえ、為替の円安が進んでいることもあって、国内ガソリン価格が早期に下落する見込みは立っていない。経産省の補助金も膨らむ一方で、いつまで政府が価格を抑え続けられるのか。「出口」がまったく見えなくなってきた』、発展途上国ではよくある「補助金」政策だが、先進国では珍しい。
・『膨れ上がる補助金…総額1兆6000億円を投じることに 岸田文雄内閣が石油元売会社への補助金を出し始めたのは、今年1月27日から。当初は1リットルあたり5円を支給していた。その予算は2021年度の補正予算から800億円が充てられた。しかし、その後、ウクライナ戦争が始まったこともあり原油価格は高騰。経産省は補助金を3月10日から25円に引き上げた。昨年度の予備費から3600億円余りを支出することとした。 岸田首相は4月26日に記者会見に臨み、「総合緊急対策」を公表。その柱の第1として原油価格高騰への対策を掲げた。1兆5000億円を投じて新たな補助制度を設けるとし、補塡ほてんの上限を35円に引き上げて、「仮にガソリン価格が200円を超える事態になっても、市中のガソリンスタンドでの価格は、当面168円程度の水準に抑制します」と大見得を切った。さらに35円を超えて補助が必要になった場合、価格上昇分の2分の1を補助するとした。 この方針を受けて、4月28日からは発動基準は「172円以上」から岸田氏の表明した「168円以上」に下げ、補助額も35円プラス超過分の半額補助に引き上げた。期間は4月末までだったものを、9月末までに延長した。これによって政府は、総額1兆6000億円の巨額の資金を投じることになった。 要は、政府が「市場価格」に対抗して、「公定価格」を貫き通そうとしているわけだ。世界につながっている市場の価格を、政府がカネを注ぎ込むことでコントロールできると思っているのか。本当に政府は市場に勝てるのか』、小売価格を「補助金」で強引に引下げている形になる。
・『補助金よりも「揮発油税」の引き下げをすべき ガソリンを使う消費者の負担を下げたいと思うのなら、真っ先に「揮発油税」を引き下げるべきだったという声は根強い。 ガソリンには1リットル当たり24.3円の揮発油税(国税)と4.4円の地方揮発油税が「本則税率」として定められているが、租税特別措置として、さらに25.1円(国税24.3円、地方0.8円)が上乗せされていた。2008年には租税特別措置が廃止されたが、合計金額の53.8円が「当分の間」の暫定税率に据え置かれた。 もともと、ガソリン価格が高騰した時には特別税率の25.1円分を廃止する「トリガー(引き金)条項」が付いていたが、東日本大震災の復興予算を名目にトリガー条項が凍結されている。多くの識者から、これを解除すべきだ、という声が上がったわけだ。 野党の国民民主党は真っ先に、凍結解除による減税を主張。岸田首相が検討するとしたことで、2022年度予算案に賛成した。ところが、岸田首相はその後、まったくトリガー条項の凍結を解除する姿勢を見せずに今日に至っている』、「国民民主党」は「岸田首相」に騙された形で、全くみっともない限りだ。
・『政府が減税よりも補助金にこだわるワケ トリガー条項の凍結解除による、国と地方の税収減は1年間で計1兆5700億円になると財務省は試算している。すでに補助金への財政負担は半年余りでこの金額を上回っている。にもかかわらず、なぜ政府は、減税ではなく補助金にこだわるのか。 揮発油税は国と地方の一般会計に充てられるため、財務省からすれば使い勝手の良い税源を失いたくない、というのが本音だろう。過去の経緯から暫定税率の上乗せ分はいずれ廃止されるのが本来だったはずで、いったんトリガー条項でその分を減税すると二度と元に戻せなくなる、と考えているのだろう。 また、所管の経産省からすれば、補助金を元売会社に出せば、元売りに恩を売る形になり、役所としての権限強化につながる。減税してもその分価格が下がるだけなので、元売りから感謝されることはない。霞が関全体からすれば、予算規模は大きければ大きいほど、予算執行を通じた権限が増す。政治家にとっても話は同じで、補助金で業界に恩を売れば、選挙でも支持を得られる可能性が高まる。まさに、政官業の「鉄のトライアングル」の結束の結果だと言っていい。 今後、仮に原油価格が上昇を続けた場合、補助金なら元売りが手にする金額が増え続けるというメリットもある。減税はいったん引き下げたら、後は石油元売り会政府は、減税ではなく補助金にこだわるの社の自助努力で価格を抑えるしかないが、岸田首相はすでに上昇分の半額補助を打ち出している』、「なぜ政府は、減税ではなく補助金にこだわるのか」、「財務省からすれば使い勝手の良い税源を失いたくない」、「経産省からすれば、補助金を元売会社に出せば、元売りに恩を売る形になり、役所としての権限強化につながる」、やはり、省益を抜きにすれば、本来は「減税」で対応すべきだ。
・『補助金の大判振る舞いは、選挙戦略の一環だった 問題はそんな大盤振る舞いをいつまで続けられるか、だ。あくまで緊急事態に対処するための時限的な措置という建前だから、現状の9月末までという期限を守って、補助金を廃止することになるのか。 その場合、仮に今のままの原油価格で推移したとすると、いきなりガソリン価格が35円以上も跳ね上がることになる。当然、政権への批判が噴出することになるだろう。9月末のガソリン価格が200円弱で推移していたら、補助金を止め、トリガー条項を発動させて25.1円の減税に切り替えることもできる。だが、200円を大きく上回っていた場合、減税分だけでは穴埋めできず、補助金を止めれば価格が急騰することになる。そうなると、永遠に「出口」が見えなくなり、原油価格の下落を祈る以外に方法がなくなってしまう。 岸田内閣は、7月の参議院選挙に勝つことを最優先に、いくつもの「出口戦略」を先送りしてきた。4月にガソリンの補助金をぶち上げたのもインフレ対策を強調する選挙戦略の一環だったと見ることもできる』、「参議院選挙」勝利を受けて、「先送り」してきた「出口戦略」のいくつかは、実行されるのだろう。
・『市場原理を敵視する岸田政権 さらに、企業が余剰人材を解雇せずに抱えさせる「雇用調整助成金」の期限も6月末から9月末に延長されている。新型コロナウイルス蔓延で経済が凍りついたタイミングでは、雇用調整助成金の効果は大きかったが、長く続ければ「麻薬状態」になり、本来必要な労働移動を疎外してしまう。にもかかわらず、「出口」を先送りしてきたのだ。世界的なインフレと円安によって輸入物価が猛烈に上昇する中で、雇用調整助成金を打ち切れば、一気に失業者が増える懸念もある。 岸田首相は就任前の総裁選時から「新自由主義的政策は取らない」と言い、「新しい資本主義」を標語として掲げてきた。何を具体的に実行しようとしているのかは、いまだに分からないが、どうも「市場原理」を敵視しているように見える。ガソリン市場にせよ、労働市場にせよ、政府がコントロールできると考えているのではないか。 だが、赤字財政の中で膨大な予算を使い続ければ、結局は日本の国力が低下し、円はどんどん弱くなる。するとさらに輸入原油の円建て価格は上昇し、ガソリン価格は上がっていく。そんな負の連鎖につながっていくことになりかねないだろう』、「どうも「市場原理」を敵視しているように見える。ガソリン市場にせよ、労働市場にせよ、政府がコントロールできると考えているのではないか。 だが、赤字財政の中で膨大な予算を使い続ければ、結局は日本の国力が低下し、円はどんどん弱くなる。するとさらに輸入原油の円建て価格は上昇し、ガソリン価格は上がっていく。そんな負の連鎖につながっていくことになりかねないだろう」、同感である。
次に、8月1日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学 経済学部教授の土居 丈朗氏による「積極財政派を増長させた財務省の巨大なジレンマ 国債の円滑消化が財政のコスト意識を希薄化」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/607860
・『7月29日に、岸田文雄内閣は2023年度予算の概算要求基準を閣議了解した。これを皮切りに、来年度予算をめぐる駆け引きが展開されてゆく。今秋にも佳境を迎えることになる予算編成をにらんだ動きは、すでに始まっている』、興味深そうだ。
・『財政拡張圧力が目白押し 特に、6月7日に閣議決定された「骨太方針2021」には、基礎的財政収支黒字化の達成年度である「2025年度」は明記されなかった一方、予算規模の拡大の予兆となる文言が多数盛り込まれた。 1つには、グリーントランスフォーメーション(GX)への投資である。「骨太方針2021」には、「150兆円超の官民の投資を先導するために十分な規模の政府資金を、将来の財源の裏付けをもった『GX経済移行債(仮称)』により先行して調達し、複数年度にわたり予見可能な形で、速やかに投資支援に回していく」と記されている。 GX経済移行債は、新たな形の国債を想定している。そして、国債増発を先行して、GXを促す政府支出を行い、その借金返済は後に回す、ということを暗に示唆している。一部には、10年間に20兆円の政府支出が想定されているという。年平均にすれば2兆円である。 もう1つは、防衛費である。経済政策に関する言及がもっぱらである「骨太方針」で、防衛費に言及があるのは稀なことだが、「骨太方針2021」には、かなりの紙幅を割いて防衛費の増額の必要性が記されている。 その背景は、東洋経済オンラインの拙稿「日本の防衛費は『対GDP比2%』へ倍増できるのか」でも記しているが、NATO(北大西洋条約機構)諸国は、国防予算を対GDP(国内総生産)比2%以上とする目標を設けており、「骨太方針2021」には、その事実の紹介という形をとりつつ「対GDP比2%」と明記された。あくまで、日本の防衛費を「対GDP比2%」にするとまでは書かれていないが、「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」と記された。 このように、来年度予算に向けた歳出増圧力は、例年以上に強まっている。安倍晋三元首相が、襲撃事件で世を去った後でも、積極財政派の勢いは衰えていない。) 積極財政派は、国債残高が未曽有の規模に達していても、さらなる国債増発に何の躊躇もない。目下、日本国債は、金利がほとんどゼロで発行できる。これが大前提の認識である。 しかし、こうした国債発行の環境は、自然体で何の努力もなく実現しているわけでは決してない。量的緩和政策の下で日本銀行の国債の大量買い入れによるところも大きいし、もう1つは財務省理財局の国債の円滑消化努力も無視できない』、「日本国債は、金利がほとんどゼロで発行できる」のは、確かに「日本銀行の国債の大量買い入れ」、「財務省理財局の国債の円滑消化努力」などがあってのものだ。
・『国債の円滑消化とはどんなものか? 国家財政のことを真剣に考えると、ひとたび国債を発行すると決まれば、その発行コストをできるだけ低減させる政策努力は、国民がより少ない負担で財政支出の恩恵を享受するために重要である。それが、国債の円滑消化という政策努力である。 もし国債が円滑に消化できなければどうなるか。例えば、政府が、金利がほぼゼロの状態を長期に享受しようとして、強引に長期国債を、民間金融機関が買いたい量(入札での応募額)よりも多く発行しようとしたらどうなるか。その際は、政府が発行したい量(入札での募集額)未満しか取引が成立しない。 このように、応募額が募集額に満たない状態を、「未達」ともいう。こうした未達が多発すれば、民間金融機関などの投資家にとって金利(利回り)が低すぎて国債は魅力が足りない、と理解される。そうなると、政府は発行時の国債金利を引き上げざるを得なくなる。 それは、日銀が国債を大量に買い入れる状況であっても起こりうる。というのも、日銀が国債を買い入れているのは、いったん発行され民間金融機関などに購入された国債が売買される流通市場での取引である。他方、政府が直面するのは発行市場である。両市場の国債金利は、結果的に連動する傾向があるものの、それぞれの金利は独立して決まる。 だからこそ、財政運営上、国債を発行して賄わざるを得ない限り、余分な費用がかからないようにするには、国債をより低い金利で発行できるようにする必要がある。つまり、未達のような波乱が国債の発行市場で起こらないようにすることが、政策当局に求められる。まさに、財務省理財局はそれを担っているのである。 ところが、国債の円滑消化という財務省理財局の政策努力が、目下政界であらぬ方向に作用してしまっている。 それは、国債発行コストが半永久的にゼロであるとの認識を、積極財政派に植え付けたことである。相当に苦労した国債の円滑消化という政策努力を払っているにもかかわらず、それがあたかも当然視され、国債増発のコスト意識の麻痺という帰結をもたらしたとは、何とも皮肉である。 国債の円滑消化は、国債残高が増えれば増えるほど難度が上がる。1998年度は、1年間に60兆円にも満たない国債を発行市場で起債すればよかったが、コロナ禍でさらに増大して今や1年間に200兆円もの国債を発行市場で起債しなければならなくなった。その増加の主な要因は、借換債の起債である。国債残高が増えれば増えるほど、借換債の発行額も増えざるを得ない。 国民に余分な利払い負担を負わせないようにするには、国債の円滑消化が必要で、その実現可能性を高めるには、国債残高をできるだけ抑えなければならない。そのためにも、財政健全化が不可欠であるーー。本来、国債の円滑消化は、そのように位置づけられるべきである。 ところが、今の政界では、国債を円滑に消化できればできるほど、財政健全化は不要という動きにつながってしまっている。それは、財務省の意図に反しているだろうが、国債の円滑消化が、積極財政派がますます財政健全化は不要と主張するという結果を生んでしまっている。 財務省も財務省で、ジレンマがある。財政健全化の重要性を理解してもらい国債増発を抑えたいが、いったん発行するとなれば国債金利はできるだけ低く抑えて発行したい。でも、低く抑えられれば、それだけ財政健全化の必要性を感じてもらいにくくなる。 金利が低いうちに国債で資金を借りて、将来への投資を行うべきという政策論は、国債の円滑消化を可能にする財政健全化があってこそのものである。本末を転倒させてはいけない』、「金利が低いうちに国債で資金を借りて、将来への投資を行うべきという政策論は、国債の円滑消化を可能にする財政健全化があってこそのものである。本末を転倒させてはいけない」、同感である。
・『もはや財務省のサボタージュしかない? 国債の円滑消化は、政策努力なしには実現しない。国債残高を抑えることで、円滑消化も実現しやすくなることを、忘れてはならない。こうした国債の円滑消化の有りがたみを理解してもらうには、もはや財務省が円滑消化の政策努力をわざとサボタージュする以外にないのかもしれない。財務省が円滑消化の努力を拒絶すれば、国債の発行金利はたちまち上昇する。そうなる前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要がある』、「国債の発行金利はたちまち上昇する。そうなる前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要がある」、これは多分に、比喩的な表現だが、「「国債の発行(流通)金利」が一旦、上昇し始めると上昇が止まらなくなり、「そうなる前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要」というのは初めから無理な命題となる。無論、筆者の本意は、「国債の発行金利」が「上昇」する前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要がある」と、単純に表現したと考えれば、無理な命題ではなくなることは、言うまでもない。
タグ:政府財政問題 (その9)(絶対に「減税」はやりたくない…岸田首相が「ガソリン補助金」にこだわり続ける"危険すぎる理由" 「政府は市場に勝てる」と思っているのではないか、積極財政派を増長させた財務省の巨大なジレンマ 国債の円滑消化が財政のコスト意識を希薄化) PRESIDENT ONLINE 磯山 友幸氏による「絶対に「減税」はやりたくない…岸田首相が「ガソリン補助金」にこだわり続ける"危険すぎる理由" 「政府は市場に勝てる」と思っているのではないか」 発展途上国ではよくある「補助金」政策だが、先進国では珍しい。 小売価格を「補助金」で強引に引下げている形になる。 「国民民主党」は「岸田首相」に騙された形で、全くみっともない限りだ。 「なぜ政府は、減税ではなく補助金にこだわるのか」、「財務省からすれば使い勝手の良い税源を失いたくない」、「経産省からすれば、補助金を元売会社に出せば、元売りに恩を売る形になり、役所としての権限強化につながる」、やはり、省益を抜きにすれば、本来は「減税」で対応すべきだ。 「参議院選挙」勝利を受けて、「先送り」してきた「出口戦略」のいくつかは、実行されるのだろう 「どうも「市場原理」を敵視しているように見える。ガソリン市場にせよ、労働市場にせよ、政府がコントロールできると考えているのではないか。 だが、赤字財政の中で膨大な予算を使い続ければ、結局は日本の国力が低下し、円はどんどん弱くなる。するとさらに輸入原油の円建て価格は上昇し、ガソリン価格は上がっていく。そんな負の連鎖につながっていくことになりかねないだろう」、同感である。 東洋経済オンライン 土居 丈朗氏による「積極財政派を増長させた財務省の巨大なジレンマ 国債の円滑消化が財政のコスト意識を希薄化」 「日本国債は、金利がほとんどゼロで発行できる」のは、確かに「日本銀行の国債の大量買い入れ」、「財務省理財局の国債の円滑消化努力」などがあってのものだ。 「金利が低いうちに国債で資金を借りて、将来への投資を行うべきという政策論は、国債の円滑消化を可能にする財政健全化があってこそのものである。本末を転倒させてはいけない」、同感である。 「国債の発行金利はたちまち上昇する。そうなる前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要がある」、これは多分に、比喩的な表現だが、「「国債の発行(流通)金利」が一旦、上昇し始めると上昇が止まらなくなり、「そうなる前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要」というのは初めから無理な命題となる。無論、筆者の本意は、「国債の発行金利」が「上昇」する前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要がある」と、単純に表現したと考えれば、無理な命題ではなくなることは、言うまでもない。
外食産業(その4)(【独自】すき家「ワンオペ」で死者が 店内で倒れて3時間放置されていた女性従業員、「生ビール半額」品切れで批判殺到…スシロー社長の報酬は約2億1000万円 THIS WEEK「経済」、いきなり!ステーキはなぜここまで凋落したのか 大勝から大敗へ、創業者の一瀬邦夫氏が社長辞任) [産業動向]
外食産業については、昨年7月19日に取上げた。今日は、(その4)(【独自】すき家「ワンオペ」で死者が 店内で倒れて3時間放置されていた女性従業員、「生ビール半額」品切れで批判殺到…スシロー社長の報酬は約2億1000万円 THIS WEEK「経済」、いきなり!ステーキはなぜここまで凋落したのか 大勝から大敗へ、創業者の一瀬邦夫氏が社長辞任)である。
先ずは、本年6月1日付けデイリー新潮「【独自】すき家「ワンオペ」で死者が 店内で倒れて3時間放置されていた女性従業員」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/06011131/?all=1
・『事実を認めた「すき家」 2014年、従業員一人で店を切り盛りする「ワンオペ」勤務の実態が明るみに出て非難にさらされた牛丼チェーン・すき家。この問題でゼンショーは“ブラック企業だ!”と非難を受け、第三者委員会を設置。その報告書ではワンオペの問題点が厳しく指摘された。しかし、今年1月、過酷な「ワンオペ」がきっかけとなり、死者が出てしまったのだ。 亡くなったのは、名古屋市郊外の店舗に勤務していた50代の女性従業員・中井さん(仮名)。1月17日に帰らぬ人となった。 「週刊新潮」の取材を受けた同社の広報は事実を認め、 〈勤務中にお亡くなりになった中井さん、そしてご家族のみなさまには心よりお悔やみ申し上げます〉と述べた』、酷い話だ。
・『3時間も放置 同社によれば、亡くなった17日の前日の22時に出勤し、2人体制で勤務。7時間働いた後、翌17日5時に同僚が帰り、そこから続けて朝の9時までの予定で、シフト通りの「ワンオペ」勤務に入ったという。しかし、それから30分も経たない5時26分に、厨房内で倒れた。その後、朝食の時間帯には客も入店したというが、店員の姿が見えないので不審に思ったのかすぐに退店。結局、彼女は3時間も放置され、8時44分、9時からのシフト交代で訪れた従業員によってようやく発見された。 その後、病院に運ばれたものの、死亡が確認された。死因は心筋梗塞だったという。 もし5時以降も店に複数の従業員がいれば、中井さんの命が救われていた可能性もあった。すき家の“ブラック”な労働環境が改善されなかったために起きた悲劇といえるだろう。6月2日発売の「週刊新潮」では、件の店舗に勤務している従業員の証言と併せ、「すき家」の労働環境について詳しく報じる。 週刊新潮 2022年6月9日号掲載』、「シフト通りの「ワンオペ」勤務」、5時から9時までの4時間は「ワンオペ」が組み込まれていたとは、2014年の事故の教訓はまるで生かされてないことになる。これでは、「“ブラック企業だ!”」批判は収まらないだろう。
次に、8月13日付け文春オンラインが掲載した経済ジャーナリストの森岡 英樹氏による「「生ビール半額」品切れで批判殺到…スシロー社長の報酬は約2億1000万円 THIS WEEK「経済」」を紹介しよう。
・『回転寿司チェーン「スシロー」を運営する「あきんどスシロー」(大阪府吹田市)。7月13日から実施中の「生ビール半額キャンペーン」について、一部店舗で品切れ状態になっていることが発覚し、来店客から批判が殺到している。 「そもそもスシローは、ウニやカニの激安キャンペーンに関して、6月9日に消費者庁から景品表示法違反(おとり広告)に基づく措置命令を受けたばかりでした。親会社FOOD&LIFE COMPANIESの水留浩一社長(54)は、7月から3カ月間、基本月額報酬の三割を自主返納すると発表。今回の生ビール半額問題はその矢先のことでした」(メガバンク幹部)』、管理の基本がおろそかになっているようだ。
・『企業再生を得意とする“プロ経営者” 役員報酬は約2億1000万円 トップの水留氏とはどんな人物なのか。東京大学理学部を卒業後、1991年に電通入社。5年間の営業経験などを経て、独コンサル会社の日本法人代表に就任する。2010年にはJALの管財人代理として、更生計画の策定・実行に携わった。 「企業再生を得意とする“プロ経営者”です。スシローや京樽を傘下に置くFOOD社の社長に招かれたのは、15年。それまでFOOD社は株主の対立などから経営体制が盤石ではなく、09年に一旦、上場廃止になっていました。それが水留氏の社長就任後、2年で再上場を果たした。時価総額もピーク時で、約5倍に膨らんでいます」(同前) そうした実績ゆえに、手にする報酬も高額だ。昨年9月期の役員報酬は約2億1000万円。自宅は都内の高級マンションで価格は2億円前後と見られる。 「水留氏の持論は、雇用の維持をはじめ、現場のモチベーションを大事にすることが再生の近道というもの。しかし、それを実行できているかと言えば、疑問が残ります」(同前)』、“プロ経営者”としての「報酬」が「高額」なのは、「社長就任後、2年で再上場を果たした。時価総額もピーク時で、約5倍に膨らんでいます」、ことを反映したものなのだろう。しかし、足元の不手際で今後は削減される可能性がある。
・『キャンペーン中に広告の問題点が報告されたが、修正されず 実際、おとり広告に関する調査報告書では、社員らが声を上げにくい企業風土が厳しく批判されていた。 「現場の混乱を招いたと指摘されているのが、激安キャンペーンと並行する形で、急遽実施した『禁断の90円セール』です。報告書には〈「当社及びスシローの代表者の鶴の一声で90円セールの実施が決定した。」と述べるヒアリング対象者が複数存在〉と記されていました」(同前) それだけではない。 「キャンペーン中に広告の問題点が経営会議に報告されたにもかかわらず、軌道修正が図られることはありませんでした。報告書では〈役員が決定した方針には逆らえない〉〈上席者の決定した内容が絶対的〉とも指摘されています」(同前) 水留氏ら経営陣が握っているのは、寿司ではなく、強すぎる権限だった』、「キャンペーン中に広告の問題点が経営会議に報告されたにもかかわらず、軌道修正が図られることはありませんでした。報告書では〈役員が決定した方針には逆らえない〉〈上席者の決定した内容が絶対的〉とも指摘されています」、典型的な上意下達型組織だが、それが上手くいくためには「上意」が正しくなければならない。同社のように、「上意」が間違っていれば、弾力的に修正してゆく必要があろう。
第三に、8月16日付け東洋経済オンラインが掲載した 経済評論家・百年コンサルティング代表の鈴木 貴博氏による「いきなり!ステーキはなぜここまで凋落したのか 大勝から大敗へ、創業者の一瀬邦夫氏が社長辞任」を紹介しよう。
・『「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービスの一瀬邦夫社長CEOが業績不振の経営責任を明確にするという理由により、8月12日付で辞任しました。一瀬氏は取締役も退き、後任社長には長男で副社長の一瀬健作氏が就きました。 ペッパーフードサービスは1985年設立。2006年に株式を上場した頃は「ペッパーランチ」を主力業態としていましたが、一瀬氏の手により、いきなりステーキの第1号店を2013年に開業し、すぐに熱狂的なブームを巻き起こし、チェーン店経営史上最速と呼ばれるペースで全国に広がりました』、一時はニューヨークにも「いきなり!ステーキ」を出店し、意気軒高だったが、2019年2月の脇田勝利のブログによれば、一部をペッパーランチに業態変更、他は閉店となる。日本流のステーキ店の押し付けは通用しなかったようだ。
https://marketing.yoka-yoka.jp/e2063139.html
・『業績急拡大も急速な新規出店がアダに 2000年代には70億円台がピークだった売上高は倍々ゲームで600億円規模まで急拡大。ところが新規出店ペースが速すぎて店舗同士が顧客を取り合い、開業5年後の2018年に既存店での売り上げ減少が始まります。(外部配信先ではグラフなどの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) 翌2019年12月期は売上高が675億円まで増えたのに赤字へと転落し、不採算店の閉鎖が増加します。2020年には財務状況の改善のため1994年から運営を続けてきた業態のペッパーランチを売却せざるをえない事態になります。時を同じくして日本の外食産業をコロナ禍が襲い、直近の売上高は200億円を切り、赤字がまだ続いています。状況が改善しないまま一瀬邦夫社長が経営責任をとることになったというのが冒頭のニュースです。 まさにジェットコースター経営と呼ぶべきいきなりステーキの栄華と転落の軌跡について、何がここまでのブームを巻き起こし、なぜ急速な衰退へと向かったのでしょうか。 まずはいきなりステーキの栄華の歴史を振り返ってみましょう。 「本物のステーキを低価格で提供する」 すでにペッパーランチで成功していた一瀬邦夫氏が2013年当時あたためていた新事業の構想でした。その構想を後押ししたのが「俺のフレンチ」で一世を風靡した故坂本孝氏でした。 坂本氏のアドバイスと「僕はステーキに進出するつもりはないからあなたがやったらいい」というお墨付きで一瀬邦夫氏が新たに起業したのが「いきなりステーキ」の銀座1号店でした。 そのビジネスモデルは、 1. 高品質のステーキ肉を原価率70%超というコスパの高い価格設定で提供する 2. 薄利でも利益を上げられるように立ち食いスタイルをとり顧客回転率を上げる 3. 肉マイレージでリピーターに手厚く還元することで固定客を取り込む というものでした。 それまで高級ステーキというものは特別な日に誰かと一緒に食べるものでした。ところがいきなりステーキの登場はその「高級ステーキを」「日常的に」「おひとりさまが」食べるという新需要を創造しました。 一瀬氏が狙った低価格戦略も顧客に刺さります。当時の価格ではリブロースが1g=6円(当時の税別表記、以下同じ)、サーロインが1g=7円、ヒレが1g=9円という価格設定で、これはファミレスの中でも高価格高品質を売りにするロイヤルホストのアンガスビーフのサーロインステーキがグラム単価10円超だったのと比較しても非常に魅力的な価格設定でした。 2015年頃になるとブームが定着し、都内50店舗を超えたいきなりステーキではランチタイムに長蛇の行列ができるようになりました。そこからフランチャイズ方式で店舗数は全国に急拡大します。 ステーキ専門店の急拡大に必要な料理人の確保についても、たとえば調理経験者を再雇用し、ステーキを焼くというスキルにフォーカスして再教育するといった形で、当時、店舗運営の観点でもビジネスモデルに隙はないように見えました。 立ち食いという競合他社にない運営形態から顧客回転率は非常に高く、2018年には品川シーサイドフォレスト店が一日に1734食を提供して「レストランにて24時間で販売されたビーフステーキ最多食数」のギネスブック認定の世界記録を打ち立てます』、「いきなりステーキの登場はその「高級ステーキを」「日常的に」「おひとりさまが」食べるという新需要を創造しました」、その意味では画期的だった。
・『リピーターがブームを支える 当時、ブームを支えたのがリピーターです。この時期、いきなりステーキがヒットしたもうひとつの背景としてダイエットで一世を風靡したライザップが巻き起こしたロカボダイエットブームがありました。 ライザップに入会してダイエットに成功した人がわずか2カ月でメタボ体型から筋肉質のスリムな体型へと激変する秘密は綿密なパーソナルトレーニングプログラムに加えて、炭水化物を制限しおもに肉などのタンパク質を中心の食事をとるロカボダイエットの食事プログラムにありました。 ロカボダイエットはライザップに加入しない人の間でも知識が広まります。このやり方で取り戻した若者体型をキープするためには、肉食中心の生活を続ける必要があります。そのために付随的にヒット商品になったのがコンビニのサラダチキン(鶏むね肉)と「いきなりステーキ」だったというわけです。 そしていきなりステーキの場合、リピーターの確保施策として機能したのが肉マイレージ制度でした。累積で食べたステーキの量が3kgを超えるとゴールド会員、20kgを超えるとダイヤモンド会員、そして100kgを超えるとプラチナ会員と認定され、それぞれ特典を得ることができるようになります。) いきなりステーキの肉マイレージ会員は最盛期には1500万人規模を誇りました。国民の10人にひとりは会員になっていたわけですからいかにいきなりステーキの人気が高かったのかがわかります。 そのいきなりステーキですが、前述したように開業5年目の2018年に既存店の売り上げ減少が始まり、栄華の絶頂からのジェットコースターのような転落が始まります。いったい何が起きたのでしょうか? いきなりステーキの戦略に狂いが生じたのは一般的には過剰出店がきっかけだったと言われます。全国500店舗を超えたところで近隣のお店同士が顧客を取り合うようになり、チェーン全体で飽和状態に達したという説明です。同時期に競合も登場しはじめたのですが、確かに競合する店舗数という視点でみればいきなりステーキの各店舗から見て、もっとも競合したのは同じいきなりステーキの近隣店だったことは間違いないでしょう』、「いきなりステーキの肉マイレージ会員は最盛期には1500万人規模を誇りました。国民の10人にひとりは会員になっていたわけですからいかにいきなりステーキの人気が高かったのかがわかります」、「栄華の絶頂からのジェットコースターのような転落が始まります」、「いきなりステーキの戦略に狂いが生じたのは一般的には過剰出店がきっかけだった」、なるほど。
・『皮肉だった一瀬邦夫氏からお客へのメッセージ この時期、一瀬邦夫氏が自ら書いた手紙がいきなりステーキの店頭に掲示されたことがニュースで話題になりました。いきなりステーキを愛する顧客に向けたメッセージだったのですが、要するに近所のいきなりステーキにもっと頻繁に足を運んでくれないと、このままではそのお店が閉店してしまうかもしれないという内容の手紙でした。 お店の苦境をファンに支えてほしいという純粋な気持ちからだったと思うのですが、この手紙が、いきなりステーキブームが転換点に来ていることを世の中に知らしめたのはある意味皮肉だったかもしれません。ただ出店過剰が原因であればこの段階で店舗数を大幅に見直し、不採算店を整理したり店舗密度の高いエリアで姉妹店のペッパーランチへと業態転換したりすれば状況は違ったかもしれません。しかしここで経営はいくつか戦略ミスをしたと思われます。 いきなりステーキは業績悪化後の2021年に大幅な値上げを実施して客離れを起こしましたが、実はそれ以前にも常連客の「肉質が変わってきた」「店舗によって肉質のばらつきがある」という証言が耳に入ってきていました。開業当時に「原価率70%超」と言っていた数字も、2020年頃には一瀬氏の口から「いきなりステーキの原価率は50%くらい」という違う数字が語られることもありました。 創業時には本物のステーキ肉しか使わないことが売りだったのですが、限定メニューとしてインジェクション加工肉(霜降り加工肉)を提供することも行われました。このあたりの味の変化に気づいた人が少なくなかったのはリピーター層が多かったからかもしれません。そして実はこのリピーター戦略の誤算が、出店過剰以上にいきなりステーキの傷口を広げたという見方があります。 2018年の既存店売り上げ減少、2019年の赤字転落という逆風の中、ペッパーフードサービスはいきなりステーキ事業の立て直しのためにさまざまな手を打つのですが、その中でも転落を決定づけたのではないかと言われるのが「肉マイレージ制度」の改悪です』、「限定メニューとしてインジェクション加工肉(霜降り加工肉)を提供することも行われました。このあたりの味の変化に気づいた人が少なくなかったのはリピーター層が多かったからかもしれません。そして実はこのリピーター戦略の誤算が、出店過剰以上にいきなりステーキの傷口を広げたという見方があります」、「転落を決定づけたのではないかと言われるのが「肉マイレージ制度」の改悪です」、なるほど。
・『累積グラム数によるランクアップ制度を廃止 2020年12月にいきなりステーキは肉マイレージについてそれまでの累積グラム数によるランクアップ制度を廃止して、半年間の来店回数に応じてランクが決まる新制度へと変更しました。 これによってそれまで上級会員だった層からふたつの不満の声が起きます。ひとつはそれまでは一度ハードルをクリアしたらずっとランクアップされた状態がキープされていたものが、新制度ではランク降格が起きるようになるという不満です。そしてもうひとつ、地味に反対の声が強かったのが累積グラム数制度がなくなることで「チャレンジ感がなくなる」という不満でした。 要するに自分のいきなりステーキ愛を示す累積グラム数という目標がなくなることで、リピーター層のモチベーションが大きく下がってしまったのです。後者の不満を救済するため改悪後わずか半年でプラチナとダイヤモンドについて累積グラム制度を復活させる再改定に踏み切らざるをえなくなりました。 さてこの肉マイレージ制度の改悪ですが、実はその問題点は開業当時に遡ります。業績が悪化して大きく問題となったのは、要するに制度設計当初に設計ミスがあったのです。それは比較的到達しやすいゴールド会員の特典がお得すぎたことにありました。 当初からの肉マイレージ制度では累積グラム数が3kgに達すると誰でもゴールド会員になり、生涯ゴールド会員資格を得ることができました。いきなりステーキはリブロース、サーロインともにステーキの販売量は300gからなので、ほとんどの顧客は10回通えばゴールド会員になります。) ペッパーフードサービスの2020年の社内報に1500万人超の肉マイレージ会員の内訳が記されているのですが、その時点でゴールド会員は全体の6.6%にあたる約100万人、プラチナ会員が同0.6%の約9万人で、最高峰のダイヤモンドは2000人程度という比率になっています。 ここから逆算すると要するにいきなりステーキの売り上げ構造は、顧客全体の7.2%の人数に相当するゴールド、プラチナ、ダイヤモンド会員が推定売り上げの5割以上を占めているというリピーター主体の売り上げ構造であることが推計されます。 中でも売り上げのボリュームゾーンが全体の3分の1の売り上げを占めるゴールド会員なのですが、大きな問題としてゴールド会員になるとドリンク1杯が無料になるという特典がもたらした制度の欠陥がありました。 飲食店の収益構造を考えてみると、多くのお店では原価率の高い食事を補うために原価率の低いドリンク類で元を取るものです。ところがいきなりステーキの肉マイレージでは売り上げの半数を稼ぐリピーター会員が特典で無料ドリンクを頼んでしまうのです。設計当初から上級会員であるプラチナとダイヤモンドだけをドリンク無料にしておけばよかったのですが、ゴールド特典にドリンク無料を設定したことで店舗としての収益構造が悪くなってしまったという理屈です。 2020年の肉マイレージ制度改悪の狙いは、この設計ミスのリカバーにあったと推測されますが、結果としては売り上げをささえてきたリピーターからの反発を招いたことになります。 いきなりステーキの転落要因としてはもうひとつ、従業員の疲弊も取り沙汰されています。転落期にSNS等でさまざまな内部事情が外に漏れていくのですが、これもビジネスが順調なうちは成長の痛みとして吸収されることが、不調へ転じるとより大きな経営問題となる典型例でした』、「設計当初から上級会員であるプラチナとダイヤモンドだけをドリンク無料にしておけばよかったのですが、ゴールド特典にドリンク無料を設定したことで店舗としての収益構造が悪くなってしまった」、「2020年の肉マイレージ制度改悪の狙いは、この設計ミスのリカバーにあったと推測されますが、結果としては売り上げをささえてきたリピーターからの反発を招いたことになります」、「転落要因としてはもうひとつ、従業員の疲弊も取り沙汰」、「転落要因」がこんなにあるようでは、「転落」は必至だ。
・『企業の歯車が狂った典型だった 要するに企業の歯車が狂うというのはこういうことなのです。店舗あたりの売り上げが減少に転じ、なんとか収益をキープするために原価率が下げられ、リピーターへの還元が減らされ、それに敏感に反応するコアなリピーターが離れていく。そうして収益減少のトレンドが負のフィードバックを受ける中で従業員にも徐々に疲労がたまっていく。 今回経営者が代わることでこの負の連鎖を断ち切ることができるのかどうか。まだいきなりステーキというビジネスモデルにも復活のチャンスがあるはずです。というのはいきなりステーキが絶頂期に証明したことは「高級ステーキを日常的におひとりさまで食べる」というコンセプトに刺さる顧客層が国内に100万人も存在するということなのですから』、「今回経営者が代わる」とはいっても、後任が「副社長」だった長男ということであれば、それほど変わり映えしない可能性がある。ただ、今後の展開を注目したい。
先ずは、本年6月1日付けデイリー新潮「【独自】すき家「ワンオペ」で死者が 店内で倒れて3時間放置されていた女性従業員」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/06011131/?all=1
・『事実を認めた「すき家」 2014年、従業員一人で店を切り盛りする「ワンオペ」勤務の実態が明るみに出て非難にさらされた牛丼チェーン・すき家。この問題でゼンショーは“ブラック企業だ!”と非難を受け、第三者委員会を設置。その報告書ではワンオペの問題点が厳しく指摘された。しかし、今年1月、過酷な「ワンオペ」がきっかけとなり、死者が出てしまったのだ。 亡くなったのは、名古屋市郊外の店舗に勤務していた50代の女性従業員・中井さん(仮名)。1月17日に帰らぬ人となった。 「週刊新潮」の取材を受けた同社の広報は事実を認め、 〈勤務中にお亡くなりになった中井さん、そしてご家族のみなさまには心よりお悔やみ申し上げます〉と述べた』、酷い話だ。
・『3時間も放置 同社によれば、亡くなった17日の前日の22時に出勤し、2人体制で勤務。7時間働いた後、翌17日5時に同僚が帰り、そこから続けて朝の9時までの予定で、シフト通りの「ワンオペ」勤務に入ったという。しかし、それから30分も経たない5時26分に、厨房内で倒れた。その後、朝食の時間帯には客も入店したというが、店員の姿が見えないので不審に思ったのかすぐに退店。結局、彼女は3時間も放置され、8時44分、9時からのシフト交代で訪れた従業員によってようやく発見された。 その後、病院に運ばれたものの、死亡が確認された。死因は心筋梗塞だったという。 もし5時以降も店に複数の従業員がいれば、中井さんの命が救われていた可能性もあった。すき家の“ブラック”な労働環境が改善されなかったために起きた悲劇といえるだろう。6月2日発売の「週刊新潮」では、件の店舗に勤務している従業員の証言と併せ、「すき家」の労働環境について詳しく報じる。 週刊新潮 2022年6月9日号掲載』、「シフト通りの「ワンオペ」勤務」、5時から9時までの4時間は「ワンオペ」が組み込まれていたとは、2014年の事故の教訓はまるで生かされてないことになる。これでは、「“ブラック企業だ!”」批判は収まらないだろう。
次に、8月13日付け文春オンラインが掲載した経済ジャーナリストの森岡 英樹氏による「「生ビール半額」品切れで批判殺到…スシロー社長の報酬は約2億1000万円 THIS WEEK「経済」」を紹介しよう。
・『回転寿司チェーン「スシロー」を運営する「あきんどスシロー」(大阪府吹田市)。7月13日から実施中の「生ビール半額キャンペーン」について、一部店舗で品切れ状態になっていることが発覚し、来店客から批判が殺到している。 「そもそもスシローは、ウニやカニの激安キャンペーンに関して、6月9日に消費者庁から景品表示法違反(おとり広告)に基づく措置命令を受けたばかりでした。親会社FOOD&LIFE COMPANIESの水留浩一社長(54)は、7月から3カ月間、基本月額報酬の三割を自主返納すると発表。今回の生ビール半額問題はその矢先のことでした」(メガバンク幹部)』、管理の基本がおろそかになっているようだ。
・『企業再生を得意とする“プロ経営者” 役員報酬は約2億1000万円 トップの水留氏とはどんな人物なのか。東京大学理学部を卒業後、1991年に電通入社。5年間の営業経験などを経て、独コンサル会社の日本法人代表に就任する。2010年にはJALの管財人代理として、更生計画の策定・実行に携わった。 「企業再生を得意とする“プロ経営者”です。スシローや京樽を傘下に置くFOOD社の社長に招かれたのは、15年。それまでFOOD社は株主の対立などから経営体制が盤石ではなく、09年に一旦、上場廃止になっていました。それが水留氏の社長就任後、2年で再上場を果たした。時価総額もピーク時で、約5倍に膨らんでいます」(同前) そうした実績ゆえに、手にする報酬も高額だ。昨年9月期の役員報酬は約2億1000万円。自宅は都内の高級マンションで価格は2億円前後と見られる。 「水留氏の持論は、雇用の維持をはじめ、現場のモチベーションを大事にすることが再生の近道というもの。しかし、それを実行できているかと言えば、疑問が残ります」(同前)』、“プロ経営者”としての「報酬」が「高額」なのは、「社長就任後、2年で再上場を果たした。時価総額もピーク時で、約5倍に膨らんでいます」、ことを反映したものなのだろう。しかし、足元の不手際で今後は削減される可能性がある。
・『キャンペーン中に広告の問題点が報告されたが、修正されず 実際、おとり広告に関する調査報告書では、社員らが声を上げにくい企業風土が厳しく批判されていた。 「現場の混乱を招いたと指摘されているのが、激安キャンペーンと並行する形で、急遽実施した『禁断の90円セール』です。報告書には〈「当社及びスシローの代表者の鶴の一声で90円セールの実施が決定した。」と述べるヒアリング対象者が複数存在〉と記されていました」(同前) それだけではない。 「キャンペーン中に広告の問題点が経営会議に報告されたにもかかわらず、軌道修正が図られることはありませんでした。報告書では〈役員が決定した方針には逆らえない〉〈上席者の決定した内容が絶対的〉とも指摘されています」(同前) 水留氏ら経営陣が握っているのは、寿司ではなく、強すぎる権限だった』、「キャンペーン中に広告の問題点が経営会議に報告されたにもかかわらず、軌道修正が図られることはありませんでした。報告書では〈役員が決定した方針には逆らえない〉〈上席者の決定した内容が絶対的〉とも指摘されています」、典型的な上意下達型組織だが、それが上手くいくためには「上意」が正しくなければならない。同社のように、「上意」が間違っていれば、弾力的に修正してゆく必要があろう。
第三に、8月16日付け東洋経済オンラインが掲載した 経済評論家・百年コンサルティング代表の鈴木 貴博氏による「いきなり!ステーキはなぜここまで凋落したのか 大勝から大敗へ、創業者の一瀬邦夫氏が社長辞任」を紹介しよう。
・『「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービスの一瀬邦夫社長CEOが業績不振の経営責任を明確にするという理由により、8月12日付で辞任しました。一瀬氏は取締役も退き、後任社長には長男で副社長の一瀬健作氏が就きました。 ペッパーフードサービスは1985年設立。2006年に株式を上場した頃は「ペッパーランチ」を主力業態としていましたが、一瀬氏の手により、いきなりステーキの第1号店を2013年に開業し、すぐに熱狂的なブームを巻き起こし、チェーン店経営史上最速と呼ばれるペースで全国に広がりました』、一時はニューヨークにも「いきなり!ステーキ」を出店し、意気軒高だったが、2019年2月の脇田勝利のブログによれば、一部をペッパーランチに業態変更、他は閉店となる。日本流のステーキ店の押し付けは通用しなかったようだ。
https://marketing.yoka-yoka.jp/e2063139.html
・『業績急拡大も急速な新規出店がアダに 2000年代には70億円台がピークだった売上高は倍々ゲームで600億円規模まで急拡大。ところが新規出店ペースが速すぎて店舗同士が顧客を取り合い、開業5年後の2018年に既存店での売り上げ減少が始まります。(外部配信先ではグラフなどの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) 翌2019年12月期は売上高が675億円まで増えたのに赤字へと転落し、不採算店の閉鎖が増加します。2020年には財務状況の改善のため1994年から運営を続けてきた業態のペッパーランチを売却せざるをえない事態になります。時を同じくして日本の外食産業をコロナ禍が襲い、直近の売上高は200億円を切り、赤字がまだ続いています。状況が改善しないまま一瀬邦夫社長が経営責任をとることになったというのが冒頭のニュースです。 まさにジェットコースター経営と呼ぶべきいきなりステーキの栄華と転落の軌跡について、何がここまでのブームを巻き起こし、なぜ急速な衰退へと向かったのでしょうか。 まずはいきなりステーキの栄華の歴史を振り返ってみましょう。 「本物のステーキを低価格で提供する」 すでにペッパーランチで成功していた一瀬邦夫氏が2013年当時あたためていた新事業の構想でした。その構想を後押ししたのが「俺のフレンチ」で一世を風靡した故坂本孝氏でした。 坂本氏のアドバイスと「僕はステーキに進出するつもりはないからあなたがやったらいい」というお墨付きで一瀬邦夫氏が新たに起業したのが「いきなりステーキ」の銀座1号店でした。 そのビジネスモデルは、 1. 高品質のステーキ肉を原価率70%超というコスパの高い価格設定で提供する 2. 薄利でも利益を上げられるように立ち食いスタイルをとり顧客回転率を上げる 3. 肉マイレージでリピーターに手厚く還元することで固定客を取り込む というものでした。 それまで高級ステーキというものは特別な日に誰かと一緒に食べるものでした。ところがいきなりステーキの登場はその「高級ステーキを」「日常的に」「おひとりさまが」食べるという新需要を創造しました。 一瀬氏が狙った低価格戦略も顧客に刺さります。当時の価格ではリブロースが1g=6円(当時の税別表記、以下同じ)、サーロインが1g=7円、ヒレが1g=9円という価格設定で、これはファミレスの中でも高価格高品質を売りにするロイヤルホストのアンガスビーフのサーロインステーキがグラム単価10円超だったのと比較しても非常に魅力的な価格設定でした。 2015年頃になるとブームが定着し、都内50店舗を超えたいきなりステーキではランチタイムに長蛇の行列ができるようになりました。そこからフランチャイズ方式で店舗数は全国に急拡大します。 ステーキ専門店の急拡大に必要な料理人の確保についても、たとえば調理経験者を再雇用し、ステーキを焼くというスキルにフォーカスして再教育するといった形で、当時、店舗運営の観点でもビジネスモデルに隙はないように見えました。 立ち食いという競合他社にない運営形態から顧客回転率は非常に高く、2018年には品川シーサイドフォレスト店が一日に1734食を提供して「レストランにて24時間で販売されたビーフステーキ最多食数」のギネスブック認定の世界記録を打ち立てます』、「いきなりステーキの登場はその「高級ステーキを」「日常的に」「おひとりさまが」食べるという新需要を創造しました」、その意味では画期的だった。
・『リピーターがブームを支える 当時、ブームを支えたのがリピーターです。この時期、いきなりステーキがヒットしたもうひとつの背景としてダイエットで一世を風靡したライザップが巻き起こしたロカボダイエットブームがありました。 ライザップに入会してダイエットに成功した人がわずか2カ月でメタボ体型から筋肉質のスリムな体型へと激変する秘密は綿密なパーソナルトレーニングプログラムに加えて、炭水化物を制限しおもに肉などのタンパク質を中心の食事をとるロカボダイエットの食事プログラムにありました。 ロカボダイエットはライザップに加入しない人の間でも知識が広まります。このやり方で取り戻した若者体型をキープするためには、肉食中心の生活を続ける必要があります。そのために付随的にヒット商品になったのがコンビニのサラダチキン(鶏むね肉)と「いきなりステーキ」だったというわけです。 そしていきなりステーキの場合、リピーターの確保施策として機能したのが肉マイレージ制度でした。累積で食べたステーキの量が3kgを超えるとゴールド会員、20kgを超えるとダイヤモンド会員、そして100kgを超えるとプラチナ会員と認定され、それぞれ特典を得ることができるようになります。) いきなりステーキの肉マイレージ会員は最盛期には1500万人規模を誇りました。国民の10人にひとりは会員になっていたわけですからいかにいきなりステーキの人気が高かったのかがわかります。 そのいきなりステーキですが、前述したように開業5年目の2018年に既存店の売り上げ減少が始まり、栄華の絶頂からのジェットコースターのような転落が始まります。いったい何が起きたのでしょうか? いきなりステーキの戦略に狂いが生じたのは一般的には過剰出店がきっかけだったと言われます。全国500店舗を超えたところで近隣のお店同士が顧客を取り合うようになり、チェーン全体で飽和状態に達したという説明です。同時期に競合も登場しはじめたのですが、確かに競合する店舗数という視点でみればいきなりステーキの各店舗から見て、もっとも競合したのは同じいきなりステーキの近隣店だったことは間違いないでしょう』、「いきなりステーキの肉マイレージ会員は最盛期には1500万人規模を誇りました。国民の10人にひとりは会員になっていたわけですからいかにいきなりステーキの人気が高かったのかがわかります」、「栄華の絶頂からのジェットコースターのような転落が始まります」、「いきなりステーキの戦略に狂いが生じたのは一般的には過剰出店がきっかけだった」、なるほど。
・『皮肉だった一瀬邦夫氏からお客へのメッセージ この時期、一瀬邦夫氏が自ら書いた手紙がいきなりステーキの店頭に掲示されたことがニュースで話題になりました。いきなりステーキを愛する顧客に向けたメッセージだったのですが、要するに近所のいきなりステーキにもっと頻繁に足を運んでくれないと、このままではそのお店が閉店してしまうかもしれないという内容の手紙でした。 お店の苦境をファンに支えてほしいという純粋な気持ちからだったと思うのですが、この手紙が、いきなりステーキブームが転換点に来ていることを世の中に知らしめたのはある意味皮肉だったかもしれません。ただ出店過剰が原因であればこの段階で店舗数を大幅に見直し、不採算店を整理したり店舗密度の高いエリアで姉妹店のペッパーランチへと業態転換したりすれば状況は違ったかもしれません。しかしここで経営はいくつか戦略ミスをしたと思われます。 いきなりステーキは業績悪化後の2021年に大幅な値上げを実施して客離れを起こしましたが、実はそれ以前にも常連客の「肉質が変わってきた」「店舗によって肉質のばらつきがある」という証言が耳に入ってきていました。開業当時に「原価率70%超」と言っていた数字も、2020年頃には一瀬氏の口から「いきなりステーキの原価率は50%くらい」という違う数字が語られることもありました。 創業時には本物のステーキ肉しか使わないことが売りだったのですが、限定メニューとしてインジェクション加工肉(霜降り加工肉)を提供することも行われました。このあたりの味の変化に気づいた人が少なくなかったのはリピーター層が多かったからかもしれません。そして実はこのリピーター戦略の誤算が、出店過剰以上にいきなりステーキの傷口を広げたという見方があります。 2018年の既存店売り上げ減少、2019年の赤字転落という逆風の中、ペッパーフードサービスはいきなりステーキ事業の立て直しのためにさまざまな手を打つのですが、その中でも転落を決定づけたのではないかと言われるのが「肉マイレージ制度」の改悪です』、「限定メニューとしてインジェクション加工肉(霜降り加工肉)を提供することも行われました。このあたりの味の変化に気づいた人が少なくなかったのはリピーター層が多かったからかもしれません。そして実はこのリピーター戦略の誤算が、出店過剰以上にいきなりステーキの傷口を広げたという見方があります」、「転落を決定づけたのではないかと言われるのが「肉マイレージ制度」の改悪です」、なるほど。
・『累積グラム数によるランクアップ制度を廃止 2020年12月にいきなりステーキは肉マイレージについてそれまでの累積グラム数によるランクアップ制度を廃止して、半年間の来店回数に応じてランクが決まる新制度へと変更しました。 これによってそれまで上級会員だった層からふたつの不満の声が起きます。ひとつはそれまでは一度ハードルをクリアしたらずっとランクアップされた状態がキープされていたものが、新制度ではランク降格が起きるようになるという不満です。そしてもうひとつ、地味に反対の声が強かったのが累積グラム数制度がなくなることで「チャレンジ感がなくなる」という不満でした。 要するに自分のいきなりステーキ愛を示す累積グラム数という目標がなくなることで、リピーター層のモチベーションが大きく下がってしまったのです。後者の不満を救済するため改悪後わずか半年でプラチナとダイヤモンドについて累積グラム制度を復活させる再改定に踏み切らざるをえなくなりました。 さてこの肉マイレージ制度の改悪ですが、実はその問題点は開業当時に遡ります。業績が悪化して大きく問題となったのは、要するに制度設計当初に設計ミスがあったのです。それは比較的到達しやすいゴールド会員の特典がお得すぎたことにありました。 当初からの肉マイレージ制度では累積グラム数が3kgに達すると誰でもゴールド会員になり、生涯ゴールド会員資格を得ることができました。いきなりステーキはリブロース、サーロインともにステーキの販売量は300gからなので、ほとんどの顧客は10回通えばゴールド会員になります。) ペッパーフードサービスの2020年の社内報に1500万人超の肉マイレージ会員の内訳が記されているのですが、その時点でゴールド会員は全体の6.6%にあたる約100万人、プラチナ会員が同0.6%の約9万人で、最高峰のダイヤモンドは2000人程度という比率になっています。 ここから逆算すると要するにいきなりステーキの売り上げ構造は、顧客全体の7.2%の人数に相当するゴールド、プラチナ、ダイヤモンド会員が推定売り上げの5割以上を占めているというリピーター主体の売り上げ構造であることが推計されます。 中でも売り上げのボリュームゾーンが全体の3分の1の売り上げを占めるゴールド会員なのですが、大きな問題としてゴールド会員になるとドリンク1杯が無料になるという特典がもたらした制度の欠陥がありました。 飲食店の収益構造を考えてみると、多くのお店では原価率の高い食事を補うために原価率の低いドリンク類で元を取るものです。ところがいきなりステーキの肉マイレージでは売り上げの半数を稼ぐリピーター会員が特典で無料ドリンクを頼んでしまうのです。設計当初から上級会員であるプラチナとダイヤモンドだけをドリンク無料にしておけばよかったのですが、ゴールド特典にドリンク無料を設定したことで店舗としての収益構造が悪くなってしまったという理屈です。 2020年の肉マイレージ制度改悪の狙いは、この設計ミスのリカバーにあったと推測されますが、結果としては売り上げをささえてきたリピーターからの反発を招いたことになります。 いきなりステーキの転落要因としてはもうひとつ、従業員の疲弊も取り沙汰されています。転落期にSNS等でさまざまな内部事情が外に漏れていくのですが、これもビジネスが順調なうちは成長の痛みとして吸収されることが、不調へ転じるとより大きな経営問題となる典型例でした』、「設計当初から上級会員であるプラチナとダイヤモンドだけをドリンク無料にしておけばよかったのですが、ゴールド特典にドリンク無料を設定したことで店舗としての収益構造が悪くなってしまった」、「2020年の肉マイレージ制度改悪の狙いは、この設計ミスのリカバーにあったと推測されますが、結果としては売り上げをささえてきたリピーターからの反発を招いたことになります」、「転落要因としてはもうひとつ、従業員の疲弊も取り沙汰」、「転落要因」がこんなにあるようでは、「転落」は必至だ。
・『企業の歯車が狂った典型だった 要するに企業の歯車が狂うというのはこういうことなのです。店舗あたりの売り上げが減少に転じ、なんとか収益をキープするために原価率が下げられ、リピーターへの還元が減らされ、それに敏感に反応するコアなリピーターが離れていく。そうして収益減少のトレンドが負のフィードバックを受ける中で従業員にも徐々に疲労がたまっていく。 今回経営者が代わることでこの負の連鎖を断ち切ることができるのかどうか。まだいきなりステーキというビジネスモデルにも復活のチャンスがあるはずです。というのはいきなりステーキが絶頂期に証明したことは「高級ステーキを日常的におひとりさまで食べる」というコンセプトに刺さる顧客層が国内に100万人も存在するということなのですから』、「今回経営者が代わる」とはいっても、後任が「副社長」だった長男ということであれば、それほど変わり映えしない可能性がある。ただ、今後の展開を注目したい。
タグ:外食産業(その4)(【独自】すき家「ワンオペ」で死者が 店内で倒れて3時間放置されていた女性従業員、「生ビール半額」品切れで批判殺到…スシロー社長の報酬は約2億1000万円 THIS WEEK「経済」、いきなり!ステーキはなぜここまで凋落したのか 大勝から大敗へ、創業者の一瀬邦夫氏が社長辞任) デイリー新潮「【独自】すき家「ワンオペ」で死者が 店内で倒れて3時間放置されていた女性従業員」 「シフト通りの「ワンオペ」勤務」、5時から9時までの4時間は「ワンオペ」が組み込まれていたとは、2014年の事故の教訓はまるで生かされてないことになる。これでは、「“ブラック企業だ!”」批判は収まらないだろう。 文春オンライン 森岡 英樹氏による「「生ビール半額」品切れで批判殺到…スシロー社長の報酬は約2億1000万円 THIS WEEK「経済」」 管理の基本がおろそかになっているようだ。 “プロ経営者”としての「報酬」が「高額」なのは、「社長就任後、2年で再上場を果たした。時価総額もピーク時で、約5倍に膨らんでいます」、ことを反映したものなのだろう。しかし、足元の不手際で今後は削減される可能性がある。 「キャンペーン中に広告の問題点が経営会議に報告されたにもかかわらず、軌道修正が図られることはありませんでした。報告書では〈役員が決定した方針には逆らえない〉〈上席者の決定した内容が絶対的〉とも指摘されています」、典型的な上意下達型組織だが、それが上手くいくためには「上意」が正しくなければならない。同社のように、「上意」が間違っていれば、弾力的に修正してゆく必要があろう。 東洋経済オンライン 鈴木 貴博氏による「いきなり!ステーキはなぜここまで凋落したのか 大勝から大敗へ、創業者の一瀬邦夫氏が社長辞任」 一時はニューヨークにも「いきなり!ステーキ」を出店し、意気軒高だったが、2019年2月の脇田勝利のブログによれば、一部をペッパーランチに業態変更、他は閉店となる。日本流のステーキ店の押し付けは通用しなかったようだ。 https://marketing.yoka-yoka.jp/e2063139.html 「いきなりステーキの登場はその「高級ステーキを」「日常的に」「おひとりさまが」食べるという新需要を創造しました」、その意味では画期的だった。 「いきなりステーキの肉マイレージ会員は最盛期には1500万人規模を誇りました。国民の10人にひとりは会員になっていたわけですからいかにいきなりステーキの人気が高かったのかがわかります」、「栄華の絶頂からのジェットコースターのような転落が始まります」、「いきなりステーキの戦略に狂いが生じたのは一般的には過剰出店がきっかけだった」、なるほど。 「限定メニューとしてインジェクション加工肉(霜降り加工肉)を提供することも行われました。このあたりの味の変化に気づいた人が少なくなかったのはリピーター層が多かったからかもしれません。そして実はこのリピーター戦略の誤算が、出店過剰以上にいきなりステーキの傷口を広げたという見方があります」、「転落を決定づけたのではないかと言われるのが「肉マイレージ制度」の改悪です」、なるほど。 「設計当初から上級会員であるプラチナとダイヤモンドだけをドリンク無料にしておけばよかったのですが、ゴールド特典にドリンク無料を設定したことで店舗としての収益構造が悪くなってしまった」、「2020年の肉マイレージ制度改悪の狙いは、この設計ミスのリカバーにあったと推測されますが、結果としては売り上げをささえてきたリピーターからの反発を招いたことになります」、「転落要因としてはもうひとつ、従業員の疲弊も取り沙汰」、「転落要因」がこんなにあるようでは、「転落」は必至だ。 「今回経営者が代わる」とはいっても、後任が「副社長」だった長男ということであれば、それほど変わり映えしない可能性がある。ただ、今後の展開を注目したい。
金融業界(その15)(地方銀行の合従連衡を妨げる"みずほ"の呪縛 フィデアHDと東北銀 経営統合破談の舞台裏、地銀の大株主に出現「村上系ファンド」の腹づもり 株価がまるで冴えない地銀に示した3つの選択肢、みずほとソフトバンク、「情報銀行」の2つの誤算 個人の信用をスコア化する野心はなぜ躓いたか) [金融]
金融業界については、5月25日に取上げた。今日は、(その15)(地方銀行の合従連衡を妨げる"みずほ"の呪縛 フィデアHDと東北銀 経営統合破談の舞台裏、地銀の大株主に出現「村上系ファンド」の腹づもり 株価がまるで冴えない地銀に示した3つの選択肢、みずほとソフトバンク、「情報銀行」の2つの誤算 個人の信用をスコア化する野心はなぜ躓いたか)である。
先ずは、6月6日付け東洋経済オンライン「地方銀行の合従連衡を妨げる"みずほ"の呪縛 フィデアHDと東北銀、経営統合破談の舞台裏」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/594421
・『本業がじり貧に陥り、年々体力を低下させる「構造不況」が定着している銀行業界。一部の地域銀行では経営統合に踏み切ったものの、多くの地銀は依然として業務提携という名の“不可侵条約”を周囲の銀行と結び、自分たちの営業エリアを守ることに終始している。 6月6日発売の『週刊東洋経済』6月11日号では「瀬戸際の銀行」を特集。金融のデジタル化によって、銀行に求められる役割や存在感が急速に低下する中で、今後のあるべき姿とは何なのか。模索を続ける銀行業界の実情に迫った』、興味深そうだ。
・『フィデアHDに君臨する「最高権力者」 「真摯に協議を進めたものの、互いの戦略を理解し、共有することができなかった」 2022年2月、東北銀行の村上尚登頭取は岩手県盛岡市で記者会見し、フィデアホールディングスとの経営統合の基本合意を解消すると硬い表情で発表した。 その半年余り前、村上氏は「本業利益を拡大させていくには、提携から一歩踏み込んで(フィデアと)合流する必要がある」とまで言い切っていた。にもかかわらず、いったいなぜ“婚約破談”に至ったのか。 その背景を探る中で見えてくるのは、“みずほ”の影だ。 そもそも、荘内銀行(山形県鶴岡市)と北都銀行(秋田市)を傘下に持つフィデアと東北銀は、2018年に包括業務提携を結んで、ATMの利用手数料を相互に無料化するなど、連携を深めてきた。 その一方で、東北地方では2021年5月、青森銀行とみちのく銀行が経営統合で基本合意したと発表し、地方銀行再編の大きなうねりが生まれていた。 その動きに触発されたかのように、2カ月後の21年7月に東北銀は拙速ながらも、フィデアとの経営統合交渉に踏み切ったわけだ。 東北銀の幹部によると、「銀行業に対する価値観がフィデアとはまったく違うので、(統合交渉は)当初から破談への不安が強かった」という。 実際にその予感は的中した。顧客情報などをフルに活用した広域での営業体制を志向するフィデアと、地元の中小企業に密着した金融サービスを貫く東北銀とでは、当初からなかなか話がかみ合わなかったのだ。それでも、東北銀の村上氏はフィデア側に「何とか歩み寄ろうと試行錯誤していた」(前出の幹部)という』、カルチャーの違いを無理に乗り越えようとせず、慎重になったのは正解なのかも知れない。
・『”上から目線”の取締役会議長 「理解できない」。2022年に入ると、村上氏はフィデアについて周囲にそう漏らすようになる。 その言葉はフィデアという会社に対してだけでなく、かつてみずほ銀行頭取を務め、現在はフィデアの社外取締役を務める西堀利(さとる)氏に対してのものでもあった。 フィデアの関係者によると、西堀氏は「村上氏に、銀行業のあり方などをかなり“上から目線”で説くようなことがあった。そうした姿勢を含めて、こういう人間がいる銀行とは組めないとなったのではないか」と話す。 とはいえ村上氏としては、口うるさい一人の社外取の発言に、いちいち神経質になっていたわけではないだろう。 フィデアにとって西堀氏は「取締役会議長であり、指名委員会の委員長も務め、旧富士銀行出身の田尾祐一社長の先輩でもある、まさに“最高権力者”」(フィデアの関係者)なのだ。 その最高権力者の考えや方針を理解できなければ、経営統合など当然ありえないわけだ。 その西堀氏は、6月の株主総会を経て社外取から非業務執行の社内取締役に移る見通しだ。まさか指名委員会の委員長として、自らの人事案の決議に参加してはいないだろうが、ガバナンス上はたして問題はないのか。 企業統治に詳しい川北英隆・京都大学名誉教授は、西堀氏が2015年からフィデアの社外取を務めていることから「社内取に移るのであれば、もっと早い段階が適切だった。自らの人事の議論に参加しなかったとしても、影響を及ぼしたとみるのが普通で、透明性のきわめて低い人事だ」としている』、「フィデアにとって西堀氏は「取締役会議長であり、指名委員会の委員長も務め、旧富士銀行出身の田尾祐一社長の先輩でもある、まさに“最高権力者”」、それが「社内取に移る」というのは、確かに「透明性のきわめて低い人事だ」。
・『トラウマの経営統合 みずほ銀出身者によって再編が進まないという事例は、ほかにもある。静岡銀行と名古屋銀行の経営統合を前提としない包括業務提携が、まさにそうだ。 名古屋銀を提携に駆り立てたのは、2021年12月に発表された愛知銀行と中京銀行の経営統合だ。両行が組めば、貸出残高で愛知県トップの座を「愛知+中京」連合に譲り渡すことになる。 両行の最終合意発表が翌月に迫っていた2022年4月27日、名古屋銀は地銀上位行である静岡銀との包括業務提携を発表。製造業が多い静岡と愛知において両行の企業支援の知見・ノウハウを共有し、環境規制など産業構造の変化に対応していく狙いだと説明した。 名古屋銀の藤原一朗頭取は、記者会見で「愛知銀と中京銀の経営統合を意識したのか」と問われると、「ありません」と一蹴し、それ以上言葉を続けなかった。 ただ、経営統合はしないという方針について質問されると、途端に「前職時代に経営統合を経験した。現場にいて大変だったという思いがある」と生々しい記憶を吐露したのだ。 藤原氏の「前職」は日本興業銀行で、「大変だった経営統合」とは、3つの母体銀行による内部抗争とシステム障害を繰り返してきた、みずほ銀のことである。 経営統合や合併が、経営陣や現場の行員にどれだけの苦しみをもたらすのか。藤原氏の20年越しの思いからは、それが垣間見えるようだった』、「名古屋銀の藤原一朗頭取」には、「みずほ」時代の「経営統合」の「苦しみ」の経験があり、それが「愛知銀と中京銀の経営統合」をしないという「方針」につながった可能性がある。やはり「地方銀行の合従連衡を妨げる"みずほ"の呪縛」であることは間違いないようだ。
次に、6月24日付け東洋経済オンライン「地銀の大株主に出現「村上系ファンド」の腹づもり 株価がまるで冴えない地銀に示した3つの選択肢」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/598886
・『地方銀行の経営者にとって決して無視できない動きだろう。 村上ファンド系の投資会社であるシティインデックスイレブンス(以下シティ)が、地銀に触手を伸ばしている。 5月24日に公表された、山梨中央銀行の株主総会招集通知。大株主の欄に、1.92%の株式を保有する第7位の大株主としてシティの社名が記載されている。5月30日に公表された滋賀銀行の招集通知にもシティが登場した。1.67%を保有する第9位の大株主だ。 これ以外にも東洋経済の調査で、シティはさらに3つの地銀の株式を保有していることがわかった』、物言う株主(アクティビスト・ファンド)がいよいよ「地銀に触手を伸ばしている」時代に入ったようだ。
・『財務体質は優良だが、株価水準は著しく低い 1つ目は長野県を地盤とする八十二銀行。シティは1.36%を保有する13位の大株主だ。2つ目は秋田銀行で、0.94%保有し同じく13位に位置する。最後は東京きらぼしフィナンシャルグループ(以下、きらぼし)。保有比率は1%で、こちらは12位だ。 東洋経済の調査によると2021年9月末時点で大株主にシティの名前がなかったことから、地銀への投資は最近になって開始したようだ。 シティが投資した地銀は、自己資本比率の高さが目立つ。全国地方銀行協会によれば、地銀平均の自己資本比率は国内基準行で9.92%、国際統一基準行で14.23%。きらぼしを除く4行は、平均値を超える財務基盤を誇っている。 株価も著しく安い。PBR(株価純資産倍率)は0.1~0.2倍台と、解散価値の目安である1倍を大きく割っている。割安に放置された株式を取得して余剰資本を生かした株主還元を要求し、株価を向上させる出口戦略をとりうるだろう。 シティの狙いは株価水準以外にもありそうだ。東洋経済の取材に対して、村上世彰氏はこう話す。「(機関投資家である)生命保険会社が、地銀の株式を売り始めた。安定株主を失えば、株式市場と向き合わざるをえなくなる」 地銀の大株主として名を連ねながらも、株式の売却を進めているのが日本生命保険だ。 2020年度末時点で八十二銀行株を1700万株保有していたが、2021年度末には1360万株に減少。同様に秋田銀行株も、保有株式数が1年間で62.5万株から43.7万株に減った。安定株主の存在感が低下すれば、シティのようなモノ言う株主の声が通りやすくなる』、「生命保険会社が、地銀の株式を売り始めた。安定株主を失えば、株式市場と向き合わざるをえなくなる」、上場地銀にとっては、悩みの種が増えたことになる。
・『なぜ、きらぼし銀行の株式を保有しているのか 一方で、5つの地銀の中で特異なのがきらぼしだ。自己資本比率は5行で唯一、地銀の平均値(9.92%)を割っており、株主還元を一層強化する余地は限られる。ある地銀役員は「再編を期待した投資だろう」と指摘する。 シティには再編をめぐる「成功体験」がある。昨年にSBIホールディングスがTOB(株式公開買い付け)を行った新生銀行だ。シティはTOBの進捗と並行して新生銀株を買い進め、12月には共同保有者と合わせた保有比率が9.16%にも達した。その後TOBの成立を受け、シティは全株式をSBIに売却した。 銀行業界初となる敵対的買収が成立したことについて、村上氏は「金融庁もマーケット中心主義へと舵を切った」と評価する。企業価値向上に資するなら、金融庁は再編を推奨すると見ている。 きらぼしの再編相手としては、横浜銀行と東日本銀行を傘下に持つコンコルディア・フィナンシャルグループが考えられる。折しも、昨年8月にはストラクチャードファイナンスなどの分野において、きらぼし銀行とコンコルディア傘下の横浜銀行が業務提携を発表した。 きらぼし銀と東日本銀は同じ東京都が地盤で、両者の再編観測は浮かんでは消えを繰り返している。仮に再編が成就すれば、シティにとっては新生銀行に次ぐ「二匹目のどじょう」となる。 シティによる株式保有で何が起こりうるのか。村上氏は地銀株の保有についてこう述べた。 「地銀には3つの選択肢がある。1つ目は合併や買収が起こりうること。2つ目は非上場化すること。3つ目は企業価値を上げること」 今回投資対象となったある地銀は「すでにシティと接触を図っている」と話す。目をつけられた以上、地銀は何らかの対応に動かざるをえないだろう。少なくとも「3つの選択肢」はいずれも難路だ。 全国地方銀行の2021年度決算を徹底分析したランキングはこちら。 ■地銀99行「衰弱度」総合ワーストランキング ■地方銀行、頭痛の種となっている「3大リスク」 ①有価証券評価損益ワーストランキング ②保証依存度ワーストランキング ③自己資本率ワーストランキング』、「今回投資対象となったある地銀は「すでにシティと接触を図っている」と話す。目をつけられた以上、地銀は何らかの対応に動かざるをえないだろう。少なくとも「3つの選択肢」はいずれも難路だ」、地道に業績を上げるのが王道だろう。
第三に、8月15日付け東洋経済オンライン「みずほとソフトバンク、「情報銀行」の2つの誤算 個人の信用をスコア化する野心はなぜ躓いたか」を紹介しよう。
・『みずほとソフトバンクの合弁会社が苦境に立たされている。国内初のフィンテックサービスが軌道に乗らない理由はどこにあるのか。 6月末、ある企業の決算公告が業界紙にひっそりと掲載された。2022年3月期決算では15億円の最終赤字を計上。バランスシートは負債199億円に対して純資産はわずか5億円と債務超過寸前だ。懐事情が苦しい企業の正体は、みずほ銀行とソフトバンクが設立した「J.Score」(Jスコア)だ。 2016年11月に設立されたJスコアは、フィンテックを活用した個人向け融資を手がける。AIを用いた独自の審査技術を武器に、金融機関の審査が通らない個人に対しても、低い貸し倒れリスクで融資を行うことが特徴だ。設立に先立つ記者会見ではみずほ・ソフトバンク両グループのトップが登壇し、旧来のリテール業務に風穴を開ける画期的なビジネスだと印象づけた。 だが、当初の期待とは裏腹に、Jスコアは6期連続で最終赤字を計上。累積赤字は2022年3月末時点で200億円を超えた。当初抱いた野望に対して2つの誤算が生じ、Jスコアはいまだ足踏みを続けている』、「Jスコアは、フィンテックを活用した個人向け融資」、として設立時には大いに注目された。
・『貸し出しの範囲を広げたい 「今までとはまったく違う、レンディングの世界を作りたい」。2016年9月、Jスコアの設立に先立ち行われた記者会見。みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長(当時)は、Jスコアの革新性をそう力説した。同じく登壇したソフトバンクグループの孫正義社長も「このジョイントベンチャー(合弁事業)には非常に期待している」と熱弁していた。 Jスコアの融資は個人向け・無担保・使い道自由。個人情報を基にAIが算出した「スコア」を基に、金利や借り入れ可能額が決まる。 銀行のフリーローンや消費者金融と異なるのは、旧来型の審査基準でははじかれてしまう顧客の発掘だ。収入や借り入れ状況といった信用情報のみならず、学歴や居住形態、資産背景、そして性格に至るまで多面的な属性をAIが分析。現時点での与信が低くとも、将来の成長が見込めれば融資を受けられる点をうたっていた。 2017年9月にサービスを開始し、半年後の2018年3月末時点でスコア取得者数は13万件。貸付極度額は35億円と、みずほ銀内部の計画対比で2倍の進捗をたたき出した。2019年3月末にはスコア取得者数は52万件、貸付極度額は193億円とさらに伸長。一見、事業は好調かに思われた。 ところが、Jスコア自身の業績は上向く気配を見せなかった。2019年3月期決算は47億円の最終赤字を計上。翌2020年3月末時点でのスコア取得者数・貸付極度額はそれぞれ120万件・335億円と躍進した一方、2020年3月期決算の最終赤字は63億円とさらに膨れ上がった。 背景にあるのが、積極的な広告宣伝だ。Jスコアはサービス開始当初からテレビやネット、公共交通機関などあらゆるメディアに広告を打ち、知名度向上と顧客の囲い込みに奔走した。結果、貸し出しによる利息収入を広告宣伝費が上回り、営業利益段階から恒常的な赤字に陥っていた。 痛手だったのは、広告費の回収フェーズに入った矢先にコロナ禍に見舞われたことだ。「借り入れ需要が減退してしまった」(同社広報)ことで、右肩上がりだったスコア取得者数や貸付極度額に急ブレーキがかかった。2022年3月期決算では赤字額が縮小しているが、これは広告費を絞ったため。肝心の売上高はむしろ減少している』、「スコア取得者数・貸付極度額はそれぞれ120万件・335億円と躍進」したが、「利息収入を広告宣伝費が上回り、営業利益段階から恒常的な赤字」、「痛手だったのは、広告費の回収フェーズに入った矢先にコロナ禍に見舞われたことだ。「借り入れ需要が減退してしまった」・・・ことで、右肩上がりだったスコア取得者数や貸付極度額に急ブレーキがかかった」、確かに不運だ。
・『進まぬ「情報銀行」構想 もう1つの誤算は、貸出利息に並ぶ収益柱である、利用者の個人情報を第三者に提供する「情報銀行」事業の停滞だ。 Jスコアは利用者の信用力を1000点満点で評価する。現時点での与信のほか、個人情報を任意で提供するほどスコアが上昇し、極度額の引き上げや金利優遇が受けられる。住居や家族構成をはじめ、語学力、保有資格、趣味、さらには性格診断に至るまで質問項目は100を超える。 利用者の同意を得たうえで、Jスコアは収集した情報をマーケティング材料として企業に提供し、対価を得る構想を練っていた。2019年12月に業界団体より「情報銀行」の認定を受け、2020年度にもデータ提供を開始する手筈だった。だが、認定を取得してから2年以上経った記事執筆時点でも、サービスは開始されていない。 遅れの一因とみられるのが、収集した個人情報の取り扱いルールが詰めきれていなかったことだ。総務省および経済産業省は2017年より、情報銀行のあり方を議論する検討会を断続的に開催。2018年6月に情報銀行の認定要件が策定された。だが、個人情報の運用方針や提供先の選定基準などは持ち越しとなった。 2021年11月に開かれた検討会には、Jスコアの担当者も参加。データ分析を通じて個人の趣味嗜好や信用力を予測し、分析結果を第三者に提供する際の留意点について議論が交わされた。 2022年6月に最新の指針が公表され、取り扱いの方針に一端の決着を見た形だ。総務省の担当者は「これまでは明確な指針がなく(個人情報の活用に)慎重だった情報銀行も、できるようになるのでは」と話す。 踊り場を迎えたままのJスコアを、親会社であるみずほ銀とソフトバンクは座視し続けるのか。 株主資本の変動から推測するに、Jスコアは過去4回、みずほ銀とソフトバンクから増資を受けている。創業当初の資本金および資本準備金計50億は3年も持たずに溶け、両社は2018年度に合わせて50億円の増資を引き受けた。 その後もJスコアは増資を重ね、2021年3月期には資本金と資本準備金の合計は200億円に膨らんだ。なお、Jスコアは資本欠損を解消するため、今年2月、資本金を99億円、資本準備金を100億円取り崩すと発表している。 度重なる追加出資に応じた理由は、Jスコアの財務改善だけではない。貸金業法は、貸金業者は純資産額を常時5000万円以上に保つことを定めている。赤字が続くJスコアが融資を続けるには、親会社は否応なく増資を引き受ける必要があった。 Jスコアの業績が短期的に黒字化する見込みは薄く、業務を続けるためにはみずほ銀とソフトバンクGは今後も追加出資を余儀なくされる可能性が高い。Jスコアの業績を反転させるべく、親会社の顧客網を活用したテコ入れ策を検討しているようだ』、「総務省および経済産業省は2017年より、情報銀行のあり方を議論する検討会」、「2022年6月に最新の指針が公表され、取り扱いの方針に一端の決着を見た形だ。総務省の担当者は「これまでは明確な指針がなく(個人情報の活用に)慎重だった情報銀行も、できるようになるのでは」と話す」、「指針」「公表」が遅れたのは大問題だ。ただ、それが決まる前に、それ抜きでとりあえず「Jスコア」を八足させたのも問題だった。
・『個人情報の利用に抵抗感 現状のJスコアは審査基準の違いこそあれ、同業の銀行やノンバンクと同じく無担保ローンの提供にとどまる。本丸である情報銀行が稼働しなければ、点数化した信用力は宝の持ち腐れだ。 ある金融機関関係者は「日本では情報銀行が普及する土壌が乏しい」と指摘する。中国ではアリババの「芝麻信用」が算出するスコアが社会インフラと化しているが、急速な普及の背景にあるのが、クレジットカードのような信用力の物差しが普及しておらず、個人情報活用に対して国民の抵抗感が薄かったことだ。 翻って、国内では2020年8月に「Yahoo!スコア」がサービスを終了した。同サービスは2019年6月に発表。ヤフーIDにひもづいた個人情報やネット通販の購買履歴、クレジットカードの決済動向などから利用者の信用力をスコア化し、外部企業に提供することを企図していた。だが、利用者からの反発を受け、約1年でサービスの終了を余儀なくされた。 今後Jスコアが軌道に乗るかどうかは、日本における情報銀行そのものの成否をも左右する』、「国内では2020年8月に「Yahoo!スコア」が」、「「利用者からの反発を受け、約1年でサービスの終了を余儀なくされた」、とは初めて知った。やはり「日本では情報銀行が普及する土壌が乏しい」のが確かなようだ。「Jスコア」が苦境をどう乗り切っていくかが注目される。
先ずは、6月6日付け東洋経済オンライン「地方銀行の合従連衡を妨げる"みずほ"の呪縛 フィデアHDと東北銀、経営統合破談の舞台裏」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/594421
・『本業がじり貧に陥り、年々体力を低下させる「構造不況」が定着している銀行業界。一部の地域銀行では経営統合に踏み切ったものの、多くの地銀は依然として業務提携という名の“不可侵条約”を周囲の銀行と結び、自分たちの営業エリアを守ることに終始している。 6月6日発売の『週刊東洋経済』6月11日号では「瀬戸際の銀行」を特集。金融のデジタル化によって、銀行に求められる役割や存在感が急速に低下する中で、今後のあるべき姿とは何なのか。模索を続ける銀行業界の実情に迫った』、興味深そうだ。
・『フィデアHDに君臨する「最高権力者」 「真摯に協議を進めたものの、互いの戦略を理解し、共有することができなかった」 2022年2月、東北銀行の村上尚登頭取は岩手県盛岡市で記者会見し、フィデアホールディングスとの経営統合の基本合意を解消すると硬い表情で発表した。 その半年余り前、村上氏は「本業利益を拡大させていくには、提携から一歩踏み込んで(フィデアと)合流する必要がある」とまで言い切っていた。にもかかわらず、いったいなぜ“婚約破談”に至ったのか。 その背景を探る中で見えてくるのは、“みずほ”の影だ。 そもそも、荘内銀行(山形県鶴岡市)と北都銀行(秋田市)を傘下に持つフィデアと東北銀は、2018年に包括業務提携を結んで、ATMの利用手数料を相互に無料化するなど、連携を深めてきた。 その一方で、東北地方では2021年5月、青森銀行とみちのく銀行が経営統合で基本合意したと発表し、地方銀行再編の大きなうねりが生まれていた。 その動きに触発されたかのように、2カ月後の21年7月に東北銀は拙速ながらも、フィデアとの経営統合交渉に踏み切ったわけだ。 東北銀の幹部によると、「銀行業に対する価値観がフィデアとはまったく違うので、(統合交渉は)当初から破談への不安が強かった」という。 実際にその予感は的中した。顧客情報などをフルに活用した広域での営業体制を志向するフィデアと、地元の中小企業に密着した金融サービスを貫く東北銀とでは、当初からなかなか話がかみ合わなかったのだ。それでも、東北銀の村上氏はフィデア側に「何とか歩み寄ろうと試行錯誤していた」(前出の幹部)という』、カルチャーの違いを無理に乗り越えようとせず、慎重になったのは正解なのかも知れない。
・『”上から目線”の取締役会議長 「理解できない」。2022年に入ると、村上氏はフィデアについて周囲にそう漏らすようになる。 その言葉はフィデアという会社に対してだけでなく、かつてみずほ銀行頭取を務め、現在はフィデアの社外取締役を務める西堀利(さとる)氏に対してのものでもあった。 フィデアの関係者によると、西堀氏は「村上氏に、銀行業のあり方などをかなり“上から目線”で説くようなことがあった。そうした姿勢を含めて、こういう人間がいる銀行とは組めないとなったのではないか」と話す。 とはいえ村上氏としては、口うるさい一人の社外取の発言に、いちいち神経質になっていたわけではないだろう。 フィデアにとって西堀氏は「取締役会議長であり、指名委員会の委員長も務め、旧富士銀行出身の田尾祐一社長の先輩でもある、まさに“最高権力者”」(フィデアの関係者)なのだ。 その最高権力者の考えや方針を理解できなければ、経営統合など当然ありえないわけだ。 その西堀氏は、6月の株主総会を経て社外取から非業務執行の社内取締役に移る見通しだ。まさか指名委員会の委員長として、自らの人事案の決議に参加してはいないだろうが、ガバナンス上はたして問題はないのか。 企業統治に詳しい川北英隆・京都大学名誉教授は、西堀氏が2015年からフィデアの社外取を務めていることから「社内取に移るのであれば、もっと早い段階が適切だった。自らの人事の議論に参加しなかったとしても、影響を及ぼしたとみるのが普通で、透明性のきわめて低い人事だ」としている』、「フィデアにとって西堀氏は「取締役会議長であり、指名委員会の委員長も務め、旧富士銀行出身の田尾祐一社長の先輩でもある、まさに“最高権力者”」、それが「社内取に移る」というのは、確かに「透明性のきわめて低い人事だ」。
・『トラウマの経営統合 みずほ銀出身者によって再編が進まないという事例は、ほかにもある。静岡銀行と名古屋銀行の経営統合を前提としない包括業務提携が、まさにそうだ。 名古屋銀を提携に駆り立てたのは、2021年12月に発表された愛知銀行と中京銀行の経営統合だ。両行が組めば、貸出残高で愛知県トップの座を「愛知+中京」連合に譲り渡すことになる。 両行の最終合意発表が翌月に迫っていた2022年4月27日、名古屋銀は地銀上位行である静岡銀との包括業務提携を発表。製造業が多い静岡と愛知において両行の企業支援の知見・ノウハウを共有し、環境規制など産業構造の変化に対応していく狙いだと説明した。 名古屋銀の藤原一朗頭取は、記者会見で「愛知銀と中京銀の経営統合を意識したのか」と問われると、「ありません」と一蹴し、それ以上言葉を続けなかった。 ただ、経営統合はしないという方針について質問されると、途端に「前職時代に経営統合を経験した。現場にいて大変だったという思いがある」と生々しい記憶を吐露したのだ。 藤原氏の「前職」は日本興業銀行で、「大変だった経営統合」とは、3つの母体銀行による内部抗争とシステム障害を繰り返してきた、みずほ銀のことである。 経営統合や合併が、経営陣や現場の行員にどれだけの苦しみをもたらすのか。藤原氏の20年越しの思いからは、それが垣間見えるようだった』、「名古屋銀の藤原一朗頭取」には、「みずほ」時代の「経営統合」の「苦しみ」の経験があり、それが「愛知銀と中京銀の経営統合」をしないという「方針」につながった可能性がある。やはり「地方銀行の合従連衡を妨げる"みずほ"の呪縛」であることは間違いないようだ。
次に、6月24日付け東洋経済オンライン「地銀の大株主に出現「村上系ファンド」の腹づもり 株価がまるで冴えない地銀に示した3つの選択肢」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/598886
・『地方銀行の経営者にとって決して無視できない動きだろう。 村上ファンド系の投資会社であるシティインデックスイレブンス(以下シティ)が、地銀に触手を伸ばしている。 5月24日に公表された、山梨中央銀行の株主総会招集通知。大株主の欄に、1.92%の株式を保有する第7位の大株主としてシティの社名が記載されている。5月30日に公表された滋賀銀行の招集通知にもシティが登場した。1.67%を保有する第9位の大株主だ。 これ以外にも東洋経済の調査で、シティはさらに3つの地銀の株式を保有していることがわかった』、物言う株主(アクティビスト・ファンド)がいよいよ「地銀に触手を伸ばしている」時代に入ったようだ。
・『財務体質は優良だが、株価水準は著しく低い 1つ目は長野県を地盤とする八十二銀行。シティは1.36%を保有する13位の大株主だ。2つ目は秋田銀行で、0.94%保有し同じく13位に位置する。最後は東京きらぼしフィナンシャルグループ(以下、きらぼし)。保有比率は1%で、こちらは12位だ。 東洋経済の調査によると2021年9月末時点で大株主にシティの名前がなかったことから、地銀への投資は最近になって開始したようだ。 シティが投資した地銀は、自己資本比率の高さが目立つ。全国地方銀行協会によれば、地銀平均の自己資本比率は国内基準行で9.92%、国際統一基準行で14.23%。きらぼしを除く4行は、平均値を超える財務基盤を誇っている。 株価も著しく安い。PBR(株価純資産倍率)は0.1~0.2倍台と、解散価値の目安である1倍を大きく割っている。割安に放置された株式を取得して余剰資本を生かした株主還元を要求し、株価を向上させる出口戦略をとりうるだろう。 シティの狙いは株価水準以外にもありそうだ。東洋経済の取材に対して、村上世彰氏はこう話す。「(機関投資家である)生命保険会社が、地銀の株式を売り始めた。安定株主を失えば、株式市場と向き合わざるをえなくなる」 地銀の大株主として名を連ねながらも、株式の売却を進めているのが日本生命保険だ。 2020年度末時点で八十二銀行株を1700万株保有していたが、2021年度末には1360万株に減少。同様に秋田銀行株も、保有株式数が1年間で62.5万株から43.7万株に減った。安定株主の存在感が低下すれば、シティのようなモノ言う株主の声が通りやすくなる』、「生命保険会社が、地銀の株式を売り始めた。安定株主を失えば、株式市場と向き合わざるをえなくなる」、上場地銀にとっては、悩みの種が増えたことになる。
・『なぜ、きらぼし銀行の株式を保有しているのか 一方で、5つの地銀の中で特異なのがきらぼしだ。自己資本比率は5行で唯一、地銀の平均値(9.92%)を割っており、株主還元を一層強化する余地は限られる。ある地銀役員は「再編を期待した投資だろう」と指摘する。 シティには再編をめぐる「成功体験」がある。昨年にSBIホールディングスがTOB(株式公開買い付け)を行った新生銀行だ。シティはTOBの進捗と並行して新生銀株を買い進め、12月には共同保有者と合わせた保有比率が9.16%にも達した。その後TOBの成立を受け、シティは全株式をSBIに売却した。 銀行業界初となる敵対的買収が成立したことについて、村上氏は「金融庁もマーケット中心主義へと舵を切った」と評価する。企業価値向上に資するなら、金融庁は再編を推奨すると見ている。 きらぼしの再編相手としては、横浜銀行と東日本銀行を傘下に持つコンコルディア・フィナンシャルグループが考えられる。折しも、昨年8月にはストラクチャードファイナンスなどの分野において、きらぼし銀行とコンコルディア傘下の横浜銀行が業務提携を発表した。 きらぼし銀と東日本銀は同じ東京都が地盤で、両者の再編観測は浮かんでは消えを繰り返している。仮に再編が成就すれば、シティにとっては新生銀行に次ぐ「二匹目のどじょう」となる。 シティによる株式保有で何が起こりうるのか。村上氏は地銀株の保有についてこう述べた。 「地銀には3つの選択肢がある。1つ目は合併や買収が起こりうること。2つ目は非上場化すること。3つ目は企業価値を上げること」 今回投資対象となったある地銀は「すでにシティと接触を図っている」と話す。目をつけられた以上、地銀は何らかの対応に動かざるをえないだろう。少なくとも「3つの選択肢」はいずれも難路だ。 全国地方銀行の2021年度決算を徹底分析したランキングはこちら。 ■地銀99行「衰弱度」総合ワーストランキング ■地方銀行、頭痛の種となっている「3大リスク」 ①有価証券評価損益ワーストランキング ②保証依存度ワーストランキング ③自己資本率ワーストランキング』、「今回投資対象となったある地銀は「すでにシティと接触を図っている」と話す。目をつけられた以上、地銀は何らかの対応に動かざるをえないだろう。少なくとも「3つの選択肢」はいずれも難路だ」、地道に業績を上げるのが王道だろう。
第三に、8月15日付け東洋経済オンライン「みずほとソフトバンク、「情報銀行」の2つの誤算 個人の信用をスコア化する野心はなぜ躓いたか」を紹介しよう。
・『みずほとソフトバンクの合弁会社が苦境に立たされている。国内初のフィンテックサービスが軌道に乗らない理由はどこにあるのか。 6月末、ある企業の決算公告が業界紙にひっそりと掲載された。2022年3月期決算では15億円の最終赤字を計上。バランスシートは負債199億円に対して純資産はわずか5億円と債務超過寸前だ。懐事情が苦しい企業の正体は、みずほ銀行とソフトバンクが設立した「J.Score」(Jスコア)だ。 2016年11月に設立されたJスコアは、フィンテックを活用した個人向け融資を手がける。AIを用いた独自の審査技術を武器に、金融機関の審査が通らない個人に対しても、低い貸し倒れリスクで融資を行うことが特徴だ。設立に先立つ記者会見ではみずほ・ソフトバンク両グループのトップが登壇し、旧来のリテール業務に風穴を開ける画期的なビジネスだと印象づけた。 だが、当初の期待とは裏腹に、Jスコアは6期連続で最終赤字を計上。累積赤字は2022年3月末時点で200億円を超えた。当初抱いた野望に対して2つの誤算が生じ、Jスコアはいまだ足踏みを続けている』、「Jスコアは、フィンテックを活用した個人向け融資」、として設立時には大いに注目された。
・『貸し出しの範囲を広げたい 「今までとはまったく違う、レンディングの世界を作りたい」。2016年9月、Jスコアの設立に先立ち行われた記者会見。みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長(当時)は、Jスコアの革新性をそう力説した。同じく登壇したソフトバンクグループの孫正義社長も「このジョイントベンチャー(合弁事業)には非常に期待している」と熱弁していた。 Jスコアの融資は個人向け・無担保・使い道自由。個人情報を基にAIが算出した「スコア」を基に、金利や借り入れ可能額が決まる。 銀行のフリーローンや消費者金融と異なるのは、旧来型の審査基準でははじかれてしまう顧客の発掘だ。収入や借り入れ状況といった信用情報のみならず、学歴や居住形態、資産背景、そして性格に至るまで多面的な属性をAIが分析。現時点での与信が低くとも、将来の成長が見込めれば融資を受けられる点をうたっていた。 2017年9月にサービスを開始し、半年後の2018年3月末時点でスコア取得者数は13万件。貸付極度額は35億円と、みずほ銀内部の計画対比で2倍の進捗をたたき出した。2019年3月末にはスコア取得者数は52万件、貸付極度額は193億円とさらに伸長。一見、事業は好調かに思われた。 ところが、Jスコア自身の業績は上向く気配を見せなかった。2019年3月期決算は47億円の最終赤字を計上。翌2020年3月末時点でのスコア取得者数・貸付極度額はそれぞれ120万件・335億円と躍進した一方、2020年3月期決算の最終赤字は63億円とさらに膨れ上がった。 背景にあるのが、積極的な広告宣伝だ。Jスコアはサービス開始当初からテレビやネット、公共交通機関などあらゆるメディアに広告を打ち、知名度向上と顧客の囲い込みに奔走した。結果、貸し出しによる利息収入を広告宣伝費が上回り、営業利益段階から恒常的な赤字に陥っていた。 痛手だったのは、広告費の回収フェーズに入った矢先にコロナ禍に見舞われたことだ。「借り入れ需要が減退してしまった」(同社広報)ことで、右肩上がりだったスコア取得者数や貸付極度額に急ブレーキがかかった。2022年3月期決算では赤字額が縮小しているが、これは広告費を絞ったため。肝心の売上高はむしろ減少している』、「スコア取得者数・貸付極度額はそれぞれ120万件・335億円と躍進」したが、「利息収入を広告宣伝費が上回り、営業利益段階から恒常的な赤字」、「痛手だったのは、広告費の回収フェーズに入った矢先にコロナ禍に見舞われたことだ。「借り入れ需要が減退してしまった」・・・ことで、右肩上がりだったスコア取得者数や貸付極度額に急ブレーキがかかった」、確かに不運だ。
・『進まぬ「情報銀行」構想 もう1つの誤算は、貸出利息に並ぶ収益柱である、利用者の個人情報を第三者に提供する「情報銀行」事業の停滞だ。 Jスコアは利用者の信用力を1000点満点で評価する。現時点での与信のほか、個人情報を任意で提供するほどスコアが上昇し、極度額の引き上げや金利優遇が受けられる。住居や家族構成をはじめ、語学力、保有資格、趣味、さらには性格診断に至るまで質問項目は100を超える。 利用者の同意を得たうえで、Jスコアは収集した情報をマーケティング材料として企業に提供し、対価を得る構想を練っていた。2019年12月に業界団体より「情報銀行」の認定を受け、2020年度にもデータ提供を開始する手筈だった。だが、認定を取得してから2年以上経った記事執筆時点でも、サービスは開始されていない。 遅れの一因とみられるのが、収集した個人情報の取り扱いルールが詰めきれていなかったことだ。総務省および経済産業省は2017年より、情報銀行のあり方を議論する検討会を断続的に開催。2018年6月に情報銀行の認定要件が策定された。だが、個人情報の運用方針や提供先の選定基準などは持ち越しとなった。 2021年11月に開かれた検討会には、Jスコアの担当者も参加。データ分析を通じて個人の趣味嗜好や信用力を予測し、分析結果を第三者に提供する際の留意点について議論が交わされた。 2022年6月に最新の指針が公表され、取り扱いの方針に一端の決着を見た形だ。総務省の担当者は「これまでは明確な指針がなく(個人情報の活用に)慎重だった情報銀行も、できるようになるのでは」と話す。 踊り場を迎えたままのJスコアを、親会社であるみずほ銀とソフトバンクは座視し続けるのか。 株主資本の変動から推測するに、Jスコアは過去4回、みずほ銀とソフトバンクから増資を受けている。創業当初の資本金および資本準備金計50億は3年も持たずに溶け、両社は2018年度に合わせて50億円の増資を引き受けた。 その後もJスコアは増資を重ね、2021年3月期には資本金と資本準備金の合計は200億円に膨らんだ。なお、Jスコアは資本欠損を解消するため、今年2月、資本金を99億円、資本準備金を100億円取り崩すと発表している。 度重なる追加出資に応じた理由は、Jスコアの財務改善だけではない。貸金業法は、貸金業者は純資産額を常時5000万円以上に保つことを定めている。赤字が続くJスコアが融資を続けるには、親会社は否応なく増資を引き受ける必要があった。 Jスコアの業績が短期的に黒字化する見込みは薄く、業務を続けるためにはみずほ銀とソフトバンクGは今後も追加出資を余儀なくされる可能性が高い。Jスコアの業績を反転させるべく、親会社の顧客網を活用したテコ入れ策を検討しているようだ』、「総務省および経済産業省は2017年より、情報銀行のあり方を議論する検討会」、「2022年6月に最新の指針が公表され、取り扱いの方針に一端の決着を見た形だ。総務省の担当者は「これまでは明確な指針がなく(個人情報の活用に)慎重だった情報銀行も、できるようになるのでは」と話す」、「指針」「公表」が遅れたのは大問題だ。ただ、それが決まる前に、それ抜きでとりあえず「Jスコア」を八足させたのも問題だった。
・『個人情報の利用に抵抗感 現状のJスコアは審査基準の違いこそあれ、同業の銀行やノンバンクと同じく無担保ローンの提供にとどまる。本丸である情報銀行が稼働しなければ、点数化した信用力は宝の持ち腐れだ。 ある金融機関関係者は「日本では情報銀行が普及する土壌が乏しい」と指摘する。中国ではアリババの「芝麻信用」が算出するスコアが社会インフラと化しているが、急速な普及の背景にあるのが、クレジットカードのような信用力の物差しが普及しておらず、個人情報活用に対して国民の抵抗感が薄かったことだ。 翻って、国内では2020年8月に「Yahoo!スコア」がサービスを終了した。同サービスは2019年6月に発表。ヤフーIDにひもづいた個人情報やネット通販の購買履歴、クレジットカードの決済動向などから利用者の信用力をスコア化し、外部企業に提供することを企図していた。だが、利用者からの反発を受け、約1年でサービスの終了を余儀なくされた。 今後Jスコアが軌道に乗るかどうかは、日本における情報銀行そのものの成否をも左右する』、「国内では2020年8月に「Yahoo!スコア」が」、「「利用者からの反発を受け、約1年でサービスの終了を余儀なくされた」、とは初めて知った。やはり「日本では情報銀行が普及する土壌が乏しい」のが確かなようだ。「Jスコア」が苦境をどう乗り切っていくかが注目される。
タグ:カルチャーの違いを無理に乗り越えようとせず、慎重になったのは正解なのかも知れない。 東洋経済オンライン「地方銀行の合従連衡を妨げる"みずほ"の呪縛 フィデアHDと東北銀、経営統合破談の舞台裏」 (その15)(地方銀行の合従連衡を妨げる"みずほ"の呪縛 フィデアHDと東北銀 経営統合破談の舞台裏、地銀の大株主に出現「村上系ファンド」の腹づもり 株価がまるで冴えない地銀に示した3つの選択肢、みずほとソフトバンク、「情報銀行」の2つの誤算 個人の信用をスコア化する野心はなぜ躓いたか) 金融業界 「フィデアにとって西堀氏は「取締役会議長であり、指名委員会の委員長も務め、旧富士銀行出身の田尾祐一社長の先輩でもある、まさに“最高権力者”」、それが「社内取に移る」というのは、確かに「透明性のきわめて低い人事だ」。 「名古屋銀の藤原一朗頭取」には、「みずほ」時代の「経営統合」の「苦しみ」の経験があり、それが「愛知銀と中京銀の経営統合」をしないという「方針」につながった可能性がある。やはり「地方銀行の合従連衡を妨げる"みずほ"の呪縛」であることは間違いないようだ。 東洋経済オンライン「地銀の大株主に出現「村上系ファンド」の腹づもり 株価がまるで冴えない地銀に示した3つの選択肢」 物言う株主(アクティビスト・ファンド)がいよいよ「地銀に触手を伸ばしている」時代に入ったようだ。 「生命保険会社が、地銀の株式を売り始めた。安定株主を失えば、株式市場と向き合わざるをえなくなる」、上場地銀にとっては、悩みの種が増えたことになる。 「今回投資対象となったある地銀は「すでにシティと接触を図っている」と話す。目をつけられた以上、地銀は何らかの対応に動かざるをえないだろう。少なくとも「3つの選択肢」はいずれも難路だ」、地道に業績を上げるのが王道だろう。 東洋経済オンライン「みずほとソフトバンク、「情報銀行」の2つの誤算 個人の信用をスコア化する野心はなぜ躓いたか」 「Jスコアは、フィンテックを活用した個人向け融資」、として設立時には大いに注目された。 「スコア取得者数・貸付極度額はそれぞれ120万件・335億円と躍進」したが、「利息収入を広告宣伝費が上回り、営業利益段階から恒常的な赤字」、「痛手だったのは、広告費の回収フェーズに入った矢先にコロナ禍に見舞われたことだ。「借り入れ需要が減退してしまった」・・・ことで、右肩上がりだったスコア取得者数や貸付極度額に急ブレーキがかかった」、確かに不運だ。 「総務省および経済産業省は2017年より、情報銀行のあり方を議論する検討会」、「2022年6月に最新の指針が公表され、取り扱いの方針に一端の決着を見た形だ。総務省の担当者は「これまでは明確な指針がなく(個人情報の活用に)慎重だった情報銀行も、できるようになるのでは」と話す」、「指針」「公表」が遅れたのは大問題だ。 「総務省および経済産業省は2017年より、情報銀行のあり方を議論する検討会」、「2022年6月に最新の指針が公表され、取り扱いの方針に一端の決着を見た形だ。総務省の担当者は「これまでは明確な指針がなく(個人情報の活用に)慎重だった情報銀行も、できるようになるのでは」と話す」、「指針」「公表」が遅れたのは大問題だ。ただ、それが決まる前に、それ抜きでとりあえず「Jスコア」を八足させたのも問題だった。 「国内では2020年8月に「Yahoo!スコア」が」、「「利用者からの反発を受け、約1年でサービスの終了を余儀なくされた」、とは初めて知った。やはり「日本では情報銀行が普及する土壌が乏しい」のが確かなようだ。「Jスコア」が苦境をどう乗り切っていくかが注目される。
保育園(待機児童)問題(その13)(保育を「規制緩和」したらロクな事にならない理由 待機児童の解決策は家庭への直接投資しかない、脱アナログ「保育園」が本気で取組み起きた大変化 温かみがあるから手書きが好きの声もあるが…、保活の常識に変化「保育園入りやすくなった」真相 「入れればどこでも」からゆとりを持てるように) [生活]
保育園(待機児童)問題については、昨年5月8日に取上げた。今日は、(その13)(保育を「規制緩和」したらロクな事にならない理由 待機児童の解決策は家庭への直接投資しかない、脱アナログ「保育園」が本気で取組み起きた大変化 温かみがあるから手書きが好きの声もあるが…、保活の常識に変化「保育園入りやすくなった」真相 「入れればどこでも」からゆとりを持てるように)である。
先ずは、昨年9月9日付け東洋経済オンラインが掲載した花園大学社会福祉学部教授の和田 一郎氏による「保育を「規制緩和」したらロクな事にならない理由 待機児童の解決策は家庭への直接投資しかない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/452199
・『福祉のように人と人とが関わる分野では、課題を「見える化」して多くのステークホルダーに理解していただくことが重要です。そのためには調査して集めたデータを解析することだけでなく、ネット上の公的公表情報や開示請求等で入手したデータを分析することも必要です。今回はその視点から、わが国における保育の重要性と規制緩和について述べたいと思います』、興味深そうだ。
・『なぜ「保育」が重要なのか 記事(子どもの虐待による「社会的コスト」は甚大だ)に書いたように、子ども時代の環境は長期的に社会に影響を及ぼします。子どもに教育や福祉、保健サービスを十分投資することは、他の分野よりも費用対効果が高く、日本以外の各国の政策決定者はそれに気づき実際に予算を増加させて成果を上げています。 さてわが国は子どもの政策を一元化する子ども庁の創設がされる可能性があります。現在、保育園には274万人の子どもが在園しており、0~2歳の子どもの40%が所属する重要な場所であり、子どもの育ちの環境として重要な場所といえます。 共働きの家庭、ひとり親の家庭にとって就労時に子どもを預かってくれる保育園は重要です。現代は核家族化も進みおじいちゃんおばあちゃんに気軽に預けることは難しい状況です。つまり就労を継続するには保育園は重要と考えられます。しかしながらそこで働く保育士の給与はとても低いです(参考記事:180万円はどこへ消えた?「保育士給与」の不可解)。なぜ重要な保育を担う保育士の給与が低いのでしょうか。 かつて保育園は子どもの育ちを保証する重要な場所としてその運営にさまざまな制限がありました。具体的には自治体が直営する公立の保育園、そして十分な環境を保証できる(つまり規制が厳しい)という認可された保育園は、設立や運営の基準も厳しい社会福祉法人のみ設置が可能でした。 しかしながら社会環境の変化で待機児童が増加すると、それら保育園だけでは保育の需要が足りない状況になりました。そこで、待機児童の解消のために規制緩和をしたわけです。例えば保育園は自治体からの委託費がほとんどを占める公的なものなので、その支出にも細かい規制(人件費の保障など)があったのですが、規制緩和により株式会社やNPOの参入が認められ、さらにこの委託費の弾力運用が認められてしまったことです。つまり人件費として行政から計算されたお金であっても、それに使わないで他に使ってもよいということです。行政の計算では委託費の8割程度が人件費に計算されているにもかかわらず、実質的にはそれが保育士に支給されていない現状です』、「規制緩和により株式会社やNPOの参入が認められ、さらにこの委託費の弾力運用が認められてしまった」、なるほど。
・『10%のお金はどこに行ったのか? 研究として耐えうるよう実データの分析を今回はいたしました。保育の委託費は地域によってかなり異なります。よってある同じ地域の社会福祉法人とNPO/株式会社の比較をしてみました。 【委託費総額における人件費率】・社会福祉法人/保育のみNPO:70% ・企業型NPO/株式会社:60% 【真の人件費率(保育現場職員の人件費率)】・社会福祉法人/保育のみNPO:60% ・企業型NPO/株式会社:50% 興味深いのは保育園のみに特化したNPOの人件費率平均は、社会福祉法人と遜色ない給与を出しているところが多いところです。一方、利益のためにさまざまな福祉などの領域に多角的に進出しているNPO(以下、企業型NPOとします)は、株式会社レベルの人件費率の低さでした。よって真の人件費率で考えると、企業型NPO/株式会社は社会福祉法人より人件費が10%以上低いことがわかります。国の保育基準は最低限の基準であり、理解ある現場の経営者はよりよい子どもの保育のために、認可保育園では1カ所当たり数人多く雇用している現状が明らかになっています。 しかしながら企業型NPO/株式会社は総額の人件費が低く、認可保育園と同様に人を増やせばさらに給与水準が下がることから、保育士を多く雇用することなどはしていない、もしくは超低賃金で雇用しています。保育の質の定義というのは難しいのですが、各国の基準を参考に子ども1人当たりの保育士数と保育士の労働環境を保育の質と今回は定義すると、やはり企業型NPO/株式会社保育園の質に課題があると考えられます。 そしてこの人件費の差である10%はどこに流れたのでしょうか?財務諸表などのデータを分析すると、企業型NPOはブランディングやマーケティングなどのNPOの価値を高めることや他の事業の補填に使われていること、また株式会社は保育事業以外の使用や配当等に使われていることが明らかになりました。本来は子どものよりよい保育、それに直結する保育士の給与として計算され支給されたお金が別の分野に使われてしまう。この10%の差額がまさに私たち福祉政策の研究者が敗北した証拠です。) 長年保育分野で活動する研究者の多くは認可保育園の保育士らと連携しながら児童虐待やDVの対応を行ってきました。児相が関わるレベルでない諸問題も保育園には改善する機能がありました。しかしながらその実践を社会に提言する研究者が少ないなか、「行政や社会福祉法人運営の認可保育園は無駄が多い、NPOや株式会社に運営させればさらなる効率化になり、待機児童の解消にもなる」という専門外の識者の主張に政治家は飛びつきました。 規制は悪となり、委託費の使い方や園庭の設置基準まで?規制緩和”になりました。園庭がない保育園、窓のない保育園、担任がおらず日々担当保育士が変わる……。 例えば園庭で子どもが体を動かすことや草木や虫を見て何かを感じることの重要性について主張した研究者に対して「エビデンスはない」と一蹴し、「窓や園庭がなくてもお散歩すれば光も浴びるし自然を感じられる」などとSNS上で反論をするアカウントも見受けられました。結果、交通事情も含め園児の散歩には危険性も少なからずあるにもかかわらず、園庭がなくても保育園が設置できるようになりました。これには、そのような環境に置かれる子どもへの配慮はなく、量を増やせという大人の視点しかありません』、「企業型NPO/株式会社は総額の人件費が低く、認可保育園と同様に人を増やせばさらに給与水準が下がることから、保育士を多く雇用することなどはしていない、もしくは超低賃金で雇用しています。保育の質の定義というのは難しいのですが、各国の基準を参考に子ども1人当たりの保育士数と保育士の労働環境を保育の質と今回は定義すると、やはり企業型NPO/株式会社保育園の質に課題があると考えられます。 そしてこの人件費の差である10%はどこに流れたのでしょうか?財務諸表などのデータを分析すると、企業型NPOはブランディングやマーケティングなどのNPOの価値を高めることや他の事業の補填に使われていること、また株式会社は保育事業以外の使用や配当等に使われていることが明らかになりました」、「本来は子どものよりよい保育、それに直結する保育士の給与として計算され支給されたお金が別の分野に使われてしまう。この10%の差額がまさに私たち福祉政策の研究者が敗北した証拠」、「10%はどこに流れたのでしょうか?財務諸表などのデータを分析すると、企業型NPOはブランディングやマーケティングなどのNPOの価値を高めることや他の事業の補填に使われていること、また株式会社は保育事業以外の使用や配当等に使われていることが明らかになりました」、なるほど。
・『良質な保育に重要なこととは? 保育の規制緩和には、早期教育や良質な保育は子どもにも効果がある、だから保育園も義務教育にすべきだなど海外のデータがよく使われます。しかし海外の保育士の待遇や一人当たりの受け持ち児童数などの比較はしません。良質な保育に重要なことをいっさい言及せず、逆に子どものために規制をしっかり守った人たちを抵抗勢力としてネット上などで攻撃します。 企業型NPOや株式会社の声が大きくなり、保育士の賃金が上がらず、ますます保育の質が悪くなってきています。しかしそれも「副業を推進している働きやすい職場」ということにすり替え、長時間勤務し疲弊した保育士に副業で生活費を稼がせるのです。 また、最近は研究者がそのような企業型NPOと結託しているような研究結果もみられます。NPOの保育園は既存保育園と質に差があるのかなどの研究で、遜色なかったというような結果です。しかしこれらの研究をよく見ると利益相反(研究者とNPO)がみられ、論文化もされていませんし、倫理審査通過したのかすら不明です。しかしこのような報告書がNPOを通じて政治家に直接届いてしまい、おかしな改革がされてしまうのです。 「子どもの良質の保育、安全のためにしっかりした規制を」と言うと、「待機児童を持つお母さんが働けなくなったらどうするんだ!」とネット上で攻撃を受けます。0~2歳の子どもに着目すると、EU各国は保育園利用率が日本より低く、10~30%程度しか通わせていません。ベビーシッター等の利用もあるのですがそれでも大して率は変わりません。しかし通わせない人についてはしっかりした保障があるのです。 それを東京都に例えると、認可外保育園の運営に少なく見積もった計算でも子ども1人当たり30万円/月がかかっています。規制緩和し認可外の保育園(企業型NPOや株式会社)を乱立させ、託児を保育と主張するなど保育の基準をあやふやにして質の低い保育で保育士も低賃金で働かせるのならば、前述の「お母さんはどうするんだ」への回答としては、「月々の賃金×67%(育休手当)+30万円」を毎月家庭に「直接投資」すればいいのです。筆者の調査では、2歳までは家で子どもをみたいという人が過半数以上いました。子育て広場など、気軽に行けて親が休める場所が必要なのは言わずもがなですが……。 必要なお金を家庭に渡し、キャリアが途切れない、不都合な扱いを受けない労働環境をしっかりと保障する法制度を作れば、保育利用者数は減るので、待機児童が解消するのです』、「最近は研究者がそのような企業型NPOと結託しているような研究結果もみられます。NPOの保育園は既存保育園と質に差があるのかなどの研究で、遜色なかったというような結果です。しかしこれらの研究をよく見ると利益相反(研究者とNPO)がみられ、論文化もされていませんし、倫理審査通過したのかすら不明です。しかしこのような報告書がNPOを通じて政治家に直接届いてしまい、おかしな改革がされてしまうのです」、「利益相反」の「研究」「報告書がNPOを通じて政治家に直接届いてしまい、おかしな改革がされてしまうのです」、酷い話だ。「必要なお金を家庭に渡し、キャリアが途切れない、不都合な扱いを受けない労働環境をしっかりと保障する法制度を作れば、保育利用者数は減るので、待機児童が解消するのです」、確かに本当に重要なことは、保育園の数を増やすことではなく、「「必要なお金を家庭に渡し、キャリアが途切れない、不都合な扱いを受けない労働環境をしっかりと保障する法制度を作る」ことのようだ。
・『規制緩和して崩壊したインフラは元に戻らない 首都圏では行政が考え支出している保育士の給与は加算(処遇改善加算など)を加えるとおおよそ年500万円を超え、特に東京都は560万円を超えます。しかし実際には380万円程度の支給という中抜きをされている現状です。もちろんしっかりしたNPOもあります。ある都内のNPOは保育士に500万円以上給与支給していると根拠を見せて説明してくれました。事務を効率化しその分保育士の待遇を上げ長期に働ける体制を整えることが結果的に子どものためになるとの信念です。 いつも決まった保育士が関わり、七夕や運動会などのイベントを大事にしているということです。保育士に副業させたり、不定期のスポット保育士など子どもを不安定にさせることはしないということです。NPO保育園はやりがい搾取のところが多いのは事実ですが、なにより子どものことを考えているNPO保育園があることもぜひわかってほしいといわれました。 しかしそういう園は経営が厳しく、ブランディング予算もないためステークホルダーの目に留まらず、良質な園は運営の危機になってきています。人件費率が高いためです。良質な園がなくなれば後は企業型NPO/株式会社の保育園しか残りません。 「悪貨は良貨を駆逐する」です。一度緩和して崩壊したインフラは元に戻りません。そもそも保育士は自治体の保育職職員として、保育園だけではなく、1歳半検診など保健センターの各検診、児童福祉部局で育児不安の相談業務など地域の顔として活動していたのです。それを規制緩和で非正規の保育士を増やしてしまったのです。 保育士は女性が多いのですが、「女性の社会進出」と言いながら、安い賃金でこき使う経営実態はいかがなものでしょうか』、「NPO保育園」のうち「良質な園は運営の危機になってきています」、「自治体の保育職職員」を「正規の保育士を増やす」ことから始めるほかなさそうだ。
次に、昨年12月19日付け東洋経済オンラインが掲載したフリーライターの笠井 ゆかり氏による「脱アナログ「保育園」が本気で取組み起きた大変化 温かみがあるから手書きが好きの声もあるが…」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/476762
・『小さな子どもがいる親にとって、朝は時間との闘いだ。とくに共働きで子どもを保育園に預ける場合、子どもと自分の準備をして、仕事に間に合う時間に家を出なければならない。子どもを「早く!」と急かしながら、自分の準備もままならず出勤する人も多いのではないだろうか。 一方、保育士の朝も、親と同様に忙しい。園児を迎えると同時に、欠席や遅刻の電話対応も行わなければならない。さらに日中も、連絡帳やクラス便りといった書類作成のほか、行事や監査の準備など、保育士は日々多くの業務を抱えながら園児の成長に寄り添っている。 そんななか、保育士が子どもと向き合う時間を増やすために、出欠連絡や連絡帳をアプリで管理するなどの機能を備える「保育ICTシステム」を導入する園が徐々に増えているという。保育ICTシステムの普及で、保育士の業務はどう変化しつつあるのだろうか』、「保育ICTシステム」とは保育士の負担が軽減されるのであれば、結構なことだ。
・『事務雑務の軽減を求める保育士がおよそ半数 「平成30(2018)年度東京都保育士実態調査」によると、およそ半数(49.0%)もの保育士が、職場の改善希望事項として「事務雑務の軽減」を挙げた。保育士の事務雑務とはどのようなもので、どれほど忙しいのだろうか。東京都や神奈川県の保育士数人から話を聞くことができた。 まず、朝は登園してくる園児のお迎えと、欠席や遅刻の電話対応を同時に行う。電話内容を担任に連絡しなければならないが、「電話や送迎が相次ぐと、伝え漏れのリスクもある」という。 午前の活動と給食の時間が終われば、午睡(昼寝)の時間だ。午睡時は、園児の就寝中の姿勢や呼吸状態の確認(午睡チェック)を行う。これは、乳幼児突然死症候群(SIDS)の発症や、うつ伏せ寝による窒息予防のために行われるもので、園児の体勢を記録し、うつ伏せになっている園児は仰向けに戻さなければならない。乳児クラスでは、5分に1回の確認が必要になってくる。 午睡時間に連絡帳記入などを進めたいが、午睡チェックと起きてしまった園児の対応で、ほかの業務まで手が回らないことがほとんどだ。 連絡帳は、保育士と保護者の交換日記のようなもの。保護者が子どもの食事内容や体調などを記入して園に持参し、保育士も園児の食事内容や1日の様子を降園時間までに全員分記入して返却する。ほかにもクラス便りや月案(指導案)、日誌の作成、出欠人数や登降園時間の集計、そして行事の準備も行わなければならない。) 多くの業務を抱えたまま、子どもたちと午後の活動を行えば、もう降園時間だ。 都内に住む保育士は、「お便りを紙配布する場合、原本を作って印刷し、全員分折りたたんで連絡帳に挟む、という一連の作業だけで相当な時間がかかります。勤務時間内に終わらなかった業務は、持ち帰って自宅で作業することもあります」と話す。 連絡帳やクラス便りを手書きしている保育士のなかには、「大変だけど、温かみがあるから手書きのほうが好き」という人もいる。筆者の周りの保護者も、「手書きで書いてもらった連絡帳を読むと嬉しい」と話してくれた。 連絡帳を手書きでやり取りするのもさまざまな利点がある。しかし、保育士が多くの業務を抱えるなか、園児の成長と向き合うこと以外の業務や時間については、もっと選択肢があってもよいのではないだろうか』、「保育士が多くの業務を抱えるなか、園児の成長と向き合うこと以外の業務や時間については、もっと選択肢があってもよいのではないだろうか」、その通りだ。
・『全園に保育ICTを導入した園の変化 多忙な保育士たちの事務雑務を改善するため、出欠連絡や連絡帳の機能を備えた保育ICTシステムを導入した保育園がある。あしたばマインドが運営する、明日葉保育園だ。 同園では、今年度より全20園で「CoDMON(コドモン)」という保育ICTシステムを導入した。CoDMONは、登降園時間の管理機能をはじめ、活動記録や指導案の作成機能を備えた保育ICTシステムで、アプリ上で出欠連絡や連絡帳のやりとりが可能だ。 コドモンの小池義則社長によると、「現在、全国にある保育所などはおよそ4万園で、そのうち何らかの保育ICTシステムを導入しているのは35%(1万4000園)程度。『CoDMON』を導入している施設は、11月時点で9000超」だと言う。 システムを導入して、保育士の業務はどう変わったのだろうか。明日葉保育園元住吉園の宇佐美亜紀園長に聞いた。 「当園では1クラスに1台iPadを導入し、午睡などのすき間時間を有効活用して事務作業を進められるようになりました。従来の午睡チェックでは、園児の就寝中の姿勢を手書きしていましたが、アプリなら体の向きをワンタッチで選択するだけで記録できます。手早く記録できるので、園児の様子を見ながらほかの事務作業も進められるうえ、起きた子の対応もすぐにできるようになりました」) クラス便りについては、手書きの温かみを残したいという保育士もいるため、「システムを使うかどうかは保育士の裁量に任せている」(宇佐美園長)という。手書きの場合も、PDFに変換して保護者に配信するため、印刷や紙を折りたたむ作業がなくなり、ペーパーレス化にも繋がった。 「手をかけるべき業務とシステムを使うべき業務、双方のバランスを見て使い分けることが大切だと感じています。すべてをシステムに任せるのではなく、例えば新人保育士の書類作成についてはシステム内の定型文ではなく、まずは自分の言葉で表現してみるよう指導することもあります」(宇佐美園長)』、「何らかの保育ICTシステムを導入しているのは35%(1万4000園)程度。『CoDMON』を導入している施設は、11月時点で9000超」、かなり普及率は高いようだ。
・『活動内容が一目でわかる機能も 保育士、保護者ともに好評なのが、園児の写真をコメント付きで保護者に配信できる「保育ドキュメンテーション」という機能だ。多忙な保護者でも、スマホで簡単に子どもの成長や保育園での様子を見ることができる。 「保育ドキュメンテーションは、園児がどの活動でどんな様子だったかを一目で振り返ることができるので、保育士も保育の振り返りや月案の作成に活かしています」(宇佐美園長) 導入から半年以上経ち、園長はじめ保育士もシステムを使いこなせている様子だったが、スムーズに導入できたのだろうか。あしたばマインド保育園事業部運営課の寺澤加代子マネージャーが振り返った。 「最初は操作面で不安の声も挙がりましたが、『今はスマホやタブレットで買い物をする時代だから、使いこなせるはず』と職員に伝えて、システム導入の土壌作りをしました。導入してから時間を有効活用できるようになり、保育士が園児と向き合える時間が増えたと感じています」) コドモンの小池社長によると、保護者からも「アプリなら通勤中に連絡帳入力ができる」と好評のようだ。 また、「今まで降園時に連絡帳を返すには、午睡時間に記入を終えなければならず、午睡後の活動について記録するのが難しかった。ですが、アプリなら園児の降園後でも、その日のうちに入力できればいいので、午後の活動内容も連絡帳に残せるようになりました」(小池氏)と、CoDMONを使うメリットについて話した。 コロナ禍により導入への追い風も吹いた。CoDMONは「11月時点で9000超の施設が導入、この1年間で3000施設ほど増加しました」(小池氏)。休園になっても保護者とコミュニケーションを図れる体制や、保育士が出勤できなくても事務作業ができる体制を作っておきたいというニーズがあったという』、「保育士、保護者ともに好評なのが、園児の写真をコメント付きで保護者に配信できる「保育ドキュメンテーション」という機能」、確かに便利そうだ。「この1年間で3000施設ほど増加しました」・・・休園になっても保護者とコミュニケーションを図れる体制や、保育士が出勤できなくても事務作業ができる体制を作っておきたいというニーズがあった」、確かに「コロナ禍により導入への追い風」だ。
・『行政も率先して保育士業務の見直しが必要 一方、明日葉園の宇佐美園長に保育ICTシステムの今後の課題について尋ねると、監査書類の作成に関わる課題が挙がった。 保育所指導監査は、児童福祉法に基づき、都道府県・政令指定都市・中核市が年1回以上の実地検査(企業主導型保育施設については、児童育成協会による年1回以上の立ち入り調査)を行うものだ。監査にあたっては、出欠簿や保育日誌、保護者向けのお便り、連絡帳など大量の書類準備や、監査に対応する人員の確保も必要となる。 「例えば、午睡チェック時の室温や湿度などの情報は、自治体によっては監査で必要な場合があります。現行のCoDMONでは、午睡チェックの項目に室温・湿度の入力箇所がないので、監査時は、室温や湿度を記入した別の記録と一緒に提示する必要がある。必要に応じて入力項目をカスタマイズできれば便利だと感じています」(宇佐美園長) これに対し、小池氏は「監査項目は自治体ごとに異なり、しかも数年で変更されることも多い。全自治体の監査項目を年度ごとに調べて、園によってカスタマイズできるシステムを作るより、園にとって必要な情報を出しやすくすることがわれわれの役目だと考えています」と言う。 筆者も実際にいくつかの自治体の監査項目を調べてみたが、必須項目がわかりづらいうえ、自治体ごとに少しずつ監査項目が異なっていた。確かに、全自治体の監査項目を毎年調べ、変更されるたびにシステムに反映するのは現実的ではない。 今回の取材で、保育に関わる人たちが口を揃えて言ったのが、「人がやらなくてもいい業務の時間を、少しでも子どもと向き合う時間にしたい」ということだった。 保育ICTシステムの発展で、保育士の「人がやらなくてもよい業務」は軽減されつつある。しかしながら、煩雑な監査項目など、保育ICTシステムだけでは解決できない部分もあるのが現状だ。 北から南まで気候も環境も異なる日本で、地域ごとにチェックすべき項目が多少異なるのは致し方なく、また子どもの安全のためのチェック項目であることは十分理解できる。しかし、基本となる監査項目については、全国で統一できるのではないだろうか。そうすれば監査に合ったシステムを作ることができ、保育士の書類作成など業務負担の軽減につながる。 そのためには行政が率先して、保育士の業務を見直していかなければならない。それが結果的に保育の質を高め、子どもたちの環境、そして未来をよりよくすることにつながるのではないだろうか』、「基本となる監査項目については、全国で統一できるのではないだろうか。そうすれば監査に合ったシステムを作ることができ、保育士の書類作成など業務負担の軽減につながる。 そのためには行政が率先して、保育士の業務を見直していかなければならない。それが結果的に保育の質を高め、子どもたちの環境、そして未来をよりよくすることにつながるのではないだろうか」、保育士の負担が軽減され、「保育の質を高め、子どもたちの環境、そして未来をよりよくすることにつながる」、ことを期待したい。
第三に、本年8月15日付け東洋経済オンラインが掲載した「保育園を考える親の会」アドバイザーの普光院 亜紀氏による「保活の常識に変化「保育園入りやすくなった」真相 「入れればどこでも」からゆとりを持てるように」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/610215
・『「保活」が最も厳しかった東京都で待機児童数300人――。 7月27日に東京都が発表した2022年4月1日現在の都内の待機児童数は300人で、昨年よりも669人減となりました。5年前には待機児童数8586人でしたので、急速に改善したことになります。 ここ2年ほどで認可保育園等(認可保育園、認定こども園、小規模保育、家庭的保育など。以下「認可保育園等」)に入りやすくなったことは確かです。 といっても、「待機児童数ゼロ」と発表している自治体でも、認可保育園等に入園申請した子ども全員が認可保育園等に入れているわけではありません。「入れなかった子ども」も、国の定義した条件に合致する場合は、自治体の集計時に待機児童数から除外してもよいことになっているからです。 例えば、認可に落ちた子どもが助成を受ける認可外を利用している場合、登園が可能とされる範囲内の認可・認可外(助成施設)を紹介されて辞退した場合、保護者が求職中であるがハローワークなどでの求職活動が行えていない場合などは待機児童にカウントされません。待機児童数のカウント方法については、こちらの記事(「日本死ね」から5年、待機児童問題は解決したのか)も参考にしてください』、「「保育園入りやすくなった」真相」、とは興味深そうだ。
・『申し込んだ児童の何%が入れているのか では、認可保育園等に申し込んだ児童の何%が本当に認可保育園等に入れているのでしょうか。 これを調べるためには、新規に入園申請をした児童数と、入園が決定した児童数を調べなければなりません(国や自治体が発表する申込者数・利用児童数は進級児を含んだもの)。 私が顧問を務める保護者グループ「保育園を考える親の会」では毎年、都市部100市区について、これらの数値を調査しています(「100都市保育力充実度チェック」)。認可保育園等への新規の入園申請者のうち、認可保育園等に入園できた児童の割合を求めると(入園決定率)、2021年4月1日現在の100市区の平均は80.8%でした。 2022年の数字はまだ調査中で、これを1〜2%上回ると予測されますが、いずれにしても認可の保育施設への新規入園希望者のうち2割近くが認可にれていないことになります。特に都市部の1歳児クラスについては、4月に希望する認可保育園等に入れなかったケースはまだ多いのではないかと考えられます。) 希望の園・クラスが満員で選考に落ちてしまうケースが残る一方で、利用希望者がクラスの定員に満たず、空きが出てしまっている園・クラスも発生しています。 新聞報道にもあったように、昨年度あたりから、認可の保育施設の特に0歳児クラスに空きが目立つようになってきました。コロナ禍の影響で、利用控えが発生しているという観測もあります。 これまで認可保育園等への入園は、4月1日入園が最も募集が多く入りやすいけれども4月でほぼ枠が埋まってしまい、5月以降の年度途中入園は厳しいと言われてきました。しかし今、そういった「保活」の常識も変化しつつあります』、「希望の園・クラスが満員で選考に落ちてしまうケースが残る一方で、利用希望者がクラスの定員に満たず、空きが出てしまっている園・クラスも発生」、なるほど。
・『実際の状況を確認する方法 実際の状況は、各自治体がホームページで保育施設の「募集人数」「空き状況」として公表している数字が参考になります。 ここでは、過去のデータも開示している世田谷区を例にとって数字を追ってみます。4月入園の結果が出た直後の5月1日と、3カ月後の8月1日で、3歳未満児の欠員(空き)を合計すると次のようになっていました。 ■年度前半の空き状況の変化(世田谷区、2022年度、区内287施設*の合計) (注)*認可保育園(254)、認定こども園(6)、小規模保育(22)、家庭的保育(4)、事業所内保育(1)(出所)世田谷区ホームページの公表数値から筆者作成 5月1日の時点では、0歳児クラスに1名以上の空きがあった施設が全体の25.1%ありました。これらの施設では0歳児の4月1日入園は全入だったということです。1歳児クラスではこれが8.7%しかありませんでした。2歳児クラスは14.6%でした。 3カ月後の8月1日になると、0歳児のクラスに空きがある施設は大幅に減少しています。1歳児クラスはもともと少なかったので0歳児クラスほどには減っていません。定員数で見ると、この3カ月間で0歳児クラスは115人埋まっていて、1歳児クラスも19人埋まっています。2歳児クラスは動きが小さいことがわかります。 このような空き状況は地域によってかなり違っています。 8月1日時点で比べてみると、たとえば足立区では、全185施設(家庭的保育を除く)で1名以上の空きがある施設の割合は0歳児16.2%、1歳児16.8%、2歳児32.4%と各年齢とも世田谷区よりもだいぶ多くなっています。足立区では、このほかに家庭的保育(保育ママ)も116カ所開設されていて多くに空きが見られます。 同様の数字を杉並区の全222施設(家庭的保育を除く)について見ると0歳児11.3%、1歳児20.7%、2歳児36.0%と、0歳児よりも1歳児での空きのほうかかなり多くなっています。受け入れが1歳児からの園が比較的多いことも影響しているかもしれません。 杉並区では、このほかに区が設ける0〜2歳児対象の保育室(認可外)があって、今年度まで0〜2歳児を多く受け入れてきましたが、その多くが今年度〜来年度で閉室することになっています。 3区とも、区内にも地域差があって、4月直後から「ほぼ空きがない」地域もあれば、空きのある施設が固まっている地域もあります。 つまり、自分が住んでいる地域の状況が非常に重要になります。今年の5月1日時点での空き状況を調べると、園・クラスごとの4月入園の状況(全入だったか待機が出たか)がわかるのですが、過去のデータを開示していない自治体が多いようです。入園担当窓口に自分の地域に絞って問い合わせれば教えてもらえるかもしれません』、「区内にも地域差があって、4月直後から「ほぼ空きがない」地域もあれば、空きのある施設が固まっている地域もあります」、バラツキが大きいようだ。
・『「入りたい園」で希望を出す 「人気園を希望すると落ちる確率が高くなるのでは?」と心配する人もいますが、だんだんに入りやすくなっている現状をふまえ、「質重視」で園を選んで希望を出すのがよいと思います。 入園時期も、空きの埋まり具合によっては年度途中に予定するのもありだと思います。早生まれの子どもを低月齢で預けることに抵抗を感じている方も多いと思いますが、1カ月でも2カ月でも遅らせることができれば、ずいぶん違うでしょう。 ただし、欠員状況表は月が進むにつれ「0行進」が増えていきますので、タイミングが難しいかもしれません。定員変更などがないか、園や自治体にも確認することも必要になります。 これまで厳しい入園事情のもとで「入れればどこでも」と考えてしまう傾向がありましたが、もう少しゆとりをもって園選びができるようになってきています。 3歳未満児対象の小規模保育や家庭的保育を選ぶ場合も、途中転園あるいは卒園時に希望の保育園に移れるチャンスはこれまでよりも大きくなっているはずです。 できるだけ中身の人(施設長や保育者)を重視して、信頼できる施設を選んでもらいたいと思います。拙著『後悔しない保育園・こども園の選び方』を参考になります』、「これまで厳しい入園事情のもとで「入れればどこでも」と考えてしまう傾向がありましたが、もう少しゆとりをもって園選びができるようになってきています」、結構なことだ。
先ずは、昨年9月9日付け東洋経済オンラインが掲載した花園大学社会福祉学部教授の和田 一郎氏による「保育を「規制緩和」したらロクな事にならない理由 待機児童の解決策は家庭への直接投資しかない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/452199
・『福祉のように人と人とが関わる分野では、課題を「見える化」して多くのステークホルダーに理解していただくことが重要です。そのためには調査して集めたデータを解析することだけでなく、ネット上の公的公表情報や開示請求等で入手したデータを分析することも必要です。今回はその視点から、わが国における保育の重要性と規制緩和について述べたいと思います』、興味深そうだ。
・『なぜ「保育」が重要なのか 記事(子どもの虐待による「社会的コスト」は甚大だ)に書いたように、子ども時代の環境は長期的に社会に影響を及ぼします。子どもに教育や福祉、保健サービスを十分投資することは、他の分野よりも費用対効果が高く、日本以外の各国の政策決定者はそれに気づき実際に予算を増加させて成果を上げています。 さてわが国は子どもの政策を一元化する子ども庁の創設がされる可能性があります。現在、保育園には274万人の子どもが在園しており、0~2歳の子どもの40%が所属する重要な場所であり、子どもの育ちの環境として重要な場所といえます。 共働きの家庭、ひとり親の家庭にとって就労時に子どもを預かってくれる保育園は重要です。現代は核家族化も進みおじいちゃんおばあちゃんに気軽に預けることは難しい状況です。つまり就労を継続するには保育園は重要と考えられます。しかしながらそこで働く保育士の給与はとても低いです(参考記事:180万円はどこへ消えた?「保育士給与」の不可解)。なぜ重要な保育を担う保育士の給与が低いのでしょうか。 かつて保育園は子どもの育ちを保証する重要な場所としてその運営にさまざまな制限がありました。具体的には自治体が直営する公立の保育園、そして十分な環境を保証できる(つまり規制が厳しい)という認可された保育園は、設立や運営の基準も厳しい社会福祉法人のみ設置が可能でした。 しかしながら社会環境の変化で待機児童が増加すると、それら保育園だけでは保育の需要が足りない状況になりました。そこで、待機児童の解消のために規制緩和をしたわけです。例えば保育園は自治体からの委託費がほとんどを占める公的なものなので、その支出にも細かい規制(人件費の保障など)があったのですが、規制緩和により株式会社やNPOの参入が認められ、さらにこの委託費の弾力運用が認められてしまったことです。つまり人件費として行政から計算されたお金であっても、それに使わないで他に使ってもよいということです。行政の計算では委託費の8割程度が人件費に計算されているにもかかわらず、実質的にはそれが保育士に支給されていない現状です』、「規制緩和により株式会社やNPOの参入が認められ、さらにこの委託費の弾力運用が認められてしまった」、なるほど。
・『10%のお金はどこに行ったのか? 研究として耐えうるよう実データの分析を今回はいたしました。保育の委託費は地域によってかなり異なります。よってある同じ地域の社会福祉法人とNPO/株式会社の比較をしてみました。 【委託費総額における人件費率】・社会福祉法人/保育のみNPO:70% ・企業型NPO/株式会社:60% 【真の人件費率(保育現場職員の人件費率)】・社会福祉法人/保育のみNPO:60% ・企業型NPO/株式会社:50% 興味深いのは保育園のみに特化したNPOの人件費率平均は、社会福祉法人と遜色ない給与を出しているところが多いところです。一方、利益のためにさまざまな福祉などの領域に多角的に進出しているNPO(以下、企業型NPOとします)は、株式会社レベルの人件費率の低さでした。よって真の人件費率で考えると、企業型NPO/株式会社は社会福祉法人より人件費が10%以上低いことがわかります。国の保育基準は最低限の基準であり、理解ある現場の経営者はよりよい子どもの保育のために、認可保育園では1カ所当たり数人多く雇用している現状が明らかになっています。 しかしながら企業型NPO/株式会社は総額の人件費が低く、認可保育園と同様に人を増やせばさらに給与水準が下がることから、保育士を多く雇用することなどはしていない、もしくは超低賃金で雇用しています。保育の質の定義というのは難しいのですが、各国の基準を参考に子ども1人当たりの保育士数と保育士の労働環境を保育の質と今回は定義すると、やはり企業型NPO/株式会社保育園の質に課題があると考えられます。 そしてこの人件費の差である10%はどこに流れたのでしょうか?財務諸表などのデータを分析すると、企業型NPOはブランディングやマーケティングなどのNPOの価値を高めることや他の事業の補填に使われていること、また株式会社は保育事業以外の使用や配当等に使われていることが明らかになりました。本来は子どものよりよい保育、それに直結する保育士の給与として計算され支給されたお金が別の分野に使われてしまう。この10%の差額がまさに私たち福祉政策の研究者が敗北した証拠です。) 長年保育分野で活動する研究者の多くは認可保育園の保育士らと連携しながら児童虐待やDVの対応を行ってきました。児相が関わるレベルでない諸問題も保育園には改善する機能がありました。しかしながらその実践を社会に提言する研究者が少ないなか、「行政や社会福祉法人運営の認可保育園は無駄が多い、NPOや株式会社に運営させればさらなる効率化になり、待機児童の解消にもなる」という専門外の識者の主張に政治家は飛びつきました。 規制は悪となり、委託費の使い方や園庭の設置基準まで?規制緩和”になりました。園庭がない保育園、窓のない保育園、担任がおらず日々担当保育士が変わる……。 例えば園庭で子どもが体を動かすことや草木や虫を見て何かを感じることの重要性について主張した研究者に対して「エビデンスはない」と一蹴し、「窓や園庭がなくてもお散歩すれば光も浴びるし自然を感じられる」などとSNS上で反論をするアカウントも見受けられました。結果、交通事情も含め園児の散歩には危険性も少なからずあるにもかかわらず、園庭がなくても保育園が設置できるようになりました。これには、そのような環境に置かれる子どもへの配慮はなく、量を増やせという大人の視点しかありません』、「企業型NPO/株式会社は総額の人件費が低く、認可保育園と同様に人を増やせばさらに給与水準が下がることから、保育士を多く雇用することなどはしていない、もしくは超低賃金で雇用しています。保育の質の定義というのは難しいのですが、各国の基準を参考に子ども1人当たりの保育士数と保育士の労働環境を保育の質と今回は定義すると、やはり企業型NPO/株式会社保育園の質に課題があると考えられます。 そしてこの人件費の差である10%はどこに流れたのでしょうか?財務諸表などのデータを分析すると、企業型NPOはブランディングやマーケティングなどのNPOの価値を高めることや他の事業の補填に使われていること、また株式会社は保育事業以外の使用や配当等に使われていることが明らかになりました」、「本来は子どものよりよい保育、それに直結する保育士の給与として計算され支給されたお金が別の分野に使われてしまう。この10%の差額がまさに私たち福祉政策の研究者が敗北した証拠」、「10%はどこに流れたのでしょうか?財務諸表などのデータを分析すると、企業型NPOはブランディングやマーケティングなどのNPOの価値を高めることや他の事業の補填に使われていること、また株式会社は保育事業以外の使用や配当等に使われていることが明らかになりました」、なるほど。
・『良質な保育に重要なこととは? 保育の規制緩和には、早期教育や良質な保育は子どもにも効果がある、だから保育園も義務教育にすべきだなど海外のデータがよく使われます。しかし海外の保育士の待遇や一人当たりの受け持ち児童数などの比較はしません。良質な保育に重要なことをいっさい言及せず、逆に子どものために規制をしっかり守った人たちを抵抗勢力としてネット上などで攻撃します。 企業型NPOや株式会社の声が大きくなり、保育士の賃金が上がらず、ますます保育の質が悪くなってきています。しかしそれも「副業を推進している働きやすい職場」ということにすり替え、長時間勤務し疲弊した保育士に副業で生活費を稼がせるのです。 また、最近は研究者がそのような企業型NPOと結託しているような研究結果もみられます。NPOの保育園は既存保育園と質に差があるのかなどの研究で、遜色なかったというような結果です。しかしこれらの研究をよく見ると利益相反(研究者とNPO)がみられ、論文化もされていませんし、倫理審査通過したのかすら不明です。しかしこのような報告書がNPOを通じて政治家に直接届いてしまい、おかしな改革がされてしまうのです。 「子どもの良質の保育、安全のためにしっかりした規制を」と言うと、「待機児童を持つお母さんが働けなくなったらどうするんだ!」とネット上で攻撃を受けます。0~2歳の子どもに着目すると、EU各国は保育園利用率が日本より低く、10~30%程度しか通わせていません。ベビーシッター等の利用もあるのですがそれでも大して率は変わりません。しかし通わせない人についてはしっかりした保障があるのです。 それを東京都に例えると、認可外保育園の運営に少なく見積もった計算でも子ども1人当たり30万円/月がかかっています。規制緩和し認可外の保育園(企業型NPOや株式会社)を乱立させ、託児を保育と主張するなど保育の基準をあやふやにして質の低い保育で保育士も低賃金で働かせるのならば、前述の「お母さんはどうするんだ」への回答としては、「月々の賃金×67%(育休手当)+30万円」を毎月家庭に「直接投資」すればいいのです。筆者の調査では、2歳までは家で子どもをみたいという人が過半数以上いました。子育て広場など、気軽に行けて親が休める場所が必要なのは言わずもがなですが……。 必要なお金を家庭に渡し、キャリアが途切れない、不都合な扱いを受けない労働環境をしっかりと保障する法制度を作れば、保育利用者数は減るので、待機児童が解消するのです』、「最近は研究者がそのような企業型NPOと結託しているような研究結果もみられます。NPOの保育園は既存保育園と質に差があるのかなどの研究で、遜色なかったというような結果です。しかしこれらの研究をよく見ると利益相反(研究者とNPO)がみられ、論文化もされていませんし、倫理審査通過したのかすら不明です。しかしこのような報告書がNPOを通じて政治家に直接届いてしまい、おかしな改革がされてしまうのです」、「利益相反」の「研究」「報告書がNPOを通じて政治家に直接届いてしまい、おかしな改革がされてしまうのです」、酷い話だ。「必要なお金を家庭に渡し、キャリアが途切れない、不都合な扱いを受けない労働環境をしっかりと保障する法制度を作れば、保育利用者数は減るので、待機児童が解消するのです」、確かに本当に重要なことは、保育園の数を増やすことではなく、「「必要なお金を家庭に渡し、キャリアが途切れない、不都合な扱いを受けない労働環境をしっかりと保障する法制度を作る」ことのようだ。
・『規制緩和して崩壊したインフラは元に戻らない 首都圏では行政が考え支出している保育士の給与は加算(処遇改善加算など)を加えるとおおよそ年500万円を超え、特に東京都は560万円を超えます。しかし実際には380万円程度の支給という中抜きをされている現状です。もちろんしっかりしたNPOもあります。ある都内のNPOは保育士に500万円以上給与支給していると根拠を見せて説明してくれました。事務を効率化しその分保育士の待遇を上げ長期に働ける体制を整えることが結果的に子どものためになるとの信念です。 いつも決まった保育士が関わり、七夕や運動会などのイベントを大事にしているということです。保育士に副業させたり、不定期のスポット保育士など子どもを不安定にさせることはしないということです。NPO保育園はやりがい搾取のところが多いのは事実ですが、なにより子どものことを考えているNPO保育園があることもぜひわかってほしいといわれました。 しかしそういう園は経営が厳しく、ブランディング予算もないためステークホルダーの目に留まらず、良質な園は運営の危機になってきています。人件費率が高いためです。良質な園がなくなれば後は企業型NPO/株式会社の保育園しか残りません。 「悪貨は良貨を駆逐する」です。一度緩和して崩壊したインフラは元に戻りません。そもそも保育士は自治体の保育職職員として、保育園だけではなく、1歳半検診など保健センターの各検診、児童福祉部局で育児不安の相談業務など地域の顔として活動していたのです。それを規制緩和で非正規の保育士を増やしてしまったのです。 保育士は女性が多いのですが、「女性の社会進出」と言いながら、安い賃金でこき使う経営実態はいかがなものでしょうか』、「NPO保育園」のうち「良質な園は運営の危機になってきています」、「自治体の保育職職員」を「正規の保育士を増やす」ことから始めるほかなさそうだ。
次に、昨年12月19日付け東洋経済オンラインが掲載したフリーライターの笠井 ゆかり氏による「脱アナログ「保育園」が本気で取組み起きた大変化 温かみがあるから手書きが好きの声もあるが…」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/476762
・『小さな子どもがいる親にとって、朝は時間との闘いだ。とくに共働きで子どもを保育園に預ける場合、子どもと自分の準備をして、仕事に間に合う時間に家を出なければならない。子どもを「早く!」と急かしながら、自分の準備もままならず出勤する人も多いのではないだろうか。 一方、保育士の朝も、親と同様に忙しい。園児を迎えると同時に、欠席や遅刻の電話対応も行わなければならない。さらに日中も、連絡帳やクラス便りといった書類作成のほか、行事や監査の準備など、保育士は日々多くの業務を抱えながら園児の成長に寄り添っている。 そんななか、保育士が子どもと向き合う時間を増やすために、出欠連絡や連絡帳をアプリで管理するなどの機能を備える「保育ICTシステム」を導入する園が徐々に増えているという。保育ICTシステムの普及で、保育士の業務はどう変化しつつあるのだろうか』、「保育ICTシステム」とは保育士の負担が軽減されるのであれば、結構なことだ。
・『事務雑務の軽減を求める保育士がおよそ半数 「平成30(2018)年度東京都保育士実態調査」によると、およそ半数(49.0%)もの保育士が、職場の改善希望事項として「事務雑務の軽減」を挙げた。保育士の事務雑務とはどのようなもので、どれほど忙しいのだろうか。東京都や神奈川県の保育士数人から話を聞くことができた。 まず、朝は登園してくる園児のお迎えと、欠席や遅刻の電話対応を同時に行う。電話内容を担任に連絡しなければならないが、「電話や送迎が相次ぐと、伝え漏れのリスクもある」という。 午前の活動と給食の時間が終われば、午睡(昼寝)の時間だ。午睡時は、園児の就寝中の姿勢や呼吸状態の確認(午睡チェック)を行う。これは、乳幼児突然死症候群(SIDS)の発症や、うつ伏せ寝による窒息予防のために行われるもので、園児の体勢を記録し、うつ伏せになっている園児は仰向けに戻さなければならない。乳児クラスでは、5分に1回の確認が必要になってくる。 午睡時間に連絡帳記入などを進めたいが、午睡チェックと起きてしまった園児の対応で、ほかの業務まで手が回らないことがほとんどだ。 連絡帳は、保育士と保護者の交換日記のようなもの。保護者が子どもの食事内容や体調などを記入して園に持参し、保育士も園児の食事内容や1日の様子を降園時間までに全員分記入して返却する。ほかにもクラス便りや月案(指導案)、日誌の作成、出欠人数や登降園時間の集計、そして行事の準備も行わなければならない。) 多くの業務を抱えたまま、子どもたちと午後の活動を行えば、もう降園時間だ。 都内に住む保育士は、「お便りを紙配布する場合、原本を作って印刷し、全員分折りたたんで連絡帳に挟む、という一連の作業だけで相当な時間がかかります。勤務時間内に終わらなかった業務は、持ち帰って自宅で作業することもあります」と話す。 連絡帳やクラス便りを手書きしている保育士のなかには、「大変だけど、温かみがあるから手書きのほうが好き」という人もいる。筆者の周りの保護者も、「手書きで書いてもらった連絡帳を読むと嬉しい」と話してくれた。 連絡帳を手書きでやり取りするのもさまざまな利点がある。しかし、保育士が多くの業務を抱えるなか、園児の成長と向き合うこと以外の業務や時間については、もっと選択肢があってもよいのではないだろうか』、「保育士が多くの業務を抱えるなか、園児の成長と向き合うこと以外の業務や時間については、もっと選択肢があってもよいのではないだろうか」、その通りだ。
・『全園に保育ICTを導入した園の変化 多忙な保育士たちの事務雑務を改善するため、出欠連絡や連絡帳の機能を備えた保育ICTシステムを導入した保育園がある。あしたばマインドが運営する、明日葉保育園だ。 同園では、今年度より全20園で「CoDMON(コドモン)」という保育ICTシステムを導入した。CoDMONは、登降園時間の管理機能をはじめ、活動記録や指導案の作成機能を備えた保育ICTシステムで、アプリ上で出欠連絡や連絡帳のやりとりが可能だ。 コドモンの小池義則社長によると、「現在、全国にある保育所などはおよそ4万園で、そのうち何らかの保育ICTシステムを導入しているのは35%(1万4000園)程度。『CoDMON』を導入している施設は、11月時点で9000超」だと言う。 システムを導入して、保育士の業務はどう変わったのだろうか。明日葉保育園元住吉園の宇佐美亜紀園長に聞いた。 「当園では1クラスに1台iPadを導入し、午睡などのすき間時間を有効活用して事務作業を進められるようになりました。従来の午睡チェックでは、園児の就寝中の姿勢を手書きしていましたが、アプリなら体の向きをワンタッチで選択するだけで記録できます。手早く記録できるので、園児の様子を見ながらほかの事務作業も進められるうえ、起きた子の対応もすぐにできるようになりました」) クラス便りについては、手書きの温かみを残したいという保育士もいるため、「システムを使うかどうかは保育士の裁量に任せている」(宇佐美園長)という。手書きの場合も、PDFに変換して保護者に配信するため、印刷や紙を折りたたむ作業がなくなり、ペーパーレス化にも繋がった。 「手をかけるべき業務とシステムを使うべき業務、双方のバランスを見て使い分けることが大切だと感じています。すべてをシステムに任せるのではなく、例えば新人保育士の書類作成についてはシステム内の定型文ではなく、まずは自分の言葉で表現してみるよう指導することもあります」(宇佐美園長)』、「何らかの保育ICTシステムを導入しているのは35%(1万4000園)程度。『CoDMON』を導入している施設は、11月時点で9000超」、かなり普及率は高いようだ。
・『活動内容が一目でわかる機能も 保育士、保護者ともに好評なのが、園児の写真をコメント付きで保護者に配信できる「保育ドキュメンテーション」という機能だ。多忙な保護者でも、スマホで簡単に子どもの成長や保育園での様子を見ることができる。 「保育ドキュメンテーションは、園児がどの活動でどんな様子だったかを一目で振り返ることができるので、保育士も保育の振り返りや月案の作成に活かしています」(宇佐美園長) 導入から半年以上経ち、園長はじめ保育士もシステムを使いこなせている様子だったが、スムーズに導入できたのだろうか。あしたばマインド保育園事業部運営課の寺澤加代子マネージャーが振り返った。 「最初は操作面で不安の声も挙がりましたが、『今はスマホやタブレットで買い物をする時代だから、使いこなせるはず』と職員に伝えて、システム導入の土壌作りをしました。導入してから時間を有効活用できるようになり、保育士が園児と向き合える時間が増えたと感じています」) コドモンの小池社長によると、保護者からも「アプリなら通勤中に連絡帳入力ができる」と好評のようだ。 また、「今まで降園時に連絡帳を返すには、午睡時間に記入を終えなければならず、午睡後の活動について記録するのが難しかった。ですが、アプリなら園児の降園後でも、その日のうちに入力できればいいので、午後の活動内容も連絡帳に残せるようになりました」(小池氏)と、CoDMONを使うメリットについて話した。 コロナ禍により導入への追い風も吹いた。CoDMONは「11月時点で9000超の施設が導入、この1年間で3000施設ほど増加しました」(小池氏)。休園になっても保護者とコミュニケーションを図れる体制や、保育士が出勤できなくても事務作業ができる体制を作っておきたいというニーズがあったという』、「保育士、保護者ともに好評なのが、園児の写真をコメント付きで保護者に配信できる「保育ドキュメンテーション」という機能」、確かに便利そうだ。「この1年間で3000施設ほど増加しました」・・・休園になっても保護者とコミュニケーションを図れる体制や、保育士が出勤できなくても事務作業ができる体制を作っておきたいというニーズがあった」、確かに「コロナ禍により導入への追い風」だ。
・『行政も率先して保育士業務の見直しが必要 一方、明日葉園の宇佐美園長に保育ICTシステムの今後の課題について尋ねると、監査書類の作成に関わる課題が挙がった。 保育所指導監査は、児童福祉法に基づき、都道府県・政令指定都市・中核市が年1回以上の実地検査(企業主導型保育施設については、児童育成協会による年1回以上の立ち入り調査)を行うものだ。監査にあたっては、出欠簿や保育日誌、保護者向けのお便り、連絡帳など大量の書類準備や、監査に対応する人員の確保も必要となる。 「例えば、午睡チェック時の室温や湿度などの情報は、自治体によっては監査で必要な場合があります。現行のCoDMONでは、午睡チェックの項目に室温・湿度の入力箇所がないので、監査時は、室温や湿度を記入した別の記録と一緒に提示する必要がある。必要に応じて入力項目をカスタマイズできれば便利だと感じています」(宇佐美園長) これに対し、小池氏は「監査項目は自治体ごとに異なり、しかも数年で変更されることも多い。全自治体の監査項目を年度ごとに調べて、園によってカスタマイズできるシステムを作るより、園にとって必要な情報を出しやすくすることがわれわれの役目だと考えています」と言う。 筆者も実際にいくつかの自治体の監査項目を調べてみたが、必須項目がわかりづらいうえ、自治体ごとに少しずつ監査項目が異なっていた。確かに、全自治体の監査項目を毎年調べ、変更されるたびにシステムに反映するのは現実的ではない。 今回の取材で、保育に関わる人たちが口を揃えて言ったのが、「人がやらなくてもいい業務の時間を、少しでも子どもと向き合う時間にしたい」ということだった。 保育ICTシステムの発展で、保育士の「人がやらなくてもよい業務」は軽減されつつある。しかしながら、煩雑な監査項目など、保育ICTシステムだけでは解決できない部分もあるのが現状だ。 北から南まで気候も環境も異なる日本で、地域ごとにチェックすべき項目が多少異なるのは致し方なく、また子どもの安全のためのチェック項目であることは十分理解できる。しかし、基本となる監査項目については、全国で統一できるのではないだろうか。そうすれば監査に合ったシステムを作ることができ、保育士の書類作成など業務負担の軽減につながる。 そのためには行政が率先して、保育士の業務を見直していかなければならない。それが結果的に保育の質を高め、子どもたちの環境、そして未来をよりよくすることにつながるのではないだろうか』、「基本となる監査項目については、全国で統一できるのではないだろうか。そうすれば監査に合ったシステムを作ることができ、保育士の書類作成など業務負担の軽減につながる。 そのためには行政が率先して、保育士の業務を見直していかなければならない。それが結果的に保育の質を高め、子どもたちの環境、そして未来をよりよくすることにつながるのではないだろうか」、保育士の負担が軽減され、「保育の質を高め、子どもたちの環境、そして未来をよりよくすることにつながる」、ことを期待したい。
第三に、本年8月15日付け東洋経済オンラインが掲載した「保育園を考える親の会」アドバイザーの普光院 亜紀氏による「保活の常識に変化「保育園入りやすくなった」真相 「入れればどこでも」からゆとりを持てるように」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/610215
・『「保活」が最も厳しかった東京都で待機児童数300人――。 7月27日に東京都が発表した2022年4月1日現在の都内の待機児童数は300人で、昨年よりも669人減となりました。5年前には待機児童数8586人でしたので、急速に改善したことになります。 ここ2年ほどで認可保育園等(認可保育園、認定こども園、小規模保育、家庭的保育など。以下「認可保育園等」)に入りやすくなったことは確かです。 といっても、「待機児童数ゼロ」と発表している自治体でも、認可保育園等に入園申請した子ども全員が認可保育園等に入れているわけではありません。「入れなかった子ども」も、国の定義した条件に合致する場合は、自治体の集計時に待機児童数から除外してもよいことになっているからです。 例えば、認可に落ちた子どもが助成を受ける認可外を利用している場合、登園が可能とされる範囲内の認可・認可外(助成施設)を紹介されて辞退した場合、保護者が求職中であるがハローワークなどでの求職活動が行えていない場合などは待機児童にカウントされません。待機児童数のカウント方法については、こちらの記事(「日本死ね」から5年、待機児童問題は解決したのか)も参考にしてください』、「「保育園入りやすくなった」真相」、とは興味深そうだ。
・『申し込んだ児童の何%が入れているのか では、認可保育園等に申し込んだ児童の何%が本当に認可保育園等に入れているのでしょうか。 これを調べるためには、新規に入園申請をした児童数と、入園が決定した児童数を調べなければなりません(国や自治体が発表する申込者数・利用児童数は進級児を含んだもの)。 私が顧問を務める保護者グループ「保育園を考える親の会」では毎年、都市部100市区について、これらの数値を調査しています(「100都市保育力充実度チェック」)。認可保育園等への新規の入園申請者のうち、認可保育園等に入園できた児童の割合を求めると(入園決定率)、2021年4月1日現在の100市区の平均は80.8%でした。 2022年の数字はまだ調査中で、これを1〜2%上回ると予測されますが、いずれにしても認可の保育施設への新規入園希望者のうち2割近くが認可にれていないことになります。特に都市部の1歳児クラスについては、4月に希望する認可保育園等に入れなかったケースはまだ多いのではないかと考えられます。) 希望の園・クラスが満員で選考に落ちてしまうケースが残る一方で、利用希望者がクラスの定員に満たず、空きが出てしまっている園・クラスも発生しています。 新聞報道にもあったように、昨年度あたりから、認可の保育施設の特に0歳児クラスに空きが目立つようになってきました。コロナ禍の影響で、利用控えが発生しているという観測もあります。 これまで認可保育園等への入園は、4月1日入園が最も募集が多く入りやすいけれども4月でほぼ枠が埋まってしまい、5月以降の年度途中入園は厳しいと言われてきました。しかし今、そういった「保活」の常識も変化しつつあります』、「希望の園・クラスが満員で選考に落ちてしまうケースが残る一方で、利用希望者がクラスの定員に満たず、空きが出てしまっている園・クラスも発生」、なるほど。
・『実際の状況を確認する方法 実際の状況は、各自治体がホームページで保育施設の「募集人数」「空き状況」として公表している数字が参考になります。 ここでは、過去のデータも開示している世田谷区を例にとって数字を追ってみます。4月入園の結果が出た直後の5月1日と、3カ月後の8月1日で、3歳未満児の欠員(空き)を合計すると次のようになっていました。 ■年度前半の空き状況の変化(世田谷区、2022年度、区内287施設*の合計) (注)*認可保育園(254)、認定こども園(6)、小規模保育(22)、家庭的保育(4)、事業所内保育(1)(出所)世田谷区ホームページの公表数値から筆者作成 5月1日の時点では、0歳児クラスに1名以上の空きがあった施設が全体の25.1%ありました。これらの施設では0歳児の4月1日入園は全入だったということです。1歳児クラスではこれが8.7%しかありませんでした。2歳児クラスは14.6%でした。 3カ月後の8月1日になると、0歳児のクラスに空きがある施設は大幅に減少しています。1歳児クラスはもともと少なかったので0歳児クラスほどには減っていません。定員数で見ると、この3カ月間で0歳児クラスは115人埋まっていて、1歳児クラスも19人埋まっています。2歳児クラスは動きが小さいことがわかります。 このような空き状況は地域によってかなり違っています。 8月1日時点で比べてみると、たとえば足立区では、全185施設(家庭的保育を除く)で1名以上の空きがある施設の割合は0歳児16.2%、1歳児16.8%、2歳児32.4%と各年齢とも世田谷区よりもだいぶ多くなっています。足立区では、このほかに家庭的保育(保育ママ)も116カ所開設されていて多くに空きが見られます。 同様の数字を杉並区の全222施設(家庭的保育を除く)について見ると0歳児11.3%、1歳児20.7%、2歳児36.0%と、0歳児よりも1歳児での空きのほうかかなり多くなっています。受け入れが1歳児からの園が比較的多いことも影響しているかもしれません。 杉並区では、このほかに区が設ける0〜2歳児対象の保育室(認可外)があって、今年度まで0〜2歳児を多く受け入れてきましたが、その多くが今年度〜来年度で閉室することになっています。 3区とも、区内にも地域差があって、4月直後から「ほぼ空きがない」地域もあれば、空きのある施設が固まっている地域もあります。 つまり、自分が住んでいる地域の状況が非常に重要になります。今年の5月1日時点での空き状況を調べると、園・クラスごとの4月入園の状況(全入だったか待機が出たか)がわかるのですが、過去のデータを開示していない自治体が多いようです。入園担当窓口に自分の地域に絞って問い合わせれば教えてもらえるかもしれません』、「区内にも地域差があって、4月直後から「ほぼ空きがない」地域もあれば、空きのある施設が固まっている地域もあります」、バラツキが大きいようだ。
・『「入りたい園」で希望を出す 「人気園を希望すると落ちる確率が高くなるのでは?」と心配する人もいますが、だんだんに入りやすくなっている現状をふまえ、「質重視」で園を選んで希望を出すのがよいと思います。 入園時期も、空きの埋まり具合によっては年度途中に予定するのもありだと思います。早生まれの子どもを低月齢で預けることに抵抗を感じている方も多いと思いますが、1カ月でも2カ月でも遅らせることができれば、ずいぶん違うでしょう。 ただし、欠員状況表は月が進むにつれ「0行進」が増えていきますので、タイミングが難しいかもしれません。定員変更などがないか、園や自治体にも確認することも必要になります。 これまで厳しい入園事情のもとで「入れればどこでも」と考えてしまう傾向がありましたが、もう少しゆとりをもって園選びができるようになってきています。 3歳未満児対象の小規模保育や家庭的保育を選ぶ場合も、途中転園あるいは卒園時に希望の保育園に移れるチャンスはこれまでよりも大きくなっているはずです。 できるだけ中身の人(施設長や保育者)を重視して、信頼できる施設を選んでもらいたいと思います。拙著『後悔しない保育園・こども園の選び方』を参考になります』、「これまで厳しい入園事情のもとで「入れればどこでも」と考えてしまう傾向がありましたが、もう少しゆとりをもって園選びができるようになってきています」、結構なことだ。
タグ:「企業型NPO/株式会社は総額の人件費が低く、認可保育園と同様に人を増やせばさらに給与水準が下がることから、保育士を多く雇用することなどはしていない、もしくは超低賃金で雇用しています。保育の質の定義というのは難しいのですが、各国の基準を参考に子ども1人当たりの保育士数と保育士の労働環境を保育の質と今回は定義すると、やはり企業型NPO/株式会社保育園の質に課題があると考えられます。 そしてこの人件費の差である10%はどこに流れたのでしょうか?財務諸表などのデータを分析すると、企業型NPOはブランディングやマ 「規制緩和により株式会社やNPOの参入が認められ、さらにこの委託費の弾力運用が認められてしまった」、なるほど。 和田 一郎氏による「保育を「規制緩和」したらロクな事にならない理由 待機児童の解決策は家庭への直接投資しかない」 東洋経済オンライン 「最近は研究者がそのような企業型NPOと結託しているような研究結果もみられます。NPOの保育園は既存保育園と質に差があるのかなどの研究で、遜色なかったというような結果です。しかしこれらの研究をよく見ると利益相反(研究者とNPO)がみられ、論文化もされていませんし、倫理審査通過したのかすら不明です。しかしこのような報告書がNPOを通じて政治家に直接届いてしまい、おかしな改革がされてしまうのです」、「利益相反」の「研究」「報告書がNPOを通じて政治家に直接届いてしまい、おかしな改革がされてしまうのです」、酷い 「本来は子どものよりよい保育、それに直結する保育士の給与として計算され支給されたお金が別の分野に使われてしまう。この10%の差額がまさに私たち福祉政策の研究者が敗北した証拠」、「10%はどこに流れたのでしょうか?財務諸表などのデータを分析すると、企業型NPOはブランディングやマーケティングなどのNPOの価値を高めることや他の事業の補填に使われていること、また株式会社は保育事業以外の使用や配当等に使われていることが明らかになりました」、なるほど。 保育園(待機児童)問題 (その13)(保育を「規制緩和」したらロクな事にならない理由 待機児童の解決策は家庭への直接投資しかない、脱アナログ「保育園」が本気で取組み起きた大変化 温かみがあるから手書きが好きの声もあるが…、保活の常識に変化「保育園入りやすくなった」真相 「入れればどこでも」からゆとりを持てるように) 「NPO保育園」のうち「良質な園は運営の危機になってきています」、「自治体の保育職職員」を「正規の保育士を増やす」ことから始めるほかなさそうだ。 笠井 ゆかり氏による「脱アナログ「保育園」が本気で取組み起きた大変化 温かみがあるから手書きが好きの声もあるが…」 「保育ICTシステム」とは保育士の負担が軽減されるのであれば、結構なことだ。 「保育士が多くの業務を抱えるなか、園児の成長と向き合うこと以外の業務や時間については、もっと選択肢があってもよいのではないだろうか」、その通りだ。 「何らかの保育ICTシステムを導入しているのは35%(1万4000園)程度。『CoDMON』を導入している施設は、11月時点で9000超」、かなり普及率は高いようだ。 「保育士、保護者ともに好評なのが、園児の写真をコメント付きで保護者に配信できる「保育ドキュメンテーション」という機能」、確かに便利そうだ。「この1年間で3000施設ほど増加しました」・・・休園になっても保護者とコミュニケーションを図れる体制や、保育士が出勤できなくても事務作業ができる体制を作っておきたいというニーズがあった」、確かに「コロナ禍により導入への追い風」だ。 「基本となる監査項目については、全国で統一できるのではないだろうか。そうすれば監査に合ったシステムを作ることができ、保育士の書類作成など業務負担の軽減につながる。 そのためには行政が率先して、保育士の業務を見直していかなければならない。それが結果的に保育の質を高め、子どもたちの環境、そして未来をよりよくすることにつながるのではないだろうか」、保育士の負担が軽減され、「保育の質を高め、子どもたちの環境、そして未来をよりよくすることにつながる」、ことを期待したい。 普光院 亜紀氏による「保活の常識に変化「保育園入りやすくなった」真相 「入れればどこでも」からゆとりを持てるように」 「「保育園入りやすくなった」真相」、とは興味深そうだ。 「希望の園・クラスが満員で選考に落ちてしまうケースが残る一方で、利用希望者がクラスの定員に満たず、空きが出てしまっている園・クラスも発生」、なるほど。 「区内にも地域差があって、4月直後から「ほぼ空きがない」地域もあれば、空きのある施設が固まっている地域もあります」、バラツキが大きいようだ。 ・『「入りたい園」で希望を出す 「人気園を希望すると落ちる確率が高くなるのでは?」と心配する人もいますが、だんだんに入りやすくなっている現状をふまえ、「質重視」で園を選んで希望を出すのがよいと思います。 入園時期も、空きの埋まり具合によっては年度途中に予定するのもありだと思います。早生まれの子どもを低月齢で預けることに抵抗を感じている方も多いと思いますが、1カ月 「これまで厳しい入園事情のもとで「入れればどこでも」と考えてしまう傾向がありましたが、もう少しゆとりをもって園選びができるようになってきています」、結構なことだ。
新自由主義(その3)(集集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望、なぜ「経済的に恵まれない人」が「新自由主義を支持する」のか? 社会心理学が明らかにしたこと) [経済政策]
新自由主義については、6月21日に取上げた。今日は、(その3)(集集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望、なぜ「経済的に恵まれない人」が「新自由主義を支持する」のか? 社会心理学が明らかにしたこと)である。
先ずは、2月11日付け週刊エコノミスト Online「集集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220209/se1/00m/020/003000d
・『「新しい資本主義」を議論するには、米国のネオリベラリズムの背景にある思想性、理論性、歴史性を理解する必要がある。 同時に日本においてネオリベラリズム政策やネオリベラリズムに基づくコーポレート・ガバナンスがどう導入されたかを明らかにしない限り、意味のある議論はできない』、興味深そうだ。
・『真の狙いは労働市場の自由化 日本にネオリベラリズムの政策を導入したのは小泉政権である。バブル崩壊後の長期低迷を打開する手段として「規制緩和」や「競争促進政策」が導入された。 だがネオリベラリズム政策の最大の狙いは、米国同様、労働市場の規制緩和であった。労働市場の自由化によって非正規労働や派遣労働の規制が大幅に自由化された。それは企業からすれば、大幅な労働コストの削減を意味した。 労働市場の自由化によって非正規雇用は大幅に増加した。1984年には非正規雇用は15.3%であったが、2020年には37.2%にまで増えている。非正規雇用のうち49%がパート、21.5%がアルバイト、13.3%が契約社員である(総務省「労働力調査」)。賃金も正規雇用と非正規雇用では大きな格差がある。 2019年の一般労働者の時給は1976円であるが、非正規労働者の時給は1307円である。600円以上の差がある。なお短期間労働に従事する非正規労働者の時給は1103円とさらに低い(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。岸田首相は最低賃金1000円(全国加重平均)を実現すると主張しているが、米国ではバイデン大統領は連邦最低賃金15㌦を目標に掲げている。 現在の為替相場で換算すると、約1700円に相当する。日米で時給700円の差がある。かりに最低賃金1000円が実現しても、非正規雇用は社会保険費など企業負担がなく実質手取りは1000円を下回り、とても最低賃金でまともな生活を送れないのが実情である』、実際の「最低賃金」は「全国加重平均」で31円引上げ、961円にすることになった(8月6日付け日経新聞)。
・『労働市場自由化の弊害を軽視した小泉改革 米国型コーポレート・ガバナンスの導入も日本に大きな影響を与えた。戦後の日本経済の成長を支えてきた「日本的経営」はバブル崩壊後、有効性を失ったと主張された。日本型経営では最大のステークホールダーは従業員であり、メインバンクであり、取引先であった。 株主は主要なステークホールダーとはみなされていなかった。だが米国型コーポレート・ガバナンスは株主中心に考えられ、日本でも企業価値、言い換えれば株価を上げることが経営者の責務と考えられるようになった。労働者は「変動費」であり、経営者は従業員の雇用を守るという意識を失っていった。 かつて経営者の責務は従業員の雇用を守ることだと言われていた。米国型コーポレート・ガバナンスは、日本の労使関係を根底から変えてしまった。同時に経営者は米国と同様に巨額の報酬を手にするようになる。 米国や英国では1900年代にはネオリベラリズム政策の弊害が目立ち始めていた。貧富の格差は急速に拡大し、深刻な社会問題を引き起こしつつあった。だが小泉改革では、そうした弊害について真剣に検討することなく、労働市場の自由化が強引に進められていった。 同時に終身雇用は破綻したとして、雇用の流動化が主張された。雇用の流動化は、言葉は魅力的だが、最も大きな恩恵を得るのは企業であって、従業員ではない。企業は高賃金の従業員に早期退職や転職、副業を勧めることで、大幅に労働コストを削減できる。 米国と違って日本では整備された転職市場が存在せず、さらに「同一労働同一賃金」や米国の401(k)のような「ポータブルな企業年金制度」などもなく、転職の負担はすべて従業員に掛かってくる』、「米国型コーポレート・ガバナンスの導入も日本に大きな影響」、「米国型コーポレート・ガバナンスは、日本の労使関係を根底から変えてしまった。同時に経営者は米国と同様に巨額の報酬を手にするようになる」、なるほど。
・『日本の企業内組合は交渉力を発揮できない 岸田首相がどのような「新しい資本主義」を構想しているのか定かではない。成長すれば、その成果が労働者にも及ぶという供給サイドの経済学が主張する“トリクルダウン効果”論は歴史的にも、理論的にも破綻している。 成長すれば、最終的に恩恵はすべての人に及ぶというのは幻想である。企業は常に賃金上昇を抑えようとする。決して温情で賃上げをするわけではない。過去の企業行動を見れば、日本で行われている「成長」と「分配」を巡る議論は空論そのものであることが分かる。 賃上げをした企業に税の優遇措置を講ずるという報道もなされている。かつて安倍晋三首相は経済団体に賃上げを行うよう要請したことがあるが、企業は応じなかった。経営者は従業員に対する“温情”から賃上げを実施することはないだろう。 従業員と労働者が正当な賃金を得るには、企業と拮抗できる組織と仕組みが必要である。日本の企業は正規社員を減らし、非正規社員を雇用することで労働コストを大幅に削減して利益を上げてきた。米国同様、その利益の多くは株主配当に向けられるか、内部留保として退蔵されてきた。 さらに経営者の報酬も大幅に引き上げられた。本来なら組合は正当な労働報酬を受け取る権利がある。米国の労働組合は産業別組合で企業との交渉力を持っているが、日本の労働組合は企業内組合では、企業に対する交渉力を発揮することは難しい。 日本の時間当たりの付加価値は世界23位(低賃金は生産性向上を妨げる。本来なら企業は賃金上昇によるコストを吸収するために生産性を上げる努力を行う。だが低賃金労働が使える限り、企業は資本コストの高い合理化投資を積極的に行わない。 企業は労働コストが上昇すれば、競争力が低下するために合理化投資を行わざるを得ない。大胆に言えば、日本企業の生産性が低いのは、賃金が安いからである。 先進国の中で日本の生産性は最も低い。2020年の1人当たりの日本の労働生産性はOECD38カ国のうち28位(7万8655㌦)で、24位の韓国(8万3378㌦)よりも低く、ポーランドやエストニアと同水準である(「労働生産性の国際比較2021、日本生産性本部」)。 また。日本の時間当たりの付加価値は49.5㌦で、23位である。1位のアイルランドは121㌦、7位の米国は80㌦である。韓国は32位で43㌦である。なぜ、ここまで低いのか』、「低賃金労働が使える限り、企業は資本コストの高い合理化投資を積極的に行わない。 企業は労働コストが上昇すれば、競争力が低下するために合理化投資を行わざるを得ない。大胆に言えば、日本企業の生産性が低いのは、賃金が安いからである」、その通りだ。
・『経営者報酬と配当を増やす経営が日本を弱くした 日本特有の給与体系も影響している。日本では基本給の水準が低いため、残業手当が付かなければ、十分な所得を得られない。その結果、同じアウトプットを生産するために、残業を増やして長時間労働を行うことになる。 それこそが低生産性の最大の要因の一つである。昨今、「働き方改革」で残業を削減する動きがみられるが、残業時間の短縮は残業の減少と所得の減少を意味する。短時間で同じ労働成果を上げることができれば、それは生産性向上を意味し、基本給の引き上げで従業員に還元されるべきものである。 だが、企業は所得が減った従業員に副業を推奨するという奇妙な議論が横行している。「労働の流動化」を口実に賃金引き下げと雇用の安定性が損なわれている。労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた』、「短時間で同じ労働成果を上げることができれば、それは生産性向上を意味し、基本給の引き上げで従業員に還元されるべきものである。 だが、企業は所得が減った従業員に副業を推奨するという奇妙な議論が横行している。「労働の流動化」を口実に賃金引き下げと雇用の安定性が損なわれている」、「労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた」、同感である。
・『存在価値を無くした日本の労働組合が低賃金の要因 米国と同様に日本でも労働組合参加率は低下の一途をたどっている。戦後の1949年には労働組合参加率は55%であった。その後、参加率は低下し、1980年代に20%台にまで低下した。 2021年の参加率は16.9%にまで低下している(労働組合基本調査)。米国ほどではないが、労働組合は急激に衰退し、社会的影響力の低下は目を覆うべき状態である。その背景には労働組合幹部が「労働貴族」となって特権を享受しているという“反労働組合キャンペーン”が行われたことが影響している。 労働組合は国民の支持を失い、現在では社会的存在感するなくなっている。日本の労働組合運動の衰退は世界でも際立っている。全くと言っていいほど企業に対する交渉力を失っている』、「連合」が立憲民主党と共産党の共闘に水を差し、他方で自民党にもシッポを振っているのは、連合の戦闘力喪失を表している。
・『日本で“スト”はもはや死語 高度経済成長期に賃金上げをリードしてきた「春闘方式」が崩壊し、企業内組合を軸とする労働組合は企業に取り込まれ、十分な交渉力を発揮できなくなった。労働組合運動は連合の結成で再編成されたが、連合はかつてのような影響力を発揮することができない。 目先の政治的な思惑に振り回されている。賃上げに関して十分な“理論武装”をすることもできず、ほぼ賃上げは経営者の言いなりに決定されているのが実情である。 労働組合の弱体化は「労働損失日」の統計に端的に反映されている。2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日であるのに対して、米国は2815日、カナダは1131日、英国は273日、ドイツは571日、韓国が552日である(労働政策研修機構『データブック国際労働比較2019』)。日本と同様に組合参加率が大幅に低下している米国ですら、賃上げや労働環境を巡って労働組合は経営と対立し、要求を実現している。 日本では“スト”はもはや死語となっている。格差是正や賃上げを要求する「主体」が日本には存在しないのである。その役割を政府に期待するのは、最初から無理な話である。それが実現できるとすれば、日本は社会主義国である』、「2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日」、というのは初めて知ったが、情けないことだ。
・『税制、最低賃金、非正規問題の構造的な見直し 労働市場で個人が企業と向かい合い、交渉することは不可能である。両者の間には圧倒的な力の差がある。だからこそルーズベルト大統領は労働者の団結権と団体交渉権を認め、全国労働関係委員会に労働争議の調整役を委ねたのである。小手先の制度改革ではネオリベラリズムの弊害を断ち切ることはできない。 バイデン大統領は中産階級の失地回復こそが格差是正の道であり、繁栄に至る道であると主張している。そのためには労働組合が企業に対して十分な交渉力を持つ必要があると説いている。 一人ひとりの働く人が、誠実に働けば、家族を養い、子供を教育し、ささやかな家を購入するに足る所得を得る制度を再構築することが必要である。非正規とパート労働で疲弊した国民は決して幸せになれない。平等な労働条件、公平な賃金、雇用の安定を実現することが「新しい資本主義」でなければならない。 貧富の格差拡大は社会を分断し、深刻な貧困問題を引き起こす。長期的には経済成長を損なうことになる。そうした事態を回避するには現在の制度の構造的な見直しが要である。 税制の見直しや最低賃金の引き上げに加え、正規労働者と非正規労働者に二分された労働市場の見直しも不可欠である。労働者や消費者などさまざまな立場の人の意見を反映させるようなコーポレート・ガバナンスを構築する必要がある』、「労働市場で個人が企業と向かい合い、交渉することは不可能である。両者の間には圧倒的な力の差がある。だからこそルーズベルト大統領は労働者の団結権と団体交渉権を認め、全国労働関係委員会に労働争議の調整役を委ねたのである。小手先の制度改革ではネオリベラリズムの弊害を断ち切ることはできない。 バイデン大統領は中産階級の失地回復こそが格差是正の道であり、繁栄に至る道であると主張している。そのためには労働組合が企業に対して十分な交渉力を持つ必要があると説いている」、「貧富の格差拡大は社会を分断し、深刻な貧困問題を引き起こす。長期的には経済成長を損なうことになる。そうした事態を回避するには現在の制度の構造的な見直しが要である。 税制の見直しや最低賃金の引き上げに加え、正規労働者と非正規労働者に二分された労働市場の見直しも不可欠である。労働者や消費者などさまざまな立場の人の意見を反映させるようなコーポレート・ガバナンスを構築する必要がある」、同感である。
・『ネオリベラリズムは「既得権構造」に浸透 ネオリベラルの発想から抜け出す時期に来ている。そのためには、労働規制、税制、コーポレート・ガバナンス、労働組合の役割などの見直しは不可欠である。特にコーポレート・ガバナンスに労働者や消費者などの意見が反映できるようにコーポレート・ガバナンスの改革は不可欠である。 米国におけるネオリベラリズムの検討でみたように、その背後には明確な国家観の違いが存在している。そうした大きな枠組みの議論抜きには、新しい展望は出てこないだろう。 ネオリベラリズムは既得権構造に深く組み込まれている。それを崩すには、社会経済構造を根底から変える必要がある。激しい抵抗に会うのは間違いない。これからの議論で岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われることになるだろう。 最後に一言、小泉改革以降のネオリベラリズムの政策で日本経済の成長率は高まっていない。経済成長はGDPの約80%を占める需要によって決まるのである。日本の長期にわたる低成長はネオリベラリズム政策や発想がもたらした必然的結果なのである』、「岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われる」、とあるが、それは期待し過ぎだ。立憲民主党から建設的な意見が出てきてほしいものだ。
次に、8月5日付け現代ビジネスが掲載した東洋大学社会学部社会心理学科教授の北村 英哉氏による「なぜ「経済的に恵まれない人」が「新自由主義を支持する」のか? 社会心理学が明らかにしたこと」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/98183?imp=0
・『自分にとって抑圧的な環境、不都合な状況なはずなのに、なぜかそこに適応してしまう。こうした態度を「自発的隷従」と呼ぶことがある。こうした自発的隷従のような態度について、社会心理学の見地から分析した、ジョン・ジョスト『システム正当化理論』(ちとせプレス)が刊行された。訳者の一人である東洋大学教授の北村英哉氏がその読みどころを解説する』、なるほど。
・『なぜ政権党は勝ち続けるのか? まさに今の時代に合っている。ジョン・ジョストが提唱する「システム正当化理論」、そんな風に考えた。この理論は、「なぜだか現状維持に走ってしまう人々」の生の現実的な姿をつかむことに長けている。 システム正当化理論は、社会心理学の理論である。これまでの社会心理学の理論では、多くの場合、人々は自分自身が属する内集団を好み、自集団の有利を期待し、その利得に合致する方向で行動するものだとされていた。しかし、システム正当化理論は、こうした従来の理論とは反対に、自分の利得にならない行動をする人々について、うまく説明することができるのである。 現在、そうした「自分の利得にならない行動」が目立っているように見える。たとえば、日本の場合、おおまかに語れば自民党などの政権党は、経営者や大企業などのすでに日本社会の中で、有利な地位を得ている人たちの利益代表であり、「金持ち」「貧しい」という二分法で言えば、明らかに富む者のための政策を行う集団である。 したがって合理的には、社会階層の高い者たちが自民党を支持し、社会階層が低い者たちは野党を支持するはずである。そして、階層の高い者、豊かな者は社会全体から見れば少数であるから、大多数のお金持ちではない庶民は野党を支持しないと原理的にはおかしいということになる。) しかし、7月におこなわれた選挙でも、そうした結果にはなっていない。必ずしも豊かとは言えない人々も自民党に票を入れていなければ、比例区において自民党が最大割合(35%ほど)を獲得するという結果にはならないだろう。 SNSでは、野党を支持する人たちから、こうした選択について「愚かな選択」だとか、「分かっていない」などの発言が繰り返される。近年のリベラル層には、「正しくはリベラル的な政党を支持すべきだ。それが分からないのは知識がないのか、考え間違いなどをしているか、愚かなことである」といった意見も見られる。 しかし、ある意味、自民党を政権党にするという選択は、ほぼ一貫して第二次大戦後の日本社会のデフォルトの通常風景であり続けた。70年以上、例外的な時期を除けば、現在の政権党にあたる勢力を全体としては、支持し続けているのである。 こうなってくると、そうした選択を単なる「間違い」で済ませるわけにはいかない。むしろ、そうした結果になってしまう理由を考えるべきであろう。それこそが、理性的な思考となるのではないか。 そして、その理由を考えるのに役に立つのが「システム正当化理論」である』、「自民党を政権党にするという選択は、ほぼ一貫して第二次大戦後の日本社会のデフォルトの通常風景であり続けた。70年以上、例外的な時期を除けば、現在の政権党にあたる勢力を全体としては、支持し続けているのである。 こうなってくると、そうした選択を単なる「間違い」で済ませるわけにはいかない。むしろ、そうした結果になってしまう理由を考えるべきであろう。それこそが、理性的な思考となるのではないか。 そして、その理由を考えるのに役に立つのが「システム正当化理論」、興味深そうだ。
・『人は現状維持を望む傾向がある:安全を求めて 人は現在の社会のあり方をそのまま受け入れ、維持する傾向がある。これをジョン・ジョストは「システム正当化」と呼んだ。今こうであることには意味があり、それが正しいことであると正当化してしまうのだ。 このシステム(≒現状)を正当化しようという動機の基盤には、「認識論的欲求」「実存的欲求」「関係的欲求」があるという。 その仕組みを理解するために、システムを認めず、正当化をしなかったらどうなるか考えてみよう。 ある種の社会では政治的な現状に異議申し立てを行い、現在の政府を批判すると弾圧を受けるような場合もある。あからさまな弾圧は存在しない民主主義の国であっても、すでに多くの人が現政権を支持する状態に生まれ育てば、それを支持しないと周囲の人たちから非難されるかもしれない。たとえもし、現在の政治が正しくなく、変えるべきであると考えて行動したとしても、その先、どうなるかはわからない。 実際、日本においても、2009年に政権交代が実現し、民主党政権ができたが、十分に国民の期待に応えた政策を実行できたかどうかまだよくわからない状態で、政権維持に行き詰まり、事実上、最後は政権を投げ出すような行いを示した。 もちろん、それまで数十年もの間自民党の長期政権が続いてきたという環境では、長期間にわたって自民党と強固に連携してきた行政組織や経済団体と、関係を容易に「交代」できるわけではなく、その抵抗にあえば、行政的に行き詰まりやすい。 政権交代がよい結果をもたらすかどうかは、結果論的にあとを待たないと分からない。常に未来は不透明である』、「日本においても、2009年に政権交代が実現し、民主党政権ができたが、十分に国民の期待に応えた政策を実行できたかどうかまだよくわからない状態で、政権維持に行き詰まり、事実上、最後は政権を投げ出すような行いを示した」、「政権交代がよい結果をもたらすかどうかは、結果論的にあとを待たないと分からない」、ただ、「政権交代」が起きたメカニズムについての説明がないのは残念だ。
・『「世の中が変わらなければ、生きていける」 以上の話には、先に述べた「3つの欲求」がすべて含まれている。 まずは認識論的欲求である。どうなるか見通しがわからない、認識的に不分明・不確実な状態は、認識論的欲求として「わかりやすい」「すでにあった」「今までどおりのやり方」への志向性を高めてしまう。わかりやすく言えば、「自分はこれまで生きてきた世の中が今のまま何も変わらなければ、明日も生きていけるだろう」という確実性への欲求が、現状維持、すなわち、システム正当化を志向させるのだ。 つぎに、実存的欲求について。現状を支持する限り、周囲からは何の圧力もかからないだろう。周囲と軋轢を生まなければ安全を脅かされることはない。声高に反対を表明したり、デモに参加したりすることは、職場によっては反感を買ったり、評価を下げたり、出世を妨げたりすると考える人もいるだろう。 逆に言えば、政権に対して反対の意思を示すのは、いくらかの勇気と決断力、そして、組織などから見放されても自分の力で生きていける自信がないと、チャレンジしにくいことである。日本人は概ね自己評価が低い。自己評価の低い者にとって、安全を捨てて、危険のなかに飛び込むのは、言ってみれば「映画のなかだけの出来事」であり、現実の自分が行うことは決してないのである。 特に日本ではリスクが嫌われる。リスクをとる覚悟で何かをやるのは、日本社会では「少し変わった人」である。多くの平凡な人たちは、「変わった人」になる勇気など持ってはいない。「ふつうが一番」なのである。そしてその「ふつう」とは政権党を支持することである。この「自身の安全を守りたい」という気持ちが、実存的欲求である。 「ふつう」でいないと職場や所属集団で「浮く」かもしれない。若者も「意識高いね」と皮肉られるのを嫌う。現在、「空気を読む」という傾向が若者の間で強まっていることを示す、筆者の調査データもある。そもそもとがった意見を言うこと、何かを批判することについて、日本では免疫に欠ける。 欧米のデータでさえ、この「関係的欲求」に基づき大勢の人はシステム正当化を行うというのがジョン・ジョストたちのデータだ。日本においても、同様に周囲の人たちから無難に受け入れられるようにシステムを正当化する様子が見られる。 以上がいつまでも政権党(自民党)が勝ち続ける理由だ。こうして記してみると、すでに誰もがわかっているだろう、実にシンプルな常識ではないだろうか。だが、このシステム正当化理論をおいてほかにこれをきちんと整理して、理論化した考え方がなかったのだ』、「特に日本ではリスクが嫌われる。リスクをとる覚悟で何かをやるのは、日本社会では「少し変わった人」である。多くの平凡な人たちは、「変わった人」になる勇気など持ってはいない。「ふつうが一番」なのである。そしてその「ふつう」とは政権党を支持することである。この「自身の安全を守りたい」という気持ちが、実存的欲求である」、「そもそもとがった意見を言うこと、何かを批判することについて、日本では免疫に欠ける。 欧米のデータでさえ、この「関係的欲求」に基づき大勢の人はシステム正当化を行うというのがジョン・ジョストたちのデータだ。日本においても、同様に周囲の人たちから無難に受け入れられるようにシステムを正当化する様子が見られる」、ただ、日本での「政権交代」は事実として述べただけで、メカニズム的な作用につては、説明がないのは残念だ。
・『「この集団を脱したい」という思い 自分が属する集団を「内集団」、自分が属さない集団を「外集団」という。この関係性を重視する社会的アイデンティティ理論では、人は自身の属する内集団をひいきすることが幾度も語られてきた。しかし、この点についても、システム正当化理論は異なる角度から社会を見つめる。そしてそこにも、自身が必ずしも得をしない政策を推進する政党を支持してしまったりする現象を説明する手がかりがある。 日本ではアメリカのスラムと異なり、貧困地区が明瞭に他と区別されるように存在することは減ってきているが、たとえばスラムに住む者が全員「自分たちの集団はすばらしい集団だ」と皆が考えるとは限らない。「いずれこの集団を脱出したい」と考える者たちもいることだろう。 ジョン・ジョストはこのように、人は自分が属する集団を必ずしも好むわけではないという、それまでの社会的アイデンティティ理論とは対立する現実に着目した。スラムのなかには「いつか成功してお金持ちになる」と思っている人もいる。彼らは、リッチな人々という、現在の時点では「外集団」である存在に憧れ、それらを好ましく思うのだ。一般の庶民であった者が芸能人に憧れ、いつか有名人になってリッチになることを夢見る場合も同様である。 自身が困難な状況にあるほど、そこから脱して望ましい状態に至ろうとする人もいるだろう。その場合、彼らにとって、恵まれた集団は「目標」であって、「批判」する対象とはならない。恵まれた人々(≒社会的に力を持っている人々)を批判したところで、結局、そのあと自分自身がどうなるかは認識論的に不確実であると考えられるからだ。 もちろん、狭い集団の範囲で見れば、内集団をひいきし、外集団を貶めたほうが、安全が守られるかもしれない。しかし、より広い社会を視野に入れた場合、恵まれた人々を批判すると、実存的にも安全が脅かされ、関係的にも(より広い範囲の)周囲から煙たがられ、嫌われるおそれ、可能性があるからだ。 女性の初期の社会進出の際、男性社会に同化するように、「男並み」の働きを目指して、結婚や家庭を持つことを犠牲にしてきた先駆者がいたのと同じ仕組みが働いているのである。この本ではこうしたジェンダーの問題も取り上げている。) そこで、恵まれない人々、不利な人々(の一部)は、恵まれた人々を目標として、努力することになる。こうして努力が成功を生むという神話が支持されることとなり、これは反転して、成功を得られなかった時に、「自分は努力が足らなかった。だから自己責任である」という自己責任論を招くことにもなるのだ。 日本において、いまほど、自己責任論が猛威を振るっている時代はなかっただろうと思われる。自己責任論は、経済的な自由や競争を重視する新自由主義的な考え方と相性がよい。自己責任論で自身の境遇を捉える限り、そこから新自由主義を否定する論理は立ち上がりにくい』、「自己責任論は、経済的な自由や競争を重視する新自由主義的な考え方と相性がよい」、その通りだ。
・『「外集団ひいき」のような状況 この不思議な「外集団ひいき」と言ってよいような状況、すなわち、本来ならば成功した長者が支持することの多い新自由主義に、経済的に恵まれない人たちが絡め取られていく様子を、システム正当化理論は描いている。 ちなみに、「システム」とひと口で言っても、実のところ、そこには政治システムのほかに、経済システムや社会文化システムがある。経済システムの正当化への志向性を測定する尺度項目には、「経済格差は不可避であり、それどころか自然なものでさえある」という認識がその中心的なものとして含まれている。 その尺度によって人々の考えを測定した研究によれば、格差によって不利な状態にあり、いわば虐げられているものでさえ、今の仕組みは公正で正当であり、だから今の自分の境遇は仕方のないことと認めてしまうのである。これが自発的な隷従であるとジョン・ジョストは指摘している。 かつて奴隷制があった時でさえ、それに反発して立ち上がった者のほうが、声をあげなかった者たちよりも圧倒的に少数である。フランス革命など世界史的な革命は、体制をくつがえす人間の力を証明するものとして注目を浴びるが、それ以前のずっとずっと長い間、人々は奴隷制や王政への隷従に堪え忍んできたわけであり、ある意味そうした格差社会に驚くべき順応を示してきたのである。 「システム正当化理論」では、歴史上、圧倒的多数の人々が反乱よりも屈服を選び、従属状態に順応してきたことが指摘されている。インドのカーストにおいて下層にある者がそれを当然と考えていたこと、西アフリカの事例においてもカーストに類する制度が廃止された後も、「ご主人さまから呼ばれたら、当然のようにすぐ飛んでくる」といった日常のあり方が続いたことが示されている。人々は現状である日常を「当然のものとして」受け入れ、そのなかで生きているという現実がある。 そして、社会文化的側面においても、システムを正当化する人たちは、これまでの習慣を守ろうとする。それは、夫婦同姓という制度であったり、男尊女卑の伝統的性役割であったりもする。フェミニズム運動も若い女性たちから嫌われる傾向が指摘されている。いまだに玉の輿のように、「幸せな結婚」を望む女性たちは巷にあふれている。 自ら差別状態に入っていっても、差別されているという実感を持たない不利な立場の人たちもいる。差別されている事実に気づくこと自体が、自分の心を傷つけてしまうからだ。 私たち日本で暮らしている人々も、こうした現状において「隷従を続けている」との描写を否定できるだろうか。批判的精神を獲得するには、自身のなかにある認識論的、実存的、関係的不安をまず克服しなければならないのである。そうした安全感覚は、今の日本で広く与えられているであろうか』、「「経済格差は不可避であり、それどころか自然なものでさえある」という認識がその中心的なものとして含まれている。 その尺度によって人々の考えを測定した研究によれば、格差によって不利な状態にあり、いわば虐げられているものでさえ、今の仕組みは公正で正当であり、だから今の自分の境遇は仕方のないことと認めてしまうのである。これが自発的な隷従であるとジョン・ジョストは指摘」、「「システム正当化理論」では、歴史上、圧倒的多数の人々が反乱よりも屈服を選び、従属状態に順応してきたことが指摘されている」、その面では確かに正しいようだ。ただし、「システム正当化理論」では、政権交代が発生したことは説明し切れないようだ。原典では、アメリカ人が書いているので、きちんと書き込んでいるのかも知れないが、翻訳する段階でそうした部分を飛ばしている可能性もある。いずれにしても、翻訳されたものは、政権交代をきちんと説明しておらず、「理論」とよぶには問題があるようだ。
先ずは、2月11日付け週刊エコノミスト Online「集集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220209/se1/00m/020/003000d
・『「新しい資本主義」を議論するには、米国のネオリベラリズムの背景にある思想性、理論性、歴史性を理解する必要がある。 同時に日本においてネオリベラリズム政策やネオリベラリズムに基づくコーポレート・ガバナンスがどう導入されたかを明らかにしない限り、意味のある議論はできない』、興味深そうだ。
・『真の狙いは労働市場の自由化 日本にネオリベラリズムの政策を導入したのは小泉政権である。バブル崩壊後の長期低迷を打開する手段として「規制緩和」や「競争促進政策」が導入された。 だがネオリベラリズム政策の最大の狙いは、米国同様、労働市場の規制緩和であった。労働市場の自由化によって非正規労働や派遣労働の規制が大幅に自由化された。それは企業からすれば、大幅な労働コストの削減を意味した。 労働市場の自由化によって非正規雇用は大幅に増加した。1984年には非正規雇用は15.3%であったが、2020年には37.2%にまで増えている。非正規雇用のうち49%がパート、21.5%がアルバイト、13.3%が契約社員である(総務省「労働力調査」)。賃金も正規雇用と非正規雇用では大きな格差がある。 2019年の一般労働者の時給は1976円であるが、非正規労働者の時給は1307円である。600円以上の差がある。なお短期間労働に従事する非正規労働者の時給は1103円とさらに低い(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。岸田首相は最低賃金1000円(全国加重平均)を実現すると主張しているが、米国ではバイデン大統領は連邦最低賃金15㌦を目標に掲げている。 現在の為替相場で換算すると、約1700円に相当する。日米で時給700円の差がある。かりに最低賃金1000円が実現しても、非正規雇用は社会保険費など企業負担がなく実質手取りは1000円を下回り、とても最低賃金でまともな生活を送れないのが実情である』、実際の「最低賃金」は「全国加重平均」で31円引上げ、961円にすることになった(8月6日付け日経新聞)。
・『労働市場自由化の弊害を軽視した小泉改革 米国型コーポレート・ガバナンスの導入も日本に大きな影響を与えた。戦後の日本経済の成長を支えてきた「日本的経営」はバブル崩壊後、有効性を失ったと主張された。日本型経営では最大のステークホールダーは従業員であり、メインバンクであり、取引先であった。 株主は主要なステークホールダーとはみなされていなかった。だが米国型コーポレート・ガバナンスは株主中心に考えられ、日本でも企業価値、言い換えれば株価を上げることが経営者の責務と考えられるようになった。労働者は「変動費」であり、経営者は従業員の雇用を守るという意識を失っていった。 かつて経営者の責務は従業員の雇用を守ることだと言われていた。米国型コーポレート・ガバナンスは、日本の労使関係を根底から変えてしまった。同時に経営者は米国と同様に巨額の報酬を手にするようになる。 米国や英国では1900年代にはネオリベラリズム政策の弊害が目立ち始めていた。貧富の格差は急速に拡大し、深刻な社会問題を引き起こしつつあった。だが小泉改革では、そうした弊害について真剣に検討することなく、労働市場の自由化が強引に進められていった。 同時に終身雇用は破綻したとして、雇用の流動化が主張された。雇用の流動化は、言葉は魅力的だが、最も大きな恩恵を得るのは企業であって、従業員ではない。企業は高賃金の従業員に早期退職や転職、副業を勧めることで、大幅に労働コストを削減できる。 米国と違って日本では整備された転職市場が存在せず、さらに「同一労働同一賃金」や米国の401(k)のような「ポータブルな企業年金制度」などもなく、転職の負担はすべて従業員に掛かってくる』、「米国型コーポレート・ガバナンスの導入も日本に大きな影響」、「米国型コーポレート・ガバナンスは、日本の労使関係を根底から変えてしまった。同時に経営者は米国と同様に巨額の報酬を手にするようになる」、なるほど。
・『日本の企業内組合は交渉力を発揮できない 岸田首相がどのような「新しい資本主義」を構想しているのか定かではない。成長すれば、その成果が労働者にも及ぶという供給サイドの経済学が主張する“トリクルダウン効果”論は歴史的にも、理論的にも破綻している。 成長すれば、最終的に恩恵はすべての人に及ぶというのは幻想である。企業は常に賃金上昇を抑えようとする。決して温情で賃上げをするわけではない。過去の企業行動を見れば、日本で行われている「成長」と「分配」を巡る議論は空論そのものであることが分かる。 賃上げをした企業に税の優遇措置を講ずるという報道もなされている。かつて安倍晋三首相は経済団体に賃上げを行うよう要請したことがあるが、企業は応じなかった。経営者は従業員に対する“温情”から賃上げを実施することはないだろう。 従業員と労働者が正当な賃金を得るには、企業と拮抗できる組織と仕組みが必要である。日本の企業は正規社員を減らし、非正規社員を雇用することで労働コストを大幅に削減して利益を上げてきた。米国同様、その利益の多くは株主配当に向けられるか、内部留保として退蔵されてきた。 さらに経営者の報酬も大幅に引き上げられた。本来なら組合は正当な労働報酬を受け取る権利がある。米国の労働組合は産業別組合で企業との交渉力を持っているが、日本の労働組合は企業内組合では、企業に対する交渉力を発揮することは難しい。 日本の時間当たりの付加価値は世界23位(低賃金は生産性向上を妨げる。本来なら企業は賃金上昇によるコストを吸収するために生産性を上げる努力を行う。だが低賃金労働が使える限り、企業は資本コストの高い合理化投資を積極的に行わない。 企業は労働コストが上昇すれば、競争力が低下するために合理化投資を行わざるを得ない。大胆に言えば、日本企業の生産性が低いのは、賃金が安いからである。 先進国の中で日本の生産性は最も低い。2020年の1人当たりの日本の労働生産性はOECD38カ国のうち28位(7万8655㌦)で、24位の韓国(8万3378㌦)よりも低く、ポーランドやエストニアと同水準である(「労働生産性の国際比較2021、日本生産性本部」)。 また。日本の時間当たりの付加価値は49.5㌦で、23位である。1位のアイルランドは121㌦、7位の米国は80㌦である。韓国は32位で43㌦である。なぜ、ここまで低いのか』、「低賃金労働が使える限り、企業は資本コストの高い合理化投資を積極的に行わない。 企業は労働コストが上昇すれば、競争力が低下するために合理化投資を行わざるを得ない。大胆に言えば、日本企業の生産性が低いのは、賃金が安いからである」、その通りだ。
・『経営者報酬と配当を増やす経営が日本を弱くした 日本特有の給与体系も影響している。日本では基本給の水準が低いため、残業手当が付かなければ、十分な所得を得られない。その結果、同じアウトプットを生産するために、残業を増やして長時間労働を行うことになる。 それこそが低生産性の最大の要因の一つである。昨今、「働き方改革」で残業を削減する動きがみられるが、残業時間の短縮は残業の減少と所得の減少を意味する。短時間で同じ労働成果を上げることができれば、それは生産性向上を意味し、基本給の引き上げで従業員に還元されるべきものである。 だが、企業は所得が減った従業員に副業を推奨するという奇妙な議論が横行している。「労働の流動化」を口実に賃金引き下げと雇用の安定性が損なわれている。労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた』、「短時間で同じ労働成果を上げることができれば、それは生産性向上を意味し、基本給の引き上げで従業員に還元されるべきものである。 だが、企業は所得が減った従業員に副業を推奨するという奇妙な議論が横行している。「労働の流動化」を口実に賃金引き下げと雇用の安定性が損なわれている」、「労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた」、同感である。
・『存在価値を無くした日本の労働組合が低賃金の要因 米国と同様に日本でも労働組合参加率は低下の一途をたどっている。戦後の1949年には労働組合参加率は55%であった。その後、参加率は低下し、1980年代に20%台にまで低下した。 2021年の参加率は16.9%にまで低下している(労働組合基本調査)。米国ほどではないが、労働組合は急激に衰退し、社会的影響力の低下は目を覆うべき状態である。その背景には労働組合幹部が「労働貴族」となって特権を享受しているという“反労働組合キャンペーン”が行われたことが影響している。 労働組合は国民の支持を失い、現在では社会的存在感するなくなっている。日本の労働組合運動の衰退は世界でも際立っている。全くと言っていいほど企業に対する交渉力を失っている』、「連合」が立憲民主党と共産党の共闘に水を差し、他方で自民党にもシッポを振っているのは、連合の戦闘力喪失を表している。
・『日本で“スト”はもはや死語 高度経済成長期に賃金上げをリードしてきた「春闘方式」が崩壊し、企業内組合を軸とする労働組合は企業に取り込まれ、十分な交渉力を発揮できなくなった。労働組合運動は連合の結成で再編成されたが、連合はかつてのような影響力を発揮することができない。 目先の政治的な思惑に振り回されている。賃上げに関して十分な“理論武装”をすることもできず、ほぼ賃上げは経営者の言いなりに決定されているのが実情である。 労働組合の弱体化は「労働損失日」の統計に端的に反映されている。2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日であるのに対して、米国は2815日、カナダは1131日、英国は273日、ドイツは571日、韓国が552日である(労働政策研修機構『データブック国際労働比較2019』)。日本と同様に組合参加率が大幅に低下している米国ですら、賃上げや労働環境を巡って労働組合は経営と対立し、要求を実現している。 日本では“スト”はもはや死語となっている。格差是正や賃上げを要求する「主体」が日本には存在しないのである。その役割を政府に期待するのは、最初から無理な話である。それが実現できるとすれば、日本は社会主義国である』、「2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日」、というのは初めて知ったが、情けないことだ。
・『税制、最低賃金、非正規問題の構造的な見直し 労働市場で個人が企業と向かい合い、交渉することは不可能である。両者の間には圧倒的な力の差がある。だからこそルーズベルト大統領は労働者の団結権と団体交渉権を認め、全国労働関係委員会に労働争議の調整役を委ねたのである。小手先の制度改革ではネオリベラリズムの弊害を断ち切ることはできない。 バイデン大統領は中産階級の失地回復こそが格差是正の道であり、繁栄に至る道であると主張している。そのためには労働組合が企業に対して十分な交渉力を持つ必要があると説いている。 一人ひとりの働く人が、誠実に働けば、家族を養い、子供を教育し、ささやかな家を購入するに足る所得を得る制度を再構築することが必要である。非正規とパート労働で疲弊した国民は決して幸せになれない。平等な労働条件、公平な賃金、雇用の安定を実現することが「新しい資本主義」でなければならない。 貧富の格差拡大は社会を分断し、深刻な貧困問題を引き起こす。長期的には経済成長を損なうことになる。そうした事態を回避するには現在の制度の構造的な見直しが要である。 税制の見直しや最低賃金の引き上げに加え、正規労働者と非正規労働者に二分された労働市場の見直しも不可欠である。労働者や消費者などさまざまな立場の人の意見を反映させるようなコーポレート・ガバナンスを構築する必要がある』、「労働市場で個人が企業と向かい合い、交渉することは不可能である。両者の間には圧倒的な力の差がある。だからこそルーズベルト大統領は労働者の団結権と団体交渉権を認め、全国労働関係委員会に労働争議の調整役を委ねたのである。小手先の制度改革ではネオリベラリズムの弊害を断ち切ることはできない。 バイデン大統領は中産階級の失地回復こそが格差是正の道であり、繁栄に至る道であると主張している。そのためには労働組合が企業に対して十分な交渉力を持つ必要があると説いている」、「貧富の格差拡大は社会を分断し、深刻な貧困問題を引き起こす。長期的には経済成長を損なうことになる。そうした事態を回避するには現在の制度の構造的な見直しが要である。 税制の見直しや最低賃金の引き上げに加え、正規労働者と非正規労働者に二分された労働市場の見直しも不可欠である。労働者や消費者などさまざまな立場の人の意見を反映させるようなコーポレート・ガバナンスを構築する必要がある」、同感である。
・『ネオリベラリズムは「既得権構造」に浸透 ネオリベラルの発想から抜け出す時期に来ている。そのためには、労働規制、税制、コーポレート・ガバナンス、労働組合の役割などの見直しは不可欠である。特にコーポレート・ガバナンスに労働者や消費者などの意見が反映できるようにコーポレート・ガバナンスの改革は不可欠である。 米国におけるネオリベラリズムの検討でみたように、その背後には明確な国家観の違いが存在している。そうした大きな枠組みの議論抜きには、新しい展望は出てこないだろう。 ネオリベラリズムは既得権構造に深く組み込まれている。それを崩すには、社会経済構造を根底から変える必要がある。激しい抵抗に会うのは間違いない。これからの議論で岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われることになるだろう。 最後に一言、小泉改革以降のネオリベラリズムの政策で日本経済の成長率は高まっていない。経済成長はGDPの約80%を占める需要によって決まるのである。日本の長期にわたる低成長はネオリベラリズム政策や発想がもたらした必然的結果なのである』、「岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われる」、とあるが、それは期待し過ぎだ。立憲民主党から建設的な意見が出てきてほしいものだ。
次に、8月5日付け現代ビジネスが掲載した東洋大学社会学部社会心理学科教授の北村 英哉氏による「なぜ「経済的に恵まれない人」が「新自由主義を支持する」のか? 社会心理学が明らかにしたこと」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/98183?imp=0
・『自分にとって抑圧的な環境、不都合な状況なはずなのに、なぜかそこに適応してしまう。こうした態度を「自発的隷従」と呼ぶことがある。こうした自発的隷従のような態度について、社会心理学の見地から分析した、ジョン・ジョスト『システム正当化理論』(ちとせプレス)が刊行された。訳者の一人である東洋大学教授の北村英哉氏がその読みどころを解説する』、なるほど。
・『なぜ政権党は勝ち続けるのか? まさに今の時代に合っている。ジョン・ジョストが提唱する「システム正当化理論」、そんな風に考えた。この理論は、「なぜだか現状維持に走ってしまう人々」の生の現実的な姿をつかむことに長けている。 システム正当化理論は、社会心理学の理論である。これまでの社会心理学の理論では、多くの場合、人々は自分自身が属する内集団を好み、自集団の有利を期待し、その利得に合致する方向で行動するものだとされていた。しかし、システム正当化理論は、こうした従来の理論とは反対に、自分の利得にならない行動をする人々について、うまく説明することができるのである。 現在、そうした「自分の利得にならない行動」が目立っているように見える。たとえば、日本の場合、おおまかに語れば自民党などの政権党は、経営者や大企業などのすでに日本社会の中で、有利な地位を得ている人たちの利益代表であり、「金持ち」「貧しい」という二分法で言えば、明らかに富む者のための政策を行う集団である。 したがって合理的には、社会階層の高い者たちが自民党を支持し、社会階層が低い者たちは野党を支持するはずである。そして、階層の高い者、豊かな者は社会全体から見れば少数であるから、大多数のお金持ちではない庶民は野党を支持しないと原理的にはおかしいということになる。) しかし、7月におこなわれた選挙でも、そうした結果にはなっていない。必ずしも豊かとは言えない人々も自民党に票を入れていなければ、比例区において自民党が最大割合(35%ほど)を獲得するという結果にはならないだろう。 SNSでは、野党を支持する人たちから、こうした選択について「愚かな選択」だとか、「分かっていない」などの発言が繰り返される。近年のリベラル層には、「正しくはリベラル的な政党を支持すべきだ。それが分からないのは知識がないのか、考え間違いなどをしているか、愚かなことである」といった意見も見られる。 しかし、ある意味、自民党を政権党にするという選択は、ほぼ一貫して第二次大戦後の日本社会のデフォルトの通常風景であり続けた。70年以上、例外的な時期を除けば、現在の政権党にあたる勢力を全体としては、支持し続けているのである。 こうなってくると、そうした選択を単なる「間違い」で済ませるわけにはいかない。むしろ、そうした結果になってしまう理由を考えるべきであろう。それこそが、理性的な思考となるのではないか。 そして、その理由を考えるのに役に立つのが「システム正当化理論」である』、「自民党を政権党にするという選択は、ほぼ一貫して第二次大戦後の日本社会のデフォルトの通常風景であり続けた。70年以上、例外的な時期を除けば、現在の政権党にあたる勢力を全体としては、支持し続けているのである。 こうなってくると、そうした選択を単なる「間違い」で済ませるわけにはいかない。むしろ、そうした結果になってしまう理由を考えるべきであろう。それこそが、理性的な思考となるのではないか。 そして、その理由を考えるのに役に立つのが「システム正当化理論」、興味深そうだ。
・『人は現状維持を望む傾向がある:安全を求めて 人は現在の社会のあり方をそのまま受け入れ、維持する傾向がある。これをジョン・ジョストは「システム正当化」と呼んだ。今こうであることには意味があり、それが正しいことであると正当化してしまうのだ。 このシステム(≒現状)を正当化しようという動機の基盤には、「認識論的欲求」「実存的欲求」「関係的欲求」があるという。 その仕組みを理解するために、システムを認めず、正当化をしなかったらどうなるか考えてみよう。 ある種の社会では政治的な現状に異議申し立てを行い、現在の政府を批判すると弾圧を受けるような場合もある。あからさまな弾圧は存在しない民主主義の国であっても、すでに多くの人が現政権を支持する状態に生まれ育てば、それを支持しないと周囲の人たちから非難されるかもしれない。たとえもし、現在の政治が正しくなく、変えるべきであると考えて行動したとしても、その先、どうなるかはわからない。 実際、日本においても、2009年に政権交代が実現し、民主党政権ができたが、十分に国民の期待に応えた政策を実行できたかどうかまだよくわからない状態で、政権維持に行き詰まり、事実上、最後は政権を投げ出すような行いを示した。 もちろん、それまで数十年もの間自民党の長期政権が続いてきたという環境では、長期間にわたって自民党と強固に連携してきた行政組織や経済団体と、関係を容易に「交代」できるわけではなく、その抵抗にあえば、行政的に行き詰まりやすい。 政権交代がよい結果をもたらすかどうかは、結果論的にあとを待たないと分からない。常に未来は不透明である』、「日本においても、2009年に政権交代が実現し、民主党政権ができたが、十分に国民の期待に応えた政策を実行できたかどうかまだよくわからない状態で、政権維持に行き詰まり、事実上、最後は政権を投げ出すような行いを示した」、「政権交代がよい結果をもたらすかどうかは、結果論的にあとを待たないと分からない」、ただ、「政権交代」が起きたメカニズムについての説明がないのは残念だ。
・『「世の中が変わらなければ、生きていける」 以上の話には、先に述べた「3つの欲求」がすべて含まれている。 まずは認識論的欲求である。どうなるか見通しがわからない、認識的に不分明・不確実な状態は、認識論的欲求として「わかりやすい」「すでにあった」「今までどおりのやり方」への志向性を高めてしまう。わかりやすく言えば、「自分はこれまで生きてきた世の中が今のまま何も変わらなければ、明日も生きていけるだろう」という確実性への欲求が、現状維持、すなわち、システム正当化を志向させるのだ。 つぎに、実存的欲求について。現状を支持する限り、周囲からは何の圧力もかからないだろう。周囲と軋轢を生まなければ安全を脅かされることはない。声高に反対を表明したり、デモに参加したりすることは、職場によっては反感を買ったり、評価を下げたり、出世を妨げたりすると考える人もいるだろう。 逆に言えば、政権に対して反対の意思を示すのは、いくらかの勇気と決断力、そして、組織などから見放されても自分の力で生きていける自信がないと、チャレンジしにくいことである。日本人は概ね自己評価が低い。自己評価の低い者にとって、安全を捨てて、危険のなかに飛び込むのは、言ってみれば「映画のなかだけの出来事」であり、現実の自分が行うことは決してないのである。 特に日本ではリスクが嫌われる。リスクをとる覚悟で何かをやるのは、日本社会では「少し変わった人」である。多くの平凡な人たちは、「変わった人」になる勇気など持ってはいない。「ふつうが一番」なのである。そしてその「ふつう」とは政権党を支持することである。この「自身の安全を守りたい」という気持ちが、実存的欲求である。 「ふつう」でいないと職場や所属集団で「浮く」かもしれない。若者も「意識高いね」と皮肉られるのを嫌う。現在、「空気を読む」という傾向が若者の間で強まっていることを示す、筆者の調査データもある。そもそもとがった意見を言うこと、何かを批判することについて、日本では免疫に欠ける。 欧米のデータでさえ、この「関係的欲求」に基づき大勢の人はシステム正当化を行うというのがジョン・ジョストたちのデータだ。日本においても、同様に周囲の人たちから無難に受け入れられるようにシステムを正当化する様子が見られる。 以上がいつまでも政権党(自民党)が勝ち続ける理由だ。こうして記してみると、すでに誰もがわかっているだろう、実にシンプルな常識ではないだろうか。だが、このシステム正当化理論をおいてほかにこれをきちんと整理して、理論化した考え方がなかったのだ』、「特に日本ではリスクが嫌われる。リスクをとる覚悟で何かをやるのは、日本社会では「少し変わった人」である。多くの平凡な人たちは、「変わった人」になる勇気など持ってはいない。「ふつうが一番」なのである。そしてその「ふつう」とは政権党を支持することである。この「自身の安全を守りたい」という気持ちが、実存的欲求である」、「そもそもとがった意見を言うこと、何かを批判することについて、日本では免疫に欠ける。 欧米のデータでさえ、この「関係的欲求」に基づき大勢の人はシステム正当化を行うというのがジョン・ジョストたちのデータだ。日本においても、同様に周囲の人たちから無難に受け入れられるようにシステムを正当化する様子が見られる」、ただ、日本での「政権交代」は事実として述べただけで、メカニズム的な作用につては、説明がないのは残念だ。
・『「この集団を脱したい」という思い 自分が属する集団を「内集団」、自分が属さない集団を「外集団」という。この関係性を重視する社会的アイデンティティ理論では、人は自身の属する内集団をひいきすることが幾度も語られてきた。しかし、この点についても、システム正当化理論は異なる角度から社会を見つめる。そしてそこにも、自身が必ずしも得をしない政策を推進する政党を支持してしまったりする現象を説明する手がかりがある。 日本ではアメリカのスラムと異なり、貧困地区が明瞭に他と区別されるように存在することは減ってきているが、たとえばスラムに住む者が全員「自分たちの集団はすばらしい集団だ」と皆が考えるとは限らない。「いずれこの集団を脱出したい」と考える者たちもいることだろう。 ジョン・ジョストはこのように、人は自分が属する集団を必ずしも好むわけではないという、それまでの社会的アイデンティティ理論とは対立する現実に着目した。スラムのなかには「いつか成功してお金持ちになる」と思っている人もいる。彼らは、リッチな人々という、現在の時点では「外集団」である存在に憧れ、それらを好ましく思うのだ。一般の庶民であった者が芸能人に憧れ、いつか有名人になってリッチになることを夢見る場合も同様である。 自身が困難な状況にあるほど、そこから脱して望ましい状態に至ろうとする人もいるだろう。その場合、彼らにとって、恵まれた集団は「目標」であって、「批判」する対象とはならない。恵まれた人々(≒社会的に力を持っている人々)を批判したところで、結局、そのあと自分自身がどうなるかは認識論的に不確実であると考えられるからだ。 もちろん、狭い集団の範囲で見れば、内集団をひいきし、外集団を貶めたほうが、安全が守られるかもしれない。しかし、より広い社会を視野に入れた場合、恵まれた人々を批判すると、実存的にも安全が脅かされ、関係的にも(より広い範囲の)周囲から煙たがられ、嫌われるおそれ、可能性があるからだ。 女性の初期の社会進出の際、男性社会に同化するように、「男並み」の働きを目指して、結婚や家庭を持つことを犠牲にしてきた先駆者がいたのと同じ仕組みが働いているのである。この本ではこうしたジェンダーの問題も取り上げている。) そこで、恵まれない人々、不利な人々(の一部)は、恵まれた人々を目標として、努力することになる。こうして努力が成功を生むという神話が支持されることとなり、これは反転して、成功を得られなかった時に、「自分は努力が足らなかった。だから自己責任である」という自己責任論を招くことにもなるのだ。 日本において、いまほど、自己責任論が猛威を振るっている時代はなかっただろうと思われる。自己責任論は、経済的な自由や競争を重視する新自由主義的な考え方と相性がよい。自己責任論で自身の境遇を捉える限り、そこから新自由主義を否定する論理は立ち上がりにくい』、「自己責任論は、経済的な自由や競争を重視する新自由主義的な考え方と相性がよい」、その通りだ。
・『「外集団ひいき」のような状況 この不思議な「外集団ひいき」と言ってよいような状況、すなわち、本来ならば成功した長者が支持することの多い新自由主義に、経済的に恵まれない人たちが絡め取られていく様子を、システム正当化理論は描いている。 ちなみに、「システム」とひと口で言っても、実のところ、そこには政治システムのほかに、経済システムや社会文化システムがある。経済システムの正当化への志向性を測定する尺度項目には、「経済格差は不可避であり、それどころか自然なものでさえある」という認識がその中心的なものとして含まれている。 その尺度によって人々の考えを測定した研究によれば、格差によって不利な状態にあり、いわば虐げられているものでさえ、今の仕組みは公正で正当であり、だから今の自分の境遇は仕方のないことと認めてしまうのである。これが自発的な隷従であるとジョン・ジョストは指摘している。 かつて奴隷制があった時でさえ、それに反発して立ち上がった者のほうが、声をあげなかった者たちよりも圧倒的に少数である。フランス革命など世界史的な革命は、体制をくつがえす人間の力を証明するものとして注目を浴びるが、それ以前のずっとずっと長い間、人々は奴隷制や王政への隷従に堪え忍んできたわけであり、ある意味そうした格差社会に驚くべき順応を示してきたのである。 「システム正当化理論」では、歴史上、圧倒的多数の人々が反乱よりも屈服を選び、従属状態に順応してきたことが指摘されている。インドのカーストにおいて下層にある者がそれを当然と考えていたこと、西アフリカの事例においてもカーストに類する制度が廃止された後も、「ご主人さまから呼ばれたら、当然のようにすぐ飛んでくる」といった日常のあり方が続いたことが示されている。人々は現状である日常を「当然のものとして」受け入れ、そのなかで生きているという現実がある。 そして、社会文化的側面においても、システムを正当化する人たちは、これまでの習慣を守ろうとする。それは、夫婦同姓という制度であったり、男尊女卑の伝統的性役割であったりもする。フェミニズム運動も若い女性たちから嫌われる傾向が指摘されている。いまだに玉の輿のように、「幸せな結婚」を望む女性たちは巷にあふれている。 自ら差別状態に入っていっても、差別されているという実感を持たない不利な立場の人たちもいる。差別されている事実に気づくこと自体が、自分の心を傷つけてしまうからだ。 私たち日本で暮らしている人々も、こうした現状において「隷従を続けている」との描写を否定できるだろうか。批判的精神を獲得するには、自身のなかにある認識論的、実存的、関係的不安をまず克服しなければならないのである。そうした安全感覚は、今の日本で広く与えられているであろうか』、「「経済格差は不可避であり、それどころか自然なものでさえある」という認識がその中心的なものとして含まれている。 その尺度によって人々の考えを測定した研究によれば、格差によって不利な状態にあり、いわば虐げられているものでさえ、今の仕組みは公正で正当であり、だから今の自分の境遇は仕方のないことと認めてしまうのである。これが自発的な隷従であるとジョン・ジョストは指摘」、「「システム正当化理論」では、歴史上、圧倒的多数の人々が反乱よりも屈服を選び、従属状態に順応してきたことが指摘されている」、その面では確かに正しいようだ。ただし、「システム正当化理論」では、政権交代が発生したことは説明し切れないようだ。原典では、アメリカ人が書いているので、きちんと書き込んでいるのかも知れないが、翻訳する段階でそうした部分を飛ばしている可能性もある。いずれにしても、翻訳されたものは、政権交代をきちんと説明しておらず、「理論」とよぶには問題があるようだ。
タグ:(その3)(集集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望、なぜ「経済的に恵まれない人」が「新自由主義を支持する」のか? 社会心理学が明らかにしたこと) 新自由主義 週刊エコノミスト Online「集集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望」 実際の「最低賃金」は「全国加重平均」で31円引上げ、961円にすることになった(8月6日付け日経新聞) 「米国型コーポレート・ガバナンスの導入も日本に大きな影響」、「米国型コーポレート・ガバナンスは、日本の労使関係を根底から変えてしまった。同時に経営者は米国と同様に巨額の報酬を手にするようになる」、なるほど。 「低賃金労働が使える限り、企業は資本コストの高い合理化投資を積極的に行わない。 企業は労働コストが上昇すれば、競争力が低下するために合理化投資を行わざるを得ない。大胆に言えば、日本企業の生産性が低いのは、賃金が安いからである」、その通りだ。 「短時間で同じ労働成果を上げることができれば、それは生産性向上を意味し、基本給の引き上げで従業員に還元されるべきものである。 だが、企業は所得が減った従業員に副業を推奨するという奇妙な議論が横行している。「労働の流動化」を口実に賃金引き下げと雇用の安定性が損なわれている」、「労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた」、同感である。 「連合」が立憲民主党と共産党の共闘に水を差し、他方で自民党にもシッポを振っているのは、連合の戦闘力喪失を表している。 「2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日」、というのは初めて知ったが、情けないことだ。 「労働市場で個人が企業と向かい合い、交渉することは不可能である。両者の間には圧倒的な力の差がある。だからこそルーズベルト大統領は労働者の団結権と団体交渉権を認め、全国労働関係委員会に労働争議の調整役を委ねたのである。小手先の制度改革ではネオリベラリズムの弊害を断ち切ることはできない。 バイデン大統領は中産階級の失地回復こそが格差是正の道であり、繁栄に至る道であると主張している。そのためには労働組合が企業に対して十分な交渉力を持つ必要があると説いている」、「貧富の格差拡大は社会を分断し、深刻な貧困問題を引き 「貧富の格差拡大は社会を分断し、深刻な貧困問題を引き起こす。長期的には経済成長を損なうことになる。そうした事態を回避するには現在の制度の構造的な見直しが要である。 税制の見直しや最低賃金の引き上げに加え、正規労働者と非正規労働者に二分された労働市場の見直しも不可欠である。労働者や消費者などさまざまな立場の人の意見を反映させるようなコーポレート・ガバナンスを構築する必要がある」、同感である。 「岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われる」、とあるが、それは期待し過ぎだ。立憲民主党から建設的な意見が出てきてほしいものだ。 現代ビジネス 北村 英哉氏による「なぜ「経済的に恵まれない人」が「新自由主義を支持する」のか? 社会心理学が明らかにしたこと」 「自民党を政権党にするという選択は、ほぼ一貫して第二次大戦後の日本社会のデフォルトの通常風景であり続けた。70年以上、例外的な時期を除けば、現在の政権党にあたる勢力を全体としては、支持し続けているのである。 こうなってくると、そうした選択を単なる「間違い」で済ませるわけにはいかない。むしろ、そうした結果になってしまう理由を考えるべきであろう。それこそが、理性的な思考となるのではないか。 そして、その理由を考えるのに役に立つのが「システム正当化理論」、極めて興味深そうだ。 「日本においても、2009年に政権交代が実現し、民主党政権ができたが、十分に国民の期待に応えた政策を実行できたかどうかまだよくわからない状態で、政権維持に行き詰まり、事実上、最後は政権を投げ出すような行いを示した」、「政権交代がよい結果をもたらすかどうかは、結果論的にあとを待たないと分からない」、その通りだ。 「特に日本ではリスクが嫌われる。リスクをとる覚悟で何かをやるのは、日本社会では「少し変わった人」である。多くの平凡な人たちは、「変わった人」になる勇気など持ってはいない。「ふつうが一番」なのである。そしてその「ふつう」とは政権党を支持することである。この「自身の安全を守りたい」という気持ちが、実存的欲求である」、「そもそもとがった意見を言うこと、何かを批判することについて、日本では免疫に欠ける。 欧米のデータでさえ、この「関係的欲求」に基づき大勢の人はシステム正当化を行うというのがジョン・ジョストたちのデ 「自己責任論は、経済的な自由や競争を重視する新自由主義的な考え方と相性がよい」、その通りだ。 「「経済格差は不可避であり、それどころか自然なものでさえある」という認識がその中心的なものとして含まれている。 その尺度によって人々の考えを測定した研究によれば、格差によって不利な状態にあり、いわば虐げられているものでさえ、今の仕組みは公正で正当であり、だから今の自分の境遇は仕方のないことと認めてしまうのである。これが自発的な隷従であるとジョン・ジョストは指摘」、「「システム正当化理論」では、歴史上、圧倒的多数の人々が反乱よりも屈服を選び、従属状態に順応してきたことが指摘されている」、その面では確かに正し
不動産(その10)(空き家が増加中 高級住宅街「田園調布」の住民が 自らの首を絞めることとなった“建築協定”とは?、東京のオフィス賃料が来年下落?「2023年問題」が避けられない理由、財閥系デベロッパーのタワマン計画が頓挫…あまりにもズサンで横柄な「マンション地上げ失敗」の悲惨な末路) [産業動向]
不動産については、4月21日に取上げた。今日は、(その10)(空き家が増加中 高級住宅街「田園調布」の住民が 自らの首を絞めることとなった“建築協定”とは?、東京のオフィス賃料が来年下落?「2023年問題」が避けられない理由、財閥系デベロッパーのタワマン計画が頓挫…あまりにもズサンで横柄な「マンション地上げ失敗」の悲惨な末路)である。
先ずは、5月3日付け幻冬舎Gold Online「空き家が増加中。高級住宅街「田園調布」の住民が、自らの首を絞めることとなった“建築協定”とは?」を紹介しよう。
https://gentosha-go.com/articles/-/42647?per_page=1
・『近年、都内の高級住宅地に空き家が増加するという現象が起こっています。それはかつての高級住宅地の代名詞「田園調布」も例外ではありません。なぜ、空き家が増加しているのか? その原因のひとつである“建築協定”とはどんなものかについて解説します』、興味深そうだ。
・『渋沢栄一が創った理想住宅地「田園調布」 日本資本主義の父と謳われる渋沢栄一。1873年に自ら設立に携わった日本最初の銀行・第一国立銀行(現・みずほ銀行)の総監役に就任したのを皮切りに、次々と銀行の設立、経営を手がけました。その天賦の才を発揮するフィールドは銀行にとどまることを知らず、ガスや鉄道などのインフラ事業、貿易や保険、新聞など、産業革命後の日本人の暮らしを支える、あらゆる重要事業で活躍しました。 常に未来を見据え、進歩的な目線で社会システムの構築に取り組んだ渋沢栄一。彼が都市づくりを目的に設立した「田園都市株式会社」が開発したのが、現在の「田園調布」である「多摩川台住宅地」です。 イギリスの近代都市計画の祖と敬われている、エベネザー・ハワードというイギリス人社会改良家がいます。彼が1898年に提唱した、都市労働者が健全な生活を送るため、都市と田園の長所を兼ね備えた、自然の美と都市の機能が同時に享受できる理想都市論が「田園都市論」です。 この「田園都市論」を日本で応用しようと考えたのが渋沢栄一です。「田園調布」は1923年(大正12年)の誕生以降、昭和の高度経済成長期の一戸建て住宅需要の高まりとともに、高級住宅地の代名詞としてその名を高めていきました。 しかし、近年では「空き家」の増加、それに伴う住人の高年齢化などが懸念されています。なぜ? 人気住宅地として高名な「田園調布」で、「空き家」が増加したのでしょうか。その理由は“建築協定”にあります』、なるほど。
・『住民自らが取り決める“建築協定” 建築基準法(第69条~77条)に基づくまちづくりの制度のなかに、“建築協定”というものがあります。建築基準法で定められた国の基準に加えて、住民が自発的に基準を設けるのです。 建築物の形態や用途に関してルールを決めて、互いに守り、監視し合うことで、良好な住環境を永続させていくための制度です。「田園調布」の場合は、「田園調布憲章」という名のもとに、次のような基準が設けられています。 “●敷地は165平方メートル以上 ●建物の高さは9メートル、地上2階建てまで ●敷地周囲に原則として塀は設けず、植栽による生け垣。石材、コンクリートなどの塀の場合、高さ1.2メートル以下 ●一定面積の樹木による緑化。既存樹木は原則として残す ●外壁や屋根などの色は、地区の環境に調和した落ち着いたものとする ●道路や敷地境界線から1メートルには塀や門、看板など、緑化を妨げる工作物の設置禁止 ●ワンルームタイプの集合住宅は不可” (2016年10月6日付朝日新聞「(田園調布…高級住宅地の街:1)時間ゆるり、緑の邸宅街」より引用) つまり、「田園調布」では165平方メートル以上の敷地がなければ、住宅を建てることが出来ません。すなわち、土地の所有者が亡くなり、相続人が手放そうとした場合、土地を分割して売ることが難しいという問題が発生してしまうのです』、確かに「田園調布憲章」は、住民自治の基本で、「土地」細分化の歯止めにはなる反面、流動性を著しく小さくしてしまうようだ。
・『個人にも、不動産業者にも不都合な土地 例えば、相続人が300平方メートルの土地を売ろうとする場合、分割して売りに出し、各々にしっかり買い手を見つけることは非常に困難です。 なぜなら、最低165平方メートル以上の面積がなければ住宅を建てることができず、この面積を確保するとなると、残りは住宅を建てられる基準には広さが到底及ばず、適切な使途が見当たらないからです。 土地を分割せずに売るとしても、土地代があまりに高額すぎるため、購入できる層の母数がぐっと減ってしまい、こちらも買い手を見つけるのが非常に困難です。「田園調布」の300平方メートルの土地の相場は1億数千万円にも及ぶと言われています。 では、個人の住宅用ではなく、資金の準備がある不動産業者は買い手になるでしょうか。この場合も“建築協定”の「田園調布憲章」がネックとなります。 「建物の高さは9メートル、地上2階建てまで」とされているため、継続的な利益が見込める、高層マンションや商業ビルなどを建てることはできません。さらに、「ワンルームタイプの集合住宅は不可」とされているため、単身者向け住宅も建てられません。 このように、「田園調布」の土地は個人にとっても、不動産業者にとっても、手が出しづらい状況にあります』、「不動産業者にとっても、手が出しづらい状況」、これではどうしようもなさそうだ。
・『高額な相続税も、相続人のネックに 土地の価値が高いということは、それだけ相続税も高騰します。支払う余力がない場合には、相続した土地を担保に融資を受け、別の土地で不動産経営をするなど、工夫が必要です。また、リフォームをしてファミリー向け賃貸物件として経営するという選択肢もあります。 さらに、空き家が増え新しい住民が入らなくなると懸念されるのは、住民の高齢化です。「田園調布」は坂も多く、スーパーなどの商業施設は駅周辺にしかないことを考えると、高齢者にとって住みやすいとは決して言えない街でもあります。ですが、住民にとっては、このうえなく親しみのある街なのです。 戦前に誕生し、高度経済成長期の日本とともに成長し、様変わりしてきた「田園調布」。さらなる時代の変化とともに、新たな息吹が吹き込まれることを期待せずにはいられません』、「田園調布憲章」自体は、田園調布町会の自主基準で法的拘束力はないとはいえ、やはり住むためには順守が求められるだろう。私権への制限が少ない日本では例外的な存在だ。相続税などの問題はあるにせよ、既に保有している資産価値を守るには有効な策で、私は現在の行き過ぎた私権万能を制限する考え方は支持する。
次に、6月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したLIFULL HOME’S総合研究所・副所長チーフアナリストの中山登志朗氏による「東京のオフィス賃料が来年下落?「2023年問題」が避けられない理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304129
・『コロナ禍での「働き方改革」で東京のオフィス空室率が拡大 西暦2000年になるとコンピュータが誤作動する恐れがあるとされた「2000年問題(Y2K問題)」以降、「オフィス2003年問題」「国債償還期限2008年問題」「生産緑地2022年問題」など、毎年のように「20××年問題」と、火のないところに煙を立てるかのような話題作りが続けられてきた印象がある。 だが「東京のオフィス2023年問題」だけは、例外だと言わなければならないようだ。 コロナ前の2019年、東京のオフィス平均空室率は1%台で安定推移しており(しかも年間を通じてじりじりと縮小していた)、2019年12月には1.55%、新築ビルでも4.82%と、入居好不調目安の5%を下回るほどの好調を維持していた(三鬼商事調べ、以下同)。 また全国で見ても、新型コロナ感染者が発生し“Withコロナ”に突入した2020年2月時点で平均1.49%、新築ビル3.95%と順調かつ安定的な空室消化を示している。) しかし、それ以降はコロナ感染者の増加に初の緊急事態宣言の発出と、コロナ感染の急拡大状況を受けて東京のオフィス空室率は拡大の一途となり、同年8月には平均で3%、11月には4%を突破した。その後も東京のオフィス空室率は拡大を続け、1年後の2021年10月には6.47%(新築ビル14.03%/既存ビル6.39%)にまで達している。 新規に供給されるオフィスの空室率を見る上では5%、つまり95%埋まっているかどうかが市況の好不調の目安とされている。新築マンションの初月契約率については70%が売れ行きの好不調の目安とされるように、その数値自体にさしたる根拠はないのだが、コロナ禍における2021年のオフィス空室率の推移はその目安を上回る状況であり、少なくとも好調とは到底いえない状況だった。それだけオフィス市場に対するコロナの影響は直接的だったというべきだろう。 正確に言えば、コロナの影響というよりは、コロナによっていわゆる“働き方改革”が半強制的に推進されることとなり、テレワークが多くの企業で導入・実施されたことが影響したというべきだろう。 テレワークも当初は毎週1日程度の試験的な導入であったものが、コロナ禍の拡大によって毎週数日になり、政府や自治体、経団連などの団体からの要請も重なって、ついには原則として在宅で勤務し必要なときだけ出社するという就業形態を導入する企業が増えた。 特に東京はテレワークという働き方に親和性の高い規模の上場企業(就業者数が多い企業ほど導入率は高い傾向がある)、業種(情報・通信、金融・保険業などは特に親和性が高い)、およびエリア(こういった規模および業種は東京都内に本社を置いていることが圧倒的に多い)という条件がそろっており、テレワークの導入が加速度的に進んだことが、不要になったオフィスの返却、契約変更などに表れたものとみることができる。 余談ながら、筆者が所属する不動産ポータルサイトLIFULL HOME’Sを運営するLIFULLでも、コロナ禍の拡大とともに出社とテレワークの選択制からテレワーク推奨へ、さらに原則テレワークへと出社頻度が漸減し、宣言や措置が発出されていない現状においても出社するかどうかは部署ごとにコントロールするという比較的柔軟な体制が敷かれている。ノートPC1台とネット環境さえあればどこでも仕事ができるというIT関連企業ならではの仕事のスタイルといえるだろう(この原稿も自宅で会社のノートPCに向かって打ち込んでいる)。) 従来、オフィスは効率良くかつ快適に活用できることで、その利便性と利用価値をアピールし続けてきたわけだが、コロナ感染防止の観点から社員相互の直接交流が難しくなったことで、“場”としてのオフィスの役割は大きく変化したといえる。従業員全員を収容する必要が初めからないのであれば、オフィスはそれだけ少なくて済むし、リモートワークが促進されれば、賃料が高額な都心にオフィスを構える意味も薄らいでくるというものだ。 これまでのビジネス慣習によってなかなか推進することが難しかった“働き方改革”だが、コロナ禍に対応せざるを得なくなった各企業が試しに導入してみたら、意外にもすんなりとテレワークに移行できた結果、これまで必要だったオフィスが余るという現象が発生することになった。このためコロナ禍の長期化とともにオフィスの空室率が徐々に拡大していったものと考えられる。 これまでも六本木ヒルズや丸ビル、品川インターシティなど巨大な床が創出される大型オフィスビルの竣工によって、一時的に空室率が高まるという現象はあったが(リーマン・ショック時も一時的にオフィス空室率が拡大した)、コロナ禍においてこのような大規模オフィスが次々と竣工すればコロナ禍&テレワークの進捗によって需要が減少したオフィス市場は一体どうなってしまうのか…これが「東京のオフィス2023年問題」の端緒といえる』、「コロナ禍の長期化とともにオフィスの空室率が徐々に拡大」、「これが「東京のオフィス2023年問題」の端緒」、その通りだろう。
・『注目の常盤橋タワーでも開業時の空室率は10% コロナ以前の2018年からコロナ禍に突入した2020年にかけては、幸いなことにコロナ前から新たに供給されるオフィスに入居する企業が順調に決まっていたこと、またオフィスの大量供給がなく需要と供給のバランスが取れていたことなどにより、冒頭で述べた通り、オフィス空室率は極めて良好な水準で推移していた。 またこれも幸か不幸か、2021年および2022年は東京オリンピック・パラリンピックのインフラ整備による人手不足などで、以前から新規のオフィス供給が控えめだったこともあり、コロナ禍においても空室率が7%前後にとどまっていたという見方ができる。 だが、2023年以降は一転してオフィスの大量供給が始まるため、これらの新規の床をどのように吸収・活用するのか、もしくはできるのかということが焦点となる。 それを占う意味で重要なポイントと思われるのが、2021年に竣工・開業した浜松町駅に直結する「世界貿易センタービルディング南館」と大手町に誕生した三菱地所の「常盤橋タワー」の需給状況だ。 開業時の空室率は、「世界貿易センタービルディング南館」でおおむね15%、「常盤橋タワー」も10%と、コロナ禍の収束が見通せないこの時期にしてはかなり健闘したというべきだろう。 だが、「常盤橋タワー」のような知名度と最新設備、立地条件をもってしても、好不調の目安とされる5%に届かなかったという事実は、今後のオフィス大量供給についてネガティブな印象を与える可能性が高いとみるべきだ。 これまで“去る者は追わず”だったオフィスの供給サイドも、新たな借り手探しが難しいと考えれば、入居企業が去ることを引き留めようとするだろう。その結果、オフィス市場は貸し手市場から借り手市場へと急激にシフトし、オフィス賃料が低下することになる』、「開業時の空室率は、「世界貿易センタービルディング南館」でおおむね15%、「常盤橋タワー」も10%」、とはやはり「借り手市場へと急激にシフトし、オフィス賃料が低下することになる」のだろう。
・『2023年以降に完成予定の主な大規模開発案件とは では、実際に2023年以降完成予定の主な大規模開発案件とはどういったものがあるのか。 先ず先頭を切るのは、森ビルが事業参画する「虎ノ門ヒルズステーションタワー・虎ノ門・麻布台プロジェクト」で、2023年7月(A-1/A-3街区)および11月(A-2街区)が竣工・開業する。 虎ノ門ヒルズステーションタワーの総床面積は合計で約33万平方メートルとされており、虎ノ門ヒルズプロジェクト全体では約80万平方メートルの床が創出されることになるから、森ビルのアプローチ次第ではあるものの、一気にオフィス床の流動化が発生する可能性が高まることは想像に難くない。 以降も、JR東日本が手掛ける総床面積約21万平方メートルの「高輪ゲートウェイシティ」が2025年3月竣工予定、三井不動産と野村不動産のJVで進行する総床面積約38万平方メートルの「日本橋一丁目中地区再開発・東京駅前八重洲一丁目東地区市街地再開発・八重洲二丁目中築第一種市街地再開発」が2026年3月竣工予定、三菱地所が日本最高層のオフィスとして建築する「TOKYO TORCH(東京トーチ)」のシンボルとなる地上63階/高さ約390m、総床面積約54万平方メートルのTORCH TOWERが2027年度竣工予定などとなっている。 ほかにも再開発が進む浜松町~田町エリアでも多くの計画が進んでいることから、巨大オフィスが2023年以降続々と新たなオフィス床を創出し続けることになる。 これら最新の設備と仕様を誇る超高層オフィスビルは、当然のことながら賃料も周辺相場より格段に高額な水準となることが想定されるから、与信および信用力が担保できる大手企業以外に入居を検討するところはほぼ皆無であろうし、オフィスの移転(特に本社機能の移転)には多くの時間と労力を要することから、2027年度竣工予定のTORCH TOWERにおいても既に水面下での入居交渉が始まっている。 供給サイドもコロナ禍でのオフィス需要の厳しさは把握しており、ワンフロア全てではなく小分けにして活用できるように工夫したり、複数の企業がオフィスの一部を共同使用できるようにしたり、オフィス・インテリアごと貸せるようにしたりとあの手この手で需要を喚起しようとしているようだ。 東京都内の企業では2022年4月以降、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出されていなくてもテレワークは今も継続しており(コロナ前の就業体制へ一気に戻すと再びコロナ感染が拡大する局面に対応しにくくなるため)、東京のオフィス需要は依然として厳しい状況に変わりはないといえる。 この状況下で、上記に掲出したオフィスビルだけでも合計200万平方メートル弱もの新規の床が創出されることになれば、「東京のオフィス2023年問題」(正確には2023年以降も続くのだが)は現実味を帯びて迫ってくることになる。 折悪しく、ロシアのウクライナ侵攻による資材・食料価格の高騰や日米の政策金利の格差拡大による円安が発生し、その多くを輸入に頼らざるを得ない資材・エネルギー価格の高騰が足元で起きているから、オフィスのテナントとして想定される多くの企業で今後の業績の悪化が懸念されている。 コロナ禍によるテレワークの実施・定着、円安などによる企業業績の悪化、物価の上昇傾向など、オフィス環境を取り巻く状況は決して芳しくはない。果たしてオフィス開発を手掛ける各デベロッパーにはこの状況を乗り越える手段があるのか、今後の推移を注視したい。 コロナが明けて外資の日本での動きが本格化すれば、「東京のオフィス2023年問題」などあっという間に雲散霧消するとうそぶく業界関係者もいるにはいるのだが…。 (記事は個人の見解であり、執筆者が所属する会社の見解を示すものではありません)』、「上記に掲出したオフィスビルだけでも合計200万平方メートル弱もの新規の床が創出されることになれば、「東京のオフィス2023年問題」・・・は現実味を帯びて迫ってくることになる」、「オフィスのテナントとして想定される多くの企業で今後の業績の悪化が懸念されている。 コロナ禍によるテレワークの実施・定着、円安などによる企業業績の悪化、物価の上昇傾向など、オフィス環境を取り巻く状況は決して芳しくはない」、「環境」は本当に厳しくなりそうだ。
第三に、8月8日付け現代ビジネス「財閥系デベロッパーのタワマン計画が頓挫…あまりにもズサンで横柄な「マンション地上げ失敗」の悲惨な末路」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/98344?imp=0
・『財閥系デベロッパーによるタワマン計画はなぜ頓挫したのか。前編記事「有名タレントが住む都心の超一等地に建つマンションが、なぜか空室だらけ…廃墟寸前のヤバすぎる実態」に続き、「マンション地上げ」の詳細をお伝えする』、興味深そうだ。
・『住民側に不利な設定が次々発覚 都心の超一等地に立つマンションの住人たちに対し、財閥系デベロッパーのM社側から、徐々に詳しい建て替え計画の内容が提示されていく。ただ、区分所有者の中には「2000万円以上の負担なんて、おかしいのではないか」「この場所で住戸数も倍近くに増えるのだから、負担がゼロでも可能ではないのか」といった意見が出るようになる。 そのマンションに住む岸先生(仮名)の職業は弁護士である。彼も疑問に思うところがあり、計画案の内容を細かくチェックしていった。 すると、さまざまな疑問点が浮かび上がってきた。区分所有者側には著しく不利で、賃貸住戸を所有する不動産会社のS社や、開発するM社側に有利に設定されている部分が、いくつも見つかったのだ。 例えば、区分所有者の現有住戸の権利は内法面積を基にしているのに、建て替え後の取得住戸の面積は壁芯が基準となっていた。壁芯とは躯体である鉄筋コンクリートの真ん中のこと。壁芯で面積を測ると、実際の有効面積である内法と比べると5~10%前後広くなる。 それは建築や不動産の業界にいる人なら誰でも知っていること。ただし、一般の方には知らない人も多い。 要するに、S社とM社は区分所有者たちを舐めてかかった、という疑いが濃厚であった。 岸先生の指摘に、M社側はしどろもどろとなる。彼らのあまりにもズサンな計画と横柄な対応に、区分所有者たちの間に不信感が広まる。当然、反対派グループが形成された。そのリーダー格はもちろん岸先生である。 そうこうするうち、反対派の区分所有者たちの元には怪しい社名を名乗る業者から、頻繁に電話がかかってくるようになった。 「そちらの住戸を買わせてください」 いくらで買いたいの、と聞くと「どうぞ金額をおっしゃってください。その値段で買わせていただきます」。 地上げ屋の登場である。 反対派の所有住戸を買い進めていき、建て替えを強行できる5分の4をめざそうというのだ。後手に回ったM社側の、苦し紛れの手だてだったのだろう。 しかし、地上げ屋に売却する区分所有者はほとんどいなかったそうだ。 やがて岸先生は、M社やS社側の手続き上などの不法行為を追及する訴訟を、いくつも提起。何といっても現役弁護士である岸先生本人が区分所有者の一人として、訴訟の原告になっているのだ。訴訟を起こす心理的、金銭的負担は一般人に比べると極めて軽微。すでにそれらの訴訟の一部では勝訴の判決も出ている』、「計画案の内容を細かくチェックしていった。 すると、さまざまな疑問点が浮かび上がってきた。区分所有者側には著しく不利で、賃貸住戸を所有する不動産会社のS社や、開発するM社側に有利に設定されている部分が、いくつも見つかったのだ」、「壁芯が基準となっていた」「実際の有効面積である内法と比べると5~10%前後広くなる」、「岸先生の指摘に、M社側はしどろもどろとなる」、「地上げ屋の登場」、と「不動産会社のS社や、開発するM社側」の対応は余りにお粗末だ。
・『完全に失敗した財閥系デベの策略 計画案が示されてから、すでに何年もの年月が経過している。建て替え計画は一向に前進する気配がない。それどころか、M社側は建て替えによる再開発を諦めたふしもある。 岸先生によると、最近そのマンションを売却して引っ越した人が2組ほどあったそうだ。 「M社系の地上げ屋に売ったのですか?」と私が聞くと、「いや、そうではない一般人が買ったみたいだね」と岸先生。 金額は、私が数年前に「先生、3億円以上で売れますよ」と半ば冗談で示した額よりも3割強は高くなっていた。その間、東京都心のマンション価格は値上がりを続けているのだ。 どうやらそのマンションの地上げは、今のところ完全に失敗した様子である。 それにしても、惜しい話だと思う。あれだけの一等地の物件が「幽霊マンション」として、ほとんど使われていないのだ。権利全体では半分前後を所有するS社は、貴重な超一等地の資産を寝かせたままにしておかざるを得ない。相当な固定資産税や都市計画税がかかっているはずだ。 M社も、建て替えが成功すれば都心の目玉物件にできた案件を、ズサンな仕事を仕掛けたばかりに逃してしまった状態。 地上げというのは、平成バブルの時代はよく話題になった。嫌がる権利者から半ば暴力的に物件を買い取る、というイメージだった。 しかし、時代は変わっている。 逆に今は、不動産を活用するために重要な役割を担う仕事になっている。地上げを丁寧に、誠実に行うことで生かされる不動産は多い。また権利を売り渡す側にとってのメリットも創り出せる。 だが残念なことに、この岸先生のマンションは何とも悲惨な失敗例といえよう。 誰の利益にもならず、超一等地の不動産がいつまでも「幽霊」のままになっている』、「権利全体では半分前後を所有するS社は、貴重な超一等地の資産を寝かせたままにしておかざるを得ない。相当な固定資産税や都市計画税がかかっているはずだ。 M社も、建て替えが成功すれば都心の目玉物件にできた案件を、ズサンな仕事を仕掛けたばかりに逃してしまった状態」、「超一等地の不動産がいつまでも「幽霊」のままになっている」、まるで夏向きのミステリーだ。
第三に、8月8日付け現代ビジネス「財閥系デベロッパーのタワマン計画が頓挫…あまりにもズサンで横柄な「マンション地上げ失敗」の悲惨な末路」を紹介しよう。
・『財閥系デベロッパーによるタワマン計画はなぜ頓挫したのか。前編記事「有名タレントが住む都心の超一等地に建つマンションが、なぜか空室だらけ…廃墟寸前のヤバすぎる実態」に続き、「マンション地上げ」の詳細をお伝えする』、興味深そうだ。
・『住民側に不利な設定が次々発覚 都心の超一等地に立つマンションの住人たちに対し、財閥系デベロッパーのM社側から、徐々に詳しい建て替え計画の内容が提示されていく。ただ、区分所有者の中には「2000万円以上の負担なんて、おかしいのではないか」「この場所で住戸数も倍近くに増えるのだから、負担がゼロでも可能ではないのか」といった意見が出るようになる。 そのマンションに住む岸先生(仮名)の職業は弁護士である。彼も疑問に思うところがあり、計画案の内容を細かくチェックしていった。 すると、さまざまな疑問点が浮かび上がってきた。区分所有者側には著しく不利で、賃貸住戸を所有する不動産会社のS社や、開発するM社側に有利に設定されている部分が、いくつも見つかったのだ。 例えば、区分所有者の現有住戸の権利は内法面積を基にしているのに、建て替え後の取得住戸の面積は壁芯が基準となっていた。壁芯とは躯体である鉄筋コンクリートの真ん中のこと。壁芯で面積を測ると、実際の有効面積である内法と比べると5~10%前後広くなる。 それは建築や不動産の業界にいる人なら誰でも知っていること。ただし、一般の方には知らない人も多い。 要するに、S社とM社は区分所有者たちを舐めてかかった、という疑いが濃厚であった。 岸先生の指摘に、M社側はしどろもどろとなる。彼らのあまりにもズサンな計画と横柄な対応に、区分所有者たちの間に不信感が広まる。当然、反対派グループが形成された。そのリーダー格はもちろん岸先生である。 そうこうするうち、反対派の区分所有者たちの元には怪しい社名を名乗る業者から、頻繁に電話がかかってくるようになった。 「そちらの住戸を買わせてください」 いくらで買いたいの、と聞くと「どうぞ金額をおっしゃってください。その値段で買わせていただきます」。 地上げ屋の登場である。 反対派の所有住戸を買い進めていき、建て替えを強行できる5分の4をめざそうというのだ。後手に回ったM社側の、苦し紛れの手だてだったのだろう。 しかし、地上げ屋に売却する区分所有者はほとんどいなかったそうだ。 やがて岸先生は、M社やS社側の手続き上などの不法行為を追及する訴訟を、いくつも提起。何といっても現役弁護士である岸先生本人が区分所有者の一人として、訴訟の原告になっているのだ。訴訟を起こす心理的、金銭的負担は一般人に比べると極めて軽微。すでにそれらの訴訟の一部では勝訴の判決も出ている』、信じられないようなお粗末さだ。
・『完全に失敗した財閥系デベの策略 計画案が示されてから、すでに何年もの年月が経過している。建て替え計画は一向に前進する気配がない。それどころか、M社側は建て替えによる再開発を諦めたふしもある。 岸先生によると、最近そのマンションを売却して引っ越した人が2組ほどあったそうだ。 「M社系の地上げ屋に売ったのですか?」と私が聞くと、「いや、そうではない一般人が買ったみたいだね」と岸先生。 金額は、私が数年前に「先生、3億円以上で売れますよ」と半ば冗談で示した額よりも3割強は高くなっていた。その間、東京都心のマンション価格は値上がりを続けているのだ。 どうやらそのマンションの地上げは、今のところ完全に失敗した様子である。 それにしても、惜しい話だと思う。あれだけの一等地の物件が「幽霊マンション」として、ほとんど使われていないのだ。権利全体では半分前後を所有するS社は、貴重な超一等地の資産を寝かせたままにしておかざるを得ない。相当な固定資産税や都市計画税がかかっているはずだ。 M社も、建て替えが成功すれば都心の目玉物件にできた案件を、ズサンな仕事を仕掛けたばかりに逃してしまった状態。 地上げというのは、平成バブルの時代はよく話題になった。嫌がる権利者から半ば暴力的に物件を買い取る、というイメージだった。 しかし、時代は変わっている。 逆に今は、不動産を活用するために重要な役割を担う仕事になっている。地上げを丁寧に、誠実に行うことで生かされる不動産は多い。また権利を売り渡す側にとってのメリットも創り出せる。 だが残念なことに、この岸先生のマンションは何とも悲惨な失敗例といえよう。 誰の利益にもならず、超一等地の不動産がいつまでも「幽霊」のままになっている』、「あれだけの一等地の物件が「幽霊マンション」として、ほとんど使われていないのだ。権利全体では半分前後を所有するS社は、貴重な超一等地の資産を寝かせたままにしておかざるを得ない。相当な固定資産税や都市計画税がかかっているはずだ。 M社も、建て替えが成功すれば都心の目玉物件にできた案件を、ズサンな仕事を仕掛けたばかりに逃してしまった状態」、「S社」と「M社」が欲の皮を突っ張らせた代償を払っていると考えるべきだ。
なお、明日は更新を休むので、明後日にご期待を!
先ずは、5月3日付け幻冬舎Gold Online「空き家が増加中。高級住宅街「田園調布」の住民が、自らの首を絞めることとなった“建築協定”とは?」を紹介しよう。
https://gentosha-go.com/articles/-/42647?per_page=1
・『近年、都内の高級住宅地に空き家が増加するという現象が起こっています。それはかつての高級住宅地の代名詞「田園調布」も例外ではありません。なぜ、空き家が増加しているのか? その原因のひとつである“建築協定”とはどんなものかについて解説します』、興味深そうだ。
・『渋沢栄一が創った理想住宅地「田園調布」 日本資本主義の父と謳われる渋沢栄一。1873年に自ら設立に携わった日本最初の銀行・第一国立銀行(現・みずほ銀行)の総監役に就任したのを皮切りに、次々と銀行の設立、経営を手がけました。その天賦の才を発揮するフィールドは銀行にとどまることを知らず、ガスや鉄道などのインフラ事業、貿易や保険、新聞など、産業革命後の日本人の暮らしを支える、あらゆる重要事業で活躍しました。 常に未来を見据え、進歩的な目線で社会システムの構築に取り組んだ渋沢栄一。彼が都市づくりを目的に設立した「田園都市株式会社」が開発したのが、現在の「田園調布」である「多摩川台住宅地」です。 イギリスの近代都市計画の祖と敬われている、エベネザー・ハワードというイギリス人社会改良家がいます。彼が1898年に提唱した、都市労働者が健全な生活を送るため、都市と田園の長所を兼ね備えた、自然の美と都市の機能が同時に享受できる理想都市論が「田園都市論」です。 この「田園都市論」を日本で応用しようと考えたのが渋沢栄一です。「田園調布」は1923年(大正12年)の誕生以降、昭和の高度経済成長期の一戸建て住宅需要の高まりとともに、高級住宅地の代名詞としてその名を高めていきました。 しかし、近年では「空き家」の増加、それに伴う住人の高年齢化などが懸念されています。なぜ? 人気住宅地として高名な「田園調布」で、「空き家」が増加したのでしょうか。その理由は“建築協定”にあります』、なるほど。
・『住民自らが取り決める“建築協定” 建築基準法(第69条~77条)に基づくまちづくりの制度のなかに、“建築協定”というものがあります。建築基準法で定められた国の基準に加えて、住民が自発的に基準を設けるのです。 建築物の形態や用途に関してルールを決めて、互いに守り、監視し合うことで、良好な住環境を永続させていくための制度です。「田園調布」の場合は、「田園調布憲章」という名のもとに、次のような基準が設けられています。 “●敷地は165平方メートル以上 ●建物の高さは9メートル、地上2階建てまで ●敷地周囲に原則として塀は設けず、植栽による生け垣。石材、コンクリートなどの塀の場合、高さ1.2メートル以下 ●一定面積の樹木による緑化。既存樹木は原則として残す ●外壁や屋根などの色は、地区の環境に調和した落ち着いたものとする ●道路や敷地境界線から1メートルには塀や門、看板など、緑化を妨げる工作物の設置禁止 ●ワンルームタイプの集合住宅は不可” (2016年10月6日付朝日新聞「(田園調布…高級住宅地の街:1)時間ゆるり、緑の邸宅街」より引用) つまり、「田園調布」では165平方メートル以上の敷地がなければ、住宅を建てることが出来ません。すなわち、土地の所有者が亡くなり、相続人が手放そうとした場合、土地を分割して売ることが難しいという問題が発生してしまうのです』、確かに「田園調布憲章」は、住民自治の基本で、「土地」細分化の歯止めにはなる反面、流動性を著しく小さくしてしまうようだ。
・『個人にも、不動産業者にも不都合な土地 例えば、相続人が300平方メートルの土地を売ろうとする場合、分割して売りに出し、各々にしっかり買い手を見つけることは非常に困難です。 なぜなら、最低165平方メートル以上の面積がなければ住宅を建てることができず、この面積を確保するとなると、残りは住宅を建てられる基準には広さが到底及ばず、適切な使途が見当たらないからです。 土地を分割せずに売るとしても、土地代があまりに高額すぎるため、購入できる層の母数がぐっと減ってしまい、こちらも買い手を見つけるのが非常に困難です。「田園調布」の300平方メートルの土地の相場は1億数千万円にも及ぶと言われています。 では、個人の住宅用ではなく、資金の準備がある不動産業者は買い手になるでしょうか。この場合も“建築協定”の「田園調布憲章」がネックとなります。 「建物の高さは9メートル、地上2階建てまで」とされているため、継続的な利益が見込める、高層マンションや商業ビルなどを建てることはできません。さらに、「ワンルームタイプの集合住宅は不可」とされているため、単身者向け住宅も建てられません。 このように、「田園調布」の土地は個人にとっても、不動産業者にとっても、手が出しづらい状況にあります』、「不動産業者にとっても、手が出しづらい状況」、これではどうしようもなさそうだ。
・『高額な相続税も、相続人のネックに 土地の価値が高いということは、それだけ相続税も高騰します。支払う余力がない場合には、相続した土地を担保に融資を受け、別の土地で不動産経営をするなど、工夫が必要です。また、リフォームをしてファミリー向け賃貸物件として経営するという選択肢もあります。 さらに、空き家が増え新しい住民が入らなくなると懸念されるのは、住民の高齢化です。「田園調布」は坂も多く、スーパーなどの商業施設は駅周辺にしかないことを考えると、高齢者にとって住みやすいとは決して言えない街でもあります。ですが、住民にとっては、このうえなく親しみのある街なのです。 戦前に誕生し、高度経済成長期の日本とともに成長し、様変わりしてきた「田園調布」。さらなる時代の変化とともに、新たな息吹が吹き込まれることを期待せずにはいられません』、「田園調布憲章」自体は、田園調布町会の自主基準で法的拘束力はないとはいえ、やはり住むためには順守が求められるだろう。私権への制限が少ない日本では例外的な存在だ。相続税などの問題はあるにせよ、既に保有している資産価値を守るには有効な策で、私は現在の行き過ぎた私権万能を制限する考え方は支持する。
次に、6月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したLIFULL HOME’S総合研究所・副所長チーフアナリストの中山登志朗氏による「東京のオフィス賃料が来年下落?「2023年問題」が避けられない理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304129
・『コロナ禍での「働き方改革」で東京のオフィス空室率が拡大 西暦2000年になるとコンピュータが誤作動する恐れがあるとされた「2000年問題(Y2K問題)」以降、「オフィス2003年問題」「国債償還期限2008年問題」「生産緑地2022年問題」など、毎年のように「20××年問題」と、火のないところに煙を立てるかのような話題作りが続けられてきた印象がある。 だが「東京のオフィス2023年問題」だけは、例外だと言わなければならないようだ。 コロナ前の2019年、東京のオフィス平均空室率は1%台で安定推移しており(しかも年間を通じてじりじりと縮小していた)、2019年12月には1.55%、新築ビルでも4.82%と、入居好不調目安の5%を下回るほどの好調を維持していた(三鬼商事調べ、以下同)。 また全国で見ても、新型コロナ感染者が発生し“Withコロナ”に突入した2020年2月時点で平均1.49%、新築ビル3.95%と順調かつ安定的な空室消化を示している。) しかし、それ以降はコロナ感染者の増加に初の緊急事態宣言の発出と、コロナ感染の急拡大状況を受けて東京のオフィス空室率は拡大の一途となり、同年8月には平均で3%、11月には4%を突破した。その後も東京のオフィス空室率は拡大を続け、1年後の2021年10月には6.47%(新築ビル14.03%/既存ビル6.39%)にまで達している。 新規に供給されるオフィスの空室率を見る上では5%、つまり95%埋まっているかどうかが市況の好不調の目安とされている。新築マンションの初月契約率については70%が売れ行きの好不調の目安とされるように、その数値自体にさしたる根拠はないのだが、コロナ禍における2021年のオフィス空室率の推移はその目安を上回る状況であり、少なくとも好調とは到底いえない状況だった。それだけオフィス市場に対するコロナの影響は直接的だったというべきだろう。 正確に言えば、コロナの影響というよりは、コロナによっていわゆる“働き方改革”が半強制的に推進されることとなり、テレワークが多くの企業で導入・実施されたことが影響したというべきだろう。 テレワークも当初は毎週1日程度の試験的な導入であったものが、コロナ禍の拡大によって毎週数日になり、政府や自治体、経団連などの団体からの要請も重なって、ついには原則として在宅で勤務し必要なときだけ出社するという就業形態を導入する企業が増えた。 特に東京はテレワークという働き方に親和性の高い規模の上場企業(就業者数が多い企業ほど導入率は高い傾向がある)、業種(情報・通信、金融・保険業などは特に親和性が高い)、およびエリア(こういった規模および業種は東京都内に本社を置いていることが圧倒的に多い)という条件がそろっており、テレワークの導入が加速度的に進んだことが、不要になったオフィスの返却、契約変更などに表れたものとみることができる。 余談ながら、筆者が所属する不動産ポータルサイトLIFULL HOME’Sを運営するLIFULLでも、コロナ禍の拡大とともに出社とテレワークの選択制からテレワーク推奨へ、さらに原則テレワークへと出社頻度が漸減し、宣言や措置が発出されていない現状においても出社するかどうかは部署ごとにコントロールするという比較的柔軟な体制が敷かれている。ノートPC1台とネット環境さえあればどこでも仕事ができるというIT関連企業ならではの仕事のスタイルといえるだろう(この原稿も自宅で会社のノートPCに向かって打ち込んでいる)。) 従来、オフィスは効率良くかつ快適に活用できることで、その利便性と利用価値をアピールし続けてきたわけだが、コロナ感染防止の観点から社員相互の直接交流が難しくなったことで、“場”としてのオフィスの役割は大きく変化したといえる。従業員全員を収容する必要が初めからないのであれば、オフィスはそれだけ少なくて済むし、リモートワークが促進されれば、賃料が高額な都心にオフィスを構える意味も薄らいでくるというものだ。 これまでのビジネス慣習によってなかなか推進することが難しかった“働き方改革”だが、コロナ禍に対応せざるを得なくなった各企業が試しに導入してみたら、意外にもすんなりとテレワークに移行できた結果、これまで必要だったオフィスが余るという現象が発生することになった。このためコロナ禍の長期化とともにオフィスの空室率が徐々に拡大していったものと考えられる。 これまでも六本木ヒルズや丸ビル、品川インターシティなど巨大な床が創出される大型オフィスビルの竣工によって、一時的に空室率が高まるという現象はあったが(リーマン・ショック時も一時的にオフィス空室率が拡大した)、コロナ禍においてこのような大規模オフィスが次々と竣工すればコロナ禍&テレワークの進捗によって需要が減少したオフィス市場は一体どうなってしまうのか…これが「東京のオフィス2023年問題」の端緒といえる』、「コロナ禍の長期化とともにオフィスの空室率が徐々に拡大」、「これが「東京のオフィス2023年問題」の端緒」、その通りだろう。
・『注目の常盤橋タワーでも開業時の空室率は10% コロナ以前の2018年からコロナ禍に突入した2020年にかけては、幸いなことにコロナ前から新たに供給されるオフィスに入居する企業が順調に決まっていたこと、またオフィスの大量供給がなく需要と供給のバランスが取れていたことなどにより、冒頭で述べた通り、オフィス空室率は極めて良好な水準で推移していた。 またこれも幸か不幸か、2021年および2022年は東京オリンピック・パラリンピックのインフラ整備による人手不足などで、以前から新規のオフィス供給が控えめだったこともあり、コロナ禍においても空室率が7%前後にとどまっていたという見方ができる。 だが、2023年以降は一転してオフィスの大量供給が始まるため、これらの新規の床をどのように吸収・活用するのか、もしくはできるのかということが焦点となる。 それを占う意味で重要なポイントと思われるのが、2021年に竣工・開業した浜松町駅に直結する「世界貿易センタービルディング南館」と大手町に誕生した三菱地所の「常盤橋タワー」の需給状況だ。 開業時の空室率は、「世界貿易センタービルディング南館」でおおむね15%、「常盤橋タワー」も10%と、コロナ禍の収束が見通せないこの時期にしてはかなり健闘したというべきだろう。 だが、「常盤橋タワー」のような知名度と最新設備、立地条件をもってしても、好不調の目安とされる5%に届かなかったという事実は、今後のオフィス大量供給についてネガティブな印象を与える可能性が高いとみるべきだ。 これまで“去る者は追わず”だったオフィスの供給サイドも、新たな借り手探しが難しいと考えれば、入居企業が去ることを引き留めようとするだろう。その結果、オフィス市場は貸し手市場から借り手市場へと急激にシフトし、オフィス賃料が低下することになる』、「開業時の空室率は、「世界貿易センタービルディング南館」でおおむね15%、「常盤橋タワー」も10%」、とはやはり「借り手市場へと急激にシフトし、オフィス賃料が低下することになる」のだろう。
・『2023年以降に完成予定の主な大規模開発案件とは では、実際に2023年以降完成予定の主な大規模開発案件とはどういったものがあるのか。 先ず先頭を切るのは、森ビルが事業参画する「虎ノ門ヒルズステーションタワー・虎ノ門・麻布台プロジェクト」で、2023年7月(A-1/A-3街区)および11月(A-2街区)が竣工・開業する。 虎ノ門ヒルズステーションタワーの総床面積は合計で約33万平方メートルとされており、虎ノ門ヒルズプロジェクト全体では約80万平方メートルの床が創出されることになるから、森ビルのアプローチ次第ではあるものの、一気にオフィス床の流動化が発生する可能性が高まることは想像に難くない。 以降も、JR東日本が手掛ける総床面積約21万平方メートルの「高輪ゲートウェイシティ」が2025年3月竣工予定、三井不動産と野村不動産のJVで進行する総床面積約38万平方メートルの「日本橋一丁目中地区再開発・東京駅前八重洲一丁目東地区市街地再開発・八重洲二丁目中築第一種市街地再開発」が2026年3月竣工予定、三菱地所が日本最高層のオフィスとして建築する「TOKYO TORCH(東京トーチ)」のシンボルとなる地上63階/高さ約390m、総床面積約54万平方メートルのTORCH TOWERが2027年度竣工予定などとなっている。 ほかにも再開発が進む浜松町~田町エリアでも多くの計画が進んでいることから、巨大オフィスが2023年以降続々と新たなオフィス床を創出し続けることになる。 これら最新の設備と仕様を誇る超高層オフィスビルは、当然のことながら賃料も周辺相場より格段に高額な水準となることが想定されるから、与信および信用力が担保できる大手企業以外に入居を検討するところはほぼ皆無であろうし、オフィスの移転(特に本社機能の移転)には多くの時間と労力を要することから、2027年度竣工予定のTORCH TOWERにおいても既に水面下での入居交渉が始まっている。 供給サイドもコロナ禍でのオフィス需要の厳しさは把握しており、ワンフロア全てではなく小分けにして活用できるように工夫したり、複数の企業がオフィスの一部を共同使用できるようにしたり、オフィス・インテリアごと貸せるようにしたりとあの手この手で需要を喚起しようとしているようだ。 東京都内の企業では2022年4月以降、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出されていなくてもテレワークは今も継続しており(コロナ前の就業体制へ一気に戻すと再びコロナ感染が拡大する局面に対応しにくくなるため)、東京のオフィス需要は依然として厳しい状況に変わりはないといえる。 この状況下で、上記に掲出したオフィスビルだけでも合計200万平方メートル弱もの新規の床が創出されることになれば、「東京のオフィス2023年問題」(正確には2023年以降も続くのだが)は現実味を帯びて迫ってくることになる。 折悪しく、ロシアのウクライナ侵攻による資材・食料価格の高騰や日米の政策金利の格差拡大による円安が発生し、その多くを輸入に頼らざるを得ない資材・エネルギー価格の高騰が足元で起きているから、オフィスのテナントとして想定される多くの企業で今後の業績の悪化が懸念されている。 コロナ禍によるテレワークの実施・定着、円安などによる企業業績の悪化、物価の上昇傾向など、オフィス環境を取り巻く状況は決して芳しくはない。果たしてオフィス開発を手掛ける各デベロッパーにはこの状況を乗り越える手段があるのか、今後の推移を注視したい。 コロナが明けて外資の日本での動きが本格化すれば、「東京のオフィス2023年問題」などあっという間に雲散霧消するとうそぶく業界関係者もいるにはいるのだが…。 (記事は個人の見解であり、執筆者が所属する会社の見解を示すものではありません)』、「上記に掲出したオフィスビルだけでも合計200万平方メートル弱もの新規の床が創出されることになれば、「東京のオフィス2023年問題」・・・は現実味を帯びて迫ってくることになる」、「オフィスのテナントとして想定される多くの企業で今後の業績の悪化が懸念されている。 コロナ禍によるテレワークの実施・定着、円安などによる企業業績の悪化、物価の上昇傾向など、オフィス環境を取り巻く状況は決して芳しくはない」、「環境」は本当に厳しくなりそうだ。
第三に、8月8日付け現代ビジネス「財閥系デベロッパーのタワマン計画が頓挫…あまりにもズサンで横柄な「マンション地上げ失敗」の悲惨な末路」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/98344?imp=0
・『財閥系デベロッパーによるタワマン計画はなぜ頓挫したのか。前編記事「有名タレントが住む都心の超一等地に建つマンションが、なぜか空室だらけ…廃墟寸前のヤバすぎる実態」に続き、「マンション地上げ」の詳細をお伝えする』、興味深そうだ。
・『住民側に不利な設定が次々発覚 都心の超一等地に立つマンションの住人たちに対し、財閥系デベロッパーのM社側から、徐々に詳しい建て替え計画の内容が提示されていく。ただ、区分所有者の中には「2000万円以上の負担なんて、おかしいのではないか」「この場所で住戸数も倍近くに増えるのだから、負担がゼロでも可能ではないのか」といった意見が出るようになる。 そのマンションに住む岸先生(仮名)の職業は弁護士である。彼も疑問に思うところがあり、計画案の内容を細かくチェックしていった。 すると、さまざまな疑問点が浮かび上がってきた。区分所有者側には著しく不利で、賃貸住戸を所有する不動産会社のS社や、開発するM社側に有利に設定されている部分が、いくつも見つかったのだ。 例えば、区分所有者の現有住戸の権利は内法面積を基にしているのに、建て替え後の取得住戸の面積は壁芯が基準となっていた。壁芯とは躯体である鉄筋コンクリートの真ん中のこと。壁芯で面積を測ると、実際の有効面積である内法と比べると5~10%前後広くなる。 それは建築や不動産の業界にいる人なら誰でも知っていること。ただし、一般の方には知らない人も多い。 要するに、S社とM社は区分所有者たちを舐めてかかった、という疑いが濃厚であった。 岸先生の指摘に、M社側はしどろもどろとなる。彼らのあまりにもズサンな計画と横柄な対応に、区分所有者たちの間に不信感が広まる。当然、反対派グループが形成された。そのリーダー格はもちろん岸先生である。 そうこうするうち、反対派の区分所有者たちの元には怪しい社名を名乗る業者から、頻繁に電話がかかってくるようになった。 「そちらの住戸を買わせてください」 いくらで買いたいの、と聞くと「どうぞ金額をおっしゃってください。その値段で買わせていただきます」。 地上げ屋の登場である。 反対派の所有住戸を買い進めていき、建て替えを強行できる5分の4をめざそうというのだ。後手に回ったM社側の、苦し紛れの手だてだったのだろう。 しかし、地上げ屋に売却する区分所有者はほとんどいなかったそうだ。 やがて岸先生は、M社やS社側の手続き上などの不法行為を追及する訴訟を、いくつも提起。何といっても現役弁護士である岸先生本人が区分所有者の一人として、訴訟の原告になっているのだ。訴訟を起こす心理的、金銭的負担は一般人に比べると極めて軽微。すでにそれらの訴訟の一部では勝訴の判決も出ている』、「計画案の内容を細かくチェックしていった。 すると、さまざまな疑問点が浮かび上がってきた。区分所有者側には著しく不利で、賃貸住戸を所有する不動産会社のS社や、開発するM社側に有利に設定されている部分が、いくつも見つかったのだ」、「壁芯が基準となっていた」「実際の有効面積である内法と比べると5~10%前後広くなる」、「岸先生の指摘に、M社側はしどろもどろとなる」、「地上げ屋の登場」、と「不動産会社のS社や、開発するM社側」の対応は余りにお粗末だ。
・『完全に失敗した財閥系デベの策略 計画案が示されてから、すでに何年もの年月が経過している。建て替え計画は一向に前進する気配がない。それどころか、M社側は建て替えによる再開発を諦めたふしもある。 岸先生によると、最近そのマンションを売却して引っ越した人が2組ほどあったそうだ。 「M社系の地上げ屋に売ったのですか?」と私が聞くと、「いや、そうではない一般人が買ったみたいだね」と岸先生。 金額は、私が数年前に「先生、3億円以上で売れますよ」と半ば冗談で示した額よりも3割強は高くなっていた。その間、東京都心のマンション価格は値上がりを続けているのだ。 どうやらそのマンションの地上げは、今のところ完全に失敗した様子である。 それにしても、惜しい話だと思う。あれだけの一等地の物件が「幽霊マンション」として、ほとんど使われていないのだ。権利全体では半分前後を所有するS社は、貴重な超一等地の資産を寝かせたままにしておかざるを得ない。相当な固定資産税や都市計画税がかかっているはずだ。 M社も、建て替えが成功すれば都心の目玉物件にできた案件を、ズサンな仕事を仕掛けたばかりに逃してしまった状態。 地上げというのは、平成バブルの時代はよく話題になった。嫌がる権利者から半ば暴力的に物件を買い取る、というイメージだった。 しかし、時代は変わっている。 逆に今は、不動産を活用するために重要な役割を担う仕事になっている。地上げを丁寧に、誠実に行うことで生かされる不動産は多い。また権利を売り渡す側にとってのメリットも創り出せる。 だが残念なことに、この岸先生のマンションは何とも悲惨な失敗例といえよう。 誰の利益にもならず、超一等地の不動産がいつまでも「幽霊」のままになっている』、「権利全体では半分前後を所有するS社は、貴重な超一等地の資産を寝かせたままにしておかざるを得ない。相当な固定資産税や都市計画税がかかっているはずだ。 M社も、建て替えが成功すれば都心の目玉物件にできた案件を、ズサンな仕事を仕掛けたばかりに逃してしまった状態」、「超一等地の不動産がいつまでも「幽霊」のままになっている」、まるで夏向きのミステリーだ。
第三に、8月8日付け現代ビジネス「財閥系デベロッパーのタワマン計画が頓挫…あまりにもズサンで横柄な「マンション地上げ失敗」の悲惨な末路」を紹介しよう。
・『財閥系デベロッパーによるタワマン計画はなぜ頓挫したのか。前編記事「有名タレントが住む都心の超一等地に建つマンションが、なぜか空室だらけ…廃墟寸前のヤバすぎる実態」に続き、「マンション地上げ」の詳細をお伝えする』、興味深そうだ。
・『住民側に不利な設定が次々発覚 都心の超一等地に立つマンションの住人たちに対し、財閥系デベロッパーのM社側から、徐々に詳しい建て替え計画の内容が提示されていく。ただ、区分所有者の中には「2000万円以上の負担なんて、おかしいのではないか」「この場所で住戸数も倍近くに増えるのだから、負担がゼロでも可能ではないのか」といった意見が出るようになる。 そのマンションに住む岸先生(仮名)の職業は弁護士である。彼も疑問に思うところがあり、計画案の内容を細かくチェックしていった。 すると、さまざまな疑問点が浮かび上がってきた。区分所有者側には著しく不利で、賃貸住戸を所有する不動産会社のS社や、開発するM社側に有利に設定されている部分が、いくつも見つかったのだ。 例えば、区分所有者の現有住戸の権利は内法面積を基にしているのに、建て替え後の取得住戸の面積は壁芯が基準となっていた。壁芯とは躯体である鉄筋コンクリートの真ん中のこと。壁芯で面積を測ると、実際の有効面積である内法と比べると5~10%前後広くなる。 それは建築や不動産の業界にいる人なら誰でも知っていること。ただし、一般の方には知らない人も多い。 要するに、S社とM社は区分所有者たちを舐めてかかった、という疑いが濃厚であった。 岸先生の指摘に、M社側はしどろもどろとなる。彼らのあまりにもズサンな計画と横柄な対応に、区分所有者たちの間に不信感が広まる。当然、反対派グループが形成された。そのリーダー格はもちろん岸先生である。 そうこうするうち、反対派の区分所有者たちの元には怪しい社名を名乗る業者から、頻繁に電話がかかってくるようになった。 「そちらの住戸を買わせてください」 いくらで買いたいの、と聞くと「どうぞ金額をおっしゃってください。その値段で買わせていただきます」。 地上げ屋の登場である。 反対派の所有住戸を買い進めていき、建て替えを強行できる5分の4をめざそうというのだ。後手に回ったM社側の、苦し紛れの手だてだったのだろう。 しかし、地上げ屋に売却する区分所有者はほとんどいなかったそうだ。 やがて岸先生は、M社やS社側の手続き上などの不法行為を追及する訴訟を、いくつも提起。何といっても現役弁護士である岸先生本人が区分所有者の一人として、訴訟の原告になっているのだ。訴訟を起こす心理的、金銭的負担は一般人に比べると極めて軽微。すでにそれらの訴訟の一部では勝訴の判決も出ている』、信じられないようなお粗末さだ。
・『完全に失敗した財閥系デベの策略 計画案が示されてから、すでに何年もの年月が経過している。建て替え計画は一向に前進する気配がない。それどころか、M社側は建て替えによる再開発を諦めたふしもある。 岸先生によると、最近そのマンションを売却して引っ越した人が2組ほどあったそうだ。 「M社系の地上げ屋に売ったのですか?」と私が聞くと、「いや、そうではない一般人が買ったみたいだね」と岸先生。 金額は、私が数年前に「先生、3億円以上で売れますよ」と半ば冗談で示した額よりも3割強は高くなっていた。その間、東京都心のマンション価格は値上がりを続けているのだ。 どうやらそのマンションの地上げは、今のところ完全に失敗した様子である。 それにしても、惜しい話だと思う。あれだけの一等地の物件が「幽霊マンション」として、ほとんど使われていないのだ。権利全体では半分前後を所有するS社は、貴重な超一等地の資産を寝かせたままにしておかざるを得ない。相当な固定資産税や都市計画税がかかっているはずだ。 M社も、建て替えが成功すれば都心の目玉物件にできた案件を、ズサンな仕事を仕掛けたばかりに逃してしまった状態。 地上げというのは、平成バブルの時代はよく話題になった。嫌がる権利者から半ば暴力的に物件を買い取る、というイメージだった。 しかし、時代は変わっている。 逆に今は、不動産を活用するために重要な役割を担う仕事になっている。地上げを丁寧に、誠実に行うことで生かされる不動産は多い。また権利を売り渡す側にとってのメリットも創り出せる。 だが残念なことに、この岸先生のマンションは何とも悲惨な失敗例といえよう。 誰の利益にもならず、超一等地の不動産がいつまでも「幽霊」のままになっている』、「あれだけの一等地の物件が「幽霊マンション」として、ほとんど使われていないのだ。権利全体では半分前後を所有するS社は、貴重な超一等地の資産を寝かせたままにしておかざるを得ない。相当な固定資産税や都市計画税がかかっているはずだ。 M社も、建て替えが成功すれば都心の目玉物件にできた案件を、ズサンな仕事を仕掛けたばかりに逃してしまった状態」、「S社」と「M社」が欲の皮を突っ張らせた代償を払っていると考えるべきだ。
なお、明日は更新を休むので、明後日にご期待を!
タグ:不動産 (その10)(空き家が増加中 高級住宅街「田園調布」の住民が 自らの首を絞めることとなった“建築協定”とは?、東京のオフィス賃料が来年下落?「2023年問題」が避けられない理由、財閥系デベロッパーのタワマン計画が頓挫…あまりにもズサンで横柄な「マンション地上げ失敗」の悲惨な末路) 幻冬舎Gold Online「空き家が増加中。高級住宅街「田園調布」の住民が、自らの首を絞めることとなった“建築協定”とは?」 確かに「田園調布憲章」は、住民自治の基本で、「土地」細分化の歯止めにはなる反面、流動性を著しく小さくしてしまうようだ。 「不動産業者にとっても、手が出しづらい状況」、これではどうしようもなさそうだ。 「田園調布憲章」自体は、田園調布町会の自主基準で法的拘束力はないとはいえ、やはり住むためには順守が求められるだろう。私権への制限が少ない日本では例外的な存在だ。相続税などの問題はあるにせよ、既に保有している資産価値を守るには有効な策で、私は現在の行き過ぎた私権万能を制限する考え方は支持する。 ダイヤモンド・オンライン 中山登志朗氏による「東京のオフィス賃料が来年下落?「2023年問題」が避けられない理由」 「コロナ禍の長期化とともにオフィスの空室率が徐々に拡大」、「これが「東京のオフィス2023年問題」の端緒」、その通りだろう。 「開業時の空室率は、「世界貿易センタービルディング南館」でおおむね15%、「常盤橋タワー」も10%」、とはやはり「借り手市場へと急激にシフトし、オフィス賃料が低下することになる」のだろう。 「上記に掲出したオフィスビルだけでも合計200万平方メートル弱もの新規の床が創出されることになれば、「東京のオフィス2023年問題」・・・は現実味を帯びて迫ってくることになる」、「オフィスのテナントとして想定される多くの企業で今後の業績の悪化が懸念されている。 コロナ禍によるテレワークの実施・定着、円安などによる企業業績の悪化、物価の上昇傾向など、オフィス環境を取り巻く状況は決して芳しくはない」、「環境」は本当に厳しくなりそうだ。 現代ビジネス「財閥系デベロッパーのタワマン計画が頓挫…あまりにもズサンで横柄な「マンション地上げ失敗」の悲惨な末路」 「計画案の内容を細かくチェックしていった。 すると、さまざまな疑問点が浮かび上がってきた。区分所有者側には著しく不利で、賃貸住戸を所有する不動産会社のS社や、開発するM社側に有利に設定されている部分が、いくつも見つかったのだ」、「壁芯が基準となっていた」「実際の有効面積である内法と比べると5~10%前後広くなる」、「岸先生の指摘に、M社側はしどろもどろとなる」、「地上げ屋の登場」、と「不動産会社のS社や、開発するM社側」の対応は余りにお粗末だ。 「権利全体では半分前後を所有するS社は、貴重な超一等地の資産を寝かせたままにしておかざるを得ない。相当な固定資産税や都市計画税がかかっているはずだ。 M社も、建て替えが成功すれば都心の目玉物件にできた案件を、ズサンな仕事を仕掛けたばかりに逃してしまった状態」、「超一等地の不動産がいつまでも「幽霊」のままになっている」、まるで夏向きのミステリーだ。 信じられないようなお粗末さだ。 「あれだけの一等地の物件が「幽霊マンション」として、ほとんど使われていないのだ。権利全体では半分前後を所有するS社は、貴重な超一等地の資産を寝かせたままにしておかざるを得ない。相当な固定資産税や都市計画税がかかっているはずだ。 M社も、建て替えが成功すれば都心の目玉物件にできた案件を、ズサンな仕事を仕掛けたばかりに逃してしまった状態」、「S社」と「M社」が欲の皮を突っ張らせた代償を払っていると考えるべきだ。
台湾(その5)(レガシー作り?議会の圧力?お騒がせペロシの台湾訪問 その裏を読む 24年大統領選を見据えた民主党の事情、ペロシ氏訪台で「アジア主戦場の米中新冷戦」の足音 日本に覚悟はあるか) [世界情勢]
台湾については、6月25日に取上げた。今日は、(その5)(レガシー作り?議会の圧力?お騒がせペロシの台湾訪問 その裏を読む 24年大統領選を見据えた民主党の事情、ペロシ氏訪台で「アジア主戦場の米中新冷戦」の足音 日本に覚悟はあるか)である。
先ずは、8月8日付け現代ビジネスが掲載した双日総合研究所 官民連携室 副主任研究員 米国経済・産業調査・経済安全保障担当の安田 佐和子氏による「レガシー作り?議会の圧力?お騒がせペロシの台湾訪問、その裏を読む 24年大統領選を見据えた民主党の事情」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/98333?imp=0
・『バイデンは止めようとしたものの 「敵を過小評価するな、過大評価してもいけない」とは、1997年以降、25年ぶりに下院議長として台湾を訪問したナンシー・ペロシ氏の名言のひとつだ。5人の子供を産んだ後、1987年に下院議員に初当選してから18期連続、35年にわたって選挙区を守ってきた同氏の言葉は、米中関係が台湾海峡をめぐり緊迫するなか、ひときわ重みを増す。 ペロシ氏の訪台計画は、7月19日付けの英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙でリークされた。バイデン氏は報道を受け7月21日、要人輸送機が空軍に属するためか「軍は良いアイデアと考えていない」と発言。 その後、CNNなど、バイデン政権がペロシ氏に訪台を断念するよう説得中などの報道が飛び交った。バイデン政権としては米中オンライン会談を予定していただけに、一段の関係悪化を回避したかったとされる。 ブルームバーグによれば、ペロシ氏の訪台計画にバイデン政権は怒り心頭で、国家安全保障会議(NSC)や国務省の高官がペロシ陣営に赴き、地政学的リスクを事前に説明したという。しかし、ペロシ氏は訪台を敢行。国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官が8月2日、「下院議長には訪台の権利がある」と述べ、三権分立の下で行政府の制御が及ぶ範囲内ではないと一線を画すにとどめた。 問題は、本当にバイデン政権がペロシ氏の訪台を説得できなかったのかという点にある。ペロシ氏といえば82歳で、1973年に上院議員に当選した79歳のバイデン氏より政治キャリアでは短いが、年上だ。そのペロシ氏は中間選挙で民主党が野党に転じれば引退する公算が大きく、天安門事件後の1991年に訪中し抗議活動を展開するなど対中強硬派で知られるだけに、自身のレガシー作りへの算段が働いたのだろう』、「ペロシ氏の訪台計画にバイデン政権は怒り心頭で、国家安全保障会議(NSC)や国務省の高官がペロシ陣営に赴き、地政学的リスクを事前に説明したという。しかし、ペロシ氏は訪台を敢行。国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官が8月2日、「下院議長には訪台の権利がある」と述べ、三権分立の下で行政府の制御が及ぶ範囲内ではないと一線を画すにとどめた」、「バイデン」の政治力のなさを如実に示した形だ。
・『噂飛び交うペロシ自身の「事情」 しかし、中間選挙で敗北が色濃く、ペロシ氏が議長の座を下りることを視野に自身のレガシー作りを狙ったかというと、話はそう単純ではなさそうだ。 米中のさらなる分断はただでさえロシアによるウクライナ侵攻で脆弱な世界経済を一段と混迷させかねない。結果的に、米国の信頼を失墜させるだけでなく、4~6月期まで2四半期連続でマイナス成長に落ち込む米経済に、さらなる打撃を与えうる。そのような危険を冒すにしては、リターンが余りにも小さく、最終的に自身のレガシーにも傷が付く』、「自身のレガシー作りを狙った」のではないとすると、真の狙いは何なのだろう。
・『米実質GDP成長率は2四半期連続でマイナス 中台問題が取り沙汰されるなか「ペロシ氏の夫が、半導体産業支援法案成立の前に500万ドル相当の関連株を売却した」との報道が流れたため、保守派からは、ペロシ氏がスキャンダルから話題を逸らすべく訪台という大舞台を演出したとの批判も聞かれる。 過去を紐解けば、確かにそのように受け止められるケースがあった。1998年12月にクリントン大統領(当時)がホワイトハウス実習生との不倫問題をもみ消した問題で弾劾訴追に直面した際、国連の武器査察を拒否し続けた報復として、イラクの武器関連施設を空爆した。奇しくも、同年5月公開の映画「ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ」のストーリーの一部が現実化し、騒然となったものだ。事実は小説より奇なりというが、さすがに邪推が過ぎるというものだろう』、「ペロシ氏がスキャンダルから話題を逸らすべく訪台という大舞台を演出したとの批判も」、そんなみみっちい理由ではなかっと思うしかなさそうだ。
・『米国の大義名分は 英FT紙がペロシ訪台計画のスクープを飛ばした直後、中国外務省は即座に「重大な影響を及ぼす」と反発。北戴河会議を控え、7月28日に行われた米中首脳電話会談後に公表された声明でも、ペロシ訪台をめぐり中国側は「火遊びをすれば、必ずやけどする」と警告した。ペロシ氏が台湾を訪問することが確実になった8月2日には、台湾企業の約100社に対し食品の輸入禁止を決定。 中国軍は8月4日から台湾周辺で過去最大規模の軍事演習を開始し、発射されたミサイルは日本の排他的経済水域(EEZ)内にも落下した。NSCのカービー氏は、ペロシ訪台による中国側の対抗措置として、台湾海峡や台湾近辺でのミサイル発射や大規模な軍事演習などを挙げたが、その通りになった。 米国のアジア専門家の間では、中国にとってペロシ訪台は「越えてはならない一線を越えた」との見方が優勢だ。 米戦略国際問題研究所(CSIS)の専任研究員を経て、ジャーマン・マーシャル・ファンド・オブ・ザ・ユナイテッド・ステーツのアジア地域所長を務めるボニー・グラッサー氏は「米中は極めて危険で、険悪な状態に陥った」と分析。その上で、中国政府の行動が「単なる報復を超え、現状の変更を引き起こしかねない」との懸念を寄せていた。 ペロシ氏がバイデン政権や専門家の懸念を無視して訪台を断行したのならば、大義名分があったに違いない。それこそ、中間選挙だけでなく2024年の米大統領選を見据えた“強い米国”の再構築ではないか。 ロシアのウクライナ侵攻を受け、中国の“力による現状変更”が警戒される状況で、中国の威嚇を跳ね除け「台湾を支える米国の揺るぎない米国の関与を守る」意思を伝えることは、国内だけでなく海外で“強い米国”を印象づける利点もある。インド太平洋など、米国が主導する多国間での対中包囲網へのコミットメントの強化とも捉えられよう』、「中国の威嚇を跳ね除け「台湾を支える米国の揺るぎない米国の関与を守る」意思を伝えることは、国内だけでなく海外で“強い米国”を印象づける利点も」、これなら立派な「大義名分」だ。
・『軽く見られているバイデンの二転三転 そもそも、バイデン氏の支持率はジリ貧が続く。ギャラップが7月5~26日に実施した世論調査によれば、支持率は38%と就任以来の最低を更新した。それだけでなく、4月20日から7月19日までの平均支持率も40%と、1954年以降、1期目の大統領としては同期間中の平均値で過去最低を塗り替えた。つまり、トランプ前大統領の42%すら下回ったことになる。民主党寄りの有権者からも、そっぽを向かれている。 CNNが7月28日に公表した世論調査では、彼らの間でも「バイデン氏以外の候補者を擁立すべき」との回答が75%と、1~2月時点の51%から急伸していた』、 バイデン氏の失点と言えば、21年8月、イスラム主義組織タリバン勢力によるカブール陥落が真っ先に挙げられる。以降はインフレ高進が仇となったが、ロシアによるウクライナ侵攻についても「トランプが大統領ならば、ロシアはウクライナ侵攻しなかった」との回答が62%に達したことも、記憶に新しい。(3月10日公開「『危機の大統領』? ウクライナ侵攻でも支持率低迷のバイデン政権」』、確かに「バイデン」はモーロクした印象が強過ぎる。「「トランプが大統領ならば、ロシアはウクライナ侵攻しなかった」との回答」は、どこまで国際政治の実態を反映したものかは不明だが、頼りない印象だけは抜群だ。
・『議員たちの台湾問題 5月の台湾防衛に関して「イエス」と応じたバイデン氏の発言は、真の意図はともかく失言とされる。しかし、民主党や共和党の有力上院議員は歓迎した。 民主党のロバート・メネンデス上院外交委員長(ニュージャージー州)は「バイデン氏は正しい。信頼できる抑止には勇気と明快さが必要だ」と評価した。共和党のミッチ・マコーネル院内総務(ケンタッキー州)は、「台湾への侵攻を米国が座視しないと中国は知るべき」と発言。同党のリック・スコット上院議員(フロリダ州)も「大統領は2回も台湾を防衛すると発言したが、ホワイトハウスはその度に修正した」とツイートし、上院は混乱を終わらせるべきだと主張した。その上で「私が推進する“台湾侵略防止法案”を可決し、米国による台湾支援を明確化すべきだ」と訴えた。 なお、スコット氏は2019年にフロリダ州知事から上院議員に転じたばかりだが、21年から全国共和党上院委員会の委員長を務め、24年の米大統領選での出馬が囁かれる一人である』、親「台湾」の「上院議員」が、「24年の米大統領選での出馬が囁かれる一人」とは、「中国外交」の苦戦はしばらく続きそうだ。
・『台湾防衛発言に対するスコット議員のツイート 米国は、1979年に成立した“台湾関係法”と1982年に制定された“6つの保証”に基づき、台湾の自衛能力貢献に寄与してきた。半面、米軍の介入を確約していない。長年“曖昧戦略”を展開したわけだが、中国の脅威が眼前に迫り、2030年頃に中国はGDPで米国を追い抜く見通しだ。米議会の対中警戒は、否が応でも高まらざるを得ない。約520億ドル規模の補助金を含む半導体生産支援法案(CHIPSプラス)が超党派で成立したのも、そうした背景がある。 その上院は足元、スコット氏が法案を提出するだけでなく、メネンデス氏が同じく上院外交委員会のリンゼー・グラム議員(共和党)と連名で“2022年版台湾政策法”を提案。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、台湾関係法を刷新するもので、向こう4年間の台湾への外交軍事支援を含め、台湾を“重要な北大西洋条約機構(NATO)非加盟の同盟地域”に指定し米国からの武器納入を容易にしつつ、相互防衛の約束は盛り込まない』、「相互防衛の約束は盛り込まない」、ということで「中国」のメンツをかろうじて守った形だ。
・『切実、民主党の24年大統領選挙 1995~96年の第3次台湾海峡危機では、96年3月の中国の大規模軍事演習を展開、米国は台湾近海に原子力空母2隻を派遣するまで緊張が高まった。しかし、クリントン政権(当時)は同年7月にレーク安全保障担当大統領補佐官が中国に送り出し、翌97年5月にクリントン氏が最恵国待遇の更新支持を表明。1997年10月には江沢民主席が国賓として米国を訪問し、1998年6月には、クリントン氏が約9年ぶりに訪中するなど、現在の米国人にしてみれば米国が歩み寄った印象は拭えない。 現状、ピュー・リサーチ・センターの米世論調査で、米国人の89%が「中国を競争相手あるいは敵」とみなし、中国と台湾における緊張も「深刻」と受け止める米国人も78%だ。米世論での対中警戒が高まるだけに、米議会が当時のような姿勢を認めるはずはない。ペロシ氏の訪台は、中国の力による現状変更に屈しない立法府の力強い意志と結束を象徴したと言えよう。 何より民主党にしてみれば、中間選挙だけでなく、次の米大統領選を見据えた布石だったとしてもおかしくない。バイデン陣営にしても、行政府として距離を置けば中国側が何と言おうが説明可能という逃げ道が残る。一方で、民主党の大統領候補が誰であっても、中国に24年の米大統領選を制するには“弱腰”でいられない。 ニューズウィーク誌がペロシ訪台計画について“トランプ前大統領による強硬な対中政策転換のさらなる勝利”と伝えていた。米大統領選を控え、民主党は中国や米世論を過小評価も過大評価もせず、淡々と“強い米国”のイメージ作りに励む必要がありそうだ) バイデン氏の台湾を防衛すると3度にわたって発言しつつ、その度に撤回しているのも、米国の有権者にすれば高等な“曖昧戦略”(「1つの中国」を認め台湾と正式な国交を結ばず、武器輸出などを行う状態)というより、“優柔不断”に映るのだろう。 ワシントン・ポスト紙は5月24日に“二転三転するバイデン氏の台湾防衛宣言は米国を弱くみせる”との論説を掲載。そこで、リチャード・ハース外交問題評議会(CFR)会長の「戦略的曖昧さとして知られる政策は……その役割を終えた。今こそ米国は、戦略的明確化政策を導入すべき時だ」との発言を引用し、曖昧戦略からの脱却を訴えた』、「「戦略的曖昧さとして知られる政策は……その役割を終えた。今こそ米国は、戦略的明確化政策を導入すべき時だ」との発言を引用し、曖昧戦略からの脱却を訴えた」、注目すべき発言だ。
次に、8月9日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏による「ペロシ氏訪台で「アジア主戦場の米中新冷戦」の足音、日本に覚悟はあるか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/307778
・『米国のナンシー・ペロシ下院議長が台湾を訪れ、世界中で議論を呼んでいる。経済危機を避けるため、米中が対話の可能性を模索しつつあった中、その努力を無に帰したからだ。中国はペロシ議長の訪台を受けて大規模な軍事演習を実施し、台湾だけでなく米国を挑発している。このことは、もし今後の世界で「新冷戦」があるならば、その主戦場が「北東アジア」であることを明示したといえる。冷戦といえば、ウクライナ戦争の渦中にあるロシアを想起し、意外に思う読者がいるかもしれないが、ロシアの脅威はもはや幻想にすぎない。そういえる要因を詳しく解説する』、「新冷戦」「の主戦場が「北東アジア」」とは興味深そうだ。
・『米ペロシ議長の訪台を受け中国が大規模軍事演習に走ったワケ 米国のナンシー・ペロシ下院議長が8月2日夜に台湾を訪れて、蔡英文台湾総統と会談した。ペロシ議長は会談で、世界的に「民主主義VS権威主義」の対立構造が鮮明になっていると指摘し、「米国は揺るぎない決意で台湾と世界の民主主義を守る」と強調した。 また、ペロシ議長は今回、中国民主化運動の元学生リーダー、ウアルカイシ氏ら人権・民主運動関係者と会談したという。加えて、半導体受託生産世界最大手・台湾積体電路製造(TSMC)の劉徳音会長とも会談したと報じられている。 だが中国は、ペロシ議長の訪台に強く反発した。中国軍は、台湾周辺で実弾射撃を伴う大規模な軍事演習を行い、台湾北方、東方、南方の各海域に向けて弾道ミサイル「東風」を11発発射した。重要なことは、史上初めて、日本の排他的経済水域(EEZ)内に5発、中国軍のミサイルが着弾したことだ。 ペロシ議長の訪台を受け、中国が強気な態度を取った要因については、専門家の間でさまざまな見方がある。 その一つは、「習近平国家主席がペロシ議長の訪台を許したことについての、国民からの批判を抑えたかったのではないか」というものだ。 というのも、2022年は中国と習主席にとって重要な時期である。8月1日は中国人民解放軍の「建軍95周年記念日」だった。8月には他にも、長老らの意見を聞いて共産党の方針を決める「北戴河会議」がある。また、22年秋には5年に一度の党大会を控えている。 重要な会議や式典が相次ぐ時期に、国内で弱腰の姿勢を見せられなかったというのだ。 もう一つの見方は、「台湾を取り囲み、武力侵攻を想定した軍事演習を行うことで、中国の軍事能力の向上を米国に見せつける狙いがあった」というものだ。 これまでの中国は、軍事演習の他にも、米国に対するサイバー攻撃など多岐にわたる作戦領域を展開してきた。その背景には、米国が武器売却や軍事演習を通じて、粛々と台湾との関係を強化してきたことへの強い不満があるという。 今回もこうした不満が原因となり、軍事演習によって米国を挑発・威嚇しようとした可能性は大いにあるだろう』、「2022年は中国と習主席にとって重要な時期である。8月1日は中国人民解放軍の「建軍95周年記念日」だった。8月には他にも、長老らの意見を聞いて共産党の方針を決める「北戴河会議」がある。また、22年秋には5年に一度の党大会を控えている。 重要な会議や式典が相次ぐ時期に、国内で弱腰の姿勢を見せられなかったというのだ」、「中国の軍事能力の向上を米国に見せつける狙い」、いずれももっともな見方だ。
・『ペロシ議長の訪台は米中の歩み寄りを無に帰した しかし、「中国は米国とのこれ以上の緊張拡大を望んでいるわけではなく、それを慎重に避けている」という見方もある。 また、ペロシ議長の訪台自体についても、各方面から厳しい批判がある。米ジョー・バイデン政権は対中強硬姿勢を強化しながらも、並行して中国との対話も進め、対中関係を安定させようとしてきた。 特に、ウクライナ戦争勃発後は、欧米のロシアに対する経済制裁が、中国を含む国際経済に悪影響を与えつつある。その中で経済危機を避けるために、米中は対話の可能性を模索しつつあった。 だが、ペロシ議長の訪台は、これらの米中両政府の努力を無に帰したかもしれない。たとえ前述の通り、中国がこれ以上の緊張拡大を望んでいなかったとしても、訪台を機に米中関係が明らかに悪い方向に向かうのは間違いない。 また、台湾や日本にとっても、議長の訪台の意義を見いだすことは難しい。「結局、議長のレガシー(遺産)づくりでしかない」といった厳しい報道も出ている。“遺産”という表現が使われた理由は、米国で22年11月に行われる中間選挙で、民主党が厳しい戦いを強いられ、敗北によってペロシ議長が退任する可能性が考えられるからだ。 しかし、不可解なペロシ議長の訪台と、中国からの反発が意味することが一つある。それは、もし今後の世界で「新冷戦」があるならば、その主戦場が「北東アジア」であることがはっきりしたことだ。 逆にいえば、欧州には「新冷戦」など存在せず、その主戦場になり得ないことが明確になった。 新冷戦といえば、ウクライナ戦争の渦中にあるロシアを想起し、意外に思う読者が多いかもしれない。だが、ウクライナ戦争によって、現在の欧米諸国におけるロシアの劣勢は明確になっている。もはや、対立構図で論じられるレベルではないのだ。 この連載では、ウクライナ戦争開戦前から、ロシアはユーラシア大陸の勢力争いで、米英仏独などNATO(北大西洋要約機構)に敗北していると指摘してきた(本連載第306回・p2)。 振り返ると、東西冷戦期にドイツは東西に分裂し、「ベルリンの壁」で東西両陣営が対峙(たいじ)した。当時、旧ソ連の影響圏は「東ドイツ」まで広がっていた。しかし東西冷戦終結後、旧共産圏の東欧諸国や、旧ソ連領だった国が次々と民主化した。その結果、約30年間にわたってNATOやEU(欧州連合)は東方に拡大してきた。 ペロシ氏訪台で「アジア主戦場の米中新冷戦」の足音、日本に覚悟はあるか ヨーロッパの地図(出典:123RF)。ポーランドやチェコ、ハンガリー、「バルト三国」などは冷戦後にNATOに加わった ベラルーシ、ウクライナなど数カ国を除き、旧ソ連の影響圏だったほとんどの国がNATO、EU加盟国になった。ウクライナ戦争の開戦前、ロシアの勢力圏は、東ベルリンからウクライナ・ベラルーシのラインまで大きく後退していた。 ウクライナ戦争の開戦時、プーチン大統領は「NATOがこれ以上拡大しないという法的拘束力のある確約をする」「NATOがロシア国境の近くに攻撃兵器を配備しない」「1997年以降にNATOに加盟した国々からNATOが部隊や軍事機構を撤去する」の3つを要求した(第297回)。これらの内容からは、ロシアがNATOの東方拡大によって、いかに追い込まれていたかが見て取れる。 そして、ウクライナ戦争開戦から5カ月がたった現在、ロシアはウクライナ東部を占領し、大攻勢に出ていると報じられている。だが欧州全体の地図を眺めれば、NATOの勢力圏が開戦前より拡大し、ロシアがさらに追い込まれていることがわかる』、「欧州全体の地図を眺めれば、NATOの勢力圏が開戦前より拡大し、ロシアがさらに追い込まれていることがわかる」、その通りだ。
・『ロシアの不利は明確 欧州は「新冷戦」の舞台ではない そう言い切れる要因は、長年NATOとロシアの間で「中立」を守ってきたスウェーデン、フィンランドのNATO加盟決定である(第306回・p3)。加盟交渉は当初、NATO加盟国の一つでありながら、ロシアとも密接な関係を保ってきたトルコが反対し、難航するかと思われた。だが、トルコはあっさりと翻意した。 トルコはウクライナ戦争を巡り、最もしたたかに振る舞っている国だ。かつては、ウクライナとロシアの停戦交渉の仲介役を担おうとしたこともあった。そのトルコが、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟を認めたのは、相当の「実利」を得られると踏んだからだろう。 スウェーデン・フィンランドのNATO加盟によって、地上におけるNATO加盟国とロシアの間の国境は2倍以上に延びる。海上においても、「不凍港」があるバルト海に接する国が、ほぼすべてNATO加盟国になる。単にNATOの勢力圏が東方拡大したという以上に、ロシアの安全保障体制に深刻な影響を与えることになるのだ』、「スウェーデン・フィンランドのNATO加盟によって、地上におけるNATO加盟国とロシアの間の国境は2倍以上に延びる。海上においても、「不凍港」があるバルト海に接する国が、ほぼすべてNATO加盟国になる。単にNATOの勢力圏が東方拡大したという以上に、ロシアの安全保障体制に深刻な影響を与える」、そんな影響があったことをクリアに示してくれた。
・『事実上「戦勝」状態にあるNATOの不安要素とは? その上、今後はウクライナ、モルドバ、ジョージアもNATOに加わる可能性がある。確かにこれらの国は今、ロシアに領土の一部を占領されている。だが、そのままの状態でも、3カ国がもしNATOに加盟すれば、NATOの東方拡大はより多くの旧ソ連国に及ぶことになる。 戦争で苦しんでいるウクライナ国民にとっては大変申し訳ないことだが、NATOからすれば、すでにロシアに完勝し、得るものを得たということだといえる。これが、欧州には「新冷戦」など存在しないと言い切れる根拠である。 ただし、事実上の「戦勝」状態にあるNATOだが、わずかに不安要素もある。 ロシアのウクライナ軍事侵攻が始まって以降、ロシアからの石油・ガスパイプラインに依存していない米英を中心に、欧米諸国は一枚岩となってロシアに経済制裁を科してきた(第303回)。だが現在は、米英と欧州諸国の間に不協和音が生じているようにみえる。 その理由は、ロシアが欧州へのエネルギー供給を大幅に削減したからだ。ロシアの国営エネルギー会社ガスプロムが先月末、ドイツにつながるパイプライン「ノルドストリーム1」の流量を半分に減らし、輸送能力の20%にすると発表した。そのため、今冬に深刻な天然ガス不足が起こる懸念が出て、欧州諸国に動揺が走っているのだ。 そのため欧州諸国は、今冬のエネルギー不安を回避する目的で、ロシアがウクライナの領土を占領した状態のまま、停戦の実現に動くかもしれない。各国はウクライナへの武器供与などを行っているものの、NATOのロシアに対する「完勝」が決定的となった今、エネルギー供給不安を我慢してまで戦争を継続する意義がなくなってしまった。 一方の米英は、ロシアからの輸入に依存しておらず、「ノルドストリーム1」の流量減によるダメージは相対的に小さい。ウクライナ戦争をこれ以上継続する積極的な理由はないが、戦争が長引くほどにプーチン政権が追い込まれるメリットもある。他の欧州諸国ほど停戦を急いでいるわけではなく、温度差が生じている(第304回)。 とはいえ、ロシアの不利に変わりはない。今後のウクライナ戦争は、世界を巻き込む大問題ではなく、あくまでユーラシア大陸の一地域で起こった「局地戦」となっていくだろう。 戦況が現状のまま停戦交渉が進めば、ロシアによるウクライナ領の占領という「力による一方的な現状変更」を容認することになるが、欧州諸国にとってはエネルギー面の不安が解消される。 停戦が実現しても、ウクライナの領土をロシアが占領し続ける限り、経済制裁は続くが、ロシア産石油ガスは制裁対象から外されるだろう。プーチン政権を一挙に倒すことはできないが、それでもジワジワと追い詰めることはできる。温度差はあるものの、欧米諸国にとっては、それでも十分な成果なのだ』、「戦況が現状のまま停戦交渉が進めば、ロシアによるウクライナ領の占領という「力による一方的な現状変更」を容認することになるが、欧州諸国にとってはエネルギー面の不安が解消される。 停戦が実現しても、ウクライナの領土をロシアが占領し続ける限り、経済制裁は続くが、ロシア産石油ガスは制裁対象から外されるだろう・・・温度差はあるものの、欧米諸国にとっては、それでも十分な成果なのだ」、なるほど。
・『ロシアの脅威は幻想にすぎない 日本が真に警戒すべきは中国だ 要するに、「大国ロシア」とは「幻想」にすぎない(第297回)。ロシアへのウクライナ侵攻をボクシングに例えるならば、リング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれてダウン寸前のボクサーが、かろうじて繰り出したジャブのようなものなのだ。 こうした要因により、欧米諸国の関心はロシアから離れ、中国との真の「新冷戦」に向かっている。幻想にすぎない「大国ロシア」と違い、中国との対立は多岐にわたっており、リアリティーのある危機であるからだ。 台湾を巡る軋轢(あつれき)の他にも、中国による「東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の動き」「知的財産権の侵害など経済安全保障の問題」「新疆ウイグル自治区や香港などでの人権侵害」などを欧米側は厳しく批判し、対立している。 なにより問題なのは、中国を中心とする権威主義体制は世界中に広がり、自由民主主義に対抗する勢力になりつつあることだ。 特に中国は、新型コロナウイルス感染拡大への対応について、自国のトップダウンによる意思決定の早さを「権威主義の優位性」と誇り、世界中の権威主義体制や軍事政権の指導者がそれを支持するようになった(第263回)。 また、アフリカ諸国や南米諸国など、中国から支援を受けて経済的な結び付きを強めることで、中国を支持する国家も増えている(第267回)。 これに対して、米国は、日米同盟など二国間関係に加えて「主要7カ国首脳会議(G7)」「日米豪印戦略対話(クアッド)」「米英豪の安全保障パートナーシップ(AUKUS)」など、さまざまな戦略性のある多国間の枠組みを強化。重層的な「対中国包囲網」を築くことで対抗しようとしている。 日本は、これらのさまざまな枠組みの中で、米国をサポートする役割があるのはいうまでもない。地政学上、日本が「新冷戦」の最前線に位置しているからだ。 尖閣諸島侵攻の懸念といった軍事面の安全保障のみならず、半導体、電気自動車、人工知能、量子コンピューターの開発といった経済面の安全保障においても、日本にとって中国は大きな脅威である(第306回・p5)。 ペロシ議長の訪台は、北東アジアで「新冷戦」が本格化する狼煙(のろし)となった可能性がある。日本には、その戦いに身を投じる覚悟が求められている』、「日本は、これらのさまざまな枠組みの中で、米国をサポートする役割があるのはいうまでもない。地政学上、日本が「新冷戦」の最前線に位置しているからだ。 尖閣諸島侵攻の懸念といった軍事面の安全保障のみならず、半導体、電気自動車、人工知能、量子コンピューターの開発といった経済面の安全保障においても、日本にとって中国は大きな脅威」、「ペロシ議長の訪台は、北東アジアで「新冷戦」が本格化する狼煙・・・となった可能性」、同感である。
先ずは、8月8日付け現代ビジネスが掲載した双日総合研究所 官民連携室 副主任研究員 米国経済・産業調査・経済安全保障担当の安田 佐和子氏による「レガシー作り?議会の圧力?お騒がせペロシの台湾訪問、その裏を読む 24年大統領選を見据えた民主党の事情」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/98333?imp=0
・『バイデンは止めようとしたものの 「敵を過小評価するな、過大評価してもいけない」とは、1997年以降、25年ぶりに下院議長として台湾を訪問したナンシー・ペロシ氏の名言のひとつだ。5人の子供を産んだ後、1987年に下院議員に初当選してから18期連続、35年にわたって選挙区を守ってきた同氏の言葉は、米中関係が台湾海峡をめぐり緊迫するなか、ひときわ重みを増す。 ペロシ氏の訪台計画は、7月19日付けの英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙でリークされた。バイデン氏は報道を受け7月21日、要人輸送機が空軍に属するためか「軍は良いアイデアと考えていない」と発言。 その後、CNNなど、バイデン政権がペロシ氏に訪台を断念するよう説得中などの報道が飛び交った。バイデン政権としては米中オンライン会談を予定していただけに、一段の関係悪化を回避したかったとされる。 ブルームバーグによれば、ペロシ氏の訪台計画にバイデン政権は怒り心頭で、国家安全保障会議(NSC)や国務省の高官がペロシ陣営に赴き、地政学的リスクを事前に説明したという。しかし、ペロシ氏は訪台を敢行。国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官が8月2日、「下院議長には訪台の権利がある」と述べ、三権分立の下で行政府の制御が及ぶ範囲内ではないと一線を画すにとどめた。 問題は、本当にバイデン政権がペロシ氏の訪台を説得できなかったのかという点にある。ペロシ氏といえば82歳で、1973年に上院議員に当選した79歳のバイデン氏より政治キャリアでは短いが、年上だ。そのペロシ氏は中間選挙で民主党が野党に転じれば引退する公算が大きく、天安門事件後の1991年に訪中し抗議活動を展開するなど対中強硬派で知られるだけに、自身のレガシー作りへの算段が働いたのだろう』、「ペロシ氏の訪台計画にバイデン政権は怒り心頭で、国家安全保障会議(NSC)や国務省の高官がペロシ陣営に赴き、地政学的リスクを事前に説明したという。しかし、ペロシ氏は訪台を敢行。国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官が8月2日、「下院議長には訪台の権利がある」と述べ、三権分立の下で行政府の制御が及ぶ範囲内ではないと一線を画すにとどめた」、「バイデン」の政治力のなさを如実に示した形だ。
・『噂飛び交うペロシ自身の「事情」 しかし、中間選挙で敗北が色濃く、ペロシ氏が議長の座を下りることを視野に自身のレガシー作りを狙ったかというと、話はそう単純ではなさそうだ。 米中のさらなる分断はただでさえロシアによるウクライナ侵攻で脆弱な世界経済を一段と混迷させかねない。結果的に、米国の信頼を失墜させるだけでなく、4~6月期まで2四半期連続でマイナス成長に落ち込む米経済に、さらなる打撃を与えうる。そのような危険を冒すにしては、リターンが余りにも小さく、最終的に自身のレガシーにも傷が付く』、「自身のレガシー作りを狙った」のではないとすると、真の狙いは何なのだろう。
・『米実質GDP成長率は2四半期連続でマイナス 中台問題が取り沙汰されるなか「ペロシ氏の夫が、半導体産業支援法案成立の前に500万ドル相当の関連株を売却した」との報道が流れたため、保守派からは、ペロシ氏がスキャンダルから話題を逸らすべく訪台という大舞台を演出したとの批判も聞かれる。 過去を紐解けば、確かにそのように受け止められるケースがあった。1998年12月にクリントン大統領(当時)がホワイトハウス実習生との不倫問題をもみ消した問題で弾劾訴追に直面した際、国連の武器査察を拒否し続けた報復として、イラクの武器関連施設を空爆した。奇しくも、同年5月公開の映画「ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ」のストーリーの一部が現実化し、騒然となったものだ。事実は小説より奇なりというが、さすがに邪推が過ぎるというものだろう』、「ペロシ氏がスキャンダルから話題を逸らすべく訪台という大舞台を演出したとの批判も」、そんなみみっちい理由ではなかっと思うしかなさそうだ。
・『米国の大義名分は 英FT紙がペロシ訪台計画のスクープを飛ばした直後、中国外務省は即座に「重大な影響を及ぼす」と反発。北戴河会議を控え、7月28日に行われた米中首脳電話会談後に公表された声明でも、ペロシ訪台をめぐり中国側は「火遊びをすれば、必ずやけどする」と警告した。ペロシ氏が台湾を訪問することが確実になった8月2日には、台湾企業の約100社に対し食品の輸入禁止を決定。 中国軍は8月4日から台湾周辺で過去最大規模の軍事演習を開始し、発射されたミサイルは日本の排他的経済水域(EEZ)内にも落下した。NSCのカービー氏は、ペロシ訪台による中国側の対抗措置として、台湾海峡や台湾近辺でのミサイル発射や大規模な軍事演習などを挙げたが、その通りになった。 米国のアジア専門家の間では、中国にとってペロシ訪台は「越えてはならない一線を越えた」との見方が優勢だ。 米戦略国際問題研究所(CSIS)の専任研究員を経て、ジャーマン・マーシャル・ファンド・オブ・ザ・ユナイテッド・ステーツのアジア地域所長を務めるボニー・グラッサー氏は「米中は極めて危険で、険悪な状態に陥った」と分析。その上で、中国政府の行動が「単なる報復を超え、現状の変更を引き起こしかねない」との懸念を寄せていた。 ペロシ氏がバイデン政権や専門家の懸念を無視して訪台を断行したのならば、大義名分があったに違いない。それこそ、中間選挙だけでなく2024年の米大統領選を見据えた“強い米国”の再構築ではないか。 ロシアのウクライナ侵攻を受け、中国の“力による現状変更”が警戒される状況で、中国の威嚇を跳ね除け「台湾を支える米国の揺るぎない米国の関与を守る」意思を伝えることは、国内だけでなく海外で“強い米国”を印象づける利点もある。インド太平洋など、米国が主導する多国間での対中包囲網へのコミットメントの強化とも捉えられよう』、「中国の威嚇を跳ね除け「台湾を支える米国の揺るぎない米国の関与を守る」意思を伝えることは、国内だけでなく海外で“強い米国”を印象づける利点も」、これなら立派な「大義名分」だ。
・『軽く見られているバイデンの二転三転 そもそも、バイデン氏の支持率はジリ貧が続く。ギャラップが7月5~26日に実施した世論調査によれば、支持率は38%と就任以来の最低を更新した。それだけでなく、4月20日から7月19日までの平均支持率も40%と、1954年以降、1期目の大統領としては同期間中の平均値で過去最低を塗り替えた。つまり、トランプ前大統領の42%すら下回ったことになる。民主党寄りの有権者からも、そっぽを向かれている。 CNNが7月28日に公表した世論調査では、彼らの間でも「バイデン氏以外の候補者を擁立すべき」との回答が75%と、1~2月時点の51%から急伸していた』、 バイデン氏の失点と言えば、21年8月、イスラム主義組織タリバン勢力によるカブール陥落が真っ先に挙げられる。以降はインフレ高進が仇となったが、ロシアによるウクライナ侵攻についても「トランプが大統領ならば、ロシアはウクライナ侵攻しなかった」との回答が62%に達したことも、記憶に新しい。(3月10日公開「『危機の大統領』? ウクライナ侵攻でも支持率低迷のバイデン政権」』、確かに「バイデン」はモーロクした印象が強過ぎる。「「トランプが大統領ならば、ロシアはウクライナ侵攻しなかった」との回答」は、どこまで国際政治の実態を反映したものかは不明だが、頼りない印象だけは抜群だ。
・『議員たちの台湾問題 5月の台湾防衛に関して「イエス」と応じたバイデン氏の発言は、真の意図はともかく失言とされる。しかし、民主党や共和党の有力上院議員は歓迎した。 民主党のロバート・メネンデス上院外交委員長(ニュージャージー州)は「バイデン氏は正しい。信頼できる抑止には勇気と明快さが必要だ」と評価した。共和党のミッチ・マコーネル院内総務(ケンタッキー州)は、「台湾への侵攻を米国が座視しないと中国は知るべき」と発言。同党のリック・スコット上院議員(フロリダ州)も「大統領は2回も台湾を防衛すると発言したが、ホワイトハウスはその度に修正した」とツイートし、上院は混乱を終わらせるべきだと主張した。その上で「私が推進する“台湾侵略防止法案”を可決し、米国による台湾支援を明確化すべきだ」と訴えた。 なお、スコット氏は2019年にフロリダ州知事から上院議員に転じたばかりだが、21年から全国共和党上院委員会の委員長を務め、24年の米大統領選での出馬が囁かれる一人である』、親「台湾」の「上院議員」が、「24年の米大統領選での出馬が囁かれる一人」とは、「中国外交」の苦戦はしばらく続きそうだ。
・『台湾防衛発言に対するスコット議員のツイート 米国は、1979年に成立した“台湾関係法”と1982年に制定された“6つの保証”に基づき、台湾の自衛能力貢献に寄与してきた。半面、米軍の介入を確約していない。長年“曖昧戦略”を展開したわけだが、中国の脅威が眼前に迫り、2030年頃に中国はGDPで米国を追い抜く見通しだ。米議会の対中警戒は、否が応でも高まらざるを得ない。約520億ドル規模の補助金を含む半導体生産支援法案(CHIPSプラス)が超党派で成立したのも、そうした背景がある。 その上院は足元、スコット氏が法案を提出するだけでなく、メネンデス氏が同じく上院外交委員会のリンゼー・グラム議員(共和党)と連名で“2022年版台湾政策法”を提案。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、台湾関係法を刷新するもので、向こう4年間の台湾への外交軍事支援を含め、台湾を“重要な北大西洋条約機構(NATO)非加盟の同盟地域”に指定し米国からの武器納入を容易にしつつ、相互防衛の約束は盛り込まない』、「相互防衛の約束は盛り込まない」、ということで「中国」のメンツをかろうじて守った形だ。
・『切実、民主党の24年大統領選挙 1995~96年の第3次台湾海峡危機では、96年3月の中国の大規模軍事演習を展開、米国は台湾近海に原子力空母2隻を派遣するまで緊張が高まった。しかし、クリントン政権(当時)は同年7月にレーク安全保障担当大統領補佐官が中国に送り出し、翌97年5月にクリントン氏が最恵国待遇の更新支持を表明。1997年10月には江沢民主席が国賓として米国を訪問し、1998年6月には、クリントン氏が約9年ぶりに訪中するなど、現在の米国人にしてみれば米国が歩み寄った印象は拭えない。 現状、ピュー・リサーチ・センターの米世論調査で、米国人の89%が「中国を競争相手あるいは敵」とみなし、中国と台湾における緊張も「深刻」と受け止める米国人も78%だ。米世論での対中警戒が高まるだけに、米議会が当時のような姿勢を認めるはずはない。ペロシ氏の訪台は、中国の力による現状変更に屈しない立法府の力強い意志と結束を象徴したと言えよう。 何より民主党にしてみれば、中間選挙だけでなく、次の米大統領選を見据えた布石だったとしてもおかしくない。バイデン陣営にしても、行政府として距離を置けば中国側が何と言おうが説明可能という逃げ道が残る。一方で、民主党の大統領候補が誰であっても、中国に24年の米大統領選を制するには“弱腰”でいられない。 ニューズウィーク誌がペロシ訪台計画について“トランプ前大統領による強硬な対中政策転換のさらなる勝利”と伝えていた。米大統領選を控え、民主党は中国や米世論を過小評価も過大評価もせず、淡々と“強い米国”のイメージ作りに励む必要がありそうだ) バイデン氏の台湾を防衛すると3度にわたって発言しつつ、その度に撤回しているのも、米国の有権者にすれば高等な“曖昧戦略”(「1つの中国」を認め台湾と正式な国交を結ばず、武器輸出などを行う状態)というより、“優柔不断”に映るのだろう。 ワシントン・ポスト紙は5月24日に“二転三転するバイデン氏の台湾防衛宣言は米国を弱くみせる”との論説を掲載。そこで、リチャード・ハース外交問題評議会(CFR)会長の「戦略的曖昧さとして知られる政策は……その役割を終えた。今こそ米国は、戦略的明確化政策を導入すべき時だ」との発言を引用し、曖昧戦略からの脱却を訴えた』、「「戦略的曖昧さとして知られる政策は……その役割を終えた。今こそ米国は、戦略的明確化政策を導入すべき時だ」との発言を引用し、曖昧戦略からの脱却を訴えた」、注目すべき発言だ。
次に、8月9日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏による「ペロシ氏訪台で「アジア主戦場の米中新冷戦」の足音、日本に覚悟はあるか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/307778
・『米国のナンシー・ペロシ下院議長が台湾を訪れ、世界中で議論を呼んでいる。経済危機を避けるため、米中が対話の可能性を模索しつつあった中、その努力を無に帰したからだ。中国はペロシ議長の訪台を受けて大規模な軍事演習を実施し、台湾だけでなく米国を挑発している。このことは、もし今後の世界で「新冷戦」があるならば、その主戦場が「北東アジア」であることを明示したといえる。冷戦といえば、ウクライナ戦争の渦中にあるロシアを想起し、意外に思う読者がいるかもしれないが、ロシアの脅威はもはや幻想にすぎない。そういえる要因を詳しく解説する』、「新冷戦」「の主戦場が「北東アジア」」とは興味深そうだ。
・『米ペロシ議長の訪台を受け中国が大規模軍事演習に走ったワケ 米国のナンシー・ペロシ下院議長が8月2日夜に台湾を訪れて、蔡英文台湾総統と会談した。ペロシ議長は会談で、世界的に「民主主義VS権威主義」の対立構造が鮮明になっていると指摘し、「米国は揺るぎない決意で台湾と世界の民主主義を守る」と強調した。 また、ペロシ議長は今回、中国民主化運動の元学生リーダー、ウアルカイシ氏ら人権・民主運動関係者と会談したという。加えて、半導体受託生産世界最大手・台湾積体電路製造(TSMC)の劉徳音会長とも会談したと報じられている。 だが中国は、ペロシ議長の訪台に強く反発した。中国軍は、台湾周辺で実弾射撃を伴う大規模な軍事演習を行い、台湾北方、東方、南方の各海域に向けて弾道ミサイル「東風」を11発発射した。重要なことは、史上初めて、日本の排他的経済水域(EEZ)内に5発、中国軍のミサイルが着弾したことだ。 ペロシ議長の訪台を受け、中国が強気な態度を取った要因については、専門家の間でさまざまな見方がある。 その一つは、「習近平国家主席がペロシ議長の訪台を許したことについての、国民からの批判を抑えたかったのではないか」というものだ。 というのも、2022年は中国と習主席にとって重要な時期である。8月1日は中国人民解放軍の「建軍95周年記念日」だった。8月には他にも、長老らの意見を聞いて共産党の方針を決める「北戴河会議」がある。また、22年秋には5年に一度の党大会を控えている。 重要な会議や式典が相次ぐ時期に、国内で弱腰の姿勢を見せられなかったというのだ。 もう一つの見方は、「台湾を取り囲み、武力侵攻を想定した軍事演習を行うことで、中国の軍事能力の向上を米国に見せつける狙いがあった」というものだ。 これまでの中国は、軍事演習の他にも、米国に対するサイバー攻撃など多岐にわたる作戦領域を展開してきた。その背景には、米国が武器売却や軍事演習を通じて、粛々と台湾との関係を強化してきたことへの強い不満があるという。 今回もこうした不満が原因となり、軍事演習によって米国を挑発・威嚇しようとした可能性は大いにあるだろう』、「2022年は中国と習主席にとって重要な時期である。8月1日は中国人民解放軍の「建軍95周年記念日」だった。8月には他にも、長老らの意見を聞いて共産党の方針を決める「北戴河会議」がある。また、22年秋には5年に一度の党大会を控えている。 重要な会議や式典が相次ぐ時期に、国内で弱腰の姿勢を見せられなかったというのだ」、「中国の軍事能力の向上を米国に見せつける狙い」、いずれももっともな見方だ。
・『ペロシ議長の訪台は米中の歩み寄りを無に帰した しかし、「中国は米国とのこれ以上の緊張拡大を望んでいるわけではなく、それを慎重に避けている」という見方もある。 また、ペロシ議長の訪台自体についても、各方面から厳しい批判がある。米ジョー・バイデン政権は対中強硬姿勢を強化しながらも、並行して中国との対話も進め、対中関係を安定させようとしてきた。 特に、ウクライナ戦争勃発後は、欧米のロシアに対する経済制裁が、中国を含む国際経済に悪影響を与えつつある。その中で経済危機を避けるために、米中は対話の可能性を模索しつつあった。 だが、ペロシ議長の訪台は、これらの米中両政府の努力を無に帰したかもしれない。たとえ前述の通り、中国がこれ以上の緊張拡大を望んでいなかったとしても、訪台を機に米中関係が明らかに悪い方向に向かうのは間違いない。 また、台湾や日本にとっても、議長の訪台の意義を見いだすことは難しい。「結局、議長のレガシー(遺産)づくりでしかない」といった厳しい報道も出ている。“遺産”という表現が使われた理由は、米国で22年11月に行われる中間選挙で、民主党が厳しい戦いを強いられ、敗北によってペロシ議長が退任する可能性が考えられるからだ。 しかし、不可解なペロシ議長の訪台と、中国からの反発が意味することが一つある。それは、もし今後の世界で「新冷戦」があるならば、その主戦場が「北東アジア」であることがはっきりしたことだ。 逆にいえば、欧州には「新冷戦」など存在せず、その主戦場になり得ないことが明確になった。 新冷戦といえば、ウクライナ戦争の渦中にあるロシアを想起し、意外に思う読者が多いかもしれない。だが、ウクライナ戦争によって、現在の欧米諸国におけるロシアの劣勢は明確になっている。もはや、対立構図で論じられるレベルではないのだ。 この連載では、ウクライナ戦争開戦前から、ロシアはユーラシア大陸の勢力争いで、米英仏独などNATO(北大西洋要約機構)に敗北していると指摘してきた(本連載第306回・p2)。 振り返ると、東西冷戦期にドイツは東西に分裂し、「ベルリンの壁」で東西両陣営が対峙(たいじ)した。当時、旧ソ連の影響圏は「東ドイツ」まで広がっていた。しかし東西冷戦終結後、旧共産圏の東欧諸国や、旧ソ連領だった国が次々と民主化した。その結果、約30年間にわたってNATOやEU(欧州連合)は東方に拡大してきた。 ペロシ氏訪台で「アジア主戦場の米中新冷戦」の足音、日本に覚悟はあるか ヨーロッパの地図(出典:123RF)。ポーランドやチェコ、ハンガリー、「バルト三国」などは冷戦後にNATOに加わった ベラルーシ、ウクライナなど数カ国を除き、旧ソ連の影響圏だったほとんどの国がNATO、EU加盟国になった。ウクライナ戦争の開戦前、ロシアの勢力圏は、東ベルリンからウクライナ・ベラルーシのラインまで大きく後退していた。 ウクライナ戦争の開戦時、プーチン大統領は「NATOがこれ以上拡大しないという法的拘束力のある確約をする」「NATOがロシア国境の近くに攻撃兵器を配備しない」「1997年以降にNATOに加盟した国々からNATOが部隊や軍事機構を撤去する」の3つを要求した(第297回)。これらの内容からは、ロシアがNATOの東方拡大によって、いかに追い込まれていたかが見て取れる。 そして、ウクライナ戦争開戦から5カ月がたった現在、ロシアはウクライナ東部を占領し、大攻勢に出ていると報じられている。だが欧州全体の地図を眺めれば、NATOの勢力圏が開戦前より拡大し、ロシアがさらに追い込まれていることがわかる』、「欧州全体の地図を眺めれば、NATOの勢力圏が開戦前より拡大し、ロシアがさらに追い込まれていることがわかる」、その通りだ。
・『ロシアの不利は明確 欧州は「新冷戦」の舞台ではない そう言い切れる要因は、長年NATOとロシアの間で「中立」を守ってきたスウェーデン、フィンランドのNATO加盟決定である(第306回・p3)。加盟交渉は当初、NATO加盟国の一つでありながら、ロシアとも密接な関係を保ってきたトルコが反対し、難航するかと思われた。だが、トルコはあっさりと翻意した。 トルコはウクライナ戦争を巡り、最もしたたかに振る舞っている国だ。かつては、ウクライナとロシアの停戦交渉の仲介役を担おうとしたこともあった。そのトルコが、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟を認めたのは、相当の「実利」を得られると踏んだからだろう。 スウェーデン・フィンランドのNATO加盟によって、地上におけるNATO加盟国とロシアの間の国境は2倍以上に延びる。海上においても、「不凍港」があるバルト海に接する国が、ほぼすべてNATO加盟国になる。単にNATOの勢力圏が東方拡大したという以上に、ロシアの安全保障体制に深刻な影響を与えることになるのだ』、「スウェーデン・フィンランドのNATO加盟によって、地上におけるNATO加盟国とロシアの間の国境は2倍以上に延びる。海上においても、「不凍港」があるバルト海に接する国が、ほぼすべてNATO加盟国になる。単にNATOの勢力圏が東方拡大したという以上に、ロシアの安全保障体制に深刻な影響を与える」、そんな影響があったことをクリアに示してくれた。
・『事実上「戦勝」状態にあるNATOの不安要素とは? その上、今後はウクライナ、モルドバ、ジョージアもNATOに加わる可能性がある。確かにこれらの国は今、ロシアに領土の一部を占領されている。だが、そのままの状態でも、3カ国がもしNATOに加盟すれば、NATOの東方拡大はより多くの旧ソ連国に及ぶことになる。 戦争で苦しんでいるウクライナ国民にとっては大変申し訳ないことだが、NATOからすれば、すでにロシアに完勝し、得るものを得たということだといえる。これが、欧州には「新冷戦」など存在しないと言い切れる根拠である。 ただし、事実上の「戦勝」状態にあるNATOだが、わずかに不安要素もある。 ロシアのウクライナ軍事侵攻が始まって以降、ロシアからの石油・ガスパイプラインに依存していない米英を中心に、欧米諸国は一枚岩となってロシアに経済制裁を科してきた(第303回)。だが現在は、米英と欧州諸国の間に不協和音が生じているようにみえる。 その理由は、ロシアが欧州へのエネルギー供給を大幅に削減したからだ。ロシアの国営エネルギー会社ガスプロムが先月末、ドイツにつながるパイプライン「ノルドストリーム1」の流量を半分に減らし、輸送能力の20%にすると発表した。そのため、今冬に深刻な天然ガス不足が起こる懸念が出て、欧州諸国に動揺が走っているのだ。 そのため欧州諸国は、今冬のエネルギー不安を回避する目的で、ロシアがウクライナの領土を占領した状態のまま、停戦の実現に動くかもしれない。各国はウクライナへの武器供与などを行っているものの、NATOのロシアに対する「完勝」が決定的となった今、エネルギー供給不安を我慢してまで戦争を継続する意義がなくなってしまった。 一方の米英は、ロシアからの輸入に依存しておらず、「ノルドストリーム1」の流量減によるダメージは相対的に小さい。ウクライナ戦争をこれ以上継続する積極的な理由はないが、戦争が長引くほどにプーチン政権が追い込まれるメリットもある。他の欧州諸国ほど停戦を急いでいるわけではなく、温度差が生じている(第304回)。 とはいえ、ロシアの不利に変わりはない。今後のウクライナ戦争は、世界を巻き込む大問題ではなく、あくまでユーラシア大陸の一地域で起こった「局地戦」となっていくだろう。 戦況が現状のまま停戦交渉が進めば、ロシアによるウクライナ領の占領という「力による一方的な現状変更」を容認することになるが、欧州諸国にとってはエネルギー面の不安が解消される。 停戦が実現しても、ウクライナの領土をロシアが占領し続ける限り、経済制裁は続くが、ロシア産石油ガスは制裁対象から外されるだろう。プーチン政権を一挙に倒すことはできないが、それでもジワジワと追い詰めることはできる。温度差はあるものの、欧米諸国にとっては、それでも十分な成果なのだ』、「戦況が現状のまま停戦交渉が進めば、ロシアによるウクライナ領の占領という「力による一方的な現状変更」を容認することになるが、欧州諸国にとってはエネルギー面の不安が解消される。 停戦が実現しても、ウクライナの領土をロシアが占領し続ける限り、経済制裁は続くが、ロシア産石油ガスは制裁対象から外されるだろう・・・温度差はあるものの、欧米諸国にとっては、それでも十分な成果なのだ」、なるほど。
・『ロシアの脅威は幻想にすぎない 日本が真に警戒すべきは中国だ 要するに、「大国ロシア」とは「幻想」にすぎない(第297回)。ロシアへのウクライナ侵攻をボクシングに例えるならば、リング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれてダウン寸前のボクサーが、かろうじて繰り出したジャブのようなものなのだ。 こうした要因により、欧米諸国の関心はロシアから離れ、中国との真の「新冷戦」に向かっている。幻想にすぎない「大国ロシア」と違い、中国との対立は多岐にわたっており、リアリティーのある危機であるからだ。 台湾を巡る軋轢(あつれき)の他にも、中国による「東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の動き」「知的財産権の侵害など経済安全保障の問題」「新疆ウイグル自治区や香港などでの人権侵害」などを欧米側は厳しく批判し、対立している。 なにより問題なのは、中国を中心とする権威主義体制は世界中に広がり、自由民主主義に対抗する勢力になりつつあることだ。 特に中国は、新型コロナウイルス感染拡大への対応について、自国のトップダウンによる意思決定の早さを「権威主義の優位性」と誇り、世界中の権威主義体制や軍事政権の指導者がそれを支持するようになった(第263回)。 また、アフリカ諸国や南米諸国など、中国から支援を受けて経済的な結び付きを強めることで、中国を支持する国家も増えている(第267回)。 これに対して、米国は、日米同盟など二国間関係に加えて「主要7カ国首脳会議(G7)」「日米豪印戦略対話(クアッド)」「米英豪の安全保障パートナーシップ(AUKUS)」など、さまざまな戦略性のある多国間の枠組みを強化。重層的な「対中国包囲網」を築くことで対抗しようとしている。 日本は、これらのさまざまな枠組みの中で、米国をサポートする役割があるのはいうまでもない。地政学上、日本が「新冷戦」の最前線に位置しているからだ。 尖閣諸島侵攻の懸念といった軍事面の安全保障のみならず、半導体、電気自動車、人工知能、量子コンピューターの開発といった経済面の安全保障においても、日本にとって中国は大きな脅威である(第306回・p5)。 ペロシ議長の訪台は、北東アジアで「新冷戦」が本格化する狼煙(のろし)となった可能性がある。日本には、その戦いに身を投じる覚悟が求められている』、「日本は、これらのさまざまな枠組みの中で、米国をサポートする役割があるのはいうまでもない。地政学上、日本が「新冷戦」の最前線に位置しているからだ。 尖閣諸島侵攻の懸念といった軍事面の安全保障のみならず、半導体、電気自動車、人工知能、量子コンピューターの開発といった経済面の安全保障においても、日本にとって中国は大きな脅威」、「ペロシ議長の訪台は、北東アジアで「新冷戦」が本格化する狼煙・・・となった可能性」、同感である。
タグ:現代ビジネス 台湾 (その5)(レガシー作り?議会の圧力?お騒がせペロシの台湾訪問 その裏を読む 24年大統領選を見据えた民主党の事情、ペロシ氏訪台で「アジア主戦場の米中新冷戦」の足音 日本に覚悟はあるか) 安田 佐和子氏による「レガシー作り?議会の圧力?お騒がせペロシの台湾訪問、その裏を読む 24年大統領選を見据えた民主党の事情」 「ペロシ氏の訪台計画にバイデン政権は怒り心頭で、国家安全保障会議(NSC)や国務省の高官がペロシ陣営に赴き、地政学的リスクを事前に説明したという。しかし、ペロシ氏は訪台を敢行。国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官が8月2日、「下院議長には訪台の権利がある」と述べ、三権分立の下で行政府の制御が及ぶ範囲内ではないと一線を画すにとどめた」、「バイデン」の政治力のなさを如実に示した形だ。 「自身のレガシー作りを狙った」のではないとすると、真の狙いは何なのだろう。 「ペロシ氏がスキャンダルから話題を逸らすべく訪台という大舞台を演出したとの批判も」、そんなみみっちい理由ではなかっと思うしかなさそうだ。 「中国の威嚇を跳ね除け「台湾を支える米国の揺るぎない米国の関与を守る」意思を伝えることは、国内だけでなく海外で“強い米国”を印象づける利点も」、これなら立派な「大義名分」だ。 バイデン氏の失点と言えば、21年8月、イスラム主義組織タリバン勢力によるカブール陥落が真っ先に挙げられる。以降はインフレ高進が仇となったが、ロシアによるウクライナ侵攻についても「トランプが大統領ならば、ロシアはウクライナ侵攻しなかった」との回答が62%に達したことも、記憶に新しい。(3月10日公開「『危機の大統領』? ウクライナ侵攻でも支持率低迷のバイデン政権」』、確かに「バイデン」はモーロクした印象が強過ぎる。「「トランプが大統領ならば、ロシアはウクライナ侵攻しなかった」との回答」は、どこまで国際政治の 親「台湾」の「上院議員」が、「24年の米大統領選での出馬が囁かれる一人」とは、「中国外交」の苦戦はしばらく続きそうだ。 「相互防衛の約束は盛り込まない」、ということで「中国」のメンツをかろうじて守った形だ。 「「戦略的曖昧さとして知られる政策は……その役割を終えた。今こそ米国は、戦略的明確化政策を導入すべき時だ」との発言を引用し、曖昧戦略からの脱却を訴えた」、注目すべき発言だ。 ダイヤモンド・オンライン 上久保誠人氏による「ペロシ氏訪台で「アジア主戦場の米中新冷戦」の足音、日本に覚悟はあるか」 「新冷戦」「の主戦場が「北東アジア」」とは興味深そうだ。 「2022年は中国と習主席にとって重要な時期である。8月1日は中国人民解放軍の「建軍95周年記念日」だった。8月には他にも、長老らの意見を聞いて共産党の方針を決める「北戴河会議」がある。また、22年秋には5年に一度の党大会を控えている。 重要な会議や式典が相次ぐ時期に、国内で弱腰の姿勢を見せられなかったというのだ」、「中国の軍事能力の向上を米国に見せつける狙い」、いずれももっともな見方だ。 「欧州全体の地図を眺めれば、NATOの勢力圏が開戦前より拡大し、ロシアがさらに追い込まれていることがわかる」、その通りだ。 「スウェーデン・フィンランドのNATO加盟によって、地上におけるNATO加盟国とロシアの間の国境は2倍以上に延びる。海上においても、「不凍港」があるバルト海に接する国が、ほぼすべてNATO加盟国になる。単にNATOの勢力圏が東方拡大したという以上に、ロシアの安全保障体制に深刻な影響を与える」、そんな影響があったことをクリアに示してくれた。 「戦況が現状のまま停戦交渉が進めば、ロシアによるウクライナ領の占領という「力による一方的な現状変更」を容認することになるが、欧州諸国にとってはエネルギー面の不安が解消される。 停戦が実現しても、ウクライナの領土をロシアが占領し続ける限り、経済制裁は続くが、ロシア産石油ガスは制裁対象から外されるだろう・・・温度差はあるものの、欧米諸国にとっては、それでも十分な成果なのだ」、なるほど。 「日本は、これらのさまざまな枠組みの中で、米国をサポートする役割があるのはいうまでもない。地政学上、日本が「新冷戦」の最前線に位置しているからだ。 尖閣諸島侵攻の懸念といった軍事面の安全保障のみならず、半導体、電気自動車、人工知能、量子コンピューターの開発といった経済面の安全保障においても、日本にとって中国は大きな脅威」、「ペロシ議長の訪台は、北東アジアで「新冷戦」が本格化する狼煙・・・となった可能性」、同感である。
ウクライナ(その6)(このままでは第三次世界大戦になる…佐藤優が注目する「クリミア大橋」と「リトアニア」という2大リスク アメリカは必死になってウクライナを抑えているが…、秘密警察と検察のトップを突如解任…佐藤優「ゼレンスキー大統領を疑心暗鬼に陥れたロシアの狡猾な心理戦」 「アメリカに管理された戦争」を続けるウクライナの苦しさ、ウクライナ軍の焦り「ドローン攻撃が、ロシア軍に効かない」…! 米国製「ロケット砲」も“効き目なし”で、いよいよ大ピンチへ…!、プーチンの「思惑通りだ」「危険な状況だ」…! ウクライ [世界情勢]
ウクライナについては、6月24日に取上げた。今日は、(その6)(このままでは第三次世界大戦になる…佐藤優が注目する「クリミア大橋」と「リトアニア」という2大リスク アメリカは必死になってウクライナを抑えているが…、秘密警察と検察のトップを突如解任…佐藤優「ゼレンスキー大統領を疑心暗鬼に陥れたロシアの狡猾な心理戦」 「アメリカに管理された戦争」を続けるウクライナの苦しさ、ウクライナ軍の焦り「ドローン攻撃が、ロシア軍に効かない」…! 米国製「ロケット砲」も“効き目なし”で、いよいよ大ピンチへ…!、プーチンの「思惑通りだ」「危険な状況だ」…! ウクライナ軍が“兵力ダウン”“戦費枯渇”で直面する「ヤバすぎる現実」)である。
先ずは、7月22日付けPRESIDENT Onlineが掲載した作家・元外務省主任分析官の佐藤 優氏による「このままでは第三次世界大戦になる…佐藤優が注目する「クリミア大橋」と「リトアニア」という2大リスク アメリカは必死になってウクライナを抑えているが…」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/59806
・『ロシアとウクライナの戦争は、これからどうなるのか。元外交官で作家の佐藤優さんは「ウクライナ軍はロシア軍の物資の補給路であるクリミア大橋の爆破を計画している。これが実行されれば、第3次世界大戦につながりかねない」という――。(連載第17回)』、「第3次世界大戦につながりかねない」とは穏やかならざることだ。
・『ロシア本土とクリミア半島をつなぐ全長19キロ 日本のメディアはあまり話題にしていないのですが、ロシアとウクライナの戦争が「第3次世界大戦」となる瀬戸際に差し掛かっています。とりわけ私が注目しているのは「クリミア大橋爆破計画」と「リトアニアの国境封鎖」の帰趨です。 クリミア大橋は、2014年にクリミア半島を併合したあと、ロシアが造りました。ロシアのクラスノダール地方にあるタマン半島とクリミア半島東端のケルチという町の間に架かっています。全長およそ19キロメートルに及ぶ、鉄道と道路の併用橋です。2015年5月に工事が始まり、道路は18年5月に、鉄道は19年12月に完成しました。これによって、ロシア本土とクリミア半島が陸路でつながりました。工費は37億ドルといわれます。 開通の式典には、プーチン大統領も出席。大型トラックのハンドルを自ら握って車列を先導し、ロシア側からクリミア半島へ渡るパフォーマンスを演じました』、「全長およそ19キロメートルに及ぶ、鉄道と道路の併用橋」、戦略的価値は大きそうだ。
・『クリミア大橋を破壊して補給路を断つ作戦 ウクライナへの侵攻が始まったあと、この橋がロシア軍の物資の輸送に使われているので破壊すべきだという意見が、ウクライナ側から出ています。クリミア大橋を破壊すれば、ロシアの黒海艦隊が母港としているセヴァストポリへの陸からの補給路を断つことができるからです。 5月9日の朝日新聞デジタルは、次のように報じました。 〈「必ず破壊される。問題は、それがいつになるかということだ」。ウクライナのニュースサイト「チャンネル24」(8日付)によると、ウクライナのアンドルーシウ内相顧問はこう言ってクリミア橋を将来的に攻撃する可能性に触れた。現状では遠距離から攻撃できる有効な武器がないとして、攻撃するには橋の沿岸に近づく必要があるとの課題も指摘した。〉 〈ウクライナのダニロフ国家安全保障国防会議書記も4月下旬、橋の破壊について「機会があれば、間違いなくやるだろう」とラジオ番組で述べている。〉 〈ロシアはウクライナ側の発言に強く反発している。ロシアの有力紙「ベドモスチ」によると、大統領府のペスコフ報道官はダニロフ氏の発言について、「テロ行為の可能性を発表したことにほかならない」と批判。政府の安全保障会議で副議長を務めるメドベージェフ前首相も、ダニロフ氏について「彼自身が報復の標的になることを理解してくれるよう願っている」とSNSに書き込み、ウクライナ側を強く牽制した』、ウクライナに米国が供与した高機動ロケット砲システムハイマースは、攻撃にはうってつけだが、米国は「クリミア橋」への使用は認めないだろう。
・『クリミア大橋の爆破で「ロシアにパニックが起きる」 アメリカが武器の追加支援を発表した翌日の6月16日には、ウクライナ国防軍のマルシェンコ少将の発言が報じられました。 「米国をはじめとする北大西洋条約機構(NATO)諸国の武器を受け取ったら、少なくともクリミア大橋の攻撃を試みる」 「クリミア大橋は目標の一つか?」と尋ねられたマルシェンコ少将は、 「100%そうだ。このことはロシア軍人、ウクライナ軍人、ロシア市民、ウクライナ市民にとって秘密ではない。これがロシアを敗北させるための第一の目標だ。われわれは虫垂を切らなくてはならない。虫垂を切れば、これでロシアにパニックが起きる」と答えたといいます。 ロシアは、敏感に反応しました。政府系テレビ第一チャンネルの政治討論番組「グレート・ゲーム(ボリシャヤ・イグラー)」が早速この日の夜、マルシェンコ少将の発言を取り上げたのです。出演者は、ロシア高等経済大学のドミトリー・スースロフ教授、モスクワ国際関係大学のアンドリャニク・ミグラニャン教授、作家のニコライ・スタリコフ氏などでした』、「ロシアは、敏感に反応しました」、当然だろう。
・『アメリカが必死になってウクライナを抑えている理由 スースロフ教授が問います。 「スタリコフさんにお伺いしたい。米国は、この種の発言やウクライナの行動が紛争を激化させる直接的要因になるとは考えないのか。紛争はウクライナだけでなく、その外側にも及ぶ。猿に手榴弾を持たせるようになれば(今がまさにそのような状況であるが)、責任は猿に手榴弾を渡した者が負わなくてはならない」 スタリコフ氏は、こう答えました。 「理屈では、猿に手榴弾を与えた者が責任を負わなくてはならない。しかし、歴史において責任を負うのは猿自身である。手榴弾は投げた者がその責任を負うというのが、米国の考えだ。ウクライナ軍の将官の一人がクリミア大橋を攻撃すると言っても、米国は何の損もしない」 いまのところクリミア大橋への攻撃が実行されないのは、アメリカが必死になってウクライナを抑えているからです。アメリカは、ロシアがこの戦争に勝つことがあってはならないと考えると同時に、ロシアが攻勢を強めるウクライナ情勢においてウクライナが圧勝することはないとわかっています。だから戦火をウクライナ国内に押しとどめたいと考えているのです』、「アメリカ」の「支援」は条件付きなので、「ウクライナ」もやり難いだろう。
・『リトアニアも一触即発 バルト三国のリトアニアが第3次世界大戦の引き金になるかもしれないことは、4月27日のこの連載で指摘しました。ロシアの飛び地の領土カリーニングラードとの国境を、リトアニアが封鎖する動きがあったからです。ロシアからの警告が効いたようで封鎖は見送られていたのですが、6月18日から、EUが制裁の対象としている貨物を積んだ列車の通過を禁止し始めました。 カリーニングラードはバルト艦隊の母港であり、迎撃ミサイルシステムも備わっています。ロシアにとって戦略的な要衝ですから、交通路を確保するため「平和維持」の名目でNATO加盟国のリトアニアに軍隊を送る可能性があります。旧日本軍が、南満州鉄道を守るという名目で派兵したようなものです。 ではアメリカは、NATO第5条を適用して共同防衛に踏み切るのか。これは、ロシアと本気で事を構える覚悟があるか否かを問われる事態ですが、アメリカは介入したがらないでしょう』、「リトアニア」がわざわざこんな時期に火遊びをするとは困ったことだ。
・『アメリカ、イギリス、ドイツは交戦国と認定されかねない 最終的には、リトアニアが妥協せざるを得ないと考えます。しかし、小国の瀬戸際外交によってロシアを挑発してみせ、NATOに対しても存在をアピールできたことは、リトアニアにとっての成果になります。ソ連が崩壊する前から、リトアニアの歴史的なアイデンティティーは「反ロシア」で、教育や文化全体の中で染み込んでいます。それは裏返して言えば、ロシアの怖さをよく知っているということです。 リトアニアの歴史を振り返ると、13世紀にはリトアニア大公国が成立し、14世紀にポーランドとの連合王国となり、全盛期はバルト海から黒海に及ぶほど勢力を拡大します。しかし18世紀末にはロシア、プロイセン、オーストリアによって三度にわたり領土分割が行われ、ロシア革命が起こる1918年まで約120年に及びロシア帝国の支配が続きました。1940年のソ連侵攻により再び独立を失い、その後ナチスドイツが占領、そして再びソ連に併合されます。そのため、反ロシア感情が極めて強い国の一つです。 仮にクリミア大橋が破壊されれば、ロシアはそのための武器を供給したNATOへの攻撃に踏み切りかねません。カリーニングラードに対するリトアニアの封鎖も同じで、ロシアは力で阻止するかもしれません。どちらの場合も、第3次世界大戦の危機が到来します。 伝統的な国際法からすると、兵器を供与している国は、それだけで交戦国と認定される可能性があります。アメリカ、イギリス、ドイツなどは、すでに交戦国と認定されてもいいほどの踏み込み方をしています。ウクライナの戦いは応援するが、NATO諸国や米ロ戦争に拡大しないようにする綱渡りゲームが行われているのです』、危なっかしい「綱渡りゲーム」は、当面、続けざるを得ないようだ。
次に、8月6日付けPRESIDENT Onlineが掲載した作家・元外務省主任分析官の佐藤 優氏による「秘密警察と検察のトップを突如解任…佐藤優「ゼレンスキー大統領を疑心暗鬼に陥れたロシアの狡猾な心理戦」 「アメリカに管理された戦争」を続けるウクライナの苦しさ」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/60287
・『7月17日、ウクライナのゼレンスキー大統領は保安局長官(秘密警察長官)と検事総長という高官2人を「ロシアに協力する反逆行為が多数見つかった」という理由で解任した。一人はゼレンスキー大統領の幼なじみ、もう一人はロシアの戦争犯罪を捜査してきた女性だった。解任の背景には何があるのか。元外交官で作家の佐藤優さんが解説する――。(連載第18回)』、「保安局長官」と「検事総長」の「解任」とはよほどのことなのだろう。
・『「秘密警察と検察のトップが解任」の衝撃 7月28日は、ゼレンスキー大統領が2021年に制定した祝日「ウクライナの国家の日」でした。記念の動画メッセージで、ゼレンスキー大統領はこう演説しました。 「私たちは、戦うために生き続けるし、生きるために戦い続ける。私たちは、自らの家から最後の占領者を追い出すまで屈しないし、ウクライナの大地の最後の1メートルを解放するまで止まらない。最後の村、最後の家、最後の井戸、最後のサクラ、最後のヤナギが解放されるまで、私たちが気を休めることはない」(ウクライナ唯一の国営通信社「ウクルインフォルム通信」の日本語版より)』、なるほど。
・『「ロシアとつながりのある人間」を組織から排除してきたが… 保安局はソ連時代にはKGBでした。1991年12月にウクライナがソ連から独立した後も、インテリジェンス機関や検察にはソ連時代からの職員が勤務していました。 2013年に親ロシアのヤヌコビッチ大統領がロシアからの強い圧力を受けて、EUとの連合協定締結の署名を取りやめたことを発端に、反政府デモが盛んになり、2014年に追放されると(マイダン革命)、反ロ親米政権が発足し、ウクライナは、保安局、軍、検察で「非ロシア化」を徹底しようとしました。特に保安局の幹部職員をアメリカやイギリスでインテリジェンスの訓練を受けた人たちに入れ替えてきました。 そのため、ロシアと協力する保安局員や検察官が大量に出てきたことはゼレンスキー大統領にとって想定外の事態だったと思います。 しかし、実際はロシアとつながりのある人間を完全に排除していたわけではありません。 ウクライナ当局が7月16日に反逆罪などで拘束した連邦保安局クリミア支局長のオレグ・クリニッチ氏は1989年から1994年まで、ロシア連邦保安庁(FSB)アカデミーで学び、ロシアの防諜機関で勤務。1996年からはロシア連邦議会の国家院(下院)で勤務した経歴の持ち主です。そんなクリニッチ氏が2020年からウクライナ保安局で働き始めたわけです。 ゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻当初にクリニッチ氏を解任していますが、保安局の幹部の半数は同様の非難を受けるような経歴を持っているとされます』、「保安・防諜」機関が任務に忠実か否かの判断は極めて難しいものだ。
・『「解任された2人は国民の不満のはけ口にされた」 そのような状況の中で、ロシアのインテリジェンス機関は、ゼレンスキー大統領が疑心暗鬼に陥るような情報を巧みに流す心理戦を行っているのだと思います。秘密警察と検察といえば最も秩序が守られるべき部門なのに、そこさえ国家として抑えきれないのが、現在のゼレンスキー政権なのです。しかし秘密警察と検察を信用できなくなったら、国のトップは誰を信用すればいいのでしょうか。 この解任人事に、ロシアは即座に反応しました。同じ18日の夜9時、政府系テレビ「第一チャンネル」のニュース番組「ブレーミャ(時代)」が取り上げています。 アナウンサーが「2人の側近を解任したゼレンスキーの真意を探ってみましょう」と言い、現地ウクライナからのリポートも交えた内容でした。この番組の見立てを要約すれば、次の通りになります。 ――ゼレンスキー大統領は「西側諸国の支援を受けているので、ウクライナの勝利は近い」と言っているが、前線の状況は真逆である。国内外に向けて勝てない釈明を余儀なくされた大統領は、身辺にいる裏切り者のせいにしている。解任された2人は、国民の不満のはけ口として、スケープゴートにされたのだ――。 ゼレンスキー大統領は、国民の戦意を鼓舞し続けています。しかし、その足元を支える政権中枢が混乱し始めています。7月18日のBBCは、次のように報じています。 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は17日夜、保安局(SBU)長官(秘密警察長官)と検事総長を解任したと発表した。強力な権力を持つ両組織内で、ロシアに協力する反逆行為が多数見つかったためとしている。ウクライナ当局は16日には、SBUのクリミアでの元幹部を反逆容疑などで拘束している。 ゼレンスキー大統領は、ロシアが占領した地域で60人以上の元政府職員が、ウクライナに敵対し、ロシアに協力していると述べた。さらに、法執行機関の職員がロシアに協力したりウクライナに敵対したりした疑いで、計651件の事件捜査に着手していると話した。 恒例になっている夜のビデオ声明でゼレンスキー氏は、「国の安全保障の基礎に対してこれほど多くの犯罪が行われていたことは(中略)(両組織の)トップにきわめて重大な疑問を突きつけており、すべての疑問にしかるべき適切な答えを得ていく」と述べた』、どうも防諜に素人の「ゼレンスキー大統領」に対し、「ロシアのインテリジェンス機関は、ゼレンスキー大統領が疑心暗鬼に陥るような情報を巧みに流す心理戦を行っている」可能性が強いのではなかろうか。
・『解任された2人は最側近だった 解任されたのは、KGB(ソ連の秘密警察機関であり対外諜報機関)を前身とする情報機関である保安局のバカノウ局長と、ベネディクトワ検事総長です。 バカノウ氏は、幼なじみのゼレンスキー氏が主宰する劇団「95地区」でも同僚でした。ゼレンスキー氏の資金管理係として2019年の大統領選にも深く関わり、当選後は保安局長官に任命されたのです。大学の観光科卒でしたから政治の経験もインテリジェンスに従事したこともまったくなかったので任命当初から資質に疑念が呈されていました。 ベネディクトワ検事総長は、ゼレンスキー氏が役者時代に知己を得て、大統領選挙で精力的に活動した論功でこの職に就きました。ロシア軍が行った戦争犯罪の捜査を率いてきた女性です。2人とも、ゼレンスキー大統領の最側近として知られていました。 解任の理由は、2人自身が「ロシアに協力する反逆行為」を行ったのではなく、部下を統率できなかったこと。部下たちは、この政権は長く持たないと見切りをつけ、自分の温かい椅子を確保するなら早いほうが得だと考えて、裏切り行為に走ったのでしょう』、「部下たちは、この政権は長く持たないと見切りをつけ、自分の温かい椅子を確保するなら早いほうが得だと考えて、裏切り行為に走ったのでしょう」、あり得る話だ。
・『「ロシアに勝てないのは裏切者がいるからだ」 番組はさらに、アメリカの政治サイト「POLITICO」を引用しながら、ゼレンスキー政権の内情を深掘りしていきます。すなわち、バカノウ氏が長官を務めてきたSBUの中にロシアの工作員がいることが、6月にウクライナ軍が敗北した原因だという指摘です。 ウクライナ当局者と西側外交官は皆、懸念はバカノフ氏だけでなく、ロシアの本格的なウクライナ侵攻の最初の数時間から数日間における当局幹部数人の決断についても大きいと語った。 へルソンのSBU長官であるセルヒィ・クリヴォルチコ将軍は、ゼレンスキーの命令に反して、ロシア軍が襲撃する前に同市から避難するよう部下に命じたと当局は主張する。 一方、彼の補佐役で地元事務所の反テロセンター長であるイホル・サドキン大佐は、クリミアから北上するロシア軍にウクライナの機雷の位置を密告し、敵機の飛行経路の調整に協力しながら、西へ向かうSBU捜査官の車列の中で逃走したと当局は主張している。 へルソンは、全面的な侵攻が始まって以来、ロシア軍に占領された最初の、そして今のところ唯一のウクライナの主要都市である。プーチン大統領が新たな攻勢を開始してから7日後の3月3日にロシア軍に占領された。 ウクライナ当局によると、ロシア軍がへルソンを簡単に占領できたのは、ドニプロ川に架かるアントノフスキー橋の爆破に現地SBU職員が失敗し、ロシア軍の進入を許してしまったためだという。 ゼレンスキー大統領に近いウクライナ政府高官は、6月にPOLITICOに対し、機密性の高い人事問題について話すため匿名を条件に、「我々は彼の仕事に満足しておらず、彼を排除するために動いている」と述べた。「我々は彼の管理能力に満足していない。なぜなら、今必要なのは……危機に対する管理能力であり、彼が持っているとは思えないからだ。」(7月17日・POLITICO) この番組の「ゼレンスキー大統領がスケープ・ゴートを必要としている」という見立ては、的確な評価と思います。ロシア軍は攻勢を強め、ウクライナ東部の約8割を制圧、南部でもじわじわと制圧地域を広げています。欧米から支援を受けるゼレンスキー大統領は、ロシアに勝てない理由を説明する必要に迫られているのです』、「ロシアに勝てないのは裏切者がいるからだ」と「スケープ・ゴート」に仕立て上げられたとの見方は大いにあり得る話だ。
・『「汚職の撲滅」はEU加盟の条件でもある ウクライナは最近、「アメリカから供与された高機動ロケット砲システム『ハイマース』が威力を発揮して、大きな戦果を上げている」と誇示しています。しかし7月末で16基にすぎず、そのうち4基はロシアに壊されてしまった(ウクライナは否定)というのでは、戦果も限られるはずです。 さらに、供与に伴うアメリカ側の条件で、ハイマースでロシア本土を攻撃することはもとより、ロシアの補給路であるクリミア大橋を攻撃するのもいけないと手足を縛られているのです。アメリカに管理された戦争を戦っている限り、ウクライナに決定的な勝利は望めません。アメリカの目的は、戦争を少しでも長引かせてロシアに打撃を与えることだからです。 SBUの長官には、第1次官を務めていたマリウク氏が代行として起用されました。検事総長の後任には、7月28日にコースチン議員が選ばれました。同じ28日、政権の高官による汚職犯罪の捜査と起訴を担う「特別汚職対策検察(SAP)」の新しいトップに、オレクサンドル・クリメンコ氏が任命されたことも発表されました。 ウクルインフォルム通信によると、イェルマーク大統領府長官は次のようにコメントしています。 「独立した汚職対策インフラは、ウクライナの民主主義の重要な要素だ。汚職との闘いは、私たちの国家にとっての優先課題である。なぜなら、その成功に、私たちの投資の魅力とビジネスの自由がかかっているからだ」 裏返せばウクライナには、それだけ汚職がはびこっているわけです。汚職の撲滅は、ウクライナがEU加盟国の地位を与えられるために課された条件のひとつでもあります。道のりは遠いといえます』、「汚職の撲滅は、ウクライナがEU加盟国の地位を与えられるために課された条件のひとつでもあります。道のりは遠いといえます」、なるほど。
・『ロシアが虎視眈々と狙っていること 裏切り者がいるせいで勝てないという説明は、戦争中の国家として、かなり苦しい言い訳です。マイダン革命以降、ウクライナは8年間、非ロシア化の徹底を図ってきましたが、思うように進んでいない現実が浮き彫りになりました。 こうした内実は、ウクライナ国家の中枢が体をなしていないことを示しています。末端の官僚だけでなく、政権の中枢から国の行く末を憂慮してロシアと手を組もうと考える人が出てこないとも限りません。ロシアはそれを、ずっと待っています。 戦局を見据えながら、両国が折り合いをつけて停戦に向かうのか。ウクライナが国の内側から瓦解がかいして、思わぬ形で戦争が終わるのか。それとも、劣勢のゼレンスキー大統領が首都キーウを離れて西部のガリツィア地方へ逃れ、国が東西に分断されるのか。さまざまな可能性が出てきたように感じられます。 もっとも日本の国際政治学者やウクライナ専門家の大多数は、これからウクライナが反転攻勢を行って、ロシア軍を駆逐する可能性があるとまだ信じているようです』、米国のCIAや英国のMI6も、「ロシア軍」がいまにも負けそうな分析を流しているが、どうも怪しそうだ。
第三に、8月8日付け現代ビジネスが掲載した経済産業研究所コンサルティングフェローの藤 和彦氏による「ウクライナ軍の焦り「ドローン攻撃が、ロシア軍に効かない」…! 米国製「ロケット砲」も“効き目なし”で、いよいよ大ピンチへ…!」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/98235?imp=0
・『ウクライナ「消耗戦」の危ない現実 ロシアによるウクライナ侵攻から5ヵ月が経過した。 戦線は膠着状態に陥り、「消耗戦」の様相が強まっている。犠牲者や戦費ばかりが日ごとに増えていく展開だ。 ウクライナ政府は西側諸国からの軍事支援でロシアへの反撃を試みようとしているが、当初の狙いどおり事態は進展していない。 ロシアのプーチン大統領側が対応策を講じているからだ。 侵攻直後、ロシア軍に致命的な打撃を与えて注目されたウクライナ軍のドローンはその威力をすでに失っている。 ロシア軍がウクライナ軍のドローン識別のために早期警戒レーダーを活用するとともに、ドローンの交信を妨害するなどの電子戦システムを構築して防御システムを確立したからだ』、「ロシア」も「対応策を講じている」ようだ。
・『アメリカも「打つ手なし」… ロシア軍が地対空防衛システムを強化したことにより、米国製(グレイ・イーグル)などの最新型の攻撃型ドローンも機能しなくなっている。 一方、ロシア軍は監視、偵察任務のために多くのドローンを戦場に投入しており、これに効果的に対処できる装備を持たないウクライナ軍は苦戦を強いられている。 そうした中で、戦況を抜本的に改善できると期待されているのは高機動ロケット砲システム「ハイマース」だ。 米国からウクライナにすでに16基供与されており、戦場ですでに効果を発揮し始めていると言われている。 しかし、じつは専門家の見方は冷ややかだ。 ハイマースで指揮所や弾薬庫を攻撃すれば、ロシアの進軍を遅らせることができるが、ウクライナ軍に領土奪還をもたらすだけの能力は有していないからだ。 いたずらに現在の膠着状態を長引かせるだけなのかもしれない。懸念されるのはロシア軍がハイマースから発射されるミサイルを迎撃する術を習得しつつあることだ。ハイマースはドローンなど空からの攻撃に脆く、ロシア軍が今後この弱点を攻めてくる可能性が高いのだ。 後編記事『プーチンの「思惑通りだ」「危険な状況だ」…! ウクライナ軍が“兵力ダウン”“戦費枯渇”で直面する「ヤバすぎる現実」』では、さらにウクライナが直面している厳しい現実についてレポートしよう』、「ハイマースはドローンなど空からの攻撃に脆く、ロシア軍が今後この弱点を攻めてくる可能性が高いのだ」、「ロシア」も自力を出してきたようで手強そうだ。
第四に、8月8日付け現代ビジネスが掲載した経済産業研究所コンサルティングフェローの藤 和彦氏による「プーチンの「思惑通りだ」「危険な状況だ」…! ウクライナ軍が“兵力ダウン”“戦費枯渇”で直面する「ヤバすぎる現実」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/98243?imp=0
・『ウクライナ軍がいよいよ追い詰められてきた――。前編記事『ウクライナ軍の焦り「ドローン攻撃が、ロシア軍に効かない」…! 米国製「ロケット砲」も“効き目なし”で、いよいよ大ピンチへ…!』では、これまでは効果があったドローン攻撃がロシア軍に読まれ始めて戦果をあげられなくなっているうえ、頼みの綱であった米国製ロケットでも状況を打開できないウクライナの苦境ぶりをレポートした。 最近では世界中でウクライナ情勢をめぐるニュースが減ってきている中で、いま本当に現場ではいったい何が起きているのか――その最新事情をレポートしよう』、興味深そうだ。
・『背水のウクライナ 米国政府は引き続き軍事支援を続けているものの、ウクライナ軍の戦闘の行方については悲観的になっている(6月29日付CNN)。 新たな兵器システムが戦況を即座に変えるとは見ておらず、ウクライナが戦闘で失った領土を奪還できるという確信は大きく揺らいでいるという。 このように、西側諸国の間で「ウクライナがロシアの攻撃に耐えられない」と見方が広がっていることに焦っているのはウクライナ政府だ。 7月23日付ニューヨークタイムズは「ウクライナは『ロシアに対する反撃は可能だ』と主張して西側諸国に軍事支援の拡大を説得しようと血眼になっている」と報じた』、確かに「ウクライナ」は「背水」の状態に追い込まれたようだ。
・『「戦費」が枯渇し始めた! ウクライナのレズニコウ国防相は、7月26日に「兵器製造企業にとってロシアの侵攻を受けたウクライナは自社の製品の質などを試せる格好の実験場だ」とアピールして、西側諸国に対し軍装備品の追加供与を懇願した(米国政府がハイマースを供与する目的はウクライナを支援するためではなく、ロシア軍の防空ミサイルシステムの性能を調査することにあるとの指摘もある)。 そこへきて、ウクライナ政府にとってさらに頭が痛い問題が浮上している。 ロシア軍を自国領土から追い出すための戦費が枯渇し始めているのだ。 ロシアの侵攻により、ウクライナの戦費は今年2月の2億5000万ドルから5月には33億ドルへと膨れ上がり、その後も「うなぎ登り」の状態が続いている。 ウクライナ政府は戦費を捻出するために日常的なサービスへの支出を大幅に切り詰めているが、歳入拡大の余地はあまりないのが実情だ。 ロシアの侵攻後に停止された付加価値税と輸入関税は再び導入されている。「企業への増税」という選択肢はあるが、戦闘で疲弊している経済が急速に悪化するリスクがある』、「ロシア」は石油・天然ガスを欧州や中国などに売却しているが、「ウクライナ」は穀物輸出が漸く部分的に再開した程度だ。
・『財務相が「非常に危険だ」と… 是が非でも戦費を確保したい状況の中、「頼みの綱」となっているのはウクライナ中央銀行だ。 侵攻以降、ウクライナ中銀は77億ドル分の国債を買い入れており、事実上の紙幣増刷を余儀なくされている。 ウクライナのインフレ率は20%に達し侵攻前の2倍になっており、マルチェンコ財務相は「紙幣の増刷に頼り続ければインフレをあおることになり非常に危険だ」と警告を発している。 追い詰められたウクライナ政府は戦費の財源として外貨準備にも手を付け始めている。 ウクライナ中銀は「6月だけで外貨準備高の約9パーセントに当たる23億ドルを取り崩した」ことを明らかにしている。 激減している外貨準備を温存するため、ウクライナ中銀は通貨フリブナの対米ドルレートを25%切り下げたが、外貨準備は近いうちに底を打つことは間違いない』、「通貨切り下げ」はインフレも激化させるリスキーな政策だ。
・『「綱渡り」だ 「青息吐息」のウクライナ政府に対し、西側諸国はようやく救いの手を差し伸べた。 ウクライナ政府は20日、主要債権国などとの間で8月1日以降の外債の元利払いを2年間延期することで大筋合意を取り付けた。 合意が成立したものの、格付け会社フィッチ・レーテイングスは「デフォルトと同様のプロセスが開始された」との認識を示し、ウクライナ政府の格付けをこれまでの「CCC]から「C」に引き下げた。 これによりウクライナ政府は60億ドル分の支出を当面回避できたが、この額は毎月発生している財政赤字(約90億ドル)にも満たない。 ウクライナ財政の「綱渡り」の状況は一向に改善されたことにはならない』、「財政の「綱渡り」の状況」はやむを得ないだろう。
・『焼け石に水 穀物輸出が再開されれば、毎月約8億ドルの輸出関税収入が得られることになる。 しかし、「火の車」となったウクライナ財政にとって「焼け石に水」に過ぎない。 ゼレンスキー大統領を始め政府首脳は好戦的な態度を崩していないが、戦費を賄うことは早晩できなくなる。 ロシアとの停戦に応じざるを得なくなるのではないだろうか』、現在は戦線膠着とはいっても、徐々に「ロシア」側が優勢になりつつあるので、「ウクライナ」にとって「停戦」へのハードルは高そうだ。
先ずは、7月22日付けPRESIDENT Onlineが掲載した作家・元外務省主任分析官の佐藤 優氏による「このままでは第三次世界大戦になる…佐藤優が注目する「クリミア大橋」と「リトアニア」という2大リスク アメリカは必死になってウクライナを抑えているが…」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/59806
・『ロシアとウクライナの戦争は、これからどうなるのか。元外交官で作家の佐藤優さんは「ウクライナ軍はロシア軍の物資の補給路であるクリミア大橋の爆破を計画している。これが実行されれば、第3次世界大戦につながりかねない」という――。(連載第17回)』、「第3次世界大戦につながりかねない」とは穏やかならざることだ。
・『ロシア本土とクリミア半島をつなぐ全長19キロ 日本のメディアはあまり話題にしていないのですが、ロシアとウクライナの戦争が「第3次世界大戦」となる瀬戸際に差し掛かっています。とりわけ私が注目しているのは「クリミア大橋爆破計画」と「リトアニアの国境封鎖」の帰趨です。 クリミア大橋は、2014年にクリミア半島を併合したあと、ロシアが造りました。ロシアのクラスノダール地方にあるタマン半島とクリミア半島東端のケルチという町の間に架かっています。全長およそ19キロメートルに及ぶ、鉄道と道路の併用橋です。2015年5月に工事が始まり、道路は18年5月に、鉄道は19年12月に完成しました。これによって、ロシア本土とクリミア半島が陸路でつながりました。工費は37億ドルといわれます。 開通の式典には、プーチン大統領も出席。大型トラックのハンドルを自ら握って車列を先導し、ロシア側からクリミア半島へ渡るパフォーマンスを演じました』、「全長およそ19キロメートルに及ぶ、鉄道と道路の併用橋」、戦略的価値は大きそうだ。
・『クリミア大橋を破壊して補給路を断つ作戦 ウクライナへの侵攻が始まったあと、この橋がロシア軍の物資の輸送に使われているので破壊すべきだという意見が、ウクライナ側から出ています。クリミア大橋を破壊すれば、ロシアの黒海艦隊が母港としているセヴァストポリへの陸からの補給路を断つことができるからです。 5月9日の朝日新聞デジタルは、次のように報じました。 〈「必ず破壊される。問題は、それがいつになるかということだ」。ウクライナのニュースサイト「チャンネル24」(8日付)によると、ウクライナのアンドルーシウ内相顧問はこう言ってクリミア橋を将来的に攻撃する可能性に触れた。現状では遠距離から攻撃できる有効な武器がないとして、攻撃するには橋の沿岸に近づく必要があるとの課題も指摘した。〉 〈ウクライナのダニロフ国家安全保障国防会議書記も4月下旬、橋の破壊について「機会があれば、間違いなくやるだろう」とラジオ番組で述べている。〉 〈ロシアはウクライナ側の発言に強く反発している。ロシアの有力紙「ベドモスチ」によると、大統領府のペスコフ報道官はダニロフ氏の発言について、「テロ行為の可能性を発表したことにほかならない」と批判。政府の安全保障会議で副議長を務めるメドベージェフ前首相も、ダニロフ氏について「彼自身が報復の標的になることを理解してくれるよう願っている」とSNSに書き込み、ウクライナ側を強く牽制した』、ウクライナに米国が供与した高機動ロケット砲システムハイマースは、攻撃にはうってつけだが、米国は「クリミア橋」への使用は認めないだろう。
・『クリミア大橋の爆破で「ロシアにパニックが起きる」 アメリカが武器の追加支援を発表した翌日の6月16日には、ウクライナ国防軍のマルシェンコ少将の発言が報じられました。 「米国をはじめとする北大西洋条約機構(NATO)諸国の武器を受け取ったら、少なくともクリミア大橋の攻撃を試みる」 「クリミア大橋は目標の一つか?」と尋ねられたマルシェンコ少将は、 「100%そうだ。このことはロシア軍人、ウクライナ軍人、ロシア市民、ウクライナ市民にとって秘密ではない。これがロシアを敗北させるための第一の目標だ。われわれは虫垂を切らなくてはならない。虫垂を切れば、これでロシアにパニックが起きる」と答えたといいます。 ロシアは、敏感に反応しました。政府系テレビ第一チャンネルの政治討論番組「グレート・ゲーム(ボリシャヤ・イグラー)」が早速この日の夜、マルシェンコ少将の発言を取り上げたのです。出演者は、ロシア高等経済大学のドミトリー・スースロフ教授、モスクワ国際関係大学のアンドリャニク・ミグラニャン教授、作家のニコライ・スタリコフ氏などでした』、「ロシアは、敏感に反応しました」、当然だろう。
・『アメリカが必死になってウクライナを抑えている理由 スースロフ教授が問います。 「スタリコフさんにお伺いしたい。米国は、この種の発言やウクライナの行動が紛争を激化させる直接的要因になるとは考えないのか。紛争はウクライナだけでなく、その外側にも及ぶ。猿に手榴弾を持たせるようになれば(今がまさにそのような状況であるが)、責任は猿に手榴弾を渡した者が負わなくてはならない」 スタリコフ氏は、こう答えました。 「理屈では、猿に手榴弾を与えた者が責任を負わなくてはならない。しかし、歴史において責任を負うのは猿自身である。手榴弾は投げた者がその責任を負うというのが、米国の考えだ。ウクライナ軍の将官の一人がクリミア大橋を攻撃すると言っても、米国は何の損もしない」 いまのところクリミア大橋への攻撃が実行されないのは、アメリカが必死になってウクライナを抑えているからです。アメリカは、ロシアがこの戦争に勝つことがあってはならないと考えると同時に、ロシアが攻勢を強めるウクライナ情勢においてウクライナが圧勝することはないとわかっています。だから戦火をウクライナ国内に押しとどめたいと考えているのです』、「アメリカ」の「支援」は条件付きなので、「ウクライナ」もやり難いだろう。
・『リトアニアも一触即発 バルト三国のリトアニアが第3次世界大戦の引き金になるかもしれないことは、4月27日のこの連載で指摘しました。ロシアの飛び地の領土カリーニングラードとの国境を、リトアニアが封鎖する動きがあったからです。ロシアからの警告が効いたようで封鎖は見送られていたのですが、6月18日から、EUが制裁の対象としている貨物を積んだ列車の通過を禁止し始めました。 カリーニングラードはバルト艦隊の母港であり、迎撃ミサイルシステムも備わっています。ロシアにとって戦略的な要衝ですから、交通路を確保するため「平和維持」の名目でNATO加盟国のリトアニアに軍隊を送る可能性があります。旧日本軍が、南満州鉄道を守るという名目で派兵したようなものです。 ではアメリカは、NATO第5条を適用して共同防衛に踏み切るのか。これは、ロシアと本気で事を構える覚悟があるか否かを問われる事態ですが、アメリカは介入したがらないでしょう』、「リトアニア」がわざわざこんな時期に火遊びをするとは困ったことだ。
・『アメリカ、イギリス、ドイツは交戦国と認定されかねない 最終的には、リトアニアが妥協せざるを得ないと考えます。しかし、小国の瀬戸際外交によってロシアを挑発してみせ、NATOに対しても存在をアピールできたことは、リトアニアにとっての成果になります。ソ連が崩壊する前から、リトアニアの歴史的なアイデンティティーは「反ロシア」で、教育や文化全体の中で染み込んでいます。それは裏返して言えば、ロシアの怖さをよく知っているということです。 リトアニアの歴史を振り返ると、13世紀にはリトアニア大公国が成立し、14世紀にポーランドとの連合王国となり、全盛期はバルト海から黒海に及ぶほど勢力を拡大します。しかし18世紀末にはロシア、プロイセン、オーストリアによって三度にわたり領土分割が行われ、ロシア革命が起こる1918年まで約120年に及びロシア帝国の支配が続きました。1940年のソ連侵攻により再び独立を失い、その後ナチスドイツが占領、そして再びソ連に併合されます。そのため、反ロシア感情が極めて強い国の一つです。 仮にクリミア大橋が破壊されれば、ロシアはそのための武器を供給したNATOへの攻撃に踏み切りかねません。カリーニングラードに対するリトアニアの封鎖も同じで、ロシアは力で阻止するかもしれません。どちらの場合も、第3次世界大戦の危機が到来します。 伝統的な国際法からすると、兵器を供与している国は、それだけで交戦国と認定される可能性があります。アメリカ、イギリス、ドイツなどは、すでに交戦国と認定されてもいいほどの踏み込み方をしています。ウクライナの戦いは応援するが、NATO諸国や米ロ戦争に拡大しないようにする綱渡りゲームが行われているのです』、危なっかしい「綱渡りゲーム」は、当面、続けざるを得ないようだ。
次に、8月6日付けPRESIDENT Onlineが掲載した作家・元外務省主任分析官の佐藤 優氏による「秘密警察と検察のトップを突如解任…佐藤優「ゼレンスキー大統領を疑心暗鬼に陥れたロシアの狡猾な心理戦」 「アメリカに管理された戦争」を続けるウクライナの苦しさ」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/60287
・『7月17日、ウクライナのゼレンスキー大統領は保安局長官(秘密警察長官)と検事総長という高官2人を「ロシアに協力する反逆行為が多数見つかった」という理由で解任した。一人はゼレンスキー大統領の幼なじみ、もう一人はロシアの戦争犯罪を捜査してきた女性だった。解任の背景には何があるのか。元外交官で作家の佐藤優さんが解説する――。(連載第18回)』、「保安局長官」と「検事総長」の「解任」とはよほどのことなのだろう。
・『「秘密警察と検察のトップが解任」の衝撃 7月28日は、ゼレンスキー大統領が2021年に制定した祝日「ウクライナの国家の日」でした。記念の動画メッセージで、ゼレンスキー大統領はこう演説しました。 「私たちは、戦うために生き続けるし、生きるために戦い続ける。私たちは、自らの家から最後の占領者を追い出すまで屈しないし、ウクライナの大地の最後の1メートルを解放するまで止まらない。最後の村、最後の家、最後の井戸、最後のサクラ、最後のヤナギが解放されるまで、私たちが気を休めることはない」(ウクライナ唯一の国営通信社「ウクルインフォルム通信」の日本語版より)』、なるほど。
・『「ロシアとつながりのある人間」を組織から排除してきたが… 保安局はソ連時代にはKGBでした。1991年12月にウクライナがソ連から独立した後も、インテリジェンス機関や検察にはソ連時代からの職員が勤務していました。 2013年に親ロシアのヤヌコビッチ大統領がロシアからの強い圧力を受けて、EUとの連合協定締結の署名を取りやめたことを発端に、反政府デモが盛んになり、2014年に追放されると(マイダン革命)、反ロ親米政権が発足し、ウクライナは、保安局、軍、検察で「非ロシア化」を徹底しようとしました。特に保安局の幹部職員をアメリカやイギリスでインテリジェンスの訓練を受けた人たちに入れ替えてきました。 そのため、ロシアと協力する保安局員や検察官が大量に出てきたことはゼレンスキー大統領にとって想定外の事態だったと思います。 しかし、実際はロシアとつながりのある人間を完全に排除していたわけではありません。 ウクライナ当局が7月16日に反逆罪などで拘束した連邦保安局クリミア支局長のオレグ・クリニッチ氏は1989年から1994年まで、ロシア連邦保安庁(FSB)アカデミーで学び、ロシアの防諜機関で勤務。1996年からはロシア連邦議会の国家院(下院)で勤務した経歴の持ち主です。そんなクリニッチ氏が2020年からウクライナ保安局で働き始めたわけです。 ゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻当初にクリニッチ氏を解任していますが、保安局の幹部の半数は同様の非難を受けるような経歴を持っているとされます』、「保安・防諜」機関が任務に忠実か否かの判断は極めて難しいものだ。
・『「解任された2人は国民の不満のはけ口にされた」 そのような状況の中で、ロシアのインテリジェンス機関は、ゼレンスキー大統領が疑心暗鬼に陥るような情報を巧みに流す心理戦を行っているのだと思います。秘密警察と検察といえば最も秩序が守られるべき部門なのに、そこさえ国家として抑えきれないのが、現在のゼレンスキー政権なのです。しかし秘密警察と検察を信用できなくなったら、国のトップは誰を信用すればいいのでしょうか。 この解任人事に、ロシアは即座に反応しました。同じ18日の夜9時、政府系テレビ「第一チャンネル」のニュース番組「ブレーミャ(時代)」が取り上げています。 アナウンサーが「2人の側近を解任したゼレンスキーの真意を探ってみましょう」と言い、現地ウクライナからのリポートも交えた内容でした。この番組の見立てを要約すれば、次の通りになります。 ――ゼレンスキー大統領は「西側諸国の支援を受けているので、ウクライナの勝利は近い」と言っているが、前線の状況は真逆である。国内外に向けて勝てない釈明を余儀なくされた大統領は、身辺にいる裏切り者のせいにしている。解任された2人は、国民の不満のはけ口として、スケープゴートにされたのだ――。 ゼレンスキー大統領は、国民の戦意を鼓舞し続けています。しかし、その足元を支える政権中枢が混乱し始めています。7月18日のBBCは、次のように報じています。 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は17日夜、保安局(SBU)長官(秘密警察長官)と検事総長を解任したと発表した。強力な権力を持つ両組織内で、ロシアに協力する反逆行為が多数見つかったためとしている。ウクライナ当局は16日には、SBUのクリミアでの元幹部を反逆容疑などで拘束している。 ゼレンスキー大統領は、ロシアが占領した地域で60人以上の元政府職員が、ウクライナに敵対し、ロシアに協力していると述べた。さらに、法執行機関の職員がロシアに協力したりウクライナに敵対したりした疑いで、計651件の事件捜査に着手していると話した。 恒例になっている夜のビデオ声明でゼレンスキー氏は、「国の安全保障の基礎に対してこれほど多くの犯罪が行われていたことは(中略)(両組織の)トップにきわめて重大な疑問を突きつけており、すべての疑問にしかるべき適切な答えを得ていく」と述べた』、どうも防諜に素人の「ゼレンスキー大統領」に対し、「ロシアのインテリジェンス機関は、ゼレンスキー大統領が疑心暗鬼に陥るような情報を巧みに流す心理戦を行っている」可能性が強いのではなかろうか。
・『解任された2人は最側近だった 解任されたのは、KGB(ソ連の秘密警察機関であり対外諜報機関)を前身とする情報機関である保安局のバカノウ局長と、ベネディクトワ検事総長です。 バカノウ氏は、幼なじみのゼレンスキー氏が主宰する劇団「95地区」でも同僚でした。ゼレンスキー氏の資金管理係として2019年の大統領選にも深く関わり、当選後は保安局長官に任命されたのです。大学の観光科卒でしたから政治の経験もインテリジェンスに従事したこともまったくなかったので任命当初から資質に疑念が呈されていました。 ベネディクトワ検事総長は、ゼレンスキー氏が役者時代に知己を得て、大統領選挙で精力的に活動した論功でこの職に就きました。ロシア軍が行った戦争犯罪の捜査を率いてきた女性です。2人とも、ゼレンスキー大統領の最側近として知られていました。 解任の理由は、2人自身が「ロシアに協力する反逆行為」を行ったのではなく、部下を統率できなかったこと。部下たちは、この政権は長く持たないと見切りをつけ、自分の温かい椅子を確保するなら早いほうが得だと考えて、裏切り行為に走ったのでしょう』、「部下たちは、この政権は長く持たないと見切りをつけ、自分の温かい椅子を確保するなら早いほうが得だと考えて、裏切り行為に走ったのでしょう」、あり得る話だ。
・『「ロシアに勝てないのは裏切者がいるからだ」 番組はさらに、アメリカの政治サイト「POLITICO」を引用しながら、ゼレンスキー政権の内情を深掘りしていきます。すなわち、バカノウ氏が長官を務めてきたSBUの中にロシアの工作員がいることが、6月にウクライナ軍が敗北した原因だという指摘です。 ウクライナ当局者と西側外交官は皆、懸念はバカノフ氏だけでなく、ロシアの本格的なウクライナ侵攻の最初の数時間から数日間における当局幹部数人の決断についても大きいと語った。 へルソンのSBU長官であるセルヒィ・クリヴォルチコ将軍は、ゼレンスキーの命令に反して、ロシア軍が襲撃する前に同市から避難するよう部下に命じたと当局は主張する。 一方、彼の補佐役で地元事務所の反テロセンター長であるイホル・サドキン大佐は、クリミアから北上するロシア軍にウクライナの機雷の位置を密告し、敵機の飛行経路の調整に協力しながら、西へ向かうSBU捜査官の車列の中で逃走したと当局は主張している。 へルソンは、全面的な侵攻が始まって以来、ロシア軍に占領された最初の、そして今のところ唯一のウクライナの主要都市である。プーチン大統領が新たな攻勢を開始してから7日後の3月3日にロシア軍に占領された。 ウクライナ当局によると、ロシア軍がへルソンを簡単に占領できたのは、ドニプロ川に架かるアントノフスキー橋の爆破に現地SBU職員が失敗し、ロシア軍の進入を許してしまったためだという。 ゼレンスキー大統領に近いウクライナ政府高官は、6月にPOLITICOに対し、機密性の高い人事問題について話すため匿名を条件に、「我々は彼の仕事に満足しておらず、彼を排除するために動いている」と述べた。「我々は彼の管理能力に満足していない。なぜなら、今必要なのは……危機に対する管理能力であり、彼が持っているとは思えないからだ。」(7月17日・POLITICO) この番組の「ゼレンスキー大統領がスケープ・ゴートを必要としている」という見立ては、的確な評価と思います。ロシア軍は攻勢を強め、ウクライナ東部の約8割を制圧、南部でもじわじわと制圧地域を広げています。欧米から支援を受けるゼレンスキー大統領は、ロシアに勝てない理由を説明する必要に迫られているのです』、「ロシアに勝てないのは裏切者がいるからだ」と「スケープ・ゴート」に仕立て上げられたとの見方は大いにあり得る話だ。
・『「汚職の撲滅」はEU加盟の条件でもある ウクライナは最近、「アメリカから供与された高機動ロケット砲システム『ハイマース』が威力を発揮して、大きな戦果を上げている」と誇示しています。しかし7月末で16基にすぎず、そのうち4基はロシアに壊されてしまった(ウクライナは否定)というのでは、戦果も限られるはずです。 さらに、供与に伴うアメリカ側の条件で、ハイマースでロシア本土を攻撃することはもとより、ロシアの補給路であるクリミア大橋を攻撃するのもいけないと手足を縛られているのです。アメリカに管理された戦争を戦っている限り、ウクライナに決定的な勝利は望めません。アメリカの目的は、戦争を少しでも長引かせてロシアに打撃を与えることだからです。 SBUの長官には、第1次官を務めていたマリウク氏が代行として起用されました。検事総長の後任には、7月28日にコースチン議員が選ばれました。同じ28日、政権の高官による汚職犯罪の捜査と起訴を担う「特別汚職対策検察(SAP)」の新しいトップに、オレクサンドル・クリメンコ氏が任命されたことも発表されました。 ウクルインフォルム通信によると、イェルマーク大統領府長官は次のようにコメントしています。 「独立した汚職対策インフラは、ウクライナの民主主義の重要な要素だ。汚職との闘いは、私たちの国家にとっての優先課題である。なぜなら、その成功に、私たちの投資の魅力とビジネスの自由がかかっているからだ」 裏返せばウクライナには、それだけ汚職がはびこっているわけです。汚職の撲滅は、ウクライナがEU加盟国の地位を与えられるために課された条件のひとつでもあります。道のりは遠いといえます』、「汚職の撲滅は、ウクライナがEU加盟国の地位を与えられるために課された条件のひとつでもあります。道のりは遠いといえます」、なるほど。
・『ロシアが虎視眈々と狙っていること 裏切り者がいるせいで勝てないという説明は、戦争中の国家として、かなり苦しい言い訳です。マイダン革命以降、ウクライナは8年間、非ロシア化の徹底を図ってきましたが、思うように進んでいない現実が浮き彫りになりました。 こうした内実は、ウクライナ国家の中枢が体をなしていないことを示しています。末端の官僚だけでなく、政権の中枢から国の行く末を憂慮してロシアと手を組もうと考える人が出てこないとも限りません。ロシアはそれを、ずっと待っています。 戦局を見据えながら、両国が折り合いをつけて停戦に向かうのか。ウクライナが国の内側から瓦解がかいして、思わぬ形で戦争が終わるのか。それとも、劣勢のゼレンスキー大統領が首都キーウを離れて西部のガリツィア地方へ逃れ、国が東西に分断されるのか。さまざまな可能性が出てきたように感じられます。 もっとも日本の国際政治学者やウクライナ専門家の大多数は、これからウクライナが反転攻勢を行って、ロシア軍を駆逐する可能性があるとまだ信じているようです』、米国のCIAや英国のMI6も、「ロシア軍」がいまにも負けそうな分析を流しているが、どうも怪しそうだ。
第三に、8月8日付け現代ビジネスが掲載した経済産業研究所コンサルティングフェローの藤 和彦氏による「ウクライナ軍の焦り「ドローン攻撃が、ロシア軍に効かない」…! 米国製「ロケット砲」も“効き目なし”で、いよいよ大ピンチへ…!」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/98235?imp=0
・『ウクライナ「消耗戦」の危ない現実 ロシアによるウクライナ侵攻から5ヵ月が経過した。 戦線は膠着状態に陥り、「消耗戦」の様相が強まっている。犠牲者や戦費ばかりが日ごとに増えていく展開だ。 ウクライナ政府は西側諸国からの軍事支援でロシアへの反撃を試みようとしているが、当初の狙いどおり事態は進展していない。 ロシアのプーチン大統領側が対応策を講じているからだ。 侵攻直後、ロシア軍に致命的な打撃を与えて注目されたウクライナ軍のドローンはその威力をすでに失っている。 ロシア軍がウクライナ軍のドローン識別のために早期警戒レーダーを活用するとともに、ドローンの交信を妨害するなどの電子戦システムを構築して防御システムを確立したからだ』、「ロシア」も「対応策を講じている」ようだ。
・『アメリカも「打つ手なし」… ロシア軍が地対空防衛システムを強化したことにより、米国製(グレイ・イーグル)などの最新型の攻撃型ドローンも機能しなくなっている。 一方、ロシア軍は監視、偵察任務のために多くのドローンを戦場に投入しており、これに効果的に対処できる装備を持たないウクライナ軍は苦戦を強いられている。 そうした中で、戦況を抜本的に改善できると期待されているのは高機動ロケット砲システム「ハイマース」だ。 米国からウクライナにすでに16基供与されており、戦場ですでに効果を発揮し始めていると言われている。 しかし、じつは専門家の見方は冷ややかだ。 ハイマースで指揮所や弾薬庫を攻撃すれば、ロシアの進軍を遅らせることができるが、ウクライナ軍に領土奪還をもたらすだけの能力は有していないからだ。 いたずらに現在の膠着状態を長引かせるだけなのかもしれない。懸念されるのはロシア軍がハイマースから発射されるミサイルを迎撃する術を習得しつつあることだ。ハイマースはドローンなど空からの攻撃に脆く、ロシア軍が今後この弱点を攻めてくる可能性が高いのだ。 後編記事『プーチンの「思惑通りだ」「危険な状況だ」…! ウクライナ軍が“兵力ダウン”“戦費枯渇”で直面する「ヤバすぎる現実」』では、さらにウクライナが直面している厳しい現実についてレポートしよう』、「ハイマースはドローンなど空からの攻撃に脆く、ロシア軍が今後この弱点を攻めてくる可能性が高いのだ」、「ロシア」も自力を出してきたようで手強そうだ。
第四に、8月8日付け現代ビジネスが掲載した経済産業研究所コンサルティングフェローの藤 和彦氏による「プーチンの「思惑通りだ」「危険な状況だ」…! ウクライナ軍が“兵力ダウン”“戦費枯渇”で直面する「ヤバすぎる現実」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/98243?imp=0
・『ウクライナ軍がいよいよ追い詰められてきた――。前編記事『ウクライナ軍の焦り「ドローン攻撃が、ロシア軍に効かない」…! 米国製「ロケット砲」も“効き目なし”で、いよいよ大ピンチへ…!』では、これまでは効果があったドローン攻撃がロシア軍に読まれ始めて戦果をあげられなくなっているうえ、頼みの綱であった米国製ロケットでも状況を打開できないウクライナの苦境ぶりをレポートした。 最近では世界中でウクライナ情勢をめぐるニュースが減ってきている中で、いま本当に現場ではいったい何が起きているのか――その最新事情をレポートしよう』、興味深そうだ。
・『背水のウクライナ 米国政府は引き続き軍事支援を続けているものの、ウクライナ軍の戦闘の行方については悲観的になっている(6月29日付CNN)。 新たな兵器システムが戦況を即座に変えるとは見ておらず、ウクライナが戦闘で失った領土を奪還できるという確信は大きく揺らいでいるという。 このように、西側諸国の間で「ウクライナがロシアの攻撃に耐えられない」と見方が広がっていることに焦っているのはウクライナ政府だ。 7月23日付ニューヨークタイムズは「ウクライナは『ロシアに対する反撃は可能だ』と主張して西側諸国に軍事支援の拡大を説得しようと血眼になっている」と報じた』、確かに「ウクライナ」は「背水」の状態に追い込まれたようだ。
・『「戦費」が枯渇し始めた! ウクライナのレズニコウ国防相は、7月26日に「兵器製造企業にとってロシアの侵攻を受けたウクライナは自社の製品の質などを試せる格好の実験場だ」とアピールして、西側諸国に対し軍装備品の追加供与を懇願した(米国政府がハイマースを供与する目的はウクライナを支援するためではなく、ロシア軍の防空ミサイルシステムの性能を調査することにあるとの指摘もある)。 そこへきて、ウクライナ政府にとってさらに頭が痛い問題が浮上している。 ロシア軍を自国領土から追い出すための戦費が枯渇し始めているのだ。 ロシアの侵攻により、ウクライナの戦費は今年2月の2億5000万ドルから5月には33億ドルへと膨れ上がり、その後も「うなぎ登り」の状態が続いている。 ウクライナ政府は戦費を捻出するために日常的なサービスへの支出を大幅に切り詰めているが、歳入拡大の余地はあまりないのが実情だ。 ロシアの侵攻後に停止された付加価値税と輸入関税は再び導入されている。「企業への増税」という選択肢はあるが、戦闘で疲弊している経済が急速に悪化するリスクがある』、「ロシア」は石油・天然ガスを欧州や中国などに売却しているが、「ウクライナ」は穀物輸出が漸く部分的に再開した程度だ。
・『財務相が「非常に危険だ」と… 是が非でも戦費を確保したい状況の中、「頼みの綱」となっているのはウクライナ中央銀行だ。 侵攻以降、ウクライナ中銀は77億ドル分の国債を買い入れており、事実上の紙幣増刷を余儀なくされている。 ウクライナのインフレ率は20%に達し侵攻前の2倍になっており、マルチェンコ財務相は「紙幣の増刷に頼り続ければインフレをあおることになり非常に危険だ」と警告を発している。 追い詰められたウクライナ政府は戦費の財源として外貨準備にも手を付け始めている。 ウクライナ中銀は「6月だけで外貨準備高の約9パーセントに当たる23億ドルを取り崩した」ことを明らかにしている。 激減している外貨準備を温存するため、ウクライナ中銀は通貨フリブナの対米ドルレートを25%切り下げたが、外貨準備は近いうちに底を打つことは間違いない』、「通貨切り下げ」はインフレも激化させるリスキーな政策だ。
・『「綱渡り」だ 「青息吐息」のウクライナ政府に対し、西側諸国はようやく救いの手を差し伸べた。 ウクライナ政府は20日、主要債権国などとの間で8月1日以降の外債の元利払いを2年間延期することで大筋合意を取り付けた。 合意が成立したものの、格付け会社フィッチ・レーテイングスは「デフォルトと同様のプロセスが開始された」との認識を示し、ウクライナ政府の格付けをこれまでの「CCC]から「C」に引き下げた。 これによりウクライナ政府は60億ドル分の支出を当面回避できたが、この額は毎月発生している財政赤字(約90億ドル)にも満たない。 ウクライナ財政の「綱渡り」の状況は一向に改善されたことにはならない』、「財政の「綱渡り」の状況」はやむを得ないだろう。
・『焼け石に水 穀物輸出が再開されれば、毎月約8億ドルの輸出関税収入が得られることになる。 しかし、「火の車」となったウクライナ財政にとって「焼け石に水」に過ぎない。 ゼレンスキー大統領を始め政府首脳は好戦的な態度を崩していないが、戦費を賄うことは早晩できなくなる。 ロシアとの停戦に応じざるを得なくなるのではないだろうか』、現在は戦線膠着とはいっても、徐々に「ロシア」側が優勢になりつつあるので、「ウクライナ」にとって「停戦」へのハードルは高そうだ。
タグ:ウクライナ (その6)(このままでは第三次世界大戦になる…佐藤優が注目する「クリミア大橋」と「リトアニア」という2大リスク アメリカは必死になってウクライナを抑えているが…、秘密警察と検察のトップを突如解任…佐藤優「ゼレンスキー大統領を疑心暗鬼に陥れたロシアの狡猾な心理戦」 「アメリカに管理された戦争」を続けるウクライナの苦しさ、ウクライナ軍の焦り「ドローン攻撃が、ロシア軍に効かない」…! 米国製「ロケット砲」も“効き目なし”で、いよいよ大ピンチへ…!、プーチンの「思惑通りだ」「危険な状況だ」…! ウクライ ウクライナ軍が“兵力ダウン”“戦費枯渇”で直面する「ヤバすぎる現実」) PRESIDENT ONLINE 佐藤 優氏による「このままでは第三次世界大戦になる…佐藤優が注目する「クリミア大橋」と「リトアニア」という2大リスク アメリカは必死になってウクライナを抑えているが…」 「第3次世界大戦につながりかねない」とは穏やかならざることだ。 「全長およそ19キロメートルに及ぶ、鉄道と道路の併用橋」、戦略的価値は大きそうだ。 ウクライナに米国が供与した高機動ロケット砲システムハイマースは、攻撃にはうってつけだが、米国は「クリミア橋」への使用は認めないだろう。 「ロシアは、敏感に反応しました」、当然だろう。 「アメリカ」の「支援」は条件付きなので、「ウクライナ」もやり難いだろう。 「リトアニア」がわざわざこんな時期に火遊びをするとは困ったことだ。 危なっかしい「綱渡りゲーム」は、当面、続けざるを得ないようだ。 佐藤 優氏による「秘密警察と検察のトップを突如解任…佐藤優「ゼレンスキー大統領を疑心暗鬼に陥れたロシアの狡猾な心理戦」 「アメリカに管理された戦争」を続けるウクライナの苦しさ」 「保安局長官」と「検事総長」の「解任」とはよほどのことなのだろう。 「保安・防諜」機関が任務に忠実か否かの判断は極めて難しいものだ。 、どうも防諜に素人の「ゼレンスキー大統領」に対し、「ロシアのインテリジェンス機関は、ゼレンスキー大統領が疑心暗鬼に陥るような情報を巧みに流す心理戦を行っている」可能性が強いのではなかろうか。 「部下たちは、この政権は長く持たないと見切りをつけ、自分の温かい椅子を確保するなら早いほうが得だと考えて、裏切り行為に走ったのでしょう」、あり得る話だ。 「ロシアに勝てないのは裏切者がいるからだ」と「スケープ・ゴート」に仕立て上げられたとの見方は大いにあり得る話だ。 「汚職の撲滅は、ウクライナがEU加盟国の地位を与えられるために課された条件のひとつでもあります。道のりは遠いといえます」、なるほど。 米国のCIAや英国のMI6も、「ロシア軍」がいまにも負けそうな分析を流しているが、どうも怪しそうだ。 現代ビジネス 藤 和彦氏による「ウクライナ軍の焦り「ドローン攻撃が、ロシア軍に効かない」…! 米国製「ロケット砲」も“効き目なし”で、いよいよ大ピンチへ…!」 「ロシア」も「対応策を講じている」ようだ。 「ハイマースはドローンなど空からの攻撃に脆く、ロシア軍が今後この弱点を攻めてくる可能性が高いのだ」、「ロシア」も自力を出してきたようで手強そうだ。 藤 和彦氏による「プーチンの「思惑通りだ」「危険な状況だ」…! ウクライナ軍が“兵力ダウン”“戦費枯渇”で直面する「ヤバすぎる現実」」 確かに「ウクライナ」は「背水」の状態に追い込まれたようだ。 「ロシア」は石油・天然ガスを欧州や中国などに売却しているが、「ウクライナ」は穀物輸出が漸く部分的に再開した程度だ。 「通貨切り下げ」はインフレも激化させるリスキーな政策だ。 「財政の「綱渡り」の状況」はやむを得ないだろう。 現在は戦線膠着とはいっても、徐々に「ロシア」側が優勢になりつつあるので、「ウクライナ」にとって「停戦」へのハードルは高そうだ。