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株式・為替相場(その18)(24年ぶり円買い介入が告げる「通貨防衛戦」の号砲 円安は低成長・日本の国力低下に見合っている、円安阻止の為替介入は「二重の意味で無駄玉」だった、為替介入でも止まらぬ円安 「国民感情」悪化懸念 やりすぎた日銀と課題を放置した政府のツケ) [金融]

株式・為替相場については、8月26日に取上げた。今日は、(その18)(24年ぶり円買い介入が告げる「通貨防衛戦」の号砲 円安は低成長・日本の国力低下に見合っている、円安阻止の為替介入は「二重の意味で無駄玉」だった、為替介入でも止まらぬ円安 「国民感情」悪化懸念 やりすぎた日銀と課題を放置した政府のツケ)である。

先ずは、9月27日付け東洋経済オンラインが掲載した時事通信社解説委員の窪園 博俊氏による「24年ぶり円買い介入が告げる「通貨防衛戦」の号砲 円安は低成長・日本の国力低下に見合っている」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/621273
・『政府と日本銀行は22日、急速に進む円安に歯止めをかけるため、1998年6月以来、約24年ぶりとなる円買い・ドル売り介入に踏み切った。 為替介入と言えば、デフレ圧力となった円高を阻止する円売りの為替介入を思い浮かべる読者が多いだろう。実は、頻度は少ないものの、わが国は何度か円買い介入も実施している。 ただし、今回の円買い介入は過去の介入とは意味合いが異なる。わが国にとっては変動相場制以降で初めてとなる「通貨防衛戦」の領域に突入したと考えられるのだ』、「変動相場制以降で初めてとなる「通貨防衛戦」の領域に突入した」、とは大げさな感じもあるが、確かにその通りだ。
・『「円売りが定番」だった為替介入の歴史  第2次世界大戦後は長らく、ドルの交換比率を一定にしたブレトン・ウッズ体制が続いた。それが1971年の「ニクソン・ショック」で変動相場制に移行した。 日本はそれまで1ドル360円の固定相場のもと、経済の実力と比べて大幅な円安を享受し、輸出主導で復興を遂げた。ニクソン・ショック後に急速に進んだ円高は、日本経済の実力相応の動きだったが、日本は円高を成長阻害とみなし続けた。 21世紀に入っても円高は執拗に進み、政府・日銀はたびたびドル買い・円売りの為替介入を行った。このため、為替介入と言えば「円売りが定番」となった。 過去半世紀近くの歴史を振り返ると、為替介入は円売りと円買いの双方向で実施されているが、頻度・規模とも圧倒的に前者が上回る。だからこそ、外貨準備高は円換算で180兆円台もの水準に積み上がった。 次に介入の目的である。円売り介入の目的は、経済に打撃となる「円高の阻止」に尽きる。これに対し、過去の円買い介入は「国際批判をかわすため」と「誤解を正すため」という2つの目的で実行された。 国際批判をかわす目的で介入した代表例は、1985年のプラザ合意時の円安ドル高の是正だ。当時のアメリカでは、ボルカー議長率いる連邦準備制度理事会(FRB)が悪性インフレを退治するために大幅な金融引き締めを断行。金利が上昇し、大幅なドル高となった。 同時に過度な円安が進行し、輸出好調の日本は対米中心に大幅な貿易黒字を計上した。その結果、日米間で深刻な貿易摩擦が起きた。日本はドル高を是正するために、円買い・ドル売りの協調介入を主導し、為替レートを輸出に不利な方向に自ら誘導した』、「国際批判をかわす目的で介入した代表例は、1985年のプラザ合意時の円安ドル高の是正だ」、当時は「日米間で深刻な貿易摩擦が起きた。日本はドル高を是正するために、円買い・ドル売りの協調介入を主導」、したのは確かだ。
・『国際批判を恐れ、たびたび円買い介入  当時の国際金融界では「貿易不均衡を是正するには為替の調整が有効である」と考えられていた。プラザ合意以降の相場は、ドル売り介入が効き過ぎて、これにブレーキをかけるドル買い・円売りの介入も行われたほど。しかし、日本の貿易黒字は円高が進行しても是正されず、欧米からの批判は続いた。 1990年代初頭にやや円安に振れた。と言っても140円程度のものだったが、貿易黒字増加への国際批判を恐れた政府・日銀は、円高にするための円買い介入を実施した。 財務省は1991年4月以降の介入実績を詳細に公表している。それによると、1991年5月~1992年8月までは断続的に円買い・ドル売り介入を実施し、総額は円換算で8000億円近くにのぼった。ニクソン・ショック後はもっぱら円高に歯止めをかけようとした政府・日銀だったが、80年代半ばから90年代前半は貿易黒字を国際的に批判され、自ら円高にするための円買い介入を行っていたのだ。 次に円買い介入を行ったのは1997~1998年である(総額は4兆円強)。これは金融危機に対応した日銀の潤沢な流動性供給が海外の投機筋から不健全なオペとみなされ、「悪い円安」が過度に進行したことに歯止めをかけるためだった。過去の記事にあるように、当時はなおも巨額の貿易黒字を稼ぐ力を有し、円安は一過性にとどまった。 そして今回の円買い介入だ。円安が進んだ要因は「内外金利差の拡大」と「貿易収支の赤字」というファンダメンタルズに沿ったものであり、金利差拡大を助長しているのは日銀の超金融緩和策だ。通貨の下落は金融緩和の効果であり、為替市場は日銀の意図に沿って正しく円安に動いている。 巨額の貿易赤字は「為替市場で恒常的なドル買い・円売りを招く」(大手邦銀アナリスト)とされ、もはや「輸出で稼げず、成長率が低下して低金利が常態化した日本の国力低下に沿った円安」(同)になっている』、「通貨の下落は金融緩和の効果であり、為替市場は日銀の意図に沿って正しく円安に動いている。 巨額の貿易赤字は「為替市場で恒常的なドル買い・円売りを招く」・・・とされ、もはや「輸出で稼げず、成長率が低下して低金利が常態化した日本の国力低下に沿った円安」(同)になっている」、なにやら寂しい限りだ。
・『円買い介入は無限に実行できない  ここで注意すべきは、介入はあくまでも「為替需給を一時的に締めるだけの対症療法に過ぎない」(日銀OB)ことだ。さらに、自国通貨高を阻止する介入は、自国通貨を無限に発行できるため、理論的には無限に介入できる。これに対し、自国通貨の下落を阻止する介入は保有外貨が上限となる。つまり、円安阻止の円買い介入は、円安の流れ自体を食い止められない上に、「集合すると圧倒的な規模になる投機筋に対し、有限の弾薬で立ち向かう」(同)ことになる。 政府・日銀としては、円安の反転を狙ったものではなく、円安の速度を緩める「スムージング介入」の意識が強いだろう。しかし、資本の自由な移動を容認する変動為替相場制のもとでは、為替市場の主体である投機筋は政府・日銀の都合など無視し、容赦なく利益を追求する。 円安が国力低下に沿ったトレンドなら、徹底的に円が売られると考えた方がいい。政府・日銀にとって望ましいシナリオは、近い将来にアメリカの利上げ局面が終わり、金利差の縮小観測が浮上し、円高に戻る事態であろう。 だが、根強いインフレでアメリカの金利が高止まり、円安・ドル高に歯止めがかからない場合、為替介入は消耗戦に陥る。外貨準備という弾薬の減少が顕著になると、介入規模は節約のために縮小せざるを得ない。そして、それを見越して投機筋の円売り攻勢が強まり、通貨価値の防衛戦に追い込まれる恐れもある。 これはまさに通貨防衛に失敗した国家がたどる運命と似通っている。政府・日銀はそうしたリスクがはらんでいることを自覚して投機筋と戦った方がいいだろう』、「自国通貨の下落を阻止する介入は保有外貨が上限となる。つまり、円安阻止の円買い介入は、円安の流れ自体を食い止められない上に、「集合すると圧倒的な規模になる投機筋に対し、有限の弾薬で立ち向かう」(同)ことになる。 政府・日銀としては、円安の反転を狙ったものではなく、円安の速度を緩める「スムージング介入」の意識が強いだろう」、「根強いインフレでアメリカの金利が高止まり、円安・ドル高に歯止めがかからない場合、為替介入は消耗戦に陥る。外貨準備という弾薬の減少が顕著になると、介入規模は節約のために縮小せざるを得ない。そして、それを見越して投機筋の円売り攻勢が強まり、通貨価値の防衛戦に追い込まれる恐れもある。 これはまさに通貨防衛に失敗した国家がたどる運命と似通っている。政府・日銀はそうしたリスクがはらんでいることを自覚して投機筋と戦った方がいいだろう」、同感である。

次に、9月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「円安阻止の為替介入は「二重の意味で無駄玉」だった」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/310373
・『円安を阻止するため、政府が24年ぶりとなる為替介入を実施した。しかしこれは、「二重の意味で無駄玉」だった。その理由をお伝えしたい。
・金融緩和継続の裏での為替介入はアクセルとブレーキを同時に踏む愚挙  何とも無駄で有害なことをしてくれた。9月22日に財務省が実施を決めた円買い・ドル売りの為替介入のことだ。筆者はこの介入を「無駄玉介入」と名付けることに決めた。 念のために補足すると、市場で介入を実施するのは日本銀行だが、介入を決めて指示するのは財務省である。日銀自身が為替市場への介入を決めるわけではない。 そればかりかこの日には金融政策決定会合が行われて、金融緩和政策を継続することが決まった。黒田東彦・日銀総裁は、日本経済は金融緩和を止めることが適当な状況ではないことと、従って今後しばらくの間は利上げが不適切であることを記者会見で丁寧に説明した。 日銀が金融緩和政策の維持に強い意思を見せたことは、外国為替市場では間違いなく円安材料であり、それは政策効果の一部でもある。しかし、財務省はこの日に円買い介入を行った。これは、アクセルを踏んでいる最中に、同時にブレーキを踏むような愚挙である。普通ならどちらかが間違っているし、直接的には介入を決めた人々が明白に「悪い」。 しかし、首相官邸か財務省の中やその近辺にいると思われる、世間の円安批判が気になる官僚や政治家にとっては、「何かやらないと気が済まない」心境だったのだろう。) 希望的な観測として、円安対策を一度やったという実績ができたので、関係者がこれで気が済んで「一回限りでやめてくれる」かもしれない。それだったら、「大人の解釈」として今回の無駄玉介入を大目に見てもいいと思う(この見解は甘すぎるかもしれないが、「皮肉」を言っているのだと分かってほしい)』、「アクセルを踏んでいる最中に、同時にブレーキを踏むような愚挙である。普通ならどちらかが間違っているし、直接的には介入を決めた人々が明白に「悪い」。 しかし、首相官邸か財務省の中やその近辺にいると思われる、世間の円安批判が気になる官僚や政治家にとっては、「何かやらないと気が済まない」心境だったのだろう」、「世間の円安批判が気になる官僚や政治家」向けの「介入」だったようだ。
・『日銀の金融緩和が続く限り為替介入は効かない  今回の介入は、円安への流れを止めるために行ったものだ。円安が生活に関連する物価上昇につながっていて、庶民の生活にマイナスの影響を与えているという認識に基づくものだろう。これを決めた当事者(例えば財務大臣)には、経済思考的には幼稚だが、ある種の「正義感」があったに違いない(そこがかえって厄介なのだが)。ただ、後で触れるがその正義感は、残念ながら実現手段を間違えている。 現在の円安は、米国を中心とする外国の金利が上昇する一方で、わが国の長短金利が低位にコントロールされている金融環境の差から、いわば「自然に」生じているものだ。この構造が変わらない限り状況が逆転することは期待しにくい。しかも、米国の金利はさらに上昇する可能性がある。 わが国の金融政策が緩和から引き締め方向に転換しない限り、円安の反転は難しい。 逆に、今はまだその時ではないが、わが国の金融政策の方向性が変われば、大幅な円高は簡単に実現するはずだ。円安に歯止めを掛ける手段はあるので、「円が無価値になる」というようなトンデモ本的な脅しに対する心配をする必要はない。 「金利を上げたら、何十円の円高になる」と軽々には言いにくいが、円高にすることだけに目的があるなら、手段はある。 ついでに言うなら、今回の無駄玉介入も、将来日本の金利が上昇した場合に、「あのときドルを売って円を買ったおかげでもうかった」という損得になる可能性は十分ある(だからといって、今の政策として正当化できるわけではないが)』、「現在の円安は、米国を中心とする外国の金利が上昇する一方で、わが国の長短金利が低位にコントロールされている金融環境の差から、いわば「自然に」生じているものだ。この構造が変わらない限り状況が逆転することは期待しにくい。しかも、米国の金利はさらに上昇する可能性がある。 わが国の金融政策が緩和から引き締め方向に転換しない限り、円安の反転は難しい」、その通りだ。
・『今回の為替介入には「限界」がある  今回の介入は、内外の金利環境を背景として起こるべくして起こっている自然な円安に抵抗するものであり、ドルを売って円を買う介入だ。そうである以上、原資となるドルが外貨準備に制約される。この2点から、「よく効くはずだ」とは言いがたい。 後者が具体的に懸念されるほどの円買い介入を続けると、それ自体が問題だ。ただ、メディアや日本政府を「カモ」としたい市場参加者が、円安批判を気にしている人たちをけしかけて追加の介入に引きずり込もうとする可能性がある。この点には少し注意したい(政策当局が、そこまで愚かだとは思いたくないが)。 もう1点注目に値するのは、今回の円安に対して米国からは文句が出ていないことだ。多額の対米貿易黒字を記録していたかつての状況や、ごく最近でもドナルド・トランプ大統領時代なら、「日本は円安で稼ごうとしている」と非難の矢が飛んできそうなところだ。しかし、歴史的な水準の円安になっても、現在そのことに対する米国からの批判はない。 米国自身の最大の問題がインフレだという事情もあろう。ただ、中国・ロシアに依存しないサプライチェーンの構築が必要な現在、日本にはその一翼を担うことが期待されていると考えることができる。 「日本よ、もう少し頑張ってくれてもいいぞ」と思われている可能性があるし、世界の政治・経済構造が冷戦時代的なものに少々戻ったという事情もあろう。ともあれ、為替市場の動向を考える上で「米国の意思」は極めて重要な要素だ。 ここまでの話を集約すると、今回の円買い介入は円安を阻止する効果が乏しい点において、まず「無駄玉介入」の名に値するということになる』、「今回の介入は、内外の金利環境を背景として起こるべくして起こっている自然な円安に抵抗するものであり、ドルを売って円を買う介入だ。そうである以上、原資となるドルが外貨準備に制約される。この2点から、「よく効くはずだ」とは言いがたい」、「歴史的な水準の円安になっても、現在そのことに対する米国からの批判はない」、「今回の円買い介入は円安を阻止する効果が乏しい点において、まず「無駄玉介入」の名に値するということになる」、その通りだろう。
・『「二重の意味で無駄玉」である理由 そもそも円安を阻止する必要がない  そして今回の介入は、二重の意味で「無駄玉介入」だ。その理由は、そもそも円安を阻止する必要がないからである。日本の経済が活性化し、多くの人の賃金が上がるような状況をつくるには、円高よりも円安の方が良い。 確かに、日本企業の生産は多くが海外にシフトしたので、かつてのように円安による輸出増加といった分かりやすいメリットは見えにくい。そして、賃金が十分上がらない中で、資源価格上昇に輪を掛ける円安が、企業のコスト上昇や、何よりも庶民の生活を圧迫している現実は存在する。 しかし、そこで思考を停止して円安悪玉論にくみするのはいかがなものだろうか。率直に言って、過去とその延長である現状を固定化しすぎた「非未来思考」に傾きすぎていないか。 日本の経済が活性化するには、日本国内に設備投資や研究開発投資が活発に行われて、何よりも日本人が積極的に雇われる状況が望ましい。 では、日本国内で設備投資する場合、円安と円高ではどちらがいいか? 日本人の技術者を雇う場合、円安と円高のどちらがいいか? そもそも投資は、企業がもうかっているときともうかっていないときではどちらが活発か? 法人企業統計を見ると、当面の円安を背景に日本の企業は大いにもうかっている。 ついでにもう一つ問うが、日本の国力が衰えて円安になっていることを嘆く向きがあるが、国力が衰えた国にとって、自国通貨は高い方がいいのか、安い方がいいのか?』、「日本の経済が活性化するには、日本国内に設備投資や研究開発投資が活発に行われて、何よりも日本人が積極的に雇われる状況が望ましい」、その通りだが、「日本の企業は大いにもうかっている」が「国内に設備投資や研究開発投資が活発に行われて、何よりも日本人が積極的に雇われる状況」、とは程遠いのが現実だ。
・『アベノミクス開始当初と同じく今も日本には円安が求められている  「円高で苦しい方が、企業は工夫して頑張るはずだ」と思うのは、かつてまだ大いに成長力があった時代の日本がオイルショックを克服したことを懐かしむがごとき「無益な根性論」にすぎない。 日本の「将来への変化の方向」から考えると、円高よりは、円安の方がマシなのだ。特に企業人は、円安によるコスト高を嘆くばかりでなく、円安が提供している大きなビジネスチャンスをいかに生かすかを真剣に考えるべき時だ。 もともと、いわゆる「アベノミクス」が始まった時から、日本がデフレを脱却して成長力を回復するためには円安が求められていた。その事情は、現在も大きくは変わっていない。 日銀の黒田総裁は金融緩和の継続が適切だと「日銀の分をわきまえた」説明を丁寧に繰り返している(その「胆力」は大したものだと思う)。ただ、その適切性の中には、金融緩和がもたらす円安の効果も含まれていると考えるべきだ。 そもそも現在の円安は有効に利用するべきものであって、阻止すべきものではない。つまり手段としてだけでなく目的の点でも、今回の円買い介入は「無駄玉介入」だったと言えるのである』、「現在の円安は有効に利用するべきものであって、阻止すべきものではない」、「円安」を「有効に利用するべきもの」であることには、異論はないが、やれることは既にやっている筈で、追加的に利用するのはどうすれば可能なのだろう。
・『円安で困っている庶民の生活をどうするか?  「日本経済のマクロ的な成長のためには円安がいいかもしれないが、円安で困っている庶民の生活を捨てておくのか?」という議論はあり得るだろう。もちろん、庶民を捨てていいはずがない。 しかし、そのために為替レートを丸ごと円高にしようとするのは、考えとしてあまりに「雑」なのではないか。 端的に言って生活困窮者に対しては、給付金なり減税なりでより多くの可処分所得を持てるような再分配政策を強力に行う必要がある。為替レートに働きかけて、効果の乏しいところでお茶を濁されては困る。 アベノミクスの「3本の矢」として有名になった、「金融緩和」「積極財政」「成長戦略」は、いずれも必要であると同時に適切な政策だった。しかし、アベノミクスには残念ながら分配政策が欠けていた。 真剣に検討すべきは、一時の為替介入ではなく大規模な再分配政策だ。例えば、ベーシックインカムの実現を真剣に考えていい。ベーシックインカムは、丸ごと実現しなくとも部分的に実現することができる。また、「ベーシックインカム的政策」(子ども手当の支給や基礎年金の保険料の全額国庫負担など、方策は有望なものが複数ある)を実現するのでもいい。 政府には、「二重の意味で無駄玉」な為替介入などもう考えずに、広い範囲で継続的に実施される経済的弱者へのサポートを考えてほしい』、「真剣に検討すべきは、一時の為替介入ではなく大規模な再分配政策だ。例えば、ベーシックインカムの実現を真剣に考えていい」、これは為替政策・金融政策とはかなり離れたので、ここではこれ以上のコメントはしない。総じて、山崎氏とは、金融政策に対する見方は違うので、この問題でも違いが明確だった。

第三に、9月29日付け東洋経済オンライン「為替介入でも止まらぬ円安、「国民感情」悪化懸念 やりすぎた日銀と課題を放置した政府のツケ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/622359
・『止まらない円安に物価高。それに対して日本銀行は金融緩和を継続するのみ。政府は為替介入を実施したが、円安を招いている根本的な要因は何も変わっていない。 日本が抱える問題は何か、どう変わっていくべきなのか。日本や世界経済、金融市場分析を専門とするみずほ証券の小林俊介チーフエコノミストに話を聞いた(Qは聞き手の質問、Aは小林氏の回答)』、興味深そうだ。
・『Q:一部では政策転換の声もありましたが日本銀行は金融緩和継続を決定。一方で、アメリカでは景気後退懸念が出る中でFRB(米連邦準備制度理事会)は0.75%の連続利上げで引き締めを拡大しました。 A:市場では一部サプライズと受け止められたが、基本的にはノーサプライズだ。FOMC(連邦公開市場委員会)参加高官らは政策金利をできるだけ早く4%台に上げ、しばらく高い状態を維持すると言い続けていた。 一部では1%の利上げが予想されていたが、0.75%利上げでも早いペースであり、現在の消費者物価や雇用統計の動きを見ても、さらに加速させる理由はない。一方で、一部市場関係者は来年7月から利下げが始まると期待している中、来年は簡単に利下げしないと示したことでショックが起きた。ただFRBは事前のコミュニケーションどおりのことをやっているといえる』、なるほど。
・『日銀は市場の圧力に屈しない  日銀はなおさら事前のコミュニケーションどおりだ。従来から需給ギャップをプラスに転換して景気の足腰を強くし、過熱させてインフレにするために緩和を継続すると言っていた。一部外資系コミュニティで日銀は市場や世論の圧力に屈して政策変更するとの予想が出ていたこともあり、一部で誤解が広がった。 ただ、市場の圧力に屈して政策変更することは日銀の信頼性を傷つけることになりかねず最もやってはいけないことだ。市場が催促すればするほど日銀は政策変更しないことが今回改めて確認できた。 Q:日銀やFRBと市場で事前の意思疎通がうまくできていないのはなぜでしょうか。 A:過去、言ったこととやったことが異なったために信頼性を失ってきた面はある。FRBは昨年、インフレは一時的と緩和を続けてしまい、その巻き直しで現在急速な引き締めを行っている。出てくるデータに振り回されているとみられ、政策の一貫性への信頼性が低くなっている。 日銀も過去に消費者物価指数(CPI)の伸び率がマイナスだった際にイールドカーブコントロール(YCC、長短金利操作)の金利変動幅を広げ、実質的な引き締め政策を行ったことがある。また過去10年で金融緩和を維持するためにあらゆるロジックを重ねたため政策の全体像が見えづらくなっている。ミスコミュニケーションが発生しやすい状況にある。 Q:景気後退懸念がある中でのFRBの引き締めや、さらには円安や物価高の悪影響が出る中での日銀の緩和継続はそれぞれ正しい判断なのでしょうか。 A:FRBによるオーバーキル懸念があるのは事実だ。だが、現在アメリカのインフレ率が8%を超えている状況に対して政策金利はまだ3%台。もう少し上げる余地があるだろう。4.5~4.75%まで上げるべきとの見方が主流だが、5.5%まで上げる必要があるかもしれないし、4%がちょうどいいという可能性もあり、今は手探り状態なのは確かだ。 一方で日銀が金融緩和継続したことでインフレや円安を助長して日本経済を痛める可能性があるのも確かだ。かつては経済にプラスだった円安がマイナスになりつつあり、緩和継続が日本にとっていいことかわからなくなっている』、「日銀が金融緩和継続したことでインフレや円安を助長して日本経済を痛める可能性があるのも確かだ」、その通りだ。
・『金融緩和継続の目的を検討し直す必要  まず緩和は金融経済にプラスであり、株式や債券、不動産の価格高騰を助長し、輸出企業や商社は潤う。一方で輸入負担が増加することで家計や内需産業にはマイナスとなり、格差拡大要因になる。 かつては貿易収支が黒字だったためよかったが、今は貿易赤字のため円安になると支払金額が増えるデメリットが目立ってしまう。そもそも日本企業は長年の円高対策で海外現地生産を拡大するなど為替リスクを下げてきた。さらに国内労働人口が減少していることもあり、有効求人倍率はコロナ禍でも1.3倍と慢性的な人手不足だった。どんどん生産して輸出ができる状態でもない。 (小林俊介氏の略歴はリンク先参照) かつては円安進展後に短期的に貿易収支が悪化した後に黒字に向かって上昇するJカーブ効果があったが、リーマンショック以降にはその効果は検出できなくなっている。円安だから国内で生産した財を輸出して経済が伸びるという構図ではなくなった。 Q:日銀の金融政策は見直す必要がありますか。 A:格差拡大効果だけが強く出ているなら、状況や課題を鮮明にして、この金融緩和は何を目的に継続しているかを検討し直す必要がある。 (黒田東彦日銀総裁の任期は来年4月までなので)次の総裁の下でフレームワークを一度整理して、この10年間で積み上がってしまった金融政策をゼロベースで検証してきれいに組み直すことが必要になる。ただ、その際に黒田時代のすべてを否定して政策を変更していくべきではない。) Q:どういうことですか。 A:すべての政策はベネフィットに対してコストも発生するのでそのバランスの検証が重要だ。日銀の量的緩和に関しては日本国債だけでなくETF(上場投資信託)の購入も行い、金融機関の収益に打撃を与えるマイナス金利の導入や、金融市場の価格発見機能を阻害するYCCなど劇薬を複数使っている。それなりのコストと引き換えに緩和を行っている。 とは言え、ジェンガを無理矢理引っ張るように、ETFを来月から全部売る、今日でYCCをやめるなど急な引き締めをやっては、これまで行ってきた緩和効果がすべて水泡に帰す。YCCは現在のように厳しい範囲でする必要があるか、マイナス金利だけはあまり意味なかったのでやめてもいいのではないか、ETF購入は本当に企業の設備投資や雇用を活性化したかなどを1つひとつ検証してコストに見合うベネフィットがなければ徐々に政策をやめていけばいい。 黒田総裁に代わってアベノミクスや黒田政策が始まったときは、金融緩和が不十分だと思われた白川方明前総裁時代へのアンチテーゼの色合いが強かった。その結果として黒田総裁はやりすぎた面があったかもしれない。一方で、黒田氏の政策でよかった面もあるはずで、10年前と同様に逆サイドに振りきる政策転換をしないよう気をつけるべきだ』、「逆サイドに振りきる政策転換をしないよう気をつけるべき」、には同意できるが、私は出口戦略を密かに検討しておくべきと考える。
・『中央銀行の独立性の意義が問われる  Q:物価高や円安の影響が出てきて日銀の政策が問題視されている中で、国民感情に左右されずに冷静に変われるかが焦点ということですか。 A:まさにそのとおりで、中央銀行の独立性の意義も問われている。本来、政府の財政政策や雇用・労働政策と中央銀行の金融政策は一体で調整されるほうが最適なはずだが、あえて独立性を担保しようとしている理由の1つは、政治が国民感情に極端に振れて最適な政策遂行ができない可能性があるからだ。 1990年前後のバブル最終期に、不動産成金など一部で儲かる人が出た一方で、平均的なサラリーマン家庭は恩恵どころか地価高騰で住宅を購入できず苦しんでいた。そこに「平成の鬼平」とも称された三重野康氏が日銀総裁に就任して、庶民のためと急速な引き締めを行った。それが一因となり、「日本経済は失われた20年」に入ってしまったともいわれる。本来であればソフトランディングをうまく行うべきセンシティブな問題だったが、ポピュリズムが入り込んでしまった一例だ。それは避けなければいけない。 Q:次期日銀総裁の人選が水面下で始まる中、国民感情の行方も左右しそうな今後半年の日本経済の見通しはどう見ていますか。 A:国民感情を左右する最大のファクターはインフレであり、それは次の2つの要因に左右される。1つは国際商品市場だ。日本はエネルギーや食料品を輸入に頼っている。原油価格が落ち着いてきているとはいえ、基本的にはウクライナ戦争の動向次第だ。休戦で資源価格高止まりが一気に解消して日本のインフレが収まると考えるのは楽観的すぎるだろう。 2つ目は為替だが、貿易赤字は続いており、日銀が緩和を継続しているため円安が続く構図は変わらない。政府はドル売り円買いの為替介入を実施したが、あくまで円安の進行速度を調整したにすぎず、水準やトレンドは変えられない。 インフレが続くか否かのいずれの要因も外部環境に依存するため、日本政府が短期的に行える政策手段は限られる。今後も複数回、為替介入を実施して、円安のペースダウンを図るほかは、政策としてはまったく褒められないが補助金や給付金を支給することで物価高対策をアピールすることだろう。いずれも日銀に対する民意が過激な批判の方向にいかないようにする措置となる』、現在の政策に自由度が少ないのは事実だが、前述の通り、出口戦略を密かに検討しておくべきだ。
・『コロナ禍からの経済再開需要が本格化  一方で欧米が先行したコロナ禍からの経済再開需要が日本ではこれから本格化していく。欧米は経済再開による回復が落ち着き始め、金融引き締めもあり景気後退局面に入るだろう。日本もいずれは世界経済と軌を一にして景気後退に入る可能性も残るが、来年前半にかけてしばらく内需主導型の景気回復の余地がある。 FRBも利下げは先としても来春には利上げがひとまず止まるだろう。欧米の景気後退が明確になればドル高トレンドも終わる。日銀総裁の交代で実際に出口戦略(政策修正)をやるかは別として、金利の先安感は収まり、日米金利差も縮小傾向で円高方向になりやすくなる。さらに世界景気が後退することで資源価格など国際商品市場も落ち着き、輸入物価も下がれば「いいデフレ」が起き、実質所得の改善につながるかもしれない。 Q:補助金や給付金など目先のばらまき政策ばかりで大丈夫でしょうか。 A:確かに本質的な問題は別にある。そもそも日銀が黒田路線でマイナス金利やYCCなどやりすぎな面もあったが、低金利政策を余儀なくされたのは単純に日本経済が過熱しなかったからだ。それは政府の政策に問題がある。 足元ではワクチン接種率が向上し、致死率も低下した中でいまだにコロナ禍からの経済再開に向けた施策が緩慢なために需給ギャップがマイナスであり続けている。過去にさかのぼれば、安倍晋三政権時代に財政再建の文脈ではプラスになったが、機動的財政支出を継続せずに財政支出を削ったうえに消費増税を行うなど景気を冷やした。 そもそも資源高でインフレ率が高まっているのは化石燃料に頼ってしまっているからで、安全を確保しながらの原発再稼働に向けた動きも遅かった。また、より長期構造的な潜在成長率を左右する要因に目を移すと、労働力不足でも社会保険における「130万円の壁」や在職老齢年金など制度上の雇用環境の制約に対処もしていないほか、中長期で少子化に歯止めをかけるための現役世代への支援も岸田政権で削られている。外国人労働者への門戸開放も停滞している。 2013年に日銀と政府は政策協定(アコード)を結び、日銀は金融緩和を行い、政府は成長力強化に取り組むと明記した。日銀はやれることをやったし、やりすぎたところもあったが、一番の問題はこの10年間やるべきことをやらなかった政府にある。10年放置されていた課題が再び主要な問題として戻ってきている』、「一番の問題はこの10年間やるべきことをやらなかった政府にある。10年放置されていた課題が再び主要な問題として戻ってきている」、その通りだ。
タグ:山崎 元氏による「円安阻止の為替介入は「二重の意味で無駄玉」だった」 ダイヤモンド・オンライン 「根強いインフレでアメリカの金利が高止まり、円安・ドル高に歯止めがかからない場合、為替介入は消耗戦に陥る。外貨準備という弾薬の減少が顕著になると、介入規模は節約のために縮小せざるを得ない。そして、それを見越して投機筋の円売り攻勢が強まり、通貨価値の防衛戦に追い込まれる恐れもある。 これはまさに通貨防衛に失敗した国家がたどる運命と似通っている。政府・日銀はそうしたリスクがはらんでいることを自覚して投機筋と戦った方がいいだろう」、同感である。 (その18)(24年ぶり円買い介入が告げる「通貨防衛戦」の号砲 円安は低成長・日本の国力低下に見合っている、円安阻止の為替介入は「二重の意味で無駄玉」だった、為替介入でも止まらぬ円安 「国民感情」悪化懸念 やりすぎた日銀と課題を放置した政府のツケ) 株式・為替相場 「変動相場制以降で初めてとなる「通貨防衛戦」の領域に突入した」、とは大げさな感じもあるが、確かにその通りだ。 窪園 博俊氏による「24年ぶり円買い介入が告げる「通貨防衛戦」の号砲 円安は低成長・日本の国力低下に見合っている」 東洋経済オンライン 「自国通貨の下落を阻止する介入は保有外貨が上限となる。つまり、円安阻止の円買い介入は、円安の流れ自体を食い止められない上に、「集合すると圧倒的な規模になる投機筋に対し、有限の弾薬で立ち向かう」(同)ことになる。 政府・日銀としては、円安の反転を狙ったものではなく、円安の速度を緩める「スムージング介入」の意識が強いだろう」、 「通貨の下落は金融緩和の効果であり、為替市場は日銀の意図に沿って正しく円安に動いている。 巨額の貿易赤字は「為替市場で恒常的なドル買い・円売りを招く」・・・とされ、もはや「輸出で稼げず、成長率が低下して低金利が常態化した日本の国力低下に沿った円安」(同)になっている」、なにやら寂しい限りだ。 「国際批判をかわす目的で介入した代表例は、1985年のプラザ合意時の円安ドル高の是正だ」、当時は「日米間で深刻な貿易摩擦が起きた。日本はドル高を是正するために、円買い・ドル売りの協調介入を主導」、したのは確かだ。 「今回の介入は、内外の金利環境を背景として起こるべくして起こっている自然な円安に抵抗するものであり、ドルを売って円を買う介入だ。そうである以上、原資となるドルが外貨準備に制約される。この2点から、「よく効くはずだ」とは言いがたい」、「歴史的な水準の円安になっても、現在そのことに対する米国からの批判はない」、 「現在の円安は、米国を中心とする外国の金利が上昇する一方で、わが国の長短金利が低位にコントロールされている金融環境の差から、いわば「自然に」生じているものだ。この構造が変わらない限り状況が逆転することは期待しにくい。しかも、米国の金利はさらに上昇する可能性がある。 わが国の金融政策が緩和から引き締め方向に転換しない限り、円安の反転は難しい」、その通りだ。 「アクセルを踏んでいる最中に、同時にブレーキを踏むような愚挙である。普通ならどちらかが間違っているし、直接的には介入を決めた人々が明白に「悪い」。 しかし、首相官邸か財務省の中やその近辺にいると思われる、世間の円安批判が気になる官僚や政治家にとっては、「何かやらないと気が済まない」心境だったのだろう」、「世間の円安批判が気になる官僚や政治家」向けの「介入」だったようだ。 「日本の経済が活性化するには、日本国内に設備投資や研究開発投資が活発に行われて、何よりも日本人が積極的に雇われる状況が望ましい」、その通りだが、「日本の企業は大いにもうかっている」が「国内に設備投資や研究開発投資が活発に行われて、何よりも日本人が積極的に雇われる状況」、とは程遠いのが現実だ。 「今回の円買い介入は円安を阻止する効果が乏しい点において、まず「無駄玉介入」の名に値するということになる」、その通りだろう。 現在の政策に自由度が少ないのは事実だが、前述の通り、出口戦略を密かに検討しておくべきだ。 「逆サイドに振りきる政策転換をしないよう気をつけるべき」、には同意できるが、私は出口戦略を密かに検討しておくべきと考える。同意できるが、私は出口戦略を検討しておくべきと考える。 「日銀が金融緩和継続したことでインフレや円安を助長して日本経済を痛める可能性があるのも確かだ」、その通りだ。 東洋経済オンライン「為替介入でも止まらぬ円安、「国民感情」悪化懸念 やりすぎた日銀と課題を放置した政府のツケ」 「真剣に検討すべきは、一時の為替介入ではなく大規模な再分配政策だ。例えば、ベーシックインカムの実現を真剣に考えていい」、これは為替政策・金融政策とはかなり離れたので、ここではこれ以上のコメントはしない。総じて、山崎氏とは、金融政策に対する見方は違うので、この問題でも違いが明確だった。 「現在の円安は有効に利用するべきものであって、阻止すべきものではない」、「円安」を「有効に利用するべきもの」であることには、異論はないが、やれることは既にやっている筈で、追加的に利用するのはどうすれば可能なのだろう。 「一番の問題はこの10年間やるべきことをやらなかった政府にある。10年放置されていた課題が再び主要な問題として戻ってきている」、その通りだ。
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