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少子化(その4)(出生率低下は日本の「経済・労働力・社会保障」にどんな影響を与えるか、「少子化は最悪だ」という日本人は間違っている 日本の「人口問題の本質」とは一体何なのか)

少子化については、本年3月14日に取上げた。今日は、(その4)(出生率低下は日本の「経済・労働力・社会保障」にどんな影響を与えるか、「少子化は最悪だ」という日本人は間違っている 日本の「人口問題の本質」とは一体何なのか)である。

先ずは、本年3月13日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「出生率低下は日本の「経済・労働力・社会保障」にどんな影響を与えるか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/318575
・『岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」に着手するなど、出生率の低下は日本の喫緊の課題とされています。最近の出生率の低下は、高齢化社会や労働力人口など、日本の将来にどのような影響を与えるのでしょうか。一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏の著書『2040年の日本』(幻冬舎新書)より抜粋して紹介します』、興味深そうだ。
・『日本は世界で最も高齢化が進んだ国  労働力の推移は、長期的成長率に大きな影響を与える。そして、労働力の状況を決めるのは、人口動態の変化だ。そこで、本節では、人口構造がどのように変わるかを見ることとしよう。 65歳以上人口が総人口に占める比率を「高齢化率」と呼ぶことにしよう。日本の2020年の値は、28.7%だ。 他の国を見ると、アメリカ16.6%、イギリス18.7%、ドイツ21.7%、フランス24.1%、韓国15.8%などとなっている(総務省統計局『世界の統計2022』による)。日本は、これらの国に比べて、飛び抜けて高い。 新興国や開発途上国ではこの値は低いので、日本は世界で最も高齢化が進んだ国だ。日本経済から活力が奪われたとしばしば言われるが、その大きな原因が人口高齢化にあることは、間違いない』、「高齢化率」で「日本の2020年の値は、28.7%だ」、「フランス24.1%」、「ドイツ21.7%」、「イギリス18.7%」、「アメリカ16.6%」、「韓国15.8%」、確かに「日本」は高い。
・『かつては英米のほうが高齢化国  日本は、昔から高齢化率が高かったわけではない。図表1-4に示すように、1980年代頃までは、イギリスやアメリカのほうが高かった。 (図表1-4 高齢化率の推移 はリンク先参照) とくに、イギリスが高かった。観光地に行くと、老人が多いのが印象的だった。それに対して、日本の観光地には若い人たちが多い。大きな違いだと思った。 当時は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と賞賛されていた時代だ。そしてイギリスは、「イギリス病」で疲弊の極にあった。アメリカ経済もふるわず、アメリカ人は、「われわれの子供たちは、われわれより貧しくなる」と真剣に心配していた。 その当時の英米と日本との経済力の違いをもたらした大きな原因が、人口構造の違いだったのだ。 ところが、1990年代の中頃以降、日本の高齢化率が急速に高まり、英米を抜いた。そして、この頃から、日本経済の長期停滞が始まった。なお、図表1-4には示していないが、多くのヨーロッパ諸国も、英米と同じような推移をたどっている』、「1990年代の中頃以降、日本の高齢化率が急速に高まり、英米を抜いた。そして、この頃から、日本経済の長期停滞が始まった。なお・・・多くのヨーロッパ諸国も、英米と同じような推移をたどっている」、「日本」は「高齢化率」でも「英米を抜」いたとは、有難くない話だ。
・『出生率低下で、少子化がさらに深刻化  これまでも深刻であった日本の少子化が、さらに深刻化している。厚生労働省が2022年6月に発表した人口動態統計によると、2021年の日本の出生数は81.1万人で、1899年以降で最少となった。 国立社会保障・人口問題研究所が2017年に公表した将来推計は、3パターンの出生数を想定している。このうち通常使われるのは「中位」だが、そこでは、2021年の出生数を86.9万人としている。そして、「低位」(悲観的なシナリオ)では75.6万人としている。2021年の実際の出生数は、これらの中間の数字になった。 人口推計は、長期予測の基本となるものだ。これまでは、さまざまな政府見通しのほとんどが「中位推計」を用いていた。前記の結果を踏まえて、今後は、さまざまな長期推計の見直しが必要になるだろう』、「中位推計」ではなく、「中位」と「低位」の「中間の数字になった」、ので、「今後は、さまざまな長期推計の見直しが必要になるだろう」、大変だ。
・『出生率が低下しても、労働力人口や高齢者人口は変わらない  では、最近の出生率低下は、将来の日本にどのような影響を与えるだろうか? とりわけ、人口高齢化との関係では、どうか? 出生率が低下すれば、人口高齢化がますます深刻化することは間違いない。では、いつ頃の時点において、いかなる影響を与えるだろうか? 以下では、仮に「低位推計」が現実化した場合に、高齢化率が「中位推計」からどのように変わるかを見ることとしよう。 実は、低位推計の結果を見ると、高齢者の数は、2060年頃まで見ても、出生率中位推計の場合と変わらないのだ。これは意外なことと思われるかもしれないが、つぎのように考えれば、当然であると分かるだろう。 2060年において65歳以上の人とは、1995年以前に生まれた人だ。その人たちは、2040年時点においては、すでに45歳以上になっている。だから、2020年に出生率が低下しても、2060年の高齢者数は影響を受けないのである(ただし、死亡率がいまより低下すれば、総数が増えるなどの影響はある)。 現役世代人口(=生産年齢人口=15~64歳人口)も、同様の理由によって、2030年までを見る限りは、ほとんど変わらない。2040年になって100万人程度減るだけだ。このように、今回の調査で分かった出生率の低下は、2040年頃までの高齢者数や労働力人口には、ほとんど影響を与えない。 しかし、以下に述べるように、これは、高齢化問題や労働力不足問題を楽観視してよいことを意味するものではない。出生率が中位推計のままでも、これらは深刻な問題だからである。 なお、出生率低下が、何の影響ももたらさないわけではない。影響はもちろんある。それは、0~14歳人口が、これまで想定されていたよりは、2040年で2割程度減ることだ。これは、教育関係の諸事項には大きな影響を与えるだろう。 現在でもすでに、私立大学の定員割れが問題となっている。この問題は、今後さらに深刻さを増すだろう』、「今回の調査で分かった出生率の低下は、2040年頃までの高齢者数や労働力人口には、ほとんど影響を与えない。 しかし、以下に述べるように、これは、高齢化問題や労働力不足問題を楽観視してよいことを意味するものではない。出生率が中位推計のままでも、これらは深刻な問題だからである。 出生率低下が、何の影響ももたらさないわけではない。影響はもちろんある。それは、0~14歳人口が、これまで想定されていたよりは、2040年で2割程度減ることだ。これは、教育関係の諸事項には大きな影響を与えるだろう」、なるほど。
・『社会保障制度を維持できるか  先に記したように、中位推計の場合でも、高齢化はきわめて深刻だ。それは、高齢者と現役世代の人口比を見れば、明らかだ。 図表1-5では「出生中位」と「出生低位」の比較を示したが、ここから分かるように、2020年には一人の高齢者をほぼ現役2人で支えていた。ところが、2040年にはほぼ1.5人で支えることになるのだ(注1)。 (図表1-5:出生中位推計と低位推計の比較 はリンク先参照) だから、仮に高齢者一人当たりの給付がBで変わらないとすれば、現役世代一人当たりの負担は、B/2からB/1.5になる。つまり、0.5Bから0.67Bへと33.3%増えることになる(注2)。これは、大変な負担増だ。しかも、賃金は今後もさして伸びないと考えられるので、負担の痛みは、きわめて強いだろう。 後期高齢者医療制度では、すでに負担増が行なわれている。2022年10月1日から、医療機関の窓口で支払う医療費の自己負担割合が、これまでの「1割」または「3割」から、「1割」「2割」「3割」の3区分となった。一定以上所得のある人は、現役並み所得者(3割負担)を除き、自己負担割合が「2割」になる。 今後は、負担増だけで対処することはできず、給付を相当程度引き下げざるをえないだろう。年金については、支給開始年齢を、現在の65歳から70歳に引き上げるといった対策が必要になるだろう。 なお、国民年金保険料を65歳まで納付する議論がスタートした。また、65歳以上の人の介護保険料(国の基準をもとに、市区町村が決める)を引き上げることも議論されている。これらの議論のゆくえも注目される。 (注1) 「出生中位」とは、出生率が2065年に1.44に収束していくとの仮定。「出生低位」では、1.25に収束する。なお、図表1-5はいずれも死亡中位。 (注2)ここで示したのは概算である。正確な計算を、次回行なう』、「現役世代一人当たりの負担は」「33.3%増える」、「これは、大変な負担増だ」、「後期高齢者医療制度」は「給付を相当程度引き下げざるをえないだろう」、「年金については、支給開始年齢を、現在の65歳から70歳に引き上げるといった対策が必要になるだろう」、なるほど。
・『2060年には現役世代人口と高齢者人口がほぼ同じに  先に、「低位推計でも、労働力人口は中位推計とあまり変わらない」と述べた。しかし、これは、2030年頃までのことである。これ以降になると、低位推計では労働力不足が中位推計の場合より深刻化する。 現役世代の総人口に対する比率は、現在は約6割だが、2060年頃には、これが約5割にまで低下する。そして高齢者人口とほぼ同数になる。 前項で述べたのと同じ計算を行なうと、現役世代一人当たりの負担は、B/2からBになる。つまり、高齢者の給付を不変とすれば、負担は0.5BからBへと2倍に増えることになる。このような制度は、到底維持できないだろう。 つまり、現在出生率が低下していることの結果は、40年後、50年後に、きわめて深刻な問題になるのだ。こうした条件の下で日本社会を維持し続けるための準備を、いまから行なう必要がある。 なお、ここでは社会保障制度を維持するための負担について考えたが、労働力の面から見ても、深刻な問題に直面する』、「現役世代の総人口に対する比率は、現在は約6割だが、2060年頃には、これが約5割にまで低下する。そして高齢者人口とほぼ同数になる」、「現役世代一人当たりの負担は」、「2倍に増えることになる。このような制度は、到底維持できないだろう」、「現在出生率が低下していることの結果は、40年後、50年後に、きわめて深刻な問題になるのだ。こうした条件の下で日本社会を維持し続けるための準備を、いまから行なう必要がある」、大変だ。
・『出生率引き上げより、高齢者や女性の労働力率引き上げが重要  先に、「現時点で出生率が低下しても、高齢化率や労働力率が大幅に悪化するわけではない」と述べた。このことを逆に言えば、「仮に現時点において出生率を大幅に引き上げられたとしても、将来の高齢化問題や労働力不足問題が解決されるわけではない」ことを意味する。 出生率を高めることは、さまざまな意味において、日本の重要な課題だ。しかし、それによって社会保障問題や労働力不足問題が緩和されると期待してはならない。近い将来においては、0~14歳人口が増えるために、問題はむしろ悪化するのである。 将来時点における労働力人口の減少に対処するのは重要な課題だが、そのためには、出生率を引き上げることよりも、高齢者や女性の労働力率を上げることのほうが、はるかに大きな効果を持つ。) 税制は労働力率に大きな影響を与える。とりわけ、配偶者控除が女性の労働力率にきわめて大きな影響を与える。税制度の設計にあたっては、将来の労働力不足問題を十分考慮に入れるべきだ。 これまで日本では、「103万円の壁」ということが言われていた。配偶者の給与収入が103万円を超えれば、配偶者控除を受けることができなくなるので、労働時間を抑えて働いていた人が多かったのである。 2018年の税制改正で、それまでの制度は変更された。配偶者の給与収入が103万円を超えても、150万円までなら配偶者控除と同額の配偶者特別控除を受けられ、201万5999円までであれば控除を段階的に受けられるようになったのである。 この改正に対応して、人々は労働時間を増やした。しかし、増えたのは非正規雇用だ。そして、増えたとはいえ、非正規の労働時間は、正規労働者に比べれば短い。したがって、一人当たりの平均賃金は、むしろ低下することになってしまった。 もともと、配偶者控除という制度は、「女性は専業主婦」という時代の名残だ。労働力が減少する社会において、このような制度が適当かどうかは、大いに疑問だ。こうした制度を変えなければ、女性の社会参加を本格的に増やすことはできないだろう。 また、新しい技術やビジネスモデルを採用して生産性を引き上げ、労働力不足を補うことが可能だ。超高齢化社会に対応するには、こうした施策を進める必要がある。さらに、外国からの移民を認めることも必要だ』、「将来時点における労働力人口の減少に対処するのは重要な課題だが、そのためには、出生率を引き上げることよりも、高齢者や女性の労働力率を上げることのほうが、はるかに大きな効果を持つ」、「もともと、配偶者控除という制度は、「女性は専業主婦」という時代の名残だ。労働力が減少する社会において、このような制度が適当かどうかは、大いに疑問だ。こうした制度を変えなければ、女性の社会参加を本格的に増やすことはできないだろう」、ここまではいとしても、「外国からの移民を認めることも必要だ」には反対である。
・『雇用延長で対処できるか  高齢者の労働力率は、これまでも上昇しつつある。また、年金支給開始年齢を65歳まで引き上げたことに対応して、政府は、65歳までの雇用を企業に求めている。今後、年金支給開始年齢を70歳に引き上げれば、70歳までの雇用延長を企業に求めることとなる可能性がある。 しかし、ここには、大きな問題がある。それは、日本の賃金体系では、50歳代までは賃金が上昇するが、60歳代になると急激に減少することだ。 組織から独立した形で高齢者が仕事をできるような仕組みを作る必要もあるだろう。単なる雇用延長だけでなく、こうした可能性をも含めた検討を進める必要がある』、「日本の賃金体系では、50歳代までは賃金が上昇するが、60歳代になると急激に減少すること」、「組織から独立した形で高齢者が仕事をできるような仕組みを作る必要もあるだろう」、「単なる雇用延長だけでなく、こうした可能性をも含めた検討を進める必要がある」、同感である。

次に、4月16日付け東洋経済オンラインが掲載した 慶應義塾大学大学院教授の小幡 績氏による「「少子化は最悪だ」という日本人は間違っている 日本の「人口問題の本質」とは一体何なのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/666735
・『「日本はもっと少子化対策をしっかり実行して、一刻も早く縮小均衡状態から脱すべきだ」 今、有識者、メディア、政治家は、皆こぞって「この国の縮小均衡を壊すことが必要だ」と力みまくっている。 だが、これは間違いだ。なぜなら、均衡は理由があって均衡となっているのであり、その理由を理解、特定せずに、ただ都合が悪いからぶっ壊すというのは、社会を壊すことにすぎないからだ』、「小幡 績氏」らしい出だしだ。
・『「少子化のそもそも論」として重要な3つのこと  そもそも、なぜ人口が減っているのか。なぜ人口減少は悪いことなのか。「今が危機を回避するラストチャンスだ」というが、では「今起きている危機」とは何なのか。 これらを議論せずに「少子化は困る、だから全力で回避する」という正義感は、社会を壊し、日本社会を不幸にすることになるだろう。 「そもそも論」として、3つ重要なことがある。 「そもそも①」少子化は経済発展の結果である。所得水準が上がれば、少子化が進む。これは人類の歴史において動かしがたい、変えようのない事実である。だから、そもそも少子化を止めることは不可能である。 「そもそも②」少子化が悪いとは決めつけられない。むしろ1970年代は、人口爆発が地球上の最大の問題と言われ、それを止められなかったアフリカは非難され、それを止める気がなかった中南米諸国は経済が停滞し、一人っ子政策を無理矢理行った中国は、この点に関しては成功だと思われ、経済も発展した。 しかし、今や一人っ子政策は間違った政策とされ、アフリカはHIV感染症で人口が減少し、21世紀には「人口を増やせ」という話に180度変わった。すなわち、人口に関する常識は、時代の状況の都合に合わせて、変わるのである。そして、人口政策の影響は、時代の状況の変化を超えて何百年間も続く。だから、一時の政治家の情熱はつねに危険だが、人口に関する議論の場合、とくに注意が必要なのだ。 「そもそも③」仮に少子化が止めるべき課題だとしても、現在行われている、あるいは行われようとしている政策は、ほとんどすべて効果がない。なぜなら、ほとんどの政策が現金のバラマキであり、出生数を増やす理由はないからである。 そもそも経済的理由が少子化の原因ではない。「最大のそもそも」として、少子化の原因は特定できない。誰も、なぜ少子化が起きているのか確信がないままに、「カネを配って悪いことはない」と、ひたすらバラまいている。 結果として、ただの票の買収活動になっている。だから、所得制限を外して対象者をひたすら増やすなどしている。バラマキで出生率が上がろうか否かなどは関係ないのである。給付と出生率の上昇の検証などに関心がないのである。そして、その流れをメディアも国民も無検討に受け入れ、大きな潮流をつくってしまっている』、「「そもそも①」少子化は経済発展の結果である。所得水準が上がれば、少子化が進む。これは人類の歴史において動かしがたい、変えようのない事実である。だから、そもそも少子化を止めることは不可能である」、は暴論に近い印象だ。確かフランスでは「少子化」に歯止めがかかった。「少子化」には「所得水準」以外の要因も影響している筈だ。「そもそも②」、「そもそも③」については違和感はない。
・『なぜ人口は増加し始めたのか  この3つの根本的な問題をもう少し議論してみよう。まずは「そもそも①」の「少子化は経済発展の結果」と、「そもそも③」の「仮に少子化が止めるべき課題だとしても、現在行われている、あるいは行われようとしている政策は、ほとんどすべて効果がない」から、である。 例えば、欧州の人口は18世紀半ば以降にテイクオフ(離陸)した。一方、中国をはじめとするアジアでは、はるか前、約1000年(11世紀)前後から農業生産力が上昇し、経済が発展、人口が増え始める兆しがあった。だがその後、周辺の遊牧民族の席巻や、欧州から持ち込まれたともいわれるペストなどの感染症の流行で、人口は押し下げられ、増加は目立たなくなった。 しかし、要は世界的に見れば、人類の歴史上、経済発展と生活水準の上昇は、まずは人口を増やしたのである。これは、マルサスの人口論的な増加である。皮肉にも英国のT・R・マルサスが18世紀の末において「人口増加は不可能だ」と宣言した直後から、欧州の人口は目に見えて増え始めたのである。 このとき、人口が増加した理由は、食料の入手量が増加したからである。また19世紀以降の増加は、衛生面の改善や医薬の進歩などにより、乳幼児死亡率が低下したためである。当時の平均的な生活水準は「生存維持以下、またはギリギリ」であった。だから、経済水準が上がると人口は増加したのである。) だが、この反転が始まる。19世紀後半以降の欧州では、経済水準の上昇は出生率を低下させるほうに働くようになった。これは20世紀にそのほかの地域にも広がり、21世紀には世界的な現象になったのである。 理由は、子供が死ななくなったことにより、少数の出産でも十分な数の子息を残せることになったからであり、同時に、賃金水準が上昇、所得機会が増えたことから、出産育児に時間を使うよりも、働く時間を増やすことで所得が増加するようになったからである。 さらに、賃金の上昇、所得機会の増加は、高等教育による生涯所得の増加をもたらしたから、子供にかける教育期間と費用を増加させた。教育投資を増やしたのである。 経済水準の上昇が、労働への投資と教育への投資を可能にし、家族全体で人的投資をしたのである。これが、さらなる所得水準の上昇、経済発展をもたらし、少子化は傾向として完全に定着したのだった』、「出産育児に時間を使うよりも、働く時間を増やすことで所得が増加するようになったから」、確かに「少子化」の一因ではあるが、これ以外の要因もあるのではなかろうか。
・『所得水準を上げるだけでは少子化を深刻化させるだけ  これを逆流させる力は、どこにも存在しない。不可能なのである。さらに働きやすい環境を作り、またカネをばらまき、教育コストを低下させれば、さらに少数精鋭の子供たちを育てるようになるだけだ。すなわち、むしろ少子化を促進させる効果のほうが明確に存在する。 つまり、「そもそも①」=少子化は経済発展してきた以上、止められないのである。少子化を止めようとして行われている政策は、むしろ少子化を進めるものだ。また「そもそも③」、つまり、所得水準を上げることは少子化の解決策であるどころか、深刻化させるのである。 では、なぜ有識者も政治家も、カネをバラまくことが少子化対策となると主張しているのだろうか。票のため、少子化対策にならなくても、バラまく口実があればいいという理由は明らかに存在する(子供を増やすことと無関係な経済補助がほとんどである)。しかし、良心的な政治家たちや有識者たちまで、なぜ「経済的な支援が子供を増やすことになる」と盲信してしまっているのであろうか。 それは、アンケート調査で「なぜ結婚しないのか」と聞かれて、「所得が安定しないから」という答えが一定数あるからだ。また、結婚している夫婦に「なぜ子供を持たないか」あるいは「もう一人持たないか」と聞くと、「カネがかかるから」と答えるからである。 これは大きく誤ったアンケート結果の解釈である。) 第1に、経済的理由はアンケート結果で最多の回答ではない。結婚しない理由で一番多いのは「結婚の必要性を感じない」であり、第2位は「自分の時間、自由な生活を優先したい」ということであり、ようやくその次の第3位が「経済的理由」である。 子供を持たない、あるいは多くを持たない理由を見ても、確かに「カネがかかるから」という回答が1位になることもある。だが、これはインタビューを受けて「子供を持つのが面倒だ」とか「自分の時間が欲しい」と言うのがはばかられるからである。なぜなら、アンケートもインタビューも「なぜあなたは子供を持たないのか」という非難のニュアンスを含むからである。 さらに、自分をよく見せようと意識していない人々も「カネがかかるから」と答えるのと、「カネをもらったら子供を持つ」とでは、まったく別のことだからである。 この2つは、アンケート調査の経験があれば、誰でも知っていることだ。①アンケートの回答は本音ではない、②アンケートという仮定の回答と現実行動は異なるという、基本中の基本の事実である。 つまり、最も多い回答は経済的要因でないし、回答が経済的要因であったとしても、彼らの実際の行動は異なるのである。そして、「カネをあなたに配る」と言われて「いりません」と断る人はいないし、「ありがたい」と答えるに決まっている。一方、子育てを自分ではしない人間がバラまきに反対すると、子育てをする人々の敵と見なされてしまうので、反対しにくいのである』、「アンケート結果」の問題点については、筆者の言う通りだろう。
・『所得と結婚率の相関関係の誤解  さらに、このような行動経済学的な議論ではなく、「所得水準と子供の数や所得と結婚率の関係が正である」という実証研究結果も、その多くについてはそのまま日本の現状には当てはめられないし、無理して適用するのは、ほとんどの場合、間違いだと言える。 なぜなら、第1に「所得の高い人ほど結婚している」という所得と結婚率の相関関係は、「所得が増えれば結婚するようになる」という因果関係とはまったく別であるからである。 所得水準が低い人が結婚しないのではなく、社会の中で他人と交流する機会が少ない人(交流したくない人)は、所得水準の高い仕事に就く機会が少なく、それとは独立の現象として、出会いが少ないということがありうる(そして、実際にそうであろう)。 第2に、フランスやハンガリーなどではマネーインセンティブを与えたら子供が増えたという事実があったとしても、日本でも同じことが起こるとは限らない。むしろ、起こると考えることは難しい。 なぜなら、社会環境が違いすぎるし、価値観も違いすぎるからである。世界で日本だけが出生率が低いのではなく、中国をはじめ、ほとんどのアジア諸国で低下し続けている。韓国の極端に低い出生率も、つとに有名である。 アジアでは社会のあり方、とくに男女の役割分担のあり方が急激に変わってきている。出生率の低下はその移行期の中で、経済的な理由とこの社会の急激な変化が絡み合っているから起きているのであり、過去にそれが終わっている欧米とは異なる。 また、例えば「アメリカでは出生率が日本より高い」といっても、白人系の出生率はそのほかの人々よりも低いし、欧州の多くの国でもこの現象が存在する。) さらに、例えば北欧諸国は少子化問題解決の優等生のように思われているが、出生率は低下を続けている。所得水準が上がっても、子供関連、教育関連の政府支出が極めて高くても、少子化は進んでいるのである。 第3に、日本のB村が子ども手当などを大幅に増やしたら、出生率が大幅に上がった「奇跡の村」などと言われ、もてはやされている。だが、これは子供を産もうとした夫婦が「どこで子育てをしたら得か」を考えて、単にA町からこのB村に移住した要因が大きいのである。B村で出生率が奇跡のように上がったように見える一方、その他の町ではさらに出生率が絶望的に下がっただけなのである。 そして、百万歩譲って、経済的な理由が一部の家庭にとって子供を持たない理由であるとしよう。しかし、その場合の経済的理由とは、5万、10万、100万円などではなく、2億円などというレベルの話なのである。 すなわち、女性が大学を出て会社に就職した場合、30歳前後で会社勤めを退職し、子育てをして、数年後に賃労働を再開し、パートタイムや非正規社員として働いた場合、子育てをせずに大卒後に就職した会社で定年まで働いた場合に比べて生涯所得が2億円前後少ないというシミュレーション結果を、多くの調査が示している』、「フランスやハンガリーなどではマネーインセンティブを与えたら子供が増えたという事実があったとしても、日本でも同じことが起こるとは限らない。むしろ、起こると考えることは難しい。 なぜなら、社会環境が違いすぎるし、価値観も違いすぎるからである」、「フランス」で「子供が増えた」というのにここで触れたようだが、「社会環境が違いすぎるし、価値観も違いすぎる」として、「日本」には当てはまらないとしている。「社会環境」や「価値観」の違いをここで持ち出したのには違和感がある。出すのであれば、もっと前の方で出すべきだろう。
・『少子化の原因は社会のあり方の問題  だから、働く夫婦に子育てのための所得支援をするのであれば、各夫婦に2億円ずつ配らなくてはならないのである。すなわち、少子化の原因は、社会のあり方の問題であり、その一部は経済的要因であるが、その要因をもたらしているのは日本社会における都市部での企業での働き方にある。 それは政府の責任ではないうえに、政策で直接子育てを支援したり、現金をバラまいたりしても、解決できる次元のものではないのだ。「異次元の少子化対策」などと言っているが、その最低100倍、3次元ぐらい違わないと無理なのだ。 しかし、解決策はあるし、簡単だ。女性が子育てのために退職し、その後転職したときに、その女性の人的資本の価値に見合った、以前の給料と同等の水準で働けるような民間労働市場に、日本の労働市場が変わればいいだけだ。) 「そんなに革命的に労働市場が変わるのは難しいのではないか」という意見が多そうだが、本当だろうか。 そもそも、その退職女性はもともと働き手として有能だ。もし退職前の価値よりも安い賃金でパートとして働いていたら、それは超掘り出し物だ。ただでさえ人手不足なのだから、彼女には求人が殺到するだろう。単純なごく普通の経済原則、企業の利益最大化行動で、すぐに解決してしまう。これが私の自然で「普通の」少子化対策だ。 なぜ、これを実現するのが難しいのか。それは日本の企業が阿呆であるからである。日本社会が意味不明だからである。逆に言えば、そんな異常な企業と社会においては、何をしようとも問題は解決しないのだ』、「その退職女性はもともと働き手として有能だ。もし退職前の価値よりも安い賃金でパートとして働いていたら、それは超掘り出し物だ。ただでさえ人手不足なのだから、彼女には求人が殺到するだろう。単純なごく普通の経済原則、企業の利益最大化行動で、すぐに解決してしまう。これが私の自然で「普通の」少子化対策だ」、市場原理に任せておけば解決する筈だが、「これを実現するのが難しいのか。それは日本の企業が阿呆であるからである」、というのは天にツバするものだ。
・『「日本にとっての少子化問題」とは何か  最後に「そもそも②」の「少子化が悪いとは決めつけられない」である。少子化は本当に問題なのか。なぜ問題なのか。一般的な答えは「当たり前だ。子供が少ない社会は、まともな社会でない。活力がなくなってしまうではないか」ということなのだろう。 しかし、それならば、日本のほとんどの社会はすでに壊れている。壊れていないのは、東京、名古屋、そのほかごく一部の大都市だけで、ほとんどの地域社会は少子化どころか、中年もおらず、高齢者だけになり、さら高齢者までも減り始めている。社会は壊れ、消失しているのである。 もし「健全な社会を維持する」ということが少子化対策の目的なら、まず、大都市以外の地域社会を一刻も早く立て直さなければいけない。少子化対策のラストチャンスというが、地域社会にとっては子供が減るというのが問題なのであれば、何十年前にもうゲームオーバーになっているのである。 しかし、私がこんなことを主張しても相手にされない。「地域社会はもう無理に決まっている。とにかく日本全体で人口を増やせ、それが日本にとっての問題だ」というだろう。しかし、しかし、だ。ここでの「日本の問題」とは一体何のことだろうか。 それは人口が減ると経済規模が小さくなり、日本市場に依存している企業の売り上げが減るという問題であり、勤労者層が減ると社会保険料を払う人が減り、年金も医療も介護も破綻するからであり、日本人の存在感が減ると、国際的に日本代表の政治家といっても世界では大して影響力がなくなるからであり、人口が減れば兵力が減るからである。 すなわち、それは少子化問題ではなく、企業利益の問題であり、社会保障システムの問題であり、プライドの問題であり、覇権争いの問題なのである』、「少子化問題ではなく、企業利益の問題であり、社会保障システムの問題であり、プライドの問題であり、覇権争いの問題なのである」、その通りだ。
・『経済主体が個別課題に正面から向き合うしかない  これらの問題を解決するのはとても難しい。「人口が減ったことが問題なのだから、人口が元に戻ってくれれば、問題は存在しなくなるはずだ」――。こうした課題の裏返しを解決策とするのは、まったく無意味なことだ。 これらの社会問題を直接解決することでしか、日本の問題は解決しない。現在人々が「人口減少こそ最大の課題」と言っているのは、実は社会の変化に対応できない、経済主体や経済システム、社会制度が機能不全を起こしているにすぎない。これらの制度をリフォームして、それぞれの経済主体が自分自身の個別の課題に正面から向き合うことでしか解決しないのである。 つまり、少子化対策とは、課題設定も解決策もすべて間違っている。このままでは、あえて日本社会の傷を拡大し、破綻させることにしか貢献できないのである。 (本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)』、今回の論文はやや粗く、部分的には違和感があったが、「現在人々が「人口減少こそ最大の課題」と言っているのは、実は社会の変化に対応できない、経済主体や経済システム、社会制度が機能不全を起こしているにすぎない。これらの制度をリフォームして、それぞれの経済主体が自分自身の個別の課題に正面から向き合うことでしか解決しないのである」、同感である。なお、筆者は准教授から、正式な教授になったようだ。
タグ:「日本の賃金体系では、50歳代までは賃金が上昇するが、60歳代になると急激に減少すること」、「組織から独立した形で高齢者が仕事をできるような仕組みを作る必要もあるだろう」、「単なる雇用延長だけでなく、こうした可能性をも含めた検討を進める必要がある」、同感である。 「もともと、配偶者控除という制度は、「女性は専業主婦」という時代の名残だ。労働力が減少する社会において、このような制度が適当かどうかは、大いに疑問だ。こうした制度を変えなければ、女性の社会参加を本格的に増やすことはできないだろう」、ここまではいとしても、「外国からの移民を認めることも必要だ」には反対である。 「現役世代の総人口に対する比率は、現在は約6割だが、2060年頃には、これが約5割にまで低下する。そして高齢者人口とほぼ同数になる」、「現役世代一人当たりの負担は」、「2倍に増えることになる。このような制度は、到底維持できないだろう」、「現在出生率が低下していることの結果は、40年後、50年後に、きわめて深刻な問題になるのだ。こうした条件の下で日本社会を維持し続けるための準備を、いまから行なう必要がある」、大変だ。 「現役世代一人当たりの負担は」「33.3%増える」、「これは、大変な負担増だ」、「後期高齢者医療制度」は「給付を相当程度引き下げざるをえないだろう」、「年金については、支給開始年齢を、現在の65歳から70歳に引き上げるといった対策が必要になるだろう」、なるほど。 「今回の調査で分かった出生率の低下は、2040年頃までの高齢者数や労働力人口には、ほとんど影響を与えない。 しかし、以下に述べるように、これは、高齢化問題や労働力不足問題を楽観視してよいことを意味するものではない。出生率が中位推計のままでも、これらは深刻な問題だからである。 出生率低下が、何の影響ももたらさないわけではない。影響はもちろんある。それは、0~14歳人口が、これまで想定されていたよりは、2040年で2割程度減ることだ。これは、教育関係の諸事項には大きな影響を与えるだろう」、なるほど。 ダイヤモンド・オンライン 今回の論文はやや粗く、部分的には違和感があったが、「現在人々が「人口減少こそ最大の課題」と言っているのは、実は社会の変化に対応できない、経済主体や経済システム、社会制度が機能不全を起こしているにすぎない。これらの制度をリフォームして、それぞれの経済主体が自分自身の個別の課題に正面から向き合うことでしか解決しないのである」、同感である。なお、筆者は准教授から、正式な教授になったようだ。 「少子化問題ではなく、企業利益の問題であり、社会保障システムの問題であり、プライドの問題であり、覇権争いの問題なのである」、その通りだ。 「その退職女性はもともと働き手として有能だ。もし退職前の価値よりも安い賃金でパートとして働いていたら、それは超掘り出し物だ。ただでさえ人手不足なのだから、彼女には求人が殺到するだろう。単純なごく普通の経済原則、企業の利益最大化行動で、すぐに解決してしまう。これが私の自然で「普通の」少子化対策だ」、市場原理に任せておけば解決する筈だが、「これを実現するのが難しいのか。それは日本の企業が阿呆であるからである」、というのは天にツバするものだ。 「社会環境」や「価値観」の違いをここで持ち出したのには違和感がある。出すのであれば、もっと前の方で出すべきだろう。 「フランスやハンガリーなどではマネーインセンティブを与えたら子供が増えたという事実があったとしても、日本でも同じことが起こるとは限らない。むしろ、起こると考えることは難しい。 なぜなら、社会環境が違いすぎるし、価値観も違いすぎるからである」、「フランス」で「子供が増えた」というのにここで触れたようだが、「社会環境が違いすぎるし、価値観も違いすぎる」として、「日本」には当てはまらないとしている。 「アンケート結果」の問題点については、筆者の言う通りだろう。 「出産育児に時間を使うよりも、働く時間を増やすことで所得が増加するようになったから」、確かに「少子化」の一因ではあるが、これ以外の要因もあるのではなかろうか。 「「そもそも①」少子化は経済発展の結果である。所得水準が上がれば、少子化が進む。これは人類の歴史において動かしがたい、変えようのない事実である。だから、そもそも少子化を止めることは不可能である」、は暴論に近い印象だ。確かフランスでは「少子化」に歯止めがかかった。「少子化」には「所得水準」以外の要因も影響している筈だ。「そもそも②」、「そもそも③」については違和感はない。 「小幡 績氏」らしい出だしだ。 小幡 績氏による「「少子化は最悪だ」という日本人は間違っている 日本の「人口問題の本質」とは一体何なのか」 東洋経済オンライン 「中位推計」ではなく、「中位」と「低位」の「中間の数字になった」、ので、「今後は、さまざまな長期推計の見直しが必要になるだろう」、大変だ。 「1990年代の中頃以降、日本の高齢化率が急速に高まり、英米を抜いた。そして、この頃から、日本経済の長期停滞が始まった。なお・・・多くのヨーロッパ諸国も、英米と同じような推移をたどっている」、「日本」は「高齢化率」でも「英米を抜」いたとは、有難くない話だ。 「高齢化率」で「日本の2020年の値は、28.7%だ」、「フランス24.1%」、「ドイツ21.7%」、「イギリス18.7%」、「アメリカ16.6%」、「韓国15.8%」、確かに「日本」は高い。 野口悠紀雄氏の著書『2040年の日本』(幻冬舎新書) 野口悠紀雄氏による「出生率低下は日本の「経済・労働力・社会保障」にどんな影響を与えるか」 (その4)(出生率低下は日本の「経済・労働力・社会保障」にどんな影響を与えるか、「少子化は最悪だ」という日本人は間違っている 日本の「人口問題の本質」とは一体何なのか) 少子化
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