携帯・スマホ(その12)(赤字縮小の楽天G、三木谷氏に迫る「悪魔シナリオ」 「ポイント経済圏」握る楽天カード上場は危険だ、大前研一「楽天モバイルの大赤字は氷山の一角にすぎない」…三木谷会長がたどる最悪の末路とは 楽天衰退の根本原因は10年前にさかのぼる) [産業動向]
携帯・スマホについては、本年7月24日に取上げた。今日は、(その12)(赤字縮小の楽天G、三木谷氏に迫る「悪魔シナリオ」 「ポイント経済圏」握る楽天カード上場は危険だ、大前研一「楽天モバイルの大赤字は氷山の一角にすぎない」…三木谷会長がたどる最悪の末路とは 楽天衰退の根本原因は10年前にさかのぼる)である。
先ずは、8月12日付け東洋経済オンラインが掲載した経済評論家・百年コンサルティング代表の鈴木 貴博 氏による「赤字縮小の楽天G、三木谷氏に迫る「悪魔シナリオ」 「ポイント経済圏」握る楽天カード上場は危険だ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/693960
・『予想以上によい決算だったというのが、私の印象です。楽天グループは8月10日、2023年12月期中間決算(1~6月)を発表しました。営業赤字は1250億円(前年同期は1987億円の営業赤字)、最終赤字は1399億円(同1778億円の最終赤字)です。莫大な赤字なのに「よい決算」という理由は、赤字幅が大きく縮小し始めたからです。 楽天グループは、連続赤字に陥って4期目になります。理由は新規参入した携帯電話事業が莫大な赤字を産んでいるからです。ある程度の赤字は計画で織り込み済みだったにせよ、楽天グループにとって計算外だったのは、参入後に政府の政策でスマホ価格が大幅に下げられたことでした。 先行する携帯大手3社よりも低コストにネットワークを構築できる方式を取ったことで、本来であれば楽天モバイルは他社よりも劇的に安い料金でスマホサービスを提供できるはずでした』、「楽天グループにとって計算外だったのは、参入後に政府の政策でスマホ価格が大幅に下げられたことでした。 先行する携帯大手3社よりも低コストにネットワークを構築できる方式を取ったことで、本来であれば楽天モバイルは他社よりも劇的に安い料金でスマホサービスを提供できるはずでした」、なるほど。
・『足元の「営業赤字」を評価できる理由 ところが総務省の指導でNTTドコモのahamoが20GBで2970円(税込、以下同じ)になるといった具合に、大手携帯会社が格安スマホの料金でサービスを提供する新しい流れができてしまいました。 こうなると20GBで2178円、データ無制限で3280円という楽天モバイルのプランは安いとはいえ劇的にというほどの価格差ではなく、低コストを武器に急拡大を狙うことが難しくなったのです。 本業の2本柱であるインターネット通販とファイナンス事業が好調であるにもかかわらず、こうしてモバイルが足を引っ張る形の赤字決算が続いてきました。 その赤字幅がいよいよ縮小したというのが、大きなニュースです。過去6四半期で営業赤字を並べていくと、2022年の第1四半期(1~3月)が1131億円で、そこから855億円(4~6月)、942億円(7~9月)、786億円(10~12月)、761億円(2023年1~3月)と続いてきたのが、今回の2023年第2四半期(4~6月)では488億円まで縮小しました。 数字としては赤字ではありますが、前年同期比で367億円の利益増です。何より赤字幅を縮小させるといってきたことを、有言実行できたということが評価できると思います。) 決算発表では具体的に、楽天モバイルの損益分岐点シナリオも提示されました。まだこの先の道のりは険しいままではありますが、楽天グループは一歩前進できたと言えるでしょう。 さて、このような決算発表ではありましたが、楽天グループの未来はこの先、危機の連続です。三木谷浩史会長兼社長CEOが最終的に生き延びられるかどうかを賭けた戦いが待っています。それはグループの資金繰りを巡る、苦難と陰謀に満ちたドラマになるでしょう。 かなりおどろおどろしい表現をしてしまい恐縮なのですが、実際、楽天グループについてはメディアで報道される赤字幅の問題以上に投資家が気にしていることがあります。それがモバイル事業を行うために抱え込んだ、巨額の有利子負債とその返済スケジュールです。楽天グループの有利子負債は、足元で約1.8兆円まで膨張しています。 【2023年8月17日15時追記】有利子負債額を金融事業を除いた数字に修正しました。 これは日本の資本主義の悪い側面といっていいと思いますが、大企業グループの経営がいったん傾き始めると、投資家と金融機関が群がるようにグループの解体を始めます。最近の例でいえば東芝解体がその典型です』、「決算発表では具体的に、楽天モバイルの損益分岐点シナリオも提示されました。まだこの先の道のりは険しいままではありますが、楽天グループは一歩前進できたと言えるでしょう。 さて、このような決算発表ではありましたが、楽天グループの未来はこの先、危機の連続です。三木谷浩史会長兼社長CEOが最終的に生き延びられるかどうかを賭けた戦いが待っています。それはグループの資金繰りを巡る、苦難と陰謀に満ちたドラマになるでしょう・・・実際、楽天グループについてはメディアで報道される赤字幅の問題以上に投資家が気にしていることがあります。それがモバイル事業を行うために抱え込んだ、巨額の有利子負債とその返済スケジュールです。楽天グループの有利子負債は、足元で約1.8兆円まで膨張しています」、なるほど。
・『楽天と東芝の危うい共通点 東芝の場合、経営陣による不正会計とアメリカの原子力関連の買収会社の巨額損失で経営が傾いた結果、グループ解体が始まります。 東芝メディカルシステムズはキヤノンに、テレビのレグザは中国ハイセンスに、パソコンのダイナブックはシャープにといった具合に売却されました。稼ぎ頭でもあるフラッシュメモリは、キオクシアとして分社化され外部の資本が注入されます。 その後、資金調達の必要性から本体にいわゆる物言う株主であるファンドを受け入れたことで、東芝はファンドの思惑に沿ってさらに分社化される寸前まで事態が悪化します。そこで登場した政府系ファンドの力を借りて経営を巡る状況が一転し、このたびTOBが成立する見込みになりました。 これ以上の東芝解体の動きは止まると思われますが、歴史のある大企業ですら、いともたやすく解体されていくというのが日本式の資本主義です。 銀行管理下で企業の解体が行われる場合、おいしい事業から順に手放すのが定石です。わかりやすい例を出しますと、ダイエーや西武グループが傾いた際にはスーパー事業ではなくコンビニ事業を売却しています。そして楽天グループでも、同じことが起き始めているのが懸念点です。 具体的にはまず楽天銀行が上場し、次いで楽天証券が上場準備を開始しています。上場というと一見ポジティブなイベントに見えますが、グループの中枢会社が上場するということは、実際には資金繰りの一環で外部資本を受け取ることと引き換えに子会社を切り売りする財務戦略です。) ここまでは既定路線と言える動きなのですが、今回の決算発表で衝撃を与えたのが、楽天ペイ(オンライン決済)事業と楽天ポイント(オンライン)事業を、楽天カード株式会社へ集約するという機構改革です。並列の子会社だった楽天ペイメントを楽天カードの子会社にするとともに、楽天経済圏の中枢を担うポイントの権限を楽天カードに移管するのです。 楽天グループによれば、これはファイナンス事業の相乗効果の向上策だといいます。カード事業とQR決済事業とポイント事業をひとつの組織に一体化すれば、確かに事業戦略には一貫性が生まれるでしょう。 一方で一部メディアはこの再編を巡って「楽天カード株式会社の上場を検討している」と報道しています。私は経済評論家として長年楽天グループについて注目してきた外部の立場ですが、プレスリリースから感じたことは同じです。 ▽傾きかけた大企業の内部で起こること(嫌な話でもありますので私がこれまで経験してきたことを、あくまで一般論として説明させていただきます。大企業が傾きかけたときに関係者は、3つの勢力に分かれます。必死に経営を立て直そうと尽力する人々、傾いた船から安全な形で逃げ出すことを優先する人々、そしてこの機に一儲けしてやろうと画策する人々です。 最初に動くのはこの機に一儲けしてやろうと画策する人々で、その典型例はハゲタカファンドだったり、晴れた日にしか傘を貸さないと揶揄される銀行だったりします。あくまで一般論です。こういった人たちにとっては企業が傾くことは好機です。通常よりもずっと安いお金で、経営がうまく行っているグループ会社を手に入れることができるからです。 この人たちは目的を達成するために2番目の、傾いた船から安全な形で逃げ出すことを優先する人々を段階的に篭絡していきます。 「このままだといくら儲けても赤字部門に資金を吸い取られるだけだ」 「全体が赤字なら給料も上がらないだろう。気の毒に思うよ」 「健全な部門なのだから、切り出してしまえば君ならもっとずっと成長させられるだろう」 繰り返しこのような言葉を聞かされるうちに、自分のいる組織はグループから独立したほうがいいと心から信じるようになります。実際、この甘言は真実でもあったりします。ダイエーに残って経営破たんを経験することになった従業員よりも、分離されたローソンの従業員のほうがビジネスパーソン人生としてはよかったかもしれません。) こうして子会社を分離させようという一派が動き始めます。親会社にとって、それが最善だと働きかけるようになります。タフな交渉を続けてもなかなか資金を出してくれない金融機関に比べれば、有力な子会社を上場させればずっとイージーに事業継続のための資金が手に入るでしょう。「そのほうがいいですよね」と経営陣にも囁き続けるわけです。 さて、ここまでが一般論なのですが、楽天グループの場合はどうなのでしょうか? 楽天銀行と楽天証券は実は楽天から分離させても、グループの企業価値をそれほど損ねることはありません。資本的に一体化していたほうが戦略は一貫しますが、出資比率が下がってもグループ会社としての緩い一体感がありさえすれば楽天グループの価値に大きな変わりはないでしょう。 たとえて言えば、仮にセブン&アイからセブン銀行が完全に資本離れするようなことが起きたとしても、セブン-イレブンの戦略に大きな影響はないというのと同じです』、「楽天銀行と楽天証券は実は楽天から分離させても、グループの企業価値をそれほど損ねることはありません。資本的に一体化していたほうが戦略は一貫しますが、出資比率が下がってもグループ会社としての緩い一体感がありさえすれば楽天グループの価値に大きな変わりはないでしょう」、なるほど。
・『「虎の子」の分離はありえない 一方で楽天カードは違います。楽天市場で買い物をした人が楽天カードで決済する。これがビジネスモデルの両輪で、楽天はひとりの顧客から二度稼ぐことができます。 そしてここに今回、楽天ポイントと楽天ペイが再編の形で加わりました。そうなると4000万ユーザーを擁する楽天ポイント経済圏の未来も楽天カードに委ねられることになりますし、今後の市場拡大が期待されるキャッシュレスも楽天カードの一部門となります。 当然のことながら楽天カード株式会社は、今回の再編で楽天グループの最重要子会社になりました。この子会社は楽天グループの虎の子であると同時に、楽天経済圏の扇の要であり、楽天グループにとってはビジネスモデル的に不可分な事業体になります。ですから楽天カードを本体から分離させていくことは戦略的にはありえません。 しかし仮に私が悪魔のような考え方をする人物だったら、どうでしょうか。架空のシナリオを考えてみましょう。 ここでは私のことをハゲタカと呼ぶことにします。ハゲタカはたまたま有利なポジションにいたことで、楽天グループとそのステークホルダーたちに影響力を与えることができる人物だったと仮定しましょう。) 私がハゲタカなら楽天カード株式会社を上場させ、楽天グループの有利子負債を返済させる資金源にしようと企てるでしょう。そのためには楽天グループの業績が傾いたほうが都合がいいと考えます。 そこで部下に命じて、たとえば楽天カードのポイント還元率を改悪するような施策を打ちます。グループ内ではカード事業の利益が向上することを評価させる一方で、外部からは「楽天グループ、こんなことをするなんて危ないんじゃないか」という声が上がります。 こうした工作を続けるうちに楽天グループの経営は苦しくなり、銀行団は有利子負債の借り換えに難色を示すようになります。グループが行き詰まればチャンスが生まれます。楽天カードの株式を何らかの形で売却しようというところまで経営陣が追い込まれるからです。 そこでハゲタカは楽天グループを救う形で、楽天カードに資本注入を決定します。持ち株比率を段階的に上げて、いずれは筆頭株主を目指します。 ここで楽天ポイントを握っていることが、ハゲタカに有利に働きます。ポイント還元率を絞れば絞るほど楽天市場は弱体化していくでしょうし、足手まといの楽天モバイルのポイントはゼロにしてしまえば、モバイルはより経営の足を引っ張るようになるでしょう』、「楽天カード・・・は、今回の再編で楽天グループの最重要子会社になりました。この子会社は楽天グループの虎の子であると同時に、楽天経済圏の扇の要であり、楽天グループにとってはビジネスモデル的に不可分な事業体になります。ですから楽天カードを本体から分離させていくことは戦略的にはありえません」、「仮に私が悪魔のような考え方をする人物だったら、どうでしょうか。架空のシナリオを考えてみましょう。 ここでは私のことをハゲタカと呼ぶことにします。ハゲタカはたまたま有利なポジションにいたことで、楽天グループとそのステークホルダーたちに影響力を与えることができる人物だったと仮定しましょう。) 私がハゲタカなら楽天カード株式会社を上場させ、楽天グループの有利子負債を返済させる資金源にしようと企てるでしょう。そのためには楽天グループの業績が傾いたほうが都合がいいと考えます。 そこで部下に命じて、たとえば楽天カードのポイント還元率を改悪するような施策を打ちます。グループ内ではカード事業の利益が向上することを評価させる一方で、外部からは「楽天グループ、こんなことをするなんて危ないんじゃないか」という声が上がります。 こうした工作を続けるうちに楽天グループの経営は苦しくなり、銀行団は有利子負債の借り換えに難色を示すようになります。グループが行き詰まればチャンスが生まれます。楽天カードの株式を何らかの形で売却しようというところまで経営陣が追い込まれるからです。 そこでハゲタカは楽天グループを救う形で、楽天カードに資本注入を決定します。持ち株比率を段階的に上げて、いずれは筆頭株主を目指します」、「足手まといの楽天モバイルのポイントはゼロにしてしまえば、モバイルはより経営の足を引っ張るようになるでしょう」、なるほど。
・『悪魔シナリオから楽天を守れ 最終的に楽天グループが何らかの形で経営破たんすることをハゲタカは待ちます。最終目的があるのです。それは経営破たんしたグループから楽天市場を分社化させて、それを救済し民事再生する形で、ハゲタカが持つ楽天カードの傘下につけることです。モバイルの残骸と借金は創業者に押し付ければ完璧です。 これはあくまで私個人が考える「もし私がハゲタカだったら」という悪魔シナリオです。日本経済では過去にはこんなことも履いて捨てるほど起きてきたのですが、当然ながらこんなことが横行する資本主義経済は発展しません。楽天に悪夢が起きるようであれば、日本経済の発展機会はさらに10年は失われてしまうでしょう。 この楽天の資本問題は関係者以外にとっての対岸の火事ではなく、日本経済の重要な分岐点だと思うべき大事です。そしてメディアもこの先、変なことが起きないように注視すべき事柄なのです』、「経営破たんしたグループから楽天市場を分社化させて、それを救済し民事再生する形で、ハゲタカが持つ楽天カードの傘下につけることです。モバイルの残骸と借金は創業者に押し付ければ完璧です」、「こんなことが横行する資本主義経済は発展しません。楽天に悪夢が起きるようであれば、日本経済の発展機会はさらに10年は失われてしまうでしょう」、同感である。
次に、8月17日付けPRESIDENT Onlineが掲載したビジネス・ブレークスルー大学学長の大前 研一氏による「大前研一「楽天モバイルの大赤字は氷山の一角にすぎない」…三木谷会長がたどる最悪の末路とは 楽天衰退の根本原因は10年前にさかのぼる」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/72584
・『赤字を垂れ流し続ける三木谷楽天の末路とは 楽天グループが崩壊過程に入っている。2023年第1四半期(1~3月期)の最終損益は、マイナス825億円。第1四半期としては、4期連続の赤字になった。グループ全体の足を引っ張っているのは、三木谷浩史会長兼社長肝いりのモバイル事業である。インターネットサービスやフィンテック事業は黒字だが、モバイル事業は1027億円の営業損失を計上した。 モバイル事業への巨額投資が響いて、財務も厳しい。楽天グループが今後5年で償還を迎える社債の額は、1兆2000億円。それに対して、23年3月末の手元資金は1175億円と心細い。 投資家の目もシビアである。21年3月、日本郵政が楽天グループに1500億円の出資を行ったときの株価は1245円だった。それが、23年6月末には499円まで下落。株価が半値以下になり、日本郵政は850億円の特別損失を計上せざるをえなくなった。 もっとも、三木谷楽天王国の崩壊はモバイル事業に手を出すずいぶん前から始まっていた。 10年前に、私は「楽天のビジネスモデルは今後行き詰まる」と指摘した。すると、三木谷会長兼社長本人が抗議にやってきた。私は根拠を示しつつ指摘についての説明を述べたが、結局彼は納得いかない表情で帰っていった』、「10年前に、私は「楽天のビジネスモデルは今後行き詰まる」と指摘・・・三木谷会長兼社長本人・・・は納得いかない表情で帰っていった」、そんなことがあったとは初めて知った。
・『楽天市場とアマゾンの違い 当時指摘したのは、楽天市場とアマゾンの違い。楽天はECの黎明れいめい期である1997年に、当時アメリカで流行していた「ジオシティ」というコンセプトをモデルに、仮想のショッピングモール「楽天市場」をインターネット上につくった。ユーザーが出店している店舗から商品を買い、楽天は手数料で利益を得るビジネスモデルである。 このビジネスモデルの問題点は2つある。1つは物流を握っていないこと。商品を届けるのは第三者依存で、自社ではコントロールができない。 もう1つは、売り上げが立たないこと。商品が売れて取扱高が膨らんでも、楽天市場自身は場所貸しにすぎないので、計上できる売り上げが小さい。 それに対して、00年に日本でEC事業を開始したアマゾンは、自身が企業から商品を買って倉庫に在庫を持つ。このモデルだと物流を管理できて、売り上げも立つ。アマゾンがウォルマートと競い合う世界最大規模の小売業者になったのは、単なるサイバー上の場所貸しにならなかったからである。 三木谷会長兼社長には、ビジネスモデルを見つける才能はある。時代を先取りして、楽天市場というECをつくった嗅覚はさすがだ。しかし、その後アマゾンが出てきたときに、両者のビジネスモデルの違いを理解できなかったのだ。アマゾンの進出時から対抗手段を打っていれば、今ほどEC事業で差をつけられることはなかった。 12年に買収した電子書籍事業Koboも、アマゾンのKindleに大きく後れを取っており、散々だ。 14年にメッセージアプリのViberを買収したが、この狙いは悪くなかった。 流行っているメッセージアプリは、国によって違う。日本ではLINE、イギリスやインドではWhatsApp、アメリカやフランスではFacebook Messenger、中国ではWeChat。そしてヨーロッパ、とくにギリシャやウクライナではViberの人気が高い。 世界で最も利用されているメッセージアプリであるWhatsAppの月間利用者数は20億人。Viberの月間利用者数は2.6億人だが、LINEの月間利用者数が2億人弱ということを考えると、ヨーロッパで健闘しているのがわかる。 メッセージアプリのシェアをイギリスやフランスを含めたヨーロッパ全体で掌握し、勢いそのままに日本へ輸入してLINEを打倒しようと、Viberに目をつけたところまでは良かった。しかし、その後がよろしくなかった。 Viberはイスラエル発の会社で、開発拠点はベラルーシのミンスクにある。買収後にミンスクのオフィスを2度ほど訪問したことがあるが、現地社員は「自由にやらせてもらっていてうれしい」と言っていた。自由にやらせているというと聞こえはいいが、要は放置で、これでは宝の持ち腐れだ。とくにViberはLINEのような通話機能を持っているので、早期に日本へ持ち込めば後発のモバイル事業者として楽天が投資に喘ぐこともなかった。 三木谷会長兼社長は、これから伸びるものを見つけるところまでは優秀。しかし、ダイヤの原石を見つけても、磨こうとしないきらいがあるのだ』、「Viberはイスラエル発の会社で、開発拠点はベラルーシのミンスクにある・・・現地社員は「自由にやらせてもらっていてうれしい」と言っていた。自由にやらせているというと聞こえはいいが、要は放置で、これでは宝の持ち腐れだ。とくにViberはLINEのような通話機能を持っているので、早期に日本へ持ち込めば後発のモバイル事業者として楽天が投資に喘ぐこともなかった。 三木谷会長兼社長は、これから伸びるものを見つけるところまでは優秀。しかし、ダイヤの原石を見つけても、磨こうとしないきらいがあるのだ」、「ダイヤの原石を見つけても、磨こうとしないきらいがある」、困った性格だ。
・『すぐに結果が出ないと投げ出してしまう 楽天グループの海外展開にも、その傾向がよくあらわれている。楽天グループは、社内公用語を英語にすると発表した10年くらい前から、海外展開を加速させた。当初は世界各国・地域でのビジネス展開を意気込んでおり、有望なマーケットを目ざとく見つけ出して事業を始めた。しかし、すぐに結果が出ないと投げ出してしまう三木谷会長兼社長の短期思考がゆえに、いずれの海外事業も尻すぼみになっている。 10年に中国大手IT企業のバイドゥと手を組んで開設した中国版楽天市場「楽酷天らくてん」は、2年後の12年に閉鎖。08年にはECの欧州市場でアマゾンに対抗すべく、欧州拠点としてルクセンブルクに楽天ヨーロッパを置いた。しかし、16年を境に欧州各国からの撤退と縮小が相次ぎ、現在ではフランスでわずかにEC事業を展開しているのみだ。楽天グループの現地法人で今も頑張っているのは台湾くらいで、あとはもう積極的な海外投資をしていない。海外事業の勢いは、最初だけだった。 たとえリーダーが偏ったタイプでも、その下の人たちの足腰が強ければ、事業を回していける。しかし、楽天グループは社員たちも三木谷会長兼社長に似たタイプの寄せ集めで、チームとして結束できておらず、機能不全だ。 日用品や弁当などの宅配システムを九州で展開している、エブリデイ・ドット・コムという会社がある。私が同社のオーナーをしていた十数年前、楽天から業務提携の打診があり、流通や販売など3つの組織の長が来社して打ち合わせをすることになった。朝9時に私がオフィスで出迎えると、3人はその場でお互いに名刺交換を始めた。同じグループでも交流がないのだ。 さらに驚いたのはその後だ。打ち合わせはそれなりに盛り上がり、3人は意気いき軒昂けんこうとして帰っていった。しかしその後、連絡はなかった。実務をフォローする人が誰もいないし、もともと起案した人は既に辞めてしまっていた。 別件で楽天グループ本社に行ったときも、興味深い体験をした。打ち合わせをしていると、突然モニターに三木谷会長兼社長が映り、「今週の進捗は」と英語で語り始めた。社員は最初の1~2分こそ聞いていたが、そのうち自分の仕事に戻り始めた。英語ではわからない、という人を置きざりにしており、トップとしては求心力が低すぎる。 楽天グループには、創業期から三木谷会長兼社長と苦楽を共にしてきた社員がほとんど残っていない。幹部は高い給料で引っ張ってきた高スペック人材が中心だ。彼らは、嫌なら別の会社に転職すればいいと考えていて忠誠心が低い。三木谷会長兼社長に負けず劣らず短期志向なので、足腰も頼りない。 楽天グループは、いわば細い鉛筆を立てて束ねたような組織だ。三木谷会長兼社長が関心を持って見ているうちはまとまって立っているが、手を放すとバラバラと倒れる。これでは事業を太く長く育てていくことは難しい』、「当初は世界各国・地域でのビジネス展開を意気込んでおり、有望なマーケットを目ざとく見つけ出して事業を始めた。しかし、すぐに結果が出ないと投げ出してしまう三木谷会長兼社長の短期思考がゆえに、いずれの海外事業も尻すぼみになっている」、「楽天グループは社員たちも三木谷会長兼社長に似たタイプの寄せ集めで、チームとして結束できておらず、機能不全だ」、「幹部は高い給料で引っ張ってきた高スペック人材が中心だ。彼らは、嫌なら別の会社に転職すればいいと考えていて忠誠心が低い。三木谷会長兼社長に負けず劣らず短期志向なので、足腰も頼りない。 楽天グループは、いわば細い鉛筆を立てて束ねたような組織だ。三木谷会長兼社長が関心を持って見ているうちはまとまって立っているが、手を放すとバラバラと倒れる。これでは事業を太く長く育てていくことは難しい」、なるほど。
・『楽天存続の唯一の術はモバイル事業との決別 モバイル事業での躓つまづきも、グループ全体としての足腰の弱さが原因だ。「楽天であれば、NTTドコモなど大手キャリア3社が寡占している国内携帯市場に風穴を開けられる」。三木谷会長兼社長やそのまわりは、そんな思いでモバイル事業を始めたに違いない。 しかし、これこそ現実が見えていない、頭でっかちな人の考えだ。 まず、ユーザーは既存の通信会社におおむね満足している。世界の多くの国は1~2社の寡占で、生き残れるのはせいぜい3位まで。4位以降が単独で浮上したケースはまずない。日本は既に3社が存在し、4社目は誰も求めていなかった。 もう1つはカバレッジの問題だ。楽天モバイルは人口カバー率99%とアピールしている。ただ、ユーザーが気にしているのは地理的・・・なカバー率である。たとえば旅行中に災害に遭い、助けを呼ぼうとしたときに、つながらない通信会社とは誰も好んで契約しない。本来なら基地局を地味に増やすべきだ。しかし、もともと地理的カバー率を軽視していたし、いざその重要性に気づいても、足腰が弱いために基地局の整備が遅々として進まない。 では、楽天グループは今後どうするべきなのか。私が社長なら、楽天モバイルを今すぐあきらめる。厳しいが、それくらい思い切った手を打たないと、会社は存続できない。 楽天グループは、23年7月に楽天証券ホールディングスの上場申請に踏み切ったが、上場で資金調達できるのはせいぜい2000億円程度。年間5000億円の赤字を垂れ流すモバイル事業の穴埋めにならず、焼け石に水だ。 既存の社債は組み直しで急場を凌ぐと思うが、償還までの道のりは険しい。まずは三木谷会長兼社長が頭でっかちの経営をやめて、モバイル事業に見切りをつけない限り、楽天グループに明るい未来はないだろう』、「ユーザーは既存の通信会社におおむね満足している。世界の多くの国は1~2社の寡占で、生き残れるのはせいぜい3位まで。4位以降が単独で浮上したケースはまずない。日本は既に3社が存在し、4社目は誰も求めていなかった」、「もう1つはカバレッジの問題だ・・・ユーザーが気にしているのは地理的・・・なカバー率である。たとえば旅行中に災害に遭い、助けを呼ぼうとしたときに、つながらない通信会社とは誰も好んで契約しない。本来なら基地局を地味に増やすべきだ。しかし、もともと地理的カバー率を軽視していたし、いざその重要性に気づいても、足腰が弱いために基地局の整備が遅々として進まない」、「私が社長なら、楽天モバイルを今すぐあきらめる。厳しいが、それくらい思い切った手を打たないと、会社は存続できない。 楽天グループは、23年7月に楽天証券ホールディングスの上場申請に踏み切ったが、上場で資金調達できるのはせいぜい2000億円程度。年間5000億円の赤字を垂れ流すモバイル事業の穴埋めにならず、焼け石に水だ。 既存の社債は組み直しで急場を凌ぐと思うが、償還までの道のりは険しい。まずは三木谷会長兼社長が頭でっかちの経営をやめて、モバイル事業に見切りをつけない限り、楽天グループに明るい未来はないだろう」、極めて厳しい見立てだ。それにしても、「三木谷会長兼社長の短期思考」は「楽天」に組織としての力を大きく殺いだようだ。遺産が何も残りそうもないのは寂しい限りだ。
先ずは、8月12日付け東洋経済オンラインが掲載した経済評論家・百年コンサルティング代表の鈴木 貴博 氏による「赤字縮小の楽天G、三木谷氏に迫る「悪魔シナリオ」 「ポイント経済圏」握る楽天カード上場は危険だ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/693960
・『予想以上によい決算だったというのが、私の印象です。楽天グループは8月10日、2023年12月期中間決算(1~6月)を発表しました。営業赤字は1250億円(前年同期は1987億円の営業赤字)、最終赤字は1399億円(同1778億円の最終赤字)です。莫大な赤字なのに「よい決算」という理由は、赤字幅が大きく縮小し始めたからです。 楽天グループは、連続赤字に陥って4期目になります。理由は新規参入した携帯電話事業が莫大な赤字を産んでいるからです。ある程度の赤字は計画で織り込み済みだったにせよ、楽天グループにとって計算外だったのは、参入後に政府の政策でスマホ価格が大幅に下げられたことでした。 先行する携帯大手3社よりも低コストにネットワークを構築できる方式を取ったことで、本来であれば楽天モバイルは他社よりも劇的に安い料金でスマホサービスを提供できるはずでした』、「楽天グループにとって計算外だったのは、参入後に政府の政策でスマホ価格が大幅に下げられたことでした。 先行する携帯大手3社よりも低コストにネットワークを構築できる方式を取ったことで、本来であれば楽天モバイルは他社よりも劇的に安い料金でスマホサービスを提供できるはずでした」、なるほど。
・『足元の「営業赤字」を評価できる理由 ところが総務省の指導でNTTドコモのahamoが20GBで2970円(税込、以下同じ)になるといった具合に、大手携帯会社が格安スマホの料金でサービスを提供する新しい流れができてしまいました。 こうなると20GBで2178円、データ無制限で3280円という楽天モバイルのプランは安いとはいえ劇的にというほどの価格差ではなく、低コストを武器に急拡大を狙うことが難しくなったのです。 本業の2本柱であるインターネット通販とファイナンス事業が好調であるにもかかわらず、こうしてモバイルが足を引っ張る形の赤字決算が続いてきました。 その赤字幅がいよいよ縮小したというのが、大きなニュースです。過去6四半期で営業赤字を並べていくと、2022年の第1四半期(1~3月)が1131億円で、そこから855億円(4~6月)、942億円(7~9月)、786億円(10~12月)、761億円(2023年1~3月)と続いてきたのが、今回の2023年第2四半期(4~6月)では488億円まで縮小しました。 数字としては赤字ではありますが、前年同期比で367億円の利益増です。何より赤字幅を縮小させるといってきたことを、有言実行できたということが評価できると思います。) 決算発表では具体的に、楽天モバイルの損益分岐点シナリオも提示されました。まだこの先の道のりは険しいままではありますが、楽天グループは一歩前進できたと言えるでしょう。 さて、このような決算発表ではありましたが、楽天グループの未来はこの先、危機の連続です。三木谷浩史会長兼社長CEOが最終的に生き延びられるかどうかを賭けた戦いが待っています。それはグループの資金繰りを巡る、苦難と陰謀に満ちたドラマになるでしょう。 かなりおどろおどろしい表現をしてしまい恐縮なのですが、実際、楽天グループについてはメディアで報道される赤字幅の問題以上に投資家が気にしていることがあります。それがモバイル事業を行うために抱え込んだ、巨額の有利子負債とその返済スケジュールです。楽天グループの有利子負債は、足元で約1.8兆円まで膨張しています。 【2023年8月17日15時追記】有利子負債額を金融事業を除いた数字に修正しました。 これは日本の資本主義の悪い側面といっていいと思いますが、大企業グループの経営がいったん傾き始めると、投資家と金融機関が群がるようにグループの解体を始めます。最近の例でいえば東芝解体がその典型です』、「決算発表では具体的に、楽天モバイルの損益分岐点シナリオも提示されました。まだこの先の道のりは険しいままではありますが、楽天グループは一歩前進できたと言えるでしょう。 さて、このような決算発表ではありましたが、楽天グループの未来はこの先、危機の連続です。三木谷浩史会長兼社長CEOが最終的に生き延びられるかどうかを賭けた戦いが待っています。それはグループの資金繰りを巡る、苦難と陰謀に満ちたドラマになるでしょう・・・実際、楽天グループについてはメディアで報道される赤字幅の問題以上に投資家が気にしていることがあります。それがモバイル事業を行うために抱え込んだ、巨額の有利子負債とその返済スケジュールです。楽天グループの有利子負債は、足元で約1.8兆円まで膨張しています」、なるほど。
・『楽天と東芝の危うい共通点 東芝の場合、経営陣による不正会計とアメリカの原子力関連の買収会社の巨額損失で経営が傾いた結果、グループ解体が始まります。 東芝メディカルシステムズはキヤノンに、テレビのレグザは中国ハイセンスに、パソコンのダイナブックはシャープにといった具合に売却されました。稼ぎ頭でもあるフラッシュメモリは、キオクシアとして分社化され外部の資本が注入されます。 その後、資金調達の必要性から本体にいわゆる物言う株主であるファンドを受け入れたことで、東芝はファンドの思惑に沿ってさらに分社化される寸前まで事態が悪化します。そこで登場した政府系ファンドの力を借りて経営を巡る状況が一転し、このたびTOBが成立する見込みになりました。 これ以上の東芝解体の動きは止まると思われますが、歴史のある大企業ですら、いともたやすく解体されていくというのが日本式の資本主義です。 銀行管理下で企業の解体が行われる場合、おいしい事業から順に手放すのが定石です。わかりやすい例を出しますと、ダイエーや西武グループが傾いた際にはスーパー事業ではなくコンビニ事業を売却しています。そして楽天グループでも、同じことが起き始めているのが懸念点です。 具体的にはまず楽天銀行が上場し、次いで楽天証券が上場準備を開始しています。上場というと一見ポジティブなイベントに見えますが、グループの中枢会社が上場するということは、実際には資金繰りの一環で外部資本を受け取ることと引き換えに子会社を切り売りする財務戦略です。) ここまでは既定路線と言える動きなのですが、今回の決算発表で衝撃を与えたのが、楽天ペイ(オンライン決済)事業と楽天ポイント(オンライン)事業を、楽天カード株式会社へ集約するという機構改革です。並列の子会社だった楽天ペイメントを楽天カードの子会社にするとともに、楽天経済圏の中枢を担うポイントの権限を楽天カードに移管するのです。 楽天グループによれば、これはファイナンス事業の相乗効果の向上策だといいます。カード事業とQR決済事業とポイント事業をひとつの組織に一体化すれば、確かに事業戦略には一貫性が生まれるでしょう。 一方で一部メディアはこの再編を巡って「楽天カード株式会社の上場を検討している」と報道しています。私は経済評論家として長年楽天グループについて注目してきた外部の立場ですが、プレスリリースから感じたことは同じです。 ▽傾きかけた大企業の内部で起こること(嫌な話でもありますので私がこれまで経験してきたことを、あくまで一般論として説明させていただきます。大企業が傾きかけたときに関係者は、3つの勢力に分かれます。必死に経営を立て直そうと尽力する人々、傾いた船から安全な形で逃げ出すことを優先する人々、そしてこの機に一儲けしてやろうと画策する人々です。 最初に動くのはこの機に一儲けしてやろうと画策する人々で、その典型例はハゲタカファンドだったり、晴れた日にしか傘を貸さないと揶揄される銀行だったりします。あくまで一般論です。こういった人たちにとっては企業が傾くことは好機です。通常よりもずっと安いお金で、経営がうまく行っているグループ会社を手に入れることができるからです。 この人たちは目的を達成するために2番目の、傾いた船から安全な形で逃げ出すことを優先する人々を段階的に篭絡していきます。 「このままだといくら儲けても赤字部門に資金を吸い取られるだけだ」 「全体が赤字なら給料も上がらないだろう。気の毒に思うよ」 「健全な部門なのだから、切り出してしまえば君ならもっとずっと成長させられるだろう」 繰り返しこのような言葉を聞かされるうちに、自分のいる組織はグループから独立したほうがいいと心から信じるようになります。実際、この甘言は真実でもあったりします。ダイエーに残って経営破たんを経験することになった従業員よりも、分離されたローソンの従業員のほうがビジネスパーソン人生としてはよかったかもしれません。) こうして子会社を分離させようという一派が動き始めます。親会社にとって、それが最善だと働きかけるようになります。タフな交渉を続けてもなかなか資金を出してくれない金融機関に比べれば、有力な子会社を上場させればずっとイージーに事業継続のための資金が手に入るでしょう。「そのほうがいいですよね」と経営陣にも囁き続けるわけです。 さて、ここまでが一般論なのですが、楽天グループの場合はどうなのでしょうか? 楽天銀行と楽天証券は実は楽天から分離させても、グループの企業価値をそれほど損ねることはありません。資本的に一体化していたほうが戦略は一貫しますが、出資比率が下がってもグループ会社としての緩い一体感がありさえすれば楽天グループの価値に大きな変わりはないでしょう。 たとえて言えば、仮にセブン&アイからセブン銀行が完全に資本離れするようなことが起きたとしても、セブン-イレブンの戦略に大きな影響はないというのと同じです』、「楽天銀行と楽天証券は実は楽天から分離させても、グループの企業価値をそれほど損ねることはありません。資本的に一体化していたほうが戦略は一貫しますが、出資比率が下がってもグループ会社としての緩い一体感がありさえすれば楽天グループの価値に大きな変わりはないでしょう」、なるほど。
・『「虎の子」の分離はありえない 一方で楽天カードは違います。楽天市場で買い物をした人が楽天カードで決済する。これがビジネスモデルの両輪で、楽天はひとりの顧客から二度稼ぐことができます。 そしてここに今回、楽天ポイントと楽天ペイが再編の形で加わりました。そうなると4000万ユーザーを擁する楽天ポイント経済圏の未来も楽天カードに委ねられることになりますし、今後の市場拡大が期待されるキャッシュレスも楽天カードの一部門となります。 当然のことながら楽天カード株式会社は、今回の再編で楽天グループの最重要子会社になりました。この子会社は楽天グループの虎の子であると同時に、楽天経済圏の扇の要であり、楽天グループにとってはビジネスモデル的に不可分な事業体になります。ですから楽天カードを本体から分離させていくことは戦略的にはありえません。 しかし仮に私が悪魔のような考え方をする人物だったら、どうでしょうか。架空のシナリオを考えてみましょう。 ここでは私のことをハゲタカと呼ぶことにします。ハゲタカはたまたま有利なポジションにいたことで、楽天グループとそのステークホルダーたちに影響力を与えることができる人物だったと仮定しましょう。) 私がハゲタカなら楽天カード株式会社を上場させ、楽天グループの有利子負債を返済させる資金源にしようと企てるでしょう。そのためには楽天グループの業績が傾いたほうが都合がいいと考えます。 そこで部下に命じて、たとえば楽天カードのポイント還元率を改悪するような施策を打ちます。グループ内ではカード事業の利益が向上することを評価させる一方で、外部からは「楽天グループ、こんなことをするなんて危ないんじゃないか」という声が上がります。 こうした工作を続けるうちに楽天グループの経営は苦しくなり、銀行団は有利子負債の借り換えに難色を示すようになります。グループが行き詰まればチャンスが生まれます。楽天カードの株式を何らかの形で売却しようというところまで経営陣が追い込まれるからです。 そこでハゲタカは楽天グループを救う形で、楽天カードに資本注入を決定します。持ち株比率を段階的に上げて、いずれは筆頭株主を目指します。 ここで楽天ポイントを握っていることが、ハゲタカに有利に働きます。ポイント還元率を絞れば絞るほど楽天市場は弱体化していくでしょうし、足手まといの楽天モバイルのポイントはゼロにしてしまえば、モバイルはより経営の足を引っ張るようになるでしょう』、「楽天カード・・・は、今回の再編で楽天グループの最重要子会社になりました。この子会社は楽天グループの虎の子であると同時に、楽天経済圏の扇の要であり、楽天グループにとってはビジネスモデル的に不可分な事業体になります。ですから楽天カードを本体から分離させていくことは戦略的にはありえません」、「仮に私が悪魔のような考え方をする人物だったら、どうでしょうか。架空のシナリオを考えてみましょう。 ここでは私のことをハゲタカと呼ぶことにします。ハゲタカはたまたま有利なポジションにいたことで、楽天グループとそのステークホルダーたちに影響力を与えることができる人物だったと仮定しましょう。) 私がハゲタカなら楽天カード株式会社を上場させ、楽天グループの有利子負債を返済させる資金源にしようと企てるでしょう。そのためには楽天グループの業績が傾いたほうが都合がいいと考えます。 そこで部下に命じて、たとえば楽天カードのポイント還元率を改悪するような施策を打ちます。グループ内ではカード事業の利益が向上することを評価させる一方で、外部からは「楽天グループ、こんなことをするなんて危ないんじゃないか」という声が上がります。 こうした工作を続けるうちに楽天グループの経営は苦しくなり、銀行団は有利子負債の借り換えに難色を示すようになります。グループが行き詰まればチャンスが生まれます。楽天カードの株式を何らかの形で売却しようというところまで経営陣が追い込まれるからです。 そこでハゲタカは楽天グループを救う形で、楽天カードに資本注入を決定します。持ち株比率を段階的に上げて、いずれは筆頭株主を目指します」、「足手まといの楽天モバイルのポイントはゼロにしてしまえば、モバイルはより経営の足を引っ張るようになるでしょう」、なるほど。
・『悪魔シナリオから楽天を守れ 最終的に楽天グループが何らかの形で経営破たんすることをハゲタカは待ちます。最終目的があるのです。それは経営破たんしたグループから楽天市場を分社化させて、それを救済し民事再生する形で、ハゲタカが持つ楽天カードの傘下につけることです。モバイルの残骸と借金は創業者に押し付ければ完璧です。 これはあくまで私個人が考える「もし私がハゲタカだったら」という悪魔シナリオです。日本経済では過去にはこんなことも履いて捨てるほど起きてきたのですが、当然ながらこんなことが横行する資本主義経済は発展しません。楽天に悪夢が起きるようであれば、日本経済の発展機会はさらに10年は失われてしまうでしょう。 この楽天の資本問題は関係者以外にとっての対岸の火事ではなく、日本経済の重要な分岐点だと思うべき大事です。そしてメディアもこの先、変なことが起きないように注視すべき事柄なのです』、「経営破たんしたグループから楽天市場を分社化させて、それを救済し民事再生する形で、ハゲタカが持つ楽天カードの傘下につけることです。モバイルの残骸と借金は創業者に押し付ければ完璧です」、「こんなことが横行する資本主義経済は発展しません。楽天に悪夢が起きるようであれば、日本経済の発展機会はさらに10年は失われてしまうでしょう」、同感である。
次に、8月17日付けPRESIDENT Onlineが掲載したビジネス・ブレークスルー大学学長の大前 研一氏による「大前研一「楽天モバイルの大赤字は氷山の一角にすぎない」…三木谷会長がたどる最悪の末路とは 楽天衰退の根本原因は10年前にさかのぼる」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/72584
・『赤字を垂れ流し続ける三木谷楽天の末路とは 楽天グループが崩壊過程に入っている。2023年第1四半期(1~3月期)の最終損益は、マイナス825億円。第1四半期としては、4期連続の赤字になった。グループ全体の足を引っ張っているのは、三木谷浩史会長兼社長肝いりのモバイル事業である。インターネットサービスやフィンテック事業は黒字だが、モバイル事業は1027億円の営業損失を計上した。 モバイル事業への巨額投資が響いて、財務も厳しい。楽天グループが今後5年で償還を迎える社債の額は、1兆2000億円。それに対して、23年3月末の手元資金は1175億円と心細い。 投資家の目もシビアである。21年3月、日本郵政が楽天グループに1500億円の出資を行ったときの株価は1245円だった。それが、23年6月末には499円まで下落。株価が半値以下になり、日本郵政は850億円の特別損失を計上せざるをえなくなった。 もっとも、三木谷楽天王国の崩壊はモバイル事業に手を出すずいぶん前から始まっていた。 10年前に、私は「楽天のビジネスモデルは今後行き詰まる」と指摘した。すると、三木谷会長兼社長本人が抗議にやってきた。私は根拠を示しつつ指摘についての説明を述べたが、結局彼は納得いかない表情で帰っていった』、「10年前に、私は「楽天のビジネスモデルは今後行き詰まる」と指摘・・・三木谷会長兼社長本人・・・は納得いかない表情で帰っていった」、そんなことがあったとは初めて知った。
・『楽天市場とアマゾンの違い 当時指摘したのは、楽天市場とアマゾンの違い。楽天はECの黎明れいめい期である1997年に、当時アメリカで流行していた「ジオシティ」というコンセプトをモデルに、仮想のショッピングモール「楽天市場」をインターネット上につくった。ユーザーが出店している店舗から商品を買い、楽天は手数料で利益を得るビジネスモデルである。 このビジネスモデルの問題点は2つある。1つは物流を握っていないこと。商品を届けるのは第三者依存で、自社ではコントロールができない。 もう1つは、売り上げが立たないこと。商品が売れて取扱高が膨らんでも、楽天市場自身は場所貸しにすぎないので、計上できる売り上げが小さい。 それに対して、00年に日本でEC事業を開始したアマゾンは、自身が企業から商品を買って倉庫に在庫を持つ。このモデルだと物流を管理できて、売り上げも立つ。アマゾンがウォルマートと競い合う世界最大規模の小売業者になったのは、単なるサイバー上の場所貸しにならなかったからである。 三木谷会長兼社長には、ビジネスモデルを見つける才能はある。時代を先取りして、楽天市場というECをつくった嗅覚はさすがだ。しかし、その後アマゾンが出てきたときに、両者のビジネスモデルの違いを理解できなかったのだ。アマゾンの進出時から対抗手段を打っていれば、今ほどEC事業で差をつけられることはなかった。 12年に買収した電子書籍事業Koboも、アマゾンのKindleに大きく後れを取っており、散々だ。 14年にメッセージアプリのViberを買収したが、この狙いは悪くなかった。 流行っているメッセージアプリは、国によって違う。日本ではLINE、イギリスやインドではWhatsApp、アメリカやフランスではFacebook Messenger、中国ではWeChat。そしてヨーロッパ、とくにギリシャやウクライナではViberの人気が高い。 世界で最も利用されているメッセージアプリであるWhatsAppの月間利用者数は20億人。Viberの月間利用者数は2.6億人だが、LINEの月間利用者数が2億人弱ということを考えると、ヨーロッパで健闘しているのがわかる。 メッセージアプリのシェアをイギリスやフランスを含めたヨーロッパ全体で掌握し、勢いそのままに日本へ輸入してLINEを打倒しようと、Viberに目をつけたところまでは良かった。しかし、その後がよろしくなかった。 Viberはイスラエル発の会社で、開発拠点はベラルーシのミンスクにある。買収後にミンスクのオフィスを2度ほど訪問したことがあるが、現地社員は「自由にやらせてもらっていてうれしい」と言っていた。自由にやらせているというと聞こえはいいが、要は放置で、これでは宝の持ち腐れだ。とくにViberはLINEのような通話機能を持っているので、早期に日本へ持ち込めば後発のモバイル事業者として楽天が投資に喘ぐこともなかった。 三木谷会長兼社長は、これから伸びるものを見つけるところまでは優秀。しかし、ダイヤの原石を見つけても、磨こうとしないきらいがあるのだ』、「Viberはイスラエル発の会社で、開発拠点はベラルーシのミンスクにある・・・現地社員は「自由にやらせてもらっていてうれしい」と言っていた。自由にやらせているというと聞こえはいいが、要は放置で、これでは宝の持ち腐れだ。とくにViberはLINEのような通話機能を持っているので、早期に日本へ持ち込めば後発のモバイル事業者として楽天が投資に喘ぐこともなかった。 三木谷会長兼社長は、これから伸びるものを見つけるところまでは優秀。しかし、ダイヤの原石を見つけても、磨こうとしないきらいがあるのだ」、「ダイヤの原石を見つけても、磨こうとしないきらいがある」、困った性格だ。
・『すぐに結果が出ないと投げ出してしまう 楽天グループの海外展開にも、その傾向がよくあらわれている。楽天グループは、社内公用語を英語にすると発表した10年くらい前から、海外展開を加速させた。当初は世界各国・地域でのビジネス展開を意気込んでおり、有望なマーケットを目ざとく見つけ出して事業を始めた。しかし、すぐに結果が出ないと投げ出してしまう三木谷会長兼社長の短期思考がゆえに、いずれの海外事業も尻すぼみになっている。 10年に中国大手IT企業のバイドゥと手を組んで開設した中国版楽天市場「楽酷天らくてん」は、2年後の12年に閉鎖。08年にはECの欧州市場でアマゾンに対抗すべく、欧州拠点としてルクセンブルクに楽天ヨーロッパを置いた。しかし、16年を境に欧州各国からの撤退と縮小が相次ぎ、現在ではフランスでわずかにEC事業を展開しているのみだ。楽天グループの現地法人で今も頑張っているのは台湾くらいで、あとはもう積極的な海外投資をしていない。海外事業の勢いは、最初だけだった。 たとえリーダーが偏ったタイプでも、その下の人たちの足腰が強ければ、事業を回していける。しかし、楽天グループは社員たちも三木谷会長兼社長に似たタイプの寄せ集めで、チームとして結束できておらず、機能不全だ。 日用品や弁当などの宅配システムを九州で展開している、エブリデイ・ドット・コムという会社がある。私が同社のオーナーをしていた十数年前、楽天から業務提携の打診があり、流通や販売など3つの組織の長が来社して打ち合わせをすることになった。朝9時に私がオフィスで出迎えると、3人はその場でお互いに名刺交換を始めた。同じグループでも交流がないのだ。 さらに驚いたのはその後だ。打ち合わせはそれなりに盛り上がり、3人は意気いき軒昂けんこうとして帰っていった。しかしその後、連絡はなかった。実務をフォローする人が誰もいないし、もともと起案した人は既に辞めてしまっていた。 別件で楽天グループ本社に行ったときも、興味深い体験をした。打ち合わせをしていると、突然モニターに三木谷会長兼社長が映り、「今週の進捗は」と英語で語り始めた。社員は最初の1~2分こそ聞いていたが、そのうち自分の仕事に戻り始めた。英語ではわからない、という人を置きざりにしており、トップとしては求心力が低すぎる。 楽天グループには、創業期から三木谷会長兼社長と苦楽を共にしてきた社員がほとんど残っていない。幹部は高い給料で引っ張ってきた高スペック人材が中心だ。彼らは、嫌なら別の会社に転職すればいいと考えていて忠誠心が低い。三木谷会長兼社長に負けず劣らず短期志向なので、足腰も頼りない。 楽天グループは、いわば細い鉛筆を立てて束ねたような組織だ。三木谷会長兼社長が関心を持って見ているうちはまとまって立っているが、手を放すとバラバラと倒れる。これでは事業を太く長く育てていくことは難しい』、「当初は世界各国・地域でのビジネス展開を意気込んでおり、有望なマーケットを目ざとく見つけ出して事業を始めた。しかし、すぐに結果が出ないと投げ出してしまう三木谷会長兼社長の短期思考がゆえに、いずれの海外事業も尻すぼみになっている」、「楽天グループは社員たちも三木谷会長兼社長に似たタイプの寄せ集めで、チームとして結束できておらず、機能不全だ」、「幹部は高い給料で引っ張ってきた高スペック人材が中心だ。彼らは、嫌なら別の会社に転職すればいいと考えていて忠誠心が低い。三木谷会長兼社長に負けず劣らず短期志向なので、足腰も頼りない。 楽天グループは、いわば細い鉛筆を立てて束ねたような組織だ。三木谷会長兼社長が関心を持って見ているうちはまとまって立っているが、手を放すとバラバラと倒れる。これでは事業を太く長く育てていくことは難しい」、なるほど。
・『楽天存続の唯一の術はモバイル事業との決別 モバイル事業での躓つまづきも、グループ全体としての足腰の弱さが原因だ。「楽天であれば、NTTドコモなど大手キャリア3社が寡占している国内携帯市場に風穴を開けられる」。三木谷会長兼社長やそのまわりは、そんな思いでモバイル事業を始めたに違いない。 しかし、これこそ現実が見えていない、頭でっかちな人の考えだ。 まず、ユーザーは既存の通信会社におおむね満足している。世界の多くの国は1~2社の寡占で、生き残れるのはせいぜい3位まで。4位以降が単独で浮上したケースはまずない。日本は既に3社が存在し、4社目は誰も求めていなかった。 もう1つはカバレッジの問題だ。楽天モバイルは人口カバー率99%とアピールしている。ただ、ユーザーが気にしているのは地理的・・・なカバー率である。たとえば旅行中に災害に遭い、助けを呼ぼうとしたときに、つながらない通信会社とは誰も好んで契約しない。本来なら基地局を地味に増やすべきだ。しかし、もともと地理的カバー率を軽視していたし、いざその重要性に気づいても、足腰が弱いために基地局の整備が遅々として進まない。 では、楽天グループは今後どうするべきなのか。私が社長なら、楽天モバイルを今すぐあきらめる。厳しいが、それくらい思い切った手を打たないと、会社は存続できない。 楽天グループは、23年7月に楽天証券ホールディングスの上場申請に踏み切ったが、上場で資金調達できるのはせいぜい2000億円程度。年間5000億円の赤字を垂れ流すモバイル事業の穴埋めにならず、焼け石に水だ。 既存の社債は組み直しで急場を凌ぐと思うが、償還までの道のりは険しい。まずは三木谷会長兼社長が頭でっかちの経営をやめて、モバイル事業に見切りをつけない限り、楽天グループに明るい未来はないだろう』、「ユーザーは既存の通信会社におおむね満足している。世界の多くの国は1~2社の寡占で、生き残れるのはせいぜい3位まで。4位以降が単独で浮上したケースはまずない。日本は既に3社が存在し、4社目は誰も求めていなかった」、「もう1つはカバレッジの問題だ・・・ユーザーが気にしているのは地理的・・・なカバー率である。たとえば旅行中に災害に遭い、助けを呼ぼうとしたときに、つながらない通信会社とは誰も好んで契約しない。本来なら基地局を地味に増やすべきだ。しかし、もともと地理的カバー率を軽視していたし、いざその重要性に気づいても、足腰が弱いために基地局の整備が遅々として進まない」、「私が社長なら、楽天モバイルを今すぐあきらめる。厳しいが、それくらい思い切った手を打たないと、会社は存続できない。 楽天グループは、23年7月に楽天証券ホールディングスの上場申請に踏み切ったが、上場で資金調達できるのはせいぜい2000億円程度。年間5000億円の赤字を垂れ流すモバイル事業の穴埋めにならず、焼け石に水だ。 既存の社債は組み直しで急場を凌ぐと思うが、償還までの道のりは険しい。まずは三木谷会長兼社長が頭でっかちの経営をやめて、モバイル事業に見切りをつけない限り、楽天グループに明るい未来はないだろう」、極めて厳しい見立てだ。それにしても、「三木谷会長兼社長の短期思考」は「楽天」に組織としての力を大きく殺いだようだ。遺産が何も残りそうもないのは寂しい限りだ。
タグ:東洋経済オンライン (その12)(赤字縮小の楽天G、三木谷氏に迫る「悪魔シナリオ」 「ポイント経済圏」握る楽天カード上場は危険だ、大前研一「楽天モバイルの大赤字は氷山の一角にすぎない」…三木谷会長がたどる最悪の末路とは 楽天衰退の根本原因は10年前にさかのぼる) 携帯・スマホ 鈴木 貴博 氏による「赤字縮小の楽天G、三木谷氏に迫る「悪魔シナリオ」 「ポイント経済圏」握る楽天カード上場は危険だ」 「楽天グループにとって計算外だったのは、参入後に政府の政策でスマホ価格が大幅に下げられたことでした。 先行する携帯大手3社よりも低コストにネットワークを構築できる方式を取ったことで、本来であれば楽天モバイルは他社よりも劇的に安い料金でスマホサービスを提供できるはずでした」、なるほど。 「決算発表では具体的に、楽天モバイルの損益分岐点シナリオも提示されました。まだこの先の道のりは険しいままではありますが、楽天グループは一歩前進できたと言えるでしょう。 さて、このような決算発表ではありましたが、楽天グループの未来はこの先、危機の連続です。三木谷浩史会長兼社長CEOが最終的に生き延びられるかどうかを賭けた戦いが待っています。それはグループの資金繰りを巡る、苦難と陰謀に満ちたドラマになるでしょう・・・ 実際、楽天グループについてはメディアで報道される赤字幅の問題以上に投資家が気にしていることがあります。それがモバイル事業を行うために抱え込んだ、巨額の有利子負債とその返済スケジュールです。楽天グループの有利子負債は、足元で約1.8兆円まで膨張しています」、なるほど。 「楽天銀行と楽天証券は実は楽天から分離させても、グループの企業価値をそれほど損ねることはありません。資本的に一体化していたほうが戦略は一貫しますが、出資比率が下がってもグループ会社としての緩い一体感がありさえすれば楽天グループの価値に大きな変わりはないでしょう」、なるほど。 「楽天カード・・・は、今回の再編で楽天グループの最重要子会社になりました。この子会社は楽天グループの虎の子であると同時に、楽天経済圏の扇の要であり、楽天グループにとってはビジネスモデル的に不可分な事業体になります。ですから楽天カードを本体から分離させていくことは戦略的にはありえません」、「仮に私が悪魔のような考え方をする人物だったら、どうでしょうか。架空のシナリオを考えてみましょう。 ここでは私のことをハゲタカと呼ぶことにします。ハゲタカはたまたま有利なポジションにいたことで、楽天グループとそのステークホルダーたちに影響力を与えることができる人物だったと仮定しましょう。) 私がハゲタカなら楽天カード株式会社を上場させ、楽天グループの有利子負債を返済させる資金源にしようと企てるでしょう。そのためには楽天グループの業績が傾いたほうが都合がいいと考えます。 そこで部下に命じて、たとえば楽天カードのポイント還元率を改悪するような施策を打ちます。グループ内ではカード事業の利益が向上することを評価 させる一方で、外部からは「楽天グループ、こんなことをするなんて危ないんじゃないか」という声が上がります。 こうした工作を続けるうちに楽天グループの経営は苦しくなり、銀行団は有利子負債の借り換えに難色を示すようになります。グループが行き詰まればチャンスが生まれます。楽天カードの株式を何らかの形で売却しようというところまで経営陣が追い込まれるからです。 そこでハゲタカは楽天グループを救う形で、楽天カードに資本注入を決定します。持ち株比率を段階的に上げて、いずれは筆頭株主を目指します」、 「足手まといの楽天モバイルのポイントはゼロにしてしまえば、モバイルはより経営の足を引っ張るようになるでしょう」、なるほど。 「経営破たんしたグループから楽天市場を分社化させて、それを救済し民事再生する形で、ハゲタカが持つ楽天カードの傘下につけることです。モバイルの残骸と借金は創業者に押し付ければ完璧です」、「こんなことが横行する資本主義経済は発展しません。楽天に悪夢が起きるようであれば、日本経済の発展機会はさらに10年は失われてしまうでしょう」、同感である。 PRESIDENT ONLINE 大前 研一氏による「大前研一「楽天モバイルの大赤字は氷山の一角にすぎない」…三木谷会長がたどる最悪の末路とは 楽天衰退の根本原因は10年前にさかのぼる」 「10年前に、私は「楽天のビジネスモデルは今後行き詰まる」と指摘・・・三木谷会長兼社長本人・・・は納得いか 「Viberはイスラエル発の会社で、開発拠点はベラルーシのミンスクにある・・・現地社員は「自由にやらせてもらっていてうれしい」と言っていた。自由にやらせているというと聞こえはいいが、要は放置で、これでは宝の持ち腐れだ。とくにViberはLINEのような通話機能を持っているので、早期に日本へ持ち込めば後発のモバイル事業者として楽天が投資に喘ぐこともなかった。 三木谷会長兼社長は、これから伸びるものを見つけるところまでは優秀。しかし、ダイヤの原石を見つけても、磨こうとしないきらいがあるのだ」、「ダイヤの原石を見つけても、磨こうとしないきらいがある」、困った性格だ。 「当初は世界各国・地域でのビジネス展開を意気込んでおり、有望なマーケットを目ざとく見つけ出して事業を始めた。しかし、すぐに結果が出ないと投げ出してしまう三木谷会長兼社長の短期思考がゆえに、いずれの海外事業も尻すぼみになっている」、「楽天グループは社員たちも三木谷会長兼社長に似たタイプの寄せ集めで、チームとして結束できておらず、機能不全だ」、 「幹部は高い給料で引っ張ってきた高スペック人材が中心だ。彼らは、嫌なら別の会社に転職すればいいと考えていて忠誠心が低い。三木谷会長兼社長に負けず劣らず短期志向なので、足腰も頼りない。 楽天グループは、いわば細い鉛筆を立てて束ねたような組織だ。三木谷会長兼社長が関心を持って見ているうちはまとまって立っているが、手を放すとバラバラと倒れる。これでは事業を太く長く育てていくことは難しい」、なるほど。 「ユーザーは既存の通信会社におおむね満足している。世界の多くの国は1~2社の寡占で、生き残れるのはせいぜい3位まで。4位以降が単独で浮上したケースはまずない。日本は既に3社が存在し、4社目は誰も求めていなかった」、「もう1つはカバレッジの問題だ・・・ユーザーが気にしているのは地理的・・・なカバー率である。たとえば旅行中に災害に遭い、助けを呼ぼうとしたときに、つながらない通信会社とは誰も好んで契約しない。本来なら基地局を地味に増やすべきだ。しかし、もともと地理的カバー率を軽視していたし、いざその重要性に気づ いても、足腰が弱いために基地局の整備が遅々として進まない」、「私が社長なら、楽天モバイルを今すぐあきらめる。厳しいが、それくらい思い切った手を打たないと、会社は存続できない。 楽天グループは、23年7月に楽天証券ホールディングスの上場申請に踏み切ったが、上場で資金調達できるのはせいぜい2000億円程度。年間5000億円の赤字を垂れ流すモバイル事業の穴埋めにならず、焼け石に水だ。 既存の社債は組み直しで急場を凌ぐと思うが、償還までの道のりは険しい。まずは三木谷会長兼社長が頭でっかちの経営をやめて、モバイル事 業に見切りをつけない限り、楽天グループに明るい未来はないだろう」、極めて厳しい見立てだ。それにしても、「三木谷会長兼社長の短期思考」は「楽天」に組織としての力を大きく殺いだようだ。遺産が何も残りそうもないのは寂しい限りだ。