日本企業の海外M&A(その8)(「約2兆100億円を投じる」巨大プロジェクトのご破算が濃厚に) [企業経営]
昨日、本日の更新を休むと予告したが、更新可能になった。日本企業の海外M&Aについては、2018年5月22日に取上げた。久しぶりの今日は、(その8)(「約2兆100億円を投じる」巨大プロジェクトのご破算が濃厚に)である。
本年4月23日付け現代ビジネスが掲載した経済ジャーナリストの町田 徹氏による「アメリカの「鶴の一声」で、日本製鉄が窮地…! 「約2兆100億円を投じる」巨大プロジェクトのご破算が濃厚に」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/128426?imp=0
・『「大統領見解を受け入れている」 全国紙はほとんど報じなかったようだが、CFIUS(The Committee on Foreign Investments in the United States、対米外国投資委員会)の委員長を兼ねる、米財務長官のイエレン氏は先週火曜日(4月16日)の記者会見で、「脱・日本、脱・高炉」の起死回生策になるはずだった日本製鉄の米鉄鋼大手USスチール買収に事実上の駄目出しをした。 CFIUSは米大統領直属の省庁横断の委員会組織で、主な使命は外国資本による米国企業の経営や事業、技術への出資の審査だ。米国の安全保障を脅かす可能性が有ると判断した場合、中止を命じることができるほか、買収が完了した後であっても米国の国益に反する問題が発生した時はその出資の白紙撤回を迫るという絶大な権限を持つ。委員長は財務長官で、過去の例を見ると、委員長は、他の委員(国防総省、国務省、商務省、運輸省、司法省などのトップ)の賛成や反対を押し切った実績もある。 イエレン氏の駄目出しは、世界銀行と国際通貨基金(IMF)の年次総会の記者会見の際に、かねて「USスチールは100年以上にわたって象徴的な米国の鋼鉄会社で、引き続き、米国内で所有され運営されていることが不可欠だ」と主張してきたバイデン大統領の発言に触れる形で、「大統領見解を受け入れている」と発言するものだった。 こうした保護主義的な判断の背景には、バイデン氏が今年11月に控えた米大統領選挙でトランプ前大統領と熾烈な選挙戦を展開しており、USスチール従業員が加入する全米鉄鋼労働組合(USW)がバイデン氏の出身母体である民主党の有力支持団体の一つに名前を連ねていることがある。 日本製鉄は、4月12日のUSスチールの臨時株主総会で買収案の承認を得て今年9月をめどに買収を完了する計画だったが、断念を迫られる可能性が劇的に高まっている。 日本製鉄がUSスチールと買収契約を締結したと発表したのは、去年(2023年)の年の瀬が迫った12月18日である。 発表によると、買収方法は、日本製鉄の100%子会社「NIPPON STEEL NORTH AMERICA」が100%出資する買収目的の孫会社を通じて、USスチール株をすべて現金で買収したうえで、両社が合併するというものだ。明らかに、米国人投資家やUSスチール労働者への配慮だろう。買収完了後は、買収目的の孫会社は消滅させて、USスチールを存続会社にするとしていた。 この点を以って、日本製鉄は「USスチールが引き続き、米国企業であり続ける」と主張して理解を得たいのかもしれないが、CFIUSは大元の親会社が日本製鉄である以上、米国企業とは認めないはずだ。強硬な反対をしている全米鉄鋼労働組合(UAW)の本音も、会社の形式や従業員のプライドの擁護といったことではなく、USスチールの歴代経営者に呑ませてきた分厚い既得権を日本製鉄が守るはずがないとの疑心暗鬼にあるとみられる。 話を戻すと、米国側への手厚い配慮は、買収価格にもみられた。USスチール株の取得価格を、1株当たり55ドルとしたのだ。日本製鉄の取得価格は、合併発表3日前の12月15日のUSスチール株の終値(39.33 ドル)に40%という破格のプレミアムを上乗せする大盤振る舞いだったのである』、「CFIUS・・・対米外国投資委員会)の委員長を兼ねる、米財務長官のイエレン氏は先週火曜日(4月16日)の記者会見で、「脱・日本、脱・高炉」の起死回生策になるはずだった日本製鉄の米鉄鋼大手USスチール買収に事実上の駄目出しをした。 CFIUSは米大統領直属の省庁横断の委員会組織で、主な使命は外国資本による米国企業の経営や事業、技術への出資の審査だ。米国の安全保障を脅かす可能性が有ると判断した場合、中止を命じることができるほか、買収が完了した後であっても米国の国益に反する問題が発生した時はその出資の白紙撤回を迫るという絶大な権限を持つ」、「イエレン氏」が「事実上の駄目出しをした」のであれば、ほぼ買収は困難になったようだ。「買収方法は、日本製鉄の100%子会社「NIPPON STEEL NORTH AMERICA」が100%出資する買収目的の孫会社を通じて、USスチール株をすべて現金で買収したうえで、両社が合併するというものだ。明らかに、米国人投資家やUSスチール労働者への配慮だろう。買収完了後は、買収目的の孫会社は消滅させて、USスチールを存続会社にするとしていた。 この点を以って、日本製鉄は「USスチールが引き続き、米国企業であり続ける」と主張して理解を得たいのかもしれないが、CFIUSは大元の親会社が日本製鉄である以上、米国企業とは認めないはずだ。強硬な反対をしている全米鉄鋼労働組合(UAW)の本音も、会社の形式や従業員のプライドの擁護といったことではなく、USスチールの歴代経営者に呑ませてきた分厚い既得権を日本製鉄が守るはずがないとの疑心暗鬼にあるとみられる」、「日本製鉄」側の美醜方法上の小細工は、見破られたようだ。当然のことである。
・『約2兆100億円を投じる 日本製鉄は、総額で141億2600万ドル(約2兆100億円)の巨費を投じる計算だ。この額は、2006年に、「インド版の今太閤」と称された創業者経営者ラクシュミ・ミタル氏が率いた当時世界最大の鉄鋼会社ミッタルが、同2位でフランスとルクセンブルグに本社を置いていたアルセロールを買収した際の買収額269億ユーロ(当時の為替レートで、約3兆9300億円)に次ぐ規模だ。世界の鉄鋼業界のM&A(企業の合併・買収)の歴史においても2番目に大きい買収となる。 USスチール経営陣にとっては「渡りに船」で、この気前の良い提案に応じ、買収契約を締結した。というのは、USスチールは日本製鉄の買収契約に応じる4ヶ月ほど前の2023年8月に、同業の米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスからの総額約70億ドル(約1兆円)の買収提案を拒否し、もっと高く身売りできる道がないか模索すると株主に公約していたからだ。 USスチールの株主にとっても、日本製鉄の破格の買収提案は歓迎すべきものだった。このため、買収契約の締結発表から4カ月弱を経た今年(2024年)4月12日の臨時株主総会で、計画を承認した。これを受けて、日本製鉄とUSスチールはM&Aを今年9月までに買収手続きの完了を目指すと表明した。 最新(2022年)の世界鉄鋼協会のデータによると、1位の宝武鉄鋼集団、3位の鞍鋼集団など中国勢が鉄鋼会社のトップ10のうち6社を占める。非中国勢は、2位にルクセンブルグのアルセロール・ミッタル、4位に日本製鉄、7位に韓国のポスコ、10位にインドのタタがかろうじて顔を出しているに過ぎない。USスチールに至っては、世界27位、米国勢の中でも3位と低迷している。 つまり、最近のランキングには、日本製鉄の前身である新日本製鉄に1973年に「世界一の座」を明け渡すまで、戦前から長年にわたってトップに君臨したUSスチールの過去の栄光の面影はみられない。 半面、日本製鉄も、宝武鉄鋼集団と鞍鋼集団の後塵を拝しているようでは、鄧小平氏がけん引した1970年代の改革開放運動に協力して、中国の近代製鉄業の育成に貢献した実績が霞んで見える。 こうした中で、日本製鉄はUSスチールの買収に成功すれば、3位の鞍鋼集団を抜き、世界3位の地位に上昇する。 米中間の経済のデカップリング(分断)が進む一方で、西側の鉄鋼会社はここ5年あまり、過剰生産能力を持つ中国勢の安値攻勢に苦しみ続けてきた。それゆえ、日本製鉄は、米国と同盟関係にある日本企業の日本製鉄によるUSスチール買収が米国の経済安全保障に役立つと歓迎されると楽観していたのだろう。実際、日本製鉄の橋本英二社長は12月19日の記者会見で、中国を念頭に「世界の潮流は新しい経済安全保障」と胸を張っていた。 しかし、日本製鉄のUSスチール買収はすんなりとはいかなかった。USスチールの従業員らが加盟するUSWが大きく立ちはだかったのだ。 USWはデービッド・マッコール会長名で今年3月1日に、米国議会上院に電子メールを送り、議会上院が日本製鉄のUSスチール買収に反対するよう求めた。その理由として、日本製鉄によるUSスチール買収が「雇用を脅かし、米国の防衛と経済的繁栄の安全保障をいくつかの点で危うくする」と主張した。それだけでなく、むしろ、こちらが本音と見るべきだろうが、労働協定や年金、福利厚生プランを巡る既得権が脅かされることへの懸念を挙げていた。 こうした要求もあり、米議会は反対の狼煙をあげた。 そして、この事態を決定的に深刻なものにしたのは、バイデン大統領がUSWへの肩入れ姿勢をエスカレートさせてきたことだ。バイデン氏は昨年12月21日に公表した声明で、まず、「USスチールは、国家安全保障に不可欠な国内鉄鋼生産の中核を担っている」との考えを表明、USWの要求に応じて、前述のCFIUSに買収の是非を精査させる方針を示した』、「USスチールの従業員らが加盟するUSWが大きく立ちはだかったのだ。 USWはデービッド・マッコール会長名で今年3月1日に、米国議会上院に電子メールを送り、議会上院が日本製鉄のUSスチール買収に反対するよう求めた。その理由として、日本製鉄によるUSスチール買収が「雇用を脅かし、米国の防衛と経済的繁栄の安全保障をいくつかの点で危うくする」と主張した。それだけでなく、むしろ、こちらが本音と見るべきだろうが、労働協定や年金、福利厚生プランを巡る既得権が脅かされることへの懸念を挙げていた。 こうした要求もあり、米議会は反対の狼煙をあげた・・・日本製鉄は、米国と同盟関係にある日本企業の日本製鉄によるUSスチール買収が米国の経済安全保障に役立つと歓迎されると楽観していた・・・バイデン大統領がUSWへの肩入れ姿勢をエスカレート・・・バイデン氏は昨年12月21日に公表した声明で、まず、「USスチールは、国家安全保障に不可欠な国内鉄鋼生産の中核を担っている」との考えを表明、USWの要求に応じて、前述のCFIUSに買収の是非を精査させる方針を示した」、「日本製鉄」の読みは過度に楽観的過ぎたようだ。
・『日本政府の援護射撃は期待できない さらに、トランプ前大統領の「私なら即座に阻止する」との発言に煽られる形で、今年3月14日には、「(USスチールは)国内で所有・運営される米鉄鋼企業であり続けることが重要だ」と買収反対を示唆する声明を出した。これにより、その6日後の3月20日、USWから今年11月の米大統領選挙で民主党のバイデン大統領を支持するとの発表を取り付けたのだった。 その後、冒頭で紹介したように、CFIUSの委員長を兼ねる、イエレン米財務長官が4月16日の記者会見で、「大統領見解を受け入れている」と発言し、日本製鉄の買収に事実上の駄目を出したのである。 水面下で、日本製鉄が、将来にわたって、USスチールの弱みである高コスト体質の主因と目されてきた数々の既得権を保障し、それが守られるとUAWが納得しない限り、事態を好転させるのは難しいだろう。 客観的に見れば、バイデン政権のなりふり構わぬUAWへの肩入れと日本製鉄のUSスチール買収阻止は、明らかに、日米両政府が岸田総理とバイデン大統領による4月10日の会談でまとめた「日米首脳会談の共同声明」で改めて確認した日米間の相互投資の促進による経済面での連携強化に反する行為だ。 林芳正官房長官は4月18日の記者会見で、バイデン米大統領が前日、「1世紀以上にわたり米国の象徴であり続けた企業は、これからもそのままであるべきだ」などと発言したことについての見解を問われて、「個別の企業の経営に関する事案についてのコメントは差し控えたい」と回答を避ける一方で、日米首脳会談の共同声明を踏まえて「日米相互の投資の拡大を含めた経済関係の一層の強化、インド太平洋地域の持続的・包摂的な経済成長の実現、経済安全保障分野における協力などは互いにとって不可欠だ」とやんわりと批判するのが精一杯だった。今後も、この問題で、日本政府が日本製鉄を強力に援護射撃することは期待できないだろう。 要するに、バイデン政権にとっては、中国との経済面でのデカップリング政策を押し通すより、11月に迫った大統領選挙で勝利を収めることの方が優先する課題なのだ。最新情勢を見ても、大統領選挙の行方を左右する激戦区7州の世論はトランプ前大統領がやや優勢に選挙戦を進めている。 こうした中で、USスチールが工場を置くペンシルベニア州やミシガン州はこの激戦区7州に位置し、バイデン大統領の死命を制しかねない。前々回(2016年)の大統領選ではこれらの激戦区の製造業の労働者票がトランプ前大統領に流れた結果、民主党のヒラリー候補が敗れた前例もあるのだ。 バイデン政権はトランプ政権ほどではないとはいえ、やはり本質的に「米国第一主義」に引きずられる政権だ。トランプ氏が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰を拒み、関税引き下げを含まないインド太平洋経済枠組み(IPEF)に傾注し、全米自動車労組(UAW)の強引な賃上げ要求を支持したことなどからも、肝心なところで保護主義に抗えないことを繰り返し露わにしてきたことを、我々、日本人は今一度、肝に銘じておくべきだろう』、「バイデン政権はトランプ政権ほどではないとはいえ、やはり本質的に「米国第一主義」に引きずられる政権だ。トランプ氏が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰を拒み、関税引き下げを含まないインド太平洋経済枠組み(IPEF)に傾注し、全米自動車労組(UAW)の強引な賃上げ要求を支持したことなどからも、肝心なところで保護主義に抗えないことを繰り返し露わにしてきたことを、我々、日本人は今一度、肝に銘じておくべきだろう」、その通りだ。
・『日本製鉄の経営は奈落の底に… とはいえ、今回の買収が挫折すれば、日本製鉄が失うものは計り知れない。というのは、人口減少など成長が期待できない日本市場に見切りを付けるとともに、二酸化炭素(CO2)の排出の多い製鉄手法である高炉への過剰な依存体質を改善するという2重の意味で、起死回生の活路を求めたのが、米国市場を本拠地とし、比較的CO2の排出の少ない電炉事業の構築を進めているUSスチールの買収だったからである。 まず、日本市場の成長性からみると、大口顧客の自動車産業の需要の伸びが期待できないのだ。例えば、4輪の乗用車の国内生産台数のピークは1990年の994万7972台だ。これが人口減少の深刻化と歩調を合わせるかのように減り続けて、2022年は656万6318台まで減った。自動車メーカー各社は米国や東南アジアでの現地生産を強化しており、日本で生産して日本から輸出する台数は今後も減り続ける見通しなのだ。 これに対して、短期的な不振が伝えられているものの、米国は人口が増えて成長が続き、今後も電気自動車(EV)を含む自動車の生産台数は増加していく見込みだ。 加えて、日本製鉄は近年、ようやく高炉に見切りをつけて、理論的にはCO2を排出しない水素還元製鉄の開発・実用化を急ぐとしているが、30年以上も前から水素還元製鉄の開発・実用化を口にしながら怠り続けてきたことは、気候変動対策を重視してきた環境学者らの間では周知の事実だ。 同社は、くず鉄などのスクラップを原料とする電炉を軽視してきたが、今後、当分の間、電炉に活路を求めざるを得なくなっていた。 これに対し、USスチールはこの分野で、最先端の電炉ミニミルであるビッグ リバー スチールを2021年に完全子会社化した。すでに鋼板ラインを稼働し、めっきラインが年内に稼働する予定のほか、能力の倍増に向けて新工場も建設中だ。この部門こそ、日本製鉄が喉から手が出るほど必要としているものなのだ。 日本製鉄にとっては、日本という自国市場の成長の先細り懸念と、待ったなしで迫られるようになったカーボンニュートラルという2つの至上命題を、一石二鳥で解消してくれるはずだった起死回生策がUSスチールの買収だったのである。 まとめると、以上、縷々見てきたように、CFIUS委員長をつとめるイエレン米財務長官の日本製鉄によるUSスチールの買収への駄目出し発言は、米国頼みの日本の通商政策の危うさを浮き彫りにするだけでなく、日本製鉄の経営を奈落の底に突き落としかねない冷徹な宣告だったのだ』、「イエレン米財務長官の日本製鉄によるUSスチールの買収への駄目出し発言は、米国頼みの日本の通商政策の危うさを浮き彫りにするだけでなく、日本製鉄の経営を奈落の底に突き落としかねない冷徹な宣告だった」、深刻に捉える必要がありそうだ。
本年4月23日付け現代ビジネスが掲載した経済ジャーナリストの町田 徹氏による「アメリカの「鶴の一声」で、日本製鉄が窮地…! 「約2兆100億円を投じる」巨大プロジェクトのご破算が濃厚に」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/128426?imp=0
・『「大統領見解を受け入れている」 全国紙はほとんど報じなかったようだが、CFIUS(The Committee on Foreign Investments in the United States、対米外国投資委員会)の委員長を兼ねる、米財務長官のイエレン氏は先週火曜日(4月16日)の記者会見で、「脱・日本、脱・高炉」の起死回生策になるはずだった日本製鉄の米鉄鋼大手USスチール買収に事実上の駄目出しをした。 CFIUSは米大統領直属の省庁横断の委員会組織で、主な使命は外国資本による米国企業の経営や事業、技術への出資の審査だ。米国の安全保障を脅かす可能性が有ると判断した場合、中止を命じることができるほか、買収が完了した後であっても米国の国益に反する問題が発生した時はその出資の白紙撤回を迫るという絶大な権限を持つ。委員長は財務長官で、過去の例を見ると、委員長は、他の委員(国防総省、国務省、商務省、運輸省、司法省などのトップ)の賛成や反対を押し切った実績もある。 イエレン氏の駄目出しは、世界銀行と国際通貨基金(IMF)の年次総会の記者会見の際に、かねて「USスチールは100年以上にわたって象徴的な米国の鋼鉄会社で、引き続き、米国内で所有され運営されていることが不可欠だ」と主張してきたバイデン大統領の発言に触れる形で、「大統領見解を受け入れている」と発言するものだった。 こうした保護主義的な判断の背景には、バイデン氏が今年11月に控えた米大統領選挙でトランプ前大統領と熾烈な選挙戦を展開しており、USスチール従業員が加入する全米鉄鋼労働組合(USW)がバイデン氏の出身母体である民主党の有力支持団体の一つに名前を連ねていることがある。 日本製鉄は、4月12日のUSスチールの臨時株主総会で買収案の承認を得て今年9月をめどに買収を完了する計画だったが、断念を迫られる可能性が劇的に高まっている。 日本製鉄がUSスチールと買収契約を締結したと発表したのは、去年(2023年)の年の瀬が迫った12月18日である。 発表によると、買収方法は、日本製鉄の100%子会社「NIPPON STEEL NORTH AMERICA」が100%出資する買収目的の孫会社を通じて、USスチール株をすべて現金で買収したうえで、両社が合併するというものだ。明らかに、米国人投資家やUSスチール労働者への配慮だろう。買収完了後は、買収目的の孫会社は消滅させて、USスチールを存続会社にするとしていた。 この点を以って、日本製鉄は「USスチールが引き続き、米国企業であり続ける」と主張して理解を得たいのかもしれないが、CFIUSは大元の親会社が日本製鉄である以上、米国企業とは認めないはずだ。強硬な反対をしている全米鉄鋼労働組合(UAW)の本音も、会社の形式や従業員のプライドの擁護といったことではなく、USスチールの歴代経営者に呑ませてきた分厚い既得権を日本製鉄が守るはずがないとの疑心暗鬼にあるとみられる。 話を戻すと、米国側への手厚い配慮は、買収価格にもみられた。USスチール株の取得価格を、1株当たり55ドルとしたのだ。日本製鉄の取得価格は、合併発表3日前の12月15日のUSスチール株の終値(39.33 ドル)に40%という破格のプレミアムを上乗せする大盤振る舞いだったのである』、「CFIUS・・・対米外国投資委員会)の委員長を兼ねる、米財務長官のイエレン氏は先週火曜日(4月16日)の記者会見で、「脱・日本、脱・高炉」の起死回生策になるはずだった日本製鉄の米鉄鋼大手USスチール買収に事実上の駄目出しをした。 CFIUSは米大統領直属の省庁横断の委員会組織で、主な使命は外国資本による米国企業の経営や事業、技術への出資の審査だ。米国の安全保障を脅かす可能性が有ると判断した場合、中止を命じることができるほか、買収が完了した後であっても米国の国益に反する問題が発生した時はその出資の白紙撤回を迫るという絶大な権限を持つ」、「イエレン氏」が「事実上の駄目出しをした」のであれば、ほぼ買収は困難になったようだ。「買収方法は、日本製鉄の100%子会社「NIPPON STEEL NORTH AMERICA」が100%出資する買収目的の孫会社を通じて、USスチール株をすべて現金で買収したうえで、両社が合併するというものだ。明らかに、米国人投資家やUSスチール労働者への配慮だろう。買収完了後は、買収目的の孫会社は消滅させて、USスチールを存続会社にするとしていた。 この点を以って、日本製鉄は「USスチールが引き続き、米国企業であり続ける」と主張して理解を得たいのかもしれないが、CFIUSは大元の親会社が日本製鉄である以上、米国企業とは認めないはずだ。強硬な反対をしている全米鉄鋼労働組合(UAW)の本音も、会社の形式や従業員のプライドの擁護といったことではなく、USスチールの歴代経営者に呑ませてきた分厚い既得権を日本製鉄が守るはずがないとの疑心暗鬼にあるとみられる」、「日本製鉄」側の美醜方法上の小細工は、見破られたようだ。当然のことである。
・『約2兆100億円を投じる 日本製鉄は、総額で141億2600万ドル(約2兆100億円)の巨費を投じる計算だ。この額は、2006年に、「インド版の今太閤」と称された創業者経営者ラクシュミ・ミタル氏が率いた当時世界最大の鉄鋼会社ミッタルが、同2位でフランスとルクセンブルグに本社を置いていたアルセロールを買収した際の買収額269億ユーロ(当時の為替レートで、約3兆9300億円)に次ぐ規模だ。世界の鉄鋼業界のM&A(企業の合併・買収)の歴史においても2番目に大きい買収となる。 USスチール経営陣にとっては「渡りに船」で、この気前の良い提案に応じ、買収契約を締結した。というのは、USスチールは日本製鉄の買収契約に応じる4ヶ月ほど前の2023年8月に、同業の米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスからの総額約70億ドル(約1兆円)の買収提案を拒否し、もっと高く身売りできる道がないか模索すると株主に公約していたからだ。 USスチールの株主にとっても、日本製鉄の破格の買収提案は歓迎すべきものだった。このため、買収契約の締結発表から4カ月弱を経た今年(2024年)4月12日の臨時株主総会で、計画を承認した。これを受けて、日本製鉄とUSスチールはM&Aを今年9月までに買収手続きの完了を目指すと表明した。 最新(2022年)の世界鉄鋼協会のデータによると、1位の宝武鉄鋼集団、3位の鞍鋼集団など中国勢が鉄鋼会社のトップ10のうち6社を占める。非中国勢は、2位にルクセンブルグのアルセロール・ミッタル、4位に日本製鉄、7位に韓国のポスコ、10位にインドのタタがかろうじて顔を出しているに過ぎない。USスチールに至っては、世界27位、米国勢の中でも3位と低迷している。 つまり、最近のランキングには、日本製鉄の前身である新日本製鉄に1973年に「世界一の座」を明け渡すまで、戦前から長年にわたってトップに君臨したUSスチールの過去の栄光の面影はみられない。 半面、日本製鉄も、宝武鉄鋼集団と鞍鋼集団の後塵を拝しているようでは、鄧小平氏がけん引した1970年代の改革開放運動に協力して、中国の近代製鉄業の育成に貢献した実績が霞んで見える。 こうした中で、日本製鉄はUSスチールの買収に成功すれば、3位の鞍鋼集団を抜き、世界3位の地位に上昇する。 米中間の経済のデカップリング(分断)が進む一方で、西側の鉄鋼会社はここ5年あまり、過剰生産能力を持つ中国勢の安値攻勢に苦しみ続けてきた。それゆえ、日本製鉄は、米国と同盟関係にある日本企業の日本製鉄によるUSスチール買収が米国の経済安全保障に役立つと歓迎されると楽観していたのだろう。実際、日本製鉄の橋本英二社長は12月19日の記者会見で、中国を念頭に「世界の潮流は新しい経済安全保障」と胸を張っていた。 しかし、日本製鉄のUSスチール買収はすんなりとはいかなかった。USスチールの従業員らが加盟するUSWが大きく立ちはだかったのだ。 USWはデービッド・マッコール会長名で今年3月1日に、米国議会上院に電子メールを送り、議会上院が日本製鉄のUSスチール買収に反対するよう求めた。その理由として、日本製鉄によるUSスチール買収が「雇用を脅かし、米国の防衛と経済的繁栄の安全保障をいくつかの点で危うくする」と主張した。それだけでなく、むしろ、こちらが本音と見るべきだろうが、労働協定や年金、福利厚生プランを巡る既得権が脅かされることへの懸念を挙げていた。 こうした要求もあり、米議会は反対の狼煙をあげた。 そして、この事態を決定的に深刻なものにしたのは、バイデン大統領がUSWへの肩入れ姿勢をエスカレートさせてきたことだ。バイデン氏は昨年12月21日に公表した声明で、まず、「USスチールは、国家安全保障に不可欠な国内鉄鋼生産の中核を担っている」との考えを表明、USWの要求に応じて、前述のCFIUSに買収の是非を精査させる方針を示した』、「USスチールの従業員らが加盟するUSWが大きく立ちはだかったのだ。 USWはデービッド・マッコール会長名で今年3月1日に、米国議会上院に電子メールを送り、議会上院が日本製鉄のUSスチール買収に反対するよう求めた。その理由として、日本製鉄によるUSスチール買収が「雇用を脅かし、米国の防衛と経済的繁栄の安全保障をいくつかの点で危うくする」と主張した。それだけでなく、むしろ、こちらが本音と見るべきだろうが、労働協定や年金、福利厚生プランを巡る既得権が脅かされることへの懸念を挙げていた。 こうした要求もあり、米議会は反対の狼煙をあげた・・・日本製鉄は、米国と同盟関係にある日本企業の日本製鉄によるUSスチール買収が米国の経済安全保障に役立つと歓迎されると楽観していた・・・バイデン大統領がUSWへの肩入れ姿勢をエスカレート・・・バイデン氏は昨年12月21日に公表した声明で、まず、「USスチールは、国家安全保障に不可欠な国内鉄鋼生産の中核を担っている」との考えを表明、USWの要求に応じて、前述のCFIUSに買収の是非を精査させる方針を示した」、「日本製鉄」の読みは過度に楽観的過ぎたようだ。
・『日本政府の援護射撃は期待できない さらに、トランプ前大統領の「私なら即座に阻止する」との発言に煽られる形で、今年3月14日には、「(USスチールは)国内で所有・運営される米鉄鋼企業であり続けることが重要だ」と買収反対を示唆する声明を出した。これにより、その6日後の3月20日、USWから今年11月の米大統領選挙で民主党のバイデン大統領を支持するとの発表を取り付けたのだった。 その後、冒頭で紹介したように、CFIUSの委員長を兼ねる、イエレン米財務長官が4月16日の記者会見で、「大統領見解を受け入れている」と発言し、日本製鉄の買収に事実上の駄目を出したのである。 水面下で、日本製鉄が、将来にわたって、USスチールの弱みである高コスト体質の主因と目されてきた数々の既得権を保障し、それが守られるとUAWが納得しない限り、事態を好転させるのは難しいだろう。 客観的に見れば、バイデン政権のなりふり構わぬUAWへの肩入れと日本製鉄のUSスチール買収阻止は、明らかに、日米両政府が岸田総理とバイデン大統領による4月10日の会談でまとめた「日米首脳会談の共同声明」で改めて確認した日米間の相互投資の促進による経済面での連携強化に反する行為だ。 林芳正官房長官は4月18日の記者会見で、バイデン米大統領が前日、「1世紀以上にわたり米国の象徴であり続けた企業は、これからもそのままであるべきだ」などと発言したことについての見解を問われて、「個別の企業の経営に関する事案についてのコメントは差し控えたい」と回答を避ける一方で、日米首脳会談の共同声明を踏まえて「日米相互の投資の拡大を含めた経済関係の一層の強化、インド太平洋地域の持続的・包摂的な経済成長の実現、経済安全保障分野における協力などは互いにとって不可欠だ」とやんわりと批判するのが精一杯だった。今後も、この問題で、日本政府が日本製鉄を強力に援護射撃することは期待できないだろう。 要するに、バイデン政権にとっては、中国との経済面でのデカップリング政策を押し通すより、11月に迫った大統領選挙で勝利を収めることの方が優先する課題なのだ。最新情勢を見ても、大統領選挙の行方を左右する激戦区7州の世論はトランプ前大統領がやや優勢に選挙戦を進めている。 こうした中で、USスチールが工場を置くペンシルベニア州やミシガン州はこの激戦区7州に位置し、バイデン大統領の死命を制しかねない。前々回(2016年)の大統領選ではこれらの激戦区の製造業の労働者票がトランプ前大統領に流れた結果、民主党のヒラリー候補が敗れた前例もあるのだ。 バイデン政権はトランプ政権ほどではないとはいえ、やはり本質的に「米国第一主義」に引きずられる政権だ。トランプ氏が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰を拒み、関税引き下げを含まないインド太平洋経済枠組み(IPEF)に傾注し、全米自動車労組(UAW)の強引な賃上げ要求を支持したことなどからも、肝心なところで保護主義に抗えないことを繰り返し露わにしてきたことを、我々、日本人は今一度、肝に銘じておくべきだろう』、「バイデン政権はトランプ政権ほどではないとはいえ、やはり本質的に「米国第一主義」に引きずられる政権だ。トランプ氏が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰を拒み、関税引き下げを含まないインド太平洋経済枠組み(IPEF)に傾注し、全米自動車労組(UAW)の強引な賃上げ要求を支持したことなどからも、肝心なところで保護主義に抗えないことを繰り返し露わにしてきたことを、我々、日本人は今一度、肝に銘じておくべきだろう」、その通りだ。
・『日本製鉄の経営は奈落の底に… とはいえ、今回の買収が挫折すれば、日本製鉄が失うものは計り知れない。というのは、人口減少など成長が期待できない日本市場に見切りを付けるとともに、二酸化炭素(CO2)の排出の多い製鉄手法である高炉への過剰な依存体質を改善するという2重の意味で、起死回生の活路を求めたのが、米国市場を本拠地とし、比較的CO2の排出の少ない電炉事業の構築を進めているUSスチールの買収だったからである。 まず、日本市場の成長性からみると、大口顧客の自動車産業の需要の伸びが期待できないのだ。例えば、4輪の乗用車の国内生産台数のピークは1990年の994万7972台だ。これが人口減少の深刻化と歩調を合わせるかのように減り続けて、2022年は656万6318台まで減った。自動車メーカー各社は米国や東南アジアでの現地生産を強化しており、日本で生産して日本から輸出する台数は今後も減り続ける見通しなのだ。 これに対して、短期的な不振が伝えられているものの、米国は人口が増えて成長が続き、今後も電気自動車(EV)を含む自動車の生産台数は増加していく見込みだ。 加えて、日本製鉄は近年、ようやく高炉に見切りをつけて、理論的にはCO2を排出しない水素還元製鉄の開発・実用化を急ぐとしているが、30年以上も前から水素還元製鉄の開発・実用化を口にしながら怠り続けてきたことは、気候変動対策を重視してきた環境学者らの間では周知の事実だ。 同社は、くず鉄などのスクラップを原料とする電炉を軽視してきたが、今後、当分の間、電炉に活路を求めざるを得なくなっていた。 これに対し、USスチールはこの分野で、最先端の電炉ミニミルであるビッグ リバー スチールを2021年に完全子会社化した。すでに鋼板ラインを稼働し、めっきラインが年内に稼働する予定のほか、能力の倍増に向けて新工場も建設中だ。この部門こそ、日本製鉄が喉から手が出るほど必要としているものなのだ。 日本製鉄にとっては、日本という自国市場の成長の先細り懸念と、待ったなしで迫られるようになったカーボンニュートラルという2つの至上命題を、一石二鳥で解消してくれるはずだった起死回生策がUSスチールの買収だったのである。 まとめると、以上、縷々見てきたように、CFIUS委員長をつとめるイエレン米財務長官の日本製鉄によるUSスチールの買収への駄目出し発言は、米国頼みの日本の通商政策の危うさを浮き彫りにするだけでなく、日本製鉄の経営を奈落の底に突き落としかねない冷徹な宣告だったのだ』、「イエレン米財務長官の日本製鉄によるUSスチールの買収への駄目出し発言は、米国頼みの日本の通商政策の危うさを浮き彫りにするだけでなく、日本製鉄の経営を奈落の底に突き落としかねない冷徹な宣告だった」、深刻に捉える必要がありそうだ。
タグ:(その8)(「約2兆100億円を投じる」巨大プロジェクトのご破算が濃厚に) 日本企業の海外M&A 現代ビジネス 町田 徹氏による「アメリカの「鶴の一声」で、日本製鉄が窮地…! 「約2兆100億円を投じる」巨大プロジェクトのご破算が濃厚に」 「CFIUS・・・対米外国投資委員会)の委員長を兼ねる、米財務長官のイエレン氏は先週火曜日(4月16日)の記者会見で、「脱・日本、脱・高炉」の起死回生策になるはずだった日本製鉄の米鉄鋼大手USスチール買収に事実上の駄目出しをした。 CFIUSは米大統領直属の省庁横断の委員会組織で、主な使命は外国資本による米国企業の経営や事業、技術への出資の審査だ。 「日本製鉄」側の美醜方法上の小細工は、見破られたようだ。当然のことである。 「USスチールの従業員らが加盟するUSWが大きく立ちはだかったのだ。 USWはデービッド・マッコール会長名で今年3月1日に、米国議会上院に電子メールを送り、議会上院が日本製鉄のUSスチール買収に反対するよう求めた。その理由として、日本製鉄によるUSスチール買収が「雇用を脅かし、米国の防衛と経済的繁栄の安全保障をいくつかの点で危うくする」と主張した。それだけでなく、むしろ、こちらが本音と見るべきだろうが、労働協定や年金、福利厚生プランを巡る既得権が脅かされることへの懸念を挙げていた。 こうした要求もあり、米議会は反対の狼煙をあげた・・・日本製鉄は、米国と同盟関係にある日本企業の日本製鉄によるUSスチール買収が米国の経済安全保障に役立つと歓迎されると楽観していた・・・バイデン大統領がUSWへの肩入れ姿勢をエスカレート・・・バイデン氏は昨年12月21日に公表した声明で、まず、「USスチールは、国家安全保障に不可欠な国内鉄鋼生産の中核を担っている」との考えを表明、USWの要求に応じて、前述のCFIUSに買収の是非を精査させる方針を示した」、「日本製鉄」の読みは過度に楽観的過ぎたようだ。 「バイデン政権はトランプ政権ほどではないとはいえ、やはり本質的に「米国第一主義」に引きずられる政権だ。トランプ氏が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰を拒み、関税引き下げを含まないインド太平洋経済枠組み(IPEF)に傾注し、全米自動車労組(UAW)の強引な賃上げ要求を支持したことなどからも、肝心なところで保護主義に抗えないことを繰り返し露わにしてきたことを、我々、日本人は今一度、肝に銘じておくべきだろう」、その通りだ。 「イエレン米財務長官の日本製鉄によるUSスチールの買収への駄目出し発言は、米国頼みの日本の通商政策の危うさを浮き彫りにするだけでなく、日本製鉄の経営を奈落の底に突き落としかねない冷徹な宣告だった」、深刻に捉える必要がありそうだ。