トランプ(その52)(日本企業が恐れる「もしトラ」政策の最悪シナリオ 関税・補助金の政策転換でどんな影響が出る?、渡部恒雄氏「トランプの野望は復讐と保身」もしトラで“裏切り者”はどうなるのか?、渡部恒雄氏「トランプはタダ乗りするお荷物の同盟国が嫌い」もしトラで日本はどうなる?、34罪状すべてで...トランプに有罪評決 不倫口止め裁判 米大統領経験者で初めて、「34罪状すべてで...トランプに有罪評決、不倫口止め裁判 米大統領経験者で初めて」) [世界情勢]
トランプについては、本年3月30日に取上げた。今日は、(その52)(渡部恒雄氏「トランプの野望は復讐と保身」もしトラで“裏切り者”はどうなるのか?、渡部恒雄氏「トランプはタダ乗りするお荷物の同盟国が嫌い」もしトラで日本はどうなる?、34罪状すべてで...トランプに有罪評決 不倫口止め裁判 米大統領経験者で初めて)である。
先ずは、5月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したプリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役の秋山進氏と笹川平和財団 安全保障研究グループ 上席研究員の渡部恒雄氏による「トランプの野望は復讐と保身」もしトラで“裏切り者”はどうなるのか?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/343759
・『今年11月に米国・大統領選挙が迫り、民主党のバイデン大統領、共和党のトランプ前大統領の両候補者が選挙戦でしのぎをけずっている。日本では「もし、トランプが再び大統領に当選したらどうするか」という「もしトラ」なる流行語も生まれたが、世界情勢が混迷を究め、日々の生活に忙しいビジネスパーソンには状況を把握することがなかなか難しい。そこで、笹川平和財団上席フェロー(米戦略国際問題研究所〈CSIS〉非常勤研究員)で、米国の外交・安全保障政策の第一人者である渡部恒雄氏と、本連載『組織の病気』著者の秋山進氏が対談。激動の世界情勢、今後の米国の政治動向、「もしトラ」の可能性や、それが起きた時にどのような備えが必要なのかについて語り合った。前編では、ずばり大統領選はどうなるか、「もしトラ」でトランプが目指すものは何かなどについて議論が交わされた』、興味深そうだ。
・『共和党はいつからトランプ党になったのか 秋山進氏(以下、秋山) 共和党の予備選挙ではトランプが圧勝しました。まず、私のイメージでは、以前の共和党は今のようなポピュリズム政党ではなかった気がするのですが、共和党はいつから変わったのでしょうか。 渡部恒雄氏(以下、渡部) 確かに、トランプ以前の共和党は、富裕層や企業経営者を支持基盤とし、自由貿易と世界のリーダーシップを追求する政党でした。しかし、それは第二次世界大戦後、米国が圧倒的な富と権力を独占し、世界をリードしてきたからです。共和党の長い歴史においては、この時期が特殊だといえます。例えば戦前の共和党は「アメリカファースト」を掲げ、民主党のF.ルーズベルト大統領の第二次世界大戦への関与に反対していました。そして現在、米国が世界の圧倒的なパワーでリーダーであるという認識が米国人の中で揺らいでいます。自分達は、「世界の警察官」をする余裕はなく、アメリカファーストが必要だというトランプ氏の主張に賛同する有権者が党内を席巻し、共和党=トランプ党という図式になっている。岸田首相も米国議会での演説で「一部の米国国民の心の内で、世界における自国のあるべき役割について、自己疑念を持たれている」と発言して、核心を突きました。ただ、今そうなっているからといって、共和党が今の状態のまま続くとも限りません。 例えば、共和党の予備選において、トランプの対抗馬だったニッキー・ヘイリーが、各州の平均で約20%の支持を獲得している。ヘイリー支持者たちは、かつての共和党の政策を支持する人達で、ヘイリーの主張であるウクライナを支援してロシアの野望を断つことが、米国の安全を守るために必要だと考えています。トランプがこれらの層を取り込んでいないことは、共和党が完全にはトランプ党になっていない証拠です。 (渡部恒雄氏の略歴はリンク先参照) 秋山 私は、むしろヘイリー支援者のような人たちが、共和党の主流派だとばかり思っていたのですが。 渡部 トランプが昔ながらの共和党に反旗を翻し、歯向かった者を片っ端から排除していきましたからね。 秋山 民主党にも、似たような地殻変動はあるのでしょうか。 渡部 あります。もともと民主党には中道と左派(リベラル)が存在しています。米国には、現在の極端な貧富の差の拡大に大きな不満を抱いている人々が増えており、その一部はトランプを熱狂的に支持している。しかし、こうした層はもともと民主党支持者に多く、現在も左派勢力が大きくなっています。 彼らは中道のバイデンの政策には不満があります。民主党予備選では、ガザでの民間人の死傷者激増を受けて、イスラエル支持を続けるバイデンに抗議票を入れようという動きが広がり、中西部のミシガン州では13%、ミネソタ州では20%近くもの支持者なし票が投じられた。これがバイデン政権支持率低迷の理由の一つですし、民主党内でもバイデンが決して盤石な支持を得ていないことがわかります。 秋山 各政党で、極左と極右が目立っているけれど、本当はそのどちらでもない真ん中あたりにたくさんの人がいるというのが、これまでの常識でした。しかし、今は、とりあえず共和党とか、とりあえず民主党という人がマジョリティーではなくなっているのでしょうか。 渡部 構造的には、政党の中では中道層が薄くなり、民主党は左に、共和党は右への両極へと離れて行く状況があります。それと同時に、極端に振れる政党への嫌悪が高まり、米国社会では無党派層が増えています。ギャラップ社による3月の世論調査では、30%が共和党員、28%が民主党員と回答する一方、41%が無党派と回答しています。議会において重要な課題について、超党派で協力できる中道派が減って機能しなくなり、それを嫌った人が無党派になるという悪循環が起こっていま』、「現在も左派勢力が大きくなっています。 彼らは中道のバイデンの政策には不満があります。民主党予備選では、ガザでの民間人の死傷者激増を受けて、イスラエル支持を続けるバイデンに抗議票を入れようという動きが広がり、中西部のミシガン州では13%、ミネソタ州では20%近くもの支持者なし票が投じられた。これがバイデン政権支持率低迷の理由の一つですし、民主党内でもバイデンが決して盤石な支持を得ていないことがわかります」、「バイデン」の弱味のようだ。「30%が共和党員、28%が民主党員と回答する一方、41%が無党派と回答しています。議会において重要な課題について、超党派で協力できる中道派が減って機能しなくなり、それを嫌った人が無党派になるという悪循環が起こっています」、なるほど。
・『大統領選は果たしてどちらが勝つのか 秋山 さて、11月の大統領選挙はどうなりそうですか。 渡部 世論調査の接戦州(スイング・ステート)の動向、各候補の強み、弱みを勘案すれば、五分五分で、どちらが勝ってもおかしくない。バイデンとトランプ、どちらも嫌いだという人が25%程度いて、どちらにも勢いはありません。バイデンの4年前とトランプの8年前は、それぞれの運動に勢いがありましたが、現在はどちらの陣営も、コアな支持層を超えて支持が広がっていない。弱い候補同士で拮抗している状態です。 秋山 副大統領候補次第で勢いが変わることもあるのですか。 渡部 よく、カマラ・ハリス副大統領はなぜ人気がないのかと言われるのですが、実はこれまで、副大統領時代に人気のある人なんてほとんどいません。 秋山 ビル・クリントン大統領時代のアル・ゴアはどうでしょう。 渡部 彼の名前が残ったのは、2000年の大統領選挙でジョージ・ブッシュ大統領(第43代)とほぼ同数の支持を得て裁判闘争になったことと、「不都合な真実」という著書をベストセラーにして地球温暖化対策のさきがけとなる活動をしてきたからです。人気がある副大統領ならブッシュに負けなかったはずです。そもそも副大統領は、大統領以上に目立ってはいけないため、地味な仕事を与えられて「盲腸」とも揶揄され、人気がでるような仕事ではない(笑)。過去の人気があった元副大統領も、トルーマンのように、ルーズベルト大統領の死去により大統領になったため人気が出たわけで、副大統領時代には、ほとんど注目されていませんでした。 副大統領選定は選挙戦略の一環で、大統領候補者が苦手とする層に人気のある人物にして補完的な役割を期待するか、接戦州の元知事や元議員を選ぶなどの手段が考えられます。純粋にトランプが勝つためには、共和党内の反トランプを獲得するために、ヘイリーを副大統領にすればいいはずです。ヘイリーはインド系の女性ですからマイナリティ対策にもなる。しかしトランプは自分に忠誠を誓う人物を最優先し、ヘイリーのように国益を優先する人物は欲しくない。トランプは米国にではなく、自分にだけ忠実な人が欲しい。精神的にも自分を裏切った人を許す度量はない。 ヘイリーにしても今トランプに与するメリットはない。彼女はまだ50代前半で、これまでトランプと直接戦ってつぶされなかった唯一の人物で、共和党の2割の支持を持っている。彼女は筋金入りの保守派であり、次回は間違いなく大統領レースのトップに躍り出るでしょう。ヘイリー自身はトランプ支持を発表していないし、そうする気はないはずです。 秋山 普通、大統領候補として負けた側は勝った相手を支持すると言いますよね。 渡部 はい。ただ、今回ヘイリーがトランプを支持しなくて済んでいるのは、トランプの自業自得です。共和党候補者同士のディベートの参加者は、「最終的に誰が候補になっても応援する」という誓約書にサインをしなければならない。トランプはおそらく、サインしたくないので、ディベートに参加しなかった。だから、ヘイリーにはトランプを支持する義務はない。トランプが、もしディベートに参加していれば、ヘイリーはトランプ支持と言わざるを得なかったでしょうけれど』、「バイデンの4年前とトランプの8年前は、それぞれの運動に勢いがありましたが、現在はどちらの陣営も、コアな支持層を超えて支持が広がっていない。弱い候補同士で拮抗している状態です・・・トランプは自分に忠誠を誓う人物を最優先し、ヘイリーのように国益を優先する人物は欲しくない。トランプは米国にではなく、自分にだけ忠実な人が欲しい。精神的にも自分を裏切った人を許す度量はない。 ヘイリーにしても今トランプに与するメリットはない」、なるほど。
・『トランプは「ワンマン社長のマネジメントスタイル」 秋山 渡部さんの著書にもあったと思うのですが、言葉を選ばずに言えば、トランプは「マフィアのマネジメントスタイル」だと。 渡部 マフィアかどうかはともかく、少なくともトランプのマネジメントスタイルは、彼が自分の会社でやってきた、中小企業で圧倒的な権力を持つワンマン社長のマネジメントスタイルなんですね。だから外交にしても、直接話をして取り引きできるプーチンや習近平、金正恩、トルコのエルドアンなど、相手が独裁者であることを好みます。 秋山 「持ち帰って議会で検討します」みたいな代表者だと、まどろっこしくて相手にならないんですね。選挙で帰趨を握るのはスイング・ステートだと思いますが、支持者の分布をみると、沿岸部に民主党、内陸部に共和党というように見事に分かれていて、その間がスイング・ステートなのですね。 渡部 太平洋と大西洋が青く(民主党)、真ん中が赤(共和党)、シカゴのあるイリノイ州が青の飛び地ですね。 秋山 海を臨んで、国際的に物を輸出したり、ITや金融のようにグローバルに拡大したりすることを、各国と協調的にいろいろやっていくのが民主党ということでしょうか。 渡部 協調的なのがポイントではなく、一方的であろうとなんであろうと、他国と関わること――紛争なら軍事介入あるいは停戦努力を行う、通商なら国際貿易体制を維持する、ITや金融でも国際的なネットワークを維持することが、米国の利益となるという認識と姿勢だと思います。その点でバイデン政権や歴代の民主党政権はかなりの保護主義ですが、閉じてはいません。共和党は以前、自由貿易でしたが、トランプ後は民主党よりも保護主義が強く閉じてきています。 日本は、米国が建前で自由貿易を掲げていても、実際に自国に大きな損失となれば、「管理貿易」を押しつけてくるという実態を、70年代から90年代の日米貿易摩擦で身をもって体験しているので、米国に幻想はもっておらず驚かずに対処できる。だから日本は大統領がトランプになろうが、バイデンのままだろうが、そこそこやっていけるでしょう。 自由貿易、自由経済の原則は大切なものではありますが、いざ政治と組み合わさると、そう簡単ではない。たとえばトランプだけでなく、民主党の政治家も労働組合から大きな支援を受けているので、自由貿易の原則にこだわり過ぎれば当選できません。 かつての共和党支持者には、自由貿易により自らを豊かにできる富裕層や企業経営者が中心だった。ところが、トランプが現状に不満を持つ労働者層を支持基盤にして、共和党を金持ちと企業家の政党から、ミドルクラスに支持を広げる党に変貌させた。これは、ある意味すごいことで、共和党へのトランプの功績といってもいいかもしれません』、「日本は、米国が建前で自由貿易を掲げていても、実際に自国に大きな損失となれば、「管理貿易」を押しつけてくるという実態を、70年代から90年代の日米貿易摩擦で身をもって体験しているので、米国に幻想はもっておらず驚かずに対処できる。だから日本は大統領がトランプになろうが、バイデンのままだろうが、そこそこやっていけるでしょう。 自由貿易、自由経済の原則は大切なものではありますが、いざ政治と組み合わさると、そう簡単ではない」、「日本」はトランプ以前からさんざん煮え湯を飲まされてきたので、どうということはなさそうだ。「トランプが現状に不満を持つ労働者層を支持基盤にして、共和党を金持ちと企業家の政党から、ミドルクラスに支持を広げる党に変貌させた。これは、ある意味すごいことで、共和党へのトランプの功績といってもいいかもしれません」、なるほど。
・『トランプ支持者とは?USスチール買収問題を都合よく利用 秋山 トランプは政権にあって、4年間減税しましたが、結局もうかったのはお金持ちだけ。格差はますます広がったという印象です。応援していたミドルクラスの人たちに、一体恩恵はあったのでしょうか。 渡部 全米の成人の1/4 を占めるといわれる福音派(※エヴァンジェリカルズ)にとっては明らかに恩恵がありました。この人たちは宗教上の理由から妊娠中絶の禁止を求めてきたのですが、トランプが大統領時代に3名の保守派の判事を任命して、保守派対リベラル派の構成を6対3にして保守派に力を与え、最高裁は中絶を女性個人の権利として認めた1973年の判例を覆し、州政府が中絶を非合法化できる立法を可能にしました。 ※キリスト教のプロテスタントの潮流のひとつ。聖書の記述を忠実に守り、伝道を重視し、積極的に行動することを旨とする。米国では宗教別人口の約4分の1を占め、主流派のプロテスタントを上回る最大勢力である。 一方、労働者は、減税の恩恵が大企業や富裕層に偏るトランプの経済政策を歓迎しないと思うかもしれませんが、そうではありません。トランプ時代はオバマ前政権の政策の効果により、経済がよくなったので低所得層にも恩恵があった。これまで民主党に投票してきても、まったく生活が良くならなかった低所得者層にとっては、トランプへの期待は上がっています。少なくともトランプは自分達のことを真剣に考えてくれていると、思わせている。そこまでトランプを信じていなくとも、貧富の格差が固定化した米国では、既得権益層を優先するエリート政治家は、共和党であれ、民主党であれ期待できないが、少なくともトランプは現状を壊してくれる可能性があると期待しているのです』、「貧富の格差が固定化した米国では、既得権益層を優先するエリート政治家は、共和党であれ、民主党であれ期待できないが、少なくともトランプは現状を壊してくれる可能性があると期待しているのです」、トランプの強みだ。 トランプ陣営とバイデン陣営の間で労働者層を獲得しようと躍起になっている状況で、日本製鉄(日鉄)によるUSスチールの買収は、いや応なく選挙戦に巻き込まれてしまいました。USスチールの製鉄所の一つがあるミシガン州は、大統領選挙の帰趨を決める接戦州の一つです。バイデンの民主党は、伝統的に労働組合の支持をバックにしていますが、トランプは2016年にはミシガン州の労働者層を惹きつけ、ヒラリーに勝利しました。今回も、労働者を味方につけるために日鉄の買収に反対を表明しました。バイデンも、みすみす全米鉄鋼労組(USW)の支持を失うわけにはいきませんから、日鉄の買収は対米外国投資委員会(CFIUS)できちんと精査すべきだと、けん制せざるを得ませんでした。接戦州で労働者層の票を獲得するために、両陣営は「保護主義」の競争をしているのです』、「日本製鉄(日鉄)によるUSスチールの買収」は、誠に拙いタイミングに直面したものだ。「日本製鉄」もこうした事情を理解して臨んでいる筈だが、どこに誤算があったのだろう。
・『米国はイスラエルをコントロールできるのか 秋山 バイデンが継投する可能性もあるということですが、バイデンもすでに「死に体」に見えます。今回のイスラエルのイランの大使館への爆撃など、米国の制御力がなくなり、イスラエルになめられている感じがします。 渡部 イスラエルの軍事作戦によるガザでの民間人の死者が3万人超となっている中で、パレスチナに同情的な民主党のリベラル派と若年層は、イスラエル支持を変えないバイデンに不満を持っている。民主党の予備選では、NGOがバイデンへの抗議のために「支持なし票」を投じる運動が活発化し、接戦州のミシガンでは13.8%を占めました。 一方で共和党はイスラエル支持でまとまっており異論は少ない。イスラエルとハマスの衝突について、どちらが良い政策を執れるかという質問に、トランプ46%、バイデン38%と、トランプが8ポイントも上回っている(参照)。 秋山 トランプ時代は、今のイスラエルのネタニヤフ首相と娘婿のジャレッド・クシュナーが家族ぐるみの付き合いで、イスラエルべったりの政策をとっていましたよね。米国大使館をテルアビブからエルサレムに移したことも記憶に新しい出来事です。 渡部 一つにはハマスにもイスラエルにも強硬な姿勢を取ることができ、予測不能なトランプの方が、ハマスもイスラエルも言うことを聞くのではないかと考えている米国民が多いということでしょう。実際、トランプはネタニヤフ首相と関係が近く、過去の保守派政権と比べても、極端なイスラエル寄りの政策をとってきました。しかし、2020年の選挙でトランプに勝利したバイデンに対して、ネタニヤフが祝福のメッセージを送ったことを根に持ち関係は悪化した。ハマスがイスラエルにテロ攻撃を行った際には、「(ネタニヤフ氏は)準備ができていなかった。トランプ政権下なら準備する必要はなかっただろう」と批判し、やはりイスラエルと衝突しているレバノンの武装組織ヒズボラを「非常に賢い」と評しました。トランプの度量の小ささが、結果オーライになっている(笑)。 秋山 ただ、政治において、イメージだけでも「やるときはやるぞ」と思わせる強さは重要ですよね。 渡部 ええ。トランプには、何をするかわからない怖さがある。外交でもそういう期待を持たせることができる。反対にバイデンは見た目が弱そうなだけではなく、強硬外交を嫌う民主党内の左派に配慮しなくてはならないため、強硬路線を打ち出しにくいという内部事情もある』、「トランプはネタニヤフ首相と関係が近く、過去の保守派政権と比べても、極端なイスラエル寄りの政策をとってきました。しかし、2020年の選挙でトランプに勝利したバイデンに対して、ネタニヤフが祝福のメッセージを送ったことを根に持ち関係は悪化した。ハマスがイスラエルにテロ攻撃を行った際には、「(ネタニヤフ氏は)準備ができていなかった。トランプ政権下なら準備する必要はなかっただろう」と批判し、やはりイスラエルと衝突しているレバノンの武装組織ヒズボラを「非常に賢い」と評しました。トランプの度量の小ささが、結果オーライになっている(笑)」、「トランプの度量の小ささが、結果オーライになっている」とは言い得て妙だ。
・『「もしトラ」でトランプは何を目指すのか 秋山 前回のトランプ政権の時、渡部さんは、「ストイックな職業軍人のマティスが国防長官で、国務長官はエクソンモービル元CEOのティラーソンという、それなりの閣僚を任命しているので、そんなにひどいことにならない」とおっしゃっていました。その後、彼らは辞任したり、解任されたりしました。閣僚に質のいい人は集まるのでしょうか。そして二期目に何を目指しているのでしょうか 渡部 初心者で政府の動かし方を何も知らなかった一期目とは異なり、今やトランプが閣僚やスタッフに求めるのは、彼に対する忠誠心だけです。トランプの目標はある意味で非常にシンプルです。おそらく4年だけとなる来年からの大統領任期の間に、大統領権限を使って、自分に降りかかっている複数の刑事訴追と民事訴訟を無効にするような対策をすることでしょう。 例えば、ニューヨーク州で不動産事業をしている自身の会社、トランプ・オーガナイゼーションは、かつて虚偽の申告で資産を過大に見せかけたことが立件され、同州でビジネスができなくなる可能性があります。 これらを無効にする方法は、大統領の持つ恩赦などの権限を自分や身内に適用することだと考えていると思います。現在も、大統領が任期中に行ったことは法的に免責されるべきだという訴えも起こしています。これらは簡単ではないだけに、大統領になった際に「力技」でなんとかしたいはずで、そのために閣僚やスタッフを選ぶ条件は、自分への忠誠心が最優先で、その前に憲法や国益を優先するような人物を使うつもりはないはずです。 もうひとつは、自分の敵を徹底的に痛めつけ、復讐することです。実際、トランプは自分と同じようにバイデンとその家族を起訴しようと動いています。この二つの目的を達成するために、政権運営していくのでしょう。外交での実績は、自身を恩赦するための理由ともなりますし、経済の実績は支持率を上げ、無理な「力技」を行いやすくします。徹頭徹尾、自己利益だけで動くと考えればいいと思います。日本人は、なぜ米国民はそのような人物を支持するのかと疑問に思うかもしれませんが、米国社会の基本は、セルフ・インタレスト(個人の利益)の肯定であり、それが前提のお国柄です。良くも悪くも、日本とは社会の成り立ちが違うのです。 秋山 大統領の任期が終わったときに、後顧の憂いなくやめたい。 渡部 後任の大統領が恩赦してくれるようにという計算もしているでしょう。ウォーターゲート事件(※)で起訴されたニクソン大統領は、自身の副大統領で、後任となるフォード大統領によって有罪判決前に恩赦されている。米国にはそういう伝統があります。すでに共和党予備選では、トランプ支持者の票を獲得するために、反トランプのヘイリーを始め、多くの候補者が、大統領になったらトランプを恩赦すると発言しています。だからこそヘイリーよりも、より自分に忠誠心を持つ人間を副大統領に指名したいはずです。 ※1972年の大統領選挙戦の際に、ニクソン大統領の関係者である共和党関係者がウォーターゲートビル内の民主党本部の電話を盗聴しようとして発覚。これをきっかけとして、ニクソン大統領が辞任に追い込まれた。 秋山 トランプ政権のペンス元副大統領はトランプに忠実に見えましたが、最後にはトランプから見ると裏切る行為をしましたよね。 渡部 ペンスは熱心な福音派で、トランプが保守的な政策を行うことを期待して、支えてきた。ところが、トランプはバイデンが当選した大統領選挙結果を根拠なく否定して、覆そうとした。これは合衆国憲法と民主主義への明確な反逆であり、愛国者のペンスには容認できなかった。トランプ不支持に転じたのは、トランプを裏切ったというよりも、合衆国憲法と民主主義を守ることを優先するペンスの明確な信念に基づいた行動だったと思います』、「今やトランプが閣僚やスタッフに求めるのは、彼に対する忠誠心だけです。トランプの目標はある意味で非常にシンプルです。おそらく4年だけとなる来年からの大統領任期の間に、大統領権限を使って、自分に降りかかっている複数の刑事訴追と民事訴訟を無効にするような対策をすることでしょう」、既に裁判の第一審では有罪が宣告されたが、上告して時間かせぎをするのだろう。「ペンスは熱心な福音派で、トランプが保守的な政策を行うことを期待して、支えてきた。ところが、トランプはバイデンが当選した大統領選挙結果を根拠なく否定して、覆そうとした。これは合衆国憲法と民主主義への明確な反逆であり、愛国者のペンスにはの容認できなかった。トランプ不支持に転じたのは、トランプを裏切ったというよりも、合衆国憲法と民主主義を守ることを優先するペンスの明確な信念に基づいた行動だったと思います」、「ペンス」は想像以上に強い「信念」の人だったようだ。
・『イスラエルとトランプの関係 秋山 では、「もしトラ」なら、政権は、本当に身内だけになる。そして移民に厳しく、貿易赤字が多い国には、関税をかけて…… 渡部 忠誠心のある身内の政府になるでしょうね。例えば、トランプ政権時代に通商政策を主導したライトハイザー氏などの反自由貿易主義者が、政権入りするはずです。関税については、一番大きな対米貿易黒字国の中国が最初のターゲットになるでしょう。日本も中国ほどではないにしても、黒字なので、例外ではありませんが、まずは中国です。 秋山 そして、ネタニエフに遺恨はあっても、イスラエルは支持する。 渡部 裁判費用に多額の費用を使っているため、選挙資金でバイデン陣営に負けているため、ユダヤ系ビジネスからの政治献金も極めて重要です。トランプの支持者には、故シェルドン・アデルソンというカジノ企業「ラスベガス・サンズ」CEOのユダヤ系米国人の大富豪がいました。彼はシオニスト(※)として有名で、大統領就任式の費用は、彼がほとんど出費しました。トランプは大統領時代にミリアム・アデルソン夫人に名誉ある大統領自由勲章を授与しましたし、シェルドン没後、彼女が「サンズ」を引き継いでいます。 トランプにとってはキリスト教福音派の支持が重要ですが、福音派は強固なイスラエル支持者です。福音派とは、聖書に書かれた神の言葉だけを信じる人たちであり、パレスチナがイスラエルの民の国であることが旧約聖書に書かれており、またキリスト教の聖地でもあるエルサレムをイスラム教徒から守るためにも、イスラエルを支持しています。 ※シオニスト、シオニズム 古代ローマ軍にパレスチナを追われて以来、世界各地に離散していたユダヤ民族が、母国への帰還をめざして起こした民族国家建設のための運動。19世紀末から盛んとなり、1948年、パレスチナにおけるユダヤ人国家イスラエル共和国を建設、当面の目的を達成したシオニストはこの思想に基づいて行動する人々。 (本文敬称略)』、通商問題では、「一番大きな対米貿易黒字国の中国が最初のターゲットになるでしょう。日本も中国ほどではないにしても、黒字なので、例外ではありませんが、まずは中国です」、「中国」に対しては米国内に根強い中国寄りのグループもあることから楽観できない。やはり日本独自に対抗戦略を練るべきなのではなかろうか。
次に、5月/20日付けダイヤモンド・オンラインに掲載されたプリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役の秋山進氏と、笹川平和財団 安全保障研究グループ 上席研究員の渡部恒雄氏との対談「渡部恒雄氏「トランプはタダ乗りするお荷物の同盟国が嫌い」もしトラで日本はどうなる?」を紹介しよう。
・『笹川平和財団上席フェローで、米国の外交・安全保障政策、アジアの安全保障の第一人者である渡部恒雄氏と、人気連載『組織の病気』著者の秋山進氏が、激動の世界情勢、今後の米国の政治動向などについて語り合った対談の後編。「もしトラ」の場合、トランプ元大統領は「台湾を中国とのディールに使うこと」はありうるのか、日本がとるべき方策はどういうものかにまで話題が広がった。 前編はこちら>『渡部恒雄氏「トランプの野望は復讐と保身」もしトラで“裏切り者”はどうなるのか?』、興味深そうだ。
・『起こっている良いことはすべて自分の功績、悪い事はすべて他人の失敗 秋山進氏(以下、秋山) 米国の移民政策についておうかがいしたいです。「移民を排斥するのはけしからん」というのは簡単です。しかし、例えば、今インバウンドで潤っている日本の地域でも、来日してくれる人全員が移民となって日本に定着したら、おいそれと、来日する人を歓迎できるとは言えなくなると思うのですね。 渡部恒雄氏(以下、渡部) まさにメキシコ国境からの不法移民の流入をいかに押し止めるかということが共和党の主張となり、今回の米国大統領選挙の争点になりますね。例えば、欧州でも、フランス極右政党である、国民連合第2代党首だったルペン氏などは、トランプと共闘したいと考えるでしょうし、欧州では移民排斥をうたう右派の政治家が台頭しています。 米国のメキシコ国境からの移民対策に関しては、長い目でみると、共和党であろうが、民主党であろうが、これまでうまくいったためしがない。だから現職は不利です。この点で、トランプは運がいいし、今起こっていることを自分の手柄にできる。トランプは、8年前の選挙でメキシコ国境に壁を建設するという公約で大統領になりましたが、壁建設は未完のままです。しかし、コロナ感染対策を理由に、緊急対策としてメキシコ国境から流入する移民希望者を止めました。コロナが明けた後、バイデン政権としては、移民に寛容な党内左派の意向も考え、緊急対策を解除したので、爆発的に移民希望者と不法入国者が増えてしまった。 客観的にみれば、トランプがメキシコ国境からの移民希望者の入国を止めていたことも、現在の入国希望者の爆発的増加の理由の一つです。しかも国境閉鎖を主張するトランプが大統領に来年復帰する可能性が、今の移民殺到に拍車をかけている(笑)。しかし米国民は今の現象しか見ませんので、トランプ時代の方が移民流入は少なく、政策をうまくやっていたと勘違いする。今、移民が殺到しているのはバイデンのせいだけではないのに』、政治家の評価はどうしても短期的視点で行われてしまうのは宿命のようだ。
・大きな目でみれば、この問題の根源は、中南米諸国の経済と治安が極めて悪い事で、母国で生命をおびやかされた人々が命懸けで米国に向かっている状況を変える必要があります。例えば、オバマ政権時代には、バイデンが副大統領として、コロンビア政府の麻薬組織との闘いを援助していました。直接の移民対策よりは、構造的解決がないかぎりと危機は収まらないのですが、目前の移民流入に危機感を持つ米国人に、そのような悠長な政策をいっても説得されません。 渡部恒雄氏の略歴はリンク先参照) 「米国のメキシコ国境からの移民対策に関しては、長い目でみると、共和党であろうが、民主党であろうが、これまでうまくいったためしがない。だから現職は不利です。この点で、トランプは運がいいし、今起こっていることを自分の手柄にできる。トランプは、8年前の選挙でメキシコ国境に壁を建設するという公約で大統領になりましたが、壁建設は未完のままです。しかし、コロナ感染対策を理由に、緊急対策としてメキシコ国境から流入する移民希望者を止めました。コロナが明けた後、バイデン政権としては、移民に寛容な党内左派の意向も考え、緊急対策を解除したので、爆発的に移民希望者と不法入国者が増えてしまった。 客観的にみれば、トランプがメキシコ国境からの移民希望者の入国を止めていたことも、現在の入国希望者の爆発的増加の理由の一つです」、 秋山 ここまで、お話をうかがって、ますます世界情勢は「複雑怪奇」という気がしてきましたが。 渡部 いえいえ、世界情勢が複雑なのは、今に始まったことではありません。第二次世界大戦勃発前夜、当時の日本の首相・平沼騏一郎は同盟関係を結ぼうとしていたドイツが、独ソ不可侵協定を結んだことで、「欧州の情勢は複雑怪奇なり」と言って内閣を総辞職しました。これは当時の日本の指導者が、アナーキー(無政府状態)な国際関係における国家の権謀術数を基本的に理解していないナイーブさと、決定的なインテリジェンス(情報と分析)の欠如を示しているだけです。 日本は領土を海に囲まれた国で、ロシアのウクライナ侵攻のような陸上侵攻や米欧の国交からの移民殺到のような経験がない。それゆえに鈍感でナイーブなところもありますが、ある意味ではラッキーです。より厳しい環境にある他国の状況や考え方を理解するためのインテリジェンス能力を高めることで、日本は将来にわたって生き残っていけるはずです。 秋山 ただ、トランプが貿易(お金)にしか関心がないとしたら、中国が対米黒字を減らすなら、アジアで好き勝手をしてもいいというお墨付きを与えないか心配です。 渡部 確かにトランプは、台湾防衛に価値を見出していません。習近平とは通商問題についてディールをして米国の貿易赤字を黒字化して成果を上げたいと考えるかもしれません。台湾の防衛を中国とのディールの材料にすることは、すでに懸念されています。英エコノミスト誌は「もしトラ」のリスクの一つとして、トランプが習近平と台湾の帰属をディールの材料にしようとする一方で、トランプ周囲の専門家は、反中親台派が多いため、結果として米国が中国側に複雑なメッセージを送ることで、台湾海峡が緊張しかねないと懸念しています。私は同じ理由から、トランプは身内に反対が強い中国とのディールよりも、より達成が楽なロシアや北朝鮮とのディールを優先するのだろうと考えています。 秋山 一方で、中国は高齢化が進み、国内も不動産バブルの後始末で危うく経済も悪くなっています。米国のライバルとして存在し続けることができるのでしょうか』、「トランプは身内に反対が強い中国とのディールよりも、より達成が楽なロシアや北朝鮮とのディールを優先するのだろうと考えています。 秋山 一方で、中国は高齢化が進み、国内も不動産バブルの後始末で危うく経済も悪くなっています。米国のライバルとして存在し続けることができるのでしょうか」、「ロシアや北朝鮮とのディールを優先」とは困ったことだ。
・『米国はアジアでどこか一国が強くなるとけん制する 渡部 米国は、中国が自国に代わる世界の覇権国となることまで警戒しているわけではないと思います。あくまでインド太平洋地域における中国の覇権に対抗し、今や世界の経済成長の中心となっているこの地域の米国の経済利益を確保することが目的だと思います。 短期的には、中国の経済が悪くなって、追い詰められた習政権が、国民の不満を逸らすために台湾や近隣国に強硬姿勢を強めることも警戒しています。一方で、中国の経済停滞が続き、軍事力も弱くなり、軍事的な暴発のリスクが低下すれば、米国はむしろ中国の国内分裂によるリスクを防ぐために中国を助けるようになることも、長期的に視野を取ればあり得るのです。 歴史から学べる米国の戦略は、ひとことでいえば、東アジアにおいて米国以外の覇権国の出現を防ぐことといえます。かつてロシアが南下して東アジアの覇権を狙っていた時代、米国は英国とともに日本のロシアとの戦争を間接的に支援しました。しかしその後、強くなった日本が中国大陸に「傀儡国家」の満州国を建国し、中国をコントロールしようとすると、逆に中国を支援して日本の覇権国化を防ごうとした。戦後は共産化した中国に対抗して日本との同盟関係を結び、70年代にはソ連に対抗するために中国との関係改善を行った。80・90年代は日本の強い経済力による日本の覇権化を懸念して、日米貿易摩擦の時代となった。 今の米国の戦略は、中国の地域覇権を好ましく思わない日本とインドを、対中バランサーとして、バックアップする戦略を取っている。しかも日本は非同盟姿勢を貫くインドに比べても、「頼れる同盟国」という存在です。このような地政学的環境と米億の長期戦略姿勢は、トランプが政権に返り咲いても変わらないと思います。 秋山 東アジアのバランスを維持するカードのひとつが日本ということなんですね。岸田首相の訪米時の演説では、東アジアにおいて日米関係があるからこそ、この地域の安定が保たれているというようなことを言っていましたが、おそらくトランプにはそんな意識もない。 渡部 皆無ですね。トランプは歴史から学びませんし国家観もないので、一貫して同盟国が嫌いです。米国の経済と軍事にタダ乗りする単なるお荷物と考えている。同盟国のおかげで米国も恩恵を受けているという面は理解しないので、安全保障などはどうでもよく、金銭に換算できる目に見える利益にしか興味がない。当然のことながら、在日米軍のコストは米国の持ち出しだから、日本は負担費用以上に米国に金を出すべきという発想になる。 秋山 NATO(北大西洋条約機構)も嫌いですよね。かつては世界中に米軍がいて、警察の役割を果たすことで、トータルでは米国が得するという考え方があったと思いますが。 渡部 その考え方も米国では弱まっています。もともと、中西部に住む人達は、外国にいったこともなければ、米国が世界の安定を支えていることなどに興味はありません。むしろ、中流層は鉄鋼などの古い産業に従事し、ハイテク企業が収益を上げているグローバル経済からの恩恵に取り残されて、不満を持っている。トランプはそういう人たちの心をつかんだ』、「トランプは歴史から学びませんし国家観もないので、一貫して同盟国が嫌いです。米国の経済と軍事にタダ乗りする単なるお荷物と考えている。同盟国のおかげで米国も恩恵を受けているという面は理解しないので、安全保障などはどうでもよく、金銭に換算できる目に見える利益にしか興味がない。当然のことながら、在日米軍のコストは米国の持ち出しだから、日本は負担費用以上に米国に金を出すべきという発想になる」、「日本」としては理論武装しておく必要がある。
・『トランプにとって中国とのディールは面倒 秋山 そんな中では、もし中国が尖閣諸島まで上がってきたとしても、知らんと言いそうです。 渡部 中国が尖閣諸島を占拠した場合の対処は、すべての米国の指導者に悩ましいジレンマを突き付けます。日本とともに軍事行動をすることで、中国との戦争に発展するエスカレーションのリスクを覚悟しなくてはならないからです。トランプに即して考えれば、日本と共に軍事行動を取らない理由は日本を見捨てることで、中国が何かトランプに(米国の、ではないですよ)大きな利益を与える場合ということになるでしょう。逆に日本を守ることで、トランプ個人が大きな利益を得るようであれば、それも選択肢であり、両国からの利益を天秤で測って考えるのではないでしょうか。日本は頭の体操をしておいた方がいい。少なくとも、彼には同盟関係を維持することが、米国の長期的な利益と力になるという発想はないはずです。 ちなみに、尖閣諸島に関しては、日本は単独で守り切るだけの海上保安能力とそれをバックアップする海上自衛隊の能力があり、米国に頼るような状況にはありません。ただし直近の日米共同声明などでも、米国は尖閣防衛にコミットしており、米国との衝突を恐れる中国に対する抑止力になっています。日本はかつてのように自国の防衛を米国にすべて依存するような状況にはなく、日米で東アジア地域の安定を維持していくという方向に日米同盟は変質してきています。 むしろ課題は米国の正式な同盟国ではない台湾の防衛です。日米同盟は、中国の武力による台湾統一を未然に防ぐような抑止力を維持していく必要があります。その点で、同盟の価値を理解しないトランプ登場は懸念材料です。 秋山 習近平にとっては、「核心的利益」である台湾は「絶対に損なわれてはならない」と言うくらい、なんとか米国と取引して、台湾を取りたい気持ちはあるでしょう。けれど、中国も経済的に苦しくなっている。中国の対米貿易黒字をなくすことは見返りになりませんか。 渡部 先にも述べましたが、トランプの優先順位としては低いでしょう。そもそも、中国に60%の関税をかけると訴えているトランプにしてみれば、わざわざ台湾を取引材料にしなくても、中国に一方的に関税をかければ済むことですからね。そもそもトランプが大統領になっても、すでに4年の大統領を経験している彼は、憲法上の制約で一期4年間しか任期がありません。おそらく確実に成果を得られるディールを急ぐでしょう。第一はウクライナとロシアの停戦のディール、第二が北朝鮮の金正恩の核開発停止のためのディールでしょう。ウクライナ戦争のもたらす被害は深刻ですし、北朝鮮がアメリカに届く核ミサイルを完成させるのは時間の問題ですから、もし達成できればノーベル平和賞ものです。 秋山 トランプの国内人気も沸騰する……と。 渡部 その実績をもって、自分に降りかかる訴訟関係を一切「チャラ」にする。 トランプにとってはプーチンや金正恩とディールをするほうが楽な上に、米国の議会には、共和・民主共に台湾支持者が非常に多い。第二次世界大戦前にも、大陸を支配していた蒋介石率いる国民党のロビー活動が、ルーズベルト大統領と米国を親中反日にした。この流れをくむ今の台湾ロビーの米国議会への影響力はとても強い。トランプといえども、台湾を見捨てるのは一筋縄ではいかないはずで、優先順位は低いはずです。 秋山 確かに台湾は得るものがなさすぎるので、おっしゃるとおり、ウクライナの優先順位が高いですね。 渡部 4月後半、下院がそれまで止まっていたウクライナ支援の歳出法案をやっと通しましたが、実はトランプにとってはそれほど悪いことではない。今、議会がウクライナ支援予算を止めてしまえば、自分が大統領になったときに、ゼレンスキーを停戦のテーブルにつけるためのカード「停戦に合意しなければ、支援を止めるぞ」というものが失くなります。 トランプは、ウクライナ支援に反対する態度をとっていましたが、途中からウクライナ支援は供与でなく融資ならやってもいいと態度を軟化させました。今回の支援法案は、一部融資の形にしてトランプを納得させました。トランプを説得してきたジョンソン下院議長は、共和党の強硬派から解任するとおどされていますが、トランプは彼を擁護しています。トランプも自分の対ウクライナカードを温存する意義を理解しているのでしょう。 秋山 停戦は実現するに越したことはないですが、トランプの胸三寸で動くとは、恐ろしい世の中になりますね。 渡部 何度も申し上げているように、トランプは戦争終結や核開発断念が主目的ではない。まとめる「ふり」で国民の自分への「視聴率」が上がればよい。最終的にウクライナとロシアの停戦が不成立でも、「トランプ劇場」という番組で自分の人気を上げて、訴追を帳消しにするような実績ができればいいわけです。 秋山 でも、それは結果的に米国のプレゼンスを下げることになりますよね。 渡部 おそらくトランプは、長期的な米国の評価や国益、共和党への信頼維持も、一切考えてはいません。終始一貫、自分の生き残りと利益優先です。しかも、トランプ支持者の多くは、それでいいと思っている。彼らは、現状の経済における貧富の差の拡大や、国内対策がおろそかになる世界への関与に不満を持っているため、トランプが、今の米国の体制を全部ひっくり返してくれることだけを期待しています。トランプが米国を建設的によい方向へ導いてくれることなどは、はなから期待していない。トランプがぶっ壊した後に、誰か別の人間が出てくるだろうくらいに考えているはずです。 秋山 だとすれば、一時期はかなりの混乱を引き起こすことになりますね。でも、まさにそれを米国国民は期待していると。そして短期的には日本にとってそんなに厳しいことにはならないというわけですね? 渡部 世界の混乱は日本にとっては深刻です。軍事的にも経済的にも、より自立する覚悟が日本人に求められるでしょう。ただし、トランプ再選となり、米国が日本に対して直接要求してくるものは、欧州や韓国と比べれば、それほど深刻なものはないはずです。安倍元首相は上手にトランプとつきあって、日米間ではトランプ政権での二国間通商交渉はすでに妥結しています。しかも、トランプの認識はともかく、政権の安保スタッフや米軍にとっては、日本は中国や北朝鮮と対抗するために最も重要な国です。トランプは金正恩を喜ばせるような在韓米軍の引き揚げは検討するかもしれないが、在日米軍の撤退はその先のことで、その頃には政権任期が終わっていることでしょう。 秋山 4年では引き揚げは無理ですね。 渡部 中国とディールするためにも、中国の目の前に軍事力を置いてにらみを利かせるのが効果的なことを、トランプはよくわかっている。大統領だった時、トランプは金正恩と何度か会談しました。正恩がなぜ交渉のテーブルについたかというと、米韓の軍事演習を相当頻繁にやって、北朝鮮が言うことを聞かなければ「世界が見たことがないような炎と怒りに直面する」(※)と脅しをかけたからです。 トランプは同盟国を信用していなくても、自国の軍事力の効果は信じているし、脅しが有効なことも熟知している。在日米軍は長期的には要らないと思っているかもしれないが、日本がお金を出すなら置いてやってもいいし、在日米軍は中国や北朝鮮に脅しをかけることには有益だと思っているはずです。 ※2017年8月8日トランプの発言)』、「中国が尖閣諸島を占拠した場合の対処は、すべての米国の指導者に悩ましいジレンマを突き付けます。日本とともに軍事行動をすることで、中国との戦争に発展するエスカレーションのリスクを覚悟しなくてはならないからです。トランプに即して考えれば、日本と共に軍事行動を取らない理由は日本を見捨てることで、中国が何かトランプに(米国の、ではないですよ)大きな利益を与える場合ということになるでしょう。逆に日本を守ることで、トランプ個人が大きな利益を得るようであれば、それも選択肢であり、両国からの利益を天秤で測って考えるのではないでしょうか。日本は頭の体操をしておいた方がいい。少なくとも、彼には同盟関係を維持することが、米国の長期的な利益と力になるという発想はないはずです。 ちなみに、尖閣諸島に関しては、日本は単独で守り切るだけの海上保安能力とそれをバックアップする海上自衛隊の能力があり、米国に頼るような状況にはありません。ただし直近の日米共同声明などでも、米国は尖閣防衛にコミットしており、米国との衝突を恐れる中国に対する抑止力になっています。日本はかつてのように自国の防衛を米国にすべて依存するような状況にはなく、日米で東アジア地域の安定を維持していくという方向に日米同盟は変質してきています。
・『日本の「もしトラ」対応、実はシンプル 秋山 トランプから見たときに、自分たちをどういうふうに使ってもらうと彼にとってメリットがあるカードなのかを考えれば、どう対応すればいいかがわかるということですね。 渡部 ええ、気まぐれもありますが、首尾一貫しています。現象だけ見ると、よくわからないかもしれませんが、自分の利益、訴訟をどう免れるかだけを考えている、というところを押さえれば、見誤ることはないと思いますね。外交経験者ならこんなことは慣れっこです。米国が民主主義国家だと思うと誤解してしまいますが、独裁国だと思えば、普通のことです。 秋山 日本は、在日米軍の費用負担をこれ以上求められたら苦しいということもあると思いますが、そのあたりはいかがですか。 渡部 トランプはお金の計算があまりできない人(笑)で、実は日本は既にかなり費用負担している。100%出せと言われても出せないことはないが、トランプは守ってやっているんだからもっと出せと、「用心棒」的な発想で要求してくるかもしれません。 ただし、日本は自分たちの防衛能力の強化のために、岸田首相は27年度に防衛費をGDP2%に増額すると言っている。これもかなり苦しいのですが、逆に、「トランプが言っているから」と、2%を達成するための外圧として使ばいいでしょう。 さらにトランプは3%と要求してくるでしょうが、日本としては「わかった、ただ、今はとりあえず2%で、3%は将来目標だ」と言えばいい。そのうちにトランプの任期が終わるでしょう。 増えた防衛費は、新しい装備、人件費や自衛隊の待遇向上に使うことになると思いますが、重要なのは、自衛隊基地の防備の強化です。有事の際に、中国からミサイル攻撃を受けた際に、戦闘機が飛べなくなれば、日本の領域を守れません。現在の自衛隊基地の防護力を高める必要があります。中国からのミサイルをけん制するためには、日本も中国に届くミサイルが必要であり、米国製巡航ミサイル・トマホークの導入を決定しました。これは相当な費用になる。日本の防衛費の増加は、米国の軍需産業を潤わせるということを、繰り返し、トランプに伝える必要がある。トランプの目標は、会社の社長と一緒で、米国が赤字にならずに、収益を上げればそれでいい。そう考えてくれるのは、ある意味わかりやすく、日本がやれることは多いと思います。 うまく機嫌を取って、おだてて、気持ちよくして、お金の面ではこれだけ米国が得をしますよと言うんです。安倍元首相はトランプに会うときには必ず、日本の投資で米国でこれだけの雇用が生まれているというような数字を準備して伝え続けていました。言い続けないと、トランプはすぐ忘れるので何度も何度も話をしたそうです(笑)。 秋山 本当に、オーナー企業の社長に取り入る方法と全く同じですね。「社長、うちとの取引で、社長はこれだけ得をしてるんですよ、前に言ったでしょう」「そうだったかね」「この帳簿にちゃんとあるでしょう、忘れないで下さいよ」みたいな(笑)。日本の外交筋もそこは押さえているわけですね。 渡部 今回の訪米で、岸田首相は、議会演説を成功させましたが、共和党側の協力もあった。共和党のウィリアム・ハガティ上院議員は、トランプ政権下で駐日大使になった人で、トランプとの関係が非常に良く、日本の味方になる人です。 秋山 最後の駄目押しですが、トランプ、バイデンは今のところ五分五分。とはいえ、どちらが優勢ということはあるのでしょうか。 渡部 一般的にはトランプ優位ですが、外交筋はバイデンにも勝機があると見ているようです。ただ経済は重要です。インフレが進行すると現職不利、トランプ優位です。浮動票は基本的に所得が低い人が多く、物価高で生活がかなりの影響を受けるからです。今まで米国はインフレを抑えつつ、景気も維持できていた。今、景気は維持できていますが、インフレを抑えきれていない。あとは高齢リスクですね。二人とも高齢ですが、バイデンが候補者同士のディベートで、致命的な間違いをすれば、高齢化のせいにされて批判が集まり、不利になります。 秋山 刺激的な解説で、大変おもしろかったです。今回のお話で、押さえるべきポイントがはっきりし、こんがらがった状況の視界が晴れました。有難うございました。第三者的に考えれば米国政治は面白いですね。 渡部 少なくとも日本の政治よりはずっと面白いでしょう(笑』、 「むしろ課題は米国の正式な同盟国ではない台湾の防衛です。日米同盟は、中国の武力による台湾統一を未然に防ぐような抑止力を維持していく必要があります。その点で、同盟の価値を理解しないトランプ登場は懸念材料です」、「日米同盟は、中国の武力による台湾統一を未然に防ぐような抑止力を維持していく必要があります。その点で、同盟の価値を理解しないトランプ登場は懸念材料です」、その通りだ。
第三に、5月31日付けNewsweek日本版がロイターを転載した「34罪状すべてで...トランプに有罪評決、不倫口止め裁判 米大統領経験者で初めて」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2024/05/34-21.php
・『トランプ前米大統領が不倫口止め料を不正に会計処理したとされる事件で、ニューヨーク州地裁の陪審は30日、トランプ氏に有罪の評決を下した。米大統領経験者に対する有罪評決は初めてとなる。 陪審は2日間の審議の末、34件の罪状全てで有罪と判断した』、「トランプ氏」は上告するようだ。
先ずは、5月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したプリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役の秋山進氏と笹川平和財団 安全保障研究グループ 上席研究員の渡部恒雄氏による「トランプの野望は復讐と保身」もしトラで“裏切り者”はどうなるのか?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/343759
・『今年11月に米国・大統領選挙が迫り、民主党のバイデン大統領、共和党のトランプ前大統領の両候補者が選挙戦でしのぎをけずっている。日本では「もし、トランプが再び大統領に当選したらどうするか」という「もしトラ」なる流行語も生まれたが、世界情勢が混迷を究め、日々の生活に忙しいビジネスパーソンには状況を把握することがなかなか難しい。そこで、笹川平和財団上席フェロー(米戦略国際問題研究所〈CSIS〉非常勤研究員)で、米国の外交・安全保障政策の第一人者である渡部恒雄氏と、本連載『組織の病気』著者の秋山進氏が対談。激動の世界情勢、今後の米国の政治動向、「もしトラ」の可能性や、それが起きた時にどのような備えが必要なのかについて語り合った。前編では、ずばり大統領選はどうなるか、「もしトラ」でトランプが目指すものは何かなどについて議論が交わされた』、興味深そうだ。
・『共和党はいつからトランプ党になったのか 秋山進氏(以下、秋山) 共和党の予備選挙ではトランプが圧勝しました。まず、私のイメージでは、以前の共和党は今のようなポピュリズム政党ではなかった気がするのですが、共和党はいつから変わったのでしょうか。 渡部恒雄氏(以下、渡部) 確かに、トランプ以前の共和党は、富裕層や企業経営者を支持基盤とし、自由貿易と世界のリーダーシップを追求する政党でした。しかし、それは第二次世界大戦後、米国が圧倒的な富と権力を独占し、世界をリードしてきたからです。共和党の長い歴史においては、この時期が特殊だといえます。例えば戦前の共和党は「アメリカファースト」を掲げ、民主党のF.ルーズベルト大統領の第二次世界大戦への関与に反対していました。そして現在、米国が世界の圧倒的なパワーでリーダーであるという認識が米国人の中で揺らいでいます。自分達は、「世界の警察官」をする余裕はなく、アメリカファーストが必要だというトランプ氏の主張に賛同する有権者が党内を席巻し、共和党=トランプ党という図式になっている。岸田首相も米国議会での演説で「一部の米国国民の心の内で、世界における自国のあるべき役割について、自己疑念を持たれている」と発言して、核心を突きました。ただ、今そうなっているからといって、共和党が今の状態のまま続くとも限りません。 例えば、共和党の予備選において、トランプの対抗馬だったニッキー・ヘイリーが、各州の平均で約20%の支持を獲得している。ヘイリー支持者たちは、かつての共和党の政策を支持する人達で、ヘイリーの主張であるウクライナを支援してロシアの野望を断つことが、米国の安全を守るために必要だと考えています。トランプがこれらの層を取り込んでいないことは、共和党が完全にはトランプ党になっていない証拠です。 (渡部恒雄氏の略歴はリンク先参照) 秋山 私は、むしろヘイリー支援者のような人たちが、共和党の主流派だとばかり思っていたのですが。 渡部 トランプが昔ながらの共和党に反旗を翻し、歯向かった者を片っ端から排除していきましたからね。 秋山 民主党にも、似たような地殻変動はあるのでしょうか。 渡部 あります。もともと民主党には中道と左派(リベラル)が存在しています。米国には、現在の極端な貧富の差の拡大に大きな不満を抱いている人々が増えており、その一部はトランプを熱狂的に支持している。しかし、こうした層はもともと民主党支持者に多く、現在も左派勢力が大きくなっています。 彼らは中道のバイデンの政策には不満があります。民主党予備選では、ガザでの民間人の死傷者激増を受けて、イスラエル支持を続けるバイデンに抗議票を入れようという動きが広がり、中西部のミシガン州では13%、ミネソタ州では20%近くもの支持者なし票が投じられた。これがバイデン政権支持率低迷の理由の一つですし、民主党内でもバイデンが決して盤石な支持を得ていないことがわかります。 秋山 各政党で、極左と極右が目立っているけれど、本当はそのどちらでもない真ん中あたりにたくさんの人がいるというのが、これまでの常識でした。しかし、今は、とりあえず共和党とか、とりあえず民主党という人がマジョリティーではなくなっているのでしょうか。 渡部 構造的には、政党の中では中道層が薄くなり、民主党は左に、共和党は右への両極へと離れて行く状況があります。それと同時に、極端に振れる政党への嫌悪が高まり、米国社会では無党派層が増えています。ギャラップ社による3月の世論調査では、30%が共和党員、28%が民主党員と回答する一方、41%が無党派と回答しています。議会において重要な課題について、超党派で協力できる中道派が減って機能しなくなり、それを嫌った人が無党派になるという悪循環が起こっていま』、「現在も左派勢力が大きくなっています。 彼らは中道のバイデンの政策には不満があります。民主党予備選では、ガザでの民間人の死傷者激増を受けて、イスラエル支持を続けるバイデンに抗議票を入れようという動きが広がり、中西部のミシガン州では13%、ミネソタ州では20%近くもの支持者なし票が投じられた。これがバイデン政権支持率低迷の理由の一つですし、民主党内でもバイデンが決して盤石な支持を得ていないことがわかります」、「バイデン」の弱味のようだ。「30%が共和党員、28%が民主党員と回答する一方、41%が無党派と回答しています。議会において重要な課題について、超党派で協力できる中道派が減って機能しなくなり、それを嫌った人が無党派になるという悪循環が起こっています」、なるほど。
・『大統領選は果たしてどちらが勝つのか 秋山 さて、11月の大統領選挙はどうなりそうですか。 渡部 世論調査の接戦州(スイング・ステート)の動向、各候補の強み、弱みを勘案すれば、五分五分で、どちらが勝ってもおかしくない。バイデンとトランプ、どちらも嫌いだという人が25%程度いて、どちらにも勢いはありません。バイデンの4年前とトランプの8年前は、それぞれの運動に勢いがありましたが、現在はどちらの陣営も、コアな支持層を超えて支持が広がっていない。弱い候補同士で拮抗している状態です。 秋山 副大統領候補次第で勢いが変わることもあるのですか。 渡部 よく、カマラ・ハリス副大統領はなぜ人気がないのかと言われるのですが、実はこれまで、副大統領時代に人気のある人なんてほとんどいません。 秋山 ビル・クリントン大統領時代のアル・ゴアはどうでしょう。 渡部 彼の名前が残ったのは、2000年の大統領選挙でジョージ・ブッシュ大統領(第43代)とほぼ同数の支持を得て裁判闘争になったことと、「不都合な真実」という著書をベストセラーにして地球温暖化対策のさきがけとなる活動をしてきたからです。人気がある副大統領ならブッシュに負けなかったはずです。そもそも副大統領は、大統領以上に目立ってはいけないため、地味な仕事を与えられて「盲腸」とも揶揄され、人気がでるような仕事ではない(笑)。過去の人気があった元副大統領も、トルーマンのように、ルーズベルト大統領の死去により大統領になったため人気が出たわけで、副大統領時代には、ほとんど注目されていませんでした。 副大統領選定は選挙戦略の一環で、大統領候補者が苦手とする層に人気のある人物にして補完的な役割を期待するか、接戦州の元知事や元議員を選ぶなどの手段が考えられます。純粋にトランプが勝つためには、共和党内の反トランプを獲得するために、ヘイリーを副大統領にすればいいはずです。ヘイリーはインド系の女性ですからマイナリティ対策にもなる。しかしトランプは自分に忠誠を誓う人物を最優先し、ヘイリーのように国益を優先する人物は欲しくない。トランプは米国にではなく、自分にだけ忠実な人が欲しい。精神的にも自分を裏切った人を許す度量はない。 ヘイリーにしても今トランプに与するメリットはない。彼女はまだ50代前半で、これまでトランプと直接戦ってつぶされなかった唯一の人物で、共和党の2割の支持を持っている。彼女は筋金入りの保守派であり、次回は間違いなく大統領レースのトップに躍り出るでしょう。ヘイリー自身はトランプ支持を発表していないし、そうする気はないはずです。 秋山 普通、大統領候補として負けた側は勝った相手を支持すると言いますよね。 渡部 はい。ただ、今回ヘイリーがトランプを支持しなくて済んでいるのは、トランプの自業自得です。共和党候補者同士のディベートの参加者は、「最終的に誰が候補になっても応援する」という誓約書にサインをしなければならない。トランプはおそらく、サインしたくないので、ディベートに参加しなかった。だから、ヘイリーにはトランプを支持する義務はない。トランプが、もしディベートに参加していれば、ヘイリーはトランプ支持と言わざるを得なかったでしょうけれど』、「バイデンの4年前とトランプの8年前は、それぞれの運動に勢いがありましたが、現在はどちらの陣営も、コアな支持層を超えて支持が広がっていない。弱い候補同士で拮抗している状態です・・・トランプは自分に忠誠を誓う人物を最優先し、ヘイリーのように国益を優先する人物は欲しくない。トランプは米国にではなく、自分にだけ忠実な人が欲しい。精神的にも自分を裏切った人を許す度量はない。 ヘイリーにしても今トランプに与するメリットはない」、なるほど。
・『トランプは「ワンマン社長のマネジメントスタイル」 秋山 渡部さんの著書にもあったと思うのですが、言葉を選ばずに言えば、トランプは「マフィアのマネジメントスタイル」だと。 渡部 マフィアかどうかはともかく、少なくともトランプのマネジメントスタイルは、彼が自分の会社でやってきた、中小企業で圧倒的な権力を持つワンマン社長のマネジメントスタイルなんですね。だから外交にしても、直接話をして取り引きできるプーチンや習近平、金正恩、トルコのエルドアンなど、相手が独裁者であることを好みます。 秋山 「持ち帰って議会で検討します」みたいな代表者だと、まどろっこしくて相手にならないんですね。選挙で帰趨を握るのはスイング・ステートだと思いますが、支持者の分布をみると、沿岸部に民主党、内陸部に共和党というように見事に分かれていて、その間がスイング・ステートなのですね。 渡部 太平洋と大西洋が青く(民主党)、真ん中が赤(共和党)、シカゴのあるイリノイ州が青の飛び地ですね。 秋山 海を臨んで、国際的に物を輸出したり、ITや金融のようにグローバルに拡大したりすることを、各国と協調的にいろいろやっていくのが民主党ということでしょうか。 渡部 協調的なのがポイントではなく、一方的であろうとなんであろうと、他国と関わること――紛争なら軍事介入あるいは停戦努力を行う、通商なら国際貿易体制を維持する、ITや金融でも国際的なネットワークを維持することが、米国の利益となるという認識と姿勢だと思います。その点でバイデン政権や歴代の民主党政権はかなりの保護主義ですが、閉じてはいません。共和党は以前、自由貿易でしたが、トランプ後は民主党よりも保護主義が強く閉じてきています。 日本は、米国が建前で自由貿易を掲げていても、実際に自国に大きな損失となれば、「管理貿易」を押しつけてくるという実態を、70年代から90年代の日米貿易摩擦で身をもって体験しているので、米国に幻想はもっておらず驚かずに対処できる。だから日本は大統領がトランプになろうが、バイデンのままだろうが、そこそこやっていけるでしょう。 自由貿易、自由経済の原則は大切なものではありますが、いざ政治と組み合わさると、そう簡単ではない。たとえばトランプだけでなく、民主党の政治家も労働組合から大きな支援を受けているので、自由貿易の原則にこだわり過ぎれば当選できません。 かつての共和党支持者には、自由貿易により自らを豊かにできる富裕層や企業経営者が中心だった。ところが、トランプが現状に不満を持つ労働者層を支持基盤にして、共和党を金持ちと企業家の政党から、ミドルクラスに支持を広げる党に変貌させた。これは、ある意味すごいことで、共和党へのトランプの功績といってもいいかもしれません』、「日本は、米国が建前で自由貿易を掲げていても、実際に自国に大きな損失となれば、「管理貿易」を押しつけてくるという実態を、70年代から90年代の日米貿易摩擦で身をもって体験しているので、米国に幻想はもっておらず驚かずに対処できる。だから日本は大統領がトランプになろうが、バイデンのままだろうが、そこそこやっていけるでしょう。 自由貿易、自由経済の原則は大切なものではありますが、いざ政治と組み合わさると、そう簡単ではない」、「日本」はトランプ以前からさんざん煮え湯を飲まされてきたので、どうということはなさそうだ。「トランプが現状に不満を持つ労働者層を支持基盤にして、共和党を金持ちと企業家の政党から、ミドルクラスに支持を広げる党に変貌させた。これは、ある意味すごいことで、共和党へのトランプの功績といってもいいかもしれません」、なるほど。
・『トランプ支持者とは?USスチール買収問題を都合よく利用 秋山 トランプは政権にあって、4年間減税しましたが、結局もうかったのはお金持ちだけ。格差はますます広がったという印象です。応援していたミドルクラスの人たちに、一体恩恵はあったのでしょうか。 渡部 全米の成人の1/4 を占めるといわれる福音派(※エヴァンジェリカルズ)にとっては明らかに恩恵がありました。この人たちは宗教上の理由から妊娠中絶の禁止を求めてきたのですが、トランプが大統領時代に3名の保守派の判事を任命して、保守派対リベラル派の構成を6対3にして保守派に力を与え、最高裁は中絶を女性個人の権利として認めた1973年の判例を覆し、州政府が中絶を非合法化できる立法を可能にしました。 ※キリスト教のプロテスタントの潮流のひとつ。聖書の記述を忠実に守り、伝道を重視し、積極的に行動することを旨とする。米国では宗教別人口の約4分の1を占め、主流派のプロテスタントを上回る最大勢力である。 一方、労働者は、減税の恩恵が大企業や富裕層に偏るトランプの経済政策を歓迎しないと思うかもしれませんが、そうではありません。トランプ時代はオバマ前政権の政策の効果により、経済がよくなったので低所得層にも恩恵があった。これまで民主党に投票してきても、まったく生活が良くならなかった低所得者層にとっては、トランプへの期待は上がっています。少なくともトランプは自分達のことを真剣に考えてくれていると、思わせている。そこまでトランプを信じていなくとも、貧富の格差が固定化した米国では、既得権益層を優先するエリート政治家は、共和党であれ、民主党であれ期待できないが、少なくともトランプは現状を壊してくれる可能性があると期待しているのです』、「貧富の格差が固定化した米国では、既得権益層を優先するエリート政治家は、共和党であれ、民主党であれ期待できないが、少なくともトランプは現状を壊してくれる可能性があると期待しているのです」、トランプの強みだ。 トランプ陣営とバイデン陣営の間で労働者層を獲得しようと躍起になっている状況で、日本製鉄(日鉄)によるUSスチールの買収は、いや応なく選挙戦に巻き込まれてしまいました。USスチールの製鉄所の一つがあるミシガン州は、大統領選挙の帰趨を決める接戦州の一つです。バイデンの民主党は、伝統的に労働組合の支持をバックにしていますが、トランプは2016年にはミシガン州の労働者層を惹きつけ、ヒラリーに勝利しました。今回も、労働者を味方につけるために日鉄の買収に反対を表明しました。バイデンも、みすみす全米鉄鋼労組(USW)の支持を失うわけにはいきませんから、日鉄の買収は対米外国投資委員会(CFIUS)できちんと精査すべきだと、けん制せざるを得ませんでした。接戦州で労働者層の票を獲得するために、両陣営は「保護主義」の競争をしているのです』、「日本製鉄(日鉄)によるUSスチールの買収」は、誠に拙いタイミングに直面したものだ。「日本製鉄」もこうした事情を理解して臨んでいる筈だが、どこに誤算があったのだろう。
・『米国はイスラエルをコントロールできるのか 秋山 バイデンが継投する可能性もあるということですが、バイデンもすでに「死に体」に見えます。今回のイスラエルのイランの大使館への爆撃など、米国の制御力がなくなり、イスラエルになめられている感じがします。 渡部 イスラエルの軍事作戦によるガザでの民間人の死者が3万人超となっている中で、パレスチナに同情的な民主党のリベラル派と若年層は、イスラエル支持を変えないバイデンに不満を持っている。民主党の予備選では、NGOがバイデンへの抗議のために「支持なし票」を投じる運動が活発化し、接戦州のミシガンでは13.8%を占めました。 一方で共和党はイスラエル支持でまとまっており異論は少ない。イスラエルとハマスの衝突について、どちらが良い政策を執れるかという質問に、トランプ46%、バイデン38%と、トランプが8ポイントも上回っている(参照)。 秋山 トランプ時代は、今のイスラエルのネタニヤフ首相と娘婿のジャレッド・クシュナーが家族ぐるみの付き合いで、イスラエルべったりの政策をとっていましたよね。米国大使館をテルアビブからエルサレムに移したことも記憶に新しい出来事です。 渡部 一つにはハマスにもイスラエルにも強硬な姿勢を取ることができ、予測不能なトランプの方が、ハマスもイスラエルも言うことを聞くのではないかと考えている米国民が多いということでしょう。実際、トランプはネタニヤフ首相と関係が近く、過去の保守派政権と比べても、極端なイスラエル寄りの政策をとってきました。しかし、2020年の選挙でトランプに勝利したバイデンに対して、ネタニヤフが祝福のメッセージを送ったことを根に持ち関係は悪化した。ハマスがイスラエルにテロ攻撃を行った際には、「(ネタニヤフ氏は)準備ができていなかった。トランプ政権下なら準備する必要はなかっただろう」と批判し、やはりイスラエルと衝突しているレバノンの武装組織ヒズボラを「非常に賢い」と評しました。トランプの度量の小ささが、結果オーライになっている(笑)。 秋山 ただ、政治において、イメージだけでも「やるときはやるぞ」と思わせる強さは重要ですよね。 渡部 ええ。トランプには、何をするかわからない怖さがある。外交でもそういう期待を持たせることができる。反対にバイデンは見た目が弱そうなだけではなく、強硬外交を嫌う民主党内の左派に配慮しなくてはならないため、強硬路線を打ち出しにくいという内部事情もある』、「トランプはネタニヤフ首相と関係が近く、過去の保守派政権と比べても、極端なイスラエル寄りの政策をとってきました。しかし、2020年の選挙でトランプに勝利したバイデンに対して、ネタニヤフが祝福のメッセージを送ったことを根に持ち関係は悪化した。ハマスがイスラエルにテロ攻撃を行った際には、「(ネタニヤフ氏は)準備ができていなかった。トランプ政権下なら準備する必要はなかっただろう」と批判し、やはりイスラエルと衝突しているレバノンの武装組織ヒズボラを「非常に賢い」と評しました。トランプの度量の小ささが、結果オーライになっている(笑)」、「トランプの度量の小ささが、結果オーライになっている」とは言い得て妙だ。
・『「もしトラ」でトランプは何を目指すのか 秋山 前回のトランプ政権の時、渡部さんは、「ストイックな職業軍人のマティスが国防長官で、国務長官はエクソンモービル元CEOのティラーソンという、それなりの閣僚を任命しているので、そんなにひどいことにならない」とおっしゃっていました。その後、彼らは辞任したり、解任されたりしました。閣僚に質のいい人は集まるのでしょうか。そして二期目に何を目指しているのでしょうか 渡部 初心者で政府の動かし方を何も知らなかった一期目とは異なり、今やトランプが閣僚やスタッフに求めるのは、彼に対する忠誠心だけです。トランプの目標はある意味で非常にシンプルです。おそらく4年だけとなる来年からの大統領任期の間に、大統領権限を使って、自分に降りかかっている複数の刑事訴追と民事訴訟を無効にするような対策をすることでしょう。 例えば、ニューヨーク州で不動産事業をしている自身の会社、トランプ・オーガナイゼーションは、かつて虚偽の申告で資産を過大に見せかけたことが立件され、同州でビジネスができなくなる可能性があります。 これらを無効にする方法は、大統領の持つ恩赦などの権限を自分や身内に適用することだと考えていると思います。現在も、大統領が任期中に行ったことは法的に免責されるべきだという訴えも起こしています。これらは簡単ではないだけに、大統領になった際に「力技」でなんとかしたいはずで、そのために閣僚やスタッフを選ぶ条件は、自分への忠誠心が最優先で、その前に憲法や国益を優先するような人物を使うつもりはないはずです。 もうひとつは、自分の敵を徹底的に痛めつけ、復讐することです。実際、トランプは自分と同じようにバイデンとその家族を起訴しようと動いています。この二つの目的を達成するために、政権運営していくのでしょう。外交での実績は、自身を恩赦するための理由ともなりますし、経済の実績は支持率を上げ、無理な「力技」を行いやすくします。徹頭徹尾、自己利益だけで動くと考えればいいと思います。日本人は、なぜ米国民はそのような人物を支持するのかと疑問に思うかもしれませんが、米国社会の基本は、セルフ・インタレスト(個人の利益)の肯定であり、それが前提のお国柄です。良くも悪くも、日本とは社会の成り立ちが違うのです。 秋山 大統領の任期が終わったときに、後顧の憂いなくやめたい。 渡部 後任の大統領が恩赦してくれるようにという計算もしているでしょう。ウォーターゲート事件(※)で起訴されたニクソン大統領は、自身の副大統領で、後任となるフォード大統領によって有罪判決前に恩赦されている。米国にはそういう伝統があります。すでに共和党予備選では、トランプ支持者の票を獲得するために、反トランプのヘイリーを始め、多くの候補者が、大統領になったらトランプを恩赦すると発言しています。だからこそヘイリーよりも、より自分に忠誠心を持つ人間を副大統領に指名したいはずです。 ※1972年の大統領選挙戦の際に、ニクソン大統領の関係者である共和党関係者がウォーターゲートビル内の民主党本部の電話を盗聴しようとして発覚。これをきっかけとして、ニクソン大統領が辞任に追い込まれた。 秋山 トランプ政権のペンス元副大統領はトランプに忠実に見えましたが、最後にはトランプから見ると裏切る行為をしましたよね。 渡部 ペンスは熱心な福音派で、トランプが保守的な政策を行うことを期待して、支えてきた。ところが、トランプはバイデンが当選した大統領選挙結果を根拠なく否定して、覆そうとした。これは合衆国憲法と民主主義への明確な反逆であり、愛国者のペンスには容認できなかった。トランプ不支持に転じたのは、トランプを裏切ったというよりも、合衆国憲法と民主主義を守ることを優先するペンスの明確な信念に基づいた行動だったと思います』、「今やトランプが閣僚やスタッフに求めるのは、彼に対する忠誠心だけです。トランプの目標はある意味で非常にシンプルです。おそらく4年だけとなる来年からの大統領任期の間に、大統領権限を使って、自分に降りかかっている複数の刑事訴追と民事訴訟を無効にするような対策をすることでしょう」、既に裁判の第一審では有罪が宣告されたが、上告して時間かせぎをするのだろう。「ペンスは熱心な福音派で、トランプが保守的な政策を行うことを期待して、支えてきた。ところが、トランプはバイデンが当選した大統領選挙結果を根拠なく否定して、覆そうとした。これは合衆国憲法と民主主義への明確な反逆であり、愛国者のペンスにはの容認できなかった。トランプ不支持に転じたのは、トランプを裏切ったというよりも、合衆国憲法と民主主義を守ることを優先するペンスの明確な信念に基づいた行動だったと思います」、「ペンス」は想像以上に強い「信念」の人だったようだ。
・『イスラエルとトランプの関係 秋山 では、「もしトラ」なら、政権は、本当に身内だけになる。そして移民に厳しく、貿易赤字が多い国には、関税をかけて…… 渡部 忠誠心のある身内の政府になるでしょうね。例えば、トランプ政権時代に通商政策を主導したライトハイザー氏などの反自由貿易主義者が、政権入りするはずです。関税については、一番大きな対米貿易黒字国の中国が最初のターゲットになるでしょう。日本も中国ほどではないにしても、黒字なので、例外ではありませんが、まずは中国です。 秋山 そして、ネタニエフに遺恨はあっても、イスラエルは支持する。 渡部 裁判費用に多額の費用を使っているため、選挙資金でバイデン陣営に負けているため、ユダヤ系ビジネスからの政治献金も極めて重要です。トランプの支持者には、故シェルドン・アデルソンというカジノ企業「ラスベガス・サンズ」CEOのユダヤ系米国人の大富豪がいました。彼はシオニスト(※)として有名で、大統領就任式の費用は、彼がほとんど出費しました。トランプは大統領時代にミリアム・アデルソン夫人に名誉ある大統領自由勲章を授与しましたし、シェルドン没後、彼女が「サンズ」を引き継いでいます。 トランプにとってはキリスト教福音派の支持が重要ですが、福音派は強固なイスラエル支持者です。福音派とは、聖書に書かれた神の言葉だけを信じる人たちであり、パレスチナがイスラエルの民の国であることが旧約聖書に書かれており、またキリスト教の聖地でもあるエルサレムをイスラム教徒から守るためにも、イスラエルを支持しています。 ※シオニスト、シオニズム 古代ローマ軍にパレスチナを追われて以来、世界各地に離散していたユダヤ民族が、母国への帰還をめざして起こした民族国家建設のための運動。19世紀末から盛んとなり、1948年、パレスチナにおけるユダヤ人国家イスラエル共和国を建設、当面の目的を達成したシオニストはこの思想に基づいて行動する人々。 (本文敬称略)』、通商問題では、「一番大きな対米貿易黒字国の中国が最初のターゲットになるでしょう。日本も中国ほどではないにしても、黒字なので、例外ではありませんが、まずは中国です」、「中国」に対しては米国内に根強い中国寄りのグループもあることから楽観できない。やはり日本独自に対抗戦略を練るべきなのではなかろうか。
次に、5月/20日付けダイヤモンド・オンラインに掲載されたプリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役の秋山進氏と、笹川平和財団 安全保障研究グループ 上席研究員の渡部恒雄氏との対談「渡部恒雄氏「トランプはタダ乗りするお荷物の同盟国が嫌い」もしトラで日本はどうなる?」を紹介しよう。
・『笹川平和財団上席フェローで、米国の外交・安全保障政策、アジアの安全保障の第一人者である渡部恒雄氏と、人気連載『組織の病気』著者の秋山進氏が、激動の世界情勢、今後の米国の政治動向などについて語り合った対談の後編。「もしトラ」の場合、トランプ元大統領は「台湾を中国とのディールに使うこと」はありうるのか、日本がとるべき方策はどういうものかにまで話題が広がった。 前編はこちら>『渡部恒雄氏「トランプの野望は復讐と保身」もしトラで“裏切り者”はどうなるのか?』、興味深そうだ。
・『起こっている良いことはすべて自分の功績、悪い事はすべて他人の失敗 秋山進氏(以下、秋山) 米国の移民政策についておうかがいしたいです。「移民を排斥するのはけしからん」というのは簡単です。しかし、例えば、今インバウンドで潤っている日本の地域でも、来日してくれる人全員が移民となって日本に定着したら、おいそれと、来日する人を歓迎できるとは言えなくなると思うのですね。 渡部恒雄氏(以下、渡部) まさにメキシコ国境からの不法移民の流入をいかに押し止めるかということが共和党の主張となり、今回の米国大統領選挙の争点になりますね。例えば、欧州でも、フランス極右政党である、国民連合第2代党首だったルペン氏などは、トランプと共闘したいと考えるでしょうし、欧州では移民排斥をうたう右派の政治家が台頭しています。 米国のメキシコ国境からの移民対策に関しては、長い目でみると、共和党であろうが、民主党であろうが、これまでうまくいったためしがない。だから現職は不利です。この点で、トランプは運がいいし、今起こっていることを自分の手柄にできる。トランプは、8年前の選挙でメキシコ国境に壁を建設するという公約で大統領になりましたが、壁建設は未完のままです。しかし、コロナ感染対策を理由に、緊急対策としてメキシコ国境から流入する移民希望者を止めました。コロナが明けた後、バイデン政権としては、移民に寛容な党内左派の意向も考え、緊急対策を解除したので、爆発的に移民希望者と不法入国者が増えてしまった。 客観的にみれば、トランプがメキシコ国境からの移民希望者の入国を止めていたことも、現在の入国希望者の爆発的増加の理由の一つです。しかも国境閉鎖を主張するトランプが大統領に来年復帰する可能性が、今の移民殺到に拍車をかけている(笑)。しかし米国民は今の現象しか見ませんので、トランプ時代の方が移民流入は少なく、政策をうまくやっていたと勘違いする。今、移民が殺到しているのはバイデンのせいだけではないのに』、政治家の評価はどうしても短期的視点で行われてしまうのは宿命のようだ。
・大きな目でみれば、この問題の根源は、中南米諸国の経済と治安が極めて悪い事で、母国で生命をおびやかされた人々が命懸けで米国に向かっている状況を変える必要があります。例えば、オバマ政権時代には、バイデンが副大統領として、コロンビア政府の麻薬組織との闘いを援助していました。直接の移民対策よりは、構造的解決がないかぎりと危機は収まらないのですが、目前の移民流入に危機感を持つ米国人に、そのような悠長な政策をいっても説得されません。 渡部恒雄氏の略歴はリンク先参照) 「米国のメキシコ国境からの移民対策に関しては、長い目でみると、共和党であろうが、民主党であろうが、これまでうまくいったためしがない。だから現職は不利です。この点で、トランプは運がいいし、今起こっていることを自分の手柄にできる。トランプは、8年前の選挙でメキシコ国境に壁を建設するという公約で大統領になりましたが、壁建設は未完のままです。しかし、コロナ感染対策を理由に、緊急対策としてメキシコ国境から流入する移民希望者を止めました。コロナが明けた後、バイデン政権としては、移民に寛容な党内左派の意向も考え、緊急対策を解除したので、爆発的に移民希望者と不法入国者が増えてしまった。 客観的にみれば、トランプがメキシコ国境からの移民希望者の入国を止めていたことも、現在の入国希望者の爆発的増加の理由の一つです」、 秋山 ここまで、お話をうかがって、ますます世界情勢は「複雑怪奇」という気がしてきましたが。 渡部 いえいえ、世界情勢が複雑なのは、今に始まったことではありません。第二次世界大戦勃発前夜、当時の日本の首相・平沼騏一郎は同盟関係を結ぼうとしていたドイツが、独ソ不可侵協定を結んだことで、「欧州の情勢は複雑怪奇なり」と言って内閣を総辞職しました。これは当時の日本の指導者が、アナーキー(無政府状態)な国際関係における国家の権謀術数を基本的に理解していないナイーブさと、決定的なインテリジェンス(情報と分析)の欠如を示しているだけです。 日本は領土を海に囲まれた国で、ロシアのウクライナ侵攻のような陸上侵攻や米欧の国交からの移民殺到のような経験がない。それゆえに鈍感でナイーブなところもありますが、ある意味ではラッキーです。より厳しい環境にある他国の状況や考え方を理解するためのインテリジェンス能力を高めることで、日本は将来にわたって生き残っていけるはずです。 秋山 ただ、トランプが貿易(お金)にしか関心がないとしたら、中国が対米黒字を減らすなら、アジアで好き勝手をしてもいいというお墨付きを与えないか心配です。 渡部 確かにトランプは、台湾防衛に価値を見出していません。習近平とは通商問題についてディールをして米国の貿易赤字を黒字化して成果を上げたいと考えるかもしれません。台湾の防衛を中国とのディールの材料にすることは、すでに懸念されています。英エコノミスト誌は「もしトラ」のリスクの一つとして、トランプが習近平と台湾の帰属をディールの材料にしようとする一方で、トランプ周囲の専門家は、反中親台派が多いため、結果として米国が中国側に複雑なメッセージを送ることで、台湾海峡が緊張しかねないと懸念しています。私は同じ理由から、トランプは身内に反対が強い中国とのディールよりも、より達成が楽なロシアや北朝鮮とのディールを優先するのだろうと考えています。 秋山 一方で、中国は高齢化が進み、国内も不動産バブルの後始末で危うく経済も悪くなっています。米国のライバルとして存在し続けることができるのでしょうか』、「トランプは身内に反対が強い中国とのディールよりも、より達成が楽なロシアや北朝鮮とのディールを優先するのだろうと考えています。 秋山 一方で、中国は高齢化が進み、国内も不動産バブルの後始末で危うく経済も悪くなっています。米国のライバルとして存在し続けることができるのでしょうか」、「ロシアや北朝鮮とのディールを優先」とは困ったことだ。
・『米国はアジアでどこか一国が強くなるとけん制する 渡部 米国は、中国が自国に代わる世界の覇権国となることまで警戒しているわけではないと思います。あくまでインド太平洋地域における中国の覇権に対抗し、今や世界の経済成長の中心となっているこの地域の米国の経済利益を確保することが目的だと思います。 短期的には、中国の経済が悪くなって、追い詰められた習政権が、国民の不満を逸らすために台湾や近隣国に強硬姿勢を強めることも警戒しています。一方で、中国の経済停滞が続き、軍事力も弱くなり、軍事的な暴発のリスクが低下すれば、米国はむしろ中国の国内分裂によるリスクを防ぐために中国を助けるようになることも、長期的に視野を取ればあり得るのです。 歴史から学べる米国の戦略は、ひとことでいえば、東アジアにおいて米国以外の覇権国の出現を防ぐことといえます。かつてロシアが南下して東アジアの覇権を狙っていた時代、米国は英国とともに日本のロシアとの戦争を間接的に支援しました。しかしその後、強くなった日本が中国大陸に「傀儡国家」の満州国を建国し、中国をコントロールしようとすると、逆に中国を支援して日本の覇権国化を防ごうとした。戦後は共産化した中国に対抗して日本との同盟関係を結び、70年代にはソ連に対抗するために中国との関係改善を行った。80・90年代は日本の強い経済力による日本の覇権化を懸念して、日米貿易摩擦の時代となった。 今の米国の戦略は、中国の地域覇権を好ましく思わない日本とインドを、対中バランサーとして、バックアップする戦略を取っている。しかも日本は非同盟姿勢を貫くインドに比べても、「頼れる同盟国」という存在です。このような地政学的環境と米億の長期戦略姿勢は、トランプが政権に返り咲いても変わらないと思います。 秋山 東アジアのバランスを維持するカードのひとつが日本ということなんですね。岸田首相の訪米時の演説では、東アジアにおいて日米関係があるからこそ、この地域の安定が保たれているというようなことを言っていましたが、おそらくトランプにはそんな意識もない。 渡部 皆無ですね。トランプは歴史から学びませんし国家観もないので、一貫して同盟国が嫌いです。米国の経済と軍事にタダ乗りする単なるお荷物と考えている。同盟国のおかげで米国も恩恵を受けているという面は理解しないので、安全保障などはどうでもよく、金銭に換算できる目に見える利益にしか興味がない。当然のことながら、在日米軍のコストは米国の持ち出しだから、日本は負担費用以上に米国に金を出すべきという発想になる。 秋山 NATO(北大西洋条約機構)も嫌いですよね。かつては世界中に米軍がいて、警察の役割を果たすことで、トータルでは米国が得するという考え方があったと思いますが。 渡部 その考え方も米国では弱まっています。もともと、中西部に住む人達は、外国にいったこともなければ、米国が世界の安定を支えていることなどに興味はありません。むしろ、中流層は鉄鋼などの古い産業に従事し、ハイテク企業が収益を上げているグローバル経済からの恩恵に取り残されて、不満を持っている。トランプはそういう人たちの心をつかんだ』、「トランプは歴史から学びませんし国家観もないので、一貫して同盟国が嫌いです。米国の経済と軍事にタダ乗りする単なるお荷物と考えている。同盟国のおかげで米国も恩恵を受けているという面は理解しないので、安全保障などはどうでもよく、金銭に換算できる目に見える利益にしか興味がない。当然のことながら、在日米軍のコストは米国の持ち出しだから、日本は負担費用以上に米国に金を出すべきという発想になる」、「日本」としては理論武装しておく必要がある。
・『トランプにとって中国とのディールは面倒 秋山 そんな中では、もし中国が尖閣諸島まで上がってきたとしても、知らんと言いそうです。 渡部 中国が尖閣諸島を占拠した場合の対処は、すべての米国の指導者に悩ましいジレンマを突き付けます。日本とともに軍事行動をすることで、中国との戦争に発展するエスカレーションのリスクを覚悟しなくてはならないからです。トランプに即して考えれば、日本と共に軍事行動を取らない理由は日本を見捨てることで、中国が何かトランプに(米国の、ではないですよ)大きな利益を与える場合ということになるでしょう。逆に日本を守ることで、トランプ個人が大きな利益を得るようであれば、それも選択肢であり、両国からの利益を天秤で測って考えるのではないでしょうか。日本は頭の体操をしておいた方がいい。少なくとも、彼には同盟関係を維持することが、米国の長期的な利益と力になるという発想はないはずです。 ちなみに、尖閣諸島に関しては、日本は単独で守り切るだけの海上保安能力とそれをバックアップする海上自衛隊の能力があり、米国に頼るような状況にはありません。ただし直近の日米共同声明などでも、米国は尖閣防衛にコミットしており、米国との衝突を恐れる中国に対する抑止力になっています。日本はかつてのように自国の防衛を米国にすべて依存するような状況にはなく、日米で東アジア地域の安定を維持していくという方向に日米同盟は変質してきています。 むしろ課題は米国の正式な同盟国ではない台湾の防衛です。日米同盟は、中国の武力による台湾統一を未然に防ぐような抑止力を維持していく必要があります。その点で、同盟の価値を理解しないトランプ登場は懸念材料です。 秋山 習近平にとっては、「核心的利益」である台湾は「絶対に損なわれてはならない」と言うくらい、なんとか米国と取引して、台湾を取りたい気持ちはあるでしょう。けれど、中国も経済的に苦しくなっている。中国の対米貿易黒字をなくすことは見返りになりませんか。 渡部 先にも述べましたが、トランプの優先順位としては低いでしょう。そもそも、中国に60%の関税をかけると訴えているトランプにしてみれば、わざわざ台湾を取引材料にしなくても、中国に一方的に関税をかければ済むことですからね。そもそもトランプが大統領になっても、すでに4年の大統領を経験している彼は、憲法上の制約で一期4年間しか任期がありません。おそらく確実に成果を得られるディールを急ぐでしょう。第一はウクライナとロシアの停戦のディール、第二が北朝鮮の金正恩の核開発停止のためのディールでしょう。ウクライナ戦争のもたらす被害は深刻ですし、北朝鮮がアメリカに届く核ミサイルを完成させるのは時間の問題ですから、もし達成できればノーベル平和賞ものです。 秋山 トランプの国内人気も沸騰する……と。 渡部 その実績をもって、自分に降りかかる訴訟関係を一切「チャラ」にする。 トランプにとってはプーチンや金正恩とディールをするほうが楽な上に、米国の議会には、共和・民主共に台湾支持者が非常に多い。第二次世界大戦前にも、大陸を支配していた蒋介石率いる国民党のロビー活動が、ルーズベルト大統領と米国を親中反日にした。この流れをくむ今の台湾ロビーの米国議会への影響力はとても強い。トランプといえども、台湾を見捨てるのは一筋縄ではいかないはずで、優先順位は低いはずです。 秋山 確かに台湾は得るものがなさすぎるので、おっしゃるとおり、ウクライナの優先順位が高いですね。 渡部 4月後半、下院がそれまで止まっていたウクライナ支援の歳出法案をやっと通しましたが、実はトランプにとってはそれほど悪いことではない。今、議会がウクライナ支援予算を止めてしまえば、自分が大統領になったときに、ゼレンスキーを停戦のテーブルにつけるためのカード「停戦に合意しなければ、支援を止めるぞ」というものが失くなります。 トランプは、ウクライナ支援に反対する態度をとっていましたが、途中からウクライナ支援は供与でなく融資ならやってもいいと態度を軟化させました。今回の支援法案は、一部融資の形にしてトランプを納得させました。トランプを説得してきたジョンソン下院議長は、共和党の強硬派から解任するとおどされていますが、トランプは彼を擁護しています。トランプも自分の対ウクライナカードを温存する意義を理解しているのでしょう。 秋山 停戦は実現するに越したことはないですが、トランプの胸三寸で動くとは、恐ろしい世の中になりますね。 渡部 何度も申し上げているように、トランプは戦争終結や核開発断念が主目的ではない。まとめる「ふり」で国民の自分への「視聴率」が上がればよい。最終的にウクライナとロシアの停戦が不成立でも、「トランプ劇場」という番組で自分の人気を上げて、訴追を帳消しにするような実績ができればいいわけです。 秋山 でも、それは結果的に米国のプレゼンスを下げることになりますよね。 渡部 おそらくトランプは、長期的な米国の評価や国益、共和党への信頼維持も、一切考えてはいません。終始一貫、自分の生き残りと利益優先です。しかも、トランプ支持者の多くは、それでいいと思っている。彼らは、現状の経済における貧富の差の拡大や、国内対策がおろそかになる世界への関与に不満を持っているため、トランプが、今の米国の体制を全部ひっくり返してくれることだけを期待しています。トランプが米国を建設的によい方向へ導いてくれることなどは、はなから期待していない。トランプがぶっ壊した後に、誰か別の人間が出てくるだろうくらいに考えているはずです。 秋山 だとすれば、一時期はかなりの混乱を引き起こすことになりますね。でも、まさにそれを米国国民は期待していると。そして短期的には日本にとってそんなに厳しいことにはならないというわけですね? 渡部 世界の混乱は日本にとっては深刻です。軍事的にも経済的にも、より自立する覚悟が日本人に求められるでしょう。ただし、トランプ再選となり、米国が日本に対して直接要求してくるものは、欧州や韓国と比べれば、それほど深刻なものはないはずです。安倍元首相は上手にトランプとつきあって、日米間ではトランプ政権での二国間通商交渉はすでに妥結しています。しかも、トランプの認識はともかく、政権の安保スタッフや米軍にとっては、日本は中国や北朝鮮と対抗するために最も重要な国です。トランプは金正恩を喜ばせるような在韓米軍の引き揚げは検討するかもしれないが、在日米軍の撤退はその先のことで、その頃には政権任期が終わっていることでしょう。 秋山 4年では引き揚げは無理ですね。 渡部 中国とディールするためにも、中国の目の前に軍事力を置いてにらみを利かせるのが効果的なことを、トランプはよくわかっている。大統領だった時、トランプは金正恩と何度か会談しました。正恩がなぜ交渉のテーブルについたかというと、米韓の軍事演習を相当頻繁にやって、北朝鮮が言うことを聞かなければ「世界が見たことがないような炎と怒りに直面する」(※)と脅しをかけたからです。 トランプは同盟国を信用していなくても、自国の軍事力の効果は信じているし、脅しが有効なことも熟知している。在日米軍は長期的には要らないと思っているかもしれないが、日本がお金を出すなら置いてやってもいいし、在日米軍は中国や北朝鮮に脅しをかけることには有益だと思っているはずです。 ※2017年8月8日トランプの発言)』、「中国が尖閣諸島を占拠した場合の対処は、すべての米国の指導者に悩ましいジレンマを突き付けます。日本とともに軍事行動をすることで、中国との戦争に発展するエスカレーションのリスクを覚悟しなくてはならないからです。トランプに即して考えれば、日本と共に軍事行動を取らない理由は日本を見捨てることで、中国が何かトランプに(米国の、ではないですよ)大きな利益を与える場合ということになるでしょう。逆に日本を守ることで、トランプ個人が大きな利益を得るようであれば、それも選択肢であり、両国からの利益を天秤で測って考えるのではないでしょうか。日本は頭の体操をしておいた方がいい。少なくとも、彼には同盟関係を維持することが、米国の長期的な利益と力になるという発想はないはずです。 ちなみに、尖閣諸島に関しては、日本は単独で守り切るだけの海上保安能力とそれをバックアップする海上自衛隊の能力があり、米国に頼るような状況にはありません。ただし直近の日米共同声明などでも、米国は尖閣防衛にコミットしており、米国との衝突を恐れる中国に対する抑止力になっています。日本はかつてのように自国の防衛を米国にすべて依存するような状況にはなく、日米で東アジア地域の安定を維持していくという方向に日米同盟は変質してきています。
・『日本の「もしトラ」対応、実はシンプル 秋山 トランプから見たときに、自分たちをどういうふうに使ってもらうと彼にとってメリットがあるカードなのかを考えれば、どう対応すればいいかがわかるということですね。 渡部 ええ、気まぐれもありますが、首尾一貫しています。現象だけ見ると、よくわからないかもしれませんが、自分の利益、訴訟をどう免れるかだけを考えている、というところを押さえれば、見誤ることはないと思いますね。外交経験者ならこんなことは慣れっこです。米国が民主主義国家だと思うと誤解してしまいますが、独裁国だと思えば、普通のことです。 秋山 日本は、在日米軍の費用負担をこれ以上求められたら苦しいということもあると思いますが、そのあたりはいかがですか。 渡部 トランプはお金の計算があまりできない人(笑)で、実は日本は既にかなり費用負担している。100%出せと言われても出せないことはないが、トランプは守ってやっているんだからもっと出せと、「用心棒」的な発想で要求してくるかもしれません。 ただし、日本は自分たちの防衛能力の強化のために、岸田首相は27年度に防衛費をGDP2%に増額すると言っている。これもかなり苦しいのですが、逆に、「トランプが言っているから」と、2%を達成するための外圧として使ばいいでしょう。 さらにトランプは3%と要求してくるでしょうが、日本としては「わかった、ただ、今はとりあえず2%で、3%は将来目標だ」と言えばいい。そのうちにトランプの任期が終わるでしょう。 増えた防衛費は、新しい装備、人件費や自衛隊の待遇向上に使うことになると思いますが、重要なのは、自衛隊基地の防備の強化です。有事の際に、中国からミサイル攻撃を受けた際に、戦闘機が飛べなくなれば、日本の領域を守れません。現在の自衛隊基地の防護力を高める必要があります。中国からのミサイルをけん制するためには、日本も中国に届くミサイルが必要であり、米国製巡航ミサイル・トマホークの導入を決定しました。これは相当な費用になる。日本の防衛費の増加は、米国の軍需産業を潤わせるということを、繰り返し、トランプに伝える必要がある。トランプの目標は、会社の社長と一緒で、米国が赤字にならずに、収益を上げればそれでいい。そう考えてくれるのは、ある意味わかりやすく、日本がやれることは多いと思います。 うまく機嫌を取って、おだてて、気持ちよくして、お金の面ではこれだけ米国が得をしますよと言うんです。安倍元首相はトランプに会うときには必ず、日本の投資で米国でこれだけの雇用が生まれているというような数字を準備して伝え続けていました。言い続けないと、トランプはすぐ忘れるので何度も何度も話をしたそうです(笑)。 秋山 本当に、オーナー企業の社長に取り入る方法と全く同じですね。「社長、うちとの取引で、社長はこれだけ得をしてるんですよ、前に言ったでしょう」「そうだったかね」「この帳簿にちゃんとあるでしょう、忘れないで下さいよ」みたいな(笑)。日本の外交筋もそこは押さえているわけですね。 渡部 今回の訪米で、岸田首相は、議会演説を成功させましたが、共和党側の協力もあった。共和党のウィリアム・ハガティ上院議員は、トランプ政権下で駐日大使になった人で、トランプとの関係が非常に良く、日本の味方になる人です。 秋山 最後の駄目押しですが、トランプ、バイデンは今のところ五分五分。とはいえ、どちらが優勢ということはあるのでしょうか。 渡部 一般的にはトランプ優位ですが、外交筋はバイデンにも勝機があると見ているようです。ただ経済は重要です。インフレが進行すると現職不利、トランプ優位です。浮動票は基本的に所得が低い人が多く、物価高で生活がかなりの影響を受けるからです。今まで米国はインフレを抑えつつ、景気も維持できていた。今、景気は維持できていますが、インフレを抑えきれていない。あとは高齢リスクですね。二人とも高齢ですが、バイデンが候補者同士のディベートで、致命的な間違いをすれば、高齢化のせいにされて批判が集まり、不利になります。 秋山 刺激的な解説で、大変おもしろかったです。今回のお話で、押さえるべきポイントがはっきりし、こんがらがった状況の視界が晴れました。有難うございました。第三者的に考えれば米国政治は面白いですね。 渡部 少なくとも日本の政治よりはずっと面白いでしょう(笑』、 「むしろ課題は米国の正式な同盟国ではない台湾の防衛です。日米同盟は、中国の武力による台湾統一を未然に防ぐような抑止力を維持していく必要があります。その点で、同盟の価値を理解しないトランプ登場は懸念材料です」、「日米同盟は、中国の武力による台湾統一を未然に防ぐような抑止力を維持していく必要があります。その点で、同盟の価値を理解しないトランプ登場は懸念材料です」、その通りだ。
第三に、5月31日付けNewsweek日本版がロイターを転載した「34罪状すべてで...トランプに有罪評決、不倫口止め裁判 米大統領経験者で初めて」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2024/05/34-21.php
・『トランプ前米大統領が不倫口止め料を不正に会計処理したとされる事件で、ニューヨーク州地裁の陪審は30日、トランプ氏に有罪の評決を下した。米大統領経験者に対する有罪評決は初めてとなる。 陪審は2日間の審議の末、34件の罪状全てで有罪と判断した』、「トランプ氏」は上告するようだ。
タグ:トランプ (その52)(日本企業が恐れる「もしトラ」政策の最悪シナリオ 関税・補助金の政策転換でどんな影響が出る?、渡部恒雄氏「トランプの野望は復讐と保身」もしトラで“裏切り者”はどうなるのか?、渡部恒雄氏「トランプはタダ乗りするお荷物の同盟国が嫌い」もしトラで日本はどうなる?、34罪状すべてで...トランプに有罪評決 不倫口止め裁判 米大統領経験者で初めて、「34罪状すべてで...トランプに有罪評決、不倫口止め裁判 米大統領経験者で初めて」) ダイヤモンド・オンライン 秋山進 渡部恒雄氏 「トランプの野望は復讐と保身」もしトラで“裏切り者”はどうなるのか?」 「バイデン」の弱味のようだ。「30%が共和党員、28%が民主党員と回答する一方、41%が無党派と回答しています。議会において重要な課題について、超党派で協力できる中道派が減って機能しなくなり、それを嫌った人が無党派になるという悪循環が起こっています」、なるほど。 「バイデンの4年前とトランプの8年前は、それぞれの運動に勢いがありましたが、現在はどちらの陣営も、コアな支持層を超えて支持が広がっていない。弱い候補同士で拮抗している状態です・・・トランプは自分に忠誠を誓う人物を最優先し、ヘイリーのように国益を優先する人物は欲しくない。トランプは米国にではなく、自分にだけ忠実な人が欲しい。精神的にも自分を裏切った人を許す度量はない。 ヘイリーにしても今トランプに与するメリットはない」、なるほど。 「日本は、米国が建前で自由貿易を掲げていても、実際に自国に大きな損失となれば、「管理貿易」を押しつけてくるという実態を、70年代から90年代の日米貿易摩擦で身をもって体験しているので、米国に幻想はもっておらず驚かずに対処できる。だから日本は大統領がトランプになろうが、バイデンのままだろうが、そこそこやっていけるでしょう。 自由貿易、自由経済の原則は大切なものではありますが、いざ政治と組み合わさると、そう簡単ではない」、 「日本」はトランプ以前からさんざん煮え湯を飲まされてきたので、どうということはなさそうだ。「トランプが現状に不満を持つ労働者層を支持基盤にして、共和党を金持ちと企業家の政党から、ミドルクラスに支持を広げる党に変貌させた。これは、ある意味すごいことで、共和党へのトランプの功績といってもいいかもしれません」、なるほど。 「貧富の格差が固定化した米国では、既得権益層を優先するエリート政治家は、共和党であれ、民主党であれ期待できないが、少なくともトランプは現状を壊してくれる可能性があると期待しているのです」、トランプの強みだ。 トランプ陣営とバイデン陣営の間で労働者層を獲得しようと躍起になっている状況で、日本製鉄(日鉄)によるUSスチールの買収は、いや応なく選挙戦に巻き込まれてしまいました。USスチールの製鉄所の一つがあるミシガン州は、大統領選挙の帰趨を決める接戦州の一つです。 バイデンの民主党は、伝統的に労働組合の支持をバックにしていますが、トランプは2016年にはミシガン州の労働者層を惹きつけ、ヒラリーに勝利しました。今回も、労働者を味方につけるために日鉄の買収に反対を表明しました。バイデンも、みすみす全米鉄鋼労組(USW)の支持を失うわけにはいきませんから、日鉄の買収は対米外国投資委員会(CFIUS)できちんと精査すべきだと、けん制せざるを得ませんでした。接戦州で労働者層の票を獲得するために、両陣営は「保護主義」の競争をしているのです』、「日本製鉄(日鉄)によるUSスチール の買収」は、誠に拙いタイミングに直面したものだ。「日本製鉄」もこうした事情を理解して臨んでいる筈だが、どこに誤算があったのだろう。 「トランプはネタニヤフ首相と関係が近く、過去の保守派政権と比べても、極端なイスラエル寄りの政策をとってきました。しかし、2020年の選挙でトランプに勝利したバイデンに対して、ネタニヤフが祝福のメッセージを送ったことを根に持ち関係は悪化した。ハマスがイスラエルにテロ攻撃を行った際には、「(ネタニヤフ氏は)準備ができていなかった。トランプ政権下なら準備する必要はなかっただろう」と批判し、やはりイスラエルと衝突しているレバノンの武装組織ヒズボラを「非常に賢い」と評しました。トランプの度量の小ささが、結果オーライ になっている」とは言い得て妙だ。 「今やトランプが閣僚やスタッフに求めるのは、彼に対する忠誠心だけです。トランプの目標はある意味で非常にシンプルです。おそらく4年だけとなる来年からの大統領任期の間に、大統領権限を使って、自分に降りかかっている複数の刑事訴追と民事訴訟を無効にするような対策をすることでしょう」、既に裁判の第一審では有罪が宣告されたが、上告して時間かせぎをするのだろう。 「ペンスは熱心な福音派で、トランプが保守的な政策を行うことを期待して、支えてきた。ところが、トランプはバイデンが当選した大統領選挙結果を根拠なく否定して、覆そうとした。これは合衆国憲法と民主主義への明確な反逆であり、愛国者のペンスにはの容認できなかった。トランプ不支持に転じたのは、トランプを裏切ったというよりも、合衆国憲法と民主主義を守ることを優先するペンスの明確な信念に基づいた行動だったと思います」、「ペンス」は想像以上に強い「信念」の人だったようだ。 通商問題では、「一番大きな対米貿易黒字国の中国が最初のターゲットになるでしょう。日本も中国ほどではないにしても、黒字なので、例外ではありませんが、まずは中国です」、「中国」に対しては米国内に根強い中国寄りのグループもあることから楽観できない。やはり日本独自に対抗戦略を練るべきなのではなかろうか。 秋山進氏 「渡部恒雄氏「トランプはタダ乗りするお荷物の同盟国が嫌い」もしトラで日本はどうなる?」 政治家の評価はどうしても短期的視点で行われてしまうのは宿命のようだ。 「トランプは身内に反対が強い中国とのディールよりも、より達成が楽なロシアや北朝鮮とのディールを優先するのだろうと考えています。 秋山 一方で、中国は高齢化が進み、国内も不動産バブルの後始末で危うく経済も悪くなっています。米国のライバルとして存在し続けることができるのでしょうか」、「ロシアや北朝鮮とのディールを優先」とは困ったことだ。 「トランプは歴史から学びませんし国家観もないので、一貫して同盟国が嫌いです。米国の経済と軍事にタダ乗りする単なるお荷物と考えている。同盟国のおかげで米国も恩恵を受けているという面は理解しないので、安全保障などはどうでもよく、金銭に換算できる目に見える利益にしか興味がない。当然のことながら、在日米軍のコストは米国の持ち出しだから、日本は負担費用以上に米国に金を出すべきという発想になる」、「日本」としては理論武装しておく必要がある。 「中国が尖閣諸島を占拠した場合の対処は、すべての米国の指導者に悩ましいジレンマを突き付けます。日本とともに軍事行動をすることで、中国との戦争に発展するエスカレーションのリスクを覚悟しなくてはならないからです。トランプに即して考えれば、日本と共に軍事行動を取らない理由は日本を見捨てることで、中国が何かトランプに(米国の、ではないですよ)大きな利益を与える場合ということになるでしょう。 逆に日本を守ることで、トランプ個人が大きな利益を得るようであれば、それも選択肢であり、両国からの利益を天秤で測って考えるのではないでしょうか。日本は頭の体操をしておいた方がいい。少なくとも、彼には同盟関係を維持することが、米国の長期的な利益と力になるという発想はないはずです。 ちなみに、尖閣諸島に関しては、日本は単独で守り切るだけの海上保安能力とそれをバックアップする海上自衛隊の能力があり、米国に頼るような状況にはありません。ただし直近の日米共同声明などでも、米国は尖閣防衛にコミットしており、米国との衝突 を恐れる中国に対する抑止力になっています。日本はかつてのように自国の防衛を米国にすべて依存するような状況にはなく、日米で東アジア地域の安定を維持していくという方向に日米同盟は変質してきています。 「むしろ課題は米国の正式な同盟国ではない台湾の防衛です。日米同盟は、中国の武力による台湾統一を未然に防ぐような抑止力を維持していく必要があります。その点で、同盟の価値を理解しないトランプ登場は懸念材料です」、「日米同盟は、中国の武力による台湾統一を未然に防ぐような抑止力を維持していく必要があります。その点で、同盟の価値を理解しないトランプ登場は懸念材料です」、その通りだ。 Newsweek日本版 ロイターを転載した「34罪状すべてで...トランプに有罪評決、不倫口止め裁判 米大統領経験者で初めて」 「トランプ氏」は上告するようだ。