自動車(一般)(その8)(自動車「認証不正問題」の本質は国交省の“イジメ”ではないか…? 時代錯誤な「お役所仕事」が日本経済を停滞させる、トヨタにホンダまで!自動車メーカーの経営が「コンプラ順守」を叫んでも 現場が結局「不正」を起こすワケ) [産業動向]
自動車(一般)については、本年5月6日に取上げた。今日は、(その8)(自動車「認証不正問題」の本質は国交省の“イジメ”ではないか…? 時代錯誤な「お役所仕事」が日本経済を停滞させる、トヨタにホンダまで!自動車メーカーの経営が「コンプラ順守」を叫んでも 現場が結局「不正」を起こすワケ)である。
先ずは、本年6月11日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の朝香 豊氏による「自動車「認証不正問題」の本質は国交省の“イジメ”ではないか…? 時代錯誤な「お役所仕事」が日本経済を停滞させる」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/131526?imp=0
・『現行6車種の「出荷停止」は妥当か 今月3日、トヨタ、ホンダ、マツダなど自動車メーカー5社で、量産に必要な型式指定申請で不正があったことが判明し、そのうち現在3社が生産中の6車種について出荷停止となった。 第一報に接したときには、「これはまたとんでもないことをやらかしたな」と、俄に日本企業への不信感を募らせたが、その後、各社が開いた記者会見を聞いて、今回「不正」とされたことの大半は本来「不正」などと呼ぶべきものではない、ということが判明した。「不正」と呼ぶべき一部についても、実に軽微な話で、こんなことは大々的に扱わずに処理すべきものではないかと感じた。 例えばトヨタは、後部からの車をぶつけられた時に油漏れを起こすかどうかについて、車体重量1800キロの車をぶつけて実験を行い、問題ないことを検証していた。ところが国交省の求める実験では1100キロ(正確には1100キロ±20キロ以内)の車をぶつけて油漏れを起こすかどうかであり、1800キロの車をぶつけて実験をしながら、1100キロの車をぶつけて油漏れを起こさなかったと記したのは、虚偽記載に当たるというのである。 より大きなダメージを与えられる試験を実施して安全性に問題がないことを確認しても、それでは「不正」だと国交省は主張しているのだ。この国交省の姿勢を融通性に欠けるものだと受け取るのは、当然ではないか。 ところで、トヨタはなぜ国内の型式認証の基準が1100キロの車だとわかっていながら、わざわざ1800キロの車を用意して実験したのだろうか。それは世界でもっとも厳しいのが1800キロの車での実験であるからだ。世界で最も厳しい基準で実験を行って、世界中どこでも通用する車として販売していきたいというのが、国際競争を戦っている日本の自動車メーカーの考えである。 後部からの車の衝突は理解できるが、エアバックのタイマー起動は納得いかないという意見もあるが、これはエアバックのタイマー起動実験を完全に誤解したものだ。そうした人たちは、本当にエアバッグが起動するかどうかわからないので、タイマーを使って確実に起動させてごまかしたと思っているのだろうが、実はそうではない。 衝突時の衝撃は車体構造とシートベルトで受け止めるのが基本で、シートベルトが十分に安全かどうかが問題となる。シートベルトの安全性を確認するには、エアバッグが本来の製品仕様通りに衝突時間にジャストタイムで起動するのは不都合なのだ。だからタイマーを使って意図的にエアバッグの作動を遅らせ、シートベルトの安全性をより厳密に確認していたのである。つまり、仮にエアバッグの作動が遅れたとしても安全であるかどうかを確かめていたのだ。 エアバッグが衝突時にジャストタイムで起動するのは、過去の知見の積み重ねで99.9%以上確実に作動するのはわかっているが、万一ジャストタイムで起動せずに少し遅れたとしても、乗員の安全を確保できるシートベルト性能があるかどうかを確かめていたのである。そしてこれでも十分に安全であることを確認していた。だが、このやり方を国交省は「不正」だと問題視しているのだ。 安全性に欠けるものをごまかして乗り切ろうとしたわけでもないのに、「不正」「虚偽記載」だと批判されるのは、実に迷惑な話である』、「車体重量1800キロの車をぶつけて実験を行い、問題ないことを検証していた。ところが国交省の求める実験では1100キロ(正確には1100キロ±20キロ以内)の車をぶつけて油漏れを起こすかどうかであり、1800キロの車をぶつけて実験をしながら、1100キロの車をぶつけて油漏れを起こさなかったと記したのは、虚偽記載に当たるというのである。 より大きなダメージを与えられる試験を実施して安全性に問題がないことを確認しても、それでは「不正」だと国交省は主張しているのだ」、国交省の姿勢は大いに問題だ。
・『「睨まれるとメーカーは報復されます」 私が今回の一件は、メーカーではなくて国交省の問題ではないのか、との見方を自身のYouTubeチャンネルでアップしたところ、国交省の不合理極まりない対応に苦労してきた多くの視聴者から、様々な反応をもらった。 「元自動車会社の開発部門で認証業務に携わった人間として朝香先生のご意見、ご指摘に心から感謝し賛同致します」 「朝香さんがこの件を取り上げて頂いた事に大変感謝いたします。自動車業界に居ましたが、国土交通省は神より強い状態でちょっとでも睨まれるとメーカーは報復されますから」 「あなたの考え方は全く正しい! 私は航空関係の退職者ですが、国交省の馬鹿げた筋違いは眼を覆うCrazyさです」 元自動車メーカーの開発部門、営業部門の者として言わせていただきますと国交省運輸局や海事局の型式認証試験は時代錯誤の試験項目が多く残っていたり無駄無意味な試験項目が多く、悪いのは国交省であると思います」 「自動車整備関連で仕事をしていますが、車検(保安基準)が未だに昭和30,40年代から変わっていない部分があります。車の性能があがり、道路事情も進化しているのに国交省のお役所仕事が経済を停滞させているのは間違いないですね」 これらの声が国交省の規制と向き合ってきた現場の声なのだ。 国交省が、メーカー側の苦労を理解したうえで、メーカーの現実を考慮した規制に変えていれば、話は全く変わっていただろう。例えば、先程の後部から車がぶつかってきた時の安全確認について言えば、車体重量1100キロという基準にするのではなく、「車体重量1100キロ以上の台車を利用して調べればよい」との基準に変えていれば、トヨタのやったことは当然ながら「不正」にも「虚偽記載」にも当たらない。 問題は、国交省が製造現場の実態を理解したうえで、日本のメーカーが国際競争で戦うのに適したものへと規制をアップデートしなければならないという意識が希薄であることにあると言うべきではないだろうか。トヨタの豊田章男会長も、「(制度と現場に)ギャップがある。制度自体をどうするのか、議論になっていくとよい」と発言し、国交省の姿勢に問題があることを匂わした。 世界においてもこの話は完全に誤解されて報道されている。例えばニューヨーク・タイムズは「トヨタなどの日本の自動車メーカーは安全性試験を不正操作したと語る」という表題で、「日本製品には優れたものづくりに支えられた高い品質が備わっているとの捉え方が長らくなされてきたが、こうした不正事例が相次いでいる中で、そのような考え方は変化し始めているかもしれない」などと報じられた。
参照)Toyota and Other Japanese Carmakers Say They Mishandled Safety Tests(The New York Times, June 3, 2024) この日本の自動車メーカーに対するダメージを、国交省はどうやって回復するつもりなのか? はっきり言うが、そんな責任など、国交省は全く考えていないだろう。だからこそ、なおさらタチが悪いのだ。 時代錯誤かつ無駄な規制を作っては、国内メーカーの自由を奪い、権力を振るうことで自らの存在意義を作り上げている国交省のあり方は「醜い」の一言だ』、「時代錯誤かつ無駄な規制を作っては、国内メーカーの自由を奪い、権力を振るうことで自らの存在意義を作り上げている国交省のあり方は「醜い」の一言だ」、言い得て妙だ。
・『国内メーカーには厳しく外国メーカーには甘い マスコミの報道も醜い。例えばテレビ朝日の経済部記者は、「入学試験を受ける時にカンニングをして合格点を取った人に、入学後にカンニングの疑惑をかけられて、改めて試験を受けたら合格点が取れました」という話に例えて表現していたが、今回の件はそういう話ではない。 マラソンを走る時に、普段は着けない10キロの重りを着けて走っても合格タイム内で走れたので、重りを付けなくても絶対に合格タイム内で走れるのだから、わざわざ重りなしで走り直す必要はない、という感じで捉えるべきものだ。 参照)【業界の慣習?】トヨタなど5社で不正発覚 国交省の対応は 経済部・進藤潤耶記者【ABEMA NEWS】(2024年6月3日)
ただし、中には毎日放送のように、国交省の問題を視聴者にわかりやすく説明する番組を作っているところもあったわけで、マスコミ全てがおかしいということではないことは付言しておく。 参照)トヨタなど5社の認証不正『国より厳しい基準で独自に試験』その意味をわかりやすく解説 評論家・国沢光宏さん「日本がどうやって栄えていくか考えるべき」(MBS NEWS 2024年6月4日) ちなみに国交省は、国産車に対しては厳しい規制を敷く一方で、輸入車に対しては、一車種につき年間5000台を上限とするというルールはあるものの、輸入自動車特別取扱制度(PHP)により、簡素な書類審査で日本市場での販売を許可している。国産車は高い安全性が確保できなければならないけれども、輸入車は数が少ないから多少危険であっても構わない、ということなのだろうか。 もちろん国交省は「いや、我々はそんなことは考えていない。輸入車にも高い安全性を求めていて、国内の適合基準を満たしている車以外は販売できないようにしている」と言うであろう。だったら、輸入車同様の扱いで国産車も販売できるようにすればいいじゃないかとさえ言いたくなる。 そもそも、輸入車はそれほど安全なんだろうか? という疑問を私は持つ。 例えば今年5月16日に福建省福州市にある電気自動車大手BYDのディーラーで大規模な火災が発生した。 屋根裏に設置されていた電気配線がショートして出火したものが電気自動車に燃え広がったのではないかとの報道を見かけたが、真偽の程はよくわからない。それはともかく、この事件は、電気自動車は一旦燃え始めると恐ろしいということをまざまざと見せつけることとなった。 国交省はこのBYDの電気自動車に対する安全性を十分調査しているのだろうか。 テスラの安全性についても、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)は「注意深いドライバーであれば視認できたはずの危険が絡んだ、回避できるはずの事故が多発する傾向が観察された」として、現在厳しい目を向けている。 参照)テスラの自動運転技術に新たな難題、米当局が「基本的な問題あり」との調査結果(WIRED 2024.04.27) アメリカの規制当局が問題にしているテスラ車の安全性について、国交省は果たしてどこまで問題視しているのだろうか。 国内メーカーに対しては厳しいが、外国メーカーには甘いとなれば、国交省はどこの国の役所なのかと言いたくもなる』、「国内メーカーに対しては厳しいが、外国メーカーには甘いとなれば、国交省はどこの国の役所なのかと言いたくもなる」、少なくとも内外の扱いを同じにすべきだ。
・『1ヵ月の出荷停止で600億円規模の影響 今回の事態を受けて、トヨタは現行生産車で問題のあった「トヨタヤリスクロス」「カローラフィールダー」「カローラアクシオ」について、マツダは「マツダ2」「ロードスターRF」について、出荷停止処置だけでなく、生産も停止した。 トヨタは生産停止期間をとりあえず「6月6日から28日まで」としているが、国交省の対応によっては当然、長引くことも考えられる。 野村総合研究所の木内登英氏の推計よると、仮に出荷停止期間が4ヵ月となった場合、販売金額の減少は983.7億円に上る。また、関連する業種を含めた生産額全体の減少幅は2441.7億円になるというのが、木内氏の計算だ。 参照)自動車メーカー認証不正問題の経済への影響(木内登英のGlobal Economy & Policy Insight 2024/06/04) 仮に出荷停止が1ヵ月で済んだとしても生産額全体の減少は600億円規模になることは見ておかなければならない。 国交省のくだらない対応によって、日本の経済にもこれだけの悪影響を与えることになることを軽視すべきではない』、「1ヵ月の出荷停止で600億円規模の影響」とは無視できない影響だ。「国交省」はもっと責任ある対応をするべきだ。
次に、6月18日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「トヨタにホンダまで!自動車メーカーの経営が「コンプラ順守」を叫んでも、現場が結局「不正」を起こすワケ」を紹介しよう。
・『主要自動車メーカーの全てで品質・認証の不正問題が起きている。各社の問題発生に共通するのは、技術に対する過信や審査に対する慣れなど心理の影響だ。現場の技術者は皆、審査の重要性を軽視したのだろう。そのため、経営者も「認証試験は現場の判断に任せて良い」といった経営判断が続いたとみられる。生産の現場から経営トップ層まで、現状の生産管理、認証の体制に不備はないという一種のバイアスが強まったと考えられる。また、人手不足で認証体制の強化に影響があったかもしれない』、「技術に対する過信や審査に対する慣れなど心理の影響だ。現場の技術者は皆、審査の重要性を軽視したのだろう。そのため、経営者も「認証試験は現場の判断に任せて良い」といった経営判断が続いたとみられる。生産の現場から経営トップ層まで、現状の生産管理、認証の体制に不備はないという一種のバイアスが強まったと考えられる。また、人手不足で認証体制の強化に影響があったかもしれない」、なるほど。
・『トヨタ、マツダ、ホンダ、スズキ…自動車「認証不正」が経済の下振れリスクに 6月上旬、5つの自動車・二輪車メーカーで「型式指定」を巡る不正が発覚した。いわゆる認証不正問題だ。6月3日、トヨタ自動車は、2014年以降生産した7車種で国の基準と異なる方法で試験を実施したと公表した。マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキでも不正が明らかになった。 世界の自動車業界をリードする日本企業で、なぜ、このような問題が発生するのだろか。背景の一つに、自社の製造技術に対する“過信”があるのだろう。技術に自信があるため、どうしても試験実施方法などの軽視が起きる、といった専門家の声は多い。現場の自信が悪い方向に作用してしまったということだ。そのため、経営トップがいくら法令順守=コンプライアンスと叫んでも、なかなかこの問題を根絶することが難しい。 有力自動車メーカーの認証不正問題は、明らかに日本経済にマイナスだ。生産の中止などで裾野の広い自動車産業の機能が低下することは避けられない。それによって、わが国の経済成長率の下振れリスクが高まる。コロナ禍が明けてからも個人消費がまだまだ弱い一方、自動車の生産や輸出が景気の腰折れを防いできた。しかし、認証不正問題で景気を下支えする力は弱まるだろう。 また、品質不正をきっかけに、各自動車メーカーの信頼性が低下することも懸念される。それは、国内の自動車関連企業の収益減少につながる。電動車の開発や全固体電池の実用化に必要な投資資金が計画を下回り、成長戦略が遅れる可能性もある。認証不正問題は、わが国経済にとって大きな火種になりかねない』、「背景の一つに、自社の製造技術に対する“過信”があるのだろう。技術に自信があるため、どうしても試験実施方法などの軽視が起きる、といった専門家の声は多い。現場の自信が悪い方向に作用してしまったということだ。そのため、経営トップがいくら法令順守=コンプライアンスと叫んでも、なかなかこの問題を根絶することが難しい」、なるほど。
・『主要メーカー全てで品質・認証の不正 どうしてそんなことに?問題の背景は… 今回の発覚によって、わが国の主要自動車メーカーの全てで品質・認証の不正問題が起きたことになる。振り返れば16年、三菱自動車で燃費データの改ざんが明らかになった。続く17年、日産自動車とSUBARUで無資格検査員による完成車の検査が発覚した。さらに22年、商用車(トラック)の生産を行う日野自動車で燃費試験などの不正が表面化した。 そうして23年、ダイハツ工業の衝突試験不正、豊田自動織機でエンジン出力に関する不正も発表された。一連の認証不正、データ改ざんの実態を把握するため、国土交通省は各メーカーに調査を求めた。 これまでの発表によると、トヨタ、マツダ、ヤマハ、ホンダ、スズキの5社、38車種で認証不正があった。生産終了分を含め、不正の対象台数は500万台を超えた。トヨタでは14年から不正が発生していた。16年に問題が発覚したにもかかわらず、不正が続いたのはかなり深刻だ。 問題は、型式指定に関するものである。自動車メーカーが新車を生産する際、安全性、環境性能の基準を適合しているか、事前に国の審査を受ける。審査を通過し型式指定を得ると、メーカーの完成検査で販売できる。協定国であれば検査を簡素化できる。 日本の自動車審査方法は米国と異なる。米国では排ガスに関する事前の審査がある。審査で安全性に問題があればリコールで対応する。 一方、日本では事前に政府が基準を定める。自動車メーカーはそれぞれ基準を満たし、効率的な自動車生産のため“すり合わせ製造技術”を磨いてきた。その結果、燃費、安全、走行など性能は向上し、日本車は世界で高い評価を得た。 認証不正は、消費者が各メーカーに寄せた安心感・信頼感を棄損する懸念がある。トヨタで発覚した6件は国際基準に該当するものだった。同社によると、問題の全貌はまだ把握できていない。問題の完全な解決には、まだ時間がかかるだろう』、「認証不正は、消費者が各メーカーに寄せた安心感・信頼感を棄損する懸念がある。トヨタで発覚した6件は国際基準に該当するものだった。同社によると、問題の全貌はまだ把握できていない。問題の完全な解決には、まだ時間がかかるだろう」、まだ時間がかかるとはやれやれだ。
・『認証不正が発生する主な要因は? マツダとトヨタの資料で判明 なぜ、認証不正が起きたのだろう。問題が発覚した企業の開示内容を確認すると、マツダの公表内容が分かりやすい。同社は「不正の原因」を3つ指摘した。 まず、ガバナンスの問題だ。試験が認証法規に準拠した状態で実施されたかをチェックする仕組み、ガバナンス(管理・監督などを行う)体制が不足していた。 次に、手順の不備があった。認証法規に準拠した試験実施の手順が十分ではなかった。 そして、設備の不足だ。認証法規に準拠した試験条件を安定的に満たす設備の整備が不足した。マツダは改善策に、チェックや管理体制の強化、手順書の見直しと教育などの強化、設備の整備強化を挙げた。 一方、トヨタの公表内容を見ると、一般的に、安全性と環境性の認証は3つの方法があるという。(1)試験時、認証機関の審査官が立ち会う、(2)メーカーが試験を行い、データを提出する、(3)開発試験で有効なデータを認証データとして提出する。トヨタは(2)と(3)で認証の不正が起きた。 各社の問題発生に共通するのは、技術に対する過信や審査に対する慣れなど心理の影響だ。自社の製造技術は高い。完成車の性能に問題もない。現場の技術者は皆、審査の重要性を軽視したのだろう。そのため、経営者も「認証試験は現場の判断に任せて良い」といった経営判断が続いたとみられる。 生産の現場から経営トップ層まで、現状の生産管理、認証の体制に不備はないという一種のバイアスが強まったと考えられる。また、人手不足で認証体制の強化に影響があったかもしれない。 ただ、いずれも経営トップの責任であることは間違いない。本来、経営者は社会的責任を果たすために、抜き打ちで試験の実施体制を検証すべきだ。時代にそぐわない認証基準があるなら、当局に掛け合い、実態に即した認証体制を確立する必要もあった。根本的な原因は、経営者にあると考えられる。他の分野でも決して他人事ではない』、「各社の問題発生に共通するのは、技術に対する過信や審査に対する慣れなど心理の影響だ。自社の製造技術は高い。完成車の性能に問題もない。現場の技術者は皆、審査の重要性を軽視したのだろう。そのため、経営者も「認証試験は現場の判断に任せて良い」といった経営判断が続いたとみられる。 生産の現場から経営トップ層まで、現状の生産管理、認証の体制に不備はないという一種のバイアスが強まったと考えられる。また、人手不足で認証体制の強化に影響があったかもしれない。 ただ、いずれも経営トップの責任であることは間違いない。本来、経営者は社会的責任を果たすために、抜き打ちで試験の実施体制を検証すべきだ。時代にそぐわない認証基準があるなら、当局に掛け合い、実態に即した認証体制を確立する必要もあった。根本的な原因は、経営者にあると考えられる。他の分野でも決して他人事ではない」、その通りだ。
・『自動車メーカーの認証不正が日本経済に与える大きな負のインパクト 自動車の認証不正問題は、日本経済の下振れリスクを高めている。1~3月期の国内総生産(GDP)は実質ベースで前期比0.5%(年率で2.0%)減少した(1次速報)。実質賃金の減少に加え、ダイハツの認証不正による販売減少から個人消費が減少したのだ。自動車関連の設備投資が減少した面もある。 それでも、国内経済は何とか踏みとどまった。北米向けの自動車輸出の増加は景気を支えた。省人化や半導体分野の設備投資、インバウンド需要も景気を下支えした。 4~6月期、自動車の生産回復など前期からの反発で、成長率は上向くとの見方は増えていた。しかし、新たな認証不正の大規模発覚が、そうした展開に完全に水を差している。今後、各社の生産停止などが拡大することになると、経済成長率の下振れ懸念は高まるだろう。 自動車産業の競争力が低下する懸念もある。トヨタの営業利益率は米テスラや独フォルクスワーゲンを上回っており、資金を電気自動車(EV)などの生産体制強化に再配分してきた。可能な限り早いタイミングでエンジン車、ハイブリッド車(HV)、EV、FCV(燃料電池車)、水素エンジン車など“全方位型”のプロダクト・ポートフォリオを拡充することで国際規制に対応し、より多くの需要を創出する戦略だ。 しかし、認証不正問題のせいでEV開発などが遅れる可能性がある。欧米市場で日本車の評価が揺らぎ、需要が現地メーカーに向かうことも考えられる。11月の米大統領選挙後に、次期政権が日本の自動車産業を批判する、輸入車の関税引き上げを示唆するなど、逆風が強まる展開もあるだろう。 現在、アジア新興国市場では、中国や現地EVメーカーの投資が加速している。日本勢にとって電動車への生産強化がいっそう必要なタイミングで、認証不正問題が起きた。そのため、アジア新興国地域の自動車需要が、他国企業に流れることもあるだろう。 そうした展開が現実味を帯びると、自動車関連の素材、汎用型の機械など日本経済全体で研究開発や設備投資の勢いは鈍化する。認証不正問題が、当面の景気、経済の実力である潜在成長率の回復を阻害する要因になることが、大いに懸念される』、「認証不正問題のせいでEV開発などが遅れる可能性がある。欧米市場で日本車の評価が揺らぎ、需要が現地メーカーに向かうことも考えられる。11月の米大統領選挙後に、次期政権が日本の自動車産業を批判する、輸入車の関税引き上げを示唆するなど、逆風が強まる展開もあるだろう。 現在、アジア新興国市場では、中国や現地EVメーカーの投資が加速している。日本勢にとって電動車への生産強化がいっそう必要なタイミングで、認証不正問題が起きた。そのため、アジア新興国地域の自動車需要が、他国企業に流れることもあるだろう・・・自動車関連の素材、汎用型の機械など日本経済全体で研究開発や設備投資の勢いは鈍化する。認証不正問題が、当面の景気、経済の実力である潜在成長率の回復を阻害する要因になることが、大いに懸念される」、同感である。
先ずは、本年6月11日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の朝香 豊氏による「自動車「認証不正問題」の本質は国交省の“イジメ”ではないか…? 時代錯誤な「お役所仕事」が日本経済を停滞させる」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/131526?imp=0
・『現行6車種の「出荷停止」は妥当か 今月3日、トヨタ、ホンダ、マツダなど自動車メーカー5社で、量産に必要な型式指定申請で不正があったことが判明し、そのうち現在3社が生産中の6車種について出荷停止となった。 第一報に接したときには、「これはまたとんでもないことをやらかしたな」と、俄に日本企業への不信感を募らせたが、その後、各社が開いた記者会見を聞いて、今回「不正」とされたことの大半は本来「不正」などと呼ぶべきものではない、ということが判明した。「不正」と呼ぶべき一部についても、実に軽微な話で、こんなことは大々的に扱わずに処理すべきものではないかと感じた。 例えばトヨタは、後部からの車をぶつけられた時に油漏れを起こすかどうかについて、車体重量1800キロの車をぶつけて実験を行い、問題ないことを検証していた。ところが国交省の求める実験では1100キロ(正確には1100キロ±20キロ以内)の車をぶつけて油漏れを起こすかどうかであり、1800キロの車をぶつけて実験をしながら、1100キロの車をぶつけて油漏れを起こさなかったと記したのは、虚偽記載に当たるというのである。 より大きなダメージを与えられる試験を実施して安全性に問題がないことを確認しても、それでは「不正」だと国交省は主張しているのだ。この国交省の姿勢を融通性に欠けるものだと受け取るのは、当然ではないか。 ところで、トヨタはなぜ国内の型式認証の基準が1100キロの車だとわかっていながら、わざわざ1800キロの車を用意して実験したのだろうか。それは世界でもっとも厳しいのが1800キロの車での実験であるからだ。世界で最も厳しい基準で実験を行って、世界中どこでも通用する車として販売していきたいというのが、国際競争を戦っている日本の自動車メーカーの考えである。 後部からの車の衝突は理解できるが、エアバックのタイマー起動は納得いかないという意見もあるが、これはエアバックのタイマー起動実験を完全に誤解したものだ。そうした人たちは、本当にエアバッグが起動するかどうかわからないので、タイマーを使って確実に起動させてごまかしたと思っているのだろうが、実はそうではない。 衝突時の衝撃は車体構造とシートベルトで受け止めるのが基本で、シートベルトが十分に安全かどうかが問題となる。シートベルトの安全性を確認するには、エアバッグが本来の製品仕様通りに衝突時間にジャストタイムで起動するのは不都合なのだ。だからタイマーを使って意図的にエアバッグの作動を遅らせ、シートベルトの安全性をより厳密に確認していたのである。つまり、仮にエアバッグの作動が遅れたとしても安全であるかどうかを確かめていたのだ。 エアバッグが衝突時にジャストタイムで起動するのは、過去の知見の積み重ねで99.9%以上確実に作動するのはわかっているが、万一ジャストタイムで起動せずに少し遅れたとしても、乗員の安全を確保できるシートベルト性能があるかどうかを確かめていたのである。そしてこれでも十分に安全であることを確認していた。だが、このやり方を国交省は「不正」だと問題視しているのだ。 安全性に欠けるものをごまかして乗り切ろうとしたわけでもないのに、「不正」「虚偽記載」だと批判されるのは、実に迷惑な話である』、「車体重量1800キロの車をぶつけて実験を行い、問題ないことを検証していた。ところが国交省の求める実験では1100キロ(正確には1100キロ±20キロ以内)の車をぶつけて油漏れを起こすかどうかであり、1800キロの車をぶつけて実験をしながら、1100キロの車をぶつけて油漏れを起こさなかったと記したのは、虚偽記載に当たるというのである。 より大きなダメージを与えられる試験を実施して安全性に問題がないことを確認しても、それでは「不正」だと国交省は主張しているのだ」、国交省の姿勢は大いに問題だ。
・『「睨まれるとメーカーは報復されます」 私が今回の一件は、メーカーではなくて国交省の問題ではないのか、との見方を自身のYouTubeチャンネルでアップしたところ、国交省の不合理極まりない対応に苦労してきた多くの視聴者から、様々な反応をもらった。 「元自動車会社の開発部門で認証業務に携わった人間として朝香先生のご意見、ご指摘に心から感謝し賛同致します」 「朝香さんがこの件を取り上げて頂いた事に大変感謝いたします。自動車業界に居ましたが、国土交通省は神より強い状態でちょっとでも睨まれるとメーカーは報復されますから」 「あなたの考え方は全く正しい! 私は航空関係の退職者ですが、国交省の馬鹿げた筋違いは眼を覆うCrazyさです」 元自動車メーカーの開発部門、営業部門の者として言わせていただきますと国交省運輸局や海事局の型式認証試験は時代錯誤の試験項目が多く残っていたり無駄無意味な試験項目が多く、悪いのは国交省であると思います」 「自動車整備関連で仕事をしていますが、車検(保安基準)が未だに昭和30,40年代から変わっていない部分があります。車の性能があがり、道路事情も進化しているのに国交省のお役所仕事が経済を停滞させているのは間違いないですね」 これらの声が国交省の規制と向き合ってきた現場の声なのだ。 国交省が、メーカー側の苦労を理解したうえで、メーカーの現実を考慮した規制に変えていれば、話は全く変わっていただろう。例えば、先程の後部から車がぶつかってきた時の安全確認について言えば、車体重量1100キロという基準にするのではなく、「車体重量1100キロ以上の台車を利用して調べればよい」との基準に変えていれば、トヨタのやったことは当然ながら「不正」にも「虚偽記載」にも当たらない。 問題は、国交省が製造現場の実態を理解したうえで、日本のメーカーが国際競争で戦うのに適したものへと規制をアップデートしなければならないという意識が希薄であることにあると言うべきではないだろうか。トヨタの豊田章男会長も、「(制度と現場に)ギャップがある。制度自体をどうするのか、議論になっていくとよい」と発言し、国交省の姿勢に問題があることを匂わした。 世界においてもこの話は完全に誤解されて報道されている。例えばニューヨーク・タイムズは「トヨタなどの日本の自動車メーカーは安全性試験を不正操作したと語る」という表題で、「日本製品には優れたものづくりに支えられた高い品質が備わっているとの捉え方が長らくなされてきたが、こうした不正事例が相次いでいる中で、そのような考え方は変化し始めているかもしれない」などと報じられた。
参照)Toyota and Other Japanese Carmakers Say They Mishandled Safety Tests(The New York Times, June 3, 2024) この日本の自動車メーカーに対するダメージを、国交省はどうやって回復するつもりなのか? はっきり言うが、そんな責任など、国交省は全く考えていないだろう。だからこそ、なおさらタチが悪いのだ。 時代錯誤かつ無駄な規制を作っては、国内メーカーの自由を奪い、権力を振るうことで自らの存在意義を作り上げている国交省のあり方は「醜い」の一言だ』、「時代錯誤かつ無駄な規制を作っては、国内メーカーの自由を奪い、権力を振るうことで自らの存在意義を作り上げている国交省のあり方は「醜い」の一言だ」、言い得て妙だ。
・『国内メーカーには厳しく外国メーカーには甘い マスコミの報道も醜い。例えばテレビ朝日の経済部記者は、「入学試験を受ける時にカンニングをして合格点を取った人に、入学後にカンニングの疑惑をかけられて、改めて試験を受けたら合格点が取れました」という話に例えて表現していたが、今回の件はそういう話ではない。 マラソンを走る時に、普段は着けない10キロの重りを着けて走っても合格タイム内で走れたので、重りを付けなくても絶対に合格タイム内で走れるのだから、わざわざ重りなしで走り直す必要はない、という感じで捉えるべきものだ。 参照)【業界の慣習?】トヨタなど5社で不正発覚 国交省の対応は 経済部・進藤潤耶記者【ABEMA NEWS】(2024年6月3日)
ただし、中には毎日放送のように、国交省の問題を視聴者にわかりやすく説明する番組を作っているところもあったわけで、マスコミ全てがおかしいということではないことは付言しておく。 参照)トヨタなど5社の認証不正『国より厳しい基準で独自に試験』その意味をわかりやすく解説 評論家・国沢光宏さん「日本がどうやって栄えていくか考えるべき」(MBS NEWS 2024年6月4日) ちなみに国交省は、国産車に対しては厳しい規制を敷く一方で、輸入車に対しては、一車種につき年間5000台を上限とするというルールはあるものの、輸入自動車特別取扱制度(PHP)により、簡素な書類審査で日本市場での販売を許可している。国産車は高い安全性が確保できなければならないけれども、輸入車は数が少ないから多少危険であっても構わない、ということなのだろうか。 もちろん国交省は「いや、我々はそんなことは考えていない。輸入車にも高い安全性を求めていて、国内の適合基準を満たしている車以外は販売できないようにしている」と言うであろう。だったら、輸入車同様の扱いで国産車も販売できるようにすればいいじゃないかとさえ言いたくなる。 そもそも、輸入車はそれほど安全なんだろうか? という疑問を私は持つ。 例えば今年5月16日に福建省福州市にある電気自動車大手BYDのディーラーで大規模な火災が発生した。 屋根裏に設置されていた電気配線がショートして出火したものが電気自動車に燃え広がったのではないかとの報道を見かけたが、真偽の程はよくわからない。それはともかく、この事件は、電気自動車は一旦燃え始めると恐ろしいということをまざまざと見せつけることとなった。 国交省はこのBYDの電気自動車に対する安全性を十分調査しているのだろうか。 テスラの安全性についても、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)は「注意深いドライバーであれば視認できたはずの危険が絡んだ、回避できるはずの事故が多発する傾向が観察された」として、現在厳しい目を向けている。 参照)テスラの自動運転技術に新たな難題、米当局が「基本的な問題あり」との調査結果(WIRED 2024.04.27) アメリカの規制当局が問題にしているテスラ車の安全性について、国交省は果たしてどこまで問題視しているのだろうか。 国内メーカーに対しては厳しいが、外国メーカーには甘いとなれば、国交省はどこの国の役所なのかと言いたくもなる』、「国内メーカーに対しては厳しいが、外国メーカーには甘いとなれば、国交省はどこの国の役所なのかと言いたくもなる」、少なくとも内外の扱いを同じにすべきだ。
・『1ヵ月の出荷停止で600億円規模の影響 今回の事態を受けて、トヨタは現行生産車で問題のあった「トヨタヤリスクロス」「カローラフィールダー」「カローラアクシオ」について、マツダは「マツダ2」「ロードスターRF」について、出荷停止処置だけでなく、生産も停止した。 トヨタは生産停止期間をとりあえず「6月6日から28日まで」としているが、国交省の対応によっては当然、長引くことも考えられる。 野村総合研究所の木内登英氏の推計よると、仮に出荷停止期間が4ヵ月となった場合、販売金額の減少は983.7億円に上る。また、関連する業種を含めた生産額全体の減少幅は2441.7億円になるというのが、木内氏の計算だ。 参照)自動車メーカー認証不正問題の経済への影響(木内登英のGlobal Economy & Policy Insight 2024/06/04) 仮に出荷停止が1ヵ月で済んだとしても生産額全体の減少は600億円規模になることは見ておかなければならない。 国交省のくだらない対応によって、日本の経済にもこれだけの悪影響を与えることになることを軽視すべきではない』、「1ヵ月の出荷停止で600億円規模の影響」とは無視できない影響だ。「国交省」はもっと責任ある対応をするべきだ。
次に、6月18日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「トヨタにホンダまで!自動車メーカーの経営が「コンプラ順守」を叫んでも、現場が結局「不正」を起こすワケ」を紹介しよう。
・『主要自動車メーカーの全てで品質・認証の不正問題が起きている。各社の問題発生に共通するのは、技術に対する過信や審査に対する慣れなど心理の影響だ。現場の技術者は皆、審査の重要性を軽視したのだろう。そのため、経営者も「認証試験は現場の判断に任せて良い」といった経営判断が続いたとみられる。生産の現場から経営トップ層まで、現状の生産管理、認証の体制に不備はないという一種のバイアスが強まったと考えられる。また、人手不足で認証体制の強化に影響があったかもしれない』、「技術に対する過信や審査に対する慣れなど心理の影響だ。現場の技術者は皆、審査の重要性を軽視したのだろう。そのため、経営者も「認証試験は現場の判断に任せて良い」といった経営判断が続いたとみられる。生産の現場から経営トップ層まで、現状の生産管理、認証の体制に不備はないという一種のバイアスが強まったと考えられる。また、人手不足で認証体制の強化に影響があったかもしれない」、なるほど。
・『トヨタ、マツダ、ホンダ、スズキ…自動車「認証不正」が経済の下振れリスクに 6月上旬、5つの自動車・二輪車メーカーで「型式指定」を巡る不正が発覚した。いわゆる認証不正問題だ。6月3日、トヨタ自動車は、2014年以降生産した7車種で国の基準と異なる方法で試験を実施したと公表した。マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキでも不正が明らかになった。 世界の自動車業界をリードする日本企業で、なぜ、このような問題が発生するのだろか。背景の一つに、自社の製造技術に対する“過信”があるのだろう。技術に自信があるため、どうしても試験実施方法などの軽視が起きる、といった専門家の声は多い。現場の自信が悪い方向に作用してしまったということだ。そのため、経営トップがいくら法令順守=コンプライアンスと叫んでも、なかなかこの問題を根絶することが難しい。 有力自動車メーカーの認証不正問題は、明らかに日本経済にマイナスだ。生産の中止などで裾野の広い自動車産業の機能が低下することは避けられない。それによって、わが国の経済成長率の下振れリスクが高まる。コロナ禍が明けてからも個人消費がまだまだ弱い一方、自動車の生産や輸出が景気の腰折れを防いできた。しかし、認証不正問題で景気を下支えする力は弱まるだろう。 また、品質不正をきっかけに、各自動車メーカーの信頼性が低下することも懸念される。それは、国内の自動車関連企業の収益減少につながる。電動車の開発や全固体電池の実用化に必要な投資資金が計画を下回り、成長戦略が遅れる可能性もある。認証不正問題は、わが国経済にとって大きな火種になりかねない』、「背景の一つに、自社の製造技術に対する“過信”があるのだろう。技術に自信があるため、どうしても試験実施方法などの軽視が起きる、といった専門家の声は多い。現場の自信が悪い方向に作用してしまったということだ。そのため、経営トップがいくら法令順守=コンプライアンスと叫んでも、なかなかこの問題を根絶することが難しい」、なるほど。
・『主要メーカー全てで品質・認証の不正 どうしてそんなことに?問題の背景は… 今回の発覚によって、わが国の主要自動車メーカーの全てで品質・認証の不正問題が起きたことになる。振り返れば16年、三菱自動車で燃費データの改ざんが明らかになった。続く17年、日産自動車とSUBARUで無資格検査員による完成車の検査が発覚した。さらに22年、商用車(トラック)の生産を行う日野自動車で燃費試験などの不正が表面化した。 そうして23年、ダイハツ工業の衝突試験不正、豊田自動織機でエンジン出力に関する不正も発表された。一連の認証不正、データ改ざんの実態を把握するため、国土交通省は各メーカーに調査を求めた。 これまでの発表によると、トヨタ、マツダ、ヤマハ、ホンダ、スズキの5社、38車種で認証不正があった。生産終了分を含め、不正の対象台数は500万台を超えた。トヨタでは14年から不正が発生していた。16年に問題が発覚したにもかかわらず、不正が続いたのはかなり深刻だ。 問題は、型式指定に関するものである。自動車メーカーが新車を生産する際、安全性、環境性能の基準を適合しているか、事前に国の審査を受ける。審査を通過し型式指定を得ると、メーカーの完成検査で販売できる。協定国であれば検査を簡素化できる。 日本の自動車審査方法は米国と異なる。米国では排ガスに関する事前の審査がある。審査で安全性に問題があればリコールで対応する。 一方、日本では事前に政府が基準を定める。自動車メーカーはそれぞれ基準を満たし、効率的な自動車生産のため“すり合わせ製造技術”を磨いてきた。その結果、燃費、安全、走行など性能は向上し、日本車は世界で高い評価を得た。 認証不正は、消費者が各メーカーに寄せた安心感・信頼感を棄損する懸念がある。トヨタで発覚した6件は国際基準に該当するものだった。同社によると、問題の全貌はまだ把握できていない。問題の完全な解決には、まだ時間がかかるだろう』、「認証不正は、消費者が各メーカーに寄せた安心感・信頼感を棄損する懸念がある。トヨタで発覚した6件は国際基準に該当するものだった。同社によると、問題の全貌はまだ把握できていない。問題の完全な解決には、まだ時間がかかるだろう」、まだ時間がかかるとはやれやれだ。
・『認証不正が発生する主な要因は? マツダとトヨタの資料で判明 なぜ、認証不正が起きたのだろう。問題が発覚した企業の開示内容を確認すると、マツダの公表内容が分かりやすい。同社は「不正の原因」を3つ指摘した。 まず、ガバナンスの問題だ。試験が認証法規に準拠した状態で実施されたかをチェックする仕組み、ガバナンス(管理・監督などを行う)体制が不足していた。 次に、手順の不備があった。認証法規に準拠した試験実施の手順が十分ではなかった。 そして、設備の不足だ。認証法規に準拠した試験条件を安定的に満たす設備の整備が不足した。マツダは改善策に、チェックや管理体制の強化、手順書の見直しと教育などの強化、設備の整備強化を挙げた。 一方、トヨタの公表内容を見ると、一般的に、安全性と環境性の認証は3つの方法があるという。(1)試験時、認証機関の審査官が立ち会う、(2)メーカーが試験を行い、データを提出する、(3)開発試験で有効なデータを認証データとして提出する。トヨタは(2)と(3)で認証の不正が起きた。 各社の問題発生に共通するのは、技術に対する過信や審査に対する慣れなど心理の影響だ。自社の製造技術は高い。完成車の性能に問題もない。現場の技術者は皆、審査の重要性を軽視したのだろう。そのため、経営者も「認証試験は現場の判断に任せて良い」といった経営判断が続いたとみられる。 生産の現場から経営トップ層まで、現状の生産管理、認証の体制に不備はないという一種のバイアスが強まったと考えられる。また、人手不足で認証体制の強化に影響があったかもしれない。 ただ、いずれも経営トップの責任であることは間違いない。本来、経営者は社会的責任を果たすために、抜き打ちで試験の実施体制を検証すべきだ。時代にそぐわない認証基準があるなら、当局に掛け合い、実態に即した認証体制を確立する必要もあった。根本的な原因は、経営者にあると考えられる。他の分野でも決して他人事ではない』、「各社の問題発生に共通するのは、技術に対する過信や審査に対する慣れなど心理の影響だ。自社の製造技術は高い。完成車の性能に問題もない。現場の技術者は皆、審査の重要性を軽視したのだろう。そのため、経営者も「認証試験は現場の判断に任せて良い」といった経営判断が続いたとみられる。 生産の現場から経営トップ層まで、現状の生産管理、認証の体制に不備はないという一種のバイアスが強まったと考えられる。また、人手不足で認証体制の強化に影響があったかもしれない。 ただ、いずれも経営トップの責任であることは間違いない。本来、経営者は社会的責任を果たすために、抜き打ちで試験の実施体制を検証すべきだ。時代にそぐわない認証基準があるなら、当局に掛け合い、実態に即した認証体制を確立する必要もあった。根本的な原因は、経営者にあると考えられる。他の分野でも決して他人事ではない」、その通りだ。
・『自動車メーカーの認証不正が日本経済に与える大きな負のインパクト 自動車の認証不正問題は、日本経済の下振れリスクを高めている。1~3月期の国内総生産(GDP)は実質ベースで前期比0.5%(年率で2.0%)減少した(1次速報)。実質賃金の減少に加え、ダイハツの認証不正による販売減少から個人消費が減少したのだ。自動車関連の設備投資が減少した面もある。 それでも、国内経済は何とか踏みとどまった。北米向けの自動車輸出の増加は景気を支えた。省人化や半導体分野の設備投資、インバウンド需要も景気を下支えした。 4~6月期、自動車の生産回復など前期からの反発で、成長率は上向くとの見方は増えていた。しかし、新たな認証不正の大規模発覚が、そうした展開に完全に水を差している。今後、各社の生産停止などが拡大することになると、経済成長率の下振れ懸念は高まるだろう。 自動車産業の競争力が低下する懸念もある。トヨタの営業利益率は米テスラや独フォルクスワーゲンを上回っており、資金を電気自動車(EV)などの生産体制強化に再配分してきた。可能な限り早いタイミングでエンジン車、ハイブリッド車(HV)、EV、FCV(燃料電池車)、水素エンジン車など“全方位型”のプロダクト・ポートフォリオを拡充することで国際規制に対応し、より多くの需要を創出する戦略だ。 しかし、認証不正問題のせいでEV開発などが遅れる可能性がある。欧米市場で日本車の評価が揺らぎ、需要が現地メーカーに向かうことも考えられる。11月の米大統領選挙後に、次期政権が日本の自動車産業を批判する、輸入車の関税引き上げを示唆するなど、逆風が強まる展開もあるだろう。 現在、アジア新興国市場では、中国や現地EVメーカーの投資が加速している。日本勢にとって電動車への生産強化がいっそう必要なタイミングで、認証不正問題が起きた。そのため、アジア新興国地域の自動車需要が、他国企業に流れることもあるだろう。 そうした展開が現実味を帯びると、自動車関連の素材、汎用型の機械など日本経済全体で研究開発や設備投資の勢いは鈍化する。認証不正問題が、当面の景気、経済の実力である潜在成長率の回復を阻害する要因になることが、大いに懸念される』、「認証不正問題のせいでEV開発などが遅れる可能性がある。欧米市場で日本車の評価が揺らぎ、需要が現地メーカーに向かうことも考えられる。11月の米大統領選挙後に、次期政権が日本の自動車産業を批判する、輸入車の関税引き上げを示唆するなど、逆風が強まる展開もあるだろう。 現在、アジア新興国市場では、中国や現地EVメーカーの投資が加速している。日本勢にとって電動車への生産強化がいっそう必要なタイミングで、認証不正問題が起きた。そのため、アジア新興国地域の自動車需要が、他国企業に流れることもあるだろう・・・自動車関連の素材、汎用型の機械など日本経済全体で研究開発や設備投資の勢いは鈍化する。認証不正問題が、当面の景気、経済の実力である潜在成長率の回復を阻害する要因になることが、大いに懸念される」、同感である。