医療問題(その41)(「大多数の精神科医は投薬の専門家に過ぎず 精神療法は独学」...和田秀樹氏も驚愕した「日本の心療内科」の「ヤバすぎる実態」、「海外の新しい科学的発見をも無視する日本の医学界」...改革を阻み続ける 多すぎる「日本の病理」、「このままでは殺される…どうか助けてください」相次ぐ患者の“死亡退院”はNHKがスクープした後も続いていた#1、「暴力や虐待が日常茶飯事」八王子・滝山病院の“おぞましい実態”が明るみに…高級スポーツカーを乗り回す院長の“反応”とは#2) [生活]
医療問題については、本年4月3日に取上げた。今日は、(その41)(「大多数の精神科医は投薬の専門家に過ぎず 精神療法は独学」...和田秀樹氏も驚愕した「日本の心療内科」の「ヤバすぎる実態」、「海外の新しい科学的発見をも無視する日本の医学界」...改革を阻み続ける 多すぎる「日本の病理」、「このままでは殺される…どうか助けてください」相次ぐ患者の“死亡退院”はNHKがスクープした後も続いていた#1、「暴力や虐待が日常茶飯事」八王子・滝山病院の“おぞましい実態”が明るみに…高級スポーツカーを乗り回す院長の“反応”とは#2)である。
先ずは、本年4月16日付け現代ビジネス「「大多数の精神科医は投薬の専門家に過ぎず、精神療法は独学」...和田秀樹氏も驚愕した「日本の心療内科」の「ヤバすぎる実態」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/127582
・『2020年の国内の精神科患者は、入院と通院を合わせて614.8万人。日本人の20人に1人が精神科で治療を受けている計算だ。 一般的な精神疾患である「うつ病」に加え、近年は「発達障害」と診断される人も急増している。このような異常事態に警鐘を鳴らしているのが、『精神医療ビジネスの闇』(北新宿出版)の著者であり、20年以上にわたり精神医療現場での人権侵害問題に取り組む米田倫康氏だ。 米田氏は「患者が増えていることに伴い、診療の質が低い精神科クリニックも急増している」と指摘する。 一方の精神科医・和田秀樹氏は「発達障害者を異端扱いし、社会から除け者にしている現状では、過剰診断は危険だ」と語る。 日本の精神医療の問題点をめぐり、米田氏と和田氏との対談を全3回にわたり、お届けする』、興味深そうだ。
・『精神科クリニックに流れ込む悪徳精神科医 和田 米田さんの本を読んでまず驚いたのは、精神科の悪徳病院がいまだにこんなに存在することですよ。 私が東大医学部を卒業したのが1985年で、研修医として入ったのは新左翼ばかりでいわくつきの、「赤レンガ病棟」(東大病院精神神経科病棟)というところ。その頃、一般的な精神科医は「収容所の番人」でしたが、左翼の人たちは理想主義で、「精神科の患者は社会の抑圧の犠牲者。解放されねばならない」と考えていました。そのために悪徳精神病院を糾弾するなど、まともに変えていこうという運動をやっていたんです。 米田 ちょうど宇都宮病院事件があった頃ですよね。栃木県宇都宮市の精神科病院で、患者への虐待が日常化していて、入院患者2名が看護職員らに金属パイプで乱打されて亡くなりました。 和田 あれが明るみに出たのは、1984年3月で、私はまだ学生の身として糾弾に関わっていました。宇都宮病院の入院患者の平均年齢はそう高くないのに、事件発覚前の3年間で222人も亡くなっていたんですから、異常ですよ。ただ、そういう悪徳病院の大きなトレンドとしては、社会的非難を浴びやすい精神科をやめて、老人向けにシフトする動きが起こりました。だからいま残っている精神科病院は、さすがにもうまともになっているだろうと思い込んでいた。 米田 たしかに、宇都宮病院事件後も悪徳精神科病院の摘発が相次ぎ、精神病床も減少へと転じました。ですが、患者の人権などなんとも思っていないような精神科病院はまだ健在です。最近では、東京都八王子市の滝山病院において、2023年2月以降、看護師ら5人が入院患者への暴行容疑で逮捕・書類送検されました』、「宇都宮病院の入院患者の平均年齢はそう高くないのに、事件発覚前の3年間で222人も亡くなっていたんですから、異常ですよ」、確かに死亡者が異常に多い。
・『『厚生労働省「医療施設調査」より作成 そしてそれ以上に私が指摘したいのは、精神科・心療内科を標榜するクリニック(病床数が0あるいは19床以下)の急増です。1984年は精神科を標榜するクリニックが1425ですが、2020年は精神科標榜が7223、心療内科標榜が5063です(図参照、米田氏の著書より転載)。 同じ施設で精神科・心療内科を両方標榜するケースもありますが、それにしても多い。こうしたクリニックは、医師の資格さえあれば大きな設備投資を必要とせずに開業できますし、誰も診療の質をチェックしません。だから、悪徳精神科病院を経営するような層が、そのままここへ流れ込んでいます。 1950~60年代に起きた精神科病院乱立ブームと同様、畑違いの診療科の医師が突然参入して開業するケースも目立ちます』、「こうしたクリニックは、医師の資格さえあれば大きな設備投資を必要とせずに開業できますし、誰も診療の質をチェックしません。だから、悪徳精神科病院を経営するような層が、そのままここへ流れ込んでいます。 1950~60年代に起きた精神科病院乱立ブームと同様、畑違いの診療科の医師が突然参入して開業するケースも目立ちます」、なるほど。
・『口コミの高評価は当てにならない 和田 精神科医の養成システムにも問題があると思いますよ。医学部を持つ大学は全国に82ありますが、その精神科の医局の主任教授の9割が、要は投薬の専門家です。体系だったカウンセリングを重視する精神療法のトレーニングをする場は、慶應大の認知行動療法研究室や慈恵医大の森田療法(精神科医・森田正馬によって創始された神経症に対する独自の精神療法)くらい。 つまり日本の精神科医の大多数は、精神療法を自学自習でやっているし、中には、精神療法なんて意味がないと考える者もいます。そういう精神科医が開業したら、患者の話をろくに聞かず、ただ薬を出すだけのクリニックになるのは当然でしょう。 米田 うつ病などになる前の段階として、学校での人間関係だとか会社での労働環境だとか、いろいろなものが積もり積もって発症しているわけですから、そうしたところにカウンセリングで向き合っていくのが精神療法です。が、薬しか治療手段を持っていない精神科医は、たくさんいます。 しかも、現在の診療報酬体系では、患者に丁寧に向き合う長時間の診療や精神療法は収入の足かせにしかならず、5分という短時間で患者を回転させるのが経営上の正解となっています。これでは、短時間診察でひたすら薬だけ出して対症療法のサイクルを延々と繰り返すことしかできないですよね。 和田 私は精神科医として高齢者ばかりを診ていますが、彼らのうつ病には、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という、脳内でセロトニンの再取り込みを阻害し、セロトニンの働きを増強することで抗うつ作用などをあらわす薬を出しています。 高齢者はそもそものセロトニンのベースラインが、40代のような若い人と比べると低いので、SSRIはよく効く。これは私にとっては風邪薬のようなイメージで、症状を緩和して患者を元気にして、あとは患者自身の自然回復力で治るのを待つんです。実際、それでかなりの数の人が治っていきます。ただ、根本原因は変わってないので、また大きなストレスがかかると再発しますが。 米田 そういう一時的に症状をしのがないといけないという必要性があって、そのゴールも分かっている先生が使うのと、漫然とずっと症状を抑え続けるのとでは、やっぱり違うと思うんですね。 和田 いい先生かダメな先生かは、治療の結果で評価するしかないでしょう。だから、精神科医をみんなが評価する『食べログ』みたいなのがあったらいいんじゃないか。「あの先生と話したらすごい楽になった」とか「いい先生だ」とかって、みんなで書き込みをするんです。 米田 それはおっしゃるとおりなんですけど、一筋縄ではいかないのです。私は診療報酬の不正請求をはじめ、いろいろと問題のある精神科クリニックを幅広く調査しているのですが、そういったところのいくつかをGoogleで検索すると、クチコミがたくさんついており、評価が高い。不思議に思ってそこの患者さんに詳しく聞いてみたら、高評価をつけると、クリニックから特典がもらえるそうです。 和田 そうですか……。そういうステマはありえるでしょうね。 米田 だから患者は、高評価に値しないクリニックに通ってしまっている可能性があります』、「私は診療報酬の不正請求をはじめ、いろいろと問題のある精神科クリニックを幅広く調査しているのですが、そういったところのいくつかをGoogleで検索すると、クチコミがたくさんついており、評価が高い。不思議に思ってそこの患者さんに詳しく聞いてみたら、高評価をつけると、クリニックから特典がもらえるそうです」、悪質な「ステマ」だ。「精神科の医局の主任教授の9割が、要は投薬の専門家です。体系だったカウンセリングを重視する精神療法のトレーニングをする場は、慶應大の認知行動療法研究室や慈恵医大の森田療法(精神科医・森田正馬によって創始された神経症に対する独自の精神療法)くらい。 つまり日本の精神科医の大多数は、精神療法を自学自習でやっているし、中には、精神療法なんて意味がないと考える者もいます」』、「高評価をつけると、クリニックから特典がもらえるそうです」、悪質な「ステマ」だ・・・「体系だったカウンセリングを重視する精神療法のトレーニングをする場は極めて少ないとは問題だ。
・『自殺リスクが高まるだけで効果のない抗うつ薬を処方 和田 精神科がややこしいのは、「ずっと通い続けて治さない医者が面倒見がいい」と思っている患者もいるところ。そういう先生は、障害年金とか生活保護とかの申請に使える書類のひな型を持っていて、すぐに書いてくれるんですよ。「これ書いてもらったから働かなくていい。ずっとクリニックに通い続けよう」となるわけです。そして、親切でいい先生ってことになってしまうから、精神科医の評価は難しいよね。 米田 監督官庁は、医療の中身までは踏み込めません。看護師の人数の配置はこうしろとか施設基準はこうなっているなどの形式的なところには口出しできたとしても、投薬の内容や診断がおかしいというところまで踏み込んだ指導はできないんです。 和田 精神科クリニックは、開業したての頃は全然流行ってなくても、患者が治らないからどんどん雪だるま式にたまっていくんですよ。たとえば、循環器の疾患は、急に増えたりしませんよね。小児科で言えば、急に子どもの患者が増えたりしませんよね。でも、精神科は違う。患者さんを治す技術がないほど、通い続けてくれることになります。 私のような老人精神科だと、ある年齢になったら亡くなっていくからそうそう増えないけど、一般の精神科で、40〜50代でかかってる人というのは、ずっとかかり続けます。 米田 若い頃から通う人も増えているし、それどころか子供時代からずっと通い続ける人もいますから、何十年単位ですね。そうなると若い頃からの長期にわたる投薬が、大きな問題になります。 つい最近相談を受けた件なんですが、17歳の子がSSRIを出されていました。SSRIは、若い人には要注意の薬です。厚労省は2007年に「24歳以下に自殺のリスクが高まる」とし、 2013年には「18歳未満のうつ病に効果は認められない」としています。 つまり若い人にとっては、「自殺のリスクがあるけど、うつ病には効果がない薬」ということです。だけどそのことは、本人も親も知らされていなかった。小児精神科の先生からもらってるから安心だと思っていたそうです。 和田 医者は説明しないし、親も患者も薬の危険性を知らない状態で服薬しているケースは多々あると思います。日本が薬に対してとにかくチェックの甘い国であることは確かだし、 薬の副作用による民事訴訟もすごく少ないから、みんないい加減に薬を出す。 でもこれって、他人事みたいに思われるかもしれないけど、医者が無駄な薬をたくさん出せば出すほど、健康保険料って上がるんですよ。だからそれによるステルス増税みたいになってるわけ。とても犯罪的なことだと思う』、「SSRIは、若い人には要注意の薬です。厚労省は2007年に「24歳以下に自殺のリスクが高まる」とし、 2013年には「18歳未満のうつ病に効果は認められない」としています。 つまり若い人にとっては、「自殺のリスクがあるけど、うつ病には効果がない薬」ということです。だけどそのことは、本人も親も知らされていなかった。小児精神科の先生からもらってるから安心だと思っていたそうです」、恐ろしいことだ。「日本が薬に対してとにかくチェックの甘い国であることは確かだし、 薬の副作用による民事訴訟もすごく少ないから、みんないい加減に薬を出す。 でもこれって、他人事みたいに思われるかもしれないけど、医者が無駄な薬をたくさん出せば出すほど、健康保険料って上がるんですよ。だからそれによるステルス増税みたいになってるわけ。とても犯罪的なことだと思う」、その通りだ。
次に、4月16日付け現代ビジネス「「海外の新しい科学的発見をも無視する日本の医学界」...改革を阻み続ける、多すぎる「日本の病理」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/127619?imp=0
・『2020年の国内の精神科患者は、入院と通院を合わせて614.8万人。日本人の20人に1人が精神科で治療を受けている計算だ。 一般的な精神疾患である「うつ病」に加え、近年は「発達障害」と診断される人も急増している。このような異常事態に警鐘を鳴らしているのが、『精神医療ビジネスの闇』(北新宿出版)の著者であり、20年以上にわたり精神医療現場での人権侵害問題に取り組む米田倫康氏だ。 米田氏は「患者が増えていることに伴い、診療の質が低い精神科クリニックも急増している」と指摘する。2020年の国内の精神科患者は、入院と通院を合わせて614.8万人。日本人の20人に1人が精神科で治療を受けている計算だ。 一方の精神科医・和田秀樹氏は「発達障害者を異端扱いし、社会から除け者にしている現状では、過剰診断は危険だ」と語る。 日本の精神医療の問題点をめぐり、米田氏と和田氏との対談を全3回にわたり、お届けする。 中編『「子どもから大人まで異様に増え続ける発達障害」と「日本社会のヤバすぎる特性」...正常な人が「異常」扱いされるのは日本だけ』に引き続き、今回は日本社会で「発達障害=正常」にならない背景について対談する』、「日本人の20人に1人が精神科で治療を受けている計算」、意外に多いことに驚かされた。
・『科学的データより教授の意見が優先される日本 和田 堀江貴文さんをはじめ、多くの有名人が、自分を発達障害だと認めてますよね。彼らのような人が世に出てきて、「正常」のヤツらのほうがバカだとガンガン言っている。いまの露骨な弱肉強食型資本主義の世界の中では、発達障害の人間が「正常」な人間に勝ちますから。 そりゃそうですよ。みんなに合わせてないといけない、上の言うことを聞かなきゃいけない、なんて思うやつが勝てるわけがない。そうなってくると、「発達障害、いいじゃん!」って流れになるかもしれない。 米田 私は、そうした変化は、そんな先の話ではないと考えています。メンタルヘルスの世界的な常識は、いま大きくパラダイムシフトのときを迎えています。 2023年10月、WHO(世界保健機関)と国連人権高等弁務官事務所は、メンタルヘルスについてのガイダンスを共同で作成しました。要旨としては、 「メンタルヘルスと幸福は、貧困、暴力、差別と同様に、社会的、経済的、物理的環境と強く関連しています。しかし、ほとんどのメンタルヘルスシステムは、診断、投薬、症状の軽減に焦点を当てており、人々のメンタルヘルスに影響を与える社会的決定要因を無視しています。メンタルヘルスケアやサポートを求める際に、あまりにも多くの人が差別や人権侵害を経験しています。非自発的な入院と治療、隔離または独房、拘束の使用も、ほとんどのメンタルヘルスシステムで蔓延しています。メンタルヘルスに関する法律は、新たな方向を向かなければなりません」 とあります。投薬を中心とした従来の治療モデルから脱却した、新たな法整備を求めている点で画期的ですよ。 和田 しかし、そうした社会の側からの要請だけで状況が大きく変わるかと言うと、私は悲観的ですね。医学界の内部からの変革が最も必要なことですが、医学界にはそれを妨げる構造的な問題があるからです。 海外で新しい科学的発見があって新しい常識が生まれても、日本の医学界はそれを受け入れません。例えば海外では、血糖値はやや高めの人のほうが死亡率が低いことなど、いままでの日本の常識に反することがわかってきているのに、日本の医者たちは態度を変えようとしません。 日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまうという構造があります。 米田 実際、先のWHOのガイダンスを、厚生労働省をはじめ精神医療の関係各所にぶつけてみたんです。「メンタルヘルスのパラダイムシフトですよ!」と。しかし、まったく箸にも棒にもかかりませんでした。 一般的な精神疾患である「うつ病」に加え、近年は「発達障害」と診断される人も急増している。このような異常事態に警鐘を鳴らしているのが、『精神医療ビジネスの闇』(北新宿出版)の著者であり、20年以上にわたり精神医療現場での人権侵害問題に取り組む米田倫康氏だ。 米田氏は「患者が増えていることに伴い、診療の質が低い精神科クリニックも急増している」と指摘する。 一方の精神科医・和田秀樹氏は「発達障害者を異端扱いし、社会から除け者にしている現状では、過剰診断は危険だ」と語る。 日本の精神医療の問題点をめぐり、米田氏と和田氏との対談を全3回にわたり、お届けする。 中編『「子どもから大人まで異様に増え続ける発達障害」と「日本社会のヤバすぎる特性」...正常な人が「異常」扱いされるのは日本だけ』に引き続き、今回は日本社会で「発達障害=正常」にならない背景について対談する』、「海外で新しい科学的発見があって新しい常識が生まれても、日本の医学界はそれを受け入れません。例えば海外では、血糖値はやや高めの人のほうが死亡率が低いことなど、いままでの日本の常識に反することがわかってきているのに、日本の医者たちは態度を変えようとしません。 日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまうという構造があります』、「日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまう」、困ったことだ。
・『科学的データより教授の意見が優先される日本 和田 堀江貴文さんをはじめ、多くの有名人が、自分を発達障害だと認めてますよね。彼らのような人が世に出てきて、「正常」のヤツらのほうがバカだとガンガン言っている。いまの露骨な弱肉強食型資本主義の世界の中では、発達障害の人間が「正常」な人間に勝ちますから。 そりゃそうですよ。みんなに合わせてないといけない、上の言うことを聞かなきゃいけない、なんて思うやつが勝てるわけがない。そうなってくると、「発達障害、いいじゃん!」って流れになるかもしれない。 米田 私は、そうした変化は、そんな先の話ではないと考えています。メンタルヘルスの世界的な常識は、いま大きくパラダイムシフトのときを迎えています。 2023年10月、WHO(世界保健機関)と国連人権高等弁務官事務所は、メンタルヘルスについてのガイダンスを共同で作成しました。要旨としては、 「メンタルヘルスと幸福は、貧困、暴力、差別と同様に、社会的、経済的、物理的環境と強く関連しています。しかし、ほとんどのメンタルヘルスシステムは、診断、投薬、症状の軽減に焦点を当てており、人々のメンタルヘルスに影響を与える社会的決定要因を無視しています。メンタルヘルスケアやサポートを求める際に、あまりにも多くの人が差別や人権侵害を経験しています。非自発的な入院と治療、隔離または独房、拘束の使用も、ほとんどのメンタルヘルスシステムで蔓延しています。メンタルヘルスに関する法律は、新たな方向を向かなければなりません」 とあります。投薬を中心とした従来の治療モデルから脱却した、新たな法整備を求めている点で画期的ですよ。 和田 しかし、そうした社会の側からの要請だけで状況が大きく変わるかと言うと、私は悲観的ですね。医学界の内部からの変革が最も必要なことですが、医学界にはそれを妨げる構造的な問題があるからです。 海外で新しい科学的発見があって新しい常識が生まれても、日本の医学界はそれを受け入れません。例えば海外では、血糖値はやや高めの人のほうが死亡率が低いことなど、いままでの日本の常識に反することがわかってきているのに、日本の医者たちは態度を変えようとしません。 日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまうという構造があります』、「海外では、血糖値はやや高めの人のほうが死亡率が低いことなど、いままでの日本の常識に反することがわかってきているのに、日本の医者たちは態度を変えようとしません。 日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまうという構造があります」、こうした保守的体質は困ったものだ。
・『医学部の入試面接が良い人材をはじく 和田 いちばん悪いのは、東大の理Ⅲだよ。東大の医学部は、1999年〜2007年にかけて入試に面接を課すようになり、一旦中止したのですが2018年からまた始めています。 いまは全国すべて82の大学医学部の入試で、面接が課されています。それは、医者に向かない人間をはじこう、勉強だけできるけど性格が悪い人間を落とそう、という建前で実施されているんですけど、面接官は教授なんですよ。ということは、教授に忖度する人間が入ってきてしまう。 教授に逆らいそうな人間は、医学部に入れなくなる。つまり私がいま受験したら、合格できないってことです。たしかに、ハーバードやイェールなど、海外の医学部でも入試面接はありますが、教授には面接させていません。既存の教授に喧嘩を売れそうな人間を入れないと、学問は進歩しないという考え方がベースにあるからです。精神科の領域に限ったって、たった30分の面接で人間を見抜けると考えているような精神科医は、治療なんてできませんよ。 和田 2018年に発覚した東京医大での得点調整では、その後、結局、半分ぐらいの大学がやっていたことがわかりました。あのタイミングは、発達障害の人や身体障害者が面接で落とされている現状を是正する絶好機だったんだけど、そうならなかった。 入試を変えようという話の中で、面接もやめようという話にならなかった。医学部のキャンパスを見学に行ったらわかるけど、車椅子に乗っている人なんてほとんどいないよ。入試面接で落としてるからですよ。 車椅子に乗ってる人はバカで試験に通らないのか? そんなことないでしょ。日本の医学部は、勉強だけできるんじゃダメだ、人間への共感力があるヤツしか医者にはなっちゃダメだとかと言っているくせに、受験生をはじいてる教授たちのほうが、じつは共感力がない人ばかりですよ。 関連記事 「大多数の精神科医は投薬の専門家に過ぎず、精神療法は独学」… 米田 実際、先のWHOのガイダンスを、厚生労働省をはじめ精神医療の関係各所にぶつけてみたんです。「メンタルヘルスのパラダイムシフトですよ!」と。しかし、まったく箸にも棒にもかかりませんでした。米田倫康氏だ。 米田氏は「患者が増えていることに伴い、診療の質が低い精神科クリニックも急増している」と指摘する。 一方の精神科医・和田秀樹氏は「発達障害者を異端扱いし、社会から除け者にしている現状では、過剰診断は危険だ」と語る。 日本の精神医療の問題点をめぐり、米田氏と和田氏との対談を全3回にわたり、お届けする。 中編『「子どもから大人まで異様に増え続ける発達障害」と「日本社会のヤバすぎる特性」...正常な人が「異常」扱いされるのは日本だけ』に引き続き、今回は日本社会で「発達障害=正常」にならない背景について対談する』、「大学医学部の入試で、面接が課されています。それは、医者に向かない人間をはじこう、勉強だけできるけど性格が悪い人間を落とそう、という建前で実施されているんですけど、面接官は教授なんですよ。ということは、教授に忖度する人間が入ってきてしまう・・・ハーバードやイェールなど、海外の医学部でも入試面接はありますが、教授には面接させていません。既存の教授に喧嘩を売れそうな人間を入れないと、学問は進歩しないという考え方がベースにあるからです」、日本も今からでも見直すべきだ。
・『科学的データより教授の意見が優先される日本 和田 堀江貴文さんをはじめ、多くの有名人が、自分を発達障害だと認めてますよね。彼らのような人が世に出てきて、「正常」のヤツらのほうがバカだとガンガン言っている。いまの露骨な弱肉強食型資本主義の世界の中では、発達障害の人間が「正常」な人間に勝ちますから。 そりゃそうですよ。みんなに合わせてないといけない、上の言うことを聞かなきゃいけない、なんて思うやつが勝てるわけがない。そうなってくると、「発達障害、いいじゃん!」って流れになるかもしれない。 米田 私は、そうした変化は、そんな先の話ではないと考えています。メンタルヘルスの世界的な常識は、いま大きくパラダイムシフトのときを迎えています。 2023年10月、WHO(世界保健機関)と国連人権高等弁務官事務所は、メンタルヘルスについてのガイダンスを共同で作成しました。要旨としては、 「メンタルヘルスと幸福は、貧困、暴力、差別と同様に、社会的、経済的、物理的環境と強く関連しています。しかし、ほとんどのメンタルヘルスシステムは、診断、投薬、症状の軽減に焦点を当てており、人々のメンタルヘルスに影響を与える社会的決定要因を無視しています。メンタルヘルスケアやサポートを求める際に、あまりにも多くの人が差別や人権侵害を経験しています。非自発的な入院と治療、隔離または独房、拘束の使用も、ほとんどのメンタルヘルスシステムで蔓延しています。メンタルヘルスに関する法律は、新たな方向を向かなければなりません」 とあります。投薬を中心とした従来の治療モデルから脱却した、新たな法整備を求めている点で画期的ですよ。 和田 しかし、そうした社会の側からの要請だけで状況が大きく変わるかと言うと、私は悲観的ですね。医学界の内部からの変革が最も必要なことですが、医学界にはそれを妨げる構造的な問題があるからです。 海外で新しい科学的発見があって新しい常識が生まれても、日本の医学界はそれを受け入れません。例えば海外では、血糖値はやや高めの人のほうが死亡率が低いことなど、いままでの日本の常識に反することがわかってきているのに、日本の医者たちは態度を変えようとしません。 日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまうという構造があります。 米田 実際、先のWHOのガイダンスを、厚生労働省をはじめ精神医療の関係各所にぶつけてみたんです。「メンタルヘルスのパラダイムシフトですよ!」と。しかし、まったく箸にも棒にもかかりませんでした』、「海外で新しい科学的発見があって新しい常識が生まれても、日本の医学界はそれを受け入れません。例えば海外では、血糖値はやや高めの人のほうが死亡率が低いことなど、いままでの日本の常識に反することがわかってきているのに、日本の医者たちは態度を変えようとしません。 日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまうという構造があります」、困ったことだ。
・『医者が医学部を批判できない構造 米田 医学界の内部からは異論の声を上げられないシステムになってるんですね。いまの時代だと、教授が一番上にいて、その下の部下がたとえなにか言ったとしても何も変わらない。そうなると、「いまの精神医療はおかしいぞ」と言えるのは、医者ではない私のポジションだからこそなんでしょう。現場をわかってない人間が偉そうだと医療関係者からご批判もあるかと思いますが、だからこそ、風穴を開けていく私の活動にも意味があるのかなと考えています。 和田 私も風穴を開けようとしていますが、私以外に今の医学部を批判してる医者は本当に少ない。それは子供を人質に取られてるからです。つまり、親が目立った形で医学部を批判して主流派に嫌われたら、子供が入試面接のときに落とされかねない。その可能性を少しでも考えたら、批判できません。 だいたい、医学部というのは医師ではなくて医学研究者への道だってあるんですから、どうしても医師の候補者に面接をしたいのなら、大学入試ではなく医師国家試験でやるべきでしょう。そもそも入試面接のある大学と、ない大学の両方があるべきですよ。でなければ、どちらのシステムのほうがいい医者を生み育てられるかの比較調査すらできない。 米田 82も大学があるのに、医学部の入試から面接をはずそうという動きは、ひとつもないんでしょうか? 和田 それについては、実際に提言したことがあります。私は日大が相次ぐ不祥事で揺れていた頃に常務理事を務めていて、とっておきのブランド回復の案を出したんです。 「日大だけ医学部の入試面接を廃止したら、入試の偏差値は10ぐらい跳ね上がりますよ」と。ですが、大学側はまったく聞く耳を持たない。 それでは、手術はめちゃくちゃうまいけど、患者に説明するのがヘタだったり患者さんとのコミュニケーションが取れない医者Aがいます。一方、手術はヘボだけど失敗したときの説明の仕方がめちゃくちゃうまくて共感的な医者Bがいます。さあ、どちらを選びますか、という話です。 私だったら前者を選びたいから、面接など廃止すべきだと思っているわけです。結果で勝負して、腕がいい医者が勝ちという、『ドクターX』みたいな世界になれば、発達障害の人間にも活躍の場所があるけど、それを入り口で止めているということです。 米田 患者が医者を選ぶ自由を、医学部の入試が阻んでいることになりますね。 和田 そうですよ。自閉症スペクトラムの人というのは、すごい研究者になったり、とても手術がうまかったりする。でも変わり者。そういう人をはじくシステムになっているのが現状です。しかし、大学側だけの問題ではありません。 「コミュ力がない人間や変な人間は医者になってはいけない」という思い込みや刷り込みが国民全体に浸透してしまっている。そのあたりの病理はあまりに深くて、変な人間を入試面接ではじきましょうという意見に、国民の9割ぐらいは賛成する。 「子供はノーマルであってほしい」「大学の医学部入試で面接をするのは当たり前だ」と、みんなが思うぐらいに、日本人は、みんなと同じ「まともな人間」でありたいと願っている。これは日本にとってある種の不幸ですけど、そういう空気が蔓延していることが、精神医療の改革にあたっての一番の難しさだと思います。 構成・文/野中ツトム(清談社)』、「「コミュ力がない人間や変な人間は医者になってはいけない」という思い込みや刷り込みが国民全体に浸透してしまっている。そのあたりの病理はあまりに深くて、変な人間を入試面接ではじきましょうという意見に、国民の9割ぐらいは賛成する。 「子供はノーマルであってほしい」「大学の医学部入試で面接をするのは当たり前だ」と、みんなが思うぐらいに、日本人は、みんなと同じ「まともな人間」でありたいと願っている。これは日本にとってある種の不幸ですけど、そういう空気が蔓延していることが、精神医療の改革にあたっての一番の難しさだと思います」、もっと尖った人材が入ってくるようにしたいものだ。
第三に、7月29日付け文春オンライン「「このままでは殺される…どうか助けてください」相次ぐ患者の“死亡退院”はNHKがスクープした後も続いていた#1」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/72244
・『昨年2月25日にNHK-Eテレで放送された「ETV特集 ルポ死亡退院 ~精神医療・闇の実態~」。2023年のテレビで最も優れたスクープ報道として高く評価された。日本新聞協会賞、放送人の会グランプリ、石橋湛山早稲田ジャーナリズム大賞、貧困ジャーナリズム大賞など主だった賞の最高賞を受賞した。 東京・八王子市にある民間の精神科病院・滝山病院。精神科のほかに内科も併設し、人工透析治療などができるため、精神疾患に加えて腎疾患などを抱える合併症の患者が他の病院からも送り込まれてくる。そこではベッドに寝たきりの高齢患者を看護師らが問答無用で殴る、叩く、つねる、蹴る。暴力や虐待が日常茶飯事。ベッドに縛り付ける身体拘禁も日常化。入手した資料で入院患者の約8割が死亡して退院。いったん入院すると死亡しない限りは退院できないというおぞましい実態、“死亡退院”の現実があった。 「このままでは殺される……。どうか助けてください」 悲痛な声で弁護士に助けを求めた高齢の男性患者はその後、亡くなった。 あれから1年4か月。滝山病院の「その後」を追跡した第2弾が6月29日放送の「ETV特集 死亡退院 さらなる闇」だ。このドキュメンタリーは、ふだん週刊誌などが得意としている「院長とカネ」の問題に切り込んでいたのが印象的だった。(全2回の1回目/後編に続く)』、「そこではベッドに寝たきりの高齢患者を看護師らが問答無用で殴る、叩く、つねる、蹴る。暴力や虐待が日常茶飯事。ベッドに縛り付ける身体拘禁も日常化。入手した資料で入院患者の約8割が死亡して退院。いったん入院すると死亡しない限りは退院できないというおぞましい実態、“死亡退院”の現実があった」、ここまで酷いとは監督官庁の怠慢だ。
・『「死亡退院」はその後も続いた 暴力や虐待が横行していた恐怖の病院はどうなったのか。一般的にスクープの「その後」の報道はなかなか難しい。最初のスクープだけなら、「暴行」の証拠となる衝撃的な映像で十分にドキュメンタリーになる。だが、「その後」を取材して第2弾を出すとなると、病院経営や体質、さらには精神医療全体をめぐる「大きな構図・背景」を浮き彫りにしない限り、単なる焼き直しと言われてしまう。取材班は大きな背景にも斬り込んで本格勝負を挑んだ。) 第1弾の報道を受け、警察は病院を捜査して看護師ら5人を逮捕、略式起訴した。監督官庁の東京都も病院に対して改善を命令。厚生労働省も全国の自治体に虐待防止を通知した。しかし入院患者を支援して問題を告発した弁護士は「死亡退院の状況から何も変わっていない」と語る。 都の改善命令を受けて滝山病院は「虐待防止委員会」を設置。弁護士が中心の「第三者委員会」を作って虐待の真相究明に乗り出した。 東京都も患者の聞き取り調査を実施。転退院の支援に乗り出した。 ところが行政の縦割りや公立病院の受け入れへの消極姿勢、さらに主な受け入れ先として想定された民間病院が費用面や合併症患者の扱いなどで及び腰になるなどで遅遅として進まない。 転院を希望した高齢の男性患者も引き受ける病院が見つからないまま体調を崩して死亡。転退院支援の遅れで「死亡退院」はその後も続いたのだ』、「都の改善命令を受けて滝山病院は「虐待防止委員会」を設置。弁護士が中心の「第三者委員会」を作って虐待の真相究明に乗り出した。 東京都も患者の聞き取り調査を実施。転退院の支援に乗り出した。 ところが行政の縦割りや公立病院の受け入れへの消極姿勢、さらに主な受け入れ先として想定された民間病院が費用面や合併症患者の扱いなどで及び腰になるなどで遅遅として進まない。 転院を希望した高齢の男性患者も引き受ける病院が見つからないまま体調を崩して死亡。転退院支援の遅れで「死亡退院」はその後も続いたのだ」、酷いものだ。
・『薬剤を大量に投与されて… この患者の記録を調べると病院側が鎮静のための薬剤を大量に投与した不適切な医療行為で死にいたった可能性があることを複数の医師が指摘した。投薬を指示した朝倉重延院長は外部の医師の指摘に「おっしゃるとおり歩み寄りは必要だったと思う」としながらも医療判断の誤りは認めなかったという。 第三者委員会が行った職員アンケートでも多くの職員が「過剰医療」を指摘し、医療の内容に問題ありと考えていたこともわかる。 不衛生な病室。経験が浅いアルバイトの職員に体位交換させて患者に重症の褥瘡(床ずれ)ができ、それが原因で敗血症によって死にいたったケースも多数見つかったと番組では伝えられた。 ところが第三者委員会は「医療行為の適切性」については「判断に医学的知見を要する」からと是非を判断しない姿勢だ。 カルテを分析すると医学的に必須とされる所見がないのに「心筋梗塞」と診断名をつけられ、血液がさらさらになる薬剤などを大量に投与されたケースも見つかる。やはり朝倉院長が診断していた。 医師が院長に電話で問い合わせて「心筋梗塞」の診断名をつけていた音声記録も。蘇生の難しい患者に繰り返し高い薬剤を投与していたという証言もあった。 ◆ 院長が率先する患者への過剰な医療行為をスタッフは「濃厚治療」と隠語で呼んでいたという。後編で詳しく取り上げる』、「第三者委員会は「医療行為の適切性」については「判断に医学的知見を要する」からと是非を判断しない姿勢だ」、こんな責任放棄を認めるべきではない…。)
第四に、7月29日付け文春オンライン「「暴力や虐待が日常茶飯事」八王子・滝山病院の“おぞましい実態”が明るみに…高級スポーツカーを乗り回す院長の“反応”とは#2」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/72245
・『東京・八王子市にある民間の精神科病院・滝山病院。精神科のほかに内科も併設し、人工透析治療などができるため、精神疾患に加えて腎疾患などを抱える合併症の患者が他の病院からも送り込まれてくる。そこではベッドに寝たきりの高齢患者を看護師らが問答無用で殴る、叩く、つねる、蹴る。暴力や虐待が日常茶飯事。ベッドに縛り付ける身体拘禁も日常化。入手した資料で入院患者の約8割が死亡して退院。いったん入院すると死亡しない限りは退院できないというおぞましい実態、“死亡退院”の現実について、NHK-Eテレ・6月29日放送の「ETV特集 死亡退院 さらなる闇」が続報した。(全2回の2回目/前編を読む)』、「入院患者の約8割が死亡して退院。いったん入院すると死亡しない限りは退院できないというおぞましい実態」、病院とは名ばかりのおそろしい施設だ。
・『「お金にもなる。お金取れるでしょ」 院長が率先する患者への過剰な医療行為をスタッフは「濃厚治療」という隠語で呼んでいた。「1B」と呼ばれる「濃厚治療」用の病室の映像も出てきた。 「院長が『1B運べ』といって、ICUみたいに人工呼吸器をつけたり、濃厚な治療するんですよ。そうやればお金にもなる。お金取れるでしょ。いっぱい濃厚治療するんだから」とスタッフは証言した。 過剰医療、濃厚治療……。すべて「カネ」がらみだ。第2弾は「朝倉院長とカネ」について第1弾以上に踏み込んで報じている点が注目される。) 医療機関は診療報酬というかたちで収入を得ている。一般的に精神科の医療行為の評価は診療報酬上で内科や外科などに比べてかなり低いとされている。そうした面を取り戻そうと意識して稼ごうとしたのか。滝山病院で「濃厚治療」していた実態がスタッフの口から語られた。 たくさんの薬剤などが投与されて「濃厚な治療」が行われれば行われるほど、その分、収入が増える仕組みだ。だが、医療行為として適切な治療でなければ当初は話ができた患者が会話できなくなり、意識が混濁した状態になってしまう。 そうした医療行為を院長が率先して行っていた疑惑。番組では関係者の証言を元に踏み込んで伝えている。 朝倉重延院長には今回と似た事件で報道された過去があった。2001年にはおよそ40人が不審死をとげた埼玉県の朝倉病院の院長だった。患者の身体を違法に拘束。過剰な栄養点滴など不必要な治療を行い、診療報酬を不正請求したことが発覚。朝倉病院は事実上廃院に。院長は保険医の資格を取り消された。その後、保険医の資格を再取得。5年前に父親の死後に滝山病院の院長を引き継いでいた』、「朝倉重延院長には今回と似た事件で報道された過去があった。2001年にはおよそ40人が不審死をとげた埼玉県の朝倉病院の院長だった。患者の身体を違法に拘束。過剰な栄養点滴など不必要な治療を行い、診療報酬を不正請求したことが発覚。朝倉病院は事実上廃院に。院長は保険医の資格を取り消された。その後、保険医の資格を再取得。5年前に父親の死後に滝山病院の院長を引き継いでいた」、「保険医の資格を再取得」のハードルを高くするべきだ。
・『高級スポーツカーを乗り回す院長の“収入” 圧巻は取材班が入手した「厳秘」と記された病院経営の内部文書だ。 朝倉重延院長の役員報酬は2017年度から2020年度までは毎年5820万円。2021年度は6320万円。2022年度は6420万円と増加傾向にある。病院の経常利益に対する院長の役員報酬の割合が2019年度48%。2020年度59%と経常利益の半分を超え、2021年度は337%に跳ね上がる。実に経常利益の3倍以上の金額だ。病院全体の利益が減少する中で院長の報酬だけが突出して増加していた。 院長が車で出かけようとするところをディレクターが直撃する場面がある。 車高が低い流線型の高級スポーツカー。左ハンドルで明らかに外国産だ。呼びかけに応じずに無言で車は走り去った。外観から調べてみると英国製の豪華スポーツカーで新車ならば約4000万円の値段だという。 ドキュメンタリーはインタビューやナレーションなどの「言葉」以上に「映像」が雄弁に語るジャンルである。) 役員報酬だけで毎年5000万円、6000万円という内部資料の証拠映像に加え、高級スポーツカーの映像。この2つの映像が雄弁に語っている。 事件発覚後に「精神障害者の家族会」の関係者が初めて病院内に入ると廊下にエアコンがなく、シャワールームも狭いなど他では考えられない劣悪さに衝撃を受けたという場面があるが、患者の環境改善のための病院設備には費用をかけなかった。 患者の死因についても院長が心筋梗塞や悪性リンパ腫などの病名をいとも軽い口調で語る音声も出てくる。何を重視して病院運営をしている人なのか伝わってくる構成だ』、「役員報酬は2017年度から2020年度までは毎年5820万円。2021年度は6320万円。2022年度は6420万円と増加傾向」。「英国製の豪華スポーツカーで新車ならば約4000万円」、結構なご身分だ。
・『医療現場の「さらなる闇」 病院スタッフの一人は朝倉院長について「(滝山病院では)不正請求はしていない。前の朝倉病院のときみたいに『やったことにしてお金を取っている』わけじゃないので……。(保険医の)取り消しはないので大丈夫と思ったみたい」とその胸の内を想像する。 診療報酬の不正請求がないとしても、不必要な投薬などを意図的に繰り返して患者の命を危険にさらした疑惑があることは浮かび上がった。そのことで患者が次々に死亡した可能性があると専門医たちが指摘する。医師としてやってはならない行為ではないか。本来、監督官庁や捜査機関などが動くべき事案ではないのか。 番組ではこうした「医療の内容」にまで行政が踏み込んで規制することは今の制度では極めて困難だと関係者のインタビューで示している。利益を得る目的で意図して「過剰医療」をやっていたとしても現状では取り締まることが難しい。「医療の判断」とされれば踏み込みにくい。これこそ番組のサブタイトルにある「さらなる闇」である。 精神科の入院患者の9割以上が民間の病院にいる現状を考えると、民間病院がこうしてカネを得ていくことも私たちは容認しなければならないのだろうか。こうして患者たちの命や人権が犠牲になっていく。暴力や虐待の背景にあった患者をカネと見るような人権軽視の姿勢。こうした病院の実態を許していいものか。番組が突きつけている問いかけは重い』、まずは「監督官庁」が「過剰医療」を判定し、「捜査機関などが動く」形にもっていくべきだろう。こんな違法状態を放置すべきではない。
先ずは、本年4月16日付け現代ビジネス「「大多数の精神科医は投薬の専門家に過ぎず、精神療法は独学」...和田秀樹氏も驚愕した「日本の心療内科」の「ヤバすぎる実態」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/127582
・『2020年の国内の精神科患者は、入院と通院を合わせて614.8万人。日本人の20人に1人が精神科で治療を受けている計算だ。 一般的な精神疾患である「うつ病」に加え、近年は「発達障害」と診断される人も急増している。このような異常事態に警鐘を鳴らしているのが、『精神医療ビジネスの闇』(北新宿出版)の著者であり、20年以上にわたり精神医療現場での人権侵害問題に取り組む米田倫康氏だ。 米田氏は「患者が増えていることに伴い、診療の質が低い精神科クリニックも急増している」と指摘する。 一方の精神科医・和田秀樹氏は「発達障害者を異端扱いし、社会から除け者にしている現状では、過剰診断は危険だ」と語る。 日本の精神医療の問題点をめぐり、米田氏と和田氏との対談を全3回にわたり、お届けする』、興味深そうだ。
・『精神科クリニックに流れ込む悪徳精神科医 和田 米田さんの本を読んでまず驚いたのは、精神科の悪徳病院がいまだにこんなに存在することですよ。 私が東大医学部を卒業したのが1985年で、研修医として入ったのは新左翼ばかりでいわくつきの、「赤レンガ病棟」(東大病院精神神経科病棟)というところ。その頃、一般的な精神科医は「収容所の番人」でしたが、左翼の人たちは理想主義で、「精神科の患者は社会の抑圧の犠牲者。解放されねばならない」と考えていました。そのために悪徳精神病院を糾弾するなど、まともに変えていこうという運動をやっていたんです。 米田 ちょうど宇都宮病院事件があった頃ですよね。栃木県宇都宮市の精神科病院で、患者への虐待が日常化していて、入院患者2名が看護職員らに金属パイプで乱打されて亡くなりました。 和田 あれが明るみに出たのは、1984年3月で、私はまだ学生の身として糾弾に関わっていました。宇都宮病院の入院患者の平均年齢はそう高くないのに、事件発覚前の3年間で222人も亡くなっていたんですから、異常ですよ。ただ、そういう悪徳病院の大きなトレンドとしては、社会的非難を浴びやすい精神科をやめて、老人向けにシフトする動きが起こりました。だからいま残っている精神科病院は、さすがにもうまともになっているだろうと思い込んでいた。 米田 たしかに、宇都宮病院事件後も悪徳精神科病院の摘発が相次ぎ、精神病床も減少へと転じました。ですが、患者の人権などなんとも思っていないような精神科病院はまだ健在です。最近では、東京都八王子市の滝山病院において、2023年2月以降、看護師ら5人が入院患者への暴行容疑で逮捕・書類送検されました』、「宇都宮病院の入院患者の平均年齢はそう高くないのに、事件発覚前の3年間で222人も亡くなっていたんですから、異常ですよ」、確かに死亡者が異常に多い。
・『『厚生労働省「医療施設調査」より作成 そしてそれ以上に私が指摘したいのは、精神科・心療内科を標榜するクリニック(病床数が0あるいは19床以下)の急増です。1984年は精神科を標榜するクリニックが1425ですが、2020年は精神科標榜が7223、心療内科標榜が5063です(図参照、米田氏の著書より転載)。 同じ施設で精神科・心療内科を両方標榜するケースもありますが、それにしても多い。こうしたクリニックは、医師の資格さえあれば大きな設備投資を必要とせずに開業できますし、誰も診療の質をチェックしません。だから、悪徳精神科病院を経営するような層が、そのままここへ流れ込んでいます。 1950~60年代に起きた精神科病院乱立ブームと同様、畑違いの診療科の医師が突然参入して開業するケースも目立ちます』、「こうしたクリニックは、医師の資格さえあれば大きな設備投資を必要とせずに開業できますし、誰も診療の質をチェックしません。だから、悪徳精神科病院を経営するような層が、そのままここへ流れ込んでいます。 1950~60年代に起きた精神科病院乱立ブームと同様、畑違いの診療科の医師が突然参入して開業するケースも目立ちます」、なるほど。
・『口コミの高評価は当てにならない 和田 精神科医の養成システムにも問題があると思いますよ。医学部を持つ大学は全国に82ありますが、その精神科の医局の主任教授の9割が、要は投薬の専門家です。体系だったカウンセリングを重視する精神療法のトレーニングをする場は、慶應大の認知行動療法研究室や慈恵医大の森田療法(精神科医・森田正馬によって創始された神経症に対する独自の精神療法)くらい。 つまり日本の精神科医の大多数は、精神療法を自学自習でやっているし、中には、精神療法なんて意味がないと考える者もいます。そういう精神科医が開業したら、患者の話をろくに聞かず、ただ薬を出すだけのクリニックになるのは当然でしょう。 米田 うつ病などになる前の段階として、学校での人間関係だとか会社での労働環境だとか、いろいろなものが積もり積もって発症しているわけですから、そうしたところにカウンセリングで向き合っていくのが精神療法です。が、薬しか治療手段を持っていない精神科医は、たくさんいます。 しかも、現在の診療報酬体系では、患者に丁寧に向き合う長時間の診療や精神療法は収入の足かせにしかならず、5分という短時間で患者を回転させるのが経営上の正解となっています。これでは、短時間診察でひたすら薬だけ出して対症療法のサイクルを延々と繰り返すことしかできないですよね。 和田 私は精神科医として高齢者ばかりを診ていますが、彼らのうつ病には、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という、脳内でセロトニンの再取り込みを阻害し、セロトニンの働きを増強することで抗うつ作用などをあらわす薬を出しています。 高齢者はそもそものセロトニンのベースラインが、40代のような若い人と比べると低いので、SSRIはよく効く。これは私にとっては風邪薬のようなイメージで、症状を緩和して患者を元気にして、あとは患者自身の自然回復力で治るのを待つんです。実際、それでかなりの数の人が治っていきます。ただ、根本原因は変わってないので、また大きなストレスがかかると再発しますが。 米田 そういう一時的に症状をしのがないといけないという必要性があって、そのゴールも分かっている先生が使うのと、漫然とずっと症状を抑え続けるのとでは、やっぱり違うと思うんですね。 和田 いい先生かダメな先生かは、治療の結果で評価するしかないでしょう。だから、精神科医をみんなが評価する『食べログ』みたいなのがあったらいいんじゃないか。「あの先生と話したらすごい楽になった」とか「いい先生だ」とかって、みんなで書き込みをするんです。 米田 それはおっしゃるとおりなんですけど、一筋縄ではいかないのです。私は診療報酬の不正請求をはじめ、いろいろと問題のある精神科クリニックを幅広く調査しているのですが、そういったところのいくつかをGoogleで検索すると、クチコミがたくさんついており、評価が高い。不思議に思ってそこの患者さんに詳しく聞いてみたら、高評価をつけると、クリニックから特典がもらえるそうです。 和田 そうですか……。そういうステマはありえるでしょうね。 米田 だから患者は、高評価に値しないクリニックに通ってしまっている可能性があります』、「私は診療報酬の不正請求をはじめ、いろいろと問題のある精神科クリニックを幅広く調査しているのですが、そういったところのいくつかをGoogleで検索すると、クチコミがたくさんついており、評価が高い。不思議に思ってそこの患者さんに詳しく聞いてみたら、高評価をつけると、クリニックから特典がもらえるそうです」、悪質な「ステマ」だ。「精神科の医局の主任教授の9割が、要は投薬の専門家です。体系だったカウンセリングを重視する精神療法のトレーニングをする場は、慶應大の認知行動療法研究室や慈恵医大の森田療法(精神科医・森田正馬によって創始された神経症に対する独自の精神療法)くらい。 つまり日本の精神科医の大多数は、精神療法を自学自習でやっているし、中には、精神療法なんて意味がないと考える者もいます」』、「高評価をつけると、クリニックから特典がもらえるそうです」、悪質な「ステマ」だ・・・「体系だったカウンセリングを重視する精神療法のトレーニングをする場は極めて少ないとは問題だ。
・『自殺リスクが高まるだけで効果のない抗うつ薬を処方 和田 精神科がややこしいのは、「ずっと通い続けて治さない医者が面倒見がいい」と思っている患者もいるところ。そういう先生は、障害年金とか生活保護とかの申請に使える書類のひな型を持っていて、すぐに書いてくれるんですよ。「これ書いてもらったから働かなくていい。ずっとクリニックに通い続けよう」となるわけです。そして、親切でいい先生ってことになってしまうから、精神科医の評価は難しいよね。 米田 監督官庁は、医療の中身までは踏み込めません。看護師の人数の配置はこうしろとか施設基準はこうなっているなどの形式的なところには口出しできたとしても、投薬の内容や診断がおかしいというところまで踏み込んだ指導はできないんです。 和田 精神科クリニックは、開業したての頃は全然流行ってなくても、患者が治らないからどんどん雪だるま式にたまっていくんですよ。たとえば、循環器の疾患は、急に増えたりしませんよね。小児科で言えば、急に子どもの患者が増えたりしませんよね。でも、精神科は違う。患者さんを治す技術がないほど、通い続けてくれることになります。 私のような老人精神科だと、ある年齢になったら亡くなっていくからそうそう増えないけど、一般の精神科で、40〜50代でかかってる人というのは、ずっとかかり続けます。 米田 若い頃から通う人も増えているし、それどころか子供時代からずっと通い続ける人もいますから、何十年単位ですね。そうなると若い頃からの長期にわたる投薬が、大きな問題になります。 つい最近相談を受けた件なんですが、17歳の子がSSRIを出されていました。SSRIは、若い人には要注意の薬です。厚労省は2007年に「24歳以下に自殺のリスクが高まる」とし、 2013年には「18歳未満のうつ病に効果は認められない」としています。 つまり若い人にとっては、「自殺のリスクがあるけど、うつ病には効果がない薬」ということです。だけどそのことは、本人も親も知らされていなかった。小児精神科の先生からもらってるから安心だと思っていたそうです。 和田 医者は説明しないし、親も患者も薬の危険性を知らない状態で服薬しているケースは多々あると思います。日本が薬に対してとにかくチェックの甘い国であることは確かだし、 薬の副作用による民事訴訟もすごく少ないから、みんないい加減に薬を出す。 でもこれって、他人事みたいに思われるかもしれないけど、医者が無駄な薬をたくさん出せば出すほど、健康保険料って上がるんですよ。だからそれによるステルス増税みたいになってるわけ。とても犯罪的なことだと思う』、「SSRIは、若い人には要注意の薬です。厚労省は2007年に「24歳以下に自殺のリスクが高まる」とし、 2013年には「18歳未満のうつ病に効果は認められない」としています。 つまり若い人にとっては、「自殺のリスクがあるけど、うつ病には効果がない薬」ということです。だけどそのことは、本人も親も知らされていなかった。小児精神科の先生からもらってるから安心だと思っていたそうです」、恐ろしいことだ。「日本が薬に対してとにかくチェックの甘い国であることは確かだし、 薬の副作用による民事訴訟もすごく少ないから、みんないい加減に薬を出す。 でもこれって、他人事みたいに思われるかもしれないけど、医者が無駄な薬をたくさん出せば出すほど、健康保険料って上がるんですよ。だからそれによるステルス増税みたいになってるわけ。とても犯罪的なことだと思う」、その通りだ。
次に、4月16日付け現代ビジネス「「海外の新しい科学的発見をも無視する日本の医学界」...改革を阻み続ける、多すぎる「日本の病理」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/127619?imp=0
・『2020年の国内の精神科患者は、入院と通院を合わせて614.8万人。日本人の20人に1人が精神科で治療を受けている計算だ。 一般的な精神疾患である「うつ病」に加え、近年は「発達障害」と診断される人も急増している。このような異常事態に警鐘を鳴らしているのが、『精神医療ビジネスの闇』(北新宿出版)の著者であり、20年以上にわたり精神医療現場での人権侵害問題に取り組む米田倫康氏だ。 米田氏は「患者が増えていることに伴い、診療の質が低い精神科クリニックも急増している」と指摘する。2020年の国内の精神科患者は、入院と通院を合わせて614.8万人。日本人の20人に1人が精神科で治療を受けている計算だ。 一方の精神科医・和田秀樹氏は「発達障害者を異端扱いし、社会から除け者にしている現状では、過剰診断は危険だ」と語る。 日本の精神医療の問題点をめぐり、米田氏と和田氏との対談を全3回にわたり、お届けする。 中編『「子どもから大人まで異様に増え続ける発達障害」と「日本社会のヤバすぎる特性」...正常な人が「異常」扱いされるのは日本だけ』に引き続き、今回は日本社会で「発達障害=正常」にならない背景について対談する』、「日本人の20人に1人が精神科で治療を受けている計算」、意外に多いことに驚かされた。
・『科学的データより教授の意見が優先される日本 和田 堀江貴文さんをはじめ、多くの有名人が、自分を発達障害だと認めてますよね。彼らのような人が世に出てきて、「正常」のヤツらのほうがバカだとガンガン言っている。いまの露骨な弱肉強食型資本主義の世界の中では、発達障害の人間が「正常」な人間に勝ちますから。 そりゃそうですよ。みんなに合わせてないといけない、上の言うことを聞かなきゃいけない、なんて思うやつが勝てるわけがない。そうなってくると、「発達障害、いいじゃん!」って流れになるかもしれない。 米田 私は、そうした変化は、そんな先の話ではないと考えています。メンタルヘルスの世界的な常識は、いま大きくパラダイムシフトのときを迎えています。 2023年10月、WHO(世界保健機関)と国連人権高等弁務官事務所は、メンタルヘルスについてのガイダンスを共同で作成しました。要旨としては、 「メンタルヘルスと幸福は、貧困、暴力、差別と同様に、社会的、経済的、物理的環境と強く関連しています。しかし、ほとんどのメンタルヘルスシステムは、診断、投薬、症状の軽減に焦点を当てており、人々のメンタルヘルスに影響を与える社会的決定要因を無視しています。メンタルヘルスケアやサポートを求める際に、あまりにも多くの人が差別や人権侵害を経験しています。非自発的な入院と治療、隔離または独房、拘束の使用も、ほとんどのメンタルヘルスシステムで蔓延しています。メンタルヘルスに関する法律は、新たな方向を向かなければなりません」 とあります。投薬を中心とした従来の治療モデルから脱却した、新たな法整備を求めている点で画期的ですよ。 和田 しかし、そうした社会の側からの要請だけで状況が大きく変わるかと言うと、私は悲観的ですね。医学界の内部からの変革が最も必要なことですが、医学界にはそれを妨げる構造的な問題があるからです。 海外で新しい科学的発見があって新しい常識が生まれても、日本の医学界はそれを受け入れません。例えば海外では、血糖値はやや高めの人のほうが死亡率が低いことなど、いままでの日本の常識に反することがわかってきているのに、日本の医者たちは態度を変えようとしません。 日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまうという構造があります。 米田 実際、先のWHOのガイダンスを、厚生労働省をはじめ精神医療の関係各所にぶつけてみたんです。「メンタルヘルスのパラダイムシフトですよ!」と。しかし、まったく箸にも棒にもかかりませんでした。 一般的な精神疾患である「うつ病」に加え、近年は「発達障害」と診断される人も急増している。このような異常事態に警鐘を鳴らしているのが、『精神医療ビジネスの闇』(北新宿出版)の著者であり、20年以上にわたり精神医療現場での人権侵害問題に取り組む米田倫康氏だ。 米田氏は「患者が増えていることに伴い、診療の質が低い精神科クリニックも急増している」と指摘する。 一方の精神科医・和田秀樹氏は「発達障害者を異端扱いし、社会から除け者にしている現状では、過剰診断は危険だ」と語る。 日本の精神医療の問題点をめぐり、米田氏と和田氏との対談を全3回にわたり、お届けする。 中編『「子どもから大人まで異様に増え続ける発達障害」と「日本社会のヤバすぎる特性」...正常な人が「異常」扱いされるのは日本だけ』に引き続き、今回は日本社会で「発達障害=正常」にならない背景について対談する』、「海外で新しい科学的発見があって新しい常識が生まれても、日本の医学界はそれを受け入れません。例えば海外では、血糖値はやや高めの人のほうが死亡率が低いことなど、いままでの日本の常識に反することがわかってきているのに、日本の医者たちは態度を変えようとしません。 日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまうという構造があります』、「日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまう」、困ったことだ。
・『科学的データより教授の意見が優先される日本 和田 堀江貴文さんをはじめ、多くの有名人が、自分を発達障害だと認めてますよね。彼らのような人が世に出てきて、「正常」のヤツらのほうがバカだとガンガン言っている。いまの露骨な弱肉強食型資本主義の世界の中では、発達障害の人間が「正常」な人間に勝ちますから。 そりゃそうですよ。みんなに合わせてないといけない、上の言うことを聞かなきゃいけない、なんて思うやつが勝てるわけがない。そうなってくると、「発達障害、いいじゃん!」って流れになるかもしれない。 米田 私は、そうした変化は、そんな先の話ではないと考えています。メンタルヘルスの世界的な常識は、いま大きくパラダイムシフトのときを迎えています。 2023年10月、WHO(世界保健機関)と国連人権高等弁務官事務所は、メンタルヘルスについてのガイダンスを共同で作成しました。要旨としては、 「メンタルヘルスと幸福は、貧困、暴力、差別と同様に、社会的、経済的、物理的環境と強く関連しています。しかし、ほとんどのメンタルヘルスシステムは、診断、投薬、症状の軽減に焦点を当てており、人々のメンタルヘルスに影響を与える社会的決定要因を無視しています。メンタルヘルスケアやサポートを求める際に、あまりにも多くの人が差別や人権侵害を経験しています。非自発的な入院と治療、隔離または独房、拘束の使用も、ほとんどのメンタルヘルスシステムで蔓延しています。メンタルヘルスに関する法律は、新たな方向を向かなければなりません」 とあります。投薬を中心とした従来の治療モデルから脱却した、新たな法整備を求めている点で画期的ですよ。 和田 しかし、そうした社会の側からの要請だけで状況が大きく変わるかと言うと、私は悲観的ですね。医学界の内部からの変革が最も必要なことですが、医学界にはそれを妨げる構造的な問題があるからです。 海外で新しい科学的発見があって新しい常識が生まれても、日本の医学界はそれを受け入れません。例えば海外では、血糖値はやや高めの人のほうが死亡率が低いことなど、いままでの日本の常識に反することがわかってきているのに、日本の医者たちは態度を変えようとしません。 日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまうという構造があります』、「海外では、血糖値はやや高めの人のほうが死亡率が低いことなど、いままでの日本の常識に反することがわかってきているのに、日本の医者たちは態度を変えようとしません。 日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまうという構造があります」、こうした保守的体質は困ったものだ。
・『医学部の入試面接が良い人材をはじく 和田 いちばん悪いのは、東大の理Ⅲだよ。東大の医学部は、1999年〜2007年にかけて入試に面接を課すようになり、一旦中止したのですが2018年からまた始めています。 いまは全国すべて82の大学医学部の入試で、面接が課されています。それは、医者に向かない人間をはじこう、勉強だけできるけど性格が悪い人間を落とそう、という建前で実施されているんですけど、面接官は教授なんですよ。ということは、教授に忖度する人間が入ってきてしまう。 教授に逆らいそうな人間は、医学部に入れなくなる。つまり私がいま受験したら、合格できないってことです。たしかに、ハーバードやイェールなど、海外の医学部でも入試面接はありますが、教授には面接させていません。既存の教授に喧嘩を売れそうな人間を入れないと、学問は進歩しないという考え方がベースにあるからです。精神科の領域に限ったって、たった30分の面接で人間を見抜けると考えているような精神科医は、治療なんてできませんよ。 和田 2018年に発覚した東京医大での得点調整では、その後、結局、半分ぐらいの大学がやっていたことがわかりました。あのタイミングは、発達障害の人や身体障害者が面接で落とされている現状を是正する絶好機だったんだけど、そうならなかった。 入試を変えようという話の中で、面接もやめようという話にならなかった。医学部のキャンパスを見学に行ったらわかるけど、車椅子に乗っている人なんてほとんどいないよ。入試面接で落としてるからですよ。 車椅子に乗ってる人はバカで試験に通らないのか? そんなことないでしょ。日本の医学部は、勉強だけできるんじゃダメだ、人間への共感力があるヤツしか医者にはなっちゃダメだとかと言っているくせに、受験生をはじいてる教授たちのほうが、じつは共感力がない人ばかりですよ。 関連記事 「大多数の精神科医は投薬の専門家に過ぎず、精神療法は独学」… 米田 実際、先のWHOのガイダンスを、厚生労働省をはじめ精神医療の関係各所にぶつけてみたんです。「メンタルヘルスのパラダイムシフトですよ!」と。しかし、まったく箸にも棒にもかかりませんでした。米田倫康氏だ。 米田氏は「患者が増えていることに伴い、診療の質が低い精神科クリニックも急増している」と指摘する。 一方の精神科医・和田秀樹氏は「発達障害者を異端扱いし、社会から除け者にしている現状では、過剰診断は危険だ」と語る。 日本の精神医療の問題点をめぐり、米田氏と和田氏との対談を全3回にわたり、お届けする。 中編『「子どもから大人まで異様に増え続ける発達障害」と「日本社会のヤバすぎる特性」...正常な人が「異常」扱いされるのは日本だけ』に引き続き、今回は日本社会で「発達障害=正常」にならない背景について対談する』、「大学医学部の入試で、面接が課されています。それは、医者に向かない人間をはじこう、勉強だけできるけど性格が悪い人間を落とそう、という建前で実施されているんですけど、面接官は教授なんですよ。ということは、教授に忖度する人間が入ってきてしまう・・・ハーバードやイェールなど、海外の医学部でも入試面接はありますが、教授には面接させていません。既存の教授に喧嘩を売れそうな人間を入れないと、学問は進歩しないという考え方がベースにあるからです」、日本も今からでも見直すべきだ。
・『科学的データより教授の意見が優先される日本 和田 堀江貴文さんをはじめ、多くの有名人が、自分を発達障害だと認めてますよね。彼らのような人が世に出てきて、「正常」のヤツらのほうがバカだとガンガン言っている。いまの露骨な弱肉強食型資本主義の世界の中では、発達障害の人間が「正常」な人間に勝ちますから。 そりゃそうですよ。みんなに合わせてないといけない、上の言うことを聞かなきゃいけない、なんて思うやつが勝てるわけがない。そうなってくると、「発達障害、いいじゃん!」って流れになるかもしれない。 米田 私は、そうした変化は、そんな先の話ではないと考えています。メンタルヘルスの世界的な常識は、いま大きくパラダイムシフトのときを迎えています。 2023年10月、WHO(世界保健機関)と国連人権高等弁務官事務所は、メンタルヘルスについてのガイダンスを共同で作成しました。要旨としては、 「メンタルヘルスと幸福は、貧困、暴力、差別と同様に、社会的、経済的、物理的環境と強く関連しています。しかし、ほとんどのメンタルヘルスシステムは、診断、投薬、症状の軽減に焦点を当てており、人々のメンタルヘルスに影響を与える社会的決定要因を無視しています。メンタルヘルスケアやサポートを求める際に、あまりにも多くの人が差別や人権侵害を経験しています。非自発的な入院と治療、隔離または独房、拘束の使用も、ほとんどのメンタルヘルスシステムで蔓延しています。メンタルヘルスに関する法律は、新たな方向を向かなければなりません」 とあります。投薬を中心とした従来の治療モデルから脱却した、新たな法整備を求めている点で画期的ですよ。 和田 しかし、そうした社会の側からの要請だけで状況が大きく変わるかと言うと、私は悲観的ですね。医学界の内部からの変革が最も必要なことですが、医学界にはそれを妨げる構造的な問題があるからです。 海外で新しい科学的発見があって新しい常識が生まれても、日本の医学界はそれを受け入れません。例えば海外では、血糖値はやや高めの人のほうが死亡率が低いことなど、いままでの日本の常識に反することがわかってきているのに、日本の医者たちは態度を変えようとしません。 日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまうという構造があります。 米田 実際、先のWHOのガイダンスを、厚生労働省をはじめ精神医療の関係各所にぶつけてみたんです。「メンタルヘルスのパラダイムシフトですよ!」と。しかし、まったく箸にも棒にもかかりませんでした』、「海外で新しい科学的発見があって新しい常識が生まれても、日本の医学界はそれを受け入れません。例えば海外では、血糖値はやや高めの人のほうが死亡率が低いことなど、いままでの日本の常識に反することがわかってきているのに、日本の医者たちは態度を変えようとしません。 日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまうという構造があります」、困ったことだ。
・『医者が医学部を批判できない構造 米田 医学界の内部からは異論の声を上げられないシステムになってるんですね。いまの時代だと、教授が一番上にいて、その下の部下がたとえなにか言ったとしても何も変わらない。そうなると、「いまの精神医療はおかしいぞ」と言えるのは、医者ではない私のポジションだからこそなんでしょう。現場をわかってない人間が偉そうだと医療関係者からご批判もあるかと思いますが、だからこそ、風穴を開けていく私の活動にも意味があるのかなと考えています。 和田 私も風穴を開けようとしていますが、私以外に今の医学部を批判してる医者は本当に少ない。それは子供を人質に取られてるからです。つまり、親が目立った形で医学部を批判して主流派に嫌われたら、子供が入試面接のときに落とされかねない。その可能性を少しでも考えたら、批判できません。 だいたい、医学部というのは医師ではなくて医学研究者への道だってあるんですから、どうしても医師の候補者に面接をしたいのなら、大学入試ではなく医師国家試験でやるべきでしょう。そもそも入試面接のある大学と、ない大学の両方があるべきですよ。でなければ、どちらのシステムのほうがいい医者を生み育てられるかの比較調査すらできない。 米田 82も大学があるのに、医学部の入試から面接をはずそうという動きは、ひとつもないんでしょうか? 和田 それについては、実際に提言したことがあります。私は日大が相次ぐ不祥事で揺れていた頃に常務理事を務めていて、とっておきのブランド回復の案を出したんです。 「日大だけ医学部の入試面接を廃止したら、入試の偏差値は10ぐらい跳ね上がりますよ」と。ですが、大学側はまったく聞く耳を持たない。 それでは、手術はめちゃくちゃうまいけど、患者に説明するのがヘタだったり患者さんとのコミュニケーションが取れない医者Aがいます。一方、手術はヘボだけど失敗したときの説明の仕方がめちゃくちゃうまくて共感的な医者Bがいます。さあ、どちらを選びますか、という話です。 私だったら前者を選びたいから、面接など廃止すべきだと思っているわけです。結果で勝負して、腕がいい医者が勝ちという、『ドクターX』みたいな世界になれば、発達障害の人間にも活躍の場所があるけど、それを入り口で止めているということです。 米田 患者が医者を選ぶ自由を、医学部の入試が阻んでいることになりますね。 和田 そうですよ。自閉症スペクトラムの人というのは、すごい研究者になったり、とても手術がうまかったりする。でも変わり者。そういう人をはじくシステムになっているのが現状です。しかし、大学側だけの問題ではありません。 「コミュ力がない人間や変な人間は医者になってはいけない」という思い込みや刷り込みが国民全体に浸透してしまっている。そのあたりの病理はあまりに深くて、変な人間を入試面接ではじきましょうという意見に、国民の9割ぐらいは賛成する。 「子供はノーマルであってほしい」「大学の医学部入試で面接をするのは当たり前だ」と、みんなが思うぐらいに、日本人は、みんなと同じ「まともな人間」でありたいと願っている。これは日本にとってある種の不幸ですけど、そういう空気が蔓延していることが、精神医療の改革にあたっての一番の難しさだと思います。 構成・文/野中ツトム(清談社)』、「「コミュ力がない人間や変な人間は医者になってはいけない」という思い込みや刷り込みが国民全体に浸透してしまっている。そのあたりの病理はあまりに深くて、変な人間を入試面接ではじきましょうという意見に、国民の9割ぐらいは賛成する。 「子供はノーマルであってほしい」「大学の医学部入試で面接をするのは当たり前だ」と、みんなが思うぐらいに、日本人は、みんなと同じ「まともな人間」でありたいと願っている。これは日本にとってある種の不幸ですけど、そういう空気が蔓延していることが、精神医療の改革にあたっての一番の難しさだと思います」、もっと尖った人材が入ってくるようにしたいものだ。
第三に、7月29日付け文春オンライン「「このままでは殺される…どうか助けてください」相次ぐ患者の“死亡退院”はNHKがスクープした後も続いていた#1」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/72244
・『昨年2月25日にNHK-Eテレで放送された「ETV特集 ルポ死亡退院 ~精神医療・闇の実態~」。2023年のテレビで最も優れたスクープ報道として高く評価された。日本新聞協会賞、放送人の会グランプリ、石橋湛山早稲田ジャーナリズム大賞、貧困ジャーナリズム大賞など主だった賞の最高賞を受賞した。 東京・八王子市にある民間の精神科病院・滝山病院。精神科のほかに内科も併設し、人工透析治療などができるため、精神疾患に加えて腎疾患などを抱える合併症の患者が他の病院からも送り込まれてくる。そこではベッドに寝たきりの高齢患者を看護師らが問答無用で殴る、叩く、つねる、蹴る。暴力や虐待が日常茶飯事。ベッドに縛り付ける身体拘禁も日常化。入手した資料で入院患者の約8割が死亡して退院。いったん入院すると死亡しない限りは退院できないというおぞましい実態、“死亡退院”の現実があった。 「このままでは殺される……。どうか助けてください」 悲痛な声で弁護士に助けを求めた高齢の男性患者はその後、亡くなった。 あれから1年4か月。滝山病院の「その後」を追跡した第2弾が6月29日放送の「ETV特集 死亡退院 さらなる闇」だ。このドキュメンタリーは、ふだん週刊誌などが得意としている「院長とカネ」の問題に切り込んでいたのが印象的だった。(全2回の1回目/後編に続く)』、「そこではベッドに寝たきりの高齢患者を看護師らが問答無用で殴る、叩く、つねる、蹴る。暴力や虐待が日常茶飯事。ベッドに縛り付ける身体拘禁も日常化。入手した資料で入院患者の約8割が死亡して退院。いったん入院すると死亡しない限りは退院できないというおぞましい実態、“死亡退院”の現実があった」、ここまで酷いとは監督官庁の怠慢だ。
・『「死亡退院」はその後も続いた 暴力や虐待が横行していた恐怖の病院はどうなったのか。一般的にスクープの「その後」の報道はなかなか難しい。最初のスクープだけなら、「暴行」の証拠となる衝撃的な映像で十分にドキュメンタリーになる。だが、「その後」を取材して第2弾を出すとなると、病院経営や体質、さらには精神医療全体をめぐる「大きな構図・背景」を浮き彫りにしない限り、単なる焼き直しと言われてしまう。取材班は大きな背景にも斬り込んで本格勝負を挑んだ。) 第1弾の報道を受け、警察は病院を捜査して看護師ら5人を逮捕、略式起訴した。監督官庁の東京都も病院に対して改善を命令。厚生労働省も全国の自治体に虐待防止を通知した。しかし入院患者を支援して問題を告発した弁護士は「死亡退院の状況から何も変わっていない」と語る。 都の改善命令を受けて滝山病院は「虐待防止委員会」を設置。弁護士が中心の「第三者委員会」を作って虐待の真相究明に乗り出した。 東京都も患者の聞き取り調査を実施。転退院の支援に乗り出した。 ところが行政の縦割りや公立病院の受け入れへの消極姿勢、さらに主な受け入れ先として想定された民間病院が費用面や合併症患者の扱いなどで及び腰になるなどで遅遅として進まない。 転院を希望した高齢の男性患者も引き受ける病院が見つからないまま体調を崩して死亡。転退院支援の遅れで「死亡退院」はその後も続いたのだ』、「都の改善命令を受けて滝山病院は「虐待防止委員会」を設置。弁護士が中心の「第三者委員会」を作って虐待の真相究明に乗り出した。 東京都も患者の聞き取り調査を実施。転退院の支援に乗り出した。 ところが行政の縦割りや公立病院の受け入れへの消極姿勢、さらに主な受け入れ先として想定された民間病院が費用面や合併症患者の扱いなどで及び腰になるなどで遅遅として進まない。 転院を希望した高齢の男性患者も引き受ける病院が見つからないまま体調を崩して死亡。転退院支援の遅れで「死亡退院」はその後も続いたのだ」、酷いものだ。
・『薬剤を大量に投与されて… この患者の記録を調べると病院側が鎮静のための薬剤を大量に投与した不適切な医療行為で死にいたった可能性があることを複数の医師が指摘した。投薬を指示した朝倉重延院長は外部の医師の指摘に「おっしゃるとおり歩み寄りは必要だったと思う」としながらも医療判断の誤りは認めなかったという。 第三者委員会が行った職員アンケートでも多くの職員が「過剰医療」を指摘し、医療の内容に問題ありと考えていたこともわかる。 不衛生な病室。経験が浅いアルバイトの職員に体位交換させて患者に重症の褥瘡(床ずれ)ができ、それが原因で敗血症によって死にいたったケースも多数見つかったと番組では伝えられた。 ところが第三者委員会は「医療行為の適切性」については「判断に医学的知見を要する」からと是非を判断しない姿勢だ。 カルテを分析すると医学的に必須とされる所見がないのに「心筋梗塞」と診断名をつけられ、血液がさらさらになる薬剤などを大量に投与されたケースも見つかる。やはり朝倉院長が診断していた。 医師が院長に電話で問い合わせて「心筋梗塞」の診断名をつけていた音声記録も。蘇生の難しい患者に繰り返し高い薬剤を投与していたという証言もあった。 ◆ 院長が率先する患者への過剰な医療行為をスタッフは「濃厚治療」と隠語で呼んでいたという。後編で詳しく取り上げる』、「第三者委員会は「医療行為の適切性」については「判断に医学的知見を要する」からと是非を判断しない姿勢だ」、こんな責任放棄を認めるべきではない…。)
第四に、7月29日付け文春オンライン「「暴力や虐待が日常茶飯事」八王子・滝山病院の“おぞましい実態”が明るみに…高級スポーツカーを乗り回す院長の“反応”とは#2」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/72245
・『東京・八王子市にある民間の精神科病院・滝山病院。精神科のほかに内科も併設し、人工透析治療などができるため、精神疾患に加えて腎疾患などを抱える合併症の患者が他の病院からも送り込まれてくる。そこではベッドに寝たきりの高齢患者を看護師らが問答無用で殴る、叩く、つねる、蹴る。暴力や虐待が日常茶飯事。ベッドに縛り付ける身体拘禁も日常化。入手した資料で入院患者の約8割が死亡して退院。いったん入院すると死亡しない限りは退院できないというおぞましい実態、“死亡退院”の現実について、NHK-Eテレ・6月29日放送の「ETV特集 死亡退院 さらなる闇」が続報した。(全2回の2回目/前編を読む)』、「入院患者の約8割が死亡して退院。いったん入院すると死亡しない限りは退院できないというおぞましい実態」、病院とは名ばかりのおそろしい施設だ。
・『「お金にもなる。お金取れるでしょ」 院長が率先する患者への過剰な医療行為をスタッフは「濃厚治療」という隠語で呼んでいた。「1B」と呼ばれる「濃厚治療」用の病室の映像も出てきた。 「院長が『1B運べ』といって、ICUみたいに人工呼吸器をつけたり、濃厚な治療するんですよ。そうやればお金にもなる。お金取れるでしょ。いっぱい濃厚治療するんだから」とスタッフは証言した。 過剰医療、濃厚治療……。すべて「カネ」がらみだ。第2弾は「朝倉院長とカネ」について第1弾以上に踏み込んで報じている点が注目される。) 医療機関は診療報酬というかたちで収入を得ている。一般的に精神科の医療行為の評価は診療報酬上で内科や外科などに比べてかなり低いとされている。そうした面を取り戻そうと意識して稼ごうとしたのか。滝山病院で「濃厚治療」していた実態がスタッフの口から語られた。 たくさんの薬剤などが投与されて「濃厚な治療」が行われれば行われるほど、その分、収入が増える仕組みだ。だが、医療行為として適切な治療でなければ当初は話ができた患者が会話できなくなり、意識が混濁した状態になってしまう。 そうした医療行為を院長が率先して行っていた疑惑。番組では関係者の証言を元に踏み込んで伝えている。 朝倉重延院長には今回と似た事件で報道された過去があった。2001年にはおよそ40人が不審死をとげた埼玉県の朝倉病院の院長だった。患者の身体を違法に拘束。過剰な栄養点滴など不必要な治療を行い、診療報酬を不正請求したことが発覚。朝倉病院は事実上廃院に。院長は保険医の資格を取り消された。その後、保険医の資格を再取得。5年前に父親の死後に滝山病院の院長を引き継いでいた』、「朝倉重延院長には今回と似た事件で報道された過去があった。2001年にはおよそ40人が不審死をとげた埼玉県の朝倉病院の院長だった。患者の身体を違法に拘束。過剰な栄養点滴など不必要な治療を行い、診療報酬を不正請求したことが発覚。朝倉病院は事実上廃院に。院長は保険医の資格を取り消された。その後、保険医の資格を再取得。5年前に父親の死後に滝山病院の院長を引き継いでいた」、「保険医の資格を再取得」のハードルを高くするべきだ。
・『高級スポーツカーを乗り回す院長の“収入” 圧巻は取材班が入手した「厳秘」と記された病院経営の内部文書だ。 朝倉重延院長の役員報酬は2017年度から2020年度までは毎年5820万円。2021年度は6320万円。2022年度は6420万円と増加傾向にある。病院の経常利益に対する院長の役員報酬の割合が2019年度48%。2020年度59%と経常利益の半分を超え、2021年度は337%に跳ね上がる。実に経常利益の3倍以上の金額だ。病院全体の利益が減少する中で院長の報酬だけが突出して増加していた。 院長が車で出かけようとするところをディレクターが直撃する場面がある。 車高が低い流線型の高級スポーツカー。左ハンドルで明らかに外国産だ。呼びかけに応じずに無言で車は走り去った。外観から調べてみると英国製の豪華スポーツカーで新車ならば約4000万円の値段だという。 ドキュメンタリーはインタビューやナレーションなどの「言葉」以上に「映像」が雄弁に語るジャンルである。) 役員報酬だけで毎年5000万円、6000万円という内部資料の証拠映像に加え、高級スポーツカーの映像。この2つの映像が雄弁に語っている。 事件発覚後に「精神障害者の家族会」の関係者が初めて病院内に入ると廊下にエアコンがなく、シャワールームも狭いなど他では考えられない劣悪さに衝撃を受けたという場面があるが、患者の環境改善のための病院設備には費用をかけなかった。 患者の死因についても院長が心筋梗塞や悪性リンパ腫などの病名をいとも軽い口調で語る音声も出てくる。何を重視して病院運営をしている人なのか伝わってくる構成だ』、「役員報酬は2017年度から2020年度までは毎年5820万円。2021年度は6320万円。2022年度は6420万円と増加傾向」。「英国製の豪華スポーツカーで新車ならば約4000万円」、結構なご身分だ。
・『医療現場の「さらなる闇」 病院スタッフの一人は朝倉院長について「(滝山病院では)不正請求はしていない。前の朝倉病院のときみたいに『やったことにしてお金を取っている』わけじゃないので……。(保険医の)取り消しはないので大丈夫と思ったみたい」とその胸の内を想像する。 診療報酬の不正請求がないとしても、不必要な投薬などを意図的に繰り返して患者の命を危険にさらした疑惑があることは浮かび上がった。そのことで患者が次々に死亡した可能性があると専門医たちが指摘する。医師としてやってはならない行為ではないか。本来、監督官庁や捜査機関などが動くべき事案ではないのか。 番組ではこうした「医療の内容」にまで行政が踏み込んで規制することは今の制度では極めて困難だと関係者のインタビューで示している。利益を得る目的で意図して「過剰医療」をやっていたとしても現状では取り締まることが難しい。「医療の判断」とされれば踏み込みにくい。これこそ番組のサブタイトルにある「さらなる闇」である。 精神科の入院患者の9割以上が民間の病院にいる現状を考えると、民間病院がこうしてカネを得ていくことも私たちは容認しなければならないのだろうか。こうして患者たちの命や人権が犠牲になっていく。暴力や虐待の背景にあった患者をカネと見るような人権軽視の姿勢。こうした病院の実態を許していいものか。番組が突きつけている問いかけは重い』、まずは「監督官庁」が「過剰医療」を判定し、「捜査機関などが動く」形にもっていくべきだろう。こんな違法状態を放置すべきではない。
タグ:現代ビジネス「「大多数の精神科医は投薬の専門家に過ぎず、精神療法は独学」...和田秀樹氏も驚愕した「日本の心療内科」の「ヤバすぎる実態」」 精神科クリニックに流れ込む悪徳精神科医 「宇都宮病院の入院患者の平均年齢はそう高くないのに、事件発覚前の3年間で222人も亡くなっていたんですから、異常ですよ」、確かに死亡者が異常に多い。 「こうしたクリニックは、医師の資格さえあれば大きな設備投資を必要とせずに開業できますし、誰も診療の質をチェックしません。だから、悪徳精神科病院を経営するような層が、そのままここへ流れ込んでいます。 1950~60年代に起きた精神科病院乱立ブームと同様、畑違いの診療科の医師が突然参入して開業するケースも目立ちます」、なるほど。 「高評価をつけると、クリニックから特典がもらえるそうです」、悪質な「ステマ」だ・・・「体系だったカウンセリングを重視する精神療法のトレーニングをする場は極めて少ないとは問題だ。 「SSRIは、若い人には要注意の薬です。厚労省は2007年に「24歳以下に自殺のリスクが高まる」とし、 2013年には「18歳未満のうつ病に効果は認められない」としています。 つまり若い人にとっては、「自殺のリスクがあるけど、うつ病には効果がない薬」ということです。だけどそのことは、本人も親も知らされていなかった。小児精神科の先生からもらってるから安心だと思っていたそうです」、恐ろしいことだ。 「日本が薬に対してとにかくチェックの甘い国であることは確かだし、 薬の副作用による民事訴訟もすごく少ないから、みんないい加減に薬を出す。 でもこれって、他人事みたいに思われるかもしれないけど、医者が無駄な薬をたくさん出せば出すほど、健康保険料って上がるんですよ。だからそれによるステルス増税みたいになってるわけ。とても犯罪的なことだと思う」、その通りだ。 現代ビジネス「「海外の新しい科学的発見をも無視する日本の医学界」...改革を阻み続ける、多すぎる「日本の病理」」 「日本人の20人に1人が精神科で治療を受けている計算」、意外に多いことに驚かされた。 「海外で新しい科学的発見があって新しい常識が生まれても、日本の医学界はそれを受け入れません。例えば海外では、血糖値はやや高めの人のほうが死亡率が低いことなど、いままでの日本の常識に反することがわかってきているのに、日本の医者たちは態度を変えようとしません。 日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまうという構造があります』、 「日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまう」、困ったことだ。 「海外では、血糖値はやや高めの人のほうが死亡率が低いことなど、いままでの日本の常識に反することがわかってきているのに、日本の医者たちは態度を変えようとしません。 日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまうという構造があります」、こうした保守的体質は困ったものだ。 「大学医学部の入試で、面接が課されています。それは、医者に向かない人間をはじこう、勉強だけできるけど性格が悪い人間を落とそう、という建前で実施されているんですけど、面接官は教授なんですよ。ということは、教授に忖度する人間が入ってきてしまう・・・ハーバードやイェールなど、海外の医学部でも入試面接はありますが、教授には面接させていません。既存の教授に喧嘩を売れそうな人間を入れないと、学問は進歩しないという考え方がベースにあるからです」、日本も今からでも見直すべきだ。 「海外で新しい科学的発見があって新しい常識が生まれても、日本の医学界はそれを受け入れません。例えば海外では、血糖値はやや高めの人のほうが死亡率が低いことなど、いままでの日本の常識に反することがわかってきているのに、日本の医者たちは態度を変えようとしません。 日本の医療全般に言えますが、守旧派、つまりいまの教授たちが偉すぎて誰も逆らえず、科学的データより教授のほうが正しいことにされてしまうという構造があります」、困ったことだ。 「「コミュ力がない人間や変な人間は医者になってはいけない」という思い込みや刷り込みが国民全体に浸透してしまっている。そのあたりの病理はあまりに深くて、変な人間を入試面接ではじきましょうという意見に、国民の9割ぐらいは賛成する。 「子供はノーマルであってほしい」「大学の医学部入試で面接をするのは当たり前だ」と、みんなが思うぐらいに、日本人は、みんなと同じ「まともな人間」でありたいと願っている。 これは日本にとってある種の不幸ですけど、そういう空気が蔓延していることが、精神医療の改革にあたっての一番の難しさだと思います」、もっと尖った人材が入ってくるようにしたいものだ。 文春オンライン「「このままでは殺される…どうか助けてください」相次ぐ患者の“死亡退院”はNHKがスクープした後も続いていた#1」 「そこではベッドに寝たきりの高齢患者を看護師らが問答無用で殴る、叩く、つねる、蹴る。暴力や虐待が日常茶飯事。ベッドに縛り付ける身体拘禁も日常化。入手した資料で入院患者の約8割が死亡して退院。いったん入院すると死亡しない限りは退院できないというおぞましい実態、“死亡退院”の現実があった」、ここまで酷いとは監督官庁の怠慢だ。 「都の改善命令を受けて滝山病院は「虐待防止委員会」を設置。弁護士が中心の「第三者委員会」を作って虐待の真相究明に乗り出した。 東京都も患者の聞き取り調査を実施。転退院の支援に乗り出した。 ところが行政の縦割りや公立病院の受け入れへの消極姿勢、さらに主な受け入れ先として想定された民間病院が費用面や合併症患者の扱いなどで及び腰になるなどで遅遅として進まない。 転院を希望した高齢の男性患者も引き受ける病院が見つからないまま体調を崩して死亡。転退院支援の遅れで「死亡退院」はその後も続いたのだ」、酷いものだ。 「第三者委員会は「医療行為の適切性」については「判断に医学的知見を要する」からと是非を判断しない姿勢だ」、こんな責任放棄を認めるべきではない。)… 「入院患者の約8割が死亡して退院。いったん入院すると死亡しない限りは退院できないというおぞましい実態」、病院とは名ばかりのおそろしい施設だ。 「保険医の資格を再取得」のハードルを高くするべきだ。 「役員報酬は2017年度から2020年度までは毎年5820万円。2021年度は6320万円。2022年度は6420万円と増加傾向」。「英国製の豪華スポーツカーで新車ならば約4000万円」、結構なご身分だ。 まずは「監督官庁」が「過剰医療」を判定し、「捜査機関などが動く」形にもっていくべきだろう。こんな違法状態を放置すべきではない。
トランプ(その53)(米大統領選に異変が…!追い風が吹き始めたハリス氏は、早期の戦争終結や保護主義への歯止めをかけられるのか?) [世界情勢]
トランプについては、本年6月2日に取上げた。今日は、(その53)(米大統領選に異変が…!追い風が吹き始めたハリス氏は、早期の戦争終結や保護主義への歯止めをかけられるのか?)である。
7月30日付け現代ビジネスが掲載した経済ジャーナリストの町田 徹氏による「米大統領選に異変が…!追い風が吹き始めたハリス氏は、早期の戦争終結や保護主義への歯止めをかけられるのか?」を紹介しよう。
・『様変わりした選挙演説の様子 10日前には予想もできなかったが、新たな風が吹き、バイデン大統領に代わる民主党の米大統領選候補の本命に踊り出たカマラ・ハリス副大統領が、暗殺未遂事件の被害者として勢い付いていたトランプ前大統領(共和党の大統領候補)の独走に待ったをかける勢いだ。 持ち前の舌鋒鋭い演説と、若者に人気の歌手らの援護射撃、民主党内にまん延していた危機感などに支えられて、離れかけていた民主党支持者や若者の支持を取り戻し始めている模様なのである。世論調査の中にはトランプ氏を上回ったというものも散見される。 果たして、ハリス氏は、この追い風に乗り、米国大統領の座を射止められるのだろうか。 ハリス大統領が誕生した場合、その政策運営はどうなるのだろうか。終わりの見えないウクライナやイスラエルのガザ地区で進行中の戦争は早期終結に向かうのか。経済運営と保護主義化する一方だった通商政策への影響も探ってみよう。 まず、ハリス氏自身が旋風を巻き起こしている側面を示そう。今回、大統領候補になって以降に行った選挙演説の様子がバイデン氏のものと様変わりなのだ。 例えば、先週火曜日(7月23日)に、スイングステート(選挙のたびに勝つ政党が変わる激戦州。今回は大統領選の帰すうを左右すると7州が注目されている)のひとつ中西部ウィスコンシン州のミルウォーキーで行った演説だ。 ハリス氏は聴衆に、自由、平等、機会の均等といった権利をあげ、これらを保障しているのが民主主義国家の「米国の約束」だと説明。将来も安心して「米国の約束」のある国に住み続けたいか、それともトランプ政権の再来を念頭に暴力や恐怖が支配する国に脅えながら住みたいのかと問いかけた。 語り口が格調高く、かつてのケネディ大統領やオバマ大統領の演説を彷彿させたようだ。終了後、テレビインタビューに応じた聴衆が口々に、こういうエネルギッシュで志の高い主張を聞きたかったのだと話していた。 その一方で、ハリス氏は、下品にならないようにトランプ氏の弱点を突いた。 「消費者をだます詐欺師や、己の利益のためにルールを破る者など、(私は検察官として)あらゆる犯罪者と闘ってきた」と自身が政治家(上院議員)になる前は、カルフォルニア州司法長官など検察官としてキャリア積んできたと前置き。ひと呼吸を置いて、いたずらっ子のような笑顔を浮かべ、「(それゆえ、)私は、トランプ氏のようなタイプを知り尽くしている」と皮肉ってみせたのである』、カルフォルニア州司法長官など検察官としてキャリア積んできたと前置き。ひと呼吸を置いて、いたずらっ子のような笑顔を浮かべ、「(それゆえ、)私は、トランプ氏のようなタイプを知り尽くしている」と皮肉ってみせたのである」、なかなかの役者だ。ようやくバイデンの疲れ切った顔をみないで済むのも有難い。
・『バイデン氏がハリス氏を選んだ理由 米有権者の間では周知だが、トランプ氏はすでに今年5月、不倫の口止め料を巡って有罪の評決を受けており、今は大統領選後に量刑を待つ身だ。そうしたことをあえて口には出さずに、ましてや相手を口汚くこき下ろすことなく、ハリス氏とトランプ氏を「正義の検察官」対「犯罪者」という風に描いてみせたわけだ。筆者は中継映像を確認したが、会場はハリス氏の言動によって溢れんばかりの熱狂に包まれていた。 実は、こうした舌鋒の鋭さは驚くにあたらない。ジャマイカ移民の経済学者とインド系のがん研究者というマイノリティというバックグランドと共に、ハリス氏を女性初、黒人初、アジア系初の米副大統領に押し上げた原動力だからだ。 振り返れば2019年6月。ハリス氏は、前回の大統領選挙の民主党候補争いの討論会で、大本命で黒人寄りとみられていたバイデン候補に、人種差別撤廃に繋げる狙いのスクールバスを使った学区改革に反対した過去があると暴露して追及した実績があるのである。 窮地に追い込まれたバイデン候補は、「持ち時間を使い切った」と反論しなかったが、メディアは「バイデン氏が反論できず、時間切れを理由に逃げた」と、このやりとりを評した。 バイデン氏は後に、ハリス氏のバックグランドと、自身を追い詰めた舌鋒鋭い討論術を高く評価。自身の大統領選挙のランニングメート、つまり、副大統領候補に選び、これがハリス氏の副大統領就任に直結したのだった。 ただ、ハリス氏の演説術だけで、トランプ氏の勢いを弱らせる風が吹いたわけではない。 その他で、第一に見逃せないのは、現在81歳のバイデン氏自身が6月28日開催された大統領候補同士のテレビ討論会で、しどろもどろになったり、言い淀んだりしたりして、2期目も大統領職をまっとうできるのかという懸念が的を射ているという印象を全米に与えてしまったことである。 あの討論会で、バイデン、トランプ両氏が主張したこと自体は、4年前と同じように、ひたすら相手を「米国の歴史の上で最悪の大統領だ」とこき下ろし合うような最低の内容だった。が、最も視聴者たちの印象に残ったのは「バイデン氏は歳を取り過ぎている」ということだった。 民主党内では、速やかに、誰か若いピンチヒッターを立てないと惨敗するとの危機感が共有される状況が生まれていた。 こうした中で、選挙戦からの撤退を拒否して連邦議会選でも民主党を劣勢に追い込む“元凶”となっていたバイデン氏が7月21日の日曜日になって、ついに変心。 これを受けて、クリントン元大統領夫妻を先頭に党内の重鎮や大物が相次いでハリス氏支持を表明した。そして、ハリスの出馬表明から24時間で邦貨換算で127億円という過去最大の選挙資金が集まったという情報が開示され、有力な対立候補と見られていた人物たちが揃ってハリス氏支持に流れた。こうして、ハリス氏が正式指名を受けていない段階からスタートダッシュできる環境が整った。ハリス氏支持への流れは予想以上に急速だ』、「ハリス氏は、前回の大統領選挙の民主党候補争いの討論会で、大本命で黒人寄りとみられていたバイデン候補に、人種差別撤廃に繋げる狙いのスクールバスを使った学区改革に反対した過去があると暴露して追及した実績があるのである。 窮地に追い込まれたバイデン候補は、「持ち時間を使い切った」と反論しなかったが、メディアは「バイデン氏が反論できず、時間切れを理由に逃げた」と、このやりとりを評した。 バイデン氏は後に、ハリス氏のバックグランドと、自身を追い詰めた舌鋒鋭い討論術を高く評価。自身の大統領選挙のランニングメート、つまり、副大統領候補に選び、これがハリス氏の副大統領就任に直結」、バイデンも当時はフェアだったようだ。
・『醸成される「ハリス氏支持」のムード 第2に、俳優のジョージ・クルーニー氏を筆頭格に「映画の都」ハリウッドの人々や、若者にも人気の米国や英国の歌手たちの公式、非公式の支持を得ていることも重要だ。 例えば、ハリス氏はバイデン大統領が選挙戦からの撤退を表明した日の翌日にあたる7月22日の月曜日、米東部デラウェア州のウィルミントンにある民主党選挙本部での集会で登壇する際のビージーエムに、米人気歌手のビヨンセさんの曲「Freedom」を流すことができた。 この曲は、2020年に白人警察官が黒人のジョージ・フロイドさんを殺害した事件を機に世界中で巻き起こった抗議活動Black Lives Matterのテーマ曲にもなっている。ビヨンセさんがこの曲の使用許可を出したのは、暗にハリス氏を示唆したものと言う。ハリス陣営は7月25日の木曜日に公開したハリス大統領候補の公式動画広告にも「Freedom」を採用している。 有名歌手では、カーディ・B、アリアナ・グランデ、チャーリーXCX、ケイティ・ペリー、リル・ナズ・Xなどもハリス氏支持を表明しているという。特に、英女性シンガーソングライターのチャーリーXCXがX(旧ツイッター)に投稿した「kamala IS brat」というコメントの影響は大きかった。 「brat」には、「ガキ、行儀の悪い子、流されないかっこいい女の子」といった意味があり、これを機に、ハリス副大統領が緑色のかかった画面で歌ったり踊ったりする様子を映した動画が猛烈な勢いで拡散されて若者の間で人気になり、ハリス氏を支持するムードが醸成されているというのだ。 ざっと振り返れば、これらが、ハリス陣営が独走しかけたトランプ氏に待ったをかけている事情である。トランプ氏は、暗殺未遂事件で耳を撃ち抜かれたにもかかわらず、シークレットサービスの制止を無視して、はためく星条旗の前で、血を流しながら、こぶしを突き上げる映画の宣伝ポスターのような写真を撮られた。これによって、共和党支持者の枠を超えて、支持者が急拡大しそうだった勢いを挫かれた形なのである。 結果として、最近行われた米世論調査の中には、広がりそうだったトランプ氏のリードが逆に縮小し始めたことを示すものが多い。特に、ロイター通信と調査会社イプソスが7月22日と23日の2日間かけて行った調査の中で、回答者を有権者登録済みの人に限定したケースの数字を見ると、「もし、大統領選挙がきょう実施された場合、誰に投票するか」との質問に、「ハリス氏」と答えた人は44%と、「トランプ氏」と答えた人の42%を2ポイント上回った。 しかし、こうした変化は、ハリス氏が今後100日足らずとなった大統領選で、その勢いを維持して、トランプ氏に勝てると保証するものとも言い切れない』、「ハリス氏」支持の瞬間風速は確かに想像以上に高いようだ。
・『ハリス氏が勝つための「3つの条件」 そもそも、今回の米大統領選挙の勝利の行方は、これまでの選挙より遥かに予測が難しいとされている。それは、民主党でも共和党でもない第3の候補のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏が、ハリス氏とトランプ氏のどちらの票をより多く食うのかの予測が難しいからだ。 ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は弁護士で、今なお米国で人気の高いケネディ大統領の甥だ。民主、共和の2大政党に不満を持つ有権者の受け皿となり、第3の候補としては異例の支持を集めているとの見方もある。 そうした事情をあえて無視するとしても、ハリス氏が大統領選で勝つためには、少なくとも3つの条件があると考えられる。 最初の関門は、大統領選の勝敗を左右するスイングステートで、トランプ前大統領とバンス上院議員という侮れない共和党の正、副大統領候補コンビを打ち破れる強力な副大統領候補を擁立できるか、だ。 今回は、アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ノースカロライナ、ペンシルベニア、ウィスコンシンの7州がスイングステートとされているが、前々回の大統領選挙でこのうちのネバダしか取れなかったヒラリー・クリントン元国務長官はトランプ氏に敗れた。逆に前回、ノースカロライナ以外の6州をとったバイデン氏は、トランプ氏に勝てた。 そして今回は、米経済紙の4月段階の調査によると、ウィスコンシン州でバイデン氏、トランプ氏が支持率で共に46%で互角だったものの、残り6州はすべてトランプ氏がリード。バイデン氏をそれぞれ1~6ポイント上回っていた。 それゆえ、ハリス氏には、スイングステートで大きな集票力を持つランニングメート(副大統領候補)がどうしても必要なのだ。 筆者は、7州の中で最大票田ぺンシルバニア州のシャピロ知事か最有力候補と睨んでいるが、同氏クラスの人物を口説き落とせるかどうかはハリス氏の力量を試す大きな関門だ』、「7州の中で最大票田ぺンシルバニア州のシャピロ知事か最有力候補と睨んでいるが、同氏クラスの人物を口説き落とせるかどうかはハリス氏の力量を試す大きな関門」、なるほど。
・『ハリス氏とバイデン氏、トランプ氏の違い 2番目の関門は、ビヨンセさんの楽曲使用の許諾やチャーリーXCXさんの投稿で、若者の間に広がりつつあるという人気をどこまで広げて、維持できるかである。どこの国でも若者は流行に敏感で、飽きっぽい傾向がある。 そして3番目が、カリフォルニア州司法長官や副大統領をつとめていながら、意外と弱いとされている組織の運営能力を高められるかという点である。実は、この点での弱さが、ハリス氏が前回の大統領選の民主党候補としての指名争いから早期撤退を迫られた主因だとの見方もある。同じ失敗は許されない。 では、最後に、外交・安全保障、経済運営、通商戦略を巡るハリス氏とバイデン氏、トランプ氏の違いを考えてみよう。 まず、世界で起きている2つの戦争への対応が最大の焦点の外交・安全保障政策だ。ロシアが侵略戦争を続けるウクライナへの軍事支援については、バイデン政権の方針を受け継ぐとみてよいだろう。NATO(北大西洋条約機構)加盟国と共に必要な支援を継続していきそうだ。 1期目に様々な宗教の聖地であるエルサレムをイスラエルが首都とすることを容認したことに表れるように、トランプ氏は、親イスラエルを広言している。一方のバイデン氏は、親ユダヤ的政策を重視するエスタブリッシュメントと、ガザ地区の戦争の悲惨な状況から反イスラエル色を強めて早期停戦を求めている若手の有権者層の間で板挟みだ。どっちつかずの優柔不断の姿勢に終始してきた。 これら2人と比べれば、ハリス氏は米国民から親イスラエル派の政治家と見られることに強い抵抗をみせている。米副大統領は連邦議会の上院議長も務めることになっており、外国要人が議会演説をする際には、演説者の後ろにある上院議長席で傍聴するのが慣例であるが、訪米したイスラエルのネタニヤフ首相がこのほど演説した際は、事前に政治的所要が入っていたことを理由に欠席してみせた。 事実上、ガザ地区への攻撃を続けるネタニヤフ氏に対して、ある種のお墨付きを与えることを拒否して見せたのである。 次いで、この翌日のネタニヤフ氏との個別会談について、ハリス氏は会談後の講演などで言及。この中で、イスラエルに自衛権があることを是認・支持したものの、ガザ地区では「あまりにも多くの罪なき一般市民の死を含む人的被害」が出ていることなどを指摘して、「ネタニヤフ氏に深刻な懸念を伝えた」と説明した。 そのうえで、記者団には「私は黙らない」、「もうこの戦争は終わりにしなくてはならない」とも語っている。 こうしたネタニヤフ氏への対応から見て、仮にハリス氏が米大統領にした場合、ガザ地区への攻撃が続いていれば、ハリス氏は厳しく終戦を迫るものと見られている』、事実上、ガザ地区への攻撃を続けるネタニヤフ氏に対して、ある種のお墨付きを与えることを拒否して見せたのである。 次いで、この翌日のネタニヤフ氏との個別会談について、ハリス氏は会談後の講演などで言及。この中で、イスラエルに自衛権があることを是認・支持したものの、ガザ地区では「あまりにも多くの罪なき一般市民の死を含む人的被害」が出ていることなどを指摘して、「ネタニヤフ氏に深刻な懸念を伝えた」と説明した。 そのうえで、記者団には「私は黙らない」、「もうこの戦争は終わりにしなくてはならない」とも語っている「イスラエル」への姿勢が中立化するのは好ましいことだ。
・『ハリス氏が国内経済政策で重視するもの 日本の読者はあまり関心がないだろうが、ハリス氏が国内経済政策で重視するのは、中産階級(日本のイメージで言えば高額所得者層だが)の生活水準を維持・向上させることにあるようだ。この脈絡で、副大統領としては、バイデン氏の企業や高所得世帯への課税を強化する一方で、所得が40万ドル(約6200万円)を下回る世帯への課税は横ばい、もしくは削減する方針に賛意を示してきた。 ハリス氏は2020年に大統領選に立候補した際の公約で、「LIFT」という税制改正法案を提案、最低限の所得を保障する「ユニバーサル・ベーシックインカム」に似た仕組みの導入を提案した。ハリス案は、個人に3000ドル、夫婦に6000ドルの税額控除を提供するもので、10年間で約3兆ドルの政策コストが必要と試算していた。 この制度は、ベーシックインカム的と言いながらも、世帯所得が増えるにしたがって恩恵が減る仕組みで、上位40%の世帯には全体の10%しか行き渡らない仕組みとされていた。仮にハリス大統領が誕生すれば、こうした形の中産階級支援が再び現実味を帯びる可能性がある。 FRB(米連邦準備制度理事会)が繰り返した利上げの影響で、現在、歴史的な高値圏にある住宅コスト対策もハリス候補の主要な公約に浮上してくる可能性がありそうだ。 上院議員時代に、家賃高騰対策として「Rent Relief Act(家賃軽減法)」を提唱し、収入10万ドル以下で、収入の30%以上を家賃と光熱費として支払っている人を対象にした税額控除の設置を提案したことがあるからである。 また、カリフォルニア州司法長官時代には、急増した差し押さえを憂慮、住宅ローンを手掛けていた金融機関と交渉し、手厚い住宅保有者への補償を引き出した実績や、関連して急増した詐欺の摘発を強化したことがあることも、ハリス氏が住宅政策を重視する可能性が高いとみられることの根拠になっている。 最後の最後は、通商政策だ。労働組合票を強く意識していたのだろうが、ハリス氏は2016年の上院議員を目指した選挙で、候補者として、身内の民主党のオバマ政権が2015年に交渉で合意していたTPP(環太平洋経済連携協定)への反対を表明していた。 「米国第一主義」を掲げて、TPPからの離脱や中国にとどまらないすべての国への関税上乗せ措置を推進したトランプ前大統領ほどではないものの、半面、トランプ氏に引きずられる形で、自由貿易体制への復帰を実現できなかったバイデン氏と比べると、より保護主義的な通商政策を志向する大統領に、ハリスがなったとしても不思議はない状況だ。)を紹介しよう』、「「LIFT」という税制改正法案を提案、最低限の所得を保障する「ユニバーサル・ベーシックインカム」に似た仕組みの導入を提案した」。「自由貿易体制への復帰を実現できなかったバイデン氏と比べると、より保護主義的な通商政策を志向する大統領に、ハリスがなったとしても不思議はない状況だ」、なるほど。
7月30日付け現代ビジネスが掲載した経済ジャーナリストの町田 徹氏による「米大統領選に異変が…!追い風が吹き始めたハリス氏は、早期の戦争終結や保護主義への歯止めをかけられるのか?」を紹介しよう。
・『様変わりした選挙演説の様子 10日前には予想もできなかったが、新たな風が吹き、バイデン大統領に代わる民主党の米大統領選候補の本命に踊り出たカマラ・ハリス副大統領が、暗殺未遂事件の被害者として勢い付いていたトランプ前大統領(共和党の大統領候補)の独走に待ったをかける勢いだ。 持ち前の舌鋒鋭い演説と、若者に人気の歌手らの援護射撃、民主党内にまん延していた危機感などに支えられて、離れかけていた民主党支持者や若者の支持を取り戻し始めている模様なのである。世論調査の中にはトランプ氏を上回ったというものも散見される。 果たして、ハリス氏は、この追い風に乗り、米国大統領の座を射止められるのだろうか。 ハリス大統領が誕生した場合、その政策運営はどうなるのだろうか。終わりの見えないウクライナやイスラエルのガザ地区で進行中の戦争は早期終結に向かうのか。経済運営と保護主義化する一方だった通商政策への影響も探ってみよう。 まず、ハリス氏自身が旋風を巻き起こしている側面を示そう。今回、大統領候補になって以降に行った選挙演説の様子がバイデン氏のものと様変わりなのだ。 例えば、先週火曜日(7月23日)に、スイングステート(選挙のたびに勝つ政党が変わる激戦州。今回は大統領選の帰すうを左右すると7州が注目されている)のひとつ中西部ウィスコンシン州のミルウォーキーで行った演説だ。 ハリス氏は聴衆に、自由、平等、機会の均等といった権利をあげ、これらを保障しているのが民主主義国家の「米国の約束」だと説明。将来も安心して「米国の約束」のある国に住み続けたいか、それともトランプ政権の再来を念頭に暴力や恐怖が支配する国に脅えながら住みたいのかと問いかけた。 語り口が格調高く、かつてのケネディ大統領やオバマ大統領の演説を彷彿させたようだ。終了後、テレビインタビューに応じた聴衆が口々に、こういうエネルギッシュで志の高い主張を聞きたかったのだと話していた。 その一方で、ハリス氏は、下品にならないようにトランプ氏の弱点を突いた。 「消費者をだます詐欺師や、己の利益のためにルールを破る者など、(私は検察官として)あらゆる犯罪者と闘ってきた」と自身が政治家(上院議員)になる前は、カルフォルニア州司法長官など検察官としてキャリア積んできたと前置き。ひと呼吸を置いて、いたずらっ子のような笑顔を浮かべ、「(それゆえ、)私は、トランプ氏のようなタイプを知り尽くしている」と皮肉ってみせたのである』、カルフォルニア州司法長官など検察官としてキャリア積んできたと前置き。ひと呼吸を置いて、いたずらっ子のような笑顔を浮かべ、「(それゆえ、)私は、トランプ氏のようなタイプを知り尽くしている」と皮肉ってみせたのである」、なかなかの役者だ。ようやくバイデンの疲れ切った顔をみないで済むのも有難い。
・『バイデン氏がハリス氏を選んだ理由 米有権者の間では周知だが、トランプ氏はすでに今年5月、不倫の口止め料を巡って有罪の評決を受けており、今は大統領選後に量刑を待つ身だ。そうしたことをあえて口には出さずに、ましてや相手を口汚くこき下ろすことなく、ハリス氏とトランプ氏を「正義の検察官」対「犯罪者」という風に描いてみせたわけだ。筆者は中継映像を確認したが、会場はハリス氏の言動によって溢れんばかりの熱狂に包まれていた。 実は、こうした舌鋒の鋭さは驚くにあたらない。ジャマイカ移民の経済学者とインド系のがん研究者というマイノリティというバックグランドと共に、ハリス氏を女性初、黒人初、アジア系初の米副大統領に押し上げた原動力だからだ。 振り返れば2019年6月。ハリス氏は、前回の大統領選挙の民主党候補争いの討論会で、大本命で黒人寄りとみられていたバイデン候補に、人種差別撤廃に繋げる狙いのスクールバスを使った学区改革に反対した過去があると暴露して追及した実績があるのである。 窮地に追い込まれたバイデン候補は、「持ち時間を使い切った」と反論しなかったが、メディアは「バイデン氏が反論できず、時間切れを理由に逃げた」と、このやりとりを評した。 バイデン氏は後に、ハリス氏のバックグランドと、自身を追い詰めた舌鋒鋭い討論術を高く評価。自身の大統領選挙のランニングメート、つまり、副大統領候補に選び、これがハリス氏の副大統領就任に直結したのだった。 ただ、ハリス氏の演説術だけで、トランプ氏の勢いを弱らせる風が吹いたわけではない。 その他で、第一に見逃せないのは、現在81歳のバイデン氏自身が6月28日開催された大統領候補同士のテレビ討論会で、しどろもどろになったり、言い淀んだりしたりして、2期目も大統領職をまっとうできるのかという懸念が的を射ているという印象を全米に与えてしまったことである。 あの討論会で、バイデン、トランプ両氏が主張したこと自体は、4年前と同じように、ひたすら相手を「米国の歴史の上で最悪の大統領だ」とこき下ろし合うような最低の内容だった。が、最も視聴者たちの印象に残ったのは「バイデン氏は歳を取り過ぎている」ということだった。 民主党内では、速やかに、誰か若いピンチヒッターを立てないと惨敗するとの危機感が共有される状況が生まれていた。 こうした中で、選挙戦からの撤退を拒否して連邦議会選でも民主党を劣勢に追い込む“元凶”となっていたバイデン氏が7月21日の日曜日になって、ついに変心。 これを受けて、クリントン元大統領夫妻を先頭に党内の重鎮や大物が相次いでハリス氏支持を表明した。そして、ハリスの出馬表明から24時間で邦貨換算で127億円という過去最大の選挙資金が集まったという情報が開示され、有力な対立候補と見られていた人物たちが揃ってハリス氏支持に流れた。こうして、ハリス氏が正式指名を受けていない段階からスタートダッシュできる環境が整った。ハリス氏支持への流れは予想以上に急速だ』、「ハリス氏は、前回の大統領選挙の民主党候補争いの討論会で、大本命で黒人寄りとみられていたバイデン候補に、人種差別撤廃に繋げる狙いのスクールバスを使った学区改革に反対した過去があると暴露して追及した実績があるのである。 窮地に追い込まれたバイデン候補は、「持ち時間を使い切った」と反論しなかったが、メディアは「バイデン氏が反論できず、時間切れを理由に逃げた」と、このやりとりを評した。 バイデン氏は後に、ハリス氏のバックグランドと、自身を追い詰めた舌鋒鋭い討論術を高く評価。自身の大統領選挙のランニングメート、つまり、副大統領候補に選び、これがハリス氏の副大統領就任に直結」、バイデンも当時はフェアだったようだ。
・『醸成される「ハリス氏支持」のムード 第2に、俳優のジョージ・クルーニー氏を筆頭格に「映画の都」ハリウッドの人々や、若者にも人気の米国や英国の歌手たちの公式、非公式の支持を得ていることも重要だ。 例えば、ハリス氏はバイデン大統領が選挙戦からの撤退を表明した日の翌日にあたる7月22日の月曜日、米東部デラウェア州のウィルミントンにある民主党選挙本部での集会で登壇する際のビージーエムに、米人気歌手のビヨンセさんの曲「Freedom」を流すことができた。 この曲は、2020年に白人警察官が黒人のジョージ・フロイドさんを殺害した事件を機に世界中で巻き起こった抗議活動Black Lives Matterのテーマ曲にもなっている。ビヨンセさんがこの曲の使用許可を出したのは、暗にハリス氏を示唆したものと言う。ハリス陣営は7月25日の木曜日に公開したハリス大統領候補の公式動画広告にも「Freedom」を採用している。 有名歌手では、カーディ・B、アリアナ・グランデ、チャーリーXCX、ケイティ・ペリー、リル・ナズ・Xなどもハリス氏支持を表明しているという。特に、英女性シンガーソングライターのチャーリーXCXがX(旧ツイッター)に投稿した「kamala IS brat」というコメントの影響は大きかった。 「brat」には、「ガキ、行儀の悪い子、流されないかっこいい女の子」といった意味があり、これを機に、ハリス副大統領が緑色のかかった画面で歌ったり踊ったりする様子を映した動画が猛烈な勢いで拡散されて若者の間で人気になり、ハリス氏を支持するムードが醸成されているというのだ。 ざっと振り返れば、これらが、ハリス陣営が独走しかけたトランプ氏に待ったをかけている事情である。トランプ氏は、暗殺未遂事件で耳を撃ち抜かれたにもかかわらず、シークレットサービスの制止を無視して、はためく星条旗の前で、血を流しながら、こぶしを突き上げる映画の宣伝ポスターのような写真を撮られた。これによって、共和党支持者の枠を超えて、支持者が急拡大しそうだった勢いを挫かれた形なのである。 結果として、最近行われた米世論調査の中には、広がりそうだったトランプ氏のリードが逆に縮小し始めたことを示すものが多い。特に、ロイター通信と調査会社イプソスが7月22日と23日の2日間かけて行った調査の中で、回答者を有権者登録済みの人に限定したケースの数字を見ると、「もし、大統領選挙がきょう実施された場合、誰に投票するか」との質問に、「ハリス氏」と答えた人は44%と、「トランプ氏」と答えた人の42%を2ポイント上回った。 しかし、こうした変化は、ハリス氏が今後100日足らずとなった大統領選で、その勢いを維持して、トランプ氏に勝てると保証するものとも言い切れない』、「ハリス氏」支持の瞬間風速は確かに想像以上に高いようだ。
・『ハリス氏が勝つための「3つの条件」 そもそも、今回の米大統領選挙の勝利の行方は、これまでの選挙より遥かに予測が難しいとされている。それは、民主党でも共和党でもない第3の候補のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏が、ハリス氏とトランプ氏のどちらの票をより多く食うのかの予測が難しいからだ。 ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は弁護士で、今なお米国で人気の高いケネディ大統領の甥だ。民主、共和の2大政党に不満を持つ有権者の受け皿となり、第3の候補としては異例の支持を集めているとの見方もある。 そうした事情をあえて無視するとしても、ハリス氏が大統領選で勝つためには、少なくとも3つの条件があると考えられる。 最初の関門は、大統領選の勝敗を左右するスイングステートで、トランプ前大統領とバンス上院議員という侮れない共和党の正、副大統領候補コンビを打ち破れる強力な副大統領候補を擁立できるか、だ。 今回は、アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ノースカロライナ、ペンシルベニア、ウィスコンシンの7州がスイングステートとされているが、前々回の大統領選挙でこのうちのネバダしか取れなかったヒラリー・クリントン元国務長官はトランプ氏に敗れた。逆に前回、ノースカロライナ以外の6州をとったバイデン氏は、トランプ氏に勝てた。 そして今回は、米経済紙の4月段階の調査によると、ウィスコンシン州でバイデン氏、トランプ氏が支持率で共に46%で互角だったものの、残り6州はすべてトランプ氏がリード。バイデン氏をそれぞれ1~6ポイント上回っていた。 それゆえ、ハリス氏には、スイングステートで大きな集票力を持つランニングメート(副大統領候補)がどうしても必要なのだ。 筆者は、7州の中で最大票田ぺンシルバニア州のシャピロ知事か最有力候補と睨んでいるが、同氏クラスの人物を口説き落とせるかどうかはハリス氏の力量を試す大きな関門だ』、「7州の中で最大票田ぺンシルバニア州のシャピロ知事か最有力候補と睨んでいるが、同氏クラスの人物を口説き落とせるかどうかはハリス氏の力量を試す大きな関門」、なるほど。
・『ハリス氏とバイデン氏、トランプ氏の違い 2番目の関門は、ビヨンセさんの楽曲使用の許諾やチャーリーXCXさんの投稿で、若者の間に広がりつつあるという人気をどこまで広げて、維持できるかである。どこの国でも若者は流行に敏感で、飽きっぽい傾向がある。 そして3番目が、カリフォルニア州司法長官や副大統領をつとめていながら、意外と弱いとされている組織の運営能力を高められるかという点である。実は、この点での弱さが、ハリス氏が前回の大統領選の民主党候補としての指名争いから早期撤退を迫られた主因だとの見方もある。同じ失敗は許されない。 では、最後に、外交・安全保障、経済運営、通商戦略を巡るハリス氏とバイデン氏、トランプ氏の違いを考えてみよう。 まず、世界で起きている2つの戦争への対応が最大の焦点の外交・安全保障政策だ。ロシアが侵略戦争を続けるウクライナへの軍事支援については、バイデン政権の方針を受け継ぐとみてよいだろう。NATO(北大西洋条約機構)加盟国と共に必要な支援を継続していきそうだ。 1期目に様々な宗教の聖地であるエルサレムをイスラエルが首都とすることを容認したことに表れるように、トランプ氏は、親イスラエルを広言している。一方のバイデン氏は、親ユダヤ的政策を重視するエスタブリッシュメントと、ガザ地区の戦争の悲惨な状況から反イスラエル色を強めて早期停戦を求めている若手の有権者層の間で板挟みだ。どっちつかずの優柔不断の姿勢に終始してきた。 これら2人と比べれば、ハリス氏は米国民から親イスラエル派の政治家と見られることに強い抵抗をみせている。米副大統領は連邦議会の上院議長も務めることになっており、外国要人が議会演説をする際には、演説者の後ろにある上院議長席で傍聴するのが慣例であるが、訪米したイスラエルのネタニヤフ首相がこのほど演説した際は、事前に政治的所要が入っていたことを理由に欠席してみせた。 事実上、ガザ地区への攻撃を続けるネタニヤフ氏に対して、ある種のお墨付きを与えることを拒否して見せたのである。 次いで、この翌日のネタニヤフ氏との個別会談について、ハリス氏は会談後の講演などで言及。この中で、イスラエルに自衛権があることを是認・支持したものの、ガザ地区では「あまりにも多くの罪なき一般市民の死を含む人的被害」が出ていることなどを指摘して、「ネタニヤフ氏に深刻な懸念を伝えた」と説明した。 そのうえで、記者団には「私は黙らない」、「もうこの戦争は終わりにしなくてはならない」とも語っている。 こうしたネタニヤフ氏への対応から見て、仮にハリス氏が米大統領にした場合、ガザ地区への攻撃が続いていれば、ハリス氏は厳しく終戦を迫るものと見られている』、事実上、ガザ地区への攻撃を続けるネタニヤフ氏に対して、ある種のお墨付きを与えることを拒否して見せたのである。 次いで、この翌日のネタニヤフ氏との個別会談について、ハリス氏は会談後の講演などで言及。この中で、イスラエルに自衛権があることを是認・支持したものの、ガザ地区では「あまりにも多くの罪なき一般市民の死を含む人的被害」が出ていることなどを指摘して、「ネタニヤフ氏に深刻な懸念を伝えた」と説明した。 そのうえで、記者団には「私は黙らない」、「もうこの戦争は終わりにしなくてはならない」とも語っている「イスラエル」への姿勢が中立化するのは好ましいことだ。
・『ハリス氏が国内経済政策で重視するもの 日本の読者はあまり関心がないだろうが、ハリス氏が国内経済政策で重視するのは、中産階級(日本のイメージで言えば高額所得者層だが)の生活水準を維持・向上させることにあるようだ。この脈絡で、副大統領としては、バイデン氏の企業や高所得世帯への課税を強化する一方で、所得が40万ドル(約6200万円)を下回る世帯への課税は横ばい、もしくは削減する方針に賛意を示してきた。 ハリス氏は2020年に大統領選に立候補した際の公約で、「LIFT」という税制改正法案を提案、最低限の所得を保障する「ユニバーサル・ベーシックインカム」に似た仕組みの導入を提案した。ハリス案は、個人に3000ドル、夫婦に6000ドルの税額控除を提供するもので、10年間で約3兆ドルの政策コストが必要と試算していた。 この制度は、ベーシックインカム的と言いながらも、世帯所得が増えるにしたがって恩恵が減る仕組みで、上位40%の世帯には全体の10%しか行き渡らない仕組みとされていた。仮にハリス大統領が誕生すれば、こうした形の中産階級支援が再び現実味を帯びる可能性がある。 FRB(米連邦準備制度理事会)が繰り返した利上げの影響で、現在、歴史的な高値圏にある住宅コスト対策もハリス候補の主要な公約に浮上してくる可能性がありそうだ。 上院議員時代に、家賃高騰対策として「Rent Relief Act(家賃軽減法)」を提唱し、収入10万ドル以下で、収入の30%以上を家賃と光熱費として支払っている人を対象にした税額控除の設置を提案したことがあるからである。 また、カリフォルニア州司法長官時代には、急増した差し押さえを憂慮、住宅ローンを手掛けていた金融機関と交渉し、手厚い住宅保有者への補償を引き出した実績や、関連して急増した詐欺の摘発を強化したことがあることも、ハリス氏が住宅政策を重視する可能性が高いとみられることの根拠になっている。 最後の最後は、通商政策だ。労働組合票を強く意識していたのだろうが、ハリス氏は2016年の上院議員を目指した選挙で、候補者として、身内の民主党のオバマ政権が2015年に交渉で合意していたTPP(環太平洋経済連携協定)への反対を表明していた。 「米国第一主義」を掲げて、TPPからの離脱や中国にとどまらないすべての国への関税上乗せ措置を推進したトランプ前大統領ほどではないものの、半面、トランプ氏に引きずられる形で、自由貿易体制への復帰を実現できなかったバイデン氏と比べると、より保護主義的な通商政策を志向する大統領に、ハリスがなったとしても不思議はない状況だ。)を紹介しよう』、「「LIFT」という税制改正法案を提案、最低限の所得を保障する「ユニバーサル・ベーシックインカム」に似た仕組みの導入を提案した」。「自由貿易体制への復帰を実現できなかったバイデン氏と比べると、より保護主義的な通商政策を志向する大統領に、ハリスがなったとしても不思議はない状況だ」、なるほど。
タグ:現代ビジネス 町田 徹氏による「米大統領選に異変が…!追い風が吹き始めたハリス氏は、早期の戦争終結や保護主義への歯止めをかけられるのか?」 カルフォルニア州司法長官など検察官としてキャリア積んできたと前置き。ひと呼吸を置いて、いたずらっ子のような笑顔を浮かべ、「(それゆえ、)私は、トランプ氏のようなタイプを知り尽くしている」と皮肉ってみせたのである」、なかなかの役者だ。ようやくバイデンの疲れ切った顔をみないで済むのも有難い。 「「LIFT」という税制改正法案を提案、最低限の所得を保障する「ユニバーサル・ベーシックインカム」に似た仕組みの導入を提案した」。「自由貿易体制への復帰を実現できなかったバイデン氏と比べると、より保護主義的な通商政策を志向する大統領に、ハリスがなったとしても不思議はない状況だ」、なるほど。 事実上、ガザ地区への攻撃を続けるネタニヤフ氏に対して、ある種のお墨付きを与えることを拒否して見せたのである。 次いで、この翌日のネタニヤフ氏との個別会談について、ハリス氏は会談後の講演などで言及。この中で、イスラエルに自衛権があることを是認・支持したものの、ガザ地区では「あまりにも多くの罪なき一般市民の死を含む人的被害」が出ていることなどを指摘して、「ネタニヤフ氏に深刻な懸念を伝えた」と説明した。 そのうえで、記者団には「私は黙らない」、「もうこの戦争は終わりにしなくてはならない」とも語っている「イスラエ 2番目の関門は、ビヨンセさんの楽曲使用の許諾やチャーリーXCXさんの投稿で、若者の間に広がりつつあるという人気をどこまで広げて、維持できるかである。どこの国でも若者は流行に敏感で、飽きっぽい傾向がある。 そして3番目が、カリフォルニア州司法長官や副大統領をつとめていながら、意外と弱いとされている組織の運営能力を高められるかという点である 「7州の中で最大票田ぺンシルバニア州のシャピロ知事か最有力候補と睨んでいるが、同氏クラスの人物を口説き落とせるかどうかはハリス氏の力量を試す大きな関門」、なるほど。 ハリス氏が勝つための「3つの条件」 「ハリス氏」支持の瞬間風速は確かに想像以上に高いようだ。 まり、副大統領候補に選び、これがハリス氏の副大統領就任に直結」、バイデンも当時はフェアだったようだ。 「ハリス氏は、前回の大統領選挙の民主党候補争いの討論会で、大本命で黒人寄りとみられていたバイデン候補に、人種差別撤廃に繋げる狙いのスクールバスを使った学区改革に反対した過去があると暴露して追及した実績があるのである。 窮地に追い込まれたバイデン候補は、「持ち時間を使い切った」と反論しなかったが、メディアは「バイデン氏が反論できず、時間切れを理由に逃げた」と、このやりとりを評した。 バイデン氏は後に、ハリス氏のバックグランドと、自身を追い詰めた舌鋒鋭い討論術を高く評価。自身の大統領選挙のランニングメート、つ (その53)(米大統領選に異変が…!追い風が吹き始めたハリス氏は、早期の戦争終結や保護主義への歯止めをかけられるのか?) トランプ
半導体産業(その14)(爆速成長NVIDIAに3つの死角 「AIスマホ」「中国市場」「ポストGPU」、「世界一から転落」日の丸半導体を殺したのは誰か 業界のキーマンが語る「日米半導体摩擦」の顛末) [イノベーション]
半導体産業については、本年6月3日に取上げた。今日は、(その14)(爆速成長NVIDIAに3つの死角 「AIスマホ」「中国市場」「ポストGPU」、「世界一から転落」日の丸半導体を殺したのは誰か 業界のキーマンが語る「日米半導体摩擦」の顛末)である。
先ずは、本年6月27日付け日経ビジネスオンライン「爆速成長NVIDIAに3つの死角 「AIスマホ」「中国市場」「ポストGPU」」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00511/062500034/
・『この記事の3つのポイント NVIDIAの死角1=スマホでAIが動けばGPUの強みが薄れる 死角2=中国製GPU台頭、重要市場の先行きに不透明感 死角3=「ポストGPU」の開発が進み、半導体は多様化の時代へ 時価総額が一時、世界首位となった米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)。生成AI(人工知能)向け計算資源の膨大な需要に支えられて快進撃が続く。その死角はどこにあるのか。長らくエヌビディアの専売特許だったGPU(画像処理半導体)の今後を占う』、興味深そうだ。
・『死角(1)AIの「動く場所」が変わる 死角の1つ目は、「AIが動く場所」にある。エヌビディアのGPUが圧倒的な強さを誇るのはデータセンター向けだ。米マイクロソフトや米アマゾン・ドット・コムなどのクラウド大手が展開する巨大なデータセンターなどのサーバーに搭載されている。英調査会社のオムディアによれば、エヌビディア製GPUのデータセンター向け世界シェアは約8割を占める。 Chat(チャット)GPTの登場以来、米グーグルや米オープンAIなどは最高性能のAIの開発競争を繰り広げてきた。これらのAIはデータセンターで動いている。PCのブラウザーでAIに指示をすると、データセンターでAIが動き、その結果をユーザーに返す。 ところが、この数カ月で新たなトレンドが生まれている。それが、スマートフォンやPCなどの端末上でAIが動く「オンデバイス生成AI」と呼ばれるものだ。比較的サイズの小さい生成AIを、スマホなどに搭載した半導体で稼働させる。 その筆頭が米アップルだ。6月10日に開いた開発者向けイベント「WWDC」で、オンデバイス生成AIを採用した「アップルインテリジェンス」を発表。音声アシスタントの「Siri」に生成AIを利用し、比較的簡易な指示であればオンデバイス処理だけでユーザーに回答する。複雑な場合はデータセンターに処理を引き渡す方法を採用した。 マイクロソフトもオンデバイス生成AIを重視しており、6月18日に端末で生成AIが動くWindowsノートパソコン「Copilot+PC」を発売。米グーグルも自社製スマホ「Pixel」でオンデバイス生成AIを採用済みだ。オンデバイス生成AIは処理の速さなどが特徴で、今後もこのトレンドが加速すると見られる。 これら3社の端末にエヌビディア製の半導体は採用されていない。アップルとグーグルは自社開発のチップを採用しており、マイクロソフトは米クアルコムのプロセッサーを利用している。オンデバイス生成AIの採用は、エヌビディア製GPUにとって逆風となりそうだ』、「これら3社の端末にエヌビディア製の半導体は採用されていない。アップルとグーグルは自社開発のチップを採用しており、マイクロソフトは米クアルコムのプロセッサーを利用している。オンデバイス生成AIの採用は、エヌビディア製GPUにとって逆風となりそうだ」、なるほど。
・『死角(2)現れた「中国版エヌビディア」の実力 2つ目の死角は中国市場の不透明さにある。米中対立を背景に、米国は2022年からエヌビディア製GPUの中国への輸出を制限。同社は性能を落とした中国向け専用品を開発したが、23年10月の規制強化で、そうした専用品の輸出も禁じられた。 米国政府が23年10月に追加の輸出規制に踏み切る以前、エヌビディアのデータセンター向け売上高の20〜25%が中国向けであり、その巨大なマーケットは同社の生命線でもあった。一方、追加規制後の23年11月〜24年1月期は5%程度に急落している。 代替品の輸出も禁止されたエヌビディアは、中国向け新製品の開発を急いでいると見られる。24年3月の自社イベントで記者会見を開いた同社のジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は「中国に最適化するためにベストを尽くしている」と話したものの、具体的なスペックへの言及を避けた。 一方で中国では、AI半導体を自前で開発する動きが相次いでいる。 15年に発表した「中国製造2025」で、半導体の自国生産率を35年に75%とする目標を打ち出した中国。国家予算を投入して自国産業を育成するほか、台湾積体電路製造(TSMC)などの外資企業を誘致しているが、米調査会社ICインサイツによれば21年の自給率は16.7%にとどまる。しかも、その内訳は外資企業が10.1%で、中国企業はわずか6.6%に過ぎない。 中国企業のテクノロジー情勢に詳しい野村総合研究所の李智慧氏は、今後の中国企業の先端半導体戦略を次のように見通す。「計算リソースは半導体の『質×量』で決まる。選択肢は2つで、1つは質では劣る半導体を量でカバーすること。最先端でなくても資本を投下すれば量は集められる。もう1つは質を高めるための代替品の開発だ。華為技術(ファーウェイ)などのプレーヤーが中心になるだろう」。 代替品の開発については、「中国版GPU」が注目を集める。GPUスタートアップの筆頭が摩爾線程智能科技(ムーア・スレッズ)だ。エヌビディアでグローバル担当副社長などを務めた張建中氏が20年10月に創業したGPUメーカーで、23年12月にはAI向けGPU「MTT S4000」やAIの学習などを担うプラットフォームなどを発表した。 ムーア・スレッズのプラットフォームはエヌビディアの開発環境と互換性があるため、これまでエヌビディア製GPUでAI学習のために書いたプログラムコードを、ほぼそのまま同社製GPU用のコードとして容易に移行できるという。米国の半導体専門メディアはムーア・スレッズの技術力を「2020年当時のエヌビディアのアーキテクチャーには及ばないが、ある程度の大規模言語モデル(LLM)のトレーニングでは利用できる」と評価している。 「中国版エヌビディア」との異名を持つ中科寒武紀科技(カンブリコン)もAI半導体を開発する。21年に発表した「思元370」は7ナノメートルプロセスを採用し、同社によれば最大演算能力は256TOPS(毎秒256兆回)でエヌビディアのA800を上回ったという。壁仞智能科技(バイレン)もAIチップメーカーとして注目を集め、既に1000億円以上を調達している』、「「中国版エヌビディア」との異名を持つ中科寒武紀科技(カンブリコン)もAI半導体を開発する。21年に発表した「思元370」は7ナノメートルプロセスを採用し、同社によれば最大演算能力は256TOPS(毎秒256兆回)でエヌビディアのA800を上回ったという。壁仞智能科技(バイレン)もAIチップメーカーとして注目を集め、既に1000億円以上を調達」、なるほど。
・『死角(3)「ポストGPU」の台頭でAI半導体は乱世へ 最後の死角は、GPUの後継を狙う「ポストGPU」の台頭だ。この領域はスタートアップを中心に様々な技術が登場している。 特徴は、今後のニーズを見据えてAIの学習ではなく推論向けのチップを開発するスタートアップが多いことが挙げられる。推論とは、人間の指示などに基づいて学習済みのAIが回答するプロセスを指す。生成AIの実用化が進むに従って学習から推論への移行は進むと見られる。 例えば米dマトリックスは異なるチップを組み合わせる「チップレット」技術を採用し、最先端GPUの40倍のメモリー帯域幅を実現した。 米ハーバード大学を中退した21歳のコンビが起業した米エッチドAIや、グーグルで機械学習向けチップ「TPU」を担当していたエンジニアが創業した米グロック、人間の脳の特徴を再現するチップ開発を目指し、サム・アルトマン氏が投資したことでも知られる米レインAI、ドローンやロボット、自動運転向けのチップを開発する米シマAIなどが注目と投資を集めている。 「推論の時代にAI半導体は多様化する」。27年に先端半導体の量産を目指す半導体メーカー、ラピダスの小池淳義社長はこう読む。1つめの死角で挙げたように、AIが動く場所はデータセンターのサーバーだけでなく、スマホやPCなどに広がっている。 今後、自動運転用のAIやロボット用のAIなど、その用途が広がれば広がるほど、AIを動かす半導体も種類が増えて多様化するという見立てだ。GPUが全てを担う時代から、多種多様な専用半導体がAIを動かす時代に変わる可能性がある。 AI需要に支えられて急成長を続けるエヌビディア。今後を占うためには、生成AIのトレンドの変化に目を凝らす必要がありそうだ』、「AIが動く場所はデータセンターのサーバーだけでなく、スマホやPCなどに広がっている。 今後、自動運転用のAIやロボット用のAIなど、その用途が広がれば広がるほど、AIを動かす半導体も種類が増えて多様化するという見立てだ。GPUが全てを担う時代から、多種多様な専用半導体がAIを動かす時代に変わる可能性がある。AI需要に支えられて急成長を続けるエヌビディア。今後を占うためには、生成AIのトレンドの変化に目を凝らす必要がありそうだ」、その通りだ。
次に、7月14日付け東洋経済オンラインが掲載したJSR前会長・経済同友会経済安全保障委員会委員長の小柴 満信氏による「「世界一から転落」日の丸半導体を殺したのは誰か 業界のキーマンが語る「日米半導体摩擦」の顛末」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/775898?display=b
・『世界ではいま、半導体が「熱い」。台湾積体電路製造(TSMC)の時価総額は一時1兆ドルに達し、イーロン・マスク氏はAI開発のためエヌビディア製半導体を大量購入。トランジスタの誕生から70年あまりの半導体の歴史の中で、かつてないほどの注目を浴びている。 「半導体の復活なくして、日本の未来はない」と語るのは、2023年まで経済同友会の副代表幹事をつとめ「業界のキーマン」として知られる小柴満信氏だ。 かつては世界シェア50%だった日本の半導体産業は、日米半導体摩擦によって力を削がれ現在は10%を割り込む。日本の躍進はどのようにして阻まれたのか。 小柴氏の著書『2040年 半導体の未来』より抜粋・編集してお届けする』、興味深そうだ。
・『半導体の誕生 半導体が発明される前――レーダーや初期のコンピュータには、電流を制御する部品として、ガラス製の「真空管」が使われていた。ただ、部品としてはかさばりすぎるうえ、信頼性がない、消費電力が大きいといった問題があった。そんな中、1948年、アメリカのベル研究所が接触型トランジスタを発明する。 トランジスタは、電気を通す導体と通さない絶縁体の中間の物質である「半導体」でつくられており、その性質から電流をスイッチング(オン/オフ)したり増幅したりできる。消費電力は真空管の50分の1と小さく、あっという間に真空管を駆逐した。 それでもコンピュータに必要な数千個のトランジスタをプリント基板に並べ、1つひとつはんだで配線するのは複雑すぎたし、電子機器を小型化するうえでも支障がある。 そこで、配線を簡略化しようと開発されたのが、1つの基板の上に複数のトランジスタや配線をまとめてしまう方法だった。1958年に集積回路(IC)の概念が発表され、これ以降、集積回路のことを半導体あるいはチップと呼ぶようになった。 当時の技術者の1人が、フェアチャイルドセミコンダクター社のゴードン・ムーアだ。) ムーアは1965年、集積回路の未来について『エレクトロニクス』誌から論文を依頼され、そこに次のような予測をしたためた。 「少なくとも今後10年間、ICの集積度は、1.5年で2倍、3年で4倍になっていくだろう」 集積度とは、1枚のシリコンチップ上に搭載できる部品の数を表す。つまり集積度が高くなるほど性能は上がる。1975年には「2年に2倍ずつ性能が上がる」と修正され、これらの言葉は、のちに「ムーアの法則」として知られていく。 1968年、ムーアらはフェアチャイルドセミコンダクターを離れ、インテルを創業する。 2年後に最初の製品として発売したのが、世界初の「ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ(DRAM)」だ。 それまでコンピュータは「磁気コア」と呼ばれる、金属のリングをワイヤーでつないだものでデータを記憶していた。ただ、磁気コアの容量アップには限界があった。 そこで、例の集積回路を使って開発された記憶装置がDRAMだ。電荷をためる機能を持つコンデンサという部品とトランジスタをつないで記憶素子(メモリセル)を構成している。記憶素子に電荷が蓄えられた状態を「1」、蓄えられていない状態を「0」としてデータを記憶する。DRAMは、現在でもコンピュータのデータ保存を担う重要な半導体(メモリ)である』、「数千個のトランジスタをプリント基板に並べ、1つひとつはんだで配線するのは複雑すぎたし、電子機器を小型化するうえでも支障がある。 そこで、配線を簡略化しようと開発されたのが、1つの基板の上に複数のトランジスタや配線をまとめてしまう方法だった。1958年に集積回路(IC)の概念が発表され、これ以降、集積回路のことを半導体あるいはチップと呼ぶようになった。 当時の技術者の1人が、フェアチャイルドセミコンダクター社のゴードン・ムーアだ・・・集積回路を使って開発された記憶装置がDRAMだ。電荷をためる機能を持つコンデンサという部品とトランジスタをつないで記憶素子(メモリセル)を構成している。記憶素子に電荷が蓄えられた状態を「1」、蓄えられていない状態を「0」としてデータを記憶する。DRAMは、現在でもコンピュータのデータ保存を担う重要な半導体(メモリ)である」、なるほど。
・『DRAMで躍進した日本 トランジスタが発明された1948年といえば、日本はまだ、敗戦からの復興にもがいていたころだ。そんな中、アメリカ政府は、日本にトランジスタを使った製品を開発させようと支援した。 その一例がソニー(当時は東京通信工業)である。WE(Western Electric)社からトランジスタの製造特許を取得して製造した「ソニーラジオ」は、安さと性能からまたたく間に世界を席巻した。自社でトランジスタを製造し、ラジオをつくったのはソニーが世界最初だった。シャープ(当時は早川電機)が1964年にいち早く電卓に搭載したトランジスタもアメリカ製だ。 アメリカは、自国の半導体を利用させることで日本企業を早期に復活させ、それによって、ソ連や中国など共産主義勢力との結びつきを持たせないようにしたのだ。 しかし、日本はアメリカの思惑をはるかに超えるスピードで成長した。そのことが、両国に摩擦を引き起こす。 1970年代から1980年代初頭にかけて、日立製作所、東芝、富士通、NECなどは、DRAMの製造で世界を席巻し始めていた。煮え湯を飲まされていたアメリカの半導体企業は、「日本企業は日本だけでなくアメリカでも保護されており、不当な恩恵を受けている」と不平を隠さなかった。 テキサス・インスツルメンツ(TI)やナショナルセミコンダクターも、DRAM部門のレイオフに追い込まれた。危機感を覚えたアメリカ企業は政府に猛烈なロビー活動を行い、1984年に「半導体チップ保護法」が成立する。半導体関連の知的財産の保護を強化する法律だ。 その陰で、インテルは1985年にDRAM事業からひっそりと撤退する』、「アメリカ政府は、日本にトランジスタを使った製品を開発させようと支援した。 その一例がソニー(当時は東京通信工業)である。WE(Western Electric)社からトランジスタの製造特許を取得して製造した「ソニーラジオ」は、安さと性能からまたたく間に世界を席巻した。自社でトランジスタを製造し、ラジオをつくったのはソニーが世界最初だった。シャープ(当時は早川電機)が1964年にいち早く電卓に搭載したトランジスタもアメリカ製だ。 アメリカは、自国の半導体を利用させることで日本企業を早期に復活させ、それによって、ソ連や中国など共産主義勢力との結びつきを持たせないようにしたのだ・・・日本はアメリカの思惑をはるかに超えるスピードで成長した。そのことが、両国に摩擦を引き起こす。 1970年代から1980年代初頭にかけて、日立製作所、東芝、富士通、NECなどは、DRAMの製造で世界を席巻し始めていた。煮え湯を飲まされていたアメリカの半導体企業は、「日本企業は日本だけでなくアメリカでも保護されており、不当な恩恵を受けている」と不平を隠さなかった。 テキサス・インスツルメンツ(TI)やナショナルセミコンダクターも、DRAM部門のレイオフに追い込まれた。危機感を覚えたアメリカ企業は政府に猛烈なロビー活動を行い、1984年に「半導体チップ保護法」が成立する。半導体関連の知的財産の保護を強化する法律だ。 その陰で、インテルは1985年にDRAM事業からひっそりと撤退」、当初は「アメリカは、自国の半導体を利用させることで日本企業を早期に復活させ」ようとしたとは、初めて知った。
・『「日米半導体協定」が締結 1986年に日本が半導体生産量でアメリカを抜き、DRAMで8割の世界シェアを獲得する。ことここに至り、アメリカはついに最後の一手を打った。1987年に「日米半導体協定」の締結を日本に迫ったのだ。 この協定は、日本製DRAMの対米輸出量を制限するものだった。だが、これによって半導体の数量は減ったものの価格はむしろ高騰したため、日本企業は経営的にほとんどダメージを受けなかった。 1988年には、日本が世界の半導体生産額の50%を超えるまでに成長する。そのため、1991年の新協定で、「日本国内の外国製半導体のシェアを従来の10%から20%まで引き上げる」という厳しい条項が盛り込まれた。 半導体を制した日本の原動力になったのは、民生用電気機器、いわゆる家電製品だ。ソニーラジオから始まり、電卓、テレビ、ビデオデッキ、ポータブルオーディオプレーヤーなど、高品質・低価格の「メイド・イン・ジャパン」は世界中に輸出され、それに搭載される半導体もがんがん増産された。アメリカの家電は世界から駆逐され、それにともなってアメリカ製の半導体も日本企業にその地位を奪われる、という構図だったのである。) 途中からは、メインフレームと呼ばれる大型汎用コンピュータに、品質が高くこわれにくい日本製DRAMがつぎつぎと搭載され、日本の半導体シェア拡大を後押しした。 その一方で、1981年にはIBMのパソコンが世界的にヒットし、コンピュータに革命が起こり始めていた。アップルは1984年に初代マッキントッシュを発売。翌1985年にはマイクロソフトがパソコン用のオペレーティングシステム(OS)を開発する。 そこで息を吹き返したのがインテルだ。DRAMから撤退して以降、パソコン向けのマイクロプロセッサーに専念していたことが功を奏した。それまでの円安ドル高が一転、円高ドル安となり、輸出価格が相対的に安くなったことも追い風になった。 1992年には米コンパック・コンピュータが、インテル製チップとマイクロソフトOSを乗せたパソコンを、IBMのパソコンよりはるかに安価で売り出す。これをきっかけに世界のパソコン出荷台数は激増し、インテルもさらに勢いづく。 1995年にはマイクロソフトがOS「ウィンドウズ95」を発売し、パソコンが一般家庭にも浸透し始め、インテルは、半導体メーカーとしての地位を完全に取り戻した』、「1987年に「日米半導体協定」の締結を日本に迫ったのだ。 この協定は、日本製DRAMの対米輸出量を制限するものだった。だが、これによって半導体の数量は減ったものの価格はむしろ高騰したため、日本企業は経営的にほとんどダメージを受けなかった。 1988年には、日本が世界の半導体生産額の50%を超えるまでに成長する。そのため、1991年の新協定で、「日本国内の外国製半導体のシェアを従来の10%から20%まで引き上げる」という厳しい条項が盛り込まれた・・・アメリカの家電は世界から駆逐され、それにともなってアメリカ製の半導体も日本企業にその地位を奪われる、という構図だったのである・・・米コンパック・コンピュータが、インテル製チップとマイクロソフトOSを乗せたパソコンを、IBMのパソコンよりはるかに安価で売り出す。これをきっかけに世界のパソコン出荷台数は激増し、インテルもさらに勢いづく。 1995年にはマイクロソフトがOS「ウィンドウズ95」を発売し、パソコンが一般家庭にも浸透し始め、インテルは、半導体メーカーとしての地位を完全に取り戻した」、なるほど。
・『インテル、サムスンによる“日本潰し” このころから、韓国のサムスン電子が台頭していく。1980年代に半導体製造に乗り出したサムスンに、インテルは技術やライセンスを惜しげもなく供与した。当時、韓国のコストや賃金は日本より大幅に低かったため、韓国製DRAMが日本製DRAMを駆逐できるのではないかと考えたのだ。 この“日本潰し”は見事に当たった。 DRAMの大口顧客であったメインフレームは1990年代になるとすっかり影を潜め、主役はパソコンに完全に替わっていた。その心臓部に、インテル・ブランドを冠したサムスン製DRAMがつぎつぎと採用され、日本の半導体各社を直撃したのである。 日本の世界シェアはずるずると後退し、逆に、日本国内での外国製半導体のシェアは1996年になって20%――つまり例の新協定で設定された水準に達した。これによって日米半導体協定は失効した』、「サムスンに、インテルは技術やライセンスを惜しげもなく供与した。当時、韓国のコストや賃金は日本より大幅に低かったため、韓国製DRAMが日本製DRAMを駆逐できるのではないかと考えたのだ。 この“日本潰し”は見事に当たった。 DRAMの大口顧客であったメインフレームは1990年代になるとすっかり影を潜め、主役はパソコンに完全に替わっていた。その心臓部に、インテル・ブランドを冠したサムスン製DRAMがつぎつぎと採用され、日本の半導体各社を直撃したのである。 日本の世界シェアはずるずると後退し、逆に、日本国内での外国製半導体のシェアは1996年になって20%――つまり例の新協定で設定された水準に達した。これによって日米半導体協定は失効した」、「サムスンに、インテルは技術やライセンスを惜しげもなく供与」、「サムスン」躍進の背景には「インテル」の後押しがあったことを思い出した。
先ずは、本年6月27日付け日経ビジネスオンライン「爆速成長NVIDIAに3つの死角 「AIスマホ」「中国市場」「ポストGPU」」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00511/062500034/
・『この記事の3つのポイント NVIDIAの死角1=スマホでAIが動けばGPUの強みが薄れる 死角2=中国製GPU台頭、重要市場の先行きに不透明感 死角3=「ポストGPU」の開発が進み、半導体は多様化の時代へ 時価総額が一時、世界首位となった米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)。生成AI(人工知能)向け計算資源の膨大な需要に支えられて快進撃が続く。その死角はどこにあるのか。長らくエヌビディアの専売特許だったGPU(画像処理半導体)の今後を占う』、興味深そうだ。
・『死角(1)AIの「動く場所」が変わる 死角の1つ目は、「AIが動く場所」にある。エヌビディアのGPUが圧倒的な強さを誇るのはデータセンター向けだ。米マイクロソフトや米アマゾン・ドット・コムなどのクラウド大手が展開する巨大なデータセンターなどのサーバーに搭載されている。英調査会社のオムディアによれば、エヌビディア製GPUのデータセンター向け世界シェアは約8割を占める。 Chat(チャット)GPTの登場以来、米グーグルや米オープンAIなどは最高性能のAIの開発競争を繰り広げてきた。これらのAIはデータセンターで動いている。PCのブラウザーでAIに指示をすると、データセンターでAIが動き、その結果をユーザーに返す。 ところが、この数カ月で新たなトレンドが生まれている。それが、スマートフォンやPCなどの端末上でAIが動く「オンデバイス生成AI」と呼ばれるものだ。比較的サイズの小さい生成AIを、スマホなどに搭載した半導体で稼働させる。 その筆頭が米アップルだ。6月10日に開いた開発者向けイベント「WWDC」で、オンデバイス生成AIを採用した「アップルインテリジェンス」を発表。音声アシスタントの「Siri」に生成AIを利用し、比較的簡易な指示であればオンデバイス処理だけでユーザーに回答する。複雑な場合はデータセンターに処理を引き渡す方法を採用した。 マイクロソフトもオンデバイス生成AIを重視しており、6月18日に端末で生成AIが動くWindowsノートパソコン「Copilot+PC」を発売。米グーグルも自社製スマホ「Pixel」でオンデバイス生成AIを採用済みだ。オンデバイス生成AIは処理の速さなどが特徴で、今後もこのトレンドが加速すると見られる。 これら3社の端末にエヌビディア製の半導体は採用されていない。アップルとグーグルは自社開発のチップを採用しており、マイクロソフトは米クアルコムのプロセッサーを利用している。オンデバイス生成AIの採用は、エヌビディア製GPUにとって逆風となりそうだ』、「これら3社の端末にエヌビディア製の半導体は採用されていない。アップルとグーグルは自社開発のチップを採用しており、マイクロソフトは米クアルコムのプロセッサーを利用している。オンデバイス生成AIの採用は、エヌビディア製GPUにとって逆風となりそうだ」、なるほど。
・『死角(2)現れた「中国版エヌビディア」の実力 2つ目の死角は中国市場の不透明さにある。米中対立を背景に、米国は2022年からエヌビディア製GPUの中国への輸出を制限。同社は性能を落とした中国向け専用品を開発したが、23年10月の規制強化で、そうした専用品の輸出も禁じられた。 米国政府が23年10月に追加の輸出規制に踏み切る以前、エヌビディアのデータセンター向け売上高の20〜25%が中国向けであり、その巨大なマーケットは同社の生命線でもあった。一方、追加規制後の23年11月〜24年1月期は5%程度に急落している。 代替品の輸出も禁止されたエヌビディアは、中国向け新製品の開発を急いでいると見られる。24年3月の自社イベントで記者会見を開いた同社のジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は「中国に最適化するためにベストを尽くしている」と話したものの、具体的なスペックへの言及を避けた。 一方で中国では、AI半導体を自前で開発する動きが相次いでいる。 15年に発表した「中国製造2025」で、半導体の自国生産率を35年に75%とする目標を打ち出した中国。国家予算を投入して自国産業を育成するほか、台湾積体電路製造(TSMC)などの外資企業を誘致しているが、米調査会社ICインサイツによれば21年の自給率は16.7%にとどまる。しかも、その内訳は外資企業が10.1%で、中国企業はわずか6.6%に過ぎない。 中国企業のテクノロジー情勢に詳しい野村総合研究所の李智慧氏は、今後の中国企業の先端半導体戦略を次のように見通す。「計算リソースは半導体の『質×量』で決まる。選択肢は2つで、1つは質では劣る半導体を量でカバーすること。最先端でなくても資本を投下すれば量は集められる。もう1つは質を高めるための代替品の開発だ。華為技術(ファーウェイ)などのプレーヤーが中心になるだろう」。 代替品の開発については、「中国版GPU」が注目を集める。GPUスタートアップの筆頭が摩爾線程智能科技(ムーア・スレッズ)だ。エヌビディアでグローバル担当副社長などを務めた張建中氏が20年10月に創業したGPUメーカーで、23年12月にはAI向けGPU「MTT S4000」やAIの学習などを担うプラットフォームなどを発表した。 ムーア・スレッズのプラットフォームはエヌビディアの開発環境と互換性があるため、これまでエヌビディア製GPUでAI学習のために書いたプログラムコードを、ほぼそのまま同社製GPU用のコードとして容易に移行できるという。米国の半導体専門メディアはムーア・スレッズの技術力を「2020年当時のエヌビディアのアーキテクチャーには及ばないが、ある程度の大規模言語モデル(LLM)のトレーニングでは利用できる」と評価している。 「中国版エヌビディア」との異名を持つ中科寒武紀科技(カンブリコン)もAI半導体を開発する。21年に発表した「思元370」は7ナノメートルプロセスを採用し、同社によれば最大演算能力は256TOPS(毎秒256兆回)でエヌビディアのA800を上回ったという。壁仞智能科技(バイレン)もAIチップメーカーとして注目を集め、既に1000億円以上を調達している』、「「中国版エヌビディア」との異名を持つ中科寒武紀科技(カンブリコン)もAI半導体を開発する。21年に発表した「思元370」は7ナノメートルプロセスを採用し、同社によれば最大演算能力は256TOPS(毎秒256兆回)でエヌビディアのA800を上回ったという。壁仞智能科技(バイレン)もAIチップメーカーとして注目を集め、既に1000億円以上を調達」、なるほど。
・『死角(3)「ポストGPU」の台頭でAI半導体は乱世へ 最後の死角は、GPUの後継を狙う「ポストGPU」の台頭だ。この領域はスタートアップを中心に様々な技術が登場している。 特徴は、今後のニーズを見据えてAIの学習ではなく推論向けのチップを開発するスタートアップが多いことが挙げられる。推論とは、人間の指示などに基づいて学習済みのAIが回答するプロセスを指す。生成AIの実用化が進むに従って学習から推論への移行は進むと見られる。 例えば米dマトリックスは異なるチップを組み合わせる「チップレット」技術を採用し、最先端GPUの40倍のメモリー帯域幅を実現した。 米ハーバード大学を中退した21歳のコンビが起業した米エッチドAIや、グーグルで機械学習向けチップ「TPU」を担当していたエンジニアが創業した米グロック、人間の脳の特徴を再現するチップ開発を目指し、サム・アルトマン氏が投資したことでも知られる米レインAI、ドローンやロボット、自動運転向けのチップを開発する米シマAIなどが注目と投資を集めている。 「推論の時代にAI半導体は多様化する」。27年に先端半導体の量産を目指す半導体メーカー、ラピダスの小池淳義社長はこう読む。1つめの死角で挙げたように、AIが動く場所はデータセンターのサーバーだけでなく、スマホやPCなどに広がっている。 今後、自動運転用のAIやロボット用のAIなど、その用途が広がれば広がるほど、AIを動かす半導体も種類が増えて多様化するという見立てだ。GPUが全てを担う時代から、多種多様な専用半導体がAIを動かす時代に変わる可能性がある。 AI需要に支えられて急成長を続けるエヌビディア。今後を占うためには、生成AIのトレンドの変化に目を凝らす必要がありそうだ』、「AIが動く場所はデータセンターのサーバーだけでなく、スマホやPCなどに広がっている。 今後、自動運転用のAIやロボット用のAIなど、その用途が広がれば広がるほど、AIを動かす半導体も種類が増えて多様化するという見立てだ。GPUが全てを担う時代から、多種多様な専用半導体がAIを動かす時代に変わる可能性がある。AI需要に支えられて急成長を続けるエヌビディア。今後を占うためには、生成AIのトレンドの変化に目を凝らす必要がありそうだ」、その通りだ。
次に、7月14日付け東洋経済オンラインが掲載したJSR前会長・経済同友会経済安全保障委員会委員長の小柴 満信氏による「「世界一から転落」日の丸半導体を殺したのは誰か 業界のキーマンが語る「日米半導体摩擦」の顛末」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/775898?display=b
・『世界ではいま、半導体が「熱い」。台湾積体電路製造(TSMC)の時価総額は一時1兆ドルに達し、イーロン・マスク氏はAI開発のためエヌビディア製半導体を大量購入。トランジスタの誕生から70年あまりの半導体の歴史の中で、かつてないほどの注目を浴びている。 「半導体の復活なくして、日本の未来はない」と語るのは、2023年まで経済同友会の副代表幹事をつとめ「業界のキーマン」として知られる小柴満信氏だ。 かつては世界シェア50%だった日本の半導体産業は、日米半導体摩擦によって力を削がれ現在は10%を割り込む。日本の躍進はどのようにして阻まれたのか。 小柴氏の著書『2040年 半導体の未来』より抜粋・編集してお届けする』、興味深そうだ。
・『半導体の誕生 半導体が発明される前――レーダーや初期のコンピュータには、電流を制御する部品として、ガラス製の「真空管」が使われていた。ただ、部品としてはかさばりすぎるうえ、信頼性がない、消費電力が大きいといった問題があった。そんな中、1948年、アメリカのベル研究所が接触型トランジスタを発明する。 トランジスタは、電気を通す導体と通さない絶縁体の中間の物質である「半導体」でつくられており、その性質から電流をスイッチング(オン/オフ)したり増幅したりできる。消費電力は真空管の50分の1と小さく、あっという間に真空管を駆逐した。 それでもコンピュータに必要な数千個のトランジスタをプリント基板に並べ、1つひとつはんだで配線するのは複雑すぎたし、電子機器を小型化するうえでも支障がある。 そこで、配線を簡略化しようと開発されたのが、1つの基板の上に複数のトランジスタや配線をまとめてしまう方法だった。1958年に集積回路(IC)の概念が発表され、これ以降、集積回路のことを半導体あるいはチップと呼ぶようになった。 当時の技術者の1人が、フェアチャイルドセミコンダクター社のゴードン・ムーアだ。) ムーアは1965年、集積回路の未来について『エレクトロニクス』誌から論文を依頼され、そこに次のような予測をしたためた。 「少なくとも今後10年間、ICの集積度は、1.5年で2倍、3年で4倍になっていくだろう」 集積度とは、1枚のシリコンチップ上に搭載できる部品の数を表す。つまり集積度が高くなるほど性能は上がる。1975年には「2年に2倍ずつ性能が上がる」と修正され、これらの言葉は、のちに「ムーアの法則」として知られていく。 1968年、ムーアらはフェアチャイルドセミコンダクターを離れ、インテルを創業する。 2年後に最初の製品として発売したのが、世界初の「ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ(DRAM)」だ。 それまでコンピュータは「磁気コア」と呼ばれる、金属のリングをワイヤーでつないだものでデータを記憶していた。ただ、磁気コアの容量アップには限界があった。 そこで、例の集積回路を使って開発された記憶装置がDRAMだ。電荷をためる機能を持つコンデンサという部品とトランジスタをつないで記憶素子(メモリセル)を構成している。記憶素子に電荷が蓄えられた状態を「1」、蓄えられていない状態を「0」としてデータを記憶する。DRAMは、現在でもコンピュータのデータ保存を担う重要な半導体(メモリ)である』、「数千個のトランジスタをプリント基板に並べ、1つひとつはんだで配線するのは複雑すぎたし、電子機器を小型化するうえでも支障がある。 そこで、配線を簡略化しようと開発されたのが、1つの基板の上に複数のトランジスタや配線をまとめてしまう方法だった。1958年に集積回路(IC)の概念が発表され、これ以降、集積回路のことを半導体あるいはチップと呼ぶようになった。 当時の技術者の1人が、フェアチャイルドセミコンダクター社のゴードン・ムーアだ・・・集積回路を使って開発された記憶装置がDRAMだ。電荷をためる機能を持つコンデンサという部品とトランジスタをつないで記憶素子(メモリセル)を構成している。記憶素子に電荷が蓄えられた状態を「1」、蓄えられていない状態を「0」としてデータを記憶する。DRAMは、現在でもコンピュータのデータ保存を担う重要な半導体(メモリ)である」、なるほど。
・『DRAMで躍進した日本 トランジスタが発明された1948年といえば、日本はまだ、敗戦からの復興にもがいていたころだ。そんな中、アメリカ政府は、日本にトランジスタを使った製品を開発させようと支援した。 その一例がソニー(当時は東京通信工業)である。WE(Western Electric)社からトランジスタの製造特許を取得して製造した「ソニーラジオ」は、安さと性能からまたたく間に世界を席巻した。自社でトランジスタを製造し、ラジオをつくったのはソニーが世界最初だった。シャープ(当時は早川電機)が1964年にいち早く電卓に搭載したトランジスタもアメリカ製だ。 アメリカは、自国の半導体を利用させることで日本企業を早期に復活させ、それによって、ソ連や中国など共産主義勢力との結びつきを持たせないようにしたのだ。 しかし、日本はアメリカの思惑をはるかに超えるスピードで成長した。そのことが、両国に摩擦を引き起こす。 1970年代から1980年代初頭にかけて、日立製作所、東芝、富士通、NECなどは、DRAMの製造で世界を席巻し始めていた。煮え湯を飲まされていたアメリカの半導体企業は、「日本企業は日本だけでなくアメリカでも保護されており、不当な恩恵を受けている」と不平を隠さなかった。 テキサス・インスツルメンツ(TI)やナショナルセミコンダクターも、DRAM部門のレイオフに追い込まれた。危機感を覚えたアメリカ企業は政府に猛烈なロビー活動を行い、1984年に「半導体チップ保護法」が成立する。半導体関連の知的財産の保護を強化する法律だ。 その陰で、インテルは1985年にDRAM事業からひっそりと撤退する』、「アメリカ政府は、日本にトランジスタを使った製品を開発させようと支援した。 その一例がソニー(当時は東京通信工業)である。WE(Western Electric)社からトランジスタの製造特許を取得して製造した「ソニーラジオ」は、安さと性能からまたたく間に世界を席巻した。自社でトランジスタを製造し、ラジオをつくったのはソニーが世界最初だった。シャープ(当時は早川電機)が1964年にいち早く電卓に搭載したトランジスタもアメリカ製だ。 アメリカは、自国の半導体を利用させることで日本企業を早期に復活させ、それによって、ソ連や中国など共産主義勢力との結びつきを持たせないようにしたのだ・・・日本はアメリカの思惑をはるかに超えるスピードで成長した。そのことが、両国に摩擦を引き起こす。 1970年代から1980年代初頭にかけて、日立製作所、東芝、富士通、NECなどは、DRAMの製造で世界を席巻し始めていた。煮え湯を飲まされていたアメリカの半導体企業は、「日本企業は日本だけでなくアメリカでも保護されており、不当な恩恵を受けている」と不平を隠さなかった。 テキサス・インスツルメンツ(TI)やナショナルセミコンダクターも、DRAM部門のレイオフに追い込まれた。危機感を覚えたアメリカ企業は政府に猛烈なロビー活動を行い、1984年に「半導体チップ保護法」が成立する。半導体関連の知的財産の保護を強化する法律だ。 その陰で、インテルは1985年にDRAM事業からひっそりと撤退」、当初は「アメリカは、自国の半導体を利用させることで日本企業を早期に復活させ」ようとしたとは、初めて知った。
・『「日米半導体協定」が締結 1986年に日本が半導体生産量でアメリカを抜き、DRAMで8割の世界シェアを獲得する。ことここに至り、アメリカはついに最後の一手を打った。1987年に「日米半導体協定」の締結を日本に迫ったのだ。 この協定は、日本製DRAMの対米輸出量を制限するものだった。だが、これによって半導体の数量は減ったものの価格はむしろ高騰したため、日本企業は経営的にほとんどダメージを受けなかった。 1988年には、日本が世界の半導体生産額の50%を超えるまでに成長する。そのため、1991年の新協定で、「日本国内の外国製半導体のシェアを従来の10%から20%まで引き上げる」という厳しい条項が盛り込まれた。 半導体を制した日本の原動力になったのは、民生用電気機器、いわゆる家電製品だ。ソニーラジオから始まり、電卓、テレビ、ビデオデッキ、ポータブルオーディオプレーヤーなど、高品質・低価格の「メイド・イン・ジャパン」は世界中に輸出され、それに搭載される半導体もがんがん増産された。アメリカの家電は世界から駆逐され、それにともなってアメリカ製の半導体も日本企業にその地位を奪われる、という構図だったのである。) 途中からは、メインフレームと呼ばれる大型汎用コンピュータに、品質が高くこわれにくい日本製DRAMがつぎつぎと搭載され、日本の半導体シェア拡大を後押しした。 その一方で、1981年にはIBMのパソコンが世界的にヒットし、コンピュータに革命が起こり始めていた。アップルは1984年に初代マッキントッシュを発売。翌1985年にはマイクロソフトがパソコン用のオペレーティングシステム(OS)を開発する。 そこで息を吹き返したのがインテルだ。DRAMから撤退して以降、パソコン向けのマイクロプロセッサーに専念していたことが功を奏した。それまでの円安ドル高が一転、円高ドル安となり、輸出価格が相対的に安くなったことも追い風になった。 1992年には米コンパック・コンピュータが、インテル製チップとマイクロソフトOSを乗せたパソコンを、IBMのパソコンよりはるかに安価で売り出す。これをきっかけに世界のパソコン出荷台数は激増し、インテルもさらに勢いづく。 1995年にはマイクロソフトがOS「ウィンドウズ95」を発売し、パソコンが一般家庭にも浸透し始め、インテルは、半導体メーカーとしての地位を完全に取り戻した』、「1987年に「日米半導体協定」の締結を日本に迫ったのだ。 この協定は、日本製DRAMの対米輸出量を制限するものだった。だが、これによって半導体の数量は減ったものの価格はむしろ高騰したため、日本企業は経営的にほとんどダメージを受けなかった。 1988年には、日本が世界の半導体生産額の50%を超えるまでに成長する。そのため、1991年の新協定で、「日本国内の外国製半導体のシェアを従来の10%から20%まで引き上げる」という厳しい条項が盛り込まれた・・・アメリカの家電は世界から駆逐され、それにともなってアメリカ製の半導体も日本企業にその地位を奪われる、という構図だったのである・・・米コンパック・コンピュータが、インテル製チップとマイクロソフトOSを乗せたパソコンを、IBMのパソコンよりはるかに安価で売り出す。これをきっかけに世界のパソコン出荷台数は激増し、インテルもさらに勢いづく。 1995年にはマイクロソフトがOS「ウィンドウズ95」を発売し、パソコンが一般家庭にも浸透し始め、インテルは、半導体メーカーとしての地位を完全に取り戻した」、なるほど。
・『インテル、サムスンによる“日本潰し” このころから、韓国のサムスン電子が台頭していく。1980年代に半導体製造に乗り出したサムスンに、インテルは技術やライセンスを惜しげもなく供与した。当時、韓国のコストや賃金は日本より大幅に低かったため、韓国製DRAMが日本製DRAMを駆逐できるのではないかと考えたのだ。 この“日本潰し”は見事に当たった。 DRAMの大口顧客であったメインフレームは1990年代になるとすっかり影を潜め、主役はパソコンに完全に替わっていた。その心臓部に、インテル・ブランドを冠したサムスン製DRAMがつぎつぎと採用され、日本の半導体各社を直撃したのである。 日本の世界シェアはずるずると後退し、逆に、日本国内での外国製半導体のシェアは1996年になって20%――つまり例の新協定で設定された水準に達した。これによって日米半導体協定は失効した』、「サムスンに、インテルは技術やライセンスを惜しげもなく供与した。当時、韓国のコストや賃金は日本より大幅に低かったため、韓国製DRAMが日本製DRAMを駆逐できるのではないかと考えたのだ。 この“日本潰し”は見事に当たった。 DRAMの大口顧客であったメインフレームは1990年代になるとすっかり影を潜め、主役はパソコンに完全に替わっていた。その心臓部に、インテル・ブランドを冠したサムスン製DRAMがつぎつぎと採用され、日本の半導体各社を直撃したのである。 日本の世界シェアはずるずると後退し、逆に、日本国内での外国製半導体のシェアは1996年になって20%――つまり例の新協定で設定された水準に達した。これによって日米半導体協定は失効した」、「サムスンに、インテルは技術やライセンスを惜しげもなく供与」、「サムスン」躍進の背景には「インテル」の後押しがあったことを思い出した。
タグ:「サムスンに、インテルは技術やライセンスを惜しげもなく供与した。当時、韓国のコストや賃金は日本より大幅に低かったため、韓国製DRAMが日本製DRAMを駆逐できるのではないかと考えたのだ。 この“日本潰し”は見事に当たった。 DRAMの大口顧客であったメインフレームは1990年代になるとすっかり影を潜め、主役はパソコンに完全に替わっていた。その心臓部に、インテル・ブランドを冠したサムスン製DRAMがつぎつぎと採用され、日本の半導体各社を直撃したのである。 日本の世界シェアはずるずると後退し、逆に、日本国内で インテル、サムスンによる“日本潰し” 「アメリカ政府は、日本にトランジスタを使った製品を開発させようと支援した。 その一例がソニー(当時は東京通信工業)である。WE(Western Electric)社からトランジスタの製造特許を取得して製造した「ソニーラジオ」は、安さと性能からまたたく間に世界を席巻した。自社でトランジスタを製造し、ラジオをつくったのはソニーが世界最初だった。シャープ(当時は早川電機)が1964年にいち早く電卓に搭載したトランジスタもアメリカ製だ。 アメリカの家電は世界から駆逐され、それにともなってアメリカ製の半導体も日本企業にその地位を奪われる、という構図だったのである・・・米コンパック・コンピュータが、インテル製チップとマイクロソフトOSを乗せたパソコンを、IBMのパソコンよりはるかに安価で売り出す。これをきっかけに世界のパソコン出荷台数は激増し、インテルもさらに勢いづく。 1995年にはマイクロソフトがOS「ウィンドウズ95」を発売し、パソコンが一般家庭にも浸透し始め、インテルは、半導体メーカーとしての地位を完全に取り戻した」、なるほど。 死角(3)「ポストGPU」の台頭でAI半導体は乱世へ 「日米半導体協定」が締結 「数千個のトランジスタをプリント基板に並べ、1つひとつはんだで配線するのは複雑すぎたし、電子機器を小型化するうえでも支障がある。 そこで、配線を簡略化しようと開発されたのが、1つの基板の上に複数のトランジスタや配線をまとめてしまう方法だった。1958年に集積回路(IC)の概念が発表され、これ以降、集積回路のことを半導体あるいはチップと呼ぶようになった。 小柴氏の著書『2040年 半導体の未来』 東洋経済オンライン 「AIが動く場所はデータセンターのサーバーだけでなく、スマホやPCなどに広がっている。 今後、自動運転用のAIやロボット用のAIなど、その用途が広がれば広がるほど、AIを動かす半導体も種類が増えて多様化するという見立てだ。GPUが全てを担う時代から、多種多様な専用半導体がAIを動かす時代に変わる可能性がある。AI需要に支えられて急成長を続けるエヌビディア。今後を占うためには、生成AIのトレンドの変化に目を凝らす必要がありそうだ」、その通りだ。 「これら3社の端末にエヌビディア製の半導体は採用されていない。アップルとグーグルは自社開発のチップを採用しており、マイクロソフトは米クアルコムのプロセッサーを利用している。オンデバイス生成AIの採用は、エヌビディア製GPUにとって逆風となりそうだ」、なるほど。 当時の技術者の1人が、フェアチャイルドセミコンダクター社のゴードン・ムーアだ・・・集積回路を使って開発された記憶装置がDRAMだ。電荷をためる機能を持つコンデンサという部品とトランジスタをつないで記憶素子(メモリセル)を構成している。記憶素子に電荷が蓄えられた状態を「1」、蓄えられていない状態を「0」としてデータを記憶する。DRAMは、現在でもコンピュータのデータ保存を担う重要な半導体(メモリ)である」、なるほど。 DRAMで躍進した日本 死角(1)AIの「動く場所」が変わる 「1987年に「日米半導体協定」の締結を日本に迫ったのだ。 この協定は、日本製DRAMの対米輸出量を制限するものだった。だが、これによって半導体の数量は減ったものの価格はむしろ高騰したため、日本企業は経営的にほとんどダメージを受けなかった。 1988年には、日本が世界の半導体生産額の50%を超えるまでに成長する。そのため、1991年の新協定で、「日本国内の外国製半導体のシェアを従来の10%から20%まで引き上げる」という厳しい条項が盛り込まれた・・・ 日経ビジネスオンライン「爆速成長NVIDIAに3つの死角 「AIスマホ」「中国市場」「ポストGPU」」 死角(2)現れた「中国版エヌビディア」の実力 小柴 満信氏による「「世界一から転落」日の丸半導体を殺したのは誰か 業界のキーマンが語る「日米半導体摩擦」の顛末」 半導体産業(その14)(爆速成長NVIDIAに3つの死角 「AIスマホ」「中国市場」「ポストGPU」、「世界一から転落」日の丸半導体を殺したのは誰か 業界のキーマンが語る「日米半導体摩擦」の顛末) テキサス・インスツルメンツ(TI)やナショナルセミコンダクターも、DRAM部門のレイオフに追い込まれた。危機感を覚えたアメリカ企業は政府に猛烈なロビー活動を行い、1984年に「半導体チップ保護法」が成立する。半導体関連の知的財産の保護を強化する法律だ。 その陰で、インテルは1985年にDRAM事業からひっそりと撤退」、当初は「アメリカは、自国の半導体を利用させることで日本企業を早期に復活させ」ようとしたとは、初めて知った。 アメリカは、自国の半導体を利用させることで日本企業を早期に復活させ、それによって、ソ連や中国など共産主義勢力との結びつきを持たせないようにしたのだ・・・日本はアメリカの思惑をはるかに超えるスピードで成長した。そのことが、両国に摩擦を引き起こす。 1970年代から1980年代初頭にかけて、日立製作所、東芝、富士通、NECなどは、DRAMの製造で世界を席巻し始めていた。煮え湯を飲まされていたアメリカの半導体企業は、「日本企業は日本だけでなくアメリカでも保護されており、不当な恩恵を受けている」と不平を隠さなかっ の外国製半導体のシェアは1996年になって20%――つまり例の新協定で設定された水準に達した。これによって日米半導体協定は失効した」、「サムスンに、インテルは技術やライセンスを惜しげもなく供与」、「サムスン」躍進の背景には「インテル」の後押しがあったことを思い出した。 「「中国版エヌビディア」との異名を持つ中科寒武紀科技(カンブリコン)もAI半導体を開発する。21年に発表した「思元370」は7ナノメートルプロセスを採用し、同社によれば最大演算能力は256TOPS(毎秒256兆回)でエヌビディアのA800を上回ったという。壁仞智能科技(バイレン)もAIチップメーカーとして注目を集め、既に1000億円以上を調達」、なるほど。
鉄道(その13)(豪雪で露呈 オーストリア「看板特急」の落とし穴 ドア1カ所だけ故障でも「編成丸ごと」工場送り、「芸術の国」イタリアが進める鉄道保存の本気度 400両超保有の「財団」 自前の工場で徹底整備、JR東・西はなぜ車両の「脱オーダーメイド」を検討するのか?装置・部品の「共通化」構想の狙いとは) [産業動向]
鉄道については、本年2月19日に取上げた。今日は、(その13)(豪雪で露呈 オーストリア「看板特急」の落とし穴 ドア1カ所だけ故障でも「編成丸ごと」工場送り、「芸術の国」イタリアが進める鉄道保存の本気度 400両超保有の「財団」 自前の工場で徹底整備、JR東・西はなぜ車両の「脱オーダーメイド」を検討するのか?装置・部品の「共通化」構想の狙いとは)である。
先ずは、本年3月1日付け東洋経済オンラインが掲載した欧州鉄道フォトライターの橋爪 智之氏による「豪雪で露呈、オーストリア「看板特急」の落とし穴 ドア1カ所だけ故障でも「編成丸ごと」工場送り」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/737656
・『2023年12月初旬、ドイツやオーストリアなど中欧と呼ばれる地域を中心に、非常に強い寒波が襲った。ミュンヘンなど大都市周辺でも、積雪は数十センチを超え、チェコ共和国南部では同国での観測史上最低となるマイナス28℃を記録した。 除雪が追い付かないほどの積雪によって交通網はマヒし、ドイツ南部からオーストリアへかけての地域は、空路・陸路ともに数日間にわたって交通機関が全面的にストップするなど大混乱となった』、大変だ。
・『主力特急車両が相次ぎダウン かつてないほどの低い気温と積雪により、除雪完了に伴う運行再開後も列車に不具合が相次いだ。オーストリア連邦鉄道(OBB)の都市間特急「レイルジェット」は2023年の時点で60本の列車がオーストリアおよびその周辺国との間を結んで運行しているが、このうちの1割にあたる6本が完全に使用不能となり、工場で修理せざるをえないという緊急事態となった。 だが、工場も修理だけではなく、日常の定期検査も並行して行わなければならないというキャパシティの問題があるため、使用不能となった編成のうちすぐに修理に取り掛かれたのは6本中4本だけだった。 ほかの54本の編成についても、一時は完全な状態で運行ができる編成がわずかに12本しかなく、残りは営業用として動かせる状態にはあるものの、ドアやトイレなどが故障した不完全な状態で営業せざるをえなかった。運行中に故障が悪化し、運転打ち切りや運休が相次ぐ結果となった。) 運休こそ逃れた列車に関しても代替運行となり、ローカル列車などに使用される通常客車を使用した列車も見られた。レイルジェットは、ビジネスクラスと呼ばれる特等席を筆頭に通常の1等・2等車、そして食堂車を連結しているが、代替の列車にはビジネスクラスや食堂車は連結されず、サービスダウンは否めなかった。 レイルジェットは、従来の客車特急列車インターシティの上位に位置する列車として2008年に誕生。客車ではあるが1両ごとに切り離しはできず、完全に固定された7両の編成を機関車が牽引・推進するもので、客車列車というよりは電車に近い。いわゆる高速列車ではないものの、最高時速は230kmに達し、洗練された内外装デザインも含め、従来型客車の旧態依然としたイメージを打ち破る車両となった。 2016年までの間に60本が製造され、チェコ鉄道にも同型車両が7本納入された。現在は、ウィーン―ザルツブルク間などの主要幹線において、新幹線で言うところの「のぞみ」や「こだま」のような、速達タイプ(RJX)と各駅停車タイプ(RJ)が設定されるなど、オーストリア国内における都市間輸送の大半をこのレイルジェットが担う形となっている』、「レイルジェットは、従来の客車特急列車インターシティの上位に位置する列車として2008年に誕生。客車ではあるが1両ごとに切り離しはできず、完全に固定された7両の編成を機関車が牽引・推進するもので、客車列車というよりは電車に近い。いわゆる高速列車ではないものの、最高時速は230kmに達し、洗練された内外装デザインも含め、従来型客車の旧態依然としたイメージを打ち破る車両となった。 2016年までの間に60本が製造され、チェコ鉄道にも同型車両が7本納入された。現在は、ウィーン―ザルツブルク間などの主要幹線において、新幹線で言うところの「のぞみ」や「こだま」のような、速達タイプ(RJX)と各駅停車タイプ(RJ)が設定されるなど、オーストリア国内における都市間輸送の大半をこのレイルジェットが担う形」、なるほど。
・『1両ごとに切り離せないレイルジェット 今回、運行開始以来大きな問題のなかったレイルジェットに、記録的な大雪と寒波という想定を超えた異常気象が襲ったことで、不具合が多発してしまった。さすがのオーストリア連邦鉄道もここまでの異常気象は想定していなかったようだが、それを差し引いても予備車がほとんどない状態で運用を回している現状について、見通しが甘かったのではないかという声も聞かれた。 予備車不足の問題もさることながら、もう1つ大きな問題となったのが、固定編成のレイルジェットならではの「不具合発生に伴う編成全体の離脱」だ。 客車の利点の1つとして、柔軟な編成が組めることが挙げられる。乗客の増減に合わせて1両単位で車両を連結・切り離しできるので、鉄道会社によっては団体客が乗車する日に1両追加で連結するということもやっていた。) これは、万が一車両の不具合が発生した際、その不具合があった車両だけを切り離し、別の運行可能な客車を代わりに連結できるということでもある。寝台車のような特殊な車両の場合は同じ設備の車両が用意できず、個室寝台の代わりがクシェット(簡易寝台)や座席車になってしまうといったことは過去に何度も発生してきたが、運休するよりはマシで、本来のサービスを受けられない乗客に対しては返金などのお詫びをして終了となる。 ところが、固定編成のレイルジェットは、故障した1両だけを切り離すということができない。ドアやトイレといった部分的な故障でも、修理するためには7両編成丸ごと工場へ入場させなければならない。 日本的に考えると、客用ドアの故障は大きなトラブルである。不具合が発生すれば工場へ即入場となるだろう。だが、今回はただでさえ故障が相次いで工場が逼迫している状況で、こう言っては何だが「たかがドア1カ所」のために編成を丸ごと工場入りさせて列車を運休することなどできない。乗客には多少の不便をかけることにはなるが、運休することを考えれば走らせたほうがまだマシなため、故障した状態のまま営業に就かせるケースが相次ぐことになる』、「固定編成のレイルジェットは、故障した1両だけを切り離すということができない。ドアやトイレといった部分的な故障でも、修理するためには7両編成丸ごと工場へ入場させなければならない。 日本的に考えると、客用ドアの故障は大きなトラブルである。不具合が発生すれば工場へ即入場となるだろう。だが、今回はただでさえ故障が相次いで工場が逼迫している状況で、こう言っては何だが「たかがドア1カ所」のために編成を丸ごと工場入りさせて列車を運休することなどできない。乗客には多少の不便をかけることにはなるが、運休することを考えれば走らせたほうがまだマシなため、故障した状態のまま営業に就かせるケースが相次ぐことになる」、これは大変だ。
・『「固定編成」は欧州に向いているのか? ヨーロッパの鉄道は過去20年で大きく変化し、列車の編成も日本のように動力分散方式の電車・ディーゼルカーや、客車列車でもそれに準ずる固定編成の列車が増えてきた。2023年冬から走り始めた夜行列車「ナイトジェット」の最新型も、ついに固定編成を採用するに至った。 ただ前述の通り、固定編成の列車はどこかに不具合が発生した場合、編成単位での工場入りが必要となる。日本と異なり不具合の発生確率が高いヨーロッパでは、故障のたびに運休が発生しては、それこそ運用が回らなくなってしまう。 ある意味では、柔軟性という面において利点のある固定されていない編成のほうが、ヨーロッパの列車運用には合っているのかもしれない』、「固定編成の列車はどこかに不具合が発生した場合、編成単位での工場入りが必要となる。日本と異なり不具合の発生確率が高いヨーロッパでは、故障のたびに運休が発生しては、それこそ運用が回らなくなってしまう。 ある意味では、柔軟性という面において利点のある固定されていない編成のほうが、ヨーロッパの列車運用には合っているのかもしれない」、その通りだ。
次に、4月20日付け東洋経済オンラインが掲載した欧州鉄道フォトライターの橋爪 智之氏による「「芸術の国」イタリアが進める鉄道保存の本気度 400両超保有の「財団」、自前の工場で徹底整備」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/748914
・『鉄道黎明期より長い時間を歩んできたヨーロッパの多くの国では、車両を含む鉄道産業遺産が国や地方自治体の管理する博物館を中心に保存され、民間団体が廃車となった車両を買い取って動態保存している例も多い。そんな中、異色の存在となっているのがイタリアのFondazione FS Italiane(イタリア鉄道財団)だ。 イタリア鉄道財団は、イタリア鉄道、トレニタリア(イタリア鉄道旅客輸送子会社)、RFI(イタリア鉄道インフラ子会社)の3社のCEOが創立メンバーとなって、2013年3月6日に財団の設立趣意書および定款に署名した。2015年12月には、政府の文化遺産・活動・観光省が財団の「機関会員」として加わっている』、日本では「動態保存」は極めて少ないが、イタリアではかなり多いようだ。
・『鉄道遺産保存「財団」の財源は? 財団が設立された目的は、1839年に誕生したイタリア鉄道の膨大な歴史的・技術的遺産を国の歴史の重要な一部として強化し、無傷で将来の世代に引き渡すことで、長い歴史の中における国の成長と国家統一の象徴としての鉄道の重要性を証明することに加え、イタリア国家の利益のために、観光の面で鉄道需要の回復を刺激することが最終的な目標となっている。 その主な活動内容は、400両以上の歴史的鉄道車両の保存(うち約200両は動態保存され現在も稼働中)、イタリア鉄道に関するさまざまな文献資料の保存、ナポリ近郊のピエトラルサと、トリエステにある鉄道博物館の維持管理、運休している風光明媚な鉄道路線の観光路線としての再生などだ。もちろん、純粋な維持管理だけではなく、若い世代への技術継承も含まれる。技術者の育成は、古い技術の維持には必要不可欠なことだ。) 気になるのは財源だ。前述の3社からの資金や政府の補助金などがベースだが、不動産収入や株式運用による資産、地方自治体や企業からの寄付金なども使われている。ただし、個人からの寄付はとくに募っていない。筆者は以前に寄付を申し出たが、十分な財源があるので大丈夫と断られてしまった。このあたりは、博物館やイベントなどで寄付を募っている英国やドイツなどと異なり興味深い。 財団のロゴは、イタリア鉄道(FS)で1966~1982年に使用された、通称「テレビロゴ」(文字周囲の枠がブラウン管時代のテレビの画面に似ているところからそう呼ばれる)をベースにしている。 古典車両を維持管理するための中枢とも言うべき車両工場は全国に3カ所あり、各工場は原則的に車両の種類によって役割が分担されている。いったい、工場ではどのような作業が行われているのだろうか。財団が保有する工場の一つである、ラ・スペツィア工場を取材する機会を得た。 ▽財団の工場内部を取材(ラ・スペツィアはイタリア北西部、リグーリア州の東部に位置する人口約9万人の港町で、首都ローマとジェノヴァを結ぶ幹線上に位置する。ラ・スペツィア工場は1926年に建設され、当時はまだ三相交流方式という特殊な電化方式を採用していたイタリア国鉄の電気機関車を整備する工場として使用された。 2014年にイタリア鉄道財団へ譲渡され、以降は主に財団の保有する電気機関車の定期点検やオーバーホールのほか、動かない状態で保管されていた車両の修復作業なども請け負っている。) 工場建屋内へ入ると、戦前製の古い機関車がずらりと並んでいる。 財団の保有する車両は、1:動態保存(本線走行可能)2:動態保存(本線走行不可)3:静態保存 の3種類に大別される。 1は動く状態に完全復元され、信号などの保安装置も現在の最新システムに換装し、イベント時に本線上を走行させることが可能な車両だ。2は、電気装置などはすべて稼働状態となっていて、パンタグラフを上げて電気を通せば動かすことができるが、保安装置が現代の基準に合致しないため、構内など閉鎖された場所でのデモ走行に限られる。日本で言えば「碓氷峠鉄道文化むら」(群馬県)に保存されているEF63形電気機関車のようなものだ。3は文字通り、動力や制御装置が稼働できない状態で、博物館などで保存・展示させるための車両だ。 工場建屋の中に1両、ピカピカに磨き上げられた電気機関車がいる。E424型249号機といい、第二次大戦直後の1946年に製造された4動軸の機関車だ。主にローカル線で旅客・貨物列車の両方に使えるよう設計され、荷物や郵便を運べるように車体中央にはシャッター付きの荷室が設けられたユニークな機関車だ。 後年、近郊列車をプッシュプル運転する目的で、推進運転制御装置を搭載し、色を当時の最新塗装へ変更して使用されたが、その改造の際に元番号+200へと改番されている。つまり、オリジナルの状態ではE424型049号機だった』、「1は動く状態に完全復元され、信号などの保安装置も現在の最新システムに換装し、イベント時に本線上を走行させることが可能な車両だ。2は、電気装置などはすべて稼働状態となっていて、パンタグラフを上げて電気を通せば動かすことができるが、保安装置が現代の基準に合致しないため、構内など閉鎖された場所でのデモ走行に限られる。日本で言えば「碓氷峠鉄道文化むら」(群馬県)に保存されているEF63形電気機関車のようなものだ。3は文字通り、動力や制御装置が稼働できない状態で、博物館などで保存・展示させるための車両だ」、なるほど。
・『見えない部分も解体して徹底修復 現場で案内をしてくれた技師いわく、この車両は動かせる状態にあるが、信号装置が古い状態のままで、かつパンタグラフは現在本線上での使用を認められてない古いタイプ(FS Tipo42)を搭載しているため、本線走行はできないという(前述「2」に該当)。 ただ、現場のこだわりで車体表記は元の番号である049号機へ塗り替えており(製造銘板などは249号機のまま)、前面の目立つ位置に取り付けられていた制御回路引き通し線も撤去し、オリジナルの古いパンタグラフとともに美しい状態で保存できている、と技師は胸を張っていた。動かすことはできるので、工場内のイベントなどでは、今後も元気な様子を見ることができるだろう。) 隣の建屋では、完全に解体された625型蒸気機関車の修復が行われていた。古い車両は、外側がきれいでも内側に傷んでいる部分が多く、この625型も車体の基礎となる台枠部分が腐食して、かなり鉄板が薄くなっているのが見た目にもわかる。完全にばらした状態から修復するのは、こうした見えない部分の補強をするためである。 屋外には、整備が終わった状態の車両から整備待ちで保管されている車両まで数十両が留置されている。その中でもとくに気になったのは、現存するのがここで保管されている2両だけというALn442-448型気動車だ』、「この車両は動かせる状態にあるが、信号装置が古い状態のままで、かつパンタグラフは現在本線上での使用を認められてない古いタイプ(FS Tipo42)を搭載しているため、本線走行はできないという(前述「2」に該当)」、なるほど。
・『朽ち果てた車両を「救出」 ALn442-448型は、1955年にブレダ(現在の日立レールの前身であるアンサルドブレダの合併前の会社)で製造された気動車で、1957年のTEE(ヨーロッパ国際特急)運行開始時に使用された歴史的な車両だ。だが、数両を残してすべて解体され、ミラノの科学技術博物館に保存された1両もアスベストが問題となって展示が取りやめとなり、そのまま解体されてしまった。 最後に残ったALn442-448型2008号機は、アスベスト除去業者へ引き渡されたものの、その業者が倒産してしまい、屋外で雨ざらしとなって何年も放置され、すっかり朽ち果てていた。本来であれば解体されてもおかしくはないところだが、財団が救出して引き取ったものだ。 保管された車両を拝ませてもらった時には、あまりの朽ち果てた状態に愕然とした。実際、技師もこれからどうやって修復をしていこうかと頭を悩ませていると語っていたが、3年前に同様の状態から見事に復活し、本線走行を行っているETR252型アルレッキーノの例を見れば、必ずや復活を果たせるだろうと期待せずにはいられない。) そんな財団の悩みが、1980年代以降に製造されたいわゆる新性能車両だ。1980年代というと、ちょうどチョッパ制御やインバーター制御など、半導体技術が世に出始めた頃である。 旧来の技術である抵抗制御などは、ある意味で言えば「溶接してハンマーで叩けば直せる」アナログ式なので、技術を継承さえすれば、理論上は半永久的に残すことができる。蒸気機関車は言わずもがな、電車や電気機関車も、古い時代の車両は動態保存されている車両が多い。 一方でチョッパ制御以降の車両は、制御装置に半導体を用いていることから、故障してしまえば部品の交換以外に修理の方法がない。ところが半導体は日進月歩で進化を続けており、古くなった製品はすぐに生産中止となることから、現役の車両ですら、まだ動く車両を廃車にして、予備部品の確保(共食い)を行っている車種もある』、「チョッパ制御以降の車両は、制御装置に半導体を用いていることから、故障してしまえば部品の交換以外に修理の方法がない。ところが半導体は日進月歩で進化を続けており、古くなった製品はすぐに生産中止となることから、現役の車両ですら、まだ動く車両を廃車にして、予備部品の確保(共食い)を行っている車種もある」、確かに「半導体」導入以降は「予備部品の確保(共食い)」が必要になるようだ。
・『鉄道遺産も絵画などと同様の価値 財団は現在、1両のチョッパ制御機関車(E632型030号機)を保有している。状況次第では今後も増えていくものと考えられ、予備部品の確保はもちろんのこと、万が一部品が枯渇した際にどう対処していくのかが将来的な課題と言えよう。 絵画など多くの文化的遺産を保有し、それらの修復技術にも定評があるイタリアは、産業遺産である鉄道についても同様の価値を見出し、これらを観光資源として再生するという取り組みを、国を挙げて行っている。 数年前から修復作業が進められているイタリアの伝説的な鉄道車両、ETR302型セッテベッロを含め今も修復を待つ車両は多いが、これらが再び息を吹き返し、イタリアの大地を駆け抜ける日もそう遠くない未来のことだろう』、「修復技術にも定評があるイタリアは、産業遺産である鉄道についても同様の価値を見出し、これらを観光資源として再生するという取り組みを、国を挙げて行っている」、「イタリア」が「修復技術にも定評がある」、「産業遺産である鉄道についても同様の価値を見出し、これらを観光資源として再生するという取り組みを、国を挙げて行っている」、注目すべき国の1つだ。
第三に、7月15日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した鉄道ジャーナリストの枝久保達也氏による「JR東・西はなぜ車両の「脱オーダーメイド」を検討するのか?装置・部品の「共通化」構想の狙いとは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/346902
・『JR東日本とJR西日本は7月5日、旅客輸送量や労働生産人口の減少が見込まれる中、将来にわたり鉄道輸送事業を維持発展させ、利用者への安定的な輸送サービスを提供する目的で、車両の装置・部品共通化の検討を開始したと発表した。その狙いと、今後の可能性とは』、興味深そうだ。
・『鉄道車両の全ての部品が特注品なわけではない ひとくちに車両の「共通化」といってもさまざまなレベルがある。鉄道車両は基本的にオーダーメイドだが、当然、全ての部品が特注品なわけではない。日本の鉄道車両、特に電車は日立製作所、川崎重工業の子会社である川崎車両、JR東海の子会社である日本車輛製造、JR東日本の子会社である総合車両製作所、近鉄グループの近畿車輛の5社がほとんどを占める。 例えば相模鉄道のJR直通用車両「12000系」や、東急電鉄の田園都市線「2020系」、大井町線「6020系」、目黒線「3020系」、京王電鉄京王ライナー対応車「5000系」は、JR東日本の山手線・横須賀線「E235系」と同様の標準設計「sustina」を採用し、総合車両製作所で製造されている。 また、日立製作所のアルミ車両標準設計「A-train」は、東京メトロの「10000系」以降の多くの車両や、東武鉄道の「50000系」「60000系」、西武鉄道の「20000系」「30000系」など、JR東日本、大手私鉄、公営地下鉄、海外鉄道など広く用いられている。 これらメーカーの標準設計で製造された車両は、鉄道事業者ごとの特色を出すために前面形状こそ作り分けられているものの、よく見れば、車体の側面や内装はほとんど同じであることに気づくだろう。このように衝突安全性向上や環境負荷低減に対応しつつ、コスト削減を図るのも共通化の効果だ』、「これらメーカーの標準設計で製造された車両は、鉄道事業者ごとの特色を出すために前面形状こそ作り分けられているものの、よく見れば、車体の側面や内装はほとんど同じであることに気づくだろう。このように衝突安全性向上や環境負荷低減に対応しつつ、コスト削減を図るのも共通化の効果だ」、なるほど。
・『車両設計自体を共通化することも 車体の標準設計のみならず、車両設計自体を共通化することもある。例えば東海道・山陽新幹線では、JR西日本「500系」などの独自設計の車両が走っていたこともあるが、現在は「N700S」などに共通化されている。北陸新幹線でもJR東日本とJR西日本が同一設計の「E7/W7系」を導入した。 私鉄では東京メトロと東武鉄道が、地下鉄日比谷線向けに共通設計の「13000系」と「70000系」を近畿車輛に発注している。両系列は、前面形状を除く車体と走行関係のシステムは同一で、内装も装飾以外はおおむね共通化されているが、一部に構造が異なる点もある。 近年の鉄道車両の生産数は、新幹線やJR東日本の一部形式を除けば、多くても300~400両、ほとんどは100両程度と少ないため、量産効果が小さい。特に一部列車のみ日比谷線に乗り入れる東武鉄道は、必要な編成数がそれほど多くないため、独自設計の車両を製造すると高くつく。そこで東京メトロと一括して発注することで、性能や操作性を統一するとともにコストダウンを狙った。 だが、こうした車両設計の共通化は、上記新幹線や地下鉄など運行系統がほぼ一体化している路線であればともかく、全く違う地域を走る路線では、それぞれの環境や特性にあわせる必要があるため困難だ』、「近年の鉄道車両の生産数は、新幹線やJR東日本の一部形式を除けば、多くても300~400両、ほとんどは100両程度と少ないため、量産効果が小さい。特に一部列車のみ日比谷線に乗り入れる東武鉄道は、必要な編成数がそれほど多くないため、独自設計の車両を製造すると高くつく。そこで東京メトロと一括して発注することで、性能や操作性を統一するとともにコストダウンを狙った」、なるほど。
・『両社の独自性と効率化のバランスを見ながら共通化対象部品を拡大 今回の発表を受け、国鉄時代に全国に導入された「103系」や「205系」のように車両自体を共通化する方向に進むのでは、という反応も見られる。しかし、ホームドアの整備が進む現代では、車両と設備の整合が必要であり、都市部の車両をJR東日本は4ドア、JR西日本は3ドアに統一しているため、完全な共通化は不可能だ。そこでまずは装置・部品の共通化から検討に着手する。 電車には電機部品(パンタグラフ、制御装置、モーター、補助電源装置、バッテリーなど)、空気圧システム(コンプレッサー、ブレーキ装置、戸閉め装置)、空調、案内装置などさまざまな装置・部品が設置されている。これらは車両メーカーが製造する部品もあれば、東芝や東洋電機製造、三菱電機のように、主要電気装置や車両機器を手掛ける電機メーカーもある。 大掛かりなシステムは各社がサプライヤーとともに一貫して設計・製造している。安定調達や競争原理を考慮すれば、無理な統一はかえって非効率、コスト増にもなりかねない。ただ部品によっては事業者ごとのニーズに応じて、似たようなものを多品種少量生産している。 これらはサプライヤーにとって儲かる仕事ではなく、今後は発注数の減少が予想されるため、業界全体の効率化を図り、限られた人員や設備を各社の得意な領域に集中したい。そこでモーター、台車のオイルダンパー、パンタグラフ、行先表示器など、可能な範囲で装置・部品の共通化に着手し、各社の独自性と効率化のバランスを見ながら共通化対象部品を拡大するというのが今回の発表だ』、「今後は発注数の減少が予想されるため、業界全体の効率化を図り、限られた人員や設備を各社の得意な領域に集中したい。そこでモーター、台車のオイルダンパー、パンタグラフ、行先表示器など、可能な範囲で装置・部品の共通化に着手し、各社の独自性と効率化のバランスを見ながら共通化対象部品を拡大するというのが今回の発表だ」、なるほど。
・『今回の共通化検討が形になるのは5~10年後か 具体的には、まずJR東日本とJR西日本が共通化の方向性など土台作りを進め、続いて他の鉄道事業者や車両メーカー、サプライヤーと意見交換をして具体的な内容を詰める。そして共通化部品調達の仕組みを構築した上で、実際の車両に展開する。 現行車両の部品の交換は現実的ではないため、共通化を取り入れた設計は今後の新型車両から導入する。つまり、今回の検討が形になるのは5年後、10年後レベルの話になる。QRコード乗車券を8事業者共同で進めるように、今後の検討で、大手私鉄が参加してさらに大きな取り組みになる可能性もある。 車両設計を完全に共通化するのは困難だが、プレスリリースには「各鉄道事業者の独自の使用となるものは今後検討」として、ドア位置や枚数、車体幅、長さ、前面形状などが挙げられている。「sustina」は車両ごとに車体構造のカスタマイズが可能であり、前述のように、すでに導入した私鉄もある。 近年JR西日本が導入した「225系」「227系」「321系」「323系」は、川崎車両と近畿車輛が担当している。JR東日本は装置・部品以上の検討は全く白紙というが、将来的にJR西日本が「sustina」を採用することもあり得るかもしれない(逆にJR東日本が車両調達先をグループ以外に変更するとは考えにくい)。 いずれにせよ、人口減少が進めば鉄道事業は縮小していく。事業が縮小すれば鉄道車両も削減され、新造車両も減少する。海外進出を進める車両メーカーもあるが、サプライヤーの多くは国内需要が中心だ。事業者のみ、メーカーのみの課題ではなく、将来にわたって鉄道システムを機能させるための検討が、今後ますます本格化しそうだ』、「現行車両の部品の交換は現実的ではないため、共通化を取り入れた設計は今後の新型車両から導入する。つまり、今回の検討が形になるのは5年後、10年後レベルの話になる。QRコード乗車券を8事業者共同で進めるように、今後の検討で、大手私鉄が参加してさらに大きな取り組みになる可能性もある・・・人口減少が進めば鉄道事業は縮小していく。事業が縮小すれば鉄道車両も削減され、新造車両も減少する。海外進出を進める車両メーカーもあるが、サプライヤーの多くは国内需要が中心だ。事業者のみ、メーカーのみの課題ではなく、将来にわたって鉄道システムを機能させるための検討が、今後ますます本格化しそうだ」、設計の共通化などによる効率化が、今後進展するのは、楽しみだ。
先ずは、本年3月1日付け東洋経済オンラインが掲載した欧州鉄道フォトライターの橋爪 智之氏による「豪雪で露呈、オーストリア「看板特急」の落とし穴 ドア1カ所だけ故障でも「編成丸ごと」工場送り」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/737656
・『2023年12月初旬、ドイツやオーストリアなど中欧と呼ばれる地域を中心に、非常に強い寒波が襲った。ミュンヘンなど大都市周辺でも、積雪は数十センチを超え、チェコ共和国南部では同国での観測史上最低となるマイナス28℃を記録した。 除雪が追い付かないほどの積雪によって交通網はマヒし、ドイツ南部からオーストリアへかけての地域は、空路・陸路ともに数日間にわたって交通機関が全面的にストップするなど大混乱となった』、大変だ。
・『主力特急車両が相次ぎダウン かつてないほどの低い気温と積雪により、除雪完了に伴う運行再開後も列車に不具合が相次いだ。オーストリア連邦鉄道(OBB)の都市間特急「レイルジェット」は2023年の時点で60本の列車がオーストリアおよびその周辺国との間を結んで運行しているが、このうちの1割にあたる6本が完全に使用不能となり、工場で修理せざるをえないという緊急事態となった。 だが、工場も修理だけではなく、日常の定期検査も並行して行わなければならないというキャパシティの問題があるため、使用不能となった編成のうちすぐに修理に取り掛かれたのは6本中4本だけだった。 ほかの54本の編成についても、一時は完全な状態で運行ができる編成がわずかに12本しかなく、残りは営業用として動かせる状態にはあるものの、ドアやトイレなどが故障した不完全な状態で営業せざるをえなかった。運行中に故障が悪化し、運転打ち切りや運休が相次ぐ結果となった。) 運休こそ逃れた列車に関しても代替運行となり、ローカル列車などに使用される通常客車を使用した列車も見られた。レイルジェットは、ビジネスクラスと呼ばれる特等席を筆頭に通常の1等・2等車、そして食堂車を連結しているが、代替の列車にはビジネスクラスや食堂車は連結されず、サービスダウンは否めなかった。 レイルジェットは、従来の客車特急列車インターシティの上位に位置する列車として2008年に誕生。客車ではあるが1両ごとに切り離しはできず、完全に固定された7両の編成を機関車が牽引・推進するもので、客車列車というよりは電車に近い。いわゆる高速列車ではないものの、最高時速は230kmに達し、洗練された内外装デザインも含め、従来型客車の旧態依然としたイメージを打ち破る車両となった。 2016年までの間に60本が製造され、チェコ鉄道にも同型車両が7本納入された。現在は、ウィーン―ザルツブルク間などの主要幹線において、新幹線で言うところの「のぞみ」や「こだま」のような、速達タイプ(RJX)と各駅停車タイプ(RJ)が設定されるなど、オーストリア国内における都市間輸送の大半をこのレイルジェットが担う形となっている』、「レイルジェットは、従来の客車特急列車インターシティの上位に位置する列車として2008年に誕生。客車ではあるが1両ごとに切り離しはできず、完全に固定された7両の編成を機関車が牽引・推進するもので、客車列車というよりは電車に近い。いわゆる高速列車ではないものの、最高時速は230kmに達し、洗練された内外装デザインも含め、従来型客車の旧態依然としたイメージを打ち破る車両となった。 2016年までの間に60本が製造され、チェコ鉄道にも同型車両が7本納入された。現在は、ウィーン―ザルツブルク間などの主要幹線において、新幹線で言うところの「のぞみ」や「こだま」のような、速達タイプ(RJX)と各駅停車タイプ(RJ)が設定されるなど、オーストリア国内における都市間輸送の大半をこのレイルジェットが担う形」、なるほど。
・『1両ごとに切り離せないレイルジェット 今回、運行開始以来大きな問題のなかったレイルジェットに、記録的な大雪と寒波という想定を超えた異常気象が襲ったことで、不具合が多発してしまった。さすがのオーストリア連邦鉄道もここまでの異常気象は想定していなかったようだが、それを差し引いても予備車がほとんどない状態で運用を回している現状について、見通しが甘かったのではないかという声も聞かれた。 予備車不足の問題もさることながら、もう1つ大きな問題となったのが、固定編成のレイルジェットならではの「不具合発生に伴う編成全体の離脱」だ。 客車の利点の1つとして、柔軟な編成が組めることが挙げられる。乗客の増減に合わせて1両単位で車両を連結・切り離しできるので、鉄道会社によっては団体客が乗車する日に1両追加で連結するということもやっていた。) これは、万が一車両の不具合が発生した際、その不具合があった車両だけを切り離し、別の運行可能な客車を代わりに連結できるということでもある。寝台車のような特殊な車両の場合は同じ設備の車両が用意できず、個室寝台の代わりがクシェット(簡易寝台)や座席車になってしまうといったことは過去に何度も発生してきたが、運休するよりはマシで、本来のサービスを受けられない乗客に対しては返金などのお詫びをして終了となる。 ところが、固定編成のレイルジェットは、故障した1両だけを切り離すということができない。ドアやトイレといった部分的な故障でも、修理するためには7両編成丸ごと工場へ入場させなければならない。 日本的に考えると、客用ドアの故障は大きなトラブルである。不具合が発生すれば工場へ即入場となるだろう。だが、今回はただでさえ故障が相次いで工場が逼迫している状況で、こう言っては何だが「たかがドア1カ所」のために編成を丸ごと工場入りさせて列車を運休することなどできない。乗客には多少の不便をかけることにはなるが、運休することを考えれば走らせたほうがまだマシなため、故障した状態のまま営業に就かせるケースが相次ぐことになる』、「固定編成のレイルジェットは、故障した1両だけを切り離すということができない。ドアやトイレといった部分的な故障でも、修理するためには7両編成丸ごと工場へ入場させなければならない。 日本的に考えると、客用ドアの故障は大きなトラブルである。不具合が発生すれば工場へ即入場となるだろう。だが、今回はただでさえ故障が相次いで工場が逼迫している状況で、こう言っては何だが「たかがドア1カ所」のために編成を丸ごと工場入りさせて列車を運休することなどできない。乗客には多少の不便をかけることにはなるが、運休することを考えれば走らせたほうがまだマシなため、故障した状態のまま営業に就かせるケースが相次ぐことになる」、これは大変だ。
・『「固定編成」は欧州に向いているのか? ヨーロッパの鉄道は過去20年で大きく変化し、列車の編成も日本のように動力分散方式の電車・ディーゼルカーや、客車列車でもそれに準ずる固定編成の列車が増えてきた。2023年冬から走り始めた夜行列車「ナイトジェット」の最新型も、ついに固定編成を採用するに至った。 ただ前述の通り、固定編成の列車はどこかに不具合が発生した場合、編成単位での工場入りが必要となる。日本と異なり不具合の発生確率が高いヨーロッパでは、故障のたびに運休が発生しては、それこそ運用が回らなくなってしまう。 ある意味では、柔軟性という面において利点のある固定されていない編成のほうが、ヨーロッパの列車運用には合っているのかもしれない』、「固定編成の列車はどこかに不具合が発生した場合、編成単位での工場入りが必要となる。日本と異なり不具合の発生確率が高いヨーロッパでは、故障のたびに運休が発生しては、それこそ運用が回らなくなってしまう。 ある意味では、柔軟性という面において利点のある固定されていない編成のほうが、ヨーロッパの列車運用には合っているのかもしれない」、その通りだ。
次に、4月20日付け東洋経済オンラインが掲載した欧州鉄道フォトライターの橋爪 智之氏による「「芸術の国」イタリアが進める鉄道保存の本気度 400両超保有の「財団」、自前の工場で徹底整備」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/748914
・『鉄道黎明期より長い時間を歩んできたヨーロッパの多くの国では、車両を含む鉄道産業遺産が国や地方自治体の管理する博物館を中心に保存され、民間団体が廃車となった車両を買い取って動態保存している例も多い。そんな中、異色の存在となっているのがイタリアのFondazione FS Italiane(イタリア鉄道財団)だ。 イタリア鉄道財団は、イタリア鉄道、トレニタリア(イタリア鉄道旅客輸送子会社)、RFI(イタリア鉄道インフラ子会社)の3社のCEOが創立メンバーとなって、2013年3月6日に財団の設立趣意書および定款に署名した。2015年12月には、政府の文化遺産・活動・観光省が財団の「機関会員」として加わっている』、日本では「動態保存」は極めて少ないが、イタリアではかなり多いようだ。
・『鉄道遺産保存「財団」の財源は? 財団が設立された目的は、1839年に誕生したイタリア鉄道の膨大な歴史的・技術的遺産を国の歴史の重要な一部として強化し、無傷で将来の世代に引き渡すことで、長い歴史の中における国の成長と国家統一の象徴としての鉄道の重要性を証明することに加え、イタリア国家の利益のために、観光の面で鉄道需要の回復を刺激することが最終的な目標となっている。 その主な活動内容は、400両以上の歴史的鉄道車両の保存(うち約200両は動態保存され現在も稼働中)、イタリア鉄道に関するさまざまな文献資料の保存、ナポリ近郊のピエトラルサと、トリエステにある鉄道博物館の維持管理、運休している風光明媚な鉄道路線の観光路線としての再生などだ。もちろん、純粋な維持管理だけではなく、若い世代への技術継承も含まれる。技術者の育成は、古い技術の維持には必要不可欠なことだ。) 気になるのは財源だ。前述の3社からの資金や政府の補助金などがベースだが、不動産収入や株式運用による資産、地方自治体や企業からの寄付金なども使われている。ただし、個人からの寄付はとくに募っていない。筆者は以前に寄付を申し出たが、十分な財源があるので大丈夫と断られてしまった。このあたりは、博物館やイベントなどで寄付を募っている英国やドイツなどと異なり興味深い。 財団のロゴは、イタリア鉄道(FS)で1966~1982年に使用された、通称「テレビロゴ」(文字周囲の枠がブラウン管時代のテレビの画面に似ているところからそう呼ばれる)をベースにしている。 古典車両を維持管理するための中枢とも言うべき車両工場は全国に3カ所あり、各工場は原則的に車両の種類によって役割が分担されている。いったい、工場ではどのような作業が行われているのだろうか。財団が保有する工場の一つである、ラ・スペツィア工場を取材する機会を得た。 ▽財団の工場内部を取材(ラ・スペツィアはイタリア北西部、リグーリア州の東部に位置する人口約9万人の港町で、首都ローマとジェノヴァを結ぶ幹線上に位置する。ラ・スペツィア工場は1926年に建設され、当時はまだ三相交流方式という特殊な電化方式を採用していたイタリア国鉄の電気機関車を整備する工場として使用された。 2014年にイタリア鉄道財団へ譲渡され、以降は主に財団の保有する電気機関車の定期点検やオーバーホールのほか、動かない状態で保管されていた車両の修復作業なども請け負っている。) 工場建屋内へ入ると、戦前製の古い機関車がずらりと並んでいる。 財団の保有する車両は、1:動態保存(本線走行可能)2:動態保存(本線走行不可)3:静態保存 の3種類に大別される。 1は動く状態に完全復元され、信号などの保安装置も現在の最新システムに換装し、イベント時に本線上を走行させることが可能な車両だ。2は、電気装置などはすべて稼働状態となっていて、パンタグラフを上げて電気を通せば動かすことができるが、保安装置が現代の基準に合致しないため、構内など閉鎖された場所でのデモ走行に限られる。日本で言えば「碓氷峠鉄道文化むら」(群馬県)に保存されているEF63形電気機関車のようなものだ。3は文字通り、動力や制御装置が稼働できない状態で、博物館などで保存・展示させるための車両だ。 工場建屋の中に1両、ピカピカに磨き上げられた電気機関車がいる。E424型249号機といい、第二次大戦直後の1946年に製造された4動軸の機関車だ。主にローカル線で旅客・貨物列車の両方に使えるよう設計され、荷物や郵便を運べるように車体中央にはシャッター付きの荷室が設けられたユニークな機関車だ。 後年、近郊列車をプッシュプル運転する目的で、推進運転制御装置を搭載し、色を当時の最新塗装へ変更して使用されたが、その改造の際に元番号+200へと改番されている。つまり、オリジナルの状態ではE424型049号機だった』、「1は動く状態に完全復元され、信号などの保安装置も現在の最新システムに換装し、イベント時に本線上を走行させることが可能な車両だ。2は、電気装置などはすべて稼働状態となっていて、パンタグラフを上げて電気を通せば動かすことができるが、保安装置が現代の基準に合致しないため、構内など閉鎖された場所でのデモ走行に限られる。日本で言えば「碓氷峠鉄道文化むら」(群馬県)に保存されているEF63形電気機関車のようなものだ。3は文字通り、動力や制御装置が稼働できない状態で、博物館などで保存・展示させるための車両だ」、なるほど。
・『見えない部分も解体して徹底修復 現場で案内をしてくれた技師いわく、この車両は動かせる状態にあるが、信号装置が古い状態のままで、かつパンタグラフは現在本線上での使用を認められてない古いタイプ(FS Tipo42)を搭載しているため、本線走行はできないという(前述「2」に該当)。 ただ、現場のこだわりで車体表記は元の番号である049号機へ塗り替えており(製造銘板などは249号機のまま)、前面の目立つ位置に取り付けられていた制御回路引き通し線も撤去し、オリジナルの古いパンタグラフとともに美しい状態で保存できている、と技師は胸を張っていた。動かすことはできるので、工場内のイベントなどでは、今後も元気な様子を見ることができるだろう。) 隣の建屋では、完全に解体された625型蒸気機関車の修復が行われていた。古い車両は、外側がきれいでも内側に傷んでいる部分が多く、この625型も車体の基礎となる台枠部分が腐食して、かなり鉄板が薄くなっているのが見た目にもわかる。完全にばらした状態から修復するのは、こうした見えない部分の補強をするためである。 屋外には、整備が終わった状態の車両から整備待ちで保管されている車両まで数十両が留置されている。その中でもとくに気になったのは、現存するのがここで保管されている2両だけというALn442-448型気動車だ』、「この車両は動かせる状態にあるが、信号装置が古い状態のままで、かつパンタグラフは現在本線上での使用を認められてない古いタイプ(FS Tipo42)を搭載しているため、本線走行はできないという(前述「2」に該当)」、なるほど。
・『朽ち果てた車両を「救出」 ALn442-448型は、1955年にブレダ(現在の日立レールの前身であるアンサルドブレダの合併前の会社)で製造された気動車で、1957年のTEE(ヨーロッパ国際特急)運行開始時に使用された歴史的な車両だ。だが、数両を残してすべて解体され、ミラノの科学技術博物館に保存された1両もアスベストが問題となって展示が取りやめとなり、そのまま解体されてしまった。 最後に残ったALn442-448型2008号機は、アスベスト除去業者へ引き渡されたものの、その業者が倒産してしまい、屋外で雨ざらしとなって何年も放置され、すっかり朽ち果てていた。本来であれば解体されてもおかしくはないところだが、財団が救出して引き取ったものだ。 保管された車両を拝ませてもらった時には、あまりの朽ち果てた状態に愕然とした。実際、技師もこれからどうやって修復をしていこうかと頭を悩ませていると語っていたが、3年前に同様の状態から見事に復活し、本線走行を行っているETR252型アルレッキーノの例を見れば、必ずや復活を果たせるだろうと期待せずにはいられない。) そんな財団の悩みが、1980年代以降に製造されたいわゆる新性能車両だ。1980年代というと、ちょうどチョッパ制御やインバーター制御など、半導体技術が世に出始めた頃である。 旧来の技術である抵抗制御などは、ある意味で言えば「溶接してハンマーで叩けば直せる」アナログ式なので、技術を継承さえすれば、理論上は半永久的に残すことができる。蒸気機関車は言わずもがな、電車や電気機関車も、古い時代の車両は動態保存されている車両が多い。 一方でチョッパ制御以降の車両は、制御装置に半導体を用いていることから、故障してしまえば部品の交換以外に修理の方法がない。ところが半導体は日進月歩で進化を続けており、古くなった製品はすぐに生産中止となることから、現役の車両ですら、まだ動く車両を廃車にして、予備部品の確保(共食い)を行っている車種もある』、「チョッパ制御以降の車両は、制御装置に半導体を用いていることから、故障してしまえば部品の交換以外に修理の方法がない。ところが半導体は日進月歩で進化を続けており、古くなった製品はすぐに生産中止となることから、現役の車両ですら、まだ動く車両を廃車にして、予備部品の確保(共食い)を行っている車種もある」、確かに「半導体」導入以降は「予備部品の確保(共食い)」が必要になるようだ。
・『鉄道遺産も絵画などと同様の価値 財団は現在、1両のチョッパ制御機関車(E632型030号機)を保有している。状況次第では今後も増えていくものと考えられ、予備部品の確保はもちろんのこと、万が一部品が枯渇した際にどう対処していくのかが将来的な課題と言えよう。 絵画など多くの文化的遺産を保有し、それらの修復技術にも定評があるイタリアは、産業遺産である鉄道についても同様の価値を見出し、これらを観光資源として再生するという取り組みを、国を挙げて行っている。 数年前から修復作業が進められているイタリアの伝説的な鉄道車両、ETR302型セッテベッロを含め今も修復を待つ車両は多いが、これらが再び息を吹き返し、イタリアの大地を駆け抜ける日もそう遠くない未来のことだろう』、「修復技術にも定評があるイタリアは、産業遺産である鉄道についても同様の価値を見出し、これらを観光資源として再生するという取り組みを、国を挙げて行っている」、「イタリア」が「修復技術にも定評がある」、「産業遺産である鉄道についても同様の価値を見出し、これらを観光資源として再生するという取り組みを、国を挙げて行っている」、注目すべき国の1つだ。
第三に、7月15日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した鉄道ジャーナリストの枝久保達也氏による「JR東・西はなぜ車両の「脱オーダーメイド」を検討するのか?装置・部品の「共通化」構想の狙いとは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/346902
・『JR東日本とJR西日本は7月5日、旅客輸送量や労働生産人口の減少が見込まれる中、将来にわたり鉄道輸送事業を維持発展させ、利用者への安定的な輸送サービスを提供する目的で、車両の装置・部品共通化の検討を開始したと発表した。その狙いと、今後の可能性とは』、興味深そうだ。
・『鉄道車両の全ての部品が特注品なわけではない ひとくちに車両の「共通化」といってもさまざまなレベルがある。鉄道車両は基本的にオーダーメイドだが、当然、全ての部品が特注品なわけではない。日本の鉄道車両、特に電車は日立製作所、川崎重工業の子会社である川崎車両、JR東海の子会社である日本車輛製造、JR東日本の子会社である総合車両製作所、近鉄グループの近畿車輛の5社がほとんどを占める。 例えば相模鉄道のJR直通用車両「12000系」や、東急電鉄の田園都市線「2020系」、大井町線「6020系」、目黒線「3020系」、京王電鉄京王ライナー対応車「5000系」は、JR東日本の山手線・横須賀線「E235系」と同様の標準設計「sustina」を採用し、総合車両製作所で製造されている。 また、日立製作所のアルミ車両標準設計「A-train」は、東京メトロの「10000系」以降の多くの車両や、東武鉄道の「50000系」「60000系」、西武鉄道の「20000系」「30000系」など、JR東日本、大手私鉄、公営地下鉄、海外鉄道など広く用いられている。 これらメーカーの標準設計で製造された車両は、鉄道事業者ごとの特色を出すために前面形状こそ作り分けられているものの、よく見れば、車体の側面や内装はほとんど同じであることに気づくだろう。このように衝突安全性向上や環境負荷低減に対応しつつ、コスト削減を図るのも共通化の効果だ』、「これらメーカーの標準設計で製造された車両は、鉄道事業者ごとの特色を出すために前面形状こそ作り分けられているものの、よく見れば、車体の側面や内装はほとんど同じであることに気づくだろう。このように衝突安全性向上や環境負荷低減に対応しつつ、コスト削減を図るのも共通化の効果だ」、なるほど。
・『車両設計自体を共通化することも 車体の標準設計のみならず、車両設計自体を共通化することもある。例えば東海道・山陽新幹線では、JR西日本「500系」などの独自設計の車両が走っていたこともあるが、現在は「N700S」などに共通化されている。北陸新幹線でもJR東日本とJR西日本が同一設計の「E7/W7系」を導入した。 私鉄では東京メトロと東武鉄道が、地下鉄日比谷線向けに共通設計の「13000系」と「70000系」を近畿車輛に発注している。両系列は、前面形状を除く車体と走行関係のシステムは同一で、内装も装飾以外はおおむね共通化されているが、一部に構造が異なる点もある。 近年の鉄道車両の生産数は、新幹線やJR東日本の一部形式を除けば、多くても300~400両、ほとんどは100両程度と少ないため、量産効果が小さい。特に一部列車のみ日比谷線に乗り入れる東武鉄道は、必要な編成数がそれほど多くないため、独自設計の車両を製造すると高くつく。そこで東京メトロと一括して発注することで、性能や操作性を統一するとともにコストダウンを狙った。 だが、こうした車両設計の共通化は、上記新幹線や地下鉄など運行系統がほぼ一体化している路線であればともかく、全く違う地域を走る路線では、それぞれの環境や特性にあわせる必要があるため困難だ』、「近年の鉄道車両の生産数は、新幹線やJR東日本の一部形式を除けば、多くても300~400両、ほとんどは100両程度と少ないため、量産効果が小さい。特に一部列車のみ日比谷線に乗り入れる東武鉄道は、必要な編成数がそれほど多くないため、独自設計の車両を製造すると高くつく。そこで東京メトロと一括して発注することで、性能や操作性を統一するとともにコストダウンを狙った」、なるほど。
・『両社の独自性と効率化のバランスを見ながら共通化対象部品を拡大 今回の発表を受け、国鉄時代に全国に導入された「103系」や「205系」のように車両自体を共通化する方向に進むのでは、という反応も見られる。しかし、ホームドアの整備が進む現代では、車両と設備の整合が必要であり、都市部の車両をJR東日本は4ドア、JR西日本は3ドアに統一しているため、完全な共通化は不可能だ。そこでまずは装置・部品の共通化から検討に着手する。 電車には電機部品(パンタグラフ、制御装置、モーター、補助電源装置、バッテリーなど)、空気圧システム(コンプレッサー、ブレーキ装置、戸閉め装置)、空調、案内装置などさまざまな装置・部品が設置されている。これらは車両メーカーが製造する部品もあれば、東芝や東洋電機製造、三菱電機のように、主要電気装置や車両機器を手掛ける電機メーカーもある。 大掛かりなシステムは各社がサプライヤーとともに一貫して設計・製造している。安定調達や競争原理を考慮すれば、無理な統一はかえって非効率、コスト増にもなりかねない。ただ部品によっては事業者ごとのニーズに応じて、似たようなものを多品種少量生産している。 これらはサプライヤーにとって儲かる仕事ではなく、今後は発注数の減少が予想されるため、業界全体の効率化を図り、限られた人員や設備を各社の得意な領域に集中したい。そこでモーター、台車のオイルダンパー、パンタグラフ、行先表示器など、可能な範囲で装置・部品の共通化に着手し、各社の独自性と効率化のバランスを見ながら共通化対象部品を拡大するというのが今回の発表だ』、「今後は発注数の減少が予想されるため、業界全体の効率化を図り、限られた人員や設備を各社の得意な領域に集中したい。そこでモーター、台車のオイルダンパー、パンタグラフ、行先表示器など、可能な範囲で装置・部品の共通化に着手し、各社の独自性と効率化のバランスを見ながら共通化対象部品を拡大するというのが今回の発表だ」、なるほど。
・『今回の共通化検討が形になるのは5~10年後か 具体的には、まずJR東日本とJR西日本が共通化の方向性など土台作りを進め、続いて他の鉄道事業者や車両メーカー、サプライヤーと意見交換をして具体的な内容を詰める。そして共通化部品調達の仕組みを構築した上で、実際の車両に展開する。 現行車両の部品の交換は現実的ではないため、共通化を取り入れた設計は今後の新型車両から導入する。つまり、今回の検討が形になるのは5年後、10年後レベルの話になる。QRコード乗車券を8事業者共同で進めるように、今後の検討で、大手私鉄が参加してさらに大きな取り組みになる可能性もある。 車両設計を完全に共通化するのは困難だが、プレスリリースには「各鉄道事業者の独自の使用となるものは今後検討」として、ドア位置や枚数、車体幅、長さ、前面形状などが挙げられている。「sustina」は車両ごとに車体構造のカスタマイズが可能であり、前述のように、すでに導入した私鉄もある。 近年JR西日本が導入した「225系」「227系」「321系」「323系」は、川崎車両と近畿車輛が担当している。JR東日本は装置・部品以上の検討は全く白紙というが、将来的にJR西日本が「sustina」を採用することもあり得るかもしれない(逆にJR東日本が車両調達先をグループ以外に変更するとは考えにくい)。 いずれにせよ、人口減少が進めば鉄道事業は縮小していく。事業が縮小すれば鉄道車両も削減され、新造車両も減少する。海外進出を進める車両メーカーもあるが、サプライヤーの多くは国内需要が中心だ。事業者のみ、メーカーのみの課題ではなく、将来にわたって鉄道システムを機能させるための検討が、今後ますます本格化しそうだ』、「現行車両の部品の交換は現実的ではないため、共通化を取り入れた設計は今後の新型車両から導入する。つまり、今回の検討が形になるのは5年後、10年後レベルの話になる。QRコード乗車券を8事業者共同で進めるように、今後の検討で、大手私鉄が参加してさらに大きな取り組みになる可能性もある・・・人口減少が進めば鉄道事業は縮小していく。事業が縮小すれば鉄道車両も削減され、新造車両も減少する。海外進出を進める車両メーカーもあるが、サプライヤーの多くは国内需要が中心だ。事業者のみ、メーカーのみの課題ではなく、将来にわたって鉄道システムを機能させるための検討が、今後ますます本格化しそうだ」、設計の共通化などによる効率化が、今後進展するのは、楽しみだ。
タグ:鉄道 橋爪 智之氏による「豪雪で露呈、オーストリア「看板特急」の落とし穴 ドア1カ所だけ故障でも「編成丸ごと」工場送り」 「1は動く状態に完全復元され、信号などの保安装置も現在の最新システムに換装し、イベント時に本線上を走行させることが可能な車両だ。2は、電気装置などはすべて稼働状態となっていて、パンタグラフを上げて電気を通せば動かすことができるが、保安装置が現代の基準に合致しないため、構内など閉鎖された場所でのデモ走行に限られる。日本で言えば「碓氷峠鉄道文化むら」(群馬県)に保存されているEF63形電気機関車のようなものだ。3は文字通り、動力や制御装置が稼働できない状態で、博物館などで保存・展示させるための車両だ」、なるほ 枝久保達也氏による「JR東・西はなぜ車両の「脱オーダーメイド」を検討するのか?装置・部品の「共通化」構想の狙いとは」 橋爪 智之氏による「「芸術の国」イタリアが進める鉄道保存の本気度 400両超保有の「財団」、自前の工場で徹底整備」 「固定編成の列車はどこかに不具合が発生した場合、編成単位での工場入りが必要となる。日本と異なり不具合の発生確率が高いヨーロッパでは、故障のたびに運休が発生しては、それこそ運用が回らなくなってしまう。 ある意味では、柔軟性という面において利点のある固定されていない編成のほうが、ヨーロッパの列車運用には合っているのかもしれない」、その通りだ。 「レイルジェットは、従来の客車特急列車インターシティの上位に位置する列車として2008年に誕生。客車ではあるが1両ごとに切り離しはできず、完全に固定された7両の編成を機関車が牽引・推進するもので、客車列車というよりは電車に近い。いわゆる高速列車ではないものの、最高時速は230kmに達し、洗練された内外装デザインも含め、従来型客車の旧態依然としたイメージを打ち破る車両となった。 2016年までの間に60本が製造され、チェコ鉄道にも同型車両が7本納入された。 (その13)(豪雪で露呈 オーストリア「看板特急」の落とし穴 ドア1カ所だけ故障でも「編成丸ごと」工場送り、「芸術の国」イタリアが進める鉄道保存の本気度 400両超保有の「財団」 自前の工場で徹底整備、JR東・西はなぜ車両の「脱オーダーメイド」を検討するのか?装置・部品の「共通化」構想の狙いとは) 「固定編成のレイルジェットは、故障した1両だけを切り離すということができない。ドアやトイレといった部分的な故障でも、修理するためには7両編成丸ごと工場へ入場させなければならない。 日本的に考えると、客用ドアの故障は大きなトラブルである。不具合が発生すれば工場へ即入場となるだろう。だが、今回はただでさえ故障が相次いで工場が逼迫している状況で、こう言っては何だが「たかがドア1カ所」のために編成を丸ごと工場入りさせて列車を運休することなどできない。乗客には多少の不便をかけることにはなるが、運休することを考えれば 日本では「動態保存」は極めて少ないが、イタリアではかなり多いようだ。 走らせたほうがまだマシなため、故障した状態のまま営業に就かせるケースが相次ぐことになる」、これは大変だ。 「チョッパ制御以降の車両は、制御装置に半導体を用いていることから、故障してしまえば部品の交換以外に修理の方法がない。ところが半導体は日進月歩で進化を続けており、古くなった製品はすぐに生産中止となることから、現役の車両ですら、まだ動く車両を廃車にして、予備部品の確保(共食い)を行っている車種もある」、確かに「半導体」導入以降は「予備部品の確保(共食い)」が必要になるようだ。 東洋経済オンライン 事業が縮小すれば鉄道車両も削減され、新造車両も減少する。海外進出を進める車両メーカーもあるが、サプライヤーの多くは国内需要が中心だ。事業者のみ、メーカーのみの課題ではなく、将来にわたって鉄道システムを機能させるための検討が、今後ますます本格化しそうだ」、設計の共通化などによる効率化が、今後進展するのは、楽しみだ。 「修復技術にも定評があるイタリアは、産業遺産である鉄道についても同様の価値を見出し、これらを観光資源として再生するという取り組みを、国を挙げて行っている」、「イタリア」が「修復技術にも定評がある」、「産業遺産である鉄道についても同様の価値を見出し、これらを観光資源として再生するという取り組みを、国を挙げて行っている」、注目すべき国の1つだ。 現在は、ウィーン―ザルツブルク間などの主要幹線において、新幹線で言うところの「のぞみ」や「こだま」のような、速達タイプ(RJX)と各駅停車タイプ(RJ)が設定されるなど、オーストリア国内における都市間輸送の大半をこのレイルジェットが担う形」、なるほど。 「近年の鉄道車両の生産数は、新幹線やJR東日本の一部形式を除けば、多くても300~400両、ほとんどは100両程度と少ないため、量産効果が小さい。特に一部列車のみ日比谷線に乗り入れる東武鉄道は、必要な編成数がそれほど多くないため、独自設計の車両を製造すると高くつく。そこで東京メトロと一括して発注することで、性能や操作性を統一するとともにコストダウンを狙った」、なるほど。 「この車両は動かせる状態にあるが、信号装置が古い状態のままで、かつパンタグラフは現在本線上での使用を認められてない古いタイプ(FS Tipo42)を搭載しているため、本線走行はできないという(前述「2」に該当)」、なるほど。 「現行車両の部品の交換は現実的ではないため、共通化を取り入れた設計は今後の新型車両から導入する。つまり、今回の検討が形になるのは5年後、10年後レベルの話になる。QRコード乗車券を8事業者共同で進めるように、今後の検討で、大手私鉄が参加してさらに大きな取り組みになる可能性もある・・・人口減少が進めば鉄道事業は縮小していく。 大変だ。 ど。 ダイヤモンド・オンライン 「これらメーカーの標準設計で製造された車両は、鉄道事業者ごとの特色を出すために前面形状こそ作り分けられているものの、よく見れば、車体の側面や内装はほとんど同じであることに気づくだろう。このように衝突安全性向上や環境負荷低減に対応しつつ、コスト削減を図るのも共通化の効果だ」、なるほど。 「今後は発注数の減少が予想されるため、業界全体の効率化を図り、限られた人員や設備を各社の得意な領域に集中したい。そこでモーター、台車のオイルダンパー、パンタグラフ、行先表示器など、可能な範囲で装置・部品の共通化に着手し、各社の独自性と効率化のバランスを見ながら共通化対象部品を拡大するというのが今回の発表だ」、なるほど。
日本の構造問題(その32)(「リベラルアーツ」を軽視しすぎた日本社会の代償 「リーダーシップ」と「教養教育」の不可分な関係、なぜ 日本では傑出したリーダーが出にくいのか 日本社会をダメにする「二重の選抜」の非効率) [経済政治動向]
日本の構造問題については、本年3月24日に取上げた。今日は、(その32)(「リベラルアーツ」を軽視しすぎた日本社会の代償 「リーダーシップ」と「教養教育」の不可分な関係、なぜ 日本では傑出したリーダーが出にくいのか 日本社会をダメにする「二重の選抜」の非効率」を紹介しよう。
先ずは、本年5月15日付け東洋経済オンラインが掲載した独立研究者・著作者・パブリックスピーカーの山口 周氏とライプニッツ代表で 多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長の堀内 勉 氏による「「リベラルアーツ」を軽視しすぎた日本社会の代償 「リーダーシップ」と「教養教育」の不可分な関係」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/751904
・『ビジネスエリートにとってリベラルアーツは必須の知識と言われている。そもそもリベラルアーツとは何か。なぜリベラルアーツが必要なのか。 3万5000部超のベストセラー『読書大全』の著者・堀内勉氏と、リベラルアーツに関する著作が多数あり、講演や企業の研修においてリベラルアーツの重要性を訴えている山口周氏が、リベラルアーツや教養をテーマに縦横に語り合う。 堀内:現在、東洋経済で「教養」をテーマにした本の執筆を進めていまして、それで、「リベラルアーツ」をテーマとした講演や著作が多数ある山口さんに、一度、話をお聞きしたいと思っていました。 山口さんの著書に『自由になるための技術 リベラルアーツ』がありますが、最初に「リベラルアーツとは何か」について、お話しいただけますでしょうか』、「山口さんの著書に『自由になるための技術 リベラルアーツ』がありますが、最初に「リベラルアーツとは何か」について、お話しいただけますでしょうか」、なるほど。
・『リベラルアーツとは何か 山口:わかりました。教養とリベラルアーツを一対一対応させてよいのかというところはありますが、リベラルアーツということでは、その狭義の定義は「自由市民のためのアート」ということだと思います。古代ギリシャ時代、労働は奴隷身分が行うことでしたので、自由市民は多くの時間を持て余していたわけです。なので、その時間を有意義に楽しむためには教養が必要ということで、それがリベラルアーツになったと言われています。 上記の本のなかで、京都大学名誉教授の中西輝政先生との対談があって、中西先生いわくリベラルアーツの対義語は何かというと「ディシプリナリー」であると。ディシプリンには「境界」という意味があって、学問はだいたいディシプリンで、つまり、限られた範囲の中で考え研究するものだというわけです。 一方で、「リベラルアーツ」は、そのディシプリンに対してリベラルであるということで、現代のように専門性が細分化・タコツボ化してきて、全体を捉えることが難しくなってきているという時代においては、リベラルアーツは領域を横断しながら全体をつかむための一つの知性でとても重要なものだと。中西先生はそのようにおっしゃっています。 それに対して、教養というと、また少し違うニュアンスがそこに入ってきて、たとえばトーマス・マンの『魔の山』が典型ですが、いわゆる教養小説と言われるものがあります。ドイツ語ではビルドゥングスロマン(Bildungsroman)と言いますが、その言葉には人格を陶冶するというようなニュアンスが入ってきます。 『魔の山』は大学出の若い主人公がサナトリウムに入って、そこで過ごす7年間を描いた物語で、その主人公が人間として成熟していくということを「ビルドゥングする」と言っています。つまり、教養という言葉には、人間として深い洞察力や倫理感、また新しい物事を正しく判断するというための思考力など、そういうものをビルドゥング(構築)していくために必要な知識やたしなみ、作法というニュアンスが含まれるのです。) 堀内:まさに日本の旧制高校の流れですね。戦前はドイツ的な教養主義の影響が大きくて、ドイツのカントやヘーゲルの哲学書を読んで人間として自己の内面を耕し内省することが「教養」と言われていました。 それが、戦後アメリカの占領下になって、アメリカの価値観が広がっていくのにあわせて、教養主義からリベラルアーツへと傾斜していった。しかしながら、日本では両方の流れがまだ生き残っていている、そういう感じではないかと思っています』、「古代ギリシャ時代、労働は奴隷身分が行うことでしたので、自由市民は多くの時間を持て余していたわけです。なので、その時間を有意義に楽しむためには教養が必要ということで、それがリベラルアーツになったと言われています・・・学問はだいたいディシプリンで、つまり、限られた範囲の中で考え研究するものだというわけです。 一方で、「リベラルアーツ」は、そのディシプリンに対してリベラルであるということで、現代のように専門性が細分化・タコツボ化してきて、全体を捉えることが難しくなってきているという時代においては、リベラルアーツは領域を横断しながら全体をつかむための一つの知性でとても重要なものだ・・・ドイツ語ではビルドゥングスロマン(Bildungsroman)と言いますが、その言葉には人格を陶冶するというようなニュアンスが入ってきます。 『魔の山』は大学出の若い主人公がサナトリウムに入って、そこで過ごす7年間を描いた物語で、その主人公が人間として成熟していくということを「ビルドゥングする」と言っています。つまり、教養という言葉には、人間として深い洞察力や倫理感、また新しい物事を正しく判断するというための思考力など、そういうものをビルドゥング(構築)していくために必要な知識やたしなみ、作法というニュアンスが含まれるのです・・・戦前はドイツ的な教養主義の影響が大きくて、ドイツのカントやヘーゲルの哲学書を読んで人間として自己の内面を耕し内省することが「教養」と言われていました。 それが、戦後アメリカの占領下になって、アメリカの価値観が広がっていくのにあわせて、教養主義からリベラルアーツへと傾斜していった。しかしながら、日本では両方の流れがまだ生き残っていている、そういう感じではないかと思っています」、なるほど。
・『ハーバード大学に専門系の学部は存在しない 山口:そうですね。トーマス・マンもヨーロッパの人で、一般にリベラルアーツというとヨーロッパで重んじられていて、アメリカはその反対で実学志向というイメージがあるかと思いますが、私の感覚ではそうではありません。 アメリカの大学ランキングを見ると、ほとんどの年でトップになるのはハーバード大学ですが、そのハーバード大学に法学部や経営学部など専門系の学部はありません。学部ではリベラルアーツ学部しかなく文理融合的な知識を学ばせています。 元々アイビーリーグに属する大学の起源の多くは牧師さんを育てるための学校で、18世紀頃の牧師さんは、社会のありとあらゆることを行っていました。医師でもあり学校の先生でもあり、また政治家のような仕事もしていましたので、社会のあらゆることを知っていなければならなかったのです。 最近、日本の一部の識者が「実学志向のアメリカに倣って、文学部のような人文科学系の学部は廃止してもよい」と言っているようですが、無知とは本当に恐ろしいことで、こうした事実をよく知らないんですね。彼らに日本でよく知られているハーバードのビジネススクールやケネディスクール、メディカルスクールなどはみな大学院ですよと言うと、絶句してしまうわけです。 アメリカでは社会のリーダーになる人は専門バカではいけない、社会のあらゆることにある程度は通じていることが社会の常識になっています。古代ギリシャの時代から「アルス・テクニケ」、つまり専門的な技や知識を磨くことは奴隷の仕事であって、リーダーがするべきことではないと考えられてきたのです。 リーダーは何をするかというと、ハンナ・アーレントの言葉を借りれば「活動」をする、つまり政治的な活動を行うのだと。それが社会のリーダーであり、自由市民が従事する仕事だと考える。そして、そういう人たちは大きな判断、社会に影響のある判断をすることになるので、専門バカでは困る。今の言葉で言うと「システム思考」的な、それをつかさどる基礎的な能力を養うために教養が必要になってくるというわけです。 ハーバード大学だけではなく、PPE(Philosophy、Politics and Economics)を重んじるオックスフォード大学なども同様の考え方だと思います。やはり、社会のリーダーになる人というのは、白黒つかない、非常に多方面の利益というものを考えるものだと。ホッブズの言葉を借りるならば、「社会全体の幸福の最大化」ということを考える人でなければならない。そのような人になるには、多方面にわたる教養が必要だという考えですね。) 堀内:アメリカには、ハーバード大学のような総合大学とは別に、いわゆるリベラルアーツカレッジがありますね。私が懇意にしているグレン・フクシマさんがカリフォルニアのDeep Springs College、先日対談させていただいた斎藤幸平さんがコネチカットのWesleyan Universityといったリベラルアーツカレッジに進学していますが、アメリカには名門と言われるリベラルアーツカレッジがいくつもありますね。 また、アイビーリーグでは、新入生はとにかく寮に入らないといけない所が多い。寮があって、そこに寮監(りょうかん)がいて、チューターがいて、彼ら以外にもさまざまな人が寮にやって来て、毎晩議論をするといった活発な交流がおこなわれています。 山口:そうですね。まさにトーマス・マンの『魔の山』の世界ですよね。 堀内:その伝統はオックスフォード大学やケンブリッジ大学といったイギリスの大学から来ているのだと思いますが、オックスフォード大学では、39のカレッジ(学寮)があって、カレッジは必ず寮と一体になっています。そもそも大学に入学するためには、まずこうしたカレッジに入ることが必要になります』、「社会のリーダーになる人は専門バカではいけない、社会のあらゆることにある程度は通じていることが社会の常識になっています。古代ギリシャの時代から「アルス・テクニケ」、つまり専門的な技や知識を磨くことは奴隷の仕事であって、リーダーがするべきことではないと考えられてきたのです。 リーダーは何をするかというと、ハンナ・アーレントの言葉を借りれば「活動」をする、つまり政治的な活動を行うのだと。それが社会のリーダーであり、自由市民が従事する仕事だと考える。そして、そういう人たちは大きな判断、社会に影響のある判断をすることになるので、専門バカでは困る。今の言葉で言うと「システム思考」的な、それをつかさどる基礎的な能力を養うために教養が必要になってくるというわけです・・・ハーバード大学だけではなく、PPE(Philosophy、Politics and Economics)を重んじるオックスフォード大学なども同様の考え方だと思います。やはり、社会のリーダーになる人というのは、白黒つかない、非常に多方面の利益というものを考えるものだと。ホッブズの言葉を借りるならば、「社会全体の幸福の最大化」ということを考える人でなければならない。そのような人になるには、多方面にわたる教養が必要だという考えですね・・・オックスフォード大学では、39のカレッジ(学寮)があって、カレッジは必ず寮と一体になっています。そもそも大学に入学するためには、まずこうしたカレッジに入ることが必要になります」、なるほど。
・『日本とは異なる欧米エリートのキャリア形成 また、私がゴールドマン・サックスにいたときの経験をお話しすると、インベストメントバンカーには学歴の高い人が多いわけですが、実はアメリカの大学での専攻が歴史や哲学など、経済や経営はまったく勉強していませんという人が多くて驚いた記憶があります。 とにかく最初はリベラルアーツ的なものを学ぶ。そして、次のステージとして、金融で成功したいと思ったら、学部卒で数年働いてある程度の資金を貯めてから、ビジネススクールなどで学ぶ。そうして、20代の後半くらいで専門的・実務的な知識を身に付けたビジネスマンとして、その分野で階段を駆け上がっていく。キャリア形成はそんな感じになっていますね。 山口:まさに、ピーター・ティールなどが典型ですね。彼は大学の学部は哲学科で、その後、大学院はロースクールで学んでいます。スラック(Slack)の創業者のスチュワート・バターフィールドも哲学科の出身です。シリコンバレーのハイテク業界というと、「STEM」という印象がありますけれども、実はそうでもないんですね。 クリスチャン・マスビアウが『センスメイキング』という本で、若い時期の求職においては、STEMの学位は有利に働くかもしれないが、経営者の経歴を見てみると、STEMではなく人文科学系の学位を取っている人のほうが多いというデータがあると書いています。この話をするとSTEM系の人は猛烈にかみついてくるので怖いんですけれども(笑)。 堀内:金融の世界では、「イングランド銀行を潰した男」の異名を取るクオンタム・ファンドで大成功したジョージ・ソロスは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で哲学の学士と修士を取っています。ジョージ・ソロスと一緒にクオンタム・ファンドを設立したジム・ロジャーズもイエール大学で歴史、オックスフォード大学で哲学の学士を取っています。山口さんがおっしゃるように、日本では早い時期に専門を決めてしまう弊害があるのかもしれません。学生も何を勉強するのかをよく意識しないで大学を決めているので、大学で学ぶことの意義自体がかなり曖昧になってしまっているのだと思います。) 堀内:キャリア形成の話をすると、山口さんは慶応を卒業されて電通に入社されましたが、その前の学歴が日本的ではないと言いますか、とてもユニークですよね。その辺りのお話をお聞かせいただけませんか。 山口:その辺りの話は実はあまり戦略的ではなくて、高校は慶応の付属だったのですが、当時から作曲を勉強していましたので藝大に行こうか迷っていました。 実は慶応の付属から慶応大学を卒業し、その後、藝大に入り直した人――作曲家の千住明さんですが――が遠い知り合いだったこともあってアドバイスを求めたところ、「作曲の勉強は、大学ではそんなに学べるものではないよ」と言われたのです。それで、慶応文学部の美学専攻に進みました。 就職という段になって、どの道に進むかとなったとき、父が興銀に務めていて、当時の興銀は割と身内に甘い会社で「興銀に来るか」と言われたのですが、金融の世界には興味が持てませんでした。それを父に伝えると、「大学時代は音楽を作ってばかりで協調性もないし、おまえみたいな変わり者は電通のような会社が向いているんじゃないか」と言われ、それがきっかけで電通を受けることにしました。 そのなかで、電通の人が「人間が夢中になるものは4つあって、電通はそのすべてがある会社だ」という話をしてくれました。4つというのは、1つ目は研究で、特に広告の世界は人間の感情に関する心理学の研究との接点が多いのだと。2つ目はビジネス、3つ目はアートですね。広告は芸術や創作、表現に関わる仕事だと。そして、4つ目がスポーツで、電通は人が夢中になるものすべてに接点のある会社だという話をしてくれて、ここで働くのは面白いのではと感じたのです。 また、自分自身、大学時代は表現に関わる研究をやってきて、心理学にも興味がありましたので、自分の興味のある領域と、社会の中で接面として接合できる面積が一番大きいのは広告の世界だと期待を膨らませて電通に入社を決めました』、「高校は慶応の付属だったのですが、当時から作曲を勉強していましたので藝大に行こうか迷っていました。 実は慶応の付属から慶応大学を卒業し、その後、藝大に入り直した人――作曲家の千住明さんですが――が遠い知り合いだったこともあってアドバイスを求めたところ、「作曲の勉強は、大学ではそんなに学べるものではないよ」と言われたのです。それで、慶応文学部の美学専攻に進みました・・・電通の人が「人間が夢中になるものは4つあって、電通はそのすべてがある会社だ」という話をしてくれました。4つというのは、1つ目は研究で、特に広告の世界は人間の感情に関する心理学の研究との接点が多いのだと。2つ目はビジネス、3つ目はアートですね。広告は芸術や創作、表現に関わる仕事だと。そして、4つ目がスポーツで、電通は人が夢中になるものすべてに接点のある会社だという話をしてくれて、ここで働くのは面白いのではと感じたのです」、「電通はそのすべてがある会社だ」という話をしてくれました」、いくら学生を引き付けるためとはいえ、なかなか味のある話だ。
・『営業局で実績を上げ外資系コンサルに転職 ところが、入社すると、君は新入社員研修の中で人当たりもいいし、しゃべらせると流暢に人と話ができるから、営業向きだと言われ営業局に配属されたのです。一方で、コミュニケーション下手の同期がクリエイティブ局に配属されて、つくづく人生ってわからないものだなと思いましたね(笑)。 ただ、自分には営業という仕事が合っていたのでしょう。結果も出て、営業の仕事が面白くなってのめり込んでいくようになりました。それで、さらに純度を高めたいという思いからボストンコンサルティンググループ(BCG)に転職したのです。ですので、自分のキャリアは、枝づたいに進んでいくうちに、かなり毛色の違うところに来てしまったという感じですね。 堀内:山口さんが営業向きと言われて、営業をやってみたら面白くなったというのは意外ですね。優秀なコンサルのイメージが強いので、電通でもクリエイティブ出身かと思っていました。 山口:意外かと思われるかもしれませんが、コンサルタントとして活躍している人には、実は哲学科の出身者が多いのです。コンサルの世界で化ける人には学部的な傾向があるという仮説があって、理学系では物理学で、人文科学系では哲学科だと。事実、世界的にBCGのオフィスを見てみると、ユニークな立ち位置をつくれている人はこのどちらかであることが多いのです。 例えば、私が入社したときのBCGの日本代表は御立尚資さんで、彼も京都大学文学部でカート・ヴォネガットの研究をしていましたから、まさにど真ん中の人文系で、その後、ハーバードに行っています。まさにピーター・ティールなんかと同じですよね。) 堀内:少し話が変わりますが、大学の先生など日本の識者の多くは、リベラルアーツや教養が大切で、日本のエリートには深みがないと批評するのをよく耳にします。それは事実だと思いますが、では、どうすればいいのかというと、ほとんど具体的な方法論を持っていません。おそらく、大学の先生自身が実社会での経験がないために、大切だというべき論と実感が結びついていないのではないかと思います。 一方、山口さんはご自身の経験も踏まえたうえでそこに切り込んでいて、リベラルアーツや教養的な考え方を、どのようにビジネスの世界に組み入れて現場の仕事で使えるものにしていくかを実践されているように感じます。それは、ご自身で強く意識されている部分なのでしょうか。 山口:直接的な答えになるかわかりませんが、私はビジネススクールへは行かずにコンサルの世界に入ったので、経営学的な知識が欠損していたわけですね。逆に使えるものは何かと言えば自分が学んできた哲学や美学の知識だったので、コンサルとしてアドバイスをする際には、ギリシャ哲学の知識やシェイクスピア劇の有名なせりふなどを使い倒していくしかなかったのです。しかし、これが他のコンサルタントとは、まったく視点や切り口が異なるということで有利に働きました』、「コンサルタントとして活躍している人には、実は哲学科の出身者が多いのです。コンサルの世界で化ける人には学部的な傾向があるという仮説があって、理学系では物理学で、人文科学系では哲学科だと。事実、世界的にBCGのオフィスを見てみると、ユニークな立ち位置をつくれている人はこのどちらかであることが多いのです・・・経営学的な知識が欠損していたわけですね。逆に使えるものは何かと言えば自分が学んできた哲学や美学の知識だったので、コンサルとしてアドバイスをする際には、ギリシャ哲学の知識やシェイクスピア劇の有名なせりふなどを使い倒していくしかなかったのです。しかし、これが他のコンサルタントとは、まったく視点や切り口が異なるということで有利に働きました」、何が幸いするかはわからないものだ。
・『マネジメント層に不可欠な「教養教育」 堀内:まさにリベラルアーツに関する知識をビジネスに生かしてきたわけですね。 山口:そうだと思います。私は20年間外資系のコンサルティング会社に勤め、最後はパートナーまで務めました。ですので、日本のトップクラスの経営者たちと渡り合って、それなりのインパクトも出してきたという自負はあります。そうした自らの経験を踏まえて、歴史や哲学といったリベラルアーツの知識は、ビジネスの世界において強力な洞察を与えてくれるもので、同時に、正しい意思決定を行う際の助けになるものだと思っています。 現在、日本の企業の多くが「リーダーの育成」で試行錯誤している状況にあります。現場の仕事だけを一生懸命に務めた人が、リーダーや経営層になったときにその責を十分に果たせないという問題が頻発しているのです。 欧米の後追いをしている時代は明確なゴールが見えていましたので、本当の意味での意思決定は求められなかったと言えるのかもしれません。しかし、現代のように先の見えない時代には、大局的で正しい意思決定ができるリーダーの存在が不可欠です。企業の人事部がマネジメント研修などで教養やリベラルアーツを学ぶ機会を増やしているのですが、一朝一夕に解決できる問題ではありません。(後編につづく)』、「そうした自らの経験を踏まえて、歴史や哲学といったリベラルアーツの知識は、ビジネスの世界において強力な洞察を与えてくれるもので、同時に、正しい意思決定を行う際の助けになるものだと思っています。 現在、日本の企業の多くが「リーダーの育成」で試行錯誤している状況にあります。現場の仕事だけを一生懸命に務めた人が、リーダーや経営層になったときにその責を十分に果たせないという問題が頻発しているのです。 欧米の後追いをしている時代は明確なゴールが見えていましたので、本当の意味での意思決定は求められなかったと言えるのかもしれません。しかし、現代のように先の見えない時代には、大局的で正しい意思決定ができるリーダーの存在が不可欠です。企業の人事部がマネジメント研修などで教養やリベラルアーツを学ぶ機会を増やしているのですが、一朝一夕に解決できる問題ではありません」、その通りだ。
次に、5月18日付け東洋経済オンラインが掲載した独立研究者・著作者・パブリックスピーカーの山口 周氏と、ライプニッツ代表・多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長の 堀内 勉氏による「なぜ、日本では傑出したリーダーが出にくいのか 日本社会をダメにする「二重の選抜」の非効率」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/751908
・『ビジネスエリートにとってリベラルアーツは必須の知識と言われている。そもそもリベラルアーツとは何か。なぜリベラルアーツが必要なのか。 前回に続き、3万5000部超のベストセラー『読書大全』の著者・堀内勉氏と、リベラルアーツに関する著作が多数あり、講演や企業の研修においてもリベラルアーツの重要性を訴えている山口周氏が、リベラルアーツや教養をテーマに縦横に語り合う。 堀内:最近、JTCと言われるいわゆるジャパニーズ・トラディショナル・カンパニーでは、若いうちに何らかの選抜が行われ、部長や執行役員レベルになるとだんだん教養が求められていきますよね。私が見てきた狭い世界の話かもしれませんが、その前に実務家としての能力や実績での選抜があるので、山口さんのように教養を身に付けてきた人はその手前でほとんどが淘汰されてしまうような気がします。 淘汰されずに残った人は、若い頃は仕事に必死で教養などを学ぶ時間がなかったような人たちばかりで、急に「これからは会社のマネジメントをするのだからリベラルアーツとか教養を学ばなきゃいけないよ」と言われて、もともと勉強してこなかった人たちだけで突如エグゼクティブプログラムに行かされるような仕組みになっていますよね。でも、急に変わりなさいと言われても今から変わるのは難しいと思うのですが。 山口:社会学者である竹内洋氏(関西大学東京センター長)が『教養主義の没落』の中で書いていることですが、1970年代までは教養主義は大学キャンパスの規範的な文化であって、読書による教養主義というのは、人格の形成や社会の発展のために、学生の間で疑いようのない信念として共有されていたと。京都大学の学生が教養書を何冊読んでいるかという当時の調査では、10日に1冊読む学生が半分以上、ほとんど読まないと答えた学生は1%しかいなかったということです』、「1970年代までは教養主義は大学キャンパスの規範的な文化であって、読書による教養主義というのは、人格の形成や社会の発展のために、学生の間で疑いようのない信念として共有されていたと。京都大学の学生が教養書を何冊読んでいるかという当時の調査では、10日に1冊読む学生が半分以上、ほとんど読まないと答えた学生は1%しかいなかったということです」、「10日に1冊読む学生が半分以上」とは驚かされた。
・『80年代以降、大学がレジャーランド化 大学のレジャーランド化」という言葉について、自身でも調べたのですが、『現代用語の基礎知識』のレジャーランドの項目に、「遊び、学生が遊んで過ごす現在の大学」という説明が入ったのが1985年からです。そのあたりから大学や大学生の意識に変化が起こったと考えられます。 これは、日本の経済というのはほっといても良くなるとか、名のある会社に入って、それなりにやっていれば別荘の一軒ぐらいは持てるようになるみたいな、きわめて楽観的な将来見通しを持つようになったという時代の影響を受けていると思われます。 1980年代半ば以降、まったく教養書を読まず、教養的なことを知らないのを恥ずかしいと思う感覚がエリートからなくなっていくわけです。それで、40代後半~50代になって、君たちもそろそろそれなりの立場なのだから教養を身に付けろと言われて、いきなりアリストテレスなどを読まされてすごく苦労することになっています。) 私が常々指摘していることですが、日本には「二重の選抜」という非効率が存在しています。日本では、大学教育も含めて、まずは現場の担当者として優秀な人物を育て、その優秀な人の中からリーダーを選抜するシステムになっています。大学入試共通テストに代表されるペーパーテストが象徴的ですが、日本では実務の処理能力が最も高い人を選ぶというシステムで動いているわけです』、「日本には「二重の選抜」という非効率が存在しています。日本では、大学教育も含めて、まずは現場の担当者として優秀な人物を育て、その優秀な人の中からリーダーを選抜するシステムになっています」、なるほど。「大学がレジャーランド化」とは言い得て妙だ。
・『数十年かけてリーダー候補を選抜する非効率 官僚の世界やかつての都銀などは、優秀な大学を出たエリートたちが、まずは現場で処理能力を競う仕事をさせられて、その中で高いパフォーマンスを挙げた人が管理者になる。そうした競争というか、スクリーニングが学生の頃から社会的に行われているわけです。 スクリーニングで生き残った者がリーダーに抜擢されると、従来のような処理能力の速さだけではダメだと。大局的な視点でものごとを捉え、倫理観のようなものも含めて、大きな判断ができなければならない。あるいは歴史観や、時代感も持たなくてはならないといったことを言われる。つまり、プロ野球選手として優秀な成績を残してそろそろ引退かという人に、今度はラグビー選手として一流を目指すためトレーニングを行うような非効率なことをしているわけです。 ハーバードやオックスフォード、フランスのバカロレアも、二重の選抜は非効率であるという社会の共通認識があるので、はじめからリーダーになる素養のある人を選抜し、その人たちに対して、徹底したリーダー教育を行っているのです。 堀内:そうしたリーダーになるべき人たちを選抜する試験のあり方が、日本の大学の入試とはまったく違ったものになっているということですね。 山口:はい。たとえばアメリカの大学の入試では何よりも論文を重視し、その中でとりわけリーダーシップを体現した経験を問われます。イギリスもフランスも基本的には最初からエリートを育てる考え方なので、エリートに必要なのはリベラルアーツであると。オックスフォードの看板学部のPPE(Philosophy、Politics and Economics)のPの筆頭というのはポリティクスじゃなくてフィロソフィーですし、バカロレアでは理系・文系問わずに哲学が中心科目として課されています。 当然、社会に出れば若いときはある程度担当者の仕事もやらなくてはいけないわけですが、大前提として、リーダーになる素養を持っている人にそういうトレーニングをしているということです。日本社会はなかなかリーダーが現れないと言われますが、構造的な要因としてスクリーニングシステムが二重に働いていることに難しさがあるのではないかと思っています。) 堀内:つまり、日本ではマネジメントができる人の母数を最初の段階でものすごく絞り込んでしまっているので、優れたリーダーを選抜するための母数も少なくなっているわけですね。 私が36歳でゴールドマンに入社するときの部長面接が後にパートナーになった小高功嗣さんで、彼は年齢でいうと私の2つ年上でした。最終面接ではパートナーに会っていただきますと言われてお会いしたのが、今はマネックス証券会長をされている松本大さんです。そのときに松本さんから、「堀内さんの経歴書を拝見しましたが、私、堀内さんの大学の後輩なんです」と言われてびっくりしました。恥ずかしながら、そのときは30歳でゴールドマンのパートナーになっていた松本さんを知らなかったんですね。 ゴールドマンのパートナーと言えば、日本の銀行だったら常務クラスかそれ以上ですから。30歳なんて、当時の日本の銀行だったら完全な平社員で、ひたすら現場仕事の毎日ですよ。松本さんがゴールドマンでものすごい実績を上げたのは確かなのですが、ソロモンブラザーズから転職してわずか4年足らずでマネジメントに向いているということで、一気にパートナーにまで引き上げられるというスピード感にびっくりしました。 山口:松本さんは外れ値だと思いますけれども。 堀内:たしかに松本さんは外れ値かもしれませんが、そのような人を引き上げるシステムが会社の中にあるわけです。松本さんがどんなに優秀でも、日本の銀行や証券会社では30歳で役員になることはシステム上あり得ないですから』、「ゴールドマンに入社するときの部長面接が後にパートナーになった小高功嗣さんで、彼は年齢でいうと私の2つ年上でした。最終面接ではパートナーに会っていただきますと言われてお会いしたのが、今はマネックス証券会長をされている松本大さんです。そのときに松本さんから、「堀内さんの経歴書を拝見しましたが、私、堀内さんの大学の後輩なんです」と言われてびっくりしました。恥ずかしながら、そのときは30歳でゴールドマンのパートナーになっていた松本さんを知らなかったんですね。 ゴールドマンのパートナーと言えば、日本の銀行だったら常務クラスかそれ以上ですから。30歳なんて、当時の日本の銀行だったら完全な平社員で、ひたすら現場仕事の毎日ですよ。松本さんがゴールドマンでものすごい実績を上げたのは確かなのですが、ソロモンブラザーズから転職してわずか4年足らずでマネジメントに向いているということで、一気にパートナーにまで引き上げられるというスピード感にびっくりしました・・・ゴールドマンのパートナーと言えば、日本の銀行だったら常務クラスかそれ以上ですから。30歳なんて、当時の日本の銀行だったら完全な平社員で、ひたすら現場仕事の毎日ですよ」、確かに。「ゴールドマン」や「ソロモンブラザーズ」の昇進の速さは日本の常識では信じ難い。
・『ビジネス社会における教養教育のあり方 少し話を変えて、ビジネス社会における教養教育について、うかがいたいと思います。山口さんには私が主催している上智大学の「知のエグゼクティブサロン」にリソースパーソンとして来ていただきましたが、私自身も日本や海外の一流大学のエグゼクティブ・マネジメント・プログラムを含めて、今までにいくつかのエグゼクティブプログラムを受講してきました。 それらのプログラムでは、著名な学者や経営者、起業家などが講師となって、「君たちは将来会社を背負って立つ人物なので、幅広い思考を身に付けてほしい」といった話がほとんどです。こうしたいわゆる「すごい人」が自分たちの成功体験や研究してきた知の体系について話をして、受講している人は「この人たち本当にすごいな、自分も頑張らないといけないな……でもやっぱり自分には無理かな」と感心して帰るのです。 私は、そのようなプログラムを「ダウンロード型のプログラム」と言っていますけれども、本当にそれでよいのかと思っています。たとえば、大谷翔平の野球の試合を見に行って、大谷がホームランを打つのを見てすごいなとは思っても、自分が大谷になれるとはとても思えないんですよね。一流オーケストラのコンサートもそうですが、本当に感動するのですが、じゃあ自分があんなふうに演奏できるかなんて考えもしない。同じように、すごい講師が出てくるエグゼクティブプログラムでは、話を聞いた瞬間はアドレナリンが大量に出て、「今日はいい話が聞けて充実した時間だった」となるのですが、その先につながらないのです。) そうした経験を踏まえて、上智大学の「知のエグゼクティブサロン」では完全な水平型のプログラムにしたわけです。そこに講師は存在せず、学者や有識者であるリソースパーソンは問題の投げかけをするだけで、その後はリソースパーソンも我々コーディネーターも学びますし、受講生という立場の参加者もビジネスの立場からアウトプットします。 お互いが違う人生を生きてきて、それぞれそれなりに何十年もやってきたのですから、何かしら相手に与えるものがあるはずなのです。それをお互いに話して、お互いに聞く。哲学的な言い方をすれば、ヘーゲルの弁証法的にお互いもう一段高いところに一緒に上りましょう……そういうコンセプトで行っています。 山口さんはいろいろなところで講師をやられていると思いますが、エグゼクティブ向けの教育についてはどのようなスタンスで臨まれていたり、どのようなプログラムを開発されたりしているのか、そのあたりを教えていただけますか』、私も20年ほど前にあるエクゼクティブ向けのプログラムに参加した。
・『即効性を期待しすぎる日本の人事部 山口:エグゼクティブ向け研修とリベラルアーツということで言えば、有名なのはアスペン研究所ですよね。アスペン・セミナーはとてもいい取り組みなので私自身が行きたいと思うほどですが、日本の一般的な取締役や執行役員クラスに対して、いきなり取り組ませても中途半端な形になってなかなか厳しいだろうという気はします。 特に日本の人事部は、効果を数字で見せてほしいとか、次の日からすぐに使えることを教えてほしいという傾向が強い。リベラルアーツを役員に学んでほしいということで、京都大学の中西輝政先生やAI研究者の新井紀子先生に来てもらってディスカッションを行うプログラムを組んだことがありますが、驚くことに、人事は「即役立つことが学べたか」といったアンケートをとっていました。 当たり前ですが、リベラルアーツは次の日からすぐに仕事に活かせる類いのものではありません。結局、この企業からは「参加者の評価が低いので、この1回でやめにしました」と言われ、そもそも何をしたくてリベラルアーツの研修プログラムを始めたのかと叱責した経験があります。 ですから、プログラムの中身以上にバイヤー、つまりは企業側の問題が大きいと思います。したがって、ダウンロード型、アスペンのプログラム、対話型のどれがいいかということで言えば、参加者のレベルやプログラムそのものよりも、それを差配している人事部門の思惑がすごく気になりますね。) そうした経験を踏まえて、上智大学の「知のエグゼクティブサロン」では完全な水平型のプログラムにしたわけです。そこに講師は存在せず、学者や有識者であるリソースパーソンは問題の投げかけをするだけで、その後はリソースパーソンも我々コーディネーターも学びますし、受講生という立場の参加者もビジネスの立場からアウトプットします。 お互いが違う人生を生きてきて、それぞれそれなりに何十年もやってきたのですから、何かしら相手に与えるものがあるはずなのです。それをお互いに話して、お互いに聞く。哲学的な言い方をすれば、ヘーゲルの弁証法的にお互いもう一段高いところに一緒に上りましょう……そういうコンセプトで行っています。 山口さんはいろいろなところで講師をやられていると思いますが、エグゼクティブ向けの教育についてはどのようなスタンスで臨まれていたり、どのようなプログラムを開発されたりしているのか、そのあたりを教えていただけますか』、「即効性を期待しすぎる日本の人事部」、私も失望した。
・『即効性を期待しすぎる日本の人事部 山口:エグゼクティブ向け研修とリベラルアーツということで言えば、有名なのはアスペン研究所ですよね。アスペン・セミナーはとてもいい取り組みなので私自身が行きたいと思うほどですが、日本の一般的な取締役や執行役員クラスに対して、いきなり取り組ませても中途半端な形になってなかなか厳しいだろうという気はします。 特に日本の人事部は、効果を数字で見せてほしいとか、次の日からすぐに使えることを教えてほしいという傾向が強い。リベラルアーツを役員に学んでほしいということで、京都大学の中西輝政先生やAI研究者の新井紀子先生に来てもらってディスカッションを行うプログラムを組んだことがありますが、驚くことに、人事は「即役立つことが学べたか」といったアンケートをとっていました。 当たり前ですが、リベラルアーツは次の日からすぐに仕事に活かせる類いのものではありません。結局、この企業からは「参加者の評価が低いので、この1回でやめにしました」と言われ、そもそも何をしたくてリベラルアーツの研修プログラムを始めたのかと叱責した経験があります。 ですから、プログラムの中身以上にバイヤー、つまりは企業側の問題が大きいと思います。したがって、ダウンロード型、アスペンのプログラム、対話型のどれがいいかということで言えば、参加者のレベルやプログラムそのものよりも、それを差配している人事部門の思惑がすごく気になりますね』、「参加者のレベルやプログラムそのものよりも、それを差配している人事部門の思惑がすごく気になりますね」、その通りだ。
先ずは、本年5月15日付け東洋経済オンラインが掲載した独立研究者・著作者・パブリックスピーカーの山口 周氏とライプニッツ代表で 多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長の堀内 勉 氏による「「リベラルアーツ」を軽視しすぎた日本社会の代償 「リーダーシップ」と「教養教育」の不可分な関係」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/751904
・『ビジネスエリートにとってリベラルアーツは必須の知識と言われている。そもそもリベラルアーツとは何か。なぜリベラルアーツが必要なのか。 3万5000部超のベストセラー『読書大全』の著者・堀内勉氏と、リベラルアーツに関する著作が多数あり、講演や企業の研修においてリベラルアーツの重要性を訴えている山口周氏が、リベラルアーツや教養をテーマに縦横に語り合う。 堀内:現在、東洋経済で「教養」をテーマにした本の執筆を進めていまして、それで、「リベラルアーツ」をテーマとした講演や著作が多数ある山口さんに、一度、話をお聞きしたいと思っていました。 山口さんの著書に『自由になるための技術 リベラルアーツ』がありますが、最初に「リベラルアーツとは何か」について、お話しいただけますでしょうか』、「山口さんの著書に『自由になるための技術 リベラルアーツ』がありますが、最初に「リベラルアーツとは何か」について、お話しいただけますでしょうか」、なるほど。
・『リベラルアーツとは何か 山口:わかりました。教養とリベラルアーツを一対一対応させてよいのかというところはありますが、リベラルアーツということでは、その狭義の定義は「自由市民のためのアート」ということだと思います。古代ギリシャ時代、労働は奴隷身分が行うことでしたので、自由市民は多くの時間を持て余していたわけです。なので、その時間を有意義に楽しむためには教養が必要ということで、それがリベラルアーツになったと言われています。 上記の本のなかで、京都大学名誉教授の中西輝政先生との対談があって、中西先生いわくリベラルアーツの対義語は何かというと「ディシプリナリー」であると。ディシプリンには「境界」という意味があって、学問はだいたいディシプリンで、つまり、限られた範囲の中で考え研究するものだというわけです。 一方で、「リベラルアーツ」は、そのディシプリンに対してリベラルであるということで、現代のように専門性が細分化・タコツボ化してきて、全体を捉えることが難しくなってきているという時代においては、リベラルアーツは領域を横断しながら全体をつかむための一つの知性でとても重要なものだと。中西先生はそのようにおっしゃっています。 それに対して、教養というと、また少し違うニュアンスがそこに入ってきて、たとえばトーマス・マンの『魔の山』が典型ですが、いわゆる教養小説と言われるものがあります。ドイツ語ではビルドゥングスロマン(Bildungsroman)と言いますが、その言葉には人格を陶冶するというようなニュアンスが入ってきます。 『魔の山』は大学出の若い主人公がサナトリウムに入って、そこで過ごす7年間を描いた物語で、その主人公が人間として成熟していくということを「ビルドゥングする」と言っています。つまり、教養という言葉には、人間として深い洞察力や倫理感、また新しい物事を正しく判断するというための思考力など、そういうものをビルドゥング(構築)していくために必要な知識やたしなみ、作法というニュアンスが含まれるのです。) 堀内:まさに日本の旧制高校の流れですね。戦前はドイツ的な教養主義の影響が大きくて、ドイツのカントやヘーゲルの哲学書を読んで人間として自己の内面を耕し内省することが「教養」と言われていました。 それが、戦後アメリカの占領下になって、アメリカの価値観が広がっていくのにあわせて、教養主義からリベラルアーツへと傾斜していった。しかしながら、日本では両方の流れがまだ生き残っていている、そういう感じではないかと思っています』、「古代ギリシャ時代、労働は奴隷身分が行うことでしたので、自由市民は多くの時間を持て余していたわけです。なので、その時間を有意義に楽しむためには教養が必要ということで、それがリベラルアーツになったと言われています・・・学問はだいたいディシプリンで、つまり、限られた範囲の中で考え研究するものだというわけです。 一方で、「リベラルアーツ」は、そのディシプリンに対してリベラルであるということで、現代のように専門性が細分化・タコツボ化してきて、全体を捉えることが難しくなってきているという時代においては、リベラルアーツは領域を横断しながら全体をつかむための一つの知性でとても重要なものだ・・・ドイツ語ではビルドゥングスロマン(Bildungsroman)と言いますが、その言葉には人格を陶冶するというようなニュアンスが入ってきます。 『魔の山』は大学出の若い主人公がサナトリウムに入って、そこで過ごす7年間を描いた物語で、その主人公が人間として成熟していくということを「ビルドゥングする」と言っています。つまり、教養という言葉には、人間として深い洞察力や倫理感、また新しい物事を正しく判断するというための思考力など、そういうものをビルドゥング(構築)していくために必要な知識やたしなみ、作法というニュアンスが含まれるのです・・・戦前はドイツ的な教養主義の影響が大きくて、ドイツのカントやヘーゲルの哲学書を読んで人間として自己の内面を耕し内省することが「教養」と言われていました。 それが、戦後アメリカの占領下になって、アメリカの価値観が広がっていくのにあわせて、教養主義からリベラルアーツへと傾斜していった。しかしながら、日本では両方の流れがまだ生き残っていている、そういう感じではないかと思っています」、なるほど。
・『ハーバード大学に専門系の学部は存在しない 山口:そうですね。トーマス・マンもヨーロッパの人で、一般にリベラルアーツというとヨーロッパで重んじられていて、アメリカはその反対で実学志向というイメージがあるかと思いますが、私の感覚ではそうではありません。 アメリカの大学ランキングを見ると、ほとんどの年でトップになるのはハーバード大学ですが、そのハーバード大学に法学部や経営学部など専門系の学部はありません。学部ではリベラルアーツ学部しかなく文理融合的な知識を学ばせています。 元々アイビーリーグに属する大学の起源の多くは牧師さんを育てるための学校で、18世紀頃の牧師さんは、社会のありとあらゆることを行っていました。医師でもあり学校の先生でもあり、また政治家のような仕事もしていましたので、社会のあらゆることを知っていなければならなかったのです。 最近、日本の一部の識者が「実学志向のアメリカに倣って、文学部のような人文科学系の学部は廃止してもよい」と言っているようですが、無知とは本当に恐ろしいことで、こうした事実をよく知らないんですね。彼らに日本でよく知られているハーバードのビジネススクールやケネディスクール、メディカルスクールなどはみな大学院ですよと言うと、絶句してしまうわけです。 アメリカでは社会のリーダーになる人は専門バカではいけない、社会のあらゆることにある程度は通じていることが社会の常識になっています。古代ギリシャの時代から「アルス・テクニケ」、つまり専門的な技や知識を磨くことは奴隷の仕事であって、リーダーがするべきことではないと考えられてきたのです。 リーダーは何をするかというと、ハンナ・アーレントの言葉を借りれば「活動」をする、つまり政治的な活動を行うのだと。それが社会のリーダーであり、自由市民が従事する仕事だと考える。そして、そういう人たちは大きな判断、社会に影響のある判断をすることになるので、専門バカでは困る。今の言葉で言うと「システム思考」的な、それをつかさどる基礎的な能力を養うために教養が必要になってくるというわけです。 ハーバード大学だけではなく、PPE(Philosophy、Politics and Economics)を重んじるオックスフォード大学なども同様の考え方だと思います。やはり、社会のリーダーになる人というのは、白黒つかない、非常に多方面の利益というものを考えるものだと。ホッブズの言葉を借りるならば、「社会全体の幸福の最大化」ということを考える人でなければならない。そのような人になるには、多方面にわたる教養が必要だという考えですね。) 堀内:アメリカには、ハーバード大学のような総合大学とは別に、いわゆるリベラルアーツカレッジがありますね。私が懇意にしているグレン・フクシマさんがカリフォルニアのDeep Springs College、先日対談させていただいた斎藤幸平さんがコネチカットのWesleyan Universityといったリベラルアーツカレッジに進学していますが、アメリカには名門と言われるリベラルアーツカレッジがいくつもありますね。 また、アイビーリーグでは、新入生はとにかく寮に入らないといけない所が多い。寮があって、そこに寮監(りょうかん)がいて、チューターがいて、彼ら以外にもさまざまな人が寮にやって来て、毎晩議論をするといった活発な交流がおこなわれています。 山口:そうですね。まさにトーマス・マンの『魔の山』の世界ですよね。 堀内:その伝統はオックスフォード大学やケンブリッジ大学といったイギリスの大学から来ているのだと思いますが、オックスフォード大学では、39のカレッジ(学寮)があって、カレッジは必ず寮と一体になっています。そもそも大学に入学するためには、まずこうしたカレッジに入ることが必要になります』、「社会のリーダーになる人は専門バカではいけない、社会のあらゆることにある程度は通じていることが社会の常識になっています。古代ギリシャの時代から「アルス・テクニケ」、つまり専門的な技や知識を磨くことは奴隷の仕事であって、リーダーがするべきことではないと考えられてきたのです。 リーダーは何をするかというと、ハンナ・アーレントの言葉を借りれば「活動」をする、つまり政治的な活動を行うのだと。それが社会のリーダーであり、自由市民が従事する仕事だと考える。そして、そういう人たちは大きな判断、社会に影響のある判断をすることになるので、専門バカでは困る。今の言葉で言うと「システム思考」的な、それをつかさどる基礎的な能力を養うために教養が必要になってくるというわけです・・・ハーバード大学だけではなく、PPE(Philosophy、Politics and Economics)を重んじるオックスフォード大学なども同様の考え方だと思います。やはり、社会のリーダーになる人というのは、白黒つかない、非常に多方面の利益というものを考えるものだと。ホッブズの言葉を借りるならば、「社会全体の幸福の最大化」ということを考える人でなければならない。そのような人になるには、多方面にわたる教養が必要だという考えですね・・・オックスフォード大学では、39のカレッジ(学寮)があって、カレッジは必ず寮と一体になっています。そもそも大学に入学するためには、まずこうしたカレッジに入ることが必要になります」、なるほど。
・『日本とは異なる欧米エリートのキャリア形成 また、私がゴールドマン・サックスにいたときの経験をお話しすると、インベストメントバンカーには学歴の高い人が多いわけですが、実はアメリカの大学での専攻が歴史や哲学など、経済や経営はまったく勉強していませんという人が多くて驚いた記憶があります。 とにかく最初はリベラルアーツ的なものを学ぶ。そして、次のステージとして、金融で成功したいと思ったら、学部卒で数年働いてある程度の資金を貯めてから、ビジネススクールなどで学ぶ。そうして、20代の後半くらいで専門的・実務的な知識を身に付けたビジネスマンとして、その分野で階段を駆け上がっていく。キャリア形成はそんな感じになっていますね。 山口:まさに、ピーター・ティールなどが典型ですね。彼は大学の学部は哲学科で、その後、大学院はロースクールで学んでいます。スラック(Slack)の創業者のスチュワート・バターフィールドも哲学科の出身です。シリコンバレーのハイテク業界というと、「STEM」という印象がありますけれども、実はそうでもないんですね。 クリスチャン・マスビアウが『センスメイキング』という本で、若い時期の求職においては、STEMの学位は有利に働くかもしれないが、経営者の経歴を見てみると、STEMではなく人文科学系の学位を取っている人のほうが多いというデータがあると書いています。この話をするとSTEM系の人は猛烈にかみついてくるので怖いんですけれども(笑)。 堀内:金融の世界では、「イングランド銀行を潰した男」の異名を取るクオンタム・ファンドで大成功したジョージ・ソロスは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で哲学の学士と修士を取っています。ジョージ・ソロスと一緒にクオンタム・ファンドを設立したジム・ロジャーズもイエール大学で歴史、オックスフォード大学で哲学の学士を取っています。山口さんがおっしゃるように、日本では早い時期に専門を決めてしまう弊害があるのかもしれません。学生も何を勉強するのかをよく意識しないで大学を決めているので、大学で学ぶことの意義自体がかなり曖昧になってしまっているのだと思います。) 堀内:キャリア形成の話をすると、山口さんは慶応を卒業されて電通に入社されましたが、その前の学歴が日本的ではないと言いますか、とてもユニークですよね。その辺りのお話をお聞かせいただけませんか。 山口:その辺りの話は実はあまり戦略的ではなくて、高校は慶応の付属だったのですが、当時から作曲を勉強していましたので藝大に行こうか迷っていました。 実は慶応の付属から慶応大学を卒業し、その後、藝大に入り直した人――作曲家の千住明さんですが――が遠い知り合いだったこともあってアドバイスを求めたところ、「作曲の勉強は、大学ではそんなに学べるものではないよ」と言われたのです。それで、慶応文学部の美学専攻に進みました。 就職という段になって、どの道に進むかとなったとき、父が興銀に務めていて、当時の興銀は割と身内に甘い会社で「興銀に来るか」と言われたのですが、金融の世界には興味が持てませんでした。それを父に伝えると、「大学時代は音楽を作ってばかりで協調性もないし、おまえみたいな変わり者は電通のような会社が向いているんじゃないか」と言われ、それがきっかけで電通を受けることにしました。 そのなかで、電通の人が「人間が夢中になるものは4つあって、電通はそのすべてがある会社だ」という話をしてくれました。4つというのは、1つ目は研究で、特に広告の世界は人間の感情に関する心理学の研究との接点が多いのだと。2つ目はビジネス、3つ目はアートですね。広告は芸術や創作、表現に関わる仕事だと。そして、4つ目がスポーツで、電通は人が夢中になるものすべてに接点のある会社だという話をしてくれて、ここで働くのは面白いのではと感じたのです。 また、自分自身、大学時代は表現に関わる研究をやってきて、心理学にも興味がありましたので、自分の興味のある領域と、社会の中で接面として接合できる面積が一番大きいのは広告の世界だと期待を膨らませて電通に入社を決めました』、「高校は慶応の付属だったのですが、当時から作曲を勉強していましたので藝大に行こうか迷っていました。 実は慶応の付属から慶応大学を卒業し、その後、藝大に入り直した人――作曲家の千住明さんですが――が遠い知り合いだったこともあってアドバイスを求めたところ、「作曲の勉強は、大学ではそんなに学べるものではないよ」と言われたのです。それで、慶応文学部の美学専攻に進みました・・・電通の人が「人間が夢中になるものは4つあって、電通はそのすべてがある会社だ」という話をしてくれました。4つというのは、1つ目は研究で、特に広告の世界は人間の感情に関する心理学の研究との接点が多いのだと。2つ目はビジネス、3つ目はアートですね。広告は芸術や創作、表現に関わる仕事だと。そして、4つ目がスポーツで、電通は人が夢中になるものすべてに接点のある会社だという話をしてくれて、ここで働くのは面白いのではと感じたのです」、「電通はそのすべてがある会社だ」という話をしてくれました」、いくら学生を引き付けるためとはいえ、なかなか味のある話だ。
・『営業局で実績を上げ外資系コンサルに転職 ところが、入社すると、君は新入社員研修の中で人当たりもいいし、しゃべらせると流暢に人と話ができるから、営業向きだと言われ営業局に配属されたのです。一方で、コミュニケーション下手の同期がクリエイティブ局に配属されて、つくづく人生ってわからないものだなと思いましたね(笑)。 ただ、自分には営業という仕事が合っていたのでしょう。結果も出て、営業の仕事が面白くなってのめり込んでいくようになりました。それで、さらに純度を高めたいという思いからボストンコンサルティンググループ(BCG)に転職したのです。ですので、自分のキャリアは、枝づたいに進んでいくうちに、かなり毛色の違うところに来てしまったという感じですね。 堀内:山口さんが営業向きと言われて、営業をやってみたら面白くなったというのは意外ですね。優秀なコンサルのイメージが強いので、電通でもクリエイティブ出身かと思っていました。 山口:意外かと思われるかもしれませんが、コンサルタントとして活躍している人には、実は哲学科の出身者が多いのです。コンサルの世界で化ける人には学部的な傾向があるという仮説があって、理学系では物理学で、人文科学系では哲学科だと。事実、世界的にBCGのオフィスを見てみると、ユニークな立ち位置をつくれている人はこのどちらかであることが多いのです。 例えば、私が入社したときのBCGの日本代表は御立尚資さんで、彼も京都大学文学部でカート・ヴォネガットの研究をしていましたから、まさにど真ん中の人文系で、その後、ハーバードに行っています。まさにピーター・ティールなんかと同じですよね。) 堀内:少し話が変わりますが、大学の先生など日本の識者の多くは、リベラルアーツや教養が大切で、日本のエリートには深みがないと批評するのをよく耳にします。それは事実だと思いますが、では、どうすればいいのかというと、ほとんど具体的な方法論を持っていません。おそらく、大学の先生自身が実社会での経験がないために、大切だというべき論と実感が結びついていないのではないかと思います。 一方、山口さんはご自身の経験も踏まえたうえでそこに切り込んでいて、リベラルアーツや教養的な考え方を、どのようにビジネスの世界に組み入れて現場の仕事で使えるものにしていくかを実践されているように感じます。それは、ご自身で強く意識されている部分なのでしょうか。 山口:直接的な答えになるかわかりませんが、私はビジネススクールへは行かずにコンサルの世界に入ったので、経営学的な知識が欠損していたわけですね。逆に使えるものは何かと言えば自分が学んできた哲学や美学の知識だったので、コンサルとしてアドバイスをする際には、ギリシャ哲学の知識やシェイクスピア劇の有名なせりふなどを使い倒していくしかなかったのです。しかし、これが他のコンサルタントとは、まったく視点や切り口が異なるということで有利に働きました』、「コンサルタントとして活躍している人には、実は哲学科の出身者が多いのです。コンサルの世界で化ける人には学部的な傾向があるという仮説があって、理学系では物理学で、人文科学系では哲学科だと。事実、世界的にBCGのオフィスを見てみると、ユニークな立ち位置をつくれている人はこのどちらかであることが多いのです・・・経営学的な知識が欠損していたわけですね。逆に使えるものは何かと言えば自分が学んできた哲学や美学の知識だったので、コンサルとしてアドバイスをする際には、ギリシャ哲学の知識やシェイクスピア劇の有名なせりふなどを使い倒していくしかなかったのです。しかし、これが他のコンサルタントとは、まったく視点や切り口が異なるということで有利に働きました」、何が幸いするかはわからないものだ。
・『マネジメント層に不可欠な「教養教育」 堀内:まさにリベラルアーツに関する知識をビジネスに生かしてきたわけですね。 山口:そうだと思います。私は20年間外資系のコンサルティング会社に勤め、最後はパートナーまで務めました。ですので、日本のトップクラスの経営者たちと渡り合って、それなりのインパクトも出してきたという自負はあります。そうした自らの経験を踏まえて、歴史や哲学といったリベラルアーツの知識は、ビジネスの世界において強力な洞察を与えてくれるもので、同時に、正しい意思決定を行う際の助けになるものだと思っています。 現在、日本の企業の多くが「リーダーの育成」で試行錯誤している状況にあります。現場の仕事だけを一生懸命に務めた人が、リーダーや経営層になったときにその責を十分に果たせないという問題が頻発しているのです。 欧米の後追いをしている時代は明確なゴールが見えていましたので、本当の意味での意思決定は求められなかったと言えるのかもしれません。しかし、現代のように先の見えない時代には、大局的で正しい意思決定ができるリーダーの存在が不可欠です。企業の人事部がマネジメント研修などで教養やリベラルアーツを学ぶ機会を増やしているのですが、一朝一夕に解決できる問題ではありません。(後編につづく)』、「そうした自らの経験を踏まえて、歴史や哲学といったリベラルアーツの知識は、ビジネスの世界において強力な洞察を与えてくれるもので、同時に、正しい意思決定を行う際の助けになるものだと思っています。 現在、日本の企業の多くが「リーダーの育成」で試行錯誤している状況にあります。現場の仕事だけを一生懸命に務めた人が、リーダーや経営層になったときにその責を十分に果たせないという問題が頻発しているのです。 欧米の後追いをしている時代は明確なゴールが見えていましたので、本当の意味での意思決定は求められなかったと言えるのかもしれません。しかし、現代のように先の見えない時代には、大局的で正しい意思決定ができるリーダーの存在が不可欠です。企業の人事部がマネジメント研修などで教養やリベラルアーツを学ぶ機会を増やしているのですが、一朝一夕に解決できる問題ではありません」、その通りだ。
次に、5月18日付け東洋経済オンラインが掲載した独立研究者・著作者・パブリックスピーカーの山口 周氏と、ライプニッツ代表・多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長の 堀内 勉氏による「なぜ、日本では傑出したリーダーが出にくいのか 日本社会をダメにする「二重の選抜」の非効率」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/751908
・『ビジネスエリートにとってリベラルアーツは必須の知識と言われている。そもそもリベラルアーツとは何か。なぜリベラルアーツが必要なのか。 前回に続き、3万5000部超のベストセラー『読書大全』の著者・堀内勉氏と、リベラルアーツに関する著作が多数あり、講演や企業の研修においてもリベラルアーツの重要性を訴えている山口周氏が、リベラルアーツや教養をテーマに縦横に語り合う。 堀内:最近、JTCと言われるいわゆるジャパニーズ・トラディショナル・カンパニーでは、若いうちに何らかの選抜が行われ、部長や執行役員レベルになるとだんだん教養が求められていきますよね。私が見てきた狭い世界の話かもしれませんが、その前に実務家としての能力や実績での選抜があるので、山口さんのように教養を身に付けてきた人はその手前でほとんどが淘汰されてしまうような気がします。 淘汰されずに残った人は、若い頃は仕事に必死で教養などを学ぶ時間がなかったような人たちばかりで、急に「これからは会社のマネジメントをするのだからリベラルアーツとか教養を学ばなきゃいけないよ」と言われて、もともと勉強してこなかった人たちだけで突如エグゼクティブプログラムに行かされるような仕組みになっていますよね。でも、急に変わりなさいと言われても今から変わるのは難しいと思うのですが。 山口:社会学者である竹内洋氏(関西大学東京センター長)が『教養主義の没落』の中で書いていることですが、1970年代までは教養主義は大学キャンパスの規範的な文化であって、読書による教養主義というのは、人格の形成や社会の発展のために、学生の間で疑いようのない信念として共有されていたと。京都大学の学生が教養書を何冊読んでいるかという当時の調査では、10日に1冊読む学生が半分以上、ほとんど読まないと答えた学生は1%しかいなかったということです』、「1970年代までは教養主義は大学キャンパスの規範的な文化であって、読書による教養主義というのは、人格の形成や社会の発展のために、学生の間で疑いようのない信念として共有されていたと。京都大学の学生が教養書を何冊読んでいるかという当時の調査では、10日に1冊読む学生が半分以上、ほとんど読まないと答えた学生は1%しかいなかったということです」、「10日に1冊読む学生が半分以上」とは驚かされた。
・『80年代以降、大学がレジャーランド化 大学のレジャーランド化」という言葉について、自身でも調べたのですが、『現代用語の基礎知識』のレジャーランドの項目に、「遊び、学生が遊んで過ごす現在の大学」という説明が入ったのが1985年からです。そのあたりから大学や大学生の意識に変化が起こったと考えられます。 これは、日本の経済というのはほっといても良くなるとか、名のある会社に入って、それなりにやっていれば別荘の一軒ぐらいは持てるようになるみたいな、きわめて楽観的な将来見通しを持つようになったという時代の影響を受けていると思われます。 1980年代半ば以降、まったく教養書を読まず、教養的なことを知らないのを恥ずかしいと思う感覚がエリートからなくなっていくわけです。それで、40代後半~50代になって、君たちもそろそろそれなりの立場なのだから教養を身に付けろと言われて、いきなりアリストテレスなどを読まされてすごく苦労することになっています。) 私が常々指摘していることですが、日本には「二重の選抜」という非効率が存在しています。日本では、大学教育も含めて、まずは現場の担当者として優秀な人物を育て、その優秀な人の中からリーダーを選抜するシステムになっています。大学入試共通テストに代表されるペーパーテストが象徴的ですが、日本では実務の処理能力が最も高い人を選ぶというシステムで動いているわけです』、「日本には「二重の選抜」という非効率が存在しています。日本では、大学教育も含めて、まずは現場の担当者として優秀な人物を育て、その優秀な人の中からリーダーを選抜するシステムになっています」、なるほど。「大学がレジャーランド化」とは言い得て妙だ。
・『数十年かけてリーダー候補を選抜する非効率 官僚の世界やかつての都銀などは、優秀な大学を出たエリートたちが、まずは現場で処理能力を競う仕事をさせられて、その中で高いパフォーマンスを挙げた人が管理者になる。そうした競争というか、スクリーニングが学生の頃から社会的に行われているわけです。 スクリーニングで生き残った者がリーダーに抜擢されると、従来のような処理能力の速さだけではダメだと。大局的な視点でものごとを捉え、倫理観のようなものも含めて、大きな判断ができなければならない。あるいは歴史観や、時代感も持たなくてはならないといったことを言われる。つまり、プロ野球選手として優秀な成績を残してそろそろ引退かという人に、今度はラグビー選手として一流を目指すためトレーニングを行うような非効率なことをしているわけです。 ハーバードやオックスフォード、フランスのバカロレアも、二重の選抜は非効率であるという社会の共通認識があるので、はじめからリーダーになる素養のある人を選抜し、その人たちに対して、徹底したリーダー教育を行っているのです。 堀内:そうしたリーダーになるべき人たちを選抜する試験のあり方が、日本の大学の入試とはまったく違ったものになっているということですね。 山口:はい。たとえばアメリカの大学の入試では何よりも論文を重視し、その中でとりわけリーダーシップを体現した経験を問われます。イギリスもフランスも基本的には最初からエリートを育てる考え方なので、エリートに必要なのはリベラルアーツであると。オックスフォードの看板学部のPPE(Philosophy、Politics and Economics)のPの筆頭というのはポリティクスじゃなくてフィロソフィーですし、バカロレアでは理系・文系問わずに哲学が中心科目として課されています。 当然、社会に出れば若いときはある程度担当者の仕事もやらなくてはいけないわけですが、大前提として、リーダーになる素養を持っている人にそういうトレーニングをしているということです。日本社会はなかなかリーダーが現れないと言われますが、構造的な要因としてスクリーニングシステムが二重に働いていることに難しさがあるのではないかと思っています。) 堀内:つまり、日本ではマネジメントができる人の母数を最初の段階でものすごく絞り込んでしまっているので、優れたリーダーを選抜するための母数も少なくなっているわけですね。 私が36歳でゴールドマンに入社するときの部長面接が後にパートナーになった小高功嗣さんで、彼は年齢でいうと私の2つ年上でした。最終面接ではパートナーに会っていただきますと言われてお会いしたのが、今はマネックス証券会長をされている松本大さんです。そのときに松本さんから、「堀内さんの経歴書を拝見しましたが、私、堀内さんの大学の後輩なんです」と言われてびっくりしました。恥ずかしながら、そのときは30歳でゴールドマンのパートナーになっていた松本さんを知らなかったんですね。 ゴールドマンのパートナーと言えば、日本の銀行だったら常務クラスかそれ以上ですから。30歳なんて、当時の日本の銀行だったら完全な平社員で、ひたすら現場仕事の毎日ですよ。松本さんがゴールドマンでものすごい実績を上げたのは確かなのですが、ソロモンブラザーズから転職してわずか4年足らずでマネジメントに向いているということで、一気にパートナーにまで引き上げられるというスピード感にびっくりしました。 山口:松本さんは外れ値だと思いますけれども。 堀内:たしかに松本さんは外れ値かもしれませんが、そのような人を引き上げるシステムが会社の中にあるわけです。松本さんがどんなに優秀でも、日本の銀行や証券会社では30歳で役員になることはシステム上あり得ないですから』、「ゴールドマンに入社するときの部長面接が後にパートナーになった小高功嗣さんで、彼は年齢でいうと私の2つ年上でした。最終面接ではパートナーに会っていただきますと言われてお会いしたのが、今はマネックス証券会長をされている松本大さんです。そのときに松本さんから、「堀内さんの経歴書を拝見しましたが、私、堀内さんの大学の後輩なんです」と言われてびっくりしました。恥ずかしながら、そのときは30歳でゴールドマンのパートナーになっていた松本さんを知らなかったんですね。 ゴールドマンのパートナーと言えば、日本の銀行だったら常務クラスかそれ以上ですから。30歳なんて、当時の日本の銀行だったら完全な平社員で、ひたすら現場仕事の毎日ですよ。松本さんがゴールドマンでものすごい実績を上げたのは確かなのですが、ソロモンブラザーズから転職してわずか4年足らずでマネジメントに向いているということで、一気にパートナーにまで引き上げられるというスピード感にびっくりしました・・・ゴールドマンのパートナーと言えば、日本の銀行だったら常務クラスかそれ以上ですから。30歳なんて、当時の日本の銀行だったら完全な平社員で、ひたすら現場仕事の毎日ですよ」、確かに。「ゴールドマン」や「ソロモンブラザーズ」の昇進の速さは日本の常識では信じ難い。
・『ビジネス社会における教養教育のあり方 少し話を変えて、ビジネス社会における教養教育について、うかがいたいと思います。山口さんには私が主催している上智大学の「知のエグゼクティブサロン」にリソースパーソンとして来ていただきましたが、私自身も日本や海外の一流大学のエグゼクティブ・マネジメント・プログラムを含めて、今までにいくつかのエグゼクティブプログラムを受講してきました。 それらのプログラムでは、著名な学者や経営者、起業家などが講師となって、「君たちは将来会社を背負って立つ人物なので、幅広い思考を身に付けてほしい」といった話がほとんどです。こうしたいわゆる「すごい人」が自分たちの成功体験や研究してきた知の体系について話をして、受講している人は「この人たち本当にすごいな、自分も頑張らないといけないな……でもやっぱり自分には無理かな」と感心して帰るのです。 私は、そのようなプログラムを「ダウンロード型のプログラム」と言っていますけれども、本当にそれでよいのかと思っています。たとえば、大谷翔平の野球の試合を見に行って、大谷がホームランを打つのを見てすごいなとは思っても、自分が大谷になれるとはとても思えないんですよね。一流オーケストラのコンサートもそうですが、本当に感動するのですが、じゃあ自分があんなふうに演奏できるかなんて考えもしない。同じように、すごい講師が出てくるエグゼクティブプログラムでは、話を聞いた瞬間はアドレナリンが大量に出て、「今日はいい話が聞けて充実した時間だった」となるのですが、その先につながらないのです。) そうした経験を踏まえて、上智大学の「知のエグゼクティブサロン」では完全な水平型のプログラムにしたわけです。そこに講師は存在せず、学者や有識者であるリソースパーソンは問題の投げかけをするだけで、その後はリソースパーソンも我々コーディネーターも学びますし、受講生という立場の参加者もビジネスの立場からアウトプットします。 お互いが違う人生を生きてきて、それぞれそれなりに何十年もやってきたのですから、何かしら相手に与えるものがあるはずなのです。それをお互いに話して、お互いに聞く。哲学的な言い方をすれば、ヘーゲルの弁証法的にお互いもう一段高いところに一緒に上りましょう……そういうコンセプトで行っています。 山口さんはいろいろなところで講師をやられていると思いますが、エグゼクティブ向けの教育についてはどのようなスタンスで臨まれていたり、どのようなプログラムを開発されたりしているのか、そのあたりを教えていただけますか』、私も20年ほど前にあるエクゼクティブ向けのプログラムに参加した。
・『即効性を期待しすぎる日本の人事部 山口:エグゼクティブ向け研修とリベラルアーツということで言えば、有名なのはアスペン研究所ですよね。アスペン・セミナーはとてもいい取り組みなので私自身が行きたいと思うほどですが、日本の一般的な取締役や執行役員クラスに対して、いきなり取り組ませても中途半端な形になってなかなか厳しいだろうという気はします。 特に日本の人事部は、効果を数字で見せてほしいとか、次の日からすぐに使えることを教えてほしいという傾向が強い。リベラルアーツを役員に学んでほしいということで、京都大学の中西輝政先生やAI研究者の新井紀子先生に来てもらってディスカッションを行うプログラムを組んだことがありますが、驚くことに、人事は「即役立つことが学べたか」といったアンケートをとっていました。 当たり前ですが、リベラルアーツは次の日からすぐに仕事に活かせる類いのものではありません。結局、この企業からは「参加者の評価が低いので、この1回でやめにしました」と言われ、そもそも何をしたくてリベラルアーツの研修プログラムを始めたのかと叱責した経験があります。 ですから、プログラムの中身以上にバイヤー、つまりは企業側の問題が大きいと思います。したがって、ダウンロード型、アスペンのプログラム、対話型のどれがいいかということで言えば、参加者のレベルやプログラムそのものよりも、それを差配している人事部門の思惑がすごく気になりますね。) そうした経験を踏まえて、上智大学の「知のエグゼクティブサロン」では完全な水平型のプログラムにしたわけです。そこに講師は存在せず、学者や有識者であるリソースパーソンは問題の投げかけをするだけで、その後はリソースパーソンも我々コーディネーターも学びますし、受講生という立場の参加者もビジネスの立場からアウトプットします。 お互いが違う人生を生きてきて、それぞれそれなりに何十年もやってきたのですから、何かしら相手に与えるものがあるはずなのです。それをお互いに話して、お互いに聞く。哲学的な言い方をすれば、ヘーゲルの弁証法的にお互いもう一段高いところに一緒に上りましょう……そういうコンセプトで行っています。 山口さんはいろいろなところで講師をやられていると思いますが、エグゼクティブ向けの教育についてはどのようなスタンスで臨まれていたり、どのようなプログラムを開発されたりしているのか、そのあたりを教えていただけますか』、「即効性を期待しすぎる日本の人事部」、私も失望した。
・『即効性を期待しすぎる日本の人事部 山口:エグゼクティブ向け研修とリベラルアーツということで言えば、有名なのはアスペン研究所ですよね。アスペン・セミナーはとてもいい取り組みなので私自身が行きたいと思うほどですが、日本の一般的な取締役や執行役員クラスに対して、いきなり取り組ませても中途半端な形になってなかなか厳しいだろうという気はします。 特に日本の人事部は、効果を数字で見せてほしいとか、次の日からすぐに使えることを教えてほしいという傾向が強い。リベラルアーツを役員に学んでほしいということで、京都大学の中西輝政先生やAI研究者の新井紀子先生に来てもらってディスカッションを行うプログラムを組んだことがありますが、驚くことに、人事は「即役立つことが学べたか」といったアンケートをとっていました。 当たり前ですが、リベラルアーツは次の日からすぐに仕事に活かせる類いのものではありません。結局、この企業からは「参加者の評価が低いので、この1回でやめにしました」と言われ、そもそも何をしたくてリベラルアーツの研修プログラムを始めたのかと叱責した経験があります。 ですから、プログラムの中身以上にバイヤー、つまりは企業側の問題が大きいと思います。したがって、ダウンロード型、アスペンのプログラム、対話型のどれがいいかということで言えば、参加者のレベルやプログラムそのものよりも、それを差配している人事部門の思惑がすごく気になりますね』、「参加者のレベルやプログラムそのものよりも、それを差配している人事部門の思惑がすごく気になりますね」、その通りだ。
タグ:「古代ギリシャ時代、労働は奴隷身分が行うことでしたので、自由市民は多くの時間を持て余していたわけです。なので、その時間を有意義に楽しむためには教養が必要ということで、それがリベラルアーツになったと言われています・・・学問はだいたいディシプリンで、つまり、限られた範囲の中で考え研究するものだというわけです。 「山口さんの著書に『自由になるための技術 リベラルアーツ』がありますが、最初に「リベラルアーツとは何か」について、お話しいただけますでしょうか」、なるほど。 『自由になるための技術 リベラルアーツ』 「「リベラルアーツ」を軽視しすぎた日本社会の代償 「リーダーシップ」と「教養教育」の不可分な関係」 堀内 勉 氏 山口 周氏 東洋経済オンライン (その32)(「リベラルアーツ」を軽視しすぎた日本社会の代償 「リーダーシップ」と「教養教育」の不可分な関係、なぜ 日本では傑出したリーダーが出にくいのか 日本社会をダメにする「二重の選抜」の非効率、池上彰が警告「時代に乗り遅れた」日本企業の末路 2040年世界時価総額トップ50に日本は入れるか) 日本の構造問題 一方で、「リベラルアーツ」は、そのディシプリンに対してリベラルであるということで、現代のように専門性が細分化・タコツボ化してきて、全体を捉えることが難しくなってきているという時代においては、リベラルアーツは領域を横断しながら全体をつかむための一つの知性でとても重要なものだ・・・ドイツ語ではビルドゥングスロマン(Bildungsroman)と言いますが、その言葉には人格を陶冶するというようなニュアンスが入ってきます。 『魔の山』は大学出の若い主人公がサナトリウムに入って、そこで過ごす7年間を描いた物語で、その主人公が人間として成熟していくということを「ビルドゥングする」と言っています。つまり、教養という言葉には、人間として深い洞察力や倫理感、また新しい物事を正しく判断するというための思考力など、そういうものをビルドゥング(構築)していくために必要な知識やたしなみ、作法というニュアンスが含まれるのです・・・ 戦前はドイツ的な教養主義の影響が大きくて、ドイツのカントやヘーゲルの哲学書を読んで人間として自己の内面を耕し内省することが「教養」と言われていました。 それが、戦後アメリカの占領下になって、アメリカの価値観が広がっていくのにあわせて、教養主義からリベラルアーツへと傾斜していった。しかしながら、日本では両方の流れがまだ生き残っていている、そういう感じではないかと思っています」、なるほど。 「社会のリーダーになる人は専門バカではいけない、社会のあらゆることにある程度は通じていることが社会の常識になっています。古代ギリシャの時代から「アルス・テクニケ」、つまり専門的な技や知識を磨くことは奴隷の仕事であって、リーダーがするべきことではないと考えられてきたのです。 リーダーは何をするかというと、ハンナ・アーレントの言葉を借りれば「活動」をする、つまり政治的な活動を行うのだと。それが社会のリーダーであり、自由市民が従事する仕事だと考える。 そして、そういう人たちは大きな判断、社会に影響のある判断をすることになるので、専門バカでは困る。今の言葉で言うと「システム思考」的な、それをつかさどる基礎的な能力を養うために教養が必要になってくるというわけです・・・ハーバード大学だけではなく、PPE(Philosophy、Politics and Economics)を重んじるオックスフォード大学なども同様の考え方だと思います。 やはり、社会のリーダーになる人というのは、白黒つかない、非常に多方面の利益というものを考えるものだと。ホッブズの言葉を借りるならば、「社会全体の幸福の最大化」ということを考える人でなければならない。そのような人になるには、多方面にわたる教養が必要だという考えですね・・・オックスフォード大学では、39のカレッジ(学寮)があって、カレッジは必ず寮と一体になっています。そもそも大学に入学するためには、まずこうしたカレッジに入ることが必要になります」、なるほど。 「高校は慶応の付属だったのですが、当時から作曲を勉強していましたので藝大に行こうか迷っていました。 実は慶応の付属から慶応大学を卒業し、その後、藝大に入り直した人――作曲家の千住明さんですが――が遠い知り合いだったこともあってアドバイスを求めたところ、「作曲の勉強は、大学ではそんなに学べるものではないよ」と言われたのです。それで、慶応文学部の美学専攻に進みました・・・ 電通の人が「人間が夢中になるものは4つあって、電通はそのすべてがある会社だ」という話をしてくれました。4つというのは、1つ目は研究で、特に広告の世界は人間の感情に関する心理学の研究との接点が多いのだと。2つ目はビジネス、3つ目はアートですね。広告は芸術や創作、表現に関わる仕事だと。そして、4つ目がスポーツで、電通は人が夢中になるものすべてに接点のある会社だという話をしてくれて、ここで働くのは面白いのではと感じたのです」、「電通はそのすべてがある会社だ」という話をしてくれました」、いくら学生を引き付けるため 「コンサルタントとして活躍している人には、実は哲学科の出身者が多いのです。コンサルの世界で化ける人には学部的な傾向があるという仮説があって、理学系では物理学で、人文科学系では哲学科だと。事実、世界的にBCGのオフィスを見てみると、ユニークな立ち位置をつくれている人はこのどちらかであることが多いのです・・・ 経営学的な知識が欠損していたわけですね。逆に使えるものは何かと言えば自分が学んできた哲学や美学の知識だったので、コンサルとしてアドバイスをする際には、ギリシャ哲学の知識やシェイクスピア劇の有名なせりふなどを使い倒していくしかなかったのです。しかし、これが他のコンサルタントとは、まったく視点や切り口が異なるということで有利に働きました」、何が幸いするかはわからないものだ。 「そうした自らの経験を踏まえて、歴史や哲学といったリベラルアーツの知識は、ビジネスの世界において強力な洞察を与えてくれるもので、同時に、正しい意思決定を行う際の助けになるものだと思っています。 現在、日本の企業の多くが「リーダーの育成」で試行錯誤している状況にあります。現場の仕事だけを一生懸命に務めた人が、リーダーや経営層になったときにその責を十分に果たせないという問題が頻発しているのです。 欧米の後追いをしている時代は明確なゴールが見えていましたので、本当の意味での意思決定は求められなかったと言えるのかもしれません。しかし、現代のように先の見えない時代には、大局的で正しい意思決定ができるリーダーの存在が不可欠です。企業の人事部がマネジメント研修などで教養やリベラルアーツを学ぶ機会を増やしているのですが、一朝一夕に解決できる問題ではありません」、その通りだ。 堀内 勉氏による「なぜ、日本では傑出したリーダーが出にくいのか 日本社会をダメにする「二重の選抜」の非効率」 「1970年代までは教養主義は大学キャンパスの規範的な文化であって、読書による教養主義というのは、人格の形成や社会の発展のために、学生の間で疑いようのない信念として共有されていたと。京都大学の学生が教養書を何冊読んでいるかという当時の調査では、10日に1冊読む学生が半分以上、ほとんど読まないと答えた学生は1%しかいなかったということです」、「10日に1冊読む学生が半分以上」とは驚かされた。 「日本には「二重の選抜」という非効率が存在しています。日本では、大学教育も含めて、まずは現場の担当者として優秀な人物を育て、その優秀な人の中からリーダーを選抜するシステムになっています」、なるほど。「大学がレジャーランド化」とは言い得て妙だ。 「ゴールドマンに入社するときの部長面接が後にパートナーになった小高功嗣さんで、彼は年齢でいうと私の2つ年上でした。最終面接ではパートナーに会っていただきますと言われてお会いしたのが、今はマネックス証券会長をされている松本大さんです。そのときに松本さんから、「堀内さんの経歴書を拝見しましたが、私、堀内さんの大学の後輩なんです」と言われてびっくりしました。 恥ずかしながら、そのときは30歳でゴールドマンのパートナーになっていた松本さんを知らなかったんですね。 ゴールドマンのパートナーと言えば、日本の銀行だったら常務クラスかそれ以上ですから。30歳なんて、当時の日本の銀行だったら完全な平社員で、ひたすら現場仕事の毎日ですよ。松本さんがゴールドマンでものすごい実績を上げたのは確かなのですが、ソロモンブラザーズから転職してわずか4年足らずでマネジメントに向いているということで、一気にパートナーにまで引き上げられるというスピード感にびっくりしました・・・ ゴールドマンのパートナーと言えば、日本の銀行だったら常務クラスかそれ以上ですから。30歳なんて、当時の日本の銀行だったら完全な平社員で、ひたすら現場仕事の毎日ですよ」、確かに。「ゴールドマン」や「ソロモンブラザーズ」の昇進の速さは日本の常識では信じ難い。 私も20年ほど前にあるエクゼクティブ向けのプログラムに参加した。 「即効性を期待しすぎる日本の人事部」、私も失望した。 「参加者のレベルやプログラムそのものよりも、それを差配している人事部門の思惑がすごく気になりますね」、その通りだ。
女性(その30)(元中学校教師 酒豪…女性初、海上自衛隊で「海将」に昇進した近藤奈津枝さんはどんな人か、英国女性に最も多い「法律違反」の意外な中身 大半が女性、10万人弱の女性が起訴された年も、リアル「虎に翼」英国女性が法曹界で抱えた苦悩 弁護士になるまで31年 生涯男装の女性医師も) [社会]
女性については、昨年12月26日に取上げた。今日は、(その30)(元中学校教師 酒豪…女性初、海上自衛隊で「海将」に昇進した近藤奈津枝さんはどんな人か、英国女性に最も多い「法律違反」の意外な中身 大半が女性、10万人弱の女性が起訴された年も、リアル「虎に翼」英国女性が法曹界で抱えた苦悩 弁護士になるまで31年 生涯男装の女性医師も)である。なお、タイトルから「活躍」をカットした。
先ずは、本園1月23日付けデイリー新潮「元中学校教師、酒豪…女性初、海上自衛隊で「海将」に昇進した近藤奈津枝さんはどんな人か」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2024/01230620/?all=1
・『「私たちに求められるのは、この国を守り抜くため、精強かつ持続力のある地方隊をつくり上げること」──こう部下に訓示した人物が誰だかお分かりだろうか。正解は、海上自衛隊で最も階級が高い「海将」に女性で初めて昇任した近藤奈津枝氏(57)だ。 ちなみに、自衛隊で女性が「将」に昇進したのは、陸将、空将を含め初。青森県むつ市にある海上自衛隊大湊地方総監部の総監となり、昨年12月23日、着任式に臨んだ。 訓示には冒頭で紹介したもののほかに、「すべての隊員が、日曜日の夜に『月曜日に出勤するのが楽しみで仕方ない』と思える組織こそが結果を出せる」という興味深い言葉もある。 いずれにしても、それほど自衛隊に詳しくない人でも、「とてつもなく偉い人」というイメージは強いはずだ。担当記者が言う。 「海上自衛隊の“海将”は、諸外国の海軍や旧帝国海軍では“中将”に相当します。例えば、真珠湾攻撃で有名な山本五十六は1934年に海軍中将となりました。そして39年に55歳で連合艦隊司令長官に任命されています。近藤さんは、当時の山本五十六と同じ階級というわけです。海上自衛隊の普通の隊員にとっては、文字通り“神様”のように偉い人です」 その近藤氏だが、非常にユニークな経歴の持ち主でもある。1966年に山口県で生まれ、大学は地元の国立・山口大学に進んだ。そして卒業すると、中学校の臨時採用教員として国語を教えていたのだ。海上自衛隊の関係者が言う』、「海上自衛隊で最も階級が高い「海将」に女性で初めて昇任した近藤奈津枝氏(57)だ。 ちなみに、自衛隊で女性が「将」に昇進したのは、陸将、空将を含め初。青森県むつ市にある海上自衛隊大湊地方総監部の総監となり、昨年12月23日、着任式に臨んだ・・・大学は地元の国立・山口大学に進んだ。そして卒業すると、中学校の臨時採用教員として国語を教えていた」、変わった経歴だ。
・『最初は看護師 「近藤さんは市役所で自衛官募集のパンフレットを見たのがきっかけで、1989年に海上自衛隊に入隊しました。これまで自衛隊で活躍する女性といえば、92年に防衛大学校に初めて入学した女子学生たちが常に注目を集めてきました。海上自衛隊では、女性として初めて練習艦の艦長になった東良子さん(50)、初めてイージス艦の艦長となった大谷三穂さん(52)といった方々です。近藤さんは彼女らより前の世代で、まさに女性尉官のパイオニアと言っていいでしょう」 旧帝国海軍が女性に門戸を開くことはなかった。一方、1954年に発足した自衛隊は当初から女性自衛官を採用した。だが、当時の定員17万人のうち女性自衛官は144人。おまけに職種も限定され、全員が看護師だった。 「女性自衛官の草分けは医療関係者」という歴史があるため、自衛隊で初めて将官となった佐伯光(ひかる)氏(80)は海上自衛隊の医官だった。佐伯氏は2000年に自衛隊中央病院リハビリテーション科部長に就任し、翌01年に海将補に昇任。海外の階級だと「海軍少将」になる。) 「私たちに求められるのは、この国を守り抜くため、精強かつ持続力のある地方隊をつくり上げること」──こう部下に訓示した人物が誰だかお分かりだろうか。正解は、海上自衛隊で最も階級が高い「海将」に女性で初めて昇任した近藤奈津枝氏(57)だ。 ちなみに、自衛隊で女性が「将」に昇進したのは、陸将、空将を含め初。青森県むつ市にある海上自衛隊大湊地方総監部の総監となり、昨年12月23日、着任式に臨んだ。 訓示には冒頭で紹介したもののほかに、「すべての隊員が、日曜日の夜に『月曜日に出勤するのが楽しみで仕方ない』と思える組織こそが結果を出せる」という興味深い言葉もある。 いずれにしても、それほど自衛隊に詳しくない人でも、「とてつもなく偉い人」というイメージは強いはずだ。担当記者が言う。 「海上自衛隊の“海将”は、諸外国の海軍や旧帝国海軍では“中将”に相当します。例えば、真珠湾攻撃で有名な山本五十六は1934年に海軍中将となりました。そして39年に55歳で連合艦隊司令長官に任命されています。近藤さんは、当時の山本五十六と同じ階級というわけです。海上自衛隊の普通の隊員にとっては、文字通り“神様”のように偉い人です」 その近藤氏だが、非常にユニークな経歴の持ち主でもある。1966年に山口県で生まれ、大学は地元の国立・山口大学に進んだ。そして卒業すると、中学校の臨時採用教員として国語を教えていたのだ。海上自衛隊の関係者が言う』、確かに経歴は「大学は地元の国立・山口大学に進んだ。そして卒業すると、中学校の臨時採用教員として国語を教えていた」と、ユニークだ。
・『最初は看護師 「近藤さんは市役所で自衛官募集のパンフレットを見たのがきっかけで、1989年に海上自衛隊に入隊しました。これまで自衛隊で活躍する女性といえば、92年に防衛大学校に初めて入学した女子学生たちが常に注目を集めてきました。海上自衛隊では、女性として初めて練習艦の艦長になった東良子さん(50)、初めてイージス艦の艦長となった大谷三穂さん(52)といった方々です。近藤さんは彼女らより前の世代で、まさに女性尉官のパイオニアと言っていいでしょう」 旧帝国海軍が女性に門戸を開くことはなかった。一方、1954年に発足した自衛隊は当初から女性自衛官を採用した。だが、当時の定員17万人のうち女性自衛官は144人。おまけに職種も限定され、全員が看護師だった。 「女性自衛官の草分けは医療関係者」という歴史があるため、自衛隊で初めて将官となった佐伯光(ひかる)氏(80)は海上自衛隊の医官だった。佐伯氏は2000年に自衛隊中央病院リハビリテーション科部長に就任し、翌01年に海将補に昇任。海外の階級だと「海軍少将」になる』、「海上自衛隊で最も階級が高い「海将」に女性で初めて昇任した近藤奈津枝氏(57)だ」、大したものだ。
次に、6月26日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリスト・編集者のアナベル・ウィリアムズ 氏による「英国女性に最も多い「法律違反」の意外な中身 大半が女性、10万人弱の女性が起訴された年も」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/764111
・『現在のペースだと男女間の賃金格差を解消するためには257年かかる――。2019年に世界経済フォーラムが発表したこの試算からもわかるように、男女の間にはいまだに大きな金融格差が存在しています。 格差が生まれる根本と平等に向けた具体策に迫る新著『女性はなぜ男性より貧しいのか?』より一部抜粋しお届けします。 ▽イギリスで起訴された女性のなかで一番多い違反は?(世界の最先進国では、女性に関して数々のことが成し遂げられてきたにもかかわらず、ジェンダーによる富の不平等という難題がまだ立ちはだかっている。ジェンダーによる賃金格差は私たちの誰もが知るところだが、まだ十分議論されていないのが、賃金格差から生まれる資産の格差だ。「資産」とは、豊かな財産やCEO並みの給料といった意味ではない。働く女性が職業生活――平均して男性より収入が少ない――を通じて貯められる総額のことだ。 イギリスでは45歳未満の年齢層で、すでに男女間の資産格差が存在する。しかも年齢とともに差が広がり、45歳から64歳の女性の平均資産額は29万3700ポンド(約5550万円)で、同じ年齢層の男性では平均37万6500ポンド(約7100万円)となっている[1]。そして、アメリカにおける資産格差はさらに大きい。アメリカの18歳から64歳の独身男性の資産額の中央値は3万1150ドル(約460万円)で、同じ年齢層の独身女性では1万5120ドル(約223万円)と、男性の半分にも満たない[2]。 では、イギリス女性が抱える経済の不平等がどんなものかを明確にイメージするため、次の質問を考えてみよう。 法律に違反して起訴された女性たちのあいだで、最も多かった違反は何だろう?万引きだろうか?公然酩酊罪か?それとも交通違反?) じつは、お金がないのでテレビの受信料が払えない、というものだ[3]。 テレビ放送やオンライン配信で番組を視聴する世帯は、法律によりイギリスの公共放送BBCの受信料として、年間157.5ポンド(約3万円)を払わなければならない。受信料の不払いは犯罪であり、起訴され、1000ポンド(約19万円)以下の罰金が科され、禁固刑を受ける場合もある。受信料不払いという、貧困ゆえの犯罪で起訴される人のうち、4分の3近くが女性で、2017年には9万6000人以上の女性が起訴された[4]。 受信料の支払いについては議論があり、主義として支払いを拒否する人もいる。しかし、一般に女性は集金が来たら応じて協力するし、受信料支払いの登録をしているのは女性のほうが多い。こうした事実から示唆されるのは、女性は受信料制度に反対しているからではなく、支払い能力がないから払えない、ということだ。 支払わなければ起訴されるというこの制度は、ジェンダーによる経済格差を考慮していない。これは、政府から義務とされている費用で、毎年すべての世帯に対し収入にかかわらず同額の支払いを求めるものだ。そして、払えるだけの余裕がない人――大半は女性――は犯罪者にされる。しかも、これは、女性がぶち当たる制度的な不利益という氷山の一角にすぎない』、「支払わなければ起訴されるというこの制度は、ジェンダーによる経済格差を考慮していない。これは、政府から義務とされている費用で、毎年すべての世帯に対し収入にかかわらず同額の支払いを求めるものだ。そして、払えるだけの余裕がない人――大半は女性――は犯罪者にされる。しかも、これは、女性がぶち当たる制度的な不利益という氷山の一角にすぎない」、その通りだ。
・『貧困の女性化 テレビ受信料は、社会科学者が「貧困の女性化」と呼ぶ問題のちょっとした一例だ。この言葉は、ダイアナ・ピアス教授が1978年に初めて生み出した造語だが、問題はまだ続いている。富と貧困をはかるどんな方法を使ったとしても、世界じゅうで、ゆりかごから墓場まで、女性は男性より劣悪な生活を送っている。先進国でも開発途上国でも、女性は貧困層の多くの部分を占め[5]、失業中であったり不安定な雇用についていたりする割合が男性より高い[6]。 世界全体では、「よい仕事」、つまりフルタイムで賃金が支払われる仕事についている男性は女性のほぼ2倍で、南アジアでは、男性が女性の3倍以上になっている[7]。 先進国においては、統計に一定の傾向が見られる。日本では、ひとり暮らしをする生産年齢の女性のうち貧困層にあたるのは31パーセントだが、男性では25パーセントだ[8]。アメリカ全土では、貧困ライン以下の収入で生活する人の割合は、女性では14パーセントだが、男性は11パーセントである[9]。) こうしたデータの数々から、貧困の女性化について垣間見ることができる。富の不平等と女性の問題は複雑で、とくに先進国では、これまであまりにも研究されてこなかった分野だ』、「富の不平等と女性の問題は複雑で、とくに先進国では、これまであまりにも研究されてこなかった分野だ」、その通りだ。
・『議論にもならないまま、取り残されていく女性 原因と結果に関する適切なデータなしには、どんな問題にも対処できない。2019年にイギリス政府は、貧困をより正確に評価するための方法を策定する計画を発表したが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより棚上げになった。ジェンダーによる経済的不平等の実態が十分に研究されず、ほとんど議論にもならないまま、女性が取り残されていく。 ヨーロッパで最も広く使われている貧困の基準は、個人または世帯の収入が当該国における世帯収入の中央値の60パーセント未満というものだ。つまり、統計専門家が各世帯の収入を調べて最も低い値から最も高い値まで順に並べ、中央の値を計算する。これが、平均的な人が生計を立てるために使っている金額だ。誰もが平均的な収入を得られるとはかぎらないが、誰もが平均的な人の収入の少なくとも60パーセントくらいは稼げるだろうと想定している。 具体的な金額で言うと、イギリスのジョゼフ・ラウントリー財団によれば、2016/2017年度、イギリスの世帯収入は、住居費を除いた可処分所得の中間値が週あたり425ポンド(約8万円)(年間2万2100ポンド〈約418万円〉)だったので、この60パーセントは1万3260ポンド(約250万円)になる。 この計算に基づき社会基準値協会では、510万人の女性、460万人の子ども、450万人の男性が貧困状態にあるとしている[10](訳注:金額と人数は経年変化を見るため計算方法の調整を行ったうえ算出したもの)。これは、女性の20パーセント、子どもの34パーセント、男性の18パーセントに相当する。 イギリスとアメリカにおける貧困の女性化のおもな要因は、1980年代以降のひとり親世帯の増加で、ひとり親の90パーセントが女性だ。アメリカの統計によれば、1960年には、貧困層のうち母親だけの世帯が占める割合は28パーセントだったが、1987年には60パーセントと、倍以上になっている[11]。イギリスでは現在、ひとり親の45パーセントが貧困状態にある。これは、その子どもも貧困のなかで暮らしていることを意味する。政府は子どもの貧困率を引き下げようと、法的拘束力のある目標値を2010年に導入したが、2016年に撤廃し、その後ふたたび導入する計画はない。) イギリスでは独身の女性(未亡人になった高齢女性とパートナーがいない若い女性を含む)全体で見ても、独身男性より貧困率が高い。しかも、ここ数年のあいだに独身男性の貧困率は下がってきた[12]。データからは、貧困の要因として障害も浮上する。貧困状態にある人のうち370万人に障害があり、障害者に女性が占める割合は男性より高く54.4パーセントだ[13]。 さて、誰が障害者の介護をするのか?家族で介護をしている人(つまり「無給の介護人」)の4分の3近くが女性だ。さらに、有給の介護職のほぼ80パーセントが女性であることを忘れてはいけない。介護は最も賃金が低い分野の一つでもある。 先進国の政府は特定の政策を通じて収入に大きな影響を及ぼすことができる。たとえば最低賃金や傷病手当等の雇用主に対する規則、税制度、社会保障制度を通じた富の再分配などだ。こうした政策を実施する際に、政府は社会における貧困と富の不平等に対して影響力を行使し、どのような社会層を支援し、どの層を冷遇するかを選ぶことができるはずだ』、「貧困状態にある人のうち370万人に障害があり、障害者に女性が占める割合は男性より高く54.4パーセントだ[13]。 さて、誰が障害者の介護をするのか?家族で介護をしている人(つまり「無給の介護人」)の4分の3近くが女性だ。さらに、有給の介護職のほぼ80パーセントが女性であることを忘れてはいけない。介護は最も賃金が低い分野の一つでもある」、なるほど。
・『女性の隠れた貧困 また、女性の貧困は男性の「庇護」の下に隠れて見えなくなっていることがある。女性は誰かと一緒に、つまり多くの場合、男性のパートナーと一緒に暮らしているときにはほぼきまって、より裕福に見えるからである。統計学者は、相対的な裕福度を調べる際に世帯の資産に着目する。これは、お金を稼ぐ人が支出を決定する人でもある単身世帯の場合にはわかりやすい方法だ。 しかし夫婦がそろっている世帯では、どちらか一人が世帯全体の「財務報告者」になったうえ、家族の資産の詳細を説明することになる。各世帯では成人の構成員のあいだで資産が平等に分けられているという想定なので、収入が少ない女性がもっと収入の多いパートナーと暮らしている場合は、統計上、より裕福な世帯層に入ってしまうのだ。 これではデータが歪められてしまい、そのため、男女間の経済格差がどの程度かを正確にはかることが難しくなる。調査をするとかならず、世帯内の男性と女性のあいだで収入が平等に分けられていないことが指摘されているからなおさらだ。) 先進国の7か国を対象としたある調査によれば、女性が家庭で自由に使える資産は、平均すると世帯全体の資産の3分の1に満たなかったという。イタリアの女性の半分は、自分自身の収入がまったくなく、政府の給付金さえ受け取っていなかった。フランス、ドイツ、イギリスでは、女性の4分の1以上が政府の給付金以外に収入がなかった[14]。これらの世帯は、調査報告上では中流階級か富裕層だとみなされるかもしれない。しかし男性がいなくなり収入のすべてをもっていかれたとすると、多くの場合、女性は生計を立てていくためのお金がほとんどなくなってしまうだろう。
・『多くの女性が経済面で男性に依存 女性はなぜ男性より貧しいのか?(統計学者がつねに、この「財務報告者は一人」という手法を使っているわけではなく、長期にわたる世帯資産調査では、婚姻関係にある成人の双方に収入を尋ねるケースもある。とはいえ、21世紀になっても、イギリスでもほかの先進国でも、多くの女性が経済面で男性に依存しているという事実は変わらない。 女性が家族の世話や家事のために有給の仕事を離れた場合、実際にはパートナーが財産を築けるよう援助していることになる。そうした女性の働きが、その男性が現在と将来にわたって収入を得る能力、貯蓄する能力、そして信用力や年金貯蓄の助けになっている。 しかし、こうした状況にある女性は個人としては貧困ということになるので、女性がおかれている不平等を正確にはかるには、このような立場の女性を「貧困」と区分すべきだと指摘されている[15]。 原注(省略) 』、「女性が家族の世話や家事のために有給の仕事を離れた場合、実際にはパートナーが財産を築けるよう援助していることになる。そうした女性の働きが、その男性が現在と将来にわたって収入を得る能力、貯蓄する能力、そして信用力や年金貯蓄の助けになっている。 しかし、こうした状況にある女性は個人としては貧困ということになるので、女性がおかれている不平等を正確にはかるには、このような立場の女性を「貧困」と区分すべきだと指摘されている」、その通りだ。
第三に、7月15日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリスト・編集者のアナベル・ウィリアムズ氏による「リアル「虎に翼」英国女性が法曹界で抱えた苦悩 弁護士になるまで31年、生涯男装の女性医師も」を紹介しよう。
・『現在のペースだと男女間の賃金格差を解消するためには257年かかる――。2019年に世界経済フォーラムが発表したこの試算からもわかるように、男女の間にはいまだに大きな金融格差が存在しています。 格差が生まれる根本と平等に向けた具体策に迫る新著『女性はなぜ男性より貧しいのか?』より一部抜粋しお届けします。 前回記事は「英国女性に最も多い『法律違反』の意外な中身」』、「現在のペースだと男女間の賃金格差を解消するためには257年かかる」、こんなに長期間かかるというのでは、事実上、「格差」は当面、残るということだ。
・『女性は弁護士になれない 女性が財産を増やし男性と平等な地位を築くには、男性と同じように稼げる能力を身につけなくてはならない。 しかし、女性が大学に行くことには激しい抵抗があり、入学がなんとか認められ勉強して試験に通っても、女性は学位を受けることができず、学んだ分野で職業につくことができなかった。 医学など最も収入が高い職業につく権利を求める女性の闘いは何十年も続いた。法律分野では、カナダとアメリカの女性が弁護士業務を行う権利を得たのちも、イギリスの女性は長いあいだ法曹界から閉め出されていた。 知的な意味でより難易度が高いとされる領域で、女性は門戸が閉ざされていた。女性のほうが生まれつき劣っているとする男性の思い込みによるものであり、女性は知能が低いので数学的、科学的、論理的な思考ができない、と考えられていたためだ。このような偏見が根強く残っていることは、次のエピソードによく表れている。) 1867年にタイプライターが発明されたとき、女性が扱うには複雑すぎると考えられていた。しかし100年後の1960年代後半、いまでは恥さらしとなったオリベッティの広告では、ブロンドの美女がタイプライターの前に座り、こんなキャプションが添えられていた。 「タイプライターがこれほど有能なら、女性は賢くなくていい」。 皮肉なことに、広告の女性は賢いなんてものではなかった。彼女の名はシェア・ハイト。有名なコロンビア大学で歴史学の博士号をとるための費用の足しにしようと、モデル業を始めたのだった。 ハイトは、タイピングのスキルがすぐれているからオリベッティに選ばれたのだろうと思っていて、自分のイメージがどういうふうに利用されたか、あとになって気づいた。 最後に笑ったのはハイトだった。著書『ハイト・リポート 新しい女性の愛と性の証言』(パシフィカ、1977年)は5000万部を売り上げ、女性が自分の体に対して抱くイメージに革命を起こした。 女性が知的に劣っているという観念は生物学的な事実だと考えられていたが、この観念が薄れはじめてもなお、女性をめぐる生物学的価値観は、私たちに不利なように利用された。大学の講義のあいだじゅう座っていることは、子宮に何らかの影響を与え、乳腺を枯渇させるのではないかと思われていた』、「カナダとアメリカの女性が弁護士業務を行う権利を得たのちも、イギリスの女性は長いあいだ法曹界から閉め出されていた。 知的な意味でより難易度が高いとされる領域で、女性は門戸が閉ざされていた。女性のほうが生まれつき劣っているとする男性の思い込みによるものであり、女性は知能が低いので数学的、科学的、論理的な思考ができない、と考えられていたためだ」、サッチャー首相を輩出した国でも「女性は長いあいだ法曹界から閉め出されていた」とは初めて知った。
・『弁護士として認められるまで31年 1888年、イライザ・オームは、イングランドの女性として初めて、法律の学位をユニバーシティ・カレッジ・ロンドンから授与された。オームは、女性はもっと権利を主張すべきであり、高い収入を得られる職業の機会が女性にも開かれるべきだと信じていた。 しかしオームは、事務弁護士として働くことを法的に認められるまで31年待たなければならなかった。) 1913年、4人の女性によって裁判所に訴訟が持ち込まれた。女性の1人はグウィネス・ベブで、オックスフォード大学で法学を学び、試験で最優等の成績をおさめたが、正式に卒業できなかった。 ベブは事務弁護士として開業するための試験を法律協会に申請したが、受験料が返金されてきた。女性は弁護士になれないので、試験場に来ても受験は認められないと書かれていた。ベブは法律協会を訴え、法律では弁護士になるのは「人(person)」と記載されているので女性も含まれる、と主張した。 法廷は、女性というジェンダー全体が「人」の定義の枠外であると論じた。「1843年の事務弁護士法の意味する範囲において、女性は人でなく(略)、それゆえに、法律協会が実施する予備試験の登録から除外されるのが妥当である」と控訴院の判決文に記されていた[41]。判決は、「法律に基づき、女性も子どもも奴隷も法曹職につくことは認められない」と述べた中世の論文を参照したものだった[42]』、根拠が「中世の論文」とは恐れ入る。
・『オックスフォードとケンブリッジでも… 名の通った機関ほど、女性に男性と同じ地位を提供するまでに時間がかかることがよくある。このことは、こんにちでも政府の要職や法曹界、学界、金融界、医学界で男性に比べ女性が少ないという事実と呼応している。 イギリスのエリート大学であるオックスフォードとケンブリッジが女性を男性と平等に扱うようになったのは、国内の大学でいちばん遅かった。オックスフォード大学は、1920年10月になるまで女性に学位を授与しなかった。その50年近くも前からすでに、大学内に4校あった女子学生だけのカレッジで女性が学び試験に合格していたにもかかわらずだ[43]。ケンブリッジでは、1940年になってようやく、女性に学位を授与した。 しかし、こうした進展には但し書きがつく。オックスフォードでは1927年以降、女子学生の人数を最大840人、または学部学生全体の6分の1に制限していた。水門を開放すると怒涛のように流れ込むのではないかと危惧したためだ。21年後に上限が引き上げられ、さらに90人の女性を受け入れるようになったが、定員の割り当ては1957年まで撤廃されなかった。 これは経済的平等を実現するには重大な障壁だった。一流の教育はより高い収入につながるからだ。 しかし、女性がいるとほかの学生の気が散ると考えられていた。オックスフォード大学のある女子カレッジの学長は「じつに嫌な苦情だ。わがカレッジの学生がタイトスカートをはき脚を見せて座っているので、男性の試験官が落ち着かないという[44]」と書いている。するべきことに集中できない男性がいたとしても、それは女性のせいではない。) 女性は医療専門職でも同じ障害に直面した。1789年にアイルランドのコーク県で生まれたマーガレット・アン・バルクリーは、男性に変装してエディンバラ大学で医学を学び、イギリスで最初の女性医師になった。 裕福な支援者たちの協力を得てみずからをドクター・ジェームズ・バリーに仕立て上げ、有能な軍医になって南アフリカ、セントヘレナ、トリニダード・トバゴで医療に従事し、大英帝国で初めて帝王切開に成功した[45]。』、「マーガレット・アン・バルクリーは、男性に変装してエディンバラ大学で医学を学び、イギリスで最初の女性医師になった。 裕福な支援者たちの協力を得てみずからをドクター・ジェームズ・バリーに仕立て上げ、有能な軍医になって南アフリカ、セントヘレナ、トリニダード・トバゴで医療に従事し、大英帝国で初めて帝王切開に成功した」、なるほど。
・『死去して初めて… ドクター・バリーが死去したとき、埋葬のため遺体を整えていた女性が、バリーは女性だと気づいた。事実が発覚し、ヴィクトリア朝時代のイギリスで大事件になった。女性が医師として働けるようになる50年以上も前のことだ。私なら、ドクター・バリーを10ポンド札の顔にするだろう。 バリーは細身で女性らしい顔つきだったが、この軍医が女性として生まれたとは誰も思わなかった。そのかわり「いっぷう変わっていてあまり人と交わらないバリーについて、学生たちがうわさをしはじめた。『ミスター・ジェームズ・バリーはぜったいに男ではない―間違いなく少年だ。(略)思春期にもなっていない子どもだ。根拠はたくさんあって明らかだ。彼は背が低い、体型が華奢、声が高い、繊細な顔つきで肌がなめらか[46]」。』 このばかばかしい状況は、男性と女性の知性に対する当時の期待をよく物語っている。小柄で少女のような医学生は、知能が高い早熟な男の子以外にありえなかったのだ。) 女性が職場からあからさまに除外されていなかったとしても、女性を締め出すため別のかたちの差別もあった。1982年まで、パブでは女性に対するサービスを拒むことができた。 この「男性の領地」で女性がお金を使うことを認めるかどうかは、店主次第だった。状況が変わったのは1982年11月のことで、事務弁護士のテス・ギルとジャーナリストのアナ・クートが、フリート・ストリートで人気のパブ、エル・ヴィーノに苦情を申し立てたのだ。 エル・ヴィーノでは、女性がカウンターで飲み物を注文したりカウンターの脇に立ったりすることを禁じていて、女性はテーブル席がある奥の部屋にしか入れなかった。 エル・ヴィーノの言い分は、騎士道精神を守るためというものだった。エル・ヴィーノはシティに店を構えていて、ジャーナリストや弁護士らが集まってゴシップに興じる場として愛されていた。 しかし、1970年に女性ジャーナリストの一団がカウンターに押しかけ飲み物のサービスを要求しても、経営者はまだ自分たちの方針を曲げなかった[47]。 第一審の法廷では、女性差別に当たらないと判断されたが、控訴審では、女性がバーの特定の場所にしか集まれないのであれば、職業上不利な状況におかれる可能性があると認めた。 判事は次のとおり述べた。「男性はエル・ヴィーノで飲みたければ飲める。望むならカウンターの周りに集まり友人と交流できるし、とくにジャーナリストであるなら興味深いうわさ話をいろいろ拾えるだろう。(略)男性ジャーナリストにそうしたことが認められているなら、なぜ女性には認められないのか?[48]」』、「ドクター・バリーが死去したとき、埋葬のため遺体を整えていた女性が、バリーは女性だと気づいた。事実が発覚し、ヴィクトリア朝時代のイギリスで大事件になった。女性が医師として働けるようになる50年以上も前のことだ。私なら、ドクター・バリーを10ポンド札の顔にするだろう。 バリーは細身で女性らしい顔つきだったが、この軍医が女性として生まれたとは誰も思わなかった。そのかわり「いっぷう変わっていてあまり人と交わらないバリーについて、学生たちがうわさをしはじめた」、ウソのような話だ。
・『女性用トイレがない トイレの設備がないことは、女性が職場で不利な状況におかれみずからを向上させる機会を妨げられる理由にたびたびされてきた。ハーバード大学は、非常に長い期間にわたって、トイレがないことを理由に女子学生の医学部入学を認めなかった大学の一つだ。 医学部に女子学生の入学が認められたのは1945年のことで、女性が初めて志願してから100年近くたっていた。ハーバード大学ロー・スクールが女性に門戸を開いたのは1950年で、最初の女性が入学を志願してから79年後だった。) イェール大学医学部は、1916年に女子学生を受け入れた。経済学教授のヘンリー・ファーナムが費用を払い、女子トイレを設置したあとのことだ。 ヘンリーの娘がイェールの医学部に入ることを強く希望していたからだった[49]。アメリカで最も名高い士官学校のバージニア州立軍事学校は、1996年になるまでトイレを口実として利用していた。 女性用のトイレが十分にないという問題は、アメリカで「トイレの平等(potty parity)」として知られている。一部の専門職の職場や権力の殿堂で女性用トイレがないことは、女性が除外されていることの指標になる』、「トイレの設備がないことは、女性が職場で不利な状況におかれみずからを向上させる機会を妨げられる理由にたびたびされてきた。ハーバード大学は、非常に長い期間にわたって、トイレがないことを理由に女子学生の医学部入学を認めなかった大学の一つだ。 医学部に女子学生の入学が認められたのは1945年のことで、女性が初めて志願してから100年近くたっていた・・・女性用のトイレが十分にないという問題は、アメリカで「トイレの平等(potty parity)」として知られている。一部の専門職の職場や権力の殿堂で女性用トイレがないことは、女性が除外されていることの指標になる」、なるほど。
・『米下院に2011年まで存在したトイレの不平等 信じられないことに、アメリカの下院では2011年になるまで議場の近くに女性用トイレがなかった[50]。 男性用トイレは下院の議場のすぐ近くにあって、靴磨き台まで含むアメニティが取りそろえられ、暖炉がしつらえてある。テレビもあり、議場の進行をリアルタイムで映しているので、男性は議事を一瞬たりとも逃さずにすむ。 女性初の下院議員は1917年に誕生し、2011年には78人の女性下院議員がいたが、女性用トイレまで長い距離を歩いて行かなければならなかった。 議事次第で決められた休憩のあいだに議場まで戻って来られなくなることもよくあったが、そうすると討議の一部に参加できない。 2007年に、女性用トイレを議場からもっと近い場所に設置する計画が検討されたが、「歴史的建造物という性質上、また配管の追加工事が必要になるため、費用がかかりすぎる[51]」とされた。 長く厳しい道のりであったが、女性は、法的、社会的に最低の地位であるという足かせからようやく抜け出そうとしている。 こんにち私たち女性は、男性と同じく完全に自立した成人であり、子どもやお金や財産や将来について自分のこととして決定する力があるとされている。 しかしながら、私たちが労働力に組み込まれていくいっぽうで、歴史的に続いてきた差別の名残で、一流の仕事や高額の報酬については、女性は平等な分け前を得ることができないのだ。 原注は省略)』、「女性初の下院議員は1917年に誕生し、2011年には78人の女性下院議員がいたが、女性用トイレまで長い距離を歩いて行かなければならなかった。 議事次第で決められた休憩のあいだに議場まで戻って来られなくなることもよくあったが、そうすると討議の一部に参加できない。 2007年に、女性用トイレを議場からもっと近い場所に設置する計画が検討されたが、「歴史的建造物という性質上、また配管の追加工事が必要になるため、費用がかかりすぎる[51]」とされた。 長く厳しい道のりであったが、女性は、法的、社会的に最低の地位であるという足かせからようやく抜け出そうとしている」、米下院でも「女性用トイレを議場からもっと近い場所に設置」することが、最近まで問題化していたとは驚いた。
先ずは、本園1月23日付けデイリー新潮「元中学校教師、酒豪…女性初、海上自衛隊で「海将」に昇進した近藤奈津枝さんはどんな人か」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2024/01230620/?all=1
・『「私たちに求められるのは、この国を守り抜くため、精強かつ持続力のある地方隊をつくり上げること」──こう部下に訓示した人物が誰だかお分かりだろうか。正解は、海上自衛隊で最も階級が高い「海将」に女性で初めて昇任した近藤奈津枝氏(57)だ。 ちなみに、自衛隊で女性が「将」に昇進したのは、陸将、空将を含め初。青森県むつ市にある海上自衛隊大湊地方総監部の総監となり、昨年12月23日、着任式に臨んだ。 訓示には冒頭で紹介したもののほかに、「すべての隊員が、日曜日の夜に『月曜日に出勤するのが楽しみで仕方ない』と思える組織こそが結果を出せる」という興味深い言葉もある。 いずれにしても、それほど自衛隊に詳しくない人でも、「とてつもなく偉い人」というイメージは強いはずだ。担当記者が言う。 「海上自衛隊の“海将”は、諸外国の海軍や旧帝国海軍では“中将”に相当します。例えば、真珠湾攻撃で有名な山本五十六は1934年に海軍中将となりました。そして39年に55歳で連合艦隊司令長官に任命されています。近藤さんは、当時の山本五十六と同じ階級というわけです。海上自衛隊の普通の隊員にとっては、文字通り“神様”のように偉い人です」 その近藤氏だが、非常にユニークな経歴の持ち主でもある。1966年に山口県で生まれ、大学は地元の国立・山口大学に進んだ。そして卒業すると、中学校の臨時採用教員として国語を教えていたのだ。海上自衛隊の関係者が言う』、「海上自衛隊で最も階級が高い「海将」に女性で初めて昇任した近藤奈津枝氏(57)だ。 ちなみに、自衛隊で女性が「将」に昇進したのは、陸将、空将を含め初。青森県むつ市にある海上自衛隊大湊地方総監部の総監となり、昨年12月23日、着任式に臨んだ・・・大学は地元の国立・山口大学に進んだ。そして卒業すると、中学校の臨時採用教員として国語を教えていた」、変わった経歴だ。
・『最初は看護師 「近藤さんは市役所で自衛官募集のパンフレットを見たのがきっかけで、1989年に海上自衛隊に入隊しました。これまで自衛隊で活躍する女性といえば、92年に防衛大学校に初めて入学した女子学生たちが常に注目を集めてきました。海上自衛隊では、女性として初めて練習艦の艦長になった東良子さん(50)、初めてイージス艦の艦長となった大谷三穂さん(52)といった方々です。近藤さんは彼女らより前の世代で、まさに女性尉官のパイオニアと言っていいでしょう」 旧帝国海軍が女性に門戸を開くことはなかった。一方、1954年に発足した自衛隊は当初から女性自衛官を採用した。だが、当時の定員17万人のうち女性自衛官は144人。おまけに職種も限定され、全員が看護師だった。 「女性自衛官の草分けは医療関係者」という歴史があるため、自衛隊で初めて将官となった佐伯光(ひかる)氏(80)は海上自衛隊の医官だった。佐伯氏は2000年に自衛隊中央病院リハビリテーション科部長に就任し、翌01年に海将補に昇任。海外の階級だと「海軍少将」になる。) 「私たちに求められるのは、この国を守り抜くため、精強かつ持続力のある地方隊をつくり上げること」──こう部下に訓示した人物が誰だかお分かりだろうか。正解は、海上自衛隊で最も階級が高い「海将」に女性で初めて昇任した近藤奈津枝氏(57)だ。 ちなみに、自衛隊で女性が「将」に昇進したのは、陸将、空将を含め初。青森県むつ市にある海上自衛隊大湊地方総監部の総監となり、昨年12月23日、着任式に臨んだ。 訓示には冒頭で紹介したもののほかに、「すべての隊員が、日曜日の夜に『月曜日に出勤するのが楽しみで仕方ない』と思える組織こそが結果を出せる」という興味深い言葉もある。 いずれにしても、それほど自衛隊に詳しくない人でも、「とてつもなく偉い人」というイメージは強いはずだ。担当記者が言う。 「海上自衛隊の“海将”は、諸外国の海軍や旧帝国海軍では“中将”に相当します。例えば、真珠湾攻撃で有名な山本五十六は1934年に海軍中将となりました。そして39年に55歳で連合艦隊司令長官に任命されています。近藤さんは、当時の山本五十六と同じ階級というわけです。海上自衛隊の普通の隊員にとっては、文字通り“神様”のように偉い人です」 その近藤氏だが、非常にユニークな経歴の持ち主でもある。1966年に山口県で生まれ、大学は地元の国立・山口大学に進んだ。そして卒業すると、中学校の臨時採用教員として国語を教えていたのだ。海上自衛隊の関係者が言う』、確かに経歴は「大学は地元の国立・山口大学に進んだ。そして卒業すると、中学校の臨時採用教員として国語を教えていた」と、ユニークだ。
・『最初は看護師 「近藤さんは市役所で自衛官募集のパンフレットを見たのがきっかけで、1989年に海上自衛隊に入隊しました。これまで自衛隊で活躍する女性といえば、92年に防衛大学校に初めて入学した女子学生たちが常に注目を集めてきました。海上自衛隊では、女性として初めて練習艦の艦長になった東良子さん(50)、初めてイージス艦の艦長となった大谷三穂さん(52)といった方々です。近藤さんは彼女らより前の世代で、まさに女性尉官のパイオニアと言っていいでしょう」 旧帝国海軍が女性に門戸を開くことはなかった。一方、1954年に発足した自衛隊は当初から女性自衛官を採用した。だが、当時の定員17万人のうち女性自衛官は144人。おまけに職種も限定され、全員が看護師だった。 「女性自衛官の草分けは医療関係者」という歴史があるため、自衛隊で初めて将官となった佐伯光(ひかる)氏(80)は海上自衛隊の医官だった。佐伯氏は2000年に自衛隊中央病院リハビリテーション科部長に就任し、翌01年に海将補に昇任。海外の階級だと「海軍少将」になる』、「海上自衛隊で最も階級が高い「海将」に女性で初めて昇任した近藤奈津枝氏(57)だ」、大したものだ。
次に、6月26日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリスト・編集者のアナベル・ウィリアムズ 氏による「英国女性に最も多い「法律違反」の意外な中身 大半が女性、10万人弱の女性が起訴された年も」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/764111
・『現在のペースだと男女間の賃金格差を解消するためには257年かかる――。2019年に世界経済フォーラムが発表したこの試算からもわかるように、男女の間にはいまだに大きな金融格差が存在しています。 格差が生まれる根本と平等に向けた具体策に迫る新著『女性はなぜ男性より貧しいのか?』より一部抜粋しお届けします。 ▽イギリスで起訴された女性のなかで一番多い違反は?(世界の最先進国では、女性に関して数々のことが成し遂げられてきたにもかかわらず、ジェンダーによる富の不平等という難題がまだ立ちはだかっている。ジェンダーによる賃金格差は私たちの誰もが知るところだが、まだ十分議論されていないのが、賃金格差から生まれる資産の格差だ。「資産」とは、豊かな財産やCEO並みの給料といった意味ではない。働く女性が職業生活――平均して男性より収入が少ない――を通じて貯められる総額のことだ。 イギリスでは45歳未満の年齢層で、すでに男女間の資産格差が存在する。しかも年齢とともに差が広がり、45歳から64歳の女性の平均資産額は29万3700ポンド(約5550万円)で、同じ年齢層の男性では平均37万6500ポンド(約7100万円)となっている[1]。そして、アメリカにおける資産格差はさらに大きい。アメリカの18歳から64歳の独身男性の資産額の中央値は3万1150ドル(約460万円)で、同じ年齢層の独身女性では1万5120ドル(約223万円)と、男性の半分にも満たない[2]。 では、イギリス女性が抱える経済の不平等がどんなものかを明確にイメージするため、次の質問を考えてみよう。 法律に違反して起訴された女性たちのあいだで、最も多かった違反は何だろう?万引きだろうか?公然酩酊罪か?それとも交通違反?) じつは、お金がないのでテレビの受信料が払えない、というものだ[3]。 テレビ放送やオンライン配信で番組を視聴する世帯は、法律によりイギリスの公共放送BBCの受信料として、年間157.5ポンド(約3万円)を払わなければならない。受信料の不払いは犯罪であり、起訴され、1000ポンド(約19万円)以下の罰金が科され、禁固刑を受ける場合もある。受信料不払いという、貧困ゆえの犯罪で起訴される人のうち、4分の3近くが女性で、2017年には9万6000人以上の女性が起訴された[4]。 受信料の支払いについては議論があり、主義として支払いを拒否する人もいる。しかし、一般に女性は集金が来たら応じて協力するし、受信料支払いの登録をしているのは女性のほうが多い。こうした事実から示唆されるのは、女性は受信料制度に反対しているからではなく、支払い能力がないから払えない、ということだ。 支払わなければ起訴されるというこの制度は、ジェンダーによる経済格差を考慮していない。これは、政府から義務とされている費用で、毎年すべての世帯に対し収入にかかわらず同額の支払いを求めるものだ。そして、払えるだけの余裕がない人――大半は女性――は犯罪者にされる。しかも、これは、女性がぶち当たる制度的な不利益という氷山の一角にすぎない』、「支払わなければ起訴されるというこの制度は、ジェンダーによる経済格差を考慮していない。これは、政府から義務とされている費用で、毎年すべての世帯に対し収入にかかわらず同額の支払いを求めるものだ。そして、払えるだけの余裕がない人――大半は女性――は犯罪者にされる。しかも、これは、女性がぶち当たる制度的な不利益という氷山の一角にすぎない」、その通りだ。
・『貧困の女性化 テレビ受信料は、社会科学者が「貧困の女性化」と呼ぶ問題のちょっとした一例だ。この言葉は、ダイアナ・ピアス教授が1978年に初めて生み出した造語だが、問題はまだ続いている。富と貧困をはかるどんな方法を使ったとしても、世界じゅうで、ゆりかごから墓場まで、女性は男性より劣悪な生活を送っている。先進国でも開発途上国でも、女性は貧困層の多くの部分を占め[5]、失業中であったり不安定な雇用についていたりする割合が男性より高い[6]。 世界全体では、「よい仕事」、つまりフルタイムで賃金が支払われる仕事についている男性は女性のほぼ2倍で、南アジアでは、男性が女性の3倍以上になっている[7]。 先進国においては、統計に一定の傾向が見られる。日本では、ひとり暮らしをする生産年齢の女性のうち貧困層にあたるのは31パーセントだが、男性では25パーセントだ[8]。アメリカ全土では、貧困ライン以下の収入で生活する人の割合は、女性では14パーセントだが、男性は11パーセントである[9]。) こうしたデータの数々から、貧困の女性化について垣間見ることができる。富の不平等と女性の問題は複雑で、とくに先進国では、これまであまりにも研究されてこなかった分野だ』、「富の不平等と女性の問題は複雑で、とくに先進国では、これまであまりにも研究されてこなかった分野だ」、その通りだ。
・『議論にもならないまま、取り残されていく女性 原因と結果に関する適切なデータなしには、どんな問題にも対処できない。2019年にイギリス政府は、貧困をより正確に評価するための方法を策定する計画を発表したが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより棚上げになった。ジェンダーによる経済的不平等の実態が十分に研究されず、ほとんど議論にもならないまま、女性が取り残されていく。 ヨーロッパで最も広く使われている貧困の基準は、個人または世帯の収入が当該国における世帯収入の中央値の60パーセント未満というものだ。つまり、統計専門家が各世帯の収入を調べて最も低い値から最も高い値まで順に並べ、中央の値を計算する。これが、平均的な人が生計を立てるために使っている金額だ。誰もが平均的な収入を得られるとはかぎらないが、誰もが平均的な人の収入の少なくとも60パーセントくらいは稼げるだろうと想定している。 具体的な金額で言うと、イギリスのジョゼフ・ラウントリー財団によれば、2016/2017年度、イギリスの世帯収入は、住居費を除いた可処分所得の中間値が週あたり425ポンド(約8万円)(年間2万2100ポンド〈約418万円〉)だったので、この60パーセントは1万3260ポンド(約250万円)になる。 この計算に基づき社会基準値協会では、510万人の女性、460万人の子ども、450万人の男性が貧困状態にあるとしている[10](訳注:金額と人数は経年変化を見るため計算方法の調整を行ったうえ算出したもの)。これは、女性の20パーセント、子どもの34パーセント、男性の18パーセントに相当する。 イギリスとアメリカにおける貧困の女性化のおもな要因は、1980年代以降のひとり親世帯の増加で、ひとり親の90パーセントが女性だ。アメリカの統計によれば、1960年には、貧困層のうち母親だけの世帯が占める割合は28パーセントだったが、1987年には60パーセントと、倍以上になっている[11]。イギリスでは現在、ひとり親の45パーセントが貧困状態にある。これは、その子どもも貧困のなかで暮らしていることを意味する。政府は子どもの貧困率を引き下げようと、法的拘束力のある目標値を2010年に導入したが、2016年に撤廃し、その後ふたたび導入する計画はない。) イギリスでは独身の女性(未亡人になった高齢女性とパートナーがいない若い女性を含む)全体で見ても、独身男性より貧困率が高い。しかも、ここ数年のあいだに独身男性の貧困率は下がってきた[12]。データからは、貧困の要因として障害も浮上する。貧困状態にある人のうち370万人に障害があり、障害者に女性が占める割合は男性より高く54.4パーセントだ[13]。 さて、誰が障害者の介護をするのか?家族で介護をしている人(つまり「無給の介護人」)の4分の3近くが女性だ。さらに、有給の介護職のほぼ80パーセントが女性であることを忘れてはいけない。介護は最も賃金が低い分野の一つでもある。 先進国の政府は特定の政策を通じて収入に大きな影響を及ぼすことができる。たとえば最低賃金や傷病手当等の雇用主に対する規則、税制度、社会保障制度を通じた富の再分配などだ。こうした政策を実施する際に、政府は社会における貧困と富の不平等に対して影響力を行使し、どのような社会層を支援し、どの層を冷遇するかを選ぶことができるはずだ』、「貧困状態にある人のうち370万人に障害があり、障害者に女性が占める割合は男性より高く54.4パーセントだ[13]。 さて、誰が障害者の介護をするのか?家族で介護をしている人(つまり「無給の介護人」)の4分の3近くが女性だ。さらに、有給の介護職のほぼ80パーセントが女性であることを忘れてはいけない。介護は最も賃金が低い分野の一つでもある」、なるほど。
・『女性の隠れた貧困 また、女性の貧困は男性の「庇護」の下に隠れて見えなくなっていることがある。女性は誰かと一緒に、つまり多くの場合、男性のパートナーと一緒に暮らしているときにはほぼきまって、より裕福に見えるからである。統計学者は、相対的な裕福度を調べる際に世帯の資産に着目する。これは、お金を稼ぐ人が支出を決定する人でもある単身世帯の場合にはわかりやすい方法だ。 しかし夫婦がそろっている世帯では、どちらか一人が世帯全体の「財務報告者」になったうえ、家族の資産の詳細を説明することになる。各世帯では成人の構成員のあいだで資産が平等に分けられているという想定なので、収入が少ない女性がもっと収入の多いパートナーと暮らしている場合は、統計上、より裕福な世帯層に入ってしまうのだ。 これではデータが歪められてしまい、そのため、男女間の経済格差がどの程度かを正確にはかることが難しくなる。調査をするとかならず、世帯内の男性と女性のあいだで収入が平等に分けられていないことが指摘されているからなおさらだ。) 先進国の7か国を対象としたある調査によれば、女性が家庭で自由に使える資産は、平均すると世帯全体の資産の3分の1に満たなかったという。イタリアの女性の半分は、自分自身の収入がまったくなく、政府の給付金さえ受け取っていなかった。フランス、ドイツ、イギリスでは、女性の4分の1以上が政府の給付金以外に収入がなかった[14]。これらの世帯は、調査報告上では中流階級か富裕層だとみなされるかもしれない。しかし男性がいなくなり収入のすべてをもっていかれたとすると、多くの場合、女性は生計を立てていくためのお金がほとんどなくなってしまうだろう。
・『多くの女性が経済面で男性に依存 女性はなぜ男性より貧しいのか?(統計学者がつねに、この「財務報告者は一人」という手法を使っているわけではなく、長期にわたる世帯資産調査では、婚姻関係にある成人の双方に収入を尋ねるケースもある。とはいえ、21世紀になっても、イギリスでもほかの先進国でも、多くの女性が経済面で男性に依存しているという事実は変わらない。 女性が家族の世話や家事のために有給の仕事を離れた場合、実際にはパートナーが財産を築けるよう援助していることになる。そうした女性の働きが、その男性が現在と将来にわたって収入を得る能力、貯蓄する能力、そして信用力や年金貯蓄の助けになっている。 しかし、こうした状況にある女性は個人としては貧困ということになるので、女性がおかれている不平等を正確にはかるには、このような立場の女性を「貧困」と区分すべきだと指摘されている[15]。 原注(省略) 』、「女性が家族の世話や家事のために有給の仕事を離れた場合、実際にはパートナーが財産を築けるよう援助していることになる。そうした女性の働きが、その男性が現在と将来にわたって収入を得る能力、貯蓄する能力、そして信用力や年金貯蓄の助けになっている。 しかし、こうした状況にある女性は個人としては貧困ということになるので、女性がおかれている不平等を正確にはかるには、このような立場の女性を「貧困」と区分すべきだと指摘されている」、その通りだ。
第三に、7月15日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリスト・編集者のアナベル・ウィリアムズ氏による「リアル「虎に翼」英国女性が法曹界で抱えた苦悩 弁護士になるまで31年、生涯男装の女性医師も」を紹介しよう。
・『現在のペースだと男女間の賃金格差を解消するためには257年かかる――。2019年に世界経済フォーラムが発表したこの試算からもわかるように、男女の間にはいまだに大きな金融格差が存在しています。 格差が生まれる根本と平等に向けた具体策に迫る新著『女性はなぜ男性より貧しいのか?』より一部抜粋しお届けします。 前回記事は「英国女性に最も多い『法律違反』の意外な中身」』、「現在のペースだと男女間の賃金格差を解消するためには257年かかる」、こんなに長期間かかるというのでは、事実上、「格差」は当面、残るということだ。
・『女性は弁護士になれない 女性が財産を増やし男性と平等な地位を築くには、男性と同じように稼げる能力を身につけなくてはならない。 しかし、女性が大学に行くことには激しい抵抗があり、入学がなんとか認められ勉強して試験に通っても、女性は学位を受けることができず、学んだ分野で職業につくことができなかった。 医学など最も収入が高い職業につく権利を求める女性の闘いは何十年も続いた。法律分野では、カナダとアメリカの女性が弁護士業務を行う権利を得たのちも、イギリスの女性は長いあいだ法曹界から閉め出されていた。 知的な意味でより難易度が高いとされる領域で、女性は門戸が閉ざされていた。女性のほうが生まれつき劣っているとする男性の思い込みによるものであり、女性は知能が低いので数学的、科学的、論理的な思考ができない、と考えられていたためだ。このような偏見が根強く残っていることは、次のエピソードによく表れている。) 1867年にタイプライターが発明されたとき、女性が扱うには複雑すぎると考えられていた。しかし100年後の1960年代後半、いまでは恥さらしとなったオリベッティの広告では、ブロンドの美女がタイプライターの前に座り、こんなキャプションが添えられていた。 「タイプライターがこれほど有能なら、女性は賢くなくていい」。 皮肉なことに、広告の女性は賢いなんてものではなかった。彼女の名はシェア・ハイト。有名なコロンビア大学で歴史学の博士号をとるための費用の足しにしようと、モデル業を始めたのだった。 ハイトは、タイピングのスキルがすぐれているからオリベッティに選ばれたのだろうと思っていて、自分のイメージがどういうふうに利用されたか、あとになって気づいた。 最後に笑ったのはハイトだった。著書『ハイト・リポート 新しい女性の愛と性の証言』(パシフィカ、1977年)は5000万部を売り上げ、女性が自分の体に対して抱くイメージに革命を起こした。 女性が知的に劣っているという観念は生物学的な事実だと考えられていたが、この観念が薄れはじめてもなお、女性をめぐる生物学的価値観は、私たちに不利なように利用された。大学の講義のあいだじゅう座っていることは、子宮に何らかの影響を与え、乳腺を枯渇させるのではないかと思われていた』、「カナダとアメリカの女性が弁護士業務を行う権利を得たのちも、イギリスの女性は長いあいだ法曹界から閉め出されていた。 知的な意味でより難易度が高いとされる領域で、女性は門戸が閉ざされていた。女性のほうが生まれつき劣っているとする男性の思い込みによるものであり、女性は知能が低いので数学的、科学的、論理的な思考ができない、と考えられていたためだ」、サッチャー首相を輩出した国でも「女性は長いあいだ法曹界から閉め出されていた」とは初めて知った。
・『弁護士として認められるまで31年 1888年、イライザ・オームは、イングランドの女性として初めて、法律の学位をユニバーシティ・カレッジ・ロンドンから授与された。オームは、女性はもっと権利を主張すべきであり、高い収入を得られる職業の機会が女性にも開かれるべきだと信じていた。 しかしオームは、事務弁護士として働くことを法的に認められるまで31年待たなければならなかった。) 1913年、4人の女性によって裁判所に訴訟が持ち込まれた。女性の1人はグウィネス・ベブで、オックスフォード大学で法学を学び、試験で最優等の成績をおさめたが、正式に卒業できなかった。 ベブは事務弁護士として開業するための試験を法律協会に申請したが、受験料が返金されてきた。女性は弁護士になれないので、試験場に来ても受験は認められないと書かれていた。ベブは法律協会を訴え、法律では弁護士になるのは「人(person)」と記載されているので女性も含まれる、と主張した。 法廷は、女性というジェンダー全体が「人」の定義の枠外であると論じた。「1843年の事務弁護士法の意味する範囲において、女性は人でなく(略)、それゆえに、法律協会が実施する予備試験の登録から除外されるのが妥当である」と控訴院の判決文に記されていた[41]。判決は、「法律に基づき、女性も子どもも奴隷も法曹職につくことは認められない」と述べた中世の論文を参照したものだった[42]』、根拠が「中世の論文」とは恐れ入る。
・『オックスフォードとケンブリッジでも… 名の通った機関ほど、女性に男性と同じ地位を提供するまでに時間がかかることがよくある。このことは、こんにちでも政府の要職や法曹界、学界、金融界、医学界で男性に比べ女性が少ないという事実と呼応している。 イギリスのエリート大学であるオックスフォードとケンブリッジが女性を男性と平等に扱うようになったのは、国内の大学でいちばん遅かった。オックスフォード大学は、1920年10月になるまで女性に学位を授与しなかった。その50年近くも前からすでに、大学内に4校あった女子学生だけのカレッジで女性が学び試験に合格していたにもかかわらずだ[43]。ケンブリッジでは、1940年になってようやく、女性に学位を授与した。 しかし、こうした進展には但し書きがつく。オックスフォードでは1927年以降、女子学生の人数を最大840人、または学部学生全体の6分の1に制限していた。水門を開放すると怒涛のように流れ込むのではないかと危惧したためだ。21年後に上限が引き上げられ、さらに90人の女性を受け入れるようになったが、定員の割り当ては1957年まで撤廃されなかった。 これは経済的平等を実現するには重大な障壁だった。一流の教育はより高い収入につながるからだ。 しかし、女性がいるとほかの学生の気が散ると考えられていた。オックスフォード大学のある女子カレッジの学長は「じつに嫌な苦情だ。わがカレッジの学生がタイトスカートをはき脚を見せて座っているので、男性の試験官が落ち着かないという[44]」と書いている。するべきことに集中できない男性がいたとしても、それは女性のせいではない。) 女性は医療専門職でも同じ障害に直面した。1789年にアイルランドのコーク県で生まれたマーガレット・アン・バルクリーは、男性に変装してエディンバラ大学で医学を学び、イギリスで最初の女性医師になった。 裕福な支援者たちの協力を得てみずからをドクター・ジェームズ・バリーに仕立て上げ、有能な軍医になって南アフリカ、セントヘレナ、トリニダード・トバゴで医療に従事し、大英帝国で初めて帝王切開に成功した[45]。』、「マーガレット・アン・バルクリーは、男性に変装してエディンバラ大学で医学を学び、イギリスで最初の女性医師になった。 裕福な支援者たちの協力を得てみずからをドクター・ジェームズ・バリーに仕立て上げ、有能な軍医になって南アフリカ、セントヘレナ、トリニダード・トバゴで医療に従事し、大英帝国で初めて帝王切開に成功した」、なるほど。
・『死去して初めて… ドクター・バリーが死去したとき、埋葬のため遺体を整えていた女性が、バリーは女性だと気づいた。事実が発覚し、ヴィクトリア朝時代のイギリスで大事件になった。女性が医師として働けるようになる50年以上も前のことだ。私なら、ドクター・バリーを10ポンド札の顔にするだろう。 バリーは細身で女性らしい顔つきだったが、この軍医が女性として生まれたとは誰も思わなかった。そのかわり「いっぷう変わっていてあまり人と交わらないバリーについて、学生たちがうわさをしはじめた。『ミスター・ジェームズ・バリーはぜったいに男ではない―間違いなく少年だ。(略)思春期にもなっていない子どもだ。根拠はたくさんあって明らかだ。彼は背が低い、体型が華奢、声が高い、繊細な顔つきで肌がなめらか[46]」。』 このばかばかしい状況は、男性と女性の知性に対する当時の期待をよく物語っている。小柄で少女のような医学生は、知能が高い早熟な男の子以外にありえなかったのだ。) 女性が職場からあからさまに除外されていなかったとしても、女性を締め出すため別のかたちの差別もあった。1982年まで、パブでは女性に対するサービスを拒むことができた。 この「男性の領地」で女性がお金を使うことを認めるかどうかは、店主次第だった。状況が変わったのは1982年11月のことで、事務弁護士のテス・ギルとジャーナリストのアナ・クートが、フリート・ストリートで人気のパブ、エル・ヴィーノに苦情を申し立てたのだ。 エル・ヴィーノでは、女性がカウンターで飲み物を注文したりカウンターの脇に立ったりすることを禁じていて、女性はテーブル席がある奥の部屋にしか入れなかった。 エル・ヴィーノの言い分は、騎士道精神を守るためというものだった。エル・ヴィーノはシティに店を構えていて、ジャーナリストや弁護士らが集まってゴシップに興じる場として愛されていた。 しかし、1970年に女性ジャーナリストの一団がカウンターに押しかけ飲み物のサービスを要求しても、経営者はまだ自分たちの方針を曲げなかった[47]。 第一審の法廷では、女性差別に当たらないと判断されたが、控訴審では、女性がバーの特定の場所にしか集まれないのであれば、職業上不利な状況におかれる可能性があると認めた。 判事は次のとおり述べた。「男性はエル・ヴィーノで飲みたければ飲める。望むならカウンターの周りに集まり友人と交流できるし、とくにジャーナリストであるなら興味深いうわさ話をいろいろ拾えるだろう。(略)男性ジャーナリストにそうしたことが認められているなら、なぜ女性には認められないのか?[48]」』、「ドクター・バリーが死去したとき、埋葬のため遺体を整えていた女性が、バリーは女性だと気づいた。事実が発覚し、ヴィクトリア朝時代のイギリスで大事件になった。女性が医師として働けるようになる50年以上も前のことだ。私なら、ドクター・バリーを10ポンド札の顔にするだろう。 バリーは細身で女性らしい顔つきだったが、この軍医が女性として生まれたとは誰も思わなかった。そのかわり「いっぷう変わっていてあまり人と交わらないバリーについて、学生たちがうわさをしはじめた」、ウソのような話だ。
・『女性用トイレがない トイレの設備がないことは、女性が職場で不利な状況におかれみずからを向上させる機会を妨げられる理由にたびたびされてきた。ハーバード大学は、非常に長い期間にわたって、トイレがないことを理由に女子学生の医学部入学を認めなかった大学の一つだ。 医学部に女子学生の入学が認められたのは1945年のことで、女性が初めて志願してから100年近くたっていた。ハーバード大学ロー・スクールが女性に門戸を開いたのは1950年で、最初の女性が入学を志願してから79年後だった。) イェール大学医学部は、1916年に女子学生を受け入れた。経済学教授のヘンリー・ファーナムが費用を払い、女子トイレを設置したあとのことだ。 ヘンリーの娘がイェールの医学部に入ることを強く希望していたからだった[49]。アメリカで最も名高い士官学校のバージニア州立軍事学校は、1996年になるまでトイレを口実として利用していた。 女性用のトイレが十分にないという問題は、アメリカで「トイレの平等(potty parity)」として知られている。一部の専門職の職場や権力の殿堂で女性用トイレがないことは、女性が除外されていることの指標になる』、「トイレの設備がないことは、女性が職場で不利な状況におかれみずからを向上させる機会を妨げられる理由にたびたびされてきた。ハーバード大学は、非常に長い期間にわたって、トイレがないことを理由に女子学生の医学部入学を認めなかった大学の一つだ。 医学部に女子学生の入学が認められたのは1945年のことで、女性が初めて志願してから100年近くたっていた・・・女性用のトイレが十分にないという問題は、アメリカで「トイレの平等(potty parity)」として知られている。一部の専門職の職場や権力の殿堂で女性用トイレがないことは、女性が除外されていることの指標になる」、なるほど。
・『米下院に2011年まで存在したトイレの不平等 信じられないことに、アメリカの下院では2011年になるまで議場の近くに女性用トイレがなかった[50]。 男性用トイレは下院の議場のすぐ近くにあって、靴磨き台まで含むアメニティが取りそろえられ、暖炉がしつらえてある。テレビもあり、議場の進行をリアルタイムで映しているので、男性は議事を一瞬たりとも逃さずにすむ。 女性初の下院議員は1917年に誕生し、2011年には78人の女性下院議員がいたが、女性用トイレまで長い距離を歩いて行かなければならなかった。 議事次第で決められた休憩のあいだに議場まで戻って来られなくなることもよくあったが、そうすると討議の一部に参加できない。 2007年に、女性用トイレを議場からもっと近い場所に設置する計画が検討されたが、「歴史的建造物という性質上、また配管の追加工事が必要になるため、費用がかかりすぎる[51]」とされた。 長く厳しい道のりであったが、女性は、法的、社会的に最低の地位であるという足かせからようやく抜け出そうとしている。 こんにち私たち女性は、男性と同じく完全に自立した成人であり、子どもやお金や財産や将来について自分のこととして決定する力があるとされている。 しかしながら、私たちが労働力に組み込まれていくいっぽうで、歴史的に続いてきた差別の名残で、一流の仕事や高額の報酬については、女性は平等な分け前を得ることができないのだ。 原注は省略)』、「女性初の下院議員は1917年に誕生し、2011年には78人の女性下院議員がいたが、女性用トイレまで長い距離を歩いて行かなければならなかった。 議事次第で決められた休憩のあいだに議場まで戻って来られなくなることもよくあったが、そうすると討議の一部に参加できない。 2007年に、女性用トイレを議場からもっと近い場所に設置する計画が検討されたが、「歴史的建造物という性質上、また配管の追加工事が必要になるため、費用がかかりすぎる[51]」とされた。 長く厳しい道のりであったが、女性は、法的、社会的に最低の地位であるという足かせからようやく抜け出そうとしている」、米下院でも「女性用トイレを議場からもっと近い場所に設置」することが、最近まで問題化していたとは驚いた。
タグ:女性 (その30)(元中学校教師 酒豪…女性初、海上自衛隊で「海将」に昇進した近藤奈津枝さんはどんな人か、英国女性に最も多い「法律違反」の意外な中身 大半が女性、10万人弱の女性が起訴された年も、リアル「虎に翼」英国女性が法曹界で抱えた苦悩 弁護士になるまで31年 生涯男装の女性医師も) デイリー新潮「元中学校教師、酒豪…女性初、海上自衛隊で「海将」に昇進した近藤奈津枝さんはどんな人か」 「海上自衛隊で最も階級が高い「海将」に女性で初めて昇任した近藤奈津枝氏(57)だ。 ちなみに、自衛隊で女性が「将」に昇進したのは、陸将、空将を含め初。青森県むつ市にある海上自衛隊大湊地方総監部の総監となり、昨年12月23日、着任式に臨んだ・・・大学は地元の国立・山口大学に進んだ。そして卒業すると、中学校の臨時採用教員として国語を教えていた」、変わった経歴だ。 そして卒業すると、中学校の臨時採用教員として国語を教えていた」と、ユニークだ。 「海上自衛隊で最も階級が高い「海将」に女性で初めて昇任した近藤奈津枝氏(57)だ」、大したものだ。 東洋経済オンライン アナベル・ウィリアムズ 氏による「英国女性に最も多い「法律違反」の意外な中身 大半が女性、10万人弱の女性が起訴された年も」 「富の不平等と女性の問題は複雑で、とくに先進国では、これまであまりにも研究されてこなかった分野だ」、その通りだ。 「女性が家族の世話や家事のために有給の仕事を離れた場合、実際にはパートナーが財産を築けるよう援助していることになる。そうした女性の働きが、その男性が現在と将来にわたって収入を得る能力、貯蓄する能力、そして信用力や年金貯蓄の助けになっている。 しかし、こうした状況にある女性は個人としては貧困ということになるので、女性がおかれている不平等を正確にはかるには、このような立場の女性を「貧困」と区分すべきだと指摘されている」、その通りだ。 「現在のペースだと男女間の賃金格差を解消するためには257年かかる」、こんなに長期間かかるというのでは、事実上、「格差」は当面、残るということだ。 サッチャー首相を輩出した国でも「女性は長いあいだ法曹界から閉め出されていた」とは初めて知った。 「マーガレット・アン・バルクリーは、男性に変装してエディンバラ大学で医学を学び、イギリスで最初の女性医師になった。 裕福な支援者たちの協力を得てみずからをドクター・ジェームズ・バリーに仕立て上げ、有能な軍医になって南アフリカ、セントヘレナ、トリニダード・トバゴで医療に従事し、大英帝国で初めて帝王切開に成功した」、なるほど。 「ドクター・バリーが死去したとき、埋葬のため遺体を整えていた女性が、バリーは女性だと気づいた。事実が発覚し、ヴィクトリア朝時代のイギリスで大事件になった。女性が医師として働けるようになる50年以上も前のことだ。私なら、ドクター・バリーを10ポンド札の顔にするだろう。 バリーは細身で女性らしい顔つきだったが、この軍医が女性として生まれたとは誰も思わなかった。そのかわり「いっぷう変わっていてあまり人と交わらないバリーについて、学生たちがうわさをしはじめた」、ウソのような話だ。 米下院でも「女性用トイレを議場からもっと近い場所に設置」することが、最近まで問題化していたとは驚いた。
スポーツ界(その37)(元横綱・白鵬ますます遠ざかる「理事長」の座…弟子の不祥事で2階級降格&報酬減額のWパンチ、「重圧は言い訳にならない」とバッサリ 体操界レジェンド池谷幸雄氏が語る「エース不在」の影響、体操界は飲酒喫煙「常態化」の衝撃…かつてスポンサー企業もブチギレていた!、オリンピアンの大甘同情論に透ける「特権意識」…血税注ぎ込まれているだけに厳罰必至の当然) [社会]
スポーツ界については、昨年9月2日に取上げた。今日は、(その37)(元横綱・白鵬ますます遠ざかる「理事長」の座…弟子の不祥事で2階級降格&報酬減額のWパンチ、「重圧は言い訳にならない」とバッサリ 体操界レジェンド池谷幸雄氏が語る「エース不在」の影響、体操界は飲酒喫煙「常態化」の衝撃…かつてスポンサー企業もブチギレていた!、オリンピアンの大甘同情論に透ける「特権意識」…血税注ぎ込まれているだけに厳罰必至の当然)である。
先ずは、本年2月22日付け日刊ゲンダイ「元横綱・白鵬ますます遠ざかる「理事長」の座…弟子の不祥事で2階級降格&報酬減額のWパンチ」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/336550
・『これは理事から理事長への階段を上がりたい宮城野親方(38=元横綱白鵬)にとって大きな痛手になる。 日本相撲協会のコンプライアンス委員会が、宮城野親方の委員から年寄への2階級降格と減俸の処分案をまとめた。弟子の幕内北青鵬(22)が同部屋の後輩力士に繰り返し暴力を振るっていたことが判明し、親方としての監督責任を問われたのだ。 当の北青鵬は引退勧告が妥当とされ、本人は処分を受け入れる方向らしい。 21日にコンプライアンス委員会の会合で処分を通告された宮城野親方は、報道陣に対して無言だった。 2年に1回行われる 相撲協会の理事選は今年の1月下旬に行われ、定員の10人が立候補したため3期連続の無投票に。宮城野親方は一時、所属する伊勢ケ浜一門から理事選に立候補するウワサがあったものの、昨年11月の一門会で出馬の意向がないことを明かしていた。 「宮城野親方は将来、 相撲協会の理事長になる野望をもっています。そのためにはまず、理事になる必要がありますが、今回は出馬を断念した。所属する伊勢ケ浜一門からは元大関魁皇の浅香山親方が出馬することになっていたし、当選に必要なだけの票を集めることが不可能だと判断したからです。2年後、もしくはその先の理事選に備えるつもりでしょうが、今回の2階級降格は大きな痛手。なにしろ解雇、引退もしくは退職勧告に次いで3番目に重い処分を受けたわけですから、今後に響きますよ」(ある親方) そもそも宮城野親方は現役時代から横綱らしからぬ発言や振る舞いが問題視されていた。協会には苦情の電話や投書が山ほど寄せられ、現執行部から注意されたことも数知れず。ただでさえ“問題児”が弟子の監督責任を問われて重い処分を食らったのだから、野望はますます遠ざかったと言わざるを得ない』、「ただでさえ“問題児”が弟子の監督責任を問われて重い処分を食らったのだから、野望はますます遠ざかったと言わざるを得ない」、「協会理事長」への「野望はますます遠ざかったと言わざるを得ない」、なるほど。
次に、7月20日付け日刊ゲンダイ「「重圧は言い訳にならない」とバッサリ、体操界レジェンド池谷幸雄氏が語る「エース不在」の影響」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/357876
・『「5人の中で一番成績は上。エースなので、影響は極めて大きい」 こう話すのは、1988年ソウル、92年バルセロナ五輪の体操で計4つのメダルを獲得した体操界のレジェンド・池谷幸雄氏だ。 宮田はパリ五輪の代表選考を兼ねて行われた4月の全日本選手権、5月のNHK杯で、いずれも金メダルを獲得したエース。しかし、そんな宮田を擁してでも、体操女子団体はパリ五輪でメダル獲得は厳しいと言われていた。 昨年10月の世界選手権団体戦予選8位でパリ五輪への切符を獲得したものの、決勝では出場した8カ国中、最下位の8位。1位のアメリカとは10点以上の差をつけられた。 種目別では段違い平行棒とゆかが8位。跳馬は7位、平均台は3位だったが……。 「宮田選手はその跳馬と平均台が得意種目で、22年の世界選手権で銅メダルを獲得した種目は平均台でした。団体戦は一番点数が取れる選手が最後に演技をするので、そのプレッシャーがあったのは確かだと思います。ただ、体操代表は未成年の選手も多く、飲酒や喫煙をしていない選手もいる。プレッシャーがあったというのは言い訳にはならない。今回の代表辞退はケガが理由ではないので、補欠選手の出場は認められません。つまり、4人で出場することになり、点数は宮田選手が出た場合よりも3点以上は下がるのは確実。残された4人の選手は、自分が出なくてもいいと考えていた種目も急遽出なくてはいけなくなったので、演技や点数への影響はかなり大きいでしょう」(池谷氏) エースを欠いた日本代表はどこまで戦えるのか……』、「宮田を擁してでも、体操女子団体はパリ五輪でメダル獲得は厳しいと言われていた。 昨年10月の世界選手権団体戦予選8位でパリ五輪への切符を獲得したものの、決勝では出場した8カ国中、最下位の8位。1位のアメリカとは10点以上の差をつけられた」、もともと世界的にみた実力は大したことはなかったようだ。
第三に、7月20日付け日刊ゲンダイ「体操界は飲酒喫煙「常態化」の衝撃…かつてスポンサー企業もブチギレていた!」まさに前代未聞である。 日本体操協会は19日、東京都内で会見し、パリ五輪体操女子日本代表の主将を務める宮田笙子(19)に飲酒と喫煙の事実が発覚したため、出場を辞退すると発表した。 宮田は6月末から7月にかけてナショナルトレーニングセンター(NTC=東京・北区)のアスリートビレッジで喫煙と飲酒をしたことが、日本協会への情報提供で発覚。協会は18日、事前合宿地のモナコから宮田を一時帰国させて事情聴取を行い、本人が飲酒と喫煙を認めたため、日本オリンピック委員会(JОC)の派遣規定や体操協会の行動規範に反するとして、代表の座をはく奪した。五輪本番直前に不祥事で出場が絶たれるのは異例のことだ。 会見した藤田直志会長は「宮田選手本人だけの責任ではない。体操協会全体としての責任」と話し、選手のサポート体制を拡充するなど、再発防止に取り組むことを明かした。 西村賢二専務理事は飲酒などの常習性について「まずは(事実を)確認しなければならなかったので、そこまで(聴取は)行きついていない」と説明したが、宮田の素行を把握していたとしても不思議ではない。) かねてから体操界は代表活動中の飲酒や喫煙が常態化していたという。「世界一美しい演技」と言われ、一時代を築いた絶対王者がヘビースモーカーだったのは体操界では有名な話だ。 NTC関係者がこういった。 「現役のアスリートで喫煙率が最も高いのは体操です。他の競技の関係者から喫煙を注意されても『体操に必要なのは瞬発力で、持久力は関係ない』とうそぶく選手もいるほど。屋外の喫煙所で背中に『JAPAN』と書かれたジャージを着て煙をくゆらす選手もいて、スポンサー企業の関係者から『日の丸を背負っているアスリートがタバコを吸うのはおかしいのではないか。自覚はあるのか』と苦情が入ったこともある。この一件があってから、喫煙所には外部からの視線を遮るため壁が設けられたのです」 今回の宮田による「規律違反」は起こるべくして起こったとも言えそうだ。(つづく)』、「「現役のアスリートで喫煙率が最も高いのは体操です。他の競技の関係者から喫煙を注意されても『体操に必要なのは瞬発力で、持久力は関係ない』とうそぶく選手もいるほど。屋外の喫煙所で背中に『JAPAN』と書かれたジャージを着て煙をくゆらす選手もいて、スポンサー企業の関係者から『日の丸を背負っているアスリートがタバコを吸うのはおかしいのではないか。自覚はあるのか』と苦情が入ったこともある。この一件があってから、喫煙所には外部からの視線を遮るため壁が設けられた」、「協会」は「外部からの視線を遮るため壁が設けられた」ように隠蔽には熱心でも、「アスリート」に禁煙させることは初めから諦めていたことが、今回の不祥事につながったようだ。
第四に、7月20日付け日刊ゲンダイ「オリンピアンの大甘同情論に透ける「特権意識」…血税注ぎ込まれているだけに厳罰必至の当然」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/357879
・『自らの不始末で開幕直前にパリ五輪への出場を辞退することになったそんな宮田に対し、同情論も出ている。 元都知事の猪瀬直樹参議院は自身のX(旧ツイッター)を更新し、《つくづく日本人は劣化している。たかがタバコで何を騒いでいるのか。麻薬じゃないんだぞ? 規則尽くめの杓子定規が日本をダメにしてきたのだ。こんな些細なことで19歳の夢を潰すつもりか!》と投稿。元陸上男子400メートルハードルの選手で2008年北京五輪に出場した為末大氏も、体操連盟の会見前に自身のXで宮田について、《問題だったとは思いますが、代表権を奪うほどではないと思います。どうか冷静な判断をお願いします》と私見を綴った。 「若者の夢を潰すなという意見は耳心地が良く聞こえるものの、未成年の喫煙・飲酒は明らかな脱法行為です。ルールを破ればペナルティを受けて当然で、日本代表選手といえども、例外はありません。ましてや、宮田選手はNTCで飲酒をしていたことも認めている。元トップアスリートの為末氏なら、それがどういうことか誰よりも分かっているはずです」) と、長く五輪を取材するスポーツライターの津田俊樹氏がこう続ける。 「世界で戦うアスリートにとってNTCは神聖な場所で、しかも370億円をかけて国が建設したものです。つまり国民の税金が投入されている。そこでルールを破ったのだから、五輪出場辞退は当然の報いだと思う。若いからこそなあなあで済ませてはいけないし、若者の未来を憂うのなら、大事なのは厳しいペナルティを課したうえでセカンドチャンスを与えること、そのための手助けをすることでしょう。問題の詳細が明らかになる前に宮田選手を庇い、同情するのは余りに軽率で、根底にはオリンピアンは特別だという傲慢さ、特権意識も透けて見える。さらに言えば、アスリートには、強ければいい、勝てばいいという勝利至上主義が根深く蔓延っている証左ではないか」 まったくだ。14日にはサッカー日本代表の佐野海舟が性的暴行の疑いで逮捕されたばかり。スポーツ界の不祥事が後を絶たないわけである。(つづく)』、「「世界で戦うアスリートにとってNTCは神聖な場所で、しかも370億円をかけて国が建設したものです。つまり国民の税金が投入されている。そこでルールを破ったのだから、五輪出場辞退は当然の報いだと思う。若いからこそなあなあで済ませてはいけない・・・大事なのは厳しいペナルティを課したうえでセカンドチャンスを与えること、そのための手助けをすることでしょう」、その通りだ。
先ずは、本年2月22日付け日刊ゲンダイ「元横綱・白鵬ますます遠ざかる「理事長」の座…弟子の不祥事で2階級降格&報酬減額のWパンチ」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/336550
・『これは理事から理事長への階段を上がりたい宮城野親方(38=元横綱白鵬)にとって大きな痛手になる。 日本相撲協会のコンプライアンス委員会が、宮城野親方の委員から年寄への2階級降格と減俸の処分案をまとめた。弟子の幕内北青鵬(22)が同部屋の後輩力士に繰り返し暴力を振るっていたことが判明し、親方としての監督責任を問われたのだ。 当の北青鵬は引退勧告が妥当とされ、本人は処分を受け入れる方向らしい。 21日にコンプライアンス委員会の会合で処分を通告された宮城野親方は、報道陣に対して無言だった。 2年に1回行われる 相撲協会の理事選は今年の1月下旬に行われ、定員の10人が立候補したため3期連続の無投票に。宮城野親方は一時、所属する伊勢ケ浜一門から理事選に立候補するウワサがあったものの、昨年11月の一門会で出馬の意向がないことを明かしていた。 「宮城野親方は将来、 相撲協会の理事長になる野望をもっています。そのためにはまず、理事になる必要がありますが、今回は出馬を断念した。所属する伊勢ケ浜一門からは元大関魁皇の浅香山親方が出馬することになっていたし、当選に必要なだけの票を集めることが不可能だと判断したからです。2年後、もしくはその先の理事選に備えるつもりでしょうが、今回の2階級降格は大きな痛手。なにしろ解雇、引退もしくは退職勧告に次いで3番目に重い処分を受けたわけですから、今後に響きますよ」(ある親方) そもそも宮城野親方は現役時代から横綱らしからぬ発言や振る舞いが問題視されていた。協会には苦情の電話や投書が山ほど寄せられ、現執行部から注意されたことも数知れず。ただでさえ“問題児”が弟子の監督責任を問われて重い処分を食らったのだから、野望はますます遠ざかったと言わざるを得ない』、「ただでさえ“問題児”が弟子の監督責任を問われて重い処分を食らったのだから、野望はますます遠ざかったと言わざるを得ない」、「協会理事長」への「野望はますます遠ざかったと言わざるを得ない」、なるほど。
次に、7月20日付け日刊ゲンダイ「「重圧は言い訳にならない」とバッサリ、体操界レジェンド池谷幸雄氏が語る「エース不在」の影響」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/357876
・『「5人の中で一番成績は上。エースなので、影響は極めて大きい」 こう話すのは、1988年ソウル、92年バルセロナ五輪の体操で計4つのメダルを獲得した体操界のレジェンド・池谷幸雄氏だ。 宮田はパリ五輪の代表選考を兼ねて行われた4月の全日本選手権、5月のNHK杯で、いずれも金メダルを獲得したエース。しかし、そんな宮田を擁してでも、体操女子団体はパリ五輪でメダル獲得は厳しいと言われていた。 昨年10月の世界選手権団体戦予選8位でパリ五輪への切符を獲得したものの、決勝では出場した8カ国中、最下位の8位。1位のアメリカとは10点以上の差をつけられた。 種目別では段違い平行棒とゆかが8位。跳馬は7位、平均台は3位だったが……。 「宮田選手はその跳馬と平均台が得意種目で、22年の世界選手権で銅メダルを獲得した種目は平均台でした。団体戦は一番点数が取れる選手が最後に演技をするので、そのプレッシャーがあったのは確かだと思います。ただ、体操代表は未成年の選手も多く、飲酒や喫煙をしていない選手もいる。プレッシャーがあったというのは言い訳にはならない。今回の代表辞退はケガが理由ではないので、補欠選手の出場は認められません。つまり、4人で出場することになり、点数は宮田選手が出た場合よりも3点以上は下がるのは確実。残された4人の選手は、自分が出なくてもいいと考えていた種目も急遽出なくてはいけなくなったので、演技や点数への影響はかなり大きいでしょう」(池谷氏) エースを欠いた日本代表はどこまで戦えるのか……』、「宮田を擁してでも、体操女子団体はパリ五輪でメダル獲得は厳しいと言われていた。 昨年10月の世界選手権団体戦予選8位でパリ五輪への切符を獲得したものの、決勝では出場した8カ国中、最下位の8位。1位のアメリカとは10点以上の差をつけられた」、もともと世界的にみた実力は大したことはなかったようだ。
第三に、7月20日付け日刊ゲンダイ「体操界は飲酒喫煙「常態化」の衝撃…かつてスポンサー企業もブチギレていた!」まさに前代未聞である。 日本体操協会は19日、東京都内で会見し、パリ五輪体操女子日本代表の主将を務める宮田笙子(19)に飲酒と喫煙の事実が発覚したため、出場を辞退すると発表した。 宮田は6月末から7月にかけてナショナルトレーニングセンター(NTC=東京・北区)のアスリートビレッジで喫煙と飲酒をしたことが、日本協会への情報提供で発覚。協会は18日、事前合宿地のモナコから宮田を一時帰国させて事情聴取を行い、本人が飲酒と喫煙を認めたため、日本オリンピック委員会(JОC)の派遣規定や体操協会の行動規範に反するとして、代表の座をはく奪した。五輪本番直前に不祥事で出場が絶たれるのは異例のことだ。 会見した藤田直志会長は「宮田選手本人だけの責任ではない。体操協会全体としての責任」と話し、選手のサポート体制を拡充するなど、再発防止に取り組むことを明かした。 西村賢二専務理事は飲酒などの常習性について「まずは(事実を)確認しなければならなかったので、そこまで(聴取は)行きついていない」と説明したが、宮田の素行を把握していたとしても不思議ではない。) かねてから体操界は代表活動中の飲酒や喫煙が常態化していたという。「世界一美しい演技」と言われ、一時代を築いた絶対王者がヘビースモーカーだったのは体操界では有名な話だ。 NTC関係者がこういった。 「現役のアスリートで喫煙率が最も高いのは体操です。他の競技の関係者から喫煙を注意されても『体操に必要なのは瞬発力で、持久力は関係ない』とうそぶく選手もいるほど。屋外の喫煙所で背中に『JAPAN』と書かれたジャージを着て煙をくゆらす選手もいて、スポンサー企業の関係者から『日の丸を背負っているアスリートがタバコを吸うのはおかしいのではないか。自覚はあるのか』と苦情が入ったこともある。この一件があってから、喫煙所には外部からの視線を遮るため壁が設けられたのです」 今回の宮田による「規律違反」は起こるべくして起こったとも言えそうだ。(つづく)』、「「現役のアスリートで喫煙率が最も高いのは体操です。他の競技の関係者から喫煙を注意されても『体操に必要なのは瞬発力で、持久力は関係ない』とうそぶく選手もいるほど。屋外の喫煙所で背中に『JAPAN』と書かれたジャージを着て煙をくゆらす選手もいて、スポンサー企業の関係者から『日の丸を背負っているアスリートがタバコを吸うのはおかしいのではないか。自覚はあるのか』と苦情が入ったこともある。この一件があってから、喫煙所には外部からの視線を遮るため壁が設けられた」、「協会」は「外部からの視線を遮るため壁が設けられた」ように隠蔽には熱心でも、「アスリート」に禁煙させることは初めから諦めていたことが、今回の不祥事につながったようだ。
第四に、7月20日付け日刊ゲンダイ「オリンピアンの大甘同情論に透ける「特権意識」…血税注ぎ込まれているだけに厳罰必至の当然」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/357879
・『自らの不始末で開幕直前にパリ五輪への出場を辞退することになったそんな宮田に対し、同情論も出ている。 元都知事の猪瀬直樹参議院は自身のX(旧ツイッター)を更新し、《つくづく日本人は劣化している。たかがタバコで何を騒いでいるのか。麻薬じゃないんだぞ? 規則尽くめの杓子定規が日本をダメにしてきたのだ。こんな些細なことで19歳の夢を潰すつもりか!》と投稿。元陸上男子400メートルハードルの選手で2008年北京五輪に出場した為末大氏も、体操連盟の会見前に自身のXで宮田について、《問題だったとは思いますが、代表権を奪うほどではないと思います。どうか冷静な判断をお願いします》と私見を綴った。 「若者の夢を潰すなという意見は耳心地が良く聞こえるものの、未成年の喫煙・飲酒は明らかな脱法行為です。ルールを破ればペナルティを受けて当然で、日本代表選手といえども、例外はありません。ましてや、宮田選手はNTCで飲酒をしていたことも認めている。元トップアスリートの為末氏なら、それがどういうことか誰よりも分かっているはずです」) と、長く五輪を取材するスポーツライターの津田俊樹氏がこう続ける。 「世界で戦うアスリートにとってNTCは神聖な場所で、しかも370億円をかけて国が建設したものです。つまり国民の税金が投入されている。そこでルールを破ったのだから、五輪出場辞退は当然の報いだと思う。若いからこそなあなあで済ませてはいけないし、若者の未来を憂うのなら、大事なのは厳しいペナルティを課したうえでセカンドチャンスを与えること、そのための手助けをすることでしょう。問題の詳細が明らかになる前に宮田選手を庇い、同情するのは余りに軽率で、根底にはオリンピアンは特別だという傲慢さ、特権意識も透けて見える。さらに言えば、アスリートには、強ければいい、勝てばいいという勝利至上主義が根深く蔓延っている証左ではないか」 まったくだ。14日にはサッカー日本代表の佐野海舟が性的暴行の疑いで逮捕されたばかり。スポーツ界の不祥事が後を絶たないわけである。(つづく)』、「「世界で戦うアスリートにとってNTCは神聖な場所で、しかも370億円をかけて国が建設したものです。つまり国民の税金が投入されている。そこでルールを破ったのだから、五輪出場辞退は当然の報いだと思う。若いからこそなあなあで済ませてはいけない・・・大事なのは厳しいペナルティを課したうえでセカンドチャンスを与えること、そのための手助けをすることでしょう」、その通りだ。
タグ:スポーツ界 「「世界で戦うアスリートにとってNTCは神聖な場所で、しかも370億円をかけて国が建設したものです。つまり国民の税金が投入されている。そこでルールを破ったのだから、五輪出場辞退は当然の報いだと思う。若いからこそなあなあで済ませてはいけない・・・大事なのは厳しいペナルティを課したうえでセカンドチャンスを与えること、そのための手助けをすることでしょう」、その通りだ。 日刊ゲンダイ「オリンピアンの大甘同情論に透ける「特権意識」…血税注ぎ込まれているだけに厳罰必至の当然」 「「現役のアスリートで喫煙率が最も高いのは体操です。他の競技の関係者から喫煙を注意されても『体操に必要なのは瞬発力で、持久力は関係ない』とうそぶく選手もいるほど。屋外の喫煙所で背中に『JAPAN』と書かれたジャージを着て煙をくゆらす選手もいて、スポンサー企業の関係者から『日の丸を背負っているアスリートがタバコを吸うのはおかしいのではないか。自覚はあるのか』と苦情が入ったこともある。この一件があってから、喫煙所には外部からの視線を遮るため壁が設けられた」、「協会」は「外部からの視線を遮るため壁が設けられた」 日刊ゲンダイ「体操界は飲酒喫煙「常態化」の衝撃…かつてスポンサー企業もブチギレていた!」 「宮田を擁してでも、体操女子団体はパリ五輪でメダル獲得は厳しいと言われていた。 昨年10月の世界選手権団体戦予選8位でパリ五輪への切符を獲得したものの、決勝では出場した8カ国中、最下位の8位。1位のアメリカとは10点以上の差をつけられた」、もともと世界的にみた実力は大したことはなかったようだ。 日刊ゲンダイ「「重圧は言い訳にならない」とバッサリ、体操界レジェンド池谷幸雄氏が語る「エース不在」の影響」 「ただでさえ“問題児”が弟子の監督責任を問われて重い処分を食らったのだから、野望はますます遠ざかったと言わざるを得ない」、「協会理事長」への「野望はますます遠ざかったと言わざるを得ない」、なるほど。 日刊ゲンダイ「元横綱・白鵬ますます遠ざかる「理事長」の座…弟子の不祥事で2階級降格&報酬減額のWパンチ」 (その37)(元横綱・白鵬ますます遠ざかる「理事長」の座…弟子の不祥事で2階級降格&報酬減額のWパンチ、「重圧は言い訳にならない」とバッサリ 体操界レジェンド池谷幸雄氏が語る「エース不在」の影響、体操界は飲酒喫煙「常態化」の衝撃…かつてスポンサー企業もブチギレていた!、オリンピアンの大甘同情論に透ける「特権意識」…血税注ぎ込まれているだけに厳罰必至の当然)
健康(その28)(「数日前に食べたリンゴがノドに…」高齢者を襲う“虚弱”現象、どうすれば防げるのか?、「筋トレを頑張っても体脂肪は減らない」ほとんどの人がカン違いしている残酷な事実) [生活]
健康については、本年3月20日に取上げた。今日は、(その28)(「数日前に食べたリンゴがノドに…」高齢者を襲う“虚弱”現象、どうすれば防げるのか?、「筋トレを頑張っても体脂肪は減らない」ほとんどの人がカン違いしている残酷な事実)である。
先ずは、本年4月11日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した清談社の真島加代氏による「「数日前に食べたリンゴがノドに…」高齢者を襲う“虚弱”現象、どうすれば防げるのか?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340252
・『日本の総人口に占める65歳以上の割合が29%に達し、超高齢社会に突入する中、高齢者の運動機能や認知機能が衰える「フレイル」という言葉を耳にする機会が増えた。なかでも、口腔機能の衰えを指す「オーラルフレイル」は、さまざまな機能の低下と深く関わっているという。オーラルフレイルの具体的な症状、リスク、対策などについて歯科医師に聞いた』、「口腔機能の衰えを指す「オーラルフレイル」は、さまざまな機能の低下と深く関わっている」、なるほど。
・『要介護リスクを上げるオーラルフレイルとは 加齢とともに、運動機能や認知機能が低下した状態を示す「フレイル」。英語の「Fraility(虚弱)」を語源とし、「身体的フレイル」は体重減少、筋力低下、疲労感を招き、「精神・心理的フレイル」はうつ状態に陥る原因になるといわれる。それらに加えて、口腔機能が低下する「オーラルフレイル」も、重要な老化のサインのひとつとして注目されている。 「オーラルフレイルの高齢者は、舌がうまく回らない滑舌の衰えや、食事中の食べこぼし、食べ物が噛めない、飲み込めないといった嚥下力の低下、突然むせるなどの症状が現れます」 そう話すのは、宝田歯科医院で院長を務める宝田恭子氏。同院には高齢の患者も通っているため、オーラルフレイルに悩む人も多く訪れるという。 「当院で総義歯を作り、しっかり噛めることも確認して帰宅した患者さんの親族の方から、後日『入れ歯を入れたのに、15分近く食べ物を噛み続けていて、なかなか飲み込まない』という相談を受けました。そのほか、虫歯が1本もない50代の患者さんは、喉に違和感を覚えて耳鼻咽喉科を受診したところ、数日前に食べた薄切りのリンゴが咽頭の中間で止まっていた、という話も耳にしました。これらはまさに、飲み込む力が衰えたオーラルフレイルの状態といえます」 入れ歯を入れていたり、虫歯がなく歯がすべて残っていたりしても、加齢によって口腔機能が低下すれば飲み込む力が弱まってしまうのだ。 宝田氏は、患者から受けた相談をきっかけに「歯でモノが噛めれば飲み込める、という考えを改めた」と話す。 「老後も自分の歯で食事ができるのは、とても素晴らしいことです。しかし、健康な歯が残っていても、オーラルフレイルによって嚥下力が落ちると、生きるために必要な栄養が得られず、体力が落ちて身体的フレイルを招きます。また、入れ歯を使用している場合には、『入れ歯安定剤』を使って顎の変化によるゆるみをなくし、しっかり噛める状態にしましょう。オーラルフレイルは誤嚥性肺炎のリスクを高めるといわれていますが、それ以外にも筋肉量が低下する『サルコペニア』などにより、要介護リスクを高める可能性もあるのです」』、「オーラルフレイルは誤嚥性肺炎のリスクを高めるといわれていますが、それ以外にも筋肉量が低下する『サルコペニア』などにより、要介護リスクを高める可能性もある」、なるほど。
・『オーラルフレイルに悩む人の「2つの特徴」 宝田氏によると、オーラルフレイルに悩む人々には“食べ物を噛む歯”と“姿勢”に特徴があるという。 人間の頭蓋骨は、奥歯で食べ物をすりつぶしてから飲み込むように作られています。しかし、嚥下力が低い高齢者の中には、猫背気味の姿勢で、奥歯で噛むのが難しくなって前歯を使うのが癖になってしまう場合があります。そうなると、柔らかいものばかり食べるようになってしまうのです」 偏食は栄養の偏りにつながるので、注意が必要だ。また、猫背はオーラルフレイルのみならず、運動機能のフレイルとも深く関わっている。 「年齢とともに減少する筋肉のなかでも、首や肩甲骨、背中に位置する“僧帽筋”は、何もしなければ45歳から80歳までのあいだに約40%減少します。僧帽筋が減った高齢者は、背筋を伸ばすのが難しくなり、猫背になってしまうのです。その結果、咀嚼力と嚥下力も下がるという悪循環に陥ります」 口腔機能と運動機能のフレイルは、相関関係にあるのだ。それでも「年齢には抗えない」と諦めないでほしい、と宝田氏は強調する。 「フレイルは、要介護になる前に適切な対策を行えば、健康な機能を取り戻せる状態でもあります。フレイル対策として広く知られているのは『3プラス1』という予防法。1つ目はさまざまな食材を食べて栄養状態を良好に保つこと。2つ目は、体力低下を防ぐための適度な運動です。スクワットや、座りながらかかとを上下させる『かかと落とし』も骨を丈夫にして筋肉量もアップするので、運動機能のキープに役立ちます」 そして3つ目は、積極的な社会参加だ。「他者との交流は脳の刺激になり、認知機能の低下を防ぐ」という』、「猫背はオーラルフレイルのみならず、運動機能のフレイルとも深く関わっている。 「年齢とともに減少する筋肉のなかでも、首や肩甲骨、背中に位置する“僧帽筋”は、何もしなければ45歳から80歳までのあいだに約40%減少します。僧帽筋が減った高齢者は、背筋を伸ばすのが難しくなり、猫背になってしまうのです。その結果、咀嚼力と嚥下力も下がるという悪循環に陥ります・・・フレイルは、要介護になる前に適切な対策を行えば、健康な機能を取り戻せる状態でもあります。フレイル対策として広く知られているのは『3プラス1』という予防法。1つ目はさまざまな食材を食べて栄養状態を良好に保つこと。2つ目は、体力低下を防ぐための適度な運動です・・・3つ目は、積極的な社会参加だ。「他者との交流は脳の刺激になり、認知機能の低下を防ぐ」という」、なるほど。
・『口や舌を鍛える「パタカラ体操」 これら3つに加えた“プラス1”に位置づけられているのが、口や舌を鍛えるオーラルフレイル対策だ。 「代表的なオーラルフレイル予防のひとつが『パタカラ体操』。これは『パ』『タ』『カ』『ラ』という4文字を発音する、口の体操です。パは唇、タは舌の先を鍛え、カは喉の奥にチカラを入れて嚥下力を高めます。ラは食べ物をまとめる舌の筋肉を使う発音です。パタカラ体操には、口腔機能を維持するために必要な要素がすべて入っているのです」 「パタカラ」と、それぞれの文字をはっきり発音したり、パパパパ、タタタタ、カカカカ……と連続で発音したりするのが、主なトレーニング方法。宝田氏自身も日頃からパタカラ体操を行っているという。 「私は、マスクをしたまま小声で発音しています。帰宅時の仕事場から駅までを『パの時間』、電車の中では『タの時間』とトレーニング時間を決めているので、忘れずに継続できています。口腔機能が向上すれば、さまざまな食材を食べて体に栄養を送り、強い足腰で社会参加もできるはず。毎日続けましょう」 また、加齢によって衰えがちな、前述の僧帽筋を鍛えると嚥下力アップにつながる、とのこと。 「おすすめは、肩甲骨を動かして僧帽筋に負荷をかけて普段あまり動かしていない筋肉を鍛えるトレーニングです。まず、左右どちらかの腕をまっすぐ前に伸ばし、もう一方の手の親指を脇の下に入れて、残りの指で背中の肩甲骨を抑えます。伸ばした手の中指の先から目を離さず上に上げ、後ろに回す。すると、肩甲骨がしっかり動いているのが確認できます。これを両腕で行います」 そのほか、イスに座る際は骨盤を立てて首と頭を後ろに引き、骨盤を立てる。その際、両足は膝よりもイスの座席側に引いて座ると猫背防止になる。どれも、簡単だからこそ継続しやすい対策だ。 そして宝田氏は、働き盛りの50代からオーラルフレイル対策を含めたフレイル対策に取り組んでほしい、とアドバイスする。 「50代は体力や気力の衰えを感じはじめる時期です。中高年代から肩甲骨回しやパタカラ体操を取り入れると、習慣化しやすくなります。また、虫歯や歯周病のリスクを下げるために、丁寧な歯磨きや定期的な歯科検診も忘れずに。入れ歯を使用しており、取れやすさに不安がある方は、入れ歯安定剤を使う方法もあります。安定剤にはクリームタイプなどさまざまなタイプがあります。歯科医師に相談して決めてもらうのが良いでしょう」 高齢者ではなくても、フレイル対策のスタートに早すぎるということはないようだ。 <識者プロフィール> (宝田恭子氏の略歴はリンク先参照)』、「「代表的なオーラルフレイル予防のひとつが『パタカラ体操』。これは『パ』『タ』『カ』『ラ』という4文字を発音する、口の体操です。パは唇、タは舌の先を鍛え、カは喉の奥にチカラを入れて嚥下力を高めます。ラは食べ物をまとめる舌の筋肉を使う発音です。パタカラ体操には、口腔機能を維持するために必要な要素がすべて入っているのです」 「パタカラ」と、それぞれの文字をはっきり発音したり、パパパパ、タタタタ、カカカカ……と連続で発音したりするのが、主なトレーニング方法。宝田氏自身も日頃からパタカラ体操を行っているという・・・働き盛りの50代からオーラルフレイル対策を含めたフレイル対策に取り組んでほしい、とアドバイスする。 「50代は体力や気力の衰えを感じはじめる時期です。中高年代から肩甲骨回しやパタカラ体操を取り入れると、習慣化しやすくなります。また、虫歯や歯周病のリスクを下げるために、丁寧な歯磨きや定期的な歯科検診も忘れずに。入れ歯を使用しており、取れやすさに不安がある方は、入れ歯安定剤を使う方法もあります。安定剤にはクリームタイプなどさまざまなタイプがあります。歯科医師に相談して決めてもらうのが良いでしょう」、「パタカラ体操」とは面白そうだ。一度、やってみよう。
次に、7月14日付けAERAが転載したダイヤモンド・オンライン「清水 忍:トレーニングジムIPFヘッドトレーナー・アメリカスポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP)・健康運動指導士による「「筋トレを頑張っても体脂肪は減らない」ほとんどの人がカン違いしている残酷な事実」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/articles/-/228410?page=1
・『健康的な体づくりには適度な運動をすることが望ましいが、いくら筋トレや有酸素運動をしたとしても、体脂肪を減らす効果はあまり期待できないという。アメリカスポーツ医学会認定運動生理学士が、合理的にダイエットを進めるための基礎知識を伝授する。※本稿は、清水 忍『ロジカルダイエット 3か月で「勝手に痩せる体」になる』(幻冬舎新書)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『人体の余剰エネルギーは脂肪としてストックされていく 合理的に効率よくダイエットを進めていくには、体脂肪というターゲットがどんな相手なのかを知っておかなくてはなりません。「なぜ」を追求するロジカルダイエットでは、ターゲットである体脂肪の特徴を知り、「なぜ、体に脂肪がついたり落ちたりするのか」を分かっていることがとても重要なのです。そこで、「脂肪がたまるメカニズム/脂肪が減るメカニズム」をここで簡単に整理しておくことにしましょう。 そもそも、人間には、万が一食べられなくなったときのための備蓄エネルギーが必要です。体内に蓄えられるエネルギーは「糖質」か「脂肪」のどちらかなのですが、もともと糖質はほんのちょっとしか蓄えられません。糖質はグリコーゲンというかたちで肝臓や筋肉にストックされるものの、わずか400gほどしか蓄えられず、ちょっと運動でもすればすぐになくなってしまいます。 一方、脂肪は貯蔵に向いたエネルギーです。糖質1gが4kcalなのに対し脂肪は1gで9kcalもあり、大容量のエネルギーを出すことができるうえ、コンパクトに収納できていくらでも蓄えることができます。そのため、人の体はちょっとでも余剰エネルギーがあれば、どんどん脂肪に変換して体内にストックしようとします。すなわち、体内にグリコーゲンとしてためられる容量を超えた糖質が入ってくると、それらをどんどん脂肪に変換して貯蔵しようというメカニズムが働くわけです』、「糖質はグリコーゲンというかたちで肝臓や筋肉にストックされるものの、わずか400gほどしか蓄えられず、ちょっと運動でもすればすぐになくなってしまいます。 一方、脂肪は貯蔵に向いたエネルギーです。糖質1gが4kcalなのに対し脂肪は1gで9kcalもあり、大容量のエネルギーを出すことができるうえ、コンパクトに収納できていくらでも蓄えることができます。そのため、人の体はちょっとでも余剰エネルギーがあれば、どんどん脂肪に変換して体内にストックしようとします。すなわち、体内にグリコーゲンとしてためられる容量を超えた糖質が入ってくると、それらをどんどん脂肪に変換して貯蔵しようというメカニズムが働くわけです」、なるほど。
・『飢えや寒さをしのぐための生存システムが裏目に出た つまり、ごはん、パン、麺類、お菓子、果物、ジュースなどの糖質を普段からたくさん摂っていると、それらがどんどん脂肪に変換されてエネルギー貯蔵庫へ回されていくことになるのです。 このエネルギー貯蔵庫は体中いたるところにあり、肝臓の細胞にたまれば脂肪肝が進み、内臓の周りにたまれば内臓脂肪が増加し、おなかや太もも、お尻などの皮下にたまれば皮下脂肪となっていきます。 そして、こうした脂肪が増えてくると、脂肪をためこむ細胞のひとつひとつが、まるで水風船がふくらむように膨張していくのです。こうした脂肪細胞の膨張こそが肥満の正体だと言っていいでしょう。 ですから、「なぜ、脂肪がたまるのか」をひと言で言ってしまえば「エネルギーの摂りすぎ」ということになります。 私たち人間が太古の昔から飢えや寒さをしのいで過酷な環境を生き延びてこられたのは、この脂肪を蓄積するエネルギー貯蔵システムがあったおかげだと言っても過言ではありません。しかし、飽食の現代においては、この優れたエネルギー貯蔵システムがあったことが裏目に出て、健康面や美容面でさまざまな問題を引き起こしているということになります』、「このエネルギー貯蔵庫は体中いたるところにあり、肝臓の細胞にたまれば脂肪肝が進み、内臓の周りにたまれば内臓脂肪が増加し、おなかや太もも、お尻などの皮下にたまれば皮下脂肪となっていきます。 そして、こうした脂肪が増えてくると、脂肪をためこむ細胞のひとつひとつが、まるで水風船がふくらむように膨張していくのです。こうした脂肪細胞の膨張こそが肥満の正体だと言っていいでしょう・・・私たち人間が太古の昔から飢えや寒さをしのいで過酷な環境を生き延びてこられたのは、この脂肪を蓄積するエネルギー貯蔵システムがあったおかげだと言っても過言ではありません。しかし、飽食の現代においては、この優れたエネルギー貯蔵システムがあったことが裏目に出て、健康面や美容面でさまざまな問題を引き起こしているということになります」、皮肉なものだ。
・『筋トレや有酸素運動よりも食事のコントロールが第一 次に、脂肪が減るメカニズムのほうを説明しましょう。体脂肪を減らすには、体内のエネルギー貯蔵庫からどんどん脂肪を追い出さなくてはなりません。その追い出し作業を効率よく進めるにはどうしたらいいのかという話です。 倉庫にストックされた脂肪を減らしていくには、まず、食事をコントロールしなくてはなりません。これ以上倉庫にエネルギーがたまらないようにするのはもちろんですが、摂取カロリーを少なくして、倉庫内のエネルギーが次々に使用されて出ていく状況をつくっていかなくてはならないわけです。 摂取カロリーを少なくするだけでなく、消費カロリーを多くすることも大切です。おそらく、消費カロリーを増やすと聞いて、みなさんがまっ先に思い浮かべるのは、筋トレやウォーキング、ジョギングなどの運動でしょう。 ただ、同じ運動でも、筋トレとウォーキングでは「使用されるエネルギー源」がまったく違うのです。 筋トレを行なった際、エネルギー源として消費されるのは実質的にはほぼ糖質です。筋肉や肝臓にストックされたグリコーゲンや血液中のブドウ糖などが消費され、脂肪はほとんど使われません。つまり、筋トレをいくらがんばっても体脂肪は減らないということ。誤解している人がたいへん多いのですが、筋トレは「体脂肪を減らすこと=やせること」にはつながらないわけです。 一方、ウォーキングやジョギング、エアロビクスなどの有酸素運動を行なった場合は、最初糖質と脂肪の混合物が使われ、その後、20分ほど時間が経つと脂肪が優先的に使われるようになります。そのため、「やせたいなら有酸素運動をするほうがいい」と思っている方も数多くいらっしゃいます。 ところが、有酸素運動で消費されるカロリーエネルギーは、期待している量と比べて実際にはごくごくわずかなのです。要するに、筋トレをがんばっていても体脂肪は減らせないし、有酸素運動をがんばっていても期待するような効果は得られない。はっきり言ってしまえば、運動をがんばっていても、それだけではやせられないのです』、「要するに、筋トレをがんばっていても体脂肪は減らせないし、有酸素運動をがんばっていても期待するような効果は得られない。はっきり言ってしまえば、運動をがんばっていても、それだけではやせられないのです」、これが厳しい現実のようだ。
・『いくら筋トレをしたところで脂肪が減らない限り、痩せない 「筋トレではやせない」ということについて、おそらく、みなさんの中には「これまでずっと、せり出したおなかを引っ込ませようと思って腹筋トレをがんばってきたのに……」と、納得のいかない顔をされている方もいらっしゃることでしょう。 でも、どんなに腹筋をやってもやせないのは事実なのです。 それは、大相撲の力士を見れば分かります。お相撲さんたちは、みんなでっぷりとしたおなかを抱えていますよね。言わずもがな、あの立派なおなかのふくらみは分厚い体脂肪によるものです。 しかし、その分厚い体脂肪の下には、鋼のように鍛えられた腹筋が備わっているのです。当たり前ですが、お相撲さんたちはみんな毎日これでもかというくらいのすさまじい稽古をして筋肉を鍛えています。もちろん、腹筋も常人には想像もつかないレベルで鍛え上げています。ところが、それだけ腹筋を鍛えていても、おなかの分厚い脂肪は一向に減っていませんよね。 これが「筋トレで腹筋を鍛えたところでおなかの脂肪は減らない」といういちばんの証拠なのではないでしょうか。 もっとも、みなさんご存じのように、筋トレをしっかり行なえば、筋肉は太く盛り上がってきます。すると、体のたるんでいた部分やだぶついていた部分が引っ張られて、全体に引き締まった感じに見えてくるようになります。これを「シェイプアップ」と呼んでもいいでしょう。 つまり、筋トレには脂肪を減らす効果はないものの、脂肪のたるみを目立たなくさせる効果はあるのです。だから、腹筋トレを毎日一生懸命やっていれば、脂肪は減らなくともおなかが引き締まって見えてくる場合もあります。もともとそんなにたくさんの脂肪をおなかに蓄えていない人であれば、他人から「あれ?やせた?」と錯覚されるかもしれません。 ただ、こういった「シェイプアップ効果」「引き締まったように見える効果」は、正確には「やせた」とは言えません。「やせた」と言えるのは、あくまで体脂肪が減った状態です。「脂肪が落ちてやせた」と「筋肉が発達した」は、生理学的にもまったく違う別々の現象であり、両者を混同することはできないのです。 すなわち、筋トレでどんなにすっきりシェイプアップされたとしても、脂肪が減っていない限り、「やせた」の仲間には入れられないということになります。 (清水 忍:トレーニングジムIPFヘッドトレーナー。アメリカスポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP)、健康運動指導士) ロジカルダイエット 3か月で「勝手に痩せる体」になる (幻冬舎新書) 』、「「シェイプアップ効果」「引き締まったように見える効果」は、正確には「やせた」とは言えません。「やせた」と言えるのは、あくまで体脂肪が減った状態です。「脂肪が落ちてやせた」と「筋肉が発達した」は、生理学的にもまったく違う別々の現象であり、両者を混同することはできないのです。 すなわち、筋トレでどんなにすっきりシェイプアップされたとしても、脂肪が減っていない限り、「やせた」の仲間には入れられないということになります」、「シェイプアップ効果」は「「やせた」の仲間には入れられない」ようだ。
先ずは、本年4月11日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した清談社の真島加代氏による「「数日前に食べたリンゴがノドに…」高齢者を襲う“虚弱”現象、どうすれば防げるのか?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340252
・『日本の総人口に占める65歳以上の割合が29%に達し、超高齢社会に突入する中、高齢者の運動機能や認知機能が衰える「フレイル」という言葉を耳にする機会が増えた。なかでも、口腔機能の衰えを指す「オーラルフレイル」は、さまざまな機能の低下と深く関わっているという。オーラルフレイルの具体的な症状、リスク、対策などについて歯科医師に聞いた』、「口腔機能の衰えを指す「オーラルフレイル」は、さまざまな機能の低下と深く関わっている」、なるほど。
・『要介護リスクを上げるオーラルフレイルとは 加齢とともに、運動機能や認知機能が低下した状態を示す「フレイル」。英語の「Fraility(虚弱)」を語源とし、「身体的フレイル」は体重減少、筋力低下、疲労感を招き、「精神・心理的フレイル」はうつ状態に陥る原因になるといわれる。それらに加えて、口腔機能が低下する「オーラルフレイル」も、重要な老化のサインのひとつとして注目されている。 「オーラルフレイルの高齢者は、舌がうまく回らない滑舌の衰えや、食事中の食べこぼし、食べ物が噛めない、飲み込めないといった嚥下力の低下、突然むせるなどの症状が現れます」 そう話すのは、宝田歯科医院で院長を務める宝田恭子氏。同院には高齢の患者も通っているため、オーラルフレイルに悩む人も多く訪れるという。 「当院で総義歯を作り、しっかり噛めることも確認して帰宅した患者さんの親族の方から、後日『入れ歯を入れたのに、15分近く食べ物を噛み続けていて、なかなか飲み込まない』という相談を受けました。そのほか、虫歯が1本もない50代の患者さんは、喉に違和感を覚えて耳鼻咽喉科を受診したところ、数日前に食べた薄切りのリンゴが咽頭の中間で止まっていた、という話も耳にしました。これらはまさに、飲み込む力が衰えたオーラルフレイルの状態といえます」 入れ歯を入れていたり、虫歯がなく歯がすべて残っていたりしても、加齢によって口腔機能が低下すれば飲み込む力が弱まってしまうのだ。 宝田氏は、患者から受けた相談をきっかけに「歯でモノが噛めれば飲み込める、という考えを改めた」と話す。 「老後も自分の歯で食事ができるのは、とても素晴らしいことです。しかし、健康な歯が残っていても、オーラルフレイルによって嚥下力が落ちると、生きるために必要な栄養が得られず、体力が落ちて身体的フレイルを招きます。また、入れ歯を使用している場合には、『入れ歯安定剤』を使って顎の変化によるゆるみをなくし、しっかり噛める状態にしましょう。オーラルフレイルは誤嚥性肺炎のリスクを高めるといわれていますが、それ以外にも筋肉量が低下する『サルコペニア』などにより、要介護リスクを高める可能性もあるのです」』、「オーラルフレイルは誤嚥性肺炎のリスクを高めるといわれていますが、それ以外にも筋肉量が低下する『サルコペニア』などにより、要介護リスクを高める可能性もある」、なるほど。
・『オーラルフレイルに悩む人の「2つの特徴」 宝田氏によると、オーラルフレイルに悩む人々には“食べ物を噛む歯”と“姿勢”に特徴があるという。 人間の頭蓋骨は、奥歯で食べ物をすりつぶしてから飲み込むように作られています。しかし、嚥下力が低い高齢者の中には、猫背気味の姿勢で、奥歯で噛むのが難しくなって前歯を使うのが癖になってしまう場合があります。そうなると、柔らかいものばかり食べるようになってしまうのです」 偏食は栄養の偏りにつながるので、注意が必要だ。また、猫背はオーラルフレイルのみならず、運動機能のフレイルとも深く関わっている。 「年齢とともに減少する筋肉のなかでも、首や肩甲骨、背中に位置する“僧帽筋”は、何もしなければ45歳から80歳までのあいだに約40%減少します。僧帽筋が減った高齢者は、背筋を伸ばすのが難しくなり、猫背になってしまうのです。その結果、咀嚼力と嚥下力も下がるという悪循環に陥ります」 口腔機能と運動機能のフレイルは、相関関係にあるのだ。それでも「年齢には抗えない」と諦めないでほしい、と宝田氏は強調する。 「フレイルは、要介護になる前に適切な対策を行えば、健康な機能を取り戻せる状態でもあります。フレイル対策として広く知られているのは『3プラス1』という予防法。1つ目はさまざまな食材を食べて栄養状態を良好に保つこと。2つ目は、体力低下を防ぐための適度な運動です。スクワットや、座りながらかかとを上下させる『かかと落とし』も骨を丈夫にして筋肉量もアップするので、運動機能のキープに役立ちます」 そして3つ目は、積極的な社会参加だ。「他者との交流は脳の刺激になり、認知機能の低下を防ぐ」という』、「猫背はオーラルフレイルのみならず、運動機能のフレイルとも深く関わっている。 「年齢とともに減少する筋肉のなかでも、首や肩甲骨、背中に位置する“僧帽筋”は、何もしなければ45歳から80歳までのあいだに約40%減少します。僧帽筋が減った高齢者は、背筋を伸ばすのが難しくなり、猫背になってしまうのです。その結果、咀嚼力と嚥下力も下がるという悪循環に陥ります・・・フレイルは、要介護になる前に適切な対策を行えば、健康な機能を取り戻せる状態でもあります。フレイル対策として広く知られているのは『3プラス1』という予防法。1つ目はさまざまな食材を食べて栄養状態を良好に保つこと。2つ目は、体力低下を防ぐための適度な運動です・・・3つ目は、積極的な社会参加だ。「他者との交流は脳の刺激になり、認知機能の低下を防ぐ」という」、なるほど。
・『口や舌を鍛える「パタカラ体操」 これら3つに加えた“プラス1”に位置づけられているのが、口や舌を鍛えるオーラルフレイル対策だ。 「代表的なオーラルフレイル予防のひとつが『パタカラ体操』。これは『パ』『タ』『カ』『ラ』という4文字を発音する、口の体操です。パは唇、タは舌の先を鍛え、カは喉の奥にチカラを入れて嚥下力を高めます。ラは食べ物をまとめる舌の筋肉を使う発音です。パタカラ体操には、口腔機能を維持するために必要な要素がすべて入っているのです」 「パタカラ」と、それぞれの文字をはっきり発音したり、パパパパ、タタタタ、カカカカ……と連続で発音したりするのが、主なトレーニング方法。宝田氏自身も日頃からパタカラ体操を行っているという。 「私は、マスクをしたまま小声で発音しています。帰宅時の仕事場から駅までを『パの時間』、電車の中では『タの時間』とトレーニング時間を決めているので、忘れずに継続できています。口腔機能が向上すれば、さまざまな食材を食べて体に栄養を送り、強い足腰で社会参加もできるはず。毎日続けましょう」 また、加齢によって衰えがちな、前述の僧帽筋を鍛えると嚥下力アップにつながる、とのこと。 「おすすめは、肩甲骨を動かして僧帽筋に負荷をかけて普段あまり動かしていない筋肉を鍛えるトレーニングです。まず、左右どちらかの腕をまっすぐ前に伸ばし、もう一方の手の親指を脇の下に入れて、残りの指で背中の肩甲骨を抑えます。伸ばした手の中指の先から目を離さず上に上げ、後ろに回す。すると、肩甲骨がしっかり動いているのが確認できます。これを両腕で行います」 そのほか、イスに座る際は骨盤を立てて首と頭を後ろに引き、骨盤を立てる。その際、両足は膝よりもイスの座席側に引いて座ると猫背防止になる。どれも、簡単だからこそ継続しやすい対策だ。 そして宝田氏は、働き盛りの50代からオーラルフレイル対策を含めたフレイル対策に取り組んでほしい、とアドバイスする。 「50代は体力や気力の衰えを感じはじめる時期です。中高年代から肩甲骨回しやパタカラ体操を取り入れると、習慣化しやすくなります。また、虫歯や歯周病のリスクを下げるために、丁寧な歯磨きや定期的な歯科検診も忘れずに。入れ歯を使用しており、取れやすさに不安がある方は、入れ歯安定剤を使う方法もあります。安定剤にはクリームタイプなどさまざまなタイプがあります。歯科医師に相談して決めてもらうのが良いでしょう」 高齢者ではなくても、フレイル対策のスタートに早すぎるということはないようだ。 <識者プロフィール> (宝田恭子氏の略歴はリンク先参照)』、「「代表的なオーラルフレイル予防のひとつが『パタカラ体操』。これは『パ』『タ』『カ』『ラ』という4文字を発音する、口の体操です。パは唇、タは舌の先を鍛え、カは喉の奥にチカラを入れて嚥下力を高めます。ラは食べ物をまとめる舌の筋肉を使う発音です。パタカラ体操には、口腔機能を維持するために必要な要素がすべて入っているのです」 「パタカラ」と、それぞれの文字をはっきり発音したり、パパパパ、タタタタ、カカカカ……と連続で発音したりするのが、主なトレーニング方法。宝田氏自身も日頃からパタカラ体操を行っているという・・・働き盛りの50代からオーラルフレイル対策を含めたフレイル対策に取り組んでほしい、とアドバイスする。 「50代は体力や気力の衰えを感じはじめる時期です。中高年代から肩甲骨回しやパタカラ体操を取り入れると、習慣化しやすくなります。また、虫歯や歯周病のリスクを下げるために、丁寧な歯磨きや定期的な歯科検診も忘れずに。入れ歯を使用しており、取れやすさに不安がある方は、入れ歯安定剤を使う方法もあります。安定剤にはクリームタイプなどさまざまなタイプがあります。歯科医師に相談して決めてもらうのが良いでしょう」、「パタカラ体操」とは面白そうだ。一度、やってみよう。
次に、7月14日付けAERAが転載したダイヤモンド・オンライン「清水 忍:トレーニングジムIPFヘッドトレーナー・アメリカスポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP)・健康運動指導士による「「筋トレを頑張っても体脂肪は減らない」ほとんどの人がカン違いしている残酷な事実」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/articles/-/228410?page=1
・『健康的な体づくりには適度な運動をすることが望ましいが、いくら筋トレや有酸素運動をしたとしても、体脂肪を減らす効果はあまり期待できないという。アメリカスポーツ医学会認定運動生理学士が、合理的にダイエットを進めるための基礎知識を伝授する。※本稿は、清水 忍『ロジカルダイエット 3か月で「勝手に痩せる体」になる』(幻冬舎新書)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『人体の余剰エネルギーは脂肪としてストックされていく 合理的に効率よくダイエットを進めていくには、体脂肪というターゲットがどんな相手なのかを知っておかなくてはなりません。「なぜ」を追求するロジカルダイエットでは、ターゲットである体脂肪の特徴を知り、「なぜ、体に脂肪がついたり落ちたりするのか」を分かっていることがとても重要なのです。そこで、「脂肪がたまるメカニズム/脂肪が減るメカニズム」をここで簡単に整理しておくことにしましょう。 そもそも、人間には、万が一食べられなくなったときのための備蓄エネルギーが必要です。体内に蓄えられるエネルギーは「糖質」か「脂肪」のどちらかなのですが、もともと糖質はほんのちょっとしか蓄えられません。糖質はグリコーゲンというかたちで肝臓や筋肉にストックされるものの、わずか400gほどしか蓄えられず、ちょっと運動でもすればすぐになくなってしまいます。 一方、脂肪は貯蔵に向いたエネルギーです。糖質1gが4kcalなのに対し脂肪は1gで9kcalもあり、大容量のエネルギーを出すことができるうえ、コンパクトに収納できていくらでも蓄えることができます。そのため、人の体はちょっとでも余剰エネルギーがあれば、どんどん脂肪に変換して体内にストックしようとします。すなわち、体内にグリコーゲンとしてためられる容量を超えた糖質が入ってくると、それらをどんどん脂肪に変換して貯蔵しようというメカニズムが働くわけです』、「糖質はグリコーゲンというかたちで肝臓や筋肉にストックされるものの、わずか400gほどしか蓄えられず、ちょっと運動でもすればすぐになくなってしまいます。 一方、脂肪は貯蔵に向いたエネルギーです。糖質1gが4kcalなのに対し脂肪は1gで9kcalもあり、大容量のエネルギーを出すことができるうえ、コンパクトに収納できていくらでも蓄えることができます。そのため、人の体はちょっとでも余剰エネルギーがあれば、どんどん脂肪に変換して体内にストックしようとします。すなわち、体内にグリコーゲンとしてためられる容量を超えた糖質が入ってくると、それらをどんどん脂肪に変換して貯蔵しようというメカニズムが働くわけです」、なるほど。
・『飢えや寒さをしのぐための生存システムが裏目に出た つまり、ごはん、パン、麺類、お菓子、果物、ジュースなどの糖質を普段からたくさん摂っていると、それらがどんどん脂肪に変換されてエネルギー貯蔵庫へ回されていくことになるのです。 このエネルギー貯蔵庫は体中いたるところにあり、肝臓の細胞にたまれば脂肪肝が進み、内臓の周りにたまれば内臓脂肪が増加し、おなかや太もも、お尻などの皮下にたまれば皮下脂肪となっていきます。 そして、こうした脂肪が増えてくると、脂肪をためこむ細胞のひとつひとつが、まるで水風船がふくらむように膨張していくのです。こうした脂肪細胞の膨張こそが肥満の正体だと言っていいでしょう。 ですから、「なぜ、脂肪がたまるのか」をひと言で言ってしまえば「エネルギーの摂りすぎ」ということになります。 私たち人間が太古の昔から飢えや寒さをしのいで過酷な環境を生き延びてこられたのは、この脂肪を蓄積するエネルギー貯蔵システムがあったおかげだと言っても過言ではありません。しかし、飽食の現代においては、この優れたエネルギー貯蔵システムがあったことが裏目に出て、健康面や美容面でさまざまな問題を引き起こしているということになります』、「このエネルギー貯蔵庫は体中いたるところにあり、肝臓の細胞にたまれば脂肪肝が進み、内臓の周りにたまれば内臓脂肪が増加し、おなかや太もも、お尻などの皮下にたまれば皮下脂肪となっていきます。 そして、こうした脂肪が増えてくると、脂肪をためこむ細胞のひとつひとつが、まるで水風船がふくらむように膨張していくのです。こうした脂肪細胞の膨張こそが肥満の正体だと言っていいでしょう・・・私たち人間が太古の昔から飢えや寒さをしのいで過酷な環境を生き延びてこられたのは、この脂肪を蓄積するエネルギー貯蔵システムがあったおかげだと言っても過言ではありません。しかし、飽食の現代においては、この優れたエネルギー貯蔵システムがあったことが裏目に出て、健康面や美容面でさまざまな問題を引き起こしているということになります」、皮肉なものだ。
・『筋トレや有酸素運動よりも食事のコントロールが第一 次に、脂肪が減るメカニズムのほうを説明しましょう。体脂肪を減らすには、体内のエネルギー貯蔵庫からどんどん脂肪を追い出さなくてはなりません。その追い出し作業を効率よく進めるにはどうしたらいいのかという話です。 倉庫にストックされた脂肪を減らしていくには、まず、食事をコントロールしなくてはなりません。これ以上倉庫にエネルギーがたまらないようにするのはもちろんですが、摂取カロリーを少なくして、倉庫内のエネルギーが次々に使用されて出ていく状況をつくっていかなくてはならないわけです。 摂取カロリーを少なくするだけでなく、消費カロリーを多くすることも大切です。おそらく、消費カロリーを増やすと聞いて、みなさんがまっ先に思い浮かべるのは、筋トレやウォーキング、ジョギングなどの運動でしょう。 ただ、同じ運動でも、筋トレとウォーキングでは「使用されるエネルギー源」がまったく違うのです。 筋トレを行なった際、エネルギー源として消費されるのは実質的にはほぼ糖質です。筋肉や肝臓にストックされたグリコーゲンや血液中のブドウ糖などが消費され、脂肪はほとんど使われません。つまり、筋トレをいくらがんばっても体脂肪は減らないということ。誤解している人がたいへん多いのですが、筋トレは「体脂肪を減らすこと=やせること」にはつながらないわけです。 一方、ウォーキングやジョギング、エアロビクスなどの有酸素運動を行なった場合は、最初糖質と脂肪の混合物が使われ、その後、20分ほど時間が経つと脂肪が優先的に使われるようになります。そのため、「やせたいなら有酸素運動をするほうがいい」と思っている方も数多くいらっしゃいます。 ところが、有酸素運動で消費されるカロリーエネルギーは、期待している量と比べて実際にはごくごくわずかなのです。要するに、筋トレをがんばっていても体脂肪は減らせないし、有酸素運動をがんばっていても期待するような効果は得られない。はっきり言ってしまえば、運動をがんばっていても、それだけではやせられないのです』、「要するに、筋トレをがんばっていても体脂肪は減らせないし、有酸素運動をがんばっていても期待するような効果は得られない。はっきり言ってしまえば、運動をがんばっていても、それだけではやせられないのです」、これが厳しい現実のようだ。
・『いくら筋トレをしたところで脂肪が減らない限り、痩せない 「筋トレではやせない」ということについて、おそらく、みなさんの中には「これまでずっと、せり出したおなかを引っ込ませようと思って腹筋トレをがんばってきたのに……」と、納得のいかない顔をされている方もいらっしゃることでしょう。 でも、どんなに腹筋をやってもやせないのは事実なのです。 それは、大相撲の力士を見れば分かります。お相撲さんたちは、みんなでっぷりとしたおなかを抱えていますよね。言わずもがな、あの立派なおなかのふくらみは分厚い体脂肪によるものです。 しかし、その分厚い体脂肪の下には、鋼のように鍛えられた腹筋が備わっているのです。当たり前ですが、お相撲さんたちはみんな毎日これでもかというくらいのすさまじい稽古をして筋肉を鍛えています。もちろん、腹筋も常人には想像もつかないレベルで鍛え上げています。ところが、それだけ腹筋を鍛えていても、おなかの分厚い脂肪は一向に減っていませんよね。 これが「筋トレで腹筋を鍛えたところでおなかの脂肪は減らない」といういちばんの証拠なのではないでしょうか。 もっとも、みなさんご存じのように、筋トレをしっかり行なえば、筋肉は太く盛り上がってきます。すると、体のたるんでいた部分やだぶついていた部分が引っ張られて、全体に引き締まった感じに見えてくるようになります。これを「シェイプアップ」と呼んでもいいでしょう。 つまり、筋トレには脂肪を減らす効果はないものの、脂肪のたるみを目立たなくさせる効果はあるのです。だから、腹筋トレを毎日一生懸命やっていれば、脂肪は減らなくともおなかが引き締まって見えてくる場合もあります。もともとそんなにたくさんの脂肪をおなかに蓄えていない人であれば、他人から「あれ?やせた?」と錯覚されるかもしれません。 ただ、こういった「シェイプアップ効果」「引き締まったように見える効果」は、正確には「やせた」とは言えません。「やせた」と言えるのは、あくまで体脂肪が減った状態です。「脂肪が落ちてやせた」と「筋肉が発達した」は、生理学的にもまったく違う別々の現象であり、両者を混同することはできないのです。 すなわち、筋トレでどんなにすっきりシェイプアップされたとしても、脂肪が減っていない限り、「やせた」の仲間には入れられないということになります。 (清水 忍:トレーニングジムIPFヘッドトレーナー。アメリカスポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP)、健康運動指導士) ロジカルダイエット 3か月で「勝手に痩せる体」になる (幻冬舎新書) 』、「「シェイプアップ効果」「引き締まったように見える効果」は、正確には「やせた」とは言えません。「やせた」と言えるのは、あくまで体脂肪が減った状態です。「脂肪が落ちてやせた」と「筋肉が発達した」は、生理学的にもまったく違う別々の現象であり、両者を混同することはできないのです。 すなわち、筋トレでどんなにすっきりシェイプアップされたとしても、脂肪が減っていない限り、「やせた」の仲間には入れられないということになります」、「シェイプアップ効果」は「「やせた」の仲間には入れられない」ようだ。
タグ:「オーラルフレイルは誤嚥性肺炎のリスクを高めるといわれていますが、それ以外にも筋肉量が低下する『サルコペニア』などにより、要介護リスクを高める可能性もある」、なるほど。 摂取カロリーを少なくするだけでなく、消費カロリーを多くすることも大切です。おそらく、消費カロリーを増やすと聞いて、みなさんがまっ先に思い浮かべるのは、筋トレやウォーキング、ジョギングなどの運動でしょう。 ただ、同じ運動でも、筋トレとウォーキングでは「使用されるエネルギー源」がまったく違うのです。 筋トレを行なった際、エネルギー源として消費されるのは実質的にはほぼ糖質です。筋肉や肝臓にストックされたグリコーゲンや血液中のブドウ糖などが消費され、脂肪はほとんど使われません。 次に、脂肪が減るメカニズムのほうを説明しましょう。体脂肪を減らすには、体内のエネルギー貯蔵庫からどんどん脂肪を追い出さなくてはなりません。その追い出し作業を効率よく進めるにはどうしたらいいのかという話です。 倉庫にストックされた脂肪を減らしていくには、まず、食事をコントロールしなくてはなりません。これ以上倉庫にエネルギーがたまらないようにするのはもちろんですが、摂取カロリーを少なくして、倉庫内のエネルギーが次々に使用されて出ていく状況をつくっていかなくてはならないわけです。 私たち人間が太古の昔から飢えや寒さをしのいで過酷な環境を生き延びてこられたのは、この脂肪を蓄積するエネルギー貯蔵システムがあったおかげだと言っても過言ではありません。しかし、飽食の現代においては、この優れたエネルギー貯蔵システムがあったことが裏目に出て、健康面や美容面でさまざまな問題を引き起こしているということになります」、皮肉なものだ。 ・『筋トレや有酸素運動よりも食事のコントロールが第一 「このエネルギー貯蔵庫は体中いたるところにあり、肝臓の細胞にたまれば脂肪肝が進み、内臓の周りにたまれば内臓脂肪が増加し、おなかや太もも、お尻などの皮下にたまれば皮下脂肪となっていきます。 そして、こうした脂肪が増えてくると、脂肪をためこむ細胞のひとつひとつが、まるで水風船がふくらむように膨張していくのです。こうした脂肪細胞の膨張こそが肥満の正体だと言っていいでしょう・・・ 「糖質はグリコーゲンというかたちで肝臓や筋肉にストックされるものの、わずか400gほどしか蓄えられず、ちょっと運動でもすればすぐになくなってしまいます。 一方、脂肪は貯蔵に向いたエネルギーです。糖質1gが4kcalなのに対し脂肪は1gで9kcalもあり、大容量のエネルギーを出すことができるうえ、コンパクトに収納できていくらでも蓄えることができます。そのため、人の体はちょっとでも余剰エネルギーがあれば、どんどん脂肪に変換して体内にストックしようとします。 すなわち、体内にグリコーゲンとしてためられる容量を超えた糖質が入ってくると、それらをどんどん脂肪に変換して貯蔵しようというメカニズムが働くわけです」、なるほど。 清水 忍『ロジカルダイエット 3か月で「勝手に痩せる体」になる』(幻冬舎新書) ラ体操」とは面白そうだ。一度、やってみよう。 フレイル対策として広く知られているのは『3プラス1』という予防法。1つ目はさまざまな食材を食べて栄養状態を良好に保つこと。2つ目は、体力低下を防ぐための適度な運動です・・・3つ目は、積極的な社会参加だ。「他者との交流は脳の刺激になり、認知機能の低下を防ぐ」という」、なるほど。 イヤモンド・オンライン「清水 忍:トレーニングジムIPFヘッドトレーナー・アメリカスポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP)・健康運動指導士による「「筋トレを頑張っても体脂肪は減らない」ほとんどの人がカン違いしている残酷な事実」 ・働き盛りの50代からオーラルフレイル対策を含めたフレイル対策に取り組んでほしい、とアドバイスする。 「50代は体力や気力の衰えを感じはじめる時期です。中高年代から肩甲骨回しやパタカラ体操を取り入れると、習慣化しやすくなります。また、虫歯や歯周病のリスクを下げるために、丁寧な歯磨きや定期的な歯科検診も忘れずに。入れ歯を使用しており、取れやすさに不安がある方は、入れ歯安定剤を使う方法もあります。安定剤にはクリームタイプなどさまざまなタイプがあります。歯科医師に相談して決めてもらうのが良いでしょう」、「パタカ 「猫背はオーラルフレイルのみならず、運動機能のフレイルとも深く関わっている。 「年齢とともに減少する筋肉のなかでも、首や肩甲骨、背中に位置する“僧帽筋”は、何もしなければ45歳から80歳までのあいだに約40%減少します。僧帽筋が減った高齢者は、背筋を伸ばすのが難しくなり、猫背になってしまうのです。その結果、咀嚼力と嚥下力も下がるという悪循環に陥ります・・・フレイルは、要介護になる前に適切な対策を行えば、健康な機能を取り戻せる状態でもあります。 「「代表的なオーラルフレイル予防のひとつが『パタカラ体操』。これは『パ』『タ』『カ』『ラ』という4文字を発音する、口の体操です。パは唇、タは舌の先を鍛え、カは喉の奥にチカラを入れて嚥下力を高めます。ラは食べ物をまとめる舌の筋肉を使う発音です。パタカラ体操には、口腔機能を維持するために必要な要素がすべて入っているのです」 「パタカラ」と、それぞれの文字をはっきり発音したり、パパパパ、タタタタ、カカカカ……と連続で発音したりするのが、主なトレーニング方法。宝田氏自身も日頃からパタカラ体操を行っているという・・ 「「シェイプアップ効果」「引き締まったように見える効果」は、正確には「やせた」とは言えません。「やせた」と言えるのは、あくまで体脂肪が減った状態です。「脂肪が落ちてやせた」と「筋肉が発達した」は、生理学的にもまったく違う別々の現象であり、両者を混同することはできないのです。 すなわち、筋トレでどんなにすっきりシェイプアップされたとしても、脂肪が減っていない限り、「やせた」の仲間には入れられないということになります」、「シェイプアップ効果」は「「やせた」の仲間には入れられない」ようだ。 と比べて実際にはごくごくわずかなのです。要するに、筋トレをがんばっていても体脂肪は減らせないし、有酸素運動をがんばっていても期待するような効果は得られない。はっきり言ってしまえば、運動をがんばっていても、それだけではやせられないのです』、「要するに、筋トレをがんばっていても体脂肪は減らせないし、有酸素運動をがんばっていても期待するような効果は得られない。はっきり言ってしまえば、運動をがんばっていても、それだけではやせられないのです」、これが厳しい現実のようだ。 つまり、筋トレをいくらがんばっても体脂肪は減らないということ。誤解している人がたいへん多いのですが、筋トレは「体脂肪を減らすこと=やせること」にはつながらないわけです。 一方、ウォーキングやジョギング、エアロビクスなどの有酸素運動を行なった場合は、最初糖質と脂肪の混合物が使われ、その後、20分ほど時間が経つと脂肪が優先的に使われるようになります。そのため、「やせたいなら有酸素運動をするほうがいい」と思っている方も数多くいらっしゃいます。 ところが、有酸素運動で消費されるカロリーエネルギーは、期待している量 「口腔機能の衰えを指す「オーラルフレイル」は、さまざまな機能の低下と深く関わっている」、なるほど。 (その28)(「数日前に食べたリンゴがノドに…」高齢者を襲う“虚弱”現象、どうすれば防げるのか?、「筋トレを頑張っても体脂肪は減らない」ほとんどの人がカン違いしている残酷な事実) 健康