金融政策(その47)(日銀の独立性は どこへ行ったか……植田総裁の「仰天発言」で異常な円安に その裏で岸田首相が犯していた「重大問題」、「物価が上がらなければいいのに」と嘆く人たちへ 物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【前編】、日銀は「円安」「国債の山」「次の緩和」をどうするか 物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【後編】) [経済政策]
金融政策については、本年5月21日に取上げた。今日は、(その47)(日銀の独立性は どこへ行ったか……植田総裁の「仰天発言」で異常な円安に その裏で岸田首相が犯していた「重大問題」、「物価が上がらなければいいのに」と嘆く人たちへ 物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【前編】、日銀は「円安」「国債の山」「次の緩和」をどうするか 物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【後編】)である。
先ずは、本年6月9日付け現代ビジネスが掲載した一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「今や歴史的な円安~ビッグマックやBIS実質実効レートで見てわかった円の購買力が1ドル360円時代を下回る「危機的」な状況」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/131276?imp=0
・『現在の為替レートは歴史的な円安であり、危機的な円安であると言われる。確かにその通りなのだが、これについては、「1ドル160円より円安の時代があったではないか。固定為替レートの時代には、1ドル360円だった。これに比べれば、現在の為替レートはまだまだ円高だ」との意見があるかもしれない。 市場為替レートでは確かにそうだ。しかし、購買力平価との関係でいえば、現在の為替レートは、固定為替レートの時代よりも円安になってしまっているのである。だから、確かに歴史的な円安であり、危機的な円安なのだ。 「購買力平価」は分かりにくい概念なのだが、現在の為替レートの状況を理解するためにはぜひ必要なので、以下に説明することとしたい』、「購買力平価との関係でいえば、現在の為替レートは、固定為替レートの時代よりも円安になってしまっているのである。だから、確かに歴史的な円安であり、危機的な円安なのだ」、なるほど。
・『ビッグマック指数でみると 購買力平価としてはいくつかのものが計算されている。それらのうち最もよく知られているのは、イギリスの経済誌『エコノミスト』が計算して定期的に公表しているビックマックス指数だ。 ビッグマックは世界のどこでもほぼ同じ品質のものなので、本来であれば、世界的な一物一価が成立しているはずだ。つまり、市場為替レートで換算して、どこでも同じ価格になるはずだ。 ところが、実際にはそうなっていない。2024年1月のデータを見ると、ビックマックは日本で450円だが、アメリカでは5.69ドルだ。 日米のビックマックの価格を等しくするためには、為替レートが1ドル=79円でなければならない。これがビックマックを用いて計算された購買力平価だ。現実の為替レートは、購買力平価に比べて46.5%ほど過小評価されていることになる。この過小評価率のことを「ビッグマック指数」と呼んでいる。いまの場合についていうと、マイナス46.5だ。 なぜ現実の為替レートは、購買力平価から乖離するのか? それは日米両国の金融政策の違いなどによる。どのように違うかというのが重要な問題だが、ここではその問題には深入りしないことにして、「現実の為替レートが購買力平価に比べてどれだけ円安か?」という問題をさらに考えることにしよう』、興味深そうだ。
・『IMFやOECDが計算する購買力平価 ビッグマック指数は、ビッグマックという1つの商品だけを取り上げて、購買力平価を計算したものだ。しかし、1つの商品だけでは適切な評価ができないかもしれない。 そこで、様々な商品やサービスの価格を考慮して、国際的な一物一価を成立させるような為替レートを計算することが考えられる。OECDやIMFは、このような考えによって購買力平価を計算している。それによると、2022年の円の購買力平価は、1ドル=100円程度だ』、「IMFやOECDが計算する購買力平価」は「2022年の円の購買力平価は、1ドル=100円程度だ」、なるほど。
・『BISが計算する実質実効為替レート ビックマック指数や、OECD、 IMFの購買力平価は、各国の物価を調べて購買力平価を計算する。それに対して、円とドルを考えた場合、ある時点の為替レートを基準とし、日本とアメリカの物価上昇率の差を考慮して、基準時点と同じ購買力を維持するための為替レートを計算し、そして現実の為替レートとの比を計算するという方法がある。BIS (国際決済銀行)は、このような考えに基づく購買力評価を計算している。 ビッグマック指数やOECD、IMFなどの購買力平価が「絶対的購買力平価」と呼ばれるのに対して、BISの購買力平価は「相対的購買力平価」と呼ばれる。) 以下では、円とドルの関係を考えることとし、為替レートを円ドルレート、つまり1円あたりのドルで表すことにする。 基準時点における円ドルレートは、1円= 0.01ドルであったとする。そして、現時点までの間に、日本では物価が2%上昇し、アメリカでは10%上昇したとする。 この条件のもとで、円が基準時点と同じ購買力を持つためには、為替レートはどのように変化しなければならないか? まず、アメリカの物価が10%上昇したので、円高にならなければ購買力を維持できない。具体的には、円ドルレートは、1円=0.01 × 1.1 ドルにならなければならない。 また日本の物価上昇率が2%なので、それに対応するだけ円安にならなければならない。具体的には、円ドルレートは、1円=0.01 × 1.1÷1.02 ドルにならなければならない。 一般的に言えば、基準時点と同じ購買力を維持するには、円ドルレートが、次のようにならなければならない。 ・購買力を維持する為替レート= 基準時点における円ドルレート× (1+アメリカの物価上昇率) ÷ (日本の物価上昇率) アメリカの物価上昇率が日本の物価上昇率よりも高い場合には、日本円の価値を維持するためには、円ドルレートが基準時点より大きな数にならなければならない。つまり、円高にならなければならない。 この式で表わされる為替レートが、現時点における日本円の購買力評価である。繰り返すが、これは基準時点と同じ購買力を維持するという意味での為替レートだ。 BISが公表している「実質為替レート指数」とは、現在の市場為替レートと、上で計算した購買力平価との比率だ。すなわち、 ・実質為替レート=市場為替レート÷購買力を維持する為替レート×100 この値が100であれば、いまの市場為替レートは、基準時点と同じ購買力を維持している。100未満であれば、基準時点より購買力が低下したことになる。 以上では、ドルと円の関係だけを考えたが、同じようなことを他の通貨との関係においても計算できる。日本の場合についていうと、円ドルだけでなく、ユーロ、円とポンド等々、様々な通貨に対する購買力平価を計算する。そして、これら値の加重平均をとる。ウエイトは、相手国との貿易額を取る。こうして計算した値を、「実質実効為替レート」と呼んでいる。 なお、BISの計算では、以上で述べたように消費者物指数を用いて計算をしているが、これと同じような計算を、賃金や他の物価指数を用いて計算することもできる』、「BISが公表している「実質為替レート指数」とは、現在の市場為替レートと、上で計算した購買力平価との比率だ。すなわち、 ・実質為替レート=市場為替レート÷購買力を維持する為替レート×100 この値が100であれば、いまの市場為替レートは、基準時点と同じ購買力を維持している。100未満であれば、基準時点より購買力が低下したことになる」、なるほど。
・『現在は固定為替レート時代より円安 現在公表されている実質実効為替レートは、2020年を基準年として100とする指数であり、現在、67程度だ。したがって、2020年に比べて、購買力が67%の水準まで下がってしまったことになる。 2010年を100とする実質実効為替レート指数でみると、2021年頃に70程度だった。この値は、1995年には、150程度だった。だから、購買力がその頃の半分以下になったことになる。 実質実効為替レート指数が70とは、1970年頃と同じ状態だ。1970年代の初めは、1ドル=360円の固定為替レートの時代である。2021年には、それよりも購買力が低くなってしまったのだ。そして、現在は、それよりさらに低い。 本稿の冒頭で、「固定為替時代に比べれば、現在はまだ円高だ」という考えがあると述べた。しかし、実質実効レートという尺度では、現在は、固定為替レートの時代よりも円安になってしまったのである。「現在の円レートが危機的だ」というのは、このような意味である』、「現在公表されている実質実効為替レートは、2020年を基準年として100とする指数であり、現在、67程度だ。したがって、2020年に比べて、購買力が67%の水準まで下がってしまったことになる・・・本稿の冒頭で、「固定為替時代に比べれば、現在はまだ円高だ」という考えがあると述べた。しかし、実質実効レートという尺度では、現在は、固定為替レートの時代よりも円安になってしまったのである。「現在の円レートが危機的だ」というのは、このような意味である」、確かに「危機的」ではあえう。
次に、7月8日付け東洋経済オンラインが掲載した慶応義塾大学大学院教授の小幡 績氏と、 東京大学大学院経済学研究科教授の 渡辺 努氏による対談「「物価が上がらなければいいのに」と嘆く人たちへ 物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【前編】」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/770937
・『物価が上がることがなぜ日本に必要なのか。「デフレ」と称された状態の何が本当の問題だったのか。 著書『物価とは何か』をはじめ、物価研究の権威である渡辺努・東京大学大学院経済学研究科教授。リレー連載「新競馬好きエコノミストの市場深読み劇場」が人気の小幡績・慶応義塾大学大学院教授。2人は東京大学経済学部でゼミの先輩・後輩にあたる旧知の仲だ。 小幡氏は自称「渡辺努ウォッチャー」。かねて物価をめぐる渡辺氏の発信を追ってきたという。「僕もまだ渡辺理論をわかっていないところがあるし、世間ではちゃんと理解されていないと思うので、とことん聞きたい」。 対談のような、インタビューのような2人のやりとりから浮かび上がる、日本経済の根底に巣くう課題とは。前後編でお届けする。 【後編「日銀は「円安」「国債の山」「次の緩和」をどうするか」はこちら】 小幡そもそも、日銀はなぜ「物価目標2%」を掲げて異次元緩和をしなければならなかったんでしょうか。 物価がどんどん下落する「デフレ・スパイラル」だったら止めなければならないけれど、日本はせいぜいインフレ率がマイナス1%程度の「微妙なデフレ」だった。 日銀は2013年から異次元緩和を続けてきましたが、結果論からすると、物価には効かなかったし、ひずみがたくさん出ている。為替レートが円安に行きすぎたこともそうだし、みんなの関心や政策上のリソースがデフレ脱却に注ぎ込まれてしまい、実質の経済成長率をあげるようなリアルな経済の面が手薄になったことは問題です』、「日銀は2013年から異次元緩和を続けてきましたが、結果論からすると、物価には効かなかったし、ひずみがたくさん出ている。為替レートが円安に行きすぎたこともそうだし、みんなの関心や政策上のリソースがデフレ脱却に注ぎ込まれてしまい、実質の経済成長率をあげるようなリアルな経済の面が手薄になったことは問題です」、なるほど。
・『デフレの問題は「個々の価格が動かなくなったこと」 渡辺ゆっくりと物価が上がるようになれば、リアルな経済に影響があります。 多くの人は「デフレのコストは大きくない」って言うんだけど、日本では、平均的な物価の上昇率が0とかマイナス1%になったこと以上に、「個々の価格が動かなくなったこと」が問題だった。そこが、僕の考えが、他の人と違う最大のポイントです。 『物価とは何か』では、ミクロの価格を蚊に、マクロの物価を蚊柱にたとえていますが、蚊が死んでしまったので、蚊柱の動きも止まったというのが私の理解です。物価安定と見間違えてはいけない。 1990年代前半までは、個々の価格は勝手に動き回っていました。1995年ぐらいから価格上昇率がゼロの商品がぐっと増えてきた。個々の価格の動きが止まってしまったわけです。何十年もかけて起きたわけではなく、数年間のうちにそういう動きが生まれました。 企業は通常、価格を決めるパワーを持っているわけですが、それが奪われてしまった。そうすると企業は、何か新しい商品を作るために投資して、高い価格をつけて儲けることができません。最初からいい商品を作ることをあきらめる。価格をコントロールできない環境では、企業はアグレッシブな行動ができなくなってしまう。 それでも当然、収益を上げなければいけないので、じゃあコストカットとなって、経済がどんどん後ろ向きに回ってしまう。これがデフレの最大の弊害だと思っています。 小幡個々の価格が動かなくなったのは、私は企業が根性なしだからだと思うわけです。他の国では、いつまでも同じ商品をコストカットで作らず、あの手この手で新製品を出してうまく価格を変えていく。 企業が価格改定力を失ったのは、企業が悪いのか、それとも状況が悪かったのか。状況だとしても、私には、金融政策とは無関係な、産業構造にあると思うのですが。) 渡辺個々の企業が価格決定力を失ったのは、消費者が「価格は上げないのが当然」だと思っているからだと僕は思う。企業が価格を上げれば、消費者は「価格を上げるのは悪い企業」だと逃げていくし、企業同士でも、他の企業が上げないと思うと、怖くて上げられません。 社会全体が共通の認識として「価格は変わらないもの」と信じてしまっていて、個々の企業が解決できる問題じゃなかったんです。 小幡私はそれも、消費者の貧乏人根性なんだと思う。いったん価格が上がらない状況にはまり込んだら、企業も消費者もみんなが萎縮した形で均衡しているんだから、マクロの金融政策では抜け出せないでしょう。企業が行動を変えるようなインセンティブを与えるとか、ミクロの政策でないと効かないのでは。 渡辺僕の考えに賛成か否かはさておくとして、デフレが何らかの弊害をもたらしたか否かは非常に重要な論点です。しかしこの論点はずっとスルーされてきた。この論点に正面から向き合うことなしに、金融緩和の是非を語ることはできません。 実は、2013年に異次元緩和を始めた黒田東彦前総裁も説明したことがないんですよ。僕はこう解釈しました。消費者や価格をつける企業の人たちのマインドを「価格というのは上がるもの」に変えようとしているんだと。 日銀が公表した企業サーベイをみると、今のインフレ経済から過去を振り返って、「デフレの弊害は確かに大きかった」という認識が企業経営者の間に広まっているように思います』、「企業は通常、価格を決めるパワーを持っているわけですが、それが奪われてしまった。そうすると企業は、何か新しい商品を作るために投資して、高い価格をつけて儲けることができません。最初からいい商品を作ることをあきらめる。価格をコントロールできない環境では、企業はアグレッシブな行動ができなくなってしまう。 それでも当然、収益を上げなければいけないので、じゃあコストカットとなって、経済がどんどん後ろ向きに回ってしまう。これがデフレの最大の弊害だと思っています・・・小幡私はそれも、消費者の貧乏人根性なんだと思う。いったん価格が上がらない状況にはまり込んだら、企業も消費者もみんなが萎縮した形で均衡しているんだから、マクロの金融政策では抜け出せないでしょう。企業が行動を変えるようなインセンティブを与えるとか、ミクロの政策でないと効かないのでは」、なるほど。
・『価格が動かないと、資源配分が歪む 小幡要は、個々の価格が動かないというのは、価格が適正に決まっていない状態ということですよね。価格メカニズムによって資源配分を行うマーケットが非効率であることが問題で、ダイナミズムに欠けている。 渡辺海外の人にはこの話がなかなか理解されません。こういう説明だと伝わると気づいて、2年前ぐらいから僕が使っているのが、旧ソ連の例です。 旧ソ連の経済システムは価格というシグナルそのものがなく、生産量を割り当てていましたが、やっぱり失敗する。日本では価格はありますが、動いていなければ価格メカニズムがないに等しい。その結果として資源配分が歪んできた。 実はトータルの物価上昇(インフレ)率は1%でも2%でも、5%でもいいんです。平均値が上がるほど、分散(バラツキ)も増します。行きすぎたインフレがなぜいけないのかというと、不確実性が高すぎて資源配分が歪むからです。10%や20%まで上がると明らかに歪みが起きますが、5%ぐらいまでなら、ほとんど歪みが起きないというのが研究結果です。) 小幡私は渡辺理論を勉強しているうちに、「ゼロ」が問題なんだと思うようになりました。 個々の企業は価格を上げると他社に客を取られるし、価格を下げても、ライバルも追随するので、どちらにも動けない。しかし、それは現状維持がゼロの場合とそれ以外では、現状維持への吸引力が大きく異なる。ゼロは吸い込むパワーがものすごすぎる。それが問題だと。そういうことでしょうか。 渡辺「ゼロインフレが望ましい」という議論では、個々の価格がダイナミックに動いているけれど、全体としては非常に調和がとれている、一番うるわしい形を目指しています。 でも、日本では個々の価格が動かない結果として、平均としての物価も動かなかった。「ゼロ」は昨日150円だったモノが今日も150円という現状維持なので、皆がそこに落ちこみやすいわけです。 小幡その状況を壊さなければいけないことはわかるんです。 渡辺問題は、マクロの金融政策で壊れるかどうか、ですね』、「渡辺問題は、マクロの金融政策で壊れるかどうか、ですね」、なるほど。
・『異次元緩和より「変える力」が強かったもの 小幡私と渡辺さんは、問題意識は一緒ですが、アプローチの仕方が違う。私は金融政策で変えるのは無理だから、個々人が頑張れと思っています。 ここ数年でわかったのは、「円安で輸入価格が上がったのは目に見えるから、値上げせざるをえないとわかれば皆、受け入れる」ということだと思うんですが、どうですか。 渡辺異次元緩和は実は、それと似たことを政策的にやりたかったけれど、消費者や企業経営者に影響を与えるようなメッセージは出せませんでした。人間が行う政策よりも、パンデミックや戦争のほうが定常状態を変える力としては強いんだろうなと思います。) 小幡私が懸念しているのは、今みんな値上げしていますが、非常に日本的で、個々の企業が自力で価格をつける度胸がないまま、要は「値上げバブル」なわけです。常に全体に流されていて、前と何も変わっていない。これではまた元に戻ると思うんですよ。 渡辺実は、賃金もまったく同じで、横並びで同調し合いながら上げている。 特に賃金については、「上げられる企業と上げられない企業が出てくるのはよくない」と言われるけれど、僕は払えるところは賃上げして、払えない企業は賃上げできないという「格差」が生じる状態がまさに目指すべきことだと思う。 企業に貢献できる人は賃金をもっともらえばいいし、そうじゃない人は賃金が上がらないというのは当然あるべきこと。皆が同じように上がるなんてことは起こらないですよ。生産性に応じた賃金というのが原則です。 物価が上がっているのに自分の賃金がそこまで上がらないかもしれないと思ったら、賃金を上げるために転職したりして頑張るのが競争というものです。人と競争したくない、だけど値上げも嫌というのでは、社会が回りません』、「物価が上がっているのに自分の賃金がそこまで上がらないかもしれないと思ったら、賃金を上げるために転職したりして頑張るのが競争というものです。人と競争したくない、だけど値上げも嫌というのでは、社会が回りません」、その通りだ。
・『「現状維持で安心・平等」は壊したほうがいい 小幡中国やアメリカでは、稼いでいる人が価格を気にせずにほしいものを買うという行動が消費市場を動かしているので、価格が上がりやすい。日本ではケチケチ行動の消費者がほとんどですから、価格は動きにくい。 渡辺要は価格も賃金も、現状維持で安定させると安心で平等。そこにあまりにも重きを置きすぎていたわけですよね。みんな変えないんだから、自分も同じままで問題ない。僕はその状態は壊したほうがいいと思うし、ようやく壊れつつあるけれど、完全には壊れていないのも事実です。 小幡日本は「みんな一緒」のマインドだから、その波が大きくなるとバブルになって、歪みが大きくなってしまう。1980年代後半の日本のバブルのようなバブルは、他に例がないそうです。 日本はバブルになりやすい国、ブームに流されやすい国なんです。値上げも賃上げも、今はブームになりすぎてやりすぎで、反動で消費者の節約志向がかえって強まり、今のブームが終わったら、以前よりも酷い価格が動かない経済になってしまうかもしれない。 渡辺今は同調だろうがなんだろうが、価格が動いてくれればもうけもの。スーパーなどの販売価格をPOSデータでみても、これまで価格が動かない商品の割合が7割だったのが減ってきています。顕著に減ってきています。 価格も賃金も動かない状態からとにかく脱出する。そうなりつつあるから、しっかり固める時だと思います。【後編に続く】』、「日本はバブルになりやすい国、ブームに流されやすい国なんです。値上げも賃上げも、今はブームになりすぎてやりすぎで、反動で消費者の節約志向がかえって強まり、今のブームが終わったら、以前よりも酷い価格が動かない経済になってしまうかもしれない・・・渡辺今は同調だろうがなんだろうが、価格が動いてくれればもうけもの。スーパーなどの販売価格をPOSデータでみても、これまで価格が動かない商品の割合が7割だったのが減ってきています。顕著に減ってきています。 価格も賃金も動かない状態からとにかく脱出する。そうなりつつあるから、しっかり固める時だと思います」、なるほど。
第三に、7月9日付け東洋経済オンラインが掲載した慶応義塾大学大学院教授の小幡 績氏と、東京大学大学院経済学研究科教授の渡辺 努氏による対談「日銀は「円安」「国債の山」「次の緩和」をどうするか 物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【後編】」を紹介しよう。
・『物価が上がることがなぜ日本に必要なのか。どうして異次元緩和を10年続けても物価に効かなかったのか。 著書『物価とは何か』をはじめ、物価研究の権威である渡辺努・東京大学大学院経済学研究科教授。リレー連載「新競馬好きエコノミストの市場深読み劇場」が人気の小幡績・慶応義塾大学大学院教授。2人は東京大学経済学部でゼミの先輩・後輩にあたる旧知の仲だ。 小幡氏は自称「渡辺努ウォッチャー」。かねて物価をめぐる渡辺氏の発信を追ってきたという。「僕もまだ渡辺理論をわかっていないところがあるし、世間ではちゃんと理解されていないと思うので、とことん聞きたい」。 前編の「『物価が上がらなければいいのに』と嘆く人たちへ」に続いて、後編では金融政策の行く末から、次なるデフレ対策まで話が及んだ。 小幡3月に日銀は異次元金融緩和の枠組みを終了しました。日銀はとにかく異次元緩和の異常な政策をやめたかった。だから、春闘の賃上げで言い訳が整ったからやめるけれど、普通の緩和は続ける。今後は普通の景気調節として利上げできるようになったら、利上げする、と宣言したのだと。 渡辺異次元緩和は効かなかったから、やめても何も起こらないことには同意します。 小幡これは私が渡辺さんに唯一勝った?(笑)ところです。10年前、私が「異次元緩和をやっても無駄で副作用だけがあるから、やめましょう」と言っていたのに、渡辺さんは「いや、挑戦してみる価値はあります」と言っていました。この10年で考えは変わりましたか』、「10年前、私が「異次元緩和をやっても無駄で副作用だけがあるから、やめましょう」と言っていたのに、渡辺さんは「いや、挑戦してみる価値はあります」と言っていました。この10年で考えは変わりましたか」、変わったのだろうか。
・『国債は「要るモノ」か、「負の遺産」か 渡辺事実として全然うまくいかなかったから、失敗したとは思います。2016年1月に導入したマイナス金利の評判が悪かった頃からそう思い始めました。効いてほしかったですが、結果的に効かなかったのだから、明らかに無用の長物です。 海外の人には、3月の日銀の決定は、要らないモノを捨てる「断捨離」なんだと説明しています。断捨離のポイントは、要るモノと要らないモノを区別することです。要るモノとして残したのが、バランスシートです。バランスシートが大きい状態はやっぱり望ましいんですよ。 小幡そこは私はまったく反対で、植田総裁はバランスシートを「遺産」と言いましたが、それは「負の遺産」という意味だと思っています。 マーケットの人たちは、民間が国債を欲しがっているのだから、日銀が国債を独占しているのは民間にとって不利益だと言います。) 渡辺いま日銀が持っている500兆円のうち、200兆円を民間に渡すのがちょうどいいのなら、そこを目指すべきです。だけど残り300兆円は日銀が持つ。 異次元緩和の前は、日銀の当座預金残高は10兆円という規模でした。そこまで減らすのかどうかという話でしょう。 小幡私はストック(国債残高)ではなくフロー(国債購入額)が焦点だと思っています。日銀が買わなくても、市場で妥当なプライスが成立して、政府が国債を発行できる状況になっていることが必要です。 民間が国債を買うのは、後で日銀が買い取るから、という、いわゆる「日銀トレード」でしか国債が発行できない状態になるのはまずいと思います。国債の引き受け手として日銀がいると、政府や政治家が甘えて「無駄づかいしても大丈夫」となってしまう。 渡辺僕も今の財政規律の状態は問題だとは思うけれど、やっぱり政府や国会が対応するのが筋です。日銀からのルートで規律をもたせようとするのは邪道です』、「渡辺僕も今の財政規律の状態は問題だとは思うけれど、やっぱり政府や国会が対応するのが筋です。日銀からのルートで規律をもたせようとするのは邪道です」、筋論だ。
・『金融市場と実体経済、歪みのコスト 小幡績氏の略歴はリンク先参照) 小幡異次元緩和は異常に大量の国債を購入して、異常な市場にしてしまったわけです。それに乗じた政治によって財政規律が壊れたのであれば、異常事態の原因を除去する責任は日銀にあると思います。やるべき緩和をして生じた副作用であれば、それは日銀以外のプレーヤーが是正すべきでしょうが。 為替も同じで、日銀に責任があります。 「価格を自由に動かす」という異次元緩和の目的自体はいいとしても、結果的にはマーケットの期待だけが動いて資産市場の歪みが大きくなった。為替は、日銀とアメリカ中央銀行の金融政策により、購買力平価から大きく乖離して円安が進んだ。 渡辺僕は、価格が動かないことで実体経済が歪むコストが大きいから、金融市場では少々のことが起きても仕方がないと思っています。 日銀が保有する国債を異次元緩和前の水準まで減らす必要はなく、200兆、300兆円程度は残り続けるということでいいのではないかと思います。マーケットの人たちもそう予想しているのでは。そうすると金利が抑えられた状態が続くので、為替が円安になるのも当然なのでは。 小幡為替はあきらめるしかないんですか。私は金融政策のターゲットは財市場の指標である物価より、金融市場の要の変数である為替にすべきだと思うほどです。日銀は金融に責任を持つべきだと。) 小幡 もし今後、再び価格が動かない状況に陥ることがあったら、金融政策で変えられますか。 渡辺それは仮想的な質問でもなんでもなくて、インフレ率が再びゼロやマイナスになる可能性はまだ残っていると思っています。その状況を壊すことは基本的には中央銀行の仕事だし、彼らに頑張ってもらうしかない。 日銀は異次元緩和の前まで、物価が上がらないことを当然とする雰囲気を放置してきました。「このままでいい」という気持ちをより強く抱かせてきた。早い時期に壊せば、苦労せず壊せたはずです。 小幡何か緩和の方法を工夫すれば、効く可能性が増すんですか』、「日銀は異次元緩和の前まで、物価が上がらないことを当然とする雰囲気を放置してきました。「このままでいい」という気持ちをより強く抱かせてきた。早い時期に壊せば、苦労せず壊せたはずです」、手厳しい日銀批判だ。
・『現金と銀行預金も含めた「本当のマイナス金利」 (渡辺努氏の略歴はリンク先参照) 渡辺僕はマイナス金利が王道だと思っています。日銀はおそらく繰り返すのは嫌だと思っているでしょうが、失敗をふまえて考えると、今回のマイナス金利は中途半端だったんです。 たとえば現金はマイナス金利ではなかった。銀行預金もマイナス金利にはならなかった。現金や銀行預金も含めて全部マイナスにしていくのが、本当のマイナス金利だと思うんですけれど、異次元緩和ではそこまではやれなかった。 小幡金利がマイナスになることに人々が違和感を抱くのは、単なる経験則でしょうか。 渡辺よく例に出すのは、1ドル360円の固定相場制の時代です。円とドルとの相対的地位が安定していたのが崩れると、大変なことになると議論されていました。実際、変動相場制になってみると、生きられない世界になったわけではないですよね。 マネーもまったく同じで、今日の1万円札と明日の1万円札が1対1で交換されているのが現状の仕組みです。それが本当のマイナス金利になったら、今日の1万円が明日は9500円になる、というように、交換比率が変わるだけの話です。 要は円同士の変動相場制で、慣れの問題だと思います。 小幡マイナス金利というのはお金を借りると、貸したほうが金利を払うわけですから、何か違和感がある。 渡辺でも、インフレ率を加味した実質金利で考えれば、マイナスになることはいくらでもありえて、過去にも起きています。インフレ率10%の世界では、名目金利が10%より低ければ、実質的にはマイナスです。名目金利がマイナスになってはいけない理由はどこにもないんじゃないかな。) 渡辺貨幣の金利をゼロより下げるコストが大きいから、インフレ率が下がっても金利をゼロより下げられず、10年以上にわたってデフレが続いたわけです。貨幣にも自由自在にマイナス金利をつけるように制度そのものを取り換えたほうがいいと僕は思う。 そのコストが高いとしても、デフレで価格が動かなくなって、中央銀行が10年間頑張っても全然コントロールできないことのコストのほうが大きいわけです。 小幡価格が動かないことに対して、マクロの金融政策ではなく、ミクロの行動にアプローチすることはできないんですか』、「渡辺貨幣の金利をゼロより下げるコストが大きいから、インフレ率が下がっても金利をゼロより下げられず、10年以上にわたってデフレが続いたわけです。貨幣にも自由自在にマイナス金利をつけるように制度そのものを取り換えたほうがいいと僕は思う。 そのコストが高いとしても、デフレで価格が動かなくなって、中央銀行が10年間頑張っても全然コントロールできないことのコストのほうが大きいわけです」、なるほど。
・『「賃金は上がるもの」と考え方を変える手段 渡辺実際に、政府は中小企業と大企業の取引構造に手を入れていますよね。中小企業の価格決定力が弱いので、交渉のテーブルに大企業が出てこないことを摘発したりして、価格メカニズムが個別の事情で歪んでいる部分を直そうとしているわけです。 僕が考えて実際に行われたのは、最低賃金です。将来にかけて引き上げていく道筋を示したほうがいいと経済財政諮問会議で提唱しました。昨年、全国平均で時給1000円台に乗りましたが、岸田首相は昨年8月、「10年間で1500円に持っていく」と表明しました。 小幡それはどんな影響があるんですか。 渡辺将来の賃金の期待値を上げるためです。 物価については日銀が、2%目標を標榜してくれている。どの程度、みんなが信用しているかは別にして。賃金のほうがむしろ変わらないという信念が強いので、「上がるもの」だと世の中の考え方を変えていかなければなりません。 最低賃金はよくも悪くも政府が介入できる。全般的に賃金がそのような道筋で上がっていくと人々が予想するようになると、個々の労使交渉にも影響してくるわけです。最低賃金をマクロの政策ツールとして使った例としてはアメリカのニューディールがあります。 小幡渡辺さんを観察していると、いつも戦っていて、試行錯誤している。無理筋でもなんでも、いろいろなアイデアを提唱して、どんどん進化していますね』、「小幡渡辺さんを観察していると、いつも戦っていて、試行錯誤している。無理筋でもなんでも、いろいろなアイデアを提唱して、どんどん進化していますね」、望ましい姿勢だ。
先ずは、本年6月9日付け現代ビジネスが掲載した一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「今や歴史的な円安~ビッグマックやBIS実質実効レートで見てわかった円の購買力が1ドル360円時代を下回る「危機的」な状況」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/131276?imp=0
・『現在の為替レートは歴史的な円安であり、危機的な円安であると言われる。確かにその通りなのだが、これについては、「1ドル160円より円安の時代があったではないか。固定為替レートの時代には、1ドル360円だった。これに比べれば、現在の為替レートはまだまだ円高だ」との意見があるかもしれない。 市場為替レートでは確かにそうだ。しかし、購買力平価との関係でいえば、現在の為替レートは、固定為替レートの時代よりも円安になってしまっているのである。だから、確かに歴史的な円安であり、危機的な円安なのだ。 「購買力平価」は分かりにくい概念なのだが、現在の為替レートの状況を理解するためにはぜひ必要なので、以下に説明することとしたい』、「購買力平価との関係でいえば、現在の為替レートは、固定為替レートの時代よりも円安になってしまっているのである。だから、確かに歴史的な円安であり、危機的な円安なのだ」、なるほど。
・『ビッグマック指数でみると 購買力平価としてはいくつかのものが計算されている。それらのうち最もよく知られているのは、イギリスの経済誌『エコノミスト』が計算して定期的に公表しているビックマックス指数だ。 ビッグマックは世界のどこでもほぼ同じ品質のものなので、本来であれば、世界的な一物一価が成立しているはずだ。つまり、市場為替レートで換算して、どこでも同じ価格になるはずだ。 ところが、実際にはそうなっていない。2024年1月のデータを見ると、ビックマックは日本で450円だが、アメリカでは5.69ドルだ。 日米のビックマックの価格を等しくするためには、為替レートが1ドル=79円でなければならない。これがビックマックを用いて計算された購買力平価だ。現実の為替レートは、購買力平価に比べて46.5%ほど過小評価されていることになる。この過小評価率のことを「ビッグマック指数」と呼んでいる。いまの場合についていうと、マイナス46.5だ。 なぜ現実の為替レートは、購買力平価から乖離するのか? それは日米両国の金融政策の違いなどによる。どのように違うかというのが重要な問題だが、ここではその問題には深入りしないことにして、「現実の為替レートが購買力平価に比べてどれだけ円安か?」という問題をさらに考えることにしよう』、興味深そうだ。
・『IMFやOECDが計算する購買力平価 ビッグマック指数は、ビッグマックという1つの商品だけを取り上げて、購買力平価を計算したものだ。しかし、1つの商品だけでは適切な評価ができないかもしれない。 そこで、様々な商品やサービスの価格を考慮して、国際的な一物一価を成立させるような為替レートを計算することが考えられる。OECDやIMFは、このような考えによって購買力平価を計算している。それによると、2022年の円の購買力平価は、1ドル=100円程度だ』、「IMFやOECDが計算する購買力平価」は「2022年の円の購買力平価は、1ドル=100円程度だ」、なるほど。
・『BISが計算する実質実効為替レート ビックマック指数や、OECD、 IMFの購買力平価は、各国の物価を調べて購買力平価を計算する。それに対して、円とドルを考えた場合、ある時点の為替レートを基準とし、日本とアメリカの物価上昇率の差を考慮して、基準時点と同じ購買力を維持するための為替レートを計算し、そして現実の為替レートとの比を計算するという方法がある。BIS (国際決済銀行)は、このような考えに基づく購買力評価を計算している。 ビッグマック指数やOECD、IMFなどの購買力平価が「絶対的購買力平価」と呼ばれるのに対して、BISの購買力平価は「相対的購買力平価」と呼ばれる。) 以下では、円とドルの関係を考えることとし、為替レートを円ドルレート、つまり1円あたりのドルで表すことにする。 基準時点における円ドルレートは、1円= 0.01ドルであったとする。そして、現時点までの間に、日本では物価が2%上昇し、アメリカでは10%上昇したとする。 この条件のもとで、円が基準時点と同じ購買力を持つためには、為替レートはどのように変化しなければならないか? まず、アメリカの物価が10%上昇したので、円高にならなければ購買力を維持できない。具体的には、円ドルレートは、1円=0.01 × 1.1 ドルにならなければならない。 また日本の物価上昇率が2%なので、それに対応するだけ円安にならなければならない。具体的には、円ドルレートは、1円=0.01 × 1.1÷1.02 ドルにならなければならない。 一般的に言えば、基準時点と同じ購買力を維持するには、円ドルレートが、次のようにならなければならない。 ・購買力を維持する為替レート= 基準時点における円ドルレート× (1+アメリカの物価上昇率) ÷ (日本の物価上昇率) アメリカの物価上昇率が日本の物価上昇率よりも高い場合には、日本円の価値を維持するためには、円ドルレートが基準時点より大きな数にならなければならない。つまり、円高にならなければならない。 この式で表わされる為替レートが、現時点における日本円の購買力評価である。繰り返すが、これは基準時点と同じ購買力を維持するという意味での為替レートだ。 BISが公表している「実質為替レート指数」とは、現在の市場為替レートと、上で計算した購買力平価との比率だ。すなわち、 ・実質為替レート=市場為替レート÷購買力を維持する為替レート×100 この値が100であれば、いまの市場為替レートは、基準時点と同じ購買力を維持している。100未満であれば、基準時点より購買力が低下したことになる。 以上では、ドルと円の関係だけを考えたが、同じようなことを他の通貨との関係においても計算できる。日本の場合についていうと、円ドルだけでなく、ユーロ、円とポンド等々、様々な通貨に対する購買力平価を計算する。そして、これら値の加重平均をとる。ウエイトは、相手国との貿易額を取る。こうして計算した値を、「実質実効為替レート」と呼んでいる。 なお、BISの計算では、以上で述べたように消費者物指数を用いて計算をしているが、これと同じような計算を、賃金や他の物価指数を用いて計算することもできる』、「BISが公表している「実質為替レート指数」とは、現在の市場為替レートと、上で計算した購買力平価との比率だ。すなわち、 ・実質為替レート=市場為替レート÷購買力を維持する為替レート×100 この値が100であれば、いまの市場為替レートは、基準時点と同じ購買力を維持している。100未満であれば、基準時点より購買力が低下したことになる」、なるほど。
・『現在は固定為替レート時代より円安 現在公表されている実質実効為替レートは、2020年を基準年として100とする指数であり、現在、67程度だ。したがって、2020年に比べて、購買力が67%の水準まで下がってしまったことになる。 2010年を100とする実質実効為替レート指数でみると、2021年頃に70程度だった。この値は、1995年には、150程度だった。だから、購買力がその頃の半分以下になったことになる。 実質実効為替レート指数が70とは、1970年頃と同じ状態だ。1970年代の初めは、1ドル=360円の固定為替レートの時代である。2021年には、それよりも購買力が低くなってしまったのだ。そして、現在は、それよりさらに低い。 本稿の冒頭で、「固定為替時代に比べれば、現在はまだ円高だ」という考えがあると述べた。しかし、実質実効レートという尺度では、現在は、固定為替レートの時代よりも円安になってしまったのである。「現在の円レートが危機的だ」というのは、このような意味である』、「現在公表されている実質実効為替レートは、2020年を基準年として100とする指数であり、現在、67程度だ。したがって、2020年に比べて、購買力が67%の水準まで下がってしまったことになる・・・本稿の冒頭で、「固定為替時代に比べれば、現在はまだ円高だ」という考えがあると述べた。しかし、実質実効レートという尺度では、現在は、固定為替レートの時代よりも円安になってしまったのである。「現在の円レートが危機的だ」というのは、このような意味である」、確かに「危機的」ではあえう。
次に、7月8日付け東洋経済オンラインが掲載した慶応義塾大学大学院教授の小幡 績氏と、 東京大学大学院経済学研究科教授の 渡辺 努氏による対談「「物価が上がらなければいいのに」と嘆く人たちへ 物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【前編】」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/770937
・『物価が上がることがなぜ日本に必要なのか。「デフレ」と称された状態の何が本当の問題だったのか。 著書『物価とは何か』をはじめ、物価研究の権威である渡辺努・東京大学大学院経済学研究科教授。リレー連載「新競馬好きエコノミストの市場深読み劇場」が人気の小幡績・慶応義塾大学大学院教授。2人は東京大学経済学部でゼミの先輩・後輩にあたる旧知の仲だ。 小幡氏は自称「渡辺努ウォッチャー」。かねて物価をめぐる渡辺氏の発信を追ってきたという。「僕もまだ渡辺理論をわかっていないところがあるし、世間ではちゃんと理解されていないと思うので、とことん聞きたい」。 対談のような、インタビューのような2人のやりとりから浮かび上がる、日本経済の根底に巣くう課題とは。前後編でお届けする。 【後編「日銀は「円安」「国債の山」「次の緩和」をどうするか」はこちら】 小幡そもそも、日銀はなぜ「物価目標2%」を掲げて異次元緩和をしなければならなかったんでしょうか。 物価がどんどん下落する「デフレ・スパイラル」だったら止めなければならないけれど、日本はせいぜいインフレ率がマイナス1%程度の「微妙なデフレ」だった。 日銀は2013年から異次元緩和を続けてきましたが、結果論からすると、物価には効かなかったし、ひずみがたくさん出ている。為替レートが円安に行きすぎたこともそうだし、みんなの関心や政策上のリソースがデフレ脱却に注ぎ込まれてしまい、実質の経済成長率をあげるようなリアルな経済の面が手薄になったことは問題です』、「日銀は2013年から異次元緩和を続けてきましたが、結果論からすると、物価には効かなかったし、ひずみがたくさん出ている。為替レートが円安に行きすぎたこともそうだし、みんなの関心や政策上のリソースがデフレ脱却に注ぎ込まれてしまい、実質の経済成長率をあげるようなリアルな経済の面が手薄になったことは問題です」、なるほど。
・『デフレの問題は「個々の価格が動かなくなったこと」 渡辺ゆっくりと物価が上がるようになれば、リアルな経済に影響があります。 多くの人は「デフレのコストは大きくない」って言うんだけど、日本では、平均的な物価の上昇率が0とかマイナス1%になったこと以上に、「個々の価格が動かなくなったこと」が問題だった。そこが、僕の考えが、他の人と違う最大のポイントです。 『物価とは何か』では、ミクロの価格を蚊に、マクロの物価を蚊柱にたとえていますが、蚊が死んでしまったので、蚊柱の動きも止まったというのが私の理解です。物価安定と見間違えてはいけない。 1990年代前半までは、個々の価格は勝手に動き回っていました。1995年ぐらいから価格上昇率がゼロの商品がぐっと増えてきた。個々の価格の動きが止まってしまったわけです。何十年もかけて起きたわけではなく、数年間のうちにそういう動きが生まれました。 企業は通常、価格を決めるパワーを持っているわけですが、それが奪われてしまった。そうすると企業は、何か新しい商品を作るために投資して、高い価格をつけて儲けることができません。最初からいい商品を作ることをあきらめる。価格をコントロールできない環境では、企業はアグレッシブな行動ができなくなってしまう。 それでも当然、収益を上げなければいけないので、じゃあコストカットとなって、経済がどんどん後ろ向きに回ってしまう。これがデフレの最大の弊害だと思っています。 小幡個々の価格が動かなくなったのは、私は企業が根性なしだからだと思うわけです。他の国では、いつまでも同じ商品をコストカットで作らず、あの手この手で新製品を出してうまく価格を変えていく。 企業が価格改定力を失ったのは、企業が悪いのか、それとも状況が悪かったのか。状況だとしても、私には、金融政策とは無関係な、産業構造にあると思うのですが。) 渡辺個々の企業が価格決定力を失ったのは、消費者が「価格は上げないのが当然」だと思っているからだと僕は思う。企業が価格を上げれば、消費者は「価格を上げるのは悪い企業」だと逃げていくし、企業同士でも、他の企業が上げないと思うと、怖くて上げられません。 社会全体が共通の認識として「価格は変わらないもの」と信じてしまっていて、個々の企業が解決できる問題じゃなかったんです。 小幡私はそれも、消費者の貧乏人根性なんだと思う。いったん価格が上がらない状況にはまり込んだら、企業も消費者もみんなが萎縮した形で均衡しているんだから、マクロの金融政策では抜け出せないでしょう。企業が行動を変えるようなインセンティブを与えるとか、ミクロの政策でないと効かないのでは。 渡辺僕の考えに賛成か否かはさておくとして、デフレが何らかの弊害をもたらしたか否かは非常に重要な論点です。しかしこの論点はずっとスルーされてきた。この論点に正面から向き合うことなしに、金融緩和の是非を語ることはできません。 実は、2013年に異次元緩和を始めた黒田東彦前総裁も説明したことがないんですよ。僕はこう解釈しました。消費者や価格をつける企業の人たちのマインドを「価格というのは上がるもの」に変えようとしているんだと。 日銀が公表した企業サーベイをみると、今のインフレ経済から過去を振り返って、「デフレの弊害は確かに大きかった」という認識が企業経営者の間に広まっているように思います』、「企業は通常、価格を決めるパワーを持っているわけですが、それが奪われてしまった。そうすると企業は、何か新しい商品を作るために投資して、高い価格をつけて儲けることができません。最初からいい商品を作ることをあきらめる。価格をコントロールできない環境では、企業はアグレッシブな行動ができなくなってしまう。 それでも当然、収益を上げなければいけないので、じゃあコストカットとなって、経済がどんどん後ろ向きに回ってしまう。これがデフレの最大の弊害だと思っています・・・小幡私はそれも、消費者の貧乏人根性なんだと思う。いったん価格が上がらない状況にはまり込んだら、企業も消費者もみんなが萎縮した形で均衡しているんだから、マクロの金融政策では抜け出せないでしょう。企業が行動を変えるようなインセンティブを与えるとか、ミクロの政策でないと効かないのでは」、なるほど。
・『価格が動かないと、資源配分が歪む 小幡要は、個々の価格が動かないというのは、価格が適正に決まっていない状態ということですよね。価格メカニズムによって資源配分を行うマーケットが非効率であることが問題で、ダイナミズムに欠けている。 渡辺海外の人にはこの話がなかなか理解されません。こういう説明だと伝わると気づいて、2年前ぐらいから僕が使っているのが、旧ソ連の例です。 旧ソ連の経済システムは価格というシグナルそのものがなく、生産量を割り当てていましたが、やっぱり失敗する。日本では価格はありますが、動いていなければ価格メカニズムがないに等しい。その結果として資源配分が歪んできた。 実はトータルの物価上昇(インフレ)率は1%でも2%でも、5%でもいいんです。平均値が上がるほど、分散(バラツキ)も増します。行きすぎたインフレがなぜいけないのかというと、不確実性が高すぎて資源配分が歪むからです。10%や20%まで上がると明らかに歪みが起きますが、5%ぐらいまでなら、ほとんど歪みが起きないというのが研究結果です。) 小幡私は渡辺理論を勉強しているうちに、「ゼロ」が問題なんだと思うようになりました。 個々の企業は価格を上げると他社に客を取られるし、価格を下げても、ライバルも追随するので、どちらにも動けない。しかし、それは現状維持がゼロの場合とそれ以外では、現状維持への吸引力が大きく異なる。ゼロは吸い込むパワーがものすごすぎる。それが問題だと。そういうことでしょうか。 渡辺「ゼロインフレが望ましい」という議論では、個々の価格がダイナミックに動いているけれど、全体としては非常に調和がとれている、一番うるわしい形を目指しています。 でも、日本では個々の価格が動かない結果として、平均としての物価も動かなかった。「ゼロ」は昨日150円だったモノが今日も150円という現状維持なので、皆がそこに落ちこみやすいわけです。 小幡その状況を壊さなければいけないことはわかるんです。 渡辺問題は、マクロの金融政策で壊れるかどうか、ですね』、「渡辺問題は、マクロの金融政策で壊れるかどうか、ですね」、なるほど。
・『異次元緩和より「変える力」が強かったもの 小幡私と渡辺さんは、問題意識は一緒ですが、アプローチの仕方が違う。私は金融政策で変えるのは無理だから、個々人が頑張れと思っています。 ここ数年でわかったのは、「円安で輸入価格が上がったのは目に見えるから、値上げせざるをえないとわかれば皆、受け入れる」ということだと思うんですが、どうですか。 渡辺異次元緩和は実は、それと似たことを政策的にやりたかったけれど、消費者や企業経営者に影響を与えるようなメッセージは出せませんでした。人間が行う政策よりも、パンデミックや戦争のほうが定常状態を変える力としては強いんだろうなと思います。) 小幡私が懸念しているのは、今みんな値上げしていますが、非常に日本的で、個々の企業が自力で価格をつける度胸がないまま、要は「値上げバブル」なわけです。常に全体に流されていて、前と何も変わっていない。これではまた元に戻ると思うんですよ。 渡辺実は、賃金もまったく同じで、横並びで同調し合いながら上げている。 特に賃金については、「上げられる企業と上げられない企業が出てくるのはよくない」と言われるけれど、僕は払えるところは賃上げして、払えない企業は賃上げできないという「格差」が生じる状態がまさに目指すべきことだと思う。 企業に貢献できる人は賃金をもっともらえばいいし、そうじゃない人は賃金が上がらないというのは当然あるべきこと。皆が同じように上がるなんてことは起こらないですよ。生産性に応じた賃金というのが原則です。 物価が上がっているのに自分の賃金がそこまで上がらないかもしれないと思ったら、賃金を上げるために転職したりして頑張るのが競争というものです。人と競争したくない、だけど値上げも嫌というのでは、社会が回りません』、「物価が上がっているのに自分の賃金がそこまで上がらないかもしれないと思ったら、賃金を上げるために転職したりして頑張るのが競争というものです。人と競争したくない、だけど値上げも嫌というのでは、社会が回りません」、その通りだ。
・『「現状維持で安心・平等」は壊したほうがいい 小幡中国やアメリカでは、稼いでいる人が価格を気にせずにほしいものを買うという行動が消費市場を動かしているので、価格が上がりやすい。日本ではケチケチ行動の消費者がほとんどですから、価格は動きにくい。 渡辺要は価格も賃金も、現状維持で安定させると安心で平等。そこにあまりにも重きを置きすぎていたわけですよね。みんな変えないんだから、自分も同じままで問題ない。僕はその状態は壊したほうがいいと思うし、ようやく壊れつつあるけれど、完全には壊れていないのも事実です。 小幡日本は「みんな一緒」のマインドだから、その波が大きくなるとバブルになって、歪みが大きくなってしまう。1980年代後半の日本のバブルのようなバブルは、他に例がないそうです。 日本はバブルになりやすい国、ブームに流されやすい国なんです。値上げも賃上げも、今はブームになりすぎてやりすぎで、反動で消費者の節約志向がかえって強まり、今のブームが終わったら、以前よりも酷い価格が動かない経済になってしまうかもしれない。 渡辺今は同調だろうがなんだろうが、価格が動いてくれればもうけもの。スーパーなどの販売価格をPOSデータでみても、これまで価格が動かない商品の割合が7割だったのが減ってきています。顕著に減ってきています。 価格も賃金も動かない状態からとにかく脱出する。そうなりつつあるから、しっかり固める時だと思います。【後編に続く】』、「日本はバブルになりやすい国、ブームに流されやすい国なんです。値上げも賃上げも、今はブームになりすぎてやりすぎで、反動で消費者の節約志向がかえって強まり、今のブームが終わったら、以前よりも酷い価格が動かない経済になってしまうかもしれない・・・渡辺今は同調だろうがなんだろうが、価格が動いてくれればもうけもの。スーパーなどの販売価格をPOSデータでみても、これまで価格が動かない商品の割合が7割だったのが減ってきています。顕著に減ってきています。 価格も賃金も動かない状態からとにかく脱出する。そうなりつつあるから、しっかり固める時だと思います」、なるほど。
第三に、7月9日付け東洋経済オンラインが掲載した慶応義塾大学大学院教授の小幡 績氏と、東京大学大学院経済学研究科教授の渡辺 努氏による対談「日銀は「円安」「国債の山」「次の緩和」をどうするか 物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【後編】」を紹介しよう。
・『物価が上がることがなぜ日本に必要なのか。どうして異次元緩和を10年続けても物価に効かなかったのか。 著書『物価とは何か』をはじめ、物価研究の権威である渡辺努・東京大学大学院経済学研究科教授。リレー連載「新競馬好きエコノミストの市場深読み劇場」が人気の小幡績・慶応義塾大学大学院教授。2人は東京大学経済学部でゼミの先輩・後輩にあたる旧知の仲だ。 小幡氏は自称「渡辺努ウォッチャー」。かねて物価をめぐる渡辺氏の発信を追ってきたという。「僕もまだ渡辺理論をわかっていないところがあるし、世間ではちゃんと理解されていないと思うので、とことん聞きたい」。 前編の「『物価が上がらなければいいのに』と嘆く人たちへ」に続いて、後編では金融政策の行く末から、次なるデフレ対策まで話が及んだ。 小幡3月に日銀は異次元金融緩和の枠組みを終了しました。日銀はとにかく異次元緩和の異常な政策をやめたかった。だから、春闘の賃上げで言い訳が整ったからやめるけれど、普通の緩和は続ける。今後は普通の景気調節として利上げできるようになったら、利上げする、と宣言したのだと。 渡辺異次元緩和は効かなかったから、やめても何も起こらないことには同意します。 小幡これは私が渡辺さんに唯一勝った?(笑)ところです。10年前、私が「異次元緩和をやっても無駄で副作用だけがあるから、やめましょう」と言っていたのに、渡辺さんは「いや、挑戦してみる価値はあります」と言っていました。この10年で考えは変わりましたか』、「10年前、私が「異次元緩和をやっても無駄で副作用だけがあるから、やめましょう」と言っていたのに、渡辺さんは「いや、挑戦してみる価値はあります」と言っていました。この10年で考えは変わりましたか」、変わったのだろうか。
・『国債は「要るモノ」か、「負の遺産」か 渡辺事実として全然うまくいかなかったから、失敗したとは思います。2016年1月に導入したマイナス金利の評判が悪かった頃からそう思い始めました。効いてほしかったですが、結果的に効かなかったのだから、明らかに無用の長物です。 海外の人には、3月の日銀の決定は、要らないモノを捨てる「断捨離」なんだと説明しています。断捨離のポイントは、要るモノと要らないモノを区別することです。要るモノとして残したのが、バランスシートです。バランスシートが大きい状態はやっぱり望ましいんですよ。 小幡そこは私はまったく反対で、植田総裁はバランスシートを「遺産」と言いましたが、それは「負の遺産」という意味だと思っています。 マーケットの人たちは、民間が国債を欲しがっているのだから、日銀が国債を独占しているのは民間にとって不利益だと言います。) 渡辺いま日銀が持っている500兆円のうち、200兆円を民間に渡すのがちょうどいいのなら、そこを目指すべきです。だけど残り300兆円は日銀が持つ。 異次元緩和の前は、日銀の当座預金残高は10兆円という規模でした。そこまで減らすのかどうかという話でしょう。 小幡私はストック(国債残高)ではなくフロー(国債購入額)が焦点だと思っています。日銀が買わなくても、市場で妥当なプライスが成立して、政府が国債を発行できる状況になっていることが必要です。 民間が国債を買うのは、後で日銀が買い取るから、という、いわゆる「日銀トレード」でしか国債が発行できない状態になるのはまずいと思います。国債の引き受け手として日銀がいると、政府や政治家が甘えて「無駄づかいしても大丈夫」となってしまう。 渡辺僕も今の財政規律の状態は問題だとは思うけれど、やっぱり政府や国会が対応するのが筋です。日銀からのルートで規律をもたせようとするのは邪道です』、「渡辺僕も今の財政規律の状態は問題だとは思うけれど、やっぱり政府や国会が対応するのが筋です。日銀からのルートで規律をもたせようとするのは邪道です」、筋論だ。
・『金融市場と実体経済、歪みのコスト 小幡績氏の略歴はリンク先参照) 小幡異次元緩和は異常に大量の国債を購入して、異常な市場にしてしまったわけです。それに乗じた政治によって財政規律が壊れたのであれば、異常事態の原因を除去する責任は日銀にあると思います。やるべき緩和をして生じた副作用であれば、それは日銀以外のプレーヤーが是正すべきでしょうが。 為替も同じで、日銀に責任があります。 「価格を自由に動かす」という異次元緩和の目的自体はいいとしても、結果的にはマーケットの期待だけが動いて資産市場の歪みが大きくなった。為替は、日銀とアメリカ中央銀行の金融政策により、購買力平価から大きく乖離して円安が進んだ。 渡辺僕は、価格が動かないことで実体経済が歪むコストが大きいから、金融市場では少々のことが起きても仕方がないと思っています。 日銀が保有する国債を異次元緩和前の水準まで減らす必要はなく、200兆、300兆円程度は残り続けるということでいいのではないかと思います。マーケットの人たちもそう予想しているのでは。そうすると金利が抑えられた状態が続くので、為替が円安になるのも当然なのでは。 小幡為替はあきらめるしかないんですか。私は金融政策のターゲットは財市場の指標である物価より、金融市場の要の変数である為替にすべきだと思うほどです。日銀は金融に責任を持つべきだと。) 小幡 もし今後、再び価格が動かない状況に陥ることがあったら、金融政策で変えられますか。 渡辺それは仮想的な質問でもなんでもなくて、インフレ率が再びゼロやマイナスになる可能性はまだ残っていると思っています。その状況を壊すことは基本的には中央銀行の仕事だし、彼らに頑張ってもらうしかない。 日銀は異次元緩和の前まで、物価が上がらないことを当然とする雰囲気を放置してきました。「このままでいい」という気持ちをより強く抱かせてきた。早い時期に壊せば、苦労せず壊せたはずです。 小幡何か緩和の方法を工夫すれば、効く可能性が増すんですか』、「日銀は異次元緩和の前まで、物価が上がらないことを当然とする雰囲気を放置してきました。「このままでいい」という気持ちをより強く抱かせてきた。早い時期に壊せば、苦労せず壊せたはずです」、手厳しい日銀批判だ。
・『現金と銀行預金も含めた「本当のマイナス金利」 (渡辺努氏の略歴はリンク先参照) 渡辺僕はマイナス金利が王道だと思っています。日銀はおそらく繰り返すのは嫌だと思っているでしょうが、失敗をふまえて考えると、今回のマイナス金利は中途半端だったんです。 たとえば現金はマイナス金利ではなかった。銀行預金もマイナス金利にはならなかった。現金や銀行預金も含めて全部マイナスにしていくのが、本当のマイナス金利だと思うんですけれど、異次元緩和ではそこまではやれなかった。 小幡金利がマイナスになることに人々が違和感を抱くのは、単なる経験則でしょうか。 渡辺よく例に出すのは、1ドル360円の固定相場制の時代です。円とドルとの相対的地位が安定していたのが崩れると、大変なことになると議論されていました。実際、変動相場制になってみると、生きられない世界になったわけではないですよね。 マネーもまったく同じで、今日の1万円札と明日の1万円札が1対1で交換されているのが現状の仕組みです。それが本当のマイナス金利になったら、今日の1万円が明日は9500円になる、というように、交換比率が変わるだけの話です。 要は円同士の変動相場制で、慣れの問題だと思います。 小幡マイナス金利というのはお金を借りると、貸したほうが金利を払うわけですから、何か違和感がある。 渡辺でも、インフレ率を加味した実質金利で考えれば、マイナスになることはいくらでもありえて、過去にも起きています。インフレ率10%の世界では、名目金利が10%より低ければ、実質的にはマイナスです。名目金利がマイナスになってはいけない理由はどこにもないんじゃないかな。) 渡辺貨幣の金利をゼロより下げるコストが大きいから、インフレ率が下がっても金利をゼロより下げられず、10年以上にわたってデフレが続いたわけです。貨幣にも自由自在にマイナス金利をつけるように制度そのものを取り換えたほうがいいと僕は思う。 そのコストが高いとしても、デフレで価格が動かなくなって、中央銀行が10年間頑張っても全然コントロールできないことのコストのほうが大きいわけです。 小幡価格が動かないことに対して、マクロの金融政策ではなく、ミクロの行動にアプローチすることはできないんですか』、「渡辺貨幣の金利をゼロより下げるコストが大きいから、インフレ率が下がっても金利をゼロより下げられず、10年以上にわたってデフレが続いたわけです。貨幣にも自由自在にマイナス金利をつけるように制度そのものを取り換えたほうがいいと僕は思う。 そのコストが高いとしても、デフレで価格が動かなくなって、中央銀行が10年間頑張っても全然コントロールできないことのコストのほうが大きいわけです」、なるほど。
・『「賃金は上がるもの」と考え方を変える手段 渡辺実際に、政府は中小企業と大企業の取引構造に手を入れていますよね。中小企業の価格決定力が弱いので、交渉のテーブルに大企業が出てこないことを摘発したりして、価格メカニズムが個別の事情で歪んでいる部分を直そうとしているわけです。 僕が考えて実際に行われたのは、最低賃金です。将来にかけて引き上げていく道筋を示したほうがいいと経済財政諮問会議で提唱しました。昨年、全国平均で時給1000円台に乗りましたが、岸田首相は昨年8月、「10年間で1500円に持っていく」と表明しました。 小幡それはどんな影響があるんですか。 渡辺将来の賃金の期待値を上げるためです。 物価については日銀が、2%目標を標榜してくれている。どの程度、みんなが信用しているかは別にして。賃金のほうがむしろ変わらないという信念が強いので、「上がるもの」だと世の中の考え方を変えていかなければなりません。 最低賃金はよくも悪くも政府が介入できる。全般的に賃金がそのような道筋で上がっていくと人々が予想するようになると、個々の労使交渉にも影響してくるわけです。最低賃金をマクロの政策ツールとして使った例としてはアメリカのニューディールがあります。 小幡渡辺さんを観察していると、いつも戦っていて、試行錯誤している。無理筋でもなんでも、いろいろなアイデアを提唱して、どんどん進化していますね』、「小幡渡辺さんを観察していると、いつも戦っていて、試行錯誤している。無理筋でもなんでも、いろいろなアイデアを提唱して、どんどん進化していますね」、望ましい姿勢だ。
タグ:「日銀は2013年から異次元緩和を続けてきましたが、結果論からすると、物価には効かなかったし、ひずみがたくさん出ている。為替レートが円安に行きすぎたこともそうだし、みんなの関心や政策上のリソースがデフレ脱却に注ぎ込まれてしまい、実質の経済成長率をあげるようなリアルな経済の面が手薄になったことは問題です」、なるほど。 渡辺 努氏による対談「「物価が上がらなければいいのに」と嘆く人たちへ 物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【前編】」 小幡 績氏 東洋経済オンライン 「現在の円レートが危機的だ」というのは、このような意味である」、確かに「危機的」ではあえう。 「小幡渡辺さんを観察していると、いつも戦っていて、試行錯誤している。無理筋でもなんでも、いろいろなアイデアを提唱して、どんどん進化していますね」、望ましい姿勢だ。 「日銀は異次元緩和の前まで、物価が上がらないことを当然とする雰囲気を放置してきました。「このままでいい」という気持ちをより強く抱かせてきた。早い時期に壊せば、苦労せず壊せたはずです」、手厳しい日銀批判だ。 「渡辺僕も今の財政規律の状態は問題だとは思うけれど、やっぱり政府や国会が対応するのが筋です。日銀からのルートで規律をもたせようとするのは邪道です」、筋論だ。 「10年前、私が「異次元緩和をやっても無駄で副作用だけがあるから、やめましょう」と言っていたのに、渡辺さんは「いや、挑戦してみる価値はあります」と言っていました。この10年で考えは変わりましたか」、変わったのだろうか。 渡辺 努氏による対談「日銀は「円安」「国債の山」「次の緩和」をどうするか 物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【後編】」 価格も賃金も動かない状態からとにかく脱出する。そうなりつつあるから、しっかり固める時だと思います」、なるほど。 「日本はバブルになりやすい国、ブームに流されやすい国なんです。値上げも賃上げも、今はブームになりすぎてやりすぎで、反動で消費者の節約志向がかえって強まり、今のブームが終わったら、以前よりも酷い価格が動かない経済になってしまうかもしれない・・・渡辺今は同調だろうがなんだろうが、価格が動いてくれればもうけもの。スーパーなどの販売価格をPOSデータでみても、これまで価格が動かない商品の割合が7割だったのが減ってきています。顕著に減ってきています。 「物価が上がっているのに自分の賃金がそこまで上がらないかもしれないと思ったら、賃金を上げるために転職したりして頑張るのが競争というものです。人と競争したくない、だけど値上げも嫌というのでは、社会が回りません」、その通りだ。 「渡辺問題は、マクロの金融政策で壊れるかどうか、ですね」、なるほど。 小幡私はそれも、消費者の貧乏人根性なんだと思う。いったん価格が上がらない状況にはまり込んだら、企業も消費者もみんなが萎縮した形で均衡しているんだから、マクロの金融政策では抜け出せないでしょう。企業が行動を変えるようなインセンティブを与えるとか、ミクロの政策でないと効かないのでは」、なるほど。 「企業は通常、価格を決めるパワーを持っているわけですが、それが奪われてしまった。そうすると企業は、何か新しい商品を作るために投資して、高い価格をつけて儲けることができません。最初からいい商品を作ることをあきらめる。価格をコントロールできない環境では、企業はアグレッシブな行動ができなくなってしまう。 それでも当然、収益を上げなければいけないので、じゃあコストカットとなって、経済がどんどん後ろ向きに回ってしまう。これがデフレの最大の弊害だと思っています・・・ 「現在公表されている実質実効為替レートは、2020年を基準年として100とする指数であり、現在、67程度だ。したがって、2020年に比べて、購買力が67%の水準まで下がってしまったことになる・・・本稿の冒頭で、「固定為替時代に比べれば、現在はまだ円高だ」という考えがあると述べた。しかし、実質実効レートという尺度では、現在は、固定為替レートの時代よりも円安になってしまったのである。 「BISが公表している「実質為替レート指数」とは、現在の市場為替レートと、上で計算した購買力平価との比率だ。すなわち、 ・実質為替レート=市場為替レート÷購買力を維持する為替レート×100 この値が100であれば、いまの市場為替レートは、基準時点と同じ購買力を維持している。100未満であれば、基準時点より購買力が低下したことになる」、なるほど。 「IMFやOECDが計算する購買力平価」は「2022年の円の購買力平価は、1ドル=100円程度だ」、なるほど。 興味深そうだ。 「購買力平価との関係でいえば、現在の為替レートは、固定為替レートの時代よりも円安になってしまっているのである。だから、確かに歴史的な円安であり、危機的な円安なのだ」、なるほど。 野口 悠紀雄氏による「今や歴史的な円安~ビッグマックやBIS実質実効レートで見てわかった円の購買力が1ドル360円時代を下回る「危機的」な状況」 現代ビジネス (その47)(日銀の独立性は どこへ行ったか……植田総裁の「仰天発言」で異常な円安に その裏で岸田首相が犯していた「重大問題」、「物価が上がらなければいいのに」と嘆く人たちへ 物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【前編】、日銀は「円安」「国債の山」「次の緩和」をどうするか 物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【後編】) 金融政策