英国(その2)(富士通開発ソフト「ホライズン」巡る冤罪事件で 英郵便局元トップが勲章返上、日本が国際社会でルールメイク側に立てない原因は「真面目すぎる気質」にあった 堀内勉×徳成旨亮対談、イギリスが日本と比べて国際社会で圧倒的に存在感が高いのはなぜか) [世界情勢]
英国については、昨年4月30日に取上げた。今日は、(その2)(富士通開発ソフト「ホライズン」巡る冤罪事件で 英郵便局元トップが勲章返上、日本が国際社会でルールメイク側に立てない原因は「真面目すぎる気質」にあった 堀内勉×徳成旨亮対談、イギリスが日本と比べて国際社会で圧倒的に存在感が高いのはなぜか)である。
先ずは、本年1月11日付けNewsweek日本版が転載したロイター「富士通開発ソフト「ホライズン」巡る冤罪事件で、英郵便局元トップが勲章返上」を紹介しよう。
・『英ポストオフィスから郵便局の運営を委託された数百人の郵便局長が不正経理や横領、詐欺の罪を誤って着せられた冤罪(えんざい)事件に世論の怒りが高まる中、ポーラ・ベネルズ元最高経営責任者(CEO)は9日、大英帝国勲章(CBE)を返上すると表明した。 英国では先週、同事件でいかに多くの郵便局長の人生が狂ったかを描いたドラマが放映され、再び関心を集めている。 郵便局長らは1999─2015年の期間に、富士通が開発した勘定系システム「ホライズン」のバグでデータと現金残高の不一致が生じ、不当に罪を着せられていた。 ポストオフィスは長年、ホライズンのデータは正確だと主張していた。 ベネルズ氏はポストオフィスへの貢献などが評価されて19年にCBEを授与。今回、120万以上の人が取り消しを求める請願書に署名していた。 英政府には、冤罪事件の被害者全員に適切な賠償を行い、有罪を撤回するよう圧力が強まっている』、「郵便局長らは1999─2015年の期間に、富士通が開発した勘定系システム「ホライズン」のバグでデータと現金残高の不一致が生じ、不当に罪を着せられていた・・・ポストオフィスは長年、ホライズンのデータは正確だと主張していた。 ベネルズ氏はポストオフィスへの貢献などが評価されて19年にCBEを授与。今回、120万以上の人が取り消しを求める請願書に署名していた。 英政府には、冤罪事件の被害者全員に適切な賠償を行い、有罪を撤回するよう圧力が強まっている」、なるほど。
次に、1月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したニコン取締役専務執行役員CFO 堀内勉氏による「HONZ:日本が国際社会でルールメイク側に立てない原因は「真面目すぎる気質」にあった 堀内勉×徳成旨亮対談」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/337022
・『日本経済復活およびビジネスパーソン個人の成長の秘訣を示した『CFO思考』が、スタートアップ業界やJTCと呼ばれる大企業のビジネスパーソンを中心に話題となっている。5刷3万3000部(電子書籍込み)を突破し、メディアにも続々取り上げられている話題の本だ。 本書の発刊を記念して、著者の徳成旨亮氏と、多摩大学大学院教授の堀内勉氏の対談が実現。「世界で活躍できる子に育てるために親ができること」「ビジネスパーソンの教養」「企業倒産の意味」といったテーマについて、6回にわたってお届けする』、興味深そうだ。
・『いいかげんなのに成功者が多いアメリカの起業家たち Q:徳成さんは著書『CFO思考』の中で、重要なテーマとして「アニマルスピリッツ」について触れています。「アニマルスピリッツ」とは、経済学者ジョン・メイナード・ケインズが生み出した用語で、「経済活動に見られる主観的で非合理的な動機や行動のこと」で、今の日本にまさに足りていないものだと著書の中で指摘しています。改めてなぜか伺っても良いでしょうか』、「「アニマルスピリッツ」とは、経済学者ジョン・メイナード・ケインズが生み出した用語で、「経済活動に見られる主観的で非合理的な動機や行動のこと」で、今の日本にまさに足りていないものだと著書の中で指摘」、なるほど。
・『日本が国際社会でルールメイク側に立てない原因は「真面目すぎる気質」にあった(徳成旨亮(以下、徳成) たしかに著書では、CFOにはアニマルスピリッツが大事だと書きました。でも実はCFOだけではなくて、私はビジネスパーソンすべてにアニマルスピリッツが必要だと思うんですね。著書名は『CFO思考』ですが、本当に言いたかったことは、「すべての組織人よ、アニマルスピリッツを持とう!」ということなんですよ。 僕は日経平均株価を構成する225社のうちの2社、ニコンと三菱UFJファイナンシャル・グループ(三菱UFJ)のCFOをやらせていただいている間、海外投資家からずっと、「日本人もしくは日本企業、日本経済にアニマルスピリッツはないのか」と言われてきました。 実を言うと僕は、堀内さんと違って本を読まない人間ですから、そこで初めて「アニマルスピリッツとは何だろう?」と思って、一生懸命調べたわけです。で、経済学者のケインズが言っていた言葉なのか、と知ったのがもう十何年前。 僕が政治経済の授業で習ったケインズって、もっと近代経済の基本的なことを説いている印象があったものだから、まさかアニマルスピリッツなんて言っているとは、と驚いて。経済というのは数理的な仮定に基づくものではなくて南極探検と大差ない、とまで書いてある。そんなことを言う人なの?とまったく認識していなかったんです。 そこで改めていろいろ考えてみると腑に落ちるものがあった。たしかに日本人は真面目で勉強も大好きだから、何事も論理的に考えたり、何とかリスクを減らそうと考えることも得意です。でもアメリカのビジネスパーソンや起業家を見ていると、いい加減な人がいっぱいいるけど、そういう人が大成功したりするんですよ。 そのあたりを考えると、日本人はもうちょっと思い切ってやったほうがいいんじゃない?と。そういう思いも込めてこの本は、全ての日本の経済人、とくに若い人めがけて書いた1冊なんです。 あとは、おじさんたちにも向けて。僕たち経営者に近い立場の人たちは、自分の会社がどこまでリスクを取れるか、ということは本当はわかっているんですよ。とくにCFOは会社の財務をしっかり見ていますからね。 だからわかっているんだけど、「無事これ名馬」思想で、あと何年で退職だからとか、このままいけば子会社の社長になれるからとか考えて、なるべくリスクを取らずやっている。そういう経営者、とくに財務経理担当役員が多いのが現実なんですよね。 堀内勉(以下、堀内) そこが欧米との一番の違いと言えますよね』、「「無事これ名馬」思想で、あと何年で退職だからとか、このままいけば子会社の社長になれるからとか考えて、なるべくリスクを取らずやっている。そういう経営者、とくに財務経理担当役員が多いのが現実なんですよね」、なるほど。
・『日本人の「真面目さ」が足枷になっている 徳成 本当に。「ここまでならリスクを取れますよ」というリスクキャパシティと、自分たちの取っているリスクとの差を、ちゃんと認識してほしい。それで若い人たちに思い切ってやらせるということも経営者には必要なんじゃないの?と、実はわりとおじさん層に向けて書いた本だったんですけど、今のところ若い人たちにも読んでいただけているようで。嬉しいことではあるんですけど、もうちょっとおじさんたちにも響くといいなと思っています。 もともと欧州で生まれた資本主義は、マックス・ウェーバーが『プロテスタンティズム倫理と資本主義の精神』で分析したように、神から課せられた職業的使命を達成することや利益追求は善であるという考えがベースにある。その資本主義がアメリカに渡ってさらにゲーム感覚が付加された。成功に対する執着や、リスクをゲーム感覚で捉える強さ、みたいなところがあるんですよね。 そういうアニマルスピリッツ的なものが、日本人のこの真面目な文化とどう融合すればグローバルに戦えるようになるのか。これは日本人としてもっとも考えなければならないことなんですけど、ここからは堀内さんに解説をお願いできればと思います。 堀内 私も徳成さんと同じで、海外で働いた経験がありまして。私はニューヨークなのですが、ビジネスの世界で同じ言葉を使っていても、そのニュアンスや受け取り方が、アメリカと日本ですごく違うなと感じました。 今、徳成さんがおっしゃっていましたが、日本人というのは真面目過ぎるのですよね。それは日本人の美徳でもあるのですが、グローバルに戦いたいとなったときに足枷になってくる。 たとえば、何かルールを決められると日本人は皆、きちんと守ろうとします。ルールというのは守るために作られるのだから当たり前じゃないか、と言われたらその通りで反論のしようもないのですが、グローバルに見ると、言われたことを必ずしもきちんと守らない人というのはけっこう多くて。みんながきちんとしていないからルールを作る、というような側面があるのですよね。 徳成 日本人はほっといても守りますからね(笑)。 堀内 そうそう、まわりの顔色を見たり忖度したりして、何となくな規律が生まれやすい国民性だと思います。そういう国民性の人たちに「これがルールですよ」と提示するのと、特にアメリカのようなさまざまなバックグラウンドを持った人たちが集まったところで提示するのとでは、守り方が全然違ってくる。 日本人は、ルールを守らないと大変なことになるというような深刻な受け止め方をしますが、片や「まあ、このぐらいでいいだろ」という感じですから、同じ強さで同じ内容のことを言っても、反応が全然違うのですよね。 それで何が言いたいかと言えば、細かいルールを作って物事を進めようとすると、日本人だけががんじがらめになってアニマルスピリッツも何もなくなっていく。それで「あっちは全然ルールを守ってないじゃないか!」と怒ってみたり。 そのような状況になってしまうので、そうしたニュアンスの違いをわかっている人がルール作りをしたり、ルール運用したりしないと、日本人だけがバカを見るというようなことになってしまいかねないです。 もちろんルールを守るのは法治国家の原則中の原則ですから、聞く人によっては「何だそれは! ルールを破れということか?!」と誤解するかもしれないので、言い方が難しいのですが、これが私が感じている日本の課題です。 徳成 だからアニマルスピリッツを発揮するうえでも、ルールをどこまで受け止めるか、ということは考えないといけないですよね。著書にも書いたのですが、近年アメリカのSOX法(サーベイランス・オクシリー法。企業の不正行為への対策として制定された内部統制および監査に関する米国の法律)をベースに日本でもJ-SOX法(内部統制報告制度)が導入されたり、イギリスをまねて、コーポレートガバナンスコード(上場企業が行う企業統治においてガイドラインとして参照すべき原則・指針)やスチュワードシップコード(証券会社や銀行、保険会社や年金基金といった上場株式に投資する機関投資家に対して、「責任ある機関投資家」の諸原則をまとめた指針)が策定されたりしています。 後者の2つの「コード」は理由を言えば守らなくても良いソフトローなんですけど、いかんせん日本人は生真面目なので、実質、ハードローとして受け止める。つまり、もともと悪いことをして儲けようと思っていない日本人に、悪いことをしても儲けようと思っている人たち向けのルールを持ってきているわけですから、出ていないクギをさらに打って引っ込める、みたいなことになってしまいがち……と僕は思うんですね』、「日本人は生真面目なので、実質、ハードローとして受け止める。つまり、もともと悪いことをして儲けようと思っていない日本人に、悪いことをしても儲けようと思っている人たち向けのルールを持ってきているわけですから、出ていないクギをさらに打って引っ込める、みたいなことになってしまいがち……」、なるほど。
・『日本人がルールメイク側に立てないのはなぜか 徳成 だから本当は日本人がみずからルールメイキングできるといいんですけど、残念ながら英語力の問題と、国力の問題で……。ESG(Environment・Social・Governanceを考慮した投資活動や経営・事業活動を指す)に関するさまざまなルールもヨーロッパが作っているし、ISO[スイスのジュネーブに本部を置く非政府機関 International Organization for Standardization(国際標準化機構)の略称。ISOの主な活動は国際的に通用する規格を制定すること]だってヨーロッパの組織。ヨーロッパ人は、アメリカに対抗するため、環境問題などでルール作りを主導しているんです。日本は、アメリカとヨーロッパの双方のルールに従うことになる。 本当は日本発のルールを作れるといいんですけど、残念ながらそれは難しい。ならば、その問題をわかっている我々おじさんたちが、「そこは適当でいいよ」と合理的に手を抜くといいますか、リスク・アプローチで「ここまではダメだけどこの辺はいいよ」と言ってあげないと、若い人たちはみんな完璧にルールを守ろうとしてしまう。 そうすると、企業の収益力、ひいては日本の経済力がますます落ちて、国際競争力がなくなるという、まさに自縄自縛に陥りがちだと思いますね。 堀内 私もアメリカで働いてみて感じたのですが、残念ながら日本は第二次世界大戦で敗戦国になったことで、国際社会での立場が弱いんですよね。国連など国際機関でのポジションも少ないし。今、国連関係の機関で日本人がヘッドを取り続けているのはMIGA(多数国間投資保証機関)ぐらいですからね。 徳成 そうですね。その歴代長官の中には本田桂子さんもいる。日本人の女性がヘッドだったこともある、珍しい機関ですね。彼女は昨年、『ESG投資の成り立ち、実践と未来』(日経BP)という本を出されて話題になりましたよね。 堀内 でも、日本人が取っているポジションといえばそれぐらい。韓国と比較すると、ヘッドはもちろん、海外で仕事している人、国際機関に就職している人も向こうのほうがだいぶ多い印象ですよね。 そこで思ったのが、日本は戦争に負けてすごく内向きになって、とにかく経済を成長させることに集中しようと考えた。その中でいい製品を作って輸出するという武器を身に着けて海外に出て行くようになった。逆に言えば海外との接点がそれぐらいしかなかったということですよね。 徳成 偏ってますよね。 堀内 だからルールメイクができない、英語ができないというのは、当然といえば当然なわけで。少し話が逸れますが、そもそも日本語というのは、文法構造から音まで、英語とまったく違うから、英語を学ぶ上ではとても不利ですね。これほど違う言語が地球上にあるのかと思うぐらい。 徳成 日本語は母音の数が少ないですからね。中国語などは母音が多いので、中国人は英語の発音も上手い人が多い。彼らは英語の音も聞き取りやすい、と言われていますし。僕はTOEICは900点以上だし、海外駐在したし、世間的には英語ができると思われていますが、やっぱりダメなんですよね、音が……。 堀内 私もまさに音の問題で、いまだに英語には苦手意識があります。小学生、遅くとも中学生ぐらいまでに海外に住んでいた人は、聞き取れる音の数が全然違うのではないでしょうか。 徳成 でも今の若い人は、YouTubeとかでいろいろ聞けるじゃないですか。これはいいですよね。僕も学生時代にこんなものがあったら、もっと上手くなっていたと思います。タダで勉強できますから。 あと「Otter」など、自分が喋った英語を文字に起こしてくれるアプリがあるじゃないですか。あれも便利ですよね。ただ使ってみると、自分が喋ったのとは全然違う英文が出てきて、僕の発音はこんなふうに聞こえているんだ……と愕然とするんですけど。 堀内 留学するにはTOEFLでの高得点が必要なのですが、私が留学のためにTOEFLを受けた頃というのは、ヒアリングのテストがありませんでした。日本人は妙にペーパー試験は得意だから、点数だけはすごく高いわけです。だから欧米の人からすると、なんでこんなに喋れないヤツがこんなに高得点を取っているんだ?と不思議でならないみたいです。 徳成 よく喋れないのに文章を書かせると、文法的に完璧なものを作ってくるから、「日本人って変だよね」と英語ネイティブに思われる、というのが、僕たち世代の「あるある」でしたよね(笑)。 堀内 やはり英語の音に関しては、早いうちに身に着けたほうがいい。私のイメージだと、6歳から14歳ぐらいまでの間に、3年以上海外に住んでいれば、相当聞き取れるし、きれいな発音になると思います。 徳成 そのぐらいの年齢だと、グラマーもきちんと身に付きますしね。行動範囲も広がってきている年齢だから、単語を覚える量も増える。……という英語の苦労話はいくらでもできてしまうので、これぐらいでやめておきましょう(笑)。(第2回に続く)』、「日本人は妙にペーパー試験は得意だから、点数だけはすごく高いわけです。だから欧米の人からすると、なんでこんなに喋れないヤツがこんなに高得点を取っているんだ?と不思議でならないみたいです。 徳成 よく喋れないのに文章を書かせると、文法的に完璧なものを作ってくるから、「日本人って変だよね」と英語ネイティブに思われる、というのが、僕たち世代の「あるある」でしたよね(笑)」、なるほど。
第三に、1月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したニコン取締役専務執行役員CFOの堀内勉氏と徳成旨亮氏の対談「イギリスが日本と比べて国際社会で圧倒的に存在感が高いのはなぜか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/337023
・日本経済復活およびビジネスパーソン個人の成長の秘訣を示した『CFO思考』が、スタートアップ業界やJTCと呼ばれる大企業のビジネスパーソンを中心に話題となっている。5刷3万3000部(電子書籍込み)を突破し、メディアにも続々取り上げられている話題の本だ。 本書の発刊を記念して、著者の徳成旨亮氏と、多摩大学大学院教授の堀内勉氏の対談が実現。「世界で活躍できる子に育てるために親ができること」「ビジネスパーソンの教養」「企業倒産の意味」といったテーマについて、6回にわたってお届けする(Qは聞き手の質問)』、興味深そうだ。
・『イギリスが日本と比べて国際社会で圧倒的に存在感が高いのはなぜか 比較にならないほど日本がイギリスに負けているもの Q:日本の経済力、英語力以外で、日本にアニマルスピリッツがなかなか根付かない原因はありますでしょうか? A:徳成旨亮(以下、徳成) 資本主義における富の蓄積が違う、というのが僕の思っていることです。日本は資本主義経済になったのが、所詮は明治以降と浅いんですよ。それも長めに見た場合であって、本当は第二次大戦後にいったんやり直してますから。 三菱財閥を作った岩崎家とか、住友財閥の住友家とか、当時はものすごいお金持ちでしたけど、戦後の財閥解体の影響を受けている。だから厳密には、戦後から富の蓄積が始まったに過ぎない、とも言える。 もちろん、日本にも、それなりにお金を持っている方がたくさんいらっしゃいますけど、知れているんですよね。英国の元貴族を含めた欧米の金持ちとはケタが違う。 堀内勉(以下、堀内) 私の友人に、Fei-Fei Huという42歳の中国とイギリスの二重国籍の方がいます。彼は上海出身なのですが、小学校から大学まで日本で育って、途中で南アフリカにもいたのですが、イギリスのオックスフォード大学でも学び、その後、英国王室で当時のチャールズ皇太子の側近として働いていたという特異な経歴の持ち主です。今は日本に戻って、東京と千葉でフェニックスハウスやラグビースクールジャパンなどのインターナショナルスクールを経営しています。 その彼が今、北海道のニセコで新しいコンセプトのインターナショナルスクールの設立を計画しています。私もそれに協力しているので、学校を中心とした街づくりの参考にするために、オックスフォード大学やラグビースクール、チャールズ国王が皇太子時代に開発を手掛けたロンドン南西の街・パウンドベリーなど、色々と見にいきました。 たとえば、パブリックスクールのひとつでラグビー発祥の地であるラグビースクールの本校は、敷地面積が200ヘクタールほどあります。坪に置き換えると60万坪ですね。六本木ヒルズの16~17個分という感じでしょうか。それだけ広い敷地に、生徒が800人ほどしかいないのです。 私は麻布学園の出身ですが、あそこは中高含め、元麻布の狭い敷地に1800人ぐらいの生徒が通っています。ラグビースクールは年間授業料が約4万5000ポンド、日本円で800万円ぐらいでしょうか。これに対して、麻布学園は約60万円です。 こうした授業料の格差もすごいのですが、それ以上に注目すべきなのは、あちらは大英帝国時代に築いた資産の蓄積がすごいということです。校舎は全部レンガ造りの立派なものだし、ラグビー場も1面だけではなくて、5面か6面ぐらいある。そのインフラの違いは全く比較の対象にならないです。つまり、超優良なバランスシート(賃借対照表)を持っているんですね。 GDP(国内総生産)というのはフローを表現しているものですから、企業で言えば粗利益と言うか、PL(損益計算書)の項目に相当するものです。そこで私たちはPLが大きいとか小さいとか競っているかもしれませんが、そもそもBS(貸借対照表、バランスシート)が超優良で含み益が山のようにある。 イギリスの上流教育というのはそうした感じなんですよね。フローだけ見て「すごいだろう」「ダメだな」と一喜一憂している人たちと、膨大なストックがあって超優良なバランスシートを持っている人たちと、そもそも比較にならない。 彼らのストックは何千兆円か何京円か分からないですが、それをさて置いておいて、「フローの部分はイギリスより日本のほうが大きいよね」とか威張ってみても、そこだけでは比較にならないと感じるのです』、「イギリスの上流教育というのはそうした感じなんですよね。フローだけ見て「すごいだろう」「ダメだな」と一喜一憂している人たちと、膨大なストックがあって超優良なバランスシートを持っている人たちと、そもそも比較にならない。 彼らのストックは何千兆円か何京円か分からないですが、それをさて置いておいて、「フローの部分はイギリスより日本のほうが大きいよね」とか威張ってみても、そこだけでは比較にならないと感じるのです」、なるほど。
・『ルールの面でもリスクの取り方でもイギリスは「賢すぎる」 徳成 富の蓄積でいうと、まずイギリスがすごいのは堀内さんが言うように膨大なアセットを、世界中に持っている。ケイマンやバミューダなどの租税回避地の多くは、実は英国王室属領か英国海外領土です。さらに、英語が事実上、世界標準語になっている。お隣の韓国や台湾の方々とも僕は英語で会話しています。 金融取引といったいろんなビジネスにおいても、英国法がグローバルな契約におけるガバナンス・ロー(準拠法)であることが多いんですよね。いろんな意味で英国はうまく世界を統治している。 テストを受ければ必ず日本人のほうが平均点は高いんだけど、それとは賢さの質が違うごく少数の英国人たちがいる、というのをロンドン駐在時代に感じました。 堀内 とにかく色々な面で資産が違う。 徳成 アニマルスピリッツの話に戻りますと、彼らはそういう巨大な資産を持っていますから、当然それを運用するのですが、そのとき分散投資をします。いろいろなアイディアを持っている人たちに少しずつお金を渡して運用させる。お金の出し手、つまり金主をアセット・オーナー、運用者をアセット・マネージャーと言います。 少しずつと言ったって、もとが大きいからけっこうな額なんですけど、それを元手にアイディアがビジネスの形となり、新しい利益の源泉になっていくわけです。 それで、その金主たちと言いますか、お金を運用している人たちもたくさんいるから、ニーズの種類も幅広いんですね。投資期間も短い人もいれば長い人もいるなどさまざま。「こういうふうに運用してほしい」というリクエストがいろいろなので、アセット・マネージャーもいろいろなタイプが育つんです。そこが日本とは決定的に違う、というのがあります。 資本主義の厚みが違う、と私が最初に申し上げたのはそういうことで。富の蓄積ももちろん違うけど、それゆえいろんな運用ニーズを持った人たちがいて、いろんなリスクを取っていいよという土壌もあるから、いろんなアセット・マネージャー、すなわち、資産運用会社やファンド・マネージャーが育ちやすい。 加えて前回の記事で申し上げたように、ルールメイキングみたいなところでも、うまく自分たちのビジネスが運びやすいような土壌が知らず知らず作られている。 堀内 要するに、我々はそういうところで戦っていかなければならない、ということですよね。 徳成 そうなんです。日本の金融機関の役員が国際的な場で議論するとなったとき、交渉テーブルの反対側にはゴールドマン・サックスだとかシティバンクだとか、年収十億みたいな連中がいる。こっちはせいぜい数千万円だから、ケタが違うわけですよ。それでも対等に議論をしなければいけないし、下手な英語でも頑張って主張し、戦っていかなければならない。 そこで僕なんかは日本人の気概みたいなものが突然芽生えるわけですよ。この立場にある以上は頑張らなきゃと。そうやって戦っていくことを、1人でも2人でもいいから若い人に頑張って目指してもらわないと、日本国が成り立たない。そんな思いも込めて、本を書いたところもあるんですけど。 だからまずは海外に出てみてほしいし、そういう世界があるんだってことを知ってもらいたい。見てみないことにはわからないと思うので。それで、こういう世界で日本はどうやって国として頑張っていけばいいんだろう、ということを真面目に考えてほしいんですよね。内側に縮こまっていちゃダメで、自分をどんどん外に出ていかないと。 それもアニマルスピリッツだと思うんですよね。たしかにじっとしているほうがラクに決まっているんですけど、能力がある人はその能力を生かさなきゃダメです。それは天から与えられたものなんだから社会のために生かさなきゃ、というのが僕の考え方でもあるんですよね』、「能力がある人はその能力を生かさなきゃダメです。それは天から与えられたものなんだから社会のために生かさなきゃ、というのが僕の考え方でもあるんですよね」、なるほど。
・『日本はルールのわからないゲームを無理やりやらされてきた 堀内 今の話を引き継ぐと、日本だけがどのようなルールでゲームを戦っているのか知らない、という側面があります。経営共創基盤(IGPI)グループ会長で、経済同友会副代表幹事なども務めた冨山和彦氏は、よく「野球からサッカーにゲームが変わったのに、日本の経営者はまだサッカー場で野球をやろうとしている」と言われていて、私も本当にそうだなと感じます。 日本はなぜ太平洋戦争であれほど無謀な戦いをし、多くの国土を焼かれ、戦後どのような環境に置かれてきたのか。自分たちが何をやってきたのかということを理解しなければ、アングロサクソンやユダヤ系、台頭してきた中国といった人たちがルールの枠組を作って動かしている世界に、ただ乗っかることしかできないということになります。 もしくは相手のルールに単純に巻き込まれて、「できた」「できなかった」と一喜一憂するだけになる。そうやって、相手の土俵で戦っている限り、勝てるわけもないです。苦しんだわりには報いは少ない、ということになってしまうだけです。 ですから、自分は今どのような場に置かれて、何のゲームをどのようなルールで戦っているのか、それぐらいは理解しなければいけないと思うんですよね。 徳成 一度、自分たちの立ち位置を俯瞰してみること、メタ思考が重要ですよね。 堀内 若い人たちには、理由は何でもいいからとにかく海外に行け、と言っていまして。とにかく外の世界を見てこないと自分が何者かわからないですから。 私はちょうど読書に関する本『人生を変える読書』を出したところなのですが、その中でもその点を強調しています。自分がどのような視座を持っていて、どのような思考の枠組みにとらわれて世の中を見ているのか、それはその思考をずらしてみないことにはわからないんですよと。 横から見たり、上から見たらどのように見えるのか。うまく自分の思考自体をずらして別の角度から見てみる。そうしたメタな思考をすることが教養だと思うのです。それを身に着けないと。 ずっとコツコツ真面目に同じことをやるのも人生ですが、メタ思考がないと、気付けばコツコツと人の作ったルールを守っているだけ、というふうになってしまうと思います。それだと最初から勝負に負けているので、まずはそのことに気付いてほしいなと。 徳成 日本は昔から天変地異が多いから、どうしてもコツコツ思考になりがちなんですよね。だって一生懸命頑張って作っていたお米が、自然災害で一晩でダメになるとか、当たり前だったから。あと1週間で収穫できる作物が台風で全部やられちゃう、みたいなことを長い間、何回も繰り返してきたから、危機に備えて蓄えておく、という保守的な国民性になったんだと思うんですよ。粘り強く、我慢強くなった。 かつ江戸時代に幕藩体制が300年近く続いたから、お上の言うことに従うことにも慣れ過ぎている。だから人様のルールの下で戦うことに疑問を感じないんでしょうけど、本当は良くないですよね。 堀内 だからといって、ではこのゲームから抜けます、というわけにはいかない。江戸時代の人口はおおむね3100~3300万人だったと言われています。今は人口が減り始めているといっても1億2500万人ほどです。それでも江戸時代の4倍ぐらいいるわけです。 マルクスは晩年、脱資本主義という視点から循環型経済を唱えていて、マルクス主義研究者の斎藤幸平氏もこれを支持しているのですが、鎖国をしていた江戸時代ならいざ知らず、これだけグローバル化した今の世界で、地域社会の中だけで循環してやっていけるのかと思うわけです。 世界に目を向けると、スペイン風邪の流行によって世界人口の数%が減少したと言われる第一次世界大戦直後は約18億人でした。これが今や、80億人を超えている。4倍以上です。 それを循環型社会に戻すとなったとき、ではこの余剰人員をどうすればいいんだ?という話になってきます。地産地消みたいなことができたら一番いいのでしょうが、地球がこれだけの人口を養っていかなければいけない今、すべてを循環型経済とか脱資本主義に戻すというのは、私は現実味がないと思っています。 つまり、資本主義というゲームは18世紀ぐらいから始まっていて、我々は知らないうちにそこに参戦しているのです。今さらそこから足抜けができなくなっているということです。 そうであるなら、このゲームのルールをどのように持っていったら少しはマシに戦えるのか、私などはそこを一生懸命考えるのですが、少なくともエグゼクティブくらいのレベルの人は、この問題をきちんと理解してくださいね、というのが私の訴えかけていることなのです。 (第3回に続く)』、「自分は今どのような場に置かれて、何のゲームをどのようなルールで戦っているのか、それぐらいは理解しなければいけないと思うんですよね。 徳成 一度、自分たちの立ち位置を俯瞰してみること、メタ思考が重要ですよね・・・あと1週間で収穫できる作物が台風で全部やられちゃう、みたいなことを長い間、何回も繰り返してきたから、危機に備えて蓄えておく、という保守的な国民性になったんだと思うんですよ。粘り強く、我慢強くなった。 かつ江戸時代に幕藩体制が300年近く続いたから、お上の言うことに従うことにも慣れ過ぎている・・・。このゲームのルールをどのように持っていったら少しはマシに戦えるのか、私などはそこを一生懸命考えるのですが、少なくともエグゼクティブくらいのレベルの人は、この問題をきちんと理解してくださいね、というのが私の訴えかけていることなのです。だから人様のルールの下で戦うことに疑問を感じないんでしょうけど、本当は良くないですよね」、その通りだ。
先ずは、本年1月11日付けNewsweek日本版が転載したロイター「富士通開発ソフト「ホライズン」巡る冤罪事件で、英郵便局元トップが勲章返上」を紹介しよう。
・『英ポストオフィスから郵便局の運営を委託された数百人の郵便局長が不正経理や横領、詐欺の罪を誤って着せられた冤罪(えんざい)事件に世論の怒りが高まる中、ポーラ・ベネルズ元最高経営責任者(CEO)は9日、大英帝国勲章(CBE)を返上すると表明した。 英国では先週、同事件でいかに多くの郵便局長の人生が狂ったかを描いたドラマが放映され、再び関心を集めている。 郵便局長らは1999─2015年の期間に、富士通が開発した勘定系システム「ホライズン」のバグでデータと現金残高の不一致が生じ、不当に罪を着せられていた。 ポストオフィスは長年、ホライズンのデータは正確だと主張していた。 ベネルズ氏はポストオフィスへの貢献などが評価されて19年にCBEを授与。今回、120万以上の人が取り消しを求める請願書に署名していた。 英政府には、冤罪事件の被害者全員に適切な賠償を行い、有罪を撤回するよう圧力が強まっている』、「郵便局長らは1999─2015年の期間に、富士通が開発した勘定系システム「ホライズン」のバグでデータと現金残高の不一致が生じ、不当に罪を着せられていた・・・ポストオフィスは長年、ホライズンのデータは正確だと主張していた。 ベネルズ氏はポストオフィスへの貢献などが評価されて19年にCBEを授与。今回、120万以上の人が取り消しを求める請願書に署名していた。 英政府には、冤罪事件の被害者全員に適切な賠償を行い、有罪を撤回するよう圧力が強まっている」、なるほど。
次に、1月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したニコン取締役専務執行役員CFO 堀内勉氏による「HONZ:日本が国際社会でルールメイク側に立てない原因は「真面目すぎる気質」にあった 堀内勉×徳成旨亮対談」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/337022
・『日本経済復活およびビジネスパーソン個人の成長の秘訣を示した『CFO思考』が、スタートアップ業界やJTCと呼ばれる大企業のビジネスパーソンを中心に話題となっている。5刷3万3000部(電子書籍込み)を突破し、メディアにも続々取り上げられている話題の本だ。 本書の発刊を記念して、著者の徳成旨亮氏と、多摩大学大学院教授の堀内勉氏の対談が実現。「世界で活躍できる子に育てるために親ができること」「ビジネスパーソンの教養」「企業倒産の意味」といったテーマについて、6回にわたってお届けする』、興味深そうだ。
・『いいかげんなのに成功者が多いアメリカの起業家たち Q:徳成さんは著書『CFO思考』の中で、重要なテーマとして「アニマルスピリッツ」について触れています。「アニマルスピリッツ」とは、経済学者ジョン・メイナード・ケインズが生み出した用語で、「経済活動に見られる主観的で非合理的な動機や行動のこと」で、今の日本にまさに足りていないものだと著書の中で指摘しています。改めてなぜか伺っても良いでしょうか』、「「アニマルスピリッツ」とは、経済学者ジョン・メイナード・ケインズが生み出した用語で、「経済活動に見られる主観的で非合理的な動機や行動のこと」で、今の日本にまさに足りていないものだと著書の中で指摘」、なるほど。
・『日本が国際社会でルールメイク側に立てない原因は「真面目すぎる気質」にあった(徳成旨亮(以下、徳成) たしかに著書では、CFOにはアニマルスピリッツが大事だと書きました。でも実はCFOだけではなくて、私はビジネスパーソンすべてにアニマルスピリッツが必要だと思うんですね。著書名は『CFO思考』ですが、本当に言いたかったことは、「すべての組織人よ、アニマルスピリッツを持とう!」ということなんですよ。 僕は日経平均株価を構成する225社のうちの2社、ニコンと三菱UFJファイナンシャル・グループ(三菱UFJ)のCFOをやらせていただいている間、海外投資家からずっと、「日本人もしくは日本企業、日本経済にアニマルスピリッツはないのか」と言われてきました。 実を言うと僕は、堀内さんと違って本を読まない人間ですから、そこで初めて「アニマルスピリッツとは何だろう?」と思って、一生懸命調べたわけです。で、経済学者のケインズが言っていた言葉なのか、と知ったのがもう十何年前。 僕が政治経済の授業で習ったケインズって、もっと近代経済の基本的なことを説いている印象があったものだから、まさかアニマルスピリッツなんて言っているとは、と驚いて。経済というのは数理的な仮定に基づくものではなくて南極探検と大差ない、とまで書いてある。そんなことを言う人なの?とまったく認識していなかったんです。 そこで改めていろいろ考えてみると腑に落ちるものがあった。たしかに日本人は真面目で勉強も大好きだから、何事も論理的に考えたり、何とかリスクを減らそうと考えることも得意です。でもアメリカのビジネスパーソンや起業家を見ていると、いい加減な人がいっぱいいるけど、そういう人が大成功したりするんですよ。 そのあたりを考えると、日本人はもうちょっと思い切ってやったほうがいいんじゃない?と。そういう思いも込めてこの本は、全ての日本の経済人、とくに若い人めがけて書いた1冊なんです。 あとは、おじさんたちにも向けて。僕たち経営者に近い立場の人たちは、自分の会社がどこまでリスクを取れるか、ということは本当はわかっているんですよ。とくにCFOは会社の財務をしっかり見ていますからね。 だからわかっているんだけど、「無事これ名馬」思想で、あと何年で退職だからとか、このままいけば子会社の社長になれるからとか考えて、なるべくリスクを取らずやっている。そういう経営者、とくに財務経理担当役員が多いのが現実なんですよね。 堀内勉(以下、堀内) そこが欧米との一番の違いと言えますよね』、「「無事これ名馬」思想で、あと何年で退職だからとか、このままいけば子会社の社長になれるからとか考えて、なるべくリスクを取らずやっている。そういう経営者、とくに財務経理担当役員が多いのが現実なんですよね」、なるほど。
・『日本人の「真面目さ」が足枷になっている 徳成 本当に。「ここまでならリスクを取れますよ」というリスクキャパシティと、自分たちの取っているリスクとの差を、ちゃんと認識してほしい。それで若い人たちに思い切ってやらせるということも経営者には必要なんじゃないの?と、実はわりとおじさん層に向けて書いた本だったんですけど、今のところ若い人たちにも読んでいただけているようで。嬉しいことではあるんですけど、もうちょっとおじさんたちにも響くといいなと思っています。 もともと欧州で生まれた資本主義は、マックス・ウェーバーが『プロテスタンティズム倫理と資本主義の精神』で分析したように、神から課せられた職業的使命を達成することや利益追求は善であるという考えがベースにある。その資本主義がアメリカに渡ってさらにゲーム感覚が付加された。成功に対する執着や、リスクをゲーム感覚で捉える強さ、みたいなところがあるんですよね。 そういうアニマルスピリッツ的なものが、日本人のこの真面目な文化とどう融合すればグローバルに戦えるようになるのか。これは日本人としてもっとも考えなければならないことなんですけど、ここからは堀内さんに解説をお願いできればと思います。 堀内 私も徳成さんと同じで、海外で働いた経験がありまして。私はニューヨークなのですが、ビジネスの世界で同じ言葉を使っていても、そのニュアンスや受け取り方が、アメリカと日本ですごく違うなと感じました。 今、徳成さんがおっしゃっていましたが、日本人というのは真面目過ぎるのですよね。それは日本人の美徳でもあるのですが、グローバルに戦いたいとなったときに足枷になってくる。 たとえば、何かルールを決められると日本人は皆、きちんと守ろうとします。ルールというのは守るために作られるのだから当たり前じゃないか、と言われたらその通りで反論のしようもないのですが、グローバルに見ると、言われたことを必ずしもきちんと守らない人というのはけっこう多くて。みんながきちんとしていないからルールを作る、というような側面があるのですよね。 徳成 日本人はほっといても守りますからね(笑)。 堀内 そうそう、まわりの顔色を見たり忖度したりして、何となくな規律が生まれやすい国民性だと思います。そういう国民性の人たちに「これがルールですよ」と提示するのと、特にアメリカのようなさまざまなバックグラウンドを持った人たちが集まったところで提示するのとでは、守り方が全然違ってくる。 日本人は、ルールを守らないと大変なことになるというような深刻な受け止め方をしますが、片や「まあ、このぐらいでいいだろ」という感じですから、同じ強さで同じ内容のことを言っても、反応が全然違うのですよね。 それで何が言いたいかと言えば、細かいルールを作って物事を進めようとすると、日本人だけががんじがらめになってアニマルスピリッツも何もなくなっていく。それで「あっちは全然ルールを守ってないじゃないか!」と怒ってみたり。 そのような状況になってしまうので、そうしたニュアンスの違いをわかっている人がルール作りをしたり、ルール運用したりしないと、日本人だけがバカを見るというようなことになってしまいかねないです。 もちろんルールを守るのは法治国家の原則中の原則ですから、聞く人によっては「何だそれは! ルールを破れということか?!」と誤解するかもしれないので、言い方が難しいのですが、これが私が感じている日本の課題です。 徳成 だからアニマルスピリッツを発揮するうえでも、ルールをどこまで受け止めるか、ということは考えないといけないですよね。著書にも書いたのですが、近年アメリカのSOX法(サーベイランス・オクシリー法。企業の不正行為への対策として制定された内部統制および監査に関する米国の法律)をベースに日本でもJ-SOX法(内部統制報告制度)が導入されたり、イギリスをまねて、コーポレートガバナンスコード(上場企業が行う企業統治においてガイドラインとして参照すべき原則・指針)やスチュワードシップコード(証券会社や銀行、保険会社や年金基金といった上場株式に投資する機関投資家に対して、「責任ある機関投資家」の諸原則をまとめた指針)が策定されたりしています。 後者の2つの「コード」は理由を言えば守らなくても良いソフトローなんですけど、いかんせん日本人は生真面目なので、実質、ハードローとして受け止める。つまり、もともと悪いことをして儲けようと思っていない日本人に、悪いことをしても儲けようと思っている人たち向けのルールを持ってきているわけですから、出ていないクギをさらに打って引っ込める、みたいなことになってしまいがち……と僕は思うんですね』、「日本人は生真面目なので、実質、ハードローとして受け止める。つまり、もともと悪いことをして儲けようと思っていない日本人に、悪いことをしても儲けようと思っている人たち向けのルールを持ってきているわけですから、出ていないクギをさらに打って引っ込める、みたいなことになってしまいがち……」、なるほど。
・『日本人がルールメイク側に立てないのはなぜか 徳成 だから本当は日本人がみずからルールメイキングできるといいんですけど、残念ながら英語力の問題と、国力の問題で……。ESG(Environment・Social・Governanceを考慮した投資活動や経営・事業活動を指す)に関するさまざまなルールもヨーロッパが作っているし、ISO[スイスのジュネーブに本部を置く非政府機関 International Organization for Standardization(国際標準化機構)の略称。ISOの主な活動は国際的に通用する規格を制定すること]だってヨーロッパの組織。ヨーロッパ人は、アメリカに対抗するため、環境問題などでルール作りを主導しているんです。日本は、アメリカとヨーロッパの双方のルールに従うことになる。 本当は日本発のルールを作れるといいんですけど、残念ながらそれは難しい。ならば、その問題をわかっている我々おじさんたちが、「そこは適当でいいよ」と合理的に手を抜くといいますか、リスク・アプローチで「ここまではダメだけどこの辺はいいよ」と言ってあげないと、若い人たちはみんな完璧にルールを守ろうとしてしまう。 そうすると、企業の収益力、ひいては日本の経済力がますます落ちて、国際競争力がなくなるという、まさに自縄自縛に陥りがちだと思いますね。 堀内 私もアメリカで働いてみて感じたのですが、残念ながら日本は第二次世界大戦で敗戦国になったことで、国際社会での立場が弱いんですよね。国連など国際機関でのポジションも少ないし。今、国連関係の機関で日本人がヘッドを取り続けているのはMIGA(多数国間投資保証機関)ぐらいですからね。 徳成 そうですね。その歴代長官の中には本田桂子さんもいる。日本人の女性がヘッドだったこともある、珍しい機関ですね。彼女は昨年、『ESG投資の成り立ち、実践と未来』(日経BP)という本を出されて話題になりましたよね。 堀内 でも、日本人が取っているポジションといえばそれぐらい。韓国と比較すると、ヘッドはもちろん、海外で仕事している人、国際機関に就職している人も向こうのほうがだいぶ多い印象ですよね。 そこで思ったのが、日本は戦争に負けてすごく内向きになって、とにかく経済を成長させることに集中しようと考えた。その中でいい製品を作って輸出するという武器を身に着けて海外に出て行くようになった。逆に言えば海外との接点がそれぐらいしかなかったということですよね。 徳成 偏ってますよね。 堀内 だからルールメイクができない、英語ができないというのは、当然といえば当然なわけで。少し話が逸れますが、そもそも日本語というのは、文法構造から音まで、英語とまったく違うから、英語を学ぶ上ではとても不利ですね。これほど違う言語が地球上にあるのかと思うぐらい。 徳成 日本語は母音の数が少ないですからね。中国語などは母音が多いので、中国人は英語の発音も上手い人が多い。彼らは英語の音も聞き取りやすい、と言われていますし。僕はTOEICは900点以上だし、海外駐在したし、世間的には英語ができると思われていますが、やっぱりダメなんですよね、音が……。 堀内 私もまさに音の問題で、いまだに英語には苦手意識があります。小学生、遅くとも中学生ぐらいまでに海外に住んでいた人は、聞き取れる音の数が全然違うのではないでしょうか。 徳成 でも今の若い人は、YouTubeとかでいろいろ聞けるじゃないですか。これはいいですよね。僕も学生時代にこんなものがあったら、もっと上手くなっていたと思います。タダで勉強できますから。 あと「Otter」など、自分が喋った英語を文字に起こしてくれるアプリがあるじゃないですか。あれも便利ですよね。ただ使ってみると、自分が喋ったのとは全然違う英文が出てきて、僕の発音はこんなふうに聞こえているんだ……と愕然とするんですけど。 堀内 留学するにはTOEFLでの高得点が必要なのですが、私が留学のためにTOEFLを受けた頃というのは、ヒアリングのテストがありませんでした。日本人は妙にペーパー試験は得意だから、点数だけはすごく高いわけです。だから欧米の人からすると、なんでこんなに喋れないヤツがこんなに高得点を取っているんだ?と不思議でならないみたいです。 徳成 よく喋れないのに文章を書かせると、文法的に完璧なものを作ってくるから、「日本人って変だよね」と英語ネイティブに思われる、というのが、僕たち世代の「あるある」でしたよね(笑)。 堀内 やはり英語の音に関しては、早いうちに身に着けたほうがいい。私のイメージだと、6歳から14歳ぐらいまでの間に、3年以上海外に住んでいれば、相当聞き取れるし、きれいな発音になると思います。 徳成 そのぐらいの年齢だと、グラマーもきちんと身に付きますしね。行動範囲も広がってきている年齢だから、単語を覚える量も増える。……という英語の苦労話はいくらでもできてしまうので、これぐらいでやめておきましょう(笑)。(第2回に続く)』、「日本人は妙にペーパー試験は得意だから、点数だけはすごく高いわけです。だから欧米の人からすると、なんでこんなに喋れないヤツがこんなに高得点を取っているんだ?と不思議でならないみたいです。 徳成 よく喋れないのに文章を書かせると、文法的に完璧なものを作ってくるから、「日本人って変だよね」と英語ネイティブに思われる、というのが、僕たち世代の「あるある」でしたよね(笑)」、なるほど。
第三に、1月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したニコン取締役専務執行役員CFOの堀内勉氏と徳成旨亮氏の対談「イギリスが日本と比べて国際社会で圧倒的に存在感が高いのはなぜか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/337023
・日本経済復活およびビジネスパーソン個人の成長の秘訣を示した『CFO思考』が、スタートアップ業界やJTCと呼ばれる大企業のビジネスパーソンを中心に話題となっている。5刷3万3000部(電子書籍込み)を突破し、メディアにも続々取り上げられている話題の本だ。 本書の発刊を記念して、著者の徳成旨亮氏と、多摩大学大学院教授の堀内勉氏の対談が実現。「世界で活躍できる子に育てるために親ができること」「ビジネスパーソンの教養」「企業倒産の意味」といったテーマについて、6回にわたってお届けする(Qは聞き手の質問)』、興味深そうだ。
・『イギリスが日本と比べて国際社会で圧倒的に存在感が高いのはなぜか 比較にならないほど日本がイギリスに負けているもの Q:日本の経済力、英語力以外で、日本にアニマルスピリッツがなかなか根付かない原因はありますでしょうか? A:徳成旨亮(以下、徳成) 資本主義における富の蓄積が違う、というのが僕の思っていることです。日本は資本主義経済になったのが、所詮は明治以降と浅いんですよ。それも長めに見た場合であって、本当は第二次大戦後にいったんやり直してますから。 三菱財閥を作った岩崎家とか、住友財閥の住友家とか、当時はものすごいお金持ちでしたけど、戦後の財閥解体の影響を受けている。だから厳密には、戦後から富の蓄積が始まったに過ぎない、とも言える。 もちろん、日本にも、それなりにお金を持っている方がたくさんいらっしゃいますけど、知れているんですよね。英国の元貴族を含めた欧米の金持ちとはケタが違う。 堀内勉(以下、堀内) 私の友人に、Fei-Fei Huという42歳の中国とイギリスの二重国籍の方がいます。彼は上海出身なのですが、小学校から大学まで日本で育って、途中で南アフリカにもいたのですが、イギリスのオックスフォード大学でも学び、その後、英国王室で当時のチャールズ皇太子の側近として働いていたという特異な経歴の持ち主です。今は日本に戻って、東京と千葉でフェニックスハウスやラグビースクールジャパンなどのインターナショナルスクールを経営しています。 その彼が今、北海道のニセコで新しいコンセプトのインターナショナルスクールの設立を計画しています。私もそれに協力しているので、学校を中心とした街づくりの参考にするために、オックスフォード大学やラグビースクール、チャールズ国王が皇太子時代に開発を手掛けたロンドン南西の街・パウンドベリーなど、色々と見にいきました。 たとえば、パブリックスクールのひとつでラグビー発祥の地であるラグビースクールの本校は、敷地面積が200ヘクタールほどあります。坪に置き換えると60万坪ですね。六本木ヒルズの16~17個分という感じでしょうか。それだけ広い敷地に、生徒が800人ほどしかいないのです。 私は麻布学園の出身ですが、あそこは中高含め、元麻布の狭い敷地に1800人ぐらいの生徒が通っています。ラグビースクールは年間授業料が約4万5000ポンド、日本円で800万円ぐらいでしょうか。これに対して、麻布学園は約60万円です。 こうした授業料の格差もすごいのですが、それ以上に注目すべきなのは、あちらは大英帝国時代に築いた資産の蓄積がすごいということです。校舎は全部レンガ造りの立派なものだし、ラグビー場も1面だけではなくて、5面か6面ぐらいある。そのインフラの違いは全く比較の対象にならないです。つまり、超優良なバランスシート(賃借対照表)を持っているんですね。 GDP(国内総生産)というのはフローを表現しているものですから、企業で言えば粗利益と言うか、PL(損益計算書)の項目に相当するものです。そこで私たちはPLが大きいとか小さいとか競っているかもしれませんが、そもそもBS(貸借対照表、バランスシート)が超優良で含み益が山のようにある。 イギリスの上流教育というのはそうした感じなんですよね。フローだけ見て「すごいだろう」「ダメだな」と一喜一憂している人たちと、膨大なストックがあって超優良なバランスシートを持っている人たちと、そもそも比較にならない。 彼らのストックは何千兆円か何京円か分からないですが、それをさて置いておいて、「フローの部分はイギリスより日本のほうが大きいよね」とか威張ってみても、そこだけでは比較にならないと感じるのです』、「イギリスの上流教育というのはそうした感じなんですよね。フローだけ見て「すごいだろう」「ダメだな」と一喜一憂している人たちと、膨大なストックがあって超優良なバランスシートを持っている人たちと、そもそも比較にならない。 彼らのストックは何千兆円か何京円か分からないですが、それをさて置いておいて、「フローの部分はイギリスより日本のほうが大きいよね」とか威張ってみても、そこだけでは比較にならないと感じるのです」、なるほど。
・『ルールの面でもリスクの取り方でもイギリスは「賢すぎる」 徳成 富の蓄積でいうと、まずイギリスがすごいのは堀内さんが言うように膨大なアセットを、世界中に持っている。ケイマンやバミューダなどの租税回避地の多くは、実は英国王室属領か英国海外領土です。さらに、英語が事実上、世界標準語になっている。お隣の韓国や台湾の方々とも僕は英語で会話しています。 金融取引といったいろんなビジネスにおいても、英国法がグローバルな契約におけるガバナンス・ロー(準拠法)であることが多いんですよね。いろんな意味で英国はうまく世界を統治している。 テストを受ければ必ず日本人のほうが平均点は高いんだけど、それとは賢さの質が違うごく少数の英国人たちがいる、というのをロンドン駐在時代に感じました。 堀内 とにかく色々な面で資産が違う。 徳成 アニマルスピリッツの話に戻りますと、彼らはそういう巨大な資産を持っていますから、当然それを運用するのですが、そのとき分散投資をします。いろいろなアイディアを持っている人たちに少しずつお金を渡して運用させる。お金の出し手、つまり金主をアセット・オーナー、運用者をアセット・マネージャーと言います。 少しずつと言ったって、もとが大きいからけっこうな額なんですけど、それを元手にアイディアがビジネスの形となり、新しい利益の源泉になっていくわけです。 それで、その金主たちと言いますか、お金を運用している人たちもたくさんいるから、ニーズの種類も幅広いんですね。投資期間も短い人もいれば長い人もいるなどさまざま。「こういうふうに運用してほしい」というリクエストがいろいろなので、アセット・マネージャーもいろいろなタイプが育つんです。そこが日本とは決定的に違う、というのがあります。 資本主義の厚みが違う、と私が最初に申し上げたのはそういうことで。富の蓄積ももちろん違うけど、それゆえいろんな運用ニーズを持った人たちがいて、いろんなリスクを取っていいよという土壌もあるから、いろんなアセット・マネージャー、すなわち、資産運用会社やファンド・マネージャーが育ちやすい。 加えて前回の記事で申し上げたように、ルールメイキングみたいなところでも、うまく自分たちのビジネスが運びやすいような土壌が知らず知らず作られている。 堀内 要するに、我々はそういうところで戦っていかなければならない、ということですよね。 徳成 そうなんです。日本の金融機関の役員が国際的な場で議論するとなったとき、交渉テーブルの反対側にはゴールドマン・サックスだとかシティバンクだとか、年収十億みたいな連中がいる。こっちはせいぜい数千万円だから、ケタが違うわけですよ。それでも対等に議論をしなければいけないし、下手な英語でも頑張って主張し、戦っていかなければならない。 そこで僕なんかは日本人の気概みたいなものが突然芽生えるわけですよ。この立場にある以上は頑張らなきゃと。そうやって戦っていくことを、1人でも2人でもいいから若い人に頑張って目指してもらわないと、日本国が成り立たない。そんな思いも込めて、本を書いたところもあるんですけど。 だからまずは海外に出てみてほしいし、そういう世界があるんだってことを知ってもらいたい。見てみないことにはわからないと思うので。それで、こういう世界で日本はどうやって国として頑張っていけばいいんだろう、ということを真面目に考えてほしいんですよね。内側に縮こまっていちゃダメで、自分をどんどん外に出ていかないと。 それもアニマルスピリッツだと思うんですよね。たしかにじっとしているほうがラクに決まっているんですけど、能力がある人はその能力を生かさなきゃダメです。それは天から与えられたものなんだから社会のために生かさなきゃ、というのが僕の考え方でもあるんですよね』、「能力がある人はその能力を生かさなきゃダメです。それは天から与えられたものなんだから社会のために生かさなきゃ、というのが僕の考え方でもあるんですよね」、なるほど。
・『日本はルールのわからないゲームを無理やりやらされてきた 堀内 今の話を引き継ぐと、日本だけがどのようなルールでゲームを戦っているのか知らない、という側面があります。経営共創基盤(IGPI)グループ会長で、経済同友会副代表幹事なども務めた冨山和彦氏は、よく「野球からサッカーにゲームが変わったのに、日本の経営者はまだサッカー場で野球をやろうとしている」と言われていて、私も本当にそうだなと感じます。 日本はなぜ太平洋戦争であれほど無謀な戦いをし、多くの国土を焼かれ、戦後どのような環境に置かれてきたのか。自分たちが何をやってきたのかということを理解しなければ、アングロサクソンやユダヤ系、台頭してきた中国といった人たちがルールの枠組を作って動かしている世界に、ただ乗っかることしかできないということになります。 もしくは相手のルールに単純に巻き込まれて、「できた」「できなかった」と一喜一憂するだけになる。そうやって、相手の土俵で戦っている限り、勝てるわけもないです。苦しんだわりには報いは少ない、ということになってしまうだけです。 ですから、自分は今どのような場に置かれて、何のゲームをどのようなルールで戦っているのか、それぐらいは理解しなければいけないと思うんですよね。 徳成 一度、自分たちの立ち位置を俯瞰してみること、メタ思考が重要ですよね。 堀内 若い人たちには、理由は何でもいいからとにかく海外に行け、と言っていまして。とにかく外の世界を見てこないと自分が何者かわからないですから。 私はちょうど読書に関する本『人生を変える読書』を出したところなのですが、その中でもその点を強調しています。自分がどのような視座を持っていて、どのような思考の枠組みにとらわれて世の中を見ているのか、それはその思考をずらしてみないことにはわからないんですよと。 横から見たり、上から見たらどのように見えるのか。うまく自分の思考自体をずらして別の角度から見てみる。そうしたメタな思考をすることが教養だと思うのです。それを身に着けないと。 ずっとコツコツ真面目に同じことをやるのも人生ですが、メタ思考がないと、気付けばコツコツと人の作ったルールを守っているだけ、というふうになってしまうと思います。それだと最初から勝負に負けているので、まずはそのことに気付いてほしいなと。 徳成 日本は昔から天変地異が多いから、どうしてもコツコツ思考になりがちなんですよね。だって一生懸命頑張って作っていたお米が、自然災害で一晩でダメになるとか、当たり前だったから。あと1週間で収穫できる作物が台風で全部やられちゃう、みたいなことを長い間、何回も繰り返してきたから、危機に備えて蓄えておく、という保守的な国民性になったんだと思うんですよ。粘り強く、我慢強くなった。 かつ江戸時代に幕藩体制が300年近く続いたから、お上の言うことに従うことにも慣れ過ぎている。だから人様のルールの下で戦うことに疑問を感じないんでしょうけど、本当は良くないですよね。 堀内 だからといって、ではこのゲームから抜けます、というわけにはいかない。江戸時代の人口はおおむね3100~3300万人だったと言われています。今は人口が減り始めているといっても1億2500万人ほどです。それでも江戸時代の4倍ぐらいいるわけです。 マルクスは晩年、脱資本主義という視点から循環型経済を唱えていて、マルクス主義研究者の斎藤幸平氏もこれを支持しているのですが、鎖国をしていた江戸時代ならいざ知らず、これだけグローバル化した今の世界で、地域社会の中だけで循環してやっていけるのかと思うわけです。 世界に目を向けると、スペイン風邪の流行によって世界人口の数%が減少したと言われる第一次世界大戦直後は約18億人でした。これが今や、80億人を超えている。4倍以上です。 それを循環型社会に戻すとなったとき、ではこの余剰人員をどうすればいいんだ?という話になってきます。地産地消みたいなことができたら一番いいのでしょうが、地球がこれだけの人口を養っていかなければいけない今、すべてを循環型経済とか脱資本主義に戻すというのは、私は現実味がないと思っています。 つまり、資本主義というゲームは18世紀ぐらいから始まっていて、我々は知らないうちにそこに参戦しているのです。今さらそこから足抜けができなくなっているということです。 そうであるなら、このゲームのルールをどのように持っていったら少しはマシに戦えるのか、私などはそこを一生懸命考えるのですが、少なくともエグゼクティブくらいのレベルの人は、この問題をきちんと理解してくださいね、というのが私の訴えかけていることなのです。 (第3回に続く)』、「自分は今どのような場に置かれて、何のゲームをどのようなルールで戦っているのか、それぐらいは理解しなければいけないと思うんですよね。 徳成 一度、自分たちの立ち位置を俯瞰してみること、メタ思考が重要ですよね・・・あと1週間で収穫できる作物が台風で全部やられちゃう、みたいなことを長い間、何回も繰り返してきたから、危機に備えて蓄えておく、という保守的な国民性になったんだと思うんですよ。粘り強く、我慢強くなった。 かつ江戸時代に幕藩体制が300年近く続いたから、お上の言うことに従うことにも慣れ過ぎている・・・。このゲームのルールをどのように持っていったら少しはマシに戦えるのか、私などはそこを一生懸命考えるのですが、少なくともエグゼクティブくらいのレベルの人は、この問題をきちんと理解してくださいね、というのが私の訴えかけていることなのです。だから人様のルールの下で戦うことに疑問を感じないんでしょうけど、本当は良くないですよね」、その通りだ。
タグ:「「無事これ名馬」思想で、あと何年で退職だからとか、このままいけば子会社の社長になれるからとか考えて、なるべくリスクを取らずやっている。そういう経営者、とくに財務経理担当役員が多いのが現実なんですよね」、なるほど。 日本が国際社会でルールメイク側に立てない原因は「真面目すぎる気質」にあった 「「アニマルスピリッツ」とは、経済学者ジョン・メイナード・ケインズが生み出した用語で、「経済活動に見られる主観的で非合理的な動機や行動のこと」で、今の日本にまさに足りていないものだと著書の中で指摘」、なるほど。 堀内勉氏による「HONZ:日本が国際社会でルールメイク側に立てない原因は「真面目すぎる気質」にあった 堀内勉×徳成旨亮対談」 ダイヤモンド・オンライン 「郵便局長らは1999─2015年の期間に、富士通が開発した勘定系システム「ホライズン」のバグでデータと現金残高の不一致が生じ、不当に罪を着せられていた・・・ポストオフィスは長年、ホライズンのデータは正確だと主張していた。 ベネルズ氏はポストオフィスへの貢献などが評価されて19年にCBEを授与。今回、120万以上の人が取り消しを求める請願書に署名していた。 英政府には、冤罪事件の被害者全員に適切な賠償を行い、有罪を撤回するよう圧力が強まっている」、なるほど。 ロイター「富士通開発ソフト「ホライズン」巡る冤罪事件で、英郵便局元トップが勲章返上」 Newsweek日本版 (その2)(富士通開発ソフト「ホライズン」巡る冤罪事件で 英郵便局元トップが勲章返上、日本が国際社会でルールメイク側に立てない原因は「真面目すぎる気質」にあった 堀内勉×徳成旨亮対談、イギリスが日本と比べて国際社会で圧倒的に存在感が高いのはなぜか) 英国 「日本人は生真面目なので、実質、ハードローとして受け止める。つまり、もともと悪いことをして儲けようと思っていない日本人に、悪いことをしても儲けようと思っている人たち向けのルールを持ってきているわけですから、出ていないクギをさらに打って引っ込める、みたいなことになってしまいがち……」、なるほど。 「日本人は妙にペーパー試験は得意だから、点数だけはすごく高いわけです。だから欧米の人からすると、なんでこんなに喋れないヤツがこんなに高得点を取っているんだ?と不思議でならないみたいです。 徳成 よく喋れないのに文章を書かせると、文法的に完璧なものを作ってくるから、「日本人って変だよね」と英語ネイティブに思われる、というのが、僕たち世代の「あるある」でしたよね(笑)」、なるほど。 堀内勉氏と徳成旨亮氏の対談「イギリスが日本と比べて国際社会で圧倒的に存在感が高いのはなぜか」 『CFO思考』 「イギリスの上流教育というのはそうした感じなんですよね。フローだけ見て「すごいだろう」「ダメだな」と一喜一憂している人たちと、膨大なストックがあって超優良なバランスシートを持っている人たちと、そもそも比較にならない。 彼らのストックは何千兆円か何京円か分からないですが、それをさて置いておいて、「フローの部分はイギリスより日本のほうが大きいよね」とか威張ってみても、そこだけでは比較にならないと感じるのです」、なるほど。 「能力がある人はその能力を生かさなきゃダメです。それは天から与えられたものなんだから社会のために生かさなきゃ、というのが僕の考え方でもあるんですよね」、なるほど。 「自分は今どのような場に置かれて、何のゲームをどのようなルールで戦っているのか、それぐらいは理解しなければいけないと思うんですよね。 徳成 一度、自分たちの立ち位置を俯瞰してみること、メタ思考が重要ですよね・・・あと1週間で収穫できる作物が台風で全部やられちゃう、みたいなことを長い間、何回も繰り返してきたから、危機に備えて蓄えておく、という保守的な国民性になったんだと思うんですよ。粘り強く、我慢強くなった。 かつ江戸時代に幕藩体制が300年近く続いたから、お上の言うことに従うことにも慣れ過ぎている・・・ このゲームのルールをどのように持っていったら少しはマシに戦えるのか、私などはそこを一生懸命考えるのですが、少なくともエグゼクティブくらいのレベルの人は、この問題をきちんと理解してくださいね、というのが私の訴えかけていることなのです。だから人様のルールの下で戦うことに疑問を感じないんでしょうけど、本当は良くないですよね」、その通りだ。