イスラエル・パレスチナ(その6)(トランプもバイデンもイスラエルを支援する理由 聖書と冷戦が生んだ米国とイスラエルの同盟、全面戦争を避けたいイランに 汚職疑惑を抱えるネタニヤフが「悪夢の引き金」を引く) [世界情勢]
イスラエル・パレスチナについては、本年7月16日に取上げた。今日は、(その6)(トランプもバイデンもイスラエルを支援する理由 聖書と冷戦が生んだ米国とイスラエルの同盟、全面戦争を避けたいイランに 汚職疑惑を抱えるネタニヤフが「悪夢の引き金」を引く)である。
先ずは、本年7月17日付け東洋経済オンラインが掲載した広島修道大学教授の船津 靖氏による「トランプもバイデンもイスラエルを支援する理由 聖書と冷戦が生んだ米国とイスラエルの同盟」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/775827
・『本年11月アメリカ大統領選挙での対決が予想される民主党バイデン大統領と共和党トランプ前大統領。多くの政策で反目し、対決姿勢を露わにする両者が、なぜ揃ってイスラエルを手厚く支援してきたのか。 共同通信エルサレム、ニューヨーク支局長などを歴任した、アメリカ・イスラエル関係と宗教の研究者・船津靖氏は、その原因が両国の「特別な関係」にあると指摘します。 この「特別な関係」がどのようにもたらされ、国際政治にどのような影響を与えているのか。船津氏の新刊『聖書の同盟 アメリカはなぜユダヤ国家を支援するのか』より、一部抜粋、再構成してお届けします』、興味深そうだ。
・『目には十の目、聖地の紛争 アメリカはなぜ、「アメリカ第一主義」のトランプ前大統領も、リベラル派のバイデン大統領も、イスラエルをこれほど支援するのでしょうか? 2023年10月7日、地中海沿岸のパレスチナ自治区ガザを支配するイスラム主義組織ハマスが、イスラエル人や外国人約1200人を無差別に殺害しました。イスラエルのネタニヤフ右派政権は「ハマス壊滅」を掲げてガザ地区を猛攻し、パレスチナ人の犠牲者数は千、万単位で増えていきました。大規模テロへの報復としても「目には目」どころか「目には十の目」でも足りない凄まじさです。 この日を境に、ガザ、ハマス、イスラエルという名前を聴かない日はないほどです。それまで国際ニュースの焦点はロシアのウクライナ侵略でしたが、様変わりしました。 パレスチナ紛争はなぜこれほど世界の注目を集めるのでしょう?それには、紛争の舞台がユダヤ教、キリスト教、イスラム教という3つの一神教の聖地であることが大きく影響しています。「聖地の紛争」は、超大国アメリカと深い関わりがあります。 (画像:『聖書の同盟 アメリカはなぜユダヤ国家を支援するのか』より)』、「紛争の舞台がユダヤ教、キリスト教、イスラム教という3つの一神教の聖地であることが大きく影響しています。「聖地の紛争」は、超大国アメリカと深い関わりがあります」、なるほど。
・『リベラルも保守も超党派で支援 バイデン米大統領は、大規模テロ直後の10月半ばイスラエルへ飛び、動揺するイスラエル国民に寄り添いました。大量の武器弾薬を供与し、近海に空母を2隻派遣しました。けれども、ハマスの戦闘員に加え、女性や子供多数を含む死傷者数が恐ろしい勢いで増えるにつれ、バイデンは、リベラルとされる与党民主党の「進歩派」「左派」「アラブ系」の人々から強い批判を受け始めました。 米大統領の親イスラエル外交では前任者のトランプが突出していました。トランプは米大使館の聖地エルサレム移転を強行しました。これは国連安保理決議を無視する国際法違反でした。「トランプの共和党の支持基盤が保守的なキリスト教福音派(ふくいんは)だから」といった説明を聞いたことのある方もいらっしゃるでしょう。 アメリカはなぜ、保守派の共和党もリベラル派の民主党も、イスラエルをこれほど支援するのでしょうか?それは、アメリカとユダヤ国家イスラエルが「特別な関係」にあるからです。「特別な関係」とは特別な同盟関係のことです。 「特別な関係」という言葉をアメリカとイギリスの同盟関係に使って有名にしたのはイギリスのチャーチル前首相です。アメリカとイスラエルの「特別な関係」に初めて公式に触れたのはチャーチルを尊敬していたケネディ米大統領でした。) アメリカとイスラエルの特別な関係の基盤は何なのでしょうか?「聖書」です。古代のユダヤ人が編集した「旧約聖書」(ヘブライ語聖書)とキリスト教の「新約聖書」(ギリシア語聖書)です。 旧約はユダヤ教とキリスト教両方の聖書、新約はキリスト教だけの聖書。アメリカとイスラエルの特別な同盟関係の基盤にあるのは、ユダヤ・キリスト教の宗教・政治文化の共有です』、「アメリカとイスラエルの特別な同盟関係の基盤にあるのは、ユダヤ・キリスト教の宗教・政治文化の共有です」、なるほど。
・『聖書の建国神話と黙示思想 「旧約聖書」の「出エジプト記」によれば、古代イスラエルは、神に選ばれたユダヤ人がエジプトのファラオの専制支配を逃れ、自由を求めて神の「約束の地」につくった国です。 現代イスラエルの建国物語は、この「出エジプト」神話をなぞっています。17世紀に、北米大陸に入植したキリスト教プロテスタントのピューリタン(清教徒)も「新大陸」に自由な「新しいイスラエル」をつくる宗教的な熱情に突き動かされていました。「約束の地」の「自由の物語」は、独立宣言や合衆国憲法の基盤を成し、アメリカの国民的アイデンティティやリベラルな価値観を形づくっています。 旧約の「ヨシュア記」は、「神の選民」が「約束の地」で自由を得るまでに起きた先住民の殺戮や支配の過程も克明に描きます。まるでアメリカ先住民やパレスチナ・アラブ人の苦難を先取りしているかのようです。 トランプ支持者に多い保守的なキリスト教福音派は、「新約聖書」の「ヨハネの黙示録(もくしろく)」などを解釈した聖書預言、終末論の影響を受けています。「世界の終わり」に、救世主(メシア)イエスが聖地エルサレムに再臨し、善と悪の最終戦争(ハルマゲドン)を経て「千年王国」(ミレニアム)が出現する、とする黙示思想です。荒唐無稽なファンタジーのようですが、黙示思想はアメリカの政治文化、大衆文化に広く、深く浸透しています。) アメリカとイスラエルの関係を、中東の地政学や安全保障を抜きに語ることはもちろんできませんが、両国が「特別な関係」と呼ばれるのは、聖書の伝統に基づく宗教・政治文化、建国神話・物語を、指導層から広く大衆まで共有していることが大きいのです』、「アメリカとイスラエルの関係を、中東の地政学や安全保障を抜きに語ることはもちろんできませんが、両国が「特別な関係」と呼ばれるのは、聖書の伝統に基づく宗教・政治文化、建国神話・物語を、指導層から広く大衆まで共有していることが大きいのです」、なるほど。
・『冷戦で強調された「ユダヤ・キリスト教」、アメリカの偏愛 「ユダヤ・キリスト教」と、ふたつの一神教をひとくくりにする思想は、アメリカが無神論のマルクス・レーニン主義国家ソ連と対立した冷戦期に強調されました。宗教のような伝統文化は固有で本質的なものに思えますが、その時々の政治的な都合で「発見」されたり、強調されたりもします。聖書の編集そのものも、古代の政治権力の野心と密接に関係していたらしいことが、近年の聖書考古学で指摘されています。 両国の「特別な関係」を支えているのは、超大国アメリカの側が聖地のユダヤ国家に抱く「偏愛」です。イスラエルの対米観は意外にドライです。これほど緊密な同盟関係にありながら、日米安全保障条約のような正式の二国間条約がありません。 「聖書の同盟」の背景をたどると、日本の同盟国アメリカの、普段はあまり意識されない不思議な「国のかたち」が見えてきます。日本は一神教の信徒が人口の2%にも満たない世界でもまれな国。多くの日本人にはわかりにくい、アメリカの独特な宗教・政治文化が浮かび上がります。) 日本人とユダヤ人の歴史的、文化的な状況はまったく似ていないように思われます。けれども、西洋キリスト教文明の部外者の中で西洋近代に最初に適応した数少ない「成功したよそ者」(シロニ・ヘブライ大教授)という点では共通点があります。私や周囲の経験では、日本人が海外で仲良くなる外国人にはユダヤ系の人々が少なくありません』、「西洋キリスト教文明の部外者の中で西洋近代に最初に適応した数少ない「成功したよそ者」(シロニ・ヘブライ大教授)という点では共通点があります。私や周囲の経験では、日本人が海外で仲良くなる外国人にはユダヤ系の人々が少なくありません」、なるほど。
・『現代世界のユダヤ人 日本人は大多数が日本に住み日本語を話します。ユダヤ人は古来、世界中の国・地域に「異教徒」「ユダヤ人」として住んできました。言語もさまざまです。イスラエル以外ではヘブライ語を話せないユダヤ人が普通です。現代のユダヤ人の大半はニューヨークをはじめアメリカとイスラエルにほぼ半々の割合で住んでいます。 ユダヤ人の人口は、定義により多少の増減がありますが、多めに数えて1600万人程度と推計されています。ヒトラーのナチスがドイツで政権を握った1933年に約1530万人でした。100年近くかけ当時の人口を回復したかどうかという状況です。当時約900万人とされたヨーロッパ・ユダヤ人の3分の2、約600万人が虐殺されました。その影響の凄まじさがわかります。 世界人口は2023年に80億人を超えました。人類の過半数がユダヤ教を母胎とするキリスト教、イスラム教という一神教の信徒であるか、その文化圏で暮らしています。ユダヤ人は世界人口の約0.2%。でもノーベル賞受賞者の20%を超えるといわれます。相対性理論のアインシュタイン、『変身』『城』の小説家カフカ、精神分析のフロイト、『資本論』のマルクス。さかのぼれば『エチカ(倫理学)』の哲学者スピノザ、現代では「未知との遭遇」「シンドラーのリスト」の映画監督スピルバーグや世界的投資家ソロス……と、きりがありません。ブリンケン米国務長官、エマヌエル駐日米大使もユダヤ人です。現代の国際政治で最も有名なユダヤ人はウクライナのゼレンスキー大統領でしょう。) アメリカは和平交渉で「公平な仲介者」を自任してきました。しかし国際社会はそうは見ていません。アメリカはイスラエルを特別扱いしている、と批判されてきました。イスラエル建国から20世紀末まで、アメリカの対外援助の約6割がイスラエルへの軍事・経済支援に充てられました。 イスラエルは西岸で強圧的な占領政策を半世紀以上続けています。国連安全保障理事会には占領や入植地拡大を非難する決議がたびたび提出されます。しかし安保理の常任理事国アメリカは頻繁に拒否権を行使し、イスラエルを国際社会からの法的な非難や経済制裁から守ってきました。イスラエルはアメリカ外交の中で特別な地位を占めてきました』、「ユダヤ人はウクライナのゼレンスキー大統領」、「ゼレンスキー大統領」も「ユダヤ人」だったとは、その広がりに改めて驚かされる。「イスラエル建国から20世紀末まで、アメリカの対外援助の約6割がイスラエルへの軍事・経済支援に充てられました。 イスラエルは西岸で強圧的な占領政策を半世紀以上続けています。国連安全保障理事会には占領や入植地拡大を非難する決議がたびたび提出されます。しかし安保理の常任理事国アメリカは頻繁に拒否権を行使し、イスラエルを国際社会からの法的な非難や経済制裁から守ってきました。イスラエルはアメリカ外交の中で特別な地位を占めてきました」、「アメリカの対外援助の約6割がイスラエルへの軍事・経済支援に充てられました」、すごく優遇されてきたようだ。
・『核兵器保有を黙認するアメリカの二重基準 アメリカのイスラエルへの特別扱いは核兵器の不拡散政策において最も著しい、といえます。核不拡散条約(NPT)は1968年、米ソ2超大国が協力して成立し、国際法としては異例の実効性を保ってきました。米中露英仏という大国の利害が、核兵器不拡散では一致しているからです。この5か国はNPTの合法的な核兵器保有国で、安保理の常任理事国でもあります。 アメリカのブッシュ(子)政権(共和党)は2003年、イラクの大量破壊兵器(WMD)保有疑惑などを理由にイラクに侵攻し、フセイン政権を崩壊させました。アメリカはイランの核開発計画にも一貫して厳しい姿勢で臨んできました。でも核兵器保有が「公然の秘密」とされるイスラエルへの対応はまったく異なります。 イスラエルは核兵器の保有を肯定も否定もしない「あいまい戦略」「不透明政策」を半世紀以上続けています。私は共同通信のエルサレム支局長だったころにラビン、ペレス、ネタニヤフという3人のイスラエル首相にそれぞれ直接、核兵器保有の有無を問いただしました。3人の首相からは、「イスラエルは中東に核兵器を持ち込む最初の国には決してならない」という公式見解が判で押したように返ってきただけでした。) 研究者や調査報道記者の努力で、共和党のニクソン大統領が1969年秋、訪米したイスラエルのゴルダ・メイヤ首相に、核兵器の秘密保有を黙認すると伝えたことが確実視されています。日本の佐藤栄作首相が沖縄返還交渉で、有事の核兵器再持ち込みをアメリカに事実上約束した「核密約」とほぼ同時期です。それ以後、歴代の米政権は共和党も民主党も、イスラエルの核兵器保有を黙認し続けています。 イスラエルはアメリカからNPT加盟を要求されることはありません。国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れを迫られることもありません。国連安保理で非難決議や経済制裁を受けることもありません。イラクやイラン、北朝鮮などとイスラエルへの対応は異なっています。アメリカは核不拡散政策の「二重基準」だと批判されてきました』、「イスラエルは核兵器の保有を肯定も否定もしない「あいまい戦略」「不透明政策」を半世紀以上続けています・・・歴代の米政権は共和党も民主党も、イスラエルの核兵器保有を黙認し続けています。 イスラエルはアメリカからNPT加盟を要求されることはありません。国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れを迫られることもありません。国連安保理で非難決議や経済制裁を受けることもありません。イラクやイラン、北朝鮮などとイスラエルへの対応は異なっています。アメリカは核不拡散政策の「二重基準」だと批判されてきました」、究極の「二重基準」だ。
・『軍事占領で安保条約に慎重になったイスラエル アメリカは超大国です。同盟国イスラエルの盛衰、命運をアメリカが握っているように見えます。イスラエルはアメリカの51番目の州と呼ばれることもあります。両国は自他共に認める緊密な同盟国ですが、両国間に正式な安全保障条約はありません。 イスラエルは第三次中東戦争までアメリカとの安保条約締結を望んでいました。アメリカのほうが慎重でした。圧倒的な人口と石油資源を擁(よう)するアラブ・イスラム諸国とイスラエルの武力紛争に巻き込まれることを、懸念していました。中東でのアメリカの国益を損ねる戦略的「負債」を抱え込むのでは、と心配していました。 イスラエルが第三次中東戦争で大勝利を収めると、両国の方針が変化します。イスラエルは広大な地域を占領し、国防上のクッション「戦略的深奥(しんおう)性」を獲得しました。卓越した戦闘能力を世界に見せつけました。アメリカはイスラエルが戦略的「資産」になるのでは、と評価し始めます。イスラエルは、王族や独裁者が支配する国が大半の中東で、リベラル・デモクラシーの価値も共有します。米ソの国益が衝突する中東で、アメリカニズムの旗振り役をやってくれそうです。 一方、「国家存亡の危機」を乗り切り、思いがけず中東の軍事大国となったイスラエルには別の計算が働きました。対米安保条約のメリットより、占領地での軍の行動の自由をアメリカから制約されるデメリットのほうが気になり始めました。弱者から強者になると、考え方が急変することがあるのは、個人も国家も変わりません。第三次中東戦争のころ核兵器という究極の防衛手段を手にしたこともイスラエルの観方を変えたのでしょう』、「イスラエルは第三次中東戦争までアメリカとの安保条約締結を望んでいました。アメリカのほうが慎重でした。圧倒的な人口と石油資源を擁(よう)するアラブ・イスラム諸国とイスラエルの武力紛争に巻き込まれることを、懸念していました。中東でのアメリカの国益を損ねる戦略的「負債」を抱え込むのでは、と心配していました・・・「国家存亡の危機」を乗り切り、思いがけず中東の軍事大国となったイスラエルには別の計算が働きました。対米安保条約のメリットより、占領地での軍の行動の自由をアメリカから制約されるデメリットのほうが気になり始めました。弱者から強者になると、考え方が急変することがあるのは、個人も国家も変わりません。第三次中東戦争のころ核兵器という究極の防衛手段を手にしたこともイスラエルの観方を変えたのでしょう」、イスラエルの特殊な立場が多少理解できた気がする。
次に、8月20日付けNewsweek日本版が掲載した元CIA分析官のグレン・カール氏による「全面戦争を避けたいイランに、汚職疑惑を抱えるネタニヤフが「悪夢の引き金」を引く」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/glenn/2024/08/post-126.php
・『<戦闘が始まれば、イランおよびその代理勢力であるヒズボラやハマス、フーシ派などと、イスラエル・アメリカの全面戦争に発展する恐れも> イランの最高指導者アリ・ハメネイがイスラエルに「厳しい罰」を与えると公言している。7月31日にイスラエルがイランの首都テヘランの政府関連施設で親イランのイスラム組織ハマスの最高幹部イスマイル・ハニヤを暗殺したことに対して報復を行うというのだ。 イスラエルは、昨年10月7日にハマスがイスラエルを攻撃して約1200人を殺害したことを受けて、ハマス幹部の全面的な掃討を誓っていた。 しかし、ハニヤ暗殺は、イスラエルとイランの間で続いてきた応酬の一環という側面もある。イランがハマスをかくまい、戦闘員を訓練し、資金援助していることを受けて、イスラエルは今回の行動に出たのだろう。 ハニヤの暗殺は、ただでさえ混沌状態にある中東情勢をいっそう不安定化させ、中東全域規模の戦争が起きる現実味を強めたと言える。 そのような戦争が始まれば、イランおよびイランの代理勢力──ヒズボラ、ハマス、フーシ派、ガザ地区の「イスラム聖戦」、イラクの親イラン勢力など──と、イスラエル、そしておそらくはアメリカが戦うことになる。 そして、少なくともシリアとレバノンも戦争に巻き込まれることになるだろう。 ハニヤ暗殺にイランがなんらかの報復を行うことはほぼ間違いない。しかし皮肉なことに、イランがどのような行動を取るかを決めるのは、イランの宿敵であるイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相だ。 もしネタニヤフがガザにおける停戦でハマスと合意すれば、イランはイスラエルおよびイスラエルの権益に対する慎重な秘密工作を行う道を選ぶ可能性が高い。 一方、ネタニヤフがガザでの戦闘を継続するのであれば、イランは近くイスラエルに対して大がかりな軍事攻撃を行うだろう。その際は、ヒズボラなどの代理勢力を使って攻撃させる可能性が高い。 イスラエルの軍や情報機関の上層部では停戦を主張する声が強まっているが、ネタニヤフは戦闘を続けてきた。その背景には、自身の汚職疑惑から逃れたいという思惑もある。 イランが大規模な軍事攻撃を行えば、イスラエルとレバノン、そしておそらくはシリアとイランも、軍事、経済、政治、社会に壊滅的な打撃を被るだろう。 このほかに、イランは核開発計画を加速させるという選択肢もある。これは、挑発的ではあるが、直ちにイスラエルに直接的な行動を取るものではない』、「イスラエルの軍や情報機関の上層部では停戦を主張する声が強まっているが、ネタニヤフは戦闘を続けてきた。その背景には、自身の汚職疑惑から逃れたいという思惑もある。 イランが大規模な軍事攻撃を行えば、イスラエルとレバノン、そしておそらくはシリアとイランも、軍事、経済、政治、社会に壊滅的な打撃を被るだろう」、「ネタニヤフは戦闘を続けてきた。その背景の汚職疑惑から逃れたいという思惑もある」、「ネタニヤフ」が個人的な理由で「戦闘を続けてきた」とすれば、問題だ。
・『イランの選択肢は多くない イランのジレンマは、イスラエルの行動を抑止するために最近取った措置がうまくいっていないことだ。 4月13~14日には、300以上のミサイルとドローン(無人機)でイスラエルを攻撃した。4月1日にシリアの首都ダマスカスのイラン大使館が攻撃を受けて、イラン軍高官が殺害されたことへの報復だった。 イランがイスラエル領を直接攻撃したのは、これが歴史上初めてだった。 ところが、イスラエルと同盟国はイランのミサイルとドローンを全て撃ち落とした。しかもその後、イスラエルはレバノンでヒズボラの幹部を、テヘランでハニヤを殺害した。 イラン指導部としては、全く報復しなければ、自分たちがイスラエルに対して無力だと認めるに等しい。しかし、いくつかの要因により、イランが取れる行動は限られている。 まず、イスラエルはイランから地理的に離れており、イランがイスラエルを直接攻撃するには、ミサイル、ドローン、航空機を用いるほかない。 その点、イランが保有する大量のミサイルとドローンを活用すれば、ミサイル防衛網を破ってイスラエルに害を与えられるケースもあるだろう。 しかし、ミサイル、ドローン、航空機の能力では、イスラエル(とアメリカ)のほうがはるかに上だ。大規模な空の戦いを仕掛ければ、イランは途方もない打撃を被る。 ヒズボラにミサイル攻撃を実行させることも可能だが、ヒズボラとイスラエルの間で全面戦争になれば、イスラエルだけでなく、ヒズボラとレバノンに及ぶ打撃も測り知れない』、「ミサイル、ドローン、航空機の能力では、イスラエル(とアメリカ)のほうがはるかに上だ。大規模な空の戦いを仕掛ければ、イランは途方もない打撃を被る。 ヒズボラにミサイル攻撃を実行させることも可能だが、ヒズボラとイスラエルの間で全面戦争になれば、イスラエルだけでなく、ヒズボラとレバノンに及ぶ打撃も測り知れない」、なるほど。
・『穏健派新大統領の苦しい事情 加えて、アメリカ軍は中東地域に艦船を派遣するなどプレゼンスを強めていて、イスラエルを攻撃すれば重大な結果を招くことになるとイランを牽制している。英仏など欧州諸国も、イスラエル攻撃を思いとどまるようイランに圧力をかけている。 一方、イランの穏健派の新大統領であるマスード・ペゼシュキアンは、権力基盤が強いとは言えない。国民の間でもペゼシュキアン政権に敵意を抱く人たちは多い。イスラエルによるハニヤ暗殺に好意的な声が多く上がるほどだ。 しかも、イランの情報機関は、ハニヤ暗殺という失態により混乱状態にある。そればかりかイスラエルのスパイが大量に潜入しているとも言われている(ハニヤの暗殺にも潜入スパイが関与したのかもしれない)。) もしイスラエルおよびアメリカとの戦争に乗り出せば、苦境にあるイランの現体制はさらに厳しい状況に追い込まれる。それに、ペゼシュキアンがアメリカとの緊張緩和を推進し、西側諸国による経済制裁の緩和を実現する道も閉ざされる。 イラン指導部は、非合理な思考はしない。国家の存続を最優先に考えているはずだ。戦争になればどのような結果になるかも理解している。戦争に発展することを避けつつ、メンツを保つことのできる軽い仕返しをしようと考えているのだろう。 しかし、イランの選択を左右する最大のカギを握っているのは、イスラエルのネタニヤフだ。そして、そのネタニヤフはこれまでのところ、ガザの停戦実現よりも、ハマスの殲滅と自身の政治生命の延命を優先し続けている』、「イラン指導部は、非合理な思考はしない。国家の存続を最優先に考えているはずだ。戦争になればどのような結果になるかも理解している。戦争に発展することを避けつつ、メンツを保つことのできる軽い仕返しをしようと考えているのだろう。 しかし、イランの選択を左右する最大のカギを握っているのは、イスラエルのネタニヤフだ。そして、そのネタニヤフはこれまでのところ、ガザの停戦実現よりも、ハマスの殲滅と自身の政治生命の延命を優先し続けている」、「ネタニヤフ」が「自身の政治生命の延命を優先」して「停戦」に応じないようであれば、由々しい問題だ。
先ずは、本年7月17日付け東洋経済オンラインが掲載した広島修道大学教授の船津 靖氏による「トランプもバイデンもイスラエルを支援する理由 聖書と冷戦が生んだ米国とイスラエルの同盟」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/775827
・『本年11月アメリカ大統領選挙での対決が予想される民主党バイデン大統領と共和党トランプ前大統領。多くの政策で反目し、対決姿勢を露わにする両者が、なぜ揃ってイスラエルを手厚く支援してきたのか。 共同通信エルサレム、ニューヨーク支局長などを歴任した、アメリカ・イスラエル関係と宗教の研究者・船津靖氏は、その原因が両国の「特別な関係」にあると指摘します。 この「特別な関係」がどのようにもたらされ、国際政治にどのような影響を与えているのか。船津氏の新刊『聖書の同盟 アメリカはなぜユダヤ国家を支援するのか』より、一部抜粋、再構成してお届けします』、興味深そうだ。
・『目には十の目、聖地の紛争 アメリカはなぜ、「アメリカ第一主義」のトランプ前大統領も、リベラル派のバイデン大統領も、イスラエルをこれほど支援するのでしょうか? 2023年10月7日、地中海沿岸のパレスチナ自治区ガザを支配するイスラム主義組織ハマスが、イスラエル人や外国人約1200人を無差別に殺害しました。イスラエルのネタニヤフ右派政権は「ハマス壊滅」を掲げてガザ地区を猛攻し、パレスチナ人の犠牲者数は千、万単位で増えていきました。大規模テロへの報復としても「目には目」どころか「目には十の目」でも足りない凄まじさです。 この日を境に、ガザ、ハマス、イスラエルという名前を聴かない日はないほどです。それまで国際ニュースの焦点はロシアのウクライナ侵略でしたが、様変わりしました。 パレスチナ紛争はなぜこれほど世界の注目を集めるのでしょう?それには、紛争の舞台がユダヤ教、キリスト教、イスラム教という3つの一神教の聖地であることが大きく影響しています。「聖地の紛争」は、超大国アメリカと深い関わりがあります。 (画像:『聖書の同盟 アメリカはなぜユダヤ国家を支援するのか』より)』、「紛争の舞台がユダヤ教、キリスト教、イスラム教という3つの一神教の聖地であることが大きく影響しています。「聖地の紛争」は、超大国アメリカと深い関わりがあります」、なるほど。
・『リベラルも保守も超党派で支援 バイデン米大統領は、大規模テロ直後の10月半ばイスラエルへ飛び、動揺するイスラエル国民に寄り添いました。大量の武器弾薬を供与し、近海に空母を2隻派遣しました。けれども、ハマスの戦闘員に加え、女性や子供多数を含む死傷者数が恐ろしい勢いで増えるにつれ、バイデンは、リベラルとされる与党民主党の「進歩派」「左派」「アラブ系」の人々から強い批判を受け始めました。 米大統領の親イスラエル外交では前任者のトランプが突出していました。トランプは米大使館の聖地エルサレム移転を強行しました。これは国連安保理決議を無視する国際法違反でした。「トランプの共和党の支持基盤が保守的なキリスト教福音派(ふくいんは)だから」といった説明を聞いたことのある方もいらっしゃるでしょう。 アメリカはなぜ、保守派の共和党もリベラル派の民主党も、イスラエルをこれほど支援するのでしょうか?それは、アメリカとユダヤ国家イスラエルが「特別な関係」にあるからです。「特別な関係」とは特別な同盟関係のことです。 「特別な関係」という言葉をアメリカとイギリスの同盟関係に使って有名にしたのはイギリスのチャーチル前首相です。アメリカとイスラエルの「特別な関係」に初めて公式に触れたのはチャーチルを尊敬していたケネディ米大統領でした。) アメリカとイスラエルの特別な関係の基盤は何なのでしょうか?「聖書」です。古代のユダヤ人が編集した「旧約聖書」(ヘブライ語聖書)とキリスト教の「新約聖書」(ギリシア語聖書)です。 旧約はユダヤ教とキリスト教両方の聖書、新約はキリスト教だけの聖書。アメリカとイスラエルの特別な同盟関係の基盤にあるのは、ユダヤ・キリスト教の宗教・政治文化の共有です』、「アメリカとイスラエルの特別な同盟関係の基盤にあるのは、ユダヤ・キリスト教の宗教・政治文化の共有です」、なるほど。
・『聖書の建国神話と黙示思想 「旧約聖書」の「出エジプト記」によれば、古代イスラエルは、神に選ばれたユダヤ人がエジプトのファラオの専制支配を逃れ、自由を求めて神の「約束の地」につくった国です。 現代イスラエルの建国物語は、この「出エジプト」神話をなぞっています。17世紀に、北米大陸に入植したキリスト教プロテスタントのピューリタン(清教徒)も「新大陸」に自由な「新しいイスラエル」をつくる宗教的な熱情に突き動かされていました。「約束の地」の「自由の物語」は、独立宣言や合衆国憲法の基盤を成し、アメリカの国民的アイデンティティやリベラルな価値観を形づくっています。 旧約の「ヨシュア記」は、「神の選民」が「約束の地」で自由を得るまでに起きた先住民の殺戮や支配の過程も克明に描きます。まるでアメリカ先住民やパレスチナ・アラブ人の苦難を先取りしているかのようです。 トランプ支持者に多い保守的なキリスト教福音派は、「新約聖書」の「ヨハネの黙示録(もくしろく)」などを解釈した聖書預言、終末論の影響を受けています。「世界の終わり」に、救世主(メシア)イエスが聖地エルサレムに再臨し、善と悪の最終戦争(ハルマゲドン)を経て「千年王国」(ミレニアム)が出現する、とする黙示思想です。荒唐無稽なファンタジーのようですが、黙示思想はアメリカの政治文化、大衆文化に広く、深く浸透しています。) アメリカとイスラエルの関係を、中東の地政学や安全保障を抜きに語ることはもちろんできませんが、両国が「特別な関係」と呼ばれるのは、聖書の伝統に基づく宗教・政治文化、建国神話・物語を、指導層から広く大衆まで共有していることが大きいのです』、「アメリカとイスラエルの関係を、中東の地政学や安全保障を抜きに語ることはもちろんできませんが、両国が「特別な関係」と呼ばれるのは、聖書の伝統に基づく宗教・政治文化、建国神話・物語を、指導層から広く大衆まで共有していることが大きいのです」、なるほど。
・『冷戦で強調された「ユダヤ・キリスト教」、アメリカの偏愛 「ユダヤ・キリスト教」と、ふたつの一神教をひとくくりにする思想は、アメリカが無神論のマルクス・レーニン主義国家ソ連と対立した冷戦期に強調されました。宗教のような伝統文化は固有で本質的なものに思えますが、その時々の政治的な都合で「発見」されたり、強調されたりもします。聖書の編集そのものも、古代の政治権力の野心と密接に関係していたらしいことが、近年の聖書考古学で指摘されています。 両国の「特別な関係」を支えているのは、超大国アメリカの側が聖地のユダヤ国家に抱く「偏愛」です。イスラエルの対米観は意外にドライです。これほど緊密な同盟関係にありながら、日米安全保障条約のような正式の二国間条約がありません。 「聖書の同盟」の背景をたどると、日本の同盟国アメリカの、普段はあまり意識されない不思議な「国のかたち」が見えてきます。日本は一神教の信徒が人口の2%にも満たない世界でもまれな国。多くの日本人にはわかりにくい、アメリカの独特な宗教・政治文化が浮かび上がります。) 日本人とユダヤ人の歴史的、文化的な状況はまったく似ていないように思われます。けれども、西洋キリスト教文明の部外者の中で西洋近代に最初に適応した数少ない「成功したよそ者」(シロニ・ヘブライ大教授)という点では共通点があります。私や周囲の経験では、日本人が海外で仲良くなる外国人にはユダヤ系の人々が少なくありません』、「西洋キリスト教文明の部外者の中で西洋近代に最初に適応した数少ない「成功したよそ者」(シロニ・ヘブライ大教授)という点では共通点があります。私や周囲の経験では、日本人が海外で仲良くなる外国人にはユダヤ系の人々が少なくありません」、なるほど。
・『現代世界のユダヤ人 日本人は大多数が日本に住み日本語を話します。ユダヤ人は古来、世界中の国・地域に「異教徒」「ユダヤ人」として住んできました。言語もさまざまです。イスラエル以外ではヘブライ語を話せないユダヤ人が普通です。現代のユダヤ人の大半はニューヨークをはじめアメリカとイスラエルにほぼ半々の割合で住んでいます。 ユダヤ人の人口は、定義により多少の増減がありますが、多めに数えて1600万人程度と推計されています。ヒトラーのナチスがドイツで政権を握った1933年に約1530万人でした。100年近くかけ当時の人口を回復したかどうかという状況です。当時約900万人とされたヨーロッパ・ユダヤ人の3分の2、約600万人が虐殺されました。その影響の凄まじさがわかります。 世界人口は2023年に80億人を超えました。人類の過半数がユダヤ教を母胎とするキリスト教、イスラム教という一神教の信徒であるか、その文化圏で暮らしています。ユダヤ人は世界人口の約0.2%。でもノーベル賞受賞者の20%を超えるといわれます。相対性理論のアインシュタイン、『変身』『城』の小説家カフカ、精神分析のフロイト、『資本論』のマルクス。さかのぼれば『エチカ(倫理学)』の哲学者スピノザ、現代では「未知との遭遇」「シンドラーのリスト」の映画監督スピルバーグや世界的投資家ソロス……と、きりがありません。ブリンケン米国務長官、エマヌエル駐日米大使もユダヤ人です。現代の国際政治で最も有名なユダヤ人はウクライナのゼレンスキー大統領でしょう。) アメリカは和平交渉で「公平な仲介者」を自任してきました。しかし国際社会はそうは見ていません。アメリカはイスラエルを特別扱いしている、と批判されてきました。イスラエル建国から20世紀末まで、アメリカの対外援助の約6割がイスラエルへの軍事・経済支援に充てられました。 イスラエルは西岸で強圧的な占領政策を半世紀以上続けています。国連安全保障理事会には占領や入植地拡大を非難する決議がたびたび提出されます。しかし安保理の常任理事国アメリカは頻繁に拒否権を行使し、イスラエルを国際社会からの法的な非難や経済制裁から守ってきました。イスラエルはアメリカ外交の中で特別な地位を占めてきました』、「ユダヤ人はウクライナのゼレンスキー大統領」、「ゼレンスキー大統領」も「ユダヤ人」だったとは、その広がりに改めて驚かされる。「イスラエル建国から20世紀末まで、アメリカの対外援助の約6割がイスラエルへの軍事・経済支援に充てられました。 イスラエルは西岸で強圧的な占領政策を半世紀以上続けています。国連安全保障理事会には占領や入植地拡大を非難する決議がたびたび提出されます。しかし安保理の常任理事国アメリカは頻繁に拒否権を行使し、イスラエルを国際社会からの法的な非難や経済制裁から守ってきました。イスラエルはアメリカ外交の中で特別な地位を占めてきました」、「アメリカの対外援助の約6割がイスラエルへの軍事・経済支援に充てられました」、すごく優遇されてきたようだ。
・『核兵器保有を黙認するアメリカの二重基準 アメリカのイスラエルへの特別扱いは核兵器の不拡散政策において最も著しい、といえます。核不拡散条約(NPT)は1968年、米ソ2超大国が協力して成立し、国際法としては異例の実効性を保ってきました。米中露英仏という大国の利害が、核兵器不拡散では一致しているからです。この5か国はNPTの合法的な核兵器保有国で、安保理の常任理事国でもあります。 アメリカのブッシュ(子)政権(共和党)は2003年、イラクの大量破壊兵器(WMD)保有疑惑などを理由にイラクに侵攻し、フセイン政権を崩壊させました。アメリカはイランの核開発計画にも一貫して厳しい姿勢で臨んできました。でも核兵器保有が「公然の秘密」とされるイスラエルへの対応はまったく異なります。 イスラエルは核兵器の保有を肯定も否定もしない「あいまい戦略」「不透明政策」を半世紀以上続けています。私は共同通信のエルサレム支局長だったころにラビン、ペレス、ネタニヤフという3人のイスラエル首相にそれぞれ直接、核兵器保有の有無を問いただしました。3人の首相からは、「イスラエルは中東に核兵器を持ち込む最初の国には決してならない」という公式見解が判で押したように返ってきただけでした。) 研究者や調査報道記者の努力で、共和党のニクソン大統領が1969年秋、訪米したイスラエルのゴルダ・メイヤ首相に、核兵器の秘密保有を黙認すると伝えたことが確実視されています。日本の佐藤栄作首相が沖縄返還交渉で、有事の核兵器再持ち込みをアメリカに事実上約束した「核密約」とほぼ同時期です。それ以後、歴代の米政権は共和党も民主党も、イスラエルの核兵器保有を黙認し続けています。 イスラエルはアメリカからNPT加盟を要求されることはありません。国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れを迫られることもありません。国連安保理で非難決議や経済制裁を受けることもありません。イラクやイラン、北朝鮮などとイスラエルへの対応は異なっています。アメリカは核不拡散政策の「二重基準」だと批判されてきました』、「イスラエルは核兵器の保有を肯定も否定もしない「あいまい戦略」「不透明政策」を半世紀以上続けています・・・歴代の米政権は共和党も民主党も、イスラエルの核兵器保有を黙認し続けています。 イスラエルはアメリカからNPT加盟を要求されることはありません。国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れを迫られることもありません。国連安保理で非難決議や経済制裁を受けることもありません。イラクやイラン、北朝鮮などとイスラエルへの対応は異なっています。アメリカは核不拡散政策の「二重基準」だと批判されてきました」、究極の「二重基準」だ。
・『軍事占領で安保条約に慎重になったイスラエル アメリカは超大国です。同盟国イスラエルの盛衰、命運をアメリカが握っているように見えます。イスラエルはアメリカの51番目の州と呼ばれることもあります。両国は自他共に認める緊密な同盟国ですが、両国間に正式な安全保障条約はありません。 イスラエルは第三次中東戦争までアメリカとの安保条約締結を望んでいました。アメリカのほうが慎重でした。圧倒的な人口と石油資源を擁(よう)するアラブ・イスラム諸国とイスラエルの武力紛争に巻き込まれることを、懸念していました。中東でのアメリカの国益を損ねる戦略的「負債」を抱え込むのでは、と心配していました。 イスラエルが第三次中東戦争で大勝利を収めると、両国の方針が変化します。イスラエルは広大な地域を占領し、国防上のクッション「戦略的深奥(しんおう)性」を獲得しました。卓越した戦闘能力を世界に見せつけました。アメリカはイスラエルが戦略的「資産」になるのでは、と評価し始めます。イスラエルは、王族や独裁者が支配する国が大半の中東で、リベラル・デモクラシーの価値も共有します。米ソの国益が衝突する中東で、アメリカニズムの旗振り役をやってくれそうです。 一方、「国家存亡の危機」を乗り切り、思いがけず中東の軍事大国となったイスラエルには別の計算が働きました。対米安保条約のメリットより、占領地での軍の行動の自由をアメリカから制約されるデメリットのほうが気になり始めました。弱者から強者になると、考え方が急変することがあるのは、個人も国家も変わりません。第三次中東戦争のころ核兵器という究極の防衛手段を手にしたこともイスラエルの観方を変えたのでしょう』、「イスラエルは第三次中東戦争までアメリカとの安保条約締結を望んでいました。アメリカのほうが慎重でした。圧倒的な人口と石油資源を擁(よう)するアラブ・イスラム諸国とイスラエルの武力紛争に巻き込まれることを、懸念していました。中東でのアメリカの国益を損ねる戦略的「負債」を抱え込むのでは、と心配していました・・・「国家存亡の危機」を乗り切り、思いがけず中東の軍事大国となったイスラエルには別の計算が働きました。対米安保条約のメリットより、占領地での軍の行動の自由をアメリカから制約されるデメリットのほうが気になり始めました。弱者から強者になると、考え方が急変することがあるのは、個人も国家も変わりません。第三次中東戦争のころ核兵器という究極の防衛手段を手にしたこともイスラエルの観方を変えたのでしょう」、イスラエルの特殊な立場が多少理解できた気がする。
次に、8月20日付けNewsweek日本版が掲載した元CIA分析官のグレン・カール氏による「全面戦争を避けたいイランに、汚職疑惑を抱えるネタニヤフが「悪夢の引き金」を引く」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/glenn/2024/08/post-126.php
・『<戦闘が始まれば、イランおよびその代理勢力であるヒズボラやハマス、フーシ派などと、イスラエル・アメリカの全面戦争に発展する恐れも> イランの最高指導者アリ・ハメネイがイスラエルに「厳しい罰」を与えると公言している。7月31日にイスラエルがイランの首都テヘランの政府関連施設で親イランのイスラム組織ハマスの最高幹部イスマイル・ハニヤを暗殺したことに対して報復を行うというのだ。 イスラエルは、昨年10月7日にハマスがイスラエルを攻撃して約1200人を殺害したことを受けて、ハマス幹部の全面的な掃討を誓っていた。 しかし、ハニヤ暗殺は、イスラエルとイランの間で続いてきた応酬の一環という側面もある。イランがハマスをかくまい、戦闘員を訓練し、資金援助していることを受けて、イスラエルは今回の行動に出たのだろう。 ハニヤの暗殺は、ただでさえ混沌状態にある中東情勢をいっそう不安定化させ、中東全域規模の戦争が起きる現実味を強めたと言える。 そのような戦争が始まれば、イランおよびイランの代理勢力──ヒズボラ、ハマス、フーシ派、ガザ地区の「イスラム聖戦」、イラクの親イラン勢力など──と、イスラエル、そしておそらくはアメリカが戦うことになる。 そして、少なくともシリアとレバノンも戦争に巻き込まれることになるだろう。 ハニヤ暗殺にイランがなんらかの報復を行うことはほぼ間違いない。しかし皮肉なことに、イランがどのような行動を取るかを決めるのは、イランの宿敵であるイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相だ。 もしネタニヤフがガザにおける停戦でハマスと合意すれば、イランはイスラエルおよびイスラエルの権益に対する慎重な秘密工作を行う道を選ぶ可能性が高い。 一方、ネタニヤフがガザでの戦闘を継続するのであれば、イランは近くイスラエルに対して大がかりな軍事攻撃を行うだろう。その際は、ヒズボラなどの代理勢力を使って攻撃させる可能性が高い。 イスラエルの軍や情報機関の上層部では停戦を主張する声が強まっているが、ネタニヤフは戦闘を続けてきた。その背景には、自身の汚職疑惑から逃れたいという思惑もある。 イランが大規模な軍事攻撃を行えば、イスラエルとレバノン、そしておそらくはシリアとイランも、軍事、経済、政治、社会に壊滅的な打撃を被るだろう。 このほかに、イランは核開発計画を加速させるという選択肢もある。これは、挑発的ではあるが、直ちにイスラエルに直接的な行動を取るものではない』、「イスラエルの軍や情報機関の上層部では停戦を主張する声が強まっているが、ネタニヤフは戦闘を続けてきた。その背景には、自身の汚職疑惑から逃れたいという思惑もある。 イランが大規模な軍事攻撃を行えば、イスラエルとレバノン、そしておそらくはシリアとイランも、軍事、経済、政治、社会に壊滅的な打撃を被るだろう」、「ネタニヤフは戦闘を続けてきた。その背景の汚職疑惑から逃れたいという思惑もある」、「ネタニヤフ」が個人的な理由で「戦闘を続けてきた」とすれば、問題だ。
・『イランの選択肢は多くない イランのジレンマは、イスラエルの行動を抑止するために最近取った措置がうまくいっていないことだ。 4月13~14日には、300以上のミサイルとドローン(無人機)でイスラエルを攻撃した。4月1日にシリアの首都ダマスカスのイラン大使館が攻撃を受けて、イラン軍高官が殺害されたことへの報復だった。 イランがイスラエル領を直接攻撃したのは、これが歴史上初めてだった。 ところが、イスラエルと同盟国はイランのミサイルとドローンを全て撃ち落とした。しかもその後、イスラエルはレバノンでヒズボラの幹部を、テヘランでハニヤを殺害した。 イラン指導部としては、全く報復しなければ、自分たちがイスラエルに対して無力だと認めるに等しい。しかし、いくつかの要因により、イランが取れる行動は限られている。 まず、イスラエルはイランから地理的に離れており、イランがイスラエルを直接攻撃するには、ミサイル、ドローン、航空機を用いるほかない。 その点、イランが保有する大量のミサイルとドローンを活用すれば、ミサイル防衛網を破ってイスラエルに害を与えられるケースもあるだろう。 しかし、ミサイル、ドローン、航空機の能力では、イスラエル(とアメリカ)のほうがはるかに上だ。大規模な空の戦いを仕掛ければ、イランは途方もない打撃を被る。 ヒズボラにミサイル攻撃を実行させることも可能だが、ヒズボラとイスラエルの間で全面戦争になれば、イスラエルだけでなく、ヒズボラとレバノンに及ぶ打撃も測り知れない』、「ミサイル、ドローン、航空機の能力では、イスラエル(とアメリカ)のほうがはるかに上だ。大規模な空の戦いを仕掛ければ、イランは途方もない打撃を被る。 ヒズボラにミサイル攻撃を実行させることも可能だが、ヒズボラとイスラエルの間で全面戦争になれば、イスラエルだけでなく、ヒズボラとレバノンに及ぶ打撃も測り知れない」、なるほど。
・『穏健派新大統領の苦しい事情 加えて、アメリカ軍は中東地域に艦船を派遣するなどプレゼンスを強めていて、イスラエルを攻撃すれば重大な結果を招くことになるとイランを牽制している。英仏など欧州諸国も、イスラエル攻撃を思いとどまるようイランに圧力をかけている。 一方、イランの穏健派の新大統領であるマスード・ペゼシュキアンは、権力基盤が強いとは言えない。国民の間でもペゼシュキアン政権に敵意を抱く人たちは多い。イスラエルによるハニヤ暗殺に好意的な声が多く上がるほどだ。 しかも、イランの情報機関は、ハニヤ暗殺という失態により混乱状態にある。そればかりかイスラエルのスパイが大量に潜入しているとも言われている(ハニヤの暗殺にも潜入スパイが関与したのかもしれない)。) もしイスラエルおよびアメリカとの戦争に乗り出せば、苦境にあるイランの現体制はさらに厳しい状況に追い込まれる。それに、ペゼシュキアンがアメリカとの緊張緩和を推進し、西側諸国による経済制裁の緩和を実現する道も閉ざされる。 イラン指導部は、非合理な思考はしない。国家の存続を最優先に考えているはずだ。戦争になればどのような結果になるかも理解している。戦争に発展することを避けつつ、メンツを保つことのできる軽い仕返しをしようと考えているのだろう。 しかし、イランの選択を左右する最大のカギを握っているのは、イスラエルのネタニヤフだ。そして、そのネタニヤフはこれまでのところ、ガザの停戦実現よりも、ハマスの殲滅と自身の政治生命の延命を優先し続けている』、「イラン指導部は、非合理な思考はしない。国家の存続を最優先に考えているはずだ。戦争になればどのような結果になるかも理解している。戦争に発展することを避けつつ、メンツを保つことのできる軽い仕返しをしようと考えているのだろう。 しかし、イランの選択を左右する最大のカギを握っているのは、イスラエルのネタニヤフだ。そして、そのネタニヤフはこれまでのところ、ガザの停戦実現よりも、ハマスの殲滅と自身の政治生命の延命を優先し続けている」、「ネタニヤフ」が「自身の政治生命の延命を優先」して「停戦」に応じないようであれば、由々しい問題だ。
タグ:イスラエル・パレスチナ (その6)(トランプもバイデンもイスラエルを支援する理由 聖書と冷戦が生んだ米国とイスラエルの同盟、全面戦争を避けたいイランに 汚職疑惑を抱えるネタニヤフが「悪夢の引き金」を引く) 東洋経済オンライン 船津 靖氏による「トランプもバイデンもイスラエルを支援する理由 聖書と冷戦が生んだ米国とイスラエルの同盟」 船津氏の新刊『聖書の同盟 アメリカはなぜユダヤ国家を支援するのか』 「紛争の舞台がユダヤ教、キリスト教、イスラム教という3つの一神教の聖地であることが大きく影響しています。「聖地の紛争」は、超大国アメリカと深い関わりがあります」、なるほど。 「アメリカとイスラエルの特別な同盟関係の基盤にあるのは、ユダヤ・キリスト教の宗教・政治文化の共有です」、なるほど。 「アメリカとイスラエルの関係を、中東の地政学や安全保障を抜きに語ることはもちろんできませんが、両国が「特別な関係」と呼ばれるのは、聖書の伝統に基づく宗教・政治文化、建国神話・物語を、指導層から広く大衆まで共有していることが大きいのです」、なるほど。 「西洋キリスト教文明の部外者の中で西洋近代に最初に適応した数少ない「成功したよそ者」(シロニ・ヘブライ大教授)という点では共通点があります。私や周囲の経験では、日本人が海外で仲良くなる外国人にはユダヤ系の人々が少なくありません」、なるほど。 「イスラエル建国から20世紀末まで、アメリカの対外援助の約6割がイスラエルへの軍事・経済支援に充てられました。 イスラエルは西岸で強圧的な占領政策を半世紀以上続けています。国連安全保障理事会には占領や入植地拡大を非難する決議がたびたび提出されます。しかし安保理の常任理事国アメリカは頻繁に拒否権を行使し、イスラエルを国際社会からの法的な非難や経済制裁から守ってきました。イスラエルはアメリカ外交の中で特別な地位を占めてきました」、 「アメリカの対外援助の約6割がイスラエルへの軍事・経済支援に充てられました」、すごく優遇されてきたようだ。 「イスラエルは核兵器の保有を肯定も否定もしない「あいまい戦略」「不透明政策」を半世紀以上続けています・・・歴代の米政権は共和党も民主党も、イスラエルの核兵器保有を黙認し続けています。 イスラエルはアメリカからNPT加盟を要求されることはありません。国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れを迫られることもありません。国連安保理で非難決議や経済制裁を受けることもありません。 イラクやイラン、北朝鮮などとイスラエルへの対応は異なっています。アメリカは核不拡散政策の「二重基準」だと批判されてきました」、究極の「二重基準」だ。 「イスラエルは第三次中東戦争までアメリカとの安保条約締結を望んでいました。アメリカのほうが慎重でした。圧倒的な人口と石油資源を擁(よう)するアラブ・イスラム諸国とイスラエルの武力紛争に巻き込まれることを、懸念していました。中東でのアメリカの国益を損ねる戦略的「負債」を抱え込むのでは、と心配していました・・・「国家存亡の危機」を乗り切り、思いがけず中東の軍事大国となったイスラエルには別の計算が働きました。 対米安保条約のメリットより、占領地での軍の行動の自由をアメリカから制約されるデメリットのほうが気になり始めました。弱者から強者になると、考え方が急変することがあるのは、個人も国家も変わりません。第三次中東戦争のころ核兵器という究極の防衛手段を手にしたこともイスラエルの観方を変えたのでしょう」、イスラエルの特殊な立場が多少理解できた気がする。 Newsweek日本版 グレン・カール氏による「全面戦争を避けたいイランに、汚職疑惑を抱えるネタニヤフが「悪夢の引き金」を引く」 「イスラエルの軍や情報機関の上層部では停戦を主張する声が強まっているが、ネタニヤフは戦闘を続けてきた。その背景には、自身の汚職疑惑から逃れたいという思惑もある。 イランが大規模な軍事攻撃を行えば、イスラエルとレバノン、そしておそらくはシリアとイランも、軍事、経済、政治、社会に壊滅的な打撃を被るだろう」、「ネタニヤフは戦闘を続けてきた。その背景の汚職疑惑から逃れたいという思惑もある」、「ネタニヤフ」が個人的な理由で「戦闘を続けてきた」とすれば、問題だ。 「ミサイル、ドローン、航空機の能力では、イスラエル(とアメリカ)のほうがはるかに上だ。大規模な空の戦いを仕掛ければ、イランは途方もない打撃を被る。 ヒズボラにミサイル攻撃を実行させることも可能だが、ヒズボラとイスラエルの間で全面戦争になれば、イスラエルだけでなく、ヒズボラとレバノンに及ぶ打撃も測り知れない」、なるほど。 「イラン指導部は、非合理な思考はしない。国家の存続を最優先に考えているはずだ。戦争になればどのような結果になるかも理解している。戦争に発展することを避けつつ、メンツを保つことのできる軽い仕返しをしようと考えているのだろう。 しかし、イランの選択を左右する最大のカギを握っているのは、イスラエルのネタニヤフだ。そして、そのネタニヤフはこれまでのところ、ガザの停戦実現よりも、ハマスの殲滅と自身の政治生命の延命を優先し続けている」、「ネタニヤフ」が「自身の政治生命の延命を優先」して「停戦」に応じないようであれば、 由々しい問題だ。