最低賃金(その2)(“中小企業6割が賃上げ”というが「最低賃金アップ」でしか安いニッポンは変われない、「最低賃金50円引き上げ」時代遅れの根拠なき議論 「経営者代表」を議論の主役にしてはいけない訳) [経済政策]
最低賃金については、2021年8月6日に取上げた。今日は、(その2)(“中小企業6割が賃上げ”というが「最低賃金アップ」でしか安いニッポンは変われない、「最低賃金50円引き上げ」時代遅れの根拠なき議論 「経営者代表」を議論の主役にしてはいけない訳)である。
先ずは、昨年4月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「“中小企業6割が賃上げ”というが「最低賃金アップ」でしか安いニッポンは変われない」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/320801
・『「賃上げ」で明るい兆しは本当か? まったく実感がないという人も多いだろうが、実は今、世間では「賃上げラッシュ」らしい。 岸田政権の「賃上げしましょう」の呼びかけにこぞって、企業が応えているというわけだ。しかも、注目すべきは、この賃上げの動きは、物価上昇を価格転嫁しにくい中小企業にまで「波及」をしているという点だ。 『中小企業の約6割が賃上げ予定 物価上昇率カバー可能な「4%以上」賃上げは18.7%に 日本商工会議所(TBS NEWS DIG)』 このような話を聞くと、「いいぞ!これで“安いニッポン”からおさらばだ」「日本中で賃上げと物価高の好循環が生まれて不況から脱出するぞ!」なんて感じで、新年度から明るい希望を抱いたという人も多いだろう。 そういういいムードにケチをつけるようで大変心苦しいのだが、今騒がれているような「賃上げラッシュ」では、日本の低賃金は解決できないだろう。 実はこのようなニュースで語られているトヨタやファーストリテイリングという世界的企業や、産業別労働組合があるような大企業というのは、日本の全企業の中でわずか0.3%に過ぎない。全就業者数でも3割程度だ。 こんなほんの一握りの企業が給料を爆上げしたところで、日本人全体の給料が上がるわけがない。3割の労働者の給料がちょっと増えたところで、7割が低賃金のままでは経済の好循環もへったくれもないのだ。 「これだから学のない人間は困る。わずか0.3%でも大企業が賃金を上げれば下請けや取引先である中小企業に波及するだろうが。実際に、中小企業の6割は賃上げ予定だぞ」というお叱りを受けそうだが、実はこの話もかなり微妙だ。 実は上場企業など大企業は、これまでも着々と賃上げをしている。が、日本の平均年収はこの30年間ほぼ横ばいだ。つまり、大企業が賃上げをすれば、「シャワー効果」で、中小企業も賃金が上がるというのは、「神話」に過ぎない。 また、「中小企業の6割が賃上げ予定」という調査自体が眉唾だ。これは日本商工会議所の会員である3308社の回答に基づいているのだが、これが日本の中小企業の実態をあまり反映していない恐れがあるからだ』、「大企業が賃上げをすれば、「シャワー効果」で、中小企業も賃金が上がるというのは、「神話」に過ぎない。 また、「中小企業の6割が賃上げ予定」という調査自体が眉唾だ。これは日本商工会議所の会員である3308社の回答に基づいているのだが、これが日本の中小企業の実態をあまり反映していない恐れがあるからだ」、なるほど。
・『「中小企業6割が賃上げ」に反映された声は実態と乖離? 日本に中小企業がどれだけあるのかということは実は正確にはよくわかっていないが、独立行政法人中小企業基盤整備機構によれば、中小企業357万8176社だという。 では、「中小企業の6割が賃上げ予定」という調査結果を世に公表した日本商工会議所には、この中のどれほどの中小企業をカバーしているのか。ホームページによれば、全国の商工会議所の会員数は123万(22年4月現在)で、しかもこの数には大企業も含まれる。つまり、日本商工会議所(以下、日商)には全中小企業の3割程度しか加盟していないのである。 そんな少数派の中でわずか3000社程度のアンケートをピックアップしただけで、さも「中小企業全体」が賃上げをしようとしている、と触れ回るのはやや乱暴な気がしないだろうか。 また、問題は調査対象の数だけではない。 商工会議所に参加している企業経営者というのは基本的に、中小企業振興・地域振興や情報交換など積極的だ。交流会やセミナーもよく催されており、そういうものに参加する人が多い。つまり、「意識高い系経営者」なのだ。こういう人たちが集まった団体で、アンケートを取れば当然、多くの人が「賃上げ予定」と答える。日本の賃金が異常に低く、多くの労働者が苦しんでいるという問題意識があるからだ。 しかし、商工会議所に加わらない、残り234万社の経営者に同じことを聞いたらどうだろうか。筆者は商工会議所の会員と比べるとかなり賃上げへの意欲は薄れるのではないかと考えている』、「独立行政法人中小企業基盤整備機構によれば、中小企業357万8176社だという・・・全国の商工会議所の会員数は123万(22年4月現在)で、しかもこの数には大企業も含まれる。つまり、日本商工会議所(以下、日商)には全中小企業の3割程度しか加盟していないのである」、なるほど。
・『賃上げもできない中小企業が大半、商工会議所に入る“余裕”なし そもそも、234万社の経営者はなぜ商工会に入っていないのかというと、メリットを感じないからだ。つまり、中小企業振興や地域振興などにそれほど興味がないのだ。では、なぜ興味がないのか。個々の性格的な部分もあるかもしれないが、やはり大きいのは経営者として「余裕」がないからではないのか。 先ほど日本の中小企業は、357万社だという話をしたが、その6割は「小規模事業者」だ。製造業ならば従業員20人以下、商業サービスなら5人以下の、いわゆる「零細企業」である。 さて、あなたがこういう零細企業の経営者になったとして、日本の中小企業振興や地域振興を考えられるだろうか。自分の会社を存続させることで頭が一杯で、そんな心の余裕も時間の余裕もないのではないか。 そして、こういう余裕のない零細企業経営者は「賃上げ」ができるだろうか。もし商工会議所のアンケートが来たとしても、「こんな厳しい状況で、賃上げなんかできるわけがないだろ」と即答ではないか。 こういう「賃金が上げられない小さな会社」が、日本全国に300万社近くあふれている。これが「安いニッポン」の根本的な理由だ。 こういう会社は従業員に低賃金しか払えない。何年も昇給せずに同じ給料を払っている。だが、従業員もそれに不満は言いづらい。従業員が数人しかいないので人間関係が密になるからだ。ほぼ家族同然の付き合いをしているので、社長が苦しいことは、身近に見ているのでよく知っている。いくら給料が安いからといってワガママが言えない。だから、低い賃金でも我慢して働いている――。 そして、こういう小さな家族経営の企業は、トヨタ自動車やユニクロの下請けでもなければ取引先でもないので、この手の大企業の「賃上げラッシュ」はまったく関係ない。日本商工会議所の会員になるような「意識の高い中小企業」と統計的には同じ「中小企業」というくくりにされるが、ビジネスモデルも規模も経営にかけるモチベーションもまったく違うので、「6割が賃上げ」と聞いても、自分たちとはまったく関係のない世界の話なのだ』、「日本商工会議所の会員になるような「意識の高い中小企業」と統計的には同じ「中小企業」というくくりにされるが、ビジネスモデルも規模も経営にかけるモチベーションもまったく違うので、「6割が賃上げ」と聞いても、自分たちとはまったく関係のない世界の話なのだ」、なるほど。
・『日本の小さな会社たちをすくい上げる手立て だから、「賃上げラッシュ」がいくら起きても、日商が「中小企業の6割が賃上げ予定」というニュースを出しても、日本の賃金は何も変わらないのだ。 さて、そこで気になるのは、「じゃあ、どうする?」ということだろう。「賃金を上げられない小さな会社」を賃上げしてもらわないことには、日本の賃金はいつまでも経っても上がっていかない。大企業や日商会員の中小企業とは別の世界で商いをしている「零細企業」にどう賃上げをさせていくのか、という悩ましい問題に突き当たる。 いろいろな意見があるだろうが、筆者は「最低賃金の引き上げ」しかないと思っている。 そう聞くと、こんな状況で最低賃金を引き上げたら、「賃金を上げられない小さな会社」に「死ね」ということか、というお叱りを受けるかもしれない。 ただ、「賃金を上げられない小さな会社」はある程度のプレッシャーを与えなければ、いつまで経っても成長できず、零細企業のまま補助金で延命していくしかないという厳しい現実がある。 だから、心を鬼にして、零細企業が成長するための手厚いサポートをしながら、最低賃金の引き上げをしていくのである。「賃金を上げられない小さな会社」が税金でつぶれないような延命をするのではなく、最低賃金の引き上げと経営のサポートで鍛えあげる。それが結果として、零細企業をよみがえらせて、日本経済の復活にもつながるのだ。 実際、日本以外の先進国では「最低賃金の引き上げ」を経済政策として継続している。意識の高い中小企業経営者もそこに気づき始めている。2023年度の最低賃金額の改定について、最低賃金を「引上げるべき」と回答した会員企業は42.4%となり、「引き下げるべき」「現状の金額を維持すべき」との回答(計33.7%)を上回った。ちょっと前までは、日商では最低賃金を引き上げるなという大合唱だっだが、さすがにそれでは何も変わらないということに多くの経営者が気づき始めたのだ。 最低賃金を引き上げるのは長期的には、中小企業を強く成長させていく。そういう大局的な視点で、「賃金の引き上げ」というものをあらためて考えるべきではないか』、「最低賃金の引き上げと経営のサポートで鍛えあげる。それが結果として、零細企業をよみがえらせて、日本経済の復活にもつながるのだ。 実際、日本以外の先進国では「最低賃金の引き上げ」を経済政策として継続している。意識の高い中小企業経営者もそこに気づき始めている・・・最低賃金を引き上げるのは長期的には、中小企業を強く成長させていく。そういう大局的な視点で、「賃金の引き上げ」というものをあらためて考えるべきではないか」、その通りだ。
次に、7月30日付け東洋経済オンラインが掲載した小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏による「「最低賃金50円引き上げ」時代遅れの根拠なき議論 「経営者代表」を議論の主役にしてはいけない訳」を紹介しよう。
・『オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。 退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼の著書『給料の上げ方――日本人みんなで豊かになる』では、日本人の給料を上げるための方法が詳しく解説されている。 「いまの日本の給料は、日本人のまじめさや能力にふさわしい水準ではありません。そんな低水準の給料でもガマンして働いている、その『ガマン』によって、いまの日本経済のシステムは成り立っています。でも、そんなのは絶対におかしい」 そう語るアトキンソン氏に、これからの日本に必要なことを解説してもらう』、「いまの日本の給料は、日本人のまじめさや能力にふさわしい水準ではありません。そんな低水準の給料でもガマンして働いている、その『ガマン』によって、いまの日本経済のシステムは成り立っています。でも、そんなのは絶対におかしい」、その通りだ。
・『「50円引き上げ」の結論自体は評価できる 中央最低賃金審議会は、2024年の引き上げの目安を50円と決定しました。 2024年の最低賃金の引き上げにより、全都道府県で2025年に最低賃金が1000円を超える可能性が高まっています。現時点で1000円を超える都道府県は8つですが、2024年には少なくとも16都道府県に増える見通しです。 日本の最低賃金は都道府県ごとに設定され、経済状況に応じてA、B、Cの3つのランクに分類されています。各ランクの最低賃金引き上げの目安額は中央最低賃金審議会によって示されます。 2024年の目安額は全ランク共通で50円の引き上げとなり、地域間の賃金格差の是正を図る大きな一歩となりました。 過去には、最高の最低賃金と最低の最低賃金の格差が広がっていました。1997年には100円だった差が、2018年には223円まで拡大しました。今回の統一された引き上げ幅は、東京都にとって4.5%、最下位の岩手県にとっては5.6%の引き上げとなり、地域間格差の縮小となります。) 実際の引き上げ幅は、各都道府県での議論を経て決定されますが、全国加重平均が1054円を超えることが予想されます。これは過去の事例から、引き上げ幅が目安より大きくなることが多いためです』、「実際の引き上げ幅は、各都道府県での議論を経て決定されますが、全国加重平均が1054円を超えることが予想されます。これは過去の事例から、引き上げ幅が目安より大きくなることが多いためです」、なるほど。
・『「データに基づいた議論」ができていない 問題は、中央最低賃金審議会では経営者代表の意見がしばしば具体的なデータに欠けるため、議論が抽象論に終始することです。 たとえば「価格転嫁ができていない企業が相当数いる」との主張がありますが、具体的な企業数や業種ごとの詳細なデータが示されていません。このような主張には、統計的なデータが不可欠です。 「価格転嫁ができていない企業が相当数いる」との発言には、2つの問題があります。 まず、「相当数いる」とは具体的に何社なのかが示されていません。356万社ある中小企業の中で、どの程度が価格転嫁できていないのか具体的なデータがなければ、無責任な発言となります。 次に「価格転嫁ができていない」と言われても、どの業種で何%できていないのかを具体的に示す必要があります。ここではエピソードではなく、統計的なデータが不可欠です。 さらに経営者代表は、物価上昇の影響を理由に賃金は上げられないと主張していますが、それは労働者に物価上昇の負担を押し付ける結果となります。 今回の審議会では、経営者側は「中小企業に支払い能力を超えた過度な引き上げによる負担を負わせない配慮を」と主張しました。しかし、経営者側が主張する「中小企業の支払い能力」の具体的なデータを示していません。 中小企業も全体で見れば、大企業と同じように利益が最高水準を更新し続け、内部留保も増加しています。その中で、経営者側が「支払い能力」を持ち出すのであれば、その詳細を示すべきです。 中小企業は356万社もあり、最低賃金が1500円になっても対応できる企業もあるはずです。最低賃金がいくらになれば、どの業種のどの企業がどのような影響を受けるかを具体的に示すことが求められます。) 最低賃金の引き上げは、経済全体に対しても重要な影響を及ぼします。 最低賃金が上がることで、低賃金労働者の生活水準が向上し、消費活動が活発化することが期待されます。一方で、企業側には賃金コストの増加が負担となることもありますが、これは価格転嫁することで解決できます。 一部の人は生産性を上げてから賃金を上げるべきと主張しますが、日本企業の生産性は、それほどではないものの上昇しています。それにもかかわらず労働分配率が下がっているため、経営者は賃金を上げていません。よって、経営者側の「生産性を上げてから賃金を上げる」という抽象的な意見は、そもそも経営者側が守っていないのですから、退けるべきです。 逆に、賃金を上げることで生産性を上げざるを得ないという現実もあります。外国の分析では、賃金を上げると経営者が生産性向上に必死になることが確認されています』、「一部の人は生産性を上げてから賃金を上げるべきと主張しますが、日本企業の生産性は、それほどではないものの上昇しています。それにもかかわらず労働分配率が下がっているため、経営者は賃金を上げていません。よって、経営者側の「生産性を上げてから賃金を上げる」という抽象的な意見は、そもそも経営者側が守っていないのですから、退けるべきです」、その通りだ。
・『当初案「たった20円」経営者側は労働者を舐めている 経営者も労働者同様に利害関係者です。経営者に決定権を渡して、最低賃金の議論をさせるべきではありません。特に、経営者の団体は最低賃金の設定に必要な分析能力が十分ではないことは以上のことからもわかります。 実は今回の議論で、経営者側は当初案として20円の引き上げを示したそうです。とんでもない数字です。交渉とはいえ、公的な場でたった2%程度の引き上げを示す経営者側には、審議会に出席する資格はないとすら思います。 ビッグデータの時代では、最低賃金の設定には、もっと科学的なやり方が必要です。イギリスのLow Pay Commissionのように、学者や統計専門家がビッグデータを駆使して経済全体に与える影響を分析し、そのうえで労働者側と経営者側の意見をヒアリングする方法が求められます。 EUのように、最低賃金を平均所得の50%、中央値の60%に収斂させることも1つの方向性です。 人口減少が進む中、最低賃金は経済政策の中で中心的な役割を果たすべきです。たくさんの人の生活にかかることですから、労働者と経営者が根拠もなく議論を続けるのではなく、エビデンスに基づいた科学的なアプローチが求められます。 最低賃金の引き上げは、経済全体に対する影響を考慮し、ビッグデータと統計的な分析を用いて慎重に決定されるべきです』、「人口減少が進む中、最低賃金は経済政策の中で中心的な役割を果たすべきです。たくさんの人の生活にかかることですから、労働者と経営者が根拠もなく議論を続けるのではなく、エビデンスに基づいた科学的なアプローチが求められます。 最低賃金の引き上げは、経済全体に対する影響を考慮し、ビッグデータと統計的な分析を用いて慎重に決定されるべきです」、同感である。
先ずは、昨年4月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「“中小企業6割が賃上げ”というが「最低賃金アップ」でしか安いニッポンは変われない」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/320801
・『「賃上げ」で明るい兆しは本当か? まったく実感がないという人も多いだろうが、実は今、世間では「賃上げラッシュ」らしい。 岸田政権の「賃上げしましょう」の呼びかけにこぞって、企業が応えているというわけだ。しかも、注目すべきは、この賃上げの動きは、物価上昇を価格転嫁しにくい中小企業にまで「波及」をしているという点だ。 『中小企業の約6割が賃上げ予定 物価上昇率カバー可能な「4%以上」賃上げは18.7%に 日本商工会議所(TBS NEWS DIG)』 このような話を聞くと、「いいぞ!これで“安いニッポン”からおさらばだ」「日本中で賃上げと物価高の好循環が生まれて不況から脱出するぞ!」なんて感じで、新年度から明るい希望を抱いたという人も多いだろう。 そういういいムードにケチをつけるようで大変心苦しいのだが、今騒がれているような「賃上げラッシュ」では、日本の低賃金は解決できないだろう。 実はこのようなニュースで語られているトヨタやファーストリテイリングという世界的企業や、産業別労働組合があるような大企業というのは、日本の全企業の中でわずか0.3%に過ぎない。全就業者数でも3割程度だ。 こんなほんの一握りの企業が給料を爆上げしたところで、日本人全体の給料が上がるわけがない。3割の労働者の給料がちょっと増えたところで、7割が低賃金のままでは経済の好循環もへったくれもないのだ。 「これだから学のない人間は困る。わずか0.3%でも大企業が賃金を上げれば下請けや取引先である中小企業に波及するだろうが。実際に、中小企業の6割は賃上げ予定だぞ」というお叱りを受けそうだが、実はこの話もかなり微妙だ。 実は上場企業など大企業は、これまでも着々と賃上げをしている。が、日本の平均年収はこの30年間ほぼ横ばいだ。つまり、大企業が賃上げをすれば、「シャワー効果」で、中小企業も賃金が上がるというのは、「神話」に過ぎない。 また、「中小企業の6割が賃上げ予定」という調査自体が眉唾だ。これは日本商工会議所の会員である3308社の回答に基づいているのだが、これが日本の中小企業の実態をあまり反映していない恐れがあるからだ』、「大企業が賃上げをすれば、「シャワー効果」で、中小企業も賃金が上がるというのは、「神話」に過ぎない。 また、「中小企業の6割が賃上げ予定」という調査自体が眉唾だ。これは日本商工会議所の会員である3308社の回答に基づいているのだが、これが日本の中小企業の実態をあまり反映していない恐れがあるからだ」、なるほど。
・『「中小企業6割が賃上げ」に反映された声は実態と乖離? 日本に中小企業がどれだけあるのかということは実は正確にはよくわかっていないが、独立行政法人中小企業基盤整備機構によれば、中小企業357万8176社だという。 では、「中小企業の6割が賃上げ予定」という調査結果を世に公表した日本商工会議所には、この中のどれほどの中小企業をカバーしているのか。ホームページによれば、全国の商工会議所の会員数は123万(22年4月現在)で、しかもこの数には大企業も含まれる。つまり、日本商工会議所(以下、日商)には全中小企業の3割程度しか加盟していないのである。 そんな少数派の中でわずか3000社程度のアンケートをピックアップしただけで、さも「中小企業全体」が賃上げをしようとしている、と触れ回るのはやや乱暴な気がしないだろうか。 また、問題は調査対象の数だけではない。 商工会議所に参加している企業経営者というのは基本的に、中小企業振興・地域振興や情報交換など積極的だ。交流会やセミナーもよく催されており、そういうものに参加する人が多い。つまり、「意識高い系経営者」なのだ。こういう人たちが集まった団体で、アンケートを取れば当然、多くの人が「賃上げ予定」と答える。日本の賃金が異常に低く、多くの労働者が苦しんでいるという問題意識があるからだ。 しかし、商工会議所に加わらない、残り234万社の経営者に同じことを聞いたらどうだろうか。筆者は商工会議所の会員と比べるとかなり賃上げへの意欲は薄れるのではないかと考えている』、「独立行政法人中小企業基盤整備機構によれば、中小企業357万8176社だという・・・全国の商工会議所の会員数は123万(22年4月現在)で、しかもこの数には大企業も含まれる。つまり、日本商工会議所(以下、日商)には全中小企業の3割程度しか加盟していないのである」、なるほど。
・『賃上げもできない中小企業が大半、商工会議所に入る“余裕”なし そもそも、234万社の経営者はなぜ商工会に入っていないのかというと、メリットを感じないからだ。つまり、中小企業振興や地域振興などにそれほど興味がないのだ。では、なぜ興味がないのか。個々の性格的な部分もあるかもしれないが、やはり大きいのは経営者として「余裕」がないからではないのか。 先ほど日本の中小企業は、357万社だという話をしたが、その6割は「小規模事業者」だ。製造業ならば従業員20人以下、商業サービスなら5人以下の、いわゆる「零細企業」である。 さて、あなたがこういう零細企業の経営者になったとして、日本の中小企業振興や地域振興を考えられるだろうか。自分の会社を存続させることで頭が一杯で、そんな心の余裕も時間の余裕もないのではないか。 そして、こういう余裕のない零細企業経営者は「賃上げ」ができるだろうか。もし商工会議所のアンケートが来たとしても、「こんな厳しい状況で、賃上げなんかできるわけがないだろ」と即答ではないか。 こういう「賃金が上げられない小さな会社」が、日本全国に300万社近くあふれている。これが「安いニッポン」の根本的な理由だ。 こういう会社は従業員に低賃金しか払えない。何年も昇給せずに同じ給料を払っている。だが、従業員もそれに不満は言いづらい。従業員が数人しかいないので人間関係が密になるからだ。ほぼ家族同然の付き合いをしているので、社長が苦しいことは、身近に見ているのでよく知っている。いくら給料が安いからといってワガママが言えない。だから、低い賃金でも我慢して働いている――。 そして、こういう小さな家族経営の企業は、トヨタ自動車やユニクロの下請けでもなければ取引先でもないので、この手の大企業の「賃上げラッシュ」はまったく関係ない。日本商工会議所の会員になるような「意識の高い中小企業」と統計的には同じ「中小企業」というくくりにされるが、ビジネスモデルも規模も経営にかけるモチベーションもまったく違うので、「6割が賃上げ」と聞いても、自分たちとはまったく関係のない世界の話なのだ』、「日本商工会議所の会員になるような「意識の高い中小企業」と統計的には同じ「中小企業」というくくりにされるが、ビジネスモデルも規模も経営にかけるモチベーションもまったく違うので、「6割が賃上げ」と聞いても、自分たちとはまったく関係のない世界の話なのだ」、なるほど。
・『日本の小さな会社たちをすくい上げる手立て だから、「賃上げラッシュ」がいくら起きても、日商が「中小企業の6割が賃上げ予定」というニュースを出しても、日本の賃金は何も変わらないのだ。 さて、そこで気になるのは、「じゃあ、どうする?」ということだろう。「賃金を上げられない小さな会社」を賃上げしてもらわないことには、日本の賃金はいつまでも経っても上がっていかない。大企業や日商会員の中小企業とは別の世界で商いをしている「零細企業」にどう賃上げをさせていくのか、という悩ましい問題に突き当たる。 いろいろな意見があるだろうが、筆者は「最低賃金の引き上げ」しかないと思っている。 そう聞くと、こんな状況で最低賃金を引き上げたら、「賃金を上げられない小さな会社」に「死ね」ということか、というお叱りを受けるかもしれない。 ただ、「賃金を上げられない小さな会社」はある程度のプレッシャーを与えなければ、いつまで経っても成長できず、零細企業のまま補助金で延命していくしかないという厳しい現実がある。 だから、心を鬼にして、零細企業が成長するための手厚いサポートをしながら、最低賃金の引き上げをしていくのである。「賃金を上げられない小さな会社」が税金でつぶれないような延命をするのではなく、最低賃金の引き上げと経営のサポートで鍛えあげる。それが結果として、零細企業をよみがえらせて、日本経済の復活にもつながるのだ。 実際、日本以外の先進国では「最低賃金の引き上げ」を経済政策として継続している。意識の高い中小企業経営者もそこに気づき始めている。2023年度の最低賃金額の改定について、最低賃金を「引上げるべき」と回答した会員企業は42.4%となり、「引き下げるべき」「現状の金額を維持すべき」との回答(計33.7%)を上回った。ちょっと前までは、日商では最低賃金を引き上げるなという大合唱だっだが、さすがにそれでは何も変わらないということに多くの経営者が気づき始めたのだ。 最低賃金を引き上げるのは長期的には、中小企業を強く成長させていく。そういう大局的な視点で、「賃金の引き上げ」というものをあらためて考えるべきではないか』、「最低賃金の引き上げと経営のサポートで鍛えあげる。それが結果として、零細企業をよみがえらせて、日本経済の復活にもつながるのだ。 実際、日本以外の先進国では「最低賃金の引き上げ」を経済政策として継続している。意識の高い中小企業経営者もそこに気づき始めている・・・最低賃金を引き上げるのは長期的には、中小企業を強く成長させていく。そういう大局的な視点で、「賃金の引き上げ」というものをあらためて考えるべきではないか」、その通りだ。
次に、7月30日付け東洋経済オンラインが掲載した小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏による「「最低賃金50円引き上げ」時代遅れの根拠なき議論 「経営者代表」を議論の主役にしてはいけない訳」を紹介しよう。
・『オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。 退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼の著書『給料の上げ方――日本人みんなで豊かになる』では、日本人の給料を上げるための方法が詳しく解説されている。 「いまの日本の給料は、日本人のまじめさや能力にふさわしい水準ではありません。そんな低水準の給料でもガマンして働いている、その『ガマン』によって、いまの日本経済のシステムは成り立っています。でも、そんなのは絶対におかしい」 そう語るアトキンソン氏に、これからの日本に必要なことを解説してもらう』、「いまの日本の給料は、日本人のまじめさや能力にふさわしい水準ではありません。そんな低水準の給料でもガマンして働いている、その『ガマン』によって、いまの日本経済のシステムは成り立っています。でも、そんなのは絶対におかしい」、その通りだ。
・『「50円引き上げ」の結論自体は評価できる 中央最低賃金審議会は、2024年の引き上げの目安を50円と決定しました。 2024年の最低賃金の引き上げにより、全都道府県で2025年に最低賃金が1000円を超える可能性が高まっています。現時点で1000円を超える都道府県は8つですが、2024年には少なくとも16都道府県に増える見通しです。 日本の最低賃金は都道府県ごとに設定され、経済状況に応じてA、B、Cの3つのランクに分類されています。各ランクの最低賃金引き上げの目安額は中央最低賃金審議会によって示されます。 2024年の目安額は全ランク共通で50円の引き上げとなり、地域間の賃金格差の是正を図る大きな一歩となりました。 過去には、最高の最低賃金と最低の最低賃金の格差が広がっていました。1997年には100円だった差が、2018年には223円まで拡大しました。今回の統一された引き上げ幅は、東京都にとって4.5%、最下位の岩手県にとっては5.6%の引き上げとなり、地域間格差の縮小となります。) 実際の引き上げ幅は、各都道府県での議論を経て決定されますが、全国加重平均が1054円を超えることが予想されます。これは過去の事例から、引き上げ幅が目安より大きくなることが多いためです』、「実際の引き上げ幅は、各都道府県での議論を経て決定されますが、全国加重平均が1054円を超えることが予想されます。これは過去の事例から、引き上げ幅が目安より大きくなることが多いためです」、なるほど。
・『「データに基づいた議論」ができていない 問題は、中央最低賃金審議会では経営者代表の意見がしばしば具体的なデータに欠けるため、議論が抽象論に終始することです。 たとえば「価格転嫁ができていない企業が相当数いる」との主張がありますが、具体的な企業数や業種ごとの詳細なデータが示されていません。このような主張には、統計的なデータが不可欠です。 「価格転嫁ができていない企業が相当数いる」との発言には、2つの問題があります。 まず、「相当数いる」とは具体的に何社なのかが示されていません。356万社ある中小企業の中で、どの程度が価格転嫁できていないのか具体的なデータがなければ、無責任な発言となります。 次に「価格転嫁ができていない」と言われても、どの業種で何%できていないのかを具体的に示す必要があります。ここではエピソードではなく、統計的なデータが不可欠です。 さらに経営者代表は、物価上昇の影響を理由に賃金は上げられないと主張していますが、それは労働者に物価上昇の負担を押し付ける結果となります。 今回の審議会では、経営者側は「中小企業に支払い能力を超えた過度な引き上げによる負担を負わせない配慮を」と主張しました。しかし、経営者側が主張する「中小企業の支払い能力」の具体的なデータを示していません。 中小企業も全体で見れば、大企業と同じように利益が最高水準を更新し続け、内部留保も増加しています。その中で、経営者側が「支払い能力」を持ち出すのであれば、その詳細を示すべきです。 中小企業は356万社もあり、最低賃金が1500円になっても対応できる企業もあるはずです。最低賃金がいくらになれば、どの業種のどの企業がどのような影響を受けるかを具体的に示すことが求められます。) 最低賃金の引き上げは、経済全体に対しても重要な影響を及ぼします。 最低賃金が上がることで、低賃金労働者の生活水準が向上し、消費活動が活発化することが期待されます。一方で、企業側には賃金コストの増加が負担となることもありますが、これは価格転嫁することで解決できます。 一部の人は生産性を上げてから賃金を上げるべきと主張しますが、日本企業の生産性は、それほどではないものの上昇しています。それにもかかわらず労働分配率が下がっているため、経営者は賃金を上げていません。よって、経営者側の「生産性を上げてから賃金を上げる」という抽象的な意見は、そもそも経営者側が守っていないのですから、退けるべきです。 逆に、賃金を上げることで生産性を上げざるを得ないという現実もあります。外国の分析では、賃金を上げると経営者が生産性向上に必死になることが確認されています』、「一部の人は生産性を上げてから賃金を上げるべきと主張しますが、日本企業の生産性は、それほどではないものの上昇しています。それにもかかわらず労働分配率が下がっているため、経営者は賃金を上げていません。よって、経営者側の「生産性を上げてから賃金を上げる」という抽象的な意見は、そもそも経営者側が守っていないのですから、退けるべきです」、その通りだ。
・『当初案「たった20円」経営者側は労働者を舐めている 経営者も労働者同様に利害関係者です。経営者に決定権を渡して、最低賃金の議論をさせるべきではありません。特に、経営者の団体は最低賃金の設定に必要な分析能力が十分ではないことは以上のことからもわかります。 実は今回の議論で、経営者側は当初案として20円の引き上げを示したそうです。とんでもない数字です。交渉とはいえ、公的な場でたった2%程度の引き上げを示す経営者側には、審議会に出席する資格はないとすら思います。 ビッグデータの時代では、最低賃金の設定には、もっと科学的なやり方が必要です。イギリスのLow Pay Commissionのように、学者や統計専門家がビッグデータを駆使して経済全体に与える影響を分析し、そのうえで労働者側と経営者側の意見をヒアリングする方法が求められます。 EUのように、最低賃金を平均所得の50%、中央値の60%に収斂させることも1つの方向性です。 人口減少が進む中、最低賃金は経済政策の中で中心的な役割を果たすべきです。たくさんの人の生活にかかることですから、労働者と経営者が根拠もなく議論を続けるのではなく、エビデンスに基づいた科学的なアプローチが求められます。 最低賃金の引き上げは、経済全体に対する影響を考慮し、ビッグデータと統計的な分析を用いて慎重に決定されるべきです』、「人口減少が進む中、最低賃金は経済政策の中で中心的な役割を果たすべきです。たくさんの人の生活にかかることですから、労働者と経営者が根拠もなく議論を続けるのではなく、エビデンスに基づいた科学的なアプローチが求められます。 最低賃金の引き上げは、経済全体に対する影響を考慮し、ビッグデータと統計的な分析を用いて慎重に決定されるべきです」、同感である。
タグ:「独立行政法人中小企業基盤整備機構によれば、中小企業357万8176社だという・・・全国の商工会議所の会員数は123万(22年4月現在)で、しかもこの数には大企業も含まれる。つまり、日本商工会議所(以下、日商)には全中小企業の3割程度しか加盟していないのである」、なるほど。 「大企業が賃上げをすれば、「シャワー効果」で、中小企業も賃金が上がるというのは、「神話」に過ぎない。 また、「中小企業の6割が賃上げ予定」という調査自体が眉唾だ。これは日本商工会議所の会員である3308社の回答に基づいているのだが、これが日本の中小企業の実態をあまり反映していない恐れがあるからだ」、なるほど。 窪田順生氏による「“中小企業6割が賃上げ”というが「最低賃金アップ」でしか安いニッポンは変われない」 ダイヤモンド・オンライン (その2)(“中小企業6割が賃上げ”というが「最低賃金アップ」でしか安いニッポンは変われない、「最低賃金50円引き上げ」時代遅れの根拠なき議論 「経営者代表」を議論の主役にしてはいけない訳) 最低賃金 「日本商工会議所の会員になるような「意識の高い中小企業」と統計的には同じ「中小企業」というくくりにされるが、ビジネスモデルも規模も経営にかけるモチベーションもまったく違うので、「6割が賃上げ」と聞いても、自分たちとはまったく関係のない世界の話なのだ」、なるほど。 「最低賃金の引き上げと経営のサポートで鍛えあげる。それが結果として、零細企業をよみがえらせて、日本経済の復活にもつながるのだ。 実際、日本以外の先進国では「最低賃金の引き上げ」を経済政策として継続している。意識の高い中小企業経営者もそこに気づき始めている・・・最低賃金を引き上げるのは長期的には、中小企業を強く成長させていく。そういう大局的な視点で、「賃金の引き上げ」というものをあらためて考えるべきではないか」、その通りだ。 東洋経済オンライン デービッド・アトキンソン氏による「「最低賃金50円引き上げ」時代遅れの根拠なき議論 「経営者代表」を議論の主役にしてはいけない訳」 「いまの日本の給料は、日本人のまじめさや能力にふさわしい水準ではありません。そんな低水準の給料でもガマンして働いている、その『ガマン』によって、いまの日本経済のシステムは成り立っています。でも、そんなのは絶対におかしい」、その通りだ。 「実際の引き上げ幅は、各都道府県での議論を経て決定されますが、全国加重平均が1054円を超えることが予想されます。これは過去の事例から、引き上げ幅が目安より大きくなることが多いためです」、なるほど。 「一部の人は生産性を上げてから賃金を上げるべきと主張しますが、日本企業の生産性は、それほどではないものの上昇しています。それにもかかわらず労働分配率が下がっているため、経営者は賃金を上げていません。よって、経営者側の「生産性を上げてから賃金を上げる」という抽象的な意見は、そもそも経営者側が守っていないのですから、退けるべきです」、その通りだ。 「人口減少が進む中、最低賃金は経済政策の中で中心的な役割を果たすべきです。たくさんの人の生活にかかることですから、労働者と経営者が根拠もなく議論を続けるのではなく、エビデンスに基づいた科学的なアプローチが求められます。 最低賃金の引き上げは、経済全体に対する影響を考慮し、ビッグデータと統計的な分析を用いて慎重に決定されるべきです」、同感である。