金融政策(その48)(「断捨離」をした日銀は7月末にどう動くのか 渡辺努・東大教授の「物価理論」を解説しよう、日銀は為替を金融政策の対象に入れるべきだ このままでは金融政策への信頼が失われる懸念、日経平均の大暴落は「超円安」依存経済への警鐘だ…!市場を大パニックに陥れた「予想外の原因」、日本株を襲うもうひとつの「不都合な真実」…日銀利上げで「円高デフレ大逆流」が招く「日経平均2万8000円台」の悪夢のシナリオ、まさか日銀で「植田総裁vs.内田副総裁」バトル勃発か…つぎの日銀会合は「円高急進」を覚悟せよ!) [経済政策]
金融政策については、本年7月10日に取上げた。今日は、(その48)(「断捨離」をした日銀は7月末にどう動くのか 渡辺努・東大教授の「物価理論」を解説しよう、日銀は為替を金融政策の対象に入れるべきだ このままでは金融政策への信頼が失われる懸念、日経平均の大暴落は「超円安」依存経済への警鐘だ…!市場を大パニックに陥れた「予想外の原因」、日本株を襲うもうひとつの「不都合な真実」…日銀利上げで「円高デフレ大逆流」が招く「日経平均2万8000円台」の悪夢のシナリオ、まさか日銀で「植田総裁vs.内田副総裁」バトル勃発か…つぎの日銀会合は「円高急進」を覚悟せよ!)である。
先ずは、本年7月13日付け東洋経済オンラインが掲載した慶応義塾大学大学院教授の小幡 績氏による「「断捨離」をした日銀は7月末にどう動くのか 渡辺努・東大教授の「物価理論」を解説しよう」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/776645
・『先日、物価に関する日本一、いや世界一の研究家である、東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授にインタビューさせていただく機会があった。 それは「東洋経済オンライン」で2つの記事になった(前編「『物価が上がらなければいいのに』と嘆く人たちへ」、後編「日銀は『円安』『国債の山』『次の緩和』をどうするか」)。だが、インタビュアーの未熟さにより、インタビューの解説が必要だと感じたので、今回は筆者の理解する「渡辺物価理論」を独自に補足解説したい』、興味深そうだ。
・『なぜ「機能不全」を解消しなければいけないのか この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています【2024年1月5日編集部追記】2024年1月1日、山崎元さんは逝去されました。心から哀悼の意を捧げ、ご冥福をお祈りします)。記事の一覧はこちら まず、渡辺理論の主張の中核は、以下のひとことに尽きる。 『物価とは何か』では、ミクロの価格を蚊に、マクロの物価を蚊柱にたとえていますが、蚊が死んでしまったので、蚊柱の動きも止まったというのが私の理解です。物価安定と見間違えてはいけない」。 えっ?これだけでは、わからない? では、もう少しかみ砕こう。渡辺教授の理論体系とは以下の1~6からなる。 1日本では1995年以降、企業が自分の製品の価格を決める力を失った 2その結果、市場経済の中核である「価格メカニズム」が機能不全に陥 った 3このコストはとてつもなく大きい。これが長期に定着すれば、実体経済へのダメージはさらに拡大、長期化する 4だから、かなりの副作用があったとしても、価格メカニズムの機能不全を解消しないといけない 5そのためには、社会全体、経済全体の認識を変えるために、マクロの 政策変更が必要であり、有効である可能性がある 6そのためには、ショック療法的な手段も試してみる価値はあるし、試すべきだ) ちなみに、筆者は1から3まで120%渡辺理論に賛成で、渡辺理論の世界一の理解者であると同時に、世界一、渡辺理論に近い意見を持っているのが小幡績である。しかし、筆者は4から6には強く反対で、ここが渡辺・小幡の大きな対立点である。目指すゴールは一緒、問題認識も一緒、しかし、アプローチが180度(いや90度かな?)異なる』、「筆者は1から3まで120%渡辺理論に賛成で、渡辺理論の世界一の理解者であると同時に、世界一、渡辺理論に近い意見を持っているのが小幡績である。しかし、筆者は4から6には強く反対で、ここが渡辺・小幡の大きな対立点である。目指すゴールは一緒、問題認識も一緒、しかし、アプローチが180度(いや90度かな?)異なる」、なるほど。
・『「渡辺チャート」が可視化した「日本企業の停滞」 順番に、少し詳しく見てみよう。 1の「企業が自分の製品価格を決める力を失ったこと」に関しては、渡辺教授が長年にわたって、研究、主張してきた。それを象徴的に可視化したものは、渡辺チャートと呼ばれている。日本の消費者物価を構成する600品目の個別のインフレ率(前年同月比の変化率)を計算し、頻度分布をグラフにしたものだ。日本の個別品目の価格変動が1995年以降一気に減少し、ゼロ付近の頻度が極端に高まったことが可視化されたのである。 近年では、日本企業が価格変更できないから量を減らす「ステルス値上げ」などの対応を迫られたことが有名になった。しかも、コロナ禍後では、アメリカをはじめ世界にも広がり、「シュリンケーション」(シュリンク=縮むとインフレーションをかけた言葉)という言葉が生まれた。しかし、それでもアメリカでは、価格変更のグラフが日本のようにゼロに集中することはなかった。 これは、まったく私も賛成で、企業の度胸のなさは、この連載でも何度か指摘したところである。さらに、ビジネススクール的な文脈でいうと、日本の企業は、価格設定を経営の戦略変数に入れていないことがほとんどで、本当に駄目だ。これこそ利益率が低い理由であり、ひいては日本の生産性やGDP(付加価値率)が伸びない理由であるとも指摘してきた。要は「ぼったくり」とまではいわないが、消費者からむしり取ってでも儲けようという意欲、気概、力が足りないのである。 2については、「価格メカニズム」は、市場経済の中核、経済理論の中核であり、ミクロ経済学では最重要のところである。最近はゲーム理論ばかり教えるから重要性の認識が低下しているが、市場における一般均衡、それを達成する価格メカニズムが市場経済の最重要要素、ほぼすべてである。 だから、これが危機に陥るとは、市場経済の終わりである。渡辺教授も以下のように言っている。「2年前ぐらいから僕が使っているのが、旧ソ連の例です。旧ソ連の経済システムは価格というシグナルそのものがなく、生産量を割り当てていましたが、やっぱり失敗する。日本では価格はありますが、動いていなければ価格メカニズムがないに等しい。その結果として資源配分が歪んできた」。 これには筆者も200%賛成だ。したがって、渡辺理論の日本の物価への懸念はミクロ経済学的な資源配分の歪み、ということに尽きるのである。個々の蚊が死んでしまったこと、あるいは仮死状態になってしまったことがすべてで、彼らを仮死状態から生き返らせることが、何よりも重要なのである。それは個々の蚊(個々の製品、個々の企業)が死んでしまい、それが蚊柱全体(市場経済全体)を殺してしまうことになりかねないからである。 これを理解していれば、多くはアメリカで教育を受けてきたマクロ経済学者、マクロ金融学者を驚愕させる「渡辺発言」も、何ら驚きでないどころか、なるほどと合点がいくのである』、「1については」「日本の企業は、価格設定を経営の戦略変数に入れていないことがほとんどで、本当に駄目だ。これこそ利益率が低い理由であり、ひいては日本の生産性やGDP(付加価値率)が伸びない理由であるとも指摘してきた。要は「ぼったくり」とまではいわないが、消費者からむしり取ってでも儲けようという意欲、気概、力が足りないのである・・・2については・・・日本では価格はありますが、動いていなければ価格メカニズムがないに等しい。その結果として資源配分が歪んできた」。 これには筆者も200%賛成だ。したがって、渡辺理論の日本の物価への懸念はミクロ経済学的な資源配分の歪み、ということに尽きるのである」、なるほど。
・『物価は動きすぎてもいけないが、動かないのもいけない 「日本では、平均的な物価の上昇率が0とかマイナス1%になったこと以上に、『個々の価格が動かなくなったこと』が問題だった」「実はトータルの物価上昇(インフレ)率は1%でも2%でも、5%でもいいんです」「行きすぎたインフレがなぜいけないのかというと、不確実性が高すぎて資源配分が歪むからです。10%や20%まで上がると明らかに歪みが起きます。 つまり、資源配分の歪みがいけない。価格が動きすぎても不確実性が高まることにより歪む。一方、動かなすぎても、配分が変わらず歪んでしまう。物価は動きすぎてもいけないが、動かないのも同様に悪い、ということなのだ。 その結果が、3の「価格の機能不全のコスト負担と実態経済へのダメージ拡大、長期化懸念」という主張になる。1と2の現象は、日本に長年根付いてきたものではない。1990年のバブル崩壊後、急速に生まれたものだ。だから、1990年代後半にいち早く手を打っておけば、こんな事態にはならなかった。30年も定着することはなかったはずである。遅くても遅すぎるということはない。今こそ、最後のチャンスだ。だから4~6の主張になるのである。) 確かに価格の機能不全のコストは大きい。だから、筆者は3については80%賛成できる。ただ、その中身は、渡辺教授と筆者では少し違う。渡辺教授はこう言う。 「企業は通常、価格を決めるパワーを持っているわけですが、それが奪われてしまった。そうすると企業は、何か新しい商品を作るために投資して、高い価格をつけて儲けることができません。最初からいい商品を作ることをあきらめる。価格をコントロールできない環境では、企業はアグレッシブな行動ができなくなってしまう。それでも当然、収益を上げなければいけないので、じゃあコストカットとなって、経済がどんどん後ろ向きに回ってしまう。これがデフレの最大の弊害だと思っています」。 筆者は違うと思う。これは企業がデフレを言い訳にして何もしていないだけだ。新しい製品なら新しい価格が付く。既存の製品の価格が変えられないからこそ、アグレッシブに新しいことをする。不況こそが次への脱皮を促す。だから、原因はデフレではなく、個々の企業が原因だと思う』、「筆者は3については80%賛成できる。ただ、その中身は、渡辺教授と筆者では少し違う。渡辺教授はこう言う。 「企業は通常、価格を決めるパワーを持っているわけですが、それが奪われてしまった。そうすると企業は、何か新しい商品を作るために投資して、高い価格をつけて儲けることができません。最初からいい商品を作ることをあきらめる。価格をコントロールできない環境では、企業はアグレッシブな行動ができなくなってしまう。それでも当然、収益を上げなければいけないので、じゃあコストカットとなって、経済がどんどん後ろ向きに回ってしまう。これがデフレの最大の弊害だと思っています」。 筆者は違うと思う。これは企業がデフレを言い訳にして何もしていないだけだ。新しい製品なら新しい価格が付く。既存の製品の価格が変えられないからこそ、アグレッシブに新しいことをする。不況こそが次への脱皮を促す。だから、原因はデフレではなく、個々の企業が原因だと思う」、なるほど。
・『大きくなった「為替の歪み」をどうすべきか さらに、4「かなりの副作用があったとしても、価格メカニズムの機能不全を解消しないといけない」 5「そのためには、社会全体、経済全体の認識を変えるために、マクロの政策変更が必要であり、有効である可能性がある」 6「そのためには、ショック療法的な手段も試してみる価値はあるし、試すべきである」という4~6の主張に対しては、前出のとおり、筆者の賛成率は0%である。大反対だ。 4から6は一体となっている主張だが、筆者はそれぞれ反対するところがある。まず、4だ。渡辺教授はこう言っている。 「僕は、価格が動かないことで実体経済が歪むコストが大きいから、金融市場では少々のことが起きても仕方がないと思っています。 少々のこと、というのがどの程度か、ということが問題だが、この文脈では、金融市場とは為替の話だった。筆者としては、為替の歪みはとてつもなく大きく、かつ金融政策により生じてしまった責任があると思うし(つまりやるべきでなかった)、一方で、今後円安を止める力もあると思っている。) そして5は、もっとも意見が異なる。渡辺教授は、このように主張する。「社会全体が共通の認識として「価格は変わらないもの」と信じてしまっていて、個々の企業が解決できる問題じゃなかったんです」。 つまり、この価格メカニズム機能不全現象が、個々の企業ではどうしようもない。消費者を中心として社会全体が、価格は変わらない、と思ってしまっているから、マクロで社会全体の意識を変えなければいけない、と思っている。 一方、筆者の意見は、企業も消費者もみんなが萎縮した形で均衡しているのだから、マクロの金融政策では抜け出せず、企業が行動を変えるようなインセンティブを与えるとか、ミクロ政策を打ち出さないと効かないのでは、というものだ』、「4から6は一体となっている主張だが、筆者はそれぞれ反対するところがある。まず、4だ。渡辺教授はこう言っている。 「僕は、価格が動かないことで実体経済が歪むコストが大きいから、金融市場では少々のことが起きても仕方がないと思っています。 少々のこと、というのがどの程度か、ということが問題だが、この文脈では、金融市場とは為替の話だった。筆者としては、為替の歪みはとてつもなく大きく、かつ金融政策により生じてしまった責任があると思うし(つまりやるべきでなかった)、一方で、今後円安を止める力もあると思っている。) そして5は、もっとも意見が異なる。渡辺教授は、このように主張する。「社会全体が共通の認識として「価格は変わらないもの」と信じてしまっていて、個々の企業が解決できる問題じゃなかったんです」。 つまり、この価格メカニズム機能不全現象が、個々の企業ではどうしようもない。消費者を中心として社会全体が、価格は変わらない、と思ってしまっているから、マクロで社会全体の意識を変えなければいけない、と思っている。 一方、筆者の意見は、企業も消費者もみんなが萎縮した形で均衡しているのだから、マクロの金融政策では抜け出せず、企業が行動を変えるようなインセンティブを与えるとか、ミクロ政策を打ち出さないと効かないのでは、というものだ」、なるほど。
・『ミクロで解決すべきか、マクロで解決すべきか 180度違うというよりは、ミクロで解決すべきかマクロか、という話。実際、価格メカニズムが死んでいるというのが問題、という点は、120%一致している。対談でも以下のようなやりとりがあった。 小幡「(機能不全の)状況を壊さなければいけないことはわかるんです」。 渡辺「問題は、マクロの金融政策で壊れるかどうか、ですね」。 小幡「ここ数年でわかったのは、『円安で輸入価格が上がったのは目に見えるから、値上げせざるをえないとわかれば皆、受け入れる』ということだと思う」。 渡辺「異次元緩和は実は、それと似たことを政策的にやりたかったけれど、消費者や企業経営者に影響を与えるようなメッセージは出せませんでした。人間が行う政策よりも、パンデミックや戦争のほうが定常状態を変える力としては強いんだろうなと思います」 筆者の感想としては、そう思っているなら、なぜそれでも金融政策に、価格メカニズム復活のきっかけを期待するのか、という疑問が残る。) しかし、渡辺教授は、何とか価格メカニズム復活のために、現状の委縮均衡の完全なる破壊に執念を燃やしている、あるいは、今が、最後の最大のチャンスだと思っているようだ。 「今は同調だろうがなんだろうが、価格が動いてくれればもうけもの。スーパーなどの販売価格をPOSデータでみても、これまで価格が動かない商品の割合が7割だったのが減ってきています。顕著に減ってきています。価格も賃金も動かない状態からとにかく脱出する。そうなりつつあるから、しっかり固めるときだと思います」』、「渡辺教授は、何とか価格メカニズム復活のために、現状の委縮均衡の完全なる破壊に執念を燃やしている、あるいは、今が、最後の最大のチャンスだと思っているようだ。 「今は同調だろうがなんだろうが、価格が動いてくれればもうけもの。スーパーなどの販売価格をPOSデータでみても、これまで価格が動かない商品の割合が7割だったのが減ってきています。顕著に減ってきています。価格も賃金も動かない状態からとにかく脱出する。そうなりつつあるから、しっかり固めるときだと思います」、なるほど。
・『日銀は「断捨離後」の「次の一手」をどうするのか? 6については、結果的には意見は一致した。異次元緩和、「黒田緩和」が始まったときは、渡辺教授は、こう思っていた。 「実は、2013年に異次元緩和を始めた黒田東彦前総裁も(デフレが何らかの弊害をもたらしたか否か、という論点を)説明したことがないんですよ。僕はこう解釈しました。消費者や価格をつける企業の人たちのマインドを『価格というのは上がるもの』に変えようとしているんだと」。 そして、今の渡辺教授の見解は、こうだ。 「(異次元緩和は)事実として全然うまくいかなかったから、失敗したとは思います。2016年1月に導入したマイナス金利の評判が悪かった頃からそう思い始めました。効いてほしかったですが、結果的に効かなかったのだから、明らかに無用の長物です」。 しかし、今後については、私とは意見が異なるようだ。 「3月の日銀の決定は、要らないモノを捨てる『断捨離』なんだと説明しています。断捨離のポイントは、要るモノと要らないモノを区別することです。要るモノとして残したのが、バランスシートです。バランスシートが大きい状態はやっぱり望ましいんですよ」。 さあ、7月30~31日の金融政策決定会合で、植田和男・日銀総裁は、どの程度国債買い入れを減らすのか。そして、それはバランスシートのサイズを意識したものになるのか、それとも、毎月の購入額というフローの額を重要視するのか。注目だ。 今後も、渡辺理論の発展を願うし、再び、議論の機会を持てるのを楽しみにしている(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者が競馬論や週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)』、「6については、結果的には意見は一致・・・しかし、今後については、私とは意見が異なるようだ。 「3月の日銀の決定は、要らないモノを捨てる『断捨離』なんだと説明しています。断捨離のポイントは、要るモノと要らないモノを区別することです。要るモノとして残したのが、バランスシートです。バランスシートが大きい状態はやっぱり望ましいんですよ」。 さあ、7月30~31日の金融政策決定会合で、植田和男・日銀総裁は、どの程度国債買い入れを減らすのか。そして、それはバランスシートのサイズを意識したものになるのか、それとも、毎月の購入額というフローの額を重要視するのか。注目だ」、さあ、どうなるだろう。
次に、7月31日付け東洋経済オンラインが掲載した慶応義塾大学大学院教授の小幡 績氏による「日銀は為替を金融政策の対象に入れるべきだ このままでは金融政策への信頼が失われる懸念」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/787795?display=b
・『日本銀行は、「金融政策は為替を対象としていない」と繰り返している。これだけ円安に国民や政治家が悲鳴を上げても、その説明はまったく変わらない。しかし、これは本当に本音なのか、それとも建前なのか? エコノミストやメディアの人々のほとんどは、これは日銀の建前だと思っている。だから、円安が進むと、日銀の利上げが早まるかもしれない、という日銀ウォッチャーやエコノミストのコメントがメディアにあふれ出す』、興味深そうだ。
・『「為替は金融政策の対象でない」は日銀の「信念」? しかし、私は、これは日銀の本音であると思っている。それどころか、信念であり、絶対に譲れない、譲ってはいけないと信じているのではないか、と推測している。そして、それが現代の中央銀行の問題であり、とりわけ日銀にとっては致命的なものになりうると考えている。 なぜか。説明しよう。 まず「為替は金融政策の対象でない」という考え方は、成熟国における現代の中央銀行の役割としては教科書的なものだ。 実際、植田和男日銀総裁もそう繰り返し述べる。例えば、2024年3月27日の衆議院財務金融委員会で、植田総裁は、「金融政策は為替相場を直接コントロールの対象としていない」「為替政策は財務省の所管と理解している」と答え、そして、為替は「経済、物価に重要な影響を及ぼすひとつの要因」と述べた。これは、まさに現在の日銀の模範的な回答だ。 つまり、金融政策の目的は、経済、物価であり、為替はその経済と物価に影響を及ぼすから、アメリカの経済が日本経済に影響を与えるのと同様に、重要な要因だが、金融政策の決定においてはあくまで外部的な環境要因として扱うということである。) 実は、この議論の構造は、金融政策の対象である経済と物価の関係に似ている。よく知られているように、FED(アメリカ中央銀行)には、物価の安定と雇用の最大化という2つの使命(デュアルマンデート)がある』、「金融政策の目的は、経済、物価であり、為替はその経済と物価に影響を及ぼすから、アメリカの経済が日本経済に影響を与えるのと同様に、重要な要因だが、金融政策の決定においてはあくまで外部的な環境要因として扱うということである」、なるほど。
・『日銀にとっての金融政策は「物価一辺倒」 一方の日本は「物価の安定を通じて経済の健全な発展に資する」という建て付けになっている。となると、日銀にとって、金融政策は、景気の微調整ではなく、あくまで物価、一義的には物価一辺倒になる。 そうなると、金融政策における経済の位置づけは難しくなる。なぜなら、21世紀に入ってから、コロナショックで物価が急上昇するまでは、インフレ率が低い水準で安定していたから、景気刺激を金融緩和で行うことができた。つまり、金融政策は景気刺激を目的と、インフレ率は、単なる制約条件となり、インフレ率が大幅に上がらなければ、金融緩和をいつまでも存分にやっていい、というような状況となった。 これは、日本に限らず、アメリカも同じような雰囲気だった。アメリカでは、コロナで景気が悪くなることを懸念したから、日本をはるかに上回る大規模財政出動と合わせて、大幅な金融緩和を行い、それを継続した。 コロナ禍によるサプライチェーンの大混乱に加え、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー価格が急騰し、その結果、インフレ率が上昇しても、あまり警戒せず「需要の過熱による物価上昇ではないから、これは一時的であり、金融引き締めは不要」としたため、利上げが大幅に遅れ、その結果、高い短期金利の継続を余儀なくされた。 一方、日本では、21世紀に入ってからは、バブル処理が終わった後も、財政、金融ともにひたすら景気対策に動員された。財政赤字が拡大していたこともあって、金融政策は、つねに緩和可能な最大限を行うことが求められ、継続された。 その結果、ゼロ金利の限界を超えて量的緩和、異次元緩和、イールドカーブコントロール(長短金利操作)と、次々とイノベイティブな金融政策が日銀によって発明された。) また、株式の買い入れという異常な(不可解な)政策まで動員された。日本では物価がほとんど上昇しなかったから、人々は、金融緩和を拡大しない日銀は、ケチでやる気がなく無能力であるかのように思った。 デフレ脱却を合言葉にしたアベノミクスにおける異次元緩和は、とにかく物価を上げること、インフレを起こすことが目的となり、リフレ政策と呼ばれたが、日銀の制度上の建て付けからは、とにかくインフレの目標(メドであろうが目標であろうが)を達成することが、一義的な目的であるから、景気とは無関係に物価が動かなすぎるのであれば、動かすことが目的となり、それでも動かなければ、日本経済が一時的にどうなろうと、物価を優先させるということは、原理的に間違っているわけではなかった。 しかし、アベノミクスや異次元緩和に賛成していたほとんどの人々は、そういう物価原理主義とは無関係に、景気がよくなるに越したことはないし、金融緩和の弊害がインフレということなら、日本でインフレが起きるはずがないから、どんどん緩和すればいい、というだけの気持ちだった』、「日本」では、「金融政策は、つねに緩和可能な最大限を行うことが求められ、継続された。 その結果、ゼロ金利の限界を超えて量的緩和、異次元緩和、イールドカーブコントロール(長短金利操作)と、次々とイノベイティブな金融政策が日銀によって発明された。) また、株式の買い入れという異常な(不可解な)政策まで動員された。日本では物価がほとんど上昇しなかったから、人々は、金融緩和を拡大しない日銀は、ケチでやる気がなく無能力であるかのように思った・・・アベノミクスや異次元緩和に賛成していたほとんどの人々は、そういう物価原理主義とは無関係に、景気がよくなるに越したことはないし、金融緩和の弊害がインフレということなら、日本でインフレが起きるはずがないから、どんどん緩和すればいい、というだけの気持ちだった」、なるほど。
・『インフレ上昇、金融引き締め局面では「大きな分断」 この日米の状況が、インフレ率上昇後の金融政策を難しくしている。そして、永遠に人々に誤解されたまま、その誤解が放置され、金融政策は将来にわたって、永遠に中央銀行と市場(エコノミスト、政治家、メディア、一般の人々も含む)との意思疎通ができないままとなり、つねに誤解から、市場は混乱し、中央銀行は責められ、経済に大きな障害となっていく恐れがある。 なぜなら、緩和局面は誤解があっても、同床異夢であり、金融緩和はだれにとっても歓迎だったから、軋轢は表面化しなかったが、インフレ上昇、金融引き締め局面では、大きな分断が、中央銀行とそのほかの世界の間に生じてしまうからだ。 現在、アメリカ中央銀行が強烈な金融引き締め、高金利を継続しているのは、景気に配慮して行っているのではない。物価だけを考えてやっている。しかし、このまま物価が十分に下がらず、景気も悪化し始めると、なぜ早く利下げしないのだ、という圧力がかかり始める。 物価は高いままだが、インフレ率は低くはないが、上昇は止まっている。そして、景気はこれから悪化しそうだ。それなら、物価と景気のバランスをとって、利下げするべきだ、というのが外野の主張、要求となる。) しかし、中央銀行にとっては、物価と景気が対立したら、それは物価が当然優先されるのだ。長期的にインフレ率が高止まりすれば、それは長期的に経済に大きな悪影響を与える。だから、物価をとにかく下げることが優先される。物価と景気のバランスは二の次になる。 ここで問題なのは、金融引き締めを行っても、インフレ率がそれによって低下するわけではないことだ。なぜなら、インフレの要因のほとんどが供給側にあり、金融引き締めで需要を抑制しても、人手不足からの賃金上昇によるコスト高によるインフレだから、ほとんど効果はない。 それでも、中央銀行としては、インフレ率を下げるためには、需要抑制以外の手段はない。コスト高であったとしても、需要が増えれば、インフレは加速する可能性があり、効果がほとんどないとしても、金融引き締めをやめるわけにはいかないからだ。 この結果、人々の中央銀行への信頼、評価が下がり、長期的に、金融政策の効果が阻害される。金融緩和の局面になっても「緩和に後ろ向きだ、抑制気味だ」という批判が(印象によるものにすぎないのだが)続くことになる』、「インフレの要因のほとんどが供給側にあり、金融引き締めで需要を抑制しても、人手不足からの賃金上昇によるコスト高によるインフレだから、ほとんど効果はない。 それでも、中央銀行としては、インフレ率を下げるためには、需要抑制以外の手段はない。コスト高であったとしても、需要が増えれば、インフレは加速する可能性があり、効果がほとんどないとしても、金融引き締めをやめるわけにはいかないからだ。 この結果、人々の中央銀行への信頼、評価が下がり、長期的に、金融政策の効果が阻害される。金融緩和の局面になっても「緩和に後ろ向きだ、抑制気味だ」という批判が・・・続くことになる」、なるほど。
・『日銀と人々が分断、政策への信頼が永久に失われる懸念 日本においては、これが為替相場、円安について起きている。人々は、異次元緩和、大規模金融緩和を支持した。それは景気にプラスだし、株価が上がったし、それだけのことだった。物価への理念など関係ない。金融政策とは、景気と株価のためにやっていると思っていたし、今も思っている。株式や不動産のETF(上場投資信託)の買い入れも、株価を支えるのが金融政策の役目であると思ったし、今も思っている。 そこへ、物価高がやってきた。そして、強烈な円安がやってきた。「貧しい日本」と言われだした。電気代もガソリンも円安のせいだ。日銀は、金融政策で経済をよくする、景気をよくするはずで、消費者が生活に困る円安は当然止めてくるものと人々は思った。 しかし、実際はまったく逆で、物価がまだ十分上がらないから、もっと物価を上げると言っている。そして、円安はわれわれ中央銀行には関係ない、金融政策の目的ではない、と繰り返す。メディアでは、日米の金利差が円安の要因と言っている。要は、世界で日本だけ金利が低いから円安なのか。日銀の責任じゃないか。「日銀は意味不明だ。何をやっているんだ」ということになる。) しかし、これは、日銀の人々には響かない。「われわれの目的は物価だ。そして、物価は悲願のインフレ率2%定着の最後のチャンスだ。ここで逃しては、この20年の戦いが無駄になる」ということで、人々と日銀の分断は、日本でも永久に残り、将来の金融政策への人々の信頼は永久に失われてしまうだろう。 「『物価が上がらなければいいのに』」と嘆く人たちへ」「日銀は『円安』『国債の山』『次の緩和』をどうするか」(7月8~9日配信)での、渡辺努教授との対談記事でも明らかだが、日銀および金融政策の学問的な専門家は、物価というものを最優先に考えていることがわかる。 この数年の日銀の動き、植田総裁の金融政策のスタンスを、われわれ一般人の生活感や常識にとらわれずに観察してみると、物価最優先というのが建前ではなく、本音であることがわかるはずだ。これは、30~31日の日銀政策決定会合においても、アメリカの中央銀行の決定会合(FOMC=公開市場委員会)後の声明文を読んでも、再確認されるだろう』、「メディアでは、日米の金利差が円安の要因と言っている。要は、世界で日本だけ金利が低いから円安なのか。日銀の責任じゃないか。「日銀は意味不明だ。何をやっているんだ」ということになる。) しかし、これは、日銀の人々には響かない。「われわれの目的は物価だ。そして、物価は悲願のインフレ率2%定着の最後のチャンスだ。ここで逃しては、この20年の戦いが無駄になる」ということで、人々と日銀の分断は、日本でも永久に残り、将来の金融政策への人々の信頼は永久に失われてしまうだろう」、なるほど。
・『「実体経済にひずみをもたらさない為替」を目標にすべき そして、実は、こうした物価最優先の考え方は理論的にも間違っている。とりわけ日銀においてそうだ。 なぜなら、21世紀の成熟国の経済においては、金融政策は金融市場、つまり、株式や債券などのリスク資産市場と為替市場に直接大きな影響を与え、実体経済には間接的にしか影響しない。それが、日銀の異次元緩和で得た教訓だ。 期待では物価は動かない。そうであれば、直接影響を与える市場にターゲットを絞って、それを安定化させる、コントロールすることで、間接的に実体経済を安定化させ、健全な経済発展を導く。それが、合理的なはずだ。 物価安定を通じて経済を発展させることが、実体経済の変動が経済変動の中心で、需要増加がインフレに直結する20世紀後半にはそうだったのだから、21世紀には、金融市場の動向が主導して実体経済に影響を与えるのだから、金融市場を直接の目標とすべきだ。 つまり、為替をターゲットとし、実体経済にひずみをもたらさない為替を目標とする。「2%のインフレ率を目標とする」のように、経済主体の行動が、ファンダメンタルズではなく為替水準およびその変動から影響を受けないような為替水準にとどまるように、という目標を設定する。インフレ率の変動が実体経済に影響を与えないようにする、のとまったく同じ精神だ。 そして、「景気安定」という目標を「株式市場や債券市場の安定」(つまりファンダメンタルズから大きく乖離しない、過度に変動しない)という目標に置き換え、これが実体経済に連動した形になるように安定化を図るべきなのだ。 なぜ、そのような自然なことができないのか。それは、「金融政策に為替や株価は関係ない、物価に集中」という過去の原理原則を忠実に心の底から正しいといまだに信じているからなのだ。そして、それは、日銀を日本社会から孤立させ、今後の通貨波乱のときに、日銀が力が発揮できない大きな要因となるであろう。 (当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)』、「物価最優先の考え方は理論的にも間違っている。とりわけ日銀においてそうだ。 なぜなら、21世紀の成熟国の経済においては、金融政策は金融市場、つまり、株式や債券などのリスク資産市場と為替市場に直接大きな影響を与え、実体経済には間接的にしか影響しない。それが、日銀の異次元緩和で得た教訓だ。 期待では物価は動かない。そうであれば、直接影響を与える市場にターゲットを絞って、それを安定化させる、コントロールすることで、間接的に実体経済を安定化させ、健全な経済発展を導く。それが、合理的なはずだ・・・21世紀には、金融市場の動向が主導して実体経済に影響を与えるのだから、金融市場を直接の目標とすべきだ。 つまり、為替をターゲットとし、実体経済にひずみをもたらさない為替を目標とする。「2%のインフレ率を目標とする」のように、経済主体の行動が、ファンダメンタルズではなく為替水準およびその変動から影響を受けないような為替水準にとどまるように、という目標を設定する。インフレ率の変動が実体経済に影響を与えないようにする、のとまったく同じ精神だ。 そして、「景気安定」という目標を「株式市場や債券市場の安定」・・・という目標に置き換え、これが実体経済に連動した形になるように安定化を図るべきなのだ」、金融政策の革命的な転換を主張している。
第三に、8月6日付け現代ビジネスが掲載した一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「日経平均の大暴落は「超円安」依存経済への警鐘だ…!市場を大パニックに陥れた「予想外の原因」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/135083
・『今回の株価大暴落を引き起こした原因は、為替レートが今後円高に転じる可能性が強くなったとの予想だ。これまでの日本の株価上昇を支えてきたのは、円安による企業利益の増大だったが、その状況が大きく変わる』、興味深そうだ。
・『大暴落の原因:重要なのは予想外のニュース 8月2日に、日経平均株価が大暴落した。週明けの5日も続落でマーケットが始まり、日経平均株価は終値は3万1458円となり、年初の終値3万3288円を下回った。7月11日につけた終値4万2224円に比べると、1万0766円(25.5%)の下げ、史上最大の暴落を記録した。 今後を考えるには、何が暴落の原因だったのかを明らかにしておく必要がある。考えられるものとしては、つぎの3つがある。 1) 日本銀行による利上げ 2) FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)による利下げ予告 3) アメリカ景気指標の悪化 結論を言えば、1、2ではなく、3が主因だった。ただし、それが直接に影響したのでなく、「それによって、FRBの利下げ幅が大きくなり、円高が進む。それが日本企業の収益を低下させる」という予想が広がったためだと考えられる。 ここで重要なのは、「何が予想外のニュース(サプライズ)だったか?」という点だ。予測されていたことは、すでに株価に織り込み済みになっているはずだからである。株価を動かすのは、予想外のニュースだ』、「ここで重要なのは、「何が予想外のニュース(サプライズ)だったか?」という点だ。予測されていたことは、すでに株価に織り込み済みになっているはずだからである。株価を動かすのは、予想外のニュースだ」、その通りだ。
・『日銀利上げやFRB利下げ予告は大きな原因でない まず、何が起きたかを時系列的に整理しておこう。7月の30、31日に日銀が政策決定会合を開いた。ここでの決定は国債購入の減額だけで、利上げの決定は行われないと考えられていたのだが、急にそれが議題になるとの情報が伝わり、31日(水)の午前から円高が進み、日経平均株価が下落した。 15時過ぎに植田総裁の記者会見があり、円高が進んだ。午前中は1ドル=153円程度であったものが、150~151円程度にまでの円高になった。しかし、株価は午後になって午前中の下落を取り戻し、終値は3万9140円と、前日より高くなった。つまり、日銀の利上げ決定はサプライズであったにもかかわらず、株価にはあまり大きな影響を与えなかったのだ。 続いて7月31日(日本時間では、8月1日の午前3時)に、FRBのパウエル議長が9月の利下げを示唆した。 これを受けて、ニューヨーク証券取引市場では、買いが先行して取引が始まった。利下げは株価に好影響を与えるから、当然の反応だ。 ここまではほぼ予測されていた展開だったのだが、その後、様々な経済統計が予想以上に米景気が悪化していることを示し始めた。特に失業率が上昇していることや、製造業の景況感指数が予想を下回る数字だったことが大きかった。 これを受けて、ダウ平均株価が急落し、1時は下げ幅が700ドルを超えた。 日本時間の8月1日午前9時頃から急激な円高が進み、それまで1ドル=150円程度であったものが、146円程度になった。 これを受けた8月1日の東京市場では、日経平均株価が寄り付きから値下がりし、終値は3万8083円となった。つまり、前日から1057円下落した。 日経平均株価は、8月2日(金)も寄り付きから下落し、前日終値から2216円安い3万5909円となった。そして週明けの8月5日(月)、終値は前営業日比で4451円安い3万1458円。史上最大の下落となった。7月11日につけた終値4万2224円に比べると、1万0766円(25.5%)の下げだ』、「8月5日(月)、終値は前営業日比で4451円安い3万1458円。史上最大の下落となった。7月11日につけた終値4万2224円に比べると、1万0766円(25.5%)の下げだ」、なるほど。
・『なぜ日本株が下落したのか? 「アメリカの経済指標が悪化したから、アメリカの株価が下落した」というのはよくわかる。とりわけ大きな影響を与えたのは、失業率が急上昇したことだった。 また、半導体製造会社インテルの業績が悪化して人員削減計画を発表し、株価が1日で4分の3に目減りするという「インテルショック」が生じた。これにつられて、TSMCやAmazon.comの株価も下落した。 理解しにくいのは、なぜ日本の株価が下落したかだ。日本の輸出が影響を受ける面もなくはないのだが、あまり大きな影響ではない。 最も大きな要因は、円高が進んだことだ。今年に入ってから日本企業の業績が好調だったが、それは円安によるものだったのだ。それがこれから大きく変化するという予想で、日本の株価が下がったのだ』、「今年に入ってから日本企業の業績が好調だったが、それは円安によるものだったのだ。それがこれから大きく変化するという予想で、日本の株価が下がったのだ」、なるほど。
・『そして、なぜ円高になったのか? では、なぜ為替レートの動向に大きな変化が生じたのか? 為替レートは日米の金利差によって大きな影響を受けるから、日米の金利政策が関連しているはずだ。しかし、これまで見てきたように、パウエル議長の会見直後までは、大きなサプライズはなかった。 急激な円高が進んだのは、FRBによる9月の金利引き下げ幅が大きくなるという予想ではないだろうか? 市場では、FRBの利下げが遅すぎるのではないとの考えが強まっていた。FRBは、今回のインフレを重大視せず、利上げに踏み切るのが遅すぎたと批判されている。そして、いま、利下げに踏み切るのも遅すぎるとの批判が強まっているのだろう。 アメリカの利下げが、今後どのようなタイミングと規模で進行するのかはまだわからないが、株価下落の影響で、これまで考えられていたよりも利下げ幅が大きくなる可能性は十分にある。市場では、9月に通常の2倍の利下げに踏み切るとの見方が広まっているようだ。 仮にそうなれば、日米金利は一挙に大きく縮小することになり、為替レートに対して大きな影響が及ぶ。つまり、本格的な円高が進む可能性がある。実際にそうなれば、日本株に対する影響も簡単には元に戻らないものになるだろう』、「9月に通常の2倍の利下げに踏み切るとの見方が広まっているようだ。 仮にそうなれば、日米金利は一挙に大きく縮小することになり、為替レートに対して大きな影響が及ぶ。つまり、本格的な円高が進む可能性がある。実際にそうなれば、日本株に対する影響も簡単には元に戻らないものになるだろう」、なるほど。
・『新NISAで株式投資を始めた人には大ショック 今年の初めに、日本では新NISAが導入された。それとタイミングを合わせるように、円安が進み、株価が上昇したことから、新しく株式投資を始める人が増えた。その多くが海外投資に向かった。 これらの人たちにとって、今回の暴落は大きなショックだったに違いない。 とりわけ海外投資の場合には、株価の下落だけではなく、円高(=外国通貨安)による影響があるので、日本円で見た資産額は大きく減ったはずだ。 もともと株式投資は極めてリスクが高いものだ。それに加えて、外国株への投資には為替レートのリスクもある。だから、極めてリスクが高い。これは当然のことなのだが、今年初めから株価が上昇し、為替レートも円安に進んでいたので、リスクの大きさが十分に認識されていなかったのではないだろうか。そのうえ、インフレ下では株式投資で資産を安全に運用できるとする考えが広がっていた。そうしたことを信じて投資をした人は、ショックだったに違いない。 政府も、これまで「貯蓄から投資へ」というスローガンの下に、銀行預金から株式投資などのリスク投資を勧めてきた。今回の暴落で資産を失った人から苦情が寄せられた場合、どのように対応できるだろうか?』、「新NISAで株式投資を始めた人には大ショック」、政府としては何ら対応できないだろう。
・『確実に利益が上がる投資法など存在しない 今回の大暴落の原因究明は、知的好奇心を満たすためには格好の材料だ。私がこの問題を考えているのは、そのためだ。 しかしいくら探求したところで、それによって株式投資で利益を得られるわけではない。私がやっているのは、後講釈であって、将来の予測ではないからだ。私が将来について述べているのは、「仮にこうなれば、こうなる」という条件付きの予測にすぎない。 「将来の株価や為替レートを予測することはできない」とは、どんなに優れた分析能力を持つ人が、どんなに大量のデータを分析してやったとしても、同じことである。これは、ファイナンス理論で「効率的市場仮説」と呼ばれる考えだ。 「金融リテラシーを身につけることが重要」とよく言われる。そのとおりだが、もっとも重要なのは、株価を予測する手法を学ぶことではない。「株式投資で確実に利益を上げる投資法は存在しない」と認識することだ』、「将来の株価や為替レートを予測することはできない」とは、「ファイナンス理論で「効率的市場仮説」と呼ばれる考えだ・・・もっとも重要なのは、株価を予測する手法を学ぶことではない。「株式投資で確実に利益を上げる投資法は存在しない」と認識することだ」、同感である。
第四に、8月6日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの鷲尾 香一氏による「日本株を襲うもうひとつの「不都合な真実」…日銀利上げで「円高デフレ大逆流」が招く「日経平均2万8000円台」の悪夢のシナリオ」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/135107?imp=0
・植田・日銀が犯した「3つの過ち」 8月5日の日本株の大暴落で、岸田文雄首相や植田総裁は日本版「ブラックマンデー」を演出した戦犯として歴史に刻まれることとなった。 前編『「日本株大暴落」戦犯たちの憂鬱と個人投資家の阿鼻叫喚…なにが日本版ブラックマンデーの引き金を引いたのか』で紹介したとおり、日本株暴落の引き金を引いた日本銀行の政策決定会合である。日銀と政府は大きな3つの間違いを犯した。 ひとつは、利上げと量的金融緩和策として行われていた長期国債の買入額の減額を同時に発表したこと。次に植田総裁がさらなる利上げに言及したこと。そして、米国FOMCの動向を読み間違えたことだ。 これによって、日本株は過去最大の下げ幅を記録したのだった』、なるほど。
・『しょせんは円安による株高だった… 直近の経過を振り返ろう。日経平均株価の終値は、日銀が利上げを発表した7月31日の3万9101円から翌8月1日には3万8126円に975円下落した。 しかし、米国の経済統計により、景気減速観が強まると、米国株の大幅な下げと相まって、8月2日には日経平均株価の終値は前日比2216円安の3万5909円と、下げ幅はブラックマンデー翌日の1987年10月20日(3836円安、14.9%安)以来およそ36年10ヵ月ぶりの大きさで、史上2番目の下げ幅となった。 さらに、8月2日発表の米国の7月雇用統計が非農業部門雇用者数11万4000人増と予想を下回り、失業率の前月比が21年9月以来約3年ぶりの高水準となる4.3%に上昇したことで米国の景気減速懸念が強まり、週明けの8月5日の日経平均株価は前週末比4451円安の3万1458円と史上最大の下げとなった。 7月31日に1ドル=153円台だった為替レートは8月5日には141円台まで円高が進行。わずか4営業日で10円以上という急激な円高となった。 日経平均株価の上昇は、円安進行を背景に進んできたといっても過言ではない。1ドル=136円台前半だった23年2月の日経平均株価は2万7446円だった。その後、円安の進行とともに、日経平均株価は上昇を続けたのである。 となれば、どの程度、円高がすすめば株価がどうなるかは見えてくる』、「1ドル=136円台前半だった23年2月の日経平均株価は2万7446円だった。その後、円安の進行とともに、日経平均株価は上昇を続けたのである」、なるほど。
・『日経平均は正念場「2万8000円台を覚悟せよ」 今回の日銀の利上げを受けた為替相場、日経平均株価の動きを見ると、日経平均株価が3万6000円に下落した8月2日の為替レートは148円だ。そして、日経平均株価が4000円を超える史上最大の下げとなり、3万1000円台に下落した8月5日の為替レートは142円付近だった。 これは、多少のブレはあるものの、過去の日経平均株価の水準と為替レートの水準の関係に非常に近い。 植田総裁が「次のステップに行く」と明言したように、さらなる利上げがあるとすれば、パウエルFRB議長の「9月の利下げ開始もありうる」との発言と相まって、日本の利上げ、アメリカの利下げにより、円高はさらに進行することになる。市場では、すでに次の日銀の利上げ時期を12月との見方が強まっている。 となれば、円高が140円まで進めば、日経平均株価は3万円割れとなる可能性が大きい。場合によっては、2万8000円台まで下落する可能性すらある』、「円高が140円まで進めば、日経平均株価は3万円割れとなる可能性が大きい。場合によっては、2万8000円台まで下落する可能性すらある」、なるほど。
・『「物価高」は落ち着いてきている 問題は、実は日銀が利上げの根拠とする「物価の上振れリスク」には、すでに陰りが見えていることだ。 為替レートの動きと生鮮食品を除く消費者物価指数を並べてみると、見事なまでに円安進行が輸入物価の上昇を通して、国内物価高を演出していたことがわかる。 23年2月の為替レートが136円だった時、消費者物価指数は103.6だった。それが、24年6月に160円まで円安が進むと、消費者物価指数は107.8まで上昇している。この点では、確かに円安を止め、円高にすることで物価高を抑えることができる可能性は高い。 しかし、生鮮食品を除く消費者物価指数が前年同月比で上昇に転じたのは、21年9月からで23年1月には4.2%という高い伸びとなったが、その後は伸び率が低下基調をたどり、直近の6月には2.6%にまで低下している。) その上、上昇要因となっているのは、円安を踏まえたエネルギー価格の上昇だ。 生鮮食品およびエネルギーを除く消費者物価指数は、23年4~10月の半年間は4%台と高い伸びだったが、直近の6月には2.2%まで低下している。 日銀は物価上振れリスクの要因のひとつとして、エネルギー価格の上昇に対する政府の補助が終了することをあげているが、エネルギーを除けば、輸入物価上昇ペース鈍化の影響から物価上昇は収まりつつあり、為替円高が進めば、日銀が掲げる2%の物価目標の達成は危ういものとなる。 今回の急激な円高進行により物価が下落に転じた場合、日銀は果たしてどのような金融政策を選択するのであろうか』、「エネルギーを除けば、輸入物価上昇ペース鈍化の影響から物価上昇は収まりつつあり、為替円高が進めば、日銀が掲げる2%の物価目標の達成は危ういものとなる」、なるほど。
・『やっぱり露呈した「稚拙な市場との対話」 そもそも、生鮮食品を除く消費者物価指数が前年同月比で4%を超える上昇となった23年初めには、日銀は利上げを強く否定していた。それが、物価高が落ち着き始めている今になって、根拠の薄い上振れリスクを理由に利上げに踏み切ったのは、不可解ほかならない。 物価上昇が厳しかった時から、緩やかに小幅な利上げを行っていれば、今回のような日経平均株価の大暴落という事態を引き起こすことはなかったはずだ。 以前から筆者は、日銀はフォワードガイダンスが致命的に下手だと指摘している。 アメリカでは、FRBがFOMCで9月の利下げを示唆するなど、市場が利下げに対して用意周到な準備ができるようにしている。日銀も利上げの方針を事前に市場に浸透させていくことができたはずだ。 日経平均株価の史上最大の下落は、日銀の稚拙な金融政策が原因にほかならない。 連載記事『ドル円147円割れで「株価下落」が始まった…!日銀・植田総裁が引き金を引く「日本株3万円割れ」に警戒せよ!』では、4ヵ月ほど前の日銀政策の状況について論じているのでこちらも参考としてほしい』、「日銀も利上げの方針を事前に市場に浸透させていくことができたはずだ。 日経平均株価の史上最大の下落は、日銀の稚拙な金融政策が原因にほかならない」、同感である。
第五に、9月12日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの鷲尾 香一氏による「まさか日銀で「植田総裁vs.内田副総裁」バトル勃発か…つぎの日銀会合は「円高急進」を覚悟せよ!正副総裁「意見の違い」で鮮明になった「ふたりの溝」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/137104?imp=0
・『7月大暴落、日銀の犯した罪 まもなく、日銀の金融政策決定会合が開催される。この会合の最大の注目点は、植田和男総裁の記者会見となるだろう。もしかしたら、この会見で相場に一波乱ということもあるかもしれない。今回は、その理由を説明していこう。 8月23日、植田総裁は衆議委員の財政金融委員会に出席した 前回、7月の日銀政策決定会合での利上げによって、為替相場は円安から円高基調に転換した。だが、それは株価の大暴落という大きな痛みを伴うものとなり、株式市場は今なお、不安定な状況にある。 円高転換で、たしかに輸入物価上昇は抑制されつつあるが、想定外の“令和の米騒動”があって米価は急上昇した。国民生活はなお大きな負担を強いられている。 筆者は8月6日に寄稿した『日本株大暴落」戦犯たちの憂鬱と個人投資家の阿鼻叫喚…なにが「日本版ブラックマンデー」の引き金を引いたのか』で、日銀は大きな3つのまちがいを犯したと指摘した。 1点目は、利上げと量的金融緩和策として行われていた長期国債の買入額の減額を同時に発表したこと。2点目は植田総裁がさらなる利上げに言及したこと。そして3点目は米国の動向を読みちがえたことだ。 しかも、その後の市場の混乱の火消しをする際に、植田総裁と内田眞一副総裁がそれぞれ異なる説明をしており、これはさらなる不安要素となるかもしれない』、「1点目」、「2点目」は間違いとは思わない。
・『植田総裁と内田副総裁の「意見の食いちがい」 7月の利上げ決定後の記者会見で、植田総裁は先行きについて「経済・物価情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく方針」を示している。 利上げが遅れれば、あとの利上げ幅が大幅なものになり、経済の安定を損ねるという「ビハインド・ザ・カーブ」(政策が後手に回る)リスクがあるからだと説明したのである。 ところが、8月7日に函館市で行われた金融経済懇談会で、次期総裁の有力候補とされる内田副総裁は「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはありません」と述べた。これは為替が急激に円高に振れ、株式相場が大混乱に陥っていたことを受けた火消しではあるが、筆者は内田副総裁が利上げしない理由としてあげたことが気になっている。 それは「円安が修正された結果、物価上昇上振れリスクが小さくなった」こと、また「円安修正は政策運営に影響する」という2点である。 つまり、利上げによって円高が進行したことで、さらなる利上げの必要性が低下したと言っているように聞こえるのだ。 さらに、内田副総裁は「わが国の場合、一定のペースで利上げをしないとビハインド・ザ・カーブに陥ってしまうような状況ではありません」と述べ、金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはないと明言した。この内田副総裁の発言は、植田総裁の発言を180度ひっくり返すものだ』、「内田副総裁」の発言は、あくまで「株式相場が大混乱に陥っていたことを受けた火消し」であって、「植田総裁」と意見が根本的に食い違っているとみるのは誤りだと思う。
・『意見の食い違いから起こる市場の混乱 正副総裁の方針の違いは、市場が日銀のフォワードガイダンスを信用できなくなり、大きな混乱の要因となる。 ところが、二人の意見の食い違いを裏づけるように、8月23日に国会閉会中審査の衆院・財政金融委員会に出席した植田総裁は、内田副総裁の発言を否定する姿勢を示したのである。 まず、7月の利上げ後に株価が大暴落した点について、「8月2日の米国7月分雇用統計が予想以上に下振れたことによるもの」と答弁し、日銀の利上げが要因ではないとの姿勢を貫いた。 さらに、「現在の実質金利は非常に低く、強い緩和環境を作っている」、また、「経済に大きな悪影響を与えずに追加利上げを進めることが妥当」との考えを示して、さらなる利上げに対する姿勢を変えなかった。 当然、委員からは植田総裁と内田副総裁の発言が食い違っていることについて、説明を求める質問がなされたが、なんと植田総裁は明確な答弁をしなかった。説明が行われなかったことで、かえって両者の間の溝が鮮明となってしまったのだ。 繰りかえすが、方針が明確でない金融当局の動きは、市場が見通しを立てるのを阻害し、混乱のひとつの要因ともなりえる。 では、こうした不安要素をかかえながら、9月19・20日の金融政策決定会合ではどのような決定が行われるのだろうか。 筆者の分析については、つづく後編記事『つぎの「日銀会合」でまた波乱か…!「植田総裁vs.内田副総裁」バトル勃発で、いま注目が集まっている「植田発言」』でじっくりとお伝えしていこう』、「内田副総裁」が「植田総裁」では言えないことも補足的に説明するのは、「副総裁」としての当然の責務だ。それを根本的な見解が食い違っているかのように捉えるのは、筆者の常識を疑いたくなる。
先ずは、本年7月13日付け東洋経済オンラインが掲載した慶応義塾大学大学院教授の小幡 績氏による「「断捨離」をした日銀は7月末にどう動くのか 渡辺努・東大教授の「物価理論」を解説しよう」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/776645
・『先日、物価に関する日本一、いや世界一の研究家である、東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授にインタビューさせていただく機会があった。 それは「東洋経済オンライン」で2つの記事になった(前編「『物価が上がらなければいいのに』と嘆く人たちへ」、後編「日銀は『円安』『国債の山』『次の緩和』をどうするか」)。だが、インタビュアーの未熟さにより、インタビューの解説が必要だと感じたので、今回は筆者の理解する「渡辺物価理論」を独自に補足解説したい』、興味深そうだ。
・『なぜ「機能不全」を解消しなければいけないのか この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています【2024年1月5日編集部追記】2024年1月1日、山崎元さんは逝去されました。心から哀悼の意を捧げ、ご冥福をお祈りします)。記事の一覧はこちら まず、渡辺理論の主張の中核は、以下のひとことに尽きる。 『物価とは何か』では、ミクロの価格を蚊に、マクロの物価を蚊柱にたとえていますが、蚊が死んでしまったので、蚊柱の動きも止まったというのが私の理解です。物価安定と見間違えてはいけない」。 えっ?これだけでは、わからない? では、もう少しかみ砕こう。渡辺教授の理論体系とは以下の1~6からなる。 1日本では1995年以降、企業が自分の製品の価格を決める力を失った 2その結果、市場経済の中核である「価格メカニズム」が機能不全に陥 った 3このコストはとてつもなく大きい。これが長期に定着すれば、実体経済へのダメージはさらに拡大、長期化する 4だから、かなりの副作用があったとしても、価格メカニズムの機能不全を解消しないといけない 5そのためには、社会全体、経済全体の認識を変えるために、マクロの 政策変更が必要であり、有効である可能性がある 6そのためには、ショック療法的な手段も試してみる価値はあるし、試すべきだ) ちなみに、筆者は1から3まで120%渡辺理論に賛成で、渡辺理論の世界一の理解者であると同時に、世界一、渡辺理論に近い意見を持っているのが小幡績である。しかし、筆者は4から6には強く反対で、ここが渡辺・小幡の大きな対立点である。目指すゴールは一緒、問題認識も一緒、しかし、アプローチが180度(いや90度かな?)異なる』、「筆者は1から3まで120%渡辺理論に賛成で、渡辺理論の世界一の理解者であると同時に、世界一、渡辺理論に近い意見を持っているのが小幡績である。しかし、筆者は4から6には強く反対で、ここが渡辺・小幡の大きな対立点である。目指すゴールは一緒、問題認識も一緒、しかし、アプローチが180度(いや90度かな?)異なる」、なるほど。
・『「渡辺チャート」が可視化した「日本企業の停滞」 順番に、少し詳しく見てみよう。 1の「企業が自分の製品価格を決める力を失ったこと」に関しては、渡辺教授が長年にわたって、研究、主張してきた。それを象徴的に可視化したものは、渡辺チャートと呼ばれている。日本の消費者物価を構成する600品目の個別のインフレ率(前年同月比の変化率)を計算し、頻度分布をグラフにしたものだ。日本の個別品目の価格変動が1995年以降一気に減少し、ゼロ付近の頻度が極端に高まったことが可視化されたのである。 近年では、日本企業が価格変更できないから量を減らす「ステルス値上げ」などの対応を迫られたことが有名になった。しかも、コロナ禍後では、アメリカをはじめ世界にも広がり、「シュリンケーション」(シュリンク=縮むとインフレーションをかけた言葉)という言葉が生まれた。しかし、それでもアメリカでは、価格変更のグラフが日本のようにゼロに集中することはなかった。 これは、まったく私も賛成で、企業の度胸のなさは、この連載でも何度か指摘したところである。さらに、ビジネススクール的な文脈でいうと、日本の企業は、価格設定を経営の戦略変数に入れていないことがほとんどで、本当に駄目だ。これこそ利益率が低い理由であり、ひいては日本の生産性やGDP(付加価値率)が伸びない理由であるとも指摘してきた。要は「ぼったくり」とまではいわないが、消費者からむしり取ってでも儲けようという意欲、気概、力が足りないのである。 2については、「価格メカニズム」は、市場経済の中核、経済理論の中核であり、ミクロ経済学では最重要のところである。最近はゲーム理論ばかり教えるから重要性の認識が低下しているが、市場における一般均衡、それを達成する価格メカニズムが市場経済の最重要要素、ほぼすべてである。 だから、これが危機に陥るとは、市場経済の終わりである。渡辺教授も以下のように言っている。「2年前ぐらいから僕が使っているのが、旧ソ連の例です。旧ソ連の経済システムは価格というシグナルそのものがなく、生産量を割り当てていましたが、やっぱり失敗する。日本では価格はありますが、動いていなければ価格メカニズムがないに等しい。その結果として資源配分が歪んできた」。 これには筆者も200%賛成だ。したがって、渡辺理論の日本の物価への懸念はミクロ経済学的な資源配分の歪み、ということに尽きるのである。個々の蚊が死んでしまったこと、あるいは仮死状態になってしまったことがすべてで、彼らを仮死状態から生き返らせることが、何よりも重要なのである。それは個々の蚊(個々の製品、個々の企業)が死んでしまい、それが蚊柱全体(市場経済全体)を殺してしまうことになりかねないからである。 これを理解していれば、多くはアメリカで教育を受けてきたマクロ経済学者、マクロ金融学者を驚愕させる「渡辺発言」も、何ら驚きでないどころか、なるほどと合点がいくのである』、「1については」「日本の企業は、価格設定を経営の戦略変数に入れていないことがほとんどで、本当に駄目だ。これこそ利益率が低い理由であり、ひいては日本の生産性やGDP(付加価値率)が伸びない理由であるとも指摘してきた。要は「ぼったくり」とまではいわないが、消費者からむしり取ってでも儲けようという意欲、気概、力が足りないのである・・・2については・・・日本では価格はありますが、動いていなければ価格メカニズムがないに等しい。その結果として資源配分が歪んできた」。 これには筆者も200%賛成だ。したがって、渡辺理論の日本の物価への懸念はミクロ経済学的な資源配分の歪み、ということに尽きるのである」、なるほど。
・『物価は動きすぎてもいけないが、動かないのもいけない 「日本では、平均的な物価の上昇率が0とかマイナス1%になったこと以上に、『個々の価格が動かなくなったこと』が問題だった」「実はトータルの物価上昇(インフレ)率は1%でも2%でも、5%でもいいんです」「行きすぎたインフレがなぜいけないのかというと、不確実性が高すぎて資源配分が歪むからです。10%や20%まで上がると明らかに歪みが起きます。 つまり、資源配分の歪みがいけない。価格が動きすぎても不確実性が高まることにより歪む。一方、動かなすぎても、配分が変わらず歪んでしまう。物価は動きすぎてもいけないが、動かないのも同様に悪い、ということなのだ。 その結果が、3の「価格の機能不全のコスト負担と実態経済へのダメージ拡大、長期化懸念」という主張になる。1と2の現象は、日本に長年根付いてきたものではない。1990年のバブル崩壊後、急速に生まれたものだ。だから、1990年代後半にいち早く手を打っておけば、こんな事態にはならなかった。30年も定着することはなかったはずである。遅くても遅すぎるということはない。今こそ、最後のチャンスだ。だから4~6の主張になるのである。) 確かに価格の機能不全のコストは大きい。だから、筆者は3については80%賛成できる。ただ、その中身は、渡辺教授と筆者では少し違う。渡辺教授はこう言う。 「企業は通常、価格を決めるパワーを持っているわけですが、それが奪われてしまった。そうすると企業は、何か新しい商品を作るために投資して、高い価格をつけて儲けることができません。最初からいい商品を作ることをあきらめる。価格をコントロールできない環境では、企業はアグレッシブな行動ができなくなってしまう。それでも当然、収益を上げなければいけないので、じゃあコストカットとなって、経済がどんどん後ろ向きに回ってしまう。これがデフレの最大の弊害だと思っています」。 筆者は違うと思う。これは企業がデフレを言い訳にして何もしていないだけだ。新しい製品なら新しい価格が付く。既存の製品の価格が変えられないからこそ、アグレッシブに新しいことをする。不況こそが次への脱皮を促す。だから、原因はデフレではなく、個々の企業が原因だと思う』、「筆者は3については80%賛成できる。ただ、その中身は、渡辺教授と筆者では少し違う。渡辺教授はこう言う。 「企業は通常、価格を決めるパワーを持っているわけですが、それが奪われてしまった。そうすると企業は、何か新しい商品を作るために投資して、高い価格をつけて儲けることができません。最初からいい商品を作ることをあきらめる。価格をコントロールできない環境では、企業はアグレッシブな行動ができなくなってしまう。それでも当然、収益を上げなければいけないので、じゃあコストカットとなって、経済がどんどん後ろ向きに回ってしまう。これがデフレの最大の弊害だと思っています」。 筆者は違うと思う。これは企業がデフレを言い訳にして何もしていないだけだ。新しい製品なら新しい価格が付く。既存の製品の価格が変えられないからこそ、アグレッシブに新しいことをする。不況こそが次への脱皮を促す。だから、原因はデフレではなく、個々の企業が原因だと思う」、なるほど。
・『大きくなった「為替の歪み」をどうすべきか さらに、4「かなりの副作用があったとしても、価格メカニズムの機能不全を解消しないといけない」 5「そのためには、社会全体、経済全体の認識を変えるために、マクロの政策変更が必要であり、有効である可能性がある」 6「そのためには、ショック療法的な手段も試してみる価値はあるし、試すべきである」という4~6の主張に対しては、前出のとおり、筆者の賛成率は0%である。大反対だ。 4から6は一体となっている主張だが、筆者はそれぞれ反対するところがある。まず、4だ。渡辺教授はこう言っている。 「僕は、価格が動かないことで実体経済が歪むコストが大きいから、金融市場では少々のことが起きても仕方がないと思っています。 少々のこと、というのがどの程度か、ということが問題だが、この文脈では、金融市場とは為替の話だった。筆者としては、為替の歪みはとてつもなく大きく、かつ金融政策により生じてしまった責任があると思うし(つまりやるべきでなかった)、一方で、今後円安を止める力もあると思っている。) そして5は、もっとも意見が異なる。渡辺教授は、このように主張する。「社会全体が共通の認識として「価格は変わらないもの」と信じてしまっていて、個々の企業が解決できる問題じゃなかったんです」。 つまり、この価格メカニズム機能不全現象が、個々の企業ではどうしようもない。消費者を中心として社会全体が、価格は変わらない、と思ってしまっているから、マクロで社会全体の意識を変えなければいけない、と思っている。 一方、筆者の意見は、企業も消費者もみんなが萎縮した形で均衡しているのだから、マクロの金融政策では抜け出せず、企業が行動を変えるようなインセンティブを与えるとか、ミクロ政策を打ち出さないと効かないのでは、というものだ』、「4から6は一体となっている主張だが、筆者はそれぞれ反対するところがある。まず、4だ。渡辺教授はこう言っている。 「僕は、価格が動かないことで実体経済が歪むコストが大きいから、金融市場では少々のことが起きても仕方がないと思っています。 少々のこと、というのがどの程度か、ということが問題だが、この文脈では、金融市場とは為替の話だった。筆者としては、為替の歪みはとてつもなく大きく、かつ金融政策により生じてしまった責任があると思うし(つまりやるべきでなかった)、一方で、今後円安を止める力もあると思っている。) そして5は、もっとも意見が異なる。渡辺教授は、このように主張する。「社会全体が共通の認識として「価格は変わらないもの」と信じてしまっていて、個々の企業が解決できる問題じゃなかったんです」。 つまり、この価格メカニズム機能不全現象が、個々の企業ではどうしようもない。消費者を中心として社会全体が、価格は変わらない、と思ってしまっているから、マクロで社会全体の意識を変えなければいけない、と思っている。 一方、筆者の意見は、企業も消費者もみんなが萎縮した形で均衡しているのだから、マクロの金融政策では抜け出せず、企業が行動を変えるようなインセンティブを与えるとか、ミクロ政策を打ち出さないと効かないのでは、というものだ」、なるほど。
・『ミクロで解決すべきか、マクロで解決すべきか 180度違うというよりは、ミクロで解決すべきかマクロか、という話。実際、価格メカニズムが死んでいるというのが問題、という点は、120%一致している。対談でも以下のようなやりとりがあった。 小幡「(機能不全の)状況を壊さなければいけないことはわかるんです」。 渡辺「問題は、マクロの金融政策で壊れるかどうか、ですね」。 小幡「ここ数年でわかったのは、『円安で輸入価格が上がったのは目に見えるから、値上げせざるをえないとわかれば皆、受け入れる』ということだと思う」。 渡辺「異次元緩和は実は、それと似たことを政策的にやりたかったけれど、消費者や企業経営者に影響を与えるようなメッセージは出せませんでした。人間が行う政策よりも、パンデミックや戦争のほうが定常状態を変える力としては強いんだろうなと思います」 筆者の感想としては、そう思っているなら、なぜそれでも金融政策に、価格メカニズム復活のきっかけを期待するのか、という疑問が残る。) しかし、渡辺教授は、何とか価格メカニズム復活のために、現状の委縮均衡の完全なる破壊に執念を燃やしている、あるいは、今が、最後の最大のチャンスだと思っているようだ。 「今は同調だろうがなんだろうが、価格が動いてくれればもうけもの。スーパーなどの販売価格をPOSデータでみても、これまで価格が動かない商品の割合が7割だったのが減ってきています。顕著に減ってきています。価格も賃金も動かない状態からとにかく脱出する。そうなりつつあるから、しっかり固めるときだと思います」』、「渡辺教授は、何とか価格メカニズム復活のために、現状の委縮均衡の完全なる破壊に執念を燃やしている、あるいは、今が、最後の最大のチャンスだと思っているようだ。 「今は同調だろうがなんだろうが、価格が動いてくれればもうけもの。スーパーなどの販売価格をPOSデータでみても、これまで価格が動かない商品の割合が7割だったのが減ってきています。顕著に減ってきています。価格も賃金も動かない状態からとにかく脱出する。そうなりつつあるから、しっかり固めるときだと思います」、なるほど。
・『日銀は「断捨離後」の「次の一手」をどうするのか? 6については、結果的には意見は一致した。異次元緩和、「黒田緩和」が始まったときは、渡辺教授は、こう思っていた。 「実は、2013年に異次元緩和を始めた黒田東彦前総裁も(デフレが何らかの弊害をもたらしたか否か、という論点を)説明したことがないんですよ。僕はこう解釈しました。消費者や価格をつける企業の人たちのマインドを『価格というのは上がるもの』に変えようとしているんだと」。 そして、今の渡辺教授の見解は、こうだ。 「(異次元緩和は)事実として全然うまくいかなかったから、失敗したとは思います。2016年1月に導入したマイナス金利の評判が悪かった頃からそう思い始めました。効いてほしかったですが、結果的に効かなかったのだから、明らかに無用の長物です」。 しかし、今後については、私とは意見が異なるようだ。 「3月の日銀の決定は、要らないモノを捨てる『断捨離』なんだと説明しています。断捨離のポイントは、要るモノと要らないモノを区別することです。要るモノとして残したのが、バランスシートです。バランスシートが大きい状態はやっぱり望ましいんですよ」。 さあ、7月30~31日の金融政策決定会合で、植田和男・日銀総裁は、どの程度国債買い入れを減らすのか。そして、それはバランスシートのサイズを意識したものになるのか、それとも、毎月の購入額というフローの額を重要視するのか。注目だ。 今後も、渡辺理論の発展を願うし、再び、議論の機会を持てるのを楽しみにしている(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者が競馬論や週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)』、「6については、結果的には意見は一致・・・しかし、今後については、私とは意見が異なるようだ。 「3月の日銀の決定は、要らないモノを捨てる『断捨離』なんだと説明しています。断捨離のポイントは、要るモノと要らないモノを区別することです。要るモノとして残したのが、バランスシートです。バランスシートが大きい状態はやっぱり望ましいんですよ」。 さあ、7月30~31日の金融政策決定会合で、植田和男・日銀総裁は、どの程度国債買い入れを減らすのか。そして、それはバランスシートのサイズを意識したものになるのか、それとも、毎月の購入額というフローの額を重要視するのか。注目だ」、さあ、どうなるだろう。
次に、7月31日付け東洋経済オンラインが掲載した慶応義塾大学大学院教授の小幡 績氏による「日銀は為替を金融政策の対象に入れるべきだ このままでは金融政策への信頼が失われる懸念」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/787795?display=b
・『日本銀行は、「金融政策は為替を対象としていない」と繰り返している。これだけ円安に国民や政治家が悲鳴を上げても、その説明はまったく変わらない。しかし、これは本当に本音なのか、それとも建前なのか? エコノミストやメディアの人々のほとんどは、これは日銀の建前だと思っている。だから、円安が進むと、日銀の利上げが早まるかもしれない、という日銀ウォッチャーやエコノミストのコメントがメディアにあふれ出す』、興味深そうだ。
・『「為替は金融政策の対象でない」は日銀の「信念」? しかし、私は、これは日銀の本音であると思っている。それどころか、信念であり、絶対に譲れない、譲ってはいけないと信じているのではないか、と推測している。そして、それが現代の中央銀行の問題であり、とりわけ日銀にとっては致命的なものになりうると考えている。 なぜか。説明しよう。 まず「為替は金融政策の対象でない」という考え方は、成熟国における現代の中央銀行の役割としては教科書的なものだ。 実際、植田和男日銀総裁もそう繰り返し述べる。例えば、2024年3月27日の衆議院財務金融委員会で、植田総裁は、「金融政策は為替相場を直接コントロールの対象としていない」「為替政策は財務省の所管と理解している」と答え、そして、為替は「経済、物価に重要な影響を及ぼすひとつの要因」と述べた。これは、まさに現在の日銀の模範的な回答だ。 つまり、金融政策の目的は、経済、物価であり、為替はその経済と物価に影響を及ぼすから、アメリカの経済が日本経済に影響を与えるのと同様に、重要な要因だが、金融政策の決定においてはあくまで外部的な環境要因として扱うということである。) 実は、この議論の構造は、金融政策の対象である経済と物価の関係に似ている。よく知られているように、FED(アメリカ中央銀行)には、物価の安定と雇用の最大化という2つの使命(デュアルマンデート)がある』、「金融政策の目的は、経済、物価であり、為替はその経済と物価に影響を及ぼすから、アメリカの経済が日本経済に影響を与えるのと同様に、重要な要因だが、金融政策の決定においてはあくまで外部的な環境要因として扱うということである」、なるほど。
・『日銀にとっての金融政策は「物価一辺倒」 一方の日本は「物価の安定を通じて経済の健全な発展に資する」という建て付けになっている。となると、日銀にとって、金融政策は、景気の微調整ではなく、あくまで物価、一義的には物価一辺倒になる。 そうなると、金融政策における経済の位置づけは難しくなる。なぜなら、21世紀に入ってから、コロナショックで物価が急上昇するまでは、インフレ率が低い水準で安定していたから、景気刺激を金融緩和で行うことができた。つまり、金融政策は景気刺激を目的と、インフレ率は、単なる制約条件となり、インフレ率が大幅に上がらなければ、金融緩和をいつまでも存分にやっていい、というような状況となった。 これは、日本に限らず、アメリカも同じような雰囲気だった。アメリカでは、コロナで景気が悪くなることを懸念したから、日本をはるかに上回る大規模財政出動と合わせて、大幅な金融緩和を行い、それを継続した。 コロナ禍によるサプライチェーンの大混乱に加え、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー価格が急騰し、その結果、インフレ率が上昇しても、あまり警戒せず「需要の過熱による物価上昇ではないから、これは一時的であり、金融引き締めは不要」としたため、利上げが大幅に遅れ、その結果、高い短期金利の継続を余儀なくされた。 一方、日本では、21世紀に入ってからは、バブル処理が終わった後も、財政、金融ともにひたすら景気対策に動員された。財政赤字が拡大していたこともあって、金融政策は、つねに緩和可能な最大限を行うことが求められ、継続された。 その結果、ゼロ金利の限界を超えて量的緩和、異次元緩和、イールドカーブコントロール(長短金利操作)と、次々とイノベイティブな金融政策が日銀によって発明された。) また、株式の買い入れという異常な(不可解な)政策まで動員された。日本では物価がほとんど上昇しなかったから、人々は、金融緩和を拡大しない日銀は、ケチでやる気がなく無能力であるかのように思った。 デフレ脱却を合言葉にしたアベノミクスにおける異次元緩和は、とにかく物価を上げること、インフレを起こすことが目的となり、リフレ政策と呼ばれたが、日銀の制度上の建て付けからは、とにかくインフレの目標(メドであろうが目標であろうが)を達成することが、一義的な目的であるから、景気とは無関係に物価が動かなすぎるのであれば、動かすことが目的となり、それでも動かなければ、日本経済が一時的にどうなろうと、物価を優先させるということは、原理的に間違っているわけではなかった。 しかし、アベノミクスや異次元緩和に賛成していたほとんどの人々は、そういう物価原理主義とは無関係に、景気がよくなるに越したことはないし、金融緩和の弊害がインフレということなら、日本でインフレが起きるはずがないから、どんどん緩和すればいい、というだけの気持ちだった』、「日本」では、「金融政策は、つねに緩和可能な最大限を行うことが求められ、継続された。 その結果、ゼロ金利の限界を超えて量的緩和、異次元緩和、イールドカーブコントロール(長短金利操作)と、次々とイノベイティブな金融政策が日銀によって発明された。) また、株式の買い入れという異常な(不可解な)政策まで動員された。日本では物価がほとんど上昇しなかったから、人々は、金融緩和を拡大しない日銀は、ケチでやる気がなく無能力であるかのように思った・・・アベノミクスや異次元緩和に賛成していたほとんどの人々は、そういう物価原理主義とは無関係に、景気がよくなるに越したことはないし、金融緩和の弊害がインフレということなら、日本でインフレが起きるはずがないから、どんどん緩和すればいい、というだけの気持ちだった」、なるほど。
・『インフレ上昇、金融引き締め局面では「大きな分断」 この日米の状況が、インフレ率上昇後の金融政策を難しくしている。そして、永遠に人々に誤解されたまま、その誤解が放置され、金融政策は将来にわたって、永遠に中央銀行と市場(エコノミスト、政治家、メディア、一般の人々も含む)との意思疎通ができないままとなり、つねに誤解から、市場は混乱し、中央銀行は責められ、経済に大きな障害となっていく恐れがある。 なぜなら、緩和局面は誤解があっても、同床異夢であり、金融緩和はだれにとっても歓迎だったから、軋轢は表面化しなかったが、インフレ上昇、金融引き締め局面では、大きな分断が、中央銀行とそのほかの世界の間に生じてしまうからだ。 現在、アメリカ中央銀行が強烈な金融引き締め、高金利を継続しているのは、景気に配慮して行っているのではない。物価だけを考えてやっている。しかし、このまま物価が十分に下がらず、景気も悪化し始めると、なぜ早く利下げしないのだ、という圧力がかかり始める。 物価は高いままだが、インフレ率は低くはないが、上昇は止まっている。そして、景気はこれから悪化しそうだ。それなら、物価と景気のバランスをとって、利下げするべきだ、というのが外野の主張、要求となる。) しかし、中央銀行にとっては、物価と景気が対立したら、それは物価が当然優先されるのだ。長期的にインフレ率が高止まりすれば、それは長期的に経済に大きな悪影響を与える。だから、物価をとにかく下げることが優先される。物価と景気のバランスは二の次になる。 ここで問題なのは、金融引き締めを行っても、インフレ率がそれによって低下するわけではないことだ。なぜなら、インフレの要因のほとんどが供給側にあり、金融引き締めで需要を抑制しても、人手不足からの賃金上昇によるコスト高によるインフレだから、ほとんど効果はない。 それでも、中央銀行としては、インフレ率を下げるためには、需要抑制以外の手段はない。コスト高であったとしても、需要が増えれば、インフレは加速する可能性があり、効果がほとんどないとしても、金融引き締めをやめるわけにはいかないからだ。 この結果、人々の中央銀行への信頼、評価が下がり、長期的に、金融政策の効果が阻害される。金融緩和の局面になっても「緩和に後ろ向きだ、抑制気味だ」という批判が(印象によるものにすぎないのだが)続くことになる』、「インフレの要因のほとんどが供給側にあり、金融引き締めで需要を抑制しても、人手不足からの賃金上昇によるコスト高によるインフレだから、ほとんど効果はない。 それでも、中央銀行としては、インフレ率を下げるためには、需要抑制以外の手段はない。コスト高であったとしても、需要が増えれば、インフレは加速する可能性があり、効果がほとんどないとしても、金融引き締めをやめるわけにはいかないからだ。 この結果、人々の中央銀行への信頼、評価が下がり、長期的に、金融政策の効果が阻害される。金融緩和の局面になっても「緩和に後ろ向きだ、抑制気味だ」という批判が・・・続くことになる」、なるほど。
・『日銀と人々が分断、政策への信頼が永久に失われる懸念 日本においては、これが為替相場、円安について起きている。人々は、異次元緩和、大規模金融緩和を支持した。それは景気にプラスだし、株価が上がったし、それだけのことだった。物価への理念など関係ない。金融政策とは、景気と株価のためにやっていると思っていたし、今も思っている。株式や不動産のETF(上場投資信託)の買い入れも、株価を支えるのが金融政策の役目であると思ったし、今も思っている。 そこへ、物価高がやってきた。そして、強烈な円安がやってきた。「貧しい日本」と言われだした。電気代もガソリンも円安のせいだ。日銀は、金融政策で経済をよくする、景気をよくするはずで、消費者が生活に困る円安は当然止めてくるものと人々は思った。 しかし、実際はまったく逆で、物価がまだ十分上がらないから、もっと物価を上げると言っている。そして、円安はわれわれ中央銀行には関係ない、金融政策の目的ではない、と繰り返す。メディアでは、日米の金利差が円安の要因と言っている。要は、世界で日本だけ金利が低いから円安なのか。日銀の責任じゃないか。「日銀は意味不明だ。何をやっているんだ」ということになる。) しかし、これは、日銀の人々には響かない。「われわれの目的は物価だ。そして、物価は悲願のインフレ率2%定着の最後のチャンスだ。ここで逃しては、この20年の戦いが無駄になる」ということで、人々と日銀の分断は、日本でも永久に残り、将来の金融政策への人々の信頼は永久に失われてしまうだろう。 「『物価が上がらなければいいのに』」と嘆く人たちへ」「日銀は『円安』『国債の山』『次の緩和』をどうするか」(7月8~9日配信)での、渡辺努教授との対談記事でも明らかだが、日銀および金融政策の学問的な専門家は、物価というものを最優先に考えていることがわかる。 この数年の日銀の動き、植田総裁の金融政策のスタンスを、われわれ一般人の生活感や常識にとらわれずに観察してみると、物価最優先というのが建前ではなく、本音であることがわかるはずだ。これは、30~31日の日銀政策決定会合においても、アメリカの中央銀行の決定会合(FOMC=公開市場委員会)後の声明文を読んでも、再確認されるだろう』、「メディアでは、日米の金利差が円安の要因と言っている。要は、世界で日本だけ金利が低いから円安なのか。日銀の責任じゃないか。「日銀は意味不明だ。何をやっているんだ」ということになる。) しかし、これは、日銀の人々には響かない。「われわれの目的は物価だ。そして、物価は悲願のインフレ率2%定着の最後のチャンスだ。ここで逃しては、この20年の戦いが無駄になる」ということで、人々と日銀の分断は、日本でも永久に残り、将来の金融政策への人々の信頼は永久に失われてしまうだろう」、なるほど。
・『「実体経済にひずみをもたらさない為替」を目標にすべき そして、実は、こうした物価最優先の考え方は理論的にも間違っている。とりわけ日銀においてそうだ。 なぜなら、21世紀の成熟国の経済においては、金融政策は金融市場、つまり、株式や債券などのリスク資産市場と為替市場に直接大きな影響を与え、実体経済には間接的にしか影響しない。それが、日銀の異次元緩和で得た教訓だ。 期待では物価は動かない。そうであれば、直接影響を与える市場にターゲットを絞って、それを安定化させる、コントロールすることで、間接的に実体経済を安定化させ、健全な経済発展を導く。それが、合理的なはずだ。 物価安定を通じて経済を発展させることが、実体経済の変動が経済変動の中心で、需要増加がインフレに直結する20世紀後半にはそうだったのだから、21世紀には、金融市場の動向が主導して実体経済に影響を与えるのだから、金融市場を直接の目標とすべきだ。 つまり、為替をターゲットとし、実体経済にひずみをもたらさない為替を目標とする。「2%のインフレ率を目標とする」のように、経済主体の行動が、ファンダメンタルズではなく為替水準およびその変動から影響を受けないような為替水準にとどまるように、という目標を設定する。インフレ率の変動が実体経済に影響を与えないようにする、のとまったく同じ精神だ。 そして、「景気安定」という目標を「株式市場や債券市場の安定」(つまりファンダメンタルズから大きく乖離しない、過度に変動しない)という目標に置き換え、これが実体経済に連動した形になるように安定化を図るべきなのだ。 なぜ、そのような自然なことができないのか。それは、「金融政策に為替や株価は関係ない、物価に集中」という過去の原理原則を忠実に心の底から正しいといまだに信じているからなのだ。そして、それは、日銀を日本社会から孤立させ、今後の通貨波乱のときに、日銀が力が発揮できない大きな要因となるであろう。 (当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)』、「物価最優先の考え方は理論的にも間違っている。とりわけ日銀においてそうだ。 なぜなら、21世紀の成熟国の経済においては、金融政策は金融市場、つまり、株式や債券などのリスク資産市場と為替市場に直接大きな影響を与え、実体経済には間接的にしか影響しない。それが、日銀の異次元緩和で得た教訓だ。 期待では物価は動かない。そうであれば、直接影響を与える市場にターゲットを絞って、それを安定化させる、コントロールすることで、間接的に実体経済を安定化させ、健全な経済発展を導く。それが、合理的なはずだ・・・21世紀には、金融市場の動向が主導して実体経済に影響を与えるのだから、金融市場を直接の目標とすべきだ。 つまり、為替をターゲットとし、実体経済にひずみをもたらさない為替を目標とする。「2%のインフレ率を目標とする」のように、経済主体の行動が、ファンダメンタルズではなく為替水準およびその変動から影響を受けないような為替水準にとどまるように、という目標を設定する。インフレ率の変動が実体経済に影響を与えないようにする、のとまったく同じ精神だ。 そして、「景気安定」という目標を「株式市場や債券市場の安定」・・・という目標に置き換え、これが実体経済に連動した形になるように安定化を図るべきなのだ」、金融政策の革命的な転換を主張している。
第三に、8月6日付け現代ビジネスが掲載した一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「日経平均の大暴落は「超円安」依存経済への警鐘だ…!市場を大パニックに陥れた「予想外の原因」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/135083
・『今回の株価大暴落を引き起こした原因は、為替レートが今後円高に転じる可能性が強くなったとの予想だ。これまでの日本の株価上昇を支えてきたのは、円安による企業利益の増大だったが、その状況が大きく変わる』、興味深そうだ。
・『大暴落の原因:重要なのは予想外のニュース 8月2日に、日経平均株価が大暴落した。週明けの5日も続落でマーケットが始まり、日経平均株価は終値は3万1458円となり、年初の終値3万3288円を下回った。7月11日につけた終値4万2224円に比べると、1万0766円(25.5%)の下げ、史上最大の暴落を記録した。 今後を考えるには、何が暴落の原因だったのかを明らかにしておく必要がある。考えられるものとしては、つぎの3つがある。 1) 日本銀行による利上げ 2) FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)による利下げ予告 3) アメリカ景気指標の悪化 結論を言えば、1、2ではなく、3が主因だった。ただし、それが直接に影響したのでなく、「それによって、FRBの利下げ幅が大きくなり、円高が進む。それが日本企業の収益を低下させる」という予想が広がったためだと考えられる。 ここで重要なのは、「何が予想外のニュース(サプライズ)だったか?」という点だ。予測されていたことは、すでに株価に織り込み済みになっているはずだからである。株価を動かすのは、予想外のニュースだ』、「ここで重要なのは、「何が予想外のニュース(サプライズ)だったか?」という点だ。予測されていたことは、すでに株価に織り込み済みになっているはずだからである。株価を動かすのは、予想外のニュースだ」、その通りだ。
・『日銀利上げやFRB利下げ予告は大きな原因でない まず、何が起きたかを時系列的に整理しておこう。7月の30、31日に日銀が政策決定会合を開いた。ここでの決定は国債購入の減額だけで、利上げの決定は行われないと考えられていたのだが、急にそれが議題になるとの情報が伝わり、31日(水)の午前から円高が進み、日経平均株価が下落した。 15時過ぎに植田総裁の記者会見があり、円高が進んだ。午前中は1ドル=153円程度であったものが、150~151円程度にまでの円高になった。しかし、株価は午後になって午前中の下落を取り戻し、終値は3万9140円と、前日より高くなった。つまり、日銀の利上げ決定はサプライズであったにもかかわらず、株価にはあまり大きな影響を与えなかったのだ。 続いて7月31日(日本時間では、8月1日の午前3時)に、FRBのパウエル議長が9月の利下げを示唆した。 これを受けて、ニューヨーク証券取引市場では、買いが先行して取引が始まった。利下げは株価に好影響を与えるから、当然の反応だ。 ここまではほぼ予測されていた展開だったのだが、その後、様々な経済統計が予想以上に米景気が悪化していることを示し始めた。特に失業率が上昇していることや、製造業の景況感指数が予想を下回る数字だったことが大きかった。 これを受けて、ダウ平均株価が急落し、1時は下げ幅が700ドルを超えた。 日本時間の8月1日午前9時頃から急激な円高が進み、それまで1ドル=150円程度であったものが、146円程度になった。 これを受けた8月1日の東京市場では、日経平均株価が寄り付きから値下がりし、終値は3万8083円となった。つまり、前日から1057円下落した。 日経平均株価は、8月2日(金)も寄り付きから下落し、前日終値から2216円安い3万5909円となった。そして週明けの8月5日(月)、終値は前営業日比で4451円安い3万1458円。史上最大の下落となった。7月11日につけた終値4万2224円に比べると、1万0766円(25.5%)の下げだ』、「8月5日(月)、終値は前営業日比で4451円安い3万1458円。史上最大の下落となった。7月11日につけた終値4万2224円に比べると、1万0766円(25.5%)の下げだ」、なるほど。
・『なぜ日本株が下落したのか? 「アメリカの経済指標が悪化したから、アメリカの株価が下落した」というのはよくわかる。とりわけ大きな影響を与えたのは、失業率が急上昇したことだった。 また、半導体製造会社インテルの業績が悪化して人員削減計画を発表し、株価が1日で4分の3に目減りするという「インテルショック」が生じた。これにつられて、TSMCやAmazon.comの株価も下落した。 理解しにくいのは、なぜ日本の株価が下落したかだ。日本の輸出が影響を受ける面もなくはないのだが、あまり大きな影響ではない。 最も大きな要因は、円高が進んだことだ。今年に入ってから日本企業の業績が好調だったが、それは円安によるものだったのだ。それがこれから大きく変化するという予想で、日本の株価が下がったのだ』、「今年に入ってから日本企業の業績が好調だったが、それは円安によるものだったのだ。それがこれから大きく変化するという予想で、日本の株価が下がったのだ」、なるほど。
・『そして、なぜ円高になったのか? では、なぜ為替レートの動向に大きな変化が生じたのか? 為替レートは日米の金利差によって大きな影響を受けるから、日米の金利政策が関連しているはずだ。しかし、これまで見てきたように、パウエル議長の会見直後までは、大きなサプライズはなかった。 急激な円高が進んだのは、FRBによる9月の金利引き下げ幅が大きくなるという予想ではないだろうか? 市場では、FRBの利下げが遅すぎるのではないとの考えが強まっていた。FRBは、今回のインフレを重大視せず、利上げに踏み切るのが遅すぎたと批判されている。そして、いま、利下げに踏み切るのも遅すぎるとの批判が強まっているのだろう。 アメリカの利下げが、今後どのようなタイミングと規模で進行するのかはまだわからないが、株価下落の影響で、これまで考えられていたよりも利下げ幅が大きくなる可能性は十分にある。市場では、9月に通常の2倍の利下げに踏み切るとの見方が広まっているようだ。 仮にそうなれば、日米金利は一挙に大きく縮小することになり、為替レートに対して大きな影響が及ぶ。つまり、本格的な円高が進む可能性がある。実際にそうなれば、日本株に対する影響も簡単には元に戻らないものになるだろう』、「9月に通常の2倍の利下げに踏み切るとの見方が広まっているようだ。 仮にそうなれば、日米金利は一挙に大きく縮小することになり、為替レートに対して大きな影響が及ぶ。つまり、本格的な円高が進む可能性がある。実際にそうなれば、日本株に対する影響も簡単には元に戻らないものになるだろう」、なるほど。
・『新NISAで株式投資を始めた人には大ショック 今年の初めに、日本では新NISAが導入された。それとタイミングを合わせるように、円安が進み、株価が上昇したことから、新しく株式投資を始める人が増えた。その多くが海外投資に向かった。 これらの人たちにとって、今回の暴落は大きなショックだったに違いない。 とりわけ海外投資の場合には、株価の下落だけではなく、円高(=外国通貨安)による影響があるので、日本円で見た資産額は大きく減ったはずだ。 もともと株式投資は極めてリスクが高いものだ。それに加えて、外国株への投資には為替レートのリスクもある。だから、極めてリスクが高い。これは当然のことなのだが、今年初めから株価が上昇し、為替レートも円安に進んでいたので、リスクの大きさが十分に認識されていなかったのではないだろうか。そのうえ、インフレ下では株式投資で資産を安全に運用できるとする考えが広がっていた。そうしたことを信じて投資をした人は、ショックだったに違いない。 政府も、これまで「貯蓄から投資へ」というスローガンの下に、銀行預金から株式投資などのリスク投資を勧めてきた。今回の暴落で資産を失った人から苦情が寄せられた場合、どのように対応できるだろうか?』、「新NISAで株式投資を始めた人には大ショック」、政府としては何ら対応できないだろう。
・『確実に利益が上がる投資法など存在しない 今回の大暴落の原因究明は、知的好奇心を満たすためには格好の材料だ。私がこの問題を考えているのは、そのためだ。 しかしいくら探求したところで、それによって株式投資で利益を得られるわけではない。私がやっているのは、後講釈であって、将来の予測ではないからだ。私が将来について述べているのは、「仮にこうなれば、こうなる」という条件付きの予測にすぎない。 「将来の株価や為替レートを予測することはできない」とは、どんなに優れた分析能力を持つ人が、どんなに大量のデータを分析してやったとしても、同じことである。これは、ファイナンス理論で「効率的市場仮説」と呼ばれる考えだ。 「金融リテラシーを身につけることが重要」とよく言われる。そのとおりだが、もっとも重要なのは、株価を予測する手法を学ぶことではない。「株式投資で確実に利益を上げる投資法は存在しない」と認識することだ』、「将来の株価や為替レートを予測することはできない」とは、「ファイナンス理論で「効率的市場仮説」と呼ばれる考えだ・・・もっとも重要なのは、株価を予測する手法を学ぶことではない。「株式投資で確実に利益を上げる投資法は存在しない」と認識することだ」、同感である。
第四に、8月6日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの鷲尾 香一氏による「日本株を襲うもうひとつの「不都合な真実」…日銀利上げで「円高デフレ大逆流」が招く「日経平均2万8000円台」の悪夢のシナリオ」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/135107?imp=0
・植田・日銀が犯した「3つの過ち」 8月5日の日本株の大暴落で、岸田文雄首相や植田総裁は日本版「ブラックマンデー」を演出した戦犯として歴史に刻まれることとなった。 前編『「日本株大暴落」戦犯たちの憂鬱と個人投資家の阿鼻叫喚…なにが日本版ブラックマンデーの引き金を引いたのか』で紹介したとおり、日本株暴落の引き金を引いた日本銀行の政策決定会合である。日銀と政府は大きな3つの間違いを犯した。 ひとつは、利上げと量的金融緩和策として行われていた長期国債の買入額の減額を同時に発表したこと。次に植田総裁がさらなる利上げに言及したこと。そして、米国FOMCの動向を読み間違えたことだ。 これによって、日本株は過去最大の下げ幅を記録したのだった』、なるほど。
・『しょせんは円安による株高だった… 直近の経過を振り返ろう。日経平均株価の終値は、日銀が利上げを発表した7月31日の3万9101円から翌8月1日には3万8126円に975円下落した。 しかし、米国の経済統計により、景気減速観が強まると、米国株の大幅な下げと相まって、8月2日には日経平均株価の終値は前日比2216円安の3万5909円と、下げ幅はブラックマンデー翌日の1987年10月20日(3836円安、14.9%安)以来およそ36年10ヵ月ぶりの大きさで、史上2番目の下げ幅となった。 さらに、8月2日発表の米国の7月雇用統計が非農業部門雇用者数11万4000人増と予想を下回り、失業率の前月比が21年9月以来約3年ぶりの高水準となる4.3%に上昇したことで米国の景気減速懸念が強まり、週明けの8月5日の日経平均株価は前週末比4451円安の3万1458円と史上最大の下げとなった。 7月31日に1ドル=153円台だった為替レートは8月5日には141円台まで円高が進行。わずか4営業日で10円以上という急激な円高となった。 日経平均株価の上昇は、円安進行を背景に進んできたといっても過言ではない。1ドル=136円台前半だった23年2月の日経平均株価は2万7446円だった。その後、円安の進行とともに、日経平均株価は上昇を続けたのである。 となれば、どの程度、円高がすすめば株価がどうなるかは見えてくる』、「1ドル=136円台前半だった23年2月の日経平均株価は2万7446円だった。その後、円安の進行とともに、日経平均株価は上昇を続けたのである」、なるほど。
・『日経平均は正念場「2万8000円台を覚悟せよ」 今回の日銀の利上げを受けた為替相場、日経平均株価の動きを見ると、日経平均株価が3万6000円に下落した8月2日の為替レートは148円だ。そして、日経平均株価が4000円を超える史上最大の下げとなり、3万1000円台に下落した8月5日の為替レートは142円付近だった。 これは、多少のブレはあるものの、過去の日経平均株価の水準と為替レートの水準の関係に非常に近い。 植田総裁が「次のステップに行く」と明言したように、さらなる利上げがあるとすれば、パウエルFRB議長の「9月の利下げ開始もありうる」との発言と相まって、日本の利上げ、アメリカの利下げにより、円高はさらに進行することになる。市場では、すでに次の日銀の利上げ時期を12月との見方が強まっている。 となれば、円高が140円まで進めば、日経平均株価は3万円割れとなる可能性が大きい。場合によっては、2万8000円台まで下落する可能性すらある』、「円高が140円まで進めば、日経平均株価は3万円割れとなる可能性が大きい。場合によっては、2万8000円台まで下落する可能性すらある」、なるほど。
・『「物価高」は落ち着いてきている 問題は、実は日銀が利上げの根拠とする「物価の上振れリスク」には、すでに陰りが見えていることだ。 為替レートの動きと生鮮食品を除く消費者物価指数を並べてみると、見事なまでに円安進行が輸入物価の上昇を通して、国内物価高を演出していたことがわかる。 23年2月の為替レートが136円だった時、消費者物価指数は103.6だった。それが、24年6月に160円まで円安が進むと、消費者物価指数は107.8まで上昇している。この点では、確かに円安を止め、円高にすることで物価高を抑えることができる可能性は高い。 しかし、生鮮食品を除く消費者物価指数が前年同月比で上昇に転じたのは、21年9月からで23年1月には4.2%という高い伸びとなったが、その後は伸び率が低下基調をたどり、直近の6月には2.6%にまで低下している。) その上、上昇要因となっているのは、円安を踏まえたエネルギー価格の上昇だ。 生鮮食品およびエネルギーを除く消費者物価指数は、23年4~10月の半年間は4%台と高い伸びだったが、直近の6月には2.2%まで低下している。 日銀は物価上振れリスクの要因のひとつとして、エネルギー価格の上昇に対する政府の補助が終了することをあげているが、エネルギーを除けば、輸入物価上昇ペース鈍化の影響から物価上昇は収まりつつあり、為替円高が進めば、日銀が掲げる2%の物価目標の達成は危ういものとなる。 今回の急激な円高進行により物価が下落に転じた場合、日銀は果たしてどのような金融政策を選択するのであろうか』、「エネルギーを除けば、輸入物価上昇ペース鈍化の影響から物価上昇は収まりつつあり、為替円高が進めば、日銀が掲げる2%の物価目標の達成は危ういものとなる」、なるほど。
・『やっぱり露呈した「稚拙な市場との対話」 そもそも、生鮮食品を除く消費者物価指数が前年同月比で4%を超える上昇となった23年初めには、日銀は利上げを強く否定していた。それが、物価高が落ち着き始めている今になって、根拠の薄い上振れリスクを理由に利上げに踏み切ったのは、不可解ほかならない。 物価上昇が厳しかった時から、緩やかに小幅な利上げを行っていれば、今回のような日経平均株価の大暴落という事態を引き起こすことはなかったはずだ。 以前から筆者は、日銀はフォワードガイダンスが致命的に下手だと指摘している。 アメリカでは、FRBがFOMCで9月の利下げを示唆するなど、市場が利下げに対して用意周到な準備ができるようにしている。日銀も利上げの方針を事前に市場に浸透させていくことができたはずだ。 日経平均株価の史上最大の下落は、日銀の稚拙な金融政策が原因にほかならない。 連載記事『ドル円147円割れで「株価下落」が始まった…!日銀・植田総裁が引き金を引く「日本株3万円割れ」に警戒せよ!』では、4ヵ月ほど前の日銀政策の状況について論じているのでこちらも参考としてほしい』、「日銀も利上げの方針を事前に市場に浸透させていくことができたはずだ。 日経平均株価の史上最大の下落は、日銀の稚拙な金融政策が原因にほかならない」、同感である。
第五に、9月12日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの鷲尾 香一氏による「まさか日銀で「植田総裁vs.内田副総裁」バトル勃発か…つぎの日銀会合は「円高急進」を覚悟せよ!正副総裁「意見の違い」で鮮明になった「ふたりの溝」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/137104?imp=0
・『7月大暴落、日銀の犯した罪 まもなく、日銀の金融政策決定会合が開催される。この会合の最大の注目点は、植田和男総裁の記者会見となるだろう。もしかしたら、この会見で相場に一波乱ということもあるかもしれない。今回は、その理由を説明していこう。 8月23日、植田総裁は衆議委員の財政金融委員会に出席した 前回、7月の日銀政策決定会合での利上げによって、為替相場は円安から円高基調に転換した。だが、それは株価の大暴落という大きな痛みを伴うものとなり、株式市場は今なお、不安定な状況にある。 円高転換で、たしかに輸入物価上昇は抑制されつつあるが、想定外の“令和の米騒動”があって米価は急上昇した。国民生活はなお大きな負担を強いられている。 筆者は8月6日に寄稿した『日本株大暴落」戦犯たちの憂鬱と個人投資家の阿鼻叫喚…なにが「日本版ブラックマンデー」の引き金を引いたのか』で、日銀は大きな3つのまちがいを犯したと指摘した。 1点目は、利上げと量的金融緩和策として行われていた長期国債の買入額の減額を同時に発表したこと。2点目は植田総裁がさらなる利上げに言及したこと。そして3点目は米国の動向を読みちがえたことだ。 しかも、その後の市場の混乱の火消しをする際に、植田総裁と内田眞一副総裁がそれぞれ異なる説明をしており、これはさらなる不安要素となるかもしれない』、「1点目」、「2点目」は間違いとは思わない。
・『植田総裁と内田副総裁の「意見の食いちがい」 7月の利上げ決定後の記者会見で、植田総裁は先行きについて「経済・物価情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく方針」を示している。 利上げが遅れれば、あとの利上げ幅が大幅なものになり、経済の安定を損ねるという「ビハインド・ザ・カーブ」(政策が後手に回る)リスクがあるからだと説明したのである。 ところが、8月7日に函館市で行われた金融経済懇談会で、次期総裁の有力候補とされる内田副総裁は「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはありません」と述べた。これは為替が急激に円高に振れ、株式相場が大混乱に陥っていたことを受けた火消しではあるが、筆者は内田副総裁が利上げしない理由としてあげたことが気になっている。 それは「円安が修正された結果、物価上昇上振れリスクが小さくなった」こと、また「円安修正は政策運営に影響する」という2点である。 つまり、利上げによって円高が進行したことで、さらなる利上げの必要性が低下したと言っているように聞こえるのだ。 さらに、内田副総裁は「わが国の場合、一定のペースで利上げをしないとビハインド・ザ・カーブに陥ってしまうような状況ではありません」と述べ、金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはないと明言した。この内田副総裁の発言は、植田総裁の発言を180度ひっくり返すものだ』、「内田副総裁」の発言は、あくまで「株式相場が大混乱に陥っていたことを受けた火消し」であって、「植田総裁」と意見が根本的に食い違っているとみるのは誤りだと思う。
・『意見の食い違いから起こる市場の混乱 正副総裁の方針の違いは、市場が日銀のフォワードガイダンスを信用できなくなり、大きな混乱の要因となる。 ところが、二人の意見の食い違いを裏づけるように、8月23日に国会閉会中審査の衆院・財政金融委員会に出席した植田総裁は、内田副総裁の発言を否定する姿勢を示したのである。 まず、7月の利上げ後に株価が大暴落した点について、「8月2日の米国7月分雇用統計が予想以上に下振れたことによるもの」と答弁し、日銀の利上げが要因ではないとの姿勢を貫いた。 さらに、「現在の実質金利は非常に低く、強い緩和環境を作っている」、また、「経済に大きな悪影響を与えずに追加利上げを進めることが妥当」との考えを示して、さらなる利上げに対する姿勢を変えなかった。 当然、委員からは植田総裁と内田副総裁の発言が食い違っていることについて、説明を求める質問がなされたが、なんと植田総裁は明確な答弁をしなかった。説明が行われなかったことで、かえって両者の間の溝が鮮明となってしまったのだ。 繰りかえすが、方針が明確でない金融当局の動きは、市場が見通しを立てるのを阻害し、混乱のひとつの要因ともなりえる。 では、こうした不安要素をかかえながら、9月19・20日の金融政策決定会合ではどのような決定が行われるのだろうか。 筆者の分析については、つづく後編記事『つぎの「日銀会合」でまた波乱か…!「植田総裁vs.内田副総裁」バトル勃発で、いま注目が集まっている「植田発言」』でじっくりとお伝えしていこう』、「内田副総裁」が「植田総裁」では言えないことも補足的に説明するのは、「副総裁」としての当然の責務だ。それを根本的な見解が食い違っているかのように捉えるのは、筆者の常識を疑いたくなる。
タグ:金融政策 (その48)(「断捨離」をした日銀は7月末にどう動くのか 渡辺努・東大教授の「物価理論」を解説しよう、日銀は為替を金融政策の対象に入れるべきだ このままでは金融政策への信頼が失われる懸念、日経平均の大暴落は「超円安」依存経済への警鐘だ…!市場を大パニックに陥れた「予想外の原因」、日本株を襲うもうひとつの「不都合な真実」…日銀利上げで「円高デフレ大逆流」が招く「日経平均2万8000円台」の悪夢のシナリオ、まさか日銀で「植田総裁vs.内田副総裁」バトル勃発か…つぎの日銀会合は「円高急進」を覚悟せよ!) 東洋経済オンライン 小幡 績氏による「「断捨離」をした日銀は7月末にどう動くのか 渡辺努・東大教授の「物価理論」を解説しよう」 「筆者は1から3まで120%渡辺理論に賛成で、渡辺理論の世界一の理解者であると同時に、世界一、渡辺理論に近い意見を持っているのが小幡績である。しかし、筆者は4から6には強く反対で、ここが渡辺・小幡の大きな対立点である。目指すゴールは一緒、問題認識も一緒、しかし、アプローチが180度(いや90度かな?)異なる」、なるほど。 「1については」「日本の企業は、価格設定を経営の戦略変数に入れていないことがほとんどで、本当に駄目だ。これこそ利益率が低い理由であり、ひいては日本の生産性やGDP(付加価値率)が伸びない理由であるとも指摘してきた。要は「ぼったくり」とまではいわないが、消費者からむしり取ってでも儲けようという意欲、気概、力が足りないのである・・・2については・・・日本では価格はありますが、動いていなければ価格メカニズムがないに等しい。その結果として資源配分が歪んできた」。 これには筆者も200%賛成だ。したがって、渡辺理論の日本の物価への懸念はミクロ経済学的な資源配分の歪み、ということに尽きるのである」、なるほど。 「筆者は3については80%賛成できる。ただ、その中身は、渡辺教授と筆者では少し違う。渡辺教授はこう言う。 「企業は通常、価格を決めるパワーを持っているわけですが、それが奪われてしまった。そうすると企業は、何か新しい商品を作るために投資して、高い価格をつけて儲けることができません。最初からいい商品を作ることをあきらめる。価格をコントロールできない環境では、企業はアグレッシブな行動ができなくなってしまう。 それでも当然、収益を上げなければいけないので、じゃあコストカットとなって、経済がどんどん後ろ向きに回ってしまう。これがデフレの最大の弊害だと思っています」。 筆者は違うと思う。これは企業がデフレを言い訳にして何もしていないだけだ。新しい製品なら新しい価格が付く。既存の製品の価格が変えられないからこそ、アグレッシブに新しいことをする。不況こそが次への脱皮を促す。だから、原因はデフレではなく、個々の企業が原因だと思う」、なるほど。 「4から6は一体となっている主張だが、筆者はそれぞれ反対するところがある。まず、4だ。渡辺教授はこう言っている。 「僕は、価格が動かないことで実体経済が歪むコストが大きいから、金融市場では少々のことが起きても仕方がないと思っています。 少々のこと、というのがどの程度か、ということが問題だが、この文脈では、金融市場とは為替の話だった。筆者としては、為替の歪みはとてつもなく大きく、かつ金融政策により生じてしまった責任があると思うし(つまりやるべきでなかった)、一方で、今後円安を止める力もあると思っている。 ) そして5は、もっとも意見が異なる。渡辺教授は、このように主張する。「社会全体が共通の認識として「価格は変わらないもの」と信じてしまっていて、個々の企業が解決できる問題じゃなかったんです」。 つまり、この価格メカニズム機能不全現象が、個々の企業ではどうしようもない。消費者を中心として社会全体が、価格は変わらない、と思ってしまっているから、マクロで社会全体の意識を変えなければいけない、と思っている。 一方、筆者の意見は、企業も消費者もみんなが萎縮した形で均衡しているのだから、マクロの金融政策では抜け出せず、企業が行動を変えるようなインセンティブを与えるとか、ミクロ政策を打ち出さないと効かないのでは、というものだ」、なるほど。 「渡辺教授は、何とか価格メカニズム復活のために、現状の委縮均衡の完全なる破壊に執念を燃やしている、あるいは、今が、最後の最大のチャンスだと思っているようだ。 「今は同調だろうがなんだろうが、価格が動いてくれればもうけもの。スーパーなどの販売価格をPOSデータでみても、これまで価格が動かない商品の割合が7割だったのが減ってきています。顕著に減ってきています。価格も賃金も動かない状態からとにかく脱出する。そうなりつつあるから、しっかり固めるときだと思います」、なるほど。 「6については、結果的には意見は一致・・・しかし、今後については、私とは意見が異なるようだ。 「3月の日銀の決定は、要らないモノを捨てる『断捨離』なんだと説明しています。断捨離のポイントは、要るモノと要らないモノを区別することです。要るモノとして残したのが、バランスシートです。バランスシートが大きい状態はやっぱり望ましいんですよ」。 さあ、7月30~31日の金融政策決定会合で、植田和男・日銀総裁は、どの程度国債買い入れを減らすのか。そして、それはバランスシートのサイズを意識したものになるのか、それとも、毎月の購入額というフローの額を重要視するのか。注目だ」、さあ、どうなるだろう。 小幡 績氏による「日銀は為替を金融政策の対象に入れるべきだ このままでは金融政策への信頼が失われる懸念」 「金融政策の目的は、経済、物価であり、為替はその経済と物価に影響を及ぼすから、アメリカの経済が日本経済に影響を与えるのと同様に、重要な要因だが、金融政策の決定においてはあくまで外部的な環境要因として扱うということである」、なるほど。 「日本」では、「金融政策は、つねに緩和可能な最大限を行うことが求められ、継続された。 その結果、ゼロ金利の限界を超えて量的緩和、異次元緩和、イールドカーブコントロール(長短金利操作)と、次々とイノベイティブな金融政策が日銀によって発明された。) また、株式の買い入れという異常な(不可解な)政策まで動員された。日本では物価がほとんど上昇しなかったから、人々は、金融緩和を拡大しない日銀は、ケチでやる気がなく無能力であるかのように思った・・・ アベノミクスや異次元緩和に賛成していたほとんどの人々は、そういう物価原理主義とは無関係に、景気がよくなるに越したことはないし、金融緩和の弊害がインフレということなら、日本でインフレが起きるはずがないから、どんどん緩和すればいい、というだけの気持ちだった」、なるほど。 「インフレの要因のほとんどが供給側にあり、金融引き締めで需要を抑制しても、人手不足からの賃金上昇によるコスト高によるインフレだから、ほとんど効果はない。 それでも、中央銀行としては、インフレ率を下げるためには、需要抑制以外の手段はない。コスト高であったとしても、需要が増えれば、インフレは加速する可能性があり、効果がほとんどないとしても、金融引き締めをやめるわけにはいかないからだ。 この結果、人々の中央銀行への信頼、評価が下がり、長期的に、金融政策の効果が阻害される。金融緩和の局面になっても「緩和に後ろ向き だ、抑制気味だ」という批判が・・・続くことになる」、なるほど。 「メディアでは、日米の金利差が円安の要因と言っている。要は、世界で日本だけ金利が低いから円安なのか。日銀の責任じゃないか。「日銀は意味不明だ。何をやっているんだ」ということになる。) しかし、これは、日銀の人々には響かない。「われわれの目的は物価だ。そして、物価は悲願のインフレ率2%定着の最後のチャンスだ。ここで逃しては、この20年の戦いが無駄になる」ということで、人々と日銀の分断は、日本でも永久に残り、将来の金融政策への人々の信頼は永久に失われてしまうだろう」、なるほど。 「物価最優先の考え方は理論的にも間違っている。とりわけ日銀においてそうだ。 なぜなら、21世紀の成熟国の経済においては、金融政策は金融市場、つまり、株式や債券などのリスク資産市場と為替市場に直接大きな影響を与え、実体経済には間接的にしか影響しない。それが、日銀の異次元緩和で得た教訓だ。 期待では物価は動かない。そうであれば、直接影響を与える市場にターゲットを絞って、それを安定化させる、コントロールすることで、間接的に実体経済を安定化させ、健全な経済発展を導く。 それが、合理的なはずだ・・・21世紀には、金融市場の動向が主導して実体経済に影響を与えるのだから、金融市場を直接の目標とすべきだ。 つまり、為替をターゲットとし、実体経済にひずみをもたらさない為替を目標とする。「2%のインフレ率を目標とする」のように、経済主体の行動が、ファンダメンタルズではなく為替水準およびその変動から影響を受けないような為替水準にとどまるように、という目標を設定する。インフレ率の変動が実体経済に影響を与えないようにする、のとまったく同じ精神だ。 そして、「景気安定」という目標を「株式市場や債券市場の安定」・・・という目標に置き換え、これが実体経済に連動した形になるように安定化を図るべきなのだ」、金融政策の革命的な転換を主張している。 現代ビジネス 野口 悠紀雄氏による「日経平均の大暴落は「超円安」依存経済への警鐘だ…!市場を大パニックに陥れた「予想外の原因」」 「ここで重要なのは、「何が予想外のニュース(サプライズ)だったか?」という点だ。予測されていたことは、すでに株価に織り込み済みになっているはずだからである。株価を動かすのは、予想外のニュースだ」、その通りだ。 「8月5日(月)、終値は前営業日比で4451円安い3万1458円。史上最大の下落となった。7月11日につけた終値4万2224円に比べると、1万0766円(25.5%)の下げだ」、なるほど。 「今年に入ってから日本企業の業績が好調だったが、それは円安によるものだったのだ。それがこれから大きく変化するという予想で、日本の株価が下がったのだ」、なるほど。 「9月に通常の2倍の利下げに踏み切るとの見方が広まっているようだ。 仮にそうなれば、日米金利は一挙に大きく縮小することになり、為替レートに対して大きな影響が及ぶ。つまり、本格的な円高が進む可能性がある。実際にそうなれば、日本株に対する影響も簡単には元に戻らないものになるだろう」、なるほど。 「新NISAで株式投資を始めた人には大ショック」、政府としては何ら対応できないだろう。 「将来の株価や為替レートを予測することはできない」とは、「ファイナンス理論で「効率的市場仮説」と呼ばれる考えだ・・・もっとも重要なのは、株価を予測する手法を学ぶことではない。「株式投資で確実に利益を上げる投資法は存在しない」と認識することだ」、同感である。 鷲尾 香一氏による「日本株を襲うもうひとつの「不都合な真実」…日銀利上げで「円高デフレ大逆流」が招く「日経平均2万8000円台」の悪夢のシナリオ」 「1ドル=136円台前半だった23年2月の日経平均株価は2万7446円だった。その後、円安の進行とともに、日経平均株価は上昇を続けたのである」、なるほど。 「円高が140円まで進めば、日経平均株価は3万円割れとなる可能性が大きい。場合によっては、2万8000円台まで下落する可能性すらある」、なるほど。 「エネルギーを除けば、輸入物価上昇ペース鈍化の影響から物価上昇は収まりつつあり、為替円高が進めば、日銀が掲げる2%の物価目標の達成は危ういものとなる」、なるほど。 「日銀も利上げの方針を事前に市場に浸透させていくことができたはずだ。 日経平均株価の史上最大の下落は、日銀の稚拙な金融政策が原因にほかならない」、同感である。 鷲尾 香一氏による「まさか日銀で「植田総裁vs.内田副総裁」バトル勃発か…つぎの日銀会合は「円高急進」を覚悟せよ!正副総裁「意見の違い」で鮮明になった「ふたりの溝」」 「1点目」、「2点目」は間違いとは思わない。 「内田副総裁」の発言は、あくまで「株式相場が大混乱に陥っていたことを受けた火消し」であって、「植田総裁」と意見が根本的に食い違っているとみるのは誤りだと思う。 「内田副総裁」が「植田総裁」では言えないことも補足的に説明するのは、「副総裁」としての当然の責務だ。それを根本的な見解が食い違っているかのように捉えるのは、筆者の常識を疑いたくなる。