イスラエル・パレスチナ(その7)(パレスチナへの支援金額 アラブ諸国はたった2割…意外な「最大の支援国家」とは?、なぜイスラエルは「テック大国」になれたのか...戦闘だけではない「徴兵制」に隠された目的とは?) [世界情勢]
イスラエル・パレスチナについては、本年8月21日に取上げた。今日は、(その7)(パレスチナへの支援金額 アラブ諸国はたった2割…意外な「最大の支援国家」とは?、なぜイスラエルは「テック大国」になれたのか...戦闘だけではない「徴兵制」に隠された目的とは?)である。
先ずは、本年8月30日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したテレビ東京WBS(ワールドビジネスサテライト)メインキャスターの豊島晋作氏による「パレスチナへの支援金額、アラブ諸国はたった2割…意外な「最大の支援国家」とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/349187
・『昨年10月7日にイスラム組織ハマスがイスラエルに大規模攻撃を仕掛けてから、1年近くが経つ。当初は国際世論を味方につけていたイスラエルだが、ハマスの支配するパレスチナ自治区ガザ地区を爆撃する報復に出たことで、今や世界から非難を浴びている。長く両者が血を流し続けるイスラエル・パレスチナ問題の根源をたどる。※本稿は、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」のメインキャスター、豊島晋作『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『過去においてハマスによる攻撃やテロが国際的な非難を浴びやすかったワケ 世界の反応について考えると、過去においてはハマスによる攻撃やテロの方が、イスラエル軍の攻撃よりも国際的な非難を浴びやすかったと思います。これはなぜでしょうか。 1つ目の理由は、イスラエルが、国際政治で最も影響力と発信力のあるアメリカと緊密な関係にあることでしょう。2つ目はイスラエル軍が国家の軍隊である一方、ハマスがそうではないことです。 イスラエルは民主的に統制された正規軍(イスラエル国防軍)が暴力を行使します。一方でパレスチナ人は国家を設立できておらず、また民主的な統制がないハマスなどの武装組織が暴力を行使しています。明らかな犯罪行為である民間人を標的にした自爆テロも行ってきました。 国際法などのルールに照らすと、イスラエル軍の攻撃は国家の武力行使なので国際法上はより正当化されやすい可能性があり、一方で国家の軍隊ではない武装組織ハマスの攻撃は、犯罪的と見なされる可能性が高いと言えます。 前者は暴力行使への民主的な監視と手続きが存在し、軍事法廷も含め結果への説明責任が果たされる余地があります。しかし、後者はそうした暴力の行使に対する抑制メカニズムがないと見なされ、批判を受けやすいのです。 しかし、発生する結果は同じです。イスラエル軍の攻撃もハマスの攻撃も、ともに無実の民間人を数多く殺害してきました。もちろん、10月7日のハマスによる殺人や拉致は重大犯罪であり処罰は必要です。 同じくイスラエル軍の民間人への攻撃と殺害も犯罪行為であり処罰が必要です。戦争には、攻撃の際は民間目標を避けるなど、かつて戦時国際法とも呼ばれた武力国際法(国際人道法)のルールがあり、2023年10月以降の状況はそれが守られているとは言えません。 こうした議論の場合は「どちらも悪い」などという雑多な結論ではなく、個別の殺人行為、個別の軍事行動、攻撃行為を細かく見ていくしか方法がありません。 この点については、事実上、機能する国家を設立できていないパレスチナ人側、つまりハマス側が説得力の面で劣勢にあると言えるでしょう。やはり国家を設立できたか、できなかったかで世界へのメッセージの発信力を含め政治的な優劣が出ています』、「国際法などのルールに照らすと、イスラエル軍の攻撃は国家の武力行使なので国際法上はより正当化されやすい可能性があり、一方で国家の軍隊ではない武装組織ハマスの攻撃は、犯罪的と見なされる可能性が高いと言えます。 前者は暴力行使への民主的な監視と手続きが存在し、軍事法廷も含め結果への説明責任が果たされる余地があります。しかし、後者はそうした暴力の行使に対する抑制メカニズムがないと見なされ、批判を受けやすいのです。 しかし、発生する結果は同じです。イスラエル軍の攻撃もハマスの攻撃も、ともに無実の民間人を数多く殺害してきました。もちろん、10月7日のハマスによる殺人や拉致は重大犯罪であり処罰は必要です・・・こうした議論の場合は「どちらも悪い」などという雑多な結論ではなく、個別の殺人行為、個別の軍事行動、攻撃行為を細かく見ていくしか方法がありません。 この点については、事実上、機能する国家を設立できていないパレスチナ人側、つまりハマス側が説得力の面で劣勢にあると言えるでしょう。やはり国家を設立できたか、できなかったかで世界へのメッセージの発信力を含め政治的な優劣が出ています」、なるほど。
・『パレスチナの最大の支援者はアラブ諸国ではない ただ、2024年に入り、イスラエルへの批判が世界中でかつてない規模で広がった結果、パレスチナを国家として承認する動きも広がりました。2024年5月28日、スペイン、アイルランド、ノルウェーの欧州3カ国が、パレスチナを国家として正式承認したのです。 アイルランドはかつてイギリスと独立戦争を戦った歴史があり、独立国家になるための苦闘を経験した国でもあります。実はパレスチナ自治政府に対しては、これら3カ国が承認する前の時点でも、アラブ諸国やアフリカ諸国を含め世界の139カ国が既に国家として承認していました。 ただ、日本やアメリカ、イギリス、フランス、イタリアなど国際政治で影響力の大きいG7諸国は承認しておらず、パレスチナにとっては、これが大きな課題となっているのです。 では、パレスチナ人たちは誰かに頼れるのでしょうか。やはりアラブ諸国でしょうか。パレスチナの人々はアラブ諸国の資金援助に頼っていると思われがちですが、実はそうでもありません。アラブ国家の合計の支援金額は全体の20%程度に過ぎません。その大部分がサウジアラビアの9.9%とアラブ首長国連邦の5.2%です。 実は、1994年から2020年までのパレスチナ支援総額400億ドルのうち最大の支援者はヨーロッパ(EU)で全体の約18.9%です。次にアメリカの14.2%、日本は約2.9%となっています。軍事援助や政治的なスタンスではイスラエル寄りの姿勢が目立つアメリカですが、単独国家としては最大の資金を拠出しています。最大の支援者は欧米なのです。 なお、イランなどの武器支援は公式の統計にはほぼ出てこないので把握は困難ですが、少なくとも公式統計に出てくる支援国の上位にいないことは明らかです』、「1994年から2020年までのパレスチナ支援総額400億ドルのうち最大の支援者はヨーロッパ(EU)で全体の約18.9%です。次にアメリカの14.2%、日本は約2.9%となっています。軍事援助や政治的なスタンスではイスラエル寄りの姿勢が目立つアメリカですが、単独国家としては最大の資金を拠出しています。最大の支援者は欧米なのです・・・スペイン、アイルランド、ノルウェーの欧州3カ国が、パレスチナを国家として正式承認したのです。 アイルランドはかつてイギリスと独立戦争を戦った歴史があり、独立国家になるための苦闘を経験した国でもあります。実はパレスチナ自治政府に対しては、これら3カ国が承認する前の時点でも、アラブ諸国やアフリカ諸国を含め世界の139カ国が既に国家として承認していました。 ただ、日本やアメリカ、イギリス、フランス、イタリアなど国際政治で影響力の大きいG7諸国は承認しておらず、パレスチナにとっては、これが大きな課題となっているのです」、なるほど。
・『アラブ諸国に見捨てられた状態のパレスチナ人 パレスチナの人々は心のどこかで、アラブ諸国は最後には頼りにならないことが分かっています。どの国の軍隊も戦闘能力は低く、ともに戦った過去4回の戦争は全て敗北しましたし、先ほど書いた通り資金援助の合計は欧米の方が多いのです。) そもそも、アラブ諸国はスンニ派のサウジアラビアとシーア派のイランを中心に対立しており、団結できていません。かつて「パレスチナ問題が解決するまではイスラエルは認めない」という“アラブの大義”を掲げ、対イスラエル戦争を戦った同胞のエジプトは、今やパレスチナ難民の流入を恐れて国境を封鎖してしまいました。 もともと、アラブ諸国の指導者たちは、自分の権力の維持こそが最も重要だと考えるリアリスト集団です。パレスチナ問題に関しては、パレスチナ人に同情する世論に配慮して一定の行動をとっているに過ぎません。 最大の資金援助国サウジアラビアも、去年までパレスチナ人の宿敵であるイスラエルとの国交正常化に動いていましたし、2020年にはパレスチナ自治政府への支援金を80%以上も削減しています。またUAE(アラブ首長国連邦)やバーレーンもイスラエルと国交を正常化し、パレスチナへの支援金を同じく削減したと見られています。 パレスチナ人にとって、もはや“アラブの大義”は失われ、アラブ諸国には見捨てられた、裏切られた状態だったのです。 過去にアラブ諸国の指導者でパレスチナ人の支持を集めたのが、イラクのサダム・フセイン大統領でした。イスラエルにスカッドミサイルを何発も打ち込み、パレスチナ人たちから「実際に行動を起こした」と称賛されました。 フセイン大統領といえば1990年に隣国クウェートに軍事侵攻したことで知られ、アメリカ主導の有志連合軍によって撃退され、最終的には2003年のイラク戦争後に殺害された独裁者です。そういう人物でも、パレスチナ人の一部は英雄だと考えていたのです。 実際、サダム・フセインのイスラエルへのミサイル発射が、欧米を含め他国にパレスチナ問題の解決を急がせ、その後の1993年のオスロ合意へと向かう要因になったとも指摘されています』、「もともと、アラブ諸国の指導者たちは、自分の権力の維持こそが最も重要だと考えるリアリスト集団です。パレスチナ問題に関しては、パレスチナ人に同情する世論に配慮して一定の行動をとっているに過ぎません。 最大の資金援助国サウジアラビアも、去年までパレスチナ人の宿敵であるイスラエルとの国交正常化に動いていましたし、2020年にはパレスチナ自治政府への支援金を80%以上も削減しています。またUAE(アラブ首長国連邦)やバーレーンもイスラエルと国交を正常化し、パレスチナへの支援金を同じく削減したと見られています・・・過去にアラブ諸国の指導者でパレスチナ人の支持を集めたのが、イラクのサダム・フセイン大統領でした。イスラエルにスカッドミサイルを何発も打ち込み、パレスチナ人たちから「実際に行動を起こした」と称賛されました・・・サダム・フセインのイスラエルへのミサイル発射が、欧米を含め他国にパレスチナ問題の解決を急がせ、その後の1993年のオスロ合意へと向かう要因になったとも指摘されています」、なるほど。
・『「何度も建国のチャンスはあったはず」パレスチナ政府に対する批判も この1993年のオスロ合意=パレスチナ暫定自治合意は、パレスチナに自治区を立ち上げ、いずれはパレスチナとイスラエルの2国家共存を目指すという合意でした。その後の中東和平の基礎となりました。) しかし、合意の当事者だったイスラエルのラビン首相は1995年、イスラエル国民で和平に反対するユダヤ人青年によって射殺されました。その後、2000年に後に首相となるアリエル・シャロンがイスラム教徒の聖地である岩のドームを訪問してパレスチナ人の怒りに火を付け、和平の流れは崩れていきました。 パレスチナ人から見れば、アラブ諸国は頼れず、イスラエル側は和平に本気ではないと結論付けざるを得ませんでした。 一方で、パレスチナ側への批判もあるでしょう。ハマスなどのテロ組織は、民間人を狙ったテロを何度も起こしてきました。民間人が乗るバスなどを自爆テロで爆破し、大勢の市民を殺害してきました。 確かに、1947年の国連決議ではアラブ国家の樹立も認められ、アラブやアフリカ諸国など多くの国がパレスチナ政府を国家として承認しています。 しかし、半世紀以上たった今も、パレスチナ人はG7諸国が認めるような、機能する国家を建設できていません。これはイスラエルが事実上、建国を認めず、妨害しているためですが、一方において、パレスチナ人たちも自分たちをうまく組織化できず、社会を統治できていないのです。「これまで何度も建国のチャンスはあったはずだ」との批判もあります。 パレスチナ自治政府の権力は腐敗しており、腐敗を除去する政治メカニズム、つまり、チェックアンドバランス機能を持っていません。カリスマ的指導者とされたPLOのヤーセル・アラファト議長の権力もかなり腐敗していたことが指摘され、後を継いだアッバス議長も、同じく腐敗や統治能力の欠如が批判されてきました。2006年以来、一度も選挙を実施していないため、パレスチナの人々の民意を代表していないという批判もあります』、「1993年のオスロ合意=パレスチナ暫定自治合意は、パレスチナに自治区を立ち上げ、いずれはパレスチナとイスラエルの2国家共存を目指すという合意でした。その後の中東和平の基礎となりました。) しかし、合意の当事者だったイスラエルのラビン首相は1995年、イスラエル国民で和平に反対するユダヤ人青年によって射殺されました・・・パレスチナ人から見れば、アラブ諸国は頼れず、イスラエル側は和平に本気ではないと結論付けざるを得ませんでした・・・1947年の国連決議ではアラブ国家の樹立も認められ、アラブやアフリカ諸国など多くの国がパレスチナ政府を国家として承認しています。 しかし、半世紀以上たった今も、パレスチナ人はG7諸国が認めるような、機能する国家を建設できていません。これはイスラエルが事実上、建国を認めず、妨害しているためですが、一方において、パレスチナ人たちも自分たちをうまく組織化できず、社会を統治できていないのです・・・パレスチナ自治政府の権力は腐敗しており、腐敗を除去する政治メカニズム、つまり、チェックアンドバランス機能を持っていません。カリスマ的指導者とされたPLOのヤーセル・アラファト議長の権力もかなり腐敗していたことが指摘され、後を継いだアッバス議長も、同じく腐敗や統治能力の欠如が批判されてきました。2006年以来、一度も選挙を実施していないため、パレスチナの人々の民意を代表していないという批判もあります」、なるほど。
・『イスラエルの「強者の論理」とパレスチナ人の「弱者の論理」の対立 また、パレスチナ社会、つまりガザやヨルダン川西岸地区では言論の自由がないとの批判もあります。オスロ合意前後では、パレスチナには一定の言論の自由があったとされますが、近年はそうではなく、ハマスへの批判などはできない状態だったと言われます。) 確かにこうした批判は一定の説得力を持つかもしれません。しかし、抑圧された人間集団に言論の自由などを要求することに何の意味があるのかとも考えてしまいます。様々な批判があるとしても「パレスチナ人がここまで苛烈な運命を背負わなければならないのか」という大きな疑問はやはり残ります。 一方的に土地を奪われ、爆弾と砲弾で家を破壊され、街を破壊され、家族を殺されなければならないのか、イスラエルの行為をそこまで許容するのか。そんな“再反論”も当然大きな説得力を持つわけです。 パレスチナ人たちは、ユダヤ人という組織力が強く、かつ強い生存本能を持った民族が「住みたい」と言った場所に、偶然、住んでいただけです。ただそれだけで、苛烈な運命を背負わされているのです。 ユダヤ人はかつて歴史的に迫害を受け続ける「弱者」とされてきましたが、今や、経済的・軍事的な「強者」になっています。つまり対立の根源は、強力な軍事力と経済力を持つイスラエルの「強者の論理」と、ゲリラ戦やテロ攻撃で報復するしかないパレスチナ人の「弱者の論理」の対立でもあるのです。 確かに国際政治は「強者の論理」が支配する世界ですが、現代に生きる私たちが、それをただ肯定することはできません。日本としても当然すべきではないでしょう。これは綺麗事ではなく、もし日本より軍事力の大きな国が武力で日本の領土を奪った場合、それを認めることはできませんし、認めるべきではないからです。現代の国際秩序が壊れてしまうからです。 もし日本人がパレスチナ人のような状況に置かれたらどうするでしょうか。宗教に救いを求めずにいられるでしょうか。家族や子供を殺されて冷静でいられるでしょうか。 この問いに答えはありませんが、パレスチナの人々は多くが石を投げて抵抗し、イスラムの教えを拠り所にしました。 そして、イスラエル人たちがいるショッピングセンターで自爆ベルトを起爆させて散るようになりました。民間人に対する非道な攻撃、自爆テロをも行う人々が現れたのです。過激な手段をとる武装集団=ハマスの登場です』、「対立の根源は、強力な軍事力と経済力を持つイスラエルの「強者の論理」と、ゲリラ戦やテロ攻撃で報復するしかないパレスチナ人の「弱者の論理」の対立でもあるのです・・・パレスチナの人々は多くが石を投げて抵抗し、イスラムの教えを拠り所にしました。 そして、イスラエル人たちがいるショッピングセンターで自爆ベルトを起爆させて散るようになりました。民間人に対する非道な攻撃、自爆テロをも行う人々が現れたのです。過激な手段をとる武装集団=ハマスの登場です」、「イスラエル」は現在、「ハマス」潰しに血道を挙げているが、まだまだ時間がかかりそうだ。
次に、9月11日付けNewsweek日本版「なぜイスラエルは「テック大国」になれたのか...戦闘だけではない「徴兵制」に隠された目的とは?」を紹介しよう。<日本の四国ほどの面積、常に戦争とも隣り合わせの国が最新ITを牽引する背景には、男性にも女性にも義務づけられた「徴兵制」の存在が──> 今年2月、イスラエルのテルアビブ大学で、最先端AI(人工知能)技術の進化や課題、最新トレンドを議論するイベント「AI Day」が開催された。 【関連動画】イスラエルで開発された「乗用ドローンタクシー」飛行の様子 もともとこのイベントは1週間の日程で行われる予定だったが、昨年10月7日にイスラム組織ハマスが大規模テロを起こし、イスラエルが戦争状態に入っていたために開催が危ぶまれていた。だが、イスラエルのテクノロジー分野はテロに屈服しない、という意思を世界に示すため、1日限定でイベントは開催された。 筆者はこのイベントを取材するためにイスラエルを訪れていた。大学内の講堂で行われたイベントの冒頭には、進行役のテルアビブ大学関係者が「空襲警報が鳴ったら速やかに避難していただく」とステージ上でアナウンスし、戦時下の緊張状態にあることを再認識させた。 ただ、常に戦争と隣り合わせのこの日常こそが、まさに世界のIT業界を支えるテック大国イスラエルの礎になっていると言えるだろう。 ユダヤ人国家であるイスラエルが、世界の名だたるテック企業を牽引していることはよく知られている。 2024年現在の世界的企業の時価総額ランキングを見ると、トップ企業の多くは創業者や経営者がユダヤ系だ。アップル、マイクロソフト、アルファベット、メタ、インテル、オラクルなど、現代の世界を支える企業が名を連ねている。 またユダヤ系企業でなくとも、イスラエルの優れた技術を開発するスタートアップ(新興)企業を買収するなどしてイスラエル発のテクノロジーを獲得している世界的企業も数多い。その規模は22年に総額169億ドルにも上っている。 過去の有名なケースでは、06年に記録媒体で有名なサンディスクがイスラエル企業が開発したUSBドライブ技術を買収している。17年にはインテルが自動運転技術を開発するイスラエルのモービルアイを買収し、大きな話題になった。 時価総額でアップルを抜いて話題になった半導体メーカーNVIDIA(エヌビディア)も今年、AI管理ソフトを開発するイスラエル企業を買収した。 そもそもイスラエルには、有能なテック人材が多い。そのため、世界中の企業が買収を視野にスタートアップに注目しているだけでなく、こぞってイスラエルにR&D(研究開発)の拠点を置いている。 その数は現在、433企業にもなり、マイクロソフトやIBM、インテル、シスコ、クアルコム、シティバンク、シーメンスなど枚挙にいとまがない』、「そもそもイスラエルには、有能なテック人材が多い。そのため、世界中の企業が買収を視野にスタートアップに注目しているだけでなく、こぞってイスラエルにR&D(研究開発)の拠点を置いている。 その数は現在、433企業にもなり、マイクロソフトやIBM、インテル、シスコ、クアルコム、シティバンク、シーメンスなど枚挙にいとまがない」、なるほど。
・『技術と科学に生存を懸けて なぜイスラエルは技術力の高いテクノロジーを開発する有能なテック人材を輩出できるのか。その背景には、イスラエル独特の国家型エコシステムがある。その鍵を握るのが「徴兵制」で、つまり軍事部門が重要な要素となっている。 このエコシステムを理解するのには、まず国の成り立ちを知る必要がある。日本の四国ほどの面積のイスラエルには現在、約955万人が暮らす。イスラエルは、宗教対立を抱え、領土をめぐって長く争うアラブ諸国に囲まれている。北はレバノンやシリア、東にはヨルダン、南にはエジプトが存在する。 1948年の独立から現在まで、周辺のアラブ諸国とは4度も戦火を交えている。イスラエルには3大宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)の聖地エルサレムがあり、その帰属をめぐって、パレスチナ人が暮らすパレスチナ自治区とも敵対。 特にイスラエル南部のガザ地区を拠点とするハマスとは、何度も軍事的な衝突が起きている。 昨年10月に、ハマスの戦闘員らがイスラエルに侵入して約1200人が殺害されたテロ事件は記憶に新しい。イスラエル政府はハマス殲滅を掲げて今もガザ地区に報復攻撃を続けており、これまでに民間人を含めて4万人以上が死亡している。 ハマスなど反イスラエル勢力による攻撃も、これまで何度も繰り返されてきた。イスラエルの背後には地中海が広がり、まさに背水の陣の様相で生存を懸けて戦ってきた。 そうした現実から、イスラエルは早い段階から自国を守るための軍事力に力を入れ、独自のエコシステムを確立してきた。 テルアビブ大学教授でイスラエルのIT部門を政府内で牽引してきたアイザック・ベンイスラエル少将は、「イスラエルは建国前から、天然資源のない国がいかに生き残れるのかを真剣に考えてきた。そこで必要なのは、教育や科学、テクノロジーの分野で他国に抜きんでることだとの認識を持つようになった」と話す。 そして建国後の貧しい時代にも、政府は、周辺の敵から身を守るための防衛技術につながる科学的な研究やテクノロジー開発を重要視して投資を行ってきた。現在では「デュアルユース(軍民両用)」と呼ばれる技術の開発だ』、「イスラエル独特の国家型エコシステムがある。その鍵を握るのが「徴兵制」で、つまり軍事部門が重要な要素となっている・・・日本の四国ほどの面積のイスラエルには現在、約955万人が暮らす。イスラエルは、宗教対立を抱え、領土をめぐって長く争うアラブ諸国に囲まれている。北はレバノンやシリア、東にはヨルダン、南にはエジプトが存在する。 1948年の独立から現在まで、周辺のアラブ諸国とは4度も戦火を交えている。イスラエルには3大宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)の聖地エルサレムがあり、その帰属をめぐって、パレスチナ人が暮らすパレスチナ自治区とも敵対。 特にイスラエル南部のガザ地区を拠点とするハマスとは、何度も軍事的な衝突が起きている・・・天然資源のない国がいかに生き残れるのかを真剣に考えてきた。そこで必要なのは、教育や科学、テクノロジーの分野で他国に抜きんでることだとの認識を持つようになった」と話す。 そして建国後の貧しい時代にも、政府は、周辺の敵から身を守るための防衛技術につながる科学的な研究やテクノロジー開発を重要視して投資を行ってきた。現在では「デュアルユース(軍民両用)」と呼ばれる技術の開発だ」、なるほど。
・『1967年のフランスショック 大きな転機が訪れたのは67年。イスラエルと、エジプトやシリア、ヨルダンなどアラブ諸国の間で、第3次中東戦争、いわゆる6日間戦争が勃発した。それまで武器調達で依存していたフランスがアラブ諸国に肩入れすることを決め、イスラエルに対する武器禁輸措置に踏み切った。 このフランスの動きにショックを受けたイスラエルは、軍事部門における他国への依存度を減らす必要があると悟る。そこで国内の防衛分野やそれに関わるテクノロジー分野への投資を強化するようになり、そこから目覚ましい急成長を遂げることになった。 さらに、自分たちの戦力を高めるだけでなく、開発した技術を輸出する知識集約型のハイテク分野の構築に焦点を置いた。アラブ諸国に対する地政学的な劣勢を埋め合わせるために、IT技術に傾倒していったというわけだ。 ベンイスラエルは、「そのおかげで70年代には、低賃金で雇える有能な科学者やエンジニアが数多く育っていた」と言う。80年代には既にIBMやインテル、モトローラなどが次々とイスラエルに研究開発センターを設置するようになっていた。 90年代半ばにパコソンや携帯電話が一般にも普及するようになると、イスラエルのそれまでの投資も実り、世界有数のIT国家として知られるようになった。防衛意識から生まれたイスラエルのIT分野は順調に成長を遂げ、スタートアップも数多く生まれている。 IT分野の成長を支える重要な要素が、イスラエル軍の徴兵制度だ。ベンイスラエルは、「意外に思うだろうが、徴兵制こそがイスラエルの技術的な革新を可能にしている」と言う。 「端的に言えば、イスラエルがテック分野で成功した秘訣は『大規模な戦略』が根底にある。その戦略は、イスラエルの置かれている過酷な地政学的環境から生まれた。その戦略の大事な要素は、質で優位に立つことと、大規模な研究開発の取り組みを推進することだ」 イスラエルでは、18歳になれば国民はイスラエル軍に入隊する義務がある(アラブ系など一部免除あり)。男性は2年8カ月、女性は2年、イスラエル軍に所属して、国防の現場で勤務する必要がある。また、40歳までは予備役として登録される。 実はこの徴兵制は武器を持って戦闘をすることだけが目的ではない。優秀な人材を育成するための重要な役割を担っている。 イスラエル軍の人事部は、19歳のイスラエル人の若者を全て、入隊前にスクリーニングする。 その際に、科学やエンジニア部門で秀でた人材を青田買いして、軍が学費を負担して徴兵時期を延期するなどの支援をしながら専門的な分野に送り込む。実際に毎年、1000人ほどの優秀な高校生が軍に入隊する前に大学へ送り込まれる』、「1967年のフランスショック・・・それまで武器調達で依存していたフランスがアラブ諸国に肩入れすることを決め、イスラエルに対する武器禁輸措置に踏み切った。 このフランスの動きにショックを受けたイスラエルは、軍事部門における他国への依存度を減らす必要があると悟る。そこで国内の防衛分野やそれに関わるテクノロジー分野への投資を強化するようになり、そこから目覚ましい急成長を遂げることになった」、初めて知った。
・『「8200部隊」の出身者とは そうした学生は大学を卒業した時点で軍に入隊し、有給の職務経験を軍で積み、能力を磨くことになる。 イスラエル外務省のイノベーション開発部門を率いるラン・ナタンゾンによれば、軍ではスタートアップなどで革新的な開発を行うための「リーダーシップ」「チームワーク」「共同ミッション」「ネットワーキング力」を学ぶという。 また優秀なエンジニアなどは、イスラエル軍の「シギント」活動を担う「8200部隊」に配属され、国防の最前線でその腕を磨く。シギント活動とは、シグナルインテリジェンスの略で、通信の傍受や監視、ハッキングやサイバー攻撃などを指す。 筆者が知るエンジニア出身のスタートアップ経営者などは、この8200部隊の出身者が少なくない。軍の実戦で身に付けた経験から、本当に民間が求める民生技術のアイデアを練り出す。 軍から最長5年で除隊すると、一般社会に出る時点で立派な即戦力になっている。イスラエルはこうしてエンジニアやプログラマーなどを育てており、世界的に見ても能力の高いエンジニア人材の宝庫となっている。 そのイスラエルの技術力が、シリコンバレーをはじめとする世界的なテック業界を支えているのである。 先端技術を生み出すスタートアップ国家という立ち位置を生き残りの一つの手段として推し進めるイスラエル政府は、この「エコシステム」を全面的にバックアップする。 政府はイノベーション庁などを通して、スタートアップに多額の投資を行っている。イスラエル政府は現在、R&Dへの投資にGDPの6%(約170億ドル)を投資しており、この割合は世界で最も高い。 加えて、イスラエル外務省のナタンゾンによれば、「テック業界が盛り上がる環境が整っている」と言う。「スタートアップに投資を行うベンチャーキャピタルファンドも400近く活動している。 また企業をいろいろな側面から支援するインキュベーターも19組織あり、起業家たちはビジネスに集中できる」 そんなイスラエルが今、最も注目しているのがAI分野だ。世界のAI投資を「投資」「革新」「導入」で評価した「グローバルAI指標」によれば、イスラエルは現在、世界第7位にランクしている。ちなみに日本は12位だ。 「いま政府は、今後何年かにわたってこの分野でのイスラエルの継続的なリーダーシップを確保することを目的とし、省庁横断でAI開発のための国家プログラムに約27億ドルを投資している」と、ナタンゾンは言う。) 必要に迫られた国防意識から始まった、世界に先駆けた革新技術の開発によって、今では世界から一目置かれる存在になったイスラエル。 その長年培ってきたエコシステムによって、昨年10月のハマスによる大規模テロとその後の戦争状態の中でも、イスラエルのテック分野は足踏みすることなく投資を呼び込んだ。 テロ以降、イスラエルのテック人材の15%は戦争に招集されたが、スタートアップなどはテロ後の6カ月で総額31億ドルの投資を呼び込んでいる。テロの脅威の前にも止まらないイスラエルのイノベーション部門の強靭さが確認されたことになる。 それもまた、世界のテック企業がイスラエルを信頼する理由だ』、「優秀なエンジニアなどは、イスラエル軍の「シギント」活動を担う「8200部隊」に配属され、国防の最前線でその腕を磨く。シギント活動とは、シグナルインテリジェンスの略で、通信の傍受や監視、ハッキングやサイバー攻撃などを指す。 筆者が知るエンジニア出身のスタートアップ経営者などは、この8200部隊の出身者が少なくない。軍の実戦で身に付けた経験から、本当に民間が求める民生技術のアイデアを練り出す・・・「テック業界が盛り上がる環境が整っている」・・・「スタートアップに投資を行うベンチャーキャピタルファンドも400近く活動している。 また企業をいろいろな側面から支援するインキュベーターも19組織あり、起業家たちはビジネスに集中できる」・・・「グローバルAI指標」によれば、イスラエルは現在、世界第7位にランクしている。ちなみに日本は12位・・・イスラエルのテック人材の15%は戦争に招集されたが、スタートアップなどはテロ後の6カ月で総額31億ドルの投資を呼び込んでいる。テロの脅威の前にも止まらないイスラエルのイノベーション部門の強靭さが確認されたことになる。 それもまた、世界のテック企業がイスラエルを信頼する理由だ」、大したものだ。「戦争」という緊張状態のなかで、「ベンチャーキャピタルファンド」や「インキュベーション組織」などを整備することで、「起業家たちはビジネスに集中できる」仕組みは「イスラエル」ならではの強味だ。
先ずは、本年8月30日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したテレビ東京WBS(ワールドビジネスサテライト)メインキャスターの豊島晋作氏による「パレスチナへの支援金額、アラブ諸国はたった2割…意外な「最大の支援国家」とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/349187
・『昨年10月7日にイスラム組織ハマスがイスラエルに大規模攻撃を仕掛けてから、1年近くが経つ。当初は国際世論を味方につけていたイスラエルだが、ハマスの支配するパレスチナ自治区ガザ地区を爆撃する報復に出たことで、今や世界から非難を浴びている。長く両者が血を流し続けるイスラエル・パレスチナ問題の根源をたどる。※本稿は、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」のメインキャスター、豊島晋作『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『過去においてハマスによる攻撃やテロが国際的な非難を浴びやすかったワケ 世界の反応について考えると、過去においてはハマスによる攻撃やテロの方が、イスラエル軍の攻撃よりも国際的な非難を浴びやすかったと思います。これはなぜでしょうか。 1つ目の理由は、イスラエルが、国際政治で最も影響力と発信力のあるアメリカと緊密な関係にあることでしょう。2つ目はイスラエル軍が国家の軍隊である一方、ハマスがそうではないことです。 イスラエルは民主的に統制された正規軍(イスラエル国防軍)が暴力を行使します。一方でパレスチナ人は国家を設立できておらず、また民主的な統制がないハマスなどの武装組織が暴力を行使しています。明らかな犯罪行為である民間人を標的にした自爆テロも行ってきました。 国際法などのルールに照らすと、イスラエル軍の攻撃は国家の武力行使なので国際法上はより正当化されやすい可能性があり、一方で国家の軍隊ではない武装組織ハマスの攻撃は、犯罪的と見なされる可能性が高いと言えます。 前者は暴力行使への民主的な監視と手続きが存在し、軍事法廷も含め結果への説明責任が果たされる余地があります。しかし、後者はそうした暴力の行使に対する抑制メカニズムがないと見なされ、批判を受けやすいのです。 しかし、発生する結果は同じです。イスラエル軍の攻撃もハマスの攻撃も、ともに無実の民間人を数多く殺害してきました。もちろん、10月7日のハマスによる殺人や拉致は重大犯罪であり処罰は必要です。 同じくイスラエル軍の民間人への攻撃と殺害も犯罪行為であり処罰が必要です。戦争には、攻撃の際は民間目標を避けるなど、かつて戦時国際法とも呼ばれた武力国際法(国際人道法)のルールがあり、2023年10月以降の状況はそれが守られているとは言えません。 こうした議論の場合は「どちらも悪い」などという雑多な結論ではなく、個別の殺人行為、個別の軍事行動、攻撃行為を細かく見ていくしか方法がありません。 この点については、事実上、機能する国家を設立できていないパレスチナ人側、つまりハマス側が説得力の面で劣勢にあると言えるでしょう。やはり国家を設立できたか、できなかったかで世界へのメッセージの発信力を含め政治的な優劣が出ています』、「国際法などのルールに照らすと、イスラエル軍の攻撃は国家の武力行使なので国際法上はより正当化されやすい可能性があり、一方で国家の軍隊ではない武装組織ハマスの攻撃は、犯罪的と見なされる可能性が高いと言えます。 前者は暴力行使への民主的な監視と手続きが存在し、軍事法廷も含め結果への説明責任が果たされる余地があります。しかし、後者はそうした暴力の行使に対する抑制メカニズムがないと見なされ、批判を受けやすいのです。 しかし、発生する結果は同じです。イスラエル軍の攻撃もハマスの攻撃も、ともに無実の民間人を数多く殺害してきました。もちろん、10月7日のハマスによる殺人や拉致は重大犯罪であり処罰は必要です・・・こうした議論の場合は「どちらも悪い」などという雑多な結論ではなく、個別の殺人行為、個別の軍事行動、攻撃行為を細かく見ていくしか方法がありません。 この点については、事実上、機能する国家を設立できていないパレスチナ人側、つまりハマス側が説得力の面で劣勢にあると言えるでしょう。やはり国家を設立できたか、できなかったかで世界へのメッセージの発信力を含め政治的な優劣が出ています」、なるほど。
・『パレスチナの最大の支援者はアラブ諸国ではない ただ、2024年に入り、イスラエルへの批判が世界中でかつてない規模で広がった結果、パレスチナを国家として承認する動きも広がりました。2024年5月28日、スペイン、アイルランド、ノルウェーの欧州3カ国が、パレスチナを国家として正式承認したのです。 アイルランドはかつてイギリスと独立戦争を戦った歴史があり、独立国家になるための苦闘を経験した国でもあります。実はパレスチナ自治政府に対しては、これら3カ国が承認する前の時点でも、アラブ諸国やアフリカ諸国を含め世界の139カ国が既に国家として承認していました。 ただ、日本やアメリカ、イギリス、フランス、イタリアなど国際政治で影響力の大きいG7諸国は承認しておらず、パレスチナにとっては、これが大きな課題となっているのです。 では、パレスチナ人たちは誰かに頼れるのでしょうか。やはりアラブ諸国でしょうか。パレスチナの人々はアラブ諸国の資金援助に頼っていると思われがちですが、実はそうでもありません。アラブ国家の合計の支援金額は全体の20%程度に過ぎません。その大部分がサウジアラビアの9.9%とアラブ首長国連邦の5.2%です。 実は、1994年から2020年までのパレスチナ支援総額400億ドルのうち最大の支援者はヨーロッパ(EU)で全体の約18.9%です。次にアメリカの14.2%、日本は約2.9%となっています。軍事援助や政治的なスタンスではイスラエル寄りの姿勢が目立つアメリカですが、単独国家としては最大の資金を拠出しています。最大の支援者は欧米なのです。 なお、イランなどの武器支援は公式の統計にはほぼ出てこないので把握は困難ですが、少なくとも公式統計に出てくる支援国の上位にいないことは明らかです』、「1994年から2020年までのパレスチナ支援総額400億ドルのうち最大の支援者はヨーロッパ(EU)で全体の約18.9%です。次にアメリカの14.2%、日本は約2.9%となっています。軍事援助や政治的なスタンスではイスラエル寄りの姿勢が目立つアメリカですが、単独国家としては最大の資金を拠出しています。最大の支援者は欧米なのです・・・スペイン、アイルランド、ノルウェーの欧州3カ国が、パレスチナを国家として正式承認したのです。 アイルランドはかつてイギリスと独立戦争を戦った歴史があり、独立国家になるための苦闘を経験した国でもあります。実はパレスチナ自治政府に対しては、これら3カ国が承認する前の時点でも、アラブ諸国やアフリカ諸国を含め世界の139カ国が既に国家として承認していました。 ただ、日本やアメリカ、イギリス、フランス、イタリアなど国際政治で影響力の大きいG7諸国は承認しておらず、パレスチナにとっては、これが大きな課題となっているのです」、なるほど。
・『アラブ諸国に見捨てられた状態のパレスチナ人 パレスチナの人々は心のどこかで、アラブ諸国は最後には頼りにならないことが分かっています。どの国の軍隊も戦闘能力は低く、ともに戦った過去4回の戦争は全て敗北しましたし、先ほど書いた通り資金援助の合計は欧米の方が多いのです。) そもそも、アラブ諸国はスンニ派のサウジアラビアとシーア派のイランを中心に対立しており、団結できていません。かつて「パレスチナ問題が解決するまではイスラエルは認めない」という“アラブの大義”を掲げ、対イスラエル戦争を戦った同胞のエジプトは、今やパレスチナ難民の流入を恐れて国境を封鎖してしまいました。 もともと、アラブ諸国の指導者たちは、自分の権力の維持こそが最も重要だと考えるリアリスト集団です。パレスチナ問題に関しては、パレスチナ人に同情する世論に配慮して一定の行動をとっているに過ぎません。 最大の資金援助国サウジアラビアも、去年までパレスチナ人の宿敵であるイスラエルとの国交正常化に動いていましたし、2020年にはパレスチナ自治政府への支援金を80%以上も削減しています。またUAE(アラブ首長国連邦)やバーレーンもイスラエルと国交を正常化し、パレスチナへの支援金を同じく削減したと見られています。 パレスチナ人にとって、もはや“アラブの大義”は失われ、アラブ諸国には見捨てられた、裏切られた状態だったのです。 過去にアラブ諸国の指導者でパレスチナ人の支持を集めたのが、イラクのサダム・フセイン大統領でした。イスラエルにスカッドミサイルを何発も打ち込み、パレスチナ人たちから「実際に行動を起こした」と称賛されました。 フセイン大統領といえば1990年に隣国クウェートに軍事侵攻したことで知られ、アメリカ主導の有志連合軍によって撃退され、最終的には2003年のイラク戦争後に殺害された独裁者です。そういう人物でも、パレスチナ人の一部は英雄だと考えていたのです。 実際、サダム・フセインのイスラエルへのミサイル発射が、欧米を含め他国にパレスチナ問題の解決を急がせ、その後の1993年のオスロ合意へと向かう要因になったとも指摘されています』、「もともと、アラブ諸国の指導者たちは、自分の権力の維持こそが最も重要だと考えるリアリスト集団です。パレスチナ問題に関しては、パレスチナ人に同情する世論に配慮して一定の行動をとっているに過ぎません。 最大の資金援助国サウジアラビアも、去年までパレスチナ人の宿敵であるイスラエルとの国交正常化に動いていましたし、2020年にはパレスチナ自治政府への支援金を80%以上も削減しています。またUAE(アラブ首長国連邦)やバーレーンもイスラエルと国交を正常化し、パレスチナへの支援金を同じく削減したと見られています・・・過去にアラブ諸国の指導者でパレスチナ人の支持を集めたのが、イラクのサダム・フセイン大統領でした。イスラエルにスカッドミサイルを何発も打ち込み、パレスチナ人たちから「実際に行動を起こした」と称賛されました・・・サダム・フセインのイスラエルへのミサイル発射が、欧米を含め他国にパレスチナ問題の解決を急がせ、その後の1993年のオスロ合意へと向かう要因になったとも指摘されています」、なるほど。
・『「何度も建国のチャンスはあったはず」パレスチナ政府に対する批判も この1993年のオスロ合意=パレスチナ暫定自治合意は、パレスチナに自治区を立ち上げ、いずれはパレスチナとイスラエルの2国家共存を目指すという合意でした。その後の中東和平の基礎となりました。) しかし、合意の当事者だったイスラエルのラビン首相は1995年、イスラエル国民で和平に反対するユダヤ人青年によって射殺されました。その後、2000年に後に首相となるアリエル・シャロンがイスラム教徒の聖地である岩のドームを訪問してパレスチナ人の怒りに火を付け、和平の流れは崩れていきました。 パレスチナ人から見れば、アラブ諸国は頼れず、イスラエル側は和平に本気ではないと結論付けざるを得ませんでした。 一方で、パレスチナ側への批判もあるでしょう。ハマスなどのテロ組織は、民間人を狙ったテロを何度も起こしてきました。民間人が乗るバスなどを自爆テロで爆破し、大勢の市民を殺害してきました。 確かに、1947年の国連決議ではアラブ国家の樹立も認められ、アラブやアフリカ諸国など多くの国がパレスチナ政府を国家として承認しています。 しかし、半世紀以上たった今も、パレスチナ人はG7諸国が認めるような、機能する国家を建設できていません。これはイスラエルが事実上、建国を認めず、妨害しているためですが、一方において、パレスチナ人たちも自分たちをうまく組織化できず、社会を統治できていないのです。「これまで何度も建国のチャンスはあったはずだ」との批判もあります。 パレスチナ自治政府の権力は腐敗しており、腐敗を除去する政治メカニズム、つまり、チェックアンドバランス機能を持っていません。カリスマ的指導者とされたPLOのヤーセル・アラファト議長の権力もかなり腐敗していたことが指摘され、後を継いだアッバス議長も、同じく腐敗や統治能力の欠如が批判されてきました。2006年以来、一度も選挙を実施していないため、パレスチナの人々の民意を代表していないという批判もあります』、「1993年のオスロ合意=パレスチナ暫定自治合意は、パレスチナに自治区を立ち上げ、いずれはパレスチナとイスラエルの2国家共存を目指すという合意でした。その後の中東和平の基礎となりました。) しかし、合意の当事者だったイスラエルのラビン首相は1995年、イスラエル国民で和平に反対するユダヤ人青年によって射殺されました・・・パレスチナ人から見れば、アラブ諸国は頼れず、イスラエル側は和平に本気ではないと結論付けざるを得ませんでした・・・1947年の国連決議ではアラブ国家の樹立も認められ、アラブやアフリカ諸国など多くの国がパレスチナ政府を国家として承認しています。 しかし、半世紀以上たった今も、パレスチナ人はG7諸国が認めるような、機能する国家を建設できていません。これはイスラエルが事実上、建国を認めず、妨害しているためですが、一方において、パレスチナ人たちも自分たちをうまく組織化できず、社会を統治できていないのです・・・パレスチナ自治政府の権力は腐敗しており、腐敗を除去する政治メカニズム、つまり、チェックアンドバランス機能を持っていません。カリスマ的指導者とされたPLOのヤーセル・アラファト議長の権力もかなり腐敗していたことが指摘され、後を継いだアッバス議長も、同じく腐敗や統治能力の欠如が批判されてきました。2006年以来、一度も選挙を実施していないため、パレスチナの人々の民意を代表していないという批判もあります」、なるほど。
・『イスラエルの「強者の論理」とパレスチナ人の「弱者の論理」の対立 また、パレスチナ社会、つまりガザやヨルダン川西岸地区では言論の自由がないとの批判もあります。オスロ合意前後では、パレスチナには一定の言論の自由があったとされますが、近年はそうではなく、ハマスへの批判などはできない状態だったと言われます。) 確かにこうした批判は一定の説得力を持つかもしれません。しかし、抑圧された人間集団に言論の自由などを要求することに何の意味があるのかとも考えてしまいます。様々な批判があるとしても「パレスチナ人がここまで苛烈な運命を背負わなければならないのか」という大きな疑問はやはり残ります。 一方的に土地を奪われ、爆弾と砲弾で家を破壊され、街を破壊され、家族を殺されなければならないのか、イスラエルの行為をそこまで許容するのか。そんな“再反論”も当然大きな説得力を持つわけです。 パレスチナ人たちは、ユダヤ人という組織力が強く、かつ強い生存本能を持った民族が「住みたい」と言った場所に、偶然、住んでいただけです。ただそれだけで、苛烈な運命を背負わされているのです。 ユダヤ人はかつて歴史的に迫害を受け続ける「弱者」とされてきましたが、今や、経済的・軍事的な「強者」になっています。つまり対立の根源は、強力な軍事力と経済力を持つイスラエルの「強者の論理」と、ゲリラ戦やテロ攻撃で報復するしかないパレスチナ人の「弱者の論理」の対立でもあるのです。 確かに国際政治は「強者の論理」が支配する世界ですが、現代に生きる私たちが、それをただ肯定することはできません。日本としても当然すべきではないでしょう。これは綺麗事ではなく、もし日本より軍事力の大きな国が武力で日本の領土を奪った場合、それを認めることはできませんし、認めるべきではないからです。現代の国際秩序が壊れてしまうからです。 もし日本人がパレスチナ人のような状況に置かれたらどうするでしょうか。宗教に救いを求めずにいられるでしょうか。家族や子供を殺されて冷静でいられるでしょうか。 この問いに答えはありませんが、パレスチナの人々は多くが石を投げて抵抗し、イスラムの教えを拠り所にしました。 そして、イスラエル人たちがいるショッピングセンターで自爆ベルトを起爆させて散るようになりました。民間人に対する非道な攻撃、自爆テロをも行う人々が現れたのです。過激な手段をとる武装集団=ハマスの登場です』、「対立の根源は、強力な軍事力と経済力を持つイスラエルの「強者の論理」と、ゲリラ戦やテロ攻撃で報復するしかないパレスチナ人の「弱者の論理」の対立でもあるのです・・・パレスチナの人々は多くが石を投げて抵抗し、イスラムの教えを拠り所にしました。 そして、イスラエル人たちがいるショッピングセンターで自爆ベルトを起爆させて散るようになりました。民間人に対する非道な攻撃、自爆テロをも行う人々が現れたのです。過激な手段をとる武装集団=ハマスの登場です」、「イスラエル」は現在、「ハマス」潰しに血道を挙げているが、まだまだ時間がかかりそうだ。
次に、9月11日付けNewsweek日本版「なぜイスラエルは「テック大国」になれたのか...戦闘だけではない「徴兵制」に隠された目的とは?」を紹介しよう。<日本の四国ほどの面積、常に戦争とも隣り合わせの国が最新ITを牽引する背景には、男性にも女性にも義務づけられた「徴兵制」の存在が──> 今年2月、イスラエルのテルアビブ大学で、最先端AI(人工知能)技術の進化や課題、最新トレンドを議論するイベント「AI Day」が開催された。 【関連動画】イスラエルで開発された「乗用ドローンタクシー」飛行の様子 もともとこのイベントは1週間の日程で行われる予定だったが、昨年10月7日にイスラム組織ハマスが大規模テロを起こし、イスラエルが戦争状態に入っていたために開催が危ぶまれていた。だが、イスラエルのテクノロジー分野はテロに屈服しない、という意思を世界に示すため、1日限定でイベントは開催された。 筆者はこのイベントを取材するためにイスラエルを訪れていた。大学内の講堂で行われたイベントの冒頭には、進行役のテルアビブ大学関係者が「空襲警報が鳴ったら速やかに避難していただく」とステージ上でアナウンスし、戦時下の緊張状態にあることを再認識させた。 ただ、常に戦争と隣り合わせのこの日常こそが、まさに世界のIT業界を支えるテック大国イスラエルの礎になっていると言えるだろう。 ユダヤ人国家であるイスラエルが、世界の名だたるテック企業を牽引していることはよく知られている。 2024年現在の世界的企業の時価総額ランキングを見ると、トップ企業の多くは創業者や経営者がユダヤ系だ。アップル、マイクロソフト、アルファベット、メタ、インテル、オラクルなど、現代の世界を支える企業が名を連ねている。 またユダヤ系企業でなくとも、イスラエルの優れた技術を開発するスタートアップ(新興)企業を買収するなどしてイスラエル発のテクノロジーを獲得している世界的企業も数多い。その規模は22年に総額169億ドルにも上っている。 過去の有名なケースでは、06年に記録媒体で有名なサンディスクがイスラエル企業が開発したUSBドライブ技術を買収している。17年にはインテルが自動運転技術を開発するイスラエルのモービルアイを買収し、大きな話題になった。 時価総額でアップルを抜いて話題になった半導体メーカーNVIDIA(エヌビディア)も今年、AI管理ソフトを開発するイスラエル企業を買収した。 そもそもイスラエルには、有能なテック人材が多い。そのため、世界中の企業が買収を視野にスタートアップに注目しているだけでなく、こぞってイスラエルにR&D(研究開発)の拠点を置いている。 その数は現在、433企業にもなり、マイクロソフトやIBM、インテル、シスコ、クアルコム、シティバンク、シーメンスなど枚挙にいとまがない』、「そもそもイスラエルには、有能なテック人材が多い。そのため、世界中の企業が買収を視野にスタートアップに注目しているだけでなく、こぞってイスラエルにR&D(研究開発)の拠点を置いている。 その数は現在、433企業にもなり、マイクロソフトやIBM、インテル、シスコ、クアルコム、シティバンク、シーメンスなど枚挙にいとまがない」、なるほど。
・『技術と科学に生存を懸けて なぜイスラエルは技術力の高いテクノロジーを開発する有能なテック人材を輩出できるのか。その背景には、イスラエル独特の国家型エコシステムがある。その鍵を握るのが「徴兵制」で、つまり軍事部門が重要な要素となっている。 このエコシステムを理解するのには、まず国の成り立ちを知る必要がある。日本の四国ほどの面積のイスラエルには現在、約955万人が暮らす。イスラエルは、宗教対立を抱え、領土をめぐって長く争うアラブ諸国に囲まれている。北はレバノンやシリア、東にはヨルダン、南にはエジプトが存在する。 1948年の独立から現在まで、周辺のアラブ諸国とは4度も戦火を交えている。イスラエルには3大宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)の聖地エルサレムがあり、その帰属をめぐって、パレスチナ人が暮らすパレスチナ自治区とも敵対。 特にイスラエル南部のガザ地区を拠点とするハマスとは、何度も軍事的な衝突が起きている。 昨年10月に、ハマスの戦闘員らがイスラエルに侵入して約1200人が殺害されたテロ事件は記憶に新しい。イスラエル政府はハマス殲滅を掲げて今もガザ地区に報復攻撃を続けており、これまでに民間人を含めて4万人以上が死亡している。 ハマスなど反イスラエル勢力による攻撃も、これまで何度も繰り返されてきた。イスラエルの背後には地中海が広がり、まさに背水の陣の様相で生存を懸けて戦ってきた。 そうした現実から、イスラエルは早い段階から自国を守るための軍事力に力を入れ、独自のエコシステムを確立してきた。 テルアビブ大学教授でイスラエルのIT部門を政府内で牽引してきたアイザック・ベンイスラエル少将は、「イスラエルは建国前から、天然資源のない国がいかに生き残れるのかを真剣に考えてきた。そこで必要なのは、教育や科学、テクノロジーの分野で他国に抜きんでることだとの認識を持つようになった」と話す。 そして建国後の貧しい時代にも、政府は、周辺の敵から身を守るための防衛技術につながる科学的な研究やテクノロジー開発を重要視して投資を行ってきた。現在では「デュアルユース(軍民両用)」と呼ばれる技術の開発だ』、「イスラエル独特の国家型エコシステムがある。その鍵を握るのが「徴兵制」で、つまり軍事部門が重要な要素となっている・・・日本の四国ほどの面積のイスラエルには現在、約955万人が暮らす。イスラエルは、宗教対立を抱え、領土をめぐって長く争うアラブ諸国に囲まれている。北はレバノンやシリア、東にはヨルダン、南にはエジプトが存在する。 1948年の独立から現在まで、周辺のアラブ諸国とは4度も戦火を交えている。イスラエルには3大宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)の聖地エルサレムがあり、その帰属をめぐって、パレスチナ人が暮らすパレスチナ自治区とも敵対。 特にイスラエル南部のガザ地区を拠点とするハマスとは、何度も軍事的な衝突が起きている・・・天然資源のない国がいかに生き残れるのかを真剣に考えてきた。そこで必要なのは、教育や科学、テクノロジーの分野で他国に抜きんでることだとの認識を持つようになった」と話す。 そして建国後の貧しい時代にも、政府は、周辺の敵から身を守るための防衛技術につながる科学的な研究やテクノロジー開発を重要視して投資を行ってきた。現在では「デュアルユース(軍民両用)」と呼ばれる技術の開発だ」、なるほど。
・『1967年のフランスショック 大きな転機が訪れたのは67年。イスラエルと、エジプトやシリア、ヨルダンなどアラブ諸国の間で、第3次中東戦争、いわゆる6日間戦争が勃発した。それまで武器調達で依存していたフランスがアラブ諸国に肩入れすることを決め、イスラエルに対する武器禁輸措置に踏み切った。 このフランスの動きにショックを受けたイスラエルは、軍事部門における他国への依存度を減らす必要があると悟る。そこで国内の防衛分野やそれに関わるテクノロジー分野への投資を強化するようになり、そこから目覚ましい急成長を遂げることになった。 さらに、自分たちの戦力を高めるだけでなく、開発した技術を輸出する知識集約型のハイテク分野の構築に焦点を置いた。アラブ諸国に対する地政学的な劣勢を埋め合わせるために、IT技術に傾倒していったというわけだ。 ベンイスラエルは、「そのおかげで70年代には、低賃金で雇える有能な科学者やエンジニアが数多く育っていた」と言う。80年代には既にIBMやインテル、モトローラなどが次々とイスラエルに研究開発センターを設置するようになっていた。 90年代半ばにパコソンや携帯電話が一般にも普及するようになると、イスラエルのそれまでの投資も実り、世界有数のIT国家として知られるようになった。防衛意識から生まれたイスラエルのIT分野は順調に成長を遂げ、スタートアップも数多く生まれている。 IT分野の成長を支える重要な要素が、イスラエル軍の徴兵制度だ。ベンイスラエルは、「意外に思うだろうが、徴兵制こそがイスラエルの技術的な革新を可能にしている」と言う。 「端的に言えば、イスラエルがテック分野で成功した秘訣は『大規模な戦略』が根底にある。その戦略は、イスラエルの置かれている過酷な地政学的環境から生まれた。その戦略の大事な要素は、質で優位に立つことと、大規模な研究開発の取り組みを推進することだ」 イスラエルでは、18歳になれば国民はイスラエル軍に入隊する義務がある(アラブ系など一部免除あり)。男性は2年8カ月、女性は2年、イスラエル軍に所属して、国防の現場で勤務する必要がある。また、40歳までは予備役として登録される。 実はこの徴兵制は武器を持って戦闘をすることだけが目的ではない。優秀な人材を育成するための重要な役割を担っている。 イスラエル軍の人事部は、19歳のイスラエル人の若者を全て、入隊前にスクリーニングする。 その際に、科学やエンジニア部門で秀でた人材を青田買いして、軍が学費を負担して徴兵時期を延期するなどの支援をしながら専門的な分野に送り込む。実際に毎年、1000人ほどの優秀な高校生が軍に入隊する前に大学へ送り込まれる』、「1967年のフランスショック・・・それまで武器調達で依存していたフランスがアラブ諸国に肩入れすることを決め、イスラエルに対する武器禁輸措置に踏み切った。 このフランスの動きにショックを受けたイスラエルは、軍事部門における他国への依存度を減らす必要があると悟る。そこで国内の防衛分野やそれに関わるテクノロジー分野への投資を強化するようになり、そこから目覚ましい急成長を遂げることになった」、初めて知った。
・『「8200部隊」の出身者とは そうした学生は大学を卒業した時点で軍に入隊し、有給の職務経験を軍で積み、能力を磨くことになる。 イスラエル外務省のイノベーション開発部門を率いるラン・ナタンゾンによれば、軍ではスタートアップなどで革新的な開発を行うための「リーダーシップ」「チームワーク」「共同ミッション」「ネットワーキング力」を学ぶという。 また優秀なエンジニアなどは、イスラエル軍の「シギント」活動を担う「8200部隊」に配属され、国防の最前線でその腕を磨く。シギント活動とは、シグナルインテリジェンスの略で、通信の傍受や監視、ハッキングやサイバー攻撃などを指す。 筆者が知るエンジニア出身のスタートアップ経営者などは、この8200部隊の出身者が少なくない。軍の実戦で身に付けた経験から、本当に民間が求める民生技術のアイデアを練り出す。 軍から最長5年で除隊すると、一般社会に出る時点で立派な即戦力になっている。イスラエルはこうしてエンジニアやプログラマーなどを育てており、世界的に見ても能力の高いエンジニア人材の宝庫となっている。 そのイスラエルの技術力が、シリコンバレーをはじめとする世界的なテック業界を支えているのである。 先端技術を生み出すスタートアップ国家という立ち位置を生き残りの一つの手段として推し進めるイスラエル政府は、この「エコシステム」を全面的にバックアップする。 政府はイノベーション庁などを通して、スタートアップに多額の投資を行っている。イスラエル政府は現在、R&Dへの投資にGDPの6%(約170億ドル)を投資しており、この割合は世界で最も高い。 加えて、イスラエル外務省のナタンゾンによれば、「テック業界が盛り上がる環境が整っている」と言う。「スタートアップに投資を行うベンチャーキャピタルファンドも400近く活動している。 また企業をいろいろな側面から支援するインキュベーターも19組織あり、起業家たちはビジネスに集中できる」 そんなイスラエルが今、最も注目しているのがAI分野だ。世界のAI投資を「投資」「革新」「導入」で評価した「グローバルAI指標」によれば、イスラエルは現在、世界第7位にランクしている。ちなみに日本は12位だ。 「いま政府は、今後何年かにわたってこの分野でのイスラエルの継続的なリーダーシップを確保することを目的とし、省庁横断でAI開発のための国家プログラムに約27億ドルを投資している」と、ナタンゾンは言う。) 必要に迫られた国防意識から始まった、世界に先駆けた革新技術の開発によって、今では世界から一目置かれる存在になったイスラエル。 その長年培ってきたエコシステムによって、昨年10月のハマスによる大規模テロとその後の戦争状態の中でも、イスラエルのテック分野は足踏みすることなく投資を呼び込んだ。 テロ以降、イスラエルのテック人材の15%は戦争に招集されたが、スタートアップなどはテロ後の6カ月で総額31億ドルの投資を呼び込んでいる。テロの脅威の前にも止まらないイスラエルのイノベーション部門の強靭さが確認されたことになる。 それもまた、世界のテック企業がイスラエルを信頼する理由だ』、「優秀なエンジニアなどは、イスラエル軍の「シギント」活動を担う「8200部隊」に配属され、国防の最前線でその腕を磨く。シギント活動とは、シグナルインテリジェンスの略で、通信の傍受や監視、ハッキングやサイバー攻撃などを指す。 筆者が知るエンジニア出身のスタートアップ経営者などは、この8200部隊の出身者が少なくない。軍の実戦で身に付けた経験から、本当に民間が求める民生技術のアイデアを練り出す・・・「テック業界が盛り上がる環境が整っている」・・・「スタートアップに投資を行うベンチャーキャピタルファンドも400近く活動している。 また企業をいろいろな側面から支援するインキュベーターも19組織あり、起業家たちはビジネスに集中できる」・・・「グローバルAI指標」によれば、イスラエルは現在、世界第7位にランクしている。ちなみに日本は12位・・・イスラエルのテック人材の15%は戦争に招集されたが、スタートアップなどはテロ後の6カ月で総額31億ドルの投資を呼び込んでいる。テロの脅威の前にも止まらないイスラエルのイノベーション部門の強靭さが確認されたことになる。 それもまた、世界のテック企業がイスラエルを信頼する理由だ」、大したものだ。「戦争」という緊張状態のなかで、「ベンチャーキャピタルファンド」や「インキュベーション組織」などを整備することで、「起業家たちはビジネスに集中できる」仕組みは「イスラエル」ならではの強味だ。
タグ:イスラエル・パレスチナ (その7)(パレスチナへの支援金額 アラブ諸国はたった2割…意外な「最大の支援国家」とは?、なぜイスラエルは「テック大国」になれたのか...戦闘だけではない「徴兵制」に隠された目的とは?) ダイヤモンド・オンライン 豊島晋作氏による「パレスチナへの支援金額、アラブ諸国はたった2割…意外な「最大の支援国家」とは?」 豊島晋作『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA) 「国際法などのルールに照らすと、イスラエル軍の攻撃は国家の武力行使なので国際法上はより正当化されやすい可能性があり、一方で国家の軍隊ではない武装組織ハマスの攻撃は、犯罪的と見なされる可能性が高いと言えます。 前者は暴力行使への民主的な監視と手続きが存在し、軍事法廷も含め結果への説明責任が果たされる余地があります。しかし、後者はそうした暴力の行使に対する抑制メカニズムがないと見なされ、批判を受けやすいのです。 しかし、発生する結果は同じです。イスラエル軍の攻撃もハマスの攻撃も、ともに無実の民間人を数多く殺害 してきました。もちろん、10月7日のハマスによる殺人や拉致は重大犯罪であり処罰は必要です・・・こうした議論の場合は「どちらも悪い」などという雑多な結論ではなく、個別の殺人行為、個別の軍事行動、攻撃行為を細かく見ていくしか方法がありません。 この点については、事実上、機能する国家を設立できていないパレスチナ人側、つまりハマス側が説得力の面で劣勢にあると言えるでしょう。やはり国家を設立できたか、できなかったかで世界へのメッセージの発信力を含め政治的な優劣が出ています」、なるほど。 「1994年から2020年までのパレスチナ支援総額400億ドルのうち最大の支援者はヨーロッパ(EU)で全体の約18.9%です。次にアメリカの14.2%、日本は約2.9%となっています。軍事援助や政治的なスタンスではイスラエル寄りの姿勢が目立つアメリカですが、単独国家としては最大の資金を拠出しています。最大の支援者は欧米なのです・・・ スペイン、アイルランド、ノルウェーの欧州3カ国が、パレスチナを国家として正式承認したのです。 アイルランドはかつてイギリスと独立戦争を戦った歴史があり、独立国家になるための苦闘を経験した国でもあります。実はパレスチナ自治政府に対しては、これら3カ国が承認する前の時点でも、アラブ諸国やアフリカ諸国を含め世界の139カ国が既に国家として承認していました。 ただ、日本やアメリカ、イギリス、フランス、イタリアなど国際政治で影響力の大きいG7諸国は承認しておらず、パレスチナにとっては、これが大きな課題となっているの です」、なるほど。 「もともと、アラブ諸国の指導者たちは、自分の権力の維持こそが最も重要だと考えるリアリスト集団です。パレスチナ問題に関しては、パレスチナ人に同情する世論に配慮して一定の行動をとっているに過ぎません。 最大の資金援助国サウジアラビアも、去年までパレスチナ人の宿敵であるイスラエルとの国交正常化に動いていましたし、2020年にはパレスチナ自治政府への支援金を80%以上も削減しています。 またUAE(アラブ首長国連邦)やバーレーンもイスラエルと国交を正常化し、パレスチナへの支援金を同じく削減したと見られています・・・過去にアラブ諸国の指導者でパレスチナ人の支持を集めたのが、イラクのサダム・フセイン大統領でした。イスラエルにスカッドミサイルを何発も打ち込み、パレスチナ人たちから「実際に行動を起こした」と称賛されました・・・サダム・フセインのイスラエルへのミサイル発射が、欧米を含め他国にパレスチナ問題の解決を急がせ、その後の1993年のオスロ合意へと向かう要因になったとも指摘されています」、な るほど。 「1993年のオスロ合意=パレスチナ暫定自治合意は、パレスチナに自治区を立ち上げ、いずれはパレスチナとイスラエルの2国家共存を目指すという合意でした。その後の中東和平の基礎となりました。) しかし、合意の当事者だったイスラエルのラビン首相は1995年、イスラエル国民で和平に反対するユダヤ人青年によって射殺されました・・・ パレスチナ人から見れば、アラブ諸国は頼れず、イスラエル側は和平に本気ではないと結論付けざるを得ませんでした・・・1947年の国連決議ではアラブ国家の樹立も認められ、アラブやアフリカ諸国など多くの国がパレスチナ政府を国家として承認しています。 しかし、半世紀以上たった今も、パレスチナ人はG7諸国が認めるような、機能する国家を建設できていません。 これはイスラエルが事実上、建国を認めず、妨害しているためですが、一方において、パレスチナ人たちも自分たちをうまく組織化できず、社会を統治できていないのです・・・パレスチナ自治政府の権力は腐敗しており、腐敗を除去する政治メカニズム、つまり、チェックアンドバランス機能を持っていません。カリスマ的指導者とされたPLOのヤーセル・アラファト議長の権力もかなり腐敗していたことが指摘され、後を継いだアッバス議長も、同じく腐敗や統治能力の欠如が批判されてきました。 2006年以来、一度も選挙を実施していないため、パレスチナの人々の民意を代表していないという批判もあります」、なるほど。 「対立の根源は、強力な軍事力と経済力を持つイスラエルの「強者の論理」と、ゲリラ戦やテロ攻撃で報復するしかないパレスチナ人の「弱者の論理」の対立でもあるのです・・・パレスチナの人々は多くが石を投げて抵抗し、イスラムの教えを拠り所にしました。 そして、イスラエル人たちがいるショッピングセンターで自爆ベルトを起爆させて散るようになりました。民間人に対する非道な攻撃、自爆テロをも行う人々が現れたのです。過激な手段をとる武装集団=ハマスの登場です」、「イスラエル」は現在、「ハマス」潰しに血道を挙げているが、まだまだ 時間がかかりそうだ。 Newsweek日本版「なぜイスラエルは「テック大国」になれたのか...戦闘だけではない「徴兵制」に隠された目的とは?