政府財政問題(その10)(MMT信者がインフレ期に決まって口にすること、「血の出るような努力」でバラマキ財政を脱却せよ!今すぐ取り組むべき3つの課題とは? コロナ禍が収束した今こそ、財政運営は平時に復帰せよ 2024年度当初予算は正常化へ立ち返る意志が欠如、「日本は財政赤字で将来ヤバイ」→実は財政赤字が縮小していた!【エコノミストがデータで解説】) [経済政策]
政府財政問題については、本年2月8日に取上げた。今日は、(その10)(MMT信者がインフレ期に決まって口にすること、「血の出るような努力」でバラマキ財政を脱却せよ!今すぐ取り組むべき3つの課題とは? コロナ禍が収束した今こそ、財政運営は平時に復帰せよ 2024年度当初予算は正常化へ立ち返る意志が欠如、「日本は財政赤字で将来ヤバイ」→実は財政赤字が縮小していた!【エコノミストがデータで解説】)である。
先ずは、本年3月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した英国の経済学者のスティーヴン・D・キング氏と翻訳家の千葉敏生氏による「MMT信者がインフレ期に決まって口にすること」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339710
・『たびたびニュースを騒がせている「インフレ」。実は日本では実に40~50年ぶりであることをご存じだろうか(日本のバブル期には資産価格は上がったが、物価はほぼ上がらなかった)。インフレを経験として知っている人は少ない。そんななか、これから物価が上昇していく時代に突入しようとしている。 本連載では、ローレンス・サマーズ元米国財務長官が絶賛したインフレ解説書『僕たちはまだ、インフレのことを何も知らない』から、「そもそもインフレとは何か?」「インフレ下では何が起こるのか?」「インフレ下ではどの資産が上がる/下がるのか?」といった身近で根本的な問いに答えている部分を厳選して紹介する』、「「インフレ」。実は日本では実に40~50年ぶり・・・日本のバブル期には資産価格は上がったが、物価はほぼ上がらなかった」、改めて思い出した。
・『政府がインフレの誘惑に負けると何が起こるのか 究極的には、政府は増税に代わる狡猾な手段として、貨幣を印刷したいという誘惑に駆られる。そのメカニズムは状況に応じてさまざまだが、結果はたいてい同じだ。 その他の条件がすべて同じならば、インフレ率の上昇を招く金融緩和による政府借り入れの大幅な増加は、次の作用を及ぼすだろう。 (ⅰ)実質金利を低下させることで(現金資産に対する課税に相当)、貯蓄家から資産を奪い取る。 (ⅱ)為替レートを下落させ、輸入価格を上昇させることで(輸入品に対する付加価値税の増税に相当)、または物価を賃金と比べて相対的に上昇させることで(稀少資源を軍事転用しなければならない戦時中によく起こるように[*1])、消費者から資産を奪い取る。 (ⅲ)わずかばかりの貯蓄をインフレに強い資産ではなく現金で保有していることが多く、インフレ圧力の上昇に対する効果的な保護について交渉する能力に乏しい貧困者から資産を奪い取る。逆に、恩恵を受ける可能性があるのは、住宅ローンを抱える人々、価格支配力を持つ人々(大企業、労組加入の労働者)、そしてもちろん、政府の財政に責任を負う人々だ。しかし、このプロセスは秘密裏に進むとともに、このうえなく非民主的でもある』、「貯蓄家から資産を奪い取る」、「消費者から資産を奪い取る」、「貧困者から資産を奪い取る」、「恩恵を受ける可能性があるのは、住宅ローンを抱える人々、価格支配力を持つ人々」、「このプロセスは秘密裏に進むとともに、このうえなく非民主的でもある」、その通りだ。
・『MMT信者がインフレ対策でよく主張する2つのこと おまけに、インフレが実際に姿を現わすと、MMTの支持者たちは、インフレ全般を抑制するかわりに、より問題のある分野(最たる例はエネルギー分野)の需要を制限するか、供給を押し上げることが解決策になる、と主張することが多い。 この考え方の根底には、歴史の不思議な解釈がある。たとえば、1980年代、「最終的にインフレを終結させたのは、中東で交渉された平和条約[*2]と、カーター政権下の規制緩和の恩恵を受けた代替エネルギー源、つまり天然ガスの開発だった[*3]」という主張がその1つだ。 それと同様のことをする、というのが2022年中盤に出された提言だった。 ウクライナ戦争の解決の交渉が必要だ。また、(長く先延ばしになっている)再生可能エネルギーへの投資も必要だ。(中略)Fedにはインフレ率は下げられない。エネルギー価格は下げられないからだ。(中略)バイデン大統領は腹を割ってアメリカ国民に語りかけるべきだ。(中略)不要不急の旅行を避けるよう呼びかけ、(中略)雇用主に在宅勤務を認めるよう促し、(中略)公共交通を全乗客に対して無料化し、(中略)港での滞留を緩和し、(中略)住宅を建設するのだ![*4] どれも立派な提言だが、この文章が書かれる頃には、ウイルスパンデミックはインフレパンデミックへと姿を変えていた。アメリカのインフレ率を上昇させていた犯人はエネルギー価格だけではなかった。耐久消費財、非耐久消費財、サービス、そして遅ればせながら人件費。何もかもがどんどん値上がりしていった。 平和条約の実現を待つとか、単純に供給が需要に追いつくのを期待するというのは、希望的観測でしかなく、インフレ対策に有効な政策の選択肢とはいえなかった。 1940年、ジョン・メイナード・ケインズが有名な著書『戦費調達論』を記したのは、戦争がインフレの元凶だと正確に認識していたからだ。彼の答えは複雑で、戦争終結時まで「消費を繰り延べる」ための貯蓄政策を含むものだった。しかし、彼の提言は、アドルフ・ヒトラーとの「解決の交渉」から始まったりはしなかった[*5]』、「ウイルスパンデミックはインフレパンデミックへと姿を変えていた。アメリカのインフレ率を上昇させていた犯人はエネルギー価格だけではなかった。耐久消費財、非耐久消費財、サービス、そして遅ればせながら人件費。何もかもがどんどん値上がりしていった」、なるほど。
・『MMTは「虚構」である 単純に、MMTの支持者たちはインフレなど眼中にないのだ、と結論づけたくなる。誰でもそうだが、彼らもインフレが起こらないに越したことはない、と思っている。 しかし、実際にインフレが起きると、彼らは目先の経済的な痛みを避けようとして、あわてて適当な言葉で取り繕ったり、説得力に欠く解決策を提案したりする。 そもそも、印刷機(現代における物価安定の最大の脅威)が政府債務を穴埋めする最も手軽で信頼できる道具だ、と信じる学派なのだから、それもしかたないのだろうが。 彼らもまた、財政政策が金融政策から完全に独立していると口では言いつつも、テイラーとバートンと同じ道〔財政政策と金融政策が結びつくこと〕を歩んでいるのだ。 しかし、従来のアプローチとMMTのアプローチには1つ、大きな違いがある。従来のフレームワークの支持者は、金融政策に対する財政支配〔財政当局が先導的な立場に立ち、金融政策が財政政策に従属している状態。←→金融支配〕を嫌う。政治的なご都合主義は物価の不安定性を高めるだけだ、と心配しているからだ。 彼らはまた、財政政策と金融政策という2種類の政策的な「てこ」を分離できる、と思い込んでいる。そのほうがすっきりしているからだ。 対照的に、MMTの支持者たちは、財政支配を支持している。その根底には、政府が印刷機の誘惑に逆らえるはずだ、という歪んだ歴史観があるように思えてならない。 つまり彼らの世界では、信用できない存在は金融当局だけなのだ。だが、それは虚構の世界であり、じっくりと観察のなされた事実とはいえない。 注 *1 よく用いられる代替策(または追加策)が配給だ。 *2 どの平和条約なのかは明記されていない。原油価格は1985年に暴落したが、イラン・イラク戦争は1988年の停戦まで続いた。いずれにせよ、インフレ体験は国によってまちまちだったので、金融政策の違いが重要な役割を果たしたことに疑いの余地はない。 *3以降の注は省略)』、「MMTの支持者たちは、財政支配を支持している。その根底には、政府が印刷機の誘惑に逆らえるはずだ、という歪んだ歴史観があるように思えてならない。 つまり彼らの世界では、信用できない存在は金融当局だけなのだ。だが、それは虚構の世界であり、じっくりと観察のなされた事実とはいえない」、その通りだ。
次に、4月3日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した財政評論家の米澤潤一氏による「「血の出るような努力」でバラマキ財政を脱却せよ!今すぐ取り組むべき3つの課題とは? コロナ禍が収束した今こそ、財政運営は平時に復帰せよ 2024年度当初予算は正常化へ立ち返る意志が欠如」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341476
・『ただでさえ大きな日本の国債残高はコロナ禍の4年間でさらに200兆円、率にして24%も増えた。この間の財政運営にも問題が多いとはいえ、コロナ禍が収束した現在、これを引きずることなく正常な平時の財政運営に復帰することが急務である。しかし、2024(令和6)年度当初予算にはその決意が欠けている。日本財政の現状を踏まえた上で将来を見据え、コロナ禍後の財政運営の課題を示す』、興味深そうだ。
・『直近4年間で国債残高が200兆円も増加 コロナ禍直前の2019(令和元)年度末から直近23(令和5)年度末までの4年間で、(借換債の前倒し発行を除いた)実勢国債残高は約200兆円増えた。それ以前9年間分の増加額に半分以下の年数で達しており、結果として国債残高の対GDP比は159.2%から186.7%へと27.5%ポイントも上昇した。 本誌23年5月30日号掲載の拙稿「積み上がった国債残高『1,000兆円』の要因分析と今後の課題」(以下、前稿)で解説しているとおり、国債残高は特殊要因を除きプライマリーバランス(PB)の赤字と利払い費等の合計額だけ増加する。これに沿ってこの4年間200兆円の増加要因を分析すると、利払い費などはわずか30兆円強で、残り170兆円弱がこの間のPBの赤字の累計である(図表1)。 (図表1:コロナ期の財政悪化状況 はリンク先参照) このPB赤字をもたらした要因の過半を占めるのが、20(令和2)年度から22(令和4)年度までの3年間の補正追加141兆円であり、その内訳は図表2のとおりである。感染拡大防止や医療体制整備などの直接的コロナ対策費はわずか1割強の14.6兆円にとどまっている。残りの経費を見れば、雇用維持・事業継続といった経済対策はまだしも、10万円一律給付というバラマキや、感染拡大防止に逆行した「Go To ××」をはじめとする飲食宿泊旅行業者支援や、デジタル化・防衛費といった便乗、使途不明な地方交付金などで、ひいき目に見ても半分は財政法の補正予算の要件に該当しない不要不急の補正追加だったといわざるを得ない。 (図表2:2020(令和2)~22(令和4)年度の補正追加141兆円の内訳 はリンク先参照) このことは、その分だけ財政を悪化させたということだけにとどまらない。コロナ禍対策など時々の旗印があれば何でも許される風潮を常態化させ、将来にわたって安易な財政出動が繰り返される先例となることが何よりも恐ろしい。コロナ禍が収束した今こそ、こうした風潮を払拭し、財政の現状に対する危機感と改善に向けた真剣な努力を復活することが求められている。24(令和6)年度の財政運営は、平時への復帰初年度として、その第一歩を踏み出すか否かの試金石といえるはずだ』、「PB赤字をもたらした要因の過半を占めるのが、20(令和2)年度から22(令和4)年度までの3年間の補正追加141兆円であり、その内訳は図表2のとおりである。感染拡大防止や医療体制整備などの直接的コロナ対策費はわずか1割強の14.6兆円にとどまっている。残りの経費を見れば、雇用維持・事業継続といった経済対策はまだしも、10万円一律給付というバラマキや、感染拡大防止に逆行した「Go To ××」をはじめとする飲食宿泊旅行業者支援や、デジタル化・防衛費といった便乗、使途不明な地方交付金などで、ひいき目に見ても半分は財政法の補正予算の要件に該当しない不要不急の補正追加だったといわざるを得ない」「ひいき目に見ても半分は財政法の補正予算の要件に該当しない不要不急の補正追加だった」とは酷い話だ。特に「Go To ××」は悪乗りした悪手だ。
・『平時への回帰の兆候が見えない24年度当初予算 差し当たっては、先に成立した当初予算について、いわばコロナ禍からの脱却の第一歩が踏み出されているか否かを評価してみたい。 財務省が公表している23(令和5)年度当初予算との対比では、24(令和6)年度当初予算は国債発行額が微減、PB赤字が10.8兆円から8.8兆円へと2兆円減少しており、心持ち改善しているようにも見える。しかし、実は23(令和5)年度歳出には防衛力強化のための将来年度支出の財源となる「防衛力強化資金繰入」が3.4兆円含まれている。仮にこれを考慮すれば実質的には改善になっていない。 その上、そもそも23(令和5)年度予算にはコロナ対策の後遺症的なものも含まれていることから、両者の比較ではポストコロナ予算初年度としての評価には適さない。そこで、本稿ではコロナ禍直前、いわば直近平時に策定された20(令和2)年度当初予算との比較で分析する(図表3)。 (図表3:2020(令和2)年度と24(令和6)年度の当初予算対比 はリンク先参照) 注目すべきことは、コロナ禍にもかかわらず、この4年間の税収は好調で、減税前で8.5兆円増加したことだ。これは消費税率の8%への引き上げが実現した14(平成26)年度以降7年度分の増収を上回る。税外収入の増加額を加えると9.4兆円の増収となった。 残念なことにこれで気が緩んだのか、この税収増は財政改善には回らず、減税2.4兆円、歳出増9.9兆円に充てられた。結果、国債発行額は2.9兆円増え、PBの改善はわずか0.8兆円で、税収等増加分の1割以下にとどまった。リーマンショックから回復した11(平成21)年度以降の当初予算では、国債発行額が10年連続で減少を続け、国債残高の対GDP比も低下はしないものの、緩やかな上昇にとどまっていた。そのように控えめながら財政改善への努力が営々と続いたコロナ以前の路線(図表4)には復帰していないということだ。 (図表4:リーマンショック以降の当初予算国債発行額と国債残高GDP比の推移 はリンク先参照) 当初予算での歳出構造の改革については、前稿で、社会保障における受益と負担の不均衡是正、地方交付税等の水準適正化などを課題として提起した。しかし今回、当初予算での歳出構造の改革にも見るべきものがない。まさに財政改善への意欲の欠如の現れである。一方で社会保障と防衛以外の社会インフラや、科学技術などの成長の基盤は横ばいないし減少している。つまり、経済の活力をそいでいるか、財政法を無視した補正予算での計上が常態化するなどの弊害が生じているということだ』、「財政法を無視した補正予算での計上が常態化するなどの弊害が生じている」、その通りだ。
・『ポストコロナにおける財政運営の課題 前稿で詳しく分析したとおり、現在の国債残高1,000兆円超の発生要因は4割が利払い費など、6割がPB赤字の累計によるものである。そのPB赤字累計600兆円をさらに分解すると、その6割が当初予算から計上されている構造的要因、残り4割が年度途中の補正追加などによる臨時的要因である。 コロナ禍が収束して平時に戻った今日、財政の持続可能性を回復し、将来また起こり得るリーマンショックやコロナ禍に匹敵するような不測事態や大規模災害に備え、財政の機動力を確保するために財政改善が急務である。そのためには、この構造的要因と臨時的要因の双方について改革が必要である。 今年度については、前述のとおり当初予算での構造的要因の改善には残念ながら見るべきものがないが、もはや予算は成立しているので、この点は来年度以降の予算に期待するほかない。そう考えると24(令和6)年度財政運営の正念場は、年度内の執行や補正予算編成にかかっている。予算の概算決定をやり直すという異例なプロセスで倍額の1兆円にまで上積みされた一般予備費や、新規の「原油価格・物価高騰対策及び賃上げ促進環境整備対応予備費」をどう使うかなども今後の注目点となる。 平時に戻った24(令和6)年度こそ、コロナ禍の時期に(「やむを得ず」という気持ちからにしても)営んだ財政法無視の「何でもあり」の財政運営から完全に脱却して、財政法の原則に沿った財政運営に復帰すべきである。具体的には、次の三つを励行してほしい。 一つ目は、補正予算を財政法29条の「予算策定後の事由に基づき特に緊要となった経費」に限るという原点に立ち戻り、災害復旧等、真にやむを得ないものに限ることだ。ましてや補正予算での予備費積み増しなどという憲法違反の疑いがあるような措置を繰り返さないことは言うまでもない。 二つ目は、税の自然増収や歳出不用による剰余金発生が見込まれる場合には、法律どおり特例公債の発行をその分だけ減額し、剰余金を発生させないようにすることだ。そして、摩擦的に剰余金が発生した場合にはその全額を公債償還財源に充てるべきである。 そして三つ目は、前述のとおり、当初予算に計上したそれぞれ1兆円の一般予備費と「原油価格・物価高騰対策及び賃上げ促進環境整備対応予備費」の取り扱いだ。これらの執行に厳正を期することが求められる』、「平時に戻った24(令和6)年度こそ、コロナ禍の時期に(「やむを得ず」という気持ちからにしても)営んだ財政法無視の「何でもあり」の財政運営から完全に脱却して、財政法の原則に沿った財政運営に復帰すべきである。具体的には、次の三つを励行してほしい。 一つ目は、補正予算を財政法29条の「予算策定後の事由に基づき特に緊要となった経費」に限るという原点に立ち戻り、災害復旧等、真にやむを得ないものに限ること・・・二つ目は、税の自然増収や歳出不用による剰余金発生が見込まれる場合には、法律どおり特例公債の発行をその分だけ減額し、剰余金を発生させないようにすることだ・・・三つ目は、前述のとおり、当初予算に計上したそれぞれ1兆円の一般予備費と「原油価格・物価高騰対策及び賃上げ促進環境整備対応予備費」の取り扱いだ。これらの執行に厳正を期することが求められる」、なるほど。
・『実現可能な中長期的財政改善計画を さらに1点ほど制度的な観点を追加しておきたい。1975(昭和50)年度の特例公債依存以降、財政再建ないし財政構造改革の必要性は認識され、改善目標が繰り返し提示されては挫折してきた。 最初は翌76(昭和51)年5月、三木武夫内閣で80(昭和55)年度の特例公債脱却がうたわれた。この目標は2度先延ばしされた後、90(平成2)年度にいったん実現した。これが史上唯一の実現で、その後はことごとく挫折の歴史をたどる。 バブル崩壊後、一時景気回復が見られた橋本龍太郎内閣時代の96(平成8)年には、2003(平成15)年度の財政赤字GDP比をEU基準並みの3%以下に引き下げることと、特例公債脱却を柱とする包括的な財政構造改革法が立案され、国会に提出された。しかし、不幸なことにその成立は1997(平成9)年11月の金融危機直後の12月となり、同法は一度も施行されることなく翌98(平成10)年12月にお蔵入りとなった(図表5)。 (図表5:特例公債脱却目標と財政構造改革法の実績 はリンク先参照) その後2002(平成14)年には、小泉純一郎内閣が「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」で「2010年代初頭に国・地方のPBのGDP比黒字化を目指す」と提起した。それ以来計6回にわたって国・地方合計のPBのGDP比黒字化目標が掲げられたが、すべて画餅に帰している。 現在は7回目の「経済財政運営と改革の基本方針2018」の25年黒字化目標が生きていることになっている。しかし、24(令和6)年度予算の国会提出と同時に内閣府が公表した非現実的に楽観的な前提を置いた中長期財政試算によってすら、その実現は見込まれていない(図表6)。 (図表6:PB黒字化目標と実績 ハリンク先参照) 付言すれば、国・地方の合計PBが均衡しても地方が恒常的にプラス(1%前後)のため、国はなおマイナスである。地方交付税などの水準適正化が必要な理由の一つはこの点にある。 お蔵入りになった財政構造改革法のような具体的な改革方策を示さない限り、ただの空念仏を繰り返すだけに終わってしまう。高校時代のドイツ人教師から教わった「地獄への道は善意で敷き詰められている」という西洋のことわざが思い出される。 さらにいえば、防衛力強化策や少子化対策のように、追加的な歳出増加策をつまみ食い的に策定し、その財源すらまともに確保されていないようでは財政改善は望むべくもない。コロナ禍の収束後、平時に復帰した日本財政の在り方として、まずは現実的な前提の下に実効性のある歳入・歳出両面からの具体策を伴う全体像を策定すべきだ。その上でこれに沿って、血の出るような努力を計画的に一歩ずつ続けていく必要がある。必要な新規施策はその歳入歳出の全体像の中で、一体的に織り込むべきものである。(米澤氏の略歴はリンク先参照)』、「コロナ禍の収束後、平時に復帰した日本財政の在り方として、まずは現実的な前提の下に実効性のある歳入・歳出両面からの具体策を伴う全体像を策定すべきだ。その上でこれに沿って、血の出るような努力を計画的に一歩ずつ続けていく必要がある。必要な新規施策はその歳入歳出の全体像の中で、一体的に織り込むべきものである」、同感である。
第三に、5月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した名古屋商科大学ビジネススクール教授の原田 泰氏による「「日本は財政赤字で将来ヤバイ」→実は財政赤字が縮小していた!【エコノミストがデータで解説】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/343523
・『日本は財政赤字で大変なことになると言われているが、実は日本の財政赤字は縮小している。このことは何度も書いたのだが、残念ながらこの事実を認めて下さる方は少ない(例えば、「日本の財政は本当に危機的なのか?『ワニの口』財政理論のカラクリとは」)。加えて、将来は大変なことになるという方も多い。そこで将来の財政状況がどうなるかを予測してみたい。財政状況の指標としては政府債務対GDP比を用いる。なお、ここでの債務は、通常使われる粗債務ではなく、粗債務から政府の保有する金融資産を差し引いた純債務を用いている。後述するように、金利の動きが重要なので、政府が支払う金利と受け取る金利を相殺することが必要だからだ。なお、2023年の政府粗債務残高の対GDP比は260.1%、政府純債務残高の対GDP比は161.5%である』、興味深そうだ。
・『政府債務の対GDP比の変化はどう説明できるか 予測の上で重要なのは、「基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)」という概念である。政府支出のうち金利払いと元本返済のための支出を除いたものをE、政府収入をR、とするとE-Rが基礎的財政収支である。さらに金利をr、名目GDPをY、t+1期の政府債務をDt+1、前期の政府債務Dtとすると Dt+1=E-R+rDt+Dt となる。この式の意味は、当たり前だが、今期の政府債務Dは、基礎的財政収支E-Rと政府債務の利払い(金利×前期の政府債務)と前期の政府債務とを足したものということである。 また、政府債務の増加をΔDと書くと ΔD=Dt+1-Dt=(E-R)+rDt となる。 政府債務の対GDP比D/Yの変化率をΔ(D/Y)、名目GDPの成長率をgと書くと Δ(D/Y)=(E-R)/Y+(r-g)D/Y となる。 D/Yが減少するためには、Δ(D/Y)<0でなければならないから (E-R)/Y+(r-g)D/Y <0 であればよい。 すなわち、基礎的財政収支E-R/名目GDP Yと(金利r-名目成長率g)×(政府債務残高D/名目GDP Y)の和がマイナスであれば政府債務の対GDP比率は低下する』、簡単な数式での定式化はわかりやすい。
・『現実の動きはどうだったのか 上記の変数がどう動いてきたかを示したのが図1である。 (図表:図1 政府債務残高変化の要因 はリンク先参照) 図に見るように、リーマンショック以来急上昇していた政府債務残高の対GDPは安定するようになった。 それを2つの要因で説明すると、まず第1の要因として、基礎的財政収支(PB)/名目GDPが90年代初から常にプラスとなり(赤字の時がプラス)、98年の日本の金融危機時、2008年のリーマンショック時に拡大したことが分かる。しかし、2013年の大規模緩和以降、基礎的財政収支は縮小した。 第2の要因として(r-g)×(政府債務残高/名目GDP)を見ると、大規模緩和までプラスであった(r-g)が大規模緩和後マイナスに転じた。これは大規模緩和で金利が低下し、名目GDP成長率がプラスになったからである。 以上2つの要因で政府債務残高の対GDP比は安定した。 コロナショックで再び政府債務残高の対GDP比が上昇するようになったが、それはやむを得ない。非常時には政府支出で人々を助けるしかないからで、基礎的財政収支の赤字も拡大せざるを得ない。もちろん、やむを得ない支出ばかりだったかどうかは精査すべきではある。そのあたりについては、原田泰『コロナ政策の費用対効果』(ちくま新書)を参照いただきたい』、「リーマンショック以来急上昇していた政府債務残高の対GDPは安定するようになった。 それを2つの要因で説明すると、まず第1の要因として、基礎的財政収支(PB)/名目GDPが90年代初から常にプラスとなり(赤字の時がプラス)、98年の日本の金融危機時、2008年のリーマンショック時に拡大したことが分かる。しかし、2013年の大規模緩和以降、基礎的財政収支は縮小した。 第2の要因として(r-g)×(政府債務残高/名目GDP)を見ると、大規模緩和までプラスであった(r-g)が大規模緩和後マイナスに転じた。これは大規模緩和で金利が低下し、名目GDP成長率がプラスになったからである。 以上2つの要因で政府債務残高の対GDP比は安定した」、なるほど。
・『2つの要因による将来予測 以上の分析から明らかになったことは、政府債務残高の対GDP比は、基礎的財政収支(PB)/名目GDPと(r-g)×(政府債務残高/名目GDP)の2つの要因で説明できるということである。 図2は、PB/Y=1かつr-g=-1、PB/Y=2.5かつr-g=-1、PB/Y=0かつr-g=2の3つのケース、すなわち、基礎的財政収支の対GDP比が1%の赤字かつ金利-名目GDP成長率がマイナス1%、基礎的財政収支の対GDP比が2.5%の赤字かつ金利-名目GDP成長率がマイナス1%、基礎的財政収支の対GDP比が均衡(0%)かつ金利-名目GDP成長率がプラス2%の3つのケースを示している。 ここで金利-名目GDP成長率がプラス2%とは2013年4月の異次元金融緩和以前の平均、金利-名目GDP成長率がマイナス1%とは異次元緩和以後の平均である。(図表:図2 政府債務残高のシミュレーション はリンク先参照) 図に見るように、金利-名目GDP成長率がマイナス1%の場合、基礎的財政収支が2.5%の赤字でも政府債務残高の対GDP比があまり上昇せず(2060年で194%)、基礎的財政収支の赤字を1%にすれば政府債務残高の対GDP比は順調に低下していくことが分かる(2060年で148%)。 ところが、基礎的財政収支を均衡(0%)させても、金利-名目GDP成長率がプラス2%では政府債務残高の対GDP比は上昇してしまうことが分かる(2060年で244%)。すなわち、基礎的収支均衡を達成しても異次元緩和以前のように名目GDPの成長率がマイナスでは財政再建は達成できない。財政再建にはデフレ脱却が重要ということである。逆に言えば、過去のデフレ政策は財政悪化の大きな要因であったということである。 つまり、基礎的収支の赤字をいくら頑張って減らしても、デフレで金利が名目成長率よりも高いような状況を作っては、財政再建などできないということである。 財政安定化には、基礎的財政収支の赤字を2.5%程度にすることが必要だが、これにはどの程度の緊縮策が必要だろうか。2024年の基礎的財政収支は、IMFの予測によれば3.6%であるから、後1.1%の財政赤字削減で良いということになる。すなわち、財政再建には、まず金融緩和を続けることが必要であり、その中で徐々に財政赤字を縮小していけばよいということになる』、「基礎的収支の赤字をいくら頑張って減らしても、デフレで金利が名目成長率よりも高いような状況を作っては、財政再建などできないということである。 財政安定化には、基礎的財政収支の赤字を2.5%程度にすることが必要だが、これにはどの程度の緊縮策が必要だろうか。2024年の基礎的財政収支は、IMFの予測によれば3.6%であるから、後1.1%の財政赤字削減で良いということになる。すなわち、財政再建には、まず金融緩和を続けることが必要であり、その中で徐々に財政赤字を縮小していけばよいということになる」、「財政再建には、まず金融緩和を続けることが必要であり、その中で徐々に財政赤字を縮小していけばよいということになる」、財政再建の観点からはそうでも、金融政策はそろそろ利上げも展望したものになるとすれば、「財政再建」は二義的な目標に下げざるを得ないようだ。
先ずは、本年3月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した英国の経済学者のスティーヴン・D・キング氏と翻訳家の千葉敏生氏による「MMT信者がインフレ期に決まって口にすること」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339710
・『たびたびニュースを騒がせている「インフレ」。実は日本では実に40~50年ぶりであることをご存じだろうか(日本のバブル期には資産価格は上がったが、物価はほぼ上がらなかった)。インフレを経験として知っている人は少ない。そんななか、これから物価が上昇していく時代に突入しようとしている。 本連載では、ローレンス・サマーズ元米国財務長官が絶賛したインフレ解説書『僕たちはまだ、インフレのことを何も知らない』から、「そもそもインフレとは何か?」「インフレ下では何が起こるのか?」「インフレ下ではどの資産が上がる/下がるのか?」といった身近で根本的な問いに答えている部分を厳選して紹介する』、「「インフレ」。実は日本では実に40~50年ぶり・・・日本のバブル期には資産価格は上がったが、物価はほぼ上がらなかった」、改めて思い出した。
・『政府がインフレの誘惑に負けると何が起こるのか 究極的には、政府は増税に代わる狡猾な手段として、貨幣を印刷したいという誘惑に駆られる。そのメカニズムは状況に応じてさまざまだが、結果はたいてい同じだ。 その他の条件がすべて同じならば、インフレ率の上昇を招く金融緩和による政府借り入れの大幅な増加は、次の作用を及ぼすだろう。 (ⅰ)実質金利を低下させることで(現金資産に対する課税に相当)、貯蓄家から資産を奪い取る。 (ⅱ)為替レートを下落させ、輸入価格を上昇させることで(輸入品に対する付加価値税の増税に相当)、または物価を賃金と比べて相対的に上昇させることで(稀少資源を軍事転用しなければならない戦時中によく起こるように[*1])、消費者から資産を奪い取る。 (ⅲ)わずかばかりの貯蓄をインフレに強い資産ではなく現金で保有していることが多く、インフレ圧力の上昇に対する効果的な保護について交渉する能力に乏しい貧困者から資産を奪い取る。逆に、恩恵を受ける可能性があるのは、住宅ローンを抱える人々、価格支配力を持つ人々(大企業、労組加入の労働者)、そしてもちろん、政府の財政に責任を負う人々だ。しかし、このプロセスは秘密裏に進むとともに、このうえなく非民主的でもある』、「貯蓄家から資産を奪い取る」、「消費者から資産を奪い取る」、「貧困者から資産を奪い取る」、「恩恵を受ける可能性があるのは、住宅ローンを抱える人々、価格支配力を持つ人々」、「このプロセスは秘密裏に進むとともに、このうえなく非民主的でもある」、その通りだ。
・『MMT信者がインフレ対策でよく主張する2つのこと おまけに、インフレが実際に姿を現わすと、MMTの支持者たちは、インフレ全般を抑制するかわりに、より問題のある分野(最たる例はエネルギー分野)の需要を制限するか、供給を押し上げることが解決策になる、と主張することが多い。 この考え方の根底には、歴史の不思議な解釈がある。たとえば、1980年代、「最終的にインフレを終結させたのは、中東で交渉された平和条約[*2]と、カーター政権下の規制緩和の恩恵を受けた代替エネルギー源、つまり天然ガスの開発だった[*3]」という主張がその1つだ。 それと同様のことをする、というのが2022年中盤に出された提言だった。 ウクライナ戦争の解決の交渉が必要だ。また、(長く先延ばしになっている)再生可能エネルギーへの投資も必要だ。(中略)Fedにはインフレ率は下げられない。エネルギー価格は下げられないからだ。(中略)バイデン大統領は腹を割ってアメリカ国民に語りかけるべきだ。(中略)不要不急の旅行を避けるよう呼びかけ、(中略)雇用主に在宅勤務を認めるよう促し、(中略)公共交通を全乗客に対して無料化し、(中略)港での滞留を緩和し、(中略)住宅を建設するのだ![*4] どれも立派な提言だが、この文章が書かれる頃には、ウイルスパンデミックはインフレパンデミックへと姿を変えていた。アメリカのインフレ率を上昇させていた犯人はエネルギー価格だけではなかった。耐久消費財、非耐久消費財、サービス、そして遅ればせながら人件費。何もかもがどんどん値上がりしていった。 平和条約の実現を待つとか、単純に供給が需要に追いつくのを期待するというのは、希望的観測でしかなく、インフレ対策に有効な政策の選択肢とはいえなかった。 1940年、ジョン・メイナード・ケインズが有名な著書『戦費調達論』を記したのは、戦争がインフレの元凶だと正確に認識していたからだ。彼の答えは複雑で、戦争終結時まで「消費を繰り延べる」ための貯蓄政策を含むものだった。しかし、彼の提言は、アドルフ・ヒトラーとの「解決の交渉」から始まったりはしなかった[*5]』、「ウイルスパンデミックはインフレパンデミックへと姿を変えていた。アメリカのインフレ率を上昇させていた犯人はエネルギー価格だけではなかった。耐久消費財、非耐久消費財、サービス、そして遅ればせながら人件費。何もかもがどんどん値上がりしていった」、なるほど。
・『MMTは「虚構」である 単純に、MMTの支持者たちはインフレなど眼中にないのだ、と結論づけたくなる。誰でもそうだが、彼らもインフレが起こらないに越したことはない、と思っている。 しかし、実際にインフレが起きると、彼らは目先の経済的な痛みを避けようとして、あわてて適当な言葉で取り繕ったり、説得力に欠く解決策を提案したりする。 そもそも、印刷機(現代における物価安定の最大の脅威)が政府債務を穴埋めする最も手軽で信頼できる道具だ、と信じる学派なのだから、それもしかたないのだろうが。 彼らもまた、財政政策が金融政策から完全に独立していると口では言いつつも、テイラーとバートンと同じ道〔財政政策と金融政策が結びつくこと〕を歩んでいるのだ。 しかし、従来のアプローチとMMTのアプローチには1つ、大きな違いがある。従来のフレームワークの支持者は、金融政策に対する財政支配〔財政当局が先導的な立場に立ち、金融政策が財政政策に従属している状態。←→金融支配〕を嫌う。政治的なご都合主義は物価の不安定性を高めるだけだ、と心配しているからだ。 彼らはまた、財政政策と金融政策という2種類の政策的な「てこ」を分離できる、と思い込んでいる。そのほうがすっきりしているからだ。 対照的に、MMTの支持者たちは、財政支配を支持している。その根底には、政府が印刷機の誘惑に逆らえるはずだ、という歪んだ歴史観があるように思えてならない。 つまり彼らの世界では、信用できない存在は金融当局だけなのだ。だが、それは虚構の世界であり、じっくりと観察のなされた事実とはいえない。 注 *1 よく用いられる代替策(または追加策)が配給だ。 *2 どの平和条約なのかは明記されていない。原油価格は1985年に暴落したが、イラン・イラク戦争は1988年の停戦まで続いた。いずれにせよ、インフレ体験は国によってまちまちだったので、金融政策の違いが重要な役割を果たしたことに疑いの余地はない。 *3以降の注は省略)』、「MMTの支持者たちは、財政支配を支持している。その根底には、政府が印刷機の誘惑に逆らえるはずだ、という歪んだ歴史観があるように思えてならない。 つまり彼らの世界では、信用できない存在は金融当局だけなのだ。だが、それは虚構の世界であり、じっくりと観察のなされた事実とはいえない」、その通りだ。
次に、4月3日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した財政評論家の米澤潤一氏による「「血の出るような努力」でバラマキ財政を脱却せよ!今すぐ取り組むべき3つの課題とは? コロナ禍が収束した今こそ、財政運営は平時に復帰せよ 2024年度当初予算は正常化へ立ち返る意志が欠如」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341476
・『ただでさえ大きな日本の国債残高はコロナ禍の4年間でさらに200兆円、率にして24%も増えた。この間の財政運営にも問題が多いとはいえ、コロナ禍が収束した現在、これを引きずることなく正常な平時の財政運営に復帰することが急務である。しかし、2024(令和6)年度当初予算にはその決意が欠けている。日本財政の現状を踏まえた上で将来を見据え、コロナ禍後の財政運営の課題を示す』、興味深そうだ。
・『直近4年間で国債残高が200兆円も増加 コロナ禍直前の2019(令和元)年度末から直近23(令和5)年度末までの4年間で、(借換債の前倒し発行を除いた)実勢国債残高は約200兆円増えた。それ以前9年間分の増加額に半分以下の年数で達しており、結果として国債残高の対GDP比は159.2%から186.7%へと27.5%ポイントも上昇した。 本誌23年5月30日号掲載の拙稿「積み上がった国債残高『1,000兆円』の要因分析と今後の課題」(以下、前稿)で解説しているとおり、国債残高は特殊要因を除きプライマリーバランス(PB)の赤字と利払い費等の合計額だけ増加する。これに沿ってこの4年間200兆円の増加要因を分析すると、利払い費などはわずか30兆円強で、残り170兆円弱がこの間のPBの赤字の累計である(図表1)。 (図表1:コロナ期の財政悪化状況 はリンク先参照) このPB赤字をもたらした要因の過半を占めるのが、20(令和2)年度から22(令和4)年度までの3年間の補正追加141兆円であり、その内訳は図表2のとおりである。感染拡大防止や医療体制整備などの直接的コロナ対策費はわずか1割強の14.6兆円にとどまっている。残りの経費を見れば、雇用維持・事業継続といった経済対策はまだしも、10万円一律給付というバラマキや、感染拡大防止に逆行した「Go To ××」をはじめとする飲食宿泊旅行業者支援や、デジタル化・防衛費といった便乗、使途不明な地方交付金などで、ひいき目に見ても半分は財政法の補正予算の要件に該当しない不要不急の補正追加だったといわざるを得ない。 (図表2:2020(令和2)~22(令和4)年度の補正追加141兆円の内訳 はリンク先参照) このことは、その分だけ財政を悪化させたということだけにとどまらない。コロナ禍対策など時々の旗印があれば何でも許される風潮を常態化させ、将来にわたって安易な財政出動が繰り返される先例となることが何よりも恐ろしい。コロナ禍が収束した今こそ、こうした風潮を払拭し、財政の現状に対する危機感と改善に向けた真剣な努力を復活することが求められている。24(令和6)年度の財政運営は、平時への復帰初年度として、その第一歩を踏み出すか否かの試金石といえるはずだ』、「PB赤字をもたらした要因の過半を占めるのが、20(令和2)年度から22(令和4)年度までの3年間の補正追加141兆円であり、その内訳は図表2のとおりである。感染拡大防止や医療体制整備などの直接的コロナ対策費はわずか1割強の14.6兆円にとどまっている。残りの経費を見れば、雇用維持・事業継続といった経済対策はまだしも、10万円一律給付というバラマキや、感染拡大防止に逆行した「Go To ××」をはじめとする飲食宿泊旅行業者支援や、デジタル化・防衛費といった便乗、使途不明な地方交付金などで、ひいき目に見ても半分は財政法の補正予算の要件に該当しない不要不急の補正追加だったといわざるを得ない」「ひいき目に見ても半分は財政法の補正予算の要件に該当しない不要不急の補正追加だった」とは酷い話だ。特に「Go To ××」は悪乗りした悪手だ。
・『平時への回帰の兆候が見えない24年度当初予算 差し当たっては、先に成立した当初予算について、いわばコロナ禍からの脱却の第一歩が踏み出されているか否かを評価してみたい。 財務省が公表している23(令和5)年度当初予算との対比では、24(令和6)年度当初予算は国債発行額が微減、PB赤字が10.8兆円から8.8兆円へと2兆円減少しており、心持ち改善しているようにも見える。しかし、実は23(令和5)年度歳出には防衛力強化のための将来年度支出の財源となる「防衛力強化資金繰入」が3.4兆円含まれている。仮にこれを考慮すれば実質的には改善になっていない。 その上、そもそも23(令和5)年度予算にはコロナ対策の後遺症的なものも含まれていることから、両者の比較ではポストコロナ予算初年度としての評価には適さない。そこで、本稿ではコロナ禍直前、いわば直近平時に策定された20(令和2)年度当初予算との比較で分析する(図表3)。 (図表3:2020(令和2)年度と24(令和6)年度の当初予算対比 はリンク先参照) 注目すべきことは、コロナ禍にもかかわらず、この4年間の税収は好調で、減税前で8.5兆円増加したことだ。これは消費税率の8%への引き上げが実現した14(平成26)年度以降7年度分の増収を上回る。税外収入の増加額を加えると9.4兆円の増収となった。 残念なことにこれで気が緩んだのか、この税収増は財政改善には回らず、減税2.4兆円、歳出増9.9兆円に充てられた。結果、国債発行額は2.9兆円増え、PBの改善はわずか0.8兆円で、税収等増加分の1割以下にとどまった。リーマンショックから回復した11(平成21)年度以降の当初予算では、国債発行額が10年連続で減少を続け、国債残高の対GDP比も低下はしないものの、緩やかな上昇にとどまっていた。そのように控えめながら財政改善への努力が営々と続いたコロナ以前の路線(図表4)には復帰していないということだ。 (図表4:リーマンショック以降の当初予算国債発行額と国債残高GDP比の推移 はリンク先参照) 当初予算での歳出構造の改革については、前稿で、社会保障における受益と負担の不均衡是正、地方交付税等の水準適正化などを課題として提起した。しかし今回、当初予算での歳出構造の改革にも見るべきものがない。まさに財政改善への意欲の欠如の現れである。一方で社会保障と防衛以外の社会インフラや、科学技術などの成長の基盤は横ばいないし減少している。つまり、経済の活力をそいでいるか、財政法を無視した補正予算での計上が常態化するなどの弊害が生じているということだ』、「財政法を無視した補正予算での計上が常態化するなどの弊害が生じている」、その通りだ。
・『ポストコロナにおける財政運営の課題 前稿で詳しく分析したとおり、現在の国債残高1,000兆円超の発生要因は4割が利払い費など、6割がPB赤字の累計によるものである。そのPB赤字累計600兆円をさらに分解すると、その6割が当初予算から計上されている構造的要因、残り4割が年度途中の補正追加などによる臨時的要因である。 コロナ禍が収束して平時に戻った今日、財政の持続可能性を回復し、将来また起こり得るリーマンショックやコロナ禍に匹敵するような不測事態や大規模災害に備え、財政の機動力を確保するために財政改善が急務である。そのためには、この構造的要因と臨時的要因の双方について改革が必要である。 今年度については、前述のとおり当初予算での構造的要因の改善には残念ながら見るべきものがないが、もはや予算は成立しているので、この点は来年度以降の予算に期待するほかない。そう考えると24(令和6)年度財政運営の正念場は、年度内の執行や補正予算編成にかかっている。予算の概算決定をやり直すという異例なプロセスで倍額の1兆円にまで上積みされた一般予備費や、新規の「原油価格・物価高騰対策及び賃上げ促進環境整備対応予備費」をどう使うかなども今後の注目点となる。 平時に戻った24(令和6)年度こそ、コロナ禍の時期に(「やむを得ず」という気持ちからにしても)営んだ財政法無視の「何でもあり」の財政運営から完全に脱却して、財政法の原則に沿った財政運営に復帰すべきである。具体的には、次の三つを励行してほしい。 一つ目は、補正予算を財政法29条の「予算策定後の事由に基づき特に緊要となった経費」に限るという原点に立ち戻り、災害復旧等、真にやむを得ないものに限ることだ。ましてや補正予算での予備費積み増しなどという憲法違反の疑いがあるような措置を繰り返さないことは言うまでもない。 二つ目は、税の自然増収や歳出不用による剰余金発生が見込まれる場合には、法律どおり特例公債の発行をその分だけ減額し、剰余金を発生させないようにすることだ。そして、摩擦的に剰余金が発生した場合にはその全額を公債償還財源に充てるべきである。 そして三つ目は、前述のとおり、当初予算に計上したそれぞれ1兆円の一般予備費と「原油価格・物価高騰対策及び賃上げ促進環境整備対応予備費」の取り扱いだ。これらの執行に厳正を期することが求められる』、「平時に戻った24(令和6)年度こそ、コロナ禍の時期に(「やむを得ず」という気持ちからにしても)営んだ財政法無視の「何でもあり」の財政運営から完全に脱却して、財政法の原則に沿った財政運営に復帰すべきである。具体的には、次の三つを励行してほしい。 一つ目は、補正予算を財政法29条の「予算策定後の事由に基づき特に緊要となった経費」に限るという原点に立ち戻り、災害復旧等、真にやむを得ないものに限ること・・・二つ目は、税の自然増収や歳出不用による剰余金発生が見込まれる場合には、法律どおり特例公債の発行をその分だけ減額し、剰余金を発生させないようにすることだ・・・三つ目は、前述のとおり、当初予算に計上したそれぞれ1兆円の一般予備費と「原油価格・物価高騰対策及び賃上げ促進環境整備対応予備費」の取り扱いだ。これらの執行に厳正を期することが求められる」、なるほど。
・『実現可能な中長期的財政改善計画を さらに1点ほど制度的な観点を追加しておきたい。1975(昭和50)年度の特例公債依存以降、財政再建ないし財政構造改革の必要性は認識され、改善目標が繰り返し提示されては挫折してきた。 最初は翌76(昭和51)年5月、三木武夫内閣で80(昭和55)年度の特例公債脱却がうたわれた。この目標は2度先延ばしされた後、90(平成2)年度にいったん実現した。これが史上唯一の実現で、その後はことごとく挫折の歴史をたどる。 バブル崩壊後、一時景気回復が見られた橋本龍太郎内閣時代の96(平成8)年には、2003(平成15)年度の財政赤字GDP比をEU基準並みの3%以下に引き下げることと、特例公債脱却を柱とする包括的な財政構造改革法が立案され、国会に提出された。しかし、不幸なことにその成立は1997(平成9)年11月の金融危機直後の12月となり、同法は一度も施行されることなく翌98(平成10)年12月にお蔵入りとなった(図表5)。 (図表5:特例公債脱却目標と財政構造改革法の実績 はリンク先参照) その後2002(平成14)年には、小泉純一郎内閣が「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」で「2010年代初頭に国・地方のPBのGDP比黒字化を目指す」と提起した。それ以来計6回にわたって国・地方合計のPBのGDP比黒字化目標が掲げられたが、すべて画餅に帰している。 現在は7回目の「経済財政運営と改革の基本方針2018」の25年黒字化目標が生きていることになっている。しかし、24(令和6)年度予算の国会提出と同時に内閣府が公表した非現実的に楽観的な前提を置いた中長期財政試算によってすら、その実現は見込まれていない(図表6)。 (図表6:PB黒字化目標と実績 ハリンク先参照) 付言すれば、国・地方の合計PBが均衡しても地方が恒常的にプラス(1%前後)のため、国はなおマイナスである。地方交付税などの水準適正化が必要な理由の一つはこの点にある。 お蔵入りになった財政構造改革法のような具体的な改革方策を示さない限り、ただの空念仏を繰り返すだけに終わってしまう。高校時代のドイツ人教師から教わった「地獄への道は善意で敷き詰められている」という西洋のことわざが思い出される。 さらにいえば、防衛力強化策や少子化対策のように、追加的な歳出増加策をつまみ食い的に策定し、その財源すらまともに確保されていないようでは財政改善は望むべくもない。コロナ禍の収束後、平時に復帰した日本財政の在り方として、まずは現実的な前提の下に実効性のある歳入・歳出両面からの具体策を伴う全体像を策定すべきだ。その上でこれに沿って、血の出るような努力を計画的に一歩ずつ続けていく必要がある。必要な新規施策はその歳入歳出の全体像の中で、一体的に織り込むべきものである。(米澤氏の略歴はリンク先参照)』、「コロナ禍の収束後、平時に復帰した日本財政の在り方として、まずは現実的な前提の下に実効性のある歳入・歳出両面からの具体策を伴う全体像を策定すべきだ。その上でこれに沿って、血の出るような努力を計画的に一歩ずつ続けていく必要がある。必要な新規施策はその歳入歳出の全体像の中で、一体的に織り込むべきものである」、同感である。
第三に、5月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した名古屋商科大学ビジネススクール教授の原田 泰氏による「「日本は財政赤字で将来ヤバイ」→実は財政赤字が縮小していた!【エコノミストがデータで解説】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/343523
・『日本は財政赤字で大変なことになると言われているが、実は日本の財政赤字は縮小している。このことは何度も書いたのだが、残念ながらこの事実を認めて下さる方は少ない(例えば、「日本の財政は本当に危機的なのか?『ワニの口』財政理論のカラクリとは」)。加えて、将来は大変なことになるという方も多い。そこで将来の財政状況がどうなるかを予測してみたい。財政状況の指標としては政府債務対GDP比を用いる。なお、ここでの債務は、通常使われる粗債務ではなく、粗債務から政府の保有する金融資産を差し引いた純債務を用いている。後述するように、金利の動きが重要なので、政府が支払う金利と受け取る金利を相殺することが必要だからだ。なお、2023年の政府粗債務残高の対GDP比は260.1%、政府純債務残高の対GDP比は161.5%である』、興味深そうだ。
・『政府債務の対GDP比の変化はどう説明できるか 予測の上で重要なのは、「基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)」という概念である。政府支出のうち金利払いと元本返済のための支出を除いたものをE、政府収入をR、とするとE-Rが基礎的財政収支である。さらに金利をr、名目GDPをY、t+1期の政府債務をDt+1、前期の政府債務Dtとすると Dt+1=E-R+rDt+Dt となる。この式の意味は、当たり前だが、今期の政府債務Dは、基礎的財政収支E-Rと政府債務の利払い(金利×前期の政府債務)と前期の政府債務とを足したものということである。 また、政府債務の増加をΔDと書くと ΔD=Dt+1-Dt=(E-R)+rDt となる。 政府債務の対GDP比D/Yの変化率をΔ(D/Y)、名目GDPの成長率をgと書くと Δ(D/Y)=(E-R)/Y+(r-g)D/Y となる。 D/Yが減少するためには、Δ(D/Y)<0でなければならないから (E-R)/Y+(r-g)D/Y <0 であればよい。 すなわち、基礎的財政収支E-R/名目GDP Yと(金利r-名目成長率g)×(政府債務残高D/名目GDP Y)の和がマイナスであれば政府債務の対GDP比率は低下する』、簡単な数式での定式化はわかりやすい。
・『現実の動きはどうだったのか 上記の変数がどう動いてきたかを示したのが図1である。 (図表:図1 政府債務残高変化の要因 はリンク先参照) 図に見るように、リーマンショック以来急上昇していた政府債務残高の対GDPは安定するようになった。 それを2つの要因で説明すると、まず第1の要因として、基礎的財政収支(PB)/名目GDPが90年代初から常にプラスとなり(赤字の時がプラス)、98年の日本の金融危機時、2008年のリーマンショック時に拡大したことが分かる。しかし、2013年の大規模緩和以降、基礎的財政収支は縮小した。 第2の要因として(r-g)×(政府債務残高/名目GDP)を見ると、大規模緩和までプラスであった(r-g)が大規模緩和後マイナスに転じた。これは大規模緩和で金利が低下し、名目GDP成長率がプラスになったからである。 以上2つの要因で政府債務残高の対GDP比は安定した。 コロナショックで再び政府債務残高の対GDP比が上昇するようになったが、それはやむを得ない。非常時には政府支出で人々を助けるしかないからで、基礎的財政収支の赤字も拡大せざるを得ない。もちろん、やむを得ない支出ばかりだったかどうかは精査すべきではある。そのあたりについては、原田泰『コロナ政策の費用対効果』(ちくま新書)を参照いただきたい』、「リーマンショック以来急上昇していた政府債務残高の対GDPは安定するようになった。 それを2つの要因で説明すると、まず第1の要因として、基礎的財政収支(PB)/名目GDPが90年代初から常にプラスとなり(赤字の時がプラス)、98年の日本の金融危機時、2008年のリーマンショック時に拡大したことが分かる。しかし、2013年の大規模緩和以降、基礎的財政収支は縮小した。 第2の要因として(r-g)×(政府債務残高/名目GDP)を見ると、大規模緩和までプラスであった(r-g)が大規模緩和後マイナスに転じた。これは大規模緩和で金利が低下し、名目GDP成長率がプラスになったからである。 以上2つの要因で政府債務残高の対GDP比は安定した」、なるほど。
・『2つの要因による将来予測 以上の分析から明らかになったことは、政府債務残高の対GDP比は、基礎的財政収支(PB)/名目GDPと(r-g)×(政府債務残高/名目GDP)の2つの要因で説明できるということである。 図2は、PB/Y=1かつr-g=-1、PB/Y=2.5かつr-g=-1、PB/Y=0かつr-g=2の3つのケース、すなわち、基礎的財政収支の対GDP比が1%の赤字かつ金利-名目GDP成長率がマイナス1%、基礎的財政収支の対GDP比が2.5%の赤字かつ金利-名目GDP成長率がマイナス1%、基礎的財政収支の対GDP比が均衡(0%)かつ金利-名目GDP成長率がプラス2%の3つのケースを示している。 ここで金利-名目GDP成長率がプラス2%とは2013年4月の異次元金融緩和以前の平均、金利-名目GDP成長率がマイナス1%とは異次元緩和以後の平均である。(図表:図2 政府債務残高のシミュレーション はリンク先参照) 図に見るように、金利-名目GDP成長率がマイナス1%の場合、基礎的財政収支が2.5%の赤字でも政府債務残高の対GDP比があまり上昇せず(2060年で194%)、基礎的財政収支の赤字を1%にすれば政府債務残高の対GDP比は順調に低下していくことが分かる(2060年で148%)。 ところが、基礎的財政収支を均衡(0%)させても、金利-名目GDP成長率がプラス2%では政府債務残高の対GDP比は上昇してしまうことが分かる(2060年で244%)。すなわち、基礎的収支均衡を達成しても異次元緩和以前のように名目GDPの成長率がマイナスでは財政再建は達成できない。財政再建にはデフレ脱却が重要ということである。逆に言えば、過去のデフレ政策は財政悪化の大きな要因であったということである。 つまり、基礎的収支の赤字をいくら頑張って減らしても、デフレで金利が名目成長率よりも高いような状況を作っては、財政再建などできないということである。 財政安定化には、基礎的財政収支の赤字を2.5%程度にすることが必要だが、これにはどの程度の緊縮策が必要だろうか。2024年の基礎的財政収支は、IMFの予測によれば3.6%であるから、後1.1%の財政赤字削減で良いということになる。すなわち、財政再建には、まず金融緩和を続けることが必要であり、その中で徐々に財政赤字を縮小していけばよいということになる』、「基礎的収支の赤字をいくら頑張って減らしても、デフレで金利が名目成長率よりも高いような状況を作っては、財政再建などできないということである。 財政安定化には、基礎的財政収支の赤字を2.5%程度にすることが必要だが、これにはどの程度の緊縮策が必要だろうか。2024年の基礎的財政収支は、IMFの予測によれば3.6%であるから、後1.1%の財政赤字削減で良いということになる。すなわち、財政再建には、まず金融緩和を続けることが必要であり、その中で徐々に財政赤字を縮小していけばよいということになる」、「財政再建には、まず金融緩和を続けることが必要であり、その中で徐々に財政赤字を縮小していけばよいということになる」、財政再建の観点からはそうでも、金融政策はそろそろ利上げも展望したものになるとすれば、「財政再建」は二義的な目標に下げざるを得ないようだ。
タグ:政府財政問題 (その10)(MMT信者がインフレ期に決まって口にすること、「血の出るような努力」でバラマキ財政を脱却せよ!今すぐ取り組むべき3つの課題とは? コロナ禍が収束した今こそ、財政運営は平時に復帰せよ 2024年度当初予算は正常化へ立ち返る意志が欠如、「日本は財政赤字で将来ヤバイ」→実は財政赤字が縮小していた!【エコノミストがデータで解説】) ダイヤモンド・オンライン スティーヴン・D・キング氏 千葉敏生氏 「MMT信者がインフレ期に決まって口にすること」 「「インフレ」。実は日本では実に40~50年ぶり・・・日本のバブル期には資産価格は上がったが、物価はほぼ上がらなかった」、改めて思い出した。 「貯蓄家から資産を奪い取る」、「消費者から資産を奪い取る」、「貧困者から資産を奪い取る」、「恩恵を受ける可能性があるのは、住宅ローンを抱える人々、価格支配力を持つ人々」、「このプロセスは秘密裏に進むとともに、このうえなく非民主的でもある」、その通りだ。 「ウイルスパンデミックはインフレパンデミックへと姿を変えていた。アメリカのインフレ率を上昇させていた犯人はエネルギー価格だけではなかった。耐久消費財、非耐久消費財、サービス、そして遅ればせながら人件費。何もかもがどんどん値上がりしていった」、なるほど。 「MMTの支持者たちは、財政支配を支持している。その根底には、政府が印刷機の誘惑に逆らえるはずだ、という歪んだ歴史観があるように思えてならない。 つまり彼らの世界では、信用できない存在は金融当局だけなのだ。だが、それは虚構の世界であり、じっくりと観察のなされた事実とはいえない」、その通りだ。 米澤潤一氏による「「血の出るような努力」でバラマキ財政を脱却せよ!今すぐ取り組むべき3つの課題とは? コロナ禍が収束した今こそ、財政運営は平時に復帰せよ 2024年度当初予算は正常化へ立ち返る意志が欠如」 「PB赤字をもたらした要因の過半を占めるのが、20(令和2)年度から22(令和4)年度までの3年間の補正追加141兆円であり、その内訳は図表2のとおりである。感染拡大防止や医療体制整備などの直接的コロナ対策費はわずか1割強の14.6兆円にとどまっている。 残りの経費を見れば、雇用維持・事業継続といった経済対策はまだしも、10万円一律給付というバラマキや、感染拡大防止に逆行した「Go To ××」をはじめとする飲食宿泊旅行業者支援や、デジタル化・防衛費といった便乗、使途不明な地方交付金などで、ひいき目に見ても半分は財政法の補正予算の要件に該当しない不要不急の補正追加だったといわざるを得ない」「ひいき目に見ても半分は財政法の補正予算の要件に該当しない不要不急の補正追加だった」とは酷い話だ。特に「Go To ××」は悪乗りした悪手だ。 「財政法を無視した補正予算での計上が常態化するなどの弊害が生じている」、その通りだ。 「平時に戻った24(令和6)年度こそ、コロナ禍の時期に(「やむを得ず」という気持ちからにしても)営んだ財政法無視の「何でもあり」の財政運営から完全に脱却して、財政法の原則に沿った財政運営に復帰すべきである。具体的には、次の三つを励行してほしい。 一つ目は、補正予算を財政法29条の「予算策定後の事由に基づき特に緊要となった経費」に限るという原点に立ち戻り、災害復旧等、真にやむを得ないものに限ること・・・ 二つ目は、税の自然増収や歳出不用による剰余金発生が見込まれる場合には、法律どおり特例公債の発行をその分だけ減額し、剰余金を発生させないようにすることだ・・・三つ目は、前述のとおり、当初予算に計上したそれぞれ1兆円の一般予備費と「原油価格・物価高騰対策及び賃上げ促進環境整備対応予備費」の取り扱いだ。これらの執行に厳正を期することが求められる」、なるほど。 「コロナ禍の収束後、平時に復帰した日本財政の在り方として、まずは現実的な前提の下に実効性のある歳入・歳出両面からの具体策を伴う全体像を策定すべきだ。その上でこれに沿って、血の出るような努力を計画的に一歩ずつ続けていく必要がある。必要な新規施策はその歳入歳出の全体像の中で、一体的に織り込むべきものである」、同感である。 原田 泰氏による「「日本は財政赤字で将来ヤバイ」→実は財政赤字が縮小していた!【エコノミストがデータで解説】」 簡単な数式での定式化はわかりやすい。 原田泰『コロナ政策の費用対効果』(ちくま新書) 「リーマンショック以来急上昇していた政府債務残高の対GDPは安定するようになった。 それを2つの要因で説明すると、まず第1の要因として、基礎的財政収支(PB)/名目GDPが90年代初から常にプラスとなり(赤字の時がプラス)、98年の日本の金融危機時、2008年のリーマンショック時に拡大したことが分かる。しかし、2013年の大規模緩和以降、基礎的財政収支は縮小した。 第2の要因として(r-g)×(政府債務残高/名目GDP)を見ると、大規模緩和までプラスであった(r-g)が大規模緩和後マイナスに転じた。これは大規模緩和で金利が低下し、名目GDP成長率がプラスになったからである。 以上2つの要因で政府債務残高の対GDP比は安定した」、なるほど。 「基礎的収支の赤字をいくら頑張って減らしても、デフレで金利が名目成長率よりも高いような状況を作っては、財政再建などできないということである。 財政安定化には、基礎的財政収支の赤字を2.5%程度にすることが必要だが、これにはどの程度の緊縮策が必要だろうか。2024年の基礎的財政収支は、IMFの予測によれば3.6%であるから、後1.1%の財政赤字削減で良いということになる。すなわち、財政再建には、まず金融緩和を続けることが必要であり、その中で徐々に財政赤字を縮小していけばよいということになる」、 「財政再建には、まず金融緩和を続けることが必要であり、その中で徐々に財政赤字を縮小していけばよいということになる」、財政再建の観点からはそうでも、金融政策はそろそろ利上げも展望したものになるとすれば、「財政再建」は二義的な目標に下げざるを得ないようだ。
金融政策(その46)(その時 現場は凍り付いた…!植田日銀総裁に「経済学の大天才」が噛みついた!その「空気よまない直言」のヤバすぎる中身、日本の地銀が「大崩壊」の末路…米・銀行の「連鎖倒産」でリーマン級「大不況」がやってくる、多くの人が意外と知らない「マイナス金利解除」でも円安が止まらない「根本的な理由」 「為替は金融差で動く」は本当か?) [経済政策]
金融政策については、本年3月29日に取上げた。今日は、(その46)(その時 現場は凍り付いた…!植田日銀総裁に「経済学の大天才」が噛みついた!その「空気よまない直言」のヤバすぎる中身、日本の地銀が「大崩壊」の末路…米・銀行の「連鎖倒産」でリーマン級「大不況」がやってくる、多くの人が意外と知らない「マイナス金利解除」でも円安が止まらない「根本的な理由」 「為替は金融差で動く」は本当か?)である。
先ずは、昨年6月16日付け現代ビジネスが掲載した鷲尾 香一氏による「その時、現場は凍り付いた…!植田日銀総裁に「経済学の大天才」が噛みついた!その「空気よまない直言」のヤバすぎる中身」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/111599
・『2人の経済学の天才が激突 6月15日から2日間にわたって行われている日銀政策決定会合だが、マーケットは概ね「大規模緩和の継続」を予想している。 筆者もその見通しには同意するが、ちょうどひと月前の5月15日に開かれた政府・経済経済財政諮問会議で、今後の植田和男日本銀行総裁の政策に大きな影響を与えるのではないかと感じるやり取りがあった。 前編『ノーベル経済学賞「有力日本人候補」が日銀・植田総裁に噛みついた!いったい何があったのか…?』でお伝えしたとおり、植田総裁の経済学のライバルで、プリンストン大学の清滝信宏教授が植田総裁の意見に噛みついたのだ。 本稿では、植田総裁と清滝氏の二人の世界的知性がぶつかり合った会議の中身について詳しくお伝えしていこう』、興味深そうだ。
・『ライバルの直言は「緩和はさっさとやめろ」 5月15日の経済財政諮問会議に出席した植田総裁は、物価の見通しについて、「現在は2%を上回っているが、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰していくもとで、今年度半ばにかけて、2%を下回る水準までプラス幅を縮小していく」とした。 つまり、これまで通り秋口から物価は下がっていくという見通しを示し、対規模緩和を継続した4月の政策決定会合の内容を改めて説明した。 これに対して、経済財政諮問会議に有識者の1人として出席した清滝教授は、植田総裁と真っ向から対立する意見を出したのだ。 清滝教授は、世界経済の現状を「インフレが進行しており、欧米では政策金利の大幅な引上げにもかかわらず、2%を超えるインフレが数年は続くと予想されている」とした上で、日本についても「円安と輸入物価の高騰から、目標値を超えるインフレが続いている」と分析。 その上で、たとえ物価が植田総裁の見通し通りに1〜2%に下がったとしても「インフレ率が1~2%程度に定着すれば、量的・質的緩和は解除すべきである」と指摘した。 植田総裁が量的緩和の解除に慎重なのは、国内で金利が上がりはじめれば日本国債を大量に保有する金融機関に含み損が発生し、アメリカのシリコンバレー銀行のように経営難に陥る地銀が出かねないという懸念もあるからだ。住宅ローンを組む多くの人にも大きなダメージとなりかねない。 低金利に慣れ切った今の日本で金融政策を正常化すると、大きな痛みを伴いかねないのだ。 しかし、グローバル標準の経済学者である清滝教授は発言がたちどころにマーケットに影響する植田総裁と違って、なれ合い的な“日本の空気”など気にする必要などないのだろう。 長期的な視野に立って、最適であろう経済学の知見とセオリーをストレートに述べて「緩和は、さっさと解除しろ」と指摘したのだ』、「長期的な視野に立って、最適であろう経済学の知見とセオリーをストレートに述べて「緩和は、さっさと解除しろ」と指摘」、植田総裁にとっては、耳が痛い話だ。
・『もう「大規模緩和」の効果はない? ちなみに、清滝教授がノーベル経済学賞に最も近い日本人と言われるゆえんは、1997年に日本のバブル崩壊を説明する「清滝・ムーアモデル」を英経済学者のジョン・ムーア氏と共同で示したことによる。この理論は、リーマンショックでも実証され、金融危機の対応にも貢献したという。 日本のバブル崩壊では、土地や株などの資産価格が暴落した。銀行は不動産などを担保に融資をおこなうが、担保価値が下がることで金融機関の融資もまた停滞する。これが不況を招き、さらに資産価値が下落するという負のスパイラルが不況を長期化させる。 これを精密に分析して解明したのが「清滝・ムーアモデル」で、「失われた20年」とか「失われた30年」と言われる日本の長期停滞を言い当てた。 日本停滞の根本原因を知り尽くす清滝教授だけに、経済財政諮問会議で次のような苦言も呈している。) 「量的・質的金融緩和は持続的成長につながらない」 「1%以下の金利でなければ採算が取れないような投資をいくらしても経済は成長しない」 つまり、量的緩和による低金利は、生産性の低い投資を企業に促し、逆に収益体質を脆弱化している、そのため、むしろ“デフレになりやすくなっている”と言うのである。緩やかなインフレを目指した大規模緩和をこれ以上継続する効果に疑問符を付けたというわけだ。 ライバルの経済学者の直言は、同じく経済学のセオリーを知り尽くす植田総裁の政策にこれからどのように影響するだろうか。 さらに連載記事『業火は日本の金融界にも飛んでくる…!米銀破綻が経営を直撃しかねない「危ないニッポンの銀行」の実名』では、日銀の政策変更も影響しかねない金融機関の実態についてお伝えしていこう』、「量的緩和による低金利は、生産性の低い投資を企業に促し、逆に収益体質を脆弱化している、そのため、むしろ“デフレになりやすくなっている”と言うのである。緩やかなインフレを目指した大規模緩和をこれ以上継続する効果に疑問符を付けたというわけだ」、確かに説得力に富む主張だ。私にはどちらが正しいのか判断することは残念ながら出来ないが、こうした本格的な論戦が始まったことは、日本もようやく欧米の水準に近づいたといえるのかも知れない。
次に、3月20日付け現代ビジネス「日本の地銀が「大崩壊」の末路…米・銀行の「連鎖倒産」でリーマン級「大不況」がやってくる」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/107785
・『欧米で急拡大している、金融機関に対する信用不安。このまま連鎖倒産が続けば、やがて2008年のリーマン・ショック級の世界的大不況が訪れると予想する人もいる。はたして、日本経済はこれからどこに向かうのだろうか。 前編記事『リーマン級「大不況」がやってくる…「SVB破綻」でこれから起こりうる「ヤバすぎる事態」』に引き続き、これからの世界経済を予想してみたい』、興味深そうだ。
・『「氷山の一角」なのか 3月8日、SVBが保有する国債の売却損と新たな増資計画を発表すると、同行に対する信用不安が一気に拡大。SVBの動きを危惧した著名投資家やベンチャーキャピタリストたちがツイッターで警告した結果、それがスラックなどプライベートなSNSでどんどん拡散されていった。 そして翌9日、SVBの株価が急落してから10日の破綻までは、まさに「あっという間」だった。かつてのように銀行に押しかけた人も見られたが、今回はオンラインで引き出そうとする預金者が続出。フィンテック(ファイナンス・テクノロジー)時代ならではのスピード感といえる。 12日には、早くも次なる衝撃が金融界を襲う。暗号資産業界との関係が深い、総資産1100億ドル(約15兆円)のシグネチャー銀行(ニューヨーク州)も預金流出に見舞われ、「連鎖破綻」したのだ。 両行の破綻を受け、金融機関に対する信用不安がさらに広まることを恐れたバイデン大統領の動きは素早く、必死に火消しをはかっている。だが、はたして金融不安は完全に消失したといえるのか。 マーケットにとっていちばんよくないのは、何が起こっているのかわからないことだ。最悪のケースが脳裏に浮かび、機関投資家の売り浴びせのネタになってしまいかねない。そう、かつてのリーマン・ショックの時のように―。 中国の交通銀行香港法人元社長の洪灝氏が「SVBの事件は投資家と消費者の信頼を確実に低下させた。SVBは少数派なのか、それとも氷山の一角なのか」などとコラムに記すなど、疑心暗鬼が渦巻く中、シリコンバレーの投資家の一人は、不安な胸中をこう明かす。 「これから何週間か、何ヵ月かの間に、ベンチャーキャピタルやテック企業、スタートアップ関連の銀行が破綻する可能性があるのではないかと危惧しています」』、「SVBが保有する国債の売却損と新たな増資計画を発表すると、同行に対する信用不安が一気に拡大。SVBの動きを危惧した著名投資家やベンチャーキャピタリストたちがツイッターで警告した結果、それがスラックなどプライベートなSNSでどんどん拡散されていった。 そして翌9日、SVBの株価が急落してから10日の破綻までは、まさに「あっという間」だった・・・フィンテック(ファイナンス・テクノロジー)時代ならではのスピード感」、なるほど。
・『また「リーマン・ショック」が起こる さらなる連鎖が杞憂で済めばいいのだが、じつは今後、銀行破綻が波及すると指摘する人物は、冒頭のドレクスラー氏以外にもいる。世界三大投資家として知られるジム・ロジャーズ氏がその一人だ。 「2008年のリーマン・ショック以降、14年もの間、アメリカではリセッション(景気後退)が起こってきませんでした。 しかし、いまのアメリカのようにインフレ抑制のために金利を上げれば、ベアマーケット(下落相場)を誘発し、財務的に脆弱な銀行が破綻するのは、これまでもあったこと。バイデン大統領は今回銀行を救済しましたが、それがうまくいくとは思えません。 著書『捨てられる日本』の中で、『私の人生で最大の下落相場が5年以内に到来する』と断言していますが、破綻が他の銀行にも及べば、リーマン・ショックの時のような世界的な金融危機が早晩、起きると見ています」 そうなると、いよいよ日本も、「対岸の火事」と見過ごすことはできなくなる』、「『私の人生で最大の下落相場が5年以内に到来する』と断言していますが、破綻が他の銀行にも及べば、リーマン・ショックの時のような世界的な金融危機が早晩、起きると見ています」 そうなると、いよいよ日本も、「対岸の火事」と見過ごすことはできなくなる」、なるほど。
・『世界的大不況の可能性も ここで、「利上げによる米国債の価格下落で結果的に破綻する銀行が出たことにショックを受けた」と語るのは、金融アナリストでマリブジャパン代表の高橋克英氏だ。気がかりだと同氏がまず指摘するのは、ほかでもない、「米国債の今後の動向」だという。 「今回は2行が問題になりましたが、保有比率はともかく、アメリカの利上げ以降、世界中の金融機関で米国債が評価損の状態にあるといえます。 SVBと同様、米国債を保有する金融機関が含み損を処理しようと一斉に売りに転じれば、歯止めが利かなくなる恐れがあります」 下落が下落を呼べば、金融機関が持つ米国債の含み損がさらに拡大するのは必然。やがて信用不安を招くと資金調達も困難となり、破綻の連鎖から一気に世界的大不況へと発展しかねない。 当然、日本市場も大きな影響を免れない。結果的にアメリカ発の銀行破綻ラッシュが日本に襲いかかってくることも決してありえない話ではないのだ』、「保有比率はともかく、アメリカの利上げ以降、世界中の金融機関で米国債が評価損の状態にあるといえます。 SVBと同様、米国債を保有する金融機関が含み損を処理しようと一斉に売りに転じれば、歯止めが利かなくなる恐れがあります」 下落が下落を呼べば、金融機関が持つ米国債の含み損がさらに拡大するのは必然。やがて信用不安を招くと資金調達も困難となり、破綻の連鎖から一気に世界的大不況へと発展しかねない」、こうしたリスクがこれまでのところ顕在化してないのはラッキーだ。
・『地銀や日銀にも影響か 「アメリカとまったく同じことが起こりえる」 こういって日本の地方銀行に注目するのは、経済評論家で百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏だ。日本は日銀による異次元緩和政策でずっと金利が低く抑えられてきた。そうした状況下で預金の貸し出し先がない日本の銀行は、国債を買い続けてきた。 「その中でも特に購入額が多いのが、地銀なのです。中には保有する全有価証券のうち、国債が占める割合が4割近くに達する地銀もあります。 今後、もし日銀が長年続けてきたゼロ金利政策の出口戦略として金利を断続的に上げ始めたら、今回破綻したアメリカの銀行と同じように、地銀も大きな含み損を抱えることになる。 そして信用不安を引き起こし、『このまま預けておいたらまずいんじゃないか』と思った人たちが預金を引き出したら、立ち行かなくなる地銀が出てくるでしょう。 こうした構造的な類似性が今回明らかになったといえるのです」 同じことは、560兆円の国債を保有する日銀にもいえる。日本の行方には「進むも地獄退くも地獄」の厳しい事態が待ち受けていると、経済評論家の加谷珪一氏は見ている。 「インフレをコントロールしようと利上げをすると、日銀の含み損が拡大し、バランスシートが棄損します。すると今度は日本円が機関投資家の売り仕掛けに遭い、円安が進んでインフレが加速する。住宅ローン金利も上がって破産者も増えるでしょう。 もちろん国債を発行する政府の利払いも増えるので、財源の手当てが必要になります。金利が1%上がれば1000兆円ある国債発行残高に対して、金利の支払いだけで10兆円になってしまいます。 そうなれば増税でまかなうしかありませんが、消費税5%分に相当する巨額をどうやって工面するというのか。考えただけでも絶望的です」』、「今後、もし日銀が長年続けてきたゼロ金利政策の出口戦略として金利を断続的に上げ始めたら、今回破綻したアメリカの銀行と同じように、地銀も大きな含み損を抱えることになる。 そして信用不安を引き起こし、『このまま預けておいたらまずいんじゃないか』と思った人たちが預金を引き出したら、立ち行かなくなる地銀が出てくるでしょう。 こうした構造的な類似性が今回明らかになったといえるのです」 同じことは、560兆円の国債を保有する日銀にもいえる。日本の行方には「進むも地獄退くも地獄」の厳しい事態が待ち受けていると、経済評論家の加谷珪一氏は見ている。 「インフレをコントロールしようと利上げをすると、日銀の含み損が拡大し、バランスシートが棄損します。すると今度は日本円が機関投資家の売り仕掛けに遭い、円安が進んでインフレが加速する。住宅ローン金利も上がって破産者も増えるでしょう。 もちろん国債を発行する政府の利払いも増えるので、財源の手当てが必要になります。金利が1%上がれば1000兆円ある国債発行残高に対して、金利の支払いだけで10兆円になってしまいます。 そうなれば増税でまかなうしかありませんが、消費税5%分に相当する巨額をどうやって工面するというのか。考えただけでも絶望的です」」、もともとの異次元緩和政策が抱えていた問題点が露呈することになる。
・『待ち受ける恐怖の悪循環 だからといってインフレを放置すれば、物価高はますます加速する一方、預貯金の価値はどんどん目減りしていく。 つまり、いずれにしても利上げをしなければならない「恐怖の悪循環」に陥ってしまうのだ。 では、それを免れるにはどうすればいいか。おそらくいま、どの金融機関も利上げによる悪影響を必死で調査しているはずだ。加谷氏は「4月に入ってからも、しばらくは不安が市場を駆け巡り、株価が乱高下する展開が続く」と見ている。 そこで「いま大切なのは、できるだけ負債を持たないこと」と前出のジム・ロジャーズ氏はアドバイスを送る。 「今後は負債を持つ人ほど苦しむことになるでしょう。金や銀に投資する人がいるかもしれませんが、現在は高値に止まっていますので、私は購入していません」 金融機関に対する信用不安は、その幻想が崩れた瞬間、突然やってくる。 いま多くの人々は「まさか日銀が潰れることはない」と信じているが、日銀だけが例外ということはありえない。 「シリコンバレーで起きている銀行破綻ラッシュは、『安易に出口に向かってはいけない』ということを示唆しているのです」(前出・鈴木氏) 次期日銀総裁の植田和男氏はその就任直後から、一瞬の判断ミスも許されない緊急事態に直面することになる。金融緩和路線を維持するのか、修正するのか。舵取りの困難さはこれまで以上に大きくなったといえる。 「週刊現代」2023年3月25日号より さらに関連記事『リーマン級「大不況」がやってくる…「SVB破綻」でこれから起こりうる「ヤバすぎる事態」』では、すべての発端となったSVBの破綻の背景を詳細に解説する』、「金融機関に対する信用不安は、その幻想が崩れた瞬間、突然やってくる。 いま多くの人々は「まさか日銀が潰れることはない」と信じているが、日銀だけが例外ということはありえない」、強く同意する。
第三に、4月3日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「多くの人が意外と知らない「マイナス金利解除」でも円安が止まらない「根本的な理由」 「為替は金融差で動く」は本当か?」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/126867?imp=0
・『日銀が政策転換を実施したにもかかわらず、外国為替市場では円安が進んでいる。首をかしげている人も多いようだが、市場原理を知る人にとっては不思議なことではない。大規模緩和策からの撤退が始まったことで、際限のない円安リスクは回避できたが、大きな方向性としては依然として円安傾向が続く』、興味深そうだ。
・『「為替は金利差で動く」は、100%正確ではない 日銀は3月19日に開催された金融政策決定会合においてマイナス金利の解除を決定した。これは長く続いた大規模緩和策からの撤退を意味しており、秋にはゼロ金利の解除が行われ、いよいよ短期金利が上昇に向けて動き出すことになる。 日本円は過去2年間で、1ドル=100円から150円と暴落に近い状況まで下落した。この急ピッチな円安について多くの専門家は日米の金融政策に起因する金利差が原因であると説明してきた。為替の理論は簡単ではないので、筆者もテレビに呼ばれたり、一般紙からコメントを求められた時には「金利差が原因」と説明したこともある。 だが金利差で為替が動くという説明は、半分は当たっているのだが、100%正確とは言い難い。 もし為替市場が金利差で動くのであれば、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は利下げに向けて動き始めており、一方の日銀は利上げ開始するタイミングなので、円高に振れるとの予想になる。実際、多くの専門家がゼロ金利解除後は急激な円高になると説明していた。
だが現実は正反対であり、むしろ円安が進んでいるが、筆者らにとってこれは予想された事態であり、特段、大きな驚きはない。その理由は、厳密にいうと金利差というのは、為替を動かす要因ではなく、その裏にある本質的要因を間接的に示しているにすぎないからである』、「厳密にいうと金利差というのは、為替を動かす要因ではなく、その裏にある本質的要因を間接的に示しているにすぎないからである」、どういうことなのだろう。
・『「物価見通しの差」で決まる 最終的に為替市場の動向を決めるのは、金利ではなく将来の物価見通しである。 これは経済学の分野では購買力平価という形で理論化されているが、多くの専門家がこの理論を消化できておらず、結果として為替市場の動向を見誤っている。それはどういうことだろうか。 購買力平価の理論では、二国間の為替は両国の物価見通しの差で決まるとされる。片方の国の物価が上がった場合、一物一価の原則を成り立たせるには、物価上昇分だけ当該国の通貨は減価する必要に迫られる。 これが購買力平価による理論的な為替レートである。現時点における購買力平価の為替レートは、市場の実勢レートより円高となっており、多くの論者がこれを根拠に、現在の円安は単なる投機であり、やがて円高に振れると説明している。 だが、こうした理屈で円高を主張している人が見落としている点がある。それは、購買力平価という理論は物価と為替の関係性を示したものに過ぎず、理論値が先にあり、その後で現実の為替レートがそこに収束するとは限らないという点である。 物理学の法則でもよくあることなのだが、複数主体の関係性のみを示したモデルというのは少なくない。自然科学を学んだ人であれば、これはごく当たり前のことだが、いわゆる文系的な世界にこうしたモデルが持ち込まれると、時に想定されていない「文学的解釈」が登場することがある』、「購買力平価の理論では、二国間の為替は両国の物価見通しの差で決まるとされる。片方の国の物価が上がった場合、一物一価の原則を成り立たせるには、物価上昇分だけ当該国の通貨は減価する必要に迫られる。 これが購買力平価による理論的な為替レートである。現時点における購買力平価の為替レートは、市場の実勢レートより円高となっており、多くの論者がこれを根拠に、現在の円安は単なる投機であり、やがて円高に振れると説明している。 だが、こうした理屈で円高を主張している人が見落としている点がある。それは、購買力平価という理論は物価と為替の関係性を示したものに過ぎず、理論値が先にあり、その後で現実の為替レートがそこに収束するとは限らないという点である」、なるほど。
・『なぜ日本の物価は「まだ上がる」予想なのか このケースで言えば、先に購買力平価の理論値があり、市場のレートはそこに向かって動くとの解釈がそれにあたる。将来のことは誰にも分からないので、筆者の予想が合っているのかもわからない。だが、少なくとも購買力平価の理論では、先に理論値が決まり、そこに市場レートが収束するとは説明していない。 もし先に市場レートが円安に振れ、結果的に輸入物価の上昇を通じて全体の物価が上がった場合、先に市場レートが下がり、理論値がそれに追いつくというシナリオが十分にあり得る。理論が持つこうした中立的な解釈を無視して、無意識的に先に理論値があると考えるのは、自然科学の世界ではご法度である。 上記で説明した通り、先に市場レートが決まり、それによって物価が上昇し理論値が修正されるのだとすると、今回、発生している円安の理由はハッキリしている。市場は国内物価がさらに上がると予想しており、そのシナリオに向けて市場が先に動いているからである。 では、市場はなぜ日本の物価がさらに上がると予想しているのだろうか。 それは政策転換を表明したとはいえ、日銀は当分の間、緩和的な政策を続けざるを得ず、市場には今後も大量のマネーが供給される可能性が高いからである。日銀は600兆円もの国債を抱えており、日本の経済圏にはGDP(国内総生産)を上回る規模の余剰マネーがバラ撒かれた状態にある。これは明らかに将来のインフレ要因であり、市場は日銀が緩和策から完全撤退しない限り、インフレ圧力は弱まらないと見ている』、「今回、発生している円安の理由はハッキリしている。市場は国内物価がさらに上がると予想しており、そのシナリオに向けて市場が先に動いているからである。 では、市場はなぜ日本の物価がさらに上がると予想しているのだろうか。 それは政策転換を表明したとはいえ、日銀は当分の間、緩和的な政策を続けざるを得ず、市場には今後も大量のマネーが供給される可能性が高いからである。日銀は600兆円もの国債を抱えており、日本の経済圏にはGDP(国内総生産)を上回る規模の余剰マネーがバラ撒かれた状態にある。これは明らかに将来のインフレ要因であり、市場は日銀が緩和策から完全撤退しない限り、インフレ圧力は弱まらないと見ている」、その通りだ。
・『円高になるのはどんなケースか 結果として、日銀が政策転換を表明したとしても、事実上の緩和策は続くとの解釈になり、引き続き円安が継続するというシナリオが成立する。 もう少しわかりやすくいえば、以下のようになるだろう。 今回の政策転換によって、際限のない円安や物価上昇は回避できたかもしれない。だが、日銀は緩和的姿勢を継続せざるを得ず、正常化を進めている米国との方向性の違いは解消されないため、緩やかな円安傾向が続くことになる。 もしこの流れが大きく変化し、円高に振れることがあるとすれば、米国のリセッション懸念が高まり、予想以上のペースで利下げに踏み切る時だろう。だが今のところ米国のインフレ圧力は弱まっておらず、利下げのペースも緩やかなままとなる可能性が高い。 あくまで二国間の比較問題としては、日本の方が圧倒的に緩和的であり、円安に振れやすい。市場はこのあたりを察知しており、それが今の為替レートを成り立たせていると考えるべきだ』、「あくまで二国間の比較問題としては、日本の方が圧倒的に緩和的であり、円安に振れやすい。市場はこのあたりを察知しており、それが今の為替レートを成り立たせていると考えるべきだ」、同感である。
なお、明日の更新は休む予定で、明後日にご期待を!
先ずは、昨年6月16日付け現代ビジネスが掲載した鷲尾 香一氏による「その時、現場は凍り付いた…!植田日銀総裁に「経済学の大天才」が噛みついた!その「空気よまない直言」のヤバすぎる中身」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/111599
・『2人の経済学の天才が激突 6月15日から2日間にわたって行われている日銀政策決定会合だが、マーケットは概ね「大規模緩和の継続」を予想している。 筆者もその見通しには同意するが、ちょうどひと月前の5月15日に開かれた政府・経済経済財政諮問会議で、今後の植田和男日本銀行総裁の政策に大きな影響を与えるのではないかと感じるやり取りがあった。 前編『ノーベル経済学賞「有力日本人候補」が日銀・植田総裁に噛みついた!いったい何があったのか…?』でお伝えしたとおり、植田総裁の経済学のライバルで、プリンストン大学の清滝信宏教授が植田総裁の意見に噛みついたのだ。 本稿では、植田総裁と清滝氏の二人の世界的知性がぶつかり合った会議の中身について詳しくお伝えしていこう』、興味深そうだ。
・『ライバルの直言は「緩和はさっさとやめろ」 5月15日の経済財政諮問会議に出席した植田総裁は、物価の見通しについて、「現在は2%を上回っているが、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰していくもとで、今年度半ばにかけて、2%を下回る水準までプラス幅を縮小していく」とした。 つまり、これまで通り秋口から物価は下がっていくという見通しを示し、対規模緩和を継続した4月の政策決定会合の内容を改めて説明した。 これに対して、経済財政諮問会議に有識者の1人として出席した清滝教授は、植田総裁と真っ向から対立する意見を出したのだ。 清滝教授は、世界経済の現状を「インフレが進行しており、欧米では政策金利の大幅な引上げにもかかわらず、2%を超えるインフレが数年は続くと予想されている」とした上で、日本についても「円安と輸入物価の高騰から、目標値を超えるインフレが続いている」と分析。 その上で、たとえ物価が植田総裁の見通し通りに1〜2%に下がったとしても「インフレ率が1~2%程度に定着すれば、量的・質的緩和は解除すべきである」と指摘した。 植田総裁が量的緩和の解除に慎重なのは、国内で金利が上がりはじめれば日本国債を大量に保有する金融機関に含み損が発生し、アメリカのシリコンバレー銀行のように経営難に陥る地銀が出かねないという懸念もあるからだ。住宅ローンを組む多くの人にも大きなダメージとなりかねない。 低金利に慣れ切った今の日本で金融政策を正常化すると、大きな痛みを伴いかねないのだ。 しかし、グローバル標準の経済学者である清滝教授は発言がたちどころにマーケットに影響する植田総裁と違って、なれ合い的な“日本の空気”など気にする必要などないのだろう。 長期的な視野に立って、最適であろう経済学の知見とセオリーをストレートに述べて「緩和は、さっさと解除しろ」と指摘したのだ』、「長期的な視野に立って、最適であろう経済学の知見とセオリーをストレートに述べて「緩和は、さっさと解除しろ」と指摘」、植田総裁にとっては、耳が痛い話だ。
・『もう「大規模緩和」の効果はない? ちなみに、清滝教授がノーベル経済学賞に最も近い日本人と言われるゆえんは、1997年に日本のバブル崩壊を説明する「清滝・ムーアモデル」を英経済学者のジョン・ムーア氏と共同で示したことによる。この理論は、リーマンショックでも実証され、金融危機の対応にも貢献したという。 日本のバブル崩壊では、土地や株などの資産価格が暴落した。銀行は不動産などを担保に融資をおこなうが、担保価値が下がることで金融機関の融資もまた停滞する。これが不況を招き、さらに資産価値が下落するという負のスパイラルが不況を長期化させる。 これを精密に分析して解明したのが「清滝・ムーアモデル」で、「失われた20年」とか「失われた30年」と言われる日本の長期停滞を言い当てた。 日本停滞の根本原因を知り尽くす清滝教授だけに、経済財政諮問会議で次のような苦言も呈している。) 「量的・質的金融緩和は持続的成長につながらない」 「1%以下の金利でなければ採算が取れないような投資をいくらしても経済は成長しない」 つまり、量的緩和による低金利は、生産性の低い投資を企業に促し、逆に収益体質を脆弱化している、そのため、むしろ“デフレになりやすくなっている”と言うのである。緩やかなインフレを目指した大規模緩和をこれ以上継続する効果に疑問符を付けたというわけだ。 ライバルの経済学者の直言は、同じく経済学のセオリーを知り尽くす植田総裁の政策にこれからどのように影響するだろうか。 さらに連載記事『業火は日本の金融界にも飛んでくる…!米銀破綻が経営を直撃しかねない「危ないニッポンの銀行」の実名』では、日銀の政策変更も影響しかねない金融機関の実態についてお伝えしていこう』、「量的緩和による低金利は、生産性の低い投資を企業に促し、逆に収益体質を脆弱化している、そのため、むしろ“デフレになりやすくなっている”と言うのである。緩やかなインフレを目指した大規模緩和をこれ以上継続する効果に疑問符を付けたというわけだ」、確かに説得力に富む主張だ。私にはどちらが正しいのか判断することは残念ながら出来ないが、こうした本格的な論戦が始まったことは、日本もようやく欧米の水準に近づいたといえるのかも知れない。
次に、3月20日付け現代ビジネス「日本の地銀が「大崩壊」の末路…米・銀行の「連鎖倒産」でリーマン級「大不況」がやってくる」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/107785
・『欧米で急拡大している、金融機関に対する信用不安。このまま連鎖倒産が続けば、やがて2008年のリーマン・ショック級の世界的大不況が訪れると予想する人もいる。はたして、日本経済はこれからどこに向かうのだろうか。 前編記事『リーマン級「大不況」がやってくる…「SVB破綻」でこれから起こりうる「ヤバすぎる事態」』に引き続き、これからの世界経済を予想してみたい』、興味深そうだ。
・『「氷山の一角」なのか 3月8日、SVBが保有する国債の売却損と新たな増資計画を発表すると、同行に対する信用不安が一気に拡大。SVBの動きを危惧した著名投資家やベンチャーキャピタリストたちがツイッターで警告した結果、それがスラックなどプライベートなSNSでどんどん拡散されていった。 そして翌9日、SVBの株価が急落してから10日の破綻までは、まさに「あっという間」だった。かつてのように銀行に押しかけた人も見られたが、今回はオンラインで引き出そうとする預金者が続出。フィンテック(ファイナンス・テクノロジー)時代ならではのスピード感といえる。 12日には、早くも次なる衝撃が金融界を襲う。暗号資産業界との関係が深い、総資産1100億ドル(約15兆円)のシグネチャー銀行(ニューヨーク州)も預金流出に見舞われ、「連鎖破綻」したのだ。 両行の破綻を受け、金融機関に対する信用不安がさらに広まることを恐れたバイデン大統領の動きは素早く、必死に火消しをはかっている。だが、はたして金融不安は完全に消失したといえるのか。 マーケットにとっていちばんよくないのは、何が起こっているのかわからないことだ。最悪のケースが脳裏に浮かび、機関投資家の売り浴びせのネタになってしまいかねない。そう、かつてのリーマン・ショックの時のように―。 中国の交通銀行香港法人元社長の洪灝氏が「SVBの事件は投資家と消費者の信頼を確実に低下させた。SVBは少数派なのか、それとも氷山の一角なのか」などとコラムに記すなど、疑心暗鬼が渦巻く中、シリコンバレーの投資家の一人は、不安な胸中をこう明かす。 「これから何週間か、何ヵ月かの間に、ベンチャーキャピタルやテック企業、スタートアップ関連の銀行が破綻する可能性があるのではないかと危惧しています」』、「SVBが保有する国債の売却損と新たな増資計画を発表すると、同行に対する信用不安が一気に拡大。SVBの動きを危惧した著名投資家やベンチャーキャピタリストたちがツイッターで警告した結果、それがスラックなどプライベートなSNSでどんどん拡散されていった。 そして翌9日、SVBの株価が急落してから10日の破綻までは、まさに「あっという間」だった・・・フィンテック(ファイナンス・テクノロジー)時代ならではのスピード感」、なるほど。
・『また「リーマン・ショック」が起こる さらなる連鎖が杞憂で済めばいいのだが、じつは今後、銀行破綻が波及すると指摘する人物は、冒頭のドレクスラー氏以外にもいる。世界三大投資家として知られるジム・ロジャーズ氏がその一人だ。 「2008年のリーマン・ショック以降、14年もの間、アメリカではリセッション(景気後退)が起こってきませんでした。 しかし、いまのアメリカのようにインフレ抑制のために金利を上げれば、ベアマーケット(下落相場)を誘発し、財務的に脆弱な銀行が破綻するのは、これまでもあったこと。バイデン大統領は今回銀行を救済しましたが、それがうまくいくとは思えません。 著書『捨てられる日本』の中で、『私の人生で最大の下落相場が5年以内に到来する』と断言していますが、破綻が他の銀行にも及べば、リーマン・ショックの時のような世界的な金融危機が早晩、起きると見ています」 そうなると、いよいよ日本も、「対岸の火事」と見過ごすことはできなくなる』、「『私の人生で最大の下落相場が5年以内に到来する』と断言していますが、破綻が他の銀行にも及べば、リーマン・ショックの時のような世界的な金融危機が早晩、起きると見ています」 そうなると、いよいよ日本も、「対岸の火事」と見過ごすことはできなくなる」、なるほど。
・『世界的大不況の可能性も ここで、「利上げによる米国債の価格下落で結果的に破綻する銀行が出たことにショックを受けた」と語るのは、金融アナリストでマリブジャパン代表の高橋克英氏だ。気がかりだと同氏がまず指摘するのは、ほかでもない、「米国債の今後の動向」だという。 「今回は2行が問題になりましたが、保有比率はともかく、アメリカの利上げ以降、世界中の金融機関で米国債が評価損の状態にあるといえます。 SVBと同様、米国債を保有する金融機関が含み損を処理しようと一斉に売りに転じれば、歯止めが利かなくなる恐れがあります」 下落が下落を呼べば、金融機関が持つ米国債の含み損がさらに拡大するのは必然。やがて信用不安を招くと資金調達も困難となり、破綻の連鎖から一気に世界的大不況へと発展しかねない。 当然、日本市場も大きな影響を免れない。結果的にアメリカ発の銀行破綻ラッシュが日本に襲いかかってくることも決してありえない話ではないのだ』、「保有比率はともかく、アメリカの利上げ以降、世界中の金融機関で米国債が評価損の状態にあるといえます。 SVBと同様、米国債を保有する金融機関が含み損を処理しようと一斉に売りに転じれば、歯止めが利かなくなる恐れがあります」 下落が下落を呼べば、金融機関が持つ米国債の含み損がさらに拡大するのは必然。やがて信用不安を招くと資金調達も困難となり、破綻の連鎖から一気に世界的大不況へと発展しかねない」、こうしたリスクがこれまでのところ顕在化してないのはラッキーだ。
・『地銀や日銀にも影響か 「アメリカとまったく同じことが起こりえる」 こういって日本の地方銀行に注目するのは、経済評論家で百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏だ。日本は日銀による異次元緩和政策でずっと金利が低く抑えられてきた。そうした状況下で預金の貸し出し先がない日本の銀行は、国債を買い続けてきた。 「その中でも特に購入額が多いのが、地銀なのです。中には保有する全有価証券のうち、国債が占める割合が4割近くに達する地銀もあります。 今後、もし日銀が長年続けてきたゼロ金利政策の出口戦略として金利を断続的に上げ始めたら、今回破綻したアメリカの銀行と同じように、地銀も大きな含み損を抱えることになる。 そして信用不安を引き起こし、『このまま預けておいたらまずいんじゃないか』と思った人たちが預金を引き出したら、立ち行かなくなる地銀が出てくるでしょう。 こうした構造的な類似性が今回明らかになったといえるのです」 同じことは、560兆円の国債を保有する日銀にもいえる。日本の行方には「進むも地獄退くも地獄」の厳しい事態が待ち受けていると、経済評論家の加谷珪一氏は見ている。 「インフレをコントロールしようと利上げをすると、日銀の含み損が拡大し、バランスシートが棄損します。すると今度は日本円が機関投資家の売り仕掛けに遭い、円安が進んでインフレが加速する。住宅ローン金利も上がって破産者も増えるでしょう。 もちろん国債を発行する政府の利払いも増えるので、財源の手当てが必要になります。金利が1%上がれば1000兆円ある国債発行残高に対して、金利の支払いだけで10兆円になってしまいます。 そうなれば増税でまかなうしかありませんが、消費税5%分に相当する巨額をどうやって工面するというのか。考えただけでも絶望的です」』、「今後、もし日銀が長年続けてきたゼロ金利政策の出口戦略として金利を断続的に上げ始めたら、今回破綻したアメリカの銀行と同じように、地銀も大きな含み損を抱えることになる。 そして信用不安を引き起こし、『このまま預けておいたらまずいんじゃないか』と思った人たちが預金を引き出したら、立ち行かなくなる地銀が出てくるでしょう。 こうした構造的な類似性が今回明らかになったといえるのです」 同じことは、560兆円の国債を保有する日銀にもいえる。日本の行方には「進むも地獄退くも地獄」の厳しい事態が待ち受けていると、経済評論家の加谷珪一氏は見ている。 「インフレをコントロールしようと利上げをすると、日銀の含み損が拡大し、バランスシートが棄損します。すると今度は日本円が機関投資家の売り仕掛けに遭い、円安が進んでインフレが加速する。住宅ローン金利も上がって破産者も増えるでしょう。 もちろん国債を発行する政府の利払いも増えるので、財源の手当てが必要になります。金利が1%上がれば1000兆円ある国債発行残高に対して、金利の支払いだけで10兆円になってしまいます。 そうなれば増税でまかなうしかありませんが、消費税5%分に相当する巨額をどうやって工面するというのか。考えただけでも絶望的です」」、もともとの異次元緩和政策が抱えていた問題点が露呈することになる。
・『待ち受ける恐怖の悪循環 だからといってインフレを放置すれば、物価高はますます加速する一方、預貯金の価値はどんどん目減りしていく。 つまり、いずれにしても利上げをしなければならない「恐怖の悪循環」に陥ってしまうのだ。 では、それを免れるにはどうすればいいか。おそらくいま、どの金融機関も利上げによる悪影響を必死で調査しているはずだ。加谷氏は「4月に入ってからも、しばらくは不安が市場を駆け巡り、株価が乱高下する展開が続く」と見ている。 そこで「いま大切なのは、できるだけ負債を持たないこと」と前出のジム・ロジャーズ氏はアドバイスを送る。 「今後は負債を持つ人ほど苦しむことになるでしょう。金や銀に投資する人がいるかもしれませんが、現在は高値に止まっていますので、私は購入していません」 金融機関に対する信用不安は、その幻想が崩れた瞬間、突然やってくる。 いま多くの人々は「まさか日銀が潰れることはない」と信じているが、日銀だけが例外ということはありえない。 「シリコンバレーで起きている銀行破綻ラッシュは、『安易に出口に向かってはいけない』ということを示唆しているのです」(前出・鈴木氏) 次期日銀総裁の植田和男氏はその就任直後から、一瞬の判断ミスも許されない緊急事態に直面することになる。金融緩和路線を維持するのか、修正するのか。舵取りの困難さはこれまで以上に大きくなったといえる。 「週刊現代」2023年3月25日号より さらに関連記事『リーマン級「大不況」がやってくる…「SVB破綻」でこれから起こりうる「ヤバすぎる事態」』では、すべての発端となったSVBの破綻の背景を詳細に解説する』、「金融機関に対する信用不安は、その幻想が崩れた瞬間、突然やってくる。 いま多くの人々は「まさか日銀が潰れることはない」と信じているが、日銀だけが例外ということはありえない」、強く同意する。
第三に、4月3日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「多くの人が意外と知らない「マイナス金利解除」でも円安が止まらない「根本的な理由」 「為替は金融差で動く」は本当か?」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/126867?imp=0
・『日銀が政策転換を実施したにもかかわらず、外国為替市場では円安が進んでいる。首をかしげている人も多いようだが、市場原理を知る人にとっては不思議なことではない。大規模緩和策からの撤退が始まったことで、際限のない円安リスクは回避できたが、大きな方向性としては依然として円安傾向が続く』、興味深そうだ。
・『「為替は金利差で動く」は、100%正確ではない 日銀は3月19日に開催された金融政策決定会合においてマイナス金利の解除を決定した。これは長く続いた大規模緩和策からの撤退を意味しており、秋にはゼロ金利の解除が行われ、いよいよ短期金利が上昇に向けて動き出すことになる。 日本円は過去2年間で、1ドル=100円から150円と暴落に近い状況まで下落した。この急ピッチな円安について多くの専門家は日米の金融政策に起因する金利差が原因であると説明してきた。為替の理論は簡単ではないので、筆者もテレビに呼ばれたり、一般紙からコメントを求められた時には「金利差が原因」と説明したこともある。 だが金利差で為替が動くという説明は、半分は当たっているのだが、100%正確とは言い難い。 もし為替市場が金利差で動くのであれば、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は利下げに向けて動き始めており、一方の日銀は利上げ開始するタイミングなので、円高に振れるとの予想になる。実際、多くの専門家がゼロ金利解除後は急激な円高になると説明していた。
だが現実は正反対であり、むしろ円安が進んでいるが、筆者らにとってこれは予想された事態であり、特段、大きな驚きはない。その理由は、厳密にいうと金利差というのは、為替を動かす要因ではなく、その裏にある本質的要因を間接的に示しているにすぎないからである』、「厳密にいうと金利差というのは、為替を動かす要因ではなく、その裏にある本質的要因を間接的に示しているにすぎないからである」、どういうことなのだろう。
・『「物価見通しの差」で決まる 最終的に為替市場の動向を決めるのは、金利ではなく将来の物価見通しである。 これは経済学の分野では購買力平価という形で理論化されているが、多くの専門家がこの理論を消化できておらず、結果として為替市場の動向を見誤っている。それはどういうことだろうか。 購買力平価の理論では、二国間の為替は両国の物価見通しの差で決まるとされる。片方の国の物価が上がった場合、一物一価の原則を成り立たせるには、物価上昇分だけ当該国の通貨は減価する必要に迫られる。 これが購買力平価による理論的な為替レートである。現時点における購買力平価の為替レートは、市場の実勢レートより円高となっており、多くの論者がこれを根拠に、現在の円安は単なる投機であり、やがて円高に振れると説明している。 だが、こうした理屈で円高を主張している人が見落としている点がある。それは、購買力平価という理論は物価と為替の関係性を示したものに過ぎず、理論値が先にあり、その後で現実の為替レートがそこに収束するとは限らないという点である。 物理学の法則でもよくあることなのだが、複数主体の関係性のみを示したモデルというのは少なくない。自然科学を学んだ人であれば、これはごく当たり前のことだが、いわゆる文系的な世界にこうしたモデルが持ち込まれると、時に想定されていない「文学的解釈」が登場することがある』、「購買力平価の理論では、二国間の為替は両国の物価見通しの差で決まるとされる。片方の国の物価が上がった場合、一物一価の原則を成り立たせるには、物価上昇分だけ当該国の通貨は減価する必要に迫られる。 これが購買力平価による理論的な為替レートである。現時点における購買力平価の為替レートは、市場の実勢レートより円高となっており、多くの論者がこれを根拠に、現在の円安は単なる投機であり、やがて円高に振れると説明している。 だが、こうした理屈で円高を主張している人が見落としている点がある。それは、購買力平価という理論は物価と為替の関係性を示したものに過ぎず、理論値が先にあり、その後で現実の為替レートがそこに収束するとは限らないという点である」、なるほど。
・『なぜ日本の物価は「まだ上がる」予想なのか このケースで言えば、先に購買力平価の理論値があり、市場のレートはそこに向かって動くとの解釈がそれにあたる。将来のことは誰にも分からないので、筆者の予想が合っているのかもわからない。だが、少なくとも購買力平価の理論では、先に理論値が決まり、そこに市場レートが収束するとは説明していない。 もし先に市場レートが円安に振れ、結果的に輸入物価の上昇を通じて全体の物価が上がった場合、先に市場レートが下がり、理論値がそれに追いつくというシナリオが十分にあり得る。理論が持つこうした中立的な解釈を無視して、無意識的に先に理論値があると考えるのは、自然科学の世界ではご法度である。 上記で説明した通り、先に市場レートが決まり、それによって物価が上昇し理論値が修正されるのだとすると、今回、発生している円安の理由はハッキリしている。市場は国内物価がさらに上がると予想しており、そのシナリオに向けて市場が先に動いているからである。 では、市場はなぜ日本の物価がさらに上がると予想しているのだろうか。 それは政策転換を表明したとはいえ、日銀は当分の間、緩和的な政策を続けざるを得ず、市場には今後も大量のマネーが供給される可能性が高いからである。日銀は600兆円もの国債を抱えており、日本の経済圏にはGDP(国内総生産)を上回る規模の余剰マネーがバラ撒かれた状態にある。これは明らかに将来のインフレ要因であり、市場は日銀が緩和策から完全撤退しない限り、インフレ圧力は弱まらないと見ている』、「今回、発生している円安の理由はハッキリしている。市場は国内物価がさらに上がると予想しており、そのシナリオに向けて市場が先に動いているからである。 では、市場はなぜ日本の物価がさらに上がると予想しているのだろうか。 それは政策転換を表明したとはいえ、日銀は当分の間、緩和的な政策を続けざるを得ず、市場には今後も大量のマネーが供給される可能性が高いからである。日銀は600兆円もの国債を抱えており、日本の経済圏にはGDP(国内総生産)を上回る規模の余剰マネーがバラ撒かれた状態にある。これは明らかに将来のインフレ要因であり、市場は日銀が緩和策から完全撤退しない限り、インフレ圧力は弱まらないと見ている」、その通りだ。
・『円高になるのはどんなケースか 結果として、日銀が政策転換を表明したとしても、事実上の緩和策は続くとの解釈になり、引き続き円安が継続するというシナリオが成立する。 もう少しわかりやすくいえば、以下のようになるだろう。 今回の政策転換によって、際限のない円安や物価上昇は回避できたかもしれない。だが、日銀は緩和的姿勢を継続せざるを得ず、正常化を進めている米国との方向性の違いは解消されないため、緩やかな円安傾向が続くことになる。 もしこの流れが大きく変化し、円高に振れることがあるとすれば、米国のリセッション懸念が高まり、予想以上のペースで利下げに踏み切る時だろう。だが今のところ米国のインフレ圧力は弱まっておらず、利下げのペースも緩やかなままとなる可能性が高い。 あくまで二国間の比較問題としては、日本の方が圧倒的に緩和的であり、円安に振れやすい。市場はこのあたりを察知しており、それが今の為替レートを成り立たせていると考えるべきだ』、「あくまで二国間の比較問題としては、日本の方が圧倒的に緩和的であり、円安に振れやすい。市場はこのあたりを察知しており、それが今の為替レートを成り立たせていると考えるべきだ」、同感である。
なお、明日の更新は休む予定で、明後日にご期待を!
タグ:(その46)(その時 現場は凍り付いた…!植田日銀総裁に「経済学の大天才」が噛みついた!その「空気よまない直言」のヤバすぎる中身、日本の地銀が「大崩壊」の末路…米・銀行の「連鎖倒産」でリーマン級「大不況」がやってくる、多くの人が意外と知らない「マイナス金利解除」でも円安が止まらない「根本的な理由」 「為替は金融差で動く」は本当か?) 金融政策 「SVBが保有する国債の売却損と新たな増資計画を発表すると、同行に対する信用不安が一気に拡大。SVBの動きを危惧した著名投資家やベンチャーキャピタリストたちがツイッターで警告した結果、それがスラックなどプライベートなSNSでどんどん拡散されていった。 そして翌9日、SVBの株価が急落してから10日の破綻までは、まさに「あっという間」だった・・・フィンテック(ファイナンス・テクノロジー)時代ならではのスピード感」、なるほど。 現代ビジネス「日本の地銀が「大崩壊」の末路…米・銀行の「連鎖倒産」でリーマン級「大不況」がやってくる」 「量的緩和による低金利は、生産性の低い投資を企業に促し、逆に収益体質を脆弱化している、そのため、むしろ“デフレになりやすくなっている”と言うのである。緩やかなインフレを目指した大規模緩和をこれ以上継続する効果に疑問符を付けたというわけだ」、確かに説得力に富む主張だ。私にはどちらが正しいのか判断することは残念ながら出来ないが、こうした本格的な論戦が始まったことは、日本もようやく欧米の水準に近づいたといえるのかも知れない。 「長期的な視野に立って、最適であろう経済学の知見とセオリーをストレートに述べて「緩和は、さっさと解除しろ」と指摘」、植田総裁にとっては、耳が痛い話だ。 植田総裁と清滝氏の二人の世界的知性がぶつかり合った会議の中身 鷲尾 香一氏による「その時、現場は凍り付いた…!植田日銀総裁に「経済学の大天才」が噛みついた!その「空気よまない直言」のヤバすぎる中身」 現代ビジネス 「『私の人生で最大の下落相場が5年以内に到来する』と断言していますが、破綻が他の銀行にも及べば、リーマン・ショックの時のような世界的な金融危機が早晩、起きると見ています」 そうなると、いよいよ日本も、「対岸の火事」と見過ごすことはできなくなる」、なるほど。 「保有比率はともかく、アメリカの利上げ以降、世界中の金融機関で米国債が評価損の状態にあるといえます。 SVBと同様、米国債を保有する金融機関が含み損を処理しようと一斉に売りに転じれば、歯止めが利かなくなる恐れがあります」 下落が下落を呼べば、金融機関が持つ米国債の含み損がさらに拡大するのは必然。やがて信用不安を招くと資金調達も困難となり、破綻の連鎖から一気に世界的大不況へと発展しかねない」、こうしたリスクがこれまでのところ顕在化してないのはラッキーだ。 「今後、もし日銀が長年続けてきたゼロ金利政策の出口戦略として金利を断続的に上げ始めたら、今回破綻したアメリカの銀行と同じように、地銀も大きな含み損を抱えることになる。 そして信用不安を引き起こし、『このまま預けておいたらまずいんじゃないか』と思った人たちが預金を引き出したら、立ち行かなくなる地銀が出てくるでしょう。 こうした構造的な類似性が今回明らかになったといえるのです」 同じことは、560兆円の国債を保有する日銀にもいえる。日本の行方には「進むも地獄退くも地獄」の厳しい事態が待ち受けていると、経済評論 家の加谷珪一氏は見ている。 「インフレをコントロールしようと利上げをすると、日銀の含み損が拡大し、バランスシートが棄損します。すると今度は日本円が機関投資家の売り仕掛けに遭い、円安が進んでインフレが加速する。住宅ローン金利も上がって破産者も増えるでしょう。 もちろん国債を発行する政府の利払いも増えるので、財源の手当てが必要になります。金利が1%上がれば1000兆円ある国債発行残高に対して、金利の支払いだけで10兆円になってしまいます。 そうなれば増税でまかなうしかありませんが、消費税5%分に相当する巨額をどうやって工面するというのか。考えただけでも絶望的です」」、もともとの異次元緩和政策が抱えていた問題点が露呈することになる。 「金融機関に対する信用不安は、その幻想が崩れた瞬間、突然やってくる。 いま多くの人々は「まさか日銀が潰れることはない」と信じているが、日銀だけが例外ということはありえない」、強く同意する。 加谷 珪一氏による「多くの人が意外と知らない「マイナス金利解除」でも円安が止まらない「根本的な理由」 「為替は金融差で動く」は本当か?」 「厳密にいうと金利差というのは、為替を動かす要因ではなく、その裏にある本質的要因を間接的に示しているにすぎないからである」、どういうことなのだろう。 「購買力平価の理論では、二国間の為替は両国の物価見通しの差で決まるとされる。片方の国の物価が上がった場合、一物一価の原則を成り立たせるには、物価上昇分だけ当該国の通貨は減価する必要に迫られる。 これが購買力平価による理論的な為替レートである。現時点における購買力平価の為替レートは、市場の実勢レートより円高となっており、多くの論者がこれを根拠に、現在の円安は単なる投機であり、やがて円高に振れると説明している。 だが、こうした理屈で円高を主張している人が見落としている点がある。それは、購買力平価という理論は物価と為替の関係性を示したものに過ぎず、理論値が先にあり、その後で現実の為替レートがそこに収束するとは限らないという点である」、なるほど。 「今回、発生している円安の理由はハッキリしている。市場は国内物価がさらに上がると予想しており、そのシナリオに向けて市場が先に動いているからである。 では、市場はなぜ日本の物価がさらに上がると予想しているのだろうか。 それは政策転換を表明したとはいえ、日銀は当分の間、緩和的な政策を続けざるを得ず、市場には今後も大量のマネーが供給される可能性が高いからである。 日銀は600兆円もの国債を抱えており、日本の経済圏にはGDP(国内総生産)を上回る規模の余剰マネーがバラ撒かれた状態にある。これは明らかに将来のインフレ要因であり、市場は日銀が緩和策から完全撤退しない限り、インフレ圧力は弱まらないと見ている」、その通りだ。 「あくまで二国間の比較問題としては、日本の方が圧倒的に緩和的であり、円安に振れやすい。市場はこのあたりを察知しており、それが今の為替レートを成り立たせていると考えるべきだ」、同感である。
マイナンバー制度(その8)(マイナポイント「使われすぎ」 セブン銀行の悲鳴 制度の落とし穴にはまり数10億円もの損失発生、利用伸びないマイナ保険証普及へ…医療機関に今度は「最大20万円バラマキ」のトンチンカン、マイナンバーの「肥大化」が止まらない!みずほ銀行どころではない巨大システムへの不安) [経済政策]
マイナンバー制度については、本年1月16日に取上げた。今日は、(その8)(マイナポイント「使われすぎ」 セブン銀行の悲鳴 制度の落とし穴にはまり数10億円もの損失発生、利用伸びないマイナ保険証普及へ…医療機関に今度は「最大20万円バラマキ」のトンチンカン、マイナンバーの「肥大化」が止まらない!みずほ銀行どころではない巨大システムへの不安)である。
先ずは、本年4月2日付け東洋経済オンライン「マイナポイント「使われすぎ」、セブン銀行の悲鳴 制度の落とし穴にはまり数10億円もの損失発生」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/745062
・『国のマイナンバーカード普及促進策「マイナポイント」。マイナンバーカードを取得した人に、各種キャッシュレス決済で利用できるポイントを付与する事業だ。 2020年から第1弾、2022年から第2弾が行われ、事業が終了した2023年9月までに計7556万人の利用者が、マイナポイントを申請した。1兆円規模の国家予算が投じられたこの事業は決済事業者にとっても、会員獲得や決済利用の好機となった。 ところが、この大盤振る舞いの政策には落とし穴があった。ポイントが「使われすぎた」ために、一部の事業者が想定外の損失に直面しているのだ』、「大盤振る舞いの政策には落とし穴」とはどういうことなのだろう。
・『年間利益が吹き飛んだ 「12億円ほどのマイナスを計上した」。2月9日、セブン銀行が行った今2023年4~12月期決算説明会で、清水健執行役員(現常務執行役員)はこう話した。震源地は、セブン銀行の子会社でクレジットカードや電子マネー「ナナコ」を発行するセブン・カードサービス(以下、セブンカード)だ。 多くの決済事業者と同様、セブンカードもマイナポイント事業に参加していた。ところが、事業を通じて付与したナナコポイントが想定以上に使われた結果、当初見込んでいなかった12億円を費用として計上した。 同社は今2024年1~3月期にも別途20億~25億円程度の損失を見込んでおり、セブンカード単体では通期ベースで最終赤字に転落する見通しだ。) 損失のカラクリは、マイナポイント事業の制度設計にある。 マイナンバーカードを取得すると第1弾では5000円、第2弾では1万5000円分のポイントが受け取れ、各種キャッシュレス決済で利用できる。 反面、利用先に指定された決済事業者は、会計処理としてポイント付与額を売上高から控除したり、費用として計上したりする必要がある。このままでは事業者の持ち出しとなるため、国は付与したポイントと同額の補助金を交付することに決めた』、「利用先に指定された決済事業者は、会計処理としてポイント付与額を売上高から控除したり、費用として計上したりする必要がある。このままでは事業者の持ち出しとなるため、国は付与したポイントと同額の補助金を交付することに決めた」、「同額の補助金を交付する」のであれば、問題ないように思えるが・・・。
・『失効率をめぐる誤算 問題は、大抵のポイントに有効期限が存在することだ。期限が到来して失効したポイントは、会計上、事業者の収益になる。つまり、ポイントの全額に補助金を充当すると、失効分だけ事業者が得をする。 税金で事業者が潤う事態を避けようと、マイナポイント事業の事務局は参加を希望する事業者に対して、過去数年の利用実績に基づくポイントの「失効率」を事前に提出させた。失効が見込まれる分をあらかじめ控除し、実際に利用されるであろうポイントにのみ、補助金をあてがおうとしたわけだ。 セブンカードが付与した「ナナコポイント」をめぐる損失は、この失効率をめぐる誤算にあった。 ナナコポイントにも有効期限が存在するため、セブンカードは事業への参加に先立って失効率を算出し、事務局に提出した。) 第1弾では、当初の想定と、実際のポイントの使われ方との差異が小さく、損失はほとんど認識されなかった。 問題は、ポイント付与額が3倍に増えた第2弾だ。マイナポイント事業経由で付与したナナコポイントが想定以上に利用されていった結果、有効期限を迎えて失効するポイントが減り、セブンカードの収益を下押しする事態が表面化したのだ。 また、あるクレジットカード会社は「(失効率を事前に算出するのではなく)ポイントの有効期限が到来した後、利用実績を踏まえた失効率を算出し、補助金を申請する予定」と話した。 実は、事業者の公募要項にはポイントの利用状況が「精緻に計測可能な場合」、例外的に補助金額の事後精算を容認する、との記載がある。事後精算であれば、失効率が想定と異なる事態は生じない。 この点、決済サービスコンサルティングの宮居雅宣代表は、事後精算の規定をこう指摘する。「通常の買い物で付与されたポイントと、マイナポイント事業で付与されたポイントとを別々に管理する必要がある。場合によっては大規模なシステム改修が必要となる」。 別の関係者によれば、セブンカードは両ポイントの切り分けがシステム上困難だとして、事後精算を選択しなかったという』、「期限が到来して失効したポイントは、会計上、事業者の収益になる。つまり、ポイントの全額に補助金を充当すると、失効分だけ事業者が得をする。 税金で事業者が潤う事態を避けようと、マイナポイント事業の事務局は参加を希望する事業者に対して、過去数年の利用実績に基づくポイントの「失効率」を事前に提出させた。失効が見込まれる分をあらかじめ控除し、実際に利用されるであろうポイントにのみ、補助金をあてがおうとしたわけだ。 セブンカードが付与した「ナナコポイント」をめぐる損失は、この失効率をめぐる誤算にあった・・・事後精算の規定をこう指摘する。「通常の買い物で付与されたポイントと、マイナポイント事業で付与されたポイントとを別々に管理する必要がある。場合によっては大規模なシステム改修が必要となる」。 別の関係者によれば、セブンカードは両ポイントの切り分けがシステム上困難だとして、事後精算を選択しなかったという」、「失効率をめぐる誤算」であれば、「セブンカード」側の落ち度だ。
・『ポイントを制度に落とし込む難しさ 事業者の一部に損失が発生した事実ついて、国からマイナポイント事業を受託している一般社団法人キャッシュレス推進協議会の担当者は、「決済事業者に対しては、(交付された補助金額以上にポイントが利用される)リスクを事前に開示している。各社はそのリスクを認識したうえで、制度に参画している」との認識を示した。 また、セブンカードが追加の補助金交付を求めた点については「個別事業者とのやり取りは回答を控える。あくまで事前に定めたルールに基づいて判断している」(担当者)と回答した。 マイナポイント事業によって、国の目論見通りマイナンバーカードが加速度的に普及した。反面、消費者が通常のポイント利用とは異なる行動をとったため、一部の事業者が煽りを受けた。宮居氏は「国の政策に参画した事業者が損をすると、今後は国への協力に消極的になる可能性がある」と指摘する。 日本のキャッシュレス比率は4割と、マイナポイント事業が始まる前の2019年の約2・5割からは上昇したが、欧米にはいまだ水をあけられている。今後キャッシュレス決済を推進する際、ポイントという「人参」をどのように制度設計に組み込むべきか、検証が必要であろう』、「セブンカードが追加の補助金交付を求めた」が、「国からマイナポイント事業を受託している一般社団法人キャッシュレス推進協議会の担当者は」、「あくまで事前に定めたルールに基づいて判断している」として、「セブン」の申し出を拒否。しかし、「「国の政策に参画した事業者が損をすると、今後は国への協力に消極的になる可能性がある」と指摘する。 日本のキャッシュレス比率は4割と、マイナポイント事業が始まる前の2019年の約2・5割からは上昇したが、欧米にはいまだ水をあけられている。今後キャッシュレス決済を推進する際、ポイントという「人参」をどのように制度設計に組み込むべきか、検証が必要であろう」、確かに「ポイントという「人参」をどのように制度設計に組み込むべきか」は、極めて難しい問題だ。
次に、4月10日付け日刊ゲンダイ「利用伸びないマイナ保険証普及へ…医療機関に今度は「最大20万円バラマキ」のトンチンカン」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/338723
・『厚生労働省は9日、マイナ保険証普及のため、新たな医療機関向けの支援策を導入することを明らかにした。 マイナ保険証の利用者を増やした分に応じて、診療所・薬局に最大10万円、病院には最大20万円を支給する方針。患者にマイナ保険証の利用を呼びかけることを条件とするが、細かい制度設計については10日、発表される。 マイナ保険証の利用は一向に進んでいない。厚労省によると、利用率は昨年4月の6.3%をピークに下がり続け、昨年12月は4.29%まで落ち込んだ。今年に入ってからは微増傾向ではあるものの、3月は5.4%と依然伸び悩んでいる。 全国保険医団体連合会(保団連)事務局次長の本並省吾氏が言う。 「ほとんどの患者さんがマイナ保険証を持ってこないのが現状です。高齢者からすれば機械の操作が複雑ですし、顔認証のエラーやデータの紐づけミスは現在でも確認されている。トラブルを避けるためにもマイナ保険証の利用を控える人が多い。従来の保険証でも資格確認はスムーズに行えるため、現場ではマイナ保険証のメリットは全くありません」) マイナ保険証普及を狙った医療機関向け支援金制度は、今回が初めてではない。今年1月には、利用1件あたり20~120円を支給する制度を実施。それでも思うように利用率は上がらなかったのだろう』、私も「マイナ保険証」は、従来の「保険証」より多少安くなるようだが、持ち歩くのが面倒なので、まだ使ってない。
・『何のメリットないのに税金バラマキ 厚労省は新たな支援策の導入について「医療機関にとっては受け取る金額が増える」と説明している。もっと大きなニンジンをぶら下げようということらしい。 「1月の支援金で思うような効果がなかったにもかかわらず、新たに支援金を導入するのは問題です。マイナ保険証が不便だから誰も利用しないという根本原因を、国は全く認識していません。何のメリットもないマイナ保険証のために、われわれの税金がこんなふうに使われていいのでしょうか。それに、マイナ保険証関連のトラブル対応にかかった費用は、10万円や20万円で賄えるものではありません」(本並省吾氏) 金をバラまいたところで、問題は解決しない』、利用者にしても、「マイナ保険証」喪失のリスクを考えると、普段から携行する訳にはいかないだろう。
第三に、5月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元週刊文春・月刊文芸春秋編集長の木俣正剛氏による「マイナンバーの「肥大化」が止まらない!みずほ銀行どころではない巨大システムへの不安」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/343304
・『国民無視、すべて飲み込んで肥大化するマイナンバー計画 マイナンバーの肥大化が止まりません。もともと私は、国民総背番号制度ともいうべきマイナンバー制度に賛成でした。米国の社会保証ナンバーのように9ケタの数字をデジタル化して一元化しておけば、コロナ禍のときの給付金のように、国民にすぐに金銭的援助ができると思ったからです。 しかし日本の場合、米国のように戸籍などを設けず社会保障ナンバーに一本化する方向ではなく、住民票も戸籍もすべて残して、さらにマイナンバー制度を加えたあげく、銀行口座や年金の受給口座など色々な個人情報にまで紐づけようという、複雑な制度に変化してしまいました。 もっとも、マイナンバーカードの普及は進んでいるとはいえません。国民全体でカードを持っている人は、3月末の時点で74%です。4分の1の国民がまだ持っていないことになります。私はこの状況に対して、国民がマイナンバーになぜ積極的ではないのか、ひとつの仮説を立て、連載記事「デジタル庁より『デジタル監視庁』を創設せよ」でその解決方法を提唱しました。国民が、政府の個人情報保護に対する責任感についてまったく信用していないから、マイナンバーを取得しないのだと。 実際、今まで個人情報が流出しても、政府の要人は誰も責任をとったことがありません。処罰されたのは個人情報の処理を託された無名の業者ばかりです。 役所から預かったCDを初期化せず、そのまま中国に売りさばいていた業者さえいました。この業者は当然ながら罰せられましたが、この業者を選定した役人、おそらく利権絡みで役人にこの業者を推薦した政治家まで捜査が及ぶことはなく、権限を持つ人間がまったく責任をとらないまま、多数の国民の個人情報は中国に流出してしまったのです。 私がデジタル監視庁の創設を訴えたのは、そういう理由からです。個人情報の流出は、時に大変な損害を国民に与えます。こんなずさんな業者選定を許し、関係責任者が罰せられないのであれば、国民は絶対にマイナンバーを信用しません。独立した捜査権を持つ監視庁を設立すれば、今問題になっているSNS型投資詐欺なども技術捜査力のある捜査陣が捜査し、もっと厳しい要求を海外のプラットフォーマー(メタやエックスなど)に要求し、また国内で厳しく立法化することも可能なはずだからです。 現にEUは厳しくプラットフォーマーに対応する罰金や法律を検討しています。日本政府はただでさえ、米国に弱腰で中国にもモノが言えないのに、捜査権のない丸腰のデジタル庁では何の頼りにもなりません。 私だけでなく多くの識者が疑問を持っているにも関わらず、国民を無視して、マイナンバー計画は肥大化し続けています。 まずは健康保険証と紐づけるということが決まりました。しかも、最初は任意としていたはずが、いつのまにか年内までに義務づけることになりました。12月2日から現行の健康保険証を新規発行しないと決め、マイナンバーカードの保険証利用を強力にプッシュするのです。メリットとしては、特定健診や薬の情報をマイナポータルで閲覧できたり、正確なデータに基づく診療・薬の処方が受けられたり、限度額以上の医療費の一時払いが不要になったりするといった甘い言葉が並べられています。) しかし、直近3月のマイナ保険証利用率は5.47%にすぎません。国民の9割超は従来の保険証を利用しているのです。私の通うクリニックでも、マイナ保険証の使用を進めようともしていません。12月に現行の保険証の新規発行が終了するものの、マイナ保険証を持たない人には「資格確認書」が発行されます。そのコストも考えれば、血税の使い方として他に方法やタイミングがなかったのか疑問に感じます。 また、福岡県歯科保険医協会(福岡市)が実施したアンケート調査によれば、マイナ保険証の受付システムを導入した歯科医院の7割が「トラブルがあった」と回答しています。保険者の情報が正しく反映されなかったり、カードが読み取れなかったりするトラブルが相次ぎ、中には他人の情報に「紐付け」されていたといった問題も発覚しました。 それなのに、保険証だけでなく、4月1日から預貯金口座のマイナンバー(個人番号)付番がスタートしました。国が災害発生の際や相続時の利便性をメリットに挙げる制度なのですが、自分の財産が「丸裸」にされると不安視する人は大勢います。マイナンバーとの紐付けは義務ではないものの、金融機関は口座開設などの際に届け出を必ず確認してきます。この制度は、国から十分に周知されないまま開始され、金融機関からのお知らせにドキッとする人も多いことだと思います。しっかりと制度を理解した上で口座との紐付け管理を考えるべきでしょう』、なし崩し的に制度が広げられてきたのは問題だ。
・『年金受給者の口座情報までマイナンバーに紐づけされる 5月27日には年金受給者の口座情報とマイナンバーも国に登録されることになりますが、「自分の資産が監視されるのではないか」といった不安を持つ国民も多いでしょう。登録は義務ではないのですが、対象者は日本年金機構からの書留郵便による通知後、一定の期限までに登録の有無を回答しなければ、自動的に「同意」したと扱われます。これでは、あまり事情を知らないお年寄りには、「強制」と変わりません。 政府は「口座残高や取引履歴を把握することは絶対ない」と説明しています。しかし、現にマイナンバー制度のトラブルはスタートしてかなりの月日が経つのに、全然減りません。 マイナンバーカードを使ったコンビニでの証明書の交付システムで、別人の書類が発行されるトラブルが新たに確認されました。マイナンバーカードを使ってコンビニエンスストアで住民票の写しなどを交付するサービスをめぐっては、去年、別人の書類が発行されるトラブルが相次ぎ、システムを運営する富士通の子会社は再発防止策をとったと説明していましたが、今月、新たに高松市でトラブルが確認され、総務省は富士通に行政指導を行いました。) これについて松本総務大臣は、閣議後の記者会見で「再発防止策を着実に実行するとしていたのに、修正プログラムの適用漏れなどによって誤交付が発生した。率直に申し上げてがく然とし、極めて残念だ」と強く批判しました。その上で「信頼回復につながる実効性ある再発防止対策を来月15日までに報告するよう求めているが、不十分な場合には、追加的な対策を求めることもある」と述べました。 さらに「マイナンバーカードを活用することで自治体の業務改革なども進めてきている。我々としても、国民の制度への理解が深まるように取り組んでいきたい」とまで豪語しています。なんだか、すべて富士通のせいにされています。 マイナンバーカードが利便性を向上させるのは間違いないと思います。本人確認が1枚で済む唯一のカードでもあります。証券口座などの開設やコンビニでの住民票、印鑑登録証明書の取得も可能です。 それだけではありません。2023年6月9日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」によれば、政府は「運転免許証との一体化」「障害者手帳との連携の強化」「資格情報のデジタル化」「引越し手続きのデジタル化推進」「在外選挙人名簿登録申請のオンライン化」まで推進していく計画のようです。将来的には、マイナンバーカードの全機能をスマホに搭載できるようにしていく方針だといいます。 しかし、これほど急速に、計画性もないまま、マイナンバーを肥大化させていいものでしょうか』、「これほど急速に、計画性もないまま、マイナンバーを肥大化させていいものでしょうか」、確かに誰もが抱く疑問だ。
・『みずほどころではない巨大システム 悲惨な結果を生まないか 太平洋戦争で、日本は兵站システムの破綻により餓死者や病死者を大量に出しました。日清、日露の戦争では、餓死者が出るような軍隊ではなかったのに、想定外の勢力範囲となる中国大陸と太平洋の島々という巨大な戦場には、従来の兵站組織では対応し切れなかったのです。失敗は認めずに「勝った勝った」で、あの戦争は突き進みました。 そして、軍の暴走を監視するシステムもなくなってしまいました。みずほ銀行はもう随分前に興銀、富士銀、第一勧銀を統合し、システムを共通化しましたが、いまだにトラブルが続いています。 マイナンバーカードシステムは、みずほ銀行どころではない巨大なシステムであり、いくつものシステムを統合して実行されます。構想時からどんどん肥大化し、さらに工期は限定され、予算が増えるというわけでもないシステム構築が、悲惨な結果を生まないことを祈るばかりです』、「マイナンバー制度」についての厚労省の活動を「監視」する役割を、どこかの行政組織に委ねるのも一案だ。ただ、厚労省に対抗するためには、かなり強力な権限を持たせる必要がある。例えば、公正取引委員会のような行政委員会にし、告発もできるようにする。これは余りに空想的過ぎるとの批判もあるだろうが、少なくとも何らかの「監視」機関が必要であることについては、賛同される方も少なくないと信じる。
先ずは、本年4月2日付け東洋経済オンライン「マイナポイント「使われすぎ」、セブン銀行の悲鳴 制度の落とし穴にはまり数10億円もの損失発生」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/745062
・『国のマイナンバーカード普及促進策「マイナポイント」。マイナンバーカードを取得した人に、各種キャッシュレス決済で利用できるポイントを付与する事業だ。 2020年から第1弾、2022年から第2弾が行われ、事業が終了した2023年9月までに計7556万人の利用者が、マイナポイントを申請した。1兆円規模の国家予算が投じられたこの事業は決済事業者にとっても、会員獲得や決済利用の好機となった。 ところが、この大盤振る舞いの政策には落とし穴があった。ポイントが「使われすぎた」ために、一部の事業者が想定外の損失に直面しているのだ』、「大盤振る舞いの政策には落とし穴」とはどういうことなのだろう。
・『年間利益が吹き飛んだ 「12億円ほどのマイナスを計上した」。2月9日、セブン銀行が行った今2023年4~12月期決算説明会で、清水健執行役員(現常務執行役員)はこう話した。震源地は、セブン銀行の子会社でクレジットカードや電子マネー「ナナコ」を発行するセブン・カードサービス(以下、セブンカード)だ。 多くの決済事業者と同様、セブンカードもマイナポイント事業に参加していた。ところが、事業を通じて付与したナナコポイントが想定以上に使われた結果、当初見込んでいなかった12億円を費用として計上した。 同社は今2024年1~3月期にも別途20億~25億円程度の損失を見込んでおり、セブンカード単体では通期ベースで最終赤字に転落する見通しだ。) 損失のカラクリは、マイナポイント事業の制度設計にある。 マイナンバーカードを取得すると第1弾では5000円、第2弾では1万5000円分のポイントが受け取れ、各種キャッシュレス決済で利用できる。 反面、利用先に指定された決済事業者は、会計処理としてポイント付与額を売上高から控除したり、費用として計上したりする必要がある。このままでは事業者の持ち出しとなるため、国は付与したポイントと同額の補助金を交付することに決めた』、「利用先に指定された決済事業者は、会計処理としてポイント付与額を売上高から控除したり、費用として計上したりする必要がある。このままでは事業者の持ち出しとなるため、国は付与したポイントと同額の補助金を交付することに決めた」、「同額の補助金を交付する」のであれば、問題ないように思えるが・・・。
・『失効率をめぐる誤算 問題は、大抵のポイントに有効期限が存在することだ。期限が到来して失効したポイントは、会計上、事業者の収益になる。つまり、ポイントの全額に補助金を充当すると、失効分だけ事業者が得をする。 税金で事業者が潤う事態を避けようと、マイナポイント事業の事務局は参加を希望する事業者に対して、過去数年の利用実績に基づくポイントの「失効率」を事前に提出させた。失効が見込まれる分をあらかじめ控除し、実際に利用されるであろうポイントにのみ、補助金をあてがおうとしたわけだ。 セブンカードが付与した「ナナコポイント」をめぐる損失は、この失効率をめぐる誤算にあった。 ナナコポイントにも有効期限が存在するため、セブンカードは事業への参加に先立って失効率を算出し、事務局に提出した。) 第1弾では、当初の想定と、実際のポイントの使われ方との差異が小さく、損失はほとんど認識されなかった。 問題は、ポイント付与額が3倍に増えた第2弾だ。マイナポイント事業経由で付与したナナコポイントが想定以上に利用されていった結果、有効期限を迎えて失効するポイントが減り、セブンカードの収益を下押しする事態が表面化したのだ。 また、あるクレジットカード会社は「(失効率を事前に算出するのではなく)ポイントの有効期限が到来した後、利用実績を踏まえた失効率を算出し、補助金を申請する予定」と話した。 実は、事業者の公募要項にはポイントの利用状況が「精緻に計測可能な場合」、例外的に補助金額の事後精算を容認する、との記載がある。事後精算であれば、失効率が想定と異なる事態は生じない。 この点、決済サービスコンサルティングの宮居雅宣代表は、事後精算の規定をこう指摘する。「通常の買い物で付与されたポイントと、マイナポイント事業で付与されたポイントとを別々に管理する必要がある。場合によっては大規模なシステム改修が必要となる」。 別の関係者によれば、セブンカードは両ポイントの切り分けがシステム上困難だとして、事後精算を選択しなかったという』、「期限が到来して失効したポイントは、会計上、事業者の収益になる。つまり、ポイントの全額に補助金を充当すると、失効分だけ事業者が得をする。 税金で事業者が潤う事態を避けようと、マイナポイント事業の事務局は参加を希望する事業者に対して、過去数年の利用実績に基づくポイントの「失効率」を事前に提出させた。失効が見込まれる分をあらかじめ控除し、実際に利用されるであろうポイントにのみ、補助金をあてがおうとしたわけだ。 セブンカードが付与した「ナナコポイント」をめぐる損失は、この失効率をめぐる誤算にあった・・・事後精算の規定をこう指摘する。「通常の買い物で付与されたポイントと、マイナポイント事業で付与されたポイントとを別々に管理する必要がある。場合によっては大規模なシステム改修が必要となる」。 別の関係者によれば、セブンカードは両ポイントの切り分けがシステム上困難だとして、事後精算を選択しなかったという」、「失効率をめぐる誤算」であれば、「セブンカード」側の落ち度だ。
・『ポイントを制度に落とし込む難しさ 事業者の一部に損失が発生した事実ついて、国からマイナポイント事業を受託している一般社団法人キャッシュレス推進協議会の担当者は、「決済事業者に対しては、(交付された補助金額以上にポイントが利用される)リスクを事前に開示している。各社はそのリスクを認識したうえで、制度に参画している」との認識を示した。 また、セブンカードが追加の補助金交付を求めた点については「個別事業者とのやり取りは回答を控える。あくまで事前に定めたルールに基づいて判断している」(担当者)と回答した。 マイナポイント事業によって、国の目論見通りマイナンバーカードが加速度的に普及した。反面、消費者が通常のポイント利用とは異なる行動をとったため、一部の事業者が煽りを受けた。宮居氏は「国の政策に参画した事業者が損をすると、今後は国への協力に消極的になる可能性がある」と指摘する。 日本のキャッシュレス比率は4割と、マイナポイント事業が始まる前の2019年の約2・5割からは上昇したが、欧米にはいまだ水をあけられている。今後キャッシュレス決済を推進する際、ポイントという「人参」をどのように制度設計に組み込むべきか、検証が必要であろう』、「セブンカードが追加の補助金交付を求めた」が、「国からマイナポイント事業を受託している一般社団法人キャッシュレス推進協議会の担当者は」、「あくまで事前に定めたルールに基づいて判断している」として、「セブン」の申し出を拒否。しかし、「「国の政策に参画した事業者が損をすると、今後は国への協力に消極的になる可能性がある」と指摘する。 日本のキャッシュレス比率は4割と、マイナポイント事業が始まる前の2019年の約2・5割からは上昇したが、欧米にはいまだ水をあけられている。今後キャッシュレス決済を推進する際、ポイントという「人参」をどのように制度設計に組み込むべきか、検証が必要であろう」、確かに「ポイントという「人参」をどのように制度設計に組み込むべきか」は、極めて難しい問題だ。
次に、4月10日付け日刊ゲンダイ「利用伸びないマイナ保険証普及へ…医療機関に今度は「最大20万円バラマキ」のトンチンカン」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/338723
・『厚生労働省は9日、マイナ保険証普及のため、新たな医療機関向けの支援策を導入することを明らかにした。 マイナ保険証の利用者を増やした分に応じて、診療所・薬局に最大10万円、病院には最大20万円を支給する方針。患者にマイナ保険証の利用を呼びかけることを条件とするが、細かい制度設計については10日、発表される。 マイナ保険証の利用は一向に進んでいない。厚労省によると、利用率は昨年4月の6.3%をピークに下がり続け、昨年12月は4.29%まで落ち込んだ。今年に入ってからは微増傾向ではあるものの、3月は5.4%と依然伸び悩んでいる。 全国保険医団体連合会(保団連)事務局次長の本並省吾氏が言う。 「ほとんどの患者さんがマイナ保険証を持ってこないのが現状です。高齢者からすれば機械の操作が複雑ですし、顔認証のエラーやデータの紐づけミスは現在でも確認されている。トラブルを避けるためにもマイナ保険証の利用を控える人が多い。従来の保険証でも資格確認はスムーズに行えるため、現場ではマイナ保険証のメリットは全くありません」) マイナ保険証普及を狙った医療機関向け支援金制度は、今回が初めてではない。今年1月には、利用1件あたり20~120円を支給する制度を実施。それでも思うように利用率は上がらなかったのだろう』、私も「マイナ保険証」は、従来の「保険証」より多少安くなるようだが、持ち歩くのが面倒なので、まだ使ってない。
・『何のメリットないのに税金バラマキ 厚労省は新たな支援策の導入について「医療機関にとっては受け取る金額が増える」と説明している。もっと大きなニンジンをぶら下げようということらしい。 「1月の支援金で思うような効果がなかったにもかかわらず、新たに支援金を導入するのは問題です。マイナ保険証が不便だから誰も利用しないという根本原因を、国は全く認識していません。何のメリットもないマイナ保険証のために、われわれの税金がこんなふうに使われていいのでしょうか。それに、マイナ保険証関連のトラブル対応にかかった費用は、10万円や20万円で賄えるものではありません」(本並省吾氏) 金をバラまいたところで、問題は解決しない』、利用者にしても、「マイナ保険証」喪失のリスクを考えると、普段から携行する訳にはいかないだろう。
第三に、5月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元週刊文春・月刊文芸春秋編集長の木俣正剛氏による「マイナンバーの「肥大化」が止まらない!みずほ銀行どころではない巨大システムへの不安」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/343304
・『国民無視、すべて飲み込んで肥大化するマイナンバー計画 マイナンバーの肥大化が止まりません。もともと私は、国民総背番号制度ともいうべきマイナンバー制度に賛成でした。米国の社会保証ナンバーのように9ケタの数字をデジタル化して一元化しておけば、コロナ禍のときの給付金のように、国民にすぐに金銭的援助ができると思ったからです。 しかし日本の場合、米国のように戸籍などを設けず社会保障ナンバーに一本化する方向ではなく、住民票も戸籍もすべて残して、さらにマイナンバー制度を加えたあげく、銀行口座や年金の受給口座など色々な個人情報にまで紐づけようという、複雑な制度に変化してしまいました。 もっとも、マイナンバーカードの普及は進んでいるとはいえません。国民全体でカードを持っている人は、3月末の時点で74%です。4分の1の国民がまだ持っていないことになります。私はこの状況に対して、国民がマイナンバーになぜ積極的ではないのか、ひとつの仮説を立て、連載記事「デジタル庁より『デジタル監視庁』を創設せよ」でその解決方法を提唱しました。国民が、政府の個人情報保護に対する責任感についてまったく信用していないから、マイナンバーを取得しないのだと。 実際、今まで個人情報が流出しても、政府の要人は誰も責任をとったことがありません。処罰されたのは個人情報の処理を託された無名の業者ばかりです。 役所から預かったCDを初期化せず、そのまま中国に売りさばいていた業者さえいました。この業者は当然ながら罰せられましたが、この業者を選定した役人、おそらく利権絡みで役人にこの業者を推薦した政治家まで捜査が及ぶことはなく、権限を持つ人間がまったく責任をとらないまま、多数の国民の個人情報は中国に流出してしまったのです。 私がデジタル監視庁の創設を訴えたのは、そういう理由からです。個人情報の流出は、時に大変な損害を国民に与えます。こんなずさんな業者選定を許し、関係責任者が罰せられないのであれば、国民は絶対にマイナンバーを信用しません。独立した捜査権を持つ監視庁を設立すれば、今問題になっているSNS型投資詐欺なども技術捜査力のある捜査陣が捜査し、もっと厳しい要求を海外のプラットフォーマー(メタやエックスなど)に要求し、また国内で厳しく立法化することも可能なはずだからです。 現にEUは厳しくプラットフォーマーに対応する罰金や法律を検討しています。日本政府はただでさえ、米国に弱腰で中国にもモノが言えないのに、捜査権のない丸腰のデジタル庁では何の頼りにもなりません。 私だけでなく多くの識者が疑問を持っているにも関わらず、国民を無視して、マイナンバー計画は肥大化し続けています。 まずは健康保険証と紐づけるということが決まりました。しかも、最初は任意としていたはずが、いつのまにか年内までに義務づけることになりました。12月2日から現行の健康保険証を新規発行しないと決め、マイナンバーカードの保険証利用を強力にプッシュするのです。メリットとしては、特定健診や薬の情報をマイナポータルで閲覧できたり、正確なデータに基づく診療・薬の処方が受けられたり、限度額以上の医療費の一時払いが不要になったりするといった甘い言葉が並べられています。) しかし、直近3月のマイナ保険証利用率は5.47%にすぎません。国民の9割超は従来の保険証を利用しているのです。私の通うクリニックでも、マイナ保険証の使用を進めようともしていません。12月に現行の保険証の新規発行が終了するものの、マイナ保険証を持たない人には「資格確認書」が発行されます。そのコストも考えれば、血税の使い方として他に方法やタイミングがなかったのか疑問に感じます。 また、福岡県歯科保険医協会(福岡市)が実施したアンケート調査によれば、マイナ保険証の受付システムを導入した歯科医院の7割が「トラブルがあった」と回答しています。保険者の情報が正しく反映されなかったり、カードが読み取れなかったりするトラブルが相次ぎ、中には他人の情報に「紐付け」されていたといった問題も発覚しました。 それなのに、保険証だけでなく、4月1日から預貯金口座のマイナンバー(個人番号)付番がスタートしました。国が災害発生の際や相続時の利便性をメリットに挙げる制度なのですが、自分の財産が「丸裸」にされると不安視する人は大勢います。マイナンバーとの紐付けは義務ではないものの、金融機関は口座開設などの際に届け出を必ず確認してきます。この制度は、国から十分に周知されないまま開始され、金融機関からのお知らせにドキッとする人も多いことだと思います。しっかりと制度を理解した上で口座との紐付け管理を考えるべきでしょう』、なし崩し的に制度が広げられてきたのは問題だ。
・『年金受給者の口座情報までマイナンバーに紐づけされる 5月27日には年金受給者の口座情報とマイナンバーも国に登録されることになりますが、「自分の資産が監視されるのではないか」といった不安を持つ国民も多いでしょう。登録は義務ではないのですが、対象者は日本年金機構からの書留郵便による通知後、一定の期限までに登録の有無を回答しなければ、自動的に「同意」したと扱われます。これでは、あまり事情を知らないお年寄りには、「強制」と変わりません。 政府は「口座残高や取引履歴を把握することは絶対ない」と説明しています。しかし、現にマイナンバー制度のトラブルはスタートしてかなりの月日が経つのに、全然減りません。 マイナンバーカードを使ったコンビニでの証明書の交付システムで、別人の書類が発行されるトラブルが新たに確認されました。マイナンバーカードを使ってコンビニエンスストアで住民票の写しなどを交付するサービスをめぐっては、去年、別人の書類が発行されるトラブルが相次ぎ、システムを運営する富士通の子会社は再発防止策をとったと説明していましたが、今月、新たに高松市でトラブルが確認され、総務省は富士通に行政指導を行いました。) これについて松本総務大臣は、閣議後の記者会見で「再発防止策を着実に実行するとしていたのに、修正プログラムの適用漏れなどによって誤交付が発生した。率直に申し上げてがく然とし、極めて残念だ」と強く批判しました。その上で「信頼回復につながる実効性ある再発防止対策を来月15日までに報告するよう求めているが、不十分な場合には、追加的な対策を求めることもある」と述べました。 さらに「マイナンバーカードを活用することで自治体の業務改革なども進めてきている。我々としても、国民の制度への理解が深まるように取り組んでいきたい」とまで豪語しています。なんだか、すべて富士通のせいにされています。 マイナンバーカードが利便性を向上させるのは間違いないと思います。本人確認が1枚で済む唯一のカードでもあります。証券口座などの開設やコンビニでの住民票、印鑑登録証明書の取得も可能です。 それだけではありません。2023年6月9日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」によれば、政府は「運転免許証との一体化」「障害者手帳との連携の強化」「資格情報のデジタル化」「引越し手続きのデジタル化推進」「在外選挙人名簿登録申請のオンライン化」まで推進していく計画のようです。将来的には、マイナンバーカードの全機能をスマホに搭載できるようにしていく方針だといいます。 しかし、これほど急速に、計画性もないまま、マイナンバーを肥大化させていいものでしょうか』、「これほど急速に、計画性もないまま、マイナンバーを肥大化させていいものでしょうか」、確かに誰もが抱く疑問だ。
・『みずほどころではない巨大システム 悲惨な結果を生まないか 太平洋戦争で、日本は兵站システムの破綻により餓死者や病死者を大量に出しました。日清、日露の戦争では、餓死者が出るような軍隊ではなかったのに、想定外の勢力範囲となる中国大陸と太平洋の島々という巨大な戦場には、従来の兵站組織では対応し切れなかったのです。失敗は認めずに「勝った勝った」で、あの戦争は突き進みました。 そして、軍の暴走を監視するシステムもなくなってしまいました。みずほ銀行はもう随分前に興銀、富士銀、第一勧銀を統合し、システムを共通化しましたが、いまだにトラブルが続いています。 マイナンバーカードシステムは、みずほ銀行どころではない巨大なシステムであり、いくつものシステムを統合して実行されます。構想時からどんどん肥大化し、さらに工期は限定され、予算が増えるというわけでもないシステム構築が、悲惨な結果を生まないことを祈るばかりです』、「マイナンバー制度」についての厚労省の活動を「監視」する役割を、どこかの行政組織に委ねるのも一案だ。ただ、厚労省に対抗するためには、かなり強力な権限を持たせる必要がある。例えば、公正取引委員会のような行政委員会にし、告発もできるようにする。これは余りに空想的過ぎるとの批判もあるだろうが、少なくとも何らかの「監視」機関が必要であることについては、賛同される方も少なくないと信じる。
タグ:マイナンバー制度 (その8)(マイナポイント「使われすぎ」 セブン銀行の悲鳴 制度の落とし穴にはまり数10億円もの損失発生、利用伸びないマイナ保険証普及へ…医療機関に今度は「最大20万円バラマキ」のトンチンカン、マイナンバーの「肥大化」が止まらない!みずほ銀行どころではない巨大システムへの不安) 東洋経済オンライン「マイナポイント「使われすぎ」、セブン銀行の悲鳴 制度の落とし穴にはまり数10億円もの損失発生」 「大盤振る舞いの政策には落とし穴」とはどういうことなのだろう。 「利用先に指定された決済事業者は、会計処理としてポイント付与額を売上高から控除したり、費用として計上したりする必要がある。このままでは事業者の持ち出しとなるため、国は付与したポイントと同額の補助金を交付することに決めた」、「同額の補助金を交付する」のであれば、問題ないように思えるが・・・。 「期限が到来して失効したポイントは、会計上、事業者の収益になる。つまり、ポイントの全額に補助金を充当すると、失効分だけ事業者が得をする。 税金で事業者が潤う事態を避けようと、マイナポイント事業の事務局は参加を希望する事業者に対して、過去数年の利用実績に基づくポイントの「失効率」を事前に提出させた。失効が見込まれる分をあらかじめ控除し、実際に利用されるであろうポイントにのみ、補助金をあてがおうとしたわけだ。 セブンカードが付与した「ナナコポイント」をめぐる損失は、この失効率をめぐる誤算にあった・・・ 事後精算の規定をこう指摘する。「通常の買い物で付与されたポイントと、マイナポイント事業で付与されたポイントとを別々に管理する必要がある。場合によっては大規模なシステム改修が必要となる」。 別の関係者によれば、セブンカードは両ポイントの切り分けがシステム上困難だとして、事後精算を選択しなかったという」、「失効率をめぐる誤算」であれば、「セブンカード」側の落ち度だ。 「セブンカードが追加の補助金交付を求めた」が、「国からマイナポイント事業を受託している一般社団法人キャッシュレス推進協議会の担当者は」、「あくまで事前に定めたルールに基づいて判断している」として、「セブン」の申し出を拒否。しかし、「「国の政策に参画した事業者が損をすると、今後は国への協力に消極的になる可能性がある」と指摘する。 日本のキャッシュレス比率は4割と、マイナポイント事業が始まる前の2019年の約2・5割からは上昇したが、欧米にはいまだ水をあけられている。 今後キャッシュレス決済を推進する際、ポイントという「人参」をどのように制度設計に組み込むべきか、検証が必要であろう」、確かに「ポイントという「人参」をどのように制度設計に組み込むべきか」は、極めて難しい問題だ。 日刊ゲンダイ「利用伸びないマイナ保険証普及へ…医療機関に今度は「最大20万円バラマキ」のトンチンカン」 私も「マイナ保険証」は、従来の「保険証」より多少安くなるようだが、持ち歩くのが面倒なので、まだ使ってない。 利用者にしても、「マイナ保険証」喪失のリスクを考えると、普段から携行する訳にはいかないだろう。 ダイヤモンド・オンライン 木俣正剛氏による「マイナンバーの「肥大化」が止まらない!みずほ銀行どころではない巨大システムへの不安」 なし崩し的に制度が広げられてきたのは問題だ。 「これほど急速に、計画性もないまま、マイナンバーを肥大化させていいものでしょうか」、確かに誰もが抱く疑問だ。 「マイナンバー制度」についての厚労省の活動を「監視」する役割を、どこかの行政組織に委ねるのも一案だ。ただ、厚労省に対抗するためには、かなり強力な権限を持たせる必要がある。例えば、公正取引委員会のような行政委員会にし、告発もできるようにする。これは余りに空想的過ぎるとの批判もあるだろうが、少なくとも何らかの「監視」機関が必要であることについては、賛同される方も少なくないと信じる。
政府財政問題(その9)(ガソリン価格を抑える補助金が逆に物価を上げる 今や秋の風物詩「補正予算」は見せかけに堕した、2大悪弊が2025年「緊縮ナシで財政黒字化」を阻む 足元の経済対策が後を引く「基金」と「補正予算」、森永卓郎×土居丈朗「財政均衡主義」はカルトか 話題の書『ザイム真理教』めぐり論客が誌上討論) [経済政策]
政府財政問題については、昨年3月7日に取上げた。今日は、(その9)(ガソリン価格を抑える補助金が逆に物価を上げる 今や秋の風物詩「補正予算」は見せかけに堕した、2大悪弊が2025年「緊縮ナシで財政黒字化」を阻む 足元の経済対策が後を引く「基金」と「補正予算」、森永卓郎×土居丈朗「財政均衡主義」はカルトか 話題の書『ザイム真理教』めぐり論客が誌上討論)である。
先ずは、昨年9月11日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学 経済学部教授の土居 丈朗氏による「ガソリン価格を抑える補助金が逆に物価を上げる 今や秋の風物詩「補正予算」は見せかけに堕した」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/700611
・『秋になると、永田町では「補正予算」の話題が毎年のように沸き上がる。補正予算の編成が、当たり前のような年中行事になり、まるで補正予算を組まないと年が越せないかのようだ。 補正予算は、必ず組まなければならないというわけではない。否、補正予算はむしろ、満たさなければならない事情があるときに限り、組むことができるものである』、「補正予算はむしろ、満たさなければならない事情があるときに限り、組むことができるものである」、そんな原則があったとは初めて知った。
・『「特に緊要の経費」が毎年発生? 財政法第29条には、次のような規定がある。 内閣は、次に掲げる場合に限り、予算作成の手続に準じ、補正予算を作成し、これを国会に提出することができる。 一法律上又は契約上国の義務に属する経費の不足を補うほか、予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となつた経費の支出(当該年度において国庫内の移換えにとどまるものを含む。 又は債務の負担を行なうため必要な予算の追加を行なう場合 二予算作成後に生じた事由に基づいて、予算に追加以外の変更を加える場合 「特に緊要となった経費」は、東日本大震災級の大きな災害や急激な経済変動でもなければ、普通は生じない。なのに、まるで毎年そうであるかのように、補正予算が組まれ、政治イベント化している。 そのうえ、コロナ禍での補正予算は規模が拡大して、直近では30兆円にものぼる。コロナ前の補正予算はせいぜい3兆円程度だった。コロナ禍で、補正予算の桁が狂ってしまったのだ。 では、2023年において、補正予算はどれほど必要なのか。 少なくとも、コロナ禍の経済的な打撃から回復しつつあり、人手不足が生じるほど供給制約に直面している現状において、財政支出で需要を喚起しなければならない強い理由はない。加えて、物価上昇が顕著である。) 例えば、すでに当初予算で予定されている公共事業があるうえに、補正予算を組んで追加で公共事業費を増額したらどうなるか。 建設資材は、ただでさえコロナ禍でサプライチェーンの混乱などもあり、高騰が続いている。そこに公共事業の追加増額が行われたら、建設資材を追加した公共事業に充てなければならないから、国内における建設資材の需給をよりひっ迫させて価格高騰を助長する。 公共事業の追加増額は、建設資材の価格上昇をもたらしこそすれ、価格下落を引き起こすことはあり得ない』、「公共事業の追加増額は、建設資材の価格上昇をもたらしこそすれ、価格下落を引き起こすことはあり得ない」、その通りだ。
・『ガソリン代が浮いた分、別の商品の需要が増す ガソリン補助金(正式には燃料油価格激変緩和補助金)も、一見するとガソリンの小売価格を抑制しているように見えて、経済全体では物価高騰を助長している。 政府は、もともと9月末で終了予定だったガソリン補助金を、今年末まで延長するとともに9月7日から拡充することを決めた。これにより、ガソリンの小売価格は抑えられる。ガソリン補助金は、価格高騰を抑制する効果があるように見える。 しかし、家計は、ガソリンに費やす支出が減った分をどうするか。 貯金をする余裕がある家計は貯金に回すこともあろうが、貯金する余裕がない家計(や余裕がある家計でも)は、ガソリン価格が抑えられて浮いた分を、食費など別の支出に回すだろう。 すると、その支出で購入した商品の需要が、それだけ増えるわけだから、その商品の価格に上昇圧力がかかる。需要と供給の関係からみれば、需要が増えれば、その価格は上がりこそすれ、下がることはない。直接目には見えないとはいえ、実際はそうなのだ。 だから、ガソリン補助金は、ガソリンの小売価格を抑えてはいるが、ほかの商品の価格の上昇を助長し、経済全体でみると消費者物価全体を押し上げる方向に作用している。これは、ガソリン税の減税を行っても同様のことが起きる。 こうした情勢下で、巨額の補正予算を組んで需要を喚起すれば、物価高を助長する。) コロナ禍で、補正予算の規模が桁違いに大きくなっている。補正予算で追加した歳出は、2020年度には73兆0298億円、2021年度には35兆9895億円、2022年度には31兆6232億円にのぼっている。 これらが、効果的に支出されているならまだしも、結局は使わずじまいとなって、補正予算で積んだだけの「見せかけ」に堕したものも多い。年度末までに使わずじまいとなった歳出の不用額は、2020年度には3兆8880億円、2021年度には6兆3029億円、2022年度には11兆3084億円と、ついに10兆円を超えた』、「ガソリン補助金は、ガソリンの小売価格を抑えてはいるが、ほかの商品の価格の上昇を助長し、経済全体でみると消費者物価全体を押し上げる方向に作用している・・・補正予算で積んだだけの「見せかけ」に堕したものも多い。年度末までに使わずじまいとなった歳出の不用額は、2020年度には3兆8880億円、2021年度には6兆3029億円、2022年度には11兆3084億円と、ついに10兆円を超えた」、なるほど。
・『31兆円の補正予算、使い残しの21兆円 2022年度における歳出の不用額は、実態を象徴的に表すものとなった。 前述のように、2022年度には補正予算で31兆6232億円もの支出の追加を行った。そして、2022年度の決算段階で、入ってきた収入に比して支出し残した金額(差引剰余金)が、21兆3439億円となった。31兆円余の支出の追加を行いながら、21兆円余も年度末に支出し残してしまうというありさまである。 支出し残したうち、2023年度に繰り越すものもあるが、結局は使わずじまいとなり予算として効力を失うこととなった歳出の不用額が、前述のように11兆円余にのぼった。 加えて、支出の追加に伴いその原資として、国債の増発が2022年度決算までに必要と見込まれていたものの、使わずじまいとなった支出が出たために、12兆円の国債増発を取りやめた。 11兆円もの使わずじまいとなる支出がある一方で、12兆円もの国債増発を取りやめる結果となった。お金に色はついていないとはいえ、2022年度の決算はこうした状態だった。 まさに、補正予算等で支出するぞと勇ましく財政出動を演出しておきながら、結局使う当てがなく、予算として失効して使わずじまいとなったので、それに備えて予定していた国債増発も取りやめた。補正予算は、「見せかけ」だったのだ。 「見せかけ」に終わるような補正予算なら、経済効果もないし、金額を盛る必要はない。おまけに、物価高騰を助長するような情勢で、財政出動をするのは逆効果である。 秋になったからといって、補正予算を組まなければならないわけではない。今秋に補正予算を組むなら、当初予算で計上した巨額の予備費について、その使途を確定させて国会での審議を受けるために、予算を組み替える。そんな補正予算なら、財政民主主義の観点からも意味があるものだろう』、「「見せかけ」に終わるような補正予算なら、経済効果もないし、金額を盛る必要はない。おまけに、物価高騰を助長するような情勢で、財政出動をするのは逆効果である・・・今秋に補正予算を組むなら、当初予算で計上した巨額の予備費について、その使途を確定させて国会での審議を受けるために、予算を組み替える。そんな補正予算なら、財政民主主義の観点からも意味があるものだろう」、その通りだ。
次に、本年2月5日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学 経済学部教授 の土居 丈朗氏による「2大悪弊が2025年「緊縮ナシで財政黒字化」を阻む 足元の経済対策が後を引く「基金」と「補正予算」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/732116
・『1月22日に、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」 中長期試算)を公表した。この中長期試算の最も注目される点の1つは、「2025年度の国と地方の基礎的財政収支の黒字化は達成できるか」である。 2024年1月の中長期試算によると、2025年度の名目成長率を2.8%と見込む成長実現ケースでは、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は、1.1兆円の赤字となるという。 このままでは、2025年度の基礎的財政収支は黒字化できないということになる。 ただ、これまで取り組んできた歳出の効率化努力を引き続き2025年度にも行えば、基礎的財政収支はごくわずかな黒字となり、ぎりぎり財政健全化目標は達成できることを、内閣府は合わせて示した』、「2025年度の名目成長率を2.8%と見込む成長実現ケースでは、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は、1.1兆円の赤字となる・・・これまで取り組んできた歳出の効率化努力を引き続き2025年度にも行えば、基礎的財政収支はごくわずかな黒字となり、ぎりぎり財政健全化目標は達成できる」、なるほど。
・『インフレで名目GDP上振れの一方、歳出も増 そもそも、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は、同じ中長期試算の前回の試算(2023年7月)では、1.3兆円の赤字だった。それと比べると、0.2兆円収支が改善している。 中長期試算には、その改善要因についても示されている。 まず、歳入面では、2023年7月試算よりも名目GDP成長率が上振れると見込まれるため、2025年度の収支が試算上0.7兆円改善するという。他方、歳出面では、2024年度予算(案)で取り組まれた歳出効率化努力により、0.7兆円の収支改善効果が2025年度にも作用すると見込んでいる。 2023年度7月試算では、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は1.3兆円の赤字であったが、名目GDP成長率の上振れ分と2024年度予算での歳出効率化努力で合わせて1.4兆円の収支改善効果が期待できる。 となると、これだけで2025年度の国と地方の基礎的財政収支は「0.1兆円の黒字」という試算が、2024年1月試算として出てもおかしくなかった。 しかし、2025年度の財政収支に与える効果はこれだけではなかった。) 2024年1月試算では、2025年度の物価上昇率が2023年7月試算より高いと予測することから、それに伴い歳出規模が増えることを織り込むと収支を0.2兆円悪化させることになる。 加えて、2023年11月に策定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策」等の支出が2025年度にも食い込むことなどの影響で、2023年7月試算で見込んでいたよりも歳出が1.0兆円増えることとなるという。これらは、収支の悪化要因となる。 これら2つの要因を合わせて1.2兆円の収支悪化を、2024年1月試算では反映している。 以上より、2024年1月試算では、前掲の通り、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は1.1兆円の赤字となるという見通しを示した。ちなみに、この基礎的財政収支の赤字の額は、2025年度の名目成長率が1.7%とより低いベースラインケースでは2.6兆円となる。 確かに、成長率に関する見通しは、成長実現ケースのほうがベースラインケースよりも楽観的ではあるが、2025年度の財政健全化目標に影響を与える差異は、2025年度その年の成長率だけだから、両ケースの成長率の見通しの違いが目標達成の成否に大きく影響を与えるというわけではない。 このように、内閣府は、財政収支の試算の背景を分析している。これは、今後の政策的含意を考えるうえで極めて重要な情報となる』、「2024年1月試算では、前掲の通り、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は1.1兆円の赤字となるという見通しを示した。ちなみに、この基礎的財政収支の赤字の額は、2025年度の名目成長率が1.7%とより低いベースラインケースでは2.6兆円となる」、なるほど。
・『後年度に財政支出が「漏れ出る」元凶 将来の財政収支に対して、足元の歳出効率化努力が、収支改善要因となる一方、節度なく経済対策を講じて歳出を膨らませれば収支悪化要因となる。特に、近年の経済対策は、悪化要因として後に尾を引くという質の悪いものとなっている。 2023年11月に策定された総合経済対策は、即効性を考えれば2023年度や2024年度に効果が出るように財政支出をすべきものだろう。しかし、内閣府の試算は、足元で講じたはずの経済対策に伴う財政支出が、後に尾を引く形で2025年度にも「漏れ出る」ような構造であることを浮き彫りにした。 なぜ即効性を期待したい経済対策なのに、策定されてから翌々年度になるようなほど財政支出が遅れて出てくるのか。 その元凶の一端は、「基金」にある。 「基金」は、2023年11月に行われた行政改革推進会議の秋のレビューでも取り上げられ、その実態に批判が集中し、議論の結果を受けて「基金の見直し・点検の横断的な方針」を定めることとした。目的があいまいなまま、補正予算を中心に元手となるお金だけを基金として先取りして貯め込み、それを後年度に都合よく支出しようとする様が問題となった。) 約150にものぼる基金の残高は総額で、2022年度末で約16.6兆円、2023年度末でも約12.7兆円に達する見込みである。これらの基金をいついくら執行するかは、基金設置法人およびその所管省庁の判断に委ねられており、財務省は拒否権を持つような形で直接コントロールできない。 この12.7兆円もの基金残高が、いついくら執行されるかによって、2025年度の財政健全化目標の達成に影響を与えうる。 確かに、基金を造成した際の支出は、当該年度の決算段階では支出済みとなっている。しかし、それは国の会計から基金設置法人へ繰り出されたまでであって、すぐさま執行しなければ、その基金設置法人に貯め込まれたままとなっている。 問題は、基礎的財政収支の計算上、その基金から支出されたときにどうなるかである』、「内閣府の試算は、足元で講じたはずの経済対策に伴う財政支出が、後に尾を引く形で2025年度にも「漏れ出る」ような構造であることを浮き彫りにした。 なぜ即効性を期待したい経済対策なのに、策定されてから翌々年度になるようなほど財政支出が遅れて出てくるのか。 その元凶の一端は、「基金」にある・・・約150にものぼる基金の残高は総額で、2022年度末で約16.6兆円、2023年度末でも約12.7兆円に達する見込みである。これらの基金をいついくら執行するかは、基金設置法人およびその所管省庁の判断に委ねられており、財務省は拒否権を持つような形で直接コントロールできない・・・問題は、基礎的財政収支の計算上、その基金から支出されたときにどうなるかである」、なるほど。
・『国や地方自治体の基金が支出すれば収支に計上 まず、基金設置法人が、一般財団法人など民間団体になっている場合は、本稿で焦点を当てている国と地方の基礎的財政収支の対象外となっている。だから、その場合は、基金に貯め込まれている資金を支出していなくても、すでに国の会計から民間団体である基金設置法人へ繰り出された段階で、国と地方の基礎的財政収支の悪化要因(財政支出として計上)となり、以後はそこから先へ、いつ、いくら支出されても無関係となる。 しかし、基金設置法人が独立行政法人など国や地方自治体の機関である場合、国と地方の基礎的財政収支の対象となり、基金設置法人から支出された段階での基礎的財政収支の悪化要因(財政支出として計上)となる。これが、本稿で問題視しているものである。 基金を造成した段階で資金を支出したかのように見えて、国と地方の基礎的財政収支の定義上(これは、GDPなどの統計の基となる国民経済計算体系の定義に即している)は、会計・勘定間の振替のようなものにすぎず財政支出とはみなされない。 そして、独立行政法人など国や地方自治体の機関が基金設置法人であると、その法人から資金が支出された年度に、その支出が基礎的財政収支を悪化させるのだ。 それがよりにもよって2025年度だったらどうなるか。) 元をたどれば、基金を造成したのが2023年度以前であるにもかかわらず、つまり、まさか2025年度の財政健全化目標の達成を阻むつもりで基金を造成したわけではなかったにもかかわらず、その基金にある資金を2025年度に支出してしまうと、前述した内閣府の分析にはまだ織り込まれていない形で、「国と地方の基礎的財政収支黒字化」という目標達成を妨げることになる。 もちろん、その基金からの支出が、わが国の経済成長を促すものならまだよい。しかし、成長力を強化することに大して役に立たず、既得権益を保護するだけのために基金から支出するということなら、わが国の経済成長にも財政収支にも、百害あって一利なしである。そんな基金からの支出は、せめて2025年度には禁止すべきである。 加えて問題視しなければならないのが、2024年度補正予算である。政府は、これから2024年度当初予算案を国会に諮ろうとしているから、もちろんまだ姿も形もない。さらに、2025年度に補正予算で財政支出を大幅に増やすとなると、2025年度の財政収支を悪化させるから、これも当然問題である。 では、なぜ2024年度補正予算も問題視するのか』、「成長力を強化することに大して役に立たず、既得権益を保護するだけのために基金から支出するということなら、わが国の経済成長にも財政収支にも、百害あって一利なしである。そんな基金からの支出は、せめて2025年度には禁止すべきである。 加えて問題視しなければならないのが、2024年度補正予算」、なるほど。
・『「繰り越し」前提の補正予算 それは、近年の補正予算は、大半を翌年度に繰り越すことを前提とする形で歳出が計上されているからである。 第2次安倍晋三内閣以降、「15カ月予算」が常態化している。つまり、当該年度が残り3カ月となった12月末に、新年度予算の12カ月だけでなく、当該年度の補正予算も、事実上セットで編成するという政策方針である。 しかし、残り3カ月で何兆円もの追加の支出を使い切れるはずはない。だから、残り3カ月ほどになった時点で編成する補正予算は、翌年度に繰り越して支出することをほぼ前提にしたものといってよい。 すると、2024年度補正予算で計上された支出を、翌年度、つまり2025年度に繰り越して支出するとどうなるか。 それは、文字通り、2025年度の財政支出を増やして、2025年度の基礎的財政収支を悪化させる。だから、2025年度の補正予算だけでなく、2024年度の補正予算までも、視野に入れて2025年度の基礎的財政収支がどうなるかを見極めなければならない。 結局は基金に貯め込むだけで、民間に対して支出するわけではないような歳出を、わざわざ2024年度に追加して出す必要はない。 消費税率が10%に引き上げられて以降、わが国の税収は、幸いにして好調である。2024年の所得税の定額減税は1年限りとし、無駄な財政支出を過剰に増やさなければ、そして引き続き歳出効率化努力を進めれば、2025年度の基礎的財政収支黒字化は達成可能である。それには、苛烈な緊縮財政など不要である。 わが国において基礎的財政収支の黒字化は、2011年度を目標としたがリーマンショックで頓挫し、改めて2020年度を目標としたが消費税収の使途変更で達成年次を延期して、今に至っている。延期される度に、政策路線の不毛な対立を助長してきた。 2025年度は努力すれば実現できるところまで来ている。過剰な財政支出で物価高をあおらないようにしつつ、基礎的財政収支黒字化目標を一度は達成することが肝要だ』、「2024年の所得税の定額減税は1年限りとし、無駄な財政支出を過剰に増やさなければ、そして引き続き歳出効率化努力を進めれば、2025年度の基礎的財政収支黒字化は達成可能である。それには、苛烈な緊縮財政など不要である。 わが国において基礎的財政収支の黒字化は、2011年度を目標としたがリーマンショックで頓挫し、改めて2020年度を目標としたが消費税収の使途変更で達成年次を延期して、今に至っている・・・2025年度は努力すれば実現できるところまで来ている。過剰な財政支出で物価高をあおらないようにしつつ、基礎的財政収支黒字化目標を一度は達成することが肝要だ」、その通りだ。
第三に、昨年12月18日付け東洋経済オンライン「森永卓郎×土居丈朗「財政均衡主義」はカルトか 話題の書『ザイム真理教』めぐり論客が誌上討論」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/721495?display=b
・『鳴動する政治。終息しない戦乱。乱高下する市況。その先にあるのは活況か、暗転か――。 『週刊東洋経済』12月23-30日 新春合併特大号の特集は「2024年大予測」。世界と日本の行方を総展望する。 森永『ザイム真理教』を私が執筆したのは、財務省の唱える財政均衡主義という「教義」が、国民生活の向上を阻害していること。にもかかわらず財務省は、政治家やマスコミを通じ、国債暴落や超インフレの恐怖をあおり、国民をその教義で「洗脳」していること。そんなカルトのような状況を明らかにするためだった。 光栄にも本書は今年のベストセラーとなった。 土居国民は、税収よりも歳出が多いという帳尻の合わない状態が続く気持ち悪さを、素直に受け止めている。国民は賢いから財務省の言いなりにはならない。 「財務省が国民を洗脳」というメッセージは、国民を愚弄している』、「森永『ザイム真理教』を私が執筆したのは、財務省の唱える財政均衡主義という「教義」が、国民生活の向上を阻害していること。にもかかわらず財務省は、政治家やマスコミを通じ、国債暴落や超インフレの恐怖をあおり、国民をその教義で「洗脳」していること。そんなカルトのような状況を明らかにするためだった」、興味深そうだ。
・『赤字を大きくしすぎるとインフレを招く 森永財政赤字の唯一の問題は、赤字を大きくしすぎるとインフレを招くことだ。一定額の財政赤字を出し続けても、高インフレにならない限り問題ない。 2020年度の基礎的財政収支の赤字は80兆円だったが、それでもインフレにはならなかった。私は、未来永劫年100兆円程度の赤字を出し続けても、日本の財政には何の問題もないと思う。 土居10年代は顕著にインフレにならなかったから、あれほど財政赤字を出しても、日銀が国債を買えたので国債暴落が起きなかっただけだ。しかし今後はインフレが起きうる状況となっており、これまでと同様にはいかない。) 日銀も国債をずっと持ち続けることはできなくなる。物価高対策で、いずれは市中に事実上売らざるをえない。民間が買った国債は、政府が税金で、利子を払ったり、満期が来たら返済したりしなければならない。「日銀が国債を買えば、返済の必要はない」という本書の主張も通用しなくなる。 森永現在は通貨供給が過大になったことでのインフレではない、コストプッシュ型のインフレだ。 確かに日銀が国債を持ちすぎればインフレになるが、その天井はそうとう高いだろう。民間が保有する国債の元本返済や利払いが負担になるようなら、その国債を日銀が買い取ればよいだけの話だ。 土居インフレ期に、日銀が国債を買って通貨供給を増やせば、インフレをあおることにならないか。 日銀が国債を持つ天井はそうとう高いという指摘だが、国債累増との見合いで日銀が買い入れているがゆえに、現在のマネタリーベースは対GDP比で120%、終戦直後の2倍超と歴史的に異常な規模だ。いずれマネタリーベースは対GDP比が安定する水準まで低下させざるをえない。それは通貨量の大幅減か、物価が上昇するかだ』、「日銀が国債を持ちすぎればインフレになるが、その天井はそうとう高いだろう」、との森永氏の指摘に対して、「日銀が国債を持つ天井はそうとう高いという指摘だが、国債累増との見合いで日銀が買い入れているがゆえに、現在のマネタリーベースは対GDP比で120%、終戦直後の2倍超と歴史的に異常な規模だ。いずれマネタリーベースは対GDP比が安定する水準まで低下させざるをえない。それは通貨量の大幅減か、物価が上昇するかだ」、私は土居氏の指摘に共感を覚える。
・『安定化の必要はない 森永安定化の必要はない。高インフレにならない範囲で、日銀の国債保有を拡大し続け、そこで生まれる通貨発行益を財源に国民生活を改善させるべきだ。 新たに通貨を発行したら、その額は国の利益となる。その利益を通貨発行益というが、アベノミクスの最大の成果は、年間80兆円程度の通貨発行益を出しても、まったくインフレにはならないと実証したことだ。 土居いや、通貨発行益とは経済学では、通貨量残高に利子率を乗じた額で、日銀も「有利子の資産(国債など)から発生する利息収入」と定義している。国債利子率がほぼゼロのときは、通貨発行益は10兆円単位とはならない。 森永通貨発行益を通貨量残高に利子率を乗じた額とするのは、一部の人が通貨発行益を矮小化するため行っている誤った定義だ。) 土居その定義こそ筋が通らない。仮にご指摘の定義を採用し、今年度末の通貨量残高と前年度末の通貨量残高の差を通貨発行益と認識した場合、22年度末は18兆円のマイナスだ。つまり統合政府の財政収支は、22年度は18兆円も赤字が増えることになる。 「政府債務は政府資産と相殺すれば大きくない」という本書の記述も奇妙だ。政府の主な金融資産は年金積立金。将来の年金給付に充てるそれを相殺し借金返済に充てる、という議論に意味はない。 森永政府が抱えている資産1100兆円のうち、年金積立金は200兆円程度で、しかも年金債務が負債にも計上されている。資産の大部分は、持つ必要のない資産だ』、これも土居氏の議論に歩がある。
・『増税ではなく経済対策が先 土居国の資産のほとんどは、売るのが非現実的な資産だ。政府が持つ米国債は売れば金融市場が混乱するし、外交上の難しさもある。政府系金融機関からの貸付金も、保有をやめることは法人・個人への貸し?がしを意味する。実物資産は道路などのインフラだ。 森永売ったほうがよい資産もある。外貨準備は必要額の何倍も保有している。高速道路もすでに民営化されているのだから、株式を公開すればいい。不動産も、国会議員が格安で入居する都心のタワーマンションも、都心の公務員住宅も、いろいろある。 政府はそれをせずに増税を進めようとする。増税ではなく経済対策が先だと言いたい。税収弾性値は最近では3を超えている。「消費税は全廃して今後も復活させない」と宣言すれば、確実に消費は増えて経済は拡大する。 土居税収弾性値は、増税せず経済成長すれば税収が多く入る話のときばかり持ち出されるが、反面、国民負担率が高まることを意味する。仮に税収弾性値が3なら日本の国民負担率はたちまち50%を超える。税収弾性値が高いと国民負担率はおのずと上がるという現象を隠してはいけない。もっとも現実には、税収弾性値はそれほど高くはない。 ・税収弾性値…経済を1%成長させたとき税収が何%増えるかの指標 ・国民負担率…税金や社会保障費が国民の所得に占める負担の割合) 森永すでに日本の社会保障や公的サービスは劣化している。公的年金の所得代替率(現役世代の手取り収入に対する年金給付の比率)は先進国中最低水準だし、公的教育費がGDPに占める比率はOECD諸国内で最低水準だ。これ以上緊縮になってはいけない。 土居日本の医療保険制度はWHO(世界保健機関)からも手厚いと評され、世界に冠たるものだ。 教育支出が低水準というのは、全人口に占める児童・生徒数の比率が他国より低いからだ。日本では、小中学校は大半が公立で、義務教育は無償。教育への財政支出を渋っているわけではない。 公的年金の所得代替率が低いのは、04年の年金改正でこれ以上社会保険料負担を増やしてほしくないと労使が求め、事実上の賦課方式化したからだ。緊縮財政のせいではない。 もし国民の総意で、所得代替率をもっと上げるべきだということになったら、年金保険料を上げれば実現できるだろう』、「売ったほうがよい資産もある。外貨準備は必要額の何倍も保有している。高速道路もすでに民営化されているのだから、株式を公開すればいい。不動産も、国会議員が格安で入居する都心のタワーマンションも、都心の公務員住宅も、いろいろある」、この森永氏の主張には賛成だ。
・『国債を日銀に買い取らせればいい 森永所得代替率の引き上げを増税に頼る必要はない。国債を日銀に買い取らせればいい。 欧州の多くの国で少なくとも公立大学は無償の国が多いのに対し、日本の国立大学の授業料は年間53万円を超えている。人口割合の話だけではない。 土居高等教育に関しては、20年度から消費税増税財源を用いて、低所得世帯の授業料・入学金の軽減と、給付型奨学金の大幅拡充を行っている。 財源を国債買い入れで賄うのも、結局は教育費負担の軽減をした学生に、将来その返済負担を強いるだけ。将来のある学生に投じる教育費は、低所得世帯に配慮しつつ、高所得の親により多く出してもらう形で、親世代が責任を持って負担するべきだ』、教育費の問題では、土居氏の見解を支持したい。総じて土居氏の見解に共感を覚える。
先ずは、昨年9月11日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学 経済学部教授の土居 丈朗氏による「ガソリン価格を抑える補助金が逆に物価を上げる 今や秋の風物詩「補正予算」は見せかけに堕した」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/700611
・『秋になると、永田町では「補正予算」の話題が毎年のように沸き上がる。補正予算の編成が、当たり前のような年中行事になり、まるで補正予算を組まないと年が越せないかのようだ。 補正予算は、必ず組まなければならないというわけではない。否、補正予算はむしろ、満たさなければならない事情があるときに限り、組むことができるものである』、「補正予算はむしろ、満たさなければならない事情があるときに限り、組むことができるものである」、そんな原則があったとは初めて知った。
・『「特に緊要の経費」が毎年発生? 財政法第29条には、次のような規定がある。 内閣は、次に掲げる場合に限り、予算作成の手続に準じ、補正予算を作成し、これを国会に提出することができる。 一法律上又は契約上国の義務に属する経費の不足を補うほか、予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となつた経費の支出(当該年度において国庫内の移換えにとどまるものを含む。 又は債務の負担を行なうため必要な予算の追加を行なう場合 二予算作成後に生じた事由に基づいて、予算に追加以外の変更を加える場合 「特に緊要となった経費」は、東日本大震災級の大きな災害や急激な経済変動でもなければ、普通は生じない。なのに、まるで毎年そうであるかのように、補正予算が組まれ、政治イベント化している。 そのうえ、コロナ禍での補正予算は規模が拡大して、直近では30兆円にものぼる。コロナ前の補正予算はせいぜい3兆円程度だった。コロナ禍で、補正予算の桁が狂ってしまったのだ。 では、2023年において、補正予算はどれほど必要なのか。 少なくとも、コロナ禍の経済的な打撃から回復しつつあり、人手不足が生じるほど供給制約に直面している現状において、財政支出で需要を喚起しなければならない強い理由はない。加えて、物価上昇が顕著である。) 例えば、すでに当初予算で予定されている公共事業があるうえに、補正予算を組んで追加で公共事業費を増額したらどうなるか。 建設資材は、ただでさえコロナ禍でサプライチェーンの混乱などもあり、高騰が続いている。そこに公共事業の追加増額が行われたら、建設資材を追加した公共事業に充てなければならないから、国内における建設資材の需給をよりひっ迫させて価格高騰を助長する。 公共事業の追加増額は、建設資材の価格上昇をもたらしこそすれ、価格下落を引き起こすことはあり得ない』、「公共事業の追加増額は、建設資材の価格上昇をもたらしこそすれ、価格下落を引き起こすことはあり得ない」、その通りだ。
・『ガソリン代が浮いた分、別の商品の需要が増す ガソリン補助金(正式には燃料油価格激変緩和補助金)も、一見するとガソリンの小売価格を抑制しているように見えて、経済全体では物価高騰を助長している。 政府は、もともと9月末で終了予定だったガソリン補助金を、今年末まで延長するとともに9月7日から拡充することを決めた。これにより、ガソリンの小売価格は抑えられる。ガソリン補助金は、価格高騰を抑制する効果があるように見える。 しかし、家計は、ガソリンに費やす支出が減った分をどうするか。 貯金をする余裕がある家計は貯金に回すこともあろうが、貯金する余裕がない家計(や余裕がある家計でも)は、ガソリン価格が抑えられて浮いた分を、食費など別の支出に回すだろう。 すると、その支出で購入した商品の需要が、それだけ増えるわけだから、その商品の価格に上昇圧力がかかる。需要と供給の関係からみれば、需要が増えれば、その価格は上がりこそすれ、下がることはない。直接目には見えないとはいえ、実際はそうなのだ。 だから、ガソリン補助金は、ガソリンの小売価格を抑えてはいるが、ほかの商品の価格の上昇を助長し、経済全体でみると消費者物価全体を押し上げる方向に作用している。これは、ガソリン税の減税を行っても同様のことが起きる。 こうした情勢下で、巨額の補正予算を組んで需要を喚起すれば、物価高を助長する。) コロナ禍で、補正予算の規模が桁違いに大きくなっている。補正予算で追加した歳出は、2020年度には73兆0298億円、2021年度には35兆9895億円、2022年度には31兆6232億円にのぼっている。 これらが、効果的に支出されているならまだしも、結局は使わずじまいとなって、補正予算で積んだだけの「見せかけ」に堕したものも多い。年度末までに使わずじまいとなった歳出の不用額は、2020年度には3兆8880億円、2021年度には6兆3029億円、2022年度には11兆3084億円と、ついに10兆円を超えた』、「ガソリン補助金は、ガソリンの小売価格を抑えてはいるが、ほかの商品の価格の上昇を助長し、経済全体でみると消費者物価全体を押し上げる方向に作用している・・・補正予算で積んだだけの「見せかけ」に堕したものも多い。年度末までに使わずじまいとなった歳出の不用額は、2020年度には3兆8880億円、2021年度には6兆3029億円、2022年度には11兆3084億円と、ついに10兆円を超えた」、なるほど。
・『31兆円の補正予算、使い残しの21兆円 2022年度における歳出の不用額は、実態を象徴的に表すものとなった。 前述のように、2022年度には補正予算で31兆6232億円もの支出の追加を行った。そして、2022年度の決算段階で、入ってきた収入に比して支出し残した金額(差引剰余金)が、21兆3439億円となった。31兆円余の支出の追加を行いながら、21兆円余も年度末に支出し残してしまうというありさまである。 支出し残したうち、2023年度に繰り越すものもあるが、結局は使わずじまいとなり予算として効力を失うこととなった歳出の不用額が、前述のように11兆円余にのぼった。 加えて、支出の追加に伴いその原資として、国債の増発が2022年度決算までに必要と見込まれていたものの、使わずじまいとなった支出が出たために、12兆円の国債増発を取りやめた。 11兆円もの使わずじまいとなる支出がある一方で、12兆円もの国債増発を取りやめる結果となった。お金に色はついていないとはいえ、2022年度の決算はこうした状態だった。 まさに、補正予算等で支出するぞと勇ましく財政出動を演出しておきながら、結局使う当てがなく、予算として失効して使わずじまいとなったので、それに備えて予定していた国債増発も取りやめた。補正予算は、「見せかけ」だったのだ。 「見せかけ」に終わるような補正予算なら、経済効果もないし、金額を盛る必要はない。おまけに、物価高騰を助長するような情勢で、財政出動をするのは逆効果である。 秋になったからといって、補正予算を組まなければならないわけではない。今秋に補正予算を組むなら、当初予算で計上した巨額の予備費について、その使途を確定させて国会での審議を受けるために、予算を組み替える。そんな補正予算なら、財政民主主義の観点からも意味があるものだろう』、「「見せかけ」に終わるような補正予算なら、経済効果もないし、金額を盛る必要はない。おまけに、物価高騰を助長するような情勢で、財政出動をするのは逆効果である・・・今秋に補正予算を組むなら、当初予算で計上した巨額の予備費について、その使途を確定させて国会での審議を受けるために、予算を組み替える。そんな補正予算なら、財政民主主義の観点からも意味があるものだろう」、その通りだ。
次に、本年2月5日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学 経済学部教授 の土居 丈朗氏による「2大悪弊が2025年「緊縮ナシで財政黒字化」を阻む 足元の経済対策が後を引く「基金」と「補正予算」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/732116
・『1月22日に、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」 中長期試算)を公表した。この中長期試算の最も注目される点の1つは、「2025年度の国と地方の基礎的財政収支の黒字化は達成できるか」である。 2024年1月の中長期試算によると、2025年度の名目成長率を2.8%と見込む成長実現ケースでは、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は、1.1兆円の赤字となるという。 このままでは、2025年度の基礎的財政収支は黒字化できないということになる。 ただ、これまで取り組んできた歳出の効率化努力を引き続き2025年度にも行えば、基礎的財政収支はごくわずかな黒字となり、ぎりぎり財政健全化目標は達成できることを、内閣府は合わせて示した』、「2025年度の名目成長率を2.8%と見込む成長実現ケースでは、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は、1.1兆円の赤字となる・・・これまで取り組んできた歳出の効率化努力を引き続き2025年度にも行えば、基礎的財政収支はごくわずかな黒字となり、ぎりぎり財政健全化目標は達成できる」、なるほど。
・『インフレで名目GDP上振れの一方、歳出も増 そもそも、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は、同じ中長期試算の前回の試算(2023年7月)では、1.3兆円の赤字だった。それと比べると、0.2兆円収支が改善している。 中長期試算には、その改善要因についても示されている。 まず、歳入面では、2023年7月試算よりも名目GDP成長率が上振れると見込まれるため、2025年度の収支が試算上0.7兆円改善するという。他方、歳出面では、2024年度予算(案)で取り組まれた歳出効率化努力により、0.7兆円の収支改善効果が2025年度にも作用すると見込んでいる。 2023年度7月試算では、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は1.3兆円の赤字であったが、名目GDP成長率の上振れ分と2024年度予算での歳出効率化努力で合わせて1.4兆円の収支改善効果が期待できる。 となると、これだけで2025年度の国と地方の基礎的財政収支は「0.1兆円の黒字」という試算が、2024年1月試算として出てもおかしくなかった。 しかし、2025年度の財政収支に与える効果はこれだけではなかった。) 2024年1月試算では、2025年度の物価上昇率が2023年7月試算より高いと予測することから、それに伴い歳出規模が増えることを織り込むと収支を0.2兆円悪化させることになる。 加えて、2023年11月に策定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策」等の支出が2025年度にも食い込むことなどの影響で、2023年7月試算で見込んでいたよりも歳出が1.0兆円増えることとなるという。これらは、収支の悪化要因となる。 これら2つの要因を合わせて1.2兆円の収支悪化を、2024年1月試算では反映している。 以上より、2024年1月試算では、前掲の通り、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は1.1兆円の赤字となるという見通しを示した。ちなみに、この基礎的財政収支の赤字の額は、2025年度の名目成長率が1.7%とより低いベースラインケースでは2.6兆円となる。 確かに、成長率に関する見通しは、成長実現ケースのほうがベースラインケースよりも楽観的ではあるが、2025年度の財政健全化目標に影響を与える差異は、2025年度その年の成長率だけだから、両ケースの成長率の見通しの違いが目標達成の成否に大きく影響を与えるというわけではない。 このように、内閣府は、財政収支の試算の背景を分析している。これは、今後の政策的含意を考えるうえで極めて重要な情報となる』、「2024年1月試算では、前掲の通り、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は1.1兆円の赤字となるという見通しを示した。ちなみに、この基礎的財政収支の赤字の額は、2025年度の名目成長率が1.7%とより低いベースラインケースでは2.6兆円となる」、なるほど。
・『後年度に財政支出が「漏れ出る」元凶 将来の財政収支に対して、足元の歳出効率化努力が、収支改善要因となる一方、節度なく経済対策を講じて歳出を膨らませれば収支悪化要因となる。特に、近年の経済対策は、悪化要因として後に尾を引くという質の悪いものとなっている。 2023年11月に策定された総合経済対策は、即効性を考えれば2023年度や2024年度に効果が出るように財政支出をすべきものだろう。しかし、内閣府の試算は、足元で講じたはずの経済対策に伴う財政支出が、後に尾を引く形で2025年度にも「漏れ出る」ような構造であることを浮き彫りにした。 なぜ即効性を期待したい経済対策なのに、策定されてから翌々年度になるようなほど財政支出が遅れて出てくるのか。 その元凶の一端は、「基金」にある。 「基金」は、2023年11月に行われた行政改革推進会議の秋のレビューでも取り上げられ、その実態に批判が集中し、議論の結果を受けて「基金の見直し・点検の横断的な方針」を定めることとした。目的があいまいなまま、補正予算を中心に元手となるお金だけを基金として先取りして貯め込み、それを後年度に都合よく支出しようとする様が問題となった。) 約150にものぼる基金の残高は総額で、2022年度末で約16.6兆円、2023年度末でも約12.7兆円に達する見込みである。これらの基金をいついくら執行するかは、基金設置法人およびその所管省庁の判断に委ねられており、財務省は拒否権を持つような形で直接コントロールできない。 この12.7兆円もの基金残高が、いついくら執行されるかによって、2025年度の財政健全化目標の達成に影響を与えうる。 確かに、基金を造成した際の支出は、当該年度の決算段階では支出済みとなっている。しかし、それは国の会計から基金設置法人へ繰り出されたまでであって、すぐさま執行しなければ、その基金設置法人に貯め込まれたままとなっている。 問題は、基礎的財政収支の計算上、その基金から支出されたときにどうなるかである』、「内閣府の試算は、足元で講じたはずの経済対策に伴う財政支出が、後に尾を引く形で2025年度にも「漏れ出る」ような構造であることを浮き彫りにした。 なぜ即効性を期待したい経済対策なのに、策定されてから翌々年度になるようなほど財政支出が遅れて出てくるのか。 その元凶の一端は、「基金」にある・・・約150にものぼる基金の残高は総額で、2022年度末で約16.6兆円、2023年度末でも約12.7兆円に達する見込みである。これらの基金をいついくら執行するかは、基金設置法人およびその所管省庁の判断に委ねられており、財務省は拒否権を持つような形で直接コントロールできない・・・問題は、基礎的財政収支の計算上、その基金から支出されたときにどうなるかである」、なるほど。
・『国や地方自治体の基金が支出すれば収支に計上 まず、基金設置法人が、一般財団法人など民間団体になっている場合は、本稿で焦点を当てている国と地方の基礎的財政収支の対象外となっている。だから、その場合は、基金に貯め込まれている資金を支出していなくても、すでに国の会計から民間団体である基金設置法人へ繰り出された段階で、国と地方の基礎的財政収支の悪化要因(財政支出として計上)となり、以後はそこから先へ、いつ、いくら支出されても無関係となる。 しかし、基金設置法人が独立行政法人など国や地方自治体の機関である場合、国と地方の基礎的財政収支の対象となり、基金設置法人から支出された段階での基礎的財政収支の悪化要因(財政支出として計上)となる。これが、本稿で問題視しているものである。 基金を造成した段階で資金を支出したかのように見えて、国と地方の基礎的財政収支の定義上(これは、GDPなどの統計の基となる国民経済計算体系の定義に即している)は、会計・勘定間の振替のようなものにすぎず財政支出とはみなされない。 そして、独立行政法人など国や地方自治体の機関が基金設置法人であると、その法人から資金が支出された年度に、その支出が基礎的財政収支を悪化させるのだ。 それがよりにもよって2025年度だったらどうなるか。) 元をたどれば、基金を造成したのが2023年度以前であるにもかかわらず、つまり、まさか2025年度の財政健全化目標の達成を阻むつもりで基金を造成したわけではなかったにもかかわらず、その基金にある資金を2025年度に支出してしまうと、前述した内閣府の分析にはまだ織り込まれていない形で、「国と地方の基礎的財政収支黒字化」という目標達成を妨げることになる。 もちろん、その基金からの支出が、わが国の経済成長を促すものならまだよい。しかし、成長力を強化することに大して役に立たず、既得権益を保護するだけのために基金から支出するということなら、わが国の経済成長にも財政収支にも、百害あって一利なしである。そんな基金からの支出は、せめて2025年度には禁止すべきである。 加えて問題視しなければならないのが、2024年度補正予算である。政府は、これから2024年度当初予算案を国会に諮ろうとしているから、もちろんまだ姿も形もない。さらに、2025年度に補正予算で財政支出を大幅に増やすとなると、2025年度の財政収支を悪化させるから、これも当然問題である。 では、なぜ2024年度補正予算も問題視するのか』、「成長力を強化することに大して役に立たず、既得権益を保護するだけのために基金から支出するということなら、わが国の経済成長にも財政収支にも、百害あって一利なしである。そんな基金からの支出は、せめて2025年度には禁止すべきである。 加えて問題視しなければならないのが、2024年度補正予算」、なるほど。
・『「繰り越し」前提の補正予算 それは、近年の補正予算は、大半を翌年度に繰り越すことを前提とする形で歳出が計上されているからである。 第2次安倍晋三内閣以降、「15カ月予算」が常態化している。つまり、当該年度が残り3カ月となった12月末に、新年度予算の12カ月だけでなく、当該年度の補正予算も、事実上セットで編成するという政策方針である。 しかし、残り3カ月で何兆円もの追加の支出を使い切れるはずはない。だから、残り3カ月ほどになった時点で編成する補正予算は、翌年度に繰り越して支出することをほぼ前提にしたものといってよい。 すると、2024年度補正予算で計上された支出を、翌年度、つまり2025年度に繰り越して支出するとどうなるか。 それは、文字通り、2025年度の財政支出を増やして、2025年度の基礎的財政収支を悪化させる。だから、2025年度の補正予算だけでなく、2024年度の補正予算までも、視野に入れて2025年度の基礎的財政収支がどうなるかを見極めなければならない。 結局は基金に貯め込むだけで、民間に対して支出するわけではないような歳出を、わざわざ2024年度に追加して出す必要はない。 消費税率が10%に引き上げられて以降、わが国の税収は、幸いにして好調である。2024年の所得税の定額減税は1年限りとし、無駄な財政支出を過剰に増やさなければ、そして引き続き歳出効率化努力を進めれば、2025年度の基礎的財政収支黒字化は達成可能である。それには、苛烈な緊縮財政など不要である。 わが国において基礎的財政収支の黒字化は、2011年度を目標としたがリーマンショックで頓挫し、改めて2020年度を目標としたが消費税収の使途変更で達成年次を延期して、今に至っている。延期される度に、政策路線の不毛な対立を助長してきた。 2025年度は努力すれば実現できるところまで来ている。過剰な財政支出で物価高をあおらないようにしつつ、基礎的財政収支黒字化目標を一度は達成することが肝要だ』、「2024年の所得税の定額減税は1年限りとし、無駄な財政支出を過剰に増やさなければ、そして引き続き歳出効率化努力を進めれば、2025年度の基礎的財政収支黒字化は達成可能である。それには、苛烈な緊縮財政など不要である。 わが国において基礎的財政収支の黒字化は、2011年度を目標としたがリーマンショックで頓挫し、改めて2020年度を目標としたが消費税収の使途変更で達成年次を延期して、今に至っている・・・2025年度は努力すれば実現できるところまで来ている。過剰な財政支出で物価高をあおらないようにしつつ、基礎的財政収支黒字化目標を一度は達成することが肝要だ」、その通りだ。
第三に、昨年12月18日付け東洋経済オンライン「森永卓郎×土居丈朗「財政均衡主義」はカルトか 話題の書『ザイム真理教』めぐり論客が誌上討論」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/721495?display=b
・『鳴動する政治。終息しない戦乱。乱高下する市況。その先にあるのは活況か、暗転か――。 『週刊東洋経済』12月23-30日 新春合併特大号の特集は「2024年大予測」。世界と日本の行方を総展望する。 森永『ザイム真理教』を私が執筆したのは、財務省の唱える財政均衡主義という「教義」が、国民生活の向上を阻害していること。にもかかわらず財務省は、政治家やマスコミを通じ、国債暴落や超インフレの恐怖をあおり、国民をその教義で「洗脳」していること。そんなカルトのような状況を明らかにするためだった。 光栄にも本書は今年のベストセラーとなった。 土居国民は、税収よりも歳出が多いという帳尻の合わない状態が続く気持ち悪さを、素直に受け止めている。国民は賢いから財務省の言いなりにはならない。 「財務省が国民を洗脳」というメッセージは、国民を愚弄している』、「森永『ザイム真理教』を私が執筆したのは、財務省の唱える財政均衡主義という「教義」が、国民生活の向上を阻害していること。にもかかわらず財務省は、政治家やマスコミを通じ、国債暴落や超インフレの恐怖をあおり、国民をその教義で「洗脳」していること。そんなカルトのような状況を明らかにするためだった」、興味深そうだ。
・『赤字を大きくしすぎるとインフレを招く 森永財政赤字の唯一の問題は、赤字を大きくしすぎるとインフレを招くことだ。一定額の財政赤字を出し続けても、高インフレにならない限り問題ない。 2020年度の基礎的財政収支の赤字は80兆円だったが、それでもインフレにはならなかった。私は、未来永劫年100兆円程度の赤字を出し続けても、日本の財政には何の問題もないと思う。 土居10年代は顕著にインフレにならなかったから、あれほど財政赤字を出しても、日銀が国債を買えたので国債暴落が起きなかっただけだ。しかし今後はインフレが起きうる状況となっており、これまでと同様にはいかない。) 日銀も国債をずっと持ち続けることはできなくなる。物価高対策で、いずれは市中に事実上売らざるをえない。民間が買った国債は、政府が税金で、利子を払ったり、満期が来たら返済したりしなければならない。「日銀が国債を買えば、返済の必要はない」という本書の主張も通用しなくなる。 森永現在は通貨供給が過大になったことでのインフレではない、コストプッシュ型のインフレだ。 確かに日銀が国債を持ちすぎればインフレになるが、その天井はそうとう高いだろう。民間が保有する国債の元本返済や利払いが負担になるようなら、その国債を日銀が買い取ればよいだけの話だ。 土居インフレ期に、日銀が国債を買って通貨供給を増やせば、インフレをあおることにならないか。 日銀が国債を持つ天井はそうとう高いという指摘だが、国債累増との見合いで日銀が買い入れているがゆえに、現在のマネタリーベースは対GDP比で120%、終戦直後の2倍超と歴史的に異常な規模だ。いずれマネタリーベースは対GDP比が安定する水準まで低下させざるをえない。それは通貨量の大幅減か、物価が上昇するかだ』、「日銀が国債を持ちすぎればインフレになるが、その天井はそうとう高いだろう」、との森永氏の指摘に対して、「日銀が国債を持つ天井はそうとう高いという指摘だが、国債累増との見合いで日銀が買い入れているがゆえに、現在のマネタリーベースは対GDP比で120%、終戦直後の2倍超と歴史的に異常な規模だ。いずれマネタリーベースは対GDP比が安定する水準まで低下させざるをえない。それは通貨量の大幅減か、物価が上昇するかだ」、私は土居氏の指摘に共感を覚える。
・『安定化の必要はない 森永安定化の必要はない。高インフレにならない範囲で、日銀の国債保有を拡大し続け、そこで生まれる通貨発行益を財源に国民生活を改善させるべきだ。 新たに通貨を発行したら、その額は国の利益となる。その利益を通貨発行益というが、アベノミクスの最大の成果は、年間80兆円程度の通貨発行益を出しても、まったくインフレにはならないと実証したことだ。 土居いや、通貨発行益とは経済学では、通貨量残高に利子率を乗じた額で、日銀も「有利子の資産(国債など)から発生する利息収入」と定義している。国債利子率がほぼゼロのときは、通貨発行益は10兆円単位とはならない。 森永通貨発行益を通貨量残高に利子率を乗じた額とするのは、一部の人が通貨発行益を矮小化するため行っている誤った定義だ。) 土居その定義こそ筋が通らない。仮にご指摘の定義を採用し、今年度末の通貨量残高と前年度末の通貨量残高の差を通貨発行益と認識した場合、22年度末は18兆円のマイナスだ。つまり統合政府の財政収支は、22年度は18兆円も赤字が増えることになる。 「政府債務は政府資産と相殺すれば大きくない」という本書の記述も奇妙だ。政府の主な金融資産は年金積立金。将来の年金給付に充てるそれを相殺し借金返済に充てる、という議論に意味はない。 森永政府が抱えている資産1100兆円のうち、年金積立金は200兆円程度で、しかも年金債務が負債にも計上されている。資産の大部分は、持つ必要のない資産だ』、これも土居氏の議論に歩がある。
・『増税ではなく経済対策が先 土居国の資産のほとんどは、売るのが非現実的な資産だ。政府が持つ米国債は売れば金融市場が混乱するし、外交上の難しさもある。政府系金融機関からの貸付金も、保有をやめることは法人・個人への貸し?がしを意味する。実物資産は道路などのインフラだ。 森永売ったほうがよい資産もある。外貨準備は必要額の何倍も保有している。高速道路もすでに民営化されているのだから、株式を公開すればいい。不動産も、国会議員が格安で入居する都心のタワーマンションも、都心の公務員住宅も、いろいろある。 政府はそれをせずに増税を進めようとする。増税ではなく経済対策が先だと言いたい。税収弾性値は最近では3を超えている。「消費税は全廃して今後も復活させない」と宣言すれば、確実に消費は増えて経済は拡大する。 土居税収弾性値は、増税せず経済成長すれば税収が多く入る話のときばかり持ち出されるが、反面、国民負担率が高まることを意味する。仮に税収弾性値が3なら日本の国民負担率はたちまち50%を超える。税収弾性値が高いと国民負担率はおのずと上がるという現象を隠してはいけない。もっとも現実には、税収弾性値はそれほど高くはない。 ・税収弾性値…経済を1%成長させたとき税収が何%増えるかの指標 ・国民負担率…税金や社会保障費が国民の所得に占める負担の割合) 森永すでに日本の社会保障や公的サービスは劣化している。公的年金の所得代替率(現役世代の手取り収入に対する年金給付の比率)は先進国中最低水準だし、公的教育費がGDPに占める比率はOECD諸国内で最低水準だ。これ以上緊縮になってはいけない。 土居日本の医療保険制度はWHO(世界保健機関)からも手厚いと評され、世界に冠たるものだ。 教育支出が低水準というのは、全人口に占める児童・生徒数の比率が他国より低いからだ。日本では、小中学校は大半が公立で、義務教育は無償。教育への財政支出を渋っているわけではない。 公的年金の所得代替率が低いのは、04年の年金改正でこれ以上社会保険料負担を増やしてほしくないと労使が求め、事実上の賦課方式化したからだ。緊縮財政のせいではない。 もし国民の総意で、所得代替率をもっと上げるべきだということになったら、年金保険料を上げれば実現できるだろう』、「売ったほうがよい資産もある。外貨準備は必要額の何倍も保有している。高速道路もすでに民営化されているのだから、株式を公開すればいい。不動産も、国会議員が格安で入居する都心のタワーマンションも、都心の公務員住宅も、いろいろある」、この森永氏の主張には賛成だ。
・『国債を日銀に買い取らせればいい 森永所得代替率の引き上げを増税に頼る必要はない。国債を日銀に買い取らせればいい。 欧州の多くの国で少なくとも公立大学は無償の国が多いのに対し、日本の国立大学の授業料は年間53万円を超えている。人口割合の話だけではない。 土居高等教育に関しては、20年度から消費税増税財源を用いて、低所得世帯の授業料・入学金の軽減と、給付型奨学金の大幅拡充を行っている。 財源を国債買い入れで賄うのも、結局は教育費負担の軽減をした学生に、将来その返済負担を強いるだけ。将来のある学生に投じる教育費は、低所得世帯に配慮しつつ、高所得の親により多く出してもらう形で、親世代が責任を持って負担するべきだ』、教育費の問題では、土居氏の見解を支持したい。総じて土居氏の見解に共感を覚える。
タグ:土居 丈朗氏による「ガソリン価格を抑える補助金が逆に物価を上げる 今や秋の風物詩「補正予算」は見せかけに堕した」 東洋経済オンライン 政府財政問題 (その9)(ガソリン価格を抑える補助金が逆に物価を上げる 今や秋の風物詩「補正予算」は見せかけに堕した、2大悪弊が2025年「緊縮ナシで財政黒字化」を阻む 足元の経済対策が後を引く「基金」と「補正予算」、森永卓郎×土居丈朗「財政均衡主義」はカルトか 話題の書『ザイム真理教』めぐり論客が誌上討論) 「補正予算はむしろ、満たさなければならない事情があるときに限り、組むことができるものである」、そんな原則があったとは初めて知った。 「公共事業の追加増額は、建設資材の価格上昇をもたらしこそすれ、価格下落を引き起こすことはあり得ない」、その通りだ。 「ガソリン補助金は、ガソリンの小売価格を抑えてはいるが、ほかの商品の価格の上昇を助長し、経済全体でみると消費者物価全体を押し上げる方向に作用している・・・補正予算で積んだだけの「見せかけ」に堕したものも多い。年度末までに使わずじまいとなった歳出の不用額は、2020年度には3兆8880億円、2021年度には6兆3029億円、2022年度には11兆3084億円と、ついに10兆円を超えた」、なるほど。 「「見せかけ」に終わるような補正予算なら、経済効果もないし、金額を盛る必要はない。おまけに、物価高騰を助長するような情勢で、財政出動をするのは逆効果である・・・今秋に補正予算を組むなら、当初予算で計上した巨額の予備費について、その使途を確定させて国会での審議を受けるために、予算を組み替える。そんな補正予算なら、財政民主主義の観点からも意味があるものだろう」、その通りだ。 土居 丈朗氏による「2大悪弊が2025年「緊縮ナシで財政黒字化」を阻む 足元の経済対策が後を引く「基金」と「補正予算」」 「2025年度の名目成長率を2.8%と見込む成長実現ケースでは、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は、1.1兆円の赤字となる・・・これまで取り組んできた歳出の効率化努力を引き続き2025年度にも行えば、基礎的財政収支はごくわずかな黒字となり、ぎりぎり財政健全化目標は達成できる」、なるほど。 「2024年1月試算では、前掲の通り、2025年度の国と地方の基礎的財政収支は1.1兆円の赤字となるという見通しを示した。ちなみに、この基礎的財政収支の赤字の額は、2025年度の名目成長率が1.7%とより低いベースラインケースでは2.6兆円となる」、なるほど。 「内閣府の試算は、足元で講じたはずの経済対策に伴う財政支出が、後に尾を引く形で2025年度にも「漏れ出る」ような構造であることを浮き彫りにした。 なぜ即効性を期待したい経済対策なのに、策定されてから翌々年度になるようなほど財政支出が遅れて出てくるのか。 その元凶の一端は、「基金」にある・・・ 約150にものぼる基金の残高は総額で、2022年度末で約16.6兆円、2023年度末でも約12.7兆円に達する見込みである。これらの基金をいついくら執行するかは、基金設置法人およびその所管省庁の判断に委ねられており、財務省は拒否権を持つような形で直接コントロールできない・・・問題は、基礎的財政収支の計算上、その基金から支出されたときにどうなるかである」、なるほど。 「成長力を強化することに大して役に立たず、既得権益を保護するだけのために基金から支出するということなら、わが国の経済成長にも財政収支にも、百害あって一利なしである。そんな基金からの支出は、せめて2025年度には禁止すべきである。 加えて問題視しなければならないのが、2024年度補正予算」、なるほど。 「2024年の所得税の定額減税は1年限りとし、無駄な財政支出を過剰に増やさなければ、そして引き続き歳出効率化努力を進めれば、2025年度の基礎的財政収支黒字化は達成可能である。それには、苛烈な緊縮財政など不要である。 わが国において基礎的財政収支の黒字化は、2011年度を目標としたがリーマンショックで頓挫し、改めて2020年度を目標としたが消費税収の使途変更で達成年次を延期して、今に至っている・・・ 2025年度は努力すれば実現できるところまで来ている。過剰な財政支出で物価高をあおらないようにしつつ、基礎的財政収支黒字化目標を一度は達成することが肝要だ」、その通りだ。 東洋経済オンライン「森永卓郎×土居丈朗「財政均衡主義」はカルトか 話題の書『ザイム真理教』めぐり論客が誌上討論」 森永『ザイム真理教』 「森永『ザイム真理教』を私が執筆したのは、財務省の唱える財政均衡主義という「教義」が、国民生活の向上を阻害していること。にもかかわらず財務省は、政治家やマスコミを通じ、国債暴落や超インフレの恐怖をあおり、国民をその教義で「洗脳」していること。そんなカルトのような状況を明らかにするためだった」、興味深そうだ。 「日銀が国債を持ちすぎればインフレになるが、その天井はそうとう高いだろう」、との森永氏の指摘に対して、「日銀が国債を持つ天井はそうとう高いという指摘だが、国債累増との見合いで日銀が買い入れているがゆえに、現在のマネタリーベースは対GDP比で120%、終戦直後の2倍超と歴史的に異常な規模だ。いずれマネタリーベースは対GDP比が安定する水準まで低下させざるをえない。それは通貨量の大幅減か、物価が上昇するかだ」、私は土居氏の指摘に共感を覚える。 これも土居氏の議論に歩がある。 「売ったほうがよい資産もある。外貨準備は必要額の何倍も保有している。高速道路もすでに民営化されているのだから、株式を公開すればいい。不動産も、国会議員が格安で入居する都心のタワーマンションも、都心の公務員住宅も、いろいろある」、この森永氏の主張には賛成だ。 教育費の問題では、土居氏の見解を支持したい。総じて土居氏の見解に共感を覚える。
マイナンバー制度(その7)(大阪万博とマイナカード 「迷走」する2つの事業の共通点...「時代遅れ」な発想と決別せよ、マイナンバーの矛盾を徹底批判「0.01%を切り捨てる“上からのデジタル化”は人権を蔑ろにする) [経済政策]
マイナンバー制度については、昨年8月28日に取上げた。今日は、(その7)(大阪万博とマイナカード 「迷走」する2つの事業の共通点...「時代遅れ」な発想と決別せよ、マイナンバーの矛盾を徹底批判「0.01%を切り捨てる“上からのデジタル化”は人権を蔑ろにする)である。
先ずは、昨年8月30日付けNewsweek日本版が掲載した経済評論家の加谷珪一氏による「大阪万博とマイナカード、「迷走」する2つの事業の共通点...「時代遅れ」な発想と決別せよ」を紹介しよう。
・『<パビリオン建設が遅れる大阪・関西万博と、保険証との強引な統合に批判が集まるマイナカードには、共通する問題点が> パビリオン建設の大幅な遅れによって大阪万博の開催が危ぶまれている。一方、政府のマイナンバー制度は保険証との一体化をめぐって迷走を続けており着地点が見えない。一見すると無関係な大阪万博とマイナカードの問題に共通しているのは、ハコモノ行政という時代遅れの発想である。 大阪万博は2025年春の開催を目指して準備が進められているが、万博の華と呼ばれ、イベントの目玉となる海外パビリオンの建設が進んでいない。海外パビリオンのうち建設事業者が決定したのは6件しかなく、8月14日時点で建設申請が出されたのは2件のみである。 共同館方式など他のパビリオン建設は進んでいるものの、海外勢による独自パビリオンがなければ万博はもはや意味をなさず、一部からはスケジュールの延期を促す声すら上がっている状況だ。 これはプロジェクト管理という方法論の問題だが、大阪万博については当初から開催そのものの意義を問う声も上がっていた。近年、グローバルな企業社会の在り方が大きく変容しており、巨大な展示会を開催し、ハコモノを通じて人やお金を集める手法は完全に時代遅れとなっている。 以前は民間にもたくさんの大型国際展示会があったが、多くが廃止や規模の縮小を余儀なくされており、民間経済においてはもはやメジャーなスタイルではなくなった。今回の万博も、開催について日本と争ったのがロシアとアゼルバイジャンだったことを考えれば、万博の立ち位置がよく理解できるだろう』、「グローバルな企業社会の在り方が大きく変容しており、巨大な展示会を開催し、ハコモノを通じて人やお金を集める手法は完全に時代遅れとなっている。 以前は民間にもたくさんの大型国際展示会があったが、多くが廃止や規模の縮小を余儀なくされており、民間経済においてはもはやメジャーなスタイルではなくなった。今回の万博も、開催について日本と争ったのがロシアとアゼルバイジャンだったことを考えれば、万博の立ち位置がよく理解できるだろう」、なるほど。
・『昭和を彷彿とさせる「ハコモノ行政」の象徴 つまり万博は昭和を彷彿とさせる「ハコモノ行政」の象徴ということになるわけだが、この話は、政治的に大問題となっているマイナンバー制度にも当てはまる。 マイナンバー制度については、政府が保険証との統合を強引に進めたことから批判が殺到している。十分な準備を行わないままシステムの連携を実施したこともあり、あちこちで深刻なトラブルが発生している。 一部からはスケジュールの見直しや制度の抜本的な見直しを求める声が出ているが、政府や推進論者はマイナカードをやめてしまうと「日本のデジタル化が遅れる」として強く反発している』、「ハコモノ行政」については、「万博」は理解できるが、「マイナンバー制度」とは関係ないように思える。
・『実際には「カード」は必須ではない しかしながら、カードがないと日本のデジタル化が遅れるというのは事実ではなく、むしろその逆である。全国民には既にマイナンバーが振られており、システム連携さえしっかりすれば制度はすぐにスタートできる。本人確認の方法はさまざまなので、カードがなくても何の問題もなくシステムの運用が可能だ。 実際、韓国は日本をはるかに上回るマイナンバー制度を整えているが、韓国人はカードというものは保有していない。自分の名前や住所など必要な情報を窓口で伝え、本人であると確認されれば病院でも区役所でも手続きが自動的に進む。 おそらくだが、制度を設計した日本政府内部の担当者やマイナカード導入を強く主張している論者は、カードという物理的なモノが存在しないと本人確認ができないと考えている可能性が高い。 ハード(ハコモノ)という物理的なものにとらわれ、その上位に来るソフトウエアに思考が及ばないという点では、万博とマイナカードには共通のパターンが見られる。こうしたハコモノ行政の発想から脱却できなければ日本経済の復活は難しいだろう』、「実際には「カード」は必須ではない」はその通りだ。「制度を設計した日本政府内部の担当者やマイナカード導入を強く主張している論者は、カードという物理的なモノが存在しないと本人確認ができないと考えている可能性が高い。 ハード(ハコモノ)という物理的なものにとらわれ、その上位に来るソフトウエアに思考が及ばないという点では、万博とマイナカードには共通のパターンが見られる」、これで、漸く理解できた。
次に、本年1月3日付け日刊ゲンダイが掲載した自治体情報政策研究所代表の黒田充氏による「マイナンバーの矛盾を徹底批判「0.01%を切り捨てる“上からのデジタル化”は人権を蔑ろにする」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/334100
・「国民の不安払拭のための措置を踏まえ、予定通り、現行の健康保険証の発行を来年秋に終了する」──。12月12日のマイナンバー情報総点検本部の会合で岸田首相はそう語った。しかし、総点検後の共同通信の世論調査では、来年秋の健康保険証廃止について、撤回と延期を求める回答が7割を超える。マイナンバーの問題を指摘してきたこの人が、上からの「デジタル化」を徹底的に批判する(Qは聞き手の質問、Aは回答)。 Q:総点検によって、国民の不安は払拭できましたか。 A:政府が措置をしたというだけです。世論調査が示す通り、不安解消にはほど遠い。12月上旬に取りまとめとしていたのに、報告は12月12日にズレ込みました。国会閉幕の前日で、総点検については国会審議にも付されず、問題です。 Q:そもそも不安を払拭できるような点検だったのでしょうか。 A:政府の総点検は情報が間違っていなければ問題ないという立場で行われています。データの間違いを正せばうまくいくと。しかも、誤りが見つかった部分を修正しているだけで、見つかっていない部分はそのままです。政府が不安払拭のための措置をしたと言い張るためのアリバイづくりでしかありません。 Q:トラブルは収まりませんか。 A:保団連(全国保険医団体連合会)はマイナ保険証の医療現場のトラブルについて、顔認証のエラー、負担割合の間違い、資格情報の無効表示などいくつも指摘しています。しかし、そうした指摘に対して、総点検では事実かどうかの調査もしていません。河野デジタル相はうまくいっている現場を視察するだけで、トラブルが多発している多くの現場には足を運ばない。これではトラブルの芽を摘んだことにはなりません。 Q:河野大臣は「世の中ゼロリスクはない」と発言しました。 A:とりあえず走り出し、不具合があれば修正すればよいとするアジャイルガバナンスという考え方でデジタル化を進めています。間違いやトラブルは織り込み済みなのです』、「総点検後の共同通信の世論調査では、来年秋の健康保険証廃止について、撤回と延期を求める回答が7割を超える。マイナンバーの問題を指摘してきたこの人が、上からの「デジタル化」を徹底的に批判する」、その通りなのに、政府が当初の方針通りに強行するのには違和感がある。「とりあえず走り出し、不具合があれば修正すればよいとするアジャイルガバナンスという考え方でデジタル化を進めています。間違いやトラブルは織り込み済みなのです」、なるほど。
・『まるで太平洋戦争のような光景 Q:総点検の対象8208万件のうち、ひも付け誤りが計8351件だったとして、河野大臣は「わずか0.01%」と胸を張りました。 A:政府は「デジタル化で誰一人取り残されない」と散々、強調してきました。デジタル庁のミッションにもそう書いてある。それなのに、0.01%だったら、大したことないと、平気で切り捨てる。大きな矛盾です。政府の存立意義は人権保障ですが、医療を受ける権利など人権はかなぐり捨てられています。 Q:「イデオロギー(政治思想や理念)的に反対する方は、いつまで経っても『不安だ』『不安だ』とおっしゃる」とも言いました。 A:デジタル化を進めないと日本は沈没する。だから、俺たちが国を守っているんだ。デジタル化という大義のもと、外野がうるさく言っても進めるんだという姿勢ですね。多くの人が亡くなろうと、太平洋戦争を続けたのと同じです。 Q:デジタル化と言えば、何でも通ってしまう。 A:デジタル化すれば、経費が削減され、不正がなくなると信じ込み、現場を見ることなく上から進める手法です。パソコンが世に出はじめた頃、社長がよくわからないまま買ってきたパソコンを従業員の机に置き、「明日からこれで仕事をせい」と言うようなものです。 Q:総点検を受け、官邸は廃止判断を先送りしようとしたが、河野大臣らが反発し、来秋廃止の方針が堅持されたようです。 A:岸田首相はマイナンバーの政策そのものやトラブルの実態について、よくわかっていない感じです。来秋の保険証廃止を強行することは内閣支持率低下にもつながっている。それでも、延期を決断できず、河野大臣に押し切られている。河野大臣の暴走は岸田首相の責任です』、「岸田首相はマイナンバーの政策そのものやトラブルの実態について、よくわかっていない感じです・・・延期を決断できず、河野大臣に押し切られている。河野大臣の暴走は岸田首相の責任です」、その通りだ。それにしても、「河野大臣」の厚かましい顔を見ると、腹が立つ。
・『「バラマキ=普及」の勘違い Q:厚労省の中には、河野大臣のやり方に不満もあると聞きます。 A:厚労省はマイナ保険証への一本化は容易でないと考えていたふしがあります。だから、オンラインシステムも健康保険証(被保険者番号)でも資格確認できるようにしていたし、一本化は何年も先の話だと思っていたはずです。ところが、昨年10月に突然、24年秋の保険証廃止方針が示され、うまく乗せられてしまった。 Q:デジタル庁が主導しています。 A:首相直属のデジタル庁が推進することで、現場の声が届かず、暴走につながっている面があります。厚労省主導なら、保団連の指摘も真摯に受け止め、丁寧に進めていたかもしれません。長年、医療行政の実務を担い、現場を知っているからです。 Q:今年度補正予算には「マイナ保険証の利用促進・環境整備」に887億円、マイナカードの取得環境整備等に899億円が盛り込まれています。マイナ保険証の利用率が上がった医療機関に対する支援金や広報に力を入れるようです。 A:お金をバラまけば、利用すると勘違いしている。国民はバカにされています。CMなども大量に流すのでしょうが、そんなことで不安が解消し、利用が進むはずがない。 Q:黒田さんは、構想当初から、マイナンバー制度はうまくいかないと一貫して主張しています。 A:マイナンバー制度の出発点は、行政機関が持っているさまざまな個人情報を名寄せする際、名前や住所だと間違いが起きるからマイナンバーという番号で、という話だったのです。ところが、個人情報とマイナンバーがうまくひも付けられなかった。“はじめの一歩”でつまずいているのです。 Q:なぜ、失敗したのですか。 A:日本は漢字があり、読みがいろいろある。ひらがなもカタカナもある。アルファベットしか使っていない国とは全く違う。それに、行政、健康保険、年金などの管理もさまざまなのに、そういう調査もしっかり行わないままに、住民票に番号を振ってしまえば、何とかなると、スタートしてしまったのです。 Q:国民と番号のひも付けにしくじりながら政府はマイナンバーの利用拡大に躍起です。 A:利用拡大すればするほど新たなひも付け誤りが続出するのは避けられません。 Q:具体的には? A:これから約80の免許や国家資格へのひも付けが始まります。しかし、住所が取得時のままのものや、そもそも住所登録が不要な免許や資格も多々あります。ひも付け誤りが多発するのは目に見えています』、「デジタル庁が主導しています。 A:首相直属のデジタル庁が推進することで、現場の声が届かず、暴走につながっている面があります。厚労省主導なら、保団連の指摘も真摯に受け止め、丁寧に進めていたかもしれません。長年、医療行政の実務を担い、現場を知っているからです」、「デジタル庁が」暴走したようだ。「厚労省主導なら、保団連の指摘も真摯に受け止め、丁寧に進めていたかもしれません。長年、医療行政の実務を担い、現場を知っているからです」、その通りだ
・『■「保険証廃止」あきらめはダメ Q:他にはありますか。 A:固定資産の所有者把握にもマイナンバーを使う計画だが、間違いは必ず起きる。例えば、大阪市内の建物所有者は大阪市民とは限らない。本人からマイナンバーの届け出がなければ、大阪市の職員は氏名・住所をもとに、住基ネットで1億2000万人の中から探し出し、ひも付けなければならない。もちろん死者名義のままのものもある。簡単な作業ではありません。 Q:政府は健康保険証を来年12月2日に廃止し、新規発行を停止することを決めました。最長1年の猶予期間があるとはいえ、どんな事態になりますか。 A:現在はマイナ保険証の利用率は4.3%にとどまっています。使う機会が少なく、トラブルにも出くわさない。保険証が廃止されれば、多くの患者はトラブルを経験することになる。それがいやでマイナ保険証の登録を解除し、資格確認書の発行を求めれば、健保組合や会社の総務などにしわ寄せがいくでしょう。保険証存続を求める声が高まっていくはずです。 Q:保険証廃止は全国民に関係のある身近な問題です。 A:岸田政権の「上からのデジタル化」がうまくいかないのは明らかです。これは世論の力で止めるしかない。そういう流れになっていくと思います。あきらめてはならないのです』、「岸田政権の「上からのデジタル化」がうまくいかないのは明らかです。これは世論の力で止めるしかない」、完全に同意したい。
先ずは、昨年8月30日付けNewsweek日本版が掲載した経済評論家の加谷珪一氏による「大阪万博とマイナカード、「迷走」する2つの事業の共通点...「時代遅れ」な発想と決別せよ」を紹介しよう。
・『<パビリオン建設が遅れる大阪・関西万博と、保険証との強引な統合に批判が集まるマイナカードには、共通する問題点が> パビリオン建設の大幅な遅れによって大阪万博の開催が危ぶまれている。一方、政府のマイナンバー制度は保険証との一体化をめぐって迷走を続けており着地点が見えない。一見すると無関係な大阪万博とマイナカードの問題に共通しているのは、ハコモノ行政という時代遅れの発想である。 大阪万博は2025年春の開催を目指して準備が進められているが、万博の華と呼ばれ、イベントの目玉となる海外パビリオンの建設が進んでいない。海外パビリオンのうち建設事業者が決定したのは6件しかなく、8月14日時点で建設申請が出されたのは2件のみである。 共同館方式など他のパビリオン建設は進んでいるものの、海外勢による独自パビリオンがなければ万博はもはや意味をなさず、一部からはスケジュールの延期を促す声すら上がっている状況だ。 これはプロジェクト管理という方法論の問題だが、大阪万博については当初から開催そのものの意義を問う声も上がっていた。近年、グローバルな企業社会の在り方が大きく変容しており、巨大な展示会を開催し、ハコモノを通じて人やお金を集める手法は完全に時代遅れとなっている。 以前は民間にもたくさんの大型国際展示会があったが、多くが廃止や規模の縮小を余儀なくされており、民間経済においてはもはやメジャーなスタイルではなくなった。今回の万博も、開催について日本と争ったのがロシアとアゼルバイジャンだったことを考えれば、万博の立ち位置がよく理解できるだろう』、「グローバルな企業社会の在り方が大きく変容しており、巨大な展示会を開催し、ハコモノを通じて人やお金を集める手法は完全に時代遅れとなっている。 以前は民間にもたくさんの大型国際展示会があったが、多くが廃止や規模の縮小を余儀なくされており、民間経済においてはもはやメジャーなスタイルではなくなった。今回の万博も、開催について日本と争ったのがロシアとアゼルバイジャンだったことを考えれば、万博の立ち位置がよく理解できるだろう」、なるほど。
・『昭和を彷彿とさせる「ハコモノ行政」の象徴 つまり万博は昭和を彷彿とさせる「ハコモノ行政」の象徴ということになるわけだが、この話は、政治的に大問題となっているマイナンバー制度にも当てはまる。 マイナンバー制度については、政府が保険証との統合を強引に進めたことから批判が殺到している。十分な準備を行わないままシステムの連携を実施したこともあり、あちこちで深刻なトラブルが発生している。 一部からはスケジュールの見直しや制度の抜本的な見直しを求める声が出ているが、政府や推進論者はマイナカードをやめてしまうと「日本のデジタル化が遅れる」として強く反発している』、「ハコモノ行政」については、「万博」は理解できるが、「マイナンバー制度」とは関係ないように思える。
・『実際には「カード」は必須ではない しかしながら、カードがないと日本のデジタル化が遅れるというのは事実ではなく、むしろその逆である。全国民には既にマイナンバーが振られており、システム連携さえしっかりすれば制度はすぐにスタートできる。本人確認の方法はさまざまなので、カードがなくても何の問題もなくシステムの運用が可能だ。 実際、韓国は日本をはるかに上回るマイナンバー制度を整えているが、韓国人はカードというものは保有していない。自分の名前や住所など必要な情報を窓口で伝え、本人であると確認されれば病院でも区役所でも手続きが自動的に進む。 おそらくだが、制度を設計した日本政府内部の担当者やマイナカード導入を強く主張している論者は、カードという物理的なモノが存在しないと本人確認ができないと考えている可能性が高い。 ハード(ハコモノ)という物理的なものにとらわれ、その上位に来るソフトウエアに思考が及ばないという点では、万博とマイナカードには共通のパターンが見られる。こうしたハコモノ行政の発想から脱却できなければ日本経済の復活は難しいだろう』、「実際には「カード」は必須ではない」はその通りだ。「制度を設計した日本政府内部の担当者やマイナカード導入を強く主張している論者は、カードという物理的なモノが存在しないと本人確認ができないと考えている可能性が高い。 ハード(ハコモノ)という物理的なものにとらわれ、その上位に来るソフトウエアに思考が及ばないという点では、万博とマイナカードには共通のパターンが見られる」、これで、漸く理解できた。
次に、本年1月3日付け日刊ゲンダイが掲載した自治体情報政策研究所代表の黒田充氏による「マイナンバーの矛盾を徹底批判「0.01%を切り捨てる“上からのデジタル化”は人権を蔑ろにする」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/334100
・「国民の不安払拭のための措置を踏まえ、予定通り、現行の健康保険証の発行を来年秋に終了する」──。12月12日のマイナンバー情報総点検本部の会合で岸田首相はそう語った。しかし、総点検後の共同通信の世論調査では、来年秋の健康保険証廃止について、撤回と延期を求める回答が7割を超える。マイナンバーの問題を指摘してきたこの人が、上からの「デジタル化」を徹底的に批判する(Qは聞き手の質問、Aは回答)。 Q:総点検によって、国民の不安は払拭できましたか。 A:政府が措置をしたというだけです。世論調査が示す通り、不安解消にはほど遠い。12月上旬に取りまとめとしていたのに、報告は12月12日にズレ込みました。国会閉幕の前日で、総点検については国会審議にも付されず、問題です。 Q:そもそも不安を払拭できるような点検だったのでしょうか。 A:政府の総点検は情報が間違っていなければ問題ないという立場で行われています。データの間違いを正せばうまくいくと。しかも、誤りが見つかった部分を修正しているだけで、見つかっていない部分はそのままです。政府が不安払拭のための措置をしたと言い張るためのアリバイづくりでしかありません。 Q:トラブルは収まりませんか。 A:保団連(全国保険医団体連合会)はマイナ保険証の医療現場のトラブルについて、顔認証のエラー、負担割合の間違い、資格情報の無効表示などいくつも指摘しています。しかし、そうした指摘に対して、総点検では事実かどうかの調査もしていません。河野デジタル相はうまくいっている現場を視察するだけで、トラブルが多発している多くの現場には足を運ばない。これではトラブルの芽を摘んだことにはなりません。 Q:河野大臣は「世の中ゼロリスクはない」と発言しました。 A:とりあえず走り出し、不具合があれば修正すればよいとするアジャイルガバナンスという考え方でデジタル化を進めています。間違いやトラブルは織り込み済みなのです』、「総点検後の共同通信の世論調査では、来年秋の健康保険証廃止について、撤回と延期を求める回答が7割を超える。マイナンバーの問題を指摘してきたこの人が、上からの「デジタル化」を徹底的に批判する」、その通りなのに、政府が当初の方針通りに強行するのには違和感がある。「とりあえず走り出し、不具合があれば修正すればよいとするアジャイルガバナンスという考え方でデジタル化を進めています。間違いやトラブルは織り込み済みなのです」、なるほど。
・『まるで太平洋戦争のような光景 Q:総点検の対象8208万件のうち、ひも付け誤りが計8351件だったとして、河野大臣は「わずか0.01%」と胸を張りました。 A:政府は「デジタル化で誰一人取り残されない」と散々、強調してきました。デジタル庁のミッションにもそう書いてある。それなのに、0.01%だったら、大したことないと、平気で切り捨てる。大きな矛盾です。政府の存立意義は人権保障ですが、医療を受ける権利など人権はかなぐり捨てられています。 Q:「イデオロギー(政治思想や理念)的に反対する方は、いつまで経っても『不安だ』『不安だ』とおっしゃる」とも言いました。 A:デジタル化を進めないと日本は沈没する。だから、俺たちが国を守っているんだ。デジタル化という大義のもと、外野がうるさく言っても進めるんだという姿勢ですね。多くの人が亡くなろうと、太平洋戦争を続けたのと同じです。 Q:デジタル化と言えば、何でも通ってしまう。 A:デジタル化すれば、経費が削減され、不正がなくなると信じ込み、現場を見ることなく上から進める手法です。パソコンが世に出はじめた頃、社長がよくわからないまま買ってきたパソコンを従業員の机に置き、「明日からこれで仕事をせい」と言うようなものです。 Q:総点検を受け、官邸は廃止判断を先送りしようとしたが、河野大臣らが反発し、来秋廃止の方針が堅持されたようです。 A:岸田首相はマイナンバーの政策そのものやトラブルの実態について、よくわかっていない感じです。来秋の保険証廃止を強行することは内閣支持率低下にもつながっている。それでも、延期を決断できず、河野大臣に押し切られている。河野大臣の暴走は岸田首相の責任です』、「岸田首相はマイナンバーの政策そのものやトラブルの実態について、よくわかっていない感じです・・・延期を決断できず、河野大臣に押し切られている。河野大臣の暴走は岸田首相の責任です」、その通りだ。それにしても、「河野大臣」の厚かましい顔を見ると、腹が立つ。
・『「バラマキ=普及」の勘違い Q:厚労省の中には、河野大臣のやり方に不満もあると聞きます。 A:厚労省はマイナ保険証への一本化は容易でないと考えていたふしがあります。だから、オンラインシステムも健康保険証(被保険者番号)でも資格確認できるようにしていたし、一本化は何年も先の話だと思っていたはずです。ところが、昨年10月に突然、24年秋の保険証廃止方針が示され、うまく乗せられてしまった。 Q:デジタル庁が主導しています。 A:首相直属のデジタル庁が推進することで、現場の声が届かず、暴走につながっている面があります。厚労省主導なら、保団連の指摘も真摯に受け止め、丁寧に進めていたかもしれません。長年、医療行政の実務を担い、現場を知っているからです。 Q:今年度補正予算には「マイナ保険証の利用促進・環境整備」に887億円、マイナカードの取得環境整備等に899億円が盛り込まれています。マイナ保険証の利用率が上がった医療機関に対する支援金や広報に力を入れるようです。 A:お金をバラまけば、利用すると勘違いしている。国民はバカにされています。CMなども大量に流すのでしょうが、そんなことで不安が解消し、利用が進むはずがない。 Q:黒田さんは、構想当初から、マイナンバー制度はうまくいかないと一貫して主張しています。 A:マイナンバー制度の出発点は、行政機関が持っているさまざまな個人情報を名寄せする際、名前や住所だと間違いが起きるからマイナンバーという番号で、という話だったのです。ところが、個人情報とマイナンバーがうまくひも付けられなかった。“はじめの一歩”でつまずいているのです。 Q:なぜ、失敗したのですか。 A:日本は漢字があり、読みがいろいろある。ひらがなもカタカナもある。アルファベットしか使っていない国とは全く違う。それに、行政、健康保険、年金などの管理もさまざまなのに、そういう調査もしっかり行わないままに、住民票に番号を振ってしまえば、何とかなると、スタートしてしまったのです。 Q:国民と番号のひも付けにしくじりながら政府はマイナンバーの利用拡大に躍起です。 A:利用拡大すればするほど新たなひも付け誤りが続出するのは避けられません。 Q:具体的には? A:これから約80の免許や国家資格へのひも付けが始まります。しかし、住所が取得時のままのものや、そもそも住所登録が不要な免許や資格も多々あります。ひも付け誤りが多発するのは目に見えています』、「デジタル庁が主導しています。 A:首相直属のデジタル庁が推進することで、現場の声が届かず、暴走につながっている面があります。厚労省主導なら、保団連の指摘も真摯に受け止め、丁寧に進めていたかもしれません。長年、医療行政の実務を担い、現場を知っているからです」、「デジタル庁が」暴走したようだ。「厚労省主導なら、保団連の指摘も真摯に受け止め、丁寧に進めていたかもしれません。長年、医療行政の実務を担い、現場を知っているからです」、その通りだ
・『■「保険証廃止」あきらめはダメ Q:他にはありますか。 A:固定資産の所有者把握にもマイナンバーを使う計画だが、間違いは必ず起きる。例えば、大阪市内の建物所有者は大阪市民とは限らない。本人からマイナンバーの届け出がなければ、大阪市の職員は氏名・住所をもとに、住基ネットで1億2000万人の中から探し出し、ひも付けなければならない。もちろん死者名義のままのものもある。簡単な作業ではありません。 Q:政府は健康保険証を来年12月2日に廃止し、新規発行を停止することを決めました。最長1年の猶予期間があるとはいえ、どんな事態になりますか。 A:現在はマイナ保険証の利用率は4.3%にとどまっています。使う機会が少なく、トラブルにも出くわさない。保険証が廃止されれば、多くの患者はトラブルを経験することになる。それがいやでマイナ保険証の登録を解除し、資格確認書の発行を求めれば、健保組合や会社の総務などにしわ寄せがいくでしょう。保険証存続を求める声が高まっていくはずです。 Q:保険証廃止は全国民に関係のある身近な問題です。 A:岸田政権の「上からのデジタル化」がうまくいかないのは明らかです。これは世論の力で止めるしかない。そういう流れになっていくと思います。あきらめてはならないのです』、「岸田政権の「上からのデジタル化」がうまくいかないのは明らかです。これは世論の力で止めるしかない」、完全に同意したい。
タグ:マイナンバー制度 (その7)(大阪万博とマイナカード 「迷走」する2つの事業の共通点...「時代遅れ」な発想と決別せよ、マイナンバーの矛盾を徹底批判「0.01%を切り捨てる“上からのデジタル化”は人権を蔑ろにする) Newsweek日本版 加谷珪一氏による「大阪万博とマイナカード、「迷走」する2つの事業の共通点...「時代遅れ」な発想と決別せよ」 「グローバルな企業社会の在り方が大きく変容しており、巨大な展示会を開催し、ハコモノを通じて人やお金を集める手法は完全に時代遅れとなっている。 以前は民間にもたくさんの大型国際展示会があったが、多くが廃止や規模の縮小を余儀なくされており、民間経済においてはもはやメジャーなスタイルではなくなった。今回の万博も、開催について日本と争ったのがロシアとアゼルバイジャンだったことを考えれば、万博の立ち位置がよく理解できるだろう」、なるほど。 「ハコモノ行政」については、「万博」は理解できるが、「マイナンバー制度」とは関係ないように思える。 「実際には「カード」は必須ではない」はその通りだ。「制度を設計した日本政府内部の担当者やマイナカード導入を強く主張している論者は、カードという物理的なモノが存在しないと本人確認ができないと考えている可能性が高い。 ハード(ハコモノ)という物理的なものにとらわれ、その上位に来るソフトウエアに思考が及ばないという点では、万博とマイナカードには共通のパターンが見られる」、これで、漸く理解できた。 日刊ゲンダイ 黒田充氏による「マイナンバーの矛盾を徹底批判「0.01%を切り捨てる“上からのデジタル化”は人権を蔑ろにする」 「総点検後の共同通信の世論調査では、来年秋の健康保険証廃止について、撤回と延期を求める回答が7割を超える。マイナンバーの問題を指摘してきたこの人が、上からの「デジタル化」を徹底的に批判する」、その通りなのに、政府が当初の方針通りに強行するのには違和感がある。「とりあえず走り出し、不具合があれば修正すればよいとするアジャイルガバナンスという考え方でデジタル化を進めています。間違いやトラブルは織り込み済みなのです」、なるほど。 「岸田首相はマイナンバーの政策そのものやトラブルの実態について、よくわかっていない感じです・・・延期を決断できず、河野大臣に押し切られている。河野大臣の暴走は岸田首相の責任です」、その通りだ。それにしても、「河野大臣」の厚かましい顔を見ると、腹が立つ。 「デジタル庁が主導しています。 A:首相直属のデジタル庁が推進することで、現場の声が届かず、暴走につながっている面があります。厚労省主導なら、保団連の指摘も真摯に受け止め、丁寧に進めていたかもしれません。長年、医療行政の実務を担い、現場を知っているからです」、「デジタル庁が」暴走したようだ。「厚労省主導なら、保団連の指摘も真摯に受け止め、丁寧に進めていたかもしれません。長年、医療行政の実務を担い、現場を知っているからです」、その通りだ 「岸田政権の「上からのデジタル化」がうまくいかないのは明らかです。これは世論の力で止めるしかない」、完全に同意したい。
インバウンド動向(その15)(「新大久保はゲロの街になりましたよ」日本人による観光公害に苦しむ新大久保住民たち、中国人の爆買いは「もう死んだ」…日本への団体旅行解禁でも期待外れに終わる理由、中国人客が大型連休にこっそり日本観光 「二枚舌生活」「見えない旅」の理由とは?) [経済政策]
インバウンド動向については、本年7月28日に取上げた。今日は、(その15)(「新大久保はゲロの街になりましたよ」日本人による観光公害に苦しむ新大久保住民たち、中国人の爆買いは「もう死んだ」…日本への団体旅行解禁でも期待外れに終わる理由、中国人客が大型連休にこっそり日本観光 「二枚舌生活」「見えない旅」の理由とは?)である。なお、タイトルの「戦略」は「動向」に変更した。
先ずは、8月3日付け日刊SPA!「「新大久保はゲロの街になりましたよ」日本人による観光公害に苦しむ新大久保住民たち」を紹介しよう。
https://nikkan-spa.jp/1924103
・『日本人による観光公害に苦しむ新大久保住民たち 商業的なコリアンタウンだが、「住民の生活があることを韓流好き女性たちにも知ってほしい」とBさんは語る 「新大久保はゲロの街になりましたよ」 そう嘆くのはこの街に住んで6年になるというBさん。 「週末の夜になると、女性がそこら中で酔いつぶれている姿を見ます。路上でも民家の軒先でもゲロを吐き散らす姿は珍しくもなくなりました」』、「女性がそこら中で酔いつぶれている姿を見ます。路上でも民家の軒先でもゲロを吐き散らす姿は珍しくもなくなりました」、世も末だ。
・『狭い歩道が満員電車状態、食べ歩きによるゴミ捨ても 韓国料理店や韓流アイドルショップが密集し、大人気の観光地となった新大久保だが、このところ目立つのはハメを外しすぎる日本人女性たち。 「24時間営業の韓国居酒屋やクラブの周辺で大騒ぎする若いコが増えた。すると彼女たち目当てなのか、ガラの悪い日本人の男たちもやってくるようになりました」 さらに土日や連休になると、上京者が大挙して押しかける。 「狭い歩道が満員電車状態になることも。食べ歩きによるゴミ捨てもひどいです」 そのため住民はやむなく車道を歩き、老人や車椅子の人は、出歩くこと自体をためらうようになってしまったという。自戒を促される事例だ。) 観光客の迷惑行為は全国で報告されているが、受け入れる日本側にも問題がないとは言えない。インバウンド評論家の中村正人氏は次のように指摘する。 「日本社会自体が疲弊しているなかで政府のインバウンド政策が誘致一辺倒な上、観光客が大都市に集中しているのが現状です。インバウンドはむしろ地域活性化のためにあるという原点に立ち返るべきです。また、コロナで観光産業から離職した人員が復帰していないことによる現場の混乱も要因でしょう」 実際に帝国データバンクによると、業種別正社員の人手不足割合において「旅館・ホテル」が6か月連続でトップとなっている。 その上で中村氏は、罰則の強化を対策に挙げる。 「例えば迷惑行為のあったツアーの主催社は数か月営業停止にするなどのペナルティを与えることも抑止力になる」 日本の観光文化に精通するアレックス・カー氏は、世界の観光業界が「量より質」に移行しつつあるとし、次のように提案する。 「観光地に細かい注意書きをするのも一つの対策ですが、乱立して景観を損ねているケースが多く、日本文化のレベル低下に繋がります。それよりも急務はシステム構築。観光名所や施設を予約制にしたり、入場料を高めに設定することで観光地全体のクオリティが上がる。各地がコロナ禍の間に仕組みづくりをしておかなかったのは残念ですね」 航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏も“ローカルレート”の導入を提唱する。ローカルレートとは、ホテルやレジャー施設の価格を現状より高く設定し、地元住民には割り引く、という考え方だ。質の低い観光客を退けるきっかけにもなる。 「米ハワイ州でも“カマアイナレート”と呼ばれるローカルレートが導入され、有名観光スポットでハワイ州在住者は入場料や手続きが優遇されます。オーバーツーリズム対策としても効果的でしょう」 日本も手遅れにならないようにしたいところだ』、「土日や連休になると、上京者が大挙して押しかける。 「狭い歩道が満員電車状態になることも。食べ歩きによるゴミ捨てもひどいです」 そのため住民はやむなく車道を歩き、老人や車椅子の人は、出歩くこと自体をためらうようになってしまったという・・・日本の観光文化に精通するアレックス・カー氏は、世界の観光業界が「量より質」に移行しつつあるとし、次のように提案する。 「観光地に細かい注意書きをするのも一つの対策ですが、乱立して景観を損ねているケースが多く、日本文化のレベル低下に繋がります。それよりも急務はシステム構築。観光名所や施設を予約制にしたり、入場料を高めに設定することで観光地全体のクオリティが上がる。各地がコロナ禍の間に仕組みづくりをしておかなかったのは残念ですね・・・航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏も“ローカルレート”の導入を提唱する。ローカルレートとは、ホテルやレジャー施設の価格を現状より高く設定し、地元住民には割り引く、という考え方だ。質の低い観光客を退けるきっかけにもなる。 「米ハワイ州でも“カマアイナレート”と呼ばれるローカルレートが導入され、有名観光スポットでハワイ州在住者は入場料や手続きが優遇されます。オーバーツーリズム対策としても効果的でしょう 日本も手遅れにならないようにしたいところだ」、なるほど。
次に、9月2日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した日中福祉プランニング代表の王 青氏による「中国人の爆買いは「もう死んだ」…日本への団体旅行解禁でも期待外れに終わる理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/328448
・『8月10日、中国政府は日本を含む海外への団体旅行をついに解禁した。コロナ前のように中国人観光客が大勢やってきて、“爆買い”が復活するのではないかとインバウンド効果に期待する声は大きい。しかし、中国からの来客や視察ツアーをよくアテンドし、買い物の同行もしている筆者は「団体旅行客が急増することはないし、爆買いも復活しないだろう」と予想する。その理由とは?』、興味深そうだ。
・『銀座のデパートからニトリへ 日本を訪れる中国人富裕層の財布のひもが固くなっている 今年の夏は暑い。できることならどこにも出かけたくない、クーラーが効いている室内でずっと過ごしたい思いだが、今年の7月から8月にかけて、夏休みを利用して、たくさんの中国の友人たちが家族連れで来日した。彼らに会うため頻繁に外に出かけなければならなかったが、顔を見ると約4年ぶりの再会の喜びは大きく、延々と話が尽きることがなかった。 上海の友人Aさん(女性、40代後半)は、子ども2人を連れて、この夏2週間以上東京に滞在した。上の娘さんが今秋から日本の大学に留学するので、彼女のためにマンションを借り、家財道具一式をそろえるための滞在だった。 もう一組の友人夫婦は、既に日本で留学している娘さんと、今後の留学生活について親子で話し合うための来日だった。そのほかにも、北京や上海などからやってきた、日本の介護ビジネス視察の団体をアテンドした。 このように中国から来た友人知人たちと一緒に過ごした今年の夏、筆者にはある印象が強く残った。それは「皆が買い物をしなくなって、財布のひもを固くしている」ということだ。 上述のAさんが、娘を日本に留学させるというのは筆者にとっては意外だった。彼女は一家で既にアメリカの国籍を取得しており、子どもたち2人は上海で生まれたものの、幼稚園からインターナショナルスクールに通っている。学校では英語しか使っていないので、中国にいながら、中国語の家庭教師を付けていた。大学はアメリカへ行かせるとずっと言っていたので、「なぜ日本を選んだの?」と聞くと、彼女は「もうお金がないの。日本の大学の学費はアメリカの5分の1。物価も安いから」と返ってきた。) 「もうお金がない」――Aさんの口から発せられた言葉とは思えず、耳を疑った。これまでの彼女の経済状況を知っていたからだ。 Aさん夫婦は、上海の一等地で何店舗もの上海料理の高級レストランや、食品開発の会社を経営していた。レストランは、レトロな上海の雰囲気の内装で、上海の家庭料理を高級にした料理を出す店で、有名人もよく訪れる人気の店だった。しかし、コロナ禍でお客さんの姿が消え、加えて上海のロックダウンで大きなダメージを受けた。中国には、日本が行ったような飲食店に対する休業補償金がなかったので、レストランは一軒、また一軒と潰れていった。さらに昨年末、食品開発の会社も倒産。「今は、もう事業が何も残っていない。生活費は、貯蓄の資産運用で得た利息を充てている。その利回りもこれまで10%以上あったが、今はその半分もない」とため息をつく。「だからもう、以前のような暮らしはできない」と、Aさんは曇った表情で話していた。 Aさんはこれまでも度々日本を訪れている。日本で買い物をする場所は決まって伊勢丹や高島屋などのデパート、銀座のデパートや高級ブランドショップだった。買い方も豪快というか、値段をまったく気にする様子もなく好きなだけショッピングを楽しむので、買い物に付き合った筆者までその後しばらくは金銭感覚が狂っていたほどだ。ところが、今回彼女が足を運んだのは、新宿高島屋の隣にあるニトリ、そして中古品店だった』、「中国から来た友人知人たちと一緒に過ごした今年の夏、筆者にはある印象が強く残った。それは「皆が買い物をしなくなって、財布のひもを固くしている」ということだ・・・上述のAさんが、娘を日本に留学させるというのは筆者にとっては意外だった。彼女は一家で既にアメリカの国籍を取得しており、子どもたち2人は上海で生まれたものの、幼稚園からインターナショナルスクールに通っている。学校では英語しか使っていないので、中国にいながら、中国語の家庭教師を付けていた。大学はアメリカへ行かせるとずっと言っていたので、「なぜ日本を選んだの?」と聞くと、彼女は「もうお金がないの。日本の大学の学費はアメリカの5分の1。物価も安いから」と返ってきた」、なるほど。
・『高級マンション暮らし+仕送り40万円 都内の有名私立大学で留学していたが…… もう一組の夫婦は、現在東京の有名私立大学で留学中の娘に会いに来た。今まで、娘さんは家賃20数万円の都内高層マンションで一人暮らし、さらに、親から毎月約40万円の仕送りをもらっていた。彼女はその豊富な資金で日本での留学生活をエンジョイしていた。移動はタクシーを利用することが多かったし、好きなアイドルを追いかけて、日本国内だけでなく海外にも度々行っている。 何も不自由のない、リッチな生活をしていた彼女だが、今秋からは一変する。安いアパートに引っ越し、生活費を大幅に削られることになった。なぜなら、父親が20年以上経営していたリフォーム会社が、中国の不動産産業の低迷を受けて倒産の手続きに入ったからだ。「お父さんのせいで、これからの生活水準が下がることになる、ごめんね」という親子の会話を横で聞いて、寂しい気持ちになった。 友人らは中国の高度経済成長の波に乗って富を築いてきた、いわゆる富裕層である。しかし、この数年で事業も金も失った。彼らの凋落ぶりを通して、中国経済の実態が垣間見える。富裕層の彼らでさえ、懐具合が寂しくなり、財布のひもが固くなっているのだ。中間層やそれ以下の国民の消費意識も同様に変わり、出費を抑えるだろうことは容易に想像がつく』、「娘さんは家賃20数万円の都内高層マンションで一人暮らし、さらに、親から毎月約40万円の仕送りをもらっていた・・・何も不自由のない、リッチな生活をしていた彼女だが、今秋からは一変する。安いアパートに引っ越し、生活費を大幅に削られることになった。なぜなら、父親が20年以上経営していたリフォーム会社が、中国の不動産産業の低迷を受けて倒産の手続きに入ったからだ。「お父さんのせいで、これからの生活水準が下がることになる、ごめんね」という親子の会話を横で聞いて、寂しい気持ちになった」、なるほど。
・『「仕事以外の時間は買い物」だったはずが…… 団体で日本に来た中国人の行動が変わった 折しも、中国政府は、8月10日に日本や韓国など78カ国への団体旅行を解禁した。日本のメディアの報道を見ると、百貨店やホテル業界など、インバウンドが増え、また“爆買い”が復活するのではないかと期待が高まっている様子がうかがえる。しかし、本当に中国から団体旅行者が大勢やってくるのか、コロナ前のように爆買いが復活するのか? 筆者は、その期待は裏切られる可能性がきわめて高いと考えている。 最近、何回か、中国の各地からの参加者で構成された来日ビジネス視察団体と一緒に仕事をした。参加者は、デベロッパーやIT関連、医療介護などの企業幹部や社員たちで、20~40代までと比較的若い人がほとんどだった。こうした団体の参加者たちは、コロナ前には皆、仕事以外の時間を目いっぱい買い物に使い、お土産リストを手に、買い物に没頭していた。「日本は閉店時間が早すぎる。中国なら夜の11時とか0時まで開いているのが普通なのに」と文句を言われたことも度々あった。しかし、今回は明らかに様子が違う。みな夕食が終わるとさっさとホテルに戻り、部屋やロビーでスマホをいじって過ごしている。 「買い物はしないのですか?」と尋ねると、「普段から中国でよくECを利用しているから。もう何でもECで手に入るよ」と答え、苦笑しながら「今は懐が寒い」と付け加えた。 その後、この団体を引率した人とお茶をする機会があったのでこの話をしてみると、「今は若者の行動が非常に慎重になっている。今回のメンバーは優秀な人ばかりだが、それでも、いつクビになるのかと将来に対して不安を抱えている。大学を出ても仕事が見つけられないし、すでに働いている人達も就職や再就職の競争が熾烈(https://diamond.jp/articles/-/325165)。こんな状況だから、みんなお金を使うことを躊躇(ちゅうちょ)しているんだ」と声を潜めて話していた』、「「今は若者の行動が非常に慎重になっている。今回のメンバーは優秀な人ばかりだが、それでも、いつクビになるのかと将来に対して不安を抱えている。大学を出ても仕事が見つけられないし、すでに働いている人達も就職や再就職の競争が熾烈・・・こんな状況だから、みんなお金を使うことを躊躇・・・しているんだ」、なるほど。
・『コロナ禍を経て、中国人の旅行スタイルが変化している 日本もタイと似たような状況になるのでは 北京で旅行会社を営む知人に聞くと、「日本への団体旅行が解禁された後、一時は問い合わせが多かったが、実際に成約に至ったのはそれほど多くない。なぜなら、富裕層は団体旅行をしない。中間層以下は収入が減り、海外旅行なんかする余裕がないからね。コロナの3年間で行動制限された反動で、今、国内の観光地はどこも大盛況だ。しかしフタを開けてみると、一人当たりの平均消費額が非常に少ない」と教えてくれた。 さらに「今年1月、ゼロコロナ政策が解除され、中国の観光客がタイへ殺到した。タイの副首相や観光局長が自ら空港で出迎えて、『熱烈歓迎』と書いてある横断幕を掲げて、中国のインバウンドに期待していた。これは今の日本とよく似た状況ではないか?」と話す。結果はどうだったか。タイ観光庁の統計を見ると、今年6月までの半年間で、中国の観光客はわずか140万人だった。予想していた700万~1000万人のたった20%しかいなかったのだ。 このように、中国の国内の政治・経済事情は、コロナ前と今とで大きく変わった。一つだけ日本への旅行者が増え、“爆買い”が期待できる要因があるとすれば、為替レートが円安・元高なことだろう。中国人から見れば、円安な日本でお金を使えば、何を買っても食べても割安でお得感があるからだ。中国を含め世界中でインフレが起こり、物価が大きく上昇している中で、日本の物価はまだまだ安い。収入が減り、節約志向を強めている中で、“安いもの”を狙っての買い物はあるかもしれない。しかしこれは、コロナ前の買い物、いわゆる爆買いとは、本質も目的もまるで違う。 このように、筆者は「団体旅行が解禁されても、中国人旅行客はそうそう増えない。“爆買い”も復活しない」と予想している。さらには、8月24日に始まった福島第一原発の処理水の海洋放出で、中国では今日本に対する批判が高まっている(参考記事)。日本への団体旅行者は急増どころか、激減する可能性さえあるのだ』、「筆者は「団体旅行が解禁されても、中国人旅行客はそうそう増えない。“爆買い”も復活しない」と予想している・・・福島第一原発の処理水の海洋放出で、中国では今日本に対する批判が高まっている・・・日本への団体旅行者は急増どころか、激減する可能性さえある」、インバウンドでは「中国」には、残念ながら殆ど期待できないようだ。
第三に、10月31日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したフリーランスライターのふるまいよしこ氏による「中国人客が大型連休にこっそり日本観光 「二枚舌生活」「見えない旅」の理由とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/331400
・『日本には春にゴールデンウイークがあるが、中国には9月末から10月頭にかけて「黄金週」がある。行動制限が解けた大型連休となれば、旅行に行きたいと思うのは当然。しかし今年の黄金週は、コロナ前のそれとは大分様子が違ったという。なぜか日本メディアを非難し始めた「環球時報」や「北京日報」、そして日本にやってきた中国人観光客の「見えない旅」とは……』、興味深そうだ。
・『中国版“秋のゴールデンウイーク” 2023年は旅行した人が多かったが、コロナ前との違いが…… ちょっと前の話になるが、今年の中国国慶節(建国記念日、今年は10月1日)は土、日を挟んで中秋節(中秋の名月)と連なったため、多くの人が9月29日から10月6日までの8連休という豪華版となった。加えて自身が会社の経営者だったり、潤沢な有給休暇が取れたりする人の中には、10連休や15連休にしてしまった人もいたらしい。 最低でも8連休となると、連休の過ごし方が「旅行でしょ!」となるのは、どこの国でも同じである。特にコロナの行動制限から解放されて初めての秋の連休だし、8日間丸々の旅行は難しくても気候的にも爽やかなこの時期に、「ちょっと出かけてみようか」となるのは至極当然。おかげで中国政府の統計によると、この「黄金週」(ゴールデンウイーク)に国内旅行に出かけた人の数は延べ8.26億人と、コロナ前の2019年よりも4.1%増大した。 ただし、観光関連売り上げの伸びは2019年同期比でわずか1.5%増と、観光客の延べ人数が増えた割には大きな増収には至らなかった。 その原因の一つは、旅行といっても短距離や短期間だった人が多かったから。コロナ前までは「黄金週」といえば、大渋滞、大混雑で、「風景を見に出かけたのに目に入るのは人の波」とか、「ぼったくりなどに遭って、ヘトヘトになった」という話がよく流れていた。だが人々は3年間の「自宅待機」を経て、そんな旅を反省したらしい。今年は年初めから、「勢いに任せた、盛りだくさんの旅をしなくなった」とあちこちから報告されていた。 同時に、人々が旅の予算をきちんと組み始めたことも消費額に直接影響したようだ。今回の連休旅行の特徴として、これまでのように懐具合に任せて大盤振る舞いを楽しむ旅ではなく、コストを抑えてつつましく旅を味わう人が増えたことが挙げられる。 旅先では安価な民泊が人気となった。その一方で、高級ホテルも人気だったが、その宿泊スタイルは連泊して観光地を回るのではなく、ホテル内の施設やレストランを利用し、SNS映えする写真を撮って楽しむ、そんな「体験的宿泊」が目立ったという。 連休後半には旅行ムードが勢いを失い始めて、国内航空券の値下がりが始まり、ホテルや民泊は宿泊率を上げるために価格を引き下げるという手段を取ったところもあった。これまでのように、「連休だから当然高い」とか、「繁忙期は売り手優先」という感じではなくなってしまったのである』、「ゴールデンウイーク)に国内旅行に出かけた人の数は延べ8.26億人と、コロナ前の2019年よりも4.1%増大した。 ただし、観光関連売り上げの伸びは2019年同期比でわずか1.5%増と、観光客の延べ人数が増えた割には大きな増収には至らなかった。 その原因の一つは、旅行といっても短距離や短期間だった人が多かったから・・・これまでのように懐具合に任せて大盤振る舞いを楽しむ旅ではなく、コストを抑えてつつましく旅を味わう人が増えたことが挙げられる。 旅先では安価な民泊が人気となった。その一方で、高級ホテルも人気だったが、その宿泊スタイルは連泊して観光地を回るのではなく、ホテル内の施設やレストランを利用し、SNS映えする写真を撮って楽しむ、そんな「体験的宿泊」が目立ったという」、手堅くなったようだ。
・『日本への団体旅行も増えるかと思ったところで福島第一原発の処理水問題が起きた とはいえ、10連休や15連休を取った人たちはプチ旅行で済むはずもなく、渡航先に海外を選んだ人も多かったようだ。「ようだ」というのは、政府統計局が海外に出かけた人たちの統計数を出していないから。メディアもあえて海外旅行についての話題を避けているようだった。「消費はまず国内から」、そんなムードが業界に流れていたのかもしれなかった。 それでも、さまざまな情報から海外旅行を心待ちにしていた人たちの存在が伝わってきた。タイはすでに今年9月に、来年2月までの中国人観光客のビザ免除措置を発表していた。また今年8月にはアメリカ、イギリス、日本、オーストラリア、韓国など、コロナ以降中止されていた団体旅行も解禁され、国慶節連休の海外旅行ムード復活に一役買っていた。 そのうち、特に日本行きは今春から個人旅行が好調で、「今年7~8月の夏休みだけで、個人旅行を含め4000万円相当を売り上げた」と日本の中国人相手のツアー業者が言うほどの人気となっていた。8月の団体旅行の解禁で、秋の黄金週における期待はさらに高まっていた。 しかし、8月末に福島第一原発の処理水の海洋放出が始まると、中国政府は国内向けに激しい反対キャンペーンを展開。日本の水産物輸入を全面的に禁じるなどして「危険性」を強調した結果、予定されていた日本向け団体旅行はキャンセルが相次いだ。これは参加者が自発的にキャンセルしたものもあれば、一方的に「見えない手」によって参加する予定だったツアーがキャンセルされたという例もあったようだ。 以前、2012年9月の尖閣諸島の国有化によって反日デモが巻き起こった際に、旅行を管轄する政府当局が日本渡航ビザ申請を代行する国内旅行会社に圧力をかけたが、今回も同様のことが起きたらしい。ただ、あれから10年以上がたち、中国人の中にはそんな旅行社を通じて観光ビザを申請しなくても、すでにビジネスビザや個人ビザを取得済みの人たちも多く、政府もそんな彼らを押しとどめることはできなかった。 実際、団体旅行の需要は減ったものの、日本行きの人気はそれほど下がらなかった。 ブルームバーグが日本語でまとめた「中国の大型連休、2100万人強が飛行機を利用か―人気旅行先には東京も」という記事によると、「黄金週」初日の9月29日から10月6日までに予約された海外旅行航空券数のランキングでは、トップこそ上海発韓国ソウル便だが、2位が東京発上海便、3位が北京発東京便、4位は杭州発大阪便、5位に再び北京発ソウル便となった後、6位が上海発東京便と、日本と韓国でトップ6位を占拠している。2位の東京発上海便の人気は、国慶節期間中に日本から里帰りした人も多かったということだろう。実際に日本の空港で待ち構えていた日本メディアの問いかけに、到着客が「機内はほぼ満席だった」と答えている姿をご覧になった方もおられるはずだ』、「日本行きは今春から個人旅行が好調で、「今年7~8月の夏休みだけで、個人旅行を含め4000万円相当を売り上げた」と日本の中国人相手のツアー業者が言うほどの人気となっていた。8月の団体旅行の解禁で、秋の黄金週における期待はさらに高まっていた。 しかし、8月末に福島第一原発の処理水の海洋放出が始まると、中国政府は国内向けに激しい反対キャンペーンを展開。日本の水産物輸入を全面的に禁じるなどして「危険性」を強調した結果、予定されていた日本向け団体旅行はキャンセルが相次いだ。これは参加者が自発的にキャンセルしたものもあれば、一方的に「見えない手」によって参加する予定だったツアーがキャンセルされたという例もあったようだ」、なるほど。
・『「日本旅行が人気だとあおっている」「誤解を誘導している」 環球時報や北京日報が日本メディアを名指しで批判 だが、この「事実」が、中国当局関係者の神経を刺激したようだ。 10月3日、中国共産党中央委員会機関紙「人民日報」傘下のタブロイド紙「環球時報」に、「連休における中国人観光客の人気旅行先が日本だと、日本メディアがあおり立てている」「核汚染水の排出に対する中国の態度を引き合いに、あえて中国人が『忘れっぽい』などと誤解を誘導している」と日本メディアを名指しで批判する、政府系シンクタンク関係者執筆の記事が掲載された。 これを受けた形で、やはり中国政府直轄のメディア「北京日報」でも、日本メディアの中国人観光客報道を批判する記事が流れた。国慶節の日本旅行人気に対抗して「プチ反日キャンペーン」ということだろうか。だが、そこに「日本メディアが2000万人の中国人が日本にやってくると伝えている」という記述があり、それを読んで筆者もさすがにびっくりした。 国慶節期間中に2000万人がやってくる?2000万人といえば、日本の総人口の約6分の1に当たる数だ。また、2019年に過去最高となった訪日観光客総数が3188万人であり、わずか1週間ちょっとの国慶節休み中にその3分の2が中国から押し寄せてくるなんて、ポストコロナのリベンジだとしてもさすがに多すぎる。もしそうなれば、日本の観光業はウハウハどころかパンクしてしまうはずである。 いったいどこの日本メディアがそんなむちゃくちゃな試算をしたのだ?と調べてみたのだが、「北京日報」は「日本メディア」と書いているだけで具体的なソースがない。ならばと、先の「環球時報」記事が名指ししたいくつかのメディアの過去報道を調べてもそんな数字は出てこない。 そうやってあれやこれやと「2000万人訪日」のソースを求めて調べているうちに、「2000万人なんてでっち上げもいいところだ。日本と中国の間の往復航空便はまだ完全に回復していないし、その状態でどうやったら2000万人も往来できるんだ?」と、やはり日本メディアを非難する中国語記事を発見した。確かにその通りで、1機約600席と仮定しても連休中に3万便以上が飛来する必要がある。たとえ連休を最大の15日間に延長して計算しても、さすがに無理な数字であろう』、「「連休における中国人観光客の人気旅行先が日本だと、日本メディアがあおり立てている」「核汚染水の排出に対する中国の態度を引き合いに、あえて中国人が『忘れっぽい』などと誤解を誘導している」と日本メディアを名指しで批判する、政府系シンクタンク関係者執筆の記事が掲載された・・・「2000万人訪日」のソースを求めて調べているうちに、「2000万人なんてでっち上げもいいところだ。日本と中国の間の往復航空便はまだ完全に回復していないし、その状態でどうやったら2000万人も往来できるんだ?」と、やはり日本メディアを非難する中国語記事を発見した。確かにその通りで、1機約600席と仮定しても連休中に3万便以上が飛来する必要がある。たとえ連休を最大の15日間に延長して計算しても、さすがに無理な数字であろう」、なるほど。
・『「2000万人の中国人が日本に」はもしかすると中国メディアの誤訳・読み違い? ……と、その記事を読み続けていて、前掲のブルームバーグ日本語版記事のタイトル「中国の大型連休、2100万人強が飛行機を利用か――人気旅行先には東京も」(原文ママ)を中国語化するための機械翻訳にかけたらしい画面キャプチャが貼られているのを目にした。その翻訳の結果を日本語に直訳し直すと、「中国の大型連休、2100万人余りが飛行機を利用――人気旅行地東京」になっている。ブルームバーグ日本語版の「東京も」の「も」が抜けている……もしかして、根拠はこれだろうか? 確かにこの機械翻訳文なら、「2100万人余りが飛行機に乗って人気の東京へ」と読めないこともない(それでも間違っているが)。 だが、中国共産党北京市委員会の機関紙「北京日報」ともあろうメディアが、米国の通信社ブルームバーグの日本語タイトルを機械翻訳にかけた上で誤読して、「日本メディアがでっち上げ」と大騒ぎするとは……連休中で人手が限られていたのかもしれないが、中国の政府メディアの質もここまで落ちたのか、とさすがにあきれてしまった。 この反日キャンペーンはその後も、「環球時報」と「北京日報」の記事につられたようにぽろぽろとブログ記事が出ていたが、最終的には国慶節休暇終了とともに終息したらしかった』、「この反日キャンペーンはその後も、「環球時報」と「北京日報」の記事につられたようにぽろぽろとブログ記事が出ていたが、最終的には国慶節休暇終了とともに終息したらしかった」、なるほど。
・『SNSに書くと非難される! 訪日した中国人観光客たちの「見えない日本旅行」 こんなムードの最中に、実際に日本を旅していた中国人観光客たちはどんなふうに過ごしていたのだろう? それについて、山東省の中国共産党済南市委員会機関紙傘下の「経済観察報」が「見えない日本旅行」というタイトルで伝えていた。 記事によると、団体旅行キャンセル続出で日本行き航空券が安くなったことが、すでにビザを持っている個人旅行客の背中を押したらしい。9月に入ると、深センから日本行きの航空券は約2000元(約4万円)まで下落したというから、通常時のディスカウント航空券並みの価格である。 さらに京都などの人気観光地はさすがに人出が多かったものの、「以前はどこにいっても中国人観光客だらけだった」のが、今年は中国語よりも韓国語をよく耳にしたとも紹介されていた。また、日頃から訪日者の空港出迎えアルバイトをしている中国人留学生も、国慶節連休中は大忙しだったと証言している。 一方で、そんな観光客たちも国内のムードをおもんぱかり、「(広範な人の目に触れる)SNSのタイムラインには日本での見聞を流さないようにした」と述べている。実際に自分の旅ブログに東京の旅について書き込んだブロガーが、激しい非難コメントにさらされるケースも起きており、彼らはあえて「見えない旅」を楽しんだようである。 SNS全盛時代、自分の楽しい旅の様子をSNSにアップできないのはちょっと残念だが、コロナ以降、すでに多くの人たちが「流せない話題」にすっかり慣れきっている。あえて喧伝(けんでん)しないことで、静かで誰にも知られない旅をじっくり楽しむことができる。そんな「二重生活」あるいは「二枚舌生活」は、中国で生きるためのすべになってしまった。 反日キャンペーンの中で日本旅行を選んだ人たちの中には、リピーターも多くいたという。そんな彼らが次回は堂々とまた遊びに来られるよう、期待したいものである』、「実際に自分の旅ブログに東京の旅について書き込んだブロガーが、激しい非難コメントにさらされるケースも起きており、彼らはあえて「見えない旅」を楽しんだようである。 SNS全盛時代、自分の楽しい旅の様子をSNSにアップできないのはちょっと残念だが、コロナ以降、すでに多くの人たちが「流せない話題」にすっかり慣れきっている。あえて喧伝(けんでん)しないことで、静かで誰にも知られない旅をじっくり楽しむことができる。そんな「二重生活」あるいは「二枚舌生活」は、中国で生きるためのすべになってしまった。 反日キャンペーンの中で日本旅行を選んだ人たちの中には、リピーターも多くいたという。そんな彼らが次回は堂々とまた遊びに来られるよう、期待したいものである」、「流せない話題」があるとは「中国」とは全く変な国だ。付き合いも高度なテクニックが必要なようだ。
先ずは、8月3日付け日刊SPA!「「新大久保はゲロの街になりましたよ」日本人による観光公害に苦しむ新大久保住民たち」を紹介しよう。
https://nikkan-spa.jp/1924103
・『日本人による観光公害に苦しむ新大久保住民たち 商業的なコリアンタウンだが、「住民の生活があることを韓流好き女性たちにも知ってほしい」とBさんは語る 「新大久保はゲロの街になりましたよ」 そう嘆くのはこの街に住んで6年になるというBさん。 「週末の夜になると、女性がそこら中で酔いつぶれている姿を見ます。路上でも民家の軒先でもゲロを吐き散らす姿は珍しくもなくなりました」』、「女性がそこら中で酔いつぶれている姿を見ます。路上でも民家の軒先でもゲロを吐き散らす姿は珍しくもなくなりました」、世も末だ。
・『狭い歩道が満員電車状態、食べ歩きによるゴミ捨ても 韓国料理店や韓流アイドルショップが密集し、大人気の観光地となった新大久保だが、このところ目立つのはハメを外しすぎる日本人女性たち。 「24時間営業の韓国居酒屋やクラブの周辺で大騒ぎする若いコが増えた。すると彼女たち目当てなのか、ガラの悪い日本人の男たちもやってくるようになりました」 さらに土日や連休になると、上京者が大挙して押しかける。 「狭い歩道が満員電車状態になることも。食べ歩きによるゴミ捨てもひどいです」 そのため住民はやむなく車道を歩き、老人や車椅子の人は、出歩くこと自体をためらうようになってしまったという。自戒を促される事例だ。) 観光客の迷惑行為は全国で報告されているが、受け入れる日本側にも問題がないとは言えない。インバウンド評論家の中村正人氏は次のように指摘する。 「日本社会自体が疲弊しているなかで政府のインバウンド政策が誘致一辺倒な上、観光客が大都市に集中しているのが現状です。インバウンドはむしろ地域活性化のためにあるという原点に立ち返るべきです。また、コロナで観光産業から離職した人員が復帰していないことによる現場の混乱も要因でしょう」 実際に帝国データバンクによると、業種別正社員の人手不足割合において「旅館・ホテル」が6か月連続でトップとなっている。 その上で中村氏は、罰則の強化を対策に挙げる。 「例えば迷惑行為のあったツアーの主催社は数か月営業停止にするなどのペナルティを与えることも抑止力になる」 日本の観光文化に精通するアレックス・カー氏は、世界の観光業界が「量より質」に移行しつつあるとし、次のように提案する。 「観光地に細かい注意書きをするのも一つの対策ですが、乱立して景観を損ねているケースが多く、日本文化のレベル低下に繋がります。それよりも急務はシステム構築。観光名所や施設を予約制にしたり、入場料を高めに設定することで観光地全体のクオリティが上がる。各地がコロナ禍の間に仕組みづくりをしておかなかったのは残念ですね」 航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏も“ローカルレート”の導入を提唱する。ローカルレートとは、ホテルやレジャー施設の価格を現状より高く設定し、地元住民には割り引く、という考え方だ。質の低い観光客を退けるきっかけにもなる。 「米ハワイ州でも“カマアイナレート”と呼ばれるローカルレートが導入され、有名観光スポットでハワイ州在住者は入場料や手続きが優遇されます。オーバーツーリズム対策としても効果的でしょう」 日本も手遅れにならないようにしたいところだ』、「土日や連休になると、上京者が大挙して押しかける。 「狭い歩道が満員電車状態になることも。食べ歩きによるゴミ捨てもひどいです」 そのため住民はやむなく車道を歩き、老人や車椅子の人は、出歩くこと自体をためらうようになってしまったという・・・日本の観光文化に精通するアレックス・カー氏は、世界の観光業界が「量より質」に移行しつつあるとし、次のように提案する。 「観光地に細かい注意書きをするのも一つの対策ですが、乱立して景観を損ねているケースが多く、日本文化のレベル低下に繋がります。それよりも急務はシステム構築。観光名所や施設を予約制にしたり、入場料を高めに設定することで観光地全体のクオリティが上がる。各地がコロナ禍の間に仕組みづくりをしておかなかったのは残念ですね・・・航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏も“ローカルレート”の導入を提唱する。ローカルレートとは、ホテルやレジャー施設の価格を現状より高く設定し、地元住民には割り引く、という考え方だ。質の低い観光客を退けるきっかけにもなる。 「米ハワイ州でも“カマアイナレート”と呼ばれるローカルレートが導入され、有名観光スポットでハワイ州在住者は入場料や手続きが優遇されます。オーバーツーリズム対策としても効果的でしょう 日本も手遅れにならないようにしたいところだ」、なるほど。
次に、9月2日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した日中福祉プランニング代表の王 青氏による「中国人の爆買いは「もう死んだ」…日本への団体旅行解禁でも期待外れに終わる理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/328448
・『8月10日、中国政府は日本を含む海外への団体旅行をついに解禁した。コロナ前のように中国人観光客が大勢やってきて、“爆買い”が復活するのではないかとインバウンド効果に期待する声は大きい。しかし、中国からの来客や視察ツアーをよくアテンドし、買い物の同行もしている筆者は「団体旅行客が急増することはないし、爆買いも復活しないだろう」と予想する。その理由とは?』、興味深そうだ。
・『銀座のデパートからニトリへ 日本を訪れる中国人富裕層の財布のひもが固くなっている 今年の夏は暑い。できることならどこにも出かけたくない、クーラーが効いている室内でずっと過ごしたい思いだが、今年の7月から8月にかけて、夏休みを利用して、たくさんの中国の友人たちが家族連れで来日した。彼らに会うため頻繁に外に出かけなければならなかったが、顔を見ると約4年ぶりの再会の喜びは大きく、延々と話が尽きることがなかった。 上海の友人Aさん(女性、40代後半)は、子ども2人を連れて、この夏2週間以上東京に滞在した。上の娘さんが今秋から日本の大学に留学するので、彼女のためにマンションを借り、家財道具一式をそろえるための滞在だった。 もう一組の友人夫婦は、既に日本で留学している娘さんと、今後の留学生活について親子で話し合うための来日だった。そのほかにも、北京や上海などからやってきた、日本の介護ビジネス視察の団体をアテンドした。 このように中国から来た友人知人たちと一緒に過ごした今年の夏、筆者にはある印象が強く残った。それは「皆が買い物をしなくなって、財布のひもを固くしている」ということだ。 上述のAさんが、娘を日本に留学させるというのは筆者にとっては意外だった。彼女は一家で既にアメリカの国籍を取得しており、子どもたち2人は上海で生まれたものの、幼稚園からインターナショナルスクールに通っている。学校では英語しか使っていないので、中国にいながら、中国語の家庭教師を付けていた。大学はアメリカへ行かせるとずっと言っていたので、「なぜ日本を選んだの?」と聞くと、彼女は「もうお金がないの。日本の大学の学費はアメリカの5分の1。物価も安いから」と返ってきた。) 「もうお金がない」――Aさんの口から発せられた言葉とは思えず、耳を疑った。これまでの彼女の経済状況を知っていたからだ。 Aさん夫婦は、上海の一等地で何店舗もの上海料理の高級レストランや、食品開発の会社を経営していた。レストランは、レトロな上海の雰囲気の内装で、上海の家庭料理を高級にした料理を出す店で、有名人もよく訪れる人気の店だった。しかし、コロナ禍でお客さんの姿が消え、加えて上海のロックダウンで大きなダメージを受けた。中国には、日本が行ったような飲食店に対する休業補償金がなかったので、レストランは一軒、また一軒と潰れていった。さらに昨年末、食品開発の会社も倒産。「今は、もう事業が何も残っていない。生活費は、貯蓄の資産運用で得た利息を充てている。その利回りもこれまで10%以上あったが、今はその半分もない」とため息をつく。「だからもう、以前のような暮らしはできない」と、Aさんは曇った表情で話していた。 Aさんはこれまでも度々日本を訪れている。日本で買い物をする場所は決まって伊勢丹や高島屋などのデパート、銀座のデパートや高級ブランドショップだった。買い方も豪快というか、値段をまったく気にする様子もなく好きなだけショッピングを楽しむので、買い物に付き合った筆者までその後しばらくは金銭感覚が狂っていたほどだ。ところが、今回彼女が足を運んだのは、新宿高島屋の隣にあるニトリ、そして中古品店だった』、「中国から来た友人知人たちと一緒に過ごした今年の夏、筆者にはある印象が強く残った。それは「皆が買い物をしなくなって、財布のひもを固くしている」ということだ・・・上述のAさんが、娘を日本に留学させるというのは筆者にとっては意外だった。彼女は一家で既にアメリカの国籍を取得しており、子どもたち2人は上海で生まれたものの、幼稚園からインターナショナルスクールに通っている。学校では英語しか使っていないので、中国にいながら、中国語の家庭教師を付けていた。大学はアメリカへ行かせるとずっと言っていたので、「なぜ日本を選んだの?」と聞くと、彼女は「もうお金がないの。日本の大学の学費はアメリカの5分の1。物価も安いから」と返ってきた」、なるほど。
・『高級マンション暮らし+仕送り40万円 都内の有名私立大学で留学していたが…… もう一組の夫婦は、現在東京の有名私立大学で留学中の娘に会いに来た。今まで、娘さんは家賃20数万円の都内高層マンションで一人暮らし、さらに、親から毎月約40万円の仕送りをもらっていた。彼女はその豊富な資金で日本での留学生活をエンジョイしていた。移動はタクシーを利用することが多かったし、好きなアイドルを追いかけて、日本国内だけでなく海外にも度々行っている。 何も不自由のない、リッチな生活をしていた彼女だが、今秋からは一変する。安いアパートに引っ越し、生活費を大幅に削られることになった。なぜなら、父親が20年以上経営していたリフォーム会社が、中国の不動産産業の低迷を受けて倒産の手続きに入ったからだ。「お父さんのせいで、これからの生活水準が下がることになる、ごめんね」という親子の会話を横で聞いて、寂しい気持ちになった。 友人らは中国の高度経済成長の波に乗って富を築いてきた、いわゆる富裕層である。しかし、この数年で事業も金も失った。彼らの凋落ぶりを通して、中国経済の実態が垣間見える。富裕層の彼らでさえ、懐具合が寂しくなり、財布のひもが固くなっているのだ。中間層やそれ以下の国民の消費意識も同様に変わり、出費を抑えるだろうことは容易に想像がつく』、「娘さんは家賃20数万円の都内高層マンションで一人暮らし、さらに、親から毎月約40万円の仕送りをもらっていた・・・何も不自由のない、リッチな生活をしていた彼女だが、今秋からは一変する。安いアパートに引っ越し、生活費を大幅に削られることになった。なぜなら、父親が20年以上経営していたリフォーム会社が、中国の不動産産業の低迷を受けて倒産の手続きに入ったからだ。「お父さんのせいで、これからの生活水準が下がることになる、ごめんね」という親子の会話を横で聞いて、寂しい気持ちになった」、なるほど。
・『「仕事以外の時間は買い物」だったはずが…… 団体で日本に来た中国人の行動が変わった 折しも、中国政府は、8月10日に日本や韓国など78カ国への団体旅行を解禁した。日本のメディアの報道を見ると、百貨店やホテル業界など、インバウンドが増え、また“爆買い”が復活するのではないかと期待が高まっている様子がうかがえる。しかし、本当に中国から団体旅行者が大勢やってくるのか、コロナ前のように爆買いが復活するのか? 筆者は、その期待は裏切られる可能性がきわめて高いと考えている。 最近、何回か、中国の各地からの参加者で構成された来日ビジネス視察団体と一緒に仕事をした。参加者は、デベロッパーやIT関連、医療介護などの企業幹部や社員たちで、20~40代までと比較的若い人がほとんどだった。こうした団体の参加者たちは、コロナ前には皆、仕事以外の時間を目いっぱい買い物に使い、お土産リストを手に、買い物に没頭していた。「日本は閉店時間が早すぎる。中国なら夜の11時とか0時まで開いているのが普通なのに」と文句を言われたことも度々あった。しかし、今回は明らかに様子が違う。みな夕食が終わるとさっさとホテルに戻り、部屋やロビーでスマホをいじって過ごしている。 「買い物はしないのですか?」と尋ねると、「普段から中国でよくECを利用しているから。もう何でもECで手に入るよ」と答え、苦笑しながら「今は懐が寒い」と付け加えた。 その後、この団体を引率した人とお茶をする機会があったのでこの話をしてみると、「今は若者の行動が非常に慎重になっている。今回のメンバーは優秀な人ばかりだが、それでも、いつクビになるのかと将来に対して不安を抱えている。大学を出ても仕事が見つけられないし、すでに働いている人達も就職や再就職の競争が熾烈(https://diamond.jp/articles/-/325165)。こんな状況だから、みんなお金を使うことを躊躇(ちゅうちょ)しているんだ」と声を潜めて話していた』、「「今は若者の行動が非常に慎重になっている。今回のメンバーは優秀な人ばかりだが、それでも、いつクビになるのかと将来に対して不安を抱えている。大学を出ても仕事が見つけられないし、すでに働いている人達も就職や再就職の競争が熾烈・・・こんな状況だから、みんなお金を使うことを躊躇・・・しているんだ」、なるほど。
・『コロナ禍を経て、中国人の旅行スタイルが変化している 日本もタイと似たような状況になるのでは 北京で旅行会社を営む知人に聞くと、「日本への団体旅行が解禁された後、一時は問い合わせが多かったが、実際に成約に至ったのはそれほど多くない。なぜなら、富裕層は団体旅行をしない。中間層以下は収入が減り、海外旅行なんかする余裕がないからね。コロナの3年間で行動制限された反動で、今、国内の観光地はどこも大盛況だ。しかしフタを開けてみると、一人当たりの平均消費額が非常に少ない」と教えてくれた。 さらに「今年1月、ゼロコロナ政策が解除され、中国の観光客がタイへ殺到した。タイの副首相や観光局長が自ら空港で出迎えて、『熱烈歓迎』と書いてある横断幕を掲げて、中国のインバウンドに期待していた。これは今の日本とよく似た状況ではないか?」と話す。結果はどうだったか。タイ観光庁の統計を見ると、今年6月までの半年間で、中国の観光客はわずか140万人だった。予想していた700万~1000万人のたった20%しかいなかったのだ。 このように、中国の国内の政治・経済事情は、コロナ前と今とで大きく変わった。一つだけ日本への旅行者が増え、“爆買い”が期待できる要因があるとすれば、為替レートが円安・元高なことだろう。中国人から見れば、円安な日本でお金を使えば、何を買っても食べても割安でお得感があるからだ。中国を含め世界中でインフレが起こり、物価が大きく上昇している中で、日本の物価はまだまだ安い。収入が減り、節約志向を強めている中で、“安いもの”を狙っての買い物はあるかもしれない。しかしこれは、コロナ前の買い物、いわゆる爆買いとは、本質も目的もまるで違う。 このように、筆者は「団体旅行が解禁されても、中国人旅行客はそうそう増えない。“爆買い”も復活しない」と予想している。さらには、8月24日に始まった福島第一原発の処理水の海洋放出で、中国では今日本に対する批判が高まっている(参考記事)。日本への団体旅行者は急増どころか、激減する可能性さえあるのだ』、「筆者は「団体旅行が解禁されても、中国人旅行客はそうそう増えない。“爆買い”も復活しない」と予想している・・・福島第一原発の処理水の海洋放出で、中国では今日本に対する批判が高まっている・・・日本への団体旅行者は急増どころか、激減する可能性さえある」、インバウンドでは「中国」には、残念ながら殆ど期待できないようだ。
第三に、10月31日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したフリーランスライターのふるまいよしこ氏による「中国人客が大型連休にこっそり日本観光 「二枚舌生活」「見えない旅」の理由とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/331400
・『日本には春にゴールデンウイークがあるが、中国には9月末から10月頭にかけて「黄金週」がある。行動制限が解けた大型連休となれば、旅行に行きたいと思うのは当然。しかし今年の黄金週は、コロナ前のそれとは大分様子が違ったという。なぜか日本メディアを非難し始めた「環球時報」や「北京日報」、そして日本にやってきた中国人観光客の「見えない旅」とは……』、興味深そうだ。
・『中国版“秋のゴールデンウイーク” 2023年は旅行した人が多かったが、コロナ前との違いが…… ちょっと前の話になるが、今年の中国国慶節(建国記念日、今年は10月1日)は土、日を挟んで中秋節(中秋の名月)と連なったため、多くの人が9月29日から10月6日までの8連休という豪華版となった。加えて自身が会社の経営者だったり、潤沢な有給休暇が取れたりする人の中には、10連休や15連休にしてしまった人もいたらしい。 最低でも8連休となると、連休の過ごし方が「旅行でしょ!」となるのは、どこの国でも同じである。特にコロナの行動制限から解放されて初めての秋の連休だし、8日間丸々の旅行は難しくても気候的にも爽やかなこの時期に、「ちょっと出かけてみようか」となるのは至極当然。おかげで中国政府の統計によると、この「黄金週」(ゴールデンウイーク)に国内旅行に出かけた人の数は延べ8.26億人と、コロナ前の2019年よりも4.1%増大した。 ただし、観光関連売り上げの伸びは2019年同期比でわずか1.5%増と、観光客の延べ人数が増えた割には大きな増収には至らなかった。 その原因の一つは、旅行といっても短距離や短期間だった人が多かったから。コロナ前までは「黄金週」といえば、大渋滞、大混雑で、「風景を見に出かけたのに目に入るのは人の波」とか、「ぼったくりなどに遭って、ヘトヘトになった」という話がよく流れていた。だが人々は3年間の「自宅待機」を経て、そんな旅を反省したらしい。今年は年初めから、「勢いに任せた、盛りだくさんの旅をしなくなった」とあちこちから報告されていた。 同時に、人々が旅の予算をきちんと組み始めたことも消費額に直接影響したようだ。今回の連休旅行の特徴として、これまでのように懐具合に任せて大盤振る舞いを楽しむ旅ではなく、コストを抑えてつつましく旅を味わう人が増えたことが挙げられる。 旅先では安価な民泊が人気となった。その一方で、高級ホテルも人気だったが、その宿泊スタイルは連泊して観光地を回るのではなく、ホテル内の施設やレストランを利用し、SNS映えする写真を撮って楽しむ、そんな「体験的宿泊」が目立ったという。 連休後半には旅行ムードが勢いを失い始めて、国内航空券の値下がりが始まり、ホテルや民泊は宿泊率を上げるために価格を引き下げるという手段を取ったところもあった。これまでのように、「連休だから当然高い」とか、「繁忙期は売り手優先」という感じではなくなってしまったのである』、「ゴールデンウイーク)に国内旅行に出かけた人の数は延べ8.26億人と、コロナ前の2019年よりも4.1%増大した。 ただし、観光関連売り上げの伸びは2019年同期比でわずか1.5%増と、観光客の延べ人数が増えた割には大きな増収には至らなかった。 その原因の一つは、旅行といっても短距離や短期間だった人が多かったから・・・これまでのように懐具合に任せて大盤振る舞いを楽しむ旅ではなく、コストを抑えてつつましく旅を味わう人が増えたことが挙げられる。 旅先では安価な民泊が人気となった。その一方で、高級ホテルも人気だったが、その宿泊スタイルは連泊して観光地を回るのではなく、ホテル内の施設やレストランを利用し、SNS映えする写真を撮って楽しむ、そんな「体験的宿泊」が目立ったという」、手堅くなったようだ。
・『日本への団体旅行も増えるかと思ったところで福島第一原発の処理水問題が起きた とはいえ、10連休や15連休を取った人たちはプチ旅行で済むはずもなく、渡航先に海外を選んだ人も多かったようだ。「ようだ」というのは、政府統計局が海外に出かけた人たちの統計数を出していないから。メディアもあえて海外旅行についての話題を避けているようだった。「消費はまず国内から」、そんなムードが業界に流れていたのかもしれなかった。 それでも、さまざまな情報から海外旅行を心待ちにしていた人たちの存在が伝わってきた。タイはすでに今年9月に、来年2月までの中国人観光客のビザ免除措置を発表していた。また今年8月にはアメリカ、イギリス、日本、オーストラリア、韓国など、コロナ以降中止されていた団体旅行も解禁され、国慶節連休の海外旅行ムード復活に一役買っていた。 そのうち、特に日本行きは今春から個人旅行が好調で、「今年7~8月の夏休みだけで、個人旅行を含め4000万円相当を売り上げた」と日本の中国人相手のツアー業者が言うほどの人気となっていた。8月の団体旅行の解禁で、秋の黄金週における期待はさらに高まっていた。 しかし、8月末に福島第一原発の処理水の海洋放出が始まると、中国政府は国内向けに激しい反対キャンペーンを展開。日本の水産物輸入を全面的に禁じるなどして「危険性」を強調した結果、予定されていた日本向け団体旅行はキャンセルが相次いだ。これは参加者が自発的にキャンセルしたものもあれば、一方的に「見えない手」によって参加する予定だったツアーがキャンセルされたという例もあったようだ。 以前、2012年9月の尖閣諸島の国有化によって反日デモが巻き起こった際に、旅行を管轄する政府当局が日本渡航ビザ申請を代行する国内旅行会社に圧力をかけたが、今回も同様のことが起きたらしい。ただ、あれから10年以上がたち、中国人の中にはそんな旅行社を通じて観光ビザを申請しなくても、すでにビジネスビザや個人ビザを取得済みの人たちも多く、政府もそんな彼らを押しとどめることはできなかった。 実際、団体旅行の需要は減ったものの、日本行きの人気はそれほど下がらなかった。 ブルームバーグが日本語でまとめた「中国の大型連休、2100万人強が飛行機を利用か―人気旅行先には東京も」という記事によると、「黄金週」初日の9月29日から10月6日までに予約された海外旅行航空券数のランキングでは、トップこそ上海発韓国ソウル便だが、2位が東京発上海便、3位が北京発東京便、4位は杭州発大阪便、5位に再び北京発ソウル便となった後、6位が上海発東京便と、日本と韓国でトップ6位を占拠している。2位の東京発上海便の人気は、国慶節期間中に日本から里帰りした人も多かったということだろう。実際に日本の空港で待ち構えていた日本メディアの問いかけに、到着客が「機内はほぼ満席だった」と答えている姿をご覧になった方もおられるはずだ』、「日本行きは今春から個人旅行が好調で、「今年7~8月の夏休みだけで、個人旅行を含め4000万円相当を売り上げた」と日本の中国人相手のツアー業者が言うほどの人気となっていた。8月の団体旅行の解禁で、秋の黄金週における期待はさらに高まっていた。 しかし、8月末に福島第一原発の処理水の海洋放出が始まると、中国政府は国内向けに激しい反対キャンペーンを展開。日本の水産物輸入を全面的に禁じるなどして「危険性」を強調した結果、予定されていた日本向け団体旅行はキャンセルが相次いだ。これは参加者が自発的にキャンセルしたものもあれば、一方的に「見えない手」によって参加する予定だったツアーがキャンセルされたという例もあったようだ」、なるほど。
・『「日本旅行が人気だとあおっている」「誤解を誘導している」 環球時報や北京日報が日本メディアを名指しで批判 だが、この「事実」が、中国当局関係者の神経を刺激したようだ。 10月3日、中国共産党中央委員会機関紙「人民日報」傘下のタブロイド紙「環球時報」に、「連休における中国人観光客の人気旅行先が日本だと、日本メディアがあおり立てている」「核汚染水の排出に対する中国の態度を引き合いに、あえて中国人が『忘れっぽい』などと誤解を誘導している」と日本メディアを名指しで批判する、政府系シンクタンク関係者執筆の記事が掲載された。 これを受けた形で、やはり中国政府直轄のメディア「北京日報」でも、日本メディアの中国人観光客報道を批判する記事が流れた。国慶節の日本旅行人気に対抗して「プチ反日キャンペーン」ということだろうか。だが、そこに「日本メディアが2000万人の中国人が日本にやってくると伝えている」という記述があり、それを読んで筆者もさすがにびっくりした。 国慶節期間中に2000万人がやってくる?2000万人といえば、日本の総人口の約6分の1に当たる数だ。また、2019年に過去最高となった訪日観光客総数が3188万人であり、わずか1週間ちょっとの国慶節休み中にその3分の2が中国から押し寄せてくるなんて、ポストコロナのリベンジだとしてもさすがに多すぎる。もしそうなれば、日本の観光業はウハウハどころかパンクしてしまうはずである。 いったいどこの日本メディアがそんなむちゃくちゃな試算をしたのだ?と調べてみたのだが、「北京日報」は「日本メディア」と書いているだけで具体的なソースがない。ならばと、先の「環球時報」記事が名指ししたいくつかのメディアの過去報道を調べてもそんな数字は出てこない。 そうやってあれやこれやと「2000万人訪日」のソースを求めて調べているうちに、「2000万人なんてでっち上げもいいところだ。日本と中国の間の往復航空便はまだ完全に回復していないし、その状態でどうやったら2000万人も往来できるんだ?」と、やはり日本メディアを非難する中国語記事を発見した。確かにその通りで、1機約600席と仮定しても連休中に3万便以上が飛来する必要がある。たとえ連休を最大の15日間に延長して計算しても、さすがに無理な数字であろう』、「「連休における中国人観光客の人気旅行先が日本だと、日本メディアがあおり立てている」「核汚染水の排出に対する中国の態度を引き合いに、あえて中国人が『忘れっぽい』などと誤解を誘導している」と日本メディアを名指しで批判する、政府系シンクタンク関係者執筆の記事が掲載された・・・「2000万人訪日」のソースを求めて調べているうちに、「2000万人なんてでっち上げもいいところだ。日本と中国の間の往復航空便はまだ完全に回復していないし、その状態でどうやったら2000万人も往来できるんだ?」と、やはり日本メディアを非難する中国語記事を発見した。確かにその通りで、1機約600席と仮定しても連休中に3万便以上が飛来する必要がある。たとえ連休を最大の15日間に延長して計算しても、さすがに無理な数字であろう」、なるほど。
・『「2000万人の中国人が日本に」はもしかすると中国メディアの誤訳・読み違い? ……と、その記事を読み続けていて、前掲のブルームバーグ日本語版記事のタイトル「中国の大型連休、2100万人強が飛行機を利用か――人気旅行先には東京も」(原文ママ)を中国語化するための機械翻訳にかけたらしい画面キャプチャが貼られているのを目にした。その翻訳の結果を日本語に直訳し直すと、「中国の大型連休、2100万人余りが飛行機を利用――人気旅行地東京」になっている。ブルームバーグ日本語版の「東京も」の「も」が抜けている……もしかして、根拠はこれだろうか? 確かにこの機械翻訳文なら、「2100万人余りが飛行機に乗って人気の東京へ」と読めないこともない(それでも間違っているが)。 だが、中国共産党北京市委員会の機関紙「北京日報」ともあろうメディアが、米国の通信社ブルームバーグの日本語タイトルを機械翻訳にかけた上で誤読して、「日本メディアがでっち上げ」と大騒ぎするとは……連休中で人手が限られていたのかもしれないが、中国の政府メディアの質もここまで落ちたのか、とさすがにあきれてしまった。 この反日キャンペーンはその後も、「環球時報」と「北京日報」の記事につられたようにぽろぽろとブログ記事が出ていたが、最終的には国慶節休暇終了とともに終息したらしかった』、「この反日キャンペーンはその後も、「環球時報」と「北京日報」の記事につられたようにぽろぽろとブログ記事が出ていたが、最終的には国慶節休暇終了とともに終息したらしかった」、なるほど。
・『SNSに書くと非難される! 訪日した中国人観光客たちの「見えない日本旅行」 こんなムードの最中に、実際に日本を旅していた中国人観光客たちはどんなふうに過ごしていたのだろう? それについて、山東省の中国共産党済南市委員会機関紙傘下の「経済観察報」が「見えない日本旅行」というタイトルで伝えていた。 記事によると、団体旅行キャンセル続出で日本行き航空券が安くなったことが、すでにビザを持っている個人旅行客の背中を押したらしい。9月に入ると、深センから日本行きの航空券は約2000元(約4万円)まで下落したというから、通常時のディスカウント航空券並みの価格である。 さらに京都などの人気観光地はさすがに人出が多かったものの、「以前はどこにいっても中国人観光客だらけだった」のが、今年は中国語よりも韓国語をよく耳にしたとも紹介されていた。また、日頃から訪日者の空港出迎えアルバイトをしている中国人留学生も、国慶節連休中は大忙しだったと証言している。 一方で、そんな観光客たちも国内のムードをおもんぱかり、「(広範な人の目に触れる)SNSのタイムラインには日本での見聞を流さないようにした」と述べている。実際に自分の旅ブログに東京の旅について書き込んだブロガーが、激しい非難コメントにさらされるケースも起きており、彼らはあえて「見えない旅」を楽しんだようである。 SNS全盛時代、自分の楽しい旅の様子をSNSにアップできないのはちょっと残念だが、コロナ以降、すでに多くの人たちが「流せない話題」にすっかり慣れきっている。あえて喧伝(けんでん)しないことで、静かで誰にも知られない旅をじっくり楽しむことができる。そんな「二重生活」あるいは「二枚舌生活」は、中国で生きるためのすべになってしまった。 反日キャンペーンの中で日本旅行を選んだ人たちの中には、リピーターも多くいたという。そんな彼らが次回は堂々とまた遊びに来られるよう、期待したいものである』、「実際に自分の旅ブログに東京の旅について書き込んだブロガーが、激しい非難コメントにさらされるケースも起きており、彼らはあえて「見えない旅」を楽しんだようである。 SNS全盛時代、自分の楽しい旅の様子をSNSにアップできないのはちょっと残念だが、コロナ以降、すでに多くの人たちが「流せない話題」にすっかり慣れきっている。あえて喧伝(けんでん)しないことで、静かで誰にも知られない旅をじっくり楽しむことができる。そんな「二重生活」あるいは「二枚舌生活」は、中国で生きるためのすべになってしまった。 反日キャンペーンの中で日本旅行を選んだ人たちの中には、リピーターも多くいたという。そんな彼らが次回は堂々とまた遊びに来られるよう、期待したいものである」、「流せない話題」があるとは「中国」とは全く変な国だ。付き合いも高度なテクニックが必要なようだ。
タグ:学校では英語しか使っていないので、中国にいながら、中国語の家庭教師を付けていた。大学はアメリカへ行かせるとずっと言っていたので、「なぜ日本を選んだの?」と聞くと、彼女は「もうお金がないの。日本の大学の学費はアメリカの5分の1。物価も安いから」と返ってきた」、なるほど。 「中国から来た友人知人たちと一緒に過ごした今年の夏、筆者にはある印象が強く残った。それは「皆が買い物をしなくなって、財布のひもを固くしている」ということだ・・・上述のAさんが、娘を日本に留学させるというのは筆者にとっては意外だった。彼女は一家で既にアメリカの国籍を取得しており、子どもたち2人は上海で生まれたものの、幼稚園からインターナショナルスクールに通っている。 王 青氏による「中国人の爆買いは「もう死んだ」…日本への団体旅行解禁でも期待外れに終わる理由」 ダイヤモンド・オンライン 退けるきっかけにもなる。 「米ハワイ州でも“カマアイナレート”と呼ばれるローカルレートが導入され、有名観光スポットでハワイ州在住者は入場料や手続きが優遇されます。オーバーツーリズム対策としても効果的でしょう 日本も手遅れにならないようにしたいところだ」、なるほど。 「観光地に細かい注意書きをするのも一つの対策ですが、乱立して景観を損ねているケースが多く、日本文化のレベル低下に繋がります。それよりも急務はシステム構築。観光名所や施設を予約制にしたり、入場料を高めに設定することで観光地全体のクオリティが上がる。各地がコロナ禍の間に仕組みづくりをしておかなかったのは残念ですね・・・航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏も“ローカルレート”の導入を提唱する。ローカルレートとは、ホテルやレジャー施設の価格を現状より高く設定し、地元住民には割り引く、という考え方だ。質の低い観光客を 「土日や連休になると、上京者が大挙して押しかける。 「狭い歩道が満員電車状態になることも。食べ歩きによるゴミ捨てもひどいです」 そのため住民はやむなく車道を歩き、老人や車椅子の人は、出歩くこと自体をためらうようになってしまったという・・・日本の観光文化に精通するアレックス・カー氏は、世界の観光業界が「量より質」に移行しつつあるとし、次のように提案する。 「女性がそこら中で酔いつぶれている姿を見ます。路上でも民家の軒先でもゲロを吐き散らす姿は珍しくもなくなりました」、世も末だ。 日刊SPA!「「新大久保はゲロの街になりましたよ」日本人による観光公害に苦しむ新大久保住民たち」 (その15)(「新大久保はゲロの街になりましたよ」日本人による観光公害に苦しむ新大久保住民たち、中国人の爆買いは「もう死んだ」…日本への団体旅行解禁でも期待外れに終わる理由、中国人客が大型連休にこっそり日本観光 「二枚舌生活」「見えない旅」の理由とは?) インバウンド動向 「「連休における中国人観光客の人気旅行先が日本だと、日本メディアがあおり立てている」「核汚染水の排出に対する中国の態度を引き合いに、あえて中国人が『忘れっぽい』などと誤解を誘導している」と日本メディアを名指しで批判する、政府系シンクタンク関係者執筆の記事が掲載された・・・「2000万人訪日」のソースを求めて調べているうちに、「2000万人なんてでっち上げもいいところだ。日本と中国の間の往復航空便はまだ完全に回復していないし、その状態でどうやったら2000万人も往来できるんだ?」と、やはり日本メディアを非難 日本の水産物輸入を全面的に禁じるなどして「危険性」を強調した結果、予定されていた日本向け団体旅行はキャンセルが相次いだ。これは参加者が自発的にキャンセルしたものもあれば、一方的に「見えない手」によって参加する予定だったツアーがキャンセルされたという例もあったようだ」、なるほど。 「日本行きは今春から個人旅行が好調で、「今年7~8月の夏休みだけで、個人旅行を含め4000万円相当を売り上げた」と日本の中国人相手のツアー業者が言うほどの人気となっていた。8月の団体旅行の解禁で、秋の黄金週における期待はさらに高まっていた。 しかし、8月末に福島第一原発の処理水の海洋放出が始まると、中国政府は国内向けに激しい反対キャンペーンを展開。 旅先では安価な民泊が人気となった。その一方で、高級ホテルも人気だったが、その宿泊スタイルは連泊して観光地を回るのではなく、ホテル内の施設やレストランを利用し、SNS映えする写真を撮って楽しむ、そんな「体験的宿泊」が目立ったという」、手堅くなったようだ。 「ゴールデンウイーク)に国内旅行に出かけた人の数は延べ8.26億人と、コロナ前の2019年よりも4.1%増大した。 ただし、観光関連売り上げの伸びは2019年同期比でわずか1.5%増と、観光客の延べ人数が増えた割には大きな増収には至らなかった。 その原因の一つは、旅行といっても短距離や短期間だった人が多かったから・・・これまでのように懐具合に任せて大盤振る舞いを楽しむ旅ではなく、コストを抑えてつつましく旅を味わう人が増えたことが挙げられる。 ふるまいよしこ氏による「中国人客が大型連休にこっそり日本観光 「二枚舌生活」「見えない旅」の理由とは?」 「筆者は「団体旅行が解禁されても、中国人旅行客はそうそう増えない。“爆買い”も復活しない」と予想している・・・福島第一原発の処理水の海洋放出で、中国では今日本に対する批判が高まっている・・・日本への団体旅行者は急増どころか、激減する可能性さえある」、インバウンドでは「中国」には、残念ながら殆ど期待できないようだ。 「「今は若者の行動が非常に慎重になっている。今回のメンバーは優秀な人ばかりだが、それでも、いつクビになるのかと将来に対して不安を抱えている。大学を出ても仕事が見つけられないし、すでに働いている人達も就職や再就職の競争が熾烈・・・こんな状況だから、みんなお金を使うことを躊躇・・・しているんだ」、なるほど。 「娘さんは家賃20数万円の都内高層マンションで一人暮らし、さらに、親から毎月約40万円の仕送りをもらっていた・・・何も不自由のない、リッチな生活をしていた彼女だが、今秋からは一変する。安いアパートに引っ越し、生活費を大幅に削られることになった。なぜなら、父親が20年以上経営していたリフォーム会社が、中国の不動産産業の低迷を受けて倒産の手続きに入ったからだ。「お父さんのせいで、これからの生活水準が下がることになる、ごめんね」という親子の会話を横で聞いて、寂しい気持ちになった」、なるほど。 そんな「二重生活」あるいは「二枚舌生活」は、中国で生きるためのすべになってしまった。 反日キャンペーンの中で日本旅行を選んだ人たちの中には、リピーターも多くいたという。そんな彼らが次回は堂々とまた遊びに来られるよう、期待したいものである」、「流せない話題」があるとは「中国」とは全く変な国だ。付き合いも高度なテクニックが必要なようだ。 「実際に自分の旅ブログに東京の旅について書き込んだブロガーが、激しい非難コメントにさらされるケースも起きており、彼らはあえて「見えない旅」を楽しんだようである。 SNS全盛時代、自分の楽しい旅の様子をSNSにアップできないのはちょっと残念だが、コロナ以降、すでに多くの人たちが「流せない話題」にすっかり慣れきっている。あえて喧伝(けんでん)しないことで、静かで誰にも知られない旅をじっくり楽しむことができる。 「この反日キャンペーンはその後も、「環球時報」と「北京日報」の記事につられたようにぽろぽろとブログ記事が出ていたが、最終的には国慶節休暇終了とともに終息したらしかった」、なるほど。 する中国語記事を発見した。確かにその通りで、1機約600席と仮定しても連休中に3万便以上が飛来する必要がある。たとえ連休を最大の15日間に延長して計算しても、さすがに無理な数字であろう」、なるほど。
マイナンバー制度(その7)(厚労省試算「保険証廃止で100億円浮く」は医療給付全体の0.023%…コスト削減効果ショボすぎ、大阪万博とマイナカード、「迷走」する2つの事業の共通点...「時代遅れ」な発想と決別せよ、マイナ保険証のすさまじい嫌われぶり…全国利用率が5%割れ目前 今後どこまで下がるのか、トラブル続出のマイナ保険証…「それでも」使ったほうが医療費はお得になる!) [経済政策]
マイナンバー制度については、本年8月28日に取上げた。今日は、(その7)(厚労省試算「保険証廃止で100億円浮く」は医療給付全体の0.023%…コスト削減効果ショボすぎ、大阪万博とマイナカード、「迷走」する2つの事業の共通点...「時代遅れ」な発想と決別せよ、マイナ保険証のすさまじい嫌われぶり…全国利用率が5%割れ目前 今後どこまで下がるのか、トラブル続出のマイナ保険証…「それでも」使ったほうが医療費はお得になる!)である。
先ずは、8月29日付け日刊ゲンダイ「厚労省試算「保険証廃止で100億円浮く」は医療給付全体の0.023%…コスト削減効果ショボすぎ」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/328194
・『「メリットが乏しい」──。来秋に予定されている現行の保険証の廃止について、厚労省が出したコスト削減試算に医療関係者から「物言い」がついている。 厚労省は保険証廃止に伴うコスト削減について、①マイナ保険証の利用登録率が現状より進む場合と、②利用登録率が現状のままの場合の2パターンに分けて試算。利用登録率が65~70%に達するとした①では削減額が100億~108億円、利用登録率が現状の52%のままとした②では同76億~82億円──とはじき出した。24日の社会保障審議会医療保険部会で示した。 一見すると、保険証廃止によるコスト削減のメリットが大きいように見えるが、実はそうでもない。全国保険医団体連合会(保団連)は25日、厚労省の試算について検証。次のように指摘している。 〈2021年度概算医療費は44兆2000億円となる。資格確認書等を発行・交付した場合の厚労省試算に基づく削減額(約100億円)は、医療給付全体のわずか0.023%に過ぎない〉 岸田首相は今月4日の総理会見で、マイナ保険証を普及させるメリットについて「従来の健康保険証に比べ、発行コストあるいは保険者の事務負担は減少する。これは当然のことだと思っています」と胸を張っていたが、医療費全体からしてみればコスト減は極めて小さいのだ。さらに保団連は、厚労省が推計している現行の保険証発行にかかるコスト235億円を引き合いに出し、〈医療給付全体だとわずか0.053%に過ぎない〉と指摘。〈健康保険証の発行・交付は万一のケガや病気の際にもいつでもどこでも医療が受けられる大前提となる経費であり、保険証廃止で経費削減になったとしても医療給付が滞る事態を招くことは本末転倒である〉と喝破している』、「2021年度概算医療費は44兆2000億円となる。資格確認書等を発行・交付した場合の厚労省試算に基づく削減額(約100億円)は、医療給付全体のわずか0.023%に過ぎない」、「健康保険証の発行・交付は万一のケガや病気の際にもいつでもどこでも医療が受けられる大前提となる経費であり、保険証廃止で経費削減になったとしても医療給付が滞る事態を招くことは本末転倒である」、その通りだ。
・『国民皆保険制度が揺らぐ事態 保団連の竹田智雄副会長(竹田クリニック院長)がこう言う。 「極めて粗い試算とのことですが、それにしても、保険証廃止によるコスト減は微々たるものです。さらに言えば、マイナ保険証を持たない人に交付される資格確認書について、保険者側が被るシステム管理や人手などのコスト増は考慮されていません。そもそも、国民皆保険制度において、誰もが安心して保険証1枚で保険診療を受けられる環境を維持することは発行コストも含めて必要経費です。コストが減ればいいというものではないし、マイナ保険証への移行に伴う無保険者の続出やひも付けの誤りなどの懸念といったデメリットの方が大きい。国民皆保険制度が揺らぐ事態です。やはり、保険証廃止は撤回してほしい」) 「せめて紙の保険証と併用するべき」 政府は保険証廃止の唯一のメリットを「コスト減」とうたってきたが、どう考えても削減効果は極めて乏しい。皆保険制度を危機にさらしてまで推し進めるべきではないことは明らかだ。 「マイナ保険証に移行させたいのであれば、せめて紙の保険証と併用するべきです。併用を認めたうえで、マイナ保険証を使うメリットが浸透して利用者が増えてから紙の保険証廃止を検討するのが政策的な筋道でしょう。ひも付け誤りなどのミスを防ぐのは容易ではないからこそ、誤っても大丈夫なシステムを構築した後にマイナ保険証への移行を進めるべきです。マイナ保険証が国民にとって本当にいいものなら、紙の保険証を廃止せずとも、おのずから普及していくはずです」(竹田智雄氏) 使いたい人だけがマイナ保険証を使えるようにすればいいだけの話である。スケジュールありきの保険証廃止が生む混乱は、ムダ以外の何ものでもない』、「マイナ保険証を持たない人に交付される資格確認書について、保険者側が被るシステム管理や人手などのコスト増は考慮されていません。そもそも、国民皆保険制度において、誰もが安心して保険証1枚で保険診療を受けられる環境を維持することは発行コストも含めて必要経費です。コストが減ればいいというものではないし、マイナ保険証への移行に伴う無保険者の続出やひも付けの誤りなどの懸念といったデメリットの方が大きい。国民皆保険制度が揺らぐ事態です。やはり、保険証廃止は撤回してほしい」、「「マイナ保険証に移行させたいのであれば、せめて紙の保険証と併用するべきです。併用を認めたうえで、マイナ保険証を使うメリットが浸透して利用者が増えてから紙の保険証廃止を検討するのが政策的な筋道でしょう。ひも付け誤りなどのミスを防ぐのは容易ではないからこそ、誤っても大丈夫なシステムを構築した後にマイナ保険証への移行を進めるべきです。マイナ保険証が国民にとって本当にいいものなら、紙の保険証を廃止せずとも、おのずから普及していくはずです」。「国民皆保険制度において、誰もが安心して保険証1枚で保険診療を受けられる環境を維持することは発行コストも含めて必要経費です。コストが減ればいいというものではないし、マイナ保険証への移行に伴う無保険者の続出やひも付けの誤りなどの懸念といったデメリットの方が大きい。国民皆保険制度が揺らぐ事態です。やはり、保険証廃止は撤回してほしい」、その通りだ。
次に、8月30日付けNewsweek日本版が掲載した経済評論家の加谷珪一氏による「大阪万博とマイナカード、「迷走」する2つの事業の共通点...「時代遅れ」な発想と決別せよ」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2023/08/post-248_1.php
・『<パビリオン建設が遅れる大阪・関西万博と、保険証との強引な統合に批判が集まるマイナカードには、共通する問題点が> パビリオン建設の大幅な遅れによって大阪万博の開催が危ぶまれている。一方、政府のマイナンバー制度は保険証との一体化をめぐって迷走を続けており着地点が見えない。一見すると無関係な大阪万博とマイナカードの問題に共通しているのは、ハコモノ行政という時代遅れの発想である。 大阪万博は2025年春の開催を目指して準備が進められているが、万博の華と呼ばれ、イベントの目玉となる海外パビリオンの建設が進んでいない。海外パビリオンのうち建設事業者が決定したのは6件しかなく、8月14日時点で建設申請が出されたのは2件のみである。 共同館方式など他のパビリオン建設は進んでいるものの、海外勢による独自パビリオンがなければ万博はもはや意味をなさず、一部からはスケジュールの延期を促す声すら上がっている状況だ。 これはプロジェクト管理という方法論の問題だが、大阪万博については当初から開催そのものの意義を問う声も上がっていた。近年、グローバルな企業社会の在り方が大きく変容しており、巨大な展示会を開催し、ハコモノを通じて人やお金を集める手法は完全に時代遅れとなっている。 以前は民間にもたくさんの大型国際展示会があったが、多くが廃止や規模の縮小を余儀なくされており、民間経済においてはもはやメジャーなスタイルではなくなった。今回の万博も、開催について日本と争ったのがロシアとアゼルバイジャンだったことを考えれば、万博の立ち位置がよく理解できるだろう』、「近年、グローバルな企業社会の在り方が大きく変容しており、巨大な展示会を開催し、ハコモノを通じて人やお金を集める手法は完全に時代遅れとなっている。 以前は民間にもたくさんの大型国際展示会があったが、多くが廃止や規模の縮小を余儀なくされており、民間経済においてはもはやメジャーなスタイルではなくなった。今回の万博も、開催について日本と争ったのがロシアとアゼルバイジャンだったことを考えれば、万博の立ち位置がよく理解できるだろう」、「開催について日本と争ったのがロシアとアゼルバイジャンだった」、というのは意味深だ。
・『昭和を彷彿とさせる「ハコモノ行政」の象徴 つまり万博は昭和を彷彿とさせる「ハコモノ行政」の象徴ということになるわけだが、この話は、政治的に大問題となっているマイナンバー制度にも当てはまる。 マイナンバー制度については、政府が保険証との統合を強引に進めたことから批判が殺到している。十分な準備を行わないままシステムの連携を実施したこともあり、あちこちで深刻なトラブルが発生している。 一部からはスケジュールの見直しや制度の抜本的な見直しを求める声が出ているが、政府や推進論者はマイナカードをやめてしまうと「日本のデジタル化が遅れる」として強く反発している』、「万博は昭和を彷彿とさせる「ハコモノ行政」の象徴」、はいいとしても、「マイナンバー制度」にも当てはまるとはどういうことだろう。
・『実際には「カード」は必須ではない しかしながら、カードがないと日本のデジタル化が遅れるというのは事実ではなく、むしろその逆である。全国民には既にマイナンバーが振られており、システム連携さえしっかりすれば制度はすぐにスタートできる。本人確認の方法はさまざまなので、カードがなくても何の問題もなくシステムの運用が可能だ。 実際、韓国は日本をはるかに上回るマイナンバー制度を整えているが、韓国人はカードというものは保有していない。自分の名前や住所など必要な情報を窓口で伝え、本人であると確認されれば病院でも区役所でも手続きが自動的に進む。 おそらくだが、制度を設計した日本政府内部の担当者やマイナカード導入を強く主張している論者は、カードという物理的なモノが存在しないと本人確認ができないと考えている可能性が高い。 ハード(ハコモノ)という物理的なものにとらわれ、その上位に来るソフトウエアに思考が及ばないという点では、万博とマイナカードには共通のパターンが見られる。こうしたハコモノ行政の発想から脱却できなければ日本経済の復活は難しいだろう』、「おそらくだが、制度を設計した日本政府内部の担当者やマイナカード導入を強く主張している論者は、カードという物理的なモノが存在しないと本人確認ができないと考えている可能性が高い。ハード(ハコモノ)という物理的なものにとらわれ、その上位に来るソフトウエアに思考が及ばないという点では、万博とマイナカードには共通のパターンが見られる。こうしたハコモノ行政の発想から脱却できなければ日本経済の復活は難しいだろう」、「ハコモノ行政」と、「マイナンバー制度」のつながりがようやく理解できた。
第三に、9月12日付け日刊ゲンダイ「マイナ保険証のすさまじい嫌われぶり…全国利用率が5%割れ目前、今後どこまで下がるのか」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/328924
・『これほど嫌われるカードはいまだかつてあったのだろうか──。相次ぐトラブルで不信や不安が広がるマイナ保険証。医療機関や薬局でほとんど利用されていない実態が判明した。 マイナカード保有者がマイナ保険証の利用登録を申し込めば、7500円分のマイナポイントがもらえる。その付与期限が今月末に迫り、利用登録件数は直近1カ月で約120万件増えた。 ところが、マイナ保険証の利用率はジリ貧だ。厚労省の発表データによると、全国の利用率はオンライン資格確認が義務化された4月に3月の2.3%から6.3%へと跳ね上がった後、5月6.0%、6月5.6%、7月5.0%と3カ月連続で下落している。 いったん、マイナ保険証での受け付けを始めてみたものの、あまりに使い勝手が悪く、利用を避ける医療機関が続出しているということだ』、「全国の利用率は・・・4月に3月の2.3%から6.3%へと跳ね上がった後、5月6.0%、6月5.6%、7月5.0%と3カ月連続で下落」、ここまで低迷が続いているとは問題だ。
・『オンライン資格確認「業務が増えた」92% 埼玉県保険医協会が8月1日から31日にかけて開業医会員に調査(回答292件)を行ったところ、マイナ保険証により受け付け業務が増えたのはナント92%に上った。 〈とにかく手間がかかる〉〈エラー時とてもたいへん。レセプト会社に電話がつながらない〉〈紙カルテに手書きで保険証情報をうつすようになり業務量が増えた〉など切実な声が寄せられた。 「健康保険証を存続すべき」と回答した開業医は、5月調査の85%から96%へと増え、100%に迫っている。埼玉県保険医協会の担当者が言う。 「6月以降、マイナ保険証を巡るトラブルが次々と発覚し、連日、報じられました。5月調査より、一気に医療機関のマイナ離れが進んだ印象です。利用率は支持率のようなもの。利用率5%割れが目前でも、来年秋の保険証廃止を見直さず、マイナ保険証を推進するつもりなのでしょうか」 この先、利用率はさらに下落する可能性もある。 「ポイント付与期間が終われば、マイナ保険証の利用登録は伸びなくなるでしょう。それどころか、今後、利用登録の解除が可能になるため、利用登録数はむしろ減るのではないか。利用率が4%、3%へと低下してもおかしくありません」(医療関係者)』、「埼玉県保険医協会が8月1日から31日にかけて開業医会員に調査(回答292件)を行ったところ、マイナ保険証により受け付け業務が増えたのはナント92%に上った」、「「ポイント付与期間が終われば、マイナ保険証の利用登録は伸びなくなるでしょう。それどころか、今後、利用登録の解除が可能になるため、利用登録数はむしろ減るのではないか。利用率が4%、3%へと低下してもおかしくありません」」、なるほど。
・『厚労省も危機感 7日の立憲民主党のヒアリングで厚労省の担当者は、利用率の低下に危機感を示しつつも、来年秋までの利用率の目標は「設定していない」と答えた。 内閣支持率が5%なら、首相は退陣を余儀なくされるはずだ。利用率5%割れでも、マイナ保険証は居座るつもりなのか』、「内閣支持率が5%なら、首相は退陣を余儀なくされるはずだ。利用率5%割れでも、マイナ保険証は居座るつもりなのか」、どうするのでろう。
第四に、9月16ダイヤモンド・オンラインが掲載したフリーライターの早川幸子氏による「トラブル続出のマイナ保険証…「それでも」使ったほうが医療費はお得になる!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/329181
・『度重なるトラブルが報道されているマイナンバーカードと、それを保険証として使う「マイナ保険証」。既存の保険証が来年廃止となることもあり、政治的な混乱も含み反発を招いているが、実は「それでも」マイナ保険証を使うべき理由がある。連載『医療費の裏ワザと落とし穴』の第266回では、非難ごうごうのマイナ保険証を使うメリットと、万一トラブルになったときにも慌てない対処法を取り上げる』、興味深そうだ。
・『医療費を考えるとやはりマイナ保険証を使うほうがおトクになる理由 マイナ保険証に関する数々のトラブルが報告されている。 これまでに報告されているトラブル内容は、カードや読み取り機械の不具合で資格確認ができなかったり、自己負担割合が間違っていたりしたというものだ。また、別の人の情報がひも付けされていたというケースもあった。 トラブルに見舞われた人のなかには、その場では公的な医療保険(健康保険)が適用してもらえず、いったん医療費の全額(10割)を請求されたという人もいるようだ。 こうした話を見聞きすると、「使っても大丈夫なのだろうか?」とマイナ保険証に不信感を抱く人が出てくるのも当然だろう。とりあえず登録はしたものの、利用するのをちゅうちょしている人もいるのではないだろうか。 だが、少しでも節約したいなら、健康保険証ではなくマイナ保険証を使ったほうが医療費はお得になる。また、トラブルが明らかになったことで、マイナ保険証で資格確認ができなかった場合でも、健康保険の適用が受けられるようにする対応策も講じられてきている。 そこで、今回はトラブルにあったときの注意点とともに、マイナ保険証をお得に使うための方法を考えてみたい。 +基準を満たした病院では、健康保険証を利用するよりも、初診時は40円、再診時は20円安くなる +マイナ保険証カードリーダーの画面で「薬剤情報・特定健診情報」についての質問に、「同意する」と答える必要がある +不具合で資格確認ができなかった場合は、「被保険者資格申立書」に記入して、医療機関の窓口に提出すればOK。スマホのマイナポータルサイトの資格情報画面や健康保険証での確認も可能)』、「少しでも節約したいなら、健康保険証ではなくマイナ保険証を使ったほうが医療費はお得になる。また、トラブルが明らかになったことで、マイナ保険証で資格確認ができなかった場合でも、健康保険の適用が受けられるようにする対応策も講じられてきている」、 「そこで、今回はトラブルにあったときの注意点とともに、マイナ保険証をお得に使うための方法を考えてみたい」、なるほど。
・『マイナ保険証の利用登録増加ともに明らかになったトラブルの数々 マイナ保険証は、マイナンバーカードの個人認証機能を使って、加入先の健康保険組合や自己負担割合などの資格情報を確認するというものだ。 コロナ禍では、病院や診療所などの医療機関と保健所をつなぐネットワークの混乱ぶりが露呈したが、その原因のひとつが医療分野のICT化の立ち遅れだ。そのため、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)によって業務効率を引き上げ、安心・安全で質の高い医療を提供していくために、2021年10月から本格的にマイナ保険証が導入されることになった。 ただし、当時はまだ、マイナンバーカードを持っている人は人口の半分以下で、マイナ保険証の登録率も低迷していた。 デジタル庁の「マイナンバーカードの普及に関するダッシュボード」のデータテーブル(2023年9月8日更新)によると、2022年4月3日時点でのマイナンバーカードの累計交付枚数は約5489万枚で、人口に対する交付率は約43.3%。このうち、マイナ保険証の利用登録を行った人は約811万人で、カード取得者の14.8%しか登録を行っていなかった。 そのため、2022年4月にマイナ保険証で行われた健康保険の資格確認件数は、約19万件しかなかった(厚生労働省保険局「マイナンバーカードと健康保険証の一体化について」)。 だが、その後、マイナポイントの付与など、カード普及のための国を挙げたキャンペーンによって、マイナンバーカードの取得や健康保険証としての利用登録をする人が急増。2023年7月2日時点の累計交付枚数は約9309万枚(人口の約73.9%)で、6470万人(カード取得者の69.5%)がマイナ保険証を登録するに至っている。 カードの普及に伴い、マイナ保険証による健康保険の資格確認件数も781万件(2023年7月)まで増加したが、同時に報告されるようになったのが冒頭のようなトラブルだ。 マイナンバーカードを健康保険証として利用するための登録をしたときに、誤って他人の情報がひも付けされ、医療機関でマイナ保険証を使おうと思っても、資格情報の確認ができない事例が報告されるようになる。国の「マイナンバー情報総点検本部」の会議資料によると、マイナ保険証が本格導入された2021年10月から、2023年7月末までに判明した誤登録件数は8441件で、そのうち15件は他人に情報を閲覧された跡が残っていたという。 このほかに、全国保険医団体連合会(保団連)の「マイナ保険証による医療現場のトラブル調査・最終集計(6月16日集計)」によると、調査に回答した65%の医療機関が何らかのトラブルを経験している。 たとえば、カードを差し込んでも「無効・該当資格なし」とカードリーダーに表示されたり、マイナンバーカードやカードリーダーの不具合など、何らかの理由で情報を読み取ることができなかったりして、マイナ保険証で資格情報の確認ができないというトラブルだ。 資格確認ができないため、無保険扱いとなり、いったん医療費の全額(10割)を請求された人もいるようだ。70歳以上の人は、間違った自己負担割合が登録されていたケースもあったという。) 機械の操作方法が分からなかったり、本人確認のための顔認証ができなかったりする患者への対応で、事務の負担が増えている病院や診療所もある。国は、2024年秋をめどに、従来型の健康保険証を廃止することを予定しているが、医療現場からは存続を求める声も上がっている。 こうしたトラブルが起こることを想定せず、事前策を考えていなかった政府には猛省が求められる。だが、マイナ保険証を利用した人すべてがトラブルになっているわけではない。問題なく資格確認ができて、通常通りの自己負担で、必要な医療を受けられている人も多い。 なにより、健康保険証で受診するより、マイナ保険証を利用したほうが、医療費は安くなるのだから、使える人が使わないのはもったいない』、「トラブルが起こることを想定せず、事前策を考えていなかった政府には猛省が求められる」、「健康保険証で受診するより、マイナ保険証を利用したほうが、医療費は安くなるのだから、使える人が使わないのはもったいない」、なるほど。
・『マイナ保険証のほうが健康保険証より 初診時は40円、再診時は20円安くなる 医療分野のデジタル化を推進するために、現在、オンラインで資格情報の確認や医療費の請求ができる体制を整えた医療機関に対しては、通常よりも高い診療報酬が支払われる措置が取られている。 その報酬が、「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」と呼ばれるもので、2023年4月~12月までは、患者が支払う医療費にも次のような影響が出る。 その病気で初めて医療機関を受診したときの初診料は、マイナ保険証の場合は20円(3割負担で6円)、健康保険証の場合は60円(3割負担で18円)。再診時は、マイナ保険証を利用すると上乗せの加算はないが、健康保険証で受診した場合は20円(3割負担で6円)がプラスされる(加算されるのは、いずれも月1回)。 つまり、マイナ保険証を利用したほうが、健康保険証を利用するよりも、初診時は40円(3割負担で12円)、再診時は20円(3割負担で6円)安くなるというわけだ。 この加算が付くのは、次の3つの施設基準を満たしている医療機関だ。 (1)オンライン請求を行っている、または2023年12月31日までに、オンライン請求を開始することを国に届け出ている (2)マイナ保険証のカードリーダー設置などオンライン資格確認を行う体制を整えている (3)オンライン資格確認ができることを、院内の見やすい場所(受付など)やホームページ等に掲示している この施設基準を満たしておらず、マイナ保険証による資格確認をできる体制が整っていない医療機関は、そもそも加算が付かない。実のところ、そうした医療機関を利用するのが、医療費は一番安い。だが、厚生労働省の「オンライン資格確認の都道府県別導入状況について」によると、2023年9月3日現在、病院の93.6%、診療所の81.5%が運用を開始している。 ほとんどの医療機関が3つの施設基準を満たしているため、従来の健康保険証を使うと医療費は高くなるケースのほうが多くなる。少しでも医療費を節約したいなら、マイナ保険証を利用したほうがお得になるのだ。 ただし、注意しなければならないのは、単にマイナ保険証で資格確認をしただけでは医療費は安くならないという点だ』、「ほとんどの医療機関が3つの施設基準を満たしているため、従来の健康保険証を使うと医療費は高くなるケースのほうが多くなる。少しでも医療費を節約したいなら、マイナ保険証を利用したほうがお得になるのだ。、なるほど。
・『マイナ保険証で資格確認ができないときは「被保険者資格申立書」で対応できる 医療費が安くなるのは、マイナ保険証で資格確認した上で、他の医療機関の紹介状を持参するか、診療情報提供に同意した場合だ。 診療情報提供への同意は、マイナ保険証で資格確認をするときに、カードリーダーの画面に出てくる「薬剤情報・特定健診情報」についての質問に、「同意する」と答えることで完了する。医療費を安くしたい人は覚えておこう。 マイナンバーカードの保有や、マイナ保険証の登録は強制ではない。持つかどうかは、それぞれの人が自由に決めればいいことだ。 政府は、2024年秋をめどに、従来型の健康保険証を廃止する方針は変更しておらず、カードを保有していない人や、マイナ保険証の利用登録をしていない人に対しては、健康保険証に代わるものとして「資格確認書」が交付されることになっている。 当初、資格確認書は、本人の申請によって交付することになっていた。だが、マイナンバーカードの問題点を総点検するなかで、本人からの申請がなくても、マイナ保険証の未登録者には自動交付することになった。有効期間は5年以内で、それぞれの健康保険組合が発行する。 マイナ保険証の利用登録をしていなくても、健康保険の適用は受けられるし、医療機関の窓口では年齢や所得に応じて1~3割を負担すればよいというのは変わらない。 だが、前述のように、医療費の面ではマイナ保険証を使ったほうがお得になるのは間違いない。また、トラブルに遭った場合も、通常通りの自己負担額(年齢や所得に応じて1~3割)で、医療を受けられるようにする対応策も取られるようになってきている。 きちんと健康保険に加入し、マイナ保険証の利用登録をしているにもかかわらず、何らかの不具合で資格確認ができなかった場合は、「被保険者資格申立書」に、健康保険組合の名称、自己負担割合などを記入して、医療機関の窓口に提出すれば、通常通りに保険診療を受けることができる。 とはいえ、マイナ保険証のトラブルに遭ったときに、いちいち申立書を記入するのは少々面倒だ。申立書のほかに、(1)スマートフォンで、マイナポータルサイトの資格情報画面を確認する、(2)健康保険証で確認する、という2つの方法でも、資格確認はできる。 医療費を節約したいなら、原則的にはマイナ保険証で受診し、万一のトラブルに備えて、当面の間は健康保険証も持参するというのがよさそうだ』、「医療費を節約したいなら、原則的にはマイナ保険証で受診し、万一のトラブルに備えて、当面の間は健康保険証も持参するというのがよさそうだ」、なるほど。
・『健康保険も施行当初はトラブルだらけ 廃止を求めるストライキも勃発した 新しいシステムが始まるときは、思いもかけないトラブルが起こるものだ。今でこそ、日本の医療制度の根幹となっている健康保険も、順風満帆の船出だったわけではない。 1927(昭和2)年1月1日に、健康保険法が施行された約2カ月後。健康保険料の納付を巡り、想定外の出来事が起こっていた。健康保険料を納めるために、1000人近い健康保険の経理担当者が日本銀行に押し寄せ、銀行業務に支障をきたしたことを、『東京朝日新聞』(1927年3月5日付)が報じている。その様子は、「日銀前の広庭はまるで浅草仲見世の様な騒ぎ」だったそうだ。 健康保険法施行後の各界の評判は、不平不満だらけで、全国各地の労働組合は「健康保険法反対ストライキ」を起こした。保険料負担の方法を巡り、労使はかみ合わない主張を繰り返し、制度の廃止論まで出る始末だった。 だが、健康保険は小幅な改革を繰り返しながら、100年たった今では、この国で暮らす人々にとって、なくてはならない制度に成長している。もしも、施行当初に「トラブルがあるから、やめてしまえ」と健康保険を廃止していたら、だれもが少ない負担で必要な医療を受けられる今の日本は存在せず、さらに大きな格差社会となっていたはずだ。 マイナ保険証による資格確認は、始まったばかりのシステムだ。医療分野でのデジタル化が進んで、診療情報を一元的に管理できるようになれば、服用する医薬品の重複や、無駄な検査をなくすことができて、患者の負担は、身体的にも、経済的にも抑えられるようになるだろう。 マイナ保険証は、膨張し続ける国民医療費を抑え、質の高い医療を提供するためのシステムに成長する可能性を秘めている。せっかく、莫大な予算を投入して始めた制度だ。一部の人から、マイナ保険証の廃止論も出ているが、慌てて答えを出さず、もう少し、制度の行方を見守ってもいいのではないだろうか』、「健康保険法施行後の各界の評判は、不平不満だらけで、全国各地の労働組合は「健康保険法反対ストライキ」を起こした。保険料負担の方法を巡り、労使はかみ合わない主張を繰り返し、制度の廃止論まで出る始末だった。 だが、健康保険は小幅な改革を繰り返しながら、100年たった今では、この国で暮らす人々にとって、なくてはならない制度に成長している。もしも、施行当初に「トラブルがあるから、やめてしまえ」と健康保険を廃止していたら、だれもが少ない負担で必要な医療を受けられる今の日本は存在せず、さらに大きな格差社会となっていたはずだ」、現在の「健康保険法施行後」も「制度の廃止論まで出る始末だった」、というのは初めて知った。「せっかく、莫大な予算を投入して始めた制度だ。一部の人から、マイナ保険証の廃止論も出ているが、慌てて答えを出さず、もう少し、制度の行方を見守ってもいいのではないだろうか」、同感である。
先ずは、8月29日付け日刊ゲンダイ「厚労省試算「保険証廃止で100億円浮く」は医療給付全体の0.023%…コスト削減効果ショボすぎ」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/328194
・『「メリットが乏しい」──。来秋に予定されている現行の保険証の廃止について、厚労省が出したコスト削減試算に医療関係者から「物言い」がついている。 厚労省は保険証廃止に伴うコスト削減について、①マイナ保険証の利用登録率が現状より進む場合と、②利用登録率が現状のままの場合の2パターンに分けて試算。利用登録率が65~70%に達するとした①では削減額が100億~108億円、利用登録率が現状の52%のままとした②では同76億~82億円──とはじき出した。24日の社会保障審議会医療保険部会で示した。 一見すると、保険証廃止によるコスト削減のメリットが大きいように見えるが、実はそうでもない。全国保険医団体連合会(保団連)は25日、厚労省の試算について検証。次のように指摘している。 〈2021年度概算医療費は44兆2000億円となる。資格確認書等を発行・交付した場合の厚労省試算に基づく削減額(約100億円)は、医療給付全体のわずか0.023%に過ぎない〉 岸田首相は今月4日の総理会見で、マイナ保険証を普及させるメリットについて「従来の健康保険証に比べ、発行コストあるいは保険者の事務負担は減少する。これは当然のことだと思っています」と胸を張っていたが、医療費全体からしてみればコスト減は極めて小さいのだ。さらに保団連は、厚労省が推計している現行の保険証発行にかかるコスト235億円を引き合いに出し、〈医療給付全体だとわずか0.053%に過ぎない〉と指摘。〈健康保険証の発行・交付は万一のケガや病気の際にもいつでもどこでも医療が受けられる大前提となる経費であり、保険証廃止で経費削減になったとしても医療給付が滞る事態を招くことは本末転倒である〉と喝破している』、「2021年度概算医療費は44兆2000億円となる。資格確認書等を発行・交付した場合の厚労省試算に基づく削減額(約100億円)は、医療給付全体のわずか0.023%に過ぎない」、「健康保険証の発行・交付は万一のケガや病気の際にもいつでもどこでも医療が受けられる大前提となる経費であり、保険証廃止で経費削減になったとしても医療給付が滞る事態を招くことは本末転倒である」、その通りだ。
・『国民皆保険制度が揺らぐ事態 保団連の竹田智雄副会長(竹田クリニック院長)がこう言う。 「極めて粗い試算とのことですが、それにしても、保険証廃止によるコスト減は微々たるものです。さらに言えば、マイナ保険証を持たない人に交付される資格確認書について、保険者側が被るシステム管理や人手などのコスト増は考慮されていません。そもそも、国民皆保険制度において、誰もが安心して保険証1枚で保険診療を受けられる環境を維持することは発行コストも含めて必要経費です。コストが減ればいいというものではないし、マイナ保険証への移行に伴う無保険者の続出やひも付けの誤りなどの懸念といったデメリットの方が大きい。国民皆保険制度が揺らぐ事態です。やはり、保険証廃止は撤回してほしい」) 「せめて紙の保険証と併用するべき」 政府は保険証廃止の唯一のメリットを「コスト減」とうたってきたが、どう考えても削減効果は極めて乏しい。皆保険制度を危機にさらしてまで推し進めるべきではないことは明らかだ。 「マイナ保険証に移行させたいのであれば、せめて紙の保険証と併用するべきです。併用を認めたうえで、マイナ保険証を使うメリットが浸透して利用者が増えてから紙の保険証廃止を検討するのが政策的な筋道でしょう。ひも付け誤りなどのミスを防ぐのは容易ではないからこそ、誤っても大丈夫なシステムを構築した後にマイナ保険証への移行を進めるべきです。マイナ保険証が国民にとって本当にいいものなら、紙の保険証を廃止せずとも、おのずから普及していくはずです」(竹田智雄氏) 使いたい人だけがマイナ保険証を使えるようにすればいいだけの話である。スケジュールありきの保険証廃止が生む混乱は、ムダ以外の何ものでもない』、「マイナ保険証を持たない人に交付される資格確認書について、保険者側が被るシステム管理や人手などのコスト増は考慮されていません。そもそも、国民皆保険制度において、誰もが安心して保険証1枚で保険診療を受けられる環境を維持することは発行コストも含めて必要経費です。コストが減ればいいというものではないし、マイナ保険証への移行に伴う無保険者の続出やひも付けの誤りなどの懸念といったデメリットの方が大きい。国民皆保険制度が揺らぐ事態です。やはり、保険証廃止は撤回してほしい」、「「マイナ保険証に移行させたいのであれば、せめて紙の保険証と併用するべきです。併用を認めたうえで、マイナ保険証を使うメリットが浸透して利用者が増えてから紙の保険証廃止を検討するのが政策的な筋道でしょう。ひも付け誤りなどのミスを防ぐのは容易ではないからこそ、誤っても大丈夫なシステムを構築した後にマイナ保険証への移行を進めるべきです。マイナ保険証が国民にとって本当にいいものなら、紙の保険証を廃止せずとも、おのずから普及していくはずです」。「国民皆保険制度において、誰もが安心して保険証1枚で保険診療を受けられる環境を維持することは発行コストも含めて必要経費です。コストが減ればいいというものではないし、マイナ保険証への移行に伴う無保険者の続出やひも付けの誤りなどの懸念といったデメリットの方が大きい。国民皆保険制度が揺らぐ事態です。やはり、保険証廃止は撤回してほしい」、その通りだ。
次に、8月30日付けNewsweek日本版が掲載した経済評論家の加谷珪一氏による「大阪万博とマイナカード、「迷走」する2つの事業の共通点...「時代遅れ」な発想と決別せよ」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2023/08/post-248_1.php
・『<パビリオン建設が遅れる大阪・関西万博と、保険証との強引な統合に批判が集まるマイナカードには、共通する問題点が> パビリオン建設の大幅な遅れによって大阪万博の開催が危ぶまれている。一方、政府のマイナンバー制度は保険証との一体化をめぐって迷走を続けており着地点が見えない。一見すると無関係な大阪万博とマイナカードの問題に共通しているのは、ハコモノ行政という時代遅れの発想である。 大阪万博は2025年春の開催を目指して準備が進められているが、万博の華と呼ばれ、イベントの目玉となる海外パビリオンの建設が進んでいない。海外パビリオンのうち建設事業者が決定したのは6件しかなく、8月14日時点で建設申請が出されたのは2件のみである。 共同館方式など他のパビリオン建設は進んでいるものの、海外勢による独自パビリオンがなければ万博はもはや意味をなさず、一部からはスケジュールの延期を促す声すら上がっている状況だ。 これはプロジェクト管理という方法論の問題だが、大阪万博については当初から開催そのものの意義を問う声も上がっていた。近年、グローバルな企業社会の在り方が大きく変容しており、巨大な展示会を開催し、ハコモノを通じて人やお金を集める手法は完全に時代遅れとなっている。 以前は民間にもたくさんの大型国際展示会があったが、多くが廃止や規模の縮小を余儀なくされており、民間経済においてはもはやメジャーなスタイルではなくなった。今回の万博も、開催について日本と争ったのがロシアとアゼルバイジャンだったことを考えれば、万博の立ち位置がよく理解できるだろう』、「近年、グローバルな企業社会の在り方が大きく変容しており、巨大な展示会を開催し、ハコモノを通じて人やお金を集める手法は完全に時代遅れとなっている。 以前は民間にもたくさんの大型国際展示会があったが、多くが廃止や規模の縮小を余儀なくされており、民間経済においてはもはやメジャーなスタイルではなくなった。今回の万博も、開催について日本と争ったのがロシアとアゼルバイジャンだったことを考えれば、万博の立ち位置がよく理解できるだろう」、「開催について日本と争ったのがロシアとアゼルバイジャンだった」、というのは意味深だ。
・『昭和を彷彿とさせる「ハコモノ行政」の象徴 つまり万博は昭和を彷彿とさせる「ハコモノ行政」の象徴ということになるわけだが、この話は、政治的に大問題となっているマイナンバー制度にも当てはまる。 マイナンバー制度については、政府が保険証との統合を強引に進めたことから批判が殺到している。十分な準備を行わないままシステムの連携を実施したこともあり、あちこちで深刻なトラブルが発生している。 一部からはスケジュールの見直しや制度の抜本的な見直しを求める声が出ているが、政府や推進論者はマイナカードをやめてしまうと「日本のデジタル化が遅れる」として強く反発している』、「万博は昭和を彷彿とさせる「ハコモノ行政」の象徴」、はいいとしても、「マイナンバー制度」にも当てはまるとはどういうことだろう。
・『実際には「カード」は必須ではない しかしながら、カードがないと日本のデジタル化が遅れるというのは事実ではなく、むしろその逆である。全国民には既にマイナンバーが振られており、システム連携さえしっかりすれば制度はすぐにスタートできる。本人確認の方法はさまざまなので、カードがなくても何の問題もなくシステムの運用が可能だ。 実際、韓国は日本をはるかに上回るマイナンバー制度を整えているが、韓国人はカードというものは保有していない。自分の名前や住所など必要な情報を窓口で伝え、本人であると確認されれば病院でも区役所でも手続きが自動的に進む。 おそらくだが、制度を設計した日本政府内部の担当者やマイナカード導入を強く主張している論者は、カードという物理的なモノが存在しないと本人確認ができないと考えている可能性が高い。 ハード(ハコモノ)という物理的なものにとらわれ、その上位に来るソフトウエアに思考が及ばないという点では、万博とマイナカードには共通のパターンが見られる。こうしたハコモノ行政の発想から脱却できなければ日本経済の復活は難しいだろう』、「おそらくだが、制度を設計した日本政府内部の担当者やマイナカード導入を強く主張している論者は、カードという物理的なモノが存在しないと本人確認ができないと考えている可能性が高い。ハード(ハコモノ)という物理的なものにとらわれ、その上位に来るソフトウエアに思考が及ばないという点では、万博とマイナカードには共通のパターンが見られる。こうしたハコモノ行政の発想から脱却できなければ日本経済の復活は難しいだろう」、「ハコモノ行政」と、「マイナンバー制度」のつながりがようやく理解できた。
第三に、9月12日付け日刊ゲンダイ「マイナ保険証のすさまじい嫌われぶり…全国利用率が5%割れ目前、今後どこまで下がるのか」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/328924
・『これほど嫌われるカードはいまだかつてあったのだろうか──。相次ぐトラブルで不信や不安が広がるマイナ保険証。医療機関や薬局でほとんど利用されていない実態が判明した。 マイナカード保有者がマイナ保険証の利用登録を申し込めば、7500円分のマイナポイントがもらえる。その付与期限が今月末に迫り、利用登録件数は直近1カ月で約120万件増えた。 ところが、マイナ保険証の利用率はジリ貧だ。厚労省の発表データによると、全国の利用率はオンライン資格確認が義務化された4月に3月の2.3%から6.3%へと跳ね上がった後、5月6.0%、6月5.6%、7月5.0%と3カ月連続で下落している。 いったん、マイナ保険証での受け付けを始めてみたものの、あまりに使い勝手が悪く、利用を避ける医療機関が続出しているということだ』、「全国の利用率は・・・4月に3月の2.3%から6.3%へと跳ね上がった後、5月6.0%、6月5.6%、7月5.0%と3カ月連続で下落」、ここまで低迷が続いているとは問題だ。
・『オンライン資格確認「業務が増えた」92% 埼玉県保険医協会が8月1日から31日にかけて開業医会員に調査(回答292件)を行ったところ、マイナ保険証により受け付け業務が増えたのはナント92%に上った。 〈とにかく手間がかかる〉〈エラー時とてもたいへん。レセプト会社に電話がつながらない〉〈紙カルテに手書きで保険証情報をうつすようになり業務量が増えた〉など切実な声が寄せられた。 「健康保険証を存続すべき」と回答した開業医は、5月調査の85%から96%へと増え、100%に迫っている。埼玉県保険医協会の担当者が言う。 「6月以降、マイナ保険証を巡るトラブルが次々と発覚し、連日、報じられました。5月調査より、一気に医療機関のマイナ離れが進んだ印象です。利用率は支持率のようなもの。利用率5%割れが目前でも、来年秋の保険証廃止を見直さず、マイナ保険証を推進するつもりなのでしょうか」 この先、利用率はさらに下落する可能性もある。 「ポイント付与期間が終われば、マイナ保険証の利用登録は伸びなくなるでしょう。それどころか、今後、利用登録の解除が可能になるため、利用登録数はむしろ減るのではないか。利用率が4%、3%へと低下してもおかしくありません」(医療関係者)』、「埼玉県保険医協会が8月1日から31日にかけて開業医会員に調査(回答292件)を行ったところ、マイナ保険証により受け付け業務が増えたのはナント92%に上った」、「「ポイント付与期間が終われば、マイナ保険証の利用登録は伸びなくなるでしょう。それどころか、今後、利用登録の解除が可能になるため、利用登録数はむしろ減るのではないか。利用率が4%、3%へと低下してもおかしくありません」」、なるほど。
・『厚労省も危機感 7日の立憲民主党のヒアリングで厚労省の担当者は、利用率の低下に危機感を示しつつも、来年秋までの利用率の目標は「設定していない」と答えた。 内閣支持率が5%なら、首相は退陣を余儀なくされるはずだ。利用率5%割れでも、マイナ保険証は居座るつもりなのか』、「内閣支持率が5%なら、首相は退陣を余儀なくされるはずだ。利用率5%割れでも、マイナ保険証は居座るつもりなのか」、どうするのでろう。
第四に、9月16ダイヤモンド・オンラインが掲載したフリーライターの早川幸子氏による「トラブル続出のマイナ保険証…「それでも」使ったほうが医療費はお得になる!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/329181
・『度重なるトラブルが報道されているマイナンバーカードと、それを保険証として使う「マイナ保険証」。既存の保険証が来年廃止となることもあり、政治的な混乱も含み反発を招いているが、実は「それでも」マイナ保険証を使うべき理由がある。連載『医療費の裏ワザと落とし穴』の第266回では、非難ごうごうのマイナ保険証を使うメリットと、万一トラブルになったときにも慌てない対処法を取り上げる』、興味深そうだ。
・『医療費を考えるとやはりマイナ保険証を使うほうがおトクになる理由 マイナ保険証に関する数々のトラブルが報告されている。 これまでに報告されているトラブル内容は、カードや読み取り機械の不具合で資格確認ができなかったり、自己負担割合が間違っていたりしたというものだ。また、別の人の情報がひも付けされていたというケースもあった。 トラブルに見舞われた人のなかには、その場では公的な医療保険(健康保険)が適用してもらえず、いったん医療費の全額(10割)を請求されたという人もいるようだ。 こうした話を見聞きすると、「使っても大丈夫なのだろうか?」とマイナ保険証に不信感を抱く人が出てくるのも当然だろう。とりあえず登録はしたものの、利用するのをちゅうちょしている人もいるのではないだろうか。 だが、少しでも節約したいなら、健康保険証ではなくマイナ保険証を使ったほうが医療費はお得になる。また、トラブルが明らかになったことで、マイナ保険証で資格確認ができなかった場合でも、健康保険の適用が受けられるようにする対応策も講じられてきている。 そこで、今回はトラブルにあったときの注意点とともに、マイナ保険証をお得に使うための方法を考えてみたい。 +基準を満たした病院では、健康保険証を利用するよりも、初診時は40円、再診時は20円安くなる +マイナ保険証カードリーダーの画面で「薬剤情報・特定健診情報」についての質問に、「同意する」と答える必要がある +不具合で資格確認ができなかった場合は、「被保険者資格申立書」に記入して、医療機関の窓口に提出すればOK。スマホのマイナポータルサイトの資格情報画面や健康保険証での確認も可能)』、「少しでも節約したいなら、健康保険証ではなくマイナ保険証を使ったほうが医療費はお得になる。また、トラブルが明らかになったことで、マイナ保険証で資格確認ができなかった場合でも、健康保険の適用が受けられるようにする対応策も講じられてきている」、 「そこで、今回はトラブルにあったときの注意点とともに、マイナ保険証をお得に使うための方法を考えてみたい」、なるほど。
・『マイナ保険証の利用登録増加ともに明らかになったトラブルの数々 マイナ保険証は、マイナンバーカードの個人認証機能を使って、加入先の健康保険組合や自己負担割合などの資格情報を確認するというものだ。 コロナ禍では、病院や診療所などの医療機関と保健所をつなぐネットワークの混乱ぶりが露呈したが、その原因のひとつが医療分野のICT化の立ち遅れだ。そのため、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)によって業務効率を引き上げ、安心・安全で質の高い医療を提供していくために、2021年10月から本格的にマイナ保険証が導入されることになった。 ただし、当時はまだ、マイナンバーカードを持っている人は人口の半分以下で、マイナ保険証の登録率も低迷していた。 デジタル庁の「マイナンバーカードの普及に関するダッシュボード」のデータテーブル(2023年9月8日更新)によると、2022年4月3日時点でのマイナンバーカードの累計交付枚数は約5489万枚で、人口に対する交付率は約43.3%。このうち、マイナ保険証の利用登録を行った人は約811万人で、カード取得者の14.8%しか登録を行っていなかった。 そのため、2022年4月にマイナ保険証で行われた健康保険の資格確認件数は、約19万件しかなかった(厚生労働省保険局「マイナンバーカードと健康保険証の一体化について」)。 だが、その後、マイナポイントの付与など、カード普及のための国を挙げたキャンペーンによって、マイナンバーカードの取得や健康保険証としての利用登録をする人が急増。2023年7月2日時点の累計交付枚数は約9309万枚(人口の約73.9%)で、6470万人(カード取得者の69.5%)がマイナ保険証を登録するに至っている。 カードの普及に伴い、マイナ保険証による健康保険の資格確認件数も781万件(2023年7月)まで増加したが、同時に報告されるようになったのが冒頭のようなトラブルだ。 マイナンバーカードを健康保険証として利用するための登録をしたときに、誤って他人の情報がひも付けされ、医療機関でマイナ保険証を使おうと思っても、資格情報の確認ができない事例が報告されるようになる。国の「マイナンバー情報総点検本部」の会議資料によると、マイナ保険証が本格導入された2021年10月から、2023年7月末までに判明した誤登録件数は8441件で、そのうち15件は他人に情報を閲覧された跡が残っていたという。 このほかに、全国保険医団体連合会(保団連)の「マイナ保険証による医療現場のトラブル調査・最終集計(6月16日集計)」によると、調査に回答した65%の医療機関が何らかのトラブルを経験している。 たとえば、カードを差し込んでも「無効・該当資格なし」とカードリーダーに表示されたり、マイナンバーカードやカードリーダーの不具合など、何らかの理由で情報を読み取ることができなかったりして、マイナ保険証で資格情報の確認ができないというトラブルだ。 資格確認ができないため、無保険扱いとなり、いったん医療費の全額(10割)を請求された人もいるようだ。70歳以上の人は、間違った自己負担割合が登録されていたケースもあったという。) 機械の操作方法が分からなかったり、本人確認のための顔認証ができなかったりする患者への対応で、事務の負担が増えている病院や診療所もある。国は、2024年秋をめどに、従来型の健康保険証を廃止することを予定しているが、医療現場からは存続を求める声も上がっている。 こうしたトラブルが起こることを想定せず、事前策を考えていなかった政府には猛省が求められる。だが、マイナ保険証を利用した人すべてがトラブルになっているわけではない。問題なく資格確認ができて、通常通りの自己負担で、必要な医療を受けられている人も多い。 なにより、健康保険証で受診するより、マイナ保険証を利用したほうが、医療費は安くなるのだから、使える人が使わないのはもったいない』、「トラブルが起こることを想定せず、事前策を考えていなかった政府には猛省が求められる」、「健康保険証で受診するより、マイナ保険証を利用したほうが、医療費は安くなるのだから、使える人が使わないのはもったいない」、なるほど。
・『マイナ保険証のほうが健康保険証より 初診時は40円、再診時は20円安くなる 医療分野のデジタル化を推進するために、現在、オンラインで資格情報の確認や医療費の請求ができる体制を整えた医療機関に対しては、通常よりも高い診療報酬が支払われる措置が取られている。 その報酬が、「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」と呼ばれるもので、2023年4月~12月までは、患者が支払う医療費にも次のような影響が出る。 その病気で初めて医療機関を受診したときの初診料は、マイナ保険証の場合は20円(3割負担で6円)、健康保険証の場合は60円(3割負担で18円)。再診時は、マイナ保険証を利用すると上乗せの加算はないが、健康保険証で受診した場合は20円(3割負担で6円)がプラスされる(加算されるのは、いずれも月1回)。 つまり、マイナ保険証を利用したほうが、健康保険証を利用するよりも、初診時は40円(3割負担で12円)、再診時は20円(3割負担で6円)安くなるというわけだ。 この加算が付くのは、次の3つの施設基準を満たしている医療機関だ。 (1)オンライン請求を行っている、または2023年12月31日までに、オンライン請求を開始することを国に届け出ている (2)マイナ保険証のカードリーダー設置などオンライン資格確認を行う体制を整えている (3)オンライン資格確認ができることを、院内の見やすい場所(受付など)やホームページ等に掲示している この施設基準を満たしておらず、マイナ保険証による資格確認をできる体制が整っていない医療機関は、そもそも加算が付かない。実のところ、そうした医療機関を利用するのが、医療費は一番安い。だが、厚生労働省の「オンライン資格確認の都道府県別導入状況について」によると、2023年9月3日現在、病院の93.6%、診療所の81.5%が運用を開始している。 ほとんどの医療機関が3つの施設基準を満たしているため、従来の健康保険証を使うと医療費は高くなるケースのほうが多くなる。少しでも医療費を節約したいなら、マイナ保険証を利用したほうがお得になるのだ。 ただし、注意しなければならないのは、単にマイナ保険証で資格確認をしただけでは医療費は安くならないという点だ』、「ほとんどの医療機関が3つの施設基準を満たしているため、従来の健康保険証を使うと医療費は高くなるケースのほうが多くなる。少しでも医療費を節約したいなら、マイナ保険証を利用したほうがお得になるのだ。、なるほど。
・『マイナ保険証で資格確認ができないときは「被保険者資格申立書」で対応できる 医療費が安くなるのは、マイナ保険証で資格確認した上で、他の医療機関の紹介状を持参するか、診療情報提供に同意した場合だ。 診療情報提供への同意は、マイナ保険証で資格確認をするときに、カードリーダーの画面に出てくる「薬剤情報・特定健診情報」についての質問に、「同意する」と答えることで完了する。医療費を安くしたい人は覚えておこう。 マイナンバーカードの保有や、マイナ保険証の登録は強制ではない。持つかどうかは、それぞれの人が自由に決めればいいことだ。 政府は、2024年秋をめどに、従来型の健康保険証を廃止する方針は変更しておらず、カードを保有していない人や、マイナ保険証の利用登録をしていない人に対しては、健康保険証に代わるものとして「資格確認書」が交付されることになっている。 当初、資格確認書は、本人の申請によって交付することになっていた。だが、マイナンバーカードの問題点を総点検するなかで、本人からの申請がなくても、マイナ保険証の未登録者には自動交付することになった。有効期間は5年以内で、それぞれの健康保険組合が発行する。 マイナ保険証の利用登録をしていなくても、健康保険の適用は受けられるし、医療機関の窓口では年齢や所得に応じて1~3割を負担すればよいというのは変わらない。 だが、前述のように、医療費の面ではマイナ保険証を使ったほうがお得になるのは間違いない。また、トラブルに遭った場合も、通常通りの自己負担額(年齢や所得に応じて1~3割)で、医療を受けられるようにする対応策も取られるようになってきている。 きちんと健康保険に加入し、マイナ保険証の利用登録をしているにもかかわらず、何らかの不具合で資格確認ができなかった場合は、「被保険者資格申立書」に、健康保険組合の名称、自己負担割合などを記入して、医療機関の窓口に提出すれば、通常通りに保険診療を受けることができる。 とはいえ、マイナ保険証のトラブルに遭ったときに、いちいち申立書を記入するのは少々面倒だ。申立書のほかに、(1)スマートフォンで、マイナポータルサイトの資格情報画面を確認する、(2)健康保険証で確認する、という2つの方法でも、資格確認はできる。 医療費を節約したいなら、原則的にはマイナ保険証で受診し、万一のトラブルに備えて、当面の間は健康保険証も持参するというのがよさそうだ』、「医療費を節約したいなら、原則的にはマイナ保険証で受診し、万一のトラブルに備えて、当面の間は健康保険証も持参するというのがよさそうだ」、なるほど。
・『健康保険も施行当初はトラブルだらけ 廃止を求めるストライキも勃発した 新しいシステムが始まるときは、思いもかけないトラブルが起こるものだ。今でこそ、日本の医療制度の根幹となっている健康保険も、順風満帆の船出だったわけではない。 1927(昭和2)年1月1日に、健康保険法が施行された約2カ月後。健康保険料の納付を巡り、想定外の出来事が起こっていた。健康保険料を納めるために、1000人近い健康保険の経理担当者が日本銀行に押し寄せ、銀行業務に支障をきたしたことを、『東京朝日新聞』(1927年3月5日付)が報じている。その様子は、「日銀前の広庭はまるで浅草仲見世の様な騒ぎ」だったそうだ。 健康保険法施行後の各界の評判は、不平不満だらけで、全国各地の労働組合は「健康保険法反対ストライキ」を起こした。保険料負担の方法を巡り、労使はかみ合わない主張を繰り返し、制度の廃止論まで出る始末だった。 だが、健康保険は小幅な改革を繰り返しながら、100年たった今では、この国で暮らす人々にとって、なくてはならない制度に成長している。もしも、施行当初に「トラブルがあるから、やめてしまえ」と健康保険を廃止していたら、だれもが少ない負担で必要な医療を受けられる今の日本は存在せず、さらに大きな格差社会となっていたはずだ。 マイナ保険証による資格確認は、始まったばかりのシステムだ。医療分野でのデジタル化が進んで、診療情報を一元的に管理できるようになれば、服用する医薬品の重複や、無駄な検査をなくすことができて、患者の負担は、身体的にも、経済的にも抑えられるようになるだろう。 マイナ保険証は、膨張し続ける国民医療費を抑え、質の高い医療を提供するためのシステムに成長する可能性を秘めている。せっかく、莫大な予算を投入して始めた制度だ。一部の人から、マイナ保険証の廃止論も出ているが、慌てて答えを出さず、もう少し、制度の行方を見守ってもいいのではないだろうか』、「健康保険法施行後の各界の評判は、不平不満だらけで、全国各地の労働組合は「健康保険法反対ストライキ」を起こした。保険料負担の方法を巡り、労使はかみ合わない主張を繰り返し、制度の廃止論まで出る始末だった。 だが、健康保険は小幅な改革を繰り返しながら、100年たった今では、この国で暮らす人々にとって、なくてはならない制度に成長している。もしも、施行当初に「トラブルがあるから、やめてしまえ」と健康保険を廃止していたら、だれもが少ない負担で必要な医療を受けられる今の日本は存在せず、さらに大きな格差社会となっていたはずだ」、現在の「健康保険法施行後」も「制度の廃止論まで出る始末だった」、というのは初めて知った。「せっかく、莫大な予算を投入して始めた制度だ。一部の人から、マイナ保険証の廃止論も出ているが、慌てて答えを出さず、もう少し、制度の行方を見守ってもいいのではないだろうか」、同感である。
タグ:マイナンバー制度 (その7)(厚労省試算「保険証廃止で100億円浮く」は医療給付全体の0.023%…コスト削減効果ショボすぎ、大阪万博とマイナカード、「迷走」する2つの事業の共通点...「時代遅れ」な発想と決別せよ、マイナ保険証のすさまじい嫌われぶり…全国利用率が5%割れ目前 今後どこまで下がるのか、トラブル続出のマイナ保険証…「それでも」使ったほうが医療費はお得になる!) 日刊ゲンダイ「厚労省試算「保険証廃止で100億円浮く」は医療給付全体の0.023%…コスト削減効果ショボすぎ」 「2021年度概算医療費は44兆2000億円となる。資格確認書等を発行・交付した場合の厚労省試算に基づく削減額(約100億円)は、医療給付全体のわずか0.023%に過ぎない」、「健康保険証の発行・交付は万一のケガや病気の際にもいつでもどこでも医療が受けられる大前提となる経費であり、保険証廃止で経費削減になったとしても医療給付が滞る事態を招くことは本末転倒である」、その通りだ。 「マイナ保険証を持たない人に交付される資格確認書について、保険者側が被るシステム管理や人手などのコスト増は考慮されていません。そもそも、国民皆保険制度において、誰もが安心して保険証1枚で保険診療を受けられる環境を維持することは発行コストも含めて必要経費です。コストが減ればいいというものではないし、マイナ保険証への移行に伴う無保険者の続出やひも付けの誤りなどの懸念といったデメリットの方が大きい。国民皆保険制度が揺らぐ事態です。 やはり、保険証廃止は撤回してほしい」、「「マイナ保険証に移行させたいのであれば、せめて紙の保険証と併用するべきです。併用を認めたうえで、マイナ保険証を使うメリットが浸透して利用者が増えてから紙の保険証廃止を検討するのが政策的な筋道でしょう。ひも付け誤りなどのミスを防ぐのは容易ではないからこそ、誤っても大丈夫なシステムを構築した後にマイナ保険証への移行を進めるべきです。マイナ保険証が国民にとって本当にいいものなら、紙の保険証を廃止せずとも、おのずから普及していくはずです」 「国民皆保険制度において、誰もが安心して保険証1枚で保険診療を受けられる環境を維持することは発行コストも含めて必要経費です。コストが減ればいいというものではないし、マイナ保険証への移行に伴う無保険者の続出やひも付けの誤りなどの懸念といったデメリットの方が大きい。国民皆保険制度が揺らぐ事態です。やはり、保険証廃止は撤回してほしい」、その通りだ。 Newsweek日本版 加谷珪一氏による「大阪万博とマイナカード、「迷走」する2つの事業の共通点...「時代遅れ」な発想と決別せよ」 「近年、グローバルな企業社会の在り方が大きく変容しており、巨大な展示会を開催し、ハコモノを通じて人やお金を集める手法は完全に時代遅れとなっている。 以前は民間にもたくさんの大型国際展示会があったが、多くが廃止や規模の縮小を余儀なくされており、民間経済においてはもはやメジャーなスタイルではなくなった。今回の万博も、開催について日本と争ったのがロシアとアゼルバイジャンだったことを考えれば、万博の立ち位置がよく理解できるだろう」、 「開催について日本と争ったのがロシアとアゼルバイジャンだった」、というのは意味深だ。 「万博は昭和を彷彿とさせる「ハコモノ行政」の象徴」、はいいとしても、「マイナンバー制度」にも当てはまるとはどういうことだろう。 「おそらくだが、制度を設計した日本政府内部の担当者やマイナカード導入を強く主張している論者は、カードという物理的なモノが存在しないと本人確認ができないと考えている可能性が高い。ハード(ハコモノ)という物理的なものにとらわれ、その上位に来るソフトウエアに思考が及ばないという点では、万博とマイナカードには共通のパターンが見られる。こうしたハコモノ行政の発想から脱却できなければ日本経済の復活は難しいだろう」、 「ハコモノ行政」と、「マイナンバー制度」のつながりがようやく理解できた。 日刊ゲンダイ「マイナ保険証のすさまじい嫌われぶり…全国利用率が5%割れ目前、今後どこまで下がるのか」 「全国の利用率は・・・4月に3月の2.3%から6.3%へと跳ね上がった後、5月6.0%、6月5.6%、7月5.0%と3カ月連続で下落」、ここまで低迷が続いているとは問題だ。 「埼玉県保険医協会が8月1日から31日にかけて開業医会員に調査(回答292件)を行ったところ、マイナ保険証により受け付け業務が増えたのはナント92%に上った」、「「ポイント付与期間が終われば、マイナ保険証の利用登録は伸びなくなるでしょう。それどころか、今後、利用登録の解除が可能になるため、利用登録数はむしろ減るのではないか。利用率が4%、3%へと低下してもおかしくありません」」、なるほど。 「内閣支持率が5%なら、首相は退陣を余儀なくされるはずだ。利用率5%割れでも、マイナ保険証は居座るつもりなのか」、どうするのでろう。 ダイヤモンド・オンライン 早川幸子氏による「トラブル続出のマイナ保険証…「それでも」使ったほうが医療費はお得になる!」 「少しでも節約したいなら、健康保険証ではなくマイナ保険証を使ったほうが医療費はお得になる。また、トラブルが明らかになったことで、マイナ保険証で資格確認ができなかった場合でも、健康保険の適用が受けられるようにする対応策も講じられてきている」、 「そこで、今回はトラブルにあったときの注意点とともに、マイナ保険証をお得に使うための方法を考えてみたい」、なるほど。 「トラブルが起こることを想定せず、事前策を考えていなかった政府には猛省が求められる」、「健康保険証で受診するより、マイナ保険証を利用したほうが、医療費は安くなるのだから、使える人が使わないのはもったいない」、なるほど。 「ほとんどの医療機関が3つの施設基準を満たしているため、従来の健康保険証を使うと医療費は高くなるケースのほうが多くなる。少しでも医療費を節約したいなら、マイナ保険証を利用したほうがお得になるのだ。、なるほど。 「医療費を節約したいなら、原則的にはマイナ保険証で受診し、万一のトラブルに備えて、当面の間は健康保険証も持参するというのがよさそうだ」、なるほど。 「健康保険法施行後の各界の評判は、不平不満だらけで、全国各地の労働組合は「健康保険法反対ストライキ」を起こした。保険料負担の方法を巡り、労使はかみ合わない主張を繰り返し、制度の廃止論まで出る始末だった。 だが、健康保険は小幅な改革を繰り返しながら、100年たった今では、この国で暮らす人々にとって、なくてはならない制度に成長している。 もしも、施行当初に「トラブルがあるから、やめてしまえ」と健康保険を廃止していたら、だれもが少ない負担で必要な医療を受けられる今の日本は存在せず、さらに大きな格差社会となっていたはずだ」、現在の「健康保険法施行後」も「制度の廃止論まで出る始末だった」、というのは初めて知った。「せっかく、莫大な予算を投入して始めた制度だ。一部の人から、マイナ保険証の廃止論も出ているが、慌てて答えを出さず、もう少し、制度の行方を見守ってもいいのではないだろうか」、同感である。
統計問題(その3)(建設受注統計で国交省が不正 その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く、政府統計 電子集計進まず 基幹7割で50%未満 不正の温床 データ活用にも壁) [経済政策]
統計問題については、2019年3月3日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その3)(建設受注統計で国交省が不正 その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く、政府統計 電子集計進まず 基幹7割で50%未満 不正の温床 データ活用にも壁)である。なお、タイトルから「不正」は削除した。
先ずは、2021年12月29日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの黒崎 亜弓氏による「建設受注統計で国交省が不正、その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/479789
・『建設業の月々の受注状況を推計し、GDP(国内総生産)算出にも使われる「建設工事受注動態統計」で、国土交通省があきれるばかりの不正を行っていた。遅れて届いた調査票の数字を書き換えて合算し、2013年4月分?2021年3月分は未回答分を平均値で補完したものとの二重計上となっていたのだ。 まず気になるのはGDPへの影響だが、これはあまり大きくはなさそうだ。 建設受注統計の内訳は土木と建築がほぼ半々だが、土木の部分だけが、月々の出来高を推計する建設総合統計に使われ、それがGDPに反映される。土木のうち公共事業の部分は後から財政データで上書きされる。二重計上の影響が残っている民間土木は建設投資の1割程度で年間6兆~7兆円、GDP全体の1%程度だ』、「遅れて届いた調査票の数字を書き換えて合算し、2013年4月分?2021年3月分は未回答分を平均値で補完したものとの二重計上となっていたのだ」、「重計上の影響が残っている民間土木は建設投資の1割程度で年間6兆~7兆円、GDP全体の1%程度だ」、なるほど。
・『ユーザー軽視、何のための統計なのか 建設受注統計そのものの金額は二重計上でどのくらい増えていたのだろうか。 これはわからない。2019年分までは国交省は、都道府県に調査票の数字を消しゴムで消して書き換えさせていたといい、月ごとの数字が失われてしまっているからだ。調査票の元データが失われて復元推計ができない点は、3年前の「毎月勤労統計」(所管は厚生労働省)の問題よりも深刻といえる。 ただ、国交省が会計検査院の指摘を受けた後、自ら合算を行っていた2020年1月分?2021年3月分については、当月に入力した調査票データと、書き換え合算を行ったデータの2つがあり、他の条件をそろえて受注高を算出比較すれば、二重計上のインパクトがわかるはずだ。 2020年1月分?2021年3月分については、参考値との差額として「平均して1月あたり1.2兆円」という数字が国会答弁で出ているが、これは二重計上によって生じた数字ではない。二重計上のとりやめで生じたマイナスと同時に行われた推計方法の変更によるプラスとを合わせた数字だ。) 建設受注統計で国交省は、2021年4月分から二重計上をやめると同時に、調査先を選ぶ母集団となる「建設施工統計調査」で捕捉漏れをカバーする変更を行っている。2020年1月分?2021年3月分の参考値とは、この2つの変更を反映したものだ。金額は捕捉漏れカバーで増え、二重計上をやめたことで減る。これを差し引きすると1.2兆円のプラスというわけだ。 この母集団の捕捉漏れカバーは、カバレッジ(推計が網羅する範囲)を拡大して統計精度を上げるため、つまり、より実態を表す統計にするために行われたものと思われるが、国交省のホームページではきちんと説明がなされておらず、誤解を招いている。 「ユーザーには何が変わったのかわからない。統計は調査方法や推計方法を公開し、推計方法を変えたら『数字の見方に気をつけてください』とアナウンスするのが基本だ。国交省はユーザーを軽視している」。こう指摘するのは、日本銀行で統計畑を歩んだ肥後雅博・東京大学大学院教授だ。総務省の統計委員会担当室に出向していた3年前には、厚労省の毎月勤労統計における不正を明らかにした。 国交省はどう改善すべきなのか、不正続きの公的統計を立て直すにはどうすればいいか、肥後教授に聞いた(Qは聞き手の質問)』、「2019年分までは国交省は、都道府県に調査票の数字を消しゴムで消して書き換えさせていたといい、月ごとの数字が失われてしまっているからだ。調査票の元データが失われて復元推計ができない点は、3年前の「毎月勤労統計」・・・の問題よりも深刻といえる」、確かに信じ難いような酷い話だ。「統計は調査方法や推計方法を公開し、推計方法を変えたら『数字の見方に気をつけてください』とアナウンスするのが基本だ。国交省はユーザーを軽視している」、その通りだ。
・『回答してくれた大事なデータを生かせ Q:国交省は、遅れて届く調査票をどう扱うべきだったのでしょうか。 肥後月次の作業に遅れて届いた前月分の数字は前月分として入力し、前月分の受注高を推計し直して改訂すべきだ。多くの統計は、締め切り時点で推計して速報を出し、1カ月ほど遅れて届いた分については確報段階で反映している。 Q:国交省は2021年4月分からは遅れて届いた調査票を合算せず、「年度報」のタイミングで反映させるとのことですが、それでは不十分なのですか。 肥後遅れて回答する人が多ければ、それでは統計精度が確保できない。建設受注統計はもともと回収率が60%台と低いのだから、遅れた数字を反映できるような公表体制を作るしかない。速報、確報、それに確々報と3段階で反映させ、あとは年度報で改訂するのが望ましいだろう。そのためにシステム改修を行い、作成・公表に必要な人員を確保する必要がある。 遅れても数字が届いたら、きちんと使うべきだ。遅れて出すのが悪いとよく言われるが、出さないよりは出してくれるほうがいい。未回答の欠測値をどれほど精緻なやり方で補完しても、回答者が提出する数字が一番正しい。出したのに数字を書き換えられたり、捨てられたりするのなら、誰も回答しなくなる。) Q:公的統計は回答が義務であることから、未回答者に罰金を科すべきという声もあります。 肥後法的には正しいかもしれないが、現実的ではない。 Q:日銀が作成する統計は回答義務がないのに回収率が高い。日銀短観も企業物価指数(確報)も回収率は90%台です。 肥後それは企業に回答してもらえるまで電話をかけ続けるからだ。短観の締め切り直前は、未回答企業に毎朝かけてお願いする。それが日銀では当たり前で、それを部下に徹底させるのが上司としての私の仕事だった。 金融政策を適切に判断するには、経済情勢を見極めなければならず、そのためには統計がきちんと作成されていなければならない。その認識が総裁から全員に共有されている』、「未回答の欠測値をどれほど精緻なやり方で補完しても、回答者が提出する数字が一番正しい。出したのに数字を書き換えられたり、捨てられたりするのなら、誰も回答しなくなる」、「未回答者に罰金を科すべきという声も」あるが、「法的には正しいかもしれないが、現実的ではない」、なるほど。
・『外部の有識者からの厳しい批判に応えた Q:日銀の統計には定評がありますね。 肥後日銀が作成する企業物価指数や企業向けサービス価格指数だって、四半世紀前は問題が多かった。物価下落局面に差し掛かった1990年代、製品の品質向上による実質価格の低下や特売、リベートといった実勢を反映できていなかった。また、価格の捕捉が難しくカバーしていない品目もかなりの数に上っていた。 学者の先生方からは厳しい批判を受けた。物価指数の作成方法について説明したら、「こんな調査をやっているからダメなんだ」と言われ、私は恥ずかしかった。そこから必死に長い時間をかけて直してきた。 Q:日銀内部からも「政策判断が狂う」と非難されたのではないですか。 肥後問題があることを逆手にとって「改善が必要だ」と主張し、統計部署の人員と予算をなんとか確保した。それで今がある。 Q:いっそのこと、日銀が政府の統計作成を請け負えばいいのではと思ったりします。 肥後日銀に限らず、統計調査を担うリサーチ会社はいくつもあるが、統計作成をフルに民間委託にすれば、いま公的統計に費やしている費用よりもはるかに高くつくだろう。) Q:会計検査院の報告書によると、現在は都道府県の経費をのぞいて年間600億円程度です。 肥後その値段では民間ではとても作れない。きちんとした統計を作るにはお金がかかることを理解してほしい。今は安上がりである分、問題が多い。統計部署に限らないが、行政では人事ローテーションが短いうえに任期制職員も多く、専門的知識を組織のなかで継承することが難しくなっている。民間のほうが人材は充実しているから品質が上がる。 Q:民間委託とすることにも問題点はありますか。 肥後公的統計を民間にどこまで任せていいのかという問題はある。個別の契約で守秘義務を遵守するように民間業者を縛っているとはいえ、調査対象者は、企業や個人の情報が漏れるのではないかと心配になるだろう。 それに、統計作成を民間任せにすると、役所の中でどんな統計を、どのように作成するかという企画立案ができなくなる。調査対象者が回答できないような調査項目を作ったりする。役所が統計の作成にしっかり関与して、外注するのは末端の業務だけにしなければ、統計部署が空洞化してしまう』、「統計作成をフルに民間委託にすれば、いま公的統計に費やしている費用よりもはるかに高くつくだろう」、「統計作成を民間任せにすると、役所の中でどんな統計を、どのように作成するかという企画立案ができなくなる。調査対象者が回答できないような調査項目を作ったりする。役所が統計の作成にしっかり関与して、外注するのは末端の業務だけにしなければ、統計部署が空洞化してしまう」、その通りだ。
・『「不正」よりも「欠陥統計」が問題 Q:統計をめぐる体制の問題としては、3年前の毎月勤労統計問題を受けて、統計委員会が基幹統計を一斉点検していたのに、建設受注統計の不正は見過ごされていました。 肥後統計委員会にマンパワーが足りない。常勤の委員はおらず、事務局は委員会の運営で手一杯だ。点検対象とする統計を絞り、徹底的に調べるべきだと意見したのは私だけではなかったが、基幹統計を網羅することが優先された。56もの基幹統計を限られた期間で見るには、各省庁に統計ごとに調査票を記入させ、問題が見つかったと自己申告してきたものを取り上げるしかなかった。自己点検だった。 Q:どうすれば不正を見つけられるのでしょうか。 肥後チェック体制には3段階ある。現在の自己点検、相手の同意をもとにした点検、それに強制力を持った検査だ。自己点検では実効性がないことが今回わかった。 Q:今回、調査票の書き換えを発見したのは、検査権限を持つ会計検査院でした。 肥後強制力を持つ統計監督機関を設けるには、法体系を変えなければならない。不正があまりに多く、摘発が最優先であれば検討されるべきだろうが、強制力のある組織では統計精度の改善はできない。不正がそこまで多くなく、省庁と協力して統計精度を改善する必要があるのなら、統計委員会のようにフレンドリーな組織のほうがいい。) 私は、摘発を優先しなければならないほど不正が多いとは思っていない。むしろ、公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。 検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる。毎月勤労統計でも、公表データで整合性のつかない点について厚労省に質問したら、全数調査のところ3分の1に抽出していたと告白した』、「公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。 検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる。毎月勤労統計でも、公表データで整合性のつかない点について厚労省に質問したら、全数調査のところ3分の1に抽出していたと告白した」、なるほど。
・『3省合体「統計庁」で統計の専門人材育成を Q:各省庁の専門人材不足に対しては、統計部署の一元化が必要と言われます。 肥後私が考えているのは、部分的な一元化だ。総務省統計局と統計行政部署、内閣府のGDPを作る部署、それに経済産業省の統計部署の3つが合体する。名付けるなら「統計庁」だろうか。統計委員会もそこに入る。統計庁は、GDP、産業連関表に加え、国勢調査、経済センサス、消費者物価指数、鉱工業指数など主要統計を作成する。 最大の目的は、統計人材を集め、育てることだ。3?4の局がある800~900人規模の組織であれば、統計を志す人を採用できる。内部で人事ローテーションができ、さまざまな統計を作るのでノウハウが蓄積する。 他の省庁から統計を集めるわけではない。各省庁の所管業務に密着した統計は、その省庁でなければ作れない。たとえば医療施設についての統計であれば、厚労省しか分類方法などわからない。雇用統計は労働行政と結びついているし、建設関連の統計は、国交省の許認可権や公共工事の発注と関わっている。 ただし、所管官庁では統計の専門人材が不足する。それを統計庁がサポート・監督することで補い、統計全体の質を確保する。統計庁にノウハウが蓄積されれば、他省庁の統計がどのように作られているのかもわかる。 Q:現実味はあるのでしょうか。 肥後省庁再編が相当困難な作業であることは承知している。統計庁が誕生したとしても、元の省庁から人員を交互に派遣するのでは形だけになる。 統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ』、「総務省統計局と統計行政部署、内閣府のGDPを作る部署、それに経済産業省の統計部署の3つが合体する。名付けるなら「統計庁」だろうか。統計委員会もそこに入る。統計庁は、GDP、産業連関表に加え、国勢調査、経済センサス、消費者物価指数、鉱工業指数など主要統計を作成する。 最大の目的は、統計人材を集め、育てることだ。3?4の局がある800~900人規模の組織であれば、統計を志す人を採用できる。内部で人事ローテーションができ、さまざまな統計を作るのでノウハウが蓄積する」、「統計庁が誕生したとしても、元の省庁から人員を交互に派遣するのでは形だけになる。 統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ」、その通りなのだろう。
次に、2021年12月29日付け日経新聞「政府統計、電子集計進まず 基幹7割で50%未満 不正の温床、データ活用にも壁」を紹介しよう。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO78873410Z21C21A2MM8000/
・『政府の基幹統計の7割にあたる34調査でオンライン集計が進んでいないことが分かった。アナログな紙の調査は非効率なだけでなく、書き換えなど統計不正・・・の温床にもなる。経済政策の基盤となるデータの収集・公開が不透明なままではデジタル社会の成長競争に取り残されかねない。 各省庁が2020年末時点で総務省に報告した内容を日本経済新聞が洗い出した。53の基幹統計のもとになる50調査を対象に調べた。 オンライン回答の比率が50%にも届かないのは34調査と、全体の7割を占めた。うち8調査は10%未満だった。1.3%の農業経営統計など農林水産省所管分が目立った。「高齢化が進んでパソコン操作に不慣れな人が多い」という。 今回、データの書き換えや二重計上が発覚した国土交通省の建設工事受注動態統計はオンライン比率が11%だった。導入から10年以上たっても事業者に浸透していない。担当者は「電子申請を強制すると調査票を出さない事業者が増える懸念があり、苦慮していた」と明かす。 役所ごとにシステムがバラバラで、入力の手順が煩雑なことも普及が進まない要因とみられる。中堅建設会社は「自社の受注管理システムのデータを国交省の様式にあわせて打ち替えるのは手間がかかる」と活用しない理由を説明する。 大和証券の岩下真理氏は「海外は企業側もデジタル化が進み、オンライン回答にも対応できる」と日本のデジタル化の遅れを指摘する。 公的統計をオープンデータとして国民が使いやすくする仕組みも整っていない。会計検査院は9月、政府のポータルサイトで検索やデータ抽出機能が使えない統計が8割に上ると指摘した。政府や企業がデータを知の源泉として駆使するデジタル社会の競争の土俵に日本は上がれていない。 米国や英国などの統計データは、第三者がコンピュータープログラムなどで自動収集しやすい様式で公開されているものが多い。日本の統計はファイル形式が不ぞろいだったり、人手の作業が必要だったり、使い勝手が悪い問題が残る。 一連の統計不正の背景として人的資源の不足も指摘される。基幹統計の3割にあたる16調査は集計・分析作業を担う職員が3人以下だった。建設受注統計は3人で、実質的には1人に都道府県経由の調査票回収から確認まで任せていた。省内では「慢性的な人手不足に陥っていた」との証言もある。 内閣官房によると国の本省の統計職員数は減少傾向が続いている。18年度は1470人で08年度比で1割弱減った。本来は様々な政策立案にかかわる重要な部門にもかかわらず適切な人員が確保されずに不正の温床になっていた可能性がある。 法政大の平田英明教授は「予算が減らされ、人手も足りずデジタル化は後回しになっているのが実情だ」と指摘する。各省の縦割りの弊害も踏まえ「デジタル庁が一元的に統計システムを整備すべきだ」と訴える。 デジタル化の遅れは統計に限らない。内閣府によると、行政機関が新たに作成・取得した行政文書のうち電子媒体で保有している割合は19年度で15%にすぎない。 国交省は今回、18年度以前の調査票を破棄しており、データの完全復元は難しい。国内総生産(GDP)への影響などの検証に支障をきたす。電子媒体で保管していればこうした事態を避けることができたはずだった』、「基幹統計の7割にあたる34調査でオンライン集計が進んでいない」、「オンライン回答の比率が50%にも届かないのは34調査と、全体の7割を占めた。うち8調査は10%未満だった」、「今回、データの書き換えや二重計上が発覚した国土交通省の建設工事受注動態統計はオンライン比率が11%だった。導入から10年以上たっても事業者に浸透していない。担当者は「電子申請を強制すると調査票を出さない事業者が増える懸念があり、苦慮していた」と明かす」、主管官庁がこれでは。「設工事受注動態統計」に問題があるのも当然だ。「行政機関が新たに作成・取得した行政文書のうち電子媒体で保有している割合は19年度で15%にすぎない。 国交省は今回、18年度以前の調査票を破棄しており、データの完全復元は難しい。国内総生産(GDP)への影響などの検証に支障をきたす。電子媒体で保管していればこうした事態を避けることができたはずだった」、保存体制もお粗末そのものだ。政府統計作成・活用について、抜本的な見直しが急務だ。
先ずは、2021年12月29日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの黒崎 亜弓氏による「建設受注統計で国交省が不正、その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/479789
・『建設業の月々の受注状況を推計し、GDP(国内総生産)算出にも使われる「建設工事受注動態統計」で、国土交通省があきれるばかりの不正を行っていた。遅れて届いた調査票の数字を書き換えて合算し、2013年4月分?2021年3月分は未回答分を平均値で補完したものとの二重計上となっていたのだ。 まず気になるのはGDPへの影響だが、これはあまり大きくはなさそうだ。 建設受注統計の内訳は土木と建築がほぼ半々だが、土木の部分だけが、月々の出来高を推計する建設総合統計に使われ、それがGDPに反映される。土木のうち公共事業の部分は後から財政データで上書きされる。二重計上の影響が残っている民間土木は建設投資の1割程度で年間6兆~7兆円、GDP全体の1%程度だ』、「遅れて届いた調査票の数字を書き換えて合算し、2013年4月分?2021年3月分は未回答分を平均値で補完したものとの二重計上となっていたのだ」、「重計上の影響が残っている民間土木は建設投資の1割程度で年間6兆~7兆円、GDP全体の1%程度だ」、なるほど。
・『ユーザー軽視、何のための統計なのか 建設受注統計そのものの金額は二重計上でどのくらい増えていたのだろうか。 これはわからない。2019年分までは国交省は、都道府県に調査票の数字を消しゴムで消して書き換えさせていたといい、月ごとの数字が失われてしまっているからだ。調査票の元データが失われて復元推計ができない点は、3年前の「毎月勤労統計」(所管は厚生労働省)の問題よりも深刻といえる。 ただ、国交省が会計検査院の指摘を受けた後、自ら合算を行っていた2020年1月分?2021年3月分については、当月に入力した調査票データと、書き換え合算を行ったデータの2つがあり、他の条件をそろえて受注高を算出比較すれば、二重計上のインパクトがわかるはずだ。 2020年1月分?2021年3月分については、参考値との差額として「平均して1月あたり1.2兆円」という数字が国会答弁で出ているが、これは二重計上によって生じた数字ではない。二重計上のとりやめで生じたマイナスと同時に行われた推計方法の変更によるプラスとを合わせた数字だ。) 建設受注統計で国交省は、2021年4月分から二重計上をやめると同時に、調査先を選ぶ母集団となる「建設施工統計調査」で捕捉漏れをカバーする変更を行っている。2020年1月分?2021年3月分の参考値とは、この2つの変更を反映したものだ。金額は捕捉漏れカバーで増え、二重計上をやめたことで減る。これを差し引きすると1.2兆円のプラスというわけだ。 この母集団の捕捉漏れカバーは、カバレッジ(推計が網羅する範囲)を拡大して統計精度を上げるため、つまり、より実態を表す統計にするために行われたものと思われるが、国交省のホームページではきちんと説明がなされておらず、誤解を招いている。 「ユーザーには何が変わったのかわからない。統計は調査方法や推計方法を公開し、推計方法を変えたら『数字の見方に気をつけてください』とアナウンスするのが基本だ。国交省はユーザーを軽視している」。こう指摘するのは、日本銀行で統計畑を歩んだ肥後雅博・東京大学大学院教授だ。総務省の統計委員会担当室に出向していた3年前には、厚労省の毎月勤労統計における不正を明らかにした。 国交省はどう改善すべきなのか、不正続きの公的統計を立て直すにはどうすればいいか、肥後教授に聞いた(Qは聞き手の質問)』、「2019年分までは国交省は、都道府県に調査票の数字を消しゴムで消して書き換えさせていたといい、月ごとの数字が失われてしまっているからだ。調査票の元データが失われて復元推計ができない点は、3年前の「毎月勤労統計」・・・の問題よりも深刻といえる」、確かに信じ難いような酷い話だ。「統計は調査方法や推計方法を公開し、推計方法を変えたら『数字の見方に気をつけてください』とアナウンスするのが基本だ。国交省はユーザーを軽視している」、その通りだ。
・『回答してくれた大事なデータを生かせ Q:国交省は、遅れて届く調査票をどう扱うべきだったのでしょうか。 肥後月次の作業に遅れて届いた前月分の数字は前月分として入力し、前月分の受注高を推計し直して改訂すべきだ。多くの統計は、締め切り時点で推計して速報を出し、1カ月ほど遅れて届いた分については確報段階で反映している。 Q:国交省は2021年4月分からは遅れて届いた調査票を合算せず、「年度報」のタイミングで反映させるとのことですが、それでは不十分なのですか。 肥後遅れて回答する人が多ければ、それでは統計精度が確保できない。建設受注統計はもともと回収率が60%台と低いのだから、遅れた数字を反映できるような公表体制を作るしかない。速報、確報、それに確々報と3段階で反映させ、あとは年度報で改訂するのが望ましいだろう。そのためにシステム改修を行い、作成・公表に必要な人員を確保する必要がある。 遅れても数字が届いたら、きちんと使うべきだ。遅れて出すのが悪いとよく言われるが、出さないよりは出してくれるほうがいい。未回答の欠測値をどれほど精緻なやり方で補完しても、回答者が提出する数字が一番正しい。出したのに数字を書き換えられたり、捨てられたりするのなら、誰も回答しなくなる。) Q:公的統計は回答が義務であることから、未回答者に罰金を科すべきという声もあります。 肥後法的には正しいかもしれないが、現実的ではない。 Q:日銀が作成する統計は回答義務がないのに回収率が高い。日銀短観も企業物価指数(確報)も回収率は90%台です。 肥後それは企業に回答してもらえるまで電話をかけ続けるからだ。短観の締め切り直前は、未回答企業に毎朝かけてお願いする。それが日銀では当たり前で、それを部下に徹底させるのが上司としての私の仕事だった。 金融政策を適切に判断するには、経済情勢を見極めなければならず、そのためには統計がきちんと作成されていなければならない。その認識が総裁から全員に共有されている』、「未回答の欠測値をどれほど精緻なやり方で補完しても、回答者が提出する数字が一番正しい。出したのに数字を書き換えられたり、捨てられたりするのなら、誰も回答しなくなる」、「未回答者に罰金を科すべきという声も」あるが、「法的には正しいかもしれないが、現実的ではない」、なるほど。
・『外部の有識者からの厳しい批判に応えた Q:日銀の統計には定評がありますね。 肥後日銀が作成する企業物価指数や企業向けサービス価格指数だって、四半世紀前は問題が多かった。物価下落局面に差し掛かった1990年代、製品の品質向上による実質価格の低下や特売、リベートといった実勢を反映できていなかった。また、価格の捕捉が難しくカバーしていない品目もかなりの数に上っていた。 学者の先生方からは厳しい批判を受けた。物価指数の作成方法について説明したら、「こんな調査をやっているからダメなんだ」と言われ、私は恥ずかしかった。そこから必死に長い時間をかけて直してきた。 Q:日銀内部からも「政策判断が狂う」と非難されたのではないですか。 肥後問題があることを逆手にとって「改善が必要だ」と主張し、統計部署の人員と予算をなんとか確保した。それで今がある。 Q:いっそのこと、日銀が政府の統計作成を請け負えばいいのではと思ったりします。 肥後日銀に限らず、統計調査を担うリサーチ会社はいくつもあるが、統計作成をフルに民間委託にすれば、いま公的統計に費やしている費用よりもはるかに高くつくだろう。) Q:会計検査院の報告書によると、現在は都道府県の経費をのぞいて年間600億円程度です。 肥後その値段では民間ではとても作れない。きちんとした統計を作るにはお金がかかることを理解してほしい。今は安上がりである分、問題が多い。統計部署に限らないが、行政では人事ローテーションが短いうえに任期制職員も多く、専門的知識を組織のなかで継承することが難しくなっている。民間のほうが人材は充実しているから品質が上がる。 Q:民間委託とすることにも問題点はありますか。 肥後公的統計を民間にどこまで任せていいのかという問題はある。個別の契約で守秘義務を遵守するように民間業者を縛っているとはいえ、調査対象者は、企業や個人の情報が漏れるのではないかと心配になるだろう。 それに、統計作成を民間任せにすると、役所の中でどんな統計を、どのように作成するかという企画立案ができなくなる。調査対象者が回答できないような調査項目を作ったりする。役所が統計の作成にしっかり関与して、外注するのは末端の業務だけにしなければ、統計部署が空洞化してしまう』、「統計作成をフルに民間委託にすれば、いま公的統計に費やしている費用よりもはるかに高くつくだろう」、「統計作成を民間任せにすると、役所の中でどんな統計を、どのように作成するかという企画立案ができなくなる。調査対象者が回答できないような調査項目を作ったりする。役所が統計の作成にしっかり関与して、外注するのは末端の業務だけにしなければ、統計部署が空洞化してしまう」、その通りだ。
・『「不正」よりも「欠陥統計」が問題 Q:統計をめぐる体制の問題としては、3年前の毎月勤労統計問題を受けて、統計委員会が基幹統計を一斉点検していたのに、建設受注統計の不正は見過ごされていました。 肥後統計委員会にマンパワーが足りない。常勤の委員はおらず、事務局は委員会の運営で手一杯だ。点検対象とする統計を絞り、徹底的に調べるべきだと意見したのは私だけではなかったが、基幹統計を網羅することが優先された。56もの基幹統計を限られた期間で見るには、各省庁に統計ごとに調査票を記入させ、問題が見つかったと自己申告してきたものを取り上げるしかなかった。自己点検だった。 Q:どうすれば不正を見つけられるのでしょうか。 肥後チェック体制には3段階ある。現在の自己点検、相手の同意をもとにした点検、それに強制力を持った検査だ。自己点検では実効性がないことが今回わかった。 Q:今回、調査票の書き換えを発見したのは、検査権限を持つ会計検査院でした。 肥後強制力を持つ統計監督機関を設けるには、法体系を変えなければならない。不正があまりに多く、摘発が最優先であれば検討されるべきだろうが、強制力のある組織では統計精度の改善はできない。不正がそこまで多くなく、省庁と協力して統計精度を改善する必要があるのなら、統計委員会のようにフレンドリーな組織のほうがいい。) 私は、摘発を優先しなければならないほど不正が多いとは思っていない。むしろ、公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。 検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる。毎月勤労統計でも、公表データで整合性のつかない点について厚労省に質問したら、全数調査のところ3分の1に抽出していたと告白した』、「公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。 検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる。毎月勤労統計でも、公表データで整合性のつかない点について厚労省に質問したら、全数調査のところ3分の1に抽出していたと告白した」、なるほど。
・『3省合体「統計庁」で統計の専門人材育成を Q:各省庁の専門人材不足に対しては、統計部署の一元化が必要と言われます。 肥後私が考えているのは、部分的な一元化だ。総務省統計局と統計行政部署、内閣府のGDPを作る部署、それに経済産業省の統計部署の3つが合体する。名付けるなら「統計庁」だろうか。統計委員会もそこに入る。統計庁は、GDP、産業連関表に加え、国勢調査、経済センサス、消費者物価指数、鉱工業指数など主要統計を作成する。 最大の目的は、統計人材を集め、育てることだ。3?4の局がある800~900人規模の組織であれば、統計を志す人を採用できる。内部で人事ローテーションができ、さまざまな統計を作るのでノウハウが蓄積する。 他の省庁から統計を集めるわけではない。各省庁の所管業務に密着した統計は、その省庁でなければ作れない。たとえば医療施設についての統計であれば、厚労省しか分類方法などわからない。雇用統計は労働行政と結びついているし、建設関連の統計は、国交省の許認可権や公共工事の発注と関わっている。 ただし、所管官庁では統計の専門人材が不足する。それを統計庁がサポート・監督することで補い、統計全体の質を確保する。統計庁にノウハウが蓄積されれば、他省庁の統計がどのように作られているのかもわかる。 Q:現実味はあるのでしょうか。 肥後省庁再編が相当困難な作業であることは承知している。統計庁が誕生したとしても、元の省庁から人員を交互に派遣するのでは形だけになる。 統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ』、「総務省統計局と統計行政部署、内閣府のGDPを作る部署、それに経済産業省の統計部署の3つが合体する。名付けるなら「統計庁」だろうか。統計委員会もそこに入る。統計庁は、GDP、産業連関表に加え、国勢調査、経済センサス、消費者物価指数、鉱工業指数など主要統計を作成する。 最大の目的は、統計人材を集め、育てることだ。3?4の局がある800~900人規模の組織であれば、統計を志す人を採用できる。内部で人事ローテーションができ、さまざまな統計を作るのでノウハウが蓄積する」、「統計庁が誕生したとしても、元の省庁から人員を交互に派遣するのでは形だけになる。 統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ」、その通りなのだろう。
次に、2021年12月29日付け日経新聞「政府統計、電子集計進まず 基幹7割で50%未満 不正の温床、データ活用にも壁」を紹介しよう。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO78873410Z21C21A2MM8000/
・『政府の基幹統計の7割にあたる34調査でオンライン集計が進んでいないことが分かった。アナログな紙の調査は非効率なだけでなく、書き換えなど統計不正・・・の温床にもなる。経済政策の基盤となるデータの収集・公開が不透明なままではデジタル社会の成長競争に取り残されかねない。 各省庁が2020年末時点で総務省に報告した内容を日本経済新聞が洗い出した。53の基幹統計のもとになる50調査を対象に調べた。 オンライン回答の比率が50%にも届かないのは34調査と、全体の7割を占めた。うち8調査は10%未満だった。1.3%の農業経営統計など農林水産省所管分が目立った。「高齢化が進んでパソコン操作に不慣れな人が多い」という。 今回、データの書き換えや二重計上が発覚した国土交通省の建設工事受注動態統計はオンライン比率が11%だった。導入から10年以上たっても事業者に浸透していない。担当者は「電子申請を強制すると調査票を出さない事業者が増える懸念があり、苦慮していた」と明かす。 役所ごとにシステムがバラバラで、入力の手順が煩雑なことも普及が進まない要因とみられる。中堅建設会社は「自社の受注管理システムのデータを国交省の様式にあわせて打ち替えるのは手間がかかる」と活用しない理由を説明する。 大和証券の岩下真理氏は「海外は企業側もデジタル化が進み、オンライン回答にも対応できる」と日本のデジタル化の遅れを指摘する。 公的統計をオープンデータとして国民が使いやすくする仕組みも整っていない。会計検査院は9月、政府のポータルサイトで検索やデータ抽出機能が使えない統計が8割に上ると指摘した。政府や企業がデータを知の源泉として駆使するデジタル社会の競争の土俵に日本は上がれていない。 米国や英国などの統計データは、第三者がコンピュータープログラムなどで自動収集しやすい様式で公開されているものが多い。日本の統計はファイル形式が不ぞろいだったり、人手の作業が必要だったり、使い勝手が悪い問題が残る。 一連の統計不正の背景として人的資源の不足も指摘される。基幹統計の3割にあたる16調査は集計・分析作業を担う職員が3人以下だった。建設受注統計は3人で、実質的には1人に都道府県経由の調査票回収から確認まで任せていた。省内では「慢性的な人手不足に陥っていた」との証言もある。 内閣官房によると国の本省の統計職員数は減少傾向が続いている。18年度は1470人で08年度比で1割弱減った。本来は様々な政策立案にかかわる重要な部門にもかかわらず適切な人員が確保されずに不正の温床になっていた可能性がある。 法政大の平田英明教授は「予算が減らされ、人手も足りずデジタル化は後回しになっているのが実情だ」と指摘する。各省の縦割りの弊害も踏まえ「デジタル庁が一元的に統計システムを整備すべきだ」と訴える。 デジタル化の遅れは統計に限らない。内閣府によると、行政機関が新たに作成・取得した行政文書のうち電子媒体で保有している割合は19年度で15%にすぎない。 国交省は今回、18年度以前の調査票を破棄しており、データの完全復元は難しい。国内総生産(GDP)への影響などの検証に支障をきたす。電子媒体で保管していればこうした事態を避けることができたはずだった』、「基幹統計の7割にあたる34調査でオンライン集計が進んでいない」、「オンライン回答の比率が50%にも届かないのは34調査と、全体の7割を占めた。うち8調査は10%未満だった」、「今回、データの書き換えや二重計上が発覚した国土交通省の建設工事受注動態統計はオンライン比率が11%だった。導入から10年以上たっても事業者に浸透していない。担当者は「電子申請を強制すると調査票を出さない事業者が増える懸念があり、苦慮していた」と明かす」、主管官庁がこれでは。「設工事受注動態統計」に問題があるのも当然だ。「行政機関が新たに作成・取得した行政文書のうち電子媒体で保有している割合は19年度で15%にすぎない。 国交省は今回、18年度以前の調査票を破棄しており、データの完全復元は難しい。国内総生産(GDP)への影響などの検証に支障をきたす。電子媒体で保管していればこうした事態を避けることができたはずだった」、保存体制もお粗末そのものだ。政府統計作成・活用について、抜本的な見直しが急務だ。
タグ:(その3)(建設受注統計で国交省が不正 その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く、政府統計 電子集計進まず 基幹7割で50%未満 不正の温床 データ活用にも壁) 統計問題 東洋経済オンライン 黒崎 亜弓氏による「建設受注統計で国交省が不正、その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く」 「遅れて届いた調査票の数字を書き換えて合算し、2013年4月分?2021年3月分は未回答分を平均値で補完したものとの二重計上となっていたのだ」、「重計上の影響が残っている民間土木は建設投資の1割程度で年間6兆~7兆円、GDP全体の1%程度だ」、なるほど。 「2019年分までは国交省は、都道府県に調査票の数字を消しゴムで消して書き換えさせていたといい、月ごとの数字が失われてしまっているからだ。調査票の元データが失われて復元推計ができない点は、3年前の「毎月勤労統計」・・・の問題よりも深刻といえる」、確かに信じ難いような酷い話だ。 「統計は調査方法や推計方法を公開し、推計方法を変えたら『数字の見方に気をつけてください』とアナウンスするのが基本だ。国交省はユーザーを軽視している」、その通りだ。 「未回答の欠測値をどれほど精緻なやり方で補完しても、回答者が提出する数字が一番正しい。出したのに数字を書き換えられたり、捨てられたりするのなら、誰も回答しなくなる」、「未回答者に罰金を科すべきという声も」あるが、「法的には正しいかもしれないが、現実的ではない」、なるほど。 「統計作成をフルに民間委託にすれば、いま公的統計に費やしている費用よりもはるかに高くつくだろう」、「統計作成を民間任せにすると、役所の中でどんな統計を、どのように作成するかという企画立案ができなくなる。調査対象者が回答できないような調査項目を作ったりする。役所が統計の作成にしっかり関与して、外注するのは末端の業務だけにしなければ、統計部署が空洞化してしまう」、その通りだ。 「公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。 検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる。毎月勤労統計でも、公表データで整合性のつかない点について厚労省に質問したら、全数調査のところ3分の1に抽出していたと告白した」、なるほど。 「総務省統計局と統計行政部署、内閣府のGDPを作る部署、それに経済産業省の統計部署の3つが合体する。名付けるなら「統計庁」だろうか。統計委員会もそこに入る。統計庁は、GDP、産業連関表に加え、国勢調査、経済センサス、消費者物価指数、鉱工業指数など主要統計を作成する。 最大の目的は、統計人材を集め、育てることだ。3?4の局がある800~900人規模の組織であれば、統計を志す人を採用できる。内部で人事ローテーションができ、さまざまな統計を作るのでノウハウが蓄積する」、 「統計庁が誕生したとしても、元の省庁から人員を交互に派遣するのでは形だけになる。 統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ」、その通りなのだろう。 日経新聞「政府統計、電子集計進まず 基幹7割で50%未満 不正の温床、データ活用にも壁」 「基幹統計の7割にあたる34調査でオンライン集計が進んでいない」、「オンライン回答の比率が50%にも届かないのは34調査と、全体の7割を占めた。うち8調査は10%未満だった」、「今回、データの書き換えや二重計上が発覚した国土交通省の建設工事受注動態統計はオンライン比率が11%だった。導入から10年以上たっても事業者に浸透していない。担当者は「電子申請を強制すると調査票を出さない事業者が増える懸念があり、苦慮していた」と明かす」、 主管官庁がこれでは。「設工事受注動態統計」に問題があるのも当然だ。「行政機関が新たに作成・取得した行政文書のうち電子媒体で保有している割合は19年度で15%にすぎない。 国交省は今回、18年度以前の調査票を破棄しており、データの完全復元は難しい。国内総生産(GDP)への影響などの検証に支障をきたす。電子媒体で保管していればこうした事態を避けることができたはずだった」、保存体制もお粗末そのものだ。政府統計作成・活用について、抜本的な見直しが急務だ。
働き方改革(その40)(たった1カ月で「新入社員」半分退職まさかの原因 「採用コスト」は例年の5倍かけたのになぜ?、「派遣の拡大は、厚労省がやったこと」竹中平蔵が悩まされた「真実をもてあそぶ一部メディア」の不誠実 『なんで会社辞めたんですか?』) [経済政策]
働き方改革については、本年4月5日に取上げた。今日は、(その40)(たった1カ月で「新入社員」半分退職まさかの原因 「採用コスト」は例年の5倍かけたのになぜ?、「派遣の拡大は、厚労省がやったこと」竹中平蔵が悩まされた「真実をもてあそぶ一部メディア」の不誠実 『なんで会社辞めたんですか?』)である。
先ずは、5月16日付け東洋経済オンラインが掲載した経営コラムニストの横山 信弘氏による「たった1カ月で「新入社員」半分退職まさかの原因 「採用コスト」は例年の5倍かけたのになぜ?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/671389
・『たった1カ月で新入社員の半分が辞めてしまうとは……。 今回は、ある会社が「働きがい」のある職場を目指した結果、新入社員の半分が辞めてしまった事例を紹介する。 昨今、突如として「働きがい」という言葉を使って採用活動に励む会社が増えている。会社に興味を持ち応募する人が多くなるからだろう。しかし、気をつけたほうがいい。言葉を正しく理解していないと、採用の努力が無駄になることがある。 AI時代になり、ますます「働きがい」を誤解して使ってはならないと強く感じるようになった。特に採用活動の責任者、新入社員を引き受ける職場の責任者は、まだ働いていない若者を勘違いさせないためにも、この会社の失敗から学んでもらいたいと思う』、興味深そうだ。
・『新入社員の半分が1カ月で退職!大失敗の原因 新入社員8人のうち4人が、たった1カ月で辞めた会社がある。 なぜ、そんなことが起こったのか? 背後には、将来の幹部候補を求める社長の強い要望があった。 通常は年間2~3人の採用をしていた。だが、社長の命令で例年の5倍の採用コストと1年間の入念な準備を経て、例年より多くの新卒を採用しようとした。 結果、8人の優秀な新入社員が入社した。当初、社長は手放しで喜んだ。入社したあと、採用した新入社員8人と食事をしたとき、「8人みんな優秀だ。1年間がんばったかいがあった」と誇らしげに語っていた。 しかし、そのうちの4人が1カ月も経たずに退職してしまったのだ。残った新入社員のうち、2人も辞めたいと考えているという。社長は激怒した。例年の5倍もの採用コストをかけてなぜ辞めてしまったのか。いったい何が原因でここまでの大失敗となったのだろうか? 採用責任者は、新入社員が辞めた理由を調査するために、配属された職場の上長やベテラン社員にヒアリングを行った。 すると、どの職場でも見解は同じだった。 「今年の新入社員は、ストレス耐性が低い」 「やるべきことをやる前から、働きがいとか、心理的安全性とか、イチイチ言ってくる」) どうやら現場で新入社員たちは、「弁が立つが、やることをやらない」とレッテルを貼られたようだった。 とりわけ採用責任者が着目したのは「働きがい」である。 辞めた4人のうち、ほとんど全員が「働きがいを感じられない」を口にしていた。 合同説明会から複数回の面接を経て入社するまで、「当社は働きがいのある会社」とアピールし続けた。社長も「働きがいのある会社に生まれ変わった」と事あるごとに繰り返していた。だからこそ、新入社員は裏切られたと感じたのかもしれない。 美味しいイチゴが使われたショートケーキだと言われたから買ったのに、肝心のイチゴがあまり美味しくなかった、ということなのだろう』、「通常は年間2~3人の採用をしていた。だが、社長の命令で例年の5倍の採用コストと1年間の入念な準備を経て、例年より多くの新卒を採用しようとした。 結果、8人の優秀な新入社員が入社した。当初、社長は手放しで喜んだ・・・そのうちの4人が1カ月も経たずに退職してしまったのだ。残った新入社員のうち、2人も辞めたいと考えているという。社長は激怒した」、「辞めた4人のうち、ほとんど全員が「働きがいを感じられない」を口にしていた。 合同説明会から複数回の面接を経て入社するまで、「当社は働きがいのある会社」とアピールし続けた。社長も「働きがいのある会社に生まれ変わった」と事あるごとに繰り返していた。だからこそ、新入社員は裏切られたと感じたのかもしれない」、なるほど。
・『「働きがい」の誤解が新入社員の退職を招く 例年になく優秀だと謳われた新入社員たちは、なぜ1カ月もせずに半分も辞めてしまったのか。その原因は「働きがい」にあると考えた。 実は「働きがい」という言葉は、リスクが高い。 なぜなら言葉の意味を、多くの人が誤解しているからだ。これは昨今、同じように使われるようになった「心理的安全性」にも言えることだ。 本来の意味をわからずに使用すると、大きな認識のズレとなり、トラブルを招くことになる。 実際に、社長や採用責任者、新入社員の先輩や上司も含め、ヒアリングしてみたところ、「働きがい」の真の意味を理解しているとは言いがたい状況だった。 「働きがい」と似た言葉に「やりがい」という言葉がある。 「やりがい」とは、困難を乗り越えて成果を出し、同僚やお客様から感謝されてはじめて「やったかいがあった」と思えるものだ。 「今回のイベントの集客、大変だったけど、会場が満員になって大盛況だったな」「はい。最初はすごく苦労しましたが、やったかいがありました」 このように使うものだ。 一方、「働きがい」は「やりがい」よりも抽象度が高い。 先ほどの例文の受け答えで、「はい。最初はすごく苦労しましたが、働いたかいがありました」とは、通常使わない。「やる」と「働く」とでは、対象範囲が違いすぎるからだ。例文として書くとするなら、次のようになる。 「入社して5年経ったけど、どう?働きがいのある職場かな?」 「そうですね。入社して2年間は苦労の連続でしたが、どんなに大変なときも助けてくれる先輩がいますし、課長は厳しいですけど、おかげで随分と成長できましたし、働きがいのある職場だと思っています」 「働きがい」は、数年働いてからでないと味わえないものだと筆者は考えている。) 今後、働きがいを感じることがますます難しくなる時代が到来する。その要因の一つとしてAIの進化が挙げられる。 まず、近年のデジタルシフトにより、単純な知的労働は徐々に人から仕事を奪っている。筆者のクライアント企業にもRPAで人材不足の問題を解消した例はたくさんある。 イベント後のアンケート集計や、顧客の属性に合わせたフォローメール作成など、かつて新入社員に任せられていたような仕事は、このように高性能なシステムやロボットが担当するようになった。 ▽任せられる仕事は、お客様対応しか残っていない(AIは、さらに難易度の高い仕事もこなす。 例えば顧客データベースからお客様の行動分析をし、今後の売り上げ予測まで瞬時に立てられるようになる。 「とりあえず、分析しておいて」と、上司から頼まれる仕事まで減っていくのだ。 分析結果の検証には経験が必要であるし、その結果から判断するには実績とセンスが求められる。新入社員どころか、経験の浅い社員に頼む仕事も奪われていく。 この会社でも、新入社員に任せられる仕事といったら、お客様対応しか残っていなかった。 「とりあえず、200社の担当者に電話して、このリサーチをお願い」 「とりあえず、先日のイベントの来場者に連絡してアポイントをとって」 マーケティングオートメーションでお客様の動きをトレースして、当社商品に興味がありそうな動きをするお客様には、タイミングよく電話をかける。 お客様とのやり取りは音声認識機能で瞬時にテキスト化され、上長に報告される。自分で報告書を書く必要もないため、ひたすらお客様とのコミュニケーションに時間を費やす。 お客様の価値観は多様化しており、何が正解かはわからない時代だ。だからベテラン社員でさえつねに手探り。勝利の方程式などないものだから、試行錯誤の連続だ。 「新入社員は、何をやったらいいですか?と聞いてくるが、事務作業などないし、お客様対応といってもマニュアルなんかない」 これは、新入社員を受け入れた職場責任者の言葉だ。 「マニュアルを見せてくださいと言われたけど、マニュアルに書けるような作業は、だいたいRPAに任せている」 現場の責任者やベテラン社員は、口をそろえてこう言った。 「将来の幹部候補を雇うんだったら、もっとベテランを採用してほしい。私たちだって必死に勉強している。教えることなんてない」) 問題は、・社長をはじめとする採用責任者 ・新入社員をあずかる現場 ・新入社員 それぞれに「認識のズレ」があったことだ。 社長や採用の責任者は、本来の目的を見失い、「働きがい」という表現を優秀な新入社員を集めるためのエサのように使っていた。 いっぽう、現場で働く人たちは「働きがい」についてあまり関心がない。それよりもまず、やるべきことをやることが重要で、期待された成果を出すことに重きを置いている。 これは前述した通り、イチゴの美味しいショートケーキの例えに通じる。広告でイチゴの美味しいショートケーキをアピールしておきながら、現場で働く人たちはそのイチゴがそれほど美味しいという認識を持っていないのだ。この場合、お客様の期待とズレが生じる。 近年、働きがいや心理的安全性、エンゲージメント、ワークライフバランス、クオリティーオブライフといった新語がよく報道で使われる。 しかしこれらのワードに関心が高いのは、就職や転職活動を行っている人たち、そして経営者や役員に限られる。いっぽう現場の人たちは、意識している余裕がない。 劇的な環境変化に伴い、成果の出し方が変わっている。デジタル対応やリスキリングなど、身につけるべき知識やスキルが多すぎて、部下育成している場合ではない。 そんな状況で、 「入社したら、まるで働きがいを感じられないんですが」 と新入社員に指摘されても、どうしたらいいかわからない。これが新入社員を受け入れる先輩たちの本音だろう』、「社長や採用の責任者は、本来の目的を見失い、「働きがい」という表現を優秀な新入社員を集めるためのエサのように使っていた。 いっぽう、現場で働く人たちは「働きがい」についてあまり関心がない。それよりもまず、やるべきことをやることが重要で、期待された成果を出すことに重きを置いている」、「そんな状況で、「入社したら、まるで働きがいを感じられないんですが」 と新入社員に指摘されても、どうしたらいいかわからない。これが新入社員を受け入れる先輩たちの本音だろう」、なるほど。
・『ポイントは「Must」「Can」「Will」 それでは、どうしたらいいのか。 私は15年以上も前から、新入社員研修で一貫して言い続けているフレーズがある。それが、1.「Must」やるべきこと 2.「Can」 やれること 3.「Will」 やりたいこと である。この順番が大事だ。 やるべきこと(マスト)をやり続けることで、やれること(キャン)が増え、やりたいこと(ウィル)が見つかる可能性がある、という話だ。 自分の先輩や上司でさえ先が読めない時代が到来している。だからこそ、新入社員はまずは厳しい現実を受け入れる必要がある。 給料をもらうということはプロフェッショナルになるということだ。ストレスがかかっても、やるべきことをやっていれば、やれることが増えてくるものだ。 そうすることで成果が出て、多くの人から感謝され、働きがいを感じるもの。現場に行ったら、やりたくないこと、苦手なことも任されるかもしれない。だが、それは誰でも一緒である。 サポートしていくから、しっかりとやっていこうと、採用活動の最中から丁寧に伝えるべきだ。きれいごとばかり言っていると、こんなはずじゃなかったと言い、辞めてしまう新入社員が続出してしまう。 繰り返すが、ポイントは「マスト(Must)」「キャン(Can)」「ウィル(Will)」。この順番である。 期待された成果を出さない限り、本当の意味の「働きがい」は感じられないのだから』、「ポイントは「マスト(Must)」「キャン(Can)」「ウィル(Will)」。この順番である。 期待された成果を出さない限り、本当の意味の「働きがい」は感じられないのだから」、確かにその通りだ。
次に、8月14日付けPRESIDENT Online「「派遣の拡大は、厚労省がやったこと」竹中平蔵が悩まされた「真実をもてあそぶ一部メディア」の不誠実 『なんで会社辞めたんですか?』」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/72519
・『「派遣の拡大は、厚労省がやったこと」竹中平蔵が悩まされた「真実をもてあそぶ一部メディア」の不誠実(高橋 弘樹,日経テレ東大学/Webオリジナル(外部転載)) 『なんで会社辞めたんですか?』 #3 「2年間で800万円貯まった」「新人記者は黒塗りのハイヤーでサツ回り」…それでも朝日新聞記者をやめて探検家に転職した角幡唯介(47)の超痛快人生〉から続く 「これもう100回ぐらい、そうじゃないって説明したんですけど、みんなもう面白おかしく言ってるだけです」 元パソナ会長の竹中平蔵氏が辟易する「ワイドショー的な議論」とはいったい? 100万人超え登録YouTubeチャンネル「日経テレ東大学」(※2023年5月末で動画視聴終了)の人気トーク番組を書籍化した『なんで会社辞めたんですか?』(編著:高橋弘樹、日経テレ東大学/発行:東京ニュース通信社/発売:講談社)より一部抜粋してお届けする』、興味深そうだ。
・『竹中平蔵はなぜパソナ会長を退いたのか 高橋弘樹(以下、高橋) 竹中さんはパソナグループの会長を2022年8月にお辞めになられたということで、ささやかですが、ご卒業おめでとうございますの花束をどうぞ! 竹中平蔵(以下、竹中) ありがとうございます。 高橋 何年間勤められたんですか? 竹中 13年間ですね。 高橋 会長職としては、結構長いですね。今回、「なんで会社辞めたんですか?」というテーマでいろいろお聞きしていきたいんですけど、その前にまずはパソナでどういうことをなさっていたのかを教えてください。 竹中 最初、南部靖之代表から「パソナで会長をやっていただけませんか」と言われた時、「私は公共事業を減らしたり、郵政を民営化したり、一部の既得権益者にすごく恨まれています。そんな私が会長をやると、謂れのない批判が会社にいって、パソナにご迷惑がかかりますよ」と申し上げたんです。 南部さんは非常に立派な経営者ですから、「そんなの構わないから、一緒に労働市場を良くしていきましょう」とおっしゃいました。その言葉に感銘を受けてお受けしました。私はこれまでに政府や大学関係の仕事も経験しましたから、取締役会に出席して、経済や社会の動向について提案を行いました。 高橋 会社の具体的な事業というよりは、もう少しマクロな政府の方向性とかについて議論していったという感じですか? 竹中 いえ、会社自体の方向性もそうですし、今、社会はこんな方向に動いてるから、その方向に合わせて事業もこうしていったらどうかとか、そういうことですね。 高橋 具体的にはどんなことされていらしたんですか?) 竹中 私は、ビジネスの現場に詳しいわけではないですけれど、これからはより一層、デジタル化を進めなければいけません。今までは人と人とが対面してやっていたことをいかにデジタル化していくか。それが一番大きかったかもしれませんね。 それと、今後、労働市場はどんな風に変わっていくだろうかということで、労働市場の変化に合わせていろんなことをやらなければいけないと。基本的には「同一労働同一賃金」――これを実現できるかどうかですよね。日本の労働市場というのは明らかに二重構造になっているわけです。 はっきり言いますと、正社員は特権を持っていて、その特権は1979年の東洋酸素(現・日本酸素)事件における東京高等裁判所の判例によって守られていて、正社員というのは首をほとんど切れないことになっています。 そうすると企業にとってみると、これは固定費になります。固定費が大きくなるのは耐えられないので、その高裁の判例が適用されないような部分について非正規社員を増やしてきたという意味で、二重構造になってるわけです。でも、やはり二重構造はおかしいんです。一緒に働いているのだから同一条件にしないといけません。同一労働条件を目指す法律もできてきたわけで、そこが大きな変化の方向です』、「正社員というのは首をほとんど切れないことになっています。 そうすると企業にとってみると、これは固定費になります。固定費が大きくなるのは耐えられないので、その高裁の判例が適用されないような部分について非正規社員を増やしてきたという意味で、二重構造になってるわけです。でも、やはり二重構造はおかしいんです。一緒に働いているのだから同一条件にしないといけません」、なるほど。
・『「派遣の拡大は、厚労省がやったこと」 高橋 竹中さんがされてきた派遣の拡大とかですね。 竹中 いえ、そこが間違ってるんですよ。厚生労働省がやったんです。私は1990年くらいからずっとやってるし、小泉(純一郎)内閣の10年以上前からやっているし、現実にそういう働き方をしたいという人が多い。ついでに言うと、派遣は全労働者のわずか2%です。 ワイドショー的な議論だと、「派遣は悪いことである、それをやったのが竹中である」みたいなことを平気で言いますけども。これもう100回ぐらい、そうじゃないって説明したんですけど、みんなもう面白おかしく言ってるだけです。 もう一つ、やはり地方創生はすごく重要なテーマになってきています。ご存じのように、パソナは2020年9月から本社機能の一部を淡路島に置いていますけれど、そうした地方創生の基本的な方向について意見を言っていました』、「派遣の拡大」は「厚生労働省がやったんです」、と否定する割に、根拠を示してない。やはり「厚生労働省がやったんです」いうのは、あり得ない話で、罪を「厚生労働省」になすりつけているようだ。
・『会長を辞めたのは企業の新陳代謝を促すため 高橋 そこで番組のテーマですけれど、どうしてパソナを辞められたんですか? 竹中 タイミング的に最初は5年だけと言ってたんです。でも、5年やったときに、もうちょっと頑張って10年やろうかと。それで10年やって68歳でしたから、じゃあキリのいいところで70歳まであと2年ということで12年になり、それが13年になって、ようやく区切りがつけられたということです。 理由としては、企業も新陳代謝が大事ですから、次の若い人が育ってきてほしいというのが一つあります。私のように外から入る人間は、やはり新陳代謝しなければいけないと思っています。たとえば社外取締役の場合、一定期間長くいると独立した社外取締役と認められなくなってきます。だから、新陳代謝することに意味があって、他の取締役と入れ替わって初めてその企業の活力が出てくると思うんです。 今回、コロナ禍の中でようやく業績も回復してきて、それなりに足腰も強くなった。だから若い人たちに引き継げると思って踏み切りました。 高橋 普通の人は、一度会長をやると辞めたくなくなるじゃないですか? なのにサクッと辞められたから、すごいなと思いました。 竹中 私はね、若い頃からたくさんの老害を見てきたんですよ。老害って本人は分かってないと思うんですけれどね。人間は年齢とともにいろいろと経験値が上がって、どんどん能力が備わってきます。でも、その一方で硬直性も出てきて、別の意味で能力が下がってくるところがありますよね。自分ではそれは気づきにくいんですよ』、「老害」を避けるため、会長職を辞めたというが、13年は十分に長く、「老害」そのものだ。
・『“老害”になりたくないから議員も早期辞職した 竹中 自分1人でできる仕事はいくつになっても続ければいいと思うんです。たとえば芸術家とか、音楽家とか、作家とか、そういう1人でやる仕事はいいんですけれど、組織をまとめてたくさんの人を巻き込むような仕事は、一定の年齢になったら退くべきだと思います。自分はまだやれると思っていても、周囲から見ると老害だということになる。それをね、やはり自分で早めに判断しなきゃいけないと考えていたんです。 もう70歳を超えましたから、早めに判断しようと。それが今回の機会になったわけです。ただし、その一方で成田悠輔(経済学者、イェール大学助教授)さんみたいに、「一定の年代になったらみんな老害だから辞めろ」というのは暴論ですよ。これは年齢による差別ですから、“女性だからダメだ”というのと同じ論理です。人によってすごく差が出ますからね。) 高橋 元気か、元気じゃないかとか。 竹中 能力が落ちた分、よく勉強しているか、していないかでその差が出る。そこは組織のトップになった人ならば自分で判断しなきゃダメです。政治家も同じで、「出処進退は自分で決める」って小泉さんが言ってたでしょ。私も同感で、これまでたくさんの老害を見てきたから、早めに判断したいとずっと考えていました』、「成田悠輔・・・さんみたいに、「一定の年代になったらみんな老害だから辞めろ」というのは暴論ですよ。これは年齢による差別」、その通りだ。唯一の同意点だ。
・『「政治の世界は老害が多い」 高橋 参議院議員も任期の途中でお辞めになりましたよね。あのときはどうして2年で辞められたんですか? 竹中 政治の世界というのはやはり怖いと思うんです、権力があるから。それともう一つはたくさん貸し借りがある。政治の世界に長くいると、貸し借りに縛られてしまうと思ったんです。 もともと私は、職業政治家になりたいと思ってなったわけではありません。小泉さんという非常に異色の総理に「一緒に手伝ってくれ」と言われたので、サッカーのレンタル選手みたいな立場で政治の世界に行きました。だから、一つの目的が終わったら元の学者に戻るというだけのことです。 高橋 でもその決断はなかなか難しいですよね? まだやれると思ってしまうから。 竹中 だから老害が多いんだと思います。私は、若い人も育ってきているし、自分で老害は避けたいと思ってましたから、ハッピーなタイミングだったと思いますよ』、「参議院議員も任期の途中で2年で辞められた」のは、「政治の世界に長くいると、貸し借りに縛られてしまうと思った」、これはいさぎ良いが、政治家でいることのリスクを避けるためだった のかも知れない。
先ずは、5月16日付け東洋経済オンラインが掲載した経営コラムニストの横山 信弘氏による「たった1カ月で「新入社員」半分退職まさかの原因 「採用コスト」は例年の5倍かけたのになぜ?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/671389
・『たった1カ月で新入社員の半分が辞めてしまうとは……。 今回は、ある会社が「働きがい」のある職場を目指した結果、新入社員の半分が辞めてしまった事例を紹介する。 昨今、突如として「働きがい」という言葉を使って採用活動に励む会社が増えている。会社に興味を持ち応募する人が多くなるからだろう。しかし、気をつけたほうがいい。言葉を正しく理解していないと、採用の努力が無駄になることがある。 AI時代になり、ますます「働きがい」を誤解して使ってはならないと強く感じるようになった。特に採用活動の責任者、新入社員を引き受ける職場の責任者は、まだ働いていない若者を勘違いさせないためにも、この会社の失敗から学んでもらいたいと思う』、興味深そうだ。
・『新入社員の半分が1カ月で退職!大失敗の原因 新入社員8人のうち4人が、たった1カ月で辞めた会社がある。 なぜ、そんなことが起こったのか? 背後には、将来の幹部候補を求める社長の強い要望があった。 通常は年間2~3人の採用をしていた。だが、社長の命令で例年の5倍の採用コストと1年間の入念な準備を経て、例年より多くの新卒を採用しようとした。 結果、8人の優秀な新入社員が入社した。当初、社長は手放しで喜んだ。入社したあと、採用した新入社員8人と食事をしたとき、「8人みんな優秀だ。1年間がんばったかいがあった」と誇らしげに語っていた。 しかし、そのうちの4人が1カ月も経たずに退職してしまったのだ。残った新入社員のうち、2人も辞めたいと考えているという。社長は激怒した。例年の5倍もの採用コストをかけてなぜ辞めてしまったのか。いったい何が原因でここまでの大失敗となったのだろうか? 採用責任者は、新入社員が辞めた理由を調査するために、配属された職場の上長やベテラン社員にヒアリングを行った。 すると、どの職場でも見解は同じだった。 「今年の新入社員は、ストレス耐性が低い」 「やるべきことをやる前から、働きがいとか、心理的安全性とか、イチイチ言ってくる」) どうやら現場で新入社員たちは、「弁が立つが、やることをやらない」とレッテルを貼られたようだった。 とりわけ採用責任者が着目したのは「働きがい」である。 辞めた4人のうち、ほとんど全員が「働きがいを感じられない」を口にしていた。 合同説明会から複数回の面接を経て入社するまで、「当社は働きがいのある会社」とアピールし続けた。社長も「働きがいのある会社に生まれ変わった」と事あるごとに繰り返していた。だからこそ、新入社員は裏切られたと感じたのかもしれない。 美味しいイチゴが使われたショートケーキだと言われたから買ったのに、肝心のイチゴがあまり美味しくなかった、ということなのだろう』、「通常は年間2~3人の採用をしていた。だが、社長の命令で例年の5倍の採用コストと1年間の入念な準備を経て、例年より多くの新卒を採用しようとした。 結果、8人の優秀な新入社員が入社した。当初、社長は手放しで喜んだ・・・そのうちの4人が1カ月も経たずに退職してしまったのだ。残った新入社員のうち、2人も辞めたいと考えているという。社長は激怒した」、「辞めた4人のうち、ほとんど全員が「働きがいを感じられない」を口にしていた。 合同説明会から複数回の面接を経て入社するまで、「当社は働きがいのある会社」とアピールし続けた。社長も「働きがいのある会社に生まれ変わった」と事あるごとに繰り返していた。だからこそ、新入社員は裏切られたと感じたのかもしれない」、なるほど。
・『「働きがい」の誤解が新入社員の退職を招く 例年になく優秀だと謳われた新入社員たちは、なぜ1カ月もせずに半分も辞めてしまったのか。その原因は「働きがい」にあると考えた。 実は「働きがい」という言葉は、リスクが高い。 なぜなら言葉の意味を、多くの人が誤解しているからだ。これは昨今、同じように使われるようになった「心理的安全性」にも言えることだ。 本来の意味をわからずに使用すると、大きな認識のズレとなり、トラブルを招くことになる。 実際に、社長や採用責任者、新入社員の先輩や上司も含め、ヒアリングしてみたところ、「働きがい」の真の意味を理解しているとは言いがたい状況だった。 「働きがい」と似た言葉に「やりがい」という言葉がある。 「やりがい」とは、困難を乗り越えて成果を出し、同僚やお客様から感謝されてはじめて「やったかいがあった」と思えるものだ。 「今回のイベントの集客、大変だったけど、会場が満員になって大盛況だったな」「はい。最初はすごく苦労しましたが、やったかいがありました」 このように使うものだ。 一方、「働きがい」は「やりがい」よりも抽象度が高い。 先ほどの例文の受け答えで、「はい。最初はすごく苦労しましたが、働いたかいがありました」とは、通常使わない。「やる」と「働く」とでは、対象範囲が違いすぎるからだ。例文として書くとするなら、次のようになる。 「入社して5年経ったけど、どう?働きがいのある職場かな?」 「そうですね。入社して2年間は苦労の連続でしたが、どんなに大変なときも助けてくれる先輩がいますし、課長は厳しいですけど、おかげで随分と成長できましたし、働きがいのある職場だと思っています」 「働きがい」は、数年働いてからでないと味わえないものだと筆者は考えている。) 今後、働きがいを感じることがますます難しくなる時代が到来する。その要因の一つとしてAIの進化が挙げられる。 まず、近年のデジタルシフトにより、単純な知的労働は徐々に人から仕事を奪っている。筆者のクライアント企業にもRPAで人材不足の問題を解消した例はたくさんある。 イベント後のアンケート集計や、顧客の属性に合わせたフォローメール作成など、かつて新入社員に任せられていたような仕事は、このように高性能なシステムやロボットが担当するようになった。 ▽任せられる仕事は、お客様対応しか残っていない(AIは、さらに難易度の高い仕事もこなす。 例えば顧客データベースからお客様の行動分析をし、今後の売り上げ予測まで瞬時に立てられるようになる。 「とりあえず、分析しておいて」と、上司から頼まれる仕事まで減っていくのだ。 分析結果の検証には経験が必要であるし、その結果から判断するには実績とセンスが求められる。新入社員どころか、経験の浅い社員に頼む仕事も奪われていく。 この会社でも、新入社員に任せられる仕事といったら、お客様対応しか残っていなかった。 「とりあえず、200社の担当者に電話して、このリサーチをお願い」 「とりあえず、先日のイベントの来場者に連絡してアポイントをとって」 マーケティングオートメーションでお客様の動きをトレースして、当社商品に興味がありそうな動きをするお客様には、タイミングよく電話をかける。 お客様とのやり取りは音声認識機能で瞬時にテキスト化され、上長に報告される。自分で報告書を書く必要もないため、ひたすらお客様とのコミュニケーションに時間を費やす。 お客様の価値観は多様化しており、何が正解かはわからない時代だ。だからベテラン社員でさえつねに手探り。勝利の方程式などないものだから、試行錯誤の連続だ。 「新入社員は、何をやったらいいですか?と聞いてくるが、事務作業などないし、お客様対応といってもマニュアルなんかない」 これは、新入社員を受け入れた職場責任者の言葉だ。 「マニュアルを見せてくださいと言われたけど、マニュアルに書けるような作業は、だいたいRPAに任せている」 現場の責任者やベテラン社員は、口をそろえてこう言った。 「将来の幹部候補を雇うんだったら、もっとベテランを採用してほしい。私たちだって必死に勉強している。教えることなんてない」) 問題は、・社長をはじめとする採用責任者 ・新入社員をあずかる現場 ・新入社員 それぞれに「認識のズレ」があったことだ。 社長や採用の責任者は、本来の目的を見失い、「働きがい」という表現を優秀な新入社員を集めるためのエサのように使っていた。 いっぽう、現場で働く人たちは「働きがい」についてあまり関心がない。それよりもまず、やるべきことをやることが重要で、期待された成果を出すことに重きを置いている。 これは前述した通り、イチゴの美味しいショートケーキの例えに通じる。広告でイチゴの美味しいショートケーキをアピールしておきながら、現場で働く人たちはそのイチゴがそれほど美味しいという認識を持っていないのだ。この場合、お客様の期待とズレが生じる。 近年、働きがいや心理的安全性、エンゲージメント、ワークライフバランス、クオリティーオブライフといった新語がよく報道で使われる。 しかしこれらのワードに関心が高いのは、就職や転職活動を行っている人たち、そして経営者や役員に限られる。いっぽう現場の人たちは、意識している余裕がない。 劇的な環境変化に伴い、成果の出し方が変わっている。デジタル対応やリスキリングなど、身につけるべき知識やスキルが多すぎて、部下育成している場合ではない。 そんな状況で、 「入社したら、まるで働きがいを感じられないんですが」 と新入社員に指摘されても、どうしたらいいかわからない。これが新入社員を受け入れる先輩たちの本音だろう』、「社長や採用の責任者は、本来の目的を見失い、「働きがい」という表現を優秀な新入社員を集めるためのエサのように使っていた。 いっぽう、現場で働く人たちは「働きがい」についてあまり関心がない。それよりもまず、やるべきことをやることが重要で、期待された成果を出すことに重きを置いている」、「そんな状況で、「入社したら、まるで働きがいを感じられないんですが」 と新入社員に指摘されても、どうしたらいいかわからない。これが新入社員を受け入れる先輩たちの本音だろう」、なるほど。
・『ポイントは「Must」「Can」「Will」 それでは、どうしたらいいのか。 私は15年以上も前から、新入社員研修で一貫して言い続けているフレーズがある。それが、1.「Must」やるべきこと 2.「Can」 やれること 3.「Will」 やりたいこと である。この順番が大事だ。 やるべきこと(マスト)をやり続けることで、やれること(キャン)が増え、やりたいこと(ウィル)が見つかる可能性がある、という話だ。 自分の先輩や上司でさえ先が読めない時代が到来している。だからこそ、新入社員はまずは厳しい現実を受け入れる必要がある。 給料をもらうということはプロフェッショナルになるということだ。ストレスがかかっても、やるべきことをやっていれば、やれることが増えてくるものだ。 そうすることで成果が出て、多くの人から感謝され、働きがいを感じるもの。現場に行ったら、やりたくないこと、苦手なことも任されるかもしれない。だが、それは誰でも一緒である。 サポートしていくから、しっかりとやっていこうと、採用活動の最中から丁寧に伝えるべきだ。きれいごとばかり言っていると、こんなはずじゃなかったと言い、辞めてしまう新入社員が続出してしまう。 繰り返すが、ポイントは「マスト(Must)」「キャン(Can)」「ウィル(Will)」。この順番である。 期待された成果を出さない限り、本当の意味の「働きがい」は感じられないのだから』、「ポイントは「マスト(Must)」「キャン(Can)」「ウィル(Will)」。この順番である。 期待された成果を出さない限り、本当の意味の「働きがい」は感じられないのだから」、確かにその通りだ。
次に、8月14日付けPRESIDENT Online「「派遣の拡大は、厚労省がやったこと」竹中平蔵が悩まされた「真実をもてあそぶ一部メディア」の不誠実 『なんで会社辞めたんですか?』」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/72519
・『「派遣の拡大は、厚労省がやったこと」竹中平蔵が悩まされた「真実をもてあそぶ一部メディア」の不誠実(高橋 弘樹,日経テレ東大学/Webオリジナル(外部転載)) 『なんで会社辞めたんですか?』 #3 「2年間で800万円貯まった」「新人記者は黒塗りのハイヤーでサツ回り」…それでも朝日新聞記者をやめて探検家に転職した角幡唯介(47)の超痛快人生〉から続く 「これもう100回ぐらい、そうじゃないって説明したんですけど、みんなもう面白おかしく言ってるだけです」 元パソナ会長の竹中平蔵氏が辟易する「ワイドショー的な議論」とはいったい? 100万人超え登録YouTubeチャンネル「日経テレ東大学」(※2023年5月末で動画視聴終了)の人気トーク番組を書籍化した『なんで会社辞めたんですか?』(編著:高橋弘樹、日経テレ東大学/発行:東京ニュース通信社/発売:講談社)より一部抜粋してお届けする』、興味深そうだ。
・『竹中平蔵はなぜパソナ会長を退いたのか 高橋弘樹(以下、高橋) 竹中さんはパソナグループの会長を2022年8月にお辞めになられたということで、ささやかですが、ご卒業おめでとうございますの花束をどうぞ! 竹中平蔵(以下、竹中) ありがとうございます。 高橋 何年間勤められたんですか? 竹中 13年間ですね。 高橋 会長職としては、結構長いですね。今回、「なんで会社辞めたんですか?」というテーマでいろいろお聞きしていきたいんですけど、その前にまずはパソナでどういうことをなさっていたのかを教えてください。 竹中 最初、南部靖之代表から「パソナで会長をやっていただけませんか」と言われた時、「私は公共事業を減らしたり、郵政を民営化したり、一部の既得権益者にすごく恨まれています。そんな私が会長をやると、謂れのない批判が会社にいって、パソナにご迷惑がかかりますよ」と申し上げたんです。 南部さんは非常に立派な経営者ですから、「そんなの構わないから、一緒に労働市場を良くしていきましょう」とおっしゃいました。その言葉に感銘を受けてお受けしました。私はこれまでに政府や大学関係の仕事も経験しましたから、取締役会に出席して、経済や社会の動向について提案を行いました。 高橋 会社の具体的な事業というよりは、もう少しマクロな政府の方向性とかについて議論していったという感じですか? 竹中 いえ、会社自体の方向性もそうですし、今、社会はこんな方向に動いてるから、その方向に合わせて事業もこうしていったらどうかとか、そういうことですね。 高橋 具体的にはどんなことされていらしたんですか?) 竹中 私は、ビジネスの現場に詳しいわけではないですけれど、これからはより一層、デジタル化を進めなければいけません。今までは人と人とが対面してやっていたことをいかにデジタル化していくか。それが一番大きかったかもしれませんね。 それと、今後、労働市場はどんな風に変わっていくだろうかということで、労働市場の変化に合わせていろんなことをやらなければいけないと。基本的には「同一労働同一賃金」――これを実現できるかどうかですよね。日本の労働市場というのは明らかに二重構造になっているわけです。 はっきり言いますと、正社員は特権を持っていて、その特権は1979年の東洋酸素(現・日本酸素)事件における東京高等裁判所の判例によって守られていて、正社員というのは首をほとんど切れないことになっています。 そうすると企業にとってみると、これは固定費になります。固定費が大きくなるのは耐えられないので、その高裁の判例が適用されないような部分について非正規社員を増やしてきたという意味で、二重構造になってるわけです。でも、やはり二重構造はおかしいんです。一緒に働いているのだから同一条件にしないといけません。同一労働条件を目指す法律もできてきたわけで、そこが大きな変化の方向です』、「正社員というのは首をほとんど切れないことになっています。 そうすると企業にとってみると、これは固定費になります。固定費が大きくなるのは耐えられないので、その高裁の判例が適用されないような部分について非正規社員を増やしてきたという意味で、二重構造になってるわけです。でも、やはり二重構造はおかしいんです。一緒に働いているのだから同一条件にしないといけません」、なるほど。
・『「派遣の拡大は、厚労省がやったこと」 高橋 竹中さんがされてきた派遣の拡大とかですね。 竹中 いえ、そこが間違ってるんですよ。厚生労働省がやったんです。私は1990年くらいからずっとやってるし、小泉(純一郎)内閣の10年以上前からやっているし、現実にそういう働き方をしたいという人が多い。ついでに言うと、派遣は全労働者のわずか2%です。 ワイドショー的な議論だと、「派遣は悪いことである、それをやったのが竹中である」みたいなことを平気で言いますけども。これもう100回ぐらい、そうじゃないって説明したんですけど、みんなもう面白おかしく言ってるだけです。 もう一つ、やはり地方創生はすごく重要なテーマになってきています。ご存じのように、パソナは2020年9月から本社機能の一部を淡路島に置いていますけれど、そうした地方創生の基本的な方向について意見を言っていました』、「派遣の拡大」は「厚生労働省がやったんです」、と否定する割に、根拠を示してない。やはり「厚生労働省がやったんです」いうのは、あり得ない話で、罪を「厚生労働省」になすりつけているようだ。
・『会長を辞めたのは企業の新陳代謝を促すため 高橋 そこで番組のテーマですけれど、どうしてパソナを辞められたんですか? 竹中 タイミング的に最初は5年だけと言ってたんです。でも、5年やったときに、もうちょっと頑張って10年やろうかと。それで10年やって68歳でしたから、じゃあキリのいいところで70歳まであと2年ということで12年になり、それが13年になって、ようやく区切りがつけられたということです。 理由としては、企業も新陳代謝が大事ですから、次の若い人が育ってきてほしいというのが一つあります。私のように外から入る人間は、やはり新陳代謝しなければいけないと思っています。たとえば社外取締役の場合、一定期間長くいると独立した社外取締役と認められなくなってきます。だから、新陳代謝することに意味があって、他の取締役と入れ替わって初めてその企業の活力が出てくると思うんです。 今回、コロナ禍の中でようやく業績も回復してきて、それなりに足腰も強くなった。だから若い人たちに引き継げると思って踏み切りました。 高橋 普通の人は、一度会長をやると辞めたくなくなるじゃないですか? なのにサクッと辞められたから、すごいなと思いました。 竹中 私はね、若い頃からたくさんの老害を見てきたんですよ。老害って本人は分かってないと思うんですけれどね。人間は年齢とともにいろいろと経験値が上がって、どんどん能力が備わってきます。でも、その一方で硬直性も出てきて、別の意味で能力が下がってくるところがありますよね。自分ではそれは気づきにくいんですよ』、「老害」を避けるため、会長職を辞めたというが、13年は十分に長く、「老害」そのものだ。
・『“老害”になりたくないから議員も早期辞職した 竹中 自分1人でできる仕事はいくつになっても続ければいいと思うんです。たとえば芸術家とか、音楽家とか、作家とか、そういう1人でやる仕事はいいんですけれど、組織をまとめてたくさんの人を巻き込むような仕事は、一定の年齢になったら退くべきだと思います。自分はまだやれると思っていても、周囲から見ると老害だということになる。それをね、やはり自分で早めに判断しなきゃいけないと考えていたんです。 もう70歳を超えましたから、早めに判断しようと。それが今回の機会になったわけです。ただし、その一方で成田悠輔(経済学者、イェール大学助教授)さんみたいに、「一定の年代になったらみんな老害だから辞めろ」というのは暴論ですよ。これは年齢による差別ですから、“女性だからダメだ”というのと同じ論理です。人によってすごく差が出ますからね。) 高橋 元気か、元気じゃないかとか。 竹中 能力が落ちた分、よく勉強しているか、していないかでその差が出る。そこは組織のトップになった人ならば自分で判断しなきゃダメです。政治家も同じで、「出処進退は自分で決める」って小泉さんが言ってたでしょ。私も同感で、これまでたくさんの老害を見てきたから、早めに判断したいとずっと考えていました』、「成田悠輔・・・さんみたいに、「一定の年代になったらみんな老害だから辞めろ」というのは暴論ですよ。これは年齢による差別」、その通りだ。唯一の同意点だ。
・『「政治の世界は老害が多い」 高橋 参議院議員も任期の途中でお辞めになりましたよね。あのときはどうして2年で辞められたんですか? 竹中 政治の世界というのはやはり怖いと思うんです、権力があるから。それともう一つはたくさん貸し借りがある。政治の世界に長くいると、貸し借りに縛られてしまうと思ったんです。 もともと私は、職業政治家になりたいと思ってなったわけではありません。小泉さんという非常に異色の総理に「一緒に手伝ってくれ」と言われたので、サッカーのレンタル選手みたいな立場で政治の世界に行きました。だから、一つの目的が終わったら元の学者に戻るというだけのことです。 高橋 でもその決断はなかなか難しいですよね? まだやれると思ってしまうから。 竹中 だから老害が多いんだと思います。私は、若い人も育ってきているし、自分で老害は避けたいと思ってましたから、ハッピーなタイミングだったと思いますよ』、「参議院議員も任期の途中で2年で辞められた」のは、「政治の世界に長くいると、貸し借りに縛られてしまうと思った」、これはいさぎ良いが、政治家でいることのリスクを避けるためだった のかも知れない。
タグ:東洋経済オンライン (その40)(たった1カ月で「新入社員」半分退職まさかの原因 「採用コスト」は例年の5倍かけたのになぜ?、「派遣の拡大は、厚労省がやったこと」竹中平蔵が悩まされた「真実をもてあそぶ一部メディア」の不誠実 『なんで会社辞めたんですか?』) 働き方改革 横山 信弘氏による「たった1カ月で「新入社員」半分退職まさかの原因 「採用コスト」は例年の5倍かけたのになぜ?」 興味深そうだ。 「通常は年間2~3人の採用をしていた。だが、社長の命令で例年の5倍の採用コストと1年間の入念な準備を経て、例年より多くの新卒を採用しようとした。 結果、8人の優秀な新入社員が入社した。当初、社長は手放しで喜んだ・・・そのうちの4人が1カ月も経たずに退職してしまったのだ。残った新入社員のうち、2人も辞めたいと考えているという。社長は激怒した」、「辞めた4人のうち、ほとんど全員が「働きがいを感じられない」を口にしていた。 合同説明会から複数回の面接を経て入社するまで、「当社は働きがいのある会社」とアピールし続けた。社長も「働きがいのある会社に生まれ変わった」と事あるごとに繰り返していた。だからこそ、新入社員は裏切られたと感じたのかもしれない」、なるほど。 「社長や採用の責任者は、本来の目的を見失い、「働きがい」という表現を優秀な新入社員を集めるためのエサのように使っていた。 いっぽう、現場で働く人たちは「働きがい」についてあまり関心がない。それよりもまず、やるべきことをやることが重要で、期待された成果を出すことに重きを置いている」、 「そんな状況で、「入社したら、まるで働きがいを感じられないんですが」 と新入社員に指摘されても、どうしたらいいかわからない。これが新入社員を受け入れる先輩たちの本音だろう」、なるほど。 「ポイントは「マスト(Must)」「キャン(Can)」「ウィル(Will)」。この順番である。 期待された成果を出さない限り、本当の意味の「働きがい」は感じられないのだから」、確かにその通りだ。 PRESIDENT ONLINE 「「派遣の拡大は、厚労省がやったこと」竹中平蔵が悩まされた「真実をもてあそぶ一部メディア」の不誠実 『なんで会社辞めたんですか?』」 興味深そうだ 「正社員というのは首をほとんど切れないことになっています。 そうすると企業にとってみると、これは固定費になります。固定費が大きくなるのは耐えられないので、その高裁の判例が適用されないような部分について非正規社員を増やしてきたという意味で、二重構造になってるわけです。でも、やはり二重構造はおかしいんです。一緒に働いているのだから同一条件にしないといけません」、なるほど。 「派遣の拡大」は「厚生労働省がやったんです」、と否定する割に、根拠を示してない。やはり「厚生労働省がやったんです」いうのは、あり得ない話で、罪を「厚生労働省」になすりつけているようだ。 「老害」を避けるため、会長職を辞めたというが、13年は十分に長く、「老害」そのものだ。 「成田悠輔・・・さんみたいに、「一定の年代になったらみんな老害だから辞めろ」というのは暴論ですよ。これは年齢による差別」、その通りだ。唯一の同意点だ。 「参議院議員も任期の途中で2年で辞められた」のは、「政治の世界に長くいると、貸し借りに縛られてしまうと思った」、これはいさぎ良いが、政治家でいることのリスクを避けるためだった のかも知れない。
マイナンバー制度(その6)(注目の人 直撃インタビュー 保団連会長が警鐘「保険証廃止を強行すれば閉院ラッシュ 地域医療は崩壊します」、だから躍起になってマイナンバーカードを作らせようとする…日本を"デジタル後進国"にした本当の原因 民間ではプラスチックのカードは姿を消しつつあるのに、厚労省が満を持して出した「保険証廃止で最大108億円コスト減」の“怪しい試算) [経済政策]
昨日に続いて、マイナンバー制度(その6)(注目の人 直撃インタビュー 保団連会長が警鐘「保険証廃止を強行すれば閉院ラッシュ 地域医療は崩壊します」、だから躍起になってマイナンバーカードを作らせようとする…日本を"デジタル後進国"にした本当の原因 民間ではプラスチックのカードは姿を消しつつあるのに、厚労省が満を持して出した「保険証廃止で最大108億円コスト減」の“怪しい試算”)を取上げよう。
先ずは、8月7日付け日刊ゲンダイ「注目の人 直撃インタビュー 保団連会長が警鐘「保険証廃止を強行すれば閉院ラッシュ、地域医療は崩壊します」」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/327001
・『住江憲勇(全国保険医団体連合会会長) マイナンバーカードを巡って次から次へと起こるトラブルに岸田政権は右往左往。国民の不信は募る一方だ。とりわけ、健康保険証廃止への反発は強く、世論調査では来年秋の廃止について「反対」が7割を超える。にもかかわらず、政府はマイナ保険証への一本化方針にいまだに固執。このため全国の医療機関では大混乱が生じている。この間、医療現場の実態を調査し、問題点を明らかにしてきた保団連会長に思う存分、語ってもらった(Qは聞き手の質問、Aは保団連会長の回答)』、興味深そうだ。
・『マイナ保険証「必発3トラブル」は解決しない Q:医療現場で何が起きていますか。 A:マイナ保険証を使うとまず、受け付け時点で混乱が生じる。オンライン資格確認がうまくいかず、患者が列をつくり、時間も手間もかかる。スタッフに対しクレームも出る。医療情報は古い上に、他人の情報かもしれないと考えると診療では怖くて使えない。マイナ保険証はほとんど活用されていないのが実態です。 Q:マイナ保険証の根本的な問題は何ですか。 A:避けられない、必発のトラブルが3つあります。公金口座や年金などでも発覚しているが、1つはマイナ保険証へのひも付けの誤りによる危険です。重大な医療事故につながりかねません。2つ目は、資格者全員に交付する保険証と違い、マイナ保険証や資格確認書は申請主義なので、どうしても申請漏れや遅れが生じ、保険資格情報の誤りが避けられないことです。3つ目は、オンラインにつきもののシステム障害の発生リスクは当然あります。 Q:実際に3つとも多発しています。 A:これだけの不具合が起きれば運用を全面停止し、万全の改善策を講じるのが常識です。富士通子会社の証明書交付サービスのトラブルの際はシステムを停止しました。ところが政府は、立ち止まることなく、走りながらの対応を続けている。次々生じるトラブルに対し、ほころびを縫うがごとく対策に追われるから、シッチャカメッチャカの状態に陥っている。 Q:受け付けで無保険扱いが続出し、10割請求が問題になった時、加藤厚労相は窓口負担を「3割」とするよう医療機関に求めました。 窓口でいったん3割とするが、後で正しい資格情報を確認する必要がある。それを担うのは社会保険診療報酬支払基金です。無資格扱いとなるトラブルは70万件以上起こるとの推計を発表しましたが、それくらいの規模で資格を確認する作業が毎月、発生するのです。当然、積み残しが起き、支払いの遅延や不能が起きるでしょう』、「オンライン資格確認がうまくいかず、患者が列をつくり、時間も手間もかかる。スタッフに対しクレームも出る。医療情報は古い上に、他人の情報かもしれないと考えると診療では怖くて使えない。マイナ保険証はほとんど活用されていないのが実態です」、「必発のトラブルが3つあります・・・1つはマイナ保険証へのひも付けの誤りによる危険です。重大な医療事故につながりかねません。2つ目は、資格者全員に交付する保険証と違い、マイナ保険証や資格確認書は申請主義なので、どうしても申請漏れや遅れが生じ、保険資格情報の誤りが避けられないことです。3つ目は、オンラインにつきもののシステム障害の発生リスクは当然あります」、なるほど。
・『終戦直後の支払い遅延時代に逆戻り Q:医療機関の経営に影響も出る。 A:終戦直後、支払い遅延が常態化し、適切な医療提供が難しい事態に直面しました。そこで、1948年に支払基金が設立された経緯があります。このままでは終戦直後の支払い遅延の時代に戻りかねません。これまでは患者から保険証の提示がない場合、窓口では10割の負担を求め、後で資格が確認できれば、差額を返金し、そうでなければそのまま、という運用をしてきた。病院と患者の間でコンセンサスがあったのです。医療従事者と患者の信頼関係まで壊れかねない事態です。 Q:マイナ保険証の登録は6500万人で足踏み状態です。 A:マイナ保険証の普及を前提に、資格確認書の交付はごくわずかと想定し、申請に基づいて毎年交付としていました。ところが、人口の半分近くに送付となると、そうはいかない。毎年でなく、保険証に準じた期間にするとか、職権で全件交付という案も浮上しています。これでは、ほとんど保険証と変わりません。保険証を廃止する意味は薄らいでいる』、「これまでは患者から保険証の提示がない場合、窓口では10割の負担を求め、後で資格が確認できれば、差額を返金し、そうでなければそのまま、という運用をしてきた。病院と患者の間でコンセンサスがあったのです。医従事者と患者の信頼関係まで壊れかねない事態です」、「マイナ保険証の普及を前提に、資格確認書の交付はごくわずかと想定し、申請に基づいて毎年交付としていました。ところが、人口の半分近くに送付となると、そうはいかない。毎年でなく、保険証に準じた期間にするとか、職権で全件交付という案も浮上しています。これでは、ほとんど保険証と変わりません。保険証を廃止する意味は薄らいでいる」、その通りだ。
・『「問題の先送りではなく撤回に追い込むことが重要」 Q:保険証廃止についてはメディアの批判的報道も盛んですが、保団連は以前から警鐘を鳴らしていました。 A:今年4月からのオンライン資格確認義務化の進め方は極めて強引でした。昨年6月に義務化方針を閣議決定し、ろくな審議もせずに3カ月後には省令を発令した。昨年8月の厚労省の説明会で、保険局の水谷忠由医療介護連携政策課長は、義務化に応じない医療機関について「保険医療機関・薬局の指定の取り消し事由となり得る」と恫喝までした。こうして環境を整え、同10月に河野デジタル担当相が保険証の廃止を表明したのです。 Q:オンライン資格確認の義務化について、医療機関はどう受け止めましたか。 A:昨年10月のアンケートによると、セキュリティーへの懸念や経済的負担などの理由で15%が「対応できない」と答え、10%が閉院を検討すると回答しました。資格確認システムの導入という、医療とは無関係な理由から病院を閉じるのは、医療従事者にとって忸怩たる思いだと思います。 Q:4月からの義務化による閉院は起きたのですか。 A:全国の地方厚生局に提出された保険医療機関の廃止数を見ると、今年4月は約1100件に上っています。少なくとも昨年5月以降で最多となっています。4月からのオンライン義務化の影響も考えられます。 Q:閉院が相次ぐのは地域医療の維持を揺るがします。 A:全国には中山間地域があります。限界集落とならず、持ちこたえているケースはかろうじて医療機関が存在しています。例えば、高齢の先生が診療を続けてくれている。そうした地域で唯一の医療機関が閉院してしまったら、住民の医療はどうなるのか。地域医療への影響は今のところ、顕在化していません。しかし、政府が保険証の廃止方針を貫けば、判断を迷っている医療機関が閉院を決めかねない。閉院予定の医療機関はオンライン資格確認を導入せず、来年9月までは続けられるが、その後はない。来年秋に向けてさらなる閉院ラッシュが起きてもおかしくありません。 Q:自民党幹部から来秋の廃止について「延期論」が出ています。 A:与党からそういう声が出るほど事態は深刻だということでしょう。ただ、延期でガス抜きされないように注意が必要です。当面は延期でいいとしても、撤回に追い込むことが重要です。延期したところで問題が先送りされるだけです。この先、マイナ保険証の登録が飛躍的に伸びるとも思えず、数千万人がマイナ保険証を持たない状況は続きます。また、廃止時期を後ろ倒しにしても、先に挙げた3つの必発トラブルがなくなるわけではない。これまで同様、マイナ保険証に一本化するスキームの中で解決しようとすれば、延期した期間にトラブルが続くだけなのです。保険証を存続させれば、一気に解決する話です。 Q:マイナ保険証と健康保険証の併用については? A:かつては併用を主張していました。というのも、ITに強い医師もおり、進めることのメリットも一定分あるからです。だから、マイナ保険証に絶対反対とは言いません。ただ、トラブルがここまで起きている以上、あまりにも危険すぎて、マイナ保険証を使いたい人に「どうぞ使ってください」とも言えなくなった。それほど深刻な事態だと認識しています。 Q:来秋の保険証廃止について反対の世論は7割を超えていますが、政府は鈍感です。 A:例えば、河野デジタル担当相は自主返納について「微々たる数」だと切り捨てました。信頼されていない事態に向き合おうとしていない。保険証廃止を政府は譲らない構えですが、国民の運動に加え、メディアの報道もあり、廃止についての危機意識は共有できていると思います。 Q:「医療のデジタル化」と言えば聞こえはいい。 A:「医療のデジタル化のためには、多少のリスクやデメリットがあっても立ち止まらずに推し進めるべきだ」と言う人がいますが、軽い発言です。マイナ保険証では、機微に富む情報がずさんに扱われ、地域医療の崩壊にもつながりかねない。保険証廃止の撤回に向けて引き続き奮闘します』、「昨年10月のアンケートによると、セキュリティーへの懸念や経済的負担などの理由で15%が「対応できない」と答え、10%が閉院を検討すると回答しました。資格確認システムの導入という、医療とは無関係な理由から病院を閉じるのは、医療従事者にとって忸怩たる思いだと思います。 Q:4月からの義務化による閉院は起きたのですか。 A:全国の地方厚生局に提出された保険医療機関の廃止数を見ると、今年4月は約1100件に上っています。少なくとも昨年5月以降で最多となっています。4月からのオンライン義務化の影響も考えられます。予想以上に大きな影響だ。「マイナ保険証では、機微に富む情報がずさんに扱われ、地域医療の崩壊にもつながりかねない。保険証廃止の撤回に向けて引き続き奮闘します」、その通りだ。
次に、8月21日付け日刊ゲンダイが掲載した南山大大学院法務研究科教授の實原隆志氏による「マイナひも付けミス「初歩的トラブル続出に驚いた」…情報法の専門家が突きつける数々の課題」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/327680
・『マイナンバーカードのひも付けトラブルをめぐる“狂騒”に終わりが見えない。政府は8日、マイナンバー情報総点検本部を開催。ひも付けミスに関してまとめた中間報告では、新たなミスが発覚した。岸田首相は11月末までに個別データの点検を進めるよう指示し、年内に沈静化を図ろうとしているが、「国民の不安」は一向に解消されない。マイナ制度に詳しい憲法・情報法の専門家は、相次ぐトラブルや政府の対応をどう見ているのか(Qは聞き手の質問、Aは専門家の回答)。 Q:中間報告では、マイナ保険証に誤って他人の情報が登録されていたケースが新たに1069件、公務員などの年金を運営する「共済組合」でもマイナンバーと年金情報のひも付けミスが118件確認されました。政府は今後、ひも付けに関するガイドライン作成や人手を介さないひも付け作業のデジタル化など、再発防止策に着手する予定です。 A:遅きに失したとはいえ、ガイドラインを作成しないよりはましですし、ひも付け作業のデジタル化に取り組む姿勢を示したことは評価できます。ただ、気になるのは、中間報告の中に〈国民の信頼回復に向けた対応〉として、〈カード取得の円滑化〉〈マイナ保険証の利用の促進〉が盛り込まれたことです。ひも付けトラブルが続出した原因の分析と再発防止が総点検に期待される役割のはずですが、マイナカードによる行政側のメリットを広報することが信頼回復につながるとは考えにくい。あくまでも中間報告なので、最終報告ではトラブル原因の分析・総括を期待したいですね。 Q:ひも付けトラブルが後を絶ちません。 A:そもそも、1つの番号や1枚のカードに個人情報をひも付けることによって、個人が想定していなかった機関に情報が共有されたり、情報を提供した意図とは違う文脈で使われたりする恐れがないように、いかに制度や運用をコントロールするかが、憲法や情報法の分野における問題意識でした。足元で起きているトラブルは他人の情報がひも付いてしまうという、従来から懸念されてきた問題とは別次元かつ想定外の問題です。少なくとも技術的には、間違いなくひも付けできるシステムが構築されている認識だったので、どのように個人情報のひも付けを規律するかという、法的な課題以前の初歩的なトラブルが相次いだことには正直、驚きを禁じ得ませんでした』、「法的な課題以前の初歩的なトラブルが相次いだことには正直、驚きを禁じ得ませんでした」、なるほど。
・『ドイツでは違憲主張のコミッショナーが監督しています Q:先の国会では改正マイナンバー法などの関連法が成立し、利用拡大が進んでいます。 A:法改正をして活用分野を広げていくのは手続き上、問題ありません。もちろん、議論が十分かどうか、マイナ制度を監督する個人情報保護委員会(個情委)がまったく意見を出さないなど、法改正に至るプロセスの問題はあります。今回の改正で〈法律でマイナンバーの利用が認められている事務について、主務省令に規定することで情報連携を可能とする〉と定められたので、省令で情報連携が進んでしまう運用は今後も争点でしょう。 Q:そもそも個人情報の扱いが厳格ではない? (今年3月に最高裁はマイナ制度が合憲だとの判決を出しました。マイナ制度の運用は厳格であるとの判断ですが、個人的には決して厳格とは思いません。例えば、ヨーロッパに目を向けると、ドイツでは納税者番号が15~16年前から使われており、今後、日本の住基ネットのような仕組みが導入される予定です。異なる分野を管轄する行政機関の間で納税者番号を使って情報連携する仕組みが導入されているので、日本のマイナ制度のように、1つの番号にあらゆる情報がひも付く「フラット型」に近づいているとも言えます。ただ、ドイツの場合、納税者番号とどの個人情報がひも付くか、しっかり法律の中で定義されています。一方、日本はマイナンバーとどの個人情報をひも付けるかの定義がなく、ドイツに比べて規律の緩さが目立ちます。ドイツの運用方法が柔軟性に欠くとの批判はあり得ますが、番号制度に対する懸念を払拭する点では参考に値すると思います。) Q:ドイツでは番号に基づく個人情報のネットワーク化は受け入れられている?(ドイツには「連邦データ保護コミッショナー」とも呼ばれる独任制の組織があり、制度を監督しています。日本の個情委に似ていますが、制度への姿勢は異なります。コミッショナーは番号の活用を違憲だと主張しており、学術レベルでも意見が割れています。今後、違憲訴訟になると思います。ドイツでは「これは違憲だ」と主張している機関が制度を監督するので、制度運用に対する厳格さは担保されています。コミッショナーは批判するのが仕事という側面もあり、「違憲だ」との主張はある種、お決まりの反応ともドイツでは捉えられているほどです』、「ドイツの場合、納税者番号とどの個人情報がひも付くか、しっかり法律の中で定義されています。一方、日本はマイナンバーとどの個人情報をひも付けるかの定義がなく、ドイツに比べて規律の緩さが目立ちます。ドイツの運用方法が柔軟性に欠くとの批判はあり得ますが、番号制度に対する懸念を払拭する点では参考に値すると思います」、「ドイツでは「これは違憲だ」と主張している機関が制度を監督するので、制度運用に対する厳格さは担保されています」、なるほど。
・『制度支える個情委は欧州並みの働きを Q:公金受取口座が別人のマイナンバーとひも付けられた問題を巡り、個情委は7月にデジタル庁に立ち入り検査しました。 立ち入り検査にまで踏み込んだのは評価できますが、問題の位置付けが個情委らしい。個情委は今回の問題について、マイナンバーやマイナカードを活用したサービスを利用する国民が不安を抱くキッカケになり得る事案の一部として位置付け、立ち入り検査をしている。つまり、立ち入り検査は、我々の個人情報を守るためではなく、マイナ制度やマイナカードの利用拡大を円滑に行うための調査として位置付けられているように見えます。そもそも個情委は、マイナ制度を運用するために立ち上げられた組織。立ち入り検査にしても、マイナ制度を浸透させるための環境整備との印象は拭えません。マイナ制度を支える前提でつくられた組織である以上、個情委としてマイナ制度を批判することは、自らの存在意義を侵食するという意識があるのではないか。その心理は、理解できなくもありませんが、ヨーロッパ並みの第三者機関として期待される役割を果たして欲しい。 Q:個情委の担当大臣は河野デジタル相です。どこまで踏み込んで検査できるでしょうか。 A:保険金の不正請求問題が明るみに出たビッグモーターと対比して考えると、組織の長から情報収集しないという選択肢は考えられません。マイナンバーのひも付けミスとは問題の質は異なりますが、社長以下、役員や現場スタッフ全体を調査するのが普通でしょう。そう考えると、たとえ形式上であっても、所管大臣が調査の対象になるのが当然ではないか。 Q:マイナ制度の運用に関して、個情委も厳しい姿勢を見せ始めた? A:個情委は従来、マイナンバーやマイナカードの利用範囲の拡大などについて、円滑な制度運用のための監督はしても、意見表明は行っていません。個情委には個人情報保護法上は行政機関に命令する権限がないとはいえ、そうした権限がないからこそ、政府に対してざっくばらんに意見を言えばいい。マイナカード利用拡大の懸念に対応して円滑な運用を目指すのは、個情委ではなくデジタル庁や総務省の仕事のはずです。 Q:政府は「国民の不安払拭」と繰り返しています。 A:政府が推し進めているのは、マイナカードの利便性を高める施策ではなく、カード取得は任意にもかかわらず持たない人が不利益を被るような施策です。政府が想定している「不安」は総点検の目的に照らせば、マイナンバーに他人の情報がひも付いている想定外の事態に対するもの。一方、多くの人が感じている不安は来秋に予定されている健康保険証廃止だと思います。ひも付けミスは原因分析や作業環境の改善を図ることによって解消されることを期待しますが、マイナカードを持たない人が不便な思いをする施策の軌道修正が図られない限り、「国民の不安」は払拭できないでしょう。今後、保険証廃止の時期について柔軟性が示されれば、不安払拭につながると思います』、「個情委は従来、マイナンバーやマイナカードの利用範囲の拡大などについて、円滑な制度運用のための監督はしても、意見表明は行っていません。個情委には個人情報保護法上は行政機関に命令する権限がないとはいえ、そうした権限がないからこそ、政府に対してざっくばらんに意見を言えばいい。マイナカード利用拡大の懸念に対応して円滑な運用を目指すのは、個情委ではなくデジタル庁や総務省の仕事のはずです」、「マイナカードを持たない人が不便な思いをする施策の軌道修正が図られない限り、「国民の不安」は払拭できないでしょう。今後、保険証廃止の時期について柔軟性が示されれば、不安払拭につながると思います」、なるほど。
第三に、8月18日付けPRESIDENT Onlineが掲載した経済ジャーナリストの磯山 友幸氏による「だから躍起になってマイナンバーカードを作らせようとする…日本を"デジタル後進国"にした本当の原因 民間ではプラスチックのカードは姿を消しつつあるのに」を紹介しよう』、興味深そうだ。
https://president.jp/articles/-/72900?page=1
・『「我が国がデジタル後進国だったことにがく然」 健康保険証とマイナンバーカードを紐付けして「マイナ保険証」に一体化する政府の姿勢がぐらついている。来年秋に現行の健康保険証を廃止するという政府方針に、野党のみならず与党内からも批判の声が上がり、岸田文雄首相はいったん「廃止延期」に含みをもたせるような発言をした。ところが8月4日に開いた記者会見では、不安払拭に努力するとしたうえで、廃止の方針は当面維持する姿勢を示した。なぜ、そこまで健康保険証廃止にこだわるのか。政府のデジタル化が遅れているのは健康保険証のせいなのか。 「なぜデジタル化を急いで進めるのか」。会見で岸田首相自身がこう説明した。 「国民への給付金や各種の支援金における給付の遅れ、感染者情報をファクスで集計することなどによる保健所業務のひっ迫、感染者との接触確認アプリ導入やワクチン接種のシステムにおける混乱。欧米諸国や台湾、シンガポール、インドなどで円滑に進む行政サービスが、我が国では実現できないという現実に直面し、我が国がデジタル後進国だったことにがく然といたしました」』、「「なぜデジタル化を急いで進めるのか」。会見で岸田首相自身がこう説明・・・「国民への給付金や各種の支援金における給付の遅れ、感染者情報をファクスで集計することなどによる保健所業務のひっ迫、感染者との接触確認アプリ導入やワクチン接種のシステムにおける混乱。欧米諸国や台湾、シンガポール、インドなどで円滑に進む行政サービスが、我が国では実現できないという現実に直面し、我が国がデジタル後進国だったことにがく然といたしました」、気付くのが遅過ぎる。
・『なぜ保険証は廃止で免許証は継続なのか コロナウイルス蔓延下で行政が後手後手に回ったのは間違いない。だが、保険証を廃止してマイナ保険証を普及させれば、こうした問題は解決するのだろうか。様々な個人情報をマイナンバーカードに紐付けて国が一元管理しなければ、そうした行政のデジタル化は進まないのか。 岸田首相はさらにこう語った。 「私たちのふだんの暮らしでは、免許証やパスポートが、身元確認の役目を果たします。では、顔が見えず、成りすましも簡単なオンラインの世界で、身元確認や本人確認をどうするのでしょうか。その役目を担うのが電子証明書を内蔵しているマイナンバーカードです。それゆえに、マイナンバーカードは『デジタル社会のパスポート』と呼ばれています」 ということは、成りすましを防ぐために保険証をマイナ保険証に切り替えようとしているということなのか。マイナンバーカードは「便利だ」から作った方がいい、というのがこれまでの説明ではなかったか。 本人確認というのなら、真っ先に運転免許証やパスポートと一体化すればいい。運転免許証は紐付ける方針だが、免許証は廃止されない方向だ。なぜ保険証は廃止で免許証は存続なのか、岸田首相の説明では分からない。国政選挙の投票所で本人確認に使えば、成りすましは防げる。その方が重要ではないか』、「なぜ保険証は廃止で免許証は存続なのか、岸田首相の説明では分からない」、なるほど。
・『いきなり紐付けようとしたから大混乱が起きている そもそもマイナンバー、つまり個人番号は日本に在住している人はすでに全員に割り振られている。日本に在住する外国人も番号を持っている。デジタル化の前提である個人番号は全員に行き渡っているのだ。マイナンバーカードを作るかどうかは任意だが、番号は全員が持っているわけだ。 また、銀行口座を開設する際や既存の口座でもマイナンバーの届出が義務付けられている。つまり、マイナンバーと銀行口座は紐付けられている。税務申告でもマイナンバーを提出することになっていて、すでにかなりの個人情報はデジタルでつながっていると考えていい。ではなぜ、健康保険証の紐付けがうまくいかないのか。 問題は、いきなりマイナンバーカードと健康保険証を紐付けようとしたために、大混乱が生じていることだ。もともと健康保険の加入者からマイナンバーの提出を受けて、健康保険組合などがマイナンバーと保険証番号を並列して保有する作業を先行していれば、こんな混乱は起きなかったに違いない』、「もともと健康保険の加入者からマイナンバーの提出を受けて、健康保険組合などがマイナンバーと保険証番号を並列して保有する作業を先行していれば、こんな混乱は起きなかったに違いない」、なるほど。
・『霞が関は「普及率向上」に必死で、本来の目的を見失っている では、なぜそんなに急いで保険証とカードを紐付ける必要があったのか。岸田首相は会見で「なぜ、マイナカードの早期普及が必要か」と自ら問いを掲げ、こう続けた。「それは、多様な公的サービスをデジタル処理するための公的基盤を欠いていたことが、コロナのときのデジタル敗戦の根本的な原因だったと、政府全体で認識したからです」としている。マイナンバーではなく、カードがないから行政サービスができない、というのだ。 今回の混乱について、岸田首相の側近のひとりは、「マイナンバーカードの普及が目的化してしまったことが、今の混乱につながってしまった」と唇をかむ。霞が関の官僚は「目標」が設定されるとその達成に邁進する傾向がある。美徳ではあるが、一方で本来の目的を履き違えることにつながりかねない。今、総務省やデジタル庁が必死になるのは、マイナンバーカードの「普及率」向上であって、本来の目的であるデジタル化による行政コストの削減ではない。 血税から個人に2万円分のポイントを配ってでもカードを作らせようとした愚策を見てもそれがわかる。クレジットカード会社が入会時にポイントを配るのはカードを作ってもらえばカード会社の利益になるからだ。政府はマイナカードを普及させることで、どうやって2万円を回収しようと考えているのか』、「政府はマイナカードを普及させることで、どうやって2万円を回収しようと考えているのか」、どう考えても合理的な説明は困難だ。
・『通院を「不便」にしてカード取得者を増やす狙い マイナンバーカードの普及率が焦点であることは、官僚が原稿を用意したであろう岸田首相の会見発言にも表れている。「国民の皆様の御協力によって、8904万枚、普及率は70パーセントを超えています」と胸を張ったのだ。実際には死亡した人の取得枚数もカウントする一方で、人口は最新を使っていたという「粉飾まがい」も表面化した。何しろ普及率を高くすることが大事だからだ。 おそらく、保険証廃止は、マイナンバーカードを普及させるための「切り札」なのだろう。住民票がコンビニで取れるのは便利には違いないが、せいぜい年に何回かの話。市役所に行って取るのと大差ない。ところが病気になるたび、あるいは通院している人なら、月が変わるたびに提示しなければならない健康保険証が廃止されるとなれば、マイナンバーカードを作らざるを得なくなる。つまり、「便利だから」ではなく、「不便になるのは困るから」カードを作る人が出る。政府はそれを狙っているのだろう』、「健康保険証が廃止されるとなれば、マイナンバーカードを作らざるを得なくなる」、「「便利だから」ではなく、「不便になるのは困るから」カードを作る人が出る。政府はそれを狙っているのだろう」、なるほど。
・『2016年に登録した人のカードが有効期限を迎える ではなぜ、2024年秋に廃止なのか。 実は、現在のマイナンバーカードには有効期限がある。カード発行から10回目の誕生日を過ぎると使えなくなる。カードが発行され始めたのは2016年1月なので、早ければ2025年1月以降、有効期限が来るカードが出始めるわけだ。更新手続きをしなければ無効になるので、当然、普及率に影響する。せっかく2万ポイントを配って普及率を上げたのに、期限が切れて失効する人が増えては、普及率は再び低下し、これまでの努力が水泡に帰す。だから、マイナンバーカードを「絶対に必要なもの」にしてしまおうということではないか。 そもそも、デジタル化の目的は何だったのだろうか。菅義偉氏が首相としてデジタル庁の設置を推し進めた時のキャッチフレーズは「縦割りを打破する」だった。 コロナ下の帰国に際してはワクチン接種証明などを事前に登録する「Visit Japan Web」が作られた。ひとつのアプリで全てが終わり、縦割り打破になるはずだった。ところが、羽田空港の「検疫」ではアプリに表示された「QRコード」を機械で読み取るのではなく、正常に登録されたことを示す「緑色」をずらっと並んだ係員が「目視」するというなかなかのデジタル後進国ぶりが繰り広げられていた。数が少ない機械を通すと長蛇の列になるのを避けるための「現場対応」だったのだろう。今は、接種証明が不要になって、「検疫」システムはアプリから削除された』、「せっかく2万ポイントを配って普及率を上げたのに、期限が切れて失効する人が増えては、普及率は再び低下し、これまでの努力が水泡に帰す。だから、マイナンバーカードを「絶対に必要なもの」にしてしまおうということではないか」、なるほど。
・『入国の手続きですら「ワンストップ」にはならなかった 「税関」では、デジタル申告よりも、機内で書いた手書きの申告書を渡す方が早く手続きを終えられる、という状態が今でも続いている。 帰国時の「入国審査」は独自のデジタル化が進み、パスポートを読み取り機に置いて顔認証するだけでゲートが開くようになった。便利になったが、結局、検疫(厚労省)、税関(国税庁)、入国審査(法務省)という縦割り対応は変わっていない。ひとつのQRコードで一度に全てが終わるというワンストップには結局ならなかったのだ。さらに最近は、農林水産省が所管する動物検疫や植物検疫も厳しくなった。もちろん空港自体は国土交通省だ。日本の役所の縦割りの縮図である国際空港の姿はデジタル化でも一向に変わっていない。 本来は行政の縦割りを打破し、手続きが効率化するはずだった国のデジタル化。それがいつの間にかカードを普及させないとデジタル化は進まないという不思議な話になっている。そうこうする間に、民間ではプラスチックのカードはどんどん姿を消しつつある』、「検疫(厚労省)、税関(国税庁)、入国審査(法務省)という縦割り対応は変わっていない。ひとつのQRコードで一度に全てが終わるというワンストップには結局ならなかったのだ」、「本来は行政の縦割りを打破し、手続きが効率化するはずだった国のデジタル化。それがいつの間にかカードを普及させないとデジタル化は進まないという不思議な話になっている。そうこうする間に、民間ではプラスチックのカードはどんどん姿を消しつつある」、同感である。
第四に、8月27日付け日刊ゲンダイ「厚労省が満を持して出した「保険証廃止で最大108億円コスト減」の“怪しい試算”」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/328149
・『集中企画・マイナ狂騒(42) 来秋に予定されている健康保険証の廃止をめぐり、厚労省は24日、廃止がコスト削減につながるとの試算を発表した。試算は社会保障審議会医療保険部会で示されたもので、保険証廃止によって「最大108億円のコスト減になる」との結果を示している。しかし、この試算は「こんなのアリ?」と首をかしげたくなるほど、酷いシロモノだ。 厚労省が出したのは〈保険証の廃止に伴う削減コスト(ごく粗い試算)〉。自営業者らが加入する国民健康保険、会社員とその家族などが加入する被用者保険、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度について、現行の保険証にかかるコストと、保険証廃止後のコストを比較した。 保険証廃止後は、マイナ保険証を持たない被保険者には「資格確認書」が、マイナ保険証の利用者にはマイナ非対応の医療機関で保険診療を受ける際に必要な「資格情報のお知らせ」が配られる。つまり、廃止後のコストとは、「資格確認書」の発行と、「お知らせ」の送付にかかる手間とカネだ。 試算によれば、マイナ保険証の利用登録率が現在の52%で推移した場合、保険証廃止に伴うコスト減は76億~82億円。利用登録が進んで65~70%に達した場合は、100億~108億円が削減される見込みだという。 しかし、25日の立憲民主党の国対ヒアリングでは、試算の“甘さ”を指摘する声が相次いだ。長妻昭政調会長は「(現行の保険証を)廃止すると、問い合わせや管理など、膨大なヒト・モノ・カネがかかるといわれているが、そのコストが(試算に)入っているのか」と疑問を呈した。 厚労省の担当者は「先生方からコスト試算を早く出すようにというご要請もあり、一定の仮定を置いた上で試算した」と説明。問題なのは、この「一定の仮定」だ。 厚労省は試算の前提として、「資格確認書」の印刷製本費を65円、マイナ保険証と一緒に携行して使う「資格情報のお知らせ」を10円と、異常に安く設定している』、「厚労省は試算の前提として、「資格確認書」の印刷製本費を65円、マイナ保険証と一緒に携行して使う「資格情報のお知らせ」を10円と、異常に安く設定している」、なるほど。
・『コスト削減額を大きく見せるためにムリな「仮定」を設定? さすがに、長妻氏が「『お知らせ』が10円ということは単なる紙ペラ。本当に紙で配るのか」と問うと、厚労省は「資格確認書より簡易なものになる」と明言を避けた。一方、「『お知らせ』がカードになる可能性もある?」との問いには、「可能性はいろいろあると思います」と否定しなかった。 厚労省は、コスト削減額を大きく見せるために、ムリな「仮定」を設定している疑いが強い。 「お知らせ」はマイナ保険証と一緒に持ち歩くことが想定される。紙だと不便だから、カードのような形式がベターなのは言うまでもない。厚労省の試算が前提にしている「1枚10円」よりも割高になる可能性がある。 問題は単価だけじゃない。厚労省は「お知らせ」を被用者保険の加入者には配らないことを前提にしているのだ。 ヒアリングで山井和則衆院議員が「『お知らせ』が被用者保険の加入者には配られないのはなぜ」とただしたところ、厚労省は「送らない前提で試算したが、政策がそうなるわけではない」と釈明。被用者保険の加入者の大半がマイナ保険証に対応した医療機関に来院しているとして、「それを含めて考えなければいけない」と言い繕った。 「お知らせ」をもらえなければ、マイナ非対応の医療機関で保険医療が受けられない可能性がある。厚労省は「切り捨てるつもりはない」と強弁したが、試算の段階で被用者保険の加入者に「『お知らせ』を配らない」と仮定すること自体、おかしな話ではないか。 改めて山井衆院議員がこう言う。 「試算は他にも問題があります。現行の保険証の発行にかかるコストは235億円と推計されていますが、積算根拠は今のところ不明です。また、マイナ保険証と資格確認書の『ダブル持ち』が認められた要介護高齢者や障害者など『要配慮者』については、約200万人に役所窓口へ来てもらい、資格確認書を申請してもらう計算になります。そうした手間やコストを考えれば、現行の保険証を残しつつデジタル化を進めていく方がいい」 健康保険証を人質に取り、マイナ保険証を無理に普及させようとするから、いろんな綻びが出る。やはり、保険証廃止の撤回しかない』、「そうした手間やコストを考えれば、現行の保険証を残しつつデジタル化を進めていく方がいい」 健康保険証を人質に取り、マイナ保険証を無理に普及させようとするから、いろんな綻びが出る。やはり、保険証廃止の撤回しかない」、その通りだ。
先ずは、8月7日付け日刊ゲンダイ「注目の人 直撃インタビュー 保団連会長が警鐘「保険証廃止を強行すれば閉院ラッシュ、地域医療は崩壊します」」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/327001
・『住江憲勇(全国保険医団体連合会会長) マイナンバーカードを巡って次から次へと起こるトラブルに岸田政権は右往左往。国民の不信は募る一方だ。とりわけ、健康保険証廃止への反発は強く、世論調査では来年秋の廃止について「反対」が7割を超える。にもかかわらず、政府はマイナ保険証への一本化方針にいまだに固執。このため全国の医療機関では大混乱が生じている。この間、医療現場の実態を調査し、問題点を明らかにしてきた保団連会長に思う存分、語ってもらった(Qは聞き手の質問、Aは保団連会長の回答)』、興味深そうだ。
・『マイナ保険証「必発3トラブル」は解決しない Q:医療現場で何が起きていますか。 A:マイナ保険証を使うとまず、受け付け時点で混乱が生じる。オンライン資格確認がうまくいかず、患者が列をつくり、時間も手間もかかる。スタッフに対しクレームも出る。医療情報は古い上に、他人の情報かもしれないと考えると診療では怖くて使えない。マイナ保険証はほとんど活用されていないのが実態です。 Q:マイナ保険証の根本的な問題は何ですか。 A:避けられない、必発のトラブルが3つあります。公金口座や年金などでも発覚しているが、1つはマイナ保険証へのひも付けの誤りによる危険です。重大な医療事故につながりかねません。2つ目は、資格者全員に交付する保険証と違い、マイナ保険証や資格確認書は申請主義なので、どうしても申請漏れや遅れが生じ、保険資格情報の誤りが避けられないことです。3つ目は、オンラインにつきもののシステム障害の発生リスクは当然あります。 Q:実際に3つとも多発しています。 A:これだけの不具合が起きれば運用を全面停止し、万全の改善策を講じるのが常識です。富士通子会社の証明書交付サービスのトラブルの際はシステムを停止しました。ところが政府は、立ち止まることなく、走りながらの対応を続けている。次々生じるトラブルに対し、ほころびを縫うがごとく対策に追われるから、シッチャカメッチャカの状態に陥っている。 Q:受け付けで無保険扱いが続出し、10割請求が問題になった時、加藤厚労相は窓口負担を「3割」とするよう医療機関に求めました。 窓口でいったん3割とするが、後で正しい資格情報を確認する必要がある。それを担うのは社会保険診療報酬支払基金です。無資格扱いとなるトラブルは70万件以上起こるとの推計を発表しましたが、それくらいの規模で資格を確認する作業が毎月、発生するのです。当然、積み残しが起き、支払いの遅延や不能が起きるでしょう』、「オンライン資格確認がうまくいかず、患者が列をつくり、時間も手間もかかる。スタッフに対しクレームも出る。医療情報は古い上に、他人の情報かもしれないと考えると診療では怖くて使えない。マイナ保険証はほとんど活用されていないのが実態です」、「必発のトラブルが3つあります・・・1つはマイナ保険証へのひも付けの誤りによる危険です。重大な医療事故につながりかねません。2つ目は、資格者全員に交付する保険証と違い、マイナ保険証や資格確認書は申請主義なので、どうしても申請漏れや遅れが生じ、保険資格情報の誤りが避けられないことです。3つ目は、オンラインにつきもののシステム障害の発生リスクは当然あります」、なるほど。
・『終戦直後の支払い遅延時代に逆戻り Q:医療機関の経営に影響も出る。 A:終戦直後、支払い遅延が常態化し、適切な医療提供が難しい事態に直面しました。そこで、1948年に支払基金が設立された経緯があります。このままでは終戦直後の支払い遅延の時代に戻りかねません。これまでは患者から保険証の提示がない場合、窓口では10割の負担を求め、後で資格が確認できれば、差額を返金し、そうでなければそのまま、という運用をしてきた。病院と患者の間でコンセンサスがあったのです。医療従事者と患者の信頼関係まで壊れかねない事態です。 Q:マイナ保険証の登録は6500万人で足踏み状態です。 A:マイナ保険証の普及を前提に、資格確認書の交付はごくわずかと想定し、申請に基づいて毎年交付としていました。ところが、人口の半分近くに送付となると、そうはいかない。毎年でなく、保険証に準じた期間にするとか、職権で全件交付という案も浮上しています。これでは、ほとんど保険証と変わりません。保険証を廃止する意味は薄らいでいる』、「これまでは患者から保険証の提示がない場合、窓口では10割の負担を求め、後で資格が確認できれば、差額を返金し、そうでなければそのまま、という運用をしてきた。病院と患者の間でコンセンサスがあったのです。医従事者と患者の信頼関係まで壊れかねない事態です」、「マイナ保険証の普及を前提に、資格確認書の交付はごくわずかと想定し、申請に基づいて毎年交付としていました。ところが、人口の半分近くに送付となると、そうはいかない。毎年でなく、保険証に準じた期間にするとか、職権で全件交付という案も浮上しています。これでは、ほとんど保険証と変わりません。保険証を廃止する意味は薄らいでいる」、その通りだ。
・『「問題の先送りではなく撤回に追い込むことが重要」 Q:保険証廃止についてはメディアの批判的報道も盛んですが、保団連は以前から警鐘を鳴らしていました。 A:今年4月からのオンライン資格確認義務化の進め方は極めて強引でした。昨年6月に義務化方針を閣議決定し、ろくな審議もせずに3カ月後には省令を発令した。昨年8月の厚労省の説明会で、保険局の水谷忠由医療介護連携政策課長は、義務化に応じない医療機関について「保険医療機関・薬局の指定の取り消し事由となり得る」と恫喝までした。こうして環境を整え、同10月に河野デジタル担当相が保険証の廃止を表明したのです。 Q:オンライン資格確認の義務化について、医療機関はどう受け止めましたか。 A:昨年10月のアンケートによると、セキュリティーへの懸念や経済的負担などの理由で15%が「対応できない」と答え、10%が閉院を検討すると回答しました。資格確認システムの導入という、医療とは無関係な理由から病院を閉じるのは、医療従事者にとって忸怩たる思いだと思います。 Q:4月からの義務化による閉院は起きたのですか。 A:全国の地方厚生局に提出された保険医療機関の廃止数を見ると、今年4月は約1100件に上っています。少なくとも昨年5月以降で最多となっています。4月からのオンライン義務化の影響も考えられます。 Q:閉院が相次ぐのは地域医療の維持を揺るがします。 A:全国には中山間地域があります。限界集落とならず、持ちこたえているケースはかろうじて医療機関が存在しています。例えば、高齢の先生が診療を続けてくれている。そうした地域で唯一の医療機関が閉院してしまったら、住民の医療はどうなるのか。地域医療への影響は今のところ、顕在化していません。しかし、政府が保険証の廃止方針を貫けば、判断を迷っている医療機関が閉院を決めかねない。閉院予定の医療機関はオンライン資格確認を導入せず、来年9月までは続けられるが、その後はない。来年秋に向けてさらなる閉院ラッシュが起きてもおかしくありません。 Q:自民党幹部から来秋の廃止について「延期論」が出ています。 A:与党からそういう声が出るほど事態は深刻だということでしょう。ただ、延期でガス抜きされないように注意が必要です。当面は延期でいいとしても、撤回に追い込むことが重要です。延期したところで問題が先送りされるだけです。この先、マイナ保険証の登録が飛躍的に伸びるとも思えず、数千万人がマイナ保険証を持たない状況は続きます。また、廃止時期を後ろ倒しにしても、先に挙げた3つの必発トラブルがなくなるわけではない。これまで同様、マイナ保険証に一本化するスキームの中で解決しようとすれば、延期した期間にトラブルが続くだけなのです。保険証を存続させれば、一気に解決する話です。 Q:マイナ保険証と健康保険証の併用については? A:かつては併用を主張していました。というのも、ITに強い医師もおり、進めることのメリットも一定分あるからです。だから、マイナ保険証に絶対反対とは言いません。ただ、トラブルがここまで起きている以上、あまりにも危険すぎて、マイナ保険証を使いたい人に「どうぞ使ってください」とも言えなくなった。それほど深刻な事態だと認識しています。 Q:来秋の保険証廃止について反対の世論は7割を超えていますが、政府は鈍感です。 A:例えば、河野デジタル担当相は自主返納について「微々たる数」だと切り捨てました。信頼されていない事態に向き合おうとしていない。保険証廃止を政府は譲らない構えですが、国民の運動に加え、メディアの報道もあり、廃止についての危機意識は共有できていると思います。 Q:「医療のデジタル化」と言えば聞こえはいい。 A:「医療のデジタル化のためには、多少のリスクやデメリットがあっても立ち止まらずに推し進めるべきだ」と言う人がいますが、軽い発言です。マイナ保険証では、機微に富む情報がずさんに扱われ、地域医療の崩壊にもつながりかねない。保険証廃止の撤回に向けて引き続き奮闘します』、「昨年10月のアンケートによると、セキュリティーへの懸念や経済的負担などの理由で15%が「対応できない」と答え、10%が閉院を検討すると回答しました。資格確認システムの導入という、医療とは無関係な理由から病院を閉じるのは、医療従事者にとって忸怩たる思いだと思います。 Q:4月からの義務化による閉院は起きたのですか。 A:全国の地方厚生局に提出された保険医療機関の廃止数を見ると、今年4月は約1100件に上っています。少なくとも昨年5月以降で最多となっています。4月からのオンライン義務化の影響も考えられます。予想以上に大きな影響だ。「マイナ保険証では、機微に富む情報がずさんに扱われ、地域医療の崩壊にもつながりかねない。保険証廃止の撤回に向けて引き続き奮闘します」、その通りだ。
次に、8月21日付け日刊ゲンダイが掲載した南山大大学院法務研究科教授の實原隆志氏による「マイナひも付けミス「初歩的トラブル続出に驚いた」…情報法の専門家が突きつける数々の課題」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/327680
・『マイナンバーカードのひも付けトラブルをめぐる“狂騒”に終わりが見えない。政府は8日、マイナンバー情報総点検本部を開催。ひも付けミスに関してまとめた中間報告では、新たなミスが発覚した。岸田首相は11月末までに個別データの点検を進めるよう指示し、年内に沈静化を図ろうとしているが、「国民の不安」は一向に解消されない。マイナ制度に詳しい憲法・情報法の専門家は、相次ぐトラブルや政府の対応をどう見ているのか(Qは聞き手の質問、Aは専門家の回答)。 Q:中間報告では、マイナ保険証に誤って他人の情報が登録されていたケースが新たに1069件、公務員などの年金を運営する「共済組合」でもマイナンバーと年金情報のひも付けミスが118件確認されました。政府は今後、ひも付けに関するガイドライン作成や人手を介さないひも付け作業のデジタル化など、再発防止策に着手する予定です。 A:遅きに失したとはいえ、ガイドラインを作成しないよりはましですし、ひも付け作業のデジタル化に取り組む姿勢を示したことは評価できます。ただ、気になるのは、中間報告の中に〈国民の信頼回復に向けた対応〉として、〈カード取得の円滑化〉〈マイナ保険証の利用の促進〉が盛り込まれたことです。ひも付けトラブルが続出した原因の分析と再発防止が総点検に期待される役割のはずですが、マイナカードによる行政側のメリットを広報することが信頼回復につながるとは考えにくい。あくまでも中間報告なので、最終報告ではトラブル原因の分析・総括を期待したいですね。 Q:ひも付けトラブルが後を絶ちません。 A:そもそも、1つの番号や1枚のカードに個人情報をひも付けることによって、個人が想定していなかった機関に情報が共有されたり、情報を提供した意図とは違う文脈で使われたりする恐れがないように、いかに制度や運用をコントロールするかが、憲法や情報法の分野における問題意識でした。足元で起きているトラブルは他人の情報がひも付いてしまうという、従来から懸念されてきた問題とは別次元かつ想定外の問題です。少なくとも技術的には、間違いなくひも付けできるシステムが構築されている認識だったので、どのように個人情報のひも付けを規律するかという、法的な課題以前の初歩的なトラブルが相次いだことには正直、驚きを禁じ得ませんでした』、「法的な課題以前の初歩的なトラブルが相次いだことには正直、驚きを禁じ得ませんでした」、なるほど。
・『ドイツでは違憲主張のコミッショナーが監督しています Q:先の国会では改正マイナンバー法などの関連法が成立し、利用拡大が進んでいます。 A:法改正をして活用分野を広げていくのは手続き上、問題ありません。もちろん、議論が十分かどうか、マイナ制度を監督する個人情報保護委員会(個情委)がまったく意見を出さないなど、法改正に至るプロセスの問題はあります。今回の改正で〈法律でマイナンバーの利用が認められている事務について、主務省令に規定することで情報連携を可能とする〉と定められたので、省令で情報連携が進んでしまう運用は今後も争点でしょう。 Q:そもそも個人情報の扱いが厳格ではない? (今年3月に最高裁はマイナ制度が合憲だとの判決を出しました。マイナ制度の運用は厳格であるとの判断ですが、個人的には決して厳格とは思いません。例えば、ヨーロッパに目を向けると、ドイツでは納税者番号が15~16年前から使われており、今後、日本の住基ネットのような仕組みが導入される予定です。異なる分野を管轄する行政機関の間で納税者番号を使って情報連携する仕組みが導入されているので、日本のマイナ制度のように、1つの番号にあらゆる情報がひも付く「フラット型」に近づいているとも言えます。ただ、ドイツの場合、納税者番号とどの個人情報がひも付くか、しっかり法律の中で定義されています。一方、日本はマイナンバーとどの個人情報をひも付けるかの定義がなく、ドイツに比べて規律の緩さが目立ちます。ドイツの運用方法が柔軟性に欠くとの批判はあり得ますが、番号制度に対する懸念を払拭する点では参考に値すると思います。) Q:ドイツでは番号に基づく個人情報のネットワーク化は受け入れられている?(ドイツには「連邦データ保護コミッショナー」とも呼ばれる独任制の組織があり、制度を監督しています。日本の個情委に似ていますが、制度への姿勢は異なります。コミッショナーは番号の活用を違憲だと主張しており、学術レベルでも意見が割れています。今後、違憲訴訟になると思います。ドイツでは「これは違憲だ」と主張している機関が制度を監督するので、制度運用に対する厳格さは担保されています。コミッショナーは批判するのが仕事という側面もあり、「違憲だ」との主張はある種、お決まりの反応ともドイツでは捉えられているほどです』、「ドイツの場合、納税者番号とどの個人情報がひも付くか、しっかり法律の中で定義されています。一方、日本はマイナンバーとどの個人情報をひも付けるかの定義がなく、ドイツに比べて規律の緩さが目立ちます。ドイツの運用方法が柔軟性に欠くとの批判はあり得ますが、番号制度に対する懸念を払拭する点では参考に値すると思います」、「ドイツでは「これは違憲だ」と主張している機関が制度を監督するので、制度運用に対する厳格さは担保されています」、なるほど。
・『制度支える個情委は欧州並みの働きを Q:公金受取口座が別人のマイナンバーとひも付けられた問題を巡り、個情委は7月にデジタル庁に立ち入り検査しました。 立ち入り検査にまで踏み込んだのは評価できますが、問題の位置付けが個情委らしい。個情委は今回の問題について、マイナンバーやマイナカードを活用したサービスを利用する国民が不安を抱くキッカケになり得る事案の一部として位置付け、立ち入り検査をしている。つまり、立ち入り検査は、我々の個人情報を守るためではなく、マイナ制度やマイナカードの利用拡大を円滑に行うための調査として位置付けられているように見えます。そもそも個情委は、マイナ制度を運用するために立ち上げられた組織。立ち入り検査にしても、マイナ制度を浸透させるための環境整備との印象は拭えません。マイナ制度を支える前提でつくられた組織である以上、個情委としてマイナ制度を批判することは、自らの存在意義を侵食するという意識があるのではないか。その心理は、理解できなくもありませんが、ヨーロッパ並みの第三者機関として期待される役割を果たして欲しい。 Q:個情委の担当大臣は河野デジタル相です。どこまで踏み込んで検査できるでしょうか。 A:保険金の不正請求問題が明るみに出たビッグモーターと対比して考えると、組織の長から情報収集しないという選択肢は考えられません。マイナンバーのひも付けミスとは問題の質は異なりますが、社長以下、役員や現場スタッフ全体を調査するのが普通でしょう。そう考えると、たとえ形式上であっても、所管大臣が調査の対象になるのが当然ではないか。 Q:マイナ制度の運用に関して、個情委も厳しい姿勢を見せ始めた? A:個情委は従来、マイナンバーやマイナカードの利用範囲の拡大などについて、円滑な制度運用のための監督はしても、意見表明は行っていません。個情委には個人情報保護法上は行政機関に命令する権限がないとはいえ、そうした権限がないからこそ、政府に対してざっくばらんに意見を言えばいい。マイナカード利用拡大の懸念に対応して円滑な運用を目指すのは、個情委ではなくデジタル庁や総務省の仕事のはずです。 Q:政府は「国民の不安払拭」と繰り返しています。 A:政府が推し進めているのは、マイナカードの利便性を高める施策ではなく、カード取得は任意にもかかわらず持たない人が不利益を被るような施策です。政府が想定している「不安」は総点検の目的に照らせば、マイナンバーに他人の情報がひも付いている想定外の事態に対するもの。一方、多くの人が感じている不安は来秋に予定されている健康保険証廃止だと思います。ひも付けミスは原因分析や作業環境の改善を図ることによって解消されることを期待しますが、マイナカードを持たない人が不便な思いをする施策の軌道修正が図られない限り、「国民の不安」は払拭できないでしょう。今後、保険証廃止の時期について柔軟性が示されれば、不安払拭につながると思います』、「個情委は従来、マイナンバーやマイナカードの利用範囲の拡大などについて、円滑な制度運用のための監督はしても、意見表明は行っていません。個情委には個人情報保護法上は行政機関に命令する権限がないとはいえ、そうした権限がないからこそ、政府に対してざっくばらんに意見を言えばいい。マイナカード利用拡大の懸念に対応して円滑な運用を目指すのは、個情委ではなくデジタル庁や総務省の仕事のはずです」、「マイナカードを持たない人が不便な思いをする施策の軌道修正が図られない限り、「国民の不安」は払拭できないでしょう。今後、保険証廃止の時期について柔軟性が示されれば、不安払拭につながると思います」、なるほど。
第三に、8月18日付けPRESIDENT Onlineが掲載した経済ジャーナリストの磯山 友幸氏による「だから躍起になってマイナンバーカードを作らせようとする…日本を"デジタル後進国"にした本当の原因 民間ではプラスチックのカードは姿を消しつつあるのに」を紹介しよう』、興味深そうだ。
https://president.jp/articles/-/72900?page=1
・『「我が国がデジタル後進国だったことにがく然」 健康保険証とマイナンバーカードを紐付けして「マイナ保険証」に一体化する政府の姿勢がぐらついている。来年秋に現行の健康保険証を廃止するという政府方針に、野党のみならず与党内からも批判の声が上がり、岸田文雄首相はいったん「廃止延期」に含みをもたせるような発言をした。ところが8月4日に開いた記者会見では、不安払拭に努力するとしたうえで、廃止の方針は当面維持する姿勢を示した。なぜ、そこまで健康保険証廃止にこだわるのか。政府のデジタル化が遅れているのは健康保険証のせいなのか。 「なぜデジタル化を急いで進めるのか」。会見で岸田首相自身がこう説明した。 「国民への給付金や各種の支援金における給付の遅れ、感染者情報をファクスで集計することなどによる保健所業務のひっ迫、感染者との接触確認アプリ導入やワクチン接種のシステムにおける混乱。欧米諸国や台湾、シンガポール、インドなどで円滑に進む行政サービスが、我が国では実現できないという現実に直面し、我が国がデジタル後進国だったことにがく然といたしました」』、「「なぜデジタル化を急いで進めるのか」。会見で岸田首相自身がこう説明・・・「国民への給付金や各種の支援金における給付の遅れ、感染者情報をファクスで集計することなどによる保健所業務のひっ迫、感染者との接触確認アプリ導入やワクチン接種のシステムにおける混乱。欧米諸国や台湾、シンガポール、インドなどで円滑に進む行政サービスが、我が国では実現できないという現実に直面し、我が国がデジタル後進国だったことにがく然といたしました」、気付くのが遅過ぎる。
・『なぜ保険証は廃止で免許証は継続なのか コロナウイルス蔓延下で行政が後手後手に回ったのは間違いない。だが、保険証を廃止してマイナ保険証を普及させれば、こうした問題は解決するのだろうか。様々な個人情報をマイナンバーカードに紐付けて国が一元管理しなければ、そうした行政のデジタル化は進まないのか。 岸田首相はさらにこう語った。 「私たちのふだんの暮らしでは、免許証やパスポートが、身元確認の役目を果たします。では、顔が見えず、成りすましも簡単なオンラインの世界で、身元確認や本人確認をどうするのでしょうか。その役目を担うのが電子証明書を内蔵しているマイナンバーカードです。それゆえに、マイナンバーカードは『デジタル社会のパスポート』と呼ばれています」 ということは、成りすましを防ぐために保険証をマイナ保険証に切り替えようとしているということなのか。マイナンバーカードは「便利だ」から作った方がいい、というのがこれまでの説明ではなかったか。 本人確認というのなら、真っ先に運転免許証やパスポートと一体化すればいい。運転免許証は紐付ける方針だが、免許証は廃止されない方向だ。なぜ保険証は廃止で免許証は存続なのか、岸田首相の説明では分からない。国政選挙の投票所で本人確認に使えば、成りすましは防げる。その方が重要ではないか』、「なぜ保険証は廃止で免許証は存続なのか、岸田首相の説明では分からない」、なるほど。
・『いきなり紐付けようとしたから大混乱が起きている そもそもマイナンバー、つまり個人番号は日本に在住している人はすでに全員に割り振られている。日本に在住する外国人も番号を持っている。デジタル化の前提である個人番号は全員に行き渡っているのだ。マイナンバーカードを作るかどうかは任意だが、番号は全員が持っているわけだ。 また、銀行口座を開設する際や既存の口座でもマイナンバーの届出が義務付けられている。つまり、マイナンバーと銀行口座は紐付けられている。税務申告でもマイナンバーを提出することになっていて、すでにかなりの個人情報はデジタルでつながっていると考えていい。ではなぜ、健康保険証の紐付けがうまくいかないのか。 問題は、いきなりマイナンバーカードと健康保険証を紐付けようとしたために、大混乱が生じていることだ。もともと健康保険の加入者からマイナンバーの提出を受けて、健康保険組合などがマイナンバーと保険証番号を並列して保有する作業を先行していれば、こんな混乱は起きなかったに違いない』、「もともと健康保険の加入者からマイナンバーの提出を受けて、健康保険組合などがマイナンバーと保険証番号を並列して保有する作業を先行していれば、こんな混乱は起きなかったに違いない」、なるほど。
・『霞が関は「普及率向上」に必死で、本来の目的を見失っている では、なぜそんなに急いで保険証とカードを紐付ける必要があったのか。岸田首相は会見で「なぜ、マイナカードの早期普及が必要か」と自ら問いを掲げ、こう続けた。「それは、多様な公的サービスをデジタル処理するための公的基盤を欠いていたことが、コロナのときのデジタル敗戦の根本的な原因だったと、政府全体で認識したからです」としている。マイナンバーではなく、カードがないから行政サービスができない、というのだ。 今回の混乱について、岸田首相の側近のひとりは、「マイナンバーカードの普及が目的化してしまったことが、今の混乱につながってしまった」と唇をかむ。霞が関の官僚は「目標」が設定されるとその達成に邁進する傾向がある。美徳ではあるが、一方で本来の目的を履き違えることにつながりかねない。今、総務省やデジタル庁が必死になるのは、マイナンバーカードの「普及率」向上であって、本来の目的であるデジタル化による行政コストの削減ではない。 血税から個人に2万円分のポイントを配ってでもカードを作らせようとした愚策を見てもそれがわかる。クレジットカード会社が入会時にポイントを配るのはカードを作ってもらえばカード会社の利益になるからだ。政府はマイナカードを普及させることで、どうやって2万円を回収しようと考えているのか』、「政府はマイナカードを普及させることで、どうやって2万円を回収しようと考えているのか」、どう考えても合理的な説明は困難だ。
・『通院を「不便」にしてカード取得者を増やす狙い マイナンバーカードの普及率が焦点であることは、官僚が原稿を用意したであろう岸田首相の会見発言にも表れている。「国民の皆様の御協力によって、8904万枚、普及率は70パーセントを超えています」と胸を張ったのだ。実際には死亡した人の取得枚数もカウントする一方で、人口は最新を使っていたという「粉飾まがい」も表面化した。何しろ普及率を高くすることが大事だからだ。 おそらく、保険証廃止は、マイナンバーカードを普及させるための「切り札」なのだろう。住民票がコンビニで取れるのは便利には違いないが、せいぜい年に何回かの話。市役所に行って取るのと大差ない。ところが病気になるたび、あるいは通院している人なら、月が変わるたびに提示しなければならない健康保険証が廃止されるとなれば、マイナンバーカードを作らざるを得なくなる。つまり、「便利だから」ではなく、「不便になるのは困るから」カードを作る人が出る。政府はそれを狙っているのだろう』、「健康保険証が廃止されるとなれば、マイナンバーカードを作らざるを得なくなる」、「「便利だから」ではなく、「不便になるのは困るから」カードを作る人が出る。政府はそれを狙っているのだろう」、なるほど。
・『2016年に登録した人のカードが有効期限を迎える ではなぜ、2024年秋に廃止なのか。 実は、現在のマイナンバーカードには有効期限がある。カード発行から10回目の誕生日を過ぎると使えなくなる。カードが発行され始めたのは2016年1月なので、早ければ2025年1月以降、有効期限が来るカードが出始めるわけだ。更新手続きをしなければ無効になるので、当然、普及率に影響する。せっかく2万ポイントを配って普及率を上げたのに、期限が切れて失効する人が増えては、普及率は再び低下し、これまでの努力が水泡に帰す。だから、マイナンバーカードを「絶対に必要なもの」にしてしまおうということではないか。 そもそも、デジタル化の目的は何だったのだろうか。菅義偉氏が首相としてデジタル庁の設置を推し進めた時のキャッチフレーズは「縦割りを打破する」だった。 コロナ下の帰国に際してはワクチン接種証明などを事前に登録する「Visit Japan Web」が作られた。ひとつのアプリで全てが終わり、縦割り打破になるはずだった。ところが、羽田空港の「検疫」ではアプリに表示された「QRコード」を機械で読み取るのではなく、正常に登録されたことを示す「緑色」をずらっと並んだ係員が「目視」するというなかなかのデジタル後進国ぶりが繰り広げられていた。数が少ない機械を通すと長蛇の列になるのを避けるための「現場対応」だったのだろう。今は、接種証明が不要になって、「検疫」システムはアプリから削除された』、「せっかく2万ポイントを配って普及率を上げたのに、期限が切れて失効する人が増えては、普及率は再び低下し、これまでの努力が水泡に帰す。だから、マイナンバーカードを「絶対に必要なもの」にしてしまおうということではないか」、なるほど。
・『入国の手続きですら「ワンストップ」にはならなかった 「税関」では、デジタル申告よりも、機内で書いた手書きの申告書を渡す方が早く手続きを終えられる、という状態が今でも続いている。 帰国時の「入国審査」は独自のデジタル化が進み、パスポートを読み取り機に置いて顔認証するだけでゲートが開くようになった。便利になったが、結局、検疫(厚労省)、税関(国税庁)、入国審査(法務省)という縦割り対応は変わっていない。ひとつのQRコードで一度に全てが終わるというワンストップには結局ならなかったのだ。さらに最近は、農林水産省が所管する動物検疫や植物検疫も厳しくなった。もちろん空港自体は国土交通省だ。日本の役所の縦割りの縮図である国際空港の姿はデジタル化でも一向に変わっていない。 本来は行政の縦割りを打破し、手続きが効率化するはずだった国のデジタル化。それがいつの間にかカードを普及させないとデジタル化は進まないという不思議な話になっている。そうこうする間に、民間ではプラスチックのカードはどんどん姿を消しつつある』、「検疫(厚労省)、税関(国税庁)、入国審査(法務省)という縦割り対応は変わっていない。ひとつのQRコードで一度に全てが終わるというワンストップには結局ならなかったのだ」、「本来は行政の縦割りを打破し、手続きが効率化するはずだった国のデジタル化。それがいつの間にかカードを普及させないとデジタル化は進まないという不思議な話になっている。そうこうする間に、民間ではプラスチックのカードはどんどん姿を消しつつある」、同感である。
第四に、8月27日付け日刊ゲンダイ「厚労省が満を持して出した「保険証廃止で最大108億円コスト減」の“怪しい試算”」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/328149
・『集中企画・マイナ狂騒(42) 来秋に予定されている健康保険証の廃止をめぐり、厚労省は24日、廃止がコスト削減につながるとの試算を発表した。試算は社会保障審議会医療保険部会で示されたもので、保険証廃止によって「最大108億円のコスト減になる」との結果を示している。しかし、この試算は「こんなのアリ?」と首をかしげたくなるほど、酷いシロモノだ。 厚労省が出したのは〈保険証の廃止に伴う削減コスト(ごく粗い試算)〉。自営業者らが加入する国民健康保険、会社員とその家族などが加入する被用者保険、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度について、現行の保険証にかかるコストと、保険証廃止後のコストを比較した。 保険証廃止後は、マイナ保険証を持たない被保険者には「資格確認書」が、マイナ保険証の利用者にはマイナ非対応の医療機関で保険診療を受ける際に必要な「資格情報のお知らせ」が配られる。つまり、廃止後のコストとは、「資格確認書」の発行と、「お知らせ」の送付にかかる手間とカネだ。 試算によれば、マイナ保険証の利用登録率が現在の52%で推移した場合、保険証廃止に伴うコスト減は76億~82億円。利用登録が進んで65~70%に達した場合は、100億~108億円が削減される見込みだという。 しかし、25日の立憲民主党の国対ヒアリングでは、試算の“甘さ”を指摘する声が相次いだ。長妻昭政調会長は「(現行の保険証を)廃止すると、問い合わせや管理など、膨大なヒト・モノ・カネがかかるといわれているが、そのコストが(試算に)入っているのか」と疑問を呈した。 厚労省の担当者は「先生方からコスト試算を早く出すようにというご要請もあり、一定の仮定を置いた上で試算した」と説明。問題なのは、この「一定の仮定」だ。 厚労省は試算の前提として、「資格確認書」の印刷製本費を65円、マイナ保険証と一緒に携行して使う「資格情報のお知らせ」を10円と、異常に安く設定している』、「厚労省は試算の前提として、「資格確認書」の印刷製本費を65円、マイナ保険証と一緒に携行して使う「資格情報のお知らせ」を10円と、異常に安く設定している」、なるほど。
・『コスト削減額を大きく見せるためにムリな「仮定」を設定? さすがに、長妻氏が「『お知らせ』が10円ということは単なる紙ペラ。本当に紙で配るのか」と問うと、厚労省は「資格確認書より簡易なものになる」と明言を避けた。一方、「『お知らせ』がカードになる可能性もある?」との問いには、「可能性はいろいろあると思います」と否定しなかった。 厚労省は、コスト削減額を大きく見せるために、ムリな「仮定」を設定している疑いが強い。 「お知らせ」はマイナ保険証と一緒に持ち歩くことが想定される。紙だと不便だから、カードのような形式がベターなのは言うまでもない。厚労省の試算が前提にしている「1枚10円」よりも割高になる可能性がある。 問題は単価だけじゃない。厚労省は「お知らせ」を被用者保険の加入者には配らないことを前提にしているのだ。 ヒアリングで山井和則衆院議員が「『お知らせ』が被用者保険の加入者には配られないのはなぜ」とただしたところ、厚労省は「送らない前提で試算したが、政策がそうなるわけではない」と釈明。被用者保険の加入者の大半がマイナ保険証に対応した医療機関に来院しているとして、「それを含めて考えなければいけない」と言い繕った。 「お知らせ」をもらえなければ、マイナ非対応の医療機関で保険医療が受けられない可能性がある。厚労省は「切り捨てるつもりはない」と強弁したが、試算の段階で被用者保険の加入者に「『お知らせ』を配らない」と仮定すること自体、おかしな話ではないか。 改めて山井衆院議員がこう言う。 「試算は他にも問題があります。現行の保険証の発行にかかるコストは235億円と推計されていますが、積算根拠は今のところ不明です。また、マイナ保険証と資格確認書の『ダブル持ち』が認められた要介護高齢者や障害者など『要配慮者』については、約200万人に役所窓口へ来てもらい、資格確認書を申請してもらう計算になります。そうした手間やコストを考えれば、現行の保険証を残しつつデジタル化を進めていく方がいい」 健康保険証を人質に取り、マイナ保険証を無理に普及させようとするから、いろんな綻びが出る。やはり、保険証廃止の撤回しかない』、「そうした手間やコストを考えれば、現行の保険証を残しつつデジタル化を進めていく方がいい」 健康保険証を人質に取り、マイナ保険証を無理に普及させようとするから、いろんな綻びが出る。やはり、保険証廃止の撤回しかない」、その通りだ。
タグ:マイナンバー制度 (その6)(注目の人 直撃インタビュー 保団連会長が警鐘「保険証廃止を強行すれば閉院ラッシュ 地域医療は崩壊します」、だから躍起になってマイナンバーカードを作らせようとする…日本を"デジタル後進国"にした本当の原因 民間ではプラスチックのカードは姿を消しつつあるのに、厚労省が満を持して出した「保険証廃止で最大108億円コスト減」の“怪しい試算) 日刊ゲンダイ「注目の人 直撃インタビュー 保団連会長が警鐘「保険証廃止を強行すれば閉院ラッシュ、地域医療は崩壊します」」 「オンライン資格確認がうまくいかず、患者が列をつくり、時間も手間もかかる。スタッフに対しクレームも出る。医療情報は古い上に、他人の情報かもしれないと考えると診療では怖くて使えない。マイナ保険証はほとんど活用されていないのが実態です」、「必発のトラブルが3つあります・・・1つはマイナ保険証へのひも付けの誤りによる危険です。重大な医療事故につながりかねません。 2つ目は、資格者全員に交付する保険証と違い、マイナ保険証や資格確認書は申請主義なので、どうしても申請漏れや遅れが生じ、保険資格情報の誤りが避けられないことです。3つ目は、オンラインにつきもののシステム障害の発生リスクは当然あります」、なるほど。 「これまでは患者から保険証の提示がない場合、窓口では10割の負担を求め、後で資格が確認できれば、差額を返金し、そうでなければそのまま、という運用をしてきた。病院と患者の間でコンセンサスがあったのです。医従事者と患者の信頼関係まで壊れかねない事態です」、 「マイナ保険証の普及を前提に、資格確認書の交付はごくわずかと想定し、申請に基づいて毎年交付としていました。ところが、人口の半分近くに送付となると、そうはいかない。毎年でなく、保険証に準じた期間にするとか、職権で全件交付という案も浮上しています。これでは、ほとんど保険証と変わりません。保険証を廃止する意味は薄らいでいる」、その通りだ。 「昨年10月のアンケートによると、セキュリティーへの懸念や経済的負担などの理由で15%が「対応できない」と答え、10%が閉院を検討すると回答しました。資格確認システムの導入という、医療とは無関係な理由から病院を閉じるのは、医療従事者にとって忸怩たる思いだと思います。 Q:4月からの義務化による閉院は起きたのですか。 A:全国の地方厚生局に提出された保険医療機関の廃止数を見ると、今年4月は約1100件に上っています。少なくとも昨年5月以降で最多となっています。4月からのオンライン義務化の影響も考えられます。予想以上に大きな影響だ。「マイナ保険証では、機微に富む情報がずさんに扱われ、地域医療の崩壊にもつながりかねない。保険証廃止の撤回に向けて引き続き奮闘します」、その通りだ。 日刊ゲンダイ 實原隆志氏による「マイナひも付けミス「初歩的トラブル続出に驚いた」…情報法の専門家が突きつける数々の課題」 「法的な課題以前の初歩的なトラブルが相次いだことには正直、驚きを禁じ得ませんでした」、なるほど。 「ドイツの場合、納税者番号とどの個人情報がひも付くか、しっかり法律の中で定義されています。一方、日本はマイナンバーとどの個人情報をひも付けるかの定義がなく、ドイツに比べて規律の緩さが目立ちます。ドイツの運用方法が柔軟性に欠くとの批判はあり得ますが、番号制度に対する懸念を払拭する点では参考に値すると思います」、「ドイツでは「これは違憲だ」と主張している機関が制度を監督するので、制度運用に対する厳格さは担保されています」、なるほど。 「個情委は従来、マイナンバーやマイナカードの利用範囲の拡大などについて、円滑な制度運用のための監督はしても、意見表明は行っていません。個情委には個人情報保護法上は行政機関に命令する権限がないとはいえ、そうした権限がないからこそ、政府に対してざっくばらんに意見を言えばいい。マイナカード利用拡大の懸念に対応して円滑な運用を目指すのは、個情委ではなくデジタル庁や総務省の仕事のはずです」、 「マイナカードを持たない人が不便な思いをする施策の軌道修正が図られない限り、「国民の不安」は払拭できないでしょう。今後、保険証廃止の時期について柔軟性が示されれば、不安払拭につながると思います」、なるほど。 PRESIDENT ONLINE 磯山 友幸氏による「だから躍起になってマイナンバーカードを作らせようとする…日本を"デジタル後進国"にした本当の原因 民間ではプラスチックのカードは姿を消しつつあるのに」 「「なぜデジタル化を急いで進めるのか」。会見で岸田首相自身がこう説明・・・「国民への給付金や各種の支援金における給付の遅れ、感染者情報をファクスで集計することなどによる保健所業務のひっ迫、感染者との接触確認アプリ導入やワクチン接種のシステムにおける混乱。 欧米諸国や台湾、シンガポール、インドなどで円滑に進む行政サービスが、我が国では実現できないという現実に直面し、我が国がデジタル後進国だったことにがく然といたしました」、気付くのが遅過ぎる。 「なぜ保険証は廃止で免許証は存続なのか、岸田首相の説明では分からない」、なるほど。 「もともと健康保険の加入者からマイナンバーの提出を受けて、健康保険組合などがマイナンバーと保険証番号を並列して保有する作業を先行していれば、こんな混乱は起きなかったに違いない」、なるほど。 「政府はマイナカードを普及させることで、どうやって2万円を回収しようと考えているのか」、どう考えても合理的な説明は困難だ。 「健康保険証が廃止されるとなれば、マイナンバーカードを作らざるを得なくなる」、「「便利だから」ではなく、「不便になるのは困るから」カードを作る人が出る。政府はそれを狙っているのだろう」、なるほど。 「せっかく2万ポイントを配って普及率を上げたのに、期限が切れて失効する人が増えては、普及率は再び低下し、これまでの努力が水泡に帰す。だから、マイナンバーカードを「絶対に必要なもの」にしてしまおうということではないか」、なるほど。 「検疫(厚労省)、税関(国税庁)、入国審査(法務省)という縦割り対応は変わっていない。ひとつのQRコードで一度に全てが終わるというワンストップには結局ならなかったのだ」、 「本来は行政の縦割りを打破し、手続きが効率化するはずだった国のデジタル化。それがいつの間にかカードを普及させないとデジタル化は進まないという不思議な話になっている。そうこうする間に、民間ではプラスチックのカードはどんどん姿を消しつつある」、同感である。 日刊ゲンダイ「厚労省が満を持して出した「保険証廃止で最大108億円コスト減」の“怪しい試算”」 「厚労省は試算の前提として、「資格確認書」の印刷製本費を65円、マイナ保険証と一緒に携行して使う「資格情報のお知らせ」を10円と、異常に安く設定している」、なるほど。 「そうした手間やコストを考えれば、現行の保険証を残しつつデジタル化を進めていく方がいい」 健康保険証を人質に取り、マイナ保険証を無理に普及させようとするから、いろんな綻びが出る。やはり、保険証廃止の撤回しかない」、その通りだ。