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マイナンバー制度(その4)(「マイナ保険証」トラブル続発が示すポンコツ実態 別人情報「ひも付け」など法案成立前に問題噴出、マイナ公金受取登録「家族口座多数」でデタラメ横行…ポイント“エサ”に注ぎ込んだ血税2兆円、マイナンバー事業1兆円に群がる政官業“腐敗”の三角形…相次ぐトラブルの裏に巨額利権の甘い蜜、河野デジタル大臣はトンズラ準備? マイナンバーにトラブル続出「私を処分」答弁の裏の計算) [経済政策]

マイナンバー制度については、本年4月24日に取上げた。今日は、(その4)(「マイナ保険証」トラブル続発が示すポンコツ実態 別人情報「ひも付け」など法案成立前に問題噴出、マイナ公金受取登録「家族口座多数」でデタラメ横行…ポイント“エサ”に注ぎ込んだ血税2兆円、マイナンバー事業1兆円に群がる政官業“腐敗”の三角形…相次ぐトラブルの裏に巨額利権の甘い蜜、河野デジタル大臣はトンズラ準備? マイナンバーにトラブル続出「私を処分」答弁の裏の計算)である。

先ずは、本年5月20日付け東洋経済オンライン「「マイナ保険証」トラブル続発が示すポンコツ実態 別人情報「ひも付け」など法案成立前に問題噴出」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/673740
・『従来の健康保険証を廃止して、マイナンバーカードによる「オンライン資格確認」に一本化する「マイナンバー法等一括法案」の国会審議が続いている。法案は来週にも参議院を通過し、可決・成立する可能性がある。ところが、その成立間際になって、制度の信頼を揺るがすトラブルが相次いで表面化している。 厚生労働省は5月12日、マイナカードと保険証を一体化した「マイナ保険証」をめぐり、別人の情報を間違って本人の資格情報(加入している健康保険や自己負担限度額など)にひも付ける「誤登録」が2021年10月から2022年11月までの1年2カ月間に7000件以上見つかったと発表した。そのうち5件では別人の薬剤情報や医療費通知情報が閲覧されていたという。 サラリーマンなどが新たに健康保険に加入した場合、協会けんぽや健康保険組合などの保険者が本人の氏名や生年月日などの資格情報をデータベースに登録する。その際、本人のマイナンバーがわからない場合、住民基本台帳で本人の情報を照会する。 厚労省によれば、入手したマイナンバーの番号が間違っていることに気付かないまま健保組合が入力し、資格登録をしたことが原因だという。誤登録があると、患者情報の漏洩などのプライバシーの侵害や間違った処方につながるおそれがある』、「「マイナンバー法等一括法案」の・・・成立間際になって、制度の信頼を揺るがすトラブルが相次いで表面化」、「「マイナ保険証」をめぐり、別人の情報を間違って本人の資格情報・・・にひも付ける「誤登録」が2021年10月から2022年11月までの1年2カ月間に7000件以上見つかった」、「サラリーマンなどが新たに健康保険に加入した場合、協会けんぽや健康保険組合などの保険者が本人の氏名や生年月日などの資格情報をデータベースに登録する。その際、本人のマイナンバーがわからない場合、住民基本台帳で本人の情報を照会する。 厚労省によれば、入手したマイナンバーの番号が間違っていることに気付かないまま健保組合が入力し、資格登録をしたことが原因」、信じられないような基本的なミスが相次いでいる。
・『健保に加入していても「該当資格なし」  マイナンバー法等一括法案によれば、2024年秋以降はマイナカードによる本人確認に一本化される。 「オンライン資格確認」と呼ばれるこのシステムでは、患者がマイナカードを医療機関の窓口に設置されたカードリーダーにかざし、顔認証または4桁の暗証番号を入力することにより、医療機関が健康保険の資格内容(加入する健康保険組合名や自己負担の負担割合など)を確認する。しかし、その前提となる資格登録が間違っていると、マイナカードによる資格確認が意味をなさなくなる。 誤登録とは別に、オンライン資格確認をめぐるさまざまな不備が医療現場から報告されている。カードリーダーでマイナンバーカードをかざしても、医療機関のコンピューター画面で「該当資格なし」と表示されるケースが相次いでいるのだ。) 大阪府守口市の北原医院は、4月から原則義務化されたことを受けてオンライン資格確認システムを導入し、4月初めからシステムを稼働させた。ところがまもなくして、「信じがたいトラブルが毎日のように頻発するようになった」と井上美佐院長は説明する。 「当院の場合、1日に50~60人の患者さんが来院するが、うち約3割で保険証の内容とオンライン資格確認で出力された内容が合致しない」(井上院長)。そうしたトラブルは現在も続いているという。 井上院長によれば、「マイナカードで確認したところ、『該当資格なし』とコンピューター画面に表示されるケースが相次いでいる。その場合、決められたルールに従って患者さん本人に保険証を見せてもらい、そちらに記された内容が正しいと判断して所定の負担割合で医療費を支払ってもらっている」という。 そして、井上院長が気を揉んでいるのが「2024年秋以降」だ。 法律の成立によって従来の保険証が廃止された場合、マイナカードによる資格確認に頼らざるをえなくなる。その際、オンライン資格確認で『該当資格なし』となった場合、正確な資格内容がわからないので、窓口でいったん医療費全額(10割負担)を支払ってもらわなければならなくなる。そうなると患者さんとのトラブルは避けられず、大混乱になりかねない」(井上院長)』、「うち約3割で保険証の内容とオンライン資格確認で出力された内容が合致しない」・・・「マイナカードで確認したところ、『該当資格なし』とコンピューター画面に表示されるケースが相次いでいる。その場合、決められたルールに従って患者さん本人に保険証を見せてもらい、そちらに記された内容が正しいと判断して所定の負担割合で医療費を支払ってもらっている」という。 そして、井上院長が気を揉んでいるのが「2024年秋以降」だ。 法律の成立によって従来の保険証が廃止された場合、マイナカードによる資格確認に頼らざるをえなくなる。その際、オンライン資格確認で『該当資格なし』となった場合、正確な資格内容がわからないので、窓口でいったん医療費全額(10割負担)を支払ってもらわなければならなくなる。そうなると患者さんとのトラブルは避けられず、大混乱になりかねない」』、「『該当資格なし』とコンピューター画面に表示されるケースが」、「約3割」とはかなりあるようだ。このままでは、「2024年秋以降」には事態は一層深刻化する。
・『システム障害も多発、悲鳴上げる診療所  コンピューター画面で「該当資格なし」と表示される問題について、診療報酬の支払い事務を担う社会保険診療報酬支払基金の担当者は「一般論」としたうえで、「加入者が(転職などで)保険者を異動した場合の(登録の)タイムラグが考えられる」と説明する。 厚労省はこうした問題を踏まえ、これまで保険者によるデータ登録の期間の定めがなかったのを、「保険者によるデータ登録を5日以内とする」というルールに改めるという。ただ、「依然としてタイムラグがあることに変わりはなく、リアルタイムで正確に資格を確認しようとすること自体に無理がある」(全国保険医団体連合会の本並省吾事務局次長)。) 医師らで構成する大阪府保険医協会は、5月2日に会員の医療機関を対象にしたアンケート調査を実施。「オンライン資格確認システムを運用している」と答えた医療機関143件のうち「トラブルがあった」と答えた医療機関が78件と過半数に上った。トラブルの内容で多かったのが「該当の被保険者番号がない、資格情報が無効」「システム障害で資格確認ができない」などで、それぞれ44件、29件もあった。 前出の北原医院の井上院長は危機感を強め、次のように語る。 「4月初めのシステム稼働当初、接続不良がひどかった。今は保険証で確認できているので事なきを得ているが、保険証が廃止された後、システム障害や停電が発生した場合、診療は中断、休診になりかねない。保険証は廃止しないでほしい」 大阪府保険医協会のアンケート調査では、「顔認証の読み取りがうまくいかない。何度もやり直し、時間がかかる。勝手に電源が落ちる」「『接続を確認しています』という画面が出たまま、数時間も変化なく使用できない」といったトラブル事例が報告されている。 ▽正式な情報処理がされて初めて「役立つ」(厚労省で医療のデジタル化推進を担当する中園和貴・保険局医療介護連携政策課保険データ企画室長は、オンライン資格確認など医療のデジタル化のメリットについて「重複投薬や禁忌薬の回避にもつながる」と説明する。 しかしそれも、正確な情報処理がされて初めて意味を持つことは言うまでもない。 保険証の廃止とマイナカードへの一本化は2022年10月、マイナカードの普及を急ごうとした河野太郎デジタル担当相の鶴の一声によって決まった。それに続く今回の法案は、拙速のそしりを免れない。新制度が信頼性を欠く中で保険証を廃止した場合、社会の混乱は不可避だ。 この際、法案の採決をいったん見合わせ、制度改革の不備と対策について再検証すべきではなかろうか』、「「該当資格なし」と表示される問題について・・・「加入者が(転職などで)保険者を異動した場合の(登録の)タイムラグが考えられる」と説明。 厚労省はこうした問題を踏まえ、これまで保険者によるデータ登録の期間の定めがなかったのを、「保険者によるデータ登録を5日以内とする」というルールに改めるという。ただ、「依然としてタイムラグがあることに変わりはなく、リアルタイムで正確に資格を確認しようとすること自体に無理がある」、「リアルタイムで正確に資格を確認しようと」したのは、何故なのだろ。お粗末な仕組みだ。

次に、6月7日付け日刊ゲンダイ「マイナ公金受取登録「家族口座多数」でデタラメ横行…ポイント“エサ”に注ぎ込んだ血税2兆円」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/324087
・『「国民の皆さんに不安を与え、申し訳なく思う」──。 5日の参院本会議で、そう陳謝したのはマイナカード普及の旗振り役である河野デジタル担当相だ。マイナカードのトラブル続出に「申し訳なく思う」のなら、今すぐ活用拡大を止めて欲しい。家族内で同じ口座を登録した例が多数見つかった問題も、「マイナポイント欲しさ」のデタラメが横行し、血税2兆円超を投じた事業がアダになった可能性がある。 マイナンバーと紐付けた公金受取口座に本人ではない家族名義の口座が多数、登録されていたことが発覚。公金受取口座は本人名義と決まっているが、子どもに代わって親の口座や家族で使用している口座を登録した事例が相次いでいる。 5日の参院特別委員会で河野氏は「給付先の口座名が本人と違っていると、(公金が)給付できない」として、本人名義の口座に変更するよう呼びかけたが、「何を今更」だ。公金受取口座の登録を促進する新制度を盛り込んだ改正マイナンバー法などの関連法が2日に参院本会議で成立。それ以前に問題を把握していたのか。河野氏は詳しい経緯をつまびらかにしない。 さらに河野氏は「(公金受取口座を)赤の他人に紐付けすることができるかといえば、それはできる」とシレッと肯定。なりすまし犯罪を誘発する恐れがあるにもかかわらず、「(公金受取口座の登録は)本人の操作によるものであるということを前提に、特別な制御はしていない」(デジタル庁の楠正憲統括官)というから、ムチャクチャだ。再発防止に向けた道筋も不透明だ。 本人ではない家族名義の登録は何件あるのか。松野官房長官が5日の会見で「件数や調査の見通しはデジタル庁に聞いてもらいたい」と言うと、所管大臣の河野氏は「同一口座に複数の人が紐付けられていて名字が同じだということは分かっておりますが、その中の事情については分かりません」などとノラリクラリ。DV夫が別居中の妻の給付をかすめ取る恐れだって否定できないのに、「よく分からん」とはいくら何でもお粗末すぎる』、「河野氏は「(公金受取口座を)赤の他人に紐付けすることができるかといえば、それはできる」とシレッと肯定。なりすまし犯罪を誘発する恐れがあるにもかかわらず、「(公金受取口座の登録は)本人の操作によるものであるということを前提に、特別な制御はしていない」・・・というから、ムチャクチャだ・・・本人ではない家族名義の登録は何件あるのか。松野官房長官が5日の会見で「件数や調査の見通しはデジタル庁に聞いてもらいたい」と言うと、所管大臣の河野氏は「同一口座に複数の人が紐付けられていて名字が同じだということは分かっておりますが、その中の事情については分かりません」などとノラリクラリ」、「河野氏」の無責任さと不誠実ぶりには全く腹が立つ。
・『「国民がこしらえたニンジン」エサに普及促進  デジタル庁は家族名義の口座登録の動機に注意を払っていないが、ネットにあがった理由は「子どもの口座開設に手間がかかる」や「家族への給付を一元的に管理したい」などさまざまだ。加えて、マイナカードがあれば0歳児でも公金受取口座に登録可能。登録すれば、9月末まで期限延長された7500円相当のマイナポイントを受け取れる。親がポイント欲しさに、子どものカードに自分の口座を紐付けるケースが横行した可能性もある。 「小さな子どもにもポイントを付与する仕組みですから、ポイント欲しさに家族内で同じ親名義の口座登録が多発する事態はある程度、予想できたはず。そもそも、カードを取得したくない人もいるのに、ポイントという『ニンジン』を鼻先にブラ下げて普及を促進すること自体、違和感が拭えません。ポイント付与といっても原資は血税。いわば『国民がこしらえたニンジン』です。保険証との一体化で実質的に取得を強制するのであれば、普及促進目的のポイント事業は一体何だったのか。このムダを説明すべきです」(ITジャーナリスト・井上トシユキ氏) マイナポイントやテレビCMなど普及促進事業につぎ込まれた血税は2兆円超。カード普及を急ぐあまり、「ポイント欲しさ」の多少のインチキに目をつむった結果が、今回の事態を招いたのではないのか。バカげたカード普及策には、もうウンザリだ』、「マイナポイントやテレビCMなど普及促進事業につぎ込まれた血税は2兆円超。カード普及を急ぐあまり、「ポイント欲しさ」の多少のインチキに目をつむった結果が、今回の事態を招いたのではないのか。バカげたカード普及策には、もうウンザリだ」、同感である。「つぎ込まれた血税は2兆円超」には改めて怒りを覚えた。

第三に、6月10日付け日刊ゲンダイ「マイナンバー事業1兆円に群がる政官業“腐敗”の三角形…相次ぐトラブルの裏に巨額利権の甘い蜜」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/324278
・『絵に描いたような政・官・業の癒着ぶりだ。約13万件もの不適切な公金受取口座のひもづけが発覚するなどマイナンバー事業はトラブル続出。デメリットだらけの国民を尻目に巨額利権に群がり甘い蜜を吸う連中がいる。 マイナカード発行など事業の中核を担うのは「地方公共団体情報システム機構(J-LIS)」。国と地方公共団体の共同運営法人で、副理事や理事は所管の総務省出身者が務める。2014年の設立当初から、即戦力の民間人材を活用する名目で、特定の企業からの出向者が多数在籍。出向元となっているのは、マイナンバーの制度設計に深く関与した電機・通信などの大手企業だ。 制度設計を担ったのは、11年に内閣官房に創設された「情報連携基盤技術ワーキンググループ(WG)」だ。メンバー21人のうち、13人は民間企業の管理職が務めた。 NTTコミュニケーションズ、NTTデータ、NEC、日立製作所──当時、WGに名を連ねた大企業が、現在は機構の出向元となり、「出向者が4割を占める部署もある」(機構関係者)というほど密接な関係を築き上げている』、「マイナカード発行など事業の中核を担うのは「地方公共団体情報システム機構(J-LIS)」。国と地方公共団体の共同運営法人で、副理事や理事は所管の総務省出身者が務める。2014年の設立当初から、即戦力の民間人材を活用する名目で、特定の企業からの出向者が多数在籍。出向元となっているのは、マイナンバーの制度設計に深く関与した電機・通信などの大手企業だ。 制度設計を担ったのは、11年に内閣官房に創設された「情報連携基盤技術ワーキンググループ(WG)」だ。メンバー21人のうち、13人は民間企業の管理職が務めた。 NTTコミュニケーションズ、NTTデータ、NEC、日立製作所──当時、WGに名を連ねた大企業が、現在は機構の出向元となり、「出向者が4割を占める部署もある」・・・というほど密接な関係」、なるほどここが「マイナンバーの制度設計に深く関与した電機・通信などの大手企業」の集合体のようだ。
・『契約額9割独占の見返りに…  問題は出向社員が在籍しながらも、機構側が出向元企業への受注を制限していないことだ。本紙は、機構が公表した昨年度の契約実績を分析。すると、驚愕の「お手盛り」実態が見えてきた。 発注事業211件(計約783億円)の受注先には前出の大手4社がズラリ。同じくWGに参加した富士通、NTT、セコム、日本IBMを含めると計137件、全体の約64.9%を請け負っていた(関連会社、共同事業体含む)。多くは競争を経ない随意契約で、受注件数に占める割合は実に75.9%。契約額は計約718億円に達し、全体の9割を優に超える。 制度設計段階から関わったホンの一握りの大企業が、マイナンバー事業を独占とはムチャクチャだが、その見返りだろう。受注先には幹部官僚が天下りしている。 21年4月から22年12月の間にNTT、富士通、日立、NEC、セコムの本社や関連企業には、総務省など関係省庁OB26人が再就職していた。加えて日立、NTTデータ、NECは関連企業を巻き込み、自民党の政治資金団体「国民政治協会」にセッセと献金。その額は21年までの3年間で計2億5750万円に上る。 ランニングコストに毎年、数百億円もの税金が投じられ、事業規模はトータル1兆円ともいわれるマイナンバー事業。河野デジタル相は腐った癒着構造に切り込めるのか。得意の「突破力」の真価が問われる』、「発注事業211件(計約783億円)の受注先には前出の大手4社がズラリ。同じくWGに参加した富士通、NTT、セコム、日本IBMを含めると計137件、全体の約64.9%を請け負っていた・・・多くは競争を経ない随意契約で、受注件数に占める割合は実に75.9%。契約額は計約718億円に達し、全体の9割を優に超える」、「制度設計段階から関わったホンの一握りの大企業が、マイナンバー事業を独占とはムチャクチャだが、その見返りだろう。受注先には幹部官僚が天下りしている。 21年4月から22年12月の間にNTT、富士通、日立、NEC、セコムの本社や関連企業には、総務省など関係省庁OB26人が再就職していた。加えて日立、NTTデータ、NECは関連企業を巻き込み、自民党の政治資金団体「国民政治協会」にセッセと献金。その額は21年までの3年間で計2億5750万円に上る。 ランニングコストに毎年、数百億円もの税金が投じられ、事業規模はトータル1兆円ともいわれるマイナンバー事業。河野デジタル相は腐った癒着構造に切り込めるのか。得意の「突破力」の真価が問われる』、「自民党」にもしっかり「献金」しているようだ。とすれば、「河野デジタル相は腐った癒着構造に切り込」む気などさらさらなさそうだ。

第四に、6月11日付け日刊ゲンダイ「河野デジタル大臣はトンズラ準備? マイナンバーにトラブル続出「私を処分」答弁の裏の計算」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/324320
・『さんざん自治体や個人に責任を転嫁してきた河野太郎デジタル相が、ようやく自分の責任を認めた。 マイナンバー関連のトラブルが相次いでいる事態を受け、9日参院特別委員会で、「当然、責任は大臣たる私にある。なんらかの形で私に対する処分をやらなければいけないだろうと思う」と答弁した。トラブルが止まらず、自らを“処分”せざるを得なくなった形だ。なにしろ、マイナンバー関連のトラブルは拡大する一方だ。 本人ではない家族名義の口座の登録は13万件に達し、赤の他人の口座がマイナンバーに誤登録されていたケースも748件確認されている。しかも、家族名義については、デジタル庁は2月に問題を把握していたのに放置していたのだから無責任にも程があるという話だ。 「マイナ保険証」でもトラブルが続出。医療機関が保険資格を確認できず、患者がいったん10割負担を請求されるケースが、少なくとも533件も発生。 さらに、9日は「マイナポータル」で、他人の年金情報を閲覧できるトラブルがあったことも新たに発覚している』、「本人ではない家族名義の口座の登録は13万件に達し、赤の他人の口座がマイナンバーに誤登録されていたケースも748件確認」、「「マイナ保険証」でもトラブルが続出。医療機関が保険資格を確認できず、患者がいったん10割負担を請求されるケースが、少なくとも533件も発生」、「河野太郎デジタル相」が、「「当然、責任は大臣たる私にある。なんらかの形で私に対する処分をやらなければいけないだろうと思う」と答弁したのは当然だ。
・『辞めたくても岸田首相が認めない?  どんな“処分”を自分に下すのかは明らかにしなかったが、ネット上では、<最低でも大臣は辞任すべき。トラブルを知りつつゴリ押しして個人情報はダダ漏れ、確認と修正に年単位の時間がかかるとか話にならない>などと、批判が噴出している。河野大臣本人も辞任したいと考えているフシがあるという。 「マイナンバーカードのトラブルは簡単に終息しないのではないか。拡大していく恐れがある。実際、毎日のように新しい問題が発生しています。少なくとも、このままでは健康保険証の廃止は無理でしょう。河野大臣も、大臣を続けていたら火ダルマになる、いま辞任した方が傷が小さいと計算している可能性があります」(自民党関係者) しかし、岸田首相は“河野辞任”を認めないのではないか、とみられている。 「岸田首相は、マイナンバー関連のトラブルが起きても困っていないと思う。それどころか、内心、ニンマリしているに違いない。問題が大きくなればなるほど、総裁選のライバルだった河野太郎に批判の矛先が向かうからです。ライバルを完全に潰せる。高市大臣が国会で集中砲火を浴びていた時も、岸田首相は困っていませんでしたからね」(政界関係者) マイナンバーをゴリ押しした河野大臣はもちろん、岸田首相も責任を取るべきだ』、「「マイナンバーカードのトラブルは簡単に終息しないのではないか。拡大していく恐れがある」、「「岸田首相は、マイナンバー関連のトラブルが起きても困っていないと思う。それどころか、内心、ニンマリしているに違いない。問題が大きくなればなるほど、総裁選のライバルだった河野太郎に批判の矛先が向かうからです。ライバルを完全に潰せる」、「首相」が問題終息よりも、「ライバル」つぶしを重視しているとは考えたくないが、案外、真相を突いているのかも知れない。
タグ:マイナンバー制度 (その4)(「マイナ保険証」トラブル続発が示すポンコツ実態 別人情報「ひも付け」など法案成立前に問題噴出、マイナ公金受取登録「家族口座多数」でデタラメ横行…ポイント“エサ”に注ぎ込んだ血税2兆円、マイナンバー事業1兆円に群がる政官業“腐敗”の三角形…相次ぐトラブルの裏に巨額利権の甘い蜜、河野デジタル大臣はトンズラ準備? マイナンバーにトラブル続出「私を処分」答弁の裏の計算) 東洋経済オンライン「「マイナ保険証」トラブル続発が示すポンコツ実態 別人情報「ひも付け」など法案成立前に問題噴出」 「「マイナンバー法等一括法案」の・・・成立間際になって、制度の信頼を揺るがすトラブルが相次いで表面化」、「「マイナ保険証」をめぐり、別人の情報を間違って本人の資格情報・・・にひも付ける「誤登録」が2021年10月から2022年11月までの1年2カ月間に7000件以上見つかった」、 「サラリーマンなどが新たに健康保険に加入した場合、協会けんぽや健康保険組合などの保険者が本人の氏名や生年月日などの資格情報をデータベースに登録する。その際、本人のマイナンバーがわからない場合、住民基本台帳で本人の情報を照会する。 厚労省によれば、入手したマイナンバーの番号が間違っていることに気付かないまま健保組合が入力し、資格登録をしたことが原因」、信じられないような基本的なミスが相次いでいる。 「うち約3割で保険証の内容とオンライン資格確認で出力された内容が合致しない」・・・「マイナカードで確認したところ、『該当資格なし』とコンピューター画面に表示されるケースが相次いでいる。その場合、決められたルールに従って患者さん本人に保険証を見せてもらい、そちらに記された内容が正しいと判断して所定の負担割合で医療費を支払ってもらっている」という。 そして、井上院長が気を揉んでいるのが「2024年秋以降」だ。 法律の成立によって従来の保険証が廃止された場合、マイナカードによる資格確認に頼らざるをえなくなる。その際、オンライン資格確認で『該当資格なし』となった場合、正確な資格内容がわからないので、窓口でいったん医療費全額(10割負担)を支払ってもらわなければならなくなる。そうなると患者さんとのトラブルは避けられず、大混乱になりかねない」』、「『該当資格なし』とコンピューター画面に表示されるケースが」、「約3割」とはかなりあるようだ。このままでは、「20 24年秋以降」には事態は一層深刻化する。 「「該当資格なし」と表示される問題について・・・「加入者が(転職などで)保険者を異動した場合の(登録の)タイムラグが考えられる」と説明。 厚労省はこうした問題を踏まえ、これまで保険者によるデータ登録の期間の定めがなかったのを、「保険者によるデータ登録を5日以内とする」というルールに改めるという。ただ、「依然としてタイムラグがあることに変わりはなく、リアルタイムで正確に資格を確認しようとすること自体に無理がある」、「リアルタイムで正確に資格を確認しようと」したのは、何故なのだろ。お粗末な仕組みだ。 日刊ゲンダイ「マイナ公金受取登録「家族口座多数」でデタラメ横行…ポイント“エサ”に注ぎ込んだ血税2兆円」 「河野氏は「(公金受取口座を)赤の他人に紐付けすることができるかといえば、それはできる」とシレッと肯定。なりすまし犯罪を誘発する恐れがあるにもかかわらず、「(公金受取口座の登録は)本人の操作によるものであるということを前提に、特別な制御はしていない」・・・というから、ムチャクチャだ・・・本人ではない家族名義の登録は何件あるのか。松野官房長官が5日の会見で「件数や調査の見通しはデジタル庁に聞いてもらいたい」と言うと、所管大臣の河野氏は「同一口座に複数の人が紐付けられていて名字が同じだということは分かっており ますが、その中の事情については分かりません」などとノラリクラリ」、「河野氏」の無責任さと不誠実ぶりには全く腹が立つ。 「マイナポイントやテレビCMなど普及促進事業につぎ込まれた血税は2兆円超。カード普及を急ぐあまり、「ポイント欲しさ」の多少のインチキに目をつむった結果が、今回の事態を招いたのではないのか。バカげたカード普及策には、もうウンザリだ」、同感である。「つぎ込まれた血税は2兆円超」には改めて怒りを覚えた。 日刊ゲンダイ「マイナンバー事業1兆円に群がる政官業“腐敗”の三角形…相次ぐトラブルの裏に巨額利権の甘い蜜」 「マイナカード発行など事業の中核を担うのは「地方公共団体情報システム機構(J-LIS)」。国と地方公共団体の共同運営法人で、副理事や理事は所管の総務省出身者が務める。2014年の設立当初から、即戦力の民間人材を活用する名目で、特定の企業からの出向者が多数在籍。出向元となっているのは、マイナンバーの制度設計に深く関与した電機・通信などの大手企業だ。 制度設計を担ったのは、11年に内閣官房に創設された「情報連携基盤技術ワーキンググループ(WG)」だ。メンバー21人のうち、13人は民間企業の管理職が務めた。 NTTコミュニケーションズ、NTTデータ、NEC、日立製作所──当時、WGに名を連ねた大企業が、現在は機構の出向元となり、「出向者が4割を占める部署もある」・・・というほど密接な関係」、なるほどここが「マイナンバーの制度設計に深く関与した電機・通信などの大手企業」の集合体のようだ。 「発注事業211件(計約783億円)の受注先には前出の大手4社がズラリ。同じくWGに参加した富士通、NTT、セコム、日本IBMを含めると計137件、全体の約64.9%を請け負っていた・・・多くは競争を経ない随意契約で、受注件数に占める割合は実に75.9%。契約額は計約718億円に達し、全体の9割を優に超える」、「制度設計段階から関わったホンの一握りの大企業が、マイナンバー事業を独占とはムチャクチャだが、その見返りだろう。受注先には幹部官僚が天下りしている。 21年4月から22年12月の間にNTT、富士通、日立、NEC、セコムの本社や関連企業には、総務省など関係省庁OB26人が再就職していた。加えて日立、NTTデータ、NECは関連企業を巻き込み、自民党の政治資金団体「国民政治協会」にセッセと献金。その額は21年までの3年間で計2億5750万円に上る。 ランニングコストに毎年、数百億円もの税金が投じられ、事業規模はトータル1兆円ともいわれるマイナンバー事業。河野デジタル相は腐った癒着構造に切り込めるのか。得意の「突破力」の真価が問われる』、 「自民党」にもしっかり「献金」しているようだ。とすれば、「河野デジタル相は腐った癒着構造に切り込」む気などさらさらなさそうだ。 日刊ゲンダイ「河野デジタル大臣はトンズラ準備? マイナンバーにトラブル続出「私を処分」答弁の裏の計算」 「本人ではない家族名義の口座の登録は13万件に達し、赤の他人の口座がマイナンバーに誤登録されていたケースも748件確認」、「「マイナ保険証」でもトラブルが続出。医療機関が保険資格を確認できず、患者がいったん10割負担を請求されるケースが、少なくとも533件も発生」、「河野太郎デジタル相」が、「「当然、責任は大臣たる私にある。なんらかの形で私に対する処分をやらなければいけないだろうと思う」と答弁したのは当然だ。 「「マイナンバーカードのトラブルは簡単に終息しないのではないか。拡大していく恐れがある」、「「岸田首相は、マイナンバー関連のトラブルが起きても困っていないと思う。それどころか、内心、ニンマリしているに違いない。問題が大きくなればなるほど、総裁選のライバルだった河野太郎に批判の矛先が向かうからです。ライバルを完全に潰せる」、 「首相」が問題終息よりも、「ライバル」つぶしを重視しているとは考えたくないが、案外、真相を突いているのかも知れない。
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年金制度(その6)(2022年度年金額マイナス改定の裏にある重要課題 マクロ経済スライドの給付調整が再び繰り越し、巷で話題、「公的年金をめぐる2つの提案」の背景 2024年財政検証は出生数減少で一段と厳しく、「年金崩壊」シナリオに現実味 厚生年金は2040年代前半に単年度10兆円赤字で破綻する!?) [経済政策]

年金制度については、2021年11月16日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その6)(2022年度年金額マイナス改定の裏にある重要課題 マクロ経済スライドの給付調整が再び繰り越し、巷で話題、「公的年金をめぐる2つの提案」の背景 2024年財政検証は出生数減少で一段と厳しく、「年金崩壊」シナリオに現実味 厚生年金は2040年代前半に単年度10兆円赤字で破綻する!?)である。

先ずは、昨年1月10日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学 経済学部教授の土居 丈朗氏による「2022年度年金額マイナス改定の裏にある重要課題 マクロ経済スライドの給付調整が再び繰り越し」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/501222
・『今月にも開会される通常国会では、2022年度予算政府案が審議される。2022年度予算案では、一般会計歳出総額が107.6兆円と、当初予算案として過去最大規模となっている。そのうち、社会保障関係費が36.3兆円と33.7%を占めて、全費目の中で最大となっている。 社会保障関係費の中で最も多いのが、年金給付費(12.8兆円)である。これは、年金給付のすべてではなく、基礎年金給付の2分の1を賄う国庫負担に相当する。 2022年度予算案を決めるためには、2022年度にいくら年金給付をするかも同時に決めておかなければならない。そうしなければ、予算が組めないからである。実際に個々人が受け取る年金額は毎年見直されているが、前年度に比べてどれだけ変化するかを示すのが年金額改定率である』、年金制度の基本を改めて考えるのは、興味深そうだ。
・『2022年度の年金額改定率はマイナス0.4%  年金額改定率は、あらかじめ定められたルールに基づいて決める。それに基づいて決まった2022年度の年金額改定率は、マイナス0.4%となった。つまり、2022年度の年金額は、2021年度よりも0.4%減るということである。 ただし、厳密に言うと、マイナス0.4%というのは、予算政府案が閣議決定された2021年12月時点での物価上昇率の推計を基にした予算積算上の値であり、今月公表される2021年平均の全国消費者物価指数の上昇率に基づいて実際の年金額改定率は確定する。 では、このマイナス0.4%は、どのようなルールに従って決まったものなのか。それは、次のとおりである。まず、年金額改定率は、原則として、名目手取り賃金変動率とマクロ経済スライド調整率の和で決まる。 名目手取り賃金変動率が、年金額改定率に反映されるのは、年金の給付水準は現役世代の名目手取り賃金の水準との比率(所得代替率)を見極めながら制度が運営されていることに基づいている。さらには、年金保険料を払う現役世代の手取り賃金が減っているのに、年金の給付水準は減らなかったり、むしろ増えたりすれば、現役世代へのしわ寄せが大きくなるという関係も見逃せない。) マクロ経済スライドとは、東洋経済オンラインの拙稿「新首相を待ち受ける『基礎年金問題』という難題給付水準低下で高齢の生活保護受給者が増える」でも言及しているように、給付水準の世代間格差是正と年金財政の維持のために設けられた仕組みである。 少子化によって将来の年金保険料収入が減るが、それに合わせて将来の年金給付を減らすと給付水準の世代間格差が拡大する。それを防ぐためにも、今の高齢世代の給付水準を抑制することを意図している。 これを踏まえて、マクロ経済スライド調整率は、公的年金被保険者数の変動率と平均余命の伸び率を加味して決めることとなっている。2022年度のマクロ経済スライド調整率は、マイナス0.2%と算出されていた。 2022年度の年金額改定率に反映する名目手取り賃金変動率は、予算案の閣議決定時点では、マイナス0.4%と算出された。これらの和は、マイナス0.6%となる』、「マクロ経済スライド調整率」は、「給付水準の世代間格差是正と年金財政の維持のために設けられた仕組みで、「2022年度」は、「マイナス0.2%と算出」、「年金額改定率に反映する名目手取り賃金変動率は」「マイナス0.4%と算出」、「これらの和は、マイナス0.6%となる」、なるほど。
・『影響が大きい「名目下限措置」ルール  ところが、年金額改定率の算定ルールには、もう1つ別の条件が定められている。それは、マクロ経済スライドを発動する際には、マクロ経済スライド調整率を加えた最終的な年金額改定率はゼロ%を下限とするというものだ。名目下限措置とも呼ばれる。そして、名目手取り賃金変動率自体がマイナスの場合は、マクロ経済スライド調整自体を行わないというルールになっている。 2022年度については、この名目下限措置に該当する状況となり、これに従い年金額改定率は名目手取り賃金変動率と同率とすることとなったのである。つまり、マクロ経済スライドは発動しないこととしたのである。 結局、2022年度は、2021年度に続き2年連続で、マクロ経済スライドは、「抜かずの伝家の宝刀」となり下がったのである。) マクロ経済スライドは、2004年の年金制度改正で導入されて以降、23年間で2015年度と2019年度と2020年度の3回しか発動されていない。特に、初めて発動されたのが制度導入から10年経ってからだったこともあり、発動されないことにより年金財政の持続可能性に支障を来しうるとして、マクロ経済スライド調整率にキャリーオーバー制を設けることとした。2018年度の年金額改定以降においてである。 キャリーオーバー制とは、前述の名目下限措置によってマクロ経済スライドが発動されなかった場合、その調整率分を翌年度に繰り越す仕組みである。 2018年度の年金額改定で、マクロ経済スライドが発動されず、早速キャリーオーバー制が適用され、マイナス0.3%分が2019年度に繰り越された。 2019年度は物価上昇率が上がったことから、名目下限措置には該当せず、マクロ経済スライドが発動されることとなったため、2018年度からキャリーオーバーされた分も含めて年金額改定率に反映された』、「マクロ経済スライドを発動する際には、マクロ経済スライド調整率を加えた最終的な年金額改定率はゼロ%を下限とするというものだ・・・名目手取り賃金変動率自体がマイナスの場合は、マクロ経済スライド調整自体を行わないというルールになっている。 2022年度については、この名目下限措置に該当する状況となり、これに従い年金額改定率は名目手取り賃金変動率と同率とすることとなった」、「マクロ経済スライドは、2004年の年金制度改正で導入されて以降、23年間で2015年度と2019年度と2020年度の3回しか発動されていない。特に、初めて発動されたのが制度導入から10年経ってからだったこともあり、発動されないことにより年金財政の持続可能性に支障を来しうるとして、マクロ経済スライド調整率にキャリーオーバー制を設けることとした。2018年度の年金額改定以降においてである。 キャリーオーバー制とは、前述の名目下限措置によってマクロ経済スライドが発動されなかった場合、その調整率分を翌年度に繰り越す仕組みである」、「2018年度の年金額改定で、マクロ経済スライドが発動されず、早速キャリーオーバー制が適用され、マイナス0.3%分が2019年度に繰り越された。 2019年度は物価上昇率が上がったことから、名目下限措置には該当せず、マクロ経済スライドが発動されることとなったため、2018年度からキャリーオーバーされた分も含めて年金額改定率に反映された」、なるほど。
・『2022年度は2年連続のキャリーオーバー  2021年度には再び名目下限措置に該当して、マクロ経済スライドが発動されず、その調整率マイナス0.1%が2022年度に繰り越された。そして、2022年度も、前述のとおりマクロ経済スライドが発動されず、2年連続でのキャリーオーバーとなった。これにより、2年分合計の調整率マイナス0.3%が2023年度に繰り越される。新型コロナウイルス禍という状況下とはいえ、2年連続でのキャリーオーバーは、制度導入後初めてである。 キャリーオーバーされた分は、近い将来いずれマクロ経済スライドが発動されれば、年金額改定に反映されるから、そのときにはマクロ経済スライドが毎年度発動されたも同然となる。だから、一時的にキャリーオーバーされたところで、年金財政の持続可能性に疑義が生じることはない。 しかし、キャリーオーバー制が導入された2018年度以降、5年のうち3年はマクロ経済スライド調整率がキャリーオーバーされている。こうも頻繁にキャリーオーバーされていると、いざマクロ経済スライドが発動されるときには、年金額改定率を大きく引き下げることとなり、激変が起きる恐れがある。) キャリーオーバー制は、ないよりあったほうがよく、年金財政の持続可能性を大いに高めることは間違いない。ところが、キャリーオーバーがたまりにたまると、逆にマクロ経済スライドを発動するときの影響が大きくなり、そこで国民の反発を招きかねない。 それならば、キャリーオーバーするのではなく、マクロ経済スライドを毎年度フルに発動して、緩やかに年金額改定を進めて行くほうが、かえって国民の反発が避けられるだろう。 2022年度では、マクロ経済スライド調整率は、前掲のとおりマイナス0.2%だった。もしこれを年金額改定に反映すれば、基礎年金1人分の満額給付額では年約1600円減るに過ぎない。厚生年金の報酬比例部分(1人分)では、平均で年約2200円減るに過ぎない。 他方、2023年度にキャリーオーバーして、そこでマクロ経済スライドを発動するとどうなるか。仮に2023年度単年度のマクロ経済スライド調整率がマイナス0.2%とすると、キャリーオーバー分マイナス0.3%分も合わせてマイナス0.5%年金額改定率を引き下げる。これを年金額に換算すると、基礎年金1人分の満額給付額では年約4000円に相当し、厚生年金の報酬比例部分(1人分)では、平均で年約5500円になる。 このように、キャリーオーバー分もまとめて引き下げると、インパクトは大きいのである。 年金財政の持続可能性を高めるために導入したキャリーオーバー制だが、こうも頻繁に用いられるとなると、いざ発動するときにはその調整率が大きくなってしまい、マクロ経済スライドへの反感を募らせる意味でアダとなりかねない』、「年金財政の持続可能性を高めるために導入したキャリーオーバー制だが、こうも頻繁に用いられるとなると、いざ発動するときにはその調整率が大きくなってしまい、マクロ経済スライドへの反感を募らせる意味でアダとなりかねない」、確かにその通りだ。
・『名目下限措置撤廃への合意形成が必要  むしろ、マクロ経済スライドを毎年度フルに発動できるように名目下限措置を撤廃したほうがよい。フル発動によって、年金財政の持続可能性がより高まるだけでなく、厚生労働省が試算したように将来の年金給付をより多く維持できる意味で給付水準の世代間格差を是正でき、今の高齢世代が受け取る年金額をより緩やかに調整できて激変を回避できる。 2024年には5年に1度の年金の財政検証が待っている。それに向けた年金制度の改善策の議論が予定されている。その際には、名目下限措置を撤廃してマクロ経済スライドを毎年度フルに発動できるよう、国民的なコンセンサスを醸成することが望まれる』、「2024年には5年に1度の年金の財政検証が待っている・・・その際には、名目下限措置を撤廃してマクロ経済スライドを毎年度フルに発動できるよう、国民的なコンセンサスを醸成することが望まれる」、確かにその方が、調整がスムースでよさそうだ。

次に、昨年10月31日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学 経済学部教授 の土居 丈朗氏による「巷で話題、「公的年金をめぐる2つの提案」の背景 2024年財政検証は出生数減少で一段と厳しく」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/629384
・『このところ、公的年金をめぐる新たな提案がちまたの話題となっている。「国民年金保険料の納付期間の5年延長」や「国民年金の厚生年金による穴埋め」である。 なぜこんな話題が、今取り沙汰されるのか。 それは、2024年央に予定されている年金の「財政検証」(将来の公的年金の財政見通し、5年に1度実施)を見据えた議論が、厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会年金部会で10月25日から始まったことによる。その会合の開催前に、観測記事などが出たことから、にわかに世間の注目を集めた。ただ、これらの「新たな提案」は、以前にも提起されたことがあるものだから、新しいわけではない』、興味深そうだ。
・『大幅な給付低下が見込まれる基礎年金を「救済」  「国民年金の厚生年金による穴埋め」ともいわれる提案は、東洋経済オンラインの本連載の記事「国民年金・厚生年金『積立金統合案』、何が問題か」ですでに言及したものである。 そもそも、従業員が101人以上の企業に勤務し、週20時間以上働き、2カ月以上の雇用の見込みがある、などの要件を満たした被用者は、厚生年金に加入して老後に基礎年金と所得比例年金の両方を受けることができる。その要件を満たさない人は厚生年金には加入できず、国民年金に入って老後に基礎年金の給付のみを受けることができる。 ところが、現行の公的年金制度のままでは、基礎年金の給付は将来大きく低下することが見込まれることから、基礎年金給付が目減りしないように、厚生年金が国民年金を「救済」するのが、この案の肝である。 今ある厚生年金の積立金と国民年金の積立金とを文字どおり統合するというわけではないのだが、厚生年金の積立金のほうが圧倒的に多いため、基礎年金給付の財源に厚生年金の積立金を現行制度が想定しているよりも多く拠出してもらうことで、基礎年金の給付が目減りしないようにする、という仕組みだ。) もう1つの話題である「国民年金保険料の納付期間の5年延長」は、現行の受給開始年齢は65歳なのに、国民年金の保険料納付は60歳になるまでだから、保険料納付を受給開始直前まで5年延ばすことで、受給開始後の給付を増やそうという案である。 この案も、実はすでに2019年の財政検証の際にも出されており、オプション試算としてその影響が分析されている。確かに、これによって、厚生年金が国民年金を救済する形ではない方法で、基礎年金の給付水準を維持することができる。 現に、厚生年金加入者は、60歳を超えて引き続き勤務するならば、要件を満たす限り70歳になるまで保険料を払い続ける仕組みとなっている。だから、今回の案は、国民年金加入者もそれに倣って保険料を納付し続けるものとみることができる。巷間、無理やり保険料を払わせられるといった報道も見られるが、そのように解することは妥当でない。 むしろ、厚生年金加入者は60歳を超えて保険料を払い続けているのに、国民年金加入者は60歳を超えたら保険料を払わない、というのでは、国民年金加入者の年金給付は少なくなっても致し方ない。 ただでさえ、基礎年金の給付が目減りすることが懸念されているのだから、国民年金加入者も、厚生年金加入者と同様にせめて65歳になるまでは保険料を払えば、老後の年金給付の水準を上げることができる』、「国民年金加入者も、厚生年金加入者と同様にせめて65歳になるまでは保険料を払えば、老後の年金給付の水準を上げることができる」、その通りだ。
・『2分の1を負担する税財源の確保が課題に  しかし、国民年金保険料の納付期間の5年延長でも、厚生年金積立金による国民年金の負担軽減でも、越えなければならない難関がある。 それは、基礎年金給付の財源は2分の1が税財源(国庫負担)となっていることから、その税財源をどう確保するかである。率直に言えば、基礎年金給付の水準を目減りさせないようにするためには追加的な増税が必要であり、それに国民が応じるかどうかという問題だ。 国民年金の保険料納付期間を5年延ばすということは、これに合わせて基礎年金給付に必要な税財源を5年分別途確保しなければならないということを意味する。国民年金加入者に5年多く保険料を納付してもらうとしても、それは給付に必要な財源の半分にとどまる。ましてや、その間に、保険料の減免が適用されれば、減免された分までも税財源で穴埋めしなければならない。 2019年財政検証のオプション試算によると、将来このための追加の税財源確保のために、消費税率に換算すると最低でも1~2%ほどは上げなければならないほどの税収が必要となる。 それは、厚生年金積立金による国民年金の負担軽減であっても同様だ。要するに、基礎年金の給付水準を上げる際には、その半分は、税財源を現行で予定しているよりも多く注ぎ込まなければならない。 前掲の「国民年金・厚生年金『積立金統合案』、何が問題か」でも述べたように、基礎年金の給付水準が目減りして、高齢の生活保護受給者が増えれば、それはそれで生活保護給付は全額税財源で賄わなければならない。だから、基礎年金の給付水準を維持することは重要だ。 しかし、基礎年金の給付水準を維持するのに、増税なしに実現できると安直に考えることは禁物だ。税財源の確保なくして、基礎年金の給付水準の維持はありえない』、「税財源の確保なくして、基礎年金の給付水準の維持はありえない」、その通りだ。
・『厚生年金のさらなる加入者拡大は必要  他方、国民年金加入者のうち、厚生年金に加入できる人を増やす取り組みも進んでいる。これによって、基礎年金だけでなく所得比例年金も受け取れる対象者が増えるから、老後の年金給付の目減りを防ぐ効果が期待できる。 今年10月からは中小企業等への厚生年金の適用拡大が実施された。それまでは、従業員が501人以上の企業に勤務し、1年以上の雇用の見込みがある人までが厚生年金に加入することとされていたが、10月からはそれが、従業員が101人以上の企業に勤務し、2カ月以上の雇用の見込みがある人まで厚生年金に加入することとなった。 しかし、10月から新たに厚生年金の適用を受けることとなった人は、約45万人にとどまる。厚生年金のさらなる適用拡大が今後の課題である。) 岸田文雄首相は、自民党総裁選に立候補した時から、「勤労者皆保険」を掲げている。わが国では、国民皆年金であるから、国民は必ず国民年金か厚生年金のいずれかには加入している。 ここでいう「勤労者皆保険」を年金についていえば、従業員規模が100人以下の企業に勤めている人であっても、週20時間未満の短時間労働者であっても、娯楽業や宿泊業、飲食サービス業など被用者保険の非適用業種に勤めている人であっても、雇われている人(被用者)であれば原則として厚生年金に加入する、ということを意図している。 それは、年金財政の救済のためではなく、年金加入者本人の老後の所得保障のためである。厚生年金のさらなる適用拡大を行って、基礎年金だけでなく所得比例年金も受け取れる形で、給付水準を維持することが必要である。現在、さらなる適用拡大については、全世代型社会保障構築会議で議論が進んでいる』、「10月からは・・・従業員が101人以上の企業に勤務し、2カ月以上の雇用の見込みがある人まで厚生年金に加入することとなった。 しかし、10月から新たに厚生年金の適用を受けることとなった人は、約45万人にとどまる。厚生年金のさらなる適用拡大が今後の課題である」、「約45万人にとどまる」、その理由は何なのだろう。それを解明することが、「さらなる適用拡大」の前提条件だ。
・『出生数の減少で年金財政は一段と厳しくなる  2024年に行われる年金の財政検証では、2019年の検証結果よりも厳しい結果になることが予想される。というのも、コロナ禍で出生数が減少しているからである。 2017年に公表された将来人口推計における中位推計では、2028年に出生数が約80万人となると見込まれていたが、既に2021年の出生数は81.2万人まで減っており、7年も早く出生数の減少が実現してしまっている。この出生数の減少は、約20年先から就業者数の減少となって影響が出始め、年金保険料収入の減少という形で年金財政に効いてくる。 保険料水準固定方式をとっている現行の公的年金制度では、保険料率は今後上がらないものの、保険料を納める就業者が減ることは、保険料収入の減少を通じて年金給付を抑制する方向に作用する。だから、老後の年金給付の水準を維持する方策について、今まで以上に真剣に検討しなければならないのである。 2024年の年金の財政検証は、こうした人口動態や就業実態を踏まえつつ、保守的な経済見通しに基づいて議論されることが望まれる。年金改革にトラウマを持つ政治家に忖度して、楽観的な経済見通しに基づいて年金制度の改革を先送りしても支障がないと思わせるような試算結果を出すことは、日本の将来のためにならない』、「2024年の年金の財政検証は、こうした人口動態や就業実態を踏まえつつ、保守的な経済見通しに基づいて議論されることが望まれる。年金改革にトラウマを持つ政治家に忖度して、楽観的な経済見通しに基づいて年金制度の改革を先送りしても支障がないと思わせるような試算結果を出すことは、日本の将来のためにならない」、同感である。

第三に、5月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「「年金崩壊」シナリオに現実味、厚生年金は2040年代前半に単年度10兆円赤字で破綻する!?」を紹介しよう。この記事は有料だが、今月、無料で読めるのは私の場合、残り4本。
https://diamond.jp/articles/-/322331
・『厚生年金の収支見通し 国庫支出増えても経常収入は減少  日本の公的年金制度は、幾つかの制度がある。 支出給額でみると、厚生年金が48.1兆円、国家公務員共済組合3.0兆円、地方公務員共済組合が8.3兆円、私立学校教職員共済が0.9兆円。自営業者らの国民年金の国民年金勘定が3.7兆円。そして各制度に共通する基礎年金勘定が24.5兆円だ。 国庫支出金は、各制度から基礎年金制度に対する拠出金の2分の1を国庫が負担するものだ(負担割合は従来、3分の1だったが、2004年度から段階的に引上げられ、09年度に2分の1となった)。 厚生年金の場合、20年度で、経常収入(積立金運用益を除く収入をこのように呼ぶこととする)が約47.2兆円、そのうち保険料収入が約32.1兆円、国庫支出金(国庫・公経済負担)が約10.1兆円だ(厚生労働省「公的年金各制度の財政収支状況」による)。 厚生年金から拠出金を基礎年金勘定に繰り入れ、そこから基礎年金として支出される。 20年度で、厚生年金から基礎年金への拠出額は19.4兆円だ。上にみた厚生年金の経常収入中の国庫・公経済負担約10.1兆円は、この約半分になる。 厚生年金について経常収支の推移を示すと、図表1のとおりだ。 (図表1:給付と経常収入の推移(厚生年金) はリンク先参照) ここでは、支給開始年齢が65歳のままであり、物価上昇率も実質賃金上昇率もゼロであるような経済を考えている。 すると、給付は2020年度の48.1兆円から始まり、65歳以上人口の増加に伴って増えていき、40年度には20年度の約1.083倍である52.1兆円となる。これが、図表1のABによって示されている。 他方で、経常収入の約3分の2は保険料だ(正確な比率は20年度で32.0兆円÷47.2兆円=0.678)。これは、15歳~64歳人口の減少に伴って、20年度から40年度にかけて0.807倍に減少する。) 経常収入の残りは国庫支出金などで、これは、65歳以上人口の増加に従って増えると考えると、20年度から40年度にかけて1.083倍に増加する。 したがって、経常収入全体としては、20年度の47.2兆円から40年度までの間に0.678×0.807+0.322×1.083=0.896倍になって、42.3兆円となる。 これが、図表1のDCによって示されている。国庫支出金を含めても、なお厚生年金の経常収入は1割以上減少するのだ』、「厚生年金」では、「給付は2020年度の48.1兆円」から「40年度には・・・52.1兆円」、「経常収入全体」では。「20年度の47.2兆円から40年度・・・42.3兆円」となる。
・『40年以降は単年度赤字10兆円超 厚生年金の積立金が枯渇する  2020年度では、厚生年金の経常収支はほぼ均衡している。しかし、その後は赤字が拡大する。 赤字額の累計は、40年度までだと、四辺形ABCDの面積によって表される。この四辺形の面積は、AとDを同一視した三角形で近似すれば、約100兆円だ。 この赤字を積立金の取り崩しによって賄うとしよう(実際には、積立金の運用益を考慮する必要があるが、それについては後述する。ここでは運用益がない場合を想定する)。 22年12月末の積立金残高は、年金積立金全体で191兆円だ(年金積立金管理運用独立行政法人「2022年度の運用状況」による)。 このうち厚生年金の比率は、過去のデータからすると79%程度と考えられるので、約150兆円だ。したがって、前述のことから40年頃には残高が50兆円程度にまで減る。 ところが、40年度以降は経常収支の単年度の赤字が10兆円を超す。積立金からの繰り入れを続けるとすれば、40年代の前半に積立金が枯渇することになる』、「積立金残高」のうち「厚生年金」の分は、「約150兆円・・・40年頃には残高が50兆円程度にまで減る」、「40年度以降は経常収支の単年度の赤字が10兆円を超す。積立金からの繰り入れを続けるとすれば、40年代の前半に積立金が枯渇することになる」、その通りだ。
・『将来の経済情勢に依存 積立金運用収益には頼れない  年金会計の収入としては、以上で考えた経常収入のほかに積立金の運用収入がある。 運用収入がどの程度の額になるかは、時々の経済情勢によって大きく変動する。 2020年には、35.7兆円という巨額の運用益が発生した(収益率では24.0%)。しかし、収益率がマイナスになった年もある。22年は四半期連続で赤字になった。 01年度からの21年度の間の平均運用利回りは3.7%だ(年金積立金管理運独立行政法人「年金積立金の運用目標」による)。 現在の積立金が約150兆円だから、積立金の額が変わらないとすれば、年間で5.6兆円程度の収入を期待できることになる。 しかし、30年代の後半には経常収支の赤字が6兆円を超える。そうなると、積立金の取り崩しが必要になり、残高が減り始める。すると運用収益も減少する。こうして、積立金の残高が急速に減少するという悪循環が始まる。 したがって、運用益を考慮したとしても、上で述べた収支見通しに大きな違いはないだろう。破綻時点が若干後にずれることはあるだろうが、大勢に影響はないと考えられる。 しかも、運用収益がどうなるかは、将来の経済情勢に依存する。積立金の評価が減少することもある。 だから、運用収入をあてにすることはできない。経常収支についてのバランスを実現することが重要だ。 年金財政の破綻を回避するには、年金支給開始年齢の再引き上げの議論を早急に始める必要がある』、「30年代の後半には経常収支の赤字が6兆円を超える。そうなると、積立金の取り崩しが必要になり、残高が減り始める。すると運用収益も減少」、「運用収益がどうなるかは、将来の経済情勢に依存する。積立金の評価が減少することもある。 だから、運用収入をあてにすることはできない。経常収支についてのバランスを実現することが重要だ。 年金財政の破綻を回避するには、年金支給開始年齢の再引き上げの議論を早急に始める必要がある」、同感である。
タグ:年金制度 (その6)(2022年度年金額マイナス改定の裏にある重要課題 マクロ経済スライドの給付調整が再び繰り越し、巷で話題、「公的年金をめぐる2つの提案」の背景 2024年財政検証は出生数減少で一段と厳しく、「年金崩壊」シナリオに現実味 厚生年金は2040年代前半に単年度10兆円赤字で破綻する!?) 東洋経済オンライン 土居 丈朗氏による「2022年度年金額マイナス改定の裏にある重要課題 マクロ経済スライドの給付調整が再び繰り越し」 年金制度の基本を改めて考えるのは、興味深そうだ。 「マクロ経済スライド調整率」は、「給付水準の世代間格差是正と年金財政の維持のために設けられた仕組みで、「2022年度」は、「マイナス0.2%と算出」、「年金額改定率に反映する名目手取り賃金変動率は」「マイナス0.4%と算出」、「これらの和は、マイナス0.6%となる」、なるほど。 「マクロ経済スライドを発動する際には、マクロ経済スライド調整率を加えた最終的な年金額改定率はゼロ%を下限とするというものだ・・・名目手取り賃金変動率自体がマイナスの場合は、マクロ経済スライド調整自体を行わないというルールになっている。 2022年度については、この名目下限措置に該当する状況となり、これに従い年金額改定率は名目手取り賃金変動率と同率とすることとなった」、「マクロ経済スライドは、2004年の年金制度改正で導入されて以降、23年間で2015年度と2019年度と2020年度の3回しか発動されていない。特に、初めて発動されたのが制度導入から10年経ってからだったこともあり、発動されないことにより年金財政の持続可能性に支障を来しうるとして、マクロ経済スライド調整率にキャリーオーバー制を設けることとした。 2018年度の年金額改定以降においてである。 キャリーオーバー制とは、前述の名目下限措置によってマクロ経済スライドが発動されなかった場合、その調整率分を翌年度に繰り越す仕組みである」、「2018年度の年金額改定で、マクロ経済スライドが発動されず、早速キャリーオーバー制が適用され、マイナス0.3%分が2019年度に繰り越された。 2019年度は物価上昇率が上がったことから、名目下限措置には該当せず、マクロ経済スライドが発動されることとなったため、2018年度からキャリーオーバーされた分も含めて年金額改定率に反映された」、なるほど。 「年金財政の持続可能性を高めるために導入したキャリーオーバー制だが、こうも頻繁に用いられるとなると、いざ発動するときにはその調整率が大きくなってしまい、マクロ経済スライドへの反感を募らせる意味でアダとなりかねない」、確かにその通りだ。 「2024年には5年に1度の年金の財政検証が待っている・・・その際には、名目下限措置を撤廃してマクロ経済スライドを毎年度フルに発動できるよう、国民的なコンセンサスを醸成することが望まれる」、確かにその方が、調整がスムースでよさそうだ。 土居 丈朗氏による「巷で話題、「公的年金をめぐる2つの提案」の背景 2024年財政検証は出生数減少で一段と厳しく」 「国民年金加入者も、厚生年金加入者と同様にせめて65歳になるまでは保険料を払えば、老後の年金給付の水準を上げることができる」、その通りだ。 「税財源の確保なくして、基礎年金の給付水準の維持はありえない」、その通りだ。 「10月からは・・・従業員が101人以上の企業に勤務し、2カ月以上の雇用の見込みがある人まで厚生年金に加入することとなった。 しかし、10月から新たに厚生年金の適用を受けることとなった人は、約45万人にとどまる。厚生年金のさらなる適用拡大が今後の課題である」、「約45万人にとどまる」、その理由は何なのだろう。それを解明することが、「さらなる適用拡大」の前提条件だ。 「2024年の年金の財政検証は、こうした人口動態や就業実態を踏まえつつ、保守的な経済見通しに基づいて議論されることが望まれる。年金改革にトラウマを持つ政治家に忖度して、楽観的な経済見通しに基づいて年金制度の改革を先送りしても支障がないと思わせるような試算結果を出すことは、日本の将来のためにならない」、同感である。 ダイヤモンド・オンライン 野口悠紀雄氏による「「年金崩壊」シナリオに現実味、厚生年金は2040年代前半に単年度10兆円赤字で破綻する!?」 「厚生年金」では、「給付は2020年度の48.1兆円」から「40年度には・・・52.1兆円」、「経常収入全体」では。「20年度の47.2兆円から40年度・・・42.3兆円」となる。 「積立金残高」のうち「厚生年金」の分は、「約150兆円・・・40年頃には残高が50兆円程度にまで減る」、「40年度以降は経常収支の単年度の赤字が10兆円を超す。積立金からの繰り入れを続けるとすれば、40年代の前半に積立金が枯渇することになる」、その通りだ。 「30年代の後半には経常収支の赤字が6兆円を超える。そうなると、積立金の取り崩しが必要になり、残高が減り始める。すると運用収益も減少」、「運用収益がどうなるかは、将来の経済情勢に依存する。積立金の評価が減少することもある。 だから、運用収入をあてにすることはできない。経常収支についてのバランスを実現することが重要だ。 年金財政の破綻を回避するには、年金支給開始年齢の再引き上げの議論を早急に始める必要がある」、同感である。
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税制一般(その4)(なぜ「パートのままがいい」という人がいるのか…理不尽な「年収の壁」を壊すために岸田政権がやるべきこと 「同一労働同一賃金」がかけ声倒れに終わる理由、GWに家族全員で話したい「生前贈与」のススメ おトクな相続術やシミュレーション法を伝授) [経済政策]

税制一般については、昨年6月2日に取上げた。今日は、(その4)(なぜ「パートのままがいい」という人がいるのか…理不尽な「年収の壁」を壊すために岸田政権がやるべきこと 「同一労働同一賃金」がかけ声倒れに終わる理由、GWに家族全員で話したい「生前贈与」のススメ おトクな相続術やシミュレーション法を伝授)である。

先ずは、本年3月29日付けPRESIDENT Onlineが掲載した経済ジャーナリストの磯山 友幸氏による「なぜ「パートのままがいい」という人がいるのか…理不尽な「年収の壁」を壊すために岸田政権がやるべきこと 「同一労働同一賃金」がかけ声倒れに終わる理由」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/68005
・『パート社員の待遇を正社員と同等に引き上げ  イオングループの中核企業で総合スーパーを展開するイオンリテールが、パート社員の待遇を正社員と均等にする制度を導入することを決めた。月120時間以上働き、昇格試験に合格した「正社員と同等」の仕事をしているパート社員を、「地域限定正社員」と同等の待遇にする。法改正で2020年から適用されている「同一労働同一賃金」を強く意識した改革であることは間違いない。 イオングループの従業員数は2022年2月末で15万5465人だが、このほかに26万5198人の時給で働くパートがいる。もっともこの人数は1日8時間勤務に換算したもので、実際に採用している総数はさらに上回る。パート、アルバイトを最も雇用している日本企業のひとつである。 「同一労働同一賃金」は安倍晋三内閣時の2018年6月に成立した「働き方改革関連法」によって導入された。正社員と同一の仕事をしている非正規雇用の働き手について、正社員と同一の待遇、つまり給与水準だけでなく、賞与や手当てなども同一にしなければならない、と法律で定められた。 当時、「働き方改革」が大きな課題になっていた中で、長時間勤務の是正とともに、正社員と非正規雇用者の待遇の違いが格差を生んでいるとして、野党が強く批判していた。これを安倍内閣が法制化したものだ』、興味深そうだ。
・『売り場責任者の9%をパート従業員が担っていた  この法律は、2020年から大企業を対象に施行が始まっており、企業側の対応が焦点になってきた。 もっとも「同一労働同一賃金」には抜け穴があると、かねて指摘されている。「正社員と同一」という条件を厳しく捉えると、正社員同等の責任や権限があるかどうかが基準になり、同じような仕事をしていたとしても、「同一」とは言えないという判断が成り立ってしまう。 イオンなど大手スーパーの場合、パート社員として雇用した主婦の中でも経験を積んで「売り場責任者」などとして働く人が増えている現実がある。本来は正社員が行う仕事をパートが行っているとも言え、さすがに「同一労働同一賃金」の適用は回避できないとの見方が広がっていた。 今回のイオンの制度もこうした売り場責任者などが対象で、すべてのパートが含まれるわけではない。ちなみに「リーダー」など売り場責任者の場合、関東圏のパート時給で16%(約180円)上がり、年収は2割増える見通しだという。報道によると、イオンリテールの350店舗の売り場責任者1万1000人のうち、9%がパートだという』、「パート社員として雇用した主婦の中でも経験を積んで「売り場責任者」などとして働く人が増えている現実がある。本来は正社員が行う仕事をパートが行っているとも言え、さすがに「同一労働同一賃金」の適用は回避できないとの見方が広がっていた」、「イオンリテールの350店舗の売り場責任者1万1000人のうち、9%がパート」、「パート」は重要な役割を担っているようだ。
・『小売・旅館・飲食ではむしろ雇用の大半を占めている  もちろん、パートなど非正規の働き方をあえて選択している人たちもいる。一定の年収を超えると社会保障などの負担が増す「年収の壁」を嫌ったり、休みが取りやすかったり、重い責任が伴わないことをむしろメリットとして働いている人が子育て層などに少なくない。 日本でパートや派遣社員など「非正規雇用」が大きく拡大した背景には、経済成長が止まり、デフレの色彩が強まる中で、企業の多くが、販売価格を抑えるために、コストである人件費を圧縮しようとしてきたことが大きい。 本来、雇用は正社員が中心で、パートなどの非正規雇用は補完的な役割とされてきたが、小売店や旅館・ホテル、飲食店などではむしろパートが雇用の大半を占めるケースが増えている。 一方で、働く側も本来のパートタイム=短時間勤務ではなく、フルタイムを「パート」の待遇で働いている人も増えた。企業としては人件費総額を抑えることにつながったものの、一方で、生活給としては十分ではない困窮世帯が増えることにつながっているという指摘もある』、「小売店や旅館・ホテル、飲食店などではむしろパートが雇用の大半を占めるケースが増えている」、「生活給としては十分ではない困窮世帯が増えることにつながっているという指摘も」、その通りだ。
・『人件費の増大分は「販売価格」に転嫁するしかない  もっともここへ来てイオンなどがパートの待遇改善に踏み切った背景には、深刻な人手不足がある。 ここ10年ほど増えていた高齢者や女性の労働力に頭打ちの気配が見えているうえに、出生率の低下による若年層の著しい人口減少が加わり、アルバイトなどが十分に雇用できなくなりつつある。 大手スーパーなどでは売り場のレジを無人化するなどの対応も急いできたが、今後、少子化の影響がさらに出てくることが明らかで、中長期にわたって人材をどう確保していくかが焦点になっている。そうした中で、パートの中でも有能な人材により責任の重い仕事を任せるなど、「戦力化」を進める必要性に迫られている。 岸田文雄内閣が「インフレ率を上回る賃上げ」を求めていることもあり、大手企業を中心に賃上げに踏み切っている。 最低賃金が毎年引き揚げられていることもあり、パートの時給も上昇しているが、まだまだ正規雇用に比べて給与格差は大きい。一方で、パートに依存している企業が、仮に正社員並みの給与をパート全員に払おうとした場合、人件費が激増して、赤字に転落することになりかねない。人件費の増加分を賄うためには販売価格への転嫁が必要で、企業は価格引き上げによってさらに利益をあげる体制への転換が求められる』、「人件費の増加分を賄うためには販売価格への転嫁が必要」、その通りだ。
・『コスト削減のために「非正規化」されてきた  総務省が発表した1月の労働力調査によると、働いている人、つまり就業者の総数は6689万人。このうち、6034万人が企業などに「雇用」されている。その雇用者のうち37.4%に当たる2133万人がパートやアルバイト、派遣社員といった非正規雇用だ。働く人全体の3分の1弱は非正規ということになる。しかも、37.4%という非正規雇用の割合は2013年1月には33.1%だった。新型コロナウイルスの蔓延で非正規雇用が減っていたが、ここへきて再び増加している。 前述のようにパートなどの「非正規」がひとつの「働き方」として定着し、選ばれている面もあるが、本来ならば「正規」で雇うべき雇用が、コスト削減のために「非正規化」されている部分も少なからずあると見ていいだろう。 その部分を「適正化」する意味で、「同一労働同一賃金」の規定が一定の役割を果たし始めたと言えるかもしれない。これをさらに進めていくには、一定時間以上働くと社会保障費負担が増えてしまうことから労働時間を削減しているとされる「年収の壁」を取り除くことだろう』、「本来ならば「正規」で雇うべき雇用が、コスト削減のために「非正規化」されている部分も少なからずあると見ていいだろう」、「「年収の壁」を取り除く」、のは大賛成だ。
・『1時間でも働けば社会保険を負担する仕組みに変える  ポイントは一定時間以上働いた場合に社会保険の適用とするのではなく、1時間でも働けば社会保険を負担する仕組みに変えることだ。 実は、「年収の壁」は働く側の意識ばかりが強調されるが、使う側の企業の事情も影響していると言える。つまり、一定時間以上働かせて社会保険適用となると、健康保険料などを働き手が負担する必要が生じるとともに、雇用者側が半額負担することが求められる。つまり、社会保険適用にならない時間数だけ働いてもらうほうが企業にとっても人件費負担を抑える効果があるということになるわけだ。 かつて、労働力が有り余っている時代は、社会保険料が免除される短時間労働の働き方を設けることが、働き手、企業双方にとってのインセンティブだったと言える。絶対的な雇用数を増やすことにつながったからだ。だが、人手が足らなくなった現在は、この政策は意味を失っていると見ていい』、「人手が足らなくなった現在は、この政策は意味を失っている」、その通りだ。
・『「同一負担」が一人当たりの保険料減額につながる  また、一定時間以下を社会保険の対象外にすることで、事務処理の手間を省く意味もあったと思われるが、今やコンピューターの進化と普及によって、大量のデータ処理・データ管理も容易になり、1時間でも働いた人から社会保険料を徴収して管理することは、そう難しいことではなくなった。 さらに、働く人全員から社会保険料を徴収できれば、一人当たりの保険料自体を引き下げることができるかもしれない。 つまり、「同一労働同一賃金」だけでなく、「同一負担」にすることが重要なのだ。岸田内閣は賃上げとともに、この「年収の壁」の打破に向けて制度変更を行うとの方針を示している。岸田内閣お得意の「掛け声」だけにとどまらず、実効性のある改革にたどり着いてもらいたいものだ』、「今やコンピューターの進化と普及によって、大量のデータ処理・データ管理も容易になり、1時間でも働いた人から社会保険料を徴収して管理することは、そう難しいことではなくなった」、「「同一労働同一賃金」だけでなく、「同一負担」にすることが重要なのだ。岸田内閣は賃上げとともに、この「年収の壁」の打破に向けて制度変更を行うとの方針を示している。岸田内閣お得意の「掛け声」だけにとどまらず、実効性のある改革にたどり着いてもらいたいものだ」、同感である。

次に、5月3日付け東洋経済オンラインが掲載した一般社団法人相続終活専門協会 代表理事の貞方 大輔氏による「GWに家族全員で話したい「生前贈与」のススメ おトクな相続術やシミュレーション法を伝授」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/670285
・『数年にわたり議論されてきた「生前贈与」が、2023年度の税制改正で大きく変更され、2024年1月から適用されることになった。 この議論の発端となったのは、2020年度の税制大綱だった。「相続税と贈与税の一体化に向け、現行の暦年課税と相続時精算課税を見直す」と記されたことで、一時は「年間110万円の非課税枠が使えなくなるのでは」といった噂も飛び交い、注目を浴びてきた。 最終的に制度はどう変わったのか。どう活用すべきなのか。改正内容を解説しつつ、“生前贈与のススメ”をご紹介したい。 相続や贈与を検討する際には、当然、家族との相談も必要になるだろう。親、子、孫が集まる数少ない機会であるこのゴールデンウィーク(GW)を使って、話をする場を設けてみてはいかがだろうか』、「最終的に制度はどう変わったのか。どう活用すべきなのか。改正内容を解説しつつ、“生前贈与のススメ”をご紹介したい」、興味深そうだ。
・『生前贈与するための2つの手法  改正の内容を解説する前に、まずは生前贈与の制度を見ていこう。生前贈与には大きく2つの課税方式がある。「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」だ。 「暦年贈与」は年間110万円までの贈与が非課税となり、110万円を超えた分に対して累進で税率10〜55%の贈与税がかかる制度だ。冒頭の「110万円の非課税枠が使えなくなる」というのは、この制度のことだ。最終的に110万円の基礎控除(非課税枠)があり、2024年以降も存続することが決まっている。 「相続時精算課税制度」は2500万円までの贈与については贈与税がかからないが、贈与した人が亡くなったとき(相続時)に、贈与した額を相続財産に加算して相続税を計算する制度だ。生きているうちにお金を受け取ることはできるが、相続財産に加算されてしまうため、相続税の節税にはならない。 今回の改正ではこの2つの制度それぞれに変更が加えられている』、どんな「変更」があったのだろう。
・『暦年贈与の持ち戻し期間  暦年贈与において変更された点は、「持ち戻し期間の延長」だ。持ち戻しとは、贈与者(お金をあげた人)が贈与後の一定年数以内に亡くなってしまうと、贈与したはずのお金が、贈与者の相続財産にカウントされ、相続税の課税対象になってしまうというものである。せっかく贈与したのに、当初の意図とは異なる結果になってしまうのだ。 従来、持ち戻し期間は3年とされていたが、2024年以降は段階的に7年持ち戻しに延長されることになった。せっかく贈与したお金で相続税を取られないためには、“生前贈与はできるだけ早くおこなって長生きすべし。最低でも7年は生きよう”ということが言える。 なお、2023年12月31日までの生前贈与は、7年持ち戻しの対象にはならず、従来通り3年の持ち戻しとなる。駆け込み贈与の猶予はまだ残されている』、「暦年贈与の持ち戻し期間」が「3年」から「段階的に7年」に延びたようだ。
・『相続時精算課税制度の改良  相続時精算課税には明確なデメリットがあった。先述したとおり、相続税の節税にならなかったのだ。さらにこの制度を使い始めると、暦年贈与との併用ができなくなる。つまり、暦年贈与の110万円の基礎控除(非課税枠)が使えなかった。こうしたデメリットは今回の改正でテコ入れされている。 改良点の1つ目は「暦年贈与同様に年間110万円まで控除できるようになった」こと。そして2つ目は「相続時に相続財産に加算する額も、110万円を控除した後の額になった」ことだ。 つまり、相続時精算課税でも非課税枠が使えるようになり、相続税の節税もできるようになったということだ。これまではほとんど利用するメリットがなかった制度が、選択肢に入るようになった。 なお、非課税枠が使えると言っても、相続時精算課税制度と暦年贈与が一体化されたわけではなく、今後もそれぞれの制度は存在することは付け加えておきたい』、「改良点の1つ目は「暦年贈与同様に年間110万円まで控除できるようになった」こと。そして2つ目は「相続時に相続財産に加算する額も、110万円を控除した後の額になった」ことだ」、「つまり、相続時精算課税でも非課税枠が使えるようになり、相続税の節税もできるようになったということだ」、なるほど。
・『いくら贈与するべきか  今回の税制改正によって、どちらの制度を使っても年間110万円の非課税枠が使えるようになった。ただし、どんな人でも「贈与する額は年間110万円“以内”がおトク」とは限らない。場合によっては、贈与税を支払ってでも大きな金額を贈与したほうが税負担を抑えられるケースがあるのだ。 もし、この「年間110万円以上の贈与」をしたほうがいい場合、相続税の観点からは選択肢は暦年贈与一択になる。相続時精算課税の場合、110万円を超えた分は相続財産に加算され、相続税がかかってしまうからだ。 では、年間110万円以上の贈与をしたほうがいい人とはどんな人か、解説していこう。) 結論から言えば、相続財産が相続税の基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人数)以下の人であれば、年間110万円以内の生前贈与が適している。そもそも相続税がかからないため、わざわざ贈与税を負担するメリットはないからだ。 一方、一定額以上の財産を保有している人の場合、贈与税を納めてでも110万円を超えた額を贈与したほうが相続税の負担額を減らすことができる。財産の規模が大きければ大きいほど、どの負担軽減効果も大きくなる。 どんな状況の人が、いくら贈与したらおトクになるのか。計算をするために次の表をご覧いただきたい。 (相続税の負担率の表はリンク先参照) こちらは相続税の負担率を一覧にしたものだ。例えば、相続財産が3億円で、相続人が配偶者、子ども2人の場合相続税の負担率は9.5%になる。3億円の9.5%なので、相続税は2850万円となる』、「相続財産が相続税の基礎控除・・・以下の人であれば、年間110万円以内の生前贈与が適している。そもそも相続税がかからないため、わざわざ贈与税を負担するメリットはないからだ。 一方、一定額以上の財産を保有している人の場合、贈与税を納めてでも110万円を超えた額を贈与したほうが相続税の負担額を減らすことができる。財産の規模が大きければ大きいほど、どの負担軽減効果も大きくなる」、なるほど。
・『贈与税の負担率と比較  次にこちらの表をご覧いただきたい。 贈与税の負担率の表はリンク先参照) こちらは、直系尊属から18歳以上の人への贈与を前提とした場合の贈与税の負担率を一覧にしたものだ。先ほどの例では、相続税は9.5%だった。一方、贈与税を見ると、450万円より小さい額を贈与した際の税負担率は9.5%より小さくなっている。 つまり、450万円以下であれば、贈与税は支払ったとしても、将来支払う相続税よりも低い税負担率でお金を渡すことができるのだ。 この相続税と贈与税の損益分岐点は、相続財産の規模や配偶者の有無、相続人の数で異なる。この2つの表に、自分の相続財産や相続人の数を当てはめることで、最適な贈与額を計算することができる。) 改めてまとめると、生前贈与の選び方は下記のようになる。 <暦年贈与を使うべき人>(・110万円を超える贈与で節税できる人(最適金額は表で計算) ・7年以上生きる自信がある人) <相続時精算課税制度を使うべき人>(・毎年、110万円以内の贈与が最適な人 ・7年以上生きる自信がない人) 暦年贈与は110万円を超える贈与が可能で、相続税の税負担を減らせる可能性がある。一方で、7年以内に死んでしまうと贈与したお金が相続財産に加算されてしまうという懸念点もある。 相続時精算課税は110万円以内の贈与で事足りる人に適している。また、7年以上生きる自信がない場合は、直前の贈与であっても持ち戻す必要のない相続時精算課税のほうが有利だ』、「<暦年贈与を使うべき人>(・110万円を超える贈与で節税できる人(最適金額は表で計算) ・7年以上生きる自信がある人」、<相続時精算課税制度を使うべき人>(・毎年、110万円以内の贈与が最適な人 ・7年以上生きる自信がない人)、なるほど。
・『孫に渡す選択肢  さらに賢く贈与を行う方法もある。ポイントは暦年贈与の持ち戻しの「対象」にある。実は、すべての生前贈与が持ち戻しの対象になるわけではないのだ。 対象となるのは「相続又は遺贈により財産を取得した者」に対しておこなった生前贈与となっている。逆に言えば、法定相続人の立場にない孫や息子の妻、娘の夫への贈与、あるいは遺言による遺贈を受けていない人への贈与は、持ち戻しの対象外となる。こうした人たちへの贈与は、7年以内であっても持ち戻す必要はないのだ。 息子の妻、娘の夫への贈与には、二の足を踏むかもしれないが、孫への贈与は現実的ではないだろうか。孫に贈与すれば、世代を1つスキップすることにもなる。自分の渡した財産を子どもが孫に贈与・相続する必要がなくなり、その際の税金を抑えることもできるのだ。にもかかわらず、孫への贈与はまだしていないという方は意外と多い。 場合によっては、子どもには相続時精算課税制度を、孫には暦年贈与を、というように、贈与する相手によって、両方の制度を使い分けることもできる。贈与の対象者、金額、方法などを総合的に検討して最適な形を決めるのがいいだろう』、「孫への贈与は現実的ではないだろうか。孫に贈与すれば、世代を1つスキップすることにもなる。自分の渡した財産を子どもが孫に贈与・相続する必要がなくなり、その際の税金を抑えることもできるのだ」、「場合によっては、子どもには相続時精算課税制度を、孫には暦年贈与を、というように、贈与する相手によって、両方の制度を使い分けることもできる。贈与の対象者、金額、方法などを総合的に検討して最適な形を決めるのがいいだろう」、貴重な情報を基に、じっくり考えてみることにしたい。
タグ:磯山 友幸氏による「なぜ「パートのままがいい」という人がいるのか…理不尽な「年収の壁」を壊すために岸田政権がやるべきこと 「同一労働同一賃金」がかけ声倒れに終わる理由」 PRESIDENT ONLINE 「場合によっては、子どもには相続時精算課税制度を、孫には暦年贈与を、というように、贈与する相手によって、両方の制度を使い分けることもできる。贈与の対象者、金額、方法などを総合的に検討して最適な形を決めるのがいいだろう」、貴重な情報を基に、じっくり考えてみることにしたい。 「孫への贈与は現実的ではないだろうか。孫に贈与すれば、世代を1つスキップすることにもなる。自分の渡した財産を子どもが孫に贈与・相続する必要がなくなり、その際の税金を抑えることもできるのだ」、 「<暦年贈与を使うべき人>(・110万円を超える贈与で節税できる人(最適金額は表で計算) ・7年以上生きる自信がある人」、<相続時精算課税制度を使うべき人>(・毎年、110万円以内の贈与が最適な人 ・7年以上生きる自信がない人)、なるほど。 「相続財産が相続税の基礎控除・・・以下の人であれば、年間110万円以内の生前贈与が適している。そもそも相続税がかからないため、わざわざ贈与税を負担するメリットはないからだ。 一方、一定額以上の財産を保有している人の場合、贈与税を納めてでも110万円を超えた額を贈与したほうが相続税の負担額を減らすことができる。財産の規模が大きければ大きいほど、どの負担軽減効果も大きくなる」、なるほど。 「改良点の1つ目は「暦年贈与同様に年間110万円まで控除できるようになった」こと。そして2つ目は「相続時に相続財産に加算する額も、110万円を控除した後の額になった」ことだ」、「つまり、相続時精算課税でも非課税枠が使えるようになり、相続税の節税もできるようになったということだ」、なるほど。 相続時精算課税制度の改良 「暦年贈与の持ち戻し期間」が「3年」から「段階的に7年」に延びたようだ。 暦年贈与の持ち戻し期間 どんな「変更」があったのだろう。 「最終的に制度はどう変わったのか。どう活用すべきなのか。改正内容を解説しつつ、“生前贈与のススメ”をご紹介したい」、興味深そうだ。 貞方 大輔氏による「GWに家族全員で話したい「生前贈与」のススメ おトクな相続術やシミュレーション法を伝授」 東洋経済オンライン 「今やコンピューターの進化と普及によって、大量のデータ処理・データ管理も容易になり、1時間でも働いた人から社会保険料を徴収して管理することは、そう難しいことではなくなった」、「「同一労働同一賃金」だけでなく、「同一負担」にすることが重要なのだ。岸田内閣は賃上げとともに、この「年収の壁」の打破に向けて制度変更を行うとの方針を示している。岸田内閣お得意の「掛け声」だけにとどまらず、実効性のある改革にたどり着いてもらいたいものだ」、同感である。 「人手が足らなくなった現在は、この政策は意味を失っている」、その通りだ。 「本来ならば「正規」で雇うべき雇用が、コスト削減のために「非正規化」されている部分も少なからずあると見ていいだろう」、「「年収の壁」を取り除く」、のは大賛成だ。 「人件費の増加分を賄うためには販売価格への転嫁が必要」、その通りだ。 「小売店や旅館・ホテル、飲食店などではむしろパートが雇用の大半を占めるケースが増えている」、「生活給としては十分ではない困窮世帯が増えることにつながっているという指摘も」、その通りだ。 「パート社員として雇用した主婦の中でも経験を積んで「売り場責任者」などとして働く人が増えている現実がある。本来は正社員が行う仕事をパートが行っているとも言え、さすがに「同一労働同一賃金」の適用は回避できないとの見方が広がっていた」、「イオンリテールの350店舗の売り場責任者1万1000人のうち、9%がパート」、「パート」は重要な役割を担っているようだ。 (その4)(なぜ「パートのままがいい」という人がいるのか…理不尽な「年収の壁」を壊すために岸田政権がやるべきこと 「同一労働同一賃金」がかけ声倒れに終わる理由、GWに家族全員で話したい「生前贈与」のススメ おトクな相続術やシミュレーション法を伝授) 税制一般
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マイナンバー制度(その3)(マイナカード「落としても悪用されない」はうそ? 「セキュリティーがあまりにも脆弱」、8割の日本人が気づいていない「マイナ保険証」の恐ろしすぎる「落とし穴」 健康保険証から乗り換えていいのか?、「マイナ保険証」のせいで健康保険が「崩壊」するかもしれない…その決定的な問題点 最悪の暴挙に出る可能性も…、マイナンバーカード推進の裏で進む法改正、個人情報利用や機能追加などに「野放図拡大」のリスク) [経済政策]

マイナンバー制度については、本年1月31日に取上げた。今日は、(その3)(マイナカード「落としても悪用されない」はうそ? 「セキュリティーがあまりにも脆弱」、8割の日本人が気づいていない「マイナ保険証」の恐ろしすぎる「落とし穴」 健康保険証から乗り換えていいのか?、「マイナ保険証」のせいで健康保険が「崩壊」するかもしれない…その決定的な問題点 最悪の暴挙に出る可能性も…、マイナンバーカード推進の裏で進む法改正、個人情報利用や機能追加などに「野放図拡大」のリスク)である。

先ずは、先ずは、3月4日付けデイリー新潮「マイナカード「落としても悪用されない」はうそ? 「セキュリティーがあまりにも脆弱」」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/03040557/?all=1
・『岸田政権がゴリ押しするマイナンバーカード。2月末には、最大2万円分のポイントをもらうための「駆け込み申請」で人々が役所に殺到する事態となった。しかし、専門家はそのセキュリティーの脆弱(ぜいじゃく)さを指摘するのだ。 岸田政権がデジタル社会実現のため、一丁目一番地の課題として挙げる「マイナンバーカード(マイナカード)」の取得促進。 2015年に日本国内の全ての住民に12桁の番号が指定されて運用が始まったマイナンバー制度だが、一向に上がらないマイナカードの取得率は歴代政権の悩みの種であった。業を煮やした岸田文雄総理が状況打開のために投入したのが「2万円分のポイント」と「河野太郎」という二つの奇策。すなわち昨年5月にアナウンスされた公金受取口座のひもづけなどにより最大2万円分のポイントが付与される「マイナポイント事業第2弾」と、8月にデジタル相に就任した河野太郎氏である。 ポイント事業にはすでに2兆円超の予算が注ぎ込まれ、昨年10月には河野氏がマイナカードと一体化した上で健康保険証の廃止を目指すと発表。奇策は功を奏し、今年1月の時点でカードの申請件数は運転免許証の保有者数を上回り、普及率は70%近くに達している。 もちろん行政が効率化されるのは結構な話である。マイナポータルを使ってオンラインで行政手続きが行なえる電子政府化の促進も喫緊の課題であろう。さらに、個人情報が従来通り分散管理され、芋づる式に情報が漏洩する恐れがないのも理解はできる。 だが、果たしてカード普及のために消費税1%分に相当する血税を投入する必要はあったのか。保険証を廃止し、「資格確認書」という新たなムダを生み出してまでカードの取得を事実上強制する必要はあったのか。 見えてきたのは「設計不良」ともいえるマイナカードの不都合な真実であった。 マイナカードと保険証の一体化により、今後多くの人がカードを常時携行することが考えられる。河野氏も自身のホームページ上で〈(便利な)サービスを利用するために、マイナンバーカードを持ち歩きましょう〉と肌身離さず携帯することを推奨しているくらいだ。だが、その歯切れの良さとは裏腹に“常時携行”に一定のリスクが伴うことはあまり理解されていない。 『超ID社会』などの著書がある、一般社団法人「情報システム学会」常務理事の八木晃二氏によれば、 「現行のマイナンバーカードには異なる目的を持つ機能が乱暴に放り込まれ、“持ち歩いてよい機能”と“大切に管理すべき機能”とがごちゃ混ぜになってしまっています」 そもそもマイナンバー制度は、12年に当時の民主党政権が「社会保障と税の公平化・効率化」を掲げて法案を提出したのが始まり。現在も、マイナンバー自体は「社会保障」「税」「災害」の分野でしか使うことができない。だが、番号が記載されたマイナカードにはすでに「電子政府にアクセスするための国民ID」や「全国民共通の身元証明書」といった機能が盛り込まれ、今後も拡大されていく見込みである。 『社会保障と税の改革』も『国民ID』も『身元証明』も、必要なのは“本人確認”ですから、これらを一つのカードに組み込むことは一見合理的に思えます。ただ、それぞれで求められる本人確認のレベルは、全く別物。マイナンバー制度の設計関係者たちが、それを理解せずに制度設計を進めてしまったと思われます」(同)』、「「マイナポイント事業第2弾」と、8月にデジタル相に就任した河野太郎氏である。 ポイント事業にはすでに2兆円超の予算が注ぎ込まれ、昨年10月には河野氏がマイナカードと一体化した上で健康保険証の廃止を目指すと発表」、「奇策は功を奏し、今年1月の時点でカードの申請件数は運転免許証の保有者数を上回り、普及率は70%近くに」、「果たしてカード普及のために消費税1%分に相当する血税を投入する必要はあったのか。保険証を廃止し、「資格確認書」という新たなムダを生み出してまでカードの取得を事実上強制する必要はあったのか。 見えてきたのは「設計不良」ともいえるマイナカードの不都合な真実」、「現行のマイナンバーカードには異なる目的を持つ機能が乱暴に放り込まれ、“持ち歩いてよい機能”と“大切に管理すべき機能”とがごちゃ混ぜになってしまっています」、「マイナンバー自体は「社会保障」「税」「災害」の分野でしか使うことができない。だが、番号が記載されたマイナカードにはすでに「電子政府にアクセスするための国民ID」や「全国民共通の身元証明書」といった機能が盛り込まれ、今後も拡大されていく見込み」、「必要なのは“本人確認”ですから、これらを一つのカードに組み込むことは一見合理的に思えます。ただ、それぞれで求められる本人確認のレベルは、全く別物。マイナンバー制度の設計関係者たちが、それを理解せずに制度設計を進めてしまったと思われます」、その通りだ。
・『四つの本人確認  八木氏によれば、デジタル社会には大きく分けて四つの本人確認が存在する。 一つ目は「身元確認」と呼ばれる本人確認である。信頼できる発行機関が発行した証明書上の顔写真などの形質情報と、目の前の人の形質を照合することにより、その人が証明書上の本人であると確認することを指す。警察官に「身分を確認できるものを」と言われ運転免許証やパスポートを提示する行為がまさにこれで、マイナカードの「身元証明書」としての機能もこの「身元確認」に含まれる。 二つ目は「当人確認」または「認証」と呼ばれ、ログインIDと暗証番号の組み合わせなど、当人しか知り得ない情報を照合することによって、ログインしているのがユーザー登録を行なった当人であることを確認することを指す。現行のマイナカードでは、オンラインで行政手続きができるマイナポータルにログインする際、カードをカードリーダーで読み取った上で4桁の暗証番号を入力することになっている。つまりマイナカード自体を当人確認のツールとして使用しているのである。 そして、三つ目と四つ目が「真正性の確認」と「属性情報確認」と呼ばれる本人確認だ。「真正性の確認」で、申請者が提示した番号が本当にその申請者に付番されたものかを確認し、「属性情報確認」で、その番号にひもづくさまざまな情報を取得・確認する。マイナンバー制度の当初からの目的である「行政の効率化」や「社会保障と税の一体改革」は、この「真正性の確認」と「属性情報確認」によって成し遂げられるものである。 マイナカードには、このようにレベルの異なる本人確認機能が一緒くたに盛り込まれている。だが、実はこれら四つの本人確認のうち、マイナンバーが使われるのは三つ目と四つ目だけなのだ』、「四つの本人確認」、①「身元確認」:証明書上の顔写真などの形質情報と、目の前の人の形質を照合することにより、その人が証明書上の本人であると確認、②「当人確認」または「認証」:ログインIDと暗証番号の組み合わせなど、当人しか知り得ない情報を照合することによって、ログインしているのがユーザー登録を行なった当人であることを確認、③「真正性の確認」:申請者が提示した番号が本当にその申請者に付番されたものかを確認,④「属性情報確認」:その番号にひもづくさまざまな情報を取得・確認、「マイナンバー制度の当初からの目的である「行政の効率化」や「社会保障と税の一体改革」は、この③と④によって成し遂げられるもの、マイナンバーが使われるのは③と④だけ、なるほど。
・『身元確認でマイナンバーを使用する必要がない?  「マイナンバーはヒトに付された番号で基本的には生涯不変。しかし、一つ目の身元確認の場合、必要なのはヒトに付された生涯不変の番号ではなく“券”すなわち証明書自体に付された“券面管理番号”です。カードを紛失して再発行した場合、この券面管理番号が更新されることで古いカードは失効される。事実、マイナンバーカードにも免許証やパスポートと同じく券面管理番号が振られており、身元証明書として使う限りマイナンバーが書かれている必要はありません」(同) では、二つ目の当人確認の場合はどうか。 「マイナンバーは“本人しか知らない秘密の番号”ではありませんから、当人確認のログインIDとして使用することは、あまり適切ではありません。そこで“カードを所持しているか”と“4桁の暗証番号を知っているか”で当人確認をすることにしたのです。マイナポータルにログインする際、カードをスマホやカードリーダーで読み取るのは、このためです」(同) つまり、身元確認も当人確認も、わざわざマイナンバーが記載されたカードを使用する必要はない。言い換えれば、マイナンバーとこの二つの本人確認に使用するカードとの間には何の関係もないのである。これは多くの国民にとって寝耳に水の話であろう』、「身元確認も当人確認も、わざわざマイナンバーが記載されたカードを使用する必要はない。言い換えれば、マイナンバーとこの二つの本人確認に使用するカードとの間には何の関係もない」、初めて知った。
・『カード盗難で簡単に突破  それでも“複数の本人確認が1枚のカードで済むのなら、やはり便利ではないか”と思う人がいるかもしれない。ところが、そこには明確なリスクも存在する。 「印鑑を例に考えてみましょう。私たちは宅配便の受け取り程度であれば認印と呼ばれる三文判、銀行口座を使う場合は銀行印、不動産などの取引では印鑑登録をした実印、と場面によって印鑑を使い分けます。マイナンバーカードは、これを全て実印に統一しようと言っているのと同じです。日常的に実印を常時携行して使用するのはあまりに不用意でしょう」(同) 河野氏は〈キャッシュカードと同様、暗証番号が必要〉〈紛失・盗難時には利用停止ができる〉〈暗証番号を一定回数以上間違えるとロックされる〉などの理由で“カードが悪用されることはない”と胸を張る。だが、 「マイナポータルへのログインにはマイナンバーカードと4桁の暗証番号しか求められません。暗証番号を書いたメモを一緒に持ち歩いていたり、誕生日など単純な暗証番号にしていたりすれば、カードを盗まれた場合に簡単に突破されてしまう」(同)』、「暗証番号を書いたメモを一緒に持ち歩いていたり、誕生日など単純な暗証番号にしていたりすれば、カードを盗まれた場合に簡単に突破されてしまう」、恐ろしいことだ。
・『セキュリティーは脆弱  近年はオンラインバンクなどの民間サービスでも、使い捨ての暗証番号であるワンタイムパスワードなどを使用した多段階認証が常識になっている。これを考えれば、マイナカードを使用した認証のセキュリティーレベルはあまりに脆弱というわけだ。 「それに、防犯カメラのついたATMでしか使えないキャッシュカードの持つリスクと、機器があれば誰のパソコンからでもログインできるマイナンバーカードの持つリスクは比べ物になりません。暗証番号ロックや利用停止なども盗難やなりすましの予防効果としては限定的です。むしろ、今後多くの民間サービスとひもづけられれば、ロックや利用停止で生活が立ち行かなくなってしまいます」(同) 民間サービスとの連携が進めば、それだけ悪用のリスクも増加する。今一度、熟慮と検証が必要である』、「今後多くの民間サービスとひもづけられれば、ロックや利用停止で生活が立ち行かなくなってしまいます」、「民間サービスとの連携が進めば、それだけ悪用のリスクも増加する。今一度、熟慮と検証が必要である」、その通りだ。

次に、4月20日付け現代ビジネスが掲載した経済ジャーナリストの荻原 博子氏による「8割の日本人が気づいていない「マイナ保険証」の恐ろしすぎる「落とし穴」 健康保険証から乗り換えていいのか?」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/108889?imp=0
・『国による強引な「マイナンバーカード」普及の一環で、すべての国民が使っている健康保険証が2024年の秋に廃止されることになりました。 これは単に紙の保険証がマイナンバーカードに統合されるだけではありません。その先に待っているのは、日本が世界に誇る健康保険制度の崩壊の危機だと私は思っています。これから何回かに分けて、マイナ保険証の問題点を追求していきたいと思います』、興味深そうだ。
・『保険証を人質に、マイナンバーカード作成を強制  3月7日、岸田内閣は現在の健康保険証を廃止し、マイナ保険証を全国民に義務化するという法律の改正案を、閣議決定しました。 マイナンバーは、国から国民に「強制的」に割り振られた番号ですが、この番号を使った「マイナンバーカード」を作るかどうかは「強制」ではなく、あくまでも「任意」です。 なぜ、「強制」ではないのかといえば、数字だけのマイナンバーと異なり「マイナンバーカード」には、氏名・性別・住所・生年月日の「基本4情報」だけでなく顔写真、さらにはカードの裏側にICチップもついていて、オンラインで精度の高い本人証明が可能だからです。 ちなみに顔写真は、本人確認の精度が指紋の1000倍と言われていますから、これを行政が「強制的」に個人から収集・利用するには、相当な必要性がなければプライバシーの侵害となる可能性があります。ですから、これに反対する人も多く、そのために「マイナンバーカード」の作成は「強制」ではなく、作りたい人が申し出る「任意」の形をとっています。 マイナンバー法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)の第16条の2では「住民基本台帳に記録されている者の申請に基づき、その者に係る個人番号カードを発行するものとする」となっていて、マイナンバーカードについては、本人の申請でつくられることが明記されています。 個人情報保護委員会のパンフレットの「マイナンバーハンドブック」にも、「マイナンバーカードは、マイナンバーをお持ちの方 からの申請により、市区町村が交付します。これはICチップが搭載されたプラスチック製のカードですが、このICチップには、所得情報や健康情報などのプライバシー性の高い個人情報は入っていません」となっています。 ところが、「本人の申請」がなくては作れない「マイナンバーカード」に、「マイナ保険証」という必要不可欠な機能をつけ、しかも現在の健康保険証を来年の秋には廃止するというのです。 その結果、なにが起きるのかと言えば、「任意」であるはずの「マイナンバーカード」を作らなければ、保険証が持てなくなり、国民皆保険から弾き出され「膨大な医療費を支払うことになる」と脅しているようなものです』、「マイナンバー法」では、「マイナンバーカードについては、本人の申請でつくられることが明記」、と「プライバシー」保護に配慮した形になった。
・『普及のための「アメ」と「ムチ」  「マイナンバーカード」は、あくまで「任意」で作るという建前ですから、多くの人が申請するように、政府は最高2万円分のポイントをバラ撒き、加入を促進する「アメ」を配りまくりました。 この普及キャンペーンにつぎ込まれた予算は累計で約2兆円以上といいますから、国民1人当たり平均で約1万6000円の税金を負担した計算です。しかも、その前に過去9年間で8800億円の税金が使われています。これは、2021年3月の衆院内閣委員会、当時首相だった菅義偉氏が明らかにした数字で、この金額も含めると、約3兆の税金が使われたことになります。 その一方で、国から自治体へ交付金を配分する際にマイナンバーの交付率を基準にするなど、「ムチ」で締め上げることもありました。 財政状況が良くない地方自治体にとって、交付金を受け取れるかどうかは死活問題です。このため、独自に宣伝したりポイントをバラ撒いたり、中には「家族全員がマイナンバーカードを取得しない限り、これまで無償だった給食費を有料にする」と住民を“脅迫”する自治体なども出てきて大問題になりました』、「最高2万円分のポイントをバラ撒き」も含めた「普及キャンペーンにつぎ込まれた予算は累計で約2兆円以上」、「その前に過去9年間で8800億円の税金が使われています」、「この金額も含めると、約3兆の税金が使われたことに」、本当に巨額だ。
・『約4分の1の人は作っていない  国の目標は、マイナンバーカードを2022年度末までにほぼ全国民に交付すること。この「アメ」と「ムチ」の効果は絶大だったようで、デジタル庁の「政策データダッシュボード」を見ると、3月末の時点で、「マイナンバーカード」を作っている人は、国民の約76%となっています。 ただ、それでもまだ約4分の1の人は「マイナンバーカード」を作っておらず、そうした人たちを締め上げるために、保険証を無くして「マイナ保険証」を義務化するという政策を強力に打ち出したのでしょう。 ちなみに、同日時点で「マイナ保険証」を作っている人は、国民全体の約66%でした。マイナンバーカードは持っていても、マイナ保険証を取得していない人が少なからずいるのは、そのメリットを感じられないからではないでしょうか。 国もそれはわかっています。「マイナ保険証」を作れば、7500円分のポイントを付与するのも、今ある紙の健康保険証より大幅に便利とまでは考えていないからではないか、と疑ってしまいます。 そこで具体的に、現在の保険証を廃止してまで「マイナ保険証」に替えるメリットがあるのかということを、使う側の視点で見てみましょう』、「3月末の時点で、「マイナンバーカード」を作っている人は、国民の約76%となっています。 ただ、それでもまだ約4分の1の人は「マイナンバーカード」を作っておらず、そうした人たちを締め上げるために、保険証を無くして「マイナ保険証」を義務化するという政策を強力に打ち出したのでしょう」、なるほど。
・『「正確なデータに基づく診療」は本当か?  政府が打ち出す「マイナ保険証」のメリットの一つは、顔認証を利用することで医療機関の窓口での受付が自動化され、スムーズかつ時間短縮になるということです。 確かに、受付が自動化されれば、受付での待ち時間も短縮されるというのはその通りです。ただ、病院の待合室で患者が長時間待たされる原因は、受付に時間と手間がかかっているからではありません。 少ない医師が次々と来る多くの患者に対応しきれないのが理由であるため、前の患者の診察が終わるまで待合室で待っていなくてはならないというケースも多々あります。ですから、今まで3分かかっていた受付の事務作業が1分になったからといって、病院での待ち時間が劇的に短縮されるとは到底思えません。 もうひとつのメリットとして、厚生労働省は「正確なデータに基づく診療・薬の処方が受けられる」と言っています。これはどうでしょう。 結論から言えば、「マイナ保険証」を使えば、正確なデータに基づく診療・薬の処方を受けられるのかというと、必ずしもそうとは言い切れません。なぜなら、「マイナ保険証」に入っている主な診療情報とは、「レセプト(診療明細書)」の情報だからです。 医師は患者の状態を見て、得られた情報をカルテに書き込み、過去のカルテと照合しながら病状を判断して施術を行ったり、薬を出したりします。レセプトとは、その時に患者が支払ったお金の明細書でしかありません。 しかも、これはリアルタイムな情報ではなく、「1ヶ月前に、こんな病気で医者に行ってこんな治療を受けた」というようなもの。医師は、リアルタイムで診断してこそ正確な対処ができますから、レセプト情報があるというだけで、必ずしも「正確なデータに基づく診療・薬の処方が受けられる」とは言えないのです。もしもレセプトの情報だけで診断する医師がいたとしたら、医師免許を取り上げるべきでしょう。 ちなみに、道で倒れて救急車で運ばれる時に、「マイナ保険証」を見て、救急隊員が応急措置をしてくれるかといえば、それもできません。救急車は、「マイナ保険証」とは連動していないからです。 しかも国は、将来的には医療カルテ自体を「マイナ保険証」に搭載したい意向を持っていますが、多くの医師がこれに反対しています。 なぜなら、医師には患者の医療情報を漏らしてはならないという守秘義務があり、これを怠ると医師免許が取り上げられてしまうかもしれないので、情報漏洩を懸念しているからです。 後編記事『「マイナ保険証」のせいで健康保険が「崩壊」するかもしれない…その決定的な問題点』に続きます』、「「マイナ保険証」に入っている主な診療情報とは、「レセプト(診療明細書)」の情報」、「レセプトとは、その時に患者が支払ったお金の明細書でしかありません。 しかも、これはリアルタイムな情報ではなく、「1ヶ月前に、こんな病気で医者に行ってこんな治療を受けた」というようなもの。医師は、リアルタイムで診断してこそ正確な対処ができますから、レセプト情報があるというだけで、必ずしも「正確なデータに基づく診療・薬の処方が受けられる」とは言えない」、なるほど。

第三に、この続きを、4月20日付け現代ビジネスが掲載した経済ジャーナリストの荻原 博子氏による「「マイナ保険証」のせいで健康保険が「崩壊」するかもしれない…その決定的な問題点 最悪の暴挙に出る可能性も…」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/108891?imp=0
・『国による強引な「マイナンバーカード」普及の一環で、すべての国民が使っている健康保険証が2024年の秋に廃止されることになりました。 これは単に紙の保険証がマイナンバーカードに統合されるだけではありません。その先に待っているのは、日本が世界に誇る健康保険制度の崩壊の危機だと私は思っています。 前編記事『8割の日本人が気づいていない「マイナ保険証」の恐ろしすぎる「落とし穴」』に引き続き、マイナ保険証の問題点を追求していきたいと思います』、「マイナ保険証の問題点」とは身近で重要だ。
・『約4割の医療機関でまだ使えない  実は、「マイナ保険証」の「強制」は、現在の厚生労働省の方針とも矛盾しています。 厚生労働省は、患者が大病院に集中するのを避けるために、「まず地域の医者に診てもらい、そこで不十分なら紹介状を書いてもらって大病院に行く」ことを奨励しています。いわゆるかかりつけ医を持ちましょう、というものです。 そのため、紹介状を持たずいきなり大病院に行った場合は、保険が効かない「特別料金」が7000円も上乗せされます。規定では特別料金は「7000円以上」となっているため、実際には1万円から1万5000円程度を上乗せしている大病院がほとんどです。 ですから、大病院を避けて地域の病院に行く人が増えましたが、中小の開業医は大病院に比べて「マイナ保険証」への対応が遅れています。現在、まだ4割ほどの医療機関で「マイナ保険証」が使えないのですが(2023年3月末時点)、その多くは厚生労働省が初めにかかることを推奨している地域の医者です。 しかも「マイナ保険証」が使えるところでも、機械で顔写真が読み込めず、本人確認ができないなどのトラブルが多発しています。 全国保険医団体連合会が2022年10〜11月に実施した調査では、回答した医療機関8700余のうち、システムの運用を開始しているのは24%で、そのうち41%がトラブル・不具合があったと答えています。その内訳(複数回答)は、「有効な保険証でも無効と表示された」が62%、「カードリーダーの不具合」が41%でした。) そもそも、2021年4月から医療機関で「マイナ保険証」が使えるようになると国は大々的に宣伝していましたが、あまりに不具合が多く同年10月に延期されたという経緯があります。 ですから健康保険組合などは、機械のシステムエラーに備え、必ず従来の健康保険証を一緒に持っていくことを奨励しています。新たなシステムの導入時に多少の不具合が出るのは仕方ないという意見もありますが、健康保険という命にかかわる仕組みでこれはあまりにも杜撰です。 こんな状況で健康保険証が廃止されてしまったら、どうなるのでしょうか』、「回答した医療機関8700余のうち、システムの運用を開始しているのは24%で、そのうち41%がトラブル・不具合があったと答えています。その内訳(複数回答)は、「有効な保険証でも無効と表示された」が62%、「カードリーダーの不具合」が41%」、こんなに「トラブル・不具合」が多いのは何故なのだろう。
・『「マイナ保険証」は毎回提示  国は当初、「マイナンバー」には極めて重要な情報が入っているから大切に保管するよう言っていたのを憶えているでしょうか。「企業が従業員のマイナンバーを預かる場合は、専用の金庫を用意するように」とまで言っていました。マイナンバーカードは、マイナンバーが書かれているカードです。 そのため、紛失などを心配して、マイナンバーカードを取得しても持ち歩かない人が多いのですが、「マイナ保険証」が搭載されるとそうはいきません。 今の保険証は、月初めに一度だけ窓口で見せればいいという病院が多いのですが、「マイナ保険証」になったら、毎回窓口で提示しなくてはならないからです。 本来なら、診療のたびに健康保険証を提示しなくてはならないものですが、それでは患者が煩わしいだろうという配慮で、月一回の提示にしてきた病院が多いのです。 けれども、「マイナ保険証」は、毎回提示を求められるので、通院回数が多い人は常に携帯することになりそうです。 これに対して全国保険医団体連合会が昨年12月に厚生労働省に質問したところ、「月初での実施など各病院・診療所で異なる運用を実施している場合は、そちらを優先することも可能」とのただし書きを示したのですが、その後運用マニュアルを改定して、この部分を削除しました。 また、介護の現場では、緊急時の受診などに備えて入居者から保険証を預かっているケースが珍しくありませんが、「マイナ保険証」になると、現場の運用で新たな問題が指摘されています。なぜなら、「マイナ保険証」を預かっていたとしても、4桁の暗証番号も教えてもらわなければ役に立たないからです。 ところがこのパスワードがわかると、マイナポータル(政府が運営するウェブサイト)にログインでき、納税情報や年金情報、医療情報などを見ることが可能なので、犯罪予防のために預からないという介護施設も出てきそうです。 こうした問題を国はどこまで把握しているのか。大きな疑問です』、「介護の現場では、緊急時の受診などに備えて入居者から保険証を預かっているケースが珍しくありませんが、「マイナ保険証」になると、現場の運用で新たな問題が指摘されています。なぜなら、「マイナ保険証」を預かっていたとしても、4桁の暗証番号も教えてもらわなければ役に立たないからです。 ところがこのパスワードがわかると、マイナポータル・・・にログインでき、納税情報や年金情報、医療情報などを見ることが可能なので、犯罪予防のために預からないという介護施設も出てきそうです」、確かに「介護の現場」ではどうするのだろう。
・『まるで、嫌がらせのような仕打ち  国が様々な「アメ」を用意して国民に「マイナ保険証」を取得させようとしても、国民全員が政府の思惑通りに「マイナンバーカード」を作り「マイナ保険証」を申請するとは限りません。 様々な理由で「マイナ保険証」を持たないという人がいます。そういう人のために「健康保険証」が廃止された後は、代わりに「資格確認書」というものを発行することになっていますが、ここにも問題があります。 「資格確認書」は、従来の「健康保険証」と同じ役割を果たすものですが、まるで「マイナ保険証」をつくらないことへの嫌がらせかと感じられるほど、使い勝手が悪いのです。 まず、有効期限は、「健康保険証」が廃止されてから「マイナ保険証」を作るまでの1年間。ただ、1年経っても全員が「マイナ保険証」を作る可能性は低いので、実際には1年ごとの更新になっていくのではないかと言われていますが、まだ結論は出ていません。 また従来の保険証のように、更新時に新しいものを自宅に送ってきてくれるのではありません。仮に有効期限が1年なら、1年ごとに自治体の窓口に行って更新手続きをしなくてはならないのです。 しかも、手続きしてもその場ですぐには発行されない可能性も指摘されています。そうなると、発行されるまでの間は無保険になります。保険料を払っていても、無保険になるというのはどういうことでしょうか。到底納得できません』、「資格確認書」は「まるで「マイナ保険証」をつくらないことへの嫌がらせかと感じられるほど、使い勝手が悪いのです」、「仮に有効期限が1年なら、1年ごとに自治体の窓口に行って更新手続きをしなくてはならないのです。 しかも、手続きしてもその場ですぐには発行されない可能性も指摘」、「発行されるまでの間は無保険になります。保険料を払っていても、無保険になるというのはどういうことでしょうか。到底納得できません」、確かに不当だ。
・『病院の料金が高額に  ちなみに、「マイナンバーカード」を紛失した場合も、再発行には1〜2ヶ月くらいかかります。ただ、緊急の場には申請時に市町村の窓口で本人申請をすれば、5〜10日くらいで手元に届く制度をつくると政府は公表しています。「マイナ保険証」ですら、カードを紛失すると一定期間は使えませんから、「資格確認書」も同様かそれ以上に不便になると考えていいでしょう。 さらに言えば、「資格確認書」だと、病院の窓口で支払う料金が「マイナ保険証」より高くなる可能があります。 現在、「マイナ保険証」を使える病院の窓口で従来の健康保険証を出すと、下図のように「マイナ保険証」がある人に比べて初診料が高くなります。しかも、この4月から、12円が18円に値上がりしています。 ちなみに、医療機関が「マイナ保険証」を扱うように義務化された4月現在でも、先述の通り「マイナ保険証」が使えない病院が4割ほどありますが、そこではこうした料金の上乗せはありません。 2023年3月時点 実は、「資格確認書」については、発行する際に手数料を取るという案もあったようですが、さすがに自民党内部から「懲罰的に料金を取るのはおかしい」と反対の声が上がり、現時点では無料になっています』、「「資格確認書」だと、病院の窓口で支払う料金が「マイナ保険証」より高くなる可能があります。 現在、「マイナ保険証」を使える病院の窓口で従来の健康保険証を出すと、下図のように「マイナ保険証」がある人に比べて初診料が高くなります。しかも、この4月から、12円が18円に値上がりしています」、「マイナ保険証」へ誘導したいための仕組みなのだろうが、意図が見え見えでいやらしい。
・『国民皆保険を突き崩す脅威  いかがでしょうか。 現実と照らし合わせて見てみると、私たちにとって「マイナ保険証」は、現在の保険証を無くしてまで導入する価値があるもの、とはとても思えません。 むしろ、諸先輩が築きあげてきた「国民皆保険」という世界に誇れる制度を、内側から突き崩す脅威になりかねません。 事態はどんどん悪化していますが、最悪でも「現在の保険証を廃止する」という暴挙だけは、止めなくてはいけないと思います。 実は前編でも触れたように、「マイナ保険証」の導入については、患者の個人情報の漏洩を恐れる多数の医師たちからも、反対の声が上がっています。情報が漏洩すると、最悪の場合、彼らが医師免許を剥奪されるかもしれないからです。 次回は、こうした医師たちの声も交え、「マイナ保険証」の情報のあり方とセキュリティの問題に迫りたいと思います』、「諸先輩が築きあげてきた「国民皆保険」という世界に誇れる制度を、内側から突き崩す脅威になりかねません。 事態はどんどん悪化していますが、最悪でも「現在の保険証を廃止する」という暴挙だけは、止めなくてはいけないと思います」、同感である。

第四に、4月22日付けダイヤモンド・オンライン「マイナンバーカード推進の裏で進む法改正、個人情報利用や機能追加などに「野放図拡大」のリスク」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/321276
・『政府がDXのキーとして進める「マイナンバーカードの普及とマイナンバーカの活用」。今国会で審議中のマイナンバー法の改正で、行政側による個人のマイナンバーの参照や利用内容が大きく緩和される。今後どんなことが起きるのか?特集『企業・銀行・官公庁・ITベンダー・コンサルが大騒ぎ! ヤバいDX 2023』(全13回)の#7では、マイナンバー制度の制定に関わった専門家らがマイナンバー制度の問題点を指摘する』、「マイナンバー制度の問題点」とは興味深そうだ。
・『「マイナンバーカード反対デモ」も登場 法改正を前に広がる大混乱  「保険証を人質に、窓口負担を増やしてまで、カードの取得・利用を強要することは許されない」 4月14日、マイナンバー法の改正法案が国会審議入りした。保険証を統合する、年金受け取り用の銀行口座を拒否申請がない限りは自動でマイナンバーにひも付ける、などの改正点が野党の反発を呼んだ。18日には保険証とマイナンバーカードとの統合に反対する国会前のデモまで行われた。 政府が「国民サービスのDXのキーになる」として、合計2兆円余りの予算を費やして普及を進めるマイナンバーカード。現在全国民の76.6%にまで普及したが、マイナンバーおよびマイナンバーカードを巡るさまざまな反対意見や怒りの声は今日もインターネットやSNSで渦巻き続け、一向に鎮火しそうにない。 そもそも、マイナンバーを巡る議論や懸念には誤解や混乱が多い。 まず第一に、「マイナンバー」と「マイナンバーカード」の議論は別だ。 マイナンバーは、2016年1月以降すでに全国民に振られている番号で、私たちは意識していないが、国や自治体の行政処理の現場では日常的に使用されている。マイナンバーカードを返納したところでマイナンバー制度から離脱することは、もちろんできない。 第二に、マイナンバーがあれば、自分の納税額から住所、社会保険料や戸籍情報まで、全ての個人情報が集まるスーパーデータベースから情報が芋づる式に引き出せるわけではない。国民の個人情報を管理するデータベースは従来通り各省庁や自治体が個別に管理しており、マイナンバーはそれらを「名寄せ」するためのタグなのだ。 例えば国税庁の納税者データベースに、マイナンバー123456789の鈴木洋子という神奈川県川崎市在住の人が登録されているとする。この人の納税データを、社会保険データベースを持つ厚生労働省が、保険料の支払いの事務作業で確認したいが、厚労省データベースでは同名で東京都在住の人が登録されており、同一人物かどうか分からない。だが、番号123456789が同じなので、同一人物だと突合できた――などのように使える。確実に本人だと確認するための振り番が、マイナンバーだ。 つまり誰かのマイナンバーが手に入ったところで、その納税データを悪意を持った外部の人が抜くためには、国税庁の納税データベースにハッキングをかけて成功する必要がある。 そしてマイナンバーカード。これも、単なるマイナンバーの情報のみならずさまざまな機能が複合的に搭載されたカードなのだ。 (図表:マイナンバーカードの内容と仕組み はリンク先参照) 券面とICチップ内の(1)マイナンバー情報に加えて、カードを持つ人が確かに利用者本人であると電子的に証明したり、送付する電子文書が本物である証拠の署名を行ったりする(2)電子証明書機能が付いている。さらに、自治体や国、民間企業が認可を受ければ自由に利用できる(3)空き領域もある。会員証や入館証、社員証やポイントカードなど、用途はかなり自由だ。 ちなみに(1)のマイナンバー自体は、この後説明するように利用用途と利用を許される人・機関が法律で定められている。一方、(2)および(3)に関しては、認可を受ければ国や自治体のみならず民間企業団体でも自由に使える、という設計だ。ざっくり言えば「マイナンバー」の利用には今のところ規制がかかっているが、「マイナンバーカード」の利用はかなり広く一般に公開されている。 マイナンバーカードという名称からはこの(2)(3)の存在も見えないし、これらの機能とマイナンバーの関係は非常に分かりにくい。 ただでさえ構造的に理解が難しいマイナンバーとマイナンバーカードだが、これらの「存在意義」を分かりやすい形で示すことなく、国はカードの普及とマイナンバー活用にひたすらアクセルを踏んでいる。 そこへきて現在国会で審議中の改正マイナンバー法だ。これが成立すると、具体的に何が変わるのか。そこには現在あまり注目されていない点もあまた隠れている。次ページから解説していこう。 今回の法改正では何が変わるのか。 下図を見てほしい。まず、(1)マイナンバーそのものの使い方を拡張することだ(下図参照)。これまでのマイナンバーの利用は、税・社会保障・災害対策の3用途のみで、その用途の中でも利用できる主体と内容が全てリスト化されていた。それが3分野以外にも広がる。今回は、このリストに3分野以外から新たに、美容師や建築士などの国家資格保持者が、これまでのように書類を事務所に提出せずとも、マイナンバーカードを利用して自宅から届け出ができる――などのような使い方が追加される。このように用途を追加するにはその都度法改正が必要になる。 (図表:マイナンバー法改正のポイント の図表はリンク先参照) 加えて、(2)「他の省庁などのデータベースが持つ国民の個人情報を、マイナンバーとひも付けて照会する」ということについてだ。これまでは(1)と同様にできることがリスト化され、何か追加するには法改正が必要だったが、これを政省令に落とし、法改正を不要とする。そして、実際に情報連携や照会が行われた場合は、個人が自分のマイナポータルから確認することができる。 専門家が事前に危惧していたのが、(1)の用途の追加が、法改正など表から見える動きなしになし崩しに行われることだった。与党一部にはより「積極的」な活用を推し進める動きもあったもようだが、今回は小幅な改変に終わった。 実は、マイナンバーには、新型コロナウイルス感染拡大時の定額給付金の支給の際には法律の壁があって使えなかったという「前科」がある。マイナンバーをより機動的に、必要なときに使えるようにする、という意図による改正であれば、一応はまっとうである。「「マイナンバー」の利用には今のところ規制がかかっているが、「マイナンバーカード」の利用はかなり広く一般に公開されている。 マイナンバーカードという名称からはこの(2)(3)の存在も見えないし、これらの機能とマイナンバーの関係は非常に分かりにくい。 ただでさえ構造的に理解が難しいマイナンバーとマイナンバーカードだが、これらの「存在意義」を分かりやすい形で示すことなく、国はカードの普及とマイナンバー活用にひたすらアクセルを踏んでいる」、「マイナンバー法改正のポイント」は分かり易い。しかし、「これらの「存在意義」を分かりやすい形で示すことなく、国はカードの普及とマイナンバー活用にひたすらアクセルを踏んでいる」、推進方法には問題が多い。
・『取得しなければ給食無償化にならない? 野放図に広がる「カードの活用拡大」  だが今回の法改正、そしてマイナンバーカードの運用にはまだまだ危ういところが残る。後者の典型が、今回浮上した保険証との統合だろう。つまり、「個人認証カード」としての用途の拡大である。 保険証は、保険組合加入資格を失った後でも続けて利用したり、他人の保険証を使い回したり、などの不正利用が問題になっていた。そのため、個人認証の機能が付いたマイナンバーカードならそうした不正利用を防げる、というのが統一の目的だ。だが「複数の機能がカード一枚に集中すれば、利便性は増すがセキュリティ上は危うくなる。その知識を得た上で、取得・非取得については自由に選択できるというのがマイナンバーカードの初期設計の趣旨であったはず」と鈴木正朝・新潟大学教授は指摘する。 実際に、こうした個人認証などのさまざまな機能が入ってしまっているマイナンバーカードでは、保険証として利用者から預かることができなくなるとして、老人ホームや入院患者を抱える病院などが反対の声を上げている。 また、国から地方自治体への交付金がマイナンバーカードの普及率とひも付けられるということもあり、岡山県備前市がマイナンバーカードの取得を、給食無償化や保育園無償化などの条件にしようとした(現在は撤回を表明)ことも批判を浴びた。住民利害を無視して首長の政治的思惑が先行するということが実際に起きた。 そしてこれは、マイナンバーとマイナンバーカード両方に共通することだが、「何のために普及させようとしているのか、利用することで国民にどんなメリットがあるのか」の全体的な青写真がまったく示されていないのだ。 マイナンバー法が最初に制定されたときの内閣官房メンバーの一人だった水町雅子弁護士は「これまで、税・社会保障・災害対策の分野で、マイナンバーがどのように使われてきて、効果を上げてきたのか。また、コロナ対策ではマイナンバーを利用できなかったが、もし利用できていたらどのようなことが可能だったのか、などの利用実態に対しての情報公開・検証と、それに基づいた用途拡大、というステップが踏まれていない」と指摘する。 さらに活用拡大のアクセルばかりが踏まれ、抑制やブレーキをかける方法も少ない。 デジタル庁のマイナンバー検討ワーキンググループのメンバーである、武蔵大学の庄司昌彦教授は「自分の情報を政府に預けてそれが利用されることに対しては、年金記録問題や職員個人の不正などもあり、国民は不安感がある。政府の行動を監視し、けん制するためにも、具体的にどのようにマイナンバーが使われたのかをチェックする仕組みが必要だ」と言う。 現在確認できるのは、データが元の機関から他機関に連携されたときのマイナポータルでの照会のみ。本来であれば、実際に自分の個人データにどの省庁の誰がいつアクセスしたのかが、全て分かるような形の方が納得感はある。 カードの機能追加に関しても、半ば強制的に全ての機能を一枚に集めることのメリットとリスクは一向に説明されておらず、「使わない」という選択肢がそもそも与えられないのもおかしな話だ。「マイナンバーカードの普及率が100%になれば便利なサービスが自動的に生まれるわけではない。普及率が上がってどんな社会を目指しているのかがまず示されなければ、国民の納得感は得られない」(水町弁護士)。 泥沼の政治問題と化してきたマイナンバーとマイナンバーカードを巡る騒動。これが国民生活のDXの切り札となれる日は果たして来るのだろうか』、「「これまで、税・社会保障・災害対策の分野で、マイナンバーがどのように使われてきて、効果を上げてきたのか。また、コロナ対策ではマイナンバーを利用できなかったが、もし利用できていたらどのようなことが可能だったのか、などの利用実態に対しての情報公開・検証と、それに基づいた用途拡大、というステップが踏まれていない」のは大いに問題だ。「カードの機能追加に関しても、半ば強制的に全ての機能を一枚に集めることのメリットとリスクは一向に説明されておらず、「使わない」という選択肢がそもそも与えられないのもおかしな話だ」、「「マイナンバーカードの普及率が100%になれば便利なサービスが自動的に生まれるわけではない。普及率が上がってどんな社会を目指しているのかがまず示されなければ、国民の納得感は得られない」」、同感である。
タグ:「暗証番号を書いたメモを一緒に持ち歩いていたり、誕生日など単純な暗証番号にしていたりすれば、カードを盗まれた場合に簡単に突破されてしまう」、恐ろしいことだ。 「身元確認も当人確認も、わざわざマイナンバーが記載されたカードを使用する必要はない。言い換えれば、マイナンバーとこの二つの本人確認に使用するカードとの間には何の関係もない」、初めて知った。 「マイナンバー制度の当初からの目的である「行政の効率化」や「社会保障と税の一体改革」は、この③と④によって成し遂げられるもの、マイナンバーが使われるのは③と④だけ、なるほど。 「四つの本人確認」、①「身元確認」:証明書上の顔写真などの形質情報と、目の前の人の形質を照合することにより、その人が証明書上の本人であると確認、②「当人確認」または「認証」:ログインIDと暗証番号の組み合わせなど、当人しか知り得ない情報を照合することによって、ログインしているのがユーザー登録を行なった当人であることを確認、③「真正性の確認」:申請者が提示した番号が本当にその申請者に付番されたものかを確認,④「属性情報確認」:その番号にひもづくさまざまな情報を取得・確認、 「必要なのは“本人確認”ですから、これらを一つのカードに組み込むことは一見合理的に思えます。ただ、それぞれで求められる本人確認のレベルは、全く別物。マイナンバー制度の設計関係者たちが、それを理解せずに制度設計を進めてしまったと思われます」、その通りだ。 見えてきたのは「設計不良」ともいえるマイナカードの不都合な真実」、「現行のマイナンバーカードには異なる目的を持つ機能が乱暴に放り込まれ、“持ち歩いてよい機能”と“大切に管理すべき機能”とがごちゃ混ぜになってしまっています」、「マイナンバー自体は「社会保障」「税」「災害」の分野でしか使うことができない。だが、番号が記載されたマイナカードにはすでに「電子政府にアクセスするための国民ID」や「全国民共通の身元証明書」といった機能が盛り込まれ、今後も拡大されていく見込み」、 「「マイナポイント事業第2弾」と、8月にデジタル相に就任した河野太郎氏である。 ポイント事業にはすでに2兆円超の予算が注ぎ込まれ、昨年10月には河野氏がマイナカードと一体化した上で健康保険証の廃止を目指すと発表」、「奇策は功を奏し、今年1月の時点でカードの申請件数は運転免許証の保有者数を上回り、普及率は70%近くに」、「果たしてカード普及のために消費税1%分に相当する血税を投入する必要はあったのか。保険証を廃止し、「資格確認書」という新たなムダを生み出してまでカードの取得を事実上強制する必要はあったのか。 マイナンバー制度 (その3)(マイナカード「落としても悪用されない」はうそ? 「セキュリティーがあまりにも脆弱」、8割の日本人が気づいていない「マイナ保険証」の恐ろしすぎる「落とし穴」 健康保険証から乗り換えていいのか?、「マイナ保険証」のせいで健康保険が「崩壊」するかもしれない…その決定的な問題点 最悪の暴挙に出る可能性も…、マイナンバーカード推進の裏で進む法改正、個人情報利用や機能追加などに「野放図拡大」のリスク) 「今後多くの民間サービスとひもづけられれば、ロックや利用停止で生活が立ち行かなくなってしまいます」、「民間サービスとの連携が進めば、それだけ悪用のリスクも増加する。今一度、熟慮と検証が必要である」、その通りだ。 現代ビジネス 荻原 博子氏による「8割の日本人が気づいていない「マイナ保険証」の恐ろしすぎる「落とし穴」 健康保険証から乗り換えていいのか?」 「マイナンバー法」では、「マイナンバーカードについては、本人の申請でつくられることが明記」、と「プライバシー」保護に配慮した形になった。 「最高2万円分のポイントをバラ撒き」も含めた「普及キャンペーンにつぎ込まれた予算は累計で約2兆円以上」、「その前に過去9年間で8800億円の税金が使われています」、「この金額も含めると、約3兆の税金が使われたことに」、本当に巨額だ。 「3月末の時点で、「マイナンバーカード」を作っている人は、国民の約76%となっています。 ただ、それでもまだ約4分の1の人は「マイナンバーカード」を作っておらず、そうした人たちを締め上げるために、保険証を無くして「マイナ保険証」を義務化するという政策を強力に打ち出したのでしょう」、なるほど。 「「マイナ保険証」に入っている主な診療情報とは、「レセプト(診療明細書)」の情報」、「レセプトとは、その時に患者が支払ったお金の明細書でしかありません。 しかも、これはリアルタイムな情報ではなく、「1ヶ月前に、こんな病気で医者に行ってこんな治療を受けた」というようなもの。医師は、リアルタイムで診断してこそ正確な対処ができますから、レセプト情報があるというだけで、必ずしも「正確なデータに基づく診療・薬の処方が受けられる」とは言えない」、なるほど。 荻原 博子氏による「「マイナ保険証」のせいで健康保険が「崩壊」するかもしれない…その決定的な問題点 最悪の暴挙に出る可能性も…」 「マイナ保険証の問題点」とは身近で重要だ。 「回答した医療機関8700余のうち、システムの運用を開始しているのは24%で、そのうち41%がトラブル・不具合があったと答えています。その内訳(複数回答)は、「有効な保険証でも無効と表示された」が62%、「カードリーダーの不具合」が41%」、こんなに「トラブル・不具合」が多いのは何故なのだろう。 「介護の現場では、緊急時の受診などに備えて入居者から保険証を預かっているケースが珍しくありませんが、「マイナ保険証」になると、現場の運用で新たな問題が指摘されています。なぜなら、「マイナ保険証」を預かっていたとしても、4桁の暗証番号も教えてもらわなければ役に立たないからです。 ところがこのパスワードがわかると、マイナポータル・・・にログインでき、納税情報や年金情報、医療情報などを見ることが可能なので、犯罪予防のために預からないという介護施設も出てきそうです」、確かに「介護の現場」ではどうするのだろう。 「資格確認書」は「まるで「マイナ保険証」をつくらないことへの嫌がらせかと感じられるほど、使い勝手が悪いのです」、「仮に有効期限が1年なら、1年ごとに自治体の窓口に行って更新手続きをしなくてはならないのです。 しかも、手続きしてもその場ですぐには発行されない可能性も指摘」、「発行されるまでの間は無保険になります。保険料を払っていても、無保険になるというのはどういうことでしょうか。到底納得できません」、確かに不当だ。 「「資格確認書」だと、病院の窓口で支払う料金が「マイナ保険証」より高くなる可能があります。 現在、「マイナ保険証」を使える病院の窓口で従来の健康保険証を出すと、下図のように「マイナ保険証」がある人に比べて初診料が高くなります。しかも、この4月から、12円が18円に値上がりしています」、「マイナ保険証」へ誘導したいための仕組みなのだろうが、意図が見え見えでいやらしい。 「諸先輩が築きあげてきた「国民皆保険」という世界に誇れる制度を、内側から突き崩す脅威になりかねません。 事態はどんどん悪化していますが、最悪でも「現在の保険証を廃止する」という暴挙だけは、止めなくてはいけないと思います」、同感である。 ダイヤモンド・オンライン「マイナンバーカード推進の裏で進む法改正、個人情報利用や機能追加などに「野放図拡大」のリスク」 「マイナンバー制度の問題点」とは興味深そうだ。 「マイナンバー法改正のポイント」は分かり易い。「これらの「存在意義」を分かりやすい形で示すことなく、国はカードの普及とマイナンバー活用にひたすらアクセルを踏んでいる」、推進方法には問題が多い。 「「これまで、税・社会保障・災害対策の分野で、マイナンバーがどのように使われてきて、効果を上げてきたのか。また、コロナ対策ではマイナンバーを利用できなかったが、もし利用できていたらどのようなことが可能だったのか、などの利用実態に対しての情報公開・検証と、それに基づいた用途拡大、というステップが踏まれていない」のは大いに問題だ。「カードの機能追加に関しても、半ば強制的に全ての機能を一枚に集めることのメリットとリスクは一向に説明されておらず、「使わない」という選択肢がそもそも与えられないのもおかしな話だ」、 「「マイナンバーカードの普及率が100%になれば便利なサービスが自動的に生まれるわけではない。普及率が上がってどんな社会を目指しているのかがまず示されなければ、国民の納得感は得られない」」、同感である。
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異次元緩和政策(その43)(植田日銀総裁誕生の裏に“権力の興亡” 本命・雨宮副総裁が漏らしていた“本音”とは、「マイナス金利解除は24年以降」元日銀審議委員・木内氏が語る植田日銀の正常化シナリオ) [経済政策]

異次元緩和政策については、本年2月23日に取上げた。今日は、(その43)(植田日銀総裁誕生の裏に“権力の興亡” 本命・雨宮副総裁が漏らしていた“本音”とは、「マイナス金利解除は24年以降」元日銀審議委員・木内氏が語る植田日銀の正常化シナリオ)である。

は、4月3日付けデイリー新潮が掲載したジャーナリスト・帝京大学教授の軽部謙介氏による「植田日銀総裁誕生の裏に“権力の興亡” 本命・雨宮副総裁が漏らしていた“本音”とは」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/04030558/?all=1
・『10年にも及んだ異次元緩和を主導した黒田東彦日銀総裁に代わり、新たに中央銀行を統べるは経済学者の植田和男氏(71)。難題山積の中、異例の学者総裁にかじ取りを任せるのはなぜか。日銀、財務省、そして官邸の間で繰り広げられた「権力の興亡」、その内幕に迫る。 10年ぶりに日本銀行の総裁が交代する。4月以降は、総裁・植田和男(東大名誉教授)、副総裁・氷見野良三(前金融庁長官)、同・内田眞一(日銀理事)という体制に金融政策のかじ取りが委ねられるが、人選の過程を検証していくと「日本の権力構造」に潜む問題点が浮き上がってくる。そしてそれは、日銀総裁とは、誰が、どのように、何を基準にして選ぶべきなのかという問いにつながっていく』、興味深そうだ。
・『雨宮の言い分  元首相の安倍晋三が撃たれた2022年の夏も終わろうとしていた。 財務省の有力OB二人と日銀副総裁の雨宮正佳が都内の鮨屋でネタをつまみながら杯を交わしていた。アルコールがダメな雨宮も旧知の顔ぶれを相手に、よもやま話に花を咲かせた。 佳境に入り黒田東彦(はるひこ)・日銀総裁の後任人事に話が及んだ。このとき、後継の最有力候補といわれていた雨宮は二人にこういう趣旨の話をした。 新総裁は、黒田体制の10年だけでなく1998年の新日銀法施行以降の「非伝統的」と呼ばれた金融政策全般を対象に点検・検証するべきだ。しかし、自分はそれを主宰する任にはふさわしくない。なぜならその大半に関与しているからだ――。 確かに、雨宮は2000年代以降の量的緩和開始、異次元緩和実施、長短金利を操作するイールドカーブ・コントロール(YCC)導入など非伝統的金融政策に深く関わった。その張本人が問題点を含めた検証を行ったら正当性が確保できないという言い分には一理あった』、「雨宮は2000年代以降の量的緩和開始、異次元緩和実施、長短金利を操作するイールドカーブ・コントロール(YCC)導入など非伝統的金融政策に深く関わった。その張本人が問題点を含めた検証を行ったら正当性が確保できないという言い分には一理あった」、実に巧みな拒否理由だ。
・『各国の中央銀行総裁の多くは学者  もう一つ、雨宮が強調したポイントがあった。それは「学者の起用に道を開く」ということだ。副総裁就任後、各国の中央銀行総裁が集まる会合に代理出席する機会も多くなった雨宮は、トップたちが部下の助けも借りずに難解なテーマを自分たちの言葉で議論している現場を目の当たりにしてきた。 彼らの多くは経済学の博士号を取得している。ノーベル経済学賞を受賞したベン・バーナンキ(元米連邦準備制度理事会=FRB=議長)、ジャネット・イエレン(前FRB議長)、スタンレー・フィッシャー(元イスラエル中銀総裁)、ラグラム・ラジャン(元インド中銀総裁)らは世界的に名の通った学者でもある。中国や韓国でも中銀のトップは学者が務めている。 しかも、中央銀行の国際的な連携は、リーマンショックを契機に、事務当局者同士が下で詰めて上に上げていくというやり方から、トップが電話で協議するというやり方に変わっている。問題は日本がそのコミュニティーに入っていけるかだ。経済・金融理論に対する深い知識や語学力など、日銀総裁には従来と異なる資質も求められる。 「優秀な学者が中央銀行トップになるという国際標準を、日本でも実現するべきではないか」 雨宮はこう言っていた』、「中央銀行の国際的な連携は、リーマンショックを契機に、事務当局者同士が下で詰めて上に上げていくというやり方から、トップが電話で協議するというやり方に変わっている」、「優秀な学者が中央銀行トップになるという国際標準を、日本でも実現するべきではないか」、さすが説得力に富んだ主張だ。ただ、欧州の中央銀行総裁は中央銀行実務家が多いようだ。
・『雨宮の真意  財務省は日銀の所管官庁として総裁選びにも深く関与する。実は先のOBだけでなく、このころ日銀人事を準備する過程で雨宮と接触した現役官僚も同じ趣旨の話を聞かされていた。 財務省の関係者たちには意外な感じがした。日銀総裁レースの大本命は雨宮だ。望んでもなれないそのポストは、1979年の入行以来日銀一筋で生きてきたこの男にとっても悲願のはず。「本当はやりたいと思っているが、最初は「自分には無理だ」などと言って一歩下がる常識的な対応」という見方も強かった。 雨宮の言っていることは本心なのだろうか。それとも一種の目くらまし戦術なのか――。 財務省は最後まで雨宮の真意を測りかねた。 そもそも彼らは今回の人事をこう位置付けていた。 「うちの番ではない」 この意味は歴代総裁の出自をたどればよくわかる。財務省が大蔵省だった時代から、日銀・財務の出身者が中央銀行トップの座をほぼ独占しており、両者が交代で就任するたすき掛け人事、いわゆる「交代ルール」が暗黙の了解だったのだ(掲載の表参照)。今回は財務省出身の黒田が2期10年務めた後で、「日銀の番」となるのが順当だった』、「雨宮氏は金融政策の裏も知り尽くしているだけに、黒田総裁の後任の職務の難しさを理解出来、自分がそんなババを引くのはご免被りたいと思っているのではあるまいか。
・『交代ルールを外れた人事  それでも、この役所は早くから正副総裁についていくつかの組み合わせを想定していた。最有力とみられたのは雨宮を頂点とし、副総裁の一人に財務省関係者、もう一人を学者にする案だ。 副総裁候補には財務官経験者ら何人かの名前が挙がった。しかし、ここで年次が問題になる。雨宮は79年の日銀入行。入省年次が同期もしくはそれよりも上の場合は対象から外された。そこで浮上してきたのが氷見野だった。金融庁長官を務めたが、もともとは83年の大蔵省入省だ。氷見野の副総裁就任は、財務省が「雨宮総裁」を予想していたことの裏返しだったわけだ。 そして、もう一人の学者としては、雨宮より年齢が上の植田ではなく、日銀出身の東大教授である渡辺努などの名前が挙がっていた。 しかし、結果的に総裁に選ばれたのは、交代ルールを外れるばかりか、21代宇佐美洵(まこと)以来、戦後2人目となる「民間」出身者の植田だった。 関係者によると、雨宮から固辞の理由を聞かされていた首相の岸田文雄は、深く共鳴するところがあったようで、総裁の条件を問われた国会質疑で「主要国中央銀行トップとの緊密な連携、質の高い発信力、受信力が格段に重要になっている」と説明している。雨宮の主張にそっくりだ。 そして、大本命の雨宮の辞意が固いとみた岸田官邸は、かねてから目をつけていた植田への傾斜を強めていく。最終的に正副総裁三人の人選が固まったのは年末から年始にかけてだったといわれる』、「雨宮から固辞の理由を聞かされていた首相の岸田文雄は、深く共鳴するところがあったようで、総裁の条件を問われた国会質疑で「主要国中央銀行トップとの緊密な連携、質の高い発信力、受信力が格段に重要になっている」と説明している。雨宮の主張にそっくりだ。 そして、大本命の雨宮の辞意が固いとみた岸田官邸は、かねてから目をつけていた植田への傾斜を強めていく」、なるほど。
・『知らされなかった財務省  しかし、財務省は最後までこの人選を知らされなかった。彼らが「植田総裁」という情報を得たのは、メディアで一斉に報じられた2月10日の数日前だったのだという。過去に日銀を従えて総裁の人選に深く関与してきた財務省は「死んだふり」をしているのか。それとも本当に死んでしまったのかは判然としない。 財務省・日銀出身者の交代ルールが崩れたことに加えて、今回の総裁人事にはもう一つ特徴があった。それは2代続けてのポリティカル・アポインティー(政治任用)化だ。 後述する98年の新日銀法施行以前も、以降も、総裁選びは所管官庁である財務省(以前は大蔵省)と日銀が官邸とあうんの呼吸で詰めていくのが流儀だった。この二つの組織が交代ルールを参考にしながら有力として推す候補者に決着できるよう根回しも万全だった』、「2代続けてのポリティカル・アポインティー(政治任用)化」、とすれば「財務省が知らされなかった」のはある意味当然かも知れない。
・『特定の金融政策を実施するために選ばれた総裁  しかし、10年前このプロセスは大きく変化した。12年12月の総選挙に勝利し政権に復帰した安倍は「大胆な金融政策」を柱とする経済政策、「アベノミクス」を掲げていた。そのため、13年4月に迫っていた日銀総裁人事は政権の行方を占う上でも間違いの許されない非常に重要な政治イベントになっていた。 前任の白川方明が日銀出身だったため、交代ルールに従えば自分たちの番だったこともあり、財務省は08年の総裁レースで国会承認の獲得に失敗した次官OBの武藤敏郎を強く推していた。しかし、安倍は彼らの意向を無視。財務省本流とは異なり「デフレは貨幣的現象なので金融政策だけで対処できる」とリフレ派的な主張を繰り返した黒田を最有力候補として位置付け、総裁就任を要請した。 この行為は政治家による内閣人事権を行使した「一本釣り」ともいえる。しかも、リフレであれ何であれ、特定の金融政策を実施するために総裁が決められるのは初めてだった。 安倍はさらに、日銀と財務省が予定調和的に決めていた副総裁や審議委員の人事も政治的に利用。黒田の補佐役として「リフレ派の教祖」と言われた学習院大学教授の岩田規久男を副総裁に抜てきしただけではなく、その後も若田部昌澄、原田泰、片岡剛士らリフレ派の面々を副総裁や審議委員に起用することで日銀をコントロールしようと試みた。 「内閣人事権の活用と政策を結び付けろ」と提唱していたのは21年11月に86歳で亡くなった中原伸之だ。東燃の社長を務め日銀の審議委員も経験した中原は財界応援団を組織し安倍をサポートしていたが、第2次政権以前から何度も「金融政策を変更したいなら、内閣や国会は審議委員の人選で考えればいい」という持論を安倍に伝えていたのだという』、「中原伸之」氏が「第2次政権以前から何度も「金融政策を変更したいなら、内閣や国会は審議委員の人選で考えればいい」という持論を安倍に伝えていた」とは、初めて知った。
・『政治任用の意図  日銀・財務から推薦を受けた候補を粛々と指名していくという過去のやり方ではないという意味で、今回の植田総裁誕生も岸田による政治任用といえる。ただ、安倍が「リフレ政策の実現」という特定の方向性を求めて黒田を指名したのとは異なり、岸田が何か政策的な意図を持っているのかははっきりとしない。 人事の決め方は98年施行の新日銀法で「総裁及び副総裁は、両議院の同意を得て、内閣が任命する」(23条)と規定されたが、政治任用の可能性を残すこの内閣人事権は当初甘く見られていた。 96年の夏。日銀の幹部たちは連日朝早く日本橋本石町の本店会議室に招集された。「夏合宿」と称されたこの会議は日銀法改正に向けて自らのポジションを固めるためのものだった。この時の日銀法(旧法)は、議院の同意を必要としない、文字通りの内閣人事権はもちろん、「総裁の解任権」や「一般的な業務指揮権」などが政府に認められており、日本の中央銀行は所在地をもじって「大蔵省本石町出張所」などと揶揄される組織だった。 「政府からの独立」はバブル崩壊後のさまざまな不祥事から始まった大蔵省改革の一環として議論されていた。ただ、実際に改正となれば、何を、どう法文化していくのか決めるのはそう簡単でない』、「日銀法」「実際に改正となれば、何を、どう法文化していくのか決めるのはそう簡単でない」、その通りだ。
・『「内閣には人事権があるのだから…」  合宿の場に企画局からこんなペーパーが提示された。 「政策の内容からいって独立性と中立性が要求され、他方で、任命権を通じた政策委員に対する内閣のコントロール手段が確保されていれば、準備率の設定・変更・廃止についての権限を政策委員会が有することとしても、直ちに違憲というわけではない」(情報公開法で入手した96年7月10日付「日銀法改正の論点検討」) 民間金融機関は、受け入れている預金等のうち一定比率以上を日銀の当座預金に預けておかねばならず、この比率を準備率という。政策委員とは正副総裁を含めた審議委員のことだ。 当時、準備率の変更には大蔵大臣の認可が必要だった。準備率の変更は金融政策としても活用されていただけに、日銀としてはこの問題で大蔵の認可は必要ないということを言っていたのだ。そして、その根拠として「任命権を通じた政策委員に対する内閣のコントロール」を挙げていた。つまり「内閣には人事権があるのだからほかのことは自由にやらせろ」というわけだ。 「中央銀行に完全な独立性などあり得ない」という主張も強い中、日銀は「人事権よりも金融政策を含む一般的な業務での独立性を獲得する方が大事」と考えていたので、こんな主張をしていたのだ。しかも陰りが見え始めたとはいえ、当時官僚の力はまだ強く、総裁人事にも大きな影響力を持っていた。まさか、財務・日銀の交代ルールまでほごにされ、挙句、政治任用で総裁が決まる日が来るなどとは思っていなかっただろう』、「準備率の変更は金融政策としても活用されていただけに、日銀としてはこの問題で大蔵の認可は必要ないということを言っていたのだ。そして、その根拠として「任命権を通じた政策委員に対する内閣のコントロール」を挙げていた。つまり「内閣には人事権があるのだからほかのことは自由にやらせろ」というわけだ」、なるほど。
・『総裁にふさわしいか  それから四半世紀経った2022年。夏の終わりに財務省OBに披瀝した問題意識を、雨宮は各方面に広く伝えていた。そしてそれは、結果的に、これまで財務・日銀に支配されていた「総裁選び」の構造に真正面から挑むものになった。特に財務省だ。 政治任用だった黒田を除き、総裁を務めた大蔵省出身者は全員が事務次官経験者だ。このポストは昔、「大蔵次官にとっての天下り先ナンバーワン」と言われたように事務次官経験者の中でも最も格が高いという位置付けだった。 次官に上り詰める財務官僚は主計局長からの昇格が大半を占める。主計局長になるには、多くの場合、局内で課長や主計官のポストを歴任する。財政を担当するセクションは政治との折衝に忙殺される。 しかし、大物といわれる次官OBだとしても、そのような経歴が日銀総裁にふさわしいかは別問題というのが岸田や雨宮の考え方のようだ。特にグローバル化の進展に合わせ中銀トップの間での情報交換が密になればなるほど、そのコミュニティーに入っていく重要性は増す。雨宮は周辺にこう漏らしたことがある。 「事務次官をなさった方は皆それなりの人なんだけど、その方が総裁というのは少し違うんじゃないか」』、「グローバル化の進展に合わせ中銀トップの間での情報交換が密になればなるほど、そのコミュニティーに入っていく重要性は増す」ので、「事務次官をなさった方は皆それなりの人なんだけど、その方が総裁というのは少し違うんじゃないか」、その通りだ。
・『もし経済運営に失敗すれば…  日銀総裁人事をめぐるうごめきは収束した。これからはYCCをどのように「手じまい」するのか、異次元緩和の出口をどのように潜(くぐ)るのか、さまざまな副作用にどう対処するのかなど、当面の課題処理に焦点が移る。 岸田や雨宮の意図がどこにあれ、結果的に2代続けて日銀総裁が政治任用となったことは、戦後続いてきた旧態依然たる交代ルールに終止符が打たれたことを意味する。財務次官経験者だからといって安易に総裁になれる時代ではないことも明確になった。 しかし、もし今後5年間で日銀が経済運営に失敗したら、「旧来の秩序に戻すべきではないか」との声が強まる可能性は大きいだろう。マクロ政策の象徴的存在である日銀総裁の人事は、誰が、何を基準に決めるべきなのか――。 「統治の仕方」がどうなっていくのかという観点からも、植田体制の責任は重い』、「もし今後5年間で日銀が経済運営に失敗したら、「旧来の秩序に戻すべきではないか」との声が強まる可能性は大きいだろう」、「「統治の仕方」がどうなっていくのかという観点からも、植田体制の責任は重い」、その通りだ。

次に、4月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した「木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト・元日銀審議委員インタビュー「「マイナス金利解除は24年以降」元日銀審議委員・木内氏が語る植田日銀の正常化シナリオ」を紹介しよう。これは有料記事だが、私の場合、今月は残り3本まで無料である。元日銀審議委員として、日銀内の議論に参加していただけあって、極めて有用な内容である。
https://diamond.jp/articles/-/320884
・『日銀自身が否定していた政策 追い詰められて導入の繰り返し  Qは聞き手の質問、Aは木内氏の回答)  Q:量的緩和策にしても物価目標にしても白川総裁時代には、日銀はその効果には否定的でした。黒田総裁時代になって、ご自身も含め考え方に変化はあったのですか。 A:民主党政権時代も含め、2000年ごろから円高やデフレへの対応で日銀と政府との間でずっと軋轢がありました。積極緩和を求める政府に対して、日銀が押し返す局面もあったものの、ゼロ金利解除や最初の量的緩和解除など、何かアクションをすると経済が悪化し、また批判を受けるという繰り返し。 追い詰められて結局、いまのイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)での長期金利のコントロールを含め、できないと否定していたことを全部やらされることになったのです。 最後の一押しが、第2次安倍晋三政権誕生につながった2012年12月の総選挙での自民党の圧勝でした。 安倍氏はその直前の自民党総裁選から、物価目標導入や大胆な金融緩和を唱えていました。その時は日銀の執行部も政策員会も意に介さずという空気でしたが、総選挙後に開かれた12月の決定会合では空気が一変しました。 総裁をはじめ執行部は、物価目標はやらざるを得ないという判断でした。安倍首相から強い働きかけがあったようですし、日銀内にも、物価目標の公約を掲げたから自民党が勝ったわけではないにしても、なにがしかの民意が反映されているのならば、対応する必要があるのではという意識はありました。自分たちは国民の選挙で選ばれたわけではないという引け目もあるわけです。 さらにそれ以上に大きなプレッシャーになったのは、自民党内の一部から出ていた総裁の解任権をちらつかせた日銀法改正の脅しでした。 金融政策で政府と日銀が決裂することになれば、総裁の解任権が法律に盛り込まれ、日銀の独立性が決定的に制限されかねません。ぎりぎりの判断で物価目標導入に一転、向かったということです。 私自身も納得はしていなかったけれど、執行部への同情もあったし逃れられないという判断でした』、「自分たちは国民の選挙で選ばれたわけではないという引け目もあるわけです」、「大きなプレッシャーになったのは、自民党内の一部から出ていた総裁の解任権をちらつかせた日銀法改正の脅しでした。 金融政策で政府と日銀が決裂することになれば、総裁の解任権が法律に盛り込まれ、日銀の独立性が決定的に制限されかねません。ぎりぎりの判断で物価目標導入に一転、向かったということです」、ここまで「日銀法改正の脅し」があったとは初めて知った。
・『実績とかけ離れた2%物価目標 国債買い続け、懸念通りの結果に  Q:13年1月の政策決定会合では物価目標に反対し、その後も、黒田総裁のもとでの緩和策拡大に反対の姿勢を貫いたのはなぜですか。 A:物価目標を盛り込んだ政府と日銀の共同声明についての日銀側の解釈は、政府も成長戦略や財政改革をやり、企業も頑張ることで実体経済が活性化し、物価の期待水準がいずれは2%に上がっていくと、そういう状況になった際は日銀も全力で支援するというものでした。 私も執行部の解釈は理解できましたが、潜在成長力や賃金が上がって2%が当たり前の水準になっていけばいいので、あえて数値目標を掲げる必要はないと考えたからです。それに2%は、当時やそれまでの日本の消費者物価上昇の実績とはあまりにかけ離れた数値でした。 ただそれでも当時は、目標実現はいつまでにという時期は特定していませんでした。ところが黒田総裁が13年4月に就任し、最初の決定会合で、声明文に「2年程度で実現」という文言を入れるということになったわけです。 そうなると、2%が完全に金融政策だけの目標になってしまいます。そして金融政策を物価目標にひもづけたままでは、ずっと国債を買って緩和を続けることになり、永遠に金融政策は正常化できなくなります。 それで4月の決定会合からは、物価目標を中長期の目標としたうえで、「集中対応期間」と位置づけて2年たって成果が出ない場合は見直すという独自提案を続けました。 とにかく、政策を柔軟に見直せるようにすべきだと思ったからです。 異次元緩和は短期的な政策としては受け入れられますが、いたずらに長く続けるものではありません。国債市場の機能低下や財政規律の緩みなどの弊害も大きいからですが、懸念した通りになりました』、「物価目標・・・についての日銀側の解釈は、政府も成長戦略や財政改革をやり、企業も頑張ることで実体経済が活性化し、物価の期待水準がいずれは2%に上がっていくと、そういう状況になった際は日銀も全力で支援するというもの」だったのに、「黒田総裁が13年4月に就任し、最初の決定会合で、声明文に「2年程度で実現」という文言を入れるということになったわけです。 そうなると、2%が完全に金融政策だけの目標になってしまいます。そして金融政策を物価目標にひもづけたままでは、ずっと国債を買って緩和を続けることになり、永遠に金融政策は正常化できなくなります」、ずいぶん日銀だけに偏った政策になったようだ。
・『YCCは緩和策でなかった 政治に配慮、政策転換明示できず  Q:16年9月の「総括的検証」後はYCCを導入し、量から金利に操作目標を戻しました。この頃からは「緩和強化」や「緩和維持」を言いながら、国債買い入れを減らすなど、「緩和縮小」とも取れる措置もやり始めて、方向感が定まりませんでした。 黒田総裁が主導した「攻め」の金融政策は、16年1月のマイナス金利政策導入までで、その後は、日銀の事務方が主導する大規模緩和の副作用対策に重点が置かれてきたというのが、私の解釈です。 異次元緩和を始めて1年ほどの間は物価も上がりましたが、円安で輸入物価が上がったからです。最初から効果が見えていた政策ではなかったので、14年後半には私以外の審議委員の中にも「もう引くべきだ」という空気が出てきていました。 しかし黒田総裁は、14年10月の決定会合での緩和拡大、さらにマイナス金利導入と、その後、2回、緩和強化のボタンを押してしまうわけです。14年10月の決定会合では9人の審議委員のうち4人が反対し、マイナス金利導入の時も同様でした。 銀行業界の反発に加え、10年国債の金利だけでなく超長期の国債金利もマイナスになって、生保や年金の運用にも支障が出てきました。 そういうわけで、YCCは金融緩和政策ではなく、日銀の国債保有が膨大になったり、長期金利までがマイナスになりイールドカーブが低位でフラットになってしまった問題をなんとかしなければということで始まったダメージコントロールだったのです。 結局、YCC移行の時点から金融政策の主導権は日銀の事務方に移ったと思います。雨宮正佳前副総裁も日銀の中では相対的には緩和積極派でしたが、途中からはついていけないということになったのだと思います。 YCC移行後も、YCCの厳格な運営を考える黒田総裁と、柔軟化が必要とする雨宮氏では温度差があり、21年3月の金融緩和の点検の際には二人の意見の違いが表面化しました。 最終的には長期金利の誘導目標の変動幅は決定会合で決めるということで厳格化は維持されましたが、代わりに変動幅を事実上拡大しプラスマイナス0,25%の変動幅を明確にすることを黒田総裁もしぶしぶ受け入れ、妥協が図られたようです。 その後、しばらく金利は上がらなかったのですが、昨年3月、米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制でハイペースの利上げに転じて以降は、日本の市場でも上昇圧力が一気に強まり、YCCの限界と問題点が一気に露呈してしまいました。 結局、日銀の事務方主導の政策修正はありましたが、明示的な政策転換は行われませんでした。異次元緩和がアベノミクスの象徴のようになってきた中で、政治的な配慮もあったと思います。 すでに陣を引いているにもかかわらず、攻めているような姿勢をみせようとして市場の不信感を強め、市場とのコミュニケーションすら難しくなってしまっています』、「黒田総裁が主導した「攻め」の金融政策は、16年1月のマイナス金利政策導入までで、その後は、日銀の事務方が主導する大規模緩和の副作用対策に重点が置かれてきたというのが、私の解釈です」、「YCCは金融緩和政策ではなく、日銀の国債保有が膨大になったり、長期金利までがマイナスになりイールドカーブが低位でフラットになってしまった問題をなんとかしなければということで始まったダメージコントロールだったのです。 結局、YCC移行の時点から金融政策の主導権は日銀の事務方に移ったと思います。雨宮正佳前副総裁も日銀の中では相対的には緩和積極派でしたが、途中からはついていけないということになったのだと思います」、「YCCの厳格な運営を考える黒田総裁と、柔軟化が必要とする雨宮氏では温度差があり、21年3月の金融緩和の点検の際には二人の意見の違いが表面化しました。 最終的には長期金利の誘導目標の変動幅は決定会合で決めるということで厳格化は維持されましたが、代わりに変動幅を事実上拡大しプラスマイナス0,25%の変動幅を明確にすることを黒田総裁もしぶしぶ受け入れ、妥協が図られたようです」、なるほど。「YCCの厳格な運営を考える黒田総裁と、柔軟化が必要とする雨宮氏では温度差があり、21年3月の金融緩和の点検の際には二人の意見の違いが表面化」、初めて知った。
・『植田氏起用は黒田流へのアンチテーゼ 市場との対話、丁寧な説明を重視  Q:植田新総裁の下で、金融政策の運営や政治との関係での変化をどう予想していますか。 A:学者出身ということで論理性を重視するでしょうし、国会での所信聴取でご自身が話しているように、市場とコミュニケ―ションや国民への丁寧な説明を重視すると思います。この点では評価しています。 黒田総裁は、政策の効果や波及経路についてあまり精緻な説明はせず、サプライズ的な政策決定をしました。市場にせよ企業や家計も、政策がどういう経路を通じてどれくらいの時間軸で影響が及ぶかがわからないので、結局、日銀が狙ったインフレ期待を醸成する効果も起きませんでした。 黒田総裁の下でも金融政策の正常化に向けた修正は事実上は進められてきましたが、植田日銀でも異次元緩和策の問題点を是正し緩和策の枠組みの修正を進め、その際には丁寧な説明をするだろうと思います。 ただ黒田路線を一気に否定することはしないで、個別の政策について効果と副作用を分析し市場に混乱が起きないように時間をかけてやるでしょう。 もともと日銀の伝統的なアプローチは、政策変更の際には市場や金融機関への影響を配慮しながらするやり方でした。植田氏も同じアプローチで、金融政策は伝統的なやり方に戻るのだと思います。 岸田政権の植田氏の起用は、黒田総裁のやり方へのアンチテーゼがあったのではないでしょうか。人選のポイントも、ソフトランディングを前提に、黒田総裁よりは柔軟な人をというのが基準の一つだったと思います。 植田氏は審議委員をしていた2001年の量的緩和導入の際も、自身としては効果に疑問をもっていたが、決定会合では反対しませんでした。 いわば現実的、柔軟なところ、悪く言えば黒田総裁のような信念の人ではないということと、初めての学者出身で人選の斬新さをアピールできるということが選ばれた理由ではないでしょうか。 政治との関係を言えば、岸田政権とは良好な形でスタートすると思います。ただし旧安倍派など保守派には、アベノミクスの継承にこだわっている人もいますし、昨年末の防衛増税への反対を見ても、自民党内の派閥の対立の影響が政策運営に及ぶ構図は変わらないと思います』、「植田氏は審議委員をしていた2001年の量的緩和導入の際も、自身としては効果に疑問をもっていたが、決定会合では反対しませんでした。 いわば現実的、柔軟なところ、悪く言えば黒田総裁のような信念の人ではないということと、初めての学者出身で人選の斬新さをアピールできるということが選ばれた理由ではないでしょうか」、「現実的、柔軟」さが過ぎると、金融政策の軌道修正にブレーキがかかってしまうリスクもありそうだ。
・『YCCの修正はすぐに必要な課題 マイナス金利解除は24年半ば以降  Q:金融政策の正常化のスケジュール感や課題をどのように考えますか。 A:最終的には、マイナス金利政策とYCCはなくなり、国債やETFなどの資産買い入れ策もかなり変わると思います。ただ、経済や物価の情勢に応じて、少しずつ時間をかけてということになると思います。 当面の課題はYCCをどうするかです。国債の買い入れを減らすために導入したはずが、昨年後半以降は、YCCの長期金利を維持するために国債を猛烈に買うことになっています。 円安になり物価が上がってきて本来は金融を引き締めなければいけないのに、日銀がバランスシートを拡大することで緩和に向かわざるを得ないというのは矛盾です。YCCは大きな弱点を抱えています。 まずは変動幅の拡大や撤廃、長期金利の誘導水準の引き上げ、あるいは指し値オペの見直しという三つの選択肢の中で修正に動くのではないでしょうか。 指し値オペは、金利が多少上振れしても今までのように連日、実施はするというやり方ではなく、市場が予想できないタイミングで使うといった具合に柔軟で機動的なやり方に変えれば、国債の買い入れも少なくできます。 ただし正常化の最大の山場は、マイナス金利政策をやめる時です。 時期としては2024年半ば以降になると思いますが、その時に長期金利が跳ねる可能性があるので、そのリスクに備えるために、YCCは形骸化させるにしても、マイナス金利解除の際までは枠組みを残しておくのではないでしょうか。 スケジュール感を予想すれば、YCCの修正や物価目標の柔軟化といったソフトな修正、いわば政策運営方針の転換は今年中に行われると思います。 その後、経済の状況を見て、マイナス金利解除や緩和方針などハードの部分を転換し、さらにその後に日銀の保有国債の処理や買い入れたETFをオフバランス化していくという、大きく言えば3段階での手順になると思います。 保有国債やETFの処理は、市場へ影響を与えないように結局、国債は満期までは保有するだろうし、ETFについては、日銀が出資する受け皿機関を作って、そこに移して損が出ないように売却していく。株式市場次第ですが、処理には十数年はかかる長い道のりになるでしょう』、「YCCの修正や物価目標の柔軟化といったソフトな修正、いわば政策運営方針の転換は今年中に行われると思います。 その後、経済の状況を見て、マイナス金利解除や緩和方針などハードの部分を転換し、さらにその後に日銀の保有国債の処理や買い入れたETFをオフバランス化していくという、大きく言えば3段階での手順になると思います」、「保有国債やETFの処理は、市場へ影響を与えないように結局、国債は満期までは保有するだろうし、ETFについては、日銀が出資する受け皿機関を作って、そこに移して損が出ないように売却していく。株式市場次第ですが、処理には十数年はかかる長い道のりになるでしょう」、さすがにマーケットも熟知しているだけに、あり得そうなシナリオだ。
・『共同声明見直しはすぐにも着手? 金融不安、米経済次第で正常化後ずれ  Q:米国では地方銀行の破綻や預金流出が続き欧米で金融不安がくすぶる状況です。FRBは、3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では0.25%の利上げを継続しましたが、正常化への影響をどう考えますか。 A:正常化が世界経済や米国の金融政策に左右される面は大きいと思います。 米国では大幅利上げが進んできましたが、金融不安から銀行が貸し出しに慎重になり、一方で利上げはまだやめないとなれば、クレジットクランチのようなことが重なるので、景気はかなり減速する懸念があります。 そうなると日本経済にはマイナスの影響が及ぶし、円高にもなりやすくなります。 FRBの利上げ打ち止め、さらには利下げということになるのかどうか、米経済の状況次第という面はありますが、利下げ観測が強まれば、植田日銀が思い浮かべている緩和の枠組みの修正は後にずれる可能性があります。 場合によっては、今年中はほぼ何もしないということになり、そうなれば、24年半ばからの金融政策の正常化スケジュールも遅れるでしょう。 ただし今までの金融政策の総括をするのと、政府との共同声明を見直して物価目標の位置づけを変えることは、政策修正とは別なので、新体制になって比較的、早いタイミングで着手できると思います。 安倍政権の共同声明は、日銀を積極緩和にコミットさせる狙いでしたが、結局、金融政策を縛ってしまいました。円安になっても日銀は動きが取れず、一方で政府は輸入価格高騰による物価対策をしなければならないという矛盾が起きてしまったわけです。 (木内登英氏の略歴はリンク先参照) 岸田政権としては、そこは政権の責任もあるということで、柔軟なものにして日銀を縛りから解こうということだと思います。日銀もいずれ政策転換をしようとする際には物価目標の見直しが必要です。 共同声明当時の日銀側の解釈であれば、2%は中長期の目標だと位置づけることはできます。本来なら日銀だけで物価目標の再定義をすればいい話ですが、政府が共同声明を見直すというのなら、そういう形で変えるということになるのではないでしょうか。 ただ見直しに着手はしても、自民党内との調整もあるので、まとまるタイミングは不明で、今年後半になるのかもしれません。 一方で、今までの政策の総括はやらない可能性があります。どうしても異次元緩和の問題点をあげつらうことになり、例えばマイナス金利政策なども問題点が大きいということになれば、早く撤廃をと、市場などに催促される形になって無用な混乱を生みかねないからです。 内外の経済情勢や市場の動きを見ながら、個別に政策を順次修正していくというアプローチをとると思います』、「FRBの利上げ打ち止め、さらには利下げということになるのかどうか、米経済の状況次第という面はありますが、利下げ観測が強まれば、植田日銀が思い浮かべている緩和の枠組みの修正は後にずれる可能性があります。 場合によっては、今年中はほぼ何もしないということになり、そうなれば、24年半ばからの金融政策の正常化スケジュールも遅れるでしょう」、「ただし今までの金融政策の総括をするのと、政府との共同声明を見直して物価目標の位置づけを変えることは、政策修正とは別なので、新体制になって比較的、早いタイミングで着手できると思います」、「安倍政権の共同声明は、日銀を積極緩和にコミットさせる狙いでしたが、結局、金融政策を縛ってしまいました。円安になっても日銀は動きが取れず、一方で政府は輸入価格高騰による物価対策をしなければならないという矛盾が起きてしまった」、「一方で、今までの政策の総括はやらない可能性があります。どうしても異次元緩和の問題点をあげつらうことになり、例えばマイナス金利政策なども問題点が大きいということになれば、早く撤廃をと、市場などに催促される形になって無用な混乱を生みかねないからです。 内外の経済情勢や市場の動きを見ながら、個別に政策を順次修正していくというアプローチをとると思います」、確かに「総括」にはそうしたリスクがあるので、「個別に政策を順次修正していくというアプローチをとると思います」、極めて現実的だ。さあ、新相殺のお手並み拝見!
タグ:異次元緩和政策 (その43)(植田日銀総裁誕生の裏に“権力の興亡” 本命・雨宮副総裁が漏らしていた“本音”とは、「マイナス金利解除は24年以降」元日銀審議委員・木内氏が語る植田日銀の正常化シナリオ) デイリー新潮 軽部謙介氏による「植田日銀総裁誕生の裏に“権力の興亡” 本命・雨宮副総裁が漏らしていた“本音”とは」 「雨宮は2000年代以降の量的緩和開始、異次元緩和実施、長短金利を操作するイールドカーブ・コントロール(YCC)導入など非伝統的金融政策に深く関わった。その張本人が問題点を含めた検証を行ったら正当性が確保できないという言い分には一理あった」、実に巧みな拒否理由だ。 「中央銀行の国際的な連携は、リーマンショックを契機に、事務当局者同士が下で詰めて上に上げていくというやり方から、トップが電話で協議するというやり方に変わっている」、「優秀な学者が中央銀行トップになるという国際標準を、日本でも実現するべきではないか」、さすが説得力に富んだ主張だ。ただ、欧州の中央銀行総裁は中央銀行実務家が多いようだ。 「雨宮氏は金融政策の裏も知り尽くしているだけに、黒田総裁の後任の職務の難しさを理解出来、自分がそんなババを引くのはご免被りたいと思っているのではあるまいか。 「雨宮から固辞の理由を聞かされていた首相の岸田文雄は、深く共鳴するところがあったようで、総裁の条件を問われた国会質疑で「主要国中央銀行トップとの緊密な連携、質の高い発信力、受信力が格段に重要になっている」と説明している。雨宮の主張にそっくりだ。 そして、大本命の雨宮の辞意が固いとみた岸田官邸は、かねてから目をつけていた植田への傾斜を強めていく」、なるほど。 「2代続けてのポリティカル・アポインティー(政治任用)化」、とすれば「財務省が知らされなかった」のはある意味当然かも知れない。 「中原伸之」氏が「第2次政権以前から何度も「金融政策を変更したいなら、内閣や国会は審議委員の人選で考えればいい」という持論を安倍に伝えていた」とは、初めて知った。 「日銀法」「実際に改正となれば、何を、どう法文化していくのか決めるのはそう簡単でない」、その通りだ。 「準備率の変更は金融政策としても活用されていただけに、日銀としてはこの問題で大蔵の認可は必要ないということを言っていたのだ。そして、その根拠として「任命権を通じた政策委員に対する内閣のコントロール」を挙げていた。つまり「内閣には人事権があるのだからほかのことは自由にやらせろ」というわけだ」、なるほど。 「グローバル化の進展に合わせ中銀トップの間での情報交換が密になればなるほど、そのコミュニティーに入っていく重要性は増す」ので、「事務次官をなさった方は皆それなりの人なんだけど、その方が総裁というのは少し違うんじゃないか」、その通りだ。 「もし今後5年間で日銀が経済運営に失敗したら、「旧来の秩序に戻すべきではないか」との声が強まる可能性は大きいだろう」、「「統治の仕方」がどうなっていくのかという観点からも、植田体制の責任は重い」、その通りだ。 ダイヤモンド・オンライン 木内登英 「「マイナス金利解除は24年以降」元日銀審議委員・木内氏が語る植田日銀の正常化シナリオ」 「自分たちは国民の選挙で選ばれたわけではないという引け目もあるわけです」、「大きなプレッシャーになったのは、自民党内の一部から出ていた総裁の解任権をちらつかせた日銀法改正の脅しでした。 金融政策で政府と日銀が決裂することになれば、総裁の解任権が法律に盛り込まれ、日銀の独立性が決定的に制限されかねません。ぎりぎりの判断で物価目標導入に一転、向かったということです」、ここまで「日銀法改正の脅し」があったとは初めて知った。 「物価目標・・・についての日銀側の解釈は、政府も成長戦略や財政改革をやり、企業も頑張ることで実体経済が活性化し、物価の期待水準がいずれは2%に上がっていくと、そういう状況になった際は日銀も全力で支援するというもの」だったのに、「黒田総裁が13年4月に就任し、最初の決定会合で、声明文に「2年程度で実現」という文言を入れるということになったわけです。 そうなると、2%が完全に金融政策だけの目標になってしまいます。そして金融政策を物価目標にひもづけたままでは、ずっと国債を買って緩和を続けることになり、永遠に金融政策は正常化できなくなります」、ずいぶん日銀だけに偏った政策になったようだ。 「黒田総裁が主導した「攻め」の金融政策は、16年1月のマイナス金利政策導入までで、その後は、日銀の事務方が主導する大規模緩和の副作用対策に重点が置かれてきたというのが、私の解釈です」、「YCCは金融緩和政策ではなく、日銀の国債保有が膨大になったり、長期金利までがマイナスになりイールドカーブが低位でフラットになってしまった問題をなんとかしなければということで始まったダメージコントロールだったのです。 結局、YCC移行の時点から金融政策の主導権は日銀の事務方に移ったと思います。雨宮正佳前副総裁も日銀の中では相対的には緩和積極派でしたが、途中からはついていけないということになったのだと思います」、「YCCの厳格な運営を考える黒田総裁と、柔軟化が必要とする雨宮氏では温度差があり、21年3月の金融緩和の点検の際には二人の意見の違いが表面化しました。 最終的には長期金利の誘導目標の変動幅は決定会合で決めるということで厳格化は維持されましたが、代わりに変動幅を事実上拡大しプラスマイナス0,25%の変動幅を明確にすることを黒田総裁もしぶしぶ受け入れ、妥協が図られたようです」、なるほど。「YCCの厳格な運営を考える黒田総裁と、柔軟化が必要とする雨宮氏では温度差があり、21年3月の金融緩和の点検の際には二人の意見の違いが表面化」、初めて知った。 「植田氏は審議委員をしていた2001年の量的緩和導入の際も、自身としては効果に疑問をもっていたが、決定会合では反対しませんでした。 いわば現実的、柔軟なところ、悪く言えば黒田総裁のような信念の人ではないということと、初めての学者出身で人選の斬新さをアピールできるということが選ばれた理由ではないでしょうか」、「現実的、柔軟」さが過ぎると、金融政策の軌道修正にブレーキがかかってしまうリスクもありそうだ。 「YCCの修正や物価目標の柔軟化といったソフトな修正、いわば政策運営方針の転換は今年中に行われると思います。 その後、経済の状況を見て、マイナス金利解除や緩和方針などハードの部分を転換し、さらにその後に日銀の保有国債の処理や買い入れたETFをオフバランス化していくという、大きく言えば3段階での手順になると思います」、「保有国債やETFの処理は、市場へ影響を与えないように結局、国債は満期までは保有するだろうし、ETFについては、日銀が出資する受け皿機関を作って、そこに移して損が出ないように売却していく。株式 市場次第ですが、処理には十数年はかかる長い道のりになるでしょう」、さすがにマーケットも熟知しているだけに、あり得そうなシナリオだ。 「FRBの利上げ打ち止め、さらには利下げということになるのかどうか、米経済の状況次第という面はありますが、利下げ観測が強まれば、植田日銀が思い浮かべている緩和の枠組みの修正は後にずれる可能性があります。 場合によっては、今年中はほぼ何もしないということになり、そうなれば、24年半ばからの金融政策の正常化スケジュールも遅れるでしょう」、 「ただし今までの金融政策の総括をするのと、政府との共同声明を見直して物価目標の位置づけを変えることは、政策修正とは別なので、新体制になって比較的、早いタイミングで着手できると思います」、「安倍政権の共同声明は、日銀を積極緩和にコミットさせる狙いでしたが、結局、金融政策を縛ってしまいました。円安になっても日銀は動きが取れず、一方で政府は輸入価格高騰による物価対策をしなければならないという矛盾が起きてしまった」、 「一方で、今までの政策の総括はやらない可能性があります。どうしても異次元緩和の問題点をあげつらうことになり、例えばマイナス金利政策なども問題点が大きいということになれば、早く撤廃をと、市場などに催促される形になって無用な混乱を生みかねないからです。 内外の経済情勢や市場の動きを見ながら、個別に政策を順次修正していくというアプローチをとると思います」、確かに「総括」にはそうしたリスクがあるので、「個別に政策を順次修正していくというアプローチをとると思います」、極めて現実的だ。さあ、新相殺のお手並み拝見!
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働き方改革(その39)(なぜ死ぬまで働いてしまうのか…マルクスの資本論が150年前に警告していた「過労死の根本原因」とは 斎藤幸平「労働者は"賃金の奴隷"になっている」、日本企業で働きたくない…アジアで人気ガタ落ち!嫌われる「日本式働き方」とは、「育ててもすぐ退職」一括採用の破綻が招く事態 卒業後すぐ就職できず若年層の失業率は上昇も) [経済政策]

働き方改革については、昨年6月11日に取上げた。今日は、(その39)(なぜ死ぬまで働いてしまうのか…マルクスの資本論が150年前に警告していた「過労死の根本原因」とは 斎藤幸平「労働者は"賃金の奴隷"になっている」、日本企業で働きたくない…アジアで人気ガタ落ち!嫌われる「日本式働き方」とは、「育ててもすぐ退職」一括採用の破綻が招く事態 卒業後すぐ就職できず若年層の失業率は上昇も)である。

先ずは、本年2月13日付けPRESIDENT Onlineが掲載した東京大学大学院総合文化研究科准教授の斎藤 幸平氏による「なぜ死ぬまで働いてしまうのか…マルクスの資本論が150年前に警告していた「過労死の根本原因」とは 斎藤幸平「労働者は"賃金の奴隷"になっている」」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/66298
・『なぜ過労死はなくならないのか。東京大学大学院の斎藤幸平幸平准教授は「そんなに大変なら辞めればいいと思う人もいるだろう。しかしマルクスによれば、労働者は自由に働く会社を選べるがゆえに、自分自身を追い詰めてしまうのだ」という――。(第1回) ※本稿は、斎藤幸平『ゼロからの『資本論』』(NHK出版新書)の一部を再編集したものです』、「労働者は自由に働く会社を選べるがゆえに、自分自身を追い詰めてしまうのだ」、理解するには、解説が必要だ。
・『マルクスが見てきた「苦しむ若年労働者」  労働力は、人間が持っている能力で、本来は社会の「富」の一つです。労働力という富を使って、本当なら生活をもっと豊かにしたり、夢を実現したり、社会のために役立てたり、働く人に幸福感や充実感をもたらしてくれるような活かし方ができるはずです。 ところが資本主義は、この労働力という「富」を「商品」に閉じ込めてしまう。資本家にとって、自分で購入した労働力商品を使うにあたり、労働者の生活の質や夢、やりがいに配慮することは関心事ではありません。彼らが執心しているのは、労働が生み出す価値の量。それを最大化するために労働を支配していくのです。 こうして、生きるために働いていたはずが、働くために生きているかのように本末が転倒していきます。労働力という富が商品に閉じ込められてしまうことで、多くの労働者にとっては、人間が持つ能力の発展が阻害され、使い潰されてしまうのです。 「労働の生き血を求める吸血鬼」の餌食になるのは大人ばかりではありません。『資本論』第1巻第8章「労働日」では、賃労働に駆り出されて学校に通えず、読み書きができない子どもや、大人と一緒に働くなかでタバコや酒を覚えて中毒になる子ども、早死にしてしまう若年労働者たちの、悲惨な実態が仔細しさいに綴られています。 『資本論』の読破は難行だと言いましたが、この「労働日」章はジャーナリスティックな読み物になっています。そして、マルクスがこの章にかなりのスペースを割いているのは、やはり労働者の置かれている状況にひどく心を痛めていたからでしょう。難解ではないという理由から、この章を重視しない解説書や研究書が多いですが、むしろ、マルクスの問題関心にとっては極めて本質的な章なのです』、「資本主義は、この労働力という「富」を「商品」に閉じ込めてしまう。資本家にとって、自分で購入した労働力商品を使うにあたり、労働者の生活の質や夢、やりがいに配慮することは関心事ではありません。彼らが執心しているのは、労働が生み出す価値の量。それを最大化するために労働を支配していく」、「こうして、生きるために働いていたはずが、働くために生きているかのように本末が転倒していきます。労働力という富が商品に閉じ込められてしまうことで、多くの労働者にとっては、人間が持つ能力の発展が阻害され、使い潰されてしまう」、「「労働の生き血を求める吸血鬼」の餌食になるのは大人ばかりではありません。『資本論』第1巻第8章「労働日」では、賃労働に駆り出されて学校に通えず、読み書きができない子どもや、大人と一緒に働くなかでタバコや酒を覚えて中毒になる子ども、早死にしてしまう若年労働者たちの、悲惨な実態が仔細しさいに綴られています」、なるほど。
・『過労死は150年前から社会問題になっていた  労働力をとことん使い倒そうとする資本主義的生産は、労働者の心身を蝕むしばみ、その能力や暮らしを破壊し、ときには命さえも奪います。 マルクスは『資本論』で、1863年6月、ロンドンで発行されているすべての日刊紙が一斉に報じたという事件に言及しています。 それは、ある非常に名高い宮廷用婦人服製造所に雇われ、エリズという優しい名の婦人に搾取されていた20歳の女工メアリー・アン・ウォークリーの死亡に関するものだった。〔中略〕女工たちは1日平均16時間半、だが社交シーズンともなれば30時間休みなく働いた。彼女たちの「労働力」が萎なえてくると、シェリー酒やポートワイン、コーヒーが与えられ、労働を続けさせられたという。そして、悲劇は社交季節のピークに起きた。〔中略〕メアリー・アン・ウォークリーは、ほかの60人の女工たちとともに、必要な空気の3分の1も与えないような一室に30人ずつ入って、26時間半休みなく働き、夜は1つの寝室を幾つかの板で仕切った息詰まる部屋で、1つのベッドに2人ずつ寝かされた。しかも、これは、ロンドンでも良い方の婦人服製造工場の一つだったのである。(269-270) 記事のタイトルは「純然たる働きすぎによる死」。つまり過労死です。ここでの問題は、メアリー・アンの悲劇が、『資本論』刊行から150年経った今も日本で繰り返されているということです。残念ながら、「昔の社会はこんなひどいことがあったんだ」という解説を付け加える必要がまったくありません』、「非常に名高い宮廷用婦人服製造所に雇われ、エリズという優しい名の婦人に搾取されていた20歳の女工メアリー・アン・ウォークリーの死亡に関するものだった。〔中略〕女工たちは1日平均16時間半、だが社交シーズンともなれば30時間休みなく働いた。彼女たちの「労働力」が萎なえてくると、シェリー酒やポートワイン、コーヒーが与えられ、労働を続けさせられたという」、「シェリー酒やポートワイン、コーヒーが与えられ、労働を続けさせられた」、驚くべき奴隷労働だ。「そして、悲劇は社交季節のピークに起きた。〔中略〕メアリー・アン・ウォークリーは、ほかの60人の女工たちとともに、必要な空気の3分の1も与えないような一室に30人ずつ入って、26時間半休みなく働き、夜は1つの寝室を幾つかの板で仕切った息詰まる部屋で、1つのベッドに2人ずつ寝かされた。しかも、これは、ロンドンでも良い方の婦人服製造工場の一つだった」、「過労死です。ここでの問題は、メアリー・アンの悲劇が、『資本論』刊行から150年経った今も日本で繰り返されているということです。残念ながら、「昔の社会はこんなひどいことがあったんだ」という解説を付け加える必要がまったくありません』、程度の違いこそれ、「メアリー・アンの悲劇が、『資本論』刊行から150年経った今も日本で繰り返されている」、というのは恥ずべきことだ。
・『2010年代以降、労働災害はより深刻化している  例えば、2008年に居酒屋チェーン「和民」で起きた過労死事件。入社からわずか2カ月で自殺で亡くなった女性は、2カ月の間に227時間もの時間外労働を強要されていました。所定労働時間は8時間、週休2日制と説明されて入社したものの、現場では「店の営業時間が勤務時間」と言われ、長時間労働に加えて休みの日もボランティア活動や経営理念の暗記テスト、レポート書きをさせられていました。 2015年にも、大手広告代理店の電通で入社1年目の東大卒の女性が過労自殺で亡くなった事件がありました。職場では長時間労働が常態化し、被災者の女性は1日の睡眠時間が2時間、1週間で10時間しか寝られないこともあったといいます。 彼女たちのケースが特殊というわけではありません。労災の申請および認定件数を見ると、2010年代に入って以降、鬱など精神疾患が、脳・心臓疾患を超えて増え続けています。たしかに、人々が積極的に受診をするようになっているという側面もあるでしょう。しかし、それにもかかわらず抜本的な対策が取られていないという事実は変わりません。 マルクスが生きた時代より、労働者の権利に対する認識や労働環境は改善されているはずなのに、労働者に長時間労働を強いる圧力が弱まることはなく、今なお労働力という「富」の破壊が続いているのです』、「2008年に居酒屋チェーン「和民」で起きた過労死事件。入社からわずか2カ月で自殺で亡くなった女性は、2カ月の間に227時間もの時間外労働を強要されていました。所定労働時間は8時間、週休2日制と説明されて入社したものの、現場では「店の営業時間が勤務時間」と言われ、長時間労働に加えて休みの日もボランティア活動や経営理念の暗記テスト、レポート書きをさせられていました」、「大手広告代理店の電通で入社1年目の東大卒の女性が過労自殺で亡くなった事件がありました。職場では長時間労働が常態化し、被災者の女性は1日の睡眠時間が2時間、1週間で10時間しか寝られないこともあった」、「マルクスが生きた時代より、労働者の権利に対する認識や労働環境は改善されているはずなのに、労働者に長時間労働を強いる圧力が弱まることはなく、今なお労働力という「富」の破壊が続いているのです」、全く酷い話だ。
・『なぜ辞めればいいのに辞められないのか  搾取どころか、自死に追い込まれるほど過酷な長時間労働に、なぜ労働者は抗あらがえないのでしょうか。無断欠勤したり、辞めたりすればいいのでは? そんなふうに感じる方もいるかもしれません。この点についてもマルクスは分析をしています。 それによると、逃げ出せない理由の一つは、労働者が「自由」だからだというのです。「自由だから逃げ出せない」とは、一体どういうことでしょうか。 資本主義社会において、労働者は二重の意味で「自由」だとマルクスは言います。一つは、奴隷のように鎖につながれて強制労働させられているわけではないという意味での「自由」です。士農工商やカーストのような身分制もない社会では、好きな場所で、好きな仕事に就つくことができるのです。 しかし、奴隷や身分制のような不自由から解放された私たちは、同時に生産手段からも「自由(フリー)」になってしまいました。「生産手段フリー」とは、生きていくために必要なものを生産する手立てを持たないということを指します。ここでいう「フリー」という言葉は「束縛されていない」という意味ではなく、何かが「ない」という意味、例えばカフェインフリーやアルコールフリーなどの意味と同じように使われています。 この状態は、前章で見た〈コモン〉が「囲い込み」によって解体された帰結です。生産手段から切り離されてしまうと、大半の人々はもう自給自足できず商品を買うしかありません。だから、生きていくには、どうにかしてお金を手に入れなければならない』、「過酷な長時間労働に、なぜ労働者は抗あらがえないのでしょうか」、「逃げ出せない理由の一つは、労働者が「自由」だからだというのです。「自由だから逃げ出せない」とは、一体どういうことでしょうか。 資本主義社会において、労働者は二重の意味で「自由」だとマルクスは言います。一つは、奴隷のように鎖につながれて強制労働させられているわけではないという意味での「自由」です。士農工商やカーストのような身分制もない社会では、好きな場所で、好きな仕事に就つくことができるのです。 しかし、奴隷や身分制のような不自由から解放された私たちは、同時に生産手段からも「自由(フリー)」になってしまいました。「生産手段フリー」とは、生きていくために必要なものを生産する手立てを持たないということを指します」、「生産手段から切り離されてしまうと、大半の人々はもう自給自足できず商品を買うしかありません。だから、生きていくには、どうにかしてお金を手に入れなければならない」、「生産手段フリー」は「大半の人々はもう自給自足できず商品を買うしかありません」、つまり「労働者」にとっては不利なことになる。
・『資本主義社会の労働者は「自由」を売っている  そのためには何かを売る必要がある。けれども普通の人たちが生活のために売ることができるのは、自分自身の労働力しかないのです。資本主義社会の労働者は、奴隷と違って、自分の労働力を「自由」に売ることができます。つまり、労働者と資本家の関係は、労働契約を結ぶまでは基本的に自由・平等で、好きな会社と契約を結ぶことができるわけです。 けれども、自由になるのはそこまで。一度、労働力を売ってしまえば、あとはもう奴隷とあまり変わりません。どういうことなのか。 マルクス経済学者の内田義彦よしひこは次のように説いています。 労働者は労働力に対する処分権はもつが、労働に対する処分権など全然もっていない。うそだと思ったら職場で労働を自分の自由に処分してごらんなさい。処分されるのはあなた御自身でしょう。〔中略〕労働力に対する処分能力を100%持つということは労働の処分能力を100%失うということと裏表の関係にあります。(『資本論の世界』78頁) 「労働力に対する処分権」とは、自分の労働力を誰に売るかの選択権です。これは常に労働者の手元にあります。しかし誰かに売った途端、労働者は「労働の処分能力」――つまり働き方の自由を、100%失う。契約を結ぶと、その瞬間から労働者は資本家の指示・命令のもとで働かなければなりません。 それを無視して好き勝手に働けばクビになるだけですよね』、「自分の労働力を誰に売るかの選択権です。これは常に労働者の手元にあります。しかし誰かに売った途端、労働者は「労働の処分能力」――つまり働き方の自由を、100%失う。契約を結ぶと、その瞬間から労働者は資本家の指示・命令のもとで働かなければなりません」、働き口が複数あれば、「労働者」は気に入らないところを止めて、他に移ることも可能な筈だが、そこまでは考慮されてないのかも知れない。
・『労働者は自由でもあり「賃金奴隷」でもある  どのように働くかを決めるのも、その労働が生み出す価値を手にするのも資本家。労働の現場には、自由で平等な関係など存在しないのです。だから、労働問題研究の大家である熊沢誠は、「民主主義は工場の門前で立ちすくむ」と喝破かっぱしたのです。そのことがわかっていても、あらゆるものが商品化された社会では、生きていくために労働者は自らの自由を「自発的に」手放さないといけない。そこに実質的な選択肢はありません。 だから、マルクスは現代の労働者の置かれた状況を奴隷制に喩え、「賃金奴隷」とも呼んだのです。でも、私たちは自分が「奴隷」だなんて認めたくないですよね。自分は自由な存在だと思いたい(だから市場で好きなモノが買えることが資本主義の素晴らしさとして謳われるわけです)。この気持ちを利用して、資本主義は私たちをギリギリのところまで働かせ続けるのです。 もちろん、労働者には、仕事を辞めて劣悪な労働環境から抜け出す「自由」もあります。なのに、なぜ現代のメアリー・アンたちは辞められなかったのか。生活がかかっているし、労働者間にも競争があるので、職場で生き残るために頑張るという面もあるでしょう。でもそれ以上に、マルクスは、ここにも資本主義の魔力があると説いています』、「仕事を辞めて劣悪な労働環境から抜け出す「自由」」が行使できない理由は何なのだろう。
・『労働者を追いつめる“自己責任”という落とし穴  資本主義以前の奴隷は、本人のあずかり知らぬところで売買され、人権も人格も否定されて、家畜のように働かされます。それでも逃げないのは、逃げたら逃げたで酷むごい仕打ちを受けるからです。 彼らは恐怖心から嫌々労働していました。しかし奴隷は、最低限の生存保障はされていました。家畜をむやみに殺したりはしないのと同じで、奴隷所有者は奴隷をモノとしてそれなりに大切に扱ったのです。 ところが資本主義社会では、誰も生存保障をしてくれません。資本主義は、共同体という「富」を解体し、人々を旧来の封建的な主従関係や共同体のしがらみから解放しました。共同体から「自由」になるということは、そこにあった相互扶助、助け合いの関係性からも“フリー”になる――つまり、切り離されてしまうということです。 だから、今は何とか生活できていても、体を壊したり、失業したりすれば生活が立ちゆかなくなって、ホームレスになってしまうかもしれない。そんなリスクに常にさらされている労働者はみな「潜在的貧民」だとマルクスは言います。 国立オリンピック記念青少年総合センターに開設された、 リーマンショック後の派遣村の活動で有名になった湯浅誠が、日本はセーフティーネットが脆弱ぜいじゃくで、一度仕事を失うと一気に生活保護まで落ちてしまう「すべり台社会」だと名付けたことを思い出していただくといいかもしれません。資本主義社会の労働者は、そんな不安定な環境のなかで自分の労働力という商品だけを頼みに、それをどこに売るかも自分で決めて、必死に生きていかなくてはなりません。ここに「自己責任」という落とし穴があります』、「奴隷は、最低限の生存保障はされていました。家畜をむやみに殺したりはしないのと同じで、奴隷所有者は奴隷をモノとしてそれなりに大切に扱ったのです。 ところが資本主義社会では、誰も生存保障をしてくれません。資本主義は、共同体という「富」を解体し、人々を旧来の封建的な主従関係や共同体のしがらみから解放しました。共同体から「自由」になるということは、そこにあった相互扶助、助け合いの関係性からも“フリー”になる――つまり、切り離されてしまうということです。 だから、今は何とか生活できていても、体を壊したり、失業したりすれば生活が立ちゆかなくなって、ホームレスになってしまうかもしれない。そんなリスクに常にさらされている労働者はみな「潜在的貧民」だとマルクスは言います」、「奴隷」より酷いのは確かなようだ。「湯浅誠が、日本はセーフティーネットが脆弱ぜいじゃくで、一度仕事を失うと一気に生活保護まで落ちてしまう「すべり台社会」だと名付けた」、「潜在的貧民」や「すべり台社会」とは言い得て妙だ。
・『「自分で選んでいる」からこそ無理をしてしまう  奴隷は、ただ外的な恐怖に駆られて労働するだけで、彼の生活(彼に属してはいないが保障されてはいる)のために労働するのではない。それに対して、自由な労働者は、自らの必要に駆られて労働する。自由な自己決定、すなわち自由の意識や、それと結びついている責任の感情は、自由な労働者を奴隷よりも遥かに優れた労働者にする。(マルクス「直接的生産過程の諸結果」 労働者を突き動かしているのは、「仕事を失ったら生活できなくなる」という恐怖よりも、「自分で選んで、自発的に働いているのだ」という自負なのです。だからこそ、「職務をまっとうしなくては」という責任感が生じてきます。 実際、就職活動の面接で「なんでも死ぬ気でやります!」と自分の自由を進んで手放した経験のある人は多いのではないでしょうか。最低限の生活を保障されながら嫌々働かされている奴隷との違いは、明らかでしょう。 自己責任の感情をもって仕事に取り組む労働者は、無理やり働かされている奴隷よりもよく働くし、いい仕事をします。そして、ミスをしたら自分を責める。理不尽な命令さえも受け入れて、自分を追い詰めてしまうのです。これは資本家にとって、願ってもないことでしょう。“資本家にとって都合のいい”メンタリティを、労働者が自ら内面化することで、資本の論理に取り込まれていく。政治学者の白井聡さとしは、これを「魂の包摂ほうせつ」と呼んでいます』、「奴隷は、ただ外的な恐怖に駆られて労働するだけで、彼の生活(彼に属してはいないが保障されてはいる)のために労働するのではない。それに対して、自由な労働者は、自らの必要に駆られて労働する。自由な自己決定、すなわち自由の意識や、それと結びついている責任の感情は、自由な労働者を奴隷よりも遥かに優れた労働者にする」、「自己責任の感情をもって仕事に取り組む労働者は、無理やり働かされている奴隷よりもよく働くし、いい仕事をします。そして、ミスをしたら自分を責める。理不尽な命令さえも受け入れて、自分を追い詰めてしまうのです。これは資本家にとって、願ってもないことでしょう。“資本家にとって都合のいい”メンタリティを、労働者が自ら内面化することで、資本の論理に取り込まれていく。政治学者の白井聡さとしは、これを「魂の包摂ほうせつ」と呼んでいます」、資本主義の仕組みは確かによく出来ている。
・『誰もが「モーレツ社員」を目指してしまう  本来、際限のない価値増殖を追求する資本家の利害・関心と、人間らしい生活を望む労働者の利害・関心は相容あいいれないものです。ところが、自由で自発的な労働者は、資本家が望む労働者像を、あたかも自分が目指すべき姿、人間として優れた姿だと思い込むようになっていく。 高度成長期の「モーレツ社員」や、バブル期に流行った栄養ドリンクのキャッチフレーズ「24時間戦えますか」などは、その好例でしょう。資本主義社会では、労働者の自発的な責任感や向上心、主体性といったものが、資本の論理に「包摂」されていくことをマルクスは警告していたのです』、「自由で自発的な労働者は、資本家が望む労働者像を、あたかも自分が目指すべき姿、人間として優れた姿だと思い込むようになっていく。 高度成長期の「モーレツ社員」や、バブル期に流行った栄養ドリンクのキャッチフレーズ「24時間戦えますか」などは、その好例」、確かにその通りだ。ただ、「過労死」は日本でこそ目立つが、欧米では見かけない。「労働者の自発的な責任感や向上心、主体性といったものが、資本の論理に「包摂」されていく」のは、日本こそが最も酷い例なのかも知れない。

次に、3月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「日本企業で働きたくない…アジアで人気ガタ落ち!嫌われる「日本式働き方」とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/319526
・『日本企業で働きたくない海外の人が増えている?  「安いニッポン」「貧しいニッポン」に続いて、いよいよ「人気のないニッポン」にまで落ちぶれてしまったということなのかーー。 早稲田大学トランスナショナルHRM研究所の22年調査によると、アジアのホワイトカラー人材が働きたい企業の国籍は、自国企業が82%とトップになり、ついで米国企業は67%、欧州企業は58%、そして日本企業は40%とビリになったというのだ。 08年にも同様の調査をしたが、その時日本企業で働くことに興味を持っていたのはなんと74%にも及んだという。自国企業の人気が上がったことで、米国企業も欧州企業もみな人気は低下したが、その中でも日本企業がひときわ大きく落ち込んでいる。 では、なぜこんなにも日本企業の人気はガタ落ちしてしまったのか。 この調査を紹介したNIKKEI STYLEの記事が、要因をまとめているので引用させていただこう。 『かつて日系企業で働く障害は圧倒的に言語の壁だった。しかし、22年は言語に次いで、閉鎖的な雰囲気、限定的な昇進、低い報酬を問う声が高まっている。日本の会社の課題は言葉の問題以上に「島国根性」とも呼ばれる閉鎖性なのかもしれない』(NIKKEI STYLE 3月10日) その「閉鎖性」の中でも、特にアジアのホワイトカラーたちが拒否反応を示しているのが、「ホウレンソウ」(報告・連絡・相談)だという。この「ホウレンソウ」についてしっかり考察すると、アジア進出している日本企業が今、時代の岐路に立たされていることが分かる』、「アジアのホワイトカラー人材」のうち「日本企業で働くことに興味を持っている」のが、「08年」「では74%」だったのに、22年調査では、「40%」と、「米国企業は67%、欧州企業は58%」に大きく差を付けられた。「かつて日系企業で働く障害は圧倒的に言語の壁だった。しかし、22年は言語に次いで、閉鎖的な雰囲気、限定的な昇進、低い報酬を問う声が高まっている。日本の会社の課題は言葉の問題以上に「島国根性」とも呼ばれる閉鎖性なのかもしれない』・・・その「閉鎖性」の中でも、特にアジアのホワイトカラーたちが拒否反応を示しているのが、「ホウレンソウ」(報告・連絡・相談)」、「ホウレンソウ」が目の敵にされるとは、どいうことなのだろう。
・『日本のばかばかしい働き方には付き合っていられない  日本人からすれば、社会に出る前から骨の髄まで叩き込まれるこの一般常識は、実は多くのアジア人にとっては、シンプルにイラっとくる非常識だ。筆者もこれまで日本企業で働く外国人から「ホウレンソウ」への不満を幾度となく聞いてきた。「自分の頭で考えて仕事ができないってどういうこと?」「信用されていない感じがしてやる気をなくす」など大不評なのだ。 もちろん、日本企業側からすれば真逆の反応だ。「いくら教えてもホウレンソウをしてこないのでトラブルを察知するのが遅い」などと、日本流に従わない外国人に辟易としている企業も少なくない。 こういう“文化の衝突”は日本が経済大国としてアジアの中でも存在感があった時代は、それほど表面化しなかった。アジアに進出した日系企業は、現地の生活水準に比べるとかなりの高収入が得られる憧れの就職先だったので、「ホウレンソウ」のような不快な日本の企業文化でもがまんをして受け入れる人が多かったからだ。 しかし、ご存じのように今や日本の存在感はガクンと低下した。世界の時価総額ランキングでも30年ほど前は、トップ50社のうち32社は日本企業だったが、現在はトヨタ自動車がかろうじて入っているだけだ。また、賃金もまったく上がっていない。その一方で、中国やベトナム、タイ、インドネシアなどアジア各国が経済成長して、世界的企業も続々と生まれ、日本企業よりも高い賃金を払っている。 つまり、かつて隆盛を誇った日本企業が落ちぶれるのと反比例するような形に、自国企業が成長したことで、これまで黙って従っていたアジアのホワイトワーカーたちが、「やっぱり日本のばかばかしい働き方には付き合ってらんねーや」と声を上げ始めたというわけだ。 このような流れはあまりよろしくない。アジア進出している日本企業への反発が高まることで、そこで働いている、あるいはかつて働いていた現地の人たちが、「日本式の働き方を強要されて精神的苦痛を受けたので賠償せよ」なんて言い出しかねないからだ』、「日本企業で働く外国人から「ホウレンソウ」への不満」、「「自分の頭で考えて仕事ができないってどういうこと?」「信用されていない感じがしてやる気をなくす」など大不評」。「アジアに進出した日系企業は、現地の生活水準に比べるとかなりの高収入が得られる憧れの就職先だったので、「ホウレンソウ」のような不快な日本の企業文化でもがまんをして受け入れる人が多かったからだ。 しかし、」、「かつて隆盛を誇った日本企業が落ちぶれるのと反比例するような形に、自国企業が成長したことで、これまで黙って従っていたアジアのホワイトワーカーたちが、「やっぱり日本のばかばかしい働き方には付き合ってらんねーや」と声を上げ始めたというわけだ」、「日本企業が落ちぶれる」ことの予想外の副作用だ。
・『アジア展開する日本企業の働き方は、かつての日本軍そっくり  「考えすぎだろ」と冷笑する人も多いだろうが、歴史に学べばその可能性はかなり高い。実は今、アジアで日本企業が歩んでいる道というのは、日本軍が歩んできた道と丸かぶりだからだ。 日本企業が現地採用の人に「ホウレンソウ」という日本式の働き方を押し付けてきたことで、反感を抱かれているのとまったく同じで、日本軍もアジアのさまざまな場所に進出をしたが、現地の人々の自主性に任せなかったことで、かなり反感を抱かれた。 当時、現地の人を「土人」と呼び、日本軍は完全に下に見ていた。「どうせお前らは何もわからないんだから日本人のやり方を見習え」と言わんばかりに、さまざまな「日本式」を押し付けたのである。 その代表が「日本語」を用いて、日本人として文化や歴史を学ばせるといういわゆる「皇民化」だ。愛国心あふれる人たちは、これはそれぞれの国の独立や発展に役立ったと主張するが、これは結果論というか後付けの解釈で、やはり当時は「ふざけんなよ」と思う現地の人もたくさんいた。 陸上自衛隊幹部学校研究課研究員の芳賀美智雄氏の『インドネシアにおける日本軍政の功罪』でもこのように総括されている。 <社会教育施策においても、オランダ植民地時代の二重教育制度を改めることにより初等教育の水準を向上させるとともに、共通語としてのインドネシア語の整備・普及によりインドネシア人の民族意識の高揚を助長した。しかし、学校等での日本語教育、朝礼や宮城遥拝、日本時間の採用などインドネシア人の慣習等を無視した急激な日本化の強要は、日本(軍)に対する反発を招いた> その「反発」が1944年2月に農民たちが日本軍に蜂起したタシクマラヤ事件などにつながったというわけである。 このような「日本式の強要」への反発が生まれたのは、インドネシアだけではない。フィリピンでも日本語教育が行われ、日本から多くの教師が派遣されたが、戦局の悪化に伴い、フィリピン人たちの中で「なんでこんな日本式を強要されなきゃいけないんだよ」という不満がムクムクと膨らむ。 木村昭氏の『占領地日本語教育はなぜ「正当化」されたのか ―― 派遣教員が記憶するフィリピン統治 ――』を引用させていただこう。 <戦局の悪化とともに、現地人たちは日本語への学習意欲を喪失したと想定できる。水野輝義の日記にある、社会人向けの授業で「受講者欠席多く困った」という1944年4月21日の記述や、「女学校授業。雰囲気悪い。……この学校は監視の要あり」という8月3日の記述、「リパ女学校各教室を廻る。生徒の態度やや冷淡。日本に対する抵抗か」という8月24日の記述、これらはその証左とみなせよう> 日本に対して不満を抱いていそうなフィリピン人は、憲兵隊から激しい締め付けにあうので、不満が激しい怒りや憎悪になっていく。 戦後、フィリピンで日本軍の残虐な行為を告発する現地の人が相次いだのは、こういう日本式を強要した恨みもあるのだ』、「日本軍もアジアのさまざまな場所に進出をしたが、現地の人々の自主性に任せなかったことで、かなり反感を抱かれた。 当時、現地の人を「土人」と呼び、日本軍は完全に下に見ていた。「どうせお前らは何もわからないんだから日本人のやり方を見習え」と言わんばかりに、さまざまな「日本式」を押し付けたのである。 その代表が「日本語」を用いて、日本人として文化や歴史を学ばせるといういわゆる「皇民化」だ」、「オランダ植民地時代の二重教育制度を改めることにより初等教育の水準を向上させるとともに、共通語としてのインドネシア語の整備・普及によりインドネシア人の民族意識の高揚を助長した。しかし、学校等での日本語教育、朝礼や宮城遥拝、日本時間の採用などインドネシア人の慣習等を無視した急激な日本化の強要は、日本(軍)に対する反発を招いた> その「反発」が1944年2月に農民たちが日本軍に蜂起したタシクマラヤ事件などにつながった」、「フィリピンでも日本語教育が行われ、日本から多くの教師が派遣されたが、戦局の悪化に伴い、フィリピン人たちの中で「なんでこんな日本式を強要されなきゃいけないんだよ」という不満がムクムクと膨らむ」、「<戦局の悪化とともに、現地人たちは日本語への学習意欲を喪失したと想定できる。水野輝義の日記にある、社会人向けの授業で「受講者欠席多く困った」という1944年4月21日の記述や、「女学校授業。雰囲気悪い。……この学校は監視の要あり」という8月3日の記述、「リパ女学校各教室を廻る。生徒の態度やや冷淡。日本に対する抵抗か」という8月24日の記述、これらはその証左とみなせよう> 日本に対して不満を抱いていそうなフィリピン人は、憲兵隊から激しい締め付けにあうので、不満が激しい怒りや憎悪になっていく。 戦後、フィリピンで日本軍の残虐な行為を告発する現地の人が相次いだのは、こういう日本式を強要した恨みもあるのだ』、「インドネシア」、「フィリピン」とも反日になるのは当然だ。
・『日本人の働き方から目を覚さなければいけない  こういう歴史の教訓がある中で、日本企業も日本軍と同じ道をたどる可能性は高い。 「ホウレンソウ」やらの「日本式の強要」が今の日本企業に対する反発を招いている。ということは、今後は日本経済が惨敗していくのに伴い、その「反発」がさらに強まって、日本企業を標的にした、パワハラや低賃金労働を告発するようなムーブメントが起きる可能性がある。 「おいおい、話が飛躍しすぎだ、日本企業と日本軍ではまったく次元が違うだろ」と思うだろう。しかし、実は一流のビジネスマンたちの間では、日本企業と日本軍というのが、組織として非常によく似ており、そこで発生する問題も瓜二つだということはかねて常識になっている。 それはこの記事(『戦地で反省部屋!? 戦後77年たっても変わらない、組織を蝕む「日本病」とは?【書籍オンライン編集部セレクション】』)で紹介されているベストセラーを読めば、よく分かっていただけるだろう。 では、なぜ瓜二つになるのかというと、我々日本人が「日本人の働き方」と思い込んでいるもののほとんどが、「日本軍の働き方」だからだ。 なぜそうなったのかというと、国民総動員体制が大きい。戦局が悪化して、総力戦となった時、民間企業で働く人の多くは「産業戦士」として軍の監督下に置かれて、職場に派遣された軍人の指導の下で、生産力を向上するため、ふ抜けた労働者でもキビキビと動かすノウハウを叩き込まれた。 そして戦争に負けた後、この「日本軍仕込みのマネジメント」は日本中の労働現場に広まっていく。当然だ。戦後復興を支えたのは、この産業戦士か、もしくは実際に軍隊で働いていた人だからだ。つまり、滅私奉公で上官(上司)の命令は絶対で、過労死するまで組織に忠誠を尽くすという日本の企業文化は、日本軍の組織運営を踏襲しただけの話なのだ』、「滅私奉公で上官(上司)の命令は絶対で、過労死するまで組織に忠誠を尽くすという日本の企業文化は、日本軍の組織運営を踏襲しただけの話なのだ」、その通りなのかも知れない。
・『日本軍式マネジメント「命・解・援」  そんな日本軍式マネジメントのひとつが、「命・解・援」だ。これは上官の心得みたいもので、下っ端の兵隊を動かすには、しっかりと命令を下して、「なぜそれをやるのか」「どうやるのか」と解説をしてやって、さらにその命令が実行できるような助言などの援助もしてやらなくてはいけないというものだ。 ここまで言えばもうお分かりだろう。我々がありがたがっている「ホウレンソウ」というのは、「命・解・援」の世界観を部下側から焼き直したものに過ぎない。 つまり、アジアに進出をした日本企業が「組織の風通しをよくするために必要なものだ」なんて、現地採用した外国人に強要している「ホウレンソウ」は、日本軍がかつてやって現地の反発を招いた「日本式の強要」そのものなのだ。違和感や嫌悪感を抱くのは当然だ。 「歴史は繰り返す」ではないが、同じルーツを持つ組織が同じことをやれば、同じ結果になる可能性は高い。日本企業も日本軍と同様の道をたどる恐れがある。今までは経済大国ということで抑え込まれてきた「日本式」への不満が一気に爆発して、大規模なジャパンバッシングを引き起こす恐れもあるのだ。 成長著しいアジア諸国と対照的に、日本の賃金はまったく上がらず成長も停滞している。つまり、経済戦争での惨敗は近い。 そうなった時、「人気のないニッポン」くらいならまだマシで、あの戦争の後のように、「憎いニッポン」が盛り上がることだってある。「日本が好き」と公言してくれるアジアの人々は多いが、それは観光先やアニメなどの文化であって、日本企業や、日本の働き方ではないのだ。 アジア進出している日本企業の皆さんはぜひそのあたりを混同せず、用心していただきたい』、「経済戦争での惨敗は近い。 そうなった時、「人気のないニッポン」くらいならまだマシで、あの戦争の後のように、「憎いニッポン」が盛り上がることだってある。「日本が好き」と公言してくれるアジアの人々は多いが、それは観光先やアニメなどの文化であって、日本企業や、日本の働き方ではないのだ。 アジア進出している日本企業の皆さんはぜひそのあたりを混同せず、用心していただきたい」、確かに有益なアドバイスだ。

第三に、3月31日付け東洋経済オンラインが掲載した経営コンサルタントの日沖 健氏による「「育ててもすぐ退職」一括採用の破綻が招く事態 卒業後すぐ就職できず若年層の失業率は上昇も」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/662387
・『この時期は、人事異動による転勤と新入社員の受け入れで、会社関係の引っ越しが多い「転勤シーズン」です。この3年間、コロナ禍で転勤が抑制されたため、今年は過年度分を含めて大規模な異動を行う企業が多く、引っ越し業者の手配が困難になっています。 ビジネスパーソンにとっては、長かったコロナ禍も終わり、「ようやく春の風物詩が戻ってきた」と感慨深いところかもしれません。ただ、「転勤シーズン」というのは日本独特の慣行で、将来はこの光景が見られなくなる可能性があります。 今回は、将来「転勤シーズン」がなくなることによって起こる日本の雇用システムの劇的な変化について考えてみましょう』、興味深そうだ。
・『アメリカでは転勤はほとんどない  将来について考える前に、なぜ日本では一年のうち今の時期が「転勤シーズン」になっているのでしょうか。これには、日本の雇用システムが大いに関係しています。 多くの日本企業は、社員を数年おきに異動させます。異動には、①人員過剰の部門から人員不足の部門へ異動することで、社員を解雇せずに人員構成を最適化できる、②社員にいろいろな業務を経験させてジェネラリストとして育成できる、というメリットがあるためです。 また日本では、新卒一括採用の慣行があり、4月1日に新入社員が入ってきてます。人員構成が大きく変わるので、既存の社員の異動もこれに併せて一体で行うのが効率的です。これが、今の時期が「転勤シーズン」になっている理由です。 このように、「転勤シーズン」は異動や新卒一括採用という雇用慣行と深く結びついているわけです。ただ、私たちにとって当たり前のこうした雇用慣行は、アメリカなど諸外国ではあまり見られない、日本固有のものです。) たとえばアメリカでは、一握りの上級管理職以外は会社命令による異動はありません。ジョブ型雇用(以下「ジョブ型」)と言われるとおり、担当する職務と勤務地を明確に取り決めて採用します。部門間で人員の過不足が生じたら、人員過剰の部門ではリストラをし、人員不足の部門では採用します。 学生の入社時期はバラバラです。「新しい営業所を作るので営業担当を5人採用」という欠員採用が基本なので、日本企業のように今すぐに働けない大学3・4年生を“先物予約”で採用することはありません。学生は、大学の授業が厳しいこともあって、卒業してから就職活動やインターンを始めます』、「「転勤シーズン」は異動や新卒一括採用という雇用慣行と深く結びついているわけです。ただ、私たちにとって当たり前のこうした雇用慣行は、アメリカなど諸外国ではあまり見られない、日本固有のものです」、その通りだ。
・『ジョブ型で若年層の失業者が急増  ただ、こうした春の風物詩が、ジョブ型によって大きく変わるかもしれません。近年、日立製作所・富士通・KDDIといった企業が、ジョブ型に転換しています。まだ大手企業に限られた動きですが、政府もジョブ型を推奨しており、今後、雪崩を打って転換していく可能性があります。 もちろん、結果的にジョブ型への転換があまり進まなかったり、日本の雇用慣行とミックスさせた「日本式ジョブ型」が主流になる可能性もあり、将来は不透明です。ただ、仮にアメリカ式のジョブ型に転換したら、異動や新卒一括採用を続ける理由がなくなり、消滅します。 異動や新卒一括採用が消滅したら、企業経営だけでなく、家庭生活・学校教育など社会全体に様々な影響が及びます。中でも最も懸念されるのが、若年層の失業率の増加です。 日本では、若年層(15~24歳)の失業率は4.0%(総務省、2023年1月)で、世界平均14.9%(ILO、2022年)と比べて極めて低い水準です。これは、企業が新卒一括採用でまっさらな学生を採用し、OJTや異動で長期間かけて育成するというやり方をしているからです。 一方、ジョブ型は欠員採用が基本なので、即戦力の経験者を中途採用します。経験者が優遇されると、スキル・経験が乏しい若年層は、採用市場であぶれてしまいます。日本でもジョブ型になれば、欧米のように若年層の失業が劇的に増えることでしょう。) いま、岸田文雄首相は、企業にはジョブ型への転換を、労働者にはリスキリング(学び直し)を求めています。ジョブ型になったら失業者が増えるので、職に就きたかったらちゃんとスキルを高めてくださいよ……。理にかなった話です。 問題は、企業の対応です。いま日本企業は、ジョブ型への転換を進める一方、異動・新卒一括採用・OJTによる人材育成・ジェネラリスト志向といった日本独特のやり方を変えていません。アメリカ式の雇用に転換したいのか、日本式を維持したいのか、いわば「股裂き状態」です』、「仮にアメリカ式のジョブ型に転換したら、異動や新卒一括採用を続ける理由がなくなり、消滅します。 異動や新卒一括採用が消滅したら、企業経営だけでなく、家庭生活・学校教育など社会全体に様々な影響が及びます。中でも最も懸念されるのが、若年層の失業率の増加です」、「日本では、若年層(15~24歳)の失業率は4.0%(総務省、2023年1月)で、世界平均14.9%(ILO、2022年)と比べて極めて低い水準です。これは、企業が新卒一括採用でまっさらな学生を採用し、OJTや異動で長期間かけて育成するというやり方をしているからです。 一方、ジョブ型は欠員採用が基本なので、即戦力の経験者を中途採用します。経験者が優遇されると、スキル・経験が乏しい若年層は、採用市場であぶれてしまいます。日本でもジョブ型になれば、欧米のように若年層の失業が劇的に増えることでしょう」、「日本でもジョブ型になれば、欧米のように若年層の失業が劇的に増えることでしょう」、その通りだ。
・『苦労して学生を採用する必要があるのか?  とくに、検討を要するのが、新人の採用です。少子化で新卒学生の数が減り、各社とも採用活動では大苦戦しています。今年は初任給を数万円単位で一気に引き上げる動きが相次いでおり、人材獲得競争がますます熾烈になっています。 今回、大手企業の人事部門関係者32名に、今後の新人採用のあり方についてヒアリングしました。新卒一括採用が継続するという予想と消滅するという予想がかなり拮抗していました。まず、今後も新卒一括採用が続くという予想から。 「当社でも高度専門人材へのニーズが高まっており、中途採用が増えるでしょう。ただ、日本では雇用の安定が重視されますし、移民社会のアメリカとは転職やキャリアに対する考え方も違うので、中途採用が中心になるというのは、ちょっと考えにくい。今後も新卒一括採用はなくならないと予想します」(商社・部長) 「当社のような製造業では、工場の操業に多数の従業員が必要で、数の確保が課題です。新卒一括採用だと多数の新人を効率的に集められますし、中途採用と比べて採用コストも安くすみます。新卒一括採用を中心に、足りない人材を中途採用で補完する形になるでしょう」(素材・マネジャー)) 一方、長期的には新卒一括採用がなくなるという予想。こちらは、「将来も続けたいが持続不可能」という見解が多数と「積極的にやめるべき」という見解が少数ありました。 「当社は今後も新卒一括採用を中心にする方針ですが、持続可能かと聞かれると疑問です。すでに、予定数を採用するのが難しくなっており、質の低下に目をつむっている状態です。今後ますます少子化が進むことを考えると、ある程度の質を維持しながら新卒一括採用を続けるというのは不可能でしょう」(食品・役員) 「当社の経営陣は、事業をグローバル展開すると言いながら、日本人学生の新卒採用にこだわっています。しかも苦労して採用し、手間暇かけて育成した新人が1、2年でどんどん辞めています。個人的には、そんな無駄なことをするよりも、外国人の中途採用を中心にするほうが合理的だと考えます」(外食・担当者) 結局、「将来のことはよくわからない」という結論になるわけですが、これでおしまいにしてはいけません。人事部門関係者は、以下の3つの質問について熟考する必要があります。 ① 自社のビジョン・経営戦略を実現するためには、どういう人材が必要か。 ② 必要な人材を確保するには、「新卒一括採用し、異動・OJTで育成する」のと「即戦力を中途採用する」のでは、どちらが効果的か。 ③ 必要な人材を「新卒一括採用し、異動・OJTで育成する」のと「即戦力を中途採用する」のでは、どちらがトータルコストが低いか。 働き方改革・コロナ・人手不足といった環境変化を受けて、雇用システムが大きく揺れている昨今。逆に、これまでなかなか変えられなかった雇用システムを見直すチャンスと捉えて、思い切った改革を進めたいものです』、「結局、「将来のことはよくわからない」という結論になるわけですが、これでおしまいにしてはいけません。人事部門関係者は、以下の3つの質問について熟考する必要があります。 ① 自社のビジョン・経営戦略を実現するためには、どういう人材が必要か。 ② 必要な人材を確保するには、「新卒一括採用し、異動・OJTで育成する」のと「即戦力を中途採用する」のでは、どちらが効果的か。 ③ 必要な人材を「新卒一括採用し、異動・OJTで育成する」のと「即戦力を中途採用する」のでは、どちらがトータルコストが低いか。 働き方改革・コロナ・人手不足といった環境変化を受けて、雇用システムが大きく揺れている昨今。逆に、これまでなかなか変えられなかった雇用システムを見直すチャンスと捉えて、思い切った改革を進めたいものです」、その通りなのだろう。

なお、明日は更新を休むので、明後日にご期待を!
タグ:働き方改革 (その39)(なぜ死ぬまで働いてしまうのか…マルクスの資本論が150年前に警告していた「過労死の根本原因」とは 斎藤幸平「労働者は"賃金の奴隷"になっている」、日本企業で働きたくない…アジアで人気ガタ落ち!嫌われる「日本式働き方」とは、「育ててもすぐ退職」一括採用の破綻が招く事態 卒業後すぐ就職できず若年層の失業率は上昇も) PRESIDENT ONLINE 斎藤 幸平氏による「なぜ死ぬまで働いてしまうのか…マルクスの資本論が150年前に警告していた「過労死の根本原因」とは 斎藤幸平「労働者は"賃金の奴隷"になっている」」 斎藤幸平『ゼロからの『資本論』』(NHK出版新書) 「労働者は自由に働く会社を選べるがゆえに、自分自身を追い詰めてしまうのだ」、理解するには、解説が必要だ。 「資本主義は、この労働力という「富」を「商品」に閉じ込めてしまう。資本家にとって、自分で購入した労働力商品を使うにあたり、労働者の生活の質や夢、やりがいに配慮することは関心事ではありません。彼らが執心しているのは、労働が生み出す価値の量。それを最大化するために労働を支配していく」、「こうして、生きるために働いていたはずが、働くために生きているかのように本末が転倒していきます。労働力という富が商品に閉じ込められてしまうことで、多くの労働者にとっては、人間が持つ能力の発展が阻害され、使い潰されてしまう」、 「「労働の生き血を求める吸血鬼」の餌食になるのは大人ばかりではありません。『資本論』第1巻第8章「労働日」では、賃労働に駆り出されて学校に通えず、読み書きができない子どもや、大人と一緒に働くなかでタバコや酒を覚えて中毒になる子ども、早死にしてしまう若年労働者たちの、悲惨な実態が仔細しさいに綴られています」、なるほど。 「非常に名高い宮廷用婦人服製造所に雇われ、エリズという優しい名の婦人に搾取されていた20歳の女工メアリー・アン・ウォークリーの死亡に関するものだった。〔中略〕女工たちは1日平均16時間半、だが社交シーズンともなれば30時間休みなく働いた。彼女たちの「労働力」が萎なえてくると、シェリー酒やポートワイン、コーヒーが与えられ、労働を続けさせられたという」、「シェリー酒やポートワイン、コーヒーが与えられ、労働を続けさせられた」、驚くべき奴隷労働だ。 「そして、悲劇は社交季節のピークに起きた。〔中略〕メアリー・アン・ウォークリーは、ほかの60人の女工たちとともに、必要な空気の3分の1も与えないような一室に30人ずつ入って、26時間半休みなく働き、夜は1つの寝室を幾つかの板で仕切った息詰まる部屋で、1つのベッドに2人ずつ寝かされた。しかも、これは、ロンドンでも良い方の婦人服製造工場の一つだった」、 「過労死です。ここでの問題は、メアリー・アンの悲劇が、『資本論』刊行から150年経った今も日本で繰り返されているということです。残念ながら、「昔の社会はこんなひどいことがあったんだ」という解説を付け加える必要がまったくありません』、程度の違いこそれ、「メアリー・アンの悲劇が、『資本論』刊行から150年経った今も日本で繰り返されている」、というのは恥ずべきことだ。 「2008年に居酒屋チェーン「和民」で起きた過労死事件。入社からわずか2カ月で自殺で亡くなった女性は、2カ月の間に227時間もの時間外労働を強要されていました。所定労働時間は8時間、週休2日制と説明されて入社したものの、現場では「店の営業時間が勤務時間」と言われ、長時間労働に加えて休みの日もボランティア活動や経営理念の暗記テスト、レポート書きをさせられていました」、 「大手広告代理店の電通で入社1年目の東大卒の女性が過労自殺で亡くなった事件がありました。職場では長時間労働が常態化し、被災者の女性は1日の睡眠時間が2時間、1週間で10時間しか寝られないこともあった」、「マルクスが生きた時代より、労働者の権利に対する認識や労働環境は改善されているはずなのに、労働者に長時間労働を強いる圧力が弱まることはなく、今なお労働力という「富」の破壊が続いているのです」、全く酷い話だ。 「過酷な長時間労働に、なぜ労働者は抗あらがえないのでしょうか」、「逃げ出せない理由の一つは、労働者が「自由」だからだというのです。「自由だから逃げ出せない」とは、一体どういうことでしょうか。 資本主義社会において、労働者は二重の意味で「自由」だとマルクスは言います。一つは、奴隷のように鎖につながれて強制労働させられているわけではないという意味での「自由」です。士農工商やカーストのような身分制もない社会では、好きな場所で、好きな仕事に就つくことができるのです。 しかし、奴隷や身分制のような不自由から解放された私たちは、同時に生産手段からも「自由(フリー)」になってしまいました。「生産手段フリー」とは、生きていくために必要なものを生産する手立てを持たないということを指します」、「生産手段から切り離されてしまうと、大半の人々はもう自給自足できず商品を買うしかありません。だから、生きていくには、どうにかしてお金を手に入れなければならない」、「生産手段フリー」は「大半の人々はもう自給自足できず商品を買うしかありません」、つまり「労働者」にとっては不利なことになる。 「自分の労働力を誰に売るかの選択権です。これは常に労働者の手元にあります。しかし誰かに売った途端、労働者は「労働の処分能力」――つまり働き方の自由を、100%失う。契約を結ぶと、その瞬間から労働者は資本家の指示・命令のもとで働かなければなりません」、働き口が複数あれば、「労働者」は気に入らないところを止めて、他に移ることも可能な筈だが、そこまでは考慮されてないのかも知れない。 「仕事を辞めて劣悪な労働環境から抜け出す「自由」」が行使できない理由は何なのだろう。 「奴隷は、最低限の生存保障はされていました。家畜をむやみに殺したりはしないのと同じで、奴隷所有者は奴隷をモノとしてそれなりに大切に扱ったのです。 ところが資本主義社会では、誰も生存保障をしてくれません。資本主義は、共同体という「富」を解体し、人々を旧来の封建的な主従関係や共同体のしがらみから解放しました。 共同体から「自由」になるということは、そこにあった相互扶助、助け合いの関係性からも“フリー”になる――つまり、切り離されてしまうということです。 だから、今は何とか生活できていても、体を壊したり、失業したりすれば生活が立ちゆかなくなって、ホームレスになってしまうかもしれない。そんなリスクに常にさらされている労働者はみな「潜在的貧民」だとマルクスは言います」、「奴隷」より酷いのは確かなようだ。 「湯浅誠が、日本はセーフティーネットが脆弱ぜいじゃくで、一度仕事を失うと一気に生活保護まで落ちてしまう「すべり台社会」だと名付けた」、「潜在的貧民」や「すべり台社会」とは言い得て妙だ。 「奴隷は、ただ外的な恐怖に駆られて労働するだけで、彼の生活(彼に属してはいないが保障されてはいる)のために労働するのではない。それに対して、自由な労働者は、自らの必要に駆られて労働する。自由な自己決定、すなわち自由の意識や、それと結びついている責任の感情は、自由な労働者を奴隷よりも遥かに優れた労働者にする」、「自己責任の感情をもって仕事に取り組む労働者は、無理やり働かされている奴隷よりもよく働くし、いい仕事をします。そして、ミスをしたら自分を責める。理不尽な命令さえも受け入れて、自分を追い詰めてしまうので す。これは資本家にとって、願ってもないことでしょう。“資本家にとって都合のいい”メンタリティを、労働者が自ら内面化することで、資本の論理に取り込まれていく。政治学者の白井聡さとしは、これを「魂の包摂ほうせつ」と呼んでいます」、資本主義の仕組みは確かによく出来ている。 「自由で自発的な労働者は、資本家が望む労働者像を、あたかも自分が目指すべき姿、人間として優れた姿だと思い込むようになっていく。 高度成長期の「モーレツ社員」や、バブル期に流行った栄養ドリンクのキャッチフレーズ「24時間戦えますか」などは、その好例」、確かにその通りだ。 ただ、「過労死」は日本でこそ目立つが、欧米では見かけない。「労働者の自発的な責任感や向上心、主体性といったものが、資本の論理に「包摂」されていく」のは、日本こそが最も酷い例なのかも知れない。 ダイヤモンド・オンライン 窪田順生氏による「日本企業で働きたくない…アジアで人気ガタ落ち!嫌われる「日本式働き方」とは」 「アジアのホワイトカラー人材」のうち「日本企業で働くことに興味を持っている」のが、「08年」「では74%」だったのに、22年調査では、「40%」と、「米国企業は67%、欧州企業は58%」に大きく差を付けられた。「かつて日系企業で働く障害は圧倒的に言語の壁だった。しかし、22年は言語に次いで、閉鎖的な雰囲気、限定的な昇進、低い報酬を問う声が高まっている。 日本の会社の課題は言葉の問題以上に「島国根性」とも呼ばれる閉鎖性なのかもしれない』・・・その「閉鎖性」の中でも、特にアジアのホワイトカラーたちが拒否反応を示しているのが、「ホウレンソウ」(報告・連絡・相談)」、「ホウレンソウ」が目の敵にされるとは、どいうことなのだろう。 「日本企業で働く外国人から「ホウレンソウ」への不満」、「「自分の頭で考えて仕事ができないってどういうこと?」「信用されていない感じがしてやる気をなくす」など大不評」。「アジアに進出した日系企業は、現地の生活水準に比べるとかなりの高収入が得られる憧れの就職先だったので、「ホウレンソウ」のような不快な日本の企業文化でもがまんをして受け入れる人が多かったからだ。 しかし、」、「かつて隆盛を誇った日本企業が落ちぶれるのと反比例するような形に、自国企業が成長したことで、これまで黙って従っていたアジアのホワイトワーカーたちが、「やっぱり日本のばかばかしい働き方には付き合ってらんねーや」と声を上げ始めたというわけだ」、「日本企業が落ちぶれる」ことの予想外の副作用だ。 「日本軍もアジアのさまざまな場所に進出をしたが、現地の人々の自主性に任せなかったことで、かなり反感を抱かれた。 当時、現地の人を「土人」と呼び、日本軍は完全に下に見ていた。「どうせお前らは何もわからないんだから日本人のやり方を見習え」と言わんばかりに、さまざまな「日本式」を押し付けたのである。 その代表が「日本語」を用いて、日本人として文化や歴史を学ばせるといういわゆる「皇民化」だ」、 「オランダ植民地時代の二重教育制度を改めることにより初等教育の水準を向上させるとともに、共通語としてのインドネシア語の整備・普及によりインドネシア人の民族意識の高揚を助長した。しかし、学校等での日本語教育、朝礼や宮城遥拝、日本時間の採用などインドネシア人の慣習等を無視した急激な日本化の強要は、日本(軍)に対する反発を招いた> その「反発」が1944年2月に農民たちが日本軍に蜂起したタシクマラヤ事件などにつながった」、 「フィリピンでも日本語教育が行われ、日本から多くの教師が派遣されたが、戦局の悪化に伴い、フィリピン人たちの中で「なんでこんな日本式を強要されなきゃいけないんだよ」という不満がムクムクと膨らむ」、「<戦局の悪化とともに、現地人たちは日本語への学習意欲を喪失したと想定できる。水野輝義の日記にある、社会人向けの授業で「受講者欠席多く困った」という1944年4月21日の記述や、「女学校授業。雰囲気悪い。……この学校は監視の要あり」という8月3日の記述、「リパ女学校各教室を廻る。生徒の態度やや冷淡。日本に対する抵抗 「インドネシア」、「フィリピン」とも反日になるのは当然だ。 「滅私奉公で上官(上司)の命令は絶対で、過労死するまで組織に忠誠を尽くすという日本の企業文化は、日本軍の組織運営を踏襲しただけの話なのだ」、その通りなのかも知れない。 「経済戦争での惨敗は近い。 そうなった時、「人気のないニッポン」くらいならまだマシで、あの戦争の後のように、「憎いニッポン」が盛り上がることだってある。「日本が好き」と公言してくれるアジアの人々は多いが、それは観光先やアニメなどの文化であって、日本企業や、日本の働き方ではないのだ。 アジア進出している日本企業の皆さんはぜひそのあたりを混同せず、用心していただきたい」、確かに有益なアドバイスだ。 東洋経済オンライン 日沖 健氏による「「育ててもすぐ退職」一括採用の破綻が招く事態 卒業後すぐ就職できず若年層の失業率は上昇も」 「「転勤シーズン」は異動や新卒一括採用という雇用慣行と深く結びついているわけです。ただ、私たちにとって当たり前のこうした雇用慣行は、アメリカなど諸外国ではあまり見られない、日本固有のものです」、その通りだ。 「仮にアメリカ式のジョブ型に転換したら、異動や新卒一括採用を続ける理由がなくなり、消滅します。 異動や新卒一括採用が消滅したら、企業経営だけでなく、家庭生活・学校教育など社会全体に様々な影響が及びます。中でも最も懸念されるのが、若年層の失業率の増加です」、 「日本では、若年層(15~24歳)の失業率は4.0%(総務省、2023年1月)で、世界平均14.9%(ILO、2022年)と比べて極めて低い水準です。これは、企業が新卒一括採用でまっさらな学生を採用し、OJTや異動で長期間かけて育成するというやり方をしているからです。 一方、ジョブ型は欠員採用が基本なので、即戦力の経験者を中途採用します。経験者が優遇されると、スキル・経験が乏しい若年層は、採用市場であぶれてしまいます。 日本でもジョブ型になれば、欧米のように若年層の失業が劇的に増えることでしょう」、「日本でもジョブ型になれば、欧米のように若年層の失業が劇的に増えることでしょう」、その通りだ。 「結局、「将来のことはよくわからない」という結論になるわけですが、これでおしまいにしてはいけません。人事部門関係者は、以下の3つの質問について熟考する必要があります。 ① 自社のビジョン・経営戦略を実現するためには、どういう人材が必要か。 ② 必要な人材を確保するには、「新卒一括採用し、異動・OJTで育成する」のと「即戦力を中途採用する」のでは、どちらが効果的か。 ③ 必要な人材を「新卒一括採用し、異動・OJTで育成する」のと「即戦力を中途採用する」のでは、どちらがトータルコストが低いか。 働き方改革・コロナ・人手不足といった環境変化を受けて、雇用システムが大きく揺れている昨今。逆に、これまでなかなか変えられなかった雇用システムを見直すチャンスと捉えて、思い切った改革を進めたいものです」、その通りなのだろう。 なお、明日は更新を休むので、明後日にご期待を!
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政府の賃上げ要請(その6)(賃上げラッシュ「ニッポンの給料」に起こる大異変 26年ぶり高水準 春闘に異例の熱視線が集まる、女たちの賃上げ2題(イオン パート7%賃上げの衝撃 人件費はコストでなく投資、「今年の春闘を変革点に」 UAゼンセン会長が語る賃上げと年収の壁)) [経済政策]

政府の賃上げ要請については、本年2月15日に取上げた。今日は、(その6)(賃上げラッシュ「ニッポンの給料」に起こる大異変 26年ぶり高水準 春闘に異例の熱視線が集まる、女たちの賃上げ2題(イオン パート7%賃上げの衝撃 人件費はコストでなく投資、「今年の春闘を変革点に」 UAゼンセン会長が語る賃上げと年収の壁))である。

先ずは、3月6日付け東洋経済オンライン「賃上げラッシュ「ニッポンの給料」に起こる大異変 26年ぶり高水準、春闘に異例の熱視線が集まる」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/656267
・『ファーストリテイリング、三菱UFJ銀行、トヨタ自動車、任天堂……。春闘が本格化する中、日本企業で続々と賃上げを行う機運が生まれている。 会社が独自に表明したものもあれば、労使交渉を経て、すでに会社が満額回答した例もある。賃上げの幅はさまざまだが、いずれもここ数年では見られなかった異例の高水準だ。 主な理由は物価の上昇にある。ウクライナ戦争に端を発した世界的なエネルギーや食料価格の高騰、さらに内外の金利差拡大に伴う円安が、「輸入インフレ」として日本の消費者を襲っている。 総務省が発表した2022年12月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が前年同月比で4%増と、41年ぶりの上昇率となった。23年1月も同4.3%の上昇率となっている。 物価が上がっているのに給料が上がらなければ、社員の実質賃金はマイナスになり、就業意欲をそぐことになる。そうした事情が企業経営者たちを賃上げに駆り立てているという側面がある』、「ベア率」が今年は上がる可能性が出てきたが、「実質賃金はマイナス」なのは変わらないだろう。
・『26年ぶりの高水準  労務行政研究所が1月30日に発表した「賃上げ等に関するアンケート」の調査結果では、23年の賃上げ見通しが定期昇給分を含め平均2.75%となり、前年を0.75ポイント上回った。厚生労働省が集計する主要企業の賃上げ実績は同調査の見通しを若干上回る傾向があることを踏まえ、ニッセイ基礎研究所は23年春闘の賃上げ率を2.9%(22年実績は2.2%)と想定している。実現すれば、23年の春闘賃上げ率は1997年以来26年ぶりの高水準となる。 ただ足元のインフレ率を考慮すると、これでも十分ではない。 ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎・経済研究部経済調査部長は、「23年春闘は定昇を除くベースアップ(基本給引き上げ)が最終的に1%強にとどまる。賃上げ率は2年連続で消費者物価の伸びを下回る公算が大きい」と指摘する。 電力会社各社が4月以降、料金を値上げすることも消費者物価の押し上げ要因となる。定昇込みで5〜10%レベルの賃上げを表明している一部の大企業を除き、「名目賃金は伸びても、実質賃金は減少しそうだ」(斎藤氏)』、やはり、「名目賃金は伸びても、実質賃金は減少しそうだ」との見方が有力なようだ。
・『24年も流れは続くのか  この先賃上げは、インフレが鎮静化した後も持続するのか。答えはイエス、といえるようなデータがいくつか存在している。 アベノミクス期にあたる12〜19年の間に雇用者数(役員除く)は約500万人増加した。増加した雇用者の7割を非正規が占めるものの、労働力率の高い生産年齢人口(15〜64歳)が少子高齢化で減り続ける日本経済において、これは福音だった。 しかしこの間、労働力人口の大幅な増加が続いたのは、高齢者と女性の労働力率が上がった影響が大きかった。65〜69歳の就業率は21年に初めて50%を超え、低調だった女性の労働参加も欧米先進国を抜いた。出産・子育て期に労働力率が落ち込む「M字カーブ」はほぼ消滅した。 BNPパリバ証券の河野龍太郎・チーフエコノミストは、「年金の支給開始年齢が引き上げられ働かざるをえない人が増えたことなど、いくつかの要因が重なった結果だが、日本の労働供給はいよいよ掘り尽くされ、限界に近づいてきている」と分析する。 労働需給が逼迫すれば、一般的に採用は売り手市場となり、賃金は上昇する。ただ政府が産業界に対し賃上げを求める「官製春闘」を始めても笛吹けど踊らず、実質賃金は13〜18年度平均で前年比0.4%のマイナスだった。 この要因は、賃金水準の低い非正規労働者の比率が上がったことが、平均賃金を押し下げたからなどといったさまざまな分析がある。アベノミクスでの追加的な労働供給の押し上げ余地は限定的であり、これからは本当の人手不足がやってくる可能性が高い。 24年の賃上げについては、ニッセイ基礎研究所が3%、大和総研が2.9%など大手シンクタンクは今のところ23年並みの水準を予測する。企業業績や輸入インフレの動向次第だが、2年連続で直近の比較では高水準の賃上げが行われるとの見立てだ。) 金融市場も今年の春闘には高い関心を寄せている。物価と賃金がダブルで上昇する好循環が実現するかどうかは、「2%物価目標」の達成を掲げる日本銀行の出口戦略を占ううえでも、大きな注目ポイントとなるからだ。 国債の金利や株価、為替の動向は、10年に及んだ日銀の異次元金融緩和策が、いつ、いかなる形で出口に向かうかにかかっている。それゆえ、市場関係者は日銀の政策を必死に見定めている。 では、2%目標に見合う賃金上昇はどの程度なのか。その際に必要な賃金上昇率を日銀は3%程度とみている。黒田東彦総裁は昨年5月の講演で、「生産性と物価の上昇率と整合的で、持続可能な名目賃金の上昇率は3%程度ということになる」と述べている。 2%弱の定昇を含めれば、日銀が目指すマクロの賃金上昇3%の達成には毎年5%近くの賃上げが必要になる。ただ下図のとおり、ここ数年の春闘賃上げ率は2%前後。2.75%と予測されている今年の水準から見ても、実現のハードルはかなり高いことがわかる』、「2%弱の定昇を含めれば、日銀が目指すマクロの賃金上昇3%の達成には毎年5%近くの賃上げが必要になる。ただ・・・ここ数年の春闘賃上げ率は2%前後。2.75%と予測されている今年の水準から見ても、実現のハードルはかなり高い」、なるほど。
・『「ノルム」の変化がカギ  みずほリサーチ&テクノロジーズの門間一夫・エグゼクティブエコノミストは、「日銀のいう『物価と賃金の好循環』は生産性とは関係なく、物価に関する『ノルム(常識ないし規範)』の変化を指す。分岐点となる24年春闘の結果から、人々の中長期の期待インフレ率、つまりノルムの変化が確認できるかどうかが日銀の出口戦略においてカギを握る」と語る。 折しも日銀の総裁は、今年4月から学者出身の植田和男氏が起用される見通し。「植田新総裁はノルムの変化が起きているかをじっくり見極め、出口戦略の時期を探る」(門間氏)とみられている。 舵取りは容易ではない。金融緩和の縮小によって企業が採用意欲を失い、労働需要が冷え込んでしまえば元も子もない。たとえ人手不足であっても賃金の上昇は期待できなくなる。23〜24年の春闘は賃金の上昇を好機に変え、生産性向上や消費の拡大につなげていけるのか。「ニッポンの給料」は大きな転換期を迎えている』、「分岐点となる24年春闘の結果から、人々の中長期の期待インフレ率、つまりノルムの変化が確認できるかどうかが日銀の出口戦略においてカギを握る」、「ノルムの変化が確認でき」そうもないが、「植田新総裁は」「出口戦略の時期を探る」のは先送りされるのだろうか。

次に、3月9日付け日経ビジネスオンライン「[新連載]イオン、パート7%賃上げの衝撃 人件費はコストでなく投資 女たちの賃上げ【1】」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00342/030800081/
・『イオンなど流通大手が相次ぎ、女性を主力としたパートへの大幅な賃上げを打ち出している。人手不足対策に加えて、彼女らの経験や知恵で厳しい競争に打ち勝つ狙いだ。人件費はコストでなく投資――。イオンの渡邉廣之副社長は「今回の賃上げはスタートにすぎない」と話す。世界有数の男女間の賃金格差を解消できれば、日本が再成長する原動力にもなる』、「人件費はコストでなく投資」とは思い切った発言だ。
・『主な連載予定(タイトルや回数は変わる可能性があります)・イオン、パート7%賃上げの衝撃 人件費はコストでなく投資(今回) ・103万円の壁はいらない 連合会長「女性の収入増を後押し」 ・賃上げで大量離職にストップ 日本生命社長「長く安定して活躍を」 ・NTTとJTB、「リモート」で育児と両立 コロナ禍対応を奇貨に ・富士通と日立、「ジョブ型」で女性はキャリアを自ら選び取る ・スタートアップも男性優位社会 「出産の壁」を壊せ、女性起業家 ・「売り場の魅力を高めるには賃上げが不可欠」ライフ岩崎社長 ・「配偶者手当を廃止し、子ども手当に」昭和女子大・八代特命教授  今年2月、イオンが約40万人に上るパートの時給を平均7%引き上げる方針を明らかにし、流通業界に激震が走った。同社として過去最大の賃上げとなり、人件費は300億円ほど増加する見通し。年間に120万円程度を稼いでいたパートの年収は128万円に増える。この賃上げの恩恵を受ける約8割が女性だ。 千葉市内にあるイオンの大型総合スーパー「イオンスタイル幕張新都心」でパートとして働く(左から)花井澄江さん、辻本有紀子さん、渡辺三佳さん、萩原勝利さん(写真:的野 弘路) 千葉市内の大型総合スーパー「イオンスタイル幕張新都心」でパートとして働く花井澄江さん(51)はその一人。「最近は食品も電気代も、ガソリン代まで値上がりし生活が圧迫されていた。時給が上がるのはありがたい」と話し、胸をなで下ろす。 イオンが示した7%という賃上げ水準は、流通や外食、繊維などの労働組合が加盟するUAゼンセンが今年の春闘で示した6%を上回る。その背景を同社の渡邉廣之副社長はこう説明する。「パートの採用環境は厳しく、優秀な人は奪い合いになっている。競争力のある賃金体系を示せなければ生き残っていけない」 「もう横並びでパート賃金は決めない」 厚生労働省によると、新型コロナウイルス禍で低下していた全国のパート有効求人倍率は2021年5月の1.00倍を底に反転し、22年12月には1.48倍まで上昇した。人手不足を主因とした倒産が増加していた18年や19年の水準(それぞれ1.82倍と1.76倍、年平均)にじわりと近づいている。「実感としては、コロナ禍前よりも人材の確保は難しくなっている」と多くの関係者は口をそろえる。 今年の春闘では、トヨタ自動車が賃上げと一時金についての労組の要求に満額回答するなど、賃上げのうねりが産業界全体に広がっている。だが、そうした動きに先駆けて昨年から大幅な賃上げに動いているのが、国内で大量の労働力を必要とする第3次産業だ。パートやアルバイトなど非正規雇用の比率が高く、その大半を女性が占める。人手不足が当面続きそうなことを考えると、これまで低い水準に抑え込まれていた非正規の女性の賃金が上昇に転じる転換点に差し掛かった可能性が高い。 賃上げの動きが拡大しているのは人手不足対策だけが理由ではない。現場で女性たちが担ってきた仕事を評価し直し、これに正しく報いることで危機を乗り越えようとする狙いも透ける。イオンの渡邉副社長は「(競合スーパーと)横並びで賃金を決める考え方からはもう離れたいと思う」とも打ち明け、「(人件費は)コストではなく投資。その水準を自主的に考えるタイミングが来ている」と話す』、「昨年から大幅な賃上げに動いているのが、国内で大量の労働力を必要とする第3次産業だ。パートやアルバイトなど非正規雇用の比率が高く、その大半を女性が占める。人手不足が当面続きそうなことを考えると、これまで低い水準に抑え込まれていた非正規の女性の賃金が上昇に転じる転換点に差し掛かった可能性が高い」、「現場で女性たちが担ってきた仕事を評価し直し、これに正しく報いることで危機を乗り越えようとする狙いも透ける。イオンの渡邉副社長は「(競合スーパーと)横並びで賃金を決める考え方からはもう離れたいと思う」とも打ち明け、「(人件費は)コストではなく投資。その水準を自主的に考えるタイミングが来ている」、「イオン」の考え方は。「これまで低い水準に抑え込まれていた非正規の女性の賃金が上昇に転じる転換点に差し掛かった可能性が」高く、極めてインパクトが大きい。

第三に、3月13日付け日経ビジネスオンライン「「今年の春闘を変革点に」 UAゼンセン会長が語る賃上げと年収の壁 女たちの賃上げ【3】」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00342/031000083/
・『パートの賃金を引き上げる動きが広がり、政府もパートに就業調整を強いてきた「年収の壁」の見直しに動き出した。「これからは働く側が企業を選ぶ時代になる。パートの位置づけは変わりつつある」――。短時間で働く女性組合員を多く抱える日本最大の産業別労組UAゼンセンの松浦昭彦会長はこう指摘する。年収の壁については「制度を抜本的につくり変える時期が来ている」と話し、パートのリスキリングを通じた生産性向上の必要性も説く』、「政府もパートに就業調整を強いてきた「年収の壁」の見直しに動き出した」、遅まきながらよい動きだ。
・『主な連載予定  タイトルや回数は変わる可能性があります ・イオン、パート7%賃上げの衝撃 人件費はコストでなく投資 ・年収の壁は撤廃を 連合会長が激白「このままでは企業がもたない」 ・「今年の春闘を変革点に」 UAゼンセン会長が語る賃上げと年収の壁(今回) ・賃上げで大量離職にストップ 日生社長「長く安定して活躍を」 ・NTTとJTB、「リモート」で育児と両立 コロナ禍対応を奇貨に ・富士通と日立、「ジョブ型」で女性はキャリアを自ら選び取る ・スタートアップも男性優位社会 「出産の壁」を壊せ、女性起業家 ・「売り場の魅力を高めるには賃上げが不可欠」ライフ岩崎社長 ・「配偶者手当を廃止し、子ども手当に」昭和女子大・八代特命教授 Qは聞き手の質問  Q:UAゼンセンは今回の春闘で6%程度の賃上げを掲げました。連合(5%程度)を上回る水準です。 松浦昭彦UAゼンセン会長(以下、松浦氏):UAゼンセンは飲食業や食品製造業、それに小売業など、賃金水準が相対的に低い業種の組合員を多く抱えています。加えて、中小規模の組合や、正社員以外の方々の割合も多い。組合員の約6割は女性で、同じく約6割が短時間で働く方です。物価の上昇が生活に与える影響は大きく、組合員の生活を守るためには高い水準の賃上げを実現しなければなりません。 加えて、我々は今回の春闘を大きな変革点にしたいとも考えています。長年にわたって停滞してきた賃金を継続的に上げていく変わり目としたい。ですから、たとえ来年の物価上昇率が1%台に戻ったとしても、賃上げ水準をかつてのような低いレベルに戻すことは考えていません。 (松浦会長の略歴はリンク先参照) Q:パートの時給を平均で7%引き上げると表明したイオンを筆頭に、非正規社員、特にパートの待遇の見直しに動く企業が相次いでいます。 松浦氏:これまでは主婦やシニアの方が次々とパートとして働きに出てきました。企業は募集すればいくらでも人を採用できたかもしれません。しかし状況は変わりました。働く意欲のある方はもう実際に働いています。これ以上はもう増えないでしょう。雇用調整の対象になりやすかったパートの位置づけは変わったのです。これからは働く側が企業を選ぶ時代になる。それを理解しているから企業側も「選ばれる存在」になるために動き出しているのではないかと思います。企業としては、とにかく長く働いてほしいという感覚を強めているのではないでしょうか。 正社員とパートの違いも小さくなってきています。UAゼンセンの組合員でも、勤続10年以上とか、雇用期間に定めがない、つまり無期雇用に転換したパートの方々が多くおります。正社員とほぼ同じように働いている方がたくさんいらっしゃるのです』、「雇用調整の対象になりやすかったパートの位置づけは変わったのです。これからは働く側が企業を選ぶ時代になる。それを理解しているから企業側も「選ばれる存在」になるために動き出しているのではないかと思います。企業としては、とにかく長く働いてほしいという感覚を強めているのではないでしょうか。 正社員とパートの違いも小さくなってきています」、「UAゼンセンの組合員でも、勤続10年以上とか、雇用期間に定めがない、つまり無期雇用に転換したパートの方々が多くおります。正社員とほぼ同じように働いている方がたくさんいらっしゃるのです」、そこまで「正社員とパートの違いも小さくなってきて」いるとは初めて知った。
・『現場のパートにこそリスキリングを  特に流通の現場では、パートの方々が基幹的な仕事を担っています。それには理由があります。1980年代のスーパーの入社式を見たことがありますか。新入社員の圧倒的多数は女性でした。当時の社会背景もあって、多くは結婚や出産を機に退職していきました。そして子育てが一段落した90年代や2000年代になると、今度はパートとして現場に戻ってくる。元正社員ですから職場のことも仕事のこともよく分かっている。ですから当然、戦力になるわけです。 正社員のようにいつでも残業できるとか、どこでも転勤できるというわけではありません。働く時間の制約もある。でもパートが担ってきた仕事については、もっと評価されてしかるべきだと思います。新型コロナウイルス禍でも(社会機能の維持に必要な)エッセンシャルワーカーとして活躍しました。パートの方々の声を聞くと、「自分のやっている仕事は世の中の役に立っている」という意識を非常に強く持っていることが分かります。企業としても、強い思いを持ったパートに最大限能力を発揮してもらいたいと思っているはずです。 Q:確かに、賃上げをするだけではなく、パートとして働く人のスキルも高めて生産性を向上させようとする動きもあります。 松浦氏:多くの産業で仕事の在り方は大きく変わります。スーパーでも、セルフレジが導入されたり、AI(人工知能)を活用した発注の仕組みが導入されたりするなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいます。 DXへの対応が求められるのは正社員ばかりではありません。むしろ現場のことをよく分かっているパートの方々こそデジタル教育やリスキリングが必要だと思います。どうしたらDXで業務を効率化できるか、顧客へのサービスを向上させられるかといった点について深い知見を持っているのは、現場の第一線に立っているパートの方々だからです。パートの付加価値をどう高めていくかは、企業にとって重要な課題になるでしょう』、「現場のことをよく分かっているパートの方々こそデジタル教育やリスキリングが必要だと思います。どうしたらDXで業務を効率化できるか、顧客へのサービスを向上させられるかといった点について深い知見を持っているのは、現場の第一線に立っているパートの方々だからです」、その通りだ。
・『「日本は変な制度を持っているね」  Q:パートの就業調整を招いていた、いわゆる「年収の壁」についても、ようやく見直しの機運が出てきました。 松浦氏:制度を抜本的につくり変えるべき時期に来ていると思います。なぜ(夫などに扶養されている)配偶者は第3号被保険者として社会保険料の支払いが免除されるのか。同じ収入で配偶者のいない方は保険料を負担する必要があるのです。(収入のない)専業主婦に近いという理由で免除される根拠を私は示すことができません。海外の労組の方と話していると、「日本は変な制度を持っているね」と不思議がられます。 Q:年収の壁への対応として、自民党内などでは社会保険料の労働者負担分を補助金で穴埋めする案などが浮上しています。 松浦氏:保険料を支払うべき人を補助するというのは目的としては逆行していると思います。今の制度ありきではなく、第3号被保険者制度の背景にある基礎年金制度そのものについて根本から見直していくような議論をしていくべきだと思います。社会保険料の支払いは確かに負担かもしれませんが、将来の生活の支えにもなります。働いている人が広く薄く負担する仕組みが必要ではないでしょうか。 Q:パートについて賃上げが必要な背景は見えてきました。一方で正社員についてはどうでしょうか。正社員の領域でも男女間の格差は歴然として存在します。 松浦氏:例えば女性の場合、育休を取ったことで巻き返しが不可能なほどに昇進が遅れるという状況がまだ残っています。女性だけが育休を取るというのも問題ですが、仮にそうなった場合でも、1年も遅れることなく昇進できる仕組みになっているか。まだ企業はそこまで踏み切れていないという感じはします。 家庭の責任を配偶者(妻)に押し付けて、残業も転勤もいとわず働ける人を評価する企業の組織風土はまだ残っています。もっとも、最近は女性役員の比率を定めたり、賃金差の公表を義務化したりする動きがあります。こうした「結果」からアプローチするしかないのでしょう。 加えて、男性が育休を取ることが企業にとって付加価値になるような取り組みや仕組みも必要だと思います。「会社のためにも育休を取ってください」と言わなければ、制度があると言ったところで多くの男性は結局休めない。多くの企業は男性社員を休ませたくない、その社員の配偶者に休んでもらえばいいと思っているのかもしれません。この配偶者の会社も同じようなことを考えているとすれば、状況はいつまでたっても変わらない。だからこそ育休取得の推進が会社にとって付加価値になる仕組みが必要です。 課題は多くあります。また企業が置かれている環境は厳しく、容易に賃上げができる状況ではないことも理解しています。ただパートの待遇改善の機運が出てきたことや、政労使が継続的な賃上げに向けて歴史的にもまれな形で足並みをそろえている今の流れは大事にしたい。加えて、働き方や制度の見直しを進めていくことができれば、持続可能な成長は実現するはずです』、「育休取得の推進が会社にとって付加価値になる仕組みが必要です」、「パートの待遇改善の機運が出てきたことや、政労使が継続的な賃上げに向けて歴史的にもまれな形で足並みをそろえている今の流れは大事にしたい。加えて、働き方や制度の見直しを進めていくことができれば、持続可能な成長は実現するはずです」、「政労使が継続的な賃上げに向けて歴史的にもまれな形で足並みをそろえている」、「政労使」の動きが実ってほしいものだ。
タグ:「2%弱の定昇を含めれば、日銀が目指すマクロの賃金上昇3%の達成には毎年5%近くの賃上げが必要になる。ただ・・・ここ数年の春闘賃上げ率は2%前後。2.75%と予測されている今年の水準から見ても、実現のハードルはかなり高い」、なるほど。 やはり、「名目賃金は伸びても、実質賃金は減少しそうだ」との見方が有力なようだ。 「ベア率」が今年は上がる可能性が出てきたが、「実質賃金はマイナス」なのは変わらないだろう。 東洋経済オンライン「賃上げラッシュ「ニッポンの給料」に起こる大異変 26年ぶり高水準、春闘に異例の熱視線が集まる」 政府の賃上げ要請 (その6)(賃上げラッシュ「ニッポンの給料」に起こる大異変 26年ぶり高水準 春闘に異例の熱視線が集まる、女たちの賃上げ2題(イオン パート7%賃上げの衝撃 人件費はコストでなく投資、「今年の春闘を変革点に」 UAゼンセン会長が語る賃上げと年収の壁)) 「分岐点となる24年春闘の結果から、人々の中長期の期待インフレ率、つまりノルムの変化が確認できるかどうかが日銀の出口戦略においてカギを握る」、「ノルムの変化が確認でき」そうもないが、「植田新総裁は」「出口戦略の時期を探る」のは先送りされるのだろうか。 日経ビジネスオンライン「[新連載]イオン、パート7%賃上げの衝撃 人件費はコストでなく投資 女たちの賃上げ【1】」 「人件費はコストでなく投資」とは思い切った発言だ。 「昨年から大幅な賃上げに動いているのが、国内で大量の労働力を必要とする第3次産業だ。パートやアルバイトなど非正規雇用の比率が高く、その大半を女性が占める。人手不足が当面続きそうなことを考えると、これまで低い水準に抑え込まれていた非正規の女性の賃金が上昇に転じる転換点に差し掛かった可能性が高い」、「現場で女性たちが担ってきた仕事を評価し直し、これに正しく報いることで危機を乗り越えようとする狙いも透ける。 イオンの渡邉副社長は「(競合スーパーと)横並びで賃金を決める考え方からはもう離れたいと思う」とも打ち明け、「(人件費は)コストではなく投資。その水準を自主的に考えるタイミングが来ている」、「イオン」の考え方は。「これまで低い水準に抑え込まれていた非正規の女性の賃金が上昇に転じる転換点に差し掛かった可能性が」高く、極めてインパクトが大きい。 日経ビジネスオンライン「「今年の春闘を変革点に」 UAゼンセン会長が語る賃上げと年収の壁 女たちの賃上げ【3】」 「政府もパートに就業調整を強いてきた「年収の壁」の見直しに動き出した」、遅まきながらよい動きだ。 「雇用調整の対象になりやすかったパートの位置づけは変わったのです。これからは働く側が企業を選ぶ時代になる。それを理解しているから企業側も「選ばれる存在」になるために動き出しているのではないかと思います。企業としては、とにかく長く働いてほしいという感覚を強めているのではないでしょうか。 正社員とパートの違いも小さくなってきています」、 「UAゼンセンの組合員でも、勤続10年以上とか、雇用期間に定めがない、つまり無期雇用に転換したパートの方々が多くおります。正社員とほぼ同じように働いている方がたくさんいらっしゃるのです」、そこまで「正社員とパートの違いも小さくなってきて」いるとは初めて知った。 「現場のことをよく分かっているパートの方々こそデジタル教育やリスキリングが必要だと思います。どうしたらDXで業務を効率化できるか、顧客へのサービスを向上させられるかといった点について深い知見を持っているのは、現場の第一線に立っているパートの方々だからです」、その通りだ。 「育休取得の推進が会社にとって付加価値になる仕組みが必要です」、「パートの待遇改善の機運が出てきたことや、政労使が継続的な賃上げに向けて歴史的にもまれな形で足並みをそろえている今の流れは大事にしたい。加えて、働き方や制度の見直しを進めていくことができれば、持続可能な成長は実現するはずです」、「政労使が継続的な賃上げに向けて歴史的にもまれな形で足並みをそろえている」、「政労使」の動きが実ってほしいものだ。
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政府財政問題(その8)(ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔、「財源確保法案」に透けて見える財務省の思惑と重大な問題点を解説、国民負担率47.5%の先に待つ日本の最悪シナリオ 大増税時代「唯一の希望は投資」超格差化に拍車) [経済政策]

政府財政問題については、昨年3月18日に取上げた。今日は、(その8)(ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔、「財源確保法案」に透けて見える財務省の思惑と重大な問題点を解説、国民負担率47.5%の先に待つ日本の最悪シナリオ 大増税時代「唯一の希望は投資」超格差化に拍車)である。

先ずは、昨年6月13日付けエコノミストOnlineが掲載した桃山学院大学教授の小嶌正稔氏による「ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220621/se1/00m/020/058000c
・『ガソリン  足元で高値が続いている原油価格。その対策として導入された補助金政策は実効性に疑問がある』、どういうことだろう。
・『政府の原油高騰対策は“石油業界の支援”策=小嶌正稔  2022年4月26日、政府は「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」を発表した。これにより、時限的・緊急避難措置とされていた「原油価格高騰の激変緩和措置」は拡充され、「原油価格高騰対策」として、7月10日の参議院選挙後の9月末まで延長されることになった。原油価格高騰対策に投入される国費は、総合緊急対策全体の4分の1を占める1.5兆円にもなる。 原油価格高騰対策が動き出したのは21年11月。開始時は時限的・緊急避難的な激変緩和措置と位置付けられ、とにかく迅速な対策実施に重点が置かれた。このため民間企業(石油元売り会社)に国費(補助金)を支給するという、通常は考えられない政策が動き出した。 具体的には、レギュラーガソリンの全国平均小売価格1リットル当たり170円を基準価格とし、価格が上昇した分は、1リットル当たり5円を上限として、石油元売り会社に補助金を支給する。基準価格は4週間ごとに1円ずつ切り上げるとした。この段階的な切り上げは、対策終了時を意識した激変緩和の措置だ』、「原油価格高騰対策に投入される国費は・・・1.5兆円」、「民間企業・・・に国費(補助金)を支給するという、通常は考えられない政策」、その通りだ。
・『不可解な算定基準  対策は22年1月27日から実施されたが、原油価格の高騰は止まらず、2月21日には上限の5円を超えた。2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が始まると、政府は3月10日から補助金支給の上限を25円に引き上げたほか、基準価格の算定方式を変えた。 3月7日までは原油価格の変動分を補助金の算定基準としてきたが、これに小売価格の変動分を追加した。このため、仮にガソリンスタンドが自社の経営状況によって小売価格を変更すれば、それが補助金の金額に反映される仕組みとなった。 表1に4月19日までの補助金支給額と価格抑制効果をまとめた。抑制効果の差額がマイナスになっているのは、補助金相当分まで価格が下がっていないことを意味している。 原油価格の変動のみを基準としていた1月31日~3月7日の補助金支給額の累計は1リットル当たり27.1円で、価格上昇抑制効果は同25.3円。差の1.8円は徐々に解消される程度の水準だった。 しかし、新たな算定基準後は、支給累計額が184.1円に増加したものの抑制効果は174.9円で、差は9.2円に拡大した。それを油種別に見ると、レギュラーガソリンが11円、軽油が10.8円、灯油は12.6円に拡大している。これらの合計34.4円が、支給額と抑制効果の差となる。これだけ差が拡大すれば「原油価格高騰対策ではなく、石油業界支援策だ」と見られても仕方がないのではないか。 石油元売り各社への補助金は、4月から支給上限額が1リットル=25円から35円に引き上げられた。さらに補助金の基準価格は、172円程度から168円程度に引き下げられ、基準価格を超えた分は2分の1を支援する仕組みとなった。 この変更は話題となっている「トリガー条項」と微妙に関係している。この場合の「トリガー条項」とは、揮発油税(ガソリン税)の暫定税率を一時的に停止する税制の条項で、総務省が毎月発表しているガソリンの全国平均小売価格が、3カ月連続で160円を超えた場合、暫定税率分=25.1円を停止し、原油高騰が一段落し、3カ月連続で130円を下回れば税率を元に戻すという施策だ。今までトリガー条項が発動されたことはない。 トリガー条項の160円は、10年当時の消費税5%を差し引くと本体152.38円で、これに現在の消費税10%を掛ければ167.6円となる。前述の基準価格を172円から168円に引き下げたのは、実はトリガー条項を発動することなく、これを適用した結果だ。補助金の35円への増額も同じで、4月4日の全国平均小売価格は、補助金がないと仮定すると、203円程度になる。これと168円との差は35円で、トリガー条項の基準がそのまま適用されているといえよう。 トリガー条項解除の要件の130円は、現在の税率に直すと136円で、原油をめぐる情勢を考えれば、当面の間は136円に戻るとは考えにくい。政府はトリガー条項を実質的に発動して、後のことは別途考えるという姿勢なのだろう』、「政府はトリガー条項を実質的に発動して、後のことは別途考えるという姿勢」、なるほど。
・『基準価格にも疑問  ただし、ここで注意が必要だ。トリガー条項と今回の緊急対策とでは、算定基準となる全国平均小売価格に根本的な違いがある。 トリガー条項の小売平均価格は、総務省の「小売物価統計調査」の価格であり、その価格は消費者が購入したフルサービスの現金ガソリン価格だ。現在は70%以上のガソリンがセルフサービスのガソリンスタンドで購入されていることを考えれば、時代遅れの規定ともいえる。この価格には、掛け売りや会員価格、価格割引の給油カードなどは含まれないため、消費者が購入する最も高い価格が基準となっている。ただし、この価格は消費者が実際に購入した価格の統計データだ。 一方、今回の緊急対策の全国平均小売価格は、あくまでガソリンスタンドの販売価格だ。ガソリンスタンドの価格は、現金価格、会員価格、カード会員価格など9種類の価格が存在し、看板にも複数の価格が掲示されている。緊急対策の全国平均小売価格は、小売業者が報告する報告価格であり、業者の価格意識が反映された価格のため、透明性は希薄だ。ドイツの価格表示は、基本的にそのガソリンスタンドで販売される最低価格が報告対象だ。政府は補助金を投入するならば最低限の価格を基準とするべきだろう。 ガソリンスタンドでの販売価格は、各ガソリンスタンドが決める。各店で小売価格に差があるのは、製油所や油槽所からの距離など、コスト面で違いがあるからといわれている。しかし、実際はこれでは説明できない。全国ベースで石油元売り会社からの卸売価格(22年3月時点)の差を見ると、最高で3.4円の開きがあるが、小売価格の差は12.9円もある(表3)。 表2は、製油所のある県の22年3月の小売価格、卸売価格、小売りマージンをまとめたものだ。製油所のある県同士の卸売価格の差は1.8円にとどまるが、小売価格差は10.7円もある。卸売価格が最低の大分県の小売価格は最も高く、大分県の平均マージンは25.8円で、マージン格差は43%もある。 さらに、消費者の購買データを集めた5月12日の民間調査会社のデータを見ると、最安値の愛知県が159.6円、最も高い高知県は178.2円で、18.6円も差がある。同じ愛知県内でも最安値は148円で、最高値は192円。差は44円もある。 すなわち、小売価格は小売市場の競争状況を強く反映するのであり、補助金を出すならば、原油価格の変動分を対象にすることでのみ、透明性を維持できるということだ』、「トリガー条項の小売平均価格は、総務省の「小売物価統計調査」の価格であり、その価格は消費者が購入したフルサービスの現金ガソリン価格だ。現在は70%以上のガソリンがセルフサービスのガソリンスタンドで購入されていることを考えれば、時代遅れの規定ともいえる」、「補助金を出すならば、原油価格の変動分を対象にすることでのみ、透明性を維持できる」、その通りだ。
・『整合性がない  政府の総合緊急対策では、物価高などに直面する生活困窮者への支援を打ち出しているが、ここでも原油価格高騰対策との整合性に疑問符がつく。 表4は、電気、ガス、灯油、ガソリンの支出に占める割合を所得分位別に見たものだが、地域別に大きな格差のある灯油を除けば、電気代は所得が低い第1分位の支出の割合が多く、ガソリン代は所得間格差が最も小さい。灯油は、最も支出の大きい青森市と最低の大阪市では約40倍も支出額が異なる。 灯油は地域間格差が大きいので、地域別に対策を実施すべき油種であり、全国一律に行う対策には適していない。 筆者は原油の価格高騰対策自体は否定していない。しかし、価格を通して製品の需給を調整する市場メカニズムをゆがめてはならない。ガソリン価格が高ければ節約することで需要が減少し、価格を引き下げる。また、消費者が少しでも安いガソリンスタンドで購入することで、価格は調整されていく。 だが、今回の緊急対策は、基準価格を引き下げることで消費を喚起した。施策を再検証の上で必要な見直しをする必要があろう』、「今回の緊急対策は、基準価格を引き下げることで消費を喚起した」、「施策を再検証の上で必要な見直しをする必要があろう」、当然だ。

次に、2月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した室伏政策研究室代表・政策コンサルタントの室伏謙一氏による「「財源確保法案」に透けて見える財務省の思惑と重大な問題点を解説」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/317747
・『いわゆる「財源確保法案」を立案し、今国会に提出することとされた。正式名称は「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法案」というこの法案は大いに問題があると言わざるを得ない。何がどう問題なのか、問題となり得るのか、について解説していく』、興味深そうだ。
・『「財源確保法案」に透けて見える財務省の思惑  去る1月23日、第211回国会(常会)が開会した。6月21日の会期末まで、来年度予算案やさまざまな法案の審議が行われる。今国会における岸田政権の懸案事項の一つといえば、昨年末より議論が続いている防衛費増額のための財源問題である。 この件については、財源は増税によることで決着がついた、と一般には認識されていることが多いようであるが、実際にはその一部を税によることとする方向性が決まっただけであって、具体的な時期等まで決まったわけではない。税以外の部分については、特別会計の剰余金等の一部の繰り入れや独立行政法人の積立金等の一部の国庫返納、そして歳出改革によることとされ、防衛関係経費をプールしておくために防衛力強化資金を設置することとしている。それらを実施するための法的根拠として、財源確保法案なるものを立案し、今国会に提出することとされた。その法案、正式名称は「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法案」である。 そしてこの法案、大いに問題ある法案であるのだが、全くと言っていいほど詳しく報じられたり、解説されたりすることがない。そこで、本稿において、筆者として気づいた点を中心に、何がどう問題なのか、問題となり得るのかについて解説することとしたい』、「財源確保法案」は、「大いに問題ある法案であるのだが、全くと言っていいほど詳しく報じられたり、解説されたりすることがない。そこで、本稿において、筆者として気づいた点を中心に、何がどう問題なのか、問題となり得るのかについて解説」、マスコミは何をやっているのだろう。
・『第1条から早速問題だらけ  まず、本法案は、「令和五年度以降における我が国の防衛力の抜本的な強化及び抜本的に強化された防衛力の安定的な維持に必要な財源を確保するための特別措置」を講ずることを目的として、令和5年度以降の各年度の防衛力整備計画対象経費のうち、令和4年度当初予算に計上された防衛力整備計画対象経費の額を上回る部分について、(1)財政投融資特別会計財政融資資金勘定および外国為替資金特別会計からの一般会計への繰入金、(2)独立行政法人国立病院機構および独立行政法人地域医療機能推進機構の国庫納付金、(3)国有財産の処分による収入その他の租税収入以外の収入(「防衛力強化税外収入」)を充当し、(4)必要な経費をプールするための防衛力強化資金を設けるために立案されたものである。 しかし、第1条から問題がある。以下条文を追って解説していく。 その第1条、第3項において防衛力整備計画対象経費の定義が規定されているのだが、我が国の防衛力の強化のための防衛費増額のはずなのに、在日米軍関係経費や沖縄の米軍基地等再編経費までその対象に含まれている。これは極めておかしな話であり、それらの経費は別物として切り分けて処理すべきはずである。予算を増やしたくない、できれば減らしたいと考える財務省がシレッと潜り込ませたのだろう。 第2条および第3条は先に挙げた特別会計からの繰り入れについて規定しているが、これはそれに続く第4条および第5条の独法の積立金の一部の国庫納付についての規定との比較で解説するが、前者は「一般会計の歳入に繰り入れることができる」とされているのに対し、後者は「納付しなければならない」とされている。 つまり、特別会計からの繰り入れはやらないことも可能であるが、後者は絶対にやらなければならないこととされている、ということである。これは以前から財務省が独立行政法人の積立金や基金を「無駄」と難癖をつけて返納させようともくろんでいたところ、防衛費増額を大義名分として穴を空けようという魂胆に見える。その先に懸念されるのは、独立行政法人の積立金等の国庫返納の対象の拡大である。そうなれば多くの独法が政策的機能を十全に果たせなくなってしまいかねない。 そもそも、なぜこれら二つの独法がこの段階で対象になっているのかも不可思議である。おそらく、これら独法の新型コロナ対応の予算が余っていたことが明らかになり、批判の的となったことがあったところ、格好の人身御供とされたといったところだろう。両独法ともいざというときの対応のために存在するわけであり、今回のようなパンデミックが再び起きたときに、予算がないので、予算がなかったから準備ができなかったので対応できないでは済まされない。そうした事態に陥らないように普段から十分な予算を配分して体制を整えておくべきところ、単年度思考、短期思考の財務省がそうさせないようにしているとしか言いようがない』、「以前から財務省が独立行政法人の積立金や基金を「無駄」と難癖をつけて返納させようともくろんでいたところ、防衛費増額を大義名分として穴を空けようという魂胆に見える。その先に懸念されるのは、独立行政法人の積立金等の国庫返納の対象の拡大である。そうなれば多くの独法が政策的機能を十全に果たせなくなってしまいかねない」、「普段から十分な予算を配分して体制を整えておくべきところ、単年度思考、短期思考の財務省がそうさせないようにしているとしか言いようがない」、「財務省」の言いなりになっては、政府機関としての役割を果たせなくなってしまう。
・『なぜ、防衛省ではなく財務省の管理なのか  さて、先述の通り、本法案により防衛力強化資金が設置されるが、この資金は一般会計に置くので財務省管理とされている。防衛力強化のためのものなのだから、特別会計的に防衛省の管理とすべきではないかと思われるが、なぜそうなっているのかについては、本則の後ろに規定されている附則を見ると分かる。 なんと附則の第4条において、財務省の所掌事務として「防衛力強化資金の管理に関すること」が追加されているのである。理解しづらいかもしれないが、各府省の所掌事務を新たに追加するというのは非常に重たい話、かつ他の府省からの反発もあり得る話であり、かつ、一度規定してしまうとそれをなくすことは、新たな行政機関の設置や、省庁再編のようなものでもなければあり得ない。したがって、既存の所掌事務の範囲内で「読む」ということがよく行われるのであるが、今回新たに所掌事務を追加するというのは、財務省がコントロールできる新たな「財布」を財務省のために設けるため、そして、財務省の手を離れてしまう特別会計的なものは是が非でも設けたくないという財務省の姑息な魂胆によるものなのではないか。 さらに、第10条において、防衛力強化資金のお金を財政融資資金に預託することができることとされている。財政投融資資金とは、財投債の発行等により調達された資金を財源として、大規模・超長期プロジェクト等に融資を行う政策金融機関、官民ファンド等に融資を行うために設置されているもの。直近の防衛力強化のため、本法案によって新たな資金まで設置して特別会計や独法の積立金からお金を集めてきているというのに、超長期プロジェクトへの資金供給のための原資に充当するというのに等しく、本来の目的を逸脱しているとしか言いようがない。 の見方をすれば、要するに「余裕金を長期的に運用します」ということになるので、そもそも防衛力強化資金はおろか、本法案が不要ということまでいえてしまうのではないか。) また、第12条において、防衛力強化資金の受け払いは歳出歳入外とされている。歳出歳入外とは、要するにすぐに出し入れできるお金ということであり、具体的には選挙の供託金や入札の保証金等がこれに当たるが、なぜ防衛力強化資金をそうしたものと同じ扱いにするのか。防衛費ではなく何か別の目的に使用しようとしているのではないかと思われてならない。 そして、第14条、第2項に「令和五年度以降の各年度において、国有財産の処分による収入その他の租税収入以外の収入であって国会の議決を経た範囲に属するものは、防衛力整備計画対象経費の財源又は資金への繰入れの財源に充てるものとする」との規定があるが、これは端的に、本法案に規定された特別会計からの繰り入れや独法の積立金の一部の国庫返納のみならず、歳出改革と称した緊縮・予算削減によっても防衛費増額の財源を捻出するためのものである。しかも、防衛力強化資金の運用についてこれまで指摘してきたような問題があるところ、単なる予算削減の根拠ともなりかねない、極めて危険な規定となる可能性がある。 なお、「租税収入以外の収入であって国会の議決を経た範囲に属するもの」については、これは国債発行による収入を指すとする見解もあるが、確かにこの表現は財務省が国債について使用するものではあるが、法的に意味が確定したものではなく、その前に「国有財産の処分による~」と付いていることも考えると、国債のみを指すと考えるのは少々お人よしすぎるように思われる』、「本法案により防衛力強化資金が設置されるが、この資金は一般会計に置くので財務省管理とされている。防衛力強化のためのものなのだから、特別会計的に防衛省の管理とすべきではないかと思われるが、なぜそうなっているのかについては、本則の後ろに規定されている附則を見ると分かる。 なんと附則の第4条において、財務省の所掌事務として「防衛力強化資金の管理に関すること」が追加されているのである。理解しづらいかもしれないが、各府省の所掌事務を新たに追加するというのは非常に重たい話、かつ他の府省からの反発もあり得る話であり、かつ、一度規定してしまうとそれをなくすことは、新たな行政機関の設置や、省庁再編のようなものでもなければあり得ない。したがって、既存の所掌事務の範囲内で「読む」ということがよく行われるのであるが、今回新たに所掌事務を追加するというのは、財務省がコントロールできる新たな「財布」を財務省のために設けるため、そして、財務省の手を離れてしまう特別会計的なものは是が非でも設けたくないという財務省の姑息な魂胆によるもの」、「財務省」はこういうところで、ちっかりと省益につながる措置を潜り込ませている。
・『時限立法ではないと考えるべき  一方で、本法案の原案には、附則の第2条として、歳出改革を継続するよう努めること等を内容とする規定が置かれていたが、まさに歳出改革と称して各府省の予算の一律削減につながりかねないものであった。それが、責任ある積極財政推進議連の会員議員の尽力により、自民党内議論の段階で、最終案からは削除されるに至った。これは非常に大きな成果であるといえる。 本法案は特別措置法案と称しながら、時限立法ではなく、財務省が新たな所掌事務を追加したことからも分かるように、特段の事情のない限り、ずっと存続させるものであることは明らかである。加えて、「防衛費が足りなくなった」と称して、累次の改正により積立金の国庫返納の対象が際限なく拡大されていく可能性もある。 今後の国会審議において本稿において解説した問題点等をしっかりと指摘し、不明な点は明らかにし、少なくともこのまま可決・成立するようなことはないように、関係議員諸氏には尽力願いたいし、国民各位におかれても問題ありとして声を上げるなり、少なくとも問題意識は持っていただきたいところである』、「財務省」を敵に回すような気概のある野党議員がいてほしいが、現実にはいないのではなかろうか。

第三に、3月7日付け東洋経済オンラインが掲載した評論家・著述家の真鍋 厚氏による「国民負担率47.5%の先に待つ日本の最悪シナリオ 大増税時代「唯一の希望は投資」超格差化に拍車」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/657164
・『さきごろ「国民負担率」が大きな話題になった。国民負担率とは国民の所得に占める税金や社会保険料などの負担割合のことだが、財務省は今年度(2022年度)にそれが47.5%となる見込みだと発表したのだ。 Twitterでは、江戸時代に農民が領主に納める年貢割合を表現した「五公五民」がトレンド入りした。ただでさえ、円安と資源価格の高騰による光熱費や物価の上昇に身を削って対処している国民にとって、これ以上の負担増は生きるか死ぬかの問題に直結しかねない危険水域に突入することを意味する』、「国民負担率」が「今年度(2022年度)にそれが47.5%となる見込み」、「1979年度に30%台」から比べるとずいぶん重くなったものだ。
・『「新しい資本主義」ではなく「新しい自己責任」  日本の国民負担率は、1979年度に30%台となり、1994~2004年度までは34~36%台で推移していた。しかし、高齢化による社会保険料の増加などにより2013年度から40%台になり、2020年度に初めて47%を超えた。しかも「失われた30年」と呼ばれる期間、経済成長は鈍化。実質賃金は低迷し続け、中間層は衰退していった。収入が上がらず、非正規雇用や個人請負化が拡大し、生活不安が増大する状況下で、到来しつつあるのは「新しい資本主義」ではなく「新しい自己責任」である。 (国民負担率の推移のグラフはリンク先参照) 岸田文雄政権が昨年11月に正式決定した看板政策「資産所得倍増プラン」がそれだ。その趣旨は、「中間層がリターンの大きい資産に投資しやすい環境を整備すれば、家計の金融資産所得を拡大することができる。また、家計の資金が企業の成長投資の原資となれば、企業の成長が促進され、企業価値が向上する。企業価値が拡大すれば、家計の金融資産所得はさらに拡大し、『成長と資産所得の好循環』が実現する」(資産所得倍増プラン(案)/内閣官房)ということらしい。だが、そのような資金のある人々がいったいどれだけいるのか。 金融資産を保有していない、いわゆる「貯蓄ゼロ世帯」はここ10年で「2人以上世帯」では20.6%から31.2%に、「単身世帯」では29.9%から46.4%に上昇している(金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」、2007年と2017年との比較、2018年以降は設問内容が見直され、データが不連続のため省いた)。金融庁も2019年に「現役世代については、収入が減少傾向。金融資産額は、30代・40代の家計を中心に減少しており、資産形成が十分に行えていない」と指摘している(人生100年時代における資産形成/金融庁/2019年4月12日)。) 2024年から株式などの運用益が非課税になるNISA(少額投資非課税制度)の恒久化、非課税投資額の大幅引き上げ(1人当たり800万円から1800万円に)、非課税保有期間の無期限化を盛り込んだ新NISAがスタートする。1億総株主、1億総投資家への布石であり、たとえ少ない所得であっても、投資で「倍増」も夢ではないという甘言である。と同時に、将来的に破綻する可能性がある社会保障に期待することなく、「自分の身は自分で守れ」という身もふたもないメッセージでもあるのだ』、「「失われた30年」と呼ばれる期間、経済成長は鈍化。実質賃金は低迷し続け、中間層は衰退していった。収入が上がらず、非正規雇用や個人請負化が拡大し、生活不安が増大する状況下で、到来しつつあるのは「新しい資本主義」ではなく「新しい自己責任」である」、「新しい自己責任」が「到来しつつある」というのは、嫌なことだ。「「資産所得倍増プラン」・・・の趣旨は、「中間層がリターンの大きい資産に投資しやすい環境を整備すれば、家計の金融資産所得を拡大することができる。また、家計の資金が企業の成長投資の原資となれば、企業の成長が促進され、企業価値が向上する。企業価値が拡大すれば、家計の金融資産所得はさらに拡大し、『成長と資産所得の好循環』が実現する」・・・ということらしい。だが、そのような資金のある人々がいったいどれだけいるのか。 金融資産を保有していない、いわゆる「貯蓄ゼロ世帯」はここ10年で「2人以上世帯」では20.6%から31.2%に、「単身世帯」では29.9%から46.4%に上昇」、「新NISAがスタートする。1億総株主、1億総投資家への布石であり、たとえ少ない所得であっても、投資で「倍増」も夢ではないという甘言である。と同時に、将来的に破綻する可能性がある社会保障に期待することなく、「自分の身は自分で守れ」という身もふたもないメッセージでもある」、嫌な世の中になりそうだ。
・『年金で賄えないなら「自助」で増やせ?  これは根拠のない話ではない。2019年の大きなトピックに「老後資金2000万円問題」というのがあった。金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループによる報告書で、「老後30年間で約2000万円が必要になる」という試算が独り歩きしたもので、テレビや新聞で盛んに取り上げられていたため覚えている人も多いだろう。報告書には、年金で賄えない分は「自助」で金融資産を増やすことが提起されており、NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)が推奨されていたのである。 <公的年金制度が多くの人にとって老後の収入の柱であり続けることは間違いないが、少子高齢化により働く世代が中長期的に縮小していくことを踏まえて、年金制度の持続可能性を担保するためにマクロ経済スライドによる給付水準の調整が進められることとなっている。こうした状況を踏まえ、今後は年金受給額を含めて自分自身の状況を「見える化」して、自らの望む生活水準に照らして必要となる資産や収入が足りないと思われるのであれば、各々の状況に応じて、就労継続の模索、自らの支出の再点検・削減、そして保有する資産を活用した資産形成・運用といった「自助」の充実を行っていく必要があるといえる。(金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」/金融庁/2019年6月3日)> 報告書では、「自助」「自助努力」「自助の精神」という言葉が頻出し、「金融サービスのあり方」では、「『自助』充実のニーズ増に応じ、資産形成・管理やコンサルティング機能の強化」という奇妙な表現もある。) はたして「自助」充実ニーズとは何のことなのだろうか。コロナ禍で盛んに用いられた「自粛要請」と響きがよく似ているのは偶然ではないだろう。そこには、自ら進んで行うよう国民を“善導”するニュアンスが潜んでいる。今後の経済的な困難を生き残れるかどうかは「自助」次第と言っているのだ。 そもそも岸田首相は2021年の自民党総裁選で「令和版所得倍増」を掲げていたが、いつの間にか「所得」が「資産所得」へと修正された経緯がある。「成長と分配の好循環」をコンセプトにした「新しい資本主義」の実行計画は成長に軸足を置かれ、分配重視という当初の目論見は後退した。いや「分配」の内には「投資のリターン」が含まれていると言うかもしれない。だが、投資には一定のリテラシーが必要で、元本割れのリスクがつねに付いて回る。いずれにせよ、格差是正の道具立ては整えたというわけだ』、「投資」は高所得層がより多くするので、格差拡大になりこおすれ、「格差是正」になる筈はない。
・『目を覚ました預貯金がどうなろうと  ただし、格差是正を行う主体は政府ではない。「あなた」自身が自らの責任において行わなければならないのだ。もちろん、それでなけなしのお金が溶けてしまっても政府には何のとがもない。もとより政府はわたしたち国民が優秀なトレーダーになることを望んではいない。岸田首相がロンドンで投資家向けに行った基調講演の言葉を借りれば、「眠り続けてきた1000兆円単位の預貯金をたたき起こす」ことが目的だからだ(ギルドホールにおける岸田総理基調講演/首相官邸/更新日:2022年5月5日)。究極的には目を覚ました預貯金がどうなろうと知ったことではないのだろう。 このような時流を反映してか、書店には投資関連の書籍が山積みだ。射幸心をあおる売り文句が並び、新NISAの時代に便乗している。「年間100万円の配当金が入ってくる」「30万円で始めて、5年で1000万円」「月20万円の不労所得を手に入れる」……。 出版書誌データベースによると、タイトル・副題に投資を含む本は、2019年は141点だったが、2021年は177点、2022年は 188点と増加傾向にある。出版関係者に聞くと、最近は生き方本でもお金を増やす資産運用の要素が入ったものが売れるという。) インスタグラムやYouTubeなどにおける投資系インフルエンサーの影響力も増している。低所得者向けのFIRE(経済的自立と早期リタイア)までが登場し、金銭的な自己防衛とサバイバルを促す空気が醸成されている。 もはやそこには社会保障を軽んじる政府に対する批判といったものはなく、賢く投資して逃げ切れという先の報告書と変わらない精神があるだけだ。これは社会課題を個人レベルで解決することを推奨する考え方であり、若年者の貧困や老後破産は本人の責任という見方を強めていくことだろう。 2月28日、厚生労働省の人口動態統計の速報値が公表され、2022年の出生数が過去最少の79万9728人となり、統計開始以来初めて80万人を割り込んだことが話題になったが、経済的な災厄を考えれば当然の帰結でしかない』、「これは社会課題を個人レベルで解決することを推奨する考え方であり、若年者の貧困や老後破産は本人の責任という見方を強めていくことだろう」、マクロ的には極めて不健全な考え方だ。
・『「異次元の少子化促進」をずっとやってきた  社会学者の山田昌弘は、少子化の日本的特徴として、日本人は「生活リスク」を大変嫌うと述べ、「子どもに豊かな生活や十分な教育を保障したいから、それが実現しないリスクが高いと思えば、結婚しない、子どもをもたない、子ども数を少なくするという選択がとられる」と主張した(「日本で少子化対策はなぜ失敗したのか」-コロナ後の家族は変わるのか?-/人口動態と経済社会の変化に関する研究会第一回報告/財務省財務総合政策研究所/2020年10月20日)。 日本では、まさに不作為という名の「異次元の少子化促進」をずっとやってきたのである。経済的な困窮や雇用の不安定化がコロナ禍で進行したが、次は恐ろしいことに血も涙もない「大増税」が待ち構えている。 多くの国民は糊口をしのぐのが精一杯で、資産運用に注力する余裕などないだろう。そこで持てる者と持たざる者の差がさらに開く「超格差化」に拍車が掛かるのは目に見えている。わたしたちは、唯一の希望は投資しかないと言いくるめられ、いまだ経験したことのない地獄に向かって突き進んでいる』、「日本では、まさに不作為という名の「異次元の少子化促進」をずっとやってきた」、とは言い得て妙だ。「わたしたちは、唯一の希望は投資しかないと言いくるめられ、いまだ経験したことのない地獄に向かって突き進んでいる」、というのは腹立たしいが、同感である。 
タグ:政府財政問題 (その8)(ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔、「財源確保法案」に透けて見える財務省の思惑と重大な問題点を解説、国民負担率47.5%の先に待つ日本の最悪シナリオ 大増税時代「唯一の希望は投資」超格差化に拍車) エコノミストOnline 小嶌正稔氏による「ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔」 「原油価格高騰対策に投入される国費は・・・1.5兆円」、「民間企業・・・に国費(補助金)を支給するという、通常は考えられない政策」、その通りだ。 「政府はトリガー条項を実質的に発動して、後のことは別途考えるという姿勢」、なるほど。 「トリガー条項の小売平均価格は、総務省の「小売物価統計調査」の価格であり、その価格は消費者が購入したフルサービスの現金ガソリン価格だ。現在は70%以上のガソリンがセルフサービスのガソリンスタンドで購入されていることを考えれば、時代遅れの規定ともいえる」、「補助金を出すならば、原油価格の変動分を対象にすることでのみ、透明性を維持できる」、その通りだ。 「今回の緊急対策は、基準価格を引き下げることで消費を喚起した」、「施策を再検証の上で必要な見直しをする必要があろう」、当然だ。 ダイヤモンド・オンライン 室伏謙一氏による「「財源確保法案」に透けて見える財務省の思惑と重大な問題点を解説」 「財源確保法案」は、「大いに問題ある法案であるのだが、全くと言っていいほど詳しく報じられたり、解説されたりすることがない。そこで、本稿において、筆者として気づいた点を中心に、何がどう問題なのか、問題となり得るのかについて解説」、マスコミは何をやっているのだろう。 「以前から財務省が独立行政法人の積立金や基金を「無駄」と難癖をつけて返納させようともくろんでいたところ、防衛費増額を大義名分として穴を空けようという魂胆に見える。その先に懸念されるのは、独立行政法人の積立金等の国庫返納の対象の拡大である。そうなれば多くの独法が政策的機能を十全に果たせなくなってしまいかねない」、 「普段から十分な予算を配分して体制を整えておくべきところ、単年度思考、短期思考の財務省がそうさせないようにしているとしか言いようがない」、「財務省」の言いなりになっては、政府機関としての役割を果たせなくなってしまう。 「本法案により防衛力強化資金が設置されるが、この資金は一般会計に置くので財務省管理とされている。防衛力強化のためのものなのだから、特別会計的に防衛省の管理とすべきではないかと思われるが、なぜそうなっているのかについては、本則の後ろに規定されている附則を見ると分かる。 なんと附則の第4条において、財務省の所掌事務として「防衛力強化資金の管理に関すること」が追加されているのである。理解しづらいかもしれないが、各府省の所掌事務を新たに追加するというのは非常に重たい話、かつ他の府省からの反発もあり得る話であり、かつ、一度規定してしまうとそれをなくすことは、新たな行政機関の設置や、省庁再編のようなものでもなければあり得ない。したがって、既存の所掌事務の範囲内で「読む」ということがよく行われるのであるが、今回新たに所掌事務を追加するというのは、財務省がコントロールできる新たな「財 布」を財務省のために設けるため、そして、財務省の手を離れてしまう特別会計的なものは是が非でも設けたくないという財務省の姑息な魂胆によるもの」、「財務省」はこういうところで、ちっかりと省益につながる措置を潜り込ませている。 「財務省」を敵に回すような気概のある野党議員がいてほしいが、現実にはいないのではなかろうか。 東洋経済オンライン 真鍋 厚氏による「国民負担率47.5%の先に待つ日本の最悪シナリオ 大増税時代「唯一の希望は投資」超格差化に拍車」 「国民負担率」が「今年度(2022年度)にそれが47.5%となる見込み」、「1979年度に30%台」から比べるとずいぶん重くなったものだ。 「「失われた30年」と呼ばれる期間、経済成長は鈍化。実質賃金は低迷し続け、中間層は衰退していった。収入が上がらず、非正規雇用や個人請負化が拡大し、生活不安が増大する状況下で、到来しつつあるのは「新しい資本主義」ではなく「新しい自己責任」である」、「新しい自己責任」が「到来しつつある」というのは、嫌なことだ。 「「資産所得倍増プラン」・・・の趣旨は、「中間層がリターンの大きい資産に投資しやすい環境を整備すれば、家計の金融資産所得を拡大することができる。また、家計の資金が企業の成長投資の原資となれば、企業の成長が促進され、企業価値が向上する。企業価値が拡大すれば、家計の金融資産所得はさらに拡大し、『成長と資産所得の好循環』が実現する」・・・ということらしい。だが、そのような資金のある人々がいったいどれだけいるのか。 金融資産を保有していない、いわゆる「貯蓄ゼロ世帯」はここ10年で「2人以上世帯」では20.6%から 31.2%に、「単身世帯」では29.9%から46.4%に上昇」、「新NISAがスタートする。1億総株主、1億総投資家への布石であり、たとえ少ない所得であっても、投資で「倍増」も夢ではないという甘言である。と同時に、将来的に破綻する可能性がある社会保障に期待することなく、「自分の身は自分で守れ」という身もふたもないメッセージでもある」、嫌な世の中になりそうだ。 「投資」は高所得層がより多くするので、格差拡大になりこおすれ、「格差是正」になる筈はない。 「これは社会課題を個人レベルで解決することを推奨する考え方であり、若年者の貧困や老後破産は本人の責任という見方を強めていくことだろう」、マクロ的には極めて不健全な考え方だ。 「日本では、まさに不作為という名の「異次元の少子化促進」をずっとやってきた」、とは言い得て妙だ。「わたしたちは、唯一の希望は投資しかないと言いくるめられ、いまだ経験したことのない地獄に向かって突き進んでいる」、というのは腹立たしいが、同感である。
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異次元緩和政策(その42)(《挑発的発言で140円までドーンと下落》日銀OBが「言わんこっちゃない」と苦笑する黒田総裁のマーケット評、三菱UFJ銀行・平野氏 日本総研・翁氏「政府・日銀はアベノミクス時代の指針を見直せ」、日銀・植田新総裁による金融政策「修正プロセス」を大予想&カンタン解説、「数式を普通の文章のように読む」 日銀新総裁・植田和男氏の天才エピソード、教え子が“酒豪ぶり”も証言) [経済政策]

異次元緩和政策については、昨年4月26日に取上げた。今日は、(その42)(《挑発的発言で140円までドーンと下落》日銀OBが「言わんこっちゃない」と苦笑する黒田総裁のマーケット評、三菱UFJ銀行・平野氏 日本総研・翁氏「政府・日銀はアベノミクス時代の指針を見直せ」、日銀・植田新総裁による金融政策「修正プロセス」を大予想&カンタン解説、「数式を普通の文章のように読む」 日銀新総裁・植田和男氏の天才エピソード、教え子が“酒豪ぶり”も証言)である。

先ずは、昨年12月29日付け文春オンラインが掲載した「《挑発的発言で140円までドーンと下落》日銀OBが「言わんこっちゃない」と苦笑する黒田総裁のマーケット評」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/59541
・『大企業と労組が結託し、若い世代が犠牲になった――。東京財団政策研究所主席研究員・早川英男氏による「賃上げを阻む『97年労使密約』」(2023年1月号)を一部転載します。 今、日本人が何よりも懸念しているのは、目の前の物価高なのではないでしょうか。2022年10月の消費者物価指数は前年同月比でプラス3.6%、40年8カ月ぶりの上昇率を記録しました。 物価高の発端は、2022年に始まったグローバルインフレです。新型コロナで傷んだ経済を回復させるため、各国は経済対策にじゃぶじゃぶとお金を流してきましたが、その結果として物価が急激に上昇。さらに同年2月にはウクライナ戦争が勃発し、資源・食料価格が高騰し、その波が日本にも直撃しました。 追い打ちをかけたのが、同時期に進行した円安です。年明けから1ドル115円前後で動いていた為替相場は、春以降に円安方向へと動きます。10月には1ドル150円を突破し、32年ぶりの安値を更新しました。輸入物価が押し上げられ、国内の食料・エネルギー価格に上乗せされています。 日本の物価高は「グローバルインフレ」と「円安」の二重苦と言われてきましたが、現在は主に円安が物価高に大きく影響しています。円安対策については日銀の金融政策が注目を集めました。ところが肝心の黒田東彦総裁は金融緩和を続ける方針を示し、金利を上げようとはしません。その頑なな態度が国民やメディアの反発を招き、日銀は無策だと批判を浴びることになりました。 私は1977年に日本銀行に入行し、在職中は調査統計局長(2001〜07年)、理事(2009〜13年)などを務めました。今回はOBの立場から、日銀が金融緩和を続ける理由、この10年の金融政策の問題点などを分析し、今後の日本経済への処方箋についても考えてみたいと思います』、早川氏は日銀きってのエコノミストとして鳴らした人物だ。
・『円高になりにくい構造  まずは、現在の状況を整理しましょう。 進行中の円安について、私は2つの要因があると考えています。 1つ目は先ほども触れたように、内外金利差の拡大です。アメリカがあれだけ金融引き締めをしているのに、日本はいまだに大規模緩和に集中している。日米の金利差は4.5%まで広がりましたから、円安圧力が高まるのは当然です。) 2つ目には、日本の対外収支構造の変化が挙げられます。 かつての日本は工業製品を大量に輸出して、巨額の貿易黒字を抱えていました。最近の日本の貿易収支はトントン、今のようにエネルギー価格が上がると赤字の状態です。ところが経常収支で見ると、相変わらずかなりの黒字を維持している。実は日本は、海外投資からの利益・配当である投資収益収支で稼ぐようになり、貿易大国から投資大国へと変貌しているのです。 最近の投資収益は、金融機関ではなく製造業の海外現地法人の儲けが大半を占めています。問題は、帳簿上では収益を親会社に移転して連結決算にも反映するのですが、資金の大部分は現地に置きっぱなしで円転しないのです。一方で貿易の支払いはあるから、どうしても日本全体としてはドル不足に陥ってしまう。需給の関係でドルは上がり、円は下がることになるのです。 このような対外収支構造が根底にあることを考えると、現在の日本は円高になりにくく円安が進みやすい状態であると言えます。2011年には、1ドル70円台の超円高時代がありましたが、あの水準まで戻ることはもはや考えられません。 とはいえ、現在の円安は明らかに行き過ぎの感がある。ビッグマックひとつ買うのに米国では5.15ドルも払わなければいけないのに対して、日本では2.83ドルで買える。購買力平価(全く同一の商品を買うことができる購買力)で比較すると、1ドル=100円くらいが適正だろうとみられます。 ですから、過剰な円安はいずれ調整されて戻っていく。ここまで異常な状態が、この先何年も続くとは思いません。 円相場を占ううえで注目すべきは、やはりアメリカの今後の動向です。FRB(米連邦準備制度理事会)は「ある程度は景気を犠牲にしてでも、絶対にインフレを抑え込む」との強い意志のもと、0.75%もの大幅な利上げを4回連続でおこなう、異例の対応をとりました。インフレはしぶとく続いており、利上げの効果が表れるまではある程度時間がかかりますが、あと半年もすれば経済指標に反映されてくるでしょう。少なくとも来年中には、利上げのピークが見えてくるはずです。 それに伴い多少は円高が進み、1ドル100円まではいかないにしても、最終的には120円程度に落ち着くのではないかと思います』、「帳簿上では収益を親会社に移転して連結決算にも反映するのですが、資金の大部分は現地に置きっぱなしで円転しないのです。一方で貿易の支払いはあるから、どうしても日本全体としてはドル不足に陥ってしまう。需給の関係でドルは上がり、円は下がることになるのです」、「このような対外収支構造が根底にあることを考えると、現在の日本は円高になりにくく円安が進みやすい状態」、「購買力平価・・・で比較すると、1ドル=100円くらいが適正だろうとみられます。 ですから、過剰な円安はいずれ調整されて戻っていく。ここまで異常な状態が、この先何年も続くとは思いません」、なるほど。
・『日銀が唯一とれる手は?  インフレに対応すべく各国の中央銀行が金融引き締めに走るなか、日銀だけが利上げをせずに金融緩和を続け、孤立を深めました。 なぜ日銀は大規模な金融緩和を続けているのか、黒田総裁にはどのような思惑があるのかを、ここからは考えていきたいと思います。) 最初に申し上げておくと、私自身は日銀の対応には概ね賛成です。各国の中央銀行が金利を上げているからといって、現在の金融緩和を根本的に変えて引き締め政策に移るのは、時期尚早だと考えます。欧米と日本ではインフレの種類が異なるので、何でも同じにすればいいわけではありません。 日本では物価上昇率が3%台まで上がり、2022年度は、日銀が物価安定の目標として掲げてきた前年比2%を達成するかもしれません。ただし、このところの物価上昇は、世界的な資源高が引き起こした一時的な現象です。特に日本は欧米と違って、賃金が上昇する気配がまだありません。実質賃金が下がれば個人消費も伸び悩むため、常識的に考えれば、23年の物価上昇率は徐々に下がっていくことが予想される。そこで金融引き締めをおこなえば、もともと危うかった景気が一気に悪化してしまいます。 金融政策の大枠は変えられませんが、円安対策で何一つ手がないわけではない。日銀がとりうる最も自然な手段として、私も含め多くの関係者が予想していたのが、長期金利の運用の弾力化でした。 現在の日銀は長期金利の変動許容幅をプラスマイナス0.25%程度に設定し、国債買入れによって金利の上昇を力ずくで抑え込んでいます。これが必要以上に円安を促しており、「日銀が金利操作にこだわっているぶん10円くらい余計に円安になっているのでは」と話すマーケット関係者もいるほどです。 例えばですが、この長期金利の変動許容幅をプラスマイナス0.5%程度にまで拡大し、ある程度の弾力性を持たせる。そうすれば、円安の進行を止めるまではいかないにしても、多少は勢いを和らげることが出来たはずなのです。 しかしながら、皆さんもよくご存知のとおり、肝心の黒田総裁が全く動こうとしませんでした(苦笑)。 長期金利を見直すことはおろか、定例会見では「当面金利を引き上げることはない」「(緩和継続は)数カ月ではなく2、3年の話」と、頑なな態度をとり続けています。 マーケットを挑発しているように見られてしまうきらいもあり、一時期は黒田さんが何か喋るたびに円安が進んでいました。ある時、会見を見ていたら「えっ、こんな挑戦的な物言いをするの?」と驚く場面があった。直後に140円までドーンと下落したので言わんこっちゃないと。どうしてあそこまで頑固な態度をとるのか不思議でたまりません』、現実には、「日銀」は12月19-20日の金融政策決定会合で、10年物国債金利の許容変動幅について、プラスマイナス0.5%に拡大することを決めた。しかし、「黒田総裁」の「頑なな態度」は問題だ。
・『黒田さんのラストチャンス  「なぜ黒田さんはここまで頑なになっているのか」 「金利を上げられない理由があるのではないか」 国民やメディアは疑心暗鬼に陥り、市場関係者の間でも様々な説が流れました。私もいろいろと考えてみたのですが、一番納得がいくのは、黒田さんが土壇場で“ラストチャンス”を狙っているという説です』、「土壇場で“ラストチャンス”を狙っている」とはどういう意味なのだろうか。「許容変動幅」「拡大」をした以上はどうでもいいのだろうか。

次に、本年2月9日付け文春オンライン「三菱UFJ銀行・平野氏、日本総研・翁氏「政府・日銀はアベノミクス時代の指針を見直せ」」を紹介しよう。
・『2013年3月の就任以来、2年で物価上昇率2.0%実現の目標を掲げ、「異次元緩和」を続けてきた黒田東彦日銀総裁。その背景には、就任直前に第二次安倍政権と日銀との間で取り決められた「共同声明」の存在がある。 デフレからの早期脱却と物価安定下での持続的な経済成長を目指したアベノミクスを実現するため、政府と日銀が果たすべき役割が明記された共同声明だが、 来たる日銀総裁人事を前にその見直しをすべきか否か、議論が活発化している。 令和国民会議(通称:令和臨調)運営幹事を務める平野信行氏(三菱UFJ銀行特別顧問)と翁百合氏((株)日本総合研究所理事長)は、『文藝春秋』3月号に寄稿し、「新たな共同声明」作成の必要性を説きつつ、民間企業の責任を指摘した』、興味深そうだ。
・『日銀の「独り相撲」で2%は無理  積年の構造改革課題の解決に向け、経済界・労働界・学識者などの有志で発足した令和臨調の共同座長も務める二人は、共同声明の意図には賛同しつつ、異次元緩和についてはこう評価する。 〈この10年というスパンで振り返ってみると、2年という短期間で2.0%の物価上昇率を達成することはそもそも難しかったと思われます。政府は、経済の競争力と成長力の強化、持続的な財政構造の確立を掲げましたが、現在に至るまで実現できていません。安定的な物価上昇は、日銀が独り相撲で達成できるものではないのです〉 一方で、民間企業の問題を無視することはできないという。2012年から16年まで三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)の頭取を務めた平野氏は「自戒しつつ」と述べながら、その問題点を指摘する。) 〈日本経済の低迷の責任を政府と日銀だけに押し付けるのは間違っています。根本的な原因は、民間企業が新しいビジネスモデルの構築やイノベーションへの挑戦、そして何よりも投資を怠ってきたことにある。長く銀行の経営に携わってきた平野も自戒しつつ、日本の経営者が過去30年に亘りとってきた事業経営戦略には大きな問題があったと考えています。端的に言えば、日本の経営者は守りに入ってしまったのです』、「日本経済の低迷の責任を政府と日銀だけに押し付けるのは間違っています。根本的な原因は、民間企業が新しいビジネスモデルの構築やイノベーションへの挑戦、そして何よりも投資を怠ってきたことにある。長く銀行の経営に携わってきた平野も自戒しつつ、日本の経営者が過去30年に亘りとってきた事業経営戦略には大きな問題があったと考えています。端的に言えば、日本の経営者は守りに入ってしまった」、その通りだ。
・『政府と日銀は「新たな共同声明」を打ち出すべき  民間企業の新たな投資先の多くが国内ではなく海外に向けられている点についても、率直にこう書いている。 〈平野も国内での事業成長に対して十分な展望を持つことができず、アメリカ、タイ、ベトナム、フィリピン、インドネシアの銀行への出資や買収など、グローバル化の流れの中で海外への投資を続けました。もちろんビジネスですから成果が見込める市場へ投資を行ったこと自体、判断は間違ってはいなかったと考えています。しかし、海外と比べると国内で新たなビジネスを創造するための投資は十分だったとはいえません。この傾向は三菱UFJフィナンシャル・グループだけではなく、メーカーも含めた日本の多くのグローバル企業に共通することです。ですから日本の経営者は国内経済の低迷を止める努力を怠ったと自戒を込めて指摘しておきたいと思います〉 その上で平野、翁の両氏は、 〈政策連携の開始から既に10年経ち、元々企図していた成果は必ずしも出ていないのですから、民間の提案も参考にして、政府と日銀は新総裁の下で集中的に議論を行い、「新たな共同声明」を打ち出すべき〉 と主張する。 「新たな共同声明」の内容を含む「脱アベノミクス宣言」の全文は、「文藝春秋」2023年3月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されている』、「政府と日銀は新総裁の下で集中的に議論を行い、「新たな共同声明」を打ち出すべき〉 と主張」、同感である。

第三に、2月21日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁 昭夫氏による「日銀・植田新総裁による金融政策「修正プロセス」を大予想&カンタン解説」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/318075
・『政府は2月14日、4月で任期満了となる日本銀行の黒田東彦総裁の後任に、経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏を充てる人事案を国会に提示した。そもそも、日本の金融政策はどうして行き詰まったのか。日銀の金融政策の「あるべき姿」とは?植田新総裁下で想定される金融政策の「修正プロセス」をひもといていく』、「金融政策の「修正プロセス」をひもといていく」とは興味深そうだ。
・『植田新総裁は緩和策の修正に積極的?  2月10日、政府は日銀の次期総裁に元審議委員の植田和男氏を起用する方針を固めたと報じられた。副総裁には氷見野良三前金融庁長官と内田真一日銀理事が起用されるようだ。 この報道直後、外国為替市場では一時、1ドル=131円50銭台から129円80銭台まで円は買い戻された。日経平均株価は一時400円安まで売り込まれた。この市場の反応を見ると、植田新総裁は、現在の緩和策の修正に積極的とみたようだ。 ただ、本当に植田新総裁が政策修正に積極的に行動できるかは、今後の経済や政府との関係を注視する必要がある。政策修正はそれほど単純なことではない。 わが国の金融政策は限界を迎えつつある。どこかで、これまでの金融政策を修正することは避けられない。1998年から7年間、植田氏は日銀の審議委員として、わが国の金融政策の策定に参画した。同氏は、金融政策の柔軟性、持続性を重視したといわれている。 現在、わが国の銀行などの金融システムは健全だが、日銀の多額購入で国債市場の流動性枯渇は深刻だ。また、いつまでもマイナス金利を続けるわけにはいかない。これから日銀は植田新総裁の下、時間をかけ金融政策の正常化のタイミングを計り、あるべき政策への回帰を目指すことになるはずだ』、「これから日銀は植田新総裁の下、時間をかけ金融政策の正常化のタイミングを計り、あるべき政策への回帰を目指すことになるはずだ」、その通りだ。
・『日本の金融政策はどうして行き詰まったのか  現在、わが国の金融政策に関する問題はかなり複雑化している。1990年代初めに資産バブルが崩壊して以降、わが国経済は長期停滞に陥った。わが国は構造改革の推進よりも、金融緩和を強化することによって景気の浮揚を目指した。 95年以降、無担保コール翌日物の金利は0.5%程度で推移した。すでに緩和的な金融環境下、97年には金融システム不安が起きた。日銀は徐々に鮮明となったデフレ経済からの脱却を目指して金融緩和をさらに強化した。 99年2月には「ゼロ金利政策」が開始され、2000年8月にいったん解除された。それでも景気は上向かず、01年3月には量的緩和策が開始された。その後、米国の住宅バブルの発生などによって世界経済は上向いた。06年には一時的に量的緩和策が解除された。 しかし、リーマンショック後、世界経済の低迷などによってわが国の景気停滞は深刻化した。13年1月に日銀は政府との“アコード”を結び、「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のために連携する」と宣言した。このとき、日銀の独立性は低下したといえる。同年4月に「量的・質的金融緩和」が開始された。 過去30年近くの金融政策に一貫するのは、日銀が長い時間軸をもって金融緩和を強化するスタンスをより鮮明にしたことだ。これにより主要投資家の金利上昇不安は和らぐ。加えて、日銀は、社債、株式ETFや不動産投資信託(J-REIT)などリスク資産も購入し、投資家のリスクテイクを上向かせようとした。 さらに、国債買い入れの増加によって、事実上、金融政策は財政ファイナンスに踏み込んだ。そうした状況下、一時、国内の景気が上向き、構造改革の推進機運が高まる場面はあった。 しかし、政府は構造改革の推進よりも日銀による一時的な需要喚起を優先し、金融政策の持続性は低下している。多くの投資家は金利の上昇に慣れていない』、「政府は構造改革の推進よりも日銀による一時的な需要喚起を優先し、金融政策の持続性は低下している」、残念ながらその通りだ。
・『日銀の金融政策「あるべき姿」とは  わが国の金融政策は、基本的な役割を見直し、原点回帰を目指すときに来ている。足元、国債流通市場の流動性は枯渇している。そして目先、物価はまだ上昇しそうだ。22年12月の金融政策決定会合では、そうした事情を背景に長期金利の変動幅が拡大された。さまざまな議論があるものの、政府も日銀も金融緩和の限界を認識しつつあるのだろう。 日銀の本来のマンデート(責任)は、経済と金融市場の環境に合わせて通貨および金融を調整し、金融システム安定と物価の安定を図ることにある。そのため、理論的に中央銀行は政府から独立している必要がある。多くの主要先進国の中央銀行も同じ理念に基づいて金融政策を運営している。 具体的には、中央銀行は翌日物などの短期金利を政策金利に設定する。短期金利の目標水準の変更に沿って、中央銀行は国債買い入れなどのオペレーションを実施し、実体経済と金融市場の環境に見合った金融環境を目指す。 一連の金融調節は家計、企業、金融機関などの資金繰り、投資計画、先行きの予想などに影響を与え、主として市場原理に基づいて中長期の金利は形成されやすい。また、理論上、金利はゼロ以下にはできない。マイナス金利は経済と金融市場にさまざまな弊害を与えるからだ。 しかし、わが国全体で金融緩和による景気浮揚を求める考えが強まり、日銀はマイナス金利政策に踏み込んだ。さらに、10年国債の流通利回り上限が0.50%など特定の水準に打ち付けられる(ペッグされる)状況が続き、金融市場における価格発見メカニズムは弱まっている。インフレ圧力が強い状況下で金融緩和が続くと、通貨の価値は下落する。 原油価格の動向などを踏まえると、米国の物価上昇ペースが追加的に低下するかは不確実だ。内外金利差が想定以上に拡大すれば、22年秋ほどではないにせよ、円はドルなどに対して減価し、物価上昇圧力は長引くかもしれない。 このように異次元緩和が経済にプラスよりも、マイナスのインパクトを与える恐れは増している』、「内外金利差が想定以上に拡大すれば・・・円はドルなどに対して減価し、物価上昇圧力は長引くかもしれない。 このように異次元緩和が経済にプラスよりも、マイナスのインパクトを与える恐れは増している」、「マイナスのインパクト」とは困ったことだ。
・『新総裁下で想定される金融政策の修正プロセス  植田・新日銀総裁の一報が出た2月10日の海外時間、国債先物の価格は下落した。続く13日の東京時間、国債先物は幾分か値を戻した。一方、国内株価は下落して引けた。報道直後の一時的な円の買い戻しも加味して考えると、今すぐではないにせよ、日銀は新総裁の下で金融政策の追加修正を進めると考える投資家は増えている。 3月19日、2人の副総裁は任期を迎える。追加的に日銀のリフレ色は薄まるだろう。日銀は独立性の回復を目指し、独自の立場から経済全体にとって長期的に有効な政策を立案、実行すべき局面を迎えている。日銀は徐々に金融政策の正常化を進めようとするだろう。 日銀によると20年4~6月期から22年7~9月期まで、わが国のGDPギャップはマイナスだった。ただ、ここにきてマイナス幅は縮小している。それは重要な変化だ。今後の賃上げなど国内経済の展開次第では、需要が供給を上回る可能性はある。 新総裁の指揮の下、日銀は金融システムの健全性の維持と物価の安定のために、慎重かつ段階的に金融政策の追加修正を進めるだろう。修正のプロセスとしては、以下のような流れが想定できる。 まず、日銀は異次元緩和の効果、副作用などを総括的に検証する。その上で、新しい金融政策の枠組みに移行し、金融政策の追加修正を進める。具体的な取り組みとして、最初に、長期金利の上限引き上げ、あるいは撤廃を目指すだろう。 その際、急激な長期・超長期金利のボラティリティー上昇を防ぐために、市場とのコミュニケーションも促進される公算は高い。その上で、中小企業や家計への打撃を緩和しつつ、マイナス金利からの脱却が目指されるだろう。 マイナス金利政策からの脱却は、コロナ禍で実質、無利子・無担保で融資(ゼロゼロ融資)を受けてきた中小企業の事業運営に負の影響を与えると懸念される。イールドカーブ・コントロール政策の(段階的)撤廃以上に、マイナス金利政策からの脱却には時間がかかりそうだ。 そうした金融政策の修正に伴い、中期的に国内の金利上昇圧力が増すことは間違いない。それが現実味を帯びてくると、わが国の低金利時代の終焉が近いことになる』、「マイナス金利政策からの脱却は、コロナ禍で実質、無利子・無担保で融資(ゼロゼロ融資)を受けてきた中小企業の事業運営に負の影響を与えると懸念される。イールドカーブ・コントロール政策の(段階的)撤廃以上に、マイナス金利政策からの脱却には時間がかかりそうだ」、その通りだ。

第四に、2月22日付けデイリー新潮「「数式を普通の文章のように読む」 日銀新総裁・植田和男氏の天才エピソード、教え子が“酒豪ぶり”も証言」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/02220557/?all=1
・『日本銀行の新総裁として白羽の矢が立った東京大学名誉教授の植田和男氏(71)。戦後初の学者出身の総裁であり、元教え子は「数式を普通の文章のように読む」と天才ぶりに舌を巻く。一方で相当な酒豪として知られ、六本木や銀座のクラブに頻繁に通っていたという意外な素顔も。 著名人が数多く住むことで知られる都内のさる高級住宅街。細い路地が交差する一角にひときわ瀟洒な2階建ての一軒家がある。 今月9日夜、その玄関近くに集っていた記者団の前で家主の男性は前日までのピリピリした雰囲気から一転、憑き物が落ちたかのように上機嫌だった。そして男性は記者団を気遣うようにこう語りかけた。 「明日は雪が降るらしい、みんな暖かくしてよ」 余裕を感じさせる口調は“前触れ”だったのか。かくして翌日、都内で大雪警報が発せられる中、日経新聞が打った一報に世界はくぎ付けになる。 〈日銀総裁に植田和男氏〉 この報道には国内の関係者も度肝を抜かれた。何しろ新総裁の本命とされ、大手メディアが遮二無二追いかけていた冒頭の男性、雨宮正佳・日銀副総裁がトップの座に就かないことが明確になったからだった。 「誰もが予想しえなかったサプライズ人事でした」 とは経済部デスク。 「約10年もの長期間、日銀のトップだった黒田東彦(はるひこ)総裁の後任が誰になるかは、世界的な関心事でした。その有力候補の一人が雨宮さんだった。黒田体制の下、2018年から現在まで副総裁を務め、その金融政策を熟知しているというのが主たる理由でした。そして、もう一人が中曽(なかそ)宏・大和総研理事長。同じく13年から18年まで副総裁だった方です。次期総裁は二人のいずれかだといわれていましたが、どちらも昨年から最近に至るまで、就任を固辞しているという情報が漏れ伝わってきていたのです」』、「異次元緩和」は取り組む時よりも、手仕舞いする出口の方が遥かに難しいので、貧乏クジを引きたくないのだろう。
・『雨宮氏が辞退した理由  次の総裁は黒田総裁が進めてきた異次元の金融緩和の出口戦略という、国民生活を左右する非常に困難なタスクの遂行を求められる。有力候補の二人も「やりたくない」というのが本音だったのだろう。しかし、6日には日経新聞が「政府が雨宮氏に就任を打診」と報じた。 自民党幹部が語る。 「雨宮さんは昨年秋の時点で“総裁はやらない”とはっきり断言していました。黒田さんの異次元緩和を推進してきた人ですから、これから金融政策が変わるときに、続けちゃいけないという気持ちがあり、さらに“世界の潮流として中央銀行総裁は学者なんです”とも言っていた。日本の場合、総裁は伝統的に日銀と財務省の出身者が交互に務める、たすきがけ人事になっています。雨宮さんはその伝統を廃し、次の総裁は学者に、という思いがあった。この話は昨秋の時点で私から総理に伝えています」 日銀総裁を打診されて断るケースは前代未聞。日銀が大量の国債を買い入れ、維持してきた緩和について、当事者らが「もうこれ以上は無理。責任を取りたくない」と本心を吐露したようなもので、財界には「あり得ない」と衝撃が走った』、「日銀が大量の国債を買い入れ、維持してきた緩和について、当事者らが「もうこれ以上は無理。責任を取りたくない」と本心を吐露したようなもので、財界には「あり得ない」と衝撃が走った」、確かに「あり得ない」ことではある。
・『英語の本を読みながら数キロ歩く勉強好き  結局、官邸の秋波に最後まで首を縦に振らなかった雨宮氏。代わって白羽の矢が立ったのが、全くノーマークだった東京大学名誉教授の植田和男氏(71)だった。 植田氏は静岡県牧之原市出身。東京教育大学附属駒場高校(現・筑波大学附属駒場高校)を卒業後、東京大学理学部を経て、同大経済学部に学士入学している。 植田氏の叔父で牧之原市に住む植田六郎氏によれば、 「和男の祖父は牧之原市で郵便局長をやっていました。昔は郵便局に電話の交換台があった関係で、和男の父は電電公社で働くことになったと聞いています。和男は子どもの頃から東京で暮らしていました」 中学生までは休みになると、静岡に帰省することもしばしばだった。 「和男は頭が良くてね、小学生の時はトランジスタラジオを持ってきて、それを聞きながら英語の勉強をしていました。また、親戚宅までの海岸沿いの道を英語の本を読みながら数キロも歩いていた。勉強が好きだったんでしょう」』、「トランジスタラジオを持ってきて、それを聞きながら英語の勉強をしていました。また、親戚宅までの海岸沿いの道を英語の本を読みながら数キロも歩いていた。勉強が好きだったんでしょう」、本当に「勉強が好き」なようだ。
・『「数学が異常にできていた」  生まれながらの秀才は高校進学後も力を発揮した。同級生が語る。 「理数系科目では圧倒的なトップでした。特に数学が異常にできていた印象があります。高校2年生の時だったかな、同じ模擬テストを2年生と3年生合同で行ったことがあったんですが、その時に全体で3本の指に入っていました。ガリ勉というか、地頭がいいタイプですね」 当時、陸上部に所属していたとは別の同級生の談。 「多摩川の河川敷を走る校内のマラソン大会で1位になっていました。1500メートル走も得意だったみたいです。私たちの代は例年と比べて頭の良い代で卒業生の8割は東大に進学、その他の2割も他大学の医学部に、というような感じでした」』、「「理数系科目では圧倒的なトップでした。特に数学が異常にできていた印象があります」、さすがだ。
・『「文章を読むように数式を…」  植田氏もほかの生徒と同様に東大に進学。理学部で数学を学び、経済学部へと転じた変わり種。アベノミクスの理論的支柱で、当時、東大に在籍していた浜田宏一氏(現・米イェール大学名誉教授)のゼミに参加していたという。 1980年に米マサチューセッツ工科大学で博士課程を修了した後、カナダの大学の助教授、大蔵省財政金融研究所の研究官などを経て、89年に東京大学の教壇に立つことになる。 当時「植田ゼミ」1期生として、植田氏の薫陶を受けたのが、関東学院大学教授の中泉拓也氏(ミクロ経済学)だ。 その中泉氏が言う。 「植田先生は数学ができる方で、その点では誰もかなわないのではないかと思います。例えば数式にしても、普通の文章を読むようにして読み解いてしまうんです。経済学の研究というのは、突き詰めていくと高度な数学が扱えないと難しい。ですから、数学を学んで経済学へ、というルートは自然ではあります。また、植田先生は英語も堪能。普段は寡黙なんですが、英語になるとはつらつとお話しになります」 卒論指導は厳しかった、と続ける。 「データやエビデンスを非常に大事にする方で、詰め切れていない論点や根拠があやふやな箇所は“ここはおかしいですよ”“これはどうしてこうなるのですか”と厳しく指導されました」』、「数式にしても、普通の文章を読むようにして読み解いてしまうんです」、「英語も堪能。普段は寡黙なんですが、英語になるとはつらつとお話しになります」、数学・英語に圧倒的強味があったようだ。
・『バブル崩壊を予言  印象に残っているのは、「バブル崩壊」にまつわるエピソードだという。 「私が卒論を見てもらっていた1990年はバブル崩壊直前です。日本全体がどこか浮かれている中、植田先生は“経済状況を分析するとこれはバブルだから長続きしません”と予言していました。後から“あれはバブルだった”と言うのは簡単でも、国がまるごと浮かれているときに“おかしい”と指摘するのは簡単なことではありません」 そうした分析によるものなのか、こんな一面も。 「90年代には日本株の空売りをやっていたと本人が言っていました。結構儲かったんじゃないですかね。自分の理論を試したくなるみたいで、控えめな性格なのに空売りなんて、と驚いた記憶があります」(先の同級生)』、「バブル崩壊を予言」、「90年代には日本株の空売りをやっていた」理論を株式投資で実証したようだ。
・『赤プリのスイートルーム  中泉氏は当時「こんなに酒が強い人がいるのか」と驚嘆したという。 「ゼミの飲み会になると酒に酔ったような素振りを見せるのに、その実、全く酔っていない。泥酔したのを見たことがありません。ビールにブランデー、日本酒まで何でも飲みます。当時、草津や千葉の白子などへゼミ旅行に行くと、先生が一番酒が強いので深夜まで飲んでいる。カラオケもお好きでした。よく高橋真梨子さんの『桃色吐息』を歌っていて、その後、ゼミ仲間との飲み会ではその曲が先生の十八番ということになりました。ただ、さすがにいまは激しい飲み会はやっていないでしょうね」 別のゼミ生によれば、 「当時あった赤坂プリンスホテルのスイートルームを取って、ゼミ生と植田先生、差し入れを持ってきてくれるOBと朝まで夜通し飲む会が年に1回ありました。支払いは基本割り勘で先生が多く出すという感じ。学生は就職を控えているので、特に怪しいこともなく健全な会でしたが」』、「ゼミ旅行に行くと、先生が一番酒が強いので深夜まで飲んでいる」、さすがだ。
・『「生きた金融政策を語っていた」  植田氏は98年から05年まで、日銀政策委員会の審議委員を務めている。バブル崩壊後、日本経済が低迷にあえぎ、当時の速水優総裁により、ゼロ金利政策が導入された時期だ。 00年8月の金融政策決定会合では「ゼロ金利政策解除」に植田氏は反対票を投じている。結果的に、ゼロ金利は解除されるも、直後から景気が悪化。日銀は猛烈な批判を浴びた。 「言うべきことは的確、かつ最低限の言葉でお話しになる方でした」 とは当時の日銀副総裁だった藤原作弥氏。 「政策委員会の会議は日銀内の俗称“丸テーブル”で行われます。総裁がいて、脇に副総裁、そのまわりを審議委員で囲む。植田先生はいつも私の隣でした。何かの拍子でお互いに酒好きということが分かりまして、何度かご一緒し、植田先生行きつけのバーに行った記憶もあります。酔っても決して饒舌になったりはしないんですよね」 別の委員とアカデミックな論争になることもあった。 「植田先生は世界中の中央銀行のこともご存じでしたので、生きた金融政策を語っていました。例えば、(ゼロ金利政策を長期間にわたって行うと予告する)時間軸政策という概念を最初に提唱したのは彼なんです」(同)』、「時間軸政策という概念を最初に提唱したのは彼」、さすがだ。
・『銀座や六本木のクラブに頻繁に繰り出し…  審議委員時代には、“醜聞”が書かれたことも。 00年に週刊ポストは、植田氏が日銀の公用車で六本木のクラブのホステスと同伴し、クラブをはしごして連夜、豪遊していたと報じている。 「夜のお店は昔から好きみたいで、銀座や六本木のクラブに頻繁に通っていたと聞きます。飲み仲間に野村総研のエコノミストだった政治経済学者の植草一秀さんもいたそうです。04年に女子高生のスカートの中を手鏡でのぞこうとして現行犯逮捕され、“ミラーマン”として騒動になった植草さんです。植田さんとは大蔵省の財政金融研究所で机を並べていた関係でした」(植田氏の知人) 当の植田氏に都内の自宅前で話を聞いた(qは聞き手の質問、Aは植田氏の回答)。 Q:よく銀座や六本木のクラブで飲まれていた。 A:「当時の知り合いの方に連れて行ってもらった感じだと思います。支払いは割り勘の時もありましたし、私が払った時もありました」 Q:植草さんとそういったお店に行かれていた。 A:「はいはい、植草くん。40年前とかですよ。クラブではなく、居酒屋に行っていましたね」 Q:かつて株の空売りをしていたこともあった。 A:「空売りはあまりしていませんが、株の売買をしたことはあります。学者だったので、単に空理空論ではなく実践した経験も必要かなと思って始めたんです」 と、朴訥(ぼくとつ)と語る。一方の植草氏は大要こう回答した。 「週刊ポストの記事の件については当方では事情を承知しておりません。植田先生とは食事をごちそうになり、その後に、お酒を飲める場で懇談させていただいたことが1度あります。そのお礼にお誘いし、やはりお酒を飲める場で懇談をさせていただき、これと別に、新宿のバーのようなところで、亡くなられた西部邁先生とご一緒に懇談させていただきました。プライベートな接触はこの3回だけだと思います」 ともあれ、この植田氏に日本経済の行く末が託されることになる』、「植田さんとは大蔵省の財政金融研究所で机を並べていた関係」、「クラブではなく、居酒屋に行っていましたね」、庶民的な「居酒屋」にも行くようだ。
・『先進国から脱落してしまう  安倍政権時代に内閣官房参与としてアベノミクスを推し進めた元大蔵官僚の本田悦朗氏が、 「植田さんの名前を聞いた時はビックリしましたけど、他の先進国では中央銀行のトップに高度な専門知識を持った人物が就くのは当たり前です」 と、植田氏の印象を語る。 「参与だった当時、消費税を8%に上げる前に、非公開で専門家による点検会合を行ったことがありました。植田さんにも来ていただき、アベノミクス推進側に好意的な発言をされ、“仲間がいた、うれしいなあ”と感じたのを覚えています」 一方で、今後の展開は注視しているという。 「経済の正常化、つまり物価上昇率が安定的に2%に近づいた時は、長期金利をぐっと抑え込んでいるYCC(イールドカーブコントロール)と呼ばれる黒田さんが進めていた政策を外すことになります。YCCを外して初めてアベノミクスは成功といえる。しかし、外すのが早すぎると経済の腰折れを招きますし、逆に外せないと日本はおしまいです。経済が衰退し、先進国から脱落してしまうでしょう」(同)』、「YCCを外して初めてアベノミクスは成功といえる。しかし、外すのが早すぎると経済の腰折れを招きますし、逆に外せないと日本はおしまいです」、その通りだ。
・『木原官房副長官は蚊帳の外  難しい舵取りを迫られる「植田日銀」。先述の通り、日銀審議委員時代はゼロ金利解除に反対するも、インフレターゲット政策には慎重な意見を表明するなど臨機応変な提言を行っていた。今後は金融緩和策を徐々に修正していくものとみられるが、共同歩調をとる岸田政権も大いなる不安を抱えている。 「自民党幹部によると、今回の植田さんの人選は、岸田総理が財務省の元事務次官・岡本薫明さん、神田真人財務官と相談して決めたようです」 とは政治ジャーナリストの青山和弘氏。 「最側近として知られ、財務省出身の木原誠二官房副長官は蚊帳の外で、この件に限らず総理との間に距離が生まれています。防衛増税についても事前に聞いておらず、木原さんは周囲に、“岸田さんから遠ざけられている”と嘆いている。総理は長男で秘書官の翔太郎さんにも政治的な相談はしないので、自民党幹部や官邸スタッフの中でも“総理が何を考えているのかわからない”という声が上がっています」 当の総理は今月11日に、全身麻酔をかけて慢性副鼻腔炎の手術を行った。だが、鼻詰まりが良くなっても、官邸内の目詰まりまでは解消できず。夜に強い新総裁が船出しようというのに、岸田政権は“桃色吐息”ならぬ“青息吐息”になるばかりである』、「岸田政権は」「“青息吐息”になるばかりである」、上手い比喩だ。さて、「植田新総裁」のお手並み拝見である。
タグ:異次元緩和政策 (その42)(《挑発的発言で140円までドーンと下落》日銀OBが「言わんこっちゃない」と苦笑する黒田総裁のマーケット評、三菱UFJ銀行・平野氏 日本総研・翁氏「政府・日銀はアベノミクス時代の指針を見直せ」、日銀・植田新総裁による金融政策「修正プロセス」を大予想&カンタン解説、「数式を普通の文章のように読む」 日銀新総裁・植田和男氏の天才エピソード、教え子が“酒豪ぶり”も証言) 文春オンラインが掲載した「《挑発的発言で140円までドーンと下落》日銀OBが「言わんこっちゃない」と苦笑する黒田総裁のマーケット評」 早川氏は日銀きってのエコノミストとして鳴らした人物だ。 「帳簿上では収益を親会社に移転して連結決算にも反映するのですが、資金の大部分は現地に置きっぱなしで円転しないのです。一方で貿易の支払いはあるから、どうしても日本全体としてはドル不足に陥ってしまう。需給の関係でドルは上がり、円は下がることになるのです」、「このような対外収支構造が根底にあることを考えると、現在の日本は円高になりにくく円安が進みやすい状態」、「購買力平価・・・で比較すると、1ドル=100円くらいが適正だろうとみられます。 ですから、過剰な円安はいずれ調整されて戻っていく。ここまで異常な状態が、この先何年も続くとは思いません」、なるほど。 現実には、「日銀」は12月19-20日の金融政策決定会合で、10年物国債金利の許容変動幅について、プラスマイナス0.5%に拡大することを決めた。しかし、「黒田総裁」の「頑なな態度」は問題だ。 「土壇場で“ラストチャンス”を狙っている」とはどういう意味なのだろうか。「許容変動幅」「拡大」をした以上はどうでもいいのだろうか。 文春オンライン「三菱UFJ銀行・平野氏、日本総研・翁氏「政府・日銀はアベノミクス時代の指針を見直せ」」 「日本経済の低迷の責任を政府と日銀だけに押し付けるのは間違っています。根本的な原因は、民間企業が新しいビジネスモデルの構築やイノベーションへの挑戦、そして何よりも投資を怠ってきたことにある。長く銀行の経営に携わってきた平野も自戒しつつ、日本の経営者が過去30年に亘りとってきた事業経営戦略には大きな問題があったと考えています。端的に言えば、日本の経営者は守りに入ってしまった」、その通りだ。 「政府と日銀は新総裁の下で集中的に議論を行い、「新たな共同声明」を打ち出すべき〉 と主張」、同感である。 ダイヤモンド・オンライン 真壁 昭夫氏による「日銀・植田新総裁による金融政策「修正プロセス」を大予想&カンタン解説」 「金融政策の「修正プロセス」をひもといていく」とは興味深そうだ。 「これから日銀は植田新総裁の下、時間をかけ金融政策の正常化のタイミングを計り、あるべき政策への回帰を目指すことになるはずだ」、その通りだ。 「政府は構造改革の推進よりも日銀による一時的な需要喚起を優先し、金融政策の持続性は低下している」、残念ながらその通りだ。 「内外金利差が想定以上に拡大すれば・・・円はドルなどに対して減価し、物価上昇圧力は長引くかもしれない。 このように異次元緩和が経済にプラスよりも、マイナスのインパクトを与える恐れは増している」、「マイナスのインパクト」とは困ったことだ。 「マイナス金利政策からの脱却は、コロナ禍で実質、無利子・無担保で融資(ゼロゼロ融資)を受けてきた中小企業の事業運営に負の影響を与えると懸念される。イールドカーブ・コントロール政策の(段階的)撤廃以上に、マイナス金利政策からの脱却には時間がかかりそうだ」、その通りだ。 デイリー新潮「「数式を普通の文章のように読む」 日銀新総裁・植田和男氏の天才エピソード、教え子が“酒豪ぶり”も証言」 「異次元緩和」は取り組む時よりも、手仕舞いする出口の方が遥かに難しいので、貧乏クジを引きたくないのだろう。 「日銀が大量の国債を買い入れ、維持してきた緩和について、当事者らが「もうこれ以上は無理。責任を取りたくない」と本心を吐露したようなもので、財界には「あり得ない」と衝撃が走った」、確かに「あり得ない」ことではある。 「トランジスタラジオを持ってきて、それを聞きながら英語の勉強をしていました。また、親戚宅までの海岸沿いの道を英語の本を読みながら数キロも歩いていた。勉強が好きだったんでしょう」、本当に「勉強が好き」なようだ。 「「理数系科目では圧倒的なトップでした。特に数学が異常にできていた印象があります」、さすがだ。 「数式にしても、普通の文章を読むようにして読み解いてしまうんです」、「英語も堪能。普段は寡黙なんですが、英語になるとはつらつとお話しになります」、数学・英語に圧倒的強味があったようだ。 「バブル崩壊を予言」、「90年代には日本株の空売りをやっていた」理論を株式投資で実証したようだ 「ゼミ旅行に行くと、先生が一番酒が強いので深夜まで飲んでいる」、さすがだ。 「時間軸政策という概念を最初に提唱したのは彼」、さすがだ。 「植田さんとは大蔵省の財政金融研究所で机を並べていた関係」、「クラブではなく、居酒屋に行っていましたね」、庶民的な「居酒屋」にも行くようだ。 「YCCを外して初めてアベノミクスは成功といえる。しかし、外すのが早すぎると経済の腰折れを招きますし、逆に外せないと日本はおしまいです」、その通りだ。 「岸田政権は」「“青息吐息”になるばかりである」、上手い比喩だ。さて、「植田新総裁」のお手並み拝見である。
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政府の賃上げ要請(その5)(日本人の給料が上がらないのは「企業が渋る」から 「骨太」打ち出した岸田首相が本当はすべきこと、大前研一「岸田首相が的外れな政策をやめない限り 日本人の給料は韓国や台湾よりずっと低くなる」 日本では まじめに働いても給料が上がらない、日本の賃金低迷は「21世紀の重商主義」の表れといえる理由) [経済政策]

政府の賃上げ要請については、2019年2月9日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その5)(日本人の給料が上がらないのは「企業が渋る」から 「骨太」打ち出した岸田首相が本当はすべきこと、大前研一「岸田首相が的外れな政策をやめない限り 日本人の給料は韓国や台湾よりずっと低くなる」 日本では まじめに働いても給料が上がらない、日本の賃金低迷は「21世紀の重商主義」の表れといえる理由)である。

先ずは、昨年6月15日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)のリチャード・カッツ氏による「日本人の給料が上がらないのは「企業が渋る」から 「骨太」打ち出した岸田首相が本当はすべきこと」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/596702
・『まさに「大山鳴動して鼠一匹」である。岸田政権は「新しい資本主義」を具体的な政策として打ち出すために、有識者や新興企業関係者などの改革派を交えて6カ月間奔走した。だが、6月7日に閣議決定されたその実行計画は、多くの参加者を大きく失望させる、形だけのものであった。 具体的には、岸田首相が掲げる「健全な成長と平等な所得分配は互いに必要である」という基本理念に対する自民党内や金融市場からの「社会主義を推進している」という非難に簡単に屈する形になった。「成長の果実を再分配しなければ、消費と需要は増えない」という主張は社会主義ではない。これは、標準的なマクロ経済学における、長年の評決なのである』、私も「岸田政権は「新しい資本主義」」には、当初は「お手並み拝見」と期待したが、裏切られた。
・『実質的な方策に欠けた中身  岸田首相の"譲歩"のせいで、政策文書は「成長と分配の好循環」の必要性を訴えるレトリックに終始しているが、それを実現するための実質的な方策は極めて乏しい。 岸田首相の妥協は、就任直後に年収1億円以上の人にキャピタルゲインと配当課税の強化を求めたことで株価が下落し、いわゆる「岸田ショック」を招いたことに端を発する。動揺した岸田氏は、この提案を撤回した。7月の参議院選挙を前にして、経団連を怒らせるわけにはいかないと判断したのだ、とある関係者は語る。 参院選での勝利を確実にするには、安倍晋三氏などの前任者が打ち出した失敗策の焼き直し案しか残されていない。 例えば、賃金について、岸田首相は企業に対して年3%の賃上げを求めるという過去の意味のない要求を繰り返した。また、最低賃金を時給1000円にするという長年の目標も繰り返したが、その達成期限は示さなかった。) 一定の賃上げを行った企業に与えられる一時的な減税の水準を引き上げることを提案したが、企業が一時的な税制優遇の見返りのために永続的な賃上げを行うことはないのは歴史が証明している。また、看護師など特定の職業に就く公務員の賃上げも約束した。 成長戦略の重要な要素――新興企業の数を今後5年間で10倍に増やす――に言及が及ぶと、改革者たちの不満はさらに高まった。科学技術・イノベーション会議が主導する官民合同チームは、日本の起業率を低く抑えている主要な問題点(銀行のような重要な問題は除外されているが)について、第一級の分析を行った。 例えば、初期段階の資金を提供する「エンジェル投資家」に対する税制優遇措置、新興企業が必要とする収入と信用を与える政府調達、資金難の新企業が優秀な人材を引き寄せるためのストックオプションの利用などだ。だが、最終文書では、これらの課題に関する具体的な提案は極力避けられている』、もともと結果が見え見えだった「岸田ショック」はお粗末の極みだった。「企業に対して年3%の賃上げを求める」、「最低賃金を時給1000円にするという長年の目標も繰り返したが、その達成期限は示さなかった」、「新興企業の数を今後5年間で10倍に増やす」ための「「エンジェル投資家」に対する税制優遇措置などは最終的提案には盛り込まれなかった。
・『参院選を見据えた内容になってしまった  「参議院選挙が終わるまで待ってほしい」 不満の声を挙げた参加者の一部は、こう言われたという。官邸としては、具体的な救済策、特に税制や労働問題などに言及して、各省庁や利権団体の対立が表面化し、選挙で自民党が不利になることをおそれたのだろう。 例えば財務省は、新興企業の育成に必要な減税措置に繰り返し反対している。官邸は、年末までに「5カ年計画」を発表し、具体的な内容を盛り込むと約束した。しかし、複数の参加者と話をしたところ、そのプランが本当に充実したものになるのか、期待こそすれ、自信はあまりないといった様子であった。 ある関係者は、岸田首相が限られた政治資金を防衛費の増額に費やし、議論を呼ぶ経済対策のための資金を十分に残せないことを懸念した。また、自民党内の岸田派は比較的小さく、安倍氏や麻生太郎氏が率いる強力で保守的な派閥を疎外するわけにはいかないと強調する者もいた。 岸田首相のリーダーシップのあり方がさらに事態を悪化させている。複数の情報筋による指摘によると、1つには岸田首相自身は以前から賃金問題に関心を持っていたものの、「新しい資本主義の形」を作るために何が必要かを考えたことがなかったという。実際、このコンセプト自体は岸田首相自身のものではなく、重要な側近である元大蔵省官僚の木原誠二官房副長官が考案したと言われている。 さらに岸田首相は、安倍氏が集団安全保障で、菅義偉氏が脱炭素化で行ったように、自民党や官僚にいくつかの重要な優先事項を課しながら、トップダウン方式で指導できるような首相ではなく、「聞き上手」を自称する合意形成者である』、「岸田首相のリーダーシップのあり方がさらに事態を悪化させている」、「「新しい資本主義の形」を作るために何が必要かを考えたことがなかった・・・このコンセプト自体は岸田首相自身のものではなく、重要な側近である元大蔵省官僚の木原誠二官房副長官が考案」、「自民党や官僚にいくつかの重要な優先事項を課しながら、トップダウン方式で指導できるような首相ではなく、「聞き上手」を自称する合意形成者」、これでは成果は期待できない。
・『真の成長と分配による好循環を引き起こすには  さまざまな権力者の意見が異なる場合、岸田首相自身が解決策を押しつけるのではなく、権力者が妥協点を見いだせるように仕向ける。このスタイルは、ある状況下では生産的かもしれないが、岸田首相が主張するような大きな経済的「軌道修正」を生み出すことはできない。 では、参院選での勝利によって、岸田首相が年末に予定されている「5カ年計画」において、より積極的な主張をできるとなったらどう変わるか。その場合、真の「成長と分配の好循環」を引き起こすために、どのような手を打つことができるだろうか。 当初、岸田首相は前述のように、富裕層の株式所得に対する税率を引き上げることを提案していた。現在は一律20%である。その結果、主に投資によって年間1億円以上の所得を得ている人は、アッパーミドルクラスよりも全体の税率が低くなっている。 とはいえ、1億円以上の所得を持つ納税者は全体の0.01%程度に過ぎない。そのため、通常の所得税と同様、投資所得にもいくつかの区分を設けない限り、所得の平準化にはあまり効果がない。 いずれにせよ、多くの日本人の所得が低迷している最大の原因は、この国の少数の真の富裕層にあるのではなく、企業所得と家計所得の差である。企業は「内部留保」、つまり賃上げや投資、あるいは税金で経済に還元されない利益をため込んでいるのだ。 さらに悪いことに、過去数十年間、東京都(注)は企業減税のために消費税増税を行い、家計から企業へ繰り返し所得を移転してきた。政府は1998年以降大企業に対する法人税率を大幅に引き下げ、現在は30%になっている。 経団連と経済産業省は、企業は余分な現金を使って賃金や投資を増やし、それによって1人当たりのGDPを押し上げるので、法人税減税によって誰もが恩恵を受けると主張した。事実上、政府は企業と取引をしていたのだ。もし、われわれが法人税を下げれば、企業は賃金を上げてくれるだろうと。しかし、企業がその約束を果たすことはなかった』、「多くの日本人の所得が低迷している最大の原因は、この国の少数の真の富裕層にあるのではなく、企業所得と家計所得の差である。企業は「内部留保」、つまり賃上げや投資、あるいは税金で経済に還元されない利益をため込んでいるのだ」、「事実上、政府は企業と取引をしていたのだ。もし、われわれが法人税を下げれば、企業は賃金を上げてくれるだろうと。しかし、企業がその約束を果たすことはなかった」、その通りだ。
(注)東京都ではなく、政府の間違い。
・『企業の内部留保だけが膨れ上がっている  11月26日の「新しい資本主義実現会議」では、この取引がいかに失敗したかを示す資料が配布された。2000年から2020年にかけて、国内数千の大企業の年間利益はほぼ倍増(18兆円増)したが、労働者への報酬は0.4%減、設備投資は5.3%減となった。 その結果、内部留保は20年間で154兆円も膨れ上がった。これは1年間のGDPの3分の1にも相当する。もし、企業がその余剰資金を賃金に回していたら、今日の生活水準は大幅に向上し、消費者の需要も高まっていただろう。中小企業でも同じパターンがみられており、ため込んだ現金が増える一方で、労働者の報酬は減少した。 このパターンは、岸田首相が「健全な成長も健全な分配も、他方なくしては存在しえない」と正しく指摘した通りである。労働者が作ったものを買うだけの収入がなければ、経済が成長するわけがない。国内で製品を売ることができず、円安にならないと海外で売ることができないのであれば、企業はなぜ拡大投資をするのだろうか。) 経済協力開発機構(OECD)加盟国全体の中で、日本は労働時間当たりのGDPの増加と時間当たり賃金の増加の間に最大のギャップがある。そしてもちろん、消費税増税は消費者需要をさらに抑制する。 それにもかかわらず、閣議の議事録によれば、このデータは議論の場にも上げられなかった。同資料は元大蔵省官僚で、現在は東京政策研究財団にいる森信茂樹氏により作成された。われわれが、閣議メンバーがこの情報を見たと認識している根拠はこれのみである』、「大企業の年間利益はほぼ倍増(18兆円増)したが、労働者への報酬は0.4%減、設備投資は5.3%減となった。 その結果、内部留保は20年間で154兆円も膨れ上がった。これは1年間のGDPの3分の1にも相当」、「もし、企業がその余剰資金を賃金に回していたら、今日の生活水準は大幅に向上し、消費者の需要も高まっていただろう」、「(OECD)加盟国全体の中で、日本は労働時間当たりのGDPの増加と時間当たり賃金の増加の間に最大のギャップがある」、「閣議の議事録によれば、このデータは議論の場にも上げられなかった」、「議論の場」に上げるか否かは官僚のサジ加減如何だ。
・『3%の賃上げを「期待」するのみ  岸田首相もほかの議員も、賃上げを行った企業に対する非効率な税額控除を引き上げる以上の具体的な改善策を提案することはなかった。岸田氏は、新型コロナウイルスによるパンデミック以前の水準まで売上を回復させた企業は3%の賃上げを行うことを「期待する」と述べただけである。「期待」は「行動」ではない。 もし法人税減税が日本の成長と財政赤字を悪化させているなら、なぜ減税を撤回しないのだろうか。その結果得られる収入で消費税を下げたらどうだろうか。そうすれば、企業と家計の間でより公正な所得分配が行われるのではないか。閣議では、誰もこの選択肢について言及しなかった。 企業が賃金を上げるような措置をとったらどうだろうか。例えば、日本の法律ではすでに正規と非正規、男女間の同一労働、同一賃金が義務づけられている。しかし、政府機関には違反を調査し、違反者を罰する義務はない。 一方、フランスでは、労働監督官が違反を調査し、同国政府はすでに女性の賃金が低いとして数社に罰金を科している。今回も、日本の労働監督官を同じように活用しようという議論は起こらなかった。) 最低賃金の引き上げは、驚くほど強力な波及効果をもたらす。最低賃金以下の人たちだけでなく、最低賃金を15〜20%上回る人たちの所得も上昇させるからだだ。 パートタイム労働者の平均賃金はわずか1100円であり、彼らは全従業員のほぼ3分の1を占めているため、生活水準や消費需要への影響は劇的なものとなるであろう。残念ながら、岸田氏は十数年前に打ち出された最低賃金目標、時給1000円を繰り返しただけで、この目標をいつ達成するかは明言していない。現在、最低賃金は930円だ』、「日本の法律ではすでに正規と非正規、男女間の同一労働、同一賃金が義務づけられている。しかし、政府機関には違反を調査し、違反者を罰する義務はない。 一方、フランスでは、労働監督官が違反を調査し、同国政府はすでに女性の賃金が低いとして数社に罰金を科している」、「日本」も「フランス」と同様にするべきだ。
・『最低賃金は1145円程度にする必要がある  岸田首相はまた、1000円を超える引き上げの可能性についても言及しなかった。2020年の最低賃金は全国平均賃金のわずか45%であり、OECD21カ国中、日本は18位となる。典型的な富裕国では52%である(貧困レベルを超えるには、全国平均賃金の半分の所得が必要である)。日本は富裕国の水準を目標にすべきだ。そのためには現状を踏まえて、最低賃金を1145円程度にする必要がある。 起業の数を10倍にするという目標については、先鋭のエキスパートによる専門チームが6カ月の期間中、さまざまな想像力を駆使してアイデアを出した。ところが、岸田内閣では、成長と分配の悪循環を解消するための同様の委員会は設置されなかった。 したがって、6月に承認された案は、11月に議論された案とほとんど変わりはない。こうしたやり方は、岸田首相の屈服が長引かないかどうかという心配を増幅させる。 日本と改革派と同様、私は岸田首相による次の5カ年計画(注)では、この骨組みにもっと肉付けしてくれるのではないかと期待している。しかし期待だけで、確信は今のところない』、「期待」しても裏切られるだけで、無駄だ。
(注)5カ年計画:スタートアップ育成5か年計画は、スタートアップ育成分科会で審議、新しい資本主義実現会議で決定(首相官邸HP、2022/11/24)

次に、6月20日付けPRESIDENT Onlineが掲載したビジネス・ブレークスルー大学学長の大前 研一氏による「大前研一「岸田首相が的外れな政策をやめない限り、日本人の給料は韓国や台湾よりずっと低くなる」 日本では、まじめに働いても給料が上がらない」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/58608
・『なぜ日本人の給料は上がらないのか。ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一さんは「岸田文雄首相は賃上げした企業に税制を優遇するというが、まったく的外れな政策だ。このままでは韓国や台湾に1人当たり名目GDPでも抜かれてしまう」という――。 ※本稿は、大前研一『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社)の一部を再編集したものです』、興味深そうだ。
・『安倍元首相が残した「アベノミクス」という負の遺産  安倍晋三元首相が残した最大の「負の遺産」は、アベノミクスの失敗だ。 「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」という3本の矢を放ち、名目成長率3%と2年で2%の物価安定目標を掲げ、異次元の金融緩和を続けたものの、7年8カ月という任期をかけても達成することができなかった。 今や日本銀行(日銀)の総資産はGDP(国内総生産)の約1.3倍と、米欧をはるかに上回っている。 高騰する物価を落ち着かせるために、FRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)は量的緩和の縮小に向けて舵を切り始めているなか、日銀は身動きがとれないでいる。 本来なら、日本も量的緩和縮小に向けた「出口戦略」の準備に入らなければならないはずだ。だが、日銀は国債を民間金融機関から買い取り、自ら貯め込むことで、事実上の財政ファイナンス(国の発行した国債などを中央銀行が直接引き受けること)を続けている。もし日本が量的金融緩和の縮小を始めれば、国債が大暴落して大変なことになる可能性が高いからだ』、「国債が大暴落」すれば、国債を保有している民間金融機関での膨大な評価損の発生、国債費の急増など金融機関経営や財政運営には甚大な影響を及ぼす。
・『政権は「3つの構造的問題」を理解していない  その結果、日本の国債残高は1000兆円を突破し、債務残高の対GDP比は256.9%(2021年)と先進国の中で突出している。少子高齢化で労働人口が減っているというのに、いったい誰がどうやってこの膨大な借金を返していくというのだ。 そうかといって、このまま金融緩和を続けても、経済のシュリンクに歯止めはかからない。国の借金は増え続け、行き着く先はデフォルト(債務不履行)だ。 自民党政権が日銀の金融緩和には効果がないことを理解していないことが、最大の問題かもしれない。 私がこれまでずっと言い続けているとおり、日本経済が低迷している3つの構造的問題は、少子高齢化と人口減少、そして日本が「低欲望社会」だからだ。若者は持ち家にも自家用車にも興味を示さず、将来が不安だと言って、20代のうちから貯金に励んでいる。一方で、高齢者は貯金があっても「いざというときのために」というよくわからない理由で使おうとせず、貯めた3000万円を使わないまま死んでいく。21世紀の日本はそういう国なのだ。 だから、みなが欲望をみなぎらせていた20世紀型の経済政策(低金利とジャブジャブのマネタリーベース)を実行しても、効果がないのは当たり前なのである』、その通りだが、次期日銀総裁候補の植田氏は自分がかって賛成したためか、効果があるとの立場だ。
・『インフレ下でMMT理論はまるで通用しない  日米欧の消費者物価指数を見ると、2021年10月の段階で、アメリカ6.2%、ユーロ圏4.1%と明らかにインフレ基調だ。 しかもアメリカで進行しているのは、コストプッシュではなく、構造的なインフレであり、この先日本にも波及する恐れがある。 黒田東彦・日銀総裁やアベクロ推進のアドバイザーだった浜田宏一教授、そして元財務官僚で経済学者の高橋洋一氏のようなMMT理論の信奉者は「インフレは恐れるに足らず」というスタンスのようだが、私はMMT理論そのものがまやかしだと思っている。 MMTとは、Modern Monetary Theoryの略で、日本語でいう現代貨幣理論のことだ。政府が自国通貨建ての借金(国債)をいくら増やしても財政は破綻せず、インフレもコントロールできるのだから、借金を増やしてでも積極的に財政出動をすべきというのだが、これはどう考えてもおかしい。 MMTの論文を読むと、「インフレさえ起こらなければ」という但し書きがついているのである。 また、日本の国債の大半は日銀と日本の金融機関が保有しており、外国人の保有比率が低いので、今のところ金利は安定しているものの、借金であることに変わりはなく、いずれは誰かが返さなければならないのだ。 もし、アメリカのインフレが日本にも波及すれば、現在の国の過剰債務がどうなるかはわからない。もしかすると、これまで低欲望とデフレで表面化していなかった危機が顕在化するかもしれないのだ。 だから、これから先は長期金利の動きをはじめとした経済指標に注意し、同時に最悪の事態も想定して対策を立てておく必要がある。間違ってもMMT論者の楽観論を信じてはいけない』、「日本の国債」は海外のヘッジファンドが保有する割合も高くなっており、彼らによる空売りも目立つようになったので、安心が禁物だ。
・『「新しい資本主義」とは何かがよくわからない  2021年11月、総選挙で勝利した自民党総裁の岸田文雄氏が、第二次岸田内閣を発足させた。 岸田首相が所信表明演説でとくに強調したのが「新しい資本主義」と「成長と分配」という言葉である。 ただ、所信表明演説を何度読んでも、新しい資本主義とは何かがよくわからない。そもそも「新しい資本主義」という言葉を打ち出すならば、それまでの古い資本主義は何なのかを定義しなければならないはずだが、それもない。それどころか、どうやら岸田首相は資本主義も経済もきちんと理解していないようなのだ。 たとえば、成長だけでなく分配も大事なのだと言うが、日本は分配ができていないのかというと、そんなことはないのである。 主要国の上位1%の富の保有者の割合をみると、一番大きいのはロシアで58.2%、次がブラジルの49.6%で、インド40.5%、アメリカ35.3%と続く。日本は18.2%で、主要国では最も小さい。つまり、日本は富の集中度が低い、分配の行き届いた国なのである。) 向上させて賃上げをしたとしよう。これは難しいことではない。DXツールやロボットなどを活用して、それまで100人で行っていた仕事を10人で行うようにすればいいだけの話だ。 この場合、問題は余った90人をどうするかだ。ドイツなら会社は躊躇なく外に出す。そして、出された人には国が責任を持って再教育を施し、戦力化するのである。 ところが、日本では正規労働者は解雇規制で守られているため、簡単にリストラすることができないのだ。無理やりやればできないことはないが、そうすると今度は「悪徳経営者」「血も涙もないのか」と叩かれるので、手をつけにくいのである。 だからといってリストラしなければ、DXで生産性を向上させても、効果は大して出ないということになってしまうのだ』、「どうやら岸田首相は資本主義も経済もきちんと理解していないようなのだ」、「日本では正規労働者は解雇規制で守られているため、簡単にリストラすることができないのだ。無理やりやればできないことはないが、そうすると今度は「悪徳経営者」「血も涙もないのか」と叩かれるので、手をつけにくいのである」、「だからといってリストラしなければ、DXで生産性を向上させても、効果は大して出ないということになってしまうのだ」、その通りだ。
・『首相は経済の勉強を一からやり直すべきだ  一方で、生産性はそのままで給料を上げると、人件費が上がって企業は収益が圧迫されて利益が減る。いくら法人税を下げてもらっても、利益が出なければ企業にとってメリットはないのだ。 だから、岸田首相は、企業に賃上げを求めるのであれば、「生産性向上で余った人員をどうするのか」という議論を一緒にしなければならないはずなのである。 岸田首相が今実施すべきことは、20年前にドイツのシュレーダー政権が行った構造改革「アジェンダ2010」型の取り組みだ。解雇規制を緩和すると同時に、職業訓練や職業紹介を充実させ、労働市場を活性化させるのである。「賃上げ税制」というわけのわからないことを行っている場合ではないのである。 それなのに、「給料を上げたら法人税を減らしてやるぞ」と上から目線で言ってはばからないのは、岸田首相が経済の原則をわかっていないからだ。 彼に必要なのはリカレント教育である。経済の勉強を一からやり直すべきだ』、「今実施すべきことは、20年前にドイツのシュレーダー政権が行った構造改革「アジェンダ2010」型の取り組みだ。解雇規制を緩和すると同時に、職業訓練や職業紹介を充実させ、労働市場を活性化させるのである」、その通りだ。
・『韓国、台湾に比べて労働生産性が著しく低い  日本の1人当たりGDPは、2020年時点では3万9890ドル(約452万円)と、韓国を25%、台湾を42%上回っていた。しかし、その後の数値を試算すると、2025年までに韓国は年6%増、台湾は年8.4%増であるのに対し、日本は年2%と伸びが鈍化している。 このままいけば、日本の1人当たりGDPは、2027年に韓国、2028年には台湾に抜かれるのは間違いない。 なぜ日本の1人当たりGDPは韓国や台湾ほど伸びないのか。1人当たり名目GDPは、国民全体の1年間の付加価値を総人口で割った数値のことで、労働生産性、平均労働時間、就業率で説明できる。つまり、日本は先の2国に比べ、労働生産性が著しく低いのだ。 たとえば、行政面では、韓国や台湾が行政手続きの電子化を進めているのに対し、日本はいまだに押印やサインを必要とするなどアナログ中心だ。 新型コロナウイルス対策でも、台湾ではデジタル担当大臣のオードリー・タン氏が「マスクマップ」や「ワクチン接種の予約システム」を開発するなどして迅速に対応しているのに、日本はマスクや給付金を配るのにも手間取っている。 では企業はどうかというと、韓国も台湾も新型コロナウイルスのパンデミックが起こる以前から多くの企業がテレワークを取り入れ、仕事の効率化を図っていた。一方、日本はコロナ禍でテレワークが普及したものの、緊急事態宣言が解除されると、また元に戻りつつある』、「このままいけば、日本の1人当たりGDPは、2027年に韓国、2028年には台湾に抜かれるのは間違いない。 なぜ日本の1人当たりGDPは韓国や台湾ほど伸びないのか」、「日本は先の2国に比べ、労働生産性が著しく低いのだ。 たとえば、行政面では、韓国や台湾が行政手続きの電子化を進めているのに対し、日本はいまだに押印やサインを必要とするなどアナログ中心だ」、「企業はどうかというと、韓国も台湾も新型コロナウイルスのパンデミックが起こる以前から多くの企業がテレワークを取り入れ、仕事の効率化を図っていた。一方、日本はコロナ禍でテレワークが普及したものの、緊急事態宣言が解除されると、また元に戻りつつある」、これでは、「日本」の「労働生産性」の低さは当然だ。
・『日本人の給料が上がらない理由①「労働生産性が低い」  日本の1人当たり労働生産性は、OECD(経済協力開発機構)37カ国中26位(2019年)と、G7のなかで50年以上も最下位を続けている。 日本人の給料が上がらない理由は、大きく2つある。 1つは「労働生産性の低さ」だ。とくに間接業務でDXの導入が遅れているのが、致命的だと言っていい。 しかし、すでに述べたように、仮にDXを導入して必要な人員を10分の1に減らして間接業務の生産性を高めたとしても、現行の制度ではそれによって仕事を失った10分の9の社員をリストラすることができない。ここをなんとかしないとこの先も、DXは遅々として進まないことになる。 日本の労働市場が未成熟というのも、労働生産性が上がらない要因のひとつになっている。社員を解雇する際のハードルが高い解雇規制が諸悪の根源であることはもちろんだが、それに加え、日本にはリストラされた人たちが学び直すためのリカレントやリスキリングといった学び直しの機会や場所が用意されていないのも問題だ』、「リストラされた人たちが学び直すためのリカレントやリスキリングといった学び直しの機会や場所」を確保すべきだ。
・『公共職業訓練がアップデートされていない  職業安定所(ハローワーク)は、雇用保険に入っている人を対象としているため、失業保険を受給していないアルバイトやパートの人は、公共職業訓練を受けることができない。 また、職業訓練校のプログラムを見ると、左官工や溶接工といった19~20世紀の工業化社会を想定した科目がいまだに主流で、デジタル主導の21世紀型の教育がなされていない。これではスキルを身につけても、再就職に苦労するのは目に見えている。 それから、DXを進めようにも、日本企業にはそれを進められるIT人材が足りない。一般企業では年功序列でしか給料が上がらないため、優秀なIT人材はどうしてもIT業界に集中してしまうのだ。 日本人の給料が上がらない理由②「終身雇用の弊害」(日本人の給料が上がらないもうひとつの理由として「転職をせず、最初に入った会社で定年まで勤めあげる」というスタイルが長らく働き方のスタンダードになっていたことが挙げられる。 アメリカでは、高い給料を求めて労働者が移動するのは当たり前のことである。別の業種のほうがいい給料を払ってくれるとわかれば、学び直して必要なスキルを獲得し、これまでとは違う仕事に就くのも珍しくはない。高給を求めて海外に移住するケースもある。 そうすると企業も、優秀な人材が欲しければそれに見合う給料を支払わなければならなくなる。高い給料を払うには生産性を上げなければならないから、DXもどんどん導入するわけだ』、「職業訓練校のプログラムを見ると、左官工や溶接工といった19~20世紀の工業化社会を想定した科目がいまだに主流で、デジタル主導の21世紀型の教育がなされていない」、これは由々しい問題だ。公共職業訓練を産業構造に見合った形でアップデートしてゆくべきだ。
・『転職が少ない日本でユニコーン企業が生まれるはずもない  ところが、日本の労働者は給料が低くても転職をしようとしない。日本にも、32歳の平均年収が2000万円というキーエンスのような会社も存在するのだ。海外であれば入社希望者が殺到するだろう。だが、日本ではそんな話は寡聞にして存じ上げない。それでいて、同じ会社の中なら同期よりボーナスが10万円低いだけで、夜も寝られないほど悔しがるというのだから、日本人というのは実に不思議なメンタリティの持ち主と言うほかない。 大学を出たばかりのIT技術者でも、優秀なら1年目から1000万円以上の年収が支払われるというのが、世界の常識なのである。日本では新卒IT技術者の初任給は一律24万円で、それでも人が採用できるというのは、こちらのほうが異常だと言わざるを得ない。 転職をしないというのは、自らリスクをとって起業もしないということだ。これでは、ユニコーン企業が日本に生まれないのも仕方がない』、比較の対象は、「キーエンス」ではなく、仕事内容が分かる「同じ会社の中なら同期」となるのだろう。日本型の雇用では、評価の軸は長期的であるのに対し、英米型では短期的であるといった違いもあるのだろう。

第三に、本年2月10日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した同志社大学大学院ビジネス研究科教授・エコノミストの浜 矩子氏による「日本の賃金低迷は「21世紀の重商主義」の表れといえる理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/317477
・『グローバル化の進展とともに、「21世紀の資本」は凄まじい規模と速度で国境を越え、暴利をむさぼっています。一部富裕層への「富の偏在」が著しくなる一方で、先進国でも貧困が問題となるなど、格差は拡大し続けています。我々労働者は、このような時代に「働くこと」とどう向き合うべきなのでしょう――。エコノミスト浜矩子さんの著書『人が働くのはお金のためか』(青春出版社)より抜粋して紹介します』、ズバリと本質を突く「浜矩子」氏の見方とは興味深そうだ。
・『ブームを引き起こした『21世紀の資本』  皆さんはフランスの経済学者トマ・ピケティの著作、『21世紀の資本』(みすず書房、2014年)をご記憶だろうか。 ピケティは、富裕層の不労所得の増大と集中が経済格差の拡大をもたらすメカニズムを解明した。そして、グローバル化の進展とともに、富の偏在が一段と進んでいると指摘した。この分配上の歪(ゆが)みを是正するための方策として、ピケティは国際的な資本課税の導入を提唱した。今日このテーマは、国々の国際課税論議の中で大きな位置を占めている。 『21世紀の資本』は決して読みやすい本ではない。にもかかわらず、世界で、日本で、人々がこの著作に群がった。 その有様(ありさま)は、さながらアダム・スミスの『国富論』刊行時のごとしだった。アダム・スミス大先生が1776年に『国富論』を刊行したことによって、経済学という学問ジャンルが確立した。) 『国富論』もまた超大作だった。世の中、何かがおかしい。どうも納得がいかない。そう人々が感じていたところに、「労働価値説」と「見えざる手」という画期的な論理を引っ下げて、経済社会の斬新な分析フレームが躍り出てきた。だから人々は、待ってましたとばかりに『国富論』に飛びついたのだろう。 『21世紀の資本』についても、同様だったと思う。格差と貧困。富の偏在。巨大資本のあまりにも圧倒的な巨大さ。これらのことに人々が不可思議さを覚え、恐れを感じ、憤懣(ふんまん)を募らせている。この時代状況に、『21世紀の資本』の主張と提言が大いに響いた。そうそう。我々はこういうことを言ってくれる本を待っていたのだと』、それにしても『21世紀の資本』とは大きく出たものだ。
・『“主義なき資本”の時代に突入している  ところで、ピケティ本について筆者が最も評価しているのが、『21世紀の資本』というタイトルである。なぜなら筆者は、今は“主義なき資本”の時代だと考えているからだ。 20世紀最後の10年から始まったグローバル化の中で、ヒトもモノもカネも従来にはなかったスケールで国境を越えるようになった。中でも、凄(すさ)まじい規模と速度で国境を越えるようになったのが「カネ」、すなわち「資本」である。 資本主義経済というもののカラクリをカール・マルクスが『資本論』で見抜いた頃、資本はまだ、今日のような動き方はしてはいなかった。資本主義的生産体制というものは、国民国家、あるいは国民経済の仕組みが基本的に堅固な中で成り立っていた。 新型コロナウイルスによるパンデミックやロシアのウクライナ侵攻によって、グローバル化の流れが逆流し始めたかのように見られる面はある。とはいえ、『資本論』が書かれた時代の枠組みがそのまま戻ってくるとは考え難い。 だからこそ、資本主義の危機が叫ばれたり、従来とは異なる資本主義の有り方を模索したりする論議が、あちこちで盛行するようになっている。 グローバル化がいまだかつてなく活発化する中で、今日の資本は、資本主義の枠組みと袂を分かってしまった。つまり、資本の“主義なき資本化”である』、「グローバル化がいまだかつてなく活発化する中で、今日の資本は、資本主義の枠組みと袂を分かってしまった。つまり、資本の“主義なき資本化”である」、「資本の“主義なき資本化”」とは言い得て妙だ。
・『マルクス『資本論』の枠組みは通用するか  こうなると、何が起こるか。それは資本の「野生化」だ。筆者はそう考えている。 自由奔放に、勝手気ままに国境を越えて動く資本に対して、資本主義の枠組みは制御力を失った。野生化した資本の狂暴性を抑え込めるものがなくなっているのである。 今日の資本は、『資本論』が執筆された時のようには動いていない。ただし、労働に対する搾取(さくしゅ)の基本原理が崩れたわけではない。『資本論』の中でマルクス先生が、当時の工場現場の実態を描出し、そこで行われている「剰余価値創出」のカラクリを解明してくれる時、そこで語られていることは、まるで今日の労働現場に関するルポルタージュのようである。 だが、野生化した今日の資本は、当時の工場現場とは比べるべくもなく多様で広範な職場で、当時とは比べるべくもないあの手この手で、人々から余剰価値を吸い取っている。 こうなってくると、資本と対峙する関係にある労働についても、その21世紀的有り方を追求する研究や分析が展開される必要があるのではないか。つまり、「21世紀の資本」、その生態に焦点を当てた画期的著作が書かれている以上、それと対をなす姉妹編として、「21世紀の労働」が書かれるべきだと考えられるのである』、「「21世紀の資本」、その生態に焦点を当てた画期的著作が書かれている以上、それと対をなす姉妹編として、「21世紀の労働」が書かれるべきだと考えられる」、確かにアナロジーとしては理解できる。
・『アダム・スミスは労働をどうとらえていたか  ここで経済学の生みの親、アダム・スミス先生の労働観を見てみよう。この人の労働観はなかなか厄介だ。なぜなら、そこには大いなる二面性があるからだ。スミス先生における労働観の二面性は、一方で「労働犠牲説」の観点を打ち出しながら、その一方で、「労働こそ、全ての商品の真の価値の尺度だ」と言っているところにある。 『国富論』の中でスミス先生が労働を語るに当たって、“toil and trouble”(労苦と手間)という表現を使っていることは、よく知られている。この言い方からすれば、労働を願わくは避けるべき苦役だと見なしていたように思われる。しかも先生は、労働者が一定量の労働に携わることは、それに見合って、自分の自由と安楽と幸福を犠牲にすることを意味しているとも言っている。これが労働犠牲説の労働犠牲説と言われるゆえんだ。 ところが、一方で先生は、「労働価値説」の創始者だ。この論理の下に、当時の重商主義者たちの金銀財宝至上主義を厳しく糾弾したのである。 先生は、労働は苦役だと主張して労働を毛嫌いしているようでありながら、それに携わる者たちには高い賃金が払われるべきだと主張した。 それが、スミス先生の「高賃金論」である』、「先生は、労働は苦役だと主張して労働を毛嫌いしているようでありながら、それに携わる者たちには高い賃金が払われるべきだと主張」、「労働犠牲」をしている以上、「携わる者たちには高い賃金が払われるべき」というのは当然だ。
・『我々は「労苦」にふさわしい報酬を得ているか?  働く人々がその「労苦と手間」にふさわしい報酬、すなわち高賃金を得ることは、大いに正当性があると思われる。ところが、『国富論』刊行当時においてはそうではなかったのである。 高賃金論にことのほか強く異を唱えたのが、重商主義者たちだった。 彼らは、本質的に怠け者である労働者たちをしっかり働かせるためには、賃金は低くなければダメだと考えていた。また、労働者の所得が増えれば、彼らは贅沢品にカネを無駄使いする。すると贅沢品の輸入が増えて、貿易収支が悪化する。高賃金は生産コストを高めて、輸出品の国際競争力を低下させる。これまた貿易収支悪化原因だ。貿易による金銀財宝の確保を至上命題とした重商主義者たちにとって、高賃金は、あらゆる意味で天敵だったのである。 こんな状況だったからこそ、スミス先生は高賃金論を主張したのである。高賃金にすれば労働者は高賃金を喜び、一段の高賃金化を目指してさらに懸命に働く。すると労働生産性は上がり、国際競争力は低下するどころか、強化されますよ。スミス先生はそう主張した。労働観を前近代から近代へと導くことが、スミス流高賃金論に込められた先生の思いだったと言えるだろう。 少なくとも日本に関する限り、現状は、スミス先生の高賃金論に適っていない。かれこれ30年間にわたって賃金低迷状態が続いている。この状態は、スミス先生が敵対した重商主義者たちをさぞや喜ばせることだろう。日本の賃金低迷は、21世紀の資本による、21世紀の重商主義の表れだと言えるかもしれない』、「少なくとも日本に関する限り、現状は、スミス先生の高賃金論に適っていない。かれこれ30年間にわたって賃金低迷状態が続いている」、「日本の賃金低迷は、21世紀の資本による、21世紀の重商主義の表れだと言えるかもしれない」、何故、「日本」でだけそうした状況に陥ったのかは、依然として謎だ。
タグ:(その5)(日本人の給料が上がらないのは「企業が渋る」から 「骨太」打ち出した岸田首相が本当はすべきこと、大前研一「岸田首相が的外れな政策をやめない限り 日本人の給料は韓国や台湾よりずっと低くなる」 日本では まじめに働いても給料が上がらない、日本の賃金低迷は「21世紀の重商主義」の表れといえる理由) 政府の賃上げ要請 東洋経済オンライン リチャード・カッツ氏による「日本人の給料が上がらないのは「企業が渋る」から 「骨太」打ち出した岸田首相が本当はすべきこと」 私も「岸田政権は「新しい資本主義」」には、当初は「お手並み拝見」と期待したが、裏切られた。 もともと結果が見え見えだった「岸田ショック」はお粗末の極みだった。「企業に対して年3%の賃上げを求める」、「最低賃金を時給1000円にするという長年の目標も繰り返したが、その達成期限は示さなかった」、「新興企業の数を今後5年間で10倍に増やす」ための「「エンジェル投資家」に対する税制優遇措置などは最終的提案には盛り込まれなかった。 「岸田首相のリーダーシップのあり方がさらに事態を悪化させている」、「「新しい資本主義の形」を作るために何が必要かを考えたことがなかった・・・このコンセプト自体は岸田首相自身のものではなく、重要な側近である元大蔵省官僚の木原誠二官房副長官が考案」、「自民党や官僚にいくつかの重要な優先事項を課しながら、トップダウン方式で指導できるような首相ではなく、「聞き上手」を自称する合意形成者」、これでは成果は期待できない。 「多くの日本人の所得が低迷している最大の原因は、この国の少数の真の富裕層にあるのではなく、企業所得と家計所得の差である。企業は「内部留保」、つまり賃上げや投資、あるいは税金で経済に還元されない利益をため込んでいるのだ」、「事実上、政府は企業と取引をしていたのだ。もし、われわれが法人税を下げれば、企業は賃金を上げてくれるだろうと。しかし、企業がその約束を果たすことはなかった」、その通りだ。 (注)東京都ではなく、政府の間違い。 「大企業の年間利益はほぼ倍増(18兆円増)したが、労働者への報酬は0.4%減、設備投資は5.3%減となった。 その結果、内部留保は20年間で154兆円も膨れ上がった。これは1年間のGDPの3分の1にも相当」、「もし、企業がその余剰資金を賃金に回していたら、今日の生活水準は大幅に向上し、消費者の需要も高まっていただろう」、「(OECD)加盟国全体の中で、日本は労働時間当たりのGDPの増加と時間当たり賃金の増加の間に最大のギャップがある」、「閣議の議事録によれば、このデータは議論の場にも上げられなかった」、「 「議論の場」に上げるか否かは官僚のサジ加減如何だ。 「日本の法律ではすでに正規と非正規、男女間の同一労働、同一賃金が義務づけられている。しかし、政府機関には違反を調査し、違反者を罰する義務はない。 一方、フランスでは、労働監督官が違反を調査し、同国政府はすでに女性の賃金が低いとして数社に罰金を科している」、「日本」も「フランス」と同様にするべきだ。 「期待」しても裏切られるだけで、無駄だ。 (注)5カ年計画:スタートアップ育成5か年計画は、スタートアップ育成分科会で審議、新しい資本主義実現会議で決定(首相官邸HP、2022/11/24) PRESIDENT ONLINE 「大前研一「岸田首相が的外れな政策をやめない限り、日本人の給料は韓国や台湾よりずっと低くなる」 日本では、まじめに働いても給料が上がらない」 『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社) 「国債が大暴落」すれば、国債を保有している民間金融機関での膨大な評価損の発生、国債費の急増など金融機関経営や財政運営には甚大な影響を及ぼす。 その通りだが、次期日銀総裁候補の植田氏は効果があるとの立場だ。 その通りだが、次期日銀総裁候補の植田氏は自分がかって賛成したためか、効果があるとの立場だ。 「日本の国債」は海外のヘッジファンドが保有する割合も高くなっており、彼らによる空売りも目立つようになったので、安心が禁物だ。 「どうやら岸田首相は資本主義も経済もきちんと理解していないようなのだ」、「日本では正規労働者は解雇規制で守られているため、簡単にリストラすることができないのだ。無理やりやればできないことはないが、そうすると今度は「悪徳経営者」「血も涙もないのか」と叩かれるので、手をつけにくいのである」、「だからといってリストラしなければ、DXで生産性を向上させても、効果は大して出ないということになってしまうのだ」、その通りだ。 「今実施すべきことは、20年前にドイツのシュレーダー政権が行った構造改革「アジェンダ2010」型の取り組みだ。解雇規制を緩和すると同時に、職業訓練や職業紹介を充実させ、労働市場を活性化させるのである」、その通りだ。 「このままいけば、日本の1人当たりGDPは、2027年に韓国、2028年には台湾に抜かれるのは間違いない。 なぜ日本の1人当たりGDPは韓国や台湾ほど伸びないのか」、「日本は先の2国に比べ、労働生産性が著しく低いのだ。 たとえば、行政面では、韓国や台湾が行政手続きの電子化を進めているのに対し、日本はいまだに押印やサインを必要とするなどアナログ中心だ」、「企業はどうかというと、韓国も台湾も新型コロナウイルスのパンデミックが起こる以前から多くの企業がテレワークを取り入れ、仕事の効率化を図っていた。一方、日本は 「リストラされた人たちが学び直すためのリカレントやリスキリングといった学び直しの機会や場所」を確保すべきだ。 「職業訓練校のプログラムを見ると、左官工や溶接工といった19~20世紀の工業化社会を想定した科目がいまだに主流で、デジタル主導の21世紀型の教育がなされていない」、これは由々しい問題だ。公共職業訓練を産業構造に見合った形でアップデートしてゆくべきだ。 比較の対象は、「キーエンス」ではなく、仕事内容が分かる「同じ会社の中なら同期」となるのだろう。日本型の雇用では、評価の軸は長期的であるのに対し、英米型では短期的であるといった違いもあるのだろう。 ダイヤモンド・オンライン 浜 矩子氏による「日本の賃金低迷は「21世紀の重商主義」の表れといえる理由」 ズバリと本質を突く「浜矩子」氏の見方とは興味深そうだ。 それにしても『21世紀の資本』とは大きく出たものだ。 「グローバル化がいまだかつてなく活発化する中で、今日の資本は、資本主義の枠組みと袂を分かってしまった。つまり、資本の“主義なき資本化”である」、「資本の“主義なき資本化”」とは言い得て妙だ。 「「21世紀の資本」、その生態に焦点を当てた画期的著作が書かれている以上、それと対をなす姉妹編として、「21世紀の労働」が書かれるべきだと考えられる」、確かにアナロジーとしては理解できる。 「先生は、労働は苦役だと主張して労働を毛嫌いしているようでありながら、それに携わる者たちには高い賃金が払われるべきだと主張」、「労働犠牲」をしている以上、「携わる者たちには高い賃金が払われるべき」というのは当然だ。 「少なくとも日本に関する限り、現状は、スミス先生の高賃金論に適っていない。かれこれ30年間にわたって賃金低迷状態が続いている」、「日本の賃金低迷は、21世紀の資本による、21世紀の重商主義の表れだと言えるかもしれない」、何故、「日本」でだけそうした状況に陥ったのかは、依然として謎だ。
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