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マイナンバー制度(その2)(マイナポイント第2弾」で2万ポイントをもらう方法! マイナンバーカードに健康保険証や公金受取口座を登録すると、第1弾利用者も1万5000ポイント獲得可能、マイナンバーカードが保険証に!?メリット・デメリットは?) [経済政策]

マイナンバー制度については、2021年11月28日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その2)(マイナポイント第2弾」で2万ポイントをもらう方法! マイナンバーカードに健康保険証や公金受取口座を登録すると、第1弾利用者も1万5000ポイント獲得可能、マイナンバーカードが保険証に!?メリット・デメリットは?)である。

先ずは、昨年3月2日付けダイヤモンド・オンライン:ZAI:マイナポイント第2弾」で2万ポイントをもらう方法! マイナンバーカードに健康保険証や公金受取口座を登録すると、第1弾利用者も1万5000ポイント獲得可能」を紹介しよう。
https://diamond.jp/zai/articles/-/295820
・『2022年1月1日から「マイナポイント第2弾」がスタートした。 第1弾では、2021年4月末までに「マイナンバーカード」の申請をした人が、クレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス決済を紐付けて利用することで、最大5000円分のポイントを獲得できたが、今回の第2弾は最大2万円分のポイントを獲得可能だ。 【※関連記事はこちら!】 ⇒「マイナポイント」に申し込む方法と注意点を解説!マイナンバーカードとキャッシュレス決済を登録し、最大5000円分(還元率25%)のポイントを獲得しよう キャッシュレス利用による還元ポイントは、第1弾と同じく最大5000ポイント。なお、このキャッシュレス利用によるポイント付与は、すでに「マイナンバーカード」を持っていて、第1弾でポイントを獲得していない人が対象だ。 また、第2弾では「マイナンバーカード」を健康保険証として利用する申し込みをすると7500ポイント、「公金受取口座情報」を国(デジタル庁)に登録すると7500ポイントと、追加で計1万5000ポイントを獲得できる。この追加獲得分に関しては、すでに第1弾で5000ポイントを受け取っている人も対象となっている。 なお、公金受取口座の登録についてはデジタル庁のページに記載がある。 預貯金口座の情報をマイナンバーとともに事前に国(デジタル庁)に登録しておくことにより、今後の緊急時の給付金等の申請において、申請書への口座情報の記載や通帳の写し等の添付、行政機関における口座情報の確認作業等が不要になります。 口座情報は、緊急時の給付金のほか、年金、児童手当、所得税の還付金等、幅広い給付金等の支給事務に利用することができます。 公金受取口座の登録自体は、2022年春ごろに始まる予定とのこと。一方「マイナンバーカード」の健康保険証としての利用申し込みは、すでに始まっている。申請は「マイナポータル」のアプリがおすすめだ。アプリにログインすると「マイナンバーカードが健康保険証として利用できます」と案内があるので「申し込む」をタップ。 マイナポータル  「保険証利用登録」の画面が表示されるので、スクロールして「同意して次へ進む」をタップ。次の画面で「申し込む」をタップすれば申し込み完了だ。 申し込み状況を確認して「登録完了」と表示があれば、登録できている。 申し込み状況  「マイナンバーカード」を健康保険証として利用できる医療機関はまだまだ少なく、マイナポイントの付与は早くて2022年6月からとなっている。とはいえ、登録エラーなどが生じる可能性も考えて、早めに手続きしておくに越したことはないだろう。 以上、今回は「マイナポイント第2弾」で獲得できるポイントについて解説した』、「マイナンバーカードとキャッシュレス決済を登録」、「「マイナンバーカード」を健康保険証として利用する登録」、「「マイナンバーカード」を健康保険証として利用する申し込み」、「「公金受取口座情報」を登録」、それぞれポイント付与をエサに釣っているようだ。
ここまで「ポイント付与」をしないと普及しないというのはバカバカしい感じもする。

次に、10月17日付けCARD FACTORY「マイナンバーカードが保険証に!?メリット・デメリットは?」を紹介しよう。
https://www.card-factory.jp/column/?id=1634713627-537440
・『みなさん、マイナンバーカードはお持ちですか? マイナンバー制度が本格的にスタートしたのが2016年1月。国はマイナンバーカードを普及させようと様々な策を取っていますね。昨年はマイナポイント事業が行われましたが、新たな普及策として、2021年10月20日からマイナンバーカードの保険証利用が本格開始となりました。ご存じでしたか!? 私はマイナンバーカードを持っていないのですが、カード会社として気になる話題ですね。 マイナンバーカードが保険証として利用できるメリット・デメリットを見ていきましょう。 ❖ マイナンバーカードが保険証に!?メリット・デメリットは? ❖ 主なメリット( ※ いくつかピックアップ ) 1、過去の特定健診や薬剤情報を医師等と共有できる(本人同意の上) 2、自分の特定健診や薬剤情報を閲覧できる 3、高額医療費の限度額を超える支払いが「限度額適用認定証」がなくても不要に 4、マイナポータルとe-Taxの連携で確定申告の医療費控除が簡単に 5、スムーズに保険資格の確認ができ、窓口での受付が効率的になる ❖ デメリット 1、現時点ですべての医療機関や薬局が対応しているわけではない 2、利用登録は、基本はオンライン(マイナポータル)かセブン銀行ATMでしかできない 3、初診で21円、再診で12円の追加医療費が生じる(2022年4月~) デメリット3ですが、2022年10月~変更がありました。マイナ保険証の場合 初診21円 → 6円へ 従来の保険証の場合 初診12円 再診に関しては上乗せはなし。 ただし、カードを読み取る機械を導入している医療機関や薬局のみだそう。こうなってくると病院選びも慎重になってしまいますね。 私が大きなメリットだと感じたものは 3、高額医療費の限度額を超える支払いが「限度額適用認定証」がなくても不要に これくらいですかね。それでも頻繁に使うものでもないですね。 医療機関側も事務処理が効率的になるという反面、導入費用や手間などを考えると、そこまでメリットを感じられないのではないか。 2022年5月時点でマイナンバーカードの普及率は国民の約40%、カードを利用できる医療機関や薬局はわずか約19%だそう。 その後の普及率は、2022年10月には49%まで達し、ようやく約半数となりました。 2023年3月からはすべての医療機関で利用できるよう進めていくそうですが、それまでは健康保険証と両方持ち歩く必要があります。 それならば、しばらくそのままでいいかなと思ってしまいますね。 受付の際、カードリーダーで顔認証か暗証番号入力を行うそうです。 コロナがきっかけで非接触が主流となっていくのかもしれませんが、どちらにしてもカードを出す必要があるなら、窓口で保険証を手渡すほうが楽かなぁ・・・ なんて思ってしまう私は、古いですかね』、「2022年5月時点でマイナンバーカードの普及率は国民の約40%、カードを利用できる医療機関や薬局はわずか約19%だそう。 その後の普及率は、2022年10月には49%まで達し、ようやく約半数となりました。 2023年3月からはすべての医療機関で利用できるよう進めていくそうですが、それまでは健康保険証と両方持ち歩く必要があります。 それならば、しばらくそのままでいいかなと思ってしまいますね」、「カードを出す必要があるなら、窓口で保険証を手渡すほうが楽かなぁ・・・ なんて思ってしまう私は、古いですかね」、カード会社勤務の筆者は慎重な見方のょうだ。 
・『SNS等から声を拾ってみました。 「情報が集約されたカードをお財布に入れて持ち歩くのは怖い。」 「使える病院が少ない!自分が使っている病院は未対応だった。」 「2枚持つのは面倒。保険証利用ができるからってマイナンバーカードを作ろうとは思わない。」 後ろ向きのコメントが多いように見受けられました。 一方で 「薬の管理ができて助かる。お薬手帳のように使えるなら便利。」 「財布の軽量化につながる。」 といった前向きなコメントもありました。 よく利用する人にとっては、便利なのではないでしょうか。 毎年、確定申告で医療費控除を申請している人は、手続きが簡単になって助かりますよね。知人は朗報だと喜んでいました。 マイナンバーカードの保険証利用については、賛否両論ありそうですね。 マイナンバーカードが保険証に!?メリット・デメリットは? 今後の日本は・・・ 国としてはデジタル化を普及させたいのでしょう。 日本は世界に比べて遅れていますからそれもわかるのですが、なんでも一体化したがりますよね。 2025年からはマイナンバーカードが運転免許証の代わりとしても使えるようになるという話も聞きます。 デジタル化の促進は高齢者にはハードルが高いのではないかなと懸念されます。 デジタル化が進むと大きな壁になるのが「暗証番号問題」ではないでしょうか。 国が1人10万円を配る「特別定額給付金」 オンライン申請の際にマイナンバーカードの暗証番号が必要なのですが、暗証番号を忘れた人たちが窓口に殺到した!というニュース、ありましたよね。 定期的に変更しましょう、使い回しはやめましょう、○文字以上必須、大文字小文字記号すべて使いましょう・・・ 『 覚 え ら れ ん ! ! 』 それに代わるのが生体認証(顔や指紋)なんでしょうけど・・・どうも抵抗が。 一体化って便利そうですが、紛失した時のリスクは大きいですよね。 ですが実際のところ、マイナンバーが漏洩し誰かに知られたとしても、悪用できることは少ないと言われています。とはいえ、気分的に嫌ですよね。 利便性と危険性はとなり合わせですから・・・。 将来的にはマイナンバーカード1枚で様々なことが可能になるような社会を目指しているとか。 さらに先の将来には、なんでもスマホで完結!なんていう世の中になるのではないかと。 カード会社に勤める立場としては、ちょっと複雑な気持ちになりますね・・・。 あくまで私見ですが、そもそもマイナンバー制度は国が個人情報を管理するためのものだと思っています。 マイナンバーカードがなくても現状は不自由を感じていませんし、義務化されない限りカードは作らないと思います。 批判的ですみません(笑) 最後に・・・ 今回の保険証利用については、マイナンバーカードを作ってもらう入り口のひとつなのでしょう。 この取り組みによって、どのくらい利用者が増えるかわかりませんが、マイナンバーカードは登録さえ済ませてしまえば、メリットを上手に活用して便利に生活ができるのかもしれません。 しかし、全国民がメリットを感じるようにならなければ、普及率を上げていくのはなかなか難しいのかなと感じています』、「今回の保険証利用については、マイナンバーカードを作ってもらう入り口のひとつなのでしょう。 この取り組みによって、どのくらい利用者が増えるかわかりませんが、マイナンバーカードは登録さえ済ませてしまえば、メリットを上手に活用して便利に生活ができるのかもしれません。 しかし、全国民がメリットを感じるようにならなければ、普及率を上げていくのはなかなか難しいのかなと感じています」、私はマイナンバーカードを持っているが、税金の申告に使っている程度だ。各種のポイント付与のエサには釣られずに、合理的利用に徹している。「保険証利用」はせずに、あくまで現実の「保険証」で済ませるつもりだ。
タグ:「2022年5月時点でマイナンバーカードの普及率は国民の約40%、カードを利用できる医療機関や薬局はわずか約19%だそう。 その後の普及率は、2022年10月には49%まで達し、ようやく約半数となりました。 2023年3月からはすべての医療機関で利用できるよう進めていくそうですが、それまでは健康保険証と両方持ち歩く必要があります。 それならば、しばらくそのままでいいかなと思ってしまいますね」、 CARD FACTORY「マイナンバーカードが保険証に!?メリット・デメリットは?」 「マイナンバーカードとキャッシュレス決済を登録」、「「マイナンバーカード」を健康保険証として利用する登録」、「「マイナンバーカード」を健康保険証として利用する申し込み」、「「公金受取口座情報」を登録」、それぞれポイント付与をエサに釣っているようだ。 ここまで「ポイント付与」をしないと普及しないというのはバカバカしい感じもする。 ダイヤモンド・オンライン:ZAI:マイナポイント第2弾」で2万ポイントをもらう方法! マイナンバーカードに健康保険証や公金受取口座を登録すると、第1弾利用者も1万5000ポイント獲得可能」 マイナンバー制度 (その2)(マイナポイント第2弾」で2万ポイントをもらう方法! マイナンバーカードに健康保険証や公金受取口座を登録すると、第1弾利用者も1万5000ポイント獲得可能、マイナンバーカードが保険証に!?メリット・デメリットは?) 「カードを出す必要があるなら、窓口で保険証を手渡すほうが楽かなぁ・・・ なんて思ってしまう私は、古いですかね」、カード会社勤務の筆者は慎重な見方にょうだ。 「今回の保険証利用については、マイナンバーカードを作ってもらう入り口のひとつなのでしょう。 この取り組みによって、どのくらい利用者が増えるかわかりませんが、マイナンバーカードは登録さえ済ませてしまえば、メリットを上手に活用して便利に生活ができるのかもしれません。 しかし、全国民がメリットを感じるようにならなければ、普及率を上げていくのはなかなか難しいのかなと感じています」、私はマイナンバーカードを持っているが、税金の申告に使っている程度だ。各種のポイント付与のエサには釣られずに、合理的利用に徹している。「 「保険証利用」はせずに、あくまで現実の「保険証」で済ませるつもりだ。
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新自由主義(その2)(今考える「新自由主義」 第1回 米初期資本主義の‟超”格差社会と ニューディール政策が生んだ「最も平等な社会」、第2回 再び格差広げたフリードマンの思想とパウエル、第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣) [経済政策]

新自由主義については、2021年7月12日に取上げた。久しぶりの今日は、(その2)(今考える「新自由主義」 第1回 米初期資本主義の‟超”格差社会と ニューディール政策が生んだ「最も平等な社会」、第2回 再び格差広げたフリードマンの思想とパウエル、第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣)である。

先ずは、昨年2月6日付け週刊エコノミスト Onlineが掲載した「今考える「新自由主義」 第1回 米初期資本主義の‟超”格差社会と、ニューディール政策が生んだ「最も平等な社会」=中岡望」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220206/se1/00m/020/001000d
・『2022年1月17日、岸田文雄首相は国会で施政方針演説を行った。その中で「経済再生の要は『新しい資本主義』の実現である」と語っている。具体的な問題として指摘したのは、次の通りだ。 ①市場に依存し過ぎたことで、公平な分配が行われず生じた格差や貧困の拡大 ②市場や競争の効率性を重視し過ぎたことによる長期的投資の不足、そして持続的可能性の喪失 ③行き過ぎた集中によって生じた都市と地方の格差 ④自然に負荷をかけ過ぎたことによって深刻化した気候変動問題。分厚い中間層の衰退がもたらした健全な民主主義の危機 ▽岸田首相が掲げた目標の中身は綺麗だが…(これに対し、政策目標として、「さまざまな弊害を是正する仕組みを『成長戦略』と『分配戦略』の両面から資本主義の中に埋め込み、資本主義がもたらす便益を最大化する」ことを掲げた。 また、「成長と分配の好循環による持続可能な経済を実現するのが『分配戦略』であり、その第一は所得の向上につながる『賃上げ』である」「成長の果実を従業員に分配し、未来への投資である賃上げが原動力となって、さらなる成長につなげる好循環を作り出す」と、基本的な考え方を語った。 さらに「最低賃金を全国加重平均で1000円以上になるように最低賃金の見直しに取り組む」と具体的な目標を掲げた。 空洞化する中間層対策として、子育て・若者世代の世帯所得の引き上げのために「全世代型社会保障構築会議において、男女が希望通り働ける社会づくりや、若者世代の負担増の抑制、勤労者皆保険など、社会保障制度を支える人を増やし、能力に応じて皆が支え合う持続的な社会保障制度の構築に向けて議論を行う」と政策目標を語った。 賃金格差是正については、「企業の開示ルールを見直す」「今春、新しい資本主義のグランドデザインと実行計画を取りまとめる」とした。 首相の施政方針演説を受け、内閣では「新しい資本主義構想」を巡って議論が行われ、実行計画が策定されることになる』、「新しい資本主義構想」はすっかり色あせた感じだ。
・『岸田首相が言う「新しい資本主義」とは何か 表層的な見直しではいけない  ただ、岸田首相や彼のブレーンたちが、どのような理解の下で「新しい資本主義」を主張しているのか分からないが、歴史的事実と経済的論理に基づかない主張は「アベノミクス」と同様に、実態のない空論的経済政策に終わる可能性がある。 首相が指摘した「ネオリベラリズム(新自由主義)」がもたらしたさまざまな弊害に関して異論を唱える人は少ないのではないだろうか。 だが、国会で行われた議論は極めて表層的な内容であった。今後、具体的な議論が行われるのだろうが、「新しい資本主義」を構想するためにはネオリベラリズムを思想的、歴史的、経済学的、政治的に検証することが不可欠である。 そうした“知的作業”を十分に行わず、表層的な制度的見直しを行うことで「新しい資本主義」構想を描こうとしても、それは内実のない議論に終わるのは目に見えている。ネオリベラリズムの“根”は極めて深い。 今まで岸田首相の「新しい資本主義」の議論からは、ネオリベラリズムに基づく資本主義が形成された過程に対する洞察を感じることはできない。単なる政治的スローガンに終わらせないためには、ネオリベラリズムが誕生してきた背景を理解する必要がある』、「ネオリベラリズムが誕生してきた背景を理解する必要がある」、その通りだ。
・『小泉改革による日本へのネオリベラリズム導入  1970年代末にネオリベラリズム政策を最初に打ち出したのは英国のサッチャー首相であった。80年代には米国のレーガン大統領が「レーガノミクス」と呼ばれるネオリベラリズムを柱とした政策を打ち出した。 「自由競争」「規制緩和」「福祉政策の削減」「財政均衡」「自己責任」などを柱とするレーガノミクスは、米国の経済と社会を大きく変え、その政策は「レーガン革命」と呼ばれた。 そして、90年代になるとネオリベラリズムの弊害が現れ始めた。その最大の問題は、岸田首相が指摘しているように、「貧富の格差」の拡大である。 ネオリベラリズム政策が日本に導入されたのは「小泉改革」であった。バブル崩壊後、日本経済は長期低迷に直面し、不況脱出に苦慮していた。また終身雇用をベースとする「日本的経営」の限界が語られていた。そんな中で小泉純一論首相は、不況打開の切り札としてネオリベラリズムの政策を導入する。 「規制改革」と「競争促進」で経済を活性化して不況脱出を図ろうとした。小泉改革は「20年遅れのレーガン革命」であった。米国におけるネオリベラリズムの導入には長い歴史と経済学、政治力学の変化が深く関わっていた。 だが、日本ではネオリベラリズムの持つ思想的な意味が十分に検討されることなく、また、既に社会問題となっていた貧富の格差の問題を顧みることなく、表層的な景気政策として導入され、社会に与える影響が真剣に議論されることはなかった。 そして1900年代にネオリベラリズム政策を導入した米国で想像を絶するような貧富の格差が生じたように、日本でも貧富の格差が深刻な社会問題となって現れている』、「日本ではネオリベラリズムの持つ思想的な意味が十分に検討されることなく、また、既に社会問題となっていた貧富の格差の問題を顧みることなく、表層的な景気政策として導入され、社会に与える影響が真剣に議論されることはなかった」、その通りで、残念なことだ。
・『サッチャー元英首相がネオリベラリズムを復活させた 歴史的観点から見た「ネオリベラリズム」とは何か  ネオリベラリズムの弊害を克服するには、その本質を理解する必要がある。米国における資本主義原理の発展を踏まえながら、ネオリベラリズムの本質を明らかにする。 ネオリベラリズム「ネオ(新)」は何を意味するのだろうか。米国の資本主義の変遷は三つの言葉で表現される。「古典的リベラリズム(Classical Liberalism)」、「ニューディール・リベラリズム(New Deal Liberalism)」、そして「ネオリベラリズム(Neoliberalism)」である。 「古典的リベラリズム」は、経済学で言えば、古典派経済学の世界、アダム・スミスの世界での資本主義の原理である。市場における自由競争が最適な資源配分を実現するとする考え方である。 そうした自由競争と価格メカニズムの機能は「見えざる神の手」という言葉で表現される。米国の古典的リベラリズムには、「政府の市場への介入忌避」や「自由放任主義」に「小さな政府」を主張する政治論が加わる。 結論を先に言えば、ネオリベラリズムは古典的リベラリズムが新しい状況の中で姿を変え復活したものである。余談であるが、アダム・スミスの『国富論』の出版とトーマス・ジェファーソンの『独立宣言』は同じ1776年に出された。スミスとジェファーソンはお互いに面識があり、二人の考えた国家論は似ていたのかもしれない』、「米国の古典的リベラリズムには、「政府の市場への介入忌避」や「自由放任主義」に「小さな政府」を主張する政治論が加わる」、その通りだ。
・『悪辣な手段を用いて富を蓄積した「泥棒貴族」  古典的リベラリズムが米国社会を席捲するのは、南北戦争前後に始まる産業革命の時代である。米国経済は1860年から1900年の間に6倍に成長し、世界最大の工業国となった。この高度成長の時代は「ギルディド・エイジ(Gilded Age)」と呼ばれる、米国の初期資本主義の輝ける時代であった。 素晴らしい技術革新もあったが、企業家は悪辣な手段を用いて富を蓄積していった。その強欲ぶりに、彼らは「泥棒貴族」と呼ばれた。膨大な富の格差を生み出した。1890年の時点で、所得上位1%の富裕層が全資産の51%、上位12%の富裕層が全資産の86%を保有していた。 米連邦準備制度理事会(FRB)の調査によると、現在の米国は「第2のギルディド・エイジ」と呼ばれているように、19世紀と同じ現象が繰り返されている。上位1%の最富裕層が34%、上位10%の富裕層が88%の資産を保有している。所得下位50%の家計が保有する資産はわずか1.9%に過ぎない。歴史は繰り返されるのである』、「1890年の時点で、所得上位1%の富裕層が全資産の51%、上位12%の富裕層が全資産の86%を保有」、米FRBの調査によると、現在の米国は「第2のギルディド・エイジ」と呼ばれているように、19世紀と同じ現象が繰り返されている。上位1%の最富裕層が34%、上位10%の富裕層が88%の資産を保有」、「歴史は繰り返されるのである」、こんな形の繰り返しは悲劇だ。
・『レーガン元米大統領の改革「レーガノミクス」が格差の種を撒いた 古今のポピュリズムに共通の「反エリート主義」  初期資本主義の時代の特徴は、市場における自由競争に留まらず、社会的にも「社会的ダーウィン主義」が主張されたことだ。企業のみならず、個人にも生存競争や自然淘汰、優勝劣敗、適者生存といった考えが適用された。 さらにリバタリアン(市場至上主義者)は「格差こそが進歩の原動力になる」と、貧富の格差の正当性を主張した。労働者は劣悪な労働環境のもとで長時間労働を強いられた。女性や子供の労働も例外ではなかった。労働改善を求めて行うストは、暴力的に排除された。労働組合は非合法であった。 当然のことながら、過酷な労働環境の改善や賃上げを求める労働者の運動が始まった。英国では「フェビアン協会」が設立され、漸進的な労働改善運動が行われ、それがやがて社会民主主義へと発展していった。 資本主義そのものを廃止するというマルクス主義も誕生した。米国でも労働組合結成の動きが出てくる。1892年に労働者や農民の利益を代弁する政党「人民党」が結成される。同党の党員や支持者は「ポピュリスト」と呼ばれた。現在のポピュリズムの原型である。 19世紀後半の急激な格差拡大がポピュリズムを生み出したのと同じように、21世紀の格差拡大がポピュリズムを蘇生させ、トランプ主義を生み出した。19世紀のポピュリズムは「左派ポピュリズム」であったが、21世紀のポピュリズムは「右派ポピュリズム」であった。そこに共通するのは、反エリート主義である』、「19世紀のポピュリズムは「左派ポピュリズム」であったが、21世紀のポピュリズムは「右派ポピュリズム」であった。そこに共通するのは、反エリート主義である」、なるほど。
・ルーズベルトとウィルソンによる格差是正  人民党は8時間労働の実現、累進的所得税の導入、金本位制に加え、銀本位制導入によるインフレ政策の実施(農民の債務軽減が目的)、鉄道や通信事業の国有化、移民規制などを政策に掲げた。その主張は国民の支持を得て連邦議会に議員を送り込んだ。1892年の大統領選挙では4州で勝利を収めた。最終的に人民党は民主党に吸収され、南部を地盤とする民主党は労働者や農民を支持層に組み入れた。共和党が企業を支持基盤とし、民主党が労働者を支持基盤とする構造ができあがった。 ポピュリズムに続いて、古典的リベラリズウの弊害を是正する目的で「進歩主義運動」が始まった。1890年から1920年は「進歩主義の時代」と呼ばれる。代表的な進歩主義の政治家はセオドーア・ルーズベルト大統領である。 ルーズベルト大統領は独占企業を「トラスト」と呼び、批判的な政策を取った。「スクエア―・ディール」政策を掲げ、不平等の解消を図った。企業に対する規制強化、消費者保護、自然保全、国民皆保険制導入などを政策として掲げた。もう一人の代表的な進歩主義者ウードロー・ウィルソン大統領は、貧富の格差を是正するために初めて「累進的連邦所得税」を導入した。 1913年に導入された所得税の最高税率は7%であった。さらに法人税も引き上げられた。1909年は1%であったが、1917年に6%にまで引き上げられた』、独禁法は現在でも米国企業を強く規制している。
・『フランクリン・ルーズベルト元米大統領(右)は中間層の拡大に貢献した なぜ「ニューディール・リベラリズム」が登場したのか  古典的リベラリズムに終止符を打ったのは、フランクリン・ルーズベルト大統領の「ニューディール政策」である。その政策は進歩主義の政策を踏襲し、さらに進めるものであった。 ルーズベルト大統領の政策は「ニューディール・リベラリズム」と呼ばれ、古典派経済学の市場至上主義を排して、政府の市場介入と市場規制が実施された。ニューディール政策は、政府と国民の間の関係を根本的に変えた。 古典的リベラリズムは市場機能に委ねれば市場は自ずと均衡し、市場における自由競争こそが最適な資源配分をもたらすと主張し、政府の市場への介入を否定した。だが大恐慌によって古典派リベラリズムへの信頼は根底から打ち砕かれた。「市場の失敗」を前に政府による市場規制の必要性が訴えられた。 大恐慌を引き起こす要因となった金融市場に対して厳しい規制が導入された。「グラス・スティーガル法」によって証券業務と銀行業務の分離が行われた。さらに証券市場を規制するために「証券取引員会(SEC)」が設立され、企業に情報公開を義務付け、インサイダー取引を禁止する措置が取られた。 ウィルソン政権の時に設立された「FRB(連邦準備制度理事会)」も財務省から独立し、権限が強化され、独立した金融政策を行えるようになった。所得税も大幅に引き上げられた。1932年に最高所得税率は25%から63%に引き上げられた。さらに1944年に94%にまで引き上げられた』、「大恐慌を引き起こす要因となった金融市場に対して厳しい規制が導入された。「グラス・スティーガル法」によって証券業務と銀行業務の分離が行われた。さらに証券市場を規制するために「証券取引員会(SEC)」が設立され、企業に情報公開を義務付け、インサイダー取引を禁止する措置が取られた。 ウィルソン政権の時に設立された「FRB・・・」も財務省から独立し、権限が強化され、独立した金融政策を行えるようになった」、現在の金融制度の骨格が出来たようだ。
・『「忘れられた人々」のために  疲弊した社会を再構築するためにルーズベルト大統領は「トップダウンではなく、ボトムアップで米国を再構築する」と主張し、「経済的ピラミッドの底辺に存在する“忘れられた人々のために政府の資源を総動員する」と誓った。 「忘れられた人々」とは労働者や農民を意味した。ルーズベルト大統領を支持するグループによる「ニューディール連合」が結成され、その中核となったのが労働組合や農民で、さらに少数民族やインテリ層も戦列に加わった。 米国の保守派の評論家は、ニューディール政策は古典的リベラリズムに依拠する伝統的な米国の価値観を根底から覆す「無血革命」であったと指摘している。「ニューディール連合」は1970年代まで米国政治を支配する。 ルーズベルト大統領が使った「忘れられた人々」という表現は、トランプ大統領によっても使われた。経済的格差が拡大し、社会が混乱すると必ずとポピュリズムが登場する。19世紀後半のギルディド・エイジに格差が拡大したときに誕生したのがポピュリストの人民党であり、進歩主義の登場である。トランプ大統領も社会的底辺に存在する白人労働者を「忘れられた人々」と呼び、強力な支持層へと変えていった』、「経済的格差が拡大し、社会が混乱すると必ずとポピュリズムが登場する」、「ポピュリストの人民党」、「トランプ大統領も社会的底辺に存在する白人労働者を「忘れられた人々」と呼び、強力な支持層へと変えていった」、なるほど。
・『保守派の政治家と企業による反ニューディール運動の展開  ニューディール政策は大恐慌から脱出するために公共事業による景気浮揚政策であるというのが一般的理解である。だが最近の経済学界では、景気浮揚効果は限定的であったという評価に変わってきている。 重要な政策は「労働政策」と「社会政策」であった。1933年の「全国産業復興法」と1935年の「全国労働関係法(ワーグナー法)」である。同法の成立によって、労働組合の団体交渉権や最低賃金制が導入され、最長労働時間、労働者の団体権、企業による不当解雇や差別が禁止された。 さらに労働争議を調停する「全国労働関係局」が設置され、労働紛争の調停が行われるようになった。年金制度や失業保険制度も導入された。労働組合の団体交渉による賃上げに加え、移民規制で新規の労働流入が止まったことや、戦争経済への移行もあり、労働者の実質賃金は上昇した。米国社会は、古典的リベラリズムに完全に決別し、ニューディール・リベラリズムの世界へ入って行った。 なお社会政策としては、1944年に行った一般教書の中でルーズベルト大統領は、国民は正当な報酬を得られる仕事を持つ権利、十分な食事や衣料、休暇を得る権利、農民が適正な農産物価格を受け取る権利、企業は公平な競争を行い、独占の妨害を受けない権利、家を持つ権利、適切な医療を受け、健康に暮らせる権利、病気や失業など経済的な危機から守られる権利、良い教育を受ける権利を持つと訴えた。 これは「第2の権利章典」と呼ばれ、戦後、福祉国家論の基本となった。競争こそが進歩の原動力だと主張する古典的リベラリズムとはまったく異なった世界観である』、「ニューディール政策は大恐慌から脱出するために公共事業による景気浮揚政策であるというのが一般的理解である。だが最近の経済学界では、景気浮揚効果は限定的・・・重要な政策は「労働政策」と「社会政策」であった」、評価が変わったことは初めて知った。
・『小泉氏の改革が日本に米資本主義を浸透させた 戦後米国における中産階級の登場と経済的繁栄  当然、ニューディール政策に反対する動きが起こった。それは1934年に結成された「リバティ・リーグ(Liberty League)」と呼ばれる組織である。 中心になったのは保守派の政治家と、デュポンやGMなどの大企業の経営者であった。彼らは19世紀的な市場競争を主張し、「政府は富裕層と特権階級を守るために存在する」と主張した。 さらに、ニューディール政策によって財政赤字は拡大し、官僚組織が肥大化し、階級闘争が激化すると主張した。彼らは1936年の大統領選挙で候補者を擁立し、ルーズベルト大統領とニューディール政策を攻撃した。 だが、結果はルーズベルト大統領の圧勝に終わり、ニューディール・リベラリズムが米国社会の指針となった。その後、企業家は長い沈黙を強いられることになった。 ニューディール・リベラリズムは戦後の米国経済の繁栄のベースになる。労働者の実質賃金の上昇に加え、1944年の「復員兵援護法(GI法)」によって多くの若者が奨学金を得て大学に進学した。 彼らはホワイトカラーの中核を形成するようになり、戦後の消費ブームを支えた。所得税率も45年から52年まで90%を越える水準で維持された。60年代半ばまで80%を下回ることはなかった。意欲的な所得再配分政策で、米国は“最も平等な社会”を実現した』、「ニューディール・リベラリズムは戦後の米国経済の繁栄のベースになる。労働者の実質賃金の上昇に加え、1944年の「復員兵援護法(GI法)」によって多くの若者が奨学金を得て大学に進学した。 彼らはホワイトカラーの中核を形成するようになり、戦後の消費ブームを支えた」、なるほど。
・『労働組合の交渉力の強化によって賃金が上昇  ニューディール・リベラリズムの影響下で、企業にも変化が出てきた。戦後、GMの経営分析をした経営学者のピーター・ドラッガーは、労働費は「変動費」ではなく、「固定費」として扱うことを主張した。 それは景気が悪くなったからと言って簡単に労働者を解雇すべきではないことを意味する。さらに労働者を「企業の重要な資産として訓練すること」を提言している。GMは他企業に先立って企業年金制度や医療制度を導入し、伝統的な労使関係が変化し始めた。GMの政策がやがて他の企業へと広がっていった。経営陣の態度の変化に加え、労働組合の交渉力の強化によって賃金が上昇していった。 1970年代まで生産性向上と労働賃金上昇率は、ほぼ同じ水準にあった。すなわち生産性向上の果実の大半は労働賃金の引き上げに向けられていたのである。 だが1970年代以降、生産性向上分は経営者の取り分が大きく増え、労働者の配分は低水準で推移するようになる』、「1970年代まで生産性向上と労働賃金上昇率は、ほぼ同じ水準にあった。すなわち生産性向上の果実の大半は労働賃金の引き上げに向けられていたのである。 だが1970年代以降、生産性向上分は経営者の取り分が大きく増え、労働者の配分は低水準で推移」、なるほど。

次に、2月9日付け週刊エコノミスト Onlineが掲載した「集中連載 今考える「新自由主義」 第2回 再び格差広げたフリードマンの思想とパウエル・メモ 組合を弱体化させた米国の失敗=中岡望」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220209/se1/00m/020/001000d
・『戦後、保守勢力が再びニューディール・リベラリズムを攻撃し始めた。最初の標的となったのは「ワグナー法」であった。1947年に「タフト・ハートリー法」が成立する。改正の狙いは、労働者の組合への参加を阻止することにあった。 具体的には、組合員のみを雇用するクローズド・ショップ制を非合法化する「労働権法」の規定が盛り込まれたことだ。それにより組合の弱体化が進められた。現在、労働権法を可決している州は27州に達している。そうした州での組合活動は大幅に制限されている。企業も労働権法が成立している南部の州へ工場を移転し始めた。こうした州の企業の多くは組合がなく、労働賃金も安かった。 1970年代に企業経営者の意識を変える大きな変化が現れた。ニューディール・リベラリズムの圧倒的な影響の下で経営者は萎縮していた。また冷戦のため経営者は労働組合を無視できなかった』、「組合員のみを雇用するクローズド・ショップ制を非合法化する「労働権法」の規定が盛り込まれたことだ。それにより組合の弱体化が進められた。現在、労働権法を可決している州は27州に達している。そうした州での組合活動は大幅に制限されている」、「クローズド・ショップ制を非合法化」は労組には大打撃だろう。
・『株主と経営者だけがステークホールダー  だが、そうした雰囲気を劇的に変える事態が起こった。1970年9月13日にノーベル経済学賞受賞者で保守派の経済学者ミルトン・フリードマン教授が『ニューヨーク・タイムズ』に長文の記事を寄稿した。 フリードマン教授は寄稿文に「企業の社会的責任は利潤を増やすことである」という題を付け、編集者はそれに「フリードマン・ドクトリン」という見出しを付け足した。フリードマン教授は、経営者の社会的責任とは「社会的な基本ルールに沿って、可能な限り利益を上げたいという株主の願望に沿って経営を行うべきだ」と主張。現代風にいえば、「企業は株主のもの」であり、「株主価値の最大化」こそ、経営者が果たさなければならない“社会的責任”であると説いたのである。 労働組合の要求に応じて賃上げを受け入れ、企業利益を減らすことは、経営者の社会的責任に反することになる。「フリードマン・ドクトリン」が次第に企業経営者に浸透し、米国のコーポレート・ガバナンスが大きく変貌を遂げることになる。それまで労働者は企業のステークホールダー(利害関係者)とみなされていたが、やがて株主と経営者だけがステークホールダーとみなされるようになる』、「フリードマン・ドクトリン」により、「それまで労働者は企業のステークホールダー(利害関係者)とみなされていたが、やがて株主と経営者だけがステークホールダーとみなされるようになる」、なるほど。
・『経済学者フリードマンの思想は米国の経営者に大きな影響を与えた 最高裁の「反労働組合的な判決」リードしたパウエル  さらに経営者の意識を変えたのが秘密文書「パウエル・メモ」である。弁護士のルイス・パウエルが米商業会議所の依頼で1971年8月23日に作成したメモである。「パウエル・メモ」の表題は「企業による民主主義支配の青写真」である。 パウエルは「米国の経済制度が(リベラル派や共産主義者から)広範な攻撃を仕掛けられている」と指摘する。だが米国企業の対応は融和的で断固として経済システムを守ろうとするものではなかった。攻撃に立ち向かうには、政治力の獲得が必要だと説く。 そして「政治力は決意をもって積極的に行使すべきだ」と主張する。ニューディール・リベラリズムを克服するために企業は協力して立ち向かう必要性を訴えた。経営者団体は積極的なロビー活動を通して立法に影響を及ぼし、共和党と手を組んでニューディ―ル連合への攻撃を始めた。 「フリードマン・ドクトリン」が米国企業に対する「経済的マニフェスト」とすれば、「パウエル・メモ」は米国企業に対する「政治的マニフェスト」であった。フリードマン・ドクトリンとパウエル・メモは保守派の共通メッセージとなり、1981年のレーガン政権誕生への布石となる。ちなみにパウエルはニクソン大統領によって最高裁判事に指名された。最高裁は反労働組合的な判決を出すことになるが、そうした判決をリードしたのはパウエルであった』、「弁護士のルイス・パウエルが米商業会議所の依頼で1971年8月23日に作成したメモである。「パウエル・メモ」の表題は「企業による民主主義支配の青写真」、「「フリードマン・ドクトリン」が米国企業に対する「経済的マニフェスト」とすれば、「パウエル・メモ」は米国企業に対する「政治的マニフェスト」であった」、なるほど。
・『コーポレート・ガバナンスの変化が報酬格差を生む  コーポレート・ガバナンスの変化によって経営者は労働者を無視し始める。経営者は賃金を抑制する一方で、株式配当を増やし、経営陣の報酬を引き上げていった。経営者は金銭による報酬以外に巨額のストック・オプションを得て、報酬は急激に増加し始める。 1978年から2020年の間の経営者の報酬は1,322.2%、すなわち13倍以上増えている。この間、労働者の賃金上昇率はわずか18%に過ぎなかった。新型コロナで大量の失業者が出た2019年から2020年の間の不況期にあっても経営者の報酬は18.9%増加している。 経営者と従業員の所得格差は、1965年は20対1であったが、2000年には366対1にまで拡大している(”CEO pay has skyrocketed 1,322% since 1978”, Economic Policy Institute, 2021年8月10日)。ネオリベラリズムは経営者を傲慢にし、古典的リベラリズムの世界を再現させた。 経営者の報酬が急激に上昇するにつれて、貧富の格差も拡大し始めた。1979年から2020年の期間に上位1%の所得は179.3%、上位0.1%は389.1%増えているが、低位90%の層の増加率はわずか28.2%に留まっている。 2020年の所得上位1%の層の年収増加率は7.3%。上位0.1%は9.9%であった。だが低位90%の層の収入の増加率は1.7%に留まっている。低位90%の人々の2020年の平均年収は約4万ドルであったが、上位0.1%の所得は約321万ドル、上位1%の層では約82万ドルであった。低位90%が占める所得比率は最低を記録している(”Wage inequality continued to increase in2020”, Economic Policy Institute, 2021年12月13日)』、「経営者と従業員の所得格差は、1965年は20対1であったが、2000年には366対1にまで拡大している」、「ネオリベラリズムは経営者を傲慢にし、古典的リベラリズムの世界を再現させた」、やれやれ。
・『ネオリベラリズムに基づく「レーガン革命」は未完に終わった  時代は変化していく。ニューディール政策によって力を得た労働組合は絶頂期を迎え、やがて衰退の方向に向かって進み始めた。海外の戦後復興が進むにつれ、米国経済の相対的地位は低下していく。 米国経済は貿易赤字と財政赤字の拡大とインフレという“トリレンマ(三重苦)”に見舞われる。インフレの原因は賃上げに伴う“コスト・プッシュ”にあると、労働組合に対する批判が強まり、ケネディ大統領とニクソン大統領はインフレ抑制のために賃金凍結という非常手段を取らざるを得なくなる。 組合も強引な賃上げとストによって次第に国民から遊離していった。労働組合幹部のスキャンダルも暴露される事態もあり、労働組合は悪者になり、社会的影響力も低下していった。 米国経済は1970年代に戦後最悪の不況に見舞われる。ニューディール政策の経済的支柱であったケインズ経済学も次第に精彩を欠くようになる。さまざまな規制と巨額の財政赤字が経済成長を阻害していると批判された。 こうして規制緩和と自由競争を主張するネオリベラリズムが登場する舞台が整った。1980年の大統領選挙で共和党のロナルド・レーガン候補が現職のカーター大統領を破り、大統領に就任した。 レーガン大統領は、規制緩和、競争促進、大幅減税、福祉政策削減による小さな政府の樹立などを選挙公約として掲げた。そうした主張の根底には古典派経済学の復活があった。それは「供給サイドの経済学」である』、「レーガン大統領は、規制緩和、競争促進、大幅減税、福祉政策削減による小さな政府の樹立などを選挙公約として掲げた。そうした主張の根底には古典派経済学の復活があった。それは「供給サイドの経済学」」なるほど。
・『起きなかった「トリクルダウン」  レーガン減税には経済的側面と政治的側面があった。供給サイドの経済学には、投資こそ経済成長を促進する原動力であるという古典派的考えがあった。そのためには貯蓄を増やす必要がある。 貯蓄を増やすには、富裕層の減税が最も効果的であると考えられた。貯蓄性向の高い富裕層の減税は貯蓄を増やすことになる。貯蓄は株式投資や事業資金に回るはずだと主張された。減税による歳入減少は成長が高まることで将来の税収増に結び付く。経済成長が高まれば、結果的に労働者の賃金も上昇する。 これは“トリクルダウン効果”と呼ばれ、最終的には成長の果実はすべての人に行きわたると説明された。だがトリクルダウン効果は発揮されることはなかった。むしろ貧富の格差を拡大する結果をもたらした。 1981年の「経済復興税法」によって所得税の最高税率は70%から50%に引き下げられた。さらに86年にも税制改革で最高所得税率も28%にまで引き下げられた。フリードマン教授など保守派の経済学者は累進課税に反対し、低率での均一税率(flat tax rate)の適用を主張した。所得税そのものを廃止することを主張する経済学者もいた。レーガノミクスの大幅減税が貧富の格差を生む大きな要因となった』、「貯蓄を増やすには、富裕層の減税が最も効果的であると考えられた。貯蓄性向の高い富裕層の減税は貯蓄を増やすことになる。貯蓄は株式投資や事業資金に回るはずだと主張された。減税による歳入減少は成長が高まることで将来の税収増に結び付く。経済成長が高まれば、結果的に労働者の賃金も上昇する。 これは“トリクルダウン効果”と呼ばれ、最終的には成長の果実はすべての人に行きわたると説明された。だがトリクルダウン効果は発揮されることはなかった。むしろ貧富の格差を拡大する結果をもたらした」、日本でも効果は出なかった。
・『富裕層の税負担は極めて軽い  貧富の格差を拡大させているのは賃金上昇が鈍化しただけではない。富裕層の収入を見ると、労働所得よりも資産所得の方が圧倒的に多いことを反映している。FRBの調査では、2021年第2四半期のデータでは、上位10%の富裕層は83兆ドルの資産を持ち、株式や投資信託の88%を保有している。 富裕層の収入の中で利子配当収入や証券の売買益が大きな比率を占めている。2020年の時点でキャピタル・ゲインなどの金融収入の税率は最高20%であるのに対して、所得税の最高税率は37%である。言い換えれば富裕層の税負担は極めて低い。多額の金融資産を持つ富裕層の資産は自然に増えて行き、金融資産を持たない低所得層との格差は永続的に拡大し続ける構造になっている。 政治的側面でも、保守主義者は「所得税は国家による国民の富の収奪」であると主張し、大幅な減税を主張した。減税によって税収が減れば、保守派が主張する福祉予算削減にもつながり、「小さな政府」が実現できると主張した。 だがレーガン大統領は歳入減にも拘わらず福祉予算などの歳出を削減することができず、レーガノミクスは財政赤字の拡大を招く結果となった。財政赤字をさらに膨れ上がらせたのは、共産主義との対決を主張し、軍事費を大幅に増やした結果でもある。レーガン大統領のネオリベラリズムに基づく政策は、保守派が主張するような成果を上げることができず、「未完の革命」と呼ばれた』、「レーガン大統領のネオリベラリズムに基づく政策は、保守派が主張するような成果を上げることができず、「未完の革命」と呼ばれた」、財政赤字はむしろ拡大した。
・『労働組合の組織率低下が賃金の低迷につながった レーガン政権で始まった“労働組合潰し”  レーガノミクスあるいはネオリベラリズムの狙いは、労働市場の規制緩和にあった。民主党の支持基盤である労働組合を潰すことは共和党にとって政治的な意味があった。同時に労働市場を自由化する狙いもあった。 古典派経済学は自由競争が最適な価格と資源配分を実現することになると主張する。「財市場」と「金融市場」の自由化は着実に進んでいた。だが「労働市場」は、保守派の経済学者に言わせれば、労働組合の“寡占状況”が続いていた。米国の労働組合は産業別組合で、その中央組織AFL・CIO(米労働総同盟・産業別会議)は圧倒的な力を持っていた。ネオリベラリズムに基づく自由な労働市場を作るには、労働組合の影響力を排除する必要があった。 レーガン大統領の就任直後に準公務員の航空管制官のストが起こった。レーガン大統領は一瞬もためらうことなく、ストに参加した管制官全員の首を切った。レーガン大統領の大胆な政策が、労働組合運動の大きな転換点になり、その後、今日に至るまで労働組合参加率は低下を続けている。 83年の労働組合参加率は20.1%であったが、2019年には過去最低の10.3%にまで低下している。2020年は若干増えて、10.8%であった。民間部門だけみると、さらに厳しい状況である。83年に16.8%であったが、2020年には6.3%にまで低下している。経済構造の変化も組合参加率を引き下げる要因となった。 ニューディール・リベラリズムの時代は、大手産別労組が団体交渉で賃上げを勝ち取り、それが他の産業にも波及し、全体的に賃金が引き上げられていった。だがネオリベラリズムの世界では、労働組合は賃金交渉力を失い、賃金引上げよりも、雇用確保を主張するように変わっていった。労働者は分断され、実質賃金の上昇は止まってしまった。ネオリベラリズムの組合攻撃は目的を達成したのである』、「ネオリベラリズムの世界では、労働組合は賃金交渉力を失い、賃金引上げよりも、雇用確保を主張するように変わっていった。労働者は分断され、実質賃金の上昇は止まってしまった」、残念ながらしょうがない。
・『民主党もニューディール政策離れ  ニューディール・リベラリズムを支えてきたのは民主党である。だがレーガン革命以降、民主党も変質し始めた。1993年に誕生したクリントン大統領は“中道右派”政権と言われた。ネオリベラリズムは米国社会に深く浸透していた。 ルーズベルト大統領は民主党支持者によって尊敬され続けたが、民主党の政策は次第にニューディール政策から離れていった。クリントン大統領は積極的に市場の自由化を進めた。特に金融市場の自由化には積極的であった。 ニューディール政策の象徴である金融業務と証券業務の分離を決めた「グラス・スティーガル法」の廃止を決めたのは、クリントン大統領であった。クリントン大統領の最大の支持層は金融界であった。 労働組合は依然として民主党お重要な支持層であったが、その影響力は極めて小さくなっていた。クリントン大統領は労働者に寄り添うよりも、金融界の利益代弁者になっていた。財政赤字削減を訴え、小さな政府を主張するなど、ネオリベラリズムの色に染まっていた。労働組合や環境団体の反対を押し切ってNAFTA(北米自由貿易協定)の批准を勧めたのもクリントン大統領であった』、「クリントン大統領は労働者に寄り添うよりも、金融界の利益代弁者になっていた。財政赤字削減を訴え、小さな政府を主張するなど、ネオリベラリズムの色に染まっていた」、残念だ。
・『「口だけ」だったオバマ大統領  民主党のオバマ大統領が誕生したとき、多くの論者はニューディール政策が蘇るのではないかと期待した。リーマン・ショックで不況に陥った経済を救済するためにオバマ大統領は「米国復興再投資法」を成立させ、不況脱出のため戦後最大の予算を組んだ。 同時に経営危機に陥っていた金融界を潤沢な資金を投入して救済。また労働者の犠牲の上にGMを救済した。巨額の政治献金者の意向に沿う政策を行うなど富裕層に与した。オバマ大統領も在任8年間に積極的にネオリベラリズムのもたらした弊害解決に取り組むことはなかった。 民主党の指導者は口ではルーズベルト大統領を尊敬すると言いながら、ニューディール政策の思想を引き継ぐことはなかった。ルーズベルト大統領が語った「忘れられた人々」という言葉を復活させたのは、トランプ大統領であった。 トランプ大統領は、政治にも見放され、労働組合からも疎外されている貧困層の白人労働者を「忘れられた人々」と呼び、自らの支持基盤に変えていった。トランプ大統領は労働者のために製造業を復活させると公約したものの、最終的には何もしなかった。ネオリベラリズムが生み出した深刻な問題の解決に本気で取り組むことはなかった』、「トランプ大統領は労働者のために製造業を復活させると公約したものの、最終的には何もしなかった」、貧しい白人は騙されたことになる。
・『オバマ大統領は在任中、オリベラリズムの弊害を解決しようとしなかった ビジネス・ラウンド・テーブルの「企業目的声明」  皮肉なことに、ネオリベラリズムが生み出した貧富の格差がもたらす社会的分断に最初に警鐘を鳴らしたのは経済界であった。 2019年8月19日に経営者団体のビジネス・ラウンド・テーブルが「企業目的に関する声明」を発表した。ビジネス・ラウンド・テーブルは、企業目的の再定義を行い、181名の経営者が声明に署名している。 その中で注目されるのは、「従業員に対する投資」という項目である。そこには「従業員に対する投資は従業員に公平な報酬を提供し、重要な(社会保障などの)給付を提供することから始まる。 投資には急速に変化する世界で活用できる新しいスキルを習得するための訓練と教育を通して従業員を支援することも含まれる」と書かれている。声明の発表に際して行われた記者会見で、JPモルガン・チェースのジェミー・ダイモン会長は「企業は労働者とコミュニティに投資している。なぜなら、それが長期的に(企業が)成功する唯一の方法だと知っているからである」と発言している。 これは米国企業がフリードマン・ドクトリンと決別することを意味している。フリードマン教授は、労働者や社会への奉仕は企業の目的ではないと言い切っていた。だがビジネス・ラウンド・テーブルの会員の大企業は。労働者やコミュニティへの投資を経営者の責務であると語っているのである』、「ビジネス・ラウンド・テーブルの会員の大企業は。労働者やコミュニティへの投資を経営者の責務であると語っているのである」、「これは米国企業がフリードマン・ドクトリンと決別することを意味」、日本でも岸田首相がこれに近い提案をしてる。
・『中産階級復興を目指すバイデン大統領の“新ニューディール政策”  バイデン大統領はルーズベルト大統領を尊敬している。大統領執務室には5枚の肖像画が壁に掛かっている。向かって左側にはワシントン初代大統領とハミルトン初代財務長官、右側にはジェファーソン初代国務長官とリンカーン大統領である。その真ん中に一回り大きい額縁でルーズベルト大統領の肖像画が掛かっている。 バイデン大統領はネオリベラリズムで傷ついた米国社会と経済を再興するために「新ニューディール政策」を構想している。その狙いは、大規模な公共投資と労働組合の強化、中産階級の減税である。既に1兆ドル規模の「インフラ投資法」が成立している。 また、ニューディール政策を思い起こさせる社会政策を盛り込んだ大規模な「より良い米国建設法(Build Back Better Act)」を議会に提出し、下院では成立している。だが上院では一部の民主党議員の反対で、まだ成立の見通しは立っていない。 バイデン大統領の政策の主要な柱は、労働組合政策である。ワシントン・ポスト紙は「バイデン大統領はニューディール以来、最も労働組合寄りの大統領である」と書いている(2021年4月30日)。大統領は。米国社会を繁栄させたのは経営者ではなく、労働者であると訴えている。 中産階級を再構築するには労働組合の復興が必要だとも考えている。バイデン大統領は2月4日のツイッターで「バイデン政権の政策は労働組合結成を推し進め、経営者に労働者が自由かつ公平に組合に参加することを認めるさせる」ことだと書いている。 さらに4月24日の議会演説の中で「中産階級が国を作ってきた。組合が中産階級を作ってきた」と、労働組合の重要性を語っている。アマゾンで労組結成の動きがあったとき、バイデン大統領は組合結成を支持するメッセージを送っている』、「大統領は。米国社会を繁栄させたのは経営者ではなく、労働者であると訴えている。 中産階級を再構築するには労働組合の復興が必要だとも考えている」、方向性は正しいが、少数になった下院では力不足だ。
・『資本主義に対する否定的な見方が米国民の間で強まっている 政策を妨げる民主党進歩派と中道派の対立  4月26日に「労働者の組織化と能力向上に関するタスクフォース」を設置する大統領令に署名している。この大統領令には「タスクフォースは労働者が組織し、経営者と団体交渉を行えるように連邦政府の政策、プログラム、経験を総動員する全力を注ぐ」と書かれている。 さらにルーズベルト大統領が設置した「NLRC(全国労働関係委員会)」の強化を打ち出し、法令違反を犯した企業への罰則を強化する方針を明らかにしている。また労働省の労働監督部門の強化も行われる。 ルーズベルト大統領の「ワグナー法」に匹敵する「組織権保護法(Protect the Right to Organize Act:PRO法)」が2021年2月に下院に提案され、3月に可決されている。同法には労働組合の衰退の要因となった「タフト・ハートリー法」の労働権法を見直す条項も含まれている。 だが、多くの経営者は反労働組合の立場を変えていない。米商業会議所のスザンヌ・クラーク理事長は「PRO法は労働者のプライバシーに脅威を与え、従業員に強制的に組合費を支払わせるか、失業させることになる」と反論をしている。同法は、上院で審議されているが、共和党の反対で成立は難しいと見られている。 ルーズベルト大統領は民主党が両院で圧倒的な多数を占めるなかでニューディール政策を実行に移すことができた。だが、現在、議会勢力で民主党と共和党が拮抗している状況で、バイデン大統領が大胆な政策を打ち出すのは難しい。 民主党内でも進歩派と中道派の対立があり、厳しい議会運営を迫られている。現状では、バイデン構想の実現は難しいだろう。ただバイデン大統領の労働組合寄りの政策は国民の支持を得ている』、「民主党内でも進歩派と中道派の対立」は困ったものだ。
・『米国民の労働組合支持率は高まっている  米国は歴史的に反共産主義、反社会主義、反労働組合の国家である。だが新しい状況が出てきている。国民の間、特に若者層の間で資本主義に対する信頼度が低下しているのである。 米ニュースサイト「アクシオス」とコンサルティング会社「モメンティブ」が2021年7月に行った調査(Capitalism and Socialism)で「資本主義が50年前と比べて良くなっているか、悪くなっているか」という設問に対して、「良くなっている」という回答は27%、「悪くなっている」が41%と、圧倒的に資本主義に対する否定的見方が多くなっている。 また最も特徴的なのは、格差社会の最大の犠牲者であえる若者層の間で社会主義を支持する比率が高まってきていることだ。18歳から24歳では、資本主義に否定的な回答は54%に達している。肯定的な回答は42%に留まっている。 国民の労働組合に対する支持率も着実に上昇している。ギャラップの調査(2021年9月2日)では、「労働組合支持」は68%あった。これは1965年に記録された72%以来の高水準である。こうした現象がやがて米国で大きな流れに繋がる可能性はある』、「格差社会の最大の犠牲者であえる若者層の間で社会主義を支持する比率が高まってきていることだ。18歳から24歳では、資本主義に否定的な回答は54%に達している」、「「労働組合支持」は68%あった」、今後の米国の動向を注目したい。

第三に、2月11日付け週刊エコノミスト Onlineが掲載した「集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220209/se1/00m/020/003000d
・『「新しい資本主義」を議論するには、米国のネオリベラリズムの背景にある思想性、理論性、歴史性を理解する必要がある。 同時に日本においてネオリベラリズム政策やネオリベラリズムに基づくコーポレート・ガバナンスがどう導入されたかを明らかにしない限り、意味のある議論はできない』、興味深そうだ。
・『真の狙いは労働市場の自由化  日本にネオリベラリズムの政策を導入したのは小泉政権である。バブル崩壊後の長期低迷を打開する手段として「規制緩和」や「競争促進政策」が導入された。 だがネオリベラリズム政策の最大の狙いは、米国同様、労働市場の規制緩和であった。労働市場の自由化によって非正規労働や派遣労働の規制が大幅に自由化された。それは企業からすれば、大幅な労働コストの削減を意味した。 労働市場の自由化によって非正規雇用は大幅に増加した。1984年には非正規雇用は15.3%であったが、2020年には37.2%にまで増えている。非正規雇用のうち49%がパート、21.5%がアルバイト、13.3%が契約社員である(総務省「労働力調査」)。賃金も正規雇用と非正規雇用では大きな格差がある。 2019年の一般労働者の時給は1976円でであるが、非正規労働者の時給は1307円である。600円以上の差がある。なお短期間労働に従事する非正規労働者の時給は1103円とさらに低い(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。岸田首相は最低賃金1000円(全国加重平均)を実現すると主張しているが、米国ではバイデン大統領は連邦最低賃金15㌦を目標に掲げている。 現在の為替相場で換算すると、約1700円に相当する。日米で時給700円の差がある。かりに最低賃金1000円が実現しても、非正規雇用は社会保険費など企業負担がなく実質手取りは1000円を下回り、とても最低賃金でまともな生活を送れないのが実情である』、「かりに最低賃金1000円が実現しても、非正規雇用は社会保険費など企業負担がなく実質手取りは1000円を下回り、とても最低賃金でまともな生活を送れないのが実情」、その通りだ。
・『労働市場自由化の弊害を軽視した小泉改革  米国型コーポレート・ガバナンスの導入も日本に大きな影響を与えた。戦後の日本経済の成長を支えてきた「日本的経営」はバブル崩壊後、有効性を失ったと主張された。日本型経営では最大のステークホールダーは従業員であり、メインバンクであり、取引先であった。 株主は主要なステークホールダーとはみなされていなかった。だが米国型コーポレート・ガバナンスは株主中心に考えられ、日本でも企業価値、言い換えれば株価を上げることが経営者の責務と考えられるようになった。労働者は「変動費」であり、経営者は従業員の雇用を守るという意識を失っていった。 かつて経営者の責務は従業員の雇用を守ることだと言われていた。米国型コーポレート・ガバナンスは、日本の労使関係を根底から変えてしまった。同時に経営者は米国と同様に巨額の報酬を手にするようになる。 米国や英国では1900年代にはネオリベラリズム政策の弊害が目立ち始めていた。貧富の格差は急速に拡大し、深刻な社会問題を引き起こしつつあった。だが小泉改革では、そうした弊害について真剣に検討することなく、労働市場の自由化が強引に進められていった。 同時に終身雇用は破綻したとして、雇用の流動化が主張された。雇用の流動化は、言葉は魅力的だが、最も大きな恩恵を得るのは企業であって、従業員ではない。企業は高賃金の従業員に早期退職や転職、副業を勧めることで、大幅に労働コストを削減できる。 米国と違って日本では整備された転職市場が存在せず、さらに「同一労働同一賃金」や米国の401(k)のような「ポータブルな企業年金制度」などもなく、転職の負担はすべて従業員に掛かってくる』、「米国と違って日本では整備された転職市場が存在せず、さらに「同一労働同一賃金」や米国の401(k)のような「ポータブルな企業年金制度」などもなく、転職の負担はすべて従業員に掛かってくる」、その通りだ。
・『日本の企業内組合は交渉力を発揮できない  岸田首相がどのような「新しい資本主義」を構想しているのか定かではない。成長すれば、その成果が労働者にも及ぶという供給サイドの経済学が主張する“トリクルダウン効果”論は歴史的にも、理論的にも破綻している。 成長すれば、最終的に恩恵はすべての人に及ぶというのは幻想である。企業は常に賃金上昇を抑えようとする。決して温情で賃上げをするわけではない。過去の企業行動を見れば、日本で行われている「成長」と「分配」を巡る議論は空論そのものであることが分かる。 賃上げをした企業に税の優遇措置を講ずるという報道もなされている。かつて安倍晋三首相は経済団体に賃上げを行うよう要請したことがあるが、企業は応じなかった。経営者は従業員に対する“温情”から賃上げを実施することはないだろう。 従業員と労働者が正当な賃金を得るには、企業と拮抗できる組織と仕組みが必要である。日本の企業は正規社員を減らし、非正規社員を雇用することで労働コストを大幅に削減して利益を上げてきた。米国同様、その利益の多くは株主配当に向けられるか、内部留保として退蔵されてきた。 さらに経営者の報酬も大幅に引き上げられた。本来なら組合は正当な労働報酬を受け取る権利がある。米国の労働組合は産業別組合で企業との交渉力を持っているが、日本の労働組合は企業内組合では、企業に対する交渉力を発揮することは難しい』、「本来なら組合は正当な労働報酬を受け取る権利がある。米国の労働組合は産業別組合で企業との交渉力を持っているが、日本の労働組合は企業内組合では、企業に対する交渉力を発揮することは難しい」、同盟などの労働貴族には殆ど期待できない。
・『日本の時間当たりの付加価値は世界23位  低賃金は生産性向上を妨げる。本来なら企業は賃金上昇によるコストを吸収するために生産性を上げる努力を行う。だが低賃金労働が使える限り、企業は資本コストの高い合理化投資を積極的に行わない。 企業は労働コストが上昇すれば、競争力が低下するために合理化投資を行わざるを得ない。大胆に言えば、日本企業の生産性が低いのは、賃金が安いからである。 先進国の中で日本の生産性は最も低い。2020年の1人当たりの日本の労働生産性はOECD38カ国のうち28位(7万8655㌦)で、24位の韓国(8万3378㌦)よりも低く、ポーランドやエストニアと同水準である(「労働生産性の国際比較2021、日本生産性本部」)。 また。日本の時間当たりの付加価値は49.5㌦で、23位である、1位のアイルランドは121㌦、7位の米国は80㌦である。韓国は32位で43㌦である。なぜここまで低いのか』、「日本企業の生産性」や「日本の時間当たりの付加価値」の低さにはつくづく嫌になる。
・『経営者報酬と配当を増やす経営が日本を弱くした  日本特有の給与体系も影響している。日本では基本給の水準が低いため、残業手当が付かなければ、十分な所得を得られない。その結果、同じアウトプットを生産するために、残業を増やして長時間労働を行うことになる。 それこそが低生産性の最大の要因の一つである。昨今、「働き方改革」で残業を削減する動きがみられるが、残業時間の短縮は残業の減少と所得の減少を意味する。短時間で同じ労働成果を上げることができれば、それは生産性向上を意味し、基本給の引き上げで従業員に還元されるべきものである。 だが、企業は所得が減った従業員に副業を推奨するという奇妙な議論が横行している。「労働の流動化」を口実に賃金引き下げと雇用の安定性が損なわれている。労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた』、「労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた」、その通りである。
・『存在価値を無くした日本の労働組合が低賃金の要因  米国と同様に日本でも労働組合参加率は低下の一途をたどっている。戦後の1949年には労働組合参加率は55%であった。その後、参加率は低下し、1980年代に20%台にまで低下した。 2021年の参加率は16.9%にまで低下している(労働組合基本調査)。米国ほどではないが、労働組合は急激に衰退し、社会的影響力の低下は目を覆うべき状態である。その背景には労働組合幹部が「労働貴族」となって特権を享受しているという“反労働組合キャンペーン”が行われたことが影響している。 労働組合は国民の支持を失い、現在では社会的存在感するなくなっている。日本の労働組合運動の衰退は世界でも際立っている。全くと言っていいほど企業に対する交渉力を失っている』、連合の動きは滑稽でしかない。
・『日本で“スト”はもはや死語  高度経済成長期に賃金上げをリードしてきた「春闘方式」が崩壊し、企業内組合を軸とする労働組合は企業に取り込まれ、十分な交渉力を発揮できなくなった。労働組合運動は連合の結成で再編成されたが、連合はかつてのような影響力を発揮することができない。 目先の政治的な思惑に振り回されている。賃上げに関して十分な“理論武装”をすることもできず、ほぼ賃上げは経営者の言いなりに決定されているのが実情である。 労働組合の弱体化は「労働損失日」の統計に端的に反映されている。2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日であるのに対して、米国は2815日、カナダは1131日、英国は273日、ドイツは571日、韓国が552日である(労働政策研修機構『データブック国際労働比較2019』)。日本と同様に組合参加率が大幅に低下している米国ですら、賃上げや労働環境を巡って労働組合は経営と対立し、要求を実現している。 日本では“スト”はもはや死語となっている。格差是正や賃上げを要求する「主体」が日本には存在しないのである。その役割を政府に期待するのは、最初から無理な話である。それが実現できるとすれば、日本は社会主義国である』、「2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日であるのに対して、米国は2815日、カナダは1131日、英国は273日、ドイツは571日、韓国が552日」、日本がここまで少ないとは初めて知った。
・『税制、最低賃金、非正規問題の構造的な見直し  労働市場で個人が企業と向かい合い、交渉することは不可能である。両者の間には圧倒的な力の差がある。だからこそルーズベルト大統領は労働者の団結権と団体交渉権を認め、全国労働関係委員会に労働争議の調整役を委ねたのである。小手先の制度改革ではネオリベラリズムの弊害を断ち切ることはできない。 バイデン大統領は中産階級の失地回復こそが格差是正の道であり、繁栄に至る道であると主張している。そのためには労働組合が企業に対して十分な交渉力を持つ必要があると説いている。 一人ひとりの働く人が、誠実に働けば、家族を養い、子供を教育し、ささやかな家を購入するに足る所得を得る制度を再構築することが必要である。非正規とパート労働で疲弊した国民は決して幸せになれない。平等な労働条件、公平な賃金、雇用の安定を実現することが「新しい資本主義」でなければならない。 貧富の格差拡大は社会を分断し、深刻な貧困問題を引き起こす。長期的には経済成長を損なうことになる。そうした事態を回避するには現在の制度の構造的な見直しが必要である。 税制の見直しや最低賃金の引き上げに加え、正規労働者と非正規労働者に二分された労働市場の見直しも不可欠である。労働者や消費者などさまざまな立場の人の意見を反映させるようなコーポレート・ガバナンスを構築する必要がある』、「現在の制度の構造的な見直しが必要である」、同感である。
・『ネオリベラリズムは「既得権構造」に浸透  ネオリベラルの発想から抜け出す時期に来ている。そのためには、労働規制、税制、コーポレート・ガバナンス、労働組合の役割などの見直しは不可欠である。特にコーポレート・ガバナンスに労働者や消費者などの意見が反映できるようにコーポレート・ガバナンスの改革は不可欠である。 米国におけるネオリベラリズムの検討でみたように、その背後には明確な国家観の違いが存在している。そうした大きな枠組みの議論抜きには、新しい展望は出てこないだろう。 ネオリベラリズムは既得権構造に深く組み込まれている。それを崩すには、社会経済構造を根底から変える必要がある。激しい抵抗に会うのは間違いない。これからの議論で岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われることになるだろう。 最後に一言、小泉改革以降のネオリベラリズムの政策で日本経済の成長率は高まっていない。経済成長はGDPの約80%を占める需要によって決まるのである。日本の長期にわたる低成長はネオリベラリズム政策や発想がもたらした必然的結果なのである。(終わり)』、「ネオリベラリズムは既得権構造に深く組み込まれている。それを崩すには、社会経済構造を根底から変える必要がある。激しい抵抗に会うのは間違いない。これからの議論で岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われることになるだろう」、全く同感である。
タグ:「組合員のみを雇用するクローズド・ショップ制を非合法化する「労働権法」の規定が盛り込まれたことだ。それにより組合の弱体化が進められた。現在、労働権法を可決している州は27州に達している。そうした州での組合活動は大幅に制限されている」、「クローズド・ショップ制を非合法化」は労組には大打撃だろう。 週刊エコノミスト Onlineが掲載した「集中連載 今考える「新自由主義」 第2回 再び格差広げたフリードマンの思想とパウエル・メモ 組合を弱体化させた米国の失敗=中岡望」 新自由主義 (その2)(今考える「新自由主義」 第1回 米初期資本主義の‟超”格差社会と ニューディール政策が生んだ「最も平等な社会」、第2回 再び格差広げたフリードマンの思想とパウエル、第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣) 週刊エコノミスト Onlineが掲載した「今考える「新自由主義」 第1回 米初期資本主義の‟超”格差社会と、ニューディール政策が生んだ「最も平等な社会」=中岡望」 「新しい資本主義構想」はすっかり色あせた感じだ。 「ネオリベラリズムが誕生してきた背景を理解する必要がある」、その通りだ。 「日本ではネオリベラリズムの持つ思想的な意味が十分に検討されることなく、また、既に社会問題となっていた貧富の格差の問題を顧みることなく、表層的な景気政策として導入され、社会に与える影響が真剣に議論されることはなかった」、その通りで、残念なことだ。 「米国の古典的リベラリズムには、「政府の市場への介入忌避」や「自由放任主義」に「小さな政府」を主張する政治論が加わる」、その通りだ。 「1890年の時点で、所得上位1%の富裕層が全資産の51%、上位12%の富裕層が全資産の86%を保有」、米FRBの調査によると、現在の米国は「第2のギルディド・エイジ」と呼ばれているように、19世紀と同じ現象が繰り返されている。上位1%の最富裕層が34%、上位10%の富裕層が88%の資産を保有」、「歴史は繰り返されるのである」、こんな形の繰り返しは悲劇だ。 「19世紀のポピュリズムは「左派ポピュリズム」であったが、21世紀のポピュリズムは「右派ポピュリズム」であった。そこに共通するのは、反エリート主義である」、なるほど。 独禁法は現在でも米国企業を強く規制している。 「大恐慌を引き起こす要因となった金融市場に対して厳しい規制が導入された。「グラス・スティーガル法」によって証券業務と銀行業務の分離が行われた。さらに証券市場を規制するために「証券取引員会(SEC)」が設立され、企業に情報公開を義務付け、インサイダー取引を禁止する措置が取られた。 ウィルソン政権の時に設立された「FRB・・・」も財務省から独立し、権限が強化され、独立した金融政策を行えるようになった」、現在の金融制度の骨格が出来たようだ。 「経済的格差が拡大し、社会が混乱すると必ずとポピュリズムが登場する」、「ポピュリストの人民党」、「トランプ大統領も社会的底辺に存在する白人労働者を「忘れられた人々」と呼び、強力な支持層へと変えていった」、なるほど。 「ニューディール政策は大恐慌から脱出するために公共事業による景気浮揚政策であるというのが一般的理解である。だが最近の経済学界では、景気浮揚効果は限定的・・・重要な政策は「労働政策」と「社会政策」であった」、評価が変わったことは初めて知った。 「ニューディール・リベラリズムは戦後の米国経済の繁栄のベースになる。労働者の実質賃金の上昇に加え、1944年の「復員兵援護法(GI法)」によって多くの若者が奨学金を得て大学に進学した。 彼らはホワイトカラーの中核を形成するようになり、戦後の消費ブームを支えた」、なるほど。 「1970年代まで生産性向上と労働賃金上昇率は、ほぼ同じ水準にあった。すなわち生産性向上の果実の大半は労働賃金の引き上げに向けられていたのである。 だが1970年代以降、生産性向上分は経営者の取り分が大きく増え、労働者の配分は低水準で推移」、なるほど。 「フリードマン・ドクトリン」により、「それまで労働者は企業のステークホールダー(利害関係者)とみなされていたが、やがて株主と経営者だけがステークホールダーとみなされるようになる」、なるほど。 「弁護士のルイス・パウエルが米商業会議所の依頼で1971年8月23日に作成したメモである。「パウエル・メモ」の表題は「企業による民主主義支配の青写真」、「「フリードマン・ドクトリン」が米国企業に対する「経済的マニフェスト」とすれば、「パウエル・メモ」は米国企業に対する「政治的マニフェスト」であった」、なるほど。 「経営者と従業員の所得格差は、1965年は20対1であったが、2000年には366対1にまで拡大している」、「ネオリベラリズムは経営者を傲慢にし、古典的リベラリズムの世界を再現させた」、やれやれ。 「レーガン大統領は、規制緩和、競争促進、大幅減税、福祉政策削減による小さな政府の樹立などを選挙公約として掲げた。そうした主張の根底には古典派経済学の復活があった。それは「供給サイドの経済学」」なるほど。 「貯蓄を増やすには、富裕層の減税が最も効果的であると考えられた。貯蓄性向の高い富裕層の減税は貯蓄を増やすことになる。貯蓄は株式投資や事業資金に回るはずだと主張された。減税による歳入減少は成長が高まることで将来の税収増に結び付く。経済成長が高まれば、結果的に労働者の賃金も上昇する。 これは“トリクルダウン効果”と呼ばれ、最終的には成長の果実はすべての人に行きわたると説明された。だがトリクルダウン効果は発揮されることはなかった。むしろ貧富の格差を拡大する結果をもたらした」、日本でも効果は出なかった。 「レーガン大統領のネオリベラリズムに基づく政策は、保守派が主張するような成果を上げることができず、「未完の革命」と呼ばれた」、財政赤字はむしろ拡大した。 「ネオリベラリズムの世界では、労働組合は賃金交渉力を失い、賃金引上げよりも、雇用確保を主張するように変わっていった。労働者は分断され、実質賃金の上昇は止まってしまった」、残念ながらしょうがない。 「クリントン大統領は労働者に寄り添うよりも、金融界の利益代弁者になっていた。財政赤字削減を訴え、小さな政府を主張するなど、ネオリベラリズムの色に染まっていた」、残念だ。 「トランプ大統領は労働者のために製造業を復活させると公約したものの、最終的には何もしなかった」、貧しい白人は騙されたことになる。 「ビジネス・ラウンド・テーブルの会員の大企業は。労働者やコミュニティへの投資を経営者の責務であると語っているのである」、「これは米国企業がフリードマン・ドクトリンと決別することを意味」、日本でも岸田首相がこれに近い提案をしてる。 「大統領は。米国社会を繁栄させたのは経営者ではなく、労働者であると訴えている。 中産階級を再構築するには労働組合の復興が必要だとも考えている」、方向性は正しいが、少数になった下院では力不足だ。 「民主党内でも進歩派と中道派の対立」は困ったものだ。 「格差社会の最大の犠牲者であえる若者層の間で社会主義を支持する比率が高まってきていることだ。18歳から24歳では、資本主義に否定的な回答は54%に達している」、「「労働組合支持」は68%あった」、今後の米国の動向を注目したい。 週刊エコノミスト Onlineが掲載した「集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望」 「かりに最低賃金1000円が実現しても、非正規雇用は社会保険費など企業負担がなく実質手取りは1000円を下回り、とても最低賃金でまともな生活を送れないのが実情」、その通りだ。 「米国と違って日本では整備された転職市場が存在せず、さらに「同一労働同一賃金」や米国の401(k)のような「ポータブルな企業年金制度」などもなく、転職の負担はすべて従業員に掛かってくる」、その通りだ。 「本来なら組合は正当な労働報酬を受け取る権利がある。米国の労働組合は産業別組合で企業との交渉力を持っているが、日本の労働組合は企業内組合では、企業に対する交渉力を発揮することは難しい」、同盟などの労働貴族には殆ど期待できない。 「日本企業の生産性」や「日本の時間当たりの付加価値」の低さにはつくづく嫌になる。 「労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた」、その通りである。 連合の動きは滑稽でしかない。 「2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日であるのに対して、米国は2815日、カナダは1131日、英国は273日、ドイツは571日、韓国が552日」、日本がここまで少ないとは初めて知った。 「現在の制度の構造的な見直しが必要である」、同感である。 「ネオリベラリズムは既得権構造に深く組み込まれている。それを崩すには、社会経済構造を根底から変える必要がある。激しい抵抗に会うのは間違いない。これからの議論で岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われることになるだろう」、全く同感である。
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異次元緩和政策(その44)(日銀の金融政策見直し 新たな目標は「円の対外価値維持」重視にせよ、【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の「超低金利固定」からの脱却はなぜ「必要だが困難」なのか、【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の金利引き上げが金融政策正常化につながらない理由) [経済政策]

異次元緩和政策については、昨年12月3日に取上げた。日銀の金融政策見直しを踏まえた今日は、(その44)(日銀の金融政策見直し 新たな目標は「円の対外価値維持」重視にせよ、【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の「超低金利固定」からの脱却はなぜ「必要だが困難」なのか、【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の金利引き上げが金融政策正常化につながらない理由)である。

先ずは、12月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「日銀の金融政策見直し、新たな目標は「円の対外価値維持」重視にせよ」を紹介しよう。これは有料だが、今月は私の場合、あと4本まで無料)
https://diamond.jp/articles/-/315232
・『YCCの長期金利上限引き上げ 「利上げでない」との日銀の弁明は苦しい  日本銀行が12月20日にイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の長期金利上限の引き上げを決めたが、日銀は利上げでもないし、金融緩和出口の始まりでもないと、説明した。 他方でマーケットは、この決定にただちに反応し、金利や為替レート、株価が大きく変動した。 これは、20日の日銀の決定が金融政策の大転換であり、「低金利時代の終焉」と捉えられたことを意味している。 決定の影響は、日本国内だけでなく世界に及んだ。米英独などの国債利回りが日銀の決定を受けて0.1%以上高くなったのだ。 「利上げでもないし、金融緩和出口の始まりでもない」という説明と、「金融緩和時代の終了」という見方のどちらが正しいのか? それを判断するには、YCCの政策変更ががなぜ行なわれたのか、その背景を振り返る必要がある。 金融政策の手段や目標見直しが必要だ』、「日銀は利上げでもないし、金融緩和出口の始まりでもないと、説明」、これはどうみても苦しい言い訳だ。
・『市場の圧力に屈した日銀 緩和政策修正以外の何ものでもない  日銀が長期金利の誘導目標の上限を引き上げた理由は、一言で言えば、市場の圧力に屈したということだ。 金融市場では、このところ、地方債の国債とのスプレッド拡大やイールドカーブの歪みなどの異常な状況が生じていた(これらについての詳しい説明は、本コラム12月15日付け「日銀が金利を抑えても長期金利はすでに上昇、『YCC修正』は避けられない」を参照)。 また、長期国債の売買が不成立の日が多発し、12月1日には発行直後の国債の約半分を日銀が購入するという異常事態が起きた。 こうしたことになったのは、日銀が設定している0.25%の長期金利上限が、経済の実態に則して低すぎる(日銀が設定している10年物国債の価格が高すぎる)からだ。 つまり、10年物国債は、市場が望ましいと考える以上に発行されており、民間の金融機関はもっと安い価格でないと購入しない。現在の価格で購入するのは、ほとんど日銀だけという状況になっていたのだ。 だから、国債との信用度格差が変わらなかったにもかかわらず地方債はもっと安い価格(もっと高い金利)でないと資金調達できない状態に追い込まれた。社債による資金調達も同じだ。 長期金利の直接コントロールは、2016年のYCC導入以降、金融緩和政策の柱になっている。それに対して市場が拒否反応を示したことになる。 だから、日銀が市場の要求を認めたことは、金融緩和政策の基本的な修正以外の何物でもない』、「長期金利の直接コントロールは、2016年のYCC導入以降、金融緩和政策の柱になっている。それに対して市場が拒否反応を示したことになる」、「日銀が市場の要求を認めたことは、金融緩和政策の基本的な修正以外の何物でもない」、その通りだ。
・『最後の低金利国だった日本 低金利時代の終わり」が始まった  これまで、世界のヘッジファンドなどが、日銀のYCC維持は不可能との見通しの下に、10年物日本国債の先物売り投機を仕掛けていた。 ヘッジファンドと日銀の戦いは、今年の6月に顕著になったのだが、このときは、日銀の勝ちに終わった。そして、「中央銀行に勝てるはずはない」というのが、つい先頃までの見方だった。 ところが12月20日の決定で長期金利が上昇したため、ヘッジファンドの勝ちとなった。投機を仕掛けていたファンドは巨額の利益を手にしたはずだ。 投機が巨大中央銀行を屈服させたのは、1992年にイングランド銀行をポンド切り下げに追い込んだジョージ・ソロス氏の例以来の歴史的な事件だとの見方もある。 日銀と同じようなコントロールを行なっていたオーストラリア準備銀行(中央銀行)は2021年11月に、スイス中銀は今年の6月に、市場の圧力によって、金融緩和策の修正に追い込まれている。同じことが日本でも起こったのだ。 「低金利時代の終わり」は、日本を除く全世界ですでに進行していたことだが、最後の低金利国日本にもその時代の終わりが始まったことになる。 これをきっかけに、海外ヘッジファンドの日本国債売りが加速するとの見方もある』、「日銀と同じようなコントロールを行なっていたオーストラリア準備銀行・・・は2021年11月に、スイス中銀は今年の6月に、市場の圧力によって、金融緩和策の修正に追い込まれている」、「オーストラリア」や「スイス」でも中央銀行が、「金融緩和策の修正に追い込まれ」たとは初めて知った。
・『YCCは停止、短期金利操作に 物価は金融政策の目標として適切でない  今後、金融政策をどのように修正する必要があるか? まず第1に、手法の見直しが必要だ。 長期金利の直接コントロールは市場原理に反することだ。政策金利を決めれば市場の原理によって、イールドカーブの形が決まりしたがって長期金利も決まるからだ。 イールドカーブコントロールを停止し、短期市場での金利操作を主とした中央銀行の元々の政策手法に戻ることが必要だ。 さらに、金融政策の目的についても見直しが必要だ。 異次元金融緩和は、物価上昇率を政策目標とした。しかし、物価は、金融政策の目標として適切ではないことが分かった。 その理由は、次の二つだ(これについての詳しい議論は、本コラム11月3日付「日銀の異次元緩和『本当の目的』は物価でなく低金利と円安」で行なった)。 第1に、政策手段(国債の大量購入あるいはイールドカーブコントロール)と、物価上昇率の関係が明らかでない。 第2に、物価が上昇しても賃金が上がらないことが分かった。そして、賃金を日本銀行が動かすことができないことも分かった。また、政府も賃金を直接には動かせないことも分かった。 つまり、物価上昇は、働く者の立場から見れば望ましくないものであることが明らかになったのだ。 したがって、2%物価目標達成を目指した2013年の政府と日銀のアコードは破棄されるべきだ』、「物価が上昇」と「賃金」上昇にはタイムラグがあるので、「物価が上昇しても賃金が上がらない」とは言えない可能性がある。事実、ベア引上げの動きが広がりつつある。「物価目標達成」は国際的潮流なので、これから外れるには余程の根拠が求められる。
・『物価に代わり「通貨価値の維持」を目標に 国民生活に円安のデメリット大きい  では、物価に代って金融政策の目標にすべきものは何か?  私は「通貨価値の維持」が尊重されるべきだと思う。 日本の場合には、特に円の対外的な価値の維持だ。) これまで日本では、企業の利益増大の観点から円安が望まれてきた。その反面で、円の対外的な価値を維持する必要性は、ほとんど意識されなかった。 しかし、2022年に急激な円安が進んだことによって、円安が国民生活にいかに大きな問題をもたらすかが、多くの人によって理解されるようになった。 対外的な円の価値の維持とは、大まかに言えば、市場為替レートが購買力平価から大きく離れないことだ。 ここで購買力平価とは、世界的な一物一価が成立するような為替レートだ。OECDなどいくつかの機関が、この考えに基づく指数を計算している。 そして、現在の円の市場レートは購買力平価に比べて大きく円安になっている。 22年の秋には、急激な円安の進行を背景として、人々が円建て預金を外貨預金に移す動きが生じた。幸いにしてこれは大きな流れにはならなかったのだが、仮にこの傾向が広がれば、日本からの大規模な資本流出という事態になりかねない。 そうなれば、日本経済は破綻してしまう。 また、円安が国際間の労働力移動に影響を与えていることも問題だ。 フィリピンなどからの介護人材が日本に来なくなり、オーストラリアなどに流れていると報道されている。また、高度専門人材の日本からの流出が生じつつある。 こうした事態は日本にとって大きな損失だ。 市場レートが購買力平価に比べて円安になる基本的な原因は、日本の金利があるべき水準に比べて低すぎることだ。 この状態を改善する必要がある。 したがって円の対外価値維持が政策目標とされれば、物価上昇率を2%に引き上げるために金利を抑制してきた、これまでの日銀の政策とは反対に金利を引き上げる必要がある』、「22年の秋には、急激な円安の進行を背景として、人々が円建て預金を外貨預金に移す動きが生じた。幸いにしてこれは大きな流れにはならなかったのだが、仮にこの傾向が広がれば、日本からの大規模な資本流出という事態になりかねない」、「円の対外価値維持が政策目標とされれば、物価上昇率を2%に引き上げるために金利を抑制してきた、これまでの日銀の政策とは反対に金利を引き上げる必要がある」、しかしながら、「金利引き上げ」には、財政赤字の拡大など副作用も極めて大きい。自国通貨の「対外価値維持」を「政策目標」にしている先進国はない。「政策目標」の切り替えにはもっと慎重に検討すべきだ。

次に、1月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した「【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の「超低金利固定」からの脱却はなぜ「必要だが困難」なのか 」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/315477
・『日銀がついに2022年12月20日野金融政策決定会合で、事実上の金利引き上げに踏み切った。これは金融政策正常化への一歩となるのか。元日本銀行金融研究所所長で、『金利と経済――高まるリスクと残された処方箋』などの著書もある翁邦雄氏の寄稿を2回に分けてお届けする。 急激な円安の進行が一段落するなか、日銀の黒田総裁は出口の議論は時期尚早と位置づけ、粘り強く金融緩和を続けることをひたすら標榜してきた。しかし、12月20日の金融政策決定会合で、日銀は、YCC(イールドカーブ・コントロール)の手直しという名目で事実上の金利引き上げに踏み切った』、「翁」氏は90年代前半、金融政策を巡って「翁ー岩田論争」と呼ばれる議論で有名に。経済学者の岩田規久男さんが、「日銀が貨幣供給量を増やせばマネーストック(経済全体の通貨量)が増え、インフレ圧力を高めることができる」と主張したのに対し、当時、翁邦雄さんは「日銀がコントロールできる貨幣量は限られている」と反論」(日経BOOKPLUS)。
・『日銀の金融政策の中核にあるYCC (翁 邦雄氏の略歴はリンク先参照) これは、金融政策正常化への適切な第一歩なのだろうか。以下では「金融政策の正常化」について、現在の金融政策の中核をなしているYCCからの脱却に論点を絞る。 むろん、現在の日本の金融政策にはYCC以外にも他の先進国に例をみない緊急避難的な枠組みが混在する。例えば、日銀による民間企業の株式の大量取得だ。これは資本主義の根幹を揺るがしかねない要素をはらむ。ETFを介して日銀が大量に購入してきた株式をどう処理するかは、国債によるバランスシートの水膨れ対応よりも格段に難しい。国債には満期があり、満期が到来するとバランスシートから落ちるが、株式は満期がないからだ。このため、株式はいつまでも日銀のバランスシートにとどまり続ける。何もしなければ、中央銀行が多くの企業の大株主だったり、筆頭株主だったりし続ける、というおよそ社会主義国家のような事態が続く。 それをどう解消していくのか、というのも大きな問題だ。こうした問題の存在は出口の議論を複雑にしているが、金融政策の根幹であるYCC解除とはいちおう切り離せる問題なので、本稿では取り上げない』、「民間企業の株式の大量取得」を、「YCC解除とはいちおう切り離せる問題なので、本稿では取り上げない」、賢明なやり方だ。
・『中国のゼロコロナ政策と酷似したYCCの弊害  ところで、YCCの方は、なぜ解除が難しいのだろうか。それは、YCCが中国のゼロコロナ政策と類似の問題を引き起こしているからだ。 中国は、コロナの感染拡大という差し迫った脅威・リスクなどを理由に、特定の都市や地域で自由な外出や移動を厳しく制限してきた。同様に、YCCのもとで、政策金利である翌日物だけでなく、本来は市場の経済観に応じて自由に金利が形成されるべき10年物の国債金利も日銀が固定してきた。YCCは、中国がゼロコロナ政策で人流の感染拡大の影響を抑え込んだように財政拡大の金利への影響などを抑え込んできた。 中国のゼロコロナ政策の厳格な行動制限は、当初、大成功した、と喧伝された。その成功の幻想の下で医療体制の整備は立ち遅れ、欧米の先進型のmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン導入や接種など、国民のコロナ感染への耐性強化といった課題は先送りされた。だが、厳格な行動制限は永続化するほどひずみが拡大する。それが極限に達した結果、習近平政権のゼロコロナ政策は破綻した。感染力の強いオミクロン株が蔓延するなか、これまでの厳格な行動制限は人民の忍耐の限界を超えたため持続困難になり、中国政府はオミクロン株の弱毒性をもちだしてゼロコロナ政策を撤廃した。 中国政府はゼロコロナ政策をなぜもっと早く解除できなかったのか。これまでの政策の帰結として、中国国民は有効なワクチン接種も十分な集団免疫のいずれも達成されていない。そうした状況下でゼロコロナ政策を打ち切れば、感染者数・死亡者数が激増する。現に、そうなりつつあるようだ。中国で、新型コロナとの闘いがいつ・どのように終わるかは、現時点では誰にもわからない』、「これまでの厳格な行動制限は人民の忍耐の限界を超えたため持続困難になり、中国政府はオミクロン株の弱毒性をもちだしてゼロコロナ政策を撤廃」、「これまでの政策の帰結として、中国国民は有効なワクチン接種も十分な集団免疫のいずれも達成されていない。そうした状況下でゼロコロナ政策を打ち切れば、感染者数・死亡者数が激増する。現に、そうなりつつあるようだ」、その通りだ。
・『YCCによる行動制限長期化の弊害  日本で、YCCからの離脱と正常化はいずれ必要と認識されながら、日銀がその方向に舵を切れなかった事情も類似している。2年間の短期決戦であったはずの異次元緩和は、当初は大歓迎された。他方で、2%の物価目標は達成される気配がなく、長期戦となるなかで、YCCへ形を変えた。しかし、この異形の金融政策は、日本の課題を解決することなくむしろ日本衰退につながった。 たしかに、超低金利により、ゾンビ企業も含めて多くの企業が倒産を免れたことで大規模な失業は発生しなかった。だが、生き延びることを主眼とした企業経営のもとで生産性は伸び悩み、先進国の中でほぼ日本だけ賃金が上がらず非正規雇用が増えるなど雇用の質は低下し、非正規雇用の労働者を中心に、将来所得への不確実性と不安も高まった。日本の多くの企業は、ひたすら行動制限だけを続けて感染に脆弱になった国の市民に近い。他方、財政はほぼゼロの利払コストを前提としてバラまきに傾斜し、ワイズ・スペンディングの意識は希薄化した。日本経済に新陳代謝や市場経済のダイナミズムを取り戻すためには、金融市場に市場機能を回復させることは不可欠だ』、「生き延びることを主眼とした企業経営のもとで生産性は伸び悩み、先進国の中でほぼ日本だけ賃金が上がらず非正規雇用が増えるなど雇用の質は低下し、非正規雇用の労働者を中心に、将来所得への不確実性と不安も高まった。日本の多くの企業は、ひたすら行動制限だけを続けて感染に脆弱になった国の市民に近い。他方、財政はほぼゼロの利払コストを前提としてバラまきに傾斜し、ワイズ・スペンディングの意識は希薄化した」、その通りである。
・『YCC解除により金利のオーバーシュートが起きるリスク  しかし、中国のゼロコロナ解除が感染の急拡大を招きつつあるのと同様、YCCからの不用意な離脱は、10年物金利を急騰させかねず、大きな混乱を招きかねない。日銀のYCC同様、3年物金利にターゲットを設定していたオーストラリア連銀(RBA)は、2021年11月に3年物金利についての目標(YT)を解除したが、その過程で市場の混乱を招き、オーストラリア連銀は、その名声(reputation)も大きなダメージを被った。健全な財政運営や経済の新陳代謝には適正なプラスの金利が必要だとしても、ゼロ金利を所与の条件として生き延びてきた多くの企業を急激な金利上昇にさらせば、実体経済を大きく動揺させかねない。このようにYCCは中国のゼロコロナ政策と同様のジレンマを抱えている。 それでは、今回のYCCの修正は金融政策正常化への適切な第一歩になるのだろうか。(明日公開の次稿へつづく)』、「日銀のYCC同様、3年物金利にターゲットを設定していたオーストラリア連銀(RBA)は、2021年11月に3年物金利についての目標(YT)を解除したが、その過程で市場の混乱を招き、オーストラリア連銀は、その名声・・・も大きなダメージを被った」、「YCCは中国のゼロコロナ政策と同様のジレンマを抱えている」、「今回のYCCの修正は金融政策正常化への適切な第一歩になるのだろうか」、次の記事に移ろう。

第三に、この続きを、1月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した「【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の金利引き上げが金融政策正常化につながらない理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/315479
・『「YCC手直しの内容」を検証  日銀がついに2022年12月20日野金融政策決定会合で、事実上の金利引き上げに踏み切った。これは金融政策正常化への一歩となるのか。元日本銀行金融研究所所長で、『金利と経済――高まるリスクと残された処方箋』などの著書もある翁邦雄氏による寄稿の後編をお届けする。 前編:【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀のYCC解除はなぜ「必要だが困難」なのか』、興味深そうだ。 
・『固定相場解除の内外の事例  これまでのYCCは、「10年物金利の固定」という要素と、その固定金利水準をゼロ近傍に設定する「超低金利政策」という2つの要素からなっていた。 黒田総裁は、これまで「粘り強く金融緩和を続ける」と「出口の議論は時期尚早」の2つを常套句にしてきた。これは出口をぎりぎりまで先に延ばし、どうしても金利を上げざるを得なくなった局面で金利を上げることになる。こうしたかたちでYCCを離脱すれば、金利の上昇圧力がきわめて強いときに、金利形成を自由化することになるから、金利に大きなオーバーシュートが発生するなど金融市場が混乱する蓋然性は高い。 オーストラリア連銀のYT解除のときにもそうした現象が起きた。為替相場についても固定相場制を放棄して変動相場制に移行する際に混乱が生じる大きな理由は、維持不能になるギリギリまで政策当局がそれまでの固定相場を維持しようとする傾向があること、そのために固定相場制に対する大きな調整圧力が蓄積されていること、による。こうした混乱は古くは1971年の日本の固定相場制(1ドル360円)からの離脱、近年では、スイスの無制限介入による対ユーロ固定相場制の放棄(2011年)などでも観察されている』、「オーストラリア連銀のYT解除のときにもそうした現象が起きた。為替相場についても固定相場制を放棄して変動相場制に移行する際に混乱が生じる大きな理由は、維持不能になるギリギリまで政策当局がそれまでの固定相場を維持しようとする傾向があること、そのために固定相場制に対する大きな調整圧力が蓄積されていること、による」、「移行する際に混乱が生じる大きな理由」は、「固定相場を維持しようとする」間に「大きな調整圧力が蓄積」、なるほど。
・『金利固定解除のベスト・タイミングは? (翁 邦雄氏の略歴はリンク先参照) この点を踏まえるとYCCの2つの要素を切り離し、金利水準の調整の必要のないときに金利固定を放棄し、そのあと政策金利水準を変更させるほうがよいことが分かる。 オーストラリア連銀も日銀のYCCと類似のYT解除の反省として、この政策はもっと早期に、例えば市場金利と目標金利がほぼ同水準であった2021年の早めの時期に終了させても良かった、と総括している。つまり、市場の実勢金利がYCCに近い状態、あるいはむしろ追加緩和期待があるようなときに金利固定の呪縛を解くことが望ましい、といえるだろう』、「オーストラリア連銀も」、「YT解除の反省として、この政策はもっと早期に、例えば市場金利と目標金利がほぼ同水準であった2021年の早めの時期に終了させても良かった、と総括」、なるほど。
・『「緩和政策に変更がない」のに金利が上がる理由  これらの点を踏まえて、12月20日の決定会合の「YCCの手直し」の内容を検討しよう。日銀の金融市場調節方針についての決定の骨格は、①現状維持(金利目標は変えない)、②YCCの運用について一部見直す、というものだ。 具体的には、国債買入れ額を大幅に増やしつつ、長期金利の変動幅を従来の±0.25%程度から±0.5%程度に拡大、0.5%の利回りでの指値オペを原則毎営業日実施、さらに、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、各年限において、機動的に、買入れ額の更なる増額や指値オペを実施する、とした。 円安は一服して政策の手直しは相対的にしやすいタイミングだった。そこで政策変更を行った点は、評価できる。しかし、それでも10年物金利は上昇した。これは、市場の実勢金利がYCCに近い状態ではなかったことによる。長期金利の変動幅拡大、というと金利が上下に動くイメージだが、実際には日銀が強引に10年物金利を低位に固定していた状況での変動幅拡大という措置の効果は、金利が張り付く水準が0.25%から0.5%に上がるだけであり、より自由に変動するわけではない。このため、黒田総裁が金利政策に変更がないと強調したにもかかわらず、「日銀、事実上の利上げ」と報道され金利水準の修正が今回の措置の眼目となった』、「変動幅拡大という措置の効果は、金利が張り付く水準が0.25%から0.5%に上がるだけ」、「「日銀、事実上の利上げ」と報道され金利水準の修正が今回の措置の眼目となった」、なるほど。
・『金利の固定を強化したYCC手直し  他方、黒田総裁は記者会見で「これはイールドカーブ・コントロールをやめるとか、あるいは出口というようなものでは全くありません」と述べた。実際、YCCの手直しは金利の固定範囲を拡大し、イールドカーブ全体へのロックダウンを強化する、という措置になっていた。 YCCの枠組み変更の理由について、日銀は、イールドカーブの歪みを挙げた。これは、10年物を無理に抑え込んでいる結果、イールドカーブの10年物が不自然に凹んでいることによる弊害を問題視したとみられる。この懸念から、日銀は変動幅拡大という名目で10年物金利を引き上げた。それだけでなく、これと同時に、2年、5年、20年の新発国債を対象に、指定した利回りで無制限に買い入れる「指し値オペ」を実施する、とした。つまり、日銀は、翌日物金利、10年物金利だけでなく、利回り曲線の主要点にまで金利固定の戦線を拡大する措置を選んだことになる。 こうしてみると、金融政策正常化の第一歩との評価も見られる今回の措置だが、「金利水準正常化」への第一歩ではあっても、「金利形成の正常化」からはかえって遠のいていることがわかる』、「10年物を無理に抑え込んでいる結果、イールドカーブの10年物が不自然に凹んでいることによる弊害を問題視したとみられる。この懸念から、日銀は変動幅拡大という名目で10年物金利を引き上げた。それだけでなく、これと同時に、2年、5年、20年の新発国債を対象に、指定した利回りで無制限に買い入れる「指し値オペ」を実施する、とした。つまり、日銀は、翌日物金利、10年物金利だけでなく、利回り曲線の主要点にまで金利固定の戦線を拡大する措置を選んだ」、「「金利水準正常化」への第一歩ではあっても、「金利形成の正常化」からはかえって遠のいていることがわかる」、その通りだ。
・『金融政策正常化の前に共同声明の再確認が必要  いずれにせよ、金融政策の本格的正常化はやはり来春の新執行部発足後になるだろう。 その場合、新たな金融政策の出発点は、内閣府、財務省、日銀の連名で2013年1月に公表された「デフレ脱却と持続的な成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について(共同声明)」を引き継ぐのか、改定するのか、という点にあるのではないだろうか。実際、一部で共同声明の改定を政府が検討している、という報道が流れている。 しかし、共同声明は当時の安倍総理やその後の黒田総裁が喧伝したような「日銀が2%の目標達成にコミットした」ものではない。共同声明の実際の内容はこうした理解とは大きな隔たりがあり、機械的な2%のインフレ目標追求からはむしろ距離を置き、政府も成長力強化や財政の健全化努力を謳った内容になっているからだ。 いずれにせよ、共同声明はあくまでも「その時点の」政府と日銀の連携である。金融政策を決めるのはその時々の日銀政策委員会メンバー、財政・経済政策を決めるのは、その時々の政府である以上、執行部が代われば、あらためて共同声明の精神を受け継ぐのか、何らかの見直しを行うのかという吟味が必要とならざるを得ないはずである』、「金融政策を決めるのはその時々の日銀政策委員会メンバー、財政・経済政策を決めるのは、その時々の政府である以上、執行部が代われば、あらためて共同声明の精神を受け継ぐのか、何らかの見直しを行うのかという吟味が必要とならざるを得ないはずである」、その通りだ。
・『共同声明の内容  具体的に共同声明をみると、「日本銀行は、今後、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組の進展に伴い持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくと認識している。この認識に立って、日本銀行は、物価安定の目標を消費者物価上昇率の前年比上昇率で2%とする」とし、「日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組の進展」が2%達成の条件とされている。 また、「その際、日本銀行は、金融政策の効果波及には相応の時間を要することを踏まえ、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していく」とされており、日銀は2%を絶対的な道標とするのではなく、持続的な成長を脅かす可能性のある様々な動き、とりわけ金融の不均衡(金融システムの不安定化リスク)など他の指標をにらみながら総合的視点で金融政策運営を行う、としている。 この間、「政府は(中略)日本経済の競争力と成長力の強化に向けた取組を具体化し、これを強力に推進する。」、「政府は、日本銀行との連携強化にあたり、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を具体化し、これを強力に推進する。」とされており、政府自身も課題への取り組むことを表明している』、「日本銀行は、金融政策の効果波及には相応の時間を要することを踏まえ、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していく」とされており、日銀は2%を絶対的な道標とするのではなく、持続的な成長を脅かす可能性のある様々な動き、とりわけ金融の不均衡(金融システムの不安定化リスク)など他の指標をにらみながら総合的視点で金融政策運営を行う、としている」、総合的視点での判断そのものだ。
・『共同声明の扱いについての選択肢  このように「共同声明」はおよそ日銀が片務的に2%物価目標を機械的に追求することを謳った文書ではなく、日銀と政府が連携しておのおのが果たすべき役割を明確に述べたものになっている。それだけに、その改定は喫緊の課題とは言えないとしても、日銀も、政府も、共同声明で謳われた課題にどう取り組んできたかを総括することには大きな意味があるだろう。そのうえで、現在の共同声明の文字通りの内容を政府・日銀が明示的に再確認し継承するのか、それとも、その後10年の経験を踏まえ、これになんらかの改定を加えるのか、は重要な選択肢になるだろう。 個人的には、2%の物価目標を機械的に追求することを謳った文書ではないことを踏まえたうえで、日銀だけでなく政府サイドも取り組むべき課題を再確認すること、そのうえで日銀は経済情勢をにらみながら市場機能を回復させる金利形成の正常化に舵をきっていくことが望ましい、と考えている』、「2%の物価目標を機械的に追求することを謳った文書ではないことを踏まえたうえで、日銀だけでなく政府サイドも取り組むべき課題を再確認すること、そのうえで日銀は経済情勢をにらみながら市場機能を回復させる金利形成の正常化に舵をきっていくことが望ましい、と考えている」、同感である。 
タグ:異次元緩和政策 (その44)(日銀の金融政策見直し 新たな目標は「円の対外価値維持」重視にせよ、【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の「超低金利固定」からの脱却はなぜ「必要だが困難」なのか、【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の金利引き上げが金融政策正常化につながらない理由) ダイヤモンド・オンライン 野口悠紀雄氏による「日銀の金融政策見直し、新たな目標は「円の対外価値維持」重視にせよ」 「日銀は利上げでもないし、金融緩和出口の始まりでもないと、説明」、これはどうみても苦しい言い訳だ。 「長期金利の直接コントロールは、2016年のYCC導入以降、金融緩和政策の柱になっている。それに対して市場が拒否反応を示したことになる」、「日銀が市場の要求を認めたことは、金融緩和政策の基本的な修正以外の何物でもない」、その通りだ。 「日銀と同じようなコントロールを行なっていたオーストラリア準備銀行・・・は2021年11月に、スイス中銀は今年の6月に、市場の圧力によって、金融緩和策の修正に追い込まれている」、「オーストラリア」や「スイス」でも中央銀行が、「金融緩和策の修正に追い込まれ」たとは初めて知った。 「物価が上昇」と「賃金」上昇にはタイムラグがあるので、「物価が上昇しても賃金が上がらない」とは言えない可能性がある。事実、ベア引上げの動きが広がりつつある。「物価目標達成」は国際的潮流なので、これから外れるには余程の根拠が求められる。 「22年の秋には、急激な円安の進行を背景として、人々が円建て預金を外貨預金に移す動きが生じた。幸いにしてこれは大きな流れにはならなかったのだが、仮にこの傾向が広がれば、日本からの大規模な資本流出という事態になりかねない」、 「円の対外価値維持が政策目標とされれば、物価上昇率を2%に引き上げるために金利を抑制してきた、これまでの日銀の政策とは反対に金利を引き上げる必要がある」、しかしながら、「金利引き上げ」には、財政赤字の拡大など副作用も極めて大きい。自国通貨の「対外価値維持」を「政策目標」にしている先進国はない。「政策目標」の切り替えにはもっと慎重に検討すべきだ。 「翁」氏は90年代前半、金融政策を巡って「翁ー岩田論争」と呼ばれる議論で有名に。経済学者の岩田規久男さんが、「日銀が貨幣供給量を増やせばマネーストック(経済全体の通貨量)が増え、インフレ圧力を高めることができる」と主張したのに対し、当時、翁邦雄さんは「日銀がコントロールできる貨幣量は限られている」と反論」(日経BOOKPLUS) 「民間企業の株式の大量取得」を、「YCC解除とはいちおう切り離せる問題なので、本稿では取り上げない」、賢明なやり方だ。 「これまでの厳格な行動制限は人民の忍耐の限界を超えたため持続困難になり、中国政府はオミクロン株の弱毒性をもちだしてゼロコロナ政策を撤廃」、「これまでの政策の帰結として、中国国民は有効なワクチン接種も十分な集団免疫のいずれも達成されていない。そうした状況下でゼロコロナ政策を打ち切れば、感染者数・死亡者数が激増する。現に、そうなりつつあるようだ」、その通りだ。 「生き延びることを主眼とした企業経営のもとで生産性は伸び悩み、先進国の中でほぼ日本だけ賃金が上がらず非正規雇用が増えるなど雇用の質は低下し、非正規雇用の労働者を中心に、将来所得への不確実性と不安も高まった。日本の多くの企業は、ひたすら行動制限だけを続けて感染に脆弱になった国の市民に近い。他方、財政はほぼゼロの利払コストを前提としてバラまきに傾斜し、ワイズ・スペンディングの意識は希薄化した」、その通りである。 「日銀のYCC同様、3年物金利にターゲットを設定していたオーストラリア連銀(RBA)は、2021年11月に3年物金利についての目標(YT)を解除したが、その過程で市場の混乱を招き、オーストラリア連銀は、その名声・・・も大きなダメージを被った」、「YCCは中国のゼロコロナ政策と同様のジレンマを抱えている」、「今回のYCCの修正は金融政策正常化への適切な第一歩になるのだろうか」、次の記事に移ろう。 「【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】日銀の金利引き上げが金融政策正常化につながらない理由」 金利と経済――高まるリスクと残された処方箋 「オーストラリア連銀のYT解除のときにもそうした現象が起きた。為替相場についても固定相場制を放棄して変動相場制に移行する際に混乱が生じる大きな理由は、維持不能になるギリギリまで政策当局がそれまでの固定相場を維持しようとする傾向があること、そのために固定相場制に対する大きな調整圧力が蓄積されていること、による」、「移行する際に混乱が生じる大きな理由」は、「固定相場を維持しようとする」間に「大きな調整圧力が蓄積」、なるほど。 「オーストラリア連銀も」、「YT解除の反省として、この政策はもっと早期に、例えば市場金利と目標金利がほぼ同水準であった2021年の早めの時期に終了させても良かった、と総括」、なるほど。 「変動幅拡大という措置の効果は、金利が張り付く水準が0.25%から0.5%に上がるだけ」、「「日銀、事実上の利上げ」と報道され金利水準の修正が今回の措置の眼目となった」、なるほど。 「10年物を無理に抑え込んでいる結果、イールドカーブの10年物が不自然に凹んでいることによる弊害を問題視したとみられる。この懸念から、日銀は変動幅拡大という名目で10年物金利を引き上げた。それだけでなく、これと同時に、2年、5年、20年の新発国債を対象に、指定した利回りで無制限に買い入れる「指し値オペ」を実施する、とした。 つまり、日銀は、翌日物金利、10年物金利だけでなく、利回り曲線の主要点にまで金利固定の戦線を拡大する措置を選んだ」、「「金利水準正常化」への第一歩ではあっても、「金利形成の正常化」からはかえって遠のいていることがわかる」、その通りだ。 「金融政策を決めるのはその時々の日銀政策委員会メンバー、財政・経済政策を決めるのは、その時々の政府である以上、執行部が代われば、あらためて共同声明の精神を受け継ぐのか、何らかの見直しを行うのかという吟味が必要とならざるを得ないはずである」、その通りだ。 「日本銀行は、金融政策の効果波及には相応の時間を要することを踏まえ、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していく」とされており、日銀は2%を絶対的な道標とするのではなく、持続的な成長を脅かす可能性のある様々な動き、とりわけ金融の不均衡(金融システムの不安定化リスク)など他の指標をにらみながら総合的視点で金融政策運営を行う、としている」、総合的視点での判断そのものだ。 「2%の物価目標を機械的に追求することを謳った文書ではないことを踏まえたうえで、日銀だけでなく政府サイドも取り組むべき課題を再確認すること、そのうえで日銀は経済情勢をにらみながら市場機能を回復させる金利形成の正常化に舵をきっていくことが望ましい、と考えている」、同感である。
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政府財政問題(その10)(「また搾取か!」自動車ユーザーの悲鳴…「自賠責保険料値上げ」で財務省の失態を国民に転嫁する理不尽、自衛隊艦船に建設国債“流用”拡大で…老朽化インフラ問題どうなる?16年後に修繕費10兆円も、「防衛費だけでない」2023年度予算案のポイント 歳出総額が過去最高の膨張、税収増加も後押し) [経済政策]

政府財政問題については、昨年8月19日に取上げた。今日は、(その10)(「また搾取か!」自動車ユーザーの悲鳴…「自賠責保険料値上げ」で財務省の失態を国民に転嫁する理不尽、自衛隊艦船に建設国債“流用”拡大で…老朽化インフラ問題どうなる?16年後に修繕費10兆円も、「防衛費だけでない」2023年度予算案のポイント 歳出総額が過去最高の膨張、税収増加も後押し)である。

先ずは、昨年11月18日付け幻冬舎GOLD ONLINE「「また搾取か!」自動車ユーザーの悲鳴…「自賠責保険料値上げ」で財務省の失態を国民に転嫁する理不尽」を紹介しよう。
https://gentosha-go.com/articles/-/47266
・『鈴木俊一財務大臣は2022年11月11日、閣議後の記者会見で、自動車ユーザーが強制加入する「自賠責保険」の保険料の運用益約6,000億円が「一般財源」に貸し付けられている件について、直ちに返済するめどが立っていないことを明らかにしました。埋め合わせのため2023年から自賠責保険の保険料の引き上げが決まっており、鈴木財務大臣が10月に行った「走行距離課税」発言とも相まって、怒りの声が上がっています』、「保険料の引き上げ」を「自賠責保険」の収支と無関係な「「一般財源」に貸し付け」を理由に行うとは理不尽だ。
・『自賠責保険の保険料引き上げは国民に対する「しわ寄せ」か  自賠責保険の保険料は2023年4月から年間最大150円引き上げられることが決まっています。交通事故が著しく増加したわけではないのに保険料が引き上げられるのには、理不尽な理由があります。 自賠責保険の保険料は運用され、その運用益は、「自動車安全特別会計」という財源に組み込まれ、交通事故被害者保護のための施策に充てられることになっています。この「自動車安全特別会計」は交通事故被害者保護の施策に使うための独立の財源であり、「一般財源」とは独立したものとして扱われています。 「自動車安全特別会計」における用途は以下の通りです。被害者保護の増進に資する施策に充てられています。 ・自動車事故防止対策 ・救急医療体制の整備 ・自動車事故被害者対策 ・後遺障害認定対策 ・医療費支払適正化事業  ところが、税収不足を理由として、1994年、1995年に「自動車安全特別会計」から一般財源へ「繰り入れ」という名目で総額約1兆1,200億円の貸し出しが行われました。 貸し出したお金は返してもらわなければなりません。しかし、現在も約6,000億円が返済されていない状態です。 財務省は長らく、国の財政事情が苦しいことを理由に、返済を先送りしてきました。2018年から返済を再開しましたが、返済額は低く、2022年度も、前年度比7億円増額しても54億円にとどまっています。これは借入金総額約6,000億円の1%にも満たない額です。 しかし、そうなると、交通事故被害者保護のための「自動車安全特別会計」が逼迫してしまうことになります。 足りない分は積立金を取り崩すしかありませんが、一般会計から「自動車安全特別会計」への返済額が低いままだと、いずれは積立金を使い尽くしてしまうことになります。 そこで、自賠責保険の保険料に「賦課金」を上乗せして徴収することになったのです。いわば、財務省の失態を国民にしわ寄せするものです』、「返済額は低く、2022年度も、・・・54億円にとどまっています。これは借入金総額約6,000億円の1%にも満たない額」、「交通事故被害者保護のための「自動車安全特別会計」が逼迫」、「自賠責保険の保険料に「賦課金」を上乗せして徴収することになったのです。いわば、財務省の失態を国民にしわ寄せするものです」、こんな理不尽なことがまかり通るとは国庫を預かる財務省も落ちぶれたものだ。
・『自動車ユーザーはどこまで搾取し尽くされるのか  鈴木財務大臣は、補正予算で返済額に12.5億円を積み増しする意向を表明しています。しかし、自賠責保険の保険料の増額によりツケを回される形になった自動車ユーザーにとっては、理不尽な負担を押し付けられているといわざるをえません。 しかも、自動車に関する税制のあり方と合わせ、自動車ユーザーに過大な負担を負わせる結果になりかねません。 自動車の税制については、今回の件に先立つ10月20日、鈴木財務大臣が、参議院予算委員会において、EV(電気自動車)について、ガソリン税を徴収できない代わりに走行距離に応じて税金を課する「走行距離課税」導入の可能性について言及したばかりです。 「走行距離課税」の理由として、EVは車体が重いので道路に負担をかけるからということが挙げられますが、それでは「自動車重量税」と趣旨が同じということになってしまい、整合性がとれません。しかも、仮にEVに走行距離課税を導入したら、ガソリン車にも導入するのかという問題が生じます。 そもそも、自動車に関する税制は複雑で、「ガソリン税」「自動車重量税」などは存在意義・正当性に疑問があると指摘されています。また、「ガソリン税」に至っては、税金の上に消費税が上乗せされる「二重課税」の問題も指摘されています。 さらに、「ガソリン税」「自動車重量税」はもともと道路の維持管理・整備のための「道路特定財源」だったのが、2009年に「一般財源」に繰り入れられたという経緯があります。 これら自動車の税制に関する迷走ぶりと、今回の自賠責保険の保険料引き上げの件を全体としてみると、理由・名目は何でもよく、自動車ユーザーを、都合よく搾り取る対象としか見ていないのではないかと疑問を抱かれても仕方ないといえます。 国家というシステムを維持するためのコストとしての税金も、交通事故被害者を救済するための自賠責保険も、本来は、すべての国民、あるいは自動車ユーザーが公平に負担するべきものです。ところが、自動車に関する限り、実際には公平の理念が蔑ろにされているといわざるをえません。政府・国会には、自動車ユーザーに過度の負担を負わせ不当に搾取する結果にならないよう、納得感のある施策を行うことが求められています』、「自動車ユーザーを、都合よく搾り取る対象としか見ていないのではないかと疑問を抱かれても仕方ない」、「政府・国会には、自動車ユーザーに過度の負担を負わせ不当に搾取する結果にならないよう、納得感のある施策を行うことが求められています」、強く同意する。

次に、12月24日付け日刊ゲンダイ「自衛隊艦船に建設国債“流用”拡大で…老朽化インフラ問題どうなる?16年後に修繕費10兆円も」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/316363
・『もうタガが外れた。岸田政権が艦船など自衛隊兵器の一部経費への「建設国債」の充当を決めた。23日閣議決定する来年度予算案に盛り込む。数日前まで古い隊舎の修繕など自衛隊施設だけに充てる方針だったのに、あっさり対象を運用期間が比較的長い護衛艦や潜水艦などに拡大してしまった。航空機は対象外だ。予算案には兵器の財源として、数千億円の建設国債を盛り込む。 「建設国債の償還期限は60年と長く、道路など将来世代にも恩恵が幅広く及ぶ場合にしか認められません。軍事分野は技術進歩が激しく、現在の最新鋭兵器も10年経てば時代遅れ。それでも政府は軍事産業が潤えばいいという発想なのでしょうが、建設国債にはなじみません」(財政に詳しい立正大法制研究所特別研究員の浦野広明氏=税法) そもそも、この日本には建設国債を艦船に流用する余裕はないはずだ。インフラ老朽化問題は待ったなし。最近も老朽インフラの事故が相次いでいる。今年5月には愛知県で矢作川の取水施設「明治用水頭首工」で大規模な漏水が発生。工業用水の使用量削減や応急ポンプを設置して農業用水を供給する事態となった。昨年10月には和歌山市で紀の川に架かる鋼製アーチ橋が崩落(写真)。アーチと水道管をつなぐ吊り材の腐食が原因で、約6万世帯、約13万8000人が断水被害を受けた』、「建設国債の償還期限は60年と長く、道路など将来世代にも恩恵が幅広く及ぶ場合にしか認められません。軍事分野は技術進歩が激しく、現在の最新鋭兵器も10年経てば時代遅れ。それでも政府は軍事産業が潤えばいいという発想なのでしょうが、建設国債にはなじみません」、とあるが、「赤字国債」は1989年度以降は、借り換え禁止ルールが撤廃され、「建設国債」同様の60年償還となったので、両国債の差はルール上では実質的にはなくなった。しかし、「軍事分野は技術進歩が激しく、現在の最新鋭兵器も10年経てば時代遅れ。それでも政府は軍事産業が潤えばいいという発想なのでしょうが、建設国債にはなじみません」、はその通りだ。
・『2033年には道路橋6割が建設50年超  今後も高度成長期以降に整備された施設の老朽化が急速に進む。国交省によると、2033年には国所管施設のうち道路橋が約63%、トンネル約42%、河川管理施設(水門など)約62%、港湾岸壁約58%が、それぞれ建設後50年以上に達する。 維持管理・更新費も膨張の一途だ。国交省は18年度の5兆2000億円から20年後は1.3倍になると試算。この数値は損傷や劣化の進行前に適切な修繕を施す「予防保全」を基本としており、不具合が生じてから対策を講じる「事後保全」しかできないと1.9倍、9兆9800億円まで跳ね上がる。 「防災・減災の観点からもインフラの老朽化は深刻な問題です。日本は災害大国。岸田首相も『国民の命と暮らしを守る』と言うのなら、軍事より防災に力を入れるべきです」(浦野広明氏) 政府は27年度までに計約1.6兆円の建設国債を兵器に充てる方針だ。戦前に戦時国債を乱発し、戦争を拡大させた反省など、どこ吹く風なのか』、「維持管理・更新費も膨張の一途だ。国交省は18年度の5兆2000億円から20年後は1.3倍になると試算。この数値は損傷や劣化の進行前に適切な修繕を施す「予防保全」を基本としており、不具合が生じてから対策を講じる「事後保全」しかできないと1.9倍、9兆9800億円まで跳ね上がる」、「予防保全」が重要なようだ。

第三に、12月27日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学 経済学部教授の土居 丈朗氏による「「防衛費だけでない」2023年度予算案のポイント 歳出総額が過去最高の膨張、税収増加も後押し」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/642453
・『岸田文雄内閣は12月23日、2023年度予算政府案を閣議決定した。一般会計歳出総額が、114兆3812億円と過去最大となった。直前に、防衛費をめぐり将来の増税を提起したこともあり、何かと防衛費に注目が集まりがちだが、2023年度予算案にはどんな特徴があるか。詳しく見てみよう』、興味深そうだ。
・『歳出総額の増加幅は6.7兆円と過去最高  まず、一般会計歳出総額は、2022年度当初予算の107兆5964億円から6兆7848億円ほど増えるのだが、この増え幅は過去最高である。 どうしてこんなに歳出が増えたのか。それは、逆説的な言い方になるが、収入が増えたからである。一般会計予算は、歳入総額と歳出総額が同額になるように編成する。歳入が増えないと、歳出は増やせない。増やす歳出を賄うための財源を、いろいろと工面した結果ともいえる。 歳入が増えた最も大きな要因は、税収増である。消費税の標準税率を10%にした2019年10月以降の税収は好調で、コロナ禍でありながら、2020年度以降過去最高を更新し続けている。2023年度予算案の一般会計税収は、69兆4400億円と2022年度当初予算と比べて4兆2050億円も増えて過去最高となる見通しである。 2023年度予算案の税収増を支えているのは、消費税と法人税である。2022年度当初予算と比べて、消費税は1兆8110億円、法人税は1兆2660億円増えると見込んでいる。 それに加えて、防衛力強化の影響もある。12月16日に閣議決定された「防衛力整備計画」で、2023年度からの5年間で防衛経費の総額を43兆円程度とすることとしたのに伴い、その財源として「防衛力強化資金(仮称)」という財源管理をする「財布」を別に設けることとした。 その防衛力強化資金に繰り入れるとともに2023年度の防衛費に充てるために、特別会計の剰余金や独立行政法人の積立金、国有財産の売却収入などをかき集めて4兆5919億円の収入を得る(ただし、ほかの税外収入が減ることから、税外収入としては全体で3兆8828億円の増加となる)。この収入増も、歳入増に貢献した』、なるほど。
・『日銀納付金は防衛力強化資金の財源にしない  ちなみに、量的緩和政策をめぐり注目を集める日本銀行の財務状況に関連して、日銀納付金は税外収入として9464億円計上されているが、これは防衛力強化資金の財源にはしないこととしている。 防衛費のためにかき集めてきた財源のうち、1兆2113億円を2023年度の防衛費に使い、残りの3兆3806億円は防衛力強化資金に貯めておき、次年度以降の防衛費に充てる予定である。防衛力強化資金に回す支出は、例年の予算にはなく、それも歳出の増加要因として加わっている。 歳入面でのもう1つの注目点は、国債の新規発行額である。2023年度予算案では35兆6230億円と、2022年度当初予算より1兆3030億円ほど減った。この国債発行額が歳出総額に占める割合である公債依存度は、31.1%となり、3分の1を下回るところまで低下し、ようやくコロナ前の水準に戻ってきた。 コロナ禍が直撃した2020年度決算では、公債依存度が73.5%という異常な水準に達していた。2023年度は依然として高い水準ではあるものの、平時に戻る兆しが見え始めた。 ただ、前述のように税収が約4.2兆円増えているのに、公債発行額は約1.3兆円しか減っていない。それだけ、税収増を公債発行の抑制よりも歳出増に充てていることがわかる。財政健全化に向けてはまだまだ道半ばである。 歳出に目を移すと、やはり防衛費の増加が目立つ。防衛費(防衛力強化資金への繰り入れを除く)は、6兆7880億円と、2022年度当初予算より1兆4192億円増える。 2023年度予算案の歳出総額は、2022年度当初予算と比べて、防衛力強化資金への繰り入れを除くと3兆4042億円ほど増えるが、その4割強を占めるのが防衛費ということだ。それだけ、防衛費増加のインパクトは大きい。 例年ならば、政策的経費で最大費目である社会保障費がどれだけ増加するかに注目が集まるが、社会保障費の増加は6154億円で、そのうち年金給付のための支出増が物価スライドなどにより2200億円程度を占めている。 2023年度の社会保障費では大きな改革事項はなかったから、比較的静かな決着といえよう。ただ、翌2024年度予算で診療報酬・介護報酬の同時改定を控えており、山場は1年後に迎えることになる』、「日銀納付金は税外収入として9464億円計上されているが、これは防衛力強化資金の財源にはしないこととしている」、当然だ。「日銀」は、むしろ、「国債」利回りの上昇により保有「国債」の含み損が今後、拡大する懸念がある。。
・『巨額予備費が常態化、補正予算はもはや不要だ  ただ、予算編成上の課題も多く残されている。巨額の予備費は、2023年度予算案でも計上されている。新型コロナウイルス感染症及び原油価格・物価高騰対策予備費が4兆円、ウクライナ情勢経済緊急対応予備費が1兆円、計5兆円である。 コロナ前の補正予算の規模が3兆円だったことを踏まえると、当初予算から補正予算が上乗せされたような規模である。使途について議決を経ない巨額の予備費を常態化させれば、財政民主主義を形骸化させかねない。 この予備費があるのなら、2023年度はもはや巨額の補正予算は不要だといえるだろう。おまけに、過去には補正予算の財源になった決算剰余金を、今後は防衛費増加の財源に充てるつもりなのだから、補正予算はまともに組めない。これを機に、巨額の補正予算を断ち、日本経済の財政依存からの脱却を目指すべきである。) そして、もう1つの懸念は利払費である。2023年度予算案の利払費は、2022年度当初予算と比べて2251億円増える。これは、国債金利がほぼゼロといいながら、塵も積もれば山となり、残高が増えるだけ利払費も増える可能性を示唆している』、「巨額予備費が常態化、補正予算はもはや不要だ」、その通りだ。
・『日銀政策修正ですぐに利払費増とはならないが…  日銀が12月20日に決定した長短金利操作(YCC)の運用見直しで、10年物国債利回りの許容上限を0.25%から0.5%に引き上げた。これにより、直ちに一般会計の利払費が増大するわけではないが、中長期的には利払費の増加要因となる。 そもそも、決算段階でみても7兆円を超える利払費を国の一般会計で支出している。これは、増やした2023年度の防衛費(防衛力強化資金への繰り入れを除く)よりも多い。それだけ、国民が納めた税金が利払費に食われて政策的経費に回せないのだ。 確かに、この利払費は、国債保有者にとっては収益源にはなる。しかし、銀行預金などを通じて間接的に国債を保有している国民にしか、その収益は得られない。金融資産を持たない国民は、ただそのコストを税金の形で払わされるだけである。 国債の発行がほぼコストなしにできるという認識は早急に改め、いかに国債への依存を減らして財政政策を運営できるかを、もっと真剣に考えるときである』、「国債の発行がほぼコストなしにできるという認識は早急に改め、いかに国債への依存を減らして財政政策を運営できるかを、もっと真剣に考えるときである」、強く同意する。
タグ:政府財政問題 (その10)(「また搾取か!」自動車ユーザーの悲鳴…「自賠責保険料値上げ」で財務省の失態を国民に転嫁する理不尽、自衛隊艦船に建設国債“流用”拡大で…老朽化インフラ問題どうなる?16年後に修繕費10兆円も、「防衛費だけでない」2023年度予算案のポイント 歳出総額が過去最高の膨張、税収増加も後押し) 幻冬舎GOLD ONLINE「「また搾取か!」自動車ユーザーの悲鳴…「自賠責保険料値上げ」で財務省の失態を国民に転嫁する理不尽」 「保険料の引き上げ」を「自賠責保険」の収支と無関係な「「一般財源」に貸し付け」を理由に行うとは理不尽だ。 「返済額は低く、2022年度も、・・・54億円にとどまっています。これは借入金総額約6,000億円の1%にも満たない額」、「交通事故被害者保護のための「自動車安全特別会計」が逼迫」、「自賠責保険の保険料に「賦課金」を上乗せして徴収することになったのです。いわば、財務省の失態を国民にしわ寄せするものです」、こんな理不尽なことがまかり通るとは国庫を預かる財務省も落ちぶれたものだ。 「自動車ユーザーを、都合よく搾り取る対象としか見ていないのではないかと疑問を抱かれても仕方ない」、「政府・国会には、自動車ユーザーに過度の負担を負わせ不当に搾取する結果にならないよう、納得感のある施策を行うことが求められています」、強く同意する。 日刊ゲンダイ「自衛隊艦船に建設国債“流用”拡大で…老朽化インフラ問題どうなる?16年後に修繕費10兆円も」 「建設国債の償還期限は60年と長く、道路など将来世代にも恩恵が幅広く及ぶ場合にしか認められません。軍事分野は技術進歩が激しく、現在の最新鋭兵器も10年経てば時代遅れ。それでも政府は軍事産業が潤えばいいという発想なのでしょうが、建設国債にはなじみません」、とあるが、「赤字国債」は1989年度以降は、借り換え禁止ルールが撤廃され、「建設国債」同様の60年償還となったので、両国債の差はルール上では実質的にはなくなった。 しかし、「軍事分野は技術進歩が激しく、現在の最新鋭兵器も10年経てば時代遅れ。それでも政府は軍事産業が潤えばいいという発想なのでしょうが、建設国債にはなじみません」、はその通りだ。 「維持管理・更新費も膨張の一途だ。国交省は18年度の5兆2000億円から20年後は1.3倍になると試算。この数値は損傷や劣化の進行前に適切な修繕を施す「予防保全」を基本としており、不具合が生じてから対策を講じる「事後保全」しかできないと1.9倍、9兆9800億円まで跳ね上がる」、「予防保全」が重要なようだ。 東洋経済オンライン 土居 丈朗氏による「「防衛費だけでない」2023年度予算案のポイント 歳出総額が過去最高の膨張、税収増加も後押し」 「日銀納付金は税外収入として9464億円計上されているが、これは防衛力強化資金の財源にはしないこととしている」、当然だ。「日銀」は、むしろ、「国債」利回りの上昇により保有「国債」の含み損が今後、拡大する懸念がある。 「巨額予備費が常態化、補正予算はもはや不要だ」、その通りだ。 「国債の発行がほぼコストなしにできるという認識は早急に改め、いかに国債への依存を減らして財政政策を運営できるかを、もっと真剣に考えるときである」、強く同意する。
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マイナンバー制度(その3)(政府ゴリ押し「マイナ保険証」“真の狙い”は金融資産掌握 社会保障費の負担増で庶民狙い撃ち、岸田首相「マイナ保険証ない人に新制度」表明に批判殺到! 制度グジャグジャで新たな火種?、保険証と一本化すればマイナカードも普及するはず…そんな政府の思惑が大ハズレした根本原因 本当の問題は「便利になるかどうか」ではない) [経済政策]

マイナンバー制度については、6月22日に取上げた。今日は、(その3)(政府ゴリ押し「マイナ保険証」“真の狙い”は金融資産掌握 社会保障費の負担増で庶民狙い撃ち、岸田首相「マイナ保険証ない人に新制度」表明に批判殺到! 制度グジャグジャで新たな火種?、保険証と一本化すればマイナカードも普及するはず…そんな政府の思惑が大ハズレした根本原因 本当の問題は「便利になるかどうか」ではない)である。

先ずは、10月17日付け日刊ゲンダイ「政府ゴリ押し「マイナ保険証」“真の狙い”は金融資産掌握 社会保障費の負担増で庶民狙い撃ち」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/312970
・『河野デジタル相がブチ上げた2024年秋の健康保険証廃止。マイナンバーカードと保険証を一体化した「マイナ保険証」を事実上義務化する方針に、不安や反発が広がっている。ネット上の反対署名はわずか2日で10万筆近く集まった。保険証を“人質”にとったマイナンバー普及策には、立憲民主党の枝野前代表が<さすがにこれは強引すぎるのではないかと、強く危惧します。国民生活と直接結びついているという意味で、当面の政治の最大の争点かもしれません>とツイートするなど、臨時国会での野党の追及材料に浮上してきた』、「健康保険証廃止」、余りにも強引なやり方に驚かされた。「河野デジタル相」は自分の人気を取り違えているのではなかろうか。
・『資産に応じた社会保障費の負担増  政府がゴリ押しする目的は、河野氏が説明するような「デジタル化」だけではなく、真の狙いは全国民の「金融資産の掌握」だと思った方がいい。 実は、2016年1月のマイナカード交付開始直前、こんな懸念が頻繁に語られていた。 「18年からマイナンバーと銀行口座の紐づけが任意で始まり、21年には義務化される見通し。証券や保険ともリンクし、資産把握が進む。そうなると、所得や年金収入、保有資産に応じて、医療費や介護保険料が値上げされるのではないか」 実際、財務省の財政制度分科会の18年の議事要旨には<金融資産の保有状況を考慮した負担能力の判定のための基盤整備については、金融資産の捕捉のためにマイナンバーの在り方も含めて検討すべき>とある。さらに、内閣府の「新経済・財政再生計画 改革工程表2021」には<マイナンバーの導入等の金融資産の把握に向けた取組を踏まえつつ、医療保険における負担への金融資産等の保有状況の在り方について、(中略)預金口座へのマイナンバー付番の状況を見つつ、引き続き検討>とある。つまり、個人の金融資産状況を把握し、資産に応じた社会保障費負担へと突き進む気満々なのである。 2021年予定だった銀行口座の紐づけ義務化は、マイナカードの普及が進まず、20年11月に見送られている。ただ、裏を返せば、マイナ保険証の義務化で全国民がカードを保有することになれば、再び、銀行口座紐づけが義務化される可能性があるわけだ。 「個人の金融資産把握がマイナンバー制度の原点ですから、政府は銀行口座の紐づけ義務化を再び狙ってくるでしょう」(金融ジャーナリスト・森岡英樹氏) 富裕層の課税逃れ対策だけでなく、社会保障費の負担増で庶民も狙い撃ちではたまらない』、「銀行口座の紐づけ義務化」による「個人の金融資産状況を把握し、資産に応じた社会保障費負担へと突き進む」のでは、本当にたまらない。

次に、10月25日付け日刊ゲンダイ「岸田首相「マイナ保険証ない人に新制度」表明に批判殺到! 制度グジャグジャで新たな火種?」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/313384
・『現行の健康保険証を2024年秋に廃止し、原則としてマイナンバーカードに一本化する政府の方針に対し、全国労働組合総連合(全労連)が13日から反対署名を募ったところ、わずか10日間(24日時点)で11万筆を超えたことが分かった。 昨年10月から始まったマイナンバーカードと保険証を一体化する「マイナ保険証」は、カード所有者が専用ホームページなどで登録すれば使用できる。全労連は、個人情報流出に対する懸念や紛失リスクなどを理由に、カード取得の事実上の義務化は違法──などと訴えている。 こうした声があることをめぐり、岸田文雄首相は24日の衆院予算委員会で、「保険料を納めている人が保険診療を受けられる制度を用意する」とし、カードを持たない人も保険診療を受けられるよう配慮する考えを表明。 現行制度でも、保険証を紛失した際などに「資格証明書」を発行する仕組みがあるが、岸田首相は「資格証明ではない制度を用意する」と答弁したことから、新たな制度が作られる可能性が高い。 岸田首相の答弁通りだと、とりあえず、反対意見の強い「マイナ保険証」の事実上の義務化は避けられる方向だが、メデタシ、メデタシとはいかない。制度が多様化、複雑化するほど無駄な費用がかかるからだ。) 《マイナ保険証の取得を義務化しなければいいだけでは。無駄な費用がかかるよ》《資格証明書でいいよ。新制度なんていらない。一から制度設計すれば多額のカネがかかる》《だから、マイナ保険証の義務化をやめればいいのよ。制度もすっきり、お金もかからない》 SNSなどでは新たな批判が出始めた「マイナ保険証」の取得問題。さらなる「新たな火種」が出てこないことを祈るばかりだ』、「「マイナ保険証」の事実上の義務化は避けられる方向だが」、「制度が多様化、複雑化するほど無駄な費用がかかる」、苦しまぎれに「無駄な費用」がかかることを持ち出すとは、困ったことだ。

第三に、11月4日付けPRESIDENT Onlineが掲載した経済ジャーナリストの磯山 友幸氏による「保険証と一本化すればマイナカードも普及するはず…そんな政府の思惑が大ハズレした根本原因 本当の問題は「便利になるかどうか」ではない」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/63265
・『マイナカード普及の「切り札」になるはずだった  現行の健康保険証を2024年秋をメドに廃止し、マイナンバーカード(個人番号カード、マイナカード)と一体にした「マイナ保険証」に切り替えるとした政府の方針が早くもぐらついている。 10月13日の記者会見で方針を打ち出した河野太郎デジタル相は、なかなか進まないマイナンバーカード普及の「切り札」になると自らの手柄を確信していた様子だった。ところが、その後、任意だったはずのカード保有が「実質義務化」されることになるのではとの批判が噴出。デジタル庁にも数千件にのぼる不安の声が寄せられたといい、火消しに追われている。 河野大臣自身、10月20日の参議院予算委員会で質問されると、「これは今まで通り申請に応じて交付するものだ」と短かく答えるにとどまった。雄弁な河野氏が一気にトーンダウンしているのだ。 政府がマイナンバーカードの普及に躍起になる一方で、普及率は思ったように伸びていない。カードを取得した人に買い物などに使える「マイナポイント」を付与する制度まで導入。「第一弾」として2500億円を使ったが、2021年5月1日に30%だった普及率が年末に41%になるにとどまった。 これでもかと2022年から「第2弾」を開始、ポイント付与を最大2万円に引き上げた上で、7500万人分に相当する1兆4000億円の予算を組んだ。ところが、予算を残すありさまで、2022年9月末だった期限を12月末までに延期した。9月末時点での普及率は49%と、国民の半分にとどいていない』、「「マイナポイント」を付与する制度」、「「第一弾」として2500億円」、「30%だった普及率が年末に41%になるにとどまった」、「2022年から「第2弾」を開始」、「1兆4000億円の予算」、「9月末だった期限を12月末までに延期した。9月末時点での普及率は49%と、国民の半分にとどいていない」、さんざんのようだ。
・『10万筆を超す反対署名が集まった  なぜ、マイナンバーカードが普及しないのか。デジタル庁の調査では「情報流出が怖いから」(35.2%)、「申請方法が面倒だから」(31.4%)、「カードにメリットを感じないから」(31.3%)が3大理由になっている。河野大臣が「マイナ保険証」への一本化を打ち出したのも、カードの利便性を増すことが基本的な狙いで、ほかにも運転免許証との統合を前倒しする方針も掲げている。 もともと、保険証との一体化や免許証との統合は政府の「骨太の方針」でも示されていた。河野氏の方針に批判が集まっているのは、現行の保険証を24年度以降に「原則廃止」するとされていたものを、一歩踏み込んで、「24年秋に廃止」と期限を明示したからだ。従来の健康保険証が無くなれば、病院での診察時には保険証を兼ねるマイナンバーカードが必須になるわけで、カード取得が「実質義務化」されることになるわけだ。 遅々として普及が進まなかった政府からすれば、「起死回生の一打」といった強硬策だが、当然、反発も強い。 現行のマイナンバー法ではカードの発行について「申請に基づき個人番号カード(マイナンバーカード)を発行する」と定めており、取得を強制するには法改正が必要になる。そもそもマイナンバーで国民を管理すること自体に長年反対している人たちもいる。マイナンバー制度の導入時はカード保有は任意だったものを、実質義務化するのは「話が違う」ということになるわけだ。 政府の足元でも反対論が吹き上がった。公務員などの組合が傘下にある全国労働組合総連合(全労連)がさっそく反対声明を出し、2週間余りで10万筆を超す反対署名を集めた。日本弁護士連合会も強制に反対する会長声明を出している。国民のさまざまな情報を国が一元的に管理することになりかねないマイナンバーカードに、人権擁護の観点でも懸念があるというわけだ』、「マイナンバー制度の導入時はカード保有は任意だったものを、実質義務化するのは「話が違う」ということになるわけだ」、「国民のさまざまな情報を国が一元的に管理することになりかねないマイナンバーカードに、人権擁護の観点でも懸念がある」、いずれもその通りだ。
・『日本医師会会長「2年後の廃止が可能かどうか…」  では、仮に、強制されなくとも使いたくなるくらい「マイナ保険証」は便利なのだろうか。 すでに健康保険証とマイナンバーカードをひも付けるサービスは始まっている。ひも付ければ、マイナンバーカードを保険証として利用することもできる。厚労省のホームページには「便利に!」なるとして「顔認証で自動化された受付」「正確なデータに基づく診療・薬の処方が受けられる」「窓口での限度額以上の医療費の一時支払いが不要」と書かれている。 いずれも、それが「便利!」と思うことだろうか。しかも、マイナンバーカードの読み取り機が設置されてシステム対応できる医療機関はまだまだ限られていて、どこでも使えるわけではない。 万が一に備えて健康保険証を財布の中に入れている人も多いが、現状ではマイナンバーカード1枚にはできず健康保険証も持ち歩くことになりそうだ。「薬の情報をマイナポータルで閲覧できる」と言った便利さも書かれているが、マイナンバーカード用のサイトである「マイナポータル」を恒常的に利用している人はまだまだ多くない。 「2年後の廃止が可能かどうか、非常に懸念がある」。日本医師会の松本吉郎会長は10月19日の記者会見でこう述べた。マイナ保険証については「特別反対していない」としたものの、マイナンバーカードがあまり普及していない現状では廃止は難しいとしたのだ』、「日本医師会の松本吉郎会長は」、「マイナンバーカードがあまり普及していない現状では」、「健康保険証」の「廃止は難しいとした」、もっともな指摘だ。
・『情報流出への懸念は当初の政府対応に端緒があった  政府が音頭をとっても、マイナンバーカードが国民の半数にしか普及しないのはなぜなのか。やはり、利便性の問題だけではなく、「情報」が流出することへの漠然とした懸念があるのだろう。 これには、マイナンバーカードを発行し始めた当初の政府の対応のマズさがあった。「マイナンバーは他人に絶対に知られてはいけない」、「マイナンバーカードを見られるのも危ない」という意識を国民に植え付けてしまった。最近は政府の説明も大きく変わっているのだが、今でも「マイナンバーカードは貴重品だから持ち歩かないで金庫にしまっておく」という高齢者が少なからずいる。 河野デジタル大臣が自ら発信している「ごまめの歯ぎしり」というメールマガジンの10月18日号は、「マイナンバーの疑問に答えます」というタイトルだった。 Q&A方式で書かれていて、冒頭の質問は「マイナンバーカードは、持ち歩いてもいいものなのか、それとも家の金庫にしまっておくものなのですか」だった。答えは「持ち歩きましょう」。ただし、銀行のキャッシュカードやクレジットカード同様、落としたり無くしたりしないように、というものだった。マイナンバーを人に見られても大丈夫、というQ&Aもあった。 また、仮にマイナンバーカードを落としたとしても、マイナンバーカードのICチップに入っているのは、名前、住所、生年月日、性別、顔写真、電子証明書、マイナンバー、住民票コードだけで、医療情報や税・年金といった個人情報は入っていないので、暗証番号を知られない限り、悪用されることはないとも回答している』、「マイナンバーカードを発行し始めた当初の政府の対応のマズさがあった。「マイナンバーは他人に絶対に知られてはいけない」、「マイナンバーカードを見られるのも危ない」という意識を国民に植え付けてしまった」、私もその影響を受けて、「マイナンバーカード」は貴重品入れの引き出しに保管し、持ち出すことは殆どない。
・『現況のITシステムはサイバー攻撃に耐えられるのか  おそらく、大臣自身にそう言われても安心できない、という人も少なくないだろう。 そんな最中、10月31日に世の中を震撼させる事件が起きた。大阪府の「大阪急性期・総合医療センター」がサイバー攻撃を受け、電子カルテシステムがダウンした結果、病院の診療がストップする事態が発生したのだ。 身代金要求型のコンピューターウイルス「ランサムウェア」による被害と見られ、復旧には相当な時間がかかると見られている。この事件を機にSNS上などでは「マイナ保険証への移行は止めるべきだ」といった意見が強まっている。マイナンバーカード自体に情報が保存されていなくても、連携したシステム自体がトラブルを起こした時に、マイナンバーカードだけで大丈夫なのか、現行の保険証を残した方が安全ではないのか、というのである。 情報をデジタル化し一元管理しようとすれば、そのバックアップを含め、システムの頑強さが求められる。医療機関の場合、ITの専門人材がほとんどおらず、規模も小さいためIT投資もままならないため、デジタル化が遅れているところが少なくない。逆にそれがハッカーやコンピューターウイルスに脆弱ぜいじゃくということになりかねない。国民の疑念を払拭しないまま、マイナ保険証に突き進むことは難しいだろう』、「情報をデジタル化し一元管理しようとすれば、そのバックアップを含め、システムの頑強さが求められる。医療機関の場合、ITの専門人材がほとんどおらず、規模も小さいためIT投資もままならないため、デジタル化が遅れているところが少なくない。逆にそれがハッカーやコンピューターウイルスに脆弱ぜいじゃくということになりかねない」、その通りだ。ただ、「国民の疑念を払拭しないまま、マイナ保険証に突き進むことは難しいだろう」、そこまで言い切れるかは疑問だ。
・『「情報が悪用されること」への疑念は消えない  もうひとつ、根本的に問われているのが、政府への「信頼度」だろう。 利便性を高めるために政府に情報を集中させても、政府がそれを悪用し国民を過剰に監視するような使い方はしない、という信頼感がなければ、国民の多くの情報を国が一元管理する体制には支持が得られない。 マイナンバーカードを手にしていない半数の国民には、国に対する「疑念」を払拭できていない人が少なからず存在する。つまり、マイナンバーカードの普及には政府への信頼が不可欠だ。 旧統一教会との問題が次々と表面化。首相や大臣の発言はくるくる変わる事態となって、岸田文雄内閣の支持率は大きく低下している。そんな政府の信用度が瓦解している中で、デジタル化もマイナンバーカードの普及も進まないだろう』、「利便性を高めるために政府に情報を集中させても、政府がそれを悪用し国民を過剰に監視するような使い方はしない、という信頼感がなければ、国民の多くの情報を国が一元管理する体制には支持が得られない」、全く同感である。
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異次元緩和政策(その43)(円安構造の固定化であきらかになる金融政策の不都合な真実、日銀が金融緩和策を変更すると一体どうなるのか 一歩間違えば円大暴落だけでは済まない事態に、経済学者・野口悠紀雄の提言「早く金利を上げて、円安を止めなさい」 「安売り依存」から脱却せよ) [経済政策]

異次元緩和政策については、7月15日に取上げた。今日は、(その43)(円安構造の固定化であきらかになる金融政策の不都合な真実、日銀が金融緩和策を変更すると一体どうなるのか 一歩間違えば円大暴落だけでは済まない事態に、経済学者・野口悠紀雄の提言「早く金利を上げて、円安を止めなさい」 「安売り依存」から脱却せよ)である。

先ずは、8月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した翁邦雄氏による「【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】円安構造の固定化であきらかになる金融政策の不都合な真実」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/307556
・『「円安がGDPを押し上げ、日本全体にプラスに働く」というのは本当か? 為替レートの変動によって、その受益者と被害者はどの程度入れ替わっているのだろうか。元日本銀行金融研究所所長で、『金利と経済――高まるリスクと残された処方箋』などの著書もある翁邦雄氏が、長期的に為替レートの推移をみて受益者と被害者を分析した』、興味深そうだ。
・『「受益は輸出企業へ・損失は消費者へ」という円安構造の固定化  前回、円安の恩恵を受ける輸出企業と、輸入物価上昇によって被害を受ける内需依存型企業や消費者等とについて、その利益と損失を試算した。紹介した数値化は、大胆な単純化の仮定に拠っている。円ドルレートの輸出入金額への影響に限っても、実際には、輸出のドル建て契約比率は5割程度、輸入については7割程度だから、円ドルレートの変動をそのまま反映するわけではない。 そもそも為替レートは円高化したり円安化したりするものだろうから、やや長い目で見れば、受益者と被害者は入れ替わりうるはずである。かつて円高が問題視された時期もあったわけだから、最近の円安の損得だけを議論すべきでない、という意見もあるだろう。 そこで、少し視点を変えて長期的な為替レートの推移を眺めてみよう。 実質実効為替レートの推移(日銀統計) 上図は、1980年以降の円ドルレートと実質実効為替レートの推移をグラフ化したものである。実質実効為替レート(青線)は、物価上昇率の差を調整した為替レート(実質為替レート)を貿易相手国・地域のウェイトで調整(実効化)して加重平均した指標である。 多くの貿易相手国は、日本に比べると物価・賃金が上がっているので、為替レートが円高に変化しなければ円の購買力は低下する。また、貿易ウェイトの高まった国の通貨に対する円の減価が相対的に大きければ、実効的な円安化が起きていることなる。 こうした点から、実質実効為替レートは円ドルレートよりも円の購買力の変化をよりよくあらわしている。前回紹介した日銀の展望レポートにおける「円安が10%進めば実質国内総生産(GDP)を年間で0.8%ほど押し上げる」という計量分析結果で使われている為替レートも、円ドルレートではなく実質実効為替レートである。 このグラフをみると、実質実効為替レートは1990年代央以降、振れを伴いつつも驚くほど長期間、円安方向へ動き続けてきたことがわかる。リーマンショック後に円高を懸念する声が強まった時期でさえ揺り戻しはそれほど大きくなく、円安トレンドの足踏み程度にとどまっている』、「実質実効為替レートは1990年代央以降、振れを伴いつつも驚くほど長期間、円安方向へ動き続けてきたことがわかる。リーマンショック後に円高を懸念する声が強まった時期でさえ揺り戻しはそれほど大きくなく、円安トレンドの足踏み程度にとどまっている」、「実質実効為替レートは1990年代央以降、・・・驚くほど長期間、円安方向へ動き続けてきた」、とは漸く思い出した。
・『受益者と被害者の固定化  こうしてみると、円安がGDPを押し上げ日本全体にプラスである、という日銀のロジックが国民の実感と乖離し、特に消費者に支持されにくい理由の一端は、こうした受益者・被害者の固定化にもあるだろう。円安の負担だけが強く実感される消費者が、円安誘導を続ける超金融緩和政策の公正さへ漠然とした不信を強めていてもおかしくないからだ。 2022年6月6日のきさらぎ会(注:共同通信の加盟社、主要民間企業、公共団体の部長級以上を会員とする研究会)の講演の「おわりに」の部分で黒田総裁は次のように述べた。 「現在のイールドカーブ・コントロールを柱とする強力な金融緩和を粘り強く続けていくことで、経済活動をしっかりとサポートすることが最優先課題です。日本銀行は、海外の中央銀行と異なり、経済の安定か、物価の安定か、というトレードオフに直面していないため、金融面から総需要を刺激し続けることが十分に可能です」 確かに、日本の状況と欧米の置かれている状況とは異なる。しかし、上記のように日本の金融政策は実は深刻な分配上のトレードオフを抱えている。景気刺激効果をもち実質GDPを押し上げるという意味でプラス効果をもつという円安が、輸出企業に与える大きな利益と、消費者・内需企業の大きな損失である。 異次元緩和はこのトレードオフを無視したまま、円安政策を一貫して追求してきた。それにもかかわらず「円安によって収益が改善した企業が、設備投資を増加させたり、賃金を引き上げたりすることによって、経済全体として所得から支出への前向きの循環が強まっていく」いった動きはみられなかった。 むろん、為替レートは金融政策だけで決まるものではない。だが、金融政策は為替レートへの影響に限らず、金利経由でも分配に大きな影響を与える。しかし、中央銀行は金融政策の分配面への大きな影響という不都合な真実から極力、目を逸らしてきた。身動きが取れなくなりかねないからだ。 中央銀行がそれを気にしていなかったわけではない。ただ、かつては、金融政策は安定化政策であり、景気循環を均すために金利や為替レートは変動させている、受益者は入れかわるはずだから長い目で見てほしい、という、弁解は可能だっただろう。 しかし、今は、そうは言いにくい。きさらぎ会の講演における黒田総裁の「消費者が値上げを受け入れている」という発言が大きな反発を受けたのも、あまりに長期間、不利益が固定化された消費者等の「金融政策の不都合な真実」に対する鬱積した不満がその底流にあるのではないだろうか』、「黒田総裁の「消費者が値上げを受け入れている」という発言が大きな反発を受けたのも、あまりに長期間、不利益が固定化された消費者等の「金融政策の不都合な真実」に対する鬱積した不満がその底流にあるのではないだろうか」、同感である。

次に、10月29日付け東洋経済オンラインが掲載した大蔵省出身で慶應義塾大学大学院准教授 の小幡 績氏による「日銀が金融緩和策を変更すると一体どうなるのか 一歩間違えば円大暴落だけでは済まない事態に」を紹介しよう。
・『:慶應義塾大学の准教授である小幡績氏は、今回の原稿のテーマについて「やっぱり日本銀行の金融政策にしようか、それとも財務省の為替介入にしようか、いや、政府の経済政策という名のバラマキ政策でいくか」、あれこれ迷っていた。 迷いすぎているうちに、いつの間にか自宅の書斎(通称「洞窟」)で寝入ってしまっていた……。以下は、どうやら夢の中で見た光景のようだ』、行動経済学者の「小幡」氏の見解とは興味深そうだ。
・『日銀は2023年も不自然な金融緩和を継続?  この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています)。記事の一覧はこちら
2023年4月、日銀の総裁に就任した灰色太郎氏は、金融政策決定会合で政策変更を行うべきかどうか迷っていた。 日銀は金融政策の柱の1つとして、イールドカーブコントロール(YCC、長短金利操作)を2016年から導入していた。これは短期金利をマイナスにするだけでなく、10年物国債の金利水準を0%程度にしようと目標を定め、国債買い入れを行う政策である。これによって、短期から長期まで、金利全体の動きをコントロールするのが目的だ。 この政策は2023年の今も継続しており、その金利目標水準も0%程度でまったく変わっていなかった。乖離許容幅については、0.1%だったのを2021年3月に0.25%に変更した。 だが、乖離許容幅といいながら、実質的には長期金利国債10年物利回りを0.25%にくぎ付けにするために、連続指し値オペというものを2021年3月に導入し、2022年4月末からは毎日行うこととした。この連続指し値オペはすでに1年近く行われていたため、10年物国債の取引はほぼ消滅し、国債市場は仮死状態といわれていた。 この異常な力任せの緩和を継続していたため、円は極端に安い水準となっていた。それでも、アメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)の強烈な利上げは2023年1月に一段落し、短期金利は4.75%で横ばいとなっていた。 一方、欧州はロシア・ウクライナ情勢が膠着したままであることもあり、インフレが止まらず、ECB(欧州中央銀行)は利上げを継続していた。この結果、ユーロは上昇し、一時は1ユーロ=1ドルを割り込んだユーロドル相場は、1ユーロ=1.15ドルの水準まで回復していた。 そのほかの国の通貨も、極端なドル高の反動でおおむね戻していた。しかし、円だけは戻りが極めて弱く、1ドル=140円前後で推移していた。ただし、変動は激しかった。なぜなら、金融政策決定会合のたびごとに「日銀総裁交代前に政策変更か」という市場の仕掛けが行われたからだった。 財務省はその都度為替介入を行ったが、この乱高下を利用して、トレーダーたちは細かく稼いでいた。いわば、介入を誘い、それをネタに小銭を稼いでいたのだ。世界で、為替はほとんど注目されなくなった中で、日本円だけがトレーダーのおもちゃにされていた。) このような状況の中で、発足した日銀の新執行部は内部でもめていた。「とにかく市場で波乱を起こさないように現状維持で行こう」という薔薇色桃子新副総裁と、「国債市場の仮死状態をこのまま続ければ本当に国債市場は死んでしまう」と懸念する赤色勇新副総裁と、意見が激しく対立していた』、「財務省はその都度為替介入を行ったが、この乱高下を利用して、トレーダーたちは細かく稼いでいた。いわば、介入を誘い、それをネタに小銭を稼いでいたのだ」、「トレーダー」にとっては正常な業務の一環だ。
・『金利ターゲットは0.25%、指値オペは0.5%に?  灰色総裁は、強硬に政策変更を主張する赤色副総裁に尋ねた。「では、君はいったいどんな具体案があるというのか?」 「ここは、YCCを結局は終了しなくてはいけません」 「それでは、奴らは、われわれを攻撃してくるだろう!どうするんだ!」 「いずれにせよ、YCCはやめないといけません。そのときはいずれ攻撃を受けます。もうすでに国債市場の歪みは拡大していますが、遅らせれば遅らせるほど、ひどくなってしまいます」 「いきなりYCCを止めたらどうなると思っているだ!ただじゃすまないぞ!」 「もちろんです。いきなりはやめません」 「は?なんだ。やめないのか。じゃあ、どうするんだ?」 「ターゲットをゼロ程度から、0.25%に引き上げます。乖離許容幅は0.25%のままです。そこで、指し値オペは0.5%にします」 「それじゃあ、利上げじゃないか!メディアがついに『日銀利上げ、市場圧力に屈した』と書き立てて、俺は記者会見で攻め立てられるぞ!」 「仕方ありません。いきなりYCCを終了すれば、10年物の金利がどこまで上がるか、まったく予測できません。市場も同じです。乱高下で大混乱します。0.25%ターゲット、指し値0.5%のほうが、はるかにましです」 「甘い!それじゃ、次の利上げを狙って、市場は国債を売り浴びせてくるぞ。それこそ大混乱だ」 「そこで、その次の会合で、また0.25%引き上げます」 灰色総裁は気色ばんだ。 「それでは、追い込まれっぱなしじゃないか」 「はい」 「はい、じゃないだろ!」 「その次の会合で、0.75%ターゲットとし、乖離許容幅0.25%とすると上限は1%となりますが、ここでは、指し値オペを0.9%にして、とことん買い支えます」 「どういう意味があるんだ?」) 「もうこれで利上げは終わり、というメッセージです。1%は死守するラインで、それを突破されないように、その前にも死守ラインを設け、とことん頑張るんです」 「それで?」 「やつらが攻撃をあきらめるまで0.9%で買い続けます。彼らは1%までは後退するだろうと攻撃すると思いますが、そこで0.9%とことん買い続ければ、彼らも弾が尽きます。そうすれば、0.9%で無風になります。そこで、YCCをやめると発表するのです」 「そうすると?」 「ここで、もしもう一度攻めてくれば、再度0.9%で守ります。しかし、彼らは弾が尽きているので、補充しても迫力はないはずです。つまり、YCCをやめるタイミングの前に、彼らを疲弊させておくのです。それにより、YCCをやめた直後の戦いでは、勝ちやすくなります。彼らが力尽きた直後に、YCCをやめるんです」 「なるほど。うまくいきそうだな」 「いえ、やってみないとわかりません」 「おい!勧めておいて、なんだそれは!俺を罠にかけるのか!そんな不確実なことができるか!」 「勝負はやってみないとわかりません。時の運です」 「お前な……。お前はクビだ!」 「総裁は副総裁をクビにはできません」 「なに!!いつのまにそんな反抗的に……。わかった。もう帰りたまえ」 「はい」 灰色総裁はつぶやいた。 「あいつめ。なんてやつだ。しかし、あいつの言うのも一理あるな。このままずっと何もしないわけにもいかない。世界の金利市場の実勢を鑑みれば、日本国債の金利上昇もやむをえまい。しかし、かといって利上げはできない。う―――ん……」』、「YCCをやめるタイミングの前に、彼らを疲弊させておくのです。それにより、YCCをやめた直後の戦いでは、勝ちやすくなります」、確かにその通りなのかも知れない。
・『指し値オペを0.5%にした日銀、利回りは瞬時に0.75%  その3日後の政策決定会合後の記者会見で、灰色総裁は政策変更を発表した。それは、乖離許容幅を±0.25%から±0.5%に拡大する、というものだった。連続指し値オペは継続するが、0.5%で無制限に買い入れる、というものだった。 国債市場は直ちに反応し、利回り0.5%まで上昇したが、その後、海外先物市場ではそこで止まらず、あっという間に0.75%まで上昇した。次の乖離許容幅の拡大を織り込んだものだった。) 国内メディアも、灰色総裁を一斉に攻撃した。 「総裁、これは利上げですか、利上げではないんですか?どっちなんですか!」 「利上げではありません。強力な緩和を継続し、わが国の物価動向は……、景気も……」 「なぜ指し値の利回りが切り上がったんですか?利上げを利上げでないと言い逃れしているだけじゃないですか!」 「いえ、そんなことはありません……」 「では、なんなんですか!」 別の記者も攻撃した。 「国債利回りが0.5%を突破して、海外市場では0.75%までいったんですよ!見透かされてますよ!」 さらに別の記者もかさにかかって、非難する。 「国債だけではなく、円も売り浴びせられてますよ!本来利回りが上昇したら、円高になるはずでしょ!債券安、為替安、日本売りです!それも、総裁の政策変更のせいです!」 「いえ、ですから……うっ……」 「総裁、総裁!大丈夫ですかっ?」 灰色総裁は不眠と疲労、そしてもちろん心労で記者会見の場で倒れてしまい、緊急入院となった。幸い、命に別状はなかったが、絶対安静となり、医者は公務に復帰するのは1カ月以上かかるとのコメントだった。 慌てた官邸は日銀と緊急に話し合い、臨時の措置として薔薇色桃子副総裁を総裁代行とすることを決定した』、「灰色総裁は不眠と疲労、そしてもちろん心労で記者会見の場で倒れてしまい、緊急入院となった」、こんなことになったら「円は大暴落」必至だ。
・『薔薇色総裁代行は事態を悪化させ、円は大暴落  薔薇色総裁代行は翌日、臨時政策決定会合を開くこととした。この混乱を収束させるためということだった。 臨時政策決定会合では、政策は元に戻されることとなった。つまり、10年物0%程度、乖離許容幅0.25%で、連続指し値オペは無制限で0.25%となったのである。 しかし、この政策の後戻りは、当然、事態をさらに悪化させてしまった。国債市場では売りが殺到し、買い入れ対象の国債はすべて日銀が保有する結果となり、オペの意味がなくなった。そして、海外の先物市場では金利がさらに急騰した。 そして、円が大暴落し始めた。アメリカの利上げペースが緩和され、ドルの全面高局面が終了し、ドル円も落ち着き、水準を切り下げていたが、灰色総裁の乖離許容幅拡大で、円安が再度進み始めてしまったところだった。それが、一瞬で大暴落となってしまった。これで、日本国中がパニックとなった。 しかし、最も悪い影響は国債の新発市場で起きた。誰も、国債の入札に応じなくなったのである。長期国債だけでなく、短期国債でも、どんな期間の国債でも、入札がすべて不調となった。日銀の政策の先行きが不透明すぎて、短期金利に対してまで、国内市場ですら疑心暗鬼になってしまい、国債市場は全面的に死んでしまった。 財務省だけでなく、官邸も、いや国全体が、薔薇色総裁代行を攻撃した。 薔薇色総裁代行はこれに耐え切れず、総裁代行だけでなく、職そのものを辞任し、行方がわからなくなってしまった。周辺からは、海外に渡航し、欧州のある国でひっそり過ごしているというウワサがどこからともなく聞こえてきた。 ついに、灰色総裁に強硬論を唱えていた赤色副総裁の出番となった。彼は、かつて、といってもこの間10日も経っていないが、灰色総裁に打診した持論の金融政策を実施した。 しかし、時すでに遅しだった。この大混乱のあとに至っては、まっとうな政策だろうが何であろうが、日銀の動きは全面否定された。国会ではなんと日銀解体論が吹き荒れ、これはさらに円の暴落をもたらした。 いよいよ、日本沈没か……。新聞でもテレビでも、この見出しが躍ったが、人々は目を背けるように、この話題に触れないようになった。テレビはこの問題を扱うと消されてしまうため、ワイドショーでは他愛もない芸能人のスキャンダル特集を流すスタイルに戻ってしまった。 そして、目をつぶる日本国民のこの状態こそが、日本を本当に沈没させる理由だった。破綻の日は刻々と近づいてきた……』、「政策の後戻りは、当然、事態をさらに悪化させてしまった」、「円が大暴落」、「誰も、国債の入札に応じなくなったのである。長期国債だけでなく、短期国債でも、どんな期間の国債でも、入札がすべて不調となった。日銀の政策の先行きが不透明すぎて、短期金利に対してまで、国内市場ですら疑心暗鬼になってしまい、国債市場は全面的に死んでしまった」、あり得そうな恐ろしいシナリオだ。
・『灰色総裁も、薔薇色・赤色副総裁も幻だった?  青色静氏は目を覚ました。「ああ、ひどい夢だったな。疲れているのかな」 青色氏は、翌日の日銀総裁就任を控え、疲労と寝不足から、自宅の風呂につかりながら、寝てしまったようだった。 「日本も俺もおぼれ死ぬわけにはいかない。やはり淡々と金融政策は非常事態の政策から、普通の緩和に戻さなければいけないな。市場に攻撃されても、メディアに攻撃されても、正しい政策を地味に淡々とかつ不屈の精神でやりきらないといけない」 再度、決意を固めた。) 青色新総裁は、最初に政策決定会合でYCCのターゲットを0.25%上げた。指し値オペは0.5%で行ったが、連日はやめ、不意打ちに変更した。そして、無制限ではなく、大規模でない買い入れ額に設定した。売りが殺到しても、売り手は全額を売り切れるわけでなく、割り当てとなったために、空売りにはリスクが伴うようになった。 一方、日銀の買い入れは、限定された金額の指し値オペと、通常の買い入れ額を指定したオペを併用し、かつ不意打ち戦略を取った。市場の混乱、ある程度の乱高下は受け入れつつも、ともかく投機的取引に対するリスクを高めて、投機家を追い出すことを最優先にした。 さらに青色総裁は、官邸、財務省とも「あうんの呼吸」で買い入れを行った。 ドル円相場は、ドルの金利上昇一服により落ち着いていたが、日本国債市場の乱高下により、また円安へ向かい、為替市場も激しく乱高下し始めた。 これを抑えるために、財務省は円買い介入を行った。しかし、これは2022年秋の介入とは異なり、日銀の政策変更または国債買い入れと連動していた。 日銀が利上げを発表した直後に、円買い介入を大規模に行い、円はそのたびに大幅に上昇し、乱高下しつつも円は値上がりしていった。また、日銀が買い入れオペを通告した直後にも、小規模の介入を行った』、「市場の混乱、ある程度の乱高下は受け入れつつも、ともかく投機的取引に対するリスクを高めて、投機家を追い出すことを最優先にした。 さらに青色総裁は、官邸、財務省とも「あうんの呼吸」で買い入れを行った。 ドル円相場は、ドルの金利上昇一服により落ち着いていたが、日本国債市場の乱高下により、また円安へ向かい、為替市場も激しく乱高下し始めた。 これを抑えるために、財務省は円買い介入を行った。しかし、これは2022年秋の介入とは異なり、日銀の政策変更または国債買い入れと連動していた」、誠に巧みだ。
・『青色総裁は官邸・財務省と危機を乗り切った……  この結果、市場では、日銀の買い入れオペごとに介入期待が高まり、円は上昇していった。買い入れ額が小さくとも、介入額が小さくとも、相乗効果とアナウンス効果、投機家の深読み効果で、買い入れ、介入の効果は倍増した。 青色氏の評判は、利上げ当初は賛否両論だったが、次第にメディアも称賛するようになり、青色氏は中央銀行総裁として、世論も市場も支配し始めた。これこそが中央銀行総裁として重要なことだった。黒田東彦氏の就任当時と政策の方向は異なっていたが、支配という意味では似たような状況だった。 だが、青色氏は「その先」を考えていた。いずれ、世界は大不況になる。そのときにこそ、本当の日本経済の危機がやってくる。そのときに、金融政策、中央銀行への信頼が十分にある状態にしておかなければならない。自分の名声に酔うどころか、さらに気を引き締めていたのであった……。 小幡氏は、ここで目を覚ました。 はたして、これは悪い夢だったのか、それともいい夢だったのか。正夢だったのか。それともありえない理想を夢見ただけだったのか。青色氏のような人はどこにいるのだろうか……。 いずれにせよ、忘れないうちに、この夢を利用して原稿を書いてしまおう。小幡氏は、ヘッドフォンから流れてくる、ジョルジュ・エネスクのバッハ無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番を聴きながら、筆を進めたのであった……。 (本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)』、「青色氏は「その先」を考えていた。いずれ、世界は大不況になる。そのときにこそ、本当の日本経済の危機がやってくる。そのときに、金融政策、中央銀行への信頼が十分にある状態にしておかなければならない。自分の名声に酔うどころか、さらに気を引き締めていたのであった……」、確かに理想的な金融政策運営だ。

第三に、11月10日付け現代ビジネス「経済学者・野口悠紀雄の提言「早く金利を上げて、円安を止めなさい」 「安売り依存」から脱却せよ」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/101906?imp=0
・『自信なさげにボソボソ喋るメガネの男、キシダに国を任せていて大丈夫なのか? 世界は、日本の総理に厳しい目を向けている。いったいどうすれば日本は復活できるのか、国内外の7人の「知の巨人」に聞いた。3人目は経済学者・野口悠紀雄氏だ』、興味深そうだ。
・『ブレーキとアクセルを同時に踏む日銀  いま岸田総理がやるべきことはただ一つ、「円安を止めること」です。 それなのに、政府は「総合経済対策」で誤魔化そうとしています。この対策の柱は高騰するガソリンや電気、ガスに対し補助金を出すという内容で、一見、暮らしが楽になると思われるかもしれません。 しかし結局は円安による価格高騰を見えなくして、問題を覆い隠しているだけなのです。 円安の原因は、「日本とアメリカの金利に差があること」です。今年3月以降アメリカが金利を上げているのに、日本は金利を上げていない。 その結果、金利が高いドルを買って円を売る動きが生まれ、円安になる。この日米の「金利差」を解消しない限り、円安は止まりません。 ところが日銀は、金利を上げようとはしない。それどころか、為替介入という円安の「ブレーキ」と同時に、金利抑制策という「アクセル」を踏むという不可解な状態を続けています』、確かに「為替介入という円安の「ブレーキ」と同時に、金利抑制策という「アクセル」を踏むという不可解な状態を続けています」、大きな矛盾だ。
・『「リスキリング」では解決できない  いったいなぜ金利を上げないのか。それは大企業をはじめ、円安によって利益を受けている人々がいるからです。特に製造業は、輸入する原材料費は価格に上乗せして国民に転嫁することで円安の恩恵を受けている。 しかしその陰で、円安で増大したコストを価格転嫁できない中小企業が苦しんでいる現実があるのです。 そもそもこの流れが始まったのは、2000年代はじめでした。中国が工業化し、日本の製品は価格競争にさらされるようになりました。そこで政府が取った戦略が、「円安誘導」だったのです。 しかしこの時期、本当に必要だったのは他の国が追いつけない新しい技術を作ることでした。実際、アメリカやアイルランド、韓国、台湾などは、ITに対応した技術の開発に成功し、いまも世界のトップを走っています。 一方、日本は円安による「安売り戦略」に依存し続け、総じて企業の力が弱くなった。 岸田総理が言う「リスキリング」(新しい知識や技術を学ぶこと)も重要ですが、これだけで解決できるほど根は浅くない。企業が大学院などの高等教育をもっと高く評価し、研究・開発に力を入れなければ、日本企業が強くなることはできません。 金利を上げて円安を止める。そして円安依存してきた企業の開発力を高めていく。日本再生の道はこれしかありません。 「知の巨人」シリーズ 1ポール・クルーグマンが激白「日本経済を復活させるには、定年を廃止せよ」 2昭和史を見つめてきた作家・保阪正康が岸田総理を斬る「宏池会の系譜に学ばぬ首相に失望した」 4「賃金を上げて、非正規雇用を見直せ」ジャーナリストのビル・エモットが考える「日本再生への道」』、「2000年代はじめでした。中国が工業化し、日本の製品は価格競争にさらされるようになりました。そこで政府が取った戦略が、「円安誘導」だったのです。 しかしこの時期、本当に必要だったのは他の国が追いつけない新しい技術を作ることでした。実際、アメリカやアイルランド、韓国、台湾などは、ITに対応した技術の開発に成功し、いまも世界のトップを走っています。 一方、日本は円安による「安売り戦略」に依存し続け、総じて企業の力が弱くなった」、「金利を上げて円安を止める。そして円安依存してきた企業の開発力を高めていく。日本再生の道はこれしかありません」、同感である。
タグ:異次元緩和政策 (その43)(円安構造の固定化であきらかになる金融政策の不都合な真実、日銀が金融緩和策を変更すると一体どうなるのか 一歩間違えば円大暴落だけでは済まない事態に、経済学者・野口悠紀雄の提言「早く金利を上げて、円安を止めなさい」 「安売り依存」から脱却せよ) ダイヤモンド・オンライン 翁邦雄氏による「【翁邦雄・元日本銀行金融研究所所長に聞く】円安構造の固定化であきらかになる金融政策の不都合な真実」 『金利と経済――高まるリスクと残された処方箋』 「実質実効為替レートは1990年代央以降、振れを伴いつつも驚くほど長期間、円安方向へ動き続けてきたことがわかる。リーマンショック後に円高を懸念する声が強まった時期でさえ揺り戻しはそれほど大きくなく、円安トレンドの足踏み程度にとどまっている」、「実質実効為替レートは1990年代央以降、・・・驚くほど長期間、円安方向へ動き続けてきた」、とは漸く思い出した。 「黒田総裁の「消費者が値上げを受け入れている」という発言が大きな反発を受けたのも、あまりに長期間、不利益が固定化された消費者等の「金融政策の不都合な真実」に対する鬱積した不満がその底流にあるのではないだろうか」、同感である。 東洋経済オンライン 小幡 績氏による「日銀が金融緩和策を変更すると一体どうなるのか 一歩間違えば円大暴落だけでは済まない事態に」 行動経済学者の「小幡」氏の見解とは興味深そうだ。 「財務省はその都度為替介入を行ったが、この乱高下を利用して、トレーダーたちは細かく稼いでいた。いわば、介入を誘い、それをネタに小銭を稼いでいたのだ」、「トレーダー」にとっては正常な業務の一環だ。 「YCCをやめるタイミングの前に、彼らを疲弊させておくのです。それにより、YCCをやめた直後の戦いでは、勝ちやすくなります」、確かにその通りなのかも知れない。 「灰色総裁は不眠と疲労、そしてもちろん心労で記者会見の場で倒れてしまい、緊急入院となった」、こんなことになったら「円は大暴落」必至だ。 「政策の後戻りは、当然、事態をさらに悪化させてしまった」、「円が大暴落」、「誰も、国債の入札に応じなくなったのである。長期国債だけでなく、短期国債でも、どんな期間の国債でも、入札がすべて不調となった。日銀の政策の先行きが不透明すぎて、短期金利に対してまで、国内市場ですら疑心暗鬼になってしまい、国債市場は全面的に死んでしまった」、あり得そうな恐ろしいシナリオだ。 「市場の混乱、ある程度の乱高下は受け入れつつも、ともかく投機的取引に対するリスクを高めて、投機家を追い出すことを最優先にした。 さらに青色総裁は、官邸、財務省とも「あうんの呼吸」で買い入れを行った。 ドル円相場は、ドルの金利上昇一服により落ち着いていたが、日本国債市場の乱高下により、また円安へ向かい、為替市場も激しく乱高下し始めた。 これを抑えるために、財務省は円買い介入を行った。しかし、これは2022年秋の介入とは異なり、日銀の政策変更または国債買い入れと連動していた」、誠に巧みだ。 「青色氏は「その先」を考えていた。いずれ、世界は大不況になる。そのときにこそ、本当の日本経済の危機がやってくる。そのときに、金融政策、中央銀行への信頼が十分にある状態にしておかなければならない。自分の名声に酔うどころか、さらに気を引き締めていたのであった……」、確かに理想的な金融政策運営だ。 現代ビジネス「経済学者・野口悠紀雄の提言「早く金利を上げて、円安を止めなさい」 「安売り依存」から脱却せよ」 確かに「為替介入という円安の「ブレーキ」と同時に、金利抑制策という「アクセル」を踏むという不可解な状態を続けています」、大きな矛盾だ。 「2000年代はじめでした。中国が工業化し、日本の製品は価格競争にさらされるようになりました。そこで政府が取った戦略が、「円安誘導」だったのです。 しかしこの時期、本当に必要だったのは他の国が追いつけない新しい技術を作ることでした。実際、アメリカやアイルランド、韓国、台湾などは、ITに対応した技術の開発に成功し、いまも世界のトップを走っています。 一方、日本は円安による「安売り戦略」に依存し続け、総じて企業の力が弱くなった」、「金利を上げて円安を止める。そして円安依存してきた企業の開発力を高めていく。日本再生の道はこれしかありません」、同感である。
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環境問題(その13)(もう怒った…環境問題の研究者が小池都知事に「太陽光パネル義務化反対」請願を提出した理由、ゴッホの「ひまわり」にトマトスープかけたお粗末な犯人の言い分 過激化する「エコテロリスト」たちの「心の貧困」、環境問題の利害対立が一変 オランダで大気汚染対策に畜産農家が激昂した理由、陰謀論者の増加と「リベラル政党離れ」が世界中でつながる根深い事情) [経済政策]

環境問題については、4月23日に取上げた。今日は、(その13)(もう怒った…環境問題の研究者が小池都知事に「太陽光パネル義務化反対」請願を提出した理由、ゴッホの「ひまわり」にトマトスープかけたお粗末な犯人の言い分 過激化する「エコテロリスト」たちの「心の貧困」、環境問題の利害対立が一変 オランダで大気汚染対策に畜産農家が激昂した理由、陰謀論者の増加と「リベラル政党離れ」が世界中でつながる根深い事情)である。

先ずは、9月22日付け現代ビジネスが掲載したキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山 大志氏による「もう怒った…環境問題の研究者が小池都知事に「太陽光パネル義務化反対」請願を提出した理由」を紹介しよう。なお、出典のURLは省略。
https://gendai.media/articles/-/100106?imp=0
・『国民に経済的負担をかける  東京都は太陽光発電の新築住宅への義務付けを進める方針だ。 9月20日、小池知事は所信表明にて、「『環境確保条例』の見直しを図ります」としたうえで、以下のように述べた。 「住宅などの新築中小建物に対する太陽光発電の整備などを大手住宅供給事業者などに義務づける全国初の制度を掲げました」 しかしいま、太陽光発電には問題が山積している。 筆者はこれまで一介の研究者としてエネルギー環境問題に従事してきたが、東京都議会の上田令子議員(江戸川区選出)に励まされ、一人の都民として請願を出すことにした。 これまでも本コラムで述べてきたように、太陽光パネルの義務付けは、中国政府によるジェノサイドへの加担となり、国民に経済的負担で迷惑をかけることを都民に強制するものだ。のみならず、水害時には感電により人命に関わる懸念がある。 筆者は9月20日付で、小池知事宛に義務付けを中止・撤回するよう請願書を提出した。また東京都議会にむけては、上田令子議員に紹介議員となっていただいて、環境建設委員会へ同内容の請願書も提出した。この後、上田議員とともに都庁で記者会見を行った。 同日、上田議員の呼びかけで署名活動が始まった。ネット署名については、このウェブサイトを参照してほしい。 筆者による都知事あての請願について、原文のまま紹介しよう。 【小池百合子東京都知事宛請願】 新築物件への太陽光パネル等の設置義務化に関する請願書 令和4(2022)年9月20日提出 東京都知事 小池百合子 殿 杉山(すぎやま)大志(たいし) 貴職におかれましては、都民福祉と都政発展のため、日夜精励されておられると存じます。 憲法第16条及び請願法題3条に基づき、以下の事項を請願いたします。 同法第5条に則り、誠実な検討の上、私の願意への貴職のご所見を本年10月3日までに文書にてご回答ください』、「太陽光発電の新築住宅への義務付け」は私のつたない記憶では、知事選時の公約ではなく、急に出てきた話のようだ。
・『ジェノサイドへの加担を義務づけ? (願意) 新築物件への太陽光パネル等の設置を義務化する条例改正を直ちに中止・撤回していただきたい。 (理由) 現在、東京都は新築物件の屋根に太陽光パネルの設置を義務付ける条例を検討しております。 しかし、パブリックコメントでも多数の反対意見が寄せられているように、今や太陽光発電には問題が山積しています。資料を添付いたしますので、ご参照ください。 以下では特に、人権、経済、防災の観点から、3点に絞って意見を申し上げます。 1 中国政府によるジェノサイド・人権弾圧への加担を都民に義務付けることにならないか。 現在、世界の太陽光パネルの8割は中国製、半分は新疆ウイグル製と言われています。国際エネルギー機関の7月の報告によれば、中国製のシェアは今後更に上がり、95%にも達する見込みです。 他方で、新疆ウイグル自治区における少数民族へのジェノサイド・人権弾圧の証拠は、国際社会が認めるところとなり、ますますはっきりしてきています。先進諸国は軒並みジェノサイドを認定し非難決議をしています。国連においても、人権高等弁務官事務所が「深刻な人権侵害が行われている」などとした報告書を8月末に公表しました。 強制労働(ジェノサイドの一部)と太陽光発電パネル製造の関係もはっきり指摘されています。 米国では、ジェノサイドを問題視し、新疆ウイグル自治区で製造された部品を含む製品は何であれ輸入を禁止するウイグル強制労働防止法を6月21日に施行しました。 かかる現状において、東京都が太陽光パネルを都民に義務付けるならば、それは事実上、ジェノサイドへの加担を義務づけることになります。だがこれは私たち都民の望むところではありません』、「世界の太陽光パネルの8割は中国製、半分は新疆ウイグル製」、「米国では、ジェノサイドを問題視し、新疆ウイグル自治区で製造された部品を含む製品は何であれ輸入を禁止するウイグル強制労働防止法を6月21日に施行」、これでは「東京都が太陽光パネルを都民に義務付けるならば、それは事実上、ジェノサイドへの加担を義務づけることになります」、確かに大いに問題だ。
・『100万円は一般国民の負担  東京都は、太陽光パネルについて、その設置を義務付けるよりも、むしろ、米国と同様に、「新疆ウイグル自治区で製造された部品を含む太陽光パネルの利用禁止」を公共調達や事業者において義務付けるべきです。 なお、都はこれまでの事業者へのヒヤリングにおいて「新疆ウイグル自治区の製品を使っていない」旨の回答を得ているとのことです。(太陽光発電設置解体新書スライド43) だが、かかるヒヤリングだけでは全く不十分です。結果として都民をジェノサイド・人権弾圧に加担させた場合、都はどのようにしてその責任をとるのでしょうか。 2 国民・都民への負担が巨額に上るのではないか。 国土交通省の試算に基づけば、条件の良いところであれば、150万円のパネルを設置した場合、15年で元が取れるとされています。 確かに建築主は元が取れるようですが、これは一般国民の巨額の負担に依存するものです。太陽光発電による電力の本当の価値は50万円程度しかありません。残りの約100万円は一般国民の負担になります。このように負担の在り方が歪むのは、「再生可能エネルギー全量買取制度」を含め電気料金制度全体が、今のところ太陽光発電に極めて有利なように設計されているからです。だが太陽光発電の電力としての価値は、火力発電の燃料費を削減できる分だけであり、これは50万円程度にすぎません。 かかる事実が明らかになり、国民全般に負担を強要し迷惑をかけることを、東京都民は望んでいないと思います。 新築物件への太陽光パネル設置を義務付けることで、国民全般にどの程度の巨額の負担がかかるのか、東京都は明らかにすべきでしょう。 3 水害時に人命が失われるのではないか。 東京都では大規模水害が予測されています。江戸川区などでは最大で10メートル以上の浸水が1~2週間続く恐れがあると想定されています。 水没した太陽光発電設備に感電・漏電の危険があることは、政府機関NEDOの調査で明らかになっています。 感電・漏電による二次災害、感電の危険による避難・救助の遅れなどで、人命が失われる事態が想定される。水害の恐れのある地域において、太陽光パネルの設置を義務化すべきではなく、むしろ禁止すべきです。 以上の理由により、貴職による真摯な検討と太陽光パネル義務化の中止・撤回を求めます。以上』、「東京都は、太陽光パネルについて、その設置を義務付けるよりも、むしろ、米国と同様に、「新疆ウイグル自治区で製造された部品を含む太陽光パネルの利用禁止」を公共調達や事業者において義務付けるべきです」、その通りだ。

次に、10月17日付けJBPressが掲載した作曲家=指揮者でベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督・東京大学大学院情報学環同准教授の伊東 乾氏による「ゴッホの「ひまわり」にトマトスープかけたお粗末な犯人の言い分 過激化する「エコテロリスト」たちの「心の貧困」」を紹介しよう。
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https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/72279
・『10月14日、ロンドンのナショナル・ギャラリーで情けない事件が発生しました。 ゴッホの油画作品「ひまわり」にトマトスープをかけて、自然保護を「アピール」してみせるという(https://www.cnbc.com/2022/10/14/oil-protesters-arrested-after-throwing-tomato-soup-at-van-gogh-painting.html)、何とも表現しようのない失態です。 ちなみに絵画そのものはガラスで覆われていて無傷のまま。 汚損があった場合請求されるだろう莫大な損害賠償金(「ひまわり」の評価額は80億円程度と報じられています)を支払わずにすむよう、あらかじめ「安全策」を施された状態での「テロリズム」であることも最初に記しておきます。 今回は、このところ頻発し、また先鋭化の傾向を見せているこうした「エコテロリズム」と、その背景を考えてみたいと思います』、「エコテロリズム」とは興味深そうだ。
・『「エコテロリスト」その主張とは  まず、ゴッホの「ひまわり」にトマトスープをかけた人たちが何を主張しているかを見てみましょう。 上のリンクを見ると分かるように、ゴッホ「ひまわり」に「ハインツ」の缶入りトマトスープをぶちまけたのは環境保護団体「JUST STOP OIL」メンバーを名乗る若い女性2人。 少なくとも1人は髪をピンク色に染めて、なかなかパンクな装いです。揃いの「JUST STOP OIL」Tシャツを着、「インスタ映え」でも狙っていそうなポーズを決めながら、彼女たちは言います。 「こんな絵を一枚守ることと、地球と人々の生命を守るのと、どっちが大切なのか?」 英国政府がここ2週間に決定した「北海油田における石油とガス採掘政策」に抗議し、「地球の生態系、そして人類をを守るため」ゴッホの絵画にトマトスープをぶちまけたというのですが・・・。 まず最初に言えることは、髪の毛をピンクに染めるのにも、相当の環境負荷がかかっている可能性があるのを自覚しているのか、といったあたりからでしょう。 「有名絵画」を襲えばニュースになるので、自分たちの主張が安く、手っ取り早く世界に報道される。 だから、防備の薄い、知名度の高い絵画をスキャンして、あらかじめカメラその他も手配したうえで、その手のアピールをして見せる。 というのが彼ら彼女らの手法で、言って見れば「炎上型ユーチューバー商法」の一種と呼べそうです。 警備の手薄な所を狙い、逃げも隠れもできない「絵画」を襲うというのは典型的な「弱い者いじめ」の発想です。 2001年に発生したイスラム原理主義勢力「タリバーン」による「バーミヤン摩崖仏」爆破(https://www.isan-no-sekai.jp/column/7979)にも通じる卑劣な犯行と言わざるを得ません。 しかし、この卑怯な手口そのものも「JUST STOP OIL」のオリジナルというわけではありません。 このところ相次いでいる「エコテロリズム」模倣犯の一つに過ぎない、21世紀の視聴覚高度情報メディア化ネットワークが見せる、典型的な社会病理のサンプルに過ぎないものです』、「防備の薄い、知名度の高い絵画をスキャンして、あらかじめカメラその他も手配したうえで、その手のアピールをして見せる。 というのが彼ら彼女らの手法で、言って見れば「炎上型ユーチューバー商法」の一種と呼べそうです」、「「炎上型ユーチューバー商法」の一種」とは言い得て妙だ。
・『「エコテロリスト」の共通項「名画イジメ」  タリバーンもまた、野卑で拙劣な方法ながら、自分たちの存在をアピールするため、わざわざ音声動画を収録しながら、世界的に著名でかつ完全に無抵抗なバーミヤンの石窟寺院を爆破してみせ、それを全世界にコンテンツ配信してみせました。 2001年3月10日のことです。それから半年が経った2001年9月11日、何が起こったか? やはり、あらかじめカメラの砲列を準備したうえで、ニューヨークの世界貿易センタービルに航空機を用いた自爆特攻が仕掛けられた。 言わずと知れた「9・11同時多発テロ」です。この経緯を彷彿させる「いやな感じ」を、こうした犯行から抱かざる得ません。 今年の5月29日、パリのルーブル美術館内で、車いすに乗せられた老婦人(を偽装した犯人)が人混みを掻き分け、レオナルド・ダ・ヴィンチの手になるとされる絵画「モナ・リザ」(「ジョコンダ」)の正面まで案内されました。 すると、老婦人と思われた人物はかつらを脱ぎ捨て、おじさんの本性が露わとなり、全身でモナリザを防護しているガラス面に突入していったのです。 残念ながら、そのおじさんの「自爆特攻」ではガラスは破れなかった。 すると今度は、車いすに隠し持っていた「クリームケーキ」、いわゆる「パイ投げ」のパイと思われます、をモナリザに投げつけた(https://www.marca.com/en/lifestyle/world-news/2022/05/29/6293b4df22601dc3408b45b6.html)のです。 幸か不幸か、この絵の顔の位置は3メートルほどの高さにありました。 そのため、人混みの中でも遠くから見えるわけですが、おじさんの投げたパイはモナリザの顔を直撃するアメリカンコミックを成立させられず、胸のあたりを汚すにとどまりました。 取り押さえられた犯人のおじさんは「地球環境を考えろ!アーチストはアートにかまけたいならエコロジーに目を向けろ」などと呼号していた。 モナリザの前には、無数の「スマホの砲列」が並んでおり、ここでアピールすれば全世界に情報が拡散するだろう・・・というのはユーチューバー的発想として正解だったでしょう。 それ以上の知性はほとんど感じられない。 「ひまわり」も「モナリザ」も一切抵抗などできない弱い存在の絵画です。ただ有名ではある。 そういう「名画イジメ」を通じて自己アピールしたいという、お粗末な犯行でした。 これ以降、車いすに乗ってルーブルを回る高齢者の身体チェックが厳しくなったことは想像に難くありません。何とも情けないことをしてみせるものです。 こうしたユーチューバー型の稚拙な犯行に終始とどまるのであればまだしも、20年前のバーミヤンを考えるとき、人の集まる美術館でより危険性の高い「アピール」が発生するリスクが心配です。 ルーブルを筆頭に、現在、世界各国の著名美術館、博物館は持ち物チェックのセキュリティを徹底しており、銃や爆弾などを持ち込むことは困難です。 そこで「トマトスープ」やら「パイ投げ」やらといった投擲物が選ばれているわけです。 接着剤など新手の手法を用いる「エコテロリスト」も登場しており、ガードとのいたちごっこがしばらくは続く可能性があるでしょう』、「「名画イジメ」を通じて自己アピールしたいという、お粗末な犯行」、「「エコテロリスト」も登場しており、ガードとのいたちごっこがしばらくは続く可能性があるでしょう」、困ったことだ。
・『真因は閉塞した社会経済への不満  一連の事件を見渡すと、こうしたアピールをした連中がどの程度真剣に「エコロジー」を考えているのか、かなり首を傾げざるを得ません。 こうした破壊行為は「ヴァンダライゼーション」と呼ばれます。 実行犯の声明に共感する大衆などはほとんどおらず、教養層は嫌悪感を示すでしょうし、その場の映像を見ても分かる通り、居合わせた大衆は予想外のハプニングに喜んで自撮りをあちこちに散布する程度。 日本のテレビで蔓延した「イジメ芸」を喜ぶ視聴者とほぼ同様のリアクションが見られるにとどまります。 何にしろおよそ地球環境保護のメッセージなどにはならない。浅い大衆受けを狙った心貧しい犯人による一過性の自己顕示以上のものにはなり得ません。 この「心貧しさ」に注目せざるを得ないのです。 こうした犯行が実行できてしまうもう一つの背景は、犯人たちが「心豊かな」教養を備えそこなっているという事実でしょう。 これは何も低所得層で教育の機会を得られなかったといったことではありません。 例えば、世界各地の高校や大学でSTEMとかSTEAMとか称して、IT・AI時代の人材育成はSサイエンスTテクノロジーEエンジニアリングとM数学を重視して、プログラミング人材不足に対処すべきだとかいう動きがあります。 これにアートAも加えてシステム創成に役立つSTEAM人材をなどと、米国企業由来の社会ニーズに合致させようとするものです。 ここでいう「アート」のお粗末なこと、これは専門の観点から客観的に指摘する必要のある事実です。 そういう「心の貧困」を、それなりの高等教育機関であるはずの場所でも、どれだけたくさん見てきたことか、名状し尽くすことができません。 それこそ「有名絵画にパイをぶつけたら面白い」程度のSTEMもSTEAMも、極めて残念なことですが、仕事柄あちこちで見るわけです。 批判的な観点があってスパイスが利いていて面白い程度のリアクションも目にします。 そうしたもの全般、小手先の小器用さと別に、教養の水準が低い。心が狭く、豊かな広がりがない。 そういうモラルも倫理も教えない低見識な「人材量産」に走り、問題が起きると「自己責任」と切り捨てる米国企業発のマスプロ教育に、ここ20年来EUやOECD(経済協力開発機構)は一貫して厳しい視線を向けて来ました。 私もそちらから物事に向き合っています。 ただ今回は皮肉なことに、一連の事件が「ロンドン」「パリ」など、もっぱら欧州で発生していることでしょう。 犯人の素性など、いまだ報じられない面も多いですが、一概に米国式量産教育だけの責任にはできません。 しかし、各地での事件報道を見ても『「ひまわり」は時価80億円』『「モナリザ」は時価1000億円』といった銭ゲバ的で、スキャンダリズムを喜ぶ報道が目についたのも、残念ながら事実でした。 さて、果たして「芸術の価値」は価格にあるのか? 「エコ」と比肩しうる人類史の貴重な遺物が持つ価値を人々は正確に把握できているのか・・・実の所定かでありません。 「どうして『ひまわり』に価値があるのか?」「モナリザが美術史的に占める位置は?」という問いは、「なぜバーミヤン石窟寺院は人類史において貴重な遺物だったか?」とほとんど同質の、文化にとって本質的な問いを投げかけています。 これに対して「そんな能書きどうでもいい、儲かりゃいいんだから」といったモノカルチャーと「絵画の価値なんかどうでもいい、環境問題を標榜して目立ちゃいいいんだから」という似非エコテロリストの背景土壌はほとんど同じもの。 これを放置したままでは、累犯を防ぐことはできないでしょう。 まずは日本国内で、こうした模倣犯が起きないよう、事前予防の対策が必要になってしまうのが、残念で仕方ありません』、「「そんな能書きどうでもいい、儲かりゃいいんだから」といったモノカルチャーと「絵画の価値なんかどうでもいい、環境問題を標榜して目立ちゃいいいんだから」という似非エコテロリストの背景土壌はほとんど同じもの。 これを放置したままでは、累犯を防ぐことはできないでしょう」、同感である。

第三に、11月3日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した株式会社ニューラルCEOで経営・金融コンサルタントの夫馬賢治氏による「環境問題の利害対立が一変、オランダで大気汚染対策に畜産農家が激昂した理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/311795
・『環境問題への経済認識に関して、歴史的には、オールド資本主義と脱資本主義の衝突という構図がはっきりとあった。オールド資本主義側にいたのはグローバル企業と機関投資家で、環境問題に対処することは経営コストだとみなしていた。一方、脱資本主義側にいたのが、環境NGO、農家、労働者だ。だが最近、経済認識の対立構造は複雑化している。その変化の一端を、オランダで畜産農家が大規模デモをした理由からみていこう。※本記事は『ネイチャー資本主義 環境問題を克服する資本主義の到来』(PHP新書)の抜粋・転載です』、「環境問題への経済認識に関して」「対立構造は複雑化」、とは興味深そうだ。
・『環境問題を「陰謀論」と結び付ける人が増えるワケ  2000年以降の資本主義は大きな変貌を遂げた。かつては環境問題など考慮するに値しないと考えていたグローバル企業や機関投資家たちは、環境問題の深刻さに気付き、積極的に向き合うようになっている。そしていつの間にか、環境NGOと並ぶほどに世界の中で最も環境問題の解決を志向するようになった。 では、あらためて、人々が抱いている経済認識を整理しておきたい。下の図は、拙著『ESG思考』の中で提示した経済認識の分類図だ。横軸は、ビジネスが環境や社会へ及ぼす影響を企業が考慮するようになると、利益が減るとみるか、それとも増えるとみるか、の違いだ。一方、縦軸は、企業が環境や社会の影響を考慮することに賛成か、それとも反対か、というものだ。(図表:経済認識に関する4分類モデル はリンク先参照) この2軸で分けると、異なる4つの経済認識が浮かび上がってくる。まず、左下の「オールド資本主義」。環境や社会へ考慮することはコストでしかないので、考慮するに値しないという考え方だ。マルクス主義が想定した、あのあくどい「資本家」は、オールド資本主義の典型的な例だ。この次元にいる人たちは、基本的に環境問題への関心は薄い。また経済と環境を相反するものと考えているため、経済発展するには、ある程度の環境問題は致し方ないと考えていたりする。 2つ目が、左上の「脱資本主義」。オールド資本主義と同様に、この次元の人たちも経済と環境は相反するものと考える。そして、まさにマルクス主義が主張しているように、徒に短期的な利益を追求するオールド資本主義は、環境や社会を荒廃させるので、そこから脱するには資本主義そのものを捨て去るしかないと主張している。だが、人口が増加していく人間社会で、脱資本主義でどのようにプラネタリー・バウンダリー問題を解決できるかについて、残念ながら説得力のある議論ができていない』、「経済認識に関する4分類モデル」は議論の整理には有益そうだ。
・『うまい話の裏には陰謀があると考えるタイプの人たち  3つ目が、右上の「ニュー資本主義」。長期的な持続可能性(サステナビリティ)の観点から、未来の経営リスクを感じ取った企業や機関投資家は、オールド資本主義からニュー資本主義へと経済認識を転換してきている。代表的なキーワードは「ESG」だ。そして、環境・社会を重視した経営は、競争力を高め、企業価値を長期的に向上していけると理解されるようになった。最近では政府からも「経済と環境の好循環」という政策が出てくるようになった。 4つ目が、右下の「陰謀論」。うまい話の裏には陰謀があると考えるタイプの人たちだ。この次元の思想の持ち主は、特にニュー資本主義のように、経済と環境が好循環するというような綺麗事を聞くと、誰かの陰謀ではないかと勘ぐりたくなる。企業が環境・社会への影響を積極的に考慮することは、利益を生むのかもしれないが、結局それは誰か他の人の利益であって、自分たちの利益はむしろ蝕まれると考えていたりする。 これら4つのタイプの人たちは、水平のラインを境に上下の次元で対立しやすい。つまり、環境・社会への影響考慮に賛成か、反対かという意見衝突だ。歴史的には、オールド資本主義と脱資本主義の衝突という構図がはっきりとあった。オールド資本主義側にいたのはニュー資本主義に移行する前のグローバル企業と機関投資家で、環境問題に対処することは経営コストだとみなしていた。 一方、脱資本主義側にいたのが、環境NGO、農家、労働者だ。1999年にWTO(世界貿易機関)閣僚会議を巡ってNGOが道路を封鎖した「シアトル暴動」の頃は、ちょうど両者が激しく対立していた。この頃は、資本主義vs.反資本主義の時代だった。 だが最近、経済認識の対立構造は複雑化している。まず、その変化の一端をみていこう』、「最近、経済認識の対立構造は複雑化」、どういうことだろう。
・『オランダで畜産農家が大規模デモをした理由  2019年10月、オランダで数千台ものトラクターが、主要都市ハーグを中心に高速道路を封鎖した。その結果、オランダ中の高速道路で総長1000キロメートル以上の異常な交通渋滞が発生。街の機能は麻痺した。トラクターを運転していたのは、畜産農家だった オランダは、国土が小さな国で、農地面積は日本のわずか約4割しかない。それなのに世界有数の農業・畜産国で、農業関連輸出額はアメリカに次ぐ世界第2位を誇る。特にチューリップや野菜、チーズなどの乳製品は世界的にも有名だ。デジタル技術やAIも積極的に採用しており、生産性が抜群に高い。オランダの農地は国土全体の55%(牧草地含む)を占めるほど、国内経済を支える産業となっている。 当時オランダでは、大気汚染対策のために、農業と畜産業で窒素排出量を削減する政策が政府で検討されていた。特に課題視されていたのは、家畜牛の排泄物だった。国家公共衛生・環境研究所(MIRV)は、オランダ国内の窒素化合物(NOx)排出の46%が農業・畜産業によるものと分析し、そのうち牛の排泄物が約9割を占めると報告していた。 そのため、まだ政策議論の途中ではあったが、2019年9月9日には家畜の数を半分に減らすという案も出ていた。提案したのはオランダ緑の党や社会リベラル政党D66で、まさに環境NGOが支持している政党だった。これに畜産農家が反発した。なぜ自分たちが悪者扱いされなければならないのかと。 トラクターによる道路封鎖行動は、2019年10月1日の午後に一旦落ち着くが、10月14日から10月17日にかけ再び、オランダ全土で抗議活動が再燃。オランダ全土の高速道路がまたもや麻痺した。そして最終的に政府は、家畜の半減策を検討しないと公表した。 その後もオランダではたびたび畜産農家による抗議行動が発生している。直近でも2022年6月10日に再度、大規模な道路封鎖が発生した。争点はやはり窒素化合物の排出削減だった。今度はEU全体で大気汚染を大幅に削減することが決まり、オランダ政府は2030都市までに窒素化合物排出とアンモニア汚染を50%削減する政策を提案。そして政府は、オランダの畜産農場の30%が閉鎖される必要があるという試算を伝えた。 畜産農家はまたしてもこれに大きく反発。今回の抗議活動は長期化しており、本書を執筆している22年8月上旬時点でまだ事態は収束していない。さらに畜産農家だけでなく、他の農家や漁師までもが抗議活動に加勢。飛行機、自動車、建設業からも窒素化合物は出ているのに、なぜ自分たちだけが狙い撃ちにされるのかと憤った。畜産農家たちは、もし改革を進めるのであれば、政府は改革の方向性を明確に示すべきだと訴えた』、「今度はEU全体で大気汚染を大幅に削減することが決まり、オランダ政府は2030都市までに窒素化合物排出とアンモニア汚染を50%削減する政策を提案。そして政府は、オランダの畜産農場の30%が閉鎖される必要があるという試算を伝えた。 畜産農家はまたしてもこれに大きく反発。今回の抗議活動は長期化」、「事態は収束していない」、これは大変だ。
・『かつての脱資本主義陣営が大きく分裂  この事件は、かつての脱資本主義陣営が大きく分裂していることを意味している。かつて畜産農家と環境NGOは、一緒にグローバル企業と対峙する存在で、仲間同士だった。しかし、今では畜産農家が環境規制の強化に反発し、環境NGOと対立するまでになった。 他の国でも同様の事象が起きている。例えば2016年のアメリカ大統領選挙では、炭鉱労働者と環境NGOが反目し合った。当時の民主党バラク・オバマ政権では、気候変動や大気汚染への対策として、石炭火力発電を減少させる政策が打ち出されていた。 それに怒ったのが、ウエストバージニア州やペンシルベニア州の炭鉱労働者たちだった。オランダの畜産農家と同様に、なぜ自分たちが悪者扱いされなければいけないのかと環境政策を敵視した。そしてこの大統領選挙では、最終的に彼らからの支持を獲得した共和党ドナルド・トランプ候補が勝利を収めた。 2020年のアメリカ大統領選挙でも、労働組合側はなかなか一枚岩になれなかった。公務員労組の多くは、民主党ジョー・バイデン候補が掲げたグリーン・ニューディール政策を支持したが、すぐには賛成に回れない労働組合も少なくなかった。 例えば、米国炭鉱労働組合は、石炭労働者の生活が危ぶまれると主張し、グリーン・ニューディール政策に反対の姿勢を表明した。民主党支持派の多いカリフォルニア州では、人口密集地での油田開発を禁止する州法案が提出されたが、電気工、鉄工、パイプ工、ボイラー工、建設労働者が加入しているカリフォルニア州建設労働者協議会が反対したため、廃案となった』、「かつて畜産農家と環境NGOは、一緒にグローバル企業と対峙する存在で、仲間同士だった。しかし、今では畜産農家が環境規制の強化に反発し、環境NGOと対立するまでになった。 他の国でも同様の事象が起きている」、「例えば2016年のアメリカ大統領選挙では、炭鉱労働者と環境NGOが反目し合った。当時の民主党バラク・オバマ政権では、気候変動や大気汚染への対策として、石炭火力発電を減少させる政策が打ち出されていた。 それに怒ったのが、ウエストバージニア州やペンシルベニア州の炭鉱労働者たちだった。オランダの畜産農家と同様に、なぜ自分たちが悪者扱いされなければいけないのかと環境政策を敵視した。そしてこの大統領選挙では、最終的に彼らからの支持を獲得した共和党ドナルド・トランプ候補が勝利を収めた」、「2020年のアメリカ大統領選挙でも、労働組合側はなかなか一枚岩になれなかった。公務員労組の多くは、民主党ジョー・バイデン候補が掲げたグリーン・ニューディール政策を支持したが、すぐには賛成に回れない労働組合も少なくなかった」、確かに「労働組合側」にとっては、事態は複雑になったようだ。

第四に、この続きを、11月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した株式会社ニューラルCEOで経営・金融コンサルタントの夫馬賢治氏による「陰謀論者の増加と「リベラル政党離れ」が世界中でつながる根深い事情」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/311796
・『アメリカでは、民主党の支持基盤が安定しなくなった。ヨーロッパでも、リベラル政党の支持が薄まってきた。そして、日本でも同様に労働組合や低所得者層が、共産党、社民党、立憲民主党から距離をおくようになった。なぜ、これほどまでのリベラル政党離れが起きているのだろうか。そして、リベラル政党から離れていく人々は、どこに向かうのか。昨今、受け皿の役割を果たすようになってきているのが「陰謀論」だ。※本記事は『ネイチャー資本主義 環境問題を克服する資本主義の到来』(PHP新書)の抜粋・転載です。 >>前編『環境問題の利害対立が一変、オランダで大気汚染対策に畜産農家が激昂した理由』から読む』、「リベラル政党離れ」とは興味深そうだ。
・『ニュー資本主義の浸透とリベラル政党の迷走  こうした事態は、世界中のリベラル政党にとって、悩みの種となってきている。グローバル企業と機関投資家がオールド資本主義の次元にいた時代には、とりあえずグローバル企業と機関投資家を環境軽視と批判していれば、環境NGO、農家、労働者の結束は固かった。 しかし今では、グローバル企業・機関投資家はニュー資本主義に移行してしまい、批判の対象にはしづらくなってしまった。あれほど犬猿の仲だったグローバル企業・機関投資家と環境NGOは、プラネタリー・バウンダリーの危機に対処するための社会変革(トランスフォーメーション)を実現するというビジョンを共有するまでになった。 こうしてリベラル政党は、新たな批判の矛先を探さなくてはならなくなってしまった。そして気付いたら、自分たち自身が、今まで重要な支持層だった農家や労働者に批判される時代が来ていた。アメリカでは、民主党の支持基盤が安定しなくなった。ヨーロッパでも、リベラル政党の支持が薄まってきた。そして、日本でも同様に労働組合や低所得者層が、共産党、社民党、立憲民主党から距離をおくようになった。 なぜ、これほどまでのリベラル政党離れが起きているのだろうか。かつてリベラル政党は、社会的弱者の味方を自称し、弱者を救済する政策を掲げていた。その点で、環境問題は社会的弱者が被害を受けることが多く、リベラル政党の重要な政策テーマだった。公害問題はその典型例だ。そして、環境規制を強化するためにグローバル企業と闘おうとする姿勢が、リベラル政党支持層からの共感を呼んでいた』、「環境問題は社会的弱者が被害を受けることが多く、リベラル政党の重要な政策テーマだった。公害問題はその典型例だ。そして、環境規制を強化するためにグローバル企業と闘おうとする姿勢が、リベラル政党支持層からの共感を呼んでいた」、その通りだ。
・『リベラル政党から離れていく人々の受け皿が「陰謀論」  しかし、今は違う。カーボンニュートラルやネイチャーポジティブを実現するには、産業構造を大幅に転換し、イノベーションを進める必要があることがわかってきた。そうなると、社会的弱者と言われる人たちの仕事内容も大きく転換していかなければならなくなる。 例えば、衰退する産業の労働者は、新たなスキルを習得して、違う分野で働く準備をしていかなければならない。規制が強化されれば、自分たちが培ってきた技能が使えなくなる。場合によっては生活の変化も余儀なくされる。そして準備や実行には資金もいるが、社会的弱者には資金的余裕が少ない。これに嫌気がさした人々にとって、リベラル政党はもはや味方ではなくなってしまう。リベラル政党離れが起きる。 では、リベラル政党から離れていく人々は、どこに向かうのか。昨今、受け皿の役割を果たすようになってきているのが「陰謀論」だ。実際に、2016年のアメリカ大統領選挙で共和党トランプ候補が勝利したとき、その少し前からアメリカ国内では陰謀論の関連本が多数出版されていた。 例えば「アンチ・アジェンダ21」という陰謀論がある。この論者は、世界政府の樹立を目指す闇の勢力が、環境危機を捏造することで社会を統制しようとしており、人々の自由が脅かされていると主張している。この陰謀論は、実際に共和党支持層の一派「ティーパーティ運動」にも大きな影響を与え、トランプ候補支持へとつながった。別の陰謀論では、闇の勢力は環境危機を喧伝し、世界の人口の85%を削減しようとしていると主張する論者もいた。 日本ではきっと、「陰謀論のようなくだらない話を真面目に論じるのはいかがなものか」と感じる方も少なくないだろう。だが、すでに世界各国で気候変動は陰謀だと考える「気候変動陰謀論者」が9~30%、平均では22%もいるという論文まで発表されている※注釈69。 陰謀論が増えてきているため、学術界では陰謀論に関する研究や論文が続々と出てきている。そして、日本でも陰謀論が醸成されやすい風土がある。例えば、20カ国で世論調査70を実施したところ、環境科学への信頼に関する設問で、「とても信頼する」と回答した人は、日本はロシアに次いで下から2番目と非常に少なく、25%しかいなかった。アメリカの45%をも下回っていた』、「日本でも陰謀論が醸成されやすい風土がある。例えば、20カ国で世論調査70を実施したところ、環境科学への信頼に関する設問で、「とても信頼する」と回答した人は、日本はロシアに次いで下から2番目と非常に少なく、25%しかいなかった。アメリカの45%をも下回っていた」、「日本でも陰謀論が醸成されやすい風土がある」とは意外だが、気を付ける必要がありそうだ。
・『ハンガリー首相「グローバリストは地獄へ落ちろ」  陰謀論者は、気候変動対策の結果、誰が得をするのかという点に着目してロジックを構築する人が多い。例えば、気候変動が危機だと伝えることで得をするのは大企業であり、大企業の陰謀だという説もある。欧米では、太陽光発電やバッテリーの分野で産業競争力の強くなった中国の陰謀だという人もいる。一方、日本では、ルール形成に長けているヨーロッパが、産業競争の構造を変えるために気候変動の話をあえて持ち出し、日本の産業競争力を弱体化させているという人もいる。 その中でも昨今、世界的に際立ってきているのが「反グローバリスト運動」だ。反グローバリスト運動は、かつて「資本主義vs.脱資本主義」という構図があった頃の「反グローバリゼーション運動」とは性格が違う。当時の反グローバリゼーション運動は、オールド資本主義の次元にいたグローバル企業を敵対視し、グローバル企業が引き起こしている環境破壊や社会荒廃から世界を守ろうという脱資本主義的運動だった。 一方、反グローバリスト運動は普遍的な価値観というようなものを嫌悪し、地元を守るために「世界全体思考」の人を攻撃する。当然、プラネタリー・バウンダリーの観点から世界全体で協力して社会・経済を大きく転換させようとする環境NGOは「グローバリスト」側にいるととらえられ、反グローバリスト運動の非難の対象となる。 反グローバリスト思想を表明している重要人物の1人が、ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相だ。オルバーン首相は、2022年のロシアのウクライナ侵攻でロシア政府がEU向けのガス供給を減らす戦略を打ち出したときに、天然ガス消費量を削減しようというEUの政策に堂々と反対したことでも知られる。 オルバーン首相は、2022年8月にアメリカのテキサス州で開催された共和党系イベント「保守政治行動会議(CPAC)」にも出席した。そしてそこで、EUと民主党バイデン政権を名指しで非難し「グローバリストは地獄へ落ちろ」と声を荒らげた。このことは全米のメディアでも大きく取り上げられた』、「反グローバリスト運動は普遍的な価値観というようなものを嫌悪し、地元を守るために「世界全体思考」の人を攻撃する。当然、プラネタリー・バウンダリーの観点から世界全体で協力して社会・経済を大きく転換させようとする環境NGOは「グローバリスト」側にいるととらえられ、反グローバリスト運動の非難の対象となる」、「環境問題の利害対立が一変」、「複雑化した」実態が理解できた。 
タグ:環境問題 (その13)(もう怒った…環境問題の研究者が小池都知事に「太陽光パネル義務化反対」請願を提出した理由、ゴッホの「ひまわり」にトマトスープかけたお粗末な犯人の言い分 過激化する「エコテロリスト」たちの「心の貧困」、環境問題の利害対立が一変 オランダで大気汚染対策に畜産農家が激昂した理由、陰謀論者の増加と「リベラル政党離れ」が世界中でつながる根深い事情) 現代ビジネス 杉山 大志氏による「もう怒った…環境問題の研究者が小池都知事に「太陽光パネル義務化反対」請願を提出した理由」 「太陽光発電の新築住宅への義務付け」は私のつたない記憶では、知事選時の公約ではなく、急に出てきた話のようだ。 「世界の太陽光パネルの8割は中国製、半分は新疆ウイグル製」、「米国では、ジェノサイドを問題視し、新疆ウイグル自治区で製造された部品を含む製品は何であれ輸入を禁止するウイグル強制労働防止法を6月21日に施行」、これでは「東京都が太陽光パネルを都民に義務付けるならば、それは事実上、ジェノサイドへの加担を義務づけることになります」、確かに大いに問題だ。 「東京都は、太陽光パネルについて、その設置を義務付けるよりも、むしろ、米国と同様に、「新疆ウイグル自治区で製造された部品を含む太陽光パネルの利用禁止」を公共調達や事業者において義務付けるべきです」、その通りだ。 JBPRESS 伊東 乾氏による「ゴッホの「ひまわり」にトマトスープかけたお粗末な犯人の言い分 過激化する「エコテロリスト」たちの「心の貧困」」 「エコテロリズム」とは興味深そうだ。 「防備の薄い、知名度の高い絵画をスキャンして、あらかじめカメラその他も手配したうえで、その手のアピールをして見せる。 というのが彼ら彼女らの手法で、言って見れば「炎上型ユーチューバー商法」の一種と呼べそうです」、「「炎上型ユーチューバー商法」の一種」とは言い得て妙だ。 「「名画イジメ」を通じて自己アピールしたいという、お粗末な犯行」、「「エコテロリスト」も登場しており、ガードとのいたちごっこがしばらくは続く可能性があるでしょう」、困ったことだ。 「「そんな能書きどうでもいい、儲かりゃいいんだから」といったモノカルチャーと「絵画の価値なんかどうでもいい、環境問題を標榜して目立ちゃいいいんだから」という似非エコテロリストの背景土壌はほとんど同じもの。 これを放置したままでは、累犯を防ぐことはできないでしょう」、同感である。 ダイヤモンド・オンライン 夫馬賢治氏による「環境問題の利害対立が一変、オランダで大気汚染対策に畜産農家が激昂した理由」 「環境問題への経済認識に関して」「対立構造は複雑化」、とは興味深そうだ。 「経済認識に関する4分類モデル」は議論の整理には有益そうだ。 「最近、経済認識の対立構造は複雑化」、どういうことだろう。 「今度はEU全体で大気汚染を大幅に削減することが決まり、オランダ政府は2030都市までに窒素化合物排出とアンモニア汚染を50%削減する政策を提案。そして政府は、オランダの畜産農場の30%が閉鎖される必要があるという試算を伝えた。 畜産農家はまたしてもこれに大きく反発。今回の抗議活動は長期化」、「事態は収束していない」、これは大変だ。 「かつて畜産農家と環境NGOは、一緒にグローバル企業と対峙する存在で、仲間同士だった。しかし、今では畜産農家が環境規制の強化に反発し、環境NGOと対立するまでになった。 他の国でも同様の事象が起きている」、「例えば2016年のアメリカ大統領選挙では、炭鉱労働者と環境NGOが反目し合った。当時の民主党バラク・オバマ政権では、気候変動や大気汚染への対策として、石炭火力発電を減少させる政策が打ち出されていた。 それに怒ったのが、ウエストバージニア州やペンシルベニア州の炭鉱労働者たちだった。オランダの畜産農家と同様に、なぜ自分たちが悪者扱いされなければいけないのかと環境政策を敵視した。そしてこの大統領選挙では、最終的に彼らからの支持を獲得した共和党ドナルド・トランプ候補が勝利を収めた」、「2020年のアメリカ大統領選挙でも、労働組合側はなかなか一枚岩になれなかった。公務員労組の多くは、民主党ジョー・バイデン候補が掲げたグリーン・ニューディール政策を支持したが、すぐには賛成に回れない労働組合も少なくなかった」、確か に「労働組合側」にとっては、事態は複雑になったようだ。 夫馬賢治氏による「陰謀論者の増加と「リベラル政党離れ」が世界中でつながる根深い事情」 「リベラル政党離れ」とは興味深そうだ。 「環境問題は社会的弱者が被害を受けることが多く、リベラル政党の重要な政策テーマだった。公害問題はその典型例だ。そして、環境規制を強化するためにグローバル企業と闘おうとする姿勢が、リベラル政党支持層からの共感を呼んでいた」、その通りだ。 「日本でも陰謀論が醸成されやすい風土がある。例えば、20カ国で世論調査70を実施したところ、環境科学への信頼に関する設問で、「とても信頼する」と回答した人は、日本はロシアに次いで下から2番目と非常に少なく、25%しかいなかった。アメリカの45%をも下回っていた」、「日本でも陰謀論が醸成されやすい風土がある」とは意外だが、気を付ける必要がありそうだ。 「反グローバリスト運動は普遍的な価値観というようなものを嫌悪し、地元を守るために「世界全体思考」の人を攻撃する。当然、プラネタリー・バウンダリーの観点から世界全体で協力して社会・経済を大きく転換させようとする環境NGOは「グローバリスト」側にいるととらえられ、反グローバリスト運動の非難の対象となる」、「環境問題の利害対立が一変」、「複雑化した」実態が理解できた。
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インバウンド戦略(その14)(観光競争力で初首位も 海外客再開に欠ける視点 忌避に偏見、受け入れ再開に反対の声が充満、中国の訪日観光客が戻ってこないかもしれない これだけの深刻な理由、インバウンド解禁に潜む「3つの死角」観光業界が素直に喜べないワケ) [経済政策]

インバウンド戦略については、2020年10月17日に取上げたままだった。今日は、(その14)(観光競争力で初首位も 海外客再開に欠ける視点 忌避に偏見、受け入れ再開に反対の声が充満、中国の訪日観光客が戻ってこないかもしれない これだけの深刻な理由、インバウンド解禁に潜む「3つの死角」観光業界が素直に喜べないワケ)である。

先ずは、6月3日付け東洋経済オンラインが掲載した経営コンサルタントの日沖 健氏による「観光競争力で初首位も、海外客再開に欠ける視点 忌避に偏見、受け入れ再開に反対の声が充満」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/592965
・『岸田首相は先週、新型コロナウイルスの水際対策について、6月1日から1日あたりの入国者総数の上限を2万人に引き上げるとともに、10日から訪日外国人観光客の受け入れを再開すると表明しました。外国人観光客の受け入れは、約2年2カ月ぶりになります。 全国の観光地・観光関連業者は、この2年間コロナ禍で壊滅的な打撃を受けました。そこにようやく復活の光が差してきたわけです。しかし、コロナ対策の観点から慎重な対応を求める声もあり、この政策転換を歓迎する意見ばかりではないようです。 今回は、訪日外国人観光客の受け入れ再開に関する意見を確認したうえで、今後考えたい2つの視点を紹介しましょう』、興味深そうだ。
・『外国人観光客がいなくなって「コロナ様様」  岸田首相が訪日外国人観光客の受け入れ再開をしたところ、各方面から色々な意見が上がりました。観光客の回復を期待する観光関連業者は今回の政策転換を歓迎する一方、SNSやネット掲示板では慎重な意見や反対意見が多く見受けられました(Yahoo!ニュースのアンケートでは、70%以上が水際対策の緩和に「反対」)。 筆者がまず一般市民に取材したところ耳にしたのが、コロナ対策の観点から慎重な対応を求める意見でした。 「まだ毎日2万~3万人の新規感染者が出ており、コロナが完全には終息していません。時期尚早だと思います」(50代男性・会社員) 「ここまで日本でコロナの被害が小さかったのは、水際対策がうまく行ったからでしょう。それを一気に緩めると、欧米のような感染爆発が起こるのではないかと心配です」(30代女性・会社員) 「感染症法上の分類を2類から5類にするなど、国内の対策が先。いずれ訪日外国人観光客を受け入れることには反対しませんが、国内の対策を完了した後じっくり時間を掛けて進めることでよいのでは」(40代男性・自営) そして、コロナとは関係なく、そもそも訪日外国人観光客それ自体を歓迎しないという意見がたくさん聞かれました。) 「コロナ前はどこの観光地も外国人観光客でごった返して、ゆっくりできませんでした。私は旅行が好きなので、今回の受け入れ再開でまた旅行を楽しめなくなるのは残念です」(60代女性・主婦) 「外国人観光客はうるさいし、マナーが悪い。とくにお隣りの2カ国は最悪。治安だって確実に悪くなりますよね。この2年間、外国人観光客がいなくて、実に快適でした。大きな声では言えませんが、この点に関してはコロナ様様です」(40代男性・団体職員)』、「「外国人観光客はうるさいし、マナーが悪い。とくにお隣りの2カ国は最悪・・・この2年間、外国人観光客がいなくて、実に快適でした」、その通りだろう。
・『再び奈落の底に突き落とす?  さて、ここからは、今回あまり議論されていない2つの視点を紹介しましょう。 1つ目は、観光関連業者の怒りです。観光関連業者に取材したところ、今回の受け入れ再開に反対する声は皆無で、国内で反対意見が出ていることに憤っていました。 「この2年間、外国人観光客がいなくなって、われわれは壊滅的な打撃を受けました。私の周りでも耐えきれなくなって廃業した同業者がわんさかいます。借金が残って廃業できず、夜逃げしたという同業者もいます。こういった実情を少しでも知ったら、外国人観光客の受け入れ再開に軽々しく反対できないのではないでしょうか」(北陸の旅館経営者) 「今回の受け入れ再開で、ようやくトンネルの出口が見えてきました。再開に反対する人は、地獄から這い上がろうとしているわれわれに手を差し伸べるどころか、再び奈落の底に突き落とそうとしているわけです。よく『コロナは生命の問題だ』と言われますが、外国人観光客の受け入れもわれわれにとって死ぬか生きるかの問題なのです」(関東の旅行代理店経営者) コロナに関する議論では、よく「生命と経済を同列で比較するな」「経済よりもまず生命を優先せよ」と言われます。しかし、こと観光関連業者にとっては、コロナとその対策は生命と経済が渾然一体となった複雑な問題のようです。) また、「訪日外国人観光客に対し、日本人はかなり偏ったイメージを持っている」という指摘もありました。 「コロナ前に日本人のお客様から『外国人観光客が多くて接客とか大変でしょ?』とよく言われましたが、そんなことはありません。中国からの団体客のマナーはかなり改善していて、日本人と同じくらい。日本人と違ってちゃんとたくさん買ってくれるので、 われわれにとってありがたい存在です。大切な外国人観光客を、偏ったイメージで排除しないで欲しいものです」(九州の土産物店経営者)』、「中国からの団体客のマナーはかなり改善していて、日本人と同じくらい。日本人と違ってちゃんとたくさん買ってくれるので、 われわれにとってありがたい存在です。大切な外国人観光客を、偏ったイメージで排除しないで欲しいものです」、第一の記事とは異なり、「中国からの団体客のマナーはかなり改善」としている。
・『観光立国は実現するのか  もう1つ決定的に欠落しているのが、観光立国という視点です。今回、受け入れ再開をどのように進めていくのか、詳細は未定です。ただ、5月27日の衆議院予算委員会で「訪日外国人観光客に誰がマスクを配るのか?」が論戦になったように、コロナ対策という視点が中心で、日本を観光立国にしようという長期的な視点はありません。 観光庁の和田浩一長官は3月18日、1年間の空白期間が生じている観光立国推進基本計画について、インバウンドの動向を見通すのが難しいことを理由に「もう少し感染状況が落ち着き、議論できるような状況の下で具体的な検討を進めていきたい」と述べました。その後も政府から観光立国に関する目立った発信はなく、お手上げ状態が続いています。 2006年に観光立国推進基本法が成立し、政府は観光立国推進基本計画に沿って施策を展開してきました。円安・近隣諸国の所得上昇といった追い風もあって、日本の旅行市場の市場規模は、コロナ前の2019年に27.9兆円に達しました。 ただ、観光産業が十分に成長し、「日本は観光立国だ」と胸を張れる状態になっているかというと、2019年の段階でも「まったく物足りない」というのが、率直な評価になるのではないでしょうか。 2019年の訪日外国人旅行者数は、過去最高となる3188万人でした。東日本大震災があった2011年を底に着実に増えてきましたが、世界最多のフランス8932万人はもちろん、アジアでも中国6573万人やタイ3992万人の後塵を拝しています。また、旅行市場に占めるインバウンド需要の割合は2割弱に過ぎません(2019年時点)。 先週5月24日、ダボス会議で有名な「世界経済フォーラム」が、観光地としてどれだけ魅力的か、世界各国の競争力を比較した調査結果を発表しました。日本は交通インフラの利便性や自然や文化の豊かさなどが評価され、総合順位で調査の開始以来、初めて世界1位になりました。日本は世界一の旅行市場になる潜在力がありながら、生かせていないのです』、「「世界経済フォーラム」が、観光地としてどれだけ魅力的か、世界各国の競争力を比較した調査結果を発表しました。日本は交通インフラの利便性や自然や文化の豊かさなどが評価され、総合順位で調査の開始以来、初めて世界1位になりました」、現実の「2019年の訪日外国人旅行者数は」「3188万人」と、「世界最多のフランス8932万人はもちろん、アジアでも中国6573万人やタイ3992万人の後塵を拝しています」、「日本は世界一の旅行市場になる潜在力がありながら、生かせていない」、残念だ。
・『地方経済は観光産業が頼みの側面も  もちろん、オーバーツーリズムの問題やSDGsの要請などがあり、単純に訪日外国人観光客を増やせばよいというわけではありません。観光産業や地域の持続性を確保しつつ、いかに観光を中心にした国づくりをしていくかが問われています。 著名な未来学者ジョン・ネイスビッツは、『Global Paradox』(1994、佐和隆光訳『大逆転潮流』)で、「21世紀に観光が最大の産業になる」と予測しました。 とりわけ日本では、戦後の経済成長を支えた基幹産業がすっかり衰退し、観光産業に対する期待が高まっています。金融産業のある東京と自動車産業のある愛知・静岡・埼玉などを除く多くの地域では、雇用吸収力の大きい観光産業に地域の命運がかかっていると言って過言ではありません。 政府も観光関連業者も、そしてわれわれ国民も、コロナ対策にとどまらず、国家百年の計で観光について考え、訪日外国人観光客の受け入れ再開に臨みたいものです』、「国家百年の計で観光について考え、訪日外国人観光客の受け入れ再開に臨みたいものです」、その通りだ。

次に、7月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの姫田小夏氏による「中国の訪日観光客が戻ってこないかもしれない、これだけの深刻な理由」を紹介しよう。
・『日本政府は外国人観光客の入国を6月10日から再開し、中国を含む98の国と地域からのツアー客の受け入れを開始した。しかし、中国人観光客は今のところ動き出す気配はない。2019年には959万人に達した中国人観光客は、コロナとともに“蒸発”したままとなっている』、今後はどうなるのだろう。
・『「海外旅行なんてあり得ない」  上海市では6月24日、市中の新型コロナウイルスの新規感染者がついにゼロとなった。「勝利宣言」が出された上海では、緊張状態はだいぶ緩和され、外食もできるようになった。何事にも機先を制する上海市民なので、中にはすでに“旅支度”を始めている人がいるかもしれない…そう思って上海の友人に聞いてみたら、「海外旅行なんてあり得ない」と一笑に付された。 機はまだ熟してはいないようだ。 日本のインバウンド市場が中国人観光客でにぎたとえば、航空券の予約のしやすさにつながるのは航空機の座席数だが、これが潜在する需要に追いついていない。 というのも、2022年3月末、中国航空当局が中国国内の航空機について「各国1路線、週に1往復」に縮小させてしまったためだ。外国の航空会社についても同様に、中国との航空路線を1路線、週1往復に限定した。その後運行状況は毎月更新されつつも、日本航空の場合は北京便、上海便とも7、8月は運休状態にある。 こうした状況を反映してか、上海から日本への航空運賃は異常な値上がりとなっている。7月上旬の航空運賃を検索してみると、上海浦東国際空港から成田国際空港へは、中国の航空会社利用で、片道かつ香港経由・エコノミークラスという条件ですら8000元(約16万円)を超えていた。2019年まで中国の航空会社の上海直行便は5万円程度で往復ができていたから、かなり高額だ。 年間3回の訪日旅行が趣味だったという上海・浦東新区在住の陳佳楠さん(仮名)は「座席数が限られる中で航空券の価格が高騰しています。留学生やビジネスマンも海外渡航が困難となっている状況で、観光客が海外に出て行くなんて、とても考えられないです」と話す』、「上海浦東国際空港から成田国際空港へは、中国の航空会社利用で、片道かつ香港経由・エコノミークラスという条件ですら8000元(約16万円)を超えていた。2019年まで中国の航空会社の上海直行便は5万円程度で往復ができていたから、かなり高額だ」、「「座席数が限られる中で航空券の価格が高騰しています。留学生やビジネスマンも海外渡航が困難となっている状況で、観光客が海外に出て行くなんて、とても考えられない」、これでは、「中国人」による日本へのインバウンド需要には全く期待できないようだ。
・『中国当局が設ける海外との壁  もっとも金に糸目をつけなければ、海外旅行を試みることはできる。 上海に拠点を置く旅行会社の担当者は「便数は減ってはいますが、高額な航空券を購入できるなら個人での海外旅行はできる、という建前となっています」と話す。 一部では減便は緩和に向かうという報道もあり、隔離政策についても「14日間の集中隔離+7日間の自宅健康観察」を「7日間の集中隔離+3日間の自宅健康観察」に短縮した。今後は正常化が期待できそうな気配も漂う。 だが、今あるのは「中国から出るな」という出国制限だ。 国家移民管理局は5月12日、「中国国民の不要不急の出国を厳しく制限し、出国や入国のために必要な書類や理由を厳格に審査する」と発表した。外国からのウイルスの侵入と、国内の感染のリバウンドを防ぐためというのが主な理由だが、「必要な場合を除いて」との前置きはあるにせよ、「中国から出るな」という強いメッセージである。  “建前”としては、パスポートがあり、航空券の予約があれば出国できるわけだが、今のところ空港の出入国管理官による“出国目的の尋問”を免れることは難しいだろう。また中国政府は昨年8月、パスポートの発行についても緊急の場合を除いて大幅に制限し、「当面は発行を行わない」(国家移民管理局)と発表、国民の自由な移動に制限をかけている』、「今あるのは「中国から出るな」という出国制限」、「パスポートの発行についても緊急の場合を除いて大幅に制限し、「当面は発行を行わない」」、これでは、中国からの旅行者には全く期待できない。。
・『海外旅行はぜいたく消費と捉えられる?  コロナがまん延する前の2018年には、年間延べ1億5000万人の中国人が楽しんだ海外旅行(旅行消費は2770億ドル、数字は中国文化観光部)だが、気になるのは、財政難のため倹約令を唱える習指導部に国民の海外旅行がどう映るのか、ということだ。 格差縮小のため富の分配を目指す共同富裕路線を掲げた習指導部は、「海外旅行はぜいたく消費だ」とも言いだしかねない。また、外貨準備高の減少を避けるためには、海外旅行での国民の散財も制限したいところだろう。あるいは、「海外で使う金は国内消費に回せ」という大号令がかかる可能性もある。 目下、緊縮財政を敷く習指導部は公務員に対して、出国にかかわる費用、公用車の購入と運行にかかわる費用、公務接待費にかかわる費用の“三大経費”の圧縮を掲げており、「それら経費は2019年の81億元(約1620億円)から2021年には51億元(約1020億円)に削減された」(中国メディア「央広網」)。習指導部は、会議、出張、研修などにかかる移動経費も削減したい意向だ。 日本のインバウンドを盛り上げた団体ツアーの中には、会議や研修・視察を名目にしたツアーも少なくなかった。しかし、このような緊縮財政下では公務員も海外渡航どころではない。ましてや民間企業に目を向ければ、ゼロコロナ政策で疲弊しインセンティブツアーどころではないだろう。頼みの中間層も“大失業時代”に直面し、それこそ海外旅行を楽しむ気分にはならないかもしれない』、「緊縮財政下では公務員も海外渡航どころではない。ましてや民間企業に目を向ければ、ゼロコロナ政策で疲弊しインセンティブツアーどころではないだろう。頼みの中間層も“大失業時代”に直面し、それこそ海外旅行を楽しむ気分にはならないかもしれない」、これではいよいよ期待薄だ。
・『海外旅行商品の販売はまだ  今回、日本政府が解禁の対象にしたのは、中国を含む98の国と地域からの団体旅行客の訪日旅行だが、前出の旅行会社の担当者によれば「中国から海外に行くアウトバウンド業務の取り扱い開始の許可が下りておらず、今も弊社では海外旅行商品の販売は行っていない」という。 中国側のアウトバウンドとは、日本からすればインバウンドを意味するが、コロナがまん延してからは、中国の旅行会社の中にはアウトバウンドの部署を丸ごと閉鎖してしまった企業もあった。この旅行会社も、海外に送客するアウトバウンド業務は復活していない。 今後の動向を決めるのはゼロコロナ政策次第だが、「人の移動が厳しく制限される中国のゼロコロナ政策は、この先3年から5年は続くだろう」と予測する中国の政治学者もいる。ロックダウンは将来的にも繰り返される恐れもあるというわけだ。実際、上海でも再封鎖されるマンションが出てきている。 もっともそれ以上に懸念されるのが、中国政府が意図的に観光客を送らなくなる可能性だ。一時期、中国人観光客が大挙して押し寄せた台湾も、アメリカ寄りの蔡英文政権が発足してからは鳴かず飛ばずとなった。その時と同じパターンで、日本がアメリカ寄りの立場をより強めれば、中国人団体客を“手札”として切ってくることもあるだろう。 東アジア情勢に深い霧が立ち込める中、コロナとともに蒸発した中国からの“客足”は、一時的に戻ってきたとしても、「いつまた途絶えるのか」というリスクと常に背中合わせの状態にある』、「「人の移動が厳しく制限される中国のゼロコロナ政策は、この先3年から5年は続くだろう」と予測する中国の政治学者もいる」、「日本がアメリカ寄りの立場をより強めれば、中国人団体客を“手札”として切ってくることもあるだろう」、「中国」とは本当に面倒な国だ。

第三に、9月30日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「インバウンド解禁に潜む「3つの死角」観光業界が素直に喜べないワケ」を紹介しよう。
・『10月11日から、入国者数の上限と訪日ビザが撤廃されインバウンドが解禁されます。待望の解禁ですが、実は、観光業界には素直に喜べない事情があります。このインバウンド解禁には三つの「死角」が潜んでいるからです』、「三つの「死角」」とは穏やかではないが、何なのだろう。
・『インバウンド解禁で観光業界は復活するのか  いよいよ10月11日から、訪日外国人の観光、すなわちインバウンドが実質的に解禁になりそうです。新型コロナの水際対策に関する入国者数の上限を撤廃すると同時に、訪日外国人によるビザなし個人旅行も解禁されるといいます。 「待ちに待った」というべき、政府の方針転換でしょう。業界の期待感としては参院選があった7月は無理だとしても、本当は旅行シーズンである8月にでもインバウンドを解禁してほしかったところです。 解禁が遅れた理由は、オミクロン株による第7波がなかなか収束せず、今年の夏休みは自粛ムードが続いていたことでしょう。 ただ、細かい不満を拾うと「このとき、世界で一番感染者数が多かったのが日本だったので、水際対策をする意味はなかったはず」という意見は正論だと思います。 この時期、欧米ではすでにアフターコロナの旅行ブームに沸いていました。日本の解禁が遅れたことで、観光業界にはこの夏得られるはずだった逸失利益が一定規模で生じていたはずです。 とはいえ、秋からのインバウンド解禁でいよいよ観光ビジネスの本格的な復活が期待できます。 コロナ前の2019年を思い起こしていただくと、過去最高、年間3188万人の外国人が日本を訪れていました。東京や大阪、京都の高級ホテルは満室になり、銀座の百貨店には行列ができ、京都など人気の観光地は人の波で身動きもとれない状況でした。 そこから一転してのコロナ禍で、観光業のみなさんは本当に苦しい時代を耐えてきたと思います。およそ2年と8カ月ぶりにいよいよ守りから攻めに風向きが変わるわけで、その意味では業界は重要な転機を迎えることになります。 基本は「どう攻めるか」を考えるべきですが、じつはインバウンド需要を取り込むにあたって手放しでは喜べない三つの死角が存在しています。 観光業界がインバウンド戦略を考えるにあたって、考慮すべき課題を挙げてみたいと思います』、「世界で一番感染者数が多かったのが日本だったので、水際対策をする意味はなかったはず」という意見は正論だと思います。 この時期、欧米ではすでにアフターコロナの旅行ブームに沸いていました。日本の解禁が遅れたことで、観光業界にはこの夏得られるはずだった逸失利益が一定規模で生じていたはずです」、その通りだ。
・『第一の死角 中国本土の観光客がやってこない  日本が水際対策の方針を転換することで、多くの国々から日本に観光に来やすくなることは事実です。ただ、国別の人数で最大勢力であった中国本土からの観光客だけはその例外です。ビジネス旅客は復活しているのですが、ゼロコロナ政策が厳しいため、観光客はまだ日本に来ることができないのです。 2019年の中国本土からの訪日客の人数は約960万人でした。これはインバウンド全体のちょうど3割に相当します。 中国の中流階級から富裕層にかけての層は経済的にも羽振りが良く、爆買いでたくさんのお金を日本経済に落としてくれていました。この部分がしばらくの間、経済需要としては欠けそうです。 とはいえ、それ以外の国からの需要についてはいまのところ期待ができそうです。2番目に多い韓国の観光業界は、むしろずっと日本の水際対策が緩和されるのを待っていました。 ビザがないと日本への観光ができず、そのビザを取るために大使館に長蛇の列ができるような不自由な状況が続いていたのです。ビザなしでOKとなれば、需要は急速に戻ってきそうです。 人数面で見ると、日本のインバウンド需要はアジアからの観光客に支えられています。ここが早期復活すれば、業界は比較的早く活性化しそうです。 ただ気をつけるべき点は、観光業界はかなり細分化されていて、それぞれの業者が得意な国が異なっている点です。 その観点で考えると、2019年以前に中国本土からの観光客に注力してきた会社は、中国本土需要が復活するまでの間、さらにどうやって生き延びるのかを考える必要があるかもしれません』、「2019年の中国本土からの訪日客の人数は約960万人でした。これはインバウンド全体のちょうど3割に相当します。 中国の中流階級から富裕層にかけての層は経済的にも羽振りが良く、爆買いでたくさんのお金を日本経済に落としてくれていました。この部分がしばらくの間、経済需要としては欠けそうです」、「人数面で見ると、日本のインバウンド需要はアジアからの観光客に支えられています。ここが早期復活すれば、業界は比較的早く活性化しそうです」、なるほど。
・『第二の死角 人が雇えない  実は私が一番心配しているのが、この2番目の死角です。今、雇用の現場では世界的に大量離脱(グレートレジグネーション)と呼ばれる現象が起きています。人手が不足して、人が雇えないのです。 観光業界はコロナ禍を生き延びるためにコストを削られるだけ削り、必要性から多くの従業員の雇い止めをしてきました。2020年にコロナが始まり、21年に開催された期待の東京オリンピックも無観客で終わり、極限までのリストラは致し方のない対策だったことと思います。 しかし問題は業界から大量の経験者が消えてしまったことです。10月からいよいよインバウンド解禁で、経験者に元の職場に戻ってほしいと考えても、実は雇い戻しが想定よりも難しいかもしれません。 実際にアメリカで今起きているのが、人が雇えないことに起因するインフレです。 アメリカは日本社会以上に雇用の流動性が高いことから、コロナ禍で多くの企業が当たり前のように人員整理を行いました。ところが、そこで計算外の事態が起きたといいます。コロナ禍をきっかけに人生を見直す人が一定規模で増加したのです。 ある推計によれば、全従業員の約5%が人生を見直して労働市場から離脱したといいます。これがグレートレジグネーションという現象です。 コロナ禍以前と比較してそもそも雇える人口の母数が減ってしまっている。そのうえで、コロナ禍で雇い止めに遭った経験者がすでに他の仕事を見つけていたりします。 もちろん「いつかは観光業に戻りたい」と思っている人もいらっしゃるとは思いますが、中には「新しい職場の方が気を使わなくてもいいし、自分には向いている」と考えた人もいらっしゃるでしょう。 要するに、日本でもインバウンド需要が急回復する中で、人が雇えないことによる逸失利益がこれから先、新たな問題になりそうなのです』、「全従業員の約5%が人生を見直して労働市場から離脱したといいます。これがグレートレジグネーションという現象です」、「日本でもインバウンド需要が急回復する中で、人が雇えないことによる逸失利益がこれから先、新たな問題になりそう」、「コロナ禍で雇い止め」などをした以上、やむを得ないことだ。
・『第三の死角 世界が不況に突入  そしてもう一つ気になるのは、リベンジ消費のブームがそろそろ終幕かもしれないという話です。 昨年の秋ごろにリベンジ消費という言葉が騒がれ始めて、気が付けばそれからもう1年たっています。この間、日本では第6波、そして強烈な第7波による経済停滞が起きていたため、日本人の感覚的には「リベンジ消費はまだまだこれからだ」という気分かもしれません。 しかし問題は、外国人のリベンジ消費意欲です。過去1年間、日本に行けないということでアジア人は近隣諸国で、欧米人はイビサ島(スペイン)やバハマ、フロリダなどでリベンジ消費を堪能したでしょう。 とはいえ日本旅行解禁を心待ちにしていた人たちは、日本に来ればパーっとお金を使ってくれるとは思います。 ただ心配なことに、十分な数の旅行客がリベンジ消費に戻ってくるかどうかはわかりません。特に気になるのは、いよいよ欧米経済がリセッション(景気後退局面)に向かいそうだということです。 円安の今、日本は欧米人から見れば買い物天国で、すべてのものが驚くほど安い価格で手に入ります。しかしその円安の原因は、欧米がインフレ経済を抑え込むために利上げをしたことに起因しています。欧米の中央銀行は景気を悪化させてもインフレ退治をしなければならないと必死で、結果として2023年の世界経済は大きく景気後退しそうだという予測です。 つまり、日本人が「いよいよこれからだ」と思っている今のタイミングは、世界から見れば「そろそろこれまでだ」というタイミングなのかもしれないのです。 さて、話をまとめましょう。 コロナ禍前、2019年の10月から12月にかけての訪日外国人数は月平均250万人でした。そこから中国本土の観光需要がないことを想定すると、「月175万人の訪日客」を一つの期待上限として想定すべきでしょう。 そのラインと比較して実際に発表されるインバウンド人数の速報値がどれくらい乖離(かいり)しているのか? そして観光地の景気は急回復できるのか? 解禁後のインバウンドマーケットの状況を、注視していきたいと思います』、「日本人が「いよいよこれからだ」と思っている今のタイミングは、世界から見れば「そろそろこれまでだ」というタイミングなのかもしれないのです」、「「月175万人の訪日客」を一つの期待上限として想定すべきでしょう。 そのラインと比較して実際に発表されるインバウンド人数の速報値がどれくらい乖離(かいり)しているのか? そして観光地の景気は急回復できるのか? 解禁後のインバウンドマーケットの状況を、注視していきたいと思います」、確かに「解禁後のインバウンドマーケットの状況を、注視」する価値がありそうだ。
タグ:インバウンド戦略 (その14)(観光競争力で初首位も 海外客再開に欠ける視点 忌避に偏見、受け入れ再開に反対の声が充満、中国の訪日観光客が戻ってこないかもしれない これだけの深刻な理由、インバウンド解禁に潜む「3つの死角」観光業界が素直に喜べないワケ) 東洋経済オンライン 日沖 健氏による「観光競争力で初首位も、海外客再開に欠ける視点 忌避に偏見、受け入れ再開に反対の声が充満」 「「外国人観光客はうるさいし、マナーが悪い。とくにお隣りの2カ国は最悪・・・この2年間、外国人観光客がいなくて、実に快適でした」、その通りだろう。 「中国からの団体客のマナーはかなり改善していて、日本人と同じくらい。日本人と違ってちゃんとたくさん買ってくれるので、 われわれにとってありがたい存在です。大切な外国人観光客を、偏ったイメージで排除しないで欲しいものです」、第一の記事とは異なり、「中国からの団体客のマナーはかなり改善」としている 「「世界経済フォーラム」が、観光地としてどれだけ魅力的か、世界各国の競争力を比較した調査結果を発表しました。日本は交通インフラの利便性や自然や文化の豊かさなどが評価され、総合順位で調査の開始以来、初めて世界1位になりました」、現実の「2019年の訪日外国人旅行者数は」「3188万人」と、「世界最多のフランス8932万人はもちろん、アジアでも中国6573万人やタイ3992万人の後塵を拝しています」、「日本は世界一の旅行市場になる潜在力がありながら、生かせていない」、残念だ。 「国家百年の計で観光について考え、訪日外国人観光客の受け入れ再開に臨みたいものです」、その通りだ。 ダイヤモンド・オンライン 姫田小夏氏による「中国の訪日観光客が戻ってこないかもしれない、これだけの深刻な理由」 今後はどうなるのだろう。 「上海浦東国際空港から成田国際空港へは、中国の航空会社利用で、片道かつ香港経由・エコノミークラスという条件ですら8000元(約16万円)を超えていた。2019年まで中国の航空会社の上海直行便は5万円程度で往復ができていたから、かなり高額だ」、 「「座席数が限られる中で航空券の価格が高騰しています。留学生やビジネスマンも海外渡航が困難となっている状況で、観光客が海外に出て行くなんて、とても考えられない」、これでは、「中国人」による日本へのインバウンド需要には全く期待できないようだ。 「今あるのは「中国から出るな」という出国制限」、「パスポートの発行についても緊急の場合を除いて大幅に制限し、「当面は発行を行わない」」、これでは、中国からの旅行者には全く期待できない。。 「緊縮財政下では公務員も海外渡航どころではない。ましてや民間企業に目を向ければ、ゼロコロナ政策で疲弊しインセンティブツアーどころではないだろう。頼みの中間層も“大失業時代”に直面し、それこそ海外旅行を楽しむ気分にはならないかもしれない」、これではいよいよ期待薄だ。 「「人の移動が厳しく制限される中国のゼロコロナ政策は、この先3年から5年は続くだろう」と予測する中国の政治学者もいる」、「日本がアメリカ寄りの立場をより強めれば、中国人団体客を“手札”として切ってくることもあるだろう」、「中国」とは本当に面倒な国だ。 鈴木貴博氏による「インバウンド解禁に潜む「3つの死角」観光業界が素直に喜べないワケ」 「三つの「死角」」とは穏やかではないが、何なのだろう。 「世界で一番感染者数が多かったのが日本だったので、水際対策をする意味はなかったはず」という意見は正論だと思います。 この時期、欧米ではすでにアフターコロナの旅行ブームに沸いていました。日本の解禁が遅れたことで、観光業界にはこの夏得られるはずだった逸失利益が一定規模で生じていたはずです」、その通りだ。 第一の死角 中国本土の観光客がやってこない 「2019年の中国本土からの訪日客の人数は約960万人でした。これはインバウンド全体のちょうど3割に相当します。 中国の中流階級から富裕層にかけての層は経済的にも羽振りが良く、爆買いでたくさんのお金を日本経済に落としてくれていました。この部分がしばらくの間、経済需要としては欠けそうです」、「人数面で見ると、日本のインバウンド需要はアジアからの観光客に支えられています。ここが早期復活すれば、業界は比較的早く活性化しそうです」、なるほど。 第二の死角 人が雇えない 「全従業員の約5%が人生を見直して労働市場から離脱したといいます。これがグレートレジグネーションという現象です」、「日本でもインバウンド需要が急回復する中で、人が雇えないことによる逸失利益がこれから先、新たな問題になりそう」、「コロナ禍で雇い止め」などをした以上、やむを得ないことだ。 第三の死角 世界が不況に突入 「日本人が「いよいよこれからだ」と思っている今のタイミングは、世界から見れば「そろそろこれまでだ」というタイミングなのかもしれないのです」、「「月175万人の訪日客」を一つの期待上限として想定すべきでしょう。 そのラインと比較して実際に発表されるインバウンド人数の速報値がどれくらい乖離(かいり)しているのか? そして観光地の景気は急回復できるのか? 解禁後のインバウンドマーケットの状況を、注視していきたいと思います」、確かに「解禁後のインバウンドマーケットの状況を、注視」する価値がありそうだ。
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政府財政問題(その9)(絶対に「減税」はやりたくない…岸田首相が「ガソリン補助金」にこだわり続ける"危険すぎる理由" 「政府は市場に勝てる」と思っているのではないか、積極財政派を増長させた財務省の巨大なジレンマ 国債の円滑消化が財政のコスト意識を希薄化) [経済政策]

政府財政問題については、7月11日に取上げた。今日は、(その9)(絶対に「減税」はやりたくない…岸田首相が「ガソリン補助金」にこだわり続ける"危険すぎる理由" 「政府は市場に勝てる」と思っているのではないか、積極財政派を増長させた財務省の巨大なジレンマ 国債の円滑消化が財政のコスト意識を希薄化)である。

先ずは、7月28日付けPRESIDENT Onlineが掲載した経済ジャーナリストの磯山 友幸氏による「絶対に「減税」はやりたくない…岸田首相が「ガソリン補助金」にこだわり続ける"危険すぎる理由" 「政府は市場に勝てる」と思っているのではないか」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/60026
・『補助金がなければガソリンは200円を超えている  ガソリンの高値が続いている。いよいよ夏の行楽シーズンの到来だが、愛車を満タンにするだけで1万円札が飛んでいく。日々の生活に車が不可欠な人にとっては、さらに負担は重い。賃金が増えない中でどこから資金を捻出するか。値上がりしているのは、電気代もガス代も食料品も軒並みである。 それでも今のガソリン価格は、政府が巨額の補助金を投じて必死に価格を抑えている結果だ。石油情報センターの調査では、7月19日時点でレギュラーガソリンは1リットル当たり171.4円。3週連続で値下がりしているものの、経済産業省が1リットルあたり36.6円の補助金を石油元売会社に出しており、実態としては、依然として200円を超えている。 世界経済の減速懸念から原油の国際価格は若干下落傾向にあるとはいえ、為替の円安が進んでいることもあって、国内ガソリン価格が早期に下落する見込みは立っていない。経産省の補助金も膨らむ一方で、いつまで政府が価格を抑え続けられるのか。「出口」がまったく見えなくなってきた』、発展途上国ではよくある「補助金」政策だが、先進国では珍しい。
・『膨れ上がる補助金…総額1兆6000億円を投じることに  岸田文雄内閣が石油元売会社への補助金を出し始めたのは、今年1月27日から。当初は1リットルあたり5円を支給していた。その予算は2021年度の補正予算から800億円が充てられた。しかし、その後、ウクライナ戦争が始まったこともあり原油価格は高騰。経産省は補助金を3月10日から25円に引き上げた。昨年度の予備費から3600億円余りを支出することとした。 岸田首相は4月26日に記者会見に臨み、「総合緊急対策」を公表。その柱の第1として原油価格高騰への対策を掲げた。1兆5000億円を投じて新たな補助制度を設けるとし、補塡ほてんの上限を35円に引き上げて、「仮にガソリン価格が200円を超える事態になっても、市中のガソリンスタンドでの価格は、当面168円程度の水準に抑制します」と大見得を切った。さらに35円を超えて補助が必要になった場合、価格上昇分の2分の1を補助するとした。 この方針を受けて、4月28日からは発動基準は「172円以上」から岸田氏の表明した「168円以上」に下げ、補助額も35円プラス超過分の半額補助に引き上げた。期間は4月末までだったものを、9月末までに延長した。これによって政府は、総額1兆6000億円の巨額の資金を投じることになった。 要は、政府が「市場価格」に対抗して、「公定価格」を貫き通そうとしているわけだ。世界につながっている市場の価格を、政府がカネを注ぎ込むことでコントロールできると思っているのか。本当に政府は市場に勝てるのか』、小売価格を「補助金」で強引に引下げている形になる。
・『補助金よりも「揮発油税」の引き下げをすべき  ガソリンを使う消費者の負担を下げたいと思うのなら、真っ先に「揮発油税」を引き下げるべきだったという声は根強い。 ガソリンには1リットル当たり24.3円の揮発油税(国税)と4.4円の地方揮発油税が「本則税率」として定められているが、租税特別措置として、さらに25.1円(国税24.3円、地方0.8円)が上乗せされていた。2008年には租税特別措置が廃止されたが、合計金額の53.8円が「当分の間」の暫定税率に据え置かれた。 もともと、ガソリン価格が高騰した時には特別税率の25.1円分を廃止する「トリガー(引き金)条項」が付いていたが、東日本大震災の復興予算を名目にトリガー条項が凍結されている。多くの識者から、これを解除すべきだ、という声が上がったわけだ。 野党の国民民主党は真っ先に、凍結解除による減税を主張。岸田首相が検討するとしたことで、2022年度予算案に賛成した。ところが、岸田首相はその後、まったくトリガー条項の凍結を解除する姿勢を見せずに今日に至っている』、「国民民主党」は「岸田首相」に騙された形で、全くみっともない限りだ。
・『政府が減税よりも補助金にこだわるワケ  トリガー条項の凍結解除による、国と地方の税収減は1年間で計1兆5700億円になると財務省は試算している。すでに補助金への財政負担は半年余りでこの金額を上回っている。にもかかわらず、なぜ政府は、減税ではなく補助金にこだわるのか。 揮発油税は国と地方の一般会計に充てられるため、財務省からすれば使い勝手の良い税源を失いたくない、というのが本音だろう。過去の経緯から暫定税率の上乗せ分はいずれ廃止されるのが本来だったはずで、いったんトリガー条項でその分を減税すると二度と元に戻せなくなる、と考えているのだろう。 また、所管の経産省からすれば、補助金を元売会社に出せば、元売りに恩を売る形になり、役所としての権限強化につながる。減税してもその分価格が下がるだけなので、元売りから感謝されることはない。霞が関全体からすれば、予算規模は大きければ大きいほど、予算執行を通じた権限が増す。政治家にとっても話は同じで、補助金で業界に恩を売れば、選挙でも支持を得られる可能性が高まる。まさに、政官業の「鉄のトライアングル」の結束の結果だと言っていい。 今後、仮に原油価格が上昇を続けた場合、補助金なら元売りが手にする金額が増え続けるというメリットもある。減税はいったん引き下げたら、後は石油元売り会政府は、減税ではなく補助金にこだわるの社の自助努力で価格を抑えるしかないが、岸田首相はすでに上昇分の半額補助を打ち出している』、「なぜ政府は、減税ではなく補助金にこだわるのか」、「財務省からすれば使い勝手の良い税源を失いたくない」、「経産省からすれば、補助金を元売会社に出せば、元売りに恩を売る形になり、役所としての権限強化につながる」、やはり、省益を抜きにすれば、本来は「減税」で対応すべきだ。
・『補助金の大判振る舞いは、選挙戦略の一環だった  問題はそんな大盤振る舞いをいつまで続けられるか、だ。あくまで緊急事態に対処するための時限的な措置という建前だから、現状の9月末までという期限を守って、補助金を廃止することになるのか。 その場合、仮に今のままの原油価格で推移したとすると、いきなりガソリン価格が35円以上も跳ね上がることになる。当然、政権への批判が噴出することになるだろう。9月末のガソリン価格が200円弱で推移していたら、補助金を止め、トリガー条項を発動させて25.1円の減税に切り替えることもできる。だが、200円を大きく上回っていた場合、減税分だけでは穴埋めできず、補助金を止めれば価格が急騰することになる。そうなると、永遠に「出口」が見えなくなり、原油価格の下落を祈る以外に方法がなくなってしまう。 岸田内閣は、7月の参議院選挙に勝つことを最優先に、いくつもの「出口戦略」を先送りしてきた。4月にガソリンの補助金をぶち上げたのもインフレ対策を強調する選挙戦略の一環だったと見ることもできる』、「参議院選挙」勝利を受けて、「先送り」してきた「出口戦略」のいくつかは、実行されるのだろう。
・『市場原理を敵視する岸田政権  さらに、企業が余剰人材を解雇せずに抱えさせる「雇用調整助成金」の期限も6月末から9月末に延長されている。新型コロナウイルス蔓延で経済が凍りついたタイミングでは、雇用調整助成金の効果は大きかったが、長く続ければ「麻薬状態」になり、本来必要な労働移動を疎外してしまう。にもかかわらず、「出口」を先送りしてきたのだ。世界的なインフレと円安によって輸入物価が猛烈に上昇する中で、雇用調整助成金を打ち切れば、一気に失業者が増える懸念もある。 岸田首相は就任前の総裁選時から「新自由主義的政策は取らない」と言い、「新しい資本主義」を標語として掲げてきた。何を具体的に実行しようとしているのかは、いまだに分からないが、どうも「市場原理」を敵視しているように見える。ガソリン市場にせよ、労働市場にせよ、政府がコントロールできると考えているのではないか。 だが、赤字財政の中で膨大な予算を使い続ければ、結局は日本の国力が低下し、円はどんどん弱くなる。するとさらに輸入原油の円建て価格は上昇し、ガソリン価格は上がっていく。そんな負の連鎖につながっていくことになりかねないだろう』、「どうも「市場原理」を敵視しているように見える。ガソリン市場にせよ、労働市場にせよ、政府がコントロールできると考えているのではないか。 だが、赤字財政の中で膨大な予算を使い続ければ、結局は日本の国力が低下し、円はどんどん弱くなる。するとさらに輸入原油の円建て価格は上昇し、ガソリン価格は上がっていく。そんな負の連鎖につながっていくことになりかねないだろう」、同感である。

次に、8月1日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学 経済学部教授の土居 丈朗氏による「積極財政派を増長させた財務省の巨大なジレンマ 国債の円滑消化が財政のコスト意識を希薄化」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/607860
・『7月29日に、岸田文雄内閣は2023年度予算の概算要求基準を閣議了解した。これを皮切りに、来年度予算をめぐる駆け引きが展開されてゆく。今秋にも佳境を迎えることになる予算編成をにらんだ動きは、すでに始まっている』、興味深そうだ。
・『財政拡張圧力が目白押し  特に、6月7日に閣議決定された「骨太方針2021」には、基礎的財政収支黒字化の達成年度である「2025年度」は明記されなかった一方、予算規模の拡大の予兆となる文言が多数盛り込まれた。 1つには、グリーントランスフォーメーション(GX)への投資である。「骨太方針2021」には、「150兆円超の官民の投資を先導するために十分な規模の政府資金を、将来の財源の裏付けをもった『GX経済移行債(仮称)』により先行して調達し、複数年度にわたり予見可能な形で、速やかに投資支援に回していく」と記されている。 GX経済移行債は、新たな形の国債を想定している。そして、国債増発を先行して、GXを促す政府支出を行い、その借金返済は後に回す、ということを暗に示唆している。一部には、10年間に20兆円の政府支出が想定されているという。年平均にすれば2兆円である。 もう1つは、防衛費である。経済政策に関する言及がもっぱらである「骨太方針」で、防衛費に言及があるのは稀なことだが、「骨太方針2021」には、かなりの紙幅を割いて防衛費の増額の必要性が記されている。 その背景は、東洋経済オンラインの拙稿「日本の防衛費は『対GDP比2%』へ倍増できるのか」でも記しているが、NATO(北大西洋条約機構)諸国は、国防予算を対GDP(国内総生産)比2%以上とする目標を設けており、「骨太方針2021」には、その事実の紹介という形をとりつつ「対GDP比2%」と明記された。あくまで、日本の防衛費を「対GDP比2%」にするとまでは書かれていないが、「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」と記された。 このように、来年度予算に向けた歳出増圧力は、例年以上に強まっている。安倍晋三元首相が、襲撃事件で世を去った後でも、積極財政派の勢いは衰えていない。) 積極財政派は、国債残高が未曽有の規模に達していても、さらなる国債増発に何の躊躇もない。目下、日本国債は、金利がほとんどゼロで発行できる。これが大前提の認識である。 しかし、こうした国債発行の環境は、自然体で何の努力もなく実現しているわけでは決してない。量的緩和政策の下で日本銀行の国債の大量買い入れによるところも大きいし、もう1つは財務省理財局の国債の円滑消化努力も無視できない』、「日本国債は、金利がほとんどゼロで発行できる」のは、確かに「日本銀行の国債の大量買い入れ」、「財務省理財局の国債の円滑消化努力」などがあってのものだ。
・『国債の円滑消化とはどんなものか?  国家財政のことを真剣に考えると、ひとたび国債を発行すると決まれば、その発行コストをできるだけ低減させる政策努力は、国民がより少ない負担で財政支出の恩恵を享受するために重要である。それが、国債の円滑消化という政策努力である。 もし国債が円滑に消化できなければどうなるか。例えば、政府が、金利がほぼゼロの状態を長期に享受しようとして、強引に長期国債を、民間金融機関が買いたい量(入札での応募額)よりも多く発行しようとしたらどうなるか。その際は、政府が発行したい量(入札での募集額)未満しか取引が成立しない。 このように、応募額が募集額に満たない状態を、「未達」ともいう。こうした未達が多発すれば、民間金融機関などの投資家にとって金利(利回り)が低すぎて国債は魅力が足りない、と理解される。そうなると、政府は発行時の国債金利を引き上げざるを得なくなる。 それは、日銀が国債を大量に買い入れる状況であっても起こりうる。というのも、日銀が国債を買い入れているのは、いったん発行され民間金融機関などに購入された国債が売買される流通市場での取引である。他方、政府が直面するのは発行市場である。両市場の国債金利は、結果的に連動する傾向があるものの、それぞれの金利は独立して決まる。 だからこそ、財政運営上、国債を発行して賄わざるを得ない限り、余分な費用がかからないようにするには、国債をより低い金利で発行できるようにする必要がある。つまり、未達のような波乱が国債の発行市場で起こらないようにすることが、政策当局に求められる。まさに、財務省理財局はそれを担っているのである。 ところが、国債の円滑消化という財務省理財局の政策努力が、目下政界であらぬ方向に作用してしまっている。 それは、国債発行コストが半永久的にゼロであるとの認識を、積極財政派に植え付けたことである。相当に苦労した国債の円滑消化という政策努力を払っているにもかかわらず、それがあたかも当然視され、国債増発のコスト意識の麻痺という帰結をもたらしたとは、何とも皮肉である。 国債の円滑消化は、国債残高が増えれば増えるほど難度が上がる。1998年度は、1年間に60兆円にも満たない国債を発行市場で起債すればよかったが、コロナ禍でさらに増大して今や1年間に200兆円もの国債を発行市場で起債しなければならなくなった。その増加の主な要因は、借換債の起債である。国債残高が増えれば増えるほど、借換債の発行額も増えざるを得ない。 国民に余分な利払い負担を負わせないようにするには、国債の円滑消化が必要で、その実現可能性を高めるには、国債残高をできるだけ抑えなければならない。そのためにも、財政健全化が不可欠であるーー。本来、国債の円滑消化は、そのように位置づけられるべきである。 ところが、今の政界では、国債を円滑に消化できればできるほど、財政健全化は不要という動きにつながってしまっている。それは、財務省の意図に反しているだろうが、国債の円滑消化が、積極財政派がますます財政健全化は不要と主張するという結果を生んでしまっている。 財務省も財務省で、ジレンマがある。財政健全化の重要性を理解してもらい国債増発を抑えたいが、いったん発行するとなれば国債金利はできるだけ低く抑えて発行したい。でも、低く抑えられれば、それだけ財政健全化の必要性を感じてもらいにくくなる。 金利が低いうちに国債で資金を借りて、将来への投資を行うべきという政策論は、国債の円滑消化を可能にする財政健全化があってこそのものである。本末を転倒させてはいけない』、「金利が低いうちに国債で資金を借りて、将来への投資を行うべきという政策論は、国債の円滑消化を可能にする財政健全化があってこそのものである。本末を転倒させてはいけない」、同感である。
・『もはや財務省のサボタージュしかない?  国債の円滑消化は、政策努力なしには実現しない。国債残高を抑えることで、円滑消化も実現しやすくなることを、忘れてはならない。こうした国債の円滑消化の有りがたみを理解してもらうには、もはや財務省が円滑消化の政策努力をわざとサボタージュする以外にないのかもしれない。財務省が円滑消化の努力を拒絶すれば、国債の発行金利はたちまち上昇する。そうなる前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要がある』、「国債の発行金利はたちまち上昇する。そうなる前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要がある」、これは多分に、比喩的な表現だが、「「国債の発行(流通)金利」が一旦、上昇し始めると上昇が止まらなくなり、「そうなる前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要」というのは初めから無理な命題となる。無論、筆者の本意は、「国債の発行金利」が「上昇」する前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要がある」と、単純に表現したと考えれば、無理な命題ではなくなることは、言うまでもない。
タグ:政府財政問題 (その9)(絶対に「減税」はやりたくない…岸田首相が「ガソリン補助金」にこだわり続ける"危険すぎる理由" 「政府は市場に勝てる」と思っているのではないか、積極財政派を増長させた財務省の巨大なジレンマ 国債の円滑消化が財政のコスト意識を希薄化) PRESIDENT ONLINE 磯山 友幸氏による「絶対に「減税」はやりたくない…岸田首相が「ガソリン補助金」にこだわり続ける"危険すぎる理由" 「政府は市場に勝てる」と思っているのではないか」 発展途上国ではよくある「補助金」政策だが、先進国では珍しい。 小売価格を「補助金」で強引に引下げている形になる。 「国民民主党」は「岸田首相」に騙された形で、全くみっともない限りだ。 「なぜ政府は、減税ではなく補助金にこだわるのか」、「財務省からすれば使い勝手の良い税源を失いたくない」、「経産省からすれば、補助金を元売会社に出せば、元売りに恩を売る形になり、役所としての権限強化につながる」、やはり、省益を抜きにすれば、本来は「減税」で対応すべきだ。 「参議院選挙」勝利を受けて、「先送り」してきた「出口戦略」のいくつかは、実行されるのだろう 「どうも「市場原理」を敵視しているように見える。ガソリン市場にせよ、労働市場にせよ、政府がコントロールできると考えているのではないか。 だが、赤字財政の中で膨大な予算を使い続ければ、結局は日本の国力が低下し、円はどんどん弱くなる。するとさらに輸入原油の円建て価格は上昇し、ガソリン価格は上がっていく。そんな負の連鎖につながっていくことになりかねないだろう」、同感である。 東洋経済オンライン 土居 丈朗氏による「積極財政派を増長させた財務省の巨大なジレンマ 国債の円滑消化が財政のコスト意識を希薄化」 「日本国債は、金利がほとんどゼロで発行できる」のは、確かに「日本銀行の国債の大量買い入れ」、「財務省理財局の国債の円滑消化努力」などがあってのものだ。 「金利が低いうちに国債で資金を借りて、将来への投資を行うべきという政策論は、国債の円滑消化を可能にする財政健全化があってこそのものである。本末を転倒させてはいけない」、同感である。 「国債の発行金利はたちまち上昇する。そうなる前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要がある」、これは多分に、比喩的な表現だが、「「国債の発行(流通)金利」が一旦、上昇し始めると上昇が止まらなくなり、「そうなる前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要」というのは初めから無理な命題となる。無論、筆者の本意は、「国債の発行金利」が「上昇」する前に、国債増発のコスト意識を取り戻す必要がある」と、単純に表現したと考えれば、無理な命題ではなくなることは、言うまでもない。
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新自由主義(その3)(集集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望、なぜ「経済的に恵まれない人」が「新自由主義を支持する」のか? 社会心理学が明らかにしたこと) [経済政策]

新自由主義については、6月21日に取上げた。今日は、(その3)(集集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望、なぜ「経済的に恵まれない人」が「新自由主義を支持する」のか? 社会心理学が明らかにしたこと)である。

先ずは、2月11日付け週刊エコノミスト Online「集集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220209/se1/00m/020/003000d
・『「新しい資本主義」を議論するには、米国のネオリベラリズムの背景にある思想性、理論性、歴史性を理解する必要がある。 同時に日本においてネオリベラリズム政策やネオリベラリズムに基づくコーポレート・ガバナンスがどう導入されたかを明らかにしない限り、意味のある議論はできない』、興味深そうだ。
・『真の狙いは労働市場の自由化  日本にネオリベラリズムの政策を導入したのは小泉政権である。バブル崩壊後の長期低迷を打開する手段として「規制緩和」や「競争促進政策」が導入された。 だがネオリベラリズム政策の最大の狙いは、米国同様、労働市場の規制緩和であった。労働市場の自由化によって非正規労働や派遣労働の規制が大幅に自由化された。それは企業からすれば、大幅な労働コストの削減を意味した。 労働市場の自由化によって非正規雇用は大幅に増加した。1984年には非正規雇用は15.3%であったが、2020年には37.2%にまで増えている。非正規雇用のうち49%がパート、21.5%がアルバイト、13.3%が契約社員である(総務省「労働力調査」)。賃金も正規雇用と非正規雇用では大きな格差がある。 2019年の一般労働者の時給は1976円であるが、非正規労働者の時給は1307円である。600円以上の差がある。なお短期間労働に従事する非正規労働者の時給は1103円とさらに低い(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。岸田首相は最低賃金1000円(全国加重平均)を実現すると主張しているが、米国ではバイデン大統領は連邦最低賃金15㌦を目標に掲げている。 現在の為替相場で換算すると、約1700円に相当する。日米で時給700円の差がある。かりに最低賃金1000円が実現しても、非正規雇用は社会保険費など企業負担がなく実質手取りは1000円を下回り、とても最低賃金でまともな生活を送れないのが実情である』、実際の「最低賃金」は「全国加重平均」で31円引上げ、961円にすることになった(8月6日付け日経新聞)。
・『労働市場自由化の弊害を軽視した小泉改革  米国型コーポレート・ガバナンスの導入も日本に大きな影響を与えた。戦後の日本経済の成長を支えてきた「日本的経営」はバブル崩壊後、有効性を失ったと主張された。日本型経営では最大のステークホールダーは従業員であり、メインバンクであり、取引先であった。 株主は主要なステークホールダーとはみなされていなかった。だが米国型コーポレート・ガバナンスは株主中心に考えられ、日本でも企業価値、言い換えれば株価を上げることが経営者の責務と考えられるようになった。労働者は「変動費」であり、経営者は従業員の雇用を守るという意識を失っていった。 かつて経営者の責務は従業員の雇用を守ることだと言われていた。米国型コーポレート・ガバナンスは、日本の労使関係を根底から変えてしまった。同時に経営者は米国と同様に巨額の報酬を手にするようになる。 米国や英国では1900年代にはネオリベラリズム政策の弊害が目立ち始めていた。貧富の格差は急速に拡大し、深刻な社会問題を引き起こしつつあった。だが小泉改革では、そうした弊害について真剣に検討することなく、労働市場の自由化が強引に進められていった。 同時に終身雇用は破綻したとして、雇用の流動化が主張された。雇用の流動化は、言葉は魅力的だが、最も大きな恩恵を得るのは企業であって、従業員ではない。企業は高賃金の従業員に早期退職や転職、副業を勧めることで、大幅に労働コストを削減できる。 米国と違って日本では整備された転職市場が存在せず、さらに「同一労働同一賃金」や米国の401(k)のような「ポータブルな企業年金制度」などもなく、転職の負担はすべて従業員に掛かってくる』、「米国型コーポレート・ガバナンスの導入も日本に大きな影響」、「米国型コーポレート・ガバナンスは、日本の労使関係を根底から変えてしまった。同時に経営者は米国と同様に巨額の報酬を手にするようになる」、なるほど。
・『日本の企業内組合は交渉力を発揮できない  岸田首相がどのような「新しい資本主義」を構想しているのか定かではない。成長すれば、その成果が労働者にも及ぶという供給サイドの経済学が主張する“トリクルダウン効果”論は歴史的にも、理論的にも破綻している。 成長すれば、最終的に恩恵はすべての人に及ぶというのは幻想である。企業は常に賃金上昇を抑えようとする。決して温情で賃上げをするわけではない。過去の企業行動を見れば、日本で行われている「成長」と「分配」を巡る議論は空論そのものであることが分かる。 賃上げをした企業に税の優遇措置を講ずるという報道もなされている。かつて安倍晋三首相は経済団体に賃上げを行うよう要請したことがあるが、企業は応じなかった。経営者は従業員に対する“温情”から賃上げを実施することはないだろう。 従業員と労働者が正当な賃金を得るには、企業と拮抗できる組織と仕組みが必要である。日本の企業は正規社員を減らし、非正規社員を雇用することで労働コストを大幅に削減して利益を上げてきた。米国同様、その利益の多くは株主配当に向けられるか、内部留保として退蔵されてきた。 さらに経営者の報酬も大幅に引き上げられた。本来なら組合は正当な労働報酬を受け取る権利がある。米国の労働組合は産業別組合で企業との交渉力を持っているが、日本の労働組合は企業内組合では、企業に対する交渉力を発揮することは難しい。 日本の時間当たりの付加価値は世界23位(低賃金は生産性向上を妨げる。本来なら企業は賃金上昇によるコストを吸収するために生産性を上げる努力を行う。だが低賃金労働が使える限り、企業は資本コストの高い合理化投資を積極的に行わない。 企業は労働コストが上昇すれば、競争力が低下するために合理化投資を行わざるを得ない。大胆に言えば、日本企業の生産性が低いのは、賃金が安いからである。 先進国の中で日本の生産性は最も低い。2020年の1人当たりの日本の労働生産性はOECD38カ国のうち28位(7万8655㌦)で、24位の韓国(8万3378㌦)よりも低く、ポーランドやエストニアと同水準である(「労働生産性の国際比較2021、日本生産性本部」)。 また。日本の時間当たりの付加価値は49.5㌦で、23位である。1位のアイルランドは121㌦、7位の米国は80㌦である。韓国は32位で43㌦である。なぜ、ここまで低いのか』、「低賃金労働が使える限り、企業は資本コストの高い合理化投資を積極的に行わない。 企業は労働コストが上昇すれば、競争力が低下するために合理化投資を行わざるを得ない。大胆に言えば、日本企業の生産性が低いのは、賃金が安いからである」、その通りだ。
・『経営者報酬と配当を増やす経営が日本を弱くした  日本特有の給与体系も影響している。日本では基本給の水準が低いため、残業手当が付かなければ、十分な所得を得られない。その結果、同じアウトプットを生産するために、残業を増やして長時間労働を行うことになる。 それこそが低生産性の最大の要因の一つである。昨今、「働き方改革」で残業を削減する動きがみられるが、残業時間の短縮は残業の減少と所得の減少を意味する。短時間で同じ労働成果を上げることができれば、それは生産性向上を意味し、基本給の引き上げで従業員に還元されるべきものである。 だが、企業は所得が減った従業員に副業を推奨するという奇妙な議論が横行している。「労働の流動化」を口実に賃金引き下げと雇用の安定性が損なわれている。労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた』、「短時間で同じ労働成果を上げることができれば、それは生産性向上を意味し、基本給の引き上げで従業員に還元されるべきものである。 だが、企業は所得が減った従業員に副業を推奨するという奇妙な議論が横行している。「労働の流動化」を口実に賃金引き下げと雇用の安定性が損なわれている」、「労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた」、同感である。
・『存在価値を無くした日本の労働組合が低賃金の要因  米国と同様に日本でも労働組合参加率は低下の一途をたどっている。戦後の1949年には労働組合参加率は55%であった。その後、参加率は低下し、1980年代に20%台にまで低下した。 2021年の参加率は16.9%にまで低下している(労働組合基本調査)。米国ほどではないが、労働組合は急激に衰退し、社会的影響力の低下は目を覆うべき状態である。その背景には労働組合幹部が「労働貴族」となって特権を享受しているという“反労働組合キャンペーン”が行われたことが影響している。 労働組合は国民の支持を失い、現在では社会的存在感するなくなっている。日本の労働組合運動の衰退は世界でも際立っている。全くと言っていいほど企業に対する交渉力を失っている』、「連合」が立憲民主党と共産党の共闘に水を差し、他方で自民党にもシッポを振っているのは、連合の戦闘力喪失を表している。
・『日本で“スト”はもはや死語  高度経済成長期に賃金上げをリードしてきた「春闘方式」が崩壊し、企業内組合を軸とする労働組合は企業に取り込まれ、十分な交渉力を発揮できなくなった。労働組合運動は連合の結成で再編成されたが、連合はかつてのような影響力を発揮することができない。 目先の政治的な思惑に振り回されている。賃上げに関して十分な“理論武装”をすることもできず、ほぼ賃上げは経営者の言いなりに決定されているのが実情である。 労働組合の弱体化は「労働損失日」の統計に端的に反映されている。2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日であるのに対して、米国は2815日、カナダは1131日、英国は273日、ドイツは571日、韓国が552日である(労働政策研修機構『データブック国際労働比較2019』)。日本と同様に組合参加率が大幅に低下している米国ですら、賃上げや労働環境を巡って労働組合は経営と対立し、要求を実現している。 日本では“スト”はもはや死語となっている。格差是正や賃上げを要求する「主体」が日本には存在しないのである。その役割を政府に期待するのは、最初から無理な話である。それが実現できるとすれば、日本は社会主義国である』、「2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日」、というのは初めて知ったが、情けないことだ。
・『税制、最低賃金、非正規問題の構造的な見直し  労働市場で個人が企業と向かい合い、交渉することは不可能である。両者の間には圧倒的な力の差がある。だからこそルーズベルト大統領は労働者の団結権と団体交渉権を認め、全国労働関係委員会に労働争議の調整役を委ねたのである。小手先の制度改革ではネオリベラリズムの弊害を断ち切ることはできない。 バイデン大統領は中産階級の失地回復こそが格差是正の道であり、繁栄に至る道であると主張している。そのためには労働組合が企業に対して十分な交渉力を持つ必要があると説いている。 一人ひとりの働く人が、誠実に働けば、家族を養い、子供を教育し、ささやかな家を購入するに足る所得を得る制度を再構築することが必要である。非正規とパート労働で疲弊した国民は決して幸せになれない。平等な労働条件、公平な賃金、雇用の安定を実現することが「新しい資本主義」でなければならない。 貧富の格差拡大は社会を分断し、深刻な貧困問題を引き起こす。長期的には経済成長を損なうことになる。そうした事態を回避するには現在の制度の構造的な見直しが要である。 税制の見直しや最低賃金の引き上げに加え、正規労働者と非正規労働者に二分された労働市場の見直しも不可欠である。労働者や消費者などさまざまな立場の人の意見を反映させるようなコーポレート・ガバナンスを構築する必要がある』、「労働市場で個人が企業と向かい合い、交渉することは不可能である。両者の間には圧倒的な力の差がある。だからこそルーズベルト大統領は労働者の団結権と団体交渉権を認め、全国労働関係委員会に労働争議の調整役を委ねたのである。小手先の制度改革ではネオリベラリズムの弊害を断ち切ることはできない。 バイデン大統領は中産階級の失地回復こそが格差是正の道であり、繁栄に至る道であると主張している。そのためには労働組合が企業に対して十分な交渉力を持つ必要があると説いている」、「貧富の格差拡大は社会を分断し、深刻な貧困問題を引き起こす。長期的には経済成長を損なうことになる。そうした事態を回避するには現在の制度の構造的な見直しが要である。 税制の見直しや最低賃金の引き上げに加え、正規労働者と非正規労働者に二分された労働市場の見直しも不可欠である。労働者や消費者などさまざまな立場の人の意見を反映させるようなコーポレート・ガバナンスを構築する必要がある」、同感である。
・『ネオリベラリズムは「既得権構造」に浸透  ネオリベラルの発想から抜け出す時期に来ている。そのためには、労働規制、税制、コーポレート・ガバナンス、労働組合の役割などの見直しは不可欠である。特にコーポレート・ガバナンスに労働者や消費者などの意見が反映できるようにコーポレート・ガバナンスの改革は不可欠である。 米国におけるネオリベラリズムの検討でみたように、その背後には明確な国家観の違いが存在している。そうした大きな枠組みの議論抜きには、新しい展望は出てこないだろう。 ネオリベラリズムは既得権構造に深く組み込まれている。それを崩すには、社会経済構造を根底から変える必要がある。激しい抵抗に会うのは間違いない。これからの議論で岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われることになるだろう。 最後に一言、小泉改革以降のネオリベラリズムの政策で日本経済の成長率は高まっていない。経済成長はGDPの約80%を占める需要によって決まるのである。日本の長期にわたる低成長はネオリベラリズム政策や発想がもたらした必然的結果なのである』、「岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われる」、とあるが、それは期待し過ぎだ。立憲民主党から建設的な意見が出てきてほしいものだ。

次に、8月5日付け現代ビジネスが掲載した東洋大学社会学部社会心理学科教授の北村 英哉氏による「なぜ「経済的に恵まれない人」が「新自由主義を支持する」のか? 社会心理学が明らかにしたこと」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/98183?imp=0
・『自分にとって抑圧的な環境、不都合な状況なはずなのに、なぜかそこに適応してしまう。こうした態度を「自発的隷従」と呼ぶことがある。こうした自発的隷従のような態度について、社会心理学の見地から分析した、ジョン・ジョスト『システム正当化理論』(ちとせプレス)が刊行された。訳者の一人である東洋大学教授の北村英哉氏がその読みどころを解説する』、なるほど。
・『なぜ政権党は勝ち続けるのか?  まさに今の時代に合っている。ジョン・ジョストが提唱する「システム正当化理論」、そんな風に考えた。この理論は、「なぜだか現状維持に走ってしまう人々」の生の現実的な姿をつかむことに長けている。 システム正当化理論は、社会心理学の理論である。これまでの社会心理学の理論では、多くの場合、人々は自分自身が属する内集団を好み、自集団の有利を期待し、その利得に合致する方向で行動するものだとされていた。しかし、システム正当化理論は、こうした従来の理論とは反対に、自分の利得にならない行動をする人々について、うまく説明することができるのである。 現在、そうした「自分の利得にならない行動」が目立っているように見える。たとえば、日本の場合、おおまかに語れば自民党などの政権党は、経営者や大企業などのすでに日本社会の中で、有利な地位を得ている人たちの利益代表であり、「金持ち」「貧しい」という二分法で言えば、明らかに富む者のための政策を行う集団である。 したがって合理的には、社会階層の高い者たちが自民党を支持し、社会階層が低い者たちは野党を支持するはずである。そして、階層の高い者、豊かな者は社会全体から見れば少数であるから、大多数のお金持ちではない庶民は野党を支持しないと原理的にはおかしいということになる。) しかし、7月におこなわれた選挙でも、そうした結果にはなっていない。必ずしも豊かとは言えない人々も自民党に票を入れていなければ、比例区において自民党が最大割合(35%ほど)を獲得するという結果にはならないだろう。 SNSでは、野党を支持する人たちから、こうした選択について「愚かな選択」だとか、「分かっていない」などの発言が繰り返される。近年のリベラル層には、「正しくはリベラル的な政党を支持すべきだ。それが分からないのは知識がないのか、考え間違いなどをしているか、愚かなことである」といった意見も見られる。 しかし、ある意味、自民党を政権党にするという選択は、ほぼ一貫して第二次大戦後の日本社会のデフォルトの通常風景であり続けた。70年以上、例外的な時期を除けば、現在の政権党にあたる勢力を全体としては、支持し続けているのである。 こうなってくると、そうした選択を単なる「間違い」で済ませるわけにはいかない。むしろ、そうした結果になってしまう理由を考えるべきであろう。それこそが、理性的な思考となるのではないか。 そして、その理由を考えるのに役に立つのが「システム正当化理論」である』、「自民党を政権党にするという選択は、ほぼ一貫して第二次大戦後の日本社会のデフォルトの通常風景であり続けた。70年以上、例外的な時期を除けば、現在の政権党にあたる勢力を全体としては、支持し続けているのである。 こうなってくると、そうした選択を単なる「間違い」で済ませるわけにはいかない。むしろ、そうした結果になってしまう理由を考えるべきであろう。それこそが、理性的な思考となるのではないか。 そして、その理由を考えるのに役に立つのが「システム正当化理論」、興味深そうだ。
・『人は現状維持を望む傾向がある:安全を求めて  人は現在の社会のあり方をそのまま受け入れ、維持する傾向がある。これをジョン・ジョストは「システム正当化」と呼んだ。今こうであることには意味があり、それが正しいことであると正当化してしまうのだ。 このシステム(≒現状)を正当化しようという動機の基盤には、「認識論的欲求」「実存的欲求」「関係的欲求」があるという。 その仕組みを理解するために、システムを認めず、正当化をしなかったらどうなるか考えてみよう。 ある種の社会では政治的な現状に異議申し立てを行い、現在の政府を批判すると弾圧を受けるような場合もある。あからさまな弾圧は存在しない民主主義の国であっても、すでに多くの人が現政権を支持する状態に生まれ育てば、それを支持しないと周囲の人たちから非難されるかもしれない。たとえもし、現在の政治が正しくなく、変えるべきであると考えて行動したとしても、その先、どうなるかはわからない。 実際、日本においても、2009年に政権交代が実現し、民主党政権ができたが、十分に国民の期待に応えた政策を実行できたかどうかまだよくわからない状態で、政権維持に行き詰まり、事実上、最後は政権を投げ出すような行いを示した。 もちろん、それまで数十年もの間自民党の長期政権が続いてきたという環境では、長期間にわたって自民党と強固に連携してきた行政組織や経済団体と、関係を容易に「交代」できるわけではなく、その抵抗にあえば、行政的に行き詰まりやすい。 政権交代がよい結果をもたらすかどうかは、結果論的にあとを待たないと分からない。常に未来は不透明である』、「日本においても、2009年に政権交代が実現し、民主党政権ができたが、十分に国民の期待に応えた政策を実行できたかどうかまだよくわからない状態で、政権維持に行き詰まり、事実上、最後は政権を投げ出すような行いを示した」、「政権交代がよい結果をもたらすかどうかは、結果論的にあとを待たないと分からない」、ただ、「政権交代」が起きたメカニズムについての説明がないのは残念だ。
・『「世の中が変わらなければ、生きていける」  以上の話には、先に述べた「3つの欲求」がすべて含まれている。 まずは認識論的欲求である。どうなるか見通しがわからない、認識的に不分明・不確実な状態は、認識論的欲求として「わかりやすい」「すでにあった」「今までどおりのやり方」への志向性を高めてしまう。わかりやすく言えば、「自分はこれまで生きてきた世の中が今のまま何も変わらなければ、明日も生きていけるだろう」という確実性への欲求が、現状維持、すなわち、システム正当化を志向させるのだ。 つぎに、実存的欲求について。現状を支持する限り、周囲からは何の圧力もかからないだろう。周囲と軋轢を生まなければ安全を脅かされることはない。声高に反対を表明したり、デモに参加したりすることは、職場によっては反感を買ったり、評価を下げたり、出世を妨げたりすると考える人もいるだろう。 逆に言えば、政権に対して反対の意思を示すのは、いくらかの勇気と決断力、そして、組織などから見放されても自分の力で生きていける自信がないと、チャレンジしにくいことである。日本人は概ね自己評価が低い。自己評価の低い者にとって、安全を捨てて、危険のなかに飛び込むのは、言ってみれば「映画のなかだけの出来事」であり、現実の自分が行うことは決してないのである。 特に日本ではリスクが嫌われる。リスクをとる覚悟で何かをやるのは、日本社会では「少し変わった人」である。多くの平凡な人たちは、「変わった人」になる勇気など持ってはいない。「ふつうが一番」なのである。そしてその「ふつう」とは政権党を支持することである。この「自身の安全を守りたい」という気持ちが、実存的欲求である。 「ふつう」でいないと職場や所属集団で「浮く」かもしれない。若者も「意識高いね」と皮肉られるのを嫌う。現在、「空気を読む」という傾向が若者の間で強まっていることを示す、筆者の調査データもある。そもそもとがった意見を言うこと、何かを批判することについて、日本では免疫に欠ける。 欧米のデータでさえ、この「関係的欲求」に基づき大勢の人はシステム正当化を行うというのがジョン・ジョストたちのデータだ。日本においても、同様に周囲の人たちから無難に受け入れられるようにシステムを正当化する様子が見られる。 以上がいつまでも政権党(自民党)が勝ち続ける理由だ。こうして記してみると、すでに誰もがわかっているだろう、実にシンプルな常識ではないだろうか。だが、このシステム正当化理論をおいてほかにこれをきちんと整理して、理論化した考え方がなかったのだ』、「特に日本ではリスクが嫌われる。リスクをとる覚悟で何かをやるのは、日本社会では「少し変わった人」である。多くの平凡な人たちは、「変わった人」になる勇気など持ってはいない。「ふつうが一番」なのである。そしてその「ふつう」とは政権党を支持することである。この「自身の安全を守りたい」という気持ちが、実存的欲求である」、「そもそもとがった意見を言うこと、何かを批判することについて、日本では免疫に欠ける。 欧米のデータでさえ、この「関係的欲求」に基づき大勢の人はシステム正当化を行うというのがジョン・ジョストたちのデータだ。日本においても、同様に周囲の人たちから無難に受け入れられるようにシステムを正当化する様子が見られる」、ただ、日本での「政権交代」は事実として述べただけで、メカニズム的な作用につては、説明がないのは残念だ。
・『「この集団を脱したい」という思い  自分が属する集団を「内集団」、自分が属さない集団を「外集団」という。この関係性を重視する社会的アイデンティティ理論では、人は自身の属する内集団をひいきすることが幾度も語られてきた。しかし、この点についても、システム正当化理論は異なる角度から社会を見つめる。そしてそこにも、自身が必ずしも得をしない政策を推進する政党を支持してしまったりする現象を説明する手がかりがある。 日本ではアメリカのスラムと異なり、貧困地区が明瞭に他と区別されるように存在することは減ってきているが、たとえばスラムに住む者が全員「自分たちの集団はすばらしい集団だ」と皆が考えるとは限らない。「いずれこの集団を脱出したい」と考える者たちもいることだろう。 ジョン・ジョストはこのように、人は自分が属する集団を必ずしも好むわけではないという、それまでの社会的アイデンティティ理論とは対立する現実に着目した。スラムのなかには「いつか成功してお金持ちになる」と思っている人もいる。彼らは、リッチな人々という、現在の時点では「外集団」である存在に憧れ、それらを好ましく思うのだ。一般の庶民であった者が芸能人に憧れ、いつか有名人になってリッチになることを夢見る場合も同様である。 自身が困難な状況にあるほど、そこから脱して望ましい状態に至ろうとする人もいるだろう。その場合、彼らにとって、恵まれた集団は「目標」であって、「批判」する対象とはならない。恵まれた人々(≒社会的に力を持っている人々)を批判したところで、結局、そのあと自分自身がどうなるかは認識論的に不確実であると考えられるからだ。 もちろん、狭い集団の範囲で見れば、内集団をひいきし、外集団を貶めたほうが、安全が守られるかもしれない。しかし、より広い社会を視野に入れた場合、恵まれた人々を批判すると、実存的にも安全が脅かされ、関係的にも(より広い範囲の)周囲から煙たがられ、嫌われるおそれ、可能性があるからだ。 女性の初期の社会進出の際、男性社会に同化するように、「男並み」の働きを目指して、結婚や家庭を持つことを犠牲にしてきた先駆者がいたのと同じ仕組みが働いているのである。この本ではこうしたジェンダーの問題も取り上げている。) そこで、恵まれない人々、不利な人々(の一部)は、恵まれた人々を目標として、努力することになる。こうして努力が成功を生むという神話が支持されることとなり、これは反転して、成功を得られなかった時に、「自分は努力が足らなかった。だから自己責任である」という自己責任論を招くことにもなるのだ。 日本において、いまほど、自己責任論が猛威を振るっている時代はなかっただろうと思われる。自己責任論は、経済的な自由や競争を重視する新自由主義的な考え方と相性がよい。自己責任論で自身の境遇を捉える限り、そこから新自由主義を否定する論理は立ち上がりにくい』、「自己責任論は、経済的な自由や競争を重視する新自由主義的な考え方と相性がよい」、その通りだ。
・『「外集団ひいき」のような状況  この不思議な「外集団ひいき」と言ってよいような状況、すなわち、本来ならば成功した長者が支持することの多い新自由主義に、経済的に恵まれない人たちが絡め取られていく様子を、システム正当化理論は描いている。 ちなみに、「システム」とひと口で言っても、実のところ、そこには政治システムのほかに、経済システムや社会文化システムがある。経済システムの正当化への志向性を測定する尺度項目には、「経済格差は不可避であり、それどころか自然なものでさえある」という認識がその中心的なものとして含まれている。 その尺度によって人々の考えを測定した研究によれば、格差によって不利な状態にあり、いわば虐げられているものでさえ、今の仕組みは公正で正当であり、だから今の自分の境遇は仕方のないことと認めてしまうのである。これが自発的な隷従であるとジョン・ジョストは指摘している。 かつて奴隷制があった時でさえ、それに反発して立ち上がった者のほうが、声をあげなかった者たちよりも圧倒的に少数である。フランス革命など世界史的な革命は、体制をくつがえす人間の力を証明するものとして注目を浴びるが、それ以前のずっとずっと長い間、人々は奴隷制や王政への隷従に堪え忍んできたわけであり、ある意味そうした格差社会に驚くべき順応を示してきたのである。 「システム正当化理論」では、歴史上、圧倒的多数の人々が反乱よりも屈服を選び、従属状態に順応してきたことが指摘されている。インドのカーストにおいて下層にある者がそれを当然と考えていたこと、西アフリカの事例においてもカーストに類する制度が廃止された後も、「ご主人さまから呼ばれたら、当然のようにすぐ飛んでくる」といった日常のあり方が続いたことが示されている。人々は現状である日常を「当然のものとして」受け入れ、そのなかで生きているという現実がある。 そして、社会文化的側面においても、システムを正当化する人たちは、これまでの習慣を守ろうとする。それは、夫婦同姓という制度であったり、男尊女卑の伝統的性役割であったりもする。フェミニズム運動も若い女性たちから嫌われる傾向が指摘されている。いまだに玉の輿のように、「幸せな結婚」を望む女性たちは巷にあふれている。 自ら差別状態に入っていっても、差別されているという実感を持たない不利な立場の人たちもいる。差別されている事実に気づくこと自体が、自分の心を傷つけてしまうからだ。 私たち日本で暮らしている人々も、こうした現状において「隷従を続けている」との描写を否定できるだろうか。批判的精神を獲得するには、自身のなかにある認識論的、実存的、関係的不安をまず克服しなければならないのである。そうした安全感覚は、今の日本で広く与えられているであろうか』、「「経済格差は不可避であり、それどころか自然なものでさえある」という認識がその中心的なものとして含まれている。 その尺度によって人々の考えを測定した研究によれば、格差によって不利な状態にあり、いわば虐げられているものでさえ、今の仕組みは公正で正当であり、だから今の自分の境遇は仕方のないことと認めてしまうのである。これが自発的な隷従であるとジョン・ジョストは指摘」、「「システム正当化理論」では、歴史上、圧倒的多数の人々が反乱よりも屈服を選び、従属状態に順応してきたことが指摘されている」、その面では確かに正しいようだ。ただし、「システム正当化理論」では、政権交代が発生したことは説明し切れないようだ。原典では、アメリカ人が書いているので、きちんと書き込んでいるのかも知れないが、翻訳する段階でそうした部分を飛ばしている可能性もある。いずれにしても、翻訳されたものは、政権交代をきちんと説明しておらず、「理論」とよぶには問題があるようだ。
タグ:(その3)(集集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望、なぜ「経済的に恵まれない人」が「新自由主義を支持する」のか? 社会心理学が明らかにしたこと) 新自由主義 週刊エコノミスト Online「集集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望」 実際の「最低賃金」は「全国加重平均」で31円引上げ、961円にすることになった(8月6日付け日経新聞) 「米国型コーポレート・ガバナンスの導入も日本に大きな影響」、「米国型コーポレート・ガバナンスは、日本の労使関係を根底から変えてしまった。同時に経営者は米国と同様に巨額の報酬を手にするようになる」、なるほど。 「低賃金労働が使える限り、企業は資本コストの高い合理化投資を積極的に行わない。 企業は労働コストが上昇すれば、競争力が低下するために合理化投資を行わざるを得ない。大胆に言えば、日本企業の生産性が低いのは、賃金が安いからである」、その通りだ。 「短時間で同じ労働成果を上げることができれば、それは生産性向上を意味し、基本給の引き上げで従業員に還元されるべきものである。 だが、企業は所得が減った従業員に副業を推奨するという奇妙な議論が横行している。「労働の流動化」を口実に賃金引き下げと雇用の安定性が損なわれている」、「労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた」、同感である。 「連合」が立憲民主党と共産党の共闘に水を差し、他方で自民党にもシッポを振っているのは、連合の戦闘力喪失を表している。 「2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日」、というのは初めて知ったが、情けないことだ。 「労働市場で個人が企業と向かい合い、交渉することは不可能である。両者の間には圧倒的な力の差がある。だからこそルーズベルト大統領は労働者の団結権と団体交渉権を認め、全国労働関係委員会に労働争議の調整役を委ねたのである。小手先の制度改革ではネオリベラリズムの弊害を断ち切ることはできない。 バイデン大統領は中産階級の失地回復こそが格差是正の道であり、繁栄に至る道であると主張している。そのためには労働組合が企業に対して十分な交渉力を持つ必要があると説いている」、「貧富の格差拡大は社会を分断し、深刻な貧困問題を引き 「貧富の格差拡大は社会を分断し、深刻な貧困問題を引き起こす。長期的には経済成長を損なうことになる。そうした事態を回避するには現在の制度の構造的な見直しが要である。 税制の見直しや最低賃金の引き上げに加え、正規労働者と非正規労働者に二分された労働市場の見直しも不可欠である。労働者や消費者などさまざまな立場の人の意見を反映させるようなコーポレート・ガバナンスを構築する必要がある」、同感である。 「岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われる」、とあるが、それは期待し過ぎだ。立憲民主党から建設的な意見が出てきてほしいものだ。 現代ビジネス 北村 英哉氏による「なぜ「経済的に恵まれない人」が「新自由主義を支持する」のか? 社会心理学が明らかにしたこと」 「自民党を政権党にするという選択は、ほぼ一貫して第二次大戦後の日本社会のデフォルトの通常風景であり続けた。70年以上、例外的な時期を除けば、現在の政権党にあたる勢力を全体としては、支持し続けているのである。 こうなってくると、そうした選択を単なる「間違い」で済ませるわけにはいかない。むしろ、そうした結果になってしまう理由を考えるべきであろう。それこそが、理性的な思考となるのではないか。 そして、その理由を考えるのに役に立つのが「システム正当化理論」、極めて興味深そうだ。 「日本においても、2009年に政権交代が実現し、民主党政権ができたが、十分に国民の期待に応えた政策を実行できたかどうかまだよくわからない状態で、政権維持に行き詰まり、事実上、最後は政権を投げ出すような行いを示した」、「政権交代がよい結果をもたらすかどうかは、結果論的にあとを待たないと分からない」、その通りだ。 「特に日本ではリスクが嫌われる。リスクをとる覚悟で何かをやるのは、日本社会では「少し変わった人」である。多くの平凡な人たちは、「変わった人」になる勇気など持ってはいない。「ふつうが一番」なのである。そしてその「ふつう」とは政権党を支持することである。この「自身の安全を守りたい」という気持ちが、実存的欲求である」、「そもそもとがった意見を言うこと、何かを批判することについて、日本では免疫に欠ける。 欧米のデータでさえ、この「関係的欲求」に基づき大勢の人はシステム正当化を行うというのがジョン・ジョストたちのデ 「自己責任論は、経済的な自由や競争を重視する新自由主義的な考え方と相性がよい」、その通りだ。 「「経済格差は不可避であり、それどころか自然なものでさえある」という認識がその中心的なものとして含まれている。 その尺度によって人々の考えを測定した研究によれば、格差によって不利な状態にあり、いわば虐げられているものでさえ、今の仕組みは公正で正当であり、だから今の自分の境遇は仕方のないことと認めてしまうのである。これが自発的な隷従であるとジョン・ジョストは指摘」、「「システム正当化理論」では、歴史上、圧倒的多数の人々が反乱よりも屈服を選び、従属状態に順応してきたことが指摘されている」、その面では確かに正し
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