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電気自動車(EV)(その2)(トヨタとホンダが「EVシフト」に乗らず全方位体制を貫く理由、EVシフトで明暗分かれる 自動車部品メーカーの末路、トヨタ連合がEVで反撃 基盤技術を標準化 未来の勢力図見えず、EVを軽視する日本の自動車産業は「ゆでガエル死」する) [科学技術]

電気自動車(EV)については、9月20日に取上げたが、今日は、(その2)(トヨタとホンダが「EVシフト」に乗らず全方位体制を貫く理由、EVシフトで明暗分かれる 自動車部品メーカーの末路、トヨタ連合がEVで反撃 基盤技術を標準化 未来の勢力図見えず、EVを軽視する日本の自動車産業は「ゆでガエル死」する) である。

先ずは、10月31日付けダイヤモンド・オンライン「トヨタとホンダが「EVシフト」に乗らず全方位体制を貫く理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・11月5日まで東京・有明の東京ビッグサイトで開かれている東京モーターショーでは、各社が電気自動車(EV)シフトを打ち出している。その一方で、ハイブリッド車(HV)や燃料電池車(FCV)などを含めた全方位体制を貫く姿勢を示したメーカーもある。トヨタ自動車とホンダだ。
・流線形で漆黒のボディは、まるで黒豹のようだ。その姿をカメラに収めようと、周りを何重にも囲む来場客がシャッターを切る。スポットライトとカメラのフラッシュを浴び、その車は恍惚としているようにさえ見えた。 東京モーターショーの一般公開で初の日曜日を迎えた10月29日。トヨタが世界初公開したコンセプトカー「GR HV SPORTS concept」の周囲には多くの人だかりがあった。GRとは、トヨタが世界ラリー選手権などに参戦するモータースポーツ活動「GAZOO(ガズー)レーシング」の頭文字から名付けられたスポーツカーブランドだ。
・電気自動車(EV)シフトが加速するこの時代、他の自動車メーカーならEVタイプのスポーツカーを展示しそうなものだが、GR HV SPORTS conceptは「スポーツカーと環境技術を融合した新たなクルマの楽しさを提案する」狙いの下に開発されたハイブリッド車(HV)だ。
・その隣に展示されているのは、これまた漆黒のボディの新型「センチュリー」だ。センチュリーといえば、皇室や政治家、財界トップ御用達として知られるトヨタの最高級車。2018年半ばの発売を前に、20年ぶりにフルモデルチェンジされた3代目となる。このセンチュリーもまたHVだ。
・トヨタが「究極のエコカー」と位置付け、莫大な開発資金を注ぐ燃料電池車(FCV)のバスも展示されている。この燃料電池バスは、燃料となる水素を車載の高圧タンクから燃料電池に供給し、そこで空気中の酸素と化学反応させて作った電気でモーターを駆動させ走行する。世界初の量産FCV「MIRAI」向けに開発したものと同じシステムで、外部への電力供給能力を備えているため、災害などの停電時に避難所や家電の電源としての利用も可能だ。
・すでに今年、トヨタは東京都交通局へ2台の燃料電池バスを納車しており、今年3月から東京駅丸の内南口~東京ビッグサイト間を運行。さらに2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、100台以上導入予定といい、トヨタの開発担当者は「東京都だけでなく、多くの自治体から引き合いがある」と話す。
・一方、トヨタは今回、EVコンセプトカーも出展している。それが「TOYOTA Concept-愛i」だ。今年1月に米国ラスベガスで初公開した4輪モデルに加え、今回のモーターショーで小型モビリティ「Concept-愛i RIDE」と、セグウェイ風の3輪電動スクーター「Concept-愛i WALK」を新たに追加した。
・実は、このシリーズの開発を進めているのは、EV開発部隊として昨年12月にトヨタが発足させたEV事業企画室だ。だが、開発の主眼を置いているのはEV技術そのものというよりも、人工知能(AI)技術にある。 車がドライバーの表情や動作、疲労度や覚醒状態などを分析し、感情や好みを理解する。状況次第で自動運転モードに切り替わったり、話し掛けたりする。コンセプトは「人を理解し、共に成長するパートナー」を目指すことにある。
・こうしたトヨタの出展車両から見える戦略は、決してEVに傾斜することはなく、HVやFCVなどにウイングを広げ、市場がどう振れても対応できる全方位体制を築き上げることだ。EVの領域はあくまで近距離コミューターなどで、HVとプラグインハイブリッド車(PHV)が乗用車、FCVは路線バスや宅配トラックに棲み分ける。その方針にブレがないことを、東京モーターショーで改めて示した形だ。
・こうした全方位戦略を貫く自動車メーカーは何もトヨタだけではない。 ホンダも今回、EVコンセプトカー「Honda Urban EV Concept」を日本初披露し、このモデルをベースとしたEVの市販化を2019年に欧州で、2020年には日本で開始する方針を明らかにした。ホンダは2030年までに販売総数の3分の2を電動化することをすでに発表しており、EVの発売はその戦略の一貫だ。
・だが、ホンダもHVを90年代から市販化し、累計販売台数は200万台を超える。八郷隆弘社長が「電動化の中心はあくまでHVとPHV」と明言している通り、EVが収益の主力になるとは考えていない。事実、モーターショーでは「CR-V」や「ステップワゴン」などHVのラインナップ拡充のPRも怠っていない。
・トヨタとホンダに共通するのは、他社の追随を許さないHVの高い技術を持つがゆえに、その先行者利益を長く享受したい思惑だ。ゆえにEVへの本気度は相対的に低くなる。 今、自動車産業は100年に一度の大変革の時代を迎える。欧州や中国は一気にEVへシフトし、HV技術で先行するトヨタやホンダの追撃にかかる。全方位戦略はその攻勢に耐えられるのか。勝負の趨勢はそう遠くない未来に見えてくる。
http://diamond.jp/articles/-/147800

次に、11月2日付けダイヤモンド・オンライン「EVシフトで明暗分かれる、自動車部品メーカーの末路」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・電動化、自動運転、コネクテッド。11月5日まで東京・有明の東京ビッグサイトで開かれている東京モーターショーの見どころの一つは、この3分野への各社の対応だ。これらに強みを持つ自動車部品メーカーの存在感は今、急速に高まりつつある。モーターショーでも、業界の垣根を超えてしのぎを削る開発競争の一端が垣間見える。
・「得意とする電子・電動化技術を生かし、これから大きな成長分野となる電動化や自動運転の波に対応する事業を力強く推進していく」 日立オートモーティブシステムズの関秀明社長は東京モーターショーでそう話し、電動化システムの3大基幹部品であるモーター、インバーター、リチウムイオンバッテリーなどの事業拡大に注力する方針を示した。 日立オートモーティブシステムズは、総合電機メーカーである日立製作所の100%子会社で、車の中身を支えるメカトロニクス技術やソフト制御技術に強みを持つ。今年7月にはホンダと電動車両用モーターの開発、製造、販売を行う合弁会社を設立し、電動化シフトへの足場固めを進めている。
・車の自動運転に欠かせない基幹部品の開発にも注力する。今回の東京モーターショーでは、車が走行中に障害物をリアルタイムで検知する、世界最小クラスの遠距離レーダーを展示。これまで困難だった遠距離のミリ波を効率よく送受信できるようにし、車の前方200メートル、左右18度の検知性能を確保したという。2020年の製品化を目指す。
・三菱電機も電動化や自動運転、コネクテッドなどの事業強化を鮮明にする。これら三菱電機の最新技術を搭載したコンセプトカーが「EMIRAI4」だ。1999年の「OMNI1」から数えて14台目のコンセプトモデルとなるEMIRAI4は、ヘッドアップディスプレイ(HUD)上に車が進むべき道路や車線をAR(拡張現実)で表示する機能や、ドライバーの顔の向きや視線から脇見・居眠りを検知し自動運転から手動への切り替えを支援する機能などが盛り込まれ、まさに未来のモビリティを体現する。
・今回の東京モーターショーに出展する各メーカーのトップが口をそろえるのは「自動車産業がこれまでにない大きな変革期にある」という認識だ。従来型のエンジン車がEVに置き換われば、約4割の部品が不要になるとされる。特にエンジン周りに関わる部品メーカーには「生き残りをかけた戦いがこれから始まる」との危機感が強い。
・一方で電動化技術や半導体、人工知能(AI)などの強みを持つメーカーにとっては商圏を拡大するチャンスだ。国内外の電機メーカーやIT企業などは一気呵成に攻勢を強める。 日本の製造品出荷額は2000年代以降、電機機械が韓国や台湾の台頭で衰退したこともあり自動車部品産業への依存度が大幅に増加した。素材を含めた就業人口は130万人に上り、日本の製造業は自動車部品産業の“一本足打法”というのが現状だ。その大黒柱が倒壊するような事態となれば、日本経済への打撃は計り知れない。
・100年に一度の大変革期に自動車産業は果敢に立ち向かうことができるのか。生き残りをかけた新時代の覇権争いが始まろうとしている。
http://diamond.jp/articles/-/147929

第三に、11月9日付けロイター「トヨタ連合がEVで反撃、基盤技術を標準化 未来の勢力図見えず」を紹介しよう(▽は小見出し、社名のあとの証券コードは省略)。
・電気自動車(EV)で出遅れるトヨタ自動車を中心とした企業連合が、ようやく「反撃」の動きに出始めた。EV基盤技術の標準化だ。部品のモジュール化が一段と進むEVは、日本のものづくり技術の優位性が失われるリスクも高まる「両刃の剣」でもある。相次ぐベンチャーなどの参入も自動車業界の勢力図を変える可能性を秘める。世界的なEVへのうねりの先にどのような未来像があるのか。各社の手探りが続きそうだ。
▽グループで開発・コスト削減
・「未来の車を決してコモディティ(汎用品)にしたくない」――。トヨタの豊田章男社長が抱いた思いはマツダとの提携、そして10月にデンソーも加わりEVの基盤技術開発会社設立へとまず結実した。 複数企業が、軽自動車からトラックまで幅広く展開できる同じプラットフォーム(車台)、駆動モーター、電池などを開発・共有すればコストを下げられる。その上で、個性を出しにくいEVで「いかにブランドの味を出すかが挑戦だ」と豊田社長は話す。
・永田理・トヨタ副社長は7日の決算会見で、この新会社で「みなで力を合わせ、コストダウンを図りながら、よりよい電動化戦略を進めたい。いろいろな会社の参画を期待したい」と呼びかけた。傘下の日野自動車やダイハツ工業はもとより、今のところ出資先のスバル、提携協議中のスズキが参画に前向きだ。
・「チーム・ジャパン」としてやれることを考えないと欧米・中国勢などと対抗するのは難しいと、スズキの鈴木俊宏社長も2日の決算会見で指摘。好業績をけん引したインドでEV化が「一気に進めば、足元をすくわれるのではと非常に心配」と危惧する。
・独フォルクスワーゲンは、すでに欧米で投入しているEV「e―ゴルフ」の受注を10月から始めた。同社の日本でのEV販売は初めて。2020年に専用車台「MEB」ベースのEVを発売予定で、25年にはグループで新車の4分の1に相当する300万台のEV販売を目指し、同年までにEV50車種を投入する計画だ。
・EVで先行してきた日産自動車、仏ルノー、三菱自動車の連合も20年までにEV専用車台を開発し、モーターと電池も共有。22年までに3社で計12車種のEVを投入する方針。
▽技術の優位性維持「楽観できない」
・日産の新型EV「リーフ」開発責任者の磯部博樹氏は、ガソリン車よりも静かなEVでは「人は細かい振動、モーターや風の音などがもっと気になり出す」と話す。ガソリン車以上に求められるEVの静粛性や振動抑制などに、日本車大手が長年磨いてきたすり合わせの技術こそ「今後も生きる」と強調する。 米テスラ(TSLA.O)、掃除機で知られる英ダイソンが20年までに開発を目指すなど、EVではベンチャーや異業種からの参入も相次ぐ。
・トヨタ系部品会社の幹部は「車は人の命を運ぶ。ベンチャーなどがいきなり安全な車を作るのは難しい」と冷ややかだ。しかし、何年か経って経験を積めば、新規参入組に技術も追いつかれる恐れがあり、自社のものづくりの力が優位であり続けるかは「楽観できない」という。 EVは一般的な自家用車から富裕層向け、移動弱者用など各社用途が異なり、必ずしも同じ土俵で直接戦うわけではない。
・だが、車の保有から利用への動きが強まるなど消費者の価値観は多様化している。日本車が売りにする高品質だけでは勝てなくなるかもしれず、シェアリングサービスが拡充すれば、保有需要を侵食する可能性がある。
▽ベンチャーは水平分業
・政策の後押しでEVの普及が進むインドや中国の市場をにらみ、ベンチャーは動き始めている。  慶応義塾大学の清水浩名誉教授は、インドで100万円以下で買えるEVの普及を目指し、同国で多く利用されるタクシーを開発中だ。清水氏は早くからEV開発に従事し、04年にEV「エリーカ」を開発したことで知られる。
・同氏は、インドのタクシーは軽自動車ベースのマルチ・スズキ「800」が多く、年間20万台の市場規模があるが、まだ足りないとみている。 開発中の車は床を低く、車内や荷室を広くし、航続距離は350キロ超と1日の平均走行距離(約150キロ)に十分な性能にする。
・NPO法人インドセンターのヴィバウ・カント・ウパデアーエ代表は「マルチ・スズキもそうだったが、普及させるには政治の力」が必要として、清水氏の活動を全面支援する。3年後には現地で生産を始め、タクシーから自家用車への展開も見込む。「来年にはEV会社がインドで5社ほど生まれるだろう」といい、車台や部品を他社に提供することも検討している。
・ベンチャーのGLM(京都市)も「水平分業型ビジネスモデルによる新しいものづくり」(小間裕康社長)を進める。 トヨタ出身の技術者らを採用し、EVのスポーツ車を15年から量産。19年には4000万円の高級EVを日本や欧州、中国、中東などで売り、販売1000台を目指す。7月には香港の投資会社傘下入りを発表し、資金力もつけた。
・部品最大手の独ボッシュなど多くの企業が、すでにGLMと組む。同社は中国企業などにEVの車台やモーター、電池をセット販売することも事業の柱にする。GLMと清水氏の会社は米アップルなどと同様で自社工場を持たない。
・トヨタなどの日本車大手がEVでも勝つためには何をすべきか――。 世界の車大手に計測機器などを提供する堀場製作所の堀場厚会長は、ガソリン車などで長年培った技術、「付加価値の高いノウハウ」を磨き続けることだと指摘。デジタル家電で日本勢の衰退を招いた敗因の1つは、技術者の「敵陣流出」だったことにも触れ、すぐには収益にならない研究開発でも技術者を逃がさず「長く育てる」ことだと強調する。
・欧米の車メーカーや新規参入企業などはこれまでの「車を作って売る」だけでなく、車台や部品、サービスの提供など新たな収益源も得ようとしている。 コンサルティング会社ローランド・ベルガーの貝瀬斉パートナーは、日本車大手は戦場の広がりを念頭に置いて「どこでどういう価値を提供し、利益を上げるのか」をしっかり考えることが重要、と話している。
https://jp.reuters.com/article/toyota-ev-idJPKBN1D80EI

第四に、ITジャーナリスト・ライターの中尾真二氏が11月27日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「EVを軽視する日本の自動車産業は「ゆでガエル死」する」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・このところ自動車業界が騒がしい。タカタ、神戸製鋼、三菱自動車、日産、スバルのスキャンダルを見るに、自動車業界の劣化が止まらない、と言われても反論できない状態だ。自動車業界を中心とする製造業は、日本の産業の根幹を支える。この状況に暗澹たる気持ちになる。 別に憂国の士を気取るつもりはないが、このままでは本当に日本の産業はダメになりかねないと思っている。
・これにはメディアの責任が大きい。テレビなどでは「日本人すごい!」という切り口で、日本の文化や産業の良さをことさらに強調している。日本人の自己満足を満たすように作るメディアの「自己満足バイアス」は、衰退の裏返しではないのか。
▽EVよりハイブリッドがいい、と安心しきっている場合か
・どのような点で危機感不足を感じるのか。国内自動車産業に根付くマスコミやジャーナリストの危機感不足である。筆者も足元はこのメディア業界に属しているため、その空気感は肌で感じる。 記事などで目立つ論調は、ざっくり言えば「EVは普及しないのでハイブリッドで十分」という意見だ。 正直なところ、界隈で取材を重ねる筆者も近い考えを持った時期もあった。
・しかし、日本や欧州においてEV(EVはFCV含むZero Emission Vehicle)の普及には時間がかかるものの、この流れは止められないことは誰もが認めるはずだ。グローバルでは中国のNEV法が施行される2019年がひとつのターニングポイントになるだろう。結果、筆者の意見としては「慌てる必要はないが、静観している場合ではない」というものだ。
・この現状で自動車業界の関係者やアナリストには、日本の自動車業界を良くも悪くも信頼しきっている論調が強い。 曰く、「EVはトータルでエコではない(Well to Wheel:油田から車輪まで。ちなみにWell to WheelでCO2排出量はEVの方が内燃機関よりも低いと言われている)」「製造から廃棄までの排出CO2を考慮せよ」「モーター、バッテリー技術はコモディティ化しているので日本メーカーが本気を出せばすぐに追いつける」「走行距離、充電時間、コストなどからEVは市場のメインストリームにはならない」といった声だ。
・このような論調にあえて警鐘を鳴らしたい。そこには理由がある。 というのは、この状況が出版や家電といった衰退産業における、かつての論調に通じるものを感じるからだ。
▽自動車も、出版や家電と同じ道を歩むのか
・状況変化に対して楽観視した結果、「ゆでガエル」になった日本の産業をいくつか知っている。念のため、ゆでガエルとは、水から火にかけられたカエルは徐々に温められるため茹でられていることを知らず、気がつくころには茹で上がっているという状態だ。
・出版業界がわかりやすい。筆者はエンジニアを経て紙の時代から出版業界に入り、技術系の書籍や雑誌に20年以上携わってきた。出版業界もいまや構造不況業種といってよい。あちこちで制度疲労を起こしている。出版業界は、独占禁止法の例外規定による価格維持制度と、取次という特殊なサプライチェーンの成功事例から脱却しきれず、デジタル対応を始めとする事業転換のタイミングを逃した。従来型の流通を軸とした既得権の範囲にとどまるビジネスが多く、投資機会も逸している。結果として衰退は現在進行系である。
・取材先としてウォッチしてきた家電や電子機器業界も然り。独自技術と品質へのこだわり(自体は悪くはないのだが)が、結果的に変革を阻害し、後発国に出し抜かれた。往年の日本ブランドがいくつも中国資本となり、残っている企業はほぼ国内市場でしかプレゼンスを発揮できていないのは周知である。 どちらの業界も既存ビジネスの成功体験から抜け出せず、環境変化を否定的かつ楽観的にとらえ、「まだいける」という判断ミスと、機会損失を生んだ。これらの蓄積が構造不況につながり、産業衰退を引き起こしたと言っては言い過ぎだろうか。
・筆者には、前述のような自動車業界におけるメディアの楽観的かつ現状肯定的な論調が、かつての出版業界や家電・電子機器業界の声と、どうしてもかぶって聞こえてしまう。
▽業界が思っているほど参入障壁は高くない
・ならば、ゆでられたカエル側の視点で、なにか教訓はあぶりだせないだろうか。 クルマづくりは無数の部品と多数のコンポーネントの組み合わせだ。単に組み立てるだけでなく完成品としてのバランスと協調は、モーターやバッテリーを調達できる程度では、難しいという意見がある。つまり、大手自動車メーカーにだけクルマ作りの素地があるという見解だ。
・これに対しての反論はテスラの例がいちばんわかりやすい。テスラは生産体制や品質にトラブルは見られるものの、着実に課題に対応している。 自動車業界が思っているほど、すでに自動車という製品は特殊なものではないのかもしれない。日本ではGLM、クロアチアのリマック・アウトモビリといったEVメーカーの例もある。スーパーカーばかりではない。小型モビリティのEVメーカーは国内外に無数に存在する。その中には大手メーカーをスピンオフしたエンジニアがかかわっていることもある。
・確かにメルセデスやトヨタのようなクルマは作れないかもしれないが、大手完成車メーカーもすべて独自技術で成立しているわけではない。関連する無数のサプライヤーやパートナーの分散したノウハウは無視できないものだ。 したがって現在、世界の主要メーカー以外はクルマが作れない、というのは驕り以外のなにものでもない。
・日本の家電メーカーは、この驕りによって韓国や中国のメーカーに負けた。いまでも日本製品のブランドは残っているが、グローバルのコンシューマ向け市場はサムスン、LGに押さえられ、通信機器やPCでは、HUAWEI、レノボ、ASUSに勝てないでいる。日本市場だけ見ていると実感がわかないかもしれないが、海外では「日本製品は品質が高い」という神話だけが生き残っており、市場では日本製品はほとんど見かけない。品質だけでは勝てないグローバル市場の現実だ。
▽EVは当面普及しないという楽観はガラパゴス携帯の失敗と同じ
・EVは当面実用化されない、という論調は最近は収まりつつあるが、充電スポットの整備や充電時間を考えて、EVの普及は相当な時間がかかるため、じっくり腰を据えてかかればいいという意見は根強い。これは総論としては間違っていない。たとえば、明日から世界中の内燃機関自動車の製造をストップしたとして、街中のクルマがEVに置き換わるには十年単位の年月が必要だ。
・しかし、現実にZEV規制(新車生産のゼロエミッションビークル比率)が始まれば、状況は変わってくるだろう。もちろんそれでも市場や産業界が追従せず、普及しない可能性もある。現在の基準で判断するのは危険だ。
・これと本質的に似た状況で、結果失敗をしたのが通信事業者と携帯電話メーカー。いわゆるガラパゴスと言われた現象だ。 ガラパゴスについて改めて説明するまでもないと思う。 グローバルで進む通信事業の分社化、オープン化を否定し、独自の機能品質にこだわったガラケーエコシステムとその崩壊に至る一連である。NTTなど通信キャリアの解体(分社化)ができないため、メーカーは端末ビジネスを放棄せざるを得ず、キャリアはARPUビジネス(ユーザー当たりの利益)から抜け出すことができず、直営店舗でさえあやしげな抱き合わせ契約と、高価な端末の分割払いでユーザーの囲い込みに腐心している。しかも売れている端末は海外製品ばかりだ。
・思えばかつて、通信事業者や端末メーカーも「スマートフォンは時期尚早」「端末と回線を切り離すと品質が維持できない」「iPhoneや中国製品に脅威となる新技術はない」などと豪語していた。どれも当時の市場環境からすると間違いではなかった。しかし気がつけばこの有様だ。日本は、世界有数の通信インフラと関連要素技術を持ちながら、国際競争力を発揮できないどころか、国内でも凡庸な商用環境しか提供できていない。
▽スマホやITではなく日本経済はクルマが売れてナンボ
・自動車業界に話を戻す。 内燃機関を捨ててすべてをEVにしろとまでは言わない(独自路線を行くなら、それもひとつの戦略ではある)。 「事が動いてからで間に合う」といった認識が最も危険なのだ。 「焦らないでいい」と「なにもしないほうがいい」ということは決してイコールではない。 結果としてなにもしなかったり、既存のビジネスにもたれたままだと、国内自動車産業は、ここまで述べたようないくつかの「ゆでガエル」産業と似たような末路を辿ってしまうかもしれない。
・バッテリーやモーターについて、先端を行く技術を持っているにもかかわらず、後ろ向きにも見えるガソリン車にこだわるのはなぜだろうか。FCVを800万円で市販できるなら、なぜもっと現実的なEVの市場投入に躊躇するのか(大手メーカーが考えていないわけはないだろうが)。世界で戦う自動車メーカーを複数擁する日本の自動車業界であればこそ、もっと強く先進性を押し出すべきだろう。ガソリンもEVも両方やればいい。現にダイムラーもBMWもGMもそうしている。
・すでに通信機器、PC、スマートフォン、ソフトウェア、Webサービスといった領域で、日本企業はグローバル市場で総崩れ状態である。自動車産業もそうなってしまったらと考えると、いたたまれない。 スマートフォンが売れても喜ぶのは海外メーカーばかりかもしれない。政府や自治体の公募でNECや富士通が巨大プロジェクトを落札しても購入されるPCはすべて中国資本になろうとしている。
・日本のソフトウェア産業は、特殊なSIゼネコン構造により海外でのプレゼンスはほぼゼロだ。ソフトウェアサービスやインターネットビジネスにおいては、Google、Amazon、Facebookといったプラットフォームに依存せざるをえない。
・あえて極論すれば、国内で新興IT業界がいくら儲かっても日本全体の景気は良くならない。せいぜい、イロモノIT社長が六本木ヒルズで女子アナ合コンを開くくらいの経済効果しか期待できない。シャンパングラスタワー効果は、リアルにシャンパングラスタワーをやれということではない。
・日本の基幹産業である自動車および製造業は、日本経済そのものに与えるインパクトが大きい。10万円のスマホが10台売れるより、クルマ1台売れたほうが多くの国内産業を救えるかもしれない。クルマの所有が進まないのであれば、クルマの利用が世界トップレベルの市場づくりを目指すなど、強い打ち出しがあってもいい。EVや自動運転、次世代モビリティによって、業界の再編やプレーヤーの交代といった痛みも伴うだろう。が、それを避けるようでは、成長はない。
http://diamond.jp/articles/-/150451

第一の記事で、 『トヨタとホンダに共通するのは、他社の追随を許さないHVの高い技術を持つがゆえに、その先行者利益を長く享受したい思惑だ。ゆえにEVへの本気度は相対的に低くなる。 今、自動車産業は100年に一度の大変革の時代を迎える。欧州や中国は一気にEVへシフトし、HV技術で先行するトヨタやホンダの追撃にかかる。全方位戦略はその攻勢に耐えられるのか。勝負の趨勢はそう遠くない未来に見えてくる』、というのはトヨタとホンダにかなり遠慮した表現だが、本音では疑問符を投げかけているようにも思える。
第二の記事では、 『EVシフトで明暗分かれる』、としながら、機械部品など「暗」の業界が何を考えているのかの説明がないのは、やや物足りない印象だ。
第三の記事で、 『車の保有から利用への動きが強まるなど消費者の価値観は多様化している。日本車が売りにする高品質だけでは勝てなくなるかもしれず、シェアリングサービスが拡充すれば、保有需要を侵食する可能性がある』、というのは、確かにその通りだろう。 『堀場厚会長は、ガソリン車などで長年培った技術、「付加価値の高いノウハウ」を磨き続けることだと指摘。デジタル家電で日本勢の衰退を招いた敗因の1つは、技術者の「敵陣流出」だったことにも触れ、すぐには収益にならない研究開発でも技術者を逃がさず「長く育てる」ことだと強調する』、というのはややキレイ事過ぎる印象を受けた。
第四の記事で、『これにはメディアの責任が大きい。テレビなどでは「日本人すごい!」という切り口で、日本の文化や産業の良さをことさらに強調している。日本人の自己満足を満たすように作るメディアの「自己満足バイアス」は、衰退の裏返しではないのか』、『自動車業界におけるメディアの楽観的かつ現状肯定的な論調が、かつての出版業界や家電・電子機器業界の声と、どうしてもかぶって聞こえてしまう』、『業界が思っているほど参入障壁は高くない』、『EVは当面普及しないという楽観はガラパゴス携帯の失敗と同じ』、などの指摘は同感だ。筆者の経験の裏付けられた強い危機感が伝わってきて、参考になる記事だ。
タグ:電気自動車 (EV) (その2)(トヨタとホンダが「EVシフト」に乗らず全方位体制を貫く理由、EVシフトで明暗分かれる 自動車部品メーカーの末路、トヨタ連合がEVで反撃 基盤技術を標準化 未来の勢力図見えず、EVを軽視する日本の自動車産業は「ゆでガエル死」する) ダイヤモンド・オンライン 「トヨタとホンダが「EVシフト」に乗らず全方位体制を貫く理由」 ハイブリッド車(HV)や燃料電池車(FCV)などを含めた全方位体制を貫く姿勢を示したメーカーもある。トヨタ自動車とホンダ EVコンセプトカーも出展 「TOYOTA Concept-愛i」 EV事業企画室 開発の主眼を置いているのはEV技術そのものというよりも、人工知能(AI)技術にある 決してEVに傾斜することはなく、HVやFCVなどにウイングを広げ、市場がどう振れても対応できる全方位体制を築き上げることだ トヨタとホンダに共通するのは、他社の追随を許さないHVの高い技術を持つがゆえに、その先行者利益を長く享受したい思惑だ。ゆえにEVへの本気度は相対的に低くなる 「EVシフトで明暗分かれる、自動車部品メーカーの末路」 日立オートモーティブシステムズ 三菱電機 従来型のエンジン車がEVに置き換われば、約4割の部品が不要になるとされる 日本の製造業は自動車部品産業の“一本足打法”というのが現状だ。その大黒柱が倒壊するような事態となれば、日本経済への打撃は計り知れない ロイター 「トヨタ連合がEVで反撃、基盤技術を標準化 未来の勢力図見えず」 部品のモジュール化が一段と進むEVは、日本のものづくり技術の優位性が失われるリスクも高まる「両刃の剣」でもある グループで開発・コスト削減 トヨタ 日産自動車、仏ルノー、三菱自動車の連合も20年までにEV専用車台を開発し、モーターと電池も共有。22年までに3社で計12車種のEVを投入する方針 技術の優位性維持「楽観できない」 何年か経って経験を積めば、新規参入組に技術も追いつかれる恐れがあり、自社のものづくりの力が優位であり続けるかは「楽観できない」という 車の保有から利用への動きが強まるなど消費者の価値観は多様化している。日本車が売りにする高品質だけでは勝てなくなるかもしれず、シェアリングサービスが拡充すれば、保有需要を侵食する可能性がある ベンチャーは水平分業 中尾真二 「EVを軽視する日本の自動車産業は「ゆでガエル死」する」 これにはメディアの責任が大きい。テレビなどでは「日本人すごい!」という切り口で、日本の文化や産業の良さをことさらに強調している。日本人の自己満足を満たすように作るメディアの「自己満足バイアス」は、衰退の裏返しではないのか この現状で自動車業界の関係者やアナリストには、日本の自動車業界を良くも悪くも信頼しきっている論調が強い この状況が出版や家電といった衰退産業における、かつての論調に通じるものを感じるからだ 状況変化に対して楽観視した結果、「ゆでガエル」になった日本の産業をいくつか知っている 出版業界 家電や電子機器業界も然り 独自技術と品質へのこだわり(自体は悪くはないのだが)が、結果的に変革を阻害し、後発国に出し抜かれた どちらの業界も既存ビジネスの成功体験から抜け出せず、環境変化を否定的かつ楽観的にとらえ、「まだいける」という判断ミスと、機会損失を生んだ。これらの蓄積が構造不況につながり、産業衰退を引き起こしたと言っては言い過ぎだろうか 業界が思っているほど参入障壁は高くない テスラの例 海外では「日本製品は品質が高い」という神話だけが生き残っており、市場では日本製品はほとんど見かけない。品質だけでは勝てないグローバル市場の現実だ EVは当面普及しないという楽観はガラパゴス携帯の失敗と同じ
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情報セキュリティー・サイバー犯罪(その2)(GDPR(EU一般データ保護規則)が遠い国の話で済まない理由、あなたのパソコンが危ない 追跡!謎の新型ウイルス) [科学技術]

情報セキュリティー・サイバー犯罪については、昨年11月1日に取上げた。今日は、(その2)(GDPR(EU一般データ保護規則)が遠い国の話で済まない理由、あなたのパソコンが危ない 追跡!謎の新型ウイルス) である。

先ずは、PwCコンサルティング パートナー サイバーセキュリティ・アンド・プライバシー・リーダー 山本 直樹氏が5月18日付けダイヤモンド・オンラインに掲載した「GDPR(EU一般データ保護規則)が遠い国の話で済まない理由――デジタル時代におけるプライバシー規制の潮流」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽GDPRがやってくる
・昨年春に欧州委員会にて採択されて以来、国内でもじわじわと注目を集めるGDPR(EU一般データ保護規則)。遠いヨーロッパのことだから日本の本社には関係ないという誤解もいまだに散見されるが、違反時には年間売上の4%または2000万ユーロのいずれか高い方という高額な制裁金が課される可能性があり、財務的なインパクトや評判リスクの大きさは計り知れない。また、ライバル企業の訴訟戦略に巻き込まれるリスクもあり、対応の遅れは命取りになる。
・GDPRの特徴の一つに「域外適用」という考え方がある。GDPRは、EUで成立したEUの法律であるにもかかわらず、日本を含むEU域外の企業にも適用されてしまうのだ。日本企業の中には、「ヨーロッパに拠点があり現地に従業員がいる」「ヨーロッパの消費者向けにサービスを提供している」「世界中の従業員情報をクラウドベースの人事システムで一元管理している」「ヨーロッパのデータセンターにある個人情報データベースに日本からアクセスしている」「もともと日本国内向けのサービスだったが、今ではヨーロッパからの訪日客も頻繁に活用している」等、さまざまな観点でGDPRの適用対象となる企業が多く存在するはずだ。
▽GDPRが生まれた背景
・ヨーロッパでは従来からプライバシーに対する意識が強かった。例えば、社員が業務時間中に会社のPCを使ってどのようなWebサイトにアクセスしているのか、システム上のログを取って会社が監視しようとする。これが日本であれば、社員側も、業務に関係ないことをすべきでないという意識が強く、予めルールさえ決めておけば大きな問題に発展することはない。
・ところが、ヨーロッパでは、会社から監視を受けること自体に大きな抵抗があるようだ。歴史を紐解けば、特定の宗教や民族が迫害を受けた暗い過去もあり、政府や企業等の強大な権力から、弱者である個人が監視を受けることに対して、過敏に反応する人が多いのは自然なことなのかもしれない。
・GDPRは、長年の議論の末、昨年ついに採択され、2018年5月施行という明確な期限が設けられた。これを機に、日本でもにわかに大きな話題となっているのだが、GDPRの前身である「一般個人データ保護指令」は、1995年の時点で採択されており、今から20年以上前には、GDPRの骨格はできあがっていたことになる。しかし、その規制をさらに強化しなければならなくなった昨今の事情を理解する必要がある。
▽プライバシー以上に保護すべきもの
・昨今、ヨーロッパにおいて保護すべきものは、プライバシーだけではなくなってきた。それは産業そのものだ。インターネットを最大限に活用したアメリカ型のビジネスが、国境を越えてユニバーサルなサービスを提供するようになった。現代のコンピューティングパワーを持ってすれば、企業のやりたいことは、大概何でも実現できてしまい、技術的な制約は存在しない。アイデア次第では、業界の勢力図が一夜にして塗り替えられ、場合によっては既存のオールドプレイヤーが一掃されてしまうという事態も起こりかねない。
・しかも、他国からやってきた新しいプレーヤーがヨーロッパ向けにサービスを提供する場合であっても、極端なケースでは、ヨーロッパに物理的な事務所を構えることなく、サービスだけが提供されてしまうこともある。利用者から見れば、もはや企業の国籍や国境など意識することなく、自らのライフスタイルにあった便利なサービスを選ぶだけである。しかし、既存の枠組みのままでは、これらの新プレーヤーに法人税を課すルールが不明瞭であったり、ヨーロッパでは雇用が創出されなかったりと、さまざまな問題が残る。
・欧州委員会がGDPRの成立を加速させた背景には、このような危機感があると見るのが自然だろう。EU居住者の個人情報を域外に移転することを規制し、重い制裁金を課すことによって、域外企業には好き勝手させないという意思が透けて見える。
▽日本企業は本当に デジタル化への舵を切れるのか
・日本企業にも目を向けてみたい。最近では、さまざまな業種の企業において、将来のデジタル戦略を検討する社内ワーキンググループが作られ、新しいビジネスモデルの模索が始まっている。しかし、これまでのところ、残念ながら、「IoT」や「AI(人工知能)」といったキーワードだけが先行し、世の中を一変させてしまうほどの破壊的な勢力は出てきていない。 
・今後、いくつかの企業において順調にデジタル化が進むとすれば、その企業はサービス産業に生まれ変わるだろう。 分かりやすい例として自動車を挙げてみよう。自動車産業は日本が世界に誇る産業であり、製造業の代表格だ。これまでのビジネスモデルは、簡単に言うと、自動車という製品を設計・製造し、販売店を通して市場に流通させるというものだ。この流れにおいては、製造元と顧客との直接的なコンタクトは、製品保証に関するやり取り程度に限られており、大半の顧客情報は販売店が独自に管理していた。
・しかし、コネクティッド・カー(つながるクルマ)と称される新しいサービス形態では、自動車を常時ネットワークに接続し、カーライフに関わる情報提供や安全走行に資するサービス等を提供し、製造者が製品の販売後も、引き続き顧客とつながりつづけるというサービスモデルにシフトしていく。 
・実はここでもGDPRを考えなければならない。GDPRにおける個人情報の定義は、日本の個人情報保護法のそれよりも広く、例えば、自動車の車両識別番号やGPSで取得した地理的位置情報等も該当する。万が一、企業がプライバシー対応を軽視してしまったら、デジタル化戦略も頓挫しかねない。
▽セキュリティがコストだった時代は過去の話
・今でもセキュリティ投資に後ろ向きな経営者はいる。口ではセキュリティが重要だと言っていても、本心では、単なるコストとしか見ておらず、そこから生み出される価値などないと感じているからだ。しかし、経営者がそのような感覚だと、残念ながらその企業はデジタル化の波に乗り遅れるだろう。先進的な企業では、セキュリティを戦略的な投資領域と位置付けている。GDPR対応は、企業のデジタル化に対する本気度合を計る試金石だとも言えよう。
・最近では、「セキュア・バイ・デザイン」あるいは「データプロテクション・バイ・デザイン」という言葉もよく耳にするようになった。新しいビジネスモデルやサービスを開発する際には、後からセキュリティの要素を付け加えるのではなく、企画段階から検討すべき重要な要素の一つとして、セキュリティを捉えるべきなのだ。
・事実、PwCがコンサルタントとして支援しているクライアントのGDPRプロジェクトの中には、全社的なコンプライアンス対応だけでなく、特定のデジタルサービスを対象とした事業部単位の取組みも多く含まれる。今後1~2年の期間でサービス提供を開始する新しいビジネスにとって、GDPRの要求事項が大きな影響を及ぼすため、そのためのコンプライアンス対応をすると同時に、セキュリティを差別化要素として位置づけてサービス開発を進めているのだ。
・GDPRを論じる際、域外適用という特殊性や重い制裁金等に注目が集まりがちである。もちろん、法律を適切に遵守するための取り組みは重要なことであるが、単なるコンプライアンス対応だと高を括って、文書策定等の形式的な対応に終始してしまうのは得策ではない。世界で起きているビジネスやテクノロジーの潮目を読み、自社のビジネス戦略を見つめ直す格好の機会を逃すべきではない。
・次回、2回目の寄稿では、『施行まで1年、秒読み段階に入ったGDPR(EU一般データ保護規則)に対して今からできること』と題し、企業におけるGDPR対応のポイントを解説する(細か過ぎるきらいがあるので、紹介は省略(リンク先は下記の2行目)
http://diamond.jp/articles/-/127360
http://diamond.jp/articles/-/134763

次に、8月3日付けNHKクローズアップ現代+「あなたのパソコンが危ない 追跡!謎の新型ウイルス」を紹介しよう(▽は小見出し、──は番組の進行役、+は発言内の段落)。
・今年5月の大量感染以来、世界中を断続的に襲う新型PCウイルスのサイバー攻撃。イギリスの病院、チェルノブイリの原発、日本の自動車工場や水道局も攻撃された。こうした社会インフラへの“無差別テロ”に対し、世界中で対策が始まっている。
・ホワイトハッカー(善良なハッカー)の手を借りてOSやソフトの膨大なプログラムから“脆弱性”を見つけ出す取り組みや、サイバー攻撃が行われても絶対に解けない“次世代暗号”を開発する動きも加速。明日自分を襲うかもしれない攻撃に、どう向きあえばよいのか?徹底取材で迫る。
▽あなたのパソコンが危ない 追跡!謎の新型ウイルス
── またもや、新手のコンピューターウイルスが、私たちの生活の基盤を揺るがしています。あなたのパソコンは大丈夫ですか?
・田中(キャスター):3月にこの番組で取り上げた「身代金ウイルス」によるサイバー攻撃。ある日突然、パソコンに感染して大切なデータや個人情報をロック。「元の戻して欲しければ金を払え」と脅してきます。そして今、世界中で被害が拡大し続けているのが、新型の身代金ウイルス「ワナクライ」です。
・日本では、自動車メーカーや鉄道会社などが攻撃を受け、操業停止に追い込まれる事態も起きました。被害は、ほかにも。チェルノブイリの原発事故現場では、放射線量の測定器が制御不能になり、手動で計測する事態に陥りました。また、インドでは、港で積み荷を管理するコンピューターが停止。船が出航できず、荷物を運んできたトラックが大渋滞。物流システムが大打撃を受けました。ワナクライの爆発的感染から見えてきたのは、私たちの生活を支えるパソコンにひそむ意外なもろさです。
── このウイルスの新たな脅威は、メールの添付ファイルを開くなどしなくても、インターネットにつながっているだけで感染の恐れがあることです。
▽あなたのパソコンが危ない 追跡!謎の新型ウイルス
・身代金ウイルスに感染した自治体の1つが、匿名を条件に取材に応じました。  「こちらのパソコンですね。」 5月、海外との連絡用に使っていたパソコン1台が、突然、ワナクライに感染。
・被害を受けた自治体の職員 「(朝の)8時くらいに電源を立ち上げたら、動かなくなってる。(ウイルスの画面が)出たときには非常に驚きました。」
・幸いこの1台は自治体内のほかのパソコンにはつながっていませんでした。もし、ライフラインなどを管理する1,000台のパソコンとつながっていれば、市民生活がマヒしかねなかったといいます。 被害を受けた自治体の職員 「インフラ系のサーバー等が、もしやられていたら、(市民生活の)すべての機能が止まるのではないか。その時は本当に肝を冷やしました。」
・一方、感染が組織全体に広がってしまった例もあります。全国に展開するこの書店では、100万円を超える被害が出ました。 被害を受けた書店の店員 「突然に大きなカギのマークが出て。」 
・最初に感染したと見られるのは、都内の店舗の1台のパソコン。英語の画面が表示されましたが、夜遅かったため、店員は仕事を切り上げてしまいました。3日後、店員は同僚からかかってきた電話に耳を疑いました。社内ネットワーク上にあった全国のパソコンがネットにつながっていたというだけで感染したというのです。
・被害を受けた書店の店員 「添付ファイルを開くとか、偽サイトに導くようなおかしなメールは一切やってない。なぜやられたんだろうと、不思議に思いましたね。」
・添付ファイルも偽サイトも開いていないのに、なぜ感染が広がったのか。分析の結果、ワナクライが持つ、従来のウイルスと全く異なる特徴が分かってきました。
・トレンドマイクロ社 岡本勝之さん「『ポート445』を使っているということが、今だいぶ分かってきました。」  ワナクライは、世界15億台のパソコンに搭載されている基本ソフト、ウィンドウズのぜい弱性を突くウイルスだったのです。ぜい弱性とは、プログラムの中にあるバグのこと。誤って書かれた、いわば壊れた部分です。今回狙われたぜい弱性は、ウィンドウズの中で通信のやり取りを担う部分でした。ウイルスはここを標的としてパソコンに侵入。さまざまなソフトを機能不全に陥れました。さらに、ネットワーク上にある、ほかのパソコンのぜい弱性も自動的に探し出して侵入。次々に感染を拡大させたのです。
・トレンドマイクロ社 岡本勝之さん「ワナクライはウィンドウズのぜい弱性(弱点)を使うことによって、同じネットワークにある他のパソコンにどんどん感染を広げることが出来る。侵入したところだけでなく、どんどん被害が広がってしまう。」
・この新たなウイルスは、世界各地に広がり、深い爪痕を残しています。 イギリス BBC(2017年5月12日) 「国の医療機関がサイバーテロの標的になりました。」 イギリスでは5月、国が運営する医療グループがワナクライに襲われ、47の医療機関で検査機器や救急システムがダウン。予定されていた手術や診察は中止に追い込まれ、20万人もの患者に影響が及びました。
・心臓の手術を中止された患者 「『手術中に血液が不足したら輸血できない、命は保証できない』と言われました。医師の言葉にショックで、頭が真っ白になりました。」 病院では、データベースがマヒし、今も手作業でカルテなどの復旧に当たっています。 
・ウイルス被害を受けた医師 「100%コンピューターに依存していたため、我々はなすすべがありませんでした。2か月以上たちますが、元に戻っていません。サイバー攻撃(の影響)は、今もまだ終わっていないのです。」
・驚異の感染力を持つこの新型ウイルスは、一体どこから来たのか。その謎の解明も急がれています。 セキュリティ会社 マーシン・クレチェンスキーさん「私たちは新型ウイルスの感染をリアルタイムで追いました。数千の都市に、瞬く間に感染が広がっていました。世界中どの国も、この攻撃から逃れられませんでした。」
・さまざまな説が飛び交う中、有力視されているのが、実は世界に名がとどろく、あの諜報機関が関わっているという説。 それは、アメリカのNSAです。NSAは、世界中の市民のパソコンに忍び込み、その活動を監視していたとされます。 “誰を監視しているんだ?”(映画『スノーデン』より) “世界中さ。”(映画『スノーデン』より))
・NSAは、ウィンドウズのぜい弱性を発見し、パソコンに忍び込む攻撃ツールを秘密裏に開発。しかし、この攻撃ツールがハッカー集団に盗み出され、それをもとにワナクライが作られたというのです。マイクロソフト社は、ワナクライの感染の直後、NSAを非難する声明を出しました。 ”米軍がトマホーク(巡航ミサイル)を盗まれたに等しい失態だ。” 今回のウイルス攻撃は、情報社会を支えるインフラとなったウィンドウズの穴を狙ったものでした。
・マイクロソフト社 澤円さん「ぜい弱性の情報は、常に出しています。」  実はマイクロソフトは、ワナクライの最初の攻撃が始まる2か月前に、このぜい弱性を把握。ウイルス感染を防ぐ更新プログラムを緊急で出していました。しかし、その対策を済ませていないパソコンは、いまだ世界中に数多く残されています。ここからウイルスによる新たな感染が広がり、被害が拡大し続けていることに危機感を募らせています。
・マイクロソフト社 澤円さん「今、世の中で起きている非常に大規模な攻撃は、サイバー犯罪に対する備えをしていない、修正プログラムをあてていないコンピューターが、実は攻撃の道具として大量に使われている。その人が被害にあっているというのは第一段階。第二段階としては、その人たちが攻撃者として使われてしまうというのも非常に多く見られる。」
▽あなたのパソコンが危ない 追跡!謎の新型ウイルス
・ゲスト 蔵本雄一さん(ホワイトモーション CEO/元マイクロソフト)
 ゲスト 高木剛さん(東京大学大学院 教授)
── 元マイクロソフトの技術者で、サイバーセキュリティーが専門の蔵本雄一さん。 感染したらどうすればいい?
・蔵本さん:まずは、皆さん、ウイルス対策のソフトをインストールされていると思うんですけど、まずはインストールされている対策のメーカーさんに相談していただくというのが、まず一番初めかなと。そういったメーカーさんとか、あとインターネットに暗号化されてしまったファイルを戻すようなツールを提供しているようなところもあるので、例えば、そういうのを使ってもらうとかというのは非常に大事ですね。
+(この身代金というのは、払わないほうがいい?)  払って戻るものとか、払っても戻らないものとか、いろいろありまして、やっぱり一番大事なのは、暗号化されて読めなくなっても困らないように、複製ですね、データの複製、バックアップを取っておいて、やられたとしても、それを戻すと。そうすることで、ビジネスも正常復旧するというのが大事かなと思います。
── 今回、多くの公共インフラが被害に遭っているわけだが、なぜウイルス対策をしていなかったのか?
・蔵本さん:対策を考える時に、新しいOSを使うとか、新しいOSを最新の状態にするというのは非常に大事なんですが、なかなか制御している、何かシステムを制御しているシステムとか、新しくしたくてもできない理由があるものもあるので、なかなか一概に、簡単に新しくすればいいというのは結構難しい。 (これまで使っていたソフトや機器が使えなくなることもある?) その可能性もあったりもしますね。
── ネットセキュリティーの暗号技術に詳しい、数学者の高木剛さん。ソフトウェアのぜい弱性をなくすことはできない?
・高木さん:現在、プログラムは複雑化、さらに高度化しているために、このぜい弱性をなくすということは、不可能と言われております。 (なかなか自分では見つけられない?)  実際、プログラムにあるぜい弱性を使って、新しいウイルスを発見されることによって、ぜい弱性があるのだということが見つかっている現状となっています。
── 仮に、バグが全くないプログラムを作ることができてもということは、全く安全ではない?
・高木さん:想定している利用方法ですと問題ないんですが、想定外の利用方法をすることによって、そのプログラムが予想以外の動きをすることによって、新しいバグが見つかるということもあります。
── 想定の範囲で動かしていればいいが、違う動かし方をすると、生じる矛盾を狙ってくるということなんですね。
・田中:プログラムのぜい弱性があるのは、ウィンドウズだけに限りません。スマホの基本ソフトやSNSアプリでも、個人情報の漏えいなどにつながるバグが毎日のように見つかっています。ぜい弱性を発見しようと、IT企業では、新たな対策が始まっています。
▽スマホアプリを守れ! ホワイトハッカーの闘い
・向かったのは、世界2億人が利用するLINE。 去年(2016年)、プログラムのぜい弱性を見つけ出すための新たな制度を導入しました。
・セキュリティ担当社員 「投稿機能において不備があった問題ですね。ぜい弱性として認定すべきじゃないかと。」 「報奨金は?」  セキュリティ担当社員 「500ドルですね。」
・それは、ホワイトハッカーの力を借りること。ぜい弱性を見つけ、バグの修正に協力するIT技術者に報奨金を支払うことにしたのです。背景には、ぜい弱性チェックにかかる手間が膨大で、自社だけではカバーしきれないという事情があります。
・田中:ぜい弱性というのは、どのようにして見つけるのですか?
・LINE株式会社 セキュリティ担当社 「ソースコードと呼ばれるプログラムのコードを、実際に目視で確認したり。」
・田中:目で確認?何行くらいあるんですか?
・LINE株式会社 セキュリティ担当社員 「LINE本体(のプログラム)でも数十万行。」
・田中:数十万行。
・ぜい弱性探しは、目視が基本。数十万行のプログラムから1、2語のバグを見つけ出す作業です。セキュリティー担当も、この2年で2倍に増やしました。それでも、個人情報の漏えいにつながりかねないバグが見つかるなど、危機的な状況に直面してきました。
・LINE株式会社 セキュリティ担当社員 「人間が書くものなので、プログラムというのは、やはりバグはどうしても生んでしまう。それをチェックするのも、やはり私たち人間ですし、どうしてもミスは生じてしまう。」 
・IT企業に勤めるこの男性は、ホワイトハッカーとしてLINEのバグ探しに協力。 これまで、2つの大きなバグを報告。合計100万円を手にしました。開発者でない第三者の視点が有効だといいます。
・IT企業社員 汐見友規さん「世の中で非常に重要とされるアプリケーションやソフトウェアに関して、自分が探したときに、何かあるのか確認したいという気持ちはあります。インターネットの世界を安全にするのに寄与できているのは、やりがいになる。」
▽PCもスマホも車も! ウイルスとの攻防
・田中:今、VTRでも出てきたような、正義のハッカーと呼ばれる「ホワイトハッカー」の需要が高まっています。総務省所管の情報通信機構は今年(2017年)4月、25歳以下の若手を対象に、ホワイトハッカー育成プログラムを始めました。これは、1年間かけて、情報セキュリティー技術を指導する世界に類を見ない試みなんです。背景にあるのは、情報セキュリティー分野の人材不足です。国の調査では、去年の時点で13万人が不足。サイバー攻撃の激化が予想される中、2020年には20万人足りなくなると見られています。ホワイトハッカーをはじめとするセキュリティー人材の養成は待ったなしです。
── そこまで人材が不足している状況というのは驚きだが、それだけ、今後もサイバー攻撃が拡大していく可能性があるということ? 
・蔵本さん:例えば今回、お話が出ているようなワナクライとかだと、いわゆるパソコンのファイルがターゲットなっているわけですけれども、それ以外にも、家電とか自動車とかも含めて、いろんなものを見回ってもコンピューターが組み込まれているので、攻撃者のターゲットがどんどん増えているというような状況ですね。
── 例えば、自動車が狙われると、どういうことが起きる?
・蔵本さん:自動車が狙われると、例えば、自動運転だとか、いろいろ出てきていますけど、そういったものに対しての攻撃というのが予測されてきます。なので、自動車メーカーは、そういったことがされないような対策というのが求められるということですね。 (単にパソコンが使えなくなるというだけではなく、まさに、この命を預かる車など、そういった身近なところが危機にさらされる可能性があるということ?) より身近なところの危機を気にする必要が出てきますね。
── ウイルスの攻撃対象が、車や家電にまで広がるということになりますと、その驚異は計り知れません。ぜい弱性を巡る攻防が続く一方で、新たな方法で、究極の安全を目指そうという動きが世界で始まっています。
▽ハッカーを撃退せよ! 究極の技術 暗号
・6月、オランダでサイバー攻撃への対策を話し合う国際会議が開かれました。会場を訪ねると…。  「ちょっとあなたたち、撮影を拒否する人たちが多いので、取材は慎重にしてくださいね。」  会場に集まっていたのはNSAなど、世界各国の諜報機関で働く人たちでした。参加者が熱心に耳を傾けているのは、もしや数学の講義? 実は、この会議の目的は、最先端の数学の理論を駆使して絶対に解読できない暗号を開発することなんだとか。それにしても、なぜ新たな暗号開発に世界が注目するのでしょうか。
・現在、インターネット上の重要な情報はウイルス攻撃などで盗み見られても読めないように暗号で守られています。その暗号は、数学の素数を、いわばパズルのように複雑に組み合わせたもの。しかしこの暗号が、解読の危機にあるというのです。その理由は、次世代コンピューターの開発競争で、計算能力が急速に向上しているからです。もしハッカーがこのコンピューターを悪用し、国家の情報機関などに侵入すれば、機密情報が読み取られてしまう。そうした事態を防ぐ、究極の技術が次世代の暗号なのです。
・アメリカ国立標準技術研究室 ダスティン・ムーディーさん「次世代コンピューターは、現在の暗号を破る能力があります。ですから、世界各国の研究機関や政府、企業が話し合い、今から協力して準備しなければなりません。」
・この次世代の暗号開発で世界から注目を集める日本人がいます。今日のゲスト数学者の高木剛さんです。 高木さんは、全く新しい暗号「格子暗号」の研究者です。ベクトルという数学の概念を使って、簡単には解けない暗号を編み出そうとしています。
・東京大学大学院 教授 高木剛さん「数字というのは一次元の方向しかないんですが、ベクトルになりますと、二次元以上の空間でいろいろな向きがあります。次元が上がると、その向きがいろいろな方向になるために、より高速な計算機でも簡単には解けない。」 何だか難しそうですが、スタジオでご本人に解説していただきます。
▽あなたのパソコンが危ない 追跡!謎の新型ウイルス
── というわけで、高木さん、これは、どういうものなんでしょうか?
・高木さん:現在普及している暗号は、素数といわれている数字を使って、それを組み合わせて安全性を保っています。例えば、15という数字は。
── これが暗号?
+これが暗号です。3と5という2つの素数をかけたものです。この桁数がずっと素数を大きくしていくと、現在の計算機では計算が追いつかず、安全といわれていたのですが。 (今までは、このxとyが分からなかったわけですね。) ところが、新しい計算機が出てくると、これが安全ではない可能性が出てきたということで、数字に代わり、今はベクトルという概念を使った暗号が作られています。
+こちらの02に当たるものが、15の暗号文に当たりまして、この隠れている2つのベクトル、aとbを探しなさいという問題になります。 (そのaの座標であるxとy、bの座標であるxダッシュとyダッシュ、これを編み出しなさいと。)  2次元の場合は、それほど難しくはないんですが、次元を上げていくと、桁違いに組み合わせの数が増えて、解読計算量が非常に高くなります。そのため、次世代の暗号でもっても解読が難しいと言われています。
── 今回、アメリカの諜報機関から盗み出された情報が、ウイルスのもとになっているとも言われているが、こうした暗号が出来れば、そうした事態を防ぐことにもつながる?
・高木さん:サイバーセキュリティーが高度化して、増え続ける漏えい問題が今、問題となっていますが、重要な情報にアクセスしたとしても、攻撃者は解読できない暗号技術が求められています。
── 今後、ますます高度化、巧妙化するサイバー攻撃に対して、どのように対応すればいい?
・蔵本さん:まずは、やっぱり何を守るかというのをはっきりさせる。これは、実際のパソコンとか、モノを使う使い手だけではなくて、作る方も、どういったものを守れば、何が一番大事なのかというのをしっかり定義して、それを守るようなものを作って、使っていくというのが非常に大事かと。例えば、自動車だと、ちゃんと走って、止まって、曲がれるというところをしっかり守る。これって非常に大事なことですけれども、そういうところをしっかりとやっていく。
+あとは、やっぱり攻撃する側が、どういう攻撃をしてくるのかとか、しっかり分析をして、相手が何を狙っているのか、どういうことをやるのかということを考えて、正しく怖がってもらう、正しく恐れるというのが、非常に大事なことかなと思います。 (今、さまざまなコンピューターを使ったシステム、ナビゲーションであるとか、自動運転であるとか、そういった部分と、基本的な走る、曲がる、止まるという部分を切り離せるようにしていくということが大事?) 仮に、そういう部分が侵害されたとしても、ちゃんと走って、止まって、曲がれるという機能を確保する。こういう設計のコンセプトとか、作りというのが、やはり非常に大事かなと。
── 高度な次の世代の技術と、それから、そういった考え方、整備していく必要があるということですね。
・ 企業の生産活動、行政サービス、医療、今やあらゆる分野を支えるコンピューターシステムへのサイバー攻撃、社会の基盤を揺るがす大きな脅威です。人材の育成、次の世代のセキュリティー技術の開発、対策は待ったなし
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4019/

第一の記事は、いかにもコンサルタントらしく、大きく振りかぶった割には、肝心なことは言わないので、読む方には、隔靴掻痒の感じを与える。それをあえて紹介したのは、 『GDPR(EU一般データ保護規則)・・・違反時には年間売上の4%または2000万ユーロのいずれか高い方という高額な制裁金が課される可能性があり・・・「域外適用」という考え方がある・・・2018年5月施行』、と決して他人事ではないためである。EUのみならず、米国でも制裁金や罰金が高額化しているだけに、要注意だ。
第二の記事は、 『新型の身代金ウイルス「ワナクライ」』、は、 『新たな脅威は、メールの添付ファイルを開くなどしなくても、インターネットにつながっているだけで感染の恐れがあることです』、というのは恐ろしいことだ。しかも、それが、NSA(アメリカ国家安全保障局が 『秘密裏に開発。しかし、この攻撃ツールがハッカー集団に盗み出され、それをもとにワナクライが作られた』、というのには、NSAの機密管理のズサンさに驚く他ない。更新プログラムは、個人のパソコンでは自動的にやるのが普通だが、企業などの大きな組織でLANサーバーがある場合には、 『何かシステムを制御しているシステムとか、新しくしたくてもできない理由があるものもあるので、なかなか一概に、簡単に新しくすればいいというのは結構難しい』、のが実情のようだ。 次世代の暗号については、 『2次元の場合は、それほど難しくはないんですが、次元を上げていくと、桁違いに組み合わせの数が増えて、解読計算量が非常に高くなります。そのため、次世代の暗号でもっても解読が難しいと言われています』、とのことらしい。ハッキングの「技術革新」とのイタチゴッコにならないよう祈るしかないようだ。
タグ:2次元の場合は、それほど難しくはないんですが、次元を上げていくと、桁違いに組み合わせの数が増えて、解読計算量が非常に高くなります。そのため、次世代の暗号でもっても解読が難しいと言われています ベクトルという数学の概念を使って、簡単には解けない暗号を編み出そうとしています 次世代の暗号開発 自動運転だとか、いろいろ出てきていますけど、そういったものに対しての攻撃というのが予測 正義のハッカーと呼ばれる「ホワイトハッカー」の需要が高まっています 何かシステムを制御しているシステムとか、新しくしたくてもできない理由があるものもあるので、なかなか一概に、簡単に新しくすればいいというのは結構難しい データの複製、バックアップを取っておいて、やられたとしても、それを戻すと。そうすることで、ビジネスも正常復旧するというのが大事 その対策を済ませていないパソコンは、いまだ世界中に数多く残されています 最初の攻撃が始まる2か月前に、このぜい弱性を把握。ウイルス感染を防ぐ更新プログラムを緊急で出していました ・マイクロソフト社 しかし、この攻撃ツールがハッカー集団に盗み出され、それをもとにワナクライが作られたというのです NSAは、ウィンドウズのぜい弱性を発見し、パソコンに忍び込む攻撃ツールを秘密裏に開発 2か月以上たちますが、元に戻っていません。サイバー攻撃(の影響)は、今もまだ終わっていないのです イギリスでは5月、国が運営する医療グループがワナクライに襲われ、47の医療機関で検査機器や救急システムがダウン 世界各地に広がり、深い爪痕 ウィンドウズのぜい弱性を突くウイルスだった 新たな脅威は、メールの添付ファイルを開くなどしなくても、インターネットにつながっているだけで感染の恐れがあることです チェルノブイリの原発事故現場では、放射線量の測定器が制御不能になり、手動で計測する事態に 自動車メーカーや鉄道会社などが攻撃を受け、操業停止に追い込まれる事態も 新型の身代金ウイルス「ワナクライ」 イギリスの病院、チェルノブイリの原発、日本の自動車工場や水道局も攻撃された あなたのパソコンが危ない 追跡!謎の新型ウイルス NHKクローズアップ現代+ 単なるコンプライアンス対応だと高を括って、文書策定等の形式的な対応に終始してしまうのは得策ではない GDPRにおける個人情報の定義は、日本の個人情報保護法のそれよりも広く 日本企業は本当に デジタル化への舵を切れるのか 域外企業には好き勝手させないという意思 EU居住者の個人情報を域外に移転することを規制 保護すべきものは、プライバシーだけではなくなってきた。それは産業そのものだ 2018年5月施行 ヨーロッパでは、会社から監視を受けること自体に大きな抵抗があるようだ 「域外適用」という考え方がある 違反時には年間売上の4%または2000万ユーロのいずれか高い方という高額な制裁金が課される可能性 昨年春に欧州委員会にて採択 GDPR(EU一般データ保護規則)が遠い国の話で済まない理由――デジタル時代におけるプライバシー規制の潮流 ダイヤモンド・オンライン PwCコンサルティング 山本 直樹 (その2)(GDPR(EU一般データ保護規則)が遠い国の話で済まない理由、あなたのパソコンが危ない 追跡!謎の新型ウイルス) サイバー犯罪 情報セキュリティー
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電気自動車(EV)(その1)(ガソリン・ディーゼル車全廃が欧州で急に宣言された真の事情、急加速のEVシフトに潜む5つの課題、日本の自動車メーカーはEV化「出遅れ組」と見なされている) [科学技術]

今日は、電気自動車(EV)(その1)(ガソリン・ディーゼル車全廃が欧州で急に宣言された真の事情、急加速のEVシフトに潜む5つの課題、日本の自動車メーカーはEV化「出遅れ組」と見なされている) を取上げよう。

先ずは、8月9日付けダイヤモンド・オンライン「ガソリン・ディーゼル車全廃が欧州で急に宣言された真の事情」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・イギリスやフランスが2040年までにガソリンエンジン、ディーゼルエンジンのクルマの販売を終了させるプランを発表するなど、欧州各国で内燃機関に代わるクルマの電動化を推進しようとしている。なぜ、最近になって欧州各国でガソリン車やディーゼル車の全廃宣言が相次いでいるのか、本当に2040年までに全廃できるのか。その背景や理由を検証してみた。(ジャーナリスト 井元康一郎)
▽欧州で相次ぐEV化の話題
・欧州がいきなりクルマの電動化に前がかりになっていることが今、大変な話題となっている。マクロン政権下のフランスの二コラ・ユロ環境大臣が2040年にガソリンエンジン、ディーゼルエンジンを搭載したクルマの販売を終了させるというプランを7月6日に発表し、世界を驚かせた。それに呼応するかのように同月、イギリス政府もまったく同様のコミットメントを打ち出した。
・人口の少ない国ではもっとラディカルなプランもある。例えば、ノルウェーは内燃機関全廃ではないが、2025年までに販売車両のすべてを純EVもしくは充電可能なPHEV(プラグインハイブリッドカー)にするとし、オランダもそれに似た政策を推進している。
・政府ばかりではない。民間でもスウェーデンのボルボが傘下のスポーツカーファクトリーであるポールスターをEV(電気自動車)専門ブランドにすると宣言した。ドイツのスポーツカーメーカー、ポルシェは2023年までに販売車両の半分をEVにするという「ミッションE」計画を発表。それ以降もEV化の話題が欧州から毎日のように伝わってくる。
・事実、EU圏でのPHEVを含むEVの販売は伸びている。今年上半期のEV、PHEVの販売台数は13万3000台。前年同期の9万8000台から、35%も伸びたことになる。新車販売台数の総数は850万台であったことを考えると、比率は微々たるものではあるが、普及初期の段階に差しかかっているのは確かだろう。  ただし、これらのセールスは他の市場におけるEV、PHEVの販売と同様、手厚い補助金の支給、高額な新車登録費用の免除、公営駐車場を無料で使えるなどの各種恩典あってのもので、実際のEVのセールスパワーはそれよりもずっと低いのが実情だ。果たして、本当にEVへのパラダイムシフトを急激に推し進めることができるのだろうか。また、なぜ急にそういうムーブメントが先鋭化したのか。
▽EV推進の背景には蓄電池の性能・コストへの期待感
・まず、2040年にガソリン、ディーゼル車の販売を禁止し、電動車両一本でパーソナルモビリティや物流をまかなえるようになるかどうかだが、これはきわめて困難ではあるが、本気でやれば技術、インフラ整備の両面でやってやれないことはないというところだ。
・今日、欧州のEV推進論者たちが「EVで行ける」と主張する背景にあるのは、EVの足かせとなっている蓄電池が技術革新によって性能、コストの両面で改善されることへの期待感だ。すでに日本、韓国、アメリカ、ドイツ、フランスなど電気化学を得意としている国を中心に、現行の液体電解質リチウムイオン電池の数倍の性能と高い安全性を両立させた固体電解質リチウム電池の試作品が続々と登場している。
・そのコストも、マッキンゼーとブルームバーグ新エネルギーファイナンスは2030年に1kWhあたり100ドルに下落するという予測を発表している。その先さらにバッテリー技術が進化し、十分な航続距離を持つEVが補助金なしでも今日のエンジン車に対してコストメリットが出るようになれば、消費者は自ずとEVを選ぶようになるだろう。
・クルマ以上に課題が大きいのはインフラ側。現状では日米欧、また中国でもそうなのだが、自宅外の急速充電器の運用はどこも大赤字だ。機器の性能が低く、価格が高いこともあるが、それ以上に、エンドユーザーに数十kWhという大電力量を短時間でデリバリーするように社会ができていないのだ。インフラ整備といえば急速充電器の設置がまず語られるが、それより重要なのは、急速充電器を設置する際に巨額の工事費をかけないでも済むような電力供給の方法を考案し、社会のインフラを整備し直すことだ。これには巨額の費用がかかるが、道路を造るようなものだと考えれば不可能な投資ではないだろう。
・もちろん短時間で大電力量を充電可能な充電器や、それを受け入れる側のクルマ側の技術革新も必要だ。今日、800V充電をはじめ急速充電に関する新技術の提案がなされているが、実際にEVが多数派になったあかつきには、そんなものでは到底追いつかない。1000アンペアクラスという、電車を走らせるような電流を自在に使いこなせる技術が必要だ。2040年にはまだ23年ある。いい方法を考える頭の良い人も出てくるだろう。
・ただ、人口が少なく、再生可能エネルギー比率の高い小国はともかく、フランスやイギリスが打ち出したエンジン車全廃計画は、そういう技術展望を踏まえた合理的な判断だけで出されたものではない、という指摘も少なからず出てきている。
▽急進的なEV推進策は トランプ大統領のパリ協定離脱への牽制!?
・日本に駐在した経験を持つフランス文部省のある上級幹部は、急進的なEV推進策が出てきたのは、今の国際政治情勢と深く関わっているという見方を示す。 「まずはトランプ大統領がCO2規制の枠組みである『パリ協定』からの離脱を宣言したこと。世界最大排出国のアメリカに抜けられては、世界の環境政策を主導するのは欧州という地位が崩れてしまいますし、低迷しているCO2排出権相場に悪影響が出かねません。大気汚染防止が理由なら、排出ガス処理の技術革新の将来性を無視した話ではありますが、ディーゼル車を段階的に排除すればいいだけ。 ガソリン車まで2040年に全廃すると宣言した動機は、化石エネルギー依存からの脱却というのが世界の流れなんですよというメッセージを発することでしょう。不確実な未来の夢を語る時によく使われるのは2050年なんですが、よりアグレッシブに響かせたいということで2040年にしたのでしょう」
・資源・エネルギー問題を取材するフランス人ジャーナリストは、欧州内の情勢も政策に影響を及ぼしている可能性が高いと言う。 「欧州は今、EU離脱を決めたイギリスを含め、現実主義と理想主義の両極端に分断されている状態です。リーマンショック以降はとくにEU統合、多文化共生主義のリベラル派が勢力を伸ばしてきましたが、テロや移民問題で彼らの旗色が急に悪くなった。求心力を回復させる材料が欲しい彼らにとって、環境は格好の材料に映ったのでしょう。フランスもマクロン大統領が右寄りのルペン候補に勝利したものの、支持基盤は非常に弱い。そこで急進的環境活動家で左派に人気があり、環境派のパリ市長、アンヌ・イダルゴ氏との折り合いも良いユロ氏を環境大臣に登用した。
・今回のエンジン車廃止プランは、マクロン大統領というよりは、一時は大統領の座を夢見たこともあるユロ氏にとっての目玉政策という側面が強いと思います。イギリスのメイ首相も人気がなく、歴史的な経緯から大気汚染に敏感な国民に受けのよさそうな政策ということで追随した可能性が高い」 2040年にガソリン車、ディーゼル車を廃止するという目標は前述のようにラディカルなもので、その背後には少なからず政治的な思惑も横たわっているのだが、EV化が絵に描いた餅に終わるとは限らない。
▽電動化に一番合理的で冷静なのは日本の自動車メーカー
・前述のように、電気駆動関連の技術革新のスピードは速い。コスト吸収力の高い高級車の世界では、ユーザーが高性能化には電気駆動の導入が最適という認識を持てばメーカー側はたちどころにそれに対応するであろう。また、大衆車でもエンジン車とトータルコストが完全に逆転するところまで行けば、長距離ドライブを伴うバカンスに不向きだという、ライフスタイル上のネガティブ要素を乗り越えてEVに飛びつく層が増えるだろう。
・だが、今回の政治的発言のようにエンジン車が今世紀後半を待たずして欧州から消えることになるかどうかとなると、また話が違ってくる。欧州の大手自動車メーカー幹部は言う。 「電動化について一番合理的で冷静なのは、日本の自動車メーカーだと私は思っています。『電気が一番素晴らしいんだ』とヒステリックに叫ぶのではなく、エンジン車を含め、全部の技術についていいところと悪いところをきちんと見て、何をどう良くできるのかを考えながら少しずつ変わろうとしている。技術もちゃんと蓄積している。あくまでこれは私個人の考えなのですが、EVは間違いなく増えていくものの、自動車用の内燃機関は2040年になってもなくせないと思う。
・もちろん、環境や資源のことは考えなければいけないのですが、許される範囲内であればクルマの使い方は顧客の自由。できるだけ安いクルマで済ませたい人もいるでしょうし、遠くまでバカンスに出かけたい人もいるでしょう。そういう人間の気持ちを無視した地球至上主義は、少し感情的なのではないかと思います」  欧州からいきなり火の手が上がった空前の“EVムーブメント”とエンジン車終結宣言。それが本物になるのか、アドバルーンに終わるのかは、技術革新と顧客の心次第と言えそうだ。
http://diamond.jp/articles/-/138011

第二に、本田技研からサムスンSDI常務を経て名古屋大学客員教授/エスペック上席顧問の佐藤 登氏が9月14日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「急加速のEVシフトに潜む5つの課題 日欧米韓中の鍔迫り合いとビジネスリスク」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・9月6日、日産自動車は7年ぶりに全面改良した電気自動車(EV)「リーフ」を発表した。実際の国内販売は10月2日からとのこと。新規開発したリチウムイオン電池(LIB)は、従来の30kWhから40kWhに容量アップしたことで航続距離はJC08燃費モード表示で400kmに達したと言う。急速充電するとLIB容量の80%まで充電が可能。LIBの保証は8年または16万kmとしている。
・一方、EVブームをつくったとも言える立役者のひとつ、米テスラも従来の高級EV「モデルS」に加え、価格を3万5千ドルに抑えた普及型「モデル3」の販売を7月末に開始した。富裕層のみだけではなく、一般顧客を取り込む戦略に出たことで受注は50万台に達したと言われている。
・また、米国ゼロエミッション自動車(ZEV)規制、中国新エネルギー自動車(NEV)規制を受けて、日米欧韓中の自動車各社がEVシフトを鮮明に打ち出している。中でも、2015年にディーゼル自動車の燃費不正事件を起こした独フォルクスワーゲン(VW)は、グループ全体で25年までに30種以上のEVとプラグインハイブリッド車(PHV)を発売することを既に明言した。世界販売の20~25%に相当する200万~300万台規模と言うから、極めて大規模かつチャレンジングな目標である。これはVWのみにとどまらず、独ダイムラーや独BMWも同様な目標を掲げている。
・そのような折、9月12日の日本経済新聞夕刊に、VWが2030年までにEVに200億ユーロ(約2兆6千億円)を投資するとの記事が掲載された。同時に、25年までに30車種としていた上記の計画を、EVで50車種以上、PHVが30車種以上の計80車種以上に上方修正した。車載用電池に対しては2兆6千億円とは別に、約6兆5千億円分を調達するとも報道されている。
・9月12日に開幕した「フランクフルト国際自動車ショー」での主役は電動車、中でもEVのオンパレードと各メディアが報じている。EVに対して腰の重かったホンダも、量産型EV「アーバンEVコンセプト」を世界初公開し、このモデルをベースにしたEVを19年に欧州で発売すると言う。
・米国ZEV規制はカリフォルニア州に端を発しているものだが、他にマサチューセッツ州、ニューヨーク州、コネチカット州、メイン州、ニュージャージー州、オレゴン州、ロードアイランド州、バーモント州、メリーランド州が追随している。18年から強化されるZEV規制は、トヨタとホンダが主導してきたハイブリッド車(HV)が対象から外れることで、EVやPHVの開発に拍車がかかる。
・同様に、中国NEV規制もZEV規制の基本的な考えを踏襲し、EVやPHVを主体に規制をかける内容である。中国政策はHVを除外した理由を公言している。それは、「内燃機関エンジンでは、いかに立ち向かっても日本には勝てない。EVならばエンジンは不要、部品点数も少なく、参入障壁が低い」という消去法的選択でEVを重点化している。PHVはエンジンを搭載するのでHVと同様に難度が高いが、EV走行ができることでNEV規制枠に取り込んでいる。しかし、中国ローカル自動車メーカーでPHVを販売しているのはBYDのみで、他はすべてEVに集中している。
・これも9月12日の日経新聞の一面に紹介されたが、英仏が宣言した2040年までのガソリン車・ディーゼル車の販売禁止政策に追随し、中国もガソリン車・ディーゼル車の製造・販売禁止に関する導入時期の検討に入ったとのこと。
・このように、グローバルにEV化が急速に進んでいる。こんな中、業界が抱える課題も徐々に明らかになってきたる。以下、5つの観点からまとめる。
▽①EVを購入する顧客層はどれだけいるか?
・上記のように自動車各社が2025年まで拡大させようとしているEVであるが、NEV規制はともかく、ZEV規制では販売された台数で初めて自動車各社の実績としてカウントされることになる。このためEVを生産しても販売までに至らなければ意味をなさない。それを決定するのは自動車各社ではなく、消費者側である。  1998年、ZEV規制(日米各ビッグ3が対象で、98年に販売台数の2%をEV化することを求めた)をクリアするために、97年にはトヨタもホンダも400台規模のEVをカリフォルニア州に供給した。しかし、市場の反応は冷めていた。当時の両社が搭載したニッケル水素電池容量は27kWhで、モード走行は215km、充電時間は約8時間。リース販売としたのだが、航続距離の短さ、家庭への充電器の導入と長い充電時間、電池価格と車両価格の高さ(当時は搭載電池が1台分約500万円、車両価格はまともに販売すると約2500万円、そのためリース対応を実施)などがネックとなり、EVはその後、カリフォルニア市場から姿を消した。
・それから20年経過した現在、モード走行が400kmにも及ぶEVが出現している。しかし、夏冬場のエアコンの使用前提で市街地走行した場合には、モード燃費よりは明らかに低下するため、実際での走行はおおよそ300km前後となろう。とすれば、EVの中では高性能商品に入るであろうが、従来のガソリン車やHVに比べれば、まだまだハンディを背負った自動車である。
・急速充電のインフラは徐々に整備されつつあるとしても、充電器の導入と充電時間は20年前と同様な状況だ。LIB価格や他のコンポーネントのコスト低減が進み、車両価格という視点では相当な進化が実現された。車両価格は300万~400万円程度、電池も20年前の約20万円/kWhから2万円/kWh程度まで、すなわち10分の1までのコスト低減が実現されている。今後も、LIBのコストは更に1.5万円/kWhを標榜しつつ、30%程度のコストダウンが期待されている。
・このように20年間の進化は大きいとしても、ガソリン車やHVに比べてはまだ劣勢のEVであることに変わりはない。全世界の自動車各社が、そして新興の中国新規参入組も入って商品を市場に供給することになるが、そこに消費者がどれだけの価値を見出し、そして購買意欲を示すかが大きな関心事項となる。
・言い換えれば、世界のEV消費者層のパイは暫くの間は限られていると考えるべきであろう。世界各国の自動車各社がEVを市場に供給する今後を考えれば、選ばれるEVはどのようなものか?そしてどのEVが消費者から支持されるのか? EVシフトの裏にはこのような過激な競争が待ち構える。それはテスラも例外ではなく、今後は同社の真価が問われることにもなるだろう。
▽②中古車市場で見劣りするEV
・ガソリン燃料より安く走行できるEVの電気代ランニングコストは、消費者にとっては魅力の1つである。しかし一方では、同一年式、同一車両価格帯のガソリン車やHVに比べれば、中古車市場でのEVは大きな下落を強いられているという面も見過ごせない。年数が経過したEVの価値が低ければ、それだけ新製品に寄せる想いは高まらない。
・ガソリン車やHVの中でも中古車市場価格が高めに維持される商品は、新車市場でも人気車に位置付けられている。筆者自身も、自動車購入に当たっての1つの条件としており、中古車市場での価格は重要な指標と位置付けている。同様な考えをもつ消費者は少なくないはずだ。 実際に購入して使用した消費者の意見は最も大きな影響を及ぼす1つであろうが、電池の劣化と共に進む航続距離の低下に対する消費者の不満は、これまでの最多のものではなかっただろうか。それだけに、電池劣化を制御する素材や電池マネジメントは今後も大きな課題である。
・ともかく自動車各社は新車EVの新規開発と同様に、いかに中古車市場でも力を持つ魅力あるEVの製品開発を考えるべき段階に突入したのではないだろうか。今後、各社のブランドでEVが市場に出回ることで、中古車市場で相対的に優位な価格を提示できるEVこそが選ばれるEVと言う指標になるはずだ。
▽③電池メーカー、部材メーカーの投資チャンスとリスク
・ここは上記①と関連する部分であり、選ばれるEVと連結される電池メーカー、そしてそこにつながる部材メーカーにとってビジネスチャンスになるだろう。一方、選ばれないEVにつながる電池メーカーや部材メーカーにとっては、ビジネスリスクと化すことも考慮すべきであろう。  2009年に発売された三菱自動車のEV「i-MiEV」、そして10年に市販された日産の「リーフ」が市場供給される前段階で、そこに連結する電池メーカーや部材メーカーは大きな投資に打って出た。
・と言うのも、自動車各社のEV販売目標が高かったことで、それをそのまま受けて投資に踏み切ったからだ。例えば、11年に日産自動車が掲げた16年度までの目標は、仏ルノーとの累計販売で150万台と設定された。ところが実際の累計販売は目標の30%程度の42万台にとどまった。目標比で30%という実績は目標自体の設定根拠に誤りがあったか、あるいは非常に過度な期待があったからに他ならない。このような高すぎる目標に対峙するために、電池メーカーや部材メーカーも大きな投資を決断した。しかし、市場と言う蓋を開けてみたら、EVの存在感は非常に小さく、結果として過剰投資をしてしまった過去の事例は記憶に新しい。
・現在、自動車各社は電池メーカーへの投資促進、電池各社は部材メーカーへの投資促進を働きかけている。電池メーカーでは韓国のサムスンSDIとLG化学が中国の西安市と南京市に、いち早く車載用LIB生産工場を建設したものの、中国政府のホワイトリスト(バッテリー模範基準)に登録されないまま当てが外れ、中国でのビジネスに苦慮している。
・その両社は、新たに欧州に拠点を構えることで、欧州自動車メーカーを中心にした顧客開拓を進める。LG化学はポーランドにLIB工場を建設し、今後も増産体制を構築すべく拡大する。サムスンSDIはハンガリーに約400億円規模の投資でLIB工場を建設し、顧客開拓を進める。
・また、韓国で3番目の地位を築こうとするSKイノベーションも潤沢な資金を背景に欧州拠点を構えようとしている。同社のLIB生産キャパは1.1GWhであったが、18年下半期には3.9GWhまで拡大する計画と言う。韓国の瑞山工場を中心にグローバル拠点の設立を着々と進めようとしている。さらには、中国のCATLも同様に欧州拠点の構築に積極的である。
・LIB事業も、現時点では日韓中の競争のまっただ中にあり、投資競争と顧客開拓で熾烈な展開が繰り広げられている。電池各社、部材各社も広い視野と高い視点から自社の事業戦略を描かないと、大きな過ちを犯すリスクにもつながる。
▽④安全性・信頼性に関する徹底した取り組みの必要性
・さて、EVやPHVに関する安全性についてはまだ解決されていないのが実態である。すべての製品に共通した問題ではないが、EVではいまだに火災事故が発生している。
・三菱自動車の「i-MiEV」と日産自動車の「リーフ」は、火災事故に関しては1件も報道されていない。リーフは市販から7年になり、累積販売は30万台になろうとしている。走行距離では35億kmを超えたとされる。安全性に関しては誇れる根拠であろう。
・一方、テスラの「モデルS」は2013年に米国市場で立て続けに5台の火災事故が起こり、大きく報道された。16年には、フランスでの試乗会での火災事故、他にもノルウェーや中国等でも少なからずの火災事故を起こしていると聞く。
・中国もLIBを搭載したタクシーや乗用車、EVバスで、2010年以降から火災が多発し、現在も大きな課題となっている。それが背景にあり、安全性・信頼性に高いエコカーを実現するためのエコカーライセンスの発行、およびLIBの安全性を担保するためのホワイトリストの政策実施により、危険なLIBを排除しようとする中国政府筋の計らいが見られる。
・車載用電池ではドイツが主導してきた国連規則、ECE R-100.02 Part2が2016年7月に発効した。電池パックまでに及ぶ9項目の評価試験が課せられる認証制度が導入された。試験項目には電池パックの圧壊試験、外部短絡試験、耐火試験などの相当危険な試験法が導入されている。 筆者が在籍するエスペックでは、2013年に宇都宮事業所に「バッテリー受託試験センター」を開設した。そして国連規則導入計画を勘案し、いち早く15年9月には同事業所に「バッテリー安全認証センター」も開設した。
・上の左の写真は認証センター内の電池圧壊試験室とその装置であるが、開設を祝う開所式の時の写真であり、未使用状態を示したものである。以降、ちょうど2年が経過したが、国内外から多くの電池が持ち込まれる中、試験室内は試験に供されたLIBの爆発や火災等で発生した煤により、常時清掃しているものの、現在は右写真のように相当黒ずんでいる。
・もっとも、そういう過激な結果事象を想定した堅牢な建屋と試験装置設計を具現化した当センターは、国内外からも非常に注目され高い評価を受けており、国内はもとより海外からの委託試験ニーズも日に日に高まっている。
・認証試験を義務教育と例えれば、自動車メーカー個社単位で構築している独自試験項目や限界試験項目は高等教育に値する。筆者がサムスンSDIに在籍していた際には、日米欧韓の自動車各社を訪問し、安全性・信頼性に対する考え方、評価試験法、そして判定基準について多くの議論を交わしてきた。高等教育領域での内容、すなわち各社の独自試験や限界試験、そして判定基準は、他国に比べて日本勢が圧倒的に厳しい評価試験と判定基準を構築している。だからこそ、HV、PHV、EV、そして燃料電池車(FCV)のいずれにおいても火災事故を起こしていないと言う実績につながっているのであろう。
・ここに紹介した後方支援としてのエスペックの役割は、第三者的な客観性をもって安全性確保の担保につなげることはもちろんのこと、認証試験以外でも各社の高度な独自試験に柔軟に対応してLIBに対する不安感を一掃していくこと、自動車業界と電池業界の発展に寄与することにほかならない。 まだ完全に担保されていない海外勢のLIBについても、エスペックはオープンスタンスでのビジネスを提供している。高度な対応が可能な当社のセンターを国内外関連企業が最大限活用いただくことで、EV等のエコカーの火災事故を市場からなくしていくことを可能にする重要な機能となっている。
・拡大するEVシフトの中で火災事故が多発していくような状況が生じれば、全世界でのEV事業にブレーキがかかり急降下する。その結果、各業界への甚大な影響を招くことになる。それだけに、現時点から着実な評価試験を通じた安全性確保のための開発が重要な意味をもつことになり、後方支援の担う役割は一層拡大する。
▽⑤中国市場でのビジネスのリスク
・中国政策が国策優先として進めているNEV規制におけるエコカーライセンス制度では、ようやく外資系合弁企業のVW-JACがライセンスを取得するに至った。独中のトップ外交が功を奏した結果と受け止めるが、トヨタ、ホンダ、日産、および韓・現代自動車はライセンス未取得のままである。
・現代自動車に至っては、エコカーどころか既存事業にも大きな影響が出ている。中国市場での自動車販売では、2017年1月から8月までの前年同期比で45%減になったとのこと。また、合弁を組んでいる北京自動車との関係も悪化の一途をたどり、一説では合弁解消のような状況も今後あり得るとのこと。エコカーライセンス取得には程遠く、中国市場でのビジネスチャンスは遠のくばかりのようである。勘案すれば、終末高高度防衛ミサイル(THAAD:Terminal High Altitude Area Defense Missile)を設置した韓国に対する産業分野での報復と見る向きが大きい。
・日本勢の自動車各社も、エコカーライセンスは未取得であるが、ここは時間の問題と映る。日系大手自動車各社は個々のロビー活動を推し進め、一方では来年からのNEV規制に適合するEVやPHVを中国市場に供給する戦略に打って出た。逆に、中国市場が日本勢を排除するようなことになるなら、中国のエコカー技術開発にブレーキがかかることになり、中国の産業界にとっては大きなマイナスになるだろう。
▽まとめ
・今後、世界市場に出現することになる数多くのEVであるが、消費者の需要が同時に比例して拡大するとは思えない。すなわち市場に出てくる各社のEV群が、まんべんなく売れるとは思えないのである。選ばれるEVのみが勝ち組となっていく一方で、選ばれないEV製品も出現するだろう。
・そのためにも自動車各社、電池各社、および部材各社の世界戦略は、今後の各社の命運を決める。一方で、どちらに主流が動こうとも、後方支援のような普遍的ビジネスにはかなりの追い風である。 しかし部材業界も試験機器業界も、中国のような価格重視の市場においては、そこに適合する部材や評価装置などを持ち合わせないと市場開拓にはつながらない。その理由は、価格の安い中国ローカル製品に対して、自動車業界や電池業界は特段の不満はなく適用したり使用したりしている実態があるからだ。
・従来の先進諸国を対象主体に開発してきた製品だけでは立ち行かなくなる状況に陥る。新興国をも攻略できる事業戦略が、日本企業に改めて問われているのではないだろうか。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/246040/091200057/?P=1

第三に、元大手銀行のマーケット・エコノミストで法政大学大学院教授の真壁昭夫氏が9月19日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「日本の自動車メーカーはEV化「出遅れ組」と見なされている」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ここへ来て急速な勢いで、電気自動車(EV)に注目が集まっている。その背景には、欧州の主要国や中国が、一斉にガソリンエンジン車の禁止、電気自動車への転換を発表していることがある。 その動きは、今後、さらに大きな“大波”になることが考えられる。自動車業界はすそ野の広い産業分野であり、これから主要国の関連分野が“大波”にいかに対応していくかが注目される。仮にこの“大波”に乗り遅れると、世界の自動車市場から取り残されることも懸念される。
・9月12日、“フランクフルトモーターショー2017”のプレスデーが始まった。ディーゼルエンジンのデータ不正で世界を震撼させたフォルクスワーゲンは、グループ全体でのEV戦略を示した。EV化の動きには、自動車業界の勢力図を根本から覆すほどのマグニチュードがある。まさに“大波”と呼ぶべき構造変化が進もうとしている。
・フランクフルトを訪れたある自動車メーカーの知人は、「今後の競争が電気自動車を軸に進むことがはっきりした」と危機感をあらわにしていた。EV化の波は先進国だけではなく新興国にも押し寄せている。そのスピードはかなり速い。競争に与えるインパクトも計り知れない。新興国メーカーが、先進国メーカーの座を奪う可能性を評価する投資家も増えている。
▽EV化という自動車業界を襲う厳しい構造変化
・世界的な自動車のEV化の動きは、ディーゼルエンジン不信の震源地となった欧州からスタートした。 もともと、欧州各国はガソリン車が排出する温室効果ガスの削減を狙い、ディーゼル車の普及に力を入れてきた。しかし、2015年に独フォルクスワーゲンが、ディーゼルエンジンの排ガスデータを不正に改ざんしていたことが発覚した。 フォルクスワーゲン以外の不正疑惑も続き、世界中にディーゼルエンジン不信が広がった。この結果、一時はガソリン車よりもクリーンともてはやされたディーゼルエンジン離れが加速し、窒素酸化物(NOx)による健康被害への懸念も増幅された。
・この事態を受けた欧州各国の対応はかなり迅速だった。各国政府は、すぐに新しい技術を政府主導で導入しようと計画をまとめ始めた。昨年9月末、ドイツの連邦参議院は2030年までに内燃機関(ガソリン、ディーゼルを燃料とするエンジン)を搭載した新車の販売禁止を求める決議を採択した。本年7月には仏英の両政府が2040年までに内燃機関を搭載した新車の販売を禁止する方針を示した。
・このように、欧州では政府主導で自動車の脱化石燃料化の動きが加速している。とりあえずは各国が、ハイブリッド車など環境負担の少ない自動車にかかる税率を引き下げるなどして、環境に配慮した車種への乗り換えを促していくだろう。しかし、長い目で見た本命は電気自動車であることは間違いない。
・今後、電気自動車の充電スタンドなどインフラを整備することで、社会全体でEV化の動きがスピードアップしていくことが予想される。言い換えれば、政府がトップダウンで社会全体のイノベーションを進め、新しい需要を生み出そうとしている。こうした取り組みは、将来の潜在成長率にも影響するだろう。 環境問題に頭を悩ます中国も、脱化石燃料を重視している。電気自動車の開発競争がし烈化することは間違いない。自動車業界全体が、EV化という大きな潮流という構造変化を迎えようとしている。
▽世界的にし烈化を極める電気自動車の開発競争
・構造変化に対応するためには、いち早く新しい技術を開発し、その実用化を進めてシェアを獲得することが必須だ。その時、これまでの発想に固執してしまうと、初動動作が遅れてしまう。 1990年代以降、わが国の電機メーカーは完成品を自社内で生産し、それを輸出して稼ぐビジネスモデルを刷新することができなかった。そうした教訓をもとに、今後の競争戦略を練るべきだ。一言でいえば、これまでの成功体験を捨て、虚心坦懐にゼロから新しい技術・モノを生み出す姿勢が求められる。
・特に、日本の自動車メーカーは、幸か不幸か、ハイブリッドという優秀な技術を持っている。わが国のハイブリッド技術は、ドイツのメーカーにとって大きな脅威だったはずだ。それがディーゼルエンジンのデータ不正問題の一因となった可能性もある。
・EV化の動きが進み、近い将来に脱内燃機関の社会が実現するかを考えると、それは口で言うほど容易なことではないだろう。まだ紆余曲折があるはずだ。ただ、フォルクスワーゲン問題を受けて、ドイツはディーゼルエンジンとの決別を余儀なくされた。ある意味、EV化の流れはドイツメーカーが過去の負の記憶を払しょくし、生まれ変わりを目指すための“渡りに船”かもしれない。
・また、ガソリン車の生産実績が乏しい新興国のメーカーにとっても、EV化の動きは世界の市場に打って出るチャンスになるかもしれない。これは、ベンチャー企業にも当てはまる。それは、自動車業界の勢力図を大きく塗り替えることになる可能性がある。
・特に、中国は国を挙げてEV分野の強化に力を入れている。中国政府はガソリン車などの販売停止に向けた工程表を作成し始め、今後は比亜迪(BYD)などを支援することが見込まれる。 この動きが加速すると、中国企業の動向が世界の自動車業界での競争を左右する展開も考えられる。これは、中国との関係を強化してきたドイツのメーカーにとって追い風となるだろう。
・わが国の自動車メーカーがこうした状況に対応するためには、技術開発を急ぐだけでなく、中国の政府・メーカーとの関係を強化するなど、これまでの経営戦略の見直しと方針転換が必要だろう。
▽EVシフトを織り込み始めた株式市場
・世界的な内燃機関からEVへのシフトの動きを見越して、株式市場でも変化が表れている。国内では、トヨタ自動車をはじめガソリン車を生産してきたメーカーの株価は、足元でやや不安定化している。一方、パナソニックやGSユアサなどバッテリー関連の製品・部材を供給する企業の株価は上昇基調にある。
・9月12日には、アップルが“iPhone X”などの新型スマートフォンを発表したが、株価は期待されたほど堅調ではなかった。一方、同日、プレスデーが開かれたフランクフルトモーターショーで今後の戦略を示した、フォルクスワーゲンをはじめダイムラー、ルノーなどの欧州自動車メーカーの株価は堅調だ。それに加え、中国ではBYDの株価が上昇している。米国のテスラの株価はハイテク株を凌駕する上昇率を遂げてきた。
・明らかに、自動車業界における構造変化をマーケットは認識し始めている。これまで世界のトップシェアを占めてきた企業が、中長期的にその座を維持し続けるとは限らない。競争が激化する中でシェアを維持するためには、他社に先駆けてEVの開発を進めるだけでなく、ネットワーク技術の普及を見越した自動運転技術の導入など、従来にはなかったコンセプトを実用化しなければならない。
・こうした取り組みを進めるためには、国=政府の関与も欠かせない。社会全体でEV化を進めるためのコンセプトをまとめ、規制の緩和、EV自動車の普及を加速させるためのインフラ投資を、欧州各国以上のスピードで進めなければならない。
・すでに、世界のファンドマネージャーらの間では、EV化競争の先頭を走る企業、出遅れた企業の選別が進んでいる。株価を見る限り、わが国の自動車メーカーは出遅れ組と見なされているようだ。従来の発想を続けている以上、テスラや新興国メーカーの台頭に対抗することは難しいかもしれない。 かつてハイブリッドシステムで世界を席巻したように、EVでも世界の先頭を走る取り組みを進められるか否かが、中長期的な企業の競争力を左右するだろう。
http://diamond.jp/articles/-/142349

第一の記事で、 『急進的なEV推進策は トランプ大統領のパリ協定離脱への牽制』、とのフランス文部省の上級幹部の見方は、トランプ大統領に対するフランス側の怒りについては理解できるとしても、「穿ち過ぎ」との感を受けた。 『欧州からいきなり火の手が上がった空前の“EVムーブメント”とエンジン車終結宣言。それが本物になるのか、アドバルーンに終わるのかは、技術革新と顧客の心次第と言えそうだ』、というのはその通りだろう。
第二の記事で、 『米国ZEV規制はカリフォルニア州に端を発しているものだが、他にマサチューセッツ州、ニューヨーク州、・・・が追随している。18年から強化されるZEV規制は、トヨタとホンダが主導してきたハイブリッド車(HV)が対象から外れることで、EVやPHVの開発に拍車がかかる』、環境規制は州の権限が強いので、トランプ大統領といえども手出しできないのだろうか。 『従来の先進諸国を対象主体に開発してきた製品だけでは立ち行かなくなる状況に陥る。新興国をも攻略できる事業戦略が、日本企業に改めて問われているのではないだろうか』、というのは正論だ。
第三の記事で、 『欧州では政府主導で自動車の脱化石燃料化の動きが加速している。とりあえずは各国が、ハイブリッド車など環境負担の少ない自動車にかかる税率を引き下げるなどして、環境に配慮した車種への乗り換えを促していくだろう』、との指摘は、欧州はハイブリッド車など無視していると思っていた私にとっては、違和感がある。日本車を大きく利するようなことはしないのではなかろうか。 『これまでの成功体験を捨て、虚心坦懐にゼロから新しい技術・モノを生み出す姿勢が求められる』、と正しく指摘しながら、 『日本の自動車メーカーは、幸か不幸か、ハイブリッドという優秀な技術を持っている。わが国のハイブリッド技術は、ドイツのメーカーにとって大きな脅威だったはずだ』、とハイブリッドの栄光を捨て切れてないようだ。ただ、 『株価を見る限り、わが国の自動車メーカーは出遅れ組と見なされているようだ。従来の発想を続けている以上、テスラや新興国メーカーの台頭に対抗することは難しいかもしれない』との指摘はその通りだ。
タグ:電気自動車 EV (その1)(ガソリン・ディーゼル車全廃が欧州で急に宣言された真の事情、急加速のEVシフトに潜む5つの課題、日本の自動車メーカーはEV化「出遅れ組」と見なされている) ダイヤモンド・オンライン ガソリン・ディーゼル車全廃が欧州で急に宣言された真の事情 ・イギリスやフランスが2040年までにガソリンエンジン、ディーゼルエンジンのクルマの販売を終了させるプランを発表 欧州がいきなりクルマの電動化に前がかりになっている ノルウェーは内燃機関全廃ではないが、2025年までに販売車両のすべてを純EVもしくは充電可能なPHEV(プラグインハイブリッドカー)にするとし、オランダもそれに似た政策を推進 EU圏でのPHEVを含むEVの販売は伸びている 、手厚い補助金の支給、高額な新車登録費用の免除、公営駐車場を無料で使えるなどの各種恩典あってのもので 実際のEVのセールスパワーはそれよりもずっと低いのが実情 EV推進の背景には蓄電池の性能・コストへの期待感 、自宅外の急速充電器の運用はどこも大赤字だ エンドユーザーに数十kWhという大電力量を短時間でデリバリーするように社会ができていないのだ 短時間で大電力量を充電可能な充電器や、それを受け入れる側のクルマ側の技術革新も必要 急進的なEV推進策は トランプ大統領のパリ協定離脱への牽制!? リーマンショック以降はとくにEU統合、多文化共生主義のリベラル派が勢力を伸ばしてきましたが、テロや移民問題で彼らの旗色が急に悪くなった 求心力を回復させる材料が欲しい彼らにとって、環境は格好の材料に映ったのでしょう 電動化に一番合理的で冷静なのは日本の自動車メーカー 欧州からいきなり火の手が上がった空前の“EVムーブメント”とエンジン車終結宣言。それが本物になるのか、アドバルーンに終わるのかは、技術革新と顧客の心次第と言えそうだ 佐藤 登 日経ビジネスオンライン 急加速のEVシフトに潜む5つの課題 日欧米韓中の鍔迫り合いとビジネスリスク 米テスラ 価格を3万5千ドルに抑えた普及型「モデル3」の販売を7月末に開始した 一般顧客を取り込む戦略に出たことで受注は50万台に達した 米国ゼロエミッション自動車(ZEV)規 中国新エネルギー自動車(NEV)規制 フランクフルト国際自動車ショー EVのオンパレード 米国ZEV規制 18年から強化されるZEV規制は、トヨタとホンダが主導してきたハイブリッド車(HV)が対象から外れることで、EVやPHVの開発に拍車がかかる 中国NEV規制もZEV規制の基本的な考えを踏襲し、EVやPHVを主体に規制をかける内容 業界が抱える課題 EVを購入する顧客層はどれだけいるか? 中古車市場で見劣りするEV 電池メーカー、部材メーカーの投資チャンスとリスク 安全性・信頼性に関する徹底した取り組みの必要性 EVではいまだに火災事故が発生 テスラの「モデルS」は2013年に米国市場で立て続けに5台の火災事故 中国市場でのビジネスのリスク 真壁昭夫 日本の自動車メーカーはEV化「出遅れ組」と見なされている 今後の競争が電気自動車を軸に進むことがはっきりした EV化という自動車業界を襲う厳しい構造変化 欧州では政府主導で自動車の脱化石燃料化の動きが加速 とりあえずは各国が、ハイブリッド車など環境負担の少ない自動車にかかる税率を引き下げるなどして、環境に配慮した車種への乗り換えを促していくだろう。しかし、長い目で見た本命は電気自動車であることは間違いない これまでの成功体験を捨て、虚心坦懐にゼロから新しい技術・モノを生み出す姿勢が求められる 日本の自動車メーカーは、幸か不幸か、ハイブリッドという優秀な技術を持っている 中国政府はガソリン車などの販売停止に向けた工程表を作成し始め、今後は比亜迪(BYD)などを支援することが見込まれる EVシフトを織り込み始めた株式市場 トヨタ自動車をはじめガソリン車を生産してきたメーカーの株価は、足元でやや不安定化 株価を見る限り、わが国の自動車メーカーは出遅れ組と見なされているようだ。従来の発想を続けている以上、テスラや新興国メーカーの台頭に対抗することは難しいかもしれない
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自動運転(その1)(VWが発表した完全自動運転車はどれだけ“未来的”か?、自動運転推進に米政府が急ブレーキをかけた理由、電動化で先導してきた日本が自動運転で遅れ? ドイツ勢の威信をかけた闘いの背景にあるものは?) [科学技術]

今日は、自動運転(その1)(VWが発表した完全自動運転車はどれだけ“未来的”か?、自動運転推進に米政府が急ブレーキをかけた理由、電動化で先導してきた日本が自動運転で遅れ? ドイツ勢の威信をかけた闘いの背景にあるものは?) を取上げよう。

先ずは、4月7日付けダイヤモンド・オンラインがCAR and DRIVER[総合自動車情報誌]を転載した「VWが発表した完全自動運転車はどれだけ“未来的”か?」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽完全自動運転を実現したVWの“セドリック”
・自動運転車の早期実用化を目指して、各メーカーが開発競争を繰り広げている。そんな中、今年3月のジュネーブ・ショーにおいて、VW(フォルクスワーゲン)が斬新な自動運転コンセプトカーを発表し、話題を集めた。 その車名は、セドリック。懐かしい日産車を思い浮かべるユーザーが多いだろうが、VWのセドリック(SEDRIC)は、セルフ・ドライビング・カーの略である。
・このセドリック、いわゆる“レベル5”の自動運転車という点が最大の特徴。レベル1~4と異なり、完全な自動運転車として開発された。つまり、ドライバーの運転操作は不要で、すべてクルマ任せで目的地まで行ける未来カーだ。 ドライバーが運転を行わないとなると、従来のクルマの概念はこのセドリックには当てはまらない。スタイリングは、トラムのような洗練されたワンボックスデザインが斬新だ。電気モーター(最高出力130ps以上)で走行し、航続距離は約400㎞。ボディサイズの詳細と、発売時期などは未公表である。
・セドリックは、ユーザーを認識して開くドアを設定。両開きのドアの開口部は十分に広く、荷物を持ったままでも乗降は楽。車体の中央から大きく開くドアから室内に乗り込むと、未来的な空間(2+2シート)が待ち受けている。 目を引くのは、ステアリングホイール、ペダル、ダッシュボードがない点。乗員は対面シートに座る。フロントウィンドウは、OLED(有機EL)ディスプレイになっており、各種情報などが表示される。ワイドな室内は、乗員の荷物とスーツケースを置くスペースがある。
・セドリックはカーシェアリングでの使用を前提にしている。たとえばセドリックを必要するユーザーが指定する場所まで無人走行で迎えに行き、ユーザーを学校に送ったり会社まで送ったりした後は、自律走行で駐車スペースを探し、注文した商品を受け取り、駅に到着した来客を出迎える、といった使い方ができる。
▽ボタン、ボイス、スマホで動く 夢のトランスポーター
・VWによると、一連の動きはすべて、ボタン操作、ボイスコントロール、またはスマートフォンアプリを使用して、完全に自動的、確実かつ安全に行えるという。クルマに話しかけるだけで、目的地までのルートをセドリックが判断し、乗員を安全に運んでくれるのだ。実用化までは時間がかかるだろうが、まさに夢のトランスポーターである。
・セドリックはコミュニケーション能力を備えている。乗員がセドリックに話しかけると、応えてくれる。目的地へのアクセス方法、走行時間、交通状況などの情報に関して、まるでユーザーのアシスタントのように回答してくれるのだ。 VWは完全自動運転車について、「大人、子供、年配者、体の不自由な方々、クルマや運転免許を持っていない都市生活者と旅行者など、すべての人々の用途に合ったモビリティを提供することになる」とコメントしている。 VWが自動運転車の開発競争で、頭角を現した。 
http://diamond.jp/articles/-/123723

次に、ジャーナリストの桃田健史氏が7月24日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「自動運転推進に米政府が急ブレーキをかけた理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・アメリカの自動運転に関する動きに急ブレーキがかかった。 そうした、日本にとって“ヤバい雰囲気”を7月10日の週にサンフランシスコで強く感じた。トランプ政権の下、自動運転バブルはこのまま崩壊してしまうのだろうか?
▽注目の国際協議の場だったのだが…
・アメリカの運輸交通委員会(TRB)及びDOT(運輸省)が関与する、自動運転や自動飛行に関する産学官連携での協議体である無人移動体国際協会(AUVSI) が主催する、AUVSI オートメイテッド・ヴィークル・シンポジウム2017(7月11日~13日、於:ヒルトンサンフランシスコ・ユニオンスクエア)を取材した。
・自動運転に関する国際協議は、国連の欧州経済委員会における自動車基準調和世界フォーラム(WP29)や、道路交通法等の整備に関する委員会(WP1)、また高度交通システム(ITS)の世界会議などが主体である。 だが、グーグルやアップル、そしてインテルやエヌビディアなど、人工知能を活用した自動運転技術の研究開発を進め、デファクトスタンダードを狙う大手IT産業、及び自動運転を活用した新しい移動体サービス事業(MaaS :モビリティ・アズ・ア・サービス)の拡大を狙うウーバーやリフト等のライドシェアリング大手を抱えるアメリカが、法整備においても自動運転の世界をリードしているのが実情だ。
・筆者は直近の2ヵ月間、世界各国で自動運転に関する取材を立て続けてに行っている。具体的には、米サンノゼ市でのインテルの自動運転ワークショップと、エヌビディアの開発者会議GTC、仏ストラスブール市でのITS EU会議、また日本国内では経済産業省によるラストマイル自動走行実証に関する取材で福井県永平寺町、石川県輪島市、そして沖縄県北谷町。この他、日系及び欧州系の自動車メーカーが主催した各種の技術フォーラムで自動運転技術開発の担当者らと直接、意見交換している。 その上で、AUVSIの自動運転シンポジウムに対して期待を持って参加したのだ。
▽行政の色がまったくない
・毎年1回のペースで開催され、今年で6回目となる同シンポジウムをすべて取材してきた筆者にとって、今年の講演内容は筆者自身の想定を遥かに下回るショボいものだった。 なにせ、自動運転の法整備を行う政府機関である、連邦高速道路交通安全局(NHTSA:発音はニッツァ)による講演がゼロだったのだから。
・昨年7月の同シンポジウムには、NHTSA長官の他、NHTSAを所管するDOTの長官も講演し、自動運転に関するガイドラインについて意見を述べた。本来、同ガイドラインは昨年7月頃には公開される予定だった。しかし同年2月にフロリダ州内で、テスラ・モデルSの自動運転技術を使ったオートパイロットの誤作動による死亡事故が発生し、自動運転に関する社会の関心が高まったため、米連邦政府として自動運転の法整備について再協議を行っていた。 同年9月には、同ガイドラインが発表され、それに続いて自動車と道路インフラ(V2I)や、自動車と自動車(V2V)、そして自動車と歩行者(V2P)などの総称である、V2Xに関する規制法案についてもNHTSAが公表に踏み切った。 そうした流れは明らかに、政権交代前の“駆け込み”だった。そして今、その反動を食らっているのだ。
▽オバマの決定は何でも反対!?
・今回のシンポジウム開催時点で、NHTSA長官は未任命のままだ。今年1月に就任したDOTのイエーン・チャオ長官は、昨年の自動運転ガイドラインを発表の1年程度後に改訂することを示唆しているのだが、具体的な動きはまったく見えてこない。また、DOTの肝いりとして企画された、自動運転を活用した未来型の街づくり政策『スマートシティ』についても、今年9月からオハイオ州コロンバス市での実施が決まっているものの、具体案については未だに公開されていない状況だ。
・また、アメリカにおける自動運転の法整備はこれまで、公道での走行実験を許可してきたネバダ州、カリフォルニア州、オハイオ州、テキサス州など、州政府の意向が強く反映されおり、それをNHTSAがどのように連邦法として取りまとめるかの段階にある。その中で、昨年までのAUVSIシンポジウムでは、州政府担当者も講演し、それぞれの地域における自動運転の社会受容性について議論を進めてきたが、今回は全体講演で州政府の発表はゼロだった。
・トランプ政権は「反オバマ政策」を唱えるイメージが根強い。自動運転に関する政策も、パリ協定からの脱却に見られるような大胆な方針転回で、葬り去るようなことはないと信じたい。だが、今回のシンポジウムで日米欧の各自動車メーカー関係者などと意見交換するなかで、全員の共通認識は「これからどうなるか、さっぱり分からない」だった。
・そのうえで、結局は自動車メーカーが90年代から徐々に進めてきた、高度運転支援システム(ADAS)が徐々に発展し、2030年頃には高度な自動運転に「なるのかもしれない?」という、自動車メーカーの商品企画として“夢物語”へと、自動運転の議論が逆戻りしてしまうような感覚を抱いた自動車メーカー関係者が多かった。
▽自動運転バブル崩壊の予感
・ちなみに、今回の全体講演に自動車メーカーとして登壇したのはトヨタと日産のみ。ホンダが日本政府が進める戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)を代表して講演した他は、トラックの縦列自動走行のパネルディスカッションでボルボが登場しただけ。コンチネンタル、ボッシュ、デルファイなど大手自動車部品メーカーの全体講演もゼロだった。これでは、米連邦政府の動きが見えないなか、自動運転の開発動向について積極的にはしゃべりたくない、と思われても仕方がない。
・もう1点付け加えると、自動車メーカー主導ではなく、いわゆるロボットタクシーのような公共交通に近いかたちの自動シャトルサービスが、2020年頃には世界各地で実用化されるという“青写真”がある。 この分野では、グーグルからスピンアウトしたWaymo (ウェイモ)がある他、欧州では仏Navyaなどが各地で実証試験を行っている。だが、6月開催のITS EU会議での各種協議を見聞きし、またEU(欧州委員会)の担当者や欧州の自動運転シャトル事業関係者らと直接話してみたが、「現状での実証試験は、実施の各自治体の警察が個別に判断しており、EUとして総括的な法整備を行うのは、かなり先になる」という意見が多かった。
・こうした世界各地での“生の声”と接する中で、筆者が感じるのは、自動運転バブルの崩壊だ。 自動運転、自動運転と、自動車産業界やメディアが大騒ぎし始めたのは、いまから4年前の2013年頃。その起点は、グーグルカーの量産計画に対する“噂”だった。 そしていま、先行き不透明なトランプ政権の意思決定プロセスによって、自動運転という次世代の技術開発や、そこに対する投資がスローダウンしてしまう危険性がある。
・そうしたなかで、日本にとって最も大きな問題は、日系自動車メーカー関係者らが今回のシンポジウムの現場で実際に話していたような「元の鞘に収まるのだから、まあ、のんびりやろう」という、“心の隙間”ができてしまうことだ。 その隙に、世界各地では水面下で、新たな動きが着々と進む。自動車産業界ではティア2(二次下請け)である半導体メーカーらのサプライチェーン改革。世界最大の自動車市場・中国では、燃料電池車の本格普及を想定し、その前段階としての電気自動車の普及政策と自動運転政策が融合する。
・日系自動車業界関係者におかれては、いまこそ、しっかりと、気を引き締めていただきたい。
・追記:本稿作成後、米下院のエネルギー商業委員会が、自動運転の販売や使用を緩和する法案を可決した。こうした議会の動きについては、今回取材した現場でも、参加者らは米自動車大手メディアのAutomotive News等を通じて承知していた。それにもかかわらず、現場の空気感はトランプ政権による自動運転の今後について、不透明感が拭えていなかったのが大きな問題だ。
http://diamond.jp/articles/-/135829

第三に、本田技研出身、前サムスンSDI常務で名古屋大学客員教授/エスペック上席顧問の佐藤 登氏が7月27日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「電動化で先導してきた日本が自動運転で遅れ? ドイツ勢の威信をかけた闘いの背景にあるものは?」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・自動車と交通文化のパラダイムシフトが急速に進んでいる。図に示すように、その両輪は電動化と自動運転にある。電動化に関しての発端は、1990年9月に米国カリフォルニア(CA)州にて発効したゼロエミッション自動車(ZEV)法規にまで遡るが、その当時から関わった筆者にしてみると、この27年間の歴史には、いろいろなことを考えさせられた。
▽自動車の電動化に関する政策と開発動向
・電動化に関する内容についてはこれまでの本コラムで幾度となく執筆してきたので、最近のトピックに関して紹介したい。本年6月下旬にサンフランシスコで開催された電動車用先進電池に関する国際会議「AABC(Advanced Automotive Battery Conference)2017」では、注目すべき点がいくつかあった。
・まずトランプ政権の意向で、米国エネルギー省(DOE)の2017年度の車載用電池研究に対する予算は75%減になると発表されたが、どこまで具体化されるかは今後の注目すべきところである。
・一方、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの米国の離脱宣言もある中、ZEV法規を提言したCA州大気資源局(CARB)の幹部が講演した。CA州としては現在の大気環境改善と二酸化炭素削減につながるZEV規制の緩和修正については全く考えていないとのメッセージで、今後も計画的に継続していくことを力強く発したことが印象的であった。米国における州法の強さが伝わる意見であった。
・更に、CARBとしては2025年に電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、および燃料電池車(FCV)の普及台数を400~450万台と展望していると言う。それ以降のCARBの政策は、50年方針として、EV、PHV、FCVの割合を100%にする予定とのこと。26年以降のCARBの政策方針は現在検討を開始し、ボードメンバーは今後3~4年以内に提言すると発した。
▽中国市場における動き
・台湾の研究機関によれば、2016年の全世界におけるエコカー(PHV、EV、FCV)販売は50万7299台で、前年比で53.2%増となったと言う。とりわけ、中国市場がけん引したとのこと。17年には更に約20%増の61万600台と展望。他方、「中国の政策方針は毎月変わるので、鵜呑みにしてはいけない。常に動向を把握しておく必要有り」と明言した。なるほどという感が漂った。
・そんな中で、中国のエコカーライセンスに異変が生じている。現在、中国政府の国家発展改革委員会は暫定的に認めた新規参入企業15社にエコカー生産ライセンスを与えているが(計画では20社まで)、資格を取り消される企業が出る可能性が有るとのことなのだ。 
・正式なエコカー生産ライセンスを得るには、中国政府の工業情報化部による「乗用車生産企業および製品参入管理規則」の審査通過を経て、最終的には「道路机道車両生産企業・産品公告」で公示されなくてはならず、ここで初めてエコカーの販売ができるようになる。ただし、この必要な審査をすべて通過したのは現在15社中、北京汽車グループの北汽新能源汽車(BAIC BJEV)1社とのこと。このような状況を勘案して、中国政府の工業情報化部は、新規参入企業を多くても10社程度に削減する可能性があるという。
・BYDや上海汽車(SAIC Motor)等の既存自動車メーカーは規制対象にはならないとのことが明らかになると共に、つい最近では、独フォルクスワーゲン(VW)と中国江准汽車の合弁会社である江淮大衆汽車(JAC-VW)も認可された。初めて、中国ローカル系以外の外資系が認可されたことは、他の外資系自動車メーカーにも大きな指針となる。
・BYDは2016年にEVとPHVで10万台以上を販売したが、日米欧韓の外資系メーカーも18年に発効する中国NEV(New Energy Vehicle)規制に対応するため、中国でのエコカー生産を開始する。そうなれば、エコカーの歴史が浅く、ブランド力が小さいBYDにとっては、ブランド力の大きな自動車各社に対抗して、エコカーをどこまで伸ばせるかが課題となる。
▽電池業界、部材業界、試験業界のマーケット
・米ブルームバーグの市場調査によると、2030年に全世界規模で必要とされる電池容量は700GWh/年(自動車各社の計画を集計)と予測されている。16年の中国の電池生産容量比率は54%に到達し、17年には同比率で中国が76%を占有するとの見通しだ。一方、16年時点でのリチウムイオン電池(LIB)価格は、273$/kWhと推察した。
・一方、「多くの中国メーカーのLIBは、安全性や信頼性の観点で国際標準に達していない」という、AABCの主催者であるPh.D. Anderman氏の見解は筆者も納得するところである。中国市場ではある程度許容されているとのことだが、今後の展開を考えれば安全性・信頼性の向上は業界をあげて不可欠の課題である。そういう状況に対しては、筆者が在籍するエスペックは大きな貢献ができると考えている。
・中国政府は、消費者がエコカー補助金を受ける際の条件として、搭載されるLIBメーカーを限定している。「バッテリー模範基準」においてLIBのガイドラインが設定されていて、認証を受けた「ホワイトリスト」のLIBメーカーは、2017年5月時点で57社に及ぶ。しかし、中国系企業のみで日韓等の外資メーカーはホワイトリストに入っていない。3GWh/年以上の中国系メーカーはCATLを筆頭に、BYD、天津力神電池、万向集団A123、BAKなど12社が名を連ねる。中でもCATLの性能、品質や生産能力は中国メーカーの中では高い評価を受けている。
・一方、大連にLIB生産工場を建設したパナソニックは、2017年内に稼働するものの、ホワイトリストの申請は未実施のまま。自動車メーカー(ホンダやトヨタ自動車?)からはホワイトリストの早期取得の要請があるので対応を検討中とのことだが、本格稼働後に申請するとのこと。遅すぎではないか?
・CATLは、2020年に50GWh/年の生産容量を目標としている。BYDの現在の生産容量は12GW/年、19年には26GWh/年を計画しているが、20年頃にはCATLが圧倒的に上回る見込み。CATLは現在、上海汽車や北汽新能源、吉利汽車などへLIBを供給している一方、海外勢のBMWにも供給、SUV「X1」のPHVや合弁ブランドのZINOROのEVやPHVにも搭載されている。VWや現代自動車への供給契約も交わすなど、昨今、特に勢いづいている。
・韓国SKイノベーションも電池事業を拡大している。1996年にLIB開発を開始、99年に製品化、車載用LIBは2006年に開発開始、10年に車載用LIBを実用化。現在の自動車カスタマーに対しては11車種のモデルに供給中で、PHVとEV用では5万台以上の規模に相当する。20年までに14GWh/年まで拡大する予定と言う。製造拠点は韓国の他、欧州、中国に展開中であり、韓国勢としてはサムスンSDIとLG化学の2強体制から、3強体制を構築中と勢いがある。
・いずれにしても電動化の流れは留まることはなく、自動車業界、電池業界、素材・部材業界、試験機器業界、政府筋、大学・研究機関、調査会社やコンサル業界を巻き込んだグローバルビジネスという位置づけにある。
▽自動運転の開発加速が続く
・昨年中旬にメルセデス・ベンツがフルモデルチェンジした「Eクラス」は、自動運転のレベル2.5程度であることを本年6月8日のコラムに執筆した。その後、7月に入り、独アウディがレベル3(完全自動運転ではないが、条件付きで自動車主体の自動運転)を実現した「A8」を今秋に発売するとの発表があり、著しい進展があることにいささか驚いた。
・ではなぜ、ドイツ勢がかくも自動運転を積極的に進めているのだろうか。筆者には、その理由として以下の3点があるように思える。①電動車開発で日本勢に負けていること、②交通文化はドイツが発祥、③究極の自動車はドイツからというプライド――これらを紐解く前に、そもそも自動運転の意義について考えてみたい。
・自動運転がもたらす効果は絶大である。カーシェアリング、買い物弱者へのサポート、高齢者への運転支援対応、交通事故の低減、産業界における物流時間と効率の向上、物流コストの低減、動くオフィス、動く快適なサロン、動くホテル等々。その恩恵ははかり知れない。
・中でも社会的には交通死亡事故の減少に大いなる期待がある。日本における交通事故による死者数は、モータリゼーションと共に、1948年から70年にかけて4000人から4倍の1万6000人までに急増した。年間の自殺者を大きく上回る数値となってしまった。 その後、自動車業界は交通事故防止の一環として、いかに死者数を減らすかの開発に取り組んだ。その結果、2000年頃には1万人程度まで死者数が減少した。ここでようやく、自殺者と数値的には等価となった。しかし、自動車業界としてみれば、まだまだ大きな数値である。  その後は、シートベルト、エアバッグ、アンチロックブレーキなどの実用化と普及に至り、直近の2016年には4000人を割るレベルにまで効果を発揮した。
・そして今後、更に交通事故を減らすことに期待がかかるのが自動運転である。快適な交通文化を支えることは極めて革新的なことであり、社会に大きな恩恵をもたらすものである。 ではなぜ、ドイツ勢がこれほどまでに先導するのであろうか。歴史を振り返れば、1930年代のドイツのアウトバーン計画が背景にあると思える。
・1929年に起こった世界恐慌の影響で、ドイツで600万人が失業したとされている。そんな中、1932~33年の選挙キャンペーンで、ナチ党のアドルフ・ヒトラーが、「国民に職とパンを与える」と約束したことからアウトバーン計画は始まっている。33年からアウトバーン建設がスタート、最初の区間が35年に完成された。この計画において雇用も大きく増え、結果として39年には失業者が35万人まで減少するほどの成果を出したといわれる。 特に感心するのは、時間とコストがかかっても耐久性に優れるコンクリート舗装を実行したこと、そして大きな文化を築いたきっかけとなった自然景観と調和する建設設計基準を導入したことにある。
・そういう崇高な自動車交通文化があったからこそ、ドイツでは自動車の先進技術が開発され世界をリードしてきたのであろう。速度無制限(部分的には制限有)がもたらすアウトバーンは、高度な交通文化に耐え得る自動車を開発するという使命を負わせた。正に工業国としてのドイツらしい文化である。
・思い起こせば、1982年に半年ばかり欧州に長期出張していた際に、ホンダのアコード(当時ではホンダの最高級車)に乗ってアウトバーンを自ら運転し走行した。アクセル全開でも160km/h、そして170km/hが出たと思いきや下り坂だったことで、それが同車の限界だと知らされた。追い越し車線を、メルセデス・ベンツやBMW、アウディなどが、ものすごいスピード(200km/h以上)で駆け抜けていく姿を横目に見て、次元の違いを実感させられた。
・そういう文化が根付いているからこそ、自動運転の開発には自信をもっていることだろう。そこにドイツの気概が感じられる。そのような背景を抱えながら、自動運転が普及すればドライバーのストレスが軽減され、事故も未然に防げるという大きな効果が期待できる。
・ただし、自動運転に関わるルール作りも容易なことではない。責任の所在、保険システム等々、解決すべき課題も多い。日本勢としても、そのようなガイドラインや国際標準化でリードすることが求められるが、ドイツ勢とどのように伍していけるか、これから正念場を迎える。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/246040/072400054/?P=1

第一の記事で、VWが発表した自動運転コンセプトカー、セドリックは、 『クルマに話しかけるだけで、目的地までのルートをセドリックが判断し、乗員を安全に運んでくれるのだ。実用化までは時間がかかるだろうが、まさに夢のトランスポーターである』、らしいが、ハンドルもないのであれば、自分で運転するようなモード切り替えはないようだ。運転が趣味の私にとっては保有したいとは思わない。
第二の記事で、 『今回のシンポジウム開催時点で、NHTSA長官は未任命のままだ』、だったようだが、 『トランプ政権は「反オバマ政策」を唱えるイメージが根強い。自動運転に関する政策も、パリ協定からの脱却に見られるような大胆な方針転回で、葬り去るようなことはないと信じたい。だが、今回のシンポジウムで日米欧の各自動車メーカー関係者などと意見交換するなかで、全員の共通認識は「これからどうなるか、さっぱり分からない」だった』、というのは困ったことだ。 『自動運転バブル崩壊の予感』、については、『追記』を読む限り、表現がややオーバーという気がする。
第三の記事で、 『中国のエコカーライセンス・・・独フォルクスワーゲン(VW)と中国江准汽車の合弁会社である江淮大衆汽車(JAC-VW)も認可された。初めて、中国ローカル系以外の外資系が認可されたことは、他の外資系自動車メーカーにも大きな指針となる』、とのことだが、日本のメーカーは置いてけぼりを喰らわなければいいが・・・。  『7月に入り、独アウディがレベル3(完全自動運転ではないが、条件付きで自動車主体の自動運転)を実現した「A8」を今秋に発売するとの発表があり、著しい進展があることにいささか驚いた』、 (ドイツには崇高な自動車交通文化)『そういう文化が根付いているからこそ、自動運転の開発には自信をもっていることだろう。そこにドイツの気概が感じられる』、ということでは、ここでも日本のメーカーの頑張りを期待しなければならないようだ。
タグ:CA州としては現在の大気環境改善と二酸化炭素削減につながるZEV規制の緩和修正については全く考えていないとのメッセージで、今後も計画的に継続していくことを力強く発したことが印象的であった。米国における州法の強さが伝わる意見であった 中国のエコカーライセンス 中国市場における動き 米下院のエネルギー商業委員会が、自動運転の販売や使用を緩和する法案を可決した 新規参入企業を多くても10社程度に削減する可能性 独フォルクスワーゲン(VW)と中国江准汽車の合弁会社である江淮大衆汽車(JAC-VW)も認可された。初めて、中国ローカル系以外の外資系が認可されたことは、他の外資系自動車メーカーにも大きな指針となる そういう文化が根付いているからこそ、自動運転の開発には自信をもっていることだろう。そこにドイツの気概が感じられる 崇高な自動車交通文化があったからこそ、ドイツでは自動車の先進技術が開発され世界をリードしてきたのであろう 自動運転に関わるルール作りも容易なことではない。責任の所在、保険システム等々、解決すべき課題も多い。日本勢としても、そのようなガイドラインや国際標準化でリードすることが求められるが、ドイツ勢とどのように伍していけるか、これから正念場を迎える 電動車開発で日本勢に負けていること ドイツ勢がかくも自動運転を積極的に進めているのだろうか。筆者には、その理由として以下の3点 7月に入り、独アウディがレベル3(完全自動運転ではないが、条件付きで自動車主体の自動運転)を実現した「A8」を今秋に発売するとの発表 交通文化はドイツが発祥 1930年代のドイツのアウトバーン計画が背景にあると 究極の自動車はドイツからというプライド 先行き不透明なトランプ政権の意思決定プロセスによって、自動運転という次世代の技術開発や、そこに対する投資がスローダウンしてしまう危険性がある 電動化で先導してきた日本が自動運転で遅れ? ドイツ勢の威信をかけた闘いの背景にあるものは? 日系自動車業界関係者におかれては、いまこそ、しっかりと、気を引き締めていただきたい 自動運転推進に米政府が急ブレーキをかけた理由 AUVSI オートメイテッド・ヴィークル・シンポジウム2017 ・トランプ政権は「反オバマ政策」を唱えるイメージが根強い 自動運転の法整備はこれまで、公道での走行実験を許可してきたネバダ州、カリフォルニア州、オハイオ州、テキサス州など、州政府の意向が強く反映 今回のシンポジウム開催時点で、NHTSA長官は未任命のままだ 連邦高速道路交通安全局(NHTSA:発音はニッツァ)による講演がゼロだったのだから 今年の講演内容は筆者自身の想定を遥かに下回るショボいものだった セドリック セルフ・ドライビング・カーの略 “レベル5”の自動運転車 ドライバーの運転操作は不要 、一連の動きはすべて、ボタン操作、ボイスコントロール、またはスマートフォンアプリを使用して、完全に自動的、確実かつ安全に行えるという 桃田健史 カーシェアリングでの使用を前提 ステアリングホイール、ペダル、ダッシュボードがない VWが発表した完全自動運転車はどれだけ“未来的”か? CAR and DRIVER ジュネーブ・ショー 斬新な自動運転コンセプトカーを発表 日経ビジネスオンライン 自動運転バブル崩壊の予感 佐藤 登 ダイヤモンド・オンライン (その1)(VWが発表した完全自動運転車はどれだけ“未来的”か?、自動運転推進に米政府が急ブレーキをかけた理由、電動化で先導してきた日本が自動運転で遅れ? ドイツ勢の威信をかけた闘いの背景にあるものは?) 自動運転
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人工知能(AI)(その3)(人間を「駆逐」したウォール街の王者 機械と人間の逆転、人工知能 天使か悪魔か、自動車業界も「AIブーム」でも人工知能学会は冷めた目で見る理由) [科学技術]

人工知能(AI)については、昨年11月10日に取上げた。今日は、(その3)(人間を「駆逐」したウォール街の王者 機械と人間の逆転、人工知能 天使か悪魔か、自動車業界も「AIブーム」でも人工知能学会は冷めた目で見る理由) である。

先ずは、5月22日付け日経ビジネス「人間を「駆逐」したウォール街の王者 機械と人間の逆転」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・米投資銀行最大手のゴールドマン・サックス(GS)がトレーダー600人をAIに置き換えた。圧倒的速さでスキルを身につけるAI。医師などの高給取りさえも、仕事が奪われ始めた。 今年1月中旬、米ハーバード大学が開催したシンポジウム。世界中から集まった科学者などでほぼ満席となった会場は、登壇者である一人のコンピューターサイエンティストの登場を待ち望んでいた。男の名はマーティン・チャベス氏。当時、ゴールドマン・サックス(GS)のCIO(最高情報責任者)で、この5月にCFO(最高財務責任者)に就任したウォール街の革命児だ。
・「金融は、数学とソフトウエアの時代になった」「ゴールドマンのビジネスモデルは今やグーグルのようだ」と、静かな口調で、挑戦的な言葉を聴衆に浴びせかけた。 さらに「今まさにビジネスモデルを急転換している」とした上で「2000年に600人いた当社の株式トレーダーは、今や2人しかいない。代わりは(AIを使う)自動株式売買プログラムだ」と明かした。静まりかえる会場。AIによる金融業界の地殻変動は衝撃的だった。
・株式トレーダーといえば、金融界の花形ポジション。世界各地のトップ大学を卒業したエリートが、株価変動や経済ニュースなどを常時チェックし、最適な瞬間に最適な価格で売買を行う。 英金融データ会社によると、大手金融機関のトレーダーなどの平均年収は約50万ドル(約5600万円)に達する。ゴールドマンの場合、単純計算すると年間300億円を超す人件費が節約できる計算になる。
・これまで金融業界では、銀行の窓口業務がATMに取って代わられ、さらにはインターネットバンキングが台頭するなど、テクノロジーが人間の業務範囲を侵食してきた。 しかし、「何に投資するか」「どのような金融商品を作るか」といった高度な判断力を求められる業務は、高い知性を持つエリートが変わらず担ってきた。だがその人間の聖域さえもAIは奪いつつある。もはやAIが人の業務を支えるのではない。AIが最高のパフォーマンスを出せるように、人は支える側に回る主従逆転がまさに起きている。
▽衛星写真から投資判断
・AIは、トレーダーが担う短期的な株式の売買だけではなく、これまでファンドマネジャーが手掛けてきた中長期的な運用までも自動化する。 ゴールドマンでその運用モデルを開発するのが、ニューヨークにいる約190人のチーム。インドやロシアなど世界各地から優秀な頭脳を集めたチームの一員である諏訪部貴嗣マネージング・ディレクターは「以前に比べ、投資に有益な文章の意味を飛躍的な正確さで見抜けるようになった」と指摘する。
・AIが従来のコンピュータープログラムと違うのは高度な言語処理能力だ。アナリストのリポートなどを随時チェックし、微妙な表現の変化を把握。アナリストが株式銘柄への評価を「売り推奨」から「買い推奨」に変更する兆候などを事前に察知できるという。
・さらに画像情報も有効利用できるようになった。例えば、大量の衛星写真からAIが全米のスーパーマーケットの駐車場の混雑具合を判別し、小売企業の業績予想に役立てる。トウモロコシの栽培状況から、食品メーカーの仕入れ価格も予想できる。  AIの登場で、人間のあらゆる活動が株式分析の対象となった。人間のトレーダーやアナリスト、ファンドマネジャーの情報処理能力が及ぶ範囲ではもはやない。
・ゴールドマンは今年2月、日本国内でも個人投資家向けにAIが運用する投資信託を発売開始。既に2300億円もの運用資金を集めている。三菱UFJ国際投信も2月にAI投信を設定。アストマックス投信投資顧問も、ヤフーが保有するビッグデータを活用した投信を運用する。
・AIファンドが乱立するなか、「いかに有用な数値・言語データをAIに学習させるのか。ほんの一握りの設計者の存在が重要になってくる」とヤフー検索を利用した投信の運用を助言する関西学院大学の岡田克彦教授は指摘する。 数人の天才がいれば、業界を支配できる──。野心的な挑戦がニューヨークの小さなオフィスで始まっている。たった9人のAIヘッジファンド、リベリオン・リサーチを率いるのは33歳のアレクサンダー・フレイス氏。数学や機械学習を専門とする友人たちと07年に運用を開始し、09年には年間運用利回り41%を実現して世界を驚かせた。
・世界53カ国・地域の膨大な経済データをAIに読み込ませ、株式や債券など1万1000以上の投資先の値動きを予想する。14年に原油価格が下落した際は、原油輸出に支えられた南米諸国の為替をAIがいち早く売り、利益を確保した。「人間に比べ、AIは学習スピードが速い。運用を続ける中で、予測の精度は飛躍的に上昇している」とフレイス氏は語る。
▽数学の天才がAIファンドを設計する
・圧倒的なリサーチ力 世界53カ国・地域の経済指標などを24時間チェックする。 ブレないメンタル 波乱相場でも、市場の動きに惑わされず、AIが合理的に判断  徹底した低コスト構造 運用コストは年1%と一般的なヘッジファンドの半分以下  米国ではこうした一握りの天才的なソフトウエア技術者を求め、壮絶なヘッドハント合戦が繰り広げられる。世界最大級のヘッジファンド、米ブリッジウォーターは米IBMでAI「ワトソン」を開発したデービッド・フェルッチ氏を引き抜いた。西海岸ではコンピューターサイエンスと数学の博士号取得者を、ファンド関係者が血眼になって探し回っているという。当然、報酬は1億円以上が前提だ。
・一部の天才を除けば、専門性の高い仕事でもAIに取って代わられる。この現象は金融に限られたものではない。 米東海岸のボストンにあるマサチューセッツ総合病院。19世紀に、世界で初めて麻酔を使った手術を成功させるなど、世界トップクラスの技術を持つ医療機関である。その一角を占める「臨床データサイエンスセンター」に、病院には似つかわしくないほど大きなサーバールームがある。中央部に設置されているのは、AIを搭載したスーパーコンピューターだ。
▽医者の役割が根本から変わる
・同病院は米スタンフォード大学の人工知能研究所や独ソフトウエア大手のSAPなどと提携。AIを使った医療を世界でいち早く開始した。AIに10万枚以上の患者の体内のスキャン画像などを学習させ、病気を診断させる実験を繰り返している。既に、肺がんの早期発見と幼少期の骨粗鬆症の進行分析のプロジェクトが実証段階に入り、実際の診断にも活用する。AIにより、従来は見つからなかったようながんさえ早期発見できるようになったのだ。
・骨粗鬆症のプロジェクトでは、子供の手の画像をAIが解析し、自動的に骨年齢を判断。既に人間の放射線科医とほぼ同等の正確性を実現した。骨粗鬆症のように画像で診断しやすい病気ならば、「99%の精度で正しい診断ができるようになる」(臨床データサイエンスセンターのディレクター、マーク・ミカルスキ氏)。日本でも国立がん研究センターなどがAIの活用を進めているが、いまだ実用化できていない。
・マサチューセッツ総合病院が学習させたAIは100種類を超えている。あらゆる病気を1つのAIで発見することは現状では不可能に近く、一つひとつの病気に特化したAIを開発し、診断の精度を高めている段階だ。肺がんと骨粗鬆症以外で実証段階まで進んでいないのは、AIに学習させるデータが不足していることが大きい。
・ミカルスキ氏は「データ不足などの問題で、5年や10年でAIが医師に取って代わることはない。病気の地域性もある。地域によって病気の傾向が違うため、AIをそれぞれの地域ごとに学習させる必要がある」と言ってこう続ける。「ただし、15年たてば医師の役割はがらりと変わる」 例えば、比較的簡易な診断のみを提供する医療機関では、医師の数は間違いなく減る。AIが診断し、「医師はデータサイエンティストのような存在になる。データを理解し、AIの診断が正確かどうかを確認するのが医師の職能の一つになるだろう」(ミカルスキ氏)。完全に人間の医師が駆逐されることはないかもしれないが、診断の大半をAIに任せる時代は確実に近付いている。
・1月に開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)。世界各国から1000社もの企業トップが集う中、近い将来に世界で数百万人分の仕事がAIなどの新技術に置き換えられるとの予想が発表された。  いやが応でもAIは人間の仕事を奪っていく。それならば、できる限り早くAIに仕事を任せ、人手不足を解消したり、人間は人間にしかできない別の業務に注力したりすべきではないか。
・日本でも先進的な取り組みが始まっている。「AIを前提に、物流倉庫を設計から見直す」。こう力を込めるのは大和ハウス工業の常務執行役員、浦川竜哉氏だ。18年に千葉県流山市で完成させる拠点を手始めに、新型の物流センターを通販会社などに貸し出す。 そこで活動するのは搬送用ロボット「バトラー」。商品を搭載した棚の下部に潜り込み、棚ごと自由に動かす機能を持つ。物流センターで働く人は、6~7割の時間を荷物を探して歩き回ることに費やすとされる。この作業をロボットに任せ、人手不足に対応する。
▽照明や空調をロボットに最適化
・目指すのは、人間ではなくロボットが主役の物流倉庫だ。AI化で倉庫の現場から人間を完全に排除できれば、通路の幅や照明、空調などはロボット用に最適化できる。営業時間という概念すらなくせるだろう。人手不足を嘆くだけでは、物流の自動化で日本勢は大きく後れを取る恐れがある。この危機感が大和ハウスを駆り立てている。
・金融では富国生命保険が今年から医療保険の給付金査定をAIが代替するシステムを導入。これまで4日程度かかっていた査定期間を1日短縮し、業務担当者を約130人から3割減らした。これにより「対面販売など、自社の注力分野に人員を再配置できた」(同社)。
・しかし日本企業全体で見た場合、冒頭のゴールドマンなどに比べAI化の速度は格段に遅い。別の保険会社幹部は、「大胆なAI化でミスが起きた際、担当者の責任問題となる。査定や商品設計などの中核的な業務では、当面人手による作業に頼りきりだ」と明かす。AIにゆだねる勇気がなければ、世界との差は開くばかりだ。
▽リアルタイム翻訳、音声アシスタント……急速に普及する「耳を持つAI」
・「ハロー」「ボンジュール」「今日のテーマは何だい」。さまざまな言語を話すメンバーたちが、インターネット通話サービスのスカイプ経由でそれぞれの母国語を使って当たり前のように会議を始めた。 これは、米マイクロソフトが4月に日本語対応を始めたスカイプ翻訳サービスを使ったデモンストレーションの様子だ。AIの言語・音声処理能力を使い、同時に10カ国語、100人までが同時翻訳で会議に参加できる。
・現状では多少不自然な翻訳があるのはご愛嬌。外国語を学ばなくても、気がねなく世界中の母国語が違う相手と会話ができる。そんな夢の時代の到来が迫っている。
・言葉の意味をコンピューターが理解することは、これまでは極めて難しいとされてきた。同じ単語でも使われる場面によって意味合いが変わるからだ。ところが、AIを使えば、言葉が使われる場面を繰り返し学習することで、微妙なニュアンスの違いを判別し、適切に翻訳できるようになった。言語・音声サービスは今後、爆発的に市場が伸びる可能性が高く、欧米企業は研究開発を急加速している。
・マイクロソフトの研究開発費は年間1兆3000億円程度と民間企業ではトップレベル。AI分野に5000人もの技術者と研究者を配置している。 米アマゾン・ドット・コムはAI搭載のスピーカー型音声アシスタント端末「アマゾンエコー(Amazon Echo)」を米国などで発売。話しかけると、ニュースを読み上げたり、照明をオン・オフしたり、音楽を流したりする機能が受け、既に1000万台以上が売れている。
・米調査会社ガートナーによると、こうした音声アシスタント機器の市場規模は2020年までに21億ドル(約2300億円)に拡大する見込み。開発に出遅れた日本企業は、「耳を持つAI」を巡る覇権争いで今後、存在感を発揮できるだろうか。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/051600674/

次に、6月25日付けNHKスペシャル「人工知能 天使か悪魔か 2017 」のポイントを紹介しよう(▽は小見出し)。
・今年春、将棋界の最高位・佐藤天彦名人と最強の人工知能が激突する電王戦2番勝負が行われた。人工知能の前に、これまで屈してきたプロ棋士たち。最後の牙城だった佐藤名人も完膚なきまでに叩きのめされた。もはや人間など敵ではない。人工知能は、モンスターのような進化を遂げている。
・人間の知性を越える人工知能が、すでに現実社会に進出している。名古屋のタクシー会社では、客がいる場所を指示する人工知能を導入、客の数を大きく伸ばした。人工知能が、人間を評価するという事態も起こっている。シンガポールのバス会社では、事故を起こす危険性の高い運転手を人工知能が見つけ出す。アメリカでは、過去の膨大な裁判記録を学んだ人工知能が、被告の再犯リスクを予測し、刑期の決定などに関わっている。日本のある企業でも、退職の予兆がある人を、人工知能が事前に察知するというシステムを導入した。
・将棋界最高の頭脳・羽生善治が、電王戦2番勝負を読み解いていく。思索は、将棋の盤面にとどまらない。人間を上回る能力を持つ人工知能が社会に進出した今、私たちは、その巨大な存在とどう向き合っていけばいいのだろうか。 電王戦第一局では、羽生を前年に破った佐藤名人に対抗したPONANZAには過去5万局の棋譜を機械学習させた上、コンピュータ同志で700万局対戦させたところ、人間が決して思いつかない手を指してきた。
・名古屋のタクシー会社では、NTTが位置情報と、タクシー会社の乗降データを組合せ、向こう30分間の客数予測するシステムを1年で開発。利用した結果、客数は20%増加。 金融の現場ではいち早く使われ、現場は一変した。株式取引の8割はコンピュータ。いまやトレーダーはAIのトレードを見つめるだけ。銘柄毎の1/1000秒毎の値動き実績を基に、銘柄毎の5分後の株価予測。しかし、理由は示さず、ブラックボックス。
・アメリカでは、過去の膨大な裁判記録を学んだ人工知能が、被告の再犯リスクを予測し、釈放するか否かを決めている。再犯者は10%減。しかし、受刑者は釈然とせず。「もし判断を間違えれば、誰かの人生を狂わせることに」。
・病院事務派遣会社では、ストレスが多く退職者が絶えない。退職した者への面談データを教師データにして、面談結果から退職の予兆ある人を解析。退職予兆者には手厚いサポート。3人に予兆ありと答えてきたが、1人は面談者には予想外。文書解析を専門とするAI開発で世界をリードするソラストデータアナリシス社が開発。他にも弁護士事務所や銀行などが顧客。 「将棋では、人間が直観で捨ててしまっている手のなかに、実はまだまだ可能性があることを示した。開発者も「何故強くなっているか、理解出来なくなりつつある」。
・羽生「私たち棋士が直面している違和感は、AIの思考がブラックボックスになっていること。社会がAIを受容していく中で、このブラックボックスの存在は大きな問題になる可能性」。どう使いこなすかが問われている。「仮想敵」のように位置付けるべきではない。将棋の世界では、AIが示したアイデアを参考にしながら、新しい手を考えたり、さらにそこから将棋の技術が進歩したりするケースが非常に多く起こっている。上手く活用すれば、必ず私たち人間にとって大きな力をなる筈」(羽生)。
・韓国では、AIを国家運営に適用するべく、AI政治家のプジェクトが開始。世界各国の憲法、経済政策、支持率などのデータを与える。5年後の実用化を目指す
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20170625

第三に、ジャーナリストの桃田健史氏が5月31日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「自動車業界も「AIブーム」でも人工知能学会は冷めた目で見る理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽第三次ブーム真っただ中のAI  本当に人間を支配するほど発達するか
・人工知能学会は2017年5月23日から26日までの4日間、JR名古屋駅近くの愛知県産業労働センター『ウインクあいち』で第31回全国大会を開催した。 大会の冒頭、人工知能学会の会長で国立情報学研究所・教授の山田誠二氏が基調講演を行った。 その中で、まずは最近のAIブームについて触れ、「本学会としては、クールに冷めた目で見ている」と述べた。こうした姿勢は、昨年北九州市で開催された第30回全国大会での前会長の講演内容と同じだ。
・また、論文の発表件数で見ると、過去20年ほどで3倍になっており、これはAI研究者の数が増えていることだと指摘。一方で学会の会員数は、第二次AIブームと呼ばれた90年代初頭の後から減少。1993年から2012年までの『AI冬の時代』の後、2013年から急激なV字回復となっており、「いまは第三次ブームの真っただ中にいる」(山田氏)という見解を示した。
・こうした時代背景を説明した後、講演の主題である『インタラクティブなAI』について話を始めた。 ここでいうインタラクティブとは、人とAIが相互に補完し合うことを指す。 インタラクティブなAIが必要な理由として、(1)AIは、は単なるプログラムであるため、プログラムを作る人のコントロール下にある。(2)AIは、擬人化されることが多いが、生物的なものではない。という前提の上でAIと人の知的能力を比較すると、結果的に人とAIが相互に補完することが最も高いパフォーマンスを生むという。
・また、AIは、人がいない環境で動くというより、人の助けがいるところで動くという、人とAIが協調することが自然なことだ、とも指摘した。 これを筆者なりに解釈すると、SF映画のシナリオのように、人が作ったAIが学習効果を高め、ある時点から人の介入を不要とし、最終的には人を支配するまでに至ることはない、ということだろう。いや、そうなってしまうようなAIを、人が作り出すべきではない、という意見とも受け取れる。
・こうしたAIの倫理観については、昨年に発足した人工知能学会の倫理委員会で議論を進め、その結果を倫理指針として公開している。 今回の全国大会では、企業が自社でビジネスモデル化しているAI関連の案件を紹介するインダストリアルセッションや、AI初心者を対象としたチュートリアル講演などを新設したが、どちらの会場内も立ち見が出るほどの盛況だった。
▽自動車産業でのAI活用は研究と実用で大きなギャップ
・人工知能学会の全国大会と同時期、横浜市みなとみらい地区にあるパシフィコ横浜、および会議センターでは、自動車技術会春季大会と、それに関連する展示会の『人とくるまのテクノロジー展』が行われた。  パシフィコ横浜の2階通路には、自動車や自動二輪車における技術進化について、自動車メーカー各社から当時の部品などの提供を受けた興味深い展示品が並んだ。展示スペースの入り口には、大きな折れ線グラフのような表記で自動車技術の進化を示すディスプレイが置かれていた。そこでは、今後の成長分野として『電動化・自動運転・知能化』という3つのキーワードが記載されていた。
・電動化とは、EV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)等、パワートレインがこれまでの内燃機関からモーターへと移行することを指す。 そして、自動運転と知能化とは、車外との情報通信によるコネクテッド化によるビックデータの解析能力をAIによって高めることを示している。
・しかし、発表された論文や、各種フォーラムでの講演、そして商品の展示を見る限り、AIに関する話題は意外と少ない印象だ。これは、日系自動車産業界におけるAIはまだ、基礎研究の段階であり、量産に向けた応用研究分野においても秘匿性の高い競争領域であるため、現時点で具体的な内容を公開しづらいという各社の事情がある。
・一方で、本連載でも既報の通り、米シリコンバレーでは最近、インテルやNVIDIA(エヌビディア)などの大手半導体メーカーが、画像認識を主体とするAI技術を組み込んだハードウエア、ソフトウエア、そしてSDK(ソフトウエア・デベロップメント・キット)の量産化に向けた動きを加速させている。
・筆者は直近の3週間ほどで、シリコンバレー、名古屋、そして横浜でAIに関する最新情報を収集するなかで、日米の自動車関連産業界におけるAIへの認識の温度差、またAIに関する学術的な観点と実社会における利便性のギャップを強く感じた。
・また、巧妙なマーケティング戦略を打つシリコンバレー産業に対して、ジャーナリストとしていつもニュートラルな視線を持つべきだと、強く意識した。 今後も自動車産業との連携案件を主体に、第三次AIブームの成り行きを各地現場で見続けていこうと思う。
http://diamond.jp/articles/-/130009

第一の記事で、ゴールドマン・サックスでは、 『2000年に600人いた当社の株式トレーダーは、今や2人しかいない。代わりは(AIを使う)自動株式売買プログラムだ』、との変化ぶるには、改めて驚いた。さらに、『大量の衛星写真からAIが全米のスーパーマーケットの駐車場の混雑具合を判別し、小売企業の業績予想に役立てる。トウモロコシの栽培状況から、食品メーカーの仕入れ価格も予想できる。 AIの登場で、人間のあらゆる活動が株式分析の対象となった』、ここまで情報をいち早く取り入れるのでは、「勝負あった」だろうが、他のプレイヤーも同じことをやり出せば、優位性を別の点に求めてゆかざるを得ないのだろう。 日本人が最も必要としている『音声アシスタント機器・・・開発に出遅れた日本企業』、というのは情けない。日本企業の奮起を期待したい。
第二の記事で、 『アメリカでは、過去の膨大な裁判記録を学んだ人工知能が、被告の再犯リスクを予測し、釈放するか否かを決めている。再犯者は10%減。しかし、受刑者は釈然とせず』、というのは、皮肉な話だ。不公平な判断を下しやすい人間より、AIの方がよほど公平な筈だが、機械に判断されることへの受刑者の違和感も分かる気がする。タクシー会社のケースは素晴らしい成果だが、他社が同様のシステムを導入すると、何らかの手直しが必要になるだろう。
第三の記事で、 『学会の会員数は、第二次AIブームと呼ばれた90年代初頭の後から減少。1993年から2012年までの『AI冬の時代』の後、2013年から急激なV字回復となっており、「いまは第三次ブームの真っただ中にいる」』、という流れからみると、学会会長が 『クールに冷めた目で見ている』、というのも理解できる。 『自動車技術会春季大会と、それに関連する展示会の『人とくるまのテクノロジー展』』では、『AIに関する話題は意外と少ない印象だ。これは、日系自動車産業界におけるAIはまだ、基礎研究の段階であり、量産に向けた応用研究分野においても秘匿性の高い競争領域であるため、現時点で具体的な内容を公開しづらいという各社の事情がある』、という事情があるのであれば、余り騒がずに、静かに見守るべきなのかも知れない。
タグ:人工知能(AI) )(その3)(人間を「駆逐」したウォール街の王者 機械と人間の逆転、人工知能 天使か悪魔か、自動車業界も「AIブーム」でも人工知能学会は冷めた目で見る理由) 日経ビジネス 人間を「駆逐」したウォール街の王者 機械と人間の逆転 ゴールドマン・サックス トレーダー600人をAIに置き換えた 2000年に600人いた当社の株式トレーダーは、今や2人しかいない。代わりは(AIを使う)自動株式売買プログラムだ AIは、トレーダーが担う短期的な株式の売買だけではなく、これまでファンドマネジャーが手掛けてきた中長期的な運用までも自動化する ゴールドマンでその運用モデルを開発するのが、ニューヨークにいる約190人のチーム 大量の衛星写真からAIが全米のスーパーマーケットの駐車場の混雑具合を判別し、小売企業の業績予想に役立てる。トウモロコシの栽培状況から、食品メーカーの仕入れ価格も予想できる。  AIの登場で、人間のあらゆる活動が株式分析の対象となった AIファンドが乱立するなか、「いかに有用な数値・言語データをAIに学習させるのか。ほんの一握りの設計者の存在が重要になってくる AIヘッジファンド、リベリオン・リサーチ 07年に運用を開始し、09年には年間運用利回り41%を実現して世界を驚かせた 米国ではこうした一握りの天才的なソフトウエア技術者を求め、壮絶なヘッドハント合戦が繰り広げられる マサチューセッツ総合病院 「臨床データサイエンスセンター」に、病院には似つかわしくないほど大きなサーバールームがある。中央部に設置されているのは、AIを搭載したスーパーコンピューターだ 既に、肺がんの早期発見と幼少期の骨粗鬆症の進行分析のプロジェクトが実証段階に入り、実際の診断にも活用する AIにより、従来は見つからなかったようながんさえ早期発見できるようになったのだ。 「データ不足などの問題で、5年や10年でAIが医師に取って代わることはない。病気の地域性もある。地域によって病気の傾向が違うため、AIをそれぞれの地域ごとに学習させる必要がある」と言ってこう続ける。「ただし、15年たてば医師の役割はがらりと変わる」 例えば、比較的簡易な診断のみを提供する医療機関では、医師の数は間違いなく減る。AIが診断し、「医師はデータサイエンティストのような存在になる 大和ハウス工業 新型の物流センター 搬送用ロボット 物流センターで働く人は、6~7割の時間を荷物を探して歩き回ることに費やすとされる。この作業をロボットに任せ、人手不足に対応 ロボットが主役の物流倉庫 富国生命保険が今年から医療保険の給付金査定をAIが代替するシステムを導入 リアルタイム翻訳、音声アシスタント 開発に出遅れた日本企業 NHKスペシャル 人工知能 天使か悪魔か 2017 名古屋のタクシー会社 客がいる場所を指示する人工知能を導入、客の数を大きく伸ばした NTTが位置情報と、タクシー会社の乗降データを組合せ、向こう30分間の客数予測するシステムを1年で開発 利用した結果、客数は20%増加 株式取引の8割はコンピュータ。いまやトレーダーはAIのトレードを見つめるだけ 理由は示さず、ブラックボックス アメリカ 過去の膨大な裁判記録を学んだ人工知能が、被告の再犯リスクを予測し、釈放するか否かを決めている 再犯者は10%減。しかし、受刑者は釈然とせず。「もし判断を間違えれば、誰かの人生を狂わせることに 病院事務派遣会社 退職した者への面談データを教師データにして、面談結果から退職の予兆ある人を解析。退職予兆者には手厚いサポート 桃田健史 ダイヤモンド・オンライン 自動車業界も「AIブーム」でも人工知能学会は冷めた目で見る理由 人工知能学会 第31回全国大会 人工知能学会の会長で国立情報学研究所・教授の山田誠二氏が基調講演を行った。 その中で、まずは最近のAIブームについて触れ、「本学会としては、クールに冷めた目で見ている」と述べた 学会の会員数は、第二次AIブームと呼ばれた90年代初頭の後から減少。1993年から2012年までの『AI冬の時代』の後、2013年から急激なV字回復となっており、「いまは第三次ブームの真っただ中にいる」(山田氏)という見解 インタラクティブなAI 人とAIが相互に補完することが最も高いパフォーマンスを生むという AIは、人がいない環境で動くというより、人の助けがいるところで動くという、人とAIが協調することが自然なことだ、とも指摘 自動車技術会春季大会と、それに関連する展示会の『人とくるまのテクノロジー展』 発表された論文や、各種フォーラムでの講演、そして商品の展示を見る限り、AIに関する話題は意外と少ない印象だ これは、日系自動車産業界におけるAIはまだ、基礎研究の段階であり、量産に向けた応用研究分野においても秘匿性の高い競争領域であるため、現時点で具体的な内容を公開しづらいという各社の事情がある
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イノベーション(技術革新)(英ダイソンの頭脳拠点、産学連携の現実) [科学技術]

今日は、イノベーション(技術革新)(英ダイソンの頭脳拠点、産学連携の現実) を取上げよう。

先ずは、昨年12月14日付け日経ビジネスオンライン「ダイソンは「課題発見力」を徹底的に鍛える 英ダイソンの頭脳拠点に潜入(前半)」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・英国の家電メーカー、ダイソン。独特の色使いとユニークな形状、高いデザイン性を評価するファンを世界中に持つ。日本での人気も高い。掃除機から始まった取り扱い製品は、空調機や照明など5種類に広がった。今年、その最新製品となるヘアドライヤーを発表した。
・業績も好調だ。2015年12月期の売上高は前期比26%増の17億ポンド(約2380億円)と過去最高を記録。営業利益に償却費を加えたEBITDAは同19%増の4億4800万ポンド(約627億円)となった。世界72カ国の市場で事業を展開しており、顧客数は6700万人を超える。
・独創的な製品は、いかにして生まれるのか。その秘密を探るため、ダイソンが開発拠点を置く英国本社を訪れた。そこで見たのは、エンジニアの創発を促す様々なシカケ。同社のユニークな職場を歩きながら、「革新を生む組織」の条件を探った。
・英ダイソンの本社があるのは、ロンドンの西に位置するブリストル市郊外のマルムズベリー。丘陵地帯にのどかな緑地が広がる、英国の伝統的な自然景観が残る町だ。ロンドン中心部からは、電車とタクシーを乗り継ぎ、2時間ほどの道程。決して立地の良い場所ではないが、受け付けロビーは早朝から取引先やダイソンの他の拠点からの訪問者でにぎわっていた。
・本社に到着し、敷地内にある駐車場から受け付けのあるビルに向かう。その途中で、ダイソンらしい光景を早速目にした。駐車場の一角に、無数の巨大な展示物が設置されているのだ。 展示しているというよりも、無造作に置かれているという方が正しい表現かもしれない。戦闘機の「ハリアー」、民間ヘリコプターの「ベル47」、自動車の「ミニ・クーパー」…。すべて模造品ではなく、実物。創業者のジェームズ・ダイソン氏の所有物だ。 いずれも、貴重なコレクション。だが、単なる趣味で置いているわけではない。それぞれの展示物には、エンジニアが守るべき「心得」のようなものが込められている。
▽展示物にはすべて意味がある
・例えば、上の写真にあるハリアー。同機は「実用垂直離着陸」を、世界で初めて実現した戦闘機だ。英国で開発された。文字通り、ほぼ垂直に離着陸できるため、滑走路を必要としない。 「ハリアーは、コンセプトの大切さを教えてくれる」 ダイソンのエンジニア、クリス・ビンセント氏はこう言う。垂直離着陸の技術が着目されたのは1950年代。当時、欧州各国で開発競争が活発化した。機体を垂直に浮き上がらせる技術として、当時、複数のアイデアがあったという。中でも、主流だったのは、垂直に浮上するための専用エンジンを搭載する案だった。しかし、専用の浮上エンジンを搭載すると機体重量が大幅に増える。これは、戦闘機の飛行速度を低下させるデメリットをもたらす。
・速度を落とすことなく、垂直離着陸をいかに実現するか。この課題に対して、ハリアーは、飛行に使うエンジンノズルを回転させるアイデアを採用した。浮上する際に、エンジンノズルの向きを90度傾け、下に向けるのだ。 この仕組みなら、浮上専用エンジンが不要となり、その分、機体の重さを維持できる。しかし、アイデアは机上の空論の域を出なかった。そこで、開発陣はエンジンノズルの回転に焦点を絞り、何度もプロトタイプ(試作機)を作っては検証を繰り返した。結果的に、コンセプトは証明され、最終的に実機の開発につながった。
・「革新的な製品には、必ず画期的なコンセプトがある。そこには、興味深いストーリーがあり、人に話さずにはいられない」とビンセント氏は言う。ハリアーは、その貴重な教材というわけだ。 他の展示物もハリアーと同様に、ダイソンのエンジニアが心得ておくべき教訓が込められている。民間ヘリコプターのベストセラーとなったベル47は、操縦席の部分がガラスの球体状になっているのが特徴だ。「透過性は、ダイソンの製品開発におけるとても大切な要素」(ビンセント氏)。
・半分に切断された状態で展示されているローバー・ミニ。コンパクトにまとめることの大切さを伝えている。「空間をムダにしない内部構造を作ることの大切さを再認識させてくれる」(ビンセント氏)。 開発にあたってエンジニアは何を大切にしなければならないか。日々の会話や研修の中で繰り返すことも大切だが、時には、目に見える形で見せることも大切。ビンセント氏らダイソンのエンジニアは、煮詰まってアイデアが出なくなると、ふらっと外に出て、こうした展示物を見ながら、忘れていた心得を思い出す。
▽本社社員の3分の1、2000人がエンジニア
・23万平方メートルの広大な敷地を持つダイソン本社で働く社員は約6000人。このうち、エンジニアは約2000人に上る。 エンジニアが作業する建物は、もともとは工場で、現在は販売を停止している洗濯機を生産していた。2002年、ダイソンは、すべての製品の生産をマレーシアに移転した。シンガポールで生産するモーターを含め、生産体制は東南アジア地域に移管している。
・一方、英国本社は製品企画や基礎研究、新規事業開拓を担う。プロジェクトの数は年々増えており、現在進行中のものは200件を超える。拠点の拡充も続けており、今年8月には新しい研究開発センターを完成させた。
・「この20年で会社は大きく変わったよ」。こう語るのは、アレックス・ノックス氏。社員が10人の頃からダイソンで働く古参社員だ。従業員数が7000人近くになった今でも、エンジニアとして忙しい毎日を送っている。「ビジネスや市場は確かに拡大したが、新しい製品を生む仕組みは昔のままさ」。ノックス氏はこう語る。 ダイソン流の革新的なモノづくりの秘密とは何か。ノックス氏が真っ先に指摘したのは、創業者であるダイソン氏の積極的な関わりだ。ダイソン氏は社内にいても、ほとんど自室にいることはなく、開発現場を歩き回っている。エンジニアに声をかけては開発状況を聞き、自分の意見をぶつける。「ジェームズも対等なエンジニアとして議論し、一緒になって開発に取り組む。昔から変わらない光景だ」(ノックス氏)。
▽「オープン」「シナジー」「スペース」
・もちろん、それだけではない。職場環境にも、エンジニアの創発を促すために工夫を施している。ポイントは3つあると言う。 第1は、空間がオープンであること。エンジニアが机を並べるオフィスは、仕切りやパーティションがない大部屋。お互いに、どこにいて、何をやっているかがひと目で分かる。「誰がどこにいるかが分かれば、すぐに目当ての人をつかまえられる」(ノックス氏)。コミュニケーションにかかる余計な障壁を取り除く効果がある。 もともと生産工場だったため、オフィスは超大部屋。ホワイトボードにはキャスターがついており、いつでも動かして、オープンな空間を作り出すことができる。
・第2は、オープンな空間の中で、チームの連携を生み出しやすい環境を作ること。具体的には、関連する製品を開発するグループは、できるだけ近い場所に席を配置する。例えば、掃除機の場合、大きく(1)デザイン、(2)製造、(3)検証――の3チームが中心となる。これらは、なるべく寄せて配置している。 この近くには、ロボット掃除機の開発部隊を置いた。関連するチームが、すぐに話し合うことができる。
・最後は、物理的な「空きスペース(隙間)」をあえてつくることだ。オフィスを見ると、至るところに、ぽっかりと空間があるのが目につく。そこで社員は立ち話をしたり、ホワイトボードを持ち込んで議論を交わしたりする。「簡単な打ち合わせやブレストをきっかけに面白いアイデアが生まれることも多い。それを誘発する場所を設けておくことが大切」(ノックス氏)。
・移動に使う通路も、エンジニアに様々なメッセージを発する場として活用する。ある壁には、「失敗の壁」と書かれ、過去のエンジニアの失敗談や失敗事例が詳細に記載されていた。失敗の壁は2つのメッセージを発しているという。一つは「失敗から学ぼう」、もう一つは「先輩もこれだけ失敗したから、失敗を恐れるな」だ。
・別の壁には、製品を分解して展示していた。入社間もない社員は、毎日この壁の前を通りながら、ダイソンの掃除機の仕組みを理解していく。こうして、ダイソンのエンジニア文化を吸収していくのだ。 こうした環境の下、エンジニアはどのようなプロセスで製品を開発するのか。 ジェームズ・ダイソン氏がエンジニアに繰り返すのは、「課題発見」の大切さだ。入社したエンジニアはまず、課題を発見することの重要性を先輩から徹底的に叩き込まれる。
▽すべては課題発見から
・「普段使っている製品やサービスに不満はないか。その問いを適切に立てることが、ダイソンのエンジニアとしての出発点」。ダイソンのニュープロダクション・イノベーション・ヘッドを務めるスティーブン・コートニー氏は言う。 問題の設定次第で、アウトプットとなる製品は全く違ったものになる。例えば、同社が2009年に発売した扇風機「Air Multiplier」を開発した時のことだ。同製品は、一般の扇風機のようなブレード(羽)を持たず、リング状の筐体にモーターで空気を巻き込み、風を発生させる。ユニークな形状は、当時、世界中の耳目を集めた。
・「当初の製品開発の問いが、『性能の優れた扇風機を開発せよ』だったら、この製品は生まれていなかった」。ダイソンのマックス・コンツCEO(最高経営責任者)は言う。「モーターの性能やデザインなどはより洗練されたものになっていたかもしれないが、ブレードがついた従来の『扇風機』の殻は破れなかった」。 この時、ダイソンは問題をこう設定した。「より快適な送風体験を得る製品とは何か」。エンジニアは、空気の流れをデザインすることから始めた。そして、飛行機のエンジンなどから着想を得て、ユニークな形が生まれた。
・ただ「従来にない製品を開発せよ」と繰り返しても、エンジニアは何を開発していいか、行き詰まってしまう。「そうではなく、革新的な製品の開発ほど、適切な課題を立てることが必要になる」とコンツCEOは言う。 もちろん、言うは易く、行うは難し、だ。問題設定が適切かどうかを、即断するのは難しい。それでも、「課題発見力」を20年以上磨き続けてきたダイソンは、過去の経験から2つのことを大切にしている。
・一つは、コミュニケーションしやすい環境をつくること。様々な人と会話することで、自分の問題意識を検証しやすくなる。先に見てきたオフィス環境は、この目的に沿って設計されている。もう一つは、自分の立てた問題の解決策をすぐに試すことができる環境を用意することだ。 例えば、ダイソンの社内には、ワークショップと呼ばれる巨大な作業場所がある。3Dプリンターや様々な工作機械が用意されており、自分の立てた問題と、それを解消する手段が適合しているのか、すぐに確認できる。
・かつて、米グーグルが就業時間の20%を個人の自由な開発プロジェクトに充ててもよいというルールを導入して話題になった。ダイソンは、明確なルールは設けていないが、「時間が許す限り、自分のアイデアを検証してもよい」(ダイソンのデザインエンジニア、オリビア・レグランド氏)。ある程度形になったアイデアを社員仲間に披露する「アイデアデー」と呼ばれる機会も定期的に設定している。
・仮に、自分の問題設定が甘かったり、アイデアが形にならなかったりしても、それらが捨てられることは決してない。「アイデアはエンジニアの記憶のライブラリーに永遠に残る。それらが何年後かに、思わぬ形で日の目を見ることも多い」と、エンジニアのビンセント氏は言う。実際に、ダイソンが開発した独自モーターは18年間、ロボット掃除機は9年間あたためられていたアイデアが形になったものだ。
・もちろん、これらの開発には相応のカネがかかる。ダイソンが開発に投じる資金は、1週間に500万ポンド(約7億円)。単純に年換算して、約360億円、売上高の15%程度に達する。最新製品のヘアドライヤー「Supersonic」には5800万ポンド(約80億円)を投じている。
・ここまでの投資が許容されるのは、ダイソンが非上場企業であり、オーナー経営であることが大きい。同社が市場に繰り出す独創的な製品を見る限り、同社の研究開発投資は、今のところ投資以上のリターンを生んでいる。
・もちろん、課題もある。事業拡大に伴い進出した新たな領域での人材確保だ。例えば、同社がいま最も力を注いでいるのは独自の電池開発。米ベンチャーのサクティー3を昨年10月に買収するなど、意欲的に開発を進めている。今年3月には、ダイソンが電気自動車(EV)ビジネスへの参入を検討しているとの報道も駆け巡った。 ただし、電池開発は、ダイソンにとって新しいビジネス領域であり、従来にないタレントの確保が求められる。同様に、今後IoT(モノのインターネット)が普及していく中で、ハードウエアだけでなく、ソフトウエアに習熟したエンジニアの数も増やしていく必要がある。
・それでも、コンツCEOは人材確保に自信を見せる。「ダイソンにはエンジニアにとって理想的な開発環境がある。優秀な人材も絶対に満足するはずだ」。実際、選りすぐりの技術者が今も世界中から同社への入社を希望しているという。
・自由闊達な雰囲気の中で、優秀なエンジニアが日々、新しい課題を考え抜いている。与えられる責任は重いが、やり甲斐と権限、それに資金の豊富さはそれ補って余りある魅力を持つ。皆が目を輝かせて開発に没頭している。開発現場を覆う雰囲気は、製造業よりも、シリコンバレーの米グーグルや米フェイスブックのキャンパスに近い。 いかに効率よく課題を解決するか。カイゼンの追求はもちろん大切だ。しかし、それと同じくらい、課題を探求する能力を養うことも大切。それを理解し、実現するための文化と環境を作り上げてきたところに、ダイソンが持つイノベーションの原動力がある。(後半に続く)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/120600509/?P=1

次に、上記の続きである12月15日付け日経ビジネスオンライン「ダイソン、コンツCEOに聞く技術革新を生む組織 英ダイソンの頭脳拠点に潜入(後編)」を紹介しよう(▽は小見出し、――は聞き手の質問、+は回答内の段落)。
・(出だし省略)同社の強みである「革新を生む組織」の背景にある秘訣を、マックス・コンツCEO(最高経営責任者)に聞いた。
――ダイソンが考える「革新を生む組織」の条件とは何でしょうか?
コンツ:言葉で説明するのはなかなか難しいですが、我々が常に意識しているポイントが4つほどあります。  一つは、若い才能を積極的に組織に取り入れることです。ダイソンでは、大学を卒業したばかりの20代のエンジニアを重宝しています。彼らは、ベテランにはない、輝きに溢れたアイデアをたくさん持っています。  仕事における「経験」は確かに大切ですが、時にそれが新しいアイデアを生む邪魔になることも我々は理解しています。「今まではこのやり方でうまくやってきた」という経験は、こだわり過ぎると、イノベーションの障害になります。ですから、それを防ぐために、何の経験もないエンジニアを常に組織に混ぜる必要があると考えています。
+もちろん、経験の浅いエンジニアがただプロジェクトに参加しても、変化は起こりにくいでしょう。なので、若いエンジニアに大きな仕事を任せ、権限と責任を与えます。これが2つ目のポイントです。 創業者のジェームズ(ダイソン氏)はほぼ毎日、4~5人のエンジニアと膝をつきあわせて新製品に関わる会議に参加しています。その会議でジェームズは、全員を対等に扱います。10年以上のベテランの意見であっても否定するし、入社わずか1週間の新人のアイデアでも、興味深ければ採用します。そうやってダイソンのエンジニアは、この職場がやり甲斐のある職場だと理解していきます。 もちろん、権限と同時に責任も与えられますから、決して楽なことばかりではありません。しかし、若いうちからエンパワー(権限委譲)された社員は目の輝きが違います。どんどん仕事に没頭していきます。
+3つ目が、リスクを許容するカルチャーを醸成することです。画期的な発明は、数え切れない失敗の上に生まれることを、エンジニアに理解してもらいます。身をもって体現しているのが、ジェームズです(笑)。決して上っ面だけの言葉を繰り返しているわけではありません。 このヘアドライヤーの「Supersonic」も、300以上のプロトタイプ(試作品)を試し尽くした末に生まれました。製品を形にするために、いくつものアイデアが生まれましたが、そのほとんどは、最後まで日の目を見ませんでした。同様に、いま開発中の製品だって、すべてが形になるわけではありません。
▽生まれたアイデアは決して死なない
+しかし、我々はアイデアが不採用になっても、それを決して捨てません。「今回はたまたまタイミングがよくなかっただけ」と考え、次のタイミングまで寝かせるのです。こういった作業を、エンジニア一人ひとりが日々繰り返しています。それを20年以上続けることで、「失敗を許容する文化」が育まれてきました。だから、若いエンジニアも、難しい課題に思いっきりチャレンジします。
+最後のポイントは、あきらめずに執着する文化を育むことです。失敗を許容する一方で、失敗したあとも、自分の成し遂げたい目標を達成すべく愚直に努力し続けることを奨励しています。先に、ダイソンで生まれたアイデアは決して捨てられることはないと言いました。本当にそれは事実で、製品の中には、長い時間を経て、ようやく製品化されたものも少なくありません。
+例えば、我々のパワフルな家電製品の原動力となっている小型モーターは、自社で開発しました。これが形になるまで、18年かかりました。ロボット型掃除機のアイデアも2006年頃には形にできそうでしたが、タイミングが早すぎると判断して当時は製品化を見送りました。日の目を見たのは、それから9年経った2015年です。
+面白いのは、アイデアはデータベースで管理しているわけではなく、常にエンジニアの頭の中にしまわれている点です。それが、ある議論をきっかけに突然、“エンジニアの元に降ってくる”。だから、ダイソンは今でもエンジニア同士の議論やコミュニケーションを大切にします。
――確かに、いずれの要素もイノベーションを生む組織に不可欠な気がしますが、一方で、ダイソンだからこうした要素を実現できる、というものはありますか?
コンツ:我々がこうした経営を実現できるのは、我が社が非上場のオーナー企業であることが大きいと思います。仮に上場していれば、株主の要求に耳を傾けないといけません。革新を生む組織作りと、投資家が求める短期的な利益とがどうつながるのか、説明しなければならない場面も出てくるでしょう。より具体的に言えば、「こうした職場環境は、ムダも多く、非効率的なのではないか」と。
+しかし、イノベーションを生む組織を構築したいのであれば、どの企業も遠からず、我々と同じ答えにいきつくのではないでしょうか。それを投資家に理解してもらうことも、経営者の大きな仕事の1つだと思います。
――ダイソンのエンジニアには、課題を見つけることの重要性を繰り返しているそうですね。
コンツ:ダイソンの製品開発は、常に課題発見から出発します。エンジニアは、身の回りの製品に、決して満足してはいけないんです(笑)。何か不満はないか、問題の本質を探すよう常に言っています。 慣れてくると、あらゆる製品が不満だらけのものになってきます(笑)。そこから始めて、課題を解決する方法を考える作業が始まります。ここで大切なのは、課題設定の重要性です。問いの立て方を誤ると、出来上がる製品が随分と違ったものになってしまいます。
+例えば、我々が2009年に発売した扇風機「Air Multiplier」。製品開発にあたって立てた問いは、「高品質の扇風機の開発」ではなく、「心地よい送風体験を得る製品の開発」でした。もし高品質の扇風機と設定していれば、たしかに素晴らしい扇風機が生まれていたと思いますが、デザインは相変わらずブレードがついた、あの形だったでしょう。
▽日本は貴重な課題先進国
+Supersonicも同じです。40年以上変わっていないヘアドライヤーの問題は何か。あらゆる関係者の声を拾い、ヘアドライヤーとは何かを再定義してみました。 日本市場は課題の宝庫ですよ。例えば、最新スティック型掃除機のクリーナーヘッド「Fluffy(フラッフィ)」は、日本のユーザーの声から生まれたものです。「畳の目に入り込んだゴミを取りにくい」という課題に応えるための試行錯誤を経て、このヘッドが生まれました。
+もちろん、このヘッドは他国の市場でも好評です。日本は、ダイソンにとって貴重な「課題先進国」です。  さらに、課題を発見する上で大切なのは、すべて自分たちで試してみることです。 ダイソンの本社には、開発から完成後の製品検証まで、必要な設備をすべて自前で用意しています。これは、秘密を保持するためという理由に加えて、すべてのプロセスを自分たちが経験することで、その仕組みを理解することができるようになるからです。
――IoT(モノのインターネット)時代が到来し、ハードウエアだけでなく、それらをつなぐソフトウエアの重要性も高まっています。ダイソンも無縁ではいられないと思います。これにはどう対応しますか?
コンツ:我々の事業環境はどんどん変わっています。5年前、ダイソンの販売高の約8割を掃除機が占めていました。しかし今年は、約8割が掃除機以外の製品になりました。 ソフトウエアの比重が今後高まっていくのは間違いないでしょう。例えば、ロボット掃除機の「Dyson360 Eye」はハードだけでなく、ソフトがカギを握ります。それ以外の家電製品も、スマートフォンとの連携などを始めています。
+変化に対応するために、ソフトウエアのエンジニアを今後さらに増やしていきます。既に、100人ほどのエンジニアを増員すると決めました。今後はスマホのアプリ分野に強いスタートアップなどとの連携も増やしていく考えです。
――ソフトウエア化が進むと、これまでのダイソンのビジネスモデルが変わる可能性はありますか?
コンツ:興味深い質問ですね。今のところ、私も答えを持ち合わせていません。ユーザーはメカニカルな満足度だけでなく、データやアプリを通じた利用体験も価値だと考えるようになっているのは確かです。 先に述べたように、ソフトの比重が高まる中で、変化を迫られる可能性はあるでしょう。ただし、私は楽観しています。結局、ダイソンが考えるべきはオーナー(顧客)の満足度を高めることに尽きます。それがハードなのか、ソフトなのかは、手段に過ぎません。
▽政府と連携して教育機関を設立
――話は変わりますが、英国が国民投票でEU(欧州連合)からの離脱を決めました。英国企業として、この決断の影響はありますか?
コンツ:正直に言って、まったくないですね。我々は既に72カ国で展開するグローバル企業です。英国の選択は、EUとの貿易関係に影響を与えることになります。しかしEU市場は我々にとって、数ある市場の一つに過ぎません。収益の分散が進んでいます。EU市場より、むしろアジアでの売り上げが伸びていますし。 ただし、英国という国の立場に立てば、これをチャンスにしていかなくてはならないでしょう。
――ダイソン氏も離脱に賛成していました。
コンツ:英国として、競争力をより高めていく必要があるでしょうね。英国企業として我々も協力は惜しみません。 例えば、人材育成は今後英国にとって重要な課題になるでしょう。この課題を解決する方法の1つとして、ジェームズが運営する基金を使って教育機関を創設すると11月に決めました。
+生徒は、学費無料で工学エンジニアリングを修得できます。その教育課程の中で、ダイソンは学生をインターンのような形で学生を受け入れ、彼らの技術力向上を支援します。人材とテクノロジーに向けた英国の投資を象徴するプロジェクトになるでしょう。いずれにしても、私自身はこれからの英国の展開を楽しみにしていますよ。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/120800513/?P=1

第三に、 2月28日付け日経ビジネスオンライン「産学連携の現実、企業と大学のお寒い関係」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・大学の存在意義は授業を通じて学生を「教育」し、人材育成をすることにある。そしてもう一つ大きな役割があり、それは新しい技術を生み出したり新たな事実を発見したりする「研究」である。典型例の1つが京都大学・山中伸弥教授によるiPS細胞に関する成果だろう。
・こうした大学で生み出された技術や研究成果を世の中に早く活用する方法として、企業と大学がタッグを組む「産学連携」ということばをよく耳にする。最近ではオープンイノベーションという名のもとに、大学も連携相手として注目度が増している。
・しかし考えてみてほしい。一般の人が「産学連携で生み出された成果や製品で、インパクトがある有名なものを挙げてください」と聞かれたら答えられるだろうか。ほとんどの人が答えられないだろう。 理系の人なら、青色LED技術を豊田合成と共同開発した名古屋大学の例や、建材などに使われている光触媒技術をTOTOやパナソニックなどと開発した東京大学の例が浮かぶかもしれないが、いくつも挙げられるほどでもない。
・このことに疑問を持った記者は、日経ビジネス2月20日号の特集「行きたい大学がない」でもこの点の取材に取り組んだ。その中で明らかになったのは、企業と大学のお寒い関係だった。
▽お互いを信用しない
・「はした金で研究に口出ししてくる」(国立大学教授) 「納期も守らない、知的財産の考えも適当」(メーカー技術者) これは産学連携がうまくいかない理由を聞いたときに返ってきた答えだ。複数に取材したが、いずれも同じような内容だった。すべての産学連携がそうだとは言わないが、この「同床異夢」とも言える状況が、うまくいかない原因の一つであることは間違いない。
・大学の言い分を詳しく聞くとこうだ。 「億を超える研究費を扱う中で、企業が出す研究開発費は数百万円程度。本気だとも思えないし、それで厳しく成果をって言われても…」 「大学は研究して論文を書いてそれが学会などで認められないと偉くなれない。産学連携ばかりに没頭すると、基礎研究に費やす時間がなくなって自分の居場所がなくなる」
・大学は企業が本気でないのを見抜いているし、自分の組織での立場を守るためにもあまり時間をさけないというシステム上の問題があることが分かる。一方の企業の言い分は、 「ちゃんと研究成果が出るか未知数のものに、多額の研究開発費を出すのは難しい。リスクを背負える額を見積もって出しているだけ」 「投資した以上は、会社への説明責任があるので、成果がどうなったかを聞くのは当然」  といったものだった。
・企業側も思い切った投資が許されるような組織になっていないことなどがうかがえる。さらには、 「先生が複数の企業から研究費を受け取っていて、新しい知財の成果が誰のものかごちゃごちゃになってもめた」 「秘密裏に開発していた研究内容を、大学の先生が学会であっさりしゃべってライバルに知られてしまうことがあった」 といった大学側の“常識のズレ”を指摘する声もあった。こうした構図で生み出された失敗は、大学側も企業側も互いに組むのはもう嫌だと避けるようになって、ますます産学連携で成果を生み出すことが難しくなるという状況になっている。
・大学は現状、毎年補助金を減らされるなど十分な資金を得られているとは言い難い状況だ。その一助として企業からの資金をうまく取り入れられるかがカギになるが、企業と大学の現場の相互不信は根深い。
▽成功例も出始めている
・そんな中で、しっかりとした枠組みを作れば、日本でも産学連携は成功するという一つのモデルケースが生まれている。東京大学大学院生物有機化学教室の菅裕明教授が自らの研究成果を生かして設立した、創薬支援の「ペプチドリーム」だ。ペプチドリームの開発した「特殊ペプチド」を使えば、長期間かかる創薬の時間短縮が図れるとして注目を浴びている。
・同社は2013年に上場し、現在は内外の製薬会社16社と協業している。菅氏は自身の特許を東京大学に帰属させ、そのライセンス管理は「東京大学TLO」という管理会社に委託した。ペプチドリームはそこから特許使用の許可を得る。製薬会社とペプチドリームは契約によって成果が誰のものかなどが明確になっている。
・菅教授は「企業同士で成果などを細かく定めて契約を結ぶため、企業もお金を出しやすい。誰の知財か複雑になることもない」と説明する。さらに「知を追及するアカデミアな研究と製品開発は目的やそれを達成するまでのスピード感も違う。別の組織にすることで研究も製品化も互いに阻害しない」とメリットを語る。菅教授は現在、東京大学や文部科学省など内外に、この「ペプチドリーム型」とも言える産学連携の形を標準的にするように働きかけていく予定だという。
・日本の大学が資金不足で劣化しないためにも、日本の企業や大学の競争力を向上させるためにも、産学が連携することは欠かせない。文科省と経済産業省は昨年12月、経団連の提言を受けて「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を策定したが、こうしたきっかけがあっても、大学が意識を大きく変えるほど取り組めなければまた掛け声倒れで終わってしまう危険性もある。うまく機能することを期待したい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/022300417/?P=1

第一の記事にある、 『駐車場の一角に、無数の巨大な展示物が設置・・・それぞれの展示物には、エンジニアが守るべき「心得」のようなものが込められている』、 『「革新的な製品には、必ず画期的なコンセプトがある』、 『開発にあたってエンジニアは何を大切にしなければならないか。日々の会話や研修の中で繰り返すことも大切だが、時には、目に見える形で見せることも大切』、などはさすがだ。 『失敗の壁は2つのメッセージを発しているという。一つは「失敗から学ぼう」、もう一つは「先輩もこれだけ失敗したから、失敗を恐れるな」だ』、というのも素晴らしい仕組みだ。 『すべては課題発見から』、というのも極めて重要な考え方だ。開発に『売上高の15%程度』を充てるというもさすがだ。 記者が、『カイゼンの追求はもちろん大切だ。しかし、それと同じくらい、課題を探求する能力を養うことも大切』、と指摘しているが、これには違和感を覚えた。ダイソンはカイゼンの追求よりも、課題を探求する能力を重視しているのではなかろうか。日本の家電メーカーは黄金時代でも、横並びの過当競争を繰り広げ、体力を消耗してきた。オリジナリティ溢れる商品で高付加価値経営をしているダイソンとの格差は余りに大きい。しいて言えば、創業期のソニーがダイソンに似ていたのかも知れない。
第二の記事にある 『何の経験もないエンジニアを常に組織に混ぜる必要があると考えています・・・若いエンジニアに大きな仕事を任せ、権限と責任を与えます』、 『失敗を許容する一方で、失敗したあとも、自分の成し遂げたい目標を達成すべく愚直に努力し続けることを奨励しています』、なども成功の秘訣だろう。 『日本は貴重な課題先進国』、としているが、「課題先進国」を初めに言い出したのは、東大元総長の小宮山宏氏だったと思う。
いずれにしろ、IoTなどでソフトの比重が高まるなかで、開発力を如何に維持してゆくかに注目したい。
第三の記事にあるように、『産学連携の現実、企業と大学のお寒い関係』、というのは、残念ながら現実のようだ。 『成功例も出始めている』、とはいっても、例外的事例に過ぎないのではなかろうか。
タグ:成功例も出始めている 企業と大学の現場の相互不信は根深い 秘密裏に開発していた研究内容を、大学の先生が学会であっさりしゃべってライバルに知られてしまうことがあった 先生が複数の企業から研究費を受け取っていて、新しい知財の成果が誰のものかごちゃごちゃになってもめた 大学は研究して論文を書いてそれが学会などで認められないと偉くなれない。産学連携ばかりに没頭すると、基礎研究に費やす時間がなくなって自分の居場所がなくなる 億を超える研究費を扱う中で、企業が出す研究開発費は数百万円程度。本気だとも思えないし、それで厳しく成果をって言われても 納期も守らない、知的財産の考えも適当 はした金で研究に口出ししてくる お互いを信用しない オープンイノベーション 産学連携の現実、企業と大学のお寒い関係 政府と連携して教育機関を設立 日本は貴重な課題先進国 課題設定の重要性 アイデアはデータベースで管理しているわけではなく、常にエンジニアの頭の中にしまわれている点です。それが、ある議論をきっかけに突然、“エンジニアの元に降ってくる”。だから、ダイソンは今でもエンジニア同士の議論やコミュニケーションを大切にします 製品の中には、長い時間を経て、ようやく製品化されたものも少なくありません 失敗を許容する一方で、失敗したあとも、自分の成し遂げたい目標を達成すべく愚直に努力し続けることを奨励しています それを20年以上続けることで、「失敗を許容する文化」が育まれてきました 我々はアイデアが不採用になっても、それを決して捨てません。「今回はたまたまタイミングがよくなかっただけ」と考え、次のタイミングまで寝かせるのです リスクを許容するカルチャーを醸成 若いエンジニアに大きな仕事を任せ、権限と責任を与えます 何の経験もないエンジニアを常に組織に混ぜる必要 マックス・コンツCEO ダイソン、コンツCEOに聞く技術革新を生む組織 英ダイソンの頭脳拠点に潜入(後編) ソフトウエアに習熟したエンジニアの数も増やしていく必要 IoT 非上場企業であり、オーナー経営 自分の問題設定が甘かったり、アイデアが形にならなかったりしても、それらが捨てられることは決してない。「アイデアはエンジニアの記憶のライブラリーに永遠に残る。それらが何年後かに、思わぬ形で日の目を見ることも多い」 コミュニケーションしやすい環境をつくること すべては課題発見から 失敗の壁は2つのメッセージを発しているという。一つは「失敗から学ぼう」、もう一つは「先輩もこれだけ失敗したから、失敗を恐れるな」だ ある壁には、「失敗の壁」と書かれ、過去のエンジニアの失敗談や失敗事例が詳細に記載 物理的な「空きスペース(隙間)」をあえてつくることだ オープンな空間の中で、チームの連携を生み出しやすい環境を作ること 「オープン」「シナジー」「スペース」 創業者であるダイソン氏の積極的な関わりだ。ダイソン氏は社内にいても、ほとんど自室にいることはなく、開発現場を歩き回っている。エンジニアに声をかけては開発状況を聞き、自分の意見をぶつける 英国本社は製品企画や基礎研究、新規事業開拓を担う すべての製品の生産をマレーシアに移転 本社で働く社員は約6000人 開発にあたってエンジニアは何を大切にしなければならないか。日々の会話や研修の中で繰り返すことも大切だが、時には、目に見える形で見せることも大切 革新的な製品には、必ず画期的なコンセプトがある それぞれの展示物には、エンジニアが守るべき「心得」のようなものが込められている 駐車場の一角に、無数の巨大な展示物が設置 エンジニアの創発を促す様々なシカケ 英国本社 顧客数は6700万人を超える 業績も好調 独特の色使いとユニークな形状、高いデザイン性を評価するファンを世界中に持つ ダイソン ダイソンは「課題発見力」を徹底的に鍛える 英ダイソンの頭脳拠点に潜入(前半) 日経ビジネスオンライン (英ダイソンの頭脳拠点、産学連携の現実) (技術革新) イノベーション
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ロケット・衛星打上げ(その2)(イーロン・マスクの火星移住船、日本の宇宙産業が「将来有望」だが伸びない理由) [科学技術]

昨日に続いて、ロケット・衛星打上げ(その2)(イーロン・マスクの火星移住船、日本の宇宙産業が「将来有望」だが伸びない理由) を取上げよう。

先ずは、昨年10月12日付け日経ビジネスオンライン「姿を現したイーロン・マスクの火星移住船 大ボラか? いや、本気も本気、意外に手堅い構想だ。」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・打ち上げ時重量、1万500トン、第1段には42基もの「ラプター」エンジンを装備、100人を火星まで運ぶ――イーロン・マスクの火星移民船構想は、事前の予想を遙かに超えたスケールの大きなものだった。
・9月27日、メキシコのグアダラハラで開催された国際学会「IAC2016」で、スペースX社のイーロン・マスクCEOは、事前に予告した通り、火星移民のための宇宙輸送システム「インタープラネタリー・トランスポート・システム」構想を発表した。
・彼は本気か、それとも誇大妄想的構想で、単に「ファルコン9」ロケット爆発事故による打ち上げ中断の危機にあるスペースXのイメージを回復させるつもりでホラを吹いているのか――。 構想を子細にみていくと、イーロン・マスクとスペースXが本気も本気、大マジであることがわかる。
・同構想は、使用する推進剤の種類というロケットの基本にまで立ち戻ってゼロから検討されている。しかも大胆な全体構想を支えているのは、意外なほど手堅い技術だ。スペースXが現在保有する技術か、その延長線上で開発中の技術しか使用していない。構想には初期的なものながら、コスト見積もりも附属しており、同社が技術だけではなく、ビジネス面からも検討を煮詰めていることがうかがえる。
・ちなみに、スペースXの新構想は、驚くほど楽観的なスケジュールと共に公表されるのが常だ。インタープラネタリー・トランスポート・システムにも、「2022年に最初の火星への飛行を行う」という予定表が附属している。  実際問題として、東京オリンピックの2年後に火星に旅立つスケジュールを遵守するのは無理だろう。が、イーロン・マスクが今後、「2022年運用開始」を前提にスペースXという会社をドライブしていくことは間違いない。
▽軌道上で推進剤補給を行い、火星を目指す
・スペースXの構想を理解するには、同社のプロモ映像を見るのが一番手っ取り早い。 インタープラネタリー・トランスポート・システムは、巨大な2段式のロケットで、第2段がそのまま100人が搭乗可能な有人宇宙船となっている。この第2段は、翼こそないものの、胴体が空気の中で浮く力(揚力)を発生するリフティング・ボディという形状になっており、火星の大気中を滑空できる。推進剤は、液化メタンと液体酸素を使用。共に冷却して密度を上げた状態でタンクに充填する。
・打ち上げは2段階で行われる。 まず、有人宇宙船を打ち上げる。打ち上げに使った第1段は、現行の「ファルコン9」と同じく、射点に戻って逆噴射で着陸・回収される。すると射点には、宇宙船とほぼ同型だが無人のタンカーが待っている。タンカーは推進剤である液体酸素とメタンを搭載している。第1段にタンカーを載せて再度打ち上げ、地球周回軌道で有人宇宙船とタンカーはランデブー、ドッキング。推進剤の補給を受けた有人宇宙船は、火星へと向かう。
・火星に到着すると、有人宇宙船は火星大気で減速して、最終的にロケットエンジンの逆噴射で着陸する。  帰還には火星で製造した推進剤を使用する。事前に推進剤を製造するプラントを火星表面に送り込み、火星大気の二酸化炭素と土中の水から、メタンと液体酸素を製造しておくのだ。推進剤にメタンと液体酸素を選んだ理由は、火星にある資源から製造できるからだったのだ。機体はすべて回収、再利用され、低コストの地球・火星定期便を可能にする。
▽100人乗りの有人宇宙船
・構想も大きいが、宇宙船もすごい。 100人乗りの有人火星宇宙船を打ち上げるシステム――インタープラネタリー・トランスポート・システムは桁外れに巨大だ。直径は12m、全高122mで打ち上げ時重量は1万500トン。地球を回る高度数百kmの地球低軌道に550トンものペイロードを打ち上げる能力を持つ。アポロ計画で人間を月に送り込むのに使われた「サターンV」ロケットの約4倍の能力だ。第2段の有人宇宙船は最大直径が17m、全長49.5m。第2段だけでも、日本のH-IIAや欧州のアリアンVなどの既存の衛星打ち上げ用ロケットをはるかに超える規模を持つ。
・第1段は、新規開発で300トンfの推力を発生する「ラプター」エンジンを42基も装備、第2段となる有人宇宙船は、大気圏内で使用するノズルの小さなラプターを3基、真空の宇宙で使用する大型ノズルを装着したラプターを6基の合計9基を備える。
・第1段、第2段とも、軽くて丈夫な炭素繊維強化炭素複合材料で作られる。スペースXは今年8月に東レと炭素繊維の長期供給の契約を結ぶことで基本合意した。「大量の炭素繊維を何に使うのか。既存のファルコン9を炭素複合材料で作り直すのだろうか」と話題になったが、どうやらインタープラネタリー・トランスポート・システムのためだったらしい。
・第1段は1000回、タンカーは100回、有人宇宙船は12回の再利用を前提として、火星への輸送コストは1トンあたり14万ドル(約1400万円)と算定している。
▽既存技術と開発中技術を使った意外に手堅い構成
・そもそも、本当にこのようなものが作れるのかと疑問が出るところだが、インタープラネタリー・トランスポート・システムはよく練られた構想だ。100人乗りの有人火星宇宙船を、月面に2名の宇宙飛行士を送り込んだサターンVのたった4倍の規模で実現しているのだから、非常に効率が高い。
・また、使用している技術を見ていくと、スペースX手持ちの技術と開発中の技術がうまく組み合わされている。計画のキーとなる主エンジンのラプターは、すでに燃焼試験を開始している。 ラプターを42基も束ねるのも一見非現実的に思えるが、すでに同社は「マーリン」エンジン9基を束ねた「ファルコン9」ロケットを運用しており、来年には27基を束ねた「ファルコン・ヘビー」ロケットの初打ち上げを控えている。42基を束ねるのは、ファルコン・ヘビーの延長線上の技術ということになる。
・また、巨大な機体構造を炭素複合材料で作るのは、ボーイング787などの旅客機で確立している技術だ。低温の推進剤を漏れなく充填するタンクの開発には、いくらかの時間が必要だろうが、すでにスペースXは、タンクの試作に手を付けている。
・第1段の回収は、ファルコン9で何度も行っている。これだけ巨大な機体の回収は大きなチャレンジだが、すでに緒には就いているわけだ。推進剤を冷却して高密度化する技術もファルコン9に適用済みだ。また第2段のリフティング・ボディ形態は、NASAが1960年代から何機もの試験機を運用して技術開発を行っており、米国にはかなりの技術的な蓄積がある。
▽課題は技術より資金調達か
・「確かに巨大な技術的挑戦だが、完成させる見通しはある」というところまで、インタープラネタリー・トランスポート・システムの検討は進んでいる。 むしろ課題は、これだけ巨大な宇宙輸送システムの開発費用をどこから捻出するかだろう。民間からは、回収が見込めない投資を得る事はできない。資金が問題であることはマスクCEOも認めており、プレゼンテーションでは資金獲得の方法として「Steal Underpants(パンツを盗む)」と、ギャグを入れていた。過激な内容で知られるテレビアニメ「サウスパーク」に登場する下着泥棒の妖精が、「フェイズ1、パンツを集める。フェイズ2……(無言)。フェイズ3、利益だ」と言うシーンからの引用である。
・その他の資金源として「衛星を打ち上げる」「貨物を国際宇宙ステーション(ISS)に運ぶ」「キックスターター(ネットからのファンディング)」「利益」と列挙した。スペースXの収益をすべて突っ込み、同時になりふり構わず資金を集める覚悟を表明したといっていいだろう。)(続く)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/217467/100700032/

次に、上記記事の続きとして、昨年10月13日付け日経ビジネスオンライン「イーロン・マスクの「超先読み×本気全開」経営 「木星に行く気でやれば、火星には行ける」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・9月27日に米スペースXのイーロン・マスクCEOが発表した有人火星船「インタープラネタリー・トランスポート・システム」は、米国の宇宙政策に大きな影響を与える可能性がある。 現在、米国は有人宇宙活動を「地球周回軌道は民間に開放、それ以遠の深宇宙有人探査は国が行う」という切り分けを行っている。インタープラネタリー・トランスポート・システムは、この切り分けを踏み越えるからだ。
・一番最初に影響を受けるのは、米航空宇宙局(NASA)が開発している有人深宇宙探査船「オリオン」と、オリオン打ち上げ用ロケット「SLS」だろう。来年1月には、米大統領の交代がある。新大統領は就任1年後を目処に新たな新宇宙政策を打ち出すのが通例だ。2018年の米新宇宙政策に、スペースXの火星移民構想は大きな影響を与えることになるだろう。 さらにその先には、「そもそも国家が行う有人宇宙活動の意義はどこにあるのか」というより根源的な議論が起きる可能性もある。
▽急展開が得意なスペースX、予算に縛られるNASA
・スペースXの新規計画ではいつものことながら、インタープラネタリー・トランスポート・システムの開発スケジュールは極めて急速、かつ楽観的なものだ。  火星への打ち上げ機会は、地球と火星の位置関係からほぼ2年周期で巡ってくるが、2022年の打ち上げ機会には、最初の火星への飛行を行うとしている。だが、6年でこれだけ巨大な宇宙輸送システムを完成させることができるとは考えにくい。
・米国政府が青天井の予算を注ぎ込んだアポロ計画でも、サターンVロケットの開発には8年かかっている。おそらく、インタープラネタリー・トランスポート・システムの開発には10年以上かかり、実際の運用開始は最短でも2030年以降になると見ておくべきだろう。 もちろん、資金面の困難に直面して計画が消える可能性もある。
・前回掲載したコスト試算を見る限り、スペースXはシステムの製造コストをかなり安く見積もっている。これまでの有人宇宙システム開発の実績からすると、安すぎといわねばならない。それでも、スペースXは新しい技術を駆使してゼロから設計を始めることで、低コストを武器にして商業打ち上げ市場に参入した実績もある。「無理だろう」と思えても、「できない」とは言い切れない線を突いてくるのが、この会社の憎いところなのだ。
・米大統領選直前というタイミングで、民間宇宙ベンチャーからこのような構想が発表されたことで、NASAが開発中の有人宇宙船「オリオン」と打ち上げ用ロケット「SLS」は、新大統領の下で大きな影響を受ける可能性が出て来た。 現在米国は基本的に、2010年2月にオバマ大統領が発表した宇宙政策に沿って動いている。最初に述べた「地球を巡る有人宇宙活動を民間に開放し、NASAは月やそれ以遠の有人宇宙探査の技術開発に専念する」というものだ。
・当初は、完全に技術開発のみを行い、有人宇宙船やロケットの開発は行わない予定だったが、米議会で優位に立つ共和党が民主党のオバマ政権に対して「米国は国家としての有人飛行能力を放棄すべきではない」と巻き返し、NASAはオリオンとSLSを開発することになった。オバマ大統領の前のブッシュ大統領が打ち出した有人月探査構想では、月探査用としてオリオン有人宇宙船とと「アレス」ロケットを開発することになっていた。これらが若干名前を変えて復活したわけである。
▽行き先が決まらないまま、開発が遅れるオリオン
・このような経緯があったために、米宇宙政策におけるオリオンとSLSの位置付けは不明確だ。オバマによる宇宙政策は、有人探査を実施する目標を「月以遠、火星軌道まで」と抽象的にしか記述していない。有人探査を行う対象が地球に近づく小惑星なのか、火星なのか、それとも火星の衛星のフォボスとダイモスなのか、なにも決まっていない。オリオンとSLSは、行き先が決まらないまま開発されている。
・しかもオリオンとSLSの開発は、遅れつつある。オリオンは2014年12月に最初の無人飛行を実施し、大気圏再突入能力の試験を行った。次の打ち上げは当初2017年中を予定していたが、現在は2018年9月にSLS初号機で無人のオリオンを打ち上げ、月を巡って帰還することになっている。最初の有人打ち上げは2021年に有人で月周回軌道に入り、帰還することになっていたが、現状では2023年まで遅れる可能性があるとしている。
・オリオン、そしてSLSの開発はゆっくりと進んでおり、かつ完成しても打ち上げは数年に1回しかない。またSLSは、スペースシャトルの主エンジンや固体ロケットブースターなどの、手持ちの要素技術を活用する設計で、コストダウンしようにもハナから限界がある。NASAはその理由を予算的な制限によるものとしている。「予算を青天井で投入できた、アポロ計画のようにはスピーディに物事を進めることはできませんよ」というわけである。
▽政策の線引きを踏み越えるスペースX
・インタープラネタリー・トランスポート・システム構想は、明らかにオバマ宇宙政策の「地球周回軌道は民間、それ以遠は国」という棲み分けを踏み越えるものだ。 現状では、それは構想で終わる可能性もある。むしろ、あまりの壮大さに構想倒れに終わると見る人のほうが多いのではないだろうか。
・おそらく、当面は「スペースX社の言っていることは、あくまで構想である」というような理由で、NASA、さらには政策への影響を否定する動きが出る程度だろう。オリオンの開発は、欧州宇宙機関(ESA)も参加する国際協力計画である。国と国との約束を、簡単に変更することはできない。
・が、NASAのオリオン/SLSが、来年1月に就任する新大統領の政策決定プロセスの中でインタープラネタリー・トランスポート・システムと比較されたら――少なくとも、新大統領の宇宙政策における、有人宇宙探査の位置付けは激変を免れない。
▽ゼロベースだけに、効率の差はあきらか
・シャトルの技術的遺産を引きずったSLSと比べると、インタープラネタリー・トランスポート・システムは過去を絶ち切り、ゼロから技術的な最適化を狙って設計されている。当初から強く低コスト化を意識しており、開発された技術の応用範囲も広そうだ。 しかも提唱したのは、新規設計のロケットを開発し、商業打ち上げ市場への参入に成功した実績を持つスペースXだ。現時点で構想でしかないにしても、それなりの影響を米宇宙政策に与えると考えるのが妥当だ。
・例えばインタープラネタリー・トランスポート・システムはロケットの逆噴射で着陸する設計なので、搭載推進剤の量によっては、月にも着陸できる可能性がある。火星への飛行を行う前に、月にこれまでとは桁の違う人数――例えば10人とか――を月面に送り込むことができるかも知れない。すくなくともそのような有人月着陸は国際政治面でのデモンストレーションとしては大きな意味を持つ。
・今後、具体的にスペースXが開発に向けて動き出すならば、「そもそも国家が行う有人宇宙活動の意義はどこにあるのか」=「なぜ、国がやらねばならないのか?」という根源的な議論を巻き起こすことになるだろう。  1961年4月の、ユーリ・ガガーリンによる最初の有人宇宙飛行以来、国家による有人宇宙飛行は、その国の技術水準や、未知のフロンティアに挑む姿勢を示す指標として機能してきた。同時に「そもそも税金を使ってまでして、人が宇宙に行く意味はあるのか。予算の無駄づかいではないか」という疑問もまた根強い。
・自動車の開発を、国家が主導した時代があった。現在は民間の自動車産業がビジネスとして自動車を開発・製造・販売している。「スペースXができるなら、国が威信をかけて有人宇宙船を開発する必要なない」という議論が当然出てくると思わねばならない。その議論は、将来的なISSの運用にも関係するだろうし、ISSに参加する日本にも影響が及ぶと思っておく必要がある。
▽木星や土星への有人飛行も視野に
・イーロン・マスクCEOはIAC2016のプレゼンテーションを「BEYOND MARS(火星を超えて)」と題する4枚のイラストで締めくくった。木星と土星に到着し、生命存在の期待がかかっている木星の衛星エウロパと、土星の衛星エンセラダスに着陸するインタープラネタリー・トランスポート・システムの姿だ。
・発表の10日前の9月17日、彼はTwitterで「マーズ・コロニアル・トランスポーターは、もっと遠くまで行けることが分かった。新しい名前を考えないと」と発言した。火星移民を目的に最適なシステムを設計してみると、木星や土星まで行けるものになったというのである。それゆえ今回の構想は、インタープラネタリー(惑星間)と命名されていたのだった。
・夢と野心に溢れたメッセージだが、同時にこの姿勢こそが、イーロン・マスクとスペースXの「勝ちパターン」の象徴、と言える。 スペースXは「ファルコン9」ロケットで商業打ち上げ市場参入に成功し、NASAからの補助金でISSへの物資輸送船「ドラゴン」を開発し、輸送の契約を取ることに成功した。たが、それは同社の目的ではなく、その先にある「クルー・ドラゴン」有人宇宙船による有人宇宙飛行の民営化が狙いだった。
・そして、クルー・ドラゴンは、単に地球周回軌道との往復だけではなく、改装により火星に向かう「レッド・ドラゴン」宇宙船を仕立てることも可能な設計になっていた。火星へ100人もの人を送り込む「インタープラネタリー・トランスポート・システム」は、実は木星や土星にも行ける能力を持っていた。
▽遙か先を見越して、目先の課題をぶち破る
・そこにあるのは、常識の枠を越えた「超先読み」の目標設定と、それを本気で実現しようとする姿勢だ。遥か先を見越した技術開発、マーケティングによって、目先の競争や技術の壁をぶち破っていくのである。 インタープラネタリー・トランスポート・システムは、確かに誇大妄想と断じたくなるほどの巨大で大がかりな宇宙輸送システムだ。しかも、これは単なる輸送システムであって、具体的な火星植民の手法についてはまだ何も発表されていない。
・しかしながら同時にインタープラネタリー・トランスポート・システムが、スペースXのいつもの勝ちパターンに沿っていることを軽く見てはいけないだろう。イーロン・マスクとスペースXは次の大きな目標を設定し、「そこまでやり抜く」という前提で動いている。「木星・土星に行くつもりで進めば、途中の火星までは行ける」のだ。
・追記:10月4日、SLSの開発に参加するボーイング社の、デニス・ミュレンバーグCEOは、シカゴで開催されたテクノロジー関連の会議「ファッツ・ネクスト」で、「2030年代に火星に最初に降りる宇宙飛行士は、ボーイングのロケットに搭乗するだろう」と述べた。スペースXのインタープラネタリー・トランスポート・システムを念頭に置いて、ボーイングとしては、それがそう簡単には完成しないだろうと考えているわけだ。と、同時にこのような発言をしたことそのものが、スペースXの構想をボーイン グが無視できないでいることを示しているのではなかろうか。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/217467/101100033/

第三に、2月1日付け日経ビジネスオンライン「日本の宇宙産業、「将来有望」だが伸びない理由 肝心の雇用、ピークの1990年代から2割減」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ロケットや人工衛星などをはじめとする宇宙産業。先日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のミニロケットの打ち上げが失敗したとはいえ、IHI系が手掛けた「イプシロン」2号機の成功や米国のスペースXといった国内外のベンチャー企業の興隆もあり、近年は成長産業としての期待が膨らみつつある。それは正しいが、日本の現状を点検してみると、楽観は禁物だ。
・「あまり広くは知られていないが、宇宙産業の雇用はやや持ち直しているとはいえ、停滞が続いてきた。大学などで宇宙関連をせっかく研究しても就職先として受け皿が乏しい」。JAXA幹部は顔を曇らせる。宇宙産業で主要な企業はロケットを手掛ける三菱重工業、IHI、人工衛星を手掛ける三菱電機、NECの通称「ビッグ4」。これらの企業を頂点とするピラミッド構造のもと、中小サプライヤーが存在している。
▽官需依存で予算頭打ち、企業は人員抑制
・日本航空宇宙工業会によると、宇宙関連事業の従業員数は直近の数字が拾える2014年で約8000人。ピークの1990年代初頭には1万人を超えていた。同じデータでは売上高に極端な変動はなく、3000億円前後で推移しているため、一人当たりの生産性は高まっているとも読める。だがこの数字からはお世辞にもヒトとカネが流れ込む魅力的な成長産業とは言い難い。これまで日本企業の場合、コストを重視する海外などの販路を開拓できておらず、国内の官需に頼った収益構造が特徴で、売上高はほぼ各省庁の宇宙関係の予算とイコールになる。厳しい財政状況を背景に予算が頭打ちとなっており、そうした閉塞感漂う事情を見越して企業側も人員を抑制してきた。
・「振り返ってみれば、1990年に結ばれた日米衛星調達合意が日本の衛星産業発展に大きな打撃を与えた」と指摘するのは三菱電機の蒲地安則執行役員だ。貿易不均衡是正を目指す米国政府の圧力で、日本政府は通信・放送衛星など実用衛星について公開調達すると同意させられた。その結果、競争力の高い米国などの衛星メーカーが大挙して日本に参入。成長途上にあった日本勢は実用衛星から駆逐され、民間のスカパーJSATやBS放送などが現在運用中の実用衛星のほぼすべてを米国メーカー製が占める。官需依存の一因だ。
・一般的に役所関連の仕事は大きな利益や成長が見込めるものではないが、リスクが限定的でそれなりに安定している。このため、宇宙産業の企業側も必ずしも現状がよいとは思っていない一方で、それなりに業界内の秩序が出来上がっており、状況を変えるべく積極的に動く動機が乏しい。米国などの宇宙ベンチャー活発化を引き合いに、もっと商用ビジネスを強化しないのか他の宇宙産業大手の首脳に尋ねたところ、「まずはJAXAの仕事をしっかりやる」と建前とも本音ともつかない答えが返ってきた。
▽防衛産業と宇宙産業の類似性
・記者は既視感を覚えた。防衛産業との類似性だ。顧客が防衛省に限られプレーヤーが固定的な市場だ。入札制度の関係上、利益率は厳格にコントロールされるものの、ピラミッドの上位、大手になればなるほど事業としては比較的安定している。戦車や潜水艦など各種の防衛装備品の性能は高いとされるが、販路が国内限定で数がさばけず、どうしてもコストが割高になる。
・政府は友好国との関係強化のほか、防衛産業の基盤維持や効率化なども視野に入れ、2014年に防衛装備移転3原則を閣議決定。海外への輸出を条件付きで認めるようになった。ただ、防衛産業の多くは右にならえのスタンスで基本的にはまだ様子見だ。急いで海外開拓に乗り出さなければ直ちに立ち行かなくなるほどの危機感を抱いていないからだろう。日本の安全保障という需要がなくなることもない。
▽宇宙産業が雇用を生むには戦略的な後押しが必要
・ただ、宇宙産業にも明るい兆しはある。米国ほどではないがベンチャー企業の登場、精密機器が得意なキヤノンなど異業種からの新規参入だ。ベンチャーでいえば、今後増加が見込まれる超小型衛星の打ち上げをにらんだロケット開発のインターステラテクノロジズや、50基の超小型衛星による地球観測で収集したデータの活用を図るアクセルスペースなどだ。定点的な地球観測が実現すれば、インフラや農作物などの管理や資源探査、マーケティングなどに必要な膨大なデータを収集できる。また既存大手でも三菱重工がアラブ首長国連邦(UAE)から火星探査機の打ち上げを2016年に受注するなど、海外開拓の本格化に向けた機運が徐々に高まりつつある。
・トランプ米大統領の論理ではないが、産業の存在意義は究極的にはその国に安定した雇用を生み出すかどうか。宇宙が将来有望な領域であることは数十年前から言われてきたものの、放っておいて自然に伸びるほど甘くないのはこれまでの経緯で明らかだ。宇宙産業が一定の雇用を生み出し、ベンチャーや海外開拓などの動きを成長軌道に乗せるには、各種の優遇策や政府のトップセールス、事業の予見可能性を高めるための法整備など幅広く戦略的な後押しが今こそ欠かせない。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/013100402/?P=1

昨日は日本の立ち遅れた現状を伝えたが、対照的にイーロン・マスクの火星移住船計画は、夢と現実的可能性が上手くミックスされたものになっている。 『軌道上で推進剤補給を行い、火星を目指す』、 『帰還には火星で製造した推進剤を使用する。事前に推進剤を製造するプラントを火星表面に送り込み、火星大気の二酸化炭素と土中の水から、メタンと液体酸素を製造しておくのだ』、というのは、多くの困難が待ち受けているとはいえ、方法論としては、持って行く燃料を少なく出来る極めて合理的なものだ。しかも、『既存技術と開発中技術を使った意外に手堅い構成』、ということであれば、単なる「夢物語」ではなさそうだ。最近はインターネットを使ったクラウドファンディングによる資金調達も徐々に出てきたが、やはり本件の場合は、『課題は技術より資金調達か』、ということであれば、通常のクラウドファンディングなどでの調達額とは、ケタ違いに多額の資金が必要ということなのだろう。ただ、技術面でも火星の水を如何に取り出すかなど課題も多いと思われる。
火星移住船計画は、米国の有人宇宙活動の切り分け(『「地球周回軌道は民間に開放、それ以遠の深宇宙有人探査は国が行う」』)、を踏み越えるようだが、トランプがどう判断するかは分らないが、民間でこうしたことが出来るというのであれば、恐らく大歓迎だろう。イーロン・マスクが、『遙か先を見越して、目先の課題をぶち破る』、という方法論で動いているとのことだが、こんな大きな構想力を持った人物がいるアメリカは、悔しいことではあるが、やはり「ファースト」になるにふさわしい国のようだ。
第三の記事にある 『日本政府は通信・放送衛星など実用衛星について公開調達すると同意させられた。その結果、競争力の高い米国などの衛星メーカーが大挙して日本に参入。成長途上にあった日本勢は実用衛星から駆逐され、民間のスカパーJSATやBS放送などが現在運用中の実用衛星のほぼすべてを米国メーカー製が占める』、というのは困ったことではあるが、何でも自国で作らないと気が済まないというのは、グローバル化した世界では経済合理的でない。やはり「比較優位原則」で、自国の強みに特化してゆくべきなのだろう。
タグ:帰還には火星で製造した推進剤を使用 インタープラネタリー・トランスポート・システムは、この切り分けを踏み越える NASA ゼロベースだけに、効率の差はあきらか そもそも国家が行う有人宇宙活動の意義はどこにあるのか」=「なぜ、国がやらねばならないのか?」 ISSに参加する日本にも影響が及ぶと思っておく必要 300トンfの推力を発生する「ラプター」エンジンを42基も装備 事前に推進剤を製造するプラントを火星表面に送り込み、火星大気の二酸化炭素と土中の水から、メタンと液体酸素を製造しておく 機体はすべて回収、再利用 オリオン打ち上げ用ロケット「SLS」 有人深宇宙探査船「オリオン」 急展開が得意なスペースX、予算に縛られるNASA 米国は有人宇宙活動を「地球周回軌道は民間に開放、それ以遠の深宇宙有人探査は国が行う」という切り分けを行っている イーロン・マスクの「超先読み×本気全開」経営 「木星に行く気でやれば、火星には行ける」 課題は技術より資金調達か 炭素複合材料 既存技術と開発中技術を使った意外に手堅い構成 射点には、宇宙船とほぼ同型だが無人のタンカーが待っている。タンカーは推進剤である液体酸素とメタンを搭載 第1段は、現行の「ファルコン9」と同じく、射点に戻って逆噴射で着陸・回収 軌道上で推進剤補給を行い、火星を目指す ビジネス面からも検討を煮詰めている 大胆な全体構想を支えているのは、意外なほど手堅い技術 使用する推進剤の種類というロケットの基本にまで立ち戻ってゼロから検討されている 火星移民船構想 イーロン・マスク 100人を火星まで運ぶ 姿を現したイーロン・マスクの火星移住船 大ボラか? いや、本気も本気、意外に手堅い構想だ 日経ビジネスオンライン (その2)(イーロン・マスクの火星移住船、日本の宇宙産業が「将来有望」だが伸びない理由) ロケット・衛星打上げ 100人乗りの有人宇宙船 インタープラネタリー・トランスポート・システム 防衛産業と宇宙産業の類似性 その結果、競争力の高い米国などの衛星メーカーが大挙して日本に参入。成長途上にあった日本勢は実用衛星から駆逐され、民間のスカパーJSATやBS放送などが現在運用中の実用衛星のほぼすべてを米国メーカー製が占める 貿易不均衡是正を目指す米国政府の圧力で、日本政府は通信・放送衛星など実用衛星について公開調達すると同意させられた 官需依存で予算頭打ち、企業は人員抑制 日本の宇宙産業、「将来有望」だが伸びない理由 肝心の雇用、ピークの1990年代から2割減 遙か先を見越して、目先の課題をぶち破る 木星や土星への有人飛行も視野に 推進剤は、液化メタンと液体酸素 スペースX社
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ロケット・衛星打上げ(その1)(X線観測衛星喪失から浮かび上がる問題) [科学技術]

今日は、やや古い話題だが、ロケット・衛星打上げ(その1)(X線観測衛星喪失から浮かび上がる問題) を取上げよう。内容はかなり専門的なものも含むが、日本のこの分野での立ち遅れという由々しい問題を考える上で、有益と思われるので、取上げた次第である。

先ずは、昨年8月8日付け日経ビジネスオンライン「310億円の事故と「会議室の大きさ」の関係 X線観測衛星喪失から考える組織文化と体制改革(その1)」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・2016年3月26日に、異常回転から分解事故を起こした宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙科学研究所(ISAS)のX線天文衛星「ひとみ」の事故調査は、6月14日に、文部科学省・宇宙開発利用部会に「X線天文衛星ASTRO-H『ひとみ』 異常事象調査報告書 」(リンク先はpdfファイル) を提出し終了した。現在は同報告書に基づき、JAXA内の体制改革を議論している段階にある。詳細は、来年度の予算要求が出そろう8月半ばまでには公開されることになるだろう。
・開発・打ち上げ費310億円が失われた今回の事故。調査報告では、ひとみの事故原因を「プロジェクトの計画管理体制の不備」とみており、現在JAXA内の議論は計画管理体制の強化の方向で進んでいる。具体的には、きれいに整理された計画管理体制を持つ筑波宇宙センターの管理方式を、相模原のISASに導入するというやりかただ。
・が、ひとみの事故の底に潜む問題は、単なる計画管理体制の強化で済むものではない。日本の宇宙技術の研究開発体制と、宇宙関連人材育成――つまり技術とヒトと継続性に関係してくる、大変重大なものだ。 現在進行中のこの問題を考えることは、企業や研究所の組織文化が持つ光と闇を具体的に知る手がかりにもなるだろう。今回から2回に分けて、ひとみ事故の“根”を解説していく。
▽属人的、コンパクト、高速の「宇宙研方式」
・ひとみ分解事故の、具体的な経緯と原因については、本連載の「JAXA、X線観測衛星『ひとみ』の復旧を断念」(2016年5月2日掲載)と、「かなり“攻めている”『ひとみ』事故報告書」(2016年5月27日掲載)にまとめた。ごく簡単に書くと、衛星姿勢を検出するスタートラッカー(STT)と慣性基準装置(IRU)の判断基準に問題があり、衛星が「自分は回転している」と誤認。これを停めようとして、逆に必要の無い回転を始めてしまった。
・最終的にスラスター(姿勢制御を行う小さなロケットエンジン)噴射で、「セーフホールドモード」というもっとも安全な姿勢に入ろうとしたところ、コンピューターに記憶させてあった噴射パターンが間違っていたために、高速回転状態に陥ってしまい、太陽電池パドルと、センサーを積んだ伸展式光学ベンチ(EOB)がちぎれて、衛星機能を喪失してしまったのだった。事故調査報告では、そうなるに至った開発時の意思決定の問題点や、内部の情報流通の悪さが指摘されている。
・JAXAから宇宙開発利用部会に6月14日に提出された事故調査報告では、事故の根本にある問題を、以下の図のようにまとめている。 ここで注目すべきは、「ISASプロジェクトに関わる実施要領、管理方法は、すべてJAXAで定めた全社プロジェクト関連規則、規程類に準拠することを徹底する。」という文章だ。
・ということは、ISASのプロジェクト管理はJAXAの定めた方式ではなかったのか。その通り。ISASはその前身である東京大学・宇宙航空研究所の時代から積み上げた独自の計画管理方式を持っていた。通称「宇宙研方式」という。 JAXAは、2003年に特殊法人の宇宙開発事業団(NASDA)、国公立大学の共同利用機関の宇宙科学研究所(ISAS)、国の研究機関の航空宇宙技術研究所(NAL)が統合されて発足した。
・このうち、NASDAは米国からの技術導入に伴い、米国がアポロ計画のために開発した「フェーズド・プロジェクト・プランニング(PPP)」という計画管理方式を導入した。プロジェクトを企画段階から運用段階に至る4つの時期(フェーズ)に分け、各フェーズ毎に厳密な審査会を実施して事前に事故原因を洗い出す。また、計画に関するすべての情報を文書で記録し、整理しておく。宇宙で事故が起きた場合に、文書を追跡するだけでもある程度の調査を可能にするためだ。現在は、筑波宇宙センターが開発した、PPPをさらに明確化、厳密化した計画管理手法が、JAXA主流の計画管理方式となっている。
▽がっちり厳密なPPP、高速な宇宙研方式
・やるべきことが厳密でかっちりと決まっている旧NASDAの計画管理手法に対して、宇宙研方式は、属人的でコンパクト、かつ意思決定が高速という特徴を持つ。 衛星計画のリーダーは、宇宙研教授が務める。理学系衛星なら理学系の教授がリーダーとなり工学系の教授が補佐に入る。工学系の衛星なら逆だ。すべての情報はリーダーとなる理・工の2人の教授に集められ、彼らがすべての責任を負う。
・フェーズ毎の審査会の代わりになるのが設計会議だ。設計会議は衛星・探査機全体から、搭載機器や運用方法に至るまでの様々な階層、様々な規模で頻繁に開催され、トップの教授からメーカーの担当者に至るまで、少しでも関係がある者はすべて参加する。それどころか、直接は関係ないが議題に興味を持った宇宙研関係者や、関係研究室に所属する学生も参加可能だ。
・旧NASDAが導入したPPPでは、審査会は発注したNASDA(JAXA)と受注したメーカーが相互に仮想敵となり、JAXA側がメーカーのプロポーザルに潜む問題点を指摘していく。つまり、参加者は発注者と受注者に明確に分かれている。 それに対して宇宙研方式の設計会議では、宇宙研もメーカーも、さらには学生も一体になって同じ方向を向き、「よりよい方法は何か」と知恵を出し合う。
▽工学系は宇宙研方式の“お目付役”だった
・宇宙研方式において、設計に潜む危険を指摘し、事前に潰す役割は、設計会議に参加する宇宙研の工学関係者が担っている。 設計会議には事実上誰でも参加できるので、当該衛星計画とは直接関係がない、構造、電気、制御、熱などを専門とする宇宙研工学研究者も顔を出す。このことを宇宙研では「衛星・探査機計画の縦糸と、研究者の専門分野別の横糸を織る」と形容したり、「縦横のマトリクス」と呼んだりしている。
・彼らは基本的に学生時代から宇宙研で学び、そのまま宇宙研に就職している。このため自分の専門分野で実物の衛星の開発に何度も参加した経験を持つことになり、その知見と経験を通して、計画中の衛星・探査機の問題点を「これはあぶない」と指摘する。これにより衛星・探査機の安全性が確保されていた。
▽宇宙研方式が生まれた背景
・宇宙研方式は、そもそもISASが大学組織にルーツを持つことから発展した方式だ。 理工系の研究室では教授の設定したテーマに沿って、学生も参加しつつ実験装置を開発するのが当たり前だ。つまり衛星も探査機も「大学の実験装置」であるから、教授が独裁的に計画管理を行う方式が発達したわけである。
・衛星・探査機を「実験装置」と考える宇宙研方式は、新しい技術の研究開発に向いている。旧NASDAのPPPでは、発注側と受注側は審査会で対立する。というより、積極的に対立することで、計画の安全を確保するわけだ。この場合、新技術は発注者が要求するか、受注者が提案するものであり、両者が協力して作り上げるものではない。
・一方、宇宙研方式では、設計会議において発注側も受注側も、基本姿勢は「やる」方向で、同じ目標に向かって議論する。「できる限り多くの人が協力して課題解決に努力する」方式なので、新規技術の研究や開発に相性がいいことは自明だ。 こう書くと、いかにも「いい話」めいて聞こえるかもしれないが、「新しい技術を研究してこそ、自分の業績となる論文を書くことができる」という大学の宇宙工学系講座の性格を反映したもの、というのが本当のところだろう。また、教育面では、学生を実際の衛星・探査機開発の場に参加させることで、効果的なOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を実施できるという意義も大きい。とにもかくにも、理工系大学の文化発祥なのである。
▽「1サイクル5年体制」の崩壊
・このように見ていくと、宇宙研方式で作られたひとみに重大事故が起こったのは、危険な設計を潰すための「工学関係者による横糸」が弱体化していたため、という推論が成り立つ。 では、なぜ宇宙研工学系は弱体化したのか。 前回の「かなり“攻めている”『ひとみ』事故報告書」(2016年5月27日掲載)で、私は「M-Vロケットの廃止」を原因のひとつとして挙げた。が、原因はそれだけではない。
・まず、研究所内における理学系と工学系の力関係の変化がある。 宇宙研は東京大学・生産技術研究所の糸川英夫教授によるロケット研究にルーツを持つ。当初は工学系の研究組織だったわけだ。そこに「ロケットを使って宇宙を研究したい」理学系が合流して、研究所の骨格が形成された。最初は、電離層の研究を行う高層大気・プラズマ物理学の研究者が、次にX線で遠い宇宙を観測するX線天文学のグループ、さらには太陽を研究する研究者達が加わった。
・研究が進展するにつれて、「宇宙で観測を行いたい」と合流してくる理学系の研究者は増えていった。宇宙を電波で観測する電波天文学者、月・惑星を研究する惑星科学者のグループ、赤外線で星々を観測する赤外線天文学の関係者――こうして、宇宙研内の理学系研究室は増えていったが、その一方で工学系の研究分野はそれほど広がらなかった。
・その状況の中で、1997年から大型のM-Vロケットの運用が始まった。M-V以前の宇宙研は、1サイクル5年のリズムで動いていた。それが、M-Vの登場で崩れた。 1サイクル5年というのは、「1種類のロケットを毎年1機打ち上げて、5機上げたら次の新型ロケットに移行する」という工学側の研究ペースに基づいたものだった。新型ロケットの初号機には、工学系が主導する試験衛星を搭載し、残る4機を理学系の研究分野が受け持つ仕組みだ。
・同時に、「大学院2年と博士課程3年の5年を宇宙研で勉強すれば、理学でも工学でも、必ず自分の分野の衛星・ロケットの開発にまるまる1サイクル参加できる」という、人材育成の機会提供という意味合いも大きかった。
・ところが、M-Vにより大型化した衛星・探査機は、より巨額の予算を必要とする。しかし宇宙研の予算は増えなかったために、宇宙研は年1機ペースの打ち上げを維持できなくなった。衛星・探査機の開発期間も長期化し、例えばひとみは開発に7年間かかっている。
・その結果、「次のチャンスがいつ巡ってくるかわからないから」と、衛星に可能な限りの高性能を求めるようになり、衛星はどんどん複雑化するようになった。複雑な衛星は、事故を起こしやすくなる。ひとみ分解事故の遠因のひとつである。
・その一方で、理学系の研究分野が増えたために、5年間に「工学系はロケット開発と工学試験衛星1機」「理学系は衛星4機」という割り振りでは回らなくなった。 つまり、M-V以前は「最大5年待てば確実に自分の分野の衛星が打ち上げられる」状態だったのが、「いつ自分の分野の衛星が上げられるかわからない」となってしまったのだ。こうなると所内で次の打ち上げ機会を巡る争いが発生する。公正に解決できれば良いが、所内の影響力は理学系のほうが大きくなっている。
▽複雑化、ぶっつけ本番の道へ
・結果、宇宙研の工学系による試験衛星は、2003年の小惑星探査機「はやぶさ」(MUSES-C)で途切れてしまった。 はやぶさ後継機の「はやぶさ2 」(2105年打ち上げ)は、理学系の目的が中心で、かつ当時JAXA内に存在した宇宙探査を任務とする月惑星探査プログラムグループ(JSPEC)の管轄で開発されている(その後JSPECは2015年の改組により消滅し、はやぶさ2はISASの管轄となった)。次のISASによる工学系の衛星は月着陸実験機「SLIM」(2019年打ち上げ予定)だ。
・はやぶさとSLIMの間には小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」(2010年打ち上げ)の大成功が挟まるが、IKAROSも管轄はJSPECだった。かつ開発経費15億円と、通常よりも1桁少ない低予算でゲリラ的に立ち上げたプロジェクトである。
・JSPECという組織についても短く触れておく必要があるだろう。2007年のJSPECの設立から2015年の終焉に至るまでには複雑な事情が存在する。JSPECはISASの相模原キャンパス内に置かれ、かつJSPEC主要メンバーはかなりの部分が宇宙研工学系と併任だった。実際問題として、衛星・探査機も上がらずロケット開発も途切れてしまった宇宙研工学系の「別働隊」という役割があったことは間違いない(詳細は、私が日経テクノロジーオンラインで連載した「小惑星探査機『はやぶさ2 』の挑戦」の「工学と科学、ニーズ先行とシーズ先行 川口淳一郎・JAXA宇宙科学研究所教授インタビュー(その2)」と「JSPECを設立した理由、そして宇宙探査の未来 樋口清司・JAXA副理事長インタビュー」を読んでもらいたい)。
・「工学系の試験衛星が上がらない。糸川教授以来延々と開発してきたロケットもM-Vで廃止になる」となれば、当然ISAS工学系は弱体化する。宇宙探査を梃子として工学研究の弱体化を回避することはJSPECの目的のひとつだったわけだ。が、併任が多くともJSPECはISASそのものではなかった。本格的なISAS工学系の衛星としては、はやぶさからSLIMまで、実に16年も間が空いてしまった。
・衛星・探査機が上げられない工学系は、自分達の研究テーマを、理学系の衛星・探査機で搭載してもらう努力もした。金星探査機「あかつき」の、セラミックを用いた軌道変更用エンジンはそのひとつだ。ところが、2010年12月の金星周回軌道投入時に破損事故を起こし、あかつきの金星周回軌道投入が5年遅れる原因となった。  工学系試験衛星を継続して打ち上げることができていれば、セラミック製エンジンも事前に軌道上で実証することができ、あかつきの事故は回避できた可能性がある。
▽「会議室に入りきれる人数」が重要
・お目付役としての工学系の弱体化と並行して、宇宙研方式そのものが抱えていた問題点も直視しなくてはならない。 宇宙研方式の計画管理は、すべての情報がトップの教授に集約される一方で、書類化はあまり重視されない。つまり「すべては教授の頭の中にある」という状態になりやすい。また、顔つき合わせての設計会議で物事を回していくので、計画参加人数が増えて、直接顔を合わすことが難しくなると、スムーズに機能しなくなる。
・実際、ISASにおいては、「一番大きな会議室に計画全関係者が入りきらなくなると、宇宙研方式ではやっていけなくなる」などと言われていた。大学研究室の実験装置を開発する手順から始まった計画管理手法なので、小さな計画を高速で動かすことに向いているが、大型計画を遺漏なく進めるための手法ではないのだ。
・事実、衛星・探査機が大型化したM-V運用開始以降から、宇宙研の衛星・探査機は事故が目立つようになっていく。M-V3号機で1998年に打ち上げた火星探査機「のぞみ」はトラブルから火星周回軌道に到達できなかった。6号機で2005年に打ち上げたX線天文衛星「すざく」は打ち上げ直後に、観測装置を冷やすための液体ヘリウムが急速に蒸発してしまい、一部観測が不可能になった。関係者の中には「M-Vで打ち上げる衛星・探査機が、宇宙研方式で開発できるかできないか、ぎりぎりの大きさだった」と指摘する者もいる。
・2.7tもある大型のひとみは、計画開始当初から「これだけ大きいと、宇宙研方式では計画管理しきれなくなる」という声が、所内からも聞こえていた。このため、ひとみの計画管理ではPPPの審査会方式が取り入れられた。
・その一方、意思決定の面では理学系の高橋忠幸教授をプロジェクト・マネージャーとする基本的にそれまで通りの仕組みで開発が推進された。しかも、高橋教授と同等の立場で助言が可能な工学系の研究者は配置されなかった。 ここまで読んでいただければ、その危うさはお分かりいただけると思う。しかし事故調査報告は、その辺りの事情については記述していない。
▽計画管理の厳正化だけではかえってトラブルも
・事故調査報告にある「ISASプロジェクトに関わる実施要領、管理方法は、すべてJAXAで定めた全社プロジェクト関連規則、規程類に準拠することを徹底する。」「PMおよびPIのそれぞれの役割、責任をJAXAの全社規程である「プロジェクトマネージメント規程」に明記する。」(ともに事故調査報告より)というような、旧NASDA系のPPPに基づく計画管理手法を導入するだけでは、事態は改善しないと私は考える。組織の歴史的な背景を無視して、全く馴染まない方法論を持ち込むのでは、むしろトラブルを呼び込みかねない。
・最初に悪影響が出るのは、おそらく予算と開発スケジュールだ。PPPに基づく厳密な計画管理には、かなりのコストがかかるのである。ところが、現在、宇宙政策委員会により、宇宙科学分野の予算には枠がかけられてしまっている(「官僚文書の『座敷牢』入り? 宇宙科学・探査」(2015年2月18日掲載)を参照のこと)。予算不足と、慣れない管理方法で、計画遅延が発生するだろう。
・では、厳密な計画管理導入と当時にISAS予算を増額すれば、それでいいのか。そうはいかない。 宇宙研方式には「新たな技術の研究開発に向いている」という特徴と、「1サイクル5年のペースで、OJTで人材を育成する」という役割があった。この2つをどうするのか――これは、ISASのみならず、日本の宇宙開発の未来に関係してくる重大な問題である。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/217467/080300024/?P=1

次に、上記記事の続きである8月10日付け日経ビジネスオンライン「310億円が宇宙に消えた歴史的背景 X線観測衛星喪失から考える組織文化と体制改革(その2)」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・前回、宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所(JAXA/ISAS)が、その前身の文部省・宇宙科学研究所(ISAS)の時代から、通称「宇宙研方式」という独自の計画管理手法を発達させてきたことを解説した。その上で、X線天文衛星「ひとみ」分解事故の背後には、ISASの工学系が弱体化したことにより宇宙研方式がうまく機能しなくなっていたこと、本質的に宇宙研方式が、ひとみのような大きな衛星を開発するのに向いていないことを指摘した。
・しかし、宇宙研方式には、単なる衛星・探査機の計画管理手法という以上の大きな意義があった。実は、宇宙研方式というプロジェクトマネジメントのやり方は、日本の技術開発と人材育成を根底から支えてきた。 このため、ひとみの事故対策として、宇宙研方式を廃し、より厳密な方式に置き換えるだけでは、「技術開発と人材育成」を今後どうするのかという、一層やっかいな問題が発生する。
▽ISASで泣いてNASDAで売り上げを立てる技術開発
・ISASは、諸外国と比べるとずっと低コストで衛星・探査機を開発し、打ち上げ、成果を挙げることで世界的に有名だった。 低コストの理由のひとつは、宇宙研方式の効率的な計画管理手法であることは間違いない。米国流の、山のように書類を積み上げるフェーズド・プロジェクト・プランニング(PPP、前回参照)に基づく計画管理では、書類の作成、オーソライズ、保管に多額のコストと時間がかかるのだ。
・が、それだけが低コストの理由ではなかった。JAXAになる前、1990年代から2000年代初頭にかけてISASを取材していると、「そこはメーカーに泣いてもらって」という言葉がぽろっと出ることがあった。赤字承知でメーカーに機器を発注し、それをメーカーも受けたというわけだ。しかし、営利企業が赤字で仕事をしていては、事業が立ち行かなくなる。
・この疑問をあるメーカーの事業部長クラスにぶつけたことがある。答えは「赤字でもISASの仕事は受ける価値がある」というものだった。 ISASのロケットや衛星は、研究室のいわば“実験器具”である。ISASの宇宙工学系は、自分達が論文を書くために世界最先端レベルの技術研究に取り組み、開発し、打ち上げていた。そこに参加すれば、最先端の技術が手に入るというのだ。 が、それだけでは赤字は解消出来ない。 「ISASの研究に参加することで手に入れた技術を、宇宙開発事業団(NASDA)に持っていくと、売れるんですよ。このことを役所や政治は知らないでしょう。メーカーだけが知っている技術の流れです」
・これを聞いた時には本当にびっくりした。なぜなら建前上は、ISASは宇宙科学の研究所であり、NASDAは実利用のための技術開発を行う特殊法人だったからだ。裏で、「ISAS発、メーカー経由、NASDA行き」という研究開発の流れが、おそらくは自然発生的に出来上がっているのは、想像外だった。
・実際、ISASが日本ではじめて手を付けて、その後NASDAが展開し、実用化した宇宙技術はいくつもある。もっとも顕著な例が、液体水素を使うロケット技術だろう。 我が国での、水素の燃焼を扱う技術については、第二次世界大戦前の海軍工廠での検討や、戦後の防衛庁での実験などがあったが、現在に続くルーツは1971年にISAS前身の東京大学・宇宙航空研究所が開始した水素液化の研究から。研究結果はメーカー経由で、科学技術庁・航空宇宙技術研究所(NAL)やNASDAに拡がり、やがて1986年初打ち上げのH-Iロケット第2段エンジン「LE-5」として結実した。その後、H-II/H-IIAロケット第1段エンジンの「LE-7/7A」、そして現在開発中の「H3」ロケットのための「LE-9」エンジンまでつながっている。
▽売り上げが立たねば、メーカーだって付き合いきれない
・ISASの工学系は、日本の宇宙技術の最初の種を宿す場所でもあったわけだ。 そして種を苗に育てるにあたっては、「研究者もメーカー技術者も学生も分け隔てなく、一致して問題解決に取り組む」宇宙研方式の計画管理が大きな意味を持っていた。 今回のひとみ分解事故で、私は関係者から「もう少しメーカーがきちんと対応してくれていれば」という声も聞いた。
・確かに、かつてならば宇宙研方式の設計会議で教授レベルと立ち入った本音の議論を繰り返したメーカー技術者が、「ひょっとするとここは危ない」と進言したり、自主的に危険回避策を実行することもあった。だがそれは「ISASと仕事をすると新しい技術が手に入る」「それをNASDAに持っていけば、売り上げが立つ」という背景があったからこそ成立した関係だった。
・そのような環境がなくなれば、メーカーの対応はどうしても「払ってくれる金次第」となる。これまで研究者と一体となって仕事をしてきたメーカー技術者も、経営側から「売り上げが立たないようなところまで手を突っ込むな」と掣肘されるようになる。
▽“技術のゆりかご”が崩壊しつつある
・2008年の宇宙基本法制定以降、日本の宇宙開発は政府による実利用を前面に押し出し、それまでの主軸であった技術開発は「自己目的化した技術開発」と否定され、宇宙科学は「一定の予算内で着実に行うべき」という扱いになった。 当初年間5000億円に増やすはずだった予算は増えず、情報収集衛星(IGS)や純天頂衛星システム(QZSS)などの実利用政府ミッションが予算に食い込んだ分、技術開発と宇宙科学の予算はやせ細った。
・以来8年が過ぎ、今、日本の宇宙技術は世界からの立ち後れが顕著になりつつある。 世界のトレンドである、推進系に電気推進を使用する完全電化静止衛星技術も、米スペースXとブルー・オリジンが競って急速に進歩したロケット垂直着陸技術も、日本は持っていない。中国がすでに手に入れた重力天体への着陸技術もこれから開発するところだ。より周波数が高く高速情報伝送が可能になる50GHz以上のVバンドの電波を使った宇宙通信にも手が付いていない。中国はもちろんのこと、米民間ベンチャーやインドが開発を進め、さらにはイランも検討を開始した独自有人宇宙船についても、日本は「やる、やらない」の方針すら明らかにできていない。
・この8年間の「今ある技術を有効に使う」という実利用への傾倒が明らかにしたのは、宇宙基本法以前の日本の宇宙開発は「自己目的化した技術開発」をしていたのではなく、少ない予算を技術開発と宇宙科学に集中することで、かろうじて世界の最先端に引っかかっていた、という事実だ。 そして今や、将来技術の最初の種を育み、苗レベルまで育てる場所であった宇宙研方式によるISAS衛星・探査機の開発が、ひとみ分解事故により、風前の灯火となっているのである。
▽分け隔てないオープンな環境が人を育てる
・“技術の最初の種”に加えて、宇宙研方式によるISAS衛星・探査機の開発現場は、効率的な人材育成の場でもあった。前回と重複するが、宇宙三機関統合前の文部省・宇宙科学研究所は、「国公立大学の共同利用機関」という位置付けで、修士課程と博士課程の教育機関としての役割を担っていたからだ。
・学生は、修士・博士の5年間で、前回説明した「1サイクル5年」の衛星・ロケット開発を、待ったなしの開発の現場で、オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)で体験することになる。大学の研究室の実験装置の延長として衛星・探査機やロケットを開発・運用してきたISASでは、そこに学生が参加するのは当たり前のことだった。いや、学生の参加を前提として、宇宙研方式が構築されたといっていいだろう。
・いきなり、設計会議から各種試験、それどころかロケット打ち上げのオペレーションや、打ち上げ後の衛星運用の現場に放り込まれ、様々な研究者や豊富な経験を持つメーカー技術者と、対等に扱われ揉まれるのである。宇宙を志す学生にとって、これ以上の環境はないといっても良いほどだった。
・ISASで育った人材は、宇宙機関と関連メーカーに散っていき、日本の宇宙開発を支えて来た。宇宙研方式の計画管理は、ISASの人材育成機能と一体かつ不可分だったのである。 しかし宇宙三機関統合後、ISASは、研究開発法人の中の一セクションとなり、教育機能はJAXAと東京大学、あるいは国立研究法人・総合研究大学院大学との連携という形になった。統合後しばらくは、従来と同じ運用が続いてきたが、ここにきてセキュリティ強化を理由とした、開発と運用の現場から学生を締め出す動きが起きている(この問題は、理学も工学も分け隔てなく宇宙を学ぶ環境の崩壊として、「あかつき」成功を支えた教育機能が弱体化(2015年12月9日掲載)で論じている)。
・人材育成は、技術開発にも増して深刻な問題だ。 次世代の人材が育たなくては、技術開発も実利用も吹き飛んでしまう。 現在、各地の大学で1~数十kg級の超小型衛星開発や、小型ロケットエンジンの研究を通じた人材育成が進んでいるが、学生のうちにより大きく、かつ最先端の衛星・探査機の開発に参加できる場はISASだけである。
・ISASに厳密な計画管理を持ち込めば、宇宙研方式のような良い意味でのオープンさを保つことはできないだろう。セキュリティを名目として、情報はクラス分けされ、会議への出席や文書へのアクセスは厳密に管理されることになる。そうなればISAS流の「誰が誰に対して意見を言っても良い」という組織文化は失われ、学生が現場で揉まれつつ育つ場は完全に失われることになる。
▽2つの計画管理方式の併用を
・ここまで見てくれば、問題は明白だ。 宇宙研方式の計画管理を苗床として、新しい技術の最初の種を宿し、次世代の人材を育成してきたISASの宇宙工学系は、栄養分を奪われ、発言力も低下し、弱体化している。ひとみの事故の原因もそこに求められる。
・では、今後はどこに、「技術と技術者を育成する場所」の機能を持たせるのか。これが問われている。 宇宙研方式に対するこうした認識を持って、ひとみの事故調査報告書を読むと、「現在のやり方に問題がある」という意識が先行しすぎているように思えてくる。
・実際には、ISASの体制が間違っていたというよりも、重量2.7tという大型衛星の開発に宇宙研方式は向いていなかったというのが正しい認識だろう。同時に、宇宙三機関統合以前ならうまく回っていた仕組みが、統合後の環境の変化でうまく機能しなくなっているということも意識する必要がある。
・ISAS衛星の計画管理をPPPに基づく厳密な方式に刷新するだけでは、これまでISASが担ってきた「新しい技術の最初の種を仕込み、苗段階まで育成する」「実物の衛星・探査機の開発現場の中で、次世代の人材をOJTで育成する」という、日本の宇宙開発を根幹から支えて来た機能が、完全に失われることになる。
・では、どうすればいいのか。 まず、組織文化を統一することは、多様性の喪失でもあり、脆弱性を増すことだということを理解する必要がある。日本の宇宙開発が、米国から導入・発展させたPPPに基づく計画管理手法と、大学からボトムアップ的に発生した宇宙研方式の計画管理手法の2つを持つことは、欠点ではなく、逆に大きな利点なのだ。
・行うべきは、2つの計画管理手法を併用する体制の整備だ。幸いにも現在、宇宙基本計画において宇宙科学はイプシロンロケットで打ち上げる「公募型小型」(2年に1機)、H-IIA(あるいは後継のH3)で打ち上げる「戦略的中型」(10年に3機)の2つのシリーズが走っている。小さい計画を効率的かつ高速に動かすことができる宇宙研方式を、この「公募型小型」に適用し、より厳密な計画管理を「戦略的中型」で採用するのが一番簡単だろう。
・PPPに基づく計画管理はコストがかかるので、これだけでも戦略的中型の予算を増額する必要がでてくる。  これと同時に、公募型小型計画において宇宙研方式が効率的に機能する環境を整備する必要がある。コンプライアンスを重視するあまり、複雑な事務手続きを構築すれば宇宙研方式は機能しなくなる。権限はトップに立つ教授クラスに集中する必要があるし、契約や支出に関する事務手続きは徹底して簡素化し、かつ事務にきちんと人的リソースを投入して、研究者の人的リソースが書類仕事に吸い取られないよう配慮せねばならないだろう。そしてなによりも、「公募型小型」の規模を、宇宙研方式で計画管理できる範囲内に収める規定が必要になる。
・人材育成のために学生が計画の様々な局面で参加できるようにすることも必須だ。もちろん探査機設計の安全性を増すために、設計会議におけるISAS工学系研究者の役割を明文化し、“彼らがダメといったらダメ”というルールを作る必要もあるだろう。 宇宙研方式では、日頃からISASの研究者相互、さらにはメーカーの技術者が頻繁に顔を合わせて公式、非公式を問わず議論することが前提になる。そのために、所内の人の動線の設計や、入退場管理システムによるゾーニングのやり直しも行うべきだろう。自由な発想には、「廊下でばったり会ったら議論になった」というぐらいの適度な組織のユルさが必須なのである。
▽工学試験衛星シリーズは独立させるべき
・ここから先は、JAXAだけではなく、宇宙政策委員会、さらには政治が動くことが必要となる。 まず、新規技術の芽を育てる場として、ISAS工学系の試験衛星・探査機を「公募型小型」のサイズで構わないので、宇宙基本計画において理学系衛星からは独立した、3~5年に1機のシリーズとして確立する必要があるだろう。「技術開発なら、ISASを優遇しなくとも可能だ」という反論が出るだろうが、先鋭的な技術開発の現場が、学生も参加する宇宙研方式で回るということが、決定的に重要なのだ。待ったなしの現場で経験を積んだ学生は、数年のうちに現役の研究者や技術者となり、その後数十年間は現役で活躍することになるのだから。
・その上で工学試験衛星・探査機のシリーズには技術開発のための予算を十分につけ、メーカーが赤字受注するというようなことがないようにしなくてはいけない。赤字でISASの仕事をして、得られた技術でNASDAから仕事を取るというやり方ができなくなった以上、きちんとひとつひとつの仕事で、メーカーが利益がでるようにするべきだ。
▽理学系が「次があるさ」と思える環境が必要
・次に、理学系研究者が「いつ次の衛星を上げられるか分からないから、今度の衛星に可能な限りの高性能と積めるだけの観測機器を積む」ようなことをしなくても済む制度設計が必要だ。ひとみ分解事故では、高い科学的成果を狙ってぎりぎりまで理学系研究者が粘ることが、結果的に衛星の設計と運用の両面で安全性を損なうことにつながった。この粘りは、今年度打ち上げ予定のジオスペース探査衛星「ERG」では、予算超過と計画遅延の原因のひとつともなった。
・これは「そのようなことをしてはいけない」と禁止しても有害無益だ。というのも、理学系研究者が、諸外国の研究者と熾烈な競争を展開している結果が、「ぎりぎりまで粘る」という行動になって現れているからだ。「ぎりぎりまで粘るな」ということは「世界一線級の科学的成果を出すな」といっているのと同じことになってしまう。それは理学系研究者の存在意義を否定することになる。
・解決法は2つある。 ひとつは、理学系研究者が「この衛星でダメでも、次の衛星がある」と思える状況を作る。具体的には宇宙基本計画に記載する科学衛星・探査機の数を増やすことだ。現在は10年間で中型3機、小型5機の合計8機となっているが、これを最低でも、かつての文部省・宇宙科学研究所時代と同じ、平均年1機の「10年間に10機」に戻すべきだろう。そのためには、JAXAの内部改革だけではすまず、宇宙政策委員会や政治が動くことが必要になる。
・おそらく「ひとみの事故で、宇宙科学は焼け太りを狙うつもりか」という反対意見が出るだろうが、実態は全く異なる。 現在、実用分野に予算を持って行かれた結果、日本の宇宙科学の予算は全く足りていない。例えば米国の惑星探査を担当するジェット推進研究所の年間予算規模は15億ドル(1ドル100円として、1500億円)。これは日本の宇宙科学予算の10倍近い。しかも米国で宇宙科学を担当する組織はJPLだけではない。
・この絶望的なまでの予算格差がある状態で「世界第一線級の成果」を出すことを求められ、期待に応えるために粘りに粘った結果が、最終的にひとみの分解事故へとつながった。今回の事故は、そう考えるべきなのである。
・もうひとつは、一定以上の予算超過や計画遅延があった場合、その分野の研究コミュニティに例えば次の衛星案の公募に参加できなくなるというようなペナルティが科せられるという制度の整備だ。これは、「粘るだけ粘って、予算超過を認めさせた者勝ち」になるのを防ぐためであり、また事前検討が不十分で未成熟な衛星案が公募において、「科学者コミュニティ間の政治的取り引き」で採択されるのを防ぐためでもある。
▽1998年以来の積み木崩しを直視しなくてはならない
・ここまでの流れを、時間を遡る形で追ってみよう。 X線天文衛星「ひとみ」の分解事故の背景には、少ない予算と限られた打ち上げ機会を使って、世界の第一線級の成果を挙げようとする理学系研究者の粘りに対して、衛星システムを担当する工学系研究者からの安全優先の歯止めが十分に効かなかったことがあった。
・歯止めが効かなかった理由は、ISAS工学系の弱体化があり、弱体化の根本には工学系研究の基礎となる工学試験衛星とロケットが途切れてしまったことがあった。 工学試験衛星とロケットが途切れた背景には、2003年の宇宙三機関統合による予算減少があり、宇宙三機関が統合された背景には、2001年の中央官庁統合で、文部省と科学技術庁が統合されて文部科学省となったことがあった。別々の官庁が別の宇宙組織を持っていたものが、同一の官庁となったことで「統合して効率化の成果を示さねばならない」ということになったのである。そこには、「どのような組織体制が日本の宇宙開発にとって最適なのか」という本質の議論はなかった。
・中央官庁統合の議論の中で、科学技術庁は「科学技術省」に昇格する可能性が十分にあった。それが、1995年の高速増殖炉「もんじゅ」ナトリウム漏洩事故、1998年のH-II5号機打ち上げ失敗、1999年のH-II8号機打ち上げ失敗とトラブルが相次ぎ、政治からの懲罰的圧力により文部省との統合ということになったのだった。そこには、「科学技術を振興するにあたって、日本はどのような官僚組織を持つべきか」という本質の議論はやはり、なかった。
・さらに予算減少の直接原因としては、1998年から始まった情報収集衛星(IGS)計画があった。IGSの経費は、既存宇宙開発予算に食い込む形で予算化され、これまでの18年間、年間600億円から700億円を費やす日本最大の宇宙計画となっている。2008年の宇宙基本法成立の後、日本の宇宙関連予算を現行の年間3000億円規模から5000億円規模に増やすという議論があったが、財政逼迫を理由に見送りとなった(ちなみに日本が対GDP比で米国と同等の宇宙関連予算を支出した場合、ほぼ年間1兆円規模となる)。
・つまり、日本は1998年以降の18年あまりの間、予算は増やさない一方でやることを増やし、「日本はどうあるべきか」の議論を抜きに組織を統合した。そして、無理矢理「統合の成果を作る」ために、じわじわと宇宙科学を追い詰めてきたのである。それは「これぐらいならいいだろう」「これぐらいなら大丈夫」と、積み木崩しで積み木を抜いていく様子に似ている。
・X線天文衛星「ひとみ」の分解事故が、ISASの計画管理体制の不備で起きたことは間違いない。が、同時にその背後には政治と行政が1998年以来18年以上の積み木崩しで、1980年代から90年代にかけて「黄金時代」と形容されるほどの成果を挙げた日本の宇宙科学をじわじわと追い詰めてきた事情があることを、我々は直視する必要がある。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/217467/080800026/?P=1

日本のロケット・衛星打上げ打上げ技術は、予算は少なくても世界一流とのマスコミの「よいしょ」記事に毒されていた私にとって、この2つの記事は衝撃だった。JAXAのアメリカ流の厳密な計画管理方式(PPP)と、ISASの日本的な宇宙研方式の2つが並立、しかも後者には工学系と理学系があるというのも、初めて知った。何でも文書化して役割分担も明確なPPP方式と対照的に、宇宙研方式では、『すべての情報がトップの教授に集約される一方で、書類化はあまり重視されない。つまり「すべては教授の頭の中にある」という状態になりやすい。また、顔つき合わせての設計会議で物事を回していくので、計画参加人数が増えて、直接顔を合わすことが難しくなると、スムーズに機能しなくなる』、『「一番大きな会議室に計画全関係者が入りきらなくなると、宇宙研方式ではやっていけなくなる」』、他方で 『「大学院2年と博士課程3年の5年を宇宙研で勉強すれば、理学でも工学でも、必ず自分の分野の衛星・ロケットの開発にまるまる1サイクル参加できる」という、人材育成の機会提供という意味合いも大きかった』、というのも興味深い。確かに、宇宙研方式にも意味はあるが、大規模化すると制約も出てこざるを得ないようだ。
次の記事にある 『当初年間5000億円に増やすはずだった予算は増えず、情報収集衛星(IGS)や純天頂衛星システム(QZSS)などの実利用政府ミッションが予算に食い込んだ分、技術開発と宇宙科学の予算はやせ細った。以来8年が過ぎ、今、日本の宇宙技術は世界からの立ち後れが顕著になりつつある。 世界のトレンドである、推進系に電気推進を使用する完全電化静止衛星技術も、米スペースXとブルー・オリジンが競って急速に進歩したロケット垂直着陸技術も、日本は持っていない。中国がすでに手に入れた重力天体への着陸技術もこれから開発するところだ。より周波数が高く高速情報伝送が可能になる50GHz以上のVバンドの電波を使った宇宙通信にも手が付いていない。中国はもちろんのこと、米民間ベンチャーやインドが開発を進め、さらにはイランも検討を開始した独自有人宇宙船についても、日本は「やる、やらない」の方針すら明らかにできていない』、『日本は1998年以降の18年あまりの間、予算は増やさない一方でやることを増やし、「日本はどうあるべきか」の議論を抜きに組織を統合した。そして、無理矢理「統合の成果を作る」ために、じわじわと宇宙科学を追い詰めてきたのである。それは「これぐらいならいいだろう」「これぐらいなら大丈夫」と、積み木崩しで積み木を抜いていく様子に似ている』、にある日本の大幅な立ち遅れは由々しい事態だ。筆者が提言するような抜本的立て直しが必要だ。
タグ:フェーズド・プロジェクト・プランニング(PPP)」という計画管理方式を導入 小さい計画を効率的かつ高速に動かすことができる宇宙研方式を、この「公募型小型」に適用し、より厳密な計画管理を「戦略的中型」で採用するのが一番簡単だろう 設計会議は衛星・探査機全体から、搭載機器や運用方法に至るまでの様々な階層、様々な規模で頻繁に開催され、トップの教授からメーカーの担当者に至るまで、少しでも関係がある者はすべて参加 ロケット・衛星打上げ 宇宙研方式は、属人的でコンパクト、かつ意思決定が高速という特徴 宇宙研方式では、設計会議において発注側も受注側も、基本姿勢は「やる」方向で、同じ目標に向かって議論する。「できる限り多くの人が協力して課題解決に努力する」方式なので、新規技術の研究や開発に相性がいいことは自明だ 日経ビジネスオンライン 宇宙研方式の設計会議では、宇宙研もメーカーも、さらには学生も一体になって同じ方向を向き、「よりよい方法は何か」と知恵を出し合う JAXA)と受注したメーカーが相互に仮想敵となり、JAXA側がメーカーのプロポーザルに潜む問題点を指摘 大型化した衛星・探査機は、より巨額の予算を必要とする。しかし宇宙研の予算は増えなかったために、宇宙研は年1機ペースの打ち上げを維持できなくなった。衛星・探査機の開発期間も長期化し、例えばひとみは開発に7年間かかっている 大学院2年と博士課程3年の5年を宇宙研で勉強すれば、理学でも工学でも、必ず自分の分野の衛星・ロケットの開発にまるまる1サイクル参加できる」という、人材育成の機会提供という意味合いも大きかった ISASはその前身である東京大学・宇宙航空研究所の時代から積み上げた独自の計画管理方式を持っていた 効果的なOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を実施できるという意義も大きい 工学試験衛星シリーズは独立させるべき 2つの計画管理方式の併用を 宇宙研方式の計画管理は、ISASの人材育成機能と一体かつ不可分だったのである 分け隔てないオープンな環境が人を育てる 計画に関するすべての情報を文書で記録し、整理 “技術のゆりかご”が崩壊しつつある 「ISAS発、メーカー経由、NASDA行き」という研究開発の流れが、おそらくは自然発生的に出来上がっている ISASで泣いてNASDAで売り上げを立てる技術開発 JAXA主流の計画管理方式 日本は1998年以降の18年あまりの間、予算は増やさない一方でやることを増やし、「日本はどうあるべきか」の議論を抜きに組織を統合した。そして、無理矢理「統合の成果を作る」ために、じわじわと宇宙科学を追い詰めてきたのである 宇宙研方式を廃し、より厳密な方式に置き換えるだけでは、「技術開発と人材育成」を今後どうするのかという、一層やっかいな問題が発生 310億円が宇宙に消えた歴史的背景 X線観測衛星喪失から考える組織文化と体制改革(その2) 計画管理の厳正化だけではかえってトラブルも 「会議室に入りきれる人数」が重要 本格的なISAS工学系の衛星としては、はやぶさからSLIMまで、実に16年も間が空いてしまった 複雑化、ぶっつけ本番の道へ 宇宙研方式が生まれた背景 (その1)(X線観測衛星喪失から浮かび上がる問題) NASDA 属人的、コンパクト、高速の「宇宙研方式」 310億円の事故と「会議室の大きさ」の関係 X線観測衛星喪失から考える組織文化と体制改革(その1) X線天文衛星ASTRO-H『ひとみ』 異常事象調査報告書 故の底に潜む問題は、単なる計画管理体制の強化で済むものではない 開発・打ち上げ費310億円が失われた今回の事故 X線天文衛星「ひとみ」の事故調査 それは「これぐらいならいいだろう」「これぐらいなら大丈夫」と、積み木崩しで積み木を抜いていく様子に似ている
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IoT(その1)(普及阻む決定的な問題、IoTの“根幹”を欧米2社が制圧、「IoTデバイス」はウイルスまみれ) [科学技術]

今日は、ありとあらゆるモノがネットにつながり、互いにやりとりをすることで、遠隔から操作・制御したり、計測することが可能になるIoTを取上げよう。 IoT(その1)(普及阻む決定的な問題、IoTの“根幹”を欧米2社が制圧、「IoTデバイス」はウイルスまみれ) である。

先ずは、昨年7月28日付け東洋経済オンライン「孫さんガッカリ?IoT普及阻む決定的な問題 ケヴィン・ケリー氏が斬る!」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、Aは回答、+は回答内での段落)。
・3.3兆円もの大金を投じて、英ARM(アーム)ホールディングスを買収すると発表して世間を驚愕させたソフトバンクグループ。買収の目的はただ一つ、これから来るであろう、IoT(Internet of Things=モノのインターネット)時代を先取りすることだ。
・ありとあらゆるモノがネットにつながり、互いにやりとりをすることで、遠隔から操作・制御したり、計測することが可能になるIoTには、多数の企業が投資しており、今後関連ビジネスの急拡大が見込まれる。 しかし、WIRED誌創刊編集長で、テクノロジー界の思想をリードする存在として知られるケヴィン・ケリー氏は、IoT普及には高いハードルがあると見る。日本で7月23日発売となった『〈インターネット〉の次に来るもの ~未来を決める12の法則(原題はThe Inevitable)』で、人工知能(AI)やヴァーチャル・リアリティ(VR)など今後30年間に起こる、12の不可避な(inevitable)テクノロジーの潮流をまとめているが、IoTの未来にはやや懐疑的だ。一体なにが「足かせ」となるのだろうか。
Q:先般、ソフトバンクが英ARMを3兆円強で買収しました。ソフトバンクの孫社長は、IoTが将来ビッグビジネスになると見ているようですが、ケヴィンさんはどうですか。
A:1998年、『ニューエコノミー勝者の条件』にもIoTについて書いたが、実現するのにこんなに時間がかかるとは思わなかった。今後、実現により近づくだろうが、革命的で破壊的な技術になるとは思わない。 ただ、モノ同士をネットでつなぐだけでなく、そこにAIの要素を足せば大きな技術革新になるだろう。確かにIoTの流れは不可避だと思うが、今回の本でもIoTについてはあまり触れていない。最大の課題はバッテリーの寿命だ。+バッテリー技術は着実に向上してはいるが、私たちの予想を超えるほどに著しいとは言えず、すべてのモノが「ずっと」つながり合っている状態に行き着くには時間がかかるのではないか。たとえば、毎週土曜日の朝に家中のバッテリーを替えないといけないなんて考えられるかい? 空気で充電できるとか、バッテリーに代わる充電方法が出てこないかぎりはIoTの実現には時間を要するだろう。そんな技術がはたしてあるかわからないが。それが、私がなかなかIoTに関しては熱狂できない理由だ。不可避だと思うし、重要な技術でもあると思うが、AIほどのインパクトはないだろう。
Q:ケヴィンさんは多くのテクノロジーの潮流の中でも、AIの影響力が最も大きいと話していますが、IoTはAIの機能向上にも一役買えるのでは?
A:確かに長い目で見た場合、IoTによってAIの効果を最大限に享受できるようになるだろう。それぞれのAIが単独でスマートになっていくことは可能だが、それぞれが、自分が学んだことをシェアできればよりスマートになることができる。互いにつながり合うことでより柔軟で、使いやすい技術にもなる。25年後はわからないが、100年後くらいにはそういう状態になっているだろう。
▽どの会社が勝者になるかは予測不能だ
Q:今後20〜30年でIoTはどの程度の進化が見込めるでしょうか。
A:バッテリーの技術がどの程度進化できるかによる。たとえば、タブレットの近くにスマホを置くだけで充電できるとか、近距離無線通信の技術を使って家中のモノを一気に充電できるようになれば、ものすごい進化だが。スマートにする技術はあるが、エネルギーの問題は大きい。なんぼなんでも、コーヒーカップや傘をコンセントにつないで充電したくはないだろう。
Q:IoTの世界で勝者になるのはどの会社でしょうか。
A:本でも強調していることだが、私たちは未来のトレンドを予測することはできるが、特定のことを予測するのは不可能だ。谷に雨が降ったとして、その雨が地面に落ちて川に向かっていくことはわかるが、どの道を通って谷を下っていくかはまったく予測できない。
+IoTは不可避だが、その中でどの会社が覇権を握るかは予測不可能だ。たとえばそれは、経営者だったり、ファイナンスの状況だったり、複数の要素によっていくらでも変わりうる。勝者を予想することは時間の無駄だ。
+電話の誕生は不可避だったが、iPhoneは不可避ではなく、予測はできなかった。インターネットの普及は不可避だったが、ツイッターが出てくるとは予測できなかった。私には今後どんなタイプのソーシャルメディアが誕生するかは予測することができても、どの会社が勝者になるかは予測できない。
(以下は省略)
http://toyokeizai.net/articles/-/128808

次に、ジャーナリスト出身のコンサルタントの加谷 珪一氏が昨年12月5日付けJBPressに寄稿した「日本はどうする?IoTの“根幹”を欧米2社が制圧 IoTビジネスの序盤戦はすでに決着済みの様相」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・IoT(モノのインターネット)時代の到来を目前に控え、先行企業の動きが活発化している。製造業のサービス化は水面下で急速に進んでいるが、残念ながら日本企業の存在感は薄い。
・かつて日本の半導体メーカーや電機メーカーはビジネスモデルの転換が遅れ、国際競争力を失った。このままでは、重厚長大産業の分野でも同じ結果になりかねない。残された時間はほとんどないことを考えると、欧米企業の傘下入りなど現実的な選択肢も必要かもしれない。
▽GEとシーメンスが立て続けにIoT関連の買収を実施
・先月、偶然にも同じ日にIoT関係の大型買収案件が立て続けに発表され、関係者を驚かせた。 米ゼネラル・エレクトリック(GE)は11月14日、在庫管理や人事管理システムを開発する米サービスマックスを9億1500万ドル(約990億円、当日のレート)で買収すると発表した。GEはIoTビジネスのプラットフォームとなるシステム基盤「プレディックス」をすでに開発しているが、事務管理システムをシステム基盤に接続することで企業情報システムとの本格的な連携を狙う。
・同じく14日、GEのライバルである独シーメンスも米国のソフトウエア企業であるメンター・グラフィックスを45億ドル(約4860億円)で買収すると発表した。シーメンスはドイツのソフトウエア企業SAPと組み、GEと同様のIoTシステム基盤「マインドスフィア」を提供している。シーメンスは、設計システムに強みを持つメンター社を買収することで、製造業におけるIoT化をさらに進めていく。
・ちなみにシーメンスは、1週間後に米マイクロソフトとの提携も発表している。シーメンスが持つIoTシステム基盤をマイクロソフトのクラウドサービスで利用できるようにする。一方のGEはその数日後、米国のAI(人工知能)ベンチャー2社を買収すると発表した。
・一連の買収案件のキーワードになっているのは「IoTシステム基盤」である。今回の買収では、このシステム基盤上で動作する応用ソフトウエアが主なターゲットとなった。このことは、IoTをめぐる初期の開発競争がすでに最終段階を迎えつつあることを意味している。
・産業向けIoTの分野については、おそらく来年あたりから、GEとシーメンスが提供するこれらのシステム基盤を中心に回り始めることになるだろう。後発の日本メーカーは、厳しい状況に追い込まれる可能性がある。その理由は、純粋な製造業の世界にも、日本が不得意とするIT業界のルールが持ち込まれてしまうからである。
▽カギを握るIoTシステム基盤
・これまで重電や機械といった分野は、メーカーごとに縦割りで製品を開発するという、いわゆる垂直統合モデルが主流だった。以前は電機の分野も同じだったが、IT化の波が一気に押し寄せ、垂直統合モデルから水平統合モデルにシフト。多くの日本メーカーがこの流れに追いつけず、競争力を失ったことは説明するまでもない。
・IoTの普及が、重電や機械といった分野に同じような動きをもたらす可能性が高いというのは以前から指摘されていた。ITの世界では、マイクロソフトやインテルといった企業が水平分業化の主役となったが、IoTの分野では誰がその役割を担うのか世界中の関係者が注目している。
・IoTは新しい技術なので、業界の動きもまだまだ流動的だが、少なくとも、現時点において業界の主導権を握っているのは、米GEと独シーメンスの2社であることはほぼ間違いない。そして、両社の力の源泉となっているのが、このIoTシステム基盤である。
・IoTシステム基盤をひとくちで説明すると、IoTに関する情報処理を一手に担うソフトウエア群ということになる。パソコンやスマホの世界でいえば、ウィンドウズやアンドロイドといったOS(基本ソフト)に近い存在と思えばよい。
・IoTが実現すると、産業機器に搭載されている無数の部品から、ネットを経由して、随時、運転状況などに関するデータが送られてくる。データセンターではこれらの情報をリアルタイムに近い形で解析し、トラブルの発生を予測したり、必要な交換部品の手配を行う必要が出てくる。さらには、どのように機器を運転すれば、エネルギー消費が少なくなるのかといったアドバイスまで顧客に行う。
・従来の製造業はモノを作って顧客に納入すればそれで終わりだったが、IoT時代では、その後のメンテナンスや運用管理も含め、すべてを請け負うというスタイルに変わらざるを得ない。こうなってくると、製造業はもはやサービス業といっても過言ではない。IoTが現代の産業革命とまで言われるのは、IoTの普及によって製造業の概念が根本的に変わる可能性があるからだ。こうしたビジネスモデル変革のカギを握っているのが、システム基盤ということになる。
▽最も重要なのはデータベースの高速化技術
・システム基盤の中でも特に重要となる技術はデータベースだと言われる。IoTでは、世界中に散らばる無数の機器から送信されてくる大量のデータをリアルタイムに近いスピードで処理しなければならない。事業者が運用するシステムのデータベースには極めて大きな負荷がかかってくるが、従来のデータベースでは、処理能力には自ずと限界がある。つまり、IoTの処理に特化した高性能なデータベースを開発できるかが、IoTビジネスの勝負の分かれ目ということになる。
・この点において、GEとシーメンスは他社に比べてかなり先を行っている。GEは10億ドル以上の資金を投じてIoTシステム基盤である「プレディックス」を開発したが、ここでは、まったく新しいデータベース・システムが採用された。GEが採用したデータベースは「グラフ型データベース」と呼ばれるもので、これまで企業情報システムにおけるデータベースの主役だった「リレーショナル・データベース(RDB)」とは異なる概念で設計されている。 グラフ型データベースは、フェイスブックといったSNS企業やアマゾンなどのECサイトが、知り合いを探し出したり、お勧め商品を抽出する目的で実用化している。GEはこれを工業分野でも活用できるように独自に開発を重ねた。.
・一方、シーメンスはドイツのIT企業であるSAPと組んでこの問題を解決している。SAPはERP(統合業務パッケージ)を開発する世界でも有数のソフトウエア企業だが、同社はIoT時代をにらみ、データ処理を高速化した新しいデータベース「SAP HANA」を開発した。シーメンスのシステム基盤である「マインドスフィア」はSAPのデータベースとセットで提供されるケースも多い。
・HANAは、これまでハードディクス上に格納していたデータをメモリ上に移すことで、高速処理を実現している。つまり、既存のデータベースの仕組みはそのままに、処理の高速化に力点を置いた製品ということになる。
・データベースの高速化に対する米独のアプローチの違いは非常に興味深い。米国は数学的にまったく新しいアルゴリズムを採用し、抜本的なパフォーマンス改善を狙っている。GEのやり方は、リスクも大きいが、成功した時の効果もやはり大きい。一方、ドイツは、既存技術の延長線上としてデータベースの高速化を実現した。確実性を優先したやり方といえる。.
・残念ながら、一連の開発競争の中に日本企業の名前は出てこない。GEとシーメンス=SAP連合は、初期の開発段階を終え、関連する業務アプリケーションの充実を図っている状況だ。両社の優位性は圧倒的に高く、IoTの業界では、しばらくの間、両者が世界をリードしていくことになるだろう。
▽水平統合と垂直統合のハイブリッド
・GEやシーメンスは、もともとの事業領域である産業用機器の分野をベースに、ソフトウエア基盤の開発を行ってIoT時代における主導権を確保しようとしている。GEやシーメンスはこれらのシステム基盤を外部に開放しており、後発メーカーの中には、両社のシステム基盤に乗る形でビジネスを展開するところも出てくるだろう。.
・先ほど筆者は、重電や機械の分野も水平統合になると説明したが、現実は少し違う。従来から続く垂直統合のモデルをベースに、ソフトウエアの部分は水平統合を目指すという少し複雑な事業構造になる可能性が高い。
・既存のIT産業の場合、マイクロソフトのような企業はハードウエアの部分にはノータッチだったが、IoTではマイクロソフトに相当する位置付けになりそうなのが、GEやシーメンスといったハードメーカーである。両社がソフトウエアの分野でスタンダードを確立した時の影響は大きい。.
・こうした環境下において、システム基盤でスタンダードを握れなかったメーカーは二者択一を迫られる可能性が高い。競争力が多少落ちても構わないので垂直統合モデルを維持するというやり方と、GEやシーメンスの傘下に入り、機器の部分におけるビジネスで生き残りを図るというやり方である。.
・日本メーカーがGEやシーメンス連合と同レベルの開発投資を今から実施するのは現実的に難しい。あまり望ましい形ではないかもしれないが、日本メーカーは思い切ってGEもしくはシーメンス陣営の傘下に入ってしまい、その中で、顧客との関係を維持するという決断も場合によっては必要となるかもしれない。システム部分での利益は、両社に吸い上げられてしまうが、顧客との関係は維持することができる。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48560

第三に、本年1月5日付け東洋経済オンライン「実はウイルスまみれ、「IoTデバイス」の危険性 一刻も早いセキュリティレベルの向上が急務」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・あらゆるモノがインターネットにつながる「IoT(モノのインターネット)」。2016年はこのIoTの概念が世の中に広がった年だった。一方で2017年は、IoTの危険性を認識する年になるのかもしれない。
・「世界中でネットにつながっているIoT機器のうち、130万台がマルウエアに感染している」。横浜国立大学大学院環境情報研究院の吉岡克成・准教授が警鐘を鳴らす。マルウエアとはコンピュータを不正かつ有害に動作させる目的で作られたソフトウエアのこと。コンピュータウイルスやワームとも呼ばれる。
・吉岡准教授は10年以上、サイバーセキュリティの実態解明を主な研究テーマとしている専門家だ。「130万台はわかっている範囲。実際はそれ以上あるだろう」(吉岡准教授)。
▽世界中で130万台以上のIoT機器が感染
・吉岡准教授はオランダ最古の工科大学・デルフト工科大学などと連携し、「ハニーポット」や「おとりシステム」と呼ばれるウイルス感染観測用のネットワークを国内外に構築している。日本やオランダのほか、中国や台湾にも観測システムを設置済みで、今後十数カ国に増やす準備をしているという。 このネットワークは「セキュリティが脆弱だ」とウイルスに錯覚させる機能を持っている。ここに攻撃をしかけてきたウイルスを吉岡准教授は毎月計測している。それによると2016年10月は130万台、11月も同程度で、「高止まりという感じ」(吉岡准教授)だという。
・感染が多いのは、インターネットに接続している監視カメラやルーターだ。感染した監視カメラやルーターが加害者へと変わり、ハニーポットに攻撃を仕掛けてくることから、それらの機器がウイルスに感染したことがわかる。まれに、ネットにつながる火災報知器も感染している。
・地域で見ると、中国やベトナム、ブラジルなど、アジアや南米からの攻撃が多い。「それらの地域にあるIoT機器のセキュリティが脆弱なためだ」(吉岡准教授)。
・感染したIoT機器による実害は現状報告されていないが、「機器が完全に乗っ取られている以上、感染した世界中の機器がある日突然、テロなどの犯罪に用いられる可能性がある」と吉岡准教授は指摘する。
・IoT機器の感染数が高水準な理由として吉岡准教授は、「IoT機器のセキュリティレベルが低く、ハッカーにとって参入の敷居が低いこと」を挙げる。駆け出しのハッカーでも成功体験を得やすいので、IoT機器が狙われるケースが増えている。誰が先に多くのIoT機器を感染させるかの陣取り合戦の様相すら呈しているという。
・日本でのIoT機器の感染は、わかっているだけで約1000台。製品出荷時にメーカーが綿密に検査しているために、インターネットユーザー数が多い割に感染は少ない。感染が多い国に比べれば100分の1~1000分の1に過ぎない。
▽日本でもウイルス大流行の懸念
・とはいえ、日本は大丈夫とは言えない。「攻撃の仕方が進化しているので、より複雑なセキュリティを突破する事例が今後出てくる可能性がある。日本国内の機器だけを狙った攻撃も増えている」(吉岡准教授)。  感染はベトナムなどの新興国に限らない。実際にドイツや英国といった先進国では最近、感染が多く見られた。独通信大手のドイツテレコムのルーターを狙ったウイルスなどはすでに対策済み。だが今後、日本を標的にしたウイルスが大流行するおそれがあるという。IoT機器を狙ったウイルスは発展や変化が早いからだ。
・IoT機器を標的としたマルウエア「Mirai(ミライ)」はインターネット上で一般公開され、誰でも手に入れることができる。さらに、ミライのような公開ソフトを書き換えた派生型のマルウエアが、1カ月に3~4個と高頻度で登場しているのだという。
・ウイルスに感染したらどうするか。電源を落とせば感染がなくなる場合がほとんどだが、問題が解決したわけではないので再度電源を入れると、「1時間でほぼ再感染する。早いものでは2分間で再感染した」(吉岡准教授)。
・IoT機器メーカーが何もしていないわけではない。自社のウェブサイトで感染対策を示したりしている。ただ、たとえば監視カメラメーカーのホームページをまめにチェックしている人はほぼ皆無だ。しかも、IoT機器にはディスプレーがついていることはまれなので、画面のあるパソコンにつないでソフトウエアを更新するなどの手間がかかる。しかし「手間だから、現状実害がないからといって、放置しておいていい問題ではない」と吉岡准教授は警鐘を鳴らす。
・IoT機器は昨年から、ここ日本でも急速に普及し始めている。一方でウイルスの感染対策はあまり進んでいない。「メーカー1社が対応しても、他社が対応しなければ意味がない」(吉岡准教授)。誰が責任を持って対策するのか。社会全体のコンセンサス作りが急務となっている。
http://toyokeizai.net/articles/-/152387

第一の記事で、ケヴィン・ケリー氏が 『最大の課題はバッテリーの寿命だ。バッテリー技術は着実に向上してはいるが、私たちの予想を超えるほどに著しいとは言えず、すべてのモノが「ずっと」つながり合っている状態に行き着くには時間がかかるのではないか』、と指摘しているが、すべてのモノのうち、外部電源につながっていない機器ではバッテリーに依存せざるを得ず、確かにその通りだろう。しかし、多くの機器は作動させるために外部電源につながっているので、それを利用すれば問題ないような気がする。大権威が間違う筈はないとは思うものの、疑問が残った。
第二の記事にある、『純粋な製造業の世界にも、日本が不得意とするIT業界のルールが持ち込まれてしまう』、 『これまで重電や機械といった分野は、メーカーごとに縦割りで製品を開発するという、いわゆる垂直統合モデルが主流だった。以前は電機の分野も同じだったが、IT化の波が一気に押し寄せ、垂直統合モデルから水平統合モデルにシフト』、などの指摘は、いよいよ日本の製造業は最後の砦まで明け渡さざるを得ないのか、と暗澹たる気持ちになった。 ただ、『従来の製造業はモノを作って顧客に納入すればそれで終わりだったが、IoT時代では、その後のメンテナンスや運用管理も含め、すべてを請け負うというスタイルに変わらざるを得ない。こうなってくると、製造業はもはやサービス業といっても過言ではない』、との指摘については、既にコピー機やブルトーザーなどの土木機械などのように、日本企業も柔軟に対応した例もある。今からでも、なんとか遅れを取り戻して、頑張ってもらいたいところだ。
第三の記事にある 『世界中で130万台以上のIoT機器が感染』、しているが、『日本でのIoT機器の感染は、わかっているだけで約1000台』、との指摘で少し安心した。しかし、これから自動運転時代を迎えることを考慮すれば、セキュリティ強化はやはり急務だろう。
タグ:Mirai(ミライ)」 日本でもウイルス大流行の懸念 日本でのIoT機器の感染は、わかっているだけで約1000台 世界中で130万台以上のIoT機器が感染 吉岡克成・准教授 実はウイルスまみれ、「IoTデバイス」の危険性 一刻も早いセキュリティレベルの向上が急務 従来から続く垂直統合のモデルをベースに、ソフトウエアの部分は水平統合を目指すという少し複雑な事業構造になる可能性が高い 水平統合と垂直統合のハイブリッド 両社の優位性は圧倒的に高く、IoTの業界では、しばらくの間、両者が世界をリードしていくことになるだろう GEとシーメンス=SAP連合 SAP HANA グラフ型データベース 最も重要なのはデータベースの高速化技術 こうなってくると、製造業はもはやサービス業といっても過言ではない 従来の製造業はモノを作って顧客に納入すればそれで終わりだったが、IoT時代では、その後のメンテナンスや運用管理も含め、すべてを請け負うというスタイルに変わらざるを得ない 現時点において業界の主導権を握っているのは、米GEと独シーメンスの2社であることはほぼ間違いない 以前は電機の分野も同じだったが、IT化の波が一気に押し寄せ、垂直統合モデルから水平統合モデルにシフト。多くの日本メーカーがこの流れに追いつけず、競争力を失った これまで重電や機械といった分野は、メーカーごとに縦割りで製品を開発するという、いわゆる垂直統合モデルが主流だった 純粋な製造業の世界にも、日本が不得意とするIT業界のルールが持ち込まれてしまうからである IoTをめぐる初期の開発競争がすでに最終段階を迎えつつあることを意味 IoTシステム基盤 GEとシーメンスが立て続けにIoT関連の買収 重厚長大産業の分野でも同じ結果になりかねない 日本の半導体メーカーや電機メーカーはビジネスモデルの転換が遅れ、国際競争力を失った 日本はどうする?IoTの“根幹”を欧米2社が制圧 IoTビジネスの序盤戦はすでに決着済みの様相 JBPRESS 加谷 珪一 長い目で見た場合、IoTによってAIの効果を最大限に享受できるようになるだろう 最大の課題はバッテリーの寿命 IoT普及には高いハードル ケヴィン・ケリー WIRED誌創刊編集長 ありとあらゆるモノがネットにつながり、互いにやりとりをすることで、遠隔から操作・制御したり、計測することが可能になるIoT 英ARM(アーム)ホールディングスを買収 孫さんガッカリ?IoT普及阻む決定的な問題 ケヴィン・ケリー氏が斬る! 東洋経済オンライン (その1)(普及阻む決定的な問題、IoTの“根幹”を欧米2社が制圧、「IoTデバイス」はウイルスまみれ) IoT

人工知能(AI)(その2)(人工知能は哲学的に危険、東大入試問題とAI) [科学技術]

人工知能(AI)については、3月22日に取上げたが、今日は、(その2)(人工知能は哲学的に危険、東大入試問題とAI) である。

先ずは、哲学者の岡本裕一朗氏は9月28日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「なぜ人工知能は哲学的に危険なのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・世界の哲学者はいま何を考えているのか――21世紀において進行するIT革命、バイオテクノロジーの進展、宗教への回帰などに現代の哲学者がいかに応答しているのかを解説する哲学者・岡本裕一朗氏による新連載です。いま世界が直面する課題から人類の未来の姿を哲学から考えます。9/9発売からたちまち重版出来の新刊『いま世界の哲学者が考えていること』よりそのエッセンスを紹介していきます。第8回は人工知能の発展が人類にもたらす影響を哲学の系譜の上に位置付けて解説します。
▽超知性としてのAIを哲学する
・人工知能の研究は、1950年代から始まり、過去2回のブームを経て、現在は第3段階に立っている、と言われています。過去2回のブームでは、あらかじめコンピュータに規則や推論、知識などを教え込み、そこから現実世界の具体的問題を解決しようと目ざしていました。 しかし、具体的な状況は、決して一律ではなく、例外もあれば、偶発的な出来事も生じます。日常生活での会話を考えてみれば分かりますが、現実はきわめて変化に富み、規則的に行われることがありません。とすれば、そもそも人間の知能に匹敵する人工知能を作製できるのか、と不審に思うでしょう。
・じっさい、アメリカの哲学者ヒューバート・ドレイファスは、早くも1970年代に『コンピュータには何ができないか』を書いて、「人工知能の限界」について次のように主張しました。 われわれは情報処理レベルにおカネと時間をこれ以上費やす前に、(中略)コンピュータ言語が人間の振舞いの分析に適切であるということを示唆しているのかどうかを問わなければならない。離散的、確定的で文脈に依存しない要素の、規則に支配された操作によって、人間理性を分析しつくすことはできるのだろうか。そもそもこの人工理性という目標に接近すること自体可能なのだろうか。いずれの問いの答えも「ノー」であるように思われる。
・しかし、今日、こうした状況が大きく変わろうとしています。たとえば、人間に代わって自動運転する車のニュースはご存じだと思いますが、これに搭載されているのが人工知能です。具体的な状況の多様な変化を見極め、即座に適切な対応を取ることができるようになったのです。そうでなければ、事故ばかり起こすことになりそうですが、そうした事故もほとんど起こることなく、周りの環境に柔軟に対処できるようになっています。
・あるいは、iPhoneをお持ちでしたら、「Siri」と呼ばれるアプリケーションを使われたことがあるでしょう。たとえば、自然言語で「△△を検索して」と話しかけると、それに対応する内容を答えてくれます。つまり、話している内容を理解して、それに応じた答えをしてくれるわけです。今のところ、幾分ぎこちないとはいえ、それでもある程度役に立ちます。このiPhoneに搭載されているのも人工知能です。
・こうした最近の人工知能は、従来型とは違って、多様に変化する具体的な状況から出発し、いわば自律的に学習していくように見えます。そのため、「機械学習」とか「ディープラーニング」などと呼ばれていますが、これによって人工知能の能力が飛躍的に向上しました。 そして、こうした人工知能が自律的に学習するに当たって、情報として与えられたのが「ビッグデータ」に他なりません。インターネットによって集められた「ビッグデータ」を、人工知能は「ディープラーニング」するための素材とするのです。情報量が膨大ですので、人工知能は突然の変化や例外にも適切に対応できるわけです。
・こうして、今、ビッグデータを背景にして、人工知能研究の爆発的な発展が、引き起こされようとしています。 スウェーデン出身のオックスフォード大学の哲学者ニック・ボストロムは、2014年に『スーパー・インテリジェンス道行き、危険、戦略』を出版しています。ビル・ゲイツが「この本を強く推薦する」と述べたこともあって、ボストロムの書物は大きな波紋を惹き起こしました。その中で彼は、次のように語っています。
・いつか私たちが、一般的知性において人間の脳を凌駕する機械の脳をつくるならば、その時にはこの新しいスーパー・インテリジェンス(超知性・超知能)はきわめて強大になるだろう。そして、ゴリラの運命が今、ゴリラ自身というよりも、私たち人間にいっそう依存しているように、私たち人間という種の運命も機械のスーパー・インテリジェンスのアクションに依存することになるだろう。
・つまり、人間の知性(知能)を超える機械の「スーパー・インテリジェンス」が、「技術的な特異点」において出現するわけです。こうした予想は、荒唐無稽な妄想というべきでしょうか。しかし、人工知能の発達を顧みると、あながち間違っているとは言えません。
▽人工知能による「啓蒙」はなぜ危険か
・1950年代に開発された最初の頃の人工知能では、チェスのゲームをしたとき、素人にさえ負けるレベルでしたが、最近では世界チャンピオンにも勝つようになっています。囲碁でもGoogleによるAI「アルファ碁」の目覚ましい活躍は記憶に新しいことでしょう。また、車の自動運転が実用化され、公道でも事故を起こさずに運転できるようになっています。こうした進歩を考えるとき、カーツワイルでなくても、「技術的特異点は近い」と言いたくなるのではないでしょうか。
・しかし、ボストロムの引用でも分かりますが、人工知能が人間の知能を超えるようになったら、人間にとって危険な状況(脅威)になるのではないでしょうか。 人工知能が脅威となるとき、根本にあるのは、それが人間から「自立化・自律化」することにあります。最初の頃の人工知能は、人間があらかじめ規則や推論を設定したり、知識を教えたりするものでした。そのため、そうした規則や知識を超えた状況に出会うと、うまく対処できなかったのです。
・ところが、20世紀末から膨大な「ビッグデータ」が蓄積され、それにもとづいて人工知能が「機械学習」や「ディープラーニング」を行なうことによって、いわば自己進化していく人工知能が開発され始めています。厳密に考えると、現在においては、「人工知能が自律的に学習する」とは言えません。しかしながら、その方向に進みつつあるのは明らかではないでしょうか。 いつの日か、自律するAIが登場し、とてつもない速さで自己改造を始めるかもしれません。生物学的進化の遅さに制限される人間がこれに対抗できるはずもなく、いずれ追い越されるでしょう。
・では、この「自律型の人工知能」は、いったいどこへ向かうのでしょうか。これを考えるとき、ヒントになるのは、アドルノとホルクハイマーが「啓蒙の弁証法」(1947年)と名づけた概念です。彼らは、第二次世界大戦中、亡命先のアメリカで『啓蒙の弁証法』を執筆し、近代社会の未来について、次のような疑念を表明したのです。 何故に人類は、真に人間的な状態に踏み入っていく代わりに、一種の新しい野蛮状態へと落ち込んでいくのか。
・一般に、「啓蒙」というのは、人間を無知蒙昧な迷信から解放する「合理的な理性」を意味しています。近代科学や近代市民社会や資本主義経済などは、この「啓蒙」によって生み出されたものです。 ところが、アドルノとホルクハイマーによれば、こうした合理的な「啓蒙」は、やがて自分自身を否定するようになり、「反‐啓蒙」である神話や暴力へと転化する、というわけです。この「反‐啓蒙」として、彼らはナチズムやスターリニズムなどの「全体主義」を見ていました。
・このような「啓蒙」から「反‐啓蒙」への弁証法は、人工知能の未来を考えるとき、一つのモデルとなるように思えます。人工知能は「人間のような知能」をもつために作製されたのですが、今や人間と同じように「自律的学習」ができるようになって、さらには「人間の知能」を大きく超え出ようとしています。 人工知能が人間から自立化し、モノ同士で相互にコミュニケーションできるようになり始めました。とすれば、やがて、人工知能が人間に対抗することも大いにありうることでしょう。
http://diamond.jp/articles/-/103046

次に、作曲家=指揮者 ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督の伊東 乾氏が10月25日付けJBPressに寄稿した「この東大入試問題への見方で分かるあなたの未来 AI、IoT時代に勝ち残れるか、全く不要になるか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・とある地方の高校で生徒たちに、「数年後の東大入試、AIは合格できるか?」と尋ねると、大半が「受かると思う」に手を挙げたそうです。 「ではその時君たちは何をするの?」と続けて訊ねると、いろいろな答えが返ってきたとのこと。結構悲観的な答えもあったようです。 さて、東大入試ではどういう問題を出しているか、皆さんご存知ないのではないでしょうか? 今年2016年の春に出題された英語・入試問題の実物を確認してみましょう。
▽東大入試問題の背景
・以下、実際に出題された問題そのものです。
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 2(A)下の画像について、あなたが思うことを述べよ。全体で60-80語の英語で答えること。  (「下の画像」として、ネットに上がってたものを1つリンクさせていただきました)
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・床に寝転がっているネコを見ながら、目の比較的近くに手指を持ってくると、遠近法的な「だまし絵」を作ることができ、指先で大きな猫をつまんでいるような面白い錯覚・錯視の写真を撮ることができます。 ネットで検索してみましたが、「東大発!模範解答のない入試の衝撃」「東大入試がアート系に?」うんぬん。かなりピントの外れた観点でこれを取り上げているものを目にしました。 中には、問題の中味に一切触れず「訳の分からない出題に対処できる危機管理」などを説くものを目にし、少なからず驚きました。
・私自身、ピアニストのヘルマン・ゴチェフスキさんなどと共に東京大学としては極めて少ないアート実技系の教官として在勤していますが、このリアクションは率直に残念に思いましたので、以下の議論を建設的なものにするべく、少しだけ常識的な前提を補っておこうと思います。
・言うまでもなく、現役の東京大学教官が、現在実行している入試について言及できることは極めて限られます。ここではあくまで一般論として錯視のメカニズムだけを記すもので、問題の中味には一切触れませんので、誤解のないようにお願いします。
・ネットのフリー・シルエット素材を使って、この錯視のメカニズムを簡単に図示してみましょう。 足元に寝転がっているネコは体長にして数十センチあると思われますが、そこから発せられた光は最終的に数センチ大である私たちの目に入って来ますから、円錐状の光路を考えることができます。 そこで比較的目に近いところで指先を「C」の文字の形にすれば、あたかも猫を指先でつまんでいるように見えてしまう。こんなことは取り立てて言うまでもない、常識の範疇に過ぎません。
・こういう視覚の錯覚、ビジュアル・イリュージョンは「トリック・アート」として周知のことと思います。気の利いた動画を少し前に見て感心したのでリンクしておきます。 この人はこんなものも作っている。これも遠近を用いたトリックですが、何ともセンスがあって素敵ですね。 もう少し分かりやすい例ですと、こんなものもありました。分かりやすいネットコンテンツ、いくつか参照してみると面白いかと思います。
・さて、本題に戻りましょう。 上の出題は、これに関して、いくらでも科学的に正確な話もできるし、ウイットに富んだ洞察やエッセー的な展開も可能な秀逸なものと思います。そうした内容や、採点基準に関わるようなことは、ここでは一切見解を示しませんので悪しからず。
・一般に英作文には唯一の模範解答などあり得ません。この出題は、傾向の異なる複数の解答系列に秩序だった採点基準を設けて公平に加点することができるだろうことのみは、ここで触れておいていいと思います。 受験生諸君はくれぐれも、塾や教育産業のいろいろな情報に惑わされず、自分自身の観点をもって「正気の解答」をしてくれれば、と思うばかりです。
・この問題は極めてよく練られた、品の良い出題と思います。 また、そういうものでなければ、東京大学は決して入試に出題しません。答案回収直後の採点に窮するような出題をする大学は常識で考えても存在しないでしょう。
▽コンピューターは錯視ができない
・先にポイントを1つ。この出題に、AIは解答することができません。そもそも問題を理解することがないでしょう。なぜなら電子計算機には「あなた」が「思うこと」はないのだから。計算機は冷血で、単に道具に過ぎないのですから。
・AIやビッグデータ、IoTで雇用の危機を煽る記事を苦笑を持って眺める1つの観点は「思うこと」「感じること」にあります。2050年でも2100年でも、あるいは3050年に人類が存続しているか知りませんが、料理の味見は人間のコックさんがしていると思います。 塩分濃度が何パーセント、温度はどれだけ・・・みたいな測定はセンサーの方が正確で得意でしょう。でも「これが旨いか?」という判断はIoTのセンシングシステムでは不可能なんですね。正解がないのですから。
・AIというのは「前例がなければ答弁することができないお役人」のスーパー強力バージョンみたいなものと思っておくのが適切です。自ら何か感じ考えるということは原理的にできない。 2050年でも3050年でも、名コックの店は繁盛し、雇用を機械に取られたりはしないでしょう。
・全く同様に、AIで小説のごときものを合成することはできるでしょうが、面白いものはまずできない。基本が二番煎じしかないのだから仕方ないのです。 新聞雑誌などでルーチンの埋め草記事などを書く人は大幅に人員整理される可能性があると思いますが、コンピューターにウイットの利いたジョークや詩を期待するのは無理というものだし、私が作るように音楽は作れず私が演奏するように楽器を弾くこともできない。
・私のマネはできるでしょう。でもモノづくりは自己模倣し始めたらヤキが回っています。常に自分を振り返り、疑って改めているクリエイター・トップエンドの仕事は、大量生産向けのシステムに決して取って代わられることはありません。
・先ほどネコの錯視の話題を出しましたが「錯視」というのも人間の脳にしかできない芸当で、カメラアイではいくつものレベルで無理なのです。 人間のビジョンは幾重にもわたって脳が高度に構成して、物事のまとまりを理解したり奥行きを感じたりしています。私たちは猫を猫と思い、ストーブをストーブと思ってみますが、カメラはそんなことお構いなしに映った色のシミとしてのみ記録し、インテリジェントではありません。
・さらにカメラアイは「違和感」を感じたりすることができません。猫が指に挟まったら変ですよね? 私たちには常識があるから、それに照らして物事を考えますが、そういう分別を反射的直観的にAIが捉えるかと言われれば、学習させないと難しいでしょう。 で、何とかAI君が「指先でネコをつまみあげるのは変、おかしなことだ」と理解できるようになり「何カ変デス」と出力できるようになったとしましょう。 でも半導体や金属のシステムは「これはおかしい」、もう少し分かりやすく崩せば「おもろいやんけ!」とは思わない。AIは決して自ら喜怒哀楽の感情をもって笑ったりはしない。
・幼稚園児でも「これ、なんか変だよ」「面白い!」となる部分が、センサーレベルであらゆるIoTのシステムに一切欠如しているし、ビッグデータを走査してデータを洗い出すAIのシステムも「これは何か変だ!」と気づくような第六感は一切持っていない。 空気が読めないんですね。AIはKYであると覚えておくと便利そうです。
▽考査の原点への回帰
・こういう問題を見て「東大入試の新傾向」「模範解答がない」「大学入試が企業採用に近づいた」など、いろいろ好き勝手な憶測が記されているのを目にしました。一切コメントは避けますのでこれも悪しからず。 ただ、無難な範囲で間違いなく言えることは、これはむしろテスト、考査の原点に戻っているということでしょう。
・「模範解答がない」などと言う人がいますが、世の中の問題のどれだけに「模範解答」があると思っているのでしょうか? まず、最先端の研究課題には、いまだ「正解」など存在しません。 そういう未踏の問題に果敢に解を出して行く人材を、大学は、またとりわけAIやらIoTやら、陳腐なルーチンワークはシステム任せにできるようになって以降、企業や様々な社会的セクターが必要とすることになります。
・「ヘイト」の問題は解決すべきですが、模範解答などあるわけがない。 「いま入試の問題を扱ってるんじゃないか?」という向きには、ここでは一大学教授が学生採用の本質を話しているのだと正確に理解していただきたい。 なぜ「公平な採点ができる一律のペーパーテスト」が必要か、と問われれば、実はそれは、「大学が官費で賄われ、税金を使う以上、機会均等であるべき」という社会的な条件づけによるもので、学術の本質とも教育の核心とも、実は全く無関係と知るべきでしょう。
・本来は、師匠が自分の学風に合うかどうかでセレクションするのが王道です。例えばゼミの採用などは現在でもそれで行っている。 日本がくだらない形式的学歴社会に堕している現状があるから、変に「入試問題の客観評価と公正な採点」などの言葉が独り歩きするのです。
・実際には、面接して、少し目の前で展開などさせてみれば、実力は全部分かるし、一番公正に学生を選ぶことが本来は可能なはずです。それができないとすれば、日本の人材育成、とりわけ第2次世界大戦後に主として米国から導入された「民主的」なシステムが「悪平等」として機能していることが懸念されます。
・学科の定期試験と入試の決定的な違いを1つ記しましょう。学校で行う数学の試験は、数学の実力を見るものであるべきです。 しかし、入試は「数学という題材を用いて、志望してくる学生が本学に向いた適性、可能性がある若者であるか?」を見る選抜試験です。 「英語のテスト」は「英語の力を見る」だけが目的ではなく、英語の出題を通じて、その志願者のものを見る力、考える力、判断する力そして表現する力など、子供の全体を見ようとするものです。ここに根本的な違いがある。
・これがむしろ選抜考査の原点であって、教育指導要領で縦割りにしてみたり、どこから見ても一点の曇りもない「公正な採点基準」の独り歩きが目的ではないのです。 私の専門の例でお話しするなら、日本のクラシック系統の公立音楽高校・大学の入試は「主観によらず誰が見ても明らかな公正・客観的な採点基準」として、ミスを数える減点法が採用されるという不幸がありました。 その結果、アナウンサーのように正確に間違いなく楽譜を音にする部分だけが突出した日本の音楽家像が内外に定着し「プラクティカ―」現実屋という定評ができ上がっています。 同時に表現内容、哲学もファンタジーも魅力も何もない演奏、といった激しいコメントで、海外の音楽院入試やコンクールで1次予選落ちしてしまう若い人をたくさん育ててしまうことにもなっている。
・全く同じことが言えます。 その人の内実をきちんと評価する「考査の原点」に帰ること。端的に言えば地アタマの良さを見て公平に人を採用すること。 AIが基本、地アタマがゼロであることは既に幾度も述べています。IoTのセンサーがKYというのも今回強調しています。
・2018年の入試は21世紀0年目に生まれた子供たちが大学の門を叩く最初のトライアルで、その中には2100年以降にも生きている人がいるに違いない。 私たちは無理ですが、今年の入試をしっかりしたものにするのは、22世紀の明日を支える次世代を育てるという現実的な責任に直結するものであることを、強調しておかねばなりません。
・冒頭の「とある地方の高校生」に。2020年、AIでも解ける入試問題ばかりになっていたら、それは大学側の出題者の怠慢か、あるいは敗北を意味しているだけです。 少なくとも東京大学は2016年時点で、AIでは1点も得点できない問題をはっきり出題している。このことの意味を、どうか噛みしめてみてください。頭は使うためにある。
・電子計算機もAIも、あるいは自動運転もユビキタス情報化もはるかに進んだ時代に、しっかり地アタマを働かせてシステムを使い倒せる人材を選抜し、育てるために、出題の原点に回帰した問題、AIごときには歯も立たない人間力ある、厳密な採点基準でしっかり評価できる問題を、今後大学はどんどん出題するようになるはずです。 で、これ自身実は、すでに100年の伝統があるものなのです。それを次回にお話ししましょう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48206

岡本氏のは哲学者がどう考えているかを知るために紹介したものである。『「啓蒙」から「反‐啓蒙」への弁証法』、は比喩としては面白い。しかし、ニック・ボストロムの「スーパー・インテリジェンス」などから、『今や人間と同じように「自律的学習」ができるようになって、さらには「人間の知能」を大きく超え出ようとしています。人工知能が人間から自立化し、モノ同士で相互にコミュニケーションできるようになり始めました』、というのはやや過大評価なのではなかろうか。
伊東氏は、理学部出身のマルチタレントだけあって、AIの限界を的確に捉えている。『AIというのは「前例がなければ答弁することができないお役人」のスーパー強力バージョンみたいなものと思っておくのが適切です。自ら何か感じ考えるということは原理的にできない』、との指摘は分かり易い。東大入試に地アタマを試すような問題が出題されているとは、心強いことだ。『正確に間違いなく楽譜を音にする部分だけが突出した日本の音楽家像が内外に定着し「プラクティカ―」現実屋という定評ができ上がっています』、という日本の音楽教育への手厳しい批判は、さもありなんだ。
なお、この続きの紹介はここでは省略した。興味ある方は下記リンクをご参照。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48265
そういえば、人工知能で東大入試に合格させるプロジェクトがあったが、最近、「無理」として断念したようだ
明日の金曜日は更新を休むので、土曜日にご期待を!
タグ:コンピューターは錯視ができない JBPRESS ダイヤモンド・オンライン 東大入試 岡本裕一朗 (その2)(人工知能は哲学的に危険、東大入試問題とAI) AI 英語・入試問題 伊東 乾 人工知能 正確に間違いなく楽譜を音にする部分だけが突出した日本の音楽家像が内外に定着し「プラクティカ―」現実屋という定評ができ上がっています 日本のクラシック系統の公立音楽高校・大学の入試は「主観によらず誰が見ても明らかな公正・客観的な採点基準」として、ミスを数える減点法が採用されるという不幸がありました 「英語のテスト」は「英語の力を見る」だけが目的ではなく、英語の出題を通じて、その志願者のものを見る力、考える力、判断する力そして表現する力など、子供の全体を見ようとするものです テスト、考査の原点に戻っているということでしょう カメラアイは「違和感」を感じたりすることができません コンピューターにウイットの利いたジョークや詩を期待するのは無理 AIというのは「前例がなければ答弁することができないお役人」のスーパー強力バージョンみたいなものと思っておくのが適切です この出題に、AIは解答することができません 同時に表現内容、哲学もファンタジーも魅力も何もない演奏、といった激しいコメントで、海外の音楽院入試やコンクールで1次予選落ちしてしまう若い人をたくさん育ててしまうことにもなっている この東大入試問題への見方で分かるあなたの未来 AI、IoT時代に勝ち残れるか、全く不要になるか 「啓蒙」から「反‐啓蒙」への弁証法は、人工知能の未来を考えるとき、一つのモデルとなる 人工知能の研究は、1950年代から始まり、過去2回のブームを経て、現在は第3段階 啓蒙の弁証法 いつの日か、自律するAIが登場し、とてつもない速さで自己改造を始めるかもしれません 「機械学習」や「ディープラーニング」を行なうことによって、いわば自己進化していく人工知能が開発され始めています 人工知能による「啓蒙」はなぜ危険か 人間の知性(知能)を超える機械の「スーパー・インテリジェンス」が、「技術的な特異点」において出現 スーパー・インテリジェンス道行き、危険、戦略 なぜ人工知能は哲学的に危険なのか 「錯視」というのも人間の脳にしかできない芸当 錯視のメカニズム ニック・ボストロム 、「機械学習」とか「ディープラーニング」などと呼ばれていますが、これによって人工知能の能力が飛躍的に向上しました 最近の人工知能は、従来型とは違って、多様に変化する具体的な状況から出発し、いわば自律的に学習していくように見えます
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