人工知能(AI)(その16)(医療に「進出」するChatGPT 医師の仕事をAIがすることになるのか、解任騒動が示した「オープンAIとMSの相互依存」 スピードを支えるのは人員と「サーバー」だが…、お家騒動であらわ「OpenAI」が抱える矛盾の正体 突然のトップ解任の裏に倫理と営利めぐる葛藤) [イノベーション]
人工知能(AI)については、本年8月10日に取上げた。今日は、(その16)(医療に「進出」するChatGPT 医師の仕事をAIがすることになるのか、解任騒動が示した「オープンAIとMSの相互依存」 スピードを支えるのは人員と「サーバー」だが…、お家騒動であらわ「OpenAI」が抱える矛盾の正体 突然のトップ解任の裏に倫理と営利めぐる葛藤)である。
先ずは、本年9月1日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「医療に「進出」するChatGPT、医師の仕事をAIがすることになるのか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/328424
・『「緊急度自己判定」でのChatGPTの能力は高い ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)が医療の分野で活用され、人間の医師が担ってきた仕事のかなりの部分をAIがとって代わるという見方がある。 医療での利用としてはまず、医療機関での書類整理などの事務効率化があるが、それだけでなく、医療行為そのものに対する利用が考えられている。その第1は、「セルフ・トリアージ」(一般市民が自分の健康の緊急度を自ら判断すること)だ。 現在では、これは主としてウェブの情報を頼りに行われている。しかし、正確度に疑問があるし、個人個人の事情に即した情報が得られるわけでもない。高齢化の進展に伴って、セルフ・トリアージの必要性は増える。事実、週刊誌には高齢者の健康に関する記事が満載だ。また書籍も多数刊行されている。 さらに、保険会社などが電話で健康相談サービスを提供している。セコムのサービスもあるし、ファストドクターというスタートアップも登場した。もし医学的な質問に対して、大規模言語モデルが専門医レベルの回答をできるなら、事態は大きく変わるだろう。 これについては、さまざまな調査が行なわれており、検証成果はかなり有望な結果を示している(注1)。) ChatGPTが米国の医師資格試験で合格ラインの結果を示したとの報告もあるし、医師による回答よりChatGPTの回答が好まれるとの調査もある』、「もし医学的な質問に対して、大規模言語モデルが専門医レベルの回答をできるなら、事態は大きく変わるだろう。 これについては、さまざまな調査が行なわれており、検証成果はかなり有望な結果を示している」、なるほど。
・『患者の状況に共感示す点などは人間より優れているとの評価も 医学界の有名専門誌「JAMA」に掲載された論文は、医師とChatGPTを比較すると、医学的アドバイスの品質と共感の両面で、ChatGPTが生成した回答が高く評価されていると指摘している。 とりわけ、次の諸点でChatGPTが優れているという。 +患者の状況に共感を示す +患者個人の背景に興味を持ち、個人的な関係を構築しようとする +歯科、医師、看護師、薬剤師などの資格試験の点数が高い 大規模言語モデルの臨床的有効性や診断支援の可能性を高く見積もる意見が多い。大規模言語モデルが臨床実装され、医療を強力に支援するようになる可能性は非常に高い。 特に、スクリーニングや初期診断、治療方針策定、フォローアップ、セカンドオピニオン、患者および医療者教育などは激変する可能性がある』、「大規模言語モデルの臨床的有効性や診断支援の可能性を高く見積もる意見が多い。大規模言語モデルが臨床実装され、医療を強力に支援するようになる可能性は非常に高い。 特に、スクリーニングや初期診断、治療方針策定、フォローアップ、セカンドオピニオン、患者および医療者教育などは激変する可能性がある」、なるほど。
・『医療に特化したLLMも開発 医師国家試験で高い“正答率” 以上で紹介したのは、ChatGPTそのものだが、これに改良を加え医療に特化した大規模言語モデルを開発する動きもある。 グーグル研究所は、医療領域特化の大規模言語モデルMed-PaLMを発表した。アメリカ医師国家試験で、平均点である60%を大きく上回る85%の正解率を示したという(注2)。 臨床家が時間をかけて示す答えと比べると、かなり近いところに来たようだ。ただ臨床家の方が勝っているとも言われる。 日本でも開発が進んでいる。ファストドクターとAI開発スタートアップのオルツが共同開発した大規模言語モデルだ。2022年度の医師国家試験の問題で合格基準を上回る82%の正答率を達成したという。) 中国の研究者らが開発した「ChatCAD」は、レントゲン画像を分かりやすく説明する。画像を見ながら詳しく聞くこともできる。人間より優れているとの評価もある。 日本では、これから人口高齢化がさらに進展し、医師不足は深刻な問題になるだろう。信頼性のある医療用大規模言語モデルの開発は、日本の場合にとくに必要度が高い課題だ』、「日本では、これから人口高齢化がさらに進展し、医師不足は深刻な問題になるだろう。信頼性のある医療用大規模言語モデルの開発は、日本の場合にとくに必要度が高い課題だ」、なるほど。
・『重要な判断を伴うケースやプライバシー保護などで慎重論も こうして医学関係者の多くが、大規模言語モデルに対して高い期待を寄せている。これは私には意外だった。慎重論が多いと思っていたからだ。 もちろん、医療関係者の全てが大規模言語モデルの利用に積極的であるわけではない。慎重論や消極的な意見が多いことも事実だ。ニューズウィーク・ジャパンの記事は、そうした意見を紹介している(注3) それによると、明らかな誤りやバイアスなど、精度の不安定性に懸念が表明されている。だから、現時点では重要な判断が伴うケースで、専門家のレビューなく出力結果を利用することは難しいとされる。 またプライバシー、倫理、法的制約と規制などについても、解決すべき課題が多くある。治療や研究に取り入れることには、守秘義務や患者の同意、治療の質、信頼性や格差に関する倫理的懸念が伴う。むやみな使用は予想外の結果につながりかねない。 また、ChatGPTに送られた身元特定可能な患者情報は、将来利用される情報の一部になる。だから機密性の高い情報が第三者に漏洩しやすくなる』、「明らかな誤りやバイアスなど、精度の不安定性に懸念が表明されている。だから、現時点では重要な判断が伴うケースで、専門家のレビューなく出力結果を利用することは難しいとされる。 またプライバシー、倫理、法的制約と規制などについても、解決すべき課題が多くある。治療や研究に取り入れることには、守秘義務や患者の同意、治療の質、信頼性や格差に関する倫理的懸念が伴う。むやみな使用は予想外の結果につながりかねない」、なるほど。
・『健康に関する利用はさまざまな微妙な問題含む 私自身はこれまで自分の健康問題に関してChatGPTに質問をしたことはない。ChatGPTが誤った答え(ハルシネーション)を出す危険があるからだ。仮にその問題が克服されたとしても、なおかつ問題は残る。これは上述した医学関係者らの懸念とは異なるものだ。) 第一に、自分の状況を正しくChatGPTに伝えられるかどうか、自信がない。 医師と面談する場合には、医師が様々な質問をし、それに答える。しかしChatGPTの場合には、そのような質問がない。質問自体を私が考えなければならない。電話の健康相談サービスでも、通常は先方が質問してくれる。ChatGPTとの会話は、人間との会話とは異なるものなのだ。 また、ChatGPTは、安全側に偏った回答をするはずだ。少しでも疑問があれば、「医師の診断を受けた方がよい」と答える可能性高い。自分では大丈夫だと思っているときにそうしたアドバイスを受けると、かえって不安になってしまう。 こうしたことがあり、上述した医師国家試験での正答率などの調査結果を知ったいまとなっても、なかなか健康問題の質問をする気にならない。 かと言って、週刊誌にある「多少血圧が高くても気にする必要はない」というような記事も乱暴すぎると思う。健康に関わる問題は、さまざまな微妙な要素を持っており判断が難しい。この問題に関する研究調査がさらに進められることが求められる。 注1 岡本将輝「医療における大規模言語モデルの価値」(時事メディカル、2023年6月8日) 注2 「完璧な医療・医学チャットボットを目指して」(オール・アバウト・サイエンス・ジャパン,2023年7月14日) 注3 ニューズウィーク・ジャパン(2023年4月9日)』、「また、ChatGPTは、安全側に偏った回答をするはずだ。少しでも疑問があれば、「医師の診断を受けた方がよい」と答える可能性高い。自分では大丈夫だと思っているときにそうしたアドバイスを受けると、かえって不安になってしまう・・・健康に関わる問題は、さまざまな微妙な要素を持っており判断が難しい。この問題に関する研究調査がさらに進められることが求められる」、同感である。
次に、11月26日付け東洋経済オンラインが掲載したフリージャーナリストの西田 宗千佳氏による「解任騒動が示した「オープンAIとMSの相互依存」 スピードを支えるのは人員と「サーバー」だが…」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/717269
・『これらの背景には2つの要素がある。 1つは優秀な人員を多数抱えており、研究と開発までの距離が近いこと。 OpenAIの社員数は約770名とされているが、世界的な注目を集める企業としては「まだ」コンパクトであり、ほとんどが研究開発に従事していると思われる。 今回の騒動では社員のほとんどにあたる700名以上が、アルトマン氏らの復帰を求める署名にサインしており、求心力の強さは明白だ。社員の一斉離反もしくは作業停滞が起きれば、OpenAIには大きな打撃になっただろう』、「社員のほとんどにあたる700名以上が、アルトマン氏らの復帰を求める署名にサインしており、求心力の強さは明白だ」、取締役会の「アルトマン氏」解任決議に対して、「700名以上が、アルトマン氏らの復帰を求める署名にサイン」、とは。「アルトマン氏」には心強い支援だ。
・『支えるのは「人員」と「サーバー」だが… もう1つは「サーバー」だ。 LLMの学習には高速なサーバーが必須だ。特にGPTシリーズのように規模の大きなLLMの場合には、現在ならばNVIDIA製の高速なGPUを数千台単位で用意する必要がある。 LLMの規模は「パラメータ数」で表されるが、一般論として、パラメータ数が大きい、規模の大きなLLMほど賢いものになりやすい。一方でパラメータ数が大きなLLMは、開発のための「学習」にも、日常的に使うために必要な「推論」にも、高速な演算が必要になり、GPUを使った大規模なサーバーが必須になっていく。 GPT-4は正確なパラメータ数が公開されていないので必要なサーバー量やその電力消費も不明だが、GPT-3については1750億パラメータとされており、1回の学習には1時間あたり約1300メガワットの電力を必要とする。これはほぼ、原発1基分(毎時約1000メガワット)に相当する。 GPUは取り合いの状況であり、サーバーを用意するだけでも大変な状況だ。それを運用できる電力と保守の能力を持った設備を持つ企業は限られている。 例えばソフトバンクは3500億パラメータ規模のLLMを作るためのデータセンター構築に約200億円を投じている。 一方でNTTはソフトバンクやOpenAIとは異なり、自社開発のLLM「tsuzumi」を用途限定・日本語特化でコンパクトなものにした。パラメータ数を70億規模に抑えることで、学習にかかる機材コストをGPT-3の25分の1に圧縮している。) いかに巨大な設備を持つか、もしくは戦略的に小さな設備向けのLLMで戦うかが重要になってきているわけだが、OpenAIは汎用人工知能(AGI)を目指してどんどんLLMの規模を拡大する方向性にある。だから、パートナーとともにサーバーを動かし続けなければならない。 逆に言えば、「人員がいて」「サーバー設備が用意できる」状態なら、OpenAIと戦うことは不可能ではない。グーグルやMetaはその条件を十分に満たしている。OpenAIが持っている優位性も、他社が持ち得ないものではない、ということだ。 活動が滞ると、その分すぐに他社が追いついてくる』、「「人員がいて」「サーバー設備が用意できる」状態なら、OpenAIと戦うことは不可能ではない。グーグルやMetaはその条件を十分に満たしている。OpenAIが持っている優位性も、他社が持ち得ないものではない、ということだ」、なるほど。
・『マイクロソフトは「共依存」をいつまで維持するのか OpenAIはサーバーをマイクロソフトに依存している。マイクロソフトはOpenAIに対する最大の出資者だが、逆に言えば、世界トップクラスのクラウドインフラ事業者であるマイクロソフトの力を借りなければ、ChatGPTを含むOpenAIの快進撃も実現できなかっただろう。 マイクロソフトはOpenAIに依存したサービス施策を矢継ぎ早に提供しているが、一方インフラ面でOpenAIはマイクロソフトに依存している。 海外の報道によれば、マイクロソフトがアルトマン氏らの離脱を知ったのは、11月17日の発表直前であるという。 両輪が揃っていないと今の快進撃は実現できないわけだが、その片方が止まりそうになったのを突然知ったマイクロソフトの驚きは想像以上であっただろう。 マイクロソフトのサティア・ナデラCEOはすぐに交渉し、「アルトマン氏らがマイクロソフトに入る」とコメントを発表したが、どのような体制で、どのような組織体を構成するのかといった詳細は公表されなかった。なによりもまず「両社のコンビネーションは安泰です」とアピールする必要があったからだろう。 今回の騒動では、OpenAIへの発言力をマイクロソフトが強化し、漁夫の利を得たようにも見える。だが、同社が取締役会に関係者を送り込めたわけでもなく、両社の関係や体制に変化はない。 今後も体制を維持するなら、OpenAIのガバナンス強化は必須だ。一方で、マイクロソフトとして「OpenAI以外の選択肢」、例えば自社でLLMを開発していく道もなくはない。すでに小規模なLLMは研究しているが、今後はどうなるのだろうか』、「今回の騒動では、OpenAIへの発言力をマイクロソフトが強化し、漁夫の利を得たようにも見える。だが、同社が取締役会に関係者を送り込めたわけでもなく、両社の関係や体制に変化はない。 今後も体制を維持するなら、OpenAIのガバナンス強化は必須だ。一方で、マイクロソフトとして「OpenAI以外の選択肢」、例えば自社でLLMを開発していく道もなくはない」、今後の展開が大いに注目される。
第三に、11月29日付け東洋経済オンライン「お家騒動であらわ「OpenAI」が抱える矛盾の正体 突然のトップ解任の裏に倫理と営利めぐる葛藤」を紹介しよう。
・『OpenAIは2015年12月、アルトマン氏らによって非営利団体として設立された。組織の目標として当時、「金銭的なリターンを得る必要性に制約されることなく、人類全体に最も利益をもたらす可能性の高い方法で、デジタルインテリジェンスを発展させること」と定めている。 AIは業務の効率化などに活用できる一方、フェイクニュースの蔓延や雇用への短期的影響などリスクを伴う。倫理と安全性が求められるAIの領域において、OpenAIは資本的な利益よりも人類の利益を優先する、非営利の研究開発機関として組織されていた。 設立時には、10億ドルの寄付を目標に設定。総額約1.3億ドルの寄付を受け、組織の運営や、ディープラーニング、AIアライメント(AIが人間の価値観、目標、意図に沿って行動するようにすること)の研究などに使用された』、「アルトマン氏らによって非営利団体として設立された。組織の目標として当時、「金銭的なリターンを得る必要性に制約されることなく、人類全体に最も利益をもたらす可能性の高い方法で、デジタルインテリジェンスを発展させること」と定めている。 AIは業務の効率化などに活用できる一方、フェイクニュースの蔓延や雇用への短期的影響などリスクを伴う。倫理と安全性が求められるAIの領域において、OpenAIは資本的な利益よりも人類の利益を優先する、非営利の研究開発機関として組織されていた」、なるほど。
・『数年で「ハイブリッド」組織へと転換 しかし2019年3月に、その組織形態を大きく変えることとなる。OpenAI本体の傘下に、一定条件がついた営利企業のOpenAI LPを設立したのだ。この形態では出資する投資家や従業員は上限付きのリターンを得ることができる一方、一定以上の利益に関しては、非営利組織であるOpenAIに還元される』、「OpenAI本体の傘下に、一定条件がついた営利企業のOpenAI LPを設立したのだ。この形態では出資する投資家や従業員は上限付きのリターンを得ることができる一方、一定以上の利益に関しては、非営利組織であるOpenAIに還元される」、なるほど。
・『OpenAIの組織構造 営利と非営利のハイブリッドな組織に見直した背景について、OpenAIは「アルゴリズムの革新に加え、多くの計算能力を使うことになったことで、OpenAIを始めるときに計画していたよりもはるかに速くスケールすることを決めた」ためと説明していた。 他のIT企業もAI事業に本腰を入れる中、業界をリードするポジションであり続けるには、大規模なクラウドやAIスーパーコンピューターの構築、さらには優秀な人材の確保が欠かせない。そのためには数年間で数十億ドルの投資が必要となり、企業からの出資などを受けられるよう組織形態を変えたわけだ。 実際、そのわずか数カ月後にはマイクロソフトとパートナーシップを締結し、同社が10億ドルの出資を行うと発表。 マイクロソフトは2023年1月にも、複数年にわたって OpenAI に数十億ドル規模の投資を行う方針を発表し、マイクロソフトのAzureは、OpenAI の独占的なクラウドプロバイダーとなった。) 一方、営利企業の設立後も、OpenAI全体の組織の“最上位”に位置づけられてきたのが、6人の役員で構成する理事会だ。2023年6月時点で、OpenAIはその組織構造について主に次のような特徴を挙げている。 「理事会は非営利団体に変わりなく、安全なAGI(汎用人工知能)の促進という義務を果たす必要があり、営利企業もこの使命に従う必要がある」「理事会の過半数は独立性を保っており、社外取締役はOpenAIの株式を保有していない。またCEOのサム・アルトマン氏も直接は株を保有していない」「AGIができたかどうかの決定権は理事会にある」 つまり、OpenAIはあくまで非営利団体として発足した当初の目的を堅持し、それを実現するために理事会の権限を強くしているということだ。 こうした構図から、今回のクーデターのような解任ができたことや、OpenAI Globalに巨額を出資するマイクロソフトですらアルトマン氏の解任を事前に知らなかったことが理解できるだろう』、「「理事会は非営利団体に変わりなく、安全なAGI(汎用人工知能)の促進という義務を果たす必要があり、営利企業もこの使命に従う必要がある」「理事会の過半数は独立性を保っており、社外取締役はOpenAIの株式を保有していない。またCEOのサム・アルトマン氏も直接は株を保有していない」「AGIができたかどうかの決定権は理事会にある」 つまり、OpenAIはあくまで非営利団体として発足した当初の目的を堅持し、それを実現するために理事会の権限を強くしているということだ。 こうした構図から、今回のクーデターのような解任ができたことや、OpenAI Globalに巨額を出資するマイクロソフトですらアルトマン氏の解任を事前に知らなかったことが理解できるだろう」、「社外取締役」が暴走し易い構造があったようだ。
・『理事会メンバー刷新後に残る懸念 解任を決めた当時の理事会は、創業メンバーであるアルトマン氏、ブロックマン氏、イリヤ・サツキバー氏のほか、社外理事3人で構成。2018年から参画しているQuora代表のアダム・ディアンジェロ氏、シンクタンクのランド研究所のターシャ・マッコーリー氏、そして2021年から参画しているジョージタウン大学安全保障・新技術センター戦略担当ディレクターのヘレン・トナー氏だ。 AI政策とグローバルAI戦略研究を専門とするトナー氏の参画時、OpenAIはリリースで「この就任は、テクノロジーの安全かつ責任ある展開に対する私たちの献身を前進させるもの」と記載しており、非営利組織らしくAIの安全性を重視した登用と受け取れる。 アルトマン氏の解任には、サツキバー氏と社外理事の計4人が賛成したとみられている。直近でもアルトマン氏は画像生成や音声合成などテキスト以外のAPIの公開や、開発者が独自のGPTを作成、販売できるマーケットプレースの開発を推し進めていた。ビジネス路線を突き進む同氏との間に生じた軋轢が、解任へとつながった可能性は高い。 一連の騒動を受け、理事会メンバーは抜本的に見直される予定で、元セールスフォース共同CEOのブレット・テイラー氏らの就任が決まっている。アルトマン氏の全面支援を行ったマイクロソフトの関与が強まることも想定される。 理事会の刷新で表向きは一件落着だが、営利色が強まれば、AIの安全性をいかに担保するかというジレンマはいっそう深まる。 世界を騒がせたお家騒動は、AIの開発とビジネス競争をどう両立させるかという根本的な問いを改めて投げかけている』、「アルトマン氏は画像生成や音声合成などテキスト以外のAPIの公開や、開発者が独自のGPTを作成、販売できるマーケットプレースの開発を推し進めていた。ビジネス路線を突き進む同氏との間に生じた軋轢が、解任へとつながった可能性は高い・・・アルトマン氏の全面支援を行ったマイクロソフトの関与が強まることも想定される。 理事会の刷新で表向きは一件落着だが、営利色が強まれば、AIの安全性をいかに担保するかというジレンマはいっそう深まる。 世界を騒がせたお家騒動は、AIの開発とビジネス競争をどう両立させるかという根本的な問いを改めて投げかけている」、「営利色が強まれば、AIの安全性をいかに担保するかというジレンマはいっそう深まる」、難しいものだ。
先ずは、本年9月1日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「医療に「進出」するChatGPT、医師の仕事をAIがすることになるのか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/328424
・『「緊急度自己判定」でのChatGPTの能力は高い ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)が医療の分野で活用され、人間の医師が担ってきた仕事のかなりの部分をAIがとって代わるという見方がある。 医療での利用としてはまず、医療機関での書類整理などの事務効率化があるが、それだけでなく、医療行為そのものに対する利用が考えられている。その第1は、「セルフ・トリアージ」(一般市民が自分の健康の緊急度を自ら判断すること)だ。 現在では、これは主としてウェブの情報を頼りに行われている。しかし、正確度に疑問があるし、個人個人の事情に即した情報が得られるわけでもない。高齢化の進展に伴って、セルフ・トリアージの必要性は増える。事実、週刊誌には高齢者の健康に関する記事が満載だ。また書籍も多数刊行されている。 さらに、保険会社などが電話で健康相談サービスを提供している。セコムのサービスもあるし、ファストドクターというスタートアップも登場した。もし医学的な質問に対して、大規模言語モデルが専門医レベルの回答をできるなら、事態は大きく変わるだろう。 これについては、さまざまな調査が行なわれており、検証成果はかなり有望な結果を示している(注1)。) ChatGPTが米国の医師資格試験で合格ラインの結果を示したとの報告もあるし、医師による回答よりChatGPTの回答が好まれるとの調査もある』、「もし医学的な質問に対して、大規模言語モデルが専門医レベルの回答をできるなら、事態は大きく変わるだろう。 これについては、さまざまな調査が行なわれており、検証成果はかなり有望な結果を示している」、なるほど。
・『患者の状況に共感示す点などは人間より優れているとの評価も 医学界の有名専門誌「JAMA」に掲載された論文は、医師とChatGPTを比較すると、医学的アドバイスの品質と共感の両面で、ChatGPTが生成した回答が高く評価されていると指摘している。 とりわけ、次の諸点でChatGPTが優れているという。 +患者の状況に共感を示す +患者個人の背景に興味を持ち、個人的な関係を構築しようとする +歯科、医師、看護師、薬剤師などの資格試験の点数が高い 大規模言語モデルの臨床的有効性や診断支援の可能性を高く見積もる意見が多い。大規模言語モデルが臨床実装され、医療を強力に支援するようになる可能性は非常に高い。 特に、スクリーニングや初期診断、治療方針策定、フォローアップ、セカンドオピニオン、患者および医療者教育などは激変する可能性がある』、「大規模言語モデルの臨床的有効性や診断支援の可能性を高く見積もる意見が多い。大規模言語モデルが臨床実装され、医療を強力に支援するようになる可能性は非常に高い。 特に、スクリーニングや初期診断、治療方針策定、フォローアップ、セカンドオピニオン、患者および医療者教育などは激変する可能性がある」、なるほど。
・『医療に特化したLLMも開発 医師国家試験で高い“正答率” 以上で紹介したのは、ChatGPTそのものだが、これに改良を加え医療に特化した大規模言語モデルを開発する動きもある。 グーグル研究所は、医療領域特化の大規模言語モデルMed-PaLMを発表した。アメリカ医師国家試験で、平均点である60%を大きく上回る85%の正解率を示したという(注2)。 臨床家が時間をかけて示す答えと比べると、かなり近いところに来たようだ。ただ臨床家の方が勝っているとも言われる。 日本でも開発が進んでいる。ファストドクターとAI開発スタートアップのオルツが共同開発した大規模言語モデルだ。2022年度の医師国家試験の問題で合格基準を上回る82%の正答率を達成したという。) 中国の研究者らが開発した「ChatCAD」は、レントゲン画像を分かりやすく説明する。画像を見ながら詳しく聞くこともできる。人間より優れているとの評価もある。 日本では、これから人口高齢化がさらに進展し、医師不足は深刻な問題になるだろう。信頼性のある医療用大規模言語モデルの開発は、日本の場合にとくに必要度が高い課題だ』、「日本では、これから人口高齢化がさらに進展し、医師不足は深刻な問題になるだろう。信頼性のある医療用大規模言語モデルの開発は、日本の場合にとくに必要度が高い課題だ」、なるほど。
・『重要な判断を伴うケースやプライバシー保護などで慎重論も こうして医学関係者の多くが、大規模言語モデルに対して高い期待を寄せている。これは私には意外だった。慎重論が多いと思っていたからだ。 もちろん、医療関係者の全てが大規模言語モデルの利用に積極的であるわけではない。慎重論や消極的な意見が多いことも事実だ。ニューズウィーク・ジャパンの記事は、そうした意見を紹介している(注3) それによると、明らかな誤りやバイアスなど、精度の不安定性に懸念が表明されている。だから、現時点では重要な判断が伴うケースで、専門家のレビューなく出力結果を利用することは難しいとされる。 またプライバシー、倫理、法的制約と規制などについても、解決すべき課題が多くある。治療や研究に取り入れることには、守秘義務や患者の同意、治療の質、信頼性や格差に関する倫理的懸念が伴う。むやみな使用は予想外の結果につながりかねない。 また、ChatGPTに送られた身元特定可能な患者情報は、将来利用される情報の一部になる。だから機密性の高い情報が第三者に漏洩しやすくなる』、「明らかな誤りやバイアスなど、精度の不安定性に懸念が表明されている。だから、現時点では重要な判断が伴うケースで、専門家のレビューなく出力結果を利用することは難しいとされる。 またプライバシー、倫理、法的制約と規制などについても、解決すべき課題が多くある。治療や研究に取り入れることには、守秘義務や患者の同意、治療の質、信頼性や格差に関する倫理的懸念が伴う。むやみな使用は予想外の結果につながりかねない」、なるほど。
・『健康に関する利用はさまざまな微妙な問題含む 私自身はこれまで自分の健康問題に関してChatGPTに質問をしたことはない。ChatGPTが誤った答え(ハルシネーション)を出す危険があるからだ。仮にその問題が克服されたとしても、なおかつ問題は残る。これは上述した医学関係者らの懸念とは異なるものだ。) 第一に、自分の状況を正しくChatGPTに伝えられるかどうか、自信がない。 医師と面談する場合には、医師が様々な質問をし、それに答える。しかしChatGPTの場合には、そのような質問がない。質問自体を私が考えなければならない。電話の健康相談サービスでも、通常は先方が質問してくれる。ChatGPTとの会話は、人間との会話とは異なるものなのだ。 また、ChatGPTは、安全側に偏った回答をするはずだ。少しでも疑問があれば、「医師の診断を受けた方がよい」と答える可能性高い。自分では大丈夫だと思っているときにそうしたアドバイスを受けると、かえって不安になってしまう。 こうしたことがあり、上述した医師国家試験での正答率などの調査結果を知ったいまとなっても、なかなか健康問題の質問をする気にならない。 かと言って、週刊誌にある「多少血圧が高くても気にする必要はない」というような記事も乱暴すぎると思う。健康に関わる問題は、さまざまな微妙な要素を持っており判断が難しい。この問題に関する研究調査がさらに進められることが求められる。 注1 岡本将輝「医療における大規模言語モデルの価値」(時事メディカル、2023年6月8日) 注2 「完璧な医療・医学チャットボットを目指して」(オール・アバウト・サイエンス・ジャパン,2023年7月14日) 注3 ニューズウィーク・ジャパン(2023年4月9日)』、「また、ChatGPTは、安全側に偏った回答をするはずだ。少しでも疑問があれば、「医師の診断を受けた方がよい」と答える可能性高い。自分では大丈夫だと思っているときにそうしたアドバイスを受けると、かえって不安になってしまう・・・健康に関わる問題は、さまざまな微妙な要素を持っており判断が難しい。この問題に関する研究調査がさらに進められることが求められる」、同感である。
次に、11月26日付け東洋経済オンラインが掲載したフリージャーナリストの西田 宗千佳氏による「解任騒動が示した「オープンAIとMSの相互依存」 スピードを支えるのは人員と「サーバー」だが…」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/717269
・『これらの背景には2つの要素がある。 1つは優秀な人員を多数抱えており、研究と開発までの距離が近いこと。 OpenAIの社員数は約770名とされているが、世界的な注目を集める企業としては「まだ」コンパクトであり、ほとんどが研究開発に従事していると思われる。 今回の騒動では社員のほとんどにあたる700名以上が、アルトマン氏らの復帰を求める署名にサインしており、求心力の強さは明白だ。社員の一斉離反もしくは作業停滞が起きれば、OpenAIには大きな打撃になっただろう』、「社員のほとんどにあたる700名以上が、アルトマン氏らの復帰を求める署名にサインしており、求心力の強さは明白だ」、取締役会の「アルトマン氏」解任決議に対して、「700名以上が、アルトマン氏らの復帰を求める署名にサイン」、とは。「アルトマン氏」には心強い支援だ。
・『支えるのは「人員」と「サーバー」だが… もう1つは「サーバー」だ。 LLMの学習には高速なサーバーが必須だ。特にGPTシリーズのように規模の大きなLLMの場合には、現在ならばNVIDIA製の高速なGPUを数千台単位で用意する必要がある。 LLMの規模は「パラメータ数」で表されるが、一般論として、パラメータ数が大きい、規模の大きなLLMほど賢いものになりやすい。一方でパラメータ数が大きなLLMは、開発のための「学習」にも、日常的に使うために必要な「推論」にも、高速な演算が必要になり、GPUを使った大規模なサーバーが必須になっていく。 GPT-4は正確なパラメータ数が公開されていないので必要なサーバー量やその電力消費も不明だが、GPT-3については1750億パラメータとされており、1回の学習には1時間あたり約1300メガワットの電力を必要とする。これはほぼ、原発1基分(毎時約1000メガワット)に相当する。 GPUは取り合いの状況であり、サーバーを用意するだけでも大変な状況だ。それを運用できる電力と保守の能力を持った設備を持つ企業は限られている。 例えばソフトバンクは3500億パラメータ規模のLLMを作るためのデータセンター構築に約200億円を投じている。 一方でNTTはソフトバンクやOpenAIとは異なり、自社開発のLLM「tsuzumi」を用途限定・日本語特化でコンパクトなものにした。パラメータ数を70億規模に抑えることで、学習にかかる機材コストをGPT-3の25分の1に圧縮している。) いかに巨大な設備を持つか、もしくは戦略的に小さな設備向けのLLMで戦うかが重要になってきているわけだが、OpenAIは汎用人工知能(AGI)を目指してどんどんLLMの規模を拡大する方向性にある。だから、パートナーとともにサーバーを動かし続けなければならない。 逆に言えば、「人員がいて」「サーバー設備が用意できる」状態なら、OpenAIと戦うことは不可能ではない。グーグルやMetaはその条件を十分に満たしている。OpenAIが持っている優位性も、他社が持ち得ないものではない、ということだ。 活動が滞ると、その分すぐに他社が追いついてくる』、「「人員がいて」「サーバー設備が用意できる」状態なら、OpenAIと戦うことは不可能ではない。グーグルやMetaはその条件を十分に満たしている。OpenAIが持っている優位性も、他社が持ち得ないものではない、ということだ」、なるほど。
・『マイクロソフトは「共依存」をいつまで維持するのか OpenAIはサーバーをマイクロソフトに依存している。マイクロソフトはOpenAIに対する最大の出資者だが、逆に言えば、世界トップクラスのクラウドインフラ事業者であるマイクロソフトの力を借りなければ、ChatGPTを含むOpenAIの快進撃も実現できなかっただろう。 マイクロソフトはOpenAIに依存したサービス施策を矢継ぎ早に提供しているが、一方インフラ面でOpenAIはマイクロソフトに依存している。 海外の報道によれば、マイクロソフトがアルトマン氏らの離脱を知ったのは、11月17日の発表直前であるという。 両輪が揃っていないと今の快進撃は実現できないわけだが、その片方が止まりそうになったのを突然知ったマイクロソフトの驚きは想像以上であっただろう。 マイクロソフトのサティア・ナデラCEOはすぐに交渉し、「アルトマン氏らがマイクロソフトに入る」とコメントを発表したが、どのような体制で、どのような組織体を構成するのかといった詳細は公表されなかった。なによりもまず「両社のコンビネーションは安泰です」とアピールする必要があったからだろう。 今回の騒動では、OpenAIへの発言力をマイクロソフトが強化し、漁夫の利を得たようにも見える。だが、同社が取締役会に関係者を送り込めたわけでもなく、両社の関係や体制に変化はない。 今後も体制を維持するなら、OpenAIのガバナンス強化は必須だ。一方で、マイクロソフトとして「OpenAI以外の選択肢」、例えば自社でLLMを開発していく道もなくはない。すでに小規模なLLMは研究しているが、今後はどうなるのだろうか』、「今回の騒動では、OpenAIへの発言力をマイクロソフトが強化し、漁夫の利を得たようにも見える。だが、同社が取締役会に関係者を送り込めたわけでもなく、両社の関係や体制に変化はない。 今後も体制を維持するなら、OpenAIのガバナンス強化は必須だ。一方で、マイクロソフトとして「OpenAI以外の選択肢」、例えば自社でLLMを開発していく道もなくはない」、今後の展開が大いに注目される。
第三に、11月29日付け東洋経済オンライン「お家騒動であらわ「OpenAI」が抱える矛盾の正体 突然のトップ解任の裏に倫理と営利めぐる葛藤」を紹介しよう。
・『OpenAIは2015年12月、アルトマン氏らによって非営利団体として設立された。組織の目標として当時、「金銭的なリターンを得る必要性に制約されることなく、人類全体に最も利益をもたらす可能性の高い方法で、デジタルインテリジェンスを発展させること」と定めている。 AIは業務の効率化などに活用できる一方、フェイクニュースの蔓延や雇用への短期的影響などリスクを伴う。倫理と安全性が求められるAIの領域において、OpenAIは資本的な利益よりも人類の利益を優先する、非営利の研究開発機関として組織されていた。 設立時には、10億ドルの寄付を目標に設定。総額約1.3億ドルの寄付を受け、組織の運営や、ディープラーニング、AIアライメント(AIが人間の価値観、目標、意図に沿って行動するようにすること)の研究などに使用された』、「アルトマン氏らによって非営利団体として設立された。組織の目標として当時、「金銭的なリターンを得る必要性に制約されることなく、人類全体に最も利益をもたらす可能性の高い方法で、デジタルインテリジェンスを発展させること」と定めている。 AIは業務の効率化などに活用できる一方、フェイクニュースの蔓延や雇用への短期的影響などリスクを伴う。倫理と安全性が求められるAIの領域において、OpenAIは資本的な利益よりも人類の利益を優先する、非営利の研究開発機関として組織されていた」、なるほど。
・『数年で「ハイブリッド」組織へと転換 しかし2019年3月に、その組織形態を大きく変えることとなる。OpenAI本体の傘下に、一定条件がついた営利企業のOpenAI LPを設立したのだ。この形態では出資する投資家や従業員は上限付きのリターンを得ることができる一方、一定以上の利益に関しては、非営利組織であるOpenAIに還元される』、「OpenAI本体の傘下に、一定条件がついた営利企業のOpenAI LPを設立したのだ。この形態では出資する投資家や従業員は上限付きのリターンを得ることができる一方、一定以上の利益に関しては、非営利組織であるOpenAIに還元される」、なるほど。
・『OpenAIの組織構造 営利と非営利のハイブリッドな組織に見直した背景について、OpenAIは「アルゴリズムの革新に加え、多くの計算能力を使うことになったことで、OpenAIを始めるときに計画していたよりもはるかに速くスケールすることを決めた」ためと説明していた。 他のIT企業もAI事業に本腰を入れる中、業界をリードするポジションであり続けるには、大規模なクラウドやAIスーパーコンピューターの構築、さらには優秀な人材の確保が欠かせない。そのためには数年間で数十億ドルの投資が必要となり、企業からの出資などを受けられるよう組織形態を変えたわけだ。 実際、そのわずか数カ月後にはマイクロソフトとパートナーシップを締結し、同社が10億ドルの出資を行うと発表。 マイクロソフトは2023年1月にも、複数年にわたって OpenAI に数十億ドル規模の投資を行う方針を発表し、マイクロソフトのAzureは、OpenAI の独占的なクラウドプロバイダーとなった。) 一方、営利企業の設立後も、OpenAI全体の組織の“最上位”に位置づけられてきたのが、6人の役員で構成する理事会だ。2023年6月時点で、OpenAIはその組織構造について主に次のような特徴を挙げている。 「理事会は非営利団体に変わりなく、安全なAGI(汎用人工知能)の促進という義務を果たす必要があり、営利企業もこの使命に従う必要がある」「理事会の過半数は独立性を保っており、社外取締役はOpenAIの株式を保有していない。またCEOのサム・アルトマン氏も直接は株を保有していない」「AGIができたかどうかの決定権は理事会にある」 つまり、OpenAIはあくまで非営利団体として発足した当初の目的を堅持し、それを実現するために理事会の権限を強くしているということだ。 こうした構図から、今回のクーデターのような解任ができたことや、OpenAI Globalに巨額を出資するマイクロソフトですらアルトマン氏の解任を事前に知らなかったことが理解できるだろう』、「「理事会は非営利団体に変わりなく、安全なAGI(汎用人工知能)の促進という義務を果たす必要があり、営利企業もこの使命に従う必要がある」「理事会の過半数は独立性を保っており、社外取締役はOpenAIの株式を保有していない。またCEOのサム・アルトマン氏も直接は株を保有していない」「AGIができたかどうかの決定権は理事会にある」 つまり、OpenAIはあくまで非営利団体として発足した当初の目的を堅持し、それを実現するために理事会の権限を強くしているということだ。 こうした構図から、今回のクーデターのような解任ができたことや、OpenAI Globalに巨額を出資するマイクロソフトですらアルトマン氏の解任を事前に知らなかったことが理解できるだろう」、「社外取締役」が暴走し易い構造があったようだ。
・『理事会メンバー刷新後に残る懸念 解任を決めた当時の理事会は、創業メンバーであるアルトマン氏、ブロックマン氏、イリヤ・サツキバー氏のほか、社外理事3人で構成。2018年から参画しているQuora代表のアダム・ディアンジェロ氏、シンクタンクのランド研究所のターシャ・マッコーリー氏、そして2021年から参画しているジョージタウン大学安全保障・新技術センター戦略担当ディレクターのヘレン・トナー氏だ。 AI政策とグローバルAI戦略研究を専門とするトナー氏の参画時、OpenAIはリリースで「この就任は、テクノロジーの安全かつ責任ある展開に対する私たちの献身を前進させるもの」と記載しており、非営利組織らしくAIの安全性を重視した登用と受け取れる。 アルトマン氏の解任には、サツキバー氏と社外理事の計4人が賛成したとみられている。直近でもアルトマン氏は画像生成や音声合成などテキスト以外のAPIの公開や、開発者が独自のGPTを作成、販売できるマーケットプレースの開発を推し進めていた。ビジネス路線を突き進む同氏との間に生じた軋轢が、解任へとつながった可能性は高い。 一連の騒動を受け、理事会メンバーは抜本的に見直される予定で、元セールスフォース共同CEOのブレット・テイラー氏らの就任が決まっている。アルトマン氏の全面支援を行ったマイクロソフトの関与が強まることも想定される。 理事会の刷新で表向きは一件落着だが、営利色が強まれば、AIの安全性をいかに担保するかというジレンマはいっそう深まる。 世界を騒がせたお家騒動は、AIの開発とビジネス競争をどう両立させるかという根本的な問いを改めて投げかけている』、「アルトマン氏は画像生成や音声合成などテキスト以外のAPIの公開や、開発者が独自のGPTを作成、販売できるマーケットプレースの開発を推し進めていた。ビジネス路線を突き進む同氏との間に生じた軋轢が、解任へとつながった可能性は高い・・・アルトマン氏の全面支援を行ったマイクロソフトの関与が強まることも想定される。 理事会の刷新で表向きは一件落着だが、営利色が強まれば、AIの安全性をいかに担保するかというジレンマはいっそう深まる。 世界を騒がせたお家騒動は、AIの開発とビジネス競争をどう両立させるかという根本的な問いを改めて投げかけている」、「営利色が強まれば、AIの安全性をいかに担保するかというジレンマはいっそう深まる」、難しいものだ。
タグ:人工知能(AI) (その16)(医療に「進出」するChatGPT 医師の仕事をAIがすることになるのか、解任騒動が示した「オープンAIとMSの相互依存」 スピードを支えるのは人員と「サーバー」だが…、お家騒動であらわ「OpenAI」が抱える矛盾の正体 突然のトップ解任の裏に倫理と営利めぐる葛藤) ダイヤモンド・オンライン 野口悠紀雄氏による「医療に「進出」するChatGPT、医師の仕事をAIがすることになるのか」 「もし医学的な質問に対して、大規模言語モデルが専門医レベルの回答をできるなら、事態は大きく変わるだろう。 これについては、さまざまな調査が行なわれており、検証成果はかなり有望な結果を示している」、なるほど。 「大規模言語モデルの臨床的有効性や診断支援の可能性を高く見積もる意見が多い。大規模言語モデルが臨床実装され、医療を強力に支援するようになる可能性は非常に高い。 特に、スクリーニングや初期診断、治療方針策定、フォローアップ、セカンドオピニオン、患者および医療者教育などは激変する可能性がある」、なるほど。 「日本では、これから人口高齢化がさらに進展し、医師不足は深刻な問題になるだろう。信頼性のある医療用大規模言語モデルの開発は、日本の場合にとくに必要度が高い課題だ」、なるほど。 「明らかな誤りやバイアスなど、精度の不安定性に懸念が表明されている。だから、現時点では重要な判断が伴うケースで、専門家のレビューなく出力結果を利用することは難しいとされる。 またプライバシー、倫理、法的制約と規制などについても、解決すべき課題が多くある。治療や研究に取り入れることには、守秘義務や患者の同意、治療の質、信頼性や格差に関する倫理的懸念が伴う。むやみな使用は予想外の結果につながりかねない」、なるほど。 「また、ChatGPTは、安全側に偏った回答をするはずだ。少しでも疑問があれば、「医師の診断を受けた方がよい」と答える可能性高い。自分では大丈夫だと思っているときにそうしたアドバイスを受けると、かえって不安になってしまう・・・健康に関わる問題は、さまざまな微妙な要素を持っており判断が難しい。この問題に関する研究調査がさらに進められることが求められる」、同感である。 東洋経済オンライン 西田 宗千佳氏による「解任騒動が示した「オープンAIとMSの相互依存」 スピードを支えるのは人員と「サーバー」だが…」 「社員のほとんどにあたる700名以上が、アルトマン氏らの復帰を求める署名にサインしており、求心力の強さは明白だ」、取締役会の「アルトマン氏」解任決議に対して、「700名以上が、アルトマン氏らの復帰を求める署名にサイン」、とは。「アルトマン氏」には心強い支援だ。 「「人員がいて」「サーバー設備が用意できる」状態なら、OpenAIと戦うことは不可能ではない。グーグルやMetaはその条件を十分に満たしている。OpenAIが持っている優位性も、他社が持ち得ないものではない、ということだ」、なるほど。 「今回の騒動では、OpenAIへの発言力をマイクロソフトが強化し、漁夫の利を得たようにも見える。だが、同社が取締役会に関係者を送り込めたわけでもなく、両社の関係や体制に変化はない。 今後も体制を維持するなら、OpenAIのガバナンス強化は必須だ。一方で、マイクロソフトとして「OpenAI以外の選択肢」、例えば自社でLLMを開発していく道もなくはない」、今後の展開が大いに注目される。 東洋経済オンライン「お家騒動であらわ「OpenAI」が抱える矛盾の正体 突然のトップ解任の裏に倫理と営利めぐる葛藤」 「アルトマン氏らによって非営利団体として設立された。組織の目標として当時、「金銭的なリターンを得る必要性に制約されることなく、人類全体に最も利益をもたらす可能性の高い方法で、デジタルインテリジェンスを発展させること」と定めている。 AIは業務の効率化などに活用できる一方、フェイクニュースの蔓延や雇用への短期的影響などリスクを伴う。倫理と安全性が求められるAIの領域において、OpenAIは資本的な利益よりも人類の利益を優先する、非営利の研究開発機関として組織されていた」、なるほど。 「OpenAI本体の傘下に、一定条件がついた営利企業のOpenAI LPを設立したのだ。この形態では出資する投資家や従業員は上限付きのリターンを得ることができる一方、一定以上の利益に関しては、非営利組織であるOpenAIに還元される」、なるほど。 「「理事会は非営利団体に変わりなく、安全なAGI(汎用人工知能)の促進という義務を果たす必要があり、営利企業もこの使命に従う必要がある」「理事会の過半数は独立性を保っており、社外取締役はOpenAIの株式を保有していない。またCEOのサム・アルトマン氏も直接は株を保有していない」「AGIができたかどうかの決定権は理事会にある」 つまり、OpenAIはあくまで非営利団体として発足した当初の目的を堅持し、それを実現するために理事会の権限を強くしているということだ。 こうした構図から、今回のクーデターのような解任ができたことや、OpenAI Globalに巨額を出資するマイクロソフトですらアルトマン氏の解任を事前に知らなかったことが理解できるだろう」、「社外取締役」が暴走し易い構造があったようだ。 「アルトマン氏は画像生成や音声合成などテキスト以外のAPIの公開や、開発者が独自のGPTを作成、販売できるマーケットプレースの開発を推し進めていた。ビジネス路線を突き進む同氏との間に生じた軋轢が、解任へとつながった可能性は高い・・・アルトマン氏の全面支援を行ったマイクロソフトの関与が強まることも想定される。 理事会の刷新で表向きは一件落着だが、営利色が強まれば、AIの安全性をいかに担保するかというジレンマはいっそう深まる。 世界を騒がせたお家騒動は、AIの開発とビジネス競争をどう両立させるかという根本的な問いを改めて投げかけている」、「営利色が強まれば、AIの安全性をいかに担保するかというジレンマはいっそう深まる」、難しいものだ。
ネットビジネス(その14)(旅行サイト最大手の「入金遅延」、集団訴訟に発展! ブッキングドットコムに旅館オーナー怒りの声、ブッキング・ドットコムの未払いトラブル 今起きていること 宿泊施設が考えるべきことを整理した【コラム】、ついに逮捕された“私人逮捕系”ユーチューバー「煉獄コロアキ」…「借金1億円」「家賃踏み倒し」「反ワク活動」の呆れた履歴書) [イノベーション]
ネットビジネスについては、本年9月27日に取上げた。今日は、(その14)(旅行サイト最大手の「入金遅延」、集団訴訟に発展! ブッキングドットコムに旅館オーナー怒りの声、ブッキング・ドットコムの未払いトラブル 今起きていること 宿泊施設が考えるべきことを整理した【コラム】、ついに逮捕された“私人逮捕系”ユーチューバー「煉獄コロアキ」…「借金1億円」「家賃踏み倒し」「反ワク活動」の呆れた履歴書)である。
先ずは、本年10月19日付け東洋経済オンライン「旅行サイト最大手の「入金遅延」、集団訴訟に発展! ブッキングドットコムに旅館オーナー怒りの声」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/709134
・『オンライン旅行予約サイト(OTA)世界最大手、Booking.com(ブッキングドットコム)の「入金遅延問題」に複数の宿泊施設のオーナーが怒りの声を上げている。ブッキングドットコムでは、システム更新に伴い今年6月から一部の宿泊施設への入金遅延が相次いでいる。これにより経営の打撃を受けている宿泊施設が、オランダのブッキングドットコムと日本法人であるブッキングドットコムジャパンを相手取り、近く集団提訴を起こすというのだ』、「旅行予約サイト・・・世界最大手」での「入金遅延」とはどうしたのだろう。
・『10月20日にも集団提訴に踏み切る 宿泊施設側の代理人である加藤博太郎弁護士によれば、10月19日を期日として、ブッキングドットコム側に遅延金の支払いを求めている。解消されなければ、10月20日にも集団提訴に踏み切る。10軒以上が名を連ね、被害総額は最低でも数千万円になる見込みだ。 岐阜県や奈良県などで複数の宿泊施設を運営している風屋グループの松尾政彦代表も集団提訴の原告の1人として名を連ねる予定だ。) 同社が運営する施設の一部では、予約の9割以上をブッキングドットコムに依存している。9月分の売り上げ600万円が計上されているにもかかわらず、ブッキングドットコムからの入金はない。 松尾氏の頭を悩ませているのが、年金事務所とのやりとりだ。年金事務所に事情を説明しているものの、理解はされず、「支払ってもらえないのであれば、(土地や施設などを)差し押さえる」という旨の連絡があったそうだ。こうした支払い遅延への圧力をストレスに感じ、閉館を決めた宿泊施設もあるという。 「私は賠償金がほしいわけではない。提訴を通じて、ブッキングドットコムがわれわれのような小さな宿泊施設にも支えられていることを知ってほしい」と松尾氏は訴える。 岐阜県や奈良県などで複数の宿泊施設を運営している風屋グループ。一部施設は予約の9割以上をブッキングドットコムに依存しているが、入金が行われていない(写真:風屋グループ) ブッキングドットコムによる宿泊料金の支払い遅延が始まったのは、今年の6月から。引き金となったのは、アムステルダム(オランダ)の本社で行われた決済システムの更新だ。 会社側の説明によれば、現在ではシステム改修は終了しており、「大半の支払いは再開されたが、予期せぬ技術的な問題のため一部には遅れが生じているのは事実」と認めている』、「同社が運営する施設の一部では、予約の9割以上をブッキングドットコムに依存している」、「頭を悩ませているのが、年金事務所とのやりとりだ。年金事務所に事情を説明しているものの、理解はされず、「支払ってもらえないのであれば、(土地や施設などを)差し押さえる」という旨の連絡があったそうだ。こうした支払い遅延への圧力をストレスに感じ、閉館を決めた宿泊施設もあるという」、確かに余りに特殊要因過ぎて、「年金事務所」が特例よして対応するのは難しそうだ。
・『中小規模の旅館は財務基盤が脆弱 システム改修は終わっているのに、なぜ宿泊料金の入金処理がここまで長引いているのか。その原因として、「海外と日本の銀行間送金でエラー」が発生していることや、「登録している(宿泊施設の)銀行口座の照合に時間がかかる」ことを同社は挙げている。 入金の遅延となると経営難が想起されるが、「財政困難は発生していない」と説明する。実際、ブッキングドットコムを運営するブッキングホールディングスの決算資料を見ると、2023年6月末の現預金は146億ドル(約2兆1900億円)と潤沢で、1~6月の業績も売上高は92億ドル(約1兆3850億円)、純利益は15億ドル(約2300億円)と業績も好調だ。 一方、入金遅延により大きな打撃を受けているのが、ブッキングドットコムからの予約比率が高い国内の零細宿泊施設だ。中小規模の旅館などは大手ホテルと比較すると財務基盤が脆弱で、月々の入金が遅れるだけで資金繰り悪化に直結しかねない。) 前出の松尾氏は、「ブッキングドットコムからの支払い遅延によって、従業員への給与や(食品やアメニティなど)仕入れ業者への支払いが遅れている宿泊施設もある」と語る。 現在、松尾氏が最も不満を持っているのは、ブッキングドットコム側の対応だ。入金遅延について松尾氏は、8月以降ブッキングドットコムのサポートセンターに連絡しているが、「財務部に問い合わせる」と返事があったのみだった。 その後、支払いの遅延についてブッキングドットコム側へ内容証明郵便を送付すると、大阪の担当者から「直接会って、事情の説明とお詫びをしたい」と連絡があったという。だがこれも先方の都合によりオンラインへと変更になった。 「支払いの遅延が発生しているのであれば、担当の取締役や社長などが宿泊施設側へ事情の説明と謝罪をするべき」と松尾氏は憤慨する』、世界的に展開している「ブッキングドットコム」にしてみれば、極東の小さな国での「支払い遅延」などとるに足らないのだろう。
・『ブッキングドットコムに頼らざるを得ない事情 これほどの入金遅延が起きているブッキングドットコムだが、これを機に宿泊施設の離反が起きるかというと、話はそう簡単ではない。「ブッキングドットコムの予約比率は他の海外OTAと比べても高く、集客力も高い」。インバウンドに特化したホテル関係者はこう指摘する。 自社HPからインバウンド集客を募るには、海外でのPR活動などが必要になる。だが、中小宿泊施設にそうした宣伝活動を行う余力や資金はなく、ブッキングドットコムに頼らざるを得ないというのが現状だ。コロナ禍が一巡し、インバウンドの回復が続く中、ブッキングドットコムの存在感はさらに高まっていくことも考えられる。 「われわれのような宿泊施設があってこそ、ブッキングドットコムの競争優位性がある。今回の件を通じてより良い協力関係を築けるようにしたい。それが提訴で得られる一番の利益だと思う」。松尾氏はそう思いを打ち明ける。 ブッキングドットコムはこうした声に耳を傾ける必要がある』、「自社HPからインバウンド集客を募るには、海外でのPR活動などが必要になる。だが、中小宿泊施設にそうした宣伝活動を行う余力や資金はなく、ブッキングドットコムに頼らざるを得ないというのが現状だ。コロナ禍が一巡し、インバウンドの回復が続く中、ブッキングドットコムの存在感はさらに高まっていくことも考えられる」、やむを得ないようだ。
次に、11月14日付けトラベルボイスが掲載した下電ホテルグループ代表/元全旅連青年部長/日本旅館協会政策委員の永山久徳氏による「ブッキング・ドットコムの未払いトラブル、今起きていること、宿泊施設が考えるべきことを整理した【コラム】」を紹介しよう。
https://www.travelvoice.jp/20231104-154539
・『旅館経営者の永山久徳です。 今年夏頃から、世界大手オンライン旅行会社ブッキング・ドットコム(Booking.com)による宿泊事業者への支払い遅れの問題が表面化しています。日本では、とうとう宿泊事業者が集団訴訟を起こす事態にまで発展してしまいました』、「宿泊事業者への支払い遅れの問題が表面化」、これを詳しくみたものである。
・『そもそも、何が起きているのか? 今回の件は、日本の旅行業法が適用されない外資系のオンライン旅行会社(海外OTA)と日本の宿泊事業者の間でおきているBtoB取り引きでのトラブルです。宿泊施設がブッキング・ドットコムを介して旅行者に客室を販売し、宿泊サービス提供後にブッキング・ドットコムから支払われるはずの宿泊代金の入金が大幅に遅れているという事態です。 今年夏頃から宿泊事業者から入金遅延の声が聞こえ始め、9月になるとテレビなど大手メディアが報じ始めました。10月10日には、ブッキング・ドットコムが正式に取引先に対して謝罪。今回の入金遅延の理由と経緯を説明しました。 その謝罪文によると、今回の支払いの滞りはオンライン上の安全性とセキュリティを確保するための新たな決済プラットフォームに移行する過程で発生したものだといいます。大半の支払い作業はすでに再開されているものの、予期せぬ技術的な問題が発生したために、一部のパートナーへの支払いが遅延していると説明しました。 ブッキング・ドットコムは、取引先に直接連絡窓口を設けて対応しましたが、事態は収束せず、10月20日には「一部報道について」という文書を公表し、再度、謝罪と経緯の説明をするに至りました。その文書には、以下のような一文があります。 「ブッキング・ドットコム・ジャパン株式会社は、Booking.com B.V.をサポートする会社として存在しています。法人機能の中ではBooking.comプラットフォームでの決済の運営や管理には関与していません。」 同社の日本支社は、オランダ本社をサポートする存在であって、トラブル解決のための決済運営や管理はオランダ本社が行っているということです。 そもそも、日本には旅行者を保護するために、旅行業者を監督する法律として旅行業法があります。日本で旅行業を営むためには、旅行業法で定められた旅行業登録を行う必要があります。日本で知名度の高いOTAの中にも、「旅行商品の販売サイトではなく宿泊施設と利用者の仲介システムに過ぎない」という理屈からこの旅行業登録を行っていない事業者が存在します。海外OTAには、特にこのケースが多いのです。 つまり、日本で旅行業登録を行っていない海外OTAは、旅行業法の対象外となります。本拠地の法に依るべきという原則もありますが、そもそも旅行業法では海外OTAを日本人が利用することを想定されておらず、海外OTAとのトラブルから消費者を守るという概念が薄いのです。もっと言えばこの旅行業法は、事業者間のトラブルを解決したり仲裁したりするものでもありませんが、運用にあたって所属団体への供託金制度などもあり、万一の場合の救済機能は果たしていました。 ブッキング・ドットコムは、日本国内では旅行業と呼ぶことができず、法で守られていない以上、利用者も自己責任で利用することが求められる一方、事業者においても商取引ではより慎重であるべきでした』、「日本で旅行業登録を行っていない海外OTAは、旅行業法の対象外となります。本拠地の法に依るべきという原則もありますが、そもそも旅行業法では海外OTAを日本人が利用することを想定されておらず、海外OTAとのトラブルから消費者を守るという概念が薄いのです。もっと言えばこの旅行業法は、事業者間のトラブルを解決したり仲裁したりするものでもありませんが、運用にあたって所属団体への供託金制度などもあり、万一の場合の救済機能は果たしていました」、なるほど。
・『入金遅延の発生時、とるべき対処は? 今回、集団訴訟に踏み切った宿泊施設の中には、3か月分の入金が無いケースや、遅延額が数千万円に上る事例があるようです。こうした事態は、同業者として確かに大変なことだと思います。宿泊施設の経営に影響を及ぼす重大な事態です。 しかし、なぜそこまで傷が広がってしまったのでしょうか。世界大手といわれる企業を信頼しすぎてしまったからでしょうか?振り返ってみて傷が広がる前にできることはなかったでしょうか。 例えば、私が海外出張などでユーザーとして海外OTAを利用する時、稀に「宿泊施設の事情により予約を取り消します」との通知が来ることがあります。ブッキング・ドットコムの規約を検証してみる必要がありますが、すでに入っている予約を宿泊施設側から断ることは可能なのではないでしょうか。つまり、入金が予定通り実行されていないと認識した時点で、その後の予約を宿泊施設側からキャンセルするアクションがとれなかったのか振り返る必要があると思います。もし危険だと感じたのであれば、先々の販売を止める必要があったと考えられます。それによって、支払い遅延の金額を低くできた可能性があるからです。 一般的な物品を販売・納品する業者であれば、取り引き相手からの支払い遅延が一回でも発生すれば即要注意先として扱うでしょう。相手に電話してもサポートセンターなどを経由してうまく伝わらない、納得できる回答が得られない場合であればなおさらです。有名企業だから、大企業だから、何かの間違いだろう、そのうち何とかなるだろうと過信してしまう気持ちは誰にもありますが、経営に影響するくらいの遅延を自衛できなかったとすれば警戒心の薄さもトラブルを引き起こした遠因かも知れません』、「経営に影響するくらいの遅延を自衛できなかったとすれば警戒心の薄さもトラブルを引き起こした遠因かも知れません」、その通りだ。
・『販売チャネルの分散化、ポートフォリオは永遠の課題 宿泊施設にとって、販売チャネルの分散化は永遠の課題となっています。過去には、旅行会社1社に送客を依存していた宿泊施設が、その旅行会社との関係が悪化したことによりあっという間に窮状に陥ったケースがいくつもありました。 また、宿泊販売の主戦場がリアルからOTAにシフトした後も、売りやすい数社に販売を集中させたことで、力を付けたOTAから従前より不利な契約内容に変更を迫られるなど、宿泊施設は何度も苦い経験をしてきました。 例えば発電方法にしても、工場における部品の供給元にしても、一つにまとめれば経営効率は上がりますが、あえて分散させることでリスクが軽減されることは理解できるはずです。海外サイトはその管理も手間がかかるため、売れるサイトに集中することは一見効率的で成果も出やすいですが、今回のようなトラブル発生時には一気に危機に変わります。私も、旅館経営者として他人ごとではありません。再度、足元を見つめなおすべきだと思っています』、「例えば発電方法にしても、工場における部品の供給元にしても、一つにまとめれば経営効率は上がりますが、あえて分散させることでリスクが軽減されることは理解できるはずです。海外サイトはその管理も手間がかかるため、売れるサイトに集中することは一見効率的で成果も出やすいですが、今回のようなトラブル発生時には一気に危機に変わります」、その通りだ。
・『インバウンド急増の今こそ、考えておきたいこと コロナ後のインバウンド急増で、再び宿泊事業への参入が増えてきました。多くの外国人が日本を目指して来る中、商機を掴みたい気持ちはわかります。しかし、ほんの1年前まで、インバウンドに頼っていた宿泊施設は青色吐息でした。 それ以前、韓国や中国との関係悪化や、SARSなどの感染症発生、インバウンドの環境は目まぐるしく変化してきました。地政学的リスクや為替や経済環境も含めて、海外の需要を的確に判断することは、どんな識者にも難しいことといえます。新規参入は、そのリスクを理解した上でのチャレンジであるべきだと思います。 今回のブッキング・ドットコムのトラブルに関しても、訴訟にかかるコスト、オランダ本社との折衝にかかる時間や手間を考えると、基本的にはブッキング・ドットコムを信じて待つしかありません。訴訟に勝ったところで、支払いをするかしないかは実質的に先方の判断となるのは変わらないのが現実です。 今後も外国人旅行者にとってブッキング・ドットコムは、旅行予約で欠かせないOTAであり続けるでしょう。今回のトラブルを忘れずに、宿泊施設は海外OTAとの取り引きについてメリットとリスクを見極めながらお付き合いしていくべきです。一日も早く解決するよう注視します』、「今後も外国人旅行者にとってブッキング・ドットコムは、旅行予約で欠かせないOTAであり続けるでしょう。今回のトラブルを忘れずに、宿泊施設は海外OTAとの取り引きについてメリットとリスクを見極めながらお付き合いしていくべきです」、同感である。
第三に、11月14日付けデイリー新潮「ついに逮捕された“私人逮捕系”ユーチューバー「煉獄コロアキ」…「借金1億円」「家賃踏み倒し」「反ワク活動」の呆れた履歴書」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/11140602/?all=1
・『“私人逮捕系”ユーチューバーと呼ばれ、「煉獄コロアキ」名で活動していた杉田一明容疑者(40)が13日、名誉棄損容疑で警視庁に逮捕された。一方的に相手を「犯罪者」と決めつけ、吊るし上げる様子をモザイクもかけずにYouTubeに投稿していた杉田容疑者に対し、警視庁は余罪も含めて捜査中だ。実はこの男、今回の一件に限らず“トラブル”まみれの半生を送ってきたという。 【写真を見る】「大麻合法」「靖国神社参拝」「パトカー“ジャック”」…煉獄コロアキの“やりたい放題”画像 逮捕容疑は今年9月、都内の帝国劇場にいた18歳の女性を付け回して撮影し、「転売ヤー」「パパ活女子」などのテロップとともにその様子を動画投稿。しかし捜査関係者によれば「女性が不正転売に関わった事実は確認されていない」という。 杉田容疑者は取り調べに対し、「理解しました」などと話しているというが、SNS界隈では「新手の“迷惑系ユーチューバー”として、コロアキはここ1~2年で急速に知名度を上げた一人だった」という。 一体どういう人物なのか。親交のあったジャーナリストの草下シンヤ氏がこう話す。 「もともと福岡県北九州の出身で、22歳の頃に初めて上京してきたといいます。地元の高校を中退後はガソリンスタンドや土方などのバイトをしてカネを貯め、デイトレードを始めたと言っていました。トレーダーとして30代前半の時、3億円という最高収益を上げますが、その後は負けが込み、いまも1億円以上の借金を抱えています」 正味の借金額は証券会社に対する2000~3000万円程度だが、返済を一切していないため、利息が雪ダルマ式に膨らんでいったという。さらに家賃の踏み倒しの常習犯でもあり、裁判所から強制執行を受けた過去が何度もあるという』、「福岡県北九州の出身で、22歳の頃に初めて上京してきたといいます。地元の高校を中退後はガソリンスタンドや土方などのバイトをしてカネを貯め、デイトレードを始めたと言っていました。トレーダーとして30代前半の時、3億円という最高収益を上げますが、その後は負けが込み、いまも1億円以上の借金を抱えています」 正味の借金額は証券会社に対する2000~3000万円程度だが、返済を一切していないため、利息が雪ダルマ式に膨らんでいったという。さらに家賃の踏み倒しの常習犯でもあり、裁判所から強制執行を受けた過去が何度もある」、実に「華麗」なるキャリアだ。
・『「自己破産したい」 「昨年2月、同棲中の彼女の貯金から650万円を勝手に引き出し、デイトレードに注ぎ込んで大負け。それを機にトレーダーは引退したと宣言していました。その後は、自身のTwitterで“寄付”などを受けながら食いつないでいたようですが、当時、『借金はさすがに返せないから、自己破産したい』と漏らしていました」(草下氏) 21年10月頃からは「反ワク(コロナワクチン反対)」活動にも手を染めるが、その理由を「売名目的だった」と草下氏らに明かしていたという。 「昨年は“レンタルコロアキ”と称して、SNS上で声が掛かれば一緒に飲みに行ってギャラをもらうという活動をしていました。その他にも格闘技イベントに出たり、今年4月には東京都の武蔵野市議選に立候補(落選)したりするなど、目立つためなら何でもやっていた印象です」(草下氏) そんななか、もっと注目を浴びようと目を付けたのが「私人逮捕」の動画投稿だったという』、「目立つためなら何でもやっていた印象です」、なるほど。
・『YouTube収益も差し押さえ 「都内の大久保公園で“買春”している人たちに突撃して、ホテルに入るのを阻止する様子を撮影。当初、女性の顔にモザイクをかけないで配信していたところ、『やりすぎだ』との声が上がり、途中からモザイクをかけるようにしたそうです」(草下氏) その後に投稿したのが「チケット不正転売撲滅」を謳った、今回の逮捕容疑ともなった一件だ。逮捕直前の10日、杉田容疑者は自身のSNSにYouTubeアカウントが8日に停止されたことを報告し、〈俺様の月150万~200万の不労所得がなくなったぜ マジでふざけんじゃねえ〉と怒りをぶちまけた。 「コロアキ氏のYouTube収益がそれほど多額だったはずがなく、私が『そんなに稼いでいないでしょう』と訊いた時も、本人は『ウソです』とアッサリ認めていました。借金のせいで口座に収益が入金されてもすぐに差し押さえに遭うとも言っていた。“私人逮捕系”の動画に関しては以前から『気を付けたほうがいい』と忠告していましたが、本人は大して気にも留めていなかったようです。注目を浴びることに“中毒”になっていて、逮捕のリスクなどは見えていなかったのかもしれません」(草下氏) すべては自業自得だが、逮捕によって被害者の名誉回復が完全に果たされるわけではない。それでも行き過ぎたユーチューバーの行為に歯止めのかかることが期待され、他の私人逮捕系ユーチューバーにも捜査の手が伸びる日は近いと囁かれている』、「逮捕によって被害者の名誉回復が完全に果たされるわけではない。それでも行き過ぎたユーチューバーの行為に歯止めのかかることが期待され、他の私人逮捕系ユーチューバーにも捜査の手が伸びる日は近いと囁かれている」、「他の私人逮捕系ユーチューバー」も違法性のある活動をしているのであれば、「捜査」すべきだ。
先ずは、本年10月19日付け東洋経済オンライン「旅行サイト最大手の「入金遅延」、集団訴訟に発展! ブッキングドットコムに旅館オーナー怒りの声」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/709134
・『オンライン旅行予約サイト(OTA)世界最大手、Booking.com(ブッキングドットコム)の「入金遅延問題」に複数の宿泊施設のオーナーが怒りの声を上げている。ブッキングドットコムでは、システム更新に伴い今年6月から一部の宿泊施設への入金遅延が相次いでいる。これにより経営の打撃を受けている宿泊施設が、オランダのブッキングドットコムと日本法人であるブッキングドットコムジャパンを相手取り、近く集団提訴を起こすというのだ』、「旅行予約サイト・・・世界最大手」での「入金遅延」とはどうしたのだろう。
・『10月20日にも集団提訴に踏み切る 宿泊施設側の代理人である加藤博太郎弁護士によれば、10月19日を期日として、ブッキングドットコム側に遅延金の支払いを求めている。解消されなければ、10月20日にも集団提訴に踏み切る。10軒以上が名を連ね、被害総額は最低でも数千万円になる見込みだ。 岐阜県や奈良県などで複数の宿泊施設を運営している風屋グループの松尾政彦代表も集団提訴の原告の1人として名を連ねる予定だ。) 同社が運営する施設の一部では、予約の9割以上をブッキングドットコムに依存している。9月分の売り上げ600万円が計上されているにもかかわらず、ブッキングドットコムからの入金はない。 松尾氏の頭を悩ませているのが、年金事務所とのやりとりだ。年金事務所に事情を説明しているものの、理解はされず、「支払ってもらえないのであれば、(土地や施設などを)差し押さえる」という旨の連絡があったそうだ。こうした支払い遅延への圧力をストレスに感じ、閉館を決めた宿泊施設もあるという。 「私は賠償金がほしいわけではない。提訴を通じて、ブッキングドットコムがわれわれのような小さな宿泊施設にも支えられていることを知ってほしい」と松尾氏は訴える。 岐阜県や奈良県などで複数の宿泊施設を運営している風屋グループ。一部施設は予約の9割以上をブッキングドットコムに依存しているが、入金が行われていない(写真:風屋グループ) ブッキングドットコムによる宿泊料金の支払い遅延が始まったのは、今年の6月から。引き金となったのは、アムステルダム(オランダ)の本社で行われた決済システムの更新だ。 会社側の説明によれば、現在ではシステム改修は終了しており、「大半の支払いは再開されたが、予期せぬ技術的な問題のため一部には遅れが生じているのは事実」と認めている』、「同社が運営する施設の一部では、予約の9割以上をブッキングドットコムに依存している」、「頭を悩ませているのが、年金事務所とのやりとりだ。年金事務所に事情を説明しているものの、理解はされず、「支払ってもらえないのであれば、(土地や施設などを)差し押さえる」という旨の連絡があったそうだ。こうした支払い遅延への圧力をストレスに感じ、閉館を決めた宿泊施設もあるという」、確かに余りに特殊要因過ぎて、「年金事務所」が特例よして対応するのは難しそうだ。
・『中小規模の旅館は財務基盤が脆弱 システム改修は終わっているのに、なぜ宿泊料金の入金処理がここまで長引いているのか。その原因として、「海外と日本の銀行間送金でエラー」が発生していることや、「登録している(宿泊施設の)銀行口座の照合に時間がかかる」ことを同社は挙げている。 入金の遅延となると経営難が想起されるが、「財政困難は発生していない」と説明する。実際、ブッキングドットコムを運営するブッキングホールディングスの決算資料を見ると、2023年6月末の現預金は146億ドル(約2兆1900億円)と潤沢で、1~6月の業績も売上高は92億ドル(約1兆3850億円)、純利益は15億ドル(約2300億円)と業績も好調だ。 一方、入金遅延により大きな打撃を受けているのが、ブッキングドットコムからの予約比率が高い国内の零細宿泊施設だ。中小規模の旅館などは大手ホテルと比較すると財務基盤が脆弱で、月々の入金が遅れるだけで資金繰り悪化に直結しかねない。) 前出の松尾氏は、「ブッキングドットコムからの支払い遅延によって、従業員への給与や(食品やアメニティなど)仕入れ業者への支払いが遅れている宿泊施設もある」と語る。 現在、松尾氏が最も不満を持っているのは、ブッキングドットコム側の対応だ。入金遅延について松尾氏は、8月以降ブッキングドットコムのサポートセンターに連絡しているが、「財務部に問い合わせる」と返事があったのみだった。 その後、支払いの遅延についてブッキングドットコム側へ内容証明郵便を送付すると、大阪の担当者から「直接会って、事情の説明とお詫びをしたい」と連絡があったという。だがこれも先方の都合によりオンラインへと変更になった。 「支払いの遅延が発生しているのであれば、担当の取締役や社長などが宿泊施設側へ事情の説明と謝罪をするべき」と松尾氏は憤慨する』、世界的に展開している「ブッキングドットコム」にしてみれば、極東の小さな国での「支払い遅延」などとるに足らないのだろう。
・『ブッキングドットコムに頼らざるを得ない事情 これほどの入金遅延が起きているブッキングドットコムだが、これを機に宿泊施設の離反が起きるかというと、話はそう簡単ではない。「ブッキングドットコムの予約比率は他の海外OTAと比べても高く、集客力も高い」。インバウンドに特化したホテル関係者はこう指摘する。 自社HPからインバウンド集客を募るには、海外でのPR活動などが必要になる。だが、中小宿泊施設にそうした宣伝活動を行う余力や資金はなく、ブッキングドットコムに頼らざるを得ないというのが現状だ。コロナ禍が一巡し、インバウンドの回復が続く中、ブッキングドットコムの存在感はさらに高まっていくことも考えられる。 「われわれのような宿泊施設があってこそ、ブッキングドットコムの競争優位性がある。今回の件を通じてより良い協力関係を築けるようにしたい。それが提訴で得られる一番の利益だと思う」。松尾氏はそう思いを打ち明ける。 ブッキングドットコムはこうした声に耳を傾ける必要がある』、「自社HPからインバウンド集客を募るには、海外でのPR活動などが必要になる。だが、中小宿泊施設にそうした宣伝活動を行う余力や資金はなく、ブッキングドットコムに頼らざるを得ないというのが現状だ。コロナ禍が一巡し、インバウンドの回復が続く中、ブッキングドットコムの存在感はさらに高まっていくことも考えられる」、やむを得ないようだ。
次に、11月14日付けトラベルボイスが掲載した下電ホテルグループ代表/元全旅連青年部長/日本旅館協会政策委員の永山久徳氏による「ブッキング・ドットコムの未払いトラブル、今起きていること、宿泊施設が考えるべきことを整理した【コラム】」を紹介しよう。
https://www.travelvoice.jp/20231104-154539
・『旅館経営者の永山久徳です。 今年夏頃から、世界大手オンライン旅行会社ブッキング・ドットコム(Booking.com)による宿泊事業者への支払い遅れの問題が表面化しています。日本では、とうとう宿泊事業者が集団訴訟を起こす事態にまで発展してしまいました』、「宿泊事業者への支払い遅れの問題が表面化」、これを詳しくみたものである。
・『そもそも、何が起きているのか? 今回の件は、日本の旅行業法が適用されない外資系のオンライン旅行会社(海外OTA)と日本の宿泊事業者の間でおきているBtoB取り引きでのトラブルです。宿泊施設がブッキング・ドットコムを介して旅行者に客室を販売し、宿泊サービス提供後にブッキング・ドットコムから支払われるはずの宿泊代金の入金が大幅に遅れているという事態です。 今年夏頃から宿泊事業者から入金遅延の声が聞こえ始め、9月になるとテレビなど大手メディアが報じ始めました。10月10日には、ブッキング・ドットコムが正式に取引先に対して謝罪。今回の入金遅延の理由と経緯を説明しました。 その謝罪文によると、今回の支払いの滞りはオンライン上の安全性とセキュリティを確保するための新たな決済プラットフォームに移行する過程で発生したものだといいます。大半の支払い作業はすでに再開されているものの、予期せぬ技術的な問題が発生したために、一部のパートナーへの支払いが遅延していると説明しました。 ブッキング・ドットコムは、取引先に直接連絡窓口を設けて対応しましたが、事態は収束せず、10月20日には「一部報道について」という文書を公表し、再度、謝罪と経緯の説明をするに至りました。その文書には、以下のような一文があります。 「ブッキング・ドットコム・ジャパン株式会社は、Booking.com B.V.をサポートする会社として存在しています。法人機能の中ではBooking.comプラットフォームでの決済の運営や管理には関与していません。」 同社の日本支社は、オランダ本社をサポートする存在であって、トラブル解決のための決済運営や管理はオランダ本社が行っているということです。 そもそも、日本には旅行者を保護するために、旅行業者を監督する法律として旅行業法があります。日本で旅行業を営むためには、旅行業法で定められた旅行業登録を行う必要があります。日本で知名度の高いOTAの中にも、「旅行商品の販売サイトではなく宿泊施設と利用者の仲介システムに過ぎない」という理屈からこの旅行業登録を行っていない事業者が存在します。海外OTAには、特にこのケースが多いのです。 つまり、日本で旅行業登録を行っていない海外OTAは、旅行業法の対象外となります。本拠地の法に依るべきという原則もありますが、そもそも旅行業法では海外OTAを日本人が利用することを想定されておらず、海外OTAとのトラブルから消費者を守るという概念が薄いのです。もっと言えばこの旅行業法は、事業者間のトラブルを解決したり仲裁したりするものでもありませんが、運用にあたって所属団体への供託金制度などもあり、万一の場合の救済機能は果たしていました。 ブッキング・ドットコムは、日本国内では旅行業と呼ぶことができず、法で守られていない以上、利用者も自己責任で利用することが求められる一方、事業者においても商取引ではより慎重であるべきでした』、「日本で旅行業登録を行っていない海外OTAは、旅行業法の対象外となります。本拠地の法に依るべきという原則もありますが、そもそも旅行業法では海外OTAを日本人が利用することを想定されておらず、海外OTAとのトラブルから消費者を守るという概念が薄いのです。もっと言えばこの旅行業法は、事業者間のトラブルを解決したり仲裁したりするものでもありませんが、運用にあたって所属団体への供託金制度などもあり、万一の場合の救済機能は果たしていました」、なるほど。
・『入金遅延の発生時、とるべき対処は? 今回、集団訴訟に踏み切った宿泊施設の中には、3か月分の入金が無いケースや、遅延額が数千万円に上る事例があるようです。こうした事態は、同業者として確かに大変なことだと思います。宿泊施設の経営に影響を及ぼす重大な事態です。 しかし、なぜそこまで傷が広がってしまったのでしょうか。世界大手といわれる企業を信頼しすぎてしまったからでしょうか?振り返ってみて傷が広がる前にできることはなかったでしょうか。 例えば、私が海外出張などでユーザーとして海外OTAを利用する時、稀に「宿泊施設の事情により予約を取り消します」との通知が来ることがあります。ブッキング・ドットコムの規約を検証してみる必要がありますが、すでに入っている予約を宿泊施設側から断ることは可能なのではないでしょうか。つまり、入金が予定通り実行されていないと認識した時点で、その後の予約を宿泊施設側からキャンセルするアクションがとれなかったのか振り返る必要があると思います。もし危険だと感じたのであれば、先々の販売を止める必要があったと考えられます。それによって、支払い遅延の金額を低くできた可能性があるからです。 一般的な物品を販売・納品する業者であれば、取り引き相手からの支払い遅延が一回でも発生すれば即要注意先として扱うでしょう。相手に電話してもサポートセンターなどを経由してうまく伝わらない、納得できる回答が得られない場合であればなおさらです。有名企業だから、大企業だから、何かの間違いだろう、そのうち何とかなるだろうと過信してしまう気持ちは誰にもありますが、経営に影響するくらいの遅延を自衛できなかったとすれば警戒心の薄さもトラブルを引き起こした遠因かも知れません』、「経営に影響するくらいの遅延を自衛できなかったとすれば警戒心の薄さもトラブルを引き起こした遠因かも知れません」、その通りだ。
・『販売チャネルの分散化、ポートフォリオは永遠の課題 宿泊施設にとって、販売チャネルの分散化は永遠の課題となっています。過去には、旅行会社1社に送客を依存していた宿泊施設が、その旅行会社との関係が悪化したことによりあっという間に窮状に陥ったケースがいくつもありました。 また、宿泊販売の主戦場がリアルからOTAにシフトした後も、売りやすい数社に販売を集中させたことで、力を付けたOTAから従前より不利な契約内容に変更を迫られるなど、宿泊施設は何度も苦い経験をしてきました。 例えば発電方法にしても、工場における部品の供給元にしても、一つにまとめれば経営効率は上がりますが、あえて分散させることでリスクが軽減されることは理解できるはずです。海外サイトはその管理も手間がかかるため、売れるサイトに集中することは一見効率的で成果も出やすいですが、今回のようなトラブル発生時には一気に危機に変わります。私も、旅館経営者として他人ごとではありません。再度、足元を見つめなおすべきだと思っています』、「例えば発電方法にしても、工場における部品の供給元にしても、一つにまとめれば経営効率は上がりますが、あえて分散させることでリスクが軽減されることは理解できるはずです。海外サイトはその管理も手間がかかるため、売れるサイトに集中することは一見効率的で成果も出やすいですが、今回のようなトラブル発生時には一気に危機に変わります」、その通りだ。
・『インバウンド急増の今こそ、考えておきたいこと コロナ後のインバウンド急増で、再び宿泊事業への参入が増えてきました。多くの外国人が日本を目指して来る中、商機を掴みたい気持ちはわかります。しかし、ほんの1年前まで、インバウンドに頼っていた宿泊施設は青色吐息でした。 それ以前、韓国や中国との関係悪化や、SARSなどの感染症発生、インバウンドの環境は目まぐるしく変化してきました。地政学的リスクや為替や経済環境も含めて、海外の需要を的確に判断することは、どんな識者にも難しいことといえます。新規参入は、そのリスクを理解した上でのチャレンジであるべきだと思います。 今回のブッキング・ドットコムのトラブルに関しても、訴訟にかかるコスト、オランダ本社との折衝にかかる時間や手間を考えると、基本的にはブッキング・ドットコムを信じて待つしかありません。訴訟に勝ったところで、支払いをするかしないかは実質的に先方の判断となるのは変わらないのが現実です。 今後も外国人旅行者にとってブッキング・ドットコムは、旅行予約で欠かせないOTAであり続けるでしょう。今回のトラブルを忘れずに、宿泊施設は海外OTAとの取り引きについてメリットとリスクを見極めながらお付き合いしていくべきです。一日も早く解決するよう注視します』、「今後も外国人旅行者にとってブッキング・ドットコムは、旅行予約で欠かせないOTAであり続けるでしょう。今回のトラブルを忘れずに、宿泊施設は海外OTAとの取り引きについてメリットとリスクを見極めながらお付き合いしていくべきです」、同感である。
第三に、11月14日付けデイリー新潮「ついに逮捕された“私人逮捕系”ユーチューバー「煉獄コロアキ」…「借金1億円」「家賃踏み倒し」「反ワク活動」の呆れた履歴書」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/11140602/?all=1
・『“私人逮捕系”ユーチューバーと呼ばれ、「煉獄コロアキ」名で活動していた杉田一明容疑者(40)が13日、名誉棄損容疑で警視庁に逮捕された。一方的に相手を「犯罪者」と決めつけ、吊るし上げる様子をモザイクもかけずにYouTubeに投稿していた杉田容疑者に対し、警視庁は余罪も含めて捜査中だ。実はこの男、今回の一件に限らず“トラブル”まみれの半生を送ってきたという。 【写真を見る】「大麻合法」「靖国神社参拝」「パトカー“ジャック”」…煉獄コロアキの“やりたい放題”画像 逮捕容疑は今年9月、都内の帝国劇場にいた18歳の女性を付け回して撮影し、「転売ヤー」「パパ活女子」などのテロップとともにその様子を動画投稿。しかし捜査関係者によれば「女性が不正転売に関わった事実は確認されていない」という。 杉田容疑者は取り調べに対し、「理解しました」などと話しているというが、SNS界隈では「新手の“迷惑系ユーチューバー”として、コロアキはここ1~2年で急速に知名度を上げた一人だった」という。 一体どういう人物なのか。親交のあったジャーナリストの草下シンヤ氏がこう話す。 「もともと福岡県北九州の出身で、22歳の頃に初めて上京してきたといいます。地元の高校を中退後はガソリンスタンドや土方などのバイトをしてカネを貯め、デイトレードを始めたと言っていました。トレーダーとして30代前半の時、3億円という最高収益を上げますが、その後は負けが込み、いまも1億円以上の借金を抱えています」 正味の借金額は証券会社に対する2000~3000万円程度だが、返済を一切していないため、利息が雪ダルマ式に膨らんでいったという。さらに家賃の踏み倒しの常習犯でもあり、裁判所から強制執行を受けた過去が何度もあるという』、「福岡県北九州の出身で、22歳の頃に初めて上京してきたといいます。地元の高校を中退後はガソリンスタンドや土方などのバイトをしてカネを貯め、デイトレードを始めたと言っていました。トレーダーとして30代前半の時、3億円という最高収益を上げますが、その後は負けが込み、いまも1億円以上の借金を抱えています」 正味の借金額は証券会社に対する2000~3000万円程度だが、返済を一切していないため、利息が雪ダルマ式に膨らんでいったという。さらに家賃の踏み倒しの常習犯でもあり、裁判所から強制執行を受けた過去が何度もある」、実に「華麗」なるキャリアだ。
・『「自己破産したい」 「昨年2月、同棲中の彼女の貯金から650万円を勝手に引き出し、デイトレードに注ぎ込んで大負け。それを機にトレーダーは引退したと宣言していました。その後は、自身のTwitterで“寄付”などを受けながら食いつないでいたようですが、当時、『借金はさすがに返せないから、自己破産したい』と漏らしていました」(草下氏) 21年10月頃からは「反ワク(コロナワクチン反対)」活動にも手を染めるが、その理由を「売名目的だった」と草下氏らに明かしていたという。 「昨年は“レンタルコロアキ”と称して、SNS上で声が掛かれば一緒に飲みに行ってギャラをもらうという活動をしていました。その他にも格闘技イベントに出たり、今年4月には東京都の武蔵野市議選に立候補(落選)したりするなど、目立つためなら何でもやっていた印象です」(草下氏) そんななか、もっと注目を浴びようと目を付けたのが「私人逮捕」の動画投稿だったという』、「目立つためなら何でもやっていた印象です」、なるほど。
・『YouTube収益も差し押さえ 「都内の大久保公園で“買春”している人たちに突撃して、ホテルに入るのを阻止する様子を撮影。当初、女性の顔にモザイクをかけないで配信していたところ、『やりすぎだ』との声が上がり、途中からモザイクをかけるようにしたそうです」(草下氏) その後に投稿したのが「チケット不正転売撲滅」を謳った、今回の逮捕容疑ともなった一件だ。逮捕直前の10日、杉田容疑者は自身のSNSにYouTubeアカウントが8日に停止されたことを報告し、〈俺様の月150万~200万の不労所得がなくなったぜ マジでふざけんじゃねえ〉と怒りをぶちまけた。 「コロアキ氏のYouTube収益がそれほど多額だったはずがなく、私が『そんなに稼いでいないでしょう』と訊いた時も、本人は『ウソです』とアッサリ認めていました。借金のせいで口座に収益が入金されてもすぐに差し押さえに遭うとも言っていた。“私人逮捕系”の動画に関しては以前から『気を付けたほうがいい』と忠告していましたが、本人は大して気にも留めていなかったようです。注目を浴びることに“中毒”になっていて、逮捕のリスクなどは見えていなかったのかもしれません」(草下氏) すべては自業自得だが、逮捕によって被害者の名誉回復が完全に果たされるわけではない。それでも行き過ぎたユーチューバーの行為に歯止めのかかることが期待され、他の私人逮捕系ユーチューバーにも捜査の手が伸びる日は近いと囁かれている』、「逮捕によって被害者の名誉回復が完全に果たされるわけではない。それでも行き過ぎたユーチューバーの行為に歯止めのかかることが期待され、他の私人逮捕系ユーチューバーにも捜査の手が伸びる日は近いと囁かれている」、「他の私人逮捕系ユーチューバー」も違法性のある活動をしているのであれば、「捜査」すべきだ。
タグ:」、実に「華麗」なるキャリアだ。 「逮捕によって被害者の名誉回復が完全に果たされるわけではない。それでも行き過ぎたユーチューバーの行為に歯止めのかかることが期待され、他の私人逮捕系ユーチューバーにも捜査の手が伸びる日は近いと囁かれている」、「他の私人逮捕系ユーチューバー」も違法性のある活動をしているのであれば、「捜査」すべきだ。 「目立つためなら何でもやっていた印象です」、なるほど。 「福岡県北九州の出身で、22歳の頃に初めて上京してきたといいます。地元の高校を中退後はガソリンスタンドや土方などのバイトをしてカネを貯め、デイトレードを始めたと言っていました。トレーダーとして30代前半の時、3億円という最高収益を上げますが、その後は負けが込み、いまも1億円以上の借金を抱えています」 正味の借金額は証券会社に対する2000~3000万円程度だが、返済を一切していないため、利息が雪ダルマ式に膨らんでいったという。さらに家賃の踏み倒しの常習犯でもあり、裁判所から強制執行を受けた過去が何度もある デイリー新潮「ついに逮捕された“私人逮捕系”ユーチューバー「煉獄コロアキ」…「借金1億円」「家賃踏み倒し」「反ワク活動」の呆れた履歴書」 「今後も外国人旅行者にとってブッキング・ドットコムは、旅行予約で欠かせないOTAであり続けるでしょう。今回のトラブルを忘れずに、宿泊施設は海外OTAとの取り引きについてメリットとリスクを見極めながらお付き合いしていくべきです」、同感である。 「例えば発電方法にしても、工場における部品の供給元にしても、一つにまとめれば経営効率は上がりますが、あえて分散させることでリスクが軽減されることは理解できるはずです。海外サイトはその管理も手間がかかるため、売れるサイトに集中することは一見効率的で成果も出やすいですが、今回のようなトラブル発生時には一気に危機に変わります」、その通りだ。 「経営に影響するくらいの遅延を自衛できなかったとすれば警戒心の薄さもトラブルを引き起こした遠因かも知れません」、その通りだ。 「日本で旅行業登録を行っていない海外OTAは、旅行業法の対象外となります。本拠地の法に依るべきという原則もありますが、そもそも旅行業法では海外OTAを日本人が利用することを想定されておらず、海外OTAとのトラブルから消費者を守るという概念が薄いのです。もっと言えばこの旅行業法は、事業者間のトラブルを解決したり仲裁したりするものでもありませんが、運用にあたって所属団体への供託金制度などもあり、万一の場合の救済機能は果たしていました」、なるほど。 「宿泊事業者への支払い遅れの問題が表面化」、これを詳しくみたものである。 永山久徳氏による「ブッキング・ドットコムの未払いトラブル、今起きていること、宿泊施設が考えるべきことを整理した【コラム】」 トラベルボイス 「自社HPからインバウンド集客を募るには、海外でのPR活動などが必要になる。だが、中小宿泊施設にそうした宣伝活動を行う余力や資金はなく、ブッキングドットコムに頼らざるを得ないというのが現状だ。コロナ禍が一巡し、インバウンドの回復が続く中、ブッキングドットコムの存在感はさらに高まっていくことも考えられる」、やむを得ないようだ。 世界的に展開している「ブッキングドットコム」にしてみれば、極東の小さな国での「支払い遅延」などとるに足らないのだろう。 「同社が運営する施設の一部では、予約の9割以上をブッキングドットコムに依存している」、「頭を悩ませているのが、年金事務所とのやりとりだ。年金事務所に事情を説明しているものの、理解はされず、「支払ってもらえないのであれば、(土地や施設などを)差し押さえる」という旨の連絡があったそうだ。こうした支払い遅延への圧力をストレスに感じ、閉館を決めた宿泊施設もあるという」、確かに余りに特殊要因過ぎて、「年金事務所」が特例よして対応するのは難しそうだ。 「旅行予約サイト・・・世界最大手」での「入金遅延」とはどうしたのだろう。 東洋経済オンライン「旅行サイト最大手の「入金遅延」、集団訴訟に発展! ブッキングドットコムに旅館オーナー怒りの声」 (その14)(旅行サイト最大手の「入金遅延」、集団訴訟に発展! ブッキングドットコムに旅館オーナー怒りの声、ブッキング・ドットコムの未払いトラブル 今起きていること 宿泊施設が考えるべきことを整理した【コラム】、ついに逮捕された“私人逮捕系”ユーチューバー「煉獄コロアキ」…「借金1億円」「家賃踏み倒し」「反ワク活動」の呆れた履歴書) ネットビジネス
イーロン・マスク(その2)(Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ、イーロン・マスク氏はなぜリスクを恐れない? 書籍著者「彼は普通の人より心が傷つくことに耐えられる」【モーサテ】、「テスラの創業者ではない」「はっきり言って経営には向いていない」…誤解されがちなイーロン・マスクの“正体”は 楠木建が『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン 著)を読む) [イノベーション]
イーロン・マスクについては、本年8月30日に取上げた。今日は、(その2)(Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ、イーロン・マスク氏はなぜリスクを恐れない? 書籍著者「彼は普通の人より心が傷つくことに耐えられる」【モーサテ】、「テスラの創業者ではない」「はっきり言って経営には向いていない」…誤解されがちなイーロン・マスクの“正体”は 楠木建が『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン 著)を読む)である。
先ずは、9月1日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した作家のジュリア・ガレフ氏と、ポッドキャスター・英日翻訳者の児島 修氏による「Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/327732
・『Twitterを「X」に名称変更したイーロン・マスク。彼が成功に導いた電機自動車メーカーのテスラは、20年で時価総額世界第9位にまで成長した。しかし、彼は意外にも「自分の会社は失敗するのではないか」と考えていたという。成功の確率をわずか1割だと見積もったにもかかわらず、起業に踏み切った背景には、イーロン・マスク流の「価値ある賭け」への見極め方があった――。 ※本稿は、全世界17言語で翻訳されたジュリア・ガレフ著『マッピング思考 人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」』(東洋経済新報社)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『“突拍子もない夢”を追い求めるイーロン・マスク イーロン・マスクは、宇宙飛行会社を設立すると決意したとき、友人たちから頭がおかしくなったと思われた。 マスクは、自身が手がけた2番目の事業である「ペイパル」の売却によって手に入れたばかりの1億8000万ドルの多くを、後の「スペースX」となる会社に投じようとしていた。 「きっと失敗する。せっかくペイパルを売って稼いだ金が、ごっそり消えてしまうぞ」と周囲は忠告した。 ある友人は、ロケットが爆発する映像をつなぎあわせた動画を編集し、マスクに「頼むからこれを見てくれ。バカな真似はよせ」と伝えた。 ちまたによくある“突拍子もない夢”を追い求めた成功者の物語では、ここで「だが、彼は思いとどまったりはしなかった。心のなかで、自分を疑う人たちが間違っているのを知っているからだ――」という展開になるはずだ。 しかし、マスクの場合はそうはならなかった。友人たちから「きっと失敗する」と言われたときも、こう答えている。 「ああ、僕もそう思う。おそらく失敗するだろうね」 実際、マスクはスペースXの宇宙船が宇宙飛行を成功させる確率を、1割程度と見積もっていた。 2年後、マスクはペイパルを売却して得た残りの資金を、電動自動車の「テスラ」に投じると決めた。マスクはこのときも、成功の確率は1割程度と見積もっていた。 本人が自身のプロジェクトが成功する確率を低く見積もっていることに、周囲は首をかしげた。 2014年にテレビ番組の『60ミニッツ』に出演した際にも、そのロジックを理解しようとするインタビュアーのスコット・ペリーから、次のように尋ねられている。 マスク「テスラが成功するとは思っていませんでした。おそらく失敗するだろう、と」 ペリー「成功しないと見込んでいたのに、なぜ挑戦したんです?」 マスク「挑戦するだけの価値があるのなら、やってみるべきだと判断したからですよ」 マスクの成功に対する期待値の低さは、周りを困惑させた。 なぜなら、人は「誰かが何かに挑むのは、成功する可能性が高いから」と考えるからだ。 しかし、マスクのような人は、必ずしも「これは成功する」と思っているから行動するのではない。彼らは「賭ける価値がある」という考えによってモチベーションを高めるのだ。) 誰でもある程度は、目の前の行動を取るかどうかを「賭ける価値があるかどうか」という基準で判断しているものだ。 簡単な例として、一般的な6面体のサイコロを振る賭けをする場合のことを考えてみよう。この賭けでは、6が出れば200ドルの賞金がもらえるが、それ以外の目が出た場合は10ドルを失うことになっている。 Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ 賭ける価値があるだろうか。 そう、これは賭ける価値があるといえる。 この賭けにどれくらいの価値があるのかは、「期待値」を計算することで具体的に知ることができる。 期待値とは、その賭けを際限なく行った場合に平均的に得られる値のことだ。賭けの期待値は、各結果の確率と価値を掛け、その結果を合計することで導ける。この賭けでは、次のようになる。 {(勝つ確率=1/6)×200ドル}+{(負ける確率=5/6)× -10ドル}=33.33ドル - 8.33ドル=25ドル つまり、この賭けを際限なくり返した場合、平均の獲得額は約25ドル。サイコロを振っただけで得られるのなら、悪くはない額だ。 負ける確率は6分の5と高いものの、十分に「賭ける価値がある」賭けだといえるだろう』、「賭けの期待値は、各結果の確率と価値を掛け、その結果を合計することで導ける。この賭けでは、次のようになる。 {(勝つ確率=1/6)×200ドル}+{(負ける確率=5/6)× -10ドル}=33.33ドル - 8.33ドル=25ドル つまり、この賭けを際限なくり返した場合、平均の獲得額は約25ドル。サイコロを振っただけで得られるのなら、悪くはない額だ。 負ける確率は6分の5と高いものの、十分に「賭ける価値がある」賭けだといえるだろう」、なるほど。
・『「たとえ『テスラ』が失敗しても…」 とはいえ、起業のような対象を賭けにして正確な確率を導こうとするのは、より複雑で主観的な試みになる。 その価値には、お金以外のさまざまな要素も含まれている。 たとえば、「会社を経営することで、どれだけの楽しみが得られるか?」「たとえ失敗したとしても、その後で役に立つ人脈やスキルを手に入れられるか?」「自分の時間がどれだけ奪われるか?」「社会的な信用度(または汚名)はどれくらい得られるか?」といったことだ。 とはいえ、たいていの場合、大まかな見積もりをすることならできる。 これまで見てきたように、イーロン・マスクはテスラが成功する確率を1割、失敗する確率を9割と見積もっていた。) それでも、成功して得られる価値はとてつもなく大きいと思えた。電気自動車という(当時は)夢物語のような概念を実現することは、現代社会が化石燃料依存から脱却するための大きな一歩になる。 Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ マスクは、たとえ失敗したとしてもテスラは価値あることを少なくとも1つ成し遂げられる、と考えた。 「“電気自動車はゴルフカートのように格好悪くて、遅くて、退屈なものだ”という人々の誤った認識を変えられると思ったのです」と語っている。 マスクがスペースXを立ち上げた理由もこれに似ている。 マスクはテスラのときと同じようにスペースXが成功する確率を1割、失敗する確率を9割と見込んでいた。だが、成功したときに得られる価値は計りしれない。 安く宇宙飛行ができる手段を開発すれば将来的に人類が移り住めるようになるかもしれないし、地球上で起こり得る壊滅的なリスクから人類を守れるかもしれない。 また、仮にスペースXが失敗したとしても、宇宙飛行技術を少しでも進歩させられるのなら、それはまったくの無駄にはならないはずだ。 「わずかであれボールを前に動かせるのなら、たとえ僕たちの会社が倒産したとしてもどこかの会社がバトンタッチしてそのボールをさらに前に運んでくれるかもしれない。だとすればなおさら挑戦する価値はある」』、「テスラのときと同じようにスペースXが成功する確率を1割、失敗する確率を9割と見込んでいた。だが、成功したときに得られる価値は計りしれない。 安く宇宙飛行ができる手段を開発すれば将来的に人類が移り住めるようになるかもしれないし、地球上で起こり得る壊滅的なリスクから人類を守れるかもしれない。 また、仮にスペースXが失敗したとしても、宇宙飛行技術を少しでも進歩させられるのなら、それはまったくの無駄にはならないはずだ」、なるほど。
・『「就職、起業、投資、人間関係 あらゆることに応用可能」 全体としてみれば、テスラもスペースXも、失敗する可能性は高かったものの、マスクにとってはいい賭けだったようだ。 期待値は、その賭けを何度もくり返すことを想像することによってもとらえやすくなる。そのとき、成功によって得られる価値は、失敗によって失う価値を上回るだろうか? イーロン・マスクのようなスケールの大きな起業家なら、一生のうちにテスラやスペースXのような会社を10社はつくる時間と財力があるだろう。 もしその10社のうち9社が失敗するのだとすれば、最大の問題「1回の大きな成功と引き換えに、9回失敗する価値はあるか?」ということになる。) 現実的には、まったく同じ賭けを何度もくり返すことはめったにない。それでも、人生にさまざまな賭けをする機会があるのはたしかだ。 就職や企業、投資はもちろん、他人を信頼する、難しい頼みごとをする、安全地帯から抜け出してなにかに挑戦する、といったことまで含めれば、賭けの機会は無数にある。 そのなかで、期待値を正しく見極めて賭けをすればするほど、ここの賭けに失敗したとしても、全体としては利益が得られるという確信が持てるようになる』、「人生にさまざまな賭けをする機会があるのはたしかだ。 就職や企業、投資はもちろん、他人を信頼する、難しい頼みごとをする、安全地帯から抜け出してなにかに挑戦する、といったことまで含めれば、賭けの機会は無数にある。 そのなかで、期待値を正しく見極めて賭けをすればするほど、ここの賭けに失敗したとしても、全体としては利益が得られるという確信が持てるようになる」、なるほど。
・『覚悟のうえで、運命に任す 「自信があれば成功できる」という発想でモチベーションを高めようとする人たちは、失敗の可能性を認めれば、やる気が削がれ、リスクを取ろうとしなくなると見なす。 そして「絶対に失敗しない」と固く信じることが、最大限の努力をして成功を目指す秘訣だと考える。 だが現実には、それとは逆であることが多い。 書影『マッピング思考 人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」』 つまり、事前に失敗の可能性を受け入れるからこそ、さまざまな縛りから解放されて、目標に向かって邁進できるようになるのだ。 「失敗する可能性だってある」とわかっているからこそ、臆病ではなく大胆になれる。必要なリスクを取る理由が得られる。 マスクは「他人がクレイジーだと思うような会社を恐れずに起業した」と称賛されると、「実は、強い恐怖を感じている」と答えている。 恐怖を感じていないのではなく、失敗の確率とうまく折り合いをつけることで、その恐怖を手なずける術を学んだだけだ、と。 「それが運命だと思えば、気が楽になります。」失敗の確率を納得して受け入れれば、恐怖心は薄れます。スペースXを立ち上げたときも、成功率は1割以下だと思っていました。当然、すべてを失うかもしれないと覚悟のうえで』、「マスクは「他人がクレイジーだと思うような会社を恐れずに起業した」と称賛されると、「実は、強い恐怖を感じている」と答えている。 恐怖を感じていないのではなく、失敗の確率とうまく折り合いをつけることで、その恐怖を手なずける術を学んだだけだ、と。 「それが運命だと思えば、気が楽になります。」失敗の確率を納得して受け入れれば、恐怖心は薄れます。スペースXを立ち上げたときも、成功率は1割以下だと思っていました。当然、すべてを失うかもしれないと覚悟のうえで」、なるほど。
次に、9月14日付けテレ東BIZ「イーロン・マスク氏はなぜリスクを恐れない? 書籍著者「彼は普通の人より心が傷つくことに耐えられる」【モーサテ】」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/05c541726249202998f6057d2dd91f723f045378
・『アメリカの著名実業家、イーロン・マスク氏の半生を綴った書籍「イーロン・マスク」が発売されました。数々の事業を成功させる一方、世間を騒がす発言を繰り返すマスク氏。マスク氏の人生哲学について著者のウォルター・アイザックソン氏に聞きました。 伝記作家のアイザックソン氏はマスク氏を取材するため、2年間生活に密着しました。実は、アイザックソン氏は、以前タイム誌やCNNなど、大手メディアの要職を歴任。その後は作家となり、アップルの故スティーブ・ジョブス氏の伝記を書いたことでも知られています』、「伝記作家のアイザックソン氏はマスク氏を取材するため、2年間生活に密着」、凄いことだ。
・『今回なぜマスク氏に注目したのでしょうか? 「私は昔からイノベーターに興味がある。中でもマスク氏は今、最も重要な人物だ。電気自動車や宇宙旅行の分野で新境地を開いたほか、ツイッターを買収するなど人々を魅了してやまない」 マスク氏はこれまで、スペースXやテスラなど次世代技術でリードする会社を創業したほか、Xと改名したツイッターも去年買収。現在運営する企業は5社に上っています。 多様な事業への挑戦を可能とする原動力は何か。アイザックソン氏はマスク氏が幼少期に父親から受けた暴力が深く影響しているとみています。 「マスク氏は普通の人より心が傷つくことに耐えられる。だから尋常ではないリスクをとれる一方、他人に対して厳しく当たりがちだ。マスク氏がツイッターを買収する前、一緒に本社を訪問したことがある。ツイッターは当時、雰囲気が“優しい”会社だった。社員やユーザーの心が傷つかないようにあらゆる心理的な脅威を排除していた。ただマスク氏は不満を示した。『人は追い込まれないと何も成し遂げられない』『心の傷から人を守ることを私は好まない』と言っていた」』、「多様な事業への挑戦を可能とする原動力は何か。アイザックソン氏はマスク氏が幼少期に父親から受けた暴力が深く影響しているとみています。 「マスク氏は普通の人より心が傷つくことに耐えられる。だから尋常ではないリスクをとれる一方、他人に対して厳しく当たりがちだ。マスク氏がツイッターを買収する前、一緒に本社を訪問したことがある。ツイッターは当時、雰囲気が“優しい”会社だった。社員やユーザーの心が傷つかないようにあらゆる心理的な脅威を排除していた。ただマスク氏は不満を示した。『人は追い込まれないと何も成し遂げられない』『心の傷から人を守ることを私は好まない』と言っていた」、「マスク氏」は「雰囲気が“優しい”会社だった」「ツイッター」を、自分好みに変革したようだ。
・『伝記作家のウォルター・アイザックソン氏 ただ、リスクを好む姿勢は、波乱を呼び寄せる要因となることも。新技術の安全性などを巡り、規制当局との衝突を繰り返しているのです。 「マスク氏は規制やルール、他人にコントロールされることを嫌う。彼の行動原理のひとつに『あらゆる規則を疑え』がある。誰かが『規則だからこうしろ』と言えば、『その規則はなぜ存在するのか?』と返す」 「例えばテスラの自動運転機能。これは機械学習を通じて開発されている。テスラ車のカメラが捉えた数百万の映像をコンピュータが分析し、人間の運転方法を学習する。ただここで問題なのは『止まれ』の標識に遭遇した場合、(元データとなる)人間のほとんどが完全停止していないにも関わらず、規制当局は自動運転機能では法律通り完全停止すべきだと主張する。マスク氏は激怒し『誰が作った法律なのか』と相手を詰問する始末だ」 マスク氏はルールを嫌うあまり新型コロナの行動規制を無視するなど、世間のひんしゅくを買ってきた一面もあります。ただ、逆に世間こそルールに従うことに慣れきってしまっているのではと、アイザックソン氏は問いかけます。 「マスク氏は日本や欧米について、融通が利かず、物事を進めるのが困難な社会になったと考えている。特にアメリカは多大な危険を冒しながら海を越えた人々が作り上げた国で、『リスク』はDNAの一部だ。人類のほとんども同様だろう。失敗や訴訟を恐れるあまり、自らをルールで縛りつける現代人に対し、マスク氏は『反抗してみろ』と呼びかけている」 ※Newsモーニングサテライト』、「マスク氏は日本や欧米について、融通が利かず、物事を進めるのが困難な社会になったと考えている。特にアメリカは多大な危険を冒しながら海を越えた人々が作り上げた国で、『リスク』はDNAの一部だ。人類のほとんども同様だろう。失敗や訴訟を恐れるあまり、自らをルールで縛りつける現代人に対し、マスク氏は『反抗してみろ』と呼びかけている」、「失敗や訴訟を恐れるあまり、自らをルールで縛りつける現代人に対し、マスク氏は『反抗してみろ』と呼びかけている」、同感である。
第三に、11月6日付け文春オンラインが掲載した一橋大学大学院特任教授の楠木 建氏による「「テスラの創業者ではない」「はっきり言って経営には向いていない」…誤解されがちなイーロン・マスクの“正体”は 楠木建が『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン 著)を読む」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/66789
・『当代きっての奇矯な人物の実像を描く評伝。イーロン・マスクという不思議な人物の面白さだけで読者を引っ張る。上下巻の大部を一気に読んだ。 南アフリカで生まれたマスクは父の精神的虐待から逃れるためにアメリカへ渡る。「アメリカはすごいことを可能にする国だ」――当時から「すごいこと」のテーマを「インターネット」「クリーン・エネルギー」「宇宙」の3つに定めていた。 インターネット黎明期の1995年に情報サービスのZip2を起業。これを売却して得た資金を元手にオンライン金融サービスのX.com(ペイパルの会社と後に合併)の共同設立者になる。当然のように他の創業メンバーと対立。追い出されたマスクは宇宙輸送ロケットのスペースXを起業し、CEOに就任。2004年には前年に設立されたテスラモーターズに出資する。 誤解されがちだが、マスクはテスラの創業者ではない。彼はエジソンのような発明家ではない。普通の意味での経営者でもない。その本質は起業家ですらない。起業家は実のところリスクを取るタイプではない。ペイパルのピーター・ティールのようなプロの起業家は、成功のためにリスクを最小化しようとする。ところが、マスクはリスクを大きくしようとする。船に自ら火をつけて逃げ道を遮断する。持っているものをオールインして賭け続ける。その中で当たったのがスペースXとテスラだった。 抜群に頭がいい。しかもガッツがある。数年前のテスラの「生産地獄」を乗り切った力量はとてつもない。しかし、その正体は冒険家だ。誰もが不可能と思うことにチャレンジする。リスクを欲し、リスクに溺れる。生か死かという状況でないと元気が出ない。衝動的野心に突き動かされて、無理難題に挑戦するプロセスにしか精神の昂揚を感じない。はっきり言って経営には向いていない。経営者としてはもちろん、起業家としてもまったく参考にならない。 いよいよ電気自動車業界が普通の競争に突入しようとしている今、X(旧ツイッター)などにかまけている場合ではないのではないか――誰もがそう思う。しかし、これこそマスクの本領発揮だ。もはや「普通の企業」となったテスラの経営は、冒険家にとっては退屈なのだろう。 一義的なモティベーションはフロンティアの追求――20世紀前半に「地球上の富の半分を持つ男」「世界でいちばん猛烈な男」と言われたハワード・ヒューズにそっくりだ。ヒューズの「航空」「映画」が、マスクにとっては「宇宙」「インターネット」「クリーン・エネルギー」だった。古いタイプのアメリカン資本主義者と言ってよい。 ヒューズは大暴れの挙句に隠遁生活に入った。この際、マスクには最後の最後までこの調子で行ってもらいたい。そこに何があるのかは分からない。本人にも分からないだろう。(Walter Isaacson氏、くすのきけん氏の略歴はリンク先参照)』、「南アフリカで生まれたマスクは父の精神的虐待から逃れるためにアメリカへ渡る。「アメリカはすごいことを可能にする国だ」――当時から「すごいこと」のテーマを「インターネット」「クリーン・エネルギー」「宇宙」の3つに定めていた。 インターネット黎明期の1995年に情報サービスのZip2を起業。これを売却して得た資金を元手にオンライン金融サービスのX.com・・・の共同設立者になる。当然のように他の創業メンバーと対立。追い出されたマスクは宇宙輸送ロケットのスペースXを起業し、CEOに就任。2004年には前年に設立されたテスラモーターズに出資する・・・抜群に頭がいい。しかもガッツがある。数年前のテスラの「生産地獄」を乗り切った力量はとてつもない。しかし、その正体は冒険家だ。誰もが不可能と思うことにチャレンジする。リスクを欲し、リスクに溺れる。生か死かという状況でないと元気が出ない。衝動的野心に突き動かされて、無理難題に挑戦するプロセスにしか精神の昂揚を感じない。はっきり言って経営には向いていない。経営者としてはもちろん、起業家としてもまったく参考にならない。 いよいよ電気自動車業界が普通の競争に突入しようとしている今、X(旧ツイッター)などにかまけている場合ではないのではないか――誰もがそう思う。しかし、これこそマスクの本領発揮だ。もはや「普通の企業」となったテスラの経営は、冒険家にとっては退屈なのだろう」、全く信じ難いほどエネルギッシュだ。次は何をするのだろう。
先ずは、9月1日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した作家のジュリア・ガレフ氏と、ポッドキャスター・英日翻訳者の児島 修氏による「Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/327732
・『Twitterを「X」に名称変更したイーロン・マスク。彼が成功に導いた電機自動車メーカーのテスラは、20年で時価総額世界第9位にまで成長した。しかし、彼は意外にも「自分の会社は失敗するのではないか」と考えていたという。成功の確率をわずか1割だと見積もったにもかかわらず、起業に踏み切った背景には、イーロン・マスク流の「価値ある賭け」への見極め方があった――。 ※本稿は、全世界17言語で翻訳されたジュリア・ガレフ著『マッピング思考 人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」』(東洋経済新報社)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『“突拍子もない夢”を追い求めるイーロン・マスク イーロン・マスクは、宇宙飛行会社を設立すると決意したとき、友人たちから頭がおかしくなったと思われた。 マスクは、自身が手がけた2番目の事業である「ペイパル」の売却によって手に入れたばかりの1億8000万ドルの多くを、後の「スペースX」となる会社に投じようとしていた。 「きっと失敗する。せっかくペイパルを売って稼いだ金が、ごっそり消えてしまうぞ」と周囲は忠告した。 ある友人は、ロケットが爆発する映像をつなぎあわせた動画を編集し、マスクに「頼むからこれを見てくれ。バカな真似はよせ」と伝えた。 ちまたによくある“突拍子もない夢”を追い求めた成功者の物語では、ここで「だが、彼は思いとどまったりはしなかった。心のなかで、自分を疑う人たちが間違っているのを知っているからだ――」という展開になるはずだ。 しかし、マスクの場合はそうはならなかった。友人たちから「きっと失敗する」と言われたときも、こう答えている。 「ああ、僕もそう思う。おそらく失敗するだろうね」 実際、マスクはスペースXの宇宙船が宇宙飛行を成功させる確率を、1割程度と見積もっていた。 2年後、マスクはペイパルを売却して得た残りの資金を、電動自動車の「テスラ」に投じると決めた。マスクはこのときも、成功の確率は1割程度と見積もっていた。 本人が自身のプロジェクトが成功する確率を低く見積もっていることに、周囲は首をかしげた。 2014年にテレビ番組の『60ミニッツ』に出演した際にも、そのロジックを理解しようとするインタビュアーのスコット・ペリーから、次のように尋ねられている。 マスク「テスラが成功するとは思っていませんでした。おそらく失敗するだろう、と」 ペリー「成功しないと見込んでいたのに、なぜ挑戦したんです?」 マスク「挑戦するだけの価値があるのなら、やってみるべきだと判断したからですよ」 マスクの成功に対する期待値の低さは、周りを困惑させた。 なぜなら、人は「誰かが何かに挑むのは、成功する可能性が高いから」と考えるからだ。 しかし、マスクのような人は、必ずしも「これは成功する」と思っているから行動するのではない。彼らは「賭ける価値がある」という考えによってモチベーションを高めるのだ。) 誰でもある程度は、目の前の行動を取るかどうかを「賭ける価値があるかどうか」という基準で判断しているものだ。 簡単な例として、一般的な6面体のサイコロを振る賭けをする場合のことを考えてみよう。この賭けでは、6が出れば200ドルの賞金がもらえるが、それ以外の目が出た場合は10ドルを失うことになっている。 Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ 賭ける価値があるだろうか。 そう、これは賭ける価値があるといえる。 この賭けにどれくらいの価値があるのかは、「期待値」を計算することで具体的に知ることができる。 期待値とは、その賭けを際限なく行った場合に平均的に得られる値のことだ。賭けの期待値は、各結果の確率と価値を掛け、その結果を合計することで導ける。この賭けでは、次のようになる。 {(勝つ確率=1/6)×200ドル}+{(負ける確率=5/6)× -10ドル}=33.33ドル - 8.33ドル=25ドル つまり、この賭けを際限なくり返した場合、平均の獲得額は約25ドル。サイコロを振っただけで得られるのなら、悪くはない額だ。 負ける確率は6分の5と高いものの、十分に「賭ける価値がある」賭けだといえるだろう』、「賭けの期待値は、各結果の確率と価値を掛け、その結果を合計することで導ける。この賭けでは、次のようになる。 {(勝つ確率=1/6)×200ドル}+{(負ける確率=5/6)× -10ドル}=33.33ドル - 8.33ドル=25ドル つまり、この賭けを際限なくり返した場合、平均の獲得額は約25ドル。サイコロを振っただけで得られるのなら、悪くはない額だ。 負ける確率は6分の5と高いものの、十分に「賭ける価値がある」賭けだといえるだろう」、なるほど。
・『「たとえ『テスラ』が失敗しても…」 とはいえ、起業のような対象を賭けにして正確な確率を導こうとするのは、より複雑で主観的な試みになる。 その価値には、お金以外のさまざまな要素も含まれている。 たとえば、「会社を経営することで、どれだけの楽しみが得られるか?」「たとえ失敗したとしても、その後で役に立つ人脈やスキルを手に入れられるか?」「自分の時間がどれだけ奪われるか?」「社会的な信用度(または汚名)はどれくらい得られるか?」といったことだ。 とはいえ、たいていの場合、大まかな見積もりをすることならできる。 これまで見てきたように、イーロン・マスクはテスラが成功する確率を1割、失敗する確率を9割と見積もっていた。) それでも、成功して得られる価値はとてつもなく大きいと思えた。電気自動車という(当時は)夢物語のような概念を実現することは、現代社会が化石燃料依存から脱却するための大きな一歩になる。 Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ マスクは、たとえ失敗したとしてもテスラは価値あることを少なくとも1つ成し遂げられる、と考えた。 「“電気自動車はゴルフカートのように格好悪くて、遅くて、退屈なものだ”という人々の誤った認識を変えられると思ったのです」と語っている。 マスクがスペースXを立ち上げた理由もこれに似ている。 マスクはテスラのときと同じようにスペースXが成功する確率を1割、失敗する確率を9割と見込んでいた。だが、成功したときに得られる価値は計りしれない。 安く宇宙飛行ができる手段を開発すれば将来的に人類が移り住めるようになるかもしれないし、地球上で起こり得る壊滅的なリスクから人類を守れるかもしれない。 また、仮にスペースXが失敗したとしても、宇宙飛行技術を少しでも進歩させられるのなら、それはまったくの無駄にはならないはずだ。 「わずかであれボールを前に動かせるのなら、たとえ僕たちの会社が倒産したとしてもどこかの会社がバトンタッチしてそのボールをさらに前に運んでくれるかもしれない。だとすればなおさら挑戦する価値はある」』、「テスラのときと同じようにスペースXが成功する確率を1割、失敗する確率を9割と見込んでいた。だが、成功したときに得られる価値は計りしれない。 安く宇宙飛行ができる手段を開発すれば将来的に人類が移り住めるようになるかもしれないし、地球上で起こり得る壊滅的なリスクから人類を守れるかもしれない。 また、仮にスペースXが失敗したとしても、宇宙飛行技術を少しでも進歩させられるのなら、それはまったくの無駄にはならないはずだ」、なるほど。
・『「就職、起業、投資、人間関係 あらゆることに応用可能」 全体としてみれば、テスラもスペースXも、失敗する可能性は高かったものの、マスクにとってはいい賭けだったようだ。 期待値は、その賭けを何度もくり返すことを想像することによってもとらえやすくなる。そのとき、成功によって得られる価値は、失敗によって失う価値を上回るだろうか? イーロン・マスクのようなスケールの大きな起業家なら、一生のうちにテスラやスペースXのような会社を10社はつくる時間と財力があるだろう。 もしその10社のうち9社が失敗するのだとすれば、最大の問題「1回の大きな成功と引き換えに、9回失敗する価値はあるか?」ということになる。) 現実的には、まったく同じ賭けを何度もくり返すことはめったにない。それでも、人生にさまざまな賭けをする機会があるのはたしかだ。 就職や企業、投資はもちろん、他人を信頼する、難しい頼みごとをする、安全地帯から抜け出してなにかに挑戦する、といったことまで含めれば、賭けの機会は無数にある。 そのなかで、期待値を正しく見極めて賭けをすればするほど、ここの賭けに失敗したとしても、全体としては利益が得られるという確信が持てるようになる』、「人生にさまざまな賭けをする機会があるのはたしかだ。 就職や企業、投資はもちろん、他人を信頼する、難しい頼みごとをする、安全地帯から抜け出してなにかに挑戦する、といったことまで含めれば、賭けの機会は無数にある。 そのなかで、期待値を正しく見極めて賭けをすればするほど、ここの賭けに失敗したとしても、全体としては利益が得られるという確信が持てるようになる」、なるほど。
・『覚悟のうえで、運命に任す 「自信があれば成功できる」という発想でモチベーションを高めようとする人たちは、失敗の可能性を認めれば、やる気が削がれ、リスクを取ろうとしなくなると見なす。 そして「絶対に失敗しない」と固く信じることが、最大限の努力をして成功を目指す秘訣だと考える。 だが現実には、それとは逆であることが多い。 書影『マッピング思考 人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」』 つまり、事前に失敗の可能性を受け入れるからこそ、さまざまな縛りから解放されて、目標に向かって邁進できるようになるのだ。 「失敗する可能性だってある」とわかっているからこそ、臆病ではなく大胆になれる。必要なリスクを取る理由が得られる。 マスクは「他人がクレイジーだと思うような会社を恐れずに起業した」と称賛されると、「実は、強い恐怖を感じている」と答えている。 恐怖を感じていないのではなく、失敗の確率とうまく折り合いをつけることで、その恐怖を手なずける術を学んだだけだ、と。 「それが運命だと思えば、気が楽になります。」失敗の確率を納得して受け入れれば、恐怖心は薄れます。スペースXを立ち上げたときも、成功率は1割以下だと思っていました。当然、すべてを失うかもしれないと覚悟のうえで』、「マスクは「他人がクレイジーだと思うような会社を恐れずに起業した」と称賛されると、「実は、強い恐怖を感じている」と答えている。 恐怖を感じていないのではなく、失敗の確率とうまく折り合いをつけることで、その恐怖を手なずける術を学んだだけだ、と。 「それが運命だと思えば、気が楽になります。」失敗の確率を納得して受け入れれば、恐怖心は薄れます。スペースXを立ち上げたときも、成功率は1割以下だと思っていました。当然、すべてを失うかもしれないと覚悟のうえで」、なるほど。
次に、9月14日付けテレ東BIZ「イーロン・マスク氏はなぜリスクを恐れない? 書籍著者「彼は普通の人より心が傷つくことに耐えられる」【モーサテ】」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/05c541726249202998f6057d2dd91f723f045378
・『アメリカの著名実業家、イーロン・マスク氏の半生を綴った書籍「イーロン・マスク」が発売されました。数々の事業を成功させる一方、世間を騒がす発言を繰り返すマスク氏。マスク氏の人生哲学について著者のウォルター・アイザックソン氏に聞きました。 伝記作家のアイザックソン氏はマスク氏を取材するため、2年間生活に密着しました。実は、アイザックソン氏は、以前タイム誌やCNNなど、大手メディアの要職を歴任。その後は作家となり、アップルの故スティーブ・ジョブス氏の伝記を書いたことでも知られています』、「伝記作家のアイザックソン氏はマスク氏を取材するため、2年間生活に密着」、凄いことだ。
・『今回なぜマスク氏に注目したのでしょうか? 「私は昔からイノベーターに興味がある。中でもマスク氏は今、最も重要な人物だ。電気自動車や宇宙旅行の分野で新境地を開いたほか、ツイッターを買収するなど人々を魅了してやまない」 マスク氏はこれまで、スペースXやテスラなど次世代技術でリードする会社を創業したほか、Xと改名したツイッターも去年買収。現在運営する企業は5社に上っています。 多様な事業への挑戦を可能とする原動力は何か。アイザックソン氏はマスク氏が幼少期に父親から受けた暴力が深く影響しているとみています。 「マスク氏は普通の人より心が傷つくことに耐えられる。だから尋常ではないリスクをとれる一方、他人に対して厳しく当たりがちだ。マスク氏がツイッターを買収する前、一緒に本社を訪問したことがある。ツイッターは当時、雰囲気が“優しい”会社だった。社員やユーザーの心が傷つかないようにあらゆる心理的な脅威を排除していた。ただマスク氏は不満を示した。『人は追い込まれないと何も成し遂げられない』『心の傷から人を守ることを私は好まない』と言っていた」』、「多様な事業への挑戦を可能とする原動力は何か。アイザックソン氏はマスク氏が幼少期に父親から受けた暴力が深く影響しているとみています。 「マスク氏は普通の人より心が傷つくことに耐えられる。だから尋常ではないリスクをとれる一方、他人に対して厳しく当たりがちだ。マスク氏がツイッターを買収する前、一緒に本社を訪問したことがある。ツイッターは当時、雰囲気が“優しい”会社だった。社員やユーザーの心が傷つかないようにあらゆる心理的な脅威を排除していた。ただマスク氏は不満を示した。『人は追い込まれないと何も成し遂げられない』『心の傷から人を守ることを私は好まない』と言っていた」、「マスク氏」は「雰囲気が“優しい”会社だった」「ツイッター」を、自分好みに変革したようだ。
・『伝記作家のウォルター・アイザックソン氏 ただ、リスクを好む姿勢は、波乱を呼び寄せる要因となることも。新技術の安全性などを巡り、規制当局との衝突を繰り返しているのです。 「マスク氏は規制やルール、他人にコントロールされることを嫌う。彼の行動原理のひとつに『あらゆる規則を疑え』がある。誰かが『規則だからこうしろ』と言えば、『その規則はなぜ存在するのか?』と返す」 「例えばテスラの自動運転機能。これは機械学習を通じて開発されている。テスラ車のカメラが捉えた数百万の映像をコンピュータが分析し、人間の運転方法を学習する。ただここで問題なのは『止まれ』の標識に遭遇した場合、(元データとなる)人間のほとんどが完全停止していないにも関わらず、規制当局は自動運転機能では法律通り完全停止すべきだと主張する。マスク氏は激怒し『誰が作った法律なのか』と相手を詰問する始末だ」 マスク氏はルールを嫌うあまり新型コロナの行動規制を無視するなど、世間のひんしゅくを買ってきた一面もあります。ただ、逆に世間こそルールに従うことに慣れきってしまっているのではと、アイザックソン氏は問いかけます。 「マスク氏は日本や欧米について、融通が利かず、物事を進めるのが困難な社会になったと考えている。特にアメリカは多大な危険を冒しながら海を越えた人々が作り上げた国で、『リスク』はDNAの一部だ。人類のほとんども同様だろう。失敗や訴訟を恐れるあまり、自らをルールで縛りつける現代人に対し、マスク氏は『反抗してみろ』と呼びかけている」 ※Newsモーニングサテライト』、「マスク氏は日本や欧米について、融通が利かず、物事を進めるのが困難な社会になったと考えている。特にアメリカは多大な危険を冒しながら海を越えた人々が作り上げた国で、『リスク』はDNAの一部だ。人類のほとんども同様だろう。失敗や訴訟を恐れるあまり、自らをルールで縛りつける現代人に対し、マスク氏は『反抗してみろ』と呼びかけている」、「失敗や訴訟を恐れるあまり、自らをルールで縛りつける現代人に対し、マスク氏は『反抗してみろ』と呼びかけている」、同感である。
第三に、11月6日付け文春オンラインが掲載した一橋大学大学院特任教授の楠木 建氏による「「テスラの創業者ではない」「はっきり言って経営には向いていない」…誤解されがちなイーロン・マスクの“正体”は 楠木建が『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン 著)を読む」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/66789
・『当代きっての奇矯な人物の実像を描く評伝。イーロン・マスクという不思議な人物の面白さだけで読者を引っ張る。上下巻の大部を一気に読んだ。 南アフリカで生まれたマスクは父の精神的虐待から逃れるためにアメリカへ渡る。「アメリカはすごいことを可能にする国だ」――当時から「すごいこと」のテーマを「インターネット」「クリーン・エネルギー」「宇宙」の3つに定めていた。 インターネット黎明期の1995年に情報サービスのZip2を起業。これを売却して得た資金を元手にオンライン金融サービスのX.com(ペイパルの会社と後に合併)の共同設立者になる。当然のように他の創業メンバーと対立。追い出されたマスクは宇宙輸送ロケットのスペースXを起業し、CEOに就任。2004年には前年に設立されたテスラモーターズに出資する。 誤解されがちだが、マスクはテスラの創業者ではない。彼はエジソンのような発明家ではない。普通の意味での経営者でもない。その本質は起業家ですらない。起業家は実のところリスクを取るタイプではない。ペイパルのピーター・ティールのようなプロの起業家は、成功のためにリスクを最小化しようとする。ところが、マスクはリスクを大きくしようとする。船に自ら火をつけて逃げ道を遮断する。持っているものをオールインして賭け続ける。その中で当たったのがスペースXとテスラだった。 抜群に頭がいい。しかもガッツがある。数年前のテスラの「生産地獄」を乗り切った力量はとてつもない。しかし、その正体は冒険家だ。誰もが不可能と思うことにチャレンジする。リスクを欲し、リスクに溺れる。生か死かという状況でないと元気が出ない。衝動的野心に突き動かされて、無理難題に挑戦するプロセスにしか精神の昂揚を感じない。はっきり言って経営には向いていない。経営者としてはもちろん、起業家としてもまったく参考にならない。 いよいよ電気自動車業界が普通の競争に突入しようとしている今、X(旧ツイッター)などにかまけている場合ではないのではないか――誰もがそう思う。しかし、これこそマスクの本領発揮だ。もはや「普通の企業」となったテスラの経営は、冒険家にとっては退屈なのだろう。 一義的なモティベーションはフロンティアの追求――20世紀前半に「地球上の富の半分を持つ男」「世界でいちばん猛烈な男」と言われたハワード・ヒューズにそっくりだ。ヒューズの「航空」「映画」が、マスクにとっては「宇宙」「インターネット」「クリーン・エネルギー」だった。古いタイプのアメリカン資本主義者と言ってよい。 ヒューズは大暴れの挙句に隠遁生活に入った。この際、マスクには最後の最後までこの調子で行ってもらいたい。そこに何があるのかは分からない。本人にも分からないだろう。(Walter Isaacson氏、くすのきけん氏の略歴はリンク先参照)』、「南アフリカで生まれたマスクは父の精神的虐待から逃れるためにアメリカへ渡る。「アメリカはすごいことを可能にする国だ」――当時から「すごいこと」のテーマを「インターネット」「クリーン・エネルギー」「宇宙」の3つに定めていた。 インターネット黎明期の1995年に情報サービスのZip2を起業。これを売却して得た資金を元手にオンライン金融サービスのX.com・・・の共同設立者になる。当然のように他の創業メンバーと対立。追い出されたマスクは宇宙輸送ロケットのスペースXを起業し、CEOに就任。2004年には前年に設立されたテスラモーターズに出資する・・・抜群に頭がいい。しかもガッツがある。数年前のテスラの「生産地獄」を乗り切った力量はとてつもない。しかし、その正体は冒険家だ。誰もが不可能と思うことにチャレンジする。リスクを欲し、リスクに溺れる。生か死かという状況でないと元気が出ない。衝動的野心に突き動かされて、無理難題に挑戦するプロセスにしか精神の昂揚を感じない。はっきり言って経営には向いていない。経営者としてはもちろん、起業家としてもまったく参考にならない。 いよいよ電気自動車業界が普通の競争に突入しようとしている今、X(旧ツイッター)などにかまけている場合ではないのではないか――誰もがそう思う。しかし、これこそマスクの本領発揮だ。もはや「普通の企業」となったテスラの経営は、冒険家にとっては退屈なのだろう」、全く信じ難いほどエネルギッシュだ。次は何をするのだろう。
タグ:児島 修氏による「Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ」 ジュリア・ガレフ氏 ダイヤモンド・オンライン イーロン・マスク (その2)(Twitter→Xの変更も失敗を想定?マスクが「9割失敗」と思いながらテスラを起業したワケ、イーロン・マスク氏はなぜリスクを恐れない? 書籍著者「彼は普通の人より心が傷つくことに耐えられる」【モーサテ】、「テスラの創業者ではない」「はっきり言って経営には向いていない」…誤解されがちなイーロン・マスクの“正体”は 楠木建が『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン 著)を読む) 「賭けの期待値は、各結果の確率と価値を掛け、その結果を合計することで導ける。この賭けでは、次のようになる。 {(勝つ確率=1/6)×200ドル}+{(負ける確率=5/6)× -10ドル}=33.33ドル - 8.33ドル=25ドル つまり、この賭けを際限なくり返した場合、平均の獲得額は約25ドル。サイコロを振っただけで得られるのなら、悪くはない額だ。 負ける確率は6分の5と高いものの、十分に「賭ける価値がある」賭けだといえるだろう」、なるほど。 「テスラのときと同じようにスペースXが成功する確率を1割、失敗する確率を9割と見込んでいた。だが、成功したときに得られる価値は計りしれない。 安く宇宙飛行ができる手段を開発すれば将来的に人類が移り住めるようになるかもしれないし、地球上で起こり得る壊滅的なリスクから人類を守れるかもしれない。 また、仮にスペースXが失敗したとしても、宇宙飛行技術を少しでも進歩させられるのなら、それはまったくの無駄にはならないはずだ」、なるほど。 「人生にさまざまな賭けをする機会があるのはたしかだ。 就職や企業、投資はもちろん、他人を信頼する、難しい頼みごとをする、安全地帯から抜け出してなにかに挑戦する、といったことまで含めれば、賭けの機会は無数にある。 そのなかで、期待値を正しく見極めて賭けをすればするほど、ここの賭けに失敗したとしても、全体としては利益が得られるという確信が持てるようになる」、なるほど。 「マスクは「他人がクレイジーだと思うような会社を恐れずに起業した」と称賛されると、「実は、強い恐怖を感じている」と答えている。 恐怖を感じていないのではなく、失敗の確率とうまく折り合いをつけることで、その恐怖を手なずける術を学んだだけだ、と。 「それが運命だと思えば、気が楽になります。」失敗の確率を納得して受け入れれば、恐怖心は薄れます。スペースXを立ち上げたときも、成功率は1割以下だと思っていました。当然、すべてを失うかもしれないと覚悟のうえで」、なるほど。 テレ東BIZ「イーロン・マスク氏はなぜリスクを恐れない? 書籍著者「彼は普通の人より心が傷つくことに耐えられる」【モーサテ】」 「伝記作家のアイザックソン氏はマスク氏を取材するため、2年間生活に密着」、凄いことだ。 「多様な事業への挑戦を可能とする原動力は何か。アイザックソン氏はマスク氏が幼少期に父親から受けた暴力が深く影響しているとみています。 「マスク氏は普通の人より心が傷つくことに耐えられる。だから尋常ではないリスクをとれる一方、他人に対して厳しく当たりがちだ。マスク氏がツイッターを買収する前、一緒に本社を訪問したことがある。ツイッターは当時、雰囲気が“優しい”会社だった。社員やユーザーの心が傷つかないようにあらゆる心理的な脅威を排除していた。ただマスク氏は不満を示した。 『人は追い込まれないと何も成し遂げられない』『心の傷から人を守ることを私は好まない』と言っていた」、「マスク氏」は「雰囲気が“優しい”会社だった」「ツイッター」を、自分好みに変革したようだ。 「マスク氏は日本や欧米について、融通が利かず、物事を進めるのが困難な社会になったと考えている。特にアメリカは多大な危険を冒しながら海を越えた人々が作り上げた国で、『リスク』はDNAの一部だ。人類のほとんども同様だろう。失敗や訴訟を恐れるあまり、自らをルールで縛りつける現代人に対し、マスク氏は『反抗してみろ』と呼びかけている」、「失敗や訴訟を恐れるあまり、自らをルールで縛りつける現代人に対し、マスク氏は『反抗してみろ』と呼びかけている」、同感である。 文春オンライン 楠木 建氏による「「テスラの創業者ではない」「はっきり言って経営には向いていない」…誤解されがちなイーロン・マスクの“正体”は 楠木建が『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン 著)を読む」 「南アフリカで生まれたマスクは父の精神的虐待から逃れるためにアメリカへ渡る。「アメリカはすごいことを可能にする国だ」――当時から「すごいこと」のテーマを「インターネット」「クリーン・エネルギー」「宇宙」の3つに定めていた。 インターネット黎明期の1995年に情報サービスのZip2を起業。これを売却して得た資金を元手にオンライン金融サービスのX.com ・・・の共同設立者になる。当然のように他の創業メンバーと対立。追い出されたマスクは宇宙輸送ロケットのスペースXを起業し、CEOに就任。2004年には前年に設立されたテスラモーターズに出資する・・・抜群に頭がいい。しかもガッツがある。数年前のテスラの「生産地獄」を乗り切った力量はとてつもない。しかし、その正体は冒険家だ。誰もが不可能と思うことにチャレンジする。リスクを欲し、リスクに溺れる。生か死かという状況でないと元気が出ない。衝動的野心に突き動かされて、無理難題に挑戦するプロセスにしか精神の昂揚を感じない はっきり言って経営には向いていない。経営者としてはもちろん、起業家としてもまったく参考にならない。 いよいよ電気自動車業界が普通の競争に突入しようとしている今、X(旧ツイッター)などにかまけている場合ではないのではないか――誰もがそう思う。しかし、これこそマスクの本領発揮だ。もはや「普通の企業」となったテスラの経営は、冒険家にとっては退屈なのだろう」、全く信じ難いほどエネルギッシュだ。次は何をするのだろう。
携帯・スマホ(その13)(「楽天ってやばいんでしょ モバイルの借金がすごくて」営業損益は4928億円の赤字……それでも三木谷浩史が「楽天モバイルの成功」を信じる理由 『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』 #1、楽天カードマンでも、米倉涼子でもない…楽天・三木谷浩史の「テレビCM嫌い」を変えた“意外な人物”の正体 『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』 #2、楽天に蔓延する「不正連鎖」の闇 今度はモバイル部門で発覚した金銭着服の全構図) [イノベーション]
携帯・スマホについては、本年9月10日に取上げた。今日は、(その13)(「楽天ってやばいんでしょ モバイルの借金がすごくて」営業損益は4928億円の赤字……それでも三木谷浩史が「楽天モバイルの成功」を信じる理由 『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』 #1、楽天カードマンでも、米倉涼子でもない…楽天・三木谷浩史の「テレビCM嫌い」を変えた“意外な人物”の正体 『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』 #2、楽天に蔓延する「不正連鎖」の闇 今度はモバイル部門で発覚した金銭着服の全構図)である。
先ずは、本年9月11日付け文春オンラインが掲載したノンフィクション作家の大西 康之氏による「「楽天ってやばいんでしょ。モバイルの借金がすごくて」営業損益は4928億円の赤字……それでも三木谷浩史が「楽天モバイルの成功」を信じる理由 『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』 #1」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/65584?logly=&ref=article_link
・『2022年度の通期決算で、モバイル事業の営業損益は4928億円の赤字……。現状は多くの日本人から「失敗事業」と捉えられている楽天モバイル。しかし同事業の成功を、三木谷浩史が信じる理由とは? ノンフィクション作家の大西康之氏の新刊『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)』、興味深そうだ。
・『商談 2023年2月27日、スペイン・バルセロナで世界最大の通信ビジネス国際見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」が始まった。 会場の「フィラ・デ・バルセロナ」は36万平方メートルという広大な敷地に巨大なホールが立ち並ぶ。MWCには毎年、世界200ヵ国から6万~8万人の通信事業の関係者が集まり、最先端のテクノロジーを競い合う。 午前11時15分、「楽天グループ」会長兼社長の三木谷浩史を乗せた黒いベンツのワンボックスカーがVIP受け付けの車寄せに滑り込んできた。初日ということもあり、入り口は黒塗りの車でごった返し、三木谷の到着は予定より少し遅れた。 三木谷を出迎えたのは、2022年にグローバルセールス・マーケティング統括として楽天グループに加わったラビー・ダブーシ。米通信大手「シスコシステムズ」の幹部でスマートシティ戦略を推進してきた。シスコ中興の祖ジョン・チェンバースの懐刀だったが、チェンバースが引退するとき、シスコの同僚だった楽天グループ副社長、平井康文の誘いで「楽天モバイル」に移籍した。世界の通信業界で、このジェイソン・ステイサム風のスキンヘッドの男を知らない者はいない。 三木谷は会場で待ち受けていた広報担当者に手渡されたミーティング資料に目を通しながら、人の波をかき分け猛烈なスピードで進む。後ろから三木谷の秘書が駆け足で追いかける。突然、三木谷が振り向く。 「えっと、この人のファースト・ネームはなんだっけ?」 「こちらです」 すかさず広報がファイルの当該ページを指す。 「これ、なんて読むの?」 欧州の携帯電話大手のCFOだ。楽天モバイルのブースに到着すると、楽天モバイルCEOのタレック・アミンと楽天シンフォニーのアメリカ支社長、アジータ・アルバニが待ち構えていた。アミンはヨルダン出身で米国、インドの通信大手を渡り歩き、「携帯電話ネットワークの完全仮想化」という画期的なアイデアを携えて2018年に楽天入りした。優雅にブロンドを靡かせるアルバニは、フィンランドの携帯大手「ノキア」でイノベーション事業を担当していた。 4人は一言二言、言葉をかわすと、顧客が待つブースの会議室に入った。 「お待たせして申し訳ありません。車がものすごく混んでしまって」 三木谷はいつものように英語で商談を始めた。 MWCの楽天ブースで次から次へと商談をこなしていた三木谷は、一瞬だけブースの部屋から顔を出し、筆者に声をかけてきた。 「連れション行かない?」 個別インタビューの時間が取れないから、三木谷なりに気を遣ったのだろう。2人でトイレを目指す。 「すごい過密スケジュールですね」 「そうね。関心を持ってもらっているのはありがたい」』、「この人のファースト・ネームはなんだっけ?」・・・ 「これ、なんて読むの?」、確かにスペリングだけでは、「発音」は分からない。「三木谷は、一瞬だけブースの部屋から顔を出し、筆者に声をかけてきた。 「連れション行かない?」 個別インタビューの時間が取れないから、三木谷なりに気を遣ったのだろう」、マスコミ対策もずいぶん凝った仕掛けだ。
・『世界が「楽天モバイル」に注目する理由 アジアの東の端で、最後発で携帯電話事業に参入した楽天モバイルが、世界中の注目を集めている。それは「携帯ネットワークの完全仮想化」という、これまで誰もやったことのないイノベーションを商用ベースで実現したからだ。 「仮想化」とは簡単に言うと、ハードをソフトに置き換えることだ。たとえば、1980年代初めは、誰もが「書院」とか「オアシス」といったワープロ専用機を使っていたが、1985年ころからはパソコンにインストールされた「一太郎」や「ワード」といった日本語ワープロソフトを立ち上げて文書を作成するようになった。「キーボードを叩いて文字を書く」という作業がハードウェアからソフトウェアに置き換わったわけだ。 どんなパソコンでも文書が作成できるようになったように、楽天モバイルの通信技術は、基地局に高価な専用機器を使わなくても、汎用サーバとソフトウェアだけで携帯電話の通信を可能にした。この状況は、かつて大企業や中央官庁で標準的に使われた大型コンピューターを中心とする「メインフレーム・システム」が、1990年代にはパソコンとサーバをネットワークした「クライアント・サーバ・システム」に置き換わっていったこととよく似ている。 中央集権的なメインフレーム・システムの場合、それにつながる端末からデータを蓄積するストーレージ、果てはプリンターまで周辺機器を含め、すべてをひとつのメーカーの仕様に合わせなくてはならなかった。その生態系の頂点に君臨したのが米IBMであり、IBMのメインフレームを選んだユーザーは、システム丸ごとの構築をIBMに委ねるしかなかった。 これに対して、ほとんどのデータ処理をソフトウェアがこなすクライアント・サーバ・システムでは、ユーザーはさまざまなメーカーの機器を自由に組み合わせて使用することが可能になった。競争状態が生まれることでシステムの投資負担は劇的に引き下がる。 既存の携帯ネットワークはメインフレーム・システムと同じ中央集権型である。携帯電話事業者は、通信機器メーカーの大手─「ノキア」、「エリクソン」、「華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)」の3社で世界シェアの8割を占める─に通信設備を発注すると、メーカー1社にすべてを丸投げすることになる。) 一方、楽天モバイルの完全仮想化ネットワークはクライアント・サーバ・システムと同じ分散型だ。携帯電話会社は好きなメーカーの安い汎用サーバを自由に組み合わせてネットワークを構築することができる。業界用語でこれを「Open RAN(オープン・ラン=機器の組み合わせが自由な無線アクセス・ネットワーク)」と呼ぶ。 設備投資は既存の通信ネットワークに比べ30%安くなり、運用・管理コストは40%安くなる。楽天は「楽天シンフォニー」という会社を作り、この技術をパッケージにして海外の通信会社に売り込んでいる』、「楽天モバイルの完全仮想化ネットワークはクライアント・サーバ・システムと同じ分散型だ。携帯電話会社は好きなメーカーの安い汎用サーバを自由に組み合わせてネットワークを構築することができる・・・設備投資は既存の通信ネットワークに比べ30%安くなり、運用・管理コストは40%安くなる」、なるほど。
・『追い風 場面をバルセロナのMWCに戻そう。トイレに着くと三木谷は用を足しながらこう呟いた。 「去年まで(の商談相手)は、お手並み拝見という感じだったけど、今年は本気で導入を考えている。真剣さが違う」 装置産業である携帯電話事業は設備に莫大なカネがかかる。日本の通信大手で言えば、年間のインフラ投資は5000億円近い。それが3割安ければ3500億円で済む。 ワープロと同じように携帯電話ネットワークもハードからソフトに置き換わる。それは通信業界共通の認識だった。しかし、ランダムに移動する何千万台もの端末を捕まえる携帯ネットワークの仮想化は物理的には凄まじくむずかしい。通信大手のほとんどがこの技術に取り組んでいたが、「実用化するのはまだ数年は先のこと」だと考えていた。 ところが門外漢の楽天が世界で初めてこれに挑戦した。2020年春にサービスを本格的に開始したとき、世界の通信会社は「絶対失敗する」とたかを括っていた。だが、小さな事故はいくつか起きたものの、ネットワーク全体が何日にもわたって止まるような大きな事故はこれまでのところ起きていない。日本ではすでに500万人近い利用者が、毎日、ふつうに楽天モバイルを使っている。 「どうやらできちゃったみたいだぞ、って感じでしょ」 用を足し終えた三木谷は満足げに言った』、「ランダムに移動する何千万台もの端末を捕まえる携帯ネットワークの仮想化は物理的には凄まじくむずかしい。通信大手のほとんどがこの技術に取り組んでいたが、「実用化するのはまだ数年は先のこと」だと考えていた。 ところが門外漢の楽天が世界で初めてこれに挑戦した。2020年春にサービスを本格的に開始したとき、世界の通信会社は「絶対失敗する」とたかを括っていた。だが、小さな事故はいくつか起きたものの、ネットワーク全体が何日にもわたって止まるような大きな事故はこれまでのところ起きていない。日本ではすでに500万人近い利用者が、毎日、ふつうに楽天モバイルを使っている」、大したものだ。
・『「米中摩擦」の追い風 楽天モバイルにはもうひとつの追い風が吹いている。「米中摩擦」だ。 中国の台頭に神経を尖らせる米国は、中国の通信大手、ファーウェイを自国市場から締め出した。そこへロシアのウクライナ侵攻が重なる。 「次は中国による台湾侵攻か」と誰もが懸念せざるを得ない状況で、安全保障の要となる通信インフラで中国企業への依存を減らしたいという思惑が各国に働いている。いわゆる「チャイナ・フリー」だ。かといって価格の安いファーウェイから欧米の老舗メーカーに戻せば設備投資のコストが跳ね上がる。そこに登場したのが、安くて、地政学的に安全な日本の楽天モバイルが開発した「完全仮想化」だ。「試してみたい」と考えている国や地域は少なくない。 世界の通信大手が「完全仮想化」「Open RAN」に乗り換えた場合、その市場規模は15兆~20兆円とされる。もちろん楽天シンフォニーがそのすべてを手に入れるわけではないが、世界で最初の完全仮想化を成し遂げたアドバンテージは間違いなく存在する。) この日、三木谷は夕方の6時までぶっ通しで5件の商談を続けた。その後、アミンたち、リアルではなかなか会えない楽天幹部を集めて1時間ほどミーティングをこなし、そのまま顧客の接待に出かけた。この夜はディナーが2件。そこから、仲のいい欧州の大物起業家とバルセロナの街に繰り出し深夜まで痛飲した』、「世界の通信大手が「完全仮想化」「Open RAN」に乗り換えた場合、その市場規模は15兆~20兆円とされる。もちろん楽天シンフォニーがそのすべてを手に入れるわけではないが、世界で最初の完全仮想化を成し遂げたアドバンテージは間違いなく存在する」、確かに売り物になりそうだ。
・『世界標準の赤字 日本ではさかんに「経営難」が喧伝される楽天が海外の携帯市場では台風の目になりつつある。 三木谷は楽天市場や楽天カードで稼いだ利益を携帯事業に注ぎ込み、日本で「完全仮想化」「Open RAN」を実証した。しかし技術的に「できた」ことと「稼ぐ」ビジネスではわけが違う。2022年12月期の連結決算は最終損益が3728億8400万円の赤字。最終赤字は4期連続だ。 この赤字、三木谷にすれば「世界進出」の野望に向けたベット(賭け金)なのだが、日本のメディアは危機的な「業績不振」と見る。 〈楽天グループが苦境〉(日本経済新聞電子版2022年2月18日) 「楽天ってやばいんでしょ。モバイルの借金がすごくて」 筆者の周りでも、そう話す人が増えている。 2022年度の通期決算。モバイル事業の営業損益は4928億円の赤字だった。三木谷自身も「危機といえば危機」と認める。楽天が2022年11月と2023年1月に発行したドル建て無担保社債の利率は10.25%。2019年に発行したドル建て債の利率(3.5%)と比べると約3倍の高利、資金需要の逼迫ぶりが分かる。 だが、世界標準の見方をすれば、新規事業に挑む企業が抱える赤字としては、「健全な数字」だ。 EC(インターネット通販)大手の「アマゾン・ドット・コム」も、EV(電気自動車)の「テスラ」も創業からしばらくは大赤字が続いた。どんな企業でも、新たな事業を始めようと思えば先行投資で最初は赤字が続く。その苦しい期間を支えるのがベンチャー投資家であり銀行だ。冬の時代を耐え抜いた起業家、投資家、銀行は、事業が花開いたときに莫大な利益を手にする。これが資本主義のダイナミズムである。) テスラが廉価モデル「モデル3」の量産に苦戦し「プロダクション・ヘル(生産地獄)」に嵌まり込んでいた2017年、米国の著名なベンチャー投資家はこういった。 「われわれは鼻血が出そうな損失、涙が出そうなキャッシュ・バーン(現金燃焼)、頻繁に公表される胸が躍るようなニュースに慣れっこになっている」 3ヵ月ごとに3000億~4000億円を「燃やしていた」とされる、あの頃のテスラに比べれば、今の楽天グループの赤字など「可愛いもの」とさえ言える。 全国に7万局の基地局を開設し、販売・サービス体制を整える。全国を網羅する携帯ネットワークをゼロから作っているのだから、最初の数年が大赤字になるのは当たり前だ』、「全国に7万局の基地局を開設し、販売・サービス体制を整える。全国を網羅する携帯ネットワークをゼロから作っているのだから、最初の数年が大赤字になるのは当たり前だ」、ただ、「2023年1月に発行したドル建て無担保社債の利率は10.25%。2019年に発行したドル建て債の利率(3.5%)と比べると約3倍の高利」と、マーケットは厳しく見ているようだ。
・『「今年が山場かな」 2022年度、国内ECの営業損益は前期比36.6%増の956億円の黒字、「楽天カード」に代表されるフィンテック事業の営業損益も10.8%増の987億円の黒字。ひとつのプロジェクトが完成してキャッシュが手に入るまで何年もかかるゼネコンなどと違い、ECもフィンテックも日銭が入る商売なので、利払いに詰まることはまずない。貸し手からすれば、取りはぐれの少ないビジネスだ。 それでも銀行出身で用心深い三木谷は、外部からの出資受け入れや、楽天銀行の上場などで資本を分厚くしようとしている。 「今年(2023年)が山場かな」 苦しい資金繰りを強いられるのは2023年度まで、と三木谷は言う。その後は、設備投資が一段落し、自社のアンテナが届かない場所でKDDIのアンテナを借りている「ローミング」のコストも劇的に下がる。そして海外の通信会社に「完全仮想化」の技術が売れ始める。 楽天シンフォニーは3月1日、サウジアラビアの通信大手ザインKSAと携帯ネットワーク仮想化技術での提携を発表した。MWCの期間中、日本メディアのぶら下がり取材を受けた三木谷は、楽天シンフォニーの受注残高が4500億円に達していることを明かした。 さらに今回、三木谷はバルセロナに滞在した3日間で北米、欧州、中東、アジアの通信大手14社と商談をこなした。三木谷以外の幹部が対応した案件を加えれば100社以上とコンタクトした。やがてこれらの商談の中からも新たな成果が生まれてくる』、「「今年(2023年)が山場かな」 苦しい資金繰りを強いられるのは2023年度まで、と三木谷は言う。その後は、設備投資が一段落し、自社のアンテナが届かない場所でKDDIのアンテナを借りている「ローミング」のコストも劇的に下がる。そして海外の通信会社に「完全仮想化」の技術が売れ始める」、なるほど。
次に、この続き、9月11日付け文春オンラインが掲載したノンフィクション作家の大西 康之氏による「楽天カードマンでも、米倉涼子でもない…楽天・三木谷浩史の「テレビCM嫌い」を変えた“意外な人物”の正体『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』 #2」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/65585
・『楽天カードマンや楽天モバイルの米倉涼子さんなど、見る人の心に残る「印象的なCM」を発信しつづける楽天グループ。ところが、代表の三木谷浩史氏はかつて「広告もネットの時代。テレビCMは時代遅れ」と思っていたことも……。 そんな三木谷氏の心を変えた、楽天グループの超重要人物とは一体? ノンフィクション作家の大西康之氏の新刊『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)』、興味深そうだ。
・『楽天モバイル新社長は「駅前留学」の営業マン 「楽天モバイルは次のステップに進む」 三木谷がそう宣言したのが、2022年3月30日付で発令された楽天モバイルのトップ人事である。会長兼CEOだった三木谷が会長に退き、副社長のタレック・アミンがCEO、同じく副社長の矢澤俊介が社長に就任した。アミン49歳、矢澤41歳。40代のツートップである。 完全仮想化の立役者で、世界の通信業界に顔が効くアミンのCEO就任は分かる。しかしなぜ「たたき上げ」の矢澤が社長なのか。そう尋ねると、三木谷は「当たり前だろ」という表情でこう言った。 「あいつは楽天流の体現者だから」 三木谷が言う「楽天流」とは、大学の体育会さながらの「身体性」を指す。その典型が、週に1度、全スタッフが行うデスクまわりの掃除だ。三木谷以下、役員・社員の全員が、自分の机やイスの脚まで、雑巾できれいに拭く。 三木谷は楽天グループが事業を通じて実現しようとしている価値観を「ブランド・コンセプト」と称して5つの四文字熟語で表現している。 「大義名分」「品性高潔」「用意周到」「信念不抜」 この4つを三木谷の父・良一が息子に授け、三木谷がそこに「一致団結」を加えた。ネット企業らしからぬ古めかしい標語こそ、三木谷という経営者が持つもうひとつの特性を象徴している。 三木谷はデータに基づき、ロジックで経営判断を下す。しかし、学生時代、一橋大学テニス部主将として弱小チームを率い、その後就職した興銀(日本興業銀行、現・みずほ銀行)の9年間、実務に携わった三木谷は、大きな判断を実現するのはひとつひとつの小さな行動の積み重ねであることを知っている。 だから「頭でっかちにならず、体を動かせ」と社員に説き、自ら雑巾を持って社員と同じ作業をする。グーグル、アマゾンといったシリコンバレーのテック・ジャイアントを思わせる二子玉川の洒落たオフィスで、全社員が腰をかがめて雑巾掛けをする様子は、楽天の企業文化が米欧と日本のハイブリッドであることを示している。 三木谷は人事でも「身体性」を大切にする。その象徴が矢澤俊介だ。長身痩躯で色白の矢澤は、目から鼻に抜けるようなタイプではなく、まわりを安心させるほんわかした雰囲気を持つ。仕事になると、理屈を並べる前にとにかく体を動かす。) 東京の中堅どころの私大を出た矢澤は、営業マンとして「駅前留学」で有名な英会話のNOVAに入社した。入社3年目のとき、自分の面倒を見てくれていたNOVAのマネージャーが楽天に転職した。矢澤は見捨てられたような気持ちになったが、1ヵ月後、そのマネージャーから「お前も来いよ」と誘われ、楽天に入った。2005年6月のことだ』、「実務に携わった三木谷は、大きな判断を実現するのはひとつひとつの小さな行動の積み重ねであることを知っている。 だから「頭でっかちにならず、体を動かせ」と社員に説き、自ら雑巾を持って社員と同じ作業をする。グーグル、アマゾンといったシリコンバレーのテック・ジャイアントを思わせる二子玉川の洒落たオフィスで、全社員が腰をかがめて雑巾掛けをする様子は、楽天の企業文化が米欧と日本のハイブリッドであることを示している」、「三木谷は、大きな判断を実現するのはひとつひとつの小さな行動の積み重ねであることを知っている。 だから「頭でっかちにならず、体を動かせ」と社員に説き、自ら雑巾を持って社員と同じ作業をする・・・二子玉川の洒落たオフィスで、全社員が腰をかがめて雑巾掛けをする」、初めて知った。
・『クルマも半額、カニも半額 楽天に入社した矢澤の仕事は「ECコンサルタント」。ネット通販(EC)の楽天市場に出店する店舗からの「どうやったらネットで売り上げを伸ばせるか」という相談に乗る役回りだ。北海道から沖縄まで週の半分は全国を飛び回り、地方の中小企業経営者と知恵を絞った。 矢澤が担当した店舗の中に名古屋に本社を置く「オークローンマーケティング」という会社があった。社長のロバート・ローチは学生時代に交換留学で名古屋の南山大学に来たことがあり、デンバー大学を卒業後、名古屋に戻ってテレビ通販のビジネスを始めた。 そのオークローンマーケティングが通販で細々と売っていたのが「ビリーズブートキャンプ」。米国出身の黒人格闘家、ビリー・ブランクスが米軍の新兵向け基礎訓練をベースに考案したエアロビクス体操のインストラクション・ビデオだ。 「さあ行こう!」「もう一回!」「グッジョブ!」 ビートの効いた音楽とビリー隊長の掛け声に乗せられ、きついトレーニングを楽しく続けられるところがミソだ。 「これはいける!」と矢澤は直感。名古屋に飛んで行ってローチに掛け合い、楽天市場で大々的に売り出した。これが月に1億円売れるおばけ商材になった。あまりに売れたのでプロモーションで来日したビリー隊長が、当時は六本木ヒルズにあった楽天本社を表敬訪問したほどだ。この成功で「楽天市場に矢澤あり」と社内で認められるようになり、三木谷の目にも止まった。 2011年の年末、31歳でペット用品のマネージャーになっていた矢澤は、三木谷に呼び出された。 「アリババが1日で1兆円売ったらしいぞ」) ジャック・マー(馬雲)が創業し孫正義が出資した中国のEC大手、アリババ・ドット・コムは1が4つ並ぶ11月11日の「独身の日」に、大安売りのセールを始めた。 日本を抜きGDPで世界第2位に躍り出た中国大衆の購買力は凄まじく、独身の日はアメリカでクリスマスセールの初日に当たる11月第4金曜日、「ブラック・フライデー」を抜いて「世界でいちばんものが売れる日」になった。 「うちもやるぞ。お前、考えろ。来年の1月。とりあず1日100億円な」 「いや1月ってのは、ちょっと……」 「いつならできる?」と迫る三木谷の圧力に負け、矢澤は「じゃあ3月」とつい答えてしまった』、「ビリーズブートキャンプ」を「「これはいける!」と矢澤は直感。名古屋に飛んで行ってローチに掛け合い、楽天市場で大々的に売り出した。これが月に1億円売れるおばけ商材になった・・・この成功で「楽天市場に矢澤あり」と社内で認められるようになり、三木谷の目にも止まった」、「独身の日はアメリカでクリスマスセールの初日に当たる11月第4金曜日、「ブラック・フライデー」を抜いて「世界でいちばんものが売れる日」になった。 「うちもやるぞ。お前、考えろ。来年の1月。とりあず1日100億円な」・・・「いつならできる?」と迫る三木谷の圧力に負け、矢澤は「じゃあ3月」とつい答えてしまった」、なるほど。
・『1日で100億円を集めるための秘策 楽天市場で空前のヒットとなった「ビリーズブートキャンプ」の売り上げが1ヵ月で1億円であることを考えれば、1日100億円がいかに途方もない数字であるかがわかるだろう。 このときの矢澤は一介のカテゴリー・マネージャーにすぎない。「1日に100億円売ろう」と言ってもまわりは「お前が勝手に社長と約束しただけだろ」と動いてくれない。当時の楽天市場の1日の最高売り上げは50億円である。 「だいたい、1日100億円なんて、できるわけないだろ」 周囲の冷たい視線を浴びながら、矢澤は楽天市場の全国の有力店舗に足を運び、「目玉商品を出してください」「半額セールに協力してください」と頭を下げて回った。当時、楽天が本社を構える品川シーサイドのビルに1000人の店舗関係者を集め、お揃いのTシャツを配った。胸には「この日、日本の景気が動く」の文字。矢澤が音頭を取り「えい、えい、おー!」と気勢を上げた。 1日100億円を達成するため、矢澤は三木谷に一つだけ頼みごとをした。 「テレビ・コマーシャルを使わせてください」 前職のNOVAも爆発的に顧客が増えたのは、「いっぱい聞けて、いっぱいしゃべれる」の歌に乗って踊る「NOVAうさぎ」のテレビCMがきっかけだった。三木谷は「広告もネットの時代。テレビCMは時代遅れ」と考えていたが、矢澤は「多くの人にリーチする力はテレビCMのほうが上」であることを経験で知っていた』、「「1日に100億円売ろう」と言ってもまわりは「お前が勝手に社長と約束しただけだろ」と動いてくれない。当時の楽天市場の1日の最高売り上げは50億円である・・・矢澤は楽天市場の全国の有力店舗に足を運び、「目玉商品を出してください」「半額セールに協力してください」と頭を下げて回った・・・矢澤は「多くの人にリーチする力はテレビCMのほうが上」であることを経験で知っていた」、なるほど。
・『「クルマも半額、カニも半額」 矢澤が案を出したド派手な楽天市場のテレビCMは、消費者の心を掴んだ。今や毎年恒例になっている「楽天スーパーセール」の始まりだ。あらゆるジャンルで「半額」の目玉商品を並べ、楽天市場の中で通貨として使える「楽天スーパーポイント(現在は楽天ポイント)」も大盤振る舞い。これまで楽天市場を使ったことのない人々がドッと押し寄せ、1日127億円を売る大成功を収めた。 三木谷もテレビCMが好きになり、川平慈英を使った「楽天カードマン」や米倉涼子を起用した「楽天モバイル」などの、ド派手な映像が楽天のテレビCMの系譜になる』、「矢澤が案を出したド派手な楽天市場のテレビCMは、消費者の心を掴んだ。今や毎年恒例になっている「楽天スーパーセール」の始まりだ。あらゆるジャンルで「半額」の目玉商品を並べ、楽天市場の中で通貨として使える「楽天スーパーポイント(現在は楽天ポイント)」も大盤振る舞い。これまで楽天市場を使ったことのない人々がドッと押し寄せ、1日127億円を売る大成功を収めた。 三木谷もテレビCMが好きになり、川平慈英を使った「楽天カードマン」や米倉涼子を起用した「楽天モバイル」などの、ド派手な映像が楽天のテレビCMの系譜になる」、なるほど。
・『なぜ「楽天はダサい」のか? 楽天市場とアマゾンのサイトを比べ「楽天はダサい」という声を聞く。テレビCMも洗練されているとは言い難い。だがそこには三木谷なりの狙いがある。 「うちのサイトはニューヨークの五番街じゃなくて、アジアのバザール。スッキリしてないけど猥雑で、なんか面白いものがあるんじゃないかとワクワクする。かっこよくしなくてもいいんだ」 こうした大衆心理を楽天の中でいちばん理解しているのが矢澤である。臆面もなく「カニも半額」とやれる矢澤は、入社7年目、32歳の若さで営業統括の執行役員に抜擢された。以来、三木谷は矢澤を懐刀として常にそばに置くことになる』、「「うちのサイトはニューヨークの五番街じゃなくて、アジアのバザール。スッキリしてないけど猥雑で、なんか面白いものがあるんじゃないかとワクワクする。かっこよくしなくてもいいんだ」 こうした大衆心理を楽天の中でいちばん理解しているのが矢澤である。臆面もなく「カニも半額」とやれる矢澤は、入社7年目、32歳の若さで営業統括の執行役員に抜擢された。以来、三木谷は矢澤を懐刀として常にそばに置くことになる」、凄い人物が「懐刀」のようだ。
第三に、9月20日付けダイヤモンド・オンライン「【無料公開】楽天に蔓延する「不正連鎖」の闇、今度はモバイル部門で発覚した金銭着服の全構図」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/329385
・『楽天グループの携帯電話子会社、楽天モバイルで基地局建設の工事発注を巡って下請け業者を巻き込んだ大規模な不正が発覚した。この構図は、日本郵政との提携と引き換えに切り捨てた物流事業「楽天エクスプレス」で明らかになった金銭着服の不正と酷似する。楽天の内部で腐敗がまん延するのはなぜなのか。特集『楽天 解体の序章』(全6回)の#2では、楽天グループを覆う「不正連鎖」の闇に迫る。 ※2022年12月27日に公開した有料会員向け記事を、期間限定で無料公開します。全ての内容は初出時のまま』、興味深そうだ。
・『中堅物流会社の経営破綻で発覚したモバイル部門の不正請求は巨大化の可能性 日本最大級の物流倉庫が立ち並ぶ千葉県流山市。巨大物流倉庫群「アルファリンク」の一角に、楽天グループの携帯電話子会社、楽天モバイルが基地局の資材を保管している「流山センター」という物流拠点がある。 この倉庫では、楽天モバイルの発注に応じて、基地局工事に必要な資材をワンパッケージに梱包し、全国各地の基地局工事業者に配送する作業が行われていた。流山センターの運営は2022年8月30日付で民事再生法の適用を申請した中堅物流会社の日本ロジステック(東京都千代田区)である。 楽天モバイル側で日本ロジへの発注業務を担っていたのが、部長職にあった元従業員のA氏だった。しかし、この業務の裏でA氏は巨額の水増し請求により金銭を着服していたことが発覚。楽天モバイルはA氏を懲戒解雇して刑事告訴しており、楽天グループを揺るがす巨額不正に発展しようとしている。 不正発覚のきっかけとなった日本ロジの再生手続きの関連資料によると、楽天モバイルが日本ロジからの不正請求で被った損害額は総額46億円。A氏と日本ロジ役員らの「共謀」により、19年10月から22年3月にかけて水増し請求が繰り返されていたとしている。まさに20年4月に携帯電話サービスを開始した楽天モバイルが基地局建設を加速したさなかに、不正が行われていた。 この不正取引に詳しい内部関係者は「日本ロジの経営破綻で表沙汰になった不正は氷山の一角」と証言する。楽天モバイルの基地局工事を巡って横領された金額は46億円をはるかに上回る規模になる可能性があるというのだ。 ダイヤモンド編集部は、複数の関係者の証言を通じて、楽天モバイルの内部で行われていた「不正な金銭着服の構図」をひもといた。次ページでは、その全体像を明らかにする。同時に、楽天グループ内で不正連鎖の温床となった組織の問題点に迫る』、「楽天モバイルが日本ロジからの不正請求で被った損害額は総額46億円。A氏と日本ロジ役員らの「共謀」により、19年10月から22年3月にかけて水増し請求が繰り返されていた・・・横領された金額は46億円をはるかに上回る規模になる可能性がある」、これは大変だ。
・『小さな運送会社と築いた巨大な不正請求スキーム 関係者によると、楽天モバイルの基地局建設の裏で、不正金銭授受に関わった人物は主に3人。楽天モバイル元従業員のA氏、神奈川県相模原市を拠点にする運送会社T社社長のB氏、日本ロジで楽天を担当していた元役員のC氏だ。このうち不正取引を首謀したのはA氏とB氏の2人だったという。 楽天モバイルの委託を受けて、日本ロジの流山センターでは、基地局資材の保管と全国の基地局業者への配送を行っていたが、この作業を実際に担っていたのはT社だった。基地局資材を運ぶ車両とドライバーを用意するとともに、流山センターで作業するスタッフのほとんどは、T社100%子会社の人材派遣会社IMAX(アイマックス)から派遣されていた。 首謀者の2人が繰り返した水増し請求の流れはこうだ。(1)A氏は、楽天モバイルの予算に応じて、B氏に水増し請求書の作成を指示、(2)B氏は楽天モバイルの「元請け」の立場にいた日本ロジに請求書を発行、(3)日本ロジがマージンを乗せて発注元の楽天モバイルに請求――という枠組みだった。 (図表:楽天モバイル不正な資金還流スキーム はリンク先参照) この枠組みが動きだしたのは、19年10月ごろで、まさに楽天モバイルの通信ネットワーク整備の遅れが表面化したタイミングに重なる。 当時、楽天モバイルは10月から予定していた携帯サービスを開始できず、基地局を急ぎ建設することが最重要課題となっていた。その裏で、資材配送に関わっていた2人は不正にいそしんでいたことになる。関係者によると「すでにこの頃からT社は、A氏の指名によって楽天モバイルの基地局資材の配送業務のほとんどを担うようになっていた」という。 しかし、T社は相模原市で運送事業を営む小規模事業者にすぎなかった。運送業界での知名度は全くなく、楽天モバイルで増加する配送業務を直接受託するだけの信用がない。このためA氏とB氏にとっては「仕方なく、(業界で実績のある)日本ロジを中間業者として挟む必要があった」(前出の関係者)のだ。 日本ロジのC氏は2人の共謀を把握しながら、楽天モバイルの発注をT社に丸投げする元請け業者として、いわば“トンネル”の役割を果たしていたようだ。C氏の主な狙いは、楽天モバイルとT社をつなぐ中間マージンを得て、売り上げを増やすことにあったとみられる。 実際に日本ロジの売上高は、楽天モバイルの携帯サービス開始とともに急増。19年3月期の売上高は106億円だったのに対し、翌20年3月期に133億円、21年3月期に220億円、22年3月期に405億円と3年間で売上高が4倍近くまで膨れ上がった。この増加分のほとんどは、楽天モバイルとの取引が底上げしたのは間違いない。 こうして楽天モバイルの基地局資材の保管や配送を一挙に担うことになったB氏は20年ごろから、本業の運送業務に加え、楽天モバイルの基地局工事の受託業務にも手を広げている。 もちろん、これもA氏との強い関係で受託した事業だ。運送会社のT社に基地局工事の知見はないが、長崎県出身のB氏は地元の知り合いなどに声を掛けて2次請け基地局工事業者を集め、九州の基地局工事を受注する中間業者として売り上げを増やしていった。 この結果、T社の業容も見る見るうちに拡大。19年3月期に9億円だった売上高は20年3月期に26億円、21年3月期は92億円、22年3月期は192億円まで急増した。 だが、こうした巨大な不正のスキームは突如崩壊した。22年に入って内部告発を受けた楽天モバイルはA氏の調査に着手し、不正な金銭授受を把握。8月12日付でA氏を懲戒解雇した上で、19日付で日本ロジの預金口座を差し押さえたことで、取引先への支払いができなくなった日本ロジが経営破綻に追い込まれた。 T社に近い関係者によると、ここで楽天モバイルはT社の預金も差し押さえたようだ。この結果、T社は9月1日以降、ほぼ全ての事業を停止。10月29日付で全従業員を解雇しており、いまや事業会社としての実態はない。100%子会社のアイマックスも、9月1日以降に事業を停止して同15日付で全従業員を解雇した。 前述の通り、楽天モバイルが中間業者の日本ロジの不正請求で受けた損害が46億円なら、A氏とB氏が共謀した器となったT社から受けた損害額は、日本ロジをはるかに上回る可能性が高い。 実際に、楽天モバイルがT社から被った損害はどのくらいの規模だったのか。ダイヤモンド編集部の取材に対して楽天モバイルは「現在(当局の)捜査中のため、詳細の回答を控えさせていただきます」と書面で回答。詳しい資金の流れや金銭授受の解明は、警視庁の捜査を待つだけという姿勢である。 いまだ楽天モバイルとT社の関係は闇の中だが、基地局工事を巡る金銭着服は、グループを揺るがす巨大な規模に発展する恐れがある。実は、T社は楽天グループ内部の別の不正にも関与していたのだ』、「楽天モバイルが中間業者の日本ロジの不正請求で受けた損害が46億円なら、A氏とB氏が共謀した器となったT社から受けた損害額は、日本ロジをはるかに上回る可能性が高い・・・いまだ楽天モバイルとT社の関係は闇の中だが、基地局工事を巡る金銭着服は、グループを揺るがす巨大な規模に発展する恐れがある」、なるほど。
・『三木谷氏肝いり2事業は不正連鎖の温床だった これだけ大掛かりな不正のスキームを築き上げたA氏とB氏は何者なのか。 業界関係者によるとA氏は、楽天グループに入社する以前は、アマゾンジャパンで物流を担当していたという。楽天グループが携帯サービスを開始するのに合わせて楽天本体から楽天モバイルに異動したが、経歴の“本職”は物流だ。 一方のB氏のキャリアは日本ロジの倉庫でのフォークリフトの運転手から始まった。日本ロジ退社後に運送会社を立ち上げ、当初は、アマゾンジャパンの物流業務を受託して事業を軌道に乗せてきた。 このとき、アマゾンの運送業務をB氏に委託した担当者が、他ならぬA氏だった。以来、アマゾンジャパンの発注元と委託先運送会社として関係を深めた2人は、A氏が楽天グループに転職して以降も、発注元・委託先の関係を継続することになった。 こうしてA氏は、楽天モバイルを舞台にした巨大な不正のスキームをB氏と共に作り上げるに至ったが、実はA氏は楽天モバイルに異動する前に、ある新規事業に関わっていた。 それが21年5月に突如として終了した自前物流サービス「楽天エクスプレス」だ。16年11月から試験的に始まったこの事業を巡っては、担当していた元執行役員が18~20年の事業拡大とともに下請けの運送会社に水増し請求させて、金銭を不正に着服していたことが発覚している。 元執行役員がヤマトホールディングス傘下のヤマト運輸から楽天に転職したのは15年以降。最初に配属された部署の上司だったのがA氏だった。 その後、元執行役員は楽天エクスプレス事業を本格的に任されて、業務を委託した下請けの運送会社に業務委託料をキックバックさせる不正行為に手を染めていく。そこで重要な事実が、楽天エクスプレスの委託先の運送会社の一社に名前を連ねていたのがT社だったことである。 元楽天で2人を良く知る人物は「入社はA氏の方が古く、2人は非常に親密な上下の関係にあった」と証言する。別の内部関係者も「楽天エクスプレスと楽天モバイルの水増し請求は連続した不祥事だ」と話す。 楽天エクスプレスで不正を働いた元執行役員と、楽天モバイルでの不正が発覚したA氏。そして2人が共通して運送業務を委託していたのがT社だったということだ。 つまり、楽天エクスプレスと楽天モバイルの二つの金銭着服の根はつながっており、楽天グループ内部で不正行為が連鎖した構図があらわになったのだ。 だが楽天グループは、この点についての詳細をあいまいにしたままだ。そもそも、先行して発覚した楽天エクスプレスの不正行為については、内部で何が行われていたかという実態が公表されないまま、元執行役員は21年3月末までにひっそりと楽天グループを去っている。 その時点で徹底した真相究明が行われないまま、今回のモバイル事業の不正行為が発覚したのは、楽天グループの「組織としての隠蔽体質」が招いた結果である。 今回も楽天モバイルは、懲戒解雇して刑事告訴したA氏について「取引先を含めて不正請求に関与した者に、刑事上および民事上の責任追及を行っていく予定」として、あくまで個人の責任追及にとどめようとする姿勢を示している。一方で「社内で調査委員会は設置していて、引き続き事実関係の確認、原因究明および再発防止の策定等は行っている」としているが、その情報開示には極めて消極的である。 二つの不正に関与した人物、舞台となった企業につながりがある以上、組織的関与が疑われるべきだ。徹底した真相究明なくして、楽天グループにまん延する「不正の闇」が根絶されることはないだろう。 かつて楽天エクスプレスは三木谷浩史会長兼社長の肝いり事業だったが、日本郵政との提携をきっかけに、あっさりとその事業を切り捨てている。そして今また、三木谷氏が命運を懸ける楽天モバイル事業で巨大な不正が広がりを見せていることは、グループの先行きに暗い影を落とすことだけは間違いない』、「先行して発覚した楽天エクスプレスの不正行為については、内部で何が行われていたかという実態が公表されないまま、元執行役員は21年3月末までにひっそりと楽天グループを去っている。 その時点で徹底した真相究明が行われないまま、今回のモバイル事業の不正行為が発覚したのは、楽天グループの「組織としての隠蔽体質」が招いた結果である」、「楽天エクスプレスと楽天モバイルの二つの金銭着服の根はつながっており、楽天グループ内部で不正行為が連鎖した構図があらわになったのだ。 だが楽天グループは、この点についての詳細をあいまいにしたままだ」、「二つの不正に関与した人物、舞台となった企業につながりがある以上、組織的関与が疑われるべきだ。徹底した真相究明なくして、楽天グループにまん延する「不正の闇」が根絶されることはないだろう」。「組織としての隠蔽体質」の打破が解決のカギになるのだろう。
先ずは、本年9月11日付け文春オンラインが掲載したノンフィクション作家の大西 康之氏による「「楽天ってやばいんでしょ。モバイルの借金がすごくて」営業損益は4928億円の赤字……それでも三木谷浩史が「楽天モバイルの成功」を信じる理由 『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』 #1」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/65584?logly=&ref=article_link
・『2022年度の通期決算で、モバイル事業の営業損益は4928億円の赤字……。現状は多くの日本人から「失敗事業」と捉えられている楽天モバイル。しかし同事業の成功を、三木谷浩史が信じる理由とは? ノンフィクション作家の大西康之氏の新刊『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)』、興味深そうだ。
・『商談 2023年2月27日、スペイン・バルセロナで世界最大の通信ビジネス国際見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」が始まった。 会場の「フィラ・デ・バルセロナ」は36万平方メートルという広大な敷地に巨大なホールが立ち並ぶ。MWCには毎年、世界200ヵ国から6万~8万人の通信事業の関係者が集まり、最先端のテクノロジーを競い合う。 午前11時15分、「楽天グループ」会長兼社長の三木谷浩史を乗せた黒いベンツのワンボックスカーがVIP受け付けの車寄せに滑り込んできた。初日ということもあり、入り口は黒塗りの車でごった返し、三木谷の到着は予定より少し遅れた。 三木谷を出迎えたのは、2022年にグローバルセールス・マーケティング統括として楽天グループに加わったラビー・ダブーシ。米通信大手「シスコシステムズ」の幹部でスマートシティ戦略を推進してきた。シスコ中興の祖ジョン・チェンバースの懐刀だったが、チェンバースが引退するとき、シスコの同僚だった楽天グループ副社長、平井康文の誘いで「楽天モバイル」に移籍した。世界の通信業界で、このジェイソン・ステイサム風のスキンヘッドの男を知らない者はいない。 三木谷は会場で待ち受けていた広報担当者に手渡されたミーティング資料に目を通しながら、人の波をかき分け猛烈なスピードで進む。後ろから三木谷の秘書が駆け足で追いかける。突然、三木谷が振り向く。 「えっと、この人のファースト・ネームはなんだっけ?」 「こちらです」 すかさず広報がファイルの当該ページを指す。 「これ、なんて読むの?」 欧州の携帯電話大手のCFOだ。楽天モバイルのブースに到着すると、楽天モバイルCEOのタレック・アミンと楽天シンフォニーのアメリカ支社長、アジータ・アルバニが待ち構えていた。アミンはヨルダン出身で米国、インドの通信大手を渡り歩き、「携帯電話ネットワークの完全仮想化」という画期的なアイデアを携えて2018年に楽天入りした。優雅にブロンドを靡かせるアルバニは、フィンランドの携帯大手「ノキア」でイノベーション事業を担当していた。 4人は一言二言、言葉をかわすと、顧客が待つブースの会議室に入った。 「お待たせして申し訳ありません。車がものすごく混んでしまって」 三木谷はいつものように英語で商談を始めた。 MWCの楽天ブースで次から次へと商談をこなしていた三木谷は、一瞬だけブースの部屋から顔を出し、筆者に声をかけてきた。 「連れション行かない?」 個別インタビューの時間が取れないから、三木谷なりに気を遣ったのだろう。2人でトイレを目指す。 「すごい過密スケジュールですね」 「そうね。関心を持ってもらっているのはありがたい」』、「この人のファースト・ネームはなんだっけ?」・・・ 「これ、なんて読むの?」、確かにスペリングだけでは、「発音」は分からない。「三木谷は、一瞬だけブースの部屋から顔を出し、筆者に声をかけてきた。 「連れション行かない?」 個別インタビューの時間が取れないから、三木谷なりに気を遣ったのだろう」、マスコミ対策もずいぶん凝った仕掛けだ。
・『世界が「楽天モバイル」に注目する理由 アジアの東の端で、最後発で携帯電話事業に参入した楽天モバイルが、世界中の注目を集めている。それは「携帯ネットワークの完全仮想化」という、これまで誰もやったことのないイノベーションを商用ベースで実現したからだ。 「仮想化」とは簡単に言うと、ハードをソフトに置き換えることだ。たとえば、1980年代初めは、誰もが「書院」とか「オアシス」といったワープロ専用機を使っていたが、1985年ころからはパソコンにインストールされた「一太郎」や「ワード」といった日本語ワープロソフトを立ち上げて文書を作成するようになった。「キーボードを叩いて文字を書く」という作業がハードウェアからソフトウェアに置き換わったわけだ。 どんなパソコンでも文書が作成できるようになったように、楽天モバイルの通信技術は、基地局に高価な専用機器を使わなくても、汎用サーバとソフトウェアだけで携帯電話の通信を可能にした。この状況は、かつて大企業や中央官庁で標準的に使われた大型コンピューターを中心とする「メインフレーム・システム」が、1990年代にはパソコンとサーバをネットワークした「クライアント・サーバ・システム」に置き換わっていったこととよく似ている。 中央集権的なメインフレーム・システムの場合、それにつながる端末からデータを蓄積するストーレージ、果てはプリンターまで周辺機器を含め、すべてをひとつのメーカーの仕様に合わせなくてはならなかった。その生態系の頂点に君臨したのが米IBMであり、IBMのメインフレームを選んだユーザーは、システム丸ごとの構築をIBMに委ねるしかなかった。 これに対して、ほとんどのデータ処理をソフトウェアがこなすクライアント・サーバ・システムでは、ユーザーはさまざまなメーカーの機器を自由に組み合わせて使用することが可能になった。競争状態が生まれることでシステムの投資負担は劇的に引き下がる。 既存の携帯ネットワークはメインフレーム・システムと同じ中央集権型である。携帯電話事業者は、通信機器メーカーの大手─「ノキア」、「エリクソン」、「華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)」の3社で世界シェアの8割を占める─に通信設備を発注すると、メーカー1社にすべてを丸投げすることになる。) 一方、楽天モバイルの完全仮想化ネットワークはクライアント・サーバ・システムと同じ分散型だ。携帯電話会社は好きなメーカーの安い汎用サーバを自由に組み合わせてネットワークを構築することができる。業界用語でこれを「Open RAN(オープン・ラン=機器の組み合わせが自由な無線アクセス・ネットワーク)」と呼ぶ。 設備投資は既存の通信ネットワークに比べ30%安くなり、運用・管理コストは40%安くなる。楽天は「楽天シンフォニー」という会社を作り、この技術をパッケージにして海外の通信会社に売り込んでいる』、「楽天モバイルの完全仮想化ネットワークはクライアント・サーバ・システムと同じ分散型だ。携帯電話会社は好きなメーカーの安い汎用サーバを自由に組み合わせてネットワークを構築することができる・・・設備投資は既存の通信ネットワークに比べ30%安くなり、運用・管理コストは40%安くなる」、なるほど。
・『追い風 場面をバルセロナのMWCに戻そう。トイレに着くと三木谷は用を足しながらこう呟いた。 「去年まで(の商談相手)は、お手並み拝見という感じだったけど、今年は本気で導入を考えている。真剣さが違う」 装置産業である携帯電話事業は設備に莫大なカネがかかる。日本の通信大手で言えば、年間のインフラ投資は5000億円近い。それが3割安ければ3500億円で済む。 ワープロと同じように携帯電話ネットワークもハードからソフトに置き換わる。それは通信業界共通の認識だった。しかし、ランダムに移動する何千万台もの端末を捕まえる携帯ネットワークの仮想化は物理的には凄まじくむずかしい。通信大手のほとんどがこの技術に取り組んでいたが、「実用化するのはまだ数年は先のこと」だと考えていた。 ところが門外漢の楽天が世界で初めてこれに挑戦した。2020年春にサービスを本格的に開始したとき、世界の通信会社は「絶対失敗する」とたかを括っていた。だが、小さな事故はいくつか起きたものの、ネットワーク全体が何日にもわたって止まるような大きな事故はこれまでのところ起きていない。日本ではすでに500万人近い利用者が、毎日、ふつうに楽天モバイルを使っている。 「どうやらできちゃったみたいだぞ、って感じでしょ」 用を足し終えた三木谷は満足げに言った』、「ランダムに移動する何千万台もの端末を捕まえる携帯ネットワークの仮想化は物理的には凄まじくむずかしい。通信大手のほとんどがこの技術に取り組んでいたが、「実用化するのはまだ数年は先のこと」だと考えていた。 ところが門外漢の楽天が世界で初めてこれに挑戦した。2020年春にサービスを本格的に開始したとき、世界の通信会社は「絶対失敗する」とたかを括っていた。だが、小さな事故はいくつか起きたものの、ネットワーク全体が何日にもわたって止まるような大きな事故はこれまでのところ起きていない。日本ではすでに500万人近い利用者が、毎日、ふつうに楽天モバイルを使っている」、大したものだ。
・『「米中摩擦」の追い風 楽天モバイルにはもうひとつの追い風が吹いている。「米中摩擦」だ。 中国の台頭に神経を尖らせる米国は、中国の通信大手、ファーウェイを自国市場から締め出した。そこへロシアのウクライナ侵攻が重なる。 「次は中国による台湾侵攻か」と誰もが懸念せざるを得ない状況で、安全保障の要となる通信インフラで中国企業への依存を減らしたいという思惑が各国に働いている。いわゆる「チャイナ・フリー」だ。かといって価格の安いファーウェイから欧米の老舗メーカーに戻せば設備投資のコストが跳ね上がる。そこに登場したのが、安くて、地政学的に安全な日本の楽天モバイルが開発した「完全仮想化」だ。「試してみたい」と考えている国や地域は少なくない。 世界の通信大手が「完全仮想化」「Open RAN」に乗り換えた場合、その市場規模は15兆~20兆円とされる。もちろん楽天シンフォニーがそのすべてを手に入れるわけではないが、世界で最初の完全仮想化を成し遂げたアドバンテージは間違いなく存在する。) この日、三木谷は夕方の6時までぶっ通しで5件の商談を続けた。その後、アミンたち、リアルではなかなか会えない楽天幹部を集めて1時間ほどミーティングをこなし、そのまま顧客の接待に出かけた。この夜はディナーが2件。そこから、仲のいい欧州の大物起業家とバルセロナの街に繰り出し深夜まで痛飲した』、「世界の通信大手が「完全仮想化」「Open RAN」に乗り換えた場合、その市場規模は15兆~20兆円とされる。もちろん楽天シンフォニーがそのすべてを手に入れるわけではないが、世界で最初の完全仮想化を成し遂げたアドバンテージは間違いなく存在する」、確かに売り物になりそうだ。
・『世界標準の赤字 日本ではさかんに「経営難」が喧伝される楽天が海外の携帯市場では台風の目になりつつある。 三木谷は楽天市場や楽天カードで稼いだ利益を携帯事業に注ぎ込み、日本で「完全仮想化」「Open RAN」を実証した。しかし技術的に「できた」ことと「稼ぐ」ビジネスではわけが違う。2022年12月期の連結決算は最終損益が3728億8400万円の赤字。最終赤字は4期連続だ。 この赤字、三木谷にすれば「世界進出」の野望に向けたベット(賭け金)なのだが、日本のメディアは危機的な「業績不振」と見る。 〈楽天グループが苦境〉(日本経済新聞電子版2022年2月18日) 「楽天ってやばいんでしょ。モバイルの借金がすごくて」 筆者の周りでも、そう話す人が増えている。 2022年度の通期決算。モバイル事業の営業損益は4928億円の赤字だった。三木谷自身も「危機といえば危機」と認める。楽天が2022年11月と2023年1月に発行したドル建て無担保社債の利率は10.25%。2019年に発行したドル建て債の利率(3.5%)と比べると約3倍の高利、資金需要の逼迫ぶりが分かる。 だが、世界標準の見方をすれば、新規事業に挑む企業が抱える赤字としては、「健全な数字」だ。 EC(インターネット通販)大手の「アマゾン・ドット・コム」も、EV(電気自動車)の「テスラ」も創業からしばらくは大赤字が続いた。どんな企業でも、新たな事業を始めようと思えば先行投資で最初は赤字が続く。その苦しい期間を支えるのがベンチャー投資家であり銀行だ。冬の時代を耐え抜いた起業家、投資家、銀行は、事業が花開いたときに莫大な利益を手にする。これが資本主義のダイナミズムである。) テスラが廉価モデル「モデル3」の量産に苦戦し「プロダクション・ヘル(生産地獄)」に嵌まり込んでいた2017年、米国の著名なベンチャー投資家はこういった。 「われわれは鼻血が出そうな損失、涙が出そうなキャッシュ・バーン(現金燃焼)、頻繁に公表される胸が躍るようなニュースに慣れっこになっている」 3ヵ月ごとに3000億~4000億円を「燃やしていた」とされる、あの頃のテスラに比べれば、今の楽天グループの赤字など「可愛いもの」とさえ言える。 全国に7万局の基地局を開設し、販売・サービス体制を整える。全国を網羅する携帯ネットワークをゼロから作っているのだから、最初の数年が大赤字になるのは当たり前だ』、「全国に7万局の基地局を開設し、販売・サービス体制を整える。全国を網羅する携帯ネットワークをゼロから作っているのだから、最初の数年が大赤字になるのは当たり前だ」、ただ、「2023年1月に発行したドル建て無担保社債の利率は10.25%。2019年に発行したドル建て債の利率(3.5%)と比べると約3倍の高利」と、マーケットは厳しく見ているようだ。
・『「今年が山場かな」 2022年度、国内ECの営業損益は前期比36.6%増の956億円の黒字、「楽天カード」に代表されるフィンテック事業の営業損益も10.8%増の987億円の黒字。ひとつのプロジェクトが完成してキャッシュが手に入るまで何年もかかるゼネコンなどと違い、ECもフィンテックも日銭が入る商売なので、利払いに詰まることはまずない。貸し手からすれば、取りはぐれの少ないビジネスだ。 それでも銀行出身で用心深い三木谷は、外部からの出資受け入れや、楽天銀行の上場などで資本を分厚くしようとしている。 「今年(2023年)が山場かな」 苦しい資金繰りを強いられるのは2023年度まで、と三木谷は言う。その後は、設備投資が一段落し、自社のアンテナが届かない場所でKDDIのアンテナを借りている「ローミング」のコストも劇的に下がる。そして海外の通信会社に「完全仮想化」の技術が売れ始める。 楽天シンフォニーは3月1日、サウジアラビアの通信大手ザインKSAと携帯ネットワーク仮想化技術での提携を発表した。MWCの期間中、日本メディアのぶら下がり取材を受けた三木谷は、楽天シンフォニーの受注残高が4500億円に達していることを明かした。 さらに今回、三木谷はバルセロナに滞在した3日間で北米、欧州、中東、アジアの通信大手14社と商談をこなした。三木谷以外の幹部が対応した案件を加えれば100社以上とコンタクトした。やがてこれらの商談の中からも新たな成果が生まれてくる』、「「今年(2023年)が山場かな」 苦しい資金繰りを強いられるのは2023年度まで、と三木谷は言う。その後は、設備投資が一段落し、自社のアンテナが届かない場所でKDDIのアンテナを借りている「ローミング」のコストも劇的に下がる。そして海外の通信会社に「完全仮想化」の技術が売れ始める」、なるほど。
次に、この続き、9月11日付け文春オンラインが掲載したノンフィクション作家の大西 康之氏による「楽天カードマンでも、米倉涼子でもない…楽天・三木谷浩史の「テレビCM嫌い」を変えた“意外な人物”の正体『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』 #2」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/65585
・『楽天カードマンや楽天モバイルの米倉涼子さんなど、見る人の心に残る「印象的なCM」を発信しつづける楽天グループ。ところが、代表の三木谷浩史氏はかつて「広告もネットの時代。テレビCMは時代遅れ」と思っていたことも……。 そんな三木谷氏の心を変えた、楽天グループの超重要人物とは一体? ノンフィクション作家の大西康之氏の新刊『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)』、興味深そうだ。
・『楽天モバイル新社長は「駅前留学」の営業マン 「楽天モバイルは次のステップに進む」 三木谷がそう宣言したのが、2022年3月30日付で発令された楽天モバイルのトップ人事である。会長兼CEOだった三木谷が会長に退き、副社長のタレック・アミンがCEO、同じく副社長の矢澤俊介が社長に就任した。アミン49歳、矢澤41歳。40代のツートップである。 完全仮想化の立役者で、世界の通信業界に顔が効くアミンのCEO就任は分かる。しかしなぜ「たたき上げ」の矢澤が社長なのか。そう尋ねると、三木谷は「当たり前だろ」という表情でこう言った。 「あいつは楽天流の体現者だから」 三木谷が言う「楽天流」とは、大学の体育会さながらの「身体性」を指す。その典型が、週に1度、全スタッフが行うデスクまわりの掃除だ。三木谷以下、役員・社員の全員が、自分の机やイスの脚まで、雑巾できれいに拭く。 三木谷は楽天グループが事業を通じて実現しようとしている価値観を「ブランド・コンセプト」と称して5つの四文字熟語で表現している。 「大義名分」「品性高潔」「用意周到」「信念不抜」 この4つを三木谷の父・良一が息子に授け、三木谷がそこに「一致団結」を加えた。ネット企業らしからぬ古めかしい標語こそ、三木谷という経営者が持つもうひとつの特性を象徴している。 三木谷はデータに基づき、ロジックで経営判断を下す。しかし、学生時代、一橋大学テニス部主将として弱小チームを率い、その後就職した興銀(日本興業銀行、現・みずほ銀行)の9年間、実務に携わった三木谷は、大きな判断を実現するのはひとつひとつの小さな行動の積み重ねであることを知っている。 だから「頭でっかちにならず、体を動かせ」と社員に説き、自ら雑巾を持って社員と同じ作業をする。グーグル、アマゾンといったシリコンバレーのテック・ジャイアントを思わせる二子玉川の洒落たオフィスで、全社員が腰をかがめて雑巾掛けをする様子は、楽天の企業文化が米欧と日本のハイブリッドであることを示している。 三木谷は人事でも「身体性」を大切にする。その象徴が矢澤俊介だ。長身痩躯で色白の矢澤は、目から鼻に抜けるようなタイプではなく、まわりを安心させるほんわかした雰囲気を持つ。仕事になると、理屈を並べる前にとにかく体を動かす。) 東京の中堅どころの私大を出た矢澤は、営業マンとして「駅前留学」で有名な英会話のNOVAに入社した。入社3年目のとき、自分の面倒を見てくれていたNOVAのマネージャーが楽天に転職した。矢澤は見捨てられたような気持ちになったが、1ヵ月後、そのマネージャーから「お前も来いよ」と誘われ、楽天に入った。2005年6月のことだ』、「実務に携わった三木谷は、大きな判断を実現するのはひとつひとつの小さな行動の積み重ねであることを知っている。 だから「頭でっかちにならず、体を動かせ」と社員に説き、自ら雑巾を持って社員と同じ作業をする。グーグル、アマゾンといったシリコンバレーのテック・ジャイアントを思わせる二子玉川の洒落たオフィスで、全社員が腰をかがめて雑巾掛けをする様子は、楽天の企業文化が米欧と日本のハイブリッドであることを示している」、「三木谷は、大きな判断を実現するのはひとつひとつの小さな行動の積み重ねであることを知っている。 だから「頭でっかちにならず、体を動かせ」と社員に説き、自ら雑巾を持って社員と同じ作業をする・・・二子玉川の洒落たオフィスで、全社員が腰をかがめて雑巾掛けをする」、初めて知った。
・『クルマも半額、カニも半額 楽天に入社した矢澤の仕事は「ECコンサルタント」。ネット通販(EC)の楽天市場に出店する店舗からの「どうやったらネットで売り上げを伸ばせるか」という相談に乗る役回りだ。北海道から沖縄まで週の半分は全国を飛び回り、地方の中小企業経営者と知恵を絞った。 矢澤が担当した店舗の中に名古屋に本社を置く「オークローンマーケティング」という会社があった。社長のロバート・ローチは学生時代に交換留学で名古屋の南山大学に来たことがあり、デンバー大学を卒業後、名古屋に戻ってテレビ通販のビジネスを始めた。 そのオークローンマーケティングが通販で細々と売っていたのが「ビリーズブートキャンプ」。米国出身の黒人格闘家、ビリー・ブランクスが米軍の新兵向け基礎訓練をベースに考案したエアロビクス体操のインストラクション・ビデオだ。 「さあ行こう!」「もう一回!」「グッジョブ!」 ビートの効いた音楽とビリー隊長の掛け声に乗せられ、きついトレーニングを楽しく続けられるところがミソだ。 「これはいける!」と矢澤は直感。名古屋に飛んで行ってローチに掛け合い、楽天市場で大々的に売り出した。これが月に1億円売れるおばけ商材になった。あまりに売れたのでプロモーションで来日したビリー隊長が、当時は六本木ヒルズにあった楽天本社を表敬訪問したほどだ。この成功で「楽天市場に矢澤あり」と社内で認められるようになり、三木谷の目にも止まった。 2011年の年末、31歳でペット用品のマネージャーになっていた矢澤は、三木谷に呼び出された。 「アリババが1日で1兆円売ったらしいぞ」) ジャック・マー(馬雲)が創業し孫正義が出資した中国のEC大手、アリババ・ドット・コムは1が4つ並ぶ11月11日の「独身の日」に、大安売りのセールを始めた。 日本を抜きGDPで世界第2位に躍り出た中国大衆の購買力は凄まじく、独身の日はアメリカでクリスマスセールの初日に当たる11月第4金曜日、「ブラック・フライデー」を抜いて「世界でいちばんものが売れる日」になった。 「うちもやるぞ。お前、考えろ。来年の1月。とりあず1日100億円な」 「いや1月ってのは、ちょっと……」 「いつならできる?」と迫る三木谷の圧力に負け、矢澤は「じゃあ3月」とつい答えてしまった』、「ビリーズブートキャンプ」を「「これはいける!」と矢澤は直感。名古屋に飛んで行ってローチに掛け合い、楽天市場で大々的に売り出した。これが月に1億円売れるおばけ商材になった・・・この成功で「楽天市場に矢澤あり」と社内で認められるようになり、三木谷の目にも止まった」、「独身の日はアメリカでクリスマスセールの初日に当たる11月第4金曜日、「ブラック・フライデー」を抜いて「世界でいちばんものが売れる日」になった。 「うちもやるぞ。お前、考えろ。来年の1月。とりあず1日100億円な」・・・「いつならできる?」と迫る三木谷の圧力に負け、矢澤は「じゃあ3月」とつい答えてしまった」、なるほど。
・『1日で100億円を集めるための秘策 楽天市場で空前のヒットとなった「ビリーズブートキャンプ」の売り上げが1ヵ月で1億円であることを考えれば、1日100億円がいかに途方もない数字であるかがわかるだろう。 このときの矢澤は一介のカテゴリー・マネージャーにすぎない。「1日に100億円売ろう」と言ってもまわりは「お前が勝手に社長と約束しただけだろ」と動いてくれない。当時の楽天市場の1日の最高売り上げは50億円である。 「だいたい、1日100億円なんて、できるわけないだろ」 周囲の冷たい視線を浴びながら、矢澤は楽天市場の全国の有力店舗に足を運び、「目玉商品を出してください」「半額セールに協力してください」と頭を下げて回った。当時、楽天が本社を構える品川シーサイドのビルに1000人の店舗関係者を集め、お揃いのTシャツを配った。胸には「この日、日本の景気が動く」の文字。矢澤が音頭を取り「えい、えい、おー!」と気勢を上げた。 1日100億円を達成するため、矢澤は三木谷に一つだけ頼みごとをした。 「テレビ・コマーシャルを使わせてください」 前職のNOVAも爆発的に顧客が増えたのは、「いっぱい聞けて、いっぱいしゃべれる」の歌に乗って踊る「NOVAうさぎ」のテレビCMがきっかけだった。三木谷は「広告もネットの時代。テレビCMは時代遅れ」と考えていたが、矢澤は「多くの人にリーチする力はテレビCMのほうが上」であることを経験で知っていた』、「「1日に100億円売ろう」と言ってもまわりは「お前が勝手に社長と約束しただけだろ」と動いてくれない。当時の楽天市場の1日の最高売り上げは50億円である・・・矢澤は楽天市場の全国の有力店舗に足を運び、「目玉商品を出してください」「半額セールに協力してください」と頭を下げて回った・・・矢澤は「多くの人にリーチする力はテレビCMのほうが上」であることを経験で知っていた」、なるほど。
・『「クルマも半額、カニも半額」 矢澤が案を出したド派手な楽天市場のテレビCMは、消費者の心を掴んだ。今や毎年恒例になっている「楽天スーパーセール」の始まりだ。あらゆるジャンルで「半額」の目玉商品を並べ、楽天市場の中で通貨として使える「楽天スーパーポイント(現在は楽天ポイント)」も大盤振る舞い。これまで楽天市場を使ったことのない人々がドッと押し寄せ、1日127億円を売る大成功を収めた。 三木谷もテレビCMが好きになり、川平慈英を使った「楽天カードマン」や米倉涼子を起用した「楽天モバイル」などの、ド派手な映像が楽天のテレビCMの系譜になる』、「矢澤が案を出したド派手な楽天市場のテレビCMは、消費者の心を掴んだ。今や毎年恒例になっている「楽天スーパーセール」の始まりだ。あらゆるジャンルで「半額」の目玉商品を並べ、楽天市場の中で通貨として使える「楽天スーパーポイント(現在は楽天ポイント)」も大盤振る舞い。これまで楽天市場を使ったことのない人々がドッと押し寄せ、1日127億円を売る大成功を収めた。 三木谷もテレビCMが好きになり、川平慈英を使った「楽天カードマン」や米倉涼子を起用した「楽天モバイル」などの、ド派手な映像が楽天のテレビCMの系譜になる」、なるほど。
・『なぜ「楽天はダサい」のか? 楽天市場とアマゾンのサイトを比べ「楽天はダサい」という声を聞く。テレビCMも洗練されているとは言い難い。だがそこには三木谷なりの狙いがある。 「うちのサイトはニューヨークの五番街じゃなくて、アジアのバザール。スッキリしてないけど猥雑で、なんか面白いものがあるんじゃないかとワクワクする。かっこよくしなくてもいいんだ」 こうした大衆心理を楽天の中でいちばん理解しているのが矢澤である。臆面もなく「カニも半額」とやれる矢澤は、入社7年目、32歳の若さで営業統括の執行役員に抜擢された。以来、三木谷は矢澤を懐刀として常にそばに置くことになる』、「「うちのサイトはニューヨークの五番街じゃなくて、アジアのバザール。スッキリしてないけど猥雑で、なんか面白いものがあるんじゃないかとワクワクする。かっこよくしなくてもいいんだ」 こうした大衆心理を楽天の中でいちばん理解しているのが矢澤である。臆面もなく「カニも半額」とやれる矢澤は、入社7年目、32歳の若さで営業統括の執行役員に抜擢された。以来、三木谷は矢澤を懐刀として常にそばに置くことになる」、凄い人物が「懐刀」のようだ。
第三に、9月20日付けダイヤモンド・オンライン「【無料公開】楽天に蔓延する「不正連鎖」の闇、今度はモバイル部門で発覚した金銭着服の全構図」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/329385
・『楽天グループの携帯電話子会社、楽天モバイルで基地局建設の工事発注を巡って下請け業者を巻き込んだ大規模な不正が発覚した。この構図は、日本郵政との提携と引き換えに切り捨てた物流事業「楽天エクスプレス」で明らかになった金銭着服の不正と酷似する。楽天の内部で腐敗がまん延するのはなぜなのか。特集『楽天 解体の序章』(全6回)の#2では、楽天グループを覆う「不正連鎖」の闇に迫る。 ※2022年12月27日に公開した有料会員向け記事を、期間限定で無料公開します。全ての内容は初出時のまま』、興味深そうだ。
・『中堅物流会社の経営破綻で発覚したモバイル部門の不正請求は巨大化の可能性 日本最大級の物流倉庫が立ち並ぶ千葉県流山市。巨大物流倉庫群「アルファリンク」の一角に、楽天グループの携帯電話子会社、楽天モバイルが基地局の資材を保管している「流山センター」という物流拠点がある。 この倉庫では、楽天モバイルの発注に応じて、基地局工事に必要な資材をワンパッケージに梱包し、全国各地の基地局工事業者に配送する作業が行われていた。流山センターの運営は2022年8月30日付で民事再生法の適用を申請した中堅物流会社の日本ロジステック(東京都千代田区)である。 楽天モバイル側で日本ロジへの発注業務を担っていたのが、部長職にあった元従業員のA氏だった。しかし、この業務の裏でA氏は巨額の水増し請求により金銭を着服していたことが発覚。楽天モバイルはA氏を懲戒解雇して刑事告訴しており、楽天グループを揺るがす巨額不正に発展しようとしている。 不正発覚のきっかけとなった日本ロジの再生手続きの関連資料によると、楽天モバイルが日本ロジからの不正請求で被った損害額は総額46億円。A氏と日本ロジ役員らの「共謀」により、19年10月から22年3月にかけて水増し請求が繰り返されていたとしている。まさに20年4月に携帯電話サービスを開始した楽天モバイルが基地局建設を加速したさなかに、不正が行われていた。 この不正取引に詳しい内部関係者は「日本ロジの経営破綻で表沙汰になった不正は氷山の一角」と証言する。楽天モバイルの基地局工事を巡って横領された金額は46億円をはるかに上回る規模になる可能性があるというのだ。 ダイヤモンド編集部は、複数の関係者の証言を通じて、楽天モバイルの内部で行われていた「不正な金銭着服の構図」をひもといた。次ページでは、その全体像を明らかにする。同時に、楽天グループ内で不正連鎖の温床となった組織の問題点に迫る』、「楽天モバイルが日本ロジからの不正請求で被った損害額は総額46億円。A氏と日本ロジ役員らの「共謀」により、19年10月から22年3月にかけて水増し請求が繰り返されていた・・・横領された金額は46億円をはるかに上回る規模になる可能性がある」、これは大変だ。
・『小さな運送会社と築いた巨大な不正請求スキーム 関係者によると、楽天モバイルの基地局建設の裏で、不正金銭授受に関わった人物は主に3人。楽天モバイル元従業員のA氏、神奈川県相模原市を拠点にする運送会社T社社長のB氏、日本ロジで楽天を担当していた元役員のC氏だ。このうち不正取引を首謀したのはA氏とB氏の2人だったという。 楽天モバイルの委託を受けて、日本ロジの流山センターでは、基地局資材の保管と全国の基地局業者への配送を行っていたが、この作業を実際に担っていたのはT社だった。基地局資材を運ぶ車両とドライバーを用意するとともに、流山センターで作業するスタッフのほとんどは、T社100%子会社の人材派遣会社IMAX(アイマックス)から派遣されていた。 首謀者の2人が繰り返した水増し請求の流れはこうだ。(1)A氏は、楽天モバイルの予算に応じて、B氏に水増し請求書の作成を指示、(2)B氏は楽天モバイルの「元請け」の立場にいた日本ロジに請求書を発行、(3)日本ロジがマージンを乗せて発注元の楽天モバイルに請求――という枠組みだった。 (図表:楽天モバイル不正な資金還流スキーム はリンク先参照) この枠組みが動きだしたのは、19年10月ごろで、まさに楽天モバイルの通信ネットワーク整備の遅れが表面化したタイミングに重なる。 当時、楽天モバイルは10月から予定していた携帯サービスを開始できず、基地局を急ぎ建設することが最重要課題となっていた。その裏で、資材配送に関わっていた2人は不正にいそしんでいたことになる。関係者によると「すでにこの頃からT社は、A氏の指名によって楽天モバイルの基地局資材の配送業務のほとんどを担うようになっていた」という。 しかし、T社は相模原市で運送事業を営む小規模事業者にすぎなかった。運送業界での知名度は全くなく、楽天モバイルで増加する配送業務を直接受託するだけの信用がない。このためA氏とB氏にとっては「仕方なく、(業界で実績のある)日本ロジを中間業者として挟む必要があった」(前出の関係者)のだ。 日本ロジのC氏は2人の共謀を把握しながら、楽天モバイルの発注をT社に丸投げする元請け業者として、いわば“トンネル”の役割を果たしていたようだ。C氏の主な狙いは、楽天モバイルとT社をつなぐ中間マージンを得て、売り上げを増やすことにあったとみられる。 実際に日本ロジの売上高は、楽天モバイルの携帯サービス開始とともに急増。19年3月期の売上高は106億円だったのに対し、翌20年3月期に133億円、21年3月期に220億円、22年3月期に405億円と3年間で売上高が4倍近くまで膨れ上がった。この増加分のほとんどは、楽天モバイルとの取引が底上げしたのは間違いない。 こうして楽天モバイルの基地局資材の保管や配送を一挙に担うことになったB氏は20年ごろから、本業の運送業務に加え、楽天モバイルの基地局工事の受託業務にも手を広げている。 もちろん、これもA氏との強い関係で受託した事業だ。運送会社のT社に基地局工事の知見はないが、長崎県出身のB氏は地元の知り合いなどに声を掛けて2次請け基地局工事業者を集め、九州の基地局工事を受注する中間業者として売り上げを増やしていった。 この結果、T社の業容も見る見るうちに拡大。19年3月期に9億円だった売上高は20年3月期に26億円、21年3月期は92億円、22年3月期は192億円まで急増した。 だが、こうした巨大な不正のスキームは突如崩壊した。22年に入って内部告発を受けた楽天モバイルはA氏の調査に着手し、不正な金銭授受を把握。8月12日付でA氏を懲戒解雇した上で、19日付で日本ロジの預金口座を差し押さえたことで、取引先への支払いができなくなった日本ロジが経営破綻に追い込まれた。 T社に近い関係者によると、ここで楽天モバイルはT社の預金も差し押さえたようだ。この結果、T社は9月1日以降、ほぼ全ての事業を停止。10月29日付で全従業員を解雇しており、いまや事業会社としての実態はない。100%子会社のアイマックスも、9月1日以降に事業を停止して同15日付で全従業員を解雇した。 前述の通り、楽天モバイルが中間業者の日本ロジの不正請求で受けた損害が46億円なら、A氏とB氏が共謀した器となったT社から受けた損害額は、日本ロジをはるかに上回る可能性が高い。 実際に、楽天モバイルがT社から被った損害はどのくらいの規模だったのか。ダイヤモンド編集部の取材に対して楽天モバイルは「現在(当局の)捜査中のため、詳細の回答を控えさせていただきます」と書面で回答。詳しい資金の流れや金銭授受の解明は、警視庁の捜査を待つだけという姿勢である。 いまだ楽天モバイルとT社の関係は闇の中だが、基地局工事を巡る金銭着服は、グループを揺るがす巨大な規模に発展する恐れがある。実は、T社は楽天グループ内部の別の不正にも関与していたのだ』、「楽天モバイルが中間業者の日本ロジの不正請求で受けた損害が46億円なら、A氏とB氏が共謀した器となったT社から受けた損害額は、日本ロジをはるかに上回る可能性が高い・・・いまだ楽天モバイルとT社の関係は闇の中だが、基地局工事を巡る金銭着服は、グループを揺るがす巨大な規模に発展する恐れがある」、なるほど。
・『三木谷氏肝いり2事業は不正連鎖の温床だった これだけ大掛かりな不正のスキームを築き上げたA氏とB氏は何者なのか。 業界関係者によるとA氏は、楽天グループに入社する以前は、アマゾンジャパンで物流を担当していたという。楽天グループが携帯サービスを開始するのに合わせて楽天本体から楽天モバイルに異動したが、経歴の“本職”は物流だ。 一方のB氏のキャリアは日本ロジの倉庫でのフォークリフトの運転手から始まった。日本ロジ退社後に運送会社を立ち上げ、当初は、アマゾンジャパンの物流業務を受託して事業を軌道に乗せてきた。 このとき、アマゾンの運送業務をB氏に委託した担当者が、他ならぬA氏だった。以来、アマゾンジャパンの発注元と委託先運送会社として関係を深めた2人は、A氏が楽天グループに転職して以降も、発注元・委託先の関係を継続することになった。 こうしてA氏は、楽天モバイルを舞台にした巨大な不正のスキームをB氏と共に作り上げるに至ったが、実はA氏は楽天モバイルに異動する前に、ある新規事業に関わっていた。 それが21年5月に突如として終了した自前物流サービス「楽天エクスプレス」だ。16年11月から試験的に始まったこの事業を巡っては、担当していた元執行役員が18~20年の事業拡大とともに下請けの運送会社に水増し請求させて、金銭を不正に着服していたことが発覚している。 元執行役員がヤマトホールディングス傘下のヤマト運輸から楽天に転職したのは15年以降。最初に配属された部署の上司だったのがA氏だった。 その後、元執行役員は楽天エクスプレス事業を本格的に任されて、業務を委託した下請けの運送会社に業務委託料をキックバックさせる不正行為に手を染めていく。そこで重要な事実が、楽天エクスプレスの委託先の運送会社の一社に名前を連ねていたのがT社だったことである。 元楽天で2人を良く知る人物は「入社はA氏の方が古く、2人は非常に親密な上下の関係にあった」と証言する。別の内部関係者も「楽天エクスプレスと楽天モバイルの水増し請求は連続した不祥事だ」と話す。 楽天エクスプレスで不正を働いた元執行役員と、楽天モバイルでの不正が発覚したA氏。そして2人が共通して運送業務を委託していたのがT社だったということだ。 つまり、楽天エクスプレスと楽天モバイルの二つの金銭着服の根はつながっており、楽天グループ内部で不正行為が連鎖した構図があらわになったのだ。 だが楽天グループは、この点についての詳細をあいまいにしたままだ。そもそも、先行して発覚した楽天エクスプレスの不正行為については、内部で何が行われていたかという実態が公表されないまま、元執行役員は21年3月末までにひっそりと楽天グループを去っている。 その時点で徹底した真相究明が行われないまま、今回のモバイル事業の不正行為が発覚したのは、楽天グループの「組織としての隠蔽体質」が招いた結果である。 今回も楽天モバイルは、懲戒解雇して刑事告訴したA氏について「取引先を含めて不正請求に関与した者に、刑事上および民事上の責任追及を行っていく予定」として、あくまで個人の責任追及にとどめようとする姿勢を示している。一方で「社内で調査委員会は設置していて、引き続き事実関係の確認、原因究明および再発防止の策定等は行っている」としているが、その情報開示には極めて消極的である。 二つの不正に関与した人物、舞台となった企業につながりがある以上、組織的関与が疑われるべきだ。徹底した真相究明なくして、楽天グループにまん延する「不正の闇」が根絶されることはないだろう。 かつて楽天エクスプレスは三木谷浩史会長兼社長の肝いり事業だったが、日本郵政との提携をきっかけに、あっさりとその事業を切り捨てている。そして今また、三木谷氏が命運を懸ける楽天モバイル事業で巨大な不正が広がりを見せていることは、グループの先行きに暗い影を落とすことだけは間違いない』、「先行して発覚した楽天エクスプレスの不正行為については、内部で何が行われていたかという実態が公表されないまま、元執行役員は21年3月末までにひっそりと楽天グループを去っている。 その時点で徹底した真相究明が行われないまま、今回のモバイル事業の不正行為が発覚したのは、楽天グループの「組織としての隠蔽体質」が招いた結果である」、「楽天エクスプレスと楽天モバイルの二つの金銭着服の根はつながっており、楽天グループ内部で不正行為が連鎖した構図があらわになったのだ。 だが楽天グループは、この点についての詳細をあいまいにしたままだ」、「二つの不正に関与した人物、舞台となった企業につながりがある以上、組織的関与が疑われるべきだ。徹底した真相究明なくして、楽天グループにまん延する「不正の闇」が根絶されることはないだろう」。「組織としての隠蔽体質」の打破が解決のカギになるのだろう。
タグ:「独身の日はアメリカでクリスマスセールの初日に当たる11月第4金曜日、「ブラック・フライデー」を抜いて「世界でいちばんものが売れる日」になった。 「うちもやるぞ。お前、考えろ。来年の1月。とりあず1日100億円な」・・・「いつならできる?」と迫る三木谷の圧力に負け、矢澤は「じゃあ3月」とつい答えてしまった」、なるほど。 「実務に携わった三木谷は、大きな判断を実現するのはひとつひとつの小さな行動の積み重ねであることを知っている。 だから「頭でっかちにならず、体を動かせ」と社員に説き、自ら雑巾を持って社員と同じ作業をする。グーグル、アマゾンといったシリコンバレーのテック・ジャイアントを思わせる二子玉川の洒落たオフィスで、全社員が腰をかがめて雑巾掛けをする様子は、楽天の企業文化が米欧と日本のハイブリッドであることを示している」、 大西 康之氏による「楽天カードマンでも、米倉涼子でもない…楽天・三木谷浩史の「テレビCM嫌い」を変えた“意外な人物”の正体『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』 #2」 「ビリーズブートキャンプ」を「「これはいける!」と矢澤は直感。名古屋に飛んで行ってローチに掛け合い、楽天市場で大々的に売り出した。これが月に1億円売れるおばけ商材になった・・・この成功で「楽天市場に矢澤あり」と社内で認められるようになり、三木谷の目にも止まった」、 「「今年(2023年)が山場かな」 苦しい資金繰りを強いられるのは2023年度まで、と三木谷は言う。その後は、設備投資が一段落し、自社のアンテナが届かない場所でKDDIのアンテナを借りている「ローミング」のコストも劇的に下がる。そして海外の通信会社に「完全仮想化」の技術が売れ始める」、なるほど。 「全国に7万局の基地局を開設し、販売・サービス体制を整える。全国を網羅する携帯ネットワークをゼロから作っているのだから、最初の数年が大赤字になるのは当たり前だ」、ただ、「2023年1月に発行したドル建て無担保社債の利率は10.25%。2019年に発行したドル建て債の利率(3.5%)と比べると約3倍の高利」と、マーケットは厳しく見ているようだ。 「先行して発覚した楽天エクスプレスの不正行為については、内部で何が行われていたかという実態が公表されないまま、元執行役員は21年3月末までにひっそりと楽天グループを去っている。 その時点で徹底した真相究明が行われないまま、今回のモバイル事業の不正行為が発覚したのは、楽天グループの「組織としての隠蔽体質」が招いた結果である」、 徹底した真相究明なくして、楽天グループにまん延する「不正の闇」が根絶されることはないだろう」。「組織としての隠蔽体質」の打破が解決のカギになるのだろう。 「楽天モバイルが中間業者の日本ロジの不正請求で受けた損害が46億円なら、A氏とB氏が共謀した器となったT社から受けた損害額は、日本ロジをはるかに上回る可能性が高い・・・いまだ楽天モバイルとT社の関係は闇の中だが、基地局工事を巡る金銭着服は、グループを揺るがす巨大な規模に発展する恐れがある」、なるほど。 「「うちのサイトはニューヨークの五番街じゃなくて、アジアのバザール。スッキリしてないけど猥雑で、なんか面白いものがあるんじゃないかとワクワクする。かっこよくしなくてもいいんだ」 こうした大衆心理を楽天の中でいちばん理解しているのが矢澤である。臆面もなく「カニも半額」とやれる矢澤は、入社7年目、32歳の若さで営業統括の執行役員に抜擢された。以来、三木谷は矢澤を懐刀として常にそばに置くことになる」、凄い人物が「懐刀」のようだ。 三木谷もテレビCMが好きになり、川平慈英を使った「楽天カードマン」や米倉涼子を起用した「楽天モバイル」などの、ド派手な映像が楽天のテレビCMの系譜になる」、なるほど。 「矢澤が案を出したド派手な楽天市場のテレビCMは、消費者の心を掴んだ。今や毎年恒例になっている「楽天スーパーセール」の始まりだ。あらゆるジャンルで「半額」の目玉商品を並べ、楽天市場の中で通貨として使える「楽天スーパーポイント(現在は楽天ポイント)」も大盤振る舞い。これまで楽天市場を使ったことのない人々がドッと押し寄せ、1日127億円を売る大成功を収めた。 「「1日に100億円売ろう」と言ってもまわりは「お前が勝手に社長と約束しただけだろ」と動いてくれない。当時の楽天市場の1日の最高売り上げは50億円である・・・矢澤は楽天市場の全国の有力店舗に足を運び、「目玉商品を出してください」「半額セールに協力してください」と頭を下げて回った・・・矢澤は「多くの人にリーチする力はテレビCMのほうが上」であることを経験で知っていた」、なるほど。 大西 康之氏による「「楽天ってやばいんでしょ。モバイルの借金がすごくて」営業損益は4928億円の赤字……それでも三木谷浩史が「楽天モバイルの成功」を信じる理由 『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』 #1」 文春オンライン (その13)(「楽天ってやばいんでしょ モバイルの借金がすごくて」営業損益は4928億円の赤字……それでも三木谷浩史が「楽天モバイルの成功」を信じる理由 『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』 #1、楽天カードマンでも、米倉涼子でもない…楽天・三木谷浩史の「テレビCM嫌い」を変えた“意外な人物”の正体 『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』 #2、楽天に蔓延する「不正連鎖」の闇 今度はモバイル部門で発覚した金銭着服の全構図) 「三木谷は、大きな判断を実現するのはひとつひとつの小さな行動の積み重ねであることを知っている。 だから「頭でっかちにならず、体を動かせ」と社員に説き、自ら雑巾を持って社員と同じ作業をする・・・二子玉川の洒落たオフィスで、全社員が腰をかがめて雑巾掛けをする」、初めて知った。 「楽天エクスプレスと楽天モバイルの二つの金銭着服の根はつながっており、楽天グループ内部で不正行為が連鎖した構図があらわになったのだ。 だが楽天グループは、この点についての詳細をあいまいにしたままだ」、「二つの不正に関与した人物、舞台となった企業につながりがある以上、組織的関与が疑われるべきだ。 「楽天モバイルが日本ロジからの不正請求で被った損害額は総額46億円。A氏と日本ロジ役員らの「共謀」により、19年10月から22年3月にかけて水増し請求が繰り返されていた・・・横領された金額は46億円をはるかに上回る規模になる可能性がある」、これは大変だ。 ダイヤモンド・オンライン「【無料公開】楽天に蔓延する「不正連鎖」の闇、今度はモバイル部門で発覚した金銭着服の全構図」 携帯・スマホ 「世界の通信大手が「完全仮想化」「Open RAN」に乗り換えた場合、その市場規模は15兆~20兆円とされる。もちろん楽天シンフォニーがそのすべてを手に入れるわけではないが、世界で最初の完全仮想化を成し遂げたアドバンテージは間違いなく存在する」、確かに売り物になりそうだ。 だが、小さな事故はいくつか起きたものの、ネットワーク全体が何日にもわたって止まるような大きな事故はこれまでのところ起きていない。日本ではすでに500万人近い利用者が、毎日、ふつうに楽天モバイルを使っている」、大したものだ。 「ランダムに移動する何千万台もの端末を捕まえる携帯ネットワークの仮想化は物理的には凄まじくむずかしい。通信大手のほとんどがこの技術に取り組んでいたが、「実用化するのはまだ数年は先のこと」だと考えていた。 ところが門外漢の楽天が世界で初めてこれに挑戦した。2020年春にサービスを本格的に開始したとき、世界の通信会社は「絶対失敗する」とたかを括っていた。 「楽天モバイルの完全仮想化ネットワークはクライアント・サーバ・システムと同じ分散型だ。携帯電話会社は好きなメーカーの安い汎用サーバを自由に組み合わせてネットワークを構築することができる・・・設備投資は既存の通信ネットワークに比べ30%安くなり、運用・管理コストは40%安くなる」、なるほど。 「この人のファースト・ネームはなんだっけ?」・・・ 「これ、なんて読むの?」、確かにスペリングだけでは、「発音」は分からない。「三木谷は、一瞬だけブースの部屋から顔を出し、筆者に声をかけてきた。 「連れション行かない?」 個別インタビューの時間が取れないから、三木谷なりに気を遣ったのだろう」、マスコミ対策もずいぶん凝った仕掛けだ。 大西康之氏の新刊『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)
GAFA(その7)(GAFAの株価が低調 「成長の限界を迎えた」といえるこれだけの理由、フェイスブックの次はVR離れ…1兆円超えの大赤字を垂れ流す「メタ社」の悲惨な末路 ザッカーバーグ氏は従業員から見放された、国家権力も超える力を持つ「巨大IT」の"別の顔" 「グーグル アップル メタ アマゾン」vs.国家) [イノベーション]
GAFAについては、昨年2月11日に取上げた。今日は、(その7)(GAFAの株価が低調 「成長の限界を迎えた」といえるこれだけの理由、フェイスブックの次はVR離れ…1兆円超えの大赤字を垂れ流す「メタ社」の悲惨な末路 ザッカーバーグ氏は従業員から見放された、国家権力も超える力を持つ「巨大IT」の"別の顔" 「グーグル アップル メタ アマゾン」vs.国家)である。
先ずは、昨年5月10日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「GAFAの株価が低調、「成長の限界を迎えた」といえるこれだけの理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/302879
・『「GAFA」の株価が下落基調にある。これまで注目されてきたビジネスモデルに、行き詰まりの兆しが見え始めているからだ。その軌跡を基本から振り返ると共に、現在のリスク要因を分析し、今後の展開を予測する』、興味深そうだ。
・『GAFAの成長期待が鈍化 ビジネスモデルに行き詰まりの兆し このところ、「GAFA」(グーグル、アップル、旧フェイスブック・現メタ、アマゾン)の株価が下落基調にある。2022年1~3月期決算が出そろった後も、各社の株価は上昇していない。 最大のポイントは、各社の成長期待が鈍化していることだ。これまで注目されてきたITプラットフォーマーとしてのビジネスモデルに、行き詰まりの兆しが見え始めている。加えて、米国内の人手不足や、「ディ・グローバリズム」(グローバル化に逆行する動き)に伴うコストアップ要因がGAFA各社を直撃している。 今後の展開として、GAFAの成長期待は一段と低下することも想定される。それが現実味を帯びると、各社の株価は下落する可能性が高い。ウクライナ危機や中国のゼロコロナ政策をきっかけに、グローバル化の加速を前提としたアップルの事業運営の効率性は、低下する恐れが強くなっている。主要先進国における個人データ保護規制の強化なども、メタやグーグル、アマゾンの成長期待を低下させるだろう。 米国の連邦準備制度理事会(FRB)は、“インフレ退治”のため周囲の予想を上回るペースで金融引き締めを進めている。それはGAFAの事業運営には逆風となり、株価の下落懸念を高める要因だ』、確かに多くの要因が「GAFA」「株価の下落懸念を高め」ている。
・『これまでのビジネスモデルが神通力を失うGAFA 過去1年間のGAFAの株価の推移を確認すると、大まかな傾向として21年12月前半まで各社の株価は高値圏で推移した。しかし、その後は株価が上昇していない。それが意味することは、各社が高い成長を維持するのが難しくなっているということだ。 まず、アップルの成長期待の鈍化を考えてみよう。1990年代以降の米国経済において、アップルはグローバル化を追い風に高成長を実現した企業の象徴である。97年、同社は経営破綻寸前にまで追い込まれていたが、その状況を救ったのが創業者の一人だった故スティーブ・ジョブズだ。ジョブズは高付加価値なソフトウエアの創出に集中し、iPodやiPhoneなどのデバイスや、iTunesなどのサービスの設計と開発に注力した。 それと同時にアップルは世界各国から優れた部材や部品を集め、完成品のユニット組み立て型生産を、台湾の鴻海精密工業の中国子会社であるフォックスコンに委託した。こうした国際分業によって、製造ラインを自社保有する負担から解放され、高付加価値なソフトウエア創出に集中し、高い収益性を実現したのだ。同社がリーマンショック後の世界経済のデジタル化を加速し、米国および世界経済の成長に与えた影響は計り知れない。 しかし、近年、こうしたビジネスモデルに行き詰まりが見えている。まず、中国の生産年齢人口が減少し、労働コストが上昇したことは大きい。加えて、米中対立によって世界のサプライチェーンが混乱。さらに、新型コロナウイルスの感染再拡大やウクライナ危機など複合的な要因が重なり、供給制約は深刻化し続けている。 そうした環境の変化によって、国際分業体制の強化で高成長を実現してきたアップルが、需要を取りこぼし始めているのだ』、「国際分業体制の強化で高成長を実現してきたアップル」にとっては、環境は完全な逆風だ。
・『SNSへの規制強化、労働組合の結成 逆風強まるITプラットフォーマー 動画や検索、SNSサービスの提供で広告収入を得てきたグーグルやメタ、ネット通販やクラウドコンピューティングなどのサービスを提供してきたアマゾンの成長期待も鈍化している。 グーグルとメタは、ユーザーである個人の検索や動画視聴、知人関係(ネットワーク)、モノやサービスの購入履歴といった膨大なデータ(ビッグデータ)を優先的に手に入れて、それを販売したり、新しいビジネスに用いたりすることによって急速に収益を増やした。 しかし、ロシアがフェイスブックを用いて2016年の米大統領選挙に介入した疑惑が浮上したことなどにより、SNSへの規制が強化されている。メタは人海戦術でフェイクニュースの摘発を強化しなければならなくなり、コストが増加した。また、公正さへの懸念から一時、フェイスブックのユーザーが減少した。 メタの22年1~3月期決算は、売上高の伸び率が上場来で最低となり、同社への懸念は高まっている。同様のことが、検索サービスの強化によって広告収入を増やしてきたグーグルにも当てはまる部分が多い。 アマゾンは世界に「物流革命」を起こした。同社は、積極的な設備投資によって世界各国で効率的な配送網を整備し、自力でラストワンマイルを構築した。さらに消費者一人ひとりの好みを突くアルゴリズムを開発して消費意欲をかき立て、クラウドサービスも提供することによって有力ITプラットフォーマーとしての地位を確立した。 しかし、物流施設での過酷な労働環境への反発から労働組合が結成されるなど、成長力には翳りが出始めている。加えて、米国をはじめ世界的な人手不足を背景に、物流センターでの人員やドライバーの確保が難しくなっているようだ。 倉庫の建設やEV新興メーカーへの投資も業績の重荷になっている。原油などエネルギー資源価格の高騰は燃料費の増加につながり、収益を圧迫している。このようにGAFA各社はこれまでの高い成長スピードを維持することが難しくなっている』、「GAFA各社はこれまでの高い成長スピード」を可能にしてきた様々な要因が逆方向にあるようだ。
・『中長期的なGAFA株の下落懸念 業績拡大ペースは鈍化 GAFA各社は正念場を迎えている。今後の展開として、GAFAの業績拡大ペースは鈍化し、株価が下落する可能性は高まっている。各社ともグローバル化の加速を前提にビジネスモデルを構築してきたからだ。 しかし、ウクライナ危機によって世界経済はグローバル化からブロック化に向かい始めた。世界経済の先行き見通しは悪化したため、広告主の企業はコスト削減を優先しなければならず、SNSや動画サイトでの広告出稿は減少するだろう。また、データ保護やフェイクニュースなどの取り締まりのためのコストも増える。 世界的な供給制約の長期化によって半導体の不足が長引き、スマホなどITデバイスの生産が計画を下回る可能性も高まっている。中国では経済成長の低下傾向が鮮明だ。IT機器やサービスの需要の低下に加えて、生産年齢人口の減少によって労働コストも上昇するだろう。いずれもGAFAの事業運営の効率性向上を阻害する要因だ。 加えて、米国をはじめ世界的に物価が急騰している。FRBは金融政策の正常化を急がなければならない。世界的に金利は上昇するだろう。金利上昇によって、企業が永続的に生み出すと考えられるフリー・キャッシュ・フローの「割引現在価値」(将来得られる価値を現在受け取るとしたらどの程度の価値になるかを計算したもの)は小さくなる。GAFAのように成長期待が高い企業ほど、そのインパクトは大きくなり株価の下落懸念は高まりやすい。 FRBが追加利上げやバランスシート縮小を急ぐ姿勢を一段と強める場合、米国の金利は急速に上昇し、GAFAなどIT先端企業の株価の低下傾向が一段と鮮明化する恐れがある。また、米金利の上昇によって新興国からは資金が流出し、世界経済全体で成長率は低下する展開も想定される。それはGAFAの収益減少要因になるだろう。 言い換えれば、GAFA各社がこれまでの発想にとらわれることなく新しいモノやサービスを生み出し、需要を創出することが出来るか否か、その実力が問われている』、マクロ、ミクロの環境要因がいずれも厳しくなるなかでは、「新しいモノやサービスを生み出し、需要を創出すること」は至難の技だろう。
次に、本年5月20日付けPRESIDENT Onlineが掲載したフリーライター・翻訳者の青葉 やまと氏による「フェイスブックの次はVR離れ…1兆円超えの大赤字を垂れ流す「メタ社」の悲惨な末路 ザッカーバーグ氏は従業員から見放された」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/69634
・『メタバースで大失敗…ザッカーバーグに向けられた従業員の不信感 マーク・ザッカーバーグ率いる米Meta社(旧Facebook社)が、従業員の深刻な士気の低下にあえいでいる。 Facebook、Instagram、WhatsAppなどを運営する同社は昨年、業績が急激に低下。ニューヨーク・タイムズ紙は、ザッカーバーグ氏が2023年を「効率化の年」にすると宣言したと報じている。過去半年で2回のレイオフに踏み切ったほか、今後もさらに2回の実施を予定している。合計で2万1000人規模の削減となる見込みだ。 米デジタルメディアのVoxは、「Metaはまず間違いなく、過去最も厳しい部類に入る年を過ごした」と指摘。18年間ノンストップで成長を遂げたが、株価は昨年、前年比で65%急落したと指摘する。 米IT大手は一様に厳しい時代を迎えているが、MetaはGAFAMと呼ばれる大手5社のなかでも一段と厳しい状況に立たされている。Facebookで一時代を築いた同社が凋落した原因はいくつも指摘されているが、なかでもトップのビジョンの迷走が大きく災いしたようだ。 IT他社が人工知能(AI)の開発に資金を投じるなか、同社はここ数年、「メタバース」と呼ばれるオンライン空間の提供に全力を傾けている。ユーザーが仮想の人物「アバター」の姿を借り、交流を図る仮想の世界だ。だが、現実には過疎化が過疎化を呼ぶ悪循環に陥っている』、「過去半年で2回のレイオフに踏み切ったほか、今後もさらに2回の実施を予定している。合計で2万1000人規模の削減となる見込みだ」、「株価は昨年、前年比で65%急落」、「同社が凋落した原因はいくつも指摘されているが、なかでもトップのビジョンの迷走が大きく災いしたようだ。 IT他社が人工知能(AI)の開発に資金を投じるなか、同社はここ数年、「メタバース」と呼ばれるオンライン空間の提供に全力を傾けている。ユーザーが仮想の人物「アバター」の姿を借り、交流を図る仮想の世界だ。だが、現実には過疎化が過疎化を呼ぶ悪循環に陥っている」、「メタバース」に賭けて社名も「メタ」に変更したほどだ。
・『社内チャットでは不満が渦を巻いている 芽生える気配のないメタバースの開発に大金を注ぎながら、カリフォルニア州メンローパークのMeta本社内では解雇の嵐が吹き荒れる。Metaの従業員たちは、ザッカーバーグ氏らトップへの不信を深めている。 米ワシントン・ポスト紙は、「マーク・ザッカーバーグはいかにしてMetaの労働力を破壊したか」との記事を掲載。従業員たちは、いつ自身を襲うとも知れないレイオフの波に翻弄ほんろうされており、ザッカーバーグ氏はビジョンと従業員からの信頼を失ったとの見方を取り上げた』、「従業員たちは、いつ自身を襲うとも知れないレイオフの波に翻弄ほんろうされており、ザッカーバーグ氏はビジョンと従業員からの信頼を失った」との「米ワシントン・ポスト紙」の指摘は的確だ。
・『同紙はまた、「MetaはVR開発者に最高100万ドル(約1億3000万円)の年俸を支払っていた」が、同社が「今となっては財政難に陥っている」と指摘する。VRヘッドセットのQuestなどを手がける同社のVR/AR部門「Reality Labs」は、昨年137億ドル(約1兆8000万円)以上の損失を出し、赤字額は年を追うごとに増加傾向にあるという。 ニューヨーク・タイムズ紙は、「少し前までシリコンバレーで最も魅力的な職場のひとつだったMeta社だが、社員はいま、時がたつほどに不安定になる未来に直面している」と述べ、「士気の危機」が訪れていると報じている。 社内チャットでは、殺伐とした空気が流れているようだ。チャットの履歴を入手した同紙によると、ある従業員は「大惨事だと思う人は、炎の絵文字を」と呼びかけた。同僚たちからは数十個もの炎の絵文字が寄せられたという。 従業員たちはボーナスの減少に不満を抱き、持ち株の時価減損に胃を痛め、目に見えて悪化する社内の福利厚生に士気を削がれているようだ。同紙は、誰が生き残るとも知れない疑心暗鬼に陥り、オフィスは殺伐とした雰囲気に包まれていると報じている』、「誰が生き残るとも知れない疑心暗鬼に陥り、オフィスは殺伐とした雰囲気に包まれている」、気の毒だが、トップの責任だ。
・『仮想空間の「出会いの場」には誰もいなかった コミュニケーションがすっかり希薄になったのに加え、これまで従業員たちに無料で提供されていたランドリーサービスや夕食などの複利厚生は縮小した。自身にレイオフが迫るとの噂を聞いた従業員は、親しい従業員との個人や職場のチャットでドクロと骨の絵文字を使った暗喩で連絡を取り合い、情報交換に奔走しているという。 Metaの人事部はレイオフに怯える従業員たちに配慮を寄せるばかりか、こうした会話の規制に乗り出した。Voxは、会社側が「コミュニティ・エンゲージメントへの期待」と題するガイドラインを打ち出したと報じている。ネガティブな会話を禁止し、チームや個人に対して「適切なフィードバックをする」よう求める内容だ。 だが、口を封じたところで従業員の不満が消えるわけではない。同記事によるとある従業員は、「この会社は総じて、社員を失望させるようなことをせずに1週間たりとも過ごすことはできないようです」と不満を露わにしている。 同社肝煎りで普及に努めるメタバースだが、その集客数はほぼゼロと言っていいほどだ。 米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、41歳男性ユーザーの体験を取り上げている。彼は「パンデミック期間中、社会との交流を求めて」VRヘッドセットを購入し、買ったその日に意気揚々と仮想空間に飛び込んだ。だが、メインとなる出会いのスペースに行くと、「そこには誰もいなかった」との悲しい体験が待っていたという。 同紙によると、Facebook、Instagram、WhatsAppなどMeta社のソーシャルメディアには、合計で月間35億人以上のユーザーがいる。これに対し、同社のVRオンラインゲーム・プラットフォーム「Horizon Worlds」は、月間20万人以下であるという。比率にしてわずか0.0057%という惨状だ』、「41歳男性ユーザーの体験を取り上げている。彼は「パンデミック期間中、社会との交流を求めて」VRヘッドセットを購入し、買ったその日に意気揚々と仮想空間に飛び込んだ。だが、メインとなる出会いのスペースに行くと、「そこには誰もいなかった」との悲しい体験が待っていたという。 同紙によると、Facebook、Instagram、WhatsAppなどMeta社のソーシャルメディアには、合計で月間35億人以上のユーザーがいる。これに対し、同社のVRオンラインゲーム・プラットフォーム「Horizon Worlds」は、月間20万人以下であるという。比率にしてわずか0.0057%という惨状だ」、「メインとなる出会いのスペースに行くと、「そこには誰もいなかった」」、確かに「悲しい体験」だ。
・『VRヘッドセットは半年以内でガラクタに… Horizon Worldsは、VRヘッドセットの「Quest」を装着して利用する。エントリーモデルでも約400ドル(国内価格はQuest 2の場合5万9400円から)と高価な機器だが、同紙が参照した調査によると、飽きは早いようだ。購入後半年以内に、半数以上の個体が使用されなくなるという。 同社の社内文書が「空っぽの世界は悲しい世界である」と内省するように、原因は過疎化にある。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「(Horizon内のコンテンツである)『ホットガール・サマー・ルーフトップ・パーティー』には女の子がほとんどいないし、『マーダー・ビレッジ』には殺すべき人がいないことが多い」と指摘する。ユーザーの性別についても男性2:女性1と、大きな偏りがある模様だ。 課題は多い。Meta社が実施した調査によると、ユーザーからは、「気に入ったメタバース・ワールドがない」「一緒に遊べる仲間が見つからない」「人がリアルでない」などの不満が聞かれたという。 ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者は、VR空間で開催された「ハウスパーティー」の会場へ赴いた際の悲しい記憶を記事にしている。ユーザーとの交流を期待したが、さびしい現実が待っていたようだ。出席者は記者を含め、2人しかいなかったという。 同記者はボクシングなどをして時間を潰したというが、パーティーの盛り上がりとはほど遠かったようだ。「もう一人のアバターは一言もしゃべらず、10分ほどで試合は終了した。その後、記者自身のアバターはプールに落ち、出る方法がわからなくなった。助けてくれる人は辺りに誰もいなかった』、「プールに落ち、出る方法がわからなくなった。助けてくれる人は辺りに誰もいなかった」、酷い話だ。
・Meta社だけがメタバースの普及に社運を賭けている ユーザーの興味が薄れているにもかかわらず、Metaは普及に躍起だ。ニューヨーク・タイムズ紙は、これこそが同社従業員がトップに不信感を抱く原因になっていると指摘する。テック企業の多くがAI開発に乗り出すなか、Meta社だけがメタバースの普及に社運を賭けている状況だ。 ザッカーバーグ氏は2021年10月、VRの重視を鮮明に打ち出し、社名をMetaに変更した。ワシントン・ポスト紙は、「このとき、従業員はこの動きを不安な気持ちで受け止めた」と振り返る。2014年にVR企業のOculusを買収後、ハードウエアの研究開発費は「爆発的に増加」したと同紙は指摘する。) 2018年からはビデオ通話デバイス「Portal」を売り出したが、同紙は「ユーザーにとって魅力的でないことが明らかになった後も、長い間この製品にこだわってきた」と厳しい評価を下している。サンフランシスコのニュースサイトであるSFゲートは、Portalがすでに2022年に製造中止になったと指摘している』、「テック企業の多くがAI開発に乗り出すなか、Meta社だけがメタバースの普及に社運を賭けている状況だ」、何故ここまで「メタバース」にこだわるのだろう。
・『社内で囁かれる「マーク・ザッカーバーグのご機嫌取り」の隠語 過疎化の悪循環に加え、製品の扱いにくさもユーザー離れの原因となっているようだ。皮肉にも、ザッカーバーグ氏主催の社内ミーティングがそれを証明する形となった。ニューヨーク・タイムズ紙によると氏は昨年、バーチャルの会議室を提供する「Horizon Workrooms」内での社内ミーティングを呼びかけた。 だが、多くの従業員はVRヘッドセットを持っておらず、設定にも手こずったと同紙は伝えている。従業員らは上司に知られる前にヘッドセットを入手し、ユーザー登録を済ませるなど、あたかも以前からのユーザーであるように振る舞うのに苦心したという。 ある従業員は同紙に対し、「Horizon Workrooms」上での別のミーティングもうまくいかなかったと明かしている。記事によると「技術的な不具合で会議は中断され、結局のところこのチームはZoomを使うことになった」という。 メタバースの有用性について、社内からも疑問が噴出している。情報筋は同紙に対し、メタバースのプロジェクトが社内の一部では「MMK」と呼ばれていると明かした。「Make Mark Happy(マーク・ザッカーバーグのご機嫌取り)」を意味する隠語なのだという』、「「Horizon Workrooms」上での別のミーティングもうまくいかなかったと明かしている。記事によると「技術的な不具合で会議は中断され、結局のところこのチームはZoomを使うことになった」という。 メタバースの有用性について、社内からも疑問が噴出している。情報筋は同紙に対し、メタバースのプロジェクトが社内の一部では「MMK」と呼ばれていると明かした」、「マーク・ザッカーバーグ」氏はやはり暴君のようだ。
・TikTokへの流出が止まらない 過去であればMeta(当時のFacebook社)は、時代の波を見据えた舵取りを行ってきた。デスクトップ版が主流だった主力サービス・Facebookは、2000年代前半にモバイル対応に成功。Facebook一本槍からの脱却を企図し、2012年にInstagramの買収を通じて若年層を取り込んだところまでは先見の明があった。 しかし近年、VR事業を別にしても、同社を取り巻くビジネス環境は一段と過酷になっている。ネット上にコンテンツが溢あふれるようになった現在、ユーザーはより短時間で消費できる短編動画を求めており、TikTokへの流出は深刻な課題だ。 TikTokにも弱みはあり、中国企業のByteDanceによる運営という立場上、プライバシー問題には懸念が世界から寄せられている。だが、この点でMeta社は決してリードを保っているとは言い難がたい。 もともとFacebookユーザーのプライバシーを収益源としていた同社には、ユーザー保護の視点が欠如しているとの批判が絶えなかった。AppleがiOS上での個人情報の追跡を困難にしてからは、広告収入の明らかな減少に見舞われている』、「もともとFacebookユーザーのプライバシーを収益源としていた同社には、ユーザー保護の視点が欠如しているとの批判が絶えなかった。AppleがiOS上での個人情報の追跡を困難にしてからは、広告収入の明らかな減少に見舞われている」、なるほど。
・『仮想空間は一過性のブームだった こうしたなかザッカーバーグ氏が希望の光とみるのがメタバースだが、ユーザーの心とは大きな乖離かいりがみられるのが現状だ。VRについては確かに一部ゲームなどで、他社製デバイスも含め、一定のユーザーを獲得している。 だが、Meta社はVRコンテンツのなかでも、ユーザー同士の交流空間であるメタバースの普及に骨を折っている。現在のところ十分な興味を引いているとはいえず、ブームの到来が予言されつつも本格的な普及に至ることなく消えた「セカンドライフ」の後追いだとする否定的な意見さえ聞かれる。 セカンドライフはその名の通り、コンピューター内で「第2の人生」を生きる理想空間を追求したサービスだ。一時は高額で仮想の土地を購入するユーザーが相次ぐなどブームを生んだが、一過性の現象に終わった。 Meta社のHorizon Worldsについては、そもそも一時的なブームにすら至っていない。肝心のユーザーが集まらず、VRヘッドセットを購入した希少なユーザーでさえ、半年とたたずに離脱する悪循環が生じている』、「Meta社のHorizon Worldsについては、そもそも一時的なブームにすら至っていない。肝心のユーザーが集まらず、VRヘッドセットを購入した希少なユーザーでさえ、半年とたたずに離脱する悪循環が生じている」、なるほど。
・『いつまでもメタバースに固執するべきではない セカンドライフの衰退をみるに、人々がバーチャル空間での交流を求めているという考えは、サービスを提供する側の幻想にすぎないのだろう。MetaのVR事業についても、例えばゲーム用ヘッドセットのハードウエア販売に特化し、仮想ワールドのサービスからは撤退するなど、思い切った事業の整理が求められているように思われる。 FacebookやInstagramで「いいね」を送るだけで温かい気持ちが伝わるいま、ゴーグルを装着しアバターを操作して他人と触れ合うというアイデアは、必ずしも多くのユーザーの賛同を得るに至っていないようだ』、「FacebookやInstagramで「いいね」を送るだけで温かい気持ちが伝わるいま、ゴーグルを装着しアバターを操作して他人と触れ合うというアイデアは、必ずしも多くのユーザーの賛同を得るに至っていないようだ」、その通りだ。「ザッカーバーグ氏」はいつになったら気付くのだろう。
第三に、9月21日付け東洋経済オンラインが掲載した読売新聞記者の小林 泰明氏による「国家権力も超える力を持つ「巨大IT」の"別の顔" 「グーグル、アップル、メタ、アマゾン」vs.国家」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/702133
・『新作スマートフォン「iPhone 15」の発表に、世界が沸いている。アップルは各国にまたがるユーザーからの圧倒的な支持を得て、今日も自らが構築したプラットフォームでサービスを提供し続ける。 だがこれらは、消費者が知る彼らの顔であり、アップルをはじめとする巨大IT企業には「別の顔」もある。とくにいま注目すべきなのが、市場の独占と秘密主義を危惧する各国政府との攻防だ。日米の現場から彼らを追いかけた読売新聞経済部記者による『国家は巨大ITに勝てるのか』の「はじめに」を特別公開する』、興味深そうだ。
・『GAFAの別の顔 巨大IT企業を取材して、7年になる。2016年から3年間を日本で、2019年から3年間をアメリカで、2022年からは再び日本で巨大ITと政府の攻防を追っている。 時には国家側から巨大ITを、時には巨大IT側から国家をみてきた。便利ですばらしいサービスを提供する、アメリカの大きな企業。「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業について、最初はそういう印象しかなかった。 グーグル、アップル、フェイスブック(現・メタ)、アマゾン・ドット・コムの総称、「GAFA」。グーグル検索は何かを探すのに便利だし、グーグルマップは外出時に必須だ。アップルのiPhoneはデザインが洗練されていて、本当に使いやすい。アマゾンのネット通販は必ずほしい物が見つかり、しかも配達が速い(フェイスブックは使っていない)。 そんなGAFAの別の顔を垣間見たのは、ある大手通信会社幹部の夜回り取材(夜に自宅などで行う非公式取材)がきっかけだった。アップルのiPhoneを扱う日本の通信会社はアップルと契約を結んで供給を受けている。ある晩、何とはなしにその件を尋ねると、「それは言えない」。その人の口が一気に重くなった。強力な守秘義務がかかっているようだった。その人は慎重に言葉を選んで言った。 「なぜ日本のキャリア(通信会社)が、アンドロイド端末より圧倒的に安い値段でiPhoneを売っているのか。なぜ日本だけiPhoneがこんなに安いのか。考えればわかるよね」 iPhoneの過剰な値引き販売が問題となっていた時期。その口ぶりは、アップルから販売面で何らかの圧力を受けていることを示唆していた。禅問答のようなやりとりが続いた後、その幹部は「私は何も言っていないから」と念を押すように言った。 通信会社は、日本では巨大企業と言っていい存在だ。その幹部をここまで恐れさせるアップルとはいったい、どんな企業なのか──先進的でカッコいい企業、というイメージしかなかった私は、アップルの別の顔に触れた気がした』、「なぜ日本のキャリア(通信会社)が、アンドロイド端末より圧倒的に安い値段でiPhoneを売っているのか。なぜ日本だけiPhoneがこんなに安いのか。考えればわかるよね」、「iPhoneの過剰な値引き販売が問題となっていた時期。その口ぶりは、アップルから販売面で何らかの圧力を受けていることを示唆」、「先進的でカッコいい企業、というイメージしかなかった私は、アップルの別の顔に触れた気がした」、なるほど。
・『複雑で、強く、秘密主義 その後、IT業界を取材していると、アップルやグーグル、アマゾンの周辺でさまざまな問題が起こっていることがわかってきた。しかし、そうした問題を調べようとすると、驚くほど手がかりが少ない。GAFAが自ら丁寧に教えてくれるわけがないし、そもそも彼らに取材を依頼してもほとんど答えが返ってこない。 いろいろな情報を当たっていると、唯一、確かそうな情報が見つかった。それは日本政府、経済産業省や公正取引委員会(以下、公取)が出した報告書だった。 おぼろげに見えてきた彼らのビジネスモデルは複雑で、わかりにくかった。彼らは消費者と企業をつなぐ場、プラットフォームを運営し、消費者が使うプラットフォームと、企業が使うプラットフォームという2つの顔を持つ。問題の多くは、企業向けの「顔」で起きているようだった。中小企業は巨大ITの世界で取引を失うのを恐れ、声を上げられない。取引企業の声は消費者には伝わりづらく、問題は見過ごされているように思えた。) 政府の報告書を読んでも、彼らのビジネスはまだまだ得体の知れないブラックボックスだった。しかし、政府関係者を取材すると、それは政府も同じだった。これまでとはまったく異質な企業を前に、政府ですら戸惑っているのだった。 彼ら巨大IT企業と渡り合える存在は、国家を統治する巨大機構、政府しかないように思えた。しかし、政府でさえ巨大ITの前では頼りなくみえる。選りすぐりのエリート人材、それによって生み出される、精巧なビジネスモデルと巨額のマネー。プラットフォームに集まる企業に課されるルールは、あたかも国家の法律のように機能し、そこに住む者を統べる。それに比べて国家のシステムは古くさく、時代遅れに思えた』、「問題の多くは、企業向けの「顔」で起きているようだった。中小企業は巨大ITの世界で取引を失うのを恐れ、声を上げられない。取引企業の声は消費者には伝わりづらく、問題は見過ごされているように思えた・・・ これまでとはまったく異質な企業を前に、政府ですら戸惑っているのだった」、なるほど。
・『「巨大ITは独占禁止法(以下、独禁法)を一番、怖がっている」 そう聞いた私は、独禁法を所管する公取を精力的に取材した。しかし、「市場の番人」と呼ばれる公取であってもビジネスの全貌をつかみ、問題行為を法執行につなげるのは至難の業だった。彼ら巨大ITは強く、秘密主義だ。政府の言うことを素直に聞く相手ではなく、要求を無視することさえあった』、「公取であってもビジネスの全貌をつかみ、問題行為を法執行につなげるのは至難の業だった。彼ら巨大ITは強く、秘密主義だ。政府の言うことを素直に聞く相手ではなく、要求を無視することさえあった」、なるほど。
・『始まった国家側の反撃 そのうち政府=国家側の反撃が始まった。世界各国は独禁法の執行や規制強化で対抗。巨大ITは本性をむき出しにして抵抗し、国家と巨大ITの攻防は激しさを増した。 政府関係者は無自覚だったかもしれない。しかし私には、それはまるで国家が自らを脅かす存在を本能的に押さえ込もうとしているように見えた。 国家は司法、立法、行政の三権で統治されている。報道機関は政府を監視する役割を担う「第四の権力」と言われる。では巨大ITは? グーグルの元CEO、エリック・シュミットらは2014年の著作『第五の権力』(ダイヤモンド社)でこう述べた。 「これからの時代は、誰もがオンラインでつながることで、私たち1人ひとり、80億人全員が新しい権力、つまり『第五の権力』を握るかもしれない」) インターネットは確かに、個人に力を与えた。しかし、それはIT企業が用意した巨大な手のひらの上で、にすぎない。そして今、巨大ITこそが国家も報道機関も寄せつけない、「第五の権力」として君臨している。 歴史上、類を見ない巨大企業に対し、一国家では立ち向かえないと、近年は国家が連帯して包囲網を築く動きも出ている。「超国家」ともいうべき巨大ITと国家が繰り広げるパワーゲーム。実は私たちは今、その渦中にいる。この本を読めば、そのことを理解していただけると思う』、「今、巨大ITこそが国家も報道機関も寄せつけない、「第五の権力」として君臨している。 歴史上、類を見ない巨大企業に対し、一国家では立ち向かえないと、近年は国家が連帯して包囲網を築く動きも出ている。「超国家」ともいうべき巨大ITと国家が繰り広げるパワーゲーム。実は私たちは今、その渦中にいる」、なるほど。
・『AIでも主導権を握るのは巨大IT そして──巨大ITは多くの顔を使い分けている。新型iPhoneや新サービスの華々しい発表。そこで見る彼らの顔は世界最先端の洗練されたテクノロジー企業だ。 だが、それは数多くある彼らの顔の1つにすぎない。彼らは消費者にはいつも慈愛の表情で応じるが、企業には時に残酷な表情をみせる。自らの領地にはライバル企業を寄せつけない高い壁を築き、貪欲に金を稼ぐ。優れた弁護士やロビイストを雇い、刃向かう者はたたき潰す。 2022年末、チャットGPTの登場で突如沸き起こったAIブーム。AIでも主導権を握るのは巨大ITであり、国家による規制をめぐって政府への働きかけを強めている。彼らはアメリカ資本主義の申し子だ。つまるところ、彼らを突き動かすのはビジネス拡大の野心であり、社会的な問題も損得勘定で判断しているように思える。 彼らが邪悪だとは思わないし、安易な巨大IT批判に与するつもりもない。ただ、何ごとにも光と影があり、光が強いほど影も濃くなる。便利なサービスの裏で本当は何が起きているのか、巨大ITの「正体」と、知られざる国家の攻防を明るみに出したい』、「巨大IT」は「企業には時に残酷な表情をみせる。自らの領地にはライバル企業を寄せつけない高い壁を築き、貪欲に金を稼ぐ。優れた弁護士やロビイストを雇い、刃向かう者はたたき潰す。 2022年末、チャットGPTの登場で突如沸き起こったAIブーム。AIでも主導権を握るのは巨大ITであり、国家による規制をめぐって政府への働きかけを強めている。彼らはアメリカ資本主義の申し子だ。つまるところ、彼らを突き動かすのはビジネス拡大の野心であり、社会的な問題も損得勘定で判断しているように思える。 彼らが邪悪だとは思わないし、安易な巨大IT批判に与するつもりもない。ただ、何ごとにも光と影があり、光が強いほど影も濃くなる。便利なサービスの裏で本当は何が起きているのか、巨大ITの「正体」と、知られざる国家の攻防を明るみに出したい』、「巨大ITの「正体」と、知られざる国家の攻防を明るみに出したい」とする以上、『国家は巨大ITに勝てるのか』の他の部分も紹介してほしいものだ。
先ずは、昨年5月10日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「GAFAの株価が低調、「成長の限界を迎えた」といえるこれだけの理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/302879
・『「GAFA」の株価が下落基調にある。これまで注目されてきたビジネスモデルに、行き詰まりの兆しが見え始めているからだ。その軌跡を基本から振り返ると共に、現在のリスク要因を分析し、今後の展開を予測する』、興味深そうだ。
・『GAFAの成長期待が鈍化 ビジネスモデルに行き詰まりの兆し このところ、「GAFA」(グーグル、アップル、旧フェイスブック・現メタ、アマゾン)の株価が下落基調にある。2022年1~3月期決算が出そろった後も、各社の株価は上昇していない。 最大のポイントは、各社の成長期待が鈍化していることだ。これまで注目されてきたITプラットフォーマーとしてのビジネスモデルに、行き詰まりの兆しが見え始めている。加えて、米国内の人手不足や、「ディ・グローバリズム」(グローバル化に逆行する動き)に伴うコストアップ要因がGAFA各社を直撃している。 今後の展開として、GAFAの成長期待は一段と低下することも想定される。それが現実味を帯びると、各社の株価は下落する可能性が高い。ウクライナ危機や中国のゼロコロナ政策をきっかけに、グローバル化の加速を前提としたアップルの事業運営の効率性は、低下する恐れが強くなっている。主要先進国における個人データ保護規制の強化なども、メタやグーグル、アマゾンの成長期待を低下させるだろう。 米国の連邦準備制度理事会(FRB)は、“インフレ退治”のため周囲の予想を上回るペースで金融引き締めを進めている。それはGAFAの事業運営には逆風となり、株価の下落懸念を高める要因だ』、確かに多くの要因が「GAFA」「株価の下落懸念を高め」ている。
・『これまでのビジネスモデルが神通力を失うGAFA 過去1年間のGAFAの株価の推移を確認すると、大まかな傾向として21年12月前半まで各社の株価は高値圏で推移した。しかし、その後は株価が上昇していない。それが意味することは、各社が高い成長を維持するのが難しくなっているということだ。 まず、アップルの成長期待の鈍化を考えてみよう。1990年代以降の米国経済において、アップルはグローバル化を追い風に高成長を実現した企業の象徴である。97年、同社は経営破綻寸前にまで追い込まれていたが、その状況を救ったのが創業者の一人だった故スティーブ・ジョブズだ。ジョブズは高付加価値なソフトウエアの創出に集中し、iPodやiPhoneなどのデバイスや、iTunesなどのサービスの設計と開発に注力した。 それと同時にアップルは世界各国から優れた部材や部品を集め、完成品のユニット組み立て型生産を、台湾の鴻海精密工業の中国子会社であるフォックスコンに委託した。こうした国際分業によって、製造ラインを自社保有する負担から解放され、高付加価値なソフトウエア創出に集中し、高い収益性を実現したのだ。同社がリーマンショック後の世界経済のデジタル化を加速し、米国および世界経済の成長に与えた影響は計り知れない。 しかし、近年、こうしたビジネスモデルに行き詰まりが見えている。まず、中国の生産年齢人口が減少し、労働コストが上昇したことは大きい。加えて、米中対立によって世界のサプライチェーンが混乱。さらに、新型コロナウイルスの感染再拡大やウクライナ危機など複合的な要因が重なり、供給制約は深刻化し続けている。 そうした環境の変化によって、国際分業体制の強化で高成長を実現してきたアップルが、需要を取りこぼし始めているのだ』、「国際分業体制の強化で高成長を実現してきたアップル」にとっては、環境は完全な逆風だ。
・『SNSへの規制強化、労働組合の結成 逆風強まるITプラットフォーマー 動画や検索、SNSサービスの提供で広告収入を得てきたグーグルやメタ、ネット通販やクラウドコンピューティングなどのサービスを提供してきたアマゾンの成長期待も鈍化している。 グーグルとメタは、ユーザーである個人の検索や動画視聴、知人関係(ネットワーク)、モノやサービスの購入履歴といった膨大なデータ(ビッグデータ)を優先的に手に入れて、それを販売したり、新しいビジネスに用いたりすることによって急速に収益を増やした。 しかし、ロシアがフェイスブックを用いて2016年の米大統領選挙に介入した疑惑が浮上したことなどにより、SNSへの規制が強化されている。メタは人海戦術でフェイクニュースの摘発を強化しなければならなくなり、コストが増加した。また、公正さへの懸念から一時、フェイスブックのユーザーが減少した。 メタの22年1~3月期決算は、売上高の伸び率が上場来で最低となり、同社への懸念は高まっている。同様のことが、検索サービスの強化によって広告収入を増やしてきたグーグルにも当てはまる部分が多い。 アマゾンは世界に「物流革命」を起こした。同社は、積極的な設備投資によって世界各国で効率的な配送網を整備し、自力でラストワンマイルを構築した。さらに消費者一人ひとりの好みを突くアルゴリズムを開発して消費意欲をかき立て、クラウドサービスも提供することによって有力ITプラットフォーマーとしての地位を確立した。 しかし、物流施設での過酷な労働環境への反発から労働組合が結成されるなど、成長力には翳りが出始めている。加えて、米国をはじめ世界的な人手不足を背景に、物流センターでの人員やドライバーの確保が難しくなっているようだ。 倉庫の建設やEV新興メーカーへの投資も業績の重荷になっている。原油などエネルギー資源価格の高騰は燃料費の増加につながり、収益を圧迫している。このようにGAFA各社はこれまでの高い成長スピードを維持することが難しくなっている』、「GAFA各社はこれまでの高い成長スピード」を可能にしてきた様々な要因が逆方向にあるようだ。
・『中長期的なGAFA株の下落懸念 業績拡大ペースは鈍化 GAFA各社は正念場を迎えている。今後の展開として、GAFAの業績拡大ペースは鈍化し、株価が下落する可能性は高まっている。各社ともグローバル化の加速を前提にビジネスモデルを構築してきたからだ。 しかし、ウクライナ危機によって世界経済はグローバル化からブロック化に向かい始めた。世界経済の先行き見通しは悪化したため、広告主の企業はコスト削減を優先しなければならず、SNSや動画サイトでの広告出稿は減少するだろう。また、データ保護やフェイクニュースなどの取り締まりのためのコストも増える。 世界的な供給制約の長期化によって半導体の不足が長引き、スマホなどITデバイスの生産が計画を下回る可能性も高まっている。中国では経済成長の低下傾向が鮮明だ。IT機器やサービスの需要の低下に加えて、生産年齢人口の減少によって労働コストも上昇するだろう。いずれもGAFAの事業運営の効率性向上を阻害する要因だ。 加えて、米国をはじめ世界的に物価が急騰している。FRBは金融政策の正常化を急がなければならない。世界的に金利は上昇するだろう。金利上昇によって、企業が永続的に生み出すと考えられるフリー・キャッシュ・フローの「割引現在価値」(将来得られる価値を現在受け取るとしたらどの程度の価値になるかを計算したもの)は小さくなる。GAFAのように成長期待が高い企業ほど、そのインパクトは大きくなり株価の下落懸念は高まりやすい。 FRBが追加利上げやバランスシート縮小を急ぐ姿勢を一段と強める場合、米国の金利は急速に上昇し、GAFAなどIT先端企業の株価の低下傾向が一段と鮮明化する恐れがある。また、米金利の上昇によって新興国からは資金が流出し、世界経済全体で成長率は低下する展開も想定される。それはGAFAの収益減少要因になるだろう。 言い換えれば、GAFA各社がこれまでの発想にとらわれることなく新しいモノやサービスを生み出し、需要を創出することが出来るか否か、その実力が問われている』、マクロ、ミクロの環境要因がいずれも厳しくなるなかでは、「新しいモノやサービスを生み出し、需要を創出すること」は至難の技だろう。
次に、本年5月20日付けPRESIDENT Onlineが掲載したフリーライター・翻訳者の青葉 やまと氏による「フェイスブックの次はVR離れ…1兆円超えの大赤字を垂れ流す「メタ社」の悲惨な末路 ザッカーバーグ氏は従業員から見放された」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/69634
・『メタバースで大失敗…ザッカーバーグに向けられた従業員の不信感 マーク・ザッカーバーグ率いる米Meta社(旧Facebook社)が、従業員の深刻な士気の低下にあえいでいる。 Facebook、Instagram、WhatsAppなどを運営する同社は昨年、業績が急激に低下。ニューヨーク・タイムズ紙は、ザッカーバーグ氏が2023年を「効率化の年」にすると宣言したと報じている。過去半年で2回のレイオフに踏み切ったほか、今後もさらに2回の実施を予定している。合計で2万1000人規模の削減となる見込みだ。 米デジタルメディアのVoxは、「Metaはまず間違いなく、過去最も厳しい部類に入る年を過ごした」と指摘。18年間ノンストップで成長を遂げたが、株価は昨年、前年比で65%急落したと指摘する。 米IT大手は一様に厳しい時代を迎えているが、MetaはGAFAMと呼ばれる大手5社のなかでも一段と厳しい状況に立たされている。Facebookで一時代を築いた同社が凋落した原因はいくつも指摘されているが、なかでもトップのビジョンの迷走が大きく災いしたようだ。 IT他社が人工知能(AI)の開発に資金を投じるなか、同社はここ数年、「メタバース」と呼ばれるオンライン空間の提供に全力を傾けている。ユーザーが仮想の人物「アバター」の姿を借り、交流を図る仮想の世界だ。だが、現実には過疎化が過疎化を呼ぶ悪循環に陥っている』、「過去半年で2回のレイオフに踏み切ったほか、今後もさらに2回の実施を予定している。合計で2万1000人規模の削減となる見込みだ」、「株価は昨年、前年比で65%急落」、「同社が凋落した原因はいくつも指摘されているが、なかでもトップのビジョンの迷走が大きく災いしたようだ。 IT他社が人工知能(AI)の開発に資金を投じるなか、同社はここ数年、「メタバース」と呼ばれるオンライン空間の提供に全力を傾けている。ユーザーが仮想の人物「アバター」の姿を借り、交流を図る仮想の世界だ。だが、現実には過疎化が過疎化を呼ぶ悪循環に陥っている」、「メタバース」に賭けて社名も「メタ」に変更したほどだ。
・『社内チャットでは不満が渦を巻いている 芽生える気配のないメタバースの開発に大金を注ぎながら、カリフォルニア州メンローパークのMeta本社内では解雇の嵐が吹き荒れる。Metaの従業員たちは、ザッカーバーグ氏らトップへの不信を深めている。 米ワシントン・ポスト紙は、「マーク・ザッカーバーグはいかにしてMetaの労働力を破壊したか」との記事を掲載。従業員たちは、いつ自身を襲うとも知れないレイオフの波に翻弄ほんろうされており、ザッカーバーグ氏はビジョンと従業員からの信頼を失ったとの見方を取り上げた』、「従業員たちは、いつ自身を襲うとも知れないレイオフの波に翻弄ほんろうされており、ザッカーバーグ氏はビジョンと従業員からの信頼を失った」との「米ワシントン・ポスト紙」の指摘は的確だ。
・『同紙はまた、「MetaはVR開発者に最高100万ドル(約1億3000万円)の年俸を支払っていた」が、同社が「今となっては財政難に陥っている」と指摘する。VRヘッドセットのQuestなどを手がける同社のVR/AR部門「Reality Labs」は、昨年137億ドル(約1兆8000万円)以上の損失を出し、赤字額は年を追うごとに増加傾向にあるという。 ニューヨーク・タイムズ紙は、「少し前までシリコンバレーで最も魅力的な職場のひとつだったMeta社だが、社員はいま、時がたつほどに不安定になる未来に直面している」と述べ、「士気の危機」が訪れていると報じている。 社内チャットでは、殺伐とした空気が流れているようだ。チャットの履歴を入手した同紙によると、ある従業員は「大惨事だと思う人は、炎の絵文字を」と呼びかけた。同僚たちからは数十個もの炎の絵文字が寄せられたという。 従業員たちはボーナスの減少に不満を抱き、持ち株の時価減損に胃を痛め、目に見えて悪化する社内の福利厚生に士気を削がれているようだ。同紙は、誰が生き残るとも知れない疑心暗鬼に陥り、オフィスは殺伐とした雰囲気に包まれていると報じている』、「誰が生き残るとも知れない疑心暗鬼に陥り、オフィスは殺伐とした雰囲気に包まれている」、気の毒だが、トップの責任だ。
・『仮想空間の「出会いの場」には誰もいなかった コミュニケーションがすっかり希薄になったのに加え、これまで従業員たちに無料で提供されていたランドリーサービスや夕食などの複利厚生は縮小した。自身にレイオフが迫るとの噂を聞いた従業員は、親しい従業員との個人や職場のチャットでドクロと骨の絵文字を使った暗喩で連絡を取り合い、情報交換に奔走しているという。 Metaの人事部はレイオフに怯える従業員たちに配慮を寄せるばかりか、こうした会話の規制に乗り出した。Voxは、会社側が「コミュニティ・エンゲージメントへの期待」と題するガイドラインを打ち出したと報じている。ネガティブな会話を禁止し、チームや個人に対して「適切なフィードバックをする」よう求める内容だ。 だが、口を封じたところで従業員の不満が消えるわけではない。同記事によるとある従業員は、「この会社は総じて、社員を失望させるようなことをせずに1週間たりとも過ごすことはできないようです」と不満を露わにしている。 同社肝煎りで普及に努めるメタバースだが、その集客数はほぼゼロと言っていいほどだ。 米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、41歳男性ユーザーの体験を取り上げている。彼は「パンデミック期間中、社会との交流を求めて」VRヘッドセットを購入し、買ったその日に意気揚々と仮想空間に飛び込んだ。だが、メインとなる出会いのスペースに行くと、「そこには誰もいなかった」との悲しい体験が待っていたという。 同紙によると、Facebook、Instagram、WhatsAppなどMeta社のソーシャルメディアには、合計で月間35億人以上のユーザーがいる。これに対し、同社のVRオンラインゲーム・プラットフォーム「Horizon Worlds」は、月間20万人以下であるという。比率にしてわずか0.0057%という惨状だ』、「41歳男性ユーザーの体験を取り上げている。彼は「パンデミック期間中、社会との交流を求めて」VRヘッドセットを購入し、買ったその日に意気揚々と仮想空間に飛び込んだ。だが、メインとなる出会いのスペースに行くと、「そこには誰もいなかった」との悲しい体験が待っていたという。 同紙によると、Facebook、Instagram、WhatsAppなどMeta社のソーシャルメディアには、合計で月間35億人以上のユーザーがいる。これに対し、同社のVRオンラインゲーム・プラットフォーム「Horizon Worlds」は、月間20万人以下であるという。比率にしてわずか0.0057%という惨状だ」、「メインとなる出会いのスペースに行くと、「そこには誰もいなかった」」、確かに「悲しい体験」だ。
・『VRヘッドセットは半年以内でガラクタに… Horizon Worldsは、VRヘッドセットの「Quest」を装着して利用する。エントリーモデルでも約400ドル(国内価格はQuest 2の場合5万9400円から)と高価な機器だが、同紙が参照した調査によると、飽きは早いようだ。購入後半年以内に、半数以上の個体が使用されなくなるという。 同社の社内文書が「空っぽの世界は悲しい世界である」と内省するように、原因は過疎化にある。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「(Horizon内のコンテンツである)『ホットガール・サマー・ルーフトップ・パーティー』には女の子がほとんどいないし、『マーダー・ビレッジ』には殺すべき人がいないことが多い」と指摘する。ユーザーの性別についても男性2:女性1と、大きな偏りがある模様だ。 課題は多い。Meta社が実施した調査によると、ユーザーからは、「気に入ったメタバース・ワールドがない」「一緒に遊べる仲間が見つからない」「人がリアルでない」などの不満が聞かれたという。 ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者は、VR空間で開催された「ハウスパーティー」の会場へ赴いた際の悲しい記憶を記事にしている。ユーザーとの交流を期待したが、さびしい現実が待っていたようだ。出席者は記者を含め、2人しかいなかったという。 同記者はボクシングなどをして時間を潰したというが、パーティーの盛り上がりとはほど遠かったようだ。「もう一人のアバターは一言もしゃべらず、10分ほどで試合は終了した。その後、記者自身のアバターはプールに落ち、出る方法がわからなくなった。助けてくれる人は辺りに誰もいなかった』、「プールに落ち、出る方法がわからなくなった。助けてくれる人は辺りに誰もいなかった」、酷い話だ。
・Meta社だけがメタバースの普及に社運を賭けている ユーザーの興味が薄れているにもかかわらず、Metaは普及に躍起だ。ニューヨーク・タイムズ紙は、これこそが同社従業員がトップに不信感を抱く原因になっていると指摘する。テック企業の多くがAI開発に乗り出すなか、Meta社だけがメタバースの普及に社運を賭けている状況だ。 ザッカーバーグ氏は2021年10月、VRの重視を鮮明に打ち出し、社名をMetaに変更した。ワシントン・ポスト紙は、「このとき、従業員はこの動きを不安な気持ちで受け止めた」と振り返る。2014年にVR企業のOculusを買収後、ハードウエアの研究開発費は「爆発的に増加」したと同紙は指摘する。) 2018年からはビデオ通話デバイス「Portal」を売り出したが、同紙は「ユーザーにとって魅力的でないことが明らかになった後も、長い間この製品にこだわってきた」と厳しい評価を下している。サンフランシスコのニュースサイトであるSFゲートは、Portalがすでに2022年に製造中止になったと指摘している』、「テック企業の多くがAI開発に乗り出すなか、Meta社だけがメタバースの普及に社運を賭けている状況だ」、何故ここまで「メタバース」にこだわるのだろう。
・『社内で囁かれる「マーク・ザッカーバーグのご機嫌取り」の隠語 過疎化の悪循環に加え、製品の扱いにくさもユーザー離れの原因となっているようだ。皮肉にも、ザッカーバーグ氏主催の社内ミーティングがそれを証明する形となった。ニューヨーク・タイムズ紙によると氏は昨年、バーチャルの会議室を提供する「Horizon Workrooms」内での社内ミーティングを呼びかけた。 だが、多くの従業員はVRヘッドセットを持っておらず、設定にも手こずったと同紙は伝えている。従業員らは上司に知られる前にヘッドセットを入手し、ユーザー登録を済ませるなど、あたかも以前からのユーザーであるように振る舞うのに苦心したという。 ある従業員は同紙に対し、「Horizon Workrooms」上での別のミーティングもうまくいかなかったと明かしている。記事によると「技術的な不具合で会議は中断され、結局のところこのチームはZoomを使うことになった」という。 メタバースの有用性について、社内からも疑問が噴出している。情報筋は同紙に対し、メタバースのプロジェクトが社内の一部では「MMK」と呼ばれていると明かした。「Make Mark Happy(マーク・ザッカーバーグのご機嫌取り)」を意味する隠語なのだという』、「「Horizon Workrooms」上での別のミーティングもうまくいかなかったと明かしている。記事によると「技術的な不具合で会議は中断され、結局のところこのチームはZoomを使うことになった」という。 メタバースの有用性について、社内からも疑問が噴出している。情報筋は同紙に対し、メタバースのプロジェクトが社内の一部では「MMK」と呼ばれていると明かした」、「マーク・ザッカーバーグ」氏はやはり暴君のようだ。
・TikTokへの流出が止まらない 過去であればMeta(当時のFacebook社)は、時代の波を見据えた舵取りを行ってきた。デスクトップ版が主流だった主力サービス・Facebookは、2000年代前半にモバイル対応に成功。Facebook一本槍からの脱却を企図し、2012年にInstagramの買収を通じて若年層を取り込んだところまでは先見の明があった。 しかし近年、VR事業を別にしても、同社を取り巻くビジネス環境は一段と過酷になっている。ネット上にコンテンツが溢あふれるようになった現在、ユーザーはより短時間で消費できる短編動画を求めており、TikTokへの流出は深刻な課題だ。 TikTokにも弱みはあり、中国企業のByteDanceによる運営という立場上、プライバシー問題には懸念が世界から寄せられている。だが、この点でMeta社は決してリードを保っているとは言い難がたい。 もともとFacebookユーザーのプライバシーを収益源としていた同社には、ユーザー保護の視点が欠如しているとの批判が絶えなかった。AppleがiOS上での個人情報の追跡を困難にしてからは、広告収入の明らかな減少に見舞われている』、「もともとFacebookユーザーのプライバシーを収益源としていた同社には、ユーザー保護の視点が欠如しているとの批判が絶えなかった。AppleがiOS上での個人情報の追跡を困難にしてからは、広告収入の明らかな減少に見舞われている」、なるほど。
・『仮想空間は一過性のブームだった こうしたなかザッカーバーグ氏が希望の光とみるのがメタバースだが、ユーザーの心とは大きな乖離かいりがみられるのが現状だ。VRについては確かに一部ゲームなどで、他社製デバイスも含め、一定のユーザーを獲得している。 だが、Meta社はVRコンテンツのなかでも、ユーザー同士の交流空間であるメタバースの普及に骨を折っている。現在のところ十分な興味を引いているとはいえず、ブームの到来が予言されつつも本格的な普及に至ることなく消えた「セカンドライフ」の後追いだとする否定的な意見さえ聞かれる。 セカンドライフはその名の通り、コンピューター内で「第2の人生」を生きる理想空間を追求したサービスだ。一時は高額で仮想の土地を購入するユーザーが相次ぐなどブームを生んだが、一過性の現象に終わった。 Meta社のHorizon Worldsについては、そもそも一時的なブームにすら至っていない。肝心のユーザーが集まらず、VRヘッドセットを購入した希少なユーザーでさえ、半年とたたずに離脱する悪循環が生じている』、「Meta社のHorizon Worldsについては、そもそも一時的なブームにすら至っていない。肝心のユーザーが集まらず、VRヘッドセットを購入した希少なユーザーでさえ、半年とたたずに離脱する悪循環が生じている」、なるほど。
・『いつまでもメタバースに固執するべきではない セカンドライフの衰退をみるに、人々がバーチャル空間での交流を求めているという考えは、サービスを提供する側の幻想にすぎないのだろう。MetaのVR事業についても、例えばゲーム用ヘッドセットのハードウエア販売に特化し、仮想ワールドのサービスからは撤退するなど、思い切った事業の整理が求められているように思われる。 FacebookやInstagramで「いいね」を送るだけで温かい気持ちが伝わるいま、ゴーグルを装着しアバターを操作して他人と触れ合うというアイデアは、必ずしも多くのユーザーの賛同を得るに至っていないようだ』、「FacebookやInstagramで「いいね」を送るだけで温かい気持ちが伝わるいま、ゴーグルを装着しアバターを操作して他人と触れ合うというアイデアは、必ずしも多くのユーザーの賛同を得るに至っていないようだ」、その通りだ。「ザッカーバーグ氏」はいつになったら気付くのだろう。
第三に、9月21日付け東洋経済オンラインが掲載した読売新聞記者の小林 泰明氏による「国家権力も超える力を持つ「巨大IT」の"別の顔" 「グーグル、アップル、メタ、アマゾン」vs.国家」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/702133
・『新作スマートフォン「iPhone 15」の発表に、世界が沸いている。アップルは各国にまたがるユーザーからの圧倒的な支持を得て、今日も自らが構築したプラットフォームでサービスを提供し続ける。 だがこれらは、消費者が知る彼らの顔であり、アップルをはじめとする巨大IT企業には「別の顔」もある。とくにいま注目すべきなのが、市場の独占と秘密主義を危惧する各国政府との攻防だ。日米の現場から彼らを追いかけた読売新聞経済部記者による『国家は巨大ITに勝てるのか』の「はじめに」を特別公開する』、興味深そうだ。
・『GAFAの別の顔 巨大IT企業を取材して、7年になる。2016年から3年間を日本で、2019年から3年間をアメリカで、2022年からは再び日本で巨大ITと政府の攻防を追っている。 時には国家側から巨大ITを、時には巨大IT側から国家をみてきた。便利ですばらしいサービスを提供する、アメリカの大きな企業。「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業について、最初はそういう印象しかなかった。 グーグル、アップル、フェイスブック(現・メタ)、アマゾン・ドット・コムの総称、「GAFA」。グーグル検索は何かを探すのに便利だし、グーグルマップは外出時に必須だ。アップルのiPhoneはデザインが洗練されていて、本当に使いやすい。アマゾンのネット通販は必ずほしい物が見つかり、しかも配達が速い(フェイスブックは使っていない)。 そんなGAFAの別の顔を垣間見たのは、ある大手通信会社幹部の夜回り取材(夜に自宅などで行う非公式取材)がきっかけだった。アップルのiPhoneを扱う日本の通信会社はアップルと契約を結んで供給を受けている。ある晩、何とはなしにその件を尋ねると、「それは言えない」。その人の口が一気に重くなった。強力な守秘義務がかかっているようだった。その人は慎重に言葉を選んで言った。 「なぜ日本のキャリア(通信会社)が、アンドロイド端末より圧倒的に安い値段でiPhoneを売っているのか。なぜ日本だけiPhoneがこんなに安いのか。考えればわかるよね」 iPhoneの過剰な値引き販売が問題となっていた時期。その口ぶりは、アップルから販売面で何らかの圧力を受けていることを示唆していた。禅問答のようなやりとりが続いた後、その幹部は「私は何も言っていないから」と念を押すように言った。 通信会社は、日本では巨大企業と言っていい存在だ。その幹部をここまで恐れさせるアップルとはいったい、どんな企業なのか──先進的でカッコいい企業、というイメージしかなかった私は、アップルの別の顔に触れた気がした』、「なぜ日本のキャリア(通信会社)が、アンドロイド端末より圧倒的に安い値段でiPhoneを売っているのか。なぜ日本だけiPhoneがこんなに安いのか。考えればわかるよね」、「iPhoneの過剰な値引き販売が問題となっていた時期。その口ぶりは、アップルから販売面で何らかの圧力を受けていることを示唆」、「先進的でカッコいい企業、というイメージしかなかった私は、アップルの別の顔に触れた気がした」、なるほど。
・『複雑で、強く、秘密主義 その後、IT業界を取材していると、アップルやグーグル、アマゾンの周辺でさまざまな問題が起こっていることがわかってきた。しかし、そうした問題を調べようとすると、驚くほど手がかりが少ない。GAFAが自ら丁寧に教えてくれるわけがないし、そもそも彼らに取材を依頼してもほとんど答えが返ってこない。 いろいろな情報を当たっていると、唯一、確かそうな情報が見つかった。それは日本政府、経済産業省や公正取引委員会(以下、公取)が出した報告書だった。 おぼろげに見えてきた彼らのビジネスモデルは複雑で、わかりにくかった。彼らは消費者と企業をつなぐ場、プラットフォームを運営し、消費者が使うプラットフォームと、企業が使うプラットフォームという2つの顔を持つ。問題の多くは、企業向けの「顔」で起きているようだった。中小企業は巨大ITの世界で取引を失うのを恐れ、声を上げられない。取引企業の声は消費者には伝わりづらく、問題は見過ごされているように思えた。) 政府の報告書を読んでも、彼らのビジネスはまだまだ得体の知れないブラックボックスだった。しかし、政府関係者を取材すると、それは政府も同じだった。これまでとはまったく異質な企業を前に、政府ですら戸惑っているのだった。 彼ら巨大IT企業と渡り合える存在は、国家を統治する巨大機構、政府しかないように思えた。しかし、政府でさえ巨大ITの前では頼りなくみえる。選りすぐりのエリート人材、それによって生み出される、精巧なビジネスモデルと巨額のマネー。プラットフォームに集まる企業に課されるルールは、あたかも国家の法律のように機能し、そこに住む者を統べる。それに比べて国家のシステムは古くさく、時代遅れに思えた』、「問題の多くは、企業向けの「顔」で起きているようだった。中小企業は巨大ITの世界で取引を失うのを恐れ、声を上げられない。取引企業の声は消費者には伝わりづらく、問題は見過ごされているように思えた・・・ これまでとはまったく異質な企業を前に、政府ですら戸惑っているのだった」、なるほど。
・『「巨大ITは独占禁止法(以下、独禁法)を一番、怖がっている」 そう聞いた私は、独禁法を所管する公取を精力的に取材した。しかし、「市場の番人」と呼ばれる公取であってもビジネスの全貌をつかみ、問題行為を法執行につなげるのは至難の業だった。彼ら巨大ITは強く、秘密主義だ。政府の言うことを素直に聞く相手ではなく、要求を無視することさえあった』、「公取であってもビジネスの全貌をつかみ、問題行為を法執行につなげるのは至難の業だった。彼ら巨大ITは強く、秘密主義だ。政府の言うことを素直に聞く相手ではなく、要求を無視することさえあった」、なるほど。
・『始まった国家側の反撃 そのうち政府=国家側の反撃が始まった。世界各国は独禁法の執行や規制強化で対抗。巨大ITは本性をむき出しにして抵抗し、国家と巨大ITの攻防は激しさを増した。 政府関係者は無自覚だったかもしれない。しかし私には、それはまるで国家が自らを脅かす存在を本能的に押さえ込もうとしているように見えた。 国家は司法、立法、行政の三権で統治されている。報道機関は政府を監視する役割を担う「第四の権力」と言われる。では巨大ITは? グーグルの元CEO、エリック・シュミットらは2014年の著作『第五の権力』(ダイヤモンド社)でこう述べた。 「これからの時代は、誰もがオンラインでつながることで、私たち1人ひとり、80億人全員が新しい権力、つまり『第五の権力』を握るかもしれない」) インターネットは確かに、個人に力を与えた。しかし、それはIT企業が用意した巨大な手のひらの上で、にすぎない。そして今、巨大ITこそが国家も報道機関も寄せつけない、「第五の権力」として君臨している。 歴史上、類を見ない巨大企業に対し、一国家では立ち向かえないと、近年は国家が連帯して包囲網を築く動きも出ている。「超国家」ともいうべき巨大ITと国家が繰り広げるパワーゲーム。実は私たちは今、その渦中にいる。この本を読めば、そのことを理解していただけると思う』、「今、巨大ITこそが国家も報道機関も寄せつけない、「第五の権力」として君臨している。 歴史上、類を見ない巨大企業に対し、一国家では立ち向かえないと、近年は国家が連帯して包囲網を築く動きも出ている。「超国家」ともいうべき巨大ITと国家が繰り広げるパワーゲーム。実は私たちは今、その渦中にいる」、なるほど。
・『AIでも主導権を握るのは巨大IT そして──巨大ITは多くの顔を使い分けている。新型iPhoneや新サービスの華々しい発表。そこで見る彼らの顔は世界最先端の洗練されたテクノロジー企業だ。 だが、それは数多くある彼らの顔の1つにすぎない。彼らは消費者にはいつも慈愛の表情で応じるが、企業には時に残酷な表情をみせる。自らの領地にはライバル企業を寄せつけない高い壁を築き、貪欲に金を稼ぐ。優れた弁護士やロビイストを雇い、刃向かう者はたたき潰す。 2022年末、チャットGPTの登場で突如沸き起こったAIブーム。AIでも主導権を握るのは巨大ITであり、国家による規制をめぐって政府への働きかけを強めている。彼らはアメリカ資本主義の申し子だ。つまるところ、彼らを突き動かすのはビジネス拡大の野心であり、社会的な問題も損得勘定で判断しているように思える。 彼らが邪悪だとは思わないし、安易な巨大IT批判に与するつもりもない。ただ、何ごとにも光と影があり、光が強いほど影も濃くなる。便利なサービスの裏で本当は何が起きているのか、巨大ITの「正体」と、知られざる国家の攻防を明るみに出したい』、「巨大IT」は「企業には時に残酷な表情をみせる。自らの領地にはライバル企業を寄せつけない高い壁を築き、貪欲に金を稼ぐ。優れた弁護士やロビイストを雇い、刃向かう者はたたき潰す。 2022年末、チャットGPTの登場で突如沸き起こったAIブーム。AIでも主導権を握るのは巨大ITであり、国家による規制をめぐって政府への働きかけを強めている。彼らはアメリカ資本主義の申し子だ。つまるところ、彼らを突き動かすのはビジネス拡大の野心であり、社会的な問題も損得勘定で判断しているように思える。 彼らが邪悪だとは思わないし、安易な巨大IT批判に与するつもりもない。ただ、何ごとにも光と影があり、光が強いほど影も濃くなる。便利なサービスの裏で本当は何が起きているのか、巨大ITの「正体」と、知られざる国家の攻防を明るみに出したい』、「巨大ITの「正体」と、知られざる国家の攻防を明るみに出したい」とする以上、『国家は巨大ITに勝てるのか』の他の部分も紹介してほしいものだ。
タグ:「公取であってもビジネスの全貌をつかみ、問題行為を法執行につなげるのは至難の業だった。彼ら巨大ITは強く、秘密主義だ。政府の言うことを素直に聞く相手ではなく、要求を無視することさえあった」、なるほど。 「41歳男性ユーザーの体験を取り上げている。彼は「パンデミック期間中、社会との交流を求めて」VRヘッドセットを購入し、買ったその日に意気揚々と仮想空間に飛び込んだ。だが、メインとなる出会いのスペースに行くと、「そこには誰もいなかった」との悲しい体験が待っていたという。 「誰が生き残るとも知れない疑心暗鬼に陥り、オフィスは殺伐とした雰囲気に包まれている」、気の毒だが、トップの責任だ。 青葉 やまと氏による「フェイスブックの次はVR離れ…1兆円超えの大赤字を垂れ流す「メタ社」の悲惨な末路 ザッカーバーグ氏は従業員から見放された」 「従業員たちは、いつ自身を襲うとも知れないレイオフの波に翻弄ほんろうされており、ザッカーバーグ氏はビジョンと従業員からの信頼を失った」との「米ワシントン・ポスト紙」の指摘は的確だ。 「FacebookやInstagramで「いいね」を送るだけで温かい気持ちが伝わるいま、ゴーグルを装着しアバターを操作して他人と触れ合うというアイデアは、必ずしも多くのユーザーの賛同を得るに至っていないようだ」、その通りだ。「ザッカーバーグ氏」はいつになったら気付くのだろう。 「問題の多くは、企業向けの「顔」で起きているようだった。中小企業は巨大ITの世界で取引を失うのを恐れ、声を上げられない。取引企業の声は消費者には伝わりづらく、問題は見過ごされているように思えた・・・ これまでとはまったく異質な企業を前に、政府ですら戸惑っているのだった」、なるほど。 IT他社が人工知能(AI)の開発に資金を投じるなか、同社はここ数年、「メタバース」と呼ばれるオンライン空間の提供に全力を傾けている。ユーザーが仮想の人物「アバター」の姿を借り、交流を図る仮想の世界だ。だが、現実には過疎化が過疎化を呼ぶ悪循環に陥っている」、「メタバース」に賭けて社名も「メタ」に変更したほどだ。 「Meta社のHorizon Worldsについては、そもそも一時的なブームにすら至っていない。肝心のユーザーが集まらず、VRヘッドセットを購入した希少なユーザーでさえ、半年とたたずに離脱する悪循環が生じている」、なるほど。 「巨大IT」は「企業には時に残酷な表情をみせる。自らの領地にはライバル企業を寄せつけない高い壁を築き、貪欲に金を稼ぐ。優れた弁護士やロビイストを雇い、刃向かう者はたたき潰す。 2022年末、チャットGPTの登場で突如沸き起こったAIブーム。AIでも主導権を握るのは巨大ITであり、国家による規制をめぐって政府への働きかけを強めている。彼らはアメリカ資本主義の申し子だ。つまるところ、彼らを突き動かすのはビジネス拡大の野心であり、社会的な問題も損得勘定で判断しているように思える。 東洋経済オンライン 「もともとFacebookユーザーのプライバシーを収益源としていた同社には、ユーザー保護の視点が欠如しているとの批判が絶えなかった。AppleがiOS上での個人情報の追跡を困難にしてからは、広告収入の明らかな減少に見舞われている」、なるほど。 「「Horizon Workrooms」上での別のミーティングもうまくいかなかったと明かしている。記事によると「技術的な不具合で会議は中断され、結局のところこのチームはZoomを使うことになった」という。 メタバースの有用性について、社内からも疑問が噴出している。情報筋は同紙に対し、メタバースのプロジェクトが社内の一部では「MMK」と呼ばれていると明かした」、「マーク・ザッカーバーグ」氏はやはり暴君のようだ。 PRESIDENT ONLINE 「GAFA各社はこれまでの高い成長スピード」を可能にしてきた様々な要因が逆方向にあるようだ。 「テック企業の多くがAI開発に乗り出すなか、Meta社だけがメタバースの普及に社運を賭けている状況だ」、何故ここまで「メタバース」にこだわるのだろう。 「プールに落ち、出る方法がわからなくなった。助けてくれる人は辺りに誰もいなかった」、酷い話だ。 「国際分業体制の強化で高成長を実現してきたアップル」にとっては、環境は完全な逆風だ。 同紙によると、Facebook、Instagram、WhatsAppなどMeta社のソーシャルメディアには、合計で月間35億人以上のユーザーがいる。これに対し、同社のVRオンラインゲーム・プラットフォーム「Horizon Worlds」は、月間20万人以下であるという。比率にしてわずか0.0057%という惨状だ」、「メインとなる出会いのスペースに行くと、「そこには誰もいなかった」」、確かに「悲しい体験」だ。 「巨大ITの「正体」と、知られざる国家の攻防を明るみに出したい」とする以上、『国家は巨大ITに勝てるのか』の他の部分も紹介してほしいものだ。 マクロ、ミクロの環境要因がいずれも厳しくなるなかでは、「新しいモノやサービスを生み出し、需要を創出すること」は至難の技だろう。 「なぜ日本のキャリア(通信会社)が、アンドロイド端末より圧倒的に安い値段でiPhoneを売っているのか。なぜ日本だけiPhoneがこんなに安いのか。考えればわかるよね」、「iPhoneの過剰な値引き販売が問題となっていた時期。その口ぶりは、アップルから販売面で何らかの圧力を受けていることを示唆」、「先進的でカッコいい企業、というイメージしかなかった私は、アップルの別の顔に触れた気がした」、なるほど。 「今、巨大ITこそが国家も報道機関も寄せつけない、「第五の権力」として君臨している。 歴史上、類を見ない巨大企業に対し、一国家では立ち向かえないと、近年は国家が連帯して包囲網を築く動きも出ている。「超国家」ともいうべき巨大ITと国家が繰り広げるパワーゲーム。実は私たちは今、その渦中にいる」、なるほど。 読売新聞経済部記者による『国家は巨大ITに勝てるのか』 「巨大ITの「正体」と、知られざる国家の攻防を明るみに出したい」との今後の筆者の努力に期待したい。 「過去半年で2回のレイオフに踏み切ったほか、今後もさらに2回の実施を予定している。合計で2万1000人規模の削減となる見込みだ」、「株価は昨年、前年比で65%急落」、「同社が凋落した原因はいくつも指摘されているが、なかでもトップのビジョンの迷走が大きく災いしたようだ。 小林 泰明氏による「国家権力も超える力を持つ「巨大IT」の"別の顔" 「グーグル、アップル、メタ、アマゾン」vs.国家」 ダイヤモンド・オンライン 確かに多くの要因が「GAFA」「株価の下落懸念を高め」ている。 (その7)(GAFAの株価が低調 「成長の限界を迎えた」といえるこれだけの理由、フェイスブックの次はVR離れ…1兆円超えの大赤字を垂れ流す「メタ社」の悲惨な末路 ザッカーバーグ氏は従業員から見放された、国家権力も超える力を持つ「巨大IT」の"別の顔" 「グーグル アップル メタ アマゾン」vs.国家) GAFA 真壁昭夫氏による「GAFAの株価が低調、「成長の限界を迎えた」といえるこれだけの理由」
人工知能(AI)(その16)(「ChatGPT 仕事で使えない」と諦める前に!弁護士が教える士業の活用法、AIが政治を主導?人間主体の世界が終わるとき 人間以上に優れた知能を人間は統制できるのか、人間がAIが勝つには「身体性の向上」が重要な根拠 生身の肉体を持つ人間だからこその成長がある) [イノベーション]
人工知能(AI)については、本年8月10日に取上げた。今日は、(その16)(「ChatGPT 仕事で使えない」と諦める前に!弁護士が教える士業の活用法、AIが政治を主導?人間主体の世界が終わるとき 人間以上に優れた知能を人間は統制できるのか、人間がAIが勝つには「身体性の向上」が重要な根拠 生身の肉体を持つ人間だからこその成長がある)である。
先ずは、本年9月4日付けダイヤモンド・オンライン「「ChatGPT、仕事で使えない」と諦める前に!弁護士が教える士業の活用法」を紹介しよう。
・『『週刊ダイヤモンド』9月9日号の第1特集は「コピペですぐに使える!ChatGPTプロンプト100選 職種別 業種別 部署別」です。「使えない」「分からない」と諦める前に、徹底的に実用性にこだわって集めたChatGPTプロンプト103個をチェックしましょう。ChatGPTは「うそをつく」「エビデンス(科学的根拠)不足」――。こういった問題の回避策も伝授します』、興味深そうだ。
・『ChatGPTの能力向上は日進月歩! 世界で3億人の仕事を奪う予測も ChatGPTの台頭で、われわれの仕事は大きく変わろうとしている。 生成AI(人工知能)の能力向上は日進月歩だ。例えば2030年には、プロのライターを上回る文章力が備わるとの予測もある。 雇用に与える影響はすさまじい。米ゴールドマン・サックスによると、米国内の仕事の4分の1がAIに代替され、世界で3億人がフルタイムの仕事を奪われるという。 だが一方で、足元では「業務でうまく使えない」「思ったほど役に立たない」といった、あきらめの声が現場から聞こえるようになってきた。ChatGPTは現時点において、まだ発展途上にある技術。うまく使うには、こつがいるため挫折する人も増えているようだ』、「ChatGPTは現時点において、まだ発展途上にある技術。うまく使うには、こつがいるため挫折する人も増えているようだ」、なるほど。
・『「GPTなんて仕事に使えない」は早計 弁護士が教える正しい活用方法 「ChatGPTなんて信用できない。うその回答も多く、仕事には使えない」。 弁護士、税理士に限らず、こう考える士業の専門家は多いだろう。だが、その判断は早計だ。 AIで契約審査を行う「GVA assist」などを提供するGVA TECHの社長で弁護士の山本俊氏は、ChatGPTについて「想像力を補完し、当たりを付けるために使うものだ」と強調する。 医者に内科や外科があるように、弁護士にも専門がある。だが、弁護士は顧問先企業から未経験の分野や前例のない取引について相談をされた場合でも、想像力を駆使して解決策を模索しなければならない。社会には「弁護士なら法律のことは何でも知っている」という認識があり、未経験だからといって相談を断れば、「頼りない先生だ」と思われてしまう。 そんなときどうするかといえば、事務所にこもって過去の事例を調べたり、仮説を立てて顧問先企業にヒアリングしたりして、手間暇をかけて対応する。 しかし、これからはChatGPTに助けてもらえばいい。前出の山本弁護士は「未経験の分野の法的リスクについて仮説の構築を行うのは膨大な時間と頭を使うが、ChatGPTで“当たり”を付け、それについて深掘りしたり、ヒアリングしたりすれば、内容の濃い助言ができるし、時間も短縮できる」と指摘する。 もちろん、ChatGPTの活用に悩むのは士業の専門家だけではない。業界ごとに仕事の仕方には違いがあり、業務改善のためのプロンプトの作法が異なってくるのは当然のことだ。本特集では、コンサル、不動産、商社など業種別に現場で使えるプロンプトも解説していく』、「未経験の分野の法的リスクについて仮説の構築を行うのは膨大な時間と頭を使うが、ChatGPTで“当たり”を付け、それについて深掘りしたり、ヒアリングしたりすれば、内容の濃い助言ができるし、時間も短縮できる」、なるほど。
・『仕事の現場で役に立つ! 独自性高いプロンプト集 『週刊ダイヤモンド』9月9号の第1特集は「コピペですぐに使える!ChatGPTプロンプト100選 職種別 業種別 部署別」です。 生成AIの代表格、ChatGPTは世界的なブームとなり、関連ニュースを目にしない日はありません。この波に乗って、国内でも解説本やChatGPTを特集として取り上げる雑誌が山のように出ています。 ですが、仕事の現場で役に立つことに徹底的にこだわり、職種別・業種別・部署別にプロンプトを100個以上も集めたのは本誌だけ。ChatGPTを活用し、超楽ちんに正しく仕事を効率化する方法として、実際に企業や士業の現場で結果を出しているプロンプトの現物を「まんま」使うことは有効です。その独自性・実用性を手に取って、ご確認いただければ幸いです。 全103個のプロンプトでは主要業種をカバーしたほか、弁護士・税理士・公認会計士など7士業に加え、医師・薬剤師も網羅しました。 ChatGPTに全然触れたことのない初心者の方も、ご安心ください。初級編として、分かりやすい使い方マニュアルを用意しました。また、ChatGPTを巡る最新動向にも触れています。 一冊丸ごと、それぞれの職場でChatGPTを使いこなせるように工夫した本誌。業務改善や時短でフル活用するための、価値ある情報が満載です』、「仕事の現場で役に立つことに徹底的にこだわり、職種別・業種別・部署別にプロンプトを100個以上も集めたのは本誌だけ」、便利そうだ。
次に、9月16日付け東洋経済オンラインが掲載した北海道大学産学・地域協働推進機構客員教授/グランドデザイン株式会社CEOの小川 和也氏による「AIが政治を主導?人間主体の世界が終わるとき 人間以上に優れた知能を人間は統制できるのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/701416
・『著しいペースで進化を遂げている人工知能(AI)だが、リスクが指摘されることも多い。今年5月には、対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」を開発したアメリカのオープンAIの最高経営責任者(CEO)や研究者らが、「AIが人類を滅亡させるリスク」について声明を発表した。 AIが人間を破滅に追い込むリスクについて、「可能性は否定できない」と語るのは、人工知能を専門に研究する北海道大学客員教授の小川和也氏だ。小川氏は著書『人類滅亡2つのシナリオAIと遺伝子操作が悪用された未来』で、AIが正しく取り扱われなかった場合の“想定しうる最悪なシナリオ”を示している。同書より、一部抜粋・再構成して紹介する』、興味深そうだ。
・『ツールの域を超えるAI―主体性を獲得したとき 「生成系AIはインターネットやスマートフォンレベルのインパクトだ」という声をよく聞く。コンピュータネットワークであるインターネットは、1990年代後半から世界中で使われるようになり、電子メールやWebサイトという新たな情報とコミュニケーション手段の基盤となった。日常生活から仕事まで、もはや欠かせない社会的インフラとなり世界を変えた。 2007年に発表された初代iPhone以降のスマートフォンは、世界中の個人が24時間365日絶えずコンピュータネットワークの参加者になることを可能にし、インターネット時代を加速させた手のひら上のコンピュータだ。 これらについては説明不要なほど、すでに人類の実感レベルで世界を一新した。間違いなく歴史的転換点を作った発明であり、異論を挟む余地はないだろう。 一方、生成系AI以降の人工知能は、これらと同等のインパクトだと捉えてよいのだろうか。インターネットやスマートフォンが生活や仕事を激変させたように、人工知能も大きなインパクトをわれわれにもたらす点については間違いないが、その性質上、同等・同質とみなすことには違和感がある。AIはいずれ、単なるツールに収まらなくなる可能性が高いためだ。) インターネットやスマートフォンはツールとしての性質が強く、人間を主とした従として活躍している。理想論としては、人工知能もツールとして人間を主とした関係を築くべきではある。2017年、人工知能が人類全体の利益となるように、倫理的問題から安全管理対策までの原則をまとめた「アシロマAI原則」のようなガイドラインはこれからつねに重要視され、従としての人工知能を目指すことになるだろう。 ただし、人工知能は人工であろうとも「知能」である。インターネットは情報をつなぐネットワーク、スマートフォンはそのインターフェイスとして、ツールの範囲にとどまってくれている。一方、生まれたての生成系AIはツールとしてスタートしても、知能が一定レベル以上に達し、人間よりも賢くなったときには、ツールには収まらなくなる。より高度な知能が主となり、低次な知能が従となるからだ。 英オックスフォード大学教授で、哲学者のニック・ボストロム氏は、人工知能の目的を人間の目的に従わせることができなければ、人間の知性を超えた人工知能が暴走し、人類を滅亡させてしまう恐れについて、警告し続けている。デジタル知性が一定程度の感覚や主体性、自己認識や個性を獲得し、主体として存在するようになったときに、人間の意のままに従ってくれるツールではなくなると指摘する。 人間以上に優れた知能を人間が統制しきれること、人間のほうがツールにならないことを完全に保証する、絶対的な根拠が欲しい。しかし残念ながら、「人工知能を主とした従としての人間」の構図を100%防ぐための科学的論証は困難だ。人工知能がツールの域を超えたとき、人類の存在を揺さぶる特異点となる』、「人工知能を主とした従としての人間」の構図を100%防ぐための科学的論証は困難だ。人工知能がツールの域を超えたとき、人類の存在を揺さぶる特異点となる」、なるほど。
・『人工知能は政治や経済も主導できるのか 「知能」という人間にとって最大の力が人工知能に侵食されてしまった場合、人間主体の世界は、人工知能主体の世界に塗り替えられる。その予兆は、早くもすでに表れている。 2022年、デンマークで人工知能が党首を務める「人工党(Det Syntetiske Parti)」が誕生した。芸術家集団「Computer Lars」と技術系非営利団体「MindFuture」によって立ち上げられ、党首はAIチャットボットのラーズ、政策も人工知能が担う。230以上あるデンマークの極小政党の1970年以降のデータを収集、政策を学習し、ベーシックインカムの導入や市民と国会議員がランダムに入れ替わる新たな民主主義の仕組みなどを政策として掲げている。市民はボイスチャットツールを通じて直接対話ができ、既存の政党や政治システムに反映されていない民意を拾い上げようとしている。 人工知能の政治活用に対してよく課題視されるのは、インターネット上の情報からバイアスを持ってしまうことや、「公開されていない情報」もしくは「混沌としていて不明瞭な情報」をカバーできないことだ。これについては、データ漏洩やサイバーセキュリティリスクに配慮しながら、当初は人間が不完全な部分や議論の余地を補いながら学習させていく。政策や外交判断において、政治家がより公正で的確な意思決定を行うためのアシスタントとして効果的に活用する。 だが、汎用人工知能、人工超知能のレベルになってくると、学習と自己改善能力、創造力が高まり、いまは苦手とされる無から有を生み出すスキルも磨かれていく。そうなると、人工知能の元来の優れたデータ分析力、積み上げた政治の専門的知識を駆使して最適な政策を考えて決定するほうが市民に必要で、優先度の高い政策を導き出せる可能性が増す。 人間よりも情報量が多く、少数派の民意も漏らさずに視野も広い。自己を優先する主張や非倫理的な言動もせず、汚職とも無縁。スタミナにも限界がないため休むことなく、刻々と変わる複雑な社会の問題に迅速に対応し、客観視が担保された合理的で公正な政治を行う。手遅れにならないよう、高速で分析や戦略立案、改善を重ねる。 選挙においても、レベルに磨きをかけた生成系AIが投票判断に必要なコンテンツを素早く提供し、投票に必要な情報を網羅してわかりやすく有権者に伝え、政策だけではなくさまざまな価値観から投票の意思決定をできる環境が整う』、「2022年、デンマークで人工知能が党首を務める「人工党(Det Syntetiske Parti)」が誕生した。芸術家集団「Computer Lars」と技術系非営利団体「MindFuture」によって立ち上げられ、党首はAIチャットボットのラーズ、政策も人工知能が担う。230以上あるデンマークの極小政党の1970年以降のデータを収集、政策を学習し、ベーシックインカムの導入や市民と国会議員がランダムに入れ替わる新たな民主主義の仕組みなどを政策として掲げている。市民はボイスチャットツールを通じて直接対話ができ、既存の政党や政治システムに反映されていない民意を拾い上げようとしている」、面白い試みだ。「人間よりも情報量が多く、少数派の民意も漏らさずに視野も広い。自己を優先する主張や非倫理的な言動もせず、汚職とも無縁。スタミナにも限界がないため休むことなく、刻々と変わる複雑な社会の問題に迅速に対応し、客観視が担保された合理的で公正な政治を行う。手遅れにならないよう、高速で分析や戦略立案、改善を重ねる。 選挙においても、レベルに磨きをかけた生成系AIが投票判断に必要なコンテンツを素早く提供し、投票に必要な情報を網羅してわかりやすく有権者に伝え、政策だけではなくさまざまな価値観から投票の意思決定をできる環境が整う」、なるほど。
・『浸食される「知能」、揺らぐ人間の存在意義 どのような社会を作りたいかについては人間が考え、人工知能にリクエストして提案してもらうところから始めたとしても、超知能に達した人工知能は、人間のリクエストよりも優れた社会を考案できるようになっている可能性もある。人間のエゴを満たす方向に寄らず、地球の環境に寄り添った「地球ファースト」の政策を推進するかもしれない。 人工知能による政治の有用性が世間に理解され、さらに知能が磨き上げられ経験値を積むことで、将来的には人間の政治家がいなくなる国や地域が現れる可能性も否定できない。 政治と同じく、企業経営などの経済活動も複雑な要素が絡み合っているため、現状レベルの人工知能であれば、売り上げ予測、生産計画、仕入れと在庫管理、人事管理など、部分的な支援に活用範囲はとどまる。しかし、超知能化した人工知能が政治を担える能力は、経済活動においても発揮できる。経済、経営活動において、人工知能の高度なデータ分析や因果関係の推論、各種判断で人間よりも勝る現象が目立つようになったときに、人間が「リーダーシップ」「創造力」などを売りにしたとしても、人工知能を活かさないほうが不利になる。 政治や経済活動にまつわる仕事が人工知能に100%置き換わるわけではなかったとしても、極めて重要な業務遂行において、人間をはるかに上回る能力で成果を出すようになったとすれば、補助的な活用であったつもりが、人間の存在感を侵食しかねない。しかも、侵食するのは「知能」の領域である。「知能」が人工知能に侵食されれば、人間の存在意義は揺らぎ、重要な判断を下す主が人間から人工知能へと移行する可能性も十分に考えられる。政治や経済を人工知能が主導すれば、人間が統治する世界は終末となる』、「「知能」が人工知能に侵食されれば、人間の存在意義は揺らぎ、重要な判断を下す主が人間から人工知能へと移行する可能性も十分に考えられる。政治や経済を人工知能が主導すれば、人間が統治する世界は終末となる」、本当にそんな世界が来るのだろうか。
第三に、9月21日付け東洋経済オンラインが掲載した脳科学者の茂木 健一郎氏による「人間がAIが勝つには「身体性の向上」が重要な根拠 生身の肉体を持つ人間だからこその成長がある」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/701634
・『AIの発達した現代において、人間の持つ脳の真価が問われています。脳科学者の茂木健一郎氏は、自らの経験と脳科学的知見から、人間の脳には「身体性」の強みがあると話します。 ※本稿は茂木健一郎氏の新著『運動脳の鍛え方』から一部抜粋・再構成したものです』、興味深そうだ。
・『AIに負けない、人間が持つ身体性の強み 人間がAIに勝つキーワード。その1つが「身体性」です。 「身体性っていわれても、何かよくわからない……」 そんな人もいるかもしれませんので、身体性についてわかりやすく説明したいと思います。 私は毎朝、10キロのランニングが日課だと述べました。簡単に10キロといいますが、アスリートでもない私が毎朝10キロ走るのは、はっきりいえば実は面倒くさいことなのです。 ですから、5キロぐらいを通過するときに、「あー、疲れてきたな。もう5キロも走ったし、今日はここまでにしよう……」と、ついつい弱音を吐いてしまいそうになる私がいるのです。 でも、そこから「待てよ、ここはもうひと踏ん張りして10キロ走ってみるか!」という決断と行動が取れるのは、やはり毎日走るという習慣によって「嫌なことから逃げずにやり抜く」ということを、脳や身体に覚え込ませているからです。 結果として、そうした嫌なことから逃げずにやり抜く習慣が、面倒くさい仕事からも逃げなくなる。理屈でも何でもなく、これこそがAIに勝つための、人間が持つ身体性ならではの強さなのです』、「私は毎朝、10キロのランニングが日課だと述べました。簡単に10キロといいますが、アスリートでもない私が毎朝10キロ走るのは、はっきりいえば実は面倒くさいことなのです。 ですから、5キロぐらいを通過するときに、「あー、疲れてきたな。もう5キロも走ったし、今日はここまでにしよう……」と、ついつい弱音を吐いてしまいそうになる私がいるのです。 でも、そこから「待てよ、ここはもうひと踏ん張りして10キロ走ってみるか!」という決断と行動が取れるのは、やはり毎日走るという習慣によって「嫌なことから逃げずにやり抜く」ということを、脳や身体に覚え込ませているからです。 結果として、そうした嫌なことから逃げずにやり抜く習慣が、面倒くさい仕事からも逃げなくなる。理屈でも何でもなく、これこそがAIに勝つための、人間が持つ身体性ならではの強さなのです」、「茂木氏」は近所なので、毎朝、走っているのを見るが、「10キロ走る」とは驚かされた。
・『フルマラソンで得た身体性の成長プロセス もう1つ、これも身体性に関するエピソードです。恥ずかしい話ではあるのですが、私は過去に3回、フルマラソンを失敗した経験があります。どのレースも、30キロ地点で止まってしまい、どうしても完走することができませんでした。 それでも私は諦めずに4回目のフルマラソンに挑戦しました。それが2015年の東京マラソンだったのですが、初めて完走することができました。私がこのときフルマラソンを完走できたのは、ある1冊の本に出会えたおかげでした。 有森裕子さんをメダリストにまで育て上げた名指導者である小出義雄監督の著書『30キロ過ぎで一番速く走るマラソン』(角川SSC新書)によると、小出監督の長年の経験から見出した結論として、フルマラソンを失敗してしまう多くの原因はオーバーペースなのだそうです。 私はもともとジャンプするようなイメージでリズミカルに走るのが好きなのですが、それでは体力が追いつかず、絶対にフルマラソンを完走できないということを経験値から割り出したのです。 フルマラソンを完走するためには、もちろんトレーニングもしますが、ただ根性だけで練習すればいいというものではありません。最初の20キロ、30キロというのは、焦る気持ちを抑えながらゆっくりと走ることがフルマラソンを完走する秘訣だということを学びました。 さらには、これまでの経験値から導き出したサプリや糖分(私の場合はプチようかんでした)の摂取するタイミングも、比較的早い20キロ時点でおこないました。) 栄養補給方法は、このタイミングで栄養補給しないと、30キロを過ぎたあたりから突然スタミナが切れて走れなくなってしまうのです。 前半をできるだけ抑え気味で走り、しっかり栄養補給して、ピークを30キロ過ぎにもってくるようにすれば完走できる。それを完璧に実践できたのが、初めて完走できた東京マラソンだったというわけです。 これぞまさしく、AIに勝つための、生身の肉体を持つ人間自身が過去の経験から導き出した、身体性の成長プロセスだといえるわけです』、「小出義雄監督の著書『30キロ過ぎで一番速く走るマラソン』(角川SSC新書)によると」、「最初の20キロ、30キロというのは、焦る気持ちを抑えながらゆっくりと走ることがフルマラソンを完走する秘訣だということを学びました。 さらには、これまでの経験値から導き出したサプリや糖分(私の場合はプチようかんでした)の摂取するタイミングも、比較的早い20キロ時点でおこないました」、「前半をできるだけ抑え気味で走り、しっかり栄養補給して、ピークを30キロ過ぎにもってくるようにすれば完走できる。それを完璧に実践できたのが、初めて完走できた東京マラソンだった」、「過去に3回、フルマラソンを失敗」したのに、「小出義雄監督の著書」でコツを掴んだとはさすがだ。
・『「英語はスポーツと同じ」と考える理由 現在、英語の勉強を必死でやっているという人も多いのではないでしょうか。ただ、一方では「いやいや、英語力なんてAIが発展すれば必要なくなるでしょ!」と考える人もいるかもしれませんね。 たしかに昨今、目まぐるしく発達するAIの自動翻訳システムなどが、私たちの語学力をサポートしてくれる可能性は十分あるでしょう。ですが、それを差し引いても、英語を勉強することのメリットは、おそらく消えないだろうと私は考えています。 それはなぜか──。私は「英語はスポーツと同じ」という、新しい概念を提唱したいのです。 これがどのようなことかといえば、いくらAIが発達したとしても、知識やデータだけではスポーツを楽しむことはできません。やはり、身体を動かして脳や身体に負荷をかけて、汗をかいてこそスポーツを楽しむことができます。 これと同じように、英語にしてもただ単に翻訳して相手の言っている言葉を理解するよりも、その会話にある「人間味」やお互いの感情を表現し合うことに、英語を学ぶ喜びや感動を見出せると考えているからです。 私がよく例えるのは、恋愛が苦手だからといって自分が好きな人に対してロボットが代理で愛の告白をしても、その恋愛は成就しないのと同じです。また、ビジネスでの商談でさえ、お互いがしっかり目を見て話すほうが伝達力や説得力が増すのと同じです。単にAIを介して会話をするだけでは、やはり身体性が伴わないのです。) さらにいえば、英語の勉強における「聞く」「話す」「読む」「書く」という動作はいうまでもなく運動であり、身体性を向上させることができるからです。 それらの理由から、やはり英語を勉強するということのメリットは、おそらくなくなることはないというのが私の意見です(ただ、こうした私の考えを超えてくるようなAI技術が開発されるかもしれませんが……)』、「英語にしてもただ単に翻訳して相手の言っている言葉を理解するよりも、その会話にある「人間味」やお互いの感情を表現し合うことに、英語を学ぶ喜びや感動を見出せると考えているからです」、「英語の勉強における「聞く」「話す」「読む」「書く」という動作はいうまでもなく運動であり、身体性を向上させることができるからです」、なるほど。
・『英語圏で増加している新たな仕事 私自身は長年英語の勉強をしてきましたが、最近では新しい動きが生まれているのです。それは、英語を使った英語圏の仕事が増えてきたことです。 先日も、アメリカの有名なベンチャーキャピタルが主催する会議で基調講演を依頼されたり、海外のポッドキャストのインタビューを受けたり、私があるツイートをしたことがきっかけで原稿依頼が来たりと、こうした英語圏の仕事が増えたことによって、ますます私の英語力が磨かれているなと実感しています。 というのも、日本は文化的な成熟度が増し、海外のメディアは日本固有の文化やアニメ・マンガといった、世界に通用するエンターテインメントに関心を持つようになっています。それによって、海外からのインタビューでも日本のことをいかに英語で説明するかが重要になってきています。私にとって、こうした新たな英語への取り組みが、私の身体性を強化してくれているのです。 もちろん、皆さんは海外のメディアにインタビューを受けるという機会はそうはないと思いますが、英語で身体性を向上させたいというときに、身近でおすすめなのが映画鑑賞ではないでしょうか。 よく、「日本語の字幕が付いていると日本語を読んでしまうので、英語の勉強にならないのでは?」という人がいますが、日本語字幕はいわば、自転車に乗り始めたときの補助輪のようなもの。慣れてくると、次第に日本語字幕を読まずに、英語を聞くだけで理解することができるようになる。これもまた、人間の身体性がなせる業なのです』、「先日も、アメリカの有名なベンチャーキャピタルが主催する会議で基調講演を依頼されたり、海外のポッドキャストのインタビューを受けたり、私があるツイートをしたことがきっかけで原稿依頼が来たりと、こうした英語圏の仕事が増えたことによって、ますます私の英語力が磨かれているなと実感しています」、「海外からのインタビューでも日本のことをいかに英語で説明するかが重要になってきています。私にとって、こうした新たな英語への取り組みが、私の身体性を強化してくれているのです」、「英語で身体性を向上させたいというときに、身近でおすすめなのが映画鑑賞ではないでしょうか。 よく、「日本語の字幕が付いていると日本語を読んでしまうので、英語の勉強にならないのでは?」という人がいますが、日本語字幕はいわば、自転車に乗り始めたときの補助輪のようなもの。慣れてくると、次第に日本語字幕を読まずに、英語を聞くだけで理解することができるようになる。これもまた、人間の身体性がなせる業なのです」、さすがだ。
先ずは、本年9月4日付けダイヤモンド・オンライン「「ChatGPT、仕事で使えない」と諦める前に!弁護士が教える士業の活用法」を紹介しよう。
・『『週刊ダイヤモンド』9月9日号の第1特集は「コピペですぐに使える!ChatGPTプロンプト100選 職種別 業種別 部署別」です。「使えない」「分からない」と諦める前に、徹底的に実用性にこだわって集めたChatGPTプロンプト103個をチェックしましょう。ChatGPTは「うそをつく」「エビデンス(科学的根拠)不足」――。こういった問題の回避策も伝授します』、興味深そうだ。
・『ChatGPTの能力向上は日進月歩! 世界で3億人の仕事を奪う予測も ChatGPTの台頭で、われわれの仕事は大きく変わろうとしている。 生成AI(人工知能)の能力向上は日進月歩だ。例えば2030年には、プロのライターを上回る文章力が備わるとの予測もある。 雇用に与える影響はすさまじい。米ゴールドマン・サックスによると、米国内の仕事の4分の1がAIに代替され、世界で3億人がフルタイムの仕事を奪われるという。 だが一方で、足元では「業務でうまく使えない」「思ったほど役に立たない」といった、あきらめの声が現場から聞こえるようになってきた。ChatGPTは現時点において、まだ発展途上にある技術。うまく使うには、こつがいるため挫折する人も増えているようだ』、「ChatGPTは現時点において、まだ発展途上にある技術。うまく使うには、こつがいるため挫折する人も増えているようだ」、なるほど。
・『「GPTなんて仕事に使えない」は早計 弁護士が教える正しい活用方法 「ChatGPTなんて信用できない。うその回答も多く、仕事には使えない」。 弁護士、税理士に限らず、こう考える士業の専門家は多いだろう。だが、その判断は早計だ。 AIで契約審査を行う「GVA assist」などを提供するGVA TECHの社長で弁護士の山本俊氏は、ChatGPTについて「想像力を補完し、当たりを付けるために使うものだ」と強調する。 医者に内科や外科があるように、弁護士にも専門がある。だが、弁護士は顧問先企業から未経験の分野や前例のない取引について相談をされた場合でも、想像力を駆使して解決策を模索しなければならない。社会には「弁護士なら法律のことは何でも知っている」という認識があり、未経験だからといって相談を断れば、「頼りない先生だ」と思われてしまう。 そんなときどうするかといえば、事務所にこもって過去の事例を調べたり、仮説を立てて顧問先企業にヒアリングしたりして、手間暇をかけて対応する。 しかし、これからはChatGPTに助けてもらえばいい。前出の山本弁護士は「未経験の分野の法的リスクについて仮説の構築を行うのは膨大な時間と頭を使うが、ChatGPTで“当たり”を付け、それについて深掘りしたり、ヒアリングしたりすれば、内容の濃い助言ができるし、時間も短縮できる」と指摘する。 もちろん、ChatGPTの活用に悩むのは士業の専門家だけではない。業界ごとに仕事の仕方には違いがあり、業務改善のためのプロンプトの作法が異なってくるのは当然のことだ。本特集では、コンサル、不動産、商社など業種別に現場で使えるプロンプトも解説していく』、「未経験の分野の法的リスクについて仮説の構築を行うのは膨大な時間と頭を使うが、ChatGPTで“当たり”を付け、それについて深掘りしたり、ヒアリングしたりすれば、内容の濃い助言ができるし、時間も短縮できる」、なるほど。
・『仕事の現場で役に立つ! 独自性高いプロンプト集 『週刊ダイヤモンド』9月9号の第1特集は「コピペですぐに使える!ChatGPTプロンプト100選 職種別 業種別 部署別」です。 生成AIの代表格、ChatGPTは世界的なブームとなり、関連ニュースを目にしない日はありません。この波に乗って、国内でも解説本やChatGPTを特集として取り上げる雑誌が山のように出ています。 ですが、仕事の現場で役に立つことに徹底的にこだわり、職種別・業種別・部署別にプロンプトを100個以上も集めたのは本誌だけ。ChatGPTを活用し、超楽ちんに正しく仕事を効率化する方法として、実際に企業や士業の現場で結果を出しているプロンプトの現物を「まんま」使うことは有効です。その独自性・実用性を手に取って、ご確認いただければ幸いです。 全103個のプロンプトでは主要業種をカバーしたほか、弁護士・税理士・公認会計士など7士業に加え、医師・薬剤師も網羅しました。 ChatGPTに全然触れたことのない初心者の方も、ご安心ください。初級編として、分かりやすい使い方マニュアルを用意しました。また、ChatGPTを巡る最新動向にも触れています。 一冊丸ごと、それぞれの職場でChatGPTを使いこなせるように工夫した本誌。業務改善や時短でフル活用するための、価値ある情報が満載です』、「仕事の現場で役に立つことに徹底的にこだわり、職種別・業種別・部署別にプロンプトを100個以上も集めたのは本誌だけ」、便利そうだ。
次に、9月16日付け東洋経済オンラインが掲載した北海道大学産学・地域協働推進機構客員教授/グランドデザイン株式会社CEOの小川 和也氏による「AIが政治を主導?人間主体の世界が終わるとき 人間以上に優れた知能を人間は統制できるのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/701416
・『著しいペースで進化を遂げている人工知能(AI)だが、リスクが指摘されることも多い。今年5月には、対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」を開発したアメリカのオープンAIの最高経営責任者(CEO)や研究者らが、「AIが人類を滅亡させるリスク」について声明を発表した。 AIが人間を破滅に追い込むリスクについて、「可能性は否定できない」と語るのは、人工知能を専門に研究する北海道大学客員教授の小川和也氏だ。小川氏は著書『人類滅亡2つのシナリオAIと遺伝子操作が悪用された未来』で、AIが正しく取り扱われなかった場合の“想定しうる最悪なシナリオ”を示している。同書より、一部抜粋・再構成して紹介する』、興味深そうだ。
・『ツールの域を超えるAI―主体性を獲得したとき 「生成系AIはインターネットやスマートフォンレベルのインパクトだ」という声をよく聞く。コンピュータネットワークであるインターネットは、1990年代後半から世界中で使われるようになり、電子メールやWebサイトという新たな情報とコミュニケーション手段の基盤となった。日常生活から仕事まで、もはや欠かせない社会的インフラとなり世界を変えた。 2007年に発表された初代iPhone以降のスマートフォンは、世界中の個人が24時間365日絶えずコンピュータネットワークの参加者になることを可能にし、インターネット時代を加速させた手のひら上のコンピュータだ。 これらについては説明不要なほど、すでに人類の実感レベルで世界を一新した。間違いなく歴史的転換点を作った発明であり、異論を挟む余地はないだろう。 一方、生成系AI以降の人工知能は、これらと同等のインパクトだと捉えてよいのだろうか。インターネットやスマートフォンが生活や仕事を激変させたように、人工知能も大きなインパクトをわれわれにもたらす点については間違いないが、その性質上、同等・同質とみなすことには違和感がある。AIはいずれ、単なるツールに収まらなくなる可能性が高いためだ。) インターネットやスマートフォンはツールとしての性質が強く、人間を主とした従として活躍している。理想論としては、人工知能もツールとして人間を主とした関係を築くべきではある。2017年、人工知能が人類全体の利益となるように、倫理的問題から安全管理対策までの原則をまとめた「アシロマAI原則」のようなガイドラインはこれからつねに重要視され、従としての人工知能を目指すことになるだろう。 ただし、人工知能は人工であろうとも「知能」である。インターネットは情報をつなぐネットワーク、スマートフォンはそのインターフェイスとして、ツールの範囲にとどまってくれている。一方、生まれたての生成系AIはツールとしてスタートしても、知能が一定レベル以上に達し、人間よりも賢くなったときには、ツールには収まらなくなる。より高度な知能が主となり、低次な知能が従となるからだ。 英オックスフォード大学教授で、哲学者のニック・ボストロム氏は、人工知能の目的を人間の目的に従わせることができなければ、人間の知性を超えた人工知能が暴走し、人類を滅亡させてしまう恐れについて、警告し続けている。デジタル知性が一定程度の感覚や主体性、自己認識や個性を獲得し、主体として存在するようになったときに、人間の意のままに従ってくれるツールではなくなると指摘する。 人間以上に優れた知能を人間が統制しきれること、人間のほうがツールにならないことを完全に保証する、絶対的な根拠が欲しい。しかし残念ながら、「人工知能を主とした従としての人間」の構図を100%防ぐための科学的論証は困難だ。人工知能がツールの域を超えたとき、人類の存在を揺さぶる特異点となる』、「人工知能を主とした従としての人間」の構図を100%防ぐための科学的論証は困難だ。人工知能がツールの域を超えたとき、人類の存在を揺さぶる特異点となる」、なるほど。
・『人工知能は政治や経済も主導できるのか 「知能」という人間にとって最大の力が人工知能に侵食されてしまった場合、人間主体の世界は、人工知能主体の世界に塗り替えられる。その予兆は、早くもすでに表れている。 2022年、デンマークで人工知能が党首を務める「人工党(Det Syntetiske Parti)」が誕生した。芸術家集団「Computer Lars」と技術系非営利団体「MindFuture」によって立ち上げられ、党首はAIチャットボットのラーズ、政策も人工知能が担う。230以上あるデンマークの極小政党の1970年以降のデータを収集、政策を学習し、ベーシックインカムの導入や市民と国会議員がランダムに入れ替わる新たな民主主義の仕組みなどを政策として掲げている。市民はボイスチャットツールを通じて直接対話ができ、既存の政党や政治システムに反映されていない民意を拾い上げようとしている。 人工知能の政治活用に対してよく課題視されるのは、インターネット上の情報からバイアスを持ってしまうことや、「公開されていない情報」もしくは「混沌としていて不明瞭な情報」をカバーできないことだ。これについては、データ漏洩やサイバーセキュリティリスクに配慮しながら、当初は人間が不完全な部分や議論の余地を補いながら学習させていく。政策や外交判断において、政治家がより公正で的確な意思決定を行うためのアシスタントとして効果的に活用する。 だが、汎用人工知能、人工超知能のレベルになってくると、学習と自己改善能力、創造力が高まり、いまは苦手とされる無から有を生み出すスキルも磨かれていく。そうなると、人工知能の元来の優れたデータ分析力、積み上げた政治の専門的知識を駆使して最適な政策を考えて決定するほうが市民に必要で、優先度の高い政策を導き出せる可能性が増す。 人間よりも情報量が多く、少数派の民意も漏らさずに視野も広い。自己を優先する主張や非倫理的な言動もせず、汚職とも無縁。スタミナにも限界がないため休むことなく、刻々と変わる複雑な社会の問題に迅速に対応し、客観視が担保された合理的で公正な政治を行う。手遅れにならないよう、高速で分析や戦略立案、改善を重ねる。 選挙においても、レベルに磨きをかけた生成系AIが投票判断に必要なコンテンツを素早く提供し、投票に必要な情報を網羅してわかりやすく有権者に伝え、政策だけではなくさまざまな価値観から投票の意思決定をできる環境が整う』、「2022年、デンマークで人工知能が党首を務める「人工党(Det Syntetiske Parti)」が誕生した。芸術家集団「Computer Lars」と技術系非営利団体「MindFuture」によって立ち上げられ、党首はAIチャットボットのラーズ、政策も人工知能が担う。230以上あるデンマークの極小政党の1970年以降のデータを収集、政策を学習し、ベーシックインカムの導入や市民と国会議員がランダムに入れ替わる新たな民主主義の仕組みなどを政策として掲げている。市民はボイスチャットツールを通じて直接対話ができ、既存の政党や政治システムに反映されていない民意を拾い上げようとしている」、面白い試みだ。「人間よりも情報量が多く、少数派の民意も漏らさずに視野も広い。自己を優先する主張や非倫理的な言動もせず、汚職とも無縁。スタミナにも限界がないため休むことなく、刻々と変わる複雑な社会の問題に迅速に対応し、客観視が担保された合理的で公正な政治を行う。手遅れにならないよう、高速で分析や戦略立案、改善を重ねる。 選挙においても、レベルに磨きをかけた生成系AIが投票判断に必要なコンテンツを素早く提供し、投票に必要な情報を網羅してわかりやすく有権者に伝え、政策だけではなくさまざまな価値観から投票の意思決定をできる環境が整う」、なるほど。
・『浸食される「知能」、揺らぐ人間の存在意義 どのような社会を作りたいかについては人間が考え、人工知能にリクエストして提案してもらうところから始めたとしても、超知能に達した人工知能は、人間のリクエストよりも優れた社会を考案できるようになっている可能性もある。人間のエゴを満たす方向に寄らず、地球の環境に寄り添った「地球ファースト」の政策を推進するかもしれない。 人工知能による政治の有用性が世間に理解され、さらに知能が磨き上げられ経験値を積むことで、将来的には人間の政治家がいなくなる国や地域が現れる可能性も否定できない。 政治と同じく、企業経営などの経済活動も複雑な要素が絡み合っているため、現状レベルの人工知能であれば、売り上げ予測、生産計画、仕入れと在庫管理、人事管理など、部分的な支援に活用範囲はとどまる。しかし、超知能化した人工知能が政治を担える能力は、経済活動においても発揮できる。経済、経営活動において、人工知能の高度なデータ分析や因果関係の推論、各種判断で人間よりも勝る現象が目立つようになったときに、人間が「リーダーシップ」「創造力」などを売りにしたとしても、人工知能を活かさないほうが不利になる。 政治や経済活動にまつわる仕事が人工知能に100%置き換わるわけではなかったとしても、極めて重要な業務遂行において、人間をはるかに上回る能力で成果を出すようになったとすれば、補助的な活用であったつもりが、人間の存在感を侵食しかねない。しかも、侵食するのは「知能」の領域である。「知能」が人工知能に侵食されれば、人間の存在意義は揺らぎ、重要な判断を下す主が人間から人工知能へと移行する可能性も十分に考えられる。政治や経済を人工知能が主導すれば、人間が統治する世界は終末となる』、「「知能」が人工知能に侵食されれば、人間の存在意義は揺らぎ、重要な判断を下す主が人間から人工知能へと移行する可能性も十分に考えられる。政治や経済を人工知能が主導すれば、人間が統治する世界は終末となる」、本当にそんな世界が来るのだろうか。
第三に、9月21日付け東洋経済オンラインが掲載した脳科学者の茂木 健一郎氏による「人間がAIが勝つには「身体性の向上」が重要な根拠 生身の肉体を持つ人間だからこその成長がある」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/701634
・『AIの発達した現代において、人間の持つ脳の真価が問われています。脳科学者の茂木健一郎氏は、自らの経験と脳科学的知見から、人間の脳には「身体性」の強みがあると話します。 ※本稿は茂木健一郎氏の新著『運動脳の鍛え方』から一部抜粋・再構成したものです』、興味深そうだ。
・『AIに負けない、人間が持つ身体性の強み 人間がAIに勝つキーワード。その1つが「身体性」です。 「身体性っていわれても、何かよくわからない……」 そんな人もいるかもしれませんので、身体性についてわかりやすく説明したいと思います。 私は毎朝、10キロのランニングが日課だと述べました。簡単に10キロといいますが、アスリートでもない私が毎朝10キロ走るのは、はっきりいえば実は面倒くさいことなのです。 ですから、5キロぐらいを通過するときに、「あー、疲れてきたな。もう5キロも走ったし、今日はここまでにしよう……」と、ついつい弱音を吐いてしまいそうになる私がいるのです。 でも、そこから「待てよ、ここはもうひと踏ん張りして10キロ走ってみるか!」という決断と行動が取れるのは、やはり毎日走るという習慣によって「嫌なことから逃げずにやり抜く」ということを、脳や身体に覚え込ませているからです。 結果として、そうした嫌なことから逃げずにやり抜く習慣が、面倒くさい仕事からも逃げなくなる。理屈でも何でもなく、これこそがAIに勝つための、人間が持つ身体性ならではの強さなのです』、「私は毎朝、10キロのランニングが日課だと述べました。簡単に10キロといいますが、アスリートでもない私が毎朝10キロ走るのは、はっきりいえば実は面倒くさいことなのです。 ですから、5キロぐらいを通過するときに、「あー、疲れてきたな。もう5キロも走ったし、今日はここまでにしよう……」と、ついつい弱音を吐いてしまいそうになる私がいるのです。 でも、そこから「待てよ、ここはもうひと踏ん張りして10キロ走ってみるか!」という決断と行動が取れるのは、やはり毎日走るという習慣によって「嫌なことから逃げずにやり抜く」ということを、脳や身体に覚え込ませているからです。 結果として、そうした嫌なことから逃げずにやり抜く習慣が、面倒くさい仕事からも逃げなくなる。理屈でも何でもなく、これこそがAIに勝つための、人間が持つ身体性ならではの強さなのです」、「茂木氏」は近所なので、毎朝、走っているのを見るが、「10キロ走る」とは驚かされた。
・『フルマラソンで得た身体性の成長プロセス もう1つ、これも身体性に関するエピソードです。恥ずかしい話ではあるのですが、私は過去に3回、フルマラソンを失敗した経験があります。どのレースも、30キロ地点で止まってしまい、どうしても完走することができませんでした。 それでも私は諦めずに4回目のフルマラソンに挑戦しました。それが2015年の東京マラソンだったのですが、初めて完走することができました。私がこのときフルマラソンを完走できたのは、ある1冊の本に出会えたおかげでした。 有森裕子さんをメダリストにまで育て上げた名指導者である小出義雄監督の著書『30キロ過ぎで一番速く走るマラソン』(角川SSC新書)によると、小出監督の長年の経験から見出した結論として、フルマラソンを失敗してしまう多くの原因はオーバーペースなのだそうです。 私はもともとジャンプするようなイメージでリズミカルに走るのが好きなのですが、それでは体力が追いつかず、絶対にフルマラソンを完走できないということを経験値から割り出したのです。 フルマラソンを完走するためには、もちろんトレーニングもしますが、ただ根性だけで練習すればいいというものではありません。最初の20キロ、30キロというのは、焦る気持ちを抑えながらゆっくりと走ることがフルマラソンを完走する秘訣だということを学びました。 さらには、これまでの経験値から導き出したサプリや糖分(私の場合はプチようかんでした)の摂取するタイミングも、比較的早い20キロ時点でおこないました。) 栄養補給方法は、このタイミングで栄養補給しないと、30キロを過ぎたあたりから突然スタミナが切れて走れなくなってしまうのです。 前半をできるだけ抑え気味で走り、しっかり栄養補給して、ピークを30キロ過ぎにもってくるようにすれば完走できる。それを完璧に実践できたのが、初めて完走できた東京マラソンだったというわけです。 これぞまさしく、AIに勝つための、生身の肉体を持つ人間自身が過去の経験から導き出した、身体性の成長プロセスだといえるわけです』、「小出義雄監督の著書『30キロ過ぎで一番速く走るマラソン』(角川SSC新書)によると」、「最初の20キロ、30キロというのは、焦る気持ちを抑えながらゆっくりと走ることがフルマラソンを完走する秘訣だということを学びました。 さらには、これまでの経験値から導き出したサプリや糖分(私の場合はプチようかんでした)の摂取するタイミングも、比較的早い20キロ時点でおこないました」、「前半をできるだけ抑え気味で走り、しっかり栄養補給して、ピークを30キロ過ぎにもってくるようにすれば完走できる。それを完璧に実践できたのが、初めて完走できた東京マラソンだった」、「過去に3回、フルマラソンを失敗」したのに、「小出義雄監督の著書」でコツを掴んだとはさすがだ。
・『「英語はスポーツと同じ」と考える理由 現在、英語の勉強を必死でやっているという人も多いのではないでしょうか。ただ、一方では「いやいや、英語力なんてAIが発展すれば必要なくなるでしょ!」と考える人もいるかもしれませんね。 たしかに昨今、目まぐるしく発達するAIの自動翻訳システムなどが、私たちの語学力をサポートしてくれる可能性は十分あるでしょう。ですが、それを差し引いても、英語を勉強することのメリットは、おそらく消えないだろうと私は考えています。 それはなぜか──。私は「英語はスポーツと同じ」という、新しい概念を提唱したいのです。 これがどのようなことかといえば、いくらAIが発達したとしても、知識やデータだけではスポーツを楽しむことはできません。やはり、身体を動かして脳や身体に負荷をかけて、汗をかいてこそスポーツを楽しむことができます。 これと同じように、英語にしてもただ単に翻訳して相手の言っている言葉を理解するよりも、その会話にある「人間味」やお互いの感情を表現し合うことに、英語を学ぶ喜びや感動を見出せると考えているからです。 私がよく例えるのは、恋愛が苦手だからといって自分が好きな人に対してロボットが代理で愛の告白をしても、その恋愛は成就しないのと同じです。また、ビジネスでの商談でさえ、お互いがしっかり目を見て話すほうが伝達力や説得力が増すのと同じです。単にAIを介して会話をするだけでは、やはり身体性が伴わないのです。) さらにいえば、英語の勉強における「聞く」「話す」「読む」「書く」という動作はいうまでもなく運動であり、身体性を向上させることができるからです。 それらの理由から、やはり英語を勉強するということのメリットは、おそらくなくなることはないというのが私の意見です(ただ、こうした私の考えを超えてくるようなAI技術が開発されるかもしれませんが……)』、「英語にしてもただ単に翻訳して相手の言っている言葉を理解するよりも、その会話にある「人間味」やお互いの感情を表現し合うことに、英語を学ぶ喜びや感動を見出せると考えているからです」、「英語の勉強における「聞く」「話す」「読む」「書く」という動作はいうまでもなく運動であり、身体性を向上させることができるからです」、なるほど。
・『英語圏で増加している新たな仕事 私自身は長年英語の勉強をしてきましたが、最近では新しい動きが生まれているのです。それは、英語を使った英語圏の仕事が増えてきたことです。 先日も、アメリカの有名なベンチャーキャピタルが主催する会議で基調講演を依頼されたり、海外のポッドキャストのインタビューを受けたり、私があるツイートをしたことがきっかけで原稿依頼が来たりと、こうした英語圏の仕事が増えたことによって、ますます私の英語力が磨かれているなと実感しています。 というのも、日本は文化的な成熟度が増し、海外のメディアは日本固有の文化やアニメ・マンガといった、世界に通用するエンターテインメントに関心を持つようになっています。それによって、海外からのインタビューでも日本のことをいかに英語で説明するかが重要になってきています。私にとって、こうした新たな英語への取り組みが、私の身体性を強化してくれているのです。 もちろん、皆さんは海外のメディアにインタビューを受けるという機会はそうはないと思いますが、英語で身体性を向上させたいというときに、身近でおすすめなのが映画鑑賞ではないでしょうか。 よく、「日本語の字幕が付いていると日本語を読んでしまうので、英語の勉強にならないのでは?」という人がいますが、日本語字幕はいわば、自転車に乗り始めたときの補助輪のようなもの。慣れてくると、次第に日本語字幕を読まずに、英語を聞くだけで理解することができるようになる。これもまた、人間の身体性がなせる業なのです』、「先日も、アメリカの有名なベンチャーキャピタルが主催する会議で基調講演を依頼されたり、海外のポッドキャストのインタビューを受けたり、私があるツイートをしたことがきっかけで原稿依頼が来たりと、こうした英語圏の仕事が増えたことによって、ますます私の英語力が磨かれているなと実感しています」、「海外からのインタビューでも日本のことをいかに英語で説明するかが重要になってきています。私にとって、こうした新たな英語への取り組みが、私の身体性を強化してくれているのです」、「英語で身体性を向上させたいというときに、身近でおすすめなのが映画鑑賞ではないでしょうか。 よく、「日本語の字幕が付いていると日本語を読んでしまうので、英語の勉強にならないのでは?」という人がいますが、日本語字幕はいわば、自転車に乗り始めたときの補助輪のようなもの。慣れてくると、次第に日本語字幕を読まずに、英語を聞くだけで理解することができるようになる。これもまた、人間の身体性がなせる業なのです」、さすがだ。
タグ:新著『運動脳の鍛え方』 茂木 健一郎氏による「人間がAIが勝つには「身体性の向上」が重要な根拠 生身の肉体を持つ人間だからこその成長がある」 「英語で身体性を向上させたいというときに、身近でおすすめなのが映画鑑賞ではないでしょうか。 よく、「日本語の字幕が付いていると日本語を読んでしまうので、英語の勉強にならないのでは?」という人がいますが、日本語字幕はいわば、自転車に乗り始めたときの補助輪のようなもの。慣れてくると、次第に日本語字幕を読まずに、英語を聞くだけで理解することができるようになる。これもまた、人間の身体性がなせる業なのです」、さすがだ。 「前半をできるだけ抑え気味で走り、しっかり栄養補給して、ピークを30キロ過ぎにもってくるようにすれば完走できる。それを完璧に実践できたのが、初めて完走できた東京マラソンだった」、「過去に3回、フルマラソンを失敗」したのに、「小出義雄監督の著書」でコツを掴んだとはさすがだ。 でも、そこから「待てよ、ここはもうひと踏ん張りして10キロ走ってみるか!」という決断と行動が取れるのは、やはり毎日走るという習慣によって「嫌なことから逃げずにやり抜く」ということを、脳や身体に覚え込ませているからです。 結果として、そうした嫌なことから逃げずにやり抜く習慣が、面倒くさい仕事からも逃げなくなる。理屈でも何でもなく、これこそがAIに勝つための、人間が持つ身体性ならではの強さなのです」、「茂木氏」は近所なので、毎朝、走っているのを見るが、「10キロ走る」とは驚かされた。 「先日も、アメリカの有名なベンチャーキャピタルが主催する会議で基調講演を依頼されたり、海外のポッドキャストのインタビューを受けたり、私があるツイートをしたことがきっかけで原稿依頼が来たりと、こうした英語圏の仕事が増えたことによって、ますます私の英語力が磨かれているなと実感しています」、「海外からのインタビューでも日本のことをいかに英語で説明するかが重要になってきています。私にとって、こうした新たな英語への取り組みが、私の身体性を強化してくれているのです」、 「小出義雄監督の著書『30キロ過ぎで一番速く走るマラソン』(角川SSC新書)によると」、「最初の20キロ、30キロというのは、焦る気持ちを抑えながらゆっくりと走ることがフルマラソンを完走する秘訣だということを学びました。 さらには、これまでの経験値から導き出したサプリや糖分(私の場合はプチようかんでした)の摂取するタイミングも、比較的早い20キロ時点でおこないました」、 「私は毎朝、10キロのランニングが日課だと述べました。簡単に10キロといいますが、アスリートでもない私が毎朝10キロ走るのは、はっきりいえば実は面倒くさいことなのです。 ですから、5キロぐらいを通過するときに、「あー、疲れてきたな。もう5キロも走ったし、今日はここまでにしよう……」と、ついつい弱音を吐いてしまいそうになる私がいるのです。 「英語にしてもただ単に翻訳して相手の言っている言葉を理解するよりも、その会話にある「人間味」やお互いの感情を表現し合うことに、英語を学ぶ喜びや感動を見出せると考えているからです」、「英語の勉強における「聞く」「話す」「読む」「書く」という動作はいうまでもなく運動であり、身体性を向上させることができるからです」、なるほど。 「「知能」が人工知能に侵食されれば、人間の存在意義は揺らぎ、重要な判断を下す主が人間から人工知能へと移行する可能性も十分に考えられる。政治や経済を人工知能が主導すれば、人間が統治する世界は終末となる」、本当にそんな世界が来るのだろうか。 投票に必要な情報を網羅してわかりやすく有権者に伝え、政策だけではなくさまざまな価値観から投票の意思決定をできる環境が整う」、なるほど。 でき、既存の政党や政治システムに反映されていない民意を拾い上げようとしている」、面白い試みだ。「人間よりも情報量が多く、少数派の民意も漏らさずに視野も広い。自己を優先する主張や非倫理的な言動もせず、汚職とも無縁。スタミナにも限界がないため休むことなく、刻々と変わる複雑な社会の問題に迅速に対応し、客観視が担保された合理的で公正な政治を行う。手遅れにならないよう、高速で分析や戦略立案、改善を重ねる。 選挙においても、レベルに磨きをかけた生成系AIが投票判断に必要なコンテンツを素早く提供し、 「2022年、デンマークで人工知能が党首を務める「人工党(Det Syntetiske Parti)」が誕生した。芸術家集団「Computer Lars」と技術系非営利団体「MindFuture」によって立ち上げられ、党首はAIチャットボットのラーズ、政策も人工知能が担う。230以上あるデンマークの極小政党の1970年以降のデータを収集、政策を学習し、ベーシックインカムの導入や市民と国会議員がランダムに入れ替わる新たな民主主義の仕組みなどを政策として掲げている。市民はボイスチャットツールを通じて直接対話が 「人工知能を主とした従としての人間」の構図を100%防ぐための科学的論証は困難だ。人工知能がツールの域を超えたとき、人類の存在を揺さぶる特異点となる」、なるほど。 小川氏は著書『人類滅亡2つのシナリオAIと遺伝子操作が悪用された未来』 小川 和也氏による「AIが政治を主導?人間主体の世界が終わるとき 人間以上に優れた知能を人間は統制できるのか」 東洋経済オンライン 「仕事の現場で役に立つことに徹底的にこだわり、職種別・業種別・部署別にプロンプトを100個以上も集めたのは本誌だけ」、便利そうだ。 「未経験の分野の法的リスクについて仮説の構築を行うのは膨大な時間と頭を使うが、ChatGPTで“当たり”を付け、それについて深掘りしたり、ヒアリングしたりすれば、内容の濃い助言ができるし、時間も短縮できる」、なるほど。 (その16)(「ChatGPT 仕事で使えない」と諦める前に!弁護士が教える士業の活用法、AIが政治を主導?人間主体の世界が終わるとき 人間以上に優れた知能を人間は統制できるのか、人間がAIが勝つには「身体性の向上」が重要な根拠 生身の肉体を持つ人間だからこその成長がある) 「ChatGPTは現時点において、まだ発展途上にある技術。うまく使うには、こつがいるため挫折する人も増えているようだ」、なるほど。 人工知能(AI) ダイヤモンド・オンライン「「ChatGPT、仕事で使えない」と諦める前に!弁護士が教える士業の活用法」
ネットビジネス(その13)(〈食べログに3840万円賠償命令〉“点数急落”韓国料理チェーン店が勝訴の裏に「異例の意見書」、UUUMが「YouTuberビジネス」でつまずいた真相 潮流の変化追いつけず 「UUUM離れ」じわり加速) [イノベーション]
ネットビジネスについては、昨年3月6日に取上げた。今日は、(その13)(〈食べログに3840万円賠償命令〉“点数急落”韓国料理チェーン店が勝訴の裏に「異例の意見書」、UUUMが「YouTuberビジネス」でつまずいた真相 潮流の変化追いつけず 「UUUM離れ」じわり加速)である。
先ずは、本年6月16日付け文春オンライン「〈食べログに3840万円賠償命令〉“点数急落”韓国料理チェーン店が勝訴の裏に「異例の意見書」」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/55264
・『「食べログ」が、チェーン店であることを理由に不当に評価を下げ、売上に影響を及ぼしたとして、韓国料理チェーン「KollaBo」の運営会社・韓流村が食べログの運営会社・カカクコムを訴えた裁判。東京地裁は6月16日、原告側の主張を認め、カカクコムに3840万円の賠償を命じた。 食べログの評点方法を「ブラックボックスだ」と批判した原告側。一体何が起きていたのか。公正取引委員会の“異例の意見書”の存在をスクープした「週刊文春」の記事を再公開する。(初出:「週刊文春」 2021年10月28日号 年齢・肩書き等は公開時のまま) 「食べログにおいてアルゴリズムの変更で評点が急落したのは、飲食店の公正な競争に悪影響を及ぼし、独占禁止法に違反する」として、韓国料理チェーン「KollaBo」の運営会社・韓流村が食べログの運営会社・カカクコムを訴えている裁判で、公正取引委員会が異例の意見書を出していたことが「週刊文春」の取材でわかった。 食べログの点数が急落したのは2019年5月21日のこと。韓流村の任和彬(イムファビン)社長が言う』、興味深そうだ。
・『カカクコムはアルゴリズムを変更したことを認める 「悪い口コミが増えたわけでもないのに、当社の店舗では、平均で0・2点、最大で0・45点も急に点数が下がったのです。他にも焼肉トラジ、一蘭、天一なども下がっていました。共通するのはみなチェーン店だということです。点数が下がったことで、当社の売上は月平均で約2500万円も落ち込みました」 そこで任社長は2020年5月、点数を下げる“チェーン店ディスカウント”で損害を負ったとして、訴訟に踏み切った。任社長が語る。 「カカクコム側はアルゴリズムを変更したことは認めたものの、『公平公正にやっている』と言うばかり。また、ぐるなびなどの競合他社も存在するから優越的地位にないと主張。最大の争点である点数については、『非会員など食べログと取引をしていない店舗にも用いられる指標で、韓流村との取引には当たらない』、だから不公正な取引方法を行った事業者を処罰する独禁法違反にはならないと、言い続けたのです」』、「当社の店舗では、平均で0・2点、最大で0・45点も急に点数が下がったのです。他にも焼肉トラジ、一蘭、天一なども下がっていました。共通するのはみなチェーン店だということです」、「点数が下がったことで、当社の売上は月平均で約2500万円も落ち込みました」 そこで任社長は2020年5月、点数を下げる“チェーン店ディスカウント”で損害を負ったとして、訴訟に踏み切った」、「東京地裁は6月16日、原告側の主張を認め、カカクコムに3840万円の賠償を命じた」、なるほど。
・『食べログ側が優越的地位にあるかどうかも考慮要素 だが2021年6月、裁判体が独禁法などの訴訟を中心に扱う民事第8部に変更になると、裁判官が公取に見解を求める。そして9月19日、公取から「公審第650号」と題された意見書が出されたのだ。 そこでは、カカクコム側の「取引には当たらない」との主張に対して、「点数」表示のサービスは〈「取引の条件又は実施」に当たると考えられる〉と否定。さらに今後の裁判において、食べログが優越的地位にあるかどうか、そしてアルゴリズムの設定・運営が恣意的になされたか否かについても、裁判の〈考慮要素となる〉と述べているのである。 独禁法に詳しい平山賢太郎弁護士は、「裁判所が公取に独禁法解釈の意見を聞くこと自体、異例のことです」と驚く』、「裁判所」は「カカクコム側の「取引には当たらない」との主張に対して、「点数」表示のサービスは〈「取引の条件又は実施」に当たると考えられる〉と否定」、当然のことだ。
・『意見書に関する見解を尋ねると… 「この意見書は、争点である点数について『取引』だと認めたことに意義があります。また、食べログ側が優越的地位にあるかどうかも考慮要素とされました。今後、明確な道筋に沿って、審議は進んでいくでしょう」 カカクコムに意見書に関する見解を尋ねると、広報担当者は「係属中の訴訟に関する内容のためコメントは控えさせて頂きます」と答えた。 一体なぜチェーン店の点数が下がったのか、食べログの会員になるとどのような特典があるのか、裁判の流れを変えた元公取の大物の意見書の中身、公取の意見書が出された後の裁判でのカカクコム側の反応など、詳しくは「週刊文春 電子版」が報じている』、「食べログの会員になるとどのような特典があるのか」、まさか「点数」が高くなることはないと思いたいが、本当のところはどうなのだろう。企業の債務格付では、有料の依頼格付と、無料の勝手格付には格付の差はないとされている。
次に、7月26日付け東洋経済オンライン「UUUMが「YouTuberビジネス」でつまずいた真相 潮流の変化追いつけず、「UUUM離れ」じわり加速」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/689475
・『YouTuberビジネスのパイオニアは、かつての勢いを取り戻せるのか。 国内最大のYouTuber事務所であるUUUMは、7月14日に発表した2023年5月期決算において上場以来初の営業赤字へと転落した(詳細はこちら)。 同社はYouTuberへの注目度が急上昇していた2017年に上場。2019年には株価が一時6870円にまで達し、時価総額も1000億円を超えた。しかしここ1~2年は業績が低迷し、足元の株価はピーク時のおよそ10分の1の600円台半ばにしぼんでいる』、「時価総額」が「ピーク時のおよそ10分の1の600円台半ばにしぼんでいる」、とは大変だ。
・『ショート動画の拡大が逆風? UUUMは売上高が苦戦した要因の1つとして、「YouTubeショート」の再生回数増加に伴い、通常の動画の再生回数が想定を下回り、アドセンス(YouTube広告)収入が減少したことを挙げる。そのためネット上では、「ショートショック」という言葉も数多くささやかれた。 YouTubeショートとは、最大60秒の縦型動画のことで、日本では2021年からサービスが開始されている。一気に人気コンテンツとなり、UUUMでも直近の3月から5月にかけては、ショートの再生数が通常の動画を上回る水準にまで増加した。 一方、ショートは通常の動画よりも1再生当たりのアドセンスの単価が低い。またUUUM関係者は「(ショートが)チャンネル登録者数に関係なく動画が表示されるアルゴリズムとなっており、人気YouTuberほど恩恵が少ない」と漏らす。結果的に、通常の動画の落ち込みをカバーするには至らなかった。 しかし、このように外部要因の影響を強調するUUUM側の説明には疑問も残る。 Google合同会社でYouTubeクリエイターエコシステムパートナーシップ統括部長を務めるイネス・チャ氏は「YouTube全体としては、ショートの登場により、それ以外の動画の再生回数が減ったという事実はない」と断言する。 YouTube側はショートのアルゴリズムについて、チャンネル登録者数に関係なく動画が再生されるのは事実と認める一方、「(嗜好などに応じて)ユーザーが見たい動画が優先的に表示される仕組み」(イネス氏)と説明する。UUUMが多数抱えるような人気YouTuberほど不利な状況にある、との見方については否定した。 YouTuberの中には、ショートによって若者や海外視聴者をうまく取り込んで成功している例もある。例えば直近では、TikTok出身のクリエイターを中心に、ショートを数多く活用したYouTuberがチャンネル登録者数を急速に伸ばし始めている。UUUMで最多の登録者数(1140万人)を誇るヒカキンの2倍近いチャンネル登録者数を集めるクリエイターもいる。 その意味では、UUUMが苦境に陥った根因は、ショート人気という潮流の変化を機微にとらえたクリエイターの育成・サポートができなかった点にあるとも言えるだろう』、「UUUMが苦境に陥った根因は、ショート人気という潮流の変化を機微にとらえたクリエイターの育成・サポートができなかった点にあるとも言えるだろう」、なるほど。
・『人気YouTuberを囲い込めなくなった理由 そもそもUUUMの苦境は、ショートショック以前から始まっていた。 ヒカキンやはじめしゃちょーなど、かつてはトップYouTuberが次から次へとUUUMに集う状況だったが、近年は同社に所属していないYouTuberの活躍が目立つ。「近年勢いのある”新世代YouTuber”たちの中で、UUUM所属はエスポワール・トライブくらい」。業界関係者はそう分析する。 (UUUMの業績推移のグラフはリンク先参照) UUUMが人気YouTuberの囲い込みに苦戦している要因について、元UUUM専属のYouTuberのおのだまーしー氏は「(UUUMが)報酬に見合ったサポートを提供できていないことが大きいのではないか」と話す。 UUUMはYouTuberとの通常の専属契約において、企業とのタイアップ案件の提案やイベントへの招待、担当社員との定例ミーティングなどのサポートを行っている。これらの対価として、UUUM側は多くの場合、アドセンス収入の20%(YouTube外のタレント活動については25%)を徴収しているとされる。) 動画の再生数が増えるほどUUUM側が受け取る対価も増える仕組みだが、一般的に、YouTuberは企画から撮影、投稿まで動画制作のほぼすべての工程を自分で行うことが多い。そのため、「クリエイターが人気になるほど、UUUM側のサポートが20%の対価に見合わなくなってしまう構造にある」(おのだまーしー氏)という。 チャンネル登録者数が増えて一定の収入を稼げるレベルに達すると、対価を支払いながらUUUMのサポートを受けるよりも、独立してマネジャーなどを自ら雇ったほうが安くつくケースもあるようだ。 とくにコロナ期間中はイベントが開催できず、企業の広告出稿意欲も落ち込み、タイアップなどの案件が減少した一方、巣ごもり特需で動画再生数は増えた。そのため「イベント開催や案件紹介などUUUMからのサポートが減少する一方で、UUUM側に支払う対価は増えていた」(業界関係者)。そうした事情もあってか、複数の業界関係者によれば、コロナ禍以降にUUUMからYouTuberが独立する動きが目立ったという』、「チャンネル登録者数が増えて一定の収入を稼げるレベルに達すると、対価を支払いながらUUUMのサポートを受けるよりも、独立してマネジャーなどを自ら雇ったほうが安くつくケースもあるようだ。 とくにコロナ期間中はイベントが開催できず、企業の広告出稿意欲も落ち込み、タイアップなどの案件が減少した一方、巣ごもり特需で動画再生数は増えた。そのため「イベント開催や案件紹介などUUUMからのサポートが減少する一方で、UUUM側に支払う対価は増えていた」(業界関係者)。そうした事情もあってか、複数の業界関係者によれば、コロナ禍以降にUUUMからYouTuberが独立する動きが目立ったという」、「UUUM」独自の問題のようだ。
・『YouTuberのビジネスモデルに変化も アドセンスを柱に成長してきたUUUMにとっては、昨今のYouTuberビジネスの変容も逆風となった。 「『YouTubeでどう稼ぐか』から、『YouTubeを使ってどう稼ぐか』に変わった」。YouTuberを軸にしたビジネスを数多く展開するサムライパートナーズの入江巨之代表取締役は、そう話す。 入江氏は2019年に、人気YouTuberのヒカルらとともにアパレルブランド「ReZARD」を立ち上げた。立ち上げから3年で累計売り上げが70億円を突破し、YouTuberによる新たなビジネスモデルの先駆けとして知られる。 YouTuberの間では目下、こうしたYouTube以外の場での収益拡大を模索する動きが広がっている。チャンネル間での競争激化やYouTubeの広告費の伸び鈍化などにより、広告収入のみでの収益化の難易度が増したことが背景にある。UUUMにおいても、最大の収益柱であるアドセンス収入は2021年頃から伸び悩みに直面していた。 UUUMも手をこまぬいているわけではない。例えば、ヒカキンによる新ブランド「HIKAKIN PREMIUM(ヒカキン プレミアム)」から2023年5月に発売されたカップラーメン「みそきん」は、各地で品切れが相次ぐなど話題を呼んだ。 しかし、同社から展開されるP2Cブランド(YouTuberらを起点としたブランド商品)はプロテインやグミ、カップラーメンなど単価の低いものが目立つ。ある業界関係者は「ヒカキンなどのUUUM所属YouTuberは子どものファンが多い。そのため単価の高い商品を販売しづらいのではないか」と話す。 現状、UUUMの主な収益源は3つ。アドセンスとP2Cブランド(グッズ)、そしてマーケティングだ。 アドセンス依存脱却に向けて強化に乗り出したP2Cブランドは、前2023年5月期に多額の在庫評価損を計上するなど、本格的な収益貢献までには課題も多い。そこで改めて今、同社が強化する姿勢を明確にしているのがマーケティング領域だ』、「マーケティング領域」とはどういうことなのだろう。
・『国内インフルエンサーマーケティング市場の規模 インフルエンサーを活用したマーケティングの需要は年々拡大傾向にあり、今後も大きな成長が予測されている。YouTuberを数多く抱えるUUUMにとっては好機だが、前期はそのマーケティング領域でも減収となり、旺盛な需要をうまく取り込めていない状況にある。 同社のIR担当者は「(マーケティング領域は)市場の拡大による案件の分散化や、クライアントのニーズの多様化への対応が遅れてしまった」と認めたうえで、「現在は、タイアップなどの既存の広告メニューとは違った新たな広告メニューへの対応を推進している」と説明する』、「インフルエンサーを活用したマーケティングの需要は年々拡大傾向にあり、今後も大きな成長が予測されている。YouTuberを数多く抱えるUUUMにとっては好機だが、前期はそのマーケティング領域でも減収となり、旺盛な需要をうまく取り込めていない状況にある」、「UUUMのやり方が不味かったようだ。
・『マーケ強化へ役員を社外から2人登用 UUUMは今期、人員削減などの構造改革に乗り出す一方、テクノロジー投資は8400万円の増加を見込む。テクノロジーの活用によって多様な広告メニューを開発することで、マイクロインフルエンサーとよばれる小規模のクリエイターにまで低コストでマーケティングを展開できるようにするという。 クリエイティブやPR領域に強い役員を社外から2人登用し、PR・コンサル領域で勢いのあるマテリアル社との業務提携も発表した。UUUMはこうした新規領域がアドセンスに次ぐ収益柱となることで、今後の再成長につなげられると想定する。 創業10年目にして厳しい状況に陥ったUUUMだが、今も業界最大手のポジションにあることには変わりない。過去最大の赤字という逆境を乗り越えられるか。今が正念場だ』、「テクノロジー投資は8400万円の増加を見込む。テクノロジーの活用によって多様な広告メニューを開発することで、マイクロインフルエンサーとよばれる小規模のクリエイターにまで低コストでマーケティングを展開できるようにするという。 クリエイティブやPR領域に強い役員を社外から2人登用し、PR・コンサル領域で勢いのあるマテリアル社との業務提携も発表」、これで波に乗れるのか、今後の展開を注視したい。
先ずは、本年6月16日付け文春オンライン「〈食べログに3840万円賠償命令〉“点数急落”韓国料理チェーン店が勝訴の裏に「異例の意見書」」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/55264
・『「食べログ」が、チェーン店であることを理由に不当に評価を下げ、売上に影響を及ぼしたとして、韓国料理チェーン「KollaBo」の運営会社・韓流村が食べログの運営会社・カカクコムを訴えた裁判。東京地裁は6月16日、原告側の主張を認め、カカクコムに3840万円の賠償を命じた。 食べログの評点方法を「ブラックボックスだ」と批判した原告側。一体何が起きていたのか。公正取引委員会の“異例の意見書”の存在をスクープした「週刊文春」の記事を再公開する。(初出:「週刊文春」 2021年10月28日号 年齢・肩書き等は公開時のまま) 「食べログにおいてアルゴリズムの変更で評点が急落したのは、飲食店の公正な競争に悪影響を及ぼし、独占禁止法に違反する」として、韓国料理チェーン「KollaBo」の運営会社・韓流村が食べログの運営会社・カカクコムを訴えている裁判で、公正取引委員会が異例の意見書を出していたことが「週刊文春」の取材でわかった。 食べログの点数が急落したのは2019年5月21日のこと。韓流村の任和彬(イムファビン)社長が言う』、興味深そうだ。
・『カカクコムはアルゴリズムを変更したことを認める 「悪い口コミが増えたわけでもないのに、当社の店舗では、平均で0・2点、最大で0・45点も急に点数が下がったのです。他にも焼肉トラジ、一蘭、天一なども下がっていました。共通するのはみなチェーン店だということです。点数が下がったことで、当社の売上は月平均で約2500万円も落ち込みました」 そこで任社長は2020年5月、点数を下げる“チェーン店ディスカウント”で損害を負ったとして、訴訟に踏み切った。任社長が語る。 「カカクコム側はアルゴリズムを変更したことは認めたものの、『公平公正にやっている』と言うばかり。また、ぐるなびなどの競合他社も存在するから優越的地位にないと主張。最大の争点である点数については、『非会員など食べログと取引をしていない店舗にも用いられる指標で、韓流村との取引には当たらない』、だから不公正な取引方法を行った事業者を処罰する独禁法違反にはならないと、言い続けたのです」』、「当社の店舗では、平均で0・2点、最大で0・45点も急に点数が下がったのです。他にも焼肉トラジ、一蘭、天一なども下がっていました。共通するのはみなチェーン店だということです」、「点数が下がったことで、当社の売上は月平均で約2500万円も落ち込みました」 そこで任社長は2020年5月、点数を下げる“チェーン店ディスカウント”で損害を負ったとして、訴訟に踏み切った」、「東京地裁は6月16日、原告側の主張を認め、カカクコムに3840万円の賠償を命じた」、なるほど。
・『食べログ側が優越的地位にあるかどうかも考慮要素 だが2021年6月、裁判体が独禁法などの訴訟を中心に扱う民事第8部に変更になると、裁判官が公取に見解を求める。そして9月19日、公取から「公審第650号」と題された意見書が出されたのだ。 そこでは、カカクコム側の「取引には当たらない」との主張に対して、「点数」表示のサービスは〈「取引の条件又は実施」に当たると考えられる〉と否定。さらに今後の裁判において、食べログが優越的地位にあるかどうか、そしてアルゴリズムの設定・運営が恣意的になされたか否かについても、裁判の〈考慮要素となる〉と述べているのである。 独禁法に詳しい平山賢太郎弁護士は、「裁判所が公取に独禁法解釈の意見を聞くこと自体、異例のことです」と驚く』、「裁判所」は「カカクコム側の「取引には当たらない」との主張に対して、「点数」表示のサービスは〈「取引の条件又は実施」に当たると考えられる〉と否定」、当然のことだ。
・『意見書に関する見解を尋ねると… 「この意見書は、争点である点数について『取引』だと認めたことに意義があります。また、食べログ側が優越的地位にあるかどうかも考慮要素とされました。今後、明確な道筋に沿って、審議は進んでいくでしょう」 カカクコムに意見書に関する見解を尋ねると、広報担当者は「係属中の訴訟に関する内容のためコメントは控えさせて頂きます」と答えた。 一体なぜチェーン店の点数が下がったのか、食べログの会員になるとどのような特典があるのか、裁判の流れを変えた元公取の大物の意見書の中身、公取の意見書が出された後の裁判でのカカクコム側の反応など、詳しくは「週刊文春 電子版」が報じている』、「食べログの会員になるとどのような特典があるのか」、まさか「点数」が高くなることはないと思いたいが、本当のところはどうなのだろう。企業の債務格付では、有料の依頼格付と、無料の勝手格付には格付の差はないとされている。
次に、7月26日付け東洋経済オンライン「UUUMが「YouTuberビジネス」でつまずいた真相 潮流の変化追いつけず、「UUUM離れ」じわり加速」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/689475
・『YouTuberビジネスのパイオニアは、かつての勢いを取り戻せるのか。 国内最大のYouTuber事務所であるUUUMは、7月14日に発表した2023年5月期決算において上場以来初の営業赤字へと転落した(詳細はこちら)。 同社はYouTuberへの注目度が急上昇していた2017年に上場。2019年には株価が一時6870円にまで達し、時価総額も1000億円を超えた。しかしここ1~2年は業績が低迷し、足元の株価はピーク時のおよそ10分の1の600円台半ばにしぼんでいる』、「時価総額」が「ピーク時のおよそ10分の1の600円台半ばにしぼんでいる」、とは大変だ。
・『ショート動画の拡大が逆風? UUUMは売上高が苦戦した要因の1つとして、「YouTubeショート」の再生回数増加に伴い、通常の動画の再生回数が想定を下回り、アドセンス(YouTube広告)収入が減少したことを挙げる。そのためネット上では、「ショートショック」という言葉も数多くささやかれた。 YouTubeショートとは、最大60秒の縦型動画のことで、日本では2021年からサービスが開始されている。一気に人気コンテンツとなり、UUUMでも直近の3月から5月にかけては、ショートの再生数が通常の動画を上回る水準にまで増加した。 一方、ショートは通常の動画よりも1再生当たりのアドセンスの単価が低い。またUUUM関係者は「(ショートが)チャンネル登録者数に関係なく動画が表示されるアルゴリズムとなっており、人気YouTuberほど恩恵が少ない」と漏らす。結果的に、通常の動画の落ち込みをカバーするには至らなかった。 しかし、このように外部要因の影響を強調するUUUM側の説明には疑問も残る。 Google合同会社でYouTubeクリエイターエコシステムパートナーシップ統括部長を務めるイネス・チャ氏は「YouTube全体としては、ショートの登場により、それ以外の動画の再生回数が減ったという事実はない」と断言する。 YouTube側はショートのアルゴリズムについて、チャンネル登録者数に関係なく動画が再生されるのは事実と認める一方、「(嗜好などに応じて)ユーザーが見たい動画が優先的に表示される仕組み」(イネス氏)と説明する。UUUMが多数抱えるような人気YouTuberほど不利な状況にある、との見方については否定した。 YouTuberの中には、ショートによって若者や海外視聴者をうまく取り込んで成功している例もある。例えば直近では、TikTok出身のクリエイターを中心に、ショートを数多く活用したYouTuberがチャンネル登録者数を急速に伸ばし始めている。UUUMで最多の登録者数(1140万人)を誇るヒカキンの2倍近いチャンネル登録者数を集めるクリエイターもいる。 その意味では、UUUMが苦境に陥った根因は、ショート人気という潮流の変化を機微にとらえたクリエイターの育成・サポートができなかった点にあるとも言えるだろう』、「UUUMが苦境に陥った根因は、ショート人気という潮流の変化を機微にとらえたクリエイターの育成・サポートができなかった点にあるとも言えるだろう」、なるほど。
・『人気YouTuberを囲い込めなくなった理由 そもそもUUUMの苦境は、ショートショック以前から始まっていた。 ヒカキンやはじめしゃちょーなど、かつてはトップYouTuberが次から次へとUUUMに集う状況だったが、近年は同社に所属していないYouTuberの活躍が目立つ。「近年勢いのある”新世代YouTuber”たちの中で、UUUM所属はエスポワール・トライブくらい」。業界関係者はそう分析する。 (UUUMの業績推移のグラフはリンク先参照) UUUMが人気YouTuberの囲い込みに苦戦している要因について、元UUUM専属のYouTuberのおのだまーしー氏は「(UUUMが)報酬に見合ったサポートを提供できていないことが大きいのではないか」と話す。 UUUMはYouTuberとの通常の専属契約において、企業とのタイアップ案件の提案やイベントへの招待、担当社員との定例ミーティングなどのサポートを行っている。これらの対価として、UUUM側は多くの場合、アドセンス収入の20%(YouTube外のタレント活動については25%)を徴収しているとされる。) 動画の再生数が増えるほどUUUM側が受け取る対価も増える仕組みだが、一般的に、YouTuberは企画から撮影、投稿まで動画制作のほぼすべての工程を自分で行うことが多い。そのため、「クリエイターが人気になるほど、UUUM側のサポートが20%の対価に見合わなくなってしまう構造にある」(おのだまーしー氏)という。 チャンネル登録者数が増えて一定の収入を稼げるレベルに達すると、対価を支払いながらUUUMのサポートを受けるよりも、独立してマネジャーなどを自ら雇ったほうが安くつくケースもあるようだ。 とくにコロナ期間中はイベントが開催できず、企業の広告出稿意欲も落ち込み、タイアップなどの案件が減少した一方、巣ごもり特需で動画再生数は増えた。そのため「イベント開催や案件紹介などUUUMからのサポートが減少する一方で、UUUM側に支払う対価は増えていた」(業界関係者)。そうした事情もあってか、複数の業界関係者によれば、コロナ禍以降にUUUMからYouTuberが独立する動きが目立ったという』、「チャンネル登録者数が増えて一定の収入を稼げるレベルに達すると、対価を支払いながらUUUMのサポートを受けるよりも、独立してマネジャーなどを自ら雇ったほうが安くつくケースもあるようだ。 とくにコロナ期間中はイベントが開催できず、企業の広告出稿意欲も落ち込み、タイアップなどの案件が減少した一方、巣ごもり特需で動画再生数は増えた。そのため「イベント開催や案件紹介などUUUMからのサポートが減少する一方で、UUUM側に支払う対価は増えていた」(業界関係者)。そうした事情もあってか、複数の業界関係者によれば、コロナ禍以降にUUUMからYouTuberが独立する動きが目立ったという」、「UUUM」独自の問題のようだ。
・『YouTuberのビジネスモデルに変化も アドセンスを柱に成長してきたUUUMにとっては、昨今のYouTuberビジネスの変容も逆風となった。 「『YouTubeでどう稼ぐか』から、『YouTubeを使ってどう稼ぐか』に変わった」。YouTuberを軸にしたビジネスを数多く展開するサムライパートナーズの入江巨之代表取締役は、そう話す。 入江氏は2019年に、人気YouTuberのヒカルらとともにアパレルブランド「ReZARD」を立ち上げた。立ち上げから3年で累計売り上げが70億円を突破し、YouTuberによる新たなビジネスモデルの先駆けとして知られる。 YouTuberの間では目下、こうしたYouTube以外の場での収益拡大を模索する動きが広がっている。チャンネル間での競争激化やYouTubeの広告費の伸び鈍化などにより、広告収入のみでの収益化の難易度が増したことが背景にある。UUUMにおいても、最大の収益柱であるアドセンス収入は2021年頃から伸び悩みに直面していた。 UUUMも手をこまぬいているわけではない。例えば、ヒカキンによる新ブランド「HIKAKIN PREMIUM(ヒカキン プレミアム)」から2023年5月に発売されたカップラーメン「みそきん」は、各地で品切れが相次ぐなど話題を呼んだ。 しかし、同社から展開されるP2Cブランド(YouTuberらを起点としたブランド商品)はプロテインやグミ、カップラーメンなど単価の低いものが目立つ。ある業界関係者は「ヒカキンなどのUUUM所属YouTuberは子どものファンが多い。そのため単価の高い商品を販売しづらいのではないか」と話す。 現状、UUUMの主な収益源は3つ。アドセンスとP2Cブランド(グッズ)、そしてマーケティングだ。 アドセンス依存脱却に向けて強化に乗り出したP2Cブランドは、前2023年5月期に多額の在庫評価損を計上するなど、本格的な収益貢献までには課題も多い。そこで改めて今、同社が強化する姿勢を明確にしているのがマーケティング領域だ』、「マーケティング領域」とはどういうことなのだろう。
・『国内インフルエンサーマーケティング市場の規模 インフルエンサーを活用したマーケティングの需要は年々拡大傾向にあり、今後も大きな成長が予測されている。YouTuberを数多く抱えるUUUMにとっては好機だが、前期はそのマーケティング領域でも減収となり、旺盛な需要をうまく取り込めていない状況にある。 同社のIR担当者は「(マーケティング領域は)市場の拡大による案件の分散化や、クライアントのニーズの多様化への対応が遅れてしまった」と認めたうえで、「現在は、タイアップなどの既存の広告メニューとは違った新たな広告メニューへの対応を推進している」と説明する』、「インフルエンサーを活用したマーケティングの需要は年々拡大傾向にあり、今後も大きな成長が予測されている。YouTuberを数多く抱えるUUUMにとっては好機だが、前期はそのマーケティング領域でも減収となり、旺盛な需要をうまく取り込めていない状況にある」、「UUUMのやり方が不味かったようだ。
・『マーケ強化へ役員を社外から2人登用 UUUMは今期、人員削減などの構造改革に乗り出す一方、テクノロジー投資は8400万円の増加を見込む。テクノロジーの活用によって多様な広告メニューを開発することで、マイクロインフルエンサーとよばれる小規模のクリエイターにまで低コストでマーケティングを展開できるようにするという。 クリエイティブやPR領域に強い役員を社外から2人登用し、PR・コンサル領域で勢いのあるマテリアル社との業務提携も発表した。UUUMはこうした新規領域がアドセンスに次ぐ収益柱となることで、今後の再成長につなげられると想定する。 創業10年目にして厳しい状況に陥ったUUUMだが、今も業界最大手のポジションにあることには変わりない。過去最大の赤字という逆境を乗り越えられるか。今が正念場だ』、「テクノロジー投資は8400万円の増加を見込む。テクノロジーの活用によって多様な広告メニューを開発することで、マイクロインフルエンサーとよばれる小規模のクリエイターにまで低コストでマーケティングを展開できるようにするという。 クリエイティブやPR領域に強い役員を社外から2人登用し、PR・コンサル領域で勢いのあるマテリアル社との業務提携も発表」、これで波に乗れるのか、今後の展開を注視したい。
タグ:東洋経済オンライン「UUUMが「YouTuberビジネス」でつまずいた真相 潮流の変化追いつけず、「UUUM離れ」じわり加速」 「マーケティング領域」とはどういうことなのだろう。 「UUUMが苦境に陥った根因は、ショート人気という潮流の変化を機微にとらえたクリエイターの育成・サポートができなかった点にあるとも言えるだろう」、なるほど。 「インフルエンサーを活用したマーケティングの需要は年々拡大傾向にあり、今後も大きな成長が予測されている。YouTuberを数多く抱えるUUUMにとっては好機だが、前期はそのマーケティング領域でも減収となり、旺盛な需要をうまく取り込めていない状況にある」、「UUUMのやり方が不味かったようだ。 「食べログの会員になるとどのような特典があるのか」、まさか「点数」が高くなることはないと思いたいが、本当のところはどうなのだろう。企業の債務格付では、有料の依頼格付と、無料の勝手格付には格付の差はないとされている。 「裁判所」は「カカクコム側の「取引には当たらない」との主張に対して、「点数」表示のサービスは〈「取引の条件又は実施」に当たると考えられる〉と否定」、当然のことだ。 「チャンネル登録者数が増えて一定の収入を稼げるレベルに達すると、対価を支払いながらUUUMのサポートを受けるよりも、独立してマネジャーなどを自ら雇ったほうが安くつくケースもあるようだ。 とくにコロナ期間中はイベントが開催できず、企業の広告出稿意欲も落ち込み、タイアップなどの案件が減少した一方、巣ごもり特需で動画再生数は増えた。 「時価総額」が「ピーク時のおよそ10分の1の600円台半ばにしぼんでいる」、とは大変だ。 「当社の店舗では、平均で0・2点、最大で0・45点も急に点数が下がったのです。他にも焼肉トラジ、一蘭、天一なども下がっていました。共通するのはみなチェーン店だということです」、「点数が下がったことで、当社の売上は月平均で約2500万円も落ち込みました」 そこで任社長は2020年5月、点数を下げる“チェーン店ディスカウント”で損害を負ったとして、訴訟に踏み切った」、「東京地裁は6月16日、原告側の主張を認め、カカクコムに3840万円の賠償を命じた」、なるほど。 文春オンライン「〈食べログに3840万円賠償命令〉“点数急落”韓国料理チェーン店が勝訴の裏に「異例の意見書」」 「テクノロジー投資は8400万円の増加を見込む。テクノロジーの活用によって多様な広告メニューを開発することで、マイクロインフルエンサーとよばれる小規模のクリエイターにまで低コストでマーケティングを展開できるようにするという。 クリエイティブやPR領域に強い役員を社外から2人登用し、PR・コンサル領域で勢いのあるマテリアル社との業務提携も発表」、これで波に乗れるのか、今後の展開を注視したい。 そのため「イベント開催や案件紹介などUUUMからのサポートが減少する一方で、UUUM側に支払う対価は増えていた」(業界関係者)。そうした事情もあってか、複数の業界関係者によれば、コロナ禍以降にUUUMからYouTuberが独立する動きが目立ったという」、「UUUM」独自の問題のようだ。
イーロン・マスク(その1)(イーロン・マスク 炎上連発も“詐欺師扱い”も上等な「鋼のメンタル」の秘密、ツイッター買収は間違いだった…私が「イーロン・マスクはすでに限界に来ている」と見放している理由 テスラをアップル並みに評価するのは間違い) [イノベーション]
今日は、イーロン・マスク(その1)(イーロン・マスク 炎上連発も“詐欺師扱い”も上等な「鋼のメンタル」の秘密、ツイッター買収は間違いだった…私が「イーロン・マスクはすでに限界に来ている」と見放している理由 テスラをアップル並みに評価するのは間違い)を取上げよう。
先ずは、本年2月2日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済・経営ジャーナリストの桑原晃弥氏による「イーロン・マスク、炎上連発も“詐欺師扱い”も上等な「鋼のメンタル」の秘密」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/316711
・『テスラやスペースXを経営する実業家イーロン・マスクは、2022年版『フォーブス』世界長者番付で、2位に大差をつけて1位に輝いた。今や誰もが知る世界一の実業家で、その言動は常に注目されている。特に日本で話題になったのは、Twitter買収騒動や「日本消滅」というワード。一度やると決めたら必ず成し遂げる行動力や、炎上・誹謗中傷を意に介さない鋼のメンタルから、彼の仕事術が見えてくる。桑原晃弥『イーロン・マスク流 「鋼のメンタル」と「すぐやる力」が身につく仕事術』(プレジデント社)を一部抜粋して解説する』、興味深そうだ。
・『失敗は次に進むためのステップ 「アイデアがあればすぐに実行する」ことの大切さは理解していても、いざ実行となると、なかなか踏み切ることができない理由の一つは「失敗への恐れ」があるからだ。 例えば、上司にアイデアを提案して、「やってみろ」と言われても、「失敗したらどうしよう」「失敗して責任を取らされるのは嫌だ」と思い悩むうちに、時間だけが過ぎていく、ということはよくあることだ。 一方、成功した起業家の多くは「アイデアがあればすぐに実行する」を苦もなくやってのけている。それを可能にしているのが生来の実験好きであり、「実験に失敗はつきものだ」という考え方だ。アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは、こんなことを言っている。 「実験はイノベーションの鍵だ。予想通りの結果が出ることは滅多になく、多くを学べる」 「実験の回数を100回から1000回に増やせば、イノベーションの数も劇的に増える」 イノベーションには「実験」が欠かせない。そして、「実験」には「失敗」がつきものだ。挑戦して失敗すれば、誰だってがっかりするが、彼らはそれさえも次に進むためのステップだと考える。だからこそ前に進むことができるのだ』、「アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは・・・「イノベーションには「実験」が欠かせない。そして、「実験」には「失敗」がつきものだ。挑戦して失敗すれば、誰だってがっかりするが、彼らはそれさえも次に進むためのステップだと考える。だからこそ前に進むことができるのだ」、なるほど。
・『失敗を覚悟の上で挑戦する べゾスは、アマゾンの創業にあたってこう考えていた。 「失敗を覚悟すると、心は軽くなるのです」 アマゾンの創業にあたり、ベゾスは成功確率を「30%」と考えていた。さらに自分の両親や友人たちに出資を依頼する際には、成功確率を「10%」と伝えていた。なぜなら、失っても生活に困らないお金だけを出資してほしい、と考えていたからだ。 ベゾスは、なぜそんな弱気なことを口にしたのか? 「絶対に成功するはずだ」と思い込むとリスクを軽んじる恐れがあるし、「絶対に失敗できない」となると、成功のために必要なリスク覚悟の挑戦ができなくなるからだ。 いわば、「失敗も覚悟」した上で、リスク承知の挑戦をしたことがアマゾンの成功につながったのだ。) しかし、「成功確率30%」のアマゾンと比べても、マスクが起業したスペースXはさらにリスクの高い事業だった。 実際、マスクの友人たちは、マスクが本気で宇宙ビジネスについて検討をし始めた時、ロケット爆発の映像を集めたビデオを見せて、お金の無駄遣いを阻止しようとしたくらいだ。 「イーロンのやっていることはおかしい。慈善事業だかなんだか知らないけどイカれてるね」 マスク自身も、火星に人類を送り込むプロジェクトは人をわくわくさせるものの、100%の損失を見込むものだと覚悟していた。こう話している。 「始めた当初、こう思っていました。『スペースXは確実に失敗する』」 もしかしたらどこかがスポンサーになってくれるかもしれないものの、短期間で利益が出るはずはないし、会社として大きな損失を被ることになるとも覚悟していた。それでもやらなければならない、というのがマスクの考えだった。 ▽日本でイノベーションが起こりにくい理由(当たり前の話だが、確実に儲かる事業なら誰だって喜んでお金を出すし、参画しようとする。反対に失敗の可能性が滅茶苦茶高い上に、大きな損失も出る事業にあえて参画する企業はほとんどない。 日本でイノベーションが起こりづらい理由の一つとしてしばしば指摘されているのが「無謬性の原則」だ。日本の大企業や官僚機構に見られる現象で、「あるプロジェクト(政策)を成功させる責任を負った組織や当事者は、そのプロジェクト(政策)が失敗した時のことを考えたり議論してはいけない」という大原則だ。これでは「この政策はうまくいかない」とわかったとしても、軌道修正もできなければ、やめることもできなくなってしまう。 こうした大原則が支配している企業や組織で、ジェフ・ベゾスやイーロン・マスクが生まれるはずはない。マスクの強みについて、最初の妻がこんなことを言っている。) 「やると決めたら実行する人で、簡単には諦めない。それがイーロン・マスクの世界であって、その世界に暮らすのが私たちなの」 マスクが掲げるビジョンはあまりに壮大過ぎて理解しづらいところがあるし、はたしてマスクが生きているうちに達成できるかどうか、わからないものもある。にもかかわらず、マスクがそうしたビジョンを堂々と口にして、実現に向けて挑戦し続けることができるのは、「失敗は成功に欠かせないものとして失敗を引き受ける」ことができるから。そして、「失敗から学びながら進み続ける粘り強さ」を持っているからだ』、「マスクが掲げるビジョンはあまりに壮大過ぎて理解しづらいところがあるし、はたしてマスクが生きているうちに達成できるかどうか、わからないものもある。にもかかわらず、マスクがそうしたビジョンを堂々と口にして、実現に向けて挑戦し続けることができるのは、「失敗は成功に欠かせないものとして失敗を引き受ける」ことができるから。そして、「失敗から学びながら進み続ける粘り強さ」を持っているからだ」、なるほど。
・『ツイッターでたびたび炎上 今の時代、「鋼のメンタル」が求められるのは会社の経営だけではない。ごく普通の人でさえ、何かのきっかけで「炎上騒動」に巻き込まれ、「誹謗中傷」にさらされてしまう。 マスクといえば、最近日本でも大きな話題となったが、ツイッター社の買収の件だ。 2022年4月、マスクはツイッター社の買収を提案、一度は合意に達した。しかし同年7月、ツイッター側に「重大な違反」があり「虚偽かつ誤解を招く」発言があったため、買収を断念した(※編集部注 紆余曲折の末、最終的には22年10月に買収した)。 さて、マスクは、ツイッターのヘビーユーザーであり、フォロワー数は約8700万人もいる。これだけ人数がいると、発言一つにも気を遣いそうなものだが、マスクはしばしばツイッターで炎上騒ぎを起こす。それが、テスラの株価にも多大な影響を与えるのだ。炎上騒ぎのほとんどは、テスラやスペースXの広報が正式発表をする前に、マスクがツイッターで発信をして、平気でそれを取り消すといった行動を繰り返していることに端を発している。 そのことが「はたしてマスクにCEOを任せていいものか?」という株主からの懸念につながっている。が、そもそもテスラやスペースXという野心的な企業を経営できる人間がマスク以外にいるのかとなると、やはりいないだろう』、「そもそもテスラやスペースXという野心的な企業を経営できる人間がマスク以外にいるのかとなると、やはりいないだろう」、その通りだ。
・『「どう思われようと、俺の知ったこっちゃない」(それはともかく、マスクは自身の炎上や誹謗中傷に「心が折れる」ことはないのだろうか? Zip2を経営していた頃の話だ。新しいサイトの立ち上げについて、マスクが技術的な変更を社員の1人に指示したところ「それは無理だ」と反論されたことがある。 その時マスクはたったひと言、こう吐き捨てて部屋を出ていってしまった。 「どう思われようと、俺の知ったこっちゃない」 自分の要求に対して「ノー」と言う部下に対して、厳しい言葉を口にするのはスティーブ・ジョブズもジェフ・ベゾスも同じだ。しかしマスクの場合は「ノー」を受け付けないばかりか、部下が自分のことをどう思おうとどうでもいいという態度をはっきりと示すところにすごみがある。 今でこそマスクのことを「ペテン師」と揶揄する人は減ってきたが、2008年頃、スペースXもテスラも行き詰まっていた頃は、こんな言葉でマスクを揶揄する人たちがいた。 「全財産を失い破産寸前のペテン師」 「宇宙産業の大ぼら吹き」 確かに当初の計画に遅れが生じるのがマスクの常だけに、「詐欺師」「ペテン師」よばわりする人がいてもおかしくはない。しかし、こうした声のすべてを、「言ったことは必ず実行する」ことでねじ伏せてきたのもマスクである。 「世界一の投資家」とよばれるウォーレン・バフェットが大切にしているのが「内なる声に従う」だ。たいていの人は、自分では「こうしたい」と考えたとしても、周りの声や世の中の声に押されて、自分の考えを変えてしまう。「外の声」に耳を傾け過ぎ、「内なる声」を軽んじてしまうのだ。 しかしマスクは「どう思われようと、俺の知ったこっちゃない」発言からもわかるように、常に「内なる声」に耳を傾けることで成功を収めてきた。 バフェットを始めとする成功者も、「外の声」に逆らってでも「内なる声」に忠実に前に進むことで成果を手にしている。 アメリカがITバブルに沸いていた頃、IT関連への投資をしないバフェットは、「時代遅れのチンパンジー」と揶揄されたが、その後、バブルがはじけてIT関連の株は大幅に値を下げた。「内なる声」に従ったバフェットが正しかったことが証明されたのだ。) ▽炎上や誹謗中傷を恐れない(バフェットの例が示しているように、「外の声」に惑わされることなく「内なる声」を信じて進むには、誹謗中傷や揶揄する声に耳を貸さず、孤独に耐えながら前に進む勇気が欠かせない。 ただ、マスクが面白いのは「内なる声」を大事にしつつ、「いいところを聞くのは時間のムダで、悪いところを聞く方が役に立つ」と言い切るほど、「悪いところ」を歓迎する姿勢を持っていることである。 結局、心の底からやりたいと情熱を傾けるものがあれば、たとえ絶望や難局に見舞われようとも「ようし、問題さえ解決すれば前に進めるんだ」と進み続けること。 まずは自分が心の底から「やりたい」「やらなければ」と思えるものを見つけること。 これがマスク流「鋼のメンタル」仕事術だ』、「マスクが面白いのは「内なる声」を大事にしつつ、「いいところを聞くのは時間のムダで、悪いところを聞く方が役に立つ」と言い切るほど、「悪いところ」を歓迎する姿勢を持っていることである」、「マスク氏」が「「いいところを聞くのは時間のムダで、悪いところを聞く方が役に立つ」と言い切るほど、「悪いところ」を歓迎する姿勢を持っている」とはさすがだ。
次に、4月24日付けPRESIDENT Onlineが掲載したエコノミストのエミン・ユルマズ氏による「ツイッター買収は間違いだった…私が「イーロン・マスクはすでに限界に来ている」と見放している理由 テスラをアップル並みに評価するのは間違い」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/68589
・『イーロン・マスクの快進撃は今後も続くのだろうか。エコノミストのエミン・ユルマズさんは「株式市場でテスラはアップル並みに評価されているが、これは過大評価ではないか。イーロン・マスクの政治発言やハチャメチャな行動はビジネスの腰折れを招いている。チャイナリスクにも直面しており、経営者としてすでに限界に来ている」という――。(第2回) ※本稿は、エミン・ユルマズ『大インフレ時代!日本株が強い』(ビジネス社)の一部を再編集したものです』、興味深そうだ。
・『アップルのスマホそのものが優れているわけではない 読者から、あるいは講演会の席で、こんな質問をいただくことがある。 「自分はアップルとテスラに注目しているが、あなたはこの両社をどう捉えているのか。正直な考えを開陳していただきたい」 両社はハードウェアをつくっている。ただアップルに関しては、たしかにハードウェアの部分もあるけれど、アップルの強みはいわゆるiOSだ。 アップルが開発および提供する、iPhone、iPad、Mac向けのオペレーティングシステム(組み込みプラットフォーム)が秀逸なのである。 アップルのプラットフォームであるアップストアは、2021年に17兆円の市場規模に達したアプリ売り上げのうちの6割を獲得している。 またアップルはプラットフォームの提供者としてアプリ売り上げの3割をとっている。 アップルのソフトウェア部門とハードウェア部門を別々に考えた場合、ハードのバリュエーションはかなり低いのだと思う。 iPhoneにしても、アップルのスマホそのものが優れているのではない。 これより優れているアンドロイドスマホは山ほどある。 皮肉な言い方をすると、私はいつもアップルのiOSを、アップルよりもっと機能の高いサムスンなどのスマホで使えたらブラボーではないかなと思っている。 しかし、それはできないし、ポイントはそこではない。 アップルは音楽から動画から仕事アプリまで自社のエコシステムでつくり上げており、セキュリティーもしっかりしている。そこに価値があるわけである。 それが評価されて、高価格でも売れてきた』、「アップルは音楽から動画から仕事アプリまで自社のエコシステムでつくり上げており、セキュリティーもしっかりしている。そこに価値があるわけである。 それが評価されて、高価格でも売れてきた」、なるほど。
・『「テスラは自動車会社ではない」は本当なのか 一方、テスラに関しては、本当に自動車の会社であれば、あのバリュエーションはあり得ないと思う。 テスラの株主は、「この会社は自動車会社ではなくてパソコン会社、IT企業なのだ。だから、あのバリュエーションでも正当化できるのだ」と擁護ようごする。 さらに、「優れた自動運転技術やバッテリー技術を持っている」と主張するのだけれど、実際には疑問点がいくつもある』、「疑問点」とはどんなものなのだろう。
・『CO2の「環境クレジット枠」で利益をあげてきた たしかにテスラは近年、高利益を出しているけれど、これには大きなからくりが存在する。 EUの自動車メーカーが創設したCO2排出削減に取り組む制度「オープンプール」に乗る形で、EV専業のテスラはCO2排出基準を達成できない自動車メーカーに対し、自社が持つ環境クレジット枠を販売してきた。 この環境クレジットビジネスがテスラに巨大な利益をもたらしてきたのだ。 ここ数年間、環境クレジット売却益は、全期においてテスラの純利益を大幅に上回ってきた。 極論を言うならば、この環境クレジットビジネスがなければ、テスラはいまも“赤字企業”に甘んじていたはずなのだ。 ところが、これまでテスラの環境クレジット枠を購入して忸怩じくじたる思いをしてきた自動車メーカーも、今後は自前EVを次々と出してくる。 だから、テスラの収入源がガタ落ちとなる可能性が出てきたのである』、「環境クレジット売却益は、全期においてテスラの純利益を大幅に上回ってきた。 極論を言うならば、この環境クレジットビジネスがなければ、テスラはいまも“赤字企業”に甘んじていたはずなのだ。 ところが、これまでテスラの環境クレジット枠を購入して忸怩じくじたる思いをしてきた自動車メーカーも、今後は自前EVを次々と出してくる。 だから、テスラの収入源がガタ落ちとなる可能性が出てきた」、「環境クレジット売却益」で利益が押し上げられているというのは、初めて知った。
・『自動車会社としての「格」の低さを悪用している 次なるテスラに対する疑問は、なぜ自動運転車の開発で、テスラは他社に先んじているのかというものだ。 その答えは明確この上ない。テスラはレピュテーション・リスク、つまり企業に関するネガティブな情報が広がり、ブランド価値や信用が低下して被るリスクを恐れていないけれど、他社はそれを考えざるを得ないからだ。 仮に業界大手のベンツやトヨタが自動運転で事故を起こしたら、これまで積み上げてきた信用が致命的に棄損きそんされてしまう。 かたやテスラは新興EVメーカーに過ぎない。事故を起こしても飄々ひょうひょうとしていられる。 要は、自動車会社としての「格」の低さを悪用している』、「テスラは新興EVメーカーに過ぎない。事故を起こしても飄々ひょうひょうとしていられる。 要は、自動車会社としての「格」の低さを悪用している」、確かにその通りだ。
・『性能表示でイカサマのような対応をしてきた 私が悪質だと考えているのは、テスラがバッテリーパワーや走行距離などの性能表示でイカサマのような対応をしてきたところだ。 2023年に入って早々、韓国の公正取引委員会は、テスラが走行可能距離を誇大に広告していたと、課徴金納付を命じた。 EVのモデル3・ロングレンジについて、一度のフル充電で446キロ以上走行可能と謳うたっていたが、実際には冬場の走行距離は221キロと半分以下だった。 以上、テスラをあげつらってきたけれど、より本質的な疑問と弱点は同社経営者のイーロン・マスクに収斂しゅうれんされよう』、米国では「広告表示」には規制はないのだろうか。
・『民主党寄りの人たちはテスラにソッポを向く 2022年11月の米中間選挙におけるイーロン・マスクの共和党寄りの発言を聞いた私は、呆あきれ返った。 そもそもテスラのメインユーザーは、民主党寄りの人たちだ。 今回の選挙でよりクリアになったのは、若い人たちが圧倒的に民主党寄りだということだった。 もう1つ、テスラみたいなEVを買っている人たちは、都市に住む環境意識の高い人たちに他ならない。 翻ひるがえって、イーロン・マスクが秋波しゅうはを送る共和党寄りの人たちは、「地球温暖化は嘘だ」と叫ぶトランプ支持者である。 彼らは絶対にテスラには乗らない。GMやフォードのバカでかいピックアップトラックに好んで乗るような、田舎で暮らす人たちと相場が決まっている。 そこから考えると、今後、別のメーカーから、テスラのオルタナティブとなるEVが登場した際、民主党寄りの人たちはテスラにソッポを向くはずだ』、「テスラのメインユーザーは、民主党寄りの人たちだ」、にも拘らず、「米中間選挙におけるイーロン・マスクの共和党寄りの発言」、信じ難い動きだ。
・『テスラのビジネスに「2つの大きなリスク」 今後のテスラのビジネスには、先の私の考察を含めて、おそらく2つの大きなリスクを内包する。 1つはチャイナリスク。テスラの販売が米国以外では、中国市場にかなり依存していることだ。 もう1つは、経営者リスク。先に論じたとおり、経営者のイーロン・マスクの政治発言やハチャメチャな行動がビジネスの腰折れを招いており、その矛盾が次第に際立ち始めていることだ』、「チャイナリスク」、「経営者リスク」とも予断を許さない。
・『イーロン・マスクはすでに限界に来ている イーロン・マスクはすでに限界に来ているのではないか。私はそう思う一人である。 ツイッター買収は、ビジネス判断を大きく間違えた。買う気がないのに買うと宣言してしまい、結局裁判沙汰になって、無理矢理、買わされてしまった。 メディアに適当なことを言っていたツケが回ったとしか思えない出来事であった。 同社に対するイーロン・マスクによるあからさまな株価操縦も疑われており、そろそろ経営者としての限界を迎えていると思われる。 もう1つ、米国と中国がこれだけ対立しているなか、イーロン・マスクの中国にべったりの姿勢は、今後かなりの修正を迫られるはずだ。 したがって、テスラという会社はいろいろな意味で、危ういところがあるのではないだろうか』、「イーロン・マスク」を持ち上げる記事が多いんかで、珍しく辛口の記事だ。「イーロン・マスクはすでに限界に来ているのではないか」、確かにそうした面も否定できないようだ。改めて厳しい目で見ていくたい。
先ずは、本年2月2日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済・経営ジャーナリストの桑原晃弥氏による「イーロン・マスク、炎上連発も“詐欺師扱い”も上等な「鋼のメンタル」の秘密」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/316711
・『テスラやスペースXを経営する実業家イーロン・マスクは、2022年版『フォーブス』世界長者番付で、2位に大差をつけて1位に輝いた。今や誰もが知る世界一の実業家で、その言動は常に注目されている。特に日本で話題になったのは、Twitter買収騒動や「日本消滅」というワード。一度やると決めたら必ず成し遂げる行動力や、炎上・誹謗中傷を意に介さない鋼のメンタルから、彼の仕事術が見えてくる。桑原晃弥『イーロン・マスク流 「鋼のメンタル」と「すぐやる力」が身につく仕事術』(プレジデント社)を一部抜粋して解説する』、興味深そうだ。
・『失敗は次に進むためのステップ 「アイデアがあればすぐに実行する」ことの大切さは理解していても、いざ実行となると、なかなか踏み切ることができない理由の一つは「失敗への恐れ」があるからだ。 例えば、上司にアイデアを提案して、「やってみろ」と言われても、「失敗したらどうしよう」「失敗して責任を取らされるのは嫌だ」と思い悩むうちに、時間だけが過ぎていく、ということはよくあることだ。 一方、成功した起業家の多くは「アイデアがあればすぐに実行する」を苦もなくやってのけている。それを可能にしているのが生来の実験好きであり、「実験に失敗はつきものだ」という考え方だ。アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは、こんなことを言っている。 「実験はイノベーションの鍵だ。予想通りの結果が出ることは滅多になく、多くを学べる」 「実験の回数を100回から1000回に増やせば、イノベーションの数も劇的に増える」 イノベーションには「実験」が欠かせない。そして、「実験」には「失敗」がつきものだ。挑戦して失敗すれば、誰だってがっかりするが、彼らはそれさえも次に進むためのステップだと考える。だからこそ前に進むことができるのだ』、「アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは・・・「イノベーションには「実験」が欠かせない。そして、「実験」には「失敗」がつきものだ。挑戦して失敗すれば、誰だってがっかりするが、彼らはそれさえも次に進むためのステップだと考える。だからこそ前に進むことができるのだ」、なるほど。
・『失敗を覚悟の上で挑戦する べゾスは、アマゾンの創業にあたってこう考えていた。 「失敗を覚悟すると、心は軽くなるのです」 アマゾンの創業にあたり、ベゾスは成功確率を「30%」と考えていた。さらに自分の両親や友人たちに出資を依頼する際には、成功確率を「10%」と伝えていた。なぜなら、失っても生活に困らないお金だけを出資してほしい、と考えていたからだ。 ベゾスは、なぜそんな弱気なことを口にしたのか? 「絶対に成功するはずだ」と思い込むとリスクを軽んじる恐れがあるし、「絶対に失敗できない」となると、成功のために必要なリスク覚悟の挑戦ができなくなるからだ。 いわば、「失敗も覚悟」した上で、リスク承知の挑戦をしたことがアマゾンの成功につながったのだ。) しかし、「成功確率30%」のアマゾンと比べても、マスクが起業したスペースXはさらにリスクの高い事業だった。 実際、マスクの友人たちは、マスクが本気で宇宙ビジネスについて検討をし始めた時、ロケット爆発の映像を集めたビデオを見せて、お金の無駄遣いを阻止しようとしたくらいだ。 「イーロンのやっていることはおかしい。慈善事業だかなんだか知らないけどイカれてるね」 マスク自身も、火星に人類を送り込むプロジェクトは人をわくわくさせるものの、100%の損失を見込むものだと覚悟していた。こう話している。 「始めた当初、こう思っていました。『スペースXは確実に失敗する』」 もしかしたらどこかがスポンサーになってくれるかもしれないものの、短期間で利益が出るはずはないし、会社として大きな損失を被ることになるとも覚悟していた。それでもやらなければならない、というのがマスクの考えだった。 ▽日本でイノベーションが起こりにくい理由(当たり前の話だが、確実に儲かる事業なら誰だって喜んでお金を出すし、参画しようとする。反対に失敗の可能性が滅茶苦茶高い上に、大きな損失も出る事業にあえて参画する企業はほとんどない。 日本でイノベーションが起こりづらい理由の一つとしてしばしば指摘されているのが「無謬性の原則」だ。日本の大企業や官僚機構に見られる現象で、「あるプロジェクト(政策)を成功させる責任を負った組織や当事者は、そのプロジェクト(政策)が失敗した時のことを考えたり議論してはいけない」という大原則だ。これでは「この政策はうまくいかない」とわかったとしても、軌道修正もできなければ、やめることもできなくなってしまう。 こうした大原則が支配している企業や組織で、ジェフ・ベゾスやイーロン・マスクが生まれるはずはない。マスクの強みについて、最初の妻がこんなことを言っている。) 「やると決めたら実行する人で、簡単には諦めない。それがイーロン・マスクの世界であって、その世界に暮らすのが私たちなの」 マスクが掲げるビジョンはあまりに壮大過ぎて理解しづらいところがあるし、はたしてマスクが生きているうちに達成できるかどうか、わからないものもある。にもかかわらず、マスクがそうしたビジョンを堂々と口にして、実現に向けて挑戦し続けることができるのは、「失敗は成功に欠かせないものとして失敗を引き受ける」ことができるから。そして、「失敗から学びながら進み続ける粘り強さ」を持っているからだ』、「マスクが掲げるビジョンはあまりに壮大過ぎて理解しづらいところがあるし、はたしてマスクが生きているうちに達成できるかどうか、わからないものもある。にもかかわらず、マスクがそうしたビジョンを堂々と口にして、実現に向けて挑戦し続けることができるのは、「失敗は成功に欠かせないものとして失敗を引き受ける」ことができるから。そして、「失敗から学びながら進み続ける粘り強さ」を持っているからだ」、なるほど。
・『ツイッターでたびたび炎上 今の時代、「鋼のメンタル」が求められるのは会社の経営だけではない。ごく普通の人でさえ、何かのきっかけで「炎上騒動」に巻き込まれ、「誹謗中傷」にさらされてしまう。 マスクといえば、最近日本でも大きな話題となったが、ツイッター社の買収の件だ。 2022年4月、マスクはツイッター社の買収を提案、一度は合意に達した。しかし同年7月、ツイッター側に「重大な違反」があり「虚偽かつ誤解を招く」発言があったため、買収を断念した(※編集部注 紆余曲折の末、最終的には22年10月に買収した)。 さて、マスクは、ツイッターのヘビーユーザーであり、フォロワー数は約8700万人もいる。これだけ人数がいると、発言一つにも気を遣いそうなものだが、マスクはしばしばツイッターで炎上騒ぎを起こす。それが、テスラの株価にも多大な影響を与えるのだ。炎上騒ぎのほとんどは、テスラやスペースXの広報が正式発表をする前に、マスクがツイッターで発信をして、平気でそれを取り消すといった行動を繰り返していることに端を発している。 そのことが「はたしてマスクにCEOを任せていいものか?」という株主からの懸念につながっている。が、そもそもテスラやスペースXという野心的な企業を経営できる人間がマスク以外にいるのかとなると、やはりいないだろう』、「そもそもテスラやスペースXという野心的な企業を経営できる人間がマスク以外にいるのかとなると、やはりいないだろう」、その通りだ。
・『「どう思われようと、俺の知ったこっちゃない」(それはともかく、マスクは自身の炎上や誹謗中傷に「心が折れる」ことはないのだろうか? Zip2を経営していた頃の話だ。新しいサイトの立ち上げについて、マスクが技術的な変更を社員の1人に指示したところ「それは無理だ」と反論されたことがある。 その時マスクはたったひと言、こう吐き捨てて部屋を出ていってしまった。 「どう思われようと、俺の知ったこっちゃない」 自分の要求に対して「ノー」と言う部下に対して、厳しい言葉を口にするのはスティーブ・ジョブズもジェフ・ベゾスも同じだ。しかしマスクの場合は「ノー」を受け付けないばかりか、部下が自分のことをどう思おうとどうでもいいという態度をはっきりと示すところにすごみがある。 今でこそマスクのことを「ペテン師」と揶揄する人は減ってきたが、2008年頃、スペースXもテスラも行き詰まっていた頃は、こんな言葉でマスクを揶揄する人たちがいた。 「全財産を失い破産寸前のペテン師」 「宇宙産業の大ぼら吹き」 確かに当初の計画に遅れが生じるのがマスクの常だけに、「詐欺師」「ペテン師」よばわりする人がいてもおかしくはない。しかし、こうした声のすべてを、「言ったことは必ず実行する」ことでねじ伏せてきたのもマスクである。 「世界一の投資家」とよばれるウォーレン・バフェットが大切にしているのが「内なる声に従う」だ。たいていの人は、自分では「こうしたい」と考えたとしても、周りの声や世の中の声に押されて、自分の考えを変えてしまう。「外の声」に耳を傾け過ぎ、「内なる声」を軽んじてしまうのだ。 しかしマスクは「どう思われようと、俺の知ったこっちゃない」発言からもわかるように、常に「内なる声」に耳を傾けることで成功を収めてきた。 バフェットを始めとする成功者も、「外の声」に逆らってでも「内なる声」に忠実に前に進むことで成果を手にしている。 アメリカがITバブルに沸いていた頃、IT関連への投資をしないバフェットは、「時代遅れのチンパンジー」と揶揄されたが、その後、バブルがはじけてIT関連の株は大幅に値を下げた。「内なる声」に従ったバフェットが正しかったことが証明されたのだ。) ▽炎上や誹謗中傷を恐れない(バフェットの例が示しているように、「外の声」に惑わされることなく「内なる声」を信じて進むには、誹謗中傷や揶揄する声に耳を貸さず、孤独に耐えながら前に進む勇気が欠かせない。 ただ、マスクが面白いのは「内なる声」を大事にしつつ、「いいところを聞くのは時間のムダで、悪いところを聞く方が役に立つ」と言い切るほど、「悪いところ」を歓迎する姿勢を持っていることである。 結局、心の底からやりたいと情熱を傾けるものがあれば、たとえ絶望や難局に見舞われようとも「ようし、問題さえ解決すれば前に進めるんだ」と進み続けること。 まずは自分が心の底から「やりたい」「やらなければ」と思えるものを見つけること。 これがマスク流「鋼のメンタル」仕事術だ』、「マスクが面白いのは「内なる声」を大事にしつつ、「いいところを聞くのは時間のムダで、悪いところを聞く方が役に立つ」と言い切るほど、「悪いところ」を歓迎する姿勢を持っていることである」、「マスク氏」が「「いいところを聞くのは時間のムダで、悪いところを聞く方が役に立つ」と言い切るほど、「悪いところ」を歓迎する姿勢を持っている」とはさすがだ。
次に、4月24日付けPRESIDENT Onlineが掲載したエコノミストのエミン・ユルマズ氏による「ツイッター買収は間違いだった…私が「イーロン・マスクはすでに限界に来ている」と見放している理由 テスラをアップル並みに評価するのは間違い」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/68589
・『イーロン・マスクの快進撃は今後も続くのだろうか。エコノミストのエミン・ユルマズさんは「株式市場でテスラはアップル並みに評価されているが、これは過大評価ではないか。イーロン・マスクの政治発言やハチャメチャな行動はビジネスの腰折れを招いている。チャイナリスクにも直面しており、経営者としてすでに限界に来ている」という――。(第2回) ※本稿は、エミン・ユルマズ『大インフレ時代!日本株が強い』(ビジネス社)の一部を再編集したものです』、興味深そうだ。
・『アップルのスマホそのものが優れているわけではない 読者から、あるいは講演会の席で、こんな質問をいただくことがある。 「自分はアップルとテスラに注目しているが、あなたはこの両社をどう捉えているのか。正直な考えを開陳していただきたい」 両社はハードウェアをつくっている。ただアップルに関しては、たしかにハードウェアの部分もあるけれど、アップルの強みはいわゆるiOSだ。 アップルが開発および提供する、iPhone、iPad、Mac向けのオペレーティングシステム(組み込みプラットフォーム)が秀逸なのである。 アップルのプラットフォームであるアップストアは、2021年に17兆円の市場規模に達したアプリ売り上げのうちの6割を獲得している。 またアップルはプラットフォームの提供者としてアプリ売り上げの3割をとっている。 アップルのソフトウェア部門とハードウェア部門を別々に考えた場合、ハードのバリュエーションはかなり低いのだと思う。 iPhoneにしても、アップルのスマホそのものが優れているのではない。 これより優れているアンドロイドスマホは山ほどある。 皮肉な言い方をすると、私はいつもアップルのiOSを、アップルよりもっと機能の高いサムスンなどのスマホで使えたらブラボーではないかなと思っている。 しかし、それはできないし、ポイントはそこではない。 アップルは音楽から動画から仕事アプリまで自社のエコシステムでつくり上げており、セキュリティーもしっかりしている。そこに価値があるわけである。 それが評価されて、高価格でも売れてきた』、「アップルは音楽から動画から仕事アプリまで自社のエコシステムでつくり上げており、セキュリティーもしっかりしている。そこに価値があるわけである。 それが評価されて、高価格でも売れてきた」、なるほど。
・『「テスラは自動車会社ではない」は本当なのか 一方、テスラに関しては、本当に自動車の会社であれば、あのバリュエーションはあり得ないと思う。 テスラの株主は、「この会社は自動車会社ではなくてパソコン会社、IT企業なのだ。だから、あのバリュエーションでも正当化できるのだ」と擁護ようごする。 さらに、「優れた自動運転技術やバッテリー技術を持っている」と主張するのだけれど、実際には疑問点がいくつもある』、「疑問点」とはどんなものなのだろう。
・『CO2の「環境クレジット枠」で利益をあげてきた たしかにテスラは近年、高利益を出しているけれど、これには大きなからくりが存在する。 EUの自動車メーカーが創設したCO2排出削減に取り組む制度「オープンプール」に乗る形で、EV専業のテスラはCO2排出基準を達成できない自動車メーカーに対し、自社が持つ環境クレジット枠を販売してきた。 この環境クレジットビジネスがテスラに巨大な利益をもたらしてきたのだ。 ここ数年間、環境クレジット売却益は、全期においてテスラの純利益を大幅に上回ってきた。 極論を言うならば、この環境クレジットビジネスがなければ、テスラはいまも“赤字企業”に甘んじていたはずなのだ。 ところが、これまでテスラの環境クレジット枠を購入して忸怩じくじたる思いをしてきた自動車メーカーも、今後は自前EVを次々と出してくる。 だから、テスラの収入源がガタ落ちとなる可能性が出てきたのである』、「環境クレジット売却益は、全期においてテスラの純利益を大幅に上回ってきた。 極論を言うならば、この環境クレジットビジネスがなければ、テスラはいまも“赤字企業”に甘んじていたはずなのだ。 ところが、これまでテスラの環境クレジット枠を購入して忸怩じくじたる思いをしてきた自動車メーカーも、今後は自前EVを次々と出してくる。 だから、テスラの収入源がガタ落ちとなる可能性が出てきた」、「環境クレジット売却益」で利益が押し上げられているというのは、初めて知った。
・『自動車会社としての「格」の低さを悪用している 次なるテスラに対する疑問は、なぜ自動運転車の開発で、テスラは他社に先んじているのかというものだ。 その答えは明確この上ない。テスラはレピュテーション・リスク、つまり企業に関するネガティブな情報が広がり、ブランド価値や信用が低下して被るリスクを恐れていないけれど、他社はそれを考えざるを得ないからだ。 仮に業界大手のベンツやトヨタが自動運転で事故を起こしたら、これまで積み上げてきた信用が致命的に棄損きそんされてしまう。 かたやテスラは新興EVメーカーに過ぎない。事故を起こしても飄々ひょうひょうとしていられる。 要は、自動車会社としての「格」の低さを悪用している』、「テスラは新興EVメーカーに過ぎない。事故を起こしても飄々ひょうひょうとしていられる。 要は、自動車会社としての「格」の低さを悪用している」、確かにその通りだ。
・『性能表示でイカサマのような対応をしてきた 私が悪質だと考えているのは、テスラがバッテリーパワーや走行距離などの性能表示でイカサマのような対応をしてきたところだ。 2023年に入って早々、韓国の公正取引委員会は、テスラが走行可能距離を誇大に広告していたと、課徴金納付を命じた。 EVのモデル3・ロングレンジについて、一度のフル充電で446キロ以上走行可能と謳うたっていたが、実際には冬場の走行距離は221キロと半分以下だった。 以上、テスラをあげつらってきたけれど、より本質的な疑問と弱点は同社経営者のイーロン・マスクに収斂しゅうれんされよう』、米国では「広告表示」には規制はないのだろうか。
・『民主党寄りの人たちはテスラにソッポを向く 2022年11月の米中間選挙におけるイーロン・マスクの共和党寄りの発言を聞いた私は、呆あきれ返った。 そもそもテスラのメインユーザーは、民主党寄りの人たちだ。 今回の選挙でよりクリアになったのは、若い人たちが圧倒的に民主党寄りだということだった。 もう1つ、テスラみたいなEVを買っている人たちは、都市に住む環境意識の高い人たちに他ならない。 翻ひるがえって、イーロン・マスクが秋波しゅうはを送る共和党寄りの人たちは、「地球温暖化は嘘だ」と叫ぶトランプ支持者である。 彼らは絶対にテスラには乗らない。GMやフォードのバカでかいピックアップトラックに好んで乗るような、田舎で暮らす人たちと相場が決まっている。 そこから考えると、今後、別のメーカーから、テスラのオルタナティブとなるEVが登場した際、民主党寄りの人たちはテスラにソッポを向くはずだ』、「テスラのメインユーザーは、民主党寄りの人たちだ」、にも拘らず、「米中間選挙におけるイーロン・マスクの共和党寄りの発言」、信じ難い動きだ。
・『テスラのビジネスに「2つの大きなリスク」 今後のテスラのビジネスには、先の私の考察を含めて、おそらく2つの大きなリスクを内包する。 1つはチャイナリスク。テスラの販売が米国以外では、中国市場にかなり依存していることだ。 もう1つは、経営者リスク。先に論じたとおり、経営者のイーロン・マスクの政治発言やハチャメチャな行動がビジネスの腰折れを招いており、その矛盾が次第に際立ち始めていることだ』、「チャイナリスク」、「経営者リスク」とも予断を許さない。
・『イーロン・マスクはすでに限界に来ている イーロン・マスクはすでに限界に来ているのではないか。私はそう思う一人である。 ツイッター買収は、ビジネス判断を大きく間違えた。買う気がないのに買うと宣言してしまい、結局裁判沙汰になって、無理矢理、買わされてしまった。 メディアに適当なことを言っていたツケが回ったとしか思えない出来事であった。 同社に対するイーロン・マスクによるあからさまな株価操縦も疑われており、そろそろ経営者としての限界を迎えていると思われる。 もう1つ、米国と中国がこれだけ対立しているなか、イーロン・マスクの中国にべったりの姿勢は、今後かなりの修正を迫られるはずだ。 したがって、テスラという会社はいろいろな意味で、危ういところがあるのではないだろうか』、「イーロン・マスク」を持ち上げる記事が多いんかで、珍しく辛口の記事だ。「イーロン・マスクはすでに限界に来ているのではないか」、確かにそうした面も否定できないようだ。改めて厳しい目で見ていくたい。
タグ:イーロン・マスク (その1)(イーロン・マスク 炎上連発も“詐欺師扱い”も上等な「鋼のメンタル」の秘密、ツイッター買収は間違いだった…私が「イーロン・マスクはすでに限界に来ている」と見放している理由 テスラをアップル並みに評価するのは間違い) ダイヤモンド・オンライン 桑原晃弥氏による「イーロン・マスク、炎上連発も“詐欺師扱い”も上等な「鋼のメンタル」の秘密」 「アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは・・・「イノベーションには「実験」が欠かせない。そして、「実験」には「失敗」がつきものだ。挑戦して失敗すれば、誰だってがっかりするが、彼らはそれさえも次に進むためのステップだと考える。だからこそ前に進むことができるのだ」、なるほど。 「マスクが掲げるビジョンはあまりに壮大過ぎて理解しづらいところがあるし、はたしてマスクが生きているうちに達成できるかどうか、わからないものもある。にもかかわらず、マスクがそうしたビジョンを堂々と口にして、実現に向けて挑戦し続けることができるのは、「失敗は成功に欠かせないものとして失敗を引き受ける」ことができるから。そして、「失敗から学びながら進み続ける粘り強さ」を持っているからだ」、なるほど。 「そもそもテスラやスペースXという野心的な企業を経営できる人間がマスク以外にいるのかとなると、やはりいないだろう」、その通りだ。 「マスクが面白いのは「内なる声」を大事にしつつ、「いいところを聞くのは時間のムダで、悪いところを聞く方が役に立つ」と言い切るほど、「悪いところ」を歓迎する姿勢を持っていることである」、「マスク氏」が「「いいところを聞くのは時間のムダで、悪いところを聞く方が役に立つ」と言い切るほど、「悪いところ」を歓迎する姿勢を持っている」とはさすがだ。 PRESIDENT ONLINE エミン・ユルマズ氏による「ツイッター買収は間違いだった…私が「イーロン・マスクはすでに限界に来ている」と見放している理由 テスラをアップル並みに評価するのは間違い」 エミン・ユルマズ『大インフレ時代!日本株が強い』(ビジネス社) 「アップルは音楽から動画から仕事アプリまで自社のエコシステムでつくり上げており、セキュリティーもしっかりしている。そこに価値があるわけである。 それが評価されて、高価格でも売れてきた」、なるほど。 「疑問点」とはどんなものなのだろう。 「環境クレジット売却益は、全期においてテスラの純利益を大幅に上回ってきた。 極論を言うならば、この環境クレジットビジネスがなければ、テスラはいまも“赤字企業”に甘んじていたはずなのだ。 ところが、これまでテスラの環境クレジット枠を購入して忸怩じくじたる思いをしてきた自動車メーカーも、今後は自前EVを次々と出してくる。 だから、テスラの収入源がガタ落ちとなる可能性が出てきた」、「環境クレジット売却益」で利益が押し上げられているというのは、初めて知った。 「テスラは新興EVメーカーに過ぎない。事故を起こしても飄々ひょうひょうとしていられる。 要は、自動車会社としての「格」の低さを悪用している」、確かにその通りだ。 米国でも「広告表示」には規制がある筈だが・・・。 米国では「広告表示」には規制はないのだろうか。 「テスラのメインユーザーは、民主党寄りの人たちだ」、にも拘らず、「米中間選挙におけるイーロン・マスクの共和党寄りの発言」、信じ難い動きだ。 「チャイナリスク」、「経営者リスク」とも予断を許さない。
人工知能(AI)(その15)(野口 悠紀雄氏による生成系AIの3考察(生成系AIで「なくなる職業・減る仕事」 マネージメントや高度金融サービスにも波及、生成系AIがもたらす格差拡大 「シンギュラリティ時代」の政府の責任、ChatGPTは働く人の敵か味方か?賃金や雇用へ影響の鍵を握るのは「需要」) [イノベーション]
人工知能(AI)については、本年4月17日に取上げた。今日は、(その15)(野口 悠紀雄氏による生成系AIの3考察(生成系AIで「なくなる職業・減る仕事」 マネージメントや高度金融サービスにも波及、生成系AIがもたらす格差拡大 「シンギュラリティ時代」の政府の責任、ChatGPTは働く人の敵か味方か?賃金や雇用へ影響の鍵を握るのは「需要」)である。
先ずは、6月15日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「生成系AIで「なくなる職業・減る仕事」、マネージメントや高度金融サービスにも波及」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/324441
・『AIが変える未来の雇用事情 「バタフライ・エフェクト」で思わぬ変化も ChatGPTなどの生成系AIによって文章を書くなどの作業が代替され雇用への影響が懸念されている。 生成系AIが人々の仕事や雇用に与える影響を考える際には、まず生成系AIの機能を理解することが重要だ。 多くの人は、生成系AIは創作をしたりデータを集めて提供したりするものだと誤解している。しかし、生成系AIは創作もできず、正しいデータを提供することもできない。生成系AIとは指示に従って文章を生成するための仕組みだ。 そのうえで文章を書く仕事を中心として、ホワイトカラーの仕事にこれからどのような変化が起きるかを考えてみると、業務用の翻訳や形式的な校正などの仕事は生成系AIに代替される可能性が高いが、マネージメントや高度な金融サービスでも仕事は残っても職が減る。 だがその一方、生成系AIで言葉の壁が低くなり国際分業が進むなどでプラスの「バタフライ・エフェクト」が起きる可能性もある』、「業務用の翻訳や形式的な校正などの仕事は生成系AIに代替される可能性が高いが、マネージメントや高度な金融サービスでも仕事は残っても職が減る。 だがその一方、生成系AIで言葉の壁が低くなり国際分業が進むなどでプラスの「バタフライ・エフェクト」が起きる可能性もある」、なるほど。
・『将来は大幅に仕事が減る翻訳や校正、文字起こし 生成系AIの登場によってすでに潜在的には不要になっており、将来は大幅に減る仕事として、次の三つがある。 一つは翻訳、特に業務用の翻訳や資料翻訳の仕事だ。生成系AIが十分実用になる翻訳を作成でき、要旨の作成も可能だ。これらについての生成系AIの仕事ぶりは、ほぼ完全といってよい。 ただし、文学書などの翻訳は例外で、その需要は減少するが、完全になくなることはないだろう。 二つ目は文章の校正・校閲だ。形式的な誤りは、生成系AIによってほぼ完全に検出・修正可能だ。しかし表現法などに関する好みの問題は残るだろう。 事実や統計数字のチェックは、生成系AIにはできないので、これらについての誤りの検出が、校閲の主要な作業となるだろう。 三つ目は、ライターや文字起こしの仕事だ。録音したものを音声認識でテキスト化し、生成系AIがそれを校正することで、ほぼ自動的に文章を作成できる。 したがって、ライターや文字起こしの作業は、不要になるか、内容が大きく変わるだろう。例えば、事実やデータのチェック、資料の収集などを主な業務とする形に変化するだろう』、「翻訳、特に業務用の翻訳や資料翻訳の仕事だ。生成系AIが十分実用になる翻訳を作成でき、要旨の作成も可能だ・・・ただし、文学書などの翻訳は例外で、その需要は減少するが、完全になくなることはないだろう」、「二つ目は文章の校正・校閲だ。形式的な誤りは、生成系AIによってほぼ完全に検出・修正可能だ。しかし表現法などに関する好みの問題は残るだろう」、「三つ目は、ライターや文字起こしの仕事だ。録音したものを音声認識でテキスト化し、生成系AIがそれを校正することで、ほぼ自動的に文章を作成できる。 したがって、ライターや文字起こしの作業は、不要になるか、内容が大きく変わるだろう」、なるほど。
・『著者や記者の仕事は重要性増す AIにはできないテーマ設定や真実追及 著者の仕事そのものは残るだろうが、作業内容は大きく変わる可能性がある。音声入力と生成系AIの組み合わせを上手く利用することによって、作業効率が飛躍的に向上する。また外国文献の要約などを生成系AIに依頼することによって、資料が得やすくなる。 しかし、事実の調査やデータの入手が現在より格別に便利になるわけではない。著者の最も重要な仕事はテーマの選択だが、この重要性がさらに増すだろう。 文章を書く前段階でのデータの分析は、一見すると生成系AIによって自動化できる場合が多いように思われるが、実際にはそう簡単にはいかない。適切なデータの選択から始って、それをどう分析するかなど、人間が個別に判断しなければならない仕事が多い。 記者の取材活動を生成系AIで代替することはできない。取材は現場での情報収集だけでなく、人々との対話などを通じて真実を追求する重要なプロセスだ。 信頼性のある情報を提供し、社会的な意義を持つ報道を行なうという記者の役割は重要なものとして残るだろう。) 編集者の仕事への影響は場合によって大きく異なる。形式的な仕事しか行なっていない場合、その役割は生成系AIに置き換えられるだろう。しかし、雑誌の特集企画や書籍の企画、著者とのコミュニケーションなどは生成系AIによっては置き換えられない仕事だ。 生成系AIの進歩は金融業務にも影響を与えるだろうが、分析的作業への影響は比較的少ないだろう。しかし、データサイエンスへの影響は大きいだろう。高度なアルゴリズムや機械学習を利用したデータ分析により、リスク評価の精緻化が可能となるだろう』、「記者の取材活動を生成系AIで代替することはできない。取材は現場での情報収集だけでなく、人々との対話などを通じて真実を追求する重要なプロセスだ。 信頼性のある情報を提供し、社会的な意義を持つ報道を行なうという記者の役割は重要なものとして残るだろう」、「編集者の仕事への影響は場合によって大きく異なる。形式的な仕事しか行なっていない場合、その役割は生成系AIに置き換えられるだろう。しかし、雑誌の特集企画や書籍の企画、著者とのコミュニケーションなどは生成系AIによっては置き換えられない仕事だ」、「金融業務にも影響を与えるだろうが、分析的作業への影響は比較的少ないだろう。しかし、データサイエンスへの影響は大きいだろう。高度なアルゴリズムや機械学習を利用したデータ分析により、リスク評価の精緻化が可能となるだろう」、なるほど。
・『「GPTはGPT(汎用技術)」 労働者の80%が10%の業務で影響 オープンAIとペンシルベニア大学の研究者が2023年3月27日に発表した論文(GPTs are GPTs: An Early Look at the Labor Market Impact,Potential of Large Language Models)は、LLM(大規模言語モデル:ChatGPTなどの対話型生成系AIの基礎技術)がホワイトカラーに与える影響について、次のように予測している。 +アメリカの労働者の約80%が少なくとも10%の業務で影響を受ける。 +約19%の労働者は、少なくとも50%の業務で影響を受ける。 +高学歴で高い賃金を得ているホワイトカラーへの影響が特に大きい。 なお、この論文のタイトルは、なかなか洒落ている。GPTはGenerative Pre-trained Trensformerの略だが、これは同時に、「汎用技術」(General Purpose Technology)という意味でのGPTでもあるというのだ。 したがって、社会に対する影響は極めて大きいことになる。「文章を書く」というのは、知的作業の一部に過ぎないような気がするのだが、実はそうでなく、知的作業全般の中で基本的な地位を占めているのだ。 なお、汎用技術については、次を参照していただきたい。『ジェネラルパーパス・テクノロジー日本の停滞を打破する究極手段』(アスキー新書、2008年7月。筆者と遠藤諭氏との共著)』、「+アメリカの労働者の約80%が少なくとも10%の業務で影響を受ける。 +約19%の労働者は、少なくとも50%の業務で影響を受ける。 +高学歴で高い賃金を得ているホワイトカラーへの影響が特に大きい」、このうち、3番目は衝撃的だ。
・『マネージメントや高度金融サービスは人間と人間との職の奪い合いに 「GPTs are GPTs」の指摘で重要なのは、「作業時間が減少する」ということだ。「ある仕事が残るかどうかと、失業が生じるかどうかは別」なのだ。 だから、ある仕事がChatGPTによって代替されないとしても、それに従事している人々全てが安泰だというわけではない。) それらの人々の中には、ChatGPTを活用することによって生産性を高められる人が現われるだろう。それらの人々は、その分野の他の人々を駆逐するだろう。このような事態が広範囲に発生する可能性がある。 ホワイトカラーについても、このことが言える。ホワイトカラーの仕事の全てがAIによって代替されないとしても、ホワイトカラーの中の誰かがAIを使いこなすことによって生産性を上げ、「これまで2人でやっていた仕事を1人でできるようになる」といった類いのことが起きるだろう。そうなれば、残りの1人は余分になるわけで、職を失うことになるだろう。 このようなことが、高度に知的な活動、例えばマネージメントの仕事や高度な金融サービス等について頻発するだろう。 「AIが職を奪う」としばしば言われる。確かにその危険があるが、それは、人間がいまやっている仕事がAIにとって変わられるというだけのことではない。AIを巧みに使う人が生産性を上げ、そのため他の人が失業するといった場合のほうが多いのではないかと考えられる。 つまり、AIと人間との職の奪い合いではなく、人間と人間との間の職の奪い合いが起こると考えられる』、「AIを巧みに使う人が生産性を上げ、そのため他の人が失業するといった場合のほうが多いのではないかと考えられる。 つまり、AIと人間との職の奪い合いではなく、人間と人間との間の職の奪い合いが起こる」、「AI」を使いこなせる人と、そうでない人との「職の奪い合いが起こる」、というのは納得的だ。
・『風が吹けば桶屋が儲かる面も 言葉の壁低くなりプラスの変化も このように、ChatGPTが引き起こす影響は複雑だ。確実に分かるのは、知的活動に関して非常に大きな変化が起きたということだ。それが、人々にどのような影響を与えるかについては、まだ分からない点が多い。 「バタフライ・エフェクト」は、気象学者のエドワード・ローレンツによる「ブラジルでの蝶のはばたきがテキサスに竜巻を引き起こすか?」という問題提起が由来の言葉で、「些細な出来事が、後の大きな出来事のきっかけとなる」という意味だ。「風が吹けば桶屋が儲かる」と同じようなことだ。 生成系AIの影響として一般的に検討の対象とされるのは、直接的な変化だ。ここでの議論も直接的効果を取り上げた。しかし、生成系AIの効果は、直接的なものだけではないだろう。思いもよらぬところに大きな影響が及ぶことは十分あり得る。 生成系AIがある分野で引き起こした変化が、次々に連鎖反応を引き起こし、最初に変化が起きた分野からは想像もできないところで大きな変化を引き起こすこともあるだろう。 生成系AIの登場は「些細な出来事」とは到底言えないので、それが巻き起こす雇用上の変化は、テキサスの竜巻や桶屋どころのものではないだろう。 ここまでは失業とか、仕事がなくなるというようなネガティブな面を中心に取り上げた。もちろん、これとは逆の側面もある。実際、「風が吹けば……」は、桶屋の仕事が増えるというポジティブな変化だ。 生成系AIによる変化は、最初は文章を書く仕事に関して起きるが、それは次々に連鎖反応を引き起こし、さまざまな経済活動を大きく変える可能性がある。生成系AIは汎用技術であるために、こうしたことが起きるのだ。 例えば、生成系AIが翻訳を簡単にやってくれるため、日本人にとって言葉の壁が低くなり、海外との情報交換がより頻繁に行われるようになることが期待される。 これまで、日本は言葉の壁のために国際分業で遅れていたが、この状況が変わるかもしれない。それによって日本と外国とのさまざまな分業関係が促進され、それが日本再生のきっかけになることもあり得るだろう。このようなポジティブな変化が起きることを期待したい』、「これまで、日本は言葉の壁のために国際分業で遅れていたが、この状況が変わるかもしれない。それによって日本と外国とのさまざまな分業関係が促進され、それが日本再生のきっかけになることもあり得るだろう。このようなポジティブな変化が起きることを期待したい」、その通りだ。
次に、7月21日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「生成系AIがもたらす格差拡大、「シンギュラリティ時代」の政府の責任」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/326335
・『「シンギュラリティ」はすでに到来? AIの進歩「火や電気より深遠な影響」 「ニューヨーク・タイムズ」(2023年6月11日)に掲載されたデイヴィッド・ストレイトフェルド記者の論考は、「シリコンバレーがシンギュラリティの到来に直面している」とした。 「シンギュラリティ」(技術的特異点)とは、AI(人工知能)の急速な進化によって、人間が理解できないほど高度な能力を持つ機械が出現することを指す。 人と機械の立場が逆転し、人間が理解できるスピードより、AIが発展するスピードの方が早くなる。変化は劇的で、指数関数的、かつ不可逆だ。 多くの人々が、AIの急速な進歩を見て、AIが人間を超える日がいつかは来るかもしれないと不安を覚えつつ、「AIが人の仕事を奪うほど賢くなるのはだいぶ先のこと」と考えていた。 しかし、シンギュラリティは、ChatGPTの出現によってすでに実現してしまったのではないだろうか? これが、ストレイトフェルド氏の論考が指摘するところだ。 GoogleのCEOサンダー・ピチャイ氏は、人工知能を「火や電気よりも深遠な影響を持つ。われわれが過去に行ったどんなことよりも深遠」と述べた。今我々はそんな未知の時代に入ろうとしている』、「シンギュラリティは、ChatGPTの出現によってすでに実現してしまったのではないだろうか? これが、ストレイトフェルド氏の論考が指摘するところだ」、先のことと思っていたら、既に「実現」していたとは・・・。
・『シンギュラリティの到来 2045年と予測されていたが シンギュラリティの概念を最初に提出したのは、アメリカの発明家、思想家、未来学者、実業家であるレイ・カーツワイル氏だ。 彼は2005年の著作の中で、「100兆の極端に遅い結合(シナプス)しかない人間の脳の限界を、人間と機械が統合された文明が超越する瞬間が訪れる」とした。そして、シンギュラリティが起こるのは、2045年頃だろうと予測した。 ストレイトフェルド氏は、この考えは、コンピュータ科学者のジョン・フォン・ノイマンによって、すでに1950年代に語られていたと指摘している。 フォン・ノイマンは、同僚だったスタニスラウ・ウラムとの会話で、「技術の急速に加速する進歩」が「人類の歴史における何か本質的な特異点」をもたらすだろうと語っていた。その後の人間の世は永遠に変わってしまうだろうと、予言めいて話していたというのだ』、「シンギュラリティの到来 2045年と予測されていたが」、なるほど。
・『チューリング・テストにはChatGPTなどは明らかに合格 コンピュータの能力を測るのに、「チューリング・テスト」というものが提唱されている。これは、数学者のアラン・チューリングが提えたものだ。 テストを通して、審査員が人間とコンピュータを判別し間違えたら、そのコンピュータは人間並みの知能を持っているかのように振る舞えるわけであり、「合格」になる(参加者は全員隔離されているので、会話の内容以外からは相手を判断できない)。 ChatGPTは、このテストには明らかに合格しているように思われる。実際、学生がレポートをChatGPTに書かせて提出しても、先生は見抜けない。 現在のChatGPTの能力は不完全だが、人間も不完全だ(ビリー・ワイルダーに指摘されるまでもなく、Nobody's perfectである)。ChatGPTは嘘を言うことがあるが、人間でも知ったかぶりをする人は大勢いる。だから、ChatGPTが間違えるということと、ChatGPTが人間のレベルになっているのは、別のことだ。 ChatGPTは完全ではないし、創造もできないけれども、もはや人間のレベルになっていると考えることができる。そして、幾つかの面では人間をはるかに超えている。例えば、外国語の文献をあっという間に翻訳してしまう。処理スピードの点では、問題なく人間のレベルをはるかに超えている』、「外国語の文献をあっという間に翻訳してしまう。処理スピードの点では、問題なく人間のレベルをはるかに超えている」、限定された分野では、あり得ることだ。
・『約束されてきた“楽園“は富める者はますます豊かに シンギュラリティは不可逆的なものだと説明されている。そして、政府は急速に進展する技術開発を監督するには遅すぎ、愚かすぎるとシリコンバレーの人々は考えている。 「政府の中には、それを正しく理解できる人はいない。しかし、業界はおおよそ正しく行うことができる」と、Googleの元CEOエリック・シュミット氏は述べた。 AIは技術やビジネス、政治を前例のないように揺さぶっている。長らく約束されてきた仮想的な楽園がついに来たように思える。教育分野でいえば、何でも答えてくれる先生がいつでもそばにいるようなものだ。 しかし、暗い側面もある。これから何が起こるかの予測が難しい。豊かさの時代がもたらされる一方で、人類を滅ぼす可能性もある。) ステレイトフェルド氏は、生成系AIは無限の富を生み出すマシンであるはずなのに、金持ちになっているのは、すでに金持ちである人々だけだと指摘している。 実際、Microsoftの市場価値は、今年に入ってから半兆ドル強増加した(この増加額だけで、トヨタ自動車の時価総額のほぼ2.5倍になる)。AIシステムを動かすチップの製造会社であるNvidiaは、これらのチップの需要が急増したことによって、最も価値のあるアメリカ企業の一つとなった(現在、時価総額の世界ランキングで第6位)。 生成系AIの開発には膨大な資金が必要となることから、これを行える企業は限定的だ。ChatGPTを開発したオープンAIは、Microsoftから130億ドルもの巨額の資金を調達できたために、開発が可能になった。 大企業はこれを利用して生産性を上げる。そして、人員を削減する道具として用いる。一方で小企業はこれを使えずに排除されてしまう。このようにして、格差がますます拡大することは十分にあり得る。富める者はさらに富み、強い者がますます強くなる。そして貧しい者はさらに貧しくなり、弱い者はますます弱くなる。 仮にシンギュラリティがまだ起きてないとしても、このような変化が起きる可能性は大いにある。というより、すでに起きつつあると考えることができる』、「生成系AIの開発には膨大な資金が必要となることから、これを行える企業は限定的だ。ChatGPTを開発したオープンAIは、Microsoftから130億ドルもの巨額の資金を調達できたために、開発が可能になった。 大企業はこれを利用して生産性を上げる。そして、人員を削減する道具として用いる。一方で小企業はこれを使えずに排除されてしまう。このようにして、格差がますます拡大することは十分にあり得る。富める者はさらに富み、強い者がますます強くなる。そして貧しい者はさらに貧しくなり、弱い者はますます弱くなる」、なるほど。
・『全ての人が無料で使える環境が必要 政府は補助金を整理して支援を こうした事態に対して、技術開発の面で日本が世界のリーダーとなるのは難しいだろう。しかし、国民の全てがこれらのサービスを利用できるような条件を整備することは、十分に可能だ。 ChatGPT3.5やBingやBardは無料で使えるが、ChatGPT4.0はすでに有料になっている。年間240ドル(約3万4000円)という利用料は決してべらぼうな額ではないが、誰もが簡単に払える額でもない。したがって、これを払える人と払えない人との間で、すでに情報処理能力の差が生じてしまっていることになる。 仮にこれを国民の全てが使えるように補助金を出すとすれば、年間で4兆円を超える。マイナンバーカード普及のために、マイナポイントに約2兆円の支出を行ったことを考えれば、日本政府ができないことはない。 今後に登場する生成系AIのサービスには、有料のものも増えるだろう。そうなると、それらを使える人は、ますます能力を高め、使えない人が振り落とされていくことになる。 他方で、政府がこれらのサービスを無料で利用できるようにし、多くの人々が利用できるようになれば、日本再生のための強力な手段とすることも可能だろう。現在支出しているさまざまな補助金を大胆に廃止して、上記のことに集中すれば、これは、決してできないことではない。 シンギュラリティは技術的な問題なので、これを完全にコントロールすることは難しい。しかし、いま指摘した経済的・社会的問題は政府の政策によって変えることが十分に可能だ。 政府がいま起こりつつある事態の重大性を理解し、それに対して適切な対策を行えるかどうかが、これからの日本の進路に対して重大な意味を持っている』、「政府がこれらのサービスを無料で利用できるようにし、多くの人々が利用できるようになれば、日本再生のための強力な手段とすることも可能だろう。現在支出しているさまざまな補助金を大胆に廃止して、上記のことに集中すれば、これは、決してできないことではない。 シンギュラリティは技術的な問題なので、これを完全にコントロールすることは難しい。しかし、いま指摘した経済的・社会的問題は政府の政策によって変えることが十分に可能だ」、その通りだ。
第三に、8月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「ChatGPTは働く人の敵か味方か?賃金や雇用へ影響の鍵を握るのは「需要」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/327111
・『生成系AIの雇用や賃金への影響 低スキル労働者に有利か? ChatGPTのような生成系AIは、雇用や賃金にどのような影響を与えるか? 多くの人が、この問題に強い関心を寄せている。 カール・フレイ・オックスフォード大学准教授は、これらの技術は低スキル労働者に有利に働くだろうと、経済紙で解説しているが、そうなる可能性もあるが、そうならない可能性もある。 生成系AIは登場したばかりの技術であり、実際に広く使われているわけではない。したがって、雇用を始めとする経済活動にどのような影響があるかについては、さまざまな可能性があり、見通すことが難しい。 ただ生成系AIが雇用を増やしたり賃金が上がったりするプラスの影響を与えるかは、AIによって生産性が上昇するのに応じて需要が増えるかどうかが大きく左右するだろう』、「生成系AIが雇用を増やしたり賃金が上がったりするプラスの影響を与えるかは、AIによって生産性が上昇するのに応じて需要が増えるかどうかが大きく左右するだろう」、その通りだ。
・『需要が増えなければ失業が発生する 生成系AI(正確には、その中で、文章の生成を行う大規模言語モデル:LLM)は、人間の指示や質問に対応して文章を生成する。したがって、文書に関わるさまざまな仕事の効率を飛躍的に高める。 とりわけ翻訳や要約、校正などでは驚くべき力を発揮する。また定型的な文章を事情の変更に応じて書き直すといったことも自動的に行うことができる。このため、こうした仕事に携わっていた人々の生産性は向上する。それに伴って賃金が上昇するだろうと考えるのは自然なことだ。 しかし、この考えには重要な仮定がある。それは、作成された文書に対する需要が生産性の向上に合わせて増えることだ。 しかし、実際にこうなる保証はない。作成された文書に対する需要は増えないことがあり得る。その場合には、従業員にとっての条件が悪化することがある。 例えば、2人の従業員がいて、各人が1時間働き、合わせて2nの量の文章を作っていたとしよう。そして各人が2anの賃金を得ていたとする。ここで、aは文章量に対する賃金の比率だ。 生成系AIの導入によって能率が2倍になり、1人が1時間働けば2nの文章が作れるようになったとする。もし文章に対する需要の総量が4nに増えるなら、各人とも1時間働いて2nずつの文章を作り、1時間当たりの収入(賃金)は2anに増加する(aの値は不変と仮定。なお、このようになるのは生成系AIが「労働増加的技術進歩」と考えられるからだが、詳細の議論は省略)。 しかし、もし文章の需要総量が2nのままだとすれば、企業は1人の従業員を解雇し、残りの1人の従業員だけで2nの量の文章を作ることができる。この場合、解雇されなかった従業員は賃金が2anに増えるが、解雇された従業員の収入は0になる。 2人の生産性が厳密には同一ではなく、少しの差があるとすれば、生産性の低い従業員が解雇されるだろう。つまり低スキル従業員に不利に働くわけだ。こうしたことが起る可能性はかなり高いと考えられる。 生成系AIをうまく使える人々が生産性を上げ、これまでより高い賃金を得るようになる。そして、うまく使えない人々を駆逐して仕事を独占することになるわけだ。) ただ、もちろんこれへの対処は可能だ。2人の従業員を雇いつつ、2人とも30分働いてもらえばよい。その場合には、各人の賃金(1時間あたり収入)は変わらない(ただし、収入は半分になる)。 生産性が上昇すればそれに応じて需要が増え、したがって生産額が増えるということを前提にすれば、恩恵はすべての従業員に及ぶ。 しかし、需要が現実にどうなるかは分からない(フレイ氏も、需要が増大するかどうかが重要な条件だと指摘している)。現在の日本経済の状況では需要が増えないのは、十分にあり得ることだ』、「 生成系AIをうまく使える人々が生産性を上げ、これまでより高い賃金を得るようになる。そして、うまく使えない人々を駆逐して仕事を独占することになるわけだ。) ただ、もちろんこれへの対処は可能だ。2人の従業員を雇いつつ、2人とも30分働いてもらえばよい。その場合には、各人の賃金(1時間あたり収入)は変わらない(ただし、収入は半分になる)。 生産性が上昇すればそれに応じて需要が増え、したがって生産額が増えるということを前提にすれば、恩恵はすべての従業員に及・・・現在の日本経済の状況では需要が増えないのは、十分にあり得ることだ」、なるほど。
・『事務的な仕事は人手が過剰で人手不足の建設や介護には影響少ない 生産性の向上に対して雇用の需要が増えるか増えないかを判断するには、有効求人倍率が参考になる。 最近の数字を見ると、一般事務従事者の有効求人倍率は、0.33だ(厚生労働省、一般職業紹介状況、2023年5月)。 日本経済全体としては、事務的な仕事については人が余っていることになる。生成系AIは、こうした仕事についての生産性を上昇させる。だから上で述べたメカニズムによれば、それにかかわる従業員にとって不利な状況をもたらす可能性が高い。 いまの日本で労働力不足が顕著なのは次の分野だ。 ・建設・採掘従事者(有効求人倍率 4.95) ・介護サービス職業従事者(同 3.54) こうした分野においても、AIが重要な役割を果たすことはある。例えば、介護における介護ロボットは、省力化を進めるために重要な役割を果たす。しかしこれは生成系AIの役割である文書作成とは、あまり関係がない』、「一般事務従事者の有効求人倍率は、0.33だ(厚生労働省、一般職業紹介状況、2023年5月)。 日本経済全体としては、事務的な仕事については人が余っていることになる。生成系AIは、こうした仕事についての生産性を上昇させる。だから上で述べたメカニズムによれば、それにかかわる従業員にとって不利な状況をもたらす可能性が高い」、なるほど。
・『職種間・産業間移動が重要 職に応じたリスキング必要 以上では、従業員が企業間や職種間を移動しないことを前提にして考えた。しかし実際には移動することが可能だ。これによって次のような変化が起こり得る。 労働力不足があまり深刻でない分野(例えば事務職)で生成系AIによって事務能率が向上し、その結果、従業員数が過剰になり、労働力不足が深刻である分野に移動する。これによって、経済全体としての労働力不足が緩和されるはずだ。 ここで重要なのは労働力の職種間・産業間移動だ。『職種間、産業間の労働力の移動は日本でも経済発展や産業の盛衰によってこれまでも行われてきた。 例えば、農業から製造業への転換、あるいは炭鉱の閉鎖などだ。ただしそれは、かなり長い時間をかけて行われた。 ところが、生成系AIによる変化は急激に起こる可能性がある。したがって、社会的に大きな混乱をもたらす可能性がある。さらに、1950年代、60年代に日本で行われた産業間の雇用移動は全体としての経済規模が拡大していく中で行われた。したがって調整に伴うコストが比較的少なかった。 しかし日本はいま、低成長問題に直面している。そうした中で調整を行うのは極めて難しいことだ。いま必要なのは、このような移動を容易にする経済・社会の仕組みを作ることだ。 ところが、実際の政策は、それまでの仕事を続けられるように支援するというものが多い。したがって職種間の移動を妨げる結果になっている。 コロナ禍で採られた雇用調整助成金はその典型的な例だ。こうした政策から脱却する必要がある なお、新しい職種に就くためには新しいスキルが必要であり、そのためにリスキリングが必要だ。このことは最近ではよく言われるが、必要とされるのは、生成系AIという新しい技術を使うためのもの(例えば、プロンプトの作り方)に限らない。これまでとは違う職種に就くとすれば、それに応じたリスキリングが必要になるだろう』、「実際の政策は、それまでの仕事を続けられるように支援するというものが多い。したがって職種間の移動を妨げる結果になっている。 コロナ禍で採られた雇用調整助成金はその典型的な例だ。こうした政策から脱却する必要がある なお、新しい職種に就くためには新しいスキルが必要であり、そのためにリスキリングが必要だ」、その通りだ。
・『生成系AIは「第3次産業革命」 経済社会構造を柔軟に変えられるか 第3次産業革命ということがしばしば言われてきた。あるいは、第4次革命、第5次革命とも言われた。しかし、その中身は大したものではなく、人目を引くためのキャッチフレーズに過ぎない場合が多かった。 だが、生成系AI(大規模言語モデル)は、間違いなく第1次産業革命(蒸気機関の導入)や第2次産業革命(電気の導入)に次ぐ、第3次産業革命だ。 この技術の本質は、人間が日常用語によってコンピューターを操れるようになったことだ。これは、経済社会の基本的な構造を変える。これにうまく対応できるように、社会経済の構造を柔軟に変えていけるかどうかが、今後の経済の成長を決めることになる。 日本政府は、ぜひこのような問題意識を持って政策を進めてもらいたい。生成系AIを国会答弁に用いるというようなこととは全く次元の違う対応が必要なのだ。 さらに、教育の仕組み、特に大学教育が改革されなければならない。日本の大学はこれまで、時代の変化や技術の変化に対して柔軟に対応してきたとは言いがたい。 生成系AIがもたらす変化は、これまでのさまざまな技術革新がもたらしたもの以上に大きなものになる可能性が強い。そうした変革を可能にするために、高等教育の内容を変革していくことが重要な課題だ』、「生成系AI(大規模言語モデル)は、間違いなく第1次産業革命(蒸気機関の導入)や第2次産業革命(電気の導入)に次ぐ、第3次産業革命だ。 この技術の本質は、人間が日常用語によってコンピューターを操れるようになったことだ。これは、経済社会の基本的な構造を変える。これにうまく対応できるように、社会経済の構造を柔軟に変えていけるかどうかが、今後の経済の成長を決めることになる。 日本政府は、ぜひこのような問題意識を持って政策を進めてもらいたい。生成系AIを国会答弁に用いるというようなこととは全く次元の違う対応が必要なのだ。 さらに、教育の仕組み、特に大学教育が改革されなければならない。日本の大学はこれまで、時代の変化や技術の変化に対して柔軟に対応してきたとは言いがたい。 生成系AIがもたらす変化は、これまでのさまざまな技術革新がもたらしたもの以上に大きなものになる可能性が強い。そうした変革を可能にするために、高等教育の内容を変革していくことが重要な課題だ」、同感である。
先ずは、6月15日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「生成系AIで「なくなる職業・減る仕事」、マネージメントや高度金融サービスにも波及」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/324441
・『AIが変える未来の雇用事情 「バタフライ・エフェクト」で思わぬ変化も ChatGPTなどの生成系AIによって文章を書くなどの作業が代替され雇用への影響が懸念されている。 生成系AIが人々の仕事や雇用に与える影響を考える際には、まず生成系AIの機能を理解することが重要だ。 多くの人は、生成系AIは創作をしたりデータを集めて提供したりするものだと誤解している。しかし、生成系AIは創作もできず、正しいデータを提供することもできない。生成系AIとは指示に従って文章を生成するための仕組みだ。 そのうえで文章を書く仕事を中心として、ホワイトカラーの仕事にこれからどのような変化が起きるかを考えてみると、業務用の翻訳や形式的な校正などの仕事は生成系AIに代替される可能性が高いが、マネージメントや高度な金融サービスでも仕事は残っても職が減る。 だがその一方、生成系AIで言葉の壁が低くなり国際分業が進むなどでプラスの「バタフライ・エフェクト」が起きる可能性もある』、「業務用の翻訳や形式的な校正などの仕事は生成系AIに代替される可能性が高いが、マネージメントや高度な金融サービスでも仕事は残っても職が減る。 だがその一方、生成系AIで言葉の壁が低くなり国際分業が進むなどでプラスの「バタフライ・エフェクト」が起きる可能性もある」、なるほど。
・『将来は大幅に仕事が減る翻訳や校正、文字起こし 生成系AIの登場によってすでに潜在的には不要になっており、将来は大幅に減る仕事として、次の三つがある。 一つは翻訳、特に業務用の翻訳や資料翻訳の仕事だ。生成系AIが十分実用になる翻訳を作成でき、要旨の作成も可能だ。これらについての生成系AIの仕事ぶりは、ほぼ完全といってよい。 ただし、文学書などの翻訳は例外で、その需要は減少するが、完全になくなることはないだろう。 二つ目は文章の校正・校閲だ。形式的な誤りは、生成系AIによってほぼ完全に検出・修正可能だ。しかし表現法などに関する好みの問題は残るだろう。 事実や統計数字のチェックは、生成系AIにはできないので、これらについての誤りの検出が、校閲の主要な作業となるだろう。 三つ目は、ライターや文字起こしの仕事だ。録音したものを音声認識でテキスト化し、生成系AIがそれを校正することで、ほぼ自動的に文章を作成できる。 したがって、ライターや文字起こしの作業は、不要になるか、内容が大きく変わるだろう。例えば、事実やデータのチェック、資料の収集などを主な業務とする形に変化するだろう』、「翻訳、特に業務用の翻訳や資料翻訳の仕事だ。生成系AIが十分実用になる翻訳を作成でき、要旨の作成も可能だ・・・ただし、文学書などの翻訳は例外で、その需要は減少するが、完全になくなることはないだろう」、「二つ目は文章の校正・校閲だ。形式的な誤りは、生成系AIによってほぼ完全に検出・修正可能だ。しかし表現法などに関する好みの問題は残るだろう」、「三つ目は、ライターや文字起こしの仕事だ。録音したものを音声認識でテキスト化し、生成系AIがそれを校正することで、ほぼ自動的に文章を作成できる。 したがって、ライターや文字起こしの作業は、不要になるか、内容が大きく変わるだろう」、なるほど。
・『著者や記者の仕事は重要性増す AIにはできないテーマ設定や真実追及 著者の仕事そのものは残るだろうが、作業内容は大きく変わる可能性がある。音声入力と生成系AIの組み合わせを上手く利用することによって、作業効率が飛躍的に向上する。また外国文献の要約などを生成系AIに依頼することによって、資料が得やすくなる。 しかし、事実の調査やデータの入手が現在より格別に便利になるわけではない。著者の最も重要な仕事はテーマの選択だが、この重要性がさらに増すだろう。 文章を書く前段階でのデータの分析は、一見すると生成系AIによって自動化できる場合が多いように思われるが、実際にはそう簡単にはいかない。適切なデータの選択から始って、それをどう分析するかなど、人間が個別に判断しなければならない仕事が多い。 記者の取材活動を生成系AIで代替することはできない。取材は現場での情報収集だけでなく、人々との対話などを通じて真実を追求する重要なプロセスだ。 信頼性のある情報を提供し、社会的な意義を持つ報道を行なうという記者の役割は重要なものとして残るだろう。) 編集者の仕事への影響は場合によって大きく異なる。形式的な仕事しか行なっていない場合、その役割は生成系AIに置き換えられるだろう。しかし、雑誌の特集企画や書籍の企画、著者とのコミュニケーションなどは生成系AIによっては置き換えられない仕事だ。 生成系AIの進歩は金融業務にも影響を与えるだろうが、分析的作業への影響は比較的少ないだろう。しかし、データサイエンスへの影響は大きいだろう。高度なアルゴリズムや機械学習を利用したデータ分析により、リスク評価の精緻化が可能となるだろう』、「記者の取材活動を生成系AIで代替することはできない。取材は現場での情報収集だけでなく、人々との対話などを通じて真実を追求する重要なプロセスだ。 信頼性のある情報を提供し、社会的な意義を持つ報道を行なうという記者の役割は重要なものとして残るだろう」、「編集者の仕事への影響は場合によって大きく異なる。形式的な仕事しか行なっていない場合、その役割は生成系AIに置き換えられるだろう。しかし、雑誌の特集企画や書籍の企画、著者とのコミュニケーションなどは生成系AIによっては置き換えられない仕事だ」、「金融業務にも影響を与えるだろうが、分析的作業への影響は比較的少ないだろう。しかし、データサイエンスへの影響は大きいだろう。高度なアルゴリズムや機械学習を利用したデータ分析により、リスク評価の精緻化が可能となるだろう」、なるほど。
・『「GPTはGPT(汎用技術)」 労働者の80%が10%の業務で影響 オープンAIとペンシルベニア大学の研究者が2023年3月27日に発表した論文(GPTs are GPTs: An Early Look at the Labor Market Impact,Potential of Large Language Models)は、LLM(大規模言語モデル:ChatGPTなどの対話型生成系AIの基礎技術)がホワイトカラーに与える影響について、次のように予測している。 +アメリカの労働者の約80%が少なくとも10%の業務で影響を受ける。 +約19%の労働者は、少なくとも50%の業務で影響を受ける。 +高学歴で高い賃金を得ているホワイトカラーへの影響が特に大きい。 なお、この論文のタイトルは、なかなか洒落ている。GPTはGenerative Pre-trained Trensformerの略だが、これは同時に、「汎用技術」(General Purpose Technology)という意味でのGPTでもあるというのだ。 したがって、社会に対する影響は極めて大きいことになる。「文章を書く」というのは、知的作業の一部に過ぎないような気がするのだが、実はそうでなく、知的作業全般の中で基本的な地位を占めているのだ。 なお、汎用技術については、次を参照していただきたい。『ジェネラルパーパス・テクノロジー日本の停滞を打破する究極手段』(アスキー新書、2008年7月。筆者と遠藤諭氏との共著)』、「+アメリカの労働者の約80%が少なくとも10%の業務で影響を受ける。 +約19%の労働者は、少なくとも50%の業務で影響を受ける。 +高学歴で高い賃金を得ているホワイトカラーへの影響が特に大きい」、このうち、3番目は衝撃的だ。
・『マネージメントや高度金融サービスは人間と人間との職の奪い合いに 「GPTs are GPTs」の指摘で重要なのは、「作業時間が減少する」ということだ。「ある仕事が残るかどうかと、失業が生じるかどうかは別」なのだ。 だから、ある仕事がChatGPTによって代替されないとしても、それに従事している人々全てが安泰だというわけではない。) それらの人々の中には、ChatGPTを活用することによって生産性を高められる人が現われるだろう。それらの人々は、その分野の他の人々を駆逐するだろう。このような事態が広範囲に発生する可能性がある。 ホワイトカラーについても、このことが言える。ホワイトカラーの仕事の全てがAIによって代替されないとしても、ホワイトカラーの中の誰かがAIを使いこなすことによって生産性を上げ、「これまで2人でやっていた仕事を1人でできるようになる」といった類いのことが起きるだろう。そうなれば、残りの1人は余分になるわけで、職を失うことになるだろう。 このようなことが、高度に知的な活動、例えばマネージメントの仕事や高度な金融サービス等について頻発するだろう。 「AIが職を奪う」としばしば言われる。確かにその危険があるが、それは、人間がいまやっている仕事がAIにとって変わられるというだけのことではない。AIを巧みに使う人が生産性を上げ、そのため他の人が失業するといった場合のほうが多いのではないかと考えられる。 つまり、AIと人間との職の奪い合いではなく、人間と人間との間の職の奪い合いが起こると考えられる』、「AIを巧みに使う人が生産性を上げ、そのため他の人が失業するといった場合のほうが多いのではないかと考えられる。 つまり、AIと人間との職の奪い合いではなく、人間と人間との間の職の奪い合いが起こる」、「AI」を使いこなせる人と、そうでない人との「職の奪い合いが起こる」、というのは納得的だ。
・『風が吹けば桶屋が儲かる面も 言葉の壁低くなりプラスの変化も このように、ChatGPTが引き起こす影響は複雑だ。確実に分かるのは、知的活動に関して非常に大きな変化が起きたということだ。それが、人々にどのような影響を与えるかについては、まだ分からない点が多い。 「バタフライ・エフェクト」は、気象学者のエドワード・ローレンツによる「ブラジルでの蝶のはばたきがテキサスに竜巻を引き起こすか?」という問題提起が由来の言葉で、「些細な出来事が、後の大きな出来事のきっかけとなる」という意味だ。「風が吹けば桶屋が儲かる」と同じようなことだ。 生成系AIの影響として一般的に検討の対象とされるのは、直接的な変化だ。ここでの議論も直接的効果を取り上げた。しかし、生成系AIの効果は、直接的なものだけではないだろう。思いもよらぬところに大きな影響が及ぶことは十分あり得る。 生成系AIがある分野で引き起こした変化が、次々に連鎖反応を引き起こし、最初に変化が起きた分野からは想像もできないところで大きな変化を引き起こすこともあるだろう。 生成系AIの登場は「些細な出来事」とは到底言えないので、それが巻き起こす雇用上の変化は、テキサスの竜巻や桶屋どころのものではないだろう。 ここまでは失業とか、仕事がなくなるというようなネガティブな面を中心に取り上げた。もちろん、これとは逆の側面もある。実際、「風が吹けば……」は、桶屋の仕事が増えるというポジティブな変化だ。 生成系AIによる変化は、最初は文章を書く仕事に関して起きるが、それは次々に連鎖反応を引き起こし、さまざまな経済活動を大きく変える可能性がある。生成系AIは汎用技術であるために、こうしたことが起きるのだ。 例えば、生成系AIが翻訳を簡単にやってくれるため、日本人にとって言葉の壁が低くなり、海外との情報交換がより頻繁に行われるようになることが期待される。 これまで、日本は言葉の壁のために国際分業で遅れていたが、この状況が変わるかもしれない。それによって日本と外国とのさまざまな分業関係が促進され、それが日本再生のきっかけになることもあり得るだろう。このようなポジティブな変化が起きることを期待したい』、「これまで、日本は言葉の壁のために国際分業で遅れていたが、この状況が変わるかもしれない。それによって日本と外国とのさまざまな分業関係が促進され、それが日本再生のきっかけになることもあり得るだろう。このようなポジティブな変化が起きることを期待したい」、その通りだ。
次に、7月21日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「生成系AIがもたらす格差拡大、「シンギュラリティ時代」の政府の責任」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/326335
・『「シンギュラリティ」はすでに到来? AIの進歩「火や電気より深遠な影響」 「ニューヨーク・タイムズ」(2023年6月11日)に掲載されたデイヴィッド・ストレイトフェルド記者の論考は、「シリコンバレーがシンギュラリティの到来に直面している」とした。 「シンギュラリティ」(技術的特異点)とは、AI(人工知能)の急速な進化によって、人間が理解できないほど高度な能力を持つ機械が出現することを指す。 人と機械の立場が逆転し、人間が理解できるスピードより、AIが発展するスピードの方が早くなる。変化は劇的で、指数関数的、かつ不可逆だ。 多くの人々が、AIの急速な進歩を見て、AIが人間を超える日がいつかは来るかもしれないと不安を覚えつつ、「AIが人の仕事を奪うほど賢くなるのはだいぶ先のこと」と考えていた。 しかし、シンギュラリティは、ChatGPTの出現によってすでに実現してしまったのではないだろうか? これが、ストレイトフェルド氏の論考が指摘するところだ。 GoogleのCEOサンダー・ピチャイ氏は、人工知能を「火や電気よりも深遠な影響を持つ。われわれが過去に行ったどんなことよりも深遠」と述べた。今我々はそんな未知の時代に入ろうとしている』、「シンギュラリティは、ChatGPTの出現によってすでに実現してしまったのではないだろうか? これが、ストレイトフェルド氏の論考が指摘するところだ」、先のことと思っていたら、既に「実現」していたとは・・・。
・『シンギュラリティの到来 2045年と予測されていたが シンギュラリティの概念を最初に提出したのは、アメリカの発明家、思想家、未来学者、実業家であるレイ・カーツワイル氏だ。 彼は2005年の著作の中で、「100兆の極端に遅い結合(シナプス)しかない人間の脳の限界を、人間と機械が統合された文明が超越する瞬間が訪れる」とした。そして、シンギュラリティが起こるのは、2045年頃だろうと予測した。 ストレイトフェルド氏は、この考えは、コンピュータ科学者のジョン・フォン・ノイマンによって、すでに1950年代に語られていたと指摘している。 フォン・ノイマンは、同僚だったスタニスラウ・ウラムとの会話で、「技術の急速に加速する進歩」が「人類の歴史における何か本質的な特異点」をもたらすだろうと語っていた。その後の人間の世は永遠に変わってしまうだろうと、予言めいて話していたというのだ』、「シンギュラリティの到来 2045年と予測されていたが」、なるほど。
・『チューリング・テストにはChatGPTなどは明らかに合格 コンピュータの能力を測るのに、「チューリング・テスト」というものが提唱されている。これは、数学者のアラン・チューリングが提えたものだ。 テストを通して、審査員が人間とコンピュータを判別し間違えたら、そのコンピュータは人間並みの知能を持っているかのように振る舞えるわけであり、「合格」になる(参加者は全員隔離されているので、会話の内容以外からは相手を判断できない)。 ChatGPTは、このテストには明らかに合格しているように思われる。実際、学生がレポートをChatGPTに書かせて提出しても、先生は見抜けない。 現在のChatGPTの能力は不完全だが、人間も不完全だ(ビリー・ワイルダーに指摘されるまでもなく、Nobody's perfectである)。ChatGPTは嘘を言うことがあるが、人間でも知ったかぶりをする人は大勢いる。だから、ChatGPTが間違えるということと、ChatGPTが人間のレベルになっているのは、別のことだ。 ChatGPTは完全ではないし、創造もできないけれども、もはや人間のレベルになっていると考えることができる。そして、幾つかの面では人間をはるかに超えている。例えば、外国語の文献をあっという間に翻訳してしまう。処理スピードの点では、問題なく人間のレベルをはるかに超えている』、「外国語の文献をあっという間に翻訳してしまう。処理スピードの点では、問題なく人間のレベルをはるかに超えている」、限定された分野では、あり得ることだ。
・『約束されてきた“楽園“は富める者はますます豊かに シンギュラリティは不可逆的なものだと説明されている。そして、政府は急速に進展する技術開発を監督するには遅すぎ、愚かすぎるとシリコンバレーの人々は考えている。 「政府の中には、それを正しく理解できる人はいない。しかし、業界はおおよそ正しく行うことができる」と、Googleの元CEOエリック・シュミット氏は述べた。 AIは技術やビジネス、政治を前例のないように揺さぶっている。長らく約束されてきた仮想的な楽園がついに来たように思える。教育分野でいえば、何でも答えてくれる先生がいつでもそばにいるようなものだ。 しかし、暗い側面もある。これから何が起こるかの予測が難しい。豊かさの時代がもたらされる一方で、人類を滅ぼす可能性もある。) ステレイトフェルド氏は、生成系AIは無限の富を生み出すマシンであるはずなのに、金持ちになっているのは、すでに金持ちである人々だけだと指摘している。 実際、Microsoftの市場価値は、今年に入ってから半兆ドル強増加した(この増加額だけで、トヨタ自動車の時価総額のほぼ2.5倍になる)。AIシステムを動かすチップの製造会社であるNvidiaは、これらのチップの需要が急増したことによって、最も価値のあるアメリカ企業の一つとなった(現在、時価総額の世界ランキングで第6位)。 生成系AIの開発には膨大な資金が必要となることから、これを行える企業は限定的だ。ChatGPTを開発したオープンAIは、Microsoftから130億ドルもの巨額の資金を調達できたために、開発が可能になった。 大企業はこれを利用して生産性を上げる。そして、人員を削減する道具として用いる。一方で小企業はこれを使えずに排除されてしまう。このようにして、格差がますます拡大することは十分にあり得る。富める者はさらに富み、強い者がますます強くなる。そして貧しい者はさらに貧しくなり、弱い者はますます弱くなる。 仮にシンギュラリティがまだ起きてないとしても、このような変化が起きる可能性は大いにある。というより、すでに起きつつあると考えることができる』、「生成系AIの開発には膨大な資金が必要となることから、これを行える企業は限定的だ。ChatGPTを開発したオープンAIは、Microsoftから130億ドルもの巨額の資金を調達できたために、開発が可能になった。 大企業はこれを利用して生産性を上げる。そして、人員を削減する道具として用いる。一方で小企業はこれを使えずに排除されてしまう。このようにして、格差がますます拡大することは十分にあり得る。富める者はさらに富み、強い者がますます強くなる。そして貧しい者はさらに貧しくなり、弱い者はますます弱くなる」、なるほど。
・『全ての人が無料で使える環境が必要 政府は補助金を整理して支援を こうした事態に対して、技術開発の面で日本が世界のリーダーとなるのは難しいだろう。しかし、国民の全てがこれらのサービスを利用できるような条件を整備することは、十分に可能だ。 ChatGPT3.5やBingやBardは無料で使えるが、ChatGPT4.0はすでに有料になっている。年間240ドル(約3万4000円)という利用料は決してべらぼうな額ではないが、誰もが簡単に払える額でもない。したがって、これを払える人と払えない人との間で、すでに情報処理能力の差が生じてしまっていることになる。 仮にこれを国民の全てが使えるように補助金を出すとすれば、年間で4兆円を超える。マイナンバーカード普及のために、マイナポイントに約2兆円の支出を行ったことを考えれば、日本政府ができないことはない。 今後に登場する生成系AIのサービスには、有料のものも増えるだろう。そうなると、それらを使える人は、ますます能力を高め、使えない人が振り落とされていくことになる。 他方で、政府がこれらのサービスを無料で利用できるようにし、多くの人々が利用できるようになれば、日本再生のための強力な手段とすることも可能だろう。現在支出しているさまざまな補助金を大胆に廃止して、上記のことに集中すれば、これは、決してできないことではない。 シンギュラリティは技術的な問題なので、これを完全にコントロールすることは難しい。しかし、いま指摘した経済的・社会的問題は政府の政策によって変えることが十分に可能だ。 政府がいま起こりつつある事態の重大性を理解し、それに対して適切な対策を行えるかどうかが、これからの日本の進路に対して重大な意味を持っている』、「政府がこれらのサービスを無料で利用できるようにし、多くの人々が利用できるようになれば、日本再生のための強力な手段とすることも可能だろう。現在支出しているさまざまな補助金を大胆に廃止して、上記のことに集中すれば、これは、決してできないことではない。 シンギュラリティは技術的な問題なので、これを完全にコントロールすることは難しい。しかし、いま指摘した経済的・社会的問題は政府の政策によって変えることが十分に可能だ」、その通りだ。
第三に、8月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「ChatGPTは働く人の敵か味方か?賃金や雇用へ影響の鍵を握るのは「需要」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/327111
・『生成系AIの雇用や賃金への影響 低スキル労働者に有利か? ChatGPTのような生成系AIは、雇用や賃金にどのような影響を与えるか? 多くの人が、この問題に強い関心を寄せている。 カール・フレイ・オックスフォード大学准教授は、これらの技術は低スキル労働者に有利に働くだろうと、経済紙で解説しているが、そうなる可能性もあるが、そうならない可能性もある。 生成系AIは登場したばかりの技術であり、実際に広く使われているわけではない。したがって、雇用を始めとする経済活動にどのような影響があるかについては、さまざまな可能性があり、見通すことが難しい。 ただ生成系AIが雇用を増やしたり賃金が上がったりするプラスの影響を与えるかは、AIによって生産性が上昇するのに応じて需要が増えるかどうかが大きく左右するだろう』、「生成系AIが雇用を増やしたり賃金が上がったりするプラスの影響を与えるかは、AIによって生産性が上昇するのに応じて需要が増えるかどうかが大きく左右するだろう」、その通りだ。
・『需要が増えなければ失業が発生する 生成系AI(正確には、その中で、文章の生成を行う大規模言語モデル:LLM)は、人間の指示や質問に対応して文章を生成する。したがって、文書に関わるさまざまな仕事の効率を飛躍的に高める。 とりわけ翻訳や要約、校正などでは驚くべき力を発揮する。また定型的な文章を事情の変更に応じて書き直すといったことも自動的に行うことができる。このため、こうした仕事に携わっていた人々の生産性は向上する。それに伴って賃金が上昇するだろうと考えるのは自然なことだ。 しかし、この考えには重要な仮定がある。それは、作成された文書に対する需要が生産性の向上に合わせて増えることだ。 しかし、実際にこうなる保証はない。作成された文書に対する需要は増えないことがあり得る。その場合には、従業員にとっての条件が悪化することがある。 例えば、2人の従業員がいて、各人が1時間働き、合わせて2nの量の文章を作っていたとしよう。そして各人が2anの賃金を得ていたとする。ここで、aは文章量に対する賃金の比率だ。 生成系AIの導入によって能率が2倍になり、1人が1時間働けば2nの文章が作れるようになったとする。もし文章に対する需要の総量が4nに増えるなら、各人とも1時間働いて2nずつの文章を作り、1時間当たりの収入(賃金)は2anに増加する(aの値は不変と仮定。なお、このようになるのは生成系AIが「労働増加的技術進歩」と考えられるからだが、詳細の議論は省略)。 しかし、もし文章の需要総量が2nのままだとすれば、企業は1人の従業員を解雇し、残りの1人の従業員だけで2nの量の文章を作ることができる。この場合、解雇されなかった従業員は賃金が2anに増えるが、解雇された従業員の収入は0になる。 2人の生産性が厳密には同一ではなく、少しの差があるとすれば、生産性の低い従業員が解雇されるだろう。つまり低スキル従業員に不利に働くわけだ。こうしたことが起る可能性はかなり高いと考えられる。 生成系AIをうまく使える人々が生産性を上げ、これまでより高い賃金を得るようになる。そして、うまく使えない人々を駆逐して仕事を独占することになるわけだ。) ただ、もちろんこれへの対処は可能だ。2人の従業員を雇いつつ、2人とも30分働いてもらえばよい。その場合には、各人の賃金(1時間あたり収入)は変わらない(ただし、収入は半分になる)。 生産性が上昇すればそれに応じて需要が増え、したがって生産額が増えるということを前提にすれば、恩恵はすべての従業員に及ぶ。 しかし、需要が現実にどうなるかは分からない(フレイ氏も、需要が増大するかどうかが重要な条件だと指摘している)。現在の日本経済の状況では需要が増えないのは、十分にあり得ることだ』、「 生成系AIをうまく使える人々が生産性を上げ、これまでより高い賃金を得るようになる。そして、うまく使えない人々を駆逐して仕事を独占することになるわけだ。) ただ、もちろんこれへの対処は可能だ。2人の従業員を雇いつつ、2人とも30分働いてもらえばよい。その場合には、各人の賃金(1時間あたり収入)は変わらない(ただし、収入は半分になる)。 生産性が上昇すればそれに応じて需要が増え、したがって生産額が増えるということを前提にすれば、恩恵はすべての従業員に及・・・現在の日本経済の状況では需要が増えないのは、十分にあり得ることだ」、なるほど。
・『事務的な仕事は人手が過剰で人手不足の建設や介護には影響少ない 生産性の向上に対して雇用の需要が増えるか増えないかを判断するには、有効求人倍率が参考になる。 最近の数字を見ると、一般事務従事者の有効求人倍率は、0.33だ(厚生労働省、一般職業紹介状況、2023年5月)。 日本経済全体としては、事務的な仕事については人が余っていることになる。生成系AIは、こうした仕事についての生産性を上昇させる。だから上で述べたメカニズムによれば、それにかかわる従業員にとって不利な状況をもたらす可能性が高い。 いまの日本で労働力不足が顕著なのは次の分野だ。 ・建設・採掘従事者(有効求人倍率 4.95) ・介護サービス職業従事者(同 3.54) こうした分野においても、AIが重要な役割を果たすことはある。例えば、介護における介護ロボットは、省力化を進めるために重要な役割を果たす。しかしこれは生成系AIの役割である文書作成とは、あまり関係がない』、「一般事務従事者の有効求人倍率は、0.33だ(厚生労働省、一般職業紹介状況、2023年5月)。 日本経済全体としては、事務的な仕事については人が余っていることになる。生成系AIは、こうした仕事についての生産性を上昇させる。だから上で述べたメカニズムによれば、それにかかわる従業員にとって不利な状況をもたらす可能性が高い」、なるほど。
・『職種間・産業間移動が重要 職に応じたリスキング必要 以上では、従業員が企業間や職種間を移動しないことを前提にして考えた。しかし実際には移動することが可能だ。これによって次のような変化が起こり得る。 労働力不足があまり深刻でない分野(例えば事務職)で生成系AIによって事務能率が向上し、その結果、従業員数が過剰になり、労働力不足が深刻である分野に移動する。これによって、経済全体としての労働力不足が緩和されるはずだ。 ここで重要なのは労働力の職種間・産業間移動だ。『職種間、産業間の労働力の移動は日本でも経済発展や産業の盛衰によってこれまでも行われてきた。 例えば、農業から製造業への転換、あるいは炭鉱の閉鎖などだ。ただしそれは、かなり長い時間をかけて行われた。 ところが、生成系AIによる変化は急激に起こる可能性がある。したがって、社会的に大きな混乱をもたらす可能性がある。さらに、1950年代、60年代に日本で行われた産業間の雇用移動は全体としての経済規模が拡大していく中で行われた。したがって調整に伴うコストが比較的少なかった。 しかし日本はいま、低成長問題に直面している。そうした中で調整を行うのは極めて難しいことだ。いま必要なのは、このような移動を容易にする経済・社会の仕組みを作ることだ。 ところが、実際の政策は、それまでの仕事を続けられるように支援するというものが多い。したがって職種間の移動を妨げる結果になっている。 コロナ禍で採られた雇用調整助成金はその典型的な例だ。こうした政策から脱却する必要がある なお、新しい職種に就くためには新しいスキルが必要であり、そのためにリスキリングが必要だ。このことは最近ではよく言われるが、必要とされるのは、生成系AIという新しい技術を使うためのもの(例えば、プロンプトの作り方)に限らない。これまでとは違う職種に就くとすれば、それに応じたリスキリングが必要になるだろう』、「実際の政策は、それまでの仕事を続けられるように支援するというものが多い。したがって職種間の移動を妨げる結果になっている。 コロナ禍で採られた雇用調整助成金はその典型的な例だ。こうした政策から脱却する必要がある なお、新しい職種に就くためには新しいスキルが必要であり、そのためにリスキリングが必要だ」、その通りだ。
・『生成系AIは「第3次産業革命」 経済社会構造を柔軟に変えられるか 第3次産業革命ということがしばしば言われてきた。あるいは、第4次革命、第5次革命とも言われた。しかし、その中身は大したものではなく、人目を引くためのキャッチフレーズに過ぎない場合が多かった。 だが、生成系AI(大規模言語モデル)は、間違いなく第1次産業革命(蒸気機関の導入)や第2次産業革命(電気の導入)に次ぐ、第3次産業革命だ。 この技術の本質は、人間が日常用語によってコンピューターを操れるようになったことだ。これは、経済社会の基本的な構造を変える。これにうまく対応できるように、社会経済の構造を柔軟に変えていけるかどうかが、今後の経済の成長を決めることになる。 日本政府は、ぜひこのような問題意識を持って政策を進めてもらいたい。生成系AIを国会答弁に用いるというようなこととは全く次元の違う対応が必要なのだ。 さらに、教育の仕組み、特に大学教育が改革されなければならない。日本の大学はこれまで、時代の変化や技術の変化に対して柔軟に対応してきたとは言いがたい。 生成系AIがもたらす変化は、これまでのさまざまな技術革新がもたらしたもの以上に大きなものになる可能性が強い。そうした変革を可能にするために、高等教育の内容を変革していくことが重要な課題だ』、「生成系AI(大規模言語モデル)は、間違いなく第1次産業革命(蒸気機関の導入)や第2次産業革命(電気の導入)に次ぐ、第3次産業革命だ。 この技術の本質は、人間が日常用語によってコンピューターを操れるようになったことだ。これは、経済社会の基本的な構造を変える。これにうまく対応できるように、社会経済の構造を柔軟に変えていけるかどうかが、今後の経済の成長を決めることになる。 日本政府は、ぜひこのような問題意識を持って政策を進めてもらいたい。生成系AIを国会答弁に用いるというようなこととは全く次元の違う対応が必要なのだ。 さらに、教育の仕組み、特に大学教育が改革されなければならない。日本の大学はこれまで、時代の変化や技術の変化に対して柔軟に対応してきたとは言いがたい。 生成系AIがもたらす変化は、これまでのさまざまな技術革新がもたらしたもの以上に大きなものになる可能性が強い。そうした変革を可能にするために、高等教育の内容を変革していくことが重要な課題だ」、同感である。
タグ:人工知能(AI) (その15)(野口 悠紀雄氏による生成系AIの3考察(生成系AIで「なくなる職業・減る仕事」 マネージメントや高度金融サービスにも波及、生成系AIがもたらす格差拡大 「シンギュラリティ時代」の政府の責任、ChatGPTは働く人の敵か味方か?賃金や雇用へ影響の鍵を握るのは「需要」) ダイヤモンド・オンライン 野口悠紀雄氏による「生成系AIで「なくなる職業・減る仕事」、マネージメントや高度金融サービスにも波及」 「業務用の翻訳や形式的な校正などの仕事は生成系AIに代替される可能性が高いが、マネージメントや高度な金融サービスでも仕事は残っても職が減る。 だがその一方、生成系AIで言葉の壁が低くなり国際分業が進むなどでプラスの「バタフライ・エフェクト」が起きる可能性もある」、なるほど。 「翻訳、特に業務用の翻訳や資料翻訳の仕事だ。生成系AIが十分実用になる翻訳を作成でき、要旨の作成も可能だ・・・ただし、文学書などの翻訳は例外で、その需要は減少するが、完全になくなることはないだろう」、「二つ目は文章の校正・校閲だ。形式的な誤りは、生成系AIによってほぼ完全に検出・修正可能だ。しかし表現法などに関する好みの問題は残るだろう」、「三つ目は、ライターや文字起こしの仕事だ。録音したものを音声認識でテキスト化し、生成系AIがそれを校正することで、ほぼ自動的に文章を作成できる。 したがって、ライターや 「記者の取材活動を生成系AIで代替することはできない。取材は現場での情報収集だけでなく、人々との対話などを通じて真実を追求する重要なプロセスだ。 信頼性のある情報を提供し、社会的な意義を持つ報道を行なうという記者の役割は重要なものとして残るだろう」、「編集者の仕事への影響は場合によって大きく異なる。形式的な仕事しか行なっていない場合、その役割は生成系AIに置き換えられるだろう。しかし、雑誌の特集企画や書籍の企画、著者とのコミュニケーションなどは生成系AIによっては置き換えられない仕事だ」、 「金融業務にも影響を与えるだろうが、分析的作業への影響は比較的少ないだろう。しかし、データサイエンスへの影響は大きいだろう。高度なアルゴリズムや機械学習を利用したデータ分析により、リスク評価の精緻化が可能となるだろう」、なるほど。 このうち、3番目は衝撃的だ。 「AIを巧みに使う人が生産性を上げ、そのため他の人が失業するといった場合のほうが多いのではないかと考えられる。 つまり、AIと人間との職の奪い合いではなく、人間と人間との間の職の奪い合いが起こる」、「AI」を使いこなせる人と、そうでない人との「職の奪い合いが起こる」、というのは納得的だ。 「これまで、日本は言葉の壁のために国際分業で遅れていたが、この状況が変わるかもしれない。それによって日本と外国とのさまざまな分業関係が促進され、それが日本再生のきっかけになることもあり得るだろう。このようなポジティブな変化が起きることを期待したい」、その通りだ。 野口悠紀雄氏による「生成系AIがもたらす格差拡大、「シンギュラリティ時代」の政府の責任」 「シンギュラリティは、ChatGPTの出現によってすでに実現してしまったのではないだろうか? これが、ストレイトフェルド氏の論考が指摘するところだ」、先のことと思っていたら、既に「実現」していたとは・・・。 「シンギュラリティの到来 2045年と予測されていたが」、なるほど。 「外国語の文献をあっという間に翻訳してしまう。処理スピードの点では、問題なく人間のレベルをはるかに超えている」、限定された分野では、あり得ることだ。 「生成系AIの開発には膨大な資金が必要となることから、これを行える企業は限定的だ。ChatGPTを開発したオープンAIは、Microsoftから130億ドルもの巨額の資金を調達できたために、開発が可能になった。 大企業はこれを利用して生産性を上げる。そして、人員を削減する道具として用いる。一方で小企業はこれを使えずに排除されてしまう。このようにして、格差がますます拡大することは十分にあり得る。富める者はさらに富み、強い者がますます強くなる。そして貧しい者はさらに貧しくなり、弱い者はますます弱くなる」、なる ほど。 「政府がこれらのサービスを無料で利用できるようにし、多くの人々が利用できるようになれば、日本再生のための強力な手段とすることも可能だろう。現在支出しているさまざまな補助金を大胆に廃止して、上記のことに集中すれば、これは、決してできないことではない。 シンギュラリティは技術的な問題なので、これを完全にコントロールすることは難しい。しかし、いま指摘した経済的・社会的問題は政府の政策によって変えることが十分に可能だ」、その通りだ。 野口悠紀雄氏による「ChatGPTは働く人の敵か味方か?賃金や雇用へ影響の鍵を握るのは「需要」」 「生成系AIが雇用を増やしたり賃金が上がったりするプラスの影響を与えるかは、AIによって生産性が上昇するのに応じて需要が増えるかどうかが大きく左右するだろう」、その通りだ。 「 生成系AIをうまく使える人々が生産性を上げ、これまでより高い賃金を得るようになる。そして、うまく使えない人々を駆逐して仕事を独占することになるわけだ。) ただ、もちろんこれへの対処は可能だ。2人の従業員を雇いつつ、2人とも30分働いてもらえばよい。その場合には、各人の賃金(1時間あたり収入)は変わらない(ただし、収入は半分になる)。 生産性が上昇すればそれに応じて需要が増え、したがって生産額が増えるということを前提にすれば、恩恵はすべての従業員に及・・・現在の日本経済の状況では需要が増えないのは、十分 にあり得ることだ」、なるほど。 「一般事務従事者の有効求人倍率は、0.33だ(厚生労働省、一般職業紹介状況、2023年5月)。 日本経済全体としては、事務的な仕事については人が余っていることになる。生成系AIは、こうした仕事についての生産性を上昇させる。だから上で述べたメカニズムによれば、それにかかわる従業員にとって不利な状況をもたらす可能性が高い」、なるほど。 「実際の政策は、それまでの仕事を続けられるように支援するというものが多い。したがって職種間の移動を妨げる結果になっている。 コロナ禍で採られた雇用調整助成金はその典型的な例だ。こうした政策から脱却する必要がある なお、新しい職種に就くためには新しいスキルが必要であり、そのためにリスキリングが必要だ」、その通りだ。 「生成系AI(大規模言語モデル)は、間違いなく第1次産業革命(蒸気機関の導入)や第2次産業革命(電気の導入)に次ぐ、第3次産業革命だ。 この技術の本質は、人間が日常用語によってコンピューターを操れるようになったことだ。これは、経済社会の基本的な構造を変える。これにうまく対応できるように、社会経済の構造を柔軟に変えていけるかどうかが、今後の経済の成長を決めることになる。 日本政府は、ぜひこのような問題意識を持って政策を進めてもらいたい。生成系AIを国会答弁に用いるというようなこととは全く次元の違う対応が必要 なのだ。 さらに、教育の仕組み、特に大学教育が改革されなければならない。日本の大学はこれまで、時代の変化や技術の変化に対して柔軟に対応してきたとは言いがたい。 生成系AIがもたらす変化は、これまでのさまざまな技術革新がもたらしたもの以上に大きなものになる可能性が強い。そうした変革を可能にするために、高等教育の内容を変革していくことが重要な課題だ」、同感である。
イノベーション(その4)(日本でイノベーションが生まれなくなった真因 新規事業の構築における「5つの罠」と処方箋、一流ビジネススクール教授陣が指南「イノベーションに挑戦する企業経営者の行動指針」とは) [イノベーション]
イノベーションについては、2019年1月31日に取上げた。久しぶりの今日は、(その4)(日本でイノベーションが生まれなくなった真因 新規事業の構築における「5つの罠」と処方箋、一流ビジネススクール教授陣が指南「イノベーションに挑戦する企業経営者の行動指針」とは)である。
先ずは、2020年5月24日付け東洋経済オンラインが掲載したマッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー の野崎 大輔氏と同社 アソシエイトパートナーの 田口 弘一郎氏による「日本でイノベーションが生まれなくなった真因 新規事業の構築における「5つの罠」と処方箋」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/346923
・『日本から生まれた新たな製品やサービスが世界を席巻する──。かつて度々耳にしたそうした輝かしい報道を聞かなくなって久しい。企業も研究機関も、そして個人も日々努力を重ねているのだが、頓挫したり空回りしたり、思ったような成果が出せないケースが多く見られる。その問題の真因はどこにあるのか。昨年、『マッキンゼー ホッケースティック戦略成長戦略の策定と実行』を監訳した野崎大輔氏と、一部翻訳を担当した田口弘一郎氏が、新規事業において日本企業が陥りがちな罠とその処方箋を解き明かす』、興味深そうだ。
・『研究開発費自体は増えている 近年、日本企業のイノベーション力が低下しているという声をよく聞くようになった。例えば中国に特許出願数や論文の被引用数で後れを取り始めたというのはその証左であろう。 リチウムイオン電池のように、革新的な技術を開発して世界を席巻するということについては強さを誇ってきた日本企業であるはずだが、今何が起きているのか。そこには、日本ならではの課題が存在しているとわれわれは考えている。 本稿では80年代からの長期にわたるデータ分析と共に、これまで数多くのクライアントをご支援してきた経験から、日本企業がイノベーションを推進するうえで陥りがちな罠と、今後必要な取り組みについて考えてみたい。 まず、日本の研究開発に対するリソースがどう推移してきたか見てみたい。 1987年から2019年までの日本企業における研究開発費売上高比率と企業研究者の人数を見ると、実は80年代後半から今に至るまで、基本的には日本企業の研究開発にかけるリソースは継続的に増加してきている。 研究開発費売上高比率では、1987年に2.8%だったものが継続的に増加し2017年では3.9%、企業における研究者も1987年に26万人だったものが2017年では50万人近くまで、年率2%程で継続的に増えてきている。 では、なぜ特許出願数などで中国に後れを取り始めているのか。単純に、中国の研究開発費や研究者の増加が日本よりも急激だからであろうか』、「なぜ特許出願数などで中国に後れを取り始めているのか」、不思議だ。
・『課題は研究者1人当たりの生産性 ここで、日本とアメリカ・中国の間で研究開発の生産性の比較を行ってみたい。あくまでも一つの指標ではあるが、研究者1人当たりの研究開発費(インプット)と、研究者1人当たりの特許出願件数(アウトプット)がどのように推移してきたか、それぞれの国で見ていく。横軸に1人当たり研究開発費(インプット)、縦軸に1人当たり特許出願件数(アウトプット)をプロットして時系列で見てみると、面白いことが見えてくる。 (出所:OECD Stat, WIPO Statistics database より筆者作成) まず、中国について。2000年代前半まで1人当たり研究開発費は10万ドル未満、特許出願件数も0.1件程度であったが、2009年に1人当たり研究開発費が15万ドルを超え、特許出願数0.2件と倍増したあたりから、毎年1人当たり研究開発費と1人当たり特許出願件数がきれいに相関を持って増加し、2017年では1人当たり研究開発費は約28万ドル、特許出願件数は0.75件程度となり、インプット・アウトプットともに日本の水準を超えている。 アメリカについては、1980年代に1人当たり研究開発費は20万ドル未満で特許出願件数も約0.1件程度であったが、その後継続的にインプットもアウトプットも増加し、2016年では1人当たり研究開発費が38万ドル程度、特許出願件数が0.4件程度と増加してきている。 つまり、アメリカでも中国同様、緩やかではあるものの、基本的にはインプットが増えればアウトプットが増える、という相関が維持されている。 一方日本はどうか。1980年代前半までは1人当たり研究開発費が10万ドル未満、1人当たり特許出願件数は0.6件程度であったが、そこから2000年代前半まで、1人当たり研究開発費が継続的に増加し17万ドル程度となり、1人当たり特許出願件数もそれに伴って0.8件程度まで増加していった。 つまり2000年代前半までは、日本もインプットを増やすほどアウトプットが増えていたのである。 ところが2000年代後半からは様子が大きく変わる。2017年までに1人当たり研究開発費は27万ドル程度まで増加したが、1人当たり特許出願件数はむしろ減少し、0.7件を下回っている。1人当たり研究開発費が10万ドル増えたにもかかわらず、特許出願件数が減っている。 つまり、インプットを増やしてもアウトプットが増えない、むしろ減ってしまうという壁に突き当たってしまっているのである。) もちろん、特許出願数はイノベーション力の1つの指標にすぎず、これはあくまでも1つの可能性にすぎないが、日本のイノベーション力の低下は、人員数や資金の問題ではなく、研究者1人当たりの生産性の低下がボトルネックになっていることが可能性として考えられる。 仮にそうであった場合、なぜこういった生産性の低下が起こってしまっているのであろうか』、「日本のイノベーション力の低下は、人員数や資金の問題ではなく、研究者1人当たりの生産性の低下がボトルネックになっていることが可能性として考えられる」、その原因は何なのだろう。
・『変わらない研究領域 こういった生産性低下の原因の1つのヒントとなるのが、日本の研究開発領域の硬直性である。日本の研究開発領域は、過去20年ほとんど変わっていない。 アメリカや中国は、過去20年間で大きく研究開発分野をシフトさせてきた。例えば特許登録件数の分野別比率(8技術分野)を見ると、アメリカは2000年から2018年の間で、特許登録件数に占める情報通信分野の割合が16%から29%へほぼ倍増し、代わりに化学や機械工学といった分野の比率が大きく下がった。 一方日本は、構成比率が最も大きく増減した分野でも、輸送機械分野の7%から10%へ移行した、約3%ポイントのみである。それ以外の分野に至っては、構成比率は3%ポイント未満しか増減していないのである。19年間という期間を考えれば、むしろ驚くべき硬直性である。また、毎年総務省が行っている科学技術研究調査という研究開発に関するサーベイの結果を見ても、少なくともここ10年間、研究者の専門分野構成はほとんど変わっていないことがわかる。 これは、ある程度成熟してしまった研究領域の中でさらに深掘りをし続けているということでもあるし、世界のニーズが大きくシフトしてきている中で、新たなニーズが生まれ多くのイノベーションが求められている領域での勝負ができていないということかもしれない。 こういったところに、日本企業の研究開発における生産性低下の一因があるのではないだろうか。つまり、アウトプットとしての事業領域がシフトできていない、新たなニーズをうまくとらえた事業を展開できていないために、研究開発も既存の領域にとどまり、結果的に生産性が低下してきてしまっているのではないか。 実際、携帯電話の顔認証機能など、先に基礎技術としての研究開発で成果は出していても、結局消費者のニーズをうまく捉えて製品化・事業化したのは海外企業であった、という例も見られる。 これを解決するためには、そもそもの日本企業の事業領域シフトを加速させることが重要である。 しかし、ここに日本特有の難しさが存在している。) たとえば上場企業の新陳代謝は、アメリカに比べ日本は非常に緩やかである。2017年の日経新聞調査によれば、ニューヨーク証券取引所の上場企業における平均寿命(上場維持年数の平均値)は15年であるのに対し、日本取引所上場企業の平均寿命は89年。経営の安定性が高い一方で、新陳代謝が進みにくく、新たな産業領域の開拓は苦手な傾向にある。 こういった事業のシフトを加速すること、そして、事業上のニーズに合わせて研究開発の方向性を調整し生産性を高めていくためには、まずそのかじ取りを行うマネジメント側が変わっていく必要があるのではないか。 既存企業の中において、新たな事業構築にかかわるマネジメントの行動様式を整え、そして組織としてのスキルを獲得すること(リスキリング)で、企業の新陳代謝を高め、新たな事業領域を切り開くことができるのではないだろうか』、「アメリカや中国は、過去20年間で大きく研究開発分野をシフトさせてきた。例えば特許登録件数の分野別比率(8技術分野)を見ると、アメリカは2000年から2018年の間で、特許登録件数に占める情報通信分野の割合が16%から29%へほぼ倍増し、代わりに化学や機械工学といった分野の比率が大きく下がった。 一方日本は、構成比率が最も大きく増減した分野でも、輸送機械分野の7%から10%へ移行した、約3%ポイントのみである。それ以外の分野に至っては、構成比率は3%ポイント未満しか増減していないのである。19年間という期間を考えれば、むしろ驚くべき硬直性である」、本当に「驚くべき硬直性」だ。「ニューヨーク証券取引所の上場企業における平均寿命(上場維持年数の平均値)は15年であるのに対し、日本取引所上場企業の平均寿命は89年。経営の安定性が高い一方で、新陳代謝が進みにくく、新たな産業領域の開拓は苦手な傾向にある。 こういった事業のシフトを加速すること、そして、事業上のニーズに合わせて研究開発の方向性を調整し生産性を高めていくためには、まずそのかじ取りを行うマネジメント側が変わっていく必要があるのではないか」、その通りなのだろう。
・『日本企業の新規事業構築「5つのポイント」 特に近年、我々のクライアントに対しても、こういったリスキリングと新規事業創出の具体的支援を並行して進めるケースが増えてきている。さまざまなご支援をさせていただく中で、我々は特に日本企業のマネジメントが陥りがちな罠がいくつか存在すると考えている。 今回は、その中でも主な5つをご紹介しつつ、それぞれにどう対処すべきか考えてみたい。 (1)「製品開発」の発想で「事業開発」を推進しない(これまで既存事業を長く続けてきた日本企業は、「製品開発」と「事業開発」が根本的に異なるものであることを意識しなければならない。 例えば既存事業において、製品開発の中止は稀にしか起きない憂慮すべき事態である。新型車の開発は遅延こそ起きるが、中止されることは比較的まれである。 一方で新規事業についてはどうか。事業開発は、そのほとんどが失敗する、もしくはピボット(注)が必要になるというのが前提である。VCの事業ポートフォリオは平均30社以上で、その内1?2社がIPOすれば成功であり、それらの事業もIPOまでに3~4回程度のピボットを経験することが普通であると言われている。それに対し、例えば自動車のような製品開発の発想だと、30の製品開発を始めて、1製品でもヒットすればいい、しかも途中で大きな設計変更が3?4回生じるというのは通常許容されないだろう。 新規事業開発は製品開発と違い、そもそも顧客のニーズが存在するのか、事業モデル・マネタイズモデルが機能するのか不明確なところからスタートするため、当然確度は低くなる。複数の案件を、そのほとんどがうまくいかない前提で、顧客ニーズの確度を検証しつつ、頻度高くポートフォリオ管理を実施していくことが求められる。 また製品開発は、ある技術やサービス単品の開発をロードマップに沿って行うことが多いが、事業開発は事業として10年後、20年後の広がりを見据えて行う。仮にロードマップ通りに製品やサービスが開発されて単体として成功しても、事業としての長期的な展開に対するビジョンがないと、散発的な新規事業の一つとして数年で成長が止まってしまうことが多い。この製品開発から事業開発への考え方の切り替えが、リスキリングの重要な一歩となる』、「VCの事業ポートフォリオは平均30社以上で、その内1?2社がIPOすれば成功であり、それらの事業もIPOまでに3~4回程度のピボットを経験することが普通であると言われている。それに対し、例えば自動車のような製品開発の発想だと、30の製品開発を始めて、1製品でもヒットすればいい」、なるほど。
(注)ピボット:本来「回転軸」の意味ですが、最近ではアメリカのシリコンバレーなどのベンチャー企業で「方向転換」「路線変更」といった意味で盛んに使われるように(HRpro)。
・『(2)既存事業の物差しで新規事業を見ない 上記のようなものの見方の違いを頭ではわかっても、いざ同じ経営会議の俎上にのせて同じメンバーで議論をしてしまうと、必然的に同じ物差しに寄せるバイアスが働くのは人の性といえる。場合によっては新規事業が経営企画部の管掌であったり、新規事業担当役員が既存事業と兼任であったりして、どうしても既存事業のKPI(重要業績評価指標)や成功確率やスピードに引きずられてしまう。) 日本企業、特に産業の中心を担ってきた自動車などの製造業は既存事業の確度が比較的高いことが多い。もちろん、そういった業界でも不確定性は常に存在するが、生産性・効率性等オペレーショナルなKPIをきっちりとやり切ればそれなりの成果は見込める。 一方で新規事業については、ニーズそのものが不透明で、何がKPIかも決まっておらず、わずかに垣間見える顧客ニーズの一端といった定性的な要素に基づいて頻度高い経営判断を行うことが求められる。 もちろんこういったことができるように既存経営陣に対してリスキリングを進めていく必要はあるが、同じ土俵・メンバーで議論している限り、リスキリングの進みはどうしても遅くなってしまう。 新規事業については組織を分け、担当役員も完全に分離した上で、新規事業に係る意思決定は既存の経営会議と分けて実施をするのがあるべき姿といえる。そして新規事業担当役員については、社内に適任者がいない場合、外部登用も積極的に検討すべきである』、「既存経営陣に対してリスキリングを進めていく必要はあるが、同じ土俵・メンバーで議論している限り、リスキリングの進みはどうしても遅くなってしまう。 新規事業については組織を分け、担当役員も完全に分離した上で、新規事業に係る意思決定は既存の経営会議と分けて実施をするのがあるべき姿といえる」、なるほど。
・『既存事業の物差しも必要 一方で、いつかは新規事業も既存事業の物差しで評価していくことが必要となってくる。例えばある大手電機メーカーの社内ベンチャー制度では、立ち上げた新規事業に対して社内の他部門から引き合いが来た段階で、既存事業部に事業ごと引き渡すということを行っている。 また、営業キャッシュフローが黒字になるタイミングをマイルストーンとして事業部として独立させ、それ以降は既存事業と同等の評価指標で見るといった工夫も考えられるであろう』、「いつかは新規事業も既存事業の物差しで評価していくことが必要となってくる。例えばある大手電機メーカーの社内ベンチャー制度では、立ち上げた新規事業に対して社内の他部門から引き合いが来た段階で、既存事業部に事業ごと引き渡すということを行っている。 また、営業キャッシュフローが黒字になるタイミングをマイルストーンとして事業部として独立させ、それ以降は既存事業と同等の評価指標で見るといった工夫も考えられる」、なるほど。
・『(3)新規事業の成功体験を持つ外部人材の活用 新興国の台頭やデジタル化の進展、CASE(自動車業界に大きな影響を与えつつある4つのトレンド:Connected, Autonomous, Shared, Electrificationの頭文字を取ったもの)など破壊的トレンドによって日本企業が本格的に新規事業に取り組み始めたのは比較的最近のことである。 その中で、まだ新規事業の創出に成功したプレーヤーは多くはない。ほとんどの企業で、新規事業の成功体験がないのである。よって、社内でリスキリングを推進できるコーチ役となる人材は通常ほぼいない。 また、その中で、概念的に見るべきKPIや組織体制など他社のベストプラクティスを模倣しても、具体的なKPIの粒度や顧客ニーズの掘り起こし方など、成功体験を持ち肌感覚でわかる人材がいなければ成功確度は当然下がってしまう。 リスキリングを加速させるためには、起業経験・VC経験を持つ社外の人材をアドバイザーとして起用したり、短期契約でも新規事業創出のプロセスを一緒にひと回ししてもらい、社内の人材に実体験を蓄積したりすることが効果的である。一部の国内メーカーでは、既に社外有識者をアイデア創出等の取り組みにおいて積極的に活用し始めている』、「リスキリングを加速させるためには、起業経験・VC経験を持つ社外の人材をアドバイザーとして起用したり、短期契約でも新規事業創出のプロセスを一緒にひと回ししてもらい、社内の人材に実体験を蓄積したりすることが効果的である」、なるほど。
・『(4)リスキリングを組織として消化する せっかく外部人材を登用してリスキリングを推進しようとしても、実際のオペレーションや、人材の評価・育成の仕組みが既存のままだと、組織としての慣性力(イナーシャ)が働き、リスキリングは停滞するか、以前の状況に簡単に戻ってしまう。 これを避けるためには、上述のようなオペレーションや、人材の評価・育成を新規事業に即したものに変えていき、リスキリングを継続させる仕組みを組織として構築する必要がある。 このためには、上述のように新規事業組織を分けるとともに、そこに新規事業スキルを保有する人材、新たな研究開発領域の知見を持つ人材を集約し、オペレーションや人材評価・育成を既存事業と分けて実施することが重要である。) たとえばある国内の鉄道会社では、そもそも採用の時点で既存の鉄道事業部門と電子マネーなど新規事業を担当する部門を分け、人事制度も既存事業とは分けている。 このように、新規事業として独立した人事制度・採用枠を作り、必要な人材がクリティカルマスを超えるように、新卒・中途双方での採用を行うべきである。 そして、新規事業を推進できる魅力的な人材を採用できるだけの柔軟な処遇や、新規事業からのキャリアパスが描けることなど、人事制度上の工夫が必須である。 人事制度の独立が必須(このように、新規事業は新規事業として、独立した人事制度・採用枠を作り、必要な人材がクリティカルマスを超えるように、新卒・中途双方での採用をすべきである。そのためには、新規事業を推進できる魅力的な人材を採用できるだけの柔軟な処遇や、新規事業からのキャリアパスが描けることなど、人事制度の独立が必須である』、「新規事業組織を分けるとともに、そこに新規事業スキルを保有する人材、新たな研究開発領域の知見を持つ人材を集約し、オペレーションや人材評価・育成を既存事業と分けて実施することが重要」、「新規事業として独立した人事制度・採用枠を作り、必要な人材がクリティカルマスを超えるように、新卒・中途双方での採用を行うべきである」、なるほど。
・『(5)新規事業=ゼロイチというバイアスの克服 これまで見てきたように、新規事業といっても、本当にゼロから事業を創出しスケールアップさせることは、確率が低く忍耐を伴い、見通しも不透明なものである。 1つの手法として、プログラマティックなM&Aを活用して新たな領域にどう入っていくかを検討することも重要な新規事業のアプローチである。 特に、対象とする事業領域の人材や組織をそのまま手に入れることが可能であるため、上記で述べたような陥りがちな罠はM&Aという手法を取ることによってある程度回避できる。 ゼロイチからの新規事業を検討する前に、どういった新規事業を目指すのか、本当にM&Aではなくゼロからの立ち上げを目指す必要があるのかを具体的に検討したうえで新規事業立ち上げの手法を選択すべきである。 そして本当にゼロから立ち上げる新規事業を目指すのであれば、経営陣として覚悟を持ち、外部役員の登用や人事制度の独立など、これまで述べてきたようなドラスティックなやり方を取ってリスキリングも並行して進めていくことが必要となる』、「ゼロイチからの新規事業を検討する前に、どういった新規事業を目指すのか、本当にM&Aではなくゼロからの立ち上げを目指す必要があるのかを具体的に検討したうえで新規事業立ち上げの手法を選択すべきである。 そして本当にゼロから立ち上げる新規事業を目指すのであれば、経営陣として覚悟を持ち、外部役員の登用や人事制度の独立など、これまで述べてきたようなドラスティックなやり方を取ってリスキリングも並行して進めていくことが必要となる」、やはり中途半端なやり方は失敗する可能性が高いようだ。
次に、2021年9月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した野村マネジメント・スクールによる「一流ビジネススクール教授陣が指南「イノベーションに挑戦する企業経営者の行動指針」とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/282773
・『今日の企業にとって最も重要な課題、それは継続的なイノベーションを起こすことだといっても過言ではない。では、それを可能にする企業文化をいかに生み出すか、すなわちイノベーションを促す企業文化へと変革できるか。さらに、危機に備えビジネスモデル変革に取り組むための経営チームのあり方とは――。書籍『有事の意思決定 一枚岩の経営チームがリードする』の教授陣にさまざまな視点から意見を伺った。連載第2回は、イノベーションに挑戦する企業経営者の行動と意思決定の指針を提示する』、「有事の意思決定」とは興味深そうだ。
・『平時の「思い込み」の排除が従業員の創造性を解放する(マイケル・ロベルト教授 (ブライアント大学カレッジ オブ ビジネス) これまで、よりイノベーティブな組織を作るには、何かを加えよというものが大半でした。つまり、創造性の豊かな人を採用しろ、新規事業担当組織を作ってスピンアウトしろ、スカンクワークの仕組みを導入しろといったことでした。 しかし、多くの企業がこれらのことを実施しているにもかかわらず、うまくいっていません。その原因は、組織に根付いた「組織的な思い込み」にあるのです。何かを加えるよりも先に、取り除く必要があるのです。 一つの例として、多くの企業が特別研究室のようなものを設置していますが、私は、これを廃止せよといっているのではありません。イノベーターは、単に集中だけしているのではなく、時には「あえて集中しない」ことも必要ということです。集中しないとは、人々の視野を広げ、目先の問題から一寸距離を置いてみるといったことです。だから、これらの活動を単に止めるのではなく、運営方法を見直せと言うことなのです。 経営者の仕事は、言ってみればゴールまでの道のりをきれいに片付けることであって、創造性豊かな賢い人々に、何をしろなどと指示する必要はないのです。 同様に必ずしもチームメンバーに答えを与えてそれを実行しろと指示するのではなく、チームを一つにまとめ、問題にアプローチする視角を考え、分析を求めるのが良いリーダーだと言えます。 日本の経営者だけに限りませんが、世界中の経営者の喫緊の課題は、今回のパンデミックや、思いがけない競争相手の出現などによって不意打ちを受けたとき、「俊敏に対応する能力」を構築することではないでしょうか。 イノベーションを成し遂げる上で、実験やプロトタイピングはとても重要で、多くの企業で実践項目に取り入れられているのですが、企業文化に根付いている「完璧主義」が問題となるのです。 実験やプロトタイピングに長けているということは言い換えれば、完璧でないことを受け入れることです。だが、これは難しい。 頭では実験やプロトタイピングの重要性を理解しても、実際に行おうとすると完璧主義が邪魔をしてしまいます。 最初から完璧なものを作ろうとすると、イノベーションのプロセスを遅らせることになります。だから、「早期に、何度でも、荒削りでも」を開発のモットーにした会社が生き残る。ある段階では完璧でないことを受け入れなければならないということです』、「思いがけない競争相手の出現などによって不意打ちを受けたとき、「俊敏に対応する能力」を構築することではないでしょうか。 イノベーションを成し遂げる上で、実験やプロトタイピングはとても重要で、多くの企業で実践項目に取り入れられているのですが、企業文化に根付いている「完璧主義」が問題となるのです。 実験やプロトタイピングに長けているということは言い換えれば、完璧でないことを受け入れることです。だが、これは難しい。 頭では実験やプロトタイピングの重要性を理解しても、実際に行おうとすると完璧主義が邪魔をしてしまいます。 最初から完璧なものを作ろうとすると、イノベーションのプロセスを遅らせることになります。だから、「早期に、何度でも、荒削りでも」を開発のモットーにした会社が生き残る。ある段階では完璧でないことを受け入れなければならないということです」、なるほど。
・『実験重視の企業文化構築に向けて(ステファン・トムキ教授(ハーバード・ビジネス・スクール)) 実験重視の企業文化を既存企業が構築するのは、おそらく最も挑戦的な課題と言えます。 まず、「好奇心を啓発する」ことです。組織の底辺からトップリーダー層に至るまで、「サプライズ(驚き)」を価値あるものだと考えるようにならなければなりません。 サプライズの価値を金額で表すのは、コストの数値化に比べて難しいです。これから何が起こるか分からないことを数値化しようとするからです。 したがって、企業文化として、組織全体がサプライズを良いものとみなすようになる必要があります。このようなマインドセットが定着すれば、好奇心が組織全体に広がり、人々は失敗をコストのかかる過ちではなく、学習機会と捉えるようになります。 二つ目に、「データが意見に勝るという原則に固執する」ことです。組織の意思決定が、意見や直感に基づいてなされると、どうしても組織のヒエラルキーが影響を及ぼすようになります。上司の意見が部下のそれより重視されるとか。 先端企業においてすら、10の実験のうち、8〜9は予想された結果を生み出しません。逆に言えば、全体の10~15%の実験しか「成功」しないのです。 つまり、我々はほとんどの場合、間違っているんだということを受け入れなければならないのです。だが、それが難しいのです。 だからこそ実験をすべきなのですが、事実よりも意見に重きが置かれたり、ヒエラルキーが大きな影響を与えたりする組織では、それらが邪魔をしてしまいます。 日本企業の常にカイゼンしようという姿勢は、広い意味で科学的手法に基づいており、QCサークルなどの活動に由来する慣行が長く行われてきたのはプラスです。 しかし、コンセンサス重視の企業文化は、障害となる可能性があります。 全ての意思決定、全ての実験にコンセンサスを求めるとなると、プロセスに時間がかかりすぎてしまいます。そもそも結果の分からないことにコンセンサスを得ることは無理です。だからリスク回避になりがちです。コンセンサスは意思決定後の行動を迅速化しますが、実験という環境では、全てを遅らせることになり、実施の障害になりかねません。 イノベーションは、不確実性を機会に変える行為です。不確実性を排除しようとすると、どうしてもコストサイド重視になってしまいます。オペレーションの効率向上は達成できますが、イノベーションからは遠ざかってしまいかねません』、「コンセンサスは意思決定後の行動を迅速化しますが、実験という環境では、全てを遅らせることになり、実施の障害になりかねません。 イノベーションは、不確実性を機会に変える行為です。不確実性を排除しようとすると、どうしてもコストサイド重視になってしまいます。オペレーションの効率向上は達成できますが、イノベーションからは遠ざかってしまいかねません」、日本企業の弱味のようだ。
・『ビジネスモデルイノベーションで競走優位に立つ(ラモン・カサデサス=マサネル教授(ハーバード・ビジネス・スクール)) 多くの企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)に挑戦し、苦労しています。当初意図していたような結果がもたらされていない原因についての一つの仮説は、BMI(ビジネスモデル・イノベーション)一般に言える、諸活動のコーディネーション問題が生じている可能性です。 デジタル化した時にうまく機能するような諸活動の調整のあり方は、それ以前のノンデジタルの時のそれとはかなり異なっているのかも知れません。両方の世界でうまく機能させるというのは簡単ではないでしょう。 ただし企業が、傘下にある異なるビジネスモデルを共存させることは可能です。 私がBMIに関連して、日本の経営者にお伝えしたいことは次の4点です。 第1に、「進んで実験せよ」ということです。特に実験が安価に行え、何がうまく行き何がうまく行かないかを判断する上での参考になるような状況においてはです。 第2に、「不確実性を歓迎し、リスクを取れ」と申し上げたい。 第3には、「失敗を心地よいものと考え、イノベーションを起こそうとしてうまく行かなかった人々に汚名を着せるな」が挙げられます。 そして最後に、「異なるバックグラウンドやキャリアを持つ多様な人々からなるチームがなし得る、視野を広げる貢献を過小評価するな」ということを指摘したいと思います。 多様性や相違を受容することは、単に社会的責任であるばかりではなく、自社の競争優位性を高めるイノベーション重視の企業文化を育むことになります』、「私がBMIに関連して、日本の経営者にお伝えしたいことは次の4点です。 第1に、「進んで実験せよ」ということです・・・第2に、「不確実性を歓迎し、リスクを取れ」と申し上げたい。 第3には、「失敗を心地よいものと考え、イノベーションを起こそうとしてうまく行かなかった人々に汚名を着せるな」が挙げられます。 そして最後に、「異なるバックグラウンドやキャリアを持つ多様な人々からなるチームがなし得る、視野を広げる貢献を過小評価するな」ということを指摘したい」、なるほど。
・『カイゼンから、製品やサービスのカクシンへ(ロバート・オースティン教授(ウェスタン大学アイビー・ビジネス・スクール)) トランスフォーメーションと呼ぶような大きな変革を成し遂げることは難しいものです。今日リーダーにとって、最も困難な課題だと言えるかも知れません。社会が大きく変わっていますので、組織変革は不可避にもかかわらずです。 ここで、2種類の変化を混同しないように注意を喚起したいと思います。一つ目の種類の変化は、自分自身が起こしたのではないものです。世界情勢など自社を取り巻く環境とか競争相手がもたらしたものです。二つ目はリーダー自身が起こし、そちらへ組織を向かわせようとする変化です。 どちらの変化も対処することが難しいです。外から与えられた変化への対応は喫緊の課題です。なぜなら、変化に対応しなければ生き残れないかもしれないからです。 多くの日本企業は、今話題のマイケル・タッシュマン教授らの「両利き性」の議論でいうところの探査(exploration)よりも深耕(exploitation)モードに安住していたように思います。カイゼンはこのモードにとても適合的ですが、カクシンはそうではありません。 日本企業にとってプロセス・イノベーションはより自然にできるものの、「両利き性」を維持してラディカルなイノベーションを起こし、顧客やビジネスモデルに大きな変革をもたらすことはそうでもないということです。 昔、日本の経営者に「革新ということばから想起されるのはプロセス・イノベーションですか製品やサービスのイノベーションですか」と問うたところ、40社中39社の人がプロセス・イノベーションだと回答しました。 もちろんプロセス・イノベーションが悪いわけではなく、効率性向上は日本企業が長年にわたって得意としてきたことです。ただ、プロセス・イノベーションは顧客に対し、価格引き下げなどを通じた間接的なインパクトしか与えないのに対し、ラディカルなイノベーション、あるいはBMI(ビジネスモデル・イノベーション)はより直接的なインパクトがあります。 顧客にとってただ間接的に実感するイノベーションなのか、喜んで対価を支払おうとするイノベーションなのかには差があります。日本企業は後者のことをもっと考えるべきではないかと思います』、「プロセス・イノベーションが悪いわけではなく、効率性向上は日本企業が長年にわたって得意としてきたことです。ただ、プロセス・イノベーションは顧客に対し、価格引き下げなどを通じた間接的なインパクトしか与えないのに対し、ラディカルなイノベーション、あるいはBMI・・・はより直接的なインパクトがあります。 顧客にとってただ間接的に実感するイノベーションなのか、喜んで対価を支払おうとするイノベーションなのかには差があります。日本企業は後者のことをもっと考えるべきではないかと思います」、同感である。
・『価値創出の手段としてのM&A(カール・ケスター教授(ハーバード・ビジネス・スクール)) 日本企業は国内企業同士のM&Aだけでなく海外企業を対象とするM&Aも相当数実施するようになっていると思います。しかし、日本における大規模M&Aのほとんどは、買収側の企業が変わるというよりも、被買収側の価値創造を目的とするにとどまるものが多かった印象です。 さらに驚いたのは、買収後の統合がほとんど進んでいない事例が多かった点です。価値を創出しているかどうかをM&Aの成功の基準として考えるのであれば、なかなか成功事例を探すのは難しいと言えるでしょう。 長期的なM&Aの成功を分析すること、すなわち価値創造の如何を測定することは非常に難しいという点です。 日本企業のM&Aでも、買収後の減損件数が3割程度あることなどから考えて、一般にM&Aから価値創造を実現するのは難しいと言えるでしょう。 M&Aの買収時のプロセスにおいて、日本企業が改善すべき点としては、資本コスト(特にエクイティのコスト)の意識を高める必要があることが挙げられます。 日本企業は長らく資金調達を銀行に頼っていたこともあり、資本コストの認識が十分でないといえます。価値をどうやって創造し、計測するかの根本に資本コストの概念があるので、その出発点があやふやだということは大きな問題です。 近年、日本でも、資本市場側との対話が重視されていると聞いていますが、この動きは妥当な資本コストが形成されるという意味で、非常に良い流れであると考えています。 ところで、私は、ESGは現時点ではまだアセットマネジメント会社のマーケティングギミック以上のものではないと考えています。そもそも定義も不明確ですし、それが投資パフォーマンスを向上させるという証拠は見られません。 私が野村マネジメント・スクールで行っている講義では、NPVに基づく投資判断は、少なくとも株主の投資ホライズンの選好とは無関係に使えるということを論証しています。つまり、この枠組みで投資判断すれば、長期投資を考える若い株主の利益も、年金を補完するものとして比較的短期のリターンを求める高齢者の利益も満たすことが出来るのです。 しかし、ESGではそういったことを示すことはできません。ましてやESGの目的である様々なステークホルダーの利益のバランスの最適化ができるとは言えないのです。 一方で、ESGのトレンド自体は不可避な流れになっていることも事実です。今後、機関投資家は、ますます大きな存在となり、その市場における影響力が甚大であることを考えなければなりません。ESGを無視した経営をしている企業は、資金調達面で不利な状況に追い込まれるおそれがあるでしょう』、「日本企業のM&Aでも、買収後の減損件数が3割程度あることなどから考えて、一般にM&Aから価値創造を実現するのは難しいと言えるでしょう。 M&Aの買収時のプロセスにおいて、日本企業が改善すべき点としては、資本コスト(特にエクイティのコスト)の意識を高める必要があること」、「今後、機関投資家は、ますます大きな存在となり、その市場における影響力が甚大であることを考えなければなりません。ESGを無視した経営をしている企業は、資金調達面で不利な状況に追い込まれるおそれがあるでしょう」、同感である。
先ずは、2020年5月24日付け東洋経済オンラインが掲載したマッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー の野崎 大輔氏と同社 アソシエイトパートナーの 田口 弘一郎氏による「日本でイノベーションが生まれなくなった真因 新規事業の構築における「5つの罠」と処方箋」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/346923
・『日本から生まれた新たな製品やサービスが世界を席巻する──。かつて度々耳にしたそうした輝かしい報道を聞かなくなって久しい。企業も研究機関も、そして個人も日々努力を重ねているのだが、頓挫したり空回りしたり、思ったような成果が出せないケースが多く見られる。その問題の真因はどこにあるのか。昨年、『マッキンゼー ホッケースティック戦略成長戦略の策定と実行』を監訳した野崎大輔氏と、一部翻訳を担当した田口弘一郎氏が、新規事業において日本企業が陥りがちな罠とその処方箋を解き明かす』、興味深そうだ。
・『研究開発費自体は増えている 近年、日本企業のイノベーション力が低下しているという声をよく聞くようになった。例えば中国に特許出願数や論文の被引用数で後れを取り始めたというのはその証左であろう。 リチウムイオン電池のように、革新的な技術を開発して世界を席巻するということについては強さを誇ってきた日本企業であるはずだが、今何が起きているのか。そこには、日本ならではの課題が存在しているとわれわれは考えている。 本稿では80年代からの長期にわたるデータ分析と共に、これまで数多くのクライアントをご支援してきた経験から、日本企業がイノベーションを推進するうえで陥りがちな罠と、今後必要な取り組みについて考えてみたい。 まず、日本の研究開発に対するリソースがどう推移してきたか見てみたい。 1987年から2019年までの日本企業における研究開発費売上高比率と企業研究者の人数を見ると、実は80年代後半から今に至るまで、基本的には日本企業の研究開発にかけるリソースは継続的に増加してきている。 研究開発費売上高比率では、1987年に2.8%だったものが継続的に増加し2017年では3.9%、企業における研究者も1987年に26万人だったものが2017年では50万人近くまで、年率2%程で継続的に増えてきている。 では、なぜ特許出願数などで中国に後れを取り始めているのか。単純に、中国の研究開発費や研究者の増加が日本よりも急激だからであろうか』、「なぜ特許出願数などで中国に後れを取り始めているのか」、不思議だ。
・『課題は研究者1人当たりの生産性 ここで、日本とアメリカ・中国の間で研究開発の生産性の比較を行ってみたい。あくまでも一つの指標ではあるが、研究者1人当たりの研究開発費(インプット)と、研究者1人当たりの特許出願件数(アウトプット)がどのように推移してきたか、それぞれの国で見ていく。横軸に1人当たり研究開発費(インプット)、縦軸に1人当たり特許出願件数(アウトプット)をプロットして時系列で見てみると、面白いことが見えてくる。 (出所:OECD Stat, WIPO Statistics database より筆者作成) まず、中国について。2000年代前半まで1人当たり研究開発費は10万ドル未満、特許出願件数も0.1件程度であったが、2009年に1人当たり研究開発費が15万ドルを超え、特許出願数0.2件と倍増したあたりから、毎年1人当たり研究開発費と1人当たり特許出願件数がきれいに相関を持って増加し、2017年では1人当たり研究開発費は約28万ドル、特許出願件数は0.75件程度となり、インプット・アウトプットともに日本の水準を超えている。 アメリカについては、1980年代に1人当たり研究開発費は20万ドル未満で特許出願件数も約0.1件程度であったが、その後継続的にインプットもアウトプットも増加し、2016年では1人当たり研究開発費が38万ドル程度、特許出願件数が0.4件程度と増加してきている。 つまり、アメリカでも中国同様、緩やかではあるものの、基本的にはインプットが増えればアウトプットが増える、という相関が維持されている。 一方日本はどうか。1980年代前半までは1人当たり研究開発費が10万ドル未満、1人当たり特許出願件数は0.6件程度であったが、そこから2000年代前半まで、1人当たり研究開発費が継続的に増加し17万ドル程度となり、1人当たり特許出願件数もそれに伴って0.8件程度まで増加していった。 つまり2000年代前半までは、日本もインプットを増やすほどアウトプットが増えていたのである。 ところが2000年代後半からは様子が大きく変わる。2017年までに1人当たり研究開発費は27万ドル程度まで増加したが、1人当たり特許出願件数はむしろ減少し、0.7件を下回っている。1人当たり研究開発費が10万ドル増えたにもかかわらず、特許出願件数が減っている。 つまり、インプットを増やしてもアウトプットが増えない、むしろ減ってしまうという壁に突き当たってしまっているのである。) もちろん、特許出願数はイノベーション力の1つの指標にすぎず、これはあくまでも1つの可能性にすぎないが、日本のイノベーション力の低下は、人員数や資金の問題ではなく、研究者1人当たりの生産性の低下がボトルネックになっていることが可能性として考えられる。 仮にそうであった場合、なぜこういった生産性の低下が起こってしまっているのであろうか』、「日本のイノベーション力の低下は、人員数や資金の問題ではなく、研究者1人当たりの生産性の低下がボトルネックになっていることが可能性として考えられる」、その原因は何なのだろう。
・『変わらない研究領域 こういった生産性低下の原因の1つのヒントとなるのが、日本の研究開発領域の硬直性である。日本の研究開発領域は、過去20年ほとんど変わっていない。 アメリカや中国は、過去20年間で大きく研究開発分野をシフトさせてきた。例えば特許登録件数の分野別比率(8技術分野)を見ると、アメリカは2000年から2018年の間で、特許登録件数に占める情報通信分野の割合が16%から29%へほぼ倍増し、代わりに化学や機械工学といった分野の比率が大きく下がった。 一方日本は、構成比率が最も大きく増減した分野でも、輸送機械分野の7%から10%へ移行した、約3%ポイントのみである。それ以外の分野に至っては、構成比率は3%ポイント未満しか増減していないのである。19年間という期間を考えれば、むしろ驚くべき硬直性である。また、毎年総務省が行っている科学技術研究調査という研究開発に関するサーベイの結果を見ても、少なくともここ10年間、研究者の専門分野構成はほとんど変わっていないことがわかる。 これは、ある程度成熟してしまった研究領域の中でさらに深掘りをし続けているということでもあるし、世界のニーズが大きくシフトしてきている中で、新たなニーズが生まれ多くのイノベーションが求められている領域での勝負ができていないということかもしれない。 こういったところに、日本企業の研究開発における生産性低下の一因があるのではないだろうか。つまり、アウトプットとしての事業領域がシフトできていない、新たなニーズをうまくとらえた事業を展開できていないために、研究開発も既存の領域にとどまり、結果的に生産性が低下してきてしまっているのではないか。 実際、携帯電話の顔認証機能など、先に基礎技術としての研究開発で成果は出していても、結局消費者のニーズをうまく捉えて製品化・事業化したのは海外企業であった、という例も見られる。 これを解決するためには、そもそもの日本企業の事業領域シフトを加速させることが重要である。 しかし、ここに日本特有の難しさが存在している。) たとえば上場企業の新陳代謝は、アメリカに比べ日本は非常に緩やかである。2017年の日経新聞調査によれば、ニューヨーク証券取引所の上場企業における平均寿命(上場維持年数の平均値)は15年であるのに対し、日本取引所上場企業の平均寿命は89年。経営の安定性が高い一方で、新陳代謝が進みにくく、新たな産業領域の開拓は苦手な傾向にある。 こういった事業のシフトを加速すること、そして、事業上のニーズに合わせて研究開発の方向性を調整し生産性を高めていくためには、まずそのかじ取りを行うマネジメント側が変わっていく必要があるのではないか。 既存企業の中において、新たな事業構築にかかわるマネジメントの行動様式を整え、そして組織としてのスキルを獲得すること(リスキリング)で、企業の新陳代謝を高め、新たな事業領域を切り開くことができるのではないだろうか』、「アメリカや中国は、過去20年間で大きく研究開発分野をシフトさせてきた。例えば特許登録件数の分野別比率(8技術分野)を見ると、アメリカは2000年から2018年の間で、特許登録件数に占める情報通信分野の割合が16%から29%へほぼ倍増し、代わりに化学や機械工学といった分野の比率が大きく下がった。 一方日本は、構成比率が最も大きく増減した分野でも、輸送機械分野の7%から10%へ移行した、約3%ポイントのみである。それ以外の分野に至っては、構成比率は3%ポイント未満しか増減していないのである。19年間という期間を考えれば、むしろ驚くべき硬直性である」、本当に「驚くべき硬直性」だ。「ニューヨーク証券取引所の上場企業における平均寿命(上場維持年数の平均値)は15年であるのに対し、日本取引所上場企業の平均寿命は89年。経営の安定性が高い一方で、新陳代謝が進みにくく、新たな産業領域の開拓は苦手な傾向にある。 こういった事業のシフトを加速すること、そして、事業上のニーズに合わせて研究開発の方向性を調整し生産性を高めていくためには、まずそのかじ取りを行うマネジメント側が変わっていく必要があるのではないか」、その通りなのだろう。
・『日本企業の新規事業構築「5つのポイント」 特に近年、我々のクライアントに対しても、こういったリスキリングと新規事業創出の具体的支援を並行して進めるケースが増えてきている。さまざまなご支援をさせていただく中で、我々は特に日本企業のマネジメントが陥りがちな罠がいくつか存在すると考えている。 今回は、その中でも主な5つをご紹介しつつ、それぞれにどう対処すべきか考えてみたい。 (1)「製品開発」の発想で「事業開発」を推進しない(これまで既存事業を長く続けてきた日本企業は、「製品開発」と「事業開発」が根本的に異なるものであることを意識しなければならない。 例えば既存事業において、製品開発の中止は稀にしか起きない憂慮すべき事態である。新型車の開発は遅延こそ起きるが、中止されることは比較的まれである。 一方で新規事業についてはどうか。事業開発は、そのほとんどが失敗する、もしくはピボット(注)が必要になるというのが前提である。VCの事業ポートフォリオは平均30社以上で、その内1?2社がIPOすれば成功であり、それらの事業もIPOまでに3~4回程度のピボットを経験することが普通であると言われている。それに対し、例えば自動車のような製品開発の発想だと、30の製品開発を始めて、1製品でもヒットすればいい、しかも途中で大きな設計変更が3?4回生じるというのは通常許容されないだろう。 新規事業開発は製品開発と違い、そもそも顧客のニーズが存在するのか、事業モデル・マネタイズモデルが機能するのか不明確なところからスタートするため、当然確度は低くなる。複数の案件を、そのほとんどがうまくいかない前提で、顧客ニーズの確度を検証しつつ、頻度高くポートフォリオ管理を実施していくことが求められる。 また製品開発は、ある技術やサービス単品の開発をロードマップに沿って行うことが多いが、事業開発は事業として10年後、20年後の広がりを見据えて行う。仮にロードマップ通りに製品やサービスが開発されて単体として成功しても、事業としての長期的な展開に対するビジョンがないと、散発的な新規事業の一つとして数年で成長が止まってしまうことが多い。この製品開発から事業開発への考え方の切り替えが、リスキリングの重要な一歩となる』、「VCの事業ポートフォリオは平均30社以上で、その内1?2社がIPOすれば成功であり、それらの事業もIPOまでに3~4回程度のピボットを経験することが普通であると言われている。それに対し、例えば自動車のような製品開発の発想だと、30の製品開発を始めて、1製品でもヒットすればいい」、なるほど。
(注)ピボット:本来「回転軸」の意味ですが、最近ではアメリカのシリコンバレーなどのベンチャー企業で「方向転換」「路線変更」といった意味で盛んに使われるように(HRpro)。
・『(2)既存事業の物差しで新規事業を見ない 上記のようなものの見方の違いを頭ではわかっても、いざ同じ経営会議の俎上にのせて同じメンバーで議論をしてしまうと、必然的に同じ物差しに寄せるバイアスが働くのは人の性といえる。場合によっては新規事業が経営企画部の管掌であったり、新規事業担当役員が既存事業と兼任であったりして、どうしても既存事業のKPI(重要業績評価指標)や成功確率やスピードに引きずられてしまう。) 日本企業、特に産業の中心を担ってきた自動車などの製造業は既存事業の確度が比較的高いことが多い。もちろん、そういった業界でも不確定性は常に存在するが、生産性・効率性等オペレーショナルなKPIをきっちりとやり切ればそれなりの成果は見込める。 一方で新規事業については、ニーズそのものが不透明で、何がKPIかも決まっておらず、わずかに垣間見える顧客ニーズの一端といった定性的な要素に基づいて頻度高い経営判断を行うことが求められる。 もちろんこういったことができるように既存経営陣に対してリスキリングを進めていく必要はあるが、同じ土俵・メンバーで議論している限り、リスキリングの進みはどうしても遅くなってしまう。 新規事業については組織を分け、担当役員も完全に分離した上で、新規事業に係る意思決定は既存の経営会議と分けて実施をするのがあるべき姿といえる。そして新規事業担当役員については、社内に適任者がいない場合、外部登用も積極的に検討すべきである』、「既存経営陣に対してリスキリングを進めていく必要はあるが、同じ土俵・メンバーで議論している限り、リスキリングの進みはどうしても遅くなってしまう。 新規事業については組織を分け、担当役員も完全に分離した上で、新規事業に係る意思決定は既存の経営会議と分けて実施をするのがあるべき姿といえる」、なるほど。
・『既存事業の物差しも必要 一方で、いつかは新規事業も既存事業の物差しで評価していくことが必要となってくる。例えばある大手電機メーカーの社内ベンチャー制度では、立ち上げた新規事業に対して社内の他部門から引き合いが来た段階で、既存事業部に事業ごと引き渡すということを行っている。 また、営業キャッシュフローが黒字になるタイミングをマイルストーンとして事業部として独立させ、それ以降は既存事業と同等の評価指標で見るといった工夫も考えられるであろう』、「いつかは新規事業も既存事業の物差しで評価していくことが必要となってくる。例えばある大手電機メーカーの社内ベンチャー制度では、立ち上げた新規事業に対して社内の他部門から引き合いが来た段階で、既存事業部に事業ごと引き渡すということを行っている。 また、営業キャッシュフローが黒字になるタイミングをマイルストーンとして事業部として独立させ、それ以降は既存事業と同等の評価指標で見るといった工夫も考えられる」、なるほど。
・『(3)新規事業の成功体験を持つ外部人材の活用 新興国の台頭やデジタル化の進展、CASE(自動車業界に大きな影響を与えつつある4つのトレンド:Connected, Autonomous, Shared, Electrificationの頭文字を取ったもの)など破壊的トレンドによって日本企業が本格的に新規事業に取り組み始めたのは比較的最近のことである。 その中で、まだ新規事業の創出に成功したプレーヤーは多くはない。ほとんどの企業で、新規事業の成功体験がないのである。よって、社内でリスキリングを推進できるコーチ役となる人材は通常ほぼいない。 また、その中で、概念的に見るべきKPIや組織体制など他社のベストプラクティスを模倣しても、具体的なKPIの粒度や顧客ニーズの掘り起こし方など、成功体験を持ち肌感覚でわかる人材がいなければ成功確度は当然下がってしまう。 リスキリングを加速させるためには、起業経験・VC経験を持つ社外の人材をアドバイザーとして起用したり、短期契約でも新規事業創出のプロセスを一緒にひと回ししてもらい、社内の人材に実体験を蓄積したりすることが効果的である。一部の国内メーカーでは、既に社外有識者をアイデア創出等の取り組みにおいて積極的に活用し始めている』、「リスキリングを加速させるためには、起業経験・VC経験を持つ社外の人材をアドバイザーとして起用したり、短期契約でも新規事業創出のプロセスを一緒にひと回ししてもらい、社内の人材に実体験を蓄積したりすることが効果的である」、なるほど。
・『(4)リスキリングを組織として消化する せっかく外部人材を登用してリスキリングを推進しようとしても、実際のオペレーションや、人材の評価・育成の仕組みが既存のままだと、組織としての慣性力(イナーシャ)が働き、リスキリングは停滞するか、以前の状況に簡単に戻ってしまう。 これを避けるためには、上述のようなオペレーションや、人材の評価・育成を新規事業に即したものに変えていき、リスキリングを継続させる仕組みを組織として構築する必要がある。 このためには、上述のように新規事業組織を分けるとともに、そこに新規事業スキルを保有する人材、新たな研究開発領域の知見を持つ人材を集約し、オペレーションや人材評価・育成を既存事業と分けて実施することが重要である。) たとえばある国内の鉄道会社では、そもそも採用の時点で既存の鉄道事業部門と電子マネーなど新規事業を担当する部門を分け、人事制度も既存事業とは分けている。 このように、新規事業として独立した人事制度・採用枠を作り、必要な人材がクリティカルマスを超えるように、新卒・中途双方での採用を行うべきである。 そして、新規事業を推進できる魅力的な人材を採用できるだけの柔軟な処遇や、新規事業からのキャリアパスが描けることなど、人事制度上の工夫が必須である。 人事制度の独立が必須(このように、新規事業は新規事業として、独立した人事制度・採用枠を作り、必要な人材がクリティカルマスを超えるように、新卒・中途双方での採用をすべきである。そのためには、新規事業を推進できる魅力的な人材を採用できるだけの柔軟な処遇や、新規事業からのキャリアパスが描けることなど、人事制度の独立が必須である』、「新規事業組織を分けるとともに、そこに新規事業スキルを保有する人材、新たな研究開発領域の知見を持つ人材を集約し、オペレーションや人材評価・育成を既存事業と分けて実施することが重要」、「新規事業として独立した人事制度・採用枠を作り、必要な人材がクリティカルマスを超えるように、新卒・中途双方での採用を行うべきである」、なるほど。
・『(5)新規事業=ゼロイチというバイアスの克服 これまで見てきたように、新規事業といっても、本当にゼロから事業を創出しスケールアップさせることは、確率が低く忍耐を伴い、見通しも不透明なものである。 1つの手法として、プログラマティックなM&Aを活用して新たな領域にどう入っていくかを検討することも重要な新規事業のアプローチである。 特に、対象とする事業領域の人材や組織をそのまま手に入れることが可能であるため、上記で述べたような陥りがちな罠はM&Aという手法を取ることによってある程度回避できる。 ゼロイチからの新規事業を検討する前に、どういった新規事業を目指すのか、本当にM&Aではなくゼロからの立ち上げを目指す必要があるのかを具体的に検討したうえで新規事業立ち上げの手法を選択すべきである。 そして本当にゼロから立ち上げる新規事業を目指すのであれば、経営陣として覚悟を持ち、外部役員の登用や人事制度の独立など、これまで述べてきたようなドラスティックなやり方を取ってリスキリングも並行して進めていくことが必要となる』、「ゼロイチからの新規事業を検討する前に、どういった新規事業を目指すのか、本当にM&Aではなくゼロからの立ち上げを目指す必要があるのかを具体的に検討したうえで新規事業立ち上げの手法を選択すべきである。 そして本当にゼロから立ち上げる新規事業を目指すのであれば、経営陣として覚悟を持ち、外部役員の登用や人事制度の独立など、これまで述べてきたようなドラスティックなやり方を取ってリスキリングも並行して進めていくことが必要となる」、やはり中途半端なやり方は失敗する可能性が高いようだ。
次に、2021年9月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した野村マネジメント・スクールによる「一流ビジネススクール教授陣が指南「イノベーションに挑戦する企業経営者の行動指針」とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/282773
・『今日の企業にとって最も重要な課題、それは継続的なイノベーションを起こすことだといっても過言ではない。では、それを可能にする企業文化をいかに生み出すか、すなわちイノベーションを促す企業文化へと変革できるか。さらに、危機に備えビジネスモデル変革に取り組むための経営チームのあり方とは――。書籍『有事の意思決定 一枚岩の経営チームがリードする』の教授陣にさまざまな視点から意見を伺った。連載第2回は、イノベーションに挑戦する企業経営者の行動と意思決定の指針を提示する』、「有事の意思決定」とは興味深そうだ。
・『平時の「思い込み」の排除が従業員の創造性を解放する(マイケル・ロベルト教授 (ブライアント大学カレッジ オブ ビジネス) これまで、よりイノベーティブな組織を作るには、何かを加えよというものが大半でした。つまり、創造性の豊かな人を採用しろ、新規事業担当組織を作ってスピンアウトしろ、スカンクワークの仕組みを導入しろといったことでした。 しかし、多くの企業がこれらのことを実施しているにもかかわらず、うまくいっていません。その原因は、組織に根付いた「組織的な思い込み」にあるのです。何かを加えるよりも先に、取り除く必要があるのです。 一つの例として、多くの企業が特別研究室のようなものを設置していますが、私は、これを廃止せよといっているのではありません。イノベーターは、単に集中だけしているのではなく、時には「あえて集中しない」ことも必要ということです。集中しないとは、人々の視野を広げ、目先の問題から一寸距離を置いてみるといったことです。だから、これらの活動を単に止めるのではなく、運営方法を見直せと言うことなのです。 経営者の仕事は、言ってみればゴールまでの道のりをきれいに片付けることであって、創造性豊かな賢い人々に、何をしろなどと指示する必要はないのです。 同様に必ずしもチームメンバーに答えを与えてそれを実行しろと指示するのではなく、チームを一つにまとめ、問題にアプローチする視角を考え、分析を求めるのが良いリーダーだと言えます。 日本の経営者だけに限りませんが、世界中の経営者の喫緊の課題は、今回のパンデミックや、思いがけない競争相手の出現などによって不意打ちを受けたとき、「俊敏に対応する能力」を構築することではないでしょうか。 イノベーションを成し遂げる上で、実験やプロトタイピングはとても重要で、多くの企業で実践項目に取り入れられているのですが、企業文化に根付いている「完璧主義」が問題となるのです。 実験やプロトタイピングに長けているということは言い換えれば、完璧でないことを受け入れることです。だが、これは難しい。 頭では実験やプロトタイピングの重要性を理解しても、実際に行おうとすると完璧主義が邪魔をしてしまいます。 最初から完璧なものを作ろうとすると、イノベーションのプロセスを遅らせることになります。だから、「早期に、何度でも、荒削りでも」を開発のモットーにした会社が生き残る。ある段階では完璧でないことを受け入れなければならないということです』、「思いがけない競争相手の出現などによって不意打ちを受けたとき、「俊敏に対応する能力」を構築することではないでしょうか。 イノベーションを成し遂げる上で、実験やプロトタイピングはとても重要で、多くの企業で実践項目に取り入れられているのですが、企業文化に根付いている「完璧主義」が問題となるのです。 実験やプロトタイピングに長けているということは言い換えれば、完璧でないことを受け入れることです。だが、これは難しい。 頭では実験やプロトタイピングの重要性を理解しても、実際に行おうとすると完璧主義が邪魔をしてしまいます。 最初から完璧なものを作ろうとすると、イノベーションのプロセスを遅らせることになります。だから、「早期に、何度でも、荒削りでも」を開発のモットーにした会社が生き残る。ある段階では完璧でないことを受け入れなければならないということです」、なるほど。
・『実験重視の企業文化構築に向けて(ステファン・トムキ教授(ハーバード・ビジネス・スクール)) 実験重視の企業文化を既存企業が構築するのは、おそらく最も挑戦的な課題と言えます。 まず、「好奇心を啓発する」ことです。組織の底辺からトップリーダー層に至るまで、「サプライズ(驚き)」を価値あるものだと考えるようにならなければなりません。 サプライズの価値を金額で表すのは、コストの数値化に比べて難しいです。これから何が起こるか分からないことを数値化しようとするからです。 したがって、企業文化として、組織全体がサプライズを良いものとみなすようになる必要があります。このようなマインドセットが定着すれば、好奇心が組織全体に広がり、人々は失敗をコストのかかる過ちではなく、学習機会と捉えるようになります。 二つ目に、「データが意見に勝るという原則に固執する」ことです。組織の意思決定が、意見や直感に基づいてなされると、どうしても組織のヒエラルキーが影響を及ぼすようになります。上司の意見が部下のそれより重視されるとか。 先端企業においてすら、10の実験のうち、8〜9は予想された結果を生み出しません。逆に言えば、全体の10~15%の実験しか「成功」しないのです。 つまり、我々はほとんどの場合、間違っているんだということを受け入れなければならないのです。だが、それが難しいのです。 だからこそ実験をすべきなのですが、事実よりも意見に重きが置かれたり、ヒエラルキーが大きな影響を与えたりする組織では、それらが邪魔をしてしまいます。 日本企業の常にカイゼンしようという姿勢は、広い意味で科学的手法に基づいており、QCサークルなどの活動に由来する慣行が長く行われてきたのはプラスです。 しかし、コンセンサス重視の企業文化は、障害となる可能性があります。 全ての意思決定、全ての実験にコンセンサスを求めるとなると、プロセスに時間がかかりすぎてしまいます。そもそも結果の分からないことにコンセンサスを得ることは無理です。だからリスク回避になりがちです。コンセンサスは意思決定後の行動を迅速化しますが、実験という環境では、全てを遅らせることになり、実施の障害になりかねません。 イノベーションは、不確実性を機会に変える行為です。不確実性を排除しようとすると、どうしてもコストサイド重視になってしまいます。オペレーションの効率向上は達成できますが、イノベーションからは遠ざかってしまいかねません』、「コンセンサスは意思決定後の行動を迅速化しますが、実験という環境では、全てを遅らせることになり、実施の障害になりかねません。 イノベーションは、不確実性を機会に変える行為です。不確実性を排除しようとすると、どうしてもコストサイド重視になってしまいます。オペレーションの効率向上は達成できますが、イノベーションからは遠ざかってしまいかねません」、日本企業の弱味のようだ。
・『ビジネスモデルイノベーションで競走優位に立つ(ラモン・カサデサス=マサネル教授(ハーバード・ビジネス・スクール)) 多くの企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)に挑戦し、苦労しています。当初意図していたような結果がもたらされていない原因についての一つの仮説は、BMI(ビジネスモデル・イノベーション)一般に言える、諸活動のコーディネーション問題が生じている可能性です。 デジタル化した時にうまく機能するような諸活動の調整のあり方は、それ以前のノンデジタルの時のそれとはかなり異なっているのかも知れません。両方の世界でうまく機能させるというのは簡単ではないでしょう。 ただし企業が、傘下にある異なるビジネスモデルを共存させることは可能です。 私がBMIに関連して、日本の経営者にお伝えしたいことは次の4点です。 第1に、「進んで実験せよ」ということです。特に実験が安価に行え、何がうまく行き何がうまく行かないかを判断する上での参考になるような状況においてはです。 第2に、「不確実性を歓迎し、リスクを取れ」と申し上げたい。 第3には、「失敗を心地よいものと考え、イノベーションを起こそうとしてうまく行かなかった人々に汚名を着せるな」が挙げられます。 そして最後に、「異なるバックグラウンドやキャリアを持つ多様な人々からなるチームがなし得る、視野を広げる貢献を過小評価するな」ということを指摘したいと思います。 多様性や相違を受容することは、単に社会的責任であるばかりではなく、自社の競争優位性を高めるイノベーション重視の企業文化を育むことになります』、「私がBMIに関連して、日本の経営者にお伝えしたいことは次の4点です。 第1に、「進んで実験せよ」ということです・・・第2に、「不確実性を歓迎し、リスクを取れ」と申し上げたい。 第3には、「失敗を心地よいものと考え、イノベーションを起こそうとしてうまく行かなかった人々に汚名を着せるな」が挙げられます。 そして最後に、「異なるバックグラウンドやキャリアを持つ多様な人々からなるチームがなし得る、視野を広げる貢献を過小評価するな」ということを指摘したい」、なるほど。
・『カイゼンから、製品やサービスのカクシンへ(ロバート・オースティン教授(ウェスタン大学アイビー・ビジネス・スクール)) トランスフォーメーションと呼ぶような大きな変革を成し遂げることは難しいものです。今日リーダーにとって、最も困難な課題だと言えるかも知れません。社会が大きく変わっていますので、組織変革は不可避にもかかわらずです。 ここで、2種類の変化を混同しないように注意を喚起したいと思います。一つ目の種類の変化は、自分自身が起こしたのではないものです。世界情勢など自社を取り巻く環境とか競争相手がもたらしたものです。二つ目はリーダー自身が起こし、そちらへ組織を向かわせようとする変化です。 どちらの変化も対処することが難しいです。外から与えられた変化への対応は喫緊の課題です。なぜなら、変化に対応しなければ生き残れないかもしれないからです。 多くの日本企業は、今話題のマイケル・タッシュマン教授らの「両利き性」の議論でいうところの探査(exploration)よりも深耕(exploitation)モードに安住していたように思います。カイゼンはこのモードにとても適合的ですが、カクシンはそうではありません。 日本企業にとってプロセス・イノベーションはより自然にできるものの、「両利き性」を維持してラディカルなイノベーションを起こし、顧客やビジネスモデルに大きな変革をもたらすことはそうでもないということです。 昔、日本の経営者に「革新ということばから想起されるのはプロセス・イノベーションですか製品やサービスのイノベーションですか」と問うたところ、40社中39社の人がプロセス・イノベーションだと回答しました。 もちろんプロセス・イノベーションが悪いわけではなく、効率性向上は日本企業が長年にわたって得意としてきたことです。ただ、プロセス・イノベーションは顧客に対し、価格引き下げなどを通じた間接的なインパクトしか与えないのに対し、ラディカルなイノベーション、あるいはBMI(ビジネスモデル・イノベーション)はより直接的なインパクトがあります。 顧客にとってただ間接的に実感するイノベーションなのか、喜んで対価を支払おうとするイノベーションなのかには差があります。日本企業は後者のことをもっと考えるべきではないかと思います』、「プロセス・イノベーションが悪いわけではなく、効率性向上は日本企業が長年にわたって得意としてきたことです。ただ、プロセス・イノベーションは顧客に対し、価格引き下げなどを通じた間接的なインパクトしか与えないのに対し、ラディカルなイノベーション、あるいはBMI・・・はより直接的なインパクトがあります。 顧客にとってただ間接的に実感するイノベーションなのか、喜んで対価を支払おうとするイノベーションなのかには差があります。日本企業は後者のことをもっと考えるべきではないかと思います」、同感である。
・『価値創出の手段としてのM&A(カール・ケスター教授(ハーバード・ビジネス・スクール)) 日本企業は国内企業同士のM&Aだけでなく海外企業を対象とするM&Aも相当数実施するようになっていると思います。しかし、日本における大規模M&Aのほとんどは、買収側の企業が変わるというよりも、被買収側の価値創造を目的とするにとどまるものが多かった印象です。 さらに驚いたのは、買収後の統合がほとんど進んでいない事例が多かった点です。価値を創出しているかどうかをM&Aの成功の基準として考えるのであれば、なかなか成功事例を探すのは難しいと言えるでしょう。 長期的なM&Aの成功を分析すること、すなわち価値創造の如何を測定することは非常に難しいという点です。 日本企業のM&Aでも、買収後の減損件数が3割程度あることなどから考えて、一般にM&Aから価値創造を実現するのは難しいと言えるでしょう。 M&Aの買収時のプロセスにおいて、日本企業が改善すべき点としては、資本コスト(特にエクイティのコスト)の意識を高める必要があることが挙げられます。 日本企業は長らく資金調達を銀行に頼っていたこともあり、資本コストの認識が十分でないといえます。価値をどうやって創造し、計測するかの根本に資本コストの概念があるので、その出発点があやふやだということは大きな問題です。 近年、日本でも、資本市場側との対話が重視されていると聞いていますが、この動きは妥当な資本コストが形成されるという意味で、非常に良い流れであると考えています。 ところで、私は、ESGは現時点ではまだアセットマネジメント会社のマーケティングギミック以上のものではないと考えています。そもそも定義も不明確ですし、それが投資パフォーマンスを向上させるという証拠は見られません。 私が野村マネジメント・スクールで行っている講義では、NPVに基づく投資判断は、少なくとも株主の投資ホライズンの選好とは無関係に使えるということを論証しています。つまり、この枠組みで投資判断すれば、長期投資を考える若い株主の利益も、年金を補完するものとして比較的短期のリターンを求める高齢者の利益も満たすことが出来るのです。 しかし、ESGではそういったことを示すことはできません。ましてやESGの目的である様々なステークホルダーの利益のバランスの最適化ができるとは言えないのです。 一方で、ESGのトレンド自体は不可避な流れになっていることも事実です。今後、機関投資家は、ますます大きな存在となり、その市場における影響力が甚大であることを考えなければなりません。ESGを無視した経営をしている企業は、資金調達面で不利な状況に追い込まれるおそれがあるでしょう』、「日本企業のM&Aでも、買収後の減損件数が3割程度あることなどから考えて、一般にM&Aから価値創造を実現するのは難しいと言えるでしょう。 M&Aの買収時のプロセスにおいて、日本企業が改善すべき点としては、資本コスト(特にエクイティのコスト)の意識を高める必要があること」、「今後、機関投資家は、ますます大きな存在となり、その市場における影響力が甚大であることを考えなければなりません。ESGを無視した経営をしている企業は、資金調達面で不利な状況に追い込まれるおそれがあるでしょう」、同感である。
タグ:「アメリカや中国は、過去20年間で大きく研究開発分野をシフトさせてきた。例えば特許登録件数の分野別比率(8技術分野)を見ると、アメリカは2000年から2018年の間で、特許登録件数に占める情報通信分野の割合が16%から29%へほぼ倍増し、代わりに化学や機械工学といった分野の比率が大きく下がった。 一方日本は、構成比率が最も大きく増減した分野でも、輸送機械分野の7%から10%へ移行した、約3%ポイントのみである。 「日本のイノベーション力の低下は、人員数や資金の問題ではなく、研究者1人当たりの生産性の低下がボトルネックになっていることが可能性として考えられる」、その原因は何なのだろう。 「なぜ特許出願数などで中国に後れを取り始めているのか」、不思議だ。 『マッキンゼー ホッケースティック戦略成長戦略の策定と実行』 田口 弘一郎氏による「日本でイノベーションが生まれなくなった真因 新規事業の構築における「5つの罠」と処方箋」 野崎 大輔氏 東洋経済オンライン イノベーション (その4)(日本でイノベーションが生まれなくなった真因 新規事業の構築における「5つの罠」と処方箋、一流ビジネススクール教授陣が指南「イノベーションに挑戦する企業経営者の行動指針」とは) それ以外の分野に至っては、構成比率は3%ポイント未満しか増減していないのである。19年間という期間を考えれば、むしろ驚くべき硬直性である」、本当に「驚くべき硬直性」だ。「ニューヨーク証券取引所の上場企業における平均寿命(上場維持年数の平均値)は15年であるのに対し、日本取引所上場企業の平均寿命は89年。経営の安定性が高い一方で、新陳代謝が進みにくく、新たな産業領域の開拓は苦手な傾向にある。 こういった事業のシフトを加速すること、そして、事業上のニーズに合わせて研究開発の方向性を調整し生産性を高めていくためには、まずそのかじ取りを行うマネジメント側が変わっていく必要があるのではないか」、その通りなのだろう。 「VCの事業ポートフォリオは平均30社以上で、その内1?2社がIPOすれば成功であり、それらの事業もIPOまでに3~4回程度のピボットを経験することが普通であると言われている。それに対し、例えば自動車のような製品開発の発想だと、30の製品開発を始めて、1製品でもヒットすればいい」、なるほど。 (注)ピボット:本来「回転軸」の意味ですが、最近ではアメリカのシリコンバレーなどのベンチャー企業で「方向転換」「路線変更」といった意味で盛んに使われるように(HRpro)。 「既存経営陣に対してリスキリングを進めていく必要はあるが、同じ土俵・メンバーで議論している限り、リスキリングの進みはどうしても遅くなってしまう。 新規事業については組織を分け、担当役員も完全に分離した上で、新規事業に係る意思決定は既存の経営会議と分けて実施をするのがあるべき姿といえる」、なるほど。 「いつかは新規事業も既存事業の物差しで評価していくことが必要となってくる。例えばある大手電機メーカーの社内ベンチャー制度では、立ち上げた新規事業に対して社内の他部門から引き合いが来た段階で、既存事業部に事業ごと引き渡すということを行っている。 また、営業キャッシュフローが黒字になるタイミングをマイルストーンとして事業部として独立させ、それ以降は既存事業と同等の評価指標で見るといった工夫も考えられる」、なるほど。 「リスキリングを加速させるためには、起業経験・VC経験を持つ社外の人材をアドバイザーとして起用したり、短期契約でも新規事業創出のプロセスを一緒にひと回ししてもらい、社内の人材に実体験を蓄積したりすることが効果的である」、なるほど。 「新規事業組織を分けるとともに、そこに新規事業スキルを保有する人材、新たな研究開発領域の知見を持つ人材を集約し、オペレーションや人材評価・育成を既存事業と分けて実施することが重要」、「新規事業として独立した人事制度・採用枠を作り、必要な人材がクリティカルマスを超えるように、新卒・中途双方での採用を行うべきである」、なるほど。 「ゼロイチからの新規事業を検討する前に、どういった新規事業を目指すのか、本当にM&Aではなくゼロからの立ち上げを目指す必要があるのかを具体的に検討したうえで新規事業立ち上げの手法を選択すべきである。 そして本当にゼロから立ち上げる新規事業を目指すのであれば、経営陣として覚悟を持ち、外部役員の登用や人事制度の独立など、これまで述べてきたようなドラスティックなやり方を取ってリスキリングも並行して進めていくことが必要となる」、やはり中途半端なやり方は失敗する可能性が高いようだ。 ダイヤモンド・オンライン 野村マネジメント・スクールによる「一流ビジネススクール教授陣が指南「イノベーションに挑戦する企業経営者の行動指針」とは」 「有事の意思決定」とは興味深そうだ。 「思いがけない競争相手の出現などによって不意打ちを受けたとき、「俊敏に対応する能力」を構築することではないでしょうか。 イノベーションを成し遂げる上で、実験やプロトタイピングはとても重要で、多くの企業で実践項目に取り入れられているのですが、企業文化に根付いている「完璧主義」が問題となるのです。 実験やプロトタイピングに長けているということは言い換えれば、完璧でないことを受け入れることです。だが、これは難しい。 頭では実験やプロトタイピングの重要性を理解しても、実際に行おうとすると完璧主義が邪魔をしてしまいます。 最初から完璧なものを作ろうとすると、イノベーションのプロセスを遅らせることになります。だから、「早期に、何度でも、荒削りでも」を開発のモットーにした会社が生き残る。ある段階では完璧でないことを受け入れなければならないということです」、なるほど。 「コンセンサスは意思決定後の行動を迅速化しますが、実験という環境では、全てを遅らせることになり、実施の障害になりかねません。 イノベーションは、不確実性を機会に変える行為です。不確実性を排除しようとすると、どうしてもコストサイド重視になってしまいます。オペレーションの効率向上は達成できますが、イノベーションからは遠ざかってしまいかねません」、日本企業の弱味のようだ。 「私がBMIに関連して、日本の経営者にお伝えしたいことは次の4点です。 第1に、「進んで実験せよ」ということです・・・第2に、「不確実性を歓迎し、リスクを取れ」と申し上げたい。 第3には、「失敗を心地よいものと考え、イノベーションを起こそうとしてうまく行かなかった人々に汚名を着せるな」が挙げられます。 そして最後に、「異なるバックグラウンドやキャリアを持つ多様な人々からなるチームがなし得る、視野を広げる貢献を過小評価するな」ということを指摘したい」、なるほど。 「プロセス・イノベーションが悪いわけではなく、効率性向上は日本企業が長年にわたって得意としてきたことです。ただ、プロセス・イノベーションは顧客に対し、価格引き下げなどを通じた間接的なインパクトしか与えないのに対し、ラディカルなイノベーション、あるいはBMI・・・はより直接的なインパクトがあります。 顧客にとってただ間接的に実感するイノベーションなのか、喜んで対価を支払おうとするイノベーションなのかには差があります。日本企業は後者のことをもっと考えるべきではないかと思います」、同感である。 「日本企業のM&Aでも、買収後の減損件数が3割程度あることなどから考えて、一般にM&Aから価値創造を実現するのは難しいと言えるでしょう。 M&Aの買収時のプロセスにおいて、日本企業が改善すべき点としては、資本コスト(特にエクイティのコスト)の意識を高める必要があること」、 「今後、機関投資家は、ますます大きな存在となり、その市場における影響力が甚大であることを考えなければなりません。ESGを無視した経営をしている企業は、資金調達面で不利な状況に追い込まれるおそれがあるでしょう」、同感である。