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日本の構造問題(その29)(「このままだと日本経済は沈没するぞ」 海外投資家が三菱UFJのCFOに放った厳しすぎる本音、「誹謗中傷大国ニッポン」ゆがんだ正義を振りかざす日本人がいなくならない理由、世界競争力ランキングで日本は35位と過去最低に 「凋落」に耳をふさぐ本当の深刻さ) [経済政治動向]

日本の構造問題については、本年5月13日に取上げた。今日は、(その29)(「このままだと日本経済は沈没するぞ」 海外投資家が三菱UFJのCFOに放った厳しすぎる本音、「誹謗中傷大国ニッポン」ゆがんだ正義を振りかざす日本人がいなくならない理由、世界競争力ランキングで日本は35位と過去最低に 「凋落」に耳をふさぐ本当の深刻さ)である。

先ずは、本年6月3日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した前三菱UFJのCFOの徳成旨亮氏による「「このままだと日本経済は沈没するぞ」 海外投資家が三菱UFJのCFOに放った厳しすぎる本音」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/323717
・『毎年平均100名近い海外機関投資家と面談しているニコン現CFOの徳成旨亮氏によると、海外機関投資家との面談で、頻繁に「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」と問い質されてきた、という。 海外投資家は、日本の社会や企業経営を、血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態にあると見ている。結果、日経平均は1989年の最高値を未だ更新できておらず、水準を切り上げ続けている欧米株と比べて魅力がないと言われても仕方がない状況だ。 この現状を打破するにはどうしたらいいか? 徳成氏は、「CFO思考」が「鍵」になるという。 朝倉祐介氏(シニフィアン共同代表)や堀内勉氏(元森ビルCFO)が絶賛する6/7発売の新刊『CFO思考』では、日本経済・日本企業・日本人が「血気と活力」を取り戻し、着実に成長への道に回帰する秘策が述べられている。本書から、一部を特別に公開する』、「日経平均は1989年の最高値を未だ更新できておらず」とあるが、6月13日にバブル後最高値を更新した。
・『「君のオフィスの設定温度は何度だ?」  2015年7月、私は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のCFOとなって初めての海外IRを行いました。海外IRとは、諸外国に点在する投資家を訪ねて面談し、自社の戦略をアピールして最終的に株式を買ってもらう、あるいは既存株主には買い増しまたは保有継続してもらうことを目的とする活動です。 私は過去にも同社の財務企画部長として海外投資家と面談した経験がありました。その延長線上で準備した財務計数や中期経営計画に関する膨大な英文のQ&A(模範回答集)を機中で勉強しながら、最初の訪問地ロサンゼルス(LA)に向かいました。 真夏のLAで最初に訪問したのは、中堅のファンドでした。その対話の第一問がこれでした。 「君のオフィスの設定温度は何度だ?」 一瞬、質問の真意が掴めず返答に困った私に対し、そのファンドマネージャーは続けました。 「どうせ『地球にやさしく』なんていう御託を並べて、28℃設定にしてるんだろう。グーグルやアマゾンのオフィスは何度か知っているか? 21℃だぞ。人間は少し寒いくらいのほうが頭が働くんだ」 唖然としている私に彼はたたみかけます。 「君の会社は、日本の最優秀と言われる大学の卒業生のなかから、さらに優秀と言われる学生を採用しているんだろう。そうした若者のアニマルスピリッツを掻き立て、その能力を最大限に活かすことこそが、経営者の役割ではないのか? 日本は少子高齢化でこれからどんどん人口が減り人口オーナス(注:人口ボーナスの逆)で経済成長は鈍化する。そうしたなかで君の会社のような企業が、優秀な人材の能力を最大限活かさないでどうする。 有能な人材は経営にとっては資源であり資本だ。『地球にやさしく』なんて言って地球の資源を心配している場合か? 地球に負荷をかけてもいいから、最高の職場環境を準備して、自分の会社の人材に最高のパフォーマンスを出させるべきじゃないのか? このままだと、地球が滅びるはるか手前で日本経済は沈没するぞ」 このファンドマネージャーは日本株の運用を数十年も行ってきた業界では名の知れた人物で、妻は日本人、趣味は京都の寺院の庭巡りという日本通の方です。 その彼が日本の将来を憂えて、安易に平等主義やきれいごとに流れるのではなく、有為な人材には最高の職場環境を用意し、必要な教育・研修の機会を与え、同時にとことん負荷をかけて高い成果やアウトプットを求め、アニマルスピリッツを刺激する処遇制度を用意し、企業価値を高めることが企業経営者の責務ではないか? そうした議論をふっかけてきたわけです』、「日本の将来を憂えて、安易に平等主義やきれいごとに流れるのではなく、有為な人材には最高の職場環境を用意し、必要な教育・研修の機会を与え、同時にとことん負荷をかけて高い成果やアウトプットを求め、アニマルスピリッツを刺激する処遇制度を用意し、企業価値を高めることが企業経営者の責務ではないか?」との「ファンドマネージャー」の指摘は的確だ。
・『「アニマルスピリッツが失われている」と日本は見られている  2020年9月、経済産業省は「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の報告書(研究会で座長を務めた一橋大学名誉教授の伊藤邦雄氏にちなみ、通称「人材版伊藤レポート」と呼ばれる)を公表し、「人材」を「資本」ととらえ、人的資本の価値を創造することによって企業価値を創造していく、という概念を打ち出しましたが、その5年以上前に、西海岸の投資家から同様の課題を突き付けられたわけです。 この「オフィスの設定温度論争」をしかけてきた投資家を含め、資本市場の最前線で過去面談したグローバル投資家から、私が繰り返し言われてきた言葉があります。「君たち(日本企業、日本の経営者、日本人)には、『アニマルスピリッツ』はないのか?」というフレーズです。 アニマルスピリッツとは何か? それは、「実現したいことに対する非合理的なまでの期待と熱意」のことです。 英国の経済学者ジョン・メイナード・ケインズの代表的著書である『雇用・利子および貨幣の一般理論』のなかに、不確実な状況下における意思決定に関する次のようなくだりがあります[*1]。 投機による不安定性のほかにも、人間性の特質にもとづく不安定性……(中略)……おのずと湧きあがる楽観に左右されるという事実に起因する不安定がある。……(中略)……その決意のおそらく大部分は、ひとえに血気(アニマルスピリッツ)と呼ばれる、不活動よりは活動に駆り立てる人間本来の衝動の結果として行われるのであって、数量化された利得に数量化された確率を掛けた加重平均の結果として行われるものではない。……(中略)……企業活動が将来利得の正確な計算にもとづくものでないのは、南極探検の場合と大差ない。こうして、もし血気が衰え、人間本来の楽観が萎えしぼんで、数学的期待に頼るほかわれわれに途がないとしたら、企業活動は色あせ、やがて死滅してしまうだろう。……(中略) 将来のはるか先まで見はるかすような期待に依拠する企業活動は、社会全体に利益をもたらすと言ってさしつかえない。だが、個人の企業心が本領を発揮するのは合理的計算が血気によって補完、支援され……(中略)……る場合だけであることは、疑いもなく経験の教えるとおりである。 つまり、企業活動の本質は、利益の見込みやリスクの確率に基づくものでなく、人間が本来持つ将来に対する期待や自然発生的な衝動にある、とケインズは言い、そうした人間の特質を「アニマルスピリッツ」と称しています。ケインズは、「企業活動は、南極探検と大差ない」とまで言っているのです。 日本の現状は、まさに「企業活動は色あせ、やがて死滅してしまう」状況に近づきつつある可能性があります。日銀が各企業の最大の株主となり、企業の新陳代謝がなく、社会全体や企業経営から血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態、つまり「アニマルスピリッツ」が失われている状態にあると、海外投資家は見ているのです。 もちろん、日本がこうなったことにはやむを得ない事情もあります。人口減少や高齢化というデモグラフィック(人口統計学的)な変化は抗しがたいものがあり、縮小する市場のなかで仮に「アニマルスピリッツ」を無邪気にふるって失敗すると回復が困難であることは事実です。 パイが広がらないなかでは、無理をせず、安全を第一とする考え方には合理性があります。そうして、社会も企業も個人もリスク回避的になり、安全運転を重視して、成長戦略よりもコスト削減を優先してきた結果、今日の低成長と国際的な地位低下を招いたと考えられます。 また、こうした思考方法が数十年の長きにわたり続いたことから、世代を超えて、日本人および社会全体から「アニマルスピリッツ」が失われていったのだと考えることができます。 特に、本来楽観的思考やチャレンジ意欲をより持っているはずの若者世代が、人口減少や高齢化に伴う将来の生活不安、特に年金制度への不信から保守的になり、リスク回避的な行動を取るようになっていったことは、日本社会の活力をさらに失わせています。 ※この記事は、書籍『CFO思考』の一部を抜粋・編集して公開しています (徳成旨亮氏の略歴はリンク先参照)』、「人間性の特質にもとづく不安定性……(中略)……おのずと湧きあがる楽観に左右されるという事実に起因する不安定がある。……(中略)……その決意のおそらく大部分は、ひとえに血気(アニマルスピリッツ)と呼ばれる、不活動よりは活動に駆り立てる人間本来の衝動の結果として行われるのであって、数量化された利得に数量化された確率を掛けた加重平均の結果として行われるものではない」、「社会も企業も個人もリスク回避的になり、安全運転を重視して、成長戦略よりもコスト削減を優先してきた結果、今日の低成長と国際的な地位低下を招いたと考えられます。 また、こうした思考方法が数十年の長きにわたり続いたことから、世代を超えて、日本人および社会全体から「アニマルスピリッツ」が失われていったのだと考えることができます。 特に、本来楽観的思考やチャレンジ意欲をより持っているはずの若者世代が、人口減少や高齢化に伴う将来の生活不安、特に年金制度への不信から保守的になり、リスク回避的な行動を取るようになっていったことは、日本社会の活力をさらに失わせています」、なるほど。
・『【著者からのメッセージ】 私は国内外あわせて毎年平均100名前後の機関投資家の方々と、直接もしくはネット経由で面談し、自社の株式への投資をお願いしてきました。これら多くのグローバル投資家から、私が繰り返し言われてきた言葉があります。それは、「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」 というフレーズです。 経済学者のジョン・メイナード・ケインズによれば、アニマルスピリッツとは、「実現したいことに対する非合理的なまでの期待と熱意」を意味します。海外の投資家たちは、日本の社会全体や企業経営から血気と活力が衰えている、つまり「アニマルスピリッツ」が日本経済から失われていると見ているのです。 この現状を覆すにはどうすればよいか? それが本書のテーマです。その答えは「CFO思考」にあると私は考えています。 「CFO(Chief Financial Officer、最高財務責任者)」と聞くと、数字のプロであり経理や資金調達に責任を負っている「経理・財務担当役員」が思い浮かぶ方も多いと思います。 しかし、欧米で「CFO」といえば、CEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)とともに3名で経営の意思決定を行う「Cスイート」の一角を占める重要職です。CFOは、投資家をはじめとする社外の多くのステークホルダー(利害関係者)に対しては、会社を代表してエンゲージメント(深いつながりを持った対話)を行い、社内に対しては、ROE(自己資本利益率)に代表される投資家の期待・資本の論理や、ESG投資家や地域社会など、異なるステークホルダーの要望を社員にもわかるように翻訳して伝え、その期待を踏まえた経営戦略を立て、それを実践するよう組織に影響を与え行動を促す、という役割を担っています。 そして、「アニマルスピリッツ」をCEOなどほかの経営陣と共有し、「数値をベースにした冷静な判断力」を持って考え、企業としての夢の実現に向け行動する、いわば企業成長のエンジンの役割を果たしています。 本書では、従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべきだ」という考え方を「金庫番思考」、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」という考え方を「CFO思考」と呼びます。「『CFO思考』こそが、企業のパーパス(存在意義・目的)を実現させる」。これが本書の結論です。 本書でお話する内容には、企業経営に関するテーマが多く含まれています。同時に、現在、各企業において、経理、予算、財務、税務、IR、サステナビリティ・ESG、DX・ITといった分野で働くビジネスパーソン、もしくはそのような分野に興味がある方々も意識して書き下ろしました。皆さんが担当しておられるこれらの業務において、どのように「CFO思考」を発揮すればよいのかをご紹介しています。 こうした実務に携わっておられる皆さんには、グローバルで活躍できる人材として、将来日本企業と日本経済の成長のエンジンになっていただきたいと考えています。 CFOという仕事の魅力と楽しさが、一人でも多くの読者の皆さんに伝われば、それに勝る喜びはありません』、「従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべきだ」という考え方を「金庫番思考」、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」という考え方を「CFO思考」と呼びます」、「CFOは、投資家をはじめとする社外の多くのステークホルダー(利害関係者)に対しては、会社を代表してエンゲージメント・・・を行い、社内に対しては、ROE(自己資本利益率)に代表される投資家の期待・資本の論理や、ESG投資家や地域社会など、異なるステークホルダーの要望を社員にもわかるように翻訳して伝え、その期待を踏まえた経営戦略を立て、それを実践するよう組織に影響を与え行動を促す、という役割を担っています。 そして、「アニマルスピリッツ」をCEOなどほかの経営陣と共有し、「数値をベースにした冷静な判断力」を持って考え、企業としての夢の実現に向け行動する、いわば企業成長のエンジンの役割を果たしています」、こうした真のCFOがもっと増えてほしいものだ。

次に、7月20日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「「誹謗中傷大国ニッポン」ゆがんだ正義を振りかざす日本人がいなくならない理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/326334
・『この先も誹謗中傷はなくならないワケ  「誹謗中傷もうやめよう」「他人をおとしめるのはかっこ悪いよ」――。 そんな呼びかけが、ネットやSNSにあふれている。先日、タレントのryuchellさんが急逝されたことを受けて、生前、本人がネットやSNSで誹謗中傷を受けていたことが原因ではないかという臆測が広がったからだ。 もちろん、死の真相は永遠にわからない。ただ、芸能人や有名人がネットやSNSですさまじい誹謗中傷を受けていることも紛れもない事実であり、実際に過去には女性プロレスラーの方が、心ない誹謗中傷が原因で死に追いやられている。そのため、かねて「日本のSNSは匿名性が高いので誹謗中傷が悪質すぎる」という意見があり、それが今回再注目されている形だ。 ただ、残念ながら、いくらこのような呼びかけしたところで、日本から「誹謗中傷」が消えることはないだろう。誹謗中傷している人は自分が誹謗中傷をしているという自覚はない。むしろ、相手の間違いを指摘して言動を正してやっている、くらいにさえ思っている。 なぜこういう「ゆがんだ正義心」が生まれるのか。いろいろな意見があるだろうが、筆者は日本人が100年以上受けてきた「教育」の弊害だと考えている。 我々は物心ついた時から「ルールやマナーを守れ」「みんなに迷惑をかけるな」ということを骨の髄まで叩き込まれる。教育基本法や学校教育法の中に「規範意識の育成」ということが掲げられているからだ。もちろん、この方針自体は悪くない。 問題は「規範意識」に熱が入りすぎて「過剰」になってしまっていることだ。 ご存じの方も多いだろうが、日本の学校教育は世界的に見るとかなり特殊だ。異常に厳しいブラック校則、同じ制服、同じカバンの強制、軍隊的な部活動、そしてクラス内での「班」行動などなど、他国の子どもと比べて「規範意識の育成」を徹底的に叩き込まれる機会が多い。この「規範意識=絶対正義」という極端な教育方針を改めない限り、「誹謗中傷」は絶対になくならない。 一体なぜか』、「なぜこういう「ゆがんだ正義心」が生まれるのか。いろいろな意見があるだろうが、筆者は日本人が100年以上受けてきた「教育」の弊害だと考えている。 我々は物心ついた時から「ルールやマナーを守れ」「みんなに迷惑をかけるな」ということを骨の髄まで叩き込まれる。教育基本法や学校教育法の中に「規範意識の育成」ということが掲げられているからだ。もちろん、この方針自体は悪くない。 問題は「規範意識」に熱が入りすぎて「過剰」になってしまっていることだ。 ご存じの方も多いだろうが、日本の学校教育は世界的に見るとかなり特殊だ。異常に厳しいブラック校則、同じ制服、同じカバンの強制、軍隊的な部活動、そしてクラス内での「班」行動などなど、他国の子どもと比べて「規範意識の育成」を徹底的に叩き込まれる機会が多い。この「規範意識=絶対正義」という極端な教育方針を改めない限り、「誹謗中傷」は絶対になくならない」、なるほど。
・『匿名性が大好きな日本人の醜い現実  理由を説明する前に、大前提として日本の状況を振り返っていこう。今、日本は「誹謗中傷大国」と呼んでも差し支えないほど、社会に誹謗中傷があふれている。 もちろん、SNSで他人を心ない言葉で侮辱する行為というのは幅広い国や社会で確認されているが、日本の場合はその「量」と「陰湿さ」が抜きん出ているのだ。 まず、「量」に関しては、日本人はTwitterが世界一好きということが大きい。 22年1月の国別ユーザー数では、首位アメリカ(7690万人)に次いで日本は5895万人で世界第2位なのだが、ヘビーユーザーが圧倒的に多い。イーロン・マスク氏が先日、日本のユーザーの利用時間が世界一だとして「1人当たりの使用量だと米国の約3倍です」と述べたように、朝から晩までTwitterに何かを発信している人が世界一多いのだ。 「量」が世界一ならば当然、誹謗中傷も世界一多くなるだろう。 「なぜそんなことが言える!愛犬や赤ちゃんの写真とか好きな推しについてつぶやいている人が多いだけかもしれないだろ」と反論したくなる人も多いだろうが、その可能性は低い。日本は世界でも有数の「匿名SNS大国」でもあるからだ。 9年前のデータだが、平成26年度の情報通信白書によれば、日本のTwitterの匿名利用の割合は75.1%で、アメリカは35.7%、フランスは45%、韓国は31.5%となっている。日本人が匿名性を好む傾向は今もそれほど変わっていない。 このような「匿名文化」が誹謗中傷の「陰湿さ」に拍車をかけているのは、もはや説明の必要がないだろう。「死ね」「消えろ」「顔を見るのも不快」「気持ち悪い」などという心ない言葉を家族や隣近所、会社の同僚や上司の前で平気で言える人は少ない。しかし、自分の名前も素性も知らない人たちの前で、しかも見ず知らずの他人に対してならば、いくらでも罵詈雑言が吐けるという人はいる。 社会的地位も脅かされない、人間関係も崩れもないという「安全地帯」にいるからこそ、心ゆくまで陰湿な誹謗中傷ができて、相手を自殺に追い込むほどの粘着さも発揮してしまう、という部分は確かに存在しているのだ。 その醜悪な現実がうかがえるのが、「世界一の削除要求・開示請求」だ』、「「量」に関しては、日本人はTwitterが世界一好きということが大きい。 22年1月の国別ユーザー数では、首位アメリカ(7690万人)に次いで日本は5895万人で世界第2位なのだが、ヘビーユーザーが圧倒的に多い。イーロン・マスク氏が先日、日本のユーザーの利用時間が世界一だとして「1人当たりの使用量だと米国の約3倍です」と述べたように、朝から晩までTwitterに何かを発信している人が世界一多いのだ。 「量」が世界一ならば当然、誹謗中傷も世界一多くなるだろう」、「「匿名文化」が誹謗中傷の「陰湿さ」に拍車をかけているのは、もはや説明の必要がないだろう。「死ね」「消えろ」「顔を見るのも不快」「気持ち悪い」などという心ない言葉を家族や隣近所、会社の同僚や上司の前で平気で言える人は少ない。しかし、自分の名前も素性も知らない人たちの前で、しかも見ず知らずの他人に対してならば、いくらでも罵詈雑言が吐けるという人はいる。 社会的地位も脅かされない、人間関係も崩れもないという「安全地帯」にいるからこそ、心ゆくまで陰湿な誹謗中傷ができて、相手を自殺に追い込むほどの粘着さも発揮してしまう、という部分は確かに存在しているのだ。 その醜悪な現実がうかがえるのが、「世界一の削除要求・開示請求」だ」、なるほど。
・『過剰な規範意識によって「逸脱する人」を許せない  Twitter社によれば、2021年上半期(1~6月)に削除要求は世界で4万3387件で、うち日本が1万8518件と4割強を占めて世界最多となった。さらに、政府機関以外から寄せられたアカウントの情報開示請求は全世界で460件で、うち日本が241件と5割強を占めている。 もちろん、「削除要求・開示請求=誹謗中傷」ではない。ただ、誹謗中傷が問題になってからというもの、メディアや弁護士など専門家が対策のひとつとして削除要求や開示請求について言及をしていることを踏まえると、この突出した件数に、日本特有の誹謗中傷カルチャーが大きく影響していると考えるべきではないか。 では、なぜこんなことになってしまったのかというと、冒頭で申し上げた「規範意識の育成」をやりすぎってしまった「副作用」だと筆者は考えている。 繰り返しになるが、この教育方針自体は素晴らしい。社会で生きていくうえでルールやマナーを守るのは当然だ。しかし、日本のようにこの教育があまりに過剰になって、国民の規範意識が高くなりすぎると、社会に「対立と分断」を招いてしまう。 「ルールやマナーを守らない人」「みんなに迷惑をかける人」への激しい怒りや憎悪が芽生えてしまうのだ。わかりやすいケースが戦時中の「非国民」へのすさまじい誹謗中傷とリンチだ。 この手の話になると、「当時の日本人は軍部が怖くてしかたなく戦時体制に従った」みたいな歴史観を語る人がいるが、それは新聞メディアが自分たちの責任を回避するために、戦後にねつ造したストーリーだ。メディアだけではなく大多数の国民は自分の意志で率先して戦争に賛成していた。真珠湾攻撃をした際は、サッカーW杯で優勝したように国民はお祭り騒ぎだった。 もちろん、反戦を訴える人もいたが、かなりマイノリティで、日米開戦を回避しようとした軍人や役人は国民から「弱腰」となじられ、家族が襲撃される恐れもあったほどだ。 では、なぜこんなに当時の日本人は戦争に協力的だったのかというと、軍にマインドコントロールをされていたから…なんて大層な話ではなく、ごくシンプルに「教育」の成果だ』、「「規範意識の育成」をやりすぎってしまった「副作用」だと筆者は考えている。 繰り返しになるが、この教育方針自体は素晴らしい。社会で生きていくうえでルールやマナーを守るのは当然だ。しかし、日本のようにこの教育があまりに過剰になって、国民の規範意識が高くなりすぎると、社会に「対立と分断」を招いてしまう。 「ルールやマナーを守らない人」「みんなに迷惑をかける人」への激しい怒りや憎悪が芽生えてしまうのだ。わかりやすいケースが戦時中の「非国民」へのすさまじい誹謗中傷とリンチだ」、「なぜこんなに当時の日本人は戦争に協力的だったのかというと、軍にマインドコントロールをされていたから…なんて大層な話ではなく、ごくシンプルに「教育」の成果だ」、なるほど。
・『ルールを守れないものは「非国民」、武器はSNSに変わり…  近代化した日本の教育のベースとなった「教育勅語」でも、実は「規範意識の育成」は大きな柱となっている。と言っても、時代背景が違うので当時はこれを「遵法」と呼んだ。「法律や規則を守り社会の秩序に従おう」という意味だ。 戦前・戦中の子どもは「教育勅語」を暗唱させられて、この「遵法」を骨の髄まで叩き込まれた。すると、どういう大人に成長するのかというと、国が定めた法律やルールを守ることが「正義」であり、それができない者は「非国民」として怒りや憎悪を抱く人になってしまう。「規範意識」が膨張して、「社会秩序を乱す悪」を制裁するための誹謗中傷や暴力は許される、という感じで、「正義の暴走」が始まるのだ。 例えば、満州事変直後の1931年9月20日、東京・麻布で2人の男が「若し戦時召集があっても応ずるな」とビラを巻いて演説をした。戦後の映画やテレビではこういう「非国民」を処罰するのは、警察や憲兵として描かれるが、現実は違う。 「付近の住民は時節柄とて憤慨し二三十名が棍棒や薪を持って『非国民を殴り殺せ』と追跡したが何れへか逃走した」(読売新聞1931年9月21日) そういう「正義の私的制裁」が日本中であふれかえった。 規範意識が強くなりすぎた “正義の日本人”は、「ルールに従わない人」「みんなに迷惑をかける人」に対しては、これほど冷酷・残酷になれるものなのだ。 このような「非国民へのリンチ」を生んだ「遵法教育」は戦後GHQの監督下になると「規範意識の育成」という呼び方に変えられて、教育基本法や学校教育法に盛り込まれて現在に至る。見た目は“化粧”されているが、本質的なところでは同じ教育が続いているので当然、「非国民へのリンチ」も健在だ。しかし、さすがに今はこん棒で殴り殺すというわけにはいかない。そこで「武器」をSNSに変えて、「死ね」「消えろ」というナイフのように鋭い言葉で相手の「心」をメッタ刺しするようになった、というのが筆者の考えだ』、「「教育勅語」でも、実は「規範意識の育成」は大きな柱となっている。と言っても、時代背景が違うので当時はこれを「遵法」と呼んだ。「法律や規則を守り社会の秩序に従おう」という意味だ。 戦前・戦中の子どもは「教育勅語」を暗唱させられて、この「遵法」を骨の髄まで叩き込まれた。すると、どういう大人に成長するのかというと、国が定めた法律やルールを守ることが「正義」であり、それができない者は「非国民」として怒りや憎悪を抱く人になってしまう。「規範意識」が膨張して、「社会秩序を乱す悪」を制裁するための誹謗中傷や暴力は許される、という感じで、「正義の暴走」が始まるのだ」、「見た目は“化粧”されているが、本質的なところでは同じ教育が続いているので当然、「非国民へのリンチ」も健在だ。しかし、さすがに今はこん棒で殴り殺すというわけにはいかない。そこで「武器」をSNSに変えて、「死ね」「消えろ」というナイフのように鋭い言葉で相手の「心」をメッタ刺しするようになった、というのが筆者の考えだ」、なるほど。
・『旧統一教会へのバッシングも「誹謗中傷」?  そんな「非国民へのリンチ」の中で、今もっともわかりやすいのが、旧統一教会へのバッシングだ。SNSでは、「旧統一教会を叩きつぶせ!」「旧統一教会はクソ」「寄生虫カルトはとっとと死ね」などの攻撃的な言葉が飛び交っている。投稿している人たちは「非国民」を叩きつぶすことで、「正義」を執行しているつもりだろうが、信者の皆さんからすれば、これは理不尽極まりない「誹謗中傷」以外の何ものでもない。 なぜか。勘違いをしている人も多いが、実はあの教団はまだ「犯罪者集団」でもなんでもないからだ。オウム真理教のように信者や幹部が刑事事件で逮捕されたわけではない。かつて入信していたけれど、信仰がなくなった人や、信者ではない家族が「被害」を訴えて民事訴訟をしているだけだ。 霊感商法での高額献金が問題だというが、神や仏の話を説きつつ高額のお布施を求めない宗教の方が少ない。創価学会でも、幸福の科学でも、高額献金をした信者など山ほどいる。そして、その後にだまされたと被害を訴える人も必ず一定数、存在するものなのだ。 反日教義を掲げて日本から金をむしりとっているから解散させろ、というが、日本で荒稼ぎしている韓流タレントでも、日本人も愛用するサムスンなど韓国メーカーの人々も、韓国にいる時は、同胞たちの前で当たり前のように「岸田を呼んで戦争責任を取らせろ」くらいのことは言うだろう。特に韓鶴子氏くらいの世代の韓国人ならば、あのような反日発言は「平常運転」だ。 教団をかばっているわけではなく、他の新興宗教や韓国人にも確認される現象を、さもこの世で旧統一教会だけしかやっていない異常のことのように語っていることに違和感を覚えるし、それを指摘してはいけないというムードが、不気味だと言っているのだ。 宗教法人としていろいろな問題があることは間違いない。ただ、その問題と、「つぶせ」「死ね」とか誹謗中傷することや、国家権力によって強制的に解散をさせることは、まったく別の話だと言いたいのだ。そのあたりは、弁護士の橋下徹氏の7月14日のツイートが端的に説明しているので、引用させていただく。 <民法上の使用者責任だけではなかなか解散できないというのが文化庁のこれまでの解釈。僕はそれに賛成。この程度で団体が解散させられるなら電通もADKも不祥事を起こした会社は皆解散させられてしまう。組織中枢部の団体活動にまつわる刑法違反に匹敵する違法性が必要。その証拠がないから文化庁は苦労している>  筆者はこの「違法性」がしっかりと立証されていないにもかかわらず、「山上徹也が気の毒」という同情論や、一部のジャーナリストや弁護士の皆さんたちの主張だけで、なんとなく「違法性あり」になっている「正義の暴走」ともいうムードが薄気味悪いと思っている。 旧統一教会の関連組織である「国際勝共連合」に潜入したドキュメンタリー「反日と愛国」を制作したのもそれが理由だ。 規範意識の高い人ほど、旧統一教会が許せないだろう。メディアはこの1年、「反日カルト」だと繰り返し報じてきたので、ピュアな“正義の人”ほど、「この地球上から根絶したい」と激しい憎悪が湧き上がっていることだろう。 だが、筆者のドキュメンタリーを見ていただければわかるように、皆さんが「つぶせ」「死ね」となじっている「非国民」たちは、ごく普通の市民だ。うつろな目でブツブツ教義を唱えているような人でもなければ、日本転覆を狙う悪の組織の人でもない。悩みながら信仰を続けている普通の新興宗教の信者なのだ。 そのような人々を糾弾して、教団を解体して強制的に信仰をやめさせても、新たな「対立と分断」を生むだけだ。むしろ、山上徹也のように「暴力で世界を変えられる」という愚かな勘違いした人を量産していくことにしかならない。 もし「誹謗中傷」を本気で防ぎたいのなら日本の「過剰な規範意識教育」と、それが引き起こす「正義の暴走」についてしっかりと考えるべきではないか』、「もし「誹謗中傷」を本気で防ぎたいのなら日本の「過剰な規範意識教育」と、それが引き起こす「正義の暴走」についてしっかりと考えるべきではないか」、その通りだ。

第三に、7月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「世界競争力ランキングで日本は35位と過去最低に、「凋落」に耳をふさぐ本当の深刻さ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/326703
・『アジア太平洋地域では11位 日本より低いのは3カ国だけ  スイスのビジネススクール・国際経営開発研究所(IMD)が、世界64カ国を対象にした2023年の「世界競争力ランキング」を6月20日、発表した。日本は、総合指標で昨年より一つ順位を下げ、過去最低の世界第35位になった。 とりわけアジア太平洋地域での日本の競争力の凋落ぶりは驚くばかりだ。ここでの日本の順位は、14カ国・地域中で第11位だ。アジア太平洋地域で日本より下位は、インド、フィリピン、モンゴルだけだ。 ところが、このニュースはあまり話題になっていない。日本の地位がこのように低いことは、もうニュースバリューがなくなってしまったのだろうか? もちろん、これは日本人にとって愉快なニュースではない。知らないで済ませればそうしたいと考える日本人も少なくないかもしれない。しかし、だからと言って、このニュースに耳を塞いではならない。 1990年代の中頃までは世界でトップを争っていた日本が、なぜここまで凋落したのか。それには明確な理由がある』、「1990年代の中頃までは世界でトップを争っていた日本が、なぜここまで凋落したのか。それには明確な理由がある」、どんな理由なのだろう。
・『マレーシアやタイなども日本より競争力は上位  アジア太平洋地域での第1位は、シンガポール(世界第4位)だ。続いて第2位が台湾(世界第6位)、第3位が香港(世界第7位)だ。そして中国は第5位(世界第21位)、韓国は第7位(世界第28位)だ。 日本より上位には、これらのほかに、マレーシア、タイ、インドネシアなどの諸国がある。日本より下位にあるのはインドなど3カ国だけだ。 1989年の第1回目のランキングでは日本は世界第1位だった。その後、低下はしたものの96年までは5位以内を保っていた。しかしそれ以降、順位を下げ、2023年は過去最低の順位となったのだ』、「日本より上位には、これらのほかに、マレーシア、タイ、インドネシアなどの諸国がある。日本より下位にあるのはインドなど3カ国だけだ」、酷い凋落ぶりだ。
・『目立つ「政府の効率性」と「ビジネスの効率性」の低さ  このランキングは、以上で見た総合指標以外に、次の四つの指標で評価が行われている。 「経済状況」(国内経済、雇用動向、物価などのマクロ経済評価)では、日本は世界第26位だ(前年は第20位)。 「政府の効率性」(政府の政策が競争力に寄与している度合い)は、2010年以降、第40位前後で低迷しているが、今年は第42位にまで下がった(同第39位)。 「インフラ」(基礎的、技術的、科学的、人的資源が企業ニーズを満たしている度合い)では、第23位(同第22位)だった。 「ビジネスの効率性」は、昨年の第51位から第47位に上がったが、低い順位であることに変わりはない。 このように、「政府の政策が適切でないためにビジネスの効率性が低下する。その結果、全体としての競争力が低下する」という状況に、日本が落ち込んでしまっていることが分かる』、「「政府の政策が適切でないためにビジネスの効率性が低下する。その結果、全体としての競争力が低下する」という状況に、日本が落ち込んでしまっていることが分かる」、「政府」の責任は重大だ。
・『マイナ問題や防衛費・少子化財源 政府の能力低下浮き彫りに  政府の政策が適切でなく、政府が非効率的であることはさまざまな面について指摘される。ここ数カ月のマイナンバーカードを巡る政府の迷走ぶりを見ていると、いまの日本政府は基本的なことが実行できないことがよく分かる。 今後、マイナ保険証に関してさらに大きな混乱が発しないかと懸念される。 デジタル化が経済の効率化のために必要なことは明らかだ。しかし、それを実現するための基本的な制度を日本政府は整備することができないのだ。 マイナ保険証のような技術的問題だけでなく、政治的な政策判断の問題もある。少子化対策のように効果が疑わしい政策に多額の資金を投入しようとしている。しかも、そのための財源措置を行なっていない。防衛費も増額はするが、安定した財源の手当てがされていない。 日本政府は迷走しているとしか言いようがない。 そして、このような無責任な政府に対して野党が有効なチェック機能を果たしていない。日本の野党勢力は2010年頃に政権を取って政権担当能力がないことを露呈してしまった。その後は批判勢力としてさえも機能していない。民主主義国家で、野党がこれだけ弱いのは世界でも珍しい状況ではないだろうか?』、「デジタル化・・・を実現するための基本的な制度を日本政府は整備することができないのだ。 マイナ保険証のような技術的問題だけでなく、政治的な政策判断の問題もある。少子化対策のように効果が疑わしい政策に多額の資金を投入しようとしている。しかも、そのための財源措置を行なっていない。防衛費も増額はするが、安定した財源の手当てがされていない。 日本政府は迷走しているとしか言いようがない。 そして、このような無責任な政府に対して野党が有効なチェック機能を果たしていない」、「日本政府は迷走」、「野党が有効なチェック機能を果たしていない」、その通りだ。
・『高齢化は続く、諦めてはいけない IT化でアイルランドは世界2位に  われわれの世代は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と世界から賞賛された時代を経験した。だから、日本がインドネシアやマレーシアに抜かれてしまったと聞けば、異常事態だと捉える。そして早急に対処が必要だと考える。 しかし、いまの日本では諦めムードが一般化してしまったようだ。「世界競争力ランキング 2023」のニュースは日本ではほとんど話題にならなかった。しかし、実はこれこそが最も危険なことだ。 なぜなら日本経済の今後を考えると、少子化対策を行なっても、そしてそれが仮に効果を発揮して出生率が上昇したとしても、日本の人口高齢化は間違いなく進行するからだ。 それによって経済の効率性は低下せざるをない。その厳しい条件下で人々の雇用と生活を支え、社会保障制度を維持していくためには、生産性を引き上げて日本の競争力を増強することがどうしても必要だ。だから決して諦めてはならない。いまの状況は当たり前のことではなく、何とかして克服しなければならないのだ。 実際、一度は衰退したにもかかわらず、復活した国は、現代世界にも幾らもある。その典型がアイルランドだ。アイルランドは製造業への転換に立ち遅れ、1970年代頃までヨーロッパで最も貧しい国の一つだった。 しかし、IT化に成功して90年代以降、奇跡的な経済成長を実現した。2023年の世界競争ランキングで同国は世界第2位だ』、「アイルランド」は「IT化に成功して90年代以降、奇跡的な経済成長を実現した。2023年の世界競争ランキングで同国は世界第2位だ」、ただ、日本経済ははるかに規模が大きいのが難しいところだ。
・『日本人の基礎学力は世界のトップクラス  競争力ランキングが落ちたとはいえ、日本人の基本的な能力がわずか30年間でこれほど急激に落ちてしまったはずはない。OECDが行なっているPISAという小中学生を対象にした学力テストの結果を見ると、これが分かる。  2018年調査(現時点で結果が公表されている最新の調査)では、数学的リテラシーは世界第6位、科学的リテラシーは第5位だった。読解力が前回から下がったものの、OECD平均得点を大きく上回っている。 このように、日本人の基礎的な能力は依然として世界トップクラスなのである。日本人は、このように高い潜在的能力を持ちながら、それを発揮できない経済・社会環境に置かれてしまっているのだ』、「日本人は、このように高い潜在的能力を持ちながら、それを発揮できない経済・社会環境に置かれてしまっているのだ」、困ったことだ。
・『責任は誤った「円安政策」に 政策如何で状況変えられる  言い換えれば、日本が凋落した原因は1990年代の中頃以降に取られた政策の誤りにある。90年代の中頃以降、政策面で何が起こったかは明らかだ。「円安政策」を進めたのだ。 これによって企業のイノベーション意欲が減退した。企業がイノベーションの努力を怠ったために、日本人が能力を発揮する機会を失ってしまった。これこそが日本経済衰退の基本的なメカニズムだ。 この意味で、いまの日本経済の状態は異常なのだ。そしてこの状況は政策のいかんによって変えられるものだ』、日銀は昨日、イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用を柔軟化した。これにより「円安」には歯止めがかかる可能性もある。しばらく、今後の展開には注目したい。
タグ:日本の構造問題 (その29)(「このままだと日本経済は沈没するぞ」 海外投資家が三菱UFJのCFOに放った厳しすぎる本音、「誹謗中傷大国ニッポン」ゆがんだ正義を振りかざす日本人がいなくならない理由、世界競争力ランキングで日本は35位と過去最低に 「凋落」に耳をふさぐ本当の深刻さ) ダイヤモンド・オンライン 徳成旨亮氏による「「このままだと日本経済は沈没するぞ」 海外投資家が三菱UFJのCFOに放った厳しすぎる本音」 「日経平均は1989年の最高値を未だ更新できておらず」とあるが、6月13日にバブル後最高値を更新した。 「日本の将来を憂えて、安易に平等主義やきれいごとに流れるのではなく、有為な人材には最高の職場環境を用意し、必要な教育・研修の機会を与え、同時にとことん負荷をかけて高い成果やアウトプットを求め、アニマルスピリッツを刺激する処遇制度を用意し、企業価値を高めることが企業経営者の責務ではないか?」との「ファンドマネージャー」の指摘は的確だ。 「人間性の特質にもとづく不安定性……(中略)……おのずと湧きあがる楽観に左右されるという事実に起因する不安定がある。……(中略)……その決意のおそらく大部分は、ひとえに血気(アニマルスピリッツ)と呼ばれる、不活動よりは活動に駆り立てる人間本来の衝動の結果として行われるのであって、数量化された利得に数量化された確率を掛けた加重平均の結果として行われるものではない」、 「社会も企業も個人もリスク回避的になり、安全運転を重視して、成長戦略よりもコスト削減を優先してきた結果、今日の低成長と国際的な地位低下を招いたと考えられます。 また、こうした思考方法が数十年の長きにわたり続いたことから、世代を超えて、日本人および社会全体から「アニマルスピリッツ」が失われていったのだと考えることができます。 特に、本来楽観的思考やチャレンジ意欲をより持っているはずの若者世代が、人口減少や高齢化に伴う将来の生活不安、特に年金制度への不信から保守的になり、リスク回避的な行動を取るようになっていったことは、日本社会の活力をさらに失わせています」、なるほど。 「従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべきだ」という考え方を「金庫番思考」、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」という考え方を「CFO思考」と呼びます」、 「CFOは、投資家をはじめとする社外の多くのステークホルダー(利害関係者)に対しては、会社を代表してエンゲージメント・・・を行い、社内に対しては、ROE(自己資本利益率)に代表される投資家の期待・資本の論理や、ESG投資家や地域社会など、異なるステークホルダーの要望を社員にもわかるように翻訳して伝え、その期待を踏まえた経営戦略を立て、それを実践するよう組織に影響を与え行動を促す、という役割を担っています。 そして、「アニマルスピリッツ」をCEOなどほかの経営陣と共有し、「数値をベースにした冷静な判断力」を持って考え、企業としての夢の実現に向け行動する、いわば企業成長のエンジンの役割を果たしています」、こうした真のCFOがもっと増えてほしいものだ。 窪田順生氏による「「誹謗中傷大国ニッポン」ゆがんだ正義を振りかざす日本人がいなくならない理由」 「なぜこういう「ゆがんだ正義心」が生まれるのか。いろいろな意見があるだろうが、筆者は日本人が100年以上受けてきた「教育」の弊害だと考えている。 我々は物心ついた時から「ルールやマナーを守れ」「みんなに迷惑をかけるな」ということを骨の髄まで叩き込まれる。教育基本法や学校教育法の中に「規範意識の育成」ということが掲げられているからだ。もちろん、この方針自体は悪くない。 問題は「規範意識」に熱が入りすぎて「過剰」になってしまっていることだ。 ご存じの方も多いだろうが、日本の学校教育は世界的に見るとかなり特殊だ。異常に厳しいブラック校則、同じ制服、同じカバンの強制、軍隊的な部活動、そしてクラス内での「班」行動などなど、他国の子どもと比べて「規範意識の育成」を徹底的に叩き込まれる機会が多い。この「規範意識=絶対正義」という極端な教育方針を改めない限り、「誹謗中傷」は絶対になくならない」、なるほど。 「「量」に関しては、日本人はTwitterが世界一好きということが大きい。 22年1月の国別ユーザー数では、首位アメリカ(7690万人)に次いで日本は5895万人で世界第2位なのだが、ヘビーユーザーが圧倒的に多い。イーロン・マスク氏が先日、日本のユーザーの利用時間が世界一だとして「1人当たりの使用量だと米国の約3倍です」と述べたように、朝から晩までTwitterに何かを発信している人が世界一多いのだ。 「量」が世界一ならば当然、誹謗中傷も世界一多くなるだろう」、「「匿名文化」が誹謗中傷の「陰湿さ」に拍車をかけているのは、もはや説明の必要がないだろう。「死ね」「消えろ」「顔を見るのも不快」「気持ち悪い」などという心ない言葉を家族や隣近所、会社の同僚や上司の前で平気で言える人は少ない。しかし、自分の名前も素性も知らない人たちの前で、しかも見ず知らずの他人に対してならば、いくらでも罵詈雑言が吐けるという人はいる。 社会的地位も脅かされない、人間関係も崩れもないという「安全地帯」にいるからこそ、心ゆくまで陰湿な誹謗中傷ができて、相手を自殺に追い込むほどの粘着さも発揮してしまう、という部分は確かに存在しているのだ。 その醜悪な現実がうかがえるのが、「世界一の削除要求・開示請求」だ」、なるほど。 「「規範意識の育成」をやりすぎってしまった「副作用」だと筆者は考えている。 繰り返しになるが、この教育方針自体は素晴らしい。社会で生きていくうえでルールやマナーを守るのは当然だ。しかし、日本のようにこの教育があまりに過剰になって、国民の規範意識が高くなりすぎると、社会に「対立と分断」を招いてしまう。 「ルールやマナーを守らない人」「みんなに迷惑をかける人」への激しい怒りや憎悪が芽生えてしまうのだ。わかりやすいケースが戦時中の「非国民」へのすさまじい誹謗中傷とリンチだ」、「なぜこんなに当時の日本人は戦争に協力的だったのかというと、軍にマインドコントロールをされていたから…なんて大層な話ではなく、ごくシンプルに「教育」の成果だ」、なるほど。 「「教育勅語」でも、実は「規範意識の育成」は大きな柱となっている。と言っても、時代背景が違うので当時はこれを「遵法」と呼んだ。「法律や規則を守り社会の秩序に従おう」という意味だ。 戦前・戦中の子どもは「教育勅語」を暗唱させられて、この「遵法」を骨の髄まで叩き込まれた。すると、どういう大人に成長するのかというと、国が定めた法律やルールを守ることが「正義」であり、それができない者は「非国民」として怒りや憎悪を抱く人になってしまう。 「規範意識」が膨張して、「社会秩序を乱す悪」を制裁するための誹謗中傷や暴力は許される、という感じで、「正義の暴走」が始まるのだ」、「見た目は“化粧”されているが、本質的なところでは同じ教育が続いているので当然、「非国民へのリンチ」も健在だ。しかし、さすがに今はこん棒で殴り殺すというわけにはいかない。そこで「武器」をSNSに変えて、「死ね」「消えろ」というナイフのように鋭い言葉で相手の「心」をメッタ刺しするようになった、というのが筆者の考えだ」、なるほど。 「もし「誹謗中傷」を本気で防ぎたいのなら日本の「過剰な規範意識教育」と、それが引き起こす「正義の暴走」についてしっかりと考えるべきではないか」、その通りだ。 野口悠紀雄氏による「世界競争力ランキングで日本は35位と過去最低に、「凋落」に耳をふさぐ本当の深刻さ」 2023年の「世界競争力ランキング」 「1990年代の中頃までは世界でトップを争っていた日本が、なぜここまで凋落したのか。それには明確な理由がある」、どんな理由なのだろう。 「日本より上位には、これらのほかに、マレーシア、タイ、インドネシアなどの諸国がある。日本より下位にあるのはインドなど3カ国だけだ」、酷い凋落ぶりだ。 「「政府の政策が適切でないためにビジネスの効率性が低下する。その結果、全体としての競争力が低下する」という状況に、日本が落ち込んでしまっていることが分かる」、「政府」の責任は重大だ。 「デジタル化・・・を実現するための基本的な制度を日本政府は整備することができないのだ。 マイナ保険証のような技術的問題だけでなく、政治的な政策判断の問題もある。少子化対策のように効果が疑わしい政策に多額の資金を投入しようとしている。しかも、そのための財源措置を行なっていない。防衛費も増額はするが、安定した財源の手当てがされていない。 日本政府は迷走しているとしか言いようがない。 そして、このような無責任な政府に対して野党が有効なチェック機能を果たしていない」、「日本政府は迷走」、「野党が有効なチェック機能を果たしていない」、その通りだ。 「アイルランド」は「IT化に成功して90年代以降、奇跡的な経済成長を実現した。2023年の世界競争ランキングで同国は世界第2位だ」、ただ、日本経済ははるかに規模が大きいのが難しいところだ。 「日本人は、このように高い潜在的能力を持ちながら、それを発揮できない経済・社会環境に置かれてしまっているのだ」、困ったことだ。 日銀は昨日、イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用を柔軟化した。これにより「円安」には歯止めがかかる可能性もある。しばらく、今後の展開には注目したい。
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電子政府(その6)(デジタル人材必読 電子立国エストニアはこれだけすごい 安全保障によって鍛えられた歴史、役所のDXはなぜ難しい?行政にはびこる「絶対間違えられない」の呪縛、役所に残る「メールよりFAX」信仰 時代錯誤な住民の行政批判もDXの壁に) [経済政治動向]

電子政府については、2021年11月1日に取上げた。今日は、(その6)(デジタル人材必読 電子立国エストニアはこれだけすごい 安全保障によって鍛えられた歴史、役所のDXはなぜ難しい?行政にはびこる「絶対間違えられない」の呪縛、役所に残る「メールよりFAX」信仰 時代錯誤な住民の行政批判もDXの壁に)である。

先ずは、昨年2月2日付けWedge ONLINEが掲載した中曽根康弘世界平和研究所 主任研究員の大澤 淳氏による「デジタル人材必読 電子立国エストニアはこれだけすごい 安全保障によって鍛えられた歴史」を紹介しよう。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/25609
・『バルト三国の一番北に位置するエストニアは、森と湖が国土の大半を占める平坦な国である。人口約132万人、国土面積は約4万5000平方キロメートルで、例えるなら、関東地方と新潟県を合わせた広さの土地に、さいたま市と同じ人口が暮らしている。 1918年にロシアから独立したが、40年にソビエト連邦に占領・編入された苦難の歴史がある。89年の東欧の民主化の波をうけ、91年に独立を回復した。 エストニアの首都タリンは、写真のように中世ハンザ都市の面影を強く残していて、観光で訪れる日本人が持つ第一印象は恐らく、「おとぎ話の舞台のような北欧」というものであろう。世界遺産に登録されているタリンの旧市街を歩けば、ドイツ騎士団領時代に建設された丸い塔が特徴のヴィル門や、ロシア統治時代に建設されたタマネギ型のドームが印象的なアレクサンドル・ネフスキー大聖堂があり、大国に翻弄されてきたこの国の歴史を感じることができる』、普段縁がない「エストニア」とは興味深そうだ。
・『道路にパーキング・メーターがない理由  街の中を一見しただけでは、この小国エストニアが、世界最先端の「電子立国」であることを見逃してしまうだろう。だが、街路で目をこらして見ると、世界の大都市によくあるパーキング・メーターがないことに気がつく。 駐車スペースと思われる道端には、駐車区域コードと駐車料金が記載されたPのマークの看板が設置されている。看板には、「m-pakimine」すなわち「モバイル・パーキング」との表示がある。 駐車するドライバーは、スマホから位置情報アプリかショートメッセージサービス(SMS)で区域コードを送信して駐車登録を行い、出発する際に駐車登録を解除する。小銭を取り出して料金を支払う必要はなく、月末に携帯電話料金と共に利用者の銀行口座から引き落とされる。m-パーキングでは、利用者の本人確認、車両登録情報、位置情報、携帯電話情報、銀行口座情報のデータが、瞬時に行政機関や通信事業者のサーバー間で交換されている』、「モバイル・パーキング」は確かに便利そうだ。
・『北欧の「電子立国」エストニア  エストニアは、「e-Estonia」を掲げ、世界で最先端の「電子立国」を実現している。電子サービスは、m-パーキング以外にも、e-タックス、e-スクール、e-チケット、i-投票、e-警察、e-司法、e-医療、e-処方箋、e-土地登記簿、e-ビジネス(企業登録)、e-バンキングなどほぼすべての公的サービスに広がっている。 例えば、申告の95%がオンラインで行われているe-タックスでは、納税者の1年間の収入・控除などが自動集計され、納税者はシステムにログインして、自分のデータを確認・修正して電子署名を承認するだけで、3〜5分で申告が終了する。その他、処方箋の98%、銀行取引の99.8%、駐車料金の90%がオンライン経由で行われており、行政サービスの99%はオンラインで提供され、24時間365日利用可能である』、「行政サービスの99%はオンラインで提供され、24時間365日利用可能である」、これは便利だ。
・『「電子立国」を支える2つの基盤技術  エストニアの「電子立国」を支える最も重要な基盤が、安全なeID(デジタル身分証)と安全が担保されたX-Road(データ交換基盤)である。エストニアのIDカードは、日本のマイナンバーカードと同様のもので、個人識別コード、eID(デンタル本人確認証明書、暗号化証明書、電子署名証明書)が格納されている。 2002年に導入されたeIDは、プラステック製のIDカード専用の読取り装置か携帯電話のSIM(モバイルIDを入れた特別なもの)経由でも利用が可能である』、「eIDは、プラステック製のIDカード専用の読取り装置か携帯電話のSIM・・・経由でも利用が可能」、なるほど。
・『普及のためなら高齢者に何度も説明  このIDカードの普及率はなんと驚きの98%である。筆者はエストニア政府の担当者に「普及の秘訣は何ですか。高齢の方にどうやって納得してもらったのですか?」と質問する機会があったが、「落伍者を一人も出さないという目標を掲げ、街頭での普及活動に加え、高齢者のご家族にも説明を手伝ってもらい、必要なら担当者が何度も森の中のお宅に出向いて説明した」との答えが返ってきた。 エストニアの「電子立国」は、とことん国民に寄り添い、国民生活を楽に、便利にすることに主眼が置かれている。カードの普及率を上げることが目的化し、2兆円近い税金を使ってポイントで釣る日本のやり方は、再考の余地がある。 「電子立国」のもう1つの基盤X-Roadは、規格化された分散型のデータ交換基盤で、01年に政府により導入された。データベースを統合して1つにすると効率的だが、天変地異やサイバー攻撃で破壊されてしまえば、すべてのデータが消失するリスクがある。そのため、データベースを分散し、データベース間を安全につなぐことにしたのである。 X-Roadはインターネット通信プロトコル(TCP/IP)ベースで、インターネットを介してデータを交換する。そのため、データベースとX-Roadの間にセキュリティサーバーを置き、交換されるデータを暗号化して通信を行っている。また、それぞれのデータベースへのアクセスには、正当なアクセスであるユーザー認証を認証局から得る必要があり、不正なアクセスや情報漏洩が起こらない仕組みを構築している。昨今セキュリティ業界では「ゼロトラスト(何も信用せずにセキュリティ対策を講ずる)」が流行だが、エストニアのX-Roadは、20年前からゼロトラストの思想で設計されている』、「エストニアのX-Roadは、20年前からゼロトラストの思想で設計されている」、ずいぶん先進的だったようだ。
・『基盤を支える「暗号アルゴリズム」  「電子立国」の基盤であるeIDとX-Roadの安心・安全を担保しているのが、権限を持つ本人であるかどうかをデジタルで証明する技術(アナログ社会の日本ならハンコと印鑑と印鑑証明にあたる)と、漏洩や改ざんされずにデータをやりとりできる技術(封書と書留にあたる)となる。この2つの技術の土台となるのが、「暗号アルゴリズム」である。 「暗号アルゴリズム」は、情報の暗号化や復号を行うための手順や計算式を定めたルールのことで、忍者の「山」「川」といった合言葉や真珠湾攻撃の開戦を指示した暗号電報「ニイタカヤマノボレ」も事前に意味が合意されたルールであり、暗号アルゴリズムの一種である。例をあげて簡単に説明すれば、文字を2文字後ろにずらすルール(アルゴリズム)を使うと、「ABC」という通信は「CDE」となり、「DOG(犬)」という内容も「FQI」という全く意味不明の通信となり、アルゴリズムを知らない他人には通信内容がわからなくなる。) 現在では、上記の例のようなルール(鍵)を共有する「共通鍵暗号」と、暗号化ルール(公開鍵)と複合化ルール(秘密鍵)をセットにした「公開鍵暗号」の両方が使われている。公開鍵暗号は、ルールを事前に共有しなくても暗号通信のやりとりができるため、ネット時代のデジタル社会を支える技術基盤になっており、エストニアでも公開鍵基盤が政府によって運営されている』、なるほど。
・『起源はソビエト支配時代の研究開発  人口132万人の小国エストニアが、最先端の「暗号アルゴリズム」を用いた「電子立国」を、どのようにして世界に先駆けて実現できたのか。その答えは、ソビエト支配時代の科学技術開発にさかのぼる。 もともと、エストニアの首都タリンには、1918年にタリン工科大学が設立され、電気工学などの学問が盛んであった。そのような人的基盤を元に、60年にサイバネティクス研究所が設立された。同研究所では、自動制御、プログラミング、アルゴリズム、ソフトウェア開発が行われ、70年代末には500人の研究者が在籍していた。 エストニアのコンピューター科学の父といわれるEnn Tõugu教授も、当時研究所の一員で、ソフトウェア工学を研究する研究室を78年に研究所内に開いている。このサイバネティクス研究所は、閉鎖的なソビエトの科学技術開発の中で、珍しく西側に交流の窓が開かれており、スウェーデンやフィンランドの研究者との交流を通じて、エストニアが最先端のコンピューター科学の技術力を保持する母体となった。このサイバネティクス研究所からは、暗号アルゴリズムを専門とするCybernetica社が民間企業として97年に独立し、政府と一体となってエストニアのX-Roadや認証技術の開発を担っている』、「サイバネティクス研究所は、閉鎖的なソビエトの科学技術開発の中で、珍しく西側に交流の窓が開かれており、スウェーデンやフィンランドの研究者との交流を通じて、エストニアが最先端のコンピューター科学の技術力を保持する母体となった」、こうした恵まれた基盤があったようだ。
・『安全保障が鍛える「電子立国」の技術  このエストニアの「電子立国」の基盤技術は、その後厳しい安全保障環境の中で鍛えられていくこととなる。30カ国が加盟する北大西洋条約機構(NATO)の中でも、国境を直にロシアと接しているのは、エストニアも含めわずか5カ国にすぎず、その中でもエストニア−ロシア国境が294キロと最も長い。エストニアはNATOの最前線に位置するが、それはサイバー空間でも同じである。 2007年4月、エストニア政府、議会、金融機関、メディアなどがDDoS(分散型サービス拒否)を用いた機能妨害型のサイバー攻撃に襲われ、市民生活に大きな影響が生じた。一国を標的とした世界初めての大規模なサイバー攻撃で、世界に衝撃が走った。 エストニア政府はこのサイバー攻撃の教訓から、X-Roadで交換される重要なデータについて、「データの完全性(データが改ざんされていないこと)」をブロックチェーン技術で担保する技術開発を、翌08年に着手した。現在、この技術が、医療、土地登記、企業登記、政府公告などで使われている』、「エストニア政府はこのサイバー攻撃の教訓から、X-Roadで交換される重要なデータについて、「データの完全性・・・」をブロックチェーン技術で担保する技術開発を、翌08年に着手した。現在、この技術が、医療、土地登記、企業登記、政府公告などで使われている」、「サイバー攻撃の教訓から」、「ブロックチェーン技術で担保する技術」で鉄壁の防護体制を築いたとは大したものだ。
・『領土が侵略されてもデータは守る  14年には、ロシアがウクライナを侵攻し、クリミア半島を奪取した。クリミア紛争では、サイバー戦と軍事侵攻が同時に行われ、「ハイブリッド戦」が注目されるようになった。これを受け、エストニア政府は、「電子立国」の究極の安全保障政策として、Data Embassy(データ大使館)構想を15年から実行に移している。) 先に述べたように、エストニアは歴史的に何度も大国の侵略に遭い、国土を蹂躙された経験を有している。そのため万が一、「物理的に領土が侵略されても、国民とその財産である国民のデータを守る覚悟」をもって、Data Embassy構想を進めている。 Data Embassyは、国外の第三国との間で、外交使節に関するウィーン条約第22条(使節団の公館は不可侵)の覚え書きを交換し、当該国に設置するサーバーにも公館不可侵の原則を適用してもらい、エストニア政府が保管する国民のデータのバックアップを、当該国のサーバー(Data Embassy)に保存するという構想である。 17年にルクセンブルグとの間で覚書が調印され、最初のData Embassyがルクセンブルク国内のデータセンターに設置された。その他にも、場所は明らかにされていないが、複数の国で同様のData Embassyが設置されている』、「Data Embassyは、国外の第三国との間で、外交使節に関するウィーン条約第22条・・・の覚え書きを交換し、当該国に設置するサーバーにも公館不可侵の原則を適用してもらい、エストニア政府が保管する国民のデータのバックアップを、当該国のサーバー(Data Embassy)に保存するという構想である。 17年にルクセンブルグとの間で覚書が調印され、最初のData Embassyがルクセンブルク国内のデータセンターに設置された」、「データ大使館」とは興味深い発想だ。
・『持つべき安全保障への覚悟  筆者がエストニアを訪問した際に、この構想についての「覚悟」を説明してくれたエストニア政府高官は、「攻めてくるのは隣の大きな熊(ロシア)ですよね?」という私の質問に対して、「明日にも宇宙人がやってくるかもしれないでしょ」といたずらっぽい目をして答えてくれた。 「どんなことがあっても、サイバー空間で国家を存続させる」と語る彼の口調からは、エストニアが置かれた安全保障環境の厳しさと、それに立ち向かって、国民の生命と財産を技術で守り抜くという真剣な覚悟が痛いほど伝わってきた。「電子立国」を成り立たせるために、そういった安全保障の覚悟があることをわれわれ日本人は真摯に受け止める必要がある。 『Wedge』2021年12月号で「日常から国家まで 今日はあなたが狙われる」を特集しております。 いまやすべての人間と国家が、サイバー攻撃の対象となっている。国境のないネット空間で、日々ハッカーたちが蠢き、さまざまな手で忍び寄る。その背後には誰がいるのか。彼らの狙いは何か。その影響はどこまで拡がるのか─。われわれが日々使うデバイスから、企業の情報・技術管理、そして国家の安全保障へ。すべてが繋がる便利な時代に、国を揺るがす脅威もまた、すべてに繋がっている。 特集はWedge Online Premiumにてご購入することができます』、「エストニアが置かれた安全保障環境の厳しさと、それに立ち向かって、国民の生命と財産を技術で守り抜くという真剣な覚悟」、我々も見習うべきだろう。

次に、昨年5月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの酒井真弓氏による「役所のDXはなぜ難しい?行政にはびこる「絶対間違えられない」の呪縛」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/302583
・『日本の役所には「自分たちは間違えてはいけない、間違わないために前例を踏襲する」という考えが浸透している。実際には日々テクノロジーの進化によって、より良いモノや手法が生まれているのに、「間違ったことをしてはいけない」という概念にとらわれすぎて、前例踏襲主義から抜け出せない。そんな行政を変える動きが、少しずつだが生まれている』、「前例踏襲主義から抜け出」そうとする動きが出てきたとは結構なことだ。
・『牧島かれんデジタル大臣が語った「無謬性神話からの脱却とアジャイル」とは  「無謬(むびゅう)性神話からの脱却」 牧島かれんデジタル大臣は、柔軟に政策の見直し・改善を行っていく「アジャイル型政策形成・評価の在り方に関するワーキンググループ」の立ち上げに際し、そう語った。 無謬とは、理論や判断に間違いがないこと。日本の政府や官僚組織には無意識のうちにこの無謬性神話にとりつかれている人が多い。自分たちは間違えてはいけない、間違わないために前例をきちんと守る……。 一方、アジャイルとは、「仕様や設計には変更がある」ということを前提に、最初から厳格な仕様を決めず、より良い姿を目指して臨機応変に形を変えていく開発スタイルだ。初めに仕様を決め、決められた工程を順に進めていくウォーターフォール型と比較して、市場環境やニーズの変化に柔軟に対応できるとして、取り入れる企業も増えている。 行政で働く人たちにも「本当はこうしたい」という思いがある。しかし、「間違ったことをしてはいけない」という概念にとらわれすぎて、前例踏襲主義から抜け出せない。リスクを取って変えたところで、失敗したら評価が下がる。時には建設的とは言えない批判に日常業務が圧迫されることもある。重要な決断が先延ばしにされ、新型コロナのような緊急事態での対応を遅らせる元凶は、無謬性を追い求めるがゆえの硬直した考え方にある。 時代の流れは速く、複雑性も増している。まずはスピード感を持って政策を投入し、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング:証拠に基づく政策立案)に則って早い段階で見直し、改善を重ねていくこともできるのではないか。) 無謬性神話から脱却して、アジャイルで政策を形成し、評価するというのは非常に難しい。しかし牧島さんは、「コロナ禍でアジャイルのモデルケースができた」と語る。ワクチン接種記録システム(VRS)によって接種状況が可視化され、実際の数字と現場の声を掛け合わせ、柔軟に改善を図ることができたという。こうした動きは、霞が関のみならず、企業のDXにも一石を投じるもののように思う』、「「コロナ禍でアジャイルのモデルケースができた」と語る。ワクチン接種記録システム(VRS)によって接種状況が可視化され、実際の数字と現場の声を掛け合わせ、柔軟に改善を図ることができたという」、なるほど。
・『ある地方自治体の行政パーソンの胸の内  牧島さんの話に深く共感する人がいた。 民間企業から、ある地方自治体のIT担当者に転身したAさんは、一歩引いた目線で「間違いがないことは、行政パーソンが一番大事にしていること。理念に近い」と語る。一方で、IT担当者として何かを変えようとすると、その無謬性が足かせになることがあるという。Aさんは「中の人」になって初めて、行政パーソンが抱える苦しさを知ったという。 まず、着任して早々、Aさんは驚いた。仕事で使うパソコンから、直接インターネットに接続できなかったのだ』、「行政」だけでなく、銀行・証券でも「直接インターネットに接続でき」る端末は例外的だ。
・『自治体がインターネットにつながらなくなった理由  これは、2016年に始まった「三層の対策」(三層分離)に起因する。三層の対策とは、2015年、日本年金機構が不正アクセスを受け、個人情報の一部が流出した事件を機に、総務省の要請によって進められたセキュリティ強化策だ。自治体のネットワークを、通常業務で使用するLGWAN(総合行政ネットワーク)接続系、マイナンバーに関わる業務を行うための個人番号利用事務系、インターネット接続系の3つに分離し、セキュリティを高めるといったアプローチだ。 狙い通り、インシデント数は大幅に減少した。しかし、全国約1700の自治体のほとんどが、業務端末から直接インターネットに接続できなくなり、業務効率の低下につながってしまった。 2016年といえば、世間では若年層のスマホ保有率が8割を超え、クラウドも当たり前の時代にシフトしていた。そんな中、自治体はインターネットからある意味切り離され、情報収集したくても、手間がかかるようになってしまったのだ。 三層の対策は、2020年に総務省が見直しを表明したものの、各自治体に深く影響が残っている。今は、世界中で何十億人が使うアプリと、行政のアプリのUI/UXが同じ土俵で比べられてしまう時代だ。行政パーソンもそれをひしひしと感じている。しかし、多くの自治体は、直接インターネットに接続できないがゆえ、クラウドサービスの利用に制約がかかっている状態。UI/UXを改善する以前に、自分たちが優れたサービスを使って、「今どきのワークスタイルとはこういうものだ」と実感するのも難しいのが実情なのだ。 Aさんは、「インターネット接続の課題が改善されない限り、自治体のDXは進まない」と語る。いくら民間から新しい風を入れ、改善に動いても、技術的な制約によって早々に足止めをくらってしまう。これは、どの自治体にも共通する課題だ。それに、「インターネット」を他に置き換えれば、多くの企業で同じような現象が起きているのではないだろうか』、「多くの自治体は、直接インターネットに接続できないがゆえ、クラウドサービスの利用に制約がかかっている状態。UI/UXを改善する以前に、自分たちが優れたサービスを使って、「今どきのワークスタイルとはこういうものだ」と実感するのも難しいのが実情なのだ」、なるほど。
・『ミスをすることが、なぜこんなにも重いのか  AさんがIT担当者として初めに着手したのは、メールの誤送信対策として続けてきたPPAP(パスワード付き圧縮ファイル)と送信遅延の廃止だった。 次にAさんは、Bcc強制変換を廃止しようとした。Bcc強制変換とは、宛先に大量の外部宛てメールアドレスを指定した場合、強制的に「Bcc」(ブラインドカーボンコピー。複数の利用者宛にメールを同時送信する際、受取人以外の送信先メールアドレスを伏せること)に自動変換する機能のことだ。誤送信や個人情報漏えいを防ぐために導入している自治体は多いのだが、受信側は、返信の際に一つ一つメールアドレスを入れ直す必要があり、かなりの手間がかかっていた。 Aさんは、Bcc強制変換の廃止も受け入れられるだろうと思っていた。しかし、役所内からは「個人情報の保護を優先すべきだ」という声が上がった。自分たちの利便性向上よりも、セキュリティや個人情報保護を優先する背景には、「ミスによって市民からの信頼を失ってはならない」という責任感が垣間見えた。改革には、そこで働く人たちが大切にしてきたことへの共感やリスペクトが必要だ。Aさんにとってはこれが、行政パーソンが何を大事に業務に取り組んできたかを最初に実感した出来事だったという。 「民間企業として自治体と仕事をしてきたので、自治体の働き方、考え方についてそこそこ理解しているつもりでした。しかし、この一年で、何も分かっていなかったということがよく分かりました。本当のところは、中に入ってみないと分からないものですね」(Aさん)) 無謬性にとらわれているのは行政だけではない。Aさんは今、一部の業務がスマホでもできるよう準備を進めているのだが、業務時間中にスマホを見ていると、市民から「仕事中にスマホを触るとは何事だ」と電話が入ったという。 適切な時代認識を持たない一部の市民やメディアが本質からずれた批判をすることで、行政はさらに息苦しくなっていく。自分たちは間違えてはいけない。それが根底にあるからこそ真に受けて、変わることをやめてしまう』、「一部の市民やメディアが本質からずれた批判をすることで、行政はさらに息苦しくなっていく」、仮にそうした「本質からずれた批判」を受けたら、「行政」は遠慮せずに堂々と申し開きをすべきだ。
・『役所の変革こそ一筋縄ではいかない  行政を取材すると、「役所の変革こそ一筋縄ではいかない」という声を聞く。何かを変えようとすれば、受け継いだ政策をまずは「是」とするのが役人のイロハだと、役人としての資質を問われることになる。 冒頭の答弁で、牧島かれんデジタル大臣は、「企業の常識が霞が関の常識になっていない」と指摘した。「まずはデジタル庁が無謬性にとらわれず、新たなショーケースとなり、他の省庁にも展開しやすくしていきたい」という。 適切な時代認識とともに、世の中の当たり前を霞が関の当たり前に。そして、自治体の当たり前に。今がその分水嶺だ』、「「まずはデジタル庁が無謬性にとらわれず、新たなショーケースとなり・・・」とあるが、現実にはマイナンバーカ-ド問題で、てんやわんやでそれどころではなさそうだ。

第三に、昨年5月11日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの酒井真弓氏による「役所に残る「メールよりFAX」信仰、時代錯誤な住民の行政批判もDXの壁に」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/302975
・『日本のDXが進まないと言われて久しいが、一般企業以上に進んでいないのが行政のDXだ。行政のDXを妨げる要因はどこにあるのか。「役所は遅れている」と批判する前に、自治体を取り巻く閉塞感の正体と、私たち住民ができることを考えてみたい』、興味深そうだ。
・『90年代のパソコン環境のままで、時が止まっている  前回、『役所のDXはなぜ難しい?行政にはびこる「絶対間違えられない」の呪縛』では、実例を踏まえ、行政のDXを妨げる要因に触れた。まずは、なぜ多くの自治体が、いまだに電話やFAX、紙をベースに業務を進めているのか考えてみたい。 1995年、Windows 95によってパソコン画面に色や絵が表示されるようになり、1996年にはInternet ExplorerやOutlook Expressが登場し、今に続くコミュニケーションの基礎ができあがった。自治体のIT環境やベースとなる考え方は、ほとんどこの時点で止まっている。この時期に決められたルール、導入した機器やソフトウエアが脈々と受け継がれているのだ。 市や町では、パソコンが1人1台支給されていないケースもある。支給されていたとしても、すぐにフリーズしてしまうような古いパソコンを大切に使い続けていたりする。ウェブ会議用のカメラが付いていないことも多く、ウェブ会議ツールのライセンスが部署ごとにしか発行されていなかったりもする。自治体とのウェブ会議では一つの画面に何人か収まっていることがあるのだが、そういう理由かもしれない。) 加えて、前回も紹介したインターネット接続の課題だ。2016年に総務省の要請で始まったセキュリティー強化策「三層の対策」により、全国約1700ほとんどの自治体が、業務で使うパソコンから直接インターネットに接続できなくなった。一般企業では考えられないことだが、行政のDXを考える上では念頭に置くべき制約だ。 三層の対策は、2020年に総務省から見直しが表明されているものの、現場では尾を引いている。過度なセキュリティー対策に加え、「インターネットは危険なもの」という認識から迷信も根強く残る。一部の自治体で「メールよりFAXのほうが安全」と言われるのもその一つだ』、「FAX」信仰の強さには、「メールよりFAXのほうが安全」との「迷信」が影響しているとは、やれやれだ。
・『自治体のDXを妨げる4つの要因  一方で、自治体で働く人の多くが、私生活ではデジタルに慣れ親しんでいる。ギャップを知っているからこそ、庁内のパソコンを積極的に使おうとは思わない。すぐにフリーズするから最低限の機能を残して停止するし、会議は紙の資料で進んでいく。税金を使っている以上は最低限のスペックでというが、最低限のスペックとは時代とともに変化するものだ。民間企業の「普通」を享受することは、決してぜいたくではない。 自治体のDXを妨げる要因をかなり抽象化すると、大きく以下の4つに分けられそうだ。 (1)前時代的なIT環境(予算や政策との兼ね合いもある) (2)失敗を恐れる文化(4の原因となる場合もある) (3)年功序列・終身雇用(長い下積みや人材流動性の低さ) (4)意思決定と事業推進の遅さ(3による中間管理職層の厚さもその理由) これらは互いに影響し合っている。いくら(2)(3)(4)の改善に動いても、インターネット接続の課題を解決しない限り、技術的制約によって足止めをくらってしまう。民間から優秀なIT人材を採用しても、実力を発揮する以前の問題で去っていくということが起こり得るのだ』、「いくら(2)(3)(4)の改善に動いても、インターネット接続の課題を解決しない限り、技術的制約によって足止めをくらってしまう」、つまり(1)の問題が大きいようだ。
・『安易な行政批判やクレームがもたらすもの  既存のやり方を否定することが改善につながるかというと、そうではない。「間違ったことをして信頼を失ってはいけない」というコンテクストに背を向けて、失敗を恐れる文化を頭ごなしに批判したり、アジャイルを訴えたりしても、平行線をたどるのは目に見えている。 また、前回の記事では、Aさんが、スマホでも一部の業務が進められるよう準備を始めたところ、市民から「仕事中にスマホを触るとは何事だ」とクレームが入ったというエピソードを紹介した。 行政のDXが進まない原因は、適切な時代認識を持たない一部の住民やメディアにもある。民間企業なら無視できることも、行政では難しい。自己流の正義を振りかざす人たちは、自分たちの声で進化が止まってしまう可能性を考えたことがあるだろうか。どうか仕事の邪魔をしないであげてほしい。 実は地方公共団体の職員数は、1994年をピークに大幅に削減されている。これには地方財政の健全化、定員や給与の適正化、民間委託の推進などが関係しているが、今後は、なり手の減少によって行政サービスの維持すら厳しくなる自治体も出てくるだろう。業務効率化は急務だ。 事実、多くの自治体が人材確保に苦労している。「なりたい職業ランキング」では常に上位、人気の職業という印象の公務員だが、近年、定員割れや内定辞退が相次いでいる。北海道庁では、2017年から2年連続で内定辞退率が6割を超えて話題となった。コロナ禍で志願者は微増しているものの、一時的である可能性は高い。 さらに定着率を高めるには、働く人たちの満足度を高める必要がある。昨今、一部の民間企業では、従業員満足度の向上が生産性を高めるとして、EX(Employee Experience)の改善に取り組んでいる。行政には、地域や住民に貢献したいと志して入った人が多いだろう。だが、人を幸せにする前に、役所で働く人たち自身が幸せであってほしい。ただの「やりがい搾取」ではなく、働く環境や評価、待遇など、後回しにしてきた多くのことを見直す時期にさしかかっているのだ』、「働く環境や評価、待遇など、後回しにしてきた多くのことを見直す時期にさしかかっているのだ」、その通りだ。
・『役所から見て、住民は「顧客」なのか?  行政で働く人は、住民を「顧客」と表現することがある。これは、行政サービスをより良くするために必要な心がけかもしれない。だが、筆者はスマートシティーを取材して「それって本当はちょっと違うのかも」と思った。 スマートシティーを推進する静岡県浜松市は、「アジャイル型の街づくり」を掲げ、トライ&エラーを繰り返すことで変化に強い街づくりを進めている。担当者は、「まずはベータ版でPoC(概念実証)を回し、市民の皆さんの反応を見て改善していきたい」と語ってくれた。 はっとした。スマートシティーとはコミュニティーであって、住民がサービスを享受するだけのお客様では成立しないのだ。自治体も同じだ。私たち住民の理解と協力なしに、行政のDXは成し遂げられない』、「自治体も同じだ。私たち住民の理解と協力なしに、行政のDXは成し遂げられない」、その通りだ。
・『必要なのは住民と自治体の共創、自治体自身がもっと発信すべき  国内でも、住民と自治体の共創が少しずつ始まっている。代表的なのが、市民が協力して主体的に行政サービスの課題を解決していく「Civic Tech」だ。 行政側では、経済産業省の「PoliPoli Gov」や、デジタル庁の「アイデアボックス」、香川県高松市の「たかまつアイデアFACTORY」など、住民の声を可視化する取り組みが始まっている。重要なのは、意見募集にとどまらず、改善に向けた対応、結果や展望も含め、行政側の活動も可視化されることだ。こうした動きが見えないと、住民が主体性を保ち続けるのは難しい。 何より自治体は、自分たちを取り巻く課題を自ら発信してほしい。本当の共創は、住民が課題を知るところから始まる。批判を恐れて言えないとか、「自治体ってこういうものだから」と諦めてしまっている部分もあると思う。それでも、自治体は何に苦しみ、本当はどうしたいのか教えてほしい。そうでなければ、味方になってくれる人を振り向かせることすらできないのだから』、「何より自治体は、自分たちを取り巻く課題を自ら発信してほしい。本当の共創は、住民が課題を知るところから始まる。批判を恐れて言えないとか、「自治体ってこういうものだから」と諦めてしまっている部分もあると思う。それでも、自治体は何に苦しみ、本当はどうしたいのか教えてほしい。そうでなければ、味方になってくれる人を振り向かせることすらできないのだから」、同感である。
タグ:大澤 淳氏による「デジタル人材必読 電子立国エストニアはこれだけすごい 安全保障によって鍛えられた歴史」 「行政サービスの99%はオンラインで提供され、24時間365日利用可能である」、これは便利だ。 「モバイル・パーキング」は確かに便利そうだ。 Wedge Online (その6)(デジタル人材必読 電子立国エストニアはこれだけすごい 安全保障によって鍛えられた歴史、役所のDXはなぜ難しい?行政にはびこる「絶対間違えられない」の呪縛、役所に残る「メールよりFAX」信仰 時代錯誤な住民の行政批判もDXの壁に) 電子政府 普段縁がない「エストニア」とは興味深そうだ。 「eIDは、プラステック製のIDカード専用の読取り装置か携帯電話のSIM・・・経由でも利用が可能」、なるほど。 「エストニアのX-Roadは、20年前からゼロトラストの思想で設計されている」、ずいぶん先進的だったようだ。 「サイバネティクス研究所は、閉鎖的なソビエトの科学技術開発の中で、珍しく西側に交流の窓が開かれており、スウェーデンやフィンランドの研究者との交流を通じて、エストニアが最先端のコンピューター科学の技術力を保持する母体となった」、こうした恵まれた基盤があったようだ。 「エストニア政府はこのサイバー攻撃の教訓から、X-Roadで交換される重要なデータについて、「データの完全性・・・」をブロックチェーン技術で担保する技術開発を、翌08年に着手した。現在、この技術が、医療、土地登記、企業登記、政府公告などで使われている」、「サイバー攻撃の教訓から」、「ブロックチェーン技術で担保する技術」で鉄壁の防護体制を築いたとは大したものだ。 「Data Embassyは、国外の第三国との間で、外交使節に関するウィーン条約第22条・・・の覚え書きを交換し、当該国に設置するサーバーにも公館不可侵の原則を適用してもらい、エストニア政府が保管する国民のデータのバックアップを、当該国のサーバー(Data Embassy)に保存するという構想である。 17年にルクセンブルグとの間で覚書が調印され、最初のData Embassyがルクセンブルク国内のデータセンターに設置された」、「データ大使館」とは興味深い発想だ。 「エストニアが置かれた安全保障環境の厳しさと、それに立ち向かって、国民の生命と財産を技術で守り抜くという真剣な覚悟」、我々も見習うべきだろう。 ダイヤモンド・オンライン 酒井真弓氏による「役所のDXはなぜ難しい?行政にはびこる「絶対間違えられない」の呪縛」 「前例踏襲主義から抜け出」そうとする動きが出てきたとは結構なことだ。 「「コロナ禍でアジャイルのモデルケースができた」と語る。ワクチン接種記録システム(VRS)によって接種状況が可視化され、実際の数字と現場の声を掛け合わせ、柔軟に改善を図ることができたという」、なるほど。 「行政」だけでなく、銀行・証券でも「直接インターネットに接続でき」る端末は例外的だ。 「多くの自治体は、直接インターネットに接続できないがゆえ、クラウドサービスの利用に制約がかかっている状態。UI/UXを改善する以前に、自分たちが優れたサービスを使って、「今どきのワークスタイルとはこういうものだ」と実感するのも難しいのが実情なのだ」、なるほど。 「一部の市民やメディアが本質からずれた批判をすることで、行政はさらに息苦しくなっていく」、仮にそうした「本質からずれた批判」を受けたら、「行政」は遠慮せずに堂々と申し開きをすべきだ。 「「まずはデジタル庁が無謬性にとらわれず、新たなショーケースとなり・・・」とあるが、現実にはマイナンバーカ-ド問題で、てんやわんやでそれどころではなさそうだ。 酒井真弓氏による「役所に残る「メールよりFAX」信仰、時代錯誤な住民の行政批判もDXの壁に」 「FAX」信仰の強さには、「メールよりFAXのほうが安全」との「迷信」が影響しているとは、やれやれだ。 「いくら(2)(3)(4)の改善に動いても、インターネット接続の課題を解決しない限り、技術的制約によって足止めをくらってしまう」、つまり(1)の問題が大きいようだ。 「働く環境や評価、待遇など、後回しにしてきた多くのことを見直す時期にさしかかっているのだ」、その通りだ。 「自治体も同じだ。私たち住民の理解と協力なしに、行政のDXは成し遂げられない」、その通りだ。 「何より自治体は、自分たちを取り巻く課題を自ら発信してほしい。本当の共創は、住民が課題を知るところから始まる。批判を恐れて言えないとか、「自治体ってこういうものだから」と諦めてしまっている部分もあると思う。それでも、自治体は何に苦しみ、本当はどうしたいのか教えてほしい。そうでなければ、味方になってくれる人を振り向かせることすらできないのだから」、同感である。
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働き方改革(その40)(たった1カ月で「新入社員」半分退職まさかの原因 「採用コスト」は例年の5倍かけたのになぜ?、「もう48連勤ですよ!?」「休日手当は払ってる」社員vs会社…アウト、セーフどっち?、日本人の仕事満足度「わずか5%」で世界最低!賃上げの他に必要な改革とは?) [経済政治動向]

働き方改革については、本年4月5日に取上げた。今日は、(その40)(たった1カ月で「新入社員」半分退職まさかの原因 「採用コスト」は例年の5倍かけたのになぜ?、「もう48連勤ですよ!?」「休日手当は払ってる」社員vs会社…アウト、セーフどっち?、日本人の仕事満足度「わずか5%」で世界最低!賃上げの他に必要な改革とは?)である。

先ずは、本年5月16日付け東洋経済オンラインが掲載した経営コラムニストの横山 信弘氏による「たった1カ月で「新入社員」半分退職まさかの原因 「採用コスト」は例年の5倍かけたのになぜ?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/671389
・『たった1カ月で新入社員の半分が辞めてしまうとは……。 たった1カ月で新入社員の半分が辞めてしまうとは……。 今回は、ある会社が「働きがい」のある職場を目指した結果、新入社員の半分が辞めてしまった事例を紹介する。 昨今、突如として「働きがい」という言葉を使って採用活動に励む会社が増えている。会社に興味を持ち応募する人が多くなるからだろう。しかし、気をつけたほうがいい。言葉を正しく理解していないと、採用の努力が無駄になることがある。 AI時代になり、ますます「働きがい」を誤解して使ってはならないと強く感じるようになった。特に採用活動の責任者、新入社員を引き受ける職場の責任者は、まだ働いていない若者を勘違いさせないためにも、この会社の失敗から学んでもらいたいと思う』、「昨今、突如として「働きがい」という言葉を使って採用活動に励む会社が増えている。会社に興味を持ち応募する人が多くなるからだろう。しかし、気をつけたほうがいい。言葉を正しく理解していないと、採用の努力が無駄になることがある」、確かにその通りだ。
・『新入社員の半分が1カ月で退職!大失敗の原因  新入社員8人のうち4人が、たった1カ月で辞めた会社がある。 なぜ、そんなことが起こったのか?背後には、将来の幹部候補を求める社長の強い要望があった。 通常は年間2~3人の採用をしていた。だが、社長の命令で例年の5倍の採用コストと1年間の入念な準備を経て、例年より多くの新卒を採用しようとした。 結果、8人の優秀な新入社員が入社した。当初、社長は手放しで喜んだ。入社したあと、採用した新入社員8人と食事をしたとき、「8人みんな優秀だ。1年間がんばったかいがあった」と誇らしげに語っていた。 しかし、そのうちの4人が1カ月も経たずに退職してしまったのだ。残った新入社員のうち、2人も辞めたいと考えているという。社長は激怒した。例年の5倍もの採用コストをかけてなぜ辞めてしまったのか。いったい何が原因でここまでの大失敗となったのだろうか? 採用責任者は、新入社員が辞めた理由を調査するために、配属された職場の上長やベテラン社員にヒアリングを行った。 すると、どの職場でも見解は同じだった。 「今年の新入社員は、ストレス耐性が低い」 「やるべきことをやる前から、働きがいとか、心理的安全性とか、イチイチ言ってくる」 今回は、ある会社が「働きがい」のある職場を目指した結果、新入社員の半分が辞めてしまった事例を紹介する。 昨今、突如として「働きがい」という言葉を使って採用活動に励む会社が増えている。会社に興味を持ち応募する人が多くなるからだろう。しかし、気をつけたほうがいい。言葉を正しく理解していないと、採用の努力が無駄になることがある。 AI時代になり、ますます「働きがい」を誤解して使ってはならないと強く感じるようになった。特に採用活動の責任者、新入社員を引き受ける職場の責任者は、まだ働いていない若者を勘違いさせないためにも、この会社の失敗から学んでもらいたいと思う』、「通常は年間2~3人の採用をしていた。だが、社長の命令で例年の5倍の採用コストと1年間の入念な準備を経て、例年より多くの新卒を採用しようとした。 結果、8人の優秀な新入社員が入社した。当初、社長は手放しで喜んだ。入社したあと、採用した新入社員8人と食事をしたとき、「8人みんな優秀だ。1年間がんばったかいがあった」と誇らしげに語っていた。 しかし、そのうちの4人が1カ月も経たずに退職してしまったのだ。残った新入社員のうち、2人も辞めたいと考えているという。社長は激怒した」、急に「新入社員」を増員しても、指導体制などが伴っていなければ、「4人が1カ月も経たずに退職」というのも当然だ。
・『新入社員の半分が1カ月で退職!大失敗の原因  新入社員8人のうち4人が、たった1カ月で辞めた会社がある。 なぜ、そんなことが起こったのか?背後には、将来の幹部候補を求める社長の強い要望があった。 通常は年間2~3人の採用をしていた。だが、社長の命令で例年の5倍の採用コストと1年間の入念な準備を経て、例年より多くの新卒を採用しようとした。 結果、8人の優秀な新入社員が入社した。当初、社長は手放しで喜んだ。入社したあと、採用した新入社員8人と食事をしたとき、「8人みんな優秀だ。1年間がんばったかいがあった」と誇らしげに語っていた。 しかし、そのうちの4人が1カ月も経たずに退職してしまったのだ。残った新入社員のうち、2人も辞めたいと考えているという。社長は激怒した。例年の5倍もの採用コストをかけてなぜ辞めてしまったのか。いったい何が原因でここまでの大失敗となったのだろうか? 採用責任者は、新入社員が辞めた理由を調査するために、配属された職場の上長やベテラン社員にヒアリングを行った。 すると、どの職場でも見解は同じだった。 「今年の新入社員は、ストレス耐性が低い」 「やるべきことをやる前から、働きがいとか、心理的安全性とか、イチイチ言ってくる」) どうやら現場で新入社員たちは、「弁が立つが、やることをやらない」とレッテルを貼られたようだった。 とりわけ採用責任者が着目したのは「働きがい」である。 辞めた4人のうち、ほとんど全員が「働きがいを感じられない」を口にしていた。 合同説明会から複数回の面接を経て入社するまで、「当社は働きがいのある会社」とアピールし続けた。社長も「働きがいのある会社に生まれ変わった」と事あるごとに繰り返していた。だからこそ、新入社員は裏切られたと感じたのかもしれない。 美味しいイチゴが使われたショートケーキだと言われたから買ったのに、肝心のイチゴがあまり美味しくなかった、ということなのだろう』、「辞めた4人のうち、ほとんど全員が「働きがいを感じられない」を口にしていた。 合同説明会から複数回の面接を経て入社するまで、「当社は働きがいのある会社」とアピールし続けた。社長も「働きがいのある会社に生まれ変わった」と事あるごとに繰り返していた。だからこそ、新入社員は裏切られたと感じたのかもしれない」、なるほど。
・『「働きがい」の誤解が新入社員の退職を招く  例年になく優秀だと謳われた新入社員たちは、なぜ1カ月もせずに半分も辞めてしまったのか。その原因は「働きがい」にあると考えた。 実は「働きがい」という言葉は、リスクが高い。 なぜなら言葉の意味を、多くの人が誤解しているからだ。これは昨今、同じように使われるようになった「心理的安全性」にも言えることだ。 本来の意味をわからずに使用すると、大きな認識のズレとなり、トラブルを招くことになる。 実際に、社長や採用責任者、新入社員の先輩や上司も含め、ヒアリングしてみたところ、「働きがい」の真の意味を理解しているとは言いがたい状況だった。 「働きがい」と似た言葉に「やりがい」という言葉がある。 「やりがい」とは、困難を乗り越えて成果を出し、同僚やお客様から感謝されてはじめて「やったかいがあった」と思えるものだ。 「今回のイベントの集客、大変だったけど、会場が満員になって大盛況だったな」「はい。最初はすごく苦労しましたが、やったかいがありました」 このように使うものだ。 一方、「働きがい」は「やりがい」よりも抽象度が高い。 先ほどの例文の受け答えで、「はい。最初はすごく苦労しましたが、働いたかいがありました」とは、通常使わない。「やる」と「働く」とでは、対象範囲が違いすぎるからだ。例文として書くとするなら、次のようになる。 「入社して5年経ったけど、どう?働きがいのある職場かな?」 「そうですね。入社して2年間は苦労の連続でしたが、どんなに大変なときも助けてくれる先輩がいますし、課長は厳しいですけど、おかげで随分と成長できましたし、働きがいのある職場だと思っています」 「働きがい」は、数年働いてからでないと味わえないものだと筆者は考えている。 今後、働きがいを感じることがますます難しくなる時代が到来する。その要因の一つとしてAIの進化が挙げられる。 まず、近年のデジタルシフトにより、単純な知的労働は徐々に人から仕事を奪っている。筆者のクライアント企業にもRPA(注)で人材不足の問題を解消した例はたくさんある。 イベント後のアンケート集計や、顧客の属性に合わせたフォローメール作成など、かつて新入社員に任せられていたような仕事は、このように高性能なシステムやロボットが担当するようになった』、「実は「働きがい」という言葉は、リスクが高い。 なぜなら言葉の意味を、多くの人が誤解しているからだ。これは昨今、同じように使われるようになった「心理的安全性」にも言えることだ。 本来の意味をわからずに使用すると、大きな認識のズレとなり、トラブルを招くことになる。 実際に、社長や採用責任者、新入社員の先輩や上司も含め、ヒアリングしてみたところ、「働きがい」の真の意味を理解しているとは言いがたい状況だった」、なるほど
(注)RPA:Robotic Process Automation、ロボットによる業務自動化(RPA Technologies)。
・『任せられる仕事は、お客様対応しか残っていない  AIは、さらに難易度の高い仕事もこなす。 例えば顧客データベースからお客様の行動分析をし、今後の売り上げ予測まで瞬時に立てられるようになる。 「とりあえず、分析しておいて」と、上司から頼まれる仕事まで減っていくのだ。 分析結果の検証には経験が必要であるし、その結果から判断するには実績とセンスが求められる。新入社員どころか、経験の浅い社員に頼む仕事も奪われていく。 この会社でも、新入社員に任せられる仕事といったら、お客様対応しか残っていなかった。 「とりあえず、200社の担当者に電話して、このリサーチをお願い」 とりあえず、先日のイベントの来場者に連絡してアポイントをとって」 マーケティングオートメーションでお客様の動きをトレースして、当社商品に興味がありそうな動きをするお客様には、タイミングよく電話をかける。 お客様とのやり取りは音声認識機能で瞬時にテキスト化され、上長に報告される。自分で報告書を書く必要もないため、ひたすらお客様とのコミュニケーションに時間を費やす。 お客様の価値観は多様化しており、何が正解かはわからない時代だ。だからベテラン社員でさえつねに手探り。勝利の方程式などないものだから、試行錯誤の連続だ。 「新入社員は、何をやったらいいですか?と聞いてくるが、事務作業などないし、お客様対応といってもマニュアルなんかない」 これは、新入社員を受け入れた職場責任者の言葉だ。 「マニュアルを見せてくださいと言われたけど、マニュアルに書けるような作業は、だいたいRPAに任せている」 現場の責任者やベテラン社員は、口をそろえてこう言った。 「将来の幹部候補を雇うんだったら、もっとベテランを採用してほしい。私たちだって必死に勉強している。教えることなんてない」) 問題は、 ・社長をはじめとする採用責任者 ・新入社員をあずかる現場 ・新入社員  それぞれに「認識のズレ」があったことだ。 社長や採用の責任者は、本来の目的を見失い、「働きがい」という表現を優秀な新入社員を集めるためのエサのように使っていた。 いっぽう、現場で働く人たちは「働きがい」についてあまり関心がない。それよりもまず、やるべきことをやることが重要で、期待された成果を出すことに重きを置いている。 これは前述した通り、イチゴの美味しいショートケーキの例えに通じる。広告でイチゴの美味しいショートケーキをアピールしておきながら、現場で働く人たちはそのイチゴがそれほど美味しいという認識を持っていないのだ。この場合、お客様の期待とズレが生じる。 近年、働きがいや心理的安全性、エンゲージメント、ワークライフバランス、クオリティーオブライフといった新語がよく報道で使われる。 しかしこれらのワードに関心が高いのは、就職や転職活動を行っている人たち、そして経営者や役員に限られる。いっぽう現場の人たちは、意識している余裕がない。 劇的な環境変化に伴い、成果の出し方が変わっている。デジタル対応やリスキリングなど、身につけるべき知識やスキルが多すぎて、部下育成している場合ではない。 そんな状況で、 「入社したら、まるで働きがいを感じられないんですが」と新入社員に指摘されても、どうしたらいいかわからない。これが新入社員を受け入れる先輩たちの本音だろう。 ポイントは「Must」「Can」「Will」 それでは、どうしたらいいのか。 私は15年以上も前から、新入社員研修で一貫して言い続けているフレーズがある。それが、 1.Must やるべきこと 2.Can やれること 3.Will やりたいこと である。この順番が大事だ。 やるべきこと(マスト)をやり続けることで、やれること(キャン)が増え、やりたいこと(ウィル)が見つかる可能性がある、という話だ。 自分の先輩や上司でさえ先が読めない時代が到来している。だからこそ、新入社員はまずは厳しい現実を受け入れる必要がある。 給料をもらうということはプロフェッショナルになるということだ。ストレスがかかっても、やるべきことをやっていれば、やれることが増えてくるものだ。 そうすることで成果が出て、多くの人から感謝され、働きがいを感じるもの。現場に行ったら、やりたくないこと、苦手なことも任されるかもしれない。だが、それは誰でも一緒である。 サポートしていくから、しっかりとやっていこうと、採用活動の最中から丁寧に伝えるべきだ。きれいごとばかり言っていると、こんなはずじゃなかったと言い、辞めてしまう新入社員が続出してしまう。 繰り返すが、ポイントは「マスト(Must)」「キャン(Can)」「ウィル(Will)」。この順番である。 期待された成果を出さない限り、本当の意味の「働きがい」は感じられないのだから』、「「入社したら、まるで働きがいを感じられないんですが」と新入社員に指摘されても、どうしたらいいかわからない。これが新入社員を受け入れる先輩たちの本音だろう。 ポイントは「Must」「Can」「Will」 それでは、どうしたらいいのか。 私は15年以上も前から、新入社員研修で一貫して言い続けているフレーズがある。それが、 1.Must やるべきこと 2.Can やれること 3.Will やりたいこと である」、「やるべきこと(マスト)をやり続けることで、やれること(キャン)が増え、やりたいこと(ウィル)が見つかる可能性がある、という話だ。 自分の先輩や上司でさえ先が読めない時代が到来している。だからこそ、新入社員はまずは厳しい現実を受け入れる必要がある」、「給料をもらうということはプロフェッショナルになるということだ。ストレスがかかっても、やるべきことをやっていれば、やれることが増えてくるものだ。 そうすることで成果が出て、多くの人から感謝され、働きがいを感じるもの」、なるほど。

次に、6月13日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した社会保険労務士の木村政美氏による「「もう48連勤ですよ!?」「休日手当は払ってる」社員vs会社…アウト、セーフどっち?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/324342
・『退職が続いて人手不足になってしまった部署で、ベテラン社員2人と課長がその穴を埋めるべく休日返上で連勤して働くことに。「土日も休めず、働きづめだ」と文句を言うベテランに対し「求人しても応募がないのだから仕方ない。休日手当を払ってるんだから頑張れ」と会社は言うのだが……。 <甲社概要> 地方都市で機械製造と卸売業を営み、従業員数200名。管理課にはC課長の他10名のメンバーがいる。 <登場人物> A:管理課勤務の30歳。 B:Aの同僚で、専門学校時代からの友人でもある。管理課勤務。 C:管理課長。AとBの上司 D:総務部長。人事、給与計算に関する権限を持つ E:甲社の顧問社労士  ・退職者が続いて、他のメンバーへしわ寄せが……(AとBは地元の専門学校を卒業後、新卒採用で甲社に就職、機械オペレーターとして管理課に配属された。勤務時間は8時から19時の間で2交代制(労働時間8時間・休憩時間1時間)、変形労働制は運用しておらず、休日は日曜(甲社の法定休日)と他1日(法定外休日)の完全週休2日制だ。管理課の業務は製造機械のオペレーションの他、新商品の企画や商品管理も担当するなど多忙だが、残業や休日出勤はなく、有休も全部消化できるのでその点は働きやすい環境だった。 ところが今年1月末、新商品の企画や商品管理を主に担当していた30歳代の主任2名が急に自己都合で退職した。C課長は現メンバーの中で在籍期間が最も長いAとBを主任に格上げし、退職した2人の業務を引き継がせた。そしてAとBがこれまで担当していたオペレーション業務をメンバー全員でカバーするために毎日2時間の残業をするようになった。 2月上旬、D部長は中途採用の求人を出したが、応募者はゼロ。4月に新卒を6名採用したが、全員製造部門や技術部門に配属された。人員補充の目処(めど)が立たない状況の中、AとBを更に悲劇が襲った。新メンバーの加入がないことが分かった時点で仕事に嫌気が差した若手メンバー1名が、4月中旬で退職してしまったのだ。残った7人のメンバーで仕事を回す必要が生じ、困ったC課長はAとBのオペレーター業務を増やした。その結果2人は、出勤日はオペレーターとして働き、日曜や他の休日も商品管理データや商品企画書などの作成をするために会社で仕事をするハメに。2月から毎日残業している上に休みも取れなくなったAとBは、すっかり疲れ果ててしまった』、「新商品の企画や商品管理を主に担当していた30歳代の主任2名が急に自己都合で退職した。C課長は現メンバーの中で在籍期間が最も長いAとBを主任に格上げし、退職した2人の業務を引き継がせた。そしてAとBがこれまで担当していたオペレーション業務をメンバー全員でカバーするために毎日2時間の残業をするようになった」、「2月から毎日残業している上に休みも取れなくなったAとBは、すっかり疲れ果ててしまった」、なるほど。
・『明日の日曜日は2人で休んで、一緒にサウナへ行こう!  5月下旬の土曜日。AとBはいつものように休憩室で並んて昼食を取っていた。先に食事を終えたAはBに話しかけた。 「明日は日曜かあ。今週もあっと言う間に終わりだな」 Bは不機嫌な声で返した。 「どうせ明日も仕事。俺達さ、4月10日から今日まで全然休みがない。他のメンバーは皆週休2日なのに不平等だ。もう疲れたーっ!」 「でも新しいメンバーが入る予定もなさそうだし、当分はこの状態かなあ……」 2人は深いため息をつき、沈黙した。その後、Aがある提案をした。 「いっそ明日2人で仕事を休まない? 俺たちには休息が必要だよ」「いいね! でもC課長に怒られないかな……」 「今日話せば絶対『ダメ』って言われるから、明日の朝連絡しよう。日曜って本来は休みなんだから、仕事なんてしなくてもいいんだよ」 「よし、決まり! ところでA君、明日の予定は?」 「久しぶりに自宅近くのスーパー銭湯でまったりするよ。オートロウリュウのサウナが気持ちいいんだ。一緒に行こうぜ」 次の日の朝、AとBはそれぞれC課長に「今日は休みます」と連絡を入れ、スーパー銭湯の入り口で待ち合わせた。大浴場にゆっくり浸かりサウナで整った後、室内の食事処で生ビールのジョッキを片手に、会社やC課長の悪口を言い合って盛り上がった。すっかり酔いが回ったAは、大声で宣言した。 「明日出勤したら、C課長に『日曜ぐらい休ませろ!』って言ってやる。もし希望が通らなかったら、D部長に直訴だー!」』、「「今日話せば絶対『ダメ』って言われるから、明日の朝連絡しよう。日曜って本来は休みなんだから、仕事なんてしなくてもいいんだよ」、なかなか巧みな上司操縦術だ。
・『休日出勤すれば、その分手当が出るんだからいいじゃないか  月曜日。出勤したAとBは、そろってC課長から呼び出されて叱責された。 「君達そろって昨日休んだけど、遅れた仕事をどう取り戻すつもりだ!」 Aは言い返した。 「しかし課長、自分たちは1カ月半以上、全然休みナシですよ」 「それは私だって同じだ。だから君達には、休日出勤した分はちゃんと手当を払っているじゃないか。自分は管理職だから、休日に働いても手当はビタ一文出ない。君達がうらやましいよ」 「手当より、日曜休みを下さい。じゃないと身体が持ちません」 Aの反論にBも頷いた。しかしC課長は聞く耳を持たず、仕事が遅れることを気にして、文句を言うばかり。これ以上話してもムダだと思ったAとBは、その足で総務部のフロアに出向いた。) 総務部のD部長は、フロアの隅でE社労士と面談中だった。AとBはD部長を見つけてズカズカと近寄っていったので、2人に気付いたD部長はあわてて話を止めた。 「一体何の用だね? 今Eさんと打ち合わせ中だから、話は後にしてくれ」 しかしAは構わず訴えた。 「休みがない会社なんて我慢できません。日曜日はもう、会社に来ませんから!」 そしてこれまでの経緯を勝手に話し始めた。D部長は再三話をさえぎろうとしたが、E社労士は「最後まで話を聞かせてほしい」と言った』、「D部長」が話し込んでいたのが、「E社労士」だったとはラッキーだ。
・『求人しても応募がないなら、休日出勤はやむを得ない?  AとBがいなくなると、D部長は頭を掻きながらE社労士に2人の失礼な態度を謝り、話を続けた。 「メンバーの補充が必要なのは承知しています。しかし求人を出しても応募がないし、新入社員も管理課に回せる人材がいません。A君とB君は課内で最もベテランなので、複数の業務を任せている状態です。だから当面は休日出勤が続くのもやむなしかと……」 「それは大変ですね。しかしこの場合、会社は最低でも法律通りの休みを取らせる必要があります」 <法律で定める労働時間と休日> ○ 使用者(事業主や管理者など)は原則として1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけない(労働基準法32条) ○ 使用者は少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与える義務がある(労働基準法35条)  D部長はE社労士に尋ねた。 「しかし、C課長は別として、A君とB君には日曜に出勤した場合は休日出勤手当、その他休日に出勤した場合は残業代(時間外手当)を支払っています。それでも休ませるんですか?」 参考:東京労働局「しっかりマスター労働基準法・割増賃金編」 「確かに法定休日や法定外休日に仕事をさせた場合、相応した手当の支払いが必要です。しかし手当を払えば休日数のカウントが消えるわけではなく、あくまでも法律で決められた休日数を与える義務があります」 「じゃあ、極端な話、当社の場合は4週間のうち24日間連続勤務にして、残りの4日間を休日にする扱いでもいいんですか?」 「原則は可能です。ただし連続出勤が続くとその分過労になりやすく、従業員の心と体の健康に支障が出る、業務中のケガが増えるなど、労災の原因になりかねません。会社は社員に対して安全配慮義務を負うので、それを踏まえると最低でも週1日は休むのがいいでしょう」 参考:労働契約法5条「労働者への安全配慮義務」 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする』、確かに「会社は社員に対して安全配慮義務を負う」。
・『管理職のC課長の長時間労働も、安全配慮義務の観点で問題  「安全配慮義務は管理職にも該当しますから、C課長の労働時間も把握し、長時間労働にならないよう配慮してください」 そしてE社労士は続けた。 「確認したいことがあるので、甲社の36協定届と管理課全員の出退勤記録、賃金台帳を見せてもらえますか?」 <時間外労働協定(36協定)とは> ○ 企業が労働者に対して、1日8時間、1週間に40時間以上の時間外労働及び休日労働をさせる場合は、労働者の過半数で組織する労働組合か労働者の過半数を代表する者との労使協定を結び(「36協定」という)所轄の労働基準監督署に届け出る必要がある。(労働基準法36条) ○ 36協定を締結した場合でも、時間外労働や休日労働の上限時間はある。(ただし業種による例外あり) ・原則は月45時間、年360時間以内(休日労働を除く) ・ただし、事業所で上記未満の時間で締結した場合は、その内容になる ・特別条項付き36協定を締結した場合 +時間外労働は年720時間以内 +時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満など 他にも要件あり ○ 使用者と同じ立場であると認定される管理職は、36協定の適用外のため労働時間、休日の制限はなく、従って残業や休日出勤をしても時間外手当などの残業代や休日出勤手当は発生しない 参考:厚生労働省「時間外労働の上限規程・わかりやすい解説」  D部長が持参した書類等の確認を終えたE社労士は、次の点を指摘した。「まず36協定の内容ですが、管理業務については、時間外労働の延長時間が1日1時間・1カ月間で10時間・1年間で120時間。休日労働は月1回で9時から18時までで締結されています。しかしメンバーの2月以降の出退勤記録を確認すると、全員の勤務時間が連日8時から19時までで、1日2時間の残業。加えてAさんとBさんは4月に1日あたり8時間で法定休日と法定外休日をそれぞれ3日間ずつ働いています」 「協定届の記載と実態が違うっていうのはダメですか?」 「締結した内容以上の時間外労働や休日労働をさせると、法律違反です」 ・4月以降、残業が月60時間を超えると割増賃金率が50%に(さらにE社労士は続けた。 「賃金台帳も見せてもらいました。給与の計算は毎月末日締めですね? メンバーの残業代(時間外手当)とAさんBさんの休日出勤分の割増賃金は、法定通り計算されています。ただし、4月以降の残業代について、月60時間を超えた分は割増賃金率が25%から50%に上がります。5月の出退勤記録ではAさんとBさんがこのケースに該当しますね」 参考:厚生労働省案内リーフレット  D部長は困り顔で、どうしたらいいんだと呟いた。 「まずAさんとBさん、そしてC課長が日曜休日を取れるようにして、次にメンバー全員の残業時間を減らし、人手不足を解消する方法を検討しましょう」 <残業時間の削減と人手不足への対処方法の一例・甲社の場合> ○ 機械オペレーターの求人募集は継続するが、求人媒体の追加や変更も検討し早期採用につなげる。 ○ 人員補充について、新規採用だけではなく、他部署からの配置換え、派遣社員を受け入れる、退職した社員を再雇用するなども合わせて検討する。 ○ 休日出勤や残業を減らすには、業務内容と担当者の見直しを行う。新製品の開発など急を要さない業務は当面行わないなど業務の負担を軽くする等が考えられる。 E社労士と面談を終えたD部長は、翌日C課長と相談し、新メンバーが入るまで新製品の開発に係る業務をすべて中断するなど、A、B、C課長の業務負担を軽減し6月以降、日曜と隔週1日の休みを確保することにした。更に残業を減らすために管理業務全体の見直しを行い仕事の効率化を図る予定だ。そして新たに考えた求人方法とは……。 +D部長が考えた、新たな求人方法とは?(6月上旬の日曜日。AとBは再び一緒にスーパー銭湯の暖簾(のれん)をくぐった。受付で料金を払っていた時、ふとAは背後の壁に貼られていた手書きのポスターに目を止めた。そこには見慣れた文字で、こう書かれていた。 「機械オペレーター募集・年齢不問・一緒に楽しく働きませんか? 詳しくは甲社サイトhttps://~ にアクセス」 それはD部長が書いた求人募集だった。どうやら、スーパー銭湯に来る客を狙っているようだ。 「部長もなかなかやるなーっ!」 Aは笑いをこらえながら、しばらくポスターを眺めていた。 ※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため個人名は全て仮名とし、一部を脚色しています。ご了承ください』、「安全配慮義務は管理職にも該当」、確かにその通りだ。現場は、労働法規を軽視しがちだが、コンプライアンス重視の観点からも法令順守したいものだ。

第三に、6月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「日本人の仕事満足度「わずか5%」で世界最低!賃上げの他に必要な改革とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/325135
・『最新の「グローバル就業環境調査」によると、日本人の「仕事満足度」はわずか5%で、世界最低だった。この要因はいったい、何か? 他国の結果と比較もしながら、賃上げだけでは済まない、日本企業に必要な改革について考える』、興味深そうだ。
・『日本の「仕事満足度」は5%の衝撃  6月13日、米調査企業のギャラップは、最新の「グローバル就業環境調査」を公表した。それによると2022年、わが国で「仕事満足度」(ワークエンゲージメント)を感じる従業員の割合はわずか5%だった。調査対象の145カ国中、わが国はイタリアと並んで最低だ。 企業業績が拡大すると、一般的には給料は増える。給料が増える企業が多い国では、ワークエンゲージメントは上昇しやすい。また、職場環境についても、新しい商品を出すなど活気のある職場では、働いている人の満足度は高くなる。 反対に、経済が長期的に停滞し業績が伸び悩むと、賃金の下押し圧力も強まり満足感も得られにくい。だから、わが国の仕事満足度は低迷しやすいのだろう。 ただ、最近は、国を挙げて賃上げに取り組んでいる。また、従来の雇用の在り方を見直し、実力に応じた人事・報酬制度を導入する企業も目に付く。もちろん、先行きは楽観できないが、そうした企業の増加は、仕事に対する満足度ややりがいの向上に寄与することが期待できる』、「わが国で「仕事満足度」・・・を感じる従業員の割合はわずか5%だった。調査対象の145カ国中、わが国はイタリアと並んで最低だ」、「経済が長期的に停滞し業績が伸び悩むと、賃金の下押し圧力も強まり満足感も得られにくい。だから、わが国の仕事満足度は低迷しやすい」、なるほど。
・『世界のワークエンゲージメントの現状  ギャラップによると、22年は世界全体で仕事により高い満足を感じ、雇用、所得環境も改善したと感じる人が増えたという。09年は「仕事に満足感、やりがいがある」との回答率が12%だったのに対し、22年は23%だった。 一方、22年は、「仕事にやりがいを感じない」との回答も18%あった。「指示された業務のみこなし、熱意も持っていない」は59%と高い。「業務への疲労感、ストレスを感じる」との回答も44%あった。 雇用や所得に関して、「都市部や現在の居住地の周辺で、よい就業機会を見つけやすくなっている」との回答は、09年の29%から22年は53%に上昇した。その背景に、世界的に人手不足が深刻化していることがあるだろう。 また、10に分けられた地域ごとに見ると、22年はインドなど南アジア地域の従業員の満足度が最も高かった。インドでは、前年から7ポイント上昇し33%に達した。次いで、北米(米国とカナダ)は前年から2ポイント低下したが、31%が仕事に満足していると回答した。 反対に、満足度が最も低かったのは、欧州(13%)だ。第9位が中東および北アフリカ(15%)、第8位がわが国や中国を含む東アジア地域(17%)だった。いずれも、前年から横ばいだった。 全体の傾向として、経済成長率が高い国では、仕事への前向きな評価が高まりやすい。中国からの生産拠点のシフトなどによって投資が増えているインドや、利上げにもかかわらず労働市場が底堅く推移する米国が代表例だ。 業種別だと、IT先端分野で、より良い給与を手に入れ、やりがいを感じる人は増えているようだ。ただ、この分野では人工知能(AI)の利用増加などもあり、環境変化のスピードが加速している。そのため多忙やストレスを感じる従業員も増えている。それでも、転職機会の多さ、賃金増への期待は依然として強く、世界的に、前向きな気持ちで働こうとする人が増えている』、「満足度が最も低かったのは、欧州(13%)だ。第9位が中東および北アフリカ(15%)、第8位がわが国や中国を含む東アジア地域(17%)だった」、「東アジア地域」の低さには驚かされた。
・『低迷が続くわが国の仕事満足度  冒頭で紹介した通り、この調査において、わが国で日々の仕事に喜びや満足感を持つ人の割合はわずか5%と世界最低だった。その推移を見ると、リーマンショック後、小幅ながら仕事への満足度が高まった期間はあった。アベノミクスの好景気が背景にあっただろう。そして19年から22年までは5%で推移している。 東アジア諸国・地域の満足度を見ると、中国は前年から横ばいの18%だった。韓国は前年から1ポイント低下し、12%。台湾は11%(前年から1ポイント上昇)だった。台湾における上昇は、半導体産業の影響が大きいだろう。 また、わが国では「日々の業務に対するストレスを感じる」が42%(前年から1ポイント低下)だった。一方、「雇用、所得環境は良いか」の質問に対して、「はい」は25%で、前年から6ポイント低下した。 もちろんこの調査が全てというわけではないが、わが国の経済状況を踏まえても、「仕事満足度5%」という結果は、さまざまな示唆に富んでいる。世界的な傾向と比較した場合、わが国の雇用、所得環境の停滞は鮮明といえる。 背景にはいくつかの要因がある。大きいのは、1990年初頭の資産バブル崩壊だ。それ以降、わが国では株式や地価が下落した。個人の消費は減少し、経済全体で「羹(あつもの)に懲りてなますを吹く」とでもいうべき心理が高まった。成長期待の高い先端分野に進出するよりも、既存分野での事業運営を優先する企業が増えた。IT革命への遅れは深刻化した。 少子高齢化、人口減少も重なり、経済は縮小均衡した。資金調達や設備投資面で海外企業との競争に対応することも難しくなった。今なお、新卒一括採用、年功序列、終身雇用から成る雇用慣行を続ける企業も多い。その結果、わが国企業において、ワークエンゲージメントは低迷した』、「経済全体で「羹(あつもの)に懲りてなますを吹く」とでもいうべき心理が高まった。成長期待の高い先端分野に進出するよりも、既存分野での事業運営を優先する企業が増えた。IT革命への遅れは深刻化した。 少子高齢化、人口減少も重なり、経済は縮小均衡した。資金調達や設備投資面で海外企業との競争に対応することも難しくなった。今なお、新卒一括採用、年功序列、終身雇用から成る雇用慣行を続ける企業も多い。その結果、わが国企業において、ワークエンゲージメントは低迷」、その通りだ。
・『日本の経営トップに求められること  自力で航行する力を失った船が潮流に流されるかのように、わが国経済が米国や中国など大国の経済の展開に影響されるパターンが明らかに増えている。海外投資家が、日本株を「景気敏感株」とみなす傾向も強くなっている。 日本の再成長に不可欠なのは、企業経営者が、収益を獲得できる領域を拡大することだ。それには、成長期待の高い分野で専門知識を持つ人を増やすことも欠かせない。その上で、個々人がより能動的に事業に取り組み、成果や実力に応じて評価される組織風土を整備しなければならない。 変化の兆しは徐々に出始めている。まず、賃上げをする企業が徐々に増えている。日本経済の統計上、前年同月比で実質賃金が上昇するには至っていないものの、賃上げに対する経営トップの意識は高まっている。優秀な人材を獲得するには、より良い条件を示すことが避けて通れなくなってきたからだ。 賃上げをするためにも、自社の強みを見直し、成長期待の高い分野にリソースを振り分ける企業も増えている。この背景には、東京証券取引所が「低PBR企業」に対して、成長加速に向けた改革の策定と提示、コミットを求めたことが挙げられる。または、半導体分野で政府が支援策を強化した影響も大きい。 自社の向かうべき方向を明示し、個々人の新しい取り組みを積極的にサポートする――今後ますます、こうした企業経営の在り方が問われるだろう。納得できる戦略が提示された上で、内部にため込んだキャッシュあるいは低金利環境での借り入れを活用し、積極的に新規プロジェクトを実行する。日本の企業には、こうした経営風土の醸成が必要だ。 反対に、経営者の内向き志向が変わらないと、組織の士気は停滞し、持続的な収益の拡大は難しくなる。日本の経営トップは、世界最低の「仕事満足度5%」という大変残念な現実に、真摯(しんし)に向き合ってほしい』、「納得できる戦略が提示された上で、内部にため込んだキャッシュあるいは低金利環境での借り入れを活用し、積極的に新規プロジェクトを実行する。日本の企業には、こうした経営風土の醸成が必要だ。 反対に、経営者の内向き志向が変わらないと、組織の士気は停滞し、持続的な収益の拡大は難しくなる。日本の経営トップは、世界最低の「仕事満足度5%」という大変残念な現実に、真摯に向き合ってほしい」、同感である。
タグ:横山 信弘氏による「たった1カ月で「新入社員」半分退職まさかの原因 「採用コスト」は例年の5倍かけたのになぜ?」 東洋経済オンライン 「納得できる戦略が提示された上で、内部にため込んだキャッシュあるいは低金利環境での借り入れを活用し、積極的に新規プロジェクトを実行する。日本の企業には、こうした経営風土の醸成が必要だ。 反対に、経営者の内向き志向が変わらないと、組織の士気は停滞し、持続的な収益の拡大は難しくなる。日本の経営トップは、世界最低の「仕事満足度5%」という大変残念な現実に、真摯に向き合ってほしい」、同感である。 「経済全体で「羹(あつもの)に懲りてなますを吹く」とでもいうべき心理が高まった。成長期待の高い先端分野に進出するよりも、既存分野での事業運営を優先する企業が増えた。IT革命への遅れは深刻化した。 少子高齢化、人口減少も重なり、経済は縮小均衡した。資金調達や設備投資面で海外企業との競争に対応することも難しくなった。今なお、新卒一括採用、年功序列、終身雇用から成る雇用慣行を続ける企業も多い。その結果、わが国企業において、ワークエンゲージメントは低迷」、その通りだ。 「満足度が最も低かったのは、欧州(13%)だ。第9位が中東および北アフリカ(15%)、第8位がわが国や中国を含む東アジア地域(17%)だった」、「東アジア地域」の低さには驚かされた。 「わが国で「仕事満足度」・・・を感じる従業員の割合はわずか5%だった。調査対象の145カ国中、わが国はイタリアと並んで最低だ」、「経済が長期的に停滞し業績が伸び悩むと、賃金の下押し圧力も強まり満足感も得られにくい。だから、わが国の仕事満足度は低迷しやすい」、なるほど。 真壁昭夫氏による「日本人の仕事満足度「わずか5%」で世界最低!賃上げの他に必要な改革とは?」 「安全配慮義務は管理職にも該当」、確かにその通りだ。現場は、労働法規を軽視しがちだが、コンプライアンス重視の観点からも法令順守したいものだ。 確かに「会社は社員に対して安全配慮義務を負う」。 「D部長」が話し込んでいたのが、「E社労士」だったとはラッキーだ。 「「今日話せば絶対『ダメ』って言われるから、明日の朝連絡しよう。日曜って本来は休みなんだから、仕事なんてしなくてもいいんだよ」、なかなか巧みな上司操縦術だ。 「新商品の企画や商品管理を主に担当していた30歳代の主任2名が急に自己都合で退職した。C課長は現メンバーの中で在籍期間が最も長いAとBを主任に格上げし、退職した2人の業務を引き継がせた。そしてAとBがこれまで担当していたオペレーション業務をメンバー全員でカバーするために毎日2時間の残業をするようになった」、「2月から毎日残業している上に休みも取れなくなったAとBは、すっかり疲れ果ててしまった」、なるほど。 木村政美氏による「「もう48連勤ですよ!?」「休日手当は払ってる」社員vs会社…アウト、セーフどっち?」 ダイヤモンド・オンライン 「やるべきこと(マスト)をやり続けることで、やれること(キャン)が増え、やりたいこと(ウィル)が見つかる可能性がある、という話だ。 自分の先輩や上司でさえ先が読めない時代が到来している。だからこそ、新入社員はまずは厳しい現実を受け入れる必要がある」、「給料をもらうということはプロフェッショナルになるということだ。ストレスがかかっても、やるべきことをやっていれば、やれることが増えてくるものだ。 そうすることで成果が出て、多くの人から感謝され、働きがいを感じるもの」、なるほど。 「「入社したら、まるで働きがいを感じられないんですが」と新入社員に指摘されても、どうしたらいいかわからない。これが新入社員を受け入れる先輩たちの本音だろう。 ポイントは「Must」「Can」「Will」 それでは、どうしたらいいのか。 私は15年以上も前から、新入社員研修で一貫して言い続けているフレーズがある。それが、 1.Must やるべきこと 2.Can やれること 3.Will やりたいこと である」、 (RPA Technologies) 「実は「働きがい」という言葉は、リスクが高い。 なぜなら言葉の意味を、多くの人が誤解しているからだ。これは昨今、同じように使われるようになった「心理的安全性」にも言えることだ。 本来の意味をわからずに使用すると、大きな認識のズレとなり、トラブルを招くことになる。 実際に、社長や採用責任者、新入社員の先輩や上司も含め、ヒアリングしてみたところ、「働きがい」の真の意味を理解しているとは言いがたい状況だった」、なるほど (注)RPA:Robotic Process Automation、ロボットによる業務自動化 「辞めた4人のうち、ほとんど全員が「働きがいを感じられない」を口にしていた。 合同説明会から複数回の面接を経て入社するまで、「当社は働きがいのある会社」とアピールし続けた。社長も「働きがいのある会社に生まれ変わった」と事あるごとに繰り返していた。だからこそ、新入社員は裏切られたと感じたのかもしれない」、なるほど。 急に「新入社員」を増員しても、指導体制などが伴っていなければ、「4人が1カ月も経たずに退職」というのも当然だ。 「昨今、突如として「働きがい」という言葉を使って採用活動に励む会社が増えている。会社に興味を持ち応募する人が多くなるからだろう。しかし、気をつけたほうがいい。言葉を正しく理解していないと、採用の努力が無駄になることがある」、確かにその通りだ。 (その40)(たった1カ月で「新入社員」半分退職まさかの原因 「採用コスト」は例年の5倍かけたのになぜ?、「もう48連勤ですよ!?」「休日手当は払ってる」社員vs会社…アウト、セーフどっち?、日本人の仕事満足度「わずか5%」で世界最低!賃上げの他に必要な改革とは?) 働き方改革
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日本型経営・組織の問題点(その14)(社員は“マジメで勤勉”なのに 会社はアナログのまま…富士通の「DX請負人」が痛感した日本企業の重大な欠陥 日本企業が時代遅れになった根本原因、なぜ日本の取締役会はリスクテイクを歓迎しないのか、日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」のままで良いのか?) [経済政治動向]

日本型経営・組織の問題点については、昨年4月30日に取上げた。今日は、(その14)(社員は“マジメで勤勉”なのに 会社はアナログのまま…富士通の「DX請負人」が痛感した日本企業の重大な欠陥 日本企業が時代遅れになった根本原因、なぜ日本の取締役会はリスクテイクを歓迎しないのか、日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」のままで良いのか?)である。

先ずは、本年5月19日付けPRESIDENT Onlineが掲載した立教大学ビジネススクール教授・戦略コンサルタントの田中 道昭氏による「社員は“マジメで勤勉”なのに、会社はアナログのまま…富士通の「DX請負人」が痛感した日本企業の重大な欠陥 日本企業が時代遅れになった根本原因」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/69640
・『なぜ日本企業のDXはうまくいかないのか。2020年4月、富士通の最高DX責任者になった福田譲氏は、就任してすぐ富士通でDXが進まない最大の原因に気づく。それは、グループ全体を覆う「会社に対する無関心」だった――。(第2回) ※本稿は、Ridgelinez編、田中道昭監修『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです』、「DXが進まない最大の原因」が「会社に対する無関心」とは衝撃的だ。
・『SAPジャパン元社長をDX担当に招き入れた  富士通株式会社の時田隆仁社長(以下、時田と略す)は全社変革を推進する上で、既存の組織や人間関係にとらわれない外部人材の登用を通じて多様性のあるマネジメントチームを組成していく。その中でも変革の核となる全社デジタルトランスフォーメーション(のちにFujitsu Transformation=〔フジトラ〕としてプロジェクト化する)の推進のために外部から招き入れたのが、富士通の現・執行役員EVP、CDXO(最高DX責任者)、CIO(最高情報技術責任者)である福田譲である。 福田は1997年に大学卒業後、ERP(統合基幹業務システム)の世界最大手であるSAPジャパンに入社した。化学・石油の大手メーカーを担当する法人営業のエキスパートとしてキャリアを磨きながら、新規事業開発の担当役員や営業統括本部長を歴任。 14年にはSAPジャパンの代表取締役となり、20年4月に富士通に転じるまで23年間、SAPに在籍していた』、「SAPジャパンの代表取締役」を「執行役員EVP、CDXO・・・、CIO」として迎え入れるとは思い切ったことをしたものだ。
・『各国グループ会社の状況を把握できていない  そのSAPジャパン時代に福田は、時田の前任だった前社長の田中達也の依頼で、米国のシリコンバレーを案内したことがあった。SAPは2000年代初め、マイクロソフトに買収されるかという事態に直面したことがあり、世界企業へと脱皮すべく、シリコンバレーに研究所を移して組織変革に弾みをつけたという歴史を持つ企業でもある。 その経緯を説明しながら、富士通の当時の社長である田中にSAPの経営ダッシュボードなどを含めた事業経営の有り様を直接説明した福田は、富士通のグローバル経営の実態を聞き、驚きを禁じ得なかった。 世界的に通用するブランドとポジションを築いていながら、経営者がグローバルの数字を経営の意思決定に繋がる形でタイムリーに把握することができておらず、グループ会社のガバナンスもほとんど利いていないという印象を持ったという』、「SAPジャパン時代に福田」氏は、「富士通の当時の社長」が「経営者がグローバルの数字を経営の意思決定に繋がる形でタイムリーに把握することができておらず、グループ会社のガバナンスもほとんど利いていないという印象を持ったという」、あり得る話だ。
・『「富士通でこれなら日本の他の企業は…」  田中の再びの依頼によって、福田は翌年に富士通の取締役全員のシリコンバレー視察を受け入れ、SAPのデータ駆動型経営について改めて説明した。それをきっかけにして富士通が変わることを期待していたからだ。 しかしながら、メディアなどを通じて富士通の変革が進んだという話を聞くことはなかった。 「富士通でこのようなレベルなら、多くの日本企業は相当に危ないのではないか」。 そう思った福田だが、一方で富士通は世界的に競争力のある技術や優良な顧客資産、そして良い人材も持っているとも感じていた。企業としてのカルチャーも、時代錯誤になっている部分はあるが良いものを持っている。社員一人ひとりが「きちっと」している。真面目で勤勉というのは世界的に見ると大変価値があるし、資本主義に傾倒して多くの欧米企業が失ってしまったもの、GAFAM(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック〔現・メタ〕、アップル、マイクロソフト)にないものがあると考えていた。 福田は富士通を変えられたら多くの日本企業のリファレンスになると考え、時田の招聘しょうへいを受け入れて富士通に転じ、富士通のトランスフォーメーションの指揮を執ることになる』、「田中の再びの依頼によって、福田は翌年に富士通の取締役全員のシリコンバレー視察を受け入れ、SAPのデータ駆動型経営について改めて説明した」、「福田は富士通を変えられたら多くの日本企業のリファレンスになると考え、時田の招聘しょうへいを受け入れて富士通に転じ、富士通のトランスフォーメーションの指揮を執ることになる」、「田中」氏は「SAPのデータ駆動型経営」や「福田」氏をよほど気に入ったようだ。
・『会社に対する無関心レベルが度を越えていた  福田が富士通に入社して最大の問題だとすぐに気づいたのは、グループ全体を覆う「会社に対する無関心」だった。 「会社を変革することに対して、実は抵抗勢力らしき存在がいませんでした。みんなが変革には賛成する一方で、会社に対するエンゲージメントが非常に低く、何のために富士通にいるのか、何のために仕事をしているのかを考えているように見える社員が少なかったのです」と福田は懐述する。 「上司に言われて仕事をしている」「残業代がつかなくなるので、幹部社員になりたくない」という従業員のリアルな声もあった。数万人が参加しているはずの社内SNSで社長の時田がコメントをつけても、「いいね!」などの反応が100に満たない。グループ12万人が閲覧できるはずの社内ポータルにトップメッセージをアップしても、閲覧数が2万~3万しかいかない――。その一方で、社員アンケートを取ると「他の部署が何をやっているのかが見えない」という不満も出てきていた』、「福田が富士通に入社して最大の問題だとすぐに気づいたのは、グループ全体を覆う「会社に対する無関心」だった。 「会社を変革することに対して、実は抵抗勢力らしき存在がいませんでした。みんなが変革には賛成する一方で、会社に対するエンゲージメントが非常に低く、何のために富士通にいるのか、何のために仕事をしているのかを考えているように見える社員が少なかったのです」、「数万人が参加しているはずの社内SNSで社長の時田がコメントをつけても、「いいね!」などの反応が100に満たない。グループ12万人が閲覧できるはずの社内ポータルにトップメッセージをアップしても、閲覧数が2万~3万しかいかない」、「グループ全体を覆う「会社に対する無関心」」とは驚いた。
・『経営に関心が向かないような仕組みがあった  社員が会社の成長や未来について、なぜこれほどまでに無関心なのか。 「無関心レベルが想像を超えていた」と福田は当時の状況を振り返るが、徐々に「富士通という組織の中に、会社の経営に関心を向かわせないような仕組みや構造があっただけに過ぎない」と思うようになる。会社が進んでいる方向性について、社員に疑問を抱かせないような環境を会社自身がつくっている、ということに気がついたのだ。 福田のこの気づきは、その後の改革に大いに活かされている。富士通は2020年5月にグループのパーパスを「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」ことと制定し、全社変革の軸として掲げた。 (【図表1】富士通グループのパーパス出所=『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』はリンク先参照) しかしながら、全社変革はトップダウンだけでは実現できない。欠かせないのは、今は無関心な多くの従業員の、多様な個の力による変革をボトムアップで進める意識と意欲だ』、「会社が進んでいる方向性について、社員に疑問を抱かせないような環境を会社自身がつくっている、ということに気がついたのだ。 福田のこの気づきは、その後の改革に大いに活かされている」、なるほど。
・『まずは社員個人が生きることの意義を見つめ直す  彼らの心を動かし、行動を起こす原動力は何なのか? その第一歩として、社員個々を理解し、その原動力をドライブする取り組みとして「パーパスカービング」を経営陣主導で開始した。 「パーパスカービング」とは個人が働くことや生きることの意義を改めて見つめ直した上で、企業のパーパスと自己のパーパスを掛け合わせ、そこで生まれる多様な力を変革の原動力にするという取り組みである。パーパスカービングは全社にわたって実施され、何よりもこの後、変革の先鋒に立つべきリーダー層に変化をもたらした。 「変わらない富士通」に諦めの気持ちを持っていたものが、トップファースト(=経営陣から順に)で行われたパーパスカービングの実施によって、時田をはじめとした経営陣の全社変革への本気度を感じることができた。全社を横断して変革を実践するリーダーシップへ、少しずつ意識の変容が見られてきたのである』、「社員個々を理解し、その原動力をドライブする取り組みとして「パーパスカービング」を経営陣主導で開始した。 「パーパスカービング」とは個人が働くことや生きることの意義を改めて見つめ直した上で、企業のパーパスと自己のパーパスを掛け合わせ、そこで生まれる多様な力を変革の原動力にするという取り組みである。パーパスカービングは全社にわたって実施され、何よりもこの後、変革の先鋒に立つべきリーダー層に変化をもたらした。 「変わらない富士通」に諦めの気持ちを持っていたものが、トップファースト・・・で行われたパーパスカービングの実施によって、時田をはじめとした経営陣の全社変革への本気度を感じることができた」、「トップファースト」で「経営陣の全社変革への本気度」を示す必要があったのだろう。
・『変革の対象は「聖域」なく選ぶ  富士通は先のパーパスを基に2030年のあるべき姿を設定し、富士通グループ全体で変革を推進するプロジェクトとして「FUJITRA(以下、フジトラ)」を20年10月から開始。プロジェクト名のフジトラとは「Fujitsu+Transformation」を略したもので、社長である時田がCDXO(当時)として、またCIOの福田がその補佐として、パーパスを基点に富士通グループ全体をデジタルの力で変革していくプロジェクトである。そして、経路“相互”依存性を打破するために同時多発的に変革を実践していく。 変革テーマの対象は“聖域”なく選び、事業部門から管理部門まで部門を問わない。上がってきたテーマを分類・分析し、優先順位をつけて同時並行で推進。現在では150ほどのテーマがグループ全体において同時並行で取り組まれている。 「現場が主役・全員参加」というスローガンを掲げ、主要組織、主要グループ会社、リージョンごとにDX責任者(DXO)を配置し、DXO同士が推進するテーマの課題や悩みを相互に共有し、DXOたちによるコミュニティが解決し合うプロジェクト推進の基盤も構築できている。 (【図表2】フジトラのプロジェクト体制(2023年3月時点)出所=『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』 はリンク先参照)』、「2030年のあるべき姿を設定し、富士通グループ全体で変革を推進するプロジェクトとして「FUJITRA・・・」を20年10月から開始」、「変革テーマの対象は“聖域”なく選び、事業部門から管理部門まで部門を問わない。上がってきたテーマを分類・分析し、優先順位をつけて同時並行で推進。現在では150ほどのテーマがグループ全体において同時並行で取り組まれている」、なるほど。
・『ファーストペンギンとしての出島組織をつくる  フジトラの本当の目的はデジタル化を進めることではなく、顧客の悩みや社会課題に対して自らが課題を設定し、解決し、新しい変革を起こしていくための意欲と能力を醸成していくことだ。 これは、これまで富士通がやりたくてもできなかったことでもあり、富士通という企業そのものの変革を体現してみせることでもある。 「果たして全社DXプロジェクトだけでそのような姿になれるのか?」「もっと加速させる手段はないのか?」――。その解の1つとして生まれたのが、社外から変革を加速させるDXコンサルティングファームとしてのリッジラインズである。 富士通の抱える変革に向けた課題は、多くの日本企業にも共通しており、富士通でそれらを解決できれば、同じような境遇に置かれている日本企業にとって貴重なリファレンスモデルとなり得る。 しかし同時に、大企業である富士通では新しい施策や実証実験などに向けた意思決定や、必要なタレント・チームの組成がスピード感を持った形で実施できない場合が多い。そのためのファーストペンギン役として出島組織(この場合は資本関係で繋がってはいるが、経営の自主性を高く持てる組織の意)であり、プロフェッショナルファームとしてのリッジラインズの存在が生きてくる。)』、「社外から変革を加速させるDXコンサルティングファームとしてのリッジラインズである」、「大企業である富士通では新しい施策や実証実験などに向けた意思決定や、必要なタレント・チームの組成がスピード感を持った形で実施できない場合が多い。そのためのファーストペンギン役として出島組織・・・であり、プロフェッショナルファームとしてのリッジラインズの存在が生きてくる」、なるほど。
・『人を起点にした変革5つのステップ  取り組みの例としては、ジョブ型人事制度を前提にした360度評価や、組織間での人材の移動を柔軟にするプラクティス制、経費精算などの社内のバックオフィス業務をデジタルツールをフル活用して完全自動化する取り組み、新たな知見の創出活動としての「Human & Values Lab」などがある。いずれもリッジラインズで始まり、富士通本体でも活用・検討されている取り組みだ。 ここまでの富士通の変革の現場を振り返ると、人を起点とした企業の変革に取り組む際のファーストステップとして捉えることができる』、「いずれもリッジラインズで始まり、富士通本体でも活用・検討されている取り組みだ」、「人を起点とした企業の変革に取り組む際のファーストステップとして捉えることができる」、なるほど。
・『人起点変革のファーストステップ  ステップ① 変革に取り組む明白な理由を示す ステップ② 企業としての新しい目的を設定する ステップ③ 対話を通じて企業の目的と従業員の原動力を共鳴させる ステップ④ 新しい目的や変革に熱意ある現場が行動変容できる環境をつくる ステップ⑤ ファーストペンギンを設定し、変革を加速する  まず前提としてあるのは、いかに素晴らしい戦略が描けたとしても、トップから現場に至るまでそこにいる人々の行動変容が起きなければ、外から見ていても会社は変わっていないと思われるし、実際、変わっていないということである。そのため、変革に取り組む理由や自社の目的を従業員一人ひとりが理解し、行動に繋げられるための環境づくりがDXの初期ステップでは肝要となる』、「変革に取り組む理由や自社の目的を従業員一人ひとりが理解し、行動に繋げられるための環境づくりがDXの初期ステップでは肝要となる」、その通りなのだろう。
・『「考えたこと」を「実践」に移せる環境を整える  富士通では経営方針説明会においてDX企業への転身を宣言し、全社員に対する強い意識付けを実施した(ステップ①)。続けてパーパスを制定し(ステップ②)、自社が向かう方向性を明確にした上で、対話を通じてパーパスを浸透させていった。それが12万人に向けたメッセージや、パーパスカービングである(ステップ③)。 (【図表3】人起点の変革のファーストステップ出所=『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』はリンク先参照) ここまでくると、ただのスローガンや一過性の取り組みではないということに従業員が気づき始める。本気で取り組みたいという熱意ある現場もちらほら出てくるが、そのときにポイントになるのが、彼らが考え出した新たな施策をすぐに実践できる環境をつくるということだ。 フジトラは全社の変革活動としてそれらを見える化し、活動やその成果がすぐに共有できるような環境を提供した。こうなると、後続が変革に向けて動きやすい状況がつくられ、自発的に挑戦しようとする動きも加速してくる(ステップ④)』、「「実践」に移せる環境を整える」のは確かに重要なようだ。
・『出島会社でうまくいったものを本丸に取り込む  その頃には抜本的に変化を起こす必要があるテーマや、これまでの常識にとらわれては決して解決できないテーマも明らかになってくる。そこでファーストペンギンを設定し、既存の組織やプロセスの影響を受けにくい状況で試行錯誤をさせ、うまくいったものを「本丸」に取り込んで一気に変革を進めていく。富士通にとっては、リッジラインズがまさしくファーストペンギンであり、出島として新会社を設立したのもそれが狙いの1つであった(ステップ⑤)。 富士通の場合は、これらのステップを経ることによって、変革を推進する人が自ら考え、行動を起こし、成果を生み出していくことが可能になる状態を創り出していった。 繰り返しになるが、変革を起こすのはまぎれもなく人である。リーダー自らが行動を起こし、周囲の行動を変容させていくためのアプローチとして、これらのステップを活用できる』、「出島会社でうまくいったものを本丸に取り込む」、巧みなやり方だ。
・『「ただデジタル化すればいい」のではない  日本企業の変革・DXで特に重要となるのはステップ①~③である。アナログ・物理データをデジタルデータ化したり、個別の業務をデジタル化したりするだけでは、トランスフォーメーションとはいえない。 組織を横断した全体の業務・製造プロセスのデジタル化・見える化を行い、事業運営やビジネスモデルを変革してこそDXが達成されるといっていいだろう。そのためには、繰り返しになるが自社の(変革の)目的を戦略的に設定し、一人ひとりに理解を促し、浸透させていくことが必要になる。この①~③のステップをおろそかにして、個別の業務におけるツール導入を検討しても、大きなインパクトを出すのは難しい。 そしてこれらのステップは、変革を起こすための序盤に必要なものに過ぎない。活動を更に活性化させていくことで、ムーブメントを起こし全社に広げていくことが重要となる。一過性の取り組みに終わらせることなく、上層部から現場まで巻き込んで変革の理由をそれぞれのレイヤーが「自分事化」し、時に新たな目的を設定し更なる行動に繋げていくこと、このサイクルを継続していくことによって大きな変革を遂げていくことができるようになる』、「日本企業の変革・DXで特に重要となるのはステップ①~③である。アナログ・物理データをデジタルデータ化したり、個別の業務をデジタル化したりするだけでは、トランスフォーメーションとはいえない。 組織を横断した全体の業務・製造プロセスのデジタル化・見える化を行い、事業運営やビジネスモデルを変革してこそDXが達成されるといっていいだろう。そのためには、繰り返しになるが自社の(変革の)目的を戦略的に設定し、一人ひとりに理解を促し、浸透させていくことが必要になる」、なるほど。

次に、6月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したニコンやMUFGのCFOをした徳成旨亮氏による「なぜ日本の取締役会はリスクテイクを歓迎しないのか」を紹介しよう。
・『三菱UFJおよびニコンのCFOとして、毎年平均100名近い海外機関投資家と面談してきた徳成旨亮氏によると、海外機関投資家との面談で、頻繁に「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」と問い質されてきた、という。 海外投資家は、日本の社会や企業経営を、血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態にあると見ている。結果、日経平均は1989年の最高値を未だ更新できておらず、水準を切り上げ続けている欧米株と比べて魅力がないと言われても仕方がない状況だ。 この現状を打破するにはどうしたらいいか? 徳成氏は、「CFO思考」が「鍵」になるという。 朝倉祐介氏(アニマルスピリッツ代表パートナー)や堀内勉氏(元森ビルCFO)が絶賛する6/7発売の新刊『CFO思考』では、日本経済・日本企業・日本人が「血気と活力」を取り戻し、着実に成長への道に回帰する秘策が述べられている。本書から、一部を特別に公開する』、『アニマルスピリッツ』を取り戻すには、「「CFO思考」が「鍵」になるという」のは興味深そうだ。
・「企業の永続性」を「成長」より優先する日本の取締役会  コーポレートガバナンス・コードは、取締役会がCEO以下経営陣の健全なアニマルスピリッツに基づくリスクテイクの提案を歓迎し、その果断な意思決定を支援することを求めています。 しかしながら、2023年時点で、日本企業の取締役会において、CEOをはじめとする経営陣に「もっと積極的にリスクを取れ」と背中を押すような行動を取っているケースはほとんどないものと思われます。 日本の社外取締役は、株主価値向上につながる企業価値向上を最優先に考えるというよりも、企業価値向上につながる行動はCEO以下執行サイドの役割であり、みずからの役割は監査など執行に対するチェック機能にあると認識しているものと考えられます。 ここで、取締役会の構成を見てみると、CEOなどの執行サイドの役員に加え、弁護士や会計士、官僚出身者や企業経営者から構成されているケースが多いことが分かります。 コーポレートガバナンス・コードの補充原則4─11①では、「独立社外取締役には、他社での経営経験を有するものを含めるべき[*1]」だとされており、各社はこぞって他社の社長経験者を社外取締役に迎えています。 その結果、他社の社長、会長経験者で、現在は「相談役」「特別顧問」などに就いておられる方々が、取締役会で中心的役割を担っている、というのが、日本の上場企業の平均的な姿になっています。 CFO仲間の懇談会などでよく聞く話を総合すると、平均的に70歳前後のこうした方々は、長年、企業を率い、後輩に社長のバトンを無事に渡された成功体験から、企業の永続性を優先するお考えをお持ちの方が多いようです。また、中には、「ROEや株主価値を重視すべき」という昨今の風潮に心のどこかで抵抗を感じている方もいらっしゃる、という話も聞きます。 誤解を恐れずに言えば、多くの社外取締役は、会社の継続性を優先し、企業がリスクアペタイトに乏しい状況を容認する、つまりリスクテイクよりは企業の安定性を重視する傾向があると言えます。 このため、ISSやグラス・ルイスなどの議決権行使助言会社が「独立社外取締役を増やせ」といった外形標準的な要求をいくら企業側に突き付け、そのとおりになったとしても、コーポレートガバナンス・コードが期待しているような「社外取締役が中心となってCEOのアニマルスピリッツに火をつけ、リスクテイクの背中を押す」といったシナリオは期待しにくいと言えます。 念のため、私のスタンスをお話しすれば、会社の永続性を重視する、という結論は多くの日本企業にとって妥当なものだと考えています。 同時に、海外投資家と面談してきた経験から、取締役会でもっとリスクテイクによる企業価値の向上策や株価対策が議題として採り上げられても良いとも感じています。 取締役会メンバーに「投資家的目線を持った人材」が複数いて、従業員や地域社会などさまざまなステークホルダーの利害を含む多角的な議論が行われ、その結果として経営方針を導き出すことが──たとえそれが従来と同じ結論だったとしても──重要ではないか、というのが私の考えです』、「多くの社外取締役は、会社の継続性を優先し、企業がリスクアペタイトに乏しい状況を容認する、つまりリスクテイクよりは企業の安定性を重視する傾向がある」、「ISSやグラス・ルイスなどの議決権行使助言会社が「独立社外取締役を増やせ」といった外形標準的な要求をいくら企業側に突き付け、そのとおりになったとしても、コーポレートガバナンス・コードが期待しているような「社外取締役が中心となってCEOのアニマルスピリッツに火をつけ、リスクテイクの背中を押す」といったシナリオは期待しにくいと言えます」、なるほど。
・『取締役会に投資家を招く「ボード3.0」という考え方  こうした問題意識は広く認識されつつあり、経済産業省や一部有識者のあいだでは、「ボード3.0」を日本流に応用することがその解決に資するのではないか、と注目されています。 「ボード3.0」とは、2019年にコロンビア・ロースクールのロナルド・ジルソン教授とジェフリー・ゴードン教授が提唱した新しい取締役会のモデルです[*2]。 1960年代までに米国で確立した取締役会のモデルは「アドバイザリーボード」と呼ばれ、取締役会は、経営者本人と企業の顧問法律事務所や取引銀行や投資銀行の担当役員、経営者の知人の他社経営者など「お友達」とも言える人々で構成されていました。 このような取締役会では、リスクアペタイトが旺盛な経営者の欲望を抑制できず、不正や経営破綻につながったことから、このモデルは限界を迎えました。 次に登場したのが、独立社外取締役で構成される監査委員会を活用する「ボード2.0」です。「モニタリングボード」とも呼ばれるこの仕組みは、1970年代から2000年代にかけて徐々に一般的になってきました。日本のコーポレートガバナンス・コードも独立社外取締役が過半数を占め、監査委員会、報酬委員会、指名委員会などを持つ米国の「ボード2.0」をひな型としています。 「ボード2.0」に対しては、米国では課題が指摘されています。CEOほかの執行サイドとの情報格差や管理・監督のためのリソース、またモチベーションの点で社外取締役には限界があり、複雑化する企業経営を十分に監督できないのではないか、という指摘です。 日本企業とは異なり、米国では経営者のアニマルスピリッツやリスクアペタイトは旺盛だけれども、CEOなどの経営陣と社外取締役の情報の非対称性が大きく、経営者の意図を十分咀嚼し議論していく体制が不十分、というわけです。 米国では、アクティビストが株主となり、相当額の投資を背景に大株主としてCEOやCFOとの面談や財務分析を集中して行うことで、経営に深く関与する事例が増えています。 こうなると、その会社のビジネス領域に十分な知見のない社外取締役よりも、洗練されたアクティビストの方が事業をよく理解し戦略の評価能力を有している、という状況になってきます。 こうしたアクティビストから事業売却などの提案を受けた場合、これまでの「独立性」にこだわり過ぎた社外取締役だけでは、賛否を十分に議論できないのではないか、というのがゴードン氏らの指摘です。 「ボード3.0」でゴードン氏らが提唱しているアイデアは、企業価値を持続的に成長させるために、取締役会に、企業が成長することと利害が一致しインセンティブを持つ投資家(プライベートエクイティ・ファンドなど)を迎え、取締役会の情報収集力やアクティビストとの交渉力などを高める、というものです。 実は、米国ではこの「ボード3.0」に対しては批判が多く、2023年の春の時点では、本国での賛同は広がっていません。 むしろ、「ボード3.0」をめぐる議論は、米国本国よりも日本で活発です。 それは、ゴードン氏らが提起した「独立社外取締役の存在だけでは、企業価値の向上につながらない」という論点が、企業業績や株価が低迷している日本でより深刻だからだと考えられます。 しかし、取締役会に投資家を迎え入れるという「ボード3.0」のアイデアが、日本で受け入れられる可能性は米国以上にほとんどありません。 (本書では、日本企業で取締役会がより健全なリスクテイクを行えるようにするための方策を、上記の文章に続いて、この後に提言しています』、「1960年代までに米国で確立した取締役会のモデルは「アドバイザリーボード」と呼ばれ、取締役会は、経営者本人と企業の顧問法律事務所や取引銀行や投資銀行の担当役員、経営者の知人の他社経営者など「お友達」とも言える人々で構成されていました。 このような取締役会では、リスクアペタイトが旺盛な経営者の欲望を抑制できず、不正や経営破綻につながったことから、このモデルは限界を迎えました」、「独立社外取締役で構成される監査委員会を活用する「ボード2.0」です・・・1970年代から2000年代にかけて徐々に一般的になってきました。日本のコーポレートガバナンス・コードも独立社外取締役が過半数を占め、監査委員会、報酬委員会、指名委員会などを持つ米国の「ボード2.0」をひな型としています。 「ボード2.0」に対しては、米国では課題が指摘されています。CEOほかの執行サイドとの情報格差や管理・監督のためのリソース、またモチベーションの点で社外取締役には限界があり、複雑化する企業経営を十分に監督できないのではないか、という指摘」、「「ボード3.0」でゴードン氏らが提唱しているアイデアは、企業価値を持続的に成長させるために、取締役会に、企業が成長することと利害が一致しインセンティブを持つ投資家(プライベートエクイティ・ファンドなど)を迎え、取締役会の情報収集力やアクティビストとの交渉力などを高める、というものです。 実は、米国ではこの「ボード3.0」に対しては批判が多く、2023年の春の時点では、本国での賛同は広がっていません。 むしろ、「ボード3.0」をめぐる議論は、米国本国よりも日本で活発です」、なるほど。
・『徳成旨亮(とくなり・むねあき) ニコン取締役専務執行役員CFO 慶應義塾大学卒業。ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン・スクール)Advanced Management Program for Overseas Bankers修了。 三菱UFJフィナンシャル・グループCFO(最高財務責任者)、米国ユニオンバンク取締役を経て現職。日本IR協議会元理事。米国『インスティテューショナル・インベスター』誌の投資家投票でベストCFO(日本の銀行部門)に2019年まで4年連続選出される。本業の傍ら執筆活動を行い、ペンネーム「北村慶」名義での著書は累計発行部数約17万部。朝日新聞コラム「経済気象台」および日本経済新聞コラム「十字路」への定期寄稿など、金融・経済リテラシーの啓発活動にも取り組んでいる。本書は本名での初の著作。 【著者からのメッセージ】 私は国内外あわせて毎年平均100名前後の機関投資家の方々と、直接もしくはネット経由で面談し、自社の株式への投資をお願いしてきました。これら多くのグローバル投資家から、私が繰り返し言われてきた言葉があります。それは、 「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」というフレーズです。 経済学者のジョン・メイナード・ケインズによれば、アニマルスピリッツとは、「実現したいことに対する非合理的なまでの期待と熱意」を意味します。海外の投資家たちは、日本の社会全体や企業経営から血気と活力が衰えている、つまり「アニマルスピリッツ」が日本経済から失われていると見ているのです。 この現状を覆すにはどうすればよいか? それが本書のテーマです。その答えは「CFO思考」にあると私は考えています。 「CFO(Chief Financial Officer、最高財務責任者)」と聞くと、数字のプロであり経理や資金調達に責任を負っている「経理・財務担当役員」が思い浮かぶ方も多いと思います。 しかし、欧米で「CFO」といえば、CEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)とともに3名で経営の意思決定を行う「Cスイート」の一角を占める重要職です。CFOは、投資家をはじめとする社外の多くのステークホルダー(利害関係者)に対しては、会社を代表してエンゲージメント(深いつながりを持った対話)を行い、社内に対しては、ROE(自己資本利益率)に代表される投資家の期待・資本の論理や、ESG投資家や地域社会など、異なるステークホルダーの要望を社員にもわかるように翻訳して伝え、その期待を踏まえた経営戦略を立て、それを実践するよう組織に影響を与え行動を促す、という役割を担っています。 そして、「アニマルスピリッツ」をCEOなどほかの経営陣と共有し、「数値をベースにした冷静な判断力」を持って考え、企業としての夢の実現に向け行動する、いわば企業成長のエンジンの役割を果たしています。 本書では、従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべきだ」という考え方を「金庫番思考」、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」という考え方を「CFO思考」と呼びます。「『CFO思考』こそが、企業のパーパス(存在意義・目的)を実現させる」。これが本書の結論です。 本書でお話する内容には、企業経営に関するテーマが多く含まれています。同時に、現在、各企業において、経理、予算、財務、税務、IR、サステナビリティ・ESG、DX・ITといった分野で働くビジネスパーソン、もしくはそのような分野に興味がある方々も意識して書き下ろしました。皆さんが担当しておられるこれらの業務において、どのように「CFO思考」を発揮すればよいのかをご紹介しています。 こうした実務に携わっておられる皆さんには、グローバルで活躍できる人材として、将来日本企業と日本経済の成長のエンジンになっていただきたいと考えています。 CFOという仕事の魅力と楽しさが、一人でも多くの読者の皆さんに伝われば、それに勝る喜びはありません』、「本書では、従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべきだ」という考え方を「金庫番思考」、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」という考え方を「CFO思考」と呼びます。「『CFO思考』こそが、企業のパーパス(存在意義・目的)を実現させる」。これが本書の結論です」、「金庫番思考」ではなく、「CFO思考」を持てとの主張には説得力がある。

第三に、6月18日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したニコンやMUFGのCFOをした徳成旨亮氏による「日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」のままで良いのか?」を紹介しよう。
・(冒頭は第二の記事と同じなので省略) ほとんどの日本企業はリスクを取らなすぎ  会社の健全性の維持に関してCFOは全責任を負います。CFOが企業の財務健全性の最後の砦であることに疑いの余地はありません。 財務の健全性を損ねることは、従業員、債権者、取引先など多くのステークホルダーにとって好ましいことではないこともまた明白です。 日本においては、企業経営者は会社を潰さないことを最優先に経営判断をしてきました。経理・財務担当役員は、ケチとか倹約家などと陰口を叩かれようとも「金庫番」としての役割を立派に果たし、ぶ厚い内部留保を積み上げてきました。 結果、日本企業は倒産が少なく、人々は安心して生活ができ、そのことが日本の社会の安定と犯罪の少ない安全をもたらしてきた側面があります。 つまり、会社は社会の「公器」であり、永続することは従業員や取引先や地域社会にとって大きな意味を持つ、という自覚が大企業の経営者にはあったのだと思います。 しかし、取締役会がCEOら経営者のアニマルスピリッツを刺激せず、「金庫番思考」を持つCFOがブレーキに常に足を掛けていては、日本企業は「潰れもしないが、成長もしない」状態に至ることは確実です。 事実、世界的にみて日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」なのです。内閣府の白書「日本経済2020─2021」によれば、我が国の倒産件数は減少傾向が続いており、資本金1億円以上の大・中堅企業の倒産は、2015年以降100件未満に止まっています[*1]。 米国企業の取締役会がお友達中心の「ボード1.0」から、独立社外取締役中心のモニタリングモデル「ボード2.0」に移行した主な要因は、経営者によるリスクの取り過ぎ、すなわち「過食」にありましたが、日本企業に一般的に見られる課題は、「小食」です。 すなわち、ほとんどの上場企業がリスクアペタイトを余らせている状態、資本やキャッシュを過大に保有している状態にあるのです。 岸田内閣以前から政治の世界でも、日本企業の内部留保の大きさが話題になってきましたが、これも同じ文脈で理解することができます。 また、8年余りのCFO生活のなかで、私が世界中の複数の投資家から、それも日本を知り日本人を愛する有名ファンドマネージャーから、「君たち日本人にはアニマルスピリッツはないのか?」と何度も言われた背景もここにあります』、「取締役会がCEOら経営者のアニマルスピリッツを刺激せず、「金庫番思考」を持つCFOがブレーキに常に足を掛けていては、日本企業は「潰れもしないが、成長もしない」状態に至ることは確実です。 事実、世界的にみて日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」なのです」、「米国企業の取締役会がお友達中心の「ボード1.0」から、独立社外取締役中心のモニタリングモデル「ボード2.0」に移行した主な要因は、経営者によるリスクの取り過ぎ、すなわち「過食」にありましたが、日本企業に一般的に見られる課題は、「小食」です。 すなわち、ほとんどの上場企業がリスクアペタイトを余らせている状態、資本やキャッシュを過大に保有している状態にあるのです」、「8年余りのCFO生活のなかで、私が世界中の複数の投資家から、それも日本を知り日本人を愛する有名ファンドマネージャーから、「君たち日本人にはアニマルスピリッツはないのか?」と何度も言われた背景もここにあります」、「日本企業に一般的に見られる課題は、「小食」です」、とは言い得て妙だ。
・『業態転換よりも市場からの退出を求める海外投資家  会社を潰さず、雇用を守るために、日本企業の経営者が取ってきた企業戦略が、多角化であり事業ポートフォリオ戦略です。すなわち、異なるリスクプロファイルと収益構造を持つ複数の事業を持つことで、会社全体を安定させようとしてきました。 また、主力事業が苦しくなると、その事業が持つ基礎技術や顧客基盤を用いて、会社と終身雇用を守りながら、業態転換を図ってきました。経営論的に言えば、いったん会社を清算して新たに起業することが合理的な場合も含めて、日本の企業経営者は何とか会社全体を存続させようとしてきました。そのベースには、「会社は、社会の『公器』であり、存続していること自体に意味がある」という考え方がありました。こうした考え方を仮に「日本型資本主義」と呼ぶことにしましょう。 これに対して、欧米の企業経営者や投資家は異論を唱えます。 複数の事業を持つのは好ましくない。企業のなかでポートフォリオを組んでもらう必要はない。それは、私たちファンドマネージャーの仕事だ。君たちは、事業構成をなるべくシンプルにして、1つか2つの事業に集中して、成長を目指してもらいたい。寿命が尽きたビジネスは諦めて、それが主力事業ならいったん会社をたたむべきだ。会社を永続させながら、業態転換するなんていう難しいことをやる必要はない。 彼らが念頭に置いている「株式会社」や「資本主義」のあり方は、日本の経営者の平均的な考えと大きく異なるのです。 私がそれを痛感した投資家との対話があります。それは、富士フイルムを巡るやり取りでした。 写真フイルムで高収益を上げていた米国のイーストマン・コダック(以下コダック)が、デジタルカメラという革新的な技術に敗れ去り、かたや富士フイルムは市場がほぼ消滅するという危機を乗り越え、複写機などのOA機器や医療用画像機器、医薬品、化粧品、健康食品や高機能化学品などに主力商品を転換させることで、高収益企業として見事に生き残ったという有名な事例があります。 コダックは世界で初めてカラーフイルムを発売したメーカーで、1963年頃にはすでに4000億円を売り上げ、270億円ほどの富士フイルムとは10倍以上の開きがありました。コダックは写真フイルムの製造に必要な銀とゼラチンを確保するために、銀山や牧場を自前で保有していたという話もあります。 しかしそのコダックは、2012年、経営破綻したのです。一方の富士フイルムは売上2兆8590億円、当期純利益2194億円(2023年3月期)の優良企業として生き残っています。 私が面談した米国の有名投資家は、「富士フイルムが成し遂げたことは素晴らしい」と前置きしたうえで、「しかしコダックの経営者も間違ってはいなかった」と語ったのです。 倒産させておいて何を? という私の疑問の表情に気づいたかのように、そのファンドマネージャーは続けました。「コダックの経営者は、最後まで配当と自社株取得で、過去に蓄積した利益を投資家に返し続けた。ひとつのビジネスが廃れるとき、累積資本は自社株取得などで投資家になるべく早く還元すべきだ。その資金で投資家が次世代のビジネスを作る別のベンチャー企業に投資する。投資家が投資先を選ぶのであって、企業が成功するかもわからない新規事業に乗り出してコングロマリット化することは非効率だ」 業態転換に成功した富士フイルムは例外であって、多くの場合、主力事業が衰退する企業は早く見切りをつけて、経済資本(現預金)や人的資本(技術者や従業員)を市場に解放したほうがよい。資本や有能な人材を欲しているベンチャー企業が米国にはたくさんあるのだから、というわけです。 これが欧米流の企業のあり方であり、彼らが考える「普通の資本主義」です。キーワード的に言えば、企業の優勝劣敗は必然であり、新陳代謝は経済に効率性をもたらす、そして、新たな成長は市場と投資家が主導する、という理屈です。 当然、社会や従業員には一定程度の混乱が生じますが、それも長い目で見れば、経済の成長と新産業の勃興で吸収できる、という将来に対する楽観的見方がベースにあります。 *1 「日本経済2020−2021」内閣府ウェブサイト、2021年3月 https://www5.cao.go.jp/keizai3/2020/0331nk/index.html ※この記事は、書籍『CFO思考』の一部を抜粋・編集して公開しています。』、「会社を潰さず、雇用を守るために、日本企業の経営者が取ってきた企業戦略が、多角化であり事業ポートフォリオ戦略です。すなわち、異なるリスクプロファイルと収益構造を持つ複数の事業を持つことで、会社全体を安定させようとしてきました。 また、主力事業が苦しくなると、その事業が持つ基礎技術や顧客基盤を用いて、会社と終身雇用を守りながら、業態転換を図ってきました・・・そのベースには、「会社は、社会の『公器』であり、存続していること自体に意味がある」という考え方がありました。こうした考え方を仮に「日本型資本主義」と呼ぶことにしましょう」、「これに対して、欧米の企業経営者や投資家は異論を唱えます。 複数の事業を持つのは好ましくない。企業のなかでポートフォリオを組んでもらう必要はない。それは、私たちファンドマネージャーの仕事だ。君たちは、事業構成をなるべくシンプルにして、1つか2つの事業に集中して、成長を目指してもらいたい。寿命が尽きたビジネスは諦めて、それが主力事業ならいったん会社をたたむべきだ。会社を永続させながら、業態転換するなんていう難しいことをやる必要はない。 彼らが念頭に置いている「株式会社」や「資本主義」のあり方は、日本の経営者の平均的な考えと大きく異なる。 これ以降は、第二の記事と同じなので、紹介を省略』、私も「欧米の企業経営者や投資家」の考え方を支持する。「日本型資本主義」でリスクを取れずに現金を積み上げている経営者は、無能という他ない。
タグ:日本型経営・組織の問題点 (その14)(社員は“マジメで勤勉”なのに 会社はアナログのまま…富士通の「DX請負人」が痛感した日本企業の重大な欠陥 日本企業が時代遅れになった根本原因、なぜ日本の取締役会はリスクテイクを歓迎しないのか、日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」のままで良いのか?) PRESIDENT ONLINE 田中 道昭氏による「社員は“マジメで勤勉”なのに、会社はアナログのまま…富士通の「DX請負人」が痛感した日本企業の重大な欠陥 日本企業が時代遅れになった根本原因」 Ridgelinez編、田中道昭監修『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』(日本経済新聞出版) 「DXが進まない最大の原因」が「会社に対する無関心」とは衝撃的だ。 「SAPジャパンの代表取締役」を「執行役員EVP、CDXO・・・、CIO」として迎え入れるとは思い切ったことをしたものだ。 「SAPジャパン時代に福田」氏は、「富士通の当時の社長」が「経営者がグローバルの数字を経営の意思決定に繋がる形でタイムリーに把握することができておらず、グループ会社のガバナンスもほとんど利いていないという印象を持ったという」、あり得る話だ。 「田中の再びの依頼によって、福田は翌年に富士通の取締役全員のシリコンバレー視察を受け入れ、SAPのデータ駆動型経営について改めて説明した」、「福田は富士通を変えられたら多くの日本企業のリファレンスになると考え、時田の招聘しょうへいを受け入れて富士通に転じ、富士通のトランスフォーメーションの指揮を執ることになる」、「田中」氏は「SAPのデータ駆動型経営」や「福田」氏をよほど気に入ったようだ。 「福田が富士通に入社して最大の問題だとすぐに気づいたのは、グループ全体を覆う「会社に対する無関心」だった。 「会社を変革することに対して、実は抵抗勢力らしき存在がいませんでした。みんなが変革には賛成する一方で、会社に対するエンゲージメントが非常に低く、何のために富士通にいるのか、何のために仕事をしているのかを考えているように見える社員が少なかったのです」、 「数万人が参加しているはずの社内SNSで社長の時田がコメントをつけても、「いいね!」などの反応が100に満たない。グループ12万人が閲覧できるはずの社内ポータルにトップメッセージをアップしても、閲覧数が2万~3万しかいかない」、「グループ全体を覆う「会社に対する無関心」」とは驚いた。 「会社が進んでいる方向性について、社員に疑問を抱かせないような環境を会社自身がつくっている、ということに気がついたのだ。 福田のこの気づきは、その後の改革に大いに活かされている」、なるほど。 「社員個々を理解し、その原動力をドライブする取り組みとして「パーパスカービング」を経営陣主導で開始した。 「パーパスカービング」とは個人が働くことや生きることの意義を改めて見つめ直した上で、企業のパーパスと自己のパーパスを掛け合わせ、そこで生まれる多様な力を変革の原動力にするという取り組みである。パーパスカービングは全社にわたって実施され、何よりもこの後、変革の先鋒に立つべきリーダー層に変化をもたらした。 「変わらない富士通」に諦めの気持ちを持っていたものが、トップファースト・・・で行われたパーパスカービングの実施によって、時田をはじめとした経営陣の全社変革への本気度を感じることができた」、「トップファースト」で「経営陣の全社変革への本気度」を示す必要があったのだろう。 「2030年のあるべき姿を設定し、富士通グループ全体で変革を推進するプロジェクトとして「FUJITRA・・・」を20年10月から開始」、「変革テーマの対象は“聖域”なく選び、事業部門から管理部門まで部門を問わない。上がってきたテーマを分類・分析し、優先順位をつけて同時並行で推進。現在では150ほどのテーマがグループ全体において同時並行で取り組まれている」、なるほど。 「社外から変革を加速させるDXコンサルティングファームとしてのリッジラインズである」、「大企業である富士通では新しい施策や実証実験などに向けた意思決定や、必要なタレント・チームの組成がスピード感を持った形で実施できない場合が多い。そのためのファーストペンギン役として出島組織・・・であり、プロフェッショナルファームとしてのリッジラインズの存在が生きてくる」、なるほど。 「いずれもリッジラインズで始まり、富士通本体でも活用・検討されている取り組みだ」、「人を起点とした企業の変革に取り組む際のファーストステップとして捉えることができる」、なるほど。 「変革に取り組む理由や自社の目的を従業員一人ひとりが理解し、行動に繋げられるための環境づくりがDXの初期ステップでは肝要となる」、その通りなのだろう。 「「実践」に移せる環境を整える」のは確かに重要なようだ。 「出島会社でうまくいったものを本丸に取り込む」、巧みなやり方だ。 「日本企業の変革・DXで特に重要となるのはステップ①~③である。アナログ・物理データをデジタルデータ化したり、個別の業務をデジタル化したりするだけでは、トランスフォーメーションとはいえない。 組織を横断した全体の業務・製造プロセスのデジタル化・見える化を行い、事業運営やビジネスモデルを変革してこそDXが達成されるといっていいだろう。そのためには、繰り返しになるが自社の(変革の)目的を戦略的に設定し、一人ひとりに理解を促し、浸透させていくことが必要になる」、なるほど。 ダイヤモンド・オンライン 徳成旨亮氏による「なぜ日本の取締役会はリスクテイクを歓迎しないのか」 『アニマルスピリッツ』を取り戻すには、「「CFO思考」が「鍵」になるという」のは興味深そうだ。 「多くの社外取締役は、会社の継続性を優先し、企業がリスクアペタイトに乏しい状況を容認する、つまりリスクテイクよりは企業の安定性を重視する傾向がある」、「ISSやグラス・ルイスなどの議決権行使助言会社が「独立社外取締役を増やせ」といった外形標準的な要求をいくら企業側に突き付け、そのとおりになったとしても、コーポレートガバナンス・コードが期待しているような「社外取締役が中心となってCEOのアニマルスピリッツに火をつけ、リスクテイクの背中を押す」といったシナリオは期待しにくいと言えます」、なるほど。 「1960年代までに米国で確立した取締役会のモデルは「アドバイザリーボード」と呼ばれ、取締役会は、経営者本人と企業の顧問法律事務所や取引銀行や投資銀行の担当役員、経営者の知人の他社経営者など「お友達」とも言える人々で構成されていました。 このような取締役会では、リスクアペタイトが旺盛な経営者の欲望を抑制できず、不正や経営破綻につながったことから、このモデルは限界を迎えました」、 「独立社外取締役で構成される監査委員会を活用する「ボード2.0」です・・・1970年代から2000年代にかけて徐々に一般的になってきました。日本のコーポレートガバナンス・コードも独立社外取締役が過半数を占め、監査委員会、報酬委員会、指名委員会などを持つ米国の「ボード2.0」をひな型としています。 「ボード2.0」に対しては、米国では課題が指摘されています。CEOほかの執行サイドとの情報格差や管理・監督のためのリソース、またモチベーションの点で社外取締役には限界があり、複雑化する企業経営を十分に監督できないのではないか、という指摘」、 「「ボード3.0」でゴードン氏らが提唱しているアイデアは、企業価値を持続的に成長させるために、取締役会に、企業が成長することと利害が一致しインセンティブを持つ投資家(プライベートエクイティ・ファンドなど)を迎え、取締役会の情報収集力やアクティビストとの交渉力などを高める、というものです。 実は、米国ではこの「ボード3.0」に対しては批判が多く、2023年の春の時点では、本国での賛同は広がっていません。 むしろ、「ボード3.0」をめぐる議論は、米国本国よりも日本で活発です」、なるほど。 「本書では、従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべきだ」という考え方を「金庫番思考」、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」という考え方を「CFO思考」と呼びます。「『CFO思考』こそが、企業のパーパス(存在意義・目的)を実現させる」。これが本書の結論です」、「金庫番思考」ではなく、「CFO思考」を持てとの主張には説得力がある。 徳成旨亮氏による「日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」のままで良いのか?」 「取締役会がCEOら経営者のアニマルスピリッツを刺激せず、「金庫番思考」を持つCFOがブレーキに常に足を掛けていては、日本企業は「潰れもしないが、成長もしない」状態に至ることは確実です。 事実、世界的にみて日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」なのです」、「米国企業の取締役会がお友達中心の「ボード1.0」から、独立社外取締役中心のモニタリングモデル「ボード2.0」に移行した主な要因は、経営者によるリスクの取り過ぎ、すなわち「過食」にありましたが、日本企業に一般的に見られる課題は、「小食」です。 すなわち、ほとんどの上場企業がリスクアペタイトを余らせている状態、資本やキャッシュを過大に保有している状態にあるのです」、 「8年余りのCFO生活のなかで、私が世界中の複数の投資家から、それも日本を知り日本人を愛する有名ファンドマネージャーから、「君たち日本人にはアニマルスピリッツはないのか?」と何度も言われた背景もここにあります」、「日本企業に一般的に見られる課題は、「小食」です」、とは言い得て妙だ。 「会社を潰さず、雇用を守るために、日本企業の経営者が取ってきた企業戦略が、多角化であり事業ポートフォリオ戦略です。すなわち、異なるリスクプロファイルと収益構造を持つ複数の事業を持つことで、会社全体を安定させようとしてきました。 また、主力事業が苦しくなると、その事業が持つ基礎技術や顧客基盤を用いて、会社と終身雇用を守りながら、業態転換を図ってきました・・・そのベースには、「会社は、社会の『公器』であり、存続していること自体に意味がある」という考え方がありました。 こうした考え方を仮に「日本型資本主義」と呼ぶことにしましょう」、「これに対して、欧米の企業経営者や投資家は異論を唱えます。 複数の事業を持つのは好ましくない。企業のなかでポートフォリオを組んでもらう必要はない。それは、私たちファンドマネージャーの仕事だ。君たちは、事業構成をなるべくシンプルにして、1つか2つの事業に集中して、成長を目指してもらいたい。寿命が尽きたビジネスは諦めて、それが主力事業ならいったん会社をたたむべきだ。会社を永続させながら、業態転換するなんていう難しいことをやる必要はない。 彼らが念頭に置いている「株式会社」や「資本主義」のあり方は、日本の経営者の平均的な考えと大きく異なる。 これ以降は、第二の記事と同じなので、紹介を省略』、私も「欧米の企業経営者や投資家」の考え方を支持する。「日本型資本主義」でリスクを取れずに現金を積み上げている経営者は、無能という他ない。
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日本の構造問題(その28)(受け入れざるを得ない悲しい現実 アジアの中でも「小国」に転落する日本 インドネシアにも抜かされる?日本は抜本的な意識の転換を、円安政策と金融緩和 「賃金停滞」をもたらした経済政策の罪は重い) [経済政治動向]

日本の構造問題については、本年3月2日に取上げた。今日は、(その28)(受け入れざるを得ない悲しい現実 アジアの中でも「小国」に転落する日本 インドネシアにも抜かされる?日本は抜本的な意識の転換を、円安政策と金融緩和 「賃金停滞」をもたらした経済政策の罪は重い)である。

先ずは、本年4月17日付けJBPressが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「受け入れざるを得ない悲しい現実、アジアの中でも「小国」に転落する日本 インドネシアにも抜かされる?日本は抜本的な意識の転換を」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/74801
・『コロナ危機を経て、新興国が驚異的な経済成長を実現している。国内では日本のGDPがドイツに抜かされつつあることが話題となっているが、本当の脅威はそこではない。アジアやアフリカなど新興国の成長が本格化することで、大国の概念が大きく変わりつつある。日本は将来、インドネシアにも抜かれ、アジアの小国に転落する可能性が高く、それを前提にした戦略に転換する必要がある』、「日本は将来」、「アジアの小国に転落する可能性が高く」、薄々、予想してきたことではあるが、改めて指摘されるとやはり衝撃的だ。
・『東南アジアが急激に豊かになっている  フィリピン政府は2023年1月、2022年の実質GDP(国内総生産)成長率が前年比でプラス7.6%になったと発表した。この数字は、政府の目標値を上回っており、しかも過去2番目の大きさである。 高成長を実現したのはフィリピンだけではない。同年におけるマレーシアの成長率はプラス8.7%、ベトナムの成長率はプラス8.0%、インドネシアは5.3%と軒並み高い数字が並ぶ。 各国に共通しているのは消費の強さである。これまでアジアの新興国は、米国や日本、韓国の下請けとして工業製品を製造するケースが多く、基本的に輸出に依存していた。だが一連の高成長の原動力となっているのは内需であり、とりわけ個人消費の伸びが大きい。) 東南アジア各国が個人消費によって高成長を実現していることから分かるのは、各国で資本蓄積が進み、国内のインフラが整ったことで、国民生活が豊かになってきたという現実である。 一般的に新興工業国は、輸出とそれを支えるための生産設備への投資で経済を伸ばしていく。かつての中国や日本がそうだったが、GDPに占める設備投資の比率が高く、個人消費はそれほど成長には寄与しない。だが十分に資本蓄積が進んでくると内需の寄与度が大きくなり、本格的な消費社会が到来することになる。 こうした変化が発生するしきい値となるのは、1人あたりGDPで1万ドル前後と言われており、これは多くの文化圏に共通した現象である。1人あたりGDPが1万ドルを超えてくると、当該国は相当程度、豊かな生活を送れるようになり、消費パターンも先進国と似通ってくる。 この法則は過去の日本にも当てはまる。日本の1人あたりGDPが現在価値で1万ドルに達したのは1960年代であり、70年代以降、国内の風景は一変した。筆者は1969年生まれだが、小学校に入学する頃までは街中は汚く、一部では戦後の貧しい時代の雰囲気を色濃く残していた。ところが70年代後半から社会は急速に豊かになり、施設も見違えるように立派になっていった。 現在の中国における1人あたりGDPは1万2500ドルとなっており、しきい値を超えている。中国人の生活は劇的に変化しており、従来の中国とはまったく違う国になったと考えてよい。 ひるがえって東南アジア各国の1人あたりGDPは、マレーシアが1万3000ドル、タイが7600ドルとなっており、マレーシアはすでに中国並みの豊かさを実現し、タイが準先進国入りするのも時間の問題である。 ベトナムは4000ドル、フィリピンは3600ドル、インドネシアは4700ドルなので、1万ドルに到達するまでには少し時間がかかる。だが逆に言えば、1万ドルまでは青天井となる可能性が高く、当分の間、驚異的な成長を実現するだろう』、「十分に資本蓄積が進んでくると内需の寄与度が大きくなり、本格的な消費社会が到来することになる。 こうした変化が発生するしきい値となるのは、1人あたりGDPで1万ドル前後と言われており、これは多くの文化圏に共通した現象である。1人あたりGDPが1万ドルを超えてくると、当該国は相当程度、豊かな生活を送れるようになり、消費パターンも先進国と似通ってくる」、「東南アジア各国の1人あたりGDPは、マレーシアが1万3000ドル、タイが7600ドルとなっており、マレーシアはすでに中国並みの豊かさを実現し、タイが準先進国入りするのも時間の問題である。 ベトナムは4000ドル、フィリピンは3600ドル、インドネシアは4700ドルなので、1万ドルに到達するまでには少し時間がかかる」、なるほど。
・『日本はインドネシアにも抜かされる?  今の議論はあくまでも1人あたりGDP、つまり社会の豊かさに関するものだが、東南アジア各国の脅威はそれだけではない。中国ほどではないにせよ東南アジア各国は人口が多く、GDPの絶対値も大規模になる可能性が高いのだ。 日本の人口は1億2500万人であり、相対的には人口が多い国である。日本が戦後、工業国として成長できた理由のひとつは人口の多さであり、低賃金を武器に大量生産を実現したことで先進国の仲間入りを果たした。ビジネスや外交において規模は重要であり、人口が多いことが強力な武器になるのは今の中国を見れば明らかだろう。) 東南アジアで最も人口が多いのはインドネシアで約2.8億もの人口を抱えている。ベトナムやフィピンもインドネシアほどではないが人口が多く、ベトナムは約1億人、フィリピンは1億1000万人、タイも7000万人なのでかなりのボリュームだ。 多くの人口を抱えた東南アジア各国が今後、急激に成長し、豊かになってくると、中国のような爆買いを行うことは容易に想像できる。中国に加えて東南アジアが爆買いを開始した場合、アジアのビジネス環境が激変するのはほぼ間違いないだろう。 特に脅威となるのがインドネシアである。 インドネシアの1人あたりGDPはまだ5000ドルだが、今後、急激に豊かになり、今のタイやマレーシア並みに成長するのは確実である。3億人近い人口を抱えた国が経済成長すると、GDPの絶対値も大きな数字となる。多くの専門家が今後20年以内にインドネシアのGDPは日本を抜き、世界で5本の指に入る経済大国になると予想している。 東南アジアではないが、意外なところではアフリカのナイジェリアもそれに該当する。 同国はまだ貧しい新興国だが、人口は2億を超えた。東南アジアに続いて急成長を実現するのはアフリカ諸国と言われており、そうした新時代においてナイジェリアは大国になる可能性を秘めている』、「多くの人口を抱えた東南アジア各国が今後、急激に成長し、豊かになってくると、中国のような爆買いを行うことは容易に想像できる。中国に加えて東南アジアが爆買いを開始した場合、アジアのビジネス環境が激変するのはほぼ間違いないだろう。 特に脅威となるのがインドネシアである。 インドネシアの1人あたりGDPはまだ5000ドルだが、今後、急激に豊かになり、今のタイやマレーシア並みに成長するのは確実である。3億人近い人口を抱えた国が経済成長すると、GDPの絶対値も大きな数字となる。多くの専門家が今後20年以内にインドネシアのGDPは日本を抜き、世界で5本の指に入る経済大国になると予想」、「インドネシアのGDPは日本を抜き、世界で5本の指に入る経済大国になる」、確かに「脅威」ではある。
・『日本は小国であるという現実を受け入れよ  これまでの日本は、相応の人口を抱え、GDPの絶対値が大きかったことから、私たちは日本について大国であると認識してきた。だが、一連の現実からも分かるように、豊かさ(1人あたりのGDP)という点ではすでに台湾に抜かれ、韓国に追い付かれるのも時間の問題となっている。GDPの絶対値においても、新興国が驚異的なペースで規模を拡大させており、すでに日本は大国ではなくなりつつある。 日本における最大の貿易相手国は輸出入とも中国となっており、望むと望まざるとにかかわらず、日本は中国を中心とするアジア経済圏に取り込まれつつある。中国の人口は14億、東南アジア全体では7億人近くの人口があり、各国が今後、急激に豊かになるという現実を考えると、アジア経済圏において日本は小国の1つに過ぎない。 繰り返しになるが、外交や軍事力、ビジネスなど、対外的な交渉力や国家覇権という点では、1人あたりのGDPではなく、GDPの絶対値がモノを言う。戦後の国際社会はすべて米国を中心に回ってきたといっても過言ではないが、米国が世界のリーダーとして君臨できたのは、ひとえにその巨大な経済規模のおかげといってよい。 日本は世界最大の経済大国である米国と同盟国であり、かつGDPの規模が米国に次いで2位であった。この絶対値の大きさがあらゆる面でメリットになっていたことは疑いようのない事実であり、残念なことに日本は中国と東南アジアの台頭によって、その両方(「同盟国である米国が突出して大きな経済規模を持っていたこと」と「GDPの絶対値」)を失いつつある。 小国として経済や外交を運営するには、大国とはまったく異なるパラダイムが必要だが、日本人にその準備ができているとは思えない。これまでの価値観をすべてゼロにするくらいの意識改革を行わなければ、次の50年を生き抜くのは極めて難しいだろう』、「これまでの価値観をすべてゼロにするくらいの意識改革を行わなければ、次の50年を生き抜くのは極めて難しいだろう」、いささか寂しいが、同感である。

次に、5月11日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「円安政策と金融緩和、「賃金停滞」をもたらした経済政策の罪は重い」を紹介しよう。
・『物価が上っても賃金は上がらない 「賃金停滞」の本当の“犯人”は?  賃金が上がらない。これが、日本経済の最大の問題だ。 日本の賃金は1990年代の中頃からほとんど上がっておらず、それに対して世界の多くの国でこの間に賃金が上昇した。そのため、日本の国際的な地位が著しく低下した。 「日本で賃金上がらないのは、物価が上がらないからだ」と言われてきた。物価が上がれば賃金も上がるとされて、金融緩和が行われた。だが金融緩和は止めどもなく続けられたが、効果は一向に現われなかった。 2022年には金融緩和の結果ではなく、海外発のインフレーションが日本に輸入されたことと円安が進んだために日本の物価上昇率が3%を超えた。しかし、賃金上昇率はそれに追いつかず、実質賃金は下落した。つまり、物価が上昇しても賃金はそれに見合って上がらないということがはっきりした。 では日本の賃金はなぜ上がらないのか?それを変えるには何が必要なのか。「植田日銀の」緩和維持が役に立つのか?。以下は有料だが、今月の閲覧本数残り3本までは無料』、「「賃金停滞」の本当の“犯人”は?」、興味深そうだ。
・『1990年代中頃から続く停滞 60~97年度は18.1倍の“高成長”  まずは法人企業統計調査の長期データを用いて、賃金の停滞問題を考えることにする。ここでは、「金融業、保険業を除く全法人」を対象とする。 図表1に示すように、従業員一人当たりの給与・賞与(以下、「賃金」という)は、1990年代までは大きく伸びた。60年度に21.6万円だったものが、97年度には390.9万円となった。この間に18.1倍に増えたことになる。世界でも稀にみる“高成長”だ。  円安政策と金融緩和、「賃金停滞」をもたらした経済政策の罪は重い  しかし、97年度をピークに2005年度までは低下した。その後はほぼ横ばいで、21年度には377.6万円となっている。なぜこのような変化が起きたのか』、「円安政策と金融緩和、「賃金停滞」をもたらした経済政策の罪は重い」、その通りだ。
・『賃金を決める2つの要素 資本装備率と全要素生産性  経済理論によれば、賃金は、「資本装備率」と「全要素生産性」で決まる。 一定の仮定の下で、賃金は、資本装備率の(1-a)乗と、全要素生産性の積に等しいことが導ける。つまり次の関係が成立する。 賃金=(資本装備率)^(1-a)×(全要素生産性) ここで資本装備率とは、従業員一人当たりの有形固定資産額、つまり設備などの保有状況をいう(なお、法人企業統計調査は、これを「労働生産性」と呼んでいる。ここでは、通常の用語法にしたがって、「資本装備率」と呼ぶ。また同調査では1960年度の値が欠如している。そこで、ここでは期末固定資産期末有形固定資産額を従業員数で割ることによって資本装備率を算出した)。 全要素生産性というのは、資本や労働といった量的な生産要素の増加以外の質的な成長要因で、技術進歩や生産の効率化などが該当する。 aは、労働の弾力性だ。従業員数(労働力)が1%増加すれば、付加価値生産がa%だけ増加する。一定の条件の下で、労働分配率はaに等しいことを証明できる。 上式から分かるように、資本装備率が1%増えると、賃金は(1-a)%増加する。aの値は安定的であり、0.4から0.6程度だ』、なるほど。
・資本装備率の停滞も原因だが最大原因は全要素生産性の停滞  図表2に示すように、資本装備率は1990年代までは上昇した。しかし、その後は低下し、2005年頃以降はほとんど一定の値だ。 (図表2 資本装備率の長期的推移 はリンク先参照) 図には示していないが、この間に、従業員数もほぼ不変だ(05年度に4158万人、21年度に4157万人)。したがって、有形固定資産がほぼ一定ということになる。投資と資本減耗(減価償却)とがほぼ等しくなっているのだ。 つまり従業員一人当たりの有形固定資産=資本装備率が変わらないことが賃金停滞の原因の一つになっていることは否定できない。 しかし、90年代までの賃金の上昇は、資本装備率の上昇だけでは説明できない。その理由は次の通りだ。 資本装備率は、60年度の67万円から、97年度の1295万円まで、19.3倍になった。aが0.5だとすると、上式から賃金は4.4倍になるはずだ。しかし、上述のようにこの間に賃金は18.1倍になった。 これは、資本装備率と並んで賃金に影響を与えるもう一つの要因である全要素生産性がこの間に4.1倍になったことを意味する。 (なお、上記の値は、aの値をどのように取るかによって変わる。また、先に挙げた式は、実質値の関係を表しているので、本来は実質賃金のデータを用いるべきだ。しかし、ここで考えているような長期の実質賃金データは得られない。ここでは、資本装備率も名目値なので、名目賃金を用いることの問題は緩和されていると思われる)。 つまり、90年度までの賃金上昇に対して、全要素生産性は資本装備率とほぼ同程度の影響を与えたのだ。全要素生産性が賃金の動向に大きな影響を与えることは、諸外国でも見られる現象だ なぜ90年代以降に設備や研究開発などの投資が鈍ってしまったのだろうか。) 90年代後半の金融危機と混乱が、企業の投資に影響したことは否定できない。しかし、2000年代になってからも資本装備率低迷の状況が変わらず、継続してしまったことが重要だ。 これには理由がある』、「投資と資本減耗(減価償却)とがほぼ等しくなっているのだ。 つまり従業員一人当たりの有形固定資産=資本装備率が変わらないことが賃金停滞の原因の一つになっていることは否定できない」、過小設備投資は企業経営者の保守的姿勢を示している。
・『「円安政策」が企業の活力を削いだ金融緩和と相まって成長メカニズム破壊  全要素生産性は「技術進歩」と呼ばれることもあるが、狭い意味での技術進歩だけでなく、新しいビジネスモデルの開発や産業構造の変化をも含む概念だ。 1990年度までは非常に高い値であり、高度成長の最も重要な要因の一つだった。それが90年代以降停滞してしまったのだ。なぜ停滞したのか?その大きな原因は、「円安政策」だったと考えられる。 改革開放政策で工業化を進め急速に台頭した中国に対抗するために、政府や企業は円安に頼った。ドルで評価した日本人の賃金を低くした。つまり安売り戦略をとったのだ。 円安になれば、企業の利益は自動的に増える。技術開発したり、ビジネスモデルを考案したりする必要はない。そして、産業構造の変化に伴うさまざまな摩擦現象も回避できる。 このために全要素生産性の伸びが止まり、そして賃金の伸びも止まってしまったのだ。 「円安政策」は2000年代頃から始まり、アベノミクス以降の10年間さらに強化された。金融緩和と円安によって成長のための基本的なメカニズムは破壊されてしまったのだ。 日本の産業構造は、2000年ごろから基本的には変わらない。変わったのは、それまで日本の主力産業だった電機産業が凋落したことくらいだ。新しい産業が登場したり、新しい技術が開発されたり、新しいビジネスモデルが使われたりするような変化はなかった』、「全要素生産性は「技術進歩」と呼ばれることもあるが、狭い意味での技術進歩だけでなく、新しいビジネスモデルの開発や産業構造の変化をも含む概念だ」、「それが90年代以降停滞してしまったのだ。なぜ停滞したのか?その大きな原因は、「円安政策」だった」、「改革開放政策で工業化を進め急速に台頭した中国に対抗するために、政府や企業は円安に頼った。ドルで評価した日本人の賃金を低くした。つまり安売り戦略をとったのだ。 円安になれば、企業の利益は自動的に増える。技術開発したり、ビジネスモデルを考案したりする必要はない。そして、産業構造の変化に伴うさまざまな摩擦現象も回避できる。 このために全要素生産性の伸びが止まり、そして賃金の伸びも止まってしまったのだ」、アベノミクスという安易な「円安政策」の罪は深い。
・『再生には、企業や産業の新陳代謝 労働力の自由な移動進める政策を  進歩する世界の中で変化することを止めれば、凋落するのは当然だ。この意味で、日本の衰退は経済政策によってもたらされたものだ。金融緩和を続けても賃金は上がらない。 日本経済を再生させるには、経済の構造が変わらなければならない。そのためには、新しい企業が登場して産業の新陳代謝が起こり、人々が一つの企業に固定化されるのでなく、企業間を自由に移動できる仕組みが構築されることが必要だ。 いま求められているのは、そのような方向に向けて経済政策の基本的なあり方を変えることだ』、「日本経済を再生させるには、経済の構造が変わらなければならない。そのためには、新しい企業が登場して産業の新陳代謝が起こり、人々が一つの企業に固定化されるのでなく、企業間を自由に移動できる仕組みが構築されることが必要だ。 いま求められているのは、そのような方向に向けて経済政策の基本的なあり方を変えることだ」、同感である。
タグ:(その28)(受け入れざるを得ない悲しい現実 アジアの中でも「小国」に転落する日本 インドネシアにも抜かされる?日本は抜本的な意識の転換を、円安政策と金融緩和 「賃金停滞」をもたらした経済政策の罪は重い) 日本の構造問題 JBPRESS 加谷 珪一氏による「受け入れざるを得ない悲しい現実、アジアの中でも「小国」に転落する日本 インドネシアにも抜かされる?日本は抜本的な意識の転換を」 「日本は将来」、「アジアの小国に転落する可能性が高く」、薄々、予想してきたことではあるが、改めて指摘されるとやはり衝撃的だ。 「十分に資本蓄積が進んでくると内需の寄与度が大きくなり、本格的な消費社会が到来することになる。 こうした変化が発生するしきい値となるのは、1人あたりGDPで1万ドル前後と言われており、これは多くの文化圏に共通した現象である。1人あたりGDPが1万ドルを超えてくると、当該国は相当程度、豊かな生活を送れるようになり、消費パターンも先進国と似通ってくる」、 「東南アジア各国の1人あたりGDPは、マレーシアが1万3000ドル、タイが7600ドルとなっており、マレーシアはすでに中国並みの豊かさを実現し、タイが準先進国入りするのも時間の問題である。 ベトナムは4000ドル、フィリピンは3600ドル、インドネシアは4700ドルなので、1万ドルに到達するまでには少し時間がかかる」、なるほど。 「多くの人口を抱えた東南アジア各国が今後、急激に成長し、豊かになってくると、中国のような爆買いを行うことは容易に想像できる。中国に加えて東南アジアが爆買いを開始した場合、アジアのビジネス環境が激変するのはほぼ間違いないだろう。 特に脅威となるのがインドネシアである。 インドネシアの1人あたりGDPはまだ5000ドルだが、今後、急激に豊かになり、今のタイやマレーシア並みに成長するのは確実である。 3億人近い人口を抱えた国が経済成長すると、GDPの絶対値も大きな数字となる。多くの専門家が今後20年以内にインドネシアのGDPは日本を抜き、世界で5本の指に入る経済大国になると予想」、「インドネシアのGDPは日本を抜き、世界で5本の指に入る経済大国になる」、確かに「脅威」ではある。 「これまでの価値観をすべてゼロにするくらいの意識改革を行わなければ、次の50年を生き抜くのは極めて難しいだろう」、いささか寂しいが、同感である。 ダイヤモンド・オンライン 野口悠紀雄氏による「円安政策と金融緩和、「賃金停滞」をもたらした経済政策の罪は重い」 「「賃金停滞」の本当の“犯人”は?」、興味深そうだ。 「円安政策と金融緩和、「賃金停滞」をもたらした経済政策の罪は重い」、その通りだ。 「投資と資本減耗(減価償却)とがほぼ等しくなっているのだ。 つまり従業員一人当たりの有形固定資産=資本装備率が変わらないことが賃金停滞の原因の一つになっていることは否定できない」、過小設備投資は企業経営者の保守的姿勢を示している。 「全要素生産性は「技術進歩」と呼ばれることもあるが、狭い意味での技術進歩だけでなく、新しいビジネスモデルの開発や産業構造の変化をも含む概念だ」、「それが90年代以降停滞してしまったのだ。なぜ停滞したのか?その大きな原因は、「円安政策」だった」、 「改革開放政策で工業化を進め急速に台頭した中国に対抗するために、政府や企業は円安に頼った。ドルで評価した日本人の賃金を低くした。つまり安売り戦略をとったのだ。 円安になれば、企業の利益は自動的に増える。技術開発したり、ビジネスモデルを考案したりする必要はない。そして、産業構造の変化に伴うさまざまな摩擦現象も回避できる。 このために全要素生産性の伸びが止まり、そして賃金の伸びも止まってしまったのだ」、アベノミクスという安易な「円安政策」の罪は深い。 「日本経済を再生させるには、経済の構造が変わらなければならない。そのためには、新しい企業が登場して産業の新陳代謝が起こり、人々が一つの企業に固定化されるのでなく、企業間を自由に移動できる仕組みが構築されることが必要だ。 いま求められているのは、そのような方向に向けて経済政策の基本的なあり方を変えることだ」、同感である。
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日本の構造問題(その27)(終身雇用とイエスマン人生、米著名経営学者が「日本企業のジレンマ」を徹底分析! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(後編)、これが日本衰退の根本原因、なぜ博士号取得は経済的に割りにあわない それは日本企業がイノベーションしないから、日本経済が低迷しているのは「経営者がぬるま湯につかっているから」という“身も蓋もない現実”) [経済政治動向]

日本の構造問題については、昨年5月27日に取上げた。今日は、(その27)(終身雇用とイエスマン人生、米著名経営学者が「日本企業のジレンマ」を徹底分析! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(後編)、これが日本衰退の根本原因、なぜ博士号取得は経済的に割りにあわない それは日本企業がイノベーションしないから、日本経済が低迷しているのは「経営者がぬるま湯につかっているから」という“身も蓋もない現実”)である。

先ずは、昨年6月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したニューヨーク在住ジャーナリストの肥田美佐子氏による「終身雇用とイエスマン人生、米著名経営学者が「日本企業のジレンマ」を徹底分析! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(後編)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304675
・『ベストセラー『競争優位の終焉』の著者で、NYのコロンビア大学ビジネススクール教授であるリタ・マグレイス氏。「世界の経営思想家トップ50」の常連であり、2021年にはトップ2に選ばれた。競争優位とイノベーションの権威である同教授は、日本企業をどう見ているのか? 日本企業がポストコロナ時代を乗り切るには? パーパスやESG、従業員のウェルビーイングに無頓着な企業の末路は? リスクをチャンスに変える企業の特徴は? 落ち着いた口調と冷静な分析が印象的な経営学者、マグレイス氏が日本企業のリスクと強みを語る。 >>前回の続き』、興味深そうだ。
・『ダイバーシティが欠如する企業は 現地市場の顧客のニーズを理解しにくい  Q:(前編から)大きな変化が到来する「変曲点」を事前に見いだせるかどうかで企業の命運が決まる、ということですが、教授の目から見て、存続が危ぶまれる日本企業はありますか? リタ・マグレイス(以下、マグレイス) 日本の金融システムに照らしてみると、企業は、自社の意思決定が引き起こす最悪の結果から守られることが多いように見えます。 とはいえ、日本企業は大きな問題を抱えています。それは、スピードが非常に重要な時代にあって、(意思決定などの)動きが遅いことです。 また、意思決定グループにダイバーシティ(多様性)がない点も、最も大きな問題の1つです。日本企業では、依然として、女性や日本文化に属していないアウトサイダーが発言権を持つのは至難の業でしょう? 意思決定者が日本人男性ばかりでは、例えば中南米やアフリカで製品を売ろうと思っても、まったくお門違いの品ぞろえになってしまいます。ダイバーシティの欠如により、多くの日本企業は、海外市場において現地の顧客のニーズを理解しにくいという、多大なリスクを抱えています。 一方、日本企業には強みもあります』、「日本企業は大きな問題を抱えています。それは、スピードが非常に重要な時代にあって、(意思決定などの)動きが遅いことです。 また、意思決定グループにダイバーシティ(多様性)がない点も、最も大きな問題の1つです」、的確な診断だ。
・『日本が誇る「クオリティ」は他国に追い付かれつつある  意思決定に時間がかかる分、計画が熟考され周到に練られているため、いざ実行の段階になると、素晴らしい手腕を発揮します。日本企業にはもう希望がない、などとは決して思いません。 Q:『フォーブスジャパン』2015年5月号でインタビューした際、教授は日本企業について、コンセンサスの形成や質の高い製品・サービス、仕事の正確さといった、大きな長所があると称賛しました。一方で、そうした強みは遂行に時間を要するものばかりだと指摘しています。変化の速度が加速する中、それこそが「日本企業のジレンマ」だと。 また、日本企業には「イノベーション」への障壁が多すぎると分析。ベテランの男性社員が恩恵を受ける終身雇用制度や、厳格なヒエラルキーは、女性の進出にとってマイナスだ、という指摘もしています。現在も、日本企業に関する教授の分析は変わりませんか? マグレイス そうした日本企業の構造は、ちょっとやそっとでは変わらないと思います。変わるとしても、ごくゆっくりとしたペースでしょう。 一方、日本市場は依然として大規模であり、国内市場ではうまくやっています。その点で、日本企業にもまだ優位性があるのは間違いありません。ただ、日本は、かつて世界の企業を圧倒していた「クオリティー」の点で、他国に追い付かれつつあります。 その意味で、日本企業は、次に競争優位を築ける領域を探さなければなりません。 Q:イノベーションには、平均して数年~7年を要するといわれています。従業員の勤続年数が短い米国企業と違い、長期勤続が前提の日本企業は、従業員が腰を落ち着けてイノベーションに取り組めるという点で有利でしょうか? マグレイス そう思います。終身雇用制度は、柔軟性の欠如や従業員がリスクを取ろうとしないことなど、多くの問題がある一方で、長い年月をかけて知識や能力を高めることができるという良い面もあります。会社から会社へと転職していては、そうしたことは困難です。 ただ、終身雇用制度には、同制度特有のヒエラルキーに従わなければならないという、イノベーションの阻害要因があります。そのため、変化を起こしにくいのです。 Q:大企業の終身雇用制度には、イノベーションにとってマイナスな、硬直性や惰性・怠惰を招くリスクもあります。 マグレイス 別に意地悪な見方をしているわけではありませんが、終身雇用制度の下では、チーム内のメンバーに失礼な言い方をしたり、本当の意味で信頼に足る行動を取ったりといったことを避けがちです。そうした行動を取らないことで、初めてチームの一員として歓迎される、という恩恵を得られるからです。 社内で悪いニュースを察知しても見て見ぬふりをする傾向があり、嘘をついているとまでは言いませんが、真実を言わないことに対し、おとがめも受けません。「社内の人間関係と調和」が重視されるからです。 ずっと同じ会社でやっていかなければならないため、ことのほかこうした社内政治への気配りが、(出世などの点で)大きな利点につながってしまうんですね。 同じ会社で何十年も勤め上げるということには、悲しいかな、そうした側面があります。従業員は、会社という「社会」に適応することにひたすら心を砕くのです。1社で生涯やっていくには、気難しい人だと思われたり、何かと反論してくる人だと思われたり、不愉快な人だと煙たがられたりしたら、まずいからです。 その結果、何が起こるのか? 自分のキャリアに枠がはめられ、できることが限られ、誠実な言動も、お互いに異を唱え合うこともままならず、常に「イエス」を繰り返すばかりの仕事人生になりがちです。危険人物だと見なされないように、です』、「社内で悪いニュースを察知しても見て見ぬふりをする傾向があり、嘘をついているとまでは言いませんが、真実を言わないことに対し、おとがめも受けません。「社内の人間関係と調和」が重視されるからです。 ずっと同じ会社でやっていかなければならないため、ことのほかこうした社内政治への気配りが、・・・大きな利点につながってしまうんですね」。その通りだ。
・『EVによる「アーキテクチャの変更」で日系グローバル企業の優位性が危ぶまれる恐れ  Q:現在も世界の市場で大きな成功を収めている唯一の主要日系グローバル企業、トヨタ自動車でさえ、「電気自動車(EV)時代を生き残れるのか? 」という声も聞かれます。 マグレイス トヨタが膨大なリソースと極めて有能な人材を抱えていることを考えると、大丈夫だとは思いますが、今後、テクノロジーで後れを取れば、どのような事態も起こり得ます。 というのも、EVは「アーキテクチャの変更」と言われる抜本的な構造変化をもたらしたからです。 例えば、ガソリン車などに比べ、メンテナンスが楽になりました。その結果、トヨタが長年誇ってきた自動車のクオリティーという大きな優位性が損なわれる可能性があります。 これまでは、車のクオリティが低いと、予想外の修理やメンテナンスにお金がかかりましたが、EVは部品の数自体が少ないため、従来の車ほどメンテナンスにコストがかかりません。ひとたびEVが自動車市場で主役を占めるようになったら、内燃エンジン車が主流だった時代に比べ、市場全体で修理の必要性が大幅に減るとみられています。 つまり、「うちの車を買えば、修理は不要ですよ」という、トヨタの売りや優位性がなくなる恐れがあります。それを避けるためには、テクノロジーへの投資が必須です。トヨタのことですから、すでに注力していると思いますが。 Q:日本企業がポストコロナ時代を乗り切るには、どうすればいいでしょうか? マグレイス もっとも重要なことは、企業のリーダーがどのようなアジェンダ(課題/計画)を持っているかです。 イノベーションや自社の成長、変革をアジェンダのトップに掲げることなく、「何でも自分で解決しなければ」というマインドセット(考え方)で日常の短期的な業務に忙殺されているようでは、リーダーとして有用な仕事をしているとは言えません。 重要なアジェンダに十分な時間を割くことができず、「未来」のために必要な投資を怠ることになるからです。 Q:リスクをチャンスに変える企業の特徴は? マグレイス 積極的に小さなリスクを取ろうとすることです。「答えは見えないが、小さな実験を重ね、そこから価値を見いだし、それをフルに生かそう」とする姿勢が大切です。小さなリスクを取って、そこから何かを学ぼうとする企業が成功を手にできます。 実験が失敗に終わり、思うような結果が得られなくても、その失敗が会社にとって許容範囲内で済むような、小さな実験を重ねることです。 成功している企業は最初から大きなリスクを取っていると考えがちですが、実際は違います。小さなリスクを数多く取って、実験やイノベーションを重ねることで成功をつかんだあと、大きなリスクを取ろうという決断に至るのです。 Q:小さなリスクを取って成功した企業の具体例を教えてください。 マグレイス 例えば、ブラインド販売専門の米EC(電子商取引)企業、Blinds.comが好例です(注:1996年創業のブラインズ・ドット・コムはテキサス州ヒューストンが本社で、もともとはカスタムメイドのブラインドを販売するスタートアップ系通販企業だったが、世界最大のブラインドEC企業に成長。米ホームセンター最大手のホーム・デポへ売却した)。 創業者で最高経営責任者(CEO)だったジェイ・スタインフェルド氏が折に触れて話していますが、彼はむしろリスク回避型で、小さな実験をたくさん行ったそうです。 「大きなリスクを取るタイプではない。大きな意思決定を迫られるような段階に至るまでには、数多くの小さなリスクを取るという経験を積んでいた」と。 スタインフェルド氏の新刊『Lead from the Core: The 4 Principles for Profit and Prosperity』(『基本理念にのっとって会社を率いる――利益と繁栄の4原則』未邦訳)にもあるように、彼はクレイジーで大きなリスクは取らず、用意周到に準備し、小さなリスクをいくつも取ったそうです』、「彼はクレイジーで大きなリスクは取らず、用意周到に準備し、小さなリスクをいくつも取ったそうです」、上手いやり方だ。
・『利益一辺倒の組織はもはや生き残れない  Q:脱炭素戦略や気候変動への取り組みなど、企業のパーパス(存在意義)が重視されるようになりました。消費者を含めたステークホルダー(利害関係者)が企業にパーパスを求める中、利益一辺倒の組織は、もはや生き残れない時代になるのでしょうか? マグレイス そう思います。例えば、インスリン製剤を扱う米製薬会社は、企業の強欲が常軌を逸してしまった典型的な例です。(医療保険に入っていても)薬価の自己負担額が高すぎ、インスリンを買えず、(糖尿病患者などが)命を落とすケースも出ています。 その一方で、製薬会社は自社株を買い戻して株価を上げ、株主に大きな便益を図っています。もはや、非倫理的なボーダーラインを越えてしまっているのです。そうした企業は今後、人材の獲得やフランチャイズ事業の維持などに苦労することになるでしょう。 Q:パンデミックで社会や人々の価値観が急速に変わる中、最優良企業でさえ、パーパスや企業倫理、ESG(環境・社会・ガバナンス)、従業員のウェルビーイング(幸福/心身の健康)などに無頓着だと、今後は衰退の一途をたどることになるのでしょうか? マグレイス そうですね。企業は、社会に対して筋の通った行いをすることを前提に、事業を許可されているのですから、その基準にかなわない企業は衰退を余儀なくされます。 例えば、米国の電子たばこ会社は未成年の若年層をターゲットに大いにもうけるつもりでしたが、米政府が規制し、基本的に高収益を上げる道が閉ざされてしまいました。(社会問題化している)麻薬性鎮痛剤オピオイドの蔓延(まんえん)を引き起こした米製薬会社も同じです。 これらは、社会に有害な企業の行動を示す極端な例ですが、人々が耐えられないようなコストを課すような企業は、衰退の一途をたどるしかありません。 インタビューの前編「『絶滅する組織』と『生き残る組織』の違い、世界トップ2に選出された経営学者が徹底解説!」も、ぜひご覧ください』、「社会に有害な企業の行動を示す極端な例ですが、人々が耐えられないようなコストを課すような企業は、衰退の一途をたどるしかありません」、その通りだ。

次に、本年2月26日付け現代ビジネスが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「これが日本衰退の根本原因、なぜ博士号取得は経済的に割りにあわない それは日本企業がイノベーションしないから」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/106507?imp=0
・『日本で博士号取得者が少ないのは、経済的に割りにあわないからだ。それは、日本企業がイノベーションを進めようとせず、高度専門家に十分な給与を払わないからだ』、興味深そうだ。
・『日本では学位取得者が少なく、論文数も減っている  日本の博士号取得者数を人口100万人当たりで見ると、2019年度で120人。これは、他の先進国と比べると、だいぶ少ない(文部科学省 科学技術・学術政策研究所「 科学技術指標2022。学位取得者の国際比較」による)。 最も多いのはドイツで315人、つぎにイギリスが313人。 2008年度からの推移を見ると、日本は減少しているのに対して、フランス、ドイツを除く国は増加している。伸び率が高いのは、韓国、アメリカ、イギリスだ。中国も、伸び率は高い。 この結果、日本発の論文が少なくなっている。 「科学技術指標2022」によると、「Top1%補正論文数」(他の論文に多く引用され注目度が高い論文)で、日本は10位で過去最低となった。1位は中国、2位がアメリカだ。イタリア、フランス、インドも日本より上位にある。 学位取得者数や論文数は、未来における競争力を決める基本的な要因だ。それが上に見たような状態では、日本がこれからどうなってしまうのか、大いに心配だ』、「Top1%補正論文数」で、「日本は10位で過去最低」、「学位取得者数や論文数は、未来における競争力を決める基本的な要因だ。それが上に見たような状態では、日本がこれからどうなってしまうのか、大いに心配だ」、その通りだ。
・『博士号取得者は薄給  日本で博士号取得者が少ない基本的な理由は、博士号を取得しても、収入が増えないことだ。苦労して取得しても、それに見合うリターンが得られないのだ。 博士課程取得者の年収分布を見ると、400万~500万円が約14%と最も多くなっている(男性では400万〜500万円が約14%、女性は300万~400万円が約14%:科学技術・学術政策研究所の「博士人材追跡調査 第4次報告書」2020年実施 )。決して満足できる水準ではない。 しかも雇用は安定的とは言えない。工学や保健では正規雇用の割合が多数であるものの、人文系では正規雇用は41%でしかない。 賃金構造基本統計調査(2021年)によると、大学院卒の月収は、年齢計では45.4万円で、大学卒の36.0万円より9.4万円多い。しかし、25〜29歳で比べると、27.9万円と26.1万円であり、ほとんど変わりがない。つまり、学位を取っても、月収が2万円弱しか増えない。 学位を取るために必要な費用や、その間に放棄した労働所得を考慮すれば、あきらかに採算にあわない』、「人文系では正規雇用は41%でしかない」、「大学院卒の月収は、年齢計では45.4万円で、大学卒の36.0万円より9.4万円多い。しかし、25〜29歳で比べると、27.9万円と26.1万円であり、ほとんど変わりがない」、「25〜29歳」では殆ど差がなくても、その後では「9.4万円」の差があるとも言える。
・『政府は「出世払い奨学金」を導入するが……  こうした事態に対応するため、政府は「出世払い型の大学奨学金」を導入する計画だ。在学中は授業料を徴収せず、卒業後の所得に応じて支払う。 2024年度の開始に向けて、文部科学省の有識者会議が制度設計を進めている。大学院生を対象とし、学部生への拡大も検討する。 奨学金は確かに重要だ。しかし、在学中はそれで生活できたとしても、就職したあとの収入が十分でなければ、返却できない。だから、出世払い奨学金を導入しても、博士課程への進学率が上昇するどうか、大いに疑問だ。 日本で博士号取得者が少ない基本的理由は、日本企業が高度人材を評価しないことなのである。 企業が高度専門人材を使って新しいビジネスを展開し、高度専門家に高い給与を支払うようにならなければ、事態が大きく変わるとは思えない』、「奨学金は確かに重要だ。しかし、在学中はそれで生活できたとしても、就職したあとの収入が十分でなければ、返却できない。だから、出世払い奨学金を導入しても、博士課程への進学率が上昇するどうか、大いに疑問だ」、その通りだ。
・『日本企業のイノベーション能力は低い  では、日本企業のイノベーション能力は、どの程度の水準か? イノベーションに関する能力の指標として、「グローバル・イノベーション・インデックス (GII)」がある。これは、国連の専門機関の1つである世界知的所有権機関(WIPO)が、米コーネル大学とフランスの経営大学院インシアード(INSEAD)と共同で2007年から発表しているものだ。国の制度や人的資本、インフラ、市場やビジネスの洗練度、テクノロジーに関するデータを基に、各国のイノベーション能力や成果を評価する。 日本の順位は、2007年には4位だった。しかし、その後低下を続け、2012年に25位にまで落ちた。その後徐々に回復したが、2018年から再び低下傾向にある。2022年には、2021年と同様の13位となった。決して満足できる水準ではない。 2022年で世界の上位にあるのは、スイス、アメリカ、スウェーデン、イギリス、オランダだ。アジアでは韓国(6位)、シンガポール(7位)、中国(11位)が日本より上位にある。 日本の評価が低いのは、「創造的な生産部門」だ。具体的には、文化的・創造的サービスの輸出に占める割合や、創造的な商品の輸出に占める割合、オンライン化アプリ製作の国内総生産(GDP)に占める割合などの順位が低い。 日本では自動車や機械など伝統的な産業の生産・輸出がまだ大きな割合を占めており、新しい産業の占めるシェアが低いのだ。 世界の研究開発支出の上位企業では、2021年に研究開発への支出額が10%近く増加して9000億ドルを超え、2019年の水準を上回った。これを牽引したのは、情報通信技術 (ICT) ハードウェア・電子機器、ソフトウェア・ICTサービス、医薬品・バイオテクノロジー、建設・工業用金属だった。 日本はとくにソフトウェア・ICTサービスで立ち後れている。 世界銀行の資料によると、輸出に占めるハイテク製品の比率は、日本は19%でしかないが、韓国では36%にもなる(2020年)。 これは日本の輸出が自動車に偏っているからだ。自動車は、ハイテク製品とはいえないのである』、「グローバル・イノベーション・インデックス (GII)」は、「2007年には4位だった。しかし、その後低下を続け、2012年に25位にまで落ちた。その後徐々に回復したが、2018年から再び低下傾向にある。2022年には、2021年と同様の13位」、「輸出に占めるハイテク製品の比率は、日本は19%でしかないが、韓国では36%にもなる(2020年)。 これは日本の輸出が自動車に偏っているからだ」、「輸出に占めるハイテク製品の比率は、日本は19%」、予想外に低いようだ。
・『GA+Mの時価総額計は東証プライムのそれを超える  日本の高度経済成長は、先進国へのキャッチアップの過程だった。そこでは、自ら技術を開発する必要がなかった。先進国で成功している技術とビジネスモデルをそのまま真似ればよかったのだ、 しかし、21世紀になって急速に発展しているのは、「データ資本主義」とも呼べるものだ。 その典型が、アメリカのGAFA+Mと呼ばれる企業群だ。 ここでは、アイディアが途方もない経済価値を生み出している。 時価総額で見ると、グーグル1社だけで1.4兆ドルだ(2023 年2月)。1ドル=130円で換算すれば、182兆円。これだけで、東証プライム時価総額676兆円(2022年12月末)の27%になる。 グーグルの他にアップル(時価総額2.4兆ドル)とマイクロソフト(2.0兆ドル)を加えれば、5.8兆ドル(754兆円)となり、東証プライム時価総額を超えてしまう。 こうなるのは、日本企業は、新しい資本主義に対応できないからだ。そのため、高度専門家に十分な給与を払えない。そのため高度専門家が育たない。日本はこの意味で、深刻な悪循環に陥っている。 これを断ち切るにはどうしたらよいのか? デジタル田園都市構想のような政策で解決がつく問題ではない。リスキリングのために補助金を出しても変わらない。 台湾の先端半導体企業を日本に招くために多額の補助金を出したところで、何も変わらない。 補助金も円安も低金利も、新しいビジネスモデルの創出には貢献しない。むしろ安易に利益が上がるために、イノベーションのインセンティブをそぐことになる。過去20年間の円安政策がもたらしたのは、まさにこのことだ。 日本企業のビジネスモデルが根底から変わらなければならない。 「新しい資本主義」が目指すべきは、まさにそのことなのだが、岸田政権は、それを実現出来るだろうか?』、「補助金も円安も低金利も、新しいビジネスモデルの創出には貢献しない。むしろ安易に利益が上がるために、イノベーションのインセンティブをそぐことになる。過去20年間の円安政策がもたらしたのは、まさにこのことだ」、「「新しい資本主義」が目指すべきは、まさにそのことなのだが、岸田政権は、それを実現出来るだろうか?」、その正解からますます逸れているようだ。

第三に、3月1日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「日本経済が低迷しているのは「経営者がぬるま湯につかっているから」という“身も蓋もない現実”」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/106829?imp=0
・『国内でも物価上昇が顕著となっていることから、賃上げへの社会的関心が高まっている。政府は企業に対して物価上昇率を超える賃上げを行うよう要請しているが、これに応えられる企業は多くない。賃金は基本的に生産性に比例するものであり、特に大企業の経営が変わらなければ賃金は上昇しない』、興味深そうだ。
・『経済と企業活動の関係  総務省が発表した2023年1月の消費者物価指数は4.2%という歴史的な水準となった。政府は何度も経済界に対して積極的な賃上げを要請しており、経済界側もある程度応じる姿勢を示しているものの、賃上げの原資を捻出できないところは多い。 現在、進んでいる物価上昇は、原油価格や円安による影響が大きいので、年後半には多少落ち着く可能性も見えているが、インフレ傾向そのものは長期継続する可能性が高い。日本人の生活水準をこれ以上、低下させないためには、継続的に企業の生産性を向上させる社会的・経済的枠組みの構築が不可欠である。 企業の生産性を向上させる方法はシンプルに言ってしまうと2つしかない。ひとつは、企業が生み出す付加価値を増やすというやり方。もうひとつは労働力を削減するというやり方である。 労働力の削減にはIT化の促進が最も効果的であり、ITの導入による省力化を進めることで、同じ業務をより少ない人数で実施できるようになる。余剰となった人材は、営業力の強化や新規事業にシフトすることで、全体の付加価値向上が期待できる。 一方、企業の付加価値は、経営戦略を変えなければ大きく増やすことはできない。 薄利多売を中心とした従来のビジネスモデルを改め、製品戦略や価格設定を見直すことで、より高い付加価値(粗利)を獲得する必要がある。IT化についてもトップが明確なビジョンを持って決断を下さなければ、効果的な導入は不可能であり、結局のところすべては経営の問題に行き着くことになる。 加えて言うと、日本の場合、労働者の7割が中小企業に勤務しており、多くの中小企業が大企業の下請けなど従属的関係にある。大企業が取引先である中小企業の値上げ要請を受け入れなければ、日本全体の賃上げは実現しないので、結局のところ大企業の経営がすべてのカギを握る。) 賃上げが難しいという経営者は決まって、低迷する日本経済を理由にあげるが、これは順序が逆である。企業活動が活発になり、賃金が上がって労働者の消費が拡大することで、結果的に経済全体も成長するのであって、経済が先にあって、その結果として企業の業績が決まるわけではない。政府の財政支援はあくまで側面支援であり、経済を決定付けるのはあくまで民間の経済活動である』、「賃上げが難しいという経営者は決まって、低迷する日本経済を理由にあげるが、これは順序が逆である。企業活動が活発になり、賃金が上がって労働者の消費が拡大することで、結果的に経済全体も成長するのであって、経済が先にあって、その結果として企業の業績が決まるわけではない」、その通りだ。
・『賃金が上がらないのは「経営の問題」  家具メーカー・ニトリの似鳥昭雄会長の発言は、こうした経済のイロハを端的に示している。似鳥氏は雑誌のインタビューにおいて、「日本経済が停滞しているのは労働生産性が低いからではないでしょうか。その原因は経営陣が同じことばかりやるからのように思います。」と、経済や賃金の低迷はズバリ、日本企業の経営に問題があると指摘している。 続いて似鳥氏は、「改革ができないのであればどんどん組織を変えるべき。」「社長の重要な仕事の一つは、自分の給料を減らしてでも優れた人を高給で引き抜くことです」とも述べている。 似鳥氏は、ソフトバンクの孫正義会長や、最大で4割という他社を圧倒する賃上げを実現したファーストリテイリングの柳井正会長らと同様、企業の創業者でもある。サラリーマンから経営者に昇格した人材とはそもそものレベルが違うので、一般的な上場企業経営者と、ある種の天才である似鳥氏ら創業経営者を比較するのは酷であるとの意見もあるだろう。 だが、こうした天才経営者の考え方を一般化するためにこそ経営学が存在しており、すべての経営者が似鳥氏や柳井氏のような経営はできないにしても、それに近い意思決定をすることは可能なはずである。) 諸外国でも創業経営者とそうでない経営者に力量の差があることは認識されているが、方法論の一般化によって、相応の水準が担保されている。その点からすると、現状の日本の大企業経営者の水準は、諸外国と比較してまだ十分な水準とは言い難い。 つまり日本人の賃金が上昇していないのは、経営に問題があり、社会全体として経営レベルを上げていく環境整備が必要であることを似鳥氏の発言は物語っている』、「日本人の賃金が上昇していないのは、経営に問題があり、社会全体として経営レベルを上げていく環境整備が必要である」、なるほど。
・『欧州型の改革と米国型の改革  企業の経営改革を外部から促すということになると、コーポレート・ガバナンス改革というキーワードがまず頭に浮かぶ。ガバナンス改革はうまく実施すれば劇的な効果を企業にもたらし、業績の拡大と賃金の上昇を同時に実現できる。問題はガバナンス改革を実施する具体的な手法だが、これには大きく分けて二つの方向性がある。 ひとつは市場における株主からの圧力で業績を拡大させるという米国型ガバナンス、もうひとつは法律や行政面での指導によって企業改革を促していく欧州型ガバナンスである。 かつて小泉改革の時代には、米国型のアプローチが模索され、市場からの圧力によって経営を改革する試みが行われた。だが、結果は非正規労働者を増やすなど、目先のコストカットだけに終わってしまい、本質的な経営改革に結びつかなかった。資本市場が十分に発達していないという日本経済の現状も考え併せると、米国型ガバナンスの実現は難しいだろう。そうなると法律などを通じて企業改革を促す欧州型の方が日本の土壌に合っているように思われる。 ドイツでは1990年代以降、雇用の流動化を進めると同時に、労働者の再教育プログラムを充実させるなど、企業活動を活性化させる環境整備を行ってきた(いわゆるシュレーダー改革)。だがドイツは同時並行で、企業の経営者に対してより高い社会的責務を課すというガバナンス改革も推進している。) ドイツでは債務超過を一定期間放置した経営者に罰則が適用されるなど、経営者の甘えを許さない社会が出来上がっている。フランスはもともと社会主義的体質の濃い国家であり、企業の国有化が積極的に進められてきた。このため、政府は議決権の行使を通じて企業経営に関与できる。 日本には日本に合ったやり方があるので、フランス式、ドイツ式をそのまま導入する必要はないだろうが、現実に日本企業の大株主は公的年金となっている。また、金融庁はこれまで何度も大規模なガバナンス改革について検討を進めており、何らかの形で社会が企業経営に関与する土壌は整っている。一連の枠組みを強化し、業績拡大と賃上げの両方を実現できる優秀な経営者をトップに据える努力が必要だろう』、「小泉改革の時代には、米国型のアプローチが模索され、市場からの圧力によって経営を改革する試みが行われた。だが、結果は非正規労働者を増やすなど、目先のコストカットだけに終わってしまい、本質的な経営改革に結びつかなかった」、「ドイツでは1990年代以降、雇用の流動化を進めると同時に、労働者の再教育プログラムを充実させるなど、企業活動を活性化させる環境整備を行ってきた・・・だがドイツは同時並行で、企業の経営者に対してより高い社会的責務を課すというガバナンス改革も推進している。 ドイツでは債務超過を一定期間放置した経営者に罰則が適用されるなど、経営者の甘えを許さない社会が出来上がっている。フランスはもともと社会主義的体質の濃い国家であり、企業の国有化が積極的に進められてきた。このため、政府は議決権の行使を通じて企業経営に関与できる」、「日本には日本に合ったやり方があるので、フランス式、ドイツ式をそのまま導入する必要はないだろうが・・・一連の枠組みを強化し、業績拡大と賃上げの両方を実現できる優秀な経営者をトップに据える努力が必要だろう」、その通りだ。
・『優秀な人材を探す努力をしていない  外部の力によって大企業経営者のハードルを上げるという議論をすると、必ずといって良いほど、なり手がいなくなるという指摘が出てくるが、筆者はまったく心配していない。 例えば、米国の人口は約3億人で、日本の約3倍程度だが、世界に通用する経営者の数はおそらく日本の10倍から20倍はいるだろう。人口比で行けばアメリカの方がよほど厳しい状況であり、日本も取締役会や株主が必死になって人材を探す努力をすれば、有能な経営者を探し出す(あるいは社内から抜擢する)ことは不可能ではない。 トヨタと並ぶ世界的自動車メーカーである米GM(ゼネラルモーターズ)のトップは、高卒で工場のラインで働いていた従業員出身である。世界的な小売企業であるウォルマートのトップもアルバイト定員からキャリアをスタートさせている。 果たして日本企業においてアルバイトも含め、全ての従業員や関係者から人材を探すような努力は行われているだろうか。決してそうではないはずである。 その意味で日本企業はまだぬるま湯に浸かった状態であるとも言える。有能な人材を探さなければならないという社会的なプレッシャーが高まれば、必然的に高い能力を持った人間が幹部に登用され、経営は刷新されていく。 岸田政権は防衛費の増額を実施するため、法人税を含め増税に手を付ける方針を示している。法人税の増税をきっかけに、税制改正を通じて企業の経営改革を促すと同時に、ガバナンス改革を強化することで、日本企業の体質を変えることが求められる。賃金上昇=経営改革という意識を全国民で共有する必要がある』、「米GM(ゼネラルモーターズ)のトップは、高卒で工場のラインで働いていた従業員出身」、「ウォルマートのトップもアルバイト定員からキャリアをスタートさせている」、というのは初めて知った。「日本も取締役会や株主が必死になって人材を探す努力をすれば、有能な経営者を探し出す(あるいは社内から抜擢する)ことは不可能ではない」、「日本企業はまだぬるま湯に浸かった状態であるとも言える。有能な人材を探さなければならないという社会的なプレッシャーが高まれば、必然的に高い能力を持った人間が幹部に登用され、経営は刷新されていく」、同感である。
タグ:ダイヤモンド・オンライン 「日本企業は大きな問題を抱えています。それは、スピードが非常に重要な時代にあって、(意思決定などの)動きが遅いことです。 また、意思決定グループにダイバーシティ(多様性)がない点も、最も大きな問題の1つです」、的確な診断だ。 競争優位の終焉 肥田美佐子氏による「終身雇用とイエスマン人生、米著名経営学者が「日本企業のジレンマ」を徹底分析! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(後編)」 (その27)(終身雇用とイエスマン人生、米著名経営学者が「日本企業のジレンマ」を徹底分析! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(後編)、これが日本衰退の根本原因、なぜ博士号取得は経済的に割りにあわない それは日本企業がイノベーションしないから、日本経済が低迷しているのは「経営者がぬるま湯につかっているから」という“身も蓋もない現実”) 日本の構造問題 「社内で悪いニュースを察知しても見て見ぬふりをする傾向があり、嘘をついているとまでは言いませんが、真実を言わないことに対し、おとがめも受けません。「社内の人間関係と調和」が重視されるからです。 ずっと同じ会社でやっていかなければならないため、ことのほかこうした社内政治への気配りが、・・・大きな利点につながってしまうんですね」。その通りだ。 「彼はクレイジーで大きなリスクは取らず、用意周到に準備し、小さなリスクをいくつも取ったそうです」、上手いやり方だ。 「社会に有害な企業の行動を示す極端な例ですが、人々が耐えられないようなコストを課すような企業は、衰退の一途をたどるしかありません」、その通りだ。 現代ビジネス 野口悠紀雄氏による「これが日本衰退の根本原因、なぜ博士号取得は経済的に割りにあわない それは日本企業がイノベーションしないから」 「Top1%補正論文数」で、「日本は10位で過去最低」、「学位取得者数や論文数は、未来における競争力を決める基本的な要因だ。それが上に見たような状態では、日本がこれからどうなってしまうのか、大いに心配だ」、その通りだ。 「人文系では正規雇用は41%でしかない」、「大学院卒の月収は、年齢計では45.4万円で、大学卒の36.0万円より9.4万円多い。しかし、25〜29歳で比べると、27.9万円と26.1万円であり、ほとんど変わりがない」、「25〜29歳」では殆ど差がなくても、その後では「9.4万円」の差があるとも言える。 「奨学金は確かに重要だ。しかし、在学中はそれで生活できたとしても、就職したあとの収入が十分でなければ、返却できない。だから、出世払い奨学金を導入しても、博士課程への進学率が上昇するどうか、大いに疑問だ」、その通りだ。 「グローバル・イノベーション・インデックス (GII)」は、「2007年には4位だった。しかし、その後低下を続け、2012年に25位にまで落ちた。その後徐々に回復したが、2018年から再び低下傾向にある。2022年には、2021年と同様の13位」、「輸出に占めるハイテク製品の比率は、日本は19%でしかないが、韓国では36%にもなる(2020年)。 これは日本の輸出が自動車に偏っているからだ」、「輸出に占めるハイテク製品の比率は、日本は19%」、予想外に低いようだ。 「補助金も円安も低金利も、新しいビジネスモデルの創出には貢献しない。むしろ安易に利益が上がるために、イノベーションのインセンティブをそぐことになる。過去20年間の円安政策がもたらしたのは、まさにこのことだ」、「「新しい資本主義」が目指すべきは、まさにそのことなのだが、岸田政権は、それを実現出来るだろうか?」、その正解からますます逸れているようだ。 珪一氏による「日本経済が低迷しているのは「経営者がぬるま湯につかっているから」という“身も蓋もない現実”」 「賃上げが難しいという経営者は決まって、低迷する日本経済を理由にあげるが、これは順序が逆である。企業活動が活発になり、賃金が上がって労働者の消費が拡大することで、結果的に経済全体も成長するのであって、経済が先にあって、その結果として企業の業績が決まるわけではない」、その通りだ。 「日本人の賃金が上昇していないのは、経営に問題があり、社会全体として経営レベルを上げていく環境整備が必要である」、なるほど。 「小泉改革の時代には、米国型のアプローチが模索され、市場からの圧力によって経営を改革する試みが行われた。だが、結果は非正規労働者を増やすなど、目先のコストカットだけに終わってしまい、本質的な経営改革に結びつかなかった」、 「ドイツでは1990年代以降、雇用の流動化を進めると同時に、労働者の再教育プログラムを充実させるなど、企業活動を活性化させる環境整備を行ってきた・・・だがドイツは同時並行で、企業の経営者に対してより高い社会的責務を課すというガバナンス改革も推進している。 ドイツでは債務超過を一定期間放置した経営者に罰則が適用されるなど、経営者の甘えを許さない社会が出来上がっている。フランスはもともと社会主義的体質の濃い国家であり、企業の国有化が積極的に進められてきた。このため、政府は議決権の行使を通じて企業経営に関与でき る」、「日本には日本に合ったやり方があるので、フランス式、ドイツ式をそのまま導入する必要はないだろうが・・・一連の枠組みを強化し、業績拡大と賃上げの両方を実現できる優秀な経営者をトップに据える努力が必要だろう」、その通りだ。 「米GM(ゼネラルモーターズ)のトップは、高卒で工場のラインで働いていた従業員出身」、「ウォルマートのトップもアルバイト定員からキャリアをスタートさせている」、というのは初めて知った。「日本も取締役会や株主が必死になって人材を探す努力をすれば、有能な経営者を探し出す(あるいは社内から抜擢する)ことは不可能ではない」、 「日本企業はまだぬるま湯に浸かった状態であるとも言える。有能な人材を探さなければならないという社会的なプレッシャーが高まれば、必然的に高い能力を持った人間が幹部に登用され、経営は刷新されていく」、同感である。
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民主主義(その10)(ぶっ壊れた政党に民主主義を乗っ取るカルト政治 ブラジル大統領選、蔓延する少数派の横暴、大都市エリートが民主主義を滅ぼしてしまう理由 新自由主義的への反省と民主的多元主義の再生) [経済政治動向]

民主主義については、昨年10月23日に取上げた。今日は、(その10)(ぶっ壊れた政党に民主主義を乗っ取るカルト政治 ブラジル大統領選、蔓延する少数派の横暴、大都市エリートが民主主義を滅ぼしてしまう理由 新自由主義的への反省と民主的多元主義の再生)である。

先ずは、昨年10月21日付け東洋経済オンラインが掲載した米プリンストン大学教授 のヤン=ヴェルナー・ミュラー氏による「ぶっ壊れた政党に民主主義を乗っ取るカルト政治 ブラジル大統領選、蔓延する少数派の横暴」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/625724
・『ブラジルの大統領選挙で現職のボルソナロ氏は、トランプ前米大統領と同じ「大ウソ」をつくり出そうとしている。自らが負ける選挙はインチキだと主張し、暴力をたきつけてでも権力の座に居座ろうとする例の戦略だ。 「熱帯のトランプ(ボルソナロ氏)」がトランプ氏をまねるのは驚くことではない。だが選挙結果を受け入れるのは、民主主義の最も基本的な要素の1つだ。選挙結果の否定が新たな世界的潮流になりつつあるのだとしたら、私たちはその理由を問わなくてはならない。なぜこれほど多くの市民が「選挙はインチキだ」と叫ぶインチキな指導者を受け入れようとするのだろうか』、1月に入って「ボルソナロ」支持派が選挙結果に抗議して議会を襲撃、1500人が逮捕された他、「ボルソナロ」側近を逮捕。アメリカ同様の混乱のようだ。
・『劣勢のボルソナロ氏  ボルソナロ氏と対決する左派のルラ元大統領の人気は高い。世論調査の支持率でも一貫してリードを保っており、極右のボルソナロ氏は敗色が濃厚だ。とはいえボルソナロ氏は、そうした選挙結果を受け入れないよう、支持者を調教するのに何年も費やしてきた。 中でも不気味なのは、2000年から用いられ広く信頼されている効率的な電子投票システムに不信の種をまいていることだ。21年1月6日の米連邦議会襲撃事件を受けて、ボルソナロ氏はこう警告した。電子投票を続ければ「米国より大きな問題になる」。 実際、選挙に負けたポピュリストは「インチキだ」と叫ぶことが多い。というのは、われらこそが、そしてわれらだけが「真の国民」、つまり「声なき多数派(サイレント・マジョリティー)」の代表だと言い張ることが支持を訴える基盤のすべてとなっているからだ。) ほかの候補者は全員腐敗している。ゆえにわれらポピュリストの指導者を支持しない者は真の国民ではなく、彼らが投じる票には正当性がない、という主張である。ポピュリズムとは単なるエリート批判ではなく(エリート批判にはうなずけるものも多い)、その根本には他者を排除する姿勢がある。 国民の唯一にして真の代表であるポピュリストが選挙に負けるということは、誰か(リベラル派のエリート)が何か(選挙の不正操作)を行ったからに違いない──。ポピュリストが支持者に施している洗脳とは、このようなものだ』、「ポピュリストが支持者に施している洗脳」はアメリカでも問題化したが、やはり深刻な問題だ。
・『本当に悪いのは誰か  有権者の分断が深まっているときには、選挙結果の否定が一段と起こりやすくなる。トランプ氏やボルソナロ氏のような政治的ビジネスマンにとっては、分断こそがチャンスだ。両氏はどちらも政党という鎖につながれてはいない。ボルソナロ氏は所属をころころと変え、大統領になってからは、どの政党にも属さなかった期間が2年ある。今や共和党を牛耳るトランプ氏が共和党に忠誠を示したことは一度もない(同氏はかつて民主党員だった)。 いずれもソーシャルメディアを通じてカルト信者のようなフォロワー集団を構築。政党の組織的支援を必要とせず、党内事情に配慮する必要もない。 政治信条もなければ、政策も持たず、ひたすら個人のキャラで終わりなき文化戦争を駆動する。そんな人物が選挙に負けたと知りながら敗北を否定する暴挙に出るのは、半ば当然の成り行きといえる。それよりもはるかに深刻なのは、周囲の振る舞いだ。 トランプ氏は例の「大ウソ」を、真の共和党員であるかどうかを試すリトマス試験紙に変えた。その結果、共和党候補の多くが、11月の中間選挙で負けた場合に結果を受け入れるか態度を明らかにするのを拒むようになっている。ブラジルでは、なお少数派であるボルソナロ陣営の「主人公」が軍を抱き込むべく工作に動いている。ボルソナロ氏の支持者は警察関係にも多い。 トランプ氏やボルソナロ氏のファンを見ればわかるように、ポピュリストの言う「声なき多数派(サイレント・マジョリティー)」の実体は大概が「声高な少数派(ラウド・マイノリティー)」だ。むろん少数派の声に耳を傾けるのが大切なことは言うまでもない。が、少数派が民主主義に逆らう暴力的な存在と化したときには、真の多数派には「サイレント」であることをやめる義務がある』、「ブラジルでは、なお少数派であるボルソナロ陣営の「主人公」が軍を抱き込むべく工作に動いている。ボルソナロ氏の支持者は警察関係にも多い」、クーデターの可能性もありそうだ。「ポピュリストの言う「声なき多数派・・・」の実体は大概が「声高な少数派・・・」だ。むろん少数派の声に耳を傾けるのが大切なことは言うまでもない。が、少数派が民主主義に逆らう暴力的な存在と化したときには、真の多数派には「サイレント」であることをやめる義務がある。その通りだ。

次に、11月30日付け東洋経済オンラインが掲載した政治学者・九州大学大学院比較社会文化研究院教授の施 光恒氏による「大都市エリートが民主主義を滅ぼしてしまう理由 新自由主義的への反省と民主的多元主義の再生」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/631573
・『グローバル化の問題点は「新しい階級闘争」を生み出した。新自由主義改革のもたらした経済格差の拡大、政治的な国民の分断、ポリティカル・コレクトネスやキャンセルカルチャーの暴走である。 アメリカの政治学者マイケル・リンド氏は、このたび邦訳された『新しい階級闘争:大都市エリートから民主主義を守る』で、各国でグローバル企業や投資家(オーバークラス)と庶民層の間で政治的影響力の差が生じてしまったことがその要因だと指摘している。 私たちはこの状況をいかに読み解くべきか。同書に収録された政治学者の施光恒氏による監訳者解説を一部編集のうえ、お届けする』、「新しい階級闘争」とは興味深そうだ。
・『アメリカの国民統合のあり方を考察  『新しい階級闘争:大都市エリートから民主主義を守る』は、Michael Lind, The New Class War: Saving Democracy from the Metropolitan Elite(London: Atlantic Books, 2020)の邦訳である。著者のマイケル・リンド(Michael Lind)氏は1962年アメリカテキサス生まれで、現在、テキサス大学オースティン校リンドン・B・ジョンソン公共政策大学院で政治学を講じる教授である。 氏は、イェール大学で国際関係論の修士、テキサス大学のロー・スクールでJD(法務博士)の学位をそれぞれ取得している。その後、ヘリテージ財団などのシンクタンクでアメリカの政策の分析・提言活動に従事し、1991年からは『ナショナル・インタレスト』などのメジャーな雑誌で編集者や論説委員を務めた。1999年には「ニュー・アメリカ財団」(現在は「ニュー・アメリカ」)というシンクタンクを設立し、2017年からは現職である。この経歴からわかるように、リンド氏は現実政治に対する深い知識と実践的関心を有する政治学者だと言えよう。 マイケル・リンド氏の名前を知ったのは、私が長年関心を持っている「リベラル・ナショナリズム」のアメリカにおける提唱者の一人だからである。氏は、1995年に出版した『次なる米国─新しいナショナリズムと第4次米国革命』(The Next American Nation: The New Nationalism and the Fourth American Revolution (New York: Free Press)などで、多様な人種や利害の相違を超えたアメリカの国民統合のあり方についてさまざまな考察を行ってきた。) 本書『新しい階級闘争』は、戦後実現した「民主的多元主義」の安定した政治が、1970年代に始まった新自由主義に基づく「上からの革命」の影響を受け、機能不全に陥った結果、今日のアメリカでは国民統合が揺らぎ、分断が深刻化していることを指摘し、また、その分断の解消をどのように図っていくべきかについて論じるものである。 リンド氏の第1の関心はアメリカ社会であるが、本書の議論は日本社会の現状を考えるうえでも大きな示唆を与える』、「戦後実現した「民主的多元主義」の安定した政治が、1970年代に始まった新自由主義に基づく「上からの革命」の影響を受け、機能不全に陥った結果、今日のアメリカでは国民統合が揺らぎ、分断が深刻化していることを指摘し、また、その分断の解消をどのように図っていくべきかについて論じるもの」、なるほど。
・『新自由主義が生み出した国民の分断  各章の概要を示しつつ、本書の内容を紹介したい。 リンド氏は、アメリカをはじめとする現代の欧米諸国で新しい階級闘争が生じていると考える(第1章)。前述したように1970年代から上流階級の高学歴の管理者(経営者)層(エリート層)が主導する「上からの革命」が生じ、新自由主義に基づくグローバル化推進策が徐々にとられるようになったからである。新しい階級闘争は、グローバル化推進策から利益を得る管理者(経営者)エリート層と、そこからほとんど利益を得ることのない庶民層(中間層ならびに労働者層)との間の対立である。こうした対立は、現在では、経済、政治、文化(価値)の各領域に及ぶ。 この対立は、国内における地理的な分断も生んでいる(第2章)。管理者(経営者)エリート層は、ニューヨークやロサンゼルス、あるいはロンドンやパリといった大都市に暮らす場合が多い。その結果、知識や技術、交通の結節点、つまり「ハブ」と呼ばれる大都市と、庶民層が多く暮らす「ハートランド」と称される郊外や地方という地理的分断も顕著となった。 新しい階級闘争を鎮める方策を考察するために、リンド氏は、それ以前の階級闘争の帰趨を振り返る(第3章)。かつての階級闘争は、いわゆる資本家と労働者との闘争だった。古い階級闘争は、2度の世界大戦を経験する中で、国家を仲介役とし、両陣営が妥協策を積み上げていったことが契機となり、これが戦後の福祉制度に引き継がれ、解消に向かった。リンド氏はこれを民主的多元主義(democratic pluralism)の政治と称する。労働組合をはじめ、農協などの協同組合、各種業界団体、政党の地方支部、教会(宗教団体)、ボランティア組織などのさまざまな参加型の中間団体が、国民の多様な層の声を集約し、政府がそれらを拾い上げ、相互調整し、偏りなく行っていく政治である。民主的多元主義を通じて、労働者は資本家に対し拮抗力を持つことができた。 しかし、こうした暫定協定は長続きしなかった。上からの新自由主義革命が生じたからである(第4章)。各種の妥協策が覆され、各層の利害が調整されなくなった。そして、管理者(経営者)エリート層の利益が、経済、政治、文化の各領域でもっぱら推進される不公正な社会へとアメリカをはじめとする欧米社会は変質してしまった。) それに対し、庶民層からの反発が生じている。これをリンド氏は、「下からのポピュリストの反革命」と称する(第5章)。2016年の国民投票による英国のEU離脱の決定、アメリカのトランプ前大統領の選出、2018年秋からのフランスの黄色いベスト運動、そのほかの欧州のポピュリスト政党の躍進などが表面に現れた顕著な例である。リンド氏は、庶民層に深い共感の念を抱いているが、ポピュリスト運動を必ずしも支持しない。ポピュリスト運動は、エリート層による社会の寡頭制支配やそれに伴う国民の分断という「病理」から発する「症状」の1つだとみなす。寡頭制支配を行うエリート層に対し、脅威を感じさせたり、その身勝手さに対する警告を発したりする機能は持つとしても、「病理」そのものへの根本的「治療」にはならないからである』、「古い階級闘争は、2度の世界大戦を経験する中で、国家を仲介役とし、両陣営が妥協策を積み上げていったことが契機となり、これが戦後の福祉制度に引き継がれ、解消に向かった。リンド氏はこれを民主的多元主義(democratic pluralism)の政治と称する」、「民主的多元主義を通じて、労働者は資本家に対し拮抗力を持つことができた。 しかし、こうした暫定協定は長続きしなかった。上からの新自由主義革命が生じたからである(第4章)。各種の妥協策が覆され、各層の利害が調整されなくなった。そして、管理者(経営者)エリート層の利益が、経済、政治、文化の各領域でもっぱら推進される不公正な社会へとアメリカをはじめとする欧米社会は変質」、「それに対し、庶民層からの反発が生じている。これをリンド氏は、「下からのポピュリストの反革命」と称する(第5章)。2016年の国民投票による英国のEU離脱の決定、アメリカのトランプ前大統領の選出、2018年秋からのフランスの黄色いベスト運動、そのほかの欧州のポピュリスト政党の躍進などが表面に現れた顕著な例」、なるほど。
・『エリート層の認識と「対症療法」的措置  エリート層は、庶民層のポピュリスト運動が発する警告を真剣に受け取ろうとしない(第6章)。むしろ、庶民はロシアの諜報活動に踊らされているだけだといった陰謀論をつくり出してしまう。あるいは、ポピュリストの政治家や政党の支持者を、「権威主義的パーソナリティー」などの精神病理を抱える者だとエリート層は認識してしまう。ポピュリズム運動をかつてのナチズムと同様、社会不適合者による非合理な運動だとみなすのである。それによって、エリート層は、自分たちがつくり出した社会の不公正さから目を背けようとする。 現代社会の不公正さを認識するとしても、エリート層は「根治療法」ではなく、新自由主義の枠内におけるいわば「対症療法」をとろうとする(第7章)。リカレント教育(再教育)などの教育政策、ベーシックインカムなどの再分配政策、反独占政策といったものである。リンド氏は、これらを評価しない。根本的問題である権力関係の不均等を正面から見つめ、その改善を真摯に図るものではないからである。 リンド氏は、問題の解決のためには、やはり庶民層の利益や見解を代弁し、政治に反映させる拮抗力が必要だと論じる(第8章)。庶民層の声を政治に届けるには、人々が団結しなければならない。やはり労働組合などさまざまな中間団体を再生し、新しい民主的多元主義を現代においてつくり出さなければならない。 そのためには、新自由主義に基づく現在のグローバル化推進策を改める必要性を訴える(第9章)。資本の国際的移動や、外国人労働者や移民といった人の移動に対する各国政府の規制や管理を強化する必要があるというのである。そうしなければ、労働組合などの各種の中間団体が機能せず、民主的多元主義に基づく公正な政治を行うことは不可能だからである。) 本書は、現代の欧米社会や日本社会を見つめ、評価するうえで大いに役立つ。日本の読者にとくに有益だと思われる3点について触れたい。 第1に指摘したいのは、グローバル化と自由民主主義の相性の悪さを明らかにしている点である。日本では「グローバル化」はまだまだ前向きで良い印象を与える言葉である。しかし、本書が論じるように、新自由主義に基づくグローバル化政策は、自由民主主義の政治の基盤を掘り崩してしまう。 この点については、さまざまな論者が明らかにしてきた。例えば、本書第9章でも触れているが、労働経済学者のダニ・ロドリックは、グローバル化に伴う資本の国際的移動の自由化・活発化が各国の経済政策に及ぼす影響について指摘した(柴山桂太・大川良文訳『グローバリゼーション・パラドクス』白水社、2013年、第9章)』、「エリート層は、自分たちがつくり出した社会の不公正さから目を背けようとする。 現代社会の不公正さを認識するとしても、エリート層は「根治療法」ではなく、新自由主義の枠内におけるいわば「対症療法」をとろうとする」、「問題の解決のためには、やはり庶民層の利益や見解を代弁し、政治に反映させる拮抗力が必要だと論じる・・・。庶民層の声を政治に届けるには、人々が団結しなければならない。やはり労働組合などさまざまな中間団体を再生し、新しい民主的多元主義を現代においてつくり出さなければならない。 そのためには、新自由主義に基づく現在のグローバル化推進策を改める必要性を訴える・・・。資本の国際的移動や、外国人労働者や移民といった人の移動に対する各国政府の規制や管理を強化する必要」、その通りなのだろう。
・『各国の一般庶民が政治の主役ではなくなってしまう  グローバル化とは一般に、ヒト、モノ、カネ(資本)、サービスの国境を越える移動が自由化・活発化することを意味するが、これが生じると、必然的に、グローバルな企業関係者や投資家(本書でいうところの管理者<経営者>エリート)の力が増す。彼らは「人件費を下げられるよう非正規労働者を雇用しやすくする改革を行え。さもなければ生産拠点をこの国から移す」「法人税を引き下げる税制改革を実行しないと貴国にはもう投資しない」などと各国政府に圧力をかけられるようになるからである。各国政府は、自国から資本が流出すること、あるいは海外からの投資が自国を忌避することを恐れ、グローバルな企業関係者や投資家の要求に敏感にならざるをえない。そのため、各国のルールや制度はグローバルな企業や投資家に有利なものへと「改革」される。だが、その半面、各国の一般庶民の声は相対的に政治に届きにくくなる。庶民層が各国政治の主役ではなくなってしまうのである。そして彼らの生活は不安定化し、貧困化が進む。 これに加え、リンド氏が本書で強調するのは、前述のとおり、民主的多元主義の基盤が掘り崩されてしまうことである。庶民層が政治に声を届けるには、各人が組織化され、各種の中間団体が形成されていなければならない。戦後の欧米諸国では(リンド氏は触れていないが後述のとおり日本も同様)、労働組合や協同組合などの各種中間団体を通じて庶民の声が政治に反映され、資本家に対する拮抗力を獲得し、比較的公平な政治が行われた。また、経済的格差も小さかった。) しかし、グローバル化により、資本の国際移転、仕事の国境を越えた外部委託(アウトソーシング)、外国人労働者や移民の大規模受け入れなどが可能になると、労働組合などはあまり機能しなくなる。政治的影響力のバランスが崩れ、不公正な政治が行われるようになる。 ネイションの境界を溶かすグローバル化の下では、自由民主主義の維持は非常に困難である。やはりネイションを軸とした秩序、つまり多数の国民国家からなる世界である必要がある。そして、各国は、民主的多元主義のシステムを内部に発展させ、国民各層の利害のバランスをとりつつ、ヒト、モノ、カネ、サービスの国境を越える移動を適切に規制・調整していく。現行の新自由主義的グローバリズムの秩序ではなく、このような民主的多元主義を可能にする国際秩序をつくり出す必要がある』、「現行の新自由主義的グローバリズムの秩序ではなく、このような民主的多元主義を可能にする国際秩序をつくり出す必要がある」、その通りだ。
・『寡頭制vs. ポピュリズム  第2に、本書は現在の欧米の主流派の政治、およびそれに対する反発としてのポピュリズムの政治を見つめる新たな視角を提供する点で有益である。 日本のマスコミや評論家は、欧米の主流派マスコミの情報をもとにして世界を見ていることが大半である。それゆえ、どうしても一面的な見方に陥ってしまう。ブレグジットやトランプ前大統領の選出など現代のポピュリズムに対する見方もそうだ。ポピュリズム現象とは、グローバル化に乗り遅れた時代遅れの不適合者が騒いでいるにすぎないという見方をとりがちだ。 他方、ネット世論では逆に、その反動からかポピュリズム運動を全面的に肯定してしまう議論がしばしばみられる。トランプ氏を英雄視してしまうような議論だ。 本書は、第3の視点を提供する。現在の主流派の政治は、管理者(経営者)エリートによる寡頭制支配にほかならないと見る。庶民層の怒りは正当だとする。だが、ポピュリスト運動は組織化されていないため不安定である。持続的ではないし、建設的でもない。国民各層の意見を十分に取り込むこともできていない。 リンド氏によれば、現在の病理の改善のためには、あらためて労働組合などの中間集団をきちんと組織し、国民各層の多様な見解や利害が公正に政治に反映される社会を再生する必要がある。) 3番目は、戦後日本社会を理解する有益な視点を提供するという点である。リンド氏は、民主的多元主義や新自由主義を論じる際に、日本についてほとんど触れていない。だが、リンド氏の議論は日本にも当てはまるところが多い』、「現在の主流派の政治は、管理者(経営者)エリートによる寡頭制支配にほかならないと見る。庶民層の怒りは正当だとする。だが、ポピュリスト運動は組織化されていないため不安定である。持続的ではないし、建設的でもない。国民各層の意見を十分に取り込むこともできていない。 リンド氏によれば、現在の病理の改善のためには、あらためて労働組合などの中間集団をきちんと組織し、国民各層の多様な見解や利害が公正に政治に反映される社会を再生する必要がある」、その通りなのだろう。
・『「一億総中流」ののち、中間層の暮らしは不安定化  戦後の日本は、高度経済成長を経て、比較的平等かつ安定的な発展を享受した。1990年代前半までに「日本型市場経済」「日本型経営」と称される特徴的な経済の仕組みをつくり出し、「一億総中流」と称される社会を実現した。中間層が主役の「ミドルブロー」の大衆文化も栄えた。しかし、1990年代後半以降は、欧米にならった新自由主義の経済運営を取り入れ、構造改革を繰り返し、現在では中間層の暮らしは不安定化し、劣化している。 かつての戦後日本社会が安定した経済を享受できたのは、本書でいうところの民主的多元主義を日本なりに作り上げたからだと理解できる。リンド氏は、前述のとおり、欧米諸国において資本家層と労働者層の妥協が生じたきっかけは2度の世界大戦の経験だと論じる。それが第2次大戦後の福祉国家的システムにつながっていったと考える。 日本についても、このように見る論者がいる。例えば、英国の日本研究者ロナルド・ドーアである(『幻滅─外国人社会学者が見た戦後日本70年』藤原書店、2014年、144─146頁など)。あるいは批判的な視点からではあるが、野口悠紀雄氏の「1940年体制」論も同様の見方をとると言える(『1940年体制─さらば戦時経済』東洋経済新報社、1995年)。 つまり日本も、リンド氏が本書で描いたような道筋をたどったと理解することができる。第2次大戦を戦い抜くために政府が経済の統制・調整に乗り出し、資本家と労働者、および資本家相互の妥協を作り出した。この体制が戦後の社会民主主義的な「日本型市場経済」につながった。一種の民主的多元主義の形態だと言えよう。 エズラ・ヴォーゲルは『ジャパンアズナンバーワン─アメリカへの教訓』(広中和歌子・大本彰子訳、TBSブリタニカ、1979年)を著したが、このなかで描かれているのは、まさに民主的多元主義がうまく機能している日本の姿である。ヴォーゲルは、日本ではさまざまな中間団体の活動がさかんであり、アメリカよりも日本のほうが民主的であるとまで述べた。「政治に多様な利益を反映させ、それらの利益を達成する統治能力があることが民主主義の定義であるならば、日本はアメリカよりも民主主義がずっと効果的に実現されている国家であるといえよう」(122頁)。 ヴォーゲルは、当時の戦後日本社会では、政府が、多様な中間団体の利益に配慮し、資本家と労働者、さまざまな業界間、大都市と地方、地域間を巧みに調整していると指摘した。「利益の分配の側面から見ると、日本ではフェア・シェア(公正な分配)がなされているといえる」(同頁)。リンド氏のいうところの民主的多元主義の一形態が日本で根付き、欧米諸国に比べても安定的に機能し、「一億総中流」と称された社会をつくり出したのである。) ヴォーゲルは、日本の民主主義が壊れるとしたら、その要因となるのは「軍国主義の脅威」などではなく「集団の団結力の拡散」だと指摘し、警鐘を鳴らしていた(156頁)。中間団体を作る機能が損なわれ、国民がばらばらになってしまい、各層の利益が公正に反映されなくなることを恐れたのである。 ヴォーゲルの懸念は1990年代後半以降、的中した。日本の場合は、「上からの新自由主義革命」が国内で生じたというよりも、ドーアなども指摘するとおり、アメリカなど欧米諸国の新自由主義化に無批判に追従したことが主な要因だと言えよう。ヴォーゲルが称賛した日本型民主的多元主義の道を捨て、「グローバル標準」を旗印とし、新自由主義的構造改革を推し進めた。 本来なら左派やリベラル派は、新自由主義化に対抗する中心的勢力になるべきであったが、日本ではそうはならなかった。いくつかの要因が指摘できるだろうが、「1940年体制」論の影響もその1つである。民主的多元主義の日本版だともいえる「日本型市場経済」は、戦時経済の名残であり否定すべきものだ、集団主義的で遅れたものだという議論が高まった。こうした議論に影響され、左派やリベラル派でさえ新自由主義的改革を肯定的に受け取ってしまった。 リンド氏が本書で指摘しているのは、欧米諸国で戦後、国民福祉と安定した経済成長を可能にしたのは日本と同様、戦争の経験に端を発する、民主的多元主義と称すべき政府主導の調整型の社会システムだということだ。つまり、「1940年体制」は日本だけではなかったのである。またリンド氏は、庶民各層の声を政治に十分に反映させる公正な社会の実現には、こうした社会システムの構築しかありえないと論じている。 これらは、現代の日本にとって、新自由主義以前の「日本型市場経済」や「日本型経営」といったかつての調整型の社会システムの再評価を迫るものだと言えるであろう』、「欧米諸国で戦後、国民福祉と安定した経済成長を可能にしたのは日本と同様、戦争の経験に端を発する、民主的多元主義と称すべき政府主導の調整型の社会システムだということだ。つまり、「1940年体制」は日本だけではなかったのである。またリンド氏は、庶民各層の声を政治に十分に反映させる公正な社会の実現には、こうした社会システムの構築しかありえないと論じている」、「現代の日本にとって、新自由主義以前の「日本型市場経済」や「日本型経営」といったかつての調整型の社会システムの再評価を迫るものだと言える」、「かつての調整型の社会システム」に戻るとはいっても、「かつて」とは同じではなく、より高度になったものだろう。
・『民主的多元主義の可能性  以上のように、本書は、新自由主義的政策の進展に伴い、管理者(経営者)エリート層と庶民層との間の力のバランスが崩れ、経済、政治、文化の各局面で諸種の不公正な事態が生じていることを明らかにする。現状に対する解決策として本書が期待するのは、現代の文脈における民主的多元主義の政治の再生である。そして、これを可能ならしめるために、現行の新自由主義に基づくグローバル化推進路線の転換が必要だと本書は論じる。 もちろん、これまでの路線を改め、現在の複雑な状況のなかで、民主的多元主義の政治を再構築することは多大な困難を伴う。しかし、各国において国民各層の声を公正に反映する政治を可能にするほかの方法がありうるだろうか。本書はこのように問いかける。新自由主義的な改革に明け暮れてきた欧米諸国や日本に新しい視点を与え、自由民主主義の意味や条件を考えさせる貴重な1冊だと言える』、「現状に対する解決策として本書が期待するのは、現代の文脈における民主的多元主義の政治の再生である。そして、これを可能ならしめるために、現行の新自由主義に基づくグローバル化推進路線の転換が必要だと本書は論じる」、私は「新自由主義」に反対の立場なので、「グローバル化推進路線の転換が必要」との趣旨には賛成である。
タグ:民主主義 (その10)(ぶっ壊れた政党に民主主義を乗っ取るカルト政治 ブラジル大統領選、蔓延する少数派の横暴、大都市エリートが民主主義を滅ぼしてしまう理由 新自由主義的への反省と民主的多元主義の再生) 東洋経済オンライン ヤン=ヴェルナー・ミュラー氏による「ぶっ壊れた政党に民主主義を乗っ取るカルト政治 ブラジル大統領選、蔓延する少数派の横暴」 1月に入って「ボルソナロ」支持派が選挙結果に抗議して議会を襲撃、1500人が逮捕された他、「ボルソナロ」側近を逮捕。アメリカ同様の混乱のようだ。 「ポピュリストが支持者に施している洗脳」はアメリカでも問題化したが、やはり深刻な問題だ。 「ブラジルでは、なお少数派であるボルソナロ陣営の「主人公」が軍を抱き込むべく工作に動いている。ボルソナロ氏の支持者は警察関係にも多い」、クーデターの可能性もありそうだ。「ポピュリストの言う「声なき多数派・・・」の実体は大概が「声高な少数派・・・」だ。むろん少数派の声に耳を傾けるのが大切なことは言うまでもない。が、少数派が民主主義に逆らう暴力的な存在と化したときには、真の多数派には「サイレント」であることをやめる義務がある。その通りだ。 施 光恒氏による「大都市エリートが民主主義を滅ぼしてしまう理由 新自由主義的への反省と民主的多元主義の再生」 「新しい階級闘争」とは興味深そうだ。 「戦後実現した「民主的多元主義」の安定した政治が、1970年代に始まった新自由主義に基づく「上からの革命」の影響を受け、機能不全に陥った結果、今日のアメリカでは国民統合が揺らぎ、分断が深刻化していることを指摘し、また、その分断の解消をどのように図っていくべきかについて論じるもの」、なるほど。 「古い階級闘争は、2度の世界大戦を経験する中で、国家を仲介役とし、両陣営が妥協策を積み上げていったことが契機となり、これが戦後の福祉制度に引き継がれ、解消に向かった。リンド氏はこれを民主的多元主義(democratic pluralism)の政治と称する」、「民主的多元主義を通じて、労働者は資本家に対し拮抗力を持つことができた。 しかし、こうした暫定協定は長続きしなかった。上からの新自由主義革命が生じたからである(第4章)。各種の妥協策が覆され、各層の利害が調整されなくなった。そして、管理者(経営者)エリート層の利益が、経済、政治、文化の各領域でもっぱら推進される不公正な社会へとアメリカをはじめとする欧米社会は変質」、「それに対し、庶民層からの反発が生じている。これをリンド氏は、「下からのポピュリストの反革命」と称する(第5章)。 2016年の国民投票による英国のEU離脱の決定、アメリカのトランプ前大統領の選出、2018年秋からのフランスの黄色いベスト運動、そのほかの欧州のポピュリスト政党の躍進などが表面に現れた顕著な例」、なるほど。 「エリート層は、自分たちがつくり出した社会の不公正さから目を背けようとする。 現代社会の不公正さを認識するとしても、エリート層は「根治療法」ではなく、新自由主義の枠内におけるいわば「対症療法」をとろうとする」、「問題の解決のためには、やはり庶民層の利益や見解を代弁し、政治に反映させる拮抗力が必要だと論じる・・・。 庶民層の声を政治に届けるには、人々が団結しなければならない。やはり労働組合などさまざまな中間団体を再生し、新しい民主的多元主義を現代においてつくり出さなければならない。 そのためには、新自由主義に基づく現在のグローバル化推進策を改める必要性を訴える・・・。資本の国際的移動や、外国人労働者や移民といった人の移動に対する各国政府の規制や管理を強化する必要」、その通りなのだろう。 「現行の新自由主義的グローバリズムの秩序ではなく、このような民主的多元主義を可能にする国際秩序をつくり出す必要がある」、その通りだ。 「現在の主流派の政治は、管理者(経営者)エリートによる寡頭制支配にほかならないと見る。庶民層の怒りは正当だとする。だが、ポピュリスト運動は組織化されていないため不安定である。持続的ではないし、建設的でもない。国民各層の意見を十分に取り込むこともできていない。 リンド氏によれば、現在の病理の改善のためには、あらためて労働組合などの中間集団をきちんと組織し、国民各層の多様な見解や利害が公正に政治に反映される社会を再生する必要がある」、その通りなのだろう。 「欧米諸国で戦後、国民福祉と安定した経済成長を可能にしたのは日本と同様、戦争の経験に端を発する、民主的多元主義と称すべき政府主導の調整型の社会システムだということだ。つまり、「1940年体制」は日本だけではなかったのである。またリンド氏は、庶民各層の声を政治に十分に反映させる公正な社会の実現には、こうした社会システムの構築しかありえないと論じている」、 「現代の日本にとって、新自由主義以前の「日本型市場経済」や「日本型経営」といったかつての調整型の社会システムの再評価を迫るものだと言える」、「かつての調整型の社会システム」に戻るとはいっても、「かつて」とは同じではなく、より高度になったものだろう。 「現状に対する解決策として本書が期待するのは、現代の文脈における民主的多元主義の政治の再生である。そして、これを可能ならしめるために、現行の新自由主義に基づくグローバル化推進路線の転換が必要だと本書は論じる」、私は「新自由主義」に反対の立場なので、「グローバル化推進路線の転換が必要」との趣旨には賛成である。
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陰謀論(その1)(秘密結社が裏にいると信じる人が増えている訳 被害妄想的な感受性がコロナ禍で静かに広がる、プーチンの戦争で極右政党がさらに…!「アメリカ」と「ドイツ」を襲う「陰謀論」の危なすぎるワナ、「陰謀論」がまた…!「移民」ぎらいの「排外主義者」がふたたび勢いづくヤバすぎる国の名前) [経済政治動向]

今日は、陰謀論(その1)(秘密結社が裏にいると信じる人が増えている訳 被害妄想的な感受性がコロナ禍で静かに広がる、プーチンの戦争で極右政党がさらに…!「アメリカ」と「ドイツ」を襲う「陰謀論」の危なすぎるワナ、「陰謀論」がまた…!「移民」ぎらいの「排外主義者」がふたたび勢いづくヤバすぎる国の名前)を取上げよう。

先ずは、2021年1月2日付け東洋経済オンラインが掲載した評論家・著述家の真鍋 厚氏による「秘密結社が裏にいると信じる人が増えている訳 被害妄想的な感受性がコロナ禍で静かに広がる」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/398113
・『日本の社会が先行きの見えない不安に覆われている。驚くような事件や事象が次々と巻き起こる一方で、確かなものはますますわからなくなりつつある。わたしたちは間違いなく心休まらない「不安の時代」に生きている。しかもそれは、いつ爆発するかもしれない「不機嫌」を抱えている。そんな混迷の時代の深層に迫る連載第4回』、「いつ爆発するかもしれない「不機嫌」を抱えている」、とは興味深そうだ。
・『「Qアノン」とは何なのか  2020年は新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)によって、インフォデミック(偽情報の大流行)が世界各地で混乱を巻き起こし、陰謀論がメインストリームに躍り出るようになった年として記憶されることだろう。 アメリカ発の陰謀論である「Qアノン」がイギリスやドイツ、オーストラリアなどの国々にも拡大し、日本でもアメリカ大統領選の一連の騒動をきっかけにその影響力を増している。ブルームバーグは最近、日本にQアノンの支部が出現したことについて報じている。 「ソーシャルメディア分析会社グラフィカの調査によると、日本国内のQアノンのコミュニティーは独特の用語や行動様式、インフルエンサーを持ち、国際的に最も発達した支部の1つとなっている。トランプ大統領の側近だったマイケル・フリン元米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を崇拝する動きも目立つという」(日本にも「Qアノン」、独特な信奉者集団は陰謀論の世界的広がり示す/Bloomberg2020年11月30日配信)。 Qアノンとは、一部のエリートから構成される悪魔を崇拝する小児性愛者の秘密結社が、政治やメディアを支配する「ディープ・ステート(闇の政府)」として君臨し、アメリカ合衆国連邦政府を裏で操っているとの見方を支持する集団である。そしてトランプ大統領は、そんな連中と人知れず戦っているヒーローだというのだ。もともとは2017年に政府の内通者を自称する「Q」が匿名掲示板に投稿したことに端を発している。 大変興味深いことではあるが、これらの荒唐無稽なおとぎ話が、コロナ禍によって世界各国に輸出され、現地の陰謀論と融合して、独自の発展を遂げている。つまり、Qアノンがいわば都合のいい母体となって、さまざまな妄想を吸収しているのである。 そもそも元祖のQアノン自体が、アメリカ・ワシントンのピザ店が小児性愛と児童買春の拠点とされ、ヒラリー・クリントンが関与しているという「ピザゲート」疑惑に着想を得た後、宇宙人から反ワクチンに至るまで多様な陰謀を咀嚼(そしゃく)し、雪だるま式にその全体像を巨大化させていったのだ。) 日本では、アメリカ大統領選をめぐる不正投票説の蔓延がQアノンの浸透を後押しした。日本国内の国政選挙における陰謀論がすでに根付いていたことに一因があると思われる。5~6年ほど前からソーシャルメディアを中心にたびたび言及されるようになった言説で、ムサシ社製の票計測機が自民党の候補者に有利になるよう仕組まれているという疑惑である。 これはムサシ社製品が開票所の票計測機として大きなシェアを占めることが背景にある。このようなローカルな陰謀論がネットコミュニティにある程度定着していたところに、同じく不正投票説を唱える海外の陰謀論が好意的に受け入れられたことは想像にかたくない。 そもそもディープ・ステートは、イギリスに本部を置く影の世界政府のトップ「三百人委員会」(ジョン・コールマン)、あるいはイルミナティやフリーメイソンといった世界征服を企む秘密結社といった系列の現代的なリバイバルにすぎない(以前であれば、ロスチャイルドやロックフェラー、現在ではビル・ゲイツやジョージ・ソロスなどの名前がよく挙がっている)』、「Qアノン」は、「もともとは2017年に政府の内通者を自称する「Q」が匿名掲示板に投稿したことに端を発している。 大変興味深いことではあるが、これらの荒唐無稽なおとぎ話が、コロナ禍によって世界各国に輸出され、現地の陰謀論と融合して、独自の発展を遂げている。つまり、Qアノンがいわば都合のいい母体となって、さまざまな妄想を吸収している」、「日本では、アメリカ大統領選をめぐる不正投票説の蔓延がQアノンの浸透を後押しした。日本国内の国政選挙における陰謀論がすでに根付いていたことに一因があると思われる」、なるほど。
・『コロナ禍で脳の警報装置を起動させるかのように  既存の陰謀論を巧みに取り込みながら、ローカルな陰謀論とも容易に結び付くメカニズムもそれほど目新しいものではないが、コロナ禍で世界各国の経済がダウンし、自粛により心身が過度のストレスにより疲弊し、ネットにかじりつく時間が増大したことで、真偽不明の情報に釣られやすくなっているだけでなく、深入りしてしまう動機づけがかつてないほど強まっているのである。 コロナ禍で陰謀論がメインストリームに急上昇しているのは、未曽有のパンデミックによる混乱ぶりも手伝って、その差し迫った脅威に関するメッセージが、まるで脳の警報装置を起動させるかのように、人々の情動へ効果的に作用したからだ。 進化心理学的に見れば、陰謀論に惹きつけられる発端は、進化の過程で獲得された心のプログラムの誤作動と考えることができる。進化心理学は、人間の心をさまざまな情報を直観的に処理する、複数の「認知モジュール」を備えたシステムととらえる。道に落ちていたヒモをヘビと間違えて身がすくむのは、ヘビを感知するモジュールが反応したとみなすのがわかりやすい例だが、これは太古の昔にわたしたちが生存のために身に付けたものである。) ただし、この仕組みは、現代社会のようなネットとスマホで構築された過剰接続の時代を想定してはいない。ソーシャルメディアでシェアされる恐怖や嫌悪をあおる情報が、いわばおもちゃのヘビ(虚偽)のようなものにすぎなかったとしても、脅威に対する認識は直観を優先する傾向に引きずられやすいのである。 当然ながら、社会や経済の危機的な状況下において、ネットを通じて諸悪の根源を追求しようとする振る舞いは、生存本能に促された自然な行為といえる面がある。しかし、目の前に「洪水」や「猛獣」などが迫り来るような、自身に危害が及ぶ緊急性がさほどない場合は、その多くが不必要なアラームとも考えられる。進化上重要なスイッチではあるけれども、他部族の襲撃や干ばつによる飢餓などが身近ではなくなった現代では、作動するにぶさわしい機会は恐らくかなり稀なはずで、むしろ検知の感度が高いほうが厄介だからである』、「コロナ禍で陰謀論がメインストリームに急上昇しているのは、未曽有のパンデミックによる混乱ぶりも手伝って、その差し迫った脅威に関するメッセージが、まるで脳の警報装置を起動させるかのように、人々の情動へ効果的に作用したからだ」、「目の前に「洪水」や「猛獣」などが迫り来るような、自身に危害が及ぶ緊急性がさほどない場合は、その多くが不必要なアラームとも考えられる。進化上重要なスイッチではあるけれども、他部族の襲撃や干ばつによる飢餓などが身近ではなくなった現代では、作動するにぶさわしい機会は恐らくかなり稀なはずで、むしろ検知の感度が高いほうが厄介だからである」、「その多くが不必要なアラーム」、その通りだ。
・『人間の道徳基盤が強く刺激された場合に  社会心理学者のジョナサン・ハイトは、複数の認知モジュールで構成される道徳基盤が、人間にあると主張する。それらのいずれかが強く刺激された場合に、その出力として引き起こされる情動が方向性を決めるという。 公正/欺瞞のモジュールであれば怒り・感謝、忠誠/背信のモジュールであれば裏切り者に対する怒りなど、権威/服従のモジュールであれば、尊敬・恐れが誘発される(『社会はなぜ左と右にわかれるのか対立を超えるための道徳心理学』高橋洋訳、紀伊國屋書店)。これがネットを飛び交う真偽不明の情報によっても生じ、情動が瞬時に物事の善し悪しを判断して、「闘争か、逃走か」モードに移行するのだ。 その際、ネットで悲観的な情報を漁り続ける「ドゥーム・スクローリング」(Doomscrolling)は、このような心理的な反応を積極的に作り出す大きな要因となる。コロナワクチンの接種はマイクロチップを埋め込むためで、それによって人類家畜化計画が成就するといったデマであっても、自分の生命を脅かすかもしれない出来事と切実に感じれば、関連するニュースや投稿を執拗に追い続け、世界がホラーハウスに見え始めてくるだろう。 これは、地球温暖化が恐ろしくて夜も寝られず、抑うつ状態になる「エコ不安症」とまったく同じメカニズムだ。つまり、情動のスイッチが誤作動を起こして入りっぱなしになるのである。 心理学者のジョシュア・ハートは、陰謀論に走りやすい人々に関する調査分析を行い、その性格的な因子を「スキゾタイピー」(統合失調症的な傾向)と呼んだ。「比較的信頼できない傾向があり、思想的に偏屈で、異常な知覚体験(実際には存在しない刺激を感じるなど)をしやすい特徴を持つ」と述べ、これは自分に特有のものだと感じたい欲求があると指摘した(Something’s going on here:Building a comprehensive profile of conspiracy thinkers/The Conversation)。 彼らは、「世界が危険な場所」であると捉えがちで、「あらゆる兆候」に差し迫った危機を見いだそうとするのである。このような被害妄想的な感受性がコロナ禍で静かに広がっていった可能性は高いだろう』、「ネットで悲観的な情報を漁り続ける「ドゥーム・スクローリング」(Doomscrolling)は、このような心理的な反応を積極的に作り出す大きな要因となる。コロナワクチンの接種はマイクロチップを埋め込むためで、それによって人類家畜化計画が成就するといったデマであっても、自分の生命を脅かすかもしれない出来事と切実に感じれば、関連するニュースや投稿を執拗に追い続け、世界がホラーハウスに見え始めてくるだろう。 これは、地球温暖化が恐ろしくて夜も寝られず、抑うつ状態になる「エコ不安症」とまったく同じメカニズムだ。つまり、情動のスイッチが誤作動を起こして入りっぱなしになるのである」、恐ろしいことだ。
・『どんなマイナーな言説でも小さな市民権を得られる  ネットのコミュニティでは、どんなマイナーな言説であっても、小さな市民権が得られる。手っ取り早く不安を解消するには、同じ不安を持つ人々と連帯するのがいい。だが、世界が特定の何者かによってコントロールされているといった信念は、無力感や不毛さをすべて外部要因のせいにしてしまうペテンであり、国家や企業や少人数のグループでさえがそれぞれ別のロジックが働いていて、まったく予期せぬ結果をもたらすという複雑性を排除する〝おまじない〟となる。 要するに、新世界秩序(New World Order)とは、人類が救済されることへの願望を反転させた陰画(ネガ)のようなものなのだ。人生を揺るがすようなスペクタクルを激しく欲しているのである。 もちろん、別々の物事に共通する理論を見いだし、それに根本原因を求めようとするパターン認識の習性や、あらゆる事象の背後に何らかの主体の意思を読み取ろうとする超高感度エージェンシー検出装置(HADD)という心性も、「闘争か、逃走か」モードに牽引された情動を強化する要素となるが、まず心のプログラムの誤作動が起点にあることにもっと注意を向ける必要がある。 直観に従属してしまう傾向を持ち、それゆえ頻繁にアラームが発動してしまう存在でありながら、有史以来経験したことのない過剰接続の世界に無防備なわたしたちのポテンシャルへの自覚である』、「別々の物事に共通する理論を見いだし、それに根本原因を求めようとするパターン認識の習性や、あらゆる事象の背後に何らかの主体の意思を読み取ろうとする超高感度エージェンシー検出装置(HADD)という心性も、「闘争か、逃走か」モードに牽引された情動を強化する要素となるが、まず心のプログラムの誤作動が起点にあることにもっと注意を向ける必要がある」、「直観に従属してしまう傾向を持ち、それゆえ頻繁にアラームが発動してしまう存在でありながら、有史以来経験したことのない過剰接続の世界に無防備なわたしたちのポテンシャルへの自覚である」、その通りなのだろう。

第二に、1月10日付け現代ビジネスが掲載した経済産業研究所コンサルティングフェローの藤 和彦氏による「「陰謀論」がまた…!「移民」ぎらいの「排外主義者」がふたたび勢いづくヤバすぎる国の名前」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/104321?imp=0
・『米バイデンが窮地に立たされた!  アメリカで新たな火種が噴出し、過激派組織を勢いを増している。移民問題が改めて米国政治の最重要課題になっているからだ。 気になるのは、米国の全人口に占める合法・不法移民の割合の高さだ。米移民研究センターによれば、昨年9月時点で14.6%に上っており、過去最高の1890年の14.8%を今年中に突破することが確実な情勢だ。 これをうけて、1月3日に開会した米連邦議会では、野党・共和党が不法移民対策を追及する構えだ。上下両院で多数派が異なる「ねじれ議会」なので、共和党が過半数を握る下院がその舞台となる。 一方、バイデン政権は移民の受け入れを増やす政策を掲げ、野党・共和党と真っ向から対立している。移民の増加や不法移民の合法化を柱とした移民制度改革が労働力不足を補い物価高の抑制にもつながるというのがその理由だ。 バイデン政権は昨年12月、トランプ前政権が新型コロナ対策を名目に導入した不法移民を母国に即時送還する措置を早期に終わらせる方針を表明したが、これに反発する共和党優位の各州が裁判所に措置の維持を求めている。 連邦最高裁判所の判断が下るのは今年6月以降になる見通しだ。 いったいアメリカはどうしてしまったのだろうか。 さらに連載記事『プーチンの戦争で極右政党がさらに…!「アメリカ」と「ドイツ」を襲う「陰謀論」の危なすぎるワナ』では、アメリカの陰謀論の深層と欧州でもふたたび猛威をふるう極右政党のいまを詳細にレポートする』、共和党、民主党間の「移民政策」を巡る対立は、困ったことだが、下院は共和党優勢になっただけに、今後の行方は不透明だ。「連載記事」は次で取上げる。

第三に、次に、1月10日付け現代ビジネスが掲載した経済産業研究所コンサルティングフェローの藤 和彦氏による「プーチンの戦争で極右政党がさらに…!「アメリカ」と「ドイツ」を襲う「陰謀論」の危なすぎるワナ」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/104322?imp=0
・『アメリカでふたたび「移民問題」が噴出し、バイデン政権と野党・共和党が激しい論争を繰り広げている。かたや欧州ではウクライナ戦争で発生した難民受け入れでドイツにふたたび陰謀論が台頭、過激派が勢いをましている。前編記事『「陰謀論」がまた・・・!「移民」ぎらいの「排外主義者」がふたたび勢いづくヤバすぎる国の名前』に続き、アメリカとドイツの危険な兆候をレポートしていく』、興味深そうだ。
・『陰謀論うずまくアメリカ  メキシコと接する南西部国境での不法移民の拘束数は2022会計年度(2021年10月から2022年9月)に約230万人に上り、前年度より4割増加した。共和党は不法移民の増加が犯罪の温床になっているとバイデン政権を非難している。 米保守系メデイアは連日のように過激な報道を行っている。 FOXニュースのタッカー・カールソン氏は米南部国境の移民増加について「これは我が国への侵略だ。もう国境はない。かつて繁栄していた街は今は『戦争している』かのように見える」と扇情的に訴えている。) 移民の増加は人種差別的な陰謀論の隆盛に大きく影響する。移民の流入に歯止めがかからない米国は今や陰謀論のメッカだと言っても過言ではない。 米国では昨年末、電力施設に対する攻撃が相次いだ。 西部ワシントン州タコマで12月25日、電力施設4カ所が破壊工作を受け、1万4000世帯が停電した。現在捜査中だが、電力施設を保有するタコマ公益事業は「FBIから12月上旬に『同社の送電網が脅威にさらされている』と警告を受けていた」ことを明らかにしている。 オレゴン州やノースカロライナ州でも同様の事件が起きている。 組織的な攻撃かどうかは不明だが、国土安全保障省は「暴力的な過激派が少なくとも2020年以降、電力施設を攻撃するという具体的な計画を立てている」と認識している。 その狙いは定かではないが、「人種間の対立を図る右翼過激派が、電力施設を攻撃して全米で恐怖心を煽り、内戦を誘発しようとしている」との指摘がある』、「「人種間の対立を図る右翼過激派が、電力施設を攻撃して全米で恐怖心を煽り、内戦を誘発しようとしている」、との指摘が正しければ、「右翼過激派」はとんでもなく悪質なことを仕掛けていることになる。
・『すでに内戦状態  米国では近年「内戦勃発」に対する警戒感が強まっているが、移民の増加がそのリスクをさらに高めることになるのではないだろうか。移民の増加が過激派組織に勢いを与えているのは米国だけではない。 欧州で最もQアノン(米国の陰謀論サイト)信奉者が多いとされるドイツでも同様だ。) ドイツでは昨年12月上旬、連邦検察庁が国家転覆を計画していた右翼テロリスト集団を一斉摘発し、世界を驚かせた。 摘発されたテロリスト集団は2020年1月の米国の連邦議事堂襲撃事件にならい、「Xデー」にドイツ連邦議事堂に武器を持って侵入し、国会議員らを拘束して暫定政権を発足させる計画だったという。 逮捕者の中に既存の国家秩序を否定する「ライヒス・ビュルガー(帝国の臣民)」のメンバーが複数存在したが、このグループはQアノンの人種差別的な陰謀論に深く共鳴していることで有名だった。 この計画を首謀していたのが貴族の末裔だったことにも世間の関心が集まったが、筆者が注目したのは逮捕者の中に元連邦議会議員のヴィンケマンがいたことだ。ヴィンケマンは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に所属し、難民政策について問題発言を繰り返していた。 AfDは2017年の連邦議会選挙で第3党に躍り出たが、追い風となったのは大量に流入してきたシリア難民への国民の反発だった。 ドイツでは新たな難民問題が発生している。ロシアの侵攻以来、ウクライナからの難民が急増しているのだ。ウクライナからの難民は昨年10月中旬時点で100万人を超え、2015~16年のシリア難民の数を上回っている』、「摘発されたテロリスト集団は2020年1月の米国の連邦議事堂襲撃事件にならい、「Xデー」にドイツ連邦議事堂に武器を持って侵入し、国会議員らを拘束して暫定政権を発足させる計画だったという」、「ウクライナからの難民は昨年10月中旬時点で100万人を超え、2015~16年のシリア難民の数を上回っている」、「ウクライナからの難民」には連帯を示していると思っていたが、やはり「問題になっている」とは驚かされた。
・『極右がドイツを追い詰める  難民を収容している自治体の財政はパンク状態になっているが、ショルツ政権は寛容な難民受け入れの方針を変更する気配はまったくない。ウクライナ難民への国民の反発を糧にAfDの支持率は15%とウナギ登りだ。) これに対し、政権与党の社会民主党と緑の党の支持率がそれぞれ18%と伸び悩んでいる。国内の過激派組織にとっても願ってもない状況だろう。 ウクライナ難民の問題はEU共通の問題だ。「ない袖は振れない」各国は他の紛争地域向けODA予算を削減しており、このことが今後域内に流入する難民を増加させる原因になるのではないかと懸念されている。 経済の悪化に加えて、難民が急増する事態になれば、ドイツを始め欧州全域で過激派組織がこれまでになく勢いづいてしまうのではないだろうか さらに連載記事『習近平の大誤算…!「ゼロコロナ」がいざなう、中国発「世界大不況」の巨大すぎるインパクト』では、混とんとする世界情勢のなかでも中国のいまを詳細にレポートする』、「ウクライナ難民への国民の反発を糧にAfDの支持率は15%とウナギ登りだ」、「経済の悪化に加えて、難民が急増する事態になれば、ドイツを始め欧州全域で過激派組織がこれまでになく勢いづいてしまうのではないだろうか」、「政権与党の社会民主党と緑の党の支持率」回復を期待したいが、回復しない場合には「ウクライナ支援」にも悪影響がありそうだ。
タグ:東洋経済オンライン (その1)(秘密結社が裏にいると信じる人が増えている訳 被害妄想的な感受性がコロナ禍で静かに広がる、プーチンの戦争で極右政党がさらに…!「アメリカ」と「ドイツ」を襲う「陰謀論」の危なすぎるワナ、「陰謀論」がまた…!「移民」ぎらいの「排外主義者」がふたたび勢いづくヤバすぎる国の名前) 陰謀論 真鍋 厚氏による「秘密結社が裏にいると信じる人が増えている訳 被害妄想的な感受性がコロナ禍で静かに広がる」 「いつ爆発するかもしれない「不機嫌」を抱えている」、とは興味深そうだ。 「Qアノン」は、「もともとは2017年に政府の内通者を自称する「Q」が匿名掲示板に投稿したことに端を発している。 大変興味深いことではあるが、これらの荒唐無稽なおとぎ話が、コロナ禍によって世界各国に輸出され、現地の陰謀論と融合して、独自の発展を遂げている。つまり、Qアノンがいわば都合のいい母体となって、さまざまな妄想を吸収している」、「日本では、アメリカ大統領選をめぐる不正投票説の蔓延がQアノンの浸透を後押しした。日本国内の国政選挙における陰謀論がすでに根付いていたことに一因があると思われる」、なるほど。 「コロナ禍で陰謀論がメインストリームに急上昇しているのは、未曽有のパンデミックによる混乱ぶりも手伝って、その差し迫った脅威に関するメッセージが、まるで脳の警報装置を起動させるかのように、人々の情動へ効果的に作用したからだ」、 「目の前に「洪水」や「猛獣」などが迫り来るような、自身に危害が及ぶ緊急性がさほどない場合は、その多くが不必要なアラームとも考えられる。進化上重要なスイッチではあるけれども、他部族の襲撃や干ばつによる飢餓などが身近ではなくなった現代では、作動するにぶさわしい機会は恐らくかなり稀なはずで、むしろ検知の感度が高いほうが厄介だからである」、「その多くが不必要なアラーム」、その通りだ。 「ネットで悲観的な情報を漁り続ける「ドゥーム・スクローリング」(Doomscrolling)は、このような心理的な反応を積極的に作り出す大きな要因となる。コロナワクチンの接種はマイクロチップを埋め込むためで、それによって人類家畜化計画が成就するといったデマであっても、自分の生命を脅かすかもしれない出来事と切実に感じれば、関連するニュースや投稿を執拗に追い続け、世界がホラーハウスに見え始めてくるだろう。 これは、地球温暖化が恐ろしくて夜も寝られず、抑うつ状態になる「エコ不安症」とまったく同じメカニズムだ。つまり、情動のスイッチが誤作動を起こして入りっぱなしになるのである」、恐ろしいことだ。 「別々の物事に共通する理論を見いだし、それに根本原因を求めようとするパターン認識の習性や、あらゆる事象の背後に何らかの主体の意思を読み取ろうとする超高感度エージェンシー検出装置(HADD)という心性も、「闘争か、逃走か」モードに牽引された情動を強化する要素となるが、まず心のプログラムの誤作動が起点にあることにもっと注意を向ける必要がある」、 「直観に従属してしまう傾向を持ち、それゆえ頻繁にアラームが発動してしまう存在でありながら、有史以来経験したことのない過剰接続の世界に無防備なわたしたちのポテンシャルへの自覚である」、その通りなのだろう。 現代ビジネス 藤 和彦氏による「「陰謀論」がまた…!「移民」ぎらいの「排外主義者」がふたたび勢いづくヤバすぎる国の名前」 共和党、民主党間の「移民政策」を巡る対立は、困ったことだが、下院は共和党優勢になっただけに、今後の行方は不透明だ。「連載記事」は次で取上げる。 藤 和彦氏による「プーチンの戦争で極右政党がさらに…!「アメリカ」と「ドイツ」を襲う「陰謀論」の危なすぎるワナ」 「「人種間の対立を図る右翼過激派が、電力施設を攻撃して全米で恐怖心を煽り、内戦を誘発しようとしている」、との指摘が正しければ、「右翼過激派」はとんでもなく悪質なことを仕掛けていることになる。 「摘発されたテロリスト集団は2020年1月の米国の連邦議事堂襲撃事件にならい、「Xデー」にドイツ連邦議事堂に武器を持って侵入し、国会議員らを拘束して暫定政権を発足させる計画だったという」、「ウクライナからの難民は昨年10月中旬時点で100万人を超え、2015~16年のシリア難民の数を上回っている」、「ウクライナからの難民」には連帯を示していると思っていたが、やはり「問題になっている」とは驚かされた。 「ウクライナ難民への国民の反発を糧にAfDの支持率は15%とウナギ登りだ」、「経済の悪化に加えて、難民が急増する事態になれば、ドイツを始め欧州全域で過激派組織がこれまでになく勢いづいてしまうのではないだろうか」、「政権与党の社会民主党と緑の党の支持率」回復を期待したいが、回復しない場合には「ウクライナ支援」にも悪影響がありそうだ。
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2023年展望(その1)(「来年の予測」を投資家が信じてはいけない3つの理由、2023年の「ドル円相場シナリオ」はどうなるのか 知っておくべき円高、円安の両方向のリスク、2023年は混迷の「新時代」に突入、日本経済の命運握る卯年の“活路”) [経済政治動向]

今年も残すところ僅か1日、今日は、2023年展望(その1)(「来年の予測」を投資家が信じてはいけない3つの理由、2023年の「ドル円相場シナリオ」はどうなるのか 知っておくべき円高、円安の両方向のリスク、2023年は混迷の「新時代」に突入、日本経済の命運握る卯年の“活路”)を取上げよう。

先ずは、11月30日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「「来年の予測」を投資家が信じてはいけない3つの理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/313667
・『経済メディアによる「来年の経済・マーケット予測」特集の季節が近づいてきた。それを読んで資産運用に役立てようと思っている読者は、いったん冷静になって考え直す方がいい。予測を信じて投資してはいけない「三つの理由」があるからだ』、冒頭の記事でいきなり「2023年展望」に水をさすような内容で恐縮だが、事前のワクチンのつもりでお読み下さい。
・『年末の風物詩「予測特集号」は楽しい読み物だが…  12月が間近に迫ってきた。12月は、多くのメディアにとって来年の予測がテーマとなる季節だ。特に経済系の雑誌メディアでは、「来年の経済とマーケットはどうなるか?」を通常の号で何度も取り上げる。 さらに、それとは別に「○○○○年総予測/大予測」などと銘打った特集号が発売されることが多い。筆者の聞くところによると、この種の予測特集号は通常の号よりもはるかに発行部数が多く、かつよく売れるのだそうだ。 せっかくの「よく売れるコンテンツ」に水を差すのは申し訳ないのだが、投資家の皆さんにとっては、この種の特集の、特にマーケット予測には大いに注意が必要だ。正直なところ、筆者もその類いの原稿を書くことがあるので、「天に唾する」感を覚えぬでもないのだが、「予測特集」のマーケット予測を信じて投資しない方がいいことに気付いてほしい』、「予測特集号は通常の号よりもはるかに発行部数が多く、かつよく売れる」ようだが、「投資家の皆さんにとっては、この種の特集の、特にマーケット予測には大いに注意が必要だ」、どういうことだろう。
・『なぜだろうか?  それは、大半の特集の予測記事の流れが、まず経済全体の景気やインフレ率、これらに対する経済政策、さらには業界ごとの事情などを予測した上で、株価や為替レートなど市場の変数を予想するような論理構成になっているからだ。) 「まず、背景となる経済を分析する。その上で、マーケットに関する予測を行う。これが普通の手順であり王道ではないか」と思われる読者が多いに違いない。確かに、「普通の手順」であることはその通りだ。しかし、「普通」であることと、その手段が「有効」であることとの間には大きな差があるのだ』、「「普通の手順」であることと、その手段が「有効」であることとの間には大きな差がある」、言われてみればその通りだ。
・『経済予測に基づく運用は困難 プロの世界では半ば常識に  まずは世界および各国・地域の経済環境を予測して、株式にせよ為替レートにせよ、マーケットの予測につなげる。これが「自然な」流れだと普通の人は思うだろう。 正直に言うと、筆者自身がファンドマネージャーの仕事について数年たつくらいの頃までは(すなわち20代の大半は)、そのように思っていた。むしろ経済予測を強化することこそ運用を改善する王道だと思っていた。 そう思った理由は、運用に入門したての若手社員だった頃の筆者の強みが、経済の知識が豊富で議論に強いことだったからだろう。1985年のプラザ合意前後の円高や世界の金利低下を予測できていたように感じていたし、88年ごろには日本の資産価格が「バブル」の状態だという強い確信を持っていた。そしてこれらの知見は、筆者自身が担当する資金の運用に何がしか生かされていた。 自分をサンプルとして振り返って思うに、人は自分が力を入れている事柄を重要だと思いがちだ。それに2、3の成功事例が加わると、自分の仮説(=経済分析こそが運用に重要だ)をかなり強く信じてしまうものだ。何と素朴な。 しかし、経済を予測してアセットアロケーション(資産配分)を変更することによって運用パフォーマンスを改善しようとする「マーケットタイミング」を利用するアプローチは、大規模な年金資金の運用などプロの運用の世界では、うまくいかないことが業界内の半ば常識になっている。 例えば、公的年金も企業年金も、「基本ポートフォリオ」などと称するアセットアロケーションを、ほぼ変更せずにじっと維持し続ける運用方法を基本としている。マクロ経済の変化に合わせて配分を大きく変更するような運用はほとんど行われていない。 今回はその理由を詳しく説明しよう。 サンプルとしての自分に立ち返ると、筆者は10年、20年、30年と運用の世界を見続けているうちに、「経済予測で運用を改善する」ことは無理なのだと、実感を強化しながら認識するようになった。早い話が、その方針で大規模かつ長期的にうまくいっているプレーヤーが見当たらないのだ。 なお、個人として世界経済を論じることから運用方針を考えるばかばかしさを痛感した最初の経験は、勤めていた運用機関の上司(部長)が運用方針の会議で、ベルリンの壁崩壊についてとうとうと述べるのを聞いていた時だった。「経済予測が資産運用にとって重要だという考えは、単なる自己満足の補足材料なのではないか」と思った。そして、その思いは全く間違っていなかった』、「経済を予測してアセットアロケーション(資産配分)を変更することによって運用パフォーマンスを改善しようとする「マーケットタイミング」を利用するアプローチは、大規模な年金資金の運用などプロの運用の世界では、うまくいかないことが業界内の半ば常識になっている。 例えば、公的年金も企業年金も、「基本ポートフォリオ」などと称するアセットアロケーションを、ほぼ変更せずにじっと維持し続ける運用方法を基本としている」、「「経済予測が資産運用にとって重要だという考えは、単なる自己満足の補足材料なのではないか」と思った。そして、その思いは全く間違っていなかった」、「単なる自己満足の補足材料」とは手厳しい批判だ。
・『経済予測自体が実は「難事」である  経済予測で運用方針を決めることがうまくいかない大きな理由の一つは、経済予測自体が難しいからだ。 運用業界には、「予測は難しい。特に、将来のことに関しては」という、かつてのニューヨーク・ヤンキースの名捕手ヨギ・ベラ(味わい深い名言を吐くタイプの人物だったらしい)によるものとされる言葉が伝えられている。人を喰った印象を与える言葉だが、その通り、経済に関する予測は大変難しい。 世間に多くの職業エコノミストがいて、さらに経済学者がいるにもかかわらず、経済予測はなかなか当たらないし、特に肝心な局面で当たらない。 例えば、昨今のインフレに関して、少なくとも2021年の初頭くらいの段階で米連邦準備制度理事会(FRB)は「物価上昇は、一時的に2%をはっきり超えるかもしれないが一時的なものだ」と考えていた。おそらくは、世界のエネルギー・資源の価格に対する需給の読みを誤ったことに加えて、コロナ対策の財政支出の影響を過小評価したのだろう、などと事後的に評することはできる。ただ、そうだとしても、こと米国の景気や物価を調査する上では最高レベルの人材と情報(近い将来の金融政策まで予測できる「インサイダー」だ)を持ち合わせているはずのFRBでさえ、一番肝心の局面で物価予測が当たらなかった。 専門家の予測力の貧しさに関しては、世界的な金融危機についてエリザベス女王にご進講した超一流の経済学者たちが、「ところで、皆さんたちはこのようなことになると、誰も予測できなかったのですか」と問われて絶句したというエピソードなども有名だ。 より小さな研究所、金融機関・運用会社の調査部門、さらには市井の経済研究家が卑下する必要は少しもないが、彼らも、資産運用に有効なレベルで経済予測を行うことには成功していないように見える。 率直に認めようではないか。経済予測は難しいのだ』、「世間に多くの職業エコノミストがいて、さらに経済学者がいるにもかかわらず、経済予測はなかなか当たらないし、特に肝心な局面で当たらない」、残念ながらその通りだ。
・『経済変数とマーケット変数の「関係」が不安定  前言を翻すようで恐縮だが、経済は「全く予測できないわけではない」。国内総生産(GDP)や鉱工業生産指数、あるいは雇用などについて、われわれは将来の予想数字を持っているし、それが現実から極端に離れているわけでもない。だから、つい当てにしてしまうという意味で、「ある程度当たる予測」にはかえって厄介な面がある。 しかし資産運用との関係で言うと、経済の変数と、マーケットの変数(例えば株式の期待リターン)との間の「関係」が不安定であることが、経済予測からマーケット予測を構成し、その上で運用戦略を考えようとするアプローチへの障害になっている。 なぜ両者の関係が不安定なのかに関しては、複数の理由が考えられる。 例えば、GDPに代表される景気に関する来年の数字を「当てる」ことができても、来年の株式のリターンの予測に役立てることができるかは大いに疑問だ。 一つには、株式のリターンに影響する要素がGDPや景気以外にもあるからだろうか。だが、われわれには多変量を解析する手段があるはずだ。 しかし、複数の変数と株式のリターンとの関係が分析できても、例えば、現在の株価に将来の予想情報がどの程度「織り込まれているか」という別の問題がある。これについての「程度」が安定しないと、経済変数の将来予測からマーケット関係の変数を予想することは難しい。 また、仮に経済変数とマーケット変数との間の関係がある程度分かったとすると、この情報に対して市場参加者の行動が変化してしまうので、「将来のリターン」の予測は再び困難になってしまう。 このように、マーケットの仕組みを考えると、経済予測から始めて市場のリターンを予想しようとするアプローチは、複数の関節が緩くて制御の効かないマジックハンドで離れた場所にある物を取ろうとするくらいの難事であることが想像できる。実際にエコノミストは、ゲームセンターのUFOキャッチャーほどにも役に立たない。 エコノミストの側は悔しいから次のように言う。 「他の条件を一定とすると、○○が××なら、株価は△△になってもおかしくない」等々。しかし、現実の世の中では「他の条件」はじっとしていない。 かくして、誰も傷つかないし、しかし誰も役に立たない、独特の均衡状態が生まれる』、「仮に経済変数とマーケット変数との間の関係がある程度分かったとすると、この情報に対して市場参加者の行動が変化してしまうので、「将来のリターン」の予測は再び困難になってしまう」、その通りだ。
・『「他人の予測を把握する」こともほぼ不可能なくらい難しい  もう一点、経済予測から市場予測を構成するアプローチの有用性を損なうファクターを指摘しておこう。 それは、「他のプレイヤー(市場参加者)の予想」を把握することが難しいからだ。 仮に、それなりに正しい経済予測ができて、経済変数とマーケット変数との間の相関関係についてそこそこに有効と思える推定ができたとしよう。 次の問題は、市場に参加する他のプレイヤーがどのような予測を持っているかだ。 運用者にとって理想的なのは、他のプレイヤーが当面「誤った予測」を持っていて、しばらくした後に「間違いに気付いて、後追いしてくれる」状況だ。しかし、普通、世の中はなかなかそこまで幸運にはできていない。 そこで、自分の予想の価値を把握するために、他の市場参加者の予想をぜひ知りたいと思うのだが、これがほとんど不可能なくらい難しい。 いわゆるコンセンサス調査のようなデータは世間にある。市場参加者はこれを見て自分の予想の世間的な位置を知ろうとするのだが、それは、他の参加者もやっていることだ。そして、それで他の参加者の本音の予測が分かるわけではない。 かくして、多くの困難を乗り越えて、正しい経済予想と経済変数とマーケット変数の関係の推定とにたまたまたどり着けたとしても、自分の予想の相対的な位置や価値を正しく知ることが難しい。そして、そもそも元の予想が合っているのかどうかに自信がないのだ。脳みそが冷静でさえあれば、市場参加者は「経済予測から運用戦略を作るのは無理だ」と気が付くことになる』、「脳みそが冷静でさえあれば、市場参加者は「経済予測から運用戦略を作るのは無理だ」と気が付くことになる」、なるほど。
・『売買手数料は「重い!」 当たらない予測ならなおさら  経済予測から運用戦略を考えることに関しては、以上のような「困難」があるわけなのだが、これらに加えて現実の資産運用では、アセットアロケーションを調整するために手数料や市場に与えるインパクトなどから生じる「売買コスト」の存在が重大だ。 売買コストは、それ自体がたとえ小さいとしても「確実なマイナスの影響要素」だ。努力の結果生み出した予測だとしても「平均的には無価値な判断」に対してこれを割り当てることは合理的ではない。 ここで述べたような諸々の事情は、兆円単位の資産を運用する機関投資家にとっても、数百万円レベルのお金を運用する個人投資家にとっても、基本的には同じだ。 以上のような訳で、読者は、これから数多出るだろう「2023年の大予測特集」の記事を読んで、これを実際の運用に生かそうとしているなら、いったん冷静になって考え直す方がいい。 筆者が思うに、読者は、こうした予測特集の内容を、投資の参考にするために読むのではなく、分析者のアイデアを楽しむエンターテインメントとして読むべきだ。大切なお金の運用とは切り離して考えた方がいい。 付け加えると、そのように割り切った「大人の読者」が読んでくれるなら、記事を書く側ももっと腕の振るいようがあるのではないだろうか。 「予想(ヨソウ)」は反対方向から「ウソヨ」と読むくらいがちょうどいいのだ』、「現実の資産運用では、アセットアロケーションを調整するために手数料や市場に与えるインパクトなどから生じる「売買コスト」の存在が重大だ。 売買コストは、それ自体がたとえ小さいとしても「確実なマイナスの影響要素」だ。努力の結果生み出した予測だとしても「平均的には無価値な判断」に対してこれを割り当てることは合理的ではない」、「読者は、こうした予測特集の内容を、投資の参考にするために読むのではなく、分析者のアイデアを楽しむエンターテインメントとして読むべきだ」、「「予想(ヨソウ)」は反対方向から「ウソヨ」と読むくらいがちょうどいいのだ」、最後の部分は山崎氏のユーモアのセンスはまだまだ健在のようだ。

次に、12月18日付け東洋経済オンラインが掲載したみずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏による「2023年の「ドル円相場シナリオ」はどうなるのか 知っておくべき円高、円安の両方向のリスク」を:2022年も残すところあと半月になった。2023年のドル円相場はどうなるのか。筆者の考えるメインシナリオやリスクシナリオを示してみよう。 年明け以降のドル円相場は、1~3月期まではFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の利上げ幅や利上げ停止がテーマとして注目される中、アメリカ金利低下とドル安に応じた円高が促されやすいと考えている。この辺りは多くの市場参加者が共有する問題意識ではないかと思われる。 この際、下値目途は2022年の値幅の半値戻しである1ドル=130円前後をイメージしている。なぜ半値しか戻らないのかと言えば、筆者は今般の円安を「ドル全面高」と「円全面安」が併発した結果だと考えているからだ。 ドル全面高はFRBのハト派転換(pivot)とともに修正される余地があるにしても、史上最大の貿易赤字などを背景に歪んだ円全面安の部分は解消されないだろう。直感的にも巨大な貿易赤字を擁する世界で唯一のマイナス金利採用国の通貨が買われ続けるというイメージは湧きにくい。 では、2023年4~6月期以降はどうなるか。金融市場ではそのまま円高傾向が続き、2022年初頭の水準(1ドル=112~113円付近)に戻るという意見が多いように見受けられる。だが、筆者はそう思っていない。 これは上述した日本の金利・需給環境も加味した結論だが、それだけではない。金融市場のコンセンサスどおりの展開となれば、おそらく2023年4~6月期以降はFRBの利上げ停止を確認することになる。しかし、「次の一手」としての利下げが現実的に市場予想の範囲に入ってくるのは2023年中の話ではないだろう。 とすると、金融市場には当面、FRBの大きな政策変更を予想しないで済む穏当な時間帯が生まれる可能性がある。象徴的にはボラティリティ低下とともに株高という地合いに至る可能性がある。利下げをするわけではないので日本から見た内外金利差も相応に高止まりする公算が大きい。これは対ドルだけではなく、対クロス円通貨に対しても同様のことがいえる』、12月21日付けで日銀は異次元緩和を微修正した。長期金利の上限を0.5%に、円も131円台に上昇。
・『2023年終盤に1ドル=140円台に戻る?  「十分な金利差」と「低いボラティリティ」はキャリー取引が行われるための2大条件である。2022年中は日米金利差が円売りの材料として注目されたが、本当の意味で円安を駆動するとしたら2023年のほうが好ましい環境に思える。「円だけマイナス金利」という状況下、貿易赤字大国の通貨が上昇一辺倒という軌道を辿るのは非常に難しく説明に窮する。2023年10~12月期には再び1ドル=140円台を主戦場とするような地合いに至るのではないか。) 以上はメインシナリオだが、そうならないリスクも当然ある。リスクは上下双方向に拡がっており、それぞれ複数考えられるが、主だったものを1つずつ挙げておきたい』、「リスクは上下双方向に拡がっており、それぞれ複数考えられるが、主だったものを1つずつ挙げておきたい」、なるほど。
・『アメリカ利上げは本当に1~3月期に止まるのか  まず、筆者の想定以上に円安がいきすぎるリスクだが、これはFRBの利上げ継続である。アメリカのインフレ率がピークアウトしていることはもはや自明であるとしても、多くの市場参加者が抱く「1~3月期中に利上げが停止する」という前提がそこまで確実なものなのか。 足元では、FRBが2%のインフレ目標で参照する個人消費支出(PCE)デフレーターはダラス地区連銀が試算するトリム平均指数(変動が非常に大きな異常値を除外して求める平均)で見ても前年比+4.7%程度、食料・エネルギーを除くコアベースでは+5%超、総合ベースでは+6%超である。PCEデフレーターが安定的に+2%程度になるという状況にまで、エネルギー情勢が年初3カ月間で収束するだろうか。 現状、利上げの終点と目される政策金利水準(以下ターミナルレート)のコンセンサスは4.75~5.25%というレンジにあるが、例えば「6月以降は四半期に1度、+25bp」というペースで利上げが継続する可能性もある。そうなった場合、ターミナルレートは6%に接近するだろう。 パウエルFRB議長は1年前(2021年11月末)、「インフレは一時的」という認識を急遽撤回し、市場に大きなショックを与えた経緯がある。当時の翻意に比べれば、利上げが1~3月期で停止せずに緩やかなペースで持続するという展開はさほど不自然ではない。メインシナリオではないが、円安方向のリスクシナリオとしては検討する価値がある。) 片や、筆者の想定とは逆方向に円高がいきすぎるリスクもある。これも複数考えられるが、やはり新体制への移行に伴う日本銀行のタカ派転換がその筆頭であろう。可能性としては上記の円安リスクよりは低いと思われるが、念頭に入れたいシナリオではある。 市場が抱く新体制へのイメージは「現状より緩和姿勢が強まることはない」程度であり、新総裁の候補者が複数名挙がっているものの、どの候補者になればどういった政策修正に至るのかというコンセンサスはない』、「市場が抱く新体制へのイメージは「現状より緩和姿勢が強まることはない」程度」、その通りだ。
・『岸田政権はアベノミクスと距離を取る?  12月13日に木原誠二官房副長官がブルームバーグとのインタビューで大規模金融緩和を正当化する政府・日銀による共同声明の修正に関し「新たな合意を結ぶ可能性はあるものの、現在の合意内容と異なるものになるかどうかはわからない」と語っている。言質は取らせていないが、ここは「修正は考えていない」と回答すべきだったように思えた。やはりアベノミクスとは距離を取る政策運営が志向されるのではないか。 具体策として想定されるものに関しては、引き締めの度合いが弱い順にフォワードガイダンスの修正、イールドカーブコントロール(YCC)における変幅拡大、YCCにおける操作年限の短期化、YCC廃止、利上げ(マイナス金利解除)などが考えられる。 このうち「新体制移行とともに利上げ」というような展開はほとんど想定されていない話と言える。2013年4月、黒田総裁が就任後初の会合で量的・質的金融緩和を決定し強烈なリフレ思想を煽った記憶を辿れば、その逆の展開が2023年4月に起きることはないのか。注目したい点である。 もちろん、保守的な岸田文雄政権の意向も相応に影響するであろうことを踏まえれば、日銀が家計部門にも大きな影響をもたらす利上げという決断に踏み切れる可能性は低い。また、リフレ思想を持たない(≒タカ派色の強い)市場参加者として注目される新任の高田創審議委員も日経新聞(12月10日)に掲載されたインタビューで、「(YCC解除に関して)残念ながらそういう局面になっていない」と述べている。 もちろん、現行体制と新体制では情報発信の意味も異なるだろうが、少なくとも現状の政策委員会の中では利上げを主張するような空気はまったく感じられないのが実情だろう。しかし、積極的な円買い材料に乏しいと言われる状況下、「日銀の利上げ」という為替市場参加者のほとんどが想定していない展開はリスクシナリオから外すべきではない、非常に重要な論点であるように思われる』、「「日銀の利上げ」という為替市場参加者のほとんどが想定していない展開はリスクシナリオから外すべきではない、非常に重要な論点であるように思われる」、その通りだ。

第三に、12月19日付けダイヤモンド・オンライン「2023年は混迷の「新時代」に突入、日本経済の命運握る卯年の“活路”」を紹介しよう。
https://dw.diamond.ne.jp/articles/-/29881
・『『週刊ダイヤモンド』12月24日・12月31日新年合併特大号の第一特集は「2023 総予測」だ。過去1年を総括し、翌年のゆくえを見通すという、年末年始の恒例企画だが、2022年は国内外ともに近年類を見ない大波乱の1年となった。来る23年はどうなるのか?経済はもちろん政治、社会、文化まで特集を通じて「総予測」する』、興味深そうだ。
・『混迷の時代に突入する2023年 日本と世界の“活路”を探る  来る2023年。景気と株価はどうなる?円安とインフレは続くのか?金利上昇や不動産暴落は起きるのか?そして、歴史に刻まれる出来事が相次いだ22年を経て、日本と世界はどうなってしまうのか――。 年末年始におけるメディアの定番企画が翌年の「予測」だ。経済メディアにおいては、新たな1年の経済や企業の予測に各媒体が総力を挙げるのが恒例となっている。 『週刊ダイヤモンド』では年末年始の超特大特集「総予測」がそれだ。今回も企業トップやアナリスト、学者ほか多数の専門家を直撃し、23年の見通しや注目キーワードなどを徹底分析した。 今特集を俯瞰して浮かび上がるのは、23年の日本と世界が、これまでの“前提”が崩れた混迷の「新時代」に突入するということだ。ことの発端は22年に起きた、100年先の日本史、世界史の教科書にも記されるだろう国内外における二つの歴史的事件にある』、それは、「ロシアによるウクライナ侵攻」、「安倍晋三元首相銃撃事件」、である。
・『岸田政権はダッチロール状態 統一地方選と日銀総裁人事が焦点  まず国外では、2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻だ。片や国内の方は、7月8日の安倍晋三元首相銃撃事件がそれである。 前者は、21年から続いていた世界的なインフレのアクセルを踏み込み、目下のエネルギー価格や食料価格の高騰を招いている。 資源高騰は無論のこと、とりわけ米国におけるインフレは日本経済に甚大な影響を及ぼす。目下の日米金利差に起因する超円安の命運は、米国のインフレ対策──、利上げ動向に懸かっているからだ。 問題は経済面にとどまらない。戦況の泥沼化によって、周知のようにロシアによる核兵器使用という第二次大戦以降、最悪の事態さえ懸念されている。 ところが、この世界情勢の混迷に対し、日本の岸田政権はまさにダッチロール状態だ。 安倍氏暗殺でクローズアップされたのが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自由民主党の“蜜月”関係だ。いわゆる「旧統一教会被害者救済法」が自民党と公明党など賛成多数で22年12月に成立したが、遅きに失した感は否めない。23年4月の統一地方選挙を岸田首相が乗り越えられるかどうかが、今後の政局を占う一つの焦点となる。 安倍氏の急逝は、政治のみならず金融政策のかじ取り役、日本銀行のトップ人事にも影響を与えそうだ。22年12月現在、23年4月に任期満了を迎える黒田東彦総裁の後任者選びが最終局面にある。「リフレ派」の黒田氏が、アベノミクスの目玉として官邸主導で送り込まれてから10年。安倍氏不在の今、現在の政策を踏襲する新総裁が誕生するのかに注目が集まっている。 こうした国内外の経営環境の激変を踏まえ、各産業、企業業績は23年どうなるのか。本特集では、ダイヤモンド編集部記者による日本企業「八大テーマ」座談会や、数多の日本を代表する企業トップや専門家への直撃インタビューなど徹底取材で明らかにする。 混迷の「新時代」が到来する中、卯年に倣って“跳躍”できるのか──。特集を通じて日本と世界の“活路”を探る』、「23年4月に任期満了を迎える黒田東彦総裁の後任者選びが最終局面にある。「リフレ派」の黒田氏が、アベノミクスの目玉として官邸主導で送り込まれてから10年。安倍氏不在の今、現在の政策を踏襲する新総裁が誕生するのかに注目」、「特集を通じて日本と世界の“活路”を探る」、なるほど。
・『「生前贈与」がダメになる前に得できる! 超豪華付録「駆け込み贈与・相続術カレンダー」つき(『週刊ダイヤモンド』12月24日・12月31日新年合併特大号の第一特集は「2023 総予測」です。 ページ数は、なんと物理的限界ギリギリの264ページ!295人の人物の名前が登場し、ダイヤモンド編集部の総力と多数の超一流の専門家の英知を結集させ、経済の先行きを徹底的に予測。株価、為替、企業業績のみならず、国際関係、政治、社会、文化、スポーツまで抜かりなく完全網羅しました。 さらに今回は、万人が無関係ではいられない“タイムリー”な豪華付録つきです。 相続税の節税術の王道だった生前贈与がもうすぐ事実上の禁じ手になることを踏まえて、人気税理士たちの監修の下に作成した「駆け込み贈与・相続術カレンダー」です。12カ月で後悔しない贈与と相続のやり方が学べること請け合いです。 家族が集う年末年始という絶好の機会に、贈与・相続を話し合いにお役立てください!』、「家族が集う年末年始という絶好の機会に、贈与・相続を話し合いにお役立てください!」、実にタイムリーな企画だ。 
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日本の構造問題(その29)(「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が 日本の命とりとなる」、経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した、誤解が多い「日本の生産性」低位が続く意外な盲点 「人への投資」だけを推し進めても意味がない) [経済政治動向]

日本の構造問題については、9月24日に取上げた。今日は、(その29)(「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が 日本の命とりとなる」、経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した、誤解が多い「日本の生産性」低位が続く意外な盲点 「人への投資」だけを推し進めても意味がない)である。

先ずは、11月12日付け現代ビジネス「「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が、日本の命とりとなる」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/101905?imp=0
・『自信なさげにボソボソ喋るメガネの男、キシダに国を任せていて大丈夫なのか? 世界は、日本の総理に厳しい目を向けている。いったいどうすれば日本は復活できるのか、国内外の7人の「知の巨人」に聞いた。7人目は政治学者のイアン・ブレマー氏だ』、「イアン・ブレマー氏」の診断とは興味深そうだ。
・『混沌とした「Gゼロ」の世界  9月28日、都内で開かれた「Gゼロサミット」のために訪日し、翌日に首相官邸で岸田総理にお会いしました。 サミットで岸田氏は「ブレマー博士のおっしゃる『Gゼロ』の世界が現実のものになりました」といったことを話されていました。 私が「Gゼロ」という言葉を造ったのは、約10年前のことです。「G」は世界をリードする大国を指しますが、'12年頃にはG7やG20が機能不全を起こしかけており「リーダー不在」になっていた。この状態を私は「Gゼロ」と名づけたのです。 そして'22年2月、プーチン大統領がウクライナ侵攻を始めたことで、世界秩序の崩壊がいよいよ現実のものとなりました。東アジアでも、台湾統一を公言する中国やミサイル発射を繰り返す北朝鮮など、軍事衝突の脅威が高まっています。 さらにキューバ危機から60年経っても、我々は何も学んでいないことも明らかになりました。想像しうる最悪の兵器―核によって人類が滅びかねない危機に再び直面しているのです。 ロシアがNATO加盟国に核ミサイルを撃ち込まない保障はありませんし、西側でも「核があればウクライナもロシアによる侵攻を防げたはず」「我々にも核が必要だ」といった声が上がっている』、確かに「「Gゼロ」の世界」は「「混沌とし」ている。
・『日本は「科学後進国」になりかけている  「Gゼロ」の世界は、想像以上に混沌としたものになりつつあります。これだけの難局を、岸田総理が乗り切れるとは到底思えません。 百歩譲って、日本、アメリカ、オーストラリア、インドが参加する「QUAD」の連携強化を進めている点は評価してもいいでしょう。 かつての「科学大国」が、今や「科学後進国」に。 しかし、日本には致命的な欠点があります。 科学研究や技術開発への投資が、ほとんど増えていないのです。'00年と'19年の研究開発費(名目額)を比較すると、日本は1.2倍とほぼ横ばいになっています。一方、米国は2.4倍、韓国は6.4倍、中国にいたっては24.7倍に急増している。 潤沢な研究資金を求め、日本を捨てて海外に出る研究者も多くいるようです。かつて「科学大国」と言われた日本は、今や「科学後進国」に転落する瀬戸際まで追い込まれています。 日本が特に遅れを取っている分野の一つが、デジタル技術です。現在の地政学は、デジタル技術の発展によって大きく転換しています。資金を投じてデジタル技術開発を続けないと、日本はあっという間にサイバー攻撃の餌食となります。 自律型ドローン、人工知能(AI)、さらには量子コンピュータなど、「破壊的なテクノロジー」は次々に生み出されています。 研究開発の努力を怠れば、日本は「Gゼロ」の世界を荒らしまわる強国に飲み込まれてしまうでしょう。 「知の巨人」シリーズ 1ポール・クルーグマンが激白「日本経済を復活させるには、定年を廃止せよ」 2昭和史を見つめてきた作家・保阪正康が岸田総理を斬る「宏池会の系譜に学ばぬ首相に失望した」 3経済学者・野口悠紀雄の提言「早く金利を上げて、円安を止めなさい」 4「賃金を上げて、非正規雇用を見直せ」ジャーナリストのビル・エモットが考える「日本再生への道」 5姜尚中が痛烈批判「岸田総理は、夏目漱石『それから』の主人公と同じ“煮え切らない男”」 6得権益を温存し衰退する日本…社会学者・宮台真司「愚かな総理を生み出したのは、からっぽの民衆だ」』、「かつて「科学大国」と言われた日本は、今や「科学後進国」に転落する瀬戸際まで追い込まれています」、「資金を投じてデジタル技術開発を続けないと、日本はあっという間にサイバー攻撃の餌食となります」、由々しい事態だ。

次に、11月16日付けPRESIDENT Onlineが掲載した一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/63430
・『なぜ日本の製造業は衰退したのか。一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんは「政府による補助金政策に問題があった。かつては半導体産業にも力があったが、政府が“補助金漬け”にしたことによって競争力を失ってしまった」という――。(第1回)※本稿は、野口悠紀雄『円安と補助金で自壊する日本 2023年、日本の金利上昇は必至!』(ビジネス社)の一部を再編集したものです』、興味深そうだ。
・『90年代から始まった政府による製造業への介入政策  高度成長期、日本の製造業は国の直接介入を拒否した。1960年代に、通商産業省は外資自由化に備えて日本の産業の再編成を図ろうとし、「特振法」(特定産業振興臨時措置法)を準備した。しかし、その当時の日本の産業界は、これを「経済的自由を侵害する統制」であるとして、退けてしまったのである。外資による買収を防ぐより、政府に介入されないことのほうが重要と考えたのだ。 この当時、政府による保護策の対象は、高度成長に取り残された農業だった。ところが、1990年代の中頃から、この状況が変わってきた。競争力を失った製造業を救済するために、政府が介入するようになってきたのだ。 まず、マクロ政策において金融緩和を行い、円安に導いた。それに加え、経済産業省の指導による産業再編(その実態は、競争力が失われた製造業への補助と救済)が行われてきた。そして、2000年頃から、国による保護・救済の対象が、農業から製造業に変わった。世界経済の大転換に対して、産業構造の転換を図るのではなく、従来のタイプの製造業を延命させようとしたのだ。 特に08年のリーマンショック(08年9月にアメリカの投資銀行リーマンブラザーズが経営破綻したことをきっかけに生じた金融危機)後は、さまざまな製造業救済策がとられた。雇用調整助成金、エコカー減税・補助金、地上波デジタル移行によるテレビ受像機生産の助成などだ。 政府の干渉が強いと、産業構造の調整が遅れる。DRAM(半導体記憶素子)のエルピーダメモリや、LSI(大規模集積回路)のルネサスエレクトロニクスなどがその例だ。これらは業界再編成のために官主導で設立された会社だが、失敗しただけでなく、汚職をも生んだ。また、シャープやパナソニックによる巨大工場建設に関しては、巨額の補助金が支出された。こうして、民間企業の政府への依存が強まってきた。 これは、日本の製造業が衰退したことの反映だ。安倍晋三内閣の成長戦略も、製造業を中心とした従来の産業構造を延命させることを目的として、政府が民間経済活動に介入しようとするものだった』、「エルピーダメモリ」、「ルネサスエレクトロニクス」などは「業界再編成のために官主導で設立された会社だが、失敗しただけでなく、汚職をも生んだ」、「シャープやパナソニックによる巨大工場建設に関しては、巨額の補助金が支出された。こうして、民間企業の政府への依存が強まってきた」、「これは、日本の製造業が衰退したことの反映だ。安倍晋三内閣の成長戦略も、製造業を中心とした従来の産業構造を延命させることを目的として、政府が民間経済活動に介入しようとするものだった」、情けない限りだ。
・『史上最大の負債総額を出して破綻したエルピーダメモリ  これまで日本で行われた企業再建のかなりのものが、官主導で行われた。企業救済を目的とする官製ファンドとして、2003年に経済産業省が主導して「産業再生機構」がつくられた。そして、04年には、カネボーやダイエーの再建にかかわった。さらに09年には、「産業革新機構」が設立された。将来性がある企業や企業の重複事業をまとめることによって、革新をもたらすとされた。 半導体産業については、NEC、日立のDRAM事業を統合したエルピーダメモリが1999年に発足した(後に、三菱電機のDRAM事業を譲り受ける)。しかし、経営に行き詰まり、改正産業活力再生特別措置法の適用第1号となって、公的資金活用による300億円の出資を受けた。それでも事態は好転せず、2012年2月に、会社更生法の適用を申請し、製造業として史上最大の負債総額4480億円で破綻した。 日本の半導体産業が弱体化したのは、補助金が少なかったからではない。補助金漬けになったからだ。「補助して企業を助ければよい」という考えが基本にある限り、日本の半導体産業が復活することはないだろう』、「日本の半導体産業が弱体化したのは、補助金が少なかったからではない。補助金漬けになったからだ。「補助して企業を助ければよい」という考えが基本にある限り、日本の半導体産業が復活することはないだろう」、その通りだ。
・『莫大な補助金が投入されたジャパンディスプレイだったが…  ジャパンディスプレイ(JDI)は、ソニー、東芝、日立が行っていた液晶画面事業を合体して2012年につくられた組織だ。産業革新機構が2000億円を出資し、国策再生プロジェクトとしてスタートした。ところが、19年に危機的な状態になった。 産業革新機構から設立時に2000億円の出資を受け、16年から17年にかけても750億円の投資が追加でなされた。赤字の民間企業に国の金を投入し続けることに対して批判があったが、17年には1070億円の、18年にも200億円の支援がなされた。しかし、18年12月10日、産業革新投資機構の民間出身の取締役全員が辞職。革新機構は機能を停止した。 ジャパンディスプレイの財務状況は厳しいままだった。一時は債務超過に陥った。会計不正事件もあった。20年10月、石川県白山市の工場をシャープとアップルに売却し、経営安定に努めているが、いまだに赤字を続けている。液晶は、半導体と並んで日本製造業の強さの象徴であり、お家芸の技術とされていたものだ。それがこのような状態になった。必要なのは、世界的な製造業の構造変化に対応することだ。 数社の事業を統合して重複を除くというようなことではない。エルピーダメモリやジャパンディスプレイが成功しなかったのは、世界の製造業の基本構造が変わってしまったからだ』、「世界の製造業の基本構造が変わってしまった」、どういうように変わったのだろう。
・『政府の再建政策では抜本的な変革は実現できない  大きな改革は、企業の再建でなく、企業の新陳代謝によってしか進まない。ところが、官庁が主導して関係企業や金融機関が協議して決める再建は、これまでの日本的なビジネスモデルと産業構造を維持することを目的にしている。だから、抜本的な変革が実現できない。 このような官民協調体制が、日本の産業構造の変革を阻んできたのだ。この結果、日本の産業構造の基本的な仕組みと企業のビジネスモデルは、ほとんど変わっていない。日本では、企業の消滅を伴う改革は望ましくないと考えられてきた。その大きな理由は、雇用の確保だ。 しかし企業が残って雇用を維持し続けても、全体としての雇用情勢は大きく変わっている。非正規雇用が全体の4割にもなっている。新しい産業が成長して雇用機会を生み出していくしか、答えはない。 半導体事業や液晶事業不振のもともとの原因は、日本メーカーの新製品開発能力が低下し、競争力のある製品をつくり出せなくなったことだ。エルピーダメモリの場合について見れば、DRAMはもともと付加価値が低い製品だった。ジャパンディスプレイの売上高も、2016年までは、iPhoneの出荷台数の成長とともに増大していた。 ところが、16年以降、iPhoneはパネルに有機ELを採用し始めた。しかし、JDIは有機ELの準備がまったくできていなかった。こうしたことの結果、16年をピークに売上高が激減したのだ』、「半導体事業や液晶事業不振のもともとの原因は、日本メーカーの新製品開発能力が低下し、競争力のある製品をつくり出せなくなったことだ」、「iPhoneはパネルに有機ELを採用し始めた。しかし、JDIは有機ELの準備がまったくできていなかった。こうしたことの結果、16年をピークに売上高が激減」、なるほど。
・『日本経済が抱えている問題は、金融政策では対処できない  半導体では、経営者が大規模投資を決断できなかったことが、その後の不振の原因といわれる。しかし、液晶の場合には、大規模な投資を行った。特にシャープの場合は、「世界の亀山モデル」といわれる垂直統合モデル(液晶パネルの生産から液晶テレビの組立までを同一工場内で行う)を展開した。 ところが、結局は経営破綻して、台湾の鴻海(ホンハイ)の傘下に入らざるを得なくなった。厳重な情報管理をして液晶の技術を守るとしていたが、いまになってみれば、液晶はコモディティ(一般的な商品で、品質で差別化できないため、価格競争せざるを得ないもの)でしかなかったのだ。 日本経済に大きな影響を与えたのは、世界経済の構造変化だ。これは、IT(情報通信技術)の進展と新興国の工業化によってもたらされたものであり、供給面で起きた変化だ。したがって、金融政策では対処できない問題である。 金融緩和をすれば円安になる。そして、円安が進行している間は企業利益が増加して株価が上がる。しかし、これは一時的現象にすぎない。それにもかかわらず、金融緩和で円安にすること、それによって「デフレ脱却」をすることが目的とされてきた。1993年以降、断続的に円売り・ドル買い介入が行われていたが、これがその後の量的金融緩和と大規模な為替介入につながっていった。 日本経済は、いまに至るまで、この路線上の経済政策を続けている。アベノミクスも異次元金融緩和も、その一環だ』、「日本経済に大きな影響を与えたのは、世界経済の構造変化だ。これは、IT・・・の進展と新興国の工業化によってもたらされたものであり、供給面で起きた変化だ。したがって、金融政策では対処できない問題である」、その通りだ。「金融緩和で円安にすること、それによって「デフレ脱却」をすることが目的とされてきた。1993年以降、断続的に円売り・ドル買い介入が行われていたが、これがその後の量的金融緩和と大規模な為替介入につながっていった。 日本経済は、いまに至るまで、この路線上の経済政策を続けている。アベノミクスも異次元金融緩和も、その一環だ」、同感である。

第三に、11月30日付け東洋経済オンラインが掲載した学習院大学経済学部教授の宮川 努氏による「誤解が多い「日本の生産性」低位が続く意外な盲点 「人への投資」だけを推し進めても意味がない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/636134
・『日本の経済成長を議論するうえで、「生産性の低さ」は大きな課題となっている。労働生産性を見ると、主要先進7カ国(G7)で最も低く、OECDでも23位にとどまる。 ただ、生産性に対する誤解は少なくない。「生産性が低い」と感じる人がいる一方で、「こんなに一生懸命働いていて、もうこれ以上働けないくらいなのに、生産性が低いといわれても……」と思う人もいる。 はたして生産性とは何なのか、生産性を向上させるためにはどうすればいいのか。生産性の謎を解く連載の第5回は、「生産性と設備投資」について、学習院大学経済学部教授の宮川努氏が解説する。 日本では「人への投資」がさかんに強調されている。確かに「人への投資」は重要だが、それは生産や研究のための新しい投資が行われて初めて効果的になる。 実は世界金融危機以降に潜在成長力が低下した先進諸国の大きな課題の1つは、生産のための通常の設備投資が減退していることなのである。 10月にイギリスのマンチェスターで開かれた生産性データベースの国際カンファレンスでキーノートスピーチを行った、イングランド銀行(イギリスの中央銀行)の金融政策委員会メンバーであるジョナサン・ハスケル氏も「投資と生産性」というタイトルで、先進諸国の投資の減退の要因を探っていた。 古い設備で経済活動を行うなら「人への投資」は不要(日本も例外ではない。経済成長の要因は、労働投入の増加分と資本投入の増加分とそして生産性に分解することができるが、今世紀に入ってからの資本投入の経済成長への寄与はほとんどないに等しい。つまり設備投資が少なく、新たな設備が蓄積されないのである。 このため、下のグラフにあるように設備の年齢は急速に上昇している。 (外部配信先では図や画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) もし古い設備で経済活動を行うのなら、「人への投資」は不要である。新たな知識やスキルを得ても使う場所がないのだから時間の無駄というものである。通信手段としてファックスを使い続ける社会にとっては、人材教育は不必要だが、革新的な投資を行えば人材投資は不可避となる。つまり設備を更新していくことと人材投資は車の両輪なのである。 投資には、潜在的な成長力(生産能力)を上げるという役割のほかにもう1つの側面がある。それは景気循環への影響である。 投資という行為は、建物を建築する資材を購入したり、機械設備を購入したりするため、財やサービスへの需要を増やすことになる。この支出の増加は、消費の増加や輸出の増加と同様景気にとってプラスに働く。生産能力の増加という供給面の効果と支出の増加という需要面の効果の双方を併せ持つことを「投資の二面性」と呼んでいる。 それでは投資が増加すればいいことづくめなのかといえば、そうともいえない。投資の増加は、景気を大いに盛り上げるが、いったん増加した生産能力は容易に減らすことはできない。このため、需要が減少した際には、企業は過剰設備を抱えることになる。バブル崩壊後の日本も大幅な過剰設備を抱えていた。 しかし生産性を向上させるためには、こうした設備の過剰を乗り越えて、新たな設備を導入していく必要がある。鉄道事業で自動券売機や自動改札を導入しなければ、生産性は向上しないし、小売業でも自動店舗やセルフ・レジのための機械の導入は、生産性の向上に貢献しているといえる。 今世紀に入ってからの日本は残念ながらこうした生産性向上のための投資がなかなか広がらず、逆に労働投入が増えて生産性の低迷が生じているのである』、「今世紀に入ってからの日本は残念ながらこうした生産性向上のための投資がなかなか広がらず、逆に労働投入が増えて生産性の低迷が生じている」、なるほど。
・『株価が上昇する一方で設備投資が低迷  ただ不可解なのは、2010年代は企業の株価が大きく上昇した時期でもあった。ダウ=ジョーンズで見ても、日経平均株価で見ても、2010年代の初めから最後にかけて株価は3倍に上昇している。通常、企業価値が上昇するということは、投資家が設備投資から生まれる将来的な利益の増加を期待していることを意味している。 つまり一般的に株価と設備投資は歩調を合わせて動くものなのである。それにもかかわらず、2010年代は株価が上昇する一方で、設備投資が低迷するというパズルが生じていた。 このパズルを説明する要因として、先進国共通の要因としては3つ挙げられる。 1つ目は無形資産投資が増えていることである。1990年代後半にアメリカでIT革命が起きてから、ソフトウエアや人材投資をはじめとした目に見えない投資が増えている。株式市場はこの投資による収益の増加を評価しているが、公表される企業の財務諸表にはこうした資産のほとんどは計上されていない。したがって、株式市場での評価を基準にした企業価値と、会計上の投資の変動に乖離が生じるのである。 2つ目は市場集中度が上昇し、新規企業の参入や新規投資が行いにくくなったという点である。アマゾンもグーグルも1990年代に創業した当初は、比較的小規模なベンチャー企業だったが、今やどの企業も太刀打ちできないほどの市場支配力を持っている。リーディング産業におけるこうした独占力は、その企業の利益を増大させ、株価を引き上げる一方で、経済全体の投資を縮小させる効果を持っている。 3つ目は、海外直接投資の影響である。先進国の市場はすでに成熟しているため、企業は成長著しい新興国に投資をしてきた。こうした海外での投資は企業に収益をもたらし株価を引き上げるが、国内投資は振るわないという現象が起きる』、「2010年代は株価が上昇する一方で、設備投資が低迷するというパズルが生じていた」、「1つ目は無形資産投資が増えている」ので、「株式市場での評価を基準にした企業価値と、会計上の投資の変動に乖離が生じる」、「2つ目は市場集中度が上昇し、新規企業の参入や新規投資が行いにくくなった」、「3つ目は、海外直接投資の影響」、「先進国の市場はすでに成熟しているため、企業は成長著しい新興国に投資をしてきた。こうした海外での投資は企業に収益をもたらし株価を引き上げるが、国内投資は振るわないという現象が起きる」、なるほど「パズル」が解けたようだ。
・『日本を見た場合の最大の要因は?  日本の場合を見てみると、無形資産投資の増加については、ある程度あてはまる。しかし、その無形資産投資額も2010年代からは横ばいになっており、あまり有形資産の投資をカバーする力はなさそうである。逆に人材投資は長い期間をとってみると減少しており、それが増加する企業価値と建物や機械などの投資の停滞とのギャップを埋めているとはいいがたい。 2つ目の市場集中度の上昇は、日本では一般的には見られない。しかし情報通信サービス業では、大企業と中小企業の生産性との差が見られることは確かである。この背景には、少数の企業が大きなシステム投資の受注を行い、それを中小の企業に請け負わせるという建設業に似た構造があると考えられる。こうした構造によって情報通信サービス業の投資や生産性が上昇してないという側面はある。 しかし日本の場合、この2つよりも大きな要因は、3つ目の海外直接投資であろう。すでに収益源が国内よりも海外になっている企業が多数あり、さらに為替要因が加わっている。すなわち、アベノミクスによって異次元の金融政策が開始されたことにより円安が進行した。この円安が海外の収益を国内の通貨で評価した場合にさらに増幅させることになり、企業価値を押し上げ、低迷する国内投資とのギャップを拡大しているのである。 実はこの最後の3番目の問題は、地方経済にも暗い影を投げかけている。徳井丞次・信州大学教授と牧野達治・一橋大学経済研究所研究員が最近延長された都道府県別産業生産性データベースを使って都道府県別の研究開発に伴う知識ストックを調べたところ驚くべき結果が出ている。) 1995年の知識ストックは、東京を1とした場合、大都市近郊の滋賀県や神奈川県は東京都の9割程度の技術力を有していた。しかしそれから20年あまりたった2018年には、東京都の9割程度の技術力を有する都道府県はなく、2位の神奈川県ですら東京都の7割台にまで低下している。 背景にはおそらく、この間に企業の海外進出と国内工場の閉鎖が進み、同時に技術者も減少していったことがある。地方はこの製造業の事業所の減少を観光業の振興で補完してきたが、それも東京オリンピック・パラリンピック開催時期における新型コロナウイルスの感染拡大という最悪のタイミングに起きた災禍によって先行きが不透明になっている』、「大きな要因は、3つ目の海外直接投資であろう。すでに収益源が国内よりも海外になっている企業が多数あり、さらに為替要因が加わっている。すなわち、アベノミクスによって異次元の金融政策が開始されたことにより円安が進行した。この円安が海外の収益を国内の通貨で評価した場合にさらに増幅させることになり、企業価値を押し上げ、低迷する国内投資とのギャップを拡大しているのである」、「1995年の知識ストックは、東京を1とした場合、大都市近郊の滋賀県や神奈川県は東京都の9割程度の技術力を有していた。しかしそれから20年あまりたった2018年には、東京都の9割程度の技術力を有する都道府県はなく、2位の神奈川県ですら東京都の7割台にまで低下」、ここまで「東京都」への「集中」が進んだとは、驚かされた。
・『日本は研究開発への支援が足りない?  研究開発力に関してはこうした量的な蓄積に加えて質的な問題も指摘されている。スタンフォード大学のニック・ブルーム教授やチャールズ・ジョーンズ教授らは、研究開発投資の効率性の低下について検証した研究を発表している。彼らは、半導体の集積密度が1年半から2年で2倍になるというムーアの法則を達成したり、新薬を開発したりするためには、これまで以上の研究資源を投入しなければならなくなっていることを示した。 従来の研究開発に関する研究では、研究開発への資源投入量が多ければ多いほど生産性の向上が期待されるという結果が得られていた。しかしながら、彼らが示したのは研究開発投入量当たりの生産性向上分、つまり研究開発の効率性が低下しているために、従来と同様の研究開発資源を投入しても、従来以下の生産性向上しか得られないというものであった。 日本では研究開発への支援が足りないということがさかんにいわれている。しかしながら量的な指標で見ると、日本の研究開発費の対GDP比は長年3%以上を保っている。これは韓国の4%には及ばないが、2%台の欧米先進諸国よりも高い。それでも研究開発費が十分でないということは、革新的な成果を出すために従来以上の資金や資源投入を必要としているということなのだろう。 こうした状況下では、たとえGDP比率が日本より低くとも、GDP自体が急速に膨らんでいる中国の研究成果が存在感を増しているというのもうなずける。) 国内における生産設備や研究開発への投資を増やし、生産性への向上につなげていくにはどのようにすればよいのだろうか。頼るのは、今回の台湾の半導体メーカーTSMCの進出のような海外からの直接投資だろう。 もともと直接投資というのは、経営能力の海外移転として捉えることができる。日本が好調であった時期には、日本の生産プロセスを海外に移転することが移転元、移転先双方にとって好ましいことであった。日本の経営能力が有意な分野が少なくなった現在、今度は日本が直接投資を積極的に受け入れることが生産性向上、ひいてはこれからの成長のカギとなる』、「日本の経営能力が有意な分野が少なくなった現在、今度は日本が直接投資を積極的に受け入れることが生産性向上、ひいてはこれからの成長のカギとなる」、寂しいが、認めざるを得ない。
・『海外直接投資を増やすための2つのハードル  ただし、こうした楽観的な期待には2つの注釈が必要になる。 1つは、従来から指摘されていることだが、日本では対日直接投資を実施する際の手続きが煩雑で、これが一種の参入障壁のようになっていた。このため日本への直接投資は中国や韓国よりも低い水準にあった。 もう1つは最近機運が高まっている経済安全保障による制約である。これにより、例えば半導体では外資メーカーが政府の補助金までもが受けられる一方で、ほかの分野では参入を拒否される企業も出てくる可能性がある。こうした政府の恣意的な介入が多くなると、対日投資は増えない。 手続きの煩雑さについては、当面の間はデジタル化を通して手続きを簡素化する方向で進めることが必要だろう。 経済安全保障による制約に関しては、短期間で容易に解決できる状況ではない。むしろこれまでのサプライチェーンが、自由主義経済圏を中心としたものに再編されていくとすれば、その再編過程の中で日本への直接投資が増えていくことを期待するしかないだろう』、「手続きの煩雑さについては、当面の間はデジタル化を通して手続きを簡素化する方向で進めることが必要だろう」、その通りだ。 「経済安全保障による制約に関しては、短期間で容易に解決できる状況ではない。むしろこれまでのサプライチェーンが、自由主義経済圏を中心としたものに再編されていくとすれば、その再編過程の中で日本への直接投資が増えていくことを期待するしかないだろう」、その通りなのだろう。
タグ:日本の構造問題 (その29)(「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が 日本の命とりとなる」、経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した、誤解が多い「日本の生産性」低位が続く意外な盲点 「人への投資」だけを推し進めても意味がない) 現代ビジネス「「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が、日本の命とりとなる」」 「イアン・ブレマー氏」の診断とは興味深そうだ。 確かに「「Gゼロ」の世界」は「「混沌とし」ている。 「かつて「科学大国」と言われた日本は、今や「科学後進国」に転落する瀬戸際まで追い込まれています」、「資金を投じてデジタル技術開発を続けないと、日本はあっという間にサイバー攻撃の餌食となります」、由々しい事態だ。 PRESIDENT ONLINE 野口 悠紀雄氏による「経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した」 野口悠紀雄『円安と補助金で自壊する日本 2023年、日本の金利上昇は必至!』(ビジネス社) 「エルピーダメモリ」、「ルネサスエレクトロニクス」などは「業界再編成のために官主導で設立された会社だが、失敗しただけでなく、汚職をも生んだ」、「シャープやパナソニックによる巨大工場建設に関しては、巨額の補助金が支出された。こうして、民間企業の政府への依存が強まってきた」、「これは、日本の製造業が衰退したことの反映だ。安倍晋三内閣の成長戦略も、製造業を中心とした従来の産業構造を延命させることを目的として、政府が民間経済活動に介入しようとするものだった」、情けない限りだ。 「日本の半導体産業が弱体化したのは、補助金が少なかったからではない。補助金漬けになったからだ。「補助して企業を助ければよい」という考えが基本にある限り、日本の半導体産業が復活することはないだろう」、その通りだ。 「世界の製造業の基本構造が変わってしまった」、どういうように変わったのだろう。 「半導体事業や液晶事業不振のもともとの原因は、日本メーカーの新製品開発能力が低下し、競争力のある製品をつくり出せなくなったことだ」、「iPhoneはパネルに有機ELを採用し始めた。しかし、JDIは有機ELの準備がまったくできていなかった。こうしたことの結果、16年をピークに売上高が激減」、なるほど。 「日本経済に大きな影響を与えたのは、世界経済の構造変化だ。これは、IT・・・の進展と新興国の工業化によってもたらされたものであり、供給面で起きた変化だ。したがって、金融政策では対処できない問題である」、その通りだ。 「金融緩和で円安にすること、それによって「デフレ脱却」をすることが目的とされてきた。1993年以降、断続的に円売り・ドル買い介入が行われていたが、これがその後の量的金融緩和と大規模な為替介入につながっていった。 日本経済は、いまに至るまで、この路線上の経済政策を続けている。アベノミクスも異次元金融緩和も、その一環だ」、同感である。 東洋経済オンライン 宮川 努氏による「誤解が多い「日本の生産性」低位が続く意外な盲点 「人への投資」だけを推し進めても意味がない」 「今世紀に入ってからの日本は残念ながらこうした生産性向上のための投資がなかなか広がらず、逆に労働投入が増えて生産性の低迷が生じている」、なるほど。 「2010年代は株価が上昇する一方で、設備投資が低迷するというパズルが生じていた」、「1つ目は無形資産投資が増えている」ので、「株式市場での評価を基準にした企業価値と、会計上の投資の変動に乖離が生じる」、「2つ目は市場集中度が上昇し、新規企業の参入や新規投資が行いにくくなった」、 「3つ目は、海外直接投資の影響」、「先進国の市場はすでに成熟しているため、企業は成長著しい新興国に投資をしてきた。こうした海外での投資は企業に収益をもたらし株価を引き上げるが、国内投資は振るわないという現象が起きる」、なるほど「パズル」が解けたようだ。 「大きな要因は、3つ目の海外直接投資であろう。すでに収益源が国内よりも海外になっている企業が多数あり、さらに為替要因が加わっている。すなわち、アベノミクスによって異次元の金融政策が開始されたことにより円安が進行した。この円安が海外の収益を国内の通貨で評価した場合にさらに増幅させることになり、企業価値を押し上げ、低迷する国内投資とのギャップを拡大しているのである」、 「1995年の知識ストックは、東京を1とした場合、大都市近郊の滋賀県や神奈川県は東京都の9割程度の技術力を有していた。しかしそれから20年あまりたった2018年には、東京都の9割程度の技術力を有する都道府県はなく、2位の神奈川県ですら東京都の7割台にまで低下」、ここまで「東京都」への「集中」が進んだとは、驚かされた。 「日本の経営能力が有意な分野が少なくなった現在、今度は日本が直接投資を積極的に受け入れることが生産性向上、ひいてはこれからの成長のカギとなる」、寂しいが、認めざるを得ない。 「手続きの煩雑さについては、当面の間はデジタル化を通して手続きを簡素化する方向で進めることが必要だろう」、その通りだ。 「経済安全保障による制約に関しては、短期間で容易に解決できる状況ではない。むしろこれまでのサプライチェーンが、自由主義経済圏を中心としたものに再編されていくとすれば、その再編過程の中で日本への直接投資が増えていくことを期待するしかないだろう」、その通りなのだろう。
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