岩崎敬介の非条理ナナメ斬り
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/
リタイアした元銀行系エコノミストが、あとで熟読しようと貯めていたネット記事をコメント付きで紹介。様々な非条理について実名で斬り込む。
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2024-03-18T19:04:19+09:00
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宗教(その13)(「カルト後遺症」の深刻 オウム元死刑囚が洗脳から脱した後も“麻原彰晃化”したワケ、ベストセラー著者が語る「旧統一教会問題」と「カルト教祖の共通点」 ロビン・ダンバー氏インタビュー)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-18
宗教については、本年1月25日に取上げた。今日は、(その13)(「カルト後遺症」の深刻 オウム元死刑囚が洗脳から脱した後も“麻原彰晃化”したワケ、ベストセラー著者が語る「旧統一教会問題」と「カルト教祖の共通点」 ロビン・ダンバー氏インタビュー)である。先ずは、本年1月19日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した中央大学教授の高橋徹氏による「「カルト後遺症」の深刻、オウム元死刑囚が洗脳から脱した後も“麻原彰晃化”したワケ」を紹介しよう。https://diamond.jp/articles/-/336762・『若者の不安や不満につけ込む、カルト宗教団体の勧誘は巧みである。親が気づいたときにはもう遅く、離脱は困難だ。しかも、たとえ運良く脱カルトしたとしても、マインドコントロール下で刻み込まれたカルト的思考や行動様式は、数十年たっても消えないという。※本稿は、『「オウム死刑囚 父の手記」と国家権力』(現代書館)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。・『逮捕されて父母を泣かせてようやくわかったカルトの罪 金沢市の中心部から車で約一時間、真宗大谷派の浄専寺住職、平野喜之は2007(平成19)年に活動を始めた「『生きて罪を償う』井上嘉浩さんを死刑から守る会」の事務局長を務め、10年以上、嘉浩を支援してきた。平野が井上嘉浩から受け取った手紙は、188通にのぼる。 嘉浩の手紙にはこうある。 「突き詰めますと、麻原を信じたことそのものが罪のはじまりであり、全ての罪の責任は私にあります」 「人にとって救いとは一体何なのでしょうか?その答えがあるとうぬぼれたことが私がオウムに入り大罪を犯しました原因の一つであると今私は考えています」 「麻原は仏教やヨーガの心を変容させていく技術や薬物まで悪用して、徹底的に信者の社会規範や善悪の根本となる個としての人格を破壊していき、代わりに麻原の手足として動く人格を刷り込んでいきました。これが麻原が構築したマインドコントロールです」 「(※編集部注/最高裁で死刑が言い渡された2009年12月10日の)翌日、午前中に両親が面会に参りました。両親がぐったりとしつつ、それでも気丈に振る舞う姿を見て、涙をこらえるのが精一杯でした。父母が、自分たちが悪かったと、なんの責任もないのに、自分たちをせめる姿を見て本当に申し訳ないと、ただただ申し訳ないと、言葉がありませんでした」 「日々、まだ執行されないだ..
社会
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2024-03-18T19:04:19+09:00
先ずは、本年1月19日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した中央大学教授の高橋徹氏による「「カルト後遺症」の深刻、オウム元死刑囚が洗脳から脱した後も“麻原彰晃化”したワケ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/336762
・『若者の不安や不満につけ込む、カルト宗教団体の勧誘は巧みである。親が気づいたときにはもう遅く、離脱は困難だ。しかも、たとえ運良く脱カルトしたとしても、マインドコントロール下で刻み込まれたカルト的思考や行動様式は、数十年たっても消えないという。※本稿は、『「オウム死刑囚 父の手記」と国家権力』(現代書館)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『逮捕されて父母を泣かせてようやくわかったカルトの罪 金沢市の中心部から車で約一時間、真宗大谷派の浄専寺住職、平野喜之は2007(平成19)年に活動を始めた「『生きて罪を償う』井上嘉浩さんを死刑から守る会」の事務局長を務め、10年以上、嘉浩を支援してきた。平野が井上嘉浩から受け取った手紙は、188通にのぼる。 嘉浩の手紙にはこうある。 「突き詰めますと、麻原を信じたことそのものが罪のはじまりであり、全ての罪の責任は私にあります」 「人にとって救いとは一体何なのでしょうか?その答えがあるとうぬぼれたことが私がオウムに入り大罪を犯しました原因の一つであると今私は考えています」 「麻原は仏教やヨーガの心を変容させていく技術や薬物まで悪用して、徹底的に信者の社会規範や善悪の根本となる個としての人格を破壊していき、代わりに麻原の手足として動く人格を刷り込んでいきました。これが麻原が構築したマインドコントロールです」 「(※編集部注/最高裁で死刑が言い渡された2009年12月10日の)翌日、午前中に両親が面会に参りました。両親がぐったりとしつつ、それでも気丈に振る舞う姿を見て、涙をこらえるのが精一杯でした。父母が、自分たちが悪かったと、なんの責任もないのに、自分たちをせめる姿を見て本当に申し訳ないと、ただただ申し訳ないと、言葉がありませんでした」 「日々、まだ執行されないだろうと思いつつ、いや、わからんぞと、夜明けが恐ろしくもあり、そういうことにとらわれること自体、被害者の方々に申し訳ないと思いつつ、このままでは死にきれない心も消えません。このようなもだえも罪の報いの一つとして静かに見つめている自分もおります」 平野は静かに思いを語った。 「彼にしかできない真相解明とか、彼にしかできないオウム入信者に対して脱会を呼びかけるとか、そういう使命があったと思います。それを果たすことが償うということになったと思いますし、私たちの『守る会』のやっていたことは彼の罪の自覚を深めていくということに集中して支援してきました。罪の自覚を深めることによって本当の心からの被害者への謝罪ができると思います」 教団が救済の名のもとに多くの信徒を集め急拡大し、数々の凶悪事件を起こしていった軌跡は「平成」と重なる。「平成の事件は平成のうちに決着させたい」という政府の思惑だろうか、2018(平成30)年の7月、オウム死刑囚13人の死刑が執行された。) その中の一人が井上嘉浩だった。ホーリーネーム(教団内の宗教名)はアーナンダ。オウム真理教の諜報省トップで、教祖の「側近中の側近」、「修行の天才」、「神通並びなきもの」といわれた教団幹部である。 『生きて罪を償う』井上嘉浩さんを死刑から守る会」は嘉浩の死刑が執行されたことで解散した。機関誌「悲」は16号の追悼号(2018年12月発行)で役目を終えた』、「「平成の事件は平成のうちに決着させたい」という政府の思惑だろうか、2018(平成30)年の7月、オウム死刑囚13人の死刑が執行された」、「死刑囚」の執行が遅れるのが普通だが、「政府の思惑」で異例の執行となったようだ。
・『マインドコントロールが解けてもカルトの傷は残る 平野がもう一つ活動の重点に置いているのが「カルト後遺症」の問題だ。一連のオウム事件がきっかけで誕生した日本脱カルト協会(JSCPR)によると、カルト教団から脱会した人の多くが何らかの『後遺症』に苦しむという。 代表的な症状としては、「神から裁かれるのではないか」という不安感、「自分は裏切り者であり、天罰が下るのではないか」という恐怖感などがあげられる。無理もない話で、身も心も奉じてきた団体の価値観を失い、それまでの理想やアイデンティティをすべて失うことになるからだ。 音楽や映像、においなど些細なことが引き金になり脱会前の心理状態に戻ってしまう、いわゆる「フラッシュバック」もほとんどの人が体験する。 また、せっかく家に戻っても家族や友人、知人との人間関係に悩み、睡眠障害や摂食不良に陥るという例もある。そもそもカルトの多くは、教祖を『父』や『母』としているので、現実の家族に対しては否定的な思いを抱くよう誘導していることが多い。 「何か悪いことが起こると、霊の祟りではないかと、とっさに考えてしまう」と話すのは、日本脱カルト協会の理事で、日本基督教団白河教会牧師の竹迫之だ。 竹迫は1967(昭和42)年、秋田市生まれ。高校3年の時に当時の統一教会(現世界平和統一家庭連合)に勧誘され入会した。「霊感商法」が世間に知られるようになった1980年代半ばのころである。 「マインドコントロールが目指すものは、コントロールする人に対する依存なんです。私の場合は何をするにも指示をしてくれる人の指示を仰ぐというライフスタイルが身についていましたね。なんでも自分で好きに選んでいいよと言われると、かえって何を選んでいいのか分からず混乱する。この依存から離脱するということがマインドコントロールが解けるということなんです。しかし、マインドコントロールは解けても、後遺症は残るんです」) 脱会して十年以上たったころのある体験を竹迫は話してくれた。 「教会の階段を降りていたところ、3段ぐらい踏み外して落ちちゃった。その拍子に左足を3カ所も骨折してしまったんです。そのとき、とっさに霊の祟りではないかと発想が浮かんできた。典型的なカルト後遺症です」 悪いことが起こると、その説明を求めてしまう。竹迫は統一教会を脱会して37年になるが、いまだにそういう瞬間があるという。 「何か不運な目にあったときに、自分に悪いところがあったからではないかと、その原因を追求したくなるものですね。その祟りから逃れるために何かしなくてはいけないという強烈な衝動がわいてくる。私は、マインドコントロール自体は解けているのは間違いないとは思うのですが、けれども後遺症として残っている」』、「悪いことが起こると、その説明を求めてしまう。竹迫は統一教会を脱会して37年になるが、いまだにそういう瞬間があるという・・・カルト後遺症です」、なるほど。
・『被害者どころか支援者にすら独善と映ったオウム元死刑囚 さて、嘉浩にカルト後遺症はあったのだろうか。フォトジャーナリストで『宗教事件の内側 精神を呪縛される人びと』や『カルト宗教事件の深層 「スピリチュアル・アビュース」の論理』などの著書がある藤田庄市は「独善的な修行者意識」という言葉で、嘉浩の後遺症を言い表した。 藤田が注目したのは、目黒公証役場事件で父親を失った仮谷実と嘉浩とのやり取りだった。嘉浩は「亡くなった人たちのことを考えて、できるだけ苦しみを自分に課していきたい」と謝罪したのに対し、仮谷は「被告が苦しんでも、私たちは助からない」と返し、「自らに苦しみを課しても遺族の救済にならない」と突き放した。 「独善的な」とは、修行を続けることにより、人間性も宗教的にも世間より高いところにいるという意識である。 「井上君は麻原教祖とは対決して、『オウムを脱会する』と宣言はしているのだけれども、考え方であるとか、独善的な修行者意識というものは残っていたのではないか。脱会したからといって、カルト思考、カルト的考え方は簡単にはなくならない」と藤田は指摘している。 平野も嘉浩にカルト後遺症を感じていたという。) 「井上君のご両親には申し訳ないが……2018年だったと思うが、『生きて罪を償う会』の内部で、支援を見直そうという声が上がっていた。生来の性格なのか、カルトの後遺症なのか見極めは難しいかもしれないけれども、『麻原は井上君に、こういう指示の仕方をしていたのだ』と感じられるような指示の仕方が井上君から我々『生きて罪を償う会』に対してありました。カルトの怖さは脱会後にも後遺症となって残る。教義から抜けても人間関係の持ち方とか、指示命令系統とかそういうところに残るのではないか」 独善的とも映る嘉浩の振る舞いについて、竹迫はカルト後遺症が影響していた可能性があると話す』、「カルトの怖さは脱会後にも後遺症となって残る。教義から抜けても人間関係の持ち方とか、指示命令系統とかそういうところに残るのではないか」、なるほど。
・『「カルト後遺症」の深刻、オウム元死刑囚が洗脳から脱した後も“麻原彰晃化”したワケ 高橋徹「オウム死刑囚 父の手記」と国家権力(現代書館) 「誰もが権力を振るう立場に魅力を感じます。嘉浩君の場合は、教祖の、麻原の振る舞いを見ていたために、それが増幅されていったのではないでしょうか。自分もやってもいいんだというお墨付きをもらった状態です。高校生のうちから入信したため、『人と人との関係はフラットであるべきだ』という考えに触れたことがなかったのではないでしょうか」。 子供をカルトに取られた親の苦痛を平野はこう話した。神奈川県の教会で出会ったある母親の話である。 「私たちは二重に傷つくのです。一つ目は『子供をカルトにとられたこと』、二つ目は『子供がカルトにとられたのはあなたたちのせいでしょうと世間から偏見の目で見られること』です。私の家庭は上手くいっていました。子供がカルトにとられたのは、勧誘が巧みだっただけでしょうと言いたい」 平野は言う。 「世間には、カルトにとられたのは家族のせいだ、やっぱり家族が悪いと誤解する人がいます。片や親自身が『子供の責任を取らなければいけない』と思い詰める人も少なからずいます。日本では特に『子供の罪は親の罪』として、責任を感じる姿が美化されすぎるきらいがあるのではないでしょうか。そのために親が苦しめられることがあります」 井上家に、嘉浩がまだ幼いころの写真が残っている。自宅の前で、ブルーの短パン、アニメのキャラクターがプリントされた白いポロシャツを着て、上下に動かすことができる透明なシールドが付いた戦隊もののヘルメットをかぶって、無邪気に笑っていた。 「もし神が許してくれるなら、どんなことをしてでも、あのころに戻りたいと思います」 私が嘉浩の父に初めて会った日、父はそう話した』、「「私たちは二重に傷つくのです。一つ目は『子供をカルトにとられたこと』、二つ目は『子供がカルトにとられたのはあなたたちのせいでしょうと世間から偏見の目で見られること』です・・・日本では特に『子供の罪は親の罪』として、責任を感じる姿が美化されすぎるきらいがあるのではないでしょうか。そのために親が苦しめられることがあります」、やはり「カルト後遺症」は深刻なようだ。
次に、3月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した国際ジャーナリストの大野和基氏による「ベストセラー著者が語る「旧統一教会問題」と「カルト教祖の共通点」 ロビン・ダンバー氏インタビュー」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340568
・『無宗教国ニッポンで、ロビン・ダンバー著『宗教の起原』(白揚社)がベストセラーとなっている。著者は、人間の安定的な集団サイズの上限が「150」であると導き出し、人類学のノーベル賞と称される「トマス・ハクスリー記念賞」を受賞した人物だ。本書では、「私たちはいかに信じる心を獲得したのか」「人類進化の過程で『神』はなぜ生まれたのか」「カルト宗教はなぜ次々と生まれ、人々を惹きつけるのか」といった、人類と宗教を巡る根源的な問いを追求している。著者に、日本の旧統一教会問題なども含めて話を聞いた』、興味深そうだ。
・『「カルト宗教」とは何か Q:本書の執筆のために、幅広くリサーチをしたと思いますが、最大の発見は? A:結束したコミュニティーを作る際の宗教の役割と宗教の儀式が、脳の「エンドルフィン物質」を活性化することが分かりました。この物質は、人間のフレンドシップを構築するのに使われます。礼拝中の人の脳を調べると、儀式が脳内のエンドルフィンを活性化していたのです。 Q:あなたが無神論者であるからこそ、偏見なくこの本が書けたのでしょうか。 (ロビン・ダンバー氏の略歴はリンク先参照) A:そうですね、私は特定の宗教に何のコミットメントもありません。私は幼少時アフリカで育ったので、さまざまな種類のキリスト教、イスラム教、シーク教、後に仏教、ヒンズー教も経験しました』、「結束したコミュニティーを作る際の宗教の役割と宗教の儀式が、脳の「エンドルフィン物質」を活性化することが分かりました。この物質は、人間のフレンドシップを構築するのに使われます。礼拝中の人の脳を調べると、儀式が脳内のエンドルフィンを活性化していたのです」、「儀式が脳内のエンドルフィンを活性化していた」、とは初めて知った。
・『Q:本書には「カルト」の章がありますが、これほど深くリサーチをすると、「カルトの作り方」を熟知しているのでは? カルトにおける「教祖」というのは、人生において大きな危機を経験していることが非常に多いです。全財産を失ったとか、大病をして死にかけたとかね。そして自分の殻に閉じこもって、ひどく落ち込んだ経験があります。その間に、宇宙の真実のようなことに目覚めて、それを信じるようになるのです。 宇宙を支配しているものについて斬新なアイデアを持ち、周囲を根気強く納得させます。でないとみんなに笑われて、排除されて終わりです。だから多くのカルトはいささかクレイジーな人が教祖になっているのです。 ほとんどのカルトは、社会的な真実を持つようになり、宗教に変わっていきます。他の人に優しくしたり、慈善を施したりします。一方で宗教にならないカルトは、非常にクレイジーな教義を持っているので、普通は長続きしません。続くケースは非常にまれですね。カルトは教祖のためだけにあり、それ以外の人は搾取されるものなのです。 Q:カルトというとネガティブな響きがあります。日本では政界と旧統一教会の密な関係が報道され続けています。どういう条件で、宗教がカルトになるのでしょうか。) その逆です。つまり世界の全ての宗教は、仏教であれ、神道であれ、キリスト教であれ、イスラム教であれ、シーク教であれ、カルトとして始まっています。宗教とは、「ある真実を発見した」と信じることや、「神のメッセンジャー」を名乗るカリスマ性のあるリーダーを中心に、ローカルで小さなカルトとして始まる、というのが私の見方です。 カルトは時に、ネガティブな含みがありますが、決して全てのカルトが悪いわけではありません。一方で、カルトは簡単に悪くなる可能性も秘めています。ただ、先述したように全ての宗教はカルトから始まり、信奉者が増えて非常に大きなコミュニティーになると、「もはやカルトではなく宗教である」と呼びたくなるのです。 ほとんど全ての宗教は、下部から絶えずカルトが発生している状態とも言えます。神道だって末端でさまざまな団体がありますよね? そして、神道だけでなく仏教を混合した信仰を抱く人もいます。 明らかなのは、末端に出てきたカルトは異端であることが多いことです。正しいセオリーを伝道しているわけではないので、有害になる可能性があります。時に、そうした小さなカルトが暴走してどんどん拡大し、世界的な宗教になることもあります。 キリスト教やイスラム教は、元はと言えばユダヤ教の産物でした。そして、他の多くの宗教がインドや地中海沿岸地方にも入ってきました。キリスト教やイスラム教はさかのぼると、ゾロアスター教に起源があります。 Q:カルトが宗教になる条件は何でしょうか。 A:サイズだけです。多くの異なる国で、かなり広い地域で多くの人が信仰するようになると宗教になります。と同時に大きな宗教にとって非常に重要なことは、正式な教義と儀式があることです。一方で小規模のカルトには盤石な教義はなく、ころころ変わる傾向があります。また、儀式もフォーマルでないことが多い。 Q:カルトについてbrainwashing(洗脳)という言葉を使いますが、宗教について〈洗脳〉という言葉を使いますか? A:yes and noです。カルトと宗教の間には、微妙な区別があります。カルトは往々にして厳格な罰をもって、行動や信じるべきことを強制します。一方で、宗教は強制ではなく「説得」によって行います。つまり、もう少しリラックスしているイメージです。他方で、例えばキリスト教の歴史をたどると、異教徒や正しい教義を信じない者に対して差別や迫害をしていた時代もありました。 いずれにせよbrainwashingは、宗教上の信条であれ、政治的信条であれ、一つのコミュニティーが結束し続けるためには、世界中ですべての信条に当てはまると思います』、「カルトにおける「教祖」というのは、人生において大きな危機を経験していることが非常に多いです。全財産を失ったとか、大病をして死にかけたとかね。そして自分の殻に閉じこもって、ひどく落ち込んだ経験があります。その間に、宇宙の真実のようなことに目覚めて、それを信じるようになるのです。 宇宙を支配しているものについて斬新なアイデアを持ち、周囲を根気強く納得させます。でないとみんなに笑われて、排除されて終わりです。だから多くのカルトはいささかクレイジーな人が教祖になっているのです。 ほとんどのカルトは、社会的な真実を持つようになり、宗教に変わっていきます。他の人に優しくしたり、慈善を施したりします。一方で宗教にならないカルトは、非常にクレイジーな教義を持っているので、普通は長続きしません。続くケースは非常にまれですね。カルトは教祖のためだけにあり、それ以外の人は搾取されるものなのです・・・全ての宗教はカルトから始まり、信奉者が増えて非常に大きなコミュニティーになると、「もはやカルトではなく宗教である」と呼びたくなるのです。 ほとんど全ての宗教は、下部から絶えずカルトが発生している状態とも言えます。神道だって末端でさまざまな団体がありますよね? そして、神道だけでなく仏教を混合した信仰を抱く人もいます。 明らかなのは、末端に出てきたカルトは異端であることが多いことです。正しいセオリーを伝道しているわけではないので、有害になる可能性があります。時に、そうした小さなカルトが暴走してどんどん拡大し、世界的な宗教になることもあります。 キリスト教やイスラム教は、元はと言えばユダヤ教の産物でした。そして、他の多くの宗教がインドや地中海沿岸地方にも入ってきました。キリスト教やイスラム教はさかのぼると、ゾロアスター教に起源があります・・・カルトが宗教になる条件は何でしょうか。 A:サイズだけです。多くの異なる国で、かなり広い地域で多くの人が信仰するようになると宗教になります。と同時に大きな宗教にとって非常に重要なことは、正式な教義と儀式があることです。一方で小規模のカルトには盤石な教義はなく、ころころ変わる傾向があります。また、儀式もフォーマルでないことが多い。 Q:カルトについてbrainwashing(洗脳)という言葉を使いますが、宗教について〈洗脳〉という言葉を使いますか? A:yes and noです。カルトと宗教の間には、微妙な区別があります。カルトは往々にして厳格な罰をもって、行動や信じるべきことを強制します。一方で、宗教は強制ではなく「説得」によって行います。つまり、もう少しリラックスしているイメージです。他方で、例えばキリスト教の歴史をたどると、異教徒や正しい教義を信じない者に対して差別や迫害をしていた時代もありました。 いずれにせよbrainwashingは、宗教上の信条であれ、政治的信条であれ、一つのコミュニティーが結束し続けるためには、世界中ですべての信条に当てはまると思います」、なるほど。
・『宗教は戦争を引き起こすが… Q:宗教は時に戦争の原因になります。それでも、宗教には有益な面の方が多いのでしょうか。 A:確かに、宗教は宗教戦争を引き起こします。宗教というのは、絆の強いコミュニティーを作るためにあるので、真の信奉者とそうではない人と対比させることで、絆を強化することが往々にしてあるのです。 全体的には、やはり有益な面の方が多いでしょう。帰属感を作り出します。また、少なくとも信者同士では素行が良くなり、老人や病人や貧しい人に施しもします。 一人の内面に、複数の宗教が存在している場合もあります。日本人がその典型です。結婚式は神道で行い、葬儀は仏教でやるということが日本ではよくありますよね? これは、世界的にはまれなケースです。宗教にあまり意識がないからでしょう。 宗教の歴史を振り返ると、異なる宗教で互いの儀式や教義を借り合うことが往々にしてあります。キリスト教の中でも、ユダヤ教を経由してゾロアスター教から、非常に強い影響を受けています。また、儀式や教義の点では、明らかに古い仏教からの影響も見られます。 Q:あなたは、人間が安定的な関係性を維持できる人数の上限がおおむね「150」であると説きましたね(「ダンバー数」)。その150という数字は、宗教とも関係あるのでしょうか? A:寺や教会における集会は150人が最適規模だと分かっています。また、19世紀の米国では移住者が増え続け、人々はコミュニティーを作り、密接な関係を維持しながら暮らしていましたが、その中で宗教のベースがあるコミュニティーでは、150人が平均でした。 これは私の調査とは別のものですが、プロテスタントの集会では100人以下だと教会や神父をサポートするのに十分ではなく、1人当たりの負担金額が大きすぎるという研究結果も出ています。一方で、200人を超えると帰属意識がなくなってきます。つまり、100人と200人の間に全てがうまくいくsweet spot(最大の利益が見込めるところ)があるということです』、「宗教は宗教戦争を引き起こします。宗教というのは、絆の強いコミュニティーを作るためにあるので、真の信奉者とそうではない人と対比させることで、絆を強化することが往々にしてあるのです。 全体的には、やはり有益な面の方が多いでしょう。帰属感を作り出します。また、少なくとも信者同士では素行が良くなり、老人や病人や貧しい人に施しもします。 一人の内面に、複数の宗教が存在している場合もあります。日本人がその典型です。結婚式は神道で行い、葬儀は仏教でやるということが日本ではよくありますよね? これは、世界的にはまれなケースです・・・あなたは、人間が安定的な関係性を維持できる人数の上限がおおむね「150」であると説きましたね(「ダンバー数」)。その150という数字は、宗教とも関係あるのでしょうか? A:寺や教会における集会は150人が最適規模だと分かっています。また、19世紀の米国では移住者が増え続け、人々はコミュニティーを作り、密接な関係を維持しながら暮らしていましたが、その中で宗教のベースがあるコミュニティーでは、150人が平均でした。 これは私の調査とは別のものですが、プロテスタントの集会では100人以下だと教会や神父をサポートするのに十分ではなく、1人当たりの負担金額が大きすぎるという研究結果も出ています。一方で、200人を超えると帰属意識がなくなってきます。つまり、100人と200人の間に全てがうまくいくsweet spot(最大の利益が見込めるところ)があるということです」、「寺や教会における集会は150人が最適規模だと分かっています」、「寺や教会における集会に最適規模」があるとは初めて知ったが、なんとなく感覚的な印象と一致するようだ。
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ソフトバンクの経営(その17)(ソフトバンクGの“ぱっとしない決算数字”より要注目!投資事業の「不気味な動き」、LINEヤフー 総務省も呆れ果てた「変わらぬ体質」 情報漏洩で行政指導、資本関係見直しの行方は)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-17
ソフトバンクの経営については、2022年2月13日に取上げた。今日は、(その17)(ソフトバンクGの“ぱっとしない決算数字”より要注目!投資事業の「不気味な動き」、LINEヤフー 総務省も呆れ果てた「変わらぬ体質」 情報漏洩で行政指導、資本関係見直しの行方は)である。先ずは、昨年8月11日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「ソフトバンクGの“ぱっとしない決算数字”より要注目!投資事業の「不気味な動き」」を紹介しよう。https://diamond.jp/articles/-/327572・『8月8日、ソフトバンクグループが決算を発表しました。3四半期連続の最終赤字と、「ぱっとしない」数字です。それでも、私はソフトバンクグループは11月の決算発表で“驚きの業績”を発表すると予想しています。ただ、その先には「不都合な乱高下」が待っているかもしれません。投資事業で「不気味な動き」が見えるのです』、興味深そうだ。・『ソフトバンクGの株価 23年後半に「乱高下」の可能性 8月8日、ソフトバンクグループ(以下、ソフトバンクG)が2023年4~6月期の決算を発表しました。最終損益は4776億円の赤字で、これは3四半期連続の最終赤字です。1年前に3兆円規模の最終赤字だったことと比べれば赤字幅は大幅に縮小しましたが、AIブームが押し上げる直近のGAFAMのきらびやかな決算発表と比較すると、ぱっとしない数字であることも事実です。 一方で、半年前に再度赤字に転落した後低迷していたソフトバンクGの株価は、この3カ月で回復し、現在では7000円近辺に到達しています。投資家は、ソフトバンクGの23年11月の決算発表が「すごい数字」になることをすでに織り込み済みなのです。 とはいえその後は?というと、実はまた乱高下が待っているかもしれません。これが今回の記事のテーマです。 ソフトバンクGは投資を事業の中心に据える大企業なので、このように決算数字だけでは未来が分かりにくいという特徴があります。この先、ソフトバンクGに何が起きるのか、3つのポイントで予測してみたいと思います』、「この先、ソフトバンクGに何が起きるのか」、知りたいものだ。・『ぱっとしない数字の原因は「為替差損」と「海外投資の評価損」 さて、未来の話に入る前に足元の状況から確認していきましょう。ソフトバンクGはソフトバンク・ビジョン・..
企業経営
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2024-03-17T20:50:59+09:00
先ずは、昨年8月11日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「ソフトバンクGの“ぱっとしない決算数字”より要注目!投資事業の「不気味な動き」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/327572
・『8月8日、ソフトバンクグループが決算を発表しました。3四半期連続の最終赤字と、「ぱっとしない」数字です。それでも、私はソフトバンクグループは11月の決算発表で“驚きの業績”を発表すると予想しています。ただ、その先には「不都合な乱高下」が待っているかもしれません。投資事業で「不気味な動き」が見えるのです』、興味深そうだ。
・『ソフトバンクGの株価 23年後半に「乱高下」の可能性 8月8日、ソフトバンクグループ(以下、ソフトバンクG)が2023年4~6月期の決算を発表しました。最終損益は4776億円の赤字で、これは3四半期連続の最終赤字です。1年前に3兆円規模の最終赤字だったことと比べれば赤字幅は大幅に縮小しましたが、AIブームが押し上げる直近のGAFAMのきらびやかな決算発表と比較すると、ぱっとしない数字であることも事実です。 一方で、半年前に再度赤字に転落した後低迷していたソフトバンクGの株価は、この3カ月で回復し、現在では7000円近辺に到達しています。投資家は、ソフトバンクGの23年11月の決算発表が「すごい数字」になることをすでに織り込み済みなのです。 とはいえその後は?というと、実はまた乱高下が待っているかもしれません。これが今回の記事のテーマです。 ソフトバンクGは投資を事業の中心に据える大企業なので、このように決算数字だけでは未来が分かりにくいという特徴があります。この先、ソフトバンクGに何が起きるのか、3つのポイントで予測してみたいと思います』、「この先、ソフトバンクGに何が起きるのか」、知りたいものだ。
・『ぱっとしない数字の原因は「為替差損」と「海外投資の評価損」 さて、未来の話に入る前に足元の状況から確認していきましょう。ソフトバンクGはソフトバンク・ビジョン・ファンド(以下、SVF)とソフトバンク本体が所有する投資部門(以下、本体投資)、二つの大きな投資ビークルを使ってさまざまな企業に投資をしています。 2022年3月期に過去最大の1兆7000億円の最終赤字に転落した際は、このSVFの投資評価額の悪化が大きかったのですが、今回の決算発表の良い兆候としてSVFの利益回復が挙げられました。 SVFの投資損益は今回の四半期でマイナス130億円まで回復、セグメント別税引き前利益は610億円の黒字となり、1年前からの増減では実に2.4兆円近くも利益が改善しています。 実はSVFはこれまで過去5四半期連続して投資損益の下落を続けていて、累計で実に6.5兆円もの利益を失っていました。それが、6四半期ぶりに反転したというのが今回の決算発表における明るいニュースです。 一方で、為替差損と本体投資の赤字計上が全体の決算数字の足を引っ張りました。この投資赤字についてはアリババ、ドイツテレコム、Tモバイルの3社の評価損が大きかったのですが、このうちアリババについてはデリバティブ関連利益で相殺できています。ちなみにこれまでソフトバンクGの“打ち出の小槌(こづち)”だったアリババについては、ほぼ換金化が終わっています。 つまり、今回のぱっとしない決算数字は主にドル建て社債の為替差損と海外の通信2社への投資の評価損で、それ以外の投資については回復基調にあるというのが直近の状況です。 さて、ここからが本題です。ソフトバンクGの未来はこれからどうなるのでしょうか? 3つのポイントで未来を予測しましょう』、「今回のぱっとしない決算数字は主にドル建て社債の為替差損と海外の通信2社への投資の評価損で、それ以外の投資については回復基調にある」、なるほど。
・『傘下・アームの評価額が9月に急騰!ソフトバンクGの決算は好転する 最初のポイントとなるのが、ソフトバンクGが100%株式を保有するイギリスの半導体大手アーム社の上場です。アームは2016年にソフトバンクGが約3兆円で買収し、本体で75%、SVFで25%の株式を保有しています。 このアームに関しては、今AIブームで世界を騒がしている「マグニフィセント7(素晴らしい7社)」の一角であるエヌビディアが2020年に400億ドル、当時の為替レートで約4兆円での買収を申し出ました。ところが、イギリス当局がこの買収について「競争上の深刻な懸念がある」という理由で差し止めを表明し、最終的にソフトバンクGも売却を断念した経緯があります。 ここで重要なことは、エヌビディアがアームを買収しようとした意図です。アームはスマートフォンやIoT機器で利用されるプロセッサーで圧倒的なシェアを持つ会社です。AIで使われるグラフィックボードでも中枢となるプロセッサーにはアームの製品が使われるため、世界の半導体事業会社が重要なプレーヤーだと認識しています。ソフトバンクGの買収後はGPU向け以外にも自動運転の車載向け、データセンター向けなどへの投資を続け、売上高は7割増加しています。 このアームが、今年9月にアメリカのナスダックでの上場を予定しています。 2020年に400億ドルだった評価を考えると、その後の円安分の単純計算だけで価値は5.7兆円。2020年以降に起きたAIブームで半導体各社の株価が急騰したことを考えると、アームの時価総額は、ソフトバンクGの時価総額である約10兆円に匹敵する規模になるでしょう。 +つまり、11月に予定されている次のソフトバンクGの決算では本体投資、SVFどちらも驚愕(きょうがく)すべき評価益を発表することになるはずです』、本年2月9日付けの日経新聞によれば、「ソフトバンクG、黒字転換 10~12月最終 9500億円、AI株高追い風 アーム好調受け株11%高」と好調だったようだ。
・『「アーム以外」の投資では重大な懸念点も 次に2つ目のポイントです。ソフトバンクGにとってアームがアリババに代わる新たな“打ち出の小槌”になることが見えてきたとはいえ、他の投資はどうなのでしょう? 相変わらずの一本足打法でひとつの成功例に依存しながら、他の損失を穴埋めしていく構造が続くのでしょうか? この点で、ソフトバンクGの投資には懸念点があります。 ソフトバンクGはSVFや本体などで2021年度の上期に約29兆円、下期に約15兆円と、合わせて44兆円規模の投資を行ってきました。ところが、2022年度にはSVFの時価が急落したことを受けて、投資額も一年で4兆円と10分の1にまで縮小しました。直近の四半期でも投資は1.8兆円と低水準なのですが、このことについて記者会見で後藤芳光CFOが語った言葉が重要です。 (投資額の推移(SVF1+SVF2+LatAmファンド+SBG他)はリンク先参照) 「22年度は投資を事実上ストップしたが、恐る恐る再開している」という言葉と「(今後)投資の反転攻勢を打ち出す」という言葉です。 なぜ、この言葉が重要なのか? そもそもソフトバンクGが行っているようなレベルの企業投資は、未公開企業が対象です。そのため、お金があるからといって簡単に投資できるものではありません。 つまり、「投資する側(ソフトバンクG)が投資される側にどのようなメリットを与えてくれるか」が投資を実現し成功させるための鍵なのです。 ソフトバンクGが過去に出資に成功してきた背景には、孫正義さんという神話と孫さんをめぐる人脈が大きく寄与してきました。 一方であくまで結果論なのですが、ソフトバンクGには「株の高値づかみをして、その後減損に追い込まれる傾向」という欠点がありました。 そこで懸念点が生まれます。投資の神様であるウォーレン・バフェット氏が教える株の極意を端的に言えば、【市場が浮かれているときは株を売り、誰もが悲観しているときこそ投資をする】というものです。 その観点で眺めると、ソフトバンクGの投資グラフは不気味です』、「ソフトバンクGには「株の高値づかみをして、その後減損に追い込まれる傾向」という欠点がありました」、これは「ソフトバンクGのIT株投資はバフェット氏の“極意”と真逆」だからこそ生じた。
・『ソフトバンクGのIT株投資はバフェット氏の“極意”と真逆 「投資をするタイミングがバフェット氏の極意と真逆」で、不気味なのです。ソフトバンクGは「IT株が急騰している時期」に莫大な投資を行いました。コロナ禍でアメリカの連邦準備制度理事会(FRB)が緊急措置で量的緩和を打ち出し、リモート勤務など社会が急速にDX化する流れと相まったタイミングにです。 一方で、「IT株が急落した時期」に投資を事実上ストップしています。世界経済がインフレとなり、FRBが利上げに転換したタイミングです。 そしてChatGPTが出現し、新たなAI投資が盛んになったこの半年は、先の後藤CFOの言葉を借りると「恐る恐る」です。合計2.3兆円しか投資していません。 なぜ、この話が気になるのか。私は、「過熱したIT株市場のピークが近い」と予測しているからです。 投資の分野にはなりますが、未来予測専門の経済評論家として理由をお話ししたいと思います。 あくまでこの記事を読む皆さまも株式投資は自己責任で行っていただきたいのですが、私の場合、昨年11月に突如ChatGPTブームが起きるとすぐに、マイクロソフト、エヌビディア、テスラなどに投資資金をシフトしました。 しかし、テスラ株は7月の決算発表直前に全株売却し、その後株価は下がっています。エヌビディアについては8月23日の決算まで持っているつもりですが、決算発表後に売却する戦略を立てています。 ちなみに、私よりもずっと賢い世界のファンドや投資銀行に視線を移すと、利益は十分にとったことで、すでにリスクオフをしている機関投資家が多数います。 このようなタイミングで、ソフトバンクGが全社を挙げて「投資を再開する」と宣言している点自体が懸念点なのです。 具体的に言うと、一番おいしかった2022年3月から2023年6月までの期間に投資を抑制し、今、世界中でIT株が高騰してしまった後に投資を再開することで、ソフトバンクGはアームという打ち出の小槌をまた浪費してしまうのではないかという懸念を感じるのです』、「一番おいしかった2022年3月から2023年6月までの期間に投資を抑制し、今、世界中でIT株が高騰してしまった後に投資を再開」、全く素人の投資戦略そのものだ。
・『ソフトバンクGが投資したIT株はAIブームに乗り切れていない さて、3番目のポイントです。 「AIで世界中の投資家が大儲けをしているタイミングなのに、ソフトバンクGの業績はなぜ、ぱっとしないのか?」という疑問について、ソフトバンクGは決算発表で興味深いグラフを提示してくれています。 (株式市場動向:”Magnificent7” はリンク先参照) これは、2022年3月を100としたときの2023年8月7日の世界の株価の動きについてのグラフです。上記の期間、マグニフィセントセブンと呼ばれるグーグル、アマゾン、アップル、メタ、マイクロソフト、エヌビディア、テスラの7社が世界の株式市場をけん引しました。この7社の時価総額は合計すると、この期間で100から123.1に増えています。 一方でアメリカの株式市場のインデックスであるS&P500の500社からこの7社を除くと、100から105.7までしか増えていない。要するに、この期間にアメリカの株式市場をけん引したのは前述のマグニフィセントセブンであるということです。 (株式市場動向 はリンク先参照) そして、マグニフィセントセブンに続いて株価を上げたのがハイテク企業が多いアメリカのナスダック市場で、全体平均で100から114.5まで伸ばしています。 では、ソフトバンクGが投資をするようなベンチャー市場はどうだったのでしょうか。トムソン・ロイターが発表したベンチャーキャピタルインデックスは100から120.3と、やはり大幅に増加しています。 つまり、S&P500、ナスダック市場、ベンチャー市場が全て好調だったのです。 ここで問題になるのは、この期間にSVFの投資した上場株は、100から108.4にしか増えていないということです。 アメリカのIT株がAIブームに沸く中で、ソフトバンクGの投資はそれほど沸いていないという残念な事実があるのです。 なぜ、そんなことが起きているのでしょうか』、「マグニフィセントセブン」の「時価総額は合計すると、この期間で100から123.1に増え」「ナスダック市場」では「100から114.5まで伸ばしています」、「ベンチャーキャピタルインデックスは100から120.3」、と増加しているのに、「SVFの投資した上場株は、100から108.4にしか増えていない」誠に不振極まる成果だ。
・『ソフトバンクGの未来を左右する「中国市場」に孤立リスクが浮上 ここで、SVFが投資した株の値動きを示した以下のグラフを見てください。 (市場動向SVF1+2の上場株の動き はリンク先参照) よく見ると、SVFが投資した株の値動きと、前ページで見た「株式市場動向」のグラフに描かれている中国のゴールデンドラゴンチャイナのインデックスの動きが、酷似しているのです。 ここから、ソフトバンクGおよび孫正義さんの強みは、やはり中国にあると推測できます。だからこそ、この半年のAIバブルに出遅れたのでしょう。それは仕方がないとして、ここで考慮すべきなのは、「ソフトバンクGのアーム上場後の未来は、中国市場次第かもしれない」ということです。 そのリスクとしてはコロナ後の中国経済が停滞を始めている点や、背景に中国の不動産バブルの崩壊問題が根強くあるという点。そして何よりも気になるのがアメリカと中国の対立に端を発した、中国のIT市場の孤立分断懸念です。 最後に話をまとめてみましょう。 ソフトバンクGはこの9月にアームが上場した直後から、世間の評価ががらりと180度変わり、日本経済の寵児(ちょうじ)の座に再び返り咲くことでしょう。しかしその華やかな未来においては、新規の投資を復活させることで高値づかみのわなに陥る危険性があります。 そして同時に、一番得意とする中国市場での投資が中長期的な未来に影を落とす可能性もあります。 こういったことは、目の前の決算数字ではまったく見えてきません。ソフトバンクGの最終赤字が4776億円だったというニュースだけでは、経済の未来は読めないのです』、「ソフトバンクG」は「新規の投資を復活させることで高値づかみのわなに陥る危険性があります」、「一番得意とする中国市場での投資が中長期的な未来に影を落とす可能性もあります」、深刻な材料が山積で、これは大変だ。
次に、3月15日付け東洋経済オンライン「LINEヤフー、総務省も呆れ果てた「変わらぬ体質」 情報漏洩で行政指導、資本関係見直しの行方は」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/741042
・『「行政指導でここまで踏み込んだ文書は、あまり見たことがない。次こそは許しませんよ、というメッセージだろう」 総務省は3月5日、SNS「LINE」や検索サービス「Yahoo! JAPAN」などを運営するLINEヤフーに行政指導を行った。その指導内容を記した文書を見た通信業界関係者は、驚きの声を上げた。 LINEヤフーは2023年9~10月、LINEの利用者や取引先の情報など約51万9000件を外部に漏洩させていた。総務省はこのうち2万件以上が電気通信事業法上の「通信の秘密」の漏洩に当たると判断した。 具体的な指導項目として、LINEヤフーの親会社に50%出資する韓国のIT大手、NAVERとのシステムの切り離しや、グループ全体のセキュリティガバナンス体制の強化などを要請。その取り組み方針などを4月1日までにとりまとめたうえで、今後少なくとも1年間は、四半期ごとに総務省に対応状況を報告することを求めている』、「今後少なくとも1年間は、四半期ごとに総務省に対応状況を報告することを求めている」、とは厳格だ。
・『指導文書ににじむ総務省の苛立ち 事の発端は、NAVER子会社のNAVER Cloudが、セキュリティに関わる業務を委託していた会社がマルウェアに感染したことだ。 LINEヤフーはNAVER CloudにサーバーやソフトウェアなどのITインフラの運用を委託しており、旧LINE(現LINEヤフー)との間でシステムの認証基盤が共通化されていた。委託企業の感染によってNAVER側が不正アクセスを受けた結果、システムを介してLINEヤフーも被害にあった。 行政指導に当たって総務省がまとめた10ページに及ぶ文書には、苛立ちすら感じ取れるような厳しい言葉が並ぶ。 「旧LINE社に対しては、(中略)アクセス管理の徹底等も含めて行政指導を行っていたにもかかわらず、なおもアクセス管理の不備を一因とする本事案を招いた」 「電気通信事業全体に対する利用者の信頼を大きく損なう結果となったものであり、当省として極めて遺憾である」 さらに、委託先であるNAVER側への適切な管理・監督を機能させるため、親会社も含めたグループ内における経営体制の見直しの検討にまで言及している。) 総務省がここまで厳しい対応を求めたのには、それなりの理由がある。 1億人弱のユーザーを抱えるLINEは、ヤフーを傘下に持つZホールディングス(HD)と2021年3月に経営統合した。さらに2023年10月、持ち株会社のZHDと、傘下の事業会社であるヤフー、LINEが合併して現在の体制へと移った。 旧LINEは経営統合直後の2021年4月にも、総務省から行政指導を受けている。対外的に「データは日本に閉じている」と説明していたにもかかわらず、システム管理を委託していた中国から、利用者の個人情報がアクセス可能となっていたことなどを踏まえたものだった。 その後、親会社であるZHDは、学識経験者や弁護士らによる特別委員会(座長は宍戸常寿・東京大学大学院教授)を設置。データガバナンスの強化に向けて、個々の事業会社による自律的かつ、グループ内での一元的な監督体制を構築するよう提言を受けていた。 個人情報保護法などに詳しい中央大学国際情報学部の石井夏生利教授は「経済安全保障上の意味合いが強かった3年前の問題と性質は異なるが、会社のずさんな体質が背景にある点は共通する。特別委が提言したガバナンス体制も構築できなかったということだろう」と指摘する』、「旧LINEは経営統合直後の2021年4月にも、総務省から行政指導を受けている。対外的に「データは日本に閉じている」と説明していたにもかかわらず、システム管理を委託していた中国から、利用者の個人情報がアクセス可能となっていたことなどを踏まえたものだった・・・会社のずさんな体質が背景にある点は共通する。特別委が提言したガバナンス体制も構築できなかったということだろう」と指摘する」、なるほど。
・『問題の根底にNAVERへの強い依存 今回、総務省がNAVERとの関係見直しにまで言及したのは、同社との強い依存関係が、セキュリティ対策の不全を招いた一因とみているためだ。 LINEヤフーの親会社であるAホールディングス(HD)は、ソフトバンクとNAVERが50%ずつ株式を有している。LINEヤフーにとって、ソフトバンクとNAVERともに実質的な親会社といえる。 (LINEヤフーの資本構成 はリンク先参照) 旧LINEはもともとNAVERの日本法人として誕生した経緯がある。総務省は、こうした上下関係の強さを背景として、「(LINEヤフーから、委託先である)NAVER社側に対して安全管理のための的確な措置を求めることや、適切な委託先管理を実施することが困難であった」と分析している。 行政指導には表向き、法的な強制力はない。しかし総務省は「今後新たな懸念が生じた場合等には、追加的な措置を求める可能性がある」と警告しており、この先の対応次第で、強制力を伴う業務改善命令が発出される可能性もある。 LINEヤフーの出澤剛社長は3月5日、総務省で行政指導の文書を受け取った後、報道陣の取材に「NAVERとは親会社・子会社の関係性の中で、システム共有化などの協業を行ってきた。(セキュリティに対する)リスク認識が甘かったし、優先順位を上げきれなかった」と陳謝した一方、システム分離には最長3年程度かかるとの認識を示した。 ただ、3年でのシステム分離という会社側の説明に、業界からは「そんな悠長なことを言っていたら、その間にまた不祥事が起きる」と危惧する声も上がっている。 資本関係の見直しに踏み込むとなると、焦点はソフトバンク側の対応だ。 総務省は3月5日、ソフトバンクの宮川潤一社長も霞が関の庁舎に呼びつけた。「適切なガバナンスを構築するためにLINEヤフー社から(経営体制見直しなどの)要請があった場合は、親会社のソフトバンクにも協力してほしいと伝えた」(総務省の担当者)という。 これを受け、ソフトバンクは「親会社として実効的なセキュリティガバナンス確保の方策を検討」していくとのコメントを出した。 LINEヤフーの時価総額は約3兆円。ソフトバンクが出資比率を高めるには、NAVERとの交渉に加え、相応の出費が求められる可能性も出てくる。 シティグループ証券の鶴尾充伸シニアアナリストは3月11日付のレポートで、LINEヤフーによる自己株買い、およびソフトバンクによるNAVERの保有株買い取りを組み合わせることで、NAVERのAHDに対する出資比率の引き下げが進められる可能性が高いと予想している。 これら株式の買い取りの原資として、LINEヤフーとソフトバンクの連結子会社であるPayPay株の売り出しがポイントと鶴尾氏はみる。PayPayは株式上場の方針を示しつつも、その時期は長らく未定とされてきたが、「2025年3月期中にも、IPOが進められる可能性は高まる」(鶴尾氏)』、「LINEヤフーによる自己株買い、およびソフトバンクによるNAVERの保有株買い取りを組み合わせることで、NAVERのAHDに対する出資比率の引き下げが進められる可能性が高いと予想している。 これら株式の買い取りの原資として、LINEヤフーとソフトバンクの連結子会社であるPayPay株の売り出しがポイントと鶴尾氏はみる」、そんな先まで待つことは無理だろう。
・『中長期的な拡大戦略にも影 もっとも、NAVERとの資本関係を見直せば、問題が解決されるわけでもない。中央大の石井教授は「LINEヤフーが自社内でセキュリティ措置を講じられるよう、組織体制を現場から変えていくプロセスが必要だ」と説く。 今回の一件はLINEヤフーの拡大戦略にも影を落としかねない。同社の川邊健太郎会長は2023年11月、東洋経済の取材に対して「GAFAMに対抗するため、日本国内の業界再編を仕掛けたいと思っている」と語っていた。 だが、ITプラットフォーマーの根幹をなすユーザーの情報管理でつまずいている現状、大がかりなM&Aなどを仕掛ける余裕はないだろう。ずさんな体質を根本から改めることができなければ、国内最大のITプラットフォーマーの地位も安泰ではない。 総務省が下した鉄槌は、”行政指導”という名以上に、LINEヤフーに重くのしかかっている』、「ITプラットフォーマーの根幹をなすユーザーの情報管理でつまずいている現状、大がかりなM&Aなどを仕掛ける余裕はないだろう。ずさんな体質を根本から改めることができなければ、国内最大のITプラットフォーマーの地位も安泰ではない。 総務省が下した鉄槌は、”行政指導”という名以上に、LINEヤフーに重くのしかかっている」、今後、改善が進まないと、”行政指導”といった生ぬるい措置ではなく、”業務改善命令”という厳格な措置に移行する可能性もありそうだ。
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大阪万博(その4)(大阪万博「国費負担1兆円超」でかすむ経済効果…“逃げ”姿勢の吉村知事は「国開催」強調のトホホ、大阪・関西万博はどう考えても延期するしかない これだけの理由【岸田首相に直言】、関係ないから」》、大阪万博の経済効果 本当は「大幅なマイナス」繰り返される過大評価の罪深さ、大阪万博に“目玉”爆誕!2億円トイレは税金ムダ遣いの極み…政治家こぞって「高くない」主張)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-16
大阪万博については、昨年12月17日に取上げた。今日は、(その4)(大阪万博「国費負担1兆円超」でかすむ経済効果…“逃げ”姿勢の吉村知事は「国開催」強調のトホホ、大阪・関西万博はどう考えても延期するしかない これだけの理由【岸田首相に直言】、大阪万博の経済効果 本当は「大幅なマイナス」繰り返される過大評価の罪深さ、大阪万博に“目玉”爆誕!2億円トイレは税金ムダ遣いの極み…政治家こぞって「高くない」主張)である。先ずは、昨年12月18日付け日刊ゲンダイ「大阪万博「国費負担1兆円超」でかすむ経済効果…“逃げ”姿勢の吉村知事は「国開催」強調のトホホ」を紹介しよう。https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/333536・『めっちゃカネかかるやん──。2025年大阪・関西万博の開催費用の全体像が判明した。会場建設費や「日本館」の整備など、国費負担の総額は1647億円。万博に直接関係するインフラ整備費は国費負担を含め計8390億円にも上る。あわせて1兆円超の負担を背負わされる国民にしてみれば、「ふざけた話」である。 1647億円の内訳は、+国と大阪府・市、経済界が3分の1ずつ負担する会場建設費783億円 +日本館の整備費360億円▽途上国の出展支援240億円 +警備費199億円 +機運醸成費38億円 +誘致費用27億円。インフラ整備費8390億円のうち「会場周辺の整備費」が810億円、「会場へのアクセス向上費用」が7580億円を占める。 こうした直接経費に加えて間接経費もひっくるめると、インフラ関連費用は計9.7兆円に達する。さらに会場内で運航予定の「空飛ぶクルマ」の実証など、各省庁の万博関連の事業費は3.4兆円と見込まれている。 政府は近く関連事業を含めた費用の全体像を示す方針で、透明性を確保するために第三者委員会の設置を調整中。しかし、いくら取り繕おうと、肝心の盛り上がり感は皆無に等しい。 毎日新聞の世論調査(16、17日実施)によると、万博のチケットについて「購入したいと思う」がわずか10%だったのに対し、「購入したいとは思わない」がナント79%。共同通信の世論調査では、万博を「計画通り実施するべきだ」が18.8%にとどまった。』、「毎日新聞の世論調査・・・によると、万博のチケットについて「購入したいと思う」がわずか10%だったのに対し、「購入したいとは思わない..
国内政治
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2024-03-16T17:44:59+09:00
先ずは、昨年12月18日付け日刊ゲンダイ「大阪万博「国費負担1兆円超」でかすむ経済効果…“逃げ”姿勢の吉村知事は「国開催」強調のトホホ」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/333536
・『めっちゃカネかかるやん──。2025年大阪・関西万博の開催費用の全体像が判明した。会場建設費や「日本館」の整備など、国費負担の総額は1647億円。万博に直接関係するインフラ整備費は国費負担を含め計8390億円にも上る。あわせて1兆円超の負担を背負わされる国民にしてみれば、「ふざけた話」である。 1647億円の内訳は、+国と大阪府・市、経済界が3分の1ずつ負担する会場建設費783億円 +日本館の整備費360億円▽途上国の出展支援240億円 +警備費199億円 +機運醸成費38億円 +誘致費用27億円。インフラ整備費8390億円のうち「会場周辺の整備費」が810億円、「会場へのアクセス向上費用」が7580億円を占める。 こうした直接経費に加えて間接経費もひっくるめると、インフラ関連費用は計9.7兆円に達する。さらに会場内で運航予定の「空飛ぶクルマ」の実証など、各省庁の万博関連の事業費は3.4兆円と見込まれている。 政府は近く関連事業を含めた費用の全体像を示す方針で、透明性を確保するために第三者委員会の設置を調整中。しかし、いくら取り繕おうと、肝心の盛り上がり感は皆無に等しい。 毎日新聞の世論調査(16、17日実施)によると、万博のチケットについて「購入したいと思う」がわずか10%だったのに対し、「購入したいとは思わない」がナント79%。共同通信の世論調査では、万博を「計画通り実施するべきだ」が18.8%にとどまった。』、「毎日新聞の世論調査・・・によると、万博のチケットについて「購入したいと思う」がわずか10%だったのに対し、「購入したいとは思わない」がナント79%」、こんなに人気がない割に、「事業費」が膨大というのは、無駄遣いの典型だ。
・『やたら「国主催の事業」と強調で経済効果の試算額にも触れず… 赤字必至の状況に、旗振り役の吉村大阪府知事は“逃げ”の姿勢だ。「最後まで責任を持って(万博を)やりたい」とテレビで豪語してきたのに、先週14日の会見では、赤字に陥った際の対応について「万博は国主催の事業ですから、国主催の事業で国が赤字を補填しないと言っている運営費を大阪府・市が負担するのは明らかにおかしい」などと主張。やたら「国の事業」と強調した。 一時は自身のX(旧ツイッター)に頻繁に投稿していた万博による経済効果の試算額(2.4兆~2.8兆円)にも触れなくなった。 膨大な国費負担を前に頼みの経済効果もかすむばかりだ。 吉村知事は自身のインスタグラムで、「ミヤネ屋」の宮根誠司氏と橋下徹元大阪府知事とのスリーショットを公開。〈おっさん筋トレ同好会、やで。無理しない範囲でほどほどにやらなあかんわ〉と感想を添えた。そんなことより、万博は「無理しない範囲」をとっくに超えとるけどな!』、「直接経費に加えて間接経費もひっくるめると、インフラ関連費用は計9.7兆円に達する。さらに会場内で運航予定の「空飛ぶクルマ」の実証など、各省庁の万博関連の事業費は3.4兆円と見込まれている」、信じ難いような膨大な無駄遣いだ。
次に、本年1月9日付け東洋経済オンラインが掲載した元週刊文春・月刊文芸春秋編集長の木俣正剛氏による「大阪・関西万博はどう考えても延期するしかない、これだけの理由【岸田首相に直言】」を紹介しよう。
・『東日本大震災では、震災当日に道路復旧計画が決まっていた 元旦の日本を揺るがした能登半島大地震。岸田首相は「被災者の救命・救助はまさに時間との戦いだ。人命第一の方針のもとに救出に全力をあげる」と宣言し、そのために救助犬を増やすことや道路の復旧を急ぐことなどを指示したと、いかにも政府が全力をあげているような発言を繰り返しています。 しかしこの対応、すでに2011年の東日本大震災時と比べて大幅に遅れているのです。1月4日の時点で、能登半島の道路は寸断されており、各地で渋滞が起こっています。 東日本大震災ではどうだったのでしょうか。実は当時、『月刊文春』で取材していた私は、国土交通省の素早い対応を知りました。震災が起こった11日の翌日には、被災地に向けて11ルートの道路がすでに開かれ、被災地救援物資と機材のみの通過が許され、すでに復興への戦力がどんどん現場に入りつつありました。 現地の指揮官にあたる徳山日出男・東北地方整備局長(のち、国土交通省次官)が、震災直後に、人命救助と捜索のための道路を開くことを決断。津波のために松島空港が全滅。津波がくる寸前に日本で唯一飛ばすことができた国土交通省のヘリの情報から、太平洋岸の被害が激しいと判断し、その日のうちに復興計画の第一弾を作成していたのです。 海寄りの道路を諦め、東北の中心部の無事な道路から海岸に向けて、「くしの歯」のような形で道路を啓開することを計画し、あの揺れに揺れている震災当日に、地元建設業者と連絡をとり、道路啓開部隊を52チームに細かく分けて結成しました。 これが震災当日の話なのです。そして、道路はガタガタでもいいから、とにかく通れるようにしようと奮闘しました。国道事務所の職員、地元建設会社のパワーショベルと操作員、そして土嚢やアスファルトの合同チームが協力して、遺体までかき分けるような作業を重ねて、海岸にむけて前進。地震発生4日目までにさらに40ルートが確保されていました。 地震発生から4日目ということは、今回の能登半島地震でいえば、1月4日までにこうした体制を整えていたことになります。) 足もとでは、1月4日時点でテレビでは記者たちが、「能登半島は海岸沿いの道路しかないので、道路事情が悪く、渋滞でなかなか現地にたどりつけない」などとレポートしていました。東日本大震災時は、当初マスコミの車両などは通行不可で、彼らは現地にヘリで入るしかなかったのですが、この決断と大規模な人員、資材、重機の集中投入が、その後の人名救助において大きな助けとなったことは言うまでもありません。 当時、大畠章宏・国土交通大臣は、「現場の徳山局長の判断を私の判断と考え、国土交通省の所掌に囚われず、予算も考えずに判断せよ」と大幅な権限委譲を行いました。福島原発問題という、いまだすべてが解決しない事故のせいで、国民から大きな評価はされていませんが、これは英断でした。あの大震災では、今回とまったく違うスピードで復旧と人命救助の作業が行われていたことを忘れてはいけません。 もちろん、貢献したのは現地の建設業者だけではありません。大きな道が開けば、復旧のために全国の建設会社が動員され、大量の作業員が努力したことも、世界が驚く復旧の速さに貢献しました。 それに比べて、今回の復旧作業は遅すぎるのではないでしょうか。復旧が遅れれば遅れるほど、被災者の健康も心身の状態も蝕まれていきます。能登半島だけでなく、富山、新潟といった日本の穀物産業を支える地域の労働力が蝕まれてゆくのです。 私には、今回、官邸も国土交通省も統一的な復旧計画を持っていないように思えます。(東日本大震災の場合は、東北整備局と本省を結ぶ回線で、毎日緊密な打ち合わせが行われ、それが危機管理の能力を固めていました)』、「震災が起こった11日の翌日には、被災地に向けて11ルートの道路がすでに開かれ、被災地救援物資と機材のみの通過が許され、すでに復興への戦力がどんどん現場に入りつつありました。 現地の指揮官にあたる徳山日出男・東北地方整備局長・・・が、震災直後に、人命救助と捜索のための道路を開くことを決断。津波のために松島空港が全滅。津波がくる寸前に日本で唯一飛ばすことができた国土交通省のヘリの情報から、太平洋岸の被害が激しいと判断し、その日のうちに復興計画の第一弾を作成していたのです・・・それに比べて、今回の復旧作業は遅すぎるのではないでしょうか。復旧が遅れれば遅れるほど、被災者の健康も心身の状態も蝕まれていきます。能登半島だけでなく、富山、新潟といった日本の穀物産業を支える地域の労働力が蝕まれてゆくのです。 私には、今回、官邸も国土交通省も統一的な復旧計画を持っていないように思えます・・・(東日本大震災の場合は、東北整備局と本省を結ぶ回線で、毎日緊密な打ち合わせが行われ、それが危機管理の能力を固めていました)』、確かに今回の遅れは顕著だ。
・『死者と行方不明者はこれからも増える可能性 1月7日時点では、石川県だけで死者126名、安否不明者242名。東日本大震災時と比べて、被害規模が小さいということも、政府の腰がいまひとつ重い原因の一つかもしれません。しかし、今回の地震は能登だけでなく、北海道から鹿児島まで広範囲の被害をもたらしました。被害の全容が把握されたら、今報道されているような規模でなくなることは確実です』、「被害の全容が把握されたら、今報道されているような規模でなくなることは確実です」、なるほど。
・『熊本地震と比べてわかる「復興への労力」 今こそ岸田首相に求めたい英断 ここで、今度こそ岸田首相の英断を望みたいところです。いや、その英断によって、現在の復旧の遅れを一気に取り戻すほどの気合と希望を、国民全体に与えてほしいと思うのは私だけでしょうか。 決断すべきことは簡単です。まず、建設業者など復旧のための労働力を増やし、予算を十二分に投下するための手段を講じることです。そのために最も簡単な方法があります。それは2025年に開催される日本国際博覧会(大阪・関西万博/以下「大阪万博」と記述)の延期です。 もちろん、関係者が反対することは目に見えています。しかし、それは冷厳に復興費用にかかる数字を公開すれば、説得できるはずです。能登半島地震の被害規模はまだ確定できませんが、2016年に起こった熊本地震の例を「消防白書」のデータから見てみると、大体似通った数字になるであろうことは予想できます。 熊本地震は2016年10月27日時点で、死者139人 、重症者957人。そのうち震災の直接被害による死者が50人、負傷の悪化や避難生活の負担による死者は84人といいますから、死者数は現時点で判明している能登半島地震のそれと似ています。 また、住居の被害は同期間で全壊8298棟、半壊31249棟。その他国道や県道の亀裂、陥没、落石、地方公共団体の庁舎の被災などといった、建物やインフラの被害状況も大体似ています。 避難民の数は熊本県だけで18万3882人。現在報じられている能登半島地震の避難民数は石川、富山、新潟で3万4000人強(読売新聞調べ)ですが、日本海側全県に及んだ被害を考えると、避難民の数は熊本ほどではなくとも、かなりの規模になるでしょう。 こうした中、熊本県は仮設住宅だけで110団地4303戸を建設しました。そして、その復旧に要した予算は概算で500億円にのぼりました。 東日本大震災の場合は復興税という形で予算を確保しました。今回もまた、そういう手段もありえます。しかし、問題は復興・復旧に要する建設業者の数です。) 大阪万博はただでさえ、工事が遅れています。その原因の一つが業者の労働力不足です。 建築ジャーナリストの千葉利弘氏が執筆した記事「大阪万博『工事遅れ』背景に施行能力不足」(東洋経済オンライン)によると、大阪圏(大阪、京都、兵庫、奈良)の建築着工床面積の数字は17年前には年間2500万平方メートルだったのに対し、2022年度には1600平方メートルを切るほどに落ち込んでおり、そのうち住宅が55%を占めているので、産業用建築は700万平方メートルにすぎないとのことです。 つまり、現状でも年間700万平方メートルのビルなどをフル稼働で作っているところに、突然、大阪・関西万博の会場面積155万平方メートルに相当する建設工事が加わっているのです。「いや、これは会場面積であり、その全てがパビリオンになるわけではないだろう」という反論もあるでしょうが、会場だけでなく周辺道路を含めたインフラ整備の負担もあります』、「現状でも年間700万平方メートルのビルなどをフル稼働で作っているところに、突然、大阪・関西万博の会場面積155万平方メートルに相当する建設工事が加わっているのです」、やはり「大阪万博」の延期が最も治まりがよさそうだ。
・『万博会場にはまだ水道も電気も通っていない 万博会場となる夢州(ゆめしま)には、まだ水道も電気も通っていないという報道もありました(2023年12月4日付朝日新聞)。会場近くで送電を担う変電所との契約もまだという状態です。万博に直接関係するインフラ整備費は国費負担を含め計8390億円、会場建設費など万博に直接資する国費負担は計1647億円で、総事業費が1兆円を超えるという試算も報道されているほどの大規模工事ですが、現状でもフル稼働の大阪圏の建設業者だけで、この建設に立ち向かうのは不可能といっても過言ではありません。 実際、建設業界からは「本当に間に合うのか」という疑問が万博協会に寄せられていたそうです。結局、現状で期待されているのは、大阪圏以外の建設業者と外国人労働者ということになります。 しかし、国策事業ではあっても、2024年4月からは建設業に時間外労働の上限規制も適用されるため、施行能力の削減は避けられません。その上、もともと太平洋岸の大都市群の建設を支えていたのは、東北や日本海側からの出稼ぎ労働者でした。 今回、能登半島地震の復興作業で彼らのニーズが急増することが考えられ、彼ら自身も故郷を守る行動をとるはずです。「東日本大震災では、全国から労働者を集められたではないか」という反論もあるでしょう。 しかし、これも数字が冷徹に物語っています。) 当時の東北6県の建設投資額は3.1兆円程度だったのに対し、総額22兆円の復旧復興工事費用が投入されました。しかし、日本全体の建設投資額は年41兆円程度まで落ちていました。阪神淡路大震災の1995年当時は年間79兆円あった建設投資が半減していたため、全国の建設業者を動員しても、そう簡単に22兆円の建設工事はできず、復旧工事が完了するのに10年も時間がかかりました(前出・千葉氏)』、「国策事業ではあっても、2024年4月からは建設業に時間外労働の上限規制も適用されるため、施行能力の削減は避けられません」、やはり「大阪万博」の延期が最も治まりがよさそうだ。
・『全国から業者を動員しても万博工事と能登半島復旧の両立は厳しい つまり、全国から建設業者を動員しても、大阪万博の工事と能登半島の復旧を同時に短時間で可能とすることなど、不可能なのです。だからこそ、一旦大阪万博を延期して、そこに必要とされる労働力と予算を日本海側の被災地に集中すれば、復旧も復興も確実に早まるでしょう。 当面、日本海側の諸都市では、道路の啓開、倒壊した住宅の撤去や整理、仮設住宅の建設といった多大な建設業者の労働力と予算が必要になります。正直、万博などと言っている場合でしょうか。ただでさえ準備が遅れ、プレハブ方式での突貫工事が揶揄されている大阪万博ですが、1年延期した方が、むしろ内容のあるものが開催できるはずです。 能登半島救援のためという大義名分があれば、大阪万博の最大の推進者である「日本維新の会」も、延期を強くは反対できないはずです。それこそ、決断力も実現力もないと言われる岸田総理の評価を一変させる行動だと思います。 総理が早期に決断を下すために、野党や産業界、そして大メディアにも、大阪万博延期の大合唱をお願いしたいものです』、「大阪万博の工事と能登半島の復旧を同時に短時間で可能とすることなど、不可能なのです。だからこそ、一旦大阪万博を延期して、そこに必要とされる労働力と予算を日本海側の被災地に集中すれば、復旧も復興も確実に早まるでしょう・・・能登半島救援のためという大義名分があれば、大阪万博の最大の推進者である「日本維新の会」も、延期を強くは反対できないはずです。それこそ、決断力も実現力もないと言われる岸田総理の評価を一変させる行動だと思います。 総理が早期に決断を下すために、野党や産業界、そして大メディアにも、大阪万博延期の大合唱をお願いしたいものです」、同感である。
第三に、2月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したイトモス研究所所長の小倉健一氏による「大阪万博の経済効果、本当は「大幅なマイナス」繰り返される過大評価の罪深さ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/338334
・『大阪万博の経済効果は2兆~3兆円に上るという試算が、ある組織から発表された。そして、メディアがその数字を拡散しているが、これをうのみにしてはいけない数多くの理由をお伝えしたい』、興味深そうだ。
・『大阪万博の経済効果は3兆円超の試算も 「開催にはメリット」は本当なのか? 大阪・関西万博を巡って、高騰するコストを打ち消すように、莫大(ばくだい)な経済効果が発表されている。これまでも東京オリンピック・パラリンピックやさまざまな大型イベントなどで「ムダ遣い」という批判が起きるたびに「多大なる経済効果のメリット」を前提にプロジェクトは推進されていった。 一般財団法人アジア太平洋研究所が、1月24日に発表した「大阪・関西万博の経済波及効果」によれば、経済波及効果が「基準ケース」で2兆7457億円になるという。さらに、夢洲会場以外のイベントによる追加的な参加(泊数増加)を想定し、リピーター増を考慮した「拡張万博ケース2」では3兆3667億円まで膨らむという試算結果を発表している。 他方、NHK『大阪・関西万博 国費総額1647億円 今後追加費用も 全体像公表』(2023年12月19日)によると、政府が発表した大阪万博の費用の内訳は以下の通りだ。) ・会場建設費の国の負担分が783億円 ・政府が出展するパビリオン建設費などが837億円 ・過去に誘致などにかかった費用が27億円 など直接的な費用の総額は最大で1647億円。 さらに、関連事業として ・道路や鉄道を含むインフラ整備事業費など、およそ9兆7000億円 ・「空飛ぶクルマ」の実証実験など万博に向けた各府省庁の事業の実施費用、およそ3兆4000億円 などの費用が公表された。 政府は「関連事業は、万博開催の有無にかかわらず計画されていたもので、万博のみに資する金額の算出は困難だとする一方、透明性の観点からあえて合計額を示した」と説明している、と前述のNHKの記事は報じている。 政府、大阪府・市、万博の運営側としては、直接経費の1647億円よりも経済効果が上回っているのだから、開催にはメリットがあると信じたいのだろう。 本当なのだろうか』、「政府、大阪府・市、万博の運営側としては、直接経費の1647億円よりも経済効果が上回っているのだから、開催にはメリットがあると信じたいのだろう」、検証が必要だ。
・『経済効果を発表→メディアが拡散 大イベント開催のお決まりパターン これまで、大きなイベントの開催が決定されると、民間団体がこぞって「経済効果」を発表し、それをうのみにしたメディアによってその数字が拡散されていった。 しかし、事前の影響調査(=経済効果)は、利益を過大評価し、関連するコストを過小評価してしまうということは、研究の分野では広く知られていることだ。莫大な税金を投入する事業において、国民、住民を最も説得しやすいのが、莫大な「経済効果」ということなのだろう。) また政治家の多くは、大きなイベントの開催について、交通網のインフラなどを拡張、改善する機会として捉えることも多い。 今回の大阪万博では、最先端の技術が紹介されるという宣伝がされているようだ。コンセプトは「未来社会の実験場」ということらしい。 過去にオリンピックが開催された都市でも、経済効果がうまく上がらなそうなことが分かってくると、開催の目的が「(経済的発展を見せつける)国威発揚の場」などと論点がすり替えられていった。日本においても東京オリンピックは「(東日本大震災からの)復興のシンボル」と位置付けられた。東京オリンピックのどこが復興のシンボルだったのか、覚えている人はあまりいないかもしれない。 今回の大阪万博には、そんな壮大なテーマはない。朝日新聞(2023年11月6日)の記事でインタビューを受けていた万博の研究者である京都大学大学院の佐野真由子教授(文化政策学)によれば、「時代を活写するのが万博の役割で、日本をアピールし、経済を上向かせる巨大イベントと考えるのは『目的違い』」だという。そして、「万博の期間中に『いのち』について考え、ものの見方が変わった――。来場者らがそんな経験をできれば、万博は成功したと言えると思います」と語っている。 この教授の言っていることはさっぱり訳が分からないが、一人の納税者としては、まずは投じた税金を上回る経済的な利益を得られるかどうかが最大の争点だと考えている』、「一人の納税者としては、まずは投じた税金を上回る経済的な利益を得られるかどうかが最大の争点だ」、なるほど。
・『大阪万博の経済効果を算出するのに「ふさわしい組織か?」という疑問符 それを考える上での第一の問題として、経済効果の算出では、負の要素があることは一切取り扱わないということだ。 それっぽい研究団体や研究者が、経済効果を測定するケースが目立つが、経済効果の額を多めに発表した方が、イベントを開催する既得権益者たちにとって歓迎されることを考えても、中立性の問題が取り沙汰されるべきだ。今回のアジア太平洋研究所のホームページで会員名簿を見ると、大阪万博にカネを出す企業たちが会員として名を連ねているのが分かる。この組織は、公平な経済効果を算出するにふさわしいといえるのだろうか。) 経済効果の測定では、例えば、神戸在住の家族が、沖縄への旅行を中止して大阪万博へ行った場合、旅行への支出は減ってしまうことが予想されるが、万博の経済効果では「プラス」と判断されてしまう。万博ほどの大きなイベントになると、遠距離旅行などの特別な旅行をキャンセルして向かう可能性もあり、純粋に万博の経済効果として計上するには無理がある。 今、「無理がある」と指摘したが、そう感じているのは、私だけでなく、多くの学者が認めているところだ。興味がある人は論文を検索してみてほしい。 また、冒頭の政府の説明(「関連事業は、万博開催の有無にかかわらず計画されていたもので、万博のみに資する金額の算出は困難だ」)では、関連事業はあたかも別立てで計算すべきかのような指摘をしている。だったら、関連事業の経済効果と言われるようなものも全て排除して比較しなくては公正さを欠く。 今回、アジア太平洋研究所が推定した「大阪万博の経済効果」は、万博の有無にかかわらず計上されるものがほとんどと言っていい』、「それっぽい研究団体や研究者が、経済効果を測定するケースが目立つが、経済効果の額を多めに発表した方が、イベントを開催する既得権益者たちにとって歓迎されることを考えても、中立性の問題が取り沙汰されるべきだ。今回のアジア太平洋研究所のホームページで会員名簿を見ると、大阪万博にカネを出す企業たちが会員として名を連ねているのが分かる。この組織は、公平な経済効果を算出するにふさわしいといえるのだろうか・・・今回、アジア太平洋研究所が推定した「大阪万博の経済効果」は、万博の有無にかかわらず計上されるものがほとんどと言っていい」、つまり過大推計をしていることを意味する。
・『万博があろうとなかろうと建設の経済効果は発生したはずだ 例えば、建設工事によって発生する経済効果について考えてみよう。 ジョナサン・バークレー『巨大スポーツイベントの費用と利益の予測』(※1)によれば、大きなイベントの開催に伴う大型の建設工事の経済効果への影響について疑問があるとしている。 「多くの学者の著作において、スポーツスタジアムを建設することと経済発展の間には相関関係が認められないとされている。それにもかかわらず、多くの『経済効果』の測定では、建設をコストではなく便益であると見なしている。建設は経済活動を活発化させるかもしれないが、そのようなプロジェクトへの公共支出は、他の公共サービスの減少、政府の借り入れの増加、または増税を意味するため、膨大な機会費用も考慮する必要もある」という。 万博に半ば強制的にお金を上納させられ、チケットを買わされている企業たちは内部留保を取り崩すことになるが、当然、そのしわ寄せは、企業の成長戦略や社員の給料、消費者に来る。そのデメリットは、経済効果に一切考慮されていない。 さらに、現在の日本は建設需要がひっ迫していることが考慮されていない。つまり、建設会社にとって仕事が溢れかえっている状況だ。単に、多くのお金(税金)を払って、他の工事に先駆けて前倒しをお願いしている状況なのである。万博の建設がなかったとしても影響は限定的ということになる。 他の工事をするよりも多額のお金を支払うという意味で、経済効果は発生している可能性がわずかにあるが、それとて、原資は私たちの税金である。家計へのダメージが及ぼす経済効果は計上されていない。 さらには「混雑を避ける地元民」という頭の痛い問題もある。万博へ思惑通りにたくさんの観光客が訪れたとすれば、大阪の街は人でごった返す事態が考えられる。一部の地元民が混雑を嫌い、これまで大阪府下で落としてきた消費支出を県外へ差し向けることは、当然想定しなくてはいけない事態だ。 「South African Journal of Economics」に掲載された論文(※2)によると、サッカーの日韓ワールドカップ(2002年)が開催された韓国では「韓国を訪れる欧州からの観光客の数は通常より多かったが、この増加は、日本から通常訪れる観光客が同規模減少したことによって相殺された」という。 また同論文では、2002年に米誌「フォーブズ」と米紙「USAトゥデイ」が報じた以下の記事を引用している。 「2002年のワールドカップ期間中に韓国を訪れた外国人観光客の総数は46万人と推定され、これは前年同期の外国人観光客数と同じ数字だった」(フォーブズ) 「テレビやスポーツ用品などの消費財はよく売れたが、一部のカジノやホテルでは、常連客や出張者がワールドカップの混雑を避けたため、売り上げが落ち込んだ」(USAトゥデイ) 訪日客が支出を増やしていることが万博の経済効果を増やすという主張もあるが、これも万博の開催の有無に関係がなく、日本がもともと受けられるメリットである。当然、差し引くべきだ。 経済効果があるのは、例えば、台湾や他の国へ行く予定だった人が、万博があるから旅行地を大阪へと変更したようなケースだ。国内旅行先の切り替えでは、日本全体で考えたときにまるで経済効果になっていない。消費先がスライドしているだけである』、「経済効果があるのは、例えば、台湾や他の国へ行く予定だった人が、万博があるから旅行地を大阪へと変更したようなケースだ。国内旅行先の切り替えでは、日本全体で考えたときにまるで経済効果になっていない。消費先がスライドしているだけである」、その通りだ。
・『関連事業まで経済効果に含めるならコストも同じ土俵で比べるべきだ 文字量がかさんできたのでまとめるが、大阪万博の経済効果には2種類ある。厳密な意味での経済効果と関連事業も含めた経済効果だ。 厳密な意味での経済効果では、大阪万博の計画の有無に関係なく発生する経済効果は全て排除されなければならない。となれば「沖縄旅行へ行くはずだったが、大阪へ行った」「お昼ご飯を神戸ではなく万博の敷地内で食べた」「建設工事の順番において大阪万博を優先した」では、経済効果にはならないのである。現在の試算より限定的なものにとどまることが、お分かりいただけるだろうか。 そして、間接的な関連事業まで経済効果に含めるのであれば、道路や鉄道を含むインフラ整備事業費などにかかる約9兆7000億円、「空飛ぶクルマ」の実証実験など万博に向けた各府省庁の事業の実施費用である約3兆4000億円も、コストに含めなければならない。 アジア太平洋研究所が算出した拡張ケース2の経済効果である「3兆3667億円」でも、到底足りないことになる。大幅なマイナスだ。 経済効果の算定は、大阪万博の計画の有無に関係なく発生する経済効果を全て排除して計算し直すべきだ』、「厳密な意味での経済効果と関連事業も含めた経済効果だ。 厳密な意味での経済効果では、大阪万博の計画の有無に関係なく発生する経済効果は全て排除されなければならない。となれば「沖縄旅行へ行くはずだったが、大阪へ行った」「お昼ご飯を神戸ではなく万博の敷地内で食べた」「建設工事の順番において大阪万博を優先した」では、経済効果にはならないのである。現在の試算より限定的なものにとどまることが、お分かりいただけるだろうか。 そして、間接的な関連事業まで経済効果に含めるのであれば、道路や鉄道を含むインフラ整備事業費などにかかる約9兆7000億円、「空飛ぶクルマ」の実証実験など万博に向けた各府省庁の事業の実施費用である約3兆4000億円も、コストに含めなければならない。 アジア太平洋研究所が算出した拡張ケース2の経済効果である「3兆3667億円」でも、到底足りないことになる。大幅なマイナスだ。 経済効果の算定は、大阪万博の計画の有無に関係なく発生する経済効果を全て排除して計算し直すべきだ」、同感である。
第四に、2月21日付け日刊ゲンダイ「大阪万博に“目玉”爆誕!2億円トイレは税金ムダ遣いの極み…政治家こぞって「高くない」主張」を紹介しよう。
・『2025年大阪・関西万博の目玉として350億円もの巨額建設費が投じられた大屋根(リング)に続き、新たな“見どころ”が爆誕だ。「2億円トイレ」である。 万博会場にはトイレが約40カ所設置される予定。うち8カ所は若手建築家がデザインする「デザイナーズトイレ」なのだが、ベラボーに高いのだ。 日本国際博覧会協会(万博協会)の契約情報によれば、デザイナーズトイレ8カ所のうち3カ所は入札が「取止め・不調」。落札が決まった5カ所の設置費用は計6億6000万円に上る。うち2カ所が各2億円を占め、「高すぎやろ!」と総ツッコミをくらっている。 万博を所管する経産省の斎藤大臣は20日の会見で、「2億円トイレ」について「便器が数十個設置される大規模な設備」「一般的な公衆トイレの建設費用と比べ、取り立てて高額であるとは言えない」などと強弁。自見万博相も同日の会見で、50~60台の便器を備えているとして「規模から考えれば必ずしも高額とは言えない」と言い張った。 大阪府の吉村知事もきのう、「平米単価にすると、一般の公共施設のトイレと値段は大きく変わらないというのが事実」などと主張。「建築家が万博会場で新しい建築技術や価値観というのをトイレに、ある意味、魂も吹き込んでいます」との見解を示した』、「2億円トイレ」は「50~60台の便器を備えている」ので、「規模から考えれば必ずしも高額とは言えない」、なるほど。
・『渋谷区のデザイナーズトイレは1.2億円 そもそも、万博のデザイナーズトイレには1平方メートル当たり174万円のものもある。吉村のように「平米単価」を引き合いに出して「高くない」と言い張ること自体、ナンセンス極まりない。 東京都内で話題を呼んだデザイナーズトイレと比べても、2億円は高い。 渋谷区と日本財団が建築家やクリエーター16人と組んで区内17カ所にオシャレな公衆トイレを設置した「THE TOKYO TOILET」プロジェクトは、整備費用が1カ所当たり約1.2億円だった。ちなみに、17カ所目をデザインしたのは、万博会場のデザインプロデューサーを務める建築家の藤本壮介氏だ。 「魂の2億円トイレ」が後世に残るのならまだしも、万博会場は閉幕後に取り壊される。トイレの利活用について万博協会に尋ねると、「デザイナーの方にはコストや機能性、閉幕後のリサイクル面などを考慮していただいております」(広報担当)とのこと。イマイチ判然としない。 万博のテーマのひとつは「SDGs」だが、半年間しか使われないトイレに2億円をつぎ込む「持続可能性」とは一体、何なのか。まずは税金のムダ遣いをやめるべきだ』、「万博のテーマのひとつは「SDGs」だが、半年間しか使われないトイレに2億円をつぎ込む「持続可能性」とは一体、何なのか。まずは税金のムダ遣いをやめるべきだ」、同感である。
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司法(その18)(「特捜検察」の暴走 なぜ無罪判決が相次ぐのか ストーリー優先で証拠集め、調書は検事の作文、警察の「やりすぎ職務質問」5時間拘束!塩を“薬物”と誤解 尿検査シロでも…これ違法?、ロースクール制度は「文科省と法務省の設計ミスが一番の失敗」柴山昌彦・元文科相が激白)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-15
司法については、昨年5月19日に取上げた。今日は、(その18)(「特捜検察」の暴走 なぜ無罪判決が相次ぐのか ストーリー優先で証拠集め、調書は検事の作文、警察の「やりすぎ職務質問」5時間拘束!塩を“薬物”と誤解 尿検査シロでも…これ違法?、ロースクール制度は「文科省と法務省の設計ミスが一番の失敗」柴山昌彦・元文科相が激白)である。 なお、タイトルから「の歪み」を削除した。先ずは、昨年9月4日付け東洋経済オンライン「「特捜検察」の暴走、なぜ無罪判決が相次ぐのか ストーリー優先で証拠集め、調書は検事の作文」を紹介しよう。https://toyokeizai.net/articles/-/698489・『司法試験の受験者数が激減。弁護士は「食えない」「AIが代替する」と敬遠され、若き裁判官の離職が相次ぎ、検察官は供述をねじ曲げるーー。『週刊東洋経済』の9月4日(月)発売号(9月9日号)では、「弁護士・裁判官・検察官」を特集。実態とともに、司法インフラの瓦解の足音をお伝えする。 「お試しで逮捕、起訴なんてことはありえないんだよ。俺たちはいいかげんな仕事はできないんだよ。人の人生狂わせる権力持ってるから、こんなちっぽけな誤審とかで人を殺すことだってできるんですよ。失敗したら腹を切らなきゃいけないんだよ。命かけてるんだよ、俺たちは。あなたたちみたいに金をかけているんじゃねえんだ。金なんかよりも大事な命と人の人生を天秤にかけてこっちは仕事をしてるんだよ。なめるんじゃねーよ。必死なんだよ」 これは大阪地検特捜部の田渕大輔検事(肩書は当時、以下同じ)が、不動産開発会社プレサンスコーポレーションの小林桂樹・執行役員の取り調べで放った言葉だ。2019年12月のことだ』、「俺たちはいいかげんな仕事はできないんだよ。人の人生狂わせる権力持ってるから、こんなちっぽけな誤審とかで人を殺すことだってできるんですよ。失敗したら腹を切らなきゃいけないんだよ。命かけてるんだよ、俺たちは。あなたたちみたいに金をかけているんじゃねえんだ。金なんかよりも大事な命と人の人生を天秤にかけてこっちは仕事をしてるんだよ。なめるんじゃねーよ。必死なんだよ」、何と思い上がった姿勢なのだろう。驚いた。・『人生は狂わされた 田渕の言葉どおり、プレサンスの山岸忍社長の人生は狂わされた。否認をし続けた山岸は248日間勾留された。勾留中に社長を辞任し、自分が創業したプレサンス..
社会
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2024-03-15T18:08:40+09:00
先ずは、昨年9月4日付け東洋経済オンライン「「特捜検察」の暴走、なぜ無罪判決が相次ぐのか ストーリー優先で証拠集め、調書は検事の作文」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/698489
・『司法試験の受験者数が激減。弁護士は「食えない」「AIが代替する」と敬遠され、若き裁判官の離職が相次ぎ、検察官は供述をねじ曲げるーー。『週刊東洋経済』の9月4日(月)発売号(9月9日号)では、「弁護士・裁判官・検察官」を特集。実態とともに、司法インフラの瓦解の足音をお伝えする。 「お試しで逮捕、起訴なんてことはありえないんだよ。俺たちはいいかげんな仕事はできないんだよ。人の人生狂わせる権力持ってるから、こんなちっぽけな誤審とかで人を殺すことだってできるんですよ。失敗したら腹を切らなきゃいけないんだよ。命かけてるんだよ、俺たちは。あなたたちみたいに金をかけているんじゃねえんだ。金なんかよりも大事な命と人の人生を天秤にかけてこっちは仕事をしてるんだよ。なめるんじゃねーよ。必死なんだよ」 これは大阪地検特捜部の田渕大輔検事(肩書は当時、以下同じ)が、不動産開発会社プレサンスコーポレーションの小林桂樹・執行役員の取り調べで放った言葉だ。2019年12月のことだ』、「俺たちはいいかげんな仕事はできないんだよ。人の人生狂わせる権力持ってるから、こんなちっぽけな誤審とかで人を殺すことだってできるんですよ。失敗したら腹を切らなきゃいけないんだよ。命かけてるんだよ、俺たちは。あなたたちみたいに金をかけているんじゃねえんだ。金なんかよりも大事な命と人の人生を天秤にかけてこっちは仕事をしてるんだよ。なめるんじゃねーよ。必死なんだよ」、何と思い上がった姿勢なのだろう。驚いた。
・『人生は狂わされた 田渕の言葉どおり、プレサンスの山岸忍社長の人生は狂わされた。否認をし続けた山岸は248日間勾留された。勾留中に社長を辞任し、自分が創業したプレサンスの株を同業他社に売却した。 ところが山岸の逮捕、起訴は検察の大チョンボだった。田渕は小林にウソの供述をさせていた。大阪地裁はそのことを見抜き、山岸に無罪を言い渡した。検察は控訴を断念した。 飛ぶ鳥を落とす勢いだったプレサンスを経営危機に陥れておきながら、大阪地検から当事者の山岸に謝罪の言葉はまったくない。 厚生労働省の雇用均等・児童家庭局、村木厚子局長事件で無罪を勝ち取った弘中惇一郎弁護士は、近著『特捜検察の正体』の中でプレサンス事件について「大阪地検特捜部は村木事件と同じ過ちを繰り返してしまった」と書いている。) 村木事件をきっかけに導入された取り調べの録音録画がされている中で、田渕は取調室の机をたたき、小林を侮辱し、精神的苦痛を与えた。大阪地裁は「録音録画された中でこのような取り調べが行われたこと自体が驚くべき由々しき事態」と指摘している。 弘中は前出の著書の中で、検察が事件をでっち上げる手法を20に分類している。村木事件など過去に受任した冤罪(えんざい)事件での手法だが、これらは今もなお使われている。 例えばプレサンス事件では「山岸が横領を知っていた」という誤った見立てで証拠集めをした(上表の手法1)。長期勾留し山岸を心身ともに追い込んだ(同9)。 公安警察が立件した大川原化工機事件は検察の手法そのままだ。「生物兵器に転用可能と知っていて不正に輸出した」という誤った見立てをし(手法1)、温度の上がらない箇所があるという客観的・科学的事実には目をつぶり(同2)、警部補が供述調書をひたすら作文した(同3)。調書に「不正に」などの化粧を施して真実らしさを装った(同17)。検察は公安警察の言いなりになって大川原化工機の大川原正明社長らを起訴した』、「弘中は前出の著書の中で、検察が事件をでっち上げる手法を20に分類している。村木事件など過去に受任した冤罪(えんざい)事件での手法だが、これらは今もなお使われている。 例えばプレサンス事件では「山岸が横領を知っていた」という誤った見立てで証拠集めをした(上表の手法1)。長期勾留し山岸を心身ともに追い込んだ(同9)。 公安警察が立件した大川原化工機事件は検察の手法そのままだ。「生物兵器に転用可能と知っていて不正に輸出した」という誤った見立てをし(手法1)、温度の上がらない箇所があるという客観的・科学的事実には目をつぶり(同2)、警部補が供述調書をひたすら作文した(同3)。調書に「不正に」などの化粧を施して真実らしさを装った(同17)。検察は公安警察の言いなりになって大川原化工機の大川原正明社長らを起訴した」、なるほど。
・『最大の武器は人質司法 検察の権力の源泉は何か。元検察官の郷原信郎弁護士は「人質司法が最大の武器だ」と指摘する。 検察は容疑者を逮捕すると48時間拘束できる。裁判所に勾留が認められると10日間拘束でき、再度同じ手続きでさらに10日間延長できる。つまり逮捕から最長で22日間拘束できる。) 起訴されれば法律上は保釈が可能となる。しかしそれは容疑を認めた場合に限られる。否認し続けると起訴後、口裏合わせや証拠隠滅、逃亡のおそれがあるとし、検察は保釈に猛反対する。特捜事件の場合、裁判所は検察に追従する傾向が顕著だ。 なぜ検察は長期勾留で被疑者を追い込むのか。郷原弁護士は「裁判で争わせないようにするためだ」と指摘する。法廷では検察官が罪状を読み上げ、被告が容疑を認める。まるで儀式だ。後は執行猶予をつけるかどうかだけで、検察が負けることはない。刑事事件の有罪率が99.8%と高いことの原因の1つにもなっている。 企業にとって長期勾留の経済的ダメージは大きい。それを見透かして、「罪を認めてさっさと保釈されたほうが得、という考え方をする人もいるよ」と、自白を巧妙に促す検察官もいるくらいだ。 人質司法に頼るあまり特捜検察の質が低下。「刑事事件としての立件の当否を判断する能力が劣ってきている」(郷原弁護士)。誤った見立てで経営者・企業人を逮捕・起訴・長期勾留。供述調書をねじ曲げてきたのが検察の実態だ』、「元検察官の郷原信郎弁護士は「人質司法が最大の武器だ」と指摘する。 検察は容疑者を逮捕すると48時間拘束できる。裁判所に勾留が認められると10日間拘束でき、再度同じ手続きでさらに10日間延長できる。つまり逮捕から最長で22日間拘束できる・・・人質司法に頼るあまり特捜検察の質が低下。「刑事事件としての立件の当否を判断する能力が劣ってきている」(郷原弁護士)。誤った見立てで経営者・企業人を逮捕・起訴・長期勾留。供述調書をねじ曲げてきたのが検察の実態だ・・・企業にとって長期勾留の経済的ダメージは大きい。それを見透かして、「罪を認めてさっさと保釈されたほうが得、という考え方をする人もいるよ」と、自白を巧妙に促す検察官もいるくらいだ」、全く卑劣この上ない検察官だ。
・『検察官同一体の原則 検察庁には「検察官同一体の原則」というものがある。何事も上に伺いを立て、検察官によって違ったことを言ってはならない。 大川原社長は国と東京都を相手に賠償訴訟をしている。その裁判に、大川原社長らを起訴した塚部貴子検事が証人喚問された。別の検事が社長らの起訴を取り消しているというのに、塚部は「当時の判断に間違いがあったとは思わない」とし、謝罪しなかった。 証人台の塚部をほぼ正面の原告席から見ていた大川原社長には「言いたくないことを言わされているたびに検事の顔色が赤黒く変わったように見えた。個人の意思を抑えてしまうからダメなんだ。上司に『違う』と言える検察組織にしていかないと、国としてやばい」。大川原社長は組織を率いる企業経営者として、検察という組織のいびつさを危惧している。(一部敬称略)』、「大川原社長らを起訴した塚部貴子検事が証人喚問された。別の検事が社長らの起訴を取り消しているというのに、塚部は「当時の判断に間違いがあったとは思わない」とし、謝罪しなかった。 証人台の塚部をほぼ正面の原告席から見ていた大川原社長には「言いたくないことを言わされているたびに検事の顔色が赤黒く変わったように見えた。個人の意思を抑えてしまうからダメなんだ。上司に『違う』と言える検察組織にしていかないと、国としてやばい」。大川原社長は組織を率いる企業経営者として、検察という組織のいびつさを危惧している」、その通りだ。
次に、本年3月8日付けダイヤモンド・オンラインが転載した弁護士ドットコムニュース「警察の「やりすぎ職務質問」5時間拘束!塩を“薬物”と誤解、尿検査シロでも…これ違法?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340025
・『職務質問を受けて荷物を見せたら、財布の中に入れていた「お清めの塩」を違法薬物と勘違いされ、尿検査をする羽目になった――。このような体験をした人から、弁護士ドットコムに「さすがに行き過ぎでは」との相談が寄せられている。 相談者によると、警察は財布の中の「塩」をみつけると、簡易検査をしたという。結果は陰性だったが「塩だとの確証がない」との理由で警察署に連行され、写真を撮られたり、書類を書かされたりしたそうだ。尿検査も陰性だったが、解放されたのは職務質問を受けてから5時間後だったという。 「高圧的な態度をとられて精神的にも苦痛だったが、謝罪の一言もなかった」と相談者は憤りを感じている様子だ。警察に苦情を申し立てる術はないのか。警視庁刑事としての経験も有する澤井康生弁護士に聞いた。Qは聞き手の質問、Aは澤井康生弁護士の回答)』、「職務質問を受けて荷物を見せたら、財布の中に入れていた「お清めの塩」を違法薬物と勘違いされ、尿検査をする羽目になった・・・結果は陰性だったが「塩だとの確証がない」との理由で警察署に連行され、写真を撮られたり、書類を書かされたりしたそうだ。尿検査も陰性だったが、解放されたのは職務質問を受けてから5時間後だったという」、なるほど。
・『警察官の対応「ただちに違法性は認められない」 Q:今回の警察の対応に法的な問題はないのでしょうか。 A:警察官がおこなった措置は、職務質問とそれに付随する所持品検査ならびに尿検査になります。職務質問は警察官職務執行法2条1項に基づき、警察官が対象者の人定事項などを質問する行為です。強制力はないので、あくまで任意ということになります。 所持品検査については明文規定はありませんが、最高裁の判例によれば、職務質問に付随しておこなうことができるとされています(最高裁昭和53年6月20日判決)。こちらも原則として強制力はなく、あくまで任意ということになります。 警察官は職務質問から始めて所持品検査をおこなった結果、違法薬物と疑われる白い粉末が出てきたことから警察署への任意同行を求め、任意での尿検査をおこなっています。すべての手続きは対象者の同意を得て任意でおこなっているため、違法性は認められません。 Q:相談者によると、簡易検査(あるいは予試験:薬物簡易試験)の結果は陰性だったとのことです。 A:警察官は検査の結果だけではなく、自供、対象物の状況、色、包装、所持態様、対象者の身体的状況など他の状況証拠を総合的に判断して、嫌疑の有無を判断することになります。 今回のケースの具体的な状況は不明ですが、簡易検査の結果は「陰性」だったものの他に不審事由があったのかもしれません。ここまでのプロセスについては、ただちに違法性は認められないといえるでしょう』、「警察官は職務質問から始めて所持品検査をおこなった結果、違法薬物と疑われる白い粉末が出てきたことから警察署への任意同行を求め、任意での尿検査をおこなっています。すべての手続きは対象者の同意を得て任意でおこなっているため、違法性は認められません」、なるほど。
・『5時間の留め置き「違法」の可能性も… Q:相談者は、職務質問を受けてから5時間後にようやく解放されたようです。長時間その場に留め置くことは、法的に問題ないのでしょうか。 参考判例として、神戸地裁姫路支部令和2年6月26日判決があります。覚醒剤の自己使用の事案について、警察署に任意同行された後に帰宅の意思を表示したにもかかわらず、6時間以上にわたって留め置きされた行為の違法性が問題となった事案です。 裁判所は、捜査の適法性の判断基準として「時系列的に必要性、緊急性なども考慮した上、具体的状況のもとで相当と認められる限度内にあるか否かを判断する」としました。 そのうえで、本人が強く帰宅を求めたのであれば、いったん帰らせたうえで追尾などの他の手段を考えることなく本人を留め置いた行為は「任意捜査として許容される留め置きの限度を超えている」と示しました。 この裁判例は、本人が実際に覚醒剤を自己使用し、強制採尿令状の請求に着手していた事案です。対して、今回のケースは覚醒剤ではなく「塩」なので、捜査の必要性、緊急性は高いとはいえないでしょう。 具体的な状況はわかりませんが、相談者が帰宅の意思を明確に示していたにもかかわらず、5時間にわたり留め置いた場合であれば、違法と判断される可能性も否定はできません。 Q:警察官の対応に疑問を感じた場合、苦情を申し立てることはできますか。 A:はい。警察法79条の規定に基づき、公安委員会に対して書面により、苦情の申し出ができます。公安委員会は誠実に処理し、処理結果を書面で申出者に通知するとされています』、「相談者が帰宅の意思を明確に示していたにもかかわらず、5時間にわたり留め置いた場合であれば、違法と判断される可能性も否定はできません。 Q:警察官の対応に疑問を感じた場合、苦情を申し立てることはできますか。 A:はい。警察法79条の規定に基づき、公安委員会に対して書面により、苦情の申し出ができます。公安委員会は誠実に処理し、処理結果を書面で申出者に通知するとされています」、なるほど。
第三に、3月15日付けダイヤモンド・オンラインが転載した弁護士ドットコムニュース「ロースクール制度は「文科省と法務省の設計ミスが一番の失敗」柴山昌彦・元文科相が激白」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340458
・『2024年3月に開校20年を迎えるロースクール(法科大学院)は、スタート直後こそ多様な人材が集まったものの、次第に入学者数は減り、司法試験の受験者数も低迷した。 これを受けて、国は2019年、法学部3年とロースクール2年の教育課程「法曹コース(いわゆる3+2)」を新設するとともに、「在学中受験」を可能にするなど、法曹志願者数の回復に向けて“テコ入れ”を図った。この時、ロースクールを所管する文部科学省で大臣を務めていたのが弁護士出身の柴山昌彦衆議院議員だ。 脱サラ後司法試験に合格するまで7年かかったという柴山氏は、「博打のような司法試験の結果一発」ではなく「卒業できれば7~8割の人が合格できる『プロセスによる選抜』」を実現し得る存在として、ロースクールには当初大きな期待を寄せていたという。 しかし、いざ始まった新司法試験では合格率が5割超えすら1度もなく、20%台の低空飛行が続いた。 「文部科学省と法務省が初めにしっかり制度設計をしておかなくてはいけなかったことが一番の失敗」と話す柴山氏に、この20年の振り返りとこれからの法曹養成について聞いた。(Qは聞き手の質問、Aは柴山氏の回答)』、「「博打のような司法試験の結果一発」ではなく「卒業できれば7~8割の人が合格できる『プロセスによる選抜』」を実現し得る存在として、ロースクールには当初大きな期待を寄せていたという。 しかし、いざ始まった新司法試験では合格率が5割超えすら1度もなく、20%台の低空飛行が続いた・・・「文部科学省と法務省が初めにしっかり制度設計をしておかなくてはいけなかったことが一番の失敗」と話す柴山氏」、なるほど。
・『一番の失敗は「当初の制度設計」 Q:柴山議員は民間企業での勤務を経て旧司法試験を合格して弁護士になっています。2004年のロースクール開校をどのように見ていましたか。) A:私が大学生だった1980年代は旧司法試験の合格率が1%台の年もあり、10~20年受験している人も珍しくありませんでした。当時の国会でも問題になって、「人生を空費して社会的な損失だ」などと言われてました。 私も民間企業を辞めてから最終合格まで7年かかりましたが、やはり大変厳しい思いをしましたし、不合格を繰り返すことはメンタル的にも非常に辛かった。「司法試験は博打」だと本当に思っていました。 博打と思わせるほど難関な試験に合格する人たちの集団という要素が法曹の社会的地位を高めていたというのはあると思います。 しかし、私に言わせれば、その“既得権益”の上にいる法曹は新しい時代の要請、特に国際的なニーズに応えられていなかった。早くから「このままではだめだ」「司法試験の結果のみという点ではなく、司法試験を受験するまでのプロセスを線で評価すべき」という声はたくさん出ていたにもかかわらずです。 若年層の合格者を増やすことも大事だと思っていましたので、ロースクールの導入及び合格者の拡大で、プロセスによる選抜で若い人たちが合格しやすくなるとともに、法曹人口が増え、多様性や競争によって“既得権益”が打破され業界全体がより活性化するのではないか。そんな思いでロースクールには非常に期待していました。 Q:開校初年度は社会人経験者が半数近く入学するなど、多様な人材の確保・育成に向けて好スタートを切ったかのように見えました。 A:アメリカのロースクール生は、入学してからものすごく勉強します。過酷と言われるほどの学生生活を送るようですが、そこまで頑張らないと卒業させてもらえません。その代わり、卒業できた人は7~8割が司法試験で合格できる。 日本のロースクールでも質の高い、そして進級が難しい厳格な評価をして、卒業できた人は同じように7~8割が合格する。そうなることを期待していましたし、当初はそうなる予定だったはずです。 社会人経験者の入学者もこれまでのキャリアを捨てても7~8割が合格できるならと、ロースクールの門を叩いた人はいたと思います。 Q:いざ新司法試験が始まってみると、初年度の合格率が48.3%で徐々に低下し、4回目からの10年ほどは20%台の低空飛行が続きました。 A:忸怩(じくじ)たる思いです。 雨後の筍のように、大学側が儲かるからといって猫も杓子もロースクールを作るということは想定できていなかったと思います。 決められた合格者数に対して多くのロースクールが作られれば、「司法試験合格者数」というデジタルな数値で綺麗にランク付けされてしまいます。合格率の高低でロースクール間に序列ができることは間違いないし、合格率の低いロースクールは淘汰されざるを得ない宿命にある。 こんなことはわかっていたことですから、私はロースクールができた当初から、「手厚い在校生への支援」と「厳格な評価」の両輪でやっていくべきだと思って教育行政に携わってきましたし、ロースクールの質の確保と再編は絶対必要だと文科省に再三訴えていました。 ところが、文科省の再編の動きは極めて鈍かった。結局ロースクールの再編・統合の動きは鈍く、司法試験を実施している法務省は法曹の質を確保する方向で動いた結果、理想と現実の間にものすごいギャップが生まれてしまいました。 Q:質の確保についてはどうでしょうか。 A:十分に確保できる仕組みでスタートしたとは言い難いと思います。 A:法曹養成の仕組みは基本的にアプレンティスシップ(徒弟制度)で、司法試験を合格した新人はいわば「丁稚」です。司法修習では検察庁や裁判所で実務の“修行”をおこないますが、起案書を出すと、ズタズタになって直されます。 修習を終えた後も同様です。新人は叩かれしごかれて、時間をかけて真のプロフェッショナルになっていくものなんです。にもかかわらず、いきなり新人が急増したら、徒弟制度で育てることなんてできるわけがない。 私自身は法曹人口を増やすべきだという立場ですが、それでも法曹養成の宿命、つまりしっかりと育て上げるというアプレンティスシップな仕組みの中で、急激な拡大というのは物理的に無理があったと考えています。 結局、弁護士人口を増やしたけれども、既存の法律事務所ではとても抱えきれない状況になり、修習後にいきなり独立(即独)する人も出ました。司法研修所を出ただけで、指導してくれる人もいない中いきなり競争にさらされれば、質を高める余裕なんてありません。 弁護士需要と供給の拡大、法科大学院の再編統合、これらの要素をきちんとグリップをきかせて計画を立てていくことが必要だったのではないでしょうか。 合格率についても同様です。 当初の目標では合格者数3000人、合格率7~8割という数値が掲げられていました。単純な数値上の話ではありますが、たとえばロースクール入学者数を4000人前後に絞れば達成できそうに思われます。 しかし、実際には全国で最大74校ものロースクールが開校し、制度開始から数年は入学者数が5500人を上回る一方、合格者数は最大で2000人を少し上回る数にとどまりました。これでは合格率7~8割が実現するはずもありません。 ロースクールの校数や入学者数といった全体の総量をどうするか。文部科学省と法務省がこの点を初めにしっかり制度設計をしておかなくてはいけなかった。これが一番の失敗だと思います。
「当初の目標では合格者数3000人、合格率7~8割という数値が掲げられていました。単純な数値上の話ではありますが、たとえばロースクール入学者数を4000人前後に絞れば達成できそうに思われます。 しかし、実際には全国で最大74校ものロースクールが開校し、制度開始から数年は入学者数が5500人を上回る一方、合格者数は最大で2000人を少し上回る数にとどまりました。これでは合格率7~8割が実現するはずもありません』、「ロースクールの校数や入学者数といった全体の総量をどうするか。文部科学省と法務省がこの点を初めにしっかり制度設計をしておかなくてはいけなかった。これが一番の失敗だと思います」、なるほど。
・『Q:法曹人口を増やすべきだという立場とのことですが、どの程度必要だと考えていますか。 A:具体的な数値を申し上げるのは難しいですが、国民性や法の浸透度というのが無関係ではないと思います。国民がどれほど法的サービスを具体的に求めているのか。法曹の数が、人口比でアメリカに比べて何倍も少ないというような単純な比較はすべきでありません。 ただ、国民性が違うとはいっても、これだけ社会がグローバル化していく中、丁々発止で訴訟などで海外と渡り合うためには、国際法に強い人材を含め、法曹の質と量を充実させることはすごく重要だと思っています。 また、国内でも法曹人口が十分でない地域もあります。それによってもし泣き寝入りしている弱い立場の方が一人でもいるとすれば、それはとても不幸なことですし、やはり法曹はまだまだ日本では足りていないと考えています』、「これだけ社会がグローバル化していく中、丁々発止で訴訟などで海外と渡り合うためには、国際法に強い人材を含め、法曹の質と量を充実させることはすごく重要だと思っています。 また、国内でも法曹人口が十分でない地域もあります。それによってもし泣き寝入りしている弱い立場の方が一人でもいるとすれば、それはとても不幸なことですし、やはり法曹はまだまだ日本では足りていないと考えています」、なるほど。
・『法曹コース創設や在学中受験の実現「理想に一歩近づいた」 Q:ロースクールは現在34校と最盛期の半分以下になるなど状況は変化しています。柴山議員が文部科学大臣だった際、「法曹コース(3+2)」を創設し、ロースクール在学中の受験も可能にしました。 ロースクール進学者数の低迷は、結局のところ、「ロースクールに魅力がない」と見られているからです。卒業しても司法試験に合格できるかどうかわからないうえ、膨大な時間と費用がかかる。メリットが少ないのに負担が多いものを選ぶ人はなかなかいないですよね。 優秀な人材であれば短い期間で合格できる仕組みを作って、「この仕組みで卒業した人はなかなかいい」と評価されるようにすることは、絶対やらなくてはいけないと思っていました。 「3+2」については、時間と費用のデメリットを抑えつつ、司法試験を受験するまでのプロセスを線で評価する仕組みを維持する形として、予備試験の存在をすごく意識しました。 Q:2023年の司法試験では法曹コースの学生が初めて在学中受験をし、合格率は「65.24%」。2022年度の既修者コースを修了した者の合格率「62.82%」、既修者コースに通う在学中受験者全体の合格率「63.31%」をわずかに上回りました。 A:手前味噌ですが、「ロースクールのあるべき理想に一歩近づいた」と自負しています。法曹コースへの進学を考えている方々がこの数字を見てどう感じるかだと思います。ただ、予備試験を経由した人の9割以上が合格していることもまた事実です。 法曹コースに進むと勉強に追われ過ぎるという声もありますが、その分学費の奨学金化や成績優秀者の学費減免などを実施するなど十分なメリットを用意し、法曹コースでしっかり成績を残した人は高い合格率でしかも早く法曹資格を得られる、という道筋をぜひつけてほしいと期待しています。そのために在学中受験も可能にしたわけですから。 Q:法曹コース進学は法学部での教育とセットになっているため、社会人経験者などは事実上入れません。 社会人から転身して弁護士として第2の道を歩みたいという方に大勢集まってもらいたいというのが、ロースクール開校当初の理想だったわけですから、そういった方々にとって魅力あるロースクールでなくてはならないというのは今後の大きな課題だと認識しています』、「2023年の司法試験では法曹コースの学生が初めて在学中受験をし、合格率は「65.24%」。2022年度の既修者コースを修了した者の合格率「62.82%」、既修者コースに通う在学中受験者全体の合格率「63.31%」をわずかに上回りました。 A:手前味噌ですが、「ロースクールのあるべき理想に一歩近づいた」と自負しています。法曹コースへの進学を考えている方々がこの数字を見てどう感じるかだと思います。ただ、予備試験を経由した人の9割以上が合格していることもまた事実です」、なるほど。
・『予備試験の存在「その実益は否定し得ない」 Q:予備試験の位置づけはどう考えていますか。 A:法曹コースであってもロースクールに通えない事情の方もいるでしょうから、あらゆる人に門戸を開くという観点から、補充的な形では今後も残していくべきものだと思います。ただ、今のままの仕組みで続けていくかは、もう少し精査する必要があるかもしれません。 Q:具体的には何を精査する必要があるのでしょうか。 A:予備試験はロースクールを経て受験するコースに対する補充的な意味の位置づけだと考えていますし、合格者数からして現状もその役割で落ち着いています。 司法試験の受験資格を得られるという点で、ロースクールを卒業したのと同等の学力が認められるというのが制度上の建前ですが、本当に同等といえるのかどうか。ロースクールと予備試験のいずれかに法曹志望者が偏るのならば、志望者の実力(レベル)で調整することを考えるのも一案です。 私が受験生時代に、旧司法試験の多浪を防ぐため、受験回数の制限が議論されました。結果として、回数制限ではなく受験回数による特別合格枠、いわゆる「丙案」制度が1996年の試験から導入されました。 受験回数3回までの受験生を優先的に合格させることで合格者の若年化を図るというものです。受験回数の少ない受験生にとっては恩恵ですが、その裏で、合格できる順位だった多浪生がはじかれていました。 たとえば、合格者1000人で特別合格枠が200人だった場合、制度対象外の受験生だと、試験結果の順位は801番目でも、1001~1200番目が全員制度対象の受験生だったらそちらが優先され、実力では801番目でも不合格ということになっていました。同じ司法試験を受けても、受験者の属性によって最低点が違っていたわけです。 「丙案」制度には様々な批判もありましたし、その後合格者がさらに増えたことで2004年以降は廃止されましたが、個人的には、異なる経路や経験によって合否の結果が変わってくることは政策的にあり得ないことではないと思っています。 Q:仕事を辞めるリスクまではとれない社会人にとって、予備試験は重要な選択肢になっているように見受けられます。 A:その実益は否定し得ないと思います。また、予備試験に合格できる実力があるならば、その道が最短であることも事実です。ただし何度も申し上げますように、予備試験はあくまで補充的という位置づけです。) Q:法曹界の採用では、若い合格者が優遇される傾向にあります。 A:多様な人材が活躍する法曹界を目指すという理念からすれば、間違いなく本末転倒な事態だと思っています。 脱サラして弁護士になった身としては、弁護士からサラリーマンやキャリア公務員になる、サラリーマンやキャリア公務員が弁護士になる、というような法曹という職を軸にしたキャリアのリボルビング(回転)が、これからもっと必要になってくると思うんです。 そういった人材を養成する場としてロースクールが一定の役割を果たすというのが私の理想です。 法曹コースを出て20代半ばで判事補になって、ずっと裁判官としてキャリアを積んでいくという道が駄目だと言っているわけではありません。でも最高裁判事を見ても、弁護士や検察官からなる人もいれば、外交官や法学者からなる人もいます。そういう多様性が法曹界でもっと広くあっていいのではないでしょうか。 裁判所や検察庁、大手法律事務所などの採用側が、もう少し長期的なビジョンを持って、年齢だけでなく、真に有益な人材を採用してほしいと思います。 法律の世界でも専門分野の細分化が著しく進んでいます。法律の知識だけで解決できる問題ばかりではありません。たとえば建築関係の紛争で1級建築士の資格を持つ弁護士がいたり、医療訴訟で医師免許を持つ弁護士がいたりすることが紛争解決にどれほど有益か。「国民のための司法」という観点からも、異分野の専門知識を持つ法曹がいることは大変望ましいことです。 Q:法曹養成のあり方について、国は今後どう向き合っていくのでしょうか。 A:既に令和6年度の予算は閣議決定をされ、所属する自民党では重点要望項目などを審査しています。国際情勢を踏まえたバランス感覚と法的思考能力をあわせ持つ人材を広く確保育成する方針です。 検察官出身の赤根智子さんが2018年、日本の法曹として初めて国際刑事裁判所(ICC)判事に就任しましたが、これからも国際的な分野で活躍できる法曹をしっかりと養成していくためには、幅の広いバッググラウンドをもった法曹が必要だろうと思っています。 また、裁判所の予算についても、これまでの37億円から57億円に増額されます。ロースクール制度の今後の在り方については引き続き、政府としてまた国会として取り組まなければならない重要な課題だと認識しています。 Q:法曹養成の課題について、国会内での盛り上がりはどうでしょうか。 A:残念ながら国会内で問題意識を熱心に取り組んでいる議員は多くありません。 法務と文科の両方に取り組んでいた方々は問題意識を強く持ってくださっています。問題意識が高い人たちで国家の様々な改革を後押ししていくことが大事だろうと思います。 法務省と文部科学省とではカルチャーが違います。そこを統べて物事を進めるためには、政治のイニシアチブが必要だと認識しています。 私の大臣時代におこなったロースクール改革も大きなものだったと思っていますし、何とかうまくものにしていけばいいのではないかという見通しが立ったのではないかと自負しています。「柴山の言うことなんて当てになんないよ」と言われるかもしれませんけどね(笑)。 Q:立法府の一員である柴山議員はどう取り組んでいくつもりでいますか。 A:私は現在、党の政調会長代理で、政務調査会での重点担当分野として大臣をしていた文部科学省分野と法務分野が割り当てられており、法曹養成と向かい合えるポジションにいます。 質・量・多様性、この3つをキーワードとして法曹養成にこれからもしっかりと関わっていきたいと考えています』、「弁護士からサラリーマンやキャリア公務員になる、サラリーマンやキャリア公務員が弁護士になる、というような法曹という職を軸にしたキャリアのリボルビング(回転)が、これからもっと必要になってくると思うんです。 そういった人材を養成する場としてロースクールが一定の役割を果たすというのが私の理想です・・・最高裁判事を見ても、弁護士や検察官からなる人もいれば、外交官や法学者からなる人もいます。そういう多様性が法曹界でもっと広くあっていいのではないでしょうか。 裁判所や検察庁、大手法律事務所などの採用側が、もう少し長期的なビジョンを持って、年齢だけでなく、真に有益な人材を採用してほしいと思います・・・法務省と文部科学省とではカルチャーが違います。そこを統べて物事を進めるためには、政治のイニシアチブが必要だと認識しています」、ずれにしろ、「ロースクール」の役割が当初想定されたのとは、大きく異なっている。ここでもう一度、今後の在り方を冷静に考え直す時期に来ているのではなかろうか。
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ホテル(その7)(【無料公開】アパが電鉄系を大量買収!「ゾンビ化ホテル」に突き付けられる3つの究極の選択、アパホテル「コロナ禍の逆風でも業績好調」の戦略 「直販+ダイナミック・プライシング」で成功、シャトレーゼホテルに「汚部屋」批判…ホテル再生には“性悪説”が重要だ)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-14
ホテルについては、昨年7月31日に取上げた。今日は、(その7)(【無料公開】アパが電鉄系を大量買収!「ゾンビ化ホテル」に突き付けられる3つの究極の選択、アパホテル「コロナ禍の逆風でも業績好調」の戦略 「直販+ダイナミック・プライシング」で成功、シャトレーゼホテルに「汚部屋」批判…ホテル再生には“性悪説”が重要だ)である。先ずは、昨年8月2日付けダイヤモンド・オンライン「【無料公開】アパが電鉄系を大量買収!「ゾンビ化ホテル」に突き付けられる3つの究極の選択」を紹介しよう。https://diamond.jp/articles/-/305778・『アパグループが電鉄系ビジネスホテルを大量買収するなど攻勢をかけている。アパにとってコロナ危機はチャンスでもあった。一方で宿泊客激減でゾンビ化したホテルは、ピンチを前に「三つの究極の選択肢」を突き付けられている。特集『ホテルの新・覇者』(全18回)の#14では、ゾンビ化ホテルの今後に迫る』、興味深そうだ。・『アパにチャンス到来 電鉄系ビジネスホテルを買収 新型コロナウイルスの感染拡大により、電鉄会社のホテル売却が相次いだ。本業の鉄道における収益が伸び悩む中、インバウンド需要を当て込んで建てたビジネスホテルの事業が赤字に転落して足を引っ張ったためだ。 ホテル大手のアパグループにとってはチャンス到来。立て続けに電鉄会社のビジネスホテルを買収した(次ページに「アパグループが取得した電鉄系ホテル」のリストを掲載)。 次ページでは、アパがなぜ当該の電鉄系ホテルを選んで買ったのか、その詳細を明らかにする。さらに、宿泊客激減でゾンビ化したホテルが突き付けられている「三つの究極の選択肢」を示す』、「インバウンド需要を当て込んで建てたビジネスホテルの事業が赤字に転落して足を引っ張ったためだ・・・アパグループにとってはチャンス到来。立て続けに電鉄会社のビジネスホテルを買収した」、なるほど。・『京急と西鉄がホテルを売却 「所有直営」だから選択できた アパグループはコロナ禍以降、京浜急行電鉄から「京急EXイン羽田・穴守稲荷駅前」と「京急EXイン浅草橋駅前」(いずれも東京都)の2軒、西日本鉄道から「西鉄イン蒲田」(東京都)、「西鉄イン名古屋錦」(名古屋市)、「西鉄イン心斎橋」(大阪市)の3軒を買収した。 アパホテルの空白地帯にあったもの、自社ホテルと競合するエリアにあったものなどで、いずれもアパホ..
産業動向
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2024-03-14T21:05:08+09:00
先ずは、昨年8月2日付けダイヤモンド・オンライン「【無料公開】アパが電鉄系を大量買収!「ゾンビ化ホテル」に突き付けられる3つの究極の選択」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305778
・『アパグループが電鉄系ビジネスホテルを大量買収するなど攻勢をかけている。アパにとってコロナ危機はチャンスでもあった。一方で宿泊客激減でゾンビ化したホテルは、ピンチを前に「三つの究極の選択肢」を突き付けられている。特集『ホテルの新・覇者』(全18回)の#14では、ゾンビ化ホテルの今後に迫る』、興味深そうだ。
・『アパにチャンス到来 電鉄系ビジネスホテルを買収 新型コロナウイルスの感染拡大により、電鉄会社のホテル売却が相次いだ。本業の鉄道における収益が伸び悩む中、インバウンド需要を当て込んで建てたビジネスホテルの事業が赤字に転落して足を引っ張ったためだ。 ホテル大手のアパグループにとってはチャンス到来。立て続けに電鉄会社のビジネスホテルを買収した(次ページに「アパグループが取得した電鉄系ホテル」のリストを掲載)。 次ページでは、アパがなぜ当該の電鉄系ホテルを選んで買ったのか、その詳細を明らかにする。さらに、宿泊客激減でゾンビ化したホテルが突き付けられている「三つの究極の選択肢」を示す』、「インバウンド需要を当て込んで建てたビジネスホテルの事業が赤字に転落して足を引っ張ったためだ・・・アパグループにとってはチャンス到来。立て続けに電鉄会社のビジネスホテルを買収した」、なるほど。
・『京急と西鉄がホテルを売却 「所有直営」だから選択できた アパグループはコロナ禍以降、京浜急行電鉄から「京急EXイン羽田・穴守稲荷駅前」と「京急EXイン浅草橋駅前」(いずれも東京都)の2軒、西日本鉄道から「西鉄イン蒲田」(東京都)、「西鉄イン名古屋錦」(名古屋市)、「西鉄イン心斎橋」(大阪市)の3軒を買収した。 アパホテルの空白地帯にあったもの、自社ホテルと競合するエリアにあったものなどで、いずれもアパホテルにリブランドして最近リニューアルオープンした』、「京浜急行電鉄から「京急EXイン羽田・穴守稲荷駅前」と「京急EXイン浅草橋駅前」(いずれも東京都)の2軒、西日本鉄道から「西鉄イン蒲田」(東京都)、「西鉄イン名古屋錦」(名古屋市)、「西鉄イン心斎橋」(大阪市)の3軒を買収した」、なるほど。
・『アパが電鉄系を大量買収!「ゾンビ化ホテル」に突き付けられる3つの究極の選択 赤字を垂れ流して今後も厳しい状況が続く、あるいは完成直前ないし直後にコロナ禍がぶつかりオープンの見通しが立たないことで“ゾンビ化”したホテル――。そうしたホテルを抱える企業は今後どうするか決断を迫られている。 京急や西鉄のように「物件を売却」するのが一つ目の選択肢になる。ただし、この手が使えるのは土地と建物がワンセットになっている場合に限られる。 下図のように、主なホテル運営の方式には「所有直営方式」と「賃貸(リース)方式」がある。 (図表:ホテルの所有と賃貸の仕組み はリンク先参照) 所有直営方式では、土地・建物のオーナーが自ら運営する。この方式のメリットは、自らオーナーとなるため、土地・建物の賃料を払わなくていいこと。不動産取得費用は通常、金融機関からの借り入れで賄われる。そのため資金調達が必要で、短期間でのチェーン展開がしにくいというのがデメリットだ。 この方式なら、電鉄会社のようにホテルを切り売りして手元キャッシュを賄い急場をしのげる。多額の借金が残っている新築物件などは売ってもマイナスになる場合もあるが、早めに手放すことでキャッシュがこれ以上流出していくのを防ぐ手だてとなる。つまり「損切り」である。 収益用マンション開発を本業とする不動産会社、第一リアルターは大胆に損切りを決断した。同社はインバウンド需要の追い風を受け、ビジネスホテルを建てて完成後に投資家に売るという事業に乗り出していた。このホテル建て売りビジネスに2000億円以上を投じ、50棟以上のホテルを建て、業績を急激に伸ばした。「その分野では日本トップだった」と同社の奈良田隆社長は自負する。 ところが、投資したうちの1500億円分程度まで売却が終わったところでコロナ禍に直面した。ここで奈良田社長は買った土地をすぐ損切りしてでも売却すると決め、残っていた建設計画をストップした。「当社は未上場で業績予想を出す必要がない。だから自分で考えられるリスク・リターン分析だけでやれた」と奈良田社長。インバウンド需要で数百億円の利益を得ていたことに加え、コロナ禍の初期段階で“止血”したからこそ「何とか生き残れた」という』、「第一リアルターは大胆に損切りを決断した。同社はインバウンド需要の追い風を受け、ビジネスホテルを建てて完成後に投資家に売るという事業に乗り出していた。このホテル建て売りビジネスに2000億円以上を投じ、50棟以上のホテルを建て、業績を急激に伸ばした。「その分野では日本トップだった」と同社の奈良田隆社長は自負する。 ところが、投資したうちの1500億円分程度まで売却が終わったところでコロナ禍に直面した。ここで奈良田社長は買った土地をすぐ損切りしてでも売却すると決め、残っていた建設計画をストップした。「当社は未上場で業績予想を出す必要がない。だから自分で考えられるリスク・リターン分析だけでやれた」と奈良田社長。インバウンド需要で数百億円の利益を得ていたことに加え、コロナ禍の初期段階で“止血”したからこそ「何とか生き残れた」という」、賢明な手仕舞いだ。
・『「リース方式」の会社はホテル切り売りを選択できない ホテル運営には賃貸(リース)方式もある。 ホテル会社は、不動産を持たずにオーナーから土地や建物を借りて運営する。メリットは、短期間でのチェーン展開がしやすいこと。しかし、宿泊客がゼロでもオーナーに一定の賃料を支払うという契約になっていることが多く、コロナ禍のようなケースではたちまち赤字に陥ってしまうデメリットがある。 リース方式で運営しているホテル会社は不動産がないため、ホテルを切り売りするという選択ができない。また、更地を借りてホテルは自ら建てようとしていた場合、コロナ禍で建物を建てられずに収益を出す見通しが立たないまま、地代家賃だけをオーナーに支払い続けることになるケースも。 インバウンドやビジネスの需要が戻るまで雇用調整助成金やコロナ融資などで食いつないだとしても、借り入れが膨らみ、コロナ禍が終息してもその返済に追われることになる。返済が追い付かず、金融機関が返済猶予や追い貸しに応じなくなった瞬間、息が続かなくなってしまう。 そのとき迫られる二つ目の選択肢が会社の売却、つまり「身売り」だ』、「迫られる二つ目の選択肢が会社の売却、つまり「身売り」だ」、なるほど。
・『「リース方式」のホテル会社は身売りも難しい THEグローバル社の身売りは、世間でも話題になった。同社は京都市を中心に、2016年ごろからインバウンド向けのホテルを仕込んで建てまくり、飛ぶ鳥を落とす勢いで業績も急上昇した。 だがコロナ禍で一転、大赤字に。中国平安保険グループとSBIホールディングスが大株主である、マンションデベロッパーのアスコットに買収され、その軍門に下った。 ここで注意を払いたいのは、THEグローバル社に切り売りできる不動産があったからこそ身売りができたという点だ。 一方、ホテルバブルで業績を伸ばしてきた多くのホテル会社はリース方式で、オーナーに固定賃料を支払うために借金を重ねてきた。宿泊料収入がなくなれば、たちまち返済に行き詰まる。 それを投資家も分かっているから、オーナーとの賃料減額交渉が成立しているといったポジティブな要素でも見いだせない限り、リース方式のホテル会社は買わない。 リース方式の会社は身売りも難しいのだ』、「リース方式の会社は身売りも難しいのだ」、なるほど。
・『第三の選択はオフィスなどへの「用途転換」 三つ目の選択肢は、用途をホテル以外に変更する「用途転換(コンバージョン)」だ。 ホテル・旅館売買仲介業務やマーケット分析などを手掛けるバンガード・パートナーズには、日々売り物件の情報が入ってくる。だが、「ビジネスホテルでいい物件はあまりない」と、同社の檜山宗孝社長は言う。 「いい物件はあまりない」というのは価格面、ハード面の両方に当てはまる。価格面では売却希望価格が高く、買い手が出せる金額とのギャップが大きい。売り主はなるべく損切りしたくないため、価格を下げたがらないのだ。 ハード面では、近年造られた新しいものであっても魅力に乏しいものが多い。というのも、客室面積が小さいものが多く、今後の需要の取り込みを期待できないからだ。 ビジネスホテルは供給過多な上に、出張需要はコロナ禍前のレベルに戻らないと見立てるホテル関係者は多い。そうなると1~2人用客室の利用者は限られ、インバウンドからの3~5人用客室のニーズの方が強くなる。実際、損切りを行った第一リアルターの奈良田社長も今後、客室が広めの新たなタイプのホテル開発にチャンスを見いだしている。 バンガード・パートナーズでは最近、ビジネスホテルが供給過多の京都市で、あるホテル売却に携わった。本業が別にあって、ホテルがもうかるからちょっとやってみようという安易な考えで手を出してしまった揚げ句、失敗したというケースだ。 それでも売れればまだましだ。京都市で売りに出ている物件の中には、明らかにインバウンド狙いで住宅地に建ててしまったホテルもある。そうしたホテルは不便な場所にあるなど立地が悪く、コロナ禍以降、いまだに閉じられたままだ。 ホテルとしては価値がなく、そのままでは買い手もつかないという窮地に陥り、オフィスビルに用途転換するケースも出てきた。「客室の天井高がそれなりにあればオフィスにはできる」と檜山社長。もっとも、「採光の問題などから住宅への転用は基本的に難しい」という。 現状で需要は見込めそうもないが、ホテルとして続けたい、あるいは他への用途転換が難しい場合、ベッド数を増やしてファミリー層を取り込むなど顧客のターゲットを変えるといった策もあるにはある。だが、客室面積が小さいホテルではこれができないから、なかなか買い手がつかない。 究極ともいえる三つの選択肢。このどれも実行できなければ、残された道は倒産である。コロナ禍前から事業の急拡大によって多額の有利子負債を抱えていたり、競争激化で業績が低迷していたところは、ことさら危ない』、「ビジネスホテルは供給過多な上に、出張需要はコロナ禍前のレベルに戻らないと見立てるホテル関係者は多い。そうなると1~2人用客室の利用者は限られ、インバウンドからの3~5人用客室のニーズの方が強くなる。実際、損切りを行った第一リアルターの奈良田社長も今後、客室が広めの新たなタイプのホテル開発にチャンスを見いだしている・・・客室面積が小さいホテルではこれができないから、なかなか買い手がつかない。 究極ともいえる三つの選択肢。このどれも実行できなければ、残された道は倒産である。コロナ禍前から事業の急拡大によって多額の有利子負債を抱えていたり、競争激化で業績が低迷していたところは、ことさら危ない」、「ビジネスホテル」を取り巻く環境は厳しそうだ。
次に、8月22日付け東洋経済オンラインが掲載したボナ・ヴィータ代表取締役、BBT大学教授(マーケティング)の菅野 誠二 氏による「アパホテル「コロナ禍の逆風でも業績好調」の戦略 「直販+ダイナミック・プライシング」で成功」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/691314
・『インフレ、増税、円安、リセッションがニュースで報じられる昨今、「価格と利益」について、誰もが一度は考えたことがあるのではないでしょうか。最近、最も世間を騒がせた話題は「卵」の高騰でした。 『価格支配力とマーケティング』の著者 菅野誠二氏は、「自由に価格が設定できて、しかもお客さんが喜んで買ってくれるような、ハッピーな値付けが実現できたら夢のようではないか」と話します。 この記事では、需給が変化しやすいマーケットでも顧客価値創造をしながら価格支配力を獲得するバランスの妙を実現したアパホテルを例に解説します』、興味深そうだ。
・『他のビジネスホテルと異なる ■出張族のインサイト 密かな楽しみ」から自社の強みを創造する アパホテルは、コロナの逆風を経ても圧倒的な業績を示し続けている*。 目標、理念として同社は「利益の最大化ではなく、あくまで日本の住まい文化に貢献するという大義にある」としている。アパグループはホテル事業だけでなくリゾート事業、住宅事業、マンション・ビル管理事業も傘下に持つ。 *2022年11月末の連結決算で売上1,382億(過去5年CAGR 3.6%)、営業利益358億円(売上利益率25.9%)、経常利益353億円と、業界内で圧倒的な利益率を誇る。ホテルネットワークとして全国最大の 719 ホテル 110,395 室(建築・設計中、海外、FC、アパ直参画ホテルを含む)を展開 ターゲットは主に、企業の上位5%層のビジネスパーソンだ。このターゲットは急な出張の機会が多く、その際の価格弾力性が低い。会社が費用負担してくれるからである。同社の最大の強みは、「他のビジネスホテルと異なるビジネスマンの顧客インサイトの捉え方」にある。 同社がまず特定したビジネスパーソンのインサイトは「会社の出張費でポイントを貯め、それをプライベートの割引に活用することが出張族の密かな楽しみ」である。 価格弾力性が低く、同社クラスのホテル代なら、企業が支払える価格帯に設定する。 さらに、会社の経理に言えない、もう少し深いインサイトは、「急な出張を強いるのは会社都合なのだから、ホテル料金は高くなる。多めにポイントをもらえるくらいの余禄があってもよいよね」だと考えれば、同社の勝利の打ち手はダイナミック・プライシングにあると、私は理解している』、「アパホテル」は現在テレビCMを大量に流している。「「会社の出張費でポイントを貯め、それをプライベートの割引に活用することが出張族の密かな楽しみ」である。 価格弾力性が低く、同社クラスのホテル代なら、企業が支払える価格帯に設定する」、なるほど
・『ビジネスモデルの8割は「真似」 ■業界の外からダイナミック・プライシングを持ち込む このビジネスモデル・イノベーションは、もともとは航空業界の手法である。そのため、同社のダイナミック・プライシングは世界初の取り組みではないが、日本のビジネスホテル業界に本格的に持ち込んだ企業がアパホテルなのだ。 「ダイナミック・プライシング」についてはのちほど説明するが、こうしたビジネスモデル・イノベーションを生む思考法を「アナロジー思考」と呼ぶ。 アナロジー/Analogy(類推思考)とは、他の業界の事例をアイデアの発想のもとにすることだ。単なる真似ではなく、新たなアイデアの追加が必要で、世の新規ビジネスモデルのうち80%は他業種にある業態の真似である、といわれる*。 シュンペーターの新結合の思想に同じく、新しいアイデアは既にあるアイデアの組みあわせが多いのだ』、「業界の外からダイナミック・プライシングを持ち込む このビジネスモデル・イノベーションは、もともとは航空業界の手法である。そのため、同社のダイナミック・プライシングは世界初の取り組みではないが、日本のビジネスホテル業界に本格的に持ち込んだ企業がアパホテルなのだ」、なるほど。
・『■ギリギリまで最高値で販売できるAIシステム アパホテルの戦略は、「直販+ダイナミック・プライシング」だ。価格は市場ニーズに応じて一物多価で常に変化させ、価格支配力を維持する。 他社は予約サイトとの力関係上、どうしても値下げに応じて予約サイトへの割り当てを提供しがちだ。しかしアパホテルはTV広告やデジタル・マーケティングで顧客が直接予約サイトを訪れ、決済するまでをうまく誘導している。 また、コロナ禍で窮地に陥った多くのホテル事業者を底値で買収しており、これを「逆張りの投資」と呼んでいる。これまでにも幾多のホテル・観光・不動産不況時に、強靭な財務力と元谷外志雄会長の逆張り発想で、業績が低迷したホテルを底値で買収して事業規模を拡大してきた。 マーケティング・ミックスとそれを支えるシステムとしては、宿泊当日の予約が一番高価格で売れることから、キャンセル料は無料で、ギリギリまで最高値で販売できるようにAIシステムを導入している。最終判断はAIを参考にして各ホテルの支配人がそれぞれ全権を握り、効率的に稼働率を向上させつつ、平均単価をあげる仕組みがある。) ITのシステム上、ホテル比較サイトで近隣の空き部屋状況をリアルタイムで把握しながら空室在庫を分析し、1000円程度、価格をあげてプレミアムを取る。 部屋は豪華ではないが、コンパクトな部屋に大きなTVと、広く上等なベッドがあり、その上でも仕事ができるという仕様だ。徹底的にビジネスパーソンの出張に焦点を当てている。 アパホテルのホームページではロイヤルティプログラムが解説されており、ここで狙うのは「ファン化」である。 会員制度1900万人に対して平均で10%程度キャッシュバックしながら、ホテル予約サイトの宿泊料金設定は「アパ直」が最安値となるようにアパホテルが一括設定している。これによって直販サイトからの顧客流入を増やしてマージンを確保する』、「会員制度1900万人に対して平均で10%程度キャッシュバックしながら、ホテル予約サイトの宿泊料金設定は「アパ直」が最安値となるようにアパホテルが一括設定している。これによって直販サイトからの顧客流入を増やしてマージンを確保する」、なかなか賢明なやり方だ。
・『独自予約サイト利用でポイント このロイヤルティプログラムでは、「年間利用実績(泊数等)に応じて5つの会員ステータスを用意している。「レギュラー」会員は最大9%だが最高位の「プレジデント」になると最大還元率が15%となる。これらは独自予約サイト「アパ直」経由の宿泊予約でアパポイントがたまるという仕組みだ。 また、「アパトリプルワンシステム」は、ホテル利用時スマホでアプリを使用すると「1ステップ予約」「1秒チェックイン」「1秒チェックアウト」ができる。 こと細かに顧客の使用シーンからペインを取り除いているのだ。 AIを含むITの活用とターゲット顧客に焦点を当てたビジネスモデル・イノベーションが成功の鍵である』、「AIを含むITの活用とターゲット顧客に焦点を当てたビジネスモデル・イノベーションが成功の鍵である」、大したものだ。
・『■ダイナミック・プライシングのリスクとアパホテルのコミュニケーション力 最後に「ダイナミック・プライシング」の解説をしておこう。 近年ではデジタル・マーケティングと相性のよいダイナミック・プライシングがさまざまな業界で活用されるようになってきた。従来、使用されていたアルゴリズムは、競合価格の監視や在庫量にあわせて価格を変動させる自動化レベルだった。 ここに数理、統計をもとに決定を補佐する「機械学習」や、AIが天気・イベントなどから需給に関連する変数をもとに収益最大化の選択肢を提示する「強化学習」が加わっている。 メリットは収益性の向上と在庫の低減にある。 一方でデメリットは、極端な価格変動を体感して「損した」「ぼったくりだ」など、顧客からの不信を生みかねず、ブランド棄損につながる可能性があることだ。 システム導入のコストも高く、解析のための人的能力が必要だし、一定量のデータ蓄積が必要で、成果が出るまでにそれなりの時間がかかることも懸念点である。 一時期、アパホテルに対して繁忙期の価格が高すぎるという不満がSNS上で炎上し、2017年に日経ビジネスが実施したホテル満足度調査では35社中最下位だった』、「一時期、アパホテルに対して繁忙期の価格が高すぎるという不満がSNS上で炎上し、2017年に日経ビジネスが実施したホテル満足度調査では35社中最下位だった」、こうしたデメリットを覚悟した上で、取り組んだようだ。
・『顧客満足度を向上させるために しかし、日経ビジネスからのインタビュー**に対してアパグループの元谷外志雄代表の対応には、価格支配力への強い意思と戦略性を感じる。 一般論で言えば、価格設定がうまく機能して宿泊料金を上げれば、利用者の評価は下がる。 価格設定が不十分で、高く売れる日に安く売っていれば評価は上がる。 裏を返せば評価が低いということはそれだけ、うちは価格設定がうまいと言えなくもない。 だから非常に高い評価を維持しているホテルは、本来高く売れるのを安く売っているから評価が高いとも言える。 ……儲からないホテルはいいホテルと言えないと思います。 赤字で破綻するようなことがあれば、社会に対しても従業員にも迷惑をかけます。 ……いずれにしてもうちとしても利用者の評価を上げていこうと今、努力中です。 **『アパホテル、繁忙期の料金高騰に不満相次ぐ元谷外志雄代表・芙美子社長が夫婦で語る料金の秘密』日経ビジネス/2017年11月6日価格支配力とマーケティング 実際、顧客満足度を向上させるために価格の上限にキャップをかぶせて表示価格/正規料金の1.8倍とし、ポイントバック制度を活用して設備リニューアルを積極的に導入している。 また、各ホテルの支配人の評価基準をRevPAR/Revenue Per Available Room:販売可能な客室1室あたりの収益を稼働率×単価であらわす値としているため、稼働率が他社と比べて高い。 ダイナミック・プライシングの導入には顧客へのていねいな説明をするコミュニケーション能力が問われるのだが、同社はそれをやってのけているといえるだろう』、「ダイナミック・プライシングの導入には顧客へのていねいな説明をするコミュニケーション能力が問われるのだが、同社はそれをやってのけているといえるだろう」、経営陣の強い意志で導入したとすれば、立派なものだ。
第三に、本年3月1日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「シャトレーゼホテルに「汚部屋」批判…ホテル再生には“性悪説”が重要だ」を紹介しよう。
・『和洋菓子店「シャトレーゼ」を国内外で展開するシャトレーゼホールディングスが運営するホテルが話題です。スイーツでファミリー層を呼び込み稼働率をアップさせる一方で、「汚部屋」批判も集まっています。実は、シャトレーゼには「構造的な弱点」があるのです』、「シャトレーゼには「構造的な弱点」がある」、とはどういうことだろう。
・『シャトレーゼがホテル再生に着手 黒字化の裏で批判も…? お菓子やケーキの製造直販で全国に1000店舗を展開するシャトレーゼが、ここ数年、ホテル再生を始めています。経営難に陥ったホテルや旅館を買収し、そこにシャトレーゼの価値を加えて再生するという面白い視点の再生事業です。 現在、全国に11カ所のシャトレーゼホテルを運営するところまで広がっていて、その多くで黒字化を実現したといいます。 一方でそれぞれのシャトレーゼホテルの口コミを調べてみると、全体的に評価はいい半面で、一部のホテルの評価がばらついていることに気づかされます。 実はわたしもコンサルタント歴が長いせいで、ホテル再生を手伝ったこともあります。その過程で、わたし自身はホテル再生には向いていないと思いました。 では、シャトレーゼはどうなのかというと、やはり一部のホテルは苦戦しているようです。 今回の記事ではそれらの口コミを切り口に、シャトレーゼのホテル再生事業について見ていきたいと思います』、「ホテル再生」事業と「お菓子やケーキの製造直販」事業にシナジーが働く部分が多いとは思えない、むしろマイナスの影響もあるのではなかろうか。
・『スイーツでファミリー層を呼び込み稼働率アップ! 同時に「引き算」も行っている まず、シャトレーゼホテルとはどのようなものかを理解するために、長野駅から徒歩5分のところにあるシャトレーゼホテル長野についてご紹介したいと思います。 このホテルは、2022年9月まではメルパルク長野でした。もともと日本郵政グループのホテル事業でしたが、メルパルク全体を民営化後にワタベウェディングへ売却。そのうち長野のホテルをシャトレーゼが買収して、2023年7月にリニューアルオープンさせたものです。 シャトレーゼホテル長野では、15時~17時45分の間にチェックインするとウエルカムケーキとしてシャトレーゼのケーキをドリンク付きで食べることができます。さらに滞在中は、ホテルに2カ所あるアイスバーで好きなアイスバーが食べ放題。そして朝食のバイキングでも、店舗と同じ大きさのシャトレーゼのケーキが提供されます。 旅行サイトで見ると2人で宿泊する場合、朝食付きで一人7000円近辺が最安値となっています。今年4月には現在改装中の1階にシャトレーゼの店舗が開店する予定なので、そうなればお菓子好きにはたまらない宿泊施設になりそうです。 後述するように11のホテルはサービス内容が微妙に異なることもあるのですが、チェックイン時にウエルカムケーキが楽しめて、滞在中はアイスが食べ放題というサービスが滞在客に刺さっている様子です。 そのおかげで、シャトレーゼホテルになってからは家族客が増加したといいます。ホテル再生の方程式としては、これまでの固定客層に加えて新たにシャトレーゼのスイーツ好きな家族客が加わった分、稼働率が上がり、ホテル経営としては増収となり、黒字化しやすくなったというのが基本図式のようです。 ただ当然ですが、ホテル再生というのは簡単な仕事ではありません。前のオーナーがホテル業をやっていてうまくいかず、新しいオーナーはそれにお菓子事業を加えたらうまくいくというようなシンプルな話であれば、皆がそれをまねするはずです。 シャトレーゼホテルの場合、ホテル再生にはそのような足し算だけでなく、引き算もきちんと行っている様子です』、「チェックイン時にウエルカムケーキが楽しめて、滞在中はアイスが食べ放題というサービスが滞在客に刺さっている様子です。 そのおかげで、シャトレーゼホテルになってからは家族客が増加したといいます。ホテル再生の方程式としては、これまでの固定客層に加えて新たにシャトレーゼのスイーツ好きな家族客が加わった分、稼働率が上がり、ホテル経営としては増収となり、黒字化しやすくなったというのが基本図式のようです・・・ホテル再生というのは簡単な仕事ではありません。前のオーナーがホテル業をやっていてうまくいかず、新しいオーナーはそれにお菓子事業を加えたらうまくいくというようなシンプルな話であれば、皆がそれをまねするはずです。 シャトレーゼホテルの場合、ホテル再生にはそのような足し算だけでなく、引き算もきちんと行っている様子です」、なるほど。
・『フロントとスタッフ 「2つのムダ」をそぎ落としている それは製造業が得意とする「ムダ取り」の手法を、サービス業であるホテル業に導入したという話です。 山梨県にあるシャトレーゼホテル旅館富士野屋は、もともと老舗の温泉旅館だったところをシャトレーゼホテルに改装したものです。その再生についてシャトレーゼの齊藤寛会長が言うには、ホテル業や旅館業には製造業から見たらムダがあるということです。 富士野屋について齊藤会長が指摘されたのは、旅館の顔でもあるフロントです。製造業の視点で見ればスペースが広いわりには結構ガラガラだというのです。それで、これは面白い発想だと思うのですが、その一番重要なスペースを玄関ではなくシャトレーゼグループの高級菓子店であるYATSUDOKIの店舗に改装するのです。 さらに、YATSUDOKIの店舗とレストランの稼働のピーク時間がずれているのもムダがあるといいます。レストランと店舗を隣接させることで、レストランが忙しい時間は店舗のスタッフが手伝えばいいし、その逆もできるというのです。 これらは製造業発想だといえば製造業発想なのですが、ある意味でサービス業の経営にとってはコロンブスの卵のような指摘です。そしてホテルの再生ですから、製造業的なムダ取りという引き算も大いに収益改善に貢献するはずです。 さて、全体としては以前の経営よりも良くなったというのがシャトレーゼホテルの評判ですが、口コミの中には厳しい意見も散見されます。それほど厳しくはないものも含めると、シャトレーゼホテルの改善点とおぼしき口コミは大きく分けて3種類あります』、「シャトレーゼホテルの改善点とおぼしき口コミは大きく分けて3種類あります」、具体的にはどんなものなのだろう。
・『シャトレーゼは組織風土的に横ぐしの運営が苦手 一つ目のかたまりとしては、これはシャトレーゼらしい批判だと思えるのですが、シャトレーゼホテルの間でサービスがそこそこ違うというのです。 あるホテルではケーキがバイキングで提供されていたのに、ここでは一つしかケーキが選べないとか、提供されるケーキが最高級のYATSUDOKIのもののホテルもあれば、安価な(でもおいしいのではありますが)シャトレーゼのホテルもあるといった具合です。 実はシャトレーゼホテルの公式ページを見ても、シャトレーゼホテルでどのようなサービスが受けられるのかは読み取れません。 予約をするためにじゃらんなどの予約サイトを訪れても、価格や部屋の広さ、設備の概要などは書いてあるのですが、顧客が一番知りたいスイーツのサービスの中身がわかる場所に書かれていない。一番ちゃんとわかるのが実は口コミのページだったりします。 そしてこれは、実にシャトレーゼらしい欠点だとわたしは感じました。シャトレーゼはホテル全体といった横ぐしの運営が組織風土的には苦手なのです。 シャトレーゼの社内はプレジデント制を敷いていて、社内に150人ものプレジデントがいらっしゃいます。株式会社シャトレーゼの場合、それぞれのプレジデントが洋菓子や和菓子など縦割りの責任者として責任を持つスタイルです。 わたしは経済評論家として、シャトレーゼは武田信玄型の経営をする企業だと考えています。 シャトレーゼの地元である山梨県甲府市は、武田信玄のおひざ元で、その信玄公は「人は城、人は石垣、人は堀」という言葉で知られるように、人を育て、その人が国そのものを形作る国造りをした人物です。たくさんの人数の社員に小さな縦割り組織の責任を持たせることで人を育てるというのは、信玄公的発想ではないでしょうか。 そのシャトレーゼが経営するホテルですから、おそらくそれぞれのホテルの再生をそれぞれの人物に責任を持たせているのでしょう。 いい意味でそれぞれのホテルが競争しながら再生させていくのでしょうけれども、そうなるとホテルごとに特色が出てくることになります。それもいいことなのですが、そのせいでブランドマネジメントという横ぐしが抜けてしまって、サービスが統一されていないというのが一つ目の課題でしょう。 さて、二番目にほぼすべてのシャトレーゼホテルの口コミに見られるのがハードウエア面の課題です。 ホテル買収後、リニューアル投資をしてシャトレーゼホテルとして再オープンするのですが、それでも「廊下のカーペットが古い」とか「共用部分の壁紙が汚れている」といった元々のホテルの古さが目に付く部分は気になるのでしょう。口コミでは、そのようなマイナスの指摘が散見されます。特に宿泊客が気にするのがWi-Fi設備が古い場合のクレームです。 限られた予算の中でホテルを再生しようとすると、当然ながらすべての改修に手が回るのは難しい。特にシャトレーゼホテルは昔からの経営でうまくいっていないホテルや旅館を改装するので、どうしても古い部分は目立ってしまうようです。この二番目のマイナス点は、わたしはそれほど気にすることではないように思います』、「たくさんの人数の社員に小さな縦割り組織の責任を持たせることで人を育てるというのは、信玄公的発想ではないでしょうか。 そのシャトレーゼが経営するホテルですから、おそらくそれぞれのホテルの再生をそれぞれの人物に責任を持たせているのでしょう。 いい意味でそれぞれのホテルが競争しながら再生させていくのでしょうけれども、そうなるとホテルごとに特色が出てくることになります。それもいいことなのですが、そのせいでブランドマネジメントという横ぐしが抜けてしまって、サービスが統一されていないというのが一つ目の課題でしょう・・・二番目にほぼすべてのシャトレーゼホテルの口コミに見られるのがハードウエア面の課題です。 ホテル買収後、リニューアル投資をしてシャトレーゼホテルとして再オープンするのですが、それでも「廊下のカーペットが古い」とか「共用部分の壁紙が汚れている」といった元々のホテルの古さが目に付く部分は気になるのでしょう」、食品企業にとっては、致命的なのではなかろうか。
・『M&Aの成功には「性悪説的な厳しさ」が必須 さて、三番目に一部のシャトレーゼホテルは他のシャトレーゼホテルよりもマイナスが大きな部分があります。それは働く人に起因する悪い口コミです。 具体例を挙げると、部屋が汚かったという口コミがあります。前の宿泊客の髪の毛が落ちていたとか、冷蔵庫に残り物が入っていたとか、きちんと清掃がなされていたらそんなことが起きないようなことが書き込まれているホテルがあります。 アメニティーが不足しているというような場合にクレームをつけたところ、「対応します」と言っておきながらチェックアウトまでに対応してもらえなかったという口コミもあります。 このようなホテルではスタッフの対応に対するクレームが多くみられることから、働く人に問題があるようです。コンサルタントとしての立場で眺めると、内部の人間関係がギスギスしている場合によくみられる症状です。 そしてこれは、ホテル再生でよくみられる課題でもあります。 ホテルの買収というものはホテル運営をする組織を一緒に買収するわけで、人も一緒に付いてきます。その人がちゃんと再生できないリスクは常にあるのです。 これはコンサル経験からくる私見ですが、M&Aがうまくいくケースは往々にして性悪説によって立った経営者が行うほうが多いように思えます。 経営が傾いた組織の中にはたちの悪い従業員も一定数いるわけで、それを早めに見抜いて厳しく処遇する、ないしはそういった従業員が悪さをしないように目を光らせて早めに手を打つといった厳しさが重要だったりするものです。 それに対して人に期待をし過ぎる経営や、人を信じやすい経営者は、M&Aの結果を出せないケースが結構あるのです。シャトレーゼは長い時間をかけて、従業員や取引先、契約農家など同じ考えを持つ人の数を増やし成長してきた会社です。 そういった強みを持つ会社は、実はM&Aによる事業再生は本質的には向いていないかもしれません。 それを避けるためには、M&Aの前に買収する企業の内部の人についてじっくりとデューデリジェンスをすべきなのですが、わずか2年ほどで11ものホテルを買収したという事実だけから推察するに、その過程が甘かったのかもしれません。 さて、このように口コミから見るといいことばかりではないように見えるシャトレーゼのホテル再生ですが、最初に申し上げたように、全体的には黒字になるホテルも多く、かつ宿泊客はシャトレーゼのファンになってくれる好循環を生んでいるようです。 若干気になるのが、ハイペースでの展開から起きるネガティブな反応だということではあるのですが、まだ再生も始まったばかり。シャトレーゼのファンとしては、うまく乗り越えてシャトレーゼホテルにも成功していただきたいと思います』、「スタッフの対応に対するクレームが多くみられることから、働く人に問題がある・・・前述の「元々のホテルの古さが目に付く部分」と合わせてみると、私には「M&A」に無理があるように思える。私も「シャトレーゼのファン」ではあるが、大きな混乱なく丸く収まってほしいものだ。
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自動車(一般)(その6)(繰り返されるトヨタ系列不正問題に見る “病” の根深さ… 日本的企業が陥る「機能不全」の根本原因とは、トヨタ・豊田章男会長に社外取締役が実名で苦言 「副社長を次々放逐して、率直に物を言う人がいなくなった」 《グループ3社で不正が連続発覚》、文春砲がトヨタに炸裂も 豊田章男は「凡人の戦略」を貫く天才だ)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-13
自動車(一般)については、2021年7月6日に取上げた。今日は、(その6)(繰り返されるトヨタ系列不正問題に見る “病” の根深さ… 日本的企業が陥る「機能不全」の根本原因とは、トヨタ・豊田章男会長に社外取締役が実名で苦言 「副社長を次々放逐して、率直に物を言う人がいなくなった」 《グループ3社で不正が連続発覚》、文春砲がトヨタに炸裂も 豊田章男は「凡人の戦略」を貫く天才だ)である。先ずは、本年2月15日付け弁護士JPニュース「繰り返されるトヨタ系列不正問題に見る “病” の根深さ… 日本的企業が陥る「機能不全」の根本原因とは」を紹介しよう。https://www.ben54.jp/news/890・『2022年に公表された日野自動車のエンジンの排ガス処理装置に関わる試験における認証不正に始まり、昨年末のダイハツ工業、今年に入ってからの豊田自動織機と、トヨタ系列の不祥事が立て続けに公表された。日本を代表する名門企業でいったい何が起きているのか…』、興味深そうだ。・『セクショナリズム、タイト過ぎる納期の末路 日野自動車では、「みんなでクルマをつくっていない」という言葉に象徴されるセクショナリズムが指摘されている。各部署が自分の役割を果たすことに懸命で、他を振り返る余裕がなく、孤立し追い込まれた部署は不正を行うしかなかったのだ。 ダイハツ工業では、タイトすぎる納期にもかかわらず管理職が現場を支援できなかったことが指摘されている。たとえば進捗の大幅遅延で上司に相談すると、「で?」という返事しか返ってこなかったという。コーチング手法の誤った用い方だ。 このような大きな相談で、「で、君はその問題をどのように解決するつもりかね?」と質問で返されても部下は返答のしようがない。八方ふさがりで思いつめているからこそ、上司に相談しているのだ。結果、部下は「相談しても無駄」とあきらめ、不正を選択してしまった…。 豊田自動織機についても類似の状況がみられ、管理職の機能不全が指摘されている』、「日野自動車では」、「進捗の大幅遅延で上司に相談すると、「で?」という返事しか返ってこなかった」、「結果、部下は「相談しても無駄」とあきらめ、不正を選択」、マネジメントがこんな体たらくでは悲劇的だ。・『“トヨタ”でも問題が生じる製造業の病の根深さ 「問題は発生したのと同じ次元では解決できない」(アインシュタイン) この原因を現場のコンプライアンス..
産業動向
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2024-03-13T16:16:06+09:00
先ずは、本年2月15日付け弁護士JPニュース「繰り返されるトヨタ系列不正問題に見る “病” の根深さ… 日本的企業が陥る「機能不全」の根本原因とは」を紹介しよう。
https://www.ben54.jp/news/890
・『2022年に公表された日野自動車のエンジンの排ガス処理装置に関わる試験における認証不正に始まり、昨年末のダイハツ工業、今年に入ってからの豊田自動織機と、トヨタ系列の不祥事が立て続けに公表された。日本を代表する名門企業でいったい何が起きているのか…』、興味深そうだ。
・『セクショナリズム、タイト過ぎる納期の末路 日野自動車では、「みんなでクルマをつくっていない」という言葉に象徴されるセクショナリズムが指摘されている。各部署が自分の役割を果たすことに懸命で、他を振り返る余裕がなく、孤立し追い込まれた部署は不正を行うしかなかったのだ。 ダイハツ工業では、タイトすぎる納期にもかかわらず管理職が現場を支援できなかったことが指摘されている。たとえば進捗の大幅遅延で上司に相談すると、「で?」という返事しか返ってこなかったという。コーチング手法の誤った用い方だ。 このような大きな相談で、「で、君はその問題をどのように解決するつもりかね?」と質問で返されても部下は返答のしようがない。八方ふさがりで思いつめているからこそ、上司に相談しているのだ。結果、部下は「相談しても無駄」とあきらめ、不正を選択してしまった…。 豊田自動織機についても類似の状況がみられ、管理職の機能不全が指摘されている』、「日野自動車では」、「進捗の大幅遅延で上司に相談すると、「で?」という返事しか返ってこなかった」、「結果、部下は「相談しても無駄」とあきらめ、不正を選択」、マネジメントがこんな体たらくでは悲劇的だ。
・『“トヨタ”でも問題が生じる製造業の病の根深さ 「問題は発生したのと同じ次元では解決できない」(アインシュタイン) この原因を現場のコンプライアンス意識の低さやリスク感度の鈍さに求めるのは酷である。では真の原因はどこにあるのか。 この3社に対する第三者委員会報告書では管理の仕組みや教育不足など、多岐にわたって問題原因が指摘されており、それぞれ頷けるものばかりである。 ではそれらの問題を個々につぶしていけば、不正の再発は防げるのだろうか。考えてみてほしい。今回の一連の事件を起こしたのはトヨタ系列である。高度な管理システムの構築では、世界的に定評ある企業群なのだ。 それでも問題が生じてしまった…。ということは、より根本的な部分に原因を求めるしかない。改めてアインシュタインが残した言葉を改めて噛みしめるべきだろう』、「今回の一連の事件を起こしたのはトヨタ系列である。高度な管理システムの構築では、世界的に定評ある企業群なのだ。 それでも問題が生じてしまった…。ということは、より根本的な部分に原因を求めるしかない。改めてアインシュタインが残した言葉を改めて噛みしめるべきだろう」、その通りだ。
・『「任務重視型」をいまだ引きずる日本の組織 元防衛大学校教官の関口高史氏によると軍隊には『環境重視型』と『任務重視型』の二種類があるという。前者はそのときどきの環境に応じてリソース確保を行い、それが出来ないときは任務の内容を柔軟に変更する。それに対して後者は最初に任務ありきで、環境変化があっても「万難を排し、任務を遂行せよ」となる。旧日本陸軍は後者であり、悪名高きインパール作戦のように、「弾薬も食料も送れない。兵力は1/10まで減ったかもしれないが、それでも天長節(天皇誕生日)までにインパールを占領せよ」といった上級司令部からの命令がまかり通る。「ちょっと何言ってるのかわからない」である。「無い袖は振れない」というリソースの制約もあるが、日本人の命令に対する従順さへの甘えもあるだろう』、トヨタに限らず、日本企業の多くは『任務重視型』だ。
・『値引き、厳しい納期、人材不足など多重苦で成果だけは強く求められる理不尽 これは戦争時の話だが、現代の日本企業でも同じことが言える。最近、管理職向けコンプライアンス研修の受講者から、「そんなこと、中間管理職に言われてもね」という冷めた声が聞かれることが増えてきた。これが必ずしも管理職の職責放棄とはいえない点が問題である。 値引きを求められる、納期と品質要求は厳しくなる、必要な人材は与えられず、逆に育てた部下をよそに引き抜かれるという多重苦の状況で、成果実現(任務達成)だけが強く求められる。 経営陣に訴えても、「そこを何とかするのが君の仕事だ。期待してるぞ」という激励の名を借りた責任転嫁が返ってくるばかり。管理職の機能不全の背景に経営陣の機能不全が存在するのである。 これで不正の誘惑に負けなかった多くの管理職こそ賞賛されるべきだ。まさに旧陸軍の悪弊が、形を変えて現代の日本企業にも綿々と受け継がれているのである』、「管理職の機能不全の背景に経営陣の機能不全が存在するのである。 これで不正の誘惑に負けなかった多くの管理職こそ賞賛されるべきだ。まさに旧陸軍の悪弊が、形を変えて現代の日本企業にも綿々と受け継がれている」、その通りだ。
・『もはや経営陣が腹をくくって判断するしかない末期症状 いままさに日本企業は任務重視型から環境重視型へ、経営と組織運営の方向転換を迫られている。 トヨタ系列の3社の報告書に共通するのは、経営陣が現場の事情を理解せず、リソース不足を無視して当初の任務達成だけを強く求めているとの指摘である。 開発期間の短縮が必要なら、そのためのリソースを追加投入しなければならない。そのリソースを新たに調達できないなら他の開発案件から引き抜くしかない。 だとすれば一部の開発案件を中止や延期するしかないが、この判断は経営陣にしかできない。経営陣が腹をくくるべきときに「現場で何とかしろ」で済ませるから問題が起きる。難しい判断から逃げるような者を責任ある地位につけてはならない。 ここまで読んできて、「まさに当社の話を聞いているようだ」と感じている読者も多いことだろう。現場レベルの内部統制ももちろん重要だが、それだけでいまのコンプライアンス問題は防げない。経営陣が腹をくくる。それが本質的な問題解決への処方箋であろう』、「トヨタ系列の3社の報告書に共通するのは、経営陣が現場の事情を理解せず、リソース不足を無視して当初の任務達成だけを強く求めているとの指摘・・・開発期間の短縮が必要なら、そのためのリソースを追加投入しなければならない。そのリソースを新たに調達できないなら他の開発案件から引き抜くしかない。 だとすれば一部の開発案件を中止や延期するしかないが、この判断は経営陣にしかできない。経営陣が腹をくくるべきときに「現場で何とかしろ」で済ませるから問題が起きる。難しい判断から逃げるような者を責任ある地位につけてはならない・・・経営陣が腹をくくる。それが本質的な問題解決への処方箋であろう」、同感である。
次に、本年2月21日付け文春オンライン「トヨタ・豊田章男会長に社外取締役が実名で苦言 「副社長を次々放逐して、率直に物を言う人がいなくなった」 《グループ3社で不正が連続発覚》」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/69100
・『グループ会社3社での検査不正が相次いで発覚したトヨタ自動車。同社の社外取締役を務める菅原郁郎氏(66)が「週刊文春」の取材に応じ、豊田章男会長(67)の経営姿勢に苦言を呈した。 創業家出身で絶対的な存在とされる豊田会長に対する社外取締役からの苦言は、大きな波紋を呼びそうだ』、興味深そうだ。
・『豊田会長は「トヨタにものが言いづらい点もあると思う」 トヨタのグループ会社による検査不正は昨年末から立て続けに明るみに出た。子会社のダイハツ工業は昨年12月20日、車両の認証試験で過去30年以上、データの捏造や改ざんを行っていた事実を公表。「ミライース」など10車種で出荷停止を余儀なくされた。 グループ会社の豊田自動織機も1月29日、トヨタ車「ハイエース」などのエンジン認証試験で不正があった事実を公表。さらに子会社の日野自動車でも2022年、トラックなどのエンジン燃費試験で不正があったことが報告されている。 1月30日に行われたグループビジョン説明会で、豊田会長は「極めて重いことだと受け止めております」と謝罪するとともに、不正を招いた背景には「トヨタにものが言いづらい点もあると思う」などと述べた』、「トヨタ」にものが言いづらい点もあると思う」、と「豊田会長」自身が述懐するのは、どう考えても問題だ。
・『「章男さんは変わってしまった」と菅原氏 こうした中、「週刊文春」の取材に応じたのが、2018年からトヨタの社外取締役を務める菅原氏だ。1981年に旧通産省に入省。経産省製造産業局長などを歴任し、2015年に事務次官に就任。退任後、内閣官房参与を経て、現在のポストに就いた。トヨタの取締役会は10人で構成され、菅原氏は4人いる社外取締役の一人だ。 Q:菅原さんは、章男氏についてどう見ている? A:「章男さんは変わってしまった。昔は一家言持っている人たちが周りにいた。でも2020年頃からかな、副社長を次々放逐したり、3人置くと言ったり。それで置いた人もまたいなくなって。章男さんに引き上げられた人ばかりで、率直に物を言う人がいなくなりました」』、「章男さんに引き上げられた人ばかりで、率直に物を言う人がいなくなりました」、これでは取締役会として本来の役割を果たしておらず、組織としては由々しい問題だ。
・『社長の下に執行役員が21人並ぶ異例の人事 トヨタは2020年4月、「若手役員との接点を増やす」などの理由で、副社長ポスト(6人)を廃止。豊田社長(当時)の下に同格の執行役員が21人並ぶ人事に踏み切った。その後、2022年4月には「外部環境の変化に対応する」などの理由で副社長ポスト(3人)を復活。 ところが、昨年4月にその3人を交代させるなど、毎年のように異例とも呼べる人事を断行してきた。 Q:イエスマンで固めたい思惑が? A:「結果として、そうなったんじゃないかな」 2月21日(水)12時配信の「週刊文春 電子版」および2月22日(木)発売の「週刊文春」では、菅原氏とのより詳しい一問一答のほか、“ダイハツの天皇”こと白水宏典元会長や日野自動車社長への直撃、一般には殆ど知られていないトヨタの“迎賓館”の存在、社内で疑念の声が上がる豊田会長と元レースクイーンや元コンパニオンとの「本当の関係」、豊田会長が日経新聞を“拒絶”するようになった経緯など、トヨタグループを巡る問題について8ページにわたって特集している』、「豊田会長が日経新聞を“拒絶”するようになった経緯」、「豊田会長」は自分の言うことを聞かない「日経新聞」を遠ざけているとすれば、偉ぶった経営者の悪いクセだ。
第三に、2月29日付けダイヤモンド・オンライン イトモス研究所所長の小倉健一氏による「文春砲がトヨタに炸裂も、豊田章男は「凡人の戦略」を貫く天才だ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/338624
・『週刊文春電子版は「【巨弾レポート】元コンパニオンの重用、日経新聞を拒絶…豊田章男・トヨタ会長はなぜ不正を招いたのか《グループ3社で連続発覚》」特集で、トヨタに厳しい姿勢を見せている。最新の国内外のトヨタ報道を読み解く』、興味深そうだ。
・『北朝鮮でトヨタ車が 愛用される理由 北朝鮮が「トヨタ」を愛していることはあまり知られていない。昨年の北朝鮮の金正恩委員長とロシアのプーチン大統領が首脳会談を行った後で、「特別な個人的関係」の証しとして、プーチン大統領も専用リムジンとして使うロシア車の「アウルス・セナート」を贈呈している。 これまで、金委員長は、メルセデス・マイバッハのS650セダンをイタリアの企業が装甲を施したものに乗車していた。そして面白いことに、金委員長の随行員たちは皆、「トヨタ」に乗っていることが確認されている。 <国連の制裁は、贈り物であっても北朝鮮への車の供給を禁止していますが、金正恩はこれらを回避して外国製車のコレクションを維持するのに何の問題もありませんでした。金正恩のお気に入りの車はメルセデス・マイバッハS650セダンだ。金正恩はマイバッハに乗り、レクサスやトヨタのスポーツユーティリティビークルの車列と一緒に行列を組んでいます(英タイムズ紙『ウラジーミル・プーチンから金正恩への最新の贈り物』2月20日)> 車列を組むクルマといえば、実用性を重視しているということが推測されるわけで、トヨタ車へのアツい信頼が北朝鮮からも寄せられていることが明らかになった。 今回は、トヨタについて述べたい』、「金委員長の随行員たちは皆、「トヨタ」に乗っていることが確認されている・・・トヨタ車へのアツい信頼が北朝鮮からも寄せられている」、なるほど。
・『トランプ氏勝利で 電気自動車の普及が止まる可能性 今、世界では、電気自動車が、果たして本当にエンジン車に取って代わることができる存在なのかが、激しく議論されている。少し前までは、いずれガソリン車がなくなると言われていたが、電気自動車がこれ以上普及発展するためには、多くの問題を抱えていることがわかっており、それが技術的に解決できるのかどうかということだ。世界は、混沌としている。 <トランプが大統領選挙に勝利すれば、アメリカの電気自動車ブームは終わりを迎える。トランプの選挙勝利により、アメリカにおける電気自動車に対する風向きはおそらく大きく変わるだろう。2023年秋にミシガン州の自動車産業のストライキ中の労働者たちの前で、トランプは電気自動車に警鐘を鳴らし、ジョー・バイデンによるその支援を軽蔑する発言をした。 トランプは、ストライキを行っている労働者たちに対し、大手自動車会社との交渉で良い結果を得たとしても、電気自動車が彼らを無用の長物にするだろうから、それがどうでも良いと述べた。トランプは労働者たちに向かって、「お前たちが何を手に入れようと、2年後には全員がクビだ」と叫んだ (独経済メディアDeutsche Wirtschaftsnachrichten「電気自動車は内燃機関よりも故障しやすい」2月19日)> 米大統領選挙は、今日投票が行われれば、トランプ氏はバイデン大統領に勝利するような情勢であり、電気自動車の普及は止まることになるかもしれない。しかし、EU(欧州連合)では真逆の情勢だ』、「トランプ氏」が「内燃機関」優遇を続けても、「EU」では「電気自動車」と股裂き状態だ。
・『電気自動車にかじを切ったドイツ 失敗すれば「自らの足を撃つことに」 <ドイツやヨーロッパが「電気自動車」に全てを懸けており、2035年からはEU内での新車のガソリン車販売が不可能になる見込みである。中国は電気自動車とガソリン車の両方を追求している。つまり、電気自動車とガソリン車の二兎を追うのである。中国はガソリン車の禁止を排除している。ドイツおよびヨーロッパの自動車メーカーの電気自動車戦略が成功するか、そして米国、インド、ロシア、南米、アフリカ、東南アジアのような大国でガソリン車の禁止が実際に行われるかは疑問である。もしそうならなければ、ドイツの政策と自動車メーカーは自らの足を撃つことになる。その結果、ドイツの鍵産業と経済拠点としてのドイツにとって壊滅的な影響を与えるだろう(同独メディア)> これには少し説明が必要かもしれないが、EUでは、2035年以降、環境にやさしい合成燃料(実用化・商用化は40年頃とされている)を使うエンジン車だけは例外として、エンジン車の新車販売を禁止する方針を取っているのだ。フォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツがあるドイツでは、頭の痛い問題となってくるであろう。 米国の消費者保護団体「コンシューマー・レポート」の会員を対象に毎年実施している、自動車の信頼性に関する調査によれば、電気自動車は従来のエンジン車よりも80%近く問題が多く、一般的に信頼性が低いことがわかっている。エンジン車であれば5分もすれば満杯になるガソリンの供給も、電気自動車ではだいぶ時間がかかる。寒冷地では航続距離が極端に短くなることも負担となる』、「電気自動車」の問題点は全固体電池の実用化などで今後ある程度改善が見込まれる。
・『「エンジンやるぞ!」 豊田章男の檄 こんな先行きが不透明な状況で、トヨタは何を考えているのか。その手がかりは、トヨタ自動車会長の豊田章男氏の発言にある。 <今、オートサロンの途中ですが、昨日もその会場で「エンジン(編集部注:おそらくエンジン車のこと)やるぞ!」とぶち上げました。いくらBEV(バッテリー電気自動車)が進んだとしても、市場のシェアの3割だと思います。そうすると、あとの7割はHEV(ハイブリッドカー)なり、FCEV(水素を使った燃料電池車)なり、水素エンジンなり。そして、エンジン車は必ず残ると思います。 それは規制値、政治の力ではなく、お客様や市場が決めることだと思います。 だから、全世界で勝負をしているトヨタ自動車は、フルラインナップで、マルチパスウェイをやらせていただいております(第40回NPS研究会の総会・「トヨタイムズ」1月23日)> マルチパスウェイは、手段よりも目標到達を大事にする考え方だ。トヨタの例でいえば、電気自動車を普及することにこだわらず、エンジン性能の向上、燃料電池車、ハイブリッドカーなど、さまざまな手段でカーボンニュートラルを達成していこうということだ。エンジン部品を製造する工場・会社に、銀行がお金を貸さないという事態が発生していて、トヨタとしても強い危機感を持って、「全方位外交」を続けていくということになる』、「いくらBEV・・・が進んだとしても、市場のシェアの3割だと思います。そうすると、あとの7割はHEV・・・なり、FCEV・・・なり、水素エンジンなり。そして、エンジン車は必ず残ると思います。 それは規制値、政治の力ではなく、お客様や市場が決めることだと思います・・・トヨタ自動車は、フルラインナップで、マルチパスウェイをやらせていただいております」、「トヨタ」は余裕たっぷりのようだ。
・『「凡人中の凡人戦略」を貫く豊田氏は 称賛されてしかるべき 全方位外交、悪く言えば、八方美人であり、全てが中途半端になってしまう懸念が起きるのだが、豊田氏はそんなことは臆せずやっている。トヨタ自動車内のフルラインナップ戦略をはじめとして、マツダ、スズキ、SUBARU、ダイハツ工業、いすゞ自動車に巨額の出資をし、通信業界のNTT、KDDIに出資、ソフトバンクとは「モネ・テクノロジーズ」を立ち上げている。 豊田氏は「町工場から世界規模の自動車メーカーに成長しても、それを忘れてはならない。自分たちはクルマ屋だ。もっといいクルマをつくって、お客様に喜んでもらおう」と言っている。この言葉の意味を、全方位外交を貫いた経営スタイルと重ねて解釈をすれば、こうではないだろうか。 「将来のことは予測不可能で、EVの時代が来るかもしれないし、来ないかもしれない。フルラインナップで何が起きても大丈夫な構えをしておこう」。何か一つの分野に懸けることは一切やろうともしてこなかった、自分たちができる当たり前のことを繰り返すという「凡人中の凡人戦略」を貫いたのは、やはりこの時代に合っているし、称賛されてしかるべきではないだろうか』、「自分たちができる当たり前のことを繰り返すという「凡人中の凡人戦略」を貫いたのは、やはりこの時代に合っているし、称賛されてしかるべきではないだろうか」、いささか褒め過ぎのようだ。
・『元コンパニオンを秘書にしたって 別にいいではないか 週刊文春電子版(2月21日)の「【巨弾レポート】元コンパニオンの重用、日経新聞を拒絶…豊田章男・トヨタ会長はなぜ不正を招いたのか《グループ3社で連続発覚》」特集で、トヨタについて力の入った取材をしている。その中でも、経産省の元事務次官で、18年から社外取締役を務めている菅原郁郎(いくろう)氏のコメントは、トヨタに相当厳しいものがあった。 <昔は一家言持っている人たちが周りにいた。でも20年頃からかな、副社長を次々放逐したり、3人置くと言ったり。それで置いた人もまたいなくなって。章男さんに引き上げられた人ばかりで、率直に物を言う人がいなくなりました> トヨタは、2024年3月期の連結業績予想で、純利益は前年比83.6%増となり、過去最高の4兆5000億円となる見通しだ。これほどの過去最高益を上げてもガバナンスが悪いかのように批判を受けるのは、さすがにかわいそうに感じる。元コンパニオンを秘書にしたって別にいいではないか。赤字だった企業を利益4兆円にしたのだから、稀代の名経営者だ。誰も言ってあげないが、数字だけ見れば、豊田氏は天才ではないのか。 EVやカーボンニュートラルを巡って政治的なリスクを消すには、トヨタのように全てに手を出していくのが一番と思われる。そしてこんなことができるのも日本ではトヨタだけだ。EVをつぶすというトランプリスク、EVだけしかダメというEUリスクに直面したとき、どう転んでも勝てるトヨタの一人勝ちの時代がやってくるだろう。腐敗しきったダイハツのトヨタによる再建が楽しみでならない』、「これほどの過去最高益を上げてもガバナンスが悪いかのように批判を受けるのは、さすがにかわいそうに感じる。元コンパニオンを秘書にしたって別にいいではないか。赤字だった企業を利益4兆円にしたのだから、稀代の名経営者だ。誰も言ってあげないが、数字だけ見れば、豊田氏は天才ではないのか」、ここまで褒め言葉が並ぶと、著者の良識を疑いたくなる。「ダイハツ」を「腐敗させた」のも「トヨタ」の責任なのではなかろうか。ここで「トヨタ」経営陣に恩を売っておこうという下心が見え隠れするようだ。
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今日は更新を休むので、明日にご期待を!
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-12
今日は更新を休むので、明日にご期待を!
未分類
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2024-03-12T21:31:54+09:00
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小池都知事問題(その9)(サザン桑田佳祐が「明治神宮外苑」の樹木伐採“反対”ソング発表…小池都知事は真っ青、「厚顔無恥」小池都知事、豊洲観光施設オープン登壇にあきれる声「5年遅れ」開業“元凶”の当事者のはずが)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-11
小池都知事問題については、昨年6月16日に取上げた。今日は、(その9)(サザン桑田佳祐が「明治神宮外苑」の樹木伐採“反対”ソング発表…小池都知事は真っ青、「厚顔無恥」小池都知事、豊洲観光施設オープン登壇にあきれる声「5年遅れ」開業“元凶”の当事者のはずが)である。先ずは、昨年9月4日付け日刊ゲンダイ「サザン桑田佳祐が「明治神宮外苑」の樹木伐採“反対”ソング発表…小池都知事は真っ青」を紹介しよう。https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/328552#goog_rewarded・『ついに、日本の音楽シーンの先頭に立つアーティストが、東京で進む「樹木伐採」事業に“反対”の声を上げた。 「サザンオールスターズ」が3日、明治神宮外苑の再開発に伴う樹木伐採問題に懸念を表明する新曲「Relay~杜の詩」の歌詞を公式サイトに掲載。デビュー45年を記念する新曲だ。 ボーカルの桑田佳祐は2日のラジオ番組で、同曲を巡って、再開発に反対していた音楽家の故・坂本龍一さんに言及。「(坂本さんの)思いを受け止めて作った曲と言っていい」と発言し「(外苑は)我々が音楽を作ってきたビクタースタジオの本当に周辺、身近な場所で、自分にとっても本当に大切な故郷を思って作った曲です」とも語っていた』、「「(外苑は)我々が音楽を作ってきたビクタースタジオの本当に周辺、身近な場所で、自分にとっても本当に大切な故郷を思って作った曲です」、なるほど。・『「アスファルト・ジャングルに変わっちゃうの?」 新曲の歌詞には「麗しいオアシスがアスファルト・ジャングルに変わっちゃうの?」「未来の都市が空を塞いで良いの?」などとつづられ、高層ビルが建設される再開発計画への反対の思いがにじんでいる。 再開発は、三井不動産を中心とした複数の事業者が進めているが、工事を認可したのが東京都であるため、小池都知事に「樹木伐採を許すのか」と批判が集中。これまで、坂本さんの他、小説家・村上春樹らも反対を表明している。それでも小池は反対の声を無視して、「樹木伐採」を容認するのか』、「アスファルト・ジャングル」とは言い得て妙だ。次に、2月2日付けFRASH「「厚顔無恥」小池都知事、豊洲観光施設オープン登壇にあきれる声「5年遅れ」開業“元凶”の当事者のはずが」を紹介しよう。https://smart-flash.jp/sociopoli..
国内政治
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2024-03-11T19:27:28+09:00
先ずは、昨年9月4日付け日刊ゲンダイ「サザン桑田佳祐が「明治神宮外苑」の樹木伐採“反対”ソング発表…小池都知事は真っ青」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/328552#goog_rewarded
・『ついに、日本の音楽シーンの先頭に立つアーティストが、東京で進む「樹木伐採」事業に“反対”の声を上げた。 「サザンオールスターズ」が3日、明治神宮外苑の再開発に伴う樹木伐採問題に懸念を表明する新曲「Relay~杜の詩」の歌詞を公式サイトに掲載。デビュー45年を記念する新曲だ。 ボーカルの桑田佳祐は2日のラジオ番組で、同曲を巡って、再開発に反対していた音楽家の故・坂本龍一さんに言及。「(坂本さんの)思いを受け止めて作った曲と言っていい」と発言し「(外苑は)我々が音楽を作ってきたビクタースタジオの本当に周辺、身近な場所で、自分にとっても本当に大切な故郷を思って作った曲です」とも語っていた』、「「(外苑は)我々が音楽を作ってきたビクタースタジオの本当に周辺、身近な場所で、自分にとっても本当に大切な故郷を思って作った曲です」、なるほど。
・『「アスファルト・ジャングルに変わっちゃうの?」 新曲の歌詞には「麗しいオアシスがアスファルト・ジャングルに変わっちゃうの?」「未来の都市が空を塞いで良いの?」などとつづられ、高層ビルが建設される再開発計画への反対の思いがにじんでいる。 再開発は、三井不動産を中心とした複数の事業者が進めているが、工事を認可したのが東京都であるため、小池都知事に「樹木伐採を許すのか」と批判が集中。これまで、坂本さんの他、小説家・村上春樹らも反対を表明している。それでも小池は反対の声を無視して、「樹木伐採」を容認するのか』、「アスファルト・ジャングル」とは言い得て妙だ。
次に、2月2日付けFRASH「「厚顔無恥」小池都知事、豊洲観光施設オープン登壇にあきれる声「5年遅れ」開業“元凶”の当事者のはずが」を紹介しよう。
https://smart-flash.jp/sociopolitics/272132/1/1/
・『2月1日、東京・豊洲に「豊洲千客万来」がオープンした。江東区の豊洲市場に併設する観光施設で、63店舗の飲食店が集まる「食楽棟」に加え、露天風呂や宿泊施設を備えた「温浴棟」がある。 オープニングセレモニーには歌舞伎俳優の中村獅童と小池百合子・東京都知事が登場。小池知事は「臨海部の新しい顔としての発展を心から願います」と述べた。 【関連記事:「3度も選挙応援に行っておいて」小池百合子都知事が風邪で公務キャンセル…都知事選は「日本保守党から刺客」報道も】 だが、SNSには 《小池百合子、よくオープニングセレモニーに出席できるな。厚顔無恥とはこの人のためにある言葉だな》 《豊洲の千客万来開業のテープカットに小池百合子都知事がいてびっくりした 呼ぶんだ… 行くんだ…みたいな 大人の世界だな》 などの声が多くみられた。 「『千客万来』の開業までには、紆余曲折がありました。 もともとは2016年11月、中央市場の築地から豊洲への移転と同時に開業する予定で、2014年には東京都が『すしざんまい』の運営会社と大和ハウス工業を委託企業に選定していました。しかし、調整が難航し、両社が2015年になって撤退。開業は延期されました。 2016年3月には、再公募によって日本各地で温泉施設を運営する『万葉倶楽部』が事業者に決定します。この時点では、2018年に商業棟を開業、2019年には温泉棟を開業する予定でした。 しかし2016年8月、小池氏が東京都知事に就任したことで、計画が大きく乱れることになりました。就任直後に築地市場の豊洲移転を延期したためです。小池氏は『築地は守る、豊洲を活かす』『築地を食のテーマパークにする』などと発言したため、事業者の万葉倶楽部と東京都は大いに揉めることになりました。 市場は2年遅れで、2018年秋に豊洲に移転したものの、千客万来の協議は難航します。その間、新型コロナウイルス感染症の拡大や建築資材の高騰などもあり、ようやく着工できたのが、2022年春のことです。小池氏が余計なことを言い出さなければ、5年前には開業できていたわけです。 小池氏が問題視した『豊洲の土壌』については、開業から5年を経過してもまったく問題が出てきません。2020年の東京五輪前に開通予定だった、都心部と臨海部を結ぶ環状2号線の開通も、市場の移転延期によって2年半も遅れることになりました。無駄な大騒ぎによって生じた経済的損失は計り知れません」(週刊誌記者) 《どの面下げて小池都知事は千客万来施設のテープカットに出てんだかなー》 という声も。もっともだろう』、「小池氏が余計なことを言い出さなければ、5年前には開業できていたわけです。 小池氏が問題視した『豊洲の土壌』については、開業から5年を経過してもまったく問題が出てきません。2020年の東京五輪前に開通予定だった、都心部と臨海部を結ぶ環状2号線の開通も、市場の移転延期によって2年半も遅れることになりました。無駄な大騒ぎによって生じた経済的損失は計り知れません」、確かに「どの面下げて小池都知事は千客万来施設のテープカットに出てんだかなー」、という気持ちは理解できる。
次に、2月2日付けFRASH「「厚顔無恥」小池都知事、豊洲観光施設オープン登壇にあきれる声「5年遅れ」開業“元凶”の当事者のはずが」を紹介しよう。
https://smart-flash.jp/sociopolitics/272132/1/1/
・『2月1日、東京・豊洲に「豊洲千客万来」がオープンした。江東区の豊洲市場に併設する観光施設で、63店舗の飲食店が集まる「食楽棟」に加え、露天風呂や宿泊施設を備えた「温浴棟」がある。 オープニングセレモニーには歌舞伎俳優の中村獅童と小池百合子・東京都知事が登場。小池知事は「臨海部の新しい顔としての発展を心から願います」と述べた。 【関連記事:「3度も選挙応援に行っておいて」小池百合子都知事が風邪で公務キャンセル…都知事選は「日本保守党から刺客」報道も】 だが、SNSには 《小池百合子、よくオープニングセレモニーに出席できるな。厚顔無恥とはこの人のためにある言葉だな》 《豊洲の千客万来開業のテープカットに小池百合子都知事がいてびっくりした 呼ぶんだ… 行くんだ…みたいな 大人の世界だな》 などの声が多くみられた。 「『千客万来』の開業までには、紆余曲折がありました。 もともとは2016年11月、中央市場の築地から豊洲への移転と同時に開業する予定で、2014年には東京都が『すしざんまい』の運営会社と大和ハウス工業を委託企業に選定していました。しかし、調整が難航し、両社が2015年になって撤退。開業は延期されました。 2016年3月には、再公募によって日本各地で温泉施設を運営する『万葉倶楽部』が事業者に決定します。この時点では、2018年に商業棟を開業、2019年には温泉棟を開業する予定でした。 しかし2016年8月、小池氏が東京都知事に就任したことで、計画が大きく乱れることになりました。就任直後に築地市場の豊洲移転を延期したためです。小池氏は『築地は守る、豊洲を活かす』『築地を食のテーマパークにする』などと発言したため、事業者の万葉倶楽部と東京都は大いに揉めることになりました。 市場は2年遅れで、2018年秋に豊洲に移転したものの、千客万来の協議は難航します。その間、新型コロナウイルス感染症の拡大や建築資材の高騰などもあり、ようやく着工できたのが、2022年春のことです。小池氏が余計なことを言い出さなければ、5年前には開業できていたわけです。 小池氏が問題視した『豊洲の土壌』については、開業から5年を経過してもまったく問題が出てきません。2020年の東京五輪前に開通予定だった、都心部と臨海部を結ぶ環状2号線の開通も、市場の移転延期によって2年半も遅れることになりました。無駄な大騒ぎによって生じた経済的損失は計り知れません」(週刊誌記者) 《どの面下げて小池都知事は千客万来施設のテープカットに出てんだかなー》 という声も。もっともだろう』、「小池氏が余計なことを言い出さなければ、5年前には開業できていたわけです。 小池氏が問題視した『豊洲の土壌』については、開業から5年を経過してもまったく問題が出てきません。2020年の東京五輪前に開通予定だった、都心部と臨海部を結ぶ環状2号線の開通も、市場の移転延期によって2年半も遅れることになりました」、「どの面下げて小池都知事は千客万来施設のテープカットに出てんだかなー》 という声も。もっともだろう」、その通りだ。
第三に、3月6日付けYahoo ニュースが転載したダイヤモンド・オンライン「元週刊文春・月刊文芸春秋編集長の木俣正剛氏による「「小池百合子首相」説が急浮上、悪夢の連立政権誕生シナリオの現実味」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/d3fe54daf012e4de5638eea44926a0dc18aa8b51?page=1
・『自民党内に幽霊が出る 小池百合子という幽霊が 古参の自民党職員が、昭和世代には懐かしい言葉で今の自民党内を自嘲していました。 「自民党内に幽霊が出る――小池百合子という幽霊である。古い自民党のすべての派閥領袖は、この幽霊を退治しようとして同盟を結んでいる。だが、小池百合子はすでに、次期首相の有力候補として認められている」 有名な『共産党宣言』の冒頭の言葉をもじって、裏金問題などで揺れる自民党内に、ポスト岸田の有力候補として、小池百合子氏の名前が「恐怖」と共に浮上しているのです。 確かに、今の自民党および岸田内閣の支持率は史上最悪レベルです。しかし不人気の岸田総理下ろしをして、顔をすげ替え、解散をしたところで、石破茂、河野太郎、小泉進次郎といったかつてのスターは人気が衰え、茂木敏充、萩生田光一、林芳正、高市早苗、上川陽子などの有力者が出馬したところで、劇的に人気を回復するほどの首相候補は見当たりません。 一方、東京都知事としてコロナ禍でも着実に実績を積み重ねてきた小池百合子氏は、2020年の都知事選では366万票の圧倒的得票で当選したという実績を持ちます。しかもその4年前、2016年に安倍・菅長期政権で唯一最大の危機と言われた「希望の党」を小池氏が結党するという騒動では、自民党は政権交替の危険にさえ晒されました。よって現在のこの危機に、喉から手が出るほど候補に欲しい人材ではありますが、これほど毒のある候補もいません。 私は、小池百合子氏の人生が嘘に塗り固められ、権力欲、上昇欲で一貫していることを完璧に暴露したと絶賛されたノンフィクション作品『女帝 小池百合子』(石井妙子著)の取材に協力したので、小池氏のどんなことをしても自分の欲望を実現するという人生観はよくわかっています。そして、実際の政権担当能力も政策の構想能力も否定的に見ていますが、今の自民党が「選挙の顔」としての魅力を感じていることは否定できません。 自民党内で囁かれる、小池氏国政復帰(「自民党」復帰ではなく、あくまでも「国政」への復帰であり、これが自民党にとって悩ましいのです)のシナリオを紹介しましょう』、「小池氏のどんなことをしても自分の欲望を実現するという人生観はよくわかっています。そして、実際の政権担当能力も政策の構想能力も否定的に見ていますが、今の自民党が「選挙の顔」としての魅力を感じていることは否定できません。 自民党内で囁かれる、小池氏国政復帰(「自民党」復帰ではなく、あくまでも「国政」への復帰であり、これが自民党にとって悩ましいのです)のシナリオを紹介しましょう」、なるほど。
・『まことしやかに囁かれる 「小池首相」誕生シナリオ (1)岸田政権の最初の関門は4月第4日曜におこなわれる3つの衆議院議員補欠選挙です。長崎3区の補選は裏金問題で起訴された谷川弥一議員の政治資金規正法違反による辞職に伴うもので、自民は候補を立てられず不戦敗。島根1区の補選は自公連立ですが苦戦。東京15区の補選は柿沢未途議員の公職選挙法違反によるもので、有力な立候補者はなく、小渕優子選対委員長などはすでに「不戦敗」を考え始め、都民ファーストの会の候補を自公が推薦するという形になりそうです。 しかし、自民勝利の可能性はゼロではありません。野党も乱立気味だからです。日本維新の会が新人の金沢結衣氏(33)を、共産党が新人の小堤東氏(34)を擁立することを決定。立憲民主党も候補擁立を検討。国民民主は候補者の疑惑で立候補を取り下げました。都民ファーストの会もまだ自公の推薦を受けることを正式には表明していません。 野党に有力候補はいないので、自民党ではなく保守系無所属ということで「自民隠し」をすれば、当選の可能性は出てくるのです。野党が確実に勝利するには、野党共闘、候補の調整が必要です。もしここで、小池氏が顧問となる都民ファーストの会の全国版「ファーストの会」が候補を出し、自民党を倒す作戦に変更したらどうなるでしょうか。 第一の可能性として、ファーストの会の候補が小池氏自身であったら圧勝でしょう。しかしそれでは、小池氏は自分を高く自民党に売りつけることができません。政界には、過去に小池氏の裏切りで痛い目に遭った議員が多数いて、一議員として復帰しても、総裁候補となるだけの人数を集められる議員になるとは思えないのです。 (2)次に考えられるのがファーストと日本維新の会の連携です。まずは、小池氏が維新の候補を応援する形で補選をすれば、相手が無名の保守系無所属程度では勝てません。野党勝利となって自民は1勝2敗か全敗。こうなると、岸田政権はかなり厳しい状況に追い込まれます。 そして国政については、3月末日で予算が成立します。岸田首相は、ここで補選も含めた解散総選挙に踏み切る可能性もありますが、政治資金問題の改革など大きなテーマの結論がたった1カ月で出る可能性は低く、大義名分のない解散と受け取られ、お膝元の自民党からも反対される可能性が大きいと考えます。 (3)そうなると解散総選挙は、7月の通常国会終了後か、岸田首相が任期切れとなる10月の自民党総裁選のタイミングが浮上します。この場合も、4月より支持率がアップしているとは思えず、その前に岸田下ろしが始まり、自民党は新しい「首相」候補で選挙に挑むしかありません。なにしろ自民党にはタマがない。しかし、野党にもタマがない。自民党都連など萩生田会長が安倍派不祥事に連座しているため、5月まで会長決定は延期という有様です。) 数字的に分析しても、自民党に厳しい選挙になります。というのは、小選挙区制度になってからの国政選挙では東京・大阪といった浮動票が多い地域での結果が、全体の結果を決めることが多いからです。たとえば、民主党が政権交替をした2009年の衆議院選挙では、東京では25区の選挙区のうち前回の総選挙で自民が24、民主が1だったのに対し、このときは民主が21で自民が4という結果でした。 国全体の結果は民主が308で自民が119。小選挙区では民主221、自民64という大逆転でした。東京が日本を変えたのです。ポスト岸田の選挙でも、東京に強い小池氏とファースト、そして大阪に強い日本維新の会がタッグを組むと、今でも維新は45の議席があるため、その2倍近い議席数も予想できます。しかも、維新もファーストも基本的に保守政党を自称しているので、自民離れした票が流れる可能性が高く、自民党が過半数を制する可能性が少ないことは十二分に予想できます。 過半数割れをした自民には、公明との連立でも数が足りない事態が起きて、自民、維新、小池連合が模索される可能性は高いでしょう。維新と小池氏の思想から見て、立憲や共産との連立は考えにくく、維新の馬場伸幸代表ではあまりに全国での知名度が足りません。そして自民から首相が出るようでは、維新も小池氏も連立を断る可能性が高くなります』、「ポスト岸田の選挙でも、東京に強い小池氏とファースト、そして大阪に強い日本維新の会がタッグを組むと、今でも維新は45の議席があるため、その2倍近い議席数も予想できます。しかも、維新もファーストも基本的に保守政党を自称しているので、自民離れした票が流れる可能性が高く、自民党が過半数を制する可能性が少ないことは十二分に予想できます。 過半数割れをした自民には、公明との連立でも数が足りない事態が起きて、自民、維新、小池連合が模索される可能性は高いでしょう」、なるほど。
・『自民・維新・ファースト連立で 少数政党の小池氏がトップに? これではあまりに不安定な内閣になるため、少数政党の小池首相を中心に、1993年の政権交代で日本新党の細川護煕氏が首相になったのと同じパターンになる可能性は大いにあります。やはり、実績と知名度が他の候補より相当大きい上に、東京五輪開催を成し遂げ、1000万人という小さな国家なみの人口を抱える東京都の政治を一定期間担ったという安心感もあります。 その上、自民党には小池氏と繋がる二階元幹事長という応援団もいるため、場合によっては、自民党脱党組と野党連合の政権も成立しかねないのです。菅義偉元首相や河野太郎氏、小泉進次郎氏などは可能性が十分あるでしょう。要するに、与党にも野党にも、顔と名前が全国区で好感度が高い、あるいは政治的信頼度が高いという政治家が、ほとんどいないのです。 以上が、選挙通や自民党関係者から集めた「小池首相誕生」というシナリオです。ただ、こんな風に私は小池首相を予想しましたが、決してそれを望んでいるわけではありません。) 都知事に立候補したときの小池知事の公約を覚えているでしょうか。(1)待機児童ゼロ、(2)満員電車ゼロ、(3)残業ゼロ、(4)都内電柱ゼロ、(5)多摩格差ゼロ、(6)介護離職ゼロ、(7)殺処分ゼロという7つの公約でした。そのうち、達成されたのは(7)の殺処分ゼロだけ。このゼロは大々的に宣伝されましたが、実は不健康なペットや病気のペットは保護せず、今まで通り殺処分はされていたので、本当はゼロではなく150匹は殺されていました。 小池氏の生き方は流れを読み、キャッチコピーで人気を得て、その時々の大物に媚びを売って出世するというパターンでした。その本質が都知事経験で変わったとは思えません。小池氏に近い関係者は、「彼女の最近の行動は明らかに国政復帰を目指しているように見える」と言います。「カスハラ条例」をつくるといった若者やマスコミうけする政策、「無駄な出費」と批判を受けた都庁プロジェクションマッピンクも、側近によると「国政進出策と考えると無駄ではない」そうです。 「東京を制する政党が国政を制します。毎日都庁のプロジェクションマッピングを見せつけられたら、古い体質の自民や公明では太刀打ちできない新しい政党という印象を十二分にアピールできる仕掛けになっています」(側近) 小池氏の政治的行動については、小泉郵政選挙で刺客として立候補、小沢一郎氏との蜜月と離別後の小沢氏に対する罵倒、そして盟友だった舛添要一氏のあとを受けての都知事選における舛添氏への悪口雑言と、とにかく裏表があり過ぎる印象です。しかも、実行した政策についてはクールビズなど目先のアイデアしか思いつきません。 唯一の信条がタカ派的な国家観ですが、これが発揮されたのは彼女の人生の最大の失敗である希望の党の「排除の論理」でした。全員が希望の党に入党し、反安倍政権で選挙を闘うと思っていた民主党議員たちはあっと言う間に分裂、立憲民主の結党に走ったため、希望の党は泡のように消えました。憲法観や国家観を全面に出したとき、彼女は大失敗したのです。今回は色々な政党を糾合するのに、どんなキャッチコピーを使うのでしょうか』、「小池氏の生き方は流れを読み、キャッチコピーで人気を得て、その時々の大物に媚びを売って出世するというパターンでした。その本質が都知事経験で変わったとは思えません。小池氏に近い関係者は、「彼女の最近の行動は明らかに国政復帰を目指しているように見える」と言います。「カスハラ条例」をつくるといった若者やマスコミうけする政策、「無駄な出費」と批判を受けた都庁プロジェクションマッピンクも、側近によると「国政進出策と考えると無駄ではない」そうです・・・今回は色々な政党を糾合するのに、どんなキャッチコピーを使うのでしょうか」、なるほど。
・『「空気」は研究し尽くしているが 「失敗の本質」は学んでいるのか 折しも千葉方面では地震が頻発し、都庁でも地震対策について現実的な研究が命じられているようです。私はダイヤモンド・オンラインの過去の連載記事で、震災や噴火がこれから頻繁に起こりかねないのに緊急時の法体制が整備されていないこと、そして大破壊のあとの国家の改造計画がないことについて警告してきました。これはどこの政党が、そしてどんな首相が政権を担当しても、やり遂げねばならない課題です。 次期政権には、せめて災害時に機能する憲法の緊急事態条項を提案するといった、国家百年の大計を作れる政権になってほしいと考えます。小池氏は人生に影響を与えた本として『「空気」の研究』(山本七平著)と『失敗の本質:日本軍の組織論的研究』(野中郁次郎他著)を挙げています。確かに「空気」は研究し尽くしているように見えますが、「一度成功すると同じ作戦を繰り返す」という日本軍の欠点を指摘した『失敗の本質』から学んだようには見えません。 読者の皆さん、日本の将来を決める選挙がすぐそばに迫っていることだけは忘れないでください』、「私はダイヤモンド・オンラインの過去の連載記事で、震災や噴火がこれから頻繁に起こりかねないのに緊急時の法体制が整備されていないこと、そして大破壊のあとの国家の改造計画がないことについて警告してきました。これはどこの政党が、そしてどんな首相が政権を担当しても、やり遂げねばならない課題です。 次期政権には、せめて災害時に機能する憲法の緊急事態条項を提案するといった、国家百年の大計を作れる政権になってほしいと考えます・・・確かに「空気」は研究し尽くしているように見えますが、「一度成功すると同じ作戦を繰り返す」という日本軍の欠点を指摘した『失敗の本質』から学んだようには見えません」 、さて「小池氏が中心になった政権が出来たとしても、『失敗の本質』からも学んでほしいものだ。
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発達障害(その6)(大人のADHD→44歳で米マイクロソフト転職!異色の日本人が「怠惰であれ」と説く理由~『世界一流エンジニアの思考法』(牛尾 剛 著)を読む、【高学歴発達障害】上智大卒の女性に親は「社会不適合者だから家庭に入れ」→ブラック企業経てたどり着いた天職)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-10
発達障害については、本年1月15日に取上げた。今日は、(その6)(大人のADHD→44歳で米マイクロソフト転職!異色の日本人が「怠惰であれ」と説く理由~『世界一流エンジニアの思考法』(牛尾 剛 著)を読む、【高学歴発達障害】上智大卒の女性に親は「社会不適合者だから家庭に入れ」→ブラック企業経てたどり着いた天職)である。先ずは、本年1月26日付けダイヤモンド・オンライン「大人のADHD→44歳で米マイクロソフト転職!異色の日本人が「怠惰であれ」と説く理由~『世界一流エンジニアの思考法』(牛尾 剛 著)を読む」を紹介しよう。https://diamond.jp/articles/-/337666・『視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のチーフ・エディターである吉川清史が豊富な読書量と取材経験などからレビューします。今回取り上げるのは、大人になってからADHDと診断された後、44歳で米マイクロソフトに転職した異色の日本人エンジニアが一流の同僚たちに学んだ仕事術を徹底解説した一冊です』、「米マイクロソフトに転職」とはすごい経歴だ。・『ADHDと診断→米マイクロソフトで活躍! 異色エンジニアの書籍に学ぶ 本連載のようにWebメディアに寄稿する際、書き手が陥りやすい罠がある。自分の意見や集めたネタなどを、一つの記事の中にできるだけ多く盛り込もうとすることだ。すると時間ばかりかかって、無駄に長いだけの焦点のぼやけた記事になりかねない。 良い文章を書くには、思い切って「捨てる」覚悟が必要だ。10のネタがあったら、その中で3~4つだけをピックアップする。残りは捨てるか、次の機会まであたためておく。その後は選んだものに集中し、最良のものに磨き上げる。 筆者は薬の専門家ではないが、文章は医薬品と似ているように思える。発熱、頭痛、せき、目まい、鼻水、腹痛――。これらに効く成分を全部混ぜ合わせたら、果たして「万病に効く薬」が出来上がるのか。 実際は決してそうではなく、薬として意味をなさないだろう。「解熱剤」「頭痛薬」「せき止め」など、特定の症状に絞って調合した方が、間違いなく効果を発揮するはずだ。 Webメディアにおける記事も、どのネタが読者のニーズにマッチする..
生活
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2024-03-10T19:15:49+09:00
先ずは、本年1月26日付けダイヤモンド・オンライン「大人のADHD→44歳で米マイクロソフト転職!異色の日本人が「怠惰であれ」と説く理由~『世界一流エンジニアの思考法』(牛尾 剛 著)を読む」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/337666
・『視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のチーフ・エディターである吉川清史が豊富な読書量と取材経験などからレビューします。今回取り上げるのは、大人になってからADHDと診断された後、44歳で米マイクロソフトに転職した異色の日本人エンジニアが一流の同僚たちに学んだ仕事術を徹底解説した一冊です』、「米マイクロソフトに転職」とはすごい経歴だ。
・『ADHDと診断→米マイクロソフトで活躍! 異色エンジニアの書籍に学ぶ 本連載のようにWebメディアに寄稿する際、書き手が陥りやすい罠がある。自分の意見や集めたネタなどを、一つの記事の中にできるだけ多く盛り込もうとすることだ。すると時間ばかりかかって、無駄に長いだけの焦点のぼやけた記事になりかねない。 良い文章を書くには、思い切って「捨てる」覚悟が必要だ。10のネタがあったら、その中で3~4つだけをピックアップする。残りは捨てるか、次の機会まであたためておく。その後は選んだものに集中し、最良のものに磨き上げる。 筆者は薬の専門家ではないが、文章は医薬品と似ているように思える。発熱、頭痛、せき、目まい、鼻水、腹痛――。これらに効く成分を全部混ぜ合わせたら、果たして「万病に効く薬」が出来上がるのか。 実際は決してそうではなく、薬として意味をなさないだろう。「解熱剤」「頭痛薬」「せき止め」など、特定の症状に絞って調合した方が、間違いなく効果を発揮するはずだ。 Webメディアにおける記事も、どのネタが読者のニーズにマッチするかを熟慮して、その内容に特化して書き上げた方が、手当たり次第に材料を盛り込むよりも読者の心に残るはずだ。そのピックアップする技術こそ、執筆や編集の「妙」というべきものだろう。 この考え方はもちろん、文筆業以外の業種・職種にも応用可能だ。どの業界においても、とりあえず目の前の仕事から手をつけていくという働き方は効率的とはいえず、良い成果も期待しづらい。不要なものを捨て、重要なものに絞って取り組む。この判断が重要なのである。 今回紹介する書籍『世界一流エンジニアの思考法』では、海外の一流ITエンジニアが実践している「取捨選択の妙」などを、著者の豊富なビジネス経験をもとに紹介している。 著者の牛尾剛氏は、国内大手SIerのITエンジニアを経て2009年に独立。15年に米マイクロソフトに入社し、19年から同社のクラウドサービス「Azure Functions」のプロダクトチームでシニアソフトウエアエンジニアを務める人物だ(肩書は刊行当時のもの)。 牛尾氏は、今でこそ世界最高峰ともいえるマイクロソフトのソフトウエア開発チームで活躍しているが、「幼い頃から要領が良くなく、大人になってからADHD(注意欠如・多動症)と診断された」と、本書の冒頭で明かしている。 だからこそ、「どうやったら不得意なことでも効率よく人並みのことができるのか、仕事の生産性を上げる方法を意識的に研究してきた」という。そして努力の末、44歳で米マイクロソフトに転職。「世界一流」のエンジニアとともに仕事をすることになった』、同氏は「幼い頃から要領が良くなく、大人になってからADHD・・・と診断された」・・・だからこそ、「どうやったら不得意なことでも効率よく人並みのことができるのか、仕事の生産性を上げる方法を意識的に研究してきた」という。そして努力の末、44歳で米マイクロソフトに転職。「世界一流」のエンジニアとともに仕事をすることになった」、なるほど。
・『米マイクロソフトの一流エンジニアは「意外と怠惰」だった!? 牛尾氏は転職後、同僚のエンジニアたちが、高い生産性を実現するための「思考法(マインドセット)」を身に付けていることを知る。 彼・彼女らの思考法を注意深く観察し、実践しながら、牛尾氏自身も「世界一流」となるべくさらなる努力を重ねてきた。そのノウハウをまとめたのが本書というわけだ。 「Be Lazy(怠惰であれ)」。牛尾氏は、同僚エンジニアたちのマインドセットを端的に表すものとして、こんな言葉を紹介している。もちろんマイクロソフトがそうした標語を公に掲げているわけではないが、上司などから「Be Lazy」「働きすぎないで」と声を掛けられることがあったという。 より具体的に言うと、一流のエンジニアは「より少ない時間で価値を最大化する」ことを目指している。そのために同僚が実践している習慣として、牛尾氏は以下に示す7つのポイントを挙げている。 (1)望んでいる結果を達成するために、最低限の努力をする (2)不必要なものや付加価値のない仕事(過剰な準備含む)をなくす (3)簡潔さを目指す (4)優先順位をつける (5)時間や費やした努力よりも、アウトプットと生産性に重点を置く (6)長時間労働しないことを推奨する (7)会議は決められた時間内で効率的かつ生産的に行う 一見すると、ビジネスの世界では当たり前の標語だ。だが、同じようなことを意識していても、日本人と「世界一流エンジニア」は捉え方に違いがあるという。 例えば「(4)優先順位をつける」というと、日本人は「重要なタスクから順番に手をつけ、最終的には全部やる」という前提で物事を考える。「その日のうちに」とは限らないが、最初のタスクを終えたら、次、またその次……というように仕事をこなす。多少時間がかかっても、最終的には自身のやるべきことを完璧に処理する。 だが驚くことに、海外の一流エンジニアたちの間では完璧主義は悪手とされる。その証拠に、上記の7項目は、全てが「いかにやることを減らすか」という目的意識に基づいている。 そして一流エンジニアたちには、日本では当たり前の「時間をかけて結局全部やる」という概念がない。「優先順位をつけた後は、最初の1個(最も重要なもの)だけをピックアップしてやる。そして他はやらない。その1つにフォーカスしよう」という感覚らしいのだ。 最重要なタスクだけを優先して集中的に取り組めば、当然短時間で終わる。そこだけにフォーカスしているから生産性が上がり、アウトプットの質も向上するというわけだ』、「一流エンジニアたちには、日本では当たり前の「時間をかけて結局全部やる」という概念がない。「優先順位をつけた後は、最初の1個(最も重要なもの)だけをピックアップしてやる。そして他はやらない。その1つにフォーカスしよう」という感覚らしいのだ」、なるほど。
・『「試行」の前に「思考」! 手を動かす前に仮説を立てるべし 日本のビジネスパーソンには身に覚えのある人も多いだろうが、「時間をかけて結局全部やる」という考え方だと、優先順位の高いものに取り組んでいる時でも、他のタスクがどうしても気になる。その結果、焦りが生じて生産性が下がりがちだ。「2番目以降は割り切って捨てる」という、マイクロソフト流の思い切りの良さを見習うべきだろう。 なお、上記の「(6)長時間労働しないことを推奨する」「(7)会議は決められた時間内で効率的かつ生産的に行う」とも関連しているが、米国には「時間を固定する」という考え方もあるそうだ。 「すべきこと」が終わるまで延々と作業を続けるのではなく、「何時から何時までこれをやる」と時間の枠を決める。そして、その枠の中で成果を最大化することを目指す。「限られた時間内で確実にできること」だけをピックアップし、集中するのだ。日本人が長時間だらだらと会議をしないためにも、有用な考え方だろう。 さらに、「試行錯誤をしない」という考え方も本書で紹介されている。 これに違和感を覚えた人もいるのではないだろうか。日本企業では「結果」だけでなく「プロセス」を評価しがちだ。トライアンドエラーを繰り返しながらじっくり検討を重ねた末に、最適解にたどり着くことが良しとされる。海外の一流企業では、それは重要ではないというのか――。 その答えを示す、一つのエピソードがある。 ある日、牛尾氏は自分のプログラムがうまく動かないときがあった。自力で直そうとすると、原因究明に途方もない時間がかかると考え、ポールという同僚のトップエンジニアに声をかけて「ペアプログラミング」を依頼した。ペアプログラミングとは、2人1組で1台のPCを共有し、一緒にプログラミングする手法だ。 セッションが始まると、PCの画面には、牛尾氏のプログラムに問題があることを示すログ(プログラムが内部でどのように動いているかを示す記録)が表示された。 するとポールは手を一切動かさず、最初の1つのログだけを見て、頭の中で「仮説」を立て始めた。ぶつぶつと独り言を言いながらしばらく考え、データベースを閲覧するソフトを起動。クエリ(システムへの命令文)を1つだけ書いて、「ここだろう」と一言。そのクエリの結果は、エラーの根本原因を正しく示すものだったという。 牛尾氏のかつてのやり方は、「的確な仮説を導き出すべく『思考』を巡らせる」という過程を省き、ひたすら「試行」を繰り返すものだったのかもしれない。その手法では、どれだけ時間がかかるかわからない』、「自力で直そうとすると、原因究明に途方もない時間がかかると考え、ポールという同僚のトップエンジニアに声をかけて「ペアプログラミング」を依頼した。ペアプログラミングとは、2人1組で1台のPCを共有し、一緒にプログラミングする手法だ。 セッションが始まると、PCの画面には、牛尾氏のプログラムに問題があることを示すログ(プログラムが内部でどのように動いているかを示す記録)が表示された。 するとポールは手を一切動かさず、最初の1つのログだけを見て、頭の中で「仮説」を立て始めた。ぶつぶつと独り言を言いながらしばらく考え、データベースを閲覧するソフトを起動。クエリ(システムへの命令文)を1つだけ書いて、「ここだろう」と一言。そのクエリの結果は、エラーの根本原因を正しく示すものだったという」、さすがだ。
・『マジメすぎる日本人は「Be Lazy」の精神で働こう! しかし、前述した7項目の「(5)時間や費やした努力よりも、アウトプットと生産性に重点を置く」にもある通り、重要なのは所要時間ではない。あくまで結果なのである。だからこそ、困ったときは試行錯誤に長時間かけるのではなく、優秀な仲間の助けを借り、素早く解決していい。「Be Lazy」の精神で働いていいのだ。 なお、これは筆者の見解だが、本書では必ずしも「試行錯誤自体が悪手」と言いたいわけではないのだろう。本書の例では、ポールがプログラムの問題点を一発で見抜いた。だが、より複雑な問題の場合は、そのプロセスを何度か繰り返す必要も出てこよう。 だからこそ、重要なのは「仮説→検証」を繰り返すことなのではないか。頭の中で論理的に、エラーの原因をいくつか考える。どの仮説が正しいのかを、優先順位に基づいて一つ一つ順に検証する。何番目かの仮説が正解で、エラーの原因を突き止められたならば、それは結局「最低限の努力」で済んでいる。これらは「正しい試行錯誤」だという見方もできる。 どんな仕事でもそうだが、多くの人は大量のタスクを抱え込みがちだ。どれから手を付けていいか分からず「時間がない」と焦る。不安になり、いろいろな方法を試してみる。そうする中で、時間だけが過ぎていく。 だが、困った時こそ「急がば回れ」である。深呼吸して、「最低限の努力」で済ませるにはどうすべきかを考える。このことが重要なのだ。 優先順位はどうか。「捨てる」べきタスクは何か。絞ったタスクを、どう効率的にやっていくか。それらを考える時間を惜しんではいけない。不安だからと、やみくもに手を動かすのは我慢しよう。 壁にぶつかった際は「仮説→検証」によって解決策を探る。どうにもならなければ、あっさりと仲間に頼っていい。「Be Lazy」の精神で働くのだ。 これらを意識するだけでも、皆さんの仕事の生産性は確実に上がっていくはずである。 (情報工場チーフ・エディター 吉川清史)』、「困った時こそ「急がば回れ」である。深呼吸して、「最低限の努力」で済ませるにはどうすべきかを考える。このことが重要なのだ。 優先順位はどうか。「捨てる」べきタスクは何か。絞ったタスクを、どう効率的にやっていくか。それらを考える時間を惜しんではいけない。不安だからと、やみくもに手を動かすのは我慢しよう。 壁にぶつかった際は「仮説→検証」によって解決策を探る。どうにもならなければ、あっさりと仲間に頼っていい。「Be Lazy」の精神で働くのだ」、なるほど、その通りなのだろう。
次に、2月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したフリーライターの姫野 桂氏による「【高学歴発達障害】上智大卒の女性に親は「社会不適合者だから家庭に入れ」→ブラック企業経てたどり着いた天職」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/338574
・『幼少期から発達障害(ASD)扱いされて精神科に通っていた女性は、得意の数学で上智大に入学。卒業後は大学院に進むほどの優秀な頭脳を持っていたが、ドロップアウトして不本意な職場を転々とするハメに……。ようやくたどり着いた「天職」は、なにが彼女にフィットしたのだろうか。※本稿は、姫野 桂『ルポ 高学歴発達障害』(ちくま新書)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『医師の父は心を病んで家庭は機能不全 娘の小中時代はほぼ不登校だった 待ち合わせ場所に現れた高橋希美さん(45歳)はすらっとしたモデル体型の女性だった。上智大学の理工学部を卒業、同大学院を中退している。 高橋さんは4~5歳の時点でASD(自閉スペクトラム症)傾向が見つかり、はやくから精神科に通っていた。発達障害をこじらせたことから、義務教育をほとんど受けられない状態になってしまった。多くの人とかかわらなければならない「学校」という空間が高橋さんにとっては苦痛な空間だったのだ。また、家族とも折り合いが悪かった。 「父は医師なのですが、私が幼稚園に入る前に精神を病んでしまって半年くらい精神科に入院していたんです。父は勤務医で、職場の人間関係や激務のストレスなどを全部私にぶつけていました。ひとりっ子でほかにきょうだいはいないし、母は気が強いので、母には当たらず子どもの私に来るんですよね」 「私が小学校低学年の頃まで父は単身赴任をしていて、週1くらいで家に帰ってきていたのですが、その1日が毎週地獄でした。単身赴任が終わってからは父が毎朝毎晩家にいるし、もうどうしようと、死にたいとずっと思っていました。その頃くらいから小学校に行ってないです」 高橋さんはいわゆる機能不全家族で育った。小中学校にはほとんど行くことができず、高校は不登校の生徒や高校中退者を受け入れる高校に4年間通うことになった。高橋さんの学校生活はどのようなものだったのだろうか。 「女子って『一緒にトイレに行こう』とかの集団行動があるじゃないですか。それが私嫌なんです。高校時代は同じ時間に国語を受ける人もいれば数学を受ける人もいれば化学を受けている人もいる。みんな教室はバラバラなのにそうやってつるんでいる人たちを見て、『なんで一緒にトイレに行くの?個人行動すればいいのに』と思っていました」) 周りには勉強熱心な人はあまり多くなく、大学に進学する生徒の数も全体の半分くらいで、進学する大学のレベルもそれほど高くなかった。定期試験もちょっと勉強しただけで90点台が取れるレベルの学校だった。 そのため、評定平均が非常に高く、せっかくだからと推薦入試を受けることにした。しかし、文章を書くのはあまり得意ではなかった高橋さんは、入試に小論文がなく、そこそこレベルの高い大学の中から、数学科のある上智大学を選んだ。 「小さい頃から算数・数学がとにかく好きだったんです。小学校入学前にはもう足し算と引き算はできていたと思います。問題集があればひとりでできるところが数学の魅力です。家でもひとりでできる数学には没頭していました。数学ができることが、得意なことと苦手なことの凸の部分なんだと思います」。 晴れて上智大学に合格して、地方から上京することとなった。だが、入学した理工学部数学科(現在は情報理工学科へ再編)は理系学科であるがために女子が少なく、1年の頃は学科で高橋さんを入れて女子が十数名しかいなかった。 加えて、高橋さん以外の女子が全員自宅から通学していること、女子高出身だったことから、女子は常に固まって行動していたため、その輪に高橋さんは馴染めずにつらい思いをした。 結局、同じ学年の人と仲良くなれることはなかったという。休学も挟み、卒業まで5年かかってしまった。しかし、相変わらず勉強は得意で特に幾何学のテストではベスト3に入っていた』、「問題集があればひとりでできるところが数学の魅力です。家でもひとりでできる数学には没頭していました。数学ができることが、得意なことと苦手なことの凸の部分なんだと思います」。 晴れて上智大学に合格して、地方から上京することとなった。だが、入学した理工学部数学科(現在は情報理工学科へ再編)は理系学科であるがために女子が少なく、1年の頃は学科で高橋さんを入れて女子が十数名しかいなかった・・・同じ学年の人と仲良くなれることはなかったという。休学も挟み、卒業まで5年かかってしまった。しかし、相変わらず勉強は得意で特に幾何学のテストではベスト3に入っていた」、なるほど。
・『就職せず大学院に進むが中退し学生バイトの下で働くみじめさ 卒業後はそのまま大学院へと進学したが、持病のてんかん発作が頻繁に起こるようになったこと、親から「あなたは社会不適合者だから家庭に入るのがいい。地元に戻ってきて結婚相談所に入りなさい」と言われたことでだんだんとメンタルがすり減っていき、勉強にもついていけなくなったことを理由に大学院を中退してしまった。) 「大学院を中退後、しばらくブラブラとニートをしていて、それから発達障害の就労訓練事業をしているところで訓練を受けました。私としては最低2カ月は訓練を受けたかったのですが、1カ月の訓練を終えた時点で団体の代表から猛烈に『早く就職しなさい』と言われたんです」 「そこでハローワークの障害者ブースに行ったら予備校の教材部の求人があって、障害者雇用でパートという形で入社しました。でも、その会社特有だと思うんですけど、なぜか『障害をオープンにしないでくれ』と言われたんです」 高橋さんは障害者雇用で入ったこの会社を3年で辞めている。数学科に所属していたが、別の科の社員でそりが合わない人がいたのと、大学生のアルバイトがバイトリーダー的な存在となり、大学生の部下になってしまったことを惨めに感じてしまったのだという。体重もさらに落ちて40kgを切ってしまい、「これは危ない」と思って退職した。 2社目も教材関係の仕事に就いた。ここではクローズ(自身の障害を企業に開示しない)で、派遣として入社した。この会社がブラックだった。 「数学課の社員の方がパワハラ気質の人で、何をやっても怒られました。私が入社する前に私のポジションにいた人は男性だったらしいのですが、その人が職務中に泣いたというレベルのパワハラ具合で。私もパワハラが嫌になって2~3日無断欠勤したこともあって、もうクビでいいと思ったこともありました。それでも派遣元から『無断欠勤した期間は有給ということにしてあげるから戻ってこないか』ということを言われて戻りました」 「派遣は3カ月ごとの更新制なので、次の更新はもうないだろうなと思っていたら、なぜかまた『お願いします』と言われて。結局2年少々引っ張られて在籍し、最後はもうこっちから辞めたいと言って辞めました」』、なるほど。
・『発達障害であることを伏せて正社員採用された職場の居心地は その後また別の会社を経て、現在の天職だと語る職場にたどり着くこととなった。塾や予備校などで使用する参考書や教材を編集する仕事だ。もともと数学が好きで、数学を扱えるだけで嬉しいのだという。 高校教科書の練習問題の模範解答がずらっと書かれた本や、学校の教師向けの指導書の作成、中学生向けの高校入試対策模擬試験の作成を行なっている。編集のみならず、ときには執筆や校正を行なうこともある。他にも、中学生向けの高校入試の指導書を作成したり、タブレット教材の制作にも関わっている。 今の仕事で一番楽しいのは、自分が書いたものが本や模擬テストとなって製品になることだという。ここにはクローズで正社員として入社している。 「数学が好きだというのもあるのですが、すごく小さな会社で、上司である社長が穏やかな人だから続けられています。環境がとてもいいんです。もともと数学ができる人ってASD気質の人が多いので、そんなに私が浮いていないんです。これが英語や国語だったら浮いていたと思います」。 なお、クローズで入社しているが、高橋さんは障害者手帳を持っている。障害者控除を受けるために経理に通す必要があるのではないかと尋ねると、会社側には発達障害ではなく、併発しているてんかんで手帳を持っていると伝えているのだという。 クローズで働いている最大の理由はやはりお金だ。障害者雇用の多くは低賃金である。以前、障害者雇用で働いていたときは幸い、親がワンルームマンションを購入してくれて、家賃の負担がなかった。そして今でもその部屋に住み続けている。 「私という人間は数学がなければ何もありません。発達障害があって、数学に秀でていたから今の職に就けたので、一概に発達障害が悪いとは思っていません。社長が元気なうちはずっとこの会社で働き続けたいです」 天職と語る職業に恵まれた一方で、全く苦難がないわけではない。交際中の男性が詳細は話さずざっくりと「彼女は障害者だ」と男性の親に伝えたところ、「障害者の嫁なんていらない」と会わせてもらえなかったことがあったという。高橋さんは障害者差別を受けたことになる。少しでも障害についての理解が一般の人にも認知されることを願うばかりだ』、「もともと数学ができる人ってASD気質の人が多いので、そんなに私が浮いていないんです。これが英語や国語だったら浮いていたと思います・・・クローズで働いている最大の理由はやはりお金だ。障害者雇用の多くは低賃金である。以前、障害者雇用で働いていたときは幸い、親がワンルームマンションを購入してくれて、家賃の負担がなかった。そして今でもその部屋に住み続けている・・・交際中の男性が詳細は話さずざっくりと「彼女は障害者だ」と男性の親に伝えたところ、「障害者の嫁なんていらない」と会わせてもらえなかったことがあったという。高橋さんは障害者差別を受けたことになる。少しでも障害についての理解が一般の人にも認知されることを願うばかりだ」、結婚を前提とした付き合いで「親」の反対は、困ったものだが、やはり現状ではしょうがないと受け止めざるを得ないようだ。
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外国人問題(その9)(「特高マインド」が脈々と ウィシュマさんの死によって判明した入管の異常な体質、じつはいま中国人が急速に増えている「日本の都市」があった…その名前と「移住の理由」、日本に移住する中国人が「住む場所」に変化が起きていた…その「驚愕の実態」 地区ごとの特徴、埼玉・川口市のクルド人問題が紛糾!「外国人差別」と叫ぶ人が知らない暗黒史)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-09
外国人問題については、昨年3月29日に取上げた。今日は、(その9)(「特高マインド」が脈々と ウィシュマさんの死によって判明した入管の異常な体質、じつはいま中国人が急速に増えている「日本の都市」があった…その名前と「移住の理由」、日本に移住する中国人が「住む場所」に変化が起きていた…その「驚愕の実態」 地区ごとの特徴、埼玉・川口市のクルド人問題が紛糾!「外国人差別」と叫ぶ人が知らない暗黒史)である。先ずは、昨年7月6日付けAERAdot「「特高マインド」が脈々と ウィシュマさんの死によって判明した入管の異常な体質」を紹介しよう。・『名古屋入管で収容中に死亡したスリランカ人女性ウィシュマさんの監視カメラ映像が法廷で上映された。だが彼女の死後も、命を軽視する入管の体質は変わっていない。弁護士が指摘する「特高マインド」とは何か。AERA 2023年7月10日号の記事を紹介する。 ウィシュマさんの遺族代理人の高橋済(わたる)弁護士は、根底には入管に横たわる「特高マインド」があると指摘する。 特別高等警察、略して「特高」。戦前、思想犯や反政府活動などを弾圧してきた秘密警察だ。戦後、特高は解体されるが、その関係者の少なからぬ部分が入管に携わるようになったといわれる。その特高マインドが今も脈々と入管に流れていると感じると、高橋弁護士は言う。 「在留資格のない外国人は『憲法の番外地』、つまり、人権を認めないというのが入管の考え方としてあります。収容者を『制圧行為』と称し、多数の職員で暴行を加えるなど人権を無視する事例は施設内で度々起きています。これは、外国人は取り締まりの対象であり社会に危害を加える存在だという、戦前の特高のマインドが今も引き継がれているからだと思います」 同時に、こうした入管の体質を許してきたのは、日本人が少なからず持っている外国人への差別心とも関係しているという。 5月、日本維新の会の梅村みずほ議員は国会で、ウィシュマさんは「ハンストによる体調不良で亡くなったかもしれない」などと発言した。根拠のない発言にウィシュマさんの遺族は強く抗議したが、こうした言動の根っこには、外国人に対する差別心があると高橋弁護士は話す。 「日本は同質性が高い社会のため、多かれ少なかれ、外国人は自分たちの社会に危害を加えるという、漠然とした差別心があると思います」 そうした中、6月9日に改正入管法が国会で成立した。難民申請が3回目以降..
社会
tr232238
2024-03-09T18:42:16+09:00
先ずは、昨年7月6日付けAERAdot「「特高マインド」が脈々と ウィシュマさんの死によって判明した入管の異常な体質」を紹介しよう。
・『名古屋入管で収容中に死亡したスリランカ人女性ウィシュマさんの監視カメラ映像が法廷で上映された。だが彼女の死後も、命を軽視する入管の体質は変わっていない。弁護士が指摘する「特高マインド」とは何か。AERA 2023年7月10日号の記事を紹介する。 ウィシュマさんの遺族代理人の高橋済(わたる)弁護士は、根底には入管に横たわる「特高マインド」があると指摘する。 特別高等警察、略して「特高」。戦前、思想犯や反政府活動などを弾圧してきた秘密警察だ。戦後、特高は解体されるが、その関係者の少なからぬ部分が入管に携わるようになったといわれる。その特高マインドが今も脈々と入管に流れていると感じると、高橋弁護士は言う。 「在留資格のない外国人は『憲法の番外地』、つまり、人権を認めないというのが入管の考え方としてあります。収容者を『制圧行為』と称し、多数の職員で暴行を加えるなど人権を無視する事例は施設内で度々起きています。これは、外国人は取り締まりの対象であり社会に危害を加える存在だという、戦前の特高のマインドが今も引き継がれているからだと思います」 同時に、こうした入管の体質を許してきたのは、日本人が少なからず持っている外国人への差別心とも関係しているという。 5月、日本維新の会の梅村みずほ議員は国会で、ウィシュマさんは「ハンストによる体調不良で亡くなったかもしれない」などと発言した。根拠のない発言にウィシュマさんの遺族は強く抗議したが、こうした言動の根っこには、外国人に対する差別心があると高橋弁護士は話す。 「日本は同質性が高い社会のため、多かれ少なかれ、外国人は自分たちの社会に危害を加えるという、漠然とした差別心があると思います」 そうした中、6月9日に改正入管法が国会で成立した。難民申請が3回目以降の申請者は「相当の理由」が示されなければ送還できるようになる。今後は入管への収容者も増えていくと考えられ、このままでは第2、第3のウィシュマさんが出る恐れがある。 STARTの松井さんは、「今まで以上に収容者への基本的人権の侵害は許されないと発信していく必要がある」と話す。 「救済されるべき人たちは救済されなければならず、強制的に送り返すことは絶対にしてはいけない。そのためにも、強制的に送り返すという入管の方針を転換していく必要があります」』、「在留資格のない外国人は『憲法の番外地』、つまり、人権を認めないというのが入管の考え方としてあります。収容者を『制圧行為』と称し、多数の職員で暴行を加えるなど人権を無視する事例は施設内で度々起きています。これは、外国人は取り締まりの対象であり社会に危害を加える存在だという、戦前の特高のマインドが今も引き継がれているからだと思います」、『憲法の番外地』とは言い得て妙だ。
・『根本的な見直しが必要 STARTの千種さんは、「施設内で起きる問題を可視化していくことが重要」と話した。 「入管が一番恐れているのは、収容されている当事者たちが団結して自分たちに向かってくることです。そのためにも、入管で起きている問題を、収容されている人たちと一緒に取り上げて声にして社会的に明らかにし、入管が変わらざるを得ない状況をつくりあげていくことです。それが、これ以上、施設で亡くなる人を出さないためにも重要です」 高橋弁護士は、まずは「制度の土台から変えていく必要がある」と指摘する。 「小手先の改革で常勤医師を配置しても何も変わりません。いまは全ての権限が入管に集中しているため、収容するかしないかは入管の裁量次第で決まります。本来は、どのような人を収容するかは法律でルールを明文化し、裁判所が判断していくよう整備しなければいけません。これは、国連の自由権規約委員会からも、改善を求められていることです」 そして最終的には、巨大な裁量権を持つ入管を解体することが必要だという。解体し、収容の判断は裁判所が行い、運用は民間に委託するなどし、難民保護は第三者機関が行う。入管は、入管の本来の目的である強制送還の業務だけを担うようにするなど、抜本的な入管行政の見直しが不可欠だ、と。 「同時に、日本人の中にある外国人に対する差別心をなくしていく教育を子どもも大人も行うなど、社会全体で変わっていく必要があります」(高橋弁護士)』、「本来は、どのような人を収容するかは法律でルールを明文化し、裁判所が判断していくよう整備しなければいけません。これは、国連の自由権規約委員会からも、改善を求められていることです」 そして最終的には、巨大な裁量権を持つ入管を解体することが必要だという。解体し、収容の判断は裁判所が行い、運用は民間に委託するなどし、難民保護は第三者機関が行う。入管は、入管の本来の目的である強制送還の業務だけを担うようにするなど、抜本的な入管行政の見直しが不可欠だ、と。 「同時に、日本人の中にある外国人に対する差別心をなくしていく教育を子どもも大人も行うなど、社会全体で変わっていく必要があります」、その通りだ。
次に、7月10日付け現代ビジネスが掲載した中島 恵氏による「じつはいま中国人が急速に増えている「日本の都市」があった…その名前と「移住の理由」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/112849?imp=0
・『東京に拠点を持つ中国人 近年、国内の政治情勢などを背景に、日本に移住する中国人が増えているが、在日中国人が最も多く住んでいる地域はどこか、ご存じだろうか。法務省の在留外国人統計(2022年6月末時点)によると、それは東京都で、約22万2000人となっている。在日中国人総数は約75万人なので、約3~4分の1が東京都に居住していることになる(続いて多いのは、埼玉県、神奈川県、大阪府、千葉県の順)。 さらに、都内での居住地域を細かく見てみると、最も多いのは江東区だった。2位は足立区、3位は江戸川区、4位は新宿区、5位は板橋区となっており、新宿区を除いて住宅地のイメージが強い地区となっている。中華料理店が多いイメージがある池袋を含む豊島区などはトップ5には入っていない。 なぜ、中国人はこれらの地域に多く住んでいるのか。同じ在日中国人でも、居住地域によって住んでいる人の特徴に違いはあるのか。各行政区の中国人に関する詳細な情報はないが、私はこれらの地区に住む中国人の知人に話を聞き、そこに住む理由を聞いてみた。そこから浮かび上がってきたものは――。』、興味深そうだ。
・『「亀戸は庶民的で中国食材店も多い」 「中国人の友人から、この付近(江東区亀戸)はとにかく物価が安くて、庶民的で、中国食材店も多いから住みやすいよ、と勧められたので、数年前に移り住みました。会社は新宿なので、最寄りのJR総武線亀戸駅から1本で行けるし、出張のときには東京駅にも10分ほどでアクセスできるので、かなり便利ですよ」 こう語るのは、IT企業に勤務する30代の中国人男性Aさん。10年以上前、中国の東北部から来日し、日系、中国系企業に勤務してきた。以前は千葉県に住んでいたが、勤務先がある新宿に少しでも近いほうがよいと考えて、亀戸に移ったという。) 亀戸は、「亀戸天神」や「亀戸餃子」などがあり、下町の庶民的なイメージがある。 その通り、駅から徒歩5分の距離には「亀戸五丁目中央通商店街」があり、レタスが2個で98円など激安の青果店や、Aさんが話していた中国食材店が数軒ある。連続して商店が軒を連ねているわけではないため、同じ総武線の(荒川を超えた江戸川区にある)新小岩、小岩などの商店街と比べると賑わっているというほどではなく、「中国人比率」はそれほど高くないように感じる。 だが、Aさんによると、同商店街から西方向に数分歩いた距離にある「亀戸二丁目団地」では中国人を多く見かけるという。 「私自身もそこに住んでいるのですが、とにかく中国人が多いですよ。家賃が安いし、ここには中国の団地みたいな雰囲気があるんです。団地の真ん中に中庭があり、クルマが中まで入ってこないので、小さな子どもが遊んでいても安心。交通量の多い道路に面したマンションよりも、建物に囲われている分、安心感があるんです」(Aさん) 私もこの団地に足を運んだことがあるが、UR都市機構(独立行政法人都市再生機構)の物件で、保証人が不要であること、家賃が比較的安いこと(UR都市機構のウェブサイトによると、1LDK~3Kまでで約8万4000円~約13万3000円)、敷地内に激安スーパーがあるという諸条件が、中国人比率が全体の5割近い埼玉県川口市の芝園団地と酷似している』、確かに「亀戸」は「下町の庶民的なイメージ」に溢れている。
・『中国人ネットワーク 同じ江東区に、もう一ヵ所、中国人が急速に増えている地域がある。豊洲だ。 地下鉄有楽町線の豊洲駅に降り立つと、高層ビルやタワーマンションが複数そびえ立っており、亀戸と違って、生活感はまったく感じられない。) 私は今年5月に出版した『中国人が日本を買う理由』の中で、豊洲のタワーマンション(約7000万円)を購入した20代の若者のことを書いた。この若者が豊洲に引っ越してきたのは22年春。 彼は私に「中国人の友人から、中国人の間でいま豊洲の人気が上がっていると聞き、20年に一室購入しました。上層階から海が見渡せる眺望も気に入りました」と話していた。 このように、江東区内には、下町風情が漂い、激安店が多い亀戸と、新興都市としてオフィスビルが立ち並ぶ豊洲という2つの対照的な地区がある。公共交通機関も、JR総武線、地下鉄有楽町線、東西線、都営新宿線があり、いずれも都心へのアクセスがいい。それが(在日中国人が住む地域として)1位にランクインした理由の一つかもしれないと感じた。では、2位以下はどうなっているのか。 江東区の次に中国人が多いのは足立区だ。以前はあまりイメージがよくないという日本人もいたが、リクルートが実施している「SUUMO住みたい町ランキング2023首都圏版」では北千住が28位にランクインするなど、近年は人気が上がっている。 駅前にはルミネやマルイなどのファッションビルも立ち並んでいる北千住。駅前に中国をイメージするものはほとんどないが、住宅街や、近隣の竹ノ塚駅のほうまで行ってみると、中華食材店、中華料理店が増えている。 私の知人の中国人も北千住に住んでいるが、彼は「知り合いの中国人不動産屋から、建売のいい一軒家があると紹介されたのが北千住でした。庭つきの家で子どもを伸び伸びと育てたいと、ここにしました。日比谷線の沿線に勤務先があるので便利なんです」と、引っ越してきた理由を話した。 3位の江戸川区は前述した江東区と同じ路線上にあり、千葉県に近い。江東区と同じく、庶民的な商店が多く、家賃や物価が安い。JR総武線の平井駅付近には外国人留学生向けの日本語学校や、中国人専門の大学受験予備校があり、亀戸や小岩と並んで中国人率が非常に高い。 同じ江戸川区葛西に住む知人の中国人は「東西線の葛西や行徳にも中国人が多いですが、平井は第二の高田馬場になるような気がする」と話す。 その高田馬場があるのが4位の新宿区だ。歌舞伎町、大久保などの歓楽街のイメージがあるが、中国人にとっては、日本語学校や専門学校が多いところというイメージ。3年前に中国の高校を卒業後に来日した女性、Bさんは、高田馬場にある日本語学校に入学するのと同時に、同じ駅前にある大学受験予備校にも入学。その予備校の担当者から住居を紹介され、高田馬場にマンションを借りた。日本語学校、大学受験予備校、不動産店のいずれの担当者も中国人だ。 高田馬場駅前を降りると、大学受験予備校の看板が多数並んでいる。そこに通う中国人留学生を目当てにした「ガチ中華」の店も多く、早稲田大学まで続く早稲田通り沿いには、中国で人気の飲食チェーン店が軒を連ねている。 以前、駅前の大学受験予備校でアルバイトをしていたという中国人男性は、「この町が気に入り、受験が終わっても、この町に住み続けるという友だちが少なくないです」と話していた。5位は板橋区。板橋区は池袋がある豊島区に隣接しており、JR埼京線、都営三田線、東武東上線、地下鉄有楽町線・副都心線が走っている。都営三田線を除いた路線はすべて池袋駅につながっており、通勤に便利な割に家賃が比較的安く、庶民的なエリアだ。 このように、中国人が多い地区のトップ5を見てみると、共通点が浮かび上がってくる。それは、比較的物価が安く、中国人の生活に欠かせない中国食材店や中華料理店が多いこと、10年以上前に来日した中国人がすでに多く住んでいて、安心感があること、中国人のネットワークで不動産物件を紹介された人が多いこと、都心への交通アクセスがよいこと、などだ。これらの情報は中国人が頻繁に使っているSNS、ウィーチャットで流れてくる。それを見て、さらに、そこに人が集住するという流れになっている。 【後編】『日本に移住する中国人が「住む場所」に変化が起きていた…その「驚愕の実態」』では、これまでの在日中国人とは様相の異なる「在日中国人」が増えてきたことについて説明する』、「中国人が多い地区のトップ5を見てみると、共通点が浮かび上がってくる。それは、比較的物価が安く、中国人の生活に欠かせない中国食材店や中華料理店が多いこと、10年以上前に来日した中国人がすでに多く住んでいて、安心感があること、中国人のネットワークで不動産物件を紹介された人が多いこと、都心への交通アクセスがよいこと、などだ」、なるほど。
第三に、7月10日付け現代ビジネスが掲載した中島 恵氏による「日本に移住する中国人が「住む場所」に変化が起きていた…その「驚愕の実態」 地区ごとの特徴」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/112850?imp=0
・『近年、国内の政治情勢などを背景に、日本に移住する中国人が増えているが、在日中国人が最も多く住んでいる地域はどこか、ご存じだろうか。法務省の在留外国人統計(2022年6月末時点)によると、それは東京都で、約22万2000人となっている。在日中国人総数は約75万人なので、約3~4分の1が東京都に居住していることになる(続いて多いのは、埼玉県、神奈川県、大阪府、千葉県の順)。 さらに、都内での居住地域を細かく見てみると、最も多いのは江東区だった。2位は足立区、3位は江戸川区、4位は新宿区、5位は板橋区となっており、新宿区を除いて住宅地のイメージが強い地区となっている。中華料理店が多いイメージがある池袋を含む豊島区などはトップ5には入っていない。 なぜ、中国人はこれらの地域に多く住んでいるのか。同じ在日中国人でも、居住地域によって住んでいる人の特徴に違いはあるのか。各行政区の中国人に関する詳細な情報はないが、私はこれらの地区に住む中国人の知人に話を聞き、そこに住む理由を聞いてみた。 【前編】『じつはいま中国人が急速に増えている「日本の都市」があった…その名前と「移住の理由」』で詳しく説明したが、共通点が浮かび上がってくる。 それは、比較的物価が安く、中国人の生活に欠かせない中国食材店や中華料理店が多いこと、10年以上前に来日した中国人がすでに多く住んでいて、安心感があること、中国人のネットワークで不動産物件を紹介された人が多いこと、都心への交通アクセスがよいこと、などだ。これらの情報は中国人が頻繁に使っているSNS、ウィーチャットで流れてくる。 それを見て、さらに、そこに人が集住するという流れになっている』、「共通点が浮かび上がってくる。 それは、比較的物価が安く、中国人の生活に欠かせない中国食材店や中華料理店が多いこと、10年以上前に来日した中国人がすでに多く住んでいて、安心感があること、中国人のネットワークで不動産物件を紹介された人が多いこと、都心への交通アクセスがよいこと、などだ」、なるほど。
・『「馴染みのある地区」を選ばない だが、近年来日した富裕層の人の中には、これら、長年日本に住んでいる在日中国人にとって「馴染みのある地区」を選ばない人が増えている。タワーマンションが多い豊洲だけは例外だが、近年、日本に移住してきた人に、どこに住んでいるかと聞いてみると、港区、品川区、渋谷区、という答えが返ってきた。 むろん、「中国人富裕層が住む地区の統計」といったものは存在しないので、あくまでも私が取材した範囲内の話だが、彼らは、日本在住歴が長い中国人とは異なるネットワークを持っており、そこで得た情報によって居住区を決めているようだ。) 2年前、日本にある大手中国系IT企業に駐在員としてやってきた30代の男性は、会社の総務部の手配で港区を推薦されたため、そこに住み始めたと話してくれた。 「会社は大手町にあり、そこから近いので六本木の賃貸マンションに住んでいます。私は東京に詳しくなく、地理もよくわかりませんが、ここは治安もいいし、ステータスの面でも満足できると思いました。家賃は30万円以上しますが、会社負担です。 いまは駐在員ですけど、1年以内に、投資目的でこの近くにマンションを購入しようと考えています。他の駐在員仲間も六本木や麻布に多く住んでいますよ。仕事で遅くなっても、タクシーですぐに帰宅できるし、東京タワーも見える眺めのいいマンションなので気に入っています」 その男性によると、富裕層の友人の中には、森ビルが手掛けている高級マンション「麻布台ヒルズ」を購入している人が何人もいるという。彼が入っている駐在員や富裕層のSNSグループには、頻繁に高級物件の情報が流れてくるので、彼自身も投資用に購入したいと話していた』、「近年、日本に移住してきた人に、どこに住んでいるかと聞いてみると、港区、品川区、渋谷区、という答えが返ってきた・・・会社は大手町にあり、そこから近いので六本木の賃貸マンションに住んでいます。私は東京に詳しくなく、地理もよくわかりませんが、ここは治安もいいし、ステータスの面でも満足できると思いました。家賃は30万円以上しますが、会社負担です・・・他の駐在員仲間も六本木や麻布に多く住んでいますよ。仕事で遅くなっても、タクシーですぐに帰宅できるし、東京タワーも見える眺めのいいマンションなので気に入っています」、「中国人」といっても、昔から住んでいる人たちと、最近の人たちは生活スタイル、所得などで大きな差があるようだ。
・『通勤する必要のない富裕層の在日中国人 また、近年来日した富裕層の特徴として挙げられるのが、「日本語があまりできない」ことだ。10年以上前に来日した中国人は、日本の大学を卒業し、日本企業に勤務している人が多い。 彼らは日本社会にある程度溶け込んでおり、日本人と同等の給料を得て生活していることから、日本人と似たような消費意識を持っている。記事の前半で紹介したように、物価が安く、商店街があり、勤務先へのアクセスがいいところに住みたいという日本人のような考え方の人が多いが、近年来日した中国人は感覚がかなり異なるようだ。 彼らの多くは30~50代の働き盛りだが、中国で財を成した人が多く、日本に移住してからはどこかに通勤する必要がない。そして、子ども連れで来日する場合、子どもを日本のインターナショナルスクールに通わせたいと考えている人が多い。 そのため、ある中国人は「港区、目黒区などにあるインターナショナルスクールを検討しているので、住居もその近くにしたい」と話していた。品川区に住む私の知人の中国人も、子どもが虎ノ門にあるインターナショナル幼稚園に通っているため、その近くで物件を探したと言っていた。 これらの富裕層はまだごく一握りしかおらず、在日中国人の中で少数派だが、今後、中国の情勢によって、移住者はもっと増える可能性もある。だが、すでに約75万人に上っている在日中国人の大半は、前編で紹介したような一般会社員などであり、中国人が多く集住している地区を好む傾向があることがわかる。 こうした傾向は、東京都の次に多い埼玉県、神奈川県などでも同様で、埼玉県でいえば川口市、神奈川県でいえば横浜市がそれに当たる。ふだん、すぐそばに住んでいても、その存在について深く考える機会の少ない在日中国人。 だが、その居住地区をよく見てみると、来日した時期や収入などによる彼らの傾向や層、最近の特徴といったものが見えてくるのではないだろうか』、「近年来日した中国人は感覚がかなり異なるようだ。 彼らの多くは30~50代の働き盛りだが、中国で財を成した人が多く、日本に移住してからはどこかに通勤する必要がない。そして、子ども連れで来日する場合、子どもを日本のインターナショナルスクールに通わせたいと考えている人が多い。 そのため、ある中国人は「港区、目黒区などにあるインターナショナルスクールを検討しているので、住居もその近くにしたい」と話していた・・・在日中国人の大半は、前編で紹介したような一般会社員などであり、中国人が多く集住している地区を好む傾向があることがわかる。 こうした傾向は、東京都の次に多い埼玉県、神奈川県などでも同様で、埼玉県でいえば川口市、神奈川県でいえば横浜市がそれに当たる」、その通りなのだろう。
第四に、2月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「埼玉・川口市のクルド人問題が紛糾!「外国人差別」と叫ぶ人が知らない暗黒史」を紹介しよう。
・『深刻化する「川口クルド人問題」は「ヘイト」なのか SNSでたびたび話題になっていた埼玉県川口市の「クルド人問題」が、ついに国会で取り上げられることになった。 日本維新の会の高橋英明衆院議員が、国会質疑で「ちょっとひどい状況だ」「早急に一斉取り締まりを」などと発言したのである。 ……と言われても、関東圏以外の方は「クルド?何それ?」というリアクションの方も多いと思うので、NHK首都圏ニュースの解説を引用させていただく。 《埼玉県川口市で2023年7月、病院に100人近くの外国人が集結する騒動が発生しました。川口市ではトルコから来たクルド人のコミュニティーが拡大し、ゴミ出しのルールや生活習慣などの違いによる、住民との摩擦も目立っています》(NHK首都圏ナビ、2月2日) この問題がややこしいのは「摩擦どころではない」という住民もかなりいることだ。「敷地の駐車場を壊された」「深夜に大音量をかけた改造車が住宅街を暴走する」などの「被害」を訴える人もおり、21年10月にはこんな「悲劇」まで起きている。 「19歳のクルド人少年がトラックで県道を暴走し、横断中の69歳男性をはねて死亡させ、逃走した。少年の所持品に運転免許証はなかったという。事件後、少年は出国しようとしたところを逮捕された」(産経新聞、23年7月30日) そこで、23年6月、川口市議会は「一部の外国人は、資材置き場周辺や住宅密集地などで暴走行為やあおり運転を繰り返し、窃盗や傷害などの犯罪も見過ごすことはできない」との取り締まり強化の意見書を可決した。 同年9月には川口市も国に対して、「不法行為を行う外国人においては、法に基づき厳格に対処(強制送還等)していただきたい」という要望書を提出した。そこからだいぶタイムラグがあったものの、ここにきてようやく川口市の訴えが国会にまでたどり着いた――という流れだ。 しかし、そんな高橋議員による国会質疑は「ヘイトスピーチ」だとボロカスに叩かれている。 共同通信社は配信記事の中で、《「不確かな情報を基にした国会議員による外国人差別だ」と専門家も批判している》(2月27日)とバッサリ。SNSでも「議員を辞めろ」と辛辣な声が挙がっているほか、以下のように日本の「黒歴史」と重ねて警鐘を鳴らす人々もいる。 「これでは関東大震災で流言飛語を広めた連中と同じじゃないか」 ご存じのように、関東大震災下、多くの朝鮮人が虐殺されたが、その原因は「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などの「デマ」が拡散されたから、とされている。今回の高橋議員や川口市・市議会の主張している「被害」というのもそれと同じく、クルド人迫害につなげるためにねつ造された「デマ」だというのだ。 ただ、報道対策アドバイザーとして、実際に企業などを悩ます「悪質なデマ」の対策にも携わってきた経験から言わせていただくと、本当に関東大震災の悲劇を繰り返したくないのならば、川口市や市議会が要望している「一部外国人の不法行為への取り締まり強化」をすべきだ。 「デマ」が、ヘイトクライムや集団暴力を引き起こす時、そこには必ず「恐怖」や「憎悪」が存在する。 川口市からの訴えを国が無視して、一部外国人の不法行為を放置し続ければ、「外国人への恐怖や憎悪」はさらにふくれ上がる。そして、中には「国が守ってくれないなら、自分たちの身は自分で守るしかない」と過激な外国人排斥運動へ傾倒する者もあらわれる。 つまり、「外国人ヘイト」のムードを醸成させないためにも、国が「不法行為をする一部の外国人を厳しく取り締まる」という毅然とした態度を見せて、市民の「不安」を払拭しておくべきなのだ』、「外国人ヘイト」のムードを醸成させないためにも、国が「不法行為をする一部の外国人を厳しく取り締まる」という毅然とした態度を見せて、市民の「不安」を払拭しておくべきなのだ」、なるほど。
・『朝鮮人虐殺はなぜ起きた?「恐怖」にあおられた庶民の暴走 なぜそこまで市民のメンタルヘルスに気を遣うのかというと、「外国人ヘイト」は一部のレイシストが起こすものより、市民がパニックになって引き起こす方がはるかに悪質で残酷だからだ。 関東大震災で朝鮮人を日本刀や鎌やこん棒を手に虐殺してまわったのは、警察や憲兵など治安維持をする人たちではない。善良な一般市民たちが、自衛のために結成した「自警団」だ。 そこでちょっと想像力を働かせて考えていただきたい。普段は暴力と無縁の生活を送っていた良き夫であり、良き息子のような人々が、「朝鮮人が火をつけた」「井戸に毒を入れた」といううわさを聞いたくらいで人を殺めることができるだろうか。 最近、映画も公開されて話題になった「福田村事件」でも描かれているが、当時の「自警団」はすさまじく、各所で検問所をつくって、朝鮮人だと見るや、子どもでも妊婦でもお構いなしに殺している。命ごいをする一家まで殺して、勢い余って「しゃべれない」という理由だけで、日本人の聴覚障がい者にまで手をかけた。 「デマにあおられた」だけで、同じ人間にここまで酷い仕打ちができるわけがない。 では、一体何が善良な市民を暴徒にさせたのかというと、「恐怖」である。「不逞鮮人が怖くてパニックになって、自分や家族を守るために目に入るすべての朝鮮人を排除した」のである(※不逞鮮人=戦前の日本において、韓国併合後の日本政府に不満を持つ朝鮮出身者や、満洲の朝鮮人反体制派、朝鮮独立運動家、犯罪者などをこのように呼んだ)。 実はこの惨劇にはちゃんと伏線がある。「デマ」が流れるはるか前から、日本の善良な市民たちの間では、朝鮮人は「何をしでかすかわからないヤバい連中」というイメージが確立していたのだ』、「当時の「自警団」はすさまじく、各所で検問所をつくって、朝鮮人だと見るや、子どもでも妊婦でもお構いなしに殺している。命ごいをする一家まで殺して、勢い余って「しゃべれない」という理由だけで、日本人の聴覚障がい者にまで手をかけた・・・一体何が善良な市民を暴徒にさせたのかというと、「恐怖」である。「不逞鮮人が怖くてパニックになって、自分や家族を守るために目に入るすべての朝鮮人を排除した」のである・・・「デマ」が流れるはるか前から、日本の善良な市民たちの間では、朝鮮人は「何をしでかすかわからないヤバい連中」というイメージが確立していたのだ」、なるほど。
・『「殺られる前にこっちから殺ってやる――」という集団パニック 要因のひとつが、震災の4年前、1919年に朝鮮全土で盛り上がった「三・一独立運動」だ。これによって、日本本土にも朝鮮人の活動家が多く入ってきたのだ。爆弾を隠し持っていたところを摘発されるなんて報道も増えていくなかで、朝鮮人のイメージも急速に悪化していく。それがうかがえる一節が、震災の前年に出版された、当時のベストセラー作家・加藤美侖氏の「刑法知識 罪なき人も油断すな」(朝香屋書店)の中にある。 「例えば政府の転覆とか国土の潜窃などがその例だ。(中略)昔は年中内乱騒ぎがあつたことを歴史が教へるが、今日の聖代に於ては、まあ不逞鮮人でもなければそんな馬鹿をする者があるまい」(66ページ) この時期の一般庶民の間では、「不逞鮮人=国家転覆や国土の略奪を狙うテロリスト」という恐怖のイメージが定着していたのだ。 もちろん、同時期の時局講演などを見ると、新聞などの「不逞鮮人」という呼び方は朝鮮人にとっては侮辱なので改めるべきだというような良識派の声もあった。しかし、現実には「良い朝鮮人」と「不逞鮮人」を見分けることなどできないということで、いつの間にやら「不逞鮮人」というテロリストイメージが「朝鮮人」全体にまで広がってしまう。外見的には日本人とほとんど違いがなく、言葉を発しないと朝鮮人だとわからないため、恐怖にさらなる拍車がかかった。 つまり、1923年の日本には「日本人のふりをしている朝鮮人が、いつ爆弾などで攻撃を仕掛けてくるのか」と、内心ビクビクしながら日常生活を送っていた市民が山ほどいたのである。そんな時、関東大震災が起きて「放火をしている」「井戸に毒を」といううわさ話があちこちから聞こえたら、市民たちは恐怖でパニックに陥るだろう。 しかし、いつまでも恐れていてもしょうがない。守るべき家族や大切な人がいるのだ。そうなると、彼らは家にある日本刀やこん棒、鎌などを手にとってこう思うはずだ。 「殺られる前にこっちから殺ってやる――」 つまり、平時は暴力などとは無縁の日本人たちが、何の罪もない朝鮮人たちを無慈悲に殺せたのは「デマのせい」というのは表面的な話にすぎないのだ。何年もかけてふくれ上がってきた朝鮮人に対する恐怖が、地震によって制御することができなくなって、「集団パニック」に陥ったからなのだ』、「平時は暴力などとは無縁の日本人たちが、何の罪もない朝鮮人たちを無慈悲に殺せたのは「デマのせい」というのは表面的な話にすぎないのだ。何年もかけてふくれ上がってきた朝鮮人に対する恐怖が、地震によって制御することができなくなって、「集団パニック」に陥ったからなのだ」、「集団パニック」とは本当に恐ろしい。
・『「恐怖」にいる住民の声を無視すると「ヘイト」につながる 「そんなバカな」と思われるかもしれないが、人類の歴史を振り返ると、敵対する人々を大量虐殺するような時には、往々にしてこの「恐怖が引き起こす集団パニック」がある。 わかりやすいのは、1994年のルワンダの大量虐殺だ。これはフツ族が隣人であるツチ族の人々を容赦なく殺したという悲劇だが、その引き金になったのは「恐怖」だ。 フツ族である大統領が搭乗した飛行機が追撃された。それをラジオで聴いたフツ族の人々は「自分も襲われるか」と恐怖のどん底に落ちた。そんな時、ラジオからこんな言葉が聞こえてきた。 「殺らなければ殺られる――」 さて、こういう話を聞くと、なぜ筆者が埼玉県の「不法行為をする外国人」の取り締まりを強化すべきだと主張しているのか、理解していただけたのではないか。 川口市や川口市議の意見書のもとになったように、一部のクルド人の皆さんの振る舞いに「恐怖」を感じている住民がいることはまぎれもない事実だ。そのような人々の声を国が無視したところで、彼らの恐怖や不安は消えない。 「外国人との共生社会」を掲げる人たちからすれば、「外国人差別をやめて受け入れればいいのだ」という事なのだろう。しかし、そう簡単に自分の考えを変えられない人たちが一定数いるというのも、この社会の「多様性」だ。 では、川口市の訴えを無視して、取り締まり強化もせず、ただただ「共生」を呼びかけていたら、恐怖を感じている住民はどうなっていくのかというと、これまで以上に外国人を怖がる。 当たり前だ。「怖い」と訴える人たちを力で抑えつけて「怖がるな!怖がる貴様がおかしい」とか説教をしたところで、態度を硬化させて事態を悪化させていくだけだろう。 つまり、これまで不法行為をするクルド人だけに不安を感じていた人たちが、「クルド人を受け入れろ!」「このレイシストめ!」と攻撃されることで態度を硬化させて、何の問題も起こしていない「善良なクルド人」に対してまで恐怖や憎悪を抱いてしまうのである。 ただ、それよりも最悪なのは、国がこの問題を放置し続けたら、「自分の身は自分で守るしかない」と考える人々が、「自警団」のようなものを組織してしまう恐れがあることだ』、「これまで不法行為をするクルド人だけに不安を感じていた人たちが、「クルド人を受け入れろ!」「このレイシストめ!」と攻撃されることで態度を硬化させて、何の問題も起こしていない「善良なクルド人」に対してまで恐怖や憎悪を抱いてしまうのである。 ただ、それよりも最悪なのは、国がこの問題を放置し続けたら、「自分の身は自分で守るしかない」と考える人々が、「自警団」のようなものを組織してしまう恐れがあることだ」、なるほど。
・『「自警団」は暴走する。だから国が取り締まるべき 関東大震災で悲劇の舞台装置となったことからもわかるように「自警団」が危ないのは、「外国人ヘイト」につながることだけでなく、「オレたちのルール」で人を裁くことにある。震災当時の資料を見ると、「朝鮮人はバレないように帽子を被るはずなので、お前のように帽子を被る奴は怪しい」と検問所で詰問されて、確証のないまま殺された人もいる。 こういう「自警団の暴走」を防いで、善良な外国人の安全を守るためにも、国がしっかりとした方針を定めて、不法行為をする外国人を取り締まったり、難民申請中の人たちへの処遇もしっかり定めたりすべきだ。国外退去させられるわけでもなく、在留を認められるわけでもないという「宙ぶらりん」だから、正規の仕事もできず、外国人コミュニティの中で違法な仕事に従事せざるを得ないという外国人もたくさんいるのだ。 「不逞鮮人」を取り締まることができず、結果として日本社会に「朝鮮人に対する恐怖」を広めてしまったように、一部の不法行為をする外国人をしっかりと取り締まることができないと、「外国人はすべて怪しい」という偏ったものの見方を広めてしまう。 そういう「偏った正義」にもっとも弱いのが、善良な一般市民だ。 今、SNSで相手を自殺に追い込むまで誹謗中傷するような人が「自分は社会のために正しいことをしている」と思い込んでいるように、震災時に朝鮮人を虐殺した自警団の多くは「自分は日本のために正しいことをした」と胸を張った、と記録にある。 このような「市民による正義の暴走」を防ぐには、先回りをして国家が「正義」を示すしかない。国が外国人への取り締まりを強化する、と聞くと脊髄反射で「外国人ヘイトだ!」「差別だ!」と批判をする人が多いが、外国人への恐怖や偏見を軽減することで、「善良な外国人」の人権や安全を守ることができるというメリットもある。 外国人だろうが日本人だろうが、不法行為は厳しく取り締まるということこそが、「外国人との共生社会」になるための第一歩なのではないか』、「「市民による正義の暴走」を防ぐには、先回りをして国家が「正義」を示すしかない。国が外国人への取り締まりを強化する、と聞くと脊髄反射で「外国人ヘイトだ!」「差別だ!」と批判をする人が多いが、外国人への恐怖や偏見を軽減することで、「善良な外国人」の人権や安全を守ることができるというメリットもある。 外国人だろうが日本人だろうが、不法行為は厳しく取り締まるということこそが、「外国人との共生社会」になるための第一歩なのではないか」、その通りだ。
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災害(その16)(能登半島地震 防災対策の権威が語る「反省と教訓」 防災と初動対応が遅れた背景に2つの原因、災害時トイレ「断水」復旧になぜ時間がかかるのか 阪神・淡路大震災では仮復旧まで1カ月間要した、災害時に備えたい「携帯トイレ」4人家族の必要数 「使い方」や「使うタイミング」も知っておくこと)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-08
災害については、本年2月4日に取上げた。今日は、(その16)(能登半島地震 防災対策の権威が語る「反省と教訓」 防災と初動対応が遅れた背景に2つの原因、災害時トイレ「断水」復旧になぜ時間がかかるのか 阪神・淡路大震災では仮復旧まで1カ月間要した、災害時に備えたい「携帯トイレ」4人家族の必要数 「使い方」や「使うタイミング」も知っておくこと)である。先ずは、本年2月15日東洋経済オンライン「能登半島地震、防災対策の権威が語る「反省と教訓」 防災と初動対応が遅れた背景に2つの原因」を紹介しよう。https://toyokeizai.net/articles/-/734427・『2024年元日を襲った能登半島地震では200人を上回る人命が失われるなど、深刻な被害が発生した。阪神淡路大震災をはじめとして多くの自然災害に向き合い、防災対策の見直しを提唱してきた室﨑益輝・神戸大学名誉教授は「反省すべき点が多くある」と指摘する(Qは聞き手の質問、Aは室﨑氏の回答)。 Q:今回の災害の大きさや深刻度についてどのようにとらえておられますか。 A:とんでもない地震が起きたというか、想像を絶する地震が起きた。家屋の損壊状況もすさまじいものだし、道路という道路が破壊されました。そういった被災状況だっただけに、過去がこうだったから今回こうだとは言えない部分はあります。ただ、救いを求めている被災者がたくさんいる現実にどう応えていくか。行政のみならず、私たち一人ひとりを含む社会全体の責任だと思っています』、「とんでもない地震が起きたというか、想像を絶する地震が起きた。家屋の損壊状況もすさまじいものだし、道路という道路が破壊されました・・・救いを求めている被災者がたくさんいる現実にどう応えていくか。行政のみならず、私たち一人ひとりを含む社会全体の責任だと思っています」、なるほど。・『すぐに救援に駆けつけられなかった Q:能登半島地震の発生から1カ月余りが経過しました。これまでを振り返って、どのような教訓や反省点がありますか。 A:震災の教訓を引き出すには、失敗体験をしっかり踏まえなければならない。今回の地震では、助けを求めている被災者のところに救援隊がすぐに駆けつけることができなかった。これが大きな反省点だったと思います。 その根源をたどると、大きく2つの誤ちがあったと言えます。 1つ目の過ちは事前の被害想定の甘さです。 能登地方でこれほど大..
社会
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2024-03-08T17:16:01+09:00
先ずは、本年2月15日東洋経済オンライン「能登半島地震、防災対策の権威が語る「反省と教訓」 防災と初動対応が遅れた背景に2つの原因」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/734427
・『2024年元日を襲った能登半島地震では200人を上回る人命が失われるなど、深刻な被害が発生した。阪神淡路大震災をはじめとして多くの自然災害に向き合い、防災対策の見直しを提唱してきた室﨑益輝・神戸大学名誉教授は「反省すべき点が多くある」と指摘する(Qは聞き手の質問、Aは室﨑氏の回答)。 Q:今回の災害の大きさや深刻度についてどのようにとらえておられますか。 A:とんでもない地震が起きたというか、想像を絶する地震が起きた。家屋の損壊状況もすさまじいものだし、道路という道路が破壊されました。そういった被災状況だっただけに、過去がこうだったから今回こうだとは言えない部分はあります。ただ、救いを求めている被災者がたくさんいる現実にどう応えていくか。行政のみならず、私たち一人ひとりを含む社会全体の責任だと思っています』、「とんでもない地震が起きたというか、想像を絶する地震が起きた。家屋の損壊状況もすさまじいものだし、道路という道路が破壊されました・・・救いを求めている被災者がたくさんいる現実にどう応えていくか。行政のみならず、私たち一人ひとりを含む社会全体の責任だと思っています」、なるほど。
・『すぐに救援に駆けつけられなかった Q:能登半島地震の発生から1カ月余りが経過しました。これまでを振り返って、どのような教訓や反省点がありますか。 A:震災の教訓を引き出すには、失敗体験をしっかり踏まえなければならない。今回の地震では、助けを求めている被災者のところに救援隊がすぐに駆けつけることができなかった。これが大きな反省点だったと思います。 その根源をたどると、大きく2つの誤ちがあったと言えます。 1つ目の過ちは事前の被害想定の甘さです。 能登地方でこれほど大きな地震は起きるはずがないという思い込みも含めてのことですが、国、石川県ともきわめて小さな地震しか想定していなかった。その結果として、事前の準備がきちんとできていなかった。 孤立集落があちこちで発生する事態を見越していれば、備蓄対策のあり方も違っていたし、平時の情報通信が途絶しても連絡を取れる衛星携帯電話を配備するといった事前準備もやっていたはずです。) 2つ目の過ちは、地震発生直後に被災状況の把握がスムーズにできなかったことが、初動対応の遅れにつながったという点です。 政府は当初、災害対策基本法に基づく態勢としては最も下のクラスの「特定災害対策本部」の設置にとどめた。これを「非常災害対策本部」に格上げし、同本部の会議を初めて開催したのは翌1月2日の午前9時過ぎのことでした。 初動態勢の構築が遅れた結果、自衛隊投入の規模も当初の1000人規模から小出しになってしまった。 (室﨑益輝氏の略歴はリンク先参照) Q:石川県の地域防災計画(地震災害対策編)では、「能登半島北方沖」を震源とする地震としてはマグニチュード7.0を想定し、被害の概況についても「死者数7人、建物全壊120棟」「ごく局地的な災害で、災害度は低い」とされていました。四半世紀にわたってその想定は見直しがなされていませんでした。石川県の災害危機管理アドバイザーを務め、県防災会議震災対策部会長でもある室﨑さんは、2023年2月の同部会で、地震被害想定の抜本的な見直しを決定したという発言をしています。 同部会で被害想定の見直しをしようとしていたことは事実です。 2020年12月以降の奥能登の珠洲市一帯での群発地震をきっかけに、いずれ大きな地震が起きるという緊迫感が芽生えていました。 それを踏まえ、国の地震調査研究推進本部による長期評価や被害想定が出されていなくても、石川県として能登半島でこれから起きる地震の想定をしっかりやろうということで、2023年から議論を始めていました。 しかし、結果的には作業が間に合わなかった』、「今回の地震では、助けを求めている被災者のところに救援隊がすぐに駆けつけることができなかった。これが大きな反省点だったと思います。 その根源をたどると、大きく2つの誤ちがあったと言えます。 1つ目の過ちは事前の被害想定の甘さです。 能登地方でこれほど大きな地震は起きるはずがないという思い込みも含めてのことですが、国、石川県ともきわめて小さな地震しか想定していなかった」、前石川県知事が産業を呼び込むため、震災の想定を低く抑えたと言われている。事実とすれば、許し難い行為だ。「2つ目の過ちは、地震発生直後に被災状況の把握がスムーズにできなかったことが、初動対応の遅れにつながったという点です。 政府は当初、災害対策基本法に基づく態勢としては最も下のクラスの「特定災害対策本部」の設置にとどめた。これを「非常災害対策本部」に格上げし、同本部の会議を初めて開催したのは翌1月2日の午前9時過ぎのことでした。 初動態勢の構築が遅れた結果、自衛隊投入の規模も当初の1000人規模から小出しになってしまった」、なるほど。
・『国の評価を待つという受け身の姿勢だった Q:石川県の幹部の発言として、国の長期評価の策定・公表を待ってから対策をするという姿勢が長く続いていたという報道があります。その点についてどのように感じていましたか。 A:結果論ですが、そのような待ちの姿勢ではいけなかった。県域のどこにどのような活断層があり、どのくらいの確率で動くかについて、国の長期評価の策定を待ってから対策を話し合うという姿勢が、今回の地震で問われた。 他方で国土交通省が2014年9月に取りまとめた「日本海における大規模地震に関する調査検討会」の報告書では、能登半島沖に活断層があり、津波被害を起こすことが指摘されていました。 ただ、石川県においては、どの活断層がどのように連動するか否かについては、国の科学的知見の発表を踏まえて検討すればいいという姿勢でした。その結果として、地震被害の想定の抜本的見直しが遅れてしまいました。 国のトップダウンに基づく防災ではなく、地方自治体から動くボトムアップの防災に切り替えるには、自ら独自に積極的に被害の想定をしなければならない。 加えてもう一つ問われていることが、社会の前提条件がどんどん変わってきているということです。その社会の変化を想定に反映しなければならない。高齢化や過疎化が進んでいる中で、四半世紀も被害想定の見直しを放置していたということ自体、間違っていたと思います。) Q:政府の初動態勢をどのように評価していますか。 A:マグニチュード7.6(暫定値)というのは、阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)や熊本地震よりも大きな地震が起きたことを意味しています。そうだとすると、多くの家屋が倒壊し、たくさんの人が生命の危機にさらされていることは、直後に想像できたはず。 これからは、現地からの報告を待つのではなく、直後に公表される地震の大きさや形状によって、初動対応のスイッチを入れるようにしなければならない。 たとえばマグニチュード7.6であれば、道路が寸断されているということを想定して、海や空からの救助にも早急に着手すべきです。 従来の緊急消防隊の派遣のシステムのまま動いていたのでは、救助活動はうまく進まない。繰り返しになりますが、地震発生直後の情報把握のシステムおよび初動対応のシステムを抜本的に見直さなければいけない』、「石川県の幹部の発言として、国の長期評価の策定・公表を待ってから対策をするという姿勢が長く続いていたという報道があります。その点についてどのように感じていましたか。 A:結果論ですが、そのような待ちの姿勢ではいけなかった。県域のどこにどのような活断層があり、どのくらいの確率で動くかについて、国の長期評価の策定を待ってから対策を話し合うという姿勢が、今回の地震で問われた・・・社会の前提条件がどんどん変わってきているということです。その社会の変化を想定に反映しなければならない。高齢化や過疎化が進んでいる中で、四半世紀も被害想定の見直しを放置していたということ自体、間違っていたと思います・・・地震発生直後の情報把握のシステムおよび初動対応のシステムを抜本的に見直さなければいけない」、その通りだ。
・『モデルにすべきは中越地震時の「山古志方式」 Q:地震発生直後には避難所が開設され、2月3日には仮設住宅への入居が始まりました。 地震を生き延びた人が、その後の健康状態の悪化などによって死亡する「災害関連死」を防がなければならない。そのためには、人々の1日1日の苦しみをいかに和らげるかが重要です。もう一つ重要なことは、苦しみの期間をいかに短くできるかです。 国の災害救助法のルールに基づけば、避難所の開設は原則1週間、応急仮設住宅は本来、20日以内に着工しなければならない。 ただ、現実を見ると、いずれもだいぶ日数がオーバーしている。仮設住宅については1~2カ月遅れでの着工という事態が生じています。 被災者の苦しみの総量を下げるためにも、迅速に仮設住宅を供給しなければならない。そういう意識をどれだけ持って取り組んでいるのかということが問われています。 Q:石川県の発表によれば、応急的な住まいについては3月末までに約1万5000戸を用意する計画です。仮設住宅の提供のあり方についてはどのような配慮が必要でしょうか。 A:モデルにすべきは、2004年の新潟県中越地震の時の「山古志方式」だと思います。 被害の大きかった旧山古志村(現・長岡市)の住民のために長岡市内に仮設住宅団地が作られ、そこに山古志村の人たちはコミュニティ単位で入居しました。そして旧山古志村では2~3年かけてがれきの撤去や道路の整備が実施され、再び住民が帰還できました。 今回も金沢市のスポーツセンターの敷地に1万棟くらいの仮設住宅団地を作り、コミュニティごとに入居するといったような取り組みがあってもいいのではないか。 そこに高校の分校や輪島塗りの工房も一緒に作るといったやり方をすれば、コミュニティを維持できます。) Q:石川県の計画では、約1万5000戸のうち、約8000戸を石川県外の公営住宅によって賄うということになっています。 人々がばらばらになってしまうので良くない。孤立死をもたらすことになりかねない。なるべく多くの人たちがまとまり、お互いにつながり合うことが重要です。 Q:災害救助法では、被災者への「炊き出しその他による食品の給与」が定められています。今回の地震では、一部の2次避難所で食事の費用を徴収している例があると指摘されています。 これ自体は災害救助法違反です。同法では食事の提供の義務がある。ホテルに収容したらおしまいということではないのです。 Q:なぜこうしたことが起きているのでしょうか。石川県自体が災害対応に慣れていないということでしょうか。 A:石川県というよりも、日本の自治体のどこも災害対応に慣れておらず、経験がつながっていないことに原因があります。行政の担当者は2~3年で代わってしまうため、ノウハウと経験が蓄積しない。 石川県も2007年の能登半島地震では素晴らしい対応をしているのに、その対応が今回見られていないというのは、まさに経験を蓄積し、継承するシステムがないことに原因があると言えます。 石川県に、阪神淡路大震災や東日本大震災、中越地震の経験をどれだけしっかり伝えたか、私たち伝える側の責任ももっと問われないといけない』、「石川県も2007年の能登半島地震では素晴らしい対応をしているのに、その対応が今回見られていないというのは、まさに経験を蓄積し、継承するシステムがないことに原因があると言えます」、なるほど。
・『原子力災害時の体制も抜本見直しを Q:今回の地震では原子力発電所の重大事故には至らずに済みました。ただ、原発事故を含む複合災害に発展した場合、あらかじめ定められていた防災計画が機能しなかったのではないかと見られています。 最大級の地震を想定して、原発そのものの防災計画を見直さなければならない。 もう一つの問題は、原子力災害時の避難の問題です。今回の地震では道路があちこちで寸断し、住民の孤立が発生した。道路が使えない前提で避難計画を作らなければならない。 福島原発事故のような最悪の事態に備え、そうしたことが起きた時にどうするのかという前提に立って、対策を講じなければならないと思っています。 Q:能登半島地震では、ボランティアの受け入れをめぐり賛否の議論が起きました。今行っても迷惑になるという言い方がSNSなどでなされ、行政からも「今はまだ来ないでください」というメッセージが発信されました。 ボランティアは言われてする活動ではないのです。そこに困った人がいれば、迷惑をかけないように最大限の配慮をしながらも、被災者の元に駆けつけなければならない。 ボランティアセンターができたから行きましょうとか、ボランティアは来るなと言われたので行かないというのではなく、そこに支援を求めている人がいるかどうかを判断の基軸にすべきです。 今回のようにボランティアの自主性が失われ、必要なボランティアが被災地に入らないという事態になると、助かる命も助からなくなってしまう。ボランティア側もきちんとリテラシーを持ち、マナーをわきまえたうえで活動すればいいと思います』、「今回のようにボランティアの自主性が失われ、必要なボランティアが被災地に入らないという事態になると、助かる命も助からなくなってしまう。ボランティア側もきちんとリテラシーを持ち、マナーをわきまえたうえで活動すればいいと思います」、その通りだ。
次に、2月26日付け東洋経済オンラインが掲載した日本トイレ研究所代表理事の加藤 篤氏による「災害時トイレ「断水」復旧になぜ時間がかかるのか 阪神・淡路大震災では仮復旧まで1カ月間要した」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/733845
・『能登半島地震でも多く取り上げられた「災害時のトイレをどうするか」問題。 トイレ環境の大切さを広めるべく奔走する「日本トイレ研究所」の代表理事・加藤篤さんが、“トイレ”の視点から防災のノウハウをやさしく解説した『トイレからはじめる防災ハンドブック』より一部の内容を抜粋。忘れたころにやってくる災害への備え、そして起こった後の対応のポイントについて、3回にわたって掲載します。 第1回は、災害とトイレをめぐる基本的な知識をお伝えします』、興味深そうだ。
・『自然災害の発生後にすべきこと ■発災3時間以内に約4割の人がトイレに行く 自然災害の発生後にすべきことは何でしょうか?地震や豪雨などが起きたときに真っ先にすべきなのは、自分の命を守ること、そして安全な場所に避難することです。ここまでの行動は、全員一致するでしょう。 問題はこのあとです。避難所では避難者の誘導や場所の確保、水・食料の配給などに多くの人が奔走します。もちろんこれらは大切ですが、それと同じくらい重要なのに、忘れられがちなことがあります。それが「トイレ対応」です。 大きな災害が起きると水洗トイレは使えなくなります。しかし、私たちの排泄は待ってくれません。) 2016年4月に発生した熊本地震での調査によると、発災後3時間以内にトイレに行きたくなった人は38.5%、6時間以内では72.9%にのぼります。 発災後6時間は大混乱状態で、おそらくこの約7割の人は水を飲んでおらず、食事も摂っていないはずです。それにもかかわらず、トイレに行きたくなるのです。つまり、水・食料より先にトイレ対応が必要ということです。私たちはこの事実から目をそらしてはいけないのです。(地震後、何時間でトイレに行きたくなったか? はリンク先参照)』、「発災後6時間は大混乱状態で、おそらくこの約7割の人は水を飲んでおらず、食事も摂っていないはずです。それにもかかわらず、トイレに行きたくなるのです。つまり、水・食料より先にトイレ対応が必要ということです」、なるほど。
・『断水したら水洗トイレが使えない ■水洗トイレには給水と排水の両方必要 断水したら水洗トイレが使えないことは、多くの人が理解しています。水洗トイレは目の前の大小便を水で流し去ってくれる便利なシステムなので、水が無ければ機能しません。 断水の原因は主に2つあります。1つは給水管等の給水装置や配水施設が破損して水を届けられなくなること。もう1つは停電でポンプなどの設備が作動しなくなり、水が届けられなくなることです。 ところが、給水に問題が無くても、水洗トイレは使えなくなることがあります。それは、排水に支障がある場合です。理由は、流れていく先がなくなるからです。 排水に問題が生じる要因としては、排水管が外れる・閉塞する・逆こう配になる、下水道や下水処理場、浄化槽が機能していない、などが考えられます。このような場合、無理に汚水を流すと、どこかからあふれることになります。 給水と排水、それに電気のすべてが機能してこそ、水洗トイレは使用できるようになります。日頃、目にしているのは便器だけですが、その裏に壮大な水洗トイレシステムがあることを知っておいてください。(水洗トイレが機能するためには? はリンク先参照)』、「給水と排水、それに電気のすべてが機能してこそ、水洗トイレは使用できるようになります」、なるほど。
・『■水道の仮復旧までは1カ月以上かかる 私たちは1日に複数回トイレに行きます。水洗トイレを使うには、もちろん水が必要です。節水型の便器でも、1回あたりの洗浄で概ね6?8リットル程度の水を使用します。仮に5回行くとしたら、合計で30?40リットルの水を使うことになります。 水を便器に供給するためには、まず河川などから引いた水を処理する浄水場が機能していることが前提です。また、浄水場からポンプ場を経由して各建物に水を運ぶ配水管が正常であることも必要です。そして、これらの過程では電力も欠かせません。 このため、大きな災害で停電すると断水が発生します。阪神・淡路大震災では約127万戸が断水し、仮復旧が完了するまでに1カ月以上を要しました。また、東日本大震災で被災した地方公共団体へのアンケート調査では、上水道の仮復旧までに要した日数は、平均35日間だったことがわかっています。 この間、トイレの洗浄に必要な水量を人力で供給するのは容易でありません。断水で洗浄水が確保できない場合に、トイレ機能を確保する方法の検討が必要です。 (阪神・淡路大震災のときはどうだった? はリンク先参照)』、「阪神・淡路大震災では約127万戸が断水し、仮復旧が完了するまでに1カ月以上を要しました。また、東日本大震災で被災した地方公共団体へのアンケート調査では、上水道の仮復旧までに要した日数は、平均35日間だった・、かなり長期になるようだ。
・『トイレに行きたくない理由 ■安心できないトイレで起こる問題 トイレを我慢する、つまりトイレに行きたくないと感じてしまう原因は人それぞれ異なります。臭かったり、汚れていたりするトイレは、誰もが避けたくなるものです。 特に女性や子どもであれば、暗がりにあるトイレは怖いでしょう。 寒い時期には、屋外のトイレは使いたくありません。風雨などの悪天候時も同様です。遠くにあって行くのが大変なトイレも使いづらいです。 また、男女共用しかない場合や、数が少なくてトイレ待ちの行列ができる場合も困ります。車いす利用者や足腰が悪い人は、段差があるトイレや和式便器が使えません。和式便器は、慣れていない子どもにとっても困難です。) このようにトイレを不便、もしくは不快と感じてしまうきっかけが1つでもあると、私たちはトイレになるべく行かなくてすむように、意識的にも無意識的にも、水分摂取を控えがちになり、その結果として体調を崩してしまいます。 平成16年新潟県中越地震に関する住民アンケート調査(小千谷市・川口町編)でも、かなりの人が、トイレを理由に水分を控えていたことがわかります。 (避難所で体験した”困ったことと”は? はリンク先参照)』、「トイレを不便、もしくは不快と感じてしまうきっかけが1つでもあると、私たちはトイレになるべく行かなくてすむように、意識的にも無意識的にも、水分摂取を控えがちになり、その結果として体調を崩してしまいます」、大いに気を付けたいことだ。
・『汚染された手を口や鼻に… ■不衛生なトイレは感染症の温床になる トイレを使用する際、ほとんどの人が同じ箇所に触れます。例えば、ドアの取っ手、鍵、便座のフタ、便座、トイレットペーパーホルダー、洗浄レバーやボタン、手洗い場の蛇口です。 これらが汚染されていた場合、ウイルスや細菌が人の手を介して伝播することになります。 単に手が汚れるだけでは感染しませんが、私たちは無意識に手で顔に触れているため、目や口、鼻の粘膜を通じて感染するリスクが小さくありません。 手洗いやトイレ掃除が十分にできない不衛生なトイレを不特定多数の人が使用し続けると、感染性胃腸炎などのウイルス感染症に罹患するリスクを高め、集団感染を引き起こします。 東日本大震災では、石巻赤十字病院などの調査で、津波被害のあった石巻市および東松島市、女川町にある公立学校や公民館など、計272カ所の避難所のうち、約4割のトイレで汚物処理が十分にできず、少なくとも約50人に下痢、約20人に嘔吐の症状が見られました。 感染症予防の観点からも、トイレを衛生的に保つことは非常に重要です』、「東日本大震災では、石巻赤十字病院などの調査で・・・計272カ所の避難所のうち、約4割のトイレで汚物処理が十分にできず、少なくとも約50人に下痢、約20人に嘔吐の症状が見られました。 感染症予防の観点からも、トイレを衛生的に保つことは非常に重要です』、その通りだろう。
第三に、3月4日付け東洋経済オンラインが掲載した日本トイレ研究所代表理事の加藤 篤氏による「災害時に備えたい「携帯トイレ」4人家族の必要数 「使い方」や「使うタイミング」も知っておくこと」を紹介しよう。
・『能登半島地震でも多く取り上げられた「災害時のトイレをどうするか」問題。 トイレ環境の大切さを広めるべく奔走する「日本トイレ研究所」の代表理事・加藤篤さんが、“トイレ”の視点から防災のノウハウをやさしく解説した『トイレからはじめる防災ハンドブック』より一部の内容を抜粋、忘れたころにやってくる災害への備え、そして起こった後の対応のポイントについて、3回にわたって掲載します。 第2回では、備えておきたい防災グッズ「携帯トイレ」についてお伝えします』、興味深そうだ。
・『災害時に使う携帯トイレとは? ■後悔しない携帯トイレの選び方・使い方 携帯トイレとは、便器に設置して使用する袋式のトイレです。袋の中に排泄し、吸収シートや凝固剤で大小便を吸収・凝固させます。 給排水設備が損傷して水洗トイレが使用できないときでも、便器に取りつければすぐに使用できることが利点です。また、使い慣れたトイレ室を活用できるため安心です。 一方、いくつかの注意点があります。) まず携帯トイレを選ぶ際は、大小便をしっかり吸収・凝固できること、一定期間保管しても液体に戻らないこと、臭気対策が施されていることなどをチェックしてください。衛生的な問題が生じないよう、性能の良いものを選びましょう。 また、使用時に直接便器に取り付けることはおすすめしません。 先に45リットル程度のポリ袋を便器に被せてから便座を下ろし、その上に携帯トイレを取り付けましょう。こうすれば、携帯トイレの交換時に水が滴ることはありません。 以下を参考に、事前に使い慣れておくことをおすすめします。(携帯トイレを使うときのポイントは? はリンク先参照)』、「携帯トイレとは、便器に設置して使用する袋式のトイレです。袋の中に排泄し、吸収シートや凝固剤で大小便を吸収・凝固させます・・・携帯トイレを選ぶ際は、大小便をしっかり吸収・凝固できること、一定期間保管しても液体に戻らないこと、臭気対策が施されていることなどをチェックしてください」、なるほど。
・『まずはトイレに携帯トイレを設置 ■災害発生直後は設備点検より先に携帯トイレを 前回の記事で紹介したように、発災から3時間以内に約4割の人がトイレに行きたくなったというデータがあります。発災後3時間でできることは、命を守り、安全な場所に避難して安否確認をすることぐらいではないでしょうか。 このような大混乱のなか、私たちは水や食料のことを心配すると思いますが、実はそれより先にトイレが必要になるのです。 急いですべきことは、避難所や自宅、オフィスなどのトイレに携帯トイレを取り付けることです。もちろん、トイレの天井が壊れていたり、トイレブースが倒壊していたりして、トイレが危険な場合はこの限りではありません。 私たちはトイレに行くとき、誰かに申告して行くわけではありません。基本的には各々が便意や尿意を催したときに誰にも言わずにトイレに行きます。体調を崩して嘔吐することもあると思います。 そのため、どのタイミングで誰がトイレに行くのかはわかりません。停電していても、断水に気づかずに排泄してしまうことが考えられます。) そんなとき、便器に携帯トイレが取り付けてあれば、災害時のトイレ対応であることに気づきます。携帯トイレの使用方法はわからない人がほとんどですので、ポスターやスタッフを介して伝えることも必要です。 給排水設備の点検等は、携帯トイレを取り付けてから実施してください。さきに点検を行っていると、その間にトイレを使用されてしまうからです。設備点検の結果、問題ないことがわかれば、携帯トイレを取り外せばよいだけです。 これまでの震災や豪雨災害において、携帯トイレを活用することでその場を乗り切った事例はあります。繰り返しになりますが、災害時はできるだけ早く携帯トイレを取り付けることが必要です』、「給排水設備の点検等は、携帯トイレを取り付けてから実施してください。さきに点検を行っていると、その間にトイレを使用されてしまうからです。設備点検の結果、問題ないことがわかれば、携帯トイレを取り外せばよいだけです」、なるほど。
・『知っておきたい携帯トイレの使い方 ■災害前に周知しておきたい携帯トイレの使い方 災害時のトイレの初動対応として携帯トイレを用いることが有効です。 しかし、避難者の多くは携帯トイレを知りません。見たこともなければ使い方もわかりません。間違った使い方をしてしまうと不衛生な状態になり、集団感染を引き起こすことにもつながります。 そこで、大事なのが使用方法の周知徹底です。 災害が起きてからでは遅いので、平時の啓発が重要になります。防災訓練や学校での授業、地域のイベントなど、あらゆる機会を活用して伝えることが必要です。動画を活用することも有効です。 災害が起きてしまった後の周知方法は、これまでの経験者の話を踏まえると、主に2つの方法が考えられます。 1つめはイラストや図を用いてポスターを作成し、トイレに掲示することです。2つめはトイレ前にスタッフを配置することです。実際に、東日本大震災の避難所や西日本豪雨の際の病院などで実施されました。 これら2つの方法を両方実施することになると思います。災害時の負担を軽減するためにも平時の啓発を重視したいものです。(携帯トイレの使い方は? はリンク先参照)』、家庭用の場合でも「イラストや図を用いてポスターを作成し、トイレに掲示することです」は通用しそうだ。
・『■使用済みの携帯トイレはフタつきの入れ物で保管 携帯トイレを使用したあとの取り扱い方法について説明します。市町村への確認が必要ではありますが、概ね可燃ごみとして収集・処理されます。 可燃ごみとして収集するということは、ごみ収集車などで運ぶことになります。災害時は地盤沈下や液状化、浸水、建物倒壊などで道路が塞がれてしまう可能性があります。通常であれば、すぐに実施できたごみ収集でも、災害時は思うようにいきません。 災害の規模や被災状況によっても異なりますが、少なくとも数日間は、各自で使用済み携帯トイレを保管することが求められます。 携帯トイレの中身は大小便ですので、臭気対策が必要になります。また、直射日光があたると袋の劣化につながるので、フタつきの入れ物などに入れてベランダや庭など、生活空間と切り離した場所に保管することが必要です』、「少なくとも数日間は、各自で使用済み携帯トイレを保管することが求められます。 携帯トイレの中身は大小便ですので、臭気対策が必要になります。また、直射日光があたると袋の劣化につながるので、フタつきの入れ物などに入れてベランダや庭など、生活空間と切り離した場所に保管することが必要です」、なるほど。
・『どれくらいの数が必要になるか ■「人数×回数×日数」で携帯トイレを常備 自宅で避難生活を送るには、携帯トイレの備えが欠かせません。では、携帯トイレはどのくらい必要になるのでしょうか? 携帯トイレの必要数を計算するには、避難生活を送る人数、1日当×たりの排泄回数、そして避難生活を送る日数を想定する必要があります。これらがわかれば、「人数×排泄回数×避難日数」という計算式で、携帯トイレの必要数を導き出すことができます。 ここでは仮に4人家族を想定してみます。排泄回数は1人ひとり異なりますので、それぞれが実際に数えてみることをおすすめします。 内閣府(防災担当)が作成した「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」では、1日当たりの平均的なトイレ使用回数の目安は「5回」と記載されています。 避難日数は災害規模によって大きく異なりますが、国が定める「防災基本計画」では、住民に対して最低3日間、推奨1週間分の携帯トイレ・簡易トイレ、トイレットペーパーなどを備蓄することを啓発するように記載されています。 以上をまとめると、4人家族であれば次のような計算になり、140回分の携帯トイレが必要になります』、「4人×5回×7日」で「140回分」というわけだ。早速、ホームセンターで買ってみたい。
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経済学(その6)(アマゾンが経済学の博士を100人雇う理由、「失われた30年」を いかに克服するか、持続可能な社会に必要な 「新しい公共哲学」とは何か?)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-07
経済学については、2022年5月3日に取上げた。今日は、(その6)(アマゾンが経済学の博士を100人雇う理由、「失われた30年」を いかに克服するか、持続可能な社会に必要な 「新しい公共哲学」とは何か?)である。先ずは、2022年5月9日付け日経ビジネスオンラインが掲載した大阪大学大学院経済学研究科准教授の 」を紹介しよう。https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00448/042500004/・『最新の経済学は、米グーグルや米アマゾン・ドット・コムをはじめ、多くの米国企業で導入されています。しかし日本に目を向けてみれば、直感や場当たり的、劣化コピー、根性論で進められている仕事も少なくありません。なぜ米国企業は、経済学を積極的に採用しているのか。本当に経済学はビジネスの役に立つのか。役立てるにはどうしたらいいのか。『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。 仕事の「直感」「場当たり的」「劣化コピー」「根性論」を終わらせる』から一部を抜粋し、著者の1人、安田洋祐氏がビジネスと経済学の掛け合わせによる新しい可能性を探ります。2回目は、経済学による、需要分析と利益最大化について』、日本企業が「直感」「場当たり的」「劣化コピー」「根性論」に頼った経営を進めているのは、本当に残念だ。・『「付加価値を上げる? コストを下げる?」 さて、突然ですが、質問です。会社の利益を増やす方法を「2つ」答えてください──そう聞かれたら何と答えますか。いうまでもなく、利益は売上からコストを差し引いたものです。数式として書くと次のようになります。 利益 = 売上 − コスト …【利益①】 利益を増やすためには、売上を増やすかコストを減らすか(または両方を同時に行うか)しかありません。前者はよりよい製品やサービスを送り出して多くの人に買ってもらうこと、後者はオペレーションを効率化して諸経費を削り利幅を増やすことに対応します。 つまり、商品の「付加価値を高める」か、それとも生産にかかる「コストを下げる」か。この2つは、会社が利益を増やすための基本戦略ともいえるでしょう。 では現実問題として、世の中の企業はどちらの戦略をとることが多いのでしょうか。結論からいうと、「コストを下げる」を選ぶ企業が圧倒的に多いはずです。なぜなら、コストの削減というのはいままでと同じ製品、いままでと同じ売り方のま..
経済政治動向
tr232238
2024-03-07T17:45:04+09:00
先ずは、2022年5月9日付け日経ビジネスオンラインが掲載した大阪大学大学院経済学研究科准教授の 」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00448/042500004/
・『最新の経済学は、米グーグルや米アマゾン・ドット・コムをはじめ、多くの米国企業で導入されています。しかし日本に目を向けてみれば、直感や場当たり的、劣化コピー、根性論で進められている仕事も少なくありません。なぜ米国企業は、経済学を積極的に採用しているのか。本当に経済学はビジネスの役に立つのか。役立てるにはどうしたらいいのか。『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。 仕事の「直感」「場当たり的」「劣化コピー」「根性論」を終わらせる』から一部を抜粋し、著者の1人、安田洋祐氏がビジネスと経済学の掛け合わせによる新しい可能性を探ります。2回目は、経済学による、需要分析と利益最大化について』、日本企業が「直感」「場当たり的」「劣化コピー」「根性論」に頼った経営を進めているのは、本当に残念だ。
・『「付加価値を上げる? コストを下げる?」 さて、突然ですが、質問です。会社の利益を増やす方法を「2つ」答えてください──そう聞かれたら何と答えますか。いうまでもなく、利益は売上からコストを差し引いたものです。数式として書くと次のようになります。 利益 = 売上 − コスト …【利益①】 利益を増やすためには、売上を増やすかコストを減らすか(または両方を同時に行うか)しかありません。前者はよりよい製品やサービスを送り出して多くの人に買ってもらうこと、後者はオペレーションを効率化して諸経費を削り利幅を増やすことに対応します。 つまり、商品の「付加価値を高める」か、それとも生産にかかる「コストを下げる」か。この2つは、会社が利益を増やすための基本戦略ともいえるでしょう。 では現実問題として、世の中の企業はどちらの戦略をとることが多いのでしょうか。結論からいうと、「コストを下げる」を選ぶ企業が圧倒的に多いはずです。なぜなら、コストの削減というのはいままでと同じ製品、いままでと同じ売り方のままでもできることだからです。投資や努力、カイゼンなどによってコストを引き下げることに成功すれば、その効果がそのまま利益として跳ね返ってくるのです。 例えば、1個当たり800円の経費をかけて生産し、定価1000円で売っていた商品があるとします。製造・流通過程の至るところで「鬼のコストカット」を断行して、700円でつくれるようになったとしましょう。この商品を同じ定価1000円で売れば、200円だった利幅が300円になりますよね。この差し引き100円分は、コスト削減と同時に確実に実現する利益となります。 これに対して、よりよい商品を生み出して多くの人に買ってもらうというのは、いうほど簡単ではありません。自信をもって売り出した製品やサービスが、箸にも棒にもかからなかった……。企画開発系の仕事に携わるビジネスパーソンであれば、誰しも経験があるはずです。せっかく優れた商品やサービスをつくり出しても、あるいは「つくり出した」という手応えを感じても、それがきちんと売れなければ利益は増えません。 付加価値の創造というのは、コストを下げる場合と違って、利益の改善までに時間がかかり、不確実性も高いのです。付加価値と利益との間には、この意味で大きなギャップがあることが分かります。 言い換えると、すぐに成果が出るコスト削減に対して、付加価値の向上は利益につなげるまでのハードルが高い。結果的に、「まだ見えない商品を新たにつくる」よりも「いま見えているコストを減らす」ほうが取り組みやすいのです。 逆に考えると、付加価値を高めるような投資や取り組みを企業内で加速するためには、「付加価値向上→利益増」を妨げているハードルを引き下げる後押しが必要となります。この点にも、実は武器としての経済学が役に立つことを、次にご紹介しましょう』、「付加価値の創造というのは、コストを下げる場合と違って、利益の改善までに時間がかかり、不確実性も高いのです。付加価値と利益との間には、この意味で大きなギャップがあることが分かります。 言い換えると、すぐに成果が出るコスト削減に対して、付加価値の向上は利益につなげるまでのハードルが高い。結果的に、「まだ見えない商品を新たにつくる」よりも「いま見えているコストを減らす」ほうが取り組みやすいのです」、その通りだ。
・『利益を増やす「第3の道」を探る 利益を増やすためには、「付加価値の向上」と「コストの削減」という2つの方法があることを見てきました。実は、これらとは全く異なる、利益を増やす第3の方法があります。正確にいうと、多くの企業にとって「利益を増やせる可能性が高い」別の方法があるのです。それをお伝えする前に、まずは次の質問にお答えください。 「利益を増やすためには、売上ができるだけ大きくなるように値付けを行うべきである」 この主張は正しいでしょうか、それとも間違っているでしょうか。 先ほどの【利益①】を思い出すと、利益は売上とコストの引き算ですので、売上を最大にすることで利益も最大化されるような気がするかもしれません。しかし、この質問の答えは「間違い」です。その理由を説明するために、【利益①】を、もう少し詳しく書き直してみましょう。それが次の数式になります。 利益 = (価格 − 平均コスト) × 販売量 …【利益②】 この【利益②】は、価格と販売量が明示されているのが大きな特徴です。カッコの中身が商品1つ当たりの利幅(以降は「マージン」と呼びます)で、それにトータルの販売量をかけると利益が求まる、というわけですね。 利益と同様に、売上も価格と販売量のかけ算として次のように表すことができます。 売上 = 価格 × 販売量 …【売上】 一般的に、ほとんどすべての商品は、価格が上がると需要は減ることが知られています。これは「需要法則」と呼ばれ、経済学における最もシンプルかつ普遍的な法則のひとつです。つまり、価格が上がると販売量が減るわけです。これは、【売上】の式において、「販売量の減少に伴うマイナス」を、「価格の上昇というプラス」が上回らない限り、両者のかけ算である売上が増えないことを意味します。 具体的な数値例を用いて考えてみましょう。いま、ある商品の価格を10%上げることで販売量が20%減ったとしましょう。価格が1000円のときには1万個売れていた商品が、価格を1100円に値上げすると8000個しか売れなくなってしまった、という状況をイメージしてください。このとき、売上は1000万円から880万円へと、120万円も減ってしまいます。実に12%減です。売上を増やすという観点からは、値上げは望ましくない状況であることが分かります。 ところが、売上が減る一方で、利益は増える可能性があるのです。これはいったいどういうことなのでしょうか。 いま、商品1個当たりの平均コストが800円だとします。先ほどの【利益②】に、値上げ前と値上げ後の価格、平均コスト、販売量を当てはめて計算すると、利益はそれぞれ次のように求まります。 ・値上げ前の利益 = (1000 − 800)円 × 10000個 = 200万円 ・値上げ後の利益 = (1100 − 800)円 × 8000個 = 240万円 いかがでしょうか。値上げによって利益が200万円から240万円へと、確かに20%も増加していることが確認できるでしょう。一見すると不思議な現象が起きている理由は、マージンの大幅な上昇にあります。値上げ前の200円から値上げ後の300円へと、マージンが一気に50%も増加しているのです。これが、販売量が1万個から8000個へと20%も落ち込んだにもかかわらず、利益が増えたカラクリです。 以上の計算は説明のために用意した架空の数値に基づいたものですが、値上げや値付け(プライシング)の潜在的なパワーを実感された方も多いのではないでしょうか』、「値上げ前の200円から値上げ後の300円へと、マージンが一気に50%も増加しているのです。これが、販売量が1万個から8000個へと20%も落ち込んだにもかかわらず、利益が増えたカラクリです」、確かに「マージン」引上げの効果は大きい。
・『売上か利益か、最大化したいのは? さらに、需要分析からは次のような一般的な教訓も得ることができます。 〈教訓〉利益を増やすためには売上を犠牲にするほど積極的に値上げすべし! もちろん、すでに十分高い価格を付けているような企業は、さらに値上げする必要はありません。また、どの程度の値上げが最適なのかは、企業や商品の置かれた状況によって異なります。 この〈教訓〉のポイントは、仮に値上げを行ったとしても売上が下がらないような価格水準というのは、利益を最大にする価格と比べて例外なく低すぎる、つまり決して最適にならないという点です。この意味で、「利益を増やすためには、強気の値上げが欠かせない」と解釈することもできるでしょう。 ひょっとすると、日本経済がなかなかデフレの罠(わな)から抜け出せない理由のひとつは、こうしたプライシングの重要性が理解されていない、つまり需要分析が多くの企業にとって武器になっていないからかもしれません。 この仮説が正しいかどうかは分かりませんが、自社の製品やサービスが直面している需要を精緻に予測し、プライシング戦略を見直すだけで、(付加価値向上やコスト削減がなくても)利益を改善できる可能性があるのです。 余談ですが、市場に関する公開情報や顧客のデータから需要予測を行っているのが、統計学や計量経済学(エコノメトリクス)を修めたデータサイエンティストたちです。プライシングだけでなく、ウェブサイトのデザインや広告の送り方など、売り方・伝え方を変えたときに潜在的なカスタマーの需要がどう変化するのかを彼らは精緻に分析しています。 近年では、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に代表される米国の大手IT企業が、こぞってデータサイエンティストを採用しています。アマゾンでは、経済学博士号をもつ専門家だけでも、100人以上も採用しているといわれています。こうした動きは、需要分析に代表されるデータ分析が、いかに武器として活用されているかを物語っているでしょう』、「仮に値上げを行ったとしても売上が下がらないような価格水準というのは、利益を最大にする価格と比べて例外なく低すぎる、つまり決して最適にならないという点です。この意味で、「利益を増やすためには、強気の値上げが欠かせない」と解釈することもできるでしょう。 ひょっとすると、日本経済がなかなかデフレの罠(わな)から抜け出せない理由のひとつは、こうしたプライシングの重要性が理解されていない、つまり需要分析が多くの企業にとって武器になっていないからかもしれません・・・GAFA・・に代表される米国の大手IT企業が、こぞってデータサイエンティストを採用しています。アマゾンでは、経済学博士号をもつ専門家だけでも、100人以上も採用しているといわれています・・・日本経済がなかなかデフレの罠(わな)から抜け出せない理由のひとつは、こうしたプライシングの重要性が理解されていない、つまり需要分析が多くの企業にとって武器になっていないからかもしれません」、その通りだ。
・『「経済学×ビジネス」で未来は明るい! ここでは、より幅広いビジネスに活用することができる武器として、「需要分析」について、少し大胆に大風呂敷を広げてお話ししました。わたしの専門分野でもあるマーケットデザインでも、あるいはそれ以外の経済学の分野でも、現実のビジネスや生活に役立つサイエンスの蓄積が進んでいます。 人は「よいものさえつくれば自然に売れる」と考えがちです。職人気質が美徳として尊重されている日本では、ことさらこのムードが強いかもしれません。しかし、よいものがつくれても、人に知ってもらわないと世に存在しないのと大差ありません。だから宣伝や広告、マーケティングが大切なわけです。 専門家による研究はその性質上、専門家以外の人が簡単に理解したり、使ったりすることができません。だったら、わたしたち専門家は、受け身で使い手を待っているのではなく、できるだけ使いやすい武器へと加工して、使ってくれる人のところへ、自分から届けに行けばよいと思うのです。 経済学者のみなさん、武器を磨いてビジネスの世界に飛び込んでみませんか? ビジネスパーソンのみなさん、専門家とのコラボを一度はじめてみませんか? 日本で「経済学×ビジネス」のすてきなマッチングが広がることを願っています』、「よいものがつくれても、人に知ってもらわないと世に存在しないのと大差ありません。だから宣伝や広告、マーケティングが大切なわけです。 専門家による研究はその性質上、専門家以外の人が簡単に理解したり、使ったりすることができません。だったら、わたしたち専門家は、受け身で使い手を待っているのではなく、できるだけ使いやすい武器へと加工して、使ってくれる人のところへ、自分から届けに行けばよいと思うのです。 経済学者のみなさん、武器を磨いてビジネスの世界に飛び込んでみませんか? ビジネスパーソンのみなさん、専門家とのコラボを一度はじめてみませんか?」、同感である。
次に、本年2月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した慶應義塾大学経済学部教授インタビュー(前編)の小林慶一郎氏による「「失われた30年」を、いかに克服するか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339451
・『『日本の経済政策』(中公新書、2024年)は、バブル崩壊から今日までの「失われた30年」の日本経済を精緻に分析し、未来につなぐ教訓を導き出している。『日本経済の罠』(01年)、その増補版文庫(09年、共に加藤創太氏と共著、日本経済新聞出版)と、1990年代から30年間、定期的に日本経済の課題とその処方策を論じてきた著者の小林慶一郎氏に、新書の概要から持続的社会に向けた提言まで幅広く話を聞いた。前編と後編の2回に分けてお送りする(Qは聞き手の質問、Aは小林氏の回答)』、興味深そうだ。
・『経済政策の経緯からみた「日本人の自画像」 Q:『日本の経済政策』は、「失われた30年」の分析を通して、日本経済と社会の根源的課題を明かし、未来に向けた施策を提言する書です。普通の人が読めるように、新書で平易に著されたことも意義深いと思います。また、この間の経済学の発展過程を解説されつつ、通説を覆す論説も興味深く読みました。例えば、1995年ノーベル経済学賞受賞のロバート・ルーカスら合理的期待仮説の学派の人々が、「ケインズ経済学は、政策対象の国民を思考力のある対等な人間とみなしていない」という眼目で批判していると書かれています。イメージは真逆でしたので驚きました。小林教授は、シカゴ大学大学院の院生時代の指導教官がルーカスだったのですね。 A:私は1995年〜98年にシカゴ大学大学院で経済学を学び、PhD.(博士号)を取得したのですが、指導教官がロバート・ルーカスです。ルーカスのパートナーでもあるナンシー・ストーキーやゲイリー・ベッカーからも指導を受けました。ストーキーの専門はマクロ経済学や経済成長論です。ベッカーはミクロ経済学や人的資本(ヒューマン・キャピタル)の理論などが専門で、92年にノーベル経済学賞を受賞しています。私は彼ら3人の指導のもと、人的資本を含めた経済成長の理論を博士論文で書きました(編注:"The Division of Labor, the Extent of the Market, and Economic Growth," (Ph.D. Dissertation), University of Chicago) 本書で示したケインズ経済学への評価は、ルーカスが言ったことではなく、私自身の合理的期待理論の解釈に基づくものです。一般的なイメージは逆ですね。ケインズ経済学は庶民のために財政政策や金融政策を積極的に活用するというイメージで、合理的期待学派は新古典派経済学で市場第一というイメージです。合理的期待学派というと、競争力のない企業は淘汰されても仕方がないというような、人々に対して冷たい印象があると思います。 しかし、実はそうではない、と私は思っています。合理的期待学派は人々がどのように思考しているか、どう経済政策に反応するか、を真剣に考えているのです。 それに対して、教科書に書かれた単純化されたケインズ経済学はその過程を端折っています。教科書的なケインズ経済学で政策を考える論者たちは、「経済政策の対象となる人々」を自分と同じように思考する人間だと見なしていないのです。もちろん意識的にそんなことを言ったりはしませんが、無意識のうちにそういう前提で考えていることが根深い問題なのです。だから結果的に、本書で書いたようないろいろな失敗をしている。政府の政策に対して人々がどう考えるかを突き詰めないという間違いを繰り返しています。 合理的期待理論にも、「人間は完全に合理的だ」と仮定するなど批判されるべき点があることはそのとおりです。しかし、合理的期待学派は、少なくとも何か政策を施行した際に、人々がどう考え、どう反応するかを真剣に見極めようとする姿勢は徹底しているのです。その姿勢が次に論じる「再帰的思考」です。 本書のバックボーンとして、「人々の思考について思考すること」の重要性があります。本書ではこれを再帰的思考という言葉で表しています。簡単に言えば、相手を思いやる、相手の立場になって相手の思考を我がものとして考えようという思考の態度が、再帰的思考です。 「失われた30年」の日本の経済政策の実行において、この再帰的思考ができていなかったというのが私の結論です。不良債権についても、デフレ対策でも、経済政策に国民がどう反応するかを、希望的観測で単純化し、楽観的に考えていた。結果としてそれがことごとく間違いで、反省なく、繰り返されたのだと思います』、「合理的期待学派は、少なくとも何か政策を施行した際に、人々がどう考え、どう反応するかを真剣に見極めようとする姿勢は徹底しているのです。その姿勢が次に論じる「再帰的思考」です。 本書のバックボーンとして、「人々の思考について思考すること」の重要性があります。本書ではこれを再帰的思考という言葉で表しています。簡単に言えば、相手を思いやる、相手の立場になって相手の思考を我がものとして考えようという思考の態度が、再帰的思考です。不良債権についても、デフレ対策でも、経済政策に国民がどう反応するかを、希望的観測で単純化し、楽観的に考えていた。結果としてそれがことごとく間違いで、反省なく、繰り返されたのだと思います」、なるほど
・『「失われた30年」を、いかに克服するか Q:本書の終章が、「縦割り主義から『再帰的思考』へ」という提言になっています。その提言に至る過程が全体で書かれています。そもそも本書の執筆の動機はどこにあったのでしょうか。 A:自分なりに「私たちの時代」の肖像、経済政策の経緯からみた「日本人の自画像」を書いてみたかったのです。 時評は新聞や雑誌で都度発表してきましたが、現時点できちんとまとめてみたいというのが本書の主旨です。自分自身も経済政策の現場にいたことがありますから、その経験も踏まえて、経済政策から見た過去30年を振り返り、私たちの時代は何だったのかを考えたいと思いました。 「失われた30年」の原因を一言で表現すると、「再帰的思考の欠如」になります。再帰的思考とは前述の通り、他者の思考を自分自身が思考する、他者になり切って思考すること。さらに、自分と他者の両者が互いの思考を読み合っていることを知っていて、「私が考えている、と相手が知っていて、相手が知っていることを私が知っていて、さらにそのことを相手が知っている……」という無限ループが起きていること、それを認識した上で意思決定することです。この再帰的思考が、日本の政策の議論には欠落しているのではないかと思うのです』、「再帰的思考とは前述の通り、他者の思考を自分自身が思考する、他者になり切って思考すること。さらに、自分と他者の両者が互いの思考を読み合っていることを知っていて、「私が考えている、と相手が知っていて、相手が知っていることを私が知っていて、さらにそのことを相手が知っている……」という無限ループが起きていること、それを認識した上で意思決定することです。この再帰的思考が、日本の政策の議論には欠落している」、なるほど。
・『最大の失敗は不良債権処理の先送り Q:第5章で、そこまでの章をまとめる形で、「失われた30年」の要因を集約していますが、個々の要因における再帰的思考の欠如について具体的に教えてください。 政策の失敗は30年間で約10〜15年間ごとに現出し、企業経営の課題と複合して、日本経済の長期停滞をもたらしたと思います。 最大の失敗は、1990年代〜2005年と15年間もかかった不良債権処理の遅れです。バブル崩壊による巨額の不良債権問題は、世界各地で起きていますが、他国では通常3年程度で処理されています。 日本での長期化要因は、経営者や為政者の課題先送り意識や慣行にあります。当時、債権者の銀行には「不良債権処理=債権放棄=銀行員失格」、債務者の経営者には「倒産=清算=企業の死」の観念が固まっていて、それを回避したかった。いずれ株価や地価が回復して解決できると思い込み、対応先送りで自分たちは逃げ切れるという姿勢でした。 銀行は債権の一部放棄によって回収額が増える可能性があるとか、企業経営者は倒産後の事業再生や新事業育成で成長を回復するという発想がありませんでした。為政者も同様の精神構造で、有効な政策実施を怠りました。 市場の圧力などから、銀行や証券会社が経営破綻に追い込まれ、その度ごとのびぼう策により、日本経済全体の成長力が失われていきました。この点において、第二の政策失敗があります。過剰債務等で疲弊した企業の金利負担を軽くする金融緩和を長期継続し、低収益性企業の存続を支援しましたが、これは社会全体として一時的な痛み止めになる一方、経済の新陳代謝を妨げ、成長を抑制することになりました。企業は、リストラが回避できても、設備投資や人材育成投資を行えず、日本全体で人的資本の劣化につながりました。 Q:いわゆる「ゾンビ企業」を多く生み出したことで、日本全体での新陳代謝が抑制されてしまったのですね。 A:本書第1章で詳述しましたが、その帰結としての「不良債権処理の後も、長期停滞が続いた理由」を最後にまとめました。「企業間分業の萎縮」と「人的資本の劣化」です。 そのメカニズムは、(1)不良債権の大量発生による企業間の相互不振で、企業間の分業が崩れ、生産性が低下する。(2)低生産性の下で、教育や技術向上など人への投資が低調になり、人的資本が劣化する。(3)不良債権処理が長引いて、人的資本が相当程度に劣化すると、企業間で元通りに分業しても採算性が取れなくなるので、企業はサプライチェーンを再生しない。(4)企業間分業が再生しなければ、経済全体で低生産性が続き、人的資本の劣化が進む。人的資本の劣化が進むと、企業間分業は採算が取れないので再生しない、という悪循環が続く、というものです。 2010年代には、異次元緩和による金利負担の長期低減で、財政規律が緩み、政府債務は膨らみ続けます。企業においては、アニマルスピリットを衰退させ、イノベーションを阻害しました。本書に書きましたが、2021年頃から「低金利政策の長期化は、経済成長率を低下させる」という研究が海外を中心に増えています。 また、人口減少と超高齢化という人口動態も、長期経済低迷の背景にあります。少子・高齢化が進む中で財政・社会保障制度の持続性に国民全体が不安を感じ、貯蓄性向を高めます。多少景気が回復しても、消費を増やそうとは考えません。 Q:2001年に小林教授が加藤創太氏(現在、東京財団政策研究所研究主幹)と共に著した『日本経済の罠』(日本経済新聞社)では、それまでの「失われた10年」を分析しています。同書ではすでに、既存の経済理論や経済政策の限界を示し、「不良債権問題の経済学」「バランスシートの罠」という章を設けて詳述していますが、日本の為政者には受け入れらなかったのでしょうか。 当時の経済学や政策決定過程に限界がありました。過去の失敗の蓄積が将来に影響するという体系になっていなかった。1990年代末になって、ようやくマクロ経済学にバランスシートの要素が入って、過去の失敗の蓄積が将来に影響するという問題を分析できるようになりました。 それ以前は、バランスシート変数の問題に着目したマクロ経済学の研究は、ベン・バーナンキ(プリンストン大学教授、後に米国連邦準備制度理事会(FRB)議長、2022年ノーベル経済学賞受賞)による1930年代の大恐慌の研究などごく少数でした。バーナンキの83年の論文では、大恐慌の悪化原因は、貨幣量の収縮にあるという通説だけではなく、銀行危機で銀行から企業等への信用供与が機能不全となったことで総需要が収縮したことにあると論じています。しかし当時この理論はメジャーではなく、その後、洗練され、99年になって標準的なマクロ経済政策の分析ツールとして認められるようになります。 日本が不良債権で苦しんでいた1990年代初頭にはそういう理論はありませんでした。当時の教科書にあるケインズ経済学ではとにかく財政出動、金融緩和で経済を刺激すれば、景気はそのうち回復すると考えられていたのです。実際、そうした経済対策を展開しました。不良債権処理は確かにやるべきことだが、経済政策とは違うというイメージでした。大問題ではあるけれども、それ自体は経済の先行きにさほど影響を与えないんじゃないかという考えを、当時の経済学者や為政者は持っていたと思います。 Q:2000年以前に私たちが学んだケインズ経済学では、景気悪化時には、中央銀行が低金利政策を実施し、0%近くまで下げても民間投資が動き出さない「流動性の罠」に陥ったら、政府が積極的な財政政策を発動するのが良いと言うものでした。 A:流動性の罠についてはちょっと難しい問題があります。日本の場合、ゼロ金利政策を実施したのが1999年で、流動性の罠に陥ったのがこの頃でした。しかし、財政政策はそれまでに限界まで実施していて、これ以上の財政拡大の余地がないというコンセンサスになっていたと思います。経済理論では、流動性の罠に陥ったら、金融緩和は効かないから財政拡大するということになっていますが、現実には財政は出し尽くしていたので、次に打つ手がない状態だったのです。 そこに、「将来見通しの期待を変える」「インフレ期待を作れば大丈夫」という新しい理論が出てきた。それが、いわゆる「リフレ派」の理論です。それまでのケインズ経済学の教科書には書いていないことを唱えた新しい学派です。 Q:本書第2章で詳述されているように、1998年頃の日本経済については、ポール・クルーグマン(当時マサチューセッツ工科大学教授、2008年にノーベル経済学賞受賞)も、「期待を操作すれば良い」と提言していました。 A:クルーグマンは、日本経済は縮小していくと予想し、その予想のもとでは自然利子率(需要と供給が一致する利子率)はマイナスになっていると主張しました。クルーグマンの議論は、日本経済の長期縮小は受け容れた上で、足下の需要と供給が一致するようにさせるために、将来のインフレ期待(予想)を醸成し、現実の金利をマイナスの自然利子率に近づけて、需要喚起を促す策を提言していました。 2000年くらいまでにはバランスシート問題が米国では認識されていたけど、次善の政策として、リフレのような、期待に働きかけることが有効だと思われていました。不良債権処理は社会全体に大きな痛みを伴うので、アカデミズムから政策提言として不良債権処理の推進案はあまり出てきませんでした。期待に働きかけるリフレ案のほうが誰も傷つけず、痛みを伴わないので、そちらの方が言いやすかったのです。 実際、欧米においても、リフレ政策が望ましいということで、2008年のリーマンショック、10年代の欧州債務危機でも、大規模に金融を緩和しました。ただし、それによって期待が変わったかどうかという点はまだ論争が続いています。理論的に必ず期待を変えられるとは言い切れていません。どんどん金融緩和をやって量的緩和とかフォワードガイダンスをやれば、何がしかインフレ的になるということは各国で経験したけれども、それは政策が効いたからかどうか、疑問視する研究者もいます』、「不良債権処理は社会全体に大きな痛みを伴うので、アカデミズムから政策提言として不良債権処理の推進案はあまり出てきませんでした。期待に働きかけるリフレ案のほうが誰も傷つけず、痛みを伴わないので、そちらの方が言いやすかったのです。 実際、欧米においても、リフレ政策が望ましいということで、2008年のリーマンショック、10年代の欧州債務危機でも、大規模に金融を緩和しました。ただし、それによって期待が変わったかどうかという点はまだ論争が続いています」、なるほど。
・『自然利子率を与件としてはいけない 潜在成長率を高める施策こそ必要 Q:日本では長期間デフレの状態が続いています。本書の第2章「長期化するデフレ」ではその点を論じています。 先日(2024年2月14日)、日本経済新聞の「経済教室」で「政策で期待は操作できたか」というコラムを書きましたが、日本における金融政策と経済変化を見ると、「中央銀行(日本では日本銀行)の約束だけでは期待は動かしにくい」と私は考えています。 日本全体の潜在成長力をフルに発揮させられる金利、つまり総需要と総供給が一致する自然利子率と呼ばれる金利(中立金利)は、年々下がってきています。前述の通り、90年代の終わりからマイナスにある、という人もいました。GDP(国内総生産)が年々縮小しているということです。 この場合、日銀が名目金利をゼロにしても、インフレ率が0%ぐらいだと、実質金利は中立金利より高くなってしまい、国民は将来に備えて貯蓄に走ってしまいます。それを防ぐため、政策でインフレを起こして実質金利を中立金利になるまで下げるべきだというのがリフレ派のロジックです。 政策金利はすでにゼロなので、発行通貨の量を増やしたり、将来にわたってデフレが終息するまで金融緩和を続けることを約束するフォワードガイダンスなどを実施したりしたわけです。これらの金融政策は従来のものではなかったので、「非伝統的政策」と呼ばれています。 将来の金利やインフレに関しての、国民の期待を、政策によって操作しようという考え方です。しかし、繰り返しますが、日本では当局の思惑通りには、すぐに期待は変化しなかった。こうした経済理論と現実の関係は、本書で詳述しました。 Q:本書第2章は、「何が問題だったのか――リフレ政策の副作用」という節で結んでいます。 要は、政策で何を直したいのか、だと思います。当時のデフレ論争ではここがとても狭く捉えられていました。具体的には、「自然利子率(中立金利)は与えられたもの、所与の条件と考えた上で、需要と供給を一致させるためにどんな金融政策をとるべきか」に論争が終始していました。 本来は、自然利子率が低すぎるのであれば、それを高めるために、中長期的にどういう政策を打つかを考えるべきです。それは日本の経済成長率を長期的に高める構造改革をすることです。構造改革による長期成長をメインの政策として、それとセットで短期的な需要と供給をなるべく一致させるような金融・財政政策を補助的に実施する。このように、経済の全体像および中長期的な視点から経済政策を考えるべきだと思います。 Q:自然利子率を高めるには、日本全体の成長性を高める。人口減少下の日本では、生産性を高める政策が望まれるということになるのでしょうか。 A:そうですね。ここまでの話の流れで言えば、日本全体の新陳代謝を高めていくことです。例えば、収益性の高い企業がその成長に必要な人材を確保できるように政策的に促すことです。低生産性の企業が退出や人材放出を行いやすい制度や環境を整えるとか、もっと人材移動が活発化するような法整備を確立するとか、金融面でそうした新陳代謝を促すことなどです。 個人のリスキリングによる生産性向上はすでに行われていますが、社会保障制度の面で将来不安をなくして、転職や消費行動が活性化していく制度設計は大切ですね。 同じく動き始めているDX(デジタル・トランスフォーメーション)やGX(グリーン・トランスフォーメーション)についても、しっかりと結実するように政策のバックアップが必要です。ただ、財政支出がさらに相当必要なため、今日、最も重要な財政の健全化との両立が難しく、その方法を私自身見出せていないので、本書では言及しませんでした。 *明日公開の後編では、世界金融危機の分析、日本の財政危機と対処策、将来に向けた施策の提言をお伝えします。 (小林慶一郎・・・氏の略歴はリンク先参照)』、「日銀が名目金利をゼロにしても、インフレ率が0%ぐらいだと、実質金利は中立金利より高くなってしまい、国民は将来に備えて貯蓄に走ってしまいます。それを防ぐため、政策でインフレを起こして実質金利を中立金利になるまで下げるべきだというのがリフレ派のロジックです。 政策金利はすでにゼロなので、発行通貨の量を増やしたり、将来にわたってデフレが終息するまで金融緩和を続けることを約束するフォワードガイダンスなどを実施したりしたわけです。これらの金融政策は従来のものではなかったので、「非伝統的政策」と呼ばれています。 将来の金利やインフレに関しての、国民の期待を、政策によって操作しようという考え方です。しかし、繰り返しますが、日本では当局の思惑通りには、すぐに期待は変化しなかった・・・日本全体の新陳代謝を高めていくことです。例えば、収益性の高い企業がその成長に必要な人材を確保できるように政策的に促すことです。低生産性の企業が退出や人材放出を行いやすい制度や環境を整えるとか、もっと人材移動が活発化するような法整備を確立するとか、金融面でそうした新陳代謝を促すことなどです」、なるほど。
第三に、3月1日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した小林慶一郎・慶應義塾大学経済学部教授インタビュー(後編)「持続可能な社会に必要な、「新しい公共哲学」とは何か?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339538
・『『日本の経済政策』(中公新書、2024年)は、バブル崩壊から今日までの「失われた30年」の日本経済を精緻に分析し、未来につなぐ教訓を導き出している。『日本経済の罠』(01年)、その増補版文庫(09年、共に加藤創太氏と共著、日本経済新聞出版)と、1990年代から30年間、定期的に日本経済の課題とその処方策を論じてきた著者の小林慶一郎氏に、新書の概要から持続的社会に向けた提言まで幅広く話を聞いた。前編に続く後編は、今日の日本社会に求められる「新しい公共哲学」へと話は展開する』、興味深そうだ。
・『シャドーバンクなどに新たな危機の懸念がある Q:金融危機発生後の対処で、日本の失敗を米国は研究し、リーマンショック対応に生かしたのでしょうか。 米国の学者や為政者は、日本の失敗を十分に研究していました。その研究から、金融危機に陥った際の政策対応は、Too little(小さ過ぎる)や Too late(遅過ぎる)では最悪になるとわかっていたので、迅速な対応ができました。 リーマンショックは、証券化商品の健全性が問題になりました。証券化商品は金融市場で値付けされるので、返済困難になった債務に基づく証券化商品は価格が暴落し、それを資産に持つ金融機関の損失が早期に明らかになりました。 一方、日本では、銀行が個々の取引先への貸出債権としてバランスシートに抱えていたので、償却という形で自ら損失計上するまで隠すことができました。個々の経営判断で問題の先送りができ、監督官庁が全体像を容易に把握できず、政策対応が遅れました。また、どの銀行がどれだけの不良債権を持ち、どの企業がいくらの過剰債務を抱えているかがわからず、信用不安が広がった面もありました。 バブル崩壊による多額の不良債権の発生で、金融機関のバランスシートが痛み、信用創造機能が低下し、国全体が金融危機に陥るという構図は日本も米国も同じだったのですが、直接金融の比重が大きい米国では発覚が早く、日本の失敗を教訓にして、スピーディな対応で、早期に課題を解決したということです』、この他に、「日本の」会計基準の遅れも「発覚」を遅らせた。
・『持続可能な社会に必要な、「新しい公共哲学」とは何か? Q:米国は、リーマンショックやコロナ禍では果敢に金融緩和を行い、割合と早期に経済が回復しました。一方で、FBR(連邦準備制度理事会)は経済が過熱する懸念があると、金利を上げてそれを抑えるなど、金融政策は柔軟です。また近年、先進国全般に低成長・低インフレ傾向にある中で、米国は現状において金利水準は高めで、FRB元議長のベン・バーナンキは『21世紀の金融政策』(高遠裕子訳、2023年、日本経済新聞出版)で、万が一、経済ショックが起きても、大幅な金融緩和で対処する金利水準での余裕があると書いています。それでも、何が起きるかわからないことを留意しています。 規制体制が十分でないセクター、例えばシャドーバンク(編注:ノンバンクやヘッジファンドなど、証券化のための特別目的事業体など銀行を介さないで金融取引する機関)などに懸念はあると思います。中国における不動産融資の不良債権化などが一例です。 銀行などで問題が起きた際、自己資本比率など規制を厳しくして、次の危機が起きないように備えても、その規制にかからないシャドーバンクを通しての資金調達が拡大するなど、規制強化と新しいビジネスの台頭はイタチごっこのような関係です。リスクをとって、より収益性の高い運用を行う動きは常にあるからです。日本でも、現時点では私たちが気づいていないだけで、伝統的な金融機関の外で問題が蓄積している可能性はあります。 危機に対する経済理論においても、危機防止の規制などの政策においても、まだまだわからない部分があり、私たちは慢心してはいけない。この点は、本書第3章「世界金融危機」の後半で、一連の危機とその対応からの教訓として現時点の考え方をまとめました。 気をつけていても、いつの間にか危機は起こりえます。その際には、問題のある金融機関を見つけて公的資金を注入するとか、不安が広がらないように流動性を高めるとか、思い切った経済政策を展開することです。この点は、地震やコロナ禍など天災発生時の対策と同じです。非常時には、国の借金が増えても、即時かつ十分に対応しないといけない。 Q:第5章後半で、低金利長期化の副作用を指摘しています。日本の金融政策の正常化は今後どのような手順で進めていくべきでしょうか。 A:数カ月で0.25%、数年で1%というように段階的に市場の反応を見ながら、金利を上げていく。将来のクレディブルな経路を示すことです。信頼できる将来像でないと、いくら政府や日銀が将来のバラ色の姿を示しても、意味がありません。 Q:少しインフレ傾向が出てきたからといって、日本銀行が即座に金融緩和をやめてしまったら、それまで言い続けてきた約束を守らないということになるのですね。 A:日銀は、「フォワードガイダンスの条件をクリアしたので政策を変更していいのだ」という明確な理由をきちんと提示できるまでは、現状の政策を続けるだろうと思います。今、そのデータを集めているところだと思います。 この点も本書で書きましたが、「時間整合性」の問題があるのです。デフレの時には物価上昇が安定的に続くまで金融緩和をやめませんと約束するのが最適ですが、インフレになってしまうと、なるべく早めに金融引き締めに移ることが最適な政策になります。事前と事後で、最適な政策が異なるという時間整合性の問題があるのです。市場の信用を失わないように、政策を変更するというのが、今、日銀が直面している最大の難関だと思います』、「「時間整合性」の問題があるのです。デフレの時には物価上昇が安定的に続くまで金融緩和をやめませんと約束するのが最適ですが、インフレになってしまうと、なるべく早めに金融引き締めに移ることが最適な政策になります。事前と事後で、最適な政策が異なるという時間整合性の問題があるのです。市場の信用を失わないように、政策を変更するというのが、今、日銀が直面している最大の難関だと思います」、その通りだ。
・『エレファント・イン・ザ・ルーム 財政危機は放置されている Q:未来に向けた提言となる本書第6章「日本経済のゆくえ」では、最初に、財政赤字の現状と将来予想を示しています。現状は「国の歳出が歳入を構造的に上回っている。景気が良くなっても財政赤字は無くならない」。将来予想は「2014年の財政制度等審議会で財務省が提出した資料(図表1参照)をもとに、経済成長率2%程度で金利が成長率を上回る経済の正常化が果たされたとしても、国の債務はGDP比で2020年240%(2.4倍)が、2050年には500%(5倍)を優に超える(図の青色の線)」ことが示されています』、「経済成長率2%程度で金利が成長率を上回る経済の正常化が果たされたとしても、国の債務はGDP比で2020年240%(2.4倍)が、2050年には500%(5倍)を優に超える」、やはり財政赤字は深刻だ。
・『持続可能な社会に必要な、「新しい公共哲学」とは何か? 債務問題の解決は、長期的に、歳出と歳入をバランスさせていくしかありません。図では、「毎年の財政収支を改善して2060年度に債務比率を100%まで下げるケース(図の赤色の線)」を財政再建案として示していますが、これを実現するには毎年の歳出(国家予算)を70%削減するか、歳入の大幅な増加、例えば消費税率で計算すると追加約30%の引き上げが必要になります。実行となると、とてもハードルの高い解決策です。 財政再建のための方法は、歳出削減、歳入増、あるいはインフレによる事実上の債務削減(その分の国民負担増)があり、財政再建に向けたいくつかの研究を本書では紹介しました。たたし、いずれにしても、今すぐには政治的に実現不可能なので、まずは国全体で財政再建を実現しようというコンセンサスを早急に作らなければいけません。 財政あるいは社会保障制度の持続性については、多くの人が不安を感じています。しかし、現状においては、何もやっていない。いわゆる「エレファント・イン・ザ・ルーム」という状況です(注:エレファント・イン・ザ・ルームとは、部屋の中に大きな象がいるのにみんな黙っているという状態。重要な問題の存在を誰もが認識しているけれど、誰も直視や言及しないことの譬え)。 実は、1990年代の不良債権と、今日の膨大な政府債務への国民の向き合い方は同じです。ある程度の期間は、問題の先送りができるので、今、課題に向き合うべき現在世代は先送りしようとするのです』、「財政あるいは社会保障制度の持続性については、多くの人が不安を感じています。しかし、現状においては、何もやっていない。いわゆる「エレファント・イン・ザ・ルーム」という状況です」、本当に困ったことだ。
・『世代間問題を解くための新しい公共哲学 Q:現在世代が財政再建を先送りすれば、そうしなかった場合に比べて、将来世代の負担が重くなるという類の「世代間問題」や、その問題を克服する思考について、小林教授は『時間の経済学』(ミネルヴァ書房、2019年)で論考を深めていて、それに基づく解決アプローチ案のいくつかが、本書第6章の後半で提示されています。 将来世代のことを考えて政策を作ることを当たり前のことにするのが理想なのですが、まず今やれそうなことの1つとして、独立財政機関の導入を挙げています。関西経済連合会や経済同友会などいくつかの組織から、すでに提言は出ているものです』、「独立財政機関の導入」とはどういうことなのだろう。
・『持続可能な社会に必要な、「新しい公共哲学」とは何か? 独立財政機関とは、30〜50年先などの超長期の将来までの経済・財政の展望を推計し、その結果を財政運営の基礎情報として国民や政府に公開する機関です。推計の信頼性確保のため、政治的な中立性と独立性を保証します。内閣府や財務省などの既存官庁は、政権のために働くことが任務のため、どうしても忖度が働くので、独立機関が必要なのです。 米国の議会予算局や英国の予算責任庁などが代表例です。2010年代に世界で創設が増え、現在のOECD加盟38カ国のうち31カ国で設置されています。増加の背景には、欧州の債務危機があります。2010年代初めギリシャなどで放漫な財政運営が発覚し、欧州債務危機が広がりました。このことを反省し、EUは、長期的な健全財政のために独立財政機関を作ることを加盟各国に求めるEU指令を13年に出しました。 21世紀における独立財政機関の創設の動きは、19世紀末〜20世紀初頭における中央銀行の設立の流れと同様だと思います。当時は大恐慌など経済混乱が各国で何度も発生し、金融の面から安定化を図るべく中央銀行が各国に設立されていきました。以降、景気変動はそれ以前ほどには激しくなっていない。今日の独立財政機関の設立の動きは、財政面での経済不安定化の防止策と言えます。 Q:『時間の経済学』では、現在世代と次世代の利害が対立する世代間問題を、いかに克服したらいいかを探っています。それは財政危機だけでなく、人類が直面する最大危機である地球温暖化なども同様の、これまでとは「構造」が異なる問題です。例えば、課題解決の意思決定に参加できる仕組みとして正当性が確立されてきた現状の議会制民主主義では、世代間問題の当事者である次世代の意見は原理的には反映されない、と指摘されています。そこで、ロールズ、ハイエク、アーレント、ヨナス、ポーコック、サンデルなど現代の政治哲学者たちの思想を展望し、解決の方向性を提示されています。 その内容をこのインタビューで説明するのは時間的に難しいですが、経済成長を前提としたリベラリズムという近現代の思考のままでは、世代間問題は解決できないので、私たちは何か新しい公共哲学を持たなければいけないというのが提言です。新しい公共哲学を持った上で、国を運営し、政策を立てて行く必要があるということです。 功利主義に基づく現代の経済学では、人間は完全に利己的ではなく、弱い「利他性」を持っていると考えます。また、アダム・スミスは、「共感」の作用によって道徳感情の基準(内なる公平な観察者)が形成されるとして、人々の相互作用による人格形成の過程に注目しました。この共感の作用を世代間問題の解決に活用すれば、将来世代に対する利他性を、現在世代の人々の間の共感によって強化することができるはずだと考えます。 前述の独立財政機関や、さらには将来世代の利益を代表することを職務とする公的機関を創設すれば、世間一般からの共感や構成員相互の共感によって、将来世代の利益を増進する方向で、政策決定に影響を与えられるでしょう。 また、この相互作用は、今日しばしば使われる言葉で言えば「承認欲求」につながるでしょうか。私たちが経済を含めていろいろな活動をする際に、そのモチベーションは何かを突き詰めて考えていくと、他者に自分を認めてもらいたいという要素が強いと思うのです。人生の充足感は、承認欲求に根ざす部分が多いものです。 その際に、自分を承認してくれる他者は誰か。自分の周囲の人から承認されることで私たちは満足を得るわけですが、なぜ周囲の人からの承認が価値を持つかと考えると、私たちを承認してくれる人も、だれかから承認されているから、といえます。 私を承認してくれる人は、別の誰かから承認されていて、その誰かもまたさらに別の誰かから承認されています。この連鎖をたどっていくと、現在世代の枠を超えて、究極的には「無限遠の将来世代からの承認」に行きつきます。遠い未来の将来世代から現在の私たちが承認される(だろう)という信念が、私たちの人生に価値を与えていると言えるわけです。こう考えると、現在世代の相互共感を通じて、将来世代のことも深く考えるようになると思うのです。こうした新しい公共哲学を考えたいのです。 短期的には、現在世代の利害関係者(ステークホルダー)や政治から独立し、将来世代の視点を持つ中立的な公的機関の創設が必要であり、長期的には、そうした活動に対する社会全体のコンセンサスを支える公共哲学を確立していくべきだと思うのです。 Q:最後に、中長期的に進めていくべき施策を、国、企業、個人それぞれ、教えてください。 国の施策としては、将来の見通しを持てるように、信頼できる将来像を示すことです。具体的には、財政と社会保障の持続性です。国民をごまかさないで、国民の反応を自分事として想像する、再帰的思考が必要です。 一方で、イノベーションのためには、政府による大型投資も必要です。この点は、財政支出との整合性が問われます。どのような答えを出せるのか、難問で、私自身も即答できませんが、なんとか両立したいところです。 企業の施策としては、30年先、50年先の未来の社会をイメージし、そこからバックキャストして今するべき事業の意義を再確認すること。フューチャー・デザインを経営で実践するということです。考え抜いた末に、もし現状の事業に将来性がないという結論に至ったならば、早く企業を解散する道筋を考えることも経営者の責務です。 個人の施策としては、将来世代の視点を自分のものにして考えることです。すると、将来世代からの感謝や承認がなければ、現代の私たちの人生に生きる意味を見つけられない、となるのではないでしょうか。他者の承認をたどっていくと、無限遠の未来の将来世代からの承認によって、私たちの人生の価値は支えられているという考えにいたるはずです。(了)』、「独立財政機関とは、30〜50年先などの超長期の将来までの経済・財政の展望を推計し、その結果を財政運営の基礎情報として国民や政府に公開する機関です。推計の信頼性確保のため、政治的な中立性と独立性を保証します。内閣府や財務省などの既存官庁は、政権のために働くことが任務のため、どうしても忖度が働くので、独立機関が必要なのです。 米国の議会予算局や英国の予算責任庁などが代表例です・・・経済成長を前提としたリベラリズムという近現代の思考のままでは、世代間問題は解決できないので、私たちは何か新しい公共哲学を持たなければいけないというのが提言です。新しい公共哲学を持った上で、国を運営し、政策を立てて行く必要があるということです。 功利主義に基づく現代の経済学では、人間は完全に利己的ではなく、弱い「利他性」を持っていると考えます。また、アダム・スミスは、「共感」の作用によって道徳感情の基準(内なる公平な観察者)が形成されるとして、人々の相互作用による人格形成の過程に注目しました。この共感の作用を世代間問題の解決に活用すれば、将来世代に対する利他性を、現在世代の人々の間の共感によって強化することができるはずだと考えます」、我が国では、既存の公務員組織とは別に、独立の組織を、財界や労組などを中心に設立することが考えられる。独立性を如何に維持するか、極めて難しい問題だ。
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民主主義(その9)(日本が独裁国家に転じれば 国民は幸せになれるのかーーネットで増える「民主主義否定論者」が見落としている事実、【歴史】哲学者プラトンが民主主義を嫌悪していた理由【書籍オンライン編集部セレクション】、ロシア・中国が「民主主義は時代遅れ」と公言「“歴史の終わり”から35年後の危機」【フランシス・フクヤマ】)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-06
民主主義については、2021年8月23日に取上げた。今日は、(その9)(日本が独裁国家に転じれば 国民は幸せになれるのかーーネットで増える「民主主義否定論者」が見落としている事実、【歴史】哲学者プラトンが民主主義を嫌悪していた理由【書籍オンライン編集部セレクション】、ロシア・中国が「民主主義は時代遅れ」と公言「“歴史の終わり”から35年後の危機」【フランシス・フクヤマ】)である。先ずは、昨年12月6日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「日本が独裁国家に転じれば、国民は幸せになれるのかーーネットで増える「民主主義否定論者」が見落としている事実」を紹介しよう。https://gendai.media/articles/-/120266?imp=0・『全世界的に非民主的な強権国家の影響力が高まっている。強権的な国家はいわゆる民主主義のコストを負担する必要がなく、経済的に有利な状況にある。日本など民主国家の中からも、こうしたコスト負担を嫌悪する意見が散見されるようになっており、事態を放置すれば民主主義の機能不全につながりかねない』、興味深そうだ。・『「歴史の終わり」は来なかった 一般的に民主国家を維持するにはかなりの負担がかかるとされている。議会を通じて議論を行なったり、政府が政策について国民に十分に説明し、賛同を得てからでなければ政策を実行に移すことができない。強権的な独裁国家と比べて、合意形成のプロセスに相当な時間や人員を必要とするため、一連の負担のことを「民主主義のコスト」と呼ぶ。 これまでの国際社会は、圧倒的に西側民主国家の影響力が強く、経済規模も大きかった。豊かな先進国は総じて民主国家であり、その圧倒的な経済力を生かし、民主主義のコストを負担するという流れだった。 つまり、経済的豊かさと民主主義はセットであり、そうであればこそ民主主義というのはグローバル社会における完成形と見なされていた。 中高年以上で、一定以上の読書経験を持つ人なら、1990年代前半に出版されたフランシス・フクヤマ氏による「歴史の終わり」がベストセラーになったことを記憶しているだろう。フクヤマ氏は米国人でありながら、欧州のオーソドックスな哲学者であるヘーゲルの弁証法を自在に読み解き、民主主義と自由経済が人類の歴史における最終形になるという鮮やかなロジックを展開した。 知的書物としての内容の素晴らしさという点だけでなく、..
経済政治動向
tr232238
2024-03-06T19:36:38+09:00
先ずは、昨年12月6日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「日本が独裁国家に転じれば、国民は幸せになれるのかーーネットで増える「民主主義否定論者」が見落としている事実」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/120266?imp=0
・『全世界的に非民主的な強権国家の影響力が高まっている。強権的な国家はいわゆる民主主義のコストを負担する必要がなく、経済的に有利な状況にある。日本など民主国家の中からも、こうしたコスト負担を嫌悪する意見が散見されるようになっており、事態を放置すれば民主主義の機能不全につながりかねない』、興味深そうだ。
・『「歴史の終わり」は来なかった 一般的に民主国家を維持するにはかなりの負担がかかるとされている。議会を通じて議論を行なったり、政府が政策について国民に十分に説明し、賛同を得てからでなければ政策を実行に移すことができない。強権的な独裁国家と比べて、合意形成のプロセスに相当な時間や人員を必要とするため、一連の負担のことを「民主主義のコスト」と呼ぶ。 これまでの国際社会は、圧倒的に西側民主国家の影響力が強く、経済規模も大きかった。豊かな先進国は総じて民主国家であり、その圧倒的な経済力を生かし、民主主義のコストを負担するという流れだった。 つまり、経済的豊かさと民主主義はセットであり、そうであればこそ民主主義というのはグローバル社会における完成形と見なされていた。 中高年以上で、一定以上の読書経験を持つ人なら、1990年代前半に出版されたフランシス・フクヤマ氏による「歴史の終わり」がベストセラーになったことを記憶しているだろう。フクヤマ氏は米国人でありながら、欧州のオーソドックスな哲学者であるヘーゲルの弁証法を自在に読み解き、民主主義と自由経済が人類の歴史における最終形になるという鮮やかなロジックを展開した。 知的書物としての内容の素晴らしさという点だけでなく、当時は現実社会もフクヤマ氏の主張に沿って動いているように見えた。 旧ソ連は完全崩壊し、残った共産主義の大国である中国は、凄惨な文化大革命を経て改革開放路線にシフト。共産主義の国でありながら、限りなく資本主義的な制度に舵を切り始めており、時間はかかるものの、民主的な体制に移行していくと多くの人が予想していた(おそらくだが中国人自身もそう思っていたかもしれない)。 だが2000年以降、全世界でIT化が進んだことで、状況が一変した』、「フクヤマ氏は米国人でありながら、欧州のオーソドックスな哲学者であるヘーゲルの弁証法を自在に読み解き、民主主義と自由経済が人類の歴史における最終形になるという鮮やかなロジックを展開した。 知的書物としての内容の素晴らしさという点だけでなく、当時は現実社会もフクヤマ氏の主張に沿って動いているように見えた・・・だが2000年以降、全世界でIT化が進んだことで、状況が一変した」、「2000年以降、全世界でIT化が進んだことで、状況が一変した」とはどういうことなのだろう。
・『インフラがなくても経済成長が可能に 以前の社会では経済成長を実現するには、先進国から多額の投資を受け入れ、鉄道や道路など、生活や産業に必須となるインフラをゼロから作り上げる必要があった。 このため外貨による投資の受け入れが成長の絶対要件となり、こうした投資マネーを受け入れるためには、お金の出し手である西側先進国に対して妥協せざるを得なかった。当然のことながら米国を筆頭とする西側各国は、資金の供出と引き換えに民主化と市場開放を強く要求した。 ところが世界の産業が工業からソフトウェア産業、知識産業に移行したことでこうした巨額の投資が不用となり、十分なインフラが存在しない国でも、急激な経済成長が可能となった。 かつて内戦に明け暮れたカンボジアは、独裁政権でありながらめざましい成長を遂げており、最新のITサービスが次々と立ち上がっている。外に出ると、汚い道路はトゥクトゥクと呼ばれる三輪タクシーで溢れかえっているが、そのトゥクトゥクはアプリを使っていつでも呼び出すことができる。 中国は少し前まではハードウェアの製造が主流だったが、アリババに代表されるネット企業群は米国並みの技術力を持つに至っており、一連のソフトウェア産業が近年の高成長を担ってきた。 民主主義の敗北は統計上の数字にも表れている。図1は世界における民主的な国と非民主的な国の人口推移を示したものである。政治体制については英国エコノミストの調査部門であるEIUが算定した民主主義指数を用いており、同指数の6以上を民主的、6未満を非民主的と分類した。 (図1 民主国家と非民主国家の人口推移 はリンク先参照) 民主的に分類される国の人口と、非民主的な国に人口の両者とも増加という状況だが、非民主的な国のシェアは上昇している。これはあくまで人口なので、この数字が直接的に世界に対する影響力を示しているとは限らない。では、同じような指標でGDP(国内総生産)を比較するとどうなるだろうか』、「非民主的な国のシェアは上昇している。これはあくまで人口なので、この数字が直接的に世界に対する影響力を示しているとは限らない。では、同じような指標でGDP・・・を比較するとどうなるだろうか」、なるほど。
・『強権国家の経済的台頭 図2は同様に、民主主義指数おける分類と各国のGDPを示したものである。ここでは、さらに細かい区分を用い「A:完全な民主国家」「B:欠陥のある民主国家」「C:民主制と独裁制の混合体制」「D:独裁国家」という4つで比較した。 (図2 民主主義指数とGDPの推移 はリンク先参照) 経済力という点で比較すると強権国家の台頭は明らかだ。Aの「完全な民主国家」に属する国のGDPはあまり伸びていないが、独裁国家(D)や欠陥のある民主国家(B)のGDPが大幅に伸び、全体での比率を高めている。 中国は完全な独裁国家でありながら、世界で2番目の経済大国であり、特殊な存在とみなすこともできる。むしろ私たちが注目すべきなのは、2番目のカテゴリーである「欠陥のある民主国家」に属する国々である。このカテゴリーには、シンガポールやインドネシア、タイ、ブラジル、インドといった成長著しい新興国が軒並みカテゴライズされている。 人口のみならず、GDPの絶対値という点でもこれらの国々のプレゼンスは大きく、民主主義のコストの是非について深く考えさせられてしまう。 シンガポールは1人あたりのGDPが日本よりも高く、極めて豊かな国として知られているが、1965年にマレーシアからの独立を果たして以降、建国の父と呼ばれるリー・クアンユー氏とその息子であるリー・シェンロン氏が長く首相を務めるなど、独裁的な国家としての側面も併せ持っている。言論の自由も制限されており、民主主義指数は、「欠陥のある民主国家」の中でも最下位に近い。 一方で手厚い教育制度や、子どもに対して優しい社会環境、外国から優秀な人材を積極的に受け入れる人材戦略など、画期的な政策を実施しており、日本からも子どもの教育目的に多くの人が移住している。 特段、政治に関心を持たず、現実問題として子どもによい教育を施したいと考えるビジネスパーソンからすると、日本とシンガポールとでは社会環境に圧倒的に差があり、同国は魅力的な場所に映る』、「経済力という点で比較すると強権国家の台頭は明らかだ。Aの「完全な民主国家」に属する国のGDPはあまり伸びていないが、独裁国家(D)や欠陥のある民主国家(B)のGDPが大幅に伸び、全体での比率を高めている・・・私たちが注目すべきなのは、2番目のカテゴリーである「欠陥のある民主国家」に属する国々である。このカテゴリーには、シンガポールやインドネシア、タイ、ブラジル、インドといった成長著しい新興国が軒並みカテゴライズされている。 人口のみならず、GDPの絶対値という点でもこれらの国々のプレゼンスは大きく、民主主義のコストの是非について深く考えさせられてしまう」、なるほど。
・『非民主化すれば格差は広がる 先ほど取り上げたカンボジアも、2023年5月、野党を弾圧する中で制限選挙が行われ、与党が圧勝。長く独裁者として君臨してきたフン・セン首相は、息子のフン・マネット氏に首相の座を譲るなど、同族支配が続く。 シンガポールやマレーシアなどの国々はかつて「開発独裁」と呼ばれ、経済成長のために国民の人権が犠牲になっているという批判的ニュアンスで語られていた。その実態は今も変わらないが、日本から教育目的で移住する人が増えるなど、状況は大きく変わった。 各国の国内情勢も同じである。シンガポール国内では、一部の民主主義者が体制批判をしているものの、多くの国民は豊かな暮らしを享受している。政権に対して反発することのリスクを天秤にかけると、批判を行うメリットは乏しい。こうした状況は民主主義にとってやはり脅威といえるだろう。 日本国内では、経済の落ち込みで生活が苦しくなっていることが影響しているのか、ネットなどを中心に民主主義を否定する意見が目立つようになっている。民主主義を否定している人たちは、「民主国家では弱者が過剰に保護される」「合意形成のために経済成長が犠牲になる」などと主張している。 民主主義にそうした面があるのは確かだが、ネットで民主主義否定を声高に叫んでいる人たちは重大な事実を見落としている。 もし日本が非民主的な国になった場合、彼らのほとんどは支配する側ではなく、支配される側に回るのは確実である。しかも被支配者側になってしまえば、内容の如何を問わず、政治体制について批判することは即処罰の対象となり、ネット上で自由に意見を言うことなど出来なくなってしまう。 民主主義の弊害を説く人はどういうわけか、(ネットで自分の意見を口にするなど)自分が支配者側にいるような感覚を持っているのだが、それはあくまで願望に過ぎない。 民主主義はコストがかかりすぎると主張するのは簡単かもしれない。しかしながら、ひとたび非民主的な国に転落すれば、万人に門戸は開かれず、特権的な立場の人とそうでない人の、埋めようのない格差が生じるのが偽らざる現実だろう』、「ネットで民主主義否定を声高に叫んでいる人たちは重大な事実を見落としている。 もし日本が非民主的な国になった場合、彼らのほとんどは支配する側ではなく、支配される側に回るのは確実である。しかも被支配者側になってしまえば、内容の如何を問わず、政治体制について批判することは即処罰の対象となり、ネット上で自由に意見を言うことなど出来なくなってしまう。 民主主義の弊害を説く人はどういうわけか、(ネットで自分の意見を口にするなど)自分が支配者側にいるような感覚を持っているのだが、それはあくまで願望に過ぎない・・・ひとたび非民主的な国に転落すれば、万人に門戸は開かれず、特権的な立場の人とそうでない人の、埋めようのない格差が生じるのが偽らざる現実だろう」、同感である。
次に、本年2月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したオーストラリアの政治学者のジョン・キーン氏とジャーナリストの岩本正明氏による「【歴史】哲学者プラトンが民主主義を嫌悪していた理由【書籍オンライン編集部セレクション】」を紹介しよう。
・『ロシア・ウクライナ情勢、中国の経済面・軍事面での台頭と台湾・香港をめぐる緊張、トランプ前大統領の動きをめぐるアメリカ政治の動揺、そして日本で選挙期間中に起こった安倍晋三元首相襲撃事件……これらのことを見て、「このままで民主主義は大丈夫か」と不安になる人は、むしろ常識的な感覚を持っていると言えそうです。自由な選挙、非暴力の議論、権力の濫用のない政治と国民すべてに平等な機会がある中での経済発展のような、民主主義がもたらしてくれることを期待されている価値観が崩れかけています。決められない、豊かさをもたらさない延々と議論が続く民主主義でなく、専制的であっても決断力と行動力のある、強いリーダーがいいと考える国も出てきています。それでも民主主義が優れていると言えるのは、なぜなのでしょう? 困難を極める21世紀の民主主義の未来を語るうえで重要なのは、過去の民主主義の歴史を知ることです。民主主義には4000年もの過去の歴史があり、時に崩壊し、そのたびに進化を繰り返しながら進んできました。刊行された『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』は、現代に続く確かな民主主義の歴史をコンパクトに、わかりやすく解説しています。オーストラリア・シドニー大学の著者、ジョン・キーン教授が、西欧の価値観に偏りすぎないニュートラルなタッチで語る本書は、現代を生きるための知的教養を求める日本人読者にぴったりの一冊です。同書の中から、学びの多いエピソードを紹介します』、興味深そうだ。
・『ギリシャの民主主義者は無知で貧しい人々? プラトンは民主主義が二面性を有する統治形態──民衆の資産階級に対する力による支配、もしくは同意による支配──だと指摘したが、権力欲に突き動かされた暴力的不正行為こそが、まさにプラトンが想定していたことだった。 プラトンにとっては、民主主義は無知で貧しい人々に迎合することで善良な統治を破壊する、見かけ倒しの発明だった。航海術など存在しないと信じている無能者──操舵手を役立たずのスターゲイザー(星をただ見つめる者)として扱う愚か者──が船員として働く船にたとえている。 プラトンは、劇場支配制という言葉で表現している。大衆が永久不変の政治法則に逆らってあらゆることに口を出す資格を得ることで、公共の利益を気取りながら、力のない者を美辞麗句でそそのかし、力のある者が無法者のように振る舞う統治のあり方を想定していた。デモクラティアとは、表向きは人民が支配しているように見えながら、実際には支配されている偽りの政治なのだ。 プラトンの見解からわかるとおり、アテネの哲学者はそのほとんどが反民主主義者──民主主義によって培われる平等、不確実性、開放性の精神に対して悪意ある反応をする──だった。民主主義について哲学的に語るには富や余暇を必要とし、政治生活の喧騒から距離を置く必要があった。 ところが民主主義は、一般市民には公の生活に身を捧げることを要求した。その結果、公務で忙しいアテネの民主主義者は声を上げる暇がないなかで、敵には、タコのように顔に墨を吹きかけることを許してしまったのだ。汚名を着せることによって民主主義者を沈黙させるというのが、反民主主義者が民主主義を破壊するために採用した、記録に残っている最初の手法だった。敵から言葉を奪う一方、実際の功績に関しては酷評するのだ。 アテネの民主主義者たちは、表現手段として書くという行為をしなかった。そのため歴史的記録という面では、反民主主義者のなすがままだった。こうした理由から、アテネには民主主義を擁護できる偉大な哲学者がいなかったのだ。アテネの民主主義に関するあらゆる文章が、民主主義が持つ目新しさ、特に金持ちの支配に対する大衆の反発を刺激するという側面を敵視していたのも、そうした理由からだ。 民主主義者は、文章によって自らその価値を擁護しなかったことで、大きな代償を払うことになった。自分たちは女神を味方につけていると固く信じ、民主主義がなくなるリスクを過小評価していた。 記録という部分に関しては、民主主義という醜いカブトムシを足で踏みつぶすことを夢見ていた貴族階級のなすがままになった。彼らは邪悪なことを考えていた。民主主義者の言葉を後世に残さないようにするために、誰にも記録させなければいいと考えていたのだ』、「民主主義者は、文章によって自らその価値を擁護しなかったことで、大きな代償を払うことになった。自分たちは女神を味方につけていると固く信じ、民主主義がなくなるリスクを過小評価していた。 記録という部分に関しては、民主主義という醜いカブトムシを足で踏みつぶすことを夢見ていた貴族階級のなすがままになった」、初めて知った。
・『日本人が知らない意外な民主主義の歴史 ●多くの人は、民主主義はギリシャの都市国家で生まれたと思っているが、民主主義の起源は現在の中東、メソポタミアである。 ●民主主義は、常に時の権力者に敵視されてきた。プラトンやアリストテレスをはじめ、多くの哲学者や知識人も、民主主義は乱暴で不確実性の高い良くない政治制度だと考えた。 ●現在、世界最大の民主主義国は、貧困と格差がはびこるインドであり、アフリカのセネガルはイスラム教をベースとした民主主義国家と言える。民主主義はむしろ多様化している。 ●アメリカ型の自由な民主主義は必ずしも民主主義の最終進化形態とはいえない。民主主義は新たな独裁者や専制主義者、ポピュリストたちから挑戦を受け、新たな進化を遂げつつある…… 古代メソポタミア、ギリシャ・アテネ、イギリス、フランス、スペイン、アメリカの選挙民主主義、ファシズム、帝国主義と民主主義、ポピュリストによる民主主義の破壊、アジア、アフリカの民主主義の勃興、ロシア、中国の台頭からフェイクニュースが渦巻く混乱まで、世界の様々な時代・地域で「民主主義」は立ち上がり、そして時に瓦解してきた歴史が描かれています。オーストラリア・シドニー大学のジョン・キーン教授がシンプルにコンパクトに本書『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史』で紹介するエピソードと解説は、欧米中心主義に偏りすぎず、かといってロシア・中国が主張する「特色ある民主主義」のまやかしとは明確に一線を画した、本質的な民主主義観をつかめます。 いま、「民主主義」が注目される時代になった背景には、私たちが抱える不安の存在がありました』、「民主主義の起源は現在の中東、メソポタミアである・・・民主主義は、常に時の権力者に敵視されてきた・・・世界最大の民主主義国は、貧困と格差がはびこるインド・・・民主主義は新たな独裁者や専制主義者、ポピュリストたちから挑戦を受け、新たな進化を遂げつつある・・・いま、「民主主義」が注目される時代になった背景には、私たちが抱える不安の存在がありました」、なるほど。
・『なぜこんなに、民主主義に危うさを感じるようになったのか? その理由とは? 「民主主義」がこれほど注目される時代になったのは、私たちが不安定な時代を生きているという感覚にさいなまれながら、民主主義が劣勢な立場に置かれていると感じているためではないでしょうか。 【政治的に経済的に】中国のような専制、独裁国家のほうが、決められない民主主義国家よりも有利なのではないか? 【広がる格差】格差を生む資本主義と民主主義は、究極的には相性が悪いのではないか? たとえば、民主主義を支持する私たちも、このような疑問で揺らいでいます。それでもなぜ、民主主義を擁護すべきなのでしょうか? ジョン・キーン教授は、このような疑問に明快に応えてくれます。 私たちは、民主主義国家である日本に育ちながら、民主主義のことをあまりに知りません。日本人を含む民主主義国の国民は、中国やロシア、そしてかつての民主主義国に誕生した「まやかしの民主主義国家」を率いる専制主義者からかつてなくプレッシャーを受けています。民主主義の歴史を知る意味はまさにここにあります。 議論、意思決定、代表、選挙、議会、権力、平等、多様性……民主主義の本質に迫る、さまざまなジャンルの読者の関心に応えられる、新しい時代の教養書として読める一冊です』、「私たちは、民主主義国家である日本に育ちながら、民主主義のことをあまりに知りません。日本人を含む民主主義国の国民は、中国やロシア、そしてかつての民主主義国に誕生した「まやかしの民主主義国家」を率いる専制主義者からかつてなくプレッシャーを受けています。民主主義の歴史を知る意味はまさにここにあります」、大いに考え直すべきだろう。
第三に、2月25日付けダイヤモンド・オンラインが転載したAERAdot.「ロシア・中国が「民主主義は時代遅れ」と公言「“歴史の終わり”から35年後の危機」【フランシス・フクヤマ】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/337848
・『1989年に発表した論文「歴史の終わり?」で、西側諸国の自由民主主義が、人間のイデオロギー的進化の終着点なのではないかとの見方を示した、政治学者のフランシス・フクヤマ氏。彼は、冷戦終結後も争いが絶えない今の状況をどのように見ているのか。2月13日発売の最新刊『人類の終着点――戦争、AI、ヒューマニティの未来』(朝日新書)から一部を抜粋・再編して公開します(Qは聞き手の質問)。 Q:フクヤマさんは1989年、ベルリンの壁崩壊の数カ月前に、「歴史の終わり?」という論文を発表して、脚光を浴びました。この論文のタイトルには「?」(クエスチョンマーク)がついていました。 その後1992年には『歴史の終わり』という書籍も発表して、米国および世界の思想史で大きな節目となり、大きな注目を集めました。その理由は、多くの人がその時代の本質的な要素を内包していると感じたからだ、と私は思います。 もちろん、ソ連の崩壊もありました。論文の言葉を引用します。「冷戦の終結や戦後の歴史の特定の時期の終わりを目の当たりにしているだけではなく、歴史の終わりを目撃しているのだ。すなわち人類のイデオロギー的な進化と人間の統治の最終形態としての西洋の自由民主主義の普遍化なのだ」と。 あなたの当時の意図はどうであれ、この本は「西洋の勝利を正当化するもの」だと受け止められました。世界で大きな出来事が起こるたびに、この論の妥当性についてよく聞かれるとあなたは認めています。 2022年のロシアによるウクライナへの侵攻を目にして、「これは冷戦後の最後の一幕だ」とか「歴史の終わり論の終わり」だと、言う人もいるでしょう。あなたはこの出来事に関して、どのように考えていますか。 フランシス・フクヤマ:あなたのおっしゃることは、多くの点で正しいと思います。2023年の世界において、「自由民主主義が、いかなる場所においても成功をおさめ得る唯一の代替手段だ」と言う人はいないでしょう。長い目で見れば、その主張は正しいかもしれません。しかし過去15年間、グローバル民主主義は後退しています。 権威主義的な二つの大きな勢力、ロシアと中国が自らの国家像を打ち出そうと試みています。「ロシアと中国が」「両国とも「自由民主主義は時代遅れ」とか「死につつあるイデオロギーだ」と公言しています。現在の世界が大きな課題を抱えているのは、間違いありません。1989年や1992年よりも、楽観的にはなれない状況です』「自由民主主義は時代遅れ」とか「死につつあるイデオロギーだ」と公言しています。現在の世界が大きな課題を抱えているのは、間違いありません。1989年や1992年よりも、楽観的にはなれない状況です「過去15年間、グローバル民主主義は後退しています。 権威主義的な二つの大きな勢力、ロシアと中国が自らの国家像を打ち出そうと試みています。両国とも「自由民主主義は時代遅れ」とか「死につつあるイデオロギーだ」と公言しています。現在の世界が大きな課題を抱えているのは、間違いありません。1989年や1992年よりも、楽観的にはなれない状況です」、なるほど。
・『Q:先ほど中国の話題が出ましたが、『歴史の終わり』を発表して以来、中国は自由民主主義になることはなく、非自由主義的で非民主的な体制が続いています。世界中の多くの人が、「民主主義や自由という価値が、中国の挑戦に対して耐え得るのかどうかが不透明だ」と感じています。中国は冷戦後システムの最大の受益者であり、最も成功した独裁国家と言えるでしょう。昨今の中国の挑戦に対して、あなたはどうお考えですか。) フクヤマ:中国の改革の当初から、「それが自由民主主義に対する一番もっともらしく見える代替案だ」と私は主張しました。権威主義的な政治システムに、準市場経済が混じり合っています。それに、これほど短期間で成長した国は他にありません。その規模を考えると、信じられないくらいです。それが歴史的な達成であることは、間違いありません。 一方で、これが持続可能なモデルなのか、はっきりとしていません。今後10年から20年間、中国を脅威とみなし続けることになるのかについても、明確ではありません。なぜなら、政治モデルと経済モデルに大きな問題があると思うからです。 実際に中国の成長率は、大きく鈍化しています。そしてその鈍化は、独裁的な意思決定システムの失敗と、直接関係があるように思えます。習近平氏は、鄧小平氏が始めた「自由経済改革」を支持しているとは思えませんし、その結果、中国経済は不調に陥っています。 経済以外の文化的、政治的な要素で、人々が真に称賛する中国のシステムがあるとは思えませんし、中国の文化は、自国以外に広がってはいません。「中国に住みたくてたまらない」と思う人は多くないでしょう。 経済的に大きく成長したとはいえ、社会的システムの面では優れているかどうかわかりません。今後数年、中国の動向を注視する必要があります。過去30年に比べると、今後10年はそれほど良い状態にはならないでしょう』、「今後10年から20年間、中国を脅威とみなし続けることになるのかについても、明確ではありません。なぜなら、政治モデルと経済モデルに大きな問題があると思うからです。 実際に中国の成長率は、大きく鈍化しています。そしてその鈍化は、独裁的な意思決定システムの失敗と、直接関係があるように思えます・・・今後数年、中国の動向を注視する必要があります。過去30年に比べると、今後10年はそれほど良い状態にはならないでしょう」、なるほど。
・『Q:2019年6月当時、私は朝日新聞のワシントンDC特派員でした。トランプ政権に最も勢いがある時期でした。そのとき一時的に日本に帰国して、大阪でのG20サミットも取材しました。サミット前日、『フィナンシャル・タイムズ』がプーチン大統領の独占インタビューを掲載しました。そこで彼が「自由主義的な価値は時代遅れだ」と述べていたことに、私は衝撃を受けました。その数年後、プーチン氏のロシアはウクライナへの侵攻を開始しました。執拗で強固なプーチン氏の自由主義への攻撃と、ウクライナへの侵攻はどのように関係しているのでしょうか。 ロシア・中国が「民主主義は時代遅れ」と公言「“歴史の終わり”から35年後の危機」【フランシス・フクヤマ】 フクヤマ:プーチンは、ソ連崩壊を決して受け入れることができないのでしょう。彼はそれを「20世紀最大の悲劇だ」と形容しました。彼の外交政策は、可能な限り「ソ連を取り戻すこと」です。 そして、ソ連が失ったものの中で最も大事なのは、ウクライナです。彼は明確にそう述べています。これは、彼の行動が暗示している類のものではありません。彼は、公然と言ってのけたのです。「ウクライナは死活的な領土で、ロシアの一部であり、ロシアから除くことはできない」と。 「1991年以後の欧州の安定を覆す」という彼の野望を行動で示すのが、彼の外交政策です。これが「単に領土をめぐる問題ではない」と考える理由です。ウクライナへの侵攻は、欧州全体の政治的な秩序に対する紛争なのです。 (フランシス・フクヤマ氏の略歴はリンク先参照)』、「プーチンは、ソ連崩壊を決して受け入れることができないのでしょう。彼はそれを「20世紀最大の悲劇だ」と形容しました。彼の外交政策は、可能な限り「ソ連を取り戻すこと」です。 そして、ソ連が失ったものの中で最も大事なのは、ウクライナです。彼は明確にそう述べています。これは、彼の行動が暗示している類のものではありません。彼は、公然と言ってのけたのです。「ウクライナは死活的な領土で、ロシアの一部であり、ロシアから除くことはできない」と・・・ウクライナへの侵攻は、欧州全体の政治的な秩序に対する紛争なのです」、トランプが大統領になれば、ウケライナへの米国の支援はなくなり、ウクライナは不名誉な停戦を余儀なくされる可能性が強まってきた。残念ながら「プーチン」の勝利に終わるのだろうか。腹立たしい限りだ。
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北朝鮮問題(その23)(ロシアにとって北朝鮮との協力には魅力がない ロシア出身の北朝鮮専門家が語るロ朝関係のリアル、北朝鮮とロシアの関係に中国が激怒していた! ロ朝首脳会談にご立腹、中国人の北朝鮮入国を禁止)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-05
北朝鮮問題については、2021年10月24日に取上げた。久しぶりの今日は、(その23)(ロシアにとって北朝鮮との協力には魅力がない ロシア出身の北朝鮮専門家が語るロ朝関係のリアル、北朝鮮とロシアの関係に中国が激怒していた! ロ朝首脳会談にご立腹、中国人の北朝鮮入国を禁止)である。先ずは、本年1月10日付け東洋経済オンライン「ロシアにとって北朝鮮との協力には魅力がない ロシア出身の北朝鮮専門家が語るロ朝関係のリアル」を紹介しよう。・『2024年新年を迎えたが、朝鮮半島では緊張が続いている。北朝鮮の最高指導者で朝鮮労働党の金正恩総書記は2023年12月30日、韓国との関係を「同族関係」ではなく、敵対的な両国関係、交戦関係であると言及した。さらに2024年1月5日、韓国西部・黄海上の国境となるNLL(北方限界線)に向けて「訓練」と称して砲撃を繰り返している。 北朝鮮は何を考えているのか。ロシア出身で、著名な北朝鮮研究者として知られる韓国・国民大学のアンドレイ・ランコフ教授に、朝鮮半島の現状と今後の見通しについて聞いた(Qは聞き手の質問、Aはランコフ教授の回答)。 Q:金正恩総書記は2023年12月30日、国家的な重要会議の一つである朝鮮労働党中央委員会総会拡大会議で、韓国は「同族関係」ではなく「交戦国」だと言及しました。 A:敵対国と言及したことは重要な動きです。ただ、それより重要なことがあります。金総書記が事実上、数十年間にわたって北朝鮮が実施してきた平和統一路線を失敗として認めたということです。「わが党と共和国(北朝鮮)政府が打ち出した祖国平和統一の思想と路線、方針はどれ一つまともな実を結ばなかった」と述べました』、「金総書記が事実上、数十年間にわたって北朝鮮が実施してきた平和統一路線を失敗として認めた・・・韓国は「同族関係」ではなく「交戦国」だと言及」、扱いが現実を直視したものになったようだ。・『「ソウル火の海」より過激な姿勢 私の記憶が正しければ、北朝鮮側が「交戦国」との言葉もそうですが、これほど強硬な警告と脅威を与えたことはありません。厳密に言えば、彼らが1990年代初頭から時々繰り返してきた「ソウルを火の海にする」といった脅し文句よりもはるかに強いものです。 一方で、これは金総書記が客観的な現実、あるいは真実を認めたとも言えます。実際に、平和統一という話は当初から現実とは距離のあるプロパガンダに過ぎなかっ..
世界情勢
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2024-03-05T19:29:14+09:00
先ずは、本年1月10日付け東洋経済オンライン「ロシアにとって北朝鮮との協力には魅力がない ロシア出身の北朝鮮専門家が語るロ朝関係のリアル」を紹介しよう。
・『2024年新年を迎えたが、朝鮮半島では緊張が続いている。北朝鮮の最高指導者で朝鮮労働党の金正恩総書記は2023年12月30日、韓国との関係を「同族関係」ではなく、敵対的な両国関係、交戦関係であると言及した。さらに2024年1月5日、韓国西部・黄海上の国境となるNLL(北方限界線)に向けて「訓練」と称して砲撃を繰り返している。 北朝鮮は何を考えているのか。ロシア出身で、著名な北朝鮮研究者として知られる韓国・国民大学のアンドレイ・ランコフ教授に、朝鮮半島の現状と今後の見通しについて聞いた(Qは聞き手の質問、Aはランコフ教授の回答)。 Q:金正恩総書記は2023年12月30日、国家的な重要会議の一つである朝鮮労働党中央委員会総会拡大会議で、韓国は「同族関係」ではなく「交戦国」だと言及しました。 A:敵対国と言及したことは重要な動きです。ただ、それより重要なことがあります。金総書記が事実上、数十年間にわたって北朝鮮が実施してきた平和統一路線を失敗として認めたということです。「わが党と共和国(北朝鮮)政府が打ち出した祖国平和統一の思想と路線、方針はどれ一つまともな実を結ばなかった」と述べました』、「金総書記が事実上、数十年間にわたって北朝鮮が実施してきた平和統一路線を失敗として認めた・・・韓国は「同族関係」ではなく「交戦国」だと言及」、扱いが現実を直視したものになったようだ。
・『「ソウル火の海」より過激な姿勢 私の記憶が正しければ、北朝鮮側が「交戦国」との言葉もそうですが、これほど強硬な警告と脅威を与えたことはありません。厳密に言えば、彼らが1990年代初頭から時々繰り返してきた「ソウルを火の海にする」といった脅し文句よりもはるかに強いものです。 一方で、これは金総書記が客観的な現実、あるいは真実を認めたとも言えます。実際に、平和統一という話は当初から現実とは距離のあるプロパガンダに過ぎなかったためです。とはいえ、このようなプロパガンダを突然捨てたことにはいろんな意味があります。 韓国の尹錫悦政権は保守政権として、北朝鮮に強硬な姿勢を見せ続けています。こうした政権に対する不満を示したと言えるでしょう。ただ2024年1月2日に、金総書記の実妹で労働党副部長の金与正氏が発表した談話をみると、韓国が保守政権であれ革新政権であれ、「大韓民国」として自分たちには同じ存在ということを何回も強調しています。 今回北朝鮮が韓国を統一の対象とするよりは、隣に存在する敵対国としてみなすという発言をしたことは、長期的な変化の始まりと言えるでしょう。このように変化させたのは、前述したように、現実を認めたとも言えます。) 同族国ではなく「まったくの外国」として描写することで、北朝鮮国内における韓国の魅力を下げようという考えも垣間見えます。言い換えれば、大韓民国を日本やアメリカのように、多くの外国の中の一国だと国民を誘導すれば、北朝鮮人民が持つ統一への関心がある程度低くなるでしょう。 とはいえ、このような政策が実効性のあるものかどうかはわかりません。なぜなら、旧東ドイツでのドイツ社会主義統一党、これが東ドイツの共産党だったのですが、この政党は旧西ドイツはまったくの外国であり、東ドイツの国民も西ドイツとは違う民族だと主張していました。しかし、こういった主張が東ドイツ人民が西ドイツに対して抱く魅力を壊すまでには至りませんでした。 Q:2024年になり、北朝鮮は黄海上のNLL海域での射撃訓練を実施しました。これは「敵対国」という発言による措置でしょうか。 A:私は、今回の射撃事件は金正恩の「敵対国家宣言」とはこれといった関係がないと考えています。 最近、韓国の保守政権は軍事訓練を熱心に行うだけでなく、この訓練をメディアを通じて国民に積極的にアピールし、国民の関心を惹こうとしています。これに北朝鮮はイラついているのが現状です』、「北朝鮮側が「交戦国」との言葉もそうですが、これほど強硬な警告と脅威を与えたことはありません。厳密に言えば、彼らが1990年代初頭から時々繰り返してきた「ソウルを火の海にする」といった脅し文句よりもはるかに強いものです」、なるほど。
・『北朝鮮が持つ「砲弾」には強い関心 また、北朝鮮は韓国や米韓合同の軍事訓練に対抗して、ミサイルを発射したり軍事演習を行うなど対応してきました。強力な行動には強力な行動で対抗するという北朝鮮の姿勢、いわば小規模な「強対強」戦略です。これは北朝鮮がこれまでやってきたことでもあり、今後も行われるでしょう。 それでも、予測可能な未来においては南北の武力衝突の可能性は高くないと考えます。双方は「強対強」路線を信じていますが、現在の状況において大規模な戦争を行うつもりはありません。 ただ、南北関係は緊張状態にあり、2010年に北朝鮮が行った延坪島(黄海のNLL付近の韓国側の島)砲撃のような小規模な武力挑発を行うことはありえるでしょう。 Q:現在進行中のウクライナ戦争に関連して、北朝鮮はロシアとの関係を深めていると指摘されています。武器などをロシアに輸出し、戦争に加担しているのではないかと疑われています。 A:ウクライナ戦争でロシアは砲弾が枯渇しています。そのため、北朝鮮が保有する砲弾の在庫に対する関心は高い。実際に、ロシアは北朝鮮から数十万発の砲弾を受け取りたいとの希望を持っています。 また、ロシアは保有する重要な軍事技術を北朝鮮に移転できることをほのめかしています。しかし、こうした姿勢は北朝鮮のみに向けて言っていることではありません。 ロシアは北朝鮮の砲弾に関心を持ちながらも、一方で韓国がウクライナへ砲弾を輸出することを強く心配しています。韓国は今や、世界有数の砲弾製造国であるためです。) ロシアは北朝鮮へ重要な軍事技術を移転できることをほのめかしながら、韓国に圧力をかけているということになります。ウクライナに砲弾を輸出すれば、ロシアは北朝鮮に軍事技術を移転するとの、いわば脅しです。これは当然、アメリカや欧州各国に向けたものでもあります。 とはいえ、客観的に言えば、ロシアが北朝鮮に大規模な軍事技術を移転する可能性はなくはないですが、高くはないと思います。偵察衛星関連、通常兵器関連の技術移転は可能です。しかし、弾道ミサイルや核兵器に関する技術は事実上、不可能です。 Q:2023年11月に北朝鮮は、軍事偵察衛星の発射に成功したと発表しましたが、これにロシアの技術が利用されたとする見方もあります。 A:偵察衛星への技術移転・供与の可能性は否定できません。北朝鮮が偵察衛星を持ったことは周辺国に対する不安材料にもなりますが、同時に肯定的な側面もあります。それは、北朝鮮側も偵察衛星を通じて周辺国の正しい情報をある程度把握しておくことで、誤った判断をする可能性が減るためです』、「ロシアは北朝鮮へ重要な軍事技術を移転できることをほのめかしながら、韓国に圧力をかけているということになります。ウクライナに砲弾を輸出すれば、ロシアは北朝鮮に軍事技術を移転するとの、いわば脅しです」、なるほど。
・『核兵器の技術移転・協力はありえない 朝鮮半島の緊張状態が続いている中で、戦争へとつながる要素は偶発的な衝突や誤判による過剰行為です。この点からみると、北朝鮮独自の情報源を持つことは決して悪いことではありません。ロシアもそのように、肯定的に考えている部分もあります。 Q:ロシアが北朝鮮に核兵器技術を移転する可能性がないのは、どうしてでしょうか。 A:アメリカは核兵器の拡散に神経を使っていますが、ロシアも核兵器の拡散を最も恐れています。仮に北朝鮮に核心的な技術を提供・移転して北朝鮮が核兵器の製造を完成させ、ひいては高度化させた場合、ロシア自身が核兵器保有国を誕生させたという悪い例をつくってしまうことになるからです。 ロシアの周辺国に北朝鮮の経験が移転され、ロシアの安保環境が悪化することをロシアは極度に恐れます。ロシアの場合、ベラルーシのほかに安心できる国はありません。これは中国もそうでしょう。 中国も核兵器を持っていますが、仮に北朝鮮が核兵器を完成させ、それが拡散してしまうと周辺国が核兵器を持つ可能性が一気に高まってしまいます。これは、ロシアにとっても中国にとっても、最悪のシナリオです。 Q:ロシアと北朝鮮との経済関係が拡大しているとの指摘もあります。 A:実はこの2国間で、一般的な貿易が活発化する可能性はほとんどないと思います。まず、これまでの北朝鮮とロシア(ソ連)との経済交流を振り返ってみると、ロシア側が国家予算を使って経済交流を後押しした場合にのみ、2国間の貿易規模が拡大しているという歴史があります。) 基本的な理由もあります。北朝鮮が国際市場で販売できる品目のうち、ロシアが関心を持つような品目はほとんどありません。北朝鮮は石炭や鉄鉱石など天然資源を持っていますが、これら品目はロシアがより豊富に持っているものです。海産物などもそうです。 たった一つ、ロシアが大きな関心を持っている品目があります。北朝鮮の労働力です。これまでもロシア領内で多くの北朝鮮労働者が働いてきました。ウクライナ戦争も続いており、ロシアはより多くの労働力を必要としています。 ロシアにとって需要があるのは人材です。だからこそ、北朝鮮の労働力は魅力的です。賃金はロシア人より安くて済むし、過度な要求もしない。北朝鮮という国家が間に入るので、ストライキといった面倒なことは起きません。労働者のロシアへの派遣が今後、活発化する可能性は高いと思います。 しかし、ロシア政府が北朝鮮との交流拡大のために支援するかどうかは未知数です。現時点では、ロシア政府にそのような意思があるように見えません。ロシアにとって北朝鮮は、戦略的な価値がそれほど高くないためです』、「ロシアが大きな関心を持っている品目があります。北朝鮮の労働力です。これまでもロシア領内で多くの北朝鮮労働者が働いてきました。ウクライナ戦争も続いており、ロシアはより多くの労働力を必要としています。 ロシアにとって需要があるのは人材です。だからこそ、北朝鮮の労働力は魅力的です。賃金はロシア人より安くて済むし、過度な要求もしない。北朝鮮という国家が間に入るので、ストライキといった面倒なことは起きません。労働者のロシアへの派遣が今後、活発化する可能性は高いと思います」、「北朝鮮の労働力は魅力的です。賃金はロシア人より安くて済むし、過度な要求もしない。北朝鮮という国家が間に入るので、ストライキといった面倒なことは起きません」、「ロシア」にとってはまさに干天の慈雨だ。
・『北朝鮮が持つ戦略的価値は中国にメリット Q:ウクライナ戦争が勃発し世界が多極化する兆しがはっきりとしてきた中で、それでも北朝鮮とロシア、中国の3カ国が連帯を強めているように思えます。 中国にとって北朝鮮は、ロシアよりもはるかに戦略的価値が高い国です。北朝鮮が朝鮮半島での緩衝地帯という地政学的な意味もある。北朝鮮の輸出品目には、石炭など中国で需要がありよく売れる品目が少なくありません。中国経済の力からすれば、北朝鮮を支援するにしてもその負担はとても小さくメリットが大きいと言えます。 東アジアのこれら3カ国にとって、核となるのはやはり中国です。ロシアと北朝鮮との関係よりは、今こそ関心が高まっていますが、中朝関係ほどは重要にはならないでしょう。 Q:これら3カ国には「反米」的という共通項はありますが、今後も連帯は深まるでしょうか。 A:実は、この3カ国関係はとても深刻な問題を抱えています。例えばGDPで見ると、中国・ロシア・北朝鮮は600:50:1になります。経済的にはあまりにも不平等な関係です。 また、「反米」といった価値観でいえば、まさに反米主義と自由民主主義を拒否するという点以外で、共有できるものがありません。確かにアメリカ中心の世界秩序に対する不満が強く、アメリカが言う「ゲームのルール」に反発しています。) そのため、確かにこれら3カ国はアメリカに対してうるさく反発・攻撃しますが、一方でアメリカと妥協できることを夢見ています。問題は、アメリカがこれら3カ国が望む条件で妥協する考えがいっさいない、ということです。 お互いに不信感を拭いきれない関係でもあります。中国からみると、ロシアは19世紀に沿海州など、本来は中国の領土だった部分を「盗んだ」列強の1つです。北朝鮮はやたら自尊心は強いが非合理主義、そして冒険主義が強い国家です。 ロシアはアジアの国家に対して無視、軽視する傾向が根強い。ロシアのエリート層が客観的な視野を持っているとしても、中国に対し心からパートナーとなりえるとは考えづらいでしょう。 北朝鮮からすれば、この国はもともと他国に対する不信感が強い。隣国の中国であっても、「内政干渉をしばしば行う危険な大国」だと思っています』、「中国からみると、ロシアは19世紀に沿海州など、本来は中国の領土だった部分を「盗んだ」列強の1つです。北朝鮮はやたら自尊心は強いが非合理主義、そして冒険主義が強い国家です。 ロシアはアジアの国家に対して無視、軽視する傾向が根強い・・・中国に対し心からパートナーとなりえるとは考えづらいでしょう」、なるほど。
・『ロ中朝の3カ国関係の結びつきは強くない Q:3カ国の関係を今後もつなぎ止めるものはありますか。 A:もしロシアで政権交代といったことが生じれば、ロシアはこの3カ国関係から抜け出すでしょう。現時点に限ってみれば、この3カ国関係に加わったことで、砲弾や弾薬を受け取ることができます。 一方で、中国は前述したような戦略的な利益のために、北朝鮮への支援を今後も継続していくと思います。 北朝鮮も国連による経済制裁が重くのしかかっている限り、中国に依存する戦略を放棄しないでしょう。内心、北朝鮮はこんな戦略を好ましいとは思っていませんが、代案を探せずにいます。 金総書記は、自身が政権を継承した2012年から2018年ごろまで続けた市場経済的な改革を放棄しました。そして、住民監視を強化するために有利な中央計画経済を一定程度、復活させました。米中対立が続く中、このような北朝鮮の政策は今後5年から10年は変化を見せないでしょう』、「現時点に限ってみれば、この3カ国関係に加わったことで、砲弾や弾薬を受け取ることができます。 一方で、中国は前述したような戦略的な利益のために、北朝鮮への支援を今後も継続していくと思います。 北朝鮮も国連による経済制裁が重くのしかかっている限り、中国に依存する戦略を放棄しないでしょう・・・金総書記は、自身が政権を継承した2012年から2018年ごろまで続けた市場経済的な改革を放棄しました。そして、住民監視を強化するために有利な中央計画経済を一定程度、復活させました。米中対立が続く中、このような北朝鮮の政策は今後5年から10年は変化を見せないでしょう」、拉致問題への言及はないが、「北朝鮮の政策は今後5年から10年は変化を見せないでしょう」、というのでは、拉致問題の進展も期待できぞうにないようだ。
次に、1月23日付け東洋経済オンラインが掲載した 中国・北朝鮮ウォッチャーの中野 鷹氏による「北朝鮮とロシアの関係に中国が激怒していた! ロ朝首脳会談にご立腹、中国人の北朝鮮入国を禁止」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/729386
・『世界的なコロナ禍が収束する中、北朝鮮の動向に関心が持たれている。ミサイル発射など軍事面での行動が目を引くが、実は自国と海外との往来をいつ解放するのかにも注目が高まっている。2020年1月にコロナの拡大を防ぐため中朝国境を封鎖して以来、正式に解除されていないためだ。貿易など細々とした対外関係は行われているが、そのような中、「本格開放のシグナル?」とも思える動きが見えた。 2024年1月12日、ロシアの旅行会社が「北朝鮮へのスキーツアーを実施する」と、アメリカ政府系ラジオの自由アジア放送(RFA)が伝えた。 観光目的での北朝鮮訪問が実現すれば2020年1月22日、新型コロナウイルスの感染拡大防止を理由に北朝鮮が一切の入国を停止した後で初めてのこととなる。 この報道を契機に、中国の旅行会社からは「なぜロシアからなのか。信じられない」との落胆の声が聞こえてくる』、興味深そうだ。
・『中国の旅行社が落胆する理由 翌1月13日、アメリカ・CNNは、2023年12月に北朝鮮を訪問したロシアのオレグ・コジェミャコ沿海地方知事との会談で、北朝鮮当局と観光ツアーの再開が議題となった可能性があると伝えている。 ロシアの旅行会社が主催するツアーは、2024年2月9日にロシア沿海州のウラジオストクから空路で平壌へ入る計画のようだ。現時点では70人の参加が確定しているという。 旅行日程は、3泊4日で費用は1人750ドル(約11万円)。ツアーの目玉は、北朝鮮東部・元山に近い馬息嶺(マシンリョン)スキー場でのスキー観光となるようだ。 前述のRFAは、ロシアメディアの情報として「観光の本格再開は4月とされ、今回2月実施のスキーツアーは試験的なプレ実施との位置づけだ」とも伝えている。 こうした一連の報道を見ると、北朝鮮旅行は現在ロシアがイニシアティブを取っているように思える。だが、外国人訪朝者の95%強を占めてきた北朝鮮の「お得意様」中国はどうなっているのか。) 今回、中国が後れを取ったのは、中国政府が北朝鮮への人的往来を無期限延期するという、実質的な「制裁」を課していたことが関係筋の証言で浮かび上がってきた。 ロシア・ウラジオストクの旅行社ボストーク・イントゥール社による北朝鮮スキーツアーのポスター。「山岳スキーリゾート馬息嶺」と名づけ、3泊4日のツアーとなっている(写真・同社のホームページより) 実は2023年9月25日、日本のNHKや朝日新聞をはじめとする日本メディアが、「北朝鮮が9月25日から外国人の入国を許可。国営中国中央テレビ(CCTV)が伝える」と大きく報じていた。 しかし、その後も中国から北朝鮮への出入国は正常化されるどころか、北朝鮮から中国への人的往来もコロナ禍前の水準ほどに戻ったとの情報は確認できない』、「今回、中国が後れを取ったのは、中国政府が北朝鮮への人的往来を無期限延期するという、実質的な「制裁」を課していたことが関係筋の証言で浮かび上がってきた」、なるほど。
・『延び延びにされてきた北朝鮮入国 中朝国境の遼寧省・丹東にある国営旅行会社の社長は、「北朝鮮の最高指導者のロシア訪問が、中国政府が人的往来を止めたきっかけ」と打ち明ける。 すなわち、2023年9月12日からの北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記がロシア極東訪問してプーチン大統領との首脳会談を行ったことが、中国の習近平国家主席の逆鱗に触れ、結果として制裁を課したということだ。 この国営旅行会社は、中国人向け北朝鮮旅行手配では最大手となる。国営企業なので丹東駅から平壌駅までの国際列車の乗車券も優先的に取得できるなど、北朝鮮に関する旅行業界での力は絶大なものを持つ。 また、これまで北朝鮮の旅行業を「自分がリードしてきた」という自負も強い。だからこそ、今回の再開1号ツアーがロシアに取られたことは、さぞかしがっかりさせられたことだろう。 では、2020年に北朝鮮が国境を閉鎖して以降、中朝国境ではどのような動きを見せてきたのか。とくに2023年1月以降の動きを振り返ってみたい。) 2023年1月8日、中国・吉林省の琿春と北朝鮮の羅先特別市のイミグレーション圏河口岸(出入国審査場)の封鎖が解除された。そして、車両や人的往来を限定再開させた。 行けるのは羅先のみと限定されており、平壌など他の都市へ移動は制限されたままだ。また、観光客も実質的に通過することができない。 その後、国境付近は穏やかだったが、再びここが注目を集めたのは2023年8月16日に丹東との国境の封鎖が解除され、北朝鮮のテコンドー選手団が国際大会に参加するために中国へ入国した時だ。平壌からの入国者は3年半ぶりだった』、「2023年9月12日からの北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記がロシア極東訪問してプーチン大統領との首脳会談を行ったことが、中国の習近平国家主席の逆鱗に触れ、結果として制裁を課したということだ」、「中国の習近平国家主席」にしては大人げない態度だ。
・『2023年下半期から徐々に増えてきたが… 2023年8月末には丹東からの国際列車に加え、北京や瀋陽からの北朝鮮国営・高麗航空が限定的に運行が再開され、コロナ禍で帰国できなかった北朝鮮人外交官や労働者などの帰国が確認されている。 そして9月16日、中国・杭州で開催されたアジア大会へ参加する選手や関係者など約200人が中国へ入国している。 また8月末からは中国当局が拘束していた脱北者の強制送還が始まった。10月9日には脱北者600人を一斉に送還し、これまで約2600人が北朝鮮へ強制送還されたと、韓国メディアの報道がある。 このように、間欠的に、かつゆっくりと中朝国境の人的往来が正常化されるような動きがあった。 とくに2023年8月中旬、北京の北朝鮮大使館は、関係する貿易・旅行関係者向けに「9月24日前後から人的往来を再開する」と通知を出した。通知を読むと、中朝が合意した内容だと読み取れる内容だった。) 筆者は、この北朝鮮大使館から通知があったことを関係筋から聞いていたので「9月25日、北朝鮮が外国人の入国許可」の報道には驚くことはなかった。強いて言えば、中国人以外の外国人向けの観光業も同時に再開させるとの直前情報に驚いたくらいだ。 実は当初、中国の関係筋から聞いていたのは、以下のような内容だった。 まず先行して中国人を、それも観光目的ではなく、出張者などから往来を再開させ、中国人の北朝鮮旅行は中国で最大の連休期間となる10月1日の国慶節(建国記念日)あたりから再開させる。日本人を含むその他の外国人は、早くて10月末から再開させるのではないか、というものだった』、中国サイドの勝手な思い入れは外れたようだ。
・『往来を「無期限延期」にした理由 かなりハイペースのスケジュールに感じられたため、「観光再開は予想以上に早い。それだけ、北朝鮮の経済状況が悪いのだろう」と受け取っていた。 ところが、前述したように、9月25日に中国メディアが報じたのにもかかわらず、その後は「人的往来が再開した」との報道がパタリと途絶えてしまった。 中国メディアが伝えた情報は、本来のテレビによる報道ではなく、インターネット上での記事だったようだが、その後に削除されたようで今ではその報道を確認できていない。 いったん中国メディアが報じたのにもかかわらず、結局実行されなかった大きな理由は、前述の丹東の国営旅行会社社長が明かしたように、中国政府が金正恩・プーチン会談に激怒し、9月25日に人的往来再開で中朝合意していた約束を中国政府が一方的に反故にし、無期限延期にしたことだろう。 反故にしたタイミングが直前すぎたことも、結局は誤報の原因となった可能性もありそうだ。) ただ、米中対立が深まる中、北朝鮮と中国、ロシアは緩やかな連帯が深まっているとされている情勢なのに、中国政府はなぜ北朝鮮がロシアへ接近したことにそこまで反発したのか。 中国とロシアの関係はよい――。日本にいると中国はロシアに近く、現在のウクライナ戦争についても、中国はロシアよりだとみている日本人は多いと思う。 中国国内では、地元のSNS「微博(ウェイボー)」などで見られるコメントを見ると、ロシア支持のコメントが圧倒的に多い。ウクライナを支持し、戦争そのものへの批判は大部分が削除されていると思われる。これは中国当局による情報統制の一環だろう』、「米中対立が深まる中、北朝鮮と中国、ロシアは緩やかな連帯が深まっているとされている情勢なのに、中国政府はなぜ北朝鮮がロシアへ接近したことにそこまで反発したのか」、中国人にしたら、「北朝鮮」は朝鮮戦争の時に膨大な犠牲を払って守ってやったのに、「ロシア」にくっついたことで、プライドを壊されたためなのかも知れない。
・『日本人が思うほど関係は強くない 実は、中ロ関係は日本人が思う以上に薄っぺらで脆弱な関係だ。中ロ朝の3カ国とも、自分たちの権威主義体制維持を脅かすアメリカに反対するという1点で、しかも細くつながっているだけだ。 互いの利己的な国益のために、水面下ではそうとうなつばぜり合いが繰り返されており、蜜月関係とはとうてい言えるような関係ではない。 2024年1月13日に行われた台湾の総統選挙の結果もあり、中国の関心は台湾に集中しているような情勢ではある。しかし、中国の現実的な狙いは「台湾統一」ではなく、ロシア極東の再併合なのではないのかと思えるフシがある。 実際に、そう指摘する声がロシアと国境を接する吉林省の実業家や旅行業関係者などからもしばしば出されている。 現在の吉林省を含む旧満州、すなわち東北3省の人たちは、現在のウラジオストクを含むロシア沿海地方、アムール州、ユダヤ自治州、ザバイカリエ地方などを「外東北」(日本では外満州)と呼び、ウラジオストクを旧名の「海参崴」と呼び続ける人がいる。 それは、「外満州はロシアと結ばされた不平等条約によってロシア帝国に奪われた土地」と認識している人が少なくないからだ。) 世界史の教科書をひもとくと、1858年のアイグン条約と1860年の北京条約で本来保有していた広大な領地がロシアへ割譲されている。 もちろん、習近平政権は一度も「奪われた外東北を奪還する」などと口にしたことはない。だが、吉林省在住の中国人たちに話を聞くと、そんな清朝時代の最大領土を取り戻すという「中国の夢」が見え隠れするのだ。 中国政府としては武力を用いず、かつ国際社会との摩擦も最小限に抑えてかつての領土を併合したい。そのためにロシアの国力低下を虎視眈々と待っているのだという声も、実は少なくはない』、「現在の吉林省を含む旧満州、すなわち東北3省の人たちは、現在のウラジオストクを含むロシア沿海地方、アムール州、ユダヤ自治州、ザバイカリエ地方などを「外東北」(日本では外満州)と呼び、ウラジオストクを旧名の「海参崴」と呼び続ける人がいる。 それは、「外満州はロシアと結ばされた不平等条約によってロシア帝国に奪われた土地」と認識している人が少なくないからだ。) 世界史の教科書をひもとくと、1858年のアイグン条約と1860年の北京条約で本来保有していた広大な領地がロシアへ割譲されている・・・吉林省在住の中国人たちに話を聞くと、そんな清朝時代の最大領土を取り戻すという「中国の夢」が見え隠れするのだ。 中国政府としては武力を用いず、かつ国際社会との摩擦も最小限に抑えてかつての領土を併合したい。そのためにロシアの国力低下を虎視眈々と待っているのだという声も、実は少なくはない」、なるほど。
・『中国が抱く「沿海州再併合」 中国は、ロシアがウクライナに勝とうが負けようが中国の国益になるようなポジションで動いている。ウクライナ戦争では、仮にロシアが勝利しても、国力や国際的な信用、プレゼンスも大幅低下することは避けられない。敗北すれば、ロシア領土が複数に分割される、などの話も飛び交っている。 前者であれば、疲弊したロシアに対し外満州を金で割譲することを持ちかける。後者であれば、分割された領土に対し歴史的な経緯を主張したり、高麗人(朝鮮半島からロシア沿海地方へ移住した朝鮮民族)を中国の少数民族朝鮮族の同胞だと定義し、少数民族保護などの名目で再併合するシナリオも考えられる。 こうしてみると、中国はロシアがどちらに転んでも自分たちに利益となるような態度をとっているといえる。 しかも、中国による「極東再併合」は、今に始まったことではない。すでに10年以上前から、吉林省の実業家を中心にロシア沿海地方の農地を買収し、中国人を移住させる大規模耕作地を増やしてきた。この件は日本のメディアでも報じられたことがある。) コロナ禍で一時的に中ロ間の人的往来は止まっていたが、2023年1月8日に陸路の中ロ国境封鎖が解除された。 しかし、人的往来が停止している間も中ロの貨物輸送は増えており、ロシア政府系通信社のスプートニク中国語版は2023年1月12日、ロシア・マハリノと中国・琿春間の鉄道による貨物量が2022年には約350万トンとなり、前年比22%増を記録していると伝えた。 さらに、ロシア産石炭の輸出が急増しており、そのため、検問所を24時間体制にし、貨物列車も1日5本を増便させたと伝えている』、「ウクライナ戦争では、仮にロシアが勝利しても、国力や国際的な信用、プレゼンスも大幅低下することは避けられない。敗北すれば、ロシア領土が複数に分割される、などの話も飛び交っている。 前者であれば、疲弊したロシアに対し外満州を金で割譲することを持ちかける。後者であれば、分割された領土に対し歴史的な経緯を主張したり、高麗人(朝鮮半島からロシア沿海地方へ移住した朝鮮民族)を中国の少数民族朝鮮族の同胞だと定義し、少数民族保護などの名目で再併合するシナリオも考えられる。 こうしてみると、中国はロシアがどちらに転んでも自分たちに利益となるような態度をとっているといえる・・・すでに10年以上前から、吉林省の実業家を中心にロシア沿海地方の農地を買収し、中国人を移住させる大規模耕作地を増やしてきた。この件は日本のメディアでも報じられたことがある。) コロナ禍で一時的に中ロ間の人的往来は止まっていたが、2023年1月8日に陸路の中ロ国境封鎖が解除された。 しかし、人的往来が停止している間も中ロの貨物輸送は増えており、ロシア政府系通信社のスプートニク中国語版は2023年1月12日、ロシア・マハリノと中国・琿春間の鉄道による貨物量が2022年には約350万トンとなり、前年比22%増を記録していると伝えた。 さらに、ロシア産石炭の輸出が急増しており、そのため、検問所を24時間体制にし、貨物列車も1日5本を増便させた』、中国人は極めて長期的視点で着々と併合に向けた準備を進めているようだ。
・『ロシア沿海州が中国の租借地化 中国人実業家によると、今では農地だけではなく、鉱山や港などの長期使用権なども獲得していると胸を張る。まるで、ロシア沿海州が中国の租借地状態になりつつあるようだ。 中国共産党の一党支配という国家体制上、こうした沿海州へ進出する中国人たちの背後には、中国政府の意向が働いていることは容易に想像がつく。 そんな中国政府が着々と狙っているエリアに、金正恩総書記がコロナ後、初の外国訪問として訪れた。だから、習近平国家主席がへそを曲げたという想像もつく。しかも、金総書記は2019年にも同じロシア沿海州を訪問し、プーチン大統領と初めての首脳会談をおこなった。 ロシア側からみても、中国の極東再併合の狙いを認識しており、そうした中国を牽制するために、2度も金総書記をロシア沿海州へ厚遇してまで招き首脳会談を開催した可能性がなくもない。 そして北朝鮮は、中ロ間の間隙を利用するかのようにロシアへ接近して、武器を供与し、その見返りとしてミサイル技術をロシアから獲得。さらには、ロシアへ北朝鮮への観光ツアー再開を打診した――。 こうしてみると、中ロ関係を悪化させることが北朝鮮の国益だといわんばかりに動いているようにも見えてくる。) 北朝鮮に激怒し、へそを曲げた状態とされる中国は、今後どのような動きを見せるだろうか。 1つは、中国政府が今後も態度を硬化させて、中国を経由する外国人をも含めた人的往来の再開を無期限延期したままにする。 あるいは、振り上げた拳をそのままにして、拳を振り上げなかったことにし、ロシアがやっているようなことに合わせて人的往来、つまり、北朝鮮観光をあっさりと「許可」して再開させる可能性も十分にある』、「北朝鮮に激怒し、へそを曲げた状態とされる中国は、今後どのような動きを見せるだろうか。 1つは、中国政府が今後も態度を硬化させて、中国を経由する外国人をも含めた人的往来の再開を無期限延期したままにする。 あるいは、振り上げた拳をそのままにして、拳を振り上げなかったことにし、ロシアがやっているようなことに合わせて人的往来、つまり、北朝鮮観光をあっさりと「許可」して再開させる可能性も十分にある」、どちらになるのだろう。
・『もう1つの「中国の夢」 それは、中国も国内経済が悪く、国民に対するガス抜きを行うことが不可欠となっているためだ。 中国政府にとって台湾問題は自国の求心力を高める重要な問題だ。 また極東再併合は、清朝最大領土を奪還する「中国の夢」にも矛盾することもない。台湾問題と比較し、獲得できる資源とリスクを天秤にかけると、どちらに本腰を入れるべき夢なのか。 万が一、ウクライナ戦争の行方次第でロシアが崩壊・分割されるような事態になれば、中国はどさくさに紛れて清朝が領土とみなしたこともないサハリンさえも取りに動くだろう。これは決して筆者の空想ではない。実際にこんな話題が、すでに東北3省の中国人実業家たちからはささやかれているのが現状だ』、「万が一、ウクライナ戦争の行方次第でロシアが崩壊・分割されるような事態になれば、中国はどさくさに紛れて清朝が領土とみなしたこともないサハリンさえも取りに動くだろう。これは決して筆者の空想ではない。実際にこんな話題が、すでに東北3省の中国人実業家たちからはささやかれているのが現状だ」、「東北3省の中国人実業家たちからはささやかれている」というのには心底驚いた。
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哲学(その4)(【出口治明】ロック、ホッブズ、ルソー、モンテスキューとは何者か?、「グレタさん」は現代の「イエスかブッダ」なのか 「人類史の移行期」に生まれる価値観と倫理、なぜハイデガー哲学は 母国ドイツでタブーとされるのか? マルクス・ガブリエルも誤読した?)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-04
哲学については、昨年12月25日に取上げた。今日は、(その4)(【出口治明】ロック、ホッブズ、ルソー、モンテスキューとは何者か?、「グレタさん」は現代の「イエスかブッダ」なのか 「人類史の移行期」に生まれる価値観と倫理、なぜハイデガー哲学は 母国ドイツでタブーとされるのか? マルクス・ガブリエルも誤読した?)である。先ずは、2019年9月28日付けダイヤモンド・オンライン「【出口治明】ロック、ホッブズ、ルソー、モンテスキューとは何者か?」を紹介しよう。https://diamond.jp/articles/-/215189・『世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”、稀代の読書家として知られる出口治明APU(立命館アジア太平洋大学)学長。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受け持った。 その出口学長が、3年をかけて書き上げた大著が、なんと大手書店のベストセラーとなり、話題となっている。BC1000年前後に生まれた世界最古の宗教家・ゾロアスター、BC624年頃に生まれた世界最古の哲学者・タレスから現代のレヴィ=ストロースまで、哲学者・宗教家の肖像100点以上を用いて、世界史を背骨に、日本人が最も苦手とする「哲学と宗教」の全史を初めて体系的に解説した本だ。なぜ、今、哲学だけではなく、宗教を同時に学ぶ必要があるのか? 脳研究者で東京大学教授の池谷裕二氏が絶賛、小説家の宮部みゆき氏が推薦、某有名書店員が激賞する『哲学と宗教全史』が、発売後たちまち第3刷が決まり、「日経新聞」にも大きく掲載された。 9月7日土曜14時、東京・八重洲ブックセンターに約80名が集結。満員御礼で行われた出版記念講演会の5回目を特別にお送りしよう』、興味深そうだ。・『ロック、ホッブズ、ルソーは何を考えたか フランス革命の前に、いろんな哲学者がいました。 有名なのは、ジョン・ロック(1632?1704)です。 人間は生まれながらに固有の平等の権利を持っていると説いた(自然法)。 人間は本来、自然法のもとでみんなが平等に暮らしていたと。ロックは国王の圧政に対していろんな理屈を考え出したのです。 自然状態で自分の平等の権利を持っていた人間はどうしたかといば、有名なホッブズ(1588?1679)対ルソー(1712?1778)の争いになる。 ホッブズは、みんなが自分の権利を主..
人生
tr232238
2024-03-04T19:53:45+09:00
先ずは、2019年9月28日付けダイヤモンド・オンライン「【出口治明】ロック、ホッブズ、ルソー、モンテスキューとは何者か?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/215189
・『世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”、稀代の読書家として知られる出口治明APU(立命館アジア太平洋大学)学長。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受け持った。 その出口学長が、3年をかけて書き上げた大著が、なんと大手書店のベストセラーとなり、話題となっている。BC1000年前後に生まれた世界最古の宗教家・ゾロアスター、BC624年頃に生まれた世界最古の哲学者・タレスから現代のレヴィ=ストロースまで、哲学者・宗教家の肖像100点以上を用いて、世界史を背骨に、日本人が最も苦手とする「哲学と宗教」の全史を初めて体系的に解説した本だ。なぜ、今、哲学だけではなく、宗教を同時に学ぶ必要があるのか? 脳研究者で東京大学教授の池谷裕二氏が絶賛、小説家の宮部みゆき氏が推薦、某有名書店員が激賞する『哲学と宗教全史』が、発売後たちまち第3刷が決まり、「日経新聞」にも大きく掲載された。 9月7日土曜14時、東京・八重洲ブックセンターに約80名が集結。満員御礼で行われた出版記念講演会の5回目を特別にお送りしよう』、興味深そうだ。
・『ロック、ホッブズ、ルソーは何を考えたか フランス革命の前に、いろんな哲学者がいました。 有名なのは、ジョン・ロック(1632?1704)です。 人間は生まれながらに固有の平等の権利を持っていると説いた(自然法)。 人間は本来、自然法のもとでみんなが平等に暮らしていたと。ロックは国王の圧政に対していろんな理屈を考え出したのです。 自然状態で自分の平等の権利を持っていた人間はどうしたかといば、有名なホッブズ(1588?1679)対ルソー(1712?1778)の争いになる。 ホッブズは、みんなが自分の権利を主張するとケンカになると考えたのです。 「この土地は俺のもんや」「いや、俺の土地はここや」と境界線はいつの時代も曖昧です。 互いにケンカをしたらきりがない。 みなさんは「万人の万人に対する戦い」という言葉を聞いたことがあるでしょう。 ホッブズは、人間は放っておいたら、永遠に殴り合いをやっている。だからコモンウェルスによって、権力を持つ人がきちんと治めないと人間の生活は成り立たないと主張しました。 でも、ルソーは逆。 そもそも人間はみんな仲良く暮らしてきたと考えた。 だが、時として国王が圧政を行う。それに対抗する理屈を考える中で、いろんな「人権思想」が生まれてきたのです』、「ホッブズは、人間は放っておいたら、永遠に殴り合いをやっている。だからコモンウェルスによって、権力を持つ人がきちんと治めないと人間の生活は成り立たないと主張しました。 でも、ルソーは逆。 そもそも人間はみんな仲良く暮らしてきたと考えた。 だが、時として国王が圧政を行う。それに対抗する理屈を考える中で、いろんな「人権思想」が生まれてきたのです」、なるほど。
・『モンテスキューの「三権分立」 国王が好き勝手なことをやるなら、権力は分けなければいけない。 モンテスキュー(1689?1755)は、司法と立法と行政を分ける「三権分立」の思想を発表した。これは未だに生き残っていますね。分立させたら国王も好き勝手にはできない。もう一つの考え方もある。 権力を持っている人がどんどん悪いことをするなら、ロックが唱えた「抵抗権」がその代表ですが、人民が抵抗する権利を前面に出す。この2つが代表的な考え方ですね。 これも国王が勝手なことをしたから、みんなが必死に考えて、我々には本来抵抗する権利があるとか、生まれながらにして本来みんなは平等だとか、国王には単に統治の権利を委託しているだけだとか、権力自体を分散させようといった考え方が出てきたのです。 でも、この三権分立という考え方も、実は難しい。 これは、ホット・イシューなのであまり深くは立ち入りませんが、国と国とが「これで手打ちしよう」と約束したとします。 それは三権分立でいえば、行政と行政が、あるいは立法と立法が手を結ぶわけです。 でも、本当に権力が分立しているのなら、裁判所が立法や行政と違う判断をしても、「けしからん」と怒ることはできないのですよね。 三権が本当に分立していたら、別に行政や立法がどういおうと、裁判所は自分たち独自で判断するぞと。 そういう意味では、近代国家でつくられた理念は未だに生きているし、なかなか難しいし、理解が難しい面もあるのです。「司法と立法と行政を分ける「三権分立」の思想を発表した。これは未だに生き残っていますね。分立させたら国王も好き勝手にはできない。もう一つの考え方もある。 権力を持っている人がどんどん悪いことをするなら、ロックが唱えた「抵抗権」がその代表ですが、人民が抵抗する権利を前面に出す。この2つが代表的な考え方ですね・・・三権が本当に分立していたら、別に行政や立法がどういおうと、裁判所は自分たち独自で判断するぞと。 そういう意味では、近代国家でつくられた理念は未だに生きているし、なかなか難しいし、理解が難しい面もあるのです』、「「司法と立法と行政を分ける「三権分立」の思想を発表した。これは未だに生き残っていますね。分立させたら国王も好き勝手にはできない。もう一つの考え方もある。 権力を持っている人がどんどん悪いことをするなら、ロックが唱えた「抵抗権」がその代表ですが、人民が抵抗する権利を前面に出す。この2つが代表的な考え方ですね・・・三権が本当に分立していたら、別に行政や立法がどういおうと、裁判所は自分たち独自で判断するぞと。 そういう意味では、近代国家でつくられた理念は未だに生きているし、なかなか難しいし、理解が難しい面もあるのです。
次に、2020年1月27日付け東洋経済オンラインが掲載した京都大学こころの未来研究センター教授の広井 良典氏による「「グレタさん」は現代の「イエスかブッダ」なのか 「人類史の移行期」に生まれる価値観と倫理」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/325646
・『グレタ・トゥーンベリさんの気候変動問題への発言や活動が世界的な注目を集めている。 彼女の提言に対し賛否両論の議論が交わされているが、この「現象」自体はどのような意味を持っているのだろうか。 このたび『人口減少社会のデザイン』を上梓した広井良典氏が、人類が拡大・成長から成熟・定常化への“移行”期にあるという歴史的視点から論じる』、興味深そうだ。
・『「炎上」か「若者の反乱」か スウェーデンの高校生グレタ・トゥーンベリさんの言動が世界的な注目を集めている。 二酸化炭素排出に伴う気候変動ないし地球温暖化問題を中心に据え、未来世代あるいは若者やこれから生まれてくる者たちのことを考慮しない現在の“大人”たちや政治家、支配層等々の意識・行動やその“偽善性”を容赦なく批判する内容やそのパフォーマンスが、文字どおり「賛否両論」の反応、あるいは賞賛と非難の両極の反応を引き起こしているのである。 それは世界を舞台にしたある種の“炎上”でもあり、あるいは地球環境問題を軸にした現代版“若者の反乱”という側面ももっているかもしれない。 以上、ここでの議論をグレタさんの話からまず始めたのだが、しかし本稿は彼女の主張そのものを論評することが主たる目的ではない。 そうではなく、グレタさんのような言動や主張、あるいはそれに関連するさまざまな現象が、もっと大きな歴史の流れ――いささか大げさに響くかもしれないが、人類の歴史――の中で、どのような意味をもっているかを私なりの視点から探ることが本稿の目的である。) 私自身は、グレタさんの言動をとりたてて“礼賛”しようとする考えは有していないが、しかし彼女の主張には、それを簡単に無視したり批判したりすることでは終わらない、何か重要な意味が含まれているのではないか、という基本的なスタンスをもっている』、「彼女の主張には、それを簡単に無視したり批判したりすることでは終わらない、何か重要な意味が含まれているのではないか、という基本的なスタンスをもっている」、なるほど。
・『人類史における「拡大・成長」と「成熟・定常化」 グレタさんが体現しているような主張ないし思想を、先ほど述べたように人類全体の歴史の中に位置づけて把握するにあたり、どうしても確認しておくべき基本的な認識についてまず述べてみたい。 すなわち、人類史を大きく俯瞰すると、それは人口や経済において「拡大・成長」と「成熟・定常化」というサイクルをこれまで3回繰り返してきており、しかも、(ここが最終的に重要なポイントなのだが)拡大・成長から成熟・定常化への“移行”期において、それまでに存在しなかったような革新的な思想や観念が生成するという点だ。 これは世界人口の長期推移について先駆的な研究を行ったアメリカの生態学者ディーヴェイの仮説的な図式を示したものであり、世界人口の拡大・成長と成熟・定常化に関する3つのサイクルが見て取れる。 すなわち、第1のサイクルは私たちの祖先である現生人類(ホモ・サピエンス)が約20万年前に地球上に登場して以降の狩猟採集段階であり、第2のサイクルは約1万年前に農耕が始まって以降の拡大・成長期とその成熟であり、第3のサイクルは、近代資本主義の勃興あるいは産業革命以降ここ300~400年前後の拡大・成長期である。 この意味では、私たちは今「第三の成熟・定常化」の時代を迎える入り口あるいは移行期に立っていることになる。 ちなみに、こうした人口推計をベースに1人当たりGDPに関する一定の仮定を加えて、アメリカの経済学者のデロングが「世界GDPの超長期推移」を推計している。これはごくラフな性格のものだが、上記の3つのサイクルがおぼろげながらも示唆されている。) ところで、ではそもそもなぜ、人類の歴史においてこうした人口や経済の拡大・成長と定常化のサイクルが起こるのだろうか。 (超長期の世界GDPの推移の図はリンク先参照) これは端的に言えば、人間による「エネルギー」の利用形態、あるいは少し強い言い方をすると、人間による“自然の搾取”の度合いという点と対応している。 つまり、栄養分ないし有機化合物を自らつくることができるのは植物(の光合成というメカニズム)だけなので、動物は植物を食べ、人間はさらにそれらを食べて生存を維持している。それが狩猟採集段階ということになるが、農耕が1万年前に始まったのは、食糧生産つまり植物の光合成を人間が管理し安定的な形で栄養を得る方法を見出したということである。 そして近代ないし工業化の時代になると、「化石燃料」と言われるように、数億年にわたって地下に蓄積した生物の死骸からできた石炭や石油を燃やし、エネルギーを得ることを人間は行うようになった。 言い換えれば、“数億年”という長い時間かかって蓄積された資源を、私たちは“数百年”でほとんど燃やし、使い尽そうとしているのであり、その燃焼の過程で生まれる二酸化炭素量の急激な増加が温暖化の大きな背景になっているのだ。 ここで、いま述べている人類史の話と冒頭に述べたグレタさんの議論が徐々につながっていくことになる』、「農耕が1万年前に始まったのは、食糧生産つまり植物の光合成を人間が管理し安定的な形で栄養を得る方法を見出したということである。 そして近代ないし工業化の時代になると、「化石燃料」と言われるように、数億年にわたって地下に蓄積した生物の死骸からできた石炭や石油を燃やし、エネルギーを得ることを人間は行うようになった。 言い換えれば、“数億年”という長い時間かかって蓄積された資源を、私たちは“数百年”でほとんど燃やし、使い尽そうとしているのであり、その燃焼の過程で生まれる二酸化炭素量の急激な増加が温暖化の大きな背景になっているのだ」、なるほど。
・『定常化への移行期における“文化的イノベーション” 以上のように、人間の歴史には「拡大・成長」と「成熟・定常化」のサイクルがあり、その3度目の定常化の時代を迎える入り口に立っているのが現在の私たちである。 そして、ここでとくに注目したいのは、人間の歴史における拡大・成長から成熟・定常化への移行期において、それまでには存在しなかったような何らかの新たな思想ないし価値、あるいは倫理と呼べるものが生まれたという点だ。 それはいわば“文化的イノベーション”とも呼べるような現象である。グレタさんの話と本稿の内容がより密接につながってくるのもこの点においてである。) 議論を駆け足で進めることになるが、しばらく前から人類学や考古学の分野で、「心のビッグバン(意識のビッグバン)」あるいは「文化のビッグバン」などと呼ばれている興味深い現象がある。例えば加工された装飾品、絵画や彫刻などの芸術作品のようなものが今から約5万年前の時期に一気に現れることを指したものである。 つまり、まさにこのときに、単なる自然の模写や、実用的な利用に尽きない、人間の「こころ」という固有の領域が生まれたのだ。 一方、人間の歴史を大きく俯瞰した時、もう1つ浮かび上がる精神的・文化的な面での大きな革新の時期がある。 それはヤスパースが「枢軸時代」、科学史家の伊東俊太郎が「精神革命」と呼んだ、紀元前5世紀前後の時代である。 この時期ある意味で奇妙なことに、現在に続く「普遍的な原理」を志向するような思想が地球上の各地で“同時多発的”に生まれた。すなわちインドでの仏教、中国での儒教や老荘思想、ギリシャ哲学、中東での(キリスト教やイスラム教の源流となる)旧約思想であり、それらは共通して、特定の部族を超えた「人間」という観念を初めてもつと同時に、物質的な欲望を超えた、新たな価値ないし倫理を説いた点に特徴をもつものだった。 いま「奇妙なことに」これらが“同時多発的”に生じたと述べたが、その背景ないし原因は何だったのだろうか』、「「心のビッグバン(意識のビッグバン)」あるいは「文化のビッグバン」などと呼ばれている興味深い現象がある。例えば加工された装飾品、絵画や彫刻などの芸術作品のようなものが今から約5万年前の時期に一気に現れることを指したものである。 つまり、まさにこのときに、単なる自然の模写や、実用的な利用に尽きない、人間の「こころ」という固有の領域が生まれたのだ・・・精神的・文化的な面での大きな革新の時期がある。 それはヤスパースが「枢軸時代」、科学史家の伊東俊太郎が「精神革命」と呼んだ、紀元前5世紀前後の時代である。 この時期ある意味で奇妙なことに、現在に続く「普遍的な原理」を志向するような思想が地球上の各地で“同時多発的”に生まれた。すなわちインドでの仏教、中国での儒教や老荘思想、ギリシャ哲学、中東での(キリスト教やイスラム教の源流となる)旧約思想であり、それらは共通して、特定の部族を超えた「人間」という観念を初めてもつと同時に、物質的な欲望を超えた、新たな価値ないし倫理を説いた点に特徴をもつものだった」、なるほど。
・『「物質的生産の量的拡大から精神的・文化的発展へ」 興味深いことに、最近の環境史(environmental history)と呼ばれる分野において、この時代、以上の各地域において、農耕の開発と人口増加が進んだ結果として、森林の枯渇や土壌の浸食などが深刻な形で進み、農耕文明がある種の資源・環境制約に直面しつつあったということが明らかにされてきている。 このように考えると、これは私の仮説であるが、枢軸時代ないし精神革命に生成した普遍思想(普遍宗教)は、そうした資源・環境的制約の中で、いわば「物質的生産の量的拡大から精神的・文化的発展へ」という新たな発展の方向を導くような思想として生じたと捉えられるのではないだろうか。 つまり、いわば外に向かってひたすら拡大していくような「物質的生産の量的拡大」という方向が環境・資源制約にぶつかって立ち行かなくなり、そうした方向とは異なる、すなわち資源の浪費や自然の搾取を極力伴わないような、精神的・文化的な発展への移行や価値の創発がこの時代に生じたのではないか。 読者の方はすでに気づかれたかと思うが、これは現在ときわめてよく似た時代状況である。つまり、ここ200~300年の間に加速化した産業化ないし工業化の大きな波が飽和し、また資源・環境制約に直面する中で、私たちは再び新たな「拡大・成長から成熟・定常化へ」の時代を迎えようとしているからだ。 一方、先ほどふれた「心のビッグバン」についても、それが同様のメカニズムで、狩猟採集文明の拡大・成長から定常化への移行の時期に生じたと考えてみるのは不合理なことではないだろう。 つまり狩猟採集段階の前半において、狩猟採集という生産活動とその拡大に伴ってもっぱら“外”に向かっていた意識が、有限な環境の中で資源的制約にぶつかる中で、いわば“内”へと反転し、そこに物質的な有用性を超えた装飾やアートへの志向、それらを含む「心」の生成、そして(死の観念を伴う)「自然信仰」が生まれたのではないだろうか。) 以上の議論をまとめると、狩猟採集段階における成熟・定常化への移行期に「心のビッグバン」が生じ、農耕社会における同様の時期に枢軸時代/精神革命の諸思想(普遍思想ないし普遍宗教)が生成し、両者はいずれも「物質的生産の量的拡大から精神的・文化的発展へ」という内容において共通していたと考えられるのではないか(以上について詳しくは『人口減少社会のデザイン』)。 そして、現在が人類史における第3の定常化の時代だとすれば、狩猟採集段階における「心のビッグバン」や、農耕段階における「枢軸時代/精神革命」に匹敵するような、根本的に新しい思想や価値原理が生成する時代の入り口を私たちは迎えようとしているのではないか。 グレタさんをめぐる動きを起点にしつつ、しかしそこにとどまらず、私たちが考えていくべきは、こうした大きな人類史の捉え直しと、現在の私たちがどのような場所に立っているかについての根本的な洞察なのである』、「狩猟採集段階における成熟・定常化への移行期に「心のビッグバン」が生じ、農耕社会における同様の時期に枢軸時代/精神革命の諸思想(普遍思想ないし普遍宗教)が生成し、両者はいずれも「物質的生産の量的拡大から精神的・文化的発展へ」という内容において共通していたと考えられるのではないか・・・現在が人類史における第3の定常化の時代だとすれば、狩猟採集段階における「心のビッグバン」や、農耕段階における「枢軸時代/精神革命」に匹敵するような、根本的に新しい思想や価値原理が生成する時代の入り口を私たちは迎えようとしているのではないか」、なるほど。
・『「地球倫理」と呼べるような思想・世界観 ではそうした新たな思想とは何か?結論を先に述べれば、それは「地球倫理」と呼べるような思想ないし世界観ではないかと私は考えており、これまでの拙著の中でも一定論じてきた(『コミュニティを問いなおす』、『ポスト資本主義科学・人間・社会の未来』など)。 そしてグレタさんのような主張は、この「地球倫理」と呼びうる思想とどこかでつながっているのではないかというのが私の見立てである。 冒頭でも述べたように、私たちは、グレタさんの主張だけを切り出して論じたり、あるいは彼女のパーソナリティーとか生い立ちとかをあれこれ詮索して議論してもあまり生産的ではない。 そうではなく、今ここで述べているように、私たちが人類の大きな歴史の中でどのような場所に立っているかを新たな視点で捉え返し、「拡大・成長から成熟・定常化への移行期」における新たな思想や価値の創発というテーマを、正面から考えていくことこそが重要なのである。 そこで浮かび上がってくる「地球倫理」の内容について、次回さらに掘り下げる。そしてそれがこれからの時代の企業行動や経営にとってもつ意味を考えてみたい』、「新たな思想とは何か?結論を先に述べれば、それは「地球倫理」と呼べるような思想ないし世界観ではないかと私は考えており、これまでの拙著の中でも一定論じてきた・・・グレタさんのような主張は、この「地球倫理」と呼びうる思想とどこかでつながっているのではないかというのが私の見立てである」、「地球倫理」とは大げさな気もするが、何やら新しい考え方のようだ。
第三に、昨年6月16日付け東洋経済オンラインが掲載した防衛大学校教授の轟 孝夫氏による「なぜハイデガー哲学は、母国ドイツでタブーとされるのか? マルクス・ガブリエルも誤読した?」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/111592?imp=0
・『20世紀を代表する哲学者とされるハイデガーですが、近年、海外におけるその求心力は急速に低下しているといいます。そのきっかけとなったのが、「黒いノート」と呼ばれるハイデガーの覚書に、「反ユダヤ主義的」な言辞が含まれている、とされたことでした。 母国ドイツでは「触れてはいけない」哲学者となったハイデガー。しかし防衛大学校の轟孝夫教授は、こうした非難はハイデガー哲学の誤読にすぎないと説きます。 ハイデガーの思索をたどり、彼が生涯をかけた「存在への問い」を解説する現代新書の新刊『ハイデガーの哲学 『存在と時間』から後期の思索まで』より、「はじめに」の前編をお届けします』、興味深そうだ。
・『今、なぜハイデガーなのか ハイデガーは20世紀のもっとも重要な哲学者であり、その後の哲学の展開にも大きな影響を与えたのだから、彼の哲学に人びとが関心をもつのは当然のことだと思われるかもしれない。日本ではハイデガーの主著『存在と時間』は翻訳が10種類以上も存在し、そのうち3種の翻訳は21世紀に入ってから刊行されたものである。ハイデガーに関する研究書や解説書も毎月とまでは言わないにせよ、年に数冊は刊行されている。 こうした状況を見ると、ハイデガーの人気は今なお盤石のように見える。しかし外の世界に目を向けると、このことはまったく自明ではなくなる。ハイデガーの生国ドイツでさえも、日本のように一般読者向けの「ハイデガー本」がこれほど刊行されることはちょっと想像しがたいのだ。 もちろんドイツでも、ハイデガーはまったく関心をもたれていないわけではない。しかし彼が関心を集めているのは、圧倒的にナチス加担に関わる「負の側面」においてである。2014年、俗に「黒いノート」と呼ばれる、ハイデガーの覚書が記されたノート群が全集版として刊行されはじめた(「黒いノート」という呼び名自体は、覚書を書き留めたノートが黒いカバーをもつことに由来するのであって、それ以上の深い意味合いはそこにはない)。そのうちの、1930年代終わりから1940年代はじめにかけて書かれたいくつかの覚書の中に、反ユダヤ主義的な言辞が含まれていることが大きなスキャンダルとして報じられたことは、いまだ記憶に新しい。 ハイデガーが一時期、ナチスを支持していたことは、以前から周知の事実だった。しかしハンナ・アーレント(1906ー1975)やカール・レーヴィット(1897ー1973)をはじめとする多くのユダヤ人の教え子や友人と親交を結んでいたこともあり、彼を反ユダヤ主義者と捉える向きはこの刊行以前にはそれほど多くはなかった。ところが「黒いノート」の刊行によって、紛う方なき反ユダヤ主義者と見なされることになったのだ』、「ハイデガー」は本国「ドイツ」より「日本」での関心の方が高いとは意外だ。
・『ハイデガー協会会長の辞任 衝撃の大きさは、フライブルク大学のハイデガーの哲学講座を引き継ぐ著名な教授が、彼の反ユダヤ主義を理由にハイデガー協会の会長を辞任してしまったことにも示されている。彼は現代ドイツの代表的なハイデガー研究者と目されており、それゆえ私の知る何人かの日本人研究者も彼のもとに留学したりしていた。つまり傍から見れば、彼こそはだれよりもハイデガーの名声の恩恵を被った人物だったのだ。にもかかわらず、その教授があっさりハイデガーを切り捨てたことに、いささか私は驚いた。 仮に問題となったハイデガーの言明が反ユダヤ主義的なものだとしても、その「反ユダヤ主義」なるものが何を意味するのかについてはなお解釈の余地があるだろう。しかも本書で論じるように、くだんの言明は、少し検討すればそう単純に反ユダヤ主義的と言い切れるものではないことが明らかになる。にもかかわらず、例の教授はそのような留保もすることなく、ハイデガーを反ユダヤ主義者と決めつけて縁を切ろうとしたのである。こうしたエピソードからも、ドイツにおいてハイデガーと関わること自体が今やいかに危険で、割に合わないと見なされているかがよくわかる』、「ドイツにおいてハイデガーと関わること自体が今やいかに危険で、割に合わないと見なされているかがよくわかる」、なるほど。
・『「黒いノート」編者の言葉 この「黒いノート」の刊行をきっかけとして、いわゆるハイデガーの「反ユダヤ主義」をめぐる研究集会やシンポジウムが世界各地で開かれ、日本でも全集版の「黒いノート」の編者であるハイデガー研究者がドイツから招かれてワークショップが開催された。この研究者はハイデガー全集の「黒いノート」以外の覚書を収録した巻の編集も数多く担当しており、「黒いノート」の内容はもちろん、それが置かれた思想的コンテクストをもっとも熟知しているはずの人物である。 私もそのワークショップで発表する機会を与えられた。私はその場において、物議を醸した「黒いノート」の言明がハイデガー哲学のいかなる思想的文脈のうちに位置づけられるかを示し、それがむしろナチスの反ユダヤ主義的政策に反対するものであると主張した。こうした私の議論に対して、「黒いノート」の編者は開口一番、「ドイツでは政治家が反ユダヤ主義的な発言をすると政治生命を失うのですよ」という趣旨のことを述べた。 欧米において、また日本においても、政治家など公的な立場にある人物が反ユダヤ主義的な発言をすれば大きな問題になることは当然、私も弁えている。それゆえ「黒いノート」の編者に、そうした事情についてまるで無知であるかのような扱いを受けたのは不愉快だった。しかし他方で彼の発言は、問題の覚書が何を意味しているかをテクストに即して解釈するという姿勢そのものが、すでに政治的に不適切な行為と見なされることを示唆していた。この件について許されるのは、ただただハイデガーを政治的、道義的に非難することだけだというわけだ』、「この件について許されるのは、ただただハイデガーを政治的、道義的に非難することだけだというわけだ」、なるほど。
・『ドイツ人学生が触れないハイデガー その後、私は在外研究の機会を与えられ、2019年4月よりほぼ1年間、ドイツのミュンヘンに滞在した。滞在中は自分を受け入れてくれたミュンヘン大学哲学科の教授が主催する大学院生向けのゼミナールに毎週参加していた。そのゼミは教授が指導する修士課程や博士課程の学生が執筆中の学位論文の内容について発表して、参加者のコメントを受けるというものだった。 私はその演習で夏学期から冬学期にかけて20人以上の発表を聞いた。プラトン、アリストテレス、アウグスティヌス、カント、シェリング、フッサール、ヴィトゲンシュタイン、サルトル、アーレントなどを研究テーマとする学生はいたが、ハイデガーを取り上げた者は一人もいなかった。またゼミ中にその名前が言及されることもほとんどなかった。 教授にいつもこのような感じかと尋ねると、苦笑して、今回は極端だが、基本的にはハイデガーは21世紀になってから研究する人が少なくなったという。まだ20世紀にはハンス・ゲオルク・ガダマー(1900ー2002)などハイデガーの直弟子が何人も存命していた。そのため、そうした人びとの薫陶を受けたこの教授の世代あたりまではハイデガーを重要視する研究者は多かったが、そのあとの世代では関心をもつ人が少なくなったとのことであった。 私自身、せっかくゼミに参加しているので、冬学期に自分の研究について発表させてもらうことにした。私はドイツ滞在中ずっと、ハイデガー哲学の政治的含意を主題とする書物を執筆していた(2020年2月に明石書店より『ハイデガーの超‒政治』として刊行)。ゼミでは同書からその内容の一部、すなわち反ユダヤ主義的と非難された「黒いノート」の覚書を解釈した箇所を抜き出して発表することにした。 これまでの経験から、この主題での発表があまり歓迎されないことは予想された。それゆえ当初はもう少し無難なテーマを取り上げようと思ったが、逆に、この問題に対するドイツの若い哲学研究者の反応を見るのはかえって貴重な経験になると思い直し、あえてこのテーマで発表することにしたのである。
・『不動の前提となっていたハイデガー非難 その内容については本書でも詳しく論じる予定だが、ハイデガーはユダヤ教が、キリスト教を介する形で西洋形而上学という西洋の支配的な「存在」理解のあり方に大きな影響を与えたと見なしていた。そして彼の「存在への問い」とは、まさしくこの、ユダヤ教的にしてまた同時にキリスト教的なものでもある、いわゆる形而上学的な「存在」理解の克服を目指すものであった。その限りにおいて、西洋文明をその根本において規定しているユダヤ-キリスト教との対決というモチーフが、彼の哲学のうちにはたしかに含まれていたのである。 しかしハイデガーは、ナチスのように「科学的人種主義」なるものに基づいて「ユダヤ性」なるものの根絶を説いたりなどは、当然だがまったくしていない。なぜならば、ナチスが立脚するこの「人種主義」自体が、彼が批判して止まない西洋形而上学をその基盤とするものだからである。したがってハイデガーは、「人種主義」に基づいたナチスのユダヤ人迫害を、彼自身が問題視する「ユダヤ的なもの」の真の次元をまったく理解できていない無意味な所業と見なしていた。「黒いノート」における「ユダヤ的なもの」への言及もまた、基本的にはこのようなナチスの哲学的な無知蒙昧を批判する文脈においてなされたものであったのだ。 しかし事前にある程度、覚悟していたことではあったが、ゼミでの討論がかみ合うことはなかった。参加者の議論は結局のところ、ハイデガーの覚書はユダヤ人に対するステレオタイプ的な偏見を示すものにすぎず、政治的、道徳的に不適切だというところに帰着するのだった。ハイデガーを批判するためにも、まずは問題となっている覚書の趣旨を価値判断抜きで明らかにすることが必要だと説いても、だれも聞く耳をもたなかった。とにかくハイデガーは政治的、倫理的に非難されるべき存在であるというのが、あたかもそこでは不動の前提となっているかのようだった。 ハイデガーがナチスに加担したことはもちろん、これまでも周知の事実だった。それゆえ彼の偉大な哲学的業績には敬意を表しつつも、その政治加担には批判的な態度を取るというのが従来のハイデガー研究の暗黙のルールだった。こうした姿勢は、多くのハイデガー研究者が研究の指針として好んで口にする「ハイデガーとともに、ハイデガーに抗して」というモットーに表現されている。 しかし、一方ではハイデガーの哲学的声望を自身の箔付けに利用しながら、その一方では彼のナチス加担を批判することで自身の政治的、道徳的健全性も確保するという虫のよい姿勢は「黒いノート」の刊行以降、完全に不可能になってしまった。というのも、例の覚書によって、彼の哲学そのものが反ユダヤ主義、すなわちナチズム(国民社会主義)に汚染されていることはもはや疑問の余地がないと見なされるようになったからである。以後とりわけ欧米では、ハイデガーの哲学から明確に距離を取ることが「政治的に正しい」態度になっている』、「「黒いノート」の刊行以降」、「欧米では、ハイデガーの哲学から明確に距離を取ることが「政治的に正しい」態度になっている」、なるほど。
・『それでもわれわれはハイデガーを読むべきだ そうしたドイツの状況と比べると、日本ではハイデガー研究はほとんど異例なほどに盛んである。そもそも本書のような入門書の需要が見込まれるぐらい、研究者以外の読者の関心も高い。 もちろん日本でも「ハイデガーはナチだから、彼の哲学をまじめに取り合う必要はない」と言われることがまったくないというわけではない。しかしそれでも、そのような決めつけがドイツのように研究そのものを抑圧するような状況にはなっていない。 ドイツ人からすると、こうした日本の状況はあまりにも生ぬるく見えるらしい。近年、日本でもなぜかもてはやされている現代ドイツの哲学者マルクス・ガブリエル(1980ー)は、中国哲学研究者の中島隆博との対談を収録した『全体主義の克服』(集英社新書、2020年)で、ハイデガーを「筋金入りの反ユダヤ主義信者」、「完璧なまでのナチのイデオローグ」、「本物のナチ」などとさんざんこき下ろしたうえで、次のように述べている。 「だから2018年に京都大学で講演をしたとき、『ハイデガーを読むのはやめなさい!』と言ったのです。わたしは人々の眼を覚ましたかった。ハイデガーが日本でとても力をもっていることは知っています」(同書、101頁)。 このようにドイツの著名な哲学者が日本人に向けて、ハイデガーなど相手にするなという親身な勧告をしてくれている。こうした勧告に対して、私が本書をとおしてあえて主張したいのは、それでもわれわれはハイデガーを読むべきだということである。 とはいえ、こう主張することで、私はハイデガーの思想的業績をナチス加担とは切り離して扱うべきだと言いたいわけではない。むしろナチスへの積極的な関与は、彼の哲学に全面的に基づいたものであった。 つづく「なぜハイデガーは「ナチ」になり、また「ナチ」を辞めたのか?」では、ハイデガーの「ナチス加担」の実態に迫ります』、「現代ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルは」、「2018年に京都大学で講演をしたとき、『ハイデガーを読むのはやめなさい!』と言ったのです。わたしは人々の眼を覚ましたかった。ハイデガーが日本でとても力をもっていることは知っています」・・・このようにドイツの著名な哲学者が日本人に向けて、ハイデガーなど相手にするなという親身な勧告をしてくれている」、しかし「私が本書をとおしてあえて主張したいのは、それでもわれわれはハイデガーを読むべきだということである」、これは単に「ハイデガー」研究者としての著者のノスタルジーに過ぎないのではないだろうか。
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コンサルティング(コンサルティングとは? 就活人気の高いコンサル業界を分かりやすく解説!、米マッキンゼー 経営トップ再選も亀裂あらわ ボブ・スターンフェルズ氏が再びグローバル・マネジングパートナーに選出されたが パートナーの間に反対意見があることが明らかに、急成長モノタロウのボスコン出身社長を直撃!今に生きる コンサル時代に得た「3つのスキル」とは?)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-03
本日は、コンサルティング(コンサルティングとは? 就活人気の高いコンサル業界を分かりやすく解説!、米マッキンゼー 経営トップ再選も亀裂あらわ ボブ・スターンフェルズ氏が再びグローバル・マネジングパートナーに選出されたが パートナーの間に反対意見があることが明らかに、急成長モノタロウのボスコン出身社長を直撃!今に生きる コンサル時代に得た「3つのスキル」とは?)を取上げよう。先ずは、入門編として、2021年8月27日付けen-courege「コンサルティングとは? 就活人気の高いコンサル業界を分かりやすく解説!」を紹介しよう。https://app.en-courage.com/articles/2021-08-27/45?locale=ja・『コンサルティングと聞いて何をイメージするでしょうか。聞いたことはあるけれど何をしているか分からないという人も多いのではないでしょうか。この記事ではコンサルティングについて分かりやすく解説していきます。コンサルティングに適性のある人についても解説していきますので、どんな仕事かを知りたい人や興味を持った人は志望企業を考えるうえで参考にしましょう』、興味深そうだ。・『はじめにーーコンサルティングとは? どんな仕事かを簡単に解説! コンサルティングとは一言でいうと、相手の課題に対して解決策を示す仕事です。 もっと簡単に言えば「相手(クライアント)の困りごとを解決する仕事」。 この場合の相手は企業、経営者、個人、政府など多岐に渡ります。 困りごとを解決する相手がどんな職種・立場の人かによってコンサルティングの分類が異なります。 この記事ではまず、どんな分類があるのかを見ていきます。 分類を知ったうえで、一般企業とは大きく違う仕事の流れ、具体的な仕事内容を紹介し、コンサルティングの魅力に迫ります。 自分はコンサルティングの仕事に興味があるか、向いているか、やってみたいかを考える参考にしましょう!』、「相手(クライアント)の困りごとを解決する仕事」といっても、実際には幅広い。・『就活でめざす代表的なコンサルティングファーム 就活をしていると「コンサルティングファーム」「コンサルタント」という言葉をよく聞きます。 コンサルティングファームとはコンサルティングの事業や実施する企業を指す言葉です。「コンサル」と略されます。 そしてコンサルタントとは「コンサルティングを行う人」を指します。 ..
産業動向
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2024-03-03T16:56:39+09:00
先ずは、入門編として、2021年8月27日付けen-courege「コンサルティングとは? 就活人気の高いコンサル業界を分かりやすく解説!」を紹介しよう。
https://app.en-courage.com/articles/2021-08-27/45?locale=ja
・『コンサルティングと聞いて何をイメージするでしょうか。聞いたことはあるけれど何をしているか分からないという人も多いのではないでしょうか。この記事ではコンサルティングについて分かりやすく解説していきます。コンサルティングに適性のある人についても解説していきますので、どんな仕事かを知りたい人や興味を持った人は志望企業を考えるうえで参考にしましょう』、興味深そうだ。
・『はじめにーーコンサルティングとは? どんな仕事かを簡単に解説! コンサルティングとは一言でいうと、相手の課題に対して解決策を示す仕事です。 もっと簡単に言えば「相手(クライアント)の困りごとを解決する仕事」。 この場合の相手は企業、経営者、個人、政府など多岐に渡ります。 困りごとを解決する相手がどんな職種・立場の人かによってコンサルティングの分類が異なります。 この記事ではまず、どんな分類があるのかを見ていきます。 分類を知ったうえで、一般企業とは大きく違う仕事の流れ、具体的な仕事内容を紹介し、コンサルティングの魅力に迫ります。 自分はコンサルティングの仕事に興味があるか、向いているか、やってみたいかを考える参考にしましょう!』、「相手(クライアント)の困りごとを解決する仕事」といっても、実際には幅広い。
・『就活でめざす代表的なコンサルティングファーム 就活をしていると「コンサルティングファーム」「コンサルタント」という言葉をよく聞きます。 コンサルティングファームとはコンサルティングの事業や実施する企業を指す言葉です。「コンサル」と略されます。 そしてコンサルタントとは「コンサルティングを行う人」を指します。 この記事では、就活で学生がめざす代表的なコンサルティングファームを、経営・戦略コンサルティング、業務コンサルティング、ITコンサルティング、金融コンサルティング、シンクタンクに分けて解説します。 「誰の困りごとを解決するのか」によってこれらは分類されます。 それでは、代表的なコンサルティングファームを見ていきましょう』、「「誰の困りごとを解決するのか」によってこれらは分類されます」、なるほど。
・『経営・戦略コンサルティング 経営者やトップマネジメントの課題を解決する仕事です。 継続して優れた業績を上げるにはどのような経営をすればいいか、 この市場には参入すべきか否か、 どんな新規事業を立ち上げれば業績が伸びるか、 などの困りごとを解決していきます。 企業の経営 層を相手に、経営戦略を練り、上記のようなアドバイスをする仕事であるため、高度な知識や分析力、リサーチ能力が要求されます。 このコンサルファームは、外資系企業が多く、グローバル展開されることが多いです。そのため英語力を必要とされる場合が多いです。 戦略コンサルを強みとする代表的な企業にはマッキンゼー・アンド・カンパニー、ボストンコンサルティンググループ、ベイン・アンド・カンパニー、A.T.カーニーなどがあります』、「戦略コンサルを強みとする」ところは、最も高度で、料金も高い。
・『業務コンサルティング 前述の経営・戦略コンサルに対し、経営層というよりその下のマネージャークラスの困りごとを解決する仕事です。 経営・戦略コンサルが長期の経営ビジョンやこの市場に参入すべきかという課題解決をするのに対し、業務コンサルは「どうやって業務コストを削減するか」などのより具体的な日々のテーマ、会社が抱える困りごとに対し戦略を練り、課題解決をします。 業務コンサルといっても「どんな種類の困りごとを解決するか」によってその領域は多岐に渡ります。 例えば以下があります。 ・監査法人 企業の財務書類が法的に問題ないかをチェックする。 監査や税務の手続きなどは複雑で、専門的な知識を必要とすることが多いため、その代行をすることでクライアントの困りごとを解決する。・人事コンサル 企業が優秀な人を採用するにはどうしたらいいか、人材育成をどう行うかなど戦略を考え、課題を解決する』、「業務コンサルティング」は実務的内容だ。
・『ITコンサルティング IT技術を駆使してクライアント企業の課題を解決する仕事です。 例えば、「商品の受発注の方法が部署によってバラバラで管理しにくい。 受発注のやり方を一元化したい」というクライアントの困りごとに、「こんなITシステムを導入すれば業務が改善されますよ」と提案、実際にシステムの導入から実装までを行います。 業務コンサルに内包されるものの、昨今はIT関連の発展が著しいため「ITコンサルはITの専門家」として業務コンサルと区別される傾向が強いです。 フューチャーアーキテクト、ワークスアプリケーションズ、日本IBMなどがあります』、この他にコンピューターメーカーも「ITコンサルティング」を提供している。
・『金融コンサルティング 資金調達などの事業戦略・M&A・不動産の投資相談などに関するコンサルティングを行います。 「新規事業立ち上げに向けて資金調達をどうしよう」「このビジネスに投資すべきか」など金融面で会社は様々な困りごとを抱えています。 金融コンサルタントは、会計や法務の専門知識を持ち、国際情勢や金融情勢にも常にアンテナを張りながら課題解決をしていきます。 PwCアドバイザリー、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーなどがあります』、ここは投資銀行が取引そのもので勝負をする世界でもある。
・『シンクタンク 元々シンクタンクとは民間や政府の経済問題を調査する研究機関を指しました。 しかしこれらの研究機関が、自らの分野で培ったリサーチ力を生かし、他企業の問題解決、つまりコンサルティングを請け負うようになったため、シンクタンクもコンサルティング業務の一つとする分類が主流となりました。 企業からの調査案件や官公庁向けのリサーチや分析、分析をもとにした政策提言などを行います。 「〇〇の分野での投資をしたいが経済動向はどうなるのだろう」などのクライアントの悩みを専門知識や独自の調査、高い分析力で解決していきます。 代表的な会社に、野村総合研究所、大和総研、日本総合研究所などがあります。 このように「誰の課題を解決するか」「どのように解決するか」によりコンサルティング事業には様々な分類があります』、なるほど。
・『総合系コンサルティング会社 これは一つの会社のなかに、戦略コンサルの仕事も、業務コンサルの仕事もある会社を指します。 具体的にはアクセンチュア、デロイト トーマツ コンサルティング、アビームコンサルティングなどがあります。 総合系コンサルはアメリカや欧米に本社を構える外資系が多く、クライアントも大企業であるのに対し、国内独立系は日本発のコンサルティングファームです。 クライアント規模も中小企業など様々で、会社の生産・製造など現場に入り込んだコンサルティングを行います。 メーカーが製造した商品を売っていたり、銀行や保険会社が金融商品を売っているのに対し、コンサルティング会社は「課題を解決すること」を売っているといえます。 そのため、商品やエリアごとに部署が分けられるメーカーや金融業界とは仕事の流れ、部署の編成が大きく異なるのが特徴です』、「総合系コンサルはアメリカや欧米に本社を構える外資系が多く、クライアントも大企業であるのに対し、国内独立系は日本発のコンサルティングファームです。 クライアント規模も中小企業など様々で、会社の生産・製造など現場に入り込んだコンサルティングを行います」、なるほど。
・『コンサルティング会社の仕事の流れ 一般企業との大きな違い コンサルティング会社の実際の仕事の流れを具体的に解説します。 クライアントがコンサルティング会社に依頼する。 或いはコンサルティング会社が営業をしたり、競合他社とのプレゼンをする。→ クライアントに提案を受け入れてもらえると、コンサルティング会社が正式に受注する。 → 社内から適切な人材を集め、プロジェクトチームが編成される。 → キックオフ・ミーティングでチームの顔合わせやスケジュール確認をする。 ↓ インタビューやデータ収集、解決に向けての仮説をたてる。→ チーム内で議論を重ね、課題解決方法を決定する。 → 経営層に報告。クライアントと一緒に実行支援まで行うことも。 → チームは解散し、また新しいプロジェクトに割り当てられる。 つまり、一般企業が商品・サービスやエリアなどによって部署が分けられてるのに対し、具体的な所属部署はなく、編成されたプロジェクトチームに参加して業務を担当します。 そのためプロジェクトごとに一緒に働く上司や同僚が変わります。 場合によってはプロジェクトを同時に2~3個担当することもあったり、クライアント先に常駐するケースもあります』、「プロジェクトを同時に2~3個担当する」のは、繁閑を調整する一般的な方法だ。
・『コンサルティングの役職の具体的な仕事内容とは? 上記で解説したプロジェクトチームには様々な役職の人が入っています。 役職によって仕事内容は異なります。 案件を獲得する人、人を集めプロジェクトチームを作る人、作られたチームの責任者、情報収集や資料作成をする人、集まった情報もとに分析し、仮説をたて、戦略を考える人。 それぞれ役職ごとに役割があります。 どんな役職があるのかをみていきましょう。 ・パートナー 営業をし、案件を獲得します。 コンサルティングファームを経営します。 ・マネージャー プロジェクトが始動したら、その責任者のポジションです。プロジェクトを管理し、顧客と折衝、予算などの管理も行います。 ・コンサルタント 仮説をたてて具体的な課題解決を検証していきます。 ・アナリスト 新卒入社したコンサルタントのスタートポジション。 主に情報収集、資料作成、分析、クライアントへインタビューを行います』、なるほど。
・『コンサルティングの仕事はどんな人に向いてる? 資格は必要? どの業界のコンサルタントになるか、どの企業でコンサルティングの仕事をするかによって必要な資格は異なります。 財務系であれば簿記や公認会計士などの資格、IT系であればITストラテジストや情報技術者試験などがあります。 しかし、新卒でコンサル業界を受けるのに必ずしも資格が必要というわけではありません。 コンサルの仕事はクライアントの困りごとを解決する仕事です。 企業が自分たちで解決できてしまうような簡単な困りごとであれば、わざわざお金をかけてコンサルに依頼する必要はありません。 企業の内部の人間では解決できないから、高度な知識や分析力、情報収集力、発想力を有するコンサルに相談するのです。 そのため、資格を持っていることより、相手の課題解決に向けとにかく考えることが大切になります。 課題解決に向け考えるというのは、課題を的確に洗い出し、情報を集め、データを分析し、有効な戦略を練るということです。 論理的に考える人、アイディアを出し続けられる人に向いている職種といえます。 日頃から様々な角度で考えること、 疑問に思ったことはすぐ調べること、 もし~をしたら結果はどうなるだろう、 どんな戦略が有効的だろうと仮説をたてて考えること、 自分の考えを分かやすく、説得力を持って人に伝えられるようにすることなど、 日常のなかで「つきつめて考え、発信する力」を養う必要があります』、大企業のクライアントでは、反対派を説得する材料として「コンサル」を活用することもある。
・『コンサルティングの魅力 コンサルには働くうえでどのような魅力があるのでしょうか。 ・年収が高い 会社や分野にもよりますが入社1~3年目のアナリストで400万~800万、パートナーまでいけば2000万以上となります。 経団連の調査によると、日本の平均年収は663.2万円であるため、コンサルティングの年収は高いといえます。 ・自分が成長できる・スキルアップできる 一般的な日系企業では、やりがいが「自分の会社・部署の業績のため」「自分が仕事で担当する商品の売り上げのため」という、会社や部署に軸があるのに対し、部署編成などのないコンサルはもっと個人主義といえます。 会社のためというよりクライアントの課題解決のため、自分のキャリアアップのためという軸であることが多いでしょう。 そのため転職者も多く、コンサル業界のなかでスキルや知識など自分に合った条件の会社を探し、渡り歩く人も多いといいえます。 そういった働き方を理想とする人には合っている業界です。 ・クライアントに感謝されることでやりがいを感じられる クライアントに寄り添い、課題を洗い出し、課題解決に向けとにかく考える仕事という点で、うまくいけば感謝されますし、自分のスキルもどんどん上がっていきます。 会社内のしがらみや上下関係、変な社会慣習などもなく、実力主義の世界です。 こうした魅力がある一方、会社によっては激務であったり、「なぜそう思ったのか」を論理的に説明する能力が求められる難しさもあるといえるでしょう』、「論理的に説明する能力」は必須の「能力」だ。
・『コンサルティング会社を受けるなら就活対策は念入りに! コンサルティングと一言でいってもその領域や仕事内容は多岐に渡ります。 論理的に、つきつめて考えることが好きな人や説明力のある人、クライアントに寄り添って課題解決をし、感謝されることにやりがいを感じたい人におすすめな業界です。 それゆえに就活でも人気が高い会社が多いです。 コンサルを目指すなら自己分析や面接対策をテスト対策をきっちりすることが必須といえます。 エンカレッジでは、たくさんの先輩方のES全文や選考体験記を公開しています。 人気業界や、有名企業に受かるためのポイントが満載!! 会員登録して、気になる例文をチェックしましょう』、ここはPRなので、紹介は省略。
次に、本年2月7日付けダイヤモンド・オンラインが転載したThe Wall Street Journal「米マッキンゼー、経営トップ再選も亀裂あらわ ボブ・スターンフェルズ氏が再びグローバル・マネジングパートナーに選出されたが、パートナーの間に反対意見があることが明らかに」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/338477
・『昨年のクリスマスの少し前、米コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーの経営トップ、ボブ・スターンフェルズ氏は4万人を超えるスタッフにメモを送り、単純な質問を投げかけた。「マッキンゼーとは何か」 グローバル・マネジングパートナーのスターンフェルズ氏は、この質問には単純な答えはないと記し、2024年を迎えるに当たってマッキンゼーをどう定義するか考えるよう求めた。 この質問に答えるのは難しくなる一方だ。 コンサルティング業界に長年君臨するマッキンゼーは、大手企業や政府の指導者に助言し、未来の最高経営責任者(CEO)や国家元首を輩出してきた。そのマッキンゼーが今、自社の運営に苦労している。 スターンフェルズ氏は、自分を追い出し、2021年以降で3人目となるリーダーを就任させようとする動きを何とか切り抜けて今月1日までに過半数の票を獲得。グローバル・マネジングパートナーとして2期目を勝ち取ったが、最初の2回の投票ではパートナーから再選に十分な支持を得られなかった。 トップを選出するための投票であらわになったのは、世界で最も収益性の高いパートナーシップ制企業の一つであるマッキンゼーの内部に不満が生じていることと、3年ごとにリーダーを選ぶ権限をパートナーに与える珍しい統治構造の潜在的な欠点だ。ビジネスが順調で、何百万ドルという収入をもたらすパートナーが変化を求める理由がほとんどないときには、この構造はうまく機能する。しかしこの数年は安定しているとは決して言えない状態だった。 スターンフェルズ氏がグローバル・マネジングパートナーに就任したのは、新型コロナウイルス禍によって加速したビジネスの変化に対応するため企業がマッキンゼーの助言を求め、同社の急成長が始まった頃だった。同社は人材採用を加速、スタッフ数は2012年の水準の2倍以上に増えた。しかし経済が減速し、顧客が減るにつれ、自社のサービスに対する将来的な需要を読み違えたと批判されてきた。 この1年、マッキンゼーは人員削減を進めた。バックオフィス業務を担当していた1400人を削減し、破産処理業務の一部を段階的に縮小した。またベイン・アンド・カンパニーなど同業他社と同様に、新規採用した経営学修士号(MBA)取得者の入社時期を今年に先送りした。12月に新規に指名したパートナーは約250人で、2022年の380人から減少した。 マッキンゼーは一連のスキャンダル後、評判の修復にも努めている。麻薬性鎮痛剤「オピオイド」の販売でパーデュー・ファーマなどの製薬会社に協力したとして批判を浴びた同社は21年、パーデューに協力したことに対して5億7300万ドル(現在のレートで約850億円)の和解金を支払うと発表。その後、顧客を選ぶ上でパートナーにどの程度の裁量が認められるかが幅広く再検討された。 シニアパートナーらによると、トップクラスのコンサルティングサービスへの需要は今もある。北米担当マネジングパートナー、アストシュ・パディ氏は1月半ばのインタビューで「われわれの今の仕事の質は以前よりはるかに高い」と話した。インタビューを行ったスイス・ダボスでは、スターンフェルズ氏らマッキンゼーのパートナーが経済界のリーダーと親しく言葉を交わしていた。 スターンフェルズ氏は21年のインタビューで「世界が再び速度を落とすことはないだろう。当社の顧客は自分たちより速く動くことをわれわれに求めている」と話した。「より速く動ける世界的企業のモデルをどう作るかだ」 スターンフェルズ氏はまた、マッキンゼーの世界的なパートナーシップモデルを擁護し、適切に運用されれば同社は世界のどこからでも最良の助言を顧客に提供することができると述べた。「パートナーシップのモデルを機能させるには、視点の共有と率直な議論の実施にエネルギーを注がなければならない」と話した』、「麻薬性鎮痛剤「オピオイド」の販売でパーデュー・ファーマなどの製薬会社に協力したとして批判を浴びた同社は21年、パーデューに協力したことに対して5億7300万ドル(現在のレートで約850億円)の和解金を支払うと発表・・・経済が減速し、顧客が減るにつれ、自社のサービスに対する将来的な需要を読み違えたと批判されてきた。 この1年、マッキンゼーは人員削減を進めた。バックオフィス業務を担当していた1400人を削減し、破産処理業務の一部を段階的に縮小した。またベイン・アンド・カンパニーなど同業他社と同様に、新規採用した経営学修士号(MBA)取得者の入社時期を今年に先送りした。12月に新規に指名したパートナーは約250人で、2022年の380人から減少した」、なるほど。
・『750人のシニアパートナー 同社が抱える問題の一つはトップの選出に投票できるシニアパートナーが15年ほど前の約400人から約750人に増加し、合意形成が難しくなったことだ。シニアパートナーは60歳になる前に1期目を終えていれば誰でも選出の対象になる。 シニアパートナーは最初の投票では誰にでも投票できる。2回目の投票に進む候補者は10人に絞られる。この時点で勝者が決まらなければ、上位2人の候補者を対象に3回目の投票が行われる。 もう一つの問題はマネジングパートナーを務めることができる期数を最大3期から2期に短縮すると数年前に決定したことだ。マネジングパートナーの任期を3期(9年)から2期(6年)にすれば、若い世代が昇進できるというわけだ。しかし任期が3年1期しかなければ、または1期しかないという不安があれば、戦略を十分に実施することは難しい。 スターンフェルズ氏の前任のケビン・スニーダー氏は1期目のあと、抗議票によって2021年にトップの座を追われた。同氏は現在、ゴールドマン・サックスのアジア担当上級幹部を務めている。 スターンフェルズ氏は周囲からは決断力のあるリーダーと受け止められている。しかし同氏が関係の近い少人数のチームに頼り、パートナーシップ制企業のリーダーというより従来の最高経営責任者(CEO)のようなやり方で会社を経営していると感じていた一部のパートナーはこの3年間、そのやり方にいら立っていた。 2023年のマッキンゼーの売上高は約160億ドルに増加したが、コロナ下と比べると伸び率は鈍化した。上半期には同社がパートナーに対し、報酬の一部について受け取りの先送りを要請したが、年末までにビジネスが回復し、パートナーは報酬を全額受け取った。 スターンフェルズ氏はスタッフに送付したメモでは会社の再構築や成長の鈍化を取り上げず、その代わりに会社の評価を試みた。「今年は大変な1年だった。われわれはこの1年を切り抜けただけでなく、2024年を迎えるに当たって他とは異なる独自の立場に立っている」と述べた。 同氏はまた、マッキンゼーはコンサルティング会社であるだけでなく、スタートアップ支援組織、デザインラボ、訓練の場などでもあると述べた。「人材獲得担当者と話をするたびに、非常に多くの人がわれわれと同じ立場に立ちたいと考えていることを思い出す。毎年100万人以上が当社に応募している」とも記した。 スターンフェルズ氏の2期目で最後の任期は7月に始まる』、「スターンフェルズ氏の前任のケビン・スニーダー氏は1期目のあと、抗議票によって2021年にトップの座を追われた・・・スターンフェルズ氏は周囲からは決断力のあるリーダーと受け止められている。しかし同氏が関係の近い少人数のチームに頼り、パートナーシップ制企業のリーダーというより従来の最高経営責任者(CEO)のようなやり方で会社を経営していると感じていた一部のパートナーはこの3年間、そのやり方にいら立っていた」、「マッキンゼー」といえどもトップ人事は思うようにはいかないものらしい。
第三に、3月1日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した田村咲耶・MonotaRO代表執行役社長インタビュー「急成長モノタロウのボスコン出身社長を直撃!今に生きる、コンサル時代に得た「3つのスキル」とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339658
・『「工具界のアマゾン」などと称され、MRO(修理・整備)市場に特化したEC(電子商取引)企業として急成長を遂げてきたのがMonotaRO(モノタロウ)だ。工具通販のニッチ市場で牙城を築き、2023年12月期決算まで14期連続で最高益を更新。そんな同社は今年1月、12年ぶりのトップ交代で、41歳の田村咲耶氏を新社長に起用した。同氏は外資系戦略ファームのボストン・コンサルティング・グループ(BCG)出身である。長期連載『コンサル大解剖』の本稿では、MonotaRO初の女性社長となった田村氏に、コンサル時代に培った経験を今の職務にどう生かしているのかについて、中長期的な方針などと併せて語ってもらった』、興味深そうだ。
・『急成長MonotaROのボスコン出身社長がコンサル時代に得た「3つの経験」とは? Q:1月から社長となったMonotaROでは、今後4~5年で売上高を現状のほぼ倍増の5000億円(23年12月期の連結売上高は2543億円)にする方針を掲げています。 A:事業成長を考える上でも、コンサルタント時代の力が生きているかもしれません。 田村咲耶・MonotaRO代表執行役社長 たむら・さくや/2007年4月、外資系戦略ファームのボストン・コンサルティング・グループ(BCG)入社。GEヘルスケア・ジャパンを経て20年3月、MonotaRO入社。サプライチェーンマネジメント部門長、執行役サプライチェーンマネジメント部門長、常務執行役サプライチェーンマネジメント部門長を経て、24年1月から現職。 写真提供:MonotaRO 今まで一つ大きい市場(間接資材調達市場)で考えてきたことの精緻化をしています。攻めていく市場を「スモール」「ミッド」「ラージ」と分解して、それに合わせた事業成長戦略やサービス設計、品ぞろえ、マーケティング戦略を作っていくのが事業成長の鍵ですね。 それによって売り上げを伸ばしていくのと、コスト的にもサービスを支える物流やオペレーションを作っていくところ。あとは将来の大きな成長に向けて、日本発のモデルであるMonotaROを海外に展開していく、という構図だと思います』、「今まで一つ大きい市場(間接資材調達市場)で考えてきたことの精緻化をしています。攻めていく市場を「スモール」「ミッド」「ラージ」と分解して、それに合わせた事業成長戦略やサービス設計、品ぞろえ、マーケティング戦略を作っていくのが事業成長の鍵ですね。 それによって売り上げを伸ばしていくのと、コスト的にもサービスを支える物流やオペレーションを作っていくところ。あとは将来の大きな成長に向けて、日本発のモデルであるMonotaROを海外に展開していく、という構図だと思います」、なるほど。
・『Q:まだ売上高の数%程度である海外事業の重要性も増していきそうですが、どのような戦略を考えていますか。 韓国やインド、インドネシアに展開していますが、やはりインド市場の存在は大きいと考えています。こちらはサプライチェーン上の課題やニーズの違いなどがあり、一歩ずつ作り上げていく必要があります。今は国のニーズや、そこで求められている価値を作っている段階ですね。 インドは、とにかく国土が広い難しさがあります。日本では狭いところで、(オーダーから)次の日には届けることができても、インドではそうはいかない。規模の経済性(スケールメリット)が利く中で、どんな顧客にどのようなサービスを行うかを含めて構築していきたいところです。 Q:業績拡大が続いてきた一方、MonotaROの株価は約3年前(21年2月)に上場来高値を付けて以降、低迷が続いています。市場の高い期待に応えるには、何が必要だと考えますか。 次ページ以降では、外資系戦略ファームのボストン・コンサルティング・グループ(BCG)出身で、MonotaRO初の女性社長となった田村氏に、コンサル時代に培った経験がいかに今の職務へ生かされているのかを明かしてもらう。また、直近で低迷する株価の反発に向けた自身の役割、中長期的な方針などと併せて語ってもらった。) 株価自体はコントロールできませんが、私が期待されているのは事業成長だと考えています。前期(23年12月期)の増収率は12.5%でしたが、その前はもっと高いレベルだった(編集部注:22年12月期の増収率は19.1%、21年12月期は20.6%)中で、事業や戦略の領域を精緻化し、年率15%程度の成長を続ければ「売り上げ2倍」が近づき、株価も伴ってくると考えています。 前年比15%程度(の増収率)の絵を考えると、2028~29年頃には売上高が5000億円になる見込みです。もちろん、そのためには適切な戦略が必要ですが、それに見合う市場の余地はあると考えています。 Q:キャリアの始点は大手戦略系ファームのBCGでした。コンサルタント時代の経験は、これまでの職務へどのように役立っていますか。 A:私自身は有能なコンサルタントではなかったと思っていますが、新卒で入社してとても助かったと考えている経験が三つあります。 一つ目に、構造化・論理力が鍛えられたことです。最初は会議の議事録や、メモした内容を夜通しかけてまとめる、といった場面がよくありました。品質を担保するために一言一句直して、添削してくれるようなことは、事業会社ではなかなか難しく、コンサルのパッケージングの品質ならではであり、今でもこのような経験は財産になっていると考えています。 もう一つは、人前で話す場面が数多く経験できたことです。当時もなぜ、経営層の方が新卒生の話を真剣に聞いてくれるのだろうと思ったのですが、やはり「データや事実」を基に話すからこそ聞いてもらえる。それをたたき込んでもらいました。 三つ目に、ネットワーキングも大きな財産です。BCG時代の同期には、(AI開発の)PKSHA Technology(パークシャー・テクノロジー)の上野山さん(上野山勝也・代表取締役)や、(遠隔画像診断サービスを手掛ける)ドクターネットの長谷川さん(長谷川雅子・代表取締役社長)、(医療データ分析の)JMDCの野口さん(野口亮・代表取締役社長)などがいます。 私の代は結構、社長をしている方も多いですね。同期の他にも、後輩や先輩にいろいろな方がいて、皆興味を持って話を聞いてくれました。助け合う文化があったと思いますし、苦楽を共にした仲間の存在は大きかったと感じています。 Q:BCGのアラムナイ(同窓生)同士で集うこともあるのでしょうか。 A:アラムナイの関係性はすごく強いですね。仲間内で情報を共有することもありますし、基本的にサポートし合う文化があって、先輩からもすごく助けられてきました。 特に同時代に在籍してきた方はそうですが、元BCG同士だと、(プロジェクトを共にした)パートナーが被っていたり、御立さん(元BCG日本代表の御立尚資氏)を知っているよという会話になったり。共通の話題ができることも多いです』、「コンサルタント時代の経験は、これまでの職務へどのように役立っていますか・・・一つ目に、構造化・論理力が鍛えられたこと・・・もう一つは、人前で話す場面が数多く経験できたこと・・・三つ目に、ネットワーキングも大きな財産です・・・アラムナイの関係性はすごく強いですね。仲間内で情報を共有することもありますし、基本的にサポートし合う文化があって、先輩からもすごく助けられてきました。 特に同時代に在籍してきた方はそうですが、元BCG同士だと、(プロジェクトを共にした)パートナーが被っていたり、御立さん(元BCG日本代表の御立尚資氏)を知っているよという会話になったり。共通の話題ができることも多いです」、なるほど。
・『Q:MonotaROに話を戻せば、国内でも既存の競合であるアスクルの他、アマゾンが「アマゾンビジネス」(事業者向けのECサイト)を拡大させるなど、競争環境が激化しています。どこに差別化要素を見いだしていますか。 充実した品ぞろえや、コンサルティングを含めた営業、サプライチェーンと利便性、そこに尽きると思っています。 アマゾンより当社が選ばれるのは、やはりBtoBに特化しているため見つけやすい。早く探せるなど、現場に支持されているところがあります。そこはより強くしつつ、他社からシェアを広げていく上で、切り替えていただくには何が必要なのかを、市場を分けながら考えたいと思っています。 Q:3月の春闘が迫る時期となっていますが、高成長を続ける企業の中では、相対的に平均年収が低いように見受けられます(22年12月期の従業員710人の平均年収は585万円)。 当社もインフレなどの状況に応じて、賃上げの検討を行っています。あとは在籍者の能力向上によって、というところですね。他の会社と比べ、どういった人材を採用しているかにもよりますが、当社は長く安心して働いていただいている方が多いように感じます。 私も外資系では年収が高かったわけですが、カルチャー的には少し違うかなとも思ったりしています。社員自体が成長や仕事に満足を感じる体系にはしていきたいなと思います。 Q:人員の規模が拡大する中で、組織マネジメントも難しさを増しそうです。社長の前任である鈴木雅哉氏は以前、ダイヤモンド編集部が行ったインタビューにおいて、社員の週報のほとんどに目を通していると話していました(『“工具のアマゾン”モノタロウに死角はないのか?鈴木社長が明かす「アマゾンよりも怖い敵」』参照)。 私も社員の週報は、部門長になった時から全て読んでいますよ。社長になるとかなり解像度が上がるし、何が起こっているのか分かるところもありますね。従業員が1000~2000人規模になった時にできるか難しくなってくる中で、どういう風に社員とコミュニケーションしていくかは考えています。やり方そのものは、鈴木の時から変えているわけではありません。 Q:鈴木前社長から受けた、印象的な言葉などはありますか。 A:ずっと一緒に仕事をして、いろいろなことを話しましたが…「感謝と謙虚の気持ちを忘れずに10年頑張れ」ということですね。鈴木が(創業者の)瀬戸(欣哉氏)から受け継ぎ、今回についても当社が10年単位で経営をアップデートしていく流れの一つといえます。 私は世の中でも若い社長になると思いますが、それは先代から続いたカルチャーでもありました(前任の鈴木氏は37歳で2代目社長に就任)。私の力だけではなく、この会社をどうしたいか、という中で引き継いできた。だからこそ感謝だし、作ってくれた仕組みを良くしていきたいところです。あとは、100年続く企業にしたいと二人で話してきました。 Q:鈴木氏から言われたように10年間社長を全うする場合、4~5年後に売上高を倍増させた後、現時点でどのような目標を置きたいと考えますか。 A:次の成長につなげることですね。基本的には、前任者が作った数字のトラック(足跡)を磨いていくのと、私は例えば(売上高)1兆円であるとか、その際は違うビジネスモデルになるかもしれませんが、そうした世界も目指していかなければならないと考えています』、「アマゾンより当社が選ばれるのは、やはりBtoBに特化しているため見つけやすい。早く探せるなど、現場に支持されているところがあります。そこはより強くしつつ、他社からシェアを広げていく上で、切り替えていただくには何が必要なのかを、市場を分けながら考えたいと思っています・・・私の力だけではなく、この会社をどうしたいか、という中で引き継いできた。だからこそ感謝だし、作ってくれた仕組みを良くしていきたいところです・・・次の成長につなげることですね。基本的には、前任者が作った数字のトラック(足跡)を磨いていくのと、私は例えば(売上高)1兆円であるとか、その際は違うビジネスモデルになるかもしれませんが、そうした世界も目指していかなければならないと考えています」、「田村」新社長もなかなか優秀そうだ。今後の活躍を期待したい。
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株式・為替相場(その20)(日本株は誰がなんと言おうと やっぱり暴落する コロナ後の「バブルのおかわり」は3回で終了だ、日経平均「最高値後」のシナリオは?日本株の行方を専門家6人が大展望!、日本株最高値を主導した「物価高・金融緩和・円安」スパイラルの“逆回転”リスク、TOPIXは最高値にまだ8%足りない…算出方法がもたらす日経平均株価の「ゆがみ」とは)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-02
株式・為替相場については、2月10日に取上げたばかりであるが、転換点が近づきつつある気配もあることから、(その20)(日本株は誰がなんと言おうと やっぱり暴落する コロナ後の「バブルのおかわり」は3回で終了だ、日経平均「最高値後」のシナリオは?日本株の行方を専門家6人が大展望!、日本株最高値を主導した「物価高・金融緩和・円安」スパイラルの“逆回転”リスク、TOPIXは最高値にまだ8%足りない…算出方法がもたらす日経平均株価の「ゆがみ」とは)である。先ずは、2月24日付け東洋経済オンラインが掲載した財務省出身で 慶應義塾大学大学院教授の小幡 績氏による「日本株は誰がなんと言おうと、やっぱり暴落する コロナ後の「バブルのおかわり」は3回で終了だ」を紹介しよう。・『「小幡の言うことはめちゃくちゃだ」 ほとんどの人はそう思っているようだが、私はまったく違うと思っている。それどころか、私の観察結果はつねに同じで、すべての現象が私の仮説を裏付けるものばかりだ』、いつも通り、自分の見立てには自信満々だ。・『「株式市場はバブルの真っただ中」にある この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています【2024年1月5日編集部追記】2024年1月1日、山崎元さんは逝去されました。心から哀悼の意を捧げ、ご冥福をお祈りします)。記事の一覧はこちら 「あのねえ、それを行動経済学では『確証バイアス』(自分の思い込みや願望を肯定する情報に注目し、否定する趣旨の情報を軽視しやすくなる心理)と言うんだよ、小幡くん」と言わそうだが、とんでもない。 客観的には、この数年の株式市場で起きている現象はすべて、ただ1つの事実を指し示している。「現在、株式市場はバブルの真っただ中だ」と。 私は2月17日土曜日の朝に、株価の見通しについて議論するテレビ番組に出席したが、プロフェッショナル2人を差し置いて、私の株価予想が一番高く、「3月8日までに日経平均株価4万円を必ず突破する」「1989年につけた過去の最高値3万8915円は、2月19日の月曜日にでもすぐ突破するか、あるいはその週の22日までには必ず突破する。もし突破すればその勢いで4万円も必ず突破する」などとコメントした。 一方、2月21日水曜日の朝7時過ぎのラジオ番組では、一転して「明日は大暴落するかもしれない」と発言した。 そもそも「明日大暴落す..
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2024-03-02T17:39:29+09:00
先ずは、2月24日付け東洋経済オンラインが掲載した財務省出身で 慶應義塾大学大学院教授の小幡 績氏による「日本株は誰がなんと言おうと、やっぱり暴落する コロナ後の「バブルのおかわり」は3回で終了だ」を紹介しよう。
・『「小幡の言うことはめちゃくちゃだ」 ほとんどの人はそう思っているようだが、私はまったく違うと思っている。それどころか、私の観察結果はつねに同じで、すべての現象が私の仮説を裏付けるものばかりだ』、いつも通り、自分の見立てには自信満々だ。
・『「株式市場はバブルの真っただ中」にある この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています【2024年1月5日編集部追記】2024年1月1日、山崎元さんは逝去されました。心から哀悼の意を捧げ、ご冥福をお祈りします)。記事の一覧はこちら 「あのねえ、それを行動経済学では『確証バイアス』(自分の思い込みや願望を肯定する情報に注目し、否定する趣旨の情報を軽視しやすくなる心理)と言うんだよ、小幡くん」と言わそうだが、とんでもない。 客観的には、この数年の株式市場で起きている現象はすべて、ただ1つの事実を指し示している。「現在、株式市場はバブルの真っただ中だ」と。 私は2月17日土曜日の朝に、株価の見通しについて議論するテレビ番組に出席したが、プロフェッショナル2人を差し置いて、私の株価予想が一番高く、「3月8日までに日経平均株価4万円を必ず突破する」「1989年につけた過去の最高値3万8915円は、2月19日の月曜日にでもすぐ突破するか、あるいはその週の22日までには必ず突破する。もし突破すればその勢いで4万円も必ず突破する」などとコメントした。 一方、2月21日水曜日の朝7時過ぎのラジオ番組では、一転して「明日は大暴落するかもしれない」と発言した。 そもそも「明日大暴落する」などと軽々に発言する人は、小幡しかこの世にいないわけで、それだけですでにクレージーであるが、「4万円は必ず行く」と言ったその4日後に「大暴落する」と正反対のことを言い切ってしまうのだから、どうかしている。そして、その断言は見事に外れ、いやそれどころかまさに正反対、22日の日経平均は前日比836円も の大幅上昇となり、日経平均3万8915円の史上最高値をあっさり更新してしまった。 しかし、だからこそ、私は「まごうことなきバブルであり、ほぼ頂点にある」という私の仮説に対するエビデンス(証拠)が次々にそろい続けていると思うのだ。) なぜか』、大胆な正反対の予測が2つとも外れても、強気でいられる理由は何なのだろう。
・『株がバブルであるという「5つの証拠」 第1に、乱高下を繰り返している。バブルの頂点付近であるからこそ、乱高下し、急騰し急落し、それを繰り返しながら最後に大暴騰するのだ。まさにバブルの頂点に典型的な動きを毎日続けている。 第2に、上がり方が急激である。わずか数十分で日経平均が簡単に200円以上も上がることさえある。バブルの頂点では、最後に急激に上がる。そして、崩壊するのである。最後はスピード違反が起きて、暴走し、それで崩壊するのだ。1月からスピード違反を続けているが、今、最後にとことん違反をして暴走し、クラッシュしようとしている。 第3に、取引高が急増している。バブルのピークでは売り買いが交錯し、また乱高下を利用して、トレーダーたちはとにかく売買を繰り返す。乱高下で値幅が大きくなったことを最大限活用し、荒く稼ごうとする。 第4に、先物主導である。さらにTOPIX(東証株価指数)ではなく、日経225先物に偏った動きである。「半導体株が主導している相場だから」と説明されるが、日経225先物が主導で、例えば19日の週は午前中に何度も3万8915円に挑むような動きをつくり、それに誰も乗ってこなくて、その後は失速し下げる、ということを繰り返していた。 2月22日の史上最高値更新も先物主導で上がっていき、午後に最高値付近で現物も張り付いて、高値を続けている。先物主導、日経225主導(TOPIXでなく)というのは、まさに投機的な動きのパターンである。 第5に、史上最高値更新だけが焦点になっている。株価のファンダメンタルズと無関係なことだけが注目されている。そして、実際、先物の動きがすべて従来の最高値3万8915円を中心に動いた。そこがターゲットになり、そこに近づける仕掛けがあり、そこから引き潮があり、翌日、また3万8915円にチャレンジする。 そして、22日にも何度も3万8915円を意識し、最後に突破してからは一気に上げる。つまり、理屈抜きに、史上最高値更新か否かだけが焦点になってせめぎ合いが行われた。これはバブル以外の何物でもない。) 解説を加えると、バブル末期には動きは激しくなる。まともな投資家、長期の投資家は、ここが売りタイミングかどうかは思案するが、売り切っておしまいである。買い戻すことはないし、ポートフォリオの入れ替えすらしない。じっと様子見するか、売る株数をじっくり判断するだけである。 つまり、大量に売買しているのは、短期トレーダーと投機家である。そして、異常に強気な短期投資家である。最後に、浮ついた個人である。すなわち、絶対的な株価水準などまったく気にしない取引者だけが残っているのである。あとは、異常に強気という誤った投資家と、狂った投資家だけである。 だから、まともな投資家は売るべきものは売りつくしている。売り手は存在せず、狂った買い手だけである。それゆえ株価は異常に高い水準であり、異常なスピードで上がっているときほど、ますます、とことん上がる。バブル崩壊直前の、断末魔ではなく、狂喜の叫びである。 だから、取引量も膨らむ。同じトレーダーがとことん繰り返し仕掛けて、売買し続けているのである。今はプログラムが大半だが、プログラム同士の仕掛け合い、せめぎ合い、だまし合いが行われているのである』、「株がバブルであるという「5つの証拠」」はいずれも説得力がある。「大量に売買しているのは、短期トレーダーと投機家である。そして、異常に強気な短期投資家である。最後に、浮ついた個人である。すなわち、絶対的な株価水準などまったく気にしない取引者だけが残っているのである。あとは、異常に強気という誤った投資家と、狂った投資家だけである。 だから、まともな投資家は売るべきものは売りつくしている。売り手は存在せず、狂った買い手だけである。それゆえ株価は異常に高い水準であり、異常なスピードで上がっているときほど、ますます、とことん上がる。バブル崩壊直前の、断末魔ではなく、狂喜の叫びである。 だから、取引量も膨らむ。同じトレーダーがとことん繰り返し仕掛けて、売買し続けているのである。今はプログラムが大半だが、プログラム同士の仕掛け合い、せめぎ合い、だまし合いが行われているのである」、捉え方は行動経済学者らしく、ダイナミックで、説得力がある。
・『皆が「ゲームの『降り時』」を見計らっている こういうゲームで重要なのは「降り時」である。いつ、このバブルゲームから撤退するか、というタイミングだけだ。 タイミングの根拠は、ほかのトレーダーの動きだけである。多数派の動きに同調し、その流れに乗って、かつ利用して儲ける。モメンタム(勢い)がついているときはとことんついていく。しかし、モメンタムが失われる前に、逃げ遅れないように、ほかのトレーダーより一瞬先に降りる。そのタイミングを計っている。 そうなると、株価が企業収益対比で割高か否かなどは関係ない。雰囲気に尽きる。 また、同時に、日柄(経過日数)が重要である。どのくらいの期間、熱狂が続いてきたか。これは、ある意味、体力、気力が持続する間の勝負だから、みな疲れてくる。そろそろ手じまいして、利益が熱いうちに降りたいと思い始める。しかし、とことん儲けたくもあるから、最後まで残っていたいことはいたい。しかし、疲れてきたら、そろそろ、ということである。 2月19~21日の3日間はそろそろ疲れが見えてきたのであり、世界中のトレーダーが注視しているアメリカの画像処理半導体最大手エヌビディアの決算発表(日本時間22日午前6時過ぎ)を待って、小休止していたのである。 私が、前出のように暴落すると考えたのは、この決算が予想を下回れば、当然いままで一気に上げてきたために、その反動が必然的に生じるからだ。この場合、決算が悪いということはありえない。期待が高すぎて、予想水準がかなり高く、良い決算だったが、高すぎる期待を上回ることはできなかった、という可能性だけがあった。) 一方、たとえ予想を上回っても、いわゆる好材料出尽くしとなる。つまり、好決算を待ち構えていて、実際に好決算だったら、よし、好決算で暴騰するに違いない今こそ売り時だ、絶好の売りタイミングだ、となって、みんな売ろうとする、というのが典型的なパターンである。 絶好の売りタイミングのはずが、全員が売れば、それは誰もうまく売ることができず、一斉の売り、つまり、暴落となる。私は、このどちらかのシナリオになると予想した。 この予想は、これ以上ないというくらい外れた。それは、エヌビディアの決算が、私のような思考をして、売ろうと待ち構えていた投資家たちの予想をさらに超える好決算だったからだ。 となると、「よっしゃ、もうひとヤマ」ということになる。バブルのピークにさらに、もう1つ最後のヤマ(あるいは山)が加わったのである。せっかく儲かるのに、ここでパーティーをしない理由はない。「一気に盛り上げろ―!」ということになる。 これはエヌビディアバブルのほうの話で、日経平均バブルのほうとして、「待ってました! 最後の3万8915円の突破エンジン、ターボジェット噴射の支援が届いたんだから、一気にイケ―――!」ということになったのである』、「エヌビディアの決算が、私のような思考をして、売ろうと待ち構えていた投資家たちの予想をさらに超える好決算だったからだ。 となると、「よっしゃ、もうひとヤマ」ということになる。バブルのピークにさらに、もう1つ最後のヤマ(あるいは山)が加わったのである。せっかく儲かるのに、ここでパーティーをしない理由はない。「一気に盛り上げろ―!」ということになる」、「日経平均バブルのほうとして、「待ってました! 最後の3万8915円の突破エンジン、ターボジェット噴射の支援が届いたんだから、一気にイケ―――!」ということになった」、なるほど。
・『「3回目のアンコール」後、幕が下りるのはいつなのか つまり、世界株式市場は、完全にバブル崩壊になったはずのコロナショックから、「おまけバブル」が3回もあった。 すなわち、コロナ支援金バブルという「おまけバブルその1」、アメリカの中央銀行であるFEDの利下げを勝手に期待する、金融政策プットオプションバブルという「おまけバブルその2」、そしてAI(人工知能)、半導体バブル、あるいは「マグニフィセント6」(7と言われているが、テスラを除くので6)バブル、あるいは直接的にはエヌビディアバブルという「おまけバブルその3」である。 つまり「バブルのおかわり」を要求する投資家たちに応えた、バブルのアンコールを3回も繰り返した。コンサートではアンコールは2回まで、例外があるとしても3回までだ。4回目はない。ありえないと思われたこの3回目のアンコールのあと、幕は下りるのである。 私はサブシナリオとして、早ければ週明けの26日の月曜日は材料出尽くしで暴落が来る可能性が若干あるとみているが、メインシナリオはこの勢いで26日以降、早々と4万円台を突破し、その後、乱高下を続け、3月8日のいわゆるメジャーSQ(先物とオプション取引が同時に清算を迎える日)、この日に最後の幕が下りると考える。つまり、大暴落が起きる、ということである。 この2つのシナリオ(おそらく26日暴落説はすぐにまた外れることが判明するだろうが)が短期的に実現するかどうかよりも、私にとって重要なのは、これがバブルであり(それは間違いのない事実であるが)、しかもそれがまさに頂点に達しているという仮説が正しいかどうか、である。 バブルの頂点がいつかというのは、見かけ以上に難しく、ほとんど誰も当てることができない。あのアイザック・ニュートン(1642~1727)でさえも、欧州を中心に起きた「南海泡沫バブル」(まさにバブルバブルだ)で失敗した。 簡単に言えば、「もうバブルのピークだ」と自信をもって売って大儲けしたあと、さらにバブルが続き、売ってから約2倍になってしまったので、後悔して買い戻したが、そこが実際のピークで、買い戻した瞬間にバブルが崩壊したのである。これがまさに典型的なバブルである。 ということは、賢明な読者はお気づきと思うが、いちばん可能性の高いシナリオは、小幡が降参して、「バブルは当分崩壊しない」という記事を「東洋経済オンライン」などに書いた直後に暴落する、というものだ。”Stay tuned”.(乞うご期待)。 (本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者が競馬論や週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)』、「これがバブルであり(それは間違いのない事実であるが)、しかもそれがまさに頂点に達しているという仮説が正しいかどうか、である。 バブルの頂点がいつかというのは、見かけ以上に難しく、ほとんど誰も当てることができない・・・いちばん可能性の高いシナリオは、小幡が降参して、「バブルは当分崩壊しない」という記事を「東洋経済オンライン」などに書いた直後に暴落する、というものだ」、「小幡」氏のご託宣は、悲観的なようだ。
次に、2月26日付けダイヤモンド・オンライン「日経平均「最高値後」のシナリオは?日本株の行方を専門家6人が大展望!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339343
・『『週刊ダイヤモンド』3月2日号の第1特集は「高成長&高配当 新NISAで狙う強い日本株」です。ついに日経平均株価が「史上最高値」を超え、新次元に突入中です。そこで、日本株相場の行方について専門家6人に緊急アンケートを行い、株高の背景や想定シナリオなどを読み解きました』、興味深そうだ。
・『日経平均がついに最高値更新 専門家が今後のシナリオ大展望! 日本株が、かつてなく動意付いている。年初から上げ相場が続き、日経平均株価は連日のようにバブル後最高値を更新。そして2月22日の東京株式市場では、前日比836円52銭高の3万9098円68銭で取引を終え、ついに1989年末の史上最高値(3万8915円87銭)を超えるに至った。 (図表:過去50年の日経平均株価の推移 はリンク先参照) ダイヤモンド編集部では、日本株の上昇相場が続く中で、2月中旬に専門家6人への緊急アンケートを実施。日本株上昇の背景、今後の見通しなどを回答してもらった。 すると、2024年末時点の日経平均の予想は4万3000~3万3000円となった。回答内で市場関係者の想定するシナリオにほぼ共通するのは、最高値更新があくまでも通過点との見立てだ。 (図表:専門家6人が日本株の行方を大展望 はリンク先参照) 年内の高値想定を4万5000円としたシティグループ証券の阪上亮太株式ストラテジストは、2月15日付のレポートにおいて、従来の予想を上方修正。「日本株の基調は想定以上に強い」として、堅調な米国の経済や株式市場、日本株への資金フローの強さなどを理由に、「強気スタンスの維持が妥当」と指摘した。 そもそもなぜ、これだけ日本株が上がっているのか。複数の専門家から寄せられた回答が、「インフレ」というキーワードだ。 阪上氏と同様、24年末日経平均を4万3000円と予想するマネックス証券の広木隆チーフ・ストラテジストは、「長らく日本経済をむしばんできたデフレが終焉し、マイルドなインフレが定着しつつある」と指摘。これにより「値上げが通りやすくなり、企業が原価を適切に価格に反映し利益を上げやすい構造になってきた。直近で一巡した企業の決算発表を見ても、値上げによる好業績の事例は非常に多い」とみる。 その上で、インフレを含め、七つの要因が日本株を押し上げてきたと分析する。 それは、(1)デフレからインフレへの転換、(2)日本型企業経営の変革(=グローバルスタンダードな資本市場へ)、(3)この点を評価した海外投資家の買い、(4)中国からの資金シフト、(5)米国株の最高値更新、(6)日本の金融緩和の継続観測とそれを背景とした円安、(7)好調な企業業績である。 「これだけ並ぶ要因を眺めれば、日本株の上昇は至極、当然と受け止められるだろう」(広木氏)というわけだ』、「七つの要因が日本株を押し上げてきたと分析」は説得力がある。
・『2024年始動の「新NISA」が日本株への関心を後押し そして、日本株への関心を大きく高めたのが、今年から大幅に非課税枠が拡充されたNISA(少額投資非課税制度)である。 ところで、「バブル後最高値」更新といったニュースを聞くと、足元の日本株もバブルではないかと気になる向きもあるだろう。この点は、市場関係者が異口同音にそうではないとの見方を示す。 何しろ、89年前後のバブル期は、株価が割安か割高か示す代表的な指標である株価収益率(PER)が上場企業平均で60~70倍にも上り、世界の株式市場でも前例のないほど過大に評価されていた。一方、直近の日経平均は16倍前後で推移する。 確かに「来期の日本株市場(TOPIX)は7%程度の増益予想で、昨年からの株価急上昇は明らかに過大評価」(智剣・Oskarグループの大川智宏主席ストラテジスト)との声はあるが、バブルとまで言い切る市場関係者はほとんど見当たらない。 ただ下期にかけてのリスク要因として、米中の景気下振れや、米利下げに伴う円高などへの警戒感は聞かれる。 日本株を巡っては、著名外資系証券のゴールドマン・サックスも強気の姿勢を示している。同社は今、TOPIXを「オーバーウェイト」とし、米国の代表的な株価指数、S&P500より上振れに期待できるとみている』、「直近の日経平均は16倍前後で推移する。 確かに「来期の日本株市場(TOPIX)は7%程度の増益予想で、昨年からの株価急上昇は明らかに過大評価」(智剣・Oskarグループの大川智宏主席ストラテジスト)との声はあるが、バブルとまで言い切る市場関係者はほとんど見当たらない。ただ下期にかけてのリスク要因として、米中の景気下振れや、米利下げに伴う円高などへの警戒感は聞かれる」、なるほど。
・『「最高値更新」は通過点 新NISAで日本株投資に挑む 『週刊ダイヤモンド』3月2日号の第1特集は「高成長&高配当 新NISAで狙う強い日本株」です。日経平均株価が2月22日、ついに史上最高値を更新しました。ただ専門家の間では、これが通過点に過ぎず、日本株にはかつてなく強気論が高まっています。 そこで本特集のPART1では、新次元に突入した日本株の展望を踏まえ、まだまだ間に合う「新NISA」活用術を徹底指南。陥りがちな「8つの落とし穴」、さらにはすご腕投資家たちの鼎談を通じて、あなたが投資に挑む上での虎の巻を伝授します。 PART2では、成長期待の高いよりすぐりの大型成長株ランキングを大公開します。その上で、大注目の半導体、不動産やゲーム、ITベンダーなど、有望各社の「高成長の仕組み」を解剖。トップアナリストの見解などを基に、優良株の強さの秘密を明らかにします。 さらに、PART3では、新NISAで大人気の「高配当株」関連のランキングを充実化。中長期で狙える「骨太テーマ&注目株」から、今は低PBR(株価純資産倍率)ですが伸びしろ抜群の中小型株、成長性が高い一方で還元姿勢もふんだんの「株主還元全振り系」銘柄に至るまで、多彩な視点で「強い株」を炙り出しました。 新NISAで挑む日本株投資の虎の巻として、大いに活用してもらえれば幸いです』、「専門家の間では、これが通過点に過ぎず、日本株にはかつてなく強気論が高まっています」、なんとなく強気ムードの終焉という気もしなでもない。
第三に、2月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミストの木内登英誌による「日本株最高値を主導した「物価高・金融緩和・円安」スパイラルの“逆回転”リスク」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339476
・『日経平均株価がバブル期から約34年ぶりに史上最高値を更新したのは実体経済の反映ではなく「物価高」「金融緩和」「円安」の循環と相乗効果によるものだ。日銀のマイナス金利解除や米国景気減速を機にスパイラルは逆回転するリスクがあり、高値更新に浮かれている場合ではない。緊急特集『日経平均株価「最高値」の虚実』の#5では、野村総研エグゼクティブエコノミストの木内登英氏の寄稿をお届けする』、「日銀のマイナス金利解除や米国景気減速を機にスパイラルは逆回転するリスクがあり、高値更新に浮かれている場合ではない」、さすが元日銀審議委員だけあって慎重な見方だ。
・『22日に続き26日も最高値更新 生活実感から乖離した水膨れの株高 日経平均株価は、2月22日、3万9098円68銭(終値)を付け、1989年12月29日に付けたこれまでの最高値(3万8915円87銭)を上回った。 週明けの26日も続伸して3万9233円71銭(終値)まで上昇し2営業日連続で最高値更新になった。 しかしバブル期と同じ株価水準といっても、多くの個人にはその実感は乏しいのではないか。 足元の経済状況は悪化している。2023年10~12月期の実質GDPは、前期比年率-0.4%と2四半期連続で減少した。マイナス成長は24年に入っても続いている可能性が考えられる。物価高の強い逆風にさらされている個人消費はとりわけ弱い。 こうした経済状況とバブル期の史上最高値を上回った株価の動きとの間には大きなズレがある。個人にとっては、まさに「実感なき株高」だ。 重要なのは、足元の株価上昇は、日本経済や企業の成長力向上、生活水準の向上をもたらす労働生産性上昇、国際競争力向上といった「実質値」の改善を背景にしているとは考えられない点だ。 株高を支えているのは物価高という「名目値」によるものであり、水膨れの株高ともいえる。 さらに、歴史的なインフレ下でも続く異例の金融緩和も、実質金利(名目金利-期待インフレ率)の低下と円安の双方を通じて株高を強く後押ししている。株高現象は、名目値の水膨れとともに金融現象による金融相場の複合の様相だ。 高値更新に浮かれている場合ではないのではないか』、「株高現象は、名目値の水膨れとともに金融現象による金融相場の複合の様相だ。 高値更新に浮かれている場合ではないのではないか」、その通りだ。
・『「株高の第1の構図」は実質賃金の低下と企業収益の拡大 足元の株高は、「物価高」、「金融緩和」、「円安」の3要因間での循環、相乗効果によって成り立っていると考えられる。 それぞれについて、より詳細に見てみよう。 2022年以降、コアCPI(消費者物価、除く生鮮食品)の前年比上昇率は、第2次オイルショック直後の1980年代初頭以来、ほぼ40年ぶりの高い水準で推移してきた。海外での食料やエネルギー価格の上昇と円安による輸入インフレの色彩が強かったが、企業が輸入原材料価格の高騰分を製品価格に転嫁していく中、消費者物価上昇率も高まっていった。 他方で、賃金上昇率は物価上昇率に追い付いていない。厚生労働省が発表している直近23年12月の実質賃金は、前年同月比-1.9%と大幅下落し、実質賃金のマイナスは21カ月続いている。 今年の春闘は昨年を上回る高い賃上げ率が見込まれているが、賃金上昇率が予想以上に上振れても、年内に実質賃金上昇率がプラスに転じる可能性は低い。 日本では、物価が下落しても企業はベースアップ(基本給引き上げ)を引き下げることが難しいことから、一時的に物価上昇率が高まる局面では、ベースアップ率を物価上昇率以下に抑えることで、中長期的に物価上昇率と賃金上昇率のバランスを取る傾向が強い。その結果、実質賃金が下がり続けているのが現状だ。 実質賃金が低下することは、個人の生活水準が悪化を続けることを意味する。そして所得の分配は企業側に偏り、企業の収益は逆に拡大するのだ。その結果、株価は上昇し、個人の生活実感との間でギャップが広がることになる。これが現在の「株高の第1の構図」だ』、「実質賃金が低下することは、個人の生活水準が悪化を続けることを意味する。そして所得の分配は企業側に偏り、企業の収益は逆に拡大するのだ。その結果、株価は上昇し、個人の生活実感との間でギャップが広がることになる。これが現在の「株高の第1の構図」だ」、なるほど。
・『物価高騰下での金融緩和 円安進行による相乗効果 他方、歴史的な物価高騰の下でも、日本銀行は異例の大規模金融緩和を維持してきた。その結果、企業・家計や金融市場の中長期のインフレ期待(予想物価上昇率)は上振れている。 日銀は、中長期のインフレ期待を安定させるという中央銀行の役割を十分に果たせず、ビハインド・ザ・カーブ(後手に回る)の状態に陥ってしまっている。その結果、実質金利(名目金利-インフレ期待)は顕著に低下したとみられる。金融緩和の効果が、事実上、強化されている状況だ。 実質金利の低下は、通常は景気を刺激すると考えられるが、その影響は実際には明確に見られていない。2四半期連続での実質GDPのマイナス成長にも表れているように、足元の経済は低迷している。 他方で実質金利の低下は、資産価格の押し上げには効果を発揮しているように見える。これが「株高の第2の構図」だ。 さらに、この実質金利の低下は、株式以外にも金融市場に大きな影響を与える。それは、円安の流れを強く後押ししていることだ。円安は輸出企業の収益を拡大させることで株価全体を押し上げる。また、円安によって海外投資家にとって日本株が割安となり、それが日本株への投資を促すことでも株高要因となっている。これが「株高の第3の構図」である』、「実質金利の低下は、通常は景気を刺激すると考えられるが、その影響は実際には明確に見られていない。2四半期連続での実質GDPのマイナス成長にも表れているように、足元の経済は低迷している。 他方で実質金利の低下は、資産価格の押し上げには効果を発揮しているように見える。これが「株高の第2の構図」だ・・・この実質金利の低下は、株式以外にも金融市場に大きな影響を与える。それは、円安の流れを強く後押ししていることだ。円安は輸出企業の収益を拡大させることで株価全体を押し上げる。また、円安によって海外投資家にとって日本株が割安となり、それが日本株への投資を促すことでも株高要因となっている。これが「株高の第3の構図」である」、なるほど。
・『株高支える3要因は持続的でない 物価上昇率鈍化でインフレ期待は低下へ 歴史的な物価高騰は金融緩和の実質的な効果を高め、それは円安を促す。そして円安は物価高をもたらす。そうして「物価高」「金融緩和」「円安」の3つが相乗的に進む中、それぞれが株価を大きく押し上げているのだ。 しかし、株高を支えるこれら3つの要因は、持続的なものとはいえないだろう。 コアCPIの上昇率は過去1年間、明確な低下傾向をたどっており、今年の後半には前年比で+1%台が定着することが予想される。日銀が指摘するように、賃金上昇がサービス価格に転嫁されることで、より持続的な物価上昇につながっていくとの見方も後退していくだろう。 そうして中長期のインフレ期待が低下すれば、企業の収益期待は弱まる一方、実質金利は上昇する。それらは、円安の修正を伴う形で株式市場への逆風になるだろう』、「歴史的な物価高騰は金融緩和の実質的な効果を高め、それは円安を促す。そして円安は物価高をもたらす。そうして「物価高」「金融緩和」「円安」の3つが相乗的に進む中、それぞれが株価を大きく押し上げているのだ。 しかし、株高を支えるこれら3つの要因は、持続的なものとはいえないだろう・・・中長期のインフレ期待が低下すれば、企業の収益期待は弱まる一方、実質金利は上昇する。それらは、円安の修正を伴う形で株式市場への逆風になるだろう」、なるほど。
・『マイナス金利政策解除は円高要因に 実質金利上昇させ株式市場に逆風 さらに日本銀行は、早ければ3月にもマイナス金利政策の解除に踏み切ることが考えられる。それは、実質金利を上昇させ、円安・株高の流れに水を差すだろう。 日銀は、マイナス金利政策解除後も、当面は、政策金利はゼロ近傍の低水準が続くとの見通しを示している。しかし、2%の物価目標の達成を前提にマイナス金利政策の解除に踏み切るのであれば、政策金利をゼロ近傍の低水準に据え置くことは論理的におかしい。 2%の物価目標の達成とは、この先、物価上昇率や中長期のインフレ期待が2%程度で安定的に推移することを意味する。そうした経済状況の下で、政策金利をゼロ近傍に据え置くことは、2%の物価目標の達成後に実質-2%程度の「超緩和」政策を続けることになってしまう。 日銀がそうした政策を続けるとの観測が、足元での急速な円安・株高を生じさせている面がある。 日銀がこうした説明をするのには、政策変更が長期金利の大幅上昇など金融市場の過剰な反応を引き起こさないようにする狙いがあるのだろう。しかし、説明の矛盾を突いて、金融市場の一部で、マイナス金利政策解除後に、日銀は比較的早期に金融政策を中立状態に戻していくとの観測が浮上する可能性も考えられる。そうなれば、長期金利の上昇や急速な円の巻き脅しを生じさせ、株式市場に逆風になる』、「2%の物価目標の達成とは、この先、物価上昇率や中長期のインフレ期待が2%程度で安定的に推移することを意味する。そうした経済状況の下で、政策金利をゼロ近傍に据え置くことは、2%の物価目標の達成後に実質-2%程度の「超緩和」政策を続けることになってしまう。 日銀がそうした政策を続けるとの観測が、足元での急速な円安・株高を生じさせている面がある」、なるほど。
・『米国経済のソフトランディング期待は 修正の可能性。景気減速となれば円高に 円安を支える要因は米国にもある。米国でインフレ率が低下する中、FRB(米連邦準備制度理事会)は、小幅な利下げに踏み切るとの観測が金融市場に強い。ただし、これは予防的な措置であり、米国経済の堅調は続くとの見方が市場では多数だ。経済が堅調を維持する中、金利が低下するというのは、米国株にとってまさにベストシナリオではある。それが世界経済・金融市場の楽観論を支え、リスクテイクの円安と日本株高の流れを促している面もある。 しかし、歴史的な高インフレとそれを受けた大幅な利上げの下、米国経済が安定を維持するというのは、過去の事例から考えても起こりにくいことではないか。 いずれ景気減速の兆候が広がれば、米国株が調整し、その影響は日本株にも及ぶ。FRBが予想以上の大幅な利下げに踏み切るのではという観測が強まれば一転して円高ドル安の流れになるだろう』、「いずれ景気減速の兆候が広がれば、米国株が調整し、その影響は日本株にも及ぶ。FRBが予想以上の大幅な利下げに踏み切るのではという観測が強まれば一転して円高ドル安の流れになるだろう」、なるほど。
・『高値更新に浮かれる場合ではない 実体経済とのギャップを埋める努力を 「物価高」「金融緩和」「円安」の循環は、今までは強力に日本株を押し上げてきたが、それがひとたび逆回転を始めれば、今度は日本株への強い逆風になる。その転換点を正確に予測するのは難しいが、日本銀行が早ければ3月にもマイナス金利政策を解除すると予想されている中で、その転換点はそれほど先のことではないかもしれない。 これまで述べたように、足元の株高と実体経済との間にはギャップがある。実体経済を改善させることで、両者のギャップを埋めるような努力もすべきではないか。企業が引き続き資本効率の向上などに努めることが求められるのは当然だが、働き手も、リスキリング(学び直し)などを通じて、技能を磨き、労働生産性向上に努めることが必要だ。 政府も、労働市場改革や少子化対策、外国人労働力の活用、インバウンド需要の拡大、大都市一極集中の是正などの成長戦略を推進することで、労働生産性上昇率や潜在成長率を上げる取り組みが求められる。 株価の上昇に浮かれることなく、今こそ、こうした企業、個人、政府の地道な努力を進めるべきだろう』、「「物価高」「金融緩和」「円安」の循環は、今までは強力に日本株を押し上げてきたが、それがひとたび逆回転を始めれば、今度は日本株への強い逆風になる。その転換点を正確に予測するのは難しいが、日本銀行が早ければ3月にもマイナス金利政策を解除すると予想されている中で、その転換点はそれほど先のことではないかもしれない・・・足元の株高と実体経済との間にはギャップがある。実体経済を改善させることで、両者のギャップを埋めるような努力もすべきではないか。企業が引き続き資本効率の向上などに努めることが求められるのは当然だが、働き手も、リスキリング(学び直し)などを通じて、技能を磨き、労働生産性向上に努めることが必要だ。 政府も、労働市場改革や少子化対策、外国人労働力の活用、インバウンド需要の拡大、大都市一極集中の是正などの成長戦略を推進することで、労働生産性上昇率や潜在成長率を上げる取り組みが求められる。 株価の上昇に浮かれることなく、今こそ、こうした企業、個人、政府の地道な努力を進めるべきだろう」、同感である。
第三に、3月2日付けダイヤモンド・オンライン「TOPIXは最高値にまだ8%足りない…算出方法がもたらす日経平均株価の「ゆがみ」とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339740
・『日経平均株価と並ぶ日本株の代表的指標であるTOPIX(東証株価指数)は、いまだに最高値を更新していない。その原因を探っていくと、指数の算出方法における日経平均の“ゆがみ”が浮かび上がる。緊急特集『日経平均株価「最高値」の虚実』の#9では、そのゆがみの構造を解説する』、興味深そうだ。
・『昨年末からの上昇率も日経平均より低いTOPIX 日経平均株価(以下、日経平均)とTOPIX(東証株価指数)。言うまでもなく両者は日本株を代表する株価指数である。2月22日に日経平均は史上最高値を更新したものの、TOPIXはいまだ最高値を更新していない。 TOPIXの最高値は1989年12月18日に付けた2884.80だ。2月22日の終値は2660.71なので、最高値更新まではあと8%強の上昇が必要である。 2023年末から2月22日までの上昇率を比較しても、日経平均の方が高い。日経平均が16.8%上昇したのに対し、TOPIXの同期間の上昇率は12.4%にとどまる。(図表:日経平均株価とTOPIXの上昇度の推移 はリンク先参照) なぜ、二つの指数の間に格差が生じるのか。 225銘柄しか対象としていない日経平均に対して、旧東京証券取引所1部銘柄、プライム市場銘柄を対象に2000以上の銘柄を対象とするTOPIX。構成銘柄の違いはもちろん、格差の理由の一つだが、実は算出方法に違いが大きく影響している。 これが原因となって日経平均の“ゆがみ”を生んでおり、一部企業の株価動向に影響されやすいという指標の妥当性に疑問符を付けている。 次ページ以降、“ゆがみ”を生む日経平均の構造をTOPIXと比較しながら解説してゆく』、「25銘柄しか対象としていない日経平均に対して、旧東京証券取引所1部銘柄、プライム市場銘柄を対象に2000以上の銘柄を対象とするTOPIX。構成銘柄の違いはもちろん、格差の理由の一つだが、実は算出方法に違いが大きく影響している」、なるほど。
・『ウエイト3割占める日経平均上位4銘柄 TOPXでののウエイトはたった4% 日経平均の算出方法は「単純平均」だ。ざっくり説明すると、対象となる銘柄(225社)の株価を合計し、企業数で割った値だ。実際には旧額面の高低による格差を解消するため、銘柄ごとに決められた係数を掛けて株価合計を算出する。割る数も225と一定ではなく、銘柄入れ替え、株式分割などの影響を調整した除数を使う。 簡単な例で考えてみよう。株価が100円、1000円、400円だったとする。単純平均だから、平均は(100円+1000円+400円=)1500円÷3で500円となる。ここでの銘柄ごとのウエイトはそれぞれの株価を1500円で割って求めた6.7%、66.7%、26.7%となる。 ウエイトの高い銘柄の動きが平均を大きく動かす。100円の株価が10%値上がりして110円になると、平均は値上がり分の10円÷3=3.3円上昇する。1000円の株価が10%値上がりして1100円になると、平均は100円÷3=33.3円値上がりする。 このように企業価値である時価総額に関係なく、株価の高い銘柄の動きが平均に大きく影響する。この算出方法のせいで、株価の額面水準が高い銘柄の、日経平均への影響力が高くなる。時価総額の大きい企業よりも、値がさ株の動向に指数全体が左右されてしまうのだ。 これに対し、TOPIXは浮動株を対象とした時価総額に基づく「加重平均」である。個別銘柄の株価水準の高低が、直接には指数に占めるウエイトに影響しない。 先ほどの例で、100円の株価の会社の株式数が100株、1000円の株価の会社の株式数が10株、400円の株価の会社の株式数が25株だとすると、株価と株式数を掛けて求められる時価総額は全て1万円となる。時価総額の合計は3万円だ。銘柄ごとのウエイトは、3銘柄とも1万円を3万円で割った同じ33.3%となる。 だから、どの銘柄が10%値上がりしても、時価総額の増加額は1000円であり、3万1000円÷3万円=1.03333……となるので、指数の上昇率は3.3%となる。このようにTOPIXのような加重平均の指数では、その値動きは個別の銘柄の株価の水準の違いに影響されない。 上記は説明のために、極端な例を挙げたが、実際に、日経平均とTOPIXでの個別銘柄のウエイトの違いを見てみよう。 日経平均プロフィルに基づいて、現在のウエイト上位10銘柄を挙げたのが下表だ(2月22日時点)。 (図表:日経平均株価ウエイト上位10位銘柄 はリンク先参照) ファーストリテイリング、東京エレクトロン、アドバンテスト、ソフトバンクグループの上位4銘柄のウエイト合計は29.74%と3割近い。 この4銘柄が10%値上がりすれば、それだけで日経平均を3%弱ほど押し上げる計算になる。そして、この4銘柄の23年末からの上昇率は全て2割を超えている。 半導体関連株が買いを集める中で値を上げた東京エレクトロン、アドバンテストに至っては40%以上である。4割弱の上昇率のソフトバンクグループも傘下に英半導体設計の子会社アーム・ホールディングスを保有しており、半導体関連株の一角である。 一方、この4銘柄のTOPIXでのウエイト合計比率は4.29%である。また、日経平均採用銘柄内で、TOPIXと同様に時価総額を考慮してウエイトを算出しても4銘柄の合計は5.63%にすぎない。 逆に、東証で時価総額トップのトヨタ自動車のTOPIXでのウエイトは5.12%なのに対し、日経平均では1.5%しかない。 昨年来、米国の利下げ期待が高まるたびに、半導体関連を中止としたテック株が買われた。そこにAI(人工知能)ブームが拍車を掛けた。日経平均の最高値更新の直接のきっかけとなった、市場予想を上回る決算を発表した米エヌビディアが代表例だ。日本市場でも米国市場に合わせる形で半導体関連株が値を上げてきた。 そして、半導体関連株には日経平均に占めるウエイトの高い値がさ株が多い。それ故、日経平均の上昇率がTOPIXを上回っているのだ。もちろん、日経平均に占めるウエイトの高い銘柄の下落率が大きい場合には、TOPIXより日経平均の方が下落率は高くなる。 このように一部の銘柄の影響が大きく出やすい単純平均である日経平均の算出方法には“ゆがみ”があるといえる。 算出開始が50年9月(指数自体は49年5月の東証再開時にさかのぼって算出)である日経平均に対し、TOPIXの誕生は68年1月と遅い。また、「○万○○○○円」というふうに、なじみやすい通貨単位の円で示される日経平均に対し、ポイント制のTOPIXはとっつきにくさを感じさせる。 それ故、日経平均が日本株の代表的指標の一番手として長年君臨してきた。しかし、市場全体の動きを捉えるには、時価総額ベースの加重平均であるTOPIXの方が適している。 一部の銘柄の影響が大きく出やすい日経平均だけを見ていては、日本経済の実態も“ゆがんで”見えてしまうだろう』、「ファーストリテイリング、東京エレクトロン、アドバンテスト、ソフトバンクグループの上位4銘柄のウエイト合計は29.74%と3割近い・・・この4銘柄のTOPIXでのウエイト合計比率は4.29%である・・・「日経平均」は「株価の額面水準が高い銘柄の影響力が高くなる。時価総額の大きい企業よりも、値がさ株の動向に指数全体が左右されてしまうのだ。 これに対し、TOPIXは浮動株を対象とした時価総額に基づく「加重平均」である。個別銘柄の株価水準の高低が、直接には指数に占めるウエイトに影響しない・・・市場全体の動きを捉えるには、時価総額ベースの加重平均であるTOPIXの方が適している。 一部の銘柄の影響が大きく出やすい日経平均だけを見ていては、日本経済の実態も“ゆがんで”見えてしまうだろう」、大いに参考になった。
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物流問題(その9)(ヤマト「配達員2.5万人契約終了」の大改革も すでに佐川と“明暗くっきり”のワケ、物も人も動かない… 「ドライバーが消える日」 トラック タクシー バスは深刻な人手不足だ)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-03-01
物流問題については、2021年9月17日に取上げた。今日は、(その9)(ヤマト「配達員2.5万人契約終了」の大改革も すでに佐川と“明暗くっきり”のワケ、物も人も動かない… 「ドライバーが消える日」 トラック タクシー バスは深刻な人手不足だ)である。先ずは、本年2月21日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した中京大学国際学部・同大学院経営学研究科教授の矢部謙介氏による「ヤマト「配達員2.5万人契約終了」の大改革も、すでに佐川と“明暗くっきり”のワケ」を紹介しよう。https://diamond.jp/articles/-/338982・『働き方改革に伴う「2024年問題」が懸念される物流業界。宅配大手のヤマト運輸、佐川急便はそれぞれ運賃の値上げに踏み切る。では、両社の業績はどのような状況にあるのか。それぞれの持ち株会社の決算書をひもとくと、両社には「大きな差」が生まれていることが分かる。 働き方改革に伴う「2024年問題」が懸念される物流業界。宅配大手のヤマト運輸、佐川急便はそれぞれ運賃の値上げに踏み切る。では、両社の業績はどのような状況にあるのか。それぞれの持ち株会社の決算書をひもとくと、両社には「大きな差」が生まれていることが分かる』、興味深そうだ。・『「2024年問題」を控える物流業界 ここ10年間でヤマトと佐川に「大差」のワケとは? 働き方改革に伴う残業時間の規制により人手不足が懸念される、いわゆる「2024年問題」の到来を控えている物流業界。ともに宅配便大手の、ヤマト運輸を傘下に抱えるヤマトホールディングス(以下、ヤマトHD)と、佐川急便を持つSGホールディングス(以下、SGHD)が、相次いで値上げや構造改革に動いている。 ヤマトHDは、2024年4月1日から宅急便の届け出運賃を約2%値上げすることを発表。SGHDも、24年4月1日から宅配便の届け出運賃を平均で7%程度値上げすると発表している。 また、ヤマトHDでは23年6月に発表した日本郵政グループとの協業を踏まえて、これまで自社で行っていたクロネコDM便などの配送を日本郵便に移管。それに伴って、配達委託契約を結んでいた個人事業主(クロネコメイト)との契約を終了したと、24年2月1日に発表した。その人数は約2万5000人に上るという。 SGHDは、それに先んじて21年9月に日本郵便との提携を発表しており、小型宅配荷物の輸送や国際荷物の輸送、クール..
産業動向
tr232238
2024-03-01T19:30:18+09:00
先ずは、本年2月21日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した中京大学国際学部・同大学院経営学研究科教授の矢部謙介氏による「ヤマト「配達員2.5万人契約終了」の大改革も、すでに佐川と“明暗くっきり”のワケ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/338982
・『働き方改革に伴う「2024年問題」が懸念される物流業界。宅配大手のヤマト運輸、佐川急便はそれぞれ運賃の値上げに踏み切る。では、両社の業績はどのような状況にあるのか。それぞれの持ち株会社の決算書をひもとくと、両社には「大きな差」が生まれていることが分かる。 働き方改革に伴う「2024年問題」が懸念される物流業界。宅配大手のヤマト運輸、佐川急便はそれぞれ運賃の値上げに踏み切る。では、両社の業績はどのような状況にあるのか。それぞれの持ち株会社の決算書をひもとくと、両社には「大きな差」が生まれていることが分かる』、興味深そうだ。
・『「2024年問題」を控える物流業界 ここ10年間でヤマトと佐川に「大差」のワケとは? 働き方改革に伴う残業時間の規制により人手不足が懸念される、いわゆる「2024年問題」の到来を控えている物流業界。ともに宅配便大手の、ヤマト運輸を傘下に抱えるヤマトホールディングス(以下、ヤマトHD)と、佐川急便を持つSGホールディングス(以下、SGHD)が、相次いで値上げや構造改革に動いている。 ヤマトHDは、2024年4月1日から宅急便の届け出運賃を約2%値上げすることを発表。SGHDも、24年4月1日から宅配便の届け出運賃を平均で7%程度値上げすると発表している。 また、ヤマトHDでは23年6月に発表した日本郵政グループとの協業を踏まえて、これまで自社で行っていたクロネコDM便などの配送を日本郵便に移管。それに伴って、配達委託契約を結んでいた個人事業主(クロネコメイト)との契約を終了したと、24年2月1日に発表した。その人数は約2万5000人に上るという。 SGHDは、それに先んじて21年9月に日本郵便との提携を発表しており、小型宅配荷物の輸送や国際荷物の輸送、クール宅配便事業などでの協業を行っている。また、22年3月からは幹線輸送を2社共同で行うなど、協業の取り組みを深めてもいる。 物流業界では、働き方改革関連法により24年4月からドライバーの時間外労働時間の上限が制限されることで、輸送能力の不足や輸送コストの上昇などが見込まれる。 ヤマトHDやSGHDの値上げや構造改革は、こうした問題に対応して採算性を向上させるための打ち手であると見ることができる。一方で、実はここ約10年の間にヤマトHDとSGHDの決算書には、大きな差がついてきている。 今回は、なぜ両社の決算に大差がついたのかを見ていくことにしよう』、「今回は、なぜ両社の決算に大差がついたのかを見ていくことにしよう」、楽しみだ。
・『ヤマトHDの決算書を図解 原価率が高い物流業界 ヤマトHDの決算書から見ていく。以下の図は、ヤマトHDの23年3月期の決算書を比例縮尺図に図解したものだ。 (図_ヤマトHD23年3月期の決算書の比例縮尺図 はリンク先参照) まずは、貸借対照表(B/S)から見ていこう。B/Sの左側(資産サイド)で最大の金額を占めているのは、流動資産(約4850億円)だ。ここには、売上債権(受取手形、売掛金及び契約資産)が約2160億円、現預金が約1850億円含まれている。いずれも営業を行っていく上で必要な資産だ。 次いで大きいのは、有形固定資産(約4430億円)だ。ヤマトHDのような物流業では、営業所や物流拠点を全国各地に配置しているため、そうした施設の有形固定資産が大きくなる。 B/Sの右側(負債・純資産サイド)には、流動負債が約3450億円、固定負債が約1460億円計上されている。流動負債および固定負債には有利子負債(借入金およびリース債務)が合計で約480億円含まれている。純資産の金額は約6160億円で、自己資本比率は約56%だ。 続いて、損益計算書(P/L)についても見ていこう。営業収益(売上高に相当)が約1兆8010億円であるのに対し、営業原価(売上原価に相当)は約1兆6870億円(原価率は約94%)、販売費及び一般管理費(販管費)は約530億円(販管費率は約3%)となっており、物流業のコストは配送にかかる営業原価が中心であることがわかる。営業利益は約600億円で、売上高営業利益率(=営業利益÷営業収益)は約3%にとどまっている』、「「今回は、なぜ両社の決算に大差がついたのかを見ていくことにしよう」、なるほど。
・『ヤマトHDの決算書を図解 原価率が高い物流業界 ヤマトHDの決算書から見ていく。以下の図は、ヤマトHDの23年3月期の決算書を比例縮尺図に図解したものだ。 (図_ヤマトHD23年3月期の決算書の比例縮尺図 はリンク先参照) まずは、貸借対照表(B/S)から見ていこう。B/Sの左側(資産サイド)で最大の金額を占めているのは、流動資産(約4850億円)だ。ここには、売上債権(受取手形、売掛金及び契約資産)が約2160億円、現預金が約1850億円含まれている。いずれも営業を行っていく上で必要な資産だ。 次いで大きいのは、有形固定資産(約4430億円)だ。ヤマトHDのような物流業では、営業所や物流拠点を全国各地に配置しているため、そうした施設の有形固定資産が大きくなる。 B/Sの右側(負債・純資産サイド)には、流動負債が約3450億円、固定負債が約1460億円計上されている。流動負債および固定負債には有利子負債(借入金およびリース債務)が合計で約480億円含まれている。純資産の金額は約6160億円で、自己資本比率は約56%だ。 続いて、損益計算書(P/L)についても見ていこう。営業収益(売上高に相当)が約1兆8010億円であるのに対し、営業原価(売上原価に相当)は約1兆6870億円(原価率は約94%)、販売費及び一般管理費(販管費)は約530億円(販管費率は約3%)となっており、物流業のコストは配送にかかる営業原価が中心であることがわかる。営業利益は約600億円で、売上高営業利益率(=営業利益÷営業収益)は約3%にとどまっている』、「営業収益(売上高に相当)が約1兆8010億円であるのに対し、営業原価(売上原価に相当)は約1兆6870億円(原価率は約94%)、販売費及び一般管理費(販管費)は約530億円(販管費率は約3%)となっており、物流業のコストは配送にかかる営業原価が中心であることがわかる。営業利益は約600億円で、売上高営業利益率(=営業利益÷営業収益)は約3%にとどまっている」、なるほど。
・『売上高はヤマトHDが大きいが 収益性ではSGHDに軍配 以下の図は、SGHDにおける23年3月期の決算書を図解したものだ。 (図_SGHDにおける23年3月期の決算書 はリンク先参照) こちらもB/Sから見ていこう。左側で最大の金額を占めているのは流動資産(約4070億円)で、ここには売上債権(受取手形、営業未収入金及び契約資産)が約1840億円、現預金が約1780億円計上されている。次いで大きいのは有形固定資産(約3920億円)であり、SGHDの資産はヤマトHDと非常に良く似た構成になっていることがわかる。 B/Sの右側には流動負債が約2290億円、固定負債が約1090億円計上されており、これらには有利子負債が合計で約970億円含まれている。純資産は5670億円で、自己資本比率は約63%という水準だ。 P/Lでは、営業収益が約1兆4350億円であるのに対し、営業原価は約1兆2380億円(原価率は約86%)、販管費は約620億円(販管費率は約4%)となっている。営業利益は約1350億円で、売上高営業利益率は約9%だ。ヤマトHDに比べると約6ポイント高い。コスト構造で見ると、原価率がヤマトHDは約94%であるのに対し、SGHDでは約86%と、差がついている。 営業収益ではヤマトHDが約1兆8010億円、SGHDが約1兆4350億円とヤマトHDのほうが大きいが、営業利益ではヤマトHDが約600億円、SGHDが約1350億円となっており、SGHDに軍配が上がる。 なぜ、両社の営業利益には差が付いたのか。その理由を探るために、次のページでは両社の13年3月期のP/Lと23年3月期のP/Lを比較してみよう』、「営業利益ではヤマトHDが約600億円、SGHDが約1350億円となっており、SGHDに軍配が上がる。 なぜ、両社の営業利益には差が付いたのか・・・両社の13年3月期のP/Lと23年3月期のP/Lを比較してみよう」、比較の結論はどうなったのだろうか。
・『「二つの指標」で見えてくるヤマトHDとSGHDの成長性の違い まず、ヤマトHDのP/Lを比較してみよう(下図)。 (図_ヤマトHDのP/Lはリンク先参照) これによれば、13年3月期の営業収益が約1兆2820億円、営業利益が約660億円であったのに対し、23年3月期はそれぞれ約1兆8010億円、約600億円となっている。営業収益は5000億円超増加している一方で、営業利益は約60億円減少している。営業収益の増加以上にコストが増加しているということだ。 ここで、ヤマトHDの各数値の変化について、成長性を分析する際に使用される「二つの指標」を当てはめて分析してみよう。 その指標とは、趨勢(すうせい)比率とCAGRである。 趨勢比率とは、基準とする年度の数字を100として、計算の対象となる年度の数字がいくつに相当するのかを見る指標だ。計算式は、「趨勢比率=(計算年度の数値÷基準年度の数値)×100」である。例としてヤマトHDにおける13年3月期の営業利益を100として23年3月期の営業利益の趨勢比率を計算してみると、約91となる。 CAGRとは、「Compound Annual Growth Rate」の頭文字を取ったもので、年平均成長率とも呼ばれる。最初の年度の数字から、毎年平均で何%成長すると最終年度の数字になるかを表したものだ。計算式は図中に示しているが、Excelでは、「CAGR=(最終年度の数値/初年度の数値)^(1/年数)-1」のように入力すると計算できる。こちらも例としてヤマトHDの営業収益について13年3月期から23年3月期にかけてのCAGRを計算してみると、約3.5%となる。 (図_連結P/Lの比較(SGHD) はリンク先参照) 続いて、SGHDのP/Lも比較してみよう(上図)。13年3月期の営業収益が約8710億円、営業利益が約310億円だったのに対し、23年3月期にはそれぞれ約1兆4350億円、約1350億円となっており、営業収益、営業利益ともに大きく増加している。 ヤマトHDと同様に営業利益の趨勢比率を計算してみると約436、営業収益のCAGRは約5.1%だった。こうした指標からも、SGHDの業績はここ10年間で大きく伸びていることが見て取れる。 では、ヤマトHDの営業利益が伸び悩む一方、SGHDの業績が大きく伸びた理由は何だったのだろうか』、「ヤマトHDの営業収益」の「CAGR」は「約3.5%」、「SGHD」の「CAGR」は「約5.1%」と大きな差となり、「SGHDの業績が大きく伸びた」ようだ。
・『長年に及ぶ「値上げ交渉」が奏功 国際物流も利益に貢献したSGHD SGHDの利益が大きく伸びた理由を探るために、趨勢比率を時系列で分析してみよう。以下の図は、ヤマトHDとSGHDについて、13年3月期を基準年度として23年3月期までの営業収益の趨勢分析を行ったものだ。 (図_ヤマトHDとSGHDの営業収益の趨勢分析 はリンク先参照) これによると、ヤマトHDの営業収益はほぼ一貫して拡大してきたことがわかる。この間、ヤマトHDの宅急便の取扱個数は増加しており、それが収益の拡大に寄与している。 一方で、SGHDの営業収益は2014年3月期に一時的に低下している。これは、利益率の改善を目指してSGHDが荷主企業への値上げ交渉を行ったことが原因だ。 当時の報道によれば、値上げ幅は1~2割程度であったとされる(週刊東洋経済13年9月28日号)。これにより、AmazonなどをはじめとしたEC関連の大口顧客からの荷物の取扱個数が大きく減少し、一時的な収益低下を招いたというわけだ。 しかしながら、その後は単価の上昇に伴って収益は拡大傾向に転じている。また、コロナ禍に入った21年3月期以降はEC需要の大きな拡大に伴って、取扱個数が大きく増加したことも収益の拡大に寄与している。 こうしたSGHDにおける荷物の引受単価の引き上げは、利益の増加に大きく貢献した。運賃値上げによって採算性の悪いECの荷物が減少したことも、結果として収益性の改善につながった。営業利益の趨勢分析(下図)を見ると、SGHDの営業利益は2013年3月期以降、増加傾向で推移していることがわかる。 (図_営業利益の趨勢分析 はリンク先参照) その一方で、ヤマトHDの営業利益は伸び悩んでいる様子が見て取れる。単価の低い小型荷物が多く、小口の配送コストや再配達コストがかさみやすい構造になっていることが大きな要因だ。 冒頭で、2024年問題に対応するためヤマトHD、SGHDがともに値上げに踏み切ったことに触れたが、SGHDは10年以上前から値上げ交渉に継続的に取り組むとともに、コスト管理を徹底することで収益性の改善を行ってきた。その結果が、趨勢分析にも表れているといえる。 そして、SGHDの営業収益と営業利益が伸びた主な理由はもう一つある。以下の図は、事業別の営業収益と営業利益を13年3月期と23年3月期の間で比較したものだ。 (図_事業別の営業収益と営業利益(SGHD) はリンク先参照) これによれば、宅配便事業を中心としたデリバリー事業の業績拡大に加えて、企業の物流業務を包括して受託するサードパー今回は、ヤマトHDとSGHDという物流業界の2社を取り上げてその決算書を分析してきたが、直近の物流業界を取り巻く環境は厳しい。冒頭でも取り上げた2024年問題だけではなく、コロナ禍後においてEC需要が落ち込んでおり、国内の宅配便の取扱個数は減少傾向にある点も懸念材料の一つだ。 また、国際的なサプライチェーンの混乱からSGHDのロジスティクス事業の業績は大きな伸びを見せたが、その間の荷主の在庫積み増しの影響などから国際物流の市況は大きく悪化している。24年3月期第3四半期段階での通期業績予想によれば、SGHDにおけるロジスティクス事業の24年3月期営業利益は約45億円の赤字になる見込みだ。 こうした厳しい事業環境の中で、冒頭で述べたような協業をはじめとした事業構造改革による採算性向上に取り組んでいくとともに、業務の効率化を進めていくことで利益を再び拡大基調に乗せていくことができるかが問われている』、「ヤマトHDの営業収益はほぼ一貫して拡大してきたことがわかる。この間、ヤマトHDの宅急便の取扱個数は増加しており、それが収益の拡大に寄与している。 一方で、SGHDの営業収益は2014年3月期に一時的に低下している。これは、利益率の改善を目指してSGHDが荷主企業への値上げ交渉を行ったことが原因だ。 当時の報道によれば、値上げ幅は1~2割程度であったとされる(週刊東洋経済13年9月28日号)。これにより、AmazonなどをはじめとしたEC関連の大口顧客からの荷物の取扱個数が大きく減少し、一時的な収益低下を招いたというわけだ。 しかしながら、その後は単価の上昇に伴って収益は拡大傾向に転じている。また、コロナ禍に入った21年3月期以降はEC需要の大きな拡大に伴って、取扱個数が大きく増加したことも収益の拡大に寄与している・・・国際物流の市況は大きく悪化している。24年3月期第3四半期段階での通期業績予想によれば、SGHDにおけるロジスティクス事業の24年3月期営業利益は約45億円の赤字になる見込みだ。 こうした厳しい事業環境の中で、冒頭で述べたような協業をはじめとした事業構造改革による採算性向上に取り組んでいくとともに、業務の効率化を進めていくことで利益を再び拡大基調に乗せていくことができるかが問われている」、「SGHD」も一転して苦境に陥っているが、今後の展開が注目される。
次に、2月26日付け東洋経済オンライン「物も人も動かない… 「ドライバーが消える日」 トラック、タクシー、バスは深刻な人手不足だ」を紹介しよう。
・『「2024年問題」が懸念される4月まで約1カ月。トラック、タクシー、バスはいずれも人手不足が深刻だ。 『週刊東洋経済』のこの問題での特集の説明は省略。 もともと”3K労働”、”ブラック職場”などと揶揄され、なり手不足で頭打ちだったところに、2024年問題が加わる。高齢化も進んでいる。ドライバー不足に拍車がかかるのは必至だ。 朝7時から11時にタクシーがつかまらない 国内の営業用トラックの輸送能力は、このままいけば2030年に34.1%が不足するという(NX総合研究所調べ)。消費者も物流問題では、その深刻さを年々身近に感じつつある。 EC(ネット通販)の普及によって、ヤマト運輸が宅配便の総量規制や値上げを実施し、「宅配クライシス」と呼ばれたのが2017年。日本郵便が普通郵便(手紙・葉書き)の土曜配達を中止したのが2021年だった。近年では、セブン‐イレブンが弁当や総菜など日配品の配送回数について、1日4回から3回に順次変更している。 2024年問題で残業規制が適用されるのは、タクシーやバスのドライバーも事情は同じである。 タクシーの場合、2023年5月の新型コロナウイルスの5類移行を受け、日本人やインバウンド(訪日外国人)の観光が復活したという事情もある。コロナ禍でタクシードライバーが大量に離職したが、コロナ収束後も業界には戻ってこないからだ。 とくに繁華街や観光地では、目立ってタクシーがつかまらなくなった。東京ハイヤー・タクシー協会によると、都内で最もタクシーが足りない時間帯は、通勤にかかわる平日の朝7時~11時だという。 さらにはバスもドライバー不足を受け、地方で路線バスの減便・廃止が続く。 長野の長電バスは1月下旬から日曜運休に踏み切り、大阪の金剛自動車は2023年12月に路線バス事業の廃止を決断した。何と東京23区も例外でなく、足立区はコミュニティバス「はるかぜ」を減便している。バスは“地域の足”を奪われているのが実態なのだ』、「2024年問題で残業規制が適用されるのは、タクシーやバスのドライバーも事情は同じである。 タクシーの場合、2023年5月の新型コロナウイルスの5類移行を受け、日本人やインバウンド(訪日外国人)の観光が復活したという事情もある。コロナ禍でタクシードライバーが大量に離職したが、コロナ収束後も業界には戻ってこないからだ。とくに繁華街や観光地では、目立ってタクシーがつかまらなくなった」、大変だ。
・トラック87万人、タクシー23万人、バス13万人 政府は追加で対策を打つ。2月13日には物流関連2法の改正案を閣議決定。事業者にドライバーの荷待ち時間を削減する計画を義務づけ、違反すると最大100万円の罰金を課すなど、労働環境改善に懸命だ。ほかにも”多重下請け”の是正をはじめ、今国会での法改正で労働環境改善を図るが、問題はそう簡単には解消しそうにない。 国内のドライバー数はトラックが約87万人、タクシーが約23万人、バスは約13万人いる。ドライバー不足で物や人が動かない事態は、次第に顕在化しつつある。 需要の大きさに供給が追いつかず、街から消えるドライバー。本特集では、全国で物流・人流が滞る最新事情をリポートし、その処方箋について探る』、「政府は追加で対策を打つ。2月13日には物流関連2法の改正案を閣議決定。事業者にドライバーの荷待ち時間を削減する計画を義務づけ、違反すると最大100万円の罰金を課すなど、労働環境改善に懸命だ。ほかにも”多重下請け”の是正をはじめ、今国会での法改正で労働環境改善を図るが、問題はそう簡単には解消しそうにない」、焼け石に水のようなものだ。国内のドライバー数はトラックが約87万人、タクシーが約23万人、バスは約13万人いる」、マイカーの「ドライバー数」ははるかに多いので、プロの「ドライバー数」が多少減ったとしても、道路の渋滞が緩和する可能性は少なそうだ。
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鉄道(その12)(イギリス高速鉄道「未着工区間は中止」の衝撃 コスト増など理由 沿線からは失望と怒りの声、日本人が知らないサンマリノ 「神社」と電車の謎 短命の山岳鉄道が動態復元 ブドウ畑に鳥居が、LRTか それともバスか?中国製「ART」とは何者か レールなし 路面の白線マーカーに沿い走行)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-02-29
鉄道については、昨年12月30日に取上げた。今日は、(その12)(イギリス高速鉄道「未着工区間は中止」の衝撃 コスト増など理由 沿線からは失望と怒りの声、日本人が知らないサンマリノ 「神社」と電車の謎 短命の山岳鉄道が動態復元 ブドウ畑に鳥居が、LRTか それともバスか?中国製「ART」とは何者か レールなし 路面の白線マーカーに沿い走行)である。先ずは、昨年10月11日付け東洋経済オンラインが掲載した在英ジャーナリスト のさかい もとみ氏による「イギリス高速鉄道「未着工区間は中止」の衝撃 コスト増など理由、沿線からは失望と怒りの声」を紹介しよう。https://toyokeizai.net/articles/-/707413・『イギリスのリシ・スナク首相は10月4日、ロンドンとイングランド北部を結ぶ高速鉄道「HS2(ハイスピード2)」の第2期区間の建設計画を取りやめると発表した。 HS2をめぐってはこの発表前の数週間、計画の縮小に関するうわさでざわついていたが、スナク首相はこれを追認する格好となった。首相は第2期区間計画の中止について、大幅なコストの増加、建設計画の遅延が主な理由と説明している。長期にわたって練られてきた大規模交通インフラ計画を断念するに至った流れを追ってみることにしたい』、興味深そうだ。・『建設中の区間だけで終了へ HS2は2020年、当時のボリス・ジョンソン首相が建設計画にGOサインを出した。移動時間の短縮のほか、輸送力の増加、雇用創出、ロンドンを中心とするイングランド南部に偏っている英国経済の均衡化などが開業効果として見込まれるとしている。 当初の計画では、HS2は南端のロンドンを起点にイングランド中部のバーミンガムを経て2方向に分岐し、北西側(左側)はマンチェスター、北東側(右側)はリーズに至るY字型の路線となっていた。分岐地点のやや南側にあるバーミンガムまでが第1期区間で、2029年の開業を目指して工事が進んでいる。その北側、左右に分かれる部分が第2期区間だ。このうち、リーズへの延伸は2021年に途中のイースト・ミッドランズ・パークウェイまでで打ち切ることが決まっていた。 今回、スナク首相が中止を決めたのは、第2期区間のバーミンガムから北側の部分すべてだ。したがって、HS2は現在建設が進んでいる区間だけで計画終了となる。) もっとも、第1期区間についても建設は大幅に遅れている。202..
産業動向
tr232238
2024-02-29T20:05:08+09:00
先ずは、昨年10月11日付け東洋経済オンラインが掲載した在英ジャーナリスト のさかい もとみ氏による「イギリス高速鉄道「未着工区間は中止」の衝撃 コスト増など理由、沿線からは失望と怒りの声」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/707413
・『イギリスのリシ・スナク首相は10月4日、ロンドンとイングランド北部を結ぶ高速鉄道「HS2(ハイスピード2)」の第2期区間の建設計画を取りやめると発表した。 HS2をめぐってはこの発表前の数週間、計画の縮小に関するうわさでざわついていたが、スナク首相はこれを追認する格好となった。首相は第2期区間計画の中止について、大幅なコストの増加、建設計画の遅延が主な理由と説明している。長期にわたって練られてきた大規模交通インフラ計画を断念するに至った流れを追ってみることにしたい』、興味深そうだ。
・『建設中の区間だけで終了へ HS2は2020年、当時のボリス・ジョンソン首相が建設計画にGOサインを出した。移動時間の短縮のほか、輸送力の増加、雇用創出、ロンドンを中心とするイングランド南部に偏っている英国経済の均衡化などが開業効果として見込まれるとしている。 当初の計画では、HS2は南端のロンドンを起点にイングランド中部のバーミンガムを経て2方向に分岐し、北西側(左側)はマンチェスター、北東側(右側)はリーズに至るY字型の路線となっていた。分岐地点のやや南側にあるバーミンガムまでが第1期区間で、2029年の開業を目指して工事が進んでいる。その北側、左右に分かれる部分が第2期区間だ。このうち、リーズへの延伸は2021年に途中のイースト・ミッドランズ・パークウェイまでで打ち切ることが決まっていた。 今回、スナク首相が中止を決めたのは、第2期区間のバーミンガムから北側の部分すべてだ。したがって、HS2は現在建設が進んでいる区間だけで計画終了となる。) もっとも、第1期区間についても建設は大幅に遅れている。2029年予定の開業時には、ロンドン市内中心部にあるターミナル、ユーストン駅までの乗り入れが期待されている。しかし、10月に入って「十分な民間投資が確保されない限り、HS2は同駅まで乗り入れない」という報道が流れた。これを受け、ロンドンのサディク・カーン市長は改めて市内中心部へのHS2乗り入れを実現すべく、スナク首相に書簡を送ったという。 ユーストン駅まで乗り入れない場合、ロンドン北西部で建設が進むオールド・オーク・コモンという新駅が当初のターミナルとなる。建設にかかるコスト増もあり、「最終的にHS2はロンドンの街中まで乗り入れないかも」という臆測が依然飛び交っている。 第2期計画の中止が決まったとはいえ、何らかの代替案なしに頓挫したのでは開通を期待していた沿線住民に示しがつかない。スナク首相は英国の国政与党・保守党の党大会で第2期計画の中止を表明した際、次のような代替案を明らかにした。 【スナク首相が発表したHS2第2期建設中止に伴う代替案】 ・360億ポンドを投じ、陸上交通網のテコ入れを行う ・「ミッドランズ鉄道ハブ」の建設。ここから周辺駅50カ所とつなぐ ・幹線国道A1、A2、A5および高速道路M6をアップグレードする ・リーズにトラム(路面電車)を敷設する ・イングランド北部の道路70本の改良に資金を投入 ・ウェールズ北部の鉄道路線の電化 ・国内の主要道路の再舗装に着手 ・現在行われている「バス運賃の減免措置」(多くの地方路線が2ポンド=約360円で乗れる)を2024年12月末まで延長』、「スナク首相が中止を決めたのは、第2期区間のバーミンガムから北側の部分すべてだ。したがって、HS2は現在建設が進んでいる区間だけで計画終了となる・・・「ユーストン駅まで乗り入れない場合、ロンドン北西部で建設が進むオールド・オーク・コモンという新駅が当初のターミナルとなる」、こんなに短くなっては、高速鉄道の意味もかなり薄らぎざるを得ないだろう。
・『沿線自治体「不満と怒り」 長年にわたって「高速鉄道の恩恵」を期待していた沿線住民からは、当然のことながら失望や怒りの声が聞こえてくる。 イングランド北部、とくに高速鉄道でロンドンとの直結が約束されていたマンチェスターとその周辺の自治体首長からは怨嗟の声がやまない。例えば、グレーター・マンチェスター(広域市)のバーナム市長は、今回の決定を受け、イギリスの公共放送BBCに対し「不満と怒り」があると語っている。またデイビッド・キャメロン元首相は、「一世一代の機会が失われた」とX(旧ツイッター)に投稿している。) そして、実際に悲惨な目に遭っている人々もいる。イングランド北部でHS2の敷設計画による土地の強制収用に応じ、それまで保有していた住宅や農場を手放した人々だ。とくに畜産業を営んでいた人々は代替地の選定や移転に相当な労力を費やしており、「苦労の結果が敷設中止では困る」とし、補償の上乗せを求める声も聞こえてきている。今後、政府はこうした「計画の影響」を受けた人々にも丁寧に向き合うことが必要だろう。 一方、2大政党制の英国議会における野党・労働党は、もともとHS2への経済効果を疑問視していたこともあり、同党としては「計画の復活」を約束しない、仮に今後の選挙で政権を奪回しても、まずはコスト等の数字の精査が必要との見方を示している』、「HS2の敷設計画による土地の強制収用に応じ、それまで保有していた住宅や農場を手放した人々だ。とくに畜産業を営んでいた人々は代替地の選定や移転に相当な労力を費やしており、「苦労の結果が敷設中止では困る」とし、補償の上乗せを求める声も聞こえてきている・・・野党・労働党は、もともとHS2への経済効果を疑問視していたこともあり、同党としては「計画の復活」を約束しない、仮に今後の選挙で政権を奪回しても、まずはコスト等の数字の精査が必要との見方を示している」、なるほど。
・『日立製車両への影響は? HS2に導入される車両をめぐっては2021年12月、日立製作所と仏アルストムが折半出資する共同事業体が同線向け車両の製造・保守事業の受注を決めている。受注したのは欧州最速となる最高時速360kmの高速列車54編成の設計・製造と、12年間に及ぶ保守業務で、契約金額は総額19億7000万ポンド(約3578億円)に及ぶ。 この契約ではあくまで第1期区間の運行用として結ばれたものであるため、今回の第2期延伸の中止決定が影響を及ぼすものではない。とはいえ、当然ながらメーカーとしては第2期分の納入にも期待を寄せていただけに、今回の決定は歓迎されざるものであろう。 衝撃的とも言えるイギリス政府の「高速鉄道建設打ち切り」の決定は、コロナ禍後の経済情勢の変化が遠因でもある。資材の高騰や賃金の上昇などに加え、オンライン会議の増加など、人々の「移動需要」が計画段階と比べて大きく変わっている。この決定が吉と出るか凶と出るか、結果を見るにも5年、10年といった長期戦になる。イギリス経済の行く末も含め、今後のHS2の展開はどうなるのだろうか』、「日立製作所と仏アルストムが折半出資する共同事業体が同線向け車両の製造・保守事業の受注を決めている。受注したのは欧州最速となる最高時速360kmの高速列車54編成の設計・製造と、12年間に及ぶ保守業務で、契約金額は総額19億7000万ポンド(約3578億円)に及ぶ。 この契約ではあくまで第1期区間の運行用として結ばれたものであるため、今回の第2期延伸の中止決定が影響を及ぼすものではない。とはいえ、当然ながらメーカーとしては第2期分の納入にも期待を寄せていただけに、今回の決定は歓迎されざるものであろう」、「この契約ではあくまで第1期区間の運行用として結ばれたものである」とはいえ、「第1期分」だけで終わるのであれば、採算は悪くならざるを得ない。これでは、「共同事業体」としては、馬鹿らしくてやっていられないだろう。
次に、本年1月5日付け東洋経済オンラインが掲載した在英ジャーナリストのさかい もとみ氏による「日本人が知らないサンマリノ、「神社」と電車の謎 短命の山岳鉄道が動態復元、ブドウ畑に鳥居が」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/725027
・『イタリアに周囲を囲まれた小国・サンマリノ共和国。アドリア海近くにそそり立つ岩山が国土のこの国は人口3万5000人弱、面積は"山手線の内側”ほどの60平方kmしかなく、ロープウェーこそあるものの鉄道はない。だが、「国の中枢」にあたる山頂付近のトンネルには電車が停まっており、ときおり動く姿が見られるという。 さらに、同国には欧州で初の、日本の神社本庁に認められた「神社」もある。欧州でもバチカン市国、モナコ公国に次いで面積で3番目に小さい国に、なぜ神社があるのだろう。 さまざまな疑問を解きに、現地を訪れた』、興味深そうだ。
・『「世界最古の共和国」にあった鉄道 駐日サンマリノ共和国大使館の説明によると、同国は「世界で最も古い共和国であり、唯一生き残っている都市国家」「憲法は1600年に制定され、現在も使用されているものでは世界最古」だという。 市街地に行くとまるで中世から時が止まっているかのような印象を覚える。国の創設は4世紀とされるが、これは“マリノ”という石工が石灰岩の岩山であるティターノ山の頂上に登り、そこに小さな共同体を創設したことが起源だという。 サンマリノは中世を通じて自己統治を維持、13世紀には議会に当たる最高評議会が設立され、現在もなお執政機関として存在している。近代には、ナポレオンの侵攻やイタリアとの統一運動もあったが、独立を維持。1862年に当時のイタリア王国と友好・中立条約を締結したことで都市国家として現代まで残る形となった。) 国民は、今でこそ国土のあちこちに住居を構えて住んでいるが、政治・商業の中心地はティターノ山の山頂付近に張り付く石造りの建物群が並ぶ一帯に集中している。 この中心地区の町名こそが「サンマリノ」と称されるが、海抜ほぼゼロの平地にある下界から、標高600m以上ある岩山の上まで登るための交通確保が古くからの課題であった。そこで検討されたのが、イタリア領の最も近い都市で、アドリア海に面したリミニ(Rimini)とサンマリノとを結ぶ山岳鉄道「リミニ・サンマリノ鉄道」の敷設だった。 現在も乗客を乗せて動き出しそうな車両が残っているこの鉄道だが、実際には1932年から1944年までわずか12年あまりの短命で終わっている。 こうした山岳鉄道の敷設は概して、山の上で暮らしている住民が下界との行き来を楽にするために敷設運動を起こす傾向がありそうだが、リミニ・サンマリノ鉄道ではイタリア側の出資で計画が着手された。1901年ごろには鉄道敷設計画があったとされるが、第1次世界大戦の終了から約10年を経たころ、時の宰相で独裁政権を率いたムッソリーニがサンマリノを訪問したことで、敷設計画が一気に前進、国費を投入し建設を決定した』、「山岳鉄道「リミニ・サンマリノ鉄道」」は「時の宰相で独裁政権を率いたムッソリーニがサンマリノを訪問したことで、敷設計画が一気に前進、国費を投入し建設を決定した」、なるほど。
・『戦時中の誤爆で損傷、そのまま運行停止 着工は1928年で、その後約3年をかけて約32kmの路線が完成した。当時の記録によると、約19.8kmがサンマリノ領内、残りの12.2kmがイタリア領内に敷かれていた。イタリア各地で見られる軌間950mmのナローゲージで、直流3000Vで電化されていた。路線には2カ所のループを含むトンネル17カ所があり、リミニからサンマリノまで53分で走破していた。 サンマリノは第2次世界大戦の開戦に際して中立を宣言していたものの、1944年6月に連合国軍の誤爆で鉄道は損傷。修復されることなく、翌月の7月4日に定期運行がいきなり終了してしまった。記録によると、1944年7月11日から12日にかけて、電気機関車が客車2両を牽引する運行終了の記念列車が走ったという。) 第2次世界大戦終了後、リミニ・サンマリノ鉄道の復活を期待する声はあちこちから幾度となく上がったという。しかしサンマリノの人々の願いは届かず、イタリア領内にあった同鉄道の線路は1958年から1960年にかけて完全に外されてしまった。 一方で、サンマリノ側では鉄道があった痕跡を残そうとする活動が脈々と行われている。1kmに満たない長さとはいえ、保存状態のよかった旧サンマリノ駅近くのモンターレ(Montale)トンネル前後の区間が修復され、鉄道車両の動態保存区間としてよみがえった。復活したのは2012年7月21日で、1等と3等の客室を備えた合造車の電車「AB03」と、有蓋貨車1両が不定期にトンネル内を行き来している。バッテリー動力などへの改造ではなく、実際に架線に480Vの電力を通し、架線集電の「電車」として動かせるようにしているのが心憎い。 普段「AB03」は昼夜を問わずトンネル内に停めてある。出入りも自由とあって、観光客などが写真を撮る姿も見られる』、「戦時中の誤爆で損傷、そのまま運行停止」したが、「サンマリノ側・・・1kmに満たない長さとはいえ、保存状態のよかった旧サンマリノ駅近くのモンターレ(Montale)トンネル前後の区間が修復され、鉄道車両の動態保存区間としてよみがえった」、動態保存とは大したものだ。
・『動態保存区間を延長する構想も ちなみに現在、下界とティターノ山の山頂付近にあるサンマリノの街とを結ぶ公共交通機関はロープウェーがあるほか、イタリア鉄道(トレニタリア)のリミニ駅前からはサンマリノの街への定期路線バスが運行されており、1時間ほどで中心街まで行ける。 また、リミニの南東には空の玄関、リミニ・サンマリノ空港がある。空港敷地はイタリア領に位置しながらも、サンマリノ共和国に籍を置くプライベート機がここを拠点に登録されている。 リミニ・サンマリノ鉄道の動態保存については、モンターレトンネルのふもと側(リミニ方)の先、ループ状になっているピアッジェ(Piagge)トンネルを通った先に位置するロープウェー駅(下界側)近くまで、約3km強の区間を復元し、列車を走れるようにする構想もあるというが、果たして計画はどう進むのだろうか。) 一方、もう1つの「不思議」である神社の歴史は鉄道に比べてはるかに新しい。その創建はリミニ・サンマリノ鉄道の動態保存区間復活よりも後だ。 お正月といえば「初詣は欠かせない」という人も少なくないだろう。しかし日本から遠く離れた欧州に住む邦人にとって、神社での参拝はなかなか叶わない。そんな中、サンマリノには神社本庁に認められた欧州初の神社が建てられている。 その名も「サンマリノ神社」と称し、2011年の東日本大震災の犠牲者を追悼し、日本とサンマリノの友好関係を深めるため、2014年に創建された。鎮座式には、神社本庁総長をはじめ、故安倍晋三元首相の実母・洋子さんも参列したという。 ところで「神社がなぜサンマリノにあるのか?」という疑問を持つ人もいることだろう。由来によると、2011年の東日本大震災の犠牲者を追悼するため、マンリオ・カデロ駐日サンマリノ大使が神社本庁にこの神社の建立を相談したことがきっかけなのだという。カデロ大使は2002年から駐日大使の職にある。全ての大使の中でも在職期間が最も長いことから外交序列筆頭の駐日外交団長でもある。ちなみに、神職は現地に住むサンマリノ人で、日本で修行したフランチェスコ・ブリガンテさんという方が宮司を務める』、「リミニ・サンマリノ鉄道の動態保存については、モンターレトンネルのふもと側(リミニ方)の先、ループ状になっているピアッジェ(Piagge)トンネルを通った先に位置するロープウェー駅(下界側)近くまで、約3km強の区間を復元し、列車を走れるようにする構想もあるというが、果たして計画はどう進むのだろうか・・・2011年の東日本大震災の犠牲者を追悼するため、マンリオ・カデロ駐日サンマリノ大使が神社本庁にこの神社の建立を相談したことがきっかけなのだという。カデロ大使は2002年から駐日大使の職にある・・・神職は現地に住むサンマリノ人で、日本で修行したフランチェスコ・ブリガンテさんという方が宮司を務めるサンマリノに神社本庁のお墨付きを得た「神社」があるとは心底驚いた。
・『ブドウ畑の一角に神社 小さいながらも本殿があり、伊勢神宮と同じ「神明造」の様式を持ち、その一部は伊勢神宮が遷宮の際に用いた木材を使用。日本で組まれたのち、サンマリノに輸送されこの地で再構築されたものだ。 神社はワイン用のブドウ畑の一角に設けられており、鳥居をくぐる際には遠くにサンマリノの象徴である3つの砦を擁したティターノ山の威容を眺めることができる。ただ、この神社の立地はサンマリノ旧市街地から遠く、険しい山道をくねくねと登りながら目指すことになる。クルマがないと行きにくいのが残念だ。とはいえ、欧州の小国にある神社という貴重さは何事にも代えがたい。 欧州大陸にある小国のうち、モナコ公国とリヒテンシュタイン公国は周辺国の鉄道幹線が国の一角を通り抜ける形で敷かれている。一方でサンマリノは岩山が国土という悪条件の下、100年近く前に鉄道で下界と中心地をつなぐ「国際列車」を通すという先見性があったことは忘れてはならない。 正直なところ、日本との縁はあまりなさそうな欧州の小国・サンマリノだが、今世紀に入って、“神社がある国”にもなった。「観光鉄道の延伸」が実現すれば、”世界最古の共和国”へ電車で登るという楽しみが増える。神社と共に、日本人観光客への関心がより高まる日が来ることを期待したい』、「「観光鉄道の延伸」が実現すれば、”世界最古の共和国”へ電車で登るという楽しみが増える。神社と共に、日本人観光客への関心がより高まる日が来ることを期待したい」、同感である。
第三に、2月24日付け東洋経済オンラインが掲載したアジアン鉄道ライターの高木 聡氏による「LRTか、それともバスか?中国製「ART」とは何者か レールなし、路面の白線マーカーに沿い走行」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/736326
・『2月1日から4日にかけて、マレーシアの首都クアラルンプール近郊、プトラジャヤ地区にて中国中車(CRRC)株洲が開発を進めている「ART(Autonomous Rapid Transit)」の、東南アジアで初となる一般向け試乗会が開かれた。 日本ではまだほとんど知られていないART。見た目はLRTだが車輪はゴムタイヤで、さらに運転台には丸いハンドルまで付いている。車体も3連接で、最大5連接にまで伸ばせるというから驚きだ』、「中国中車(CRRC)株洲が開発を進めているART。見た目はLRTだが車輪はゴムタイヤで、さらに運転台には丸いハンドルまで付いている。車体も3連接で、最大5連接にまで伸ばせる」、中国製のようだが、興味深そうだ。
・『LRT並みの輸送力で低コスト 進路の制御は、ART専用に設置した道路上の白線マーカーを光学式センサーが読み取り、これに沿って走行する。丸いハンドル(ステアリングホイール)も設置しているが、これは搬入時や非常時、また車庫等での入れ換えなどの際に機動性を確保するためである。今回の試乗会も、ハンドルを使用したマニュアル運転となった。 動力はバッテリー駆動だ。ただ、各国のバッテリー式LRTで見られる充電用のパンタグラフはなく、車体側面に急速充電用のソケットがある。そういった点ではLRTではなくEVバスに分類されそうだ。実際に、車体前面にはナンバープレート設置用の枠がある。 CRRCはART開発の理由について、LRT並みの輸送力を保ちつつ、整備費用を大幅に削減できることを掲げている。ゴムタイヤ式のため加減速に優れ勾配にも強い。その反面、鉄車輪方式に比べてエネルギー効率は悪い。定員は一般的な連接バスの約2倍となる239名(3連接車体の場合)で、設計最高速度は時速70kmだ。 現在は、数十年来の懸案であったシンガポール―ジョホール間の越境都市鉄道(RTS)の開業に合わせる形での運行開始を目指しているが、実際の開業時期は不明である。 BRTはRTSのジョホール(マレーシア)側の起点から3方向に約50kmがフェーズ1整備区間として示されているが、先の関係者は、2023年末頃にプロジェクトの呼称がBRTからLRTに突如変わったという。RTSはもともとシンガポールのMRT(地下鉄)規格で建設予定だったが、2019年にマレーシア側の政治的理由で急遽LRT規格に変更された。そして、規定路線のごとく車両はCRRC株洲が受注した。 もし、ジョホール側の市内交通にARTが採用された場合、シンガポール―マレーシア間のわずかな区間に、MRT、LRT、ARTと3つのシステムが混在することになる。RTSにCRRC株洲製のLRT車両が導入されるとすれば、これに規格を合わせるという理由でジョホール側にもARTでなくLRTを導入できる。そのため、不要になったART車両が今回プトラジャヤに移動してきたようだ』、「道路上の白線マーカーを光学式センサーが読み取り、これに沿って走行する・・・ジョホール側の市内交通にARTが採用された場合、シンガポール―マレーシア間のわずかな区間に、MRT、LRT、ARTと3つのシステムが混在することになる。RTSにCRRC株洲製のLRT車両が導入されるとすれば、これに規格を合わせるという理由でジョホール側にもARTでなくLRTを導入できる。そのため、不要になったART車両が今回プトラジャヤに移動してきたようだ」、なるほど。
・『予算のない都市にARTは「朗報」となるか プトラジャヤでは既存鉄道駅からのフィーダー交通(注)としてモノレール計画が存在していたが、コスト面から頓挫しており、ARTはそれに代わるシステムとして導入調査が進む模様である。それにしても、ARTがいかに「規格」を売り込むビジネスであるかがわかる。 おりしも2024年1月から5年間の任期で、ジョホール州のイブラヒム・イスカンダル氏が第17代マレーシア国王として即位した。同氏は高速鉄道推進派としても知られ、シンガポールの対岸にありながら公共交通整備に後れをとってきたジョホールはRTS開業とともに大変貌を遂げる可能性がある。LRTとは別にARTが導入される可能性もあり、目が離せない。 LRTを導入したくとも予算のない地域、バス輸送に任せるには心もとない、抵抗があるといった地域にとっては、朗報とも言える存在になるかもしれない。まずは、マレーシアでどのようなオペレーションが始まるか、続報を待ちたい。) 路線バスと普通鉄道の間に位置づけられる輸送システムは、主にBRT、またLRTとして世界の国々で確立している。世界のBRTは、日本のそれと異なり、一般車線から完全に分離されていることがほとんどだ。バス停は道路中央に「駅」として存在し、車内での料金支払いがないため、連接バスで一度に多くの乗客を運べて時間のロスがない。 ただ、あくまで一般車線とセパレーターで区切られた専用レーンを走るだけで、運行システム上は限りなく一般のバスに近い。よって整備費用が安価なため、先進国、途上国問わず多くの都市で導入、また導入計画がある。しかし、これより鉄道システムに近いガイドウェイ方式(走行路の側面にあるガイドに沿って走行する)は、専用軌道を最高時速100kmで走るOバーン(オーストラリア・アデレード)が知られているものの、採用例はあまり多くない。日本でも、名古屋のゆとりーとラインで採用されただけである』、「シンガポールの対岸にありながら公共交通整備に後れをとってきたジョホールはRTS開業とともに大変貌を遂げる可能性がある。LRTとは別にARTが導入される可能性もあり、目が離せない」、なるほど。
(注)フィーダー交通:交通網において幹線と接続し、支線の役割をもって運行される路線(Wikipedia)。
・『ゴムタイヤ式LRT、試行錯誤の歴史 ARTはLRTをバスに近づけた存在と呼べそうだが、ゴムタイヤで走るLRT自体は以前から存在し、1990年代から2000年代初めにかけてボンバルディアが「GLT(Guided Light Transit)」、フランスのロールが「トランスロール」として開発、実用化している。前者は運転台にハンドルを設置しているが、どちらのシステムも走行路の中央に設置した1本のガイドレールに従って走る仕組みである。 低コストで整備できるLRTを目指したこれらのシステムだが、採用例は少なく、特殊仕様の域を出ることはないままで、スペアパーツの供給などメンテナンスコストが高騰した。また、ゴムタイヤ走行による轍が道路上に発生するなどして、乗り心地が悪化した。 結局目立ったコスト削減効果は表れず、ほとんどが通常の鉄車輪式のLRTやトロリーバスなどに置き換えられ、GLTはすでに全廃された。両システムを開発したボンバルディア、ロールはともにアルストムに買収され、トランスロールの技術は同社に引き継がれている。 ARTを開発した中国でも、2007年に天津、2010年に上海でトランスロールのゴムタイヤ式LRTを導入したが、いずれも上記の理由で2023年に廃止された。) だが、中国におけるEVや自動運転技術の急速な発展により、トランスロールのようにガイドレールを使う高コストなシステムにこだわる必要はないと判断されたとしてもおかしくないだろう。CRRC株洲はシーメンスとのライセンス契約により鉄車輪式のLRTを製造しており、同社がゴムタイヤ式LRTのような交通機関であるARTを開発したのは自然な成り行きと言えるかもしれない。
ARTは2018年以降、中国国内では株洲市、西安市、上海市など6都市で運行中、または現在試験運行中である。海外展開も進めており、マレーシアのジョホールバル(2021年から)、クチン(2023年から)、プトラジャヤ(2024年から)、オーストラリアのパース(2023年から)で導入に向け、実車を用いた試運転を実施している。 また、アラブ首長国連邦のアブダビでは、3編成を用いた一般旅客も乗車可能な試験運行が2023年10月からスタートした。ただし、白線マーカー未設置のマニュアル運転で、自動車用ナンバープレートを付けての運転だ』、「ARTは2018年以降、中国国内では株洲市、西安市、上海市など6都市で運行中、または現在試験運行中である。海外展開も進めており、マレーシアのジョホールバル(2021年から)、クチン(2023年から)、プトラジャヤ(2024年から)、オーストラリアのパース(2023年から)で導入に向け、実車を用いた試運転を実施」、なるほど
・『導入は「温暖な人工的都市」 試運転はいずれも、人口集中が穏やか、かつ人工的で整然とした近代的都市計画に成功している地域が選定されていることがわかる。また、温暖な地域というのも1つのポイントだろう。降雪地区では白線の読み取りができず、スリップなどの恐れもあるため、ARTは導入できないためだ。 2018年にはインドネシア鉄道(KAI)とも導入に関わる協力覚書を結んだ。KAIの廃線跡も活かしつつ、バンドン、スラバヤ、マランなどの地方都市やバリ島に導入する計画が持ち上がったが、道路環境の悪さなどの理由で具体化には至っていない。 それでも引き続き導入に向けた調査検討が進められ、法的な部分もクリアし、最終報告書が運輸省に提出された。2020年に協力覚書は延長された。そして2024年、運輸省は現在建設中の新首都・ヌサンタラへの導入意向を示し、運輸大臣が中国で試乗もしている。道路環境がよく、人口が少ない新首都への導入は容易だろう。 現在、開業に向けて最も具体化が進んでいるのはマレーシア、サラワク州クチンの「クチン・アーバン・トランスポート・システム(KUTS)」プロジェクトだ。クチンは同州の州都であるが、人口は約33万人、人口密度は300人/平方キロメートルを超える程度で、一般的な路線バスで十分輸送を賄える都市規模である。軌道系交通の導入が計画されること自体に驚きを隠せないが、だからこそARTが採用されたとも言える。) 018年に同プロジェクトは中国によるLRT方式での整備を前提に構想されたが、高額なコストを理由に実現には至らず、翌2019年にART方式での建設が決定した。KUTSの運営主体となるサラワクメトロは、LRT方式に比べ、3分の1のコストで整備が可能であると発表している。 KUTSはスマートシティ構想の一環であるとしており、ART停留所からはフィーダー交通として自動運転バスも導入し、全ての人がARTにアクセスできるようにするという。しかも、このARTは、他都市で導入されているタイプとは異なり、水素を動力源とする全く新しい車両になっている。東南アジア初のサステナブルシティを目指す構えだが、都市開発全体を中国が売り込んでいるという背景もある。 サラワク州はKUTSプロジェクトを総額60億リンギット(約1884億円)と見積もり、ナジブ首相の提唱で設立されたサラワク開発銀行を経由し融資され、公共事業として実施される。計70kmにも及ぶフェーズ1区間のうち、クチン市中心部と隣接するサマラハン市を結ぶブルーライン(27.6km)と、クチン市中心部と空港方面を結ぶレッドライン(12.3km)の路線、車両基地建設や車両、信号システムなどの調達について、2023年末までに業者選定を済ませ着工している』、「試運転はいずれも、人口集中が穏やか、かつ人工的で整然とした近代的都市計画に成功している地域が選定されていることがわかる。また、温暖な地域というのも1つのポイントだろう。降雪地区では白線の読み取りができず、スリップなどの恐れもあるため、ARTは導入できないためだ・・・KUTSはスマートシティ構想の一環であるとしており、ART停留所からはフィーダー交通として自動運転バスも導入し、全ての人がARTにアクセスできるようにするという。しかも、このARTは、他都市で導入されているタイプとは異なり、水素を動力源とする全く新しい車両になっている。東南アジア初のサステナブルシティを目指す構えだが、都市開発全体を中国が売り込んでいるという背景もある」、中国が大手を振って受注しているのは要注意だ。
・『技術はユニークだが法的課題も いずれもマレーシア企業と中国企業のJVが落札しており、車両は当然、CRRC株洲が納入することになるが、書類上はマレーシアの民間投資会社ECCAZとCRRC子会社の合弁会社Mobilusが受注している。このパッケージには水素式ART車両38編成、信号システム一式、ホームドア、車両基地設計などが含まれており、契約額は14億2500万リンギット(約447億6200万円)だ。 ART自体がCRRCとMobilusの共同開発であるとも説明されており、公式ページにはMobilusは今後、マレーシアのみならず、近隣諸国への営業を強化すると記載されている。KUTSのARTは、高速道路や高規格道路の一部を専用レーンとして自律走行し、交通量の多い交差点は立体交差、一部区間には高架駅も設けられる。道路信号に従って進む区間では、ART優先信号が導入される。 車両は1編成がプロトタイプとして2023年8月に到着、試運転が続けられており、2025年末までに先行区間の開業を目指している。クチンが中国国外で初のART営業区間となる可能性が高い。政治的意図はあるとは言え、ART技術は注目に値するだろう。) 一方で、課題も多いとマレーシアの運輸関係者は指摘する。まずは法令上の問題で、鉄道車両なのかバスなのかをはっきりさせないと一般運行は難しいのではないかという点である。白線マーカーから逸脱して接触事故などが起きたときの責任範囲も現状では不明で、新たな法律を作るか、法規制の緩い国や地域での導入に限られるのではないかということだ。プトラジャヤではイベント期間中、交通を規制しての運行となった。 その点で、サラワク州のクチンで具体化が進んでいることは納得がいく。同州は歴史的経緯から、マレーシアでありながら独立した強い自治権を持っており、本土のマレー半島側との行き来にはパスポートが必要で、ほぼ外国という扱いのためだ。本土側の運輸行政とも全く別の管理下にあり、本土側ではどのようなプロセスで建設を進めているかわからないという。 そして、ARTというシステムを現状でCRRCしか持っていないことを懸念しているという。導入仕様書にARTと指定された場合、必然的にCRRC車両を導入することになってしまい、結果的にコスト高になる可能性があるためだ』、「ARTというシステムを現状でCRRCしか持っていないことを懸念しているという。導入仕様書にARTと指定された場合、必然的にCRRC車両を導入することになってしまい、結果的にコスト高になる可能性があるためだ」、中国に首根っこを押さえられてしまう。
・『中国の影響力に懸念 2009年のナジブ政権以降、マレーシア政府が突出して中国寄りの姿勢を見せていることに、先述の関係者は懸念を示している。事実上の国鉄であるマレー鉄道(KTM)は、今やCRRC株洲の独占的利権になっており、今後も同社以外からの車両調達はできないだろうと言う。 RRCはマレーシアに子会社を持ち、車両調達からその後のメンテナンスまでを一手に引き受けている。「一帯一路」の肝煎りの政策でもある東海岸鉄道(ECRL)も順調に工事が進んでおり、一度は白紙に戻ったマレーシア―シンガポール間の高速鉄道も、中国規格での着工が有力視されている。乗り入れのために中国と規格を合わせるという点ではECRLも高速鉄道も中国規格の採用は理にかなっているが、独立した存在である都市鉄道やLRTは、CRRCにとって参入障壁がある。 実際に都市鉄道の分野は、欧州メーカーが存在感を示しており、中国が十分に入り込めていない分野だった。ただ、2015年にクアラルンプールの高架式LRT、Rapid KLのアンパン線の旧型車置き換えをCRRC株洲が受注したのを皮切りに、徐々に攻勢を強めている。現在建設中のサーアラム線も同社が受注している。 今回のART試乗会に供された車両は、もともと2021年にジョホールバルで試運転を行っていた車両である。当時は自動車用ナンバーを取得し、白線マーカーによる自律走行を実施していた。2017年に当時のナジブ首相によって立ち上げられた「イスカンダル マレーシアBRT」プロジェクトとしてART導入に向けた調査が進んでおり、高速鉄道の開業及び接続を前提に2021年までの開業を目指していた。) 現在は、数十年来の懸案であったシンガポール―ジョホール間の越境都市鉄道(RTS)の開業に合わせる形での運行開始を目指しているが、実際の開業時期は不明である。 BRTはRTSのジョホール(マレーシア)側の起点から3方向に約50kmがフェーズ1整備区間として示されているが、先の関係者は、2023年末頃にプロジェクトの呼称がBRTからLRTに突如変わったという。RTSはもともとシンガポールのMRT(地下鉄)規格で建設予定だったが、2019年にマレーシア側の政治的理由で急遽LRT規格に変更された。そして、規定路線のごとく車両はCRRC株洲が受注した。 もし、ジョホール側の市内交通にARTが採用された場合、シンガポール―マレーシア間のわずかな区間に、MRT、LRT、ARTと3つのシステムが混在することになる。RTSにCRRC株洲製のLRT車両が導入されるとすれば、これに規格を合わせるという理由でジョホール側にもARTでなくLRTを導入できる。そのため、不要になったART車両が今回プトラジャヤに移動してきたようだ』、いずれにしても、中国系企業が受注するようだ。
・『予算のない都市にARTは「朗報」となるか プトラジャヤでは既存鉄道駅からのフィーダー交通としてモノレール計画が存在していたが、コスト面から頓挫しており、ARTはそれに代わるシステムとして導入調査が進む模様である。それにしても、ARTがいかに「規格」を売り込むビジネスであるかがわかる。 おりしも2024年1月から5年間の任期で、ジョホール州のイブラヒム・イスカンダル氏が第17代マレーシア国王として即位した。同氏は高速鉄道推進派としても知られ、シンガポールの対岸にありながら公共交通整備に後れをとってきたジョホールはRTS開業とともに大変貌を遂げる可能性がある。LRTとは別にARTが導入される可能性もあり、目が離せない。 LRTを導入したくとも予算のない地域、バス輸送に任せるには心もとない、抵抗があるといった地域にとっては、朗報とも言える存在になるかもしれない。まずは、マレーシアでどのようなオペレーションが始まるか、続報を待ちたい』、「LRT」、「ART」いずれにしても、中国系企業が受注、日本企業はカヤの外なのは腹が立つ。
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企業金融・企業財務(その1)(じつはいま「地銀と中小企業の関係」が激変中…そのウラに隠された「意外な落とし穴」、ソフトバンクの新金融商品「社債型種類株式」のうま味とリスク、金融庁がリスク警戒!地銀・信金で広がる「仕組み貸出」の深すぎる闇)
https://keiwasaki.blog.ss-blog.jp/2024-02-28
今日は、企業金融・企業財務(その1)(じつはいま「地銀と中小企業の関係」が激変中…そのウラに隠された「意外な落とし穴」、ソフトバンクの新金融商品「社債型種類株式」のうま味とリスク、金融庁がリスク警戒!地銀・信金で広がる「仕組み貸出」の深すぎる闇)を取上げよう。先ずは、昨年5月17日付け現代ビジネスが掲載した経済ジャーナリストの加谷 珪一氏による「じつはいま「地銀と中小企業の関係」が激変中…そのウラに隠された「意外な落とし穴」」を紹介しよう。https://gendai.media/articles/-/110338?imp=0・『地方銀行を中心に、融資先企業の経営者に個人保証を求めない流れが拡大している。日本の場合、中小零細企業の経営者が融資に際して個人保証を入れることが当然視されており、こうした商慣行が起業の阻害要因になっていると指摘されてきた。 融資慣行の見直しによってスタートアップ育成につながると期待されているが、起業が不活発な原因は必ずしも個人保証だけではない。総合的な環境整備を実施しないまま銀行に個人保証の撤廃だけを求めれば、銀行が中小企業への融資を引き揚げてしまう可能性もあるので注意が必要だ』、「総合的な環境整備を実施しないまま銀行に個人保証の撤廃だけを求めれば、銀行が中小企業への融資を引き揚げてしまう可能性もある」、その通りだ。・『中小企業の経営者はがんじがらめ 日本では、中小零細企業の経営者はあらゆる場面において個人保証を求められ、無限責任を負う必要がある。銀行からの融資はもちろんのこと、オフィスを借りる際や、コピー機をリースする時ですら個人保証を入れなければならない。 筆者自身、会社をゼロから立ち上げ、経営してきた経験があるのでよく分かるのだが、中小企業の場合、何から何まで個人保証を要求され、がんじがらめにされてしまう。近年はだいぶ環境が良くなってきたが、サラリーマンを辞めてしまうと賃貸住宅を借りられなくなったり、カードを作れなくなるケースも珍しくなかった。 起業したのは20年以上前のことだが、当時もちょっとした起業ブームとなっており、会社を立ち上げたことを聞きつけた知人(多くがいわゆるエリートサラリーマン)が多数、起業について話を聞きにきた。 すべてにおいて個人保証が必要であり、失敗すれば無一文どころか自己破産まで強いられること、家を借りられないケースがあること、カードを作れないケースがある..
企業経営
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2024-02-28T18:05:14+09:00
先ずは、昨年5月17日付け現代ビジネスが掲載した経済ジャーナリストの加谷 珪一氏による「じつはいま「地銀と中小企業の関係」が激変中…そのウラに隠された「意外な落とし穴」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/110338?imp=0
・『地方銀行を中心に、融資先企業の経営者に個人保証を求めない流れが拡大している。日本の場合、中小零細企業の経営者が融資に際して個人保証を入れることが当然視されており、こうした商慣行が起業の阻害要因になっていると指摘されてきた。 融資慣行の見直しによってスタートアップ育成につながると期待されているが、起業が不活発な原因は必ずしも個人保証だけではない。総合的な環境整備を実施しないまま銀行に個人保証の撤廃だけを求めれば、銀行が中小企業への融資を引き揚げてしまう可能性もあるので注意が必要だ』、「総合的な環境整備を実施しないまま銀行に個人保証の撤廃だけを求めれば、銀行が中小企業への融資を引き揚げてしまう可能性もある」、その通りだ。
・『中小企業の経営者はがんじがらめ 日本では、中小零細企業の経営者はあらゆる場面において個人保証を求められ、無限責任を負う必要がある。銀行からの融資はもちろんのこと、オフィスを借りる際や、コピー機をリースする時ですら個人保証を入れなければならない。 筆者自身、会社をゼロから立ち上げ、経営してきた経験があるのでよく分かるのだが、中小企業の場合、何から何まで個人保証を要求され、がんじがらめにされてしまう。近年はだいぶ環境が良くなってきたが、サラリーマンを辞めてしまうと賃貸住宅を借りられなくなったり、カードを作れなくなるケースも珍しくなかった。 起業したのは20年以上前のことだが、当時もちょっとした起業ブームとなっており、会社を立ち上げたことを聞きつけた知人(多くがいわゆるエリートサラリーマン)が多数、起業について話を聞きにきた。 すべてにおいて個人保証が必要であり、失敗すれば無一文どころか自己破産まで強いられること、家を借りられないケースがあること、カードを作れないケースがあることなどを説明すると、皆、顔面蒼白になり帰っていった。筆者の知る限り、アドバイスを求めにきた知人の中で実際に会社を立ち上げた人は皆無だったと記憶している。) 中小企業経営者の中には、「個人保証を入れることなど大したことではない、というくらいの気概がなければ、企業の経営など無理」と述べ、銀行や取引先が個人保証を求めることはむしろ人材の選別機能になっていると主張する人もいる。確かにそうした面があるのは事実であり、個人保証の話を聞いて青ざめるような人物では、到底、中小企業の経営などおぼつかないだろう。 しかしながら、あまりにも高いハードルが起業の入り口を狭めているのは事実であり、こうした商慣行の見直しが必要なのはその通りである』、「会社を立ち上げたことを聞きつけた知人(多くがいわゆるエリートサラリーマン)が多数、起業について話を聞きにきた。 すべてにおいて個人保証が必要であり、失敗すれば無一文どころか自己破産まで強いられること、家を借りられないケースがあること、カードを作れないケースがあることなどを説明すると、皆、顔面蒼白になり帰っていった。筆者の知る限り、アドバイスを求めにきた知人の中で実際に会社を立ち上げた人は皆無だったと記憶している」、自らの腕だけで勝負するとなれば、相当の覚悟が必要だ。
・『銀行は「リスクを取ってはいけない」 今回、銀行が融資先企業の経営者に個人保証を求めない流れが出てきたのには、政府からの要請という部分も大きい。金融機関は以前から自主的なガイドラインを作成しており、可能な限り個人保証を求めないよう取り組みを進めてきた。だが現時点では、約7割が保証付き融資となっており、効果を発揮しているとは言い難い。 こうした事態を受けて岸田政権は昨年、スタートアップ企業を支援するため、経営者の個人保証を免除する施策について検討を開始した。今年に入って金融庁が、融資先に個人保証を求める場合、その必要性について説明することを金融機関に義務付けるなど、具体的な政策として動き始めている。 個人保証を外すこと自体は正しい方向性であり、筆者も高く評価している。 だが、中小企業の資金調達環境について政府や金融機関には誤った認識があり、単純に個人保証を外しただけでは、日本の起業が活発になるわけではない。それどころか、このまま何も考えずに政策を進めてしまうと、かえって中小零細企業の資金調達が阻害される可能性すらある。その理由は、日本において新規ビジネスが不活発なのは、経営者への個人保証だけが原因ではないからである。) 日本では中小企業の資金調達環境やその認識に大きな歪みがある。 中小企業やベンチャー企業は他の企業と比較してリスクが高い。先進諸外国の場合、こうしたリスクが高いビジネスの資金調達は銀行からの融資ではなく、投資家による直接出資(返済の義務はなく、失敗した場合には投資家が損失を引き受ける)によって賄われるのが通常である。 なぜそうなっているのかというと、銀行というのは預金者の大切な資金を預かり、それが失われることがないよう慎重に運用することが義務付けられた存在だからである。多くの国民にとって銀行預金は命の次に大事なものであり、そうした大事な資金を、いつ倒産するのかも分からない企業に融資してよいわけがないことは、直感的にお分かりいただけるだろう。 このため諸外国では、銀行はほぼ確実に資金が回収できる融資先にのみ融資を行い、リスクが高い事業は投資によって資金を確保するという役割分担が確立した』、日本でも経営者などの出資が資金調達の核になる点は同じだ。
・『創業間もない企業の資金調達は株式で実施すべき ところが日本の場合、直接的な投資によって資金を集めるという環境が整備されず、事業を立ち上げる人にとって銀行融資しか資金を集める手段ないという状況が長く続いた。 銀行はリスクが高いビジネスには融資できないのに、そうしたハイリスクの融資先を開拓しなければならないというジレンマに陥っている。銀行にしてみれば、預金者から預かった大切なお金であり、簡単になくしてしまうことはできず、安易に融資を行えば、預金者に対する背信行為になる危険性もある。その解決策として使われてきたのが、経営者やその家族に個人保証を求めるという、悪しき融資慣行であった。 つまり、創業間もない企業に対して普通に銀行融資が行われている状況にこそ問題があり、融資に頼らない資金調達環境を整備しなければ、本当の意味での起業活性化は難しいのだ。 それどころか、個人保証を外すことだけに邁進した場合、逆効果になる可能性すらある。 先ほど説明したように、銀行は本来、リスクの高い事業には融資できない存在である。政府が過度に個人保証の見直しを要請すると、銀行はリスクの高い企業にまで保証なしで融資を行い、後に大量の不良債権を生み出す可能性がある。逆に銀行として慎重に行動した場合には、融資が極度に減少し、ほとんどの零細企業が資金調達できないという事態に陥る可能性もある。 ではどうすればよいのか。 日本において起業が不活発である理由をしっかりと分析し、全体的な環境整備を同時並行で進めることが重要である。具体的に言えば、大企業と中小企業の取引慣行の見直しや、中小企業のM&A(合併・買収)活性化である』、「創業間もない企業に対して普通に銀行融資が行われている状況にこそ問題があり、融資に頼らない資金調達環境を整備しなければ、本当の意味での起業活性化は難しいのだ」、「創業間もない企業に対して」は融資ではなく、経営者の手金がベースになっている筈だ。
・『大企業の商慣行見直しを進めるべき 諸外国の場合、起業家が事業を始める際には、ゼロから会社を立ち上げるというケースもあるが、そうではないケースもかなり多い。典型的なのは、すでに事業を行っている人が引退する際、若い起業家に事業を売却するなど、既存ビジネスの継承である。 こうした手法であれば、特別な技能や経験がなくても事業をスタートできるし、すでにビジネスとして立ち上がっているので、投資家も安心して資金を提供できる。また当該事業が十分なキャッシュフローを得ている場合には、銀行の融資で資金をカバーすることも可能だろう。こうした形で中小企業のM&Aや、事業継承がもっと活発になれば、資金調達の環境も大きく変わるはずだ。) 加えて言うと、創業間もない企業や、前例がない企業とは取引をしないといった、日本の大企業独特の商習慣も改める必要がある。 中小企業を立ち上げた経営者にとって、もっとも大きな壁として立ちはだかるのは、資金よりも、むしろ取引先の開拓である。日本では、前例がないという理由だけで取引について門前払いを受けることが多く、会社を立ち上げても事業が続かないケースが多い。また、発注元の大企業が、支払い条件に対してムチャな要求を取引先に突きつけることも少なくない。 起業を促進するためには、単純に個人保証をなくすといった解決策だけでなく、事業の売買や商習慣なども含めた総合的な環境整備が必要である』、「創業間もない企業や、前例がない企業とは取引をしないといった、日本の大企業独特の商習慣も改める必要がある」、大企業としても信用リスクが高い企業との取引には慎重というのは、やむを得ないと思う。「発注元の大企業が、支払い条件に対してムチャな要求を取引先に突きつけることも少なくない」、これは独禁法違反になりかねない行為で、当局からの警告が必要だ。
次に、昨年11月26日付け日刊ゲンダイ「ソフトバンクの新金融商品「社債型種類株式」のうま味とリスク」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/332526
・『9月に本欄で紹介した「アクティブETF」に続いて、また日本初の金融商品がデビューした。社債の特性を持った上場株式、その名も「社債型種類株式」である。発行したのはソフトバンクグループの国内通信子会社ソフトバンクで、11月2日に東証プライムに上場し、話題になっている。 聞き慣れないだろうが、「種類株式」とは、普通株式と権利の内容が異なる株式のことである。 発行価格は1株4000円。売買単位は普通株と同じ100株(最少投資単位40万円)。発行株数と発行総額はそれぞれ3000万株、1200億円である。 ソフトバンクにとってのメリットは以下の通り。株式の一種であるため、発行で得た資金は会計上、100%資本となるから、社債や借り入れなど負債調達に比べ財務を悪化させず資金を集められる。また社債型株式には議決権がなく、普通株への転換権もないことから株式の希薄化が起こらない。 では、投資家にはどんなうまみがあるのか。 普通株に先立って優先的に配当が行われることと、社債のように安定した利回り(配当)が期待できることだろう。) 配当率は発行後約5年間は固定で年2.5%。ソフトバンク普通株の配当利回りは足元で4.9%程度で、一方、23年3月に同社が発行した個人投資家向け社債の利率は0.98%なので、社債型株式の利回りは株と社債の中間と考えていい。 上場初日の終値は4025円だった。上場後(11月20日まで)の株価は4000~4040円で値動きは小さい。 投資家が気になるリスクだが、それは「コール(事前償還)条項」だ。発行から5年経てばソフトバンクが発行価格に未払いの配当金などを上乗せした金額で買い戻すことができる。ただしコールは市場慣例で、発行体には買い戻す権利があるだけで、財務悪化などで買い戻しを見送ることもできる。万が一、見送りとなれば、投資の前提が崩れ、売り材料となりかねないが、ソフトバンクの体面があるし、NISAの対象でもあるだけに、それは考えにくい。だから個人投資家の人気が高く、10月末時点の個人の申込比率は92%に上る。 株はリスクがあって怖いが、金利が0.1%程度の定期預金にも満足していないという人は検討してみる価値は十分あるだろう。(丸)』、「ソフトバンクにとってのメリットは以下の通り。株式の一種であるため、発行で得た資金は会計上、100%資本となるから、社債や借り入れなど負債調達に比べ財務を悪化させず資金を集められる。また社債型株式には議決権がなく、普通株への転換権もないことから株式の希薄化が起こらない」、なるほど。 「投資家にはどんなうまみがあるのか。 普通株に先立って優先的に配当が行われることと、社債のように安定した利回り(配当)が期待できることだろう・・・配当率は発行後約5年間は固定で年2.5%。ソフトバンク普通株の配当利回りは足元で4.9%程度で、一方、23年3月に同社が発行した個人投資家向け社債の利率は0.98%なので、社債型株式の利回りは株と社債の中間と考えていい」、これはよく出来た仕組みだ。
第三に、本年2月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した共同通信編集委員の橋本卓典氏による「金融庁がリスク警戒!地銀・信金で広がる「仕組み貸出」の深すぎる闇」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/338854
・『一部の地域金融機関の間で、「仕組み貸出」と言われるスキームがはやっている。既に金融庁はリスク管理強化を要請しているというそのスキームとは、一体どのようなものなのか。背景を探ると、業界内ではやるだけの「うまみ」と「闇」があることが分かってきた』、興味深そうだ。
・『金融庁がリスク管理強化を要請 地域金融業界で「仕組み債」ならぬ、「仕組み貸出」が注目を集めている。 金融庁が1月、地方銀行・第二地方銀行との意見交換会で、仕組み貸出に関して、リスク管理を強化するよう求めたのがきっかけだ。 もっとも仕組み貸出自体は昔からあり、目新しい取引ではないが、このところ増加傾向にあるという。なぜ金融庁が今、問題視するのか。次ページでその論点と、業界の構造的課題に迫る』、「仕組み貸出自体は昔からあり、目新しい取引ではないが、このところ増加傾向にある」、「金融庁が今、問題視」した「論点」と「業界の構造的課題」をみてみよう。
・『複雑な仕組み貸出スキーム まず以下のスキーム図を見てほしい。 証券会社などがつくった特別目的会社(SPC)に地銀が貸し出しを行う仕組み。SPCは融資契約に基づいて国債などの債券を取得する。 融資実行の際、債券の利回りの一部に相当するアップフロントフィーが地銀サイドに支払われるところに特徴がある。10年国債の場合、10年分の手数料を一括で地銀が手にする。 SPCから先は、スワップ取引が行われているとされるが、地銀側にはその詳細は明かされず、通常「ブラックボックス」となっている。金融庁によれば「複雑な商品性が多い」という。 (図_「仕組み貸出」のスキーム図 はリンク先参照)』、「SPCから先は、スワップ取引が行われているとされるが、地銀側にはその詳細は明かされず、通常「ブラックボックス」となっている」、というのは問題だ。
・『ブラックボックス では、そのブラックボックスでは一体何が行われているのか。 まず、SB(普通社債)リパッケージ債が類似したスキームだという。 たとえば同一企業が発行する国内債と外債の間に市場関係者の見通しの違いから価格差が生じたとする。仮に外債が国内債より割安の場合、スワップ取引によって、国内債より高い外債のクーポンを活用したリパッケージ債を組成することができる。 また、繰り上げ償還条項(コール条項)付きCB(転換社債)リパッケージ債というスキームも存在する。 発行者(SPC)がいつでもCBを償還(コール)する権利を持ち、権利行使の場合、対象償還額面金額と利子が支払われる。投資家(地銀)は償還までのクーポン・償還金を受け取るだけだ。CB、転換株式の価格上昇の値上がり益は享受できない』、「CB、転換株式の価格上昇の値上がり益」はスキームの管理コストのような形で消えているのだろうか。
・『SPCを仲介させる理由とは ブラックボックスの中身は複雑だが、銀行とSPCの関係だけを見ると単純だ。だが奇妙なスキームではある。 そもそも、SPCの運用先が国債であるならば、SPCなど介さずに、銀行が直接国債を満期保有した方が高い利回りを確保できるはずだ。なぜSPCが必要なのか。 このスキームは債券運用ではなく、「貸し出し」であるところがポイントなのだ。 まず、貸し出しには、貸借対照上の時価評価の必要がないという点がある。 有価証券を運用する場合、時価が簿価より50%以上下落した場合、回復可能性がなければ時価評価をして、減損処理を行わなければならない。しかし、貸し出しの場合、この必要がなくなるのである。 仕組み貸出にはさまざまなスキームがあり、SPCは国債以外の外債、社債などを取得する場合もある。銀行が直接、外債や社債を取得した場合、時価評価による減損リスクと向き合わなければならない。 かつては、外債運用で大規模な損失を計上することになった地銀もあり、その反動からこうしたスキームが使われるようになったという』、「銀行が直接、外債や社債を取得した場合、時価評価による減損リスクと向き合わなければならない」、これを回避するために「SPC」を活用したとは上手いやり方だ。
・『貸出残高をかさ増し また、有価証券運用ではないため、地銀は貸出残高を「かさ増し」することができる。 地銀関係者によれば、「SPCを中小企業と見なせば『中小企業向け貸出残高』と外部に見せることもできなくもない」と打ち明ける。 いくつかの地域のトップ地銀関係者に取材したところ、いわゆる“お堅い運用”をしている印象であった。 具体的には、SPCが取得する債券を国債に限定したり、銀行側のリスク統括、審査担当のチェックを受けなければ、仕組み貸出を認めなかったりという管理をしていた。 国債などの安全性の高い債券をSPCが取得する場合、地銀が受け取るリターンは極めて薄利となる。よって、貸出金のボリュームを増やさなければ十分な利ざやは確保できない。中には、100億円を超える「大型融資」もあるという。地域金融機関にとっては、巨額融資だ』、「地銀は貸出残高を「かさ増し」することができる・・・「SPCを中小企業と見なせば『中小企業向け貸出残高』と外部に見せることもできなくもない」、なるほど上手い手だ。
・『リスクは「早期償還事由」か リスクは、やはりSPCから先の「ブラックボックス」にあるとみて間違いない。 証券会社の資料でも「早期償還事由」について以下のような説明がある。 SPCの倒産、支払い不履行などによる期限の利益喪失は当然として、「元本・利子の削減」でも早期償還される。外債の場合、各国の法令、関係当局の権限によって元本が削減されることもある。 また、非常に流動性の低い通貨建て債券の場合、当初予定とは違う通貨で元利金支払いが行われる場合もある。スワップ取引の取引相手が倒産、支払い不履行になった場合も早期償還となる。こうしたリスクを地銀が管理するのは至難だろう。 早期償還の場合、担保証券を市場売却して、スワップ契約を解約し、担保証券の売却金額から弁護士費用など必要経費を差し引き、残余金を地銀に返済することになる。当然、貸出債権が焦げ付くこともあり得るのだ』、「当初予定とは違う通貨で元利金支払いが行われる場合もある。スワップ取引の取引相手が倒産、支払い不履行になった場合も早期償還となる。こうしたリスクを地銀が管理するのは至難だろう。 早期償還の場合、担保証券を市場売却して、スワップ契約を解約し、担保証券の売却金額から弁護士費用など必要経費を差し引き、残余金を地銀に返済することになる。当然、貸出債権が焦げ付くこともあり得るのだ」、地域金融機関には管理困難だろう。
・『神経とがらせる金融庁 金融庁は、地域金融機関が仕組み貸出について、現場部署だけでなく、審査やリスク統括などの関連部署が商品性や内包するリスクを正確に把握して、経営陣に報告して十分なリスク検証を行う態勢整備ができているかどうかに注目している。 「むしろ、地銀に比べて管理態勢が甘い可能性のある信用金庫などの協同組織金融が心配だ」と、金融庁幹部は不安を隠さない。 アップフロントフィーという目先の収益が目的になってしまえば、経営戦略を度外視して仕組み貸出にのめり込んでしまう恐れもあるからだ。経営体力に見合うリスク量となっているのかどうかもポイントとなる。 ちなみに「国債を裏付け担保とするアップフロントフィーは米国では認められていないので、監査法人が嫌がる」(地銀幹部)との声もある。 仕組み貸出の限度額管理だけでは不十分だ。類似商品のコスト、オプション条件を十分に比較できているか。金利リスク・業種集中リスク・カントリーリスクなどのリスク特性への目配りも重要だ。 仕組み貸出を売り込もうとする証券会社・信託銀行の話だけではなく、自ら市場価格、外部格付けをモニタリングしなければならない。 仕組み貸出が金融機関としての経営戦略、重点的取り組み方針と合致しているのかどうかも疑わしい。 また、株主・投資家への説明が不十分だ。金融庁も仕組み貸出について、ステークホルダーへの説明を促している』、「仕組み貸出の限度額管理だけでは不十分だ。類似商品のコスト、オプション条件を十分に比較できているか。金利リスク・業種集中リスク・カントリーリスクなどのリスク特性への目配りも重要だ。 仕組み貸出を売り込もうとする証券会社・信託銀行の話だけではなく、自ら市場価格、外部格付けをモニタリングしなければならない。 仕組み貸出が金融機関としての経営戦略、重点的取り組み方針と合致しているのかどうかも疑わしい。 また、株主・投資家への説明が不十分だ。金融庁も仕組み貸出について、ステークホルダーへの説明を促している」、これは地域金融機関にとっては大変難しい問題だ
・『地域金融の役割とは何か 仕組み貸出は、産業振興や信用創造につながる事業性の融資でもなく、預貸業務以外の真っ当な資金運用でもない。 仮に地銀側が「デフォルトではない」と判断しても、スワップ上のデフォルト定義が異なる場合がある。そのリスク分が金利に上乗せされるわけだが、担当者が十分に理解しているかどうかは怪しい。 そもそも「見せかけの貸出残高維持」や、「国債の利回りの一部をアップフロントフィーで先食い」する効果がある仕組み貸出に、地域金融機関が手を出さなければならないところに、業界が抱える闇がある。 仕組み貸出の増加は、日銀のマイナス金利政策でだぶつき、行き場を失ったマネーが生み出したものだという見方もできる。抜け目ない証券会社が提案する、何の付加価値も生まない仕組み貸出のスキームに地銀がこぞって飛び付いたのも、預貸率改善の必要に迫られて、やむを得ない側面があったのではないだろうか。 本当の問題は、日銀が利上げに踏み切れば、過去30年間近く続いた「金利なき世界」に慣れ切った地域金融機関が、「金利ある世界」に戻っていく危うさにあるのかもしれない。 「金利ある世界」だからこそ、地域金融の役割とは何かを問い直す必要がある。 たとえば、非営利団体として法人税が減免される信金には営業エリアがある。だが、信金の中には少しでも多く利益を獲得すべくメガが組成するシンジケートローンに参加し、実質的に営業エリア外へ貸し出しているところもある。 「金利ある世界」は総じて金融機関にとって追い風となるため、今後、同様の動きが増えるかもしれない。地元経済の金融仲介機能の担い手であるという、地域金融の本質に立ち戻って考える必要もあるのではないか』、「そもそも「見せかけの貸出残高維持」や、「国債の利回りの一部をアップフロントフィーで先食い」する効果がある仕組み貸出に、地域金融機関が手を出さなければならないところに、業界が抱える闇がある・・・抜け目ない証券会社が提案する、何の付加価値も生まない仕組み貸出のスキームに地銀がこぞって飛び付いたのも、預貸率改善の必要に迫られて、やむを得ない側面があったのではないだろうか。 本当の問題は、日銀が利上げに踏み切れば、過去30年間近く続いた「金利なき世界」に慣れ切った地域金融機関が、「金利ある世界」に戻っていく危うさにあるのかもしれない」、「地域金融機関が手を出す」のはやはり極めて問題が大きそうだ。検査などを通じて手を引かせるべきだろう。
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