株式・為替相場(その23)(ブラックマンデー超え暴落の原因 日米景気不安、企業経営への影響は 検証 ブラックマンデー超え大暴落(2)、ドル円レートの「正しい理論値」など存在しない だからこそ意図的に歪みを加えてはいけない) [金融]
株式・為替相場については、本年6月16日に取上げた。今日は、(その23)(ブラックマンデー超え暴落の原因 日米景気不安、企業経営への影響は 検証 ブラックマンデー超え大暴落(2)、ドル円レートの「正しい理論値」など存在しない だからこそ意図的に歪みを加えてはいけない)である。
先ずは、8月7日付け日経ビジネスオンライン「ブラックマンデー超え暴落の原因 日米景気不安、企業経営への影響は 検証 ブラックマンデー超え大暴落(2)」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00210/080600062/
・『この記事の3つのポイント 1.日本株が5日までに急落。世界の中でも落ち込み大きく 2.米経済の減速懸念浮上。為替は円安基調から転換 3.国内消費への影響は不透明。内需企業にもリスク 米国景気の減速懸念が強まったことなどをきっかけにパニックに陥った東京株式市場。6日は日経平均株価が5営業日ぶりに反発し、3217円(10%)高の3万4675円で取引を終えた。それでも終値ベースのピーク(7月11日の4万2224円)からの下落幅は7500円を超える。日本株の暴落はなぜ起きたのか、今後の株価や為替はどうなるのかなど、知っておきたい10の疑問をまとめた。 1:株暴落はなぜ起きた? 2:なぜ日本株だけ下げ幅が大きいのか? 3:株価はまだ下がるのか? 4:今後の金利はどう動く? 5:円高はどこまで進む? 6:日本企業の業績に与える影響は? 7:波乱含みの市場で評価される企業は? 8:国内消費の行方は? 9:投資初心者はどうしたらいいの? 10:今後注目のイベントは?』、興味深そうだ。
・『1:株暴落はなぜ起きた? 今回の日経平均株価の落ち込みが始まったのは日本銀行が追加利上げを発表した翌日の8月1日だ。一日の値動きで過去最大の下落幅を記録した5日までのトータルで7643円(19.5%)もの激しい落ち込みとなった。 (1)相場の上昇をけん引していた米ハイテク株への期待がしぼみ調整局面に入ったこと(2)日銀が追加利上げと量的引き締め(QT)を同時決定したことがサプライズだったこと(3)米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が米連邦公開市場委員会(FOMC)後に9月の利下げを強く示唆し、日米の金融政策の方向性の明確な違いが意識されたこと(4)米国の経済指標が予想を下回り景気減速懸念が浮上したこと――などが要因として挙げられる。 結果として、日銀の金融政策の正常化と米景気に対する不安から今までマーケットが想定していた持続成長の前提が揺らいだ。大和証券の坪井裕豪・日米株チーフストラテジストは「想定が急に見直しを迫られたことで、マーケットから資金が逃げ出すスピードが速くなってしまった」と見る』、「結果として、日銀の金融政策の正常化と米景気に対する不安から今までマーケットが想定していた持続成長の前提が揺らいだ」、なるほど。
・『株の下落要因が重なった日本 2:なぜ日本株だけ下げ幅が大きいのか? 株価の下落は世界各地の市場に波及したが、その中で日本株の落ち込みは特に大きい。これは下げ要因が重なったからだ。最たるものはQ.1で挙げた日銀の利上げと、それに付随した円高だ。三菱UFJアセットマネジメントの石金淳チーフファンドマネジャーは「日本経済の状態から見て日銀は利上げを必ずしも急ぐ必要はなかったが、円安を阻止するために利上げをしたのではないか。それに伴う円高のスピードが問題だ」と指摘する。 日銀短観(6月調査)の結果における、輸出企業の2024年度の想定為替レートは1ドル=142円68銭。日経平均が最高値を更新した時の実勢レートは1ドル=158円前後と、想定レートより15円程度円安で推移していたが、1ドル=145円前後まで円高に振れ、想定レートに近づいた。 想定レートよりも実際のレートが円安で推移すると、輸出企業は収益が膨らむ。1ドル=140円という想定の下で1000億円の年間利益を予想している企業があったとしよう。もし実際の為替レートが1ドル=150円で推移すると、その企業は1000億円を上回る利益を計上すると投資家は期待する。 今回はその逆の動きで、実勢レートが想定レートに近づいてしまったため、業績の上振れ期待がしぼんでしまった。また「日銀の政策変更後の株安を受けて、日本の景気が金利上昇に耐えられないとの不安が広がり、金融株などの景気敏感株の売りが出ている」(大和証券の坪井氏)との指摘もある。 ■連載「検証 ブラックマンデー超え大暴落」記事一覧 ・日経平均3217円高、急反発に潜む不安 消える円安期待、日産の憂鬱 ・ブラックマンデー超え暴落の原因 日米景気不安、企業経営への影響は(今回)』、「実勢レートが想定レートに近づいてしまったため、業績の上振れ期待がしぼんでしまった。また「日銀の政策変更後の株安を受けて、日本の景気が金利上昇に耐えられないとの不安が広がり、金融株などの景気敏感株の売りが出ている」、なるほど。
3:株価はまだ下がるのか? 三菱UFJアセットの石金氏は年内の日経平均株価の変動範囲を3万~3万7000円程度と予想。「短期的な底は打った。米景気は減速するが、大崩れしないだろう。インフレ率や金利の低下が株価の上昇を支える材料となる。半面(50%を下回ると景気後退の可能性が指摘される)米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況指数が連続して45%を割ることがあれば株価の下げ要因となりうる」と話す。 大和証券の坪井氏は年内の日経平均株価のレンジを2万9000~4万円と見る。今後の日本株の行方を占うポイントとして注目しているのが、世界各国の中央銀行トップらが米ワイオミング州に集まる8月下旬の国際経済シンポジウム(通称・ジャクソンホール会議)だ』、「ジャクソンホール会議」は確かに注目点だ。
・『インバウンド依存の内需企業に逆風も 4:今後の金利はどう動く? 7月30~31日の日銀会合を経て一時1.07%まで上昇した国内長期金利は、5日には4カ月ぶりの低水準となる0.750%まで下がった。米国の弱い雇用統計を受けて米国金利も23年12月以来の水準まで急低下しており、日米の金利差が縮小した。これが円安基調を反転させた。 ふくおかフィナンシャルグループの佐々木融チーフ・ストラテジストは「日本の株価が落ち着きを取り戻し、インフレ率が上がってくれば利上げ観測がまた出てくるため、長期金利は緩やかに上昇するだろう」と見る。 一方、米国金利については「直近の低下は利下げ期待を織り込みすぎている」と話す。「年内100ベーシス(1%)以上の利下げを織り込んでおり、低下しすぎている。これが元の水準に戻る可能性もある」と予想する。 5:円高はどこまで進む? 5日の東京外国為替市場で円相場は一時1ドル=141円台まで値上がりしたが、6日には1ドル=145円程度まで反落した。 りそなホールディングス(HD)市場企画部の井口慶一シニアストラテジストは「23年から続いていたドル高・円安の動きはいったん終了したと見られる」と話す。その上で「今後は中長期的にドル安・円高の動きに進んでいく可能性がある。年末に向けて1ドル=140円辺りに向かっていくと考えられる」とした。 6:日本企業の業績に与える影響は? 前述のように円高は輸出企業の収益にはマイナス要因となる。ただし1ドル=140円程度の水準であれば企業の想定為替レートとの乖離(かいり)は小さく、販売拡大やコスト削減などの企業努力でマイナス影響を吸収する余地はあると考えられる。りそなHDの井口氏は「輸出企業の決算の状況はそこまで悪くない状況で推移している。過度に悲観的にならなくてもいい」と話す。 一方、輸入企業にとって円高はコストダウン要因となる。以前なら1ドルのものを仕入れるのに150円以上かかっていたのが、145円あるいは140円で済むようになるからだ。 一般に内需系の企業は為替変動に強いとされる。ただし、円高は“安いニッポン”に押し寄せていたインバウンド(訪日外国人)にはマイナスだ。インバウンドの財布のひもが固くなれば、これまで外国人を相手に潤ってきた企業は影響を受けることになる。その意味では内需企業といえども為替変動と無縁ではいられない。 7:波乱含みの市場で評価される企業は? 松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは「半導体銘柄などを中心に大幅に(株価が)下がる中、家具販売大手のニトリホールディングス(HD)やイオンはほとんど株価を下げていない」と指摘する。実際、ニトリHDの株価は市場が売り一色となった5日もほとんど下がらず、6日には7月末を上回る水準まで上げた。 三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストは、景気状況に左右されにくい業種として「電気、ガス、鉄道、食品などの分野」を挙げる』、「景気状況に左右されにくい業種として「電気、ガス、鉄道、食品などの分野」を挙げる」、その通りだ。
・『積み立て投資の経験則「売らずに続ける」 8:国内消費の行方は? 円高は物価上昇を抑えることで個人消費の拡大要因となる。一方、株安は個人が保有する資産の価値を下げて個人消費を抑える効果がある。株安が実体経済に影響を与えるまではタイムラグがあるので、現時点では国内消費が大きく落ち込むとは見られていない。 第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミストの熊野英生氏は「現段階ではデフレ圧力があるくらいで、不況の入り口とまでは言えない」と話す。ただし「株価の低迷が年末まで続けば、業績が悪化した企業が賃上げに弱気になり、春闘交渉に影響して本格的な景気悪化が始まる可能性がある」と指摘する。 9:投資初心者はどうしたらいいの? 今回の株暴落によって一部では投資を始めたばかりの個人によるパニック売りが発生したとも言われたが、5日に買い増しした人もいる。積み立て投資においては「売らずに続ける」ことが重要とされる。ニッセイ基礎研究所金融研究部の前山裕亮主任研究員は「値下がりした今はむしろ買い増しのチャンス」と話す。 NISA(少額投資非課税制度)制度を使い、日経平均株価に連動するインデックスファンドに積み立て投資を行った場合で運用の成果を検証した以下のようなデータがある。積み立ての期間が長い人ほど含み益は大きい。24年年初に始めた人は8月2日時点で既に損失が出ている状況だった。5日にはより多くの損失が出たと考えられる。 6日にあった楽天証券の決算発表では楠雄治社長が投資家に冷静な対応を求めた。「過去12年間で10%を超えるドローダウン(高値から安値までの下落)は10回以上あった。相場の急変は時々起こる。積み立て投資を行っている人はそのまま続けてほしい」と語った。 10:今後注目のイベントは? 先に紹介したジャクソンホール会議は8月下旬に迫っている。FRBのパウエル議長が利下げについてどこまで具体的に言及するかが注目を集めることになりそうだ。今のところ9月にはFRBが実際に政策金利を引き下げる可能性が高いと見られており、それを前提に金利や為替レートは動いている。 その先の11月には米大統領選が控える。現職のバイデン大統領の後継者として選挙に臨む民主党のハリス副大統領と、ホワイトハウスへの返り咲きを狙う共和党のトランプ前大統領の激戦となりそうだ。次期大統領が進める経済政策は米国の景気指標や株価だけでなく、日本を含む各国・地域の経済や企業業績にも影響を及ぼす』、「ジャクソンホール会議」では、米FRB議長は、物価目標達成に自信を示し、9月利下げ「時が来た」とした。「バイデン大統領の後継者である民主党のハリス副大統領の人気が「トランプ氏」を上回っていることもあり、「トランプ氏」の「返り咲き」の可能性は薄らぎつつあるようだ。
第三に、8月24日付け東洋経済オンラインが掲載した慶応義塾大学大学院教授の小幡 績氏による「ドル円レートの「正しい理論値」など存在しない だからこそ意図的に歪みを加えてはいけない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/812705
・『為替レートについての騒ぎがまだ続いている。だが、ひとことで言えば、いかなる真面目な議論も、為替に関しては無駄である。 為替は何を根拠にして決まるのか? なぜなら、為替レートの理論値というものがまったく存在しないからだ。だから、為替は、理論とも、ファンダメンタルズとも、あらゆる合理性から無縁のところで決まる。だから、為替を「正しい」水準に戻そうとする真摯な努力はすべて徒労に終わる。諦めたほうがいい。 合理性で決まらないなら、為替は何で決まるのか。それは、投機家の意向と行動である。 それは、株でも一緒ではないか? 行動ファイナンスでは、すべての金融リスク資産の価格は投資家行動で決まるのだから、為替に限ったことではないのではないか? そうだ。しかし、為替がもっとも極端なのだ。 じゃあ、今が1ドル=145円前後で、2023年1月が130円前後だったのを説明する要素はまったく何もないのか?行動ファイナンスのいう、投機家の意向と行動で決まるということなのか? それも違う。行動ファイナンスですら役に立たない。投機家の期待、1ドル=145円という期待の自己実現という、何でも説明できてしまう自己実現の論理ですら成り立たないのだ』、「行動ファイナンスですら役に立たない。投機家の期待、1ドル=145円という期待の自己実現という、何でも説明できてしまう自己実現の論理ですら成り立たないのだ」、なるほど。
・『「購買力平価理論」は「物価の絶対水準」の話 結論を言っておこう。今、1ドルが145円なのは、1949年4月23日にGHQが1ドル=360円と決めたからなのだ。 なぜそう言えるのか。説明しよう。 その前に、まず、経済学における為替の理論をおおざっぱに概観しておこう。まずは古典的な、購買力平価である。 これは「世界中で一物一価が成り立つような水準に為替レートが決まる」という考え方で、要はビックマックレートとかスターバックスラテレートなどと同じ考え方である。 日本でだけあるブランドもののバックが安いと、世界中から日本にそれを買いに来る観光客が溢れたり、バイヤーが転売したりするので、そのモノの価格が世界中で一物一価に収斂していくが、それをマクロ経済全体で行うのは、為替レートが動くほうが早いので、為替が調整される、という考え方である。 逆に言えば、世界中で一物一価が成り立っているときに、為替がずれてしまうと、大混乱が生じるから、為替がぶれたときに、瞬時にもとに戻るほうが早いから、為替レートが調整するということである。 株価も理論値は、厳密には存在しない。PER(株価収益率)は10倍でも20倍でもいいから、企業の収益見通しにコンセンサスが成り立っても、日経平均株価の予想は、PERの想定によって2万円にも4万円にもなりうる。 それでも、株価については理屈で議論ができ、前提を置けば、水準について何らかの論理的な予想、議論、説明ができる。 しかし、為替はそれがまったくできない。論理がほぼゼロなのだ。「そんなことはないだろう」と反論が来そうだ。例えば「東洋経済オンライン」などで、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミストである唐鎌大輔氏がいつも綿密かつ明快な論理で円安を説明してきたじゃないか?などと思うだろう。 それはそうだが、そうではない。結論から言えば、唐鎌理論は、円高にはなりにくいことの論理的な説明を与えてくれるが、しかし、円高の限界が1ドル=120円なのか140円なのかについては、ほぼ何も言えない。「昔ほどには円高にはならない」、ということが限界だ。) 実体経済における貿易収支を通じた調整も働く。為替レート(例えば円)が安くなって、国内物価が安くなった国からは、その安くなった製品が輸出され、外貨(例えばドル)を稼ぐ。その稼いだ外貨を自国通貨(例えば円)に戻すから、ドル売り円買いが起きて、ドル安円高になる。マクロ経済均衡に戻る、つまり、為替レートのずれが元に戻るようになる。 この購買力平価理論は物価の絶対水準の話なので、絶対的購買力平価理論であり、相対的購買力平価理論もある。それは、物価の変化率、つまりインフレ率の各国間の変動の違いを為替レートが調整する、という理論で、つまり、インフレ率が高くなった国の通貨の為替レートは安くなって、国際的な物価水準の変動が調整される、ということになる』、「株価については理屈で議論ができ、前提を置けば、水準について何らかの論理的な予想、議論、説明ができる。 しかし、為替はそれがまったくできない。論理がほぼゼロなのだ。「そんなことはないだろう」と反論が来そうだ。例えば「東洋経済オンライン」などで、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミストである唐鎌大輔氏がいつも綿密かつ明快な論理で円安を説明してきたじゃないか?などと思うだろう。 それはそうだが、そうではない。結論から言えば、唐鎌理論は、円高にはなりにくいことの論理的な説明を与えてくれるが、しかし、円高の限界が1ドル=120円なのか140円なのかについては、ほぼ何も言えない・・・購買力平価理論は物価の絶対水準の話なので、絶対的購買力平価理論であり、相対的購買力平価理論もある。それは、物価の変化率、つまりインフレ率の各国間の変動の違いを為替レートが調整する、という理論で、つまり、インフレ率が高くなった国の通貨の為替レートは安くなって、国際的な物価水準の変動が調整される、ということになる」、なるほど。
・『もう1つの理論である「金利平価理論」とは? もう1つの為替均衡理論は、金利平価理論で、資本市場において、裁定取引が働いて、為替レートが均衡するという理論である。つまり、外国(米国)の金利が高く、自国(日本)の金利が低い場合、アメリカのドルで運用したほうが得になってしまうから、均衡では、ドルが今後安くなることが予想されていることになる。 つまり、金利差が年率5%あれば、1年後のドルは今より5%安くなるはずだ、と投資家たちは思っているということだ。それなら、ドルで運用して円で運用するよりも5%ドルの名目値が増えても、ドルが円に比べて5%安くなるから、ドルでも円でもどちらで運用しても同じリターンが得られる、ということだ。そう期待されているから、実際にも、ドルは1年後には5%安くなっている、ということになる。 これはドル円の金利差が円安をもたらしている、ということと逆になっているように見えるが、必ずしもそうではない。予想外にアメリカの金利が上がったとしよう。予想外に金利差が広がったということであるが、この場合は、サプライズに対して瞬間的に急激に円安が進み、その後、金利差を埋め合わせるように、円高が進むことになる。 そうでないと、永遠にドル買いが進んでしまい、誰も円を持たなくなってしまう。だから、均衡に向かうとすると、いったん円安に急激にオーバーシュートして、そこから円高が進むことになる(ただし、実際には投機家たちが合理的に期待(将来への予想)をするかどうかなどにかかっているので、理論的にもさまざまなケース、シナリオが考えられる)。) ここでは為替理論を幅広く網羅することが目的ではないので、基本的なポイントを整理しよう』、「もう1つの為替均衡理論は、金利平価理論で、資本市場において、裁定取引が働いて、為替レートが均衡するという理論である。つまり、外国(米国)の金利が高く、自国(日本)の金利が低い場合、アメリカのドルで運用したほうが得になってしまうから、均衡では、ドルが今後安くなることが予想されていることになる・・・予想外にアメリカの金利が上がったとしよう。予想外に金利差が広がったということであるが、この場合は、サプライズに対して瞬間的に急激に円安が進み、その後、金利差を埋め合わせるように、円高が進むことになる。 そうでないと、永遠にドル買いが進んでしまい、誰も円を持たなくなってしまう。だから、均衡に向かうとすると、いったん円安に急激にオーバーシュートして、そこから円高が進むことになる」、なるほど。
・『為替の基本的な「3つのポイント」とは何か 第1に、理論は均衡理論であり、為替市場は常に均衡へ向かうことが仮定され、その均衡へ向かうメカニズムも機能することが前提となっている。しかし、現実の世界では、均衡はまったく成り立っていないし、かつ均衡へ向かうメカニズムも機能していない。したがって、現実の為替市場は理論と大きく異なる。 第2に、実体経済と金融資本市場とが分離している。実体経済における購買力平価と金融資本市場の金利平価の理論値が異なった場合、どうなるのか? 一般には短期的には金融市場、長期的には実体経済ということだが、絶対的購買力平価が長期的にも成り立ったことは過去にもほとんどない。実体経済と金融市場の分裂が、ここでも生じるのである。 第3に、均衡へ向かうメカニズムが、投機家や経済主体の期待に基づくものと為替への需要と供給によるものと2つ存在することが示唆されている。 前出の説明では、暗に合理的期待形成がなされる前提に実はなっているのだが、実際には、それは成り立たないことははっきりしている。また、為替は結局需給で決まるというのは、唐鎌理論もそうなのであるが、実は、金融市場では本来理論的には成り立たないはずの議論なのである。 なぜなら、需給で為替レートが本来の水準からのズレが生じれば、そのズレを利用して儲けようとする裁定取引が投機家によって行われ、すぐに為替は元の水準に戻ることになる。) となると、結局、実際、為替はどのように決まっているのか? 前出の議論を踏まえると、理論的には論理的とは言えないが、結局現実には需給で決まっている、という説だけが生き残りそうである。そうだとすると、なぜ、論理的には生じるはずの裁定取引が行われないのか? それは「正しい」水準が存在しないので、戻っていくべき為替レートというものが存在しないからである。ファンダメンタルズがないから、戻るべき理論値もないし、アンカー(錨)となる拠り所もないのである。 唯一の拠り所は、昨日までの為替水準であるが、昨日の為替水準にも正しい理論値はもちろん存在していなかったから、昨日までの水準から今日ズレたからと言って明日戻っていくはずがない。 つまり、為替水準は、常に365日、正しくないところにあるのであって、なぜその水準かというと、たまたまそこに為替水準があった、ということだけなのだ。既成事実として存在していた、という以外のことは何もないのである。 では、なぜ為替はそこから「ズレ」たのか?いや、そこから動いたのか? ここに需給が登場する。誰かが売ったから下がったのであり、誰かが買ったから上がったのである』、「為替の基本的な「3つのポイント」:①理論は均衡理論であり、為替市場は常に均衡へ向かうことが仮定され、その均衡へ向かうメカニズムも機能することが前提となっている。しかし、現実の世界では、均衡はまったく成り立っていないし、かつ均衡へ向かうメカニズムも機能していない。したがって、現実の為替市場は理論と大きく異なる・・・②実体経済における購買力平価と金融資本市場の金利平価の理論値が異なった場合、どうなるのか? 一般には短期的には金融市場、長期的には実体経済ということだが、絶対的購買力平価が長期的にも成り立ったことは過去にもほとんどない。実体経済と金融市場の分裂が、ここでも生じるのである・・・③結局現実には需給で決まっている、という説だけが生き残りそうである。そうだとすると、なぜ、論理的には生じるはずの裁定取引が行われないのか? それは「正しい」水準が存在しないので、戻っていくべき為替レートというものが存在しないからである。ファンダメンタルズがないから、戻るべき理論値もないし、アンカー(錨)となる拠り所もないのである。 唯一の拠り所は、昨日までの為替水準であるが、昨日の為替水準にも正しい理論値はもちろん存在していなかったから、昨日までの水準から今日ズレたからと言って明日戻っていくはずがない。 つまり、為替水準は、常に365日、正しくないところにあるのであって、なぜその水準かというと、たまたまそこに為替水準があった、ということだけなのだ」、なるほど。
・為替に需給が生じた「3つの原因」とは? では、この需給が生じた原因は何なのか?それは、第1に、論理が出てくる場合と、出てこない場合がある。第2に、実体経済からの生じた需要と供給の場合と、金融資本市場からの売りと買いの場合がある。第3に、金融市場から需給に関しては、運用ニーズというある種の実需の場合と、投機的需要の場合とがある。 そして、この3つの軸からの、さまざまな違う需要と供給が入り混じるために、為替レートは1つの論理では説明できない動きをすることになるのである。 論理が出てくる場合とはどんな場合か。例えば、日本の貿易赤字が増加して、輸入のためにドルが必要だから、ドル買い円売りが出る、というのは1つの論理である。これは実体経済の貿易によるものだ。次に、金融市場では、アメリカの金利が上がったから、ドルでの運用ニーズが高まり、ドル買い円売りが生じた、という論理がありうる。) 「なんだ、論理があるじゃないか!」と思われるかもしれないが、これは為替水準の論理ではなく、為替の変化の方向の論理なのである。貿易赤字が増えれば円安方向、アメリカの金利が上がるのも円安方向、という論理はある。しかし、では、今の1ドル=145円が150円になるのか155円になるのか、ということに関しては、何も言えない。さらに、145円と155円とどちらが長期的に正しいのか、ということはそれ以上に一切何も言えない。 その結果、為替はオーバーシュート(行きすぎること)も起こりやすくなるし、かつ一度同じ方向に動き出すとそのモメンタム(一方向への流れ)が止まらず、オーバーシュートの乱高下をしながら、かなりの期間、同じ方向に動き続ける。 いったん円安の流れになったらしばらく止まらないし、転換点が来たら、今度は円高方向しかありえない。しかし、皆がそう思っているから、一気に円高が進んでも、進みすぎかどうかは判断できないから、その流れに乗るが、しかし、強い投機家は、オーバーシュートを意図的に作りながら儲けることができる。 このように、強い投機家によって、為替相場は短期的には作られることが多いが、長期的な動きは、一部の投機家の意図では支配しきれない。大きな投機家集団、世の中全体の「群衆的な」動きによって決まってくる。それは誰にも予想はできないし、支配もできない。しかし、その流れで決まってくるのが現実だ。 その結果が、今の1ドル=145円前後なのである。今145円で125円でないのは、あるポイントからオーバーシュートとモメンタムを繰り返した結果なのである。 そして、そのあるポイントとは、1ドル=360円と1949年に決められたポイントなのである。そして、それが1971年末まで続けられたからであり、1973年まで1ドル=308円にしたからであり、1973年に308円スタートで変動相場制に移行したからである。 円安すぎる水準に長く固定されすぎていたから、その後は、一貫した円高モメンタムが続いたのであり、その流れがあったから、過度な円高というオーバーシュートが何度も繰り返されたのである。 そして、そのオーバーシュートが行きすぎたことから、円安の流れにどこかで転換せざるをえなかったのであるが、異次元緩和がきっかけとなって、今度は円安オーバーシュートが起きてしまったのである。したがって、すべては、1ドル=360円と決めたから、その後の水準の推移があったのであり、ゲームの始まりにおいて、たまたま決められた水準が今の水準に影響を残し続けているのである。 したがって、為替は本質的に、変動を続け、経済に歪みを与え続けるのであり、そういうものであるからこそ、異次元緩和のような、為替に意図的に強力な歪みをもたらすことは、もっともやってはいけないことであり、経済をもっとも大きく歪ませることになるのである。 ただ、異次元緩和を行ってしまった事実は動かせないし、今1ドル=160円まで行ってしまってから、今145円前後になっているということも動かせないので、この罪を償うことはほぼ不可能に近いのであり、その不可能を現在の日銀に世間が要求したために、為替市場が荒れることになったのである(本編はここで終了です。この後は筆者が週末のレースなどを予想するコーナーです。あらかじめご了承下さい)』、「強い投機家によって、為替相場は短期的には作られることが多いが、長期的な動きは、一部の投機家の意図では支配しきれない。大きな投機家集団、世の中全体の「群衆的な」動きによって決まってくる。それは誰にも予想はできないし、支配もできない。しかし、その流れで決まってくるのが現実だ・・・異次元緩和のような、為替に意図的に強力な歪みをもたらすことは、もっともやってはいけないことであり、経済をもっとも大きく歪ませることになるのである。 ただ、異次元緩和を行ってしまった事実は動かせないし、今1ドル=160円まで行ってしまってから、今145円前後になっているということも動かせないので、この罪を償うことはほぼ不可能に近いのであり、その不可能を現在の日銀に世間が要求したために、為替市場が荒れることになったのである」、難しい為替市場を分析した貴重な論文である。
先ずは、8月7日付け日経ビジネスオンライン「ブラックマンデー超え暴落の原因 日米景気不安、企業経営への影響は 検証 ブラックマンデー超え大暴落(2)」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00210/080600062/
・『この記事の3つのポイント 1.日本株が5日までに急落。世界の中でも落ち込み大きく 2.米経済の減速懸念浮上。為替は円安基調から転換 3.国内消費への影響は不透明。内需企業にもリスク 米国景気の減速懸念が強まったことなどをきっかけにパニックに陥った東京株式市場。6日は日経平均株価が5営業日ぶりに反発し、3217円(10%)高の3万4675円で取引を終えた。それでも終値ベースのピーク(7月11日の4万2224円)からの下落幅は7500円を超える。日本株の暴落はなぜ起きたのか、今後の株価や為替はどうなるのかなど、知っておきたい10の疑問をまとめた。 1:株暴落はなぜ起きた? 2:なぜ日本株だけ下げ幅が大きいのか? 3:株価はまだ下がるのか? 4:今後の金利はどう動く? 5:円高はどこまで進む? 6:日本企業の業績に与える影響は? 7:波乱含みの市場で評価される企業は? 8:国内消費の行方は? 9:投資初心者はどうしたらいいの? 10:今後注目のイベントは?』、興味深そうだ。
・『1:株暴落はなぜ起きた? 今回の日経平均株価の落ち込みが始まったのは日本銀行が追加利上げを発表した翌日の8月1日だ。一日の値動きで過去最大の下落幅を記録した5日までのトータルで7643円(19.5%)もの激しい落ち込みとなった。 (1)相場の上昇をけん引していた米ハイテク株への期待がしぼみ調整局面に入ったこと(2)日銀が追加利上げと量的引き締め(QT)を同時決定したことがサプライズだったこと(3)米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が米連邦公開市場委員会(FOMC)後に9月の利下げを強く示唆し、日米の金融政策の方向性の明確な違いが意識されたこと(4)米国の経済指標が予想を下回り景気減速懸念が浮上したこと――などが要因として挙げられる。 結果として、日銀の金融政策の正常化と米景気に対する不安から今までマーケットが想定していた持続成長の前提が揺らいだ。大和証券の坪井裕豪・日米株チーフストラテジストは「想定が急に見直しを迫られたことで、マーケットから資金が逃げ出すスピードが速くなってしまった」と見る』、「結果として、日銀の金融政策の正常化と米景気に対する不安から今までマーケットが想定していた持続成長の前提が揺らいだ」、なるほど。
・『株の下落要因が重なった日本 2:なぜ日本株だけ下げ幅が大きいのか? 株価の下落は世界各地の市場に波及したが、その中で日本株の落ち込みは特に大きい。これは下げ要因が重なったからだ。最たるものはQ.1で挙げた日銀の利上げと、それに付随した円高だ。三菱UFJアセットマネジメントの石金淳チーフファンドマネジャーは「日本経済の状態から見て日銀は利上げを必ずしも急ぐ必要はなかったが、円安を阻止するために利上げをしたのではないか。それに伴う円高のスピードが問題だ」と指摘する。 日銀短観(6月調査)の結果における、輸出企業の2024年度の想定為替レートは1ドル=142円68銭。日経平均が最高値を更新した時の実勢レートは1ドル=158円前後と、想定レートより15円程度円安で推移していたが、1ドル=145円前後まで円高に振れ、想定レートに近づいた。 想定レートよりも実際のレートが円安で推移すると、輸出企業は収益が膨らむ。1ドル=140円という想定の下で1000億円の年間利益を予想している企業があったとしよう。もし実際の為替レートが1ドル=150円で推移すると、その企業は1000億円を上回る利益を計上すると投資家は期待する。 今回はその逆の動きで、実勢レートが想定レートに近づいてしまったため、業績の上振れ期待がしぼんでしまった。また「日銀の政策変更後の株安を受けて、日本の景気が金利上昇に耐えられないとの不安が広がり、金融株などの景気敏感株の売りが出ている」(大和証券の坪井氏)との指摘もある。 ■連載「検証 ブラックマンデー超え大暴落」記事一覧 ・日経平均3217円高、急反発に潜む不安 消える円安期待、日産の憂鬱 ・ブラックマンデー超え暴落の原因 日米景気不安、企業経営への影響は(今回)』、「実勢レートが想定レートに近づいてしまったため、業績の上振れ期待がしぼんでしまった。また「日銀の政策変更後の株安を受けて、日本の景気が金利上昇に耐えられないとの不安が広がり、金融株などの景気敏感株の売りが出ている」、なるほど。
3:株価はまだ下がるのか? 三菱UFJアセットの石金氏は年内の日経平均株価の変動範囲を3万~3万7000円程度と予想。「短期的な底は打った。米景気は減速するが、大崩れしないだろう。インフレ率や金利の低下が株価の上昇を支える材料となる。半面(50%を下回ると景気後退の可能性が指摘される)米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況指数が連続して45%を割ることがあれば株価の下げ要因となりうる」と話す。 大和証券の坪井氏は年内の日経平均株価のレンジを2万9000~4万円と見る。今後の日本株の行方を占うポイントとして注目しているのが、世界各国の中央銀行トップらが米ワイオミング州に集まる8月下旬の国際経済シンポジウム(通称・ジャクソンホール会議)だ』、「ジャクソンホール会議」は確かに注目点だ。
・『インバウンド依存の内需企業に逆風も 4:今後の金利はどう動く? 7月30~31日の日銀会合を経て一時1.07%まで上昇した国内長期金利は、5日には4カ月ぶりの低水準となる0.750%まで下がった。米国の弱い雇用統計を受けて米国金利も23年12月以来の水準まで急低下しており、日米の金利差が縮小した。これが円安基調を反転させた。 ふくおかフィナンシャルグループの佐々木融チーフ・ストラテジストは「日本の株価が落ち着きを取り戻し、インフレ率が上がってくれば利上げ観測がまた出てくるため、長期金利は緩やかに上昇するだろう」と見る。 一方、米国金利については「直近の低下は利下げ期待を織り込みすぎている」と話す。「年内100ベーシス(1%)以上の利下げを織り込んでおり、低下しすぎている。これが元の水準に戻る可能性もある」と予想する。 5:円高はどこまで進む? 5日の東京外国為替市場で円相場は一時1ドル=141円台まで値上がりしたが、6日には1ドル=145円程度まで反落した。 りそなホールディングス(HD)市場企画部の井口慶一シニアストラテジストは「23年から続いていたドル高・円安の動きはいったん終了したと見られる」と話す。その上で「今後は中長期的にドル安・円高の動きに進んでいく可能性がある。年末に向けて1ドル=140円辺りに向かっていくと考えられる」とした。 6:日本企業の業績に与える影響は? 前述のように円高は輸出企業の収益にはマイナス要因となる。ただし1ドル=140円程度の水準であれば企業の想定為替レートとの乖離(かいり)は小さく、販売拡大やコスト削減などの企業努力でマイナス影響を吸収する余地はあると考えられる。りそなHDの井口氏は「輸出企業の決算の状況はそこまで悪くない状況で推移している。過度に悲観的にならなくてもいい」と話す。 一方、輸入企業にとって円高はコストダウン要因となる。以前なら1ドルのものを仕入れるのに150円以上かかっていたのが、145円あるいは140円で済むようになるからだ。 一般に内需系の企業は為替変動に強いとされる。ただし、円高は“安いニッポン”に押し寄せていたインバウンド(訪日外国人)にはマイナスだ。インバウンドの財布のひもが固くなれば、これまで外国人を相手に潤ってきた企業は影響を受けることになる。その意味では内需企業といえども為替変動と無縁ではいられない。 7:波乱含みの市場で評価される企業は? 松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは「半導体銘柄などを中心に大幅に(株価が)下がる中、家具販売大手のニトリホールディングス(HD)やイオンはほとんど株価を下げていない」と指摘する。実際、ニトリHDの株価は市場が売り一色となった5日もほとんど下がらず、6日には7月末を上回る水準まで上げた。 三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストは、景気状況に左右されにくい業種として「電気、ガス、鉄道、食品などの分野」を挙げる』、「景気状況に左右されにくい業種として「電気、ガス、鉄道、食品などの分野」を挙げる」、その通りだ。
・『積み立て投資の経験則「売らずに続ける」 8:国内消費の行方は? 円高は物価上昇を抑えることで個人消費の拡大要因となる。一方、株安は個人が保有する資産の価値を下げて個人消費を抑える効果がある。株安が実体経済に影響を与えるまではタイムラグがあるので、現時点では国内消費が大きく落ち込むとは見られていない。 第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミストの熊野英生氏は「現段階ではデフレ圧力があるくらいで、不況の入り口とまでは言えない」と話す。ただし「株価の低迷が年末まで続けば、業績が悪化した企業が賃上げに弱気になり、春闘交渉に影響して本格的な景気悪化が始まる可能性がある」と指摘する。 9:投資初心者はどうしたらいいの? 今回の株暴落によって一部では投資を始めたばかりの個人によるパニック売りが発生したとも言われたが、5日に買い増しした人もいる。積み立て投資においては「売らずに続ける」ことが重要とされる。ニッセイ基礎研究所金融研究部の前山裕亮主任研究員は「値下がりした今はむしろ買い増しのチャンス」と話す。 NISA(少額投資非課税制度)制度を使い、日経平均株価に連動するインデックスファンドに積み立て投資を行った場合で運用の成果を検証した以下のようなデータがある。積み立ての期間が長い人ほど含み益は大きい。24年年初に始めた人は8月2日時点で既に損失が出ている状況だった。5日にはより多くの損失が出たと考えられる。 6日にあった楽天証券の決算発表では楠雄治社長が投資家に冷静な対応を求めた。「過去12年間で10%を超えるドローダウン(高値から安値までの下落)は10回以上あった。相場の急変は時々起こる。積み立て投資を行っている人はそのまま続けてほしい」と語った。 10:今後注目のイベントは? 先に紹介したジャクソンホール会議は8月下旬に迫っている。FRBのパウエル議長が利下げについてどこまで具体的に言及するかが注目を集めることになりそうだ。今のところ9月にはFRBが実際に政策金利を引き下げる可能性が高いと見られており、それを前提に金利や為替レートは動いている。 その先の11月には米大統領選が控える。現職のバイデン大統領の後継者として選挙に臨む民主党のハリス副大統領と、ホワイトハウスへの返り咲きを狙う共和党のトランプ前大統領の激戦となりそうだ。次期大統領が進める経済政策は米国の景気指標や株価だけでなく、日本を含む各国・地域の経済や企業業績にも影響を及ぼす』、「ジャクソンホール会議」では、米FRB議長は、物価目標達成に自信を示し、9月利下げ「時が来た」とした。「バイデン大統領の後継者である民主党のハリス副大統領の人気が「トランプ氏」を上回っていることもあり、「トランプ氏」の「返り咲き」の可能性は薄らぎつつあるようだ。
第三に、8月24日付け東洋経済オンラインが掲載した慶応義塾大学大学院教授の小幡 績氏による「ドル円レートの「正しい理論値」など存在しない だからこそ意図的に歪みを加えてはいけない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/812705
・『為替レートについての騒ぎがまだ続いている。だが、ひとことで言えば、いかなる真面目な議論も、為替に関しては無駄である。 為替は何を根拠にして決まるのか? なぜなら、為替レートの理論値というものがまったく存在しないからだ。だから、為替は、理論とも、ファンダメンタルズとも、あらゆる合理性から無縁のところで決まる。だから、為替を「正しい」水準に戻そうとする真摯な努力はすべて徒労に終わる。諦めたほうがいい。 合理性で決まらないなら、為替は何で決まるのか。それは、投機家の意向と行動である。 それは、株でも一緒ではないか? 行動ファイナンスでは、すべての金融リスク資産の価格は投資家行動で決まるのだから、為替に限ったことではないのではないか? そうだ。しかし、為替がもっとも極端なのだ。 じゃあ、今が1ドル=145円前後で、2023年1月が130円前後だったのを説明する要素はまったく何もないのか?行動ファイナンスのいう、投機家の意向と行動で決まるということなのか? それも違う。行動ファイナンスですら役に立たない。投機家の期待、1ドル=145円という期待の自己実現という、何でも説明できてしまう自己実現の論理ですら成り立たないのだ』、「行動ファイナンスですら役に立たない。投機家の期待、1ドル=145円という期待の自己実現という、何でも説明できてしまう自己実現の論理ですら成り立たないのだ」、なるほど。
・『「購買力平価理論」は「物価の絶対水準」の話 結論を言っておこう。今、1ドルが145円なのは、1949年4月23日にGHQが1ドル=360円と決めたからなのだ。 なぜそう言えるのか。説明しよう。 その前に、まず、経済学における為替の理論をおおざっぱに概観しておこう。まずは古典的な、購買力平価である。 これは「世界中で一物一価が成り立つような水準に為替レートが決まる」という考え方で、要はビックマックレートとかスターバックスラテレートなどと同じ考え方である。 日本でだけあるブランドもののバックが安いと、世界中から日本にそれを買いに来る観光客が溢れたり、バイヤーが転売したりするので、そのモノの価格が世界中で一物一価に収斂していくが、それをマクロ経済全体で行うのは、為替レートが動くほうが早いので、為替が調整される、という考え方である。 逆に言えば、世界中で一物一価が成り立っているときに、為替がずれてしまうと、大混乱が生じるから、為替がぶれたときに、瞬時にもとに戻るほうが早いから、為替レートが調整するということである。 株価も理論値は、厳密には存在しない。PER(株価収益率)は10倍でも20倍でもいいから、企業の収益見通しにコンセンサスが成り立っても、日経平均株価の予想は、PERの想定によって2万円にも4万円にもなりうる。 それでも、株価については理屈で議論ができ、前提を置けば、水準について何らかの論理的な予想、議論、説明ができる。 しかし、為替はそれがまったくできない。論理がほぼゼロなのだ。「そんなことはないだろう」と反論が来そうだ。例えば「東洋経済オンライン」などで、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミストである唐鎌大輔氏がいつも綿密かつ明快な論理で円安を説明してきたじゃないか?などと思うだろう。 それはそうだが、そうではない。結論から言えば、唐鎌理論は、円高にはなりにくいことの論理的な説明を与えてくれるが、しかし、円高の限界が1ドル=120円なのか140円なのかについては、ほぼ何も言えない。「昔ほどには円高にはならない」、ということが限界だ。) 実体経済における貿易収支を通じた調整も働く。為替レート(例えば円)が安くなって、国内物価が安くなった国からは、その安くなった製品が輸出され、外貨(例えばドル)を稼ぐ。その稼いだ外貨を自国通貨(例えば円)に戻すから、ドル売り円買いが起きて、ドル安円高になる。マクロ経済均衡に戻る、つまり、為替レートのずれが元に戻るようになる。 この購買力平価理論は物価の絶対水準の話なので、絶対的購買力平価理論であり、相対的購買力平価理論もある。それは、物価の変化率、つまりインフレ率の各国間の変動の違いを為替レートが調整する、という理論で、つまり、インフレ率が高くなった国の通貨の為替レートは安くなって、国際的な物価水準の変動が調整される、ということになる』、「株価については理屈で議論ができ、前提を置けば、水準について何らかの論理的な予想、議論、説明ができる。 しかし、為替はそれがまったくできない。論理がほぼゼロなのだ。「そんなことはないだろう」と反論が来そうだ。例えば「東洋経済オンライン」などで、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミストである唐鎌大輔氏がいつも綿密かつ明快な論理で円安を説明してきたじゃないか?などと思うだろう。 それはそうだが、そうではない。結論から言えば、唐鎌理論は、円高にはなりにくいことの論理的な説明を与えてくれるが、しかし、円高の限界が1ドル=120円なのか140円なのかについては、ほぼ何も言えない・・・購買力平価理論は物価の絶対水準の話なので、絶対的購買力平価理論であり、相対的購買力平価理論もある。それは、物価の変化率、つまりインフレ率の各国間の変動の違いを為替レートが調整する、という理論で、つまり、インフレ率が高くなった国の通貨の為替レートは安くなって、国際的な物価水準の変動が調整される、ということになる」、なるほど。
・『もう1つの理論である「金利平価理論」とは? もう1つの為替均衡理論は、金利平価理論で、資本市場において、裁定取引が働いて、為替レートが均衡するという理論である。つまり、外国(米国)の金利が高く、自国(日本)の金利が低い場合、アメリカのドルで運用したほうが得になってしまうから、均衡では、ドルが今後安くなることが予想されていることになる。 つまり、金利差が年率5%あれば、1年後のドルは今より5%安くなるはずだ、と投資家たちは思っているということだ。それなら、ドルで運用して円で運用するよりも5%ドルの名目値が増えても、ドルが円に比べて5%安くなるから、ドルでも円でもどちらで運用しても同じリターンが得られる、ということだ。そう期待されているから、実際にも、ドルは1年後には5%安くなっている、ということになる。 これはドル円の金利差が円安をもたらしている、ということと逆になっているように見えるが、必ずしもそうではない。予想外にアメリカの金利が上がったとしよう。予想外に金利差が広がったということであるが、この場合は、サプライズに対して瞬間的に急激に円安が進み、その後、金利差を埋め合わせるように、円高が進むことになる。 そうでないと、永遠にドル買いが進んでしまい、誰も円を持たなくなってしまう。だから、均衡に向かうとすると、いったん円安に急激にオーバーシュートして、そこから円高が進むことになる(ただし、実際には投機家たちが合理的に期待(将来への予想)をするかどうかなどにかかっているので、理論的にもさまざまなケース、シナリオが考えられる)。) ここでは為替理論を幅広く網羅することが目的ではないので、基本的なポイントを整理しよう』、「もう1つの為替均衡理論は、金利平価理論で、資本市場において、裁定取引が働いて、為替レートが均衡するという理論である。つまり、外国(米国)の金利が高く、自国(日本)の金利が低い場合、アメリカのドルで運用したほうが得になってしまうから、均衡では、ドルが今後安くなることが予想されていることになる・・・予想外にアメリカの金利が上がったとしよう。予想外に金利差が広がったということであるが、この場合は、サプライズに対して瞬間的に急激に円安が進み、その後、金利差を埋め合わせるように、円高が進むことになる。 そうでないと、永遠にドル買いが進んでしまい、誰も円を持たなくなってしまう。だから、均衡に向かうとすると、いったん円安に急激にオーバーシュートして、そこから円高が進むことになる」、なるほど。
・『為替の基本的な「3つのポイント」とは何か 第1に、理論は均衡理論であり、為替市場は常に均衡へ向かうことが仮定され、その均衡へ向かうメカニズムも機能することが前提となっている。しかし、現実の世界では、均衡はまったく成り立っていないし、かつ均衡へ向かうメカニズムも機能していない。したがって、現実の為替市場は理論と大きく異なる。 第2に、実体経済と金融資本市場とが分離している。実体経済における購買力平価と金融資本市場の金利平価の理論値が異なった場合、どうなるのか? 一般には短期的には金融市場、長期的には実体経済ということだが、絶対的購買力平価が長期的にも成り立ったことは過去にもほとんどない。実体経済と金融市場の分裂が、ここでも生じるのである。 第3に、均衡へ向かうメカニズムが、投機家や経済主体の期待に基づくものと為替への需要と供給によるものと2つ存在することが示唆されている。 前出の説明では、暗に合理的期待形成がなされる前提に実はなっているのだが、実際には、それは成り立たないことははっきりしている。また、為替は結局需給で決まるというのは、唐鎌理論もそうなのであるが、実は、金融市場では本来理論的には成り立たないはずの議論なのである。 なぜなら、需給で為替レートが本来の水準からのズレが生じれば、そのズレを利用して儲けようとする裁定取引が投機家によって行われ、すぐに為替は元の水準に戻ることになる。) となると、結局、実際、為替はどのように決まっているのか? 前出の議論を踏まえると、理論的には論理的とは言えないが、結局現実には需給で決まっている、という説だけが生き残りそうである。そうだとすると、なぜ、論理的には生じるはずの裁定取引が行われないのか? それは「正しい」水準が存在しないので、戻っていくべき為替レートというものが存在しないからである。ファンダメンタルズがないから、戻るべき理論値もないし、アンカー(錨)となる拠り所もないのである。 唯一の拠り所は、昨日までの為替水準であるが、昨日の為替水準にも正しい理論値はもちろん存在していなかったから、昨日までの水準から今日ズレたからと言って明日戻っていくはずがない。 つまり、為替水準は、常に365日、正しくないところにあるのであって、なぜその水準かというと、たまたまそこに為替水準があった、ということだけなのだ。既成事実として存在していた、という以外のことは何もないのである。 では、なぜ為替はそこから「ズレ」たのか?いや、そこから動いたのか? ここに需給が登場する。誰かが売ったから下がったのであり、誰かが買ったから上がったのである』、「為替の基本的な「3つのポイント」:①理論は均衡理論であり、為替市場は常に均衡へ向かうことが仮定され、その均衡へ向かうメカニズムも機能することが前提となっている。しかし、現実の世界では、均衡はまったく成り立っていないし、かつ均衡へ向かうメカニズムも機能していない。したがって、現実の為替市場は理論と大きく異なる・・・②実体経済における購買力平価と金融資本市場の金利平価の理論値が異なった場合、どうなるのか? 一般には短期的には金融市場、長期的には実体経済ということだが、絶対的購買力平価が長期的にも成り立ったことは過去にもほとんどない。実体経済と金融市場の分裂が、ここでも生じるのである・・・③結局現実には需給で決まっている、という説だけが生き残りそうである。そうだとすると、なぜ、論理的には生じるはずの裁定取引が行われないのか? それは「正しい」水準が存在しないので、戻っていくべき為替レートというものが存在しないからである。ファンダメンタルズがないから、戻るべき理論値もないし、アンカー(錨)となる拠り所もないのである。 唯一の拠り所は、昨日までの為替水準であるが、昨日の為替水準にも正しい理論値はもちろん存在していなかったから、昨日までの水準から今日ズレたからと言って明日戻っていくはずがない。 つまり、為替水準は、常に365日、正しくないところにあるのであって、なぜその水準かというと、たまたまそこに為替水準があった、ということだけなのだ」、なるほど。
・為替に需給が生じた「3つの原因」とは? では、この需給が生じた原因は何なのか?それは、第1に、論理が出てくる場合と、出てこない場合がある。第2に、実体経済からの生じた需要と供給の場合と、金融資本市場からの売りと買いの場合がある。第3に、金融市場から需給に関しては、運用ニーズというある種の実需の場合と、投機的需要の場合とがある。 そして、この3つの軸からの、さまざまな違う需要と供給が入り混じるために、為替レートは1つの論理では説明できない動きをすることになるのである。 論理が出てくる場合とはどんな場合か。例えば、日本の貿易赤字が増加して、輸入のためにドルが必要だから、ドル買い円売りが出る、というのは1つの論理である。これは実体経済の貿易によるものだ。次に、金融市場では、アメリカの金利が上がったから、ドルでの運用ニーズが高まり、ドル買い円売りが生じた、という論理がありうる。) 「なんだ、論理があるじゃないか!」と思われるかもしれないが、これは為替水準の論理ではなく、為替の変化の方向の論理なのである。貿易赤字が増えれば円安方向、アメリカの金利が上がるのも円安方向、という論理はある。しかし、では、今の1ドル=145円が150円になるのか155円になるのか、ということに関しては、何も言えない。さらに、145円と155円とどちらが長期的に正しいのか、ということはそれ以上に一切何も言えない。 その結果、為替はオーバーシュート(行きすぎること)も起こりやすくなるし、かつ一度同じ方向に動き出すとそのモメンタム(一方向への流れ)が止まらず、オーバーシュートの乱高下をしながら、かなりの期間、同じ方向に動き続ける。 いったん円安の流れになったらしばらく止まらないし、転換点が来たら、今度は円高方向しかありえない。しかし、皆がそう思っているから、一気に円高が進んでも、進みすぎかどうかは判断できないから、その流れに乗るが、しかし、強い投機家は、オーバーシュートを意図的に作りながら儲けることができる。 このように、強い投機家によって、為替相場は短期的には作られることが多いが、長期的な動きは、一部の投機家の意図では支配しきれない。大きな投機家集団、世の中全体の「群衆的な」動きによって決まってくる。それは誰にも予想はできないし、支配もできない。しかし、その流れで決まってくるのが現実だ。 その結果が、今の1ドル=145円前後なのである。今145円で125円でないのは、あるポイントからオーバーシュートとモメンタムを繰り返した結果なのである。 そして、そのあるポイントとは、1ドル=360円と1949年に決められたポイントなのである。そして、それが1971年末まで続けられたからであり、1973年まで1ドル=308円にしたからであり、1973年に308円スタートで変動相場制に移行したからである。 円安すぎる水準に長く固定されすぎていたから、その後は、一貫した円高モメンタムが続いたのであり、その流れがあったから、過度な円高というオーバーシュートが何度も繰り返されたのである。 そして、そのオーバーシュートが行きすぎたことから、円安の流れにどこかで転換せざるをえなかったのであるが、異次元緩和がきっかけとなって、今度は円安オーバーシュートが起きてしまったのである。したがって、すべては、1ドル=360円と決めたから、その後の水準の推移があったのであり、ゲームの始まりにおいて、たまたま決められた水準が今の水準に影響を残し続けているのである。 したがって、為替は本質的に、変動を続け、経済に歪みを与え続けるのであり、そういうものであるからこそ、異次元緩和のような、為替に意図的に強力な歪みをもたらすことは、もっともやってはいけないことであり、経済をもっとも大きく歪ませることになるのである。 ただ、異次元緩和を行ってしまった事実は動かせないし、今1ドル=160円まで行ってしまってから、今145円前後になっているということも動かせないので、この罪を償うことはほぼ不可能に近いのであり、その不可能を現在の日銀に世間が要求したために、為替市場が荒れることになったのである(本編はここで終了です。この後は筆者が週末のレースなどを予想するコーナーです。あらかじめご了承下さい)』、「強い投機家によって、為替相場は短期的には作られることが多いが、長期的な動きは、一部の投機家の意図では支配しきれない。大きな投機家集団、世の中全体の「群衆的な」動きによって決まってくる。それは誰にも予想はできないし、支配もできない。しかし、その流れで決まってくるのが現実だ・・・異次元緩和のような、為替に意図的に強力な歪みをもたらすことは、もっともやってはいけないことであり、経済をもっとも大きく歪ませることになるのである。 ただ、異次元緩和を行ってしまった事実は動かせないし、今1ドル=160円まで行ってしまってから、今145円前後になっているということも動かせないので、この罪を償うことはほぼ不可能に近いのであり、その不可能を現在の日銀に世間が要求したために、為替市場が荒れることになったのである」、難しい為替市場を分析した貴重な論文である。
タグ:株式・為替相場 (その23)(ブラックマンデー超え暴落の原因 日米景気不安、企業経営への影響は 検証 ブラックマンデー超え大暴落(2)、ドル円レートの「正しい理論値」など存在しない だからこそ意図的に歪みを加えてはいけない) 日経ビジネスオンライン「ブラックマンデー超え暴落の原因 日米景気不安、企業経営への影響は 検証 ブラックマンデー超え大暴落(2)」 「結果として、日銀の金融政策の正常化と米景気に対する不安から今までマーケットが想定していた持続成長の前提が揺らいだ」、なるほど。 「実勢レートが想定レートに近づいてしまったため、業績の上振れ期待がしぼんでしまった。また「日銀の政策変更後の株安を受けて、日本の景気が金利上昇に耐えられないとの不安が広がり、金融株などの景気敏感株の売りが出ている」、なるほど。 「ジャクソンホール会議」は確かに注目点だ。 「景気状況に左右されにくい業種として「電気、ガス、鉄道、食品などの分野」を挙げる」、その通りだ。 「ジャクソンホール会議」では、米FRB議長は、物価目標達成に自信を示し、9月利下げ「時が来た」とした。「バイデン大統領の後継者である民主党のハリス副大統領の人気が「トランプ氏」を上回っていることもあり、「トランプ氏」の「返り咲き」の可能性は薄らぎつつあるようだ。 東洋経済オンライン 小幡 績氏による「ドル円レートの「正しい理論値」など存在しない だからこそ意図的に歪みを加えてはいけない」 「行動ファイナンスですら役に立たない。投機家の期待、1ドル=145円という期待の自己実現という、何でも説明できてしまう自己実現の論理ですら成り立たないのだ」、なるほど。 「株価については理屈で議論ができ、前提を置けば、水準について何らかの論理的な予想、議論、説明ができる。 しかし、為替はそれがまったくできない。論理がほぼゼロなのだ。「そんなことはないだろう」と反論が来そうだ。例えば「東洋経済オンライン」などで、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミストである唐鎌大輔氏がいつも綿密かつ明快な論理で円安を説明してきたじゃないか?などと思うだろう。 それはそうだが、そうではない。結論から言えば、唐鎌理論は、円高にはなりにくいことの論理的な説明を与えてくれるが、しかし、円高の限界が1ドル=120円なのか140円なのかについては、ほぼ何も言えない・・・購買力平価理論は物価の絶対水準の話なので、絶対的購買力平価理論であり、相対的購買力平価理論もある。それは、物価の変化率、つまりインフレ率の各国間の変動の違いを為替レートが調整する、という理論で、つまり、インフレ率が高くなった国の通貨の為替レートは安くなって、国際的な物価水準の変動が調整される、ということにな る」、なるほど。 「もう1つの為替均衡理論は、金利平価理論で、資本市場において、裁定取引が働いて、為替レートが均衡するという理論である。つまり、外国(米国)の金利が高く、自国(日本)の金利が低い場合、アメリカのドルで運用したほうが得になってしまうから、均衡では、ドルが今後安くなることが予想されていることになる・・・予想外にアメリカの金利が上がったとしよう。予想外に金利差が広がったということであるが、この場合は、サプライズに対して瞬間的に急激に円安が進み、その後、金利差を埋め合わせるように、円高が進むことになる。 そうでないと、永遠にドル買いが進んでしまい、誰も円を持たなくなってしまう。だから、均衡に向かうとすると、いったん円安に急激にオーバーシュートして、そこから円高が進むことになる」、なるほど。 「為替の基本的な「3つのポイント」:①理論は均衡理論であり、為替市場は常に均衡へ向かうことが仮定され、その均衡へ向かうメカニズムも機能することが前提となっている。しかし、現実の世界では、均衡はまったく成り立っていないし、かつ均衡へ向かうメカニズムも機能していない。したがって、現実の為替市場は理論と大きく異なる・・・②実体経済における購買力平価と金融資本市場の金利平価の理論値が異なった場合、どうなるのか? 一般には短期的には金融市場、長期的には実体経済ということだが、絶対的購買力平価が長期的にも成り立ったこ ことは過去にもほとんどない。実体経済と金融市場の分裂が、ここでも生じるのである・・・③結局現実には需給で決まっている、という説だけが生き残りそうである。そうだとすると、なぜ、論理的には生じるはずの裁定取引が行われないのか? それは「正しい」水準が存在しないので、戻っていくべき為替レートというものが存在しないからである。ファンダメンタルズがないから、戻るべき理論値もないし、アンカー(錨)となる拠り所もないのである。 唯一の拠り所は、昨日までの為替水準であるが、昨日の為替水準にも正しい理論値はもちろん存在して なかったから、昨日までの水準から今日ズレたからと言って明日戻っていくはずがない。 つまり、為替水準は、常に365日、正しくないところにあるのであって、なぜその水準かというと、たまたまそこに為替水準があった、ということだけなのだ」、なるほど。 「強い投機家によって、為替相場は短期的には作られることが多いが、長期的な動きは、一部の投機家の意図では支配しきれない。大きな投機家集団、世の中全体の「群衆的な」動きによって決まってくる。それは誰にも予想はできないし、支配もできない。しかし、その流れで決まってくるのが現実だ・・・異次元緩和のような、為替に意図的に強力な歪みをもたらすことは、もっともやってはいけないことであり、経済をもっとも大きく歪ませることになるのである。 ただ、異次元緩和を行ってしまった事実は動かせないし、今1ドル=160円まで行ってしまってから、今145円前後になっているということも動かせないので、この罪を償うことはほぼ不可能に近いのであり、その不可能を現在の日銀に世間が要求したために、為替市場が荒れることになったのである」、難しい為替市場を分析した貴重な論文である。
暗号資産(仮想通貨)(その24)(DMMビットコイン「流出482億円」補償の胸算用 自己資本81億円でも「全額補償を即日発表」の背景、サトシ・ナカモトの誤算 ビットコインは通貨ではなくギャンブルに、「絶対ネコババしていない」マウントゴックス元CEOの訴えと 米国当局が特定した「大量のビットコイン」の行き先) [金融]
暗号資産(仮想通貨)については、昨年8月25日に取上げた。今日は、(その24)(DMMビットコイン「流出482億円」補償の胸算用 自己資本81億円でも「全額補償を即日発表」の背景、サトシ・ナカモトの誤算 ビットコインは通貨ではなくギャンブルに、「絶対ネコババしていない」マウントゴックス元CEOの訴えと 米国当局が特定した「大量のビットコイン」の行き先)である。
先ずは、本年6月5日付け東洋経済オンライン「DMMビットコイン「流出482億円」補償の胸算用 自己資本81億円でも「全額補償を即日発表」の背景」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/759174
・『暗号資産(仮想通貨)が数年に一度の上昇相場を迎えている中、流出事件が日本の暗号資産交換所でまた起きた。 DMMビットコインは5月31日、約4500ビットコインが自社ウォレットから流出したと発表した。流出直前のビットコイン価格は約1070万円だったため、流出額は482億円相当に上った。 同社はDMM.comグループ傘下企業。直近で開示されている2022年度時点での顧客口座数は37万、預かり資産は404億円。国内交換所で中堅規模に位置する。 今回の流出規模は、国内だと2018年のコインチェック事件の約580億円に次ぐ。暗号資産業界の自主規制団体である日本暗号資産取引業協会の小田玄紀会長は、「流出は残念に思うが『これだから業界はだめ』というわけではない」と強調する。 (2年ぶりの上昇相場で1000万円の大台にービットコインの円建て価格ーはリンク先参照)』、確かに「ビットコイン」の相場は堅調になったようだ。
・『経験が生きた「補償方針の即日発表」 流出が起きた当日に顧客への補償方針を公表した点では、業界としての経験が生かされたようだ。DMMビットコインは流出相当分のビットコインをグループ会社からの支援を受けて調達し全額補償するとした。 実は小田会長も、2019年当時に社長を務めていたビットポイントジャパンで流出事件を経験している。外部からのハッキングで盗まれたビットコインなどの暗号資産は事件当時のレート換算で約30億円だった。運用保守ルートを通じてハッキングを受けたが、犯人はわかっていない。 このときビットポイントは流出の3日後に、顧客に対する補償方針を示した。被害を受けたのは5万人。口座開設者のほぼ半数に上ったが、解約などの顧客離れは1割未満で済んだという。今回のDMMビットコインはさらに素早く補償の意思を表明した。) 一方、セキュリティ体制の「徹底度」においては、今後課題が見えてきそうだ。 DMMビットコインは現在、被害状況の詳細については調査中としている。ただ、インターネットに接続していない「コールドウォレット」から流出したとみられている。 国内の交換業者には顧客資産の分別管理義務がある。日本円などの法定通貨は信託銀行で管理し、暗号資産は実質的にコールドウォレットで100%管理する、としている。 流出の直接的な原因をめぐっては、ネット上での議論がかまびすしい。取りざたされているのは、故意の内部犯行説やマルウェア(悪意のあるプログラム)感染などの過失説だ。 だがコールドウォレットが、ネットから隔離した専用端末で、複数人による管理が徹底されていたのかなど、そもそもの運用体制から検証されるべきだろう。 小田会長も「いいシステムを入れるなど技術水準もそうだが、さらに大事なのは運用体制だ」と述べる』、「国内の交換業者には顧客資産の分別管理義務がある。日本円などの法定通貨は信託銀行で管理し、暗号資産は実質的にコールドウォレットで100%管理する、としている。 流出の直接的な原因をめぐっては、ネット上での議論がかまびすしい。取りざたされているのは、故意の内部犯行説やマルウェア(悪意のあるプログラム)感染などの過失説だ。 だがコールドウォレットが、ネットから隔離した専用端末で、複数人による管理が徹底されていたのかなど、そもそもの運用体制から検証されるべきだろう」、なるほど。
・『上昇相場への影響は軽微か 流出額の点では、コインチェック事件に次ぐ金額となったが、その時と異なり暗号資産取引市場に及ぼす影響は軽微というのが大方の見方だ。 総合金融業のSBIホールディングス傘下にある交換所・SBI VCトレードの西山祥史アナリストは、過去との違いとして「市場の厚み」を指摘する。 実際、分析サイトの「CoinGecko」(コインゲッコー)のデータを見ると、暗号資産全体の取引高はコインチェック事件前と比べて大きく増えている。コインチェック事件前、1日の取引高は400億ドル前後だった。それが足元では日によって1000億ドルを超える規模となっている。) また、この先は西山アナリストが考える、過去の価格上昇時にみられた「クリプト3条件」もそろうことで一段高が見込まれる。 主要中央銀行が金融緩和傾向であること、株式市場のボラティリティ指数が低水準であること、実質金利が低下傾向であること――が3条件だ。年後半にはアメリカが利下げへと転換すると予想され、年末頃に条件を満たす可能性がある。 さらに機関投資家マネーの本格流入も年後半にかけて予想される。「伝統的な機関投資家の動きとして、新たな金融商品が出たときには6カ月間の投資実績を見る」(西山氏)。 それを前提にすると、アメリカで1月に承認されたビットコイン現物ETF(上場投資信託)に機関投資家が本格的に資金を投じるのは年後半と予想されるわけだ』、「暗号資産全体の取引高はコインチェック事件前と比べて大きく増えている。コインチェック事件前、1日の取引高は400億ドル前後だった。それが足元では日によって1000億ドルを超える規模となっている・・・過去の価格上昇時にみられた「クリプト3条件」もそろうことで一段高が見込まれる。 主要中央銀行が金融緩和傾向であること、株式市場のボラティリティ指数が低水準であること、実質金利が低下傾向であること――が3条件だ。年後半にはアメリカが利下げへと転換すると予想され、年末頃に条件を満たす可能性がある・・・アメリカで1月に承認されたビットコイン現物ETF(上場投資信託)に機関投資家が本格的に資金を投じるのは年後半と予想される」、なるほど。
・『「交換所の事件後」も今回は違う? 流出事件を起こした交換所の「その後」についても、今回は違うのかもしれない。マネックスグループに救済買収されたコインチェックなど、事件を起こした交換所の多くは他社の資本傘下に入った。 その点、DMMビットコインに関してはDMMグループが今後も支えるという意思を示したように取れる。実際、DMMビットコインは、480億円の増資や借り入れによって計550億円をDMMグループから調達することになった。 DMMビットコインの自己資本は今年3月末時点で81億円。自己資本比率規制上、資本として計上できる劣後債務などを加味しても105億円だった。482億円分相当を補償するには、踏み込んだ支援を受けないとできなかった。 そもそもDMMグループがDMMビットコインを売却したいとしても難しいのかもしれない。「追加の補填などの可能性を考えると、DMMビットコインにつけられる値段はよくて10億円、20億円では」(交換所関係者)。それでは手放す動機がない。 DMMビットコインは、補償の具体的な方法や時期を速やかに検討し、今後公表するとしている。 「『ハッキングは起こるもの』と頭のどこかでわかっていても、日常の業務の中で意識が弱くなる。しかしいざ起こると金額が大きく影響は甚大だ」。小田会長はそう語る。交換所の運営に携わる人たちは肝に銘じておいてほしい』、「DMMビットコインにつけられる値段はよくて10億円、20億円では」(交換所関係者)。それでは手放す動機がない。 DMMビットコインは、補償の具体的な方法や時期を速やかに検討し、今後公表するとしている。 「『ハッキングは起こるもの』と頭のどこかでわかっていても、日常の業務の中で意識が弱くなる。しかしいざ起こると金額が大きく影響は甚大だ』、「DMMビットコインにつけられる値段はよくて10億円、20億円では」(交換所関係者)。それでは手放す動機がない・・・DMMビットコインは、補償の具体的な方法や時期を速やかに検討し、今後公表するとしている」、「DMMビットコイン」の今後の出方が注目される。
次に、7月22日付け日経ビジネスオンライン「サトシ・ナカモトの誤算 ビットコインは通貨ではなくギャンブルに」を紹介しよう。
・『この記事の3つのポイント 1.サトシの論文は既存金融システムからの解放を意味 2.ビットコインは通貨ではなくギャンブルの手段に 3.ビットコインの高騰は新たな投機家を引き寄せた 2008年10月、サトシ・ナカモトと名乗る人物がビットコインのアイデアを発表した。ゼイン・タケットはクレジットカードの決済を巡る詐欺被害の経験から、これが銀行や政府の信用を必要としない通貨になると大きな期待を持つ。だがビットコインが実際に取って代わったのは、通貨ではなく「ギャンブル」だった。『1兆円を盗んだ男 仮想通貨帝国FTXの崩壊』(マイケル・ルイス著/小林啓倫訳/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成』、興味深そうだ。
・『既存の金融システムからの解放 2008年10月下旬、サトシ・ナカモトと名乗る人物(信じられないことに、今日に至るまでその素性は明らかになっていない)が、ビットコインのアイデアを論文で発表した。その大部分は、後に世界初の暗号通貨となるものの技術的な説明で、以下のようなものだ。 ビットコインは「電子コイン」である。「プルーフ・オブ・ワーク・チェーン」と呼ばれる公開台帳の上に存在する。ある人から別の人へと送金されるたびに、その真正性がプログラマーによって検証される。検証したプログラマーが、その取引を公開台帳に追記する。そうしたプログラマーたち――やがてビットコインの「マイナー(採掘者)」と呼ばれるようになる――は、この仕事の報酬として、新しいビットコインを与えられる(興味深いことに、この論文に「ブロックチェーン」という言葉は出てこない)。 ビットコインの仕組みは主に技術者の興味を惹いたが、それが何をもたらすかについては、より幅広い人々が興味を抱くようになった。ビットコインを使えば、一般の人々は既存の金融システムから解放され、金融を動かす人間の誠実さに依存する必要がなくなるだろう。「必要なのは信用ではなく、暗号学的証明に基づく電子決済システムである」とサトシは書いている。 サトシが誰であろうと、信用、もしくは信用の必要性が彼を悩ませていた。論文は2008年の世界的な金融危機については触れていないが、彼の発明がそれに対する反応であることは明らかだ。ビットコインがその目的を達成すれば、銀行や政府はもはや貨幣を管理することができなくなるだろう。 ビットコインの所有や移動には、銀行は必要ない。その価値が政府によって浸食されることもない。もちろんコンピュータープログラムの完全性と設計を除いて、誰も何も信用する必要がない。それは健全な通貨を求めると同時に、不信感に訴えてもいた。金融革新であると同時に、社会的抗議でもあった。暗号通貨は、敵が同じだからという理由でできた友人のようなものだ。暗号通貨に惹かれたのは、少なくとも初期には、大手銀行や政府、および他の組織的権威に対して疑念を抱く人々だった』、「暗号通貨に惹かれたのは、少なくとも初期には、大手銀行や政府、および他の組織的権威に対して疑念を抱く人々だった」、なるほど。
・『ビットコインで大金持ちになったゼイン ゼイン・タケットはそうしたタイプの典型的な例だったが、ゼインを「タイプ」で考えると、彼の楽しい部分や重要なところを見逃してしまうだろう。ゼインはパイオニアと呼ばれることも多い。2013年4月、ビットコインの価格が100ドル前後で推移していたころ、当時コロラド大学の学生だったゼインは奇妙な雑誌記事を目にした。その記事の筆者は、これから身を隠すと宣言し、自分を見つけた人に1万ドルの賞金を出すというのだ。 その賞金はビットコインで支払われ、ビットコインの支払いには、不可逆的で追跡不可能という利点があるとその筆者は説明していた。ゼインはその記事を読んで、なぜか筆者を探そうとするのではなく、ビットコインが何であるかを知りたいと思った。 彼は最近、詐欺の被害に遭っていた。マイケル・ジョーダンのジャージカードをオンラインで売ったところ、購入者がクレジットカードの決済を取り消し、カードも返そうとしなかったのだ。 金融システムがこの詐欺を許したことに、ゼインは憤慨していた。また、彼は大学生活をあまり楽しんでおらず、大学に留まること以外の人生の選択肢を示す人々に、近しいものを感じた。「僕の祖父は、中国に行って中国語を学ぶべきだと言っていました。なぜなら彼らが世界を支配するだろうから、と」とゼインは言う。 彼はかつてそのアドバイスに従って、高校を卒業してすぐに1年間中国に行き、そのあとコロラド大学に通うために帰国していた。そして今回、彼はいくらかのビットコインを買ってコロラド大学を中退し、北京に移り住んだ。そこで彼は、オーケーエックスという暗号資産取引所に就職した。彼はこの取引所に雇われた最初の非中国人だった。 中国の企業は帝国のような存在で、従業員は貴重な資産というより家臣として扱われた。「従業員はひどい目にも遭います。ひどい目に遭っても、何もできないからです。何の保護もありません」。 彼の祖父は、ゼインが中国語を流暢に話すようになったことを評価したが、両親は彼が何か悪いことに巻き込まれているのではないかと心配した。ゼインはビットコインを増やし続け、ビットコインの価格は上昇し続け、ある日ゼインは大金持ちになった。「僕は面白いカネを手に入れ、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で取り上げられ、両親は僕が大丈夫そうだと判断しました」 2016年にはビットコインの価格は400ドルを超え、ゼインは裕福になっただけでなく尊敬されるようになり、様々な暗号資産取引所と契約して世界中どこでも好きな場所で働けるようになった。暗号資産業界の誰もがゼインを知っており、誰もが彼を信頼していた。 彼は西部劇に出てくるガンマンのような名前と体つきをしていて、開拓時代の米西部を放浪したガンマンのように、何にも誰にも縛られず、あちこちを放浪して回った。ある月はインドネシアにいて、翌月はアルゼンチンにいる。ゼインはビットコインのように、場所を持たない存在となった。 原則的に、彼は経済生活のすべてをビットコインで送った。ビットコインで報酬を受け取り、支払いもビットコインだけ。暗号通貨という運動に参加しながら、それを支持する行動を楽しんでいたのだ。「政府からカネの力を奪いたいという気持ちがありました」と彼は言う。ビットコインがコード(プログラム)からできていたように、ゼインにもコード(行動規範)があった』、「彼はいくらかのビットコインを買ってコロラド大学を中退し、北京に移り住んだ。そこで彼は、オーケーエックスという暗号資産取引所に就職した。彼はこの取引所に雇われた最初の非中国人だった。 中国の企業は帝国のような存在で、従業員は貴重な資産というより家臣として扱われた・・・2016年にはビットコインの価格は400ドルを超え、ゼインは裕福になっただけでなく尊敬されるようになり、様々な暗号資産取引所と契約して世界中どこでも好きな場所で働けるようになった。暗号資産業界の誰もがゼインを知っており、誰もが彼を信頼していた。 彼は西部劇に出てくるガンマンのような名前と体つきをしていて、開拓時代の米西部を放浪したガンマンのように、何にも誰にも縛られず、あちこちを放浪して回った。ある月はインドネシアにいて、翌月はアルゼンチンにいる。ゼインはビットコインのように、場所を持たない存在となった。 原則的に、彼は経済生活のすべてをビットコインで送った。ビットコインで報酬を受け取り、支払いもビットコインだけ。暗号通貨という運動に参加しながら、それを支持する行動を楽しんでいたのだ」、なるほど。
・『価格高騰が引き寄せる投機家 2017年には、彼が参加する運動の精神に変化が生じていた。ビットコインの熱狂的なファンは、ビットコインは政府の保証する通貨に取って代わるものと信じていたが、ビットコインが最も簡単に取って代わったのは、政府の保証する通貨ではなくギャンブルだった。 2017年のビットコイン価格の狂乱的な高騰は、新しい世代の投機家を引き寄せた。株式市場と異なり、コンピューターの使い方さえ知っていれば、誰でも世界中から、曜日を問わずいつでも暗号通貨を取引することができた。投機対象としての新たな需要により、何百もの新たな暗号通貨が生まれた。 そうした暗号通貨は一般的に、新たな企業への投資として投機家向けに販売されたが、その企業に実際の価値があることはめったになかった。EOSと名づけられた新たな暗号通貨は、ICOで44億ドルを調達した。EOSの創業者たちは集めたカネの有効な用途を思いつかず、それを「資産運用」に使うと発表した。このカネ集めはゼインを悩ませた。「おいおい、何かプロジェクトを立ち上げると言えばカネが集まって、そのプロジェクトを立ち上げなくてもカネは返さなくていいのか? と思いました」 そうしたカネ集めには、おそらくサトシも困惑しただろう。それは暗号資産取引所という概念についても同様だ。ビットコインのもともとの売りは、金融仲介者が不要になることだった。取引から信用を取り除いたのだ。スイスフランやアップル株、あるいは生きた牛などと異なり、ビットコインは他の人々と直接的に、しかも簡単に取引できる。しかし結局、金融仲介者を排除しようとした人々は、自ら新たな仲介者を創出することになった。2019年初頭には、254もの暗号資産取引所が登場していた』、「ビットコインが最も簡単に取って代わったのは、政府の保証する通貨ではなくギャンブルだった・・・金融仲介者を排除しようとした人々は、自ら新たな仲介者を創出することになった。2019年初頭には、254もの暗号資産取引所が登場していた」、皮肉なものだ。
第三に、7月31日付けYahoo ニュースが転載したダイヤモンド・オンライン「「絶対ネコババしていない」マウントゴックス元CEOの訴えと、米国当局が特定した「大量のビットコイン」の行き先」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/8ddfa1144ede3b7841defe119b01743cca9673a2?page=1
・『2014年、ビットコイン取引所マウントゴックス社の機密データ保管庫から480億円相当もの大金が消える事件が発生した。警視庁サイバー犯罪課の捜査によって、同社を経営するマルク・カルプレスが逮捕されるも、「自分こそがハッキング犯罪の犠牲者」と主張。これがアメリカ国税庁によって真実だと証明されると、日本の警視庁はなぜか犯人逮捕の協力要請を拒むのだった──。本稿は、ロバート・ホワイティング著、松井みどり訳『新東京アウトサイダーズ』(角川新書)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『世界的に注目を浴びた ビットコイン・キングの逮捕劇 東京の犯罪システムに、足跡を残したガイジンの1人、フランス人のマルク・カルプレスは、東京を拠点とするビットコイン取引所、〈マウントゴックス社(Mt.Gox)〉を経営していた。彼によれば、世界のビットコイン取引の80%を請け負っていた時期もあるという。 しかし、カルプレスの会社は、2014年に倒産した。85万ビットコイン──当時の価値で推定480億円相当──が、デジタルヴォールト(機密データ保管庫)から消えてしまったからだ。これに怒った投資家たちが、たちまち暗号通貨の安全性を問う事態に発展した。自分の暗号通貨が消滅したことに抗議するため、はるばるスコットランドから乗り込んできた人物もいた。 カルプレスは2015年、警視庁サイバー犯罪課の捜査により、30歳で逮捕された。〈マウントゴックス社〉の口座の預り金、合計3億4100万円を横領し、電子データを改ざんして、クライアントにダメージを与えた疑いだ。その金を自分の口座に移し、贅沢三昧の生活をするために使った、とされた。 カルプレス自身は、大掛かりなハッキングの犠牲になった、と主張したが、裁判を待つあいだ、拘置所で11カ月過ごし、連日数時間に及ぶ尋問を受けた。 暗号通貨は一般人にとって、比較的新しい金銭取引なので、彼の事件は世界的に注目を浴びた。裁判のあいだ、証言に立った警察官は、カルプレス自身がコインを盗んだ、と信じて調査を開始したこと、そのため彼の自白を望んでいることを認めた。警察はさらに、ハッカー捜しを中止した、とも証言している』、日本の警察は「カルプレス自身がコインを盗んだ、と信じて調査を開始」、など海外捜査機関とは違った見方に固執したようだ。
・『「自分は犠牲者。絶対にネコババ していない」との主張は退けられた 2019年3月15日、カルプレスは東京地裁において、1つの訴因で有罪判決を受けた。その訴因とは、彼が2013年2月から9月にかけて、ダラスのビットコイン取引所の口座に、およそ3350万ドル相当を送金したこと。しかも、自身の個人的コンピューターを使い、会社の帳簿を改ざんして、不正を隠ぺいしたこと。 判決内容を読み上げる中で、裁判官はカルプレスが、顧客の信頼を大きく裏切ったことを指摘した。 しかし特筆すべきは、カルプレスがほかの2つの訴因については、有罪判決を受けなかった事実だ。) 彼が下された懲役2年6カ月(検察は10年を求刑)の判決に、裁判官は執行猶予をつけるべきだと判断した。問題を起こさなければ、刑務所に入らなくてもいい、という意味である。 これは、起訴後の有罪判決率が99%の国、日本で善戦した結果だと言える。 カルプレスは上訴した。彼の弁護団は、 「暗号通貨は、当時の日本でほとんど管理できていなかった。したがって検察側は、暗号通貨が実際にどのように流通しているかを、理解していない」と主張し、 「カルプレスは大掛かりなサイバー犯罪の犠牲者であり、顧客を守ろうとしたに過ぎない」と訴えた。 カルプレス本人は、 「2014年にマウントゴックス社が倒産したとき、消失したクライアントのファンドを、自分は絶対にネコババしていない」 と断言している。しかし、彼の訴えは通らず、地裁判決は、2020年に日本の高等裁判所で支持された』、「カルプレスがほかの2つの訴因については、有罪判決を受けなかった事実だ。) 彼が下された懲役2年6カ月(検察は10年を求刑)の判決に、裁判官は執行猶予をつけるべきだと判断した。問題を起こさなければ、刑務所に入らなくてもいい、という意味である」、なるほど。
・『日本に移住したのち 暗号通貨取引所を買収 マルク・カルプレスは、“典型的なガイジン・タイプ”(そんなのがあればの話だが)ではない。フランスのディジョンで育ち、『PHYS・ORG』誌の経歴によれば、最終学歴はパリの〈リセ・ルイ・アルマン〉。 母親が2017年のドキュメンタリーで語ったところによれば、 「息子はコンピューターの天才で、学校ではほとんど友達がいませんでした。ITや量子物理学について、あの子と対等に会話できる友人が、見つからなかったのでしょう。息子が唯一興味を持ったのは、コンピューター・サイエンスでした」 やがてフランスのテレビ局に採用され、終日、コンピューター・スクリーンの前で過ごした。 プロの世界に入ると、彼は、フランス企業〈リナックス・シベルジュウール〉にうまくなじめないことを知った。 やがて会社はデータに異常を発見し、「自動データ処理システムへの不正アクセス」と「データの不正改ざん」の容疑で、2010年にカルプレスを当局に訴えた。カルプレスはフランスで、欠席裁判の末、執行猶予1年を告げられている。カルプレスは日本のアニメとヴィデオゲームにも強い関心を持ち、何度か日本を訪れたあと、2009年に移住し、ビットコインへの興味を深めていった。) 2011年には、暗号通貨取引所、〈マウントゴックス社〉を買収。 『私はビットコインに魂を売った』と題する、カルプレスに関する本の共著者、ジェイク・エーデルスタインはこう語る。《このプラットフォームはもともと、〈マジック・ザ・ギャザリング〉という人気カードゲームで、カードをトレードするためのものだった。〈ポケモン〉にどこか似ているこのシステムは、暗号通貨を扱うためではなかったから、欠点がたくさんあった。マルクが会社を買収した時点で、すでにかなりのビットコインが紛失していた。》 にもかかわらずビットコインは、〈シルクロード・ウェブサイト〉という、いわば闇サイトで、麻薬や不法商品を買うのに好都合の通貨だと判明。とたんに、人気が急上昇。顧客ベースも急拡大した。マウントゴックス社は驚くほど急成長し、ある時点で、「わが社は全世界のビットコイン取引の80%を支配している」と豪語した。 カルプレスは成功を享受した。月1万1000ドルの豪勢なアパートに住み、ベッドは数万ドルのキングサイズ。日本人女性と結婚し、子供ももうけた』、「麻薬や不法商品を買うのに好都合の通貨だと判明。とたんに、人気が急上昇。顧客ベースも急拡大した」、「日本人女性と結婚し、子供ももうけた」、いずれも初めて知った。
・『カルプレスは被害者だと アメリカ国税庁も認めた ところが2014年、すべてがガラガラと崩れ落ちた。マウントゴックス社が、カルプレスの主張によると「大規模なハッキングによって」、推定85万ビットコイン(当時の貨幣価値で約5億ドル相当)を失ったからだ。 マウントゴックス社は倒産し、破産による保護を申請。検察当局は、データ改ざんと、顧客の口座から約300万ドル盗んだ疑いで、カルプレスを追及した。 カルプレスは逮捕、再逮捕を幾度か繰り返し、日本の拘置所で合計1年ほど過ごすハメになった。毎日数時間の尋問を受け、デブだった体は、かなりの体重を失った。 続く倒産の審問では、マウントゴックス社は、ビットコイン1個につき483米ドル相当を、債権者に返金するよう命じられた(合計すると、450億6000万円、米ドルで4億ドル)。 幸運なことにカルプレスは、会社に残っていた20万ビットコインを、管財人に預けていた。その価値が、彼の勾留期間中にうなぎ上り。おかげで債権者たちは、破産で失ったよりも高い金額を、手に入れたことになる。) 2017年ごろには、管財人によって、約5万ビットコインが6億米ドルで売り出されたが、残りのビットコインは、今の価値で60億米ドルを超えている。それが2023年に出回り始めているはずだ。 結局のところ、カルプレスが不当に狙われた、と考えられる根拠がたくさんありそうだ。スウェーデンのエンジニア、キム・ニルソンは、マウントゴックス社の倒産でかなりのビットコインを失った1人だが、カルプレスが東京拘置所に入っているあいだに、アメリカの連邦当局と情報を交換し始めた。 アメリカ国税庁の対策本部は、「マウントゴックス社が外部の何者かにハッキングされたことは確かである」と結論づけた。「2011年から2013年後半までのあいだに、何者かが60万以上のビットコインを横取りしたようだ」と』、「幸運なことにカルプレスは、会社に残っていた20万ビットコインを、管財人に預けていた。その価値が、彼の勾留期間中にうなぎ上り。おかげで債権者たちは、破産で失ったよりも高い金額を、手に入れたことになる」、「アメリカ国税庁の対策本部は、「マウントゴックス社が外部の何者かにハッキングされたことは確かである」と結論づけた。「2011年から2013年後半までのあいだに、何者かが60万以上のビットコインを横取りしたようだ」と」、日本の捜査当局より実態を把握していたようだ。
・『カルプレスを陥れた犯人を ついに突き止めて拘束 アメリカ国税庁の特別捜査員、ティグラン・“ブロックチェーン・ウィザード(ブロックチェーン技術の達人)”・ガンバリャンは、ハッカーを逮捕するため、マウントゴックス社のデータをシェアしてほしいと、日本の警察庁と警視庁に、協力を求めた。 断られた。 カルプレスの支持者は、こう分析している──東京の警察は、もしも真犯人が見つかったら、カルプレスに自白させようとした彼らの行為が、いかに残酷で間違っていたかを証明されてしまう、と恐れているに違いない、と。 しかし、先のエーデルスタインは、マウントゴックス社のデータベースのコピーを、サンフランシスコのFBIに、調査資料として持ち込んだ。結果、アメリカ当局は、盗まれた大量のビットコインの行き先を突き止めた。 アレクサンダー・ヴィニクという、ロシア人のビットコイン取引業者だ。 2017年7月25日、アメリカ当局の要請で、ギリシャでヴィニクを拘束。彼はマネーロンダリング21件と、マウントゴックス社の件を含む、ほかの数件の罪状で告訴された。アメリカは、詐欺とハッキング容疑で、ヴィニクの引き渡しを要求。フランスもロシアも、引き渡しを要求した。 彼はフランスに送還され、裁判にかけられて、マネーロンダリングの有罪判決により、懲役5年を言い渡された。 一方カルプレスは、2022年春に新会社〈UNGOX〉を立ち上げた。技術、情報開示性、人事制度、適法性などの重要分野にメスを入れる、暗号通貨取引所の評価や、その関連企業の評価を提供する会社だ』、「ガンバリャンは、ハッカーを逮捕するため、マウントゴックス社のデータをシェアしてほしいと、日本の警察庁と警視庁に、協力を求めた。 断られた」、日本の当局の了見の狭さには改めて驚かされた。「東京の警察は、もしも真犯人が見つかったら、カルプレスに自白させようとした彼らの行為が、いかに残酷で間違っていたかを証明されてしまう、と恐れているに違いない、と。 しかし、先のエーデルスタインは、マウントゴックス社のデータベースのコピーを、サンフランシスコのFBIに、調査資料として持ち込んだ。結果、アメリカ当局は、盗まれた大量のビットコインの行き先を突き止めた」、捜査当局のあり方としては、日本は完敗だ。「アメリカ」には情報が集まり易いのであれば、初めからアメリカ当局と手を結んでおくべきだった。
先ずは、本年6月5日付け東洋経済オンライン「DMMビットコイン「流出482億円」補償の胸算用 自己資本81億円でも「全額補償を即日発表」の背景」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/759174
・『暗号資産(仮想通貨)が数年に一度の上昇相場を迎えている中、流出事件が日本の暗号資産交換所でまた起きた。 DMMビットコインは5月31日、約4500ビットコインが自社ウォレットから流出したと発表した。流出直前のビットコイン価格は約1070万円だったため、流出額は482億円相当に上った。 同社はDMM.comグループ傘下企業。直近で開示されている2022年度時点での顧客口座数は37万、預かり資産は404億円。国内交換所で中堅規模に位置する。 今回の流出規模は、国内だと2018年のコインチェック事件の約580億円に次ぐ。暗号資産業界の自主規制団体である日本暗号資産取引業協会の小田玄紀会長は、「流出は残念に思うが『これだから業界はだめ』というわけではない」と強調する。 (2年ぶりの上昇相場で1000万円の大台にービットコインの円建て価格ーはリンク先参照)』、確かに「ビットコイン」の相場は堅調になったようだ。
・『経験が生きた「補償方針の即日発表」 流出が起きた当日に顧客への補償方針を公表した点では、業界としての経験が生かされたようだ。DMMビットコインは流出相当分のビットコインをグループ会社からの支援を受けて調達し全額補償するとした。 実は小田会長も、2019年当時に社長を務めていたビットポイントジャパンで流出事件を経験している。外部からのハッキングで盗まれたビットコインなどの暗号資産は事件当時のレート換算で約30億円だった。運用保守ルートを通じてハッキングを受けたが、犯人はわかっていない。 このときビットポイントは流出の3日後に、顧客に対する補償方針を示した。被害を受けたのは5万人。口座開設者のほぼ半数に上ったが、解約などの顧客離れは1割未満で済んだという。今回のDMMビットコインはさらに素早く補償の意思を表明した。) 一方、セキュリティ体制の「徹底度」においては、今後課題が見えてきそうだ。 DMMビットコインは現在、被害状況の詳細については調査中としている。ただ、インターネットに接続していない「コールドウォレット」から流出したとみられている。 国内の交換業者には顧客資産の分別管理義務がある。日本円などの法定通貨は信託銀行で管理し、暗号資産は実質的にコールドウォレットで100%管理する、としている。 流出の直接的な原因をめぐっては、ネット上での議論がかまびすしい。取りざたされているのは、故意の内部犯行説やマルウェア(悪意のあるプログラム)感染などの過失説だ。 だがコールドウォレットが、ネットから隔離した専用端末で、複数人による管理が徹底されていたのかなど、そもそもの運用体制から検証されるべきだろう。 小田会長も「いいシステムを入れるなど技術水準もそうだが、さらに大事なのは運用体制だ」と述べる』、「国内の交換業者には顧客資産の分別管理義務がある。日本円などの法定通貨は信託銀行で管理し、暗号資産は実質的にコールドウォレットで100%管理する、としている。 流出の直接的な原因をめぐっては、ネット上での議論がかまびすしい。取りざたされているのは、故意の内部犯行説やマルウェア(悪意のあるプログラム)感染などの過失説だ。 だがコールドウォレットが、ネットから隔離した専用端末で、複数人による管理が徹底されていたのかなど、そもそもの運用体制から検証されるべきだろう」、なるほど。
・『上昇相場への影響は軽微か 流出額の点では、コインチェック事件に次ぐ金額となったが、その時と異なり暗号資産取引市場に及ぼす影響は軽微というのが大方の見方だ。 総合金融業のSBIホールディングス傘下にある交換所・SBI VCトレードの西山祥史アナリストは、過去との違いとして「市場の厚み」を指摘する。 実際、分析サイトの「CoinGecko」(コインゲッコー)のデータを見ると、暗号資産全体の取引高はコインチェック事件前と比べて大きく増えている。コインチェック事件前、1日の取引高は400億ドル前後だった。それが足元では日によって1000億ドルを超える規模となっている。) また、この先は西山アナリストが考える、過去の価格上昇時にみられた「クリプト3条件」もそろうことで一段高が見込まれる。 主要中央銀行が金融緩和傾向であること、株式市場のボラティリティ指数が低水準であること、実質金利が低下傾向であること――が3条件だ。年後半にはアメリカが利下げへと転換すると予想され、年末頃に条件を満たす可能性がある。 さらに機関投資家マネーの本格流入も年後半にかけて予想される。「伝統的な機関投資家の動きとして、新たな金融商品が出たときには6カ月間の投資実績を見る」(西山氏)。 それを前提にすると、アメリカで1月に承認されたビットコイン現物ETF(上場投資信託)に機関投資家が本格的に資金を投じるのは年後半と予想されるわけだ』、「暗号資産全体の取引高はコインチェック事件前と比べて大きく増えている。コインチェック事件前、1日の取引高は400億ドル前後だった。それが足元では日によって1000億ドルを超える規模となっている・・・過去の価格上昇時にみられた「クリプト3条件」もそろうことで一段高が見込まれる。 主要中央銀行が金融緩和傾向であること、株式市場のボラティリティ指数が低水準であること、実質金利が低下傾向であること――が3条件だ。年後半にはアメリカが利下げへと転換すると予想され、年末頃に条件を満たす可能性がある・・・アメリカで1月に承認されたビットコイン現物ETF(上場投資信託)に機関投資家が本格的に資金を投じるのは年後半と予想される」、なるほど。
・『「交換所の事件後」も今回は違う? 流出事件を起こした交換所の「その後」についても、今回は違うのかもしれない。マネックスグループに救済買収されたコインチェックなど、事件を起こした交換所の多くは他社の資本傘下に入った。 その点、DMMビットコインに関してはDMMグループが今後も支えるという意思を示したように取れる。実際、DMMビットコインは、480億円の増資や借り入れによって計550億円をDMMグループから調達することになった。 DMMビットコインの自己資本は今年3月末時点で81億円。自己資本比率規制上、資本として計上できる劣後債務などを加味しても105億円だった。482億円分相当を補償するには、踏み込んだ支援を受けないとできなかった。 そもそもDMMグループがDMMビットコインを売却したいとしても難しいのかもしれない。「追加の補填などの可能性を考えると、DMMビットコインにつけられる値段はよくて10億円、20億円では」(交換所関係者)。それでは手放す動機がない。 DMMビットコインは、補償の具体的な方法や時期を速やかに検討し、今後公表するとしている。 「『ハッキングは起こるもの』と頭のどこかでわかっていても、日常の業務の中で意識が弱くなる。しかしいざ起こると金額が大きく影響は甚大だ」。小田会長はそう語る。交換所の運営に携わる人たちは肝に銘じておいてほしい』、「DMMビットコインにつけられる値段はよくて10億円、20億円では」(交換所関係者)。それでは手放す動機がない。 DMMビットコインは、補償の具体的な方法や時期を速やかに検討し、今後公表するとしている。 「『ハッキングは起こるもの』と頭のどこかでわかっていても、日常の業務の中で意識が弱くなる。しかしいざ起こると金額が大きく影響は甚大だ』、「DMMビットコインにつけられる値段はよくて10億円、20億円では」(交換所関係者)。それでは手放す動機がない・・・DMMビットコインは、補償の具体的な方法や時期を速やかに検討し、今後公表するとしている」、「DMMビットコイン」の今後の出方が注目される。
次に、7月22日付け日経ビジネスオンライン「サトシ・ナカモトの誤算 ビットコインは通貨ではなくギャンブルに」を紹介しよう。
・『この記事の3つのポイント 1.サトシの論文は既存金融システムからの解放を意味 2.ビットコインは通貨ではなくギャンブルの手段に 3.ビットコインの高騰は新たな投機家を引き寄せた 2008年10月、サトシ・ナカモトと名乗る人物がビットコインのアイデアを発表した。ゼイン・タケットはクレジットカードの決済を巡る詐欺被害の経験から、これが銀行や政府の信用を必要としない通貨になると大きな期待を持つ。だがビットコインが実際に取って代わったのは、通貨ではなく「ギャンブル」だった。『1兆円を盗んだ男 仮想通貨帝国FTXの崩壊』(マイケル・ルイス著/小林啓倫訳/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成』、興味深そうだ。
・『既存の金融システムからの解放 2008年10月下旬、サトシ・ナカモトと名乗る人物(信じられないことに、今日に至るまでその素性は明らかになっていない)が、ビットコインのアイデアを論文で発表した。その大部分は、後に世界初の暗号通貨となるものの技術的な説明で、以下のようなものだ。 ビットコインは「電子コイン」である。「プルーフ・オブ・ワーク・チェーン」と呼ばれる公開台帳の上に存在する。ある人から別の人へと送金されるたびに、その真正性がプログラマーによって検証される。検証したプログラマーが、その取引を公開台帳に追記する。そうしたプログラマーたち――やがてビットコインの「マイナー(採掘者)」と呼ばれるようになる――は、この仕事の報酬として、新しいビットコインを与えられる(興味深いことに、この論文に「ブロックチェーン」という言葉は出てこない)。 ビットコインの仕組みは主に技術者の興味を惹いたが、それが何をもたらすかについては、より幅広い人々が興味を抱くようになった。ビットコインを使えば、一般の人々は既存の金融システムから解放され、金融を動かす人間の誠実さに依存する必要がなくなるだろう。「必要なのは信用ではなく、暗号学的証明に基づく電子決済システムである」とサトシは書いている。 サトシが誰であろうと、信用、もしくは信用の必要性が彼を悩ませていた。論文は2008年の世界的な金融危機については触れていないが、彼の発明がそれに対する反応であることは明らかだ。ビットコインがその目的を達成すれば、銀行や政府はもはや貨幣を管理することができなくなるだろう。 ビットコインの所有や移動には、銀行は必要ない。その価値が政府によって浸食されることもない。もちろんコンピュータープログラムの完全性と設計を除いて、誰も何も信用する必要がない。それは健全な通貨を求めると同時に、不信感に訴えてもいた。金融革新であると同時に、社会的抗議でもあった。暗号通貨は、敵が同じだからという理由でできた友人のようなものだ。暗号通貨に惹かれたのは、少なくとも初期には、大手銀行や政府、および他の組織的権威に対して疑念を抱く人々だった』、「暗号通貨に惹かれたのは、少なくとも初期には、大手銀行や政府、および他の組織的権威に対して疑念を抱く人々だった」、なるほど。
・『ビットコインで大金持ちになったゼイン ゼイン・タケットはそうしたタイプの典型的な例だったが、ゼインを「タイプ」で考えると、彼の楽しい部分や重要なところを見逃してしまうだろう。ゼインはパイオニアと呼ばれることも多い。2013年4月、ビットコインの価格が100ドル前後で推移していたころ、当時コロラド大学の学生だったゼインは奇妙な雑誌記事を目にした。その記事の筆者は、これから身を隠すと宣言し、自分を見つけた人に1万ドルの賞金を出すというのだ。 その賞金はビットコインで支払われ、ビットコインの支払いには、不可逆的で追跡不可能という利点があるとその筆者は説明していた。ゼインはその記事を読んで、なぜか筆者を探そうとするのではなく、ビットコインが何であるかを知りたいと思った。 彼は最近、詐欺の被害に遭っていた。マイケル・ジョーダンのジャージカードをオンラインで売ったところ、購入者がクレジットカードの決済を取り消し、カードも返そうとしなかったのだ。 金融システムがこの詐欺を許したことに、ゼインは憤慨していた。また、彼は大学生活をあまり楽しんでおらず、大学に留まること以外の人生の選択肢を示す人々に、近しいものを感じた。「僕の祖父は、中国に行って中国語を学ぶべきだと言っていました。なぜなら彼らが世界を支配するだろうから、と」とゼインは言う。 彼はかつてそのアドバイスに従って、高校を卒業してすぐに1年間中国に行き、そのあとコロラド大学に通うために帰国していた。そして今回、彼はいくらかのビットコインを買ってコロラド大学を中退し、北京に移り住んだ。そこで彼は、オーケーエックスという暗号資産取引所に就職した。彼はこの取引所に雇われた最初の非中国人だった。 中国の企業は帝国のような存在で、従業員は貴重な資産というより家臣として扱われた。「従業員はひどい目にも遭います。ひどい目に遭っても、何もできないからです。何の保護もありません」。 彼の祖父は、ゼインが中国語を流暢に話すようになったことを評価したが、両親は彼が何か悪いことに巻き込まれているのではないかと心配した。ゼインはビットコインを増やし続け、ビットコインの価格は上昇し続け、ある日ゼインは大金持ちになった。「僕は面白いカネを手に入れ、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で取り上げられ、両親は僕が大丈夫そうだと判断しました」 2016年にはビットコインの価格は400ドルを超え、ゼインは裕福になっただけでなく尊敬されるようになり、様々な暗号資産取引所と契約して世界中どこでも好きな場所で働けるようになった。暗号資産業界の誰もがゼインを知っており、誰もが彼を信頼していた。 彼は西部劇に出てくるガンマンのような名前と体つきをしていて、開拓時代の米西部を放浪したガンマンのように、何にも誰にも縛られず、あちこちを放浪して回った。ある月はインドネシアにいて、翌月はアルゼンチンにいる。ゼインはビットコインのように、場所を持たない存在となった。 原則的に、彼は経済生活のすべてをビットコインで送った。ビットコインで報酬を受け取り、支払いもビットコインだけ。暗号通貨という運動に参加しながら、それを支持する行動を楽しんでいたのだ。「政府からカネの力を奪いたいという気持ちがありました」と彼は言う。ビットコインがコード(プログラム)からできていたように、ゼインにもコード(行動規範)があった』、「彼はいくらかのビットコインを買ってコロラド大学を中退し、北京に移り住んだ。そこで彼は、オーケーエックスという暗号資産取引所に就職した。彼はこの取引所に雇われた最初の非中国人だった。 中国の企業は帝国のような存在で、従業員は貴重な資産というより家臣として扱われた・・・2016年にはビットコインの価格は400ドルを超え、ゼインは裕福になっただけでなく尊敬されるようになり、様々な暗号資産取引所と契約して世界中どこでも好きな場所で働けるようになった。暗号資産業界の誰もがゼインを知っており、誰もが彼を信頼していた。 彼は西部劇に出てくるガンマンのような名前と体つきをしていて、開拓時代の米西部を放浪したガンマンのように、何にも誰にも縛られず、あちこちを放浪して回った。ある月はインドネシアにいて、翌月はアルゼンチンにいる。ゼインはビットコインのように、場所を持たない存在となった。 原則的に、彼は経済生活のすべてをビットコインで送った。ビットコインで報酬を受け取り、支払いもビットコインだけ。暗号通貨という運動に参加しながら、それを支持する行動を楽しんでいたのだ」、なるほど。
・『価格高騰が引き寄せる投機家 2017年には、彼が参加する運動の精神に変化が生じていた。ビットコインの熱狂的なファンは、ビットコインは政府の保証する通貨に取って代わるものと信じていたが、ビットコインが最も簡単に取って代わったのは、政府の保証する通貨ではなくギャンブルだった。 2017年のビットコイン価格の狂乱的な高騰は、新しい世代の投機家を引き寄せた。株式市場と異なり、コンピューターの使い方さえ知っていれば、誰でも世界中から、曜日を問わずいつでも暗号通貨を取引することができた。投機対象としての新たな需要により、何百もの新たな暗号通貨が生まれた。 そうした暗号通貨は一般的に、新たな企業への投資として投機家向けに販売されたが、その企業に実際の価値があることはめったになかった。EOSと名づけられた新たな暗号通貨は、ICOで44億ドルを調達した。EOSの創業者たちは集めたカネの有効な用途を思いつかず、それを「資産運用」に使うと発表した。このカネ集めはゼインを悩ませた。「おいおい、何かプロジェクトを立ち上げると言えばカネが集まって、そのプロジェクトを立ち上げなくてもカネは返さなくていいのか? と思いました」 そうしたカネ集めには、おそらくサトシも困惑しただろう。それは暗号資産取引所という概念についても同様だ。ビットコインのもともとの売りは、金融仲介者が不要になることだった。取引から信用を取り除いたのだ。スイスフランやアップル株、あるいは生きた牛などと異なり、ビットコインは他の人々と直接的に、しかも簡単に取引できる。しかし結局、金融仲介者を排除しようとした人々は、自ら新たな仲介者を創出することになった。2019年初頭には、254もの暗号資産取引所が登場していた』、「ビットコインが最も簡単に取って代わったのは、政府の保証する通貨ではなくギャンブルだった・・・金融仲介者を排除しようとした人々は、自ら新たな仲介者を創出することになった。2019年初頭には、254もの暗号資産取引所が登場していた」、皮肉なものだ。
第三に、7月31日付けYahoo ニュースが転載したダイヤモンド・オンライン「「絶対ネコババしていない」マウントゴックス元CEOの訴えと、米国当局が特定した「大量のビットコイン」の行き先」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/8ddfa1144ede3b7841defe119b01743cca9673a2?page=1
・『2014年、ビットコイン取引所マウントゴックス社の機密データ保管庫から480億円相当もの大金が消える事件が発生した。警視庁サイバー犯罪課の捜査によって、同社を経営するマルク・カルプレスが逮捕されるも、「自分こそがハッキング犯罪の犠牲者」と主張。これがアメリカ国税庁によって真実だと証明されると、日本の警視庁はなぜか犯人逮捕の協力要請を拒むのだった──。本稿は、ロバート・ホワイティング著、松井みどり訳『新東京アウトサイダーズ』(角川新書)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『世界的に注目を浴びた ビットコイン・キングの逮捕劇 東京の犯罪システムに、足跡を残したガイジンの1人、フランス人のマルク・カルプレスは、東京を拠点とするビットコイン取引所、〈マウントゴックス社(Mt.Gox)〉を経営していた。彼によれば、世界のビットコイン取引の80%を請け負っていた時期もあるという。 しかし、カルプレスの会社は、2014年に倒産した。85万ビットコイン──当時の価値で推定480億円相当──が、デジタルヴォールト(機密データ保管庫)から消えてしまったからだ。これに怒った投資家たちが、たちまち暗号通貨の安全性を問う事態に発展した。自分の暗号通貨が消滅したことに抗議するため、はるばるスコットランドから乗り込んできた人物もいた。 カルプレスは2015年、警視庁サイバー犯罪課の捜査により、30歳で逮捕された。〈マウントゴックス社〉の口座の預り金、合計3億4100万円を横領し、電子データを改ざんして、クライアントにダメージを与えた疑いだ。その金を自分の口座に移し、贅沢三昧の生活をするために使った、とされた。 カルプレス自身は、大掛かりなハッキングの犠牲になった、と主張したが、裁判を待つあいだ、拘置所で11カ月過ごし、連日数時間に及ぶ尋問を受けた。 暗号通貨は一般人にとって、比較的新しい金銭取引なので、彼の事件は世界的に注目を浴びた。裁判のあいだ、証言に立った警察官は、カルプレス自身がコインを盗んだ、と信じて調査を開始したこと、そのため彼の自白を望んでいることを認めた。警察はさらに、ハッカー捜しを中止した、とも証言している』、日本の警察は「カルプレス自身がコインを盗んだ、と信じて調査を開始」、など海外捜査機関とは違った見方に固執したようだ。
・『「自分は犠牲者。絶対にネコババ していない」との主張は退けられた 2019年3月15日、カルプレスは東京地裁において、1つの訴因で有罪判決を受けた。その訴因とは、彼が2013年2月から9月にかけて、ダラスのビットコイン取引所の口座に、およそ3350万ドル相当を送金したこと。しかも、自身の個人的コンピューターを使い、会社の帳簿を改ざんして、不正を隠ぺいしたこと。 判決内容を読み上げる中で、裁判官はカルプレスが、顧客の信頼を大きく裏切ったことを指摘した。 しかし特筆すべきは、カルプレスがほかの2つの訴因については、有罪判決を受けなかった事実だ。) 彼が下された懲役2年6カ月(検察は10年を求刑)の判決に、裁判官は執行猶予をつけるべきだと判断した。問題を起こさなければ、刑務所に入らなくてもいい、という意味である。 これは、起訴後の有罪判決率が99%の国、日本で善戦した結果だと言える。 カルプレスは上訴した。彼の弁護団は、 「暗号通貨は、当時の日本でほとんど管理できていなかった。したがって検察側は、暗号通貨が実際にどのように流通しているかを、理解していない」と主張し、 「カルプレスは大掛かりなサイバー犯罪の犠牲者であり、顧客を守ろうとしたに過ぎない」と訴えた。 カルプレス本人は、 「2014年にマウントゴックス社が倒産したとき、消失したクライアントのファンドを、自分は絶対にネコババしていない」 と断言している。しかし、彼の訴えは通らず、地裁判決は、2020年に日本の高等裁判所で支持された』、「カルプレスがほかの2つの訴因については、有罪判決を受けなかった事実だ。) 彼が下された懲役2年6カ月(検察は10年を求刑)の判決に、裁判官は執行猶予をつけるべきだと判断した。問題を起こさなければ、刑務所に入らなくてもいい、という意味である」、なるほど。
・『日本に移住したのち 暗号通貨取引所を買収 マルク・カルプレスは、“典型的なガイジン・タイプ”(そんなのがあればの話だが)ではない。フランスのディジョンで育ち、『PHYS・ORG』誌の経歴によれば、最終学歴はパリの〈リセ・ルイ・アルマン〉。 母親が2017年のドキュメンタリーで語ったところによれば、 「息子はコンピューターの天才で、学校ではほとんど友達がいませんでした。ITや量子物理学について、あの子と対等に会話できる友人が、見つからなかったのでしょう。息子が唯一興味を持ったのは、コンピューター・サイエンスでした」 やがてフランスのテレビ局に採用され、終日、コンピューター・スクリーンの前で過ごした。 プロの世界に入ると、彼は、フランス企業〈リナックス・シベルジュウール〉にうまくなじめないことを知った。 やがて会社はデータに異常を発見し、「自動データ処理システムへの不正アクセス」と「データの不正改ざん」の容疑で、2010年にカルプレスを当局に訴えた。カルプレスはフランスで、欠席裁判の末、執行猶予1年を告げられている。カルプレスは日本のアニメとヴィデオゲームにも強い関心を持ち、何度か日本を訪れたあと、2009年に移住し、ビットコインへの興味を深めていった。) 2011年には、暗号通貨取引所、〈マウントゴックス社〉を買収。 『私はビットコインに魂を売った』と題する、カルプレスに関する本の共著者、ジェイク・エーデルスタインはこう語る。《このプラットフォームはもともと、〈マジック・ザ・ギャザリング〉という人気カードゲームで、カードをトレードするためのものだった。〈ポケモン〉にどこか似ているこのシステムは、暗号通貨を扱うためではなかったから、欠点がたくさんあった。マルクが会社を買収した時点で、すでにかなりのビットコインが紛失していた。》 にもかかわらずビットコインは、〈シルクロード・ウェブサイト〉という、いわば闇サイトで、麻薬や不法商品を買うのに好都合の通貨だと判明。とたんに、人気が急上昇。顧客ベースも急拡大した。マウントゴックス社は驚くほど急成長し、ある時点で、「わが社は全世界のビットコイン取引の80%を支配している」と豪語した。 カルプレスは成功を享受した。月1万1000ドルの豪勢なアパートに住み、ベッドは数万ドルのキングサイズ。日本人女性と結婚し、子供ももうけた』、「麻薬や不法商品を買うのに好都合の通貨だと判明。とたんに、人気が急上昇。顧客ベースも急拡大した」、「日本人女性と結婚し、子供ももうけた」、いずれも初めて知った。
・『カルプレスは被害者だと アメリカ国税庁も認めた ところが2014年、すべてがガラガラと崩れ落ちた。マウントゴックス社が、カルプレスの主張によると「大規模なハッキングによって」、推定85万ビットコイン(当時の貨幣価値で約5億ドル相当)を失ったからだ。 マウントゴックス社は倒産し、破産による保護を申請。検察当局は、データ改ざんと、顧客の口座から約300万ドル盗んだ疑いで、カルプレスを追及した。 カルプレスは逮捕、再逮捕を幾度か繰り返し、日本の拘置所で合計1年ほど過ごすハメになった。毎日数時間の尋問を受け、デブだった体は、かなりの体重を失った。 続く倒産の審問では、マウントゴックス社は、ビットコイン1個につき483米ドル相当を、債権者に返金するよう命じられた(合計すると、450億6000万円、米ドルで4億ドル)。 幸運なことにカルプレスは、会社に残っていた20万ビットコインを、管財人に預けていた。その価値が、彼の勾留期間中にうなぎ上り。おかげで債権者たちは、破産で失ったよりも高い金額を、手に入れたことになる。) 2017年ごろには、管財人によって、約5万ビットコインが6億米ドルで売り出されたが、残りのビットコインは、今の価値で60億米ドルを超えている。それが2023年に出回り始めているはずだ。 結局のところ、カルプレスが不当に狙われた、と考えられる根拠がたくさんありそうだ。スウェーデンのエンジニア、キム・ニルソンは、マウントゴックス社の倒産でかなりのビットコインを失った1人だが、カルプレスが東京拘置所に入っているあいだに、アメリカの連邦当局と情報を交換し始めた。 アメリカ国税庁の対策本部は、「マウントゴックス社が外部の何者かにハッキングされたことは確かである」と結論づけた。「2011年から2013年後半までのあいだに、何者かが60万以上のビットコインを横取りしたようだ」と』、「幸運なことにカルプレスは、会社に残っていた20万ビットコインを、管財人に預けていた。その価値が、彼の勾留期間中にうなぎ上り。おかげで債権者たちは、破産で失ったよりも高い金額を、手に入れたことになる」、「アメリカ国税庁の対策本部は、「マウントゴックス社が外部の何者かにハッキングされたことは確かである」と結論づけた。「2011年から2013年後半までのあいだに、何者かが60万以上のビットコインを横取りしたようだ」と」、日本の捜査当局より実態を把握していたようだ。
・『カルプレスを陥れた犯人を ついに突き止めて拘束 アメリカ国税庁の特別捜査員、ティグラン・“ブロックチェーン・ウィザード(ブロックチェーン技術の達人)”・ガンバリャンは、ハッカーを逮捕するため、マウントゴックス社のデータをシェアしてほしいと、日本の警察庁と警視庁に、協力を求めた。 断られた。 カルプレスの支持者は、こう分析している──東京の警察は、もしも真犯人が見つかったら、カルプレスに自白させようとした彼らの行為が、いかに残酷で間違っていたかを証明されてしまう、と恐れているに違いない、と。 しかし、先のエーデルスタインは、マウントゴックス社のデータベースのコピーを、サンフランシスコのFBIに、調査資料として持ち込んだ。結果、アメリカ当局は、盗まれた大量のビットコインの行き先を突き止めた。 アレクサンダー・ヴィニクという、ロシア人のビットコイン取引業者だ。 2017年7月25日、アメリカ当局の要請で、ギリシャでヴィニクを拘束。彼はマネーロンダリング21件と、マウントゴックス社の件を含む、ほかの数件の罪状で告訴された。アメリカは、詐欺とハッキング容疑で、ヴィニクの引き渡しを要求。フランスもロシアも、引き渡しを要求した。 彼はフランスに送還され、裁判にかけられて、マネーロンダリングの有罪判決により、懲役5年を言い渡された。 一方カルプレスは、2022年春に新会社〈UNGOX〉を立ち上げた。技術、情報開示性、人事制度、適法性などの重要分野にメスを入れる、暗号通貨取引所の評価や、その関連企業の評価を提供する会社だ』、「ガンバリャンは、ハッカーを逮捕するため、マウントゴックス社のデータをシェアしてほしいと、日本の警察庁と警視庁に、協力を求めた。 断られた」、日本の当局の了見の狭さには改めて驚かされた。「東京の警察は、もしも真犯人が見つかったら、カルプレスに自白させようとした彼らの行為が、いかに残酷で間違っていたかを証明されてしまう、と恐れているに違いない、と。 しかし、先のエーデルスタインは、マウントゴックス社のデータベースのコピーを、サンフランシスコのFBIに、調査資料として持ち込んだ。結果、アメリカ当局は、盗まれた大量のビットコインの行き先を突き止めた」、捜査当局のあり方としては、日本は完敗だ。「アメリカ」には情報が集まり易いのであれば、初めからアメリカ当局と手を結んでおくべきだった。
タグ:暗号資産(仮想通貨) (その24)(DMMビットコイン「流出482億円」補償の胸算用 自己資本81億円でも「全額補償を即日発表」の背景、サトシ・ナカモトの誤算 ビットコインは通貨ではなくギャンブルに、「絶対ネコババしていない」マウントゴックス元CEOの訴えと 米国当局が特定した「大量のビットコイン」の行き先) 東洋経済オンライン「DMMビットコイン「流出482億円」補償の胸算用 自己資本81億円でも「全額補償を即日発表」の背景」 確かに「ビットコイン」の相場は堅調になったようだ。 「国内の交換業者には顧客資産の分別管理義務がある。日本円などの法定通貨は信託銀行で管理し、暗号資産は実質的にコールドウォレットで100%管理する、としている。 流出の直接的な原因をめぐっては、ネット上での議論がかまびすしい。取りざたされているのは、故意の内部犯行説やマルウェア(悪意のあるプログラム)感染などの過失説だ。 だがコールドウォレットが、ネットから隔離した専用端末で、複数人による管理が徹底されていたのかなど、そもそもの運用体制から検証されるべきだろう」、なるほど。 「暗号資産全体の取引高はコインチェック事件前と比べて大きく増えている。コインチェック事件前、1日の取引高は400億ドル前後だった。それが足元では日によって1000億ドルを超える規模となっている・・・過去の価格上昇時にみられた「クリプト3条件」もそろうことで一段高が見込まれる。 主要中央銀行が金融緩和傾向であること、株式市場のボラティリティ指数が低水準であること、実質金利が低下傾向であること――が3条件だ。年後半にはアメリカが利下げへと転換すると予想され、年末頃に条件を満たす可能性がある・・・ アメリカで1月に承認されたビットコイン現物ETF(上場投資信託)に機関投資家が本格的に資金を投じるのは年後半と予想される」、なるほど。 「DMMビットコインにつけられる値段はよくて10億円、20億円では」(交換所関係者)。それでは手放す動機がない・・・DMMビットコインは、補償の具体的な方法や時期を速やかに検討し、今後公表するとしている」、「DMMビットコイン」の今後の出方が注目される。 日経ビジネスオンライン「サトシ・ナカモトの誤算 ビットコインは通貨ではなくギャンブルに」 『1兆円を盗んだ男 仮想通貨帝国FTXの崩壊』(マイケル・ルイス著/小林啓倫訳/日本経済新聞出版) 興味深そうだ。 「暗号通貨に惹かれたのは、少なくとも初期には、大手銀行や政府、および他の組織的権威に対して疑念を抱く人々だった」、なるほど。 ・『ビットコインで大金持ちになったゼイン ゼイン・タケットはそうしたタイプの典型的な例だったが、ゼインを「タイプ」で考えると、彼の楽しい部分や重要なところを見逃してしまうだろう。ゼインはパイオニアと呼ばれることも多い。2013年4月、ビットコインの価格が100ドル前後で推移していたころ、当時コロラド大学の学生だったゼインは奇妙な雑誌記事を目にした。その記事の筆者は、これから身を隠 と宣言し、自分を見つけた人に1万ドルの賞金を出すというのだ。 その賞金はビットコインで支払われ、ビットコインの支払いには、不可逆的で追跡不可能という利点があるとその筆者は説明していた。ゼインはその記事を読んで、なぜか筆者を探そうとするのではなく、ビットコインが何であるかを知りたいと思った。 彼は最近、詐欺の被害に遭っていた。マイケル・ジョーダンのジャージカードをオンラインで売ったところ、購入者がクレジットカードの決済を取り消し、カードも返そうとしなかったのだ。 金融システムがこの詐欺を許したことに、ゼインは憤慨していた。また、彼は大学生活をあまり楽しんでおらず、大学に留まること以外の人生の選択肢を示す人々に、近しいものを感じた。「僕の祖父は、中国に行って中国語を学ぶべきだと言っていました。なぜなら彼らが世界を支配するだろうから、と」とゼインは言う。 彼はかつてそのアドバイスに従って、高校を卒業してすぐに1年間中国に行き、そのあとコロラド大学に通うために帰国していた。そして今回、彼はいくらかのビットコインを買ってコロラド大学を中退し、北京に移り住んだ。そこで彼は、 オーケーエックスという暗号資産取引所に就職した。彼はこの取引所に雇われた最初の非中国人だった。 中国の企業は帝国のような存在で、従業員は貴重な資産というより家臣として扱われた。「従業員はひどい目にも遭います。ひどい目に遭っても、何もできないからです。何の保護もありません」。 彼の祖父は、ゼインが中国語を流暢に話すようになったことを評価したが、両親は彼が何か悪いことに巻き込まれているのではないかと心配した。ゼインはビットコインを増やし続け、ビットコインの価格は上昇し続け、ある日ゼインは大金持ちになった。「僕 面白いカネを手に入れ、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で取り上げられ、両親は僕が大丈夫そうだと判断しました」 2016年にはビットコインの価格は400ドルを超え、ゼインは裕福になっただけでなく尊敬されるようになり、様々な暗号資産取引所と契約して世界中どこでも好きな場所で働けるようになった。暗号資産業界の誰もがゼインを知っており、誰もが彼を信頼していた。 彼は西部劇に出てくるガンマンのような名前と体つきをしていて、開拓時代の米西部を放浪したガンマンのように、何にも誰にも縛られず、あちこちを放浪して回った。 ある月はインドネシアにいて、翌月はアルゼンチンにいる。ゼインはビットコインのように、場所を持たない存在となった。 原則的に、彼は経済生活のすべてをビットコインで送った。ビットコインで報酬を受け取り、支払いもビットコインだけ。暗号通貨という運動に参加しながら、それを支持する行動を楽しんでいたのだ。「政府からカネの力を奪いたいという気持ちがありました」と彼は言う。ビットコインがコード(プログラム)からできていたように、ゼインにもコード(行動規範)があった』、 「彼はいくらかのビットコインを買ってコロラド大学を中退し、北京に移り住んだ。そこで彼は、オーケーエックスという暗号資産取引所に就職した。彼はこの取引所に雇われた最初の非中国人だった。 中国の企業は帝国のような存在で、従業員は貴重な資産というより家臣として扱われた・・・2016年にはビットコインの価格は400ドルを超え、ゼインは裕福になっただけでなく尊敬されるようになり、様々な暗号資産取引所と契約して世界中どこでも好きな場所で働けるようになった。暗号資産業界の誰もがゼインを知っており、誰もが彼を信頼していた 。 彼は西部劇に出てくるガンマンのような名前と体つきをしていて、開拓時代の米西部を放浪したガンマンのように、何にも誰にも縛られず、あちこちを放浪して回った。ある月はインドネシアにいて、翌月はアルゼンチンにいる。ゼインはビットコインのように、場所を持たない存在となった。 原則的に、彼は経済生活のすべてをビットコインで送った。ビットコインで報酬を受け取り、支払いもビットコインだけ。暗号通貨という運動に参加しながら、それを支持する行動を楽しんでいたのだ」、なるほど。 「ビットコインが最も簡単に取って代わったのは、政府の保証する通貨ではなくギャンブルだった・・・金融仲介者を排除しようとした人々は、自ら新たな仲介者を創出することになった。2019年初頭には、254もの暗号資産取引所が登場していた」、皮肉なものだ。 Yahoo ニュース ダイヤモンド・オンライン「「絶対ネコババしていない」マウントゴックス元CEOの訴えと、米国当局が特定した「大量のビットコイン」の行き先」 ロバート・ホワイティング著、松井みどり訳『新東京アウトサイダーズ』(角川新書) 日本の警察は「カルプレス自身がコインを盗んだ、と信じて調査を開始」、など海外捜査機関とは違った見方に固執したようだ。 「カルプレスがほかの2つの訴因については、有罪判決を受けなかった事実だ。) 彼が下された懲役2年6カ月(検察は10年を求刑)の判決に、裁判官は執行猶予をつけるべきだと判断した。問題を起こさなければ、刑務所に入らなくてもいい、という意味である」、なるほど。 「麻薬や不法商品を買うのに好都合の通貨だと判明。とたんに、人気が急上昇。顧客ベースも急拡大した」、「日本人女性と結婚し、子供ももうけた」、いずれも初めて知った。 「幸運なことにカルプレスは、会社に残っていた20万ビットコインを、管財人に預けていた。その価値が、彼の勾留期間中にうなぎ上り。おかげで債権者たちは、破産で失ったよりも高い金額を、手に入れたことになる」、「アメリカ国税庁の対策本部は、「マウントゴックス社が外部の何者かにハッキングされたことは確かである」と結論づけた。「2011年から2013年後半までのあいだに、何者かが60万以上のビットコインを横取りしたようだ」と」、日本の捜査当局より実態を把握していたようだ。 「ガンバリャンは、ハッカーを逮捕するため、マウントゴックス社のデータをシェアしてほしいと、日本の警察庁と警視庁に、協力を求めた。 断られた」、日本の当局の了見の狭さには改めて驚かされた。「東京の警察は、もしも真犯人が見つかったら、カルプレスに自白させようとした彼らの行為が、いかに残酷で間違っていたかを証明されてしまう、と恐れているに違いない、と。 しかし、先のエーデルスタインは、マウントゴックス社のデータベースのコピーを、サンフランシスコのFBIに、調査資料として持ち込んだ。結果、アメリカ当局は、盗まれた 大量のビットコインの行き先を突き止めた」、捜査当局のあり方としては、日本は完敗だ。「アメリカ」には情報が集まり易いのであれば、初めからアメリカ当局と手を結んでおくべきだった。
金融業界(その22)(【無料公開】メガバンク・地銀出身者の転職事情 バンカーに人気の3業界とは?、「銀行にニーズなんてあるか?」千葉銀行が気付いた“客が本当に望んでいたもの”とは、三菱UFJの幹部OBが激怒する「銀証ルール違反処分」の“恥”) [金融]
金融業界については、本年6月15日に取上げた。今日は、(その22)(【無料公開】メガバンク・地銀出身者の転職事情 バンカーに人気の3業界とは?、「銀行にニーズなんてあるか?」千葉銀行が気付いた“客が本当に望んでいたもの”とは、三菱UFJの幹部OBが激怒する「銀証ルール違反処分」の“恥”)である。
ずは、本年6月21日付けダイヤモンド・オンライン「【無料公開】メガバンク・地銀出身者の転職事情、バンカーに人気の3業界とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/345681
・『「銀行・証券断末魔」特集(全5回)の番外編を上・下に分けてお届けする。テーマは、銀行業界においてその存在感が増す一方となっている、金融とITを融合させたフィンテック。今回の番外編(下)で取り上げるのは、銀行員の転職物語だ。銀行員がエリートだった時代も今は昔。大リストラ時代に突入したことで、銀行から脱出して異業界へと転じる銀行員が急増しているという。どんな業界が人気なのだろうか。メガバンク・地銀出身者の転職事情に迫った。 ※2019年9月22日に公開した有料会員向け記事を、1カ月の期間限定で無料公開します。全ての内容は初出時のまま』、興味深そうだ。
・『鳥取から単身上京、都内ベンチャーへ メガ・地銀出身者の転職事情 「せっかく銀行から出ていくなら、どんどん外部からのインプットが欲しい」 2017年10月、佐藤顕範さん(35歳)は地方銀行を辞めてクラウド会計ソフトのfreeeに転職した。辞めると伝えたときに古巣からもらった激励を、今でも重要な使命だと心に刻んでいる。 佐藤さんの古巣は鳥取銀行。転職後は大阪の関西支社に所属し、その後に東京・五反田の本社に転勤したが、今も家族を地元の鳥取に残したままだ。 地銀は地元志向型の人材が多く、家庭を持ったりマイホームを買ったりした30代以降になると転勤を伴う転職はハードルが高い。この状況を踏まえると、佐藤さんのキャリアチェンジは珍しい例だ。 家族からは「心配はされたが応援してもらっている」と語る佐藤さん。そもそも銀行に就職した当初、「転職は全然考えていませんでした」。 転機が訪訪れたのは、16年8月。鳥取銀の本部で営業企画を担当していたとき、地元の企業に会計ソフトを広めるためにfreeeと仕事をし始めたのがきっかけとなった。 当時、佐藤さんは“大企業病”にかかっていたという。誰でも陥りがちな、仕事をやらされている感覚。それを刺激したのは「本質的に価値があることにこだわる」という企業理念を体現して生き生きと働くfreeeの社員の姿だった。 同時に、もともと持っていた「地元の中小企業を支える」という理想が、freeeのサービスを通して実現できるのではないかとも感じた。だが、地銀にいる限りは「全国に広めるのは難しい」。 こうした事情から、自分の手でサービスを広めようとfreeeに飛び込んだ。そして激励の言葉通り、転職後には「freeeの佐藤」として古巣に出向く。その結果、地元企業のIT導入支援を本格的に進めるコンサルティングチームが鳥取銀で立ち上げられたときに、最初の支援ツールとしてfreeeが選ばれたという。 佐藤さんは今、freee finance labという子会社の取締役に就いている。freeeの金融事業を取りまとめる立場だ。 「銀行は新卒入社がほとんどで、どこの支店で誰と誰がつながっているかなど、人間関係は分かりやすいですね。でもfreeeの人は中途入社やエンジニアなど多種多様。それぞれどんな人物か知る場をつくるなど、気を使っていますよ(笑)」 銀行時代にはなかった新しい苦労を感じつつ、「同質ではない人の意見を聞けるのが、良い頭の体操になります」と、今でも刺激を受け続けている』、「freeeの人は中途入社やエンジニアなど多種多様。それぞれどんな人物か知る場をつくるなど、気を使っていますよ(笑)」 銀行時代にはなかった新しい苦労を感じつつ、「同質ではない人の意見を聞けるのが、良い頭の体操になります」と、今でも刺激を受け続けている」、なるほど。
・『“大リストラ時代”への突入で異業界へ脱出する銀行員が急増 昨今の転職市場は売り手市場で、金融業界でも転職者が増えている。特に増えたのが、佐藤さんのような銀行からの転職者だ。とりわけ近年は、銀行から脱出して異業界へと身を転じるバンカーが目立っている。 異業界への転職者が増えた理由は何か。藤井薫・リクルートキャリアHR統括編集長は、「製造業がサービス業への転換を求められるなど、業界の壁が溶けている中で、求職者側も越境し、求人側も異業界からの受け入れにこだわりがなくなっている」と分析する。 こと銀行業界に限れば、17年11月にみずほフィナンシャルグループが「1.9万人の人員削減」を発表するなど、3メガバンクグループがそろって縮小路線を打ち出したことが理由に挙げられる。本業の不振ぶりと相まって、銀行業界の “大リストラ時代”の到来を印象づけた。 この銀行離れの背景について、人材紹介会社のクライス&カンパニーの丸山貴宏社長は、「今転職を希望する銀行員は、さまざまな視点から将来について不安を抱いている」と指摘する。加えて、「かつて銀行員は、入社してすぐに“金融村”に入り、そのまま卒業した。それが、SNSで情報収集したり外部の人と会う機会が増えたりしており、外向きになった」ことが理由の一つだという。 転職支援サービスのリクルートエージェントの調査によると、09年から18年までの間で、金融にとどまる元銀行員の割合は48.3%から27.3%へと21ポイント減少した。 しかし、いまだに金融業界でキャリアアップを図る人もいる。例えば、中京銀行(愛知県)から外資系生命保険会社のプルデンシャル生命保険に転職した土屋翔平さん(29歳)は、「銀行員だと限界がありました」と語る。 学生時代にCFPというファイナンシャルプランナーの資格を取り、「お金の相談役のプロ」になりたいという気持ちで中京銀に入行。3年間、地元静岡の支店において、金融商品の販売を通じた個人の資産運用の支援を担当していた。 しかし、銀行員にはどうしても組織としてやらなければいけない目標があり、「自身の提案の幅とやるべき仕事量との間で、折り合いがつけられなくなってしまいました」。より幅広い提案ができる環境を求めた結果、成果主義ながら裁量権が大きいプルデンシャル生命の門をたたいた。 現在4年目の土屋さんは、今の仕事のやりがいを「万が一の際の話をするので、お客さまからの信頼を得て任せてもらうことが全て」だと語る。顧客の側に立った提案を続け、入社以来150週間以上にわたり、毎週3件以上の契約を預かり続けるという、支社でも圧倒的な成果を残している』、「09年から18年までの間で、金融にとどまる元銀行員の割合は48.3%から27.3%へと21ポイント減少した・・・いまだに金融業界でキャリアアップを図る人もいる。例えば、中京銀行(愛知県)から外資系生命保険会社のプルデンシャル生命保険に転職した土屋翔平さん(29歳)は、「銀行員だと限界がありました」と語る。 学生時代にCFPというファイナンシャルプランナーの資格を取り、「お金の相談役のプロ」になりたいという気持ちで中京銀に入行。3年間、地元静岡の支店において、金融商品の販売を通じた個人の資産運用の支援を担当していた。 しかし、銀行員にはどうしても組織としてやらなければいけない目標があり、「自身の提案の幅とやるべき仕事量との間で、折り合いがつけられなくなってしまいました」。より幅広い提案ができる環境を求めた結果、成果主義ながら裁量権が大きいプルデンシャル生命の門をたたいた」、なるほど。
・『LINE、メルペイ、ロボアド 増加するフィンテック転職 ただ、土屋さんのような成功事例があるとはいえ、同業界転職は下火だ。反対に、異業界の中ではコンサルティング業界や人材・教育業界、IT通信業界の3業界が人気を博している。 最も転職者数の割合が大きいコンサル業界は、以前から銀行員の人気が高い。最近の特徴は「企業側でマネーロンダリング(資金洗浄)対策やコンプライアンス対応の需要が高まっており、その支援を請け負うコンサル業界が、知見を持った金融機関出身者を採用したがっている」(水谷努・リクルートキャリアの金融領域キャリアコンサルタント)といい、特定のニーズも高まっている。 そして、もう一つの「大きな動き」(同)が、金融とITが融合した分野を示す「フィンテック」と呼ばれる新興企業からの採用ニーズの高まりだ。 銀行からフィンテック企業へ。ここ数年にわたり起こってきた“人材大移動”を読み解く上で、キーワードが三つある。 一つ目は「協業」。前出の佐藤さんのような、フィンテック企業が銀行と提携して新しいサービスをつくるに当たり、当の銀行側から人材を獲得するケースだ。同じく、クラウド会計ソフトや家計簿アプリを提供するマネーフォワードでも、協業を支えるための転職者の入社が増えている。 マネーフォワードは、18年12月に金融機関向けのデジタルサービスをつくる「マネーフォワード X」という部署を立ち上げた。ビジネスパートナーは、各地に点在する地銀がメイン。だからこそ、「東京を中心に事業を行うことに限界を感じていた」(本川大輔・マネーフォワード執行役員)。 そこで、各地方支社で営業部隊をつくったところ、地銀のデジタル化に対する課題を肌で感じ、なおかつ「銀行とのコミュニケーションの取り方」(同)を理解している地銀出身者が集まってきているという。 実際、今年地銀から転職してきた30代の男性は「外部と提携するための折衝を銀行で担当していたので、その経験を生かせるはず」と活躍できる環境に期待を寄せる。 二つ目のキーワードは「領域侵犯」。フィンテックベンチャーとは異なり、IT企業が新たに金融業へ参入しようとする中へ、銀行員が飛び込んでいる動きだ。 「金融機関からの転職者は、18年度から急増しています。それ以前は年間10~20人程度しか入社していませんでしたが、18年度は年間で100人近く採用していて、19年度も同じ傾向にあると感じています」 LINEで採用を担当している中野恵成・LINE Financial経営企画室マネージャーはこう述べる。LINEは、18年1月に金融事業を担うLINE Financialを立ち上げた。LINE証券や立ち上げ準備中の銀行業など、次々と金融に参入していることが大規模な人材流入の背景にある。 特に人材を必要としている部署が、事業としての金融ビジネスをつくり上げる部門や、法務やコンプライアンスなどのコーポレート部門だ。キャッシュレス決済サービスのLINE Payでも、「ある程度の規模の人材に入ってもらっています」という状況だ。 「銀行を辞めると決断したとき、まだ転職先が決まっていなかったので引き留められました」。約4年間勤務していた三菱UFJ銀行を辞めたときのことを、小林豪さん(28歳)はそう振り返る。 就職先に銀行を選んだ理由は、「経営者と接することで経営とは何かを学びたい」という思いからだ。その中で、「よりスピード感のある環境でビジネスに関わりたい」という考えが芽生え、心機一転、職場を変える。 小林さんが「ここしかない」と思って面接を受けたのは、メルカリが提供するQRコード決済サービスのメルペイだった。今では、銀行時代に培った「胆力」を生かして、加盟店営業に励んでいる。 このメルペイや前出のLINE Payといったキャッシュレス決済サービスは、政府のキャッシュレス推進と相まって、多くの事業者による新規参入が続く分野だ。 その人気ぶりを表すかのように「メルカリの社員はグループ全体で1800人ほど。子会社の人数は開示していませんが、メルペイの立ち上げに際して、数十人ほどの金融業界出身の方に参画してもらいました」と、採用担当の松尾彰大マネージャーは打ち明ける。 三つ目のキーワードは「専門性」。銀行で専門分野のスキルを培った人材がフィンテック領域でも重宝されている。 顧客の資産運用をプログラムが自動的に指南するロボアドバイザー。この領域の先駆者であるウェルスナビにおいて、執行役員を務める牛山史朗さん(41歳)は、学生時代に金融工学を修めた理系人材だ。 牛山さんが最初に就職したのが、三菱UFJ信託銀行。支店勤務の後に、2年半にわたり本社で金融商品の開発を担当した。その後、野村證券に転職し、約8年間クオンツの専門部署に所属。デリバティブの分析や投資商品の運用戦略に携わる。 ただ、金融機関の市場部門は、リスクを取りつつ収益をいかに上げられるかが最重要課題だ。片や牛山さんは、ゲーム性が強い金融機関の運用スタイルに従事するより、安定的に収益を積み上げる運用とは何かを突き詰めたいと、学生時代から考えていた。 そんな中、牛山さんはウェルスナビを立ち上げたばかりの柴山和久社長と出会った。前述の思いを持つ牛山さんは、柴山社長が語る「個人が安心して資産運用できる環境の必要性」に共感し、15年12月にウェルスナビに参画した。 今や、ウェルスナビに託された資産額は1700億円を突破した。その運用ロジックの基盤をつくり上げたメンバーの一人が、当の牛山さんである。貴重な金融畑の理系人材が、フィンテック企業を支えている』、「同業界転職は下火だ。反対に、異業界の中ではコンサルティング業界や人材・教育業界、IT通信業界の3業界が人気を博している。 最も転職者数の割合が大きいコンサル業界は、以前から銀行員の人気が高い。最近の特徴は「企業側でマネーロンダリング(資金洗浄)対策やコンプライアンス対応の需要が高まっており、その支援を請け負うコンサル業界が、知見を持った金融機関出身者を採用したがっている・・・牛山さんはウェルスナビを立ち上げたばかりの柴山和久社長と出会った。前述の思いを持つ牛山さんは、柴山社長が語る「個人が安心して資産運用できる環境の必要性」に共感し、15年12月にウェルスナビに参画した。 今や、ウェルスナビに託された資産額は1700億円を突破した。その運用ロジックの基盤をつくり上げたメンバーの一人が、当の牛山さんである。貴重な金融畑の理系人材が、フィンテック企業を支えている」。なるほど。
・『入社直前に仮想通貨不正流出が発生 コインチェックに転職したメガ行員 「最初の仕事は、対応に追われるエンジニアのためにお弁当を買いに行くことでした」 三井住友銀行を辞めた直後、野崎翔吾さん(32歳)はいきなり正念場を迎えた。それは転職先が仮想通貨交換業者のコインチェックであり、転職が決まった直後に、仮想通貨の不正流出が発覚したからだ。 18年1月にコインチェックで起きた、当時の交換レートで約580億円相当の仮想通貨の不正流出事件。野崎さんの同社への参画は、1カ月前の17年12月に決まる。 三井住友銀では、金利や為替などの運用ポジションの管理など、リスク管理に関する業務が長かった。英ロンドン支店に異動して、デリバティブ商品の取引や営業を担当していた時期もあった。 仮想通貨の存在を知ったのは、ロンドンでの勤務時代だ。銀行を介さない送金や決済を可能とする仮想通貨を見て、「実用化されていないが、いつか銀行はなくなるかもしれない」という危機感を覚えた。 帰国後、野崎さんは仮想通貨の国内取引所サービスを利用する。証券会社と違って環境は未成熟であるものの、すでに仮想通貨の取引ができることが「衝撃的だった」という。 大量の人材を抱えるが故に、メガバンクの中で昇進し、大きな仕事をするためには、成果だけではなく運の要素も大きいのではないか。そんなキャリアの悩みを持った野崎さんは転職活動を始め、たまたま興味を持っていたコインチェックからオファーがあったことで、転職を決意した。 2月1日に入社した野崎さんは、当初、仮想通貨の先物などデリバティブ商品の開発をしたいと思っていた。だが、待っていたのは流出事件からの再起に向けた対応だ。金融庁への報告資料をまとめる仕事や、運用モニタリングシステムの見直し、個人顧客に仮想通貨を販売するための仕入れ先の増加などに、日々追われていたという。 こうした経験の中で、「マーケットとは何か、流動性とは何かを理解していたことが役に立っています。また、仮想通貨の仕入れ先となる取引所の良しあしを判断する上で、銀行員として何十社ものバランスシートを見た経験が生きています」と語る。 そんな野崎さんは今、コインチェックからさらに別の仮想通貨交換業者に転職した。今後も、仮想通貨の世界にどっぷり漬かっていくという』、「仮想通貨の存在を知ったのは、ロンドンでの勤務時代だ。銀行を介さない送金や決済を可能とする仮想通貨を見て、「実用化されていないが、いつか銀行はなくなるかもしれない」という危機感を覚えた。 帰国後、野崎さんは仮想通貨の国内取引所サービスを利用する。証券会社と違って環境は未成熟であるものの、すでに仮想通貨の取引ができることが「衝撃的だった」という。 大量の人材を抱えるが故に、メガバンクの中で昇進し、大きな仕事をするためには、成果だけではなく運の要素も大きいのではないか。そんなキャリアの悩みを持った野崎さんは転職活動を始め、たまたま興味を持っていたコインチェックからオファーがあったことで、転職を決意した・・・コインチェックからさらに別の仮想通貨交換業者に転職した。今後も、仮想通貨の世界にどっぷり漬かっていくという」。なるほど。
・『格好の草刈り場になりつつある銀行業界 転職バンカーとの連携が広まるか ここまで、銀行からフィンテック企業に転職した複数の事例を見てきた。銀行は今、金融という知見を組織の中に取り入れたい企業にとっては、格好の草刈り場になりつつある。 ただ、全ての人が銀行を見限って辞めたわけでもない。freeeに転職した佐藤さんのように、転職者が懸け橋となり、銀行のビジネスチャンスにつながった事例もある。 故に、銀行にとって必要なことは、銀行を辞めて異業界に行った元銀行員とリレーションを築くことではないだろうか。 「銀行から出ていった身ではありますが、いつか古巣と一緒に仕事ができないかなと思っています」 こう語るのは、みずほ銀行を辞めて起業した小林巧汰さん(25歳)だ。小林さんは、効率的な練習方法を究めた米国の野球理論を学びたいという思いから、高校卒業後に米カンザス大学に留学。同時に学業として金融学を修めた。 語学と金融の“二刀流”を強みとしていた小林さんは、金融の中で大きな仕事がしたいと考え、みずほ銀の中で配属先が大企業営業や海外部門に限られる「コース別採用」という狭き門を通った。 ただ、野球に関わるビジネスをしたいという気持ちを捨て切れなかった小林さんは、採用面接の段階で、「入社して2~3年で野球の世界に戻りたいと思っていますが、それでもいいですか」と打ち明けた。採用担当からの返事は「それで辞めても構わないから銀行でチャレンジしてほしい」だった。 その言葉に背中を押され、みずほ銀への入行を決意する。ただ、巨大な組織であるメガバンクにおいて、若手のうちから裁量権を持って仕事をするのは容易ではない。その中で、小林さんは自分が設定した「野球に戻る」までの時間と葛藤し、結果的に銀行を去ることを選んだ。 今では、野球やサッカー、陸上など多岐にわたるアスリートの卵たちに、海外で学んだスポーツ理論や英語を教えている。その中で、「アスリートたちに金融の知識を教えることも重要」だと気付き、そのための取り組みをいつか銀行と手を組んでできないかと考えているようだ。 すでに、三井住友銀を辞めた人たちが有志でつくった「SMBCベンチャー会」という会合に、現役の三井住友銀の行員が参加する機会もあるという。こうした銀行員と元銀行員が連携する流れが、銀行界に広まっていくことが期待されているといえそうだ。 「銀行・証券断末魔」番外編 >>(上)「銀行業界でフィンテック企業の挑戦者たちが見いだした商機、freee・LINE…」』、「銀行は今、金融という知見を組織の中に取り入れたい企業にとっては、格好の草刈り場になりつつある。 ただ、全ての人が銀行を見限って辞めたわけでもない。freeeに転職した佐藤さんのように、転職者が懸け橋となり、銀行のビジネスチャンスにつながった事例もある。 故に、銀行にとって必要なことは、銀行を辞めて異業界に行った元銀行員とリレーションを築くことではないだろうか・・・三井住友銀を辞めた人たちが有志でつくった「SMBCベンチャー会」という会合に、現役の三井住友銀の行員が参加する機会もあるという。こうした銀行員と元銀行員が連携する流れが、銀行界に広まっていくことが期待されているといえそうだ」、今後が楽しみだ。
次に、6月26日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの酒井真弓氏による「「銀行にニーズなんてあるか?」千葉銀行が気付いた“客が本当に望んでいたもの”とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/346041
・『2023年4月、千葉銀行は新たなDX戦略「ちばぎんDX3.0」をスタートした。「面白い銀行」「千葉銀行“で”いいよね」を目指し、アプリの利用者増で振込の取引量が飛躍的に増えたり、独自の人材育成を行ったりと目に見える成果を上げている。同行は2021年からDXに取り組んでいるが、最初の2年は「顧客体験の創造って結局何なんだ?」「千葉銀行のファンになるってどういうこと?」という問いに答えが出ず、暗中模索だったという。頭取や仲間とともに「これで誰が幸せになるの?」とひたすら問い続けた2年間を経て、ブレイクスルーは「銀行に対してニーズなんてあるか? ないわ」と気付いたことだった』、「これで誰が幸せになるの?」とひたすら問い続けた2年間を経て、ブレイクスルーは「銀行に対してニーズなんてあるか? ないわ」と気付いたことだった」、居直ったのがよかったとは・・・。
・『地方銀行のDXが目指すべきものとは? 千葉銀行は「最高の顧客体験の創造」 国内でも、早い段階でDXやオープンイノベーションの必要性が叫ばれ始めたのが、銀行をはじめとする金融機関だ。単なる利便性の追求にとどまらず、顧客のニーズを的確に捉えたサービスの提供、非金融領域への進出も活発化している。 筆者は昨年、熊本の肥後銀行を取材した(https://www.salesforce.com/jp/blog/jp-dx-compass-higoginkou/)。同行は、新たなサービスの一つに「地域企業のDX支援」を掲げ、SIerやITコンサルタントのような役割を担っていくと示唆した。頭取の笠原慶久さんは、「もう金融サービスだけでは世の中のニーズに応えきれない。地域の役に立つことなら、DXから人材の供給、脱炭素まで、何でも取り組んでいこうと思っています」と話してくれた。そして、「その地域にどんな銀行があるかで、地域の未来が変わる」とも。地域に根ざした存在だからこそのDXのあり方。俄然、他の地方銀行の取り組みも知りたくなった。 そんなわけで、今回は千葉銀行に注目したい。2023年4月にスタートした新DX戦略「ちばぎんDX3.0」は、最高の顧客体験の創造を主眼に、大きく2つの骨子から成る。1つ目は「パーソナライズ戦略」。顧客一人ひとりに寄り添い、最適なサービスを提案する。2つ目は「地域エコシステム戦略」。法人や個人、行政を含めた地域のステークホルダーと手を携え、地域経済の発展に貢献する。 これらを実現すべく、千葉銀行では金融事業の進化はもちろん、非金融事業にも挑戦している。人手が足りない地域企業への人材支援やDX支援もその一つだ。また、データを駆使した顧客体験(CX)の創出には、高度なスキルを備えたDX人材の育成が欠かせない。ITベンダーや異業種への出向も織り交ぜた、DXトレーニー制度にも力を入れている』、「新DX戦略「ちばぎんDX3.0」は、最高の顧客体験の創造を主眼に、大きく2つの骨子から成る。1つ目は「パーソナライズ戦略」。顧客一人ひとりに寄り添い、最適なサービスを提案する。2つ目は「地域エコシステム戦略」。法人や個人、行政を含めた地域のステークホルダーと手を携え、地域経済の発展に貢献する。 これらを実現すべく、千葉銀行では金融事業の進化はもちろん、非金融事業にも挑戦している」、なるほど。
・『CXの沼にハマり、2年間は暗中模索していた 軌道に乗りつつある千葉銀行のDXだが、ここまでの道のりは決して順風満帆ではなかった。千葉銀行 執行役員 デジタル戦略部長の柴田秀樹さんは、「2021年から2年間は暗中模索していた」と明かす。原因は、CXの追求にあった。 2021年4月にスタートしたデジタル改革部(現デジタル戦略部)は、「ファンになってもらえる銀行になる」を基本路線に、顧客体験の向上を目指した戦略策定に着手した。だが、「それまでは漠然と、お客さまに良い体験を提供することが顧客体験の向上だと考えていたのですが、具体的に何をすればいいのか、明確なビジョンが持てない状況が続いたのです」(柴田さん) コンサルタントの提案も、当時はいまいち腑に落ちなかった。洗練された資料で理屈としては良さそうなのだが、肝心の顧客の実情や心情とマッチしているのか確信が持てなかったという。顧客が銀行に求めているものは何か、「千葉銀行のファンになる」とは一体どういう状態なのか……議論を重ねるほどに混迷を極め、柴田さんらはいつしか、「CXの沼」にはまっていた。 DX部門のジレンマにも陥っていた。DXとは単なるIT化ではなく、ビジネスモデルの変革を指す。そのため当初から「新しいビジネスを始めよう」という方向性は定まっていた。しかし、そこにDXらしい柔軟性や軽やかさはなく、既存のビジネス同等に、しっかりと価値を提供しなければならないと考えていた。 「結局、最初の1年は結論が出ないまま終わってしまいました。資料も数え切れないほど作り倒し、いろんな人に説明しましたが、浮わついた感じで、誰の心にも刺さっていませんでした」(柴田さん)』、「CXの沼にハマり、2年間は暗中模索していた」、さぞかし苦しい「2年間」だったことだろう。
・『「銀行にニーズなんてないわ」と気付き「『面白い』を目指そう」と方針が固まる 2年目、ブレイクスルーは突然訪れた。「銀行に対してニーズなんてあるか? ないわ」と気づいたのだ。「銀行ってむしろ行くのすら面倒くさいですよね。長く使っていただくには、『千葉銀行って、なんか面白いよね』と思ってもらえることのほうが重要なのではないかと」(柴田さん) 「面白い」とは、決して奇をてらうことではない。まずは既存の機能を研ぎ澄まし、より便利で使い勝手のいい銀行を目指すこと。結果、長く使い続けてもらえるようになり、その状態が、「千葉銀行のファンになっていただけた」と言えるのではないかと思い至ったのだ。 非金融事業に進出する根本的な理由も、「面白い」の追求にある。「銀行の本業は、お客さまからの信頼を基盤とした金融サービスの提供ですが、一見すると銀行らしくない事業にも果敢に挑戦することで、『千葉銀行ってこんなこともしているんだ。じゃあ、千葉銀行でいいか』と思ってほしい。それが狙いなんです」(柴田さん) 「千葉銀行“で”いいよね」を目指す、慎ましいCX戦略だが、本質を突いているように思う。「ファンになる」のは、顧客の「いいね」が積み重なった先にもたらされる結果に過ぎない。最初から「ファンになってほしい」「好感を持ってほしい」から始めると、CX戦略もどこかあざとくなってしまうのではないか。それはきっと顧客にも見透かされる』、「まずは既存の機能を研ぎ澄まし、より便利で使い勝手のいい銀行を目指すこと。結果、長く使い続けてもらえるようになり、その状態が、「千葉銀行のファンになっていただけた」と言えるのではないかと思い至った」、なるほど。
・『「これで誰が幸せになるの?」 元DX担当の頭取と、毎週2時間の真剣勝負 「面白い銀行」という指針を得て、柴田さんらはようやくスタートラインに立った。「面白い銀行」とは一体どんな銀行なのか。ここからは、新しい顧客体験の創造に向け、グループCEO(頭取)の米本努さんと毎週2時間に及ぶ議論を重ねた。 米本さんは、グループCDTO(Chief Digital Transformation Officer)として千葉銀行のDXをけん引し、2021年に頭取に就任した。デジタルは有用だが、あくまで手段に過ぎないと身をもって実感してきたからこそ、より顧客に提供できる価値を重視しているという。「トップの深い理解が今の戦略につながっている」と柴田さんは語る。 「頭取との時間は、ふわっとしたところがあると『これで誰が幸せになるの?』と鋭い質問が飛んでくる、膝詰めの真剣勝負でした。一方で、お客さまが幸せになる根拠が示されると、頭取は『いいね、すぐにやろう』と後押ししてくれました。『何か新しいことは考えた?』『まだ1週間なのでできていません』みたいなこともありましたけどね」と、柴田氏は笑う。 議論を重ねる中で 、さまざまなアイデアが生まれた。例えば、顧客が家を買うとする。通常、銀行が関わるのは住宅ローンを組むところからだが、家を買う前からさまざまな提案ができたとしたらどうだろう。従来の金融商品中心の営業スタイら、顧客の本来の目的により近い川上のアプローチへと移行していくことで、新たな顧客体験の形が見えてルかくる』、「元DX担当の頭取と、毎週2時間の真剣勝負」を重ねた蓄積が大きそうだ。「議論を重ねる中で 、さまざまなアイデアが生まれた。例えば、顧客が家を買うとする。通常、銀行が関わるのは住宅ローンを組むところからだが、家を買う前からさまざまな提案ができたとしたらどうだろう。従来の金融商品中心の営業スタイら、顧客の本来の目的により近い川上のアプローチへと移行していくことで、新たな顧客体験の形が見えてルかくる」、なるほど。
・『アプリ振込は手数料が安いのに…… 「日本一速いアプリ」を作ったら収益向上した こうして本格化していったCX向上の取り組み。具体的な成果の一つが、日本一速いアプリを目指した「ちばぎんアプリ」だ。口座登録数が100万件を突破するなど、目に見える成果を上げている。リリース当初は「機能が少ない」など厳しい指摘もあったというが、改善を重ね、App Storeでの評価は、4.5~4.6と高評価を維持している。 現在は、振込の4割近くがアプリ経由だという。実は、アプリ経由の振込手数料は窓口やATMよりも低く設定されており、銀行にとっては減収要因になりかねない。しかし蓋を開けてみれば、振込の取扱量が飛躍的に伸び、収益向上につながった。顧客からも「速くて便利」という声が上がっているという。 柴田さんは、「2021年のスタートから、あっという間の3年間でした」と振り返る。もしかして、文化祭の前のようなワクワク感があったりしたのだろうか。 「いや、焦燥感しかありませんよ(笑)。私たちはKGIとして利益目標を掲げているので、それをどうやって達成するのかも考えなければならない。しかも、営業活動を通してだけでなく、『面白いから使ってみよう』と思ってもらうことで利益を上げていく。難題でしょう」(柴田さん)』、「振込の4割近くがアプリ経由だという。実は、アプリ経由の振込手数料は窓口やATMよりも低く設定されており、銀行にとっては減収要因になりかねない。しかし蓋を開けてみれば、振込の取扱量が飛躍的に伸び、収益向上につながった。顧客からも「速くて便利」という声が上がっているという」、大したものだ。
・『独自のDXトレーニー制度を展開 ITベンダーなど異業種への出向で即戦力化 千葉銀行のDXを語る上でもう一つ欠かせないのが人材育成だ。公募制で5~9カ月ほどITベンダーや異業種に出向してスキルと銀行以外の視点を身につける、独自のDXトレーニー制度を導入している。 以前は人材戦略室長だった柴田さんは、「座学の研修は一時的な効果しかない。実際の業務に携わり、手を動かしてこそ身に付く」と、こだわりを持って取り組んでいる。目下の目標は、100人のDX人材を育てることだが、2024年5月末の取材時点で70人に達している。 データ統合サービスを提供するダイナトレックに出向した窪田禎之さんも、その一人だ。「ダイナトレックを新規導入する地方銀行にうかがい、システムの要件定義から構築、データ分析に携わりました。他行の担当者の方と議論を重ねながら作業を進めていく、密度の濃い5カ月でした」と振り返る。 ITベンダー側の視点を学べたことも大きな収穫だったという。「私たち銀行がどんなふうにオーダーすればスムーズに動きやすいのか、身をもって理解できました」(窪田さん) ダイナトレックの佐伯卓也さんは、「窪田さんには当社のエンジニア同様に働いてもらった」と振り返る。千葉銀行はダイナトレックにとって顧客でもあるのだが忖度はない。厳しい案件も一緒に乗り越えたという。 このDXトレーニーのもう一つの特徴は、千葉銀行に戻った後の業務を決めてから出向先に送り出すことだ。明確な目標があってこそ愚直にスキルを習得し、即戦力となって帰ってくる。窪田さんも、現在はマーケティング戦略グループの一員として、データ分析に従事している』、「DXトレーニーのもう一つの特徴は、千葉銀行に戻った後の業務を決めてから出向先に送り出すことだ。明確な目標があってこそ愚直にスキルを習得し、即戦力となって帰ってくる」、これは人事部はフリーハンドが少なくなるので抵抗するかも知れないが、全体的にはいいことだ。
・『全員参加で描く千葉銀行のDXの未来とは? 千葉銀行のDXは、今後どのような展開を見せるのだろうか。柴田さんは、非金融事業での価値創造を改めて強調する。 「銀行の支店に設置されたサイネージに地域企業の広告を出す取り組みが好評です。これまで140社に活用いただいています。また、2024年1~3月に実施したメタバース空間で住宅展示場を展開するPoCは、1300人が訪れてくれました。これはもっと本格的にやろうと計画中です」(柴田さん) イノベーションの種は、デジタル戦略部以外の職員からも生まれている。全職員と内定者を対象とした初のアイデアピッチコンテストでは、65件に及ぶ新規ビジネスのアイデアが寄せられた。今は銀行が大きく変わっていく過渡期。グループ全体で変革の機運を高めていく考えだ。地域に根ざした銀行が、いかにDXを進め、新たな価値を創造していくのか。千葉銀行の挑戦は、一つの道筋を示唆している』、「今は銀行が大きく変わっていく過渡期。グループ全体で変革の機運を高めていく考えだ。地域に根ざした銀行が、いかにDXを進め、新たな価値を創造していくのか。千葉銀行の挑戦は、一つの道筋を示唆している」、理想形といっても言い過ぎではなさそうだ。
第三に、 6月29日付け日刊ゲンダイ「三菱UFJの幹部OBが激怒する「銀証ルール違反処分」の“恥”」を紹介しよう。
・『政界通(以下=政) 三菱UFJフィナンシャル・グループの三菱UFJ銀行と証券子会社2社が、金融庁から6月24日に業務改善命令の処分を受けたな。どういうことだ? 官界通(同=官) 銀行の幹部が顧客企業の非公開の情報を、その企業の意に反して何度も証券側へ伝えていて、証券ビジネスの材料にしようとしていたというのだから、あきれた。処分は当然だ。 財界通(同=財) それはそうだ。銀行は企業に運転資金や設備投資の資金を貸しているから、優越的な地位にいる。同じグループの証券が銀行だけが知っている極秘情報を使えば、相手が「圧力」を感じて応じざるを得ない可能性があるから、金融商品取引法の銀証ルールで規制している』、「銀行の幹部が顧客企業の非公開の情報を、その企業の意に反して何度も証券側へ伝えていて、証券ビジネスの材料にしようとしていた」、なんでこんな見えすいた違反を起こしたのだろう。気の緩みとしか思えない。
・『かつては当局の嫌がらせにも毅然と対峙 政 三菱UFJといえば、日本を代表する金融機関だ。そんな姑息な手段を使うとは、嘆かわしい。しかも、当時の銀行頭取が知っていながら止めなかったそうじゃないか。 財 銀行の幹部だったOBは「三菱の恥だ」と怒っているし、三菱グループの首脳にも苦い顔が多い。 官 そうだろう。三菱UFJの前身の三菱銀行は、金融庁になる前の大蔵省銀行局が絶大な権力を振るっても、銀行界を代表して正論を突きつけた。銀行局が「嫌がらせ」に新規支店の設置認可の場所を町はずれにしても、毅然と対峙した。幹部OBが怒るのも当然だ。 政 規制違反を知っていた当時の頭取が、いま親会社の三菱UFJフィナンシャル・グループの会長をしているな。責任を取らないのか? 財 まだ、取ったとは言えない。 官 以前のトップなら、すぐ辞任していただろう。 政 メディアの取材は、受けているのか? 官 いや、報道がないから、取材を避けているのだろう。 財 その会長は経済同友会の副代表幹事を務めてもいるが、処分の事前報道があった後の6月14日に代表幹事と副代表幹事の定例会議を欠席した。記者たちは「逃げたな」と憤慨していたよ。 政 三菱の首脳らしい潔さがないね。OBたちが知れば、怒りが増しそうだな』、「三菱銀行は、金融庁になる前の大蔵省銀行局が絶大な権力を振るっても、銀行界を代表して正論を突きつけた。銀行局が「嫌がらせ」に新規支店の設置認可の場所を町はずれにしても、毅然と対峙した」、嘆かわしい限りだ。「規制違反を知っていた当時の頭取が、いま親会社の三菱UFJフィナンシャル・グループの会長をしているな。責任を取らないのか? 財 まだ、取ったとは言えない」、お粗末過ぎる。
ずは、本年6月21日付けダイヤモンド・オンライン「【無料公開】メガバンク・地銀出身者の転職事情、バンカーに人気の3業界とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/345681
・『「銀行・証券断末魔」特集(全5回)の番外編を上・下に分けてお届けする。テーマは、銀行業界においてその存在感が増す一方となっている、金融とITを融合させたフィンテック。今回の番外編(下)で取り上げるのは、銀行員の転職物語だ。銀行員がエリートだった時代も今は昔。大リストラ時代に突入したことで、銀行から脱出して異業界へと転じる銀行員が急増しているという。どんな業界が人気なのだろうか。メガバンク・地銀出身者の転職事情に迫った。 ※2019年9月22日に公開した有料会員向け記事を、1カ月の期間限定で無料公開します。全ての内容は初出時のまま』、興味深そうだ。
・『鳥取から単身上京、都内ベンチャーへ メガ・地銀出身者の転職事情 「せっかく銀行から出ていくなら、どんどん外部からのインプットが欲しい」 2017年10月、佐藤顕範さん(35歳)は地方銀行を辞めてクラウド会計ソフトのfreeeに転職した。辞めると伝えたときに古巣からもらった激励を、今でも重要な使命だと心に刻んでいる。 佐藤さんの古巣は鳥取銀行。転職後は大阪の関西支社に所属し、その後に東京・五反田の本社に転勤したが、今も家族を地元の鳥取に残したままだ。 地銀は地元志向型の人材が多く、家庭を持ったりマイホームを買ったりした30代以降になると転勤を伴う転職はハードルが高い。この状況を踏まえると、佐藤さんのキャリアチェンジは珍しい例だ。 家族からは「心配はされたが応援してもらっている」と語る佐藤さん。そもそも銀行に就職した当初、「転職は全然考えていませんでした」。 転機が訪訪れたのは、16年8月。鳥取銀の本部で営業企画を担当していたとき、地元の企業に会計ソフトを広めるためにfreeeと仕事をし始めたのがきっかけとなった。 当時、佐藤さんは“大企業病”にかかっていたという。誰でも陥りがちな、仕事をやらされている感覚。それを刺激したのは「本質的に価値があることにこだわる」という企業理念を体現して生き生きと働くfreeeの社員の姿だった。 同時に、もともと持っていた「地元の中小企業を支える」という理想が、freeeのサービスを通して実現できるのではないかとも感じた。だが、地銀にいる限りは「全国に広めるのは難しい」。 こうした事情から、自分の手でサービスを広めようとfreeeに飛び込んだ。そして激励の言葉通り、転職後には「freeeの佐藤」として古巣に出向く。その結果、地元企業のIT導入支援を本格的に進めるコンサルティングチームが鳥取銀で立ち上げられたときに、最初の支援ツールとしてfreeeが選ばれたという。 佐藤さんは今、freee finance labという子会社の取締役に就いている。freeeの金融事業を取りまとめる立場だ。 「銀行は新卒入社がほとんどで、どこの支店で誰と誰がつながっているかなど、人間関係は分かりやすいですね。でもfreeeの人は中途入社やエンジニアなど多種多様。それぞれどんな人物か知る場をつくるなど、気を使っていますよ(笑)」 銀行時代にはなかった新しい苦労を感じつつ、「同質ではない人の意見を聞けるのが、良い頭の体操になります」と、今でも刺激を受け続けている』、「freeeの人は中途入社やエンジニアなど多種多様。それぞれどんな人物か知る場をつくるなど、気を使っていますよ(笑)」 銀行時代にはなかった新しい苦労を感じつつ、「同質ではない人の意見を聞けるのが、良い頭の体操になります」と、今でも刺激を受け続けている」、なるほど。
・『“大リストラ時代”への突入で異業界へ脱出する銀行員が急増 昨今の転職市場は売り手市場で、金融業界でも転職者が増えている。特に増えたのが、佐藤さんのような銀行からの転職者だ。とりわけ近年は、銀行から脱出して異業界へと身を転じるバンカーが目立っている。 異業界への転職者が増えた理由は何か。藤井薫・リクルートキャリアHR統括編集長は、「製造業がサービス業への転換を求められるなど、業界の壁が溶けている中で、求職者側も越境し、求人側も異業界からの受け入れにこだわりがなくなっている」と分析する。 こと銀行業界に限れば、17年11月にみずほフィナンシャルグループが「1.9万人の人員削減」を発表するなど、3メガバンクグループがそろって縮小路線を打ち出したことが理由に挙げられる。本業の不振ぶりと相まって、銀行業界の “大リストラ時代”の到来を印象づけた。 この銀行離れの背景について、人材紹介会社のクライス&カンパニーの丸山貴宏社長は、「今転職を希望する銀行員は、さまざまな視点から将来について不安を抱いている」と指摘する。加えて、「かつて銀行員は、入社してすぐに“金融村”に入り、そのまま卒業した。それが、SNSで情報収集したり外部の人と会う機会が増えたりしており、外向きになった」ことが理由の一つだという。 転職支援サービスのリクルートエージェントの調査によると、09年から18年までの間で、金融にとどまる元銀行員の割合は48.3%から27.3%へと21ポイント減少した。 しかし、いまだに金融業界でキャリアアップを図る人もいる。例えば、中京銀行(愛知県)から外資系生命保険会社のプルデンシャル生命保険に転職した土屋翔平さん(29歳)は、「銀行員だと限界がありました」と語る。 学生時代にCFPというファイナンシャルプランナーの資格を取り、「お金の相談役のプロ」になりたいという気持ちで中京銀に入行。3年間、地元静岡の支店において、金融商品の販売を通じた個人の資産運用の支援を担当していた。 しかし、銀行員にはどうしても組織としてやらなければいけない目標があり、「自身の提案の幅とやるべき仕事量との間で、折り合いがつけられなくなってしまいました」。より幅広い提案ができる環境を求めた結果、成果主義ながら裁量権が大きいプルデンシャル生命の門をたたいた。 現在4年目の土屋さんは、今の仕事のやりがいを「万が一の際の話をするので、お客さまからの信頼を得て任せてもらうことが全て」だと語る。顧客の側に立った提案を続け、入社以来150週間以上にわたり、毎週3件以上の契約を預かり続けるという、支社でも圧倒的な成果を残している』、「09年から18年までの間で、金融にとどまる元銀行員の割合は48.3%から27.3%へと21ポイント減少した・・・いまだに金融業界でキャリアアップを図る人もいる。例えば、中京銀行(愛知県)から外資系生命保険会社のプルデンシャル生命保険に転職した土屋翔平さん(29歳)は、「銀行員だと限界がありました」と語る。 学生時代にCFPというファイナンシャルプランナーの資格を取り、「お金の相談役のプロ」になりたいという気持ちで中京銀に入行。3年間、地元静岡の支店において、金融商品の販売を通じた個人の資産運用の支援を担当していた。 しかし、銀行員にはどうしても組織としてやらなければいけない目標があり、「自身の提案の幅とやるべき仕事量との間で、折り合いがつけられなくなってしまいました」。より幅広い提案ができる環境を求めた結果、成果主義ながら裁量権が大きいプルデンシャル生命の門をたたいた」、なるほど。
・『LINE、メルペイ、ロボアド 増加するフィンテック転職 ただ、土屋さんのような成功事例があるとはいえ、同業界転職は下火だ。反対に、異業界の中ではコンサルティング業界や人材・教育業界、IT通信業界の3業界が人気を博している。 最も転職者数の割合が大きいコンサル業界は、以前から銀行員の人気が高い。最近の特徴は「企業側でマネーロンダリング(資金洗浄)対策やコンプライアンス対応の需要が高まっており、その支援を請け負うコンサル業界が、知見を持った金融機関出身者を採用したがっている」(水谷努・リクルートキャリアの金融領域キャリアコンサルタント)といい、特定のニーズも高まっている。 そして、もう一つの「大きな動き」(同)が、金融とITが融合した分野を示す「フィンテック」と呼ばれる新興企業からの採用ニーズの高まりだ。 銀行からフィンテック企業へ。ここ数年にわたり起こってきた“人材大移動”を読み解く上で、キーワードが三つある。 一つ目は「協業」。前出の佐藤さんのような、フィンテック企業が銀行と提携して新しいサービスをつくるに当たり、当の銀行側から人材を獲得するケースだ。同じく、クラウド会計ソフトや家計簿アプリを提供するマネーフォワードでも、協業を支えるための転職者の入社が増えている。 マネーフォワードは、18年12月に金融機関向けのデジタルサービスをつくる「マネーフォワード X」という部署を立ち上げた。ビジネスパートナーは、各地に点在する地銀がメイン。だからこそ、「東京を中心に事業を行うことに限界を感じていた」(本川大輔・マネーフォワード執行役員)。 そこで、各地方支社で営業部隊をつくったところ、地銀のデジタル化に対する課題を肌で感じ、なおかつ「銀行とのコミュニケーションの取り方」(同)を理解している地銀出身者が集まってきているという。 実際、今年地銀から転職してきた30代の男性は「外部と提携するための折衝を銀行で担当していたので、その経験を生かせるはず」と活躍できる環境に期待を寄せる。 二つ目のキーワードは「領域侵犯」。フィンテックベンチャーとは異なり、IT企業が新たに金融業へ参入しようとする中へ、銀行員が飛び込んでいる動きだ。 「金融機関からの転職者は、18年度から急増しています。それ以前は年間10~20人程度しか入社していませんでしたが、18年度は年間で100人近く採用していて、19年度も同じ傾向にあると感じています」 LINEで採用を担当している中野恵成・LINE Financial経営企画室マネージャーはこう述べる。LINEは、18年1月に金融事業を担うLINE Financialを立ち上げた。LINE証券や立ち上げ準備中の銀行業など、次々と金融に参入していることが大規模な人材流入の背景にある。 特に人材を必要としている部署が、事業としての金融ビジネスをつくり上げる部門や、法務やコンプライアンスなどのコーポレート部門だ。キャッシュレス決済サービスのLINE Payでも、「ある程度の規模の人材に入ってもらっています」という状況だ。 「銀行を辞めると決断したとき、まだ転職先が決まっていなかったので引き留められました」。約4年間勤務していた三菱UFJ銀行を辞めたときのことを、小林豪さん(28歳)はそう振り返る。 就職先に銀行を選んだ理由は、「経営者と接することで経営とは何かを学びたい」という思いからだ。その中で、「よりスピード感のある環境でビジネスに関わりたい」という考えが芽生え、心機一転、職場を変える。 小林さんが「ここしかない」と思って面接を受けたのは、メルカリが提供するQRコード決済サービスのメルペイだった。今では、銀行時代に培った「胆力」を生かして、加盟店営業に励んでいる。 このメルペイや前出のLINE Payといったキャッシュレス決済サービスは、政府のキャッシュレス推進と相まって、多くの事業者による新規参入が続く分野だ。 その人気ぶりを表すかのように「メルカリの社員はグループ全体で1800人ほど。子会社の人数は開示していませんが、メルペイの立ち上げに際して、数十人ほどの金融業界出身の方に参画してもらいました」と、採用担当の松尾彰大マネージャーは打ち明ける。 三つ目のキーワードは「専門性」。銀行で専門分野のスキルを培った人材がフィンテック領域でも重宝されている。 顧客の資産運用をプログラムが自動的に指南するロボアドバイザー。この領域の先駆者であるウェルスナビにおいて、執行役員を務める牛山史朗さん(41歳)は、学生時代に金融工学を修めた理系人材だ。 牛山さんが最初に就職したのが、三菱UFJ信託銀行。支店勤務の後に、2年半にわたり本社で金融商品の開発を担当した。その後、野村證券に転職し、約8年間クオンツの専門部署に所属。デリバティブの分析や投資商品の運用戦略に携わる。 ただ、金融機関の市場部門は、リスクを取りつつ収益をいかに上げられるかが最重要課題だ。片や牛山さんは、ゲーム性が強い金融機関の運用スタイルに従事するより、安定的に収益を積み上げる運用とは何かを突き詰めたいと、学生時代から考えていた。 そんな中、牛山さんはウェルスナビを立ち上げたばかりの柴山和久社長と出会った。前述の思いを持つ牛山さんは、柴山社長が語る「個人が安心して資産運用できる環境の必要性」に共感し、15年12月にウェルスナビに参画した。 今や、ウェルスナビに託された資産額は1700億円を突破した。その運用ロジックの基盤をつくり上げたメンバーの一人が、当の牛山さんである。貴重な金融畑の理系人材が、フィンテック企業を支えている』、「同業界転職は下火だ。反対に、異業界の中ではコンサルティング業界や人材・教育業界、IT通信業界の3業界が人気を博している。 最も転職者数の割合が大きいコンサル業界は、以前から銀行員の人気が高い。最近の特徴は「企業側でマネーロンダリング(資金洗浄)対策やコンプライアンス対応の需要が高まっており、その支援を請け負うコンサル業界が、知見を持った金融機関出身者を採用したがっている・・・牛山さんはウェルスナビを立ち上げたばかりの柴山和久社長と出会った。前述の思いを持つ牛山さんは、柴山社長が語る「個人が安心して資産運用できる環境の必要性」に共感し、15年12月にウェルスナビに参画した。 今や、ウェルスナビに託された資産額は1700億円を突破した。その運用ロジックの基盤をつくり上げたメンバーの一人が、当の牛山さんである。貴重な金融畑の理系人材が、フィンテック企業を支えている」。なるほど。
・『入社直前に仮想通貨不正流出が発生 コインチェックに転職したメガ行員 「最初の仕事は、対応に追われるエンジニアのためにお弁当を買いに行くことでした」 三井住友銀行を辞めた直後、野崎翔吾さん(32歳)はいきなり正念場を迎えた。それは転職先が仮想通貨交換業者のコインチェックであり、転職が決まった直後に、仮想通貨の不正流出が発覚したからだ。 18年1月にコインチェックで起きた、当時の交換レートで約580億円相当の仮想通貨の不正流出事件。野崎さんの同社への参画は、1カ月前の17年12月に決まる。 三井住友銀では、金利や為替などの運用ポジションの管理など、リスク管理に関する業務が長かった。英ロンドン支店に異動して、デリバティブ商品の取引や営業を担当していた時期もあった。 仮想通貨の存在を知ったのは、ロンドンでの勤務時代だ。銀行を介さない送金や決済を可能とする仮想通貨を見て、「実用化されていないが、いつか銀行はなくなるかもしれない」という危機感を覚えた。 帰国後、野崎さんは仮想通貨の国内取引所サービスを利用する。証券会社と違って環境は未成熟であるものの、すでに仮想通貨の取引ができることが「衝撃的だった」という。 大量の人材を抱えるが故に、メガバンクの中で昇進し、大きな仕事をするためには、成果だけではなく運の要素も大きいのではないか。そんなキャリアの悩みを持った野崎さんは転職活動を始め、たまたま興味を持っていたコインチェックからオファーがあったことで、転職を決意した。 2月1日に入社した野崎さんは、当初、仮想通貨の先物などデリバティブ商品の開発をしたいと思っていた。だが、待っていたのは流出事件からの再起に向けた対応だ。金融庁への報告資料をまとめる仕事や、運用モニタリングシステムの見直し、個人顧客に仮想通貨を販売するための仕入れ先の増加などに、日々追われていたという。 こうした経験の中で、「マーケットとは何か、流動性とは何かを理解していたことが役に立っています。また、仮想通貨の仕入れ先となる取引所の良しあしを判断する上で、銀行員として何十社ものバランスシートを見た経験が生きています」と語る。 そんな野崎さんは今、コインチェックからさらに別の仮想通貨交換業者に転職した。今後も、仮想通貨の世界にどっぷり漬かっていくという』、「仮想通貨の存在を知ったのは、ロンドンでの勤務時代だ。銀行を介さない送金や決済を可能とする仮想通貨を見て、「実用化されていないが、いつか銀行はなくなるかもしれない」という危機感を覚えた。 帰国後、野崎さんは仮想通貨の国内取引所サービスを利用する。証券会社と違って環境は未成熟であるものの、すでに仮想通貨の取引ができることが「衝撃的だった」という。 大量の人材を抱えるが故に、メガバンクの中で昇進し、大きな仕事をするためには、成果だけではなく運の要素も大きいのではないか。そんなキャリアの悩みを持った野崎さんは転職活動を始め、たまたま興味を持っていたコインチェックからオファーがあったことで、転職を決意した・・・コインチェックからさらに別の仮想通貨交換業者に転職した。今後も、仮想通貨の世界にどっぷり漬かっていくという」。なるほど。
・『格好の草刈り場になりつつある銀行業界 転職バンカーとの連携が広まるか ここまで、銀行からフィンテック企業に転職した複数の事例を見てきた。銀行は今、金融という知見を組織の中に取り入れたい企業にとっては、格好の草刈り場になりつつある。 ただ、全ての人が銀行を見限って辞めたわけでもない。freeeに転職した佐藤さんのように、転職者が懸け橋となり、銀行のビジネスチャンスにつながった事例もある。 故に、銀行にとって必要なことは、銀行を辞めて異業界に行った元銀行員とリレーションを築くことではないだろうか。 「銀行から出ていった身ではありますが、いつか古巣と一緒に仕事ができないかなと思っています」 こう語るのは、みずほ銀行を辞めて起業した小林巧汰さん(25歳)だ。小林さんは、効率的な練習方法を究めた米国の野球理論を学びたいという思いから、高校卒業後に米カンザス大学に留学。同時に学業として金融学を修めた。 語学と金融の“二刀流”を強みとしていた小林さんは、金融の中で大きな仕事がしたいと考え、みずほ銀の中で配属先が大企業営業や海外部門に限られる「コース別採用」という狭き門を通った。 ただ、野球に関わるビジネスをしたいという気持ちを捨て切れなかった小林さんは、採用面接の段階で、「入社して2~3年で野球の世界に戻りたいと思っていますが、それでもいいですか」と打ち明けた。採用担当からの返事は「それで辞めても構わないから銀行でチャレンジしてほしい」だった。 その言葉に背中を押され、みずほ銀への入行を決意する。ただ、巨大な組織であるメガバンクにおいて、若手のうちから裁量権を持って仕事をするのは容易ではない。その中で、小林さんは自分が設定した「野球に戻る」までの時間と葛藤し、結果的に銀行を去ることを選んだ。 今では、野球やサッカー、陸上など多岐にわたるアスリートの卵たちに、海外で学んだスポーツ理論や英語を教えている。その中で、「アスリートたちに金融の知識を教えることも重要」だと気付き、そのための取り組みをいつか銀行と手を組んでできないかと考えているようだ。 すでに、三井住友銀を辞めた人たちが有志でつくった「SMBCベンチャー会」という会合に、現役の三井住友銀の行員が参加する機会もあるという。こうした銀行員と元銀行員が連携する流れが、銀行界に広まっていくことが期待されているといえそうだ。 「銀行・証券断末魔」番外編 >>(上)「銀行業界でフィンテック企業の挑戦者たちが見いだした商機、freee・LINE…」』、「銀行は今、金融という知見を組織の中に取り入れたい企業にとっては、格好の草刈り場になりつつある。 ただ、全ての人が銀行を見限って辞めたわけでもない。freeeに転職した佐藤さんのように、転職者が懸け橋となり、銀行のビジネスチャンスにつながった事例もある。 故に、銀行にとって必要なことは、銀行を辞めて異業界に行った元銀行員とリレーションを築くことではないだろうか・・・三井住友銀を辞めた人たちが有志でつくった「SMBCベンチャー会」という会合に、現役の三井住友銀の行員が参加する機会もあるという。こうした銀行員と元銀行員が連携する流れが、銀行界に広まっていくことが期待されているといえそうだ」、今後が楽しみだ。
次に、6月26日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの酒井真弓氏による「「銀行にニーズなんてあるか?」千葉銀行が気付いた“客が本当に望んでいたもの”とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/346041
・『2023年4月、千葉銀行は新たなDX戦略「ちばぎんDX3.0」をスタートした。「面白い銀行」「千葉銀行“で”いいよね」を目指し、アプリの利用者増で振込の取引量が飛躍的に増えたり、独自の人材育成を行ったりと目に見える成果を上げている。同行は2021年からDXに取り組んでいるが、最初の2年は「顧客体験の創造って結局何なんだ?」「千葉銀行のファンになるってどういうこと?」という問いに答えが出ず、暗中模索だったという。頭取や仲間とともに「これで誰が幸せになるの?」とひたすら問い続けた2年間を経て、ブレイクスルーは「銀行に対してニーズなんてあるか? ないわ」と気付いたことだった』、「これで誰が幸せになるの?」とひたすら問い続けた2年間を経て、ブレイクスルーは「銀行に対してニーズなんてあるか? ないわ」と気付いたことだった」、居直ったのがよかったとは・・・。
・『地方銀行のDXが目指すべきものとは? 千葉銀行は「最高の顧客体験の創造」 国内でも、早い段階でDXやオープンイノベーションの必要性が叫ばれ始めたのが、銀行をはじめとする金融機関だ。単なる利便性の追求にとどまらず、顧客のニーズを的確に捉えたサービスの提供、非金融領域への進出も活発化している。 筆者は昨年、熊本の肥後銀行を取材した(https://www.salesforce.com/jp/blog/jp-dx-compass-higoginkou/)。同行は、新たなサービスの一つに「地域企業のDX支援」を掲げ、SIerやITコンサルタントのような役割を担っていくと示唆した。頭取の笠原慶久さんは、「もう金融サービスだけでは世の中のニーズに応えきれない。地域の役に立つことなら、DXから人材の供給、脱炭素まで、何でも取り組んでいこうと思っています」と話してくれた。そして、「その地域にどんな銀行があるかで、地域の未来が変わる」とも。地域に根ざした存在だからこそのDXのあり方。俄然、他の地方銀行の取り組みも知りたくなった。 そんなわけで、今回は千葉銀行に注目したい。2023年4月にスタートした新DX戦略「ちばぎんDX3.0」は、最高の顧客体験の創造を主眼に、大きく2つの骨子から成る。1つ目は「パーソナライズ戦略」。顧客一人ひとりに寄り添い、最適なサービスを提案する。2つ目は「地域エコシステム戦略」。法人や個人、行政を含めた地域のステークホルダーと手を携え、地域経済の発展に貢献する。 これらを実現すべく、千葉銀行では金融事業の進化はもちろん、非金融事業にも挑戦している。人手が足りない地域企業への人材支援やDX支援もその一つだ。また、データを駆使した顧客体験(CX)の創出には、高度なスキルを備えたDX人材の育成が欠かせない。ITベンダーや異業種への出向も織り交ぜた、DXトレーニー制度にも力を入れている』、「新DX戦略「ちばぎんDX3.0」は、最高の顧客体験の創造を主眼に、大きく2つの骨子から成る。1つ目は「パーソナライズ戦略」。顧客一人ひとりに寄り添い、最適なサービスを提案する。2つ目は「地域エコシステム戦略」。法人や個人、行政を含めた地域のステークホルダーと手を携え、地域経済の発展に貢献する。 これらを実現すべく、千葉銀行では金融事業の進化はもちろん、非金融事業にも挑戦している」、なるほど。
・『CXの沼にハマり、2年間は暗中模索していた 軌道に乗りつつある千葉銀行のDXだが、ここまでの道のりは決して順風満帆ではなかった。千葉銀行 執行役員 デジタル戦略部長の柴田秀樹さんは、「2021年から2年間は暗中模索していた」と明かす。原因は、CXの追求にあった。 2021年4月にスタートしたデジタル改革部(現デジタル戦略部)は、「ファンになってもらえる銀行になる」を基本路線に、顧客体験の向上を目指した戦略策定に着手した。だが、「それまでは漠然と、お客さまに良い体験を提供することが顧客体験の向上だと考えていたのですが、具体的に何をすればいいのか、明確なビジョンが持てない状況が続いたのです」(柴田さん) コンサルタントの提案も、当時はいまいち腑に落ちなかった。洗練された資料で理屈としては良さそうなのだが、肝心の顧客の実情や心情とマッチしているのか確信が持てなかったという。顧客が銀行に求めているものは何か、「千葉銀行のファンになる」とは一体どういう状態なのか……議論を重ねるほどに混迷を極め、柴田さんらはいつしか、「CXの沼」にはまっていた。 DX部門のジレンマにも陥っていた。DXとは単なるIT化ではなく、ビジネスモデルの変革を指す。そのため当初から「新しいビジネスを始めよう」という方向性は定まっていた。しかし、そこにDXらしい柔軟性や軽やかさはなく、既存のビジネス同等に、しっかりと価値を提供しなければならないと考えていた。 「結局、最初の1年は結論が出ないまま終わってしまいました。資料も数え切れないほど作り倒し、いろんな人に説明しましたが、浮わついた感じで、誰の心にも刺さっていませんでした」(柴田さん)』、「CXの沼にハマり、2年間は暗中模索していた」、さぞかし苦しい「2年間」だったことだろう。
・『「銀行にニーズなんてないわ」と気付き「『面白い』を目指そう」と方針が固まる 2年目、ブレイクスルーは突然訪れた。「銀行に対してニーズなんてあるか? ないわ」と気づいたのだ。「銀行ってむしろ行くのすら面倒くさいですよね。長く使っていただくには、『千葉銀行って、なんか面白いよね』と思ってもらえることのほうが重要なのではないかと」(柴田さん) 「面白い」とは、決して奇をてらうことではない。まずは既存の機能を研ぎ澄まし、より便利で使い勝手のいい銀行を目指すこと。結果、長く使い続けてもらえるようになり、その状態が、「千葉銀行のファンになっていただけた」と言えるのではないかと思い至ったのだ。 非金融事業に進出する根本的な理由も、「面白い」の追求にある。「銀行の本業は、お客さまからの信頼を基盤とした金融サービスの提供ですが、一見すると銀行らしくない事業にも果敢に挑戦することで、『千葉銀行ってこんなこともしているんだ。じゃあ、千葉銀行でいいか』と思ってほしい。それが狙いなんです」(柴田さん) 「千葉銀行“で”いいよね」を目指す、慎ましいCX戦略だが、本質を突いているように思う。「ファンになる」のは、顧客の「いいね」が積み重なった先にもたらされる結果に過ぎない。最初から「ファンになってほしい」「好感を持ってほしい」から始めると、CX戦略もどこかあざとくなってしまうのではないか。それはきっと顧客にも見透かされる』、「まずは既存の機能を研ぎ澄まし、より便利で使い勝手のいい銀行を目指すこと。結果、長く使い続けてもらえるようになり、その状態が、「千葉銀行のファンになっていただけた」と言えるのではないかと思い至った」、なるほど。
・『「これで誰が幸せになるの?」 元DX担当の頭取と、毎週2時間の真剣勝負 「面白い銀行」という指針を得て、柴田さんらはようやくスタートラインに立った。「面白い銀行」とは一体どんな銀行なのか。ここからは、新しい顧客体験の創造に向け、グループCEO(頭取)の米本努さんと毎週2時間に及ぶ議論を重ねた。 米本さんは、グループCDTO(Chief Digital Transformation Officer)として千葉銀行のDXをけん引し、2021年に頭取に就任した。デジタルは有用だが、あくまで手段に過ぎないと身をもって実感してきたからこそ、より顧客に提供できる価値を重視しているという。「トップの深い理解が今の戦略につながっている」と柴田さんは語る。 「頭取との時間は、ふわっとしたところがあると『これで誰が幸せになるの?』と鋭い質問が飛んでくる、膝詰めの真剣勝負でした。一方で、お客さまが幸せになる根拠が示されると、頭取は『いいね、すぐにやろう』と後押ししてくれました。『何か新しいことは考えた?』『まだ1週間なのでできていません』みたいなこともありましたけどね」と、柴田氏は笑う。 議論を重ねる中で 、さまざまなアイデアが生まれた。例えば、顧客が家を買うとする。通常、銀行が関わるのは住宅ローンを組むところからだが、家を買う前からさまざまな提案ができたとしたらどうだろう。従来の金融商品中心の営業スタイら、顧客の本来の目的により近い川上のアプローチへと移行していくことで、新たな顧客体験の形が見えてルかくる』、「元DX担当の頭取と、毎週2時間の真剣勝負」を重ねた蓄積が大きそうだ。「議論を重ねる中で 、さまざまなアイデアが生まれた。例えば、顧客が家を買うとする。通常、銀行が関わるのは住宅ローンを組むところからだが、家を買う前からさまざまな提案ができたとしたらどうだろう。従来の金融商品中心の営業スタイら、顧客の本来の目的により近い川上のアプローチへと移行していくことで、新たな顧客体験の形が見えてルかくる」、なるほど。
・『アプリ振込は手数料が安いのに…… 「日本一速いアプリ」を作ったら収益向上した こうして本格化していったCX向上の取り組み。具体的な成果の一つが、日本一速いアプリを目指した「ちばぎんアプリ」だ。口座登録数が100万件を突破するなど、目に見える成果を上げている。リリース当初は「機能が少ない」など厳しい指摘もあったというが、改善を重ね、App Storeでの評価は、4.5~4.6と高評価を維持している。 現在は、振込の4割近くがアプリ経由だという。実は、アプリ経由の振込手数料は窓口やATMよりも低く設定されており、銀行にとっては減収要因になりかねない。しかし蓋を開けてみれば、振込の取扱量が飛躍的に伸び、収益向上につながった。顧客からも「速くて便利」という声が上がっているという。 柴田さんは、「2021年のスタートから、あっという間の3年間でした」と振り返る。もしかして、文化祭の前のようなワクワク感があったりしたのだろうか。 「いや、焦燥感しかありませんよ(笑)。私たちはKGIとして利益目標を掲げているので、それをどうやって達成するのかも考えなければならない。しかも、営業活動を通してだけでなく、『面白いから使ってみよう』と思ってもらうことで利益を上げていく。難題でしょう」(柴田さん)』、「振込の4割近くがアプリ経由だという。実は、アプリ経由の振込手数料は窓口やATMよりも低く設定されており、銀行にとっては減収要因になりかねない。しかし蓋を開けてみれば、振込の取扱量が飛躍的に伸び、収益向上につながった。顧客からも「速くて便利」という声が上がっているという」、大したものだ。
・『独自のDXトレーニー制度を展開 ITベンダーなど異業種への出向で即戦力化 千葉銀行のDXを語る上でもう一つ欠かせないのが人材育成だ。公募制で5~9カ月ほどITベンダーや異業種に出向してスキルと銀行以外の視点を身につける、独自のDXトレーニー制度を導入している。 以前は人材戦略室長だった柴田さんは、「座学の研修は一時的な効果しかない。実際の業務に携わり、手を動かしてこそ身に付く」と、こだわりを持って取り組んでいる。目下の目標は、100人のDX人材を育てることだが、2024年5月末の取材時点で70人に達している。 データ統合サービスを提供するダイナトレックに出向した窪田禎之さんも、その一人だ。「ダイナトレックを新規導入する地方銀行にうかがい、システムの要件定義から構築、データ分析に携わりました。他行の担当者の方と議論を重ねながら作業を進めていく、密度の濃い5カ月でした」と振り返る。 ITベンダー側の視点を学べたことも大きな収穫だったという。「私たち銀行がどんなふうにオーダーすればスムーズに動きやすいのか、身をもって理解できました」(窪田さん) ダイナトレックの佐伯卓也さんは、「窪田さんには当社のエンジニア同様に働いてもらった」と振り返る。千葉銀行はダイナトレックにとって顧客でもあるのだが忖度はない。厳しい案件も一緒に乗り越えたという。 このDXトレーニーのもう一つの特徴は、千葉銀行に戻った後の業務を決めてから出向先に送り出すことだ。明確な目標があってこそ愚直にスキルを習得し、即戦力となって帰ってくる。窪田さんも、現在はマーケティング戦略グループの一員として、データ分析に従事している』、「DXトレーニーのもう一つの特徴は、千葉銀行に戻った後の業務を決めてから出向先に送り出すことだ。明確な目標があってこそ愚直にスキルを習得し、即戦力となって帰ってくる」、これは人事部はフリーハンドが少なくなるので抵抗するかも知れないが、全体的にはいいことだ。
・『全員参加で描く千葉銀行のDXの未来とは? 千葉銀行のDXは、今後どのような展開を見せるのだろうか。柴田さんは、非金融事業での価値創造を改めて強調する。 「銀行の支店に設置されたサイネージに地域企業の広告を出す取り組みが好評です。これまで140社に活用いただいています。また、2024年1~3月に実施したメタバース空間で住宅展示場を展開するPoCは、1300人が訪れてくれました。これはもっと本格的にやろうと計画中です」(柴田さん) イノベーションの種は、デジタル戦略部以外の職員からも生まれている。全職員と内定者を対象とした初のアイデアピッチコンテストでは、65件に及ぶ新規ビジネスのアイデアが寄せられた。今は銀行が大きく変わっていく過渡期。グループ全体で変革の機運を高めていく考えだ。地域に根ざした銀行が、いかにDXを進め、新たな価値を創造していくのか。千葉銀行の挑戦は、一つの道筋を示唆している』、「今は銀行が大きく変わっていく過渡期。グループ全体で変革の機運を高めていく考えだ。地域に根ざした銀行が、いかにDXを進め、新たな価値を創造していくのか。千葉銀行の挑戦は、一つの道筋を示唆している」、理想形といっても言い過ぎではなさそうだ。
第三に、 6月29日付け日刊ゲンダイ「三菱UFJの幹部OBが激怒する「銀証ルール違反処分」の“恥”」を紹介しよう。
・『政界通(以下=政) 三菱UFJフィナンシャル・グループの三菱UFJ銀行と証券子会社2社が、金融庁から6月24日に業務改善命令の処分を受けたな。どういうことだ? 官界通(同=官) 銀行の幹部が顧客企業の非公開の情報を、その企業の意に反して何度も証券側へ伝えていて、証券ビジネスの材料にしようとしていたというのだから、あきれた。処分は当然だ。 財界通(同=財) それはそうだ。銀行は企業に運転資金や設備投資の資金を貸しているから、優越的な地位にいる。同じグループの証券が銀行だけが知っている極秘情報を使えば、相手が「圧力」を感じて応じざるを得ない可能性があるから、金融商品取引法の銀証ルールで規制している』、「銀行の幹部が顧客企業の非公開の情報を、その企業の意に反して何度も証券側へ伝えていて、証券ビジネスの材料にしようとしていた」、なんでこんな見えすいた違反を起こしたのだろう。気の緩みとしか思えない。
・『かつては当局の嫌がらせにも毅然と対峙 政 三菱UFJといえば、日本を代表する金融機関だ。そんな姑息な手段を使うとは、嘆かわしい。しかも、当時の銀行頭取が知っていながら止めなかったそうじゃないか。 財 銀行の幹部だったOBは「三菱の恥だ」と怒っているし、三菱グループの首脳にも苦い顔が多い。 官 そうだろう。三菱UFJの前身の三菱銀行は、金融庁になる前の大蔵省銀行局が絶大な権力を振るっても、銀行界を代表して正論を突きつけた。銀行局が「嫌がらせ」に新規支店の設置認可の場所を町はずれにしても、毅然と対峙した。幹部OBが怒るのも当然だ。 政 規制違反を知っていた当時の頭取が、いま親会社の三菱UFJフィナンシャル・グループの会長をしているな。責任を取らないのか? 財 まだ、取ったとは言えない。 官 以前のトップなら、すぐ辞任していただろう。 政 メディアの取材は、受けているのか? 官 いや、報道がないから、取材を避けているのだろう。 財 その会長は経済同友会の副代表幹事を務めてもいるが、処分の事前報道があった後の6月14日に代表幹事と副代表幹事の定例会議を欠席した。記者たちは「逃げたな」と憤慨していたよ。 政 三菱の首脳らしい潔さがないね。OBたちが知れば、怒りが増しそうだな』、「三菱銀行は、金融庁になる前の大蔵省銀行局が絶大な権力を振るっても、銀行界を代表して正論を突きつけた。銀行局が「嫌がらせ」に新規支店の設置認可の場所を町はずれにしても、毅然と対峙した」、嘆かわしい限りだ。「規制違反を知っていた当時の頭取が、いま親会社の三菱UFJフィナンシャル・グループの会長をしているな。責任を取らないのか? 財 まだ、取ったとは言えない」、お粗末過ぎる。
タグ:「09年から18年までの間で、金融にとどまる元銀行員の割合は48.3%から27.3%へと21ポイント減少した・・・いまだに金融業界でキャリアアップを図る人もいる。例えば、中京銀行(愛知県)から外資系生命保険会社のプルデンシャル生命保険に転職した土屋翔平さん(29歳)は、「銀行員だと限界がありました」と語る。 学生時代にCFPというファイナンシャルプランナーの資格を取り、「お金の相談役のプロ」になりたいという気持ちで中京銀に入行。 「freeeの人は中途入社やエンジニアなど多種多様。それぞれどんな人物か知る場をつくるなど、気を使っていますよ(笑)」 銀行時代にはなかった新しい苦労を感じつつ、「同質ではない人の意見を聞けるのが、良い頭の体操になります」と、今でも刺激を受け続けている」、なるほど。 「銀行の幹部が顧客企業の非公開の情報を、その企業の意に反して何度も証券側へ伝えていて、証券ビジネスの材料にしようとしていた」、なんでこんな見えすいた違反を起こしたのだろう。気の緩みとしか思えない。 日刊ゲンダイ「三菱UFJの幹部OBが激怒する「銀証ルール違反処分」の“恥”」 「今は銀行が大きく変わっていく過渡期。グループ全体で変革の機運を高めていく考えだ。地域に根ざした銀行が、いかにDXを進め、新たな価値を創造していくのか。千葉銀行の挑戦は、一つの道筋を示唆している」、理想形といっても言い過ぎではなさそうだ。 「DXトレーニーのもう一つの特徴は、千葉銀行に戻った後の業務を決めてから出向先に送り出すことだ。明確な目標があってこそ愚直にスキルを習得し、即戦力となって帰ってくる」、これは人事部はフリーハンドが少なくなるので抵抗するかも知れないが、全体的にはいいことだ。 「振込の4割近くがアプリ経由だという。実は、アプリ経由の振込手数料は窓口やATMよりも低く設定されており、銀行にとっては減収要因になりかねない。しかし蓋を開けてみれば、振込の取扱量が飛躍的に伸び、収益向上につながった。顧客からも「速くて便利」という声が上がっているという」、大したものだ。 「元DX担当の頭取と、毎週2時間の真剣勝負」を重ねた蓄積が大きそうだ。「議論を重ねる中で 、さまざまなアイデアが生まれた。例えば、顧客が家を買うとする。通常、銀行が関わるのは住宅ローンを組むところからだが、家を買う前からさまざまな提案ができたとしたらどうだろう。従来の金融商品中心の営業スタイら、顧客の本来の目的により近い川上のアプローチへと移行していくことで、新たな顧客体験の形が見えてルかくる」、なるほど。 「まずは既存の機能を研ぎ澄まし、より便利で使い勝手のいい銀行を目指すこと。結果、長く使い続けてもらえるようになり、その状態が、「千葉銀行のファンになっていただけた」と言えるのではないかと思い至った」、なるほど。 「CXの沼にハマり、2年間は暗中模索していた」、さぞかし苦しい「2年間」だったことだろう。 「新DX戦略「ちばぎんDX3.0」は、最高の顧客体験の創造を主眼に、大きく2つの骨子から成る。1つ目は「パーソナライズ戦略」。顧客一人ひとりに寄り添い、最適なサービスを提案する。2つ目は「地域エコシステム戦略」。法人や個人、行政を含めた地域のステークホルダーと手を携え、地域経済の発展に貢献する。 これらを実現すべく、千葉銀行では金融事業の進化はもちろん、非金融事業にも挑戦している」、なるほど。 「これで誰が幸せになるの?」とひたすら問い続けた2年間を経て、ブレイクスルーは「銀行に対してニーズなんてあるか? ないわ」と気付いたことだった」、居直ったのがよかったとは・・・。 酒井真弓氏による「「銀行にニーズなんてあるか?」千葉銀行が気付いた“客が本当に望んでいたもの”とは」 ダイヤモンド・オンライン 三井住友銀を辞めた人たちが有志でつくった「SMBCベンチャー会」という会合に、現役の三井住友銀の行員が参加する機会もあるという。こうした銀行員と元銀行員が連携する流れが、銀行界に広まっていくことが期待されているといえそうだ」、今後が楽しみだ。 「銀行は今、金融という知見を組織の中に取り入れたい企業にとっては、格好の草刈り場になりつつある。 ただ、全ての人が銀行を見限って辞めたわけでもない。freeeに転職した佐藤さんのように、転職者が懸け橋となり、銀行のビジネスチャンスにつながった事例もある。 故に、銀行にとって必要なことは、銀行を辞めて異業界に行った元銀行員とリレーションを築くことではないだろうか・・・ 職活動を始め、たまたま興味を持っていたコインチェックからオファーがあったことで、転職を決意した・・・コインチェックからさらに別の仮想通貨交換業者に転職した。今後も、仮想通貨の世界にどっぷり漬かっていくという」。なるほど。 牛山さんはウェルスナビを立ち上げたばかりの柴山和久社長と出会った。前述の思いを持つ牛山さんは、柴山社長が語る「個人が安心して資産運用できる環境の必要性」に共感し、15年12月にウェルスナビに参画した。 今や、ウェルスナビに託された資産額は1700億円を突破した。その運用ロジックの基盤をつくり上げたメンバーの一人が、当の牛山さんである。貴重な金融畑の理系人材が、フィンテック企業を支えている」。なるほど。 「同業界転職は下火だ。反対に、異業界の中ではコンサルティング業界や人材・教育業界、IT通信業界の3業界が人気を博している。 最も転職者数の割合が大きいコンサル業界は、以前から銀行員の人気が高い。最近の特徴は「企業側でマネーロンダリング(資金洗浄)対策やコンプライアンス対応の需要が高まっており、その支援を請け負うコンサル業界が、知見を持った金融機関出身者を採用したがっている・・・ 3年間、地元静岡の支店において、金融商品の販売を通じた個人の資産運用の支援を担当していた。 しかし、銀行員にはどうしても組織としてやらなければいけない目標があり、「自身の提案の幅とやるべき仕事量との間で、折り合いがつけられなくなってしまいました」。より幅広い提案ができる環境を求めた結果、成果主義ながら裁量権が大きいプルデンシャル生命の門をたたいた」、なるほど。 ダイヤモンド・オンライン「【無料公開】メガバンク・地銀出身者の転職事情、バンカーに人気の3業界とは?」 (その22)(【無料公開】メガバンク・地銀出身者の転職事情 バンカーに人気の3業界とは?、「銀行にニーズなんてあるか?」千葉銀行が気付いた“客が本当に望んでいたもの”とは、三菱UFJの幹部OBが激怒する「銀証ルール違反処分」の“恥”) 金融業界 「仮想通貨の存在を知ったのは、ロンドンでの勤務時代だ。銀行を介さない送金や決済を可能とする仮想通貨を見て、「実用化されていないが、いつか銀行はなくなるかもしれない」という危機感を覚えた。 帰国後、野崎さんは仮想通貨の国内取引所サービスを利用する。証券会社と違って環境は未成熟であるものの、すでに仮想通貨の取引ができることが「衝撃的だった」という。 大量の人材を抱えるが故に、メガバンクの中で昇進し、大きな仕事をするためには、成果だけではなく運の要素も大きいのではないか。そんなキャリアの悩みを持った野崎さんは転
資本市場(その11)(SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択、SBI証券「IPO初値操作」の処分が残した2つの宿題 「顧客の取引に影響はない」では済まされない、録音データが示す「AT1債」裁判の新たな展開 三菱UFJモルガンは商品性を理解していたのか) [金融]
資本市場については、昨年8月17日に取上げた。今日は、(その11)(SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択、SBI証券「IPO初値操作」の処分が残した2つの宿題 「顧客の取引に影響はない」では済まされない、録音データが示す「AT1債」裁判の新たな展開 三菱UFJモルガンは商品性を理解していたのか)である。
先ずは、昨年9月4日付け東洋経済オンライン「SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/699113
・『「いよいよ来たか」。あるネット証券関係者は業界大手2社の発表を聞きつぶやいた。それはネット証券の地殻変動の号砲となるものだった。 最大手のSBI証券は8月31日、オンラインでの国内株式売買の手数料を9月30日発注分から無料にすると発表した。取引報告書などの各種交付書面を電子交付にすることが条件だが、ほとんどの利用者が手数料ゼロで日本株取引をできるようになる。 対抗するように同日、2位の楽天証券も10月2日約定分から国内株式の取引手数料無料コースを新設すると発表した。ネット証券の上位2社がそろって手数料無料化に踏み込んだことで、顧客の囲い込み競争は一層熱をおびることは間違いない』、「SBI証券」に続いて、「楽天証券」も「手数料無料化に踏み込んだ」とは競争が一段と激化することになる。
・『楽天証券の追随には驚き SBI証券の親会社であるSBIホールディングス(HD)の北尾吉孝会長兼社長は、2022年11月の決算説明会で「来年度(2023年度)の上半期にはオンラインの国内株式取引の売買手数料無料化を図る」と、発言していた。それ以来、予定通りの無料化は可能なのか、関係者は固唾をのんで見守っていた。結局、公約通りの時期に無料化を実施することになった。 1年前の段階で、無料化方針を打ち出したにもかかわらず、具体的なプランの発表は実施1カ月前にずれ込んだ。その理由を広報担当は、「大量の顧客増が見込まれ、システム対応などを万全にするよう準備した結果」と説明する。 衝撃を与えたのは、ライバルである楽天証券も同じタイミングで無料化に踏み込んだことだ。楽天グループの傘下にあり、楽天証券や楽天投信投資顧問などを抱える楽天証券HDは7月に東証へ上場申請をしている。 「この時期に無料化という大きな方針転換はできないのではないか」(大手証券幹部)という見方もあった。楠雄治社長は直前まで「検討はしているが、決まったことは何もない」と説明していたが、内部では着々と準備に動いていた。 個人の株取引において、2社の存在感は圧倒的だ。東証における個人の売買代金のうち、2022年度でSBI証券が占める割合は43.7%、楽天証券も33.5%ある(ETFやREIT含む)。この売買にかかる手数料が無料になれば日本市場の活性化にもつながる可能性がある。 折しも岸田政権が「資産運用立国」を掲げ、2024年1月からは新NISA(少額投資非課税制度)が始まるなど、個人の株式投資活発化に対する期待は高い。 SBI証券は8月31日のリリースで「『ゼロ革命』(国内株式売買手数料無料化)の意義は、『証券投資の大衆化』にあります」と説明。「『貯蓄から投資へ』の流れを加速し、広く国民一般の証券市場への積極的な参加を促進できるものと期待」すると謳った』、「SBI証券は8月31日のリリースで「『ゼロ革命』・・・の意義は、『証券投資の大衆化』にあります」と説明。「『貯蓄から投資へ』の流れを加速し、広く国民一般の証券市場への積極的な参加を促進できるものと期待」すると謳った」、いかにも「SBI証券」らしい。
・『路線修正を迫られた松井証券 こうした動きに対し、ほかのネット証券各社もすぐさま反応した。ある関係者は「黙って指をくわえて見ているわけにはいかない」と話す。 SBI証券、楽天証券に次ぐ規模を誇る松井証券は来年始まる新NISAでの日本株、米国株、投資信託の売買手数料を無料化すると発表した。 和里田聰社長はかねて「無料化には追随しない」と宣言。独自の情報提供やサポート体制を充実することで顧客をつなぎ止めることに注力してきた。しかし、路線の修正を迫られた。 松井証券は営業収益に占める株式委託手数料の割合が46%(2023年4~6月期)と高い。すべての手数料を無料にはできないものの、SBIの動きを看過できないという姿勢をにじませた。 マネックス証券もNISA対象の国内株売買手数料の無料化など現在行っている施策を今後も継続することや、米国株取引のサービス強化などをアピールするリリースを発表。現時点で手数料無料化に追随するとはしなかったものの、今後の検討課題になっている。 手数料無料化が経営に与える影響は重大だ。株取引の委託手数料は証券会社の収益にとって最も重要な柱のひとつでもある。) SBI証券の場合、2023年4~6月期の国内株式取引委託手数料は64億円だった。1年間同じ成績だったとすると250億円程度の収益だ。この分の収益がなくなる一方、システム維持コストなどは引き続きかかるため、減収分がそのまま利益の押し下げ圧力になる。 こうした衝撃を和らげるため、投資信託や外国株、FXなど収益源の多様化を進めてきた。さらには親会社であるSBIHDが銀行や資産運用など多くの事業を抱えている。 こうしたことから、本来ならば痛手となる「無料化」に踏み切れた。実際、SBIHDの年間利益予想は非開示だが、無料化を前提にしても少なくとも2024年3月期は前期並みの税前利益(IFRS)を確保できる見通しだ』、「SBI証券の場合」、「国内株式取引委託手数料、「年間」、「250億円程度」「がなくなる一方、システム維持コストなどは引き続きかかるため、減収分がそのまま利益の押し下げ圧力になる。 こうした衝撃を和らげるため、投資信託や外国株、FXなど収益源の多様化を進めてきた。さらには親会社であるSBIHDが銀行や資産運用など多くの事業を抱えている」、なるほど。
・『楽天証券HDの公開価格に影響懸念 一方の楽天証券。同様に収益源の多様化を進めており、2023年1~6月期の収益に占める国内株式委託手数料は17.4%。 具体的な金額は非開示だが、この間の営業収益が540億円なので約94億円程度、年間の手数料収入は190億円程度になる計算だ。プラン選択により、一部手数料収入が残るが、その多くが無料化でゼロになる。 (SBI証券の委託手数料収入の比率はリンク先参照) (楽天証券の委託手数料収入の比率はリンク先参照) さらに楽天証券は悩ましい固有の事情を抱えている。先述したように、楽天証券HDが東証への上場手続きの真っ最中である点だ。「楽天証券として大きな減収が避けられない中、思うような株価で上場できないのではないか」。ある業界関係者はそう分析する。 親会社の楽天グループは、上場にあたって 放出する楽天証券HD株に一定水準の株価がつくことを期待している。楽天証券の手数料無料化による業績影響を織り込んで、株価が期待より低くなれば、楽天グループが手にする資金はその分だけ減る。 「モバイル事業に是が非でも資金を手にしたい楽天グループにとっては痛手になるはずだ」。前出の関係者はそう語る。 また、楽天証券にはみずほ証券が2022年11月、800億円で約20%出資している。楽天証券の収益が大きく下がれば、みずほ証券の出資分の価値が損なわれることになる。 それらの懸念を払拭するためには、楽天証券が単独かつ短期で収益を上向かせる「秘策」を練り上げなくてはならない。ただでさえ、ポイント制度の改正などの影響で新規口座数の伸びが鈍化している。2023年1~6月の新規口座数は60.9万口座。前年同期比で33.6%マイナスの状況だ。 手数料無料化で最も追い込まれたのは楽天証券かもしれない』、「楽天証券HDが東証への上場手続きの真っ最中」、「楽天証券の手数料無料化による業績影響を織り込んで、株価が期待より低くなれば、楽天グループが手にする資金はその分だけ減る。 「モバイル事業に是が非でも資金を手にしたい楽天グループにとっては痛手になるはずだ」、
「手数料無料化で最も追い込まれたのは楽天証券かもしれない」、なるほど。
次に、本年1月17日付け東洋経済オンライン「SBI証券「IPO初値操作」の処分が残した2つの宿題 「顧客の取引に影響はない」では済まされない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/727978
・『IPO(新規株式公開)をめぐる歪みと大きな課題が明らかになった。 金融庁は1月12日、ネット証券最大手のSBI証券に対し、金融商品取引法に基づく業務停止処分を行った。IPO銘柄に関し、勧誘を伴う上場日の売買受託業務を1月18日まで禁止する。さらに、経営陣を含む責任の明確化を図ったうえで業務改善計画を作り、2月13日までに提出することを求めた。 SBI証券は1月12日、「今後、より一層の内部管理体制の強化・充実を図り、再発の防止ならびに皆さまの信頼回復に向けて努める」とコメントを発表した』、「SBI証券」のコメントは型通りだ。
・『初値の公募価格割れを防ぐため 今回の行政処分は、昨年12月15日に証券取引等監視委員会が公表した勧告に基づく。監視委の検査結果によると、SBI証券は2020年12月から2021年9月にかけてIPO主幹事を務めた3銘柄の上場初日の株価が公募価格を下回らないように作為的な相場形成を行っていた。 具体的には、引き受け業務を担当する常務取締役と営業を担当する役員が、上場日に予想される売り注文に見合う数量の買い注文を設定。海外の機関投資家9社とIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を通じて勧誘した一般投資家174名に公募価格指し値での注文を行わせた。これによって上場日の初値が公募価格割れするのを防いだ。 1週間の業務停止処分となったが、SBI証券の業績への影響はほとんどないのが現実だ。対象となるのはIPO銘柄の上場日における売買受託業務で、通常の株取引は対象外。そもそもこの期間に新規上場する銘柄はない。) SBI証券は「業務停止命令の結果、お客さまのお取引に直接の影響が及ぶことはございません」とした。IPO引き受け業務に関しても、公開価格を決定するために行うヒアリングなどの業務は売買の受託業務ではないため、制限を受けない。 金融庁は「(業務停止期間に)たしかにIPOはないかもしれないが、準備なり作業なりはある。しっかり業務を停止して考えてほしい」とする。またこのタイミングでの処分になったことについては、監視委の勧告からおおむね1カ月以内に行政処分を下す必要があるとした。1週間という業務停止期間も過去の事例と比べて「長くも短くもない期間」だという。 SMBC日興証券による株価操縦事件の際に出た業務停止3カ月と比べると、期間はかなり短く見える。ただ、SMBC日興のように証券会社が直接注文を入れたものではなく、今回は金融商品取引業者が顧客の注文を受けた行為を処分しており、1週間という期間は妥当との判断だ』、「引き受け業務を担当する常務取締役と営業を担当する役員が、上場日に予想される売り注文に見合う数量の買い注文を設定。海外の機関投資家9社とIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を通じて勧誘した一般投資家174名に公募価格指し値での注文を行わせた。これによって上場日の初値が公募価格割れするのを防いだ」、なるほど。
・『主幹事証券が担う役割とは 今回の処分は、証券業界が抱えるいくつかの課題を浮き彫りにした。 ひとつは、IPOをめぐる問題だ。新規公開の銘柄は初値が公募価格を上回ることへの期待が大きく、個人投資家からの人気が高い。そのため購入が抽選になることも多い。 一方で、中小型の銘柄を中心に、過大評価された株価がついてしまい、上場後に株価が低迷してしまうケースもある。そもそも事業として上場すべき段階まで成長していないのにIPOへと突き進むことも多いとの批判は根強い。ベンチャーキャピタルなどによるほかの資金調達手段が日本ではまだ発展途上であることが背景にある。 そうした上場予定の企業に対して、上場時期を遅らせたり、適切な公募価格を設定したりすることも主幹事証券会社の役割のひとつだ。ところが、「SBI証券はシェア獲得を急ぐばかりに、ルールを逸脱した行為に走ってしまったのだろう」。ある証券会社幹部はそう指摘する。 SBI証券は口座数が1100万を超え、ネット証券では最大手の地位を盤石なものにしている。ただ、個人の株取引以外の分野では追いかける立場だ。 市場情報を提供するLSEGによると、SBI証券は2023年の国内IPO引受金額のランキングで7位。首位のSMBC日興証券や2位の野村証券と比べると2倍以上の開きがある。 (2023年のIPO引受金額ランキングはリンク先参照) だが件数では、SMBC日興や野村と同じ19件。その分小型のIPOを数多く引き受けたことになる。) 主幹事を担ったIPO銘柄の初値が公募価格割れになると、評判を落とすことになる。追いかける立場であるSBI証券はこれを避けたかったという思惑が今回の不祥事を招いたとも言えそうだ。 証券業界内からは、「初値が公募価格を上回らなければ損をする人が出る。しかもその大半は個人投資家。SBI証券としては何とか支えただけ。そうまでしないとIPO市場は盛り上がらない」という“本音”も聞こえる。 ただ、IPOに対する投資家の信頼を損ねることになれば、日本の資本市場のあり方から問われる事態となる。日本証券業協会も巻き込んだ制度見直しも進んでいるさなか、今回の処分からどのような教訓を引き出すのかが重要だ』、「初値が公募価格を上回らなければ損をする人が出る。しかもその大半は個人投資家。SBI証券としては何とか支えただけ。そうまでしないとIPO市場は盛り上がらない」という“本音”も聞こえる。 ただ、IPOに対する投資家の信頼を損ねることになれば、日本の資本市場のあり方から問われる事態となる。日本証券業協会も巻き込んだ制度見直しも進んでいるさなか、今回の処分からどのような教訓を引き出すのかが重要だ」、その通りだ
・『IFAに独立性はあったのか 別の課題もある。SBI証券からの依頼を受けて一般投資家にこれらの銘柄を買うように勧誘したIFAの問題だ。 IFAのIはIndependent(独立)の頭文字であるとおり、特定の証券会社に所属せずに独立・中立の立場で顧客に資産運用の提案を行う。実際の取引は証券会社を通じて行うため、IFAは証券会社と契約し顧客の取引内容を伝達。それに応じた報酬を手にする。 IFAは営業ノルマや証券会社の方針に縛られず、顧客が本当に必要とする資産運用を提案できることが強みのはずだった。ところが今回の件は、顧客に損失をもたらす可能性のある取引を勧誘しており、顧客本位の業務運営とは言えない。 IFAはSBI証券の依頼に唯々諾々と応じたのかが焦点となる。この点は、金融庁の処分や監視委の説明では明らかにされなかった。関わったIFAは3社だが、その具体名は公表しなかった。 2024年から新NISA(少額投資非課税制度)が始まるなど、個人の証券取引が活発化する機運は高まっている。岸田政権の掲げる「資産運用立国」でも、顧客本位の業務運営の確保は最重要課題のひとつだ。IFAも今回の件から改善すべき点がないか検討する必要がある。 2月にSBI証券が提出する予定の業務改善計画がどのようなものになるか。実効性が確保されるようにするために、二人三脚で取り組む金融庁にも重い宿題を残した結果になった』、「IFAは営業ノルマや証券会社の方針に縛られず、顧客が本当に必要とする資産運用を提案できることが強みのはずだった。ところが今回の件は、顧客に損失をもたらす可能性のある取引を勧誘しており、顧客本位の業務運営とは言えない。 IFAはSBI証券の依頼に唯々諾々と応じたのかが焦点となる・・・関わったIFAは3社だ・・・岸田政権の掲げる「資産運用立国」でも、顧客本位の業務運営の確保は最重要課題のひとつだ。IFAも今回の件から改善すべき点がないか検討する必要がある」、その通りだ。
第三に、7月5日付け東洋経済オンライン「録音データが示す「AT1債」裁判の新たな展開 三菱UFJモルガンは商品性を理解していたのか」を紹介しよう。
・『昨年3月に全額が毀損したクレディ・スイスのAT1債をめぐり、債券を販売した三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対して、新たに14人の投資家が13億6588億円の損害賠償を求めて東京地裁に集団訴訟を起こした。 6月28日に提訴した今回の訴訟は、2023年8月と12月に続く第3弾となる。これで三菱UFJモルガンを訴えた原告の数は106人に上り、賠償請求金額は82億9974万円に拡大した。代理人弁護士の山崎大樹氏は「日本でこれほど多くの投資家が、この規模の損害賠償額を求めて証券会社を提訴するのは過去に例がないのでは」と話す』、「原告の数は106人に上り、賠償請求金額は82億9974万円に」、確かに大規模な訴訟のようだ。
・『CET1のことしか「聞いてないです」 クレディ・スイスのAT1債は国内で約1400億円が販売され、そのうち三菱UFJモルガンが7割弱に相当する約950億円を販売していた。5月13日には、全額毀損後に録音された三菱UFJモルガンの営業担当者と顧客による複数の会話のやり取りが、原告側から新たな証拠として提出されている。 そのやり取りを見ると、三菱UFJモルガンの営業担当者が商品性を正しく理解することなくクレディ・スイスのAT1債を販売していた疑いが浮かび上がる』、金融取引でリスクの移転が認められるには、売り手がリスクを正しく説明したことが、前提となるので、売り手の説明責任が重視される。
・『顧客「CET1のことしか聞いてないでしょう」 営業「聞いてないです」(顧客「(特殊性のあるAT1債だというのを)営業さんの方に当然伝わってないでしょ、そういう話」 営業「そこまでは伝わってないです」 顧客「営業としてはそれを知らずに『大丈夫だろう』としてお勧めしてたと。でなきゃモルガンさんだけであれだけの金額売らないでしょう」 営業「売らないですね」) 会話の中で顧客が言う「CET1」とは、「普通株式等Tier1」と呼ばれる銀行の中核的な自己資本のことだ。AT1債は、銀行が破綻する前の段階で投資家が損失を負う仕組みで、少なくともCET1比率が5.125%を下回ったら、元本の毀損か、株式に転換される商品性であることが求められる。クレディ・スイスのAT1債は「CET1比率が7%を下回った場合」に元本が全額毀損する仕組みになっていた。 ただし、クレディ・スイスのAT1債は、破綻前に元本が毀損するトリガーはこれだけではなく、「企業存続事由」も定められていた。具体的には、規制当局が発行者の破綻を防ぐために公的部門の特別支援が不可欠だと判断し、その支援を発行者が受け入れた際も元本が全額毀損する。 クレディ・スイスのAT1債は、この企業存続事由のトリガーがヒットして元本が全額毀損した訳だが、会話のやり取りからは、営業担当者がCET1比率のことしか認識していなかったことが読み取れる。 代理人の山崎弁護士によれば「企業存続事由について三菱UFJモルガンの営業から説明を受けたと話す原告は1人もいない」と言う』、「代理人の山崎弁護士によれば「企業存続事由について三菱UFJモルガンの営業から説明を受けたと話す原告は1人もいない」と言う」、これは酷い。
・『公的支援アナウンス後も販売を継続 それどころか、必要があればクレディ・スイスに「流動性を供給する」という、スイス当局からトリガー事由となるアナウンスがあった2023年3月15日以降も、三菱UFJモルガンはクレディ・スイスのAT1債を販売し続けた。AT1債が全額毀損したのは、そのわずか4日後。この間にAT1債を購入した顧客も原告に含まれている。三菱UFJモルガンが組織として企業存続事由を把握できていたのかさえも問われそうだ。 ほかにも、この期間にアドバイスを求めた顧客に対して、「今回は資本注入ではなく、流動性供給ですので今のところ問題ございません」とメールで回答している。また、録音データには、トリガー事由となる公的支援のアナウンスを、営業担当者がポジティブ材料として受け取っていた会話のやり取りもある。) 山崎弁護士は「三菱UFJモルガン側が商品性を正しく認識できていなかったことは明らか。商品の複雑性やリスクの高さを誤って認識していたのだから、説明義務違反などに加えて適合性の判断も正しく行われていなかった」と主張する。 一方、三菱UFJモルガンの広報担当者は「第3次提訴の訴状を確認していないのでコメントは差し控える」とし、「当社の主張については裁判の中で明らかにしていく」と話す。 最終的に和解に至る可能性もあるが、早期に和解すると提訴する人が次々に出てきてしまう。元本削減を知った時点から3年で時効となるため、和解の場合であっても時効ギリギリまで裁判が長引くとみられる』、「スイス当局からトリガー事由となるアナウンスがあった2023年3月15日以降も、三菱UFJモルガンはクレディ・スイスのAT1債を販売し続けた。AT1債が全額毀損したのは、そのわずか4日後。この間にAT1債を購入した顧客も原告に含まれている。三菱UFJモルガンが組織として企業存続事由を把握できていたのかさえも問われそうだ」、信じられないようなお粗末さだ。
・『日本で蔓延するモラルハザード クレディ・スイスのようにリスクが極めて高いAT1債がある一方で、日本の金融機関が発行するAT1債はトリガーが引かれるリスクは小さいと考えられている。クレディ・スイスの問題以降も日本のメガバンクが立て続けにAT1債を発行し、投資家から絶大な支持を集めているのは、このリスクの小ささ故だ。地銀の群馬銀行までもが今年1月に2.244%の低コストでAT1債を発行している。 そして最も懸念されるのは、日本のこうした実態が、投資家と金融機関の双方に「モラルハザード」をもたらすことだ。 日本のAT1債にも2つのトリガーがある。1つは、CET1比率が5.125%を下回ったら、その資本度合いに応じて元本が削減される「損失吸収事由」。もう1つは、預金保険法に基づき「預金等の全額保護」や「一時国有化」などが行われる第2号措置、第3号措置、特定第2号措置が発動された場合の「実質破綻事由」だ。 クレディ・スイスのAT1債を全額毀損させた企業存続事由のトリガーを日本の破綻処理枠組みに当てはめると、かつてりそな銀行を救済した際に使われた第1号措置または特定第1号措置が該当すると考えられる。だが、これらが発動されても日本のAT1債はトリガー事由にならない。つまり、事実上破綻を回避する目的で公的資金による資本増強や流動性の供給といった公的支援を受けても、日本ではAT1債の元本が毀損しない商品性になっている。 さらに、日本には預保法の救済スキーム以外にも、金融機能強化法による公的資金注入の枠組みがあり、AT1債のトリガーを回避できる万全な公的支援が整備されている。) かりにCET1比率が5.125%を下回ってAT1債の元本が一部毀損するような状況になっても、5.125%を上回ることが見込まれる計画書を金融庁に提出し、金融庁の承認を得られる場合には、損失吸収事由は発生しなかったものとみなす契約にもなっている。 要は、金融庁に裁量があり、ある当局関係者は「AT1債の元本が毀損すると市場の不安を招いてしまう。いざとなったら公的資金の注入によって資本を回復させて、元本を毀損させない手段を取る可能性が高いだろう」と見通す』、「金融庁に裁量があり、ある当局関係者は「AT1債の元本が毀損すると市場の不安を招いてしまう。いざとなったら公的資金の注入によって資本を回復させて、元本を毀損させない手段を取る可能性が高いだろう」と見通す」、これでは「AT1債」の意味がなくなってしまう。
・『リーマンショックの教訓はどこへ そもそもAT1債などが導入された自己資本比率規制の「バーゼル3」で、銀行の自己資本の質を大幅に強化したのはリーマンショックの教訓によるものだ。 リーマンショックでは、欧米の金融機関に対して公的資金の注入が行われたが、既存の投資家が損失を負うことなく、公的資金を通じて国民に負担を求めた。金融機関が破綻する前に投資家に損失吸収を求めるAT1債の仕組みは、最後は公的資金で救済してもらえると考える金融機関と投資家のモラルハザードを抑制することが狙いだ。 日本がAT1債のトリガーを引きたくないという理由で公的資金を注入するようなことがあれば、バーゼル3の精神からは外れたものと言え、損失吸収力の弱さから資本性にも疑念が生じかねない。 また、AT1債は発行から5年目以降に繰り上げ償還(コール)が可能になっており、「投資家はコールを前提に買っている」(債券アナリスト)とされる。コールしなければ市場の信任を失うため、金融機関も何とかしてコールしようとする。今後の金利上昇後にコールして再び高い金利でAT1債を借り換えることになれば、社外流出が大きくなる分だけ自己資本の弱体化につながる。こうしたAT1債がTier1資本として本当に妥当なのか。いま一度検証する必要がある』、「日本がAT1債のトリガーを引きたくないという理由で公的資金を注入するようなことがあれば、バーゼル3の精神からは外れたものと言え、損失吸収力の弱さから資本性にも疑念が生じかねない・・・AT1債は発行から5年目以降に繰り上げ償還(コール)が可能になっており、「投資家はコールを前提に買っている」(債券アナリスト)とされる。コールしなければ市場の信任を失うため、金融機関も何とかしてコールしようとする。今後の金利上昇後にコールして再び高い金利でAT1債を借り換えることになれば、社外流出が大きくなる分だけ自己資本の弱体化につながる。こうしたAT1債がTier1資本として本当に妥当なのか。いま一度検証する必要がある」、その通りだ。
先ずは、昨年9月4日付け東洋経済オンライン「SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/699113
・『「いよいよ来たか」。あるネット証券関係者は業界大手2社の発表を聞きつぶやいた。それはネット証券の地殻変動の号砲となるものだった。 最大手のSBI証券は8月31日、オンラインでの国内株式売買の手数料を9月30日発注分から無料にすると発表した。取引報告書などの各種交付書面を電子交付にすることが条件だが、ほとんどの利用者が手数料ゼロで日本株取引をできるようになる。 対抗するように同日、2位の楽天証券も10月2日約定分から国内株式の取引手数料無料コースを新設すると発表した。ネット証券の上位2社がそろって手数料無料化に踏み込んだことで、顧客の囲い込み競争は一層熱をおびることは間違いない』、「SBI証券」に続いて、「楽天証券」も「手数料無料化に踏み込んだ」とは競争が一段と激化することになる。
・『楽天証券の追随には驚き SBI証券の親会社であるSBIホールディングス(HD)の北尾吉孝会長兼社長は、2022年11月の決算説明会で「来年度(2023年度)の上半期にはオンラインの国内株式取引の売買手数料無料化を図る」と、発言していた。それ以来、予定通りの無料化は可能なのか、関係者は固唾をのんで見守っていた。結局、公約通りの時期に無料化を実施することになった。 1年前の段階で、無料化方針を打ち出したにもかかわらず、具体的なプランの発表は実施1カ月前にずれ込んだ。その理由を広報担当は、「大量の顧客増が見込まれ、システム対応などを万全にするよう準備した結果」と説明する。 衝撃を与えたのは、ライバルである楽天証券も同じタイミングで無料化に踏み込んだことだ。楽天グループの傘下にあり、楽天証券や楽天投信投資顧問などを抱える楽天証券HDは7月に東証へ上場申請をしている。 「この時期に無料化という大きな方針転換はできないのではないか」(大手証券幹部)という見方もあった。楠雄治社長は直前まで「検討はしているが、決まったことは何もない」と説明していたが、内部では着々と準備に動いていた。 個人の株取引において、2社の存在感は圧倒的だ。東証における個人の売買代金のうち、2022年度でSBI証券が占める割合は43.7%、楽天証券も33.5%ある(ETFやREIT含む)。この売買にかかる手数料が無料になれば日本市場の活性化にもつながる可能性がある。 折しも岸田政権が「資産運用立国」を掲げ、2024年1月からは新NISA(少額投資非課税制度)が始まるなど、個人の株式投資活発化に対する期待は高い。 SBI証券は8月31日のリリースで「『ゼロ革命』(国内株式売買手数料無料化)の意義は、『証券投資の大衆化』にあります」と説明。「『貯蓄から投資へ』の流れを加速し、広く国民一般の証券市場への積極的な参加を促進できるものと期待」すると謳った』、「SBI証券は8月31日のリリースで「『ゼロ革命』・・・の意義は、『証券投資の大衆化』にあります」と説明。「『貯蓄から投資へ』の流れを加速し、広く国民一般の証券市場への積極的な参加を促進できるものと期待」すると謳った」、いかにも「SBI証券」らしい。
・『路線修正を迫られた松井証券 こうした動きに対し、ほかのネット証券各社もすぐさま反応した。ある関係者は「黙って指をくわえて見ているわけにはいかない」と話す。 SBI証券、楽天証券に次ぐ規模を誇る松井証券は来年始まる新NISAでの日本株、米国株、投資信託の売買手数料を無料化すると発表した。 和里田聰社長はかねて「無料化には追随しない」と宣言。独自の情報提供やサポート体制を充実することで顧客をつなぎ止めることに注力してきた。しかし、路線の修正を迫られた。 松井証券は営業収益に占める株式委託手数料の割合が46%(2023年4~6月期)と高い。すべての手数料を無料にはできないものの、SBIの動きを看過できないという姿勢をにじませた。 マネックス証券もNISA対象の国内株売買手数料の無料化など現在行っている施策を今後も継続することや、米国株取引のサービス強化などをアピールするリリースを発表。現時点で手数料無料化に追随するとはしなかったものの、今後の検討課題になっている。 手数料無料化が経営に与える影響は重大だ。株取引の委託手数料は証券会社の収益にとって最も重要な柱のひとつでもある。) SBI証券の場合、2023年4~6月期の国内株式取引委託手数料は64億円だった。1年間同じ成績だったとすると250億円程度の収益だ。この分の収益がなくなる一方、システム維持コストなどは引き続きかかるため、減収分がそのまま利益の押し下げ圧力になる。 こうした衝撃を和らげるため、投資信託や外国株、FXなど収益源の多様化を進めてきた。さらには親会社であるSBIHDが銀行や資産運用など多くの事業を抱えている。 こうしたことから、本来ならば痛手となる「無料化」に踏み切れた。実際、SBIHDの年間利益予想は非開示だが、無料化を前提にしても少なくとも2024年3月期は前期並みの税前利益(IFRS)を確保できる見通しだ』、「SBI証券の場合」、「国内株式取引委託手数料、「年間」、「250億円程度」「がなくなる一方、システム維持コストなどは引き続きかかるため、減収分がそのまま利益の押し下げ圧力になる。 こうした衝撃を和らげるため、投資信託や外国株、FXなど収益源の多様化を進めてきた。さらには親会社であるSBIHDが銀行や資産運用など多くの事業を抱えている」、なるほど。
・『楽天証券HDの公開価格に影響懸念 一方の楽天証券。同様に収益源の多様化を進めており、2023年1~6月期の収益に占める国内株式委託手数料は17.4%。 具体的な金額は非開示だが、この間の営業収益が540億円なので約94億円程度、年間の手数料収入は190億円程度になる計算だ。プラン選択により、一部手数料収入が残るが、その多くが無料化でゼロになる。 (SBI証券の委託手数料収入の比率はリンク先参照) (楽天証券の委託手数料収入の比率はリンク先参照) さらに楽天証券は悩ましい固有の事情を抱えている。先述したように、楽天証券HDが東証への上場手続きの真っ最中である点だ。「楽天証券として大きな減収が避けられない中、思うような株価で上場できないのではないか」。ある業界関係者はそう分析する。 親会社の楽天グループは、上場にあたって 放出する楽天証券HD株に一定水準の株価がつくことを期待している。楽天証券の手数料無料化による業績影響を織り込んで、株価が期待より低くなれば、楽天グループが手にする資金はその分だけ減る。 「モバイル事業に是が非でも資金を手にしたい楽天グループにとっては痛手になるはずだ」。前出の関係者はそう語る。 また、楽天証券にはみずほ証券が2022年11月、800億円で約20%出資している。楽天証券の収益が大きく下がれば、みずほ証券の出資分の価値が損なわれることになる。 それらの懸念を払拭するためには、楽天証券が単独かつ短期で収益を上向かせる「秘策」を練り上げなくてはならない。ただでさえ、ポイント制度の改正などの影響で新規口座数の伸びが鈍化している。2023年1~6月の新規口座数は60.9万口座。前年同期比で33.6%マイナスの状況だ。 手数料無料化で最も追い込まれたのは楽天証券かもしれない』、「楽天証券HDが東証への上場手続きの真っ最中」、「楽天証券の手数料無料化による業績影響を織り込んで、株価が期待より低くなれば、楽天グループが手にする資金はその分だけ減る。 「モバイル事業に是が非でも資金を手にしたい楽天グループにとっては痛手になるはずだ」、
「手数料無料化で最も追い込まれたのは楽天証券かもしれない」、なるほど。
次に、本年1月17日付け東洋経済オンライン「SBI証券「IPO初値操作」の処分が残した2つの宿題 「顧客の取引に影響はない」では済まされない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/727978
・『IPO(新規株式公開)をめぐる歪みと大きな課題が明らかになった。 金融庁は1月12日、ネット証券最大手のSBI証券に対し、金融商品取引法に基づく業務停止処分を行った。IPO銘柄に関し、勧誘を伴う上場日の売買受託業務を1月18日まで禁止する。さらに、経営陣を含む責任の明確化を図ったうえで業務改善計画を作り、2月13日までに提出することを求めた。 SBI証券は1月12日、「今後、より一層の内部管理体制の強化・充実を図り、再発の防止ならびに皆さまの信頼回復に向けて努める」とコメントを発表した』、「SBI証券」のコメントは型通りだ。
・『初値の公募価格割れを防ぐため 今回の行政処分は、昨年12月15日に証券取引等監視委員会が公表した勧告に基づく。監視委の検査結果によると、SBI証券は2020年12月から2021年9月にかけてIPO主幹事を務めた3銘柄の上場初日の株価が公募価格を下回らないように作為的な相場形成を行っていた。 具体的には、引き受け業務を担当する常務取締役と営業を担当する役員が、上場日に予想される売り注文に見合う数量の買い注文を設定。海外の機関投資家9社とIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を通じて勧誘した一般投資家174名に公募価格指し値での注文を行わせた。これによって上場日の初値が公募価格割れするのを防いだ。 1週間の業務停止処分となったが、SBI証券の業績への影響はほとんどないのが現実だ。対象となるのはIPO銘柄の上場日における売買受託業務で、通常の株取引は対象外。そもそもこの期間に新規上場する銘柄はない。) SBI証券は「業務停止命令の結果、お客さまのお取引に直接の影響が及ぶことはございません」とした。IPO引き受け業務に関しても、公開価格を決定するために行うヒアリングなどの業務は売買の受託業務ではないため、制限を受けない。 金融庁は「(業務停止期間に)たしかにIPOはないかもしれないが、準備なり作業なりはある。しっかり業務を停止して考えてほしい」とする。またこのタイミングでの処分になったことについては、監視委の勧告からおおむね1カ月以内に行政処分を下す必要があるとした。1週間という業務停止期間も過去の事例と比べて「長くも短くもない期間」だという。 SMBC日興証券による株価操縦事件の際に出た業務停止3カ月と比べると、期間はかなり短く見える。ただ、SMBC日興のように証券会社が直接注文を入れたものではなく、今回は金融商品取引業者が顧客の注文を受けた行為を処分しており、1週間という期間は妥当との判断だ』、「引き受け業務を担当する常務取締役と営業を担当する役員が、上場日に予想される売り注文に見合う数量の買い注文を設定。海外の機関投資家9社とIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を通じて勧誘した一般投資家174名に公募価格指し値での注文を行わせた。これによって上場日の初値が公募価格割れするのを防いだ」、なるほど。
・『主幹事証券が担う役割とは 今回の処分は、証券業界が抱えるいくつかの課題を浮き彫りにした。 ひとつは、IPOをめぐる問題だ。新規公開の銘柄は初値が公募価格を上回ることへの期待が大きく、個人投資家からの人気が高い。そのため購入が抽選になることも多い。 一方で、中小型の銘柄を中心に、過大評価された株価がついてしまい、上場後に株価が低迷してしまうケースもある。そもそも事業として上場すべき段階まで成長していないのにIPOへと突き進むことも多いとの批判は根強い。ベンチャーキャピタルなどによるほかの資金調達手段が日本ではまだ発展途上であることが背景にある。 そうした上場予定の企業に対して、上場時期を遅らせたり、適切な公募価格を設定したりすることも主幹事証券会社の役割のひとつだ。ところが、「SBI証券はシェア獲得を急ぐばかりに、ルールを逸脱した行為に走ってしまったのだろう」。ある証券会社幹部はそう指摘する。 SBI証券は口座数が1100万を超え、ネット証券では最大手の地位を盤石なものにしている。ただ、個人の株取引以外の分野では追いかける立場だ。 市場情報を提供するLSEGによると、SBI証券は2023年の国内IPO引受金額のランキングで7位。首位のSMBC日興証券や2位の野村証券と比べると2倍以上の開きがある。 (2023年のIPO引受金額ランキングはリンク先参照) だが件数では、SMBC日興や野村と同じ19件。その分小型のIPOを数多く引き受けたことになる。) 主幹事を担ったIPO銘柄の初値が公募価格割れになると、評判を落とすことになる。追いかける立場であるSBI証券はこれを避けたかったという思惑が今回の不祥事を招いたとも言えそうだ。 証券業界内からは、「初値が公募価格を上回らなければ損をする人が出る。しかもその大半は個人投資家。SBI証券としては何とか支えただけ。そうまでしないとIPO市場は盛り上がらない」という“本音”も聞こえる。 ただ、IPOに対する投資家の信頼を損ねることになれば、日本の資本市場のあり方から問われる事態となる。日本証券業協会も巻き込んだ制度見直しも進んでいるさなか、今回の処分からどのような教訓を引き出すのかが重要だ』、「初値が公募価格を上回らなければ損をする人が出る。しかもその大半は個人投資家。SBI証券としては何とか支えただけ。そうまでしないとIPO市場は盛り上がらない」という“本音”も聞こえる。 ただ、IPOに対する投資家の信頼を損ねることになれば、日本の資本市場のあり方から問われる事態となる。日本証券業協会も巻き込んだ制度見直しも進んでいるさなか、今回の処分からどのような教訓を引き出すのかが重要だ」、その通りだ
・『IFAに独立性はあったのか 別の課題もある。SBI証券からの依頼を受けて一般投資家にこれらの銘柄を買うように勧誘したIFAの問題だ。 IFAのIはIndependent(独立)の頭文字であるとおり、特定の証券会社に所属せずに独立・中立の立場で顧客に資産運用の提案を行う。実際の取引は証券会社を通じて行うため、IFAは証券会社と契約し顧客の取引内容を伝達。それに応じた報酬を手にする。 IFAは営業ノルマや証券会社の方針に縛られず、顧客が本当に必要とする資産運用を提案できることが強みのはずだった。ところが今回の件は、顧客に損失をもたらす可能性のある取引を勧誘しており、顧客本位の業務運営とは言えない。 IFAはSBI証券の依頼に唯々諾々と応じたのかが焦点となる。この点は、金融庁の処分や監視委の説明では明らかにされなかった。関わったIFAは3社だが、その具体名は公表しなかった。 2024年から新NISA(少額投資非課税制度)が始まるなど、個人の証券取引が活発化する機運は高まっている。岸田政権の掲げる「資産運用立国」でも、顧客本位の業務運営の確保は最重要課題のひとつだ。IFAも今回の件から改善すべき点がないか検討する必要がある。 2月にSBI証券が提出する予定の業務改善計画がどのようなものになるか。実効性が確保されるようにするために、二人三脚で取り組む金融庁にも重い宿題を残した結果になった』、「IFAは営業ノルマや証券会社の方針に縛られず、顧客が本当に必要とする資産運用を提案できることが強みのはずだった。ところが今回の件は、顧客に損失をもたらす可能性のある取引を勧誘しており、顧客本位の業務運営とは言えない。 IFAはSBI証券の依頼に唯々諾々と応じたのかが焦点となる・・・関わったIFAは3社だ・・・岸田政権の掲げる「資産運用立国」でも、顧客本位の業務運営の確保は最重要課題のひとつだ。IFAも今回の件から改善すべき点がないか検討する必要がある」、その通りだ。
第三に、7月5日付け東洋経済オンライン「録音データが示す「AT1債」裁判の新たな展開 三菱UFJモルガンは商品性を理解していたのか」を紹介しよう。
・『昨年3月に全額が毀損したクレディ・スイスのAT1債をめぐり、債券を販売した三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対して、新たに14人の投資家が13億6588億円の損害賠償を求めて東京地裁に集団訴訟を起こした。 6月28日に提訴した今回の訴訟は、2023年8月と12月に続く第3弾となる。これで三菱UFJモルガンを訴えた原告の数は106人に上り、賠償請求金額は82億9974万円に拡大した。代理人弁護士の山崎大樹氏は「日本でこれほど多くの投資家が、この規模の損害賠償額を求めて証券会社を提訴するのは過去に例がないのでは」と話す』、「原告の数は106人に上り、賠償請求金額は82億9974万円に」、確かに大規模な訴訟のようだ。
・『CET1のことしか「聞いてないです」 クレディ・スイスのAT1債は国内で約1400億円が販売され、そのうち三菱UFJモルガンが7割弱に相当する約950億円を販売していた。5月13日には、全額毀損後に録音された三菱UFJモルガンの営業担当者と顧客による複数の会話のやり取りが、原告側から新たな証拠として提出されている。 そのやり取りを見ると、三菱UFJモルガンの営業担当者が商品性を正しく理解することなくクレディ・スイスのAT1債を販売していた疑いが浮かび上がる』、金融取引でリスクの移転が認められるには、売り手がリスクを正しく説明したことが、前提となるので、売り手の説明責任が重視される。
・『顧客「CET1のことしか聞いてないでしょう」 営業「聞いてないです」(顧客「(特殊性のあるAT1債だというのを)営業さんの方に当然伝わってないでしょ、そういう話」 営業「そこまでは伝わってないです」 顧客「営業としてはそれを知らずに『大丈夫だろう』としてお勧めしてたと。でなきゃモルガンさんだけであれだけの金額売らないでしょう」 営業「売らないですね」) 会話の中で顧客が言う「CET1」とは、「普通株式等Tier1」と呼ばれる銀行の中核的な自己資本のことだ。AT1債は、銀行が破綻する前の段階で投資家が損失を負う仕組みで、少なくともCET1比率が5.125%を下回ったら、元本の毀損か、株式に転換される商品性であることが求められる。クレディ・スイスのAT1債は「CET1比率が7%を下回った場合」に元本が全額毀損する仕組みになっていた。 ただし、クレディ・スイスのAT1債は、破綻前に元本が毀損するトリガーはこれだけではなく、「企業存続事由」も定められていた。具体的には、規制当局が発行者の破綻を防ぐために公的部門の特別支援が不可欠だと判断し、その支援を発行者が受け入れた際も元本が全額毀損する。 クレディ・スイスのAT1債は、この企業存続事由のトリガーがヒットして元本が全額毀損した訳だが、会話のやり取りからは、営業担当者がCET1比率のことしか認識していなかったことが読み取れる。 代理人の山崎弁護士によれば「企業存続事由について三菱UFJモルガンの営業から説明を受けたと話す原告は1人もいない」と言う』、「代理人の山崎弁護士によれば「企業存続事由について三菱UFJモルガンの営業から説明を受けたと話す原告は1人もいない」と言う」、これは酷い。
・『公的支援アナウンス後も販売を継続 それどころか、必要があればクレディ・スイスに「流動性を供給する」という、スイス当局からトリガー事由となるアナウンスがあった2023年3月15日以降も、三菱UFJモルガンはクレディ・スイスのAT1債を販売し続けた。AT1債が全額毀損したのは、そのわずか4日後。この間にAT1債を購入した顧客も原告に含まれている。三菱UFJモルガンが組織として企業存続事由を把握できていたのかさえも問われそうだ。 ほかにも、この期間にアドバイスを求めた顧客に対して、「今回は資本注入ではなく、流動性供給ですので今のところ問題ございません」とメールで回答している。また、録音データには、トリガー事由となる公的支援のアナウンスを、営業担当者がポジティブ材料として受け取っていた会話のやり取りもある。) 山崎弁護士は「三菱UFJモルガン側が商品性を正しく認識できていなかったことは明らか。商品の複雑性やリスクの高さを誤って認識していたのだから、説明義務違反などに加えて適合性の判断も正しく行われていなかった」と主張する。 一方、三菱UFJモルガンの広報担当者は「第3次提訴の訴状を確認していないのでコメントは差し控える」とし、「当社の主張については裁判の中で明らかにしていく」と話す。 最終的に和解に至る可能性もあるが、早期に和解すると提訴する人が次々に出てきてしまう。元本削減を知った時点から3年で時効となるため、和解の場合であっても時効ギリギリまで裁判が長引くとみられる』、「スイス当局からトリガー事由となるアナウンスがあった2023年3月15日以降も、三菱UFJモルガンはクレディ・スイスのAT1債を販売し続けた。AT1債が全額毀損したのは、そのわずか4日後。この間にAT1債を購入した顧客も原告に含まれている。三菱UFJモルガンが組織として企業存続事由を把握できていたのかさえも問われそうだ」、信じられないようなお粗末さだ。
・『日本で蔓延するモラルハザード クレディ・スイスのようにリスクが極めて高いAT1債がある一方で、日本の金融機関が発行するAT1債はトリガーが引かれるリスクは小さいと考えられている。クレディ・スイスの問題以降も日本のメガバンクが立て続けにAT1債を発行し、投資家から絶大な支持を集めているのは、このリスクの小ささ故だ。地銀の群馬銀行までもが今年1月に2.244%の低コストでAT1債を発行している。 そして最も懸念されるのは、日本のこうした実態が、投資家と金融機関の双方に「モラルハザード」をもたらすことだ。 日本のAT1債にも2つのトリガーがある。1つは、CET1比率が5.125%を下回ったら、その資本度合いに応じて元本が削減される「損失吸収事由」。もう1つは、預金保険法に基づき「預金等の全額保護」や「一時国有化」などが行われる第2号措置、第3号措置、特定第2号措置が発動された場合の「実質破綻事由」だ。 クレディ・スイスのAT1債を全額毀損させた企業存続事由のトリガーを日本の破綻処理枠組みに当てはめると、かつてりそな銀行を救済した際に使われた第1号措置または特定第1号措置が該当すると考えられる。だが、これらが発動されても日本のAT1債はトリガー事由にならない。つまり、事実上破綻を回避する目的で公的資金による資本増強や流動性の供給といった公的支援を受けても、日本ではAT1債の元本が毀損しない商品性になっている。 さらに、日本には預保法の救済スキーム以外にも、金融機能強化法による公的資金注入の枠組みがあり、AT1債のトリガーを回避できる万全な公的支援が整備されている。) かりにCET1比率が5.125%を下回ってAT1債の元本が一部毀損するような状況になっても、5.125%を上回ることが見込まれる計画書を金融庁に提出し、金融庁の承認を得られる場合には、損失吸収事由は発生しなかったものとみなす契約にもなっている。 要は、金融庁に裁量があり、ある当局関係者は「AT1債の元本が毀損すると市場の不安を招いてしまう。いざとなったら公的資金の注入によって資本を回復させて、元本を毀損させない手段を取る可能性が高いだろう」と見通す』、「金融庁に裁量があり、ある当局関係者は「AT1債の元本が毀損すると市場の不安を招いてしまう。いざとなったら公的資金の注入によって資本を回復させて、元本を毀損させない手段を取る可能性が高いだろう」と見通す」、これでは「AT1債」の意味がなくなってしまう。
・『リーマンショックの教訓はどこへ そもそもAT1債などが導入された自己資本比率規制の「バーゼル3」で、銀行の自己資本の質を大幅に強化したのはリーマンショックの教訓によるものだ。 リーマンショックでは、欧米の金融機関に対して公的資金の注入が行われたが、既存の投資家が損失を負うことなく、公的資金を通じて国民に負担を求めた。金融機関が破綻する前に投資家に損失吸収を求めるAT1債の仕組みは、最後は公的資金で救済してもらえると考える金融機関と投資家のモラルハザードを抑制することが狙いだ。 日本がAT1債のトリガーを引きたくないという理由で公的資金を注入するようなことがあれば、バーゼル3の精神からは外れたものと言え、損失吸収力の弱さから資本性にも疑念が生じかねない。 また、AT1債は発行から5年目以降に繰り上げ償還(コール)が可能になっており、「投資家はコールを前提に買っている」(債券アナリスト)とされる。コールしなければ市場の信任を失うため、金融機関も何とかしてコールしようとする。今後の金利上昇後にコールして再び高い金利でAT1債を借り換えることになれば、社外流出が大きくなる分だけ自己資本の弱体化につながる。こうしたAT1債がTier1資本として本当に妥当なのか。いま一度検証する必要がある』、「日本がAT1債のトリガーを引きたくないという理由で公的資金を注入するようなことがあれば、バーゼル3の精神からは外れたものと言え、損失吸収力の弱さから資本性にも疑念が生じかねない・・・AT1債は発行から5年目以降に繰り上げ償還(コール)が可能になっており、「投資家はコールを前提に買っている」(債券アナリスト)とされる。コールしなければ市場の信任を失うため、金融機関も何とかしてコールしようとする。今後の金利上昇後にコールして再び高い金利でAT1債を借り換えることになれば、社外流出が大きくなる分だけ自己資本の弱体化につながる。こうしたAT1債がTier1資本として本当に妥当なのか。いま一度検証する必要がある」、その通りだ。
タグ:資本市場 (その11)(SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択、SBI証券「IPO初値操作」の処分が残した2つの宿題 「顧客の取引に影響はない」では済まされない、録音データが示す「AT1債」裁判の新たな展開 三菱UFJモルガンは商品性を理解していたのか) 東洋経済オンライン「SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択」 「SBI証券」に続いて、「楽天証券」も「手数料無料化に踏み込んだ」とは競争が一段と激化することになる。 「SBI証券は8月31日のリリースで「『ゼロ革命』・・・の意義は、『証券投資の大衆化』にあります」と説明。「『貯蓄から投資へ』の流れを加速し、広く国民一般の証券市場への積極的な参加を促進できるものと期待」すると謳った」、いかにも「SBI証券」らしい。 「SBI証券の場合」、「国内株式取引委託手数料、「年間」、「250億円程度」「がなくなる一方、システム維持コストなどは引き続きかかるため、減収分がそのまま利益の押し下げ圧力になる。 こうした衝撃を和らげるため、投資信託や外国株、FXなど収益源の多様化を進めてきた。さらには親会社であるSBIHDが銀行や資産運用など多くの事業を抱えている」、なるほど。 「楽天証券HDが東証への上場手続きの真っ最中」、「楽天証券の手数料無料化による業績影響を織り込んで、株価が期待より低くなれば、楽天グループが手にする資金はその分だけ減る。 「モバイル事業に是が非でも資金を手にしたい楽天グループにとっては痛手になるはずだ」、 「手数料無料化で最も追い込まれたのは楽天証券かもしれない」、なるほど。 東洋経済オンライン「SBI証券「IPO初値操作」の処分が残した2つの宿題 「顧客の取引に影響はない」では済まされない」 「SBI証券」のコメントは型通りだ。 「引き受け業務を担当する常務取締役と営業を担当する役員が、上場日に予想される売り注文に見合う数量の買い注文を設定。海外の機関投資家9社とIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を通じて勧誘した一般投資家174名に公募価格指し値での注文を行わせた。これによって上場日の初値が公募価格割れするのを防いだ」、なるほど。 「初値が公募価格を上回らなければ損をする人が出る。しかもその大半は個人投資家。SBI証券としては何とか支えただけ。そうまでしないとIPO市場は盛り上がらない」という“本音”も聞こえる。 ただ、IPOに対する投資家の信頼を損ねることになれば、日本の資本市場のあり方から問われる事態となる。日本証券業協会も巻き込んだ制度見直しも進んでいるさなか、今回の処分からどのような教訓を引き出すのかが重要だ」、その通りだ 「IFAは営業ノルマや証券会社の方針に縛られず、顧客が本当に必要とする資産運用を提案できることが強みのはずだった。ところが今回の件は、顧客に損失をもたらす可能性のある取引を勧誘しており、顧客本位の業務運営とは言えない。 IFAはSBI証券の依頼に唯々諾々と応じたのかが焦点となる・・・関わったIFAは3社だ・・・岸田政権の掲げる「資産運用立国」でも、顧客本位の業務運営の確保は最重要課題のひとつだ。IFAも今回の件から改善すべき点がないか検討する必要がある」、その通りだ。 東洋経済オンライン「録音データが示す「AT1債」裁判の新たな展開 三菱UFJモルガンは商品性を理解していたのか」 「原告の数は106人に上り、賠償請求金額は82億9974万円に」、確かに大規模な訴訟のようだ。 金融取引でリスクの移転が認められるには、売り手がリスクを正しく説明したことが、前提となるので、売り手の説明責任が重視される。 「代理人の山崎弁護士によれば「企業存続事由について三菱UFJモルガンの営業から説明を受けたと話す原告は1人もいない」と言う」、これは酷い。 「スイス当局からトリガー事由となるアナウンスがあった2023年3月15日以降も、三菱UFJモルガンはクレディ・スイスのAT1債を販売し続けた。AT1債が全額毀損したのは、そのわずか4日後。この間にAT1債を購入した顧客も原告に含まれている。三菱UFJモルガンが組織として企業存続事由を把握できていたのかさえも問われそうだ」、信じられないようなお粗末さだ。 「金融庁に裁量があり、ある当局関係者は「AT1債の元本が毀損すると市場の不安を招いてしまう。いざとなったら公的資金の注入によって資本を回復させて、元本を毀損させない手段を取る可能性が高いだろう」と見通す」、これでは「AT1債」の意味がなくなってしまう。 「日本がAT1債のトリガーを引きたくないという理由で公的資金を注入するようなことがあれば、バーゼル3の精神からは外れたものと言え、損失吸収力の弱さから資本性にも疑念が生じかねない・・・AT1債は発行から5年目以降に繰り上げ償還(コール)が可能になっており、「投資家はコールを前提に買っている」(債券アナリスト)とされる。 コールしなければ市場の信任を失うため、金融機関も何とかしてコールしようとする。今後の金利上昇後にコールして再び高い金利でAT1債を借り換えることになれば、社外流出が大きくなる分だけ自己資本の弱体化につながる。こうしたAT1債がTier1資本として本当に妥当なのか。いま一度検証する必要がある」、その通りだ。
株式・為替相場(その22)(通貨危機級の円安は日本の “自業自得” 悪いのは日銀だけか?、日米金利差やデジタル赤字だけではない“異常な円安”の「真の原因」) [金融]
株式・為替相場については、本年3月22日に取上げた。今日は、(その22)(通貨危機級の円安は日本の “自業自得” 悪いのは日銀だけか?、日米金利差やデジタル赤字だけではない“異常な円安”の「真の原因」)である。
先ずは、本年5月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「通貨危機級の円安は日本の “自業自得”、悪いのは日銀だけか?」を紹介しよう。
・『これほどまでの円安は、わが国の経済政策の“自業自得”といえるかもしれない。海外の一部の専門家からは、「通貨危機的円安」と言われる状況に陥っている。過度な円安を止めるには、いったいどうしたらいいのか』、興味深そうだ。
・『円安は日本の経済政策の「自業自得」 海外から「通貨危機的円安」と言われる状況に 円安傾向が一段と鮮明化している。4月29日、160円24銭までドル高・円安が進行する場面もあった。その後、覆面介入とみられる動きなどから円は対ドルで反発したが、年初から5月3日までに、円はドルに対して8.5%下落した。海外の一部の専門家からは、「通貨危機的円安」と言われる状況に陥っている』、「通貨危機的円安」とはただ事ではない。
・『通貨危機級の円安は日本の “自業自得”、悪いのは日銀だけか? 円安と、世界的な資源や食料品価格の上昇で、わが国では必要な資材の輸入が難しくなるケースも出始めている。オレンジの不作と円安が影響し、ジュースの材料を輸入できなくなる飲料メーカーも出ているという。果汁在庫がなくなり次第、販売を休止するようだ。円安の影響は、私たちの日常生活にも影響を及ぼし始めている。 円安の進行について、重要なポイントとなるのはわが国の金融政策である。1990年代初頭以降、日本経済の実力が低下したことは残念ながら顕著だ。景気低迷を金融緩和で支える経済政策によって、これまでの常識を超える大規模な金融緩和に拍車がかかった。 わが国の金利は極度に低い状況が続いている。円資金も必要以上に潤沢に供給された。それに対して、2022年3月以降、米国で急速に金利が上昇した。こうして主要投資家にとって、潤沢で金利の安い円を借りて、それをドルに換えて運用する「円キャリートレード」の妙味は高まった。また、日本企業や個人投資家が、成長期待の高い米国株などに資金を投じたことで、国内からの資金流出が勢いづいた点もある。 これほどまでの円安は、わが国の経済政策の“自業自得”といえるかもしれない。過度な円安を止めるには、いったいどうしたらいいのか』、「主要投資家にとって、潤沢で金利の安い円を借りて、それをドルに換えて運用する「円キャリートレード」の妙味は高まった。また、日本企業や個人投資家が、成長期待の高い米国株などに資金を投じたことで、国内からの資金流出が勢いづいた点もある。 これほどまでの円安は、わが国の経済政策の“自業自得”といえるかもしれない。過度な円安を止めるには、いったいどうしたらいいのか」、なるほど。
・『オレンジジュース、オリーブオイル、チョコレート… 円安で食料品や必要な資源の輸入が難しくなる 4月後半、予想を上回る米国経済指標の発表や、日本銀行の円安を容認するとも受け取れる発言もあったことから、34年ぶりの水準まで円安は進行した。 通貨危機級の円安は日本の “自業自得”、悪いのは日銀だけか?(食料やエネルギー資源を輸入に頼るわが国にとって、円安の進行は原材料コストの上昇要因になる。典型例の一つが、国内飲料メーカーによるオレンジジュースの販売休止だ。ブラジルなどで異常気象によりオレンジ果汁の供給が減少し、年初来で、オレンジジュース先物の価格は2割程度上昇した。 わが国のオレンジジュースの約9割は輸入品とみられ、円安で国内メーカーの原材料調達コストは膨れた。オレンジジュースの値上げに踏み切る、あるいは国産ミカンでの代替を検討する企業が増えている。 ただ、そうした取り組みにも限界がある。食料や日用品の価格上昇率は「名目賃金」を上回り、3月まで24カ月続けて「実質賃金」は前年同月比でマイナスだ。オリーブオイルやチョコレートも世界的な相場上昇と円安によって、国内での小売価格が上昇傾向にある。 世界的な供給の不安定化を背景に、モノやサービスの価格は上昇が続いている。加えて、円安が進行し、わが国の輸入物価の上昇圧力は再び高まっている。日本企業にとって、一部の資材では量を確保することが相当な困難となっている』、「世界的な供給の不安定化を背景に、モノやサービスの価格は上昇が続いている。加えて、円安が進行し、わが国の輸入物価の上昇圧力は再び高まっている。日本企業にとって、一部の資材では量を確保することが相当な困難となっている」、なるほど。
・『海外の投資家にとって円金利の低さ 潤沢さは見逃せない収益チャンスに 1990年代初めに資産バブルが崩壊して以降、わが国では事実上、ゼロ金利の環境が続いた。2013年以降は、“アベノミクス”により異次元の緩和策が強化された。日銀は国債流通市場から長期国債を大規模に買い入れ、大規模に通貨供給量を増やした。 16年2月から、日銀はマイナス金利政策も実施し、極端に金利が低い環境が出現した。そうして21年春先以降、世界的に物価の上昇が鮮明になっても、わが国は異次元の緩和を継続し、多額の資金供給を継続してきた。 現在、GDP比で見た通貨供給量(マネーストック)は約2倍と、主要先進国の中でも圧倒的に高い。つまり、国内の円資金が有り余っている。米FRBは物価安定のための利上げに加えて量的な引き締め(QT)を実施したが、わが国の金融政策はそこまで至っていない。主要中央銀行のバランスシート規模(対名目GDP比)に関して、日銀は約120%に達した。この水準は米FRB、英国のBOE、欧州のECBを上回る。 海外の投資家にとって円金利の世界的な低さ、潤沢さは見逃せない収益チャンスとなっている。ヘッジファンドなどの主要投資家は、日米の金利差を使って大規模な円キャリートレードを行った。 4月中旬時点で米国の2年国債の流通利回りは約5%だった。一方、わが国の2年金利は、3月のマイナス金利政策解除で幾分か上昇したものの0.3%程度だった。円で資金を調達して米ドルに換える、ドル資金を用いて米国の短期国債を購入するなどして、主要投資家は高い利得を追求できる。そうした取引が連鎖的に増え、円売りに拍車がかかった。米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、4月23日時点で、為替先物を使った円売りの水準は18万4180枚だった。06年以降の最高水準である。 また、豊富な円資金の一部は、24年から始まった新NISAをきっかけに海外に流出した。他方、海外の金融・経済の専門家の間では「今回の通貨危機的な円安は、日本政府の自業自得」との指摘もある。それほど1990年以降の、わが国の緩和に緩和を重ねた金融政策は、円の減価圧力を高めた』、「4月23日時点で、為替先物を使った円売りの水準は18万4180枚だった。06年以降の最高水準である。 また、豊富な円資金の一部は、24年から始まった新NISAをきっかけに海外に流出した。他方、海外の金融・経済の専門家の間では「今回の通貨危機的な円安は、日本政府の自業自得」との指摘も」、なるほど。
・『円安を改善するのに必要不可欠なのは実力を高め「金利のある経済」に戻すこと わが国が金融緩和の強化を重ねることが必要な背景に、経済の実力(潜在成長率)の低下がある。世界のGDPに占める、わが国のシェアの推移を確認すると一目瞭然だ。内閣府によると、世界のGDPに占める日本の割合は1980年に9.8%だった。95年には17.6%まで高まった。2010年に8.5%、足元では4%程度に落ち込んだ。 日本銀行が公表している潜在成長率の推移を確認すると、1990年時点でわが国の潜在成長率は4.0%を上回っていた。それがバブル崩壊後、時間の経過とともに低迷した。2020年度後半(20年10月~21年3月)はコロナ禍の発生もあり0.22%にまで低下した。 その後は徐々に持ち直し、23年10~12月期は0.68%と推計されたものの、1%後半から2%代前半との見方の多い米国との経済の実力の差は大きい。IMF(国際通貨基金)によると25年、インドはわが国を追い抜き、世界第4位に浮上する見通しだ。 わが国の潜在成長率の低下の要因は、バブル崩壊後の経済状況にあるだろう。急速な資産価格の下落と、景気悪化に直面したわが国の企業は成長よりも「守り」を優先した。また、政府による不良債権処理も遅れた。1997年度までは公共事業関係費の積み増しで景気を下支えしたが、IT先端分野など成長期待の高い分野へ経営資源を再配分することが遅れた。 国内の多くの企業が、人材をはじめとしたコスト削減に走り設備投資も縮小した。一方、労働者サイドは、年功序列や終身雇用などの雇用慣行の維持を経営陣に求めた。こうして日本の労働市場では、成長期待の高い分野や企業にヒト・モノ・カネが再配分されにくくなった。 日本企業から高価格帯の新しい製品やサービスを生み出す機会が少ないこともあって、賃金は伸び悩んでいる。OECD(経済協力開発機構)のデータによると、1991年~2022年の間、OECD加盟国の平均賃金(年間)は32.5%上昇したが、わが国は2.8%にとどまった(22年の購買力平価ベースの米ドル基準)。 中東情勢の緊迫化や異常気象による農作物の生育不良、米中対立などさまざまなリスクを考えると、今後、世界的に物価は高止まりする恐れがある。日本経済の実力回復が遅れると、「円売り圧力」が続く可能性は高い。経済の実力を高め、金利のある経済状況に戻すことこそ、通貨危機的と言われかねない円安の状況を改善するのに必要不可欠である』、「今後、世界的に物価は高止まりする恐れがある。日本経済の実力回復が遅れると、「円売り圧力」が続く可能性は高い。経済の実力を高め、金利のある経済状況に戻すことこそ、通貨危機的と言われかねない円安の状況を改善するのに必要不可欠である」、なるほど。
次に、6月13日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「日米金利差やデジタル赤字だけではない“異常な円安”の「真の原因」」を紹介しよう』。
https://diamond.jp/articles/-/345316
・『市場は注目、日銀6月会合の追加利上げ 金利差だけが円安の要因なのか? 歴史的な円安局面が続くなかで、6月11日、12日のFOMC(米連邦公開市場委員会)とそれに続いて13日から始まる日本銀行の金融政策決定会合に市場の注目が集まっている。 市場の関心はFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ実施と日銀の追加利上げの見通しだ。 円ドルレートの今後を考える際に日米の金利差の動向が重要であることは間違いがない。一方で最近の円安は日米の金利差だけでなく、「デジタル赤字」に象徴される日本経済の構造に問題があるとする見方もある。 どちらも間違いではないが、最近の異常な円安の原因を十分に説明することにはなっていない。 なぜなら、ほかに「真の原因」があるからだ』、「円ドルレートの今後を考える際に日米の金利差の動向が重要であることは間違いがない。一方で最近の円安は日米の金利差だけでなく、「デジタル赤字」に象徴される日本経済の構造に問題があるとする見方もある。 どちらも間違いではないが、最近の異常な円安の原因を十分に説明することにはなっていない。 なぜなら、ほかに「真の原因」があるからだ」、なるほど。
・『デジタル赤字の直接の影響はない 1日の日本円取引191兆円、圧倒的な投機資金 為替レートは、各国間の金利差によって決まると言われる。日米間について言えば、その理由は次の通りだ。 日本の金利がアメリカの金利より低ければ、日本円で資金調達して、これをドルに変換し、ドル資産に投資すれば、金利差に相当する利益を得られる。この取引は円を売りドルを買う取引なので、円安が進む(正確に言うと、金利差があり、しかも将来円高にならないという見通しが必要だ。なぜなら、金利差があっても将来、大幅に円高になれば、金利差による利益は吹き飛んでしまうからだ)。 日米の10年債利回りを比較すると、2020年から21年には、日本もアメリカもほぼ0%でほとんど差がなかった。(為替レートに影響するのは2年債利回りだと言われるが、ここでは便宜上、10年債利回りを取る)。 ところが、22年4月から23年7月までの期間にFRB(米連邦準備制度理事会)が政策金利を引き上げた。その結果、10年債の利回りは、24年6月には日本は約1%、アメリカは約4.5%となり、金利差が約3.5%に開いている 仮に金利差の拡大だけが円安の原因であるとすれば、日米の金融政策によって為替レートを元の水準に戻すことは可能だ。 つまり、アメリカが金利を引き下げ、日本が金利を引き上げ、金利差を20年頃の状態に戻せば、為替レートも20年から21年の水準(1ドル=105円から110円程度)に戻るだろう(正確に言うと、この期間の物価上昇率が両国で異なるので、その分を調整する必要がある)。 しかし、最近時点の円安はあまりに異常だ。そこで金利差だけではなく、日米経済の構造的な劣化が影響しているのではないかという考えがある。この考えが正しければ、金融政策だけでは、いまの異常な円安を元に戻すことはできない。 例えば、デジタル関連のサービス収支の赤字が膨らんでいるのは、日本におけるデジタル化の遅れを示すものであり、簡単には解決できない。このため、サービス収支の赤字は減らすことができず、そのために円安になるという考えがある。 確かにデジタル赤字の拡大は問題だ。しかし、これが円安の原因だとは考えられない。なぜなら、赤字額が金融取引額に比べて、比較にならないほど少ないからだ。 投機筋は自己資金の何倍もの短期の借り入れを行い、投資総額を増やして投資する。投機資金は借入れによって資金を調達できるので、額が実需とは比較にならないほど巨額になりうる。 このため、外国為替市場では、貿易などの実需ではなく、投機資金の動きによって為替レートが決まるのだ。 国際決済銀行(BIS)の調査によると、世界の外国為替取引高は1日当たりの平均7兆5000億ドルだ。このうち日本円は約17%だ。だから1.28兆ドルだ。1ドル=150円で換算すると191兆円になる。 これに対してデジタル赤字額は、23年度に約5.6兆円だった。これは年間の数字であり、1日の数字に直せば平均して156億円ということになる。これは、上で見た外国為替取引高に比べて極めて小さい。 「新NISA(少額投資非課税制度)の導入によって、投資資金の海外流出が増え、円安を加速している」という見方についても、投機資金の規模に比べると極めて少ないので、同様の評価をすることができる。 このように、通常、指摘される構造要因は、いまの円安の直接的な原因とは考えられない。 円安は22年以降の2年間で急速に進んだ。それまでは1ドルは105円から110円程度の水準だったのが、いまは160円近くになっているのだから、円の価値が3割以上低下したことになる。日本経済の構造的悪化が進んでいるのは事実だが、2年の間に円の価値をこれほど落とすほど急激な構造変化が起きたとは考えにくい』、「円安は22年以降の2年間で急速に進んだ。それまでは1ドルは105円から110円程度の水準だったのが、いまは160円近くになっているのだから、円の価値が3割以上低下したことになる。日本経済の構造的悪化が進んでいるのは事実だが、2年の間に円の価値をこれほど落とすほど急激な構造変化が起きたとは考えにくい」、その通りだ。
・『日本では金利を上げられない 経済の弱さが金融政策の自由度縛る ただし、別の観点から、円安が進む日本の構造を問題視することができる。それは、金融政策に関して強い制約がかかっているため、金融政策の自由度が低くなっていることだ。 仮にいまの日本で、金利をアメリカ並みの水準に引き上げれば、大混乱が起きるだろう。住宅ローンが高騰したり、ゾンビ企業が借入金を返済できなくなって破綻したりするだろう。また国債を発行して財政資金を調達するのも困難になる。 最も大きなものは、株価への影響だ。株価は将来の利益の割引現在値だから、将来の利益が一定であり、かつリスクプレミアムを無視すれば、株価収益率の逆数(=利益÷株価)は利子率と等しくなる。したがって、利子率が上昇すれば株価は下落する。 では、アメリカで、株価は利上げに対してどのように変化したか?株価をダウ平均値で見ると次の通りだ。 上昇を続けていたダウ平均株価は、2021年末にピークになり、22年までは低下した。しかし、暴落というほどの下落ではなかった。そして、22年10月初めをボトムとして、その後は上昇基調になり、23年10月からは明確に上昇した。 22年9月には、10年債利回りもピークになり、その後はほぼ一定。そして24年になってから再び上昇した。 利子率の変動に応じて株価は変動したのだが、24年以降の株価は22年のピークよりも高くなっている。 このように、アメリカの株価は利上げの影響を受けたが、暴落というような事態にはならず、総じて堅調に推移した。 つまり、アメリカの株価は、金利の大幅な上昇に対して大暴落には至らない耐性を持っていたと考えることができる。つまり、経済が強いために大幅な金利引き上げが可能なのだ。 しかし、いま日本で長期金利を4%にするような金融引き締めを行なえば、株価は大暴落するだろう。だから、そのような利上げを、為替レートを円高にするために行うことは難しい。このような意味で経済の弱さが金融政策の自由度を引き下げているということができる』、「アメリカの株価は、金利の大幅な上昇に対して大暴落には至らない耐性を持っていたと考えることができる。つまり、経済が強いために大幅な金利引き上げが可能なのだ。 しかし、いま日本で長期金利を4%にするような金融引き締めを行なえば、株価は大暴落するだろう。だから、そのような利上げを、為替レートを円高にするために行うことは難しい。このような意味で経済の弱さが金融政策の自由度を引き下げている」、なるほど。
・『政治的に不人気の金融引き締め 日銀の独立性、確保されていない!? 利上げを行なったのは、FRBだけではない。イングランド銀行も利上げを行った。ヨーロッパ中央銀行もそうだ。 この結果、ポンドやユーロは、2022年にはドルに対して減価したが、現在では20年頃の水準に戻っている。円レートが2000年頃より大幅に減価したままであるのとは大きな違いだ。 イングランド銀行は22年に、当時のトラス内閣が財源の裏付けのない減税案を提案してポンドが急落した時、国債の買い支えをごく限定的にしか行なわなかった。このため、トラス内閣は減税案の撤回に追い込まれ、その後、トラス首相が辞任した。このように、内閣を潰してさえ、ポンドの価値を維持しようとしたのだ。 つまり、以上の国々では、インフレ退治や通貨価値維持のために、政治的には人気のない金融引き締めを行うことができた。しかし、日本で同じような引き締めを行おうとしても、経済がそれに耐えられないため、実行できない。 このような違いこそが、構造上の最も大きな違いであり、そして、異常な円安をもたらした真の原因と考えることができる』、「以上の国々では、インフレ退治や通貨価値維持のために、政治的には人気のない金融引き締めを行うことができた。しかし、日本で同じような引き締めを行おうとしても、経済がそれに耐えられないため、実行できない。 このような違いこそが、構造上の最も大きな違いであり、そして、異常な円安をもたらした真の原因と考えることができる」、その通りである。
先ずは、本年5月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「通貨危機級の円安は日本の “自業自得”、悪いのは日銀だけか?」を紹介しよう。
・『これほどまでの円安は、わが国の経済政策の“自業自得”といえるかもしれない。海外の一部の専門家からは、「通貨危機的円安」と言われる状況に陥っている。過度な円安を止めるには、いったいどうしたらいいのか』、興味深そうだ。
・『円安は日本の経済政策の「自業自得」 海外から「通貨危機的円安」と言われる状況に 円安傾向が一段と鮮明化している。4月29日、160円24銭までドル高・円安が進行する場面もあった。その後、覆面介入とみられる動きなどから円は対ドルで反発したが、年初から5月3日までに、円はドルに対して8.5%下落した。海外の一部の専門家からは、「通貨危機的円安」と言われる状況に陥っている』、「通貨危機的円安」とはただ事ではない。
・『通貨危機級の円安は日本の “自業自得”、悪いのは日銀だけか? 円安と、世界的な資源や食料品価格の上昇で、わが国では必要な資材の輸入が難しくなるケースも出始めている。オレンジの不作と円安が影響し、ジュースの材料を輸入できなくなる飲料メーカーも出ているという。果汁在庫がなくなり次第、販売を休止するようだ。円安の影響は、私たちの日常生活にも影響を及ぼし始めている。 円安の進行について、重要なポイントとなるのはわが国の金融政策である。1990年代初頭以降、日本経済の実力が低下したことは残念ながら顕著だ。景気低迷を金融緩和で支える経済政策によって、これまでの常識を超える大規模な金融緩和に拍車がかかった。 わが国の金利は極度に低い状況が続いている。円資金も必要以上に潤沢に供給された。それに対して、2022年3月以降、米国で急速に金利が上昇した。こうして主要投資家にとって、潤沢で金利の安い円を借りて、それをドルに換えて運用する「円キャリートレード」の妙味は高まった。また、日本企業や個人投資家が、成長期待の高い米国株などに資金を投じたことで、国内からの資金流出が勢いづいた点もある。 これほどまでの円安は、わが国の経済政策の“自業自得”といえるかもしれない。過度な円安を止めるには、いったいどうしたらいいのか』、「主要投資家にとって、潤沢で金利の安い円を借りて、それをドルに換えて運用する「円キャリートレード」の妙味は高まった。また、日本企業や個人投資家が、成長期待の高い米国株などに資金を投じたことで、国内からの資金流出が勢いづいた点もある。 これほどまでの円安は、わが国の経済政策の“自業自得”といえるかもしれない。過度な円安を止めるには、いったいどうしたらいいのか」、なるほど。
・『オレンジジュース、オリーブオイル、チョコレート… 円安で食料品や必要な資源の輸入が難しくなる 4月後半、予想を上回る米国経済指標の発表や、日本銀行の円安を容認するとも受け取れる発言もあったことから、34年ぶりの水準まで円安は進行した。 通貨危機級の円安は日本の “自業自得”、悪いのは日銀だけか?(食料やエネルギー資源を輸入に頼るわが国にとって、円安の進行は原材料コストの上昇要因になる。典型例の一つが、国内飲料メーカーによるオレンジジュースの販売休止だ。ブラジルなどで異常気象によりオレンジ果汁の供給が減少し、年初来で、オレンジジュース先物の価格は2割程度上昇した。 わが国のオレンジジュースの約9割は輸入品とみられ、円安で国内メーカーの原材料調達コストは膨れた。オレンジジュースの値上げに踏み切る、あるいは国産ミカンでの代替を検討する企業が増えている。 ただ、そうした取り組みにも限界がある。食料や日用品の価格上昇率は「名目賃金」を上回り、3月まで24カ月続けて「実質賃金」は前年同月比でマイナスだ。オリーブオイルやチョコレートも世界的な相場上昇と円安によって、国内での小売価格が上昇傾向にある。 世界的な供給の不安定化を背景に、モノやサービスの価格は上昇が続いている。加えて、円安が進行し、わが国の輸入物価の上昇圧力は再び高まっている。日本企業にとって、一部の資材では量を確保することが相当な困難となっている』、「世界的な供給の不安定化を背景に、モノやサービスの価格は上昇が続いている。加えて、円安が進行し、わが国の輸入物価の上昇圧力は再び高まっている。日本企業にとって、一部の資材では量を確保することが相当な困難となっている」、なるほど。
・『海外の投資家にとって円金利の低さ 潤沢さは見逃せない収益チャンスに 1990年代初めに資産バブルが崩壊して以降、わが国では事実上、ゼロ金利の環境が続いた。2013年以降は、“アベノミクス”により異次元の緩和策が強化された。日銀は国債流通市場から長期国債を大規模に買い入れ、大規模に通貨供給量を増やした。 16年2月から、日銀はマイナス金利政策も実施し、極端に金利が低い環境が出現した。そうして21年春先以降、世界的に物価の上昇が鮮明になっても、わが国は異次元の緩和を継続し、多額の資金供給を継続してきた。 現在、GDP比で見た通貨供給量(マネーストック)は約2倍と、主要先進国の中でも圧倒的に高い。つまり、国内の円資金が有り余っている。米FRBは物価安定のための利上げに加えて量的な引き締め(QT)を実施したが、わが国の金融政策はそこまで至っていない。主要中央銀行のバランスシート規模(対名目GDP比)に関して、日銀は約120%に達した。この水準は米FRB、英国のBOE、欧州のECBを上回る。 海外の投資家にとって円金利の世界的な低さ、潤沢さは見逃せない収益チャンスとなっている。ヘッジファンドなどの主要投資家は、日米の金利差を使って大規模な円キャリートレードを行った。 4月中旬時点で米国の2年国債の流通利回りは約5%だった。一方、わが国の2年金利は、3月のマイナス金利政策解除で幾分か上昇したものの0.3%程度だった。円で資金を調達して米ドルに換える、ドル資金を用いて米国の短期国債を購入するなどして、主要投資家は高い利得を追求できる。そうした取引が連鎖的に増え、円売りに拍車がかかった。米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、4月23日時点で、為替先物を使った円売りの水準は18万4180枚だった。06年以降の最高水準である。 また、豊富な円資金の一部は、24年から始まった新NISAをきっかけに海外に流出した。他方、海外の金融・経済の専門家の間では「今回の通貨危機的な円安は、日本政府の自業自得」との指摘もある。それほど1990年以降の、わが国の緩和に緩和を重ねた金融政策は、円の減価圧力を高めた』、「4月23日時点で、為替先物を使った円売りの水準は18万4180枚だった。06年以降の最高水準である。 また、豊富な円資金の一部は、24年から始まった新NISAをきっかけに海外に流出した。他方、海外の金融・経済の専門家の間では「今回の通貨危機的な円安は、日本政府の自業自得」との指摘も」、なるほど。
・『円安を改善するのに必要不可欠なのは実力を高め「金利のある経済」に戻すこと わが国が金融緩和の強化を重ねることが必要な背景に、経済の実力(潜在成長率)の低下がある。世界のGDPに占める、わが国のシェアの推移を確認すると一目瞭然だ。内閣府によると、世界のGDPに占める日本の割合は1980年に9.8%だった。95年には17.6%まで高まった。2010年に8.5%、足元では4%程度に落ち込んだ。 日本銀行が公表している潜在成長率の推移を確認すると、1990年時点でわが国の潜在成長率は4.0%を上回っていた。それがバブル崩壊後、時間の経過とともに低迷した。2020年度後半(20年10月~21年3月)はコロナ禍の発生もあり0.22%にまで低下した。 その後は徐々に持ち直し、23年10~12月期は0.68%と推計されたものの、1%後半から2%代前半との見方の多い米国との経済の実力の差は大きい。IMF(国際通貨基金)によると25年、インドはわが国を追い抜き、世界第4位に浮上する見通しだ。 わが国の潜在成長率の低下の要因は、バブル崩壊後の経済状況にあるだろう。急速な資産価格の下落と、景気悪化に直面したわが国の企業は成長よりも「守り」を優先した。また、政府による不良債権処理も遅れた。1997年度までは公共事業関係費の積み増しで景気を下支えしたが、IT先端分野など成長期待の高い分野へ経営資源を再配分することが遅れた。 国内の多くの企業が、人材をはじめとしたコスト削減に走り設備投資も縮小した。一方、労働者サイドは、年功序列や終身雇用などの雇用慣行の維持を経営陣に求めた。こうして日本の労働市場では、成長期待の高い分野や企業にヒト・モノ・カネが再配分されにくくなった。 日本企業から高価格帯の新しい製品やサービスを生み出す機会が少ないこともあって、賃金は伸び悩んでいる。OECD(経済協力開発機構)のデータによると、1991年~2022年の間、OECD加盟国の平均賃金(年間)は32.5%上昇したが、わが国は2.8%にとどまった(22年の購買力平価ベースの米ドル基準)。 中東情勢の緊迫化や異常気象による農作物の生育不良、米中対立などさまざまなリスクを考えると、今後、世界的に物価は高止まりする恐れがある。日本経済の実力回復が遅れると、「円売り圧力」が続く可能性は高い。経済の実力を高め、金利のある経済状況に戻すことこそ、通貨危機的と言われかねない円安の状況を改善するのに必要不可欠である』、「今後、世界的に物価は高止まりする恐れがある。日本経済の実力回復が遅れると、「円売り圧力」が続く可能性は高い。経済の実力を高め、金利のある経済状況に戻すことこそ、通貨危機的と言われかねない円安の状況を改善するのに必要不可欠である」、なるほど。
次に、6月13日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「日米金利差やデジタル赤字だけではない“異常な円安”の「真の原因」」を紹介しよう』。
https://diamond.jp/articles/-/345316
・『市場は注目、日銀6月会合の追加利上げ 金利差だけが円安の要因なのか? 歴史的な円安局面が続くなかで、6月11日、12日のFOMC(米連邦公開市場委員会)とそれに続いて13日から始まる日本銀行の金融政策決定会合に市場の注目が集まっている。 市場の関心はFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ実施と日銀の追加利上げの見通しだ。 円ドルレートの今後を考える際に日米の金利差の動向が重要であることは間違いがない。一方で最近の円安は日米の金利差だけでなく、「デジタル赤字」に象徴される日本経済の構造に問題があるとする見方もある。 どちらも間違いではないが、最近の異常な円安の原因を十分に説明することにはなっていない。 なぜなら、ほかに「真の原因」があるからだ』、「円ドルレートの今後を考える際に日米の金利差の動向が重要であることは間違いがない。一方で最近の円安は日米の金利差だけでなく、「デジタル赤字」に象徴される日本経済の構造に問題があるとする見方もある。 どちらも間違いではないが、最近の異常な円安の原因を十分に説明することにはなっていない。 なぜなら、ほかに「真の原因」があるからだ」、なるほど。
・『デジタル赤字の直接の影響はない 1日の日本円取引191兆円、圧倒的な投機資金 為替レートは、各国間の金利差によって決まると言われる。日米間について言えば、その理由は次の通りだ。 日本の金利がアメリカの金利より低ければ、日本円で資金調達して、これをドルに変換し、ドル資産に投資すれば、金利差に相当する利益を得られる。この取引は円を売りドルを買う取引なので、円安が進む(正確に言うと、金利差があり、しかも将来円高にならないという見通しが必要だ。なぜなら、金利差があっても将来、大幅に円高になれば、金利差による利益は吹き飛んでしまうからだ)。 日米の10年債利回りを比較すると、2020年から21年には、日本もアメリカもほぼ0%でほとんど差がなかった。(為替レートに影響するのは2年債利回りだと言われるが、ここでは便宜上、10年債利回りを取る)。 ところが、22年4月から23年7月までの期間にFRB(米連邦準備制度理事会)が政策金利を引き上げた。その結果、10年債の利回りは、24年6月には日本は約1%、アメリカは約4.5%となり、金利差が約3.5%に開いている 仮に金利差の拡大だけが円安の原因であるとすれば、日米の金融政策によって為替レートを元の水準に戻すことは可能だ。 つまり、アメリカが金利を引き下げ、日本が金利を引き上げ、金利差を20年頃の状態に戻せば、為替レートも20年から21年の水準(1ドル=105円から110円程度)に戻るだろう(正確に言うと、この期間の物価上昇率が両国で異なるので、その分を調整する必要がある)。 しかし、最近時点の円安はあまりに異常だ。そこで金利差だけではなく、日米経済の構造的な劣化が影響しているのではないかという考えがある。この考えが正しければ、金融政策だけでは、いまの異常な円安を元に戻すことはできない。 例えば、デジタル関連のサービス収支の赤字が膨らんでいるのは、日本におけるデジタル化の遅れを示すものであり、簡単には解決できない。このため、サービス収支の赤字は減らすことができず、そのために円安になるという考えがある。 確かにデジタル赤字の拡大は問題だ。しかし、これが円安の原因だとは考えられない。なぜなら、赤字額が金融取引額に比べて、比較にならないほど少ないからだ。 投機筋は自己資金の何倍もの短期の借り入れを行い、投資総額を増やして投資する。投機資金は借入れによって資金を調達できるので、額が実需とは比較にならないほど巨額になりうる。 このため、外国為替市場では、貿易などの実需ではなく、投機資金の動きによって為替レートが決まるのだ。 国際決済銀行(BIS)の調査によると、世界の外国為替取引高は1日当たりの平均7兆5000億ドルだ。このうち日本円は約17%だ。だから1.28兆ドルだ。1ドル=150円で換算すると191兆円になる。 これに対してデジタル赤字額は、23年度に約5.6兆円だった。これは年間の数字であり、1日の数字に直せば平均して156億円ということになる。これは、上で見た外国為替取引高に比べて極めて小さい。 「新NISA(少額投資非課税制度)の導入によって、投資資金の海外流出が増え、円安を加速している」という見方についても、投機資金の規模に比べると極めて少ないので、同様の評価をすることができる。 このように、通常、指摘される構造要因は、いまの円安の直接的な原因とは考えられない。 円安は22年以降の2年間で急速に進んだ。それまでは1ドルは105円から110円程度の水準だったのが、いまは160円近くになっているのだから、円の価値が3割以上低下したことになる。日本経済の構造的悪化が進んでいるのは事実だが、2年の間に円の価値をこれほど落とすほど急激な構造変化が起きたとは考えにくい』、「円安は22年以降の2年間で急速に進んだ。それまでは1ドルは105円から110円程度の水準だったのが、いまは160円近くになっているのだから、円の価値が3割以上低下したことになる。日本経済の構造的悪化が進んでいるのは事実だが、2年の間に円の価値をこれほど落とすほど急激な構造変化が起きたとは考えにくい」、その通りだ。
・『日本では金利を上げられない 経済の弱さが金融政策の自由度縛る ただし、別の観点から、円安が進む日本の構造を問題視することができる。それは、金融政策に関して強い制約がかかっているため、金融政策の自由度が低くなっていることだ。 仮にいまの日本で、金利をアメリカ並みの水準に引き上げれば、大混乱が起きるだろう。住宅ローンが高騰したり、ゾンビ企業が借入金を返済できなくなって破綻したりするだろう。また国債を発行して財政資金を調達するのも困難になる。 最も大きなものは、株価への影響だ。株価は将来の利益の割引現在値だから、将来の利益が一定であり、かつリスクプレミアムを無視すれば、株価収益率の逆数(=利益÷株価)は利子率と等しくなる。したがって、利子率が上昇すれば株価は下落する。 では、アメリカで、株価は利上げに対してどのように変化したか?株価をダウ平均値で見ると次の通りだ。 上昇を続けていたダウ平均株価は、2021年末にピークになり、22年までは低下した。しかし、暴落というほどの下落ではなかった。そして、22年10月初めをボトムとして、その後は上昇基調になり、23年10月からは明確に上昇した。 22年9月には、10年債利回りもピークになり、その後はほぼ一定。そして24年になってから再び上昇した。 利子率の変動に応じて株価は変動したのだが、24年以降の株価は22年のピークよりも高くなっている。 このように、アメリカの株価は利上げの影響を受けたが、暴落というような事態にはならず、総じて堅調に推移した。 つまり、アメリカの株価は、金利の大幅な上昇に対して大暴落には至らない耐性を持っていたと考えることができる。つまり、経済が強いために大幅な金利引き上げが可能なのだ。 しかし、いま日本で長期金利を4%にするような金融引き締めを行なえば、株価は大暴落するだろう。だから、そのような利上げを、為替レートを円高にするために行うことは難しい。このような意味で経済の弱さが金融政策の自由度を引き下げているということができる』、「アメリカの株価は、金利の大幅な上昇に対して大暴落には至らない耐性を持っていたと考えることができる。つまり、経済が強いために大幅な金利引き上げが可能なのだ。 しかし、いま日本で長期金利を4%にするような金融引き締めを行なえば、株価は大暴落するだろう。だから、そのような利上げを、為替レートを円高にするために行うことは難しい。このような意味で経済の弱さが金融政策の自由度を引き下げている」、なるほど。
・『政治的に不人気の金融引き締め 日銀の独立性、確保されていない!? 利上げを行なったのは、FRBだけではない。イングランド銀行も利上げを行った。ヨーロッパ中央銀行もそうだ。 この結果、ポンドやユーロは、2022年にはドルに対して減価したが、現在では20年頃の水準に戻っている。円レートが2000年頃より大幅に減価したままであるのとは大きな違いだ。 イングランド銀行は22年に、当時のトラス内閣が財源の裏付けのない減税案を提案してポンドが急落した時、国債の買い支えをごく限定的にしか行なわなかった。このため、トラス内閣は減税案の撤回に追い込まれ、その後、トラス首相が辞任した。このように、内閣を潰してさえ、ポンドの価値を維持しようとしたのだ。 つまり、以上の国々では、インフレ退治や通貨価値維持のために、政治的には人気のない金融引き締めを行うことができた。しかし、日本で同じような引き締めを行おうとしても、経済がそれに耐えられないため、実行できない。 このような違いこそが、構造上の最も大きな違いであり、そして、異常な円安をもたらした真の原因と考えることができる』、「以上の国々では、インフレ退治や通貨価値維持のために、政治的には人気のない金融引き締めを行うことができた。しかし、日本で同じような引き締めを行おうとしても、経済がそれに耐えられないため、実行できない。 このような違いこそが、構造上の最も大きな違いであり、そして、異常な円安をもたらした真の原因と考えることができる」、その通りである。
タグ:株式・為替相場 (その22)(通貨危機級の円安は日本の “自業自得” 悪いのは日銀だけか?、日米金利差やデジタル赤字だけではない“異常な円安”の「真の原因」) ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫氏による「通貨危機級の円安は日本の “自業自得”、悪いのは日銀だけか?」 「通貨危機的円安」とはただ事ではない。 「主要投資家にとって、潤沢で金利の安い円を借りて、それをドルに換えて運用する「円キャリートレード」の妙味は高まった。また、日本企業や個人投資家が、成長期待の高い米国株などに資金を投じたことで、国内からの資金流出が勢いづいた点もある。 これほどまでの円安は、わが国の経済政策の“自業自得”といえるかもしれない。過度な円安を止めるには、いったいどうしたらいいのか」、なるほど。 「世界的な供給の不安定化を背景に、モノやサービスの価格は上昇が続いている。加えて、円安が進行し、わが国の輸入物価の上昇圧力は再び高まっている。日本企業にとって、一部の資材では量を確保することが相当な困難となっている」、なるほど。 「4月23日時点で、為替先物を使った円売りの水準は18万4180枚だった。06年以降の最高水準である。 また、豊富な円資金の一部は、24年から始まった新NISAをきっかけに海外に流出した。他方、海外の金融・経済の専門家の間では「今回の通貨危機的な円安は、日本政府の自業自得」との指摘も」、なるほど。 「今後、世界的に物価は高止まりする恐れがある。日本経済の実力回復が遅れると、「円売り圧力」が続く可能性は高い。経済の実力を高め、金利のある経済状況に戻すことこそ、通貨危機的と言われかねない円安の状況を改善するのに必要不可欠である」、なるほど。 野口悠紀雄氏による「日米金利差やデジタル赤字だけではない“異常な円安”の「真の原因」」 「円ドルレートの今後を考える際に日米の金利差の動向が重要であることは間違いがない。一方で最近の円安は日米の金利差だけでなく、「デジタル赤字」に象徴される日本経済の構造に問題があるとする見方もある。 どちらも間違いではないが、最近の異常な円安の原因を十分に説明することにはなっていない。 なぜなら、ほかに「真の原因」があるからだ」、なるほど。 「円安は22年以降の2年間で急速に進んだ。それまでは1ドルは105円から110円程度の水準だったのが、いまは160円近くになっているのだから、円の価値が3割以上低下したことになる。日本経済の構造的悪化が進んでいるのは事実だが、2年の間に円の価値をこれほど落とすほど急激な構造変化が起きたとは考えにくい」、その通りだ。 「アメリカの株価は、金利の大幅な上昇に対して大暴落には至らない耐性を持っていたと考えることができる。つまり、経済が強いために大幅な金利引き上げが可能なのだ。 しかし、いま日本で長期金利を4%にするような金融引き締めを行なえば、株価は大暴落するだろう。だから、そのような利上げを、為替レートを円高にするために行うことは難しい。このような意味で経済の弱さが金融政策の自由度を引き下げている」、なるほど。 「以上の国々では、インフレ退治や通貨価値維持のために、政治的には人気のない金融引き締めを行うことができた。しかし、日本で同じような引き締めを行おうとしても、経済がそれに耐えられないため、実行できない。 このような違いこそが、構造上の最も大きな違いであり、そして、異常な円安をもたらした真の原因と考えることができる」、その通りである。
金融業界(その21)(りそなHDと十六FG 業務提携に持たせた「含み」 資本提携に向けての協議も検討、落とし所は?、半沢直樹と花咲舞の意外な誕生秘話「登場人物が何を言うのかは…」池井戸潤氏が明かした創作の真髄とは?) [金融]
金融業界については、本年1月8日に取上げた。今日は、(その21)(りそなHDと十六FG 業務提携に持たせた「含み」 資本提携に向けての協議も検討、落とし所は?、半沢直樹と花咲舞の意外な誕生秘話「登場人物が何を言うのかは…」池井戸潤氏が明かした創作の真髄とは?)である。
先ずは、本年2月22日付け東洋経済オンライン「りそなHDと十六FG、業務提携に持たせた「含み」 資本提携に向けての協議も検討、落とし所は?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/735795
・『りそな銀行を中核とするりそなホールディングス(HD)と、岐阜県地盤の地方銀行十六フィナンシャルグループ(FG)は2月7日、リテール分野での業務提携を締結した。融資や資産運用、デジタル化、人材育成に至るまで幅広い協業を視野に入れる。 「競争力のある提携関係にしていきたい」(りそなHDの南昌宏社長)、「(りそなHDの)リテールナンバーワンの取り組みに共感した」(十六FGの池田直樹社長)。同日に開いた会見で、両トップは業務提携の意義について語った。 ▽りそなは全国の地銀との携提を進める(りそなは全国の地銀と提携を深めている。 「茨城県の常陽銀行や栃木県の足利銀行のほか、香川県の百十四銀行には、りそなが開発した銀行アプリを提供。横浜銀行と宮城県の七十七銀行にはファンドラップ(ラップ口座の一形態)の代理店契約を交わし、千葉県の京葉銀行ともデジタル分野を中心に協力関係にある。 十六との提携も、一見すると過去の提携事例と同様に映る。だが、今回はある「含み」を持たせた。 金融関係者によれば、提携話が浮上したきっかけは2022年中頃。金融機関との連携を推進する、りそな金融法人室の担当者が、十六を訪問したことだ。 目下はデジタル分野での提携が先行する反面、資本提携については、まだ実現していない。とはいえ、りそなが2023年に公表した中期経営計画では、出資先の一例に「地域金融機関、異業種等」と明記し、その意志を明確にしている。 仮にりそなと十六が資本提携するとなれば、焦点となるのは出資比率だ。 この点、昨今のりそなは「余剰資本の活用」を掲げ、大胆な投資を繰り広げている。2024年1月には持分法適用会社だったリース2社を子会社化。資本提携関係にあるデジタルガレージへの出資比率についても、2024年内をメドに2%(2023年12月時点)から12%まで引き上げる。 金融機関に対しても、数%の出資にとどまらない可能性がある。 「持分法適用会社にして、収益を取り込むことも選択肢だ」。りそなの南社長は2023年に実施した東洋経済の取材に対して、「あくまで相手先の意向次第」と前置きしつつ、金融機関との資本提携について意欲を示した。 一般に持分法適用会社は、議決権所有比率が20%以上50%以下の出資先に適用される』、「昨今のりそなは「余剰資本の活用」を掲げ、大胆な投資を繰り広げている。2024年1月には持分法適用会社だったリース2社を子会社化。資本提携関係にあるデジタルガレージへの出資比率についても、2024年内をメドに2%(2023年12月時点)から12%まで引き上げる。 金融機関に対しても、数%の出資にとどまらない可能性がある」、なるほど。
・『地銀出資への「布石」か すでにりそなは、地銀出資の「布石」とも映る行動に出ている。現在のグループの資本構成は、りそな銀行と埼玉りそな銀行はホールディングス直下、関西みらい銀行とみなと銀行は中間持ち株会社である「関西みらいフィナンシャルグループ(FG)」の傘下にある。 りそなは2024年4月に、関西みらいFGを吸収合併する予定だ。関西みらい銀行とみなと銀行は、りそな銀行、埼玉りそな銀行と並列する形になる。 全銀行をホールディングスに並列でぶら下げる理由として、りそなはグループの意思決定迅速化を理由に挙げる。一方、見方によっては新たな銀行との資本提携や、場合によっては将来のグループ入りを進めやすくすることを視野に入れた動きにも映る。 この点、十六は中京圏の地銀としては最大規模かつ、名古屋市内にも強固な営業網を誇る。十六の大株主には三菱UFJフィナンシャル・グループが存在するが、同社は政策保有株式の縮減を急いでおり、りそなが受け皿となれれば好都合だ。りそなと十六が結びつきを強めれば、東名阪を股にかける巨大銀行グループが誕生することになる。 むろん、資本提携の落としどころは不透明だ。会見で、りそな傘下に入る余地を問われた十六FGの池田社長は、「ささやかなプライドだが、創業以来同じ名前を掲げる銀行としては、(現存する中では)最古だ」と独立の矜持をあらわにし、経営統合への慎重姿勢をにじませた。 両社の協議の結果、少額出資や株式の持ち合い、あるいは現状の業務提携にとどまる結末もくすぶる。 これまでの地銀の経営統合は、営業エリアが重複する、あるいは隣接する地銀同士で行われていた。りそなという広域な営業圏を誇る銀行グループが核となり、「地縁」がほとんどない者同士でどこまで統合が行われるのか。着地点によっては、地銀再編の歴史に新たなページを刻むことになる。 りそなホールディングスの株価・業績、十六フィナンシャルグループの株価・業績 は「四季報オンライン」で 』、「りそなという広域な営業圏を誇る銀行グループが核となり、「地縁」がほとんどない者同士でどこまで統合が行われるのか。着地点によっては、地銀再編の歴史に新たなページを刻むことになる」、大いに注目される。
次に、6月14日付けダイヤモンド・オンライン「半沢直樹と花咲舞の意外な誕生秘話「登場人物が何を言うのかは…」池井戸潤氏が明かした創作の真髄とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/345403
・『6月8・15日号の「週刊ダイヤモンド」から池井戸潤氏の小説「ブティック」の連載が始まった。主人公は東京中央銀行に勤める雨宮秋都だ。雨宮は花咲舞のように熱い正義感を持ったはねっ返りなのか。半沢直樹のように“ちょい悪”で策略を巡らすのだろうか。これまでの主人公たちの誕生秘話と、池井戸氏が語る創作の真髄をご紹介する』、興味深そうだ。
・『花咲舞と半沢直樹 誕生した意外な理由(社会現象を巻き起こしてきた池井戸潤氏。「週刊ダイヤモンド」2024年6月8・15日号から開始した連載小説「ブティック」を一層楽しむために、これまでの作品を振り返ってみよう。 まず思い浮かぶのは、再びドラマ化された「花咲舞が黙ってない」シリーズだろう。熱い正義感の持ち主である花咲が、銀行の悪事に真正面からぶつかっていく様は爽快だ。 実は池井戸作品の中で唯一の女性主人公で「男性ばかりを主人公にしていたので、今度は女性を描いてみよう」(2017年9月26日号「婦人公論」)と思ったのがきっかけだったという』、日本テレビでの「花咲舞が黙ってない」は今日が最終回だ。
・『花咲舞と半沢直樹が誕生した意外な理由 社会現象を巻き起こしてきた池井戸潤氏。「週刊ダイヤモンド」2024年6月8・15日号から開始した連載小説「ブティック」を一層楽しむために、これまでの作品を振り返ってみよう。 まず思い浮かぶのは、再びドラマ化された「花咲舞が黙ってない」シリーズだろう。熱い正義感の持ち主である花咲が、銀行の悪事に真正面からぶつかっていく様は爽快だ。 実は池井戸作品の中で唯一の女性主人公で「男性ばかりを主人公にしていたので、今度は女性を描いてみよう」(2017年9月26日号「婦人公論」)と思ったのがきっかけだったという。 そして決めぜりふ「倍返し」で流行語大賞を取った「半沢直樹」シリーズ。 池井戸氏は「当時、銀行員が出てくる小説というと『銀行=悪者』という論調のものが殆どでした。貸しはがし、貸し渋りをする悪いところ、というイメージです」「悪い役割だけではない、むしろ銀行マンが主人公になって、市民を助け、活躍する小説があってもいいのではないか、という思いでした」と語る(20年5-6月号「調査情報」)。 威勢のいい毒舌を放ち、“ちょい悪”で策略を巡らせ、圧力を打ち負かす痛快な半沢はこうして生まれた』、「むしろ銀行マンが主人公になって、市民を助け、活躍する小説があってもいいのではないか、という思いでした」、なるほど。
・『登場人物の行動も発言も登場人物が決める 「小説の登場人物が、次に何をして、どんなことを言うのかは、作家が決めるのではなくて登場人物が決めること」(17年9月26日号「婦人公論」)、登場人物の行動の理由を探る中で「そこにどんな物語が埋まっているのかを、作者自身もが掘り下げていく」(22年9月号「小説すばる」)という池井戸氏が、今の書き方を決定づけた「記念碑的な一冊」と位置付けるのが『シャイロックの子供たち』。短編が組み合わさって完全犯罪の構図が浮かび上がる。 新連載「ブティック」の主人公は熱き若手銀行員の雨宮秋都だ。ニューヒーローがどう困難に立ち向かうのか目が離せない』、「「小説の登場人物が、次に何をして、どんなことを言うのかは、作家が決めるのではなくて登場人物が決めること」、「作家が決めるのではなくて登場人物が決める」、というのは比喩的ではあるとしても、面白い考え方だ。 さて、今夜の「花咲舞」はどう展開するのか、楽しみだ。
先ずは、本年2月22日付け東洋経済オンライン「りそなHDと十六FG、業務提携に持たせた「含み」 資本提携に向けての協議も検討、落とし所は?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/735795
・『りそな銀行を中核とするりそなホールディングス(HD)と、岐阜県地盤の地方銀行十六フィナンシャルグループ(FG)は2月7日、リテール分野での業務提携を締結した。融資や資産運用、デジタル化、人材育成に至るまで幅広い協業を視野に入れる。 「競争力のある提携関係にしていきたい」(りそなHDの南昌宏社長)、「(りそなHDの)リテールナンバーワンの取り組みに共感した」(十六FGの池田直樹社長)。同日に開いた会見で、両トップは業務提携の意義について語った。 ▽りそなは全国の地銀との携提を進める(りそなは全国の地銀と提携を深めている。 「茨城県の常陽銀行や栃木県の足利銀行のほか、香川県の百十四銀行には、りそなが開発した銀行アプリを提供。横浜銀行と宮城県の七十七銀行にはファンドラップ(ラップ口座の一形態)の代理店契約を交わし、千葉県の京葉銀行ともデジタル分野を中心に協力関係にある。 十六との提携も、一見すると過去の提携事例と同様に映る。だが、今回はある「含み」を持たせた。 金融関係者によれば、提携話が浮上したきっかけは2022年中頃。金融機関との連携を推進する、りそな金融法人室の担当者が、十六を訪問したことだ。 目下はデジタル分野での提携が先行する反面、資本提携については、まだ実現していない。とはいえ、りそなが2023年に公表した中期経営計画では、出資先の一例に「地域金融機関、異業種等」と明記し、その意志を明確にしている。 仮にりそなと十六が資本提携するとなれば、焦点となるのは出資比率だ。 この点、昨今のりそなは「余剰資本の活用」を掲げ、大胆な投資を繰り広げている。2024年1月には持分法適用会社だったリース2社を子会社化。資本提携関係にあるデジタルガレージへの出資比率についても、2024年内をメドに2%(2023年12月時点)から12%まで引き上げる。 金融機関に対しても、数%の出資にとどまらない可能性がある。 「持分法適用会社にして、収益を取り込むことも選択肢だ」。りそなの南社長は2023年に実施した東洋経済の取材に対して、「あくまで相手先の意向次第」と前置きしつつ、金融機関との資本提携について意欲を示した。 一般に持分法適用会社は、議決権所有比率が20%以上50%以下の出資先に適用される』、「昨今のりそなは「余剰資本の活用」を掲げ、大胆な投資を繰り広げている。2024年1月には持分法適用会社だったリース2社を子会社化。資本提携関係にあるデジタルガレージへの出資比率についても、2024年内をメドに2%(2023年12月時点)から12%まで引き上げる。 金融機関に対しても、数%の出資にとどまらない可能性がある」、なるほど。
・『地銀出資への「布石」か すでにりそなは、地銀出資の「布石」とも映る行動に出ている。現在のグループの資本構成は、りそな銀行と埼玉りそな銀行はホールディングス直下、関西みらい銀行とみなと銀行は中間持ち株会社である「関西みらいフィナンシャルグループ(FG)」の傘下にある。 りそなは2024年4月に、関西みらいFGを吸収合併する予定だ。関西みらい銀行とみなと銀行は、りそな銀行、埼玉りそな銀行と並列する形になる。 全銀行をホールディングスに並列でぶら下げる理由として、りそなはグループの意思決定迅速化を理由に挙げる。一方、見方によっては新たな銀行との資本提携や、場合によっては将来のグループ入りを進めやすくすることを視野に入れた動きにも映る。 この点、十六は中京圏の地銀としては最大規模かつ、名古屋市内にも強固な営業網を誇る。十六の大株主には三菱UFJフィナンシャル・グループが存在するが、同社は政策保有株式の縮減を急いでおり、りそなが受け皿となれれば好都合だ。りそなと十六が結びつきを強めれば、東名阪を股にかける巨大銀行グループが誕生することになる。 むろん、資本提携の落としどころは不透明だ。会見で、りそな傘下に入る余地を問われた十六FGの池田社長は、「ささやかなプライドだが、創業以来同じ名前を掲げる銀行としては、(現存する中では)最古だ」と独立の矜持をあらわにし、経営統合への慎重姿勢をにじませた。 両社の協議の結果、少額出資や株式の持ち合い、あるいは現状の業務提携にとどまる結末もくすぶる。 これまでの地銀の経営統合は、営業エリアが重複する、あるいは隣接する地銀同士で行われていた。りそなという広域な営業圏を誇る銀行グループが核となり、「地縁」がほとんどない者同士でどこまで統合が行われるのか。着地点によっては、地銀再編の歴史に新たなページを刻むことになる。 りそなホールディングスの株価・業績、十六フィナンシャルグループの株価・業績 は「四季報オンライン」で 』、「りそなという広域な営業圏を誇る銀行グループが核となり、「地縁」がほとんどない者同士でどこまで統合が行われるのか。着地点によっては、地銀再編の歴史に新たなページを刻むことになる」、大いに注目される。
次に、6月14日付けダイヤモンド・オンライン「半沢直樹と花咲舞の意外な誕生秘話「登場人物が何を言うのかは…」池井戸潤氏が明かした創作の真髄とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/345403
・『6月8・15日号の「週刊ダイヤモンド」から池井戸潤氏の小説「ブティック」の連載が始まった。主人公は東京中央銀行に勤める雨宮秋都だ。雨宮は花咲舞のように熱い正義感を持ったはねっ返りなのか。半沢直樹のように“ちょい悪”で策略を巡らすのだろうか。これまでの主人公たちの誕生秘話と、池井戸氏が語る創作の真髄をご紹介する』、興味深そうだ。
・『花咲舞と半沢直樹 誕生した意外な理由(社会現象を巻き起こしてきた池井戸潤氏。「週刊ダイヤモンド」2024年6月8・15日号から開始した連載小説「ブティック」を一層楽しむために、これまでの作品を振り返ってみよう。 まず思い浮かぶのは、再びドラマ化された「花咲舞が黙ってない」シリーズだろう。熱い正義感の持ち主である花咲が、銀行の悪事に真正面からぶつかっていく様は爽快だ。 実は池井戸作品の中で唯一の女性主人公で「男性ばかりを主人公にしていたので、今度は女性を描いてみよう」(2017年9月26日号「婦人公論」)と思ったのがきっかけだったという』、日本テレビでの「花咲舞が黙ってない」は今日が最終回だ。
・『花咲舞と半沢直樹が誕生した意外な理由 社会現象を巻き起こしてきた池井戸潤氏。「週刊ダイヤモンド」2024年6月8・15日号から開始した連載小説「ブティック」を一層楽しむために、これまでの作品を振り返ってみよう。 まず思い浮かぶのは、再びドラマ化された「花咲舞が黙ってない」シリーズだろう。熱い正義感の持ち主である花咲が、銀行の悪事に真正面からぶつかっていく様は爽快だ。 実は池井戸作品の中で唯一の女性主人公で「男性ばかりを主人公にしていたので、今度は女性を描いてみよう」(2017年9月26日号「婦人公論」)と思ったのがきっかけだったという。 そして決めぜりふ「倍返し」で流行語大賞を取った「半沢直樹」シリーズ。 池井戸氏は「当時、銀行員が出てくる小説というと『銀行=悪者』という論調のものが殆どでした。貸しはがし、貸し渋りをする悪いところ、というイメージです」「悪い役割だけではない、むしろ銀行マンが主人公になって、市民を助け、活躍する小説があってもいいのではないか、という思いでした」と語る(20年5-6月号「調査情報」)。 威勢のいい毒舌を放ち、“ちょい悪”で策略を巡らせ、圧力を打ち負かす痛快な半沢はこうして生まれた』、「むしろ銀行マンが主人公になって、市民を助け、活躍する小説があってもいいのではないか、という思いでした」、なるほど。
・『登場人物の行動も発言も登場人物が決める 「小説の登場人物が、次に何をして、どんなことを言うのかは、作家が決めるのではなくて登場人物が決めること」(17年9月26日号「婦人公論」)、登場人物の行動の理由を探る中で「そこにどんな物語が埋まっているのかを、作者自身もが掘り下げていく」(22年9月号「小説すばる」)という池井戸氏が、今の書き方を決定づけた「記念碑的な一冊」と位置付けるのが『シャイロックの子供たち』。短編が組み合わさって完全犯罪の構図が浮かび上がる。 新連載「ブティック」の主人公は熱き若手銀行員の雨宮秋都だ。ニューヒーローがどう困難に立ち向かうのか目が離せない』、「「小説の登場人物が、次に何をして、どんなことを言うのかは、作家が決めるのではなくて登場人物が決めること」、「作家が決めるのではなくて登場人物が決める」、というのは比喩的ではあるとしても、面白い考え方だ。 さて、今夜の「花咲舞」はどう展開するのか、楽しみだ。
タグ:(その21)(りそなHDと十六FG 業務提携に持たせた「含み」 資本提携に向けての協議も検討、落とし所は?、半沢直樹と花咲舞の意外な誕生秘話「登場人物が何を言うのかは…」池井戸潤氏が明かした創作の真髄とは?) 金融業界 東洋経済オンライン「りそなHDと十六FG、業務提携に持たせた「含み」 資本提携に向けての協議も検討、落とし所は?」 「昨今のりそなは「余剰資本の活用」を掲げ、大胆な投資を繰り広げている。2024年1月には持分法適用会社だったリース2社を子会社化。資本提携関係にあるデジタルガレージへの出資比率についても、2024年内をメドに2%(2023年12月時点)から12%まで引き上げる。 金融機関に対しても、数%の出資にとどまらない可能性がある」、なるほど。 「りそなという広域な営業圏を誇る銀行グループが核となり、「地縁」がほとんどない者同士でどこまで統合が行われるのか。着地点によっては、地銀再編の歴史に新たなページを刻むことになる」、大いに注目される。 ダイヤモンド・オンライン「半沢直樹と花咲舞の意外な誕生秘話「登場人物が何を言うのかは…」池井戸潤氏が明かした創作の真髄とは?」 日本テレビでの「花咲舞が黙ってない」は今日が最終回だ。 「むしろ銀行マンが主人公になって、市民を助け、活躍する小説があってもいいのではないか、という思いでした」、なるほど。 「「小説の登場人物が、次に何をして、どんなことを言うのかは、作家が決めるのではなくて登場人物が決めること」、「作家が決めるのではなくて登場人物が決める」、というのは比喩的ではあるとしても、面白い考え方だ。 さて、今夜の「花咲舞」はどう展開するのか、楽しみだ。
富裕層ビジネス(プライベートバンキング(PB))(その1)(イーロン・マスク、柳井正、孫正義…資産10億ドル超の「最新長者番付」、UBSのレポートで判明した“異変”の正体、1BTC=1000万円超え!「ビットコイン長者」を生んだ暗号資産の光と影をマウントゴックス元CEOが激白、資産100億円の“不動産リッチ”が金融機関に物申す「お役所仕事は止めてくれ!」、銀行&証券の謎のエース社員「プライベートバンカー」の実態、富裕層に愛される“極意”を実名で明かす!) [金融]
富裕層ビジネス(プライベートバンキング(PB))(その1)(イーロン・マスク、柳井正、孫正義…資産10億ドル超の「最新長者番付」、UBSのレポートで判明した“異変”の正体、1BTC=1000万円超え!「ビットコイン長者」を生んだ暗号資産の光と影をマウントゴックス元CEOが激白、銀行&証券の謎のエース社員「プライベートバンカー」の実態、富裕層に愛される“極意”を実名で明かす!)を取上げよう。
先ずは、昨年4月15日付けダイヤモンド・オンライン「イーロン・マスク、柳井正、孫正義…資産10億ドル超の「最新長者番付」、UBSのレポートで判明した“異変”の正体」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342038
・『保有資産額が10億ドル(約1500億円)を超える「ビリオネア」が世界的に拡大している。好景気や株高が富裕層にさらなる富をもたらし、世界一の富豪は実に35兆円もの資産を保有する。一方で彼らビリオネアに、ある「異変」が起きていることも最新レポートで判明した。特集『富裕層 億万長者の実像』の#1で、その実態を明らかにする』、興味深そうだ。
・『資産1500億円超のビリオネアは過去最多2781人、15兆円の大富豪も! 富める者はさらに富む。富裕層への富の集中は止まらない。そんな現実が浮き彫りになった。 米誌フォーブスが4月2日に発表した2024年版の世界長者番付によれば、保有資産額が10億ドル(約1500億円)を超える「ビリオネア」は、前年比で141人増えて過去最多の2781人に達した。 保有資産額が1000億ドル(約15兆円)以上の数も、過去最多の14人を数える。その14人の資産総額は2兆ドル(約300兆円)に上り、日本の国家予算規模に相当する。 一方、そんな億万長者たちの“異変”も最新レポートで明らかになってきた。利に聡い金融関係者らも、そんな異変を嗅ぎ取り、商機をつかもうとしている。 そんな億万長者は一体どのような人物たちなのか。そして、そこにどんな異変が生じているのか。次ページで明らかにする』、「億万長者たちの“異変”」とはなかでも興味深そうだ。
・『フォーブスが発表した24年版の長者番付で、2年連続で世界一の富豪と認定されたのが、仏LVMHのベルナール・アルノー最高経営責任者(CEO)だ。 LVMHは傘下に「ルイ・ヴィトン」や「ティファニー」などの高級ブランドを持つ。コロナ禍が終焉し、人々の旺盛な消費欲に支えられ、23年12月期の売上高は過去最高を記録。大株主であるアルノー氏の資産額も、前年から220億ドル増えて推定2330億ドル(約35兆3000億円)に達した。 2位は米電気自動車(EV)大手テスラCEOのイーロン・マスク氏、3位は米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏と、おなじみの顔触れだ。マスク氏はツイッター(現X)の買収や宇宙開発事業にも乗り出し、その勢いがとどまることはない。 4位以下の米メタCEOのマーク・ザッカーバーグ氏や米オラクル創業者のラリー・エリソン氏、米バークシャー・ハサウェイ会長のウォーレン・バフェット氏らも、近年の株高で自らの資産を増やした形だ。世界のビリオネアの3分の2は、前年から資産を増やしたという。(図表:米誌フォーブスの2024年世界長者番付 はリンク先参照) 日本の富豪たちの顔触れはどうか。日本人トップのファーストリテイリング会長兼社長、柳井正氏は資産428億ドルの29位、ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏は327億ドルで51位だった。番付にランクインした日本人ビリオネアは、いずれも大企業のオーナーやその一族だ。 スイスの金融大手UBSグループの最新レポートによれば、日本人のビリオネアは38人で世界14位。ビリオネアが最も多いのは米国の751人、2位が中国の520人、3位がインドの153人だった。 (図表:2023年のビリオネア数ランキング はリンク先参照) 一方、UBSのレポートは興味深いデータを示している。23年4月までの1年間で「相続」によって新たに登場したビリオネアの資産額が、起業など「自ら蓄積」したビリオネアの資産額を初めて上回ったのだ。 資産の継承者は世界に53人存在し、資産額の合計は1508億ドル。これに対してビリオネアとなった起業家の数は84人で1407億ドルだ。 これは次世代への資産移転が始まっていることを意味する。UBSは今後20~30年で1000人以上のビリオネアが総額5兆2000億ドルの資産を次世代に引き継ぐと予想する。 (図表:ビリオネアの新たな資金源 はリンク先参照) この“富の大移動”は、金融機関にとって商機となる。 三井住友フィナンシャルグループで資産20億円超の顧客を担当するウェルスマネジメント統括部ブライベートウェルスグループの千崎隆史グループ長は、超富裕層には「四つの顔」があると指摘する。 経営者の顔、株主の顔、資産家の顔、そして家族の顔だ。それぞれの「顔」が金融機関に求めるニーズは異なる。 例えば経営者や株主としては、事業戦略や資本政策といった金融機関の法人ビジネスの領域となる。一方で資産家や家族としては、節税や相続など個人ビジネスの領域だ。従来、金融機関は法人部門と個人部門に分かれ、それぞれの部隊が別に動いていた。メガバンクや大手証券会社は近年、これを一体的に運用する体制整備を加速させている。千崎氏は「銀行、証券、信託といったグループの総合力がこれまで以上に問われている」と話す。 現代アートやプライベートジェットの購入、子どもの海外留学など、富裕層の関心は多岐にわたり、社会や環境へのポジティブなインパクトの創出を狙ったインパクト投資や慈善事業への関心も近年高まっているという。長者番付7位の米マイクロソフト創業者、ビル・ゲイツが数兆円規模の寄付を行っているが、そうした世界的な富豪の振る舞いも影響を及ぼしていそうだ。 一方、富の大移転が進む中、UBSの調査では創業者と子や孫との間でギャップが生じていることも明らかになった。実際に資産を承継した世代の57%は、ファミリービジネスに関わらないことを選び、創業者世代の58%が、必要な教育、経験を承継者に植え付けることを最大の課題の一つと考えているという。 実際、大塚家具や大王製紙グループ、天馬など、ファミリー内の対立が企業の分裂騒動となった例は近年多い。創業世代が引退し、継承世代との経営理念の違いが生じたり、株式の分散などで“お家騒動”は勃発しやすい。 そこでファミリーガバナンスやファミリー憲章などの確立が必要になる。ファミリー総会やファミリー評議会の運営を支援し、紛争を避けるために家族間のコミュニケーションを円滑にするサービスも、金融機関は手掛けている。 東京証券取引所の上場維持基準が厳格化されたこともあり、自社株を買い取って上場廃止を選ぶオーナー企業も増えている。コーポレートガバナンス(企業統治)改革で株主の声が強まったこともオーナーにとっては悩みの種だ。デジタル化や事業環境の変化で、オーナーが金融機関に相談する機会はこれまで以上に増えるだろう。 一方、金融機関からすれば、手数料が安いオンライン取引の普及や商品のコモディティ化により、マス層向けの対面ビジネスの収益環境は悪化の一途をたどる。ならばサービスに付加価値を付け、富裕層から手数料を取るしかない。 法人融資や証券主幹事といった“接点”は異なるが、オーナー経営者個人にいかに食い込むかというリングで銀行と証券が激突するのは必至だ。本特集でその舞台裏に迫る。 Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata)』、「23年4月までの1年間で「相続」によって新たに登場したビリオネアの資産額が、起業など「自ら蓄積」したビリオネアの資産額を初めて上回ったのだ。 資産の継承者は世界に53人存在し、資産額の合計は1508億ドル。これに対してビリオネアとなった起業家の数は84人で1407億ドルだ。 これは次世代への資産移転が始まっていることを意味する。UBSは今後20~30年で1000人以上のビリオネアが総額5兆2000億ドルの資産を次世代に引き継ぐと予想する・・・創業者世代の58%が、必要な教育、経験を承継者に植え付けることを最大の課題の一つと考えているという。 実際、大塚家具や大王製紙グループ、天馬など、ファミリー内の対立が企業の分裂騒動となった例は近年多い。創業世代が引退し、継承世代との経営理念の違いが生じたり、株式の分散などで“お家騒動”は勃発しやすい。 そこでファミリーガバナンスやファミリー憲章などの確立が必要になる。ファミリー総会やファミリー評議会の運営を支援し、紛争を避けるために家族間のコミュニケーションを円滑にするサービスも、金融機関は手掛けている・・・サービスに付加価値を付け、富裕層から手数料を取るしかない。 法人融資や証券主幹事といった“接点”は異なるが、オーナー経営者個人にいかに食い込むかというリングで銀行と証券が激突するのは必至だ。本特集でその舞台裏に迫る」、なるほど。
次に、4月17日付けダイヤモンド・オンライン「1BTC=1000万円超え!「ビットコイン長者」を生んだ暗号資産の光と影をマウントゴックス元CEOが激白 マルク・カルプレス・元マウントゴックス最高経営責任者インタビュー」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342039
・『2014年にビットコイン消失事件を起こし、経営破綻した暗号資産取引所マウントゴックスの元最高経営責任者、マルク・カルプレス氏がダイヤモンド編集部の取材に応じた。この10年間、ビットコインは多くの人々を富裕層に変え、今年3月にはついに1ビットコイン=1000万円を突破した。そのビットコインに半生を翻弄された男は今、何を思うのか。特集『富裕層 億万長者の実像』の#2は、カルプレス氏の独占インタビューをお届けする』、「カルプレス氏」の顔を久しぶりに見たが、余り変わってなようだ。
・『イーロン・マスク氏ら世界の富豪も大量保有 人々を魅了し続けるビットコインの正体 マルク・カルプレス氏は1985年、フランス中東部のディジョンに生まれた。子どもの頃、漫画『幽☆遊☆白書』を読み、「えたいの知れない世界観」と日本の日常に憧れた。 幼少期からコンピューターにも興味を持ち、3歳からプログラミングを始めた。15歳の頃、友人やインターネットで知り合った人たちとサーバーホスティング事業を立ち上げ、18歳でゲーム会社に入社。1年半ほど就業した後、個人でエンジニアの仕事を多数請け負った。20歳で大手情報通信サービス会社に入社し、研究開発副部長として決済関連業務を担当する。 日本を観光で訪れるようになったのはその頃からだ。ゲストハウスなどに泊まって長期滞在し、「自分の思った通り、日本は良い国」と心から思った。 そして2009年、日本移住を決めた。日本でサーバーホスティング事業の会社を設立し、元の勤め先を通じてフランスから仕事を受ける形でほそぼそと生活していた。 コンピューターと日本のアニメが好きな、そんなフランス人青年の人生を一変させたのが、当時誕生したばかりの暗号資産(仮想通貨)ビットコイン(BTC)だ。 08年に「サトシ・ナカモト」名で出された白書を基に開発され、初めて決済が行われた際の価値は、ピザ2枚に対して1万BTC。BTC/円レートは1BTC=約0.2円程度だった。 その後価格の乱高下を繰り返しながら、今年3月5日、史上初めて1BTC=1000万円を突破した。この値上がりで莫大な利益を手にした者は多く、米企業家のイーロン・マスク氏ら世界的な富豪も大量保有する。BTCは人々を魅了し続ける「夢と希望」の象徴だ。 11年に仮想通貨取引所マウントゴックスの運営を始めたカルプレス氏がBTC黎明期に見たのは、将来の値上がりを予想して流入した、驚愕の富裕層マネーだ。だが14年、当時のレートで230億円相当のBTCが突然消える事件を起こし、後に自身が逮捕されることになる。 仮想通貨の「光と影」を誰よりも知る男が、事件の舞台裏を明かした。カルプレス氏の証言を次ページで全公開する。
・『米国人から無料で譲り受けた取引所 運営2年で顧客が500倍に急成長 Q:大量のBTCが盗まれた14年の「マウントゴックス事件」から10年が過ぎました。この10年間、どう過ごしていたのですか。 A:この10年を説明するには、まずは破産の原因を説明した方がいいと思います。 マウントゴックスの運営を始めたのが11年。当時、BTCはほとんど知られておらず、お客さんは2000人程度でした。しかしわずか3カ月で6万人、2年後に100万人という、普通の会社ではあり得ないスピードで急成長した。 しかし14年2月、お客さんから預かっていたBTCの大部分が突然消失し、破産せざるを得ない状況になってしまいました。 当時から犯人はハッカーに違いないと思っていましたが、誰に、どうやって盗まれたのかは全く分かりませんでした。自分で調べはしたのですが、破産の手続きもあって進まず、事件の約1年半後、私は逮捕されました。 その刑事裁判が始まった17年にロシア人のハッカーが逮捕され、やはりBTCが盗まれたことをようやく証明できるようになりました。横領などの容疑は地裁で無罪判決が下され、検察もそれに対して控訴しませんでした。 私の中で最大の課題は、債権者への分配でした。事件後、20万BTCは盗まれずに残っていたのですが、その現在の価値が約1000億円となったため、債権者に全額返せる状態になったのです。10年前から続く破産手続きがようやく解決しそうな状況です。 Q:事件を振り返り、反省すべき点は何ですか。 A:やはり事業として急成長し過ぎた。お金が関わる事業なので、セキュリティー面を含めて自分1人でいろいろとやっていたんですが、成長のスピードに追い付けませんでした。急に海外送金が増え、銀行の担当者から「怖いので他の銀行に預けてくれませんか」と言われたくらいです。事業を任せられる信頼できる人がいれば、もうちょっとうまくできたと思います。 マウントゴックスを11年に買収した当時、自分の会社の売り上げはギリギリ家賃を払えるぐらいで、生活はかなりきつい状況でした。ある人物から「マウントゴックスを買収しませんか」というオファーがあったのですが、もちろん全くお金がないので「難しい」と返したら、「お金は要らない」と言われたんです。 でも契約書には「マウントゴックスの元所有者は責任を一切負わない」という趣旨のことが書かれ、負債もあった。“うまい話には裏がある”ことを学びました。 Q:誰にオファーされたのですか。 A:ジェド・マケーレブという米国人です。 Q:なぜお知り合いに。 A:当時のBTC業界はごく少数の技術者くらいしかおらず、自分もその技術に興味があり理解もできたから、開発を手伝ったりしていたんです。マウントゴックスをつくったジェドさんの手伝いもしていました。 (図表:マウントゴックス事件の経緯 はリンク先参照) Q:マウントゴックスの運営を始めた当時はどんなお客さんが多かったですか。 A:最初はやはり技術者だけだったのですが、11年4月に米「タイム」誌で初めてBTCが取り上げられ、それで一気に投資目的のお客さんが増えました。 多くが外国人で、日本人はほとんどいませんでした。破産したときのお客さんの約4割は米国人、約3割がヨーロッパの人、日本人は2%程度でした。 最初の大口のお客さんは今でも覚えています。米国人の医者です。11年に5000万円相当のBTCを一気に買った。当時は1BTCが5ドル程度です。 おそらくタイム誌の記事を読んだのでしょう。でも当時としては実態のよく分からない仮想通貨を、日本に住んでいるよく分からないフランス人から買ったんです(笑)。 これには正直、私自身が驚きました。個人から5000万円のお金が一気に入ったのは初めてだったので異常だと思い、マネーロンダリング(資金洗浄)を疑ったくらいです。でも調べてみたら、ちゃんとした医者だと分かりました。 Q:やはり富裕層は情報をキャッチし、瞬時に投資判断する能力が違うんですね。 A:そうですね。ファミリーオフィスと契約している富裕層も多いと思いますが、ファミリーオフィスではリスクの高い商品に投資する責任を取れない。本人が「ビットコインって面白そうだから買ってみよう」と思えるかどうかだったと思います。5000万円の投資が、今は1万倍以上の価値になっているわけです。 Q:「ビットコイン長者」という言葉もありますが、BTCでもうけて富裕層入りした人も多い。同じ状況が今後も続くと思いますか。 A:BTC価格はみんなの夢と希望で成り立つので、みんなが夢と希望を持っていれば価値は上がる。でもやはり値動きは激しいので、もうかる人もいれば損する人もいることを知ってほしい。これから「ビットコイン長者」になれるかは保証できません(笑)。 知人にお勧めしているのは、例えばBTC価格が購入時から3倍になったとします。そこで3分の1を売る。いったん元手を取り戻したら、後は上がっても下がっても落ち着いて判断できるでしょう。 Q:最近も米暗号資産取引所のFTXが破産しており、流出事件もたびたび起きています。資産としての安全性はどうなのでしょうか。 A:技術としてはまだまだ歴史が浅いのですが、お客さんにリスクを負わせない規制やルール作りが進んでいます。FTXの場合も日本国内の顧客に対しては、早い段階で返金された。 ただマウントゴックスの運営当時は、そうしたレギュレーションがまだなかったんです。当時、私は何度も当局とやりとりしましたが、金融庁も「ビットコインって何ですか?」という感じでした。現在のようなレギュレーションができたのは、マウントゴックスの破産のおかげともいえますね。 Q:ハッキングを防ぐことはできないですか。 A:マウントゴックスも当然、さまざまなレイヤーでセキュリティーをかけていたんですが、どうやって侵入したのか分かりませんでした。逮捕されたロシア人の裁判はこれから始まるので現時点では仮説にすぎませんが、私なりの結論はサーバーへの物理的なアクセスです。 BTCはサーバーで保管されていたんですが、当時はデータセンターを造れるほどの予算もなかったので、普通に場所を借りてサーバーを置いていた。そこに第三者がアクセスし、サーバーにあったデータを直接盗んだのではないかと考えています。 Q:第三者がどうやってアクセスできるんですか。 A:普通はできませんが、協力者がいた可能性はあるとみています。 Q:アクセスした記録は残っているのですか。 A:アクセスしようとした記録はありますが、少なくともアクセスできたという記録はない。ただ当時、ハードディスクを抜かれた記録はある。 Q:今回はロシア人が逮捕されましたが、北朝鮮関係のハッキングも多いと聞きます。 (マルク・カルプレス/1985年、フランス生まれ。20歳でTelechargement.FR(現Nexway SA)に開発者として入社。2009年に日本に移住し、株式会社TIBANNE設立。11年にマウントゴックスのビットコイン事業を譲り受け、最高経営責任者に。14年にハッキングに遭い、破綻。15年に私電磁的記録不正作出・同供用および業務上横領などの容疑で逮捕されたが、19年3月に事実上の無罪判決を勝ち取る。趣味はアップルパイ作り。日本のアニメや漫画に造詣が深く、「アニメソムリエ」の異名を持つ。) ハッキングの多くは北朝鮮関係でしょう。インターネットを通じて世界のどこからでも攻撃できる。北朝鮮の場合は基本的に中国経由で接続しているので特定もできない。北朝鮮や中国からハッキングされたら諦めざるを得ない。 今もリスクはゼロではないですね。だから取引所は保険をかけてハッキングされても補償できるように備えている。今の技術をもってしても、BTCは一度盗まれたら取り戻せません。 Q:BTCに関するビジネスはもうやらないんですか。 A:19年に新しい会社を設立しました。IT関係のリサーチや研究開発を業務とするカルプレス研究所です。 Q:個人的にBTCを持っていますか。 A:マウントゴックスに置いていたので全て持っていかれました(笑)。責任者でしたから債権もなし。残ったBTCの価値は債権総額を上回りましたが、私は1円も受け取りません。 Q:今も日本は好きですか。 A:日本は好きです。いろいろありましたが、それでも日本にいるのは日本が好きだからだと思います。 今はAI(人工知能)に関心があり、開発をやってみたい。決済や金融関係の依頼も受けていますので、そちらでも面白いことがまだまだできると思っています。 Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata)』、「破産したときのお客さんの約4割は米国人、約3割がヨーロッパの人、日本人は2%程度でした・・・インターネットを通じて世界のどこからでも攻撃できる。北朝鮮の場合は基本的に中国経由で接続しているので特定もできない。北朝鮮や中国からハッキングされたら諦めざるを得ない。 今もリスクはゼロではないですね。だから取引所は保険をかけてハッキングされても補償できるように備えている。今の技術をもってしても、BTCは一度盗まれたら取り戻せません・・・私なりの結論はサーバーへの物理的なアクセスです。 BTCはサーバーで保管されていたんですが、当時はデータセンターを造れるほどの予算もなかったので、普通に場所を借りてサーバーを置いていた。そこに第三者がアクセスし、サーバーにあったデータを直接盗んだのではないかと考えています。 Q:第三者がどうやってアクセスできるんですか。 A:普通はできませんが、協力者がいた可能性はあるとみています。 Q:アクセスした記録は残っているのですか。 A:アクセスしようとした記録はありますが、少なくともアクセスできたという記録はない。ただ当時、ハードディスクを抜かれた記録はある」、なるほど。
第三に、4月22日付けダイヤモンド・オンライン「銀行&証券の謎のエース社員「プライベートバンカー」の実態、富裕層に愛される“極意”を実名で明かす!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342041
・『メガバンクや大手証券には、「プライベートバンカー」と呼ばれる社員が在籍する。富裕層の資産管理やファミリーの悩みまで聞く秘匿性の高い業務を担うが故に、その実態は謎に包まれている。特集『富裕層 億万長者の実像』の#4では、メガバンクの現役プライベートバンカーに取材し、その正体に迫った』、「プライベートバンカーに取材し、その正体に迫った」、興味深そうだ。
・『「異動もなく社内で見掛けない」!? 謎多きプライベートバンカーの正体 「10年以上の長期在籍もザラで、銀行外の人脈が豊富。社内で見掛けることはほとんどないが、たまに驚くような大きなディール(取引)を持ってくる」 メガバンクで大企業を担当する法人部門の男性社員がそう語るのは、社内のプライベートバンカーについてである。金融機関は通常、法人部門やリテール部門に分かれ、企業や個人に金融サービスの提供を行っているが、プライベートバンカーはどちらにも所属していない。 一般的には2~3年で異動を繰り返す銀行員にあって、プライベートバンカーは10年を超えて異動しない者も珍しくない。メガバンクのプライベートバンカーは、資産規模がおおむね20億円を超える企業オーナーら超富裕層やその一族を担当し、1人当たり200人程度の顧客を抱えているとみられる。 プライベートバンカーは、銀行や証券会社の社員の誰もがなれるわけではない。営業で社内表彰を受けた成績優秀者らが選抜されることが多い。優秀なプライベートバンカーは、巨額の資産運用やM&A(企業の合併・買収)などの大型案件を顧客から任され、それが金融機関の収益に直結する。 だからこそ金融機関は、えりすぐりのエースをプライベートバンキング部門に送り込む。有能でなければ富裕層に愛想を尽かされ、おいしい案件にあずかれないどころか「出禁」になることもある。 富裕層ビジネスにシフトし始めた大手金融機関は今、プライベートバンカーの拡充や質の向上に注力している。では、彼らは一体どんな資質の持ち主で、どうすれば優秀なプライベートバンカーになれるのか。あるメガバンクでプライベートバンカー歴10年以上のキャリアを持つ「猛者」たちに直撃し、その正体を探った』、「金融機関は通常、法人部門やリテール部門に分かれ、企業や個人に金融サービスの提供を行っているが、プライベートバンカーはどちらにも所属していない。 一般的には2~3年で異動を繰り返す銀行員にあって、プライベートバンカーは10年を超えて異動しない者も珍しくない・・・プライベートバンカーは、銀行や証券会社の社員の誰もがなれるわけではない。営業で社内表彰を受けた成績優秀者らが選抜されることが多い。優秀なプライベートバンカーは、巨額の資産運用やM&A(企業の合併・買収)などの大型案件を顧客から任され、それが金融機関の収益に直結する。 だからこそ金融機関は、えりすぐりのエースをプライベートバンキング部門に送り込む。有能でなければ富裕層に愛想を尽かされ、おいしい案件にあずかれないどころか「出禁」になることもある」、「有能でなければ・・・「出禁」になることもある」とは厳しい世界だ。
・『富裕層の横で提案を聞く 重要な素質は「人間性」 日本の富裕層は、自社株や不動産が資産の大半を占める企業オーナーが多く、相続税や贈与税などが高いという日本独自の税制もある。1990年代以降、米国のシティバンクやメリルリンチなど外資系プライベートバンクの日本参入が相次いだが、その多くは撤退した。 「欧米型のプライベートバンキングをそのまま持ち込むのではなく、日本の富裕層に合わせたプライベートバンカーが必要。みずほ銀行はそれに気付き、運用のプロだけではなく、法人営業の経験がある人もプライベートバンキング部門に集めた。私もその一人でした」 そう語るのは、みずほ銀行ウェルスアドバイザリー部でシニア・プライベートバンカーの資格を持つ松山綾乃さんだ。同行には松山さんら約50人のプライベートバンカーが在籍している。 2007年入行の松山さんは、当初プライベートバンカーを希望していたわけではなかった。最初に配属された市ヶ谷支店(千代田区)、次の異動先の荏原支店(品川区)では、法人営業で中小企業などの決済や融資業務などを行っていた。 その中で営業先のオーナー社長が、事業についてだけでなく個人の相続や運用に関する悩みを抱えていることを知った。だが当時の松山さんには融資業務以外の経験がなく、ただ聞くだけしかできなかった。 富裕層に「時間を割く価値がある」(松山さん)と思ってもらうには、法人業務だけでなく、証券や信託に関するあらゆるスキームや法律、会計、税務といった知識も必要だ。松山さんは自ら手を挙げて関係部署での研修を受けるなどしてスキルを磨いた。 ちょうどその頃、みずほ銀行の超富裕層を担当するウェルスマーケティング部(現ウェルスアドバイザリー部)で法人営業の経験がある人材を増やしていたこともあり、松山さんは「2年間の戦略人事」として同部に配属された。そこでプライベートバンカーとなり、12年目のキャリアだ。 法人営業時代、松山さんは富裕層の顧客に運用商品やサービスを提案する際、テーブルを挟んで向かい側に座っていた。だが、今は顧客の横に座り、金融機関の提案を顧客側で聞くことが多い。提案者がみずほグループの同僚であっても、だ。 「お客さまの目線で提案を聞き、お客さまのためになるアドバイスを行う。高難度の案件について一緒にソリューションを検討できるようになり、やりがいを感じている」(松山さん)。オーナー社長から直接相談されるほど信頼関係を築き、事業承継後も世代を超えて富裕層ファミリーを担当することもあるという。 (松山綾乃さんのプロフィール 松山さんと同じくウェルスアドバイザリー部に所属する筒井博貴さんは06年、みずほ銀行FC(フィナンシャルコンサルタント)コースの第1期生として入行。八尾支店(大阪府八尾市)で中小企業オーナーの運用・承継コンサルティングを行い、成績優秀者として関西役員表彰を受賞した。 入行当時からプライベートバンカーを志望し、社内のジョブ公募制度を利用して08年にみずほ証券のプライベートバンキング部に着任。以来、企業経営者の運用・承継コンサルティングなどを行っている。 筒井さんは、プライベートバンカーをオーケストラの指揮者に例える。観客である顧客やその一族に対し、銀行、証券、信託など自社グループの機能を発揮し、心地よい音楽を奏でる。演奏者の数は多ければ多いほど良いが、タクトを振るタイミングを誤れば不協和音となり、観客に不快感を与えてしまう。 「自ら会社を創業した歴戦のオーナー社長に、金融機関の都合で軽はずみなことを言ったらすぐに見抜かれる。プライベートバンカーに重要な素質は人間性。お客さまの横に常にいられる存在でありたい」と筒井さんは言う。 (筒井博貴さんのプロフィール プライベートバンカーとして10年以上のキャリアを持つ筒井さんや松山さんが、10年前と比べて明らかに変わったと感じることがある。 それは事業の再構築や資本政策について真剣に考えるオーナー社長が増えたことだ。筒井さんは「DX(デジタルトランスフォーメーション)やサプライチェーンの再構築など外部環境の変化への対応や、新規事業の探索も欠かせない。株主対応やガバナンスも、オーナー社長にとって重要度が高まっている」と語る。 今、業界再編や経営陣による買収(MBO)などが増えている。オーナー社長がプライベートバンカーにふと漏らした一言が、それらの大型案件につながった例も多い。裏を返せば、そこにいない金融機関は案件に絡めない。 メガバンクだけでなく、野村ホールディングスや大和証券グループ本社、外資系証券が、富裕層ビジネスに注力しているのはそのためだ。野村は4月1日、「営業部門」を「ウェルス・マネジメント部門」に改称し、富裕層に対応するパートナー数を3200人から4800人に増員。大和も同日、「リテール部門」を「ウェルスマネジメント部門」に改称し、コンサルティングを軸とした資産管理型ビジネスに注力する姿勢を社内外に打ち出している。 金融取引のオンライン化が普及し、対面ビジネスのモデル転換を迫られている。証券業界ではSBI証券や楽天証券が株式売買手数料の無料化に踏み切り、マス層の取り込みを加速させている。金融商品もインデックス投資信託などコモディティ化し、差別化は難しい。 (図表:金融各社のポジション変動イメージ はリンク先参照) 対面金融が生き残るためには、顧客に応じて商品やサービスをカスタマイズし、高付加価値化していくしかない。そこに対価を支払ってくれる富裕層の心をいかにつかむかが、対面金融の生き残りの条件となる。 富裕層争奪戦は激化する。その勝負の趨勢は、戦いの最前線に立つプライベートバンカーの腕に懸かっていると言っても過言ではない。 Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata』、「富裕層に「時間を割く価値がある」(松山さん)と思ってもらうには、法人業務だけでなく、証券や信託に関するあらゆるスキームや法律、会計、税務といった知識も必要だ。松山さんは自ら手を挙げて関係部署での研修を受けるなどしてスキルを磨いた。 ちょうどその頃、みずほ銀行の超富裕層を担当するウェルスマーケティング部(現ウェルスアドバイザリー部)で法人営業の経験がある人材を増やしていたこともあり、松山さんは「2年間の戦略人事」として同部に配属された。そこでプライベートバンカーとなり、12年目のキャリアだ。 法人営業時代、松山さんは富裕層の顧客に運用商品やサービスを提案する際、テーブルを挟んで向かい側に座っていた。だが、今は顧客の横に座り、金融機関の提案を顧客側で聞くことが多い。提案者がみずほグループの同僚であっても、だ。 「お客さまの目線で提案を聞き、お客さまのためになるアドバイスを行う。高難度の案件について一緒にソリューションを検討できるようになり、やりがいを感じている」(松山さん)・・・対面金融が生き残るためには、顧客に応じて商品やサービスをカスタマイズし、高付加価値化していくしかない。そこに対価を支払ってくれる富裕層の心をいかにつかむかが、対面金融の生き残りの条件となる。 富裕層争奪戦は激化する。その勝負の趨勢は、戦いの最前線に立つプライベートバンカーの腕に懸かっていると言っても過言ではない」、確かにその通りだ。
先ずは、昨年4月15日付けダイヤモンド・オンライン「イーロン・マスク、柳井正、孫正義…資産10億ドル超の「最新長者番付」、UBSのレポートで判明した“異変”の正体」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342038
・『保有資産額が10億ドル(約1500億円)を超える「ビリオネア」が世界的に拡大している。好景気や株高が富裕層にさらなる富をもたらし、世界一の富豪は実に35兆円もの資産を保有する。一方で彼らビリオネアに、ある「異変」が起きていることも最新レポートで判明した。特集『富裕層 億万長者の実像』の#1で、その実態を明らかにする』、興味深そうだ。
・『資産1500億円超のビリオネアは過去最多2781人、15兆円の大富豪も! 富める者はさらに富む。富裕層への富の集中は止まらない。そんな現実が浮き彫りになった。 米誌フォーブスが4月2日に発表した2024年版の世界長者番付によれば、保有資産額が10億ドル(約1500億円)を超える「ビリオネア」は、前年比で141人増えて過去最多の2781人に達した。 保有資産額が1000億ドル(約15兆円)以上の数も、過去最多の14人を数える。その14人の資産総額は2兆ドル(約300兆円)に上り、日本の国家予算規模に相当する。 一方、そんな億万長者たちの“異変”も最新レポートで明らかになってきた。利に聡い金融関係者らも、そんな異変を嗅ぎ取り、商機をつかもうとしている。 そんな億万長者は一体どのような人物たちなのか。そして、そこにどんな異変が生じているのか。次ページで明らかにする』、「億万長者たちの“異変”」とはなかでも興味深そうだ。
・『フォーブスが発表した24年版の長者番付で、2年連続で世界一の富豪と認定されたのが、仏LVMHのベルナール・アルノー最高経営責任者(CEO)だ。 LVMHは傘下に「ルイ・ヴィトン」や「ティファニー」などの高級ブランドを持つ。コロナ禍が終焉し、人々の旺盛な消費欲に支えられ、23年12月期の売上高は過去最高を記録。大株主であるアルノー氏の資産額も、前年から220億ドル増えて推定2330億ドル(約35兆3000億円)に達した。 2位は米電気自動車(EV)大手テスラCEOのイーロン・マスク氏、3位は米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏と、おなじみの顔触れだ。マスク氏はツイッター(現X)の買収や宇宙開発事業にも乗り出し、その勢いがとどまることはない。 4位以下の米メタCEOのマーク・ザッカーバーグ氏や米オラクル創業者のラリー・エリソン氏、米バークシャー・ハサウェイ会長のウォーレン・バフェット氏らも、近年の株高で自らの資産を増やした形だ。世界のビリオネアの3分の2は、前年から資産を増やしたという。(図表:米誌フォーブスの2024年世界長者番付 はリンク先参照) 日本の富豪たちの顔触れはどうか。日本人トップのファーストリテイリング会長兼社長、柳井正氏は資産428億ドルの29位、ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏は327億ドルで51位だった。番付にランクインした日本人ビリオネアは、いずれも大企業のオーナーやその一族だ。 スイスの金融大手UBSグループの最新レポートによれば、日本人のビリオネアは38人で世界14位。ビリオネアが最も多いのは米国の751人、2位が中国の520人、3位がインドの153人だった。 (図表:2023年のビリオネア数ランキング はリンク先参照) 一方、UBSのレポートは興味深いデータを示している。23年4月までの1年間で「相続」によって新たに登場したビリオネアの資産額が、起業など「自ら蓄積」したビリオネアの資産額を初めて上回ったのだ。 資産の継承者は世界に53人存在し、資産額の合計は1508億ドル。これに対してビリオネアとなった起業家の数は84人で1407億ドルだ。 これは次世代への資産移転が始まっていることを意味する。UBSは今後20~30年で1000人以上のビリオネアが総額5兆2000億ドルの資産を次世代に引き継ぐと予想する。 (図表:ビリオネアの新たな資金源 はリンク先参照) この“富の大移動”は、金融機関にとって商機となる。 三井住友フィナンシャルグループで資産20億円超の顧客を担当するウェルスマネジメント統括部ブライベートウェルスグループの千崎隆史グループ長は、超富裕層には「四つの顔」があると指摘する。 経営者の顔、株主の顔、資産家の顔、そして家族の顔だ。それぞれの「顔」が金融機関に求めるニーズは異なる。 例えば経営者や株主としては、事業戦略や資本政策といった金融機関の法人ビジネスの領域となる。一方で資産家や家族としては、節税や相続など個人ビジネスの領域だ。従来、金融機関は法人部門と個人部門に分かれ、それぞれの部隊が別に動いていた。メガバンクや大手証券会社は近年、これを一体的に運用する体制整備を加速させている。千崎氏は「銀行、証券、信託といったグループの総合力がこれまで以上に問われている」と話す。 現代アートやプライベートジェットの購入、子どもの海外留学など、富裕層の関心は多岐にわたり、社会や環境へのポジティブなインパクトの創出を狙ったインパクト投資や慈善事業への関心も近年高まっているという。長者番付7位の米マイクロソフト創業者、ビル・ゲイツが数兆円規模の寄付を行っているが、そうした世界的な富豪の振る舞いも影響を及ぼしていそうだ。 一方、富の大移転が進む中、UBSの調査では創業者と子や孫との間でギャップが生じていることも明らかになった。実際に資産を承継した世代の57%は、ファミリービジネスに関わらないことを選び、創業者世代の58%が、必要な教育、経験を承継者に植え付けることを最大の課題の一つと考えているという。 実際、大塚家具や大王製紙グループ、天馬など、ファミリー内の対立が企業の分裂騒動となった例は近年多い。創業世代が引退し、継承世代との経営理念の違いが生じたり、株式の分散などで“お家騒動”は勃発しやすい。 そこでファミリーガバナンスやファミリー憲章などの確立が必要になる。ファミリー総会やファミリー評議会の運営を支援し、紛争を避けるために家族間のコミュニケーションを円滑にするサービスも、金融機関は手掛けている。 東京証券取引所の上場維持基準が厳格化されたこともあり、自社株を買い取って上場廃止を選ぶオーナー企業も増えている。コーポレートガバナンス(企業統治)改革で株主の声が強まったこともオーナーにとっては悩みの種だ。デジタル化や事業環境の変化で、オーナーが金融機関に相談する機会はこれまで以上に増えるだろう。 一方、金融機関からすれば、手数料が安いオンライン取引の普及や商品のコモディティ化により、マス層向けの対面ビジネスの収益環境は悪化の一途をたどる。ならばサービスに付加価値を付け、富裕層から手数料を取るしかない。 法人融資や証券主幹事といった“接点”は異なるが、オーナー経営者個人にいかに食い込むかというリングで銀行と証券が激突するのは必至だ。本特集でその舞台裏に迫る。 Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata)』、「23年4月までの1年間で「相続」によって新たに登場したビリオネアの資産額が、起業など「自ら蓄積」したビリオネアの資産額を初めて上回ったのだ。 資産の継承者は世界に53人存在し、資産額の合計は1508億ドル。これに対してビリオネアとなった起業家の数は84人で1407億ドルだ。 これは次世代への資産移転が始まっていることを意味する。UBSは今後20~30年で1000人以上のビリオネアが総額5兆2000億ドルの資産を次世代に引き継ぐと予想する・・・創業者世代の58%が、必要な教育、経験を承継者に植え付けることを最大の課題の一つと考えているという。 実際、大塚家具や大王製紙グループ、天馬など、ファミリー内の対立が企業の分裂騒動となった例は近年多い。創業世代が引退し、継承世代との経営理念の違いが生じたり、株式の分散などで“お家騒動”は勃発しやすい。 そこでファミリーガバナンスやファミリー憲章などの確立が必要になる。ファミリー総会やファミリー評議会の運営を支援し、紛争を避けるために家族間のコミュニケーションを円滑にするサービスも、金融機関は手掛けている・・・サービスに付加価値を付け、富裕層から手数料を取るしかない。 法人融資や証券主幹事といった“接点”は異なるが、オーナー経営者個人にいかに食い込むかというリングで銀行と証券が激突するのは必至だ。本特集でその舞台裏に迫る」、なるほど。
次に、4月17日付けダイヤモンド・オンライン「1BTC=1000万円超え!「ビットコイン長者」を生んだ暗号資産の光と影をマウントゴックス元CEOが激白 マルク・カルプレス・元マウントゴックス最高経営責任者インタビュー」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342039
・『2014年にビットコイン消失事件を起こし、経営破綻した暗号資産取引所マウントゴックスの元最高経営責任者、マルク・カルプレス氏がダイヤモンド編集部の取材に応じた。この10年間、ビットコインは多くの人々を富裕層に変え、今年3月にはついに1ビットコイン=1000万円を突破した。そのビットコインに半生を翻弄された男は今、何を思うのか。特集『富裕層 億万長者の実像』の#2は、カルプレス氏の独占インタビューをお届けする』、「カルプレス氏」の顔を久しぶりに見たが、余り変わってなようだ。
・『イーロン・マスク氏ら世界の富豪も大量保有 人々を魅了し続けるビットコインの正体 マルク・カルプレス氏は1985年、フランス中東部のディジョンに生まれた。子どもの頃、漫画『幽☆遊☆白書』を読み、「えたいの知れない世界観」と日本の日常に憧れた。 幼少期からコンピューターにも興味を持ち、3歳からプログラミングを始めた。15歳の頃、友人やインターネットで知り合った人たちとサーバーホスティング事業を立ち上げ、18歳でゲーム会社に入社。1年半ほど就業した後、個人でエンジニアの仕事を多数請け負った。20歳で大手情報通信サービス会社に入社し、研究開発副部長として決済関連業務を担当する。 日本を観光で訪れるようになったのはその頃からだ。ゲストハウスなどに泊まって長期滞在し、「自分の思った通り、日本は良い国」と心から思った。 そして2009年、日本移住を決めた。日本でサーバーホスティング事業の会社を設立し、元の勤め先を通じてフランスから仕事を受ける形でほそぼそと生活していた。 コンピューターと日本のアニメが好きな、そんなフランス人青年の人生を一変させたのが、当時誕生したばかりの暗号資産(仮想通貨)ビットコイン(BTC)だ。 08年に「サトシ・ナカモト」名で出された白書を基に開発され、初めて決済が行われた際の価値は、ピザ2枚に対して1万BTC。BTC/円レートは1BTC=約0.2円程度だった。 その後価格の乱高下を繰り返しながら、今年3月5日、史上初めて1BTC=1000万円を突破した。この値上がりで莫大な利益を手にした者は多く、米企業家のイーロン・マスク氏ら世界的な富豪も大量保有する。BTCは人々を魅了し続ける「夢と希望」の象徴だ。 11年に仮想通貨取引所マウントゴックスの運営を始めたカルプレス氏がBTC黎明期に見たのは、将来の値上がりを予想して流入した、驚愕の富裕層マネーだ。だが14年、当時のレートで230億円相当のBTCが突然消える事件を起こし、後に自身が逮捕されることになる。 仮想通貨の「光と影」を誰よりも知る男が、事件の舞台裏を明かした。カルプレス氏の証言を次ページで全公開する。
・『米国人から無料で譲り受けた取引所 運営2年で顧客が500倍に急成長 Q:大量のBTCが盗まれた14年の「マウントゴックス事件」から10年が過ぎました。この10年間、どう過ごしていたのですか。 A:この10年を説明するには、まずは破産の原因を説明した方がいいと思います。 マウントゴックスの運営を始めたのが11年。当時、BTCはほとんど知られておらず、お客さんは2000人程度でした。しかしわずか3カ月で6万人、2年後に100万人という、普通の会社ではあり得ないスピードで急成長した。 しかし14年2月、お客さんから預かっていたBTCの大部分が突然消失し、破産せざるを得ない状況になってしまいました。 当時から犯人はハッカーに違いないと思っていましたが、誰に、どうやって盗まれたのかは全く分かりませんでした。自分で調べはしたのですが、破産の手続きもあって進まず、事件の約1年半後、私は逮捕されました。 その刑事裁判が始まった17年にロシア人のハッカーが逮捕され、やはりBTCが盗まれたことをようやく証明できるようになりました。横領などの容疑は地裁で無罪判決が下され、検察もそれに対して控訴しませんでした。 私の中で最大の課題は、債権者への分配でした。事件後、20万BTCは盗まれずに残っていたのですが、その現在の価値が約1000億円となったため、債権者に全額返せる状態になったのです。10年前から続く破産手続きがようやく解決しそうな状況です。 Q:事件を振り返り、反省すべき点は何ですか。 A:やはり事業として急成長し過ぎた。お金が関わる事業なので、セキュリティー面を含めて自分1人でいろいろとやっていたんですが、成長のスピードに追い付けませんでした。急に海外送金が増え、銀行の担当者から「怖いので他の銀行に預けてくれませんか」と言われたくらいです。事業を任せられる信頼できる人がいれば、もうちょっとうまくできたと思います。 マウントゴックスを11年に買収した当時、自分の会社の売り上げはギリギリ家賃を払えるぐらいで、生活はかなりきつい状況でした。ある人物から「マウントゴックスを買収しませんか」というオファーがあったのですが、もちろん全くお金がないので「難しい」と返したら、「お金は要らない」と言われたんです。 でも契約書には「マウントゴックスの元所有者は責任を一切負わない」という趣旨のことが書かれ、負債もあった。“うまい話には裏がある”ことを学びました。 Q:誰にオファーされたのですか。 A:ジェド・マケーレブという米国人です。 Q:なぜお知り合いに。 A:当時のBTC業界はごく少数の技術者くらいしかおらず、自分もその技術に興味があり理解もできたから、開発を手伝ったりしていたんです。マウントゴックスをつくったジェドさんの手伝いもしていました。 (図表:マウントゴックス事件の経緯 はリンク先参照) Q:マウントゴックスの運営を始めた当時はどんなお客さんが多かったですか。 A:最初はやはり技術者だけだったのですが、11年4月に米「タイム」誌で初めてBTCが取り上げられ、それで一気に投資目的のお客さんが増えました。 多くが外国人で、日本人はほとんどいませんでした。破産したときのお客さんの約4割は米国人、約3割がヨーロッパの人、日本人は2%程度でした。 最初の大口のお客さんは今でも覚えています。米国人の医者です。11年に5000万円相当のBTCを一気に買った。当時は1BTCが5ドル程度です。 おそらくタイム誌の記事を読んだのでしょう。でも当時としては実態のよく分からない仮想通貨を、日本に住んでいるよく分からないフランス人から買ったんです(笑)。 これには正直、私自身が驚きました。個人から5000万円のお金が一気に入ったのは初めてだったので異常だと思い、マネーロンダリング(資金洗浄)を疑ったくらいです。でも調べてみたら、ちゃんとした医者だと分かりました。 Q:やはり富裕層は情報をキャッチし、瞬時に投資判断する能力が違うんですね。 A:そうですね。ファミリーオフィスと契約している富裕層も多いと思いますが、ファミリーオフィスではリスクの高い商品に投資する責任を取れない。本人が「ビットコインって面白そうだから買ってみよう」と思えるかどうかだったと思います。5000万円の投資が、今は1万倍以上の価値になっているわけです。 Q:「ビットコイン長者」という言葉もありますが、BTCでもうけて富裕層入りした人も多い。同じ状況が今後も続くと思いますか。 A:BTC価格はみんなの夢と希望で成り立つので、みんなが夢と希望を持っていれば価値は上がる。でもやはり値動きは激しいので、もうかる人もいれば損する人もいることを知ってほしい。これから「ビットコイン長者」になれるかは保証できません(笑)。 知人にお勧めしているのは、例えばBTC価格が購入時から3倍になったとします。そこで3分の1を売る。いったん元手を取り戻したら、後は上がっても下がっても落ち着いて判断できるでしょう。 Q:最近も米暗号資産取引所のFTXが破産しており、流出事件もたびたび起きています。資産としての安全性はどうなのでしょうか。 A:技術としてはまだまだ歴史が浅いのですが、お客さんにリスクを負わせない規制やルール作りが進んでいます。FTXの場合も日本国内の顧客に対しては、早い段階で返金された。 ただマウントゴックスの運営当時は、そうしたレギュレーションがまだなかったんです。当時、私は何度も当局とやりとりしましたが、金融庁も「ビットコインって何ですか?」という感じでした。現在のようなレギュレーションができたのは、マウントゴックスの破産のおかげともいえますね。 Q:ハッキングを防ぐことはできないですか。 A:マウントゴックスも当然、さまざまなレイヤーでセキュリティーをかけていたんですが、どうやって侵入したのか分かりませんでした。逮捕されたロシア人の裁判はこれから始まるので現時点では仮説にすぎませんが、私なりの結論はサーバーへの物理的なアクセスです。 BTCはサーバーで保管されていたんですが、当時はデータセンターを造れるほどの予算もなかったので、普通に場所を借りてサーバーを置いていた。そこに第三者がアクセスし、サーバーにあったデータを直接盗んだのではないかと考えています。 Q:第三者がどうやってアクセスできるんですか。 A:普通はできませんが、協力者がいた可能性はあるとみています。 Q:アクセスした記録は残っているのですか。 A:アクセスしようとした記録はありますが、少なくともアクセスできたという記録はない。ただ当時、ハードディスクを抜かれた記録はある。 Q:今回はロシア人が逮捕されましたが、北朝鮮関係のハッキングも多いと聞きます。 (マルク・カルプレス/1985年、フランス生まれ。20歳でTelechargement.FR(現Nexway SA)に開発者として入社。2009年に日本に移住し、株式会社TIBANNE設立。11年にマウントゴックスのビットコイン事業を譲り受け、最高経営責任者に。14年にハッキングに遭い、破綻。15年に私電磁的記録不正作出・同供用および業務上横領などの容疑で逮捕されたが、19年3月に事実上の無罪判決を勝ち取る。趣味はアップルパイ作り。日本のアニメや漫画に造詣が深く、「アニメソムリエ」の異名を持つ。) ハッキングの多くは北朝鮮関係でしょう。インターネットを通じて世界のどこからでも攻撃できる。北朝鮮の場合は基本的に中国経由で接続しているので特定もできない。北朝鮮や中国からハッキングされたら諦めざるを得ない。 今もリスクはゼロではないですね。だから取引所は保険をかけてハッキングされても補償できるように備えている。今の技術をもってしても、BTCは一度盗まれたら取り戻せません。 Q:BTCに関するビジネスはもうやらないんですか。 A:19年に新しい会社を設立しました。IT関係のリサーチや研究開発を業務とするカルプレス研究所です。 Q:個人的にBTCを持っていますか。 A:マウントゴックスに置いていたので全て持っていかれました(笑)。責任者でしたから債権もなし。残ったBTCの価値は債権総額を上回りましたが、私は1円も受け取りません。 Q:今も日本は好きですか。 A:日本は好きです。いろいろありましたが、それでも日本にいるのは日本が好きだからだと思います。 今はAI(人工知能)に関心があり、開発をやってみたい。決済や金融関係の依頼も受けていますので、そちらでも面白いことがまだまだできると思っています。 Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata)』、「破産したときのお客さんの約4割は米国人、約3割がヨーロッパの人、日本人は2%程度でした・・・インターネットを通じて世界のどこからでも攻撃できる。北朝鮮の場合は基本的に中国経由で接続しているので特定もできない。北朝鮮や中国からハッキングされたら諦めざるを得ない。 今もリスクはゼロではないですね。だから取引所は保険をかけてハッキングされても補償できるように備えている。今の技術をもってしても、BTCは一度盗まれたら取り戻せません・・・私なりの結論はサーバーへの物理的なアクセスです。 BTCはサーバーで保管されていたんですが、当時はデータセンターを造れるほどの予算もなかったので、普通に場所を借りてサーバーを置いていた。そこに第三者がアクセスし、サーバーにあったデータを直接盗んだのではないかと考えています。 Q:第三者がどうやってアクセスできるんですか。 A:普通はできませんが、協力者がいた可能性はあるとみています。 Q:アクセスした記録は残っているのですか。 A:アクセスしようとした記録はありますが、少なくともアクセスできたという記録はない。ただ当時、ハードディスクを抜かれた記録はある」、なるほど。
第三に、4月22日付けダイヤモンド・オンライン「銀行&証券の謎のエース社員「プライベートバンカー」の実態、富裕層に愛される“極意”を実名で明かす!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342041
・『メガバンクや大手証券には、「プライベートバンカー」と呼ばれる社員が在籍する。富裕層の資産管理やファミリーの悩みまで聞く秘匿性の高い業務を担うが故に、その実態は謎に包まれている。特集『富裕層 億万長者の実像』の#4では、メガバンクの現役プライベートバンカーに取材し、その正体に迫った』、「プライベートバンカーに取材し、その正体に迫った」、興味深そうだ。
・『「異動もなく社内で見掛けない」!? 謎多きプライベートバンカーの正体 「10年以上の長期在籍もザラで、銀行外の人脈が豊富。社内で見掛けることはほとんどないが、たまに驚くような大きなディール(取引)を持ってくる」 メガバンクで大企業を担当する法人部門の男性社員がそう語るのは、社内のプライベートバンカーについてである。金融機関は通常、法人部門やリテール部門に分かれ、企業や個人に金融サービスの提供を行っているが、プライベートバンカーはどちらにも所属していない。 一般的には2~3年で異動を繰り返す銀行員にあって、プライベートバンカーは10年を超えて異動しない者も珍しくない。メガバンクのプライベートバンカーは、資産規模がおおむね20億円を超える企業オーナーら超富裕層やその一族を担当し、1人当たり200人程度の顧客を抱えているとみられる。 プライベートバンカーは、銀行や証券会社の社員の誰もがなれるわけではない。営業で社内表彰を受けた成績優秀者らが選抜されることが多い。優秀なプライベートバンカーは、巨額の資産運用やM&A(企業の合併・買収)などの大型案件を顧客から任され、それが金融機関の収益に直結する。 だからこそ金融機関は、えりすぐりのエースをプライベートバンキング部門に送り込む。有能でなければ富裕層に愛想を尽かされ、おいしい案件にあずかれないどころか「出禁」になることもある。 富裕層ビジネスにシフトし始めた大手金融機関は今、プライベートバンカーの拡充や質の向上に注力している。では、彼らは一体どんな資質の持ち主で、どうすれば優秀なプライベートバンカーになれるのか。あるメガバンクでプライベートバンカー歴10年以上のキャリアを持つ「猛者」たちに直撃し、その正体を探った』、「金融機関は通常、法人部門やリテール部門に分かれ、企業や個人に金融サービスの提供を行っているが、プライベートバンカーはどちらにも所属していない。 一般的には2~3年で異動を繰り返す銀行員にあって、プライベートバンカーは10年を超えて異動しない者も珍しくない・・・プライベートバンカーは、銀行や証券会社の社員の誰もがなれるわけではない。営業で社内表彰を受けた成績優秀者らが選抜されることが多い。優秀なプライベートバンカーは、巨額の資産運用やM&A(企業の合併・買収)などの大型案件を顧客から任され、それが金融機関の収益に直結する。 だからこそ金融機関は、えりすぐりのエースをプライベートバンキング部門に送り込む。有能でなければ富裕層に愛想を尽かされ、おいしい案件にあずかれないどころか「出禁」になることもある」、「有能でなければ・・・「出禁」になることもある」とは厳しい世界だ。
・『富裕層の横で提案を聞く 重要な素質は「人間性」 日本の富裕層は、自社株や不動産が資産の大半を占める企業オーナーが多く、相続税や贈与税などが高いという日本独自の税制もある。1990年代以降、米国のシティバンクやメリルリンチなど外資系プライベートバンクの日本参入が相次いだが、その多くは撤退した。 「欧米型のプライベートバンキングをそのまま持ち込むのではなく、日本の富裕層に合わせたプライベートバンカーが必要。みずほ銀行はそれに気付き、運用のプロだけではなく、法人営業の経験がある人もプライベートバンキング部門に集めた。私もその一人でした」 そう語るのは、みずほ銀行ウェルスアドバイザリー部でシニア・プライベートバンカーの資格を持つ松山綾乃さんだ。同行には松山さんら約50人のプライベートバンカーが在籍している。 2007年入行の松山さんは、当初プライベートバンカーを希望していたわけではなかった。最初に配属された市ヶ谷支店(千代田区)、次の異動先の荏原支店(品川区)では、法人営業で中小企業などの決済や融資業務などを行っていた。 その中で営業先のオーナー社長が、事業についてだけでなく個人の相続や運用に関する悩みを抱えていることを知った。だが当時の松山さんには融資業務以外の経験がなく、ただ聞くだけしかできなかった。 富裕層に「時間を割く価値がある」(松山さん)と思ってもらうには、法人業務だけでなく、証券や信託に関するあらゆるスキームや法律、会計、税務といった知識も必要だ。松山さんは自ら手を挙げて関係部署での研修を受けるなどしてスキルを磨いた。 ちょうどその頃、みずほ銀行の超富裕層を担当するウェルスマーケティング部(現ウェルスアドバイザリー部)で法人営業の経験がある人材を増やしていたこともあり、松山さんは「2年間の戦略人事」として同部に配属された。そこでプライベートバンカーとなり、12年目のキャリアだ。 法人営業時代、松山さんは富裕層の顧客に運用商品やサービスを提案する際、テーブルを挟んで向かい側に座っていた。だが、今は顧客の横に座り、金融機関の提案を顧客側で聞くことが多い。提案者がみずほグループの同僚であっても、だ。 「お客さまの目線で提案を聞き、お客さまのためになるアドバイスを行う。高難度の案件について一緒にソリューションを検討できるようになり、やりがいを感じている」(松山さん)。オーナー社長から直接相談されるほど信頼関係を築き、事業承継後も世代を超えて富裕層ファミリーを担当することもあるという。 (松山綾乃さんのプロフィール 松山さんと同じくウェルスアドバイザリー部に所属する筒井博貴さんは06年、みずほ銀行FC(フィナンシャルコンサルタント)コースの第1期生として入行。八尾支店(大阪府八尾市)で中小企業オーナーの運用・承継コンサルティングを行い、成績優秀者として関西役員表彰を受賞した。 入行当時からプライベートバンカーを志望し、社内のジョブ公募制度を利用して08年にみずほ証券のプライベートバンキング部に着任。以来、企業経営者の運用・承継コンサルティングなどを行っている。 筒井さんは、プライベートバンカーをオーケストラの指揮者に例える。観客である顧客やその一族に対し、銀行、証券、信託など自社グループの機能を発揮し、心地よい音楽を奏でる。演奏者の数は多ければ多いほど良いが、タクトを振るタイミングを誤れば不協和音となり、観客に不快感を与えてしまう。 「自ら会社を創業した歴戦のオーナー社長に、金融機関の都合で軽はずみなことを言ったらすぐに見抜かれる。プライベートバンカーに重要な素質は人間性。お客さまの横に常にいられる存在でありたい」と筒井さんは言う。 (筒井博貴さんのプロフィール プライベートバンカーとして10年以上のキャリアを持つ筒井さんや松山さんが、10年前と比べて明らかに変わったと感じることがある。 それは事業の再構築や資本政策について真剣に考えるオーナー社長が増えたことだ。筒井さんは「DX(デジタルトランスフォーメーション)やサプライチェーンの再構築など外部環境の変化への対応や、新規事業の探索も欠かせない。株主対応やガバナンスも、オーナー社長にとって重要度が高まっている」と語る。 今、業界再編や経営陣による買収(MBO)などが増えている。オーナー社長がプライベートバンカーにふと漏らした一言が、それらの大型案件につながった例も多い。裏を返せば、そこにいない金融機関は案件に絡めない。 メガバンクだけでなく、野村ホールディングスや大和証券グループ本社、外資系証券が、富裕層ビジネスに注力しているのはそのためだ。野村は4月1日、「営業部門」を「ウェルス・マネジメント部門」に改称し、富裕層に対応するパートナー数を3200人から4800人に増員。大和も同日、「リテール部門」を「ウェルスマネジメント部門」に改称し、コンサルティングを軸とした資産管理型ビジネスに注力する姿勢を社内外に打ち出している。 金融取引のオンライン化が普及し、対面ビジネスのモデル転換を迫られている。証券業界ではSBI証券や楽天証券が株式売買手数料の無料化に踏み切り、マス層の取り込みを加速させている。金融商品もインデックス投資信託などコモディティ化し、差別化は難しい。 (図表:金融各社のポジション変動イメージ はリンク先参照) 対面金融が生き残るためには、顧客に応じて商品やサービスをカスタマイズし、高付加価値化していくしかない。そこに対価を支払ってくれる富裕層の心をいかにつかむかが、対面金融の生き残りの条件となる。 富裕層争奪戦は激化する。その勝負の趨勢は、戦いの最前線に立つプライベートバンカーの腕に懸かっていると言っても過言ではない。 Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata』、「富裕層に「時間を割く価値がある」(松山さん)と思ってもらうには、法人業務だけでなく、証券や信託に関するあらゆるスキームや法律、会計、税務といった知識も必要だ。松山さんは自ら手を挙げて関係部署での研修を受けるなどしてスキルを磨いた。 ちょうどその頃、みずほ銀行の超富裕層を担当するウェルスマーケティング部(現ウェルスアドバイザリー部)で法人営業の経験がある人材を増やしていたこともあり、松山さんは「2年間の戦略人事」として同部に配属された。そこでプライベートバンカーとなり、12年目のキャリアだ。 法人営業時代、松山さんは富裕層の顧客に運用商品やサービスを提案する際、テーブルを挟んで向かい側に座っていた。だが、今は顧客の横に座り、金融機関の提案を顧客側で聞くことが多い。提案者がみずほグループの同僚であっても、だ。 「お客さまの目線で提案を聞き、お客さまのためになるアドバイスを行う。高難度の案件について一緒にソリューションを検討できるようになり、やりがいを感じている」(松山さん)・・・対面金融が生き残るためには、顧客に応じて商品やサービスをカスタマイズし、高付加価値化していくしかない。そこに対価を支払ってくれる富裕層の心をいかにつかむかが、対面金融の生き残りの条件となる。 富裕層争奪戦は激化する。その勝負の趨勢は、戦いの最前線に立つプライベートバンカーの腕に懸かっていると言っても過言ではない」、確かにその通りだ。
タグ:ダイヤモンド・オンライン「イーロン・マスク、柳井正、孫正義…資産10億ドル超の「最新長者番付」、UBSのレポートで判明した“異変”の正体」 (その1)(イーロン・マスク、柳井正、孫正義…資産10億ドル超の「最新長者番付」、UBSのレポートで判明した“異変”の正体、1BTC=1000万円超え!「ビットコイン長者」を生んだ暗号資産の光と影をマウントゴックス元CEOが激白、資産100億円の“不動産リッチ”が金融機関に物申す「お役所仕事は止めてくれ!」、銀行&証券の謎のエース社員「プライベートバンカー」の実態、富裕層に愛される“極意”を実名で明かす!) を最大の課題の一つと考えているという。 実際、大塚家具や大王製紙グループ、天馬など、ファミリー内の対立が企業の分裂騒動となった例は近年多い。創業世代が引退し、継承世代との経営理念の違いが生じたり、株式の分散などで“お家騒動”は勃発しやすい。 そこでファミリーガバナンスやファミリー憲章などの確立が必要になる。ファミリー総会やファミリー評議会の運営を支援し、紛争を避けるために家族間のコミュニケーションを円滑にするサービスも、金融機関は手掛けている・・・ 「カルプレス氏」の顔を久しぶりに見たが、余り変わってなようだ。 ダイヤモンド・オンライン「1BTC=1000万円超え!「ビットコイン長者」を生んだ暗号資産の光と影をマウントゴックス元CEOが激白 マルク・カルプレス・元マウントゴックス最高経営責任者インタビュー」 サービスに付加価値を付け、富裕層から手数料を取るしかない。 法人融資や証券主幹事といった“接点”は異なるが、オーナー経営者個人にいかに食い込むかというリングで銀行と証券が激突するのは必至だ。本特集でその舞台裏に迫る」、なるほど。 私なりの結論はサーバーへの物理的なアクセスです。 BTCはサーバーで保管されていたんですが、当時はデータセンターを造れるほどの予算もなかったので、普通に場所を借りてサーバーを置いていた。そこに第三者がアクセスし、サーバーにあったデータを直接盗んだのではないかと考えています。 Q:第三者がどうやってアクセスできるんですか。 A:普通はできませんが、協力者がいた可能性はあるとみています。 「破産したときのお客さんの約4割は米国人、約3割がヨーロッパの人、日本人は2%程度でした・・・インターネットを通じて世界のどこからでも攻撃できる。北朝鮮の場合は基本的に中国経由で接続しているので特定もできない。北朝鮮や中国からハッキングされたら諦めざるを得ない。 今もリスクはゼロではないですね。だから取引所は保険をかけてハッキングされても補償できるように備えている。今の技術をもってしても、BTCは一度盗まれたら取り戻せません・・・ 「プライベートバンカーに取材し、その正体に迫った」、興味深そうだ。 ダイヤモンド・オンライン「銀行&証券の謎のエース社員「プライベートバンカー」の実態、富裕層に愛される“極意”を実名で明かす!」 Q:アクセスした記録は残っているのですか。 A:アクセスしようとした記録はありますが、少なくともアクセスできたという記録はない。ただ当時、ハードディスクを抜かれた記録はある」、なるほど。 「23年4月までの1年間で「相続」によって新たに登場したビリオネアの資産額が、起業など「自ら蓄積」したビリオネアの資産額を初めて上回ったのだ。 資産の継承者は世界に53人存在し、資産額の合計は1508億ドル。これに対してビリオネアとなった起業家の数は84人で1407億ドルだ。 これは次世代への資産移転が始まっていることを意味する。UBSは今後20~30年で1000人以上のビリオネアが総額5兆2000億ドルの資産を次世代に引き継ぐと予想する・・・創業者世代の58%が、必要な教育、経験を承継者に植え付けること 「億万長者たちの“異変”」とはなかでも興味深そうだ。 「富裕層に「時間を割く価値がある」(松山さん)と思ってもらうには、法人業務だけでなく、証券や信託に関するあらゆるスキームや法律、会計、税務といった知識も必要だ。松山さんは自ら手を挙げて関係部署での研修を受けるなどしてスキルを磨いた。 ちょうどその頃、みずほ銀行の超富裕層を担当するウェルスマーケティング部(現ウェルスアドバイザリー部)で法人営業の経験がある人材を増やしていたこともあり、松山さんは「2年間の戦略人事」として同部に配属された。そこでプライベートバンカーとなり、12年目のキャリアだ。 ってくれる富裕層の心をいかにつかむかが、対面金融の生き残りの条件となる。 富裕層争奪戦は激化する。その勝負の趨勢は、戦いの最前線に立つプライベートバンカーの腕に懸かっていると言っても過言ではない」、確かにその通りだ。 優秀なプライベートバンカーは、巨額の資産運用やM&A(企業の合併・買収)などの大型案件を顧客から任され、それが金融機関の収益に直結する。 だからこそ金融機関は、えりすぐりのエースをプライベートバンキング部門に送り込む。有能でなければ富裕層に愛想を尽かされ、おいしい案件にあずかれないどころか「出禁」になることもある」、「有能でなければ・・・「出禁」になることもある」とは厳しい世界だ。 「金融機関は通常、法人部門やリテール部門に分かれ、企業や個人に金融サービスの提供を行っているが、プライベートバンカーはどちらにも所属していない。 一般的には2~3年で異動を繰り返す銀行員にあって、プライベートバンカーは10年を超えて異動しない者も珍しくない・・・プライベートバンカーは、銀行や証券会社の社員の誰もがなれるわけではない。営業で社内表彰を受けた成績優秀者らが選抜されることが多い。 法人営業時代、松山さんは富裕層の顧客に運用商品やサービスを提案する際、テーブルを挟んで向かい側に座っていた。だが、今は顧客の横に座り、金融機関の提案を顧客側で聞くことが多い。提案者がみずほグループの同僚であっても、だ。 「お客さまの目線で提案を聞き、お客さまのためになるアドバイスを行う。高難度の案件について一緒にソリューションを検討できるようになり、やりがいを感じている」(松山さん)・・・対面金融が生き残るためには、顧客に応じて商品やサービスをカスタマイズし、高付加価値化していくしかない。そこに対価を支払 富裕層ビジネス(プライベートバンキング(PB))
金融政策(その45)(日銀次回利上げは「9月」で25年末政策金利は0.75%か 働き方改革が需給ギャップをタイト化、日銀マイナス金利解除でメガバンクに“うれしい誤算” 中小地銀はジリ貧の分かれる明暗、パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか 高まる“タカ派転換ショック”リスク) [金融]
今日は、金融政策(その45)(日銀次回利上げは「9月」で25年末政策金利は0.75%か 働き方改革が需給ギャップをタイト化、日銀マイナス金利解除でメガバンクに“うれしい誤算” 中小地銀はジリ貧の分かれる明暗、パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか 高まる“タカ派転換ショック”リスク)である。なお、番号は異次元緩和政策からの続きとした。
先ずは、本年3月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したBNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミストの河野龍太郎氏による「日銀次回利上げは「9月」で25年末政策金利は0.75%か、働き方改革が需給ギャップをタイト化」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341137
・『マイナス金利解除後の日本銀行の次なる利上げは9月、早ければ7月だろう。人口動態と働き方改革による労働供給の限界が需給ギャップをタイト化させている。共に、2025年以降の賃上げ圧力となり、インフレを上向かせる。25年末には政策金利は0.75%に達するとみている』、「人口動態と働き方改革による労働供給の限界が需給ギャップをタイト化。2025年以降の賃上げ圧力となり、インフレを上向かせる。25年末には政策金利は0.75%に達するとみている」、0.25%ずつとすれば、利上げは3回だ。
・『マイナス金利だけでなくオーバーシュート型コミットメントもYCCも解除 当初から筆者が予想してきた通り、今春闘での2年連続の高い賃上げ率を確認した後、日本銀行は、3月金融政策決定会合でマイナス金利解除を含め、大規模金融緩和の終了を決定した。 筆者は、日銀が2度目のYCC(イールドカーブコントロール、長短金利操作)の上限引き上げを行った直後の昨年7月末から、2024年4月にマイナス金利が解除されると考え、その後、今年1月からは、3月決定会合でのマイナス金利解除をメインシナリオとしていた。 具体的な政策パッケージの内容も、おおむね筆者の予想通りだった。政策金利は無担保コールレート翌日物に戻し、その誘導水準は0~0.1%とされた。マイナス金利政策の下では三層構造とされていた超過準備への付利は一本化され0.1%とした。適用は翌営業日の3月21日からとなった。 年度末を控え金融機関への配慮から、新たな付利の適用は、翌積み期の4月中旬からと筆者は考えていたのだが、直前に市場が政策変更を十分に織り込み、必要なヘッジが完了したと日銀は判断したのだろう。 バランスシートの拡大を約束したオーバーシュート型コミットメント(注)と共に、YCCも完全に解除された。今後の長期国債の買い入れについては、これまでと同程度の買い入れを行うとした上で、長期金利が急騰する場合については、機動的に対応し、指値オペなどで対応するとしている。 筆者自身は、長期金利急騰を回避するため、長期金利の誘導目標の0%程度は撤廃するものの、万が一の保険として何らかの緩いキャップを残し、場合によってはYCCの部分解除にとどめると当初は考えていた。 しかし、今春闘で5%を超える高い賃上げが達成され、2%のインフレ目標の実現が見通せる状況になったとする中で、具体的な数値のキャップを長期金利に残すのは、不自然と日銀は判断したのだろう。 次ページ以降、次なる利上げの時期を予測し、その背景にある要因を検証していく』、「2%のインフレ目標の実現が見通せる状況になったとする中で、具体的な数値のキャップを長期金利に残すのは、不自然と日銀は判断したのだろう」、なるほど。
(注)オーバーシュート型コミットメント:日銀が物価安定の目標とする消費者物価指数(CPI、除く生鮮食品)の前年比上昇率2%を一時的に上回ってもすぐに金融緩和政策をやめるのではなく、同実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベース(資金供給量)の拡大を継続すること。 物価安定実現を目指し、物価上昇率が目標値を行き過ぎる(オーバーシュートする)まで金融緩和の継続を公約する(コミットメントする)日銀の強い姿勢を示している(野村証券証券用語解説集)。
・『次回利上げは9月 早ければ7月にも 多くの市場参加者は、今後の日銀の国債購入ペースやバランスシートの削減ペースに強い興味を持つが、日銀が最も重視するのは、あくまで長期金利の安定そのものであって、量的な長期の目標を念頭に置いているわけではないと思われる。長期金利が安定する限りにおいては、長期国債の購入を減額し、バランスシートを減少させるというのが日銀のスタンスであろう。 とりわけ、公的債務残高がGDP(国内総生産)比で260%を超え、安定的なプライマリー収支の黒字が全く見通せないわが国の財政事情を考えれば、それもやむを得ないのであろう。 ステートメントの脚注に、月額6兆円の国債購入額の数値を入れたのは、国債購入が「不連続」となることを恐れるマーケットへの配慮だが、今後、グローバル金融市場の動向に応じて、数字は変化していくとみられる。 この他、ETF(上場投資信託)とJ-REIT(不動産投資信託)購入プログラムも予想された通り廃止され、社債購入は段階的に減額され、1年後に終了するとされた。ただし、保有するETFとJ-REITの処分については議論が棚上げされている。 それでは、今後の政策金利の経路はどのようになるのか。まず、植田総裁は、決定会合後の記者会見で、追加利上げについて問われ、「(2%の持続的・安定的達成の確度が)さらに上昇するということになれば、見通しが変わったという言い方になるかと思いますが、また別の言い方をするとすれば、基調的物価上昇率がもう少し上昇すれば、それはまた短期金利の水準の引き上げにつながるということになるかと思います」と述べている。 また、ステートメントでは、金融政策の先行きに関するガイダンスについて、予想された通り、「現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」とされている。 筆者は従来、3月にマイナス金利を解除した後、半年が経過する9月頃にオーバーナイト金利を0.25%まで引き上げ、その後、半年に一度0.25%の利上げを行い(来年3・9月ごろ)、25年末のオーバーナイト金利の水準を0.75%と予想してきた。 一方、市場は24年末の政策金利を0.25%弱、25年末を0.5%弱とみており、民間エコノミストはさらにハト派的で24年末だけでなく、25年末も現状と同じゼロ金利ないし0.25%と予想する向きが多い。 筆者が市場やほかのエコノミストに比べてタカ派的な政策金利の予想を立てているのは、政府・日銀、市場が想定するよりも、日本経済の需給ギャップがタイト化していると考えていることがある。政府・日銀は需給ギャップがゼロ近傍にあるとしているが、筆者の推計では、既に前回の景気サイクルのピークである18年末のレベルまでタイト化している。 だから、誰もが考えていたより、円安インフレが長引いてインフレが高止まりし、今春闘でも高い賃上げとなったのではないか。今春闘は、当初から強気にみていた筆者の想定よりも高い賃上げ率となっており、今後、物価への波及も強まる可能性がある。 政策金利についても、上記に挙げた想定経路より、利上げペースが加速するリスクがあり、その場合、25年末の政策金利は1.0%かそれ以上となるだろう。また、今後の為替レートや4月以降の人件費の価格転嫁次第では、2度目の利上げが7月に前倒しで行われるリスクもあるだろう』、「筆者が市場やほかのエコノミストに比べてタカ派的な政策金利の予想を立てているのは、政府・日銀、市場が想定するよりも、日本経済の需給ギャップがタイト化していると考えていることがある。政府・日銀は需給ギャップがゼロ近傍にあるとしているが、筆者の推計では、既に前回の景気サイクルのピークである18年末のレベルまでタイト化している・・・利上げペースが加速するリスクがあり、その場合、25年末の政策金利は1.0%かそれ以上となるだろう。また、今後の為替レートや4月以降の人件費の価格転嫁次第では、2度目の利上げが7月に前倒しで行われるリスクもあるだろう」、なるほど。
・『現状の金融緩和を続ければインフレ率2%超え、さらなる円安リスクも ここで需給ギャップがタイト化している背景について簡単に説明しておく。周知の通り、円安でインフレが長引く日本では、経済再開後も欧米のような消費の急回復は起こらなかった。それでもなお人手不足が深刻化しているのは、労働供給の拡大が難しくなっているためである。 まず、少子高齢化が進展する中、日本企業は減り続ける若年・壮年の男性正社員の穴を埋めるべく、高齢者と女性を積極的に採用してきたが、既に10年代終盤には、超短時間・超短期間しか働けない人までかき集める事態に追い込まれていた。 コロナ禍で労働需給の逼迫(ひっぱく)は一時的に緩んだが、さらにコロナ禍後は、団塊世代の完全引退が進み、労働力の最大の供給源であった高齢者の就業拡大も止まってしまった。女性の労働力はまだ増えているが、コロナ禍前より増加ペースが鈍っている。女性も高齢化が進んでいるため、生産年齢人口が減り続けており、就業拡大は限界に近い。 ここまでの話は、大抵の専門家は認識しているが、残業規制が人手不足に拍車をかけている点は見過ごされている。従来、日本企業は、好況期には正社員の残業を増やすことで、増大した労働需要の一部を賄っていた。 しかし、10年代半ば以降は、働き方改革として長時間労働を是正する社会的風潮が広がり、法的にも、残業時間の上限規制が導入された。大企業に残業規制が適用されたのは19年4月、中小企業は20年4月であり、コロナ禍でそのインパクトは当初は現れなかったが、23年にコロナ禍が明け、総需要が持ち直し始めた途端に、その影響があらわになってきたのである。 今年3月末には例外的に認められていた建設・運輸業などの残業規制の猶予も終わる。人手不足が和らぐ兆しは全く見えない。つまり、25年も高めの賃上げが続く可能性が高い。 なお、改めて確認しておきたいのは、今回の金融政策決定会合で、異次元緩和を解除したものの、日銀は2%インフレ目標が安定的・持続的に達成されたという勝利宣言にまで踏み込んではいない点である。25年度以降のインフレについては、まだ相当に不確実性が高く、下振れのリスクがあると判断しているとみられる。 もし、勝利宣言を行うのなら、オーバーナイト金利は、筆者の推計するマイナス0.5%の自然利子率と2%インフレの和である1.5%に早い段階で引き上げなければならない。確信には至っていないから、現在も緩和的な金融環境を維持することが可能だと日銀は判断しているわけである。 とはいえ、一方で、現状の金融緩和を継続すれば、インフレ期待が2%を超えるリスクや円安などの弊害が生じ得ることを、政策判断の上で考慮し始めた可能性がある。 細かな点だが、前述した通り、付利の適用が翌営業日からのスタートになったことや、部分撤廃にとどまると考えていたYCCが完全に撤廃されたことなど、筆者が見通しを外したのは、いずれもタカ派サイドであった。 何より、一部のハト派のボードメンバーに反対者が存在する中で、今回、植田総裁が異次元緩和の解除に踏み切ったのは、円安インフレの個人消費への悪影響など副作用が意識され、利上げを「待つことのコスト」が無視し得なくなっているのだと思われる。 インフレ期待が着実に上がっているのなら、実質金利の一段の低下で金融緩和度が強まることを避けるため、名目金利を引き上げなければならない。金利リスクはアップサイドだと思われる』、「今回、植田総裁が異次元緩和の解除に踏み切ったのは、円安インフレの個人消費への悪影響など副作用が意識され、利上げを「待つことのコスト」が無視し得なくなっているのだと思われる。 インフレ期待が着実に上がっているのなら、実質金利の一段の低下で金融緩和度が強まることを避けるため、名目金利を引き上げなければならない。金利リスクはアップサイドだと思われる」、その通りだ。
次に、3月27日付けダイヤモンド・オンライン「日銀マイナス金利解除でメガバンクに“うれしい誤算”、中小地銀はジリ貧の分かれる明暗」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341161
・『日本銀行の17年ぶり利上げ決定による恩恵を受け、今後の株価上昇の期待を集めるのが銀行業界だ。金利が復活し、利ざや拡大が見込めるマイナス金利解除は、銀行業界にとって朗報のはず。だがメガバンクや地銀、ネット銀行の状況をつぶさに見ていくと、そうとも言い切れない』、どういうことなのだろう。
・『マイナス金利解除で収益拡大期待 3メガ首脳は日銀の政策変更を歓迎 「ゲームチェンジ」。みずほフィナンシャルグループ(FG)の木原正裕社長は、日本銀行が決めたマイナス金利政策の解除について、そう語って歓迎した。 これまでの「金利のない世界」で銀行が戦ってきた“ゲーム”は、為替業務や投資信託などの金融商品の販売、M&A(企業の合併・買収)アドバイザリー業務などで、ひたすら手数料を稼ぐもので、それが唯一の勝ち筋だった。 だがそれも、マイナス金利解除でゲームセット。金利が復活すれば、企業への貸し出しなどの運用と、預金などの調達の金利差である利ざやの改善が見込め、金利収益の拡大が期待できる。銀行の本業である金利差で稼ぐという、本来のゲームに変わるというわけだ』、「金利が復活すれば、企業への貸し出しなどの運用と、預金などの調達の金利差である利ざやの改善が見込め、金利収益の拡大が期待できる。銀行の本業である金利差で稼ぐという、本来のゲームに変わるというわけだ」、なるほど。
・『日銀マイナス金利解除でメガバンクに“うれしい誤算”、中小地銀はジリ貧の分かれる明暗 金利上昇により本業が復活すれば、銀行の収益力は格段に増す。日銀の政策転換前から、こうした期待が銀行株の堅調を支えていた。 実際、2022年3月からの米国での金利上昇、さらに23年7月のYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)柔軟化をきっかけとした国内金利の上昇により、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)と三井住友フィナンシャルグループ(FG)、みずほFGの3メガバンクの業績は劇的に改善。中でも三菱UFJFGは、23年度第3四半期の時点で純利益が1兆2979億円に到達し、通期目標の1兆3000億円をわずか9カ月間でほぼ達成してしまうほどの爆発力を見せた。 マイナス金利解除に対する反応を取材していくと、銀行業界の中でも悲喜交々が見えてきた。次ページでは、今回の日銀の政策変更で想定以上の業績上振れが期待できそうな“うれしい誤算”があったメガバンクと、金利復活でジリ貧に陥りそうな地銀の明暗に迫る』、「今回の日銀の政策変更で想定以上の業績上振れが期待できそうな“うれしい誤算”があったメガバンクと、金利復活でジリ貧に陥りそうな地銀の明暗に迫る」、なるほど。
・『日銀の当座預金全体に0.1%の付利 “うれしい誤算”に金融市場も反応 マイナス金利の解除が決まり、3メガの業績がより一層押し上げられることは間違いない。さらに言えば、業績上振れ幅が想定以上になることも考えられる。 銀行各行が日銀に持つ当座預金は、マイナス金利導入で3層(基礎残高、マクロ加算残高、政策金利残高)になっており、3層目の政策金利残高にマイナス0.1%の金利が適用されていた。 三菱UFJ銀行とみずほ銀行は、マイナス金利が解除され、円金利が上昇した際の利益影響を試算していたが、そこでは2層目のマクロ加算残高はこれまで通り付利0%で変わらないという前提を置いていた。 ところが今回の政策変更では、3層構造そのものを1層にした上で、日銀当座預金全体に0.1%の付利を適用する決定がなされた。つまり“うれしい誤算”だったわけだ。 (図表:3カ月TIBORと無担保コールレートの推移 はリンク先参照) これに金融市場は敏感に反応。ゴールドマン・サックス証券の黒田真琴アナリストが「市場でも十分に認識されていなかった」と話すように、無担保コールレート翌日物が急上昇した。さらにそれと連動するTIBOR(タイボー、東京銀行間取引金利)も急騰した(上図参照)。岡三証券の田村晋一アナリストは「日銀当座預金全体へ0.1%の付利が適用されることが、TIBOR上昇を後押しした」と話す。 TIBORは一般的な大企業向け貸し出しの基準金利だ。3メガは金利がTIBORと連動する貸出金の割合が高く、TIBORが上昇したことで利ざやの拡大は確実に期待できる。3メガは今まさに、貸出金利上昇から利ざや拡大へとつながる、好循環の入り口に立っているのだ。 もっとも、全ての銀行が3メガのような好循環に突入できるわけではない。横浜銀行や千葉銀行などの規模の大きな地方銀行を除く中小の地銀は、金利復活をむしろ苦々しく思っているはずだ。 地銀は3メガと違い、金利がTIBORと連動する貸出金の割合が小さい。そのため、足元で金利が上昇し始めていても、その影響は限定的なのだ』、「TIBORは一般的な大企業向け貸し出しの基準金利だ。3メガは金利がTIBORと連動する貸出金の割合が高く、TIBORが上昇したことで利ざやの拡大は確実に期待できる。3メガは今まさに、貸出金利上昇から利ざや拡大へとつながる、好循環の入り口に立っているのだ。 もっとも、全ての銀行が3メガのような好循環に突入できるわけではない。横浜銀行や千葉銀行などの規模の大きな地方銀行を除く中小の地銀は、金利復活をむしろ苦々しく思っているはずだ。 地銀は3メガと違い、金利がTIBORと連動する貸出金の割合が小さい。そのため、足元で金利が上昇し始めていても、その影響は限定的なのだ」、「メガ」は「好循環に突入」できるが、「中小の地銀」は「金利復活をむしろ苦々しく思っている」、なるほど。
・『重要度増す預金、各行金利引き上げへ ネット銀行が競争をリード 地銀は貸出金利を上げたければ、貸出先の中小企業と直接交渉する必要がある。だが、中小企業の多くは人件費や原材料費の高騰などにさらされており、金利負担増を簡単にのむことはできない。ある中堅規模の地銀幹部は「市場金利が上がったから貸出金利を上げさせてくれと頼んでも、『銀行がもうけたいだけだろう』と門前払いを食い、他行に乗り換えられる」と苦しい胸の内を明かす。 一方、そんな状況とは無縁の3メガは、早速次の一手を打った。他行に先手を取られぬよう、普通預金金利を0.001%から0.02%へ、17年ぶりに引き上げたのだ。金利が復活した世界では、預金は銀行にとって利益を生む原資であり、重要度が増すからだ。 地銀は置かれた状況が苦しくても、3メガに追随せざるを得ない。預金金利の引き上げを見送れば、個人顧客の流出を招いてしまうからだ。前出の田村氏は「預金は金利が0.001%高いだけでも、そこに流れる。他行に預金を奪われないためにも、金利は早めに上げる必要があった」と指摘する。こうしてマイナス金利解除決定から3営業日後の3月25日時点で、普通預金金利の引き上げを決めた地銀は実に43行に上った(下表参照)。 (図表:銀行各行の普通預金金利 はリンク先参照) 地銀にとってさらに頭が痛いのは、インターネット銀行のSBI新生銀行とPayPay銀行が、普通預金金利を3メガや地銀よりも高い0.03%に引き上げたことだろう。 金利差はわずか0.01%だが、その差は数字以上だ。ネット銀行には3メガや地銀が一朝一夕には追い付けない、スマートフォンアプリの使い勝手の良さがある。 あるネット銀行幹部は「金利が少し高いことは、アプリの使いやすさや便利さを知ってもらうためのきっかけにすぎない。今回の金利引き上げで金融に対する意識が高くない人もそれに気付き、多くのユーザーを獲得できるだろう」と自信を見せる。 金利復活にもかかわらず、貸出金利は上げられず、預金金利は引き上げざるを得ない。今後はむしろジリ貧になる──。マイナス金利後に始まる新たなゲームは、地銀にとってこれまでにない過酷なものとなりそうだ』、「金利復活にもかかわらず、貸出金利は上げられず、預金金利は引き上げざるを得ない。今後はむしろジリ貧になる──。マイナス金利後に始まる新たなゲームは、地銀にとってこれまでにない過酷なものとなりそうだ」、「TIBOR連動貸出」が少ないことで、「中小地銀」は苦戦を強いられるようだ。
第三に、3月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したみずほリサーチ&テクノロジーズ調査部プリンシパルの小野 亮氏による「パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか、高まる“タカ派転換ショック”リスク」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341204
・『1、2月と続くインフレ率の上振れに「過剰反応はしない」と静観の構えを見せた3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でのパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長に対し、米株式市場は上昇という形で万雷の拍手を送ったようだ。パウエル議長は米景気・雇用の強さを軽視してはいないのか』、興味深そうだ。
・『インフレ見通し上振れもFOMCは年内3回の利下げ予想を維持 3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、最近のCPI(消費者物価指数)統計に見られるインフレ率の上振れに対して顕著な警戒感の強まりを見せることはなかった。 市場参加者の間で最も関心を集めていたとみられる、ドットチャート(FOMC参加者による政策金利であるFF(フェデラルファンド)レートの水準予想)が示す年内の利下げ幅(現状水準と参加者の予想値の中央値との差)は、前回12月と同様の0.75%(通常は1回につき0.25%なので3回の利下げに相当する)となった。 まず、声明文では雇用情勢の強さを強調する最小限の修正が施されただけにとどまり、最近のインフレ率の上振れに関する文言はない。 次に、声明文と同時に発表された物価見通しでは、2024年末のコアインフレ率が前年比2.4%から2.6%へと0.2ポイント上方修正されたが、12月会合から足元までの実績を反映したゲタ(編集部注:直近の水準がそのまま続いたと仮定した場合の上昇・下落幅)に相当する修正幅にとどまった。 FOMC参加者が、最近のようなインフレ率の上振れが今後も続くとは考えていないことの表れである。その結果、「26年末までのインフレ2%達成」という見通しも維持された。 「物価安定への道は外れていない」という物価見通しと整合的なように、米政策金利については前回と同様「24年内は3回相当の0.75%の利下げ」というシナリオもそのままで、米株式市場は歓喜に沸いている。 しかし、ドットチャートやFOMCの経済・物価見通しを子細に見ていくとそのシナリオの危うさが浮かび上がる。次ページ以降、検証していく』、「「物価安定への道は外れていない」という物価見通しと整合的なように、米政策金利については前回と同様「24年内は3回相当の0.75%の利下げ」というシナリオもそのままで、米株式市場は歓喜に沸いている」、マ―ケットが好感するのは当然だが、果たして大丈夫なのだろうか。
・『経済・物価見通し上振れで米政策金利は「より高く、より長く」維持される方向に 米政策金利は「より高く、より長く」維持される方向に微修正された。 FOMC参加者らの政策金利(現在の水準は5.25~5.5%)見通しの分布(中央値で示される。たとえば5.25~5.5%の場合は5.375%)を見ると、前回ドットチャートが示された23年12月のFOMC時に「24年内に3回を超える利下げが適切」と考えていたハト派のほとんどが「せいぜい3回の利下げ」という考えに変化し、「4.5~4.75%」を底辺とするピラミッド型の分布となった(図表1参照)』、「米政策金利は「より高く、より長く」維持される方向に微修正された・・・23年12月のFOMC時に「24年内に3回を超える利下げが適切」と考えていたハト派のほとんどが「せいぜい3回の利下げ」という考えに変化し、「4.5~4.75%」を底辺とするピラミッド型の分布となった」、なるほど。
・『パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか、高まる“タカ派転換ショック”リスク
また、25年内の利下げ幅(予想値の中央値の24年末と25年末の差)が1.0%(4回の利下げ)から0.75%(3回の利下げ)に縮小し、26年末時点の政策金利の水準(予想値の中央値)は前回より0.25%高い3.0~3.25%となった。長期(Longer run)の政策金利も0.125%上昇している。 小幅ながらも政策金利の分布やパスが上方シフトしたのは、これまで以上に強いペースでの景気拡大と良好な雇用情勢が続きそうだという見通しのためである。成長率見通しは、26年までの3年間にわたって上方修正され、潜在成長率(1%台半ば)を上回るペースの景気拡大が持続する見通しとなった。 失業率に関しても、見通しはほぼ変わらないが、先行きについて「上振れ(悪化)リスク」を挙げる参加者が減り、「リスクは均衡している」と考える参加者が大勢となった。FOMC参加者らが3カ月の間に雇用の先行きに自信を深めた様子がうかがえる』、「25年内の利下げ幅(予想値の中央値の24年末と25年末の差)が1.0%(4回の利下げ)から0.75%(3回の利下げ)に縮小し、26年末時点の政策金利の水準(予想値の中央値)は前回より0.25%高い3.0~3.25%となった。長期(Longer run)の政策金利も0.125%上昇している。 小幅ながらも政策金利の分布やパスが上方シフトしたのは、これまで以上に強いペースでの景気拡大と良好な雇用情勢が続きそうだという見通しのためである・・・FOMC参加者らが3カ月の間に雇用の先行きに自信を深めた様子がうかがえる」、なるほど。
・『景気・雇用の強さを問題視しないパウエル議長 インフレ上振れ時のタカ派転換リスク高まる 印象的だったのは、パウエル議長が足元のインフレ率の上振れに動じない姿勢を見せたことだ。 パウエル議長がインフレ率の推移に関して使うことが多い「6カ月前と比較したインフレ率」で見ると、昨年後半はCPI、PCED(個人消費支出デフレーター)のいずれも落ち着いていた(図表2参照)』、「景気・雇用の強さを問題視しないパウエル議長」、何故なのだろう。
・『パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか、高まる“タカ派転換ショック”リスク
しかし24年に入り、特にCPIが上振れている。米景気が好調な結果、ディスインフレの動きが反転・再加速している恐れがあることを示す動きだ。 ところがパウエル議長は、インフレ率には「年前半に強く、年後半に弱い」という癖があることや、新規契約の賃貸料の動きを踏まえれば、コアインフレ率の中で大きなウエートを占める住宅サービスのインフレ率は今後着実に鈍化すると見込まれることなどを理由に挙げながら、「過剰反応はしない」と述べるにとどまった。 「(1月と2月の)2つの数字を総合してみると、インフレ率が2%に向けて、時には飛び跳ねるような道(bumpy road)を進みながら徐々に低下していくという全体的なストーリーは変わっていない」とパウエル議長は語った。これは「足元の動きは想定の範囲内」という意味である。 パウエル議長のコミュニケーションは、FOMC後の上昇からわかるように米株式市場から万雷の拍手をもって迎えられたようだが、気掛かりなことがある。パウエル議長が、景気や雇用、賃金の強さを無条件に受け入れているように映る点だ。米株式市場が沸くのも当然だろう。 パウエル議長は、最近のインフレ率の上振れが「1回の出っ張り(bump)なのか、それ以上の何かなのかはわからない。それを見極める必要がある」「今後発表されるインフレ率とその内容、そしてそれが何を物語っているのか」を丁寧に見ていく姿勢を強調している。 であれば、インフレ率が再加速する原因となり得る強い景気・雇用・賃金にもっと警戒してもよかったはずだ。ところがパウエル議長は1月会合以降、「これらの強さ自体は問題ではない」と繰り返すようになった。 コロナ禍前のFOMCは、幾度となく、景気・雇用・賃金が強まる度に「予防的利上げ」を行い、結果として、インフレ率が低下し2%のインフレ目標達成を逃してきてしまった。その苦い経験が「景気や雇用の強さ自体は問題ではない」という最近の発言につながっている。 しかし、インフレ率の上振れがこれ以上続けば、パウエル議長はタカ派的姿勢をより鮮明にするはずだ。パウエル議長自身は首尾一貫したコミュニケーションのつもりでも、金融市場参加者にとっては大きなbumpとなり得る。今後はパウエル・ショックへの警戒が必要だろう』、「インフレ率が再加速する原因となり得る強い景気・雇用・賃金にもっと警戒してもよかったはずだ。ところがパウエル議長は1月会合以降、「これらの強さ自体は問題ではない」と繰り返すようになった。 コロナ禍前のFOMCは、幾度となく、景気・雇用・賃金が強まる度に「予防的利上げ」を行い、結果として、インフレ率が低下し2%のインフレ目標達成を逃してきてしまった。その苦い経験が「景気や雇用の強さ自体は問題ではない」という最近の発言につながっている。 しかし、インフレ率の上振れがこれ以上続けば、パウエル議長はタカ派的姿勢をより鮮明にするはずだ。パウエル議長自身は首尾一貫したコミュニケーションのつもりでも、金融市場参加者にとっては大きなbumpとなり得る。今後はパウエル・ショックへの警戒が必要だろう』、「今後はパウエル・ショックへの警戒が必要だろう』、「パウエル議長」が「景気や雇用の強さ自体は問題ではない」との考え方にしがみつく理由は、不明だが、確かに彼の見方が外れた場合の「パウエル・ショックへの警戒が必要だろう」、同感である。
先ずは、本年3月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したBNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミストの河野龍太郎氏による「日銀次回利上げは「9月」で25年末政策金利は0.75%か、働き方改革が需給ギャップをタイト化」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341137
・『マイナス金利解除後の日本銀行の次なる利上げは9月、早ければ7月だろう。人口動態と働き方改革による労働供給の限界が需給ギャップをタイト化させている。共に、2025年以降の賃上げ圧力となり、インフレを上向かせる。25年末には政策金利は0.75%に達するとみている』、「人口動態と働き方改革による労働供給の限界が需給ギャップをタイト化。2025年以降の賃上げ圧力となり、インフレを上向かせる。25年末には政策金利は0.75%に達するとみている」、0.25%ずつとすれば、利上げは3回だ。
・『マイナス金利だけでなくオーバーシュート型コミットメントもYCCも解除 当初から筆者が予想してきた通り、今春闘での2年連続の高い賃上げ率を確認した後、日本銀行は、3月金融政策決定会合でマイナス金利解除を含め、大規模金融緩和の終了を決定した。 筆者は、日銀が2度目のYCC(イールドカーブコントロール、長短金利操作)の上限引き上げを行った直後の昨年7月末から、2024年4月にマイナス金利が解除されると考え、その後、今年1月からは、3月決定会合でのマイナス金利解除をメインシナリオとしていた。 具体的な政策パッケージの内容も、おおむね筆者の予想通りだった。政策金利は無担保コールレート翌日物に戻し、その誘導水準は0~0.1%とされた。マイナス金利政策の下では三層構造とされていた超過準備への付利は一本化され0.1%とした。適用は翌営業日の3月21日からとなった。 年度末を控え金融機関への配慮から、新たな付利の適用は、翌積み期の4月中旬からと筆者は考えていたのだが、直前に市場が政策変更を十分に織り込み、必要なヘッジが完了したと日銀は判断したのだろう。 バランスシートの拡大を約束したオーバーシュート型コミットメント(注)と共に、YCCも完全に解除された。今後の長期国債の買い入れについては、これまでと同程度の買い入れを行うとした上で、長期金利が急騰する場合については、機動的に対応し、指値オペなどで対応するとしている。 筆者自身は、長期金利急騰を回避するため、長期金利の誘導目標の0%程度は撤廃するものの、万が一の保険として何らかの緩いキャップを残し、場合によってはYCCの部分解除にとどめると当初は考えていた。 しかし、今春闘で5%を超える高い賃上げが達成され、2%のインフレ目標の実現が見通せる状況になったとする中で、具体的な数値のキャップを長期金利に残すのは、不自然と日銀は判断したのだろう。 次ページ以降、次なる利上げの時期を予測し、その背景にある要因を検証していく』、「2%のインフレ目標の実現が見通せる状況になったとする中で、具体的な数値のキャップを長期金利に残すのは、不自然と日銀は判断したのだろう」、なるほど。
(注)オーバーシュート型コミットメント:日銀が物価安定の目標とする消費者物価指数(CPI、除く生鮮食品)の前年比上昇率2%を一時的に上回ってもすぐに金融緩和政策をやめるのではなく、同実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベース(資金供給量)の拡大を継続すること。 物価安定実現を目指し、物価上昇率が目標値を行き過ぎる(オーバーシュートする)まで金融緩和の継続を公約する(コミットメントする)日銀の強い姿勢を示している(野村証券証券用語解説集)。
・『次回利上げは9月 早ければ7月にも 多くの市場参加者は、今後の日銀の国債購入ペースやバランスシートの削減ペースに強い興味を持つが、日銀が最も重視するのは、あくまで長期金利の安定そのものであって、量的な長期の目標を念頭に置いているわけではないと思われる。長期金利が安定する限りにおいては、長期国債の購入を減額し、バランスシートを減少させるというのが日銀のスタンスであろう。 とりわけ、公的債務残高がGDP(国内総生産)比で260%を超え、安定的なプライマリー収支の黒字が全く見通せないわが国の財政事情を考えれば、それもやむを得ないのであろう。 ステートメントの脚注に、月額6兆円の国債購入額の数値を入れたのは、国債購入が「不連続」となることを恐れるマーケットへの配慮だが、今後、グローバル金融市場の動向に応じて、数字は変化していくとみられる。 この他、ETF(上場投資信託)とJ-REIT(不動産投資信託)購入プログラムも予想された通り廃止され、社債購入は段階的に減額され、1年後に終了するとされた。ただし、保有するETFとJ-REITの処分については議論が棚上げされている。 それでは、今後の政策金利の経路はどのようになるのか。まず、植田総裁は、決定会合後の記者会見で、追加利上げについて問われ、「(2%の持続的・安定的達成の確度が)さらに上昇するということになれば、見通しが変わったという言い方になるかと思いますが、また別の言い方をするとすれば、基調的物価上昇率がもう少し上昇すれば、それはまた短期金利の水準の引き上げにつながるということになるかと思います」と述べている。 また、ステートメントでは、金融政策の先行きに関するガイダンスについて、予想された通り、「現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」とされている。 筆者は従来、3月にマイナス金利を解除した後、半年が経過する9月頃にオーバーナイト金利を0.25%まで引き上げ、その後、半年に一度0.25%の利上げを行い(来年3・9月ごろ)、25年末のオーバーナイト金利の水準を0.75%と予想してきた。 一方、市場は24年末の政策金利を0.25%弱、25年末を0.5%弱とみており、民間エコノミストはさらにハト派的で24年末だけでなく、25年末も現状と同じゼロ金利ないし0.25%と予想する向きが多い。 筆者が市場やほかのエコノミストに比べてタカ派的な政策金利の予想を立てているのは、政府・日銀、市場が想定するよりも、日本経済の需給ギャップがタイト化していると考えていることがある。政府・日銀は需給ギャップがゼロ近傍にあるとしているが、筆者の推計では、既に前回の景気サイクルのピークである18年末のレベルまでタイト化している。 だから、誰もが考えていたより、円安インフレが長引いてインフレが高止まりし、今春闘でも高い賃上げとなったのではないか。今春闘は、当初から強気にみていた筆者の想定よりも高い賃上げ率となっており、今後、物価への波及も強まる可能性がある。 政策金利についても、上記に挙げた想定経路より、利上げペースが加速するリスクがあり、その場合、25年末の政策金利は1.0%かそれ以上となるだろう。また、今後の為替レートや4月以降の人件費の価格転嫁次第では、2度目の利上げが7月に前倒しで行われるリスクもあるだろう』、「筆者が市場やほかのエコノミストに比べてタカ派的な政策金利の予想を立てているのは、政府・日銀、市場が想定するよりも、日本経済の需給ギャップがタイト化していると考えていることがある。政府・日銀は需給ギャップがゼロ近傍にあるとしているが、筆者の推計では、既に前回の景気サイクルのピークである18年末のレベルまでタイト化している・・・利上げペースが加速するリスクがあり、その場合、25年末の政策金利は1.0%かそれ以上となるだろう。また、今後の為替レートや4月以降の人件費の価格転嫁次第では、2度目の利上げが7月に前倒しで行われるリスクもあるだろう」、なるほど。
・『現状の金融緩和を続ければインフレ率2%超え、さらなる円安リスクも ここで需給ギャップがタイト化している背景について簡単に説明しておく。周知の通り、円安でインフレが長引く日本では、経済再開後も欧米のような消費の急回復は起こらなかった。それでもなお人手不足が深刻化しているのは、労働供給の拡大が難しくなっているためである。 まず、少子高齢化が進展する中、日本企業は減り続ける若年・壮年の男性正社員の穴を埋めるべく、高齢者と女性を積極的に採用してきたが、既に10年代終盤には、超短時間・超短期間しか働けない人までかき集める事態に追い込まれていた。 コロナ禍で労働需給の逼迫(ひっぱく)は一時的に緩んだが、さらにコロナ禍後は、団塊世代の完全引退が進み、労働力の最大の供給源であった高齢者の就業拡大も止まってしまった。女性の労働力はまだ増えているが、コロナ禍前より増加ペースが鈍っている。女性も高齢化が進んでいるため、生産年齢人口が減り続けており、就業拡大は限界に近い。 ここまでの話は、大抵の専門家は認識しているが、残業規制が人手不足に拍車をかけている点は見過ごされている。従来、日本企業は、好況期には正社員の残業を増やすことで、増大した労働需要の一部を賄っていた。 しかし、10年代半ば以降は、働き方改革として長時間労働を是正する社会的風潮が広がり、法的にも、残業時間の上限規制が導入された。大企業に残業規制が適用されたのは19年4月、中小企業は20年4月であり、コロナ禍でそのインパクトは当初は現れなかったが、23年にコロナ禍が明け、総需要が持ち直し始めた途端に、その影響があらわになってきたのである。 今年3月末には例外的に認められていた建設・運輸業などの残業規制の猶予も終わる。人手不足が和らぐ兆しは全く見えない。つまり、25年も高めの賃上げが続く可能性が高い。 なお、改めて確認しておきたいのは、今回の金融政策決定会合で、異次元緩和を解除したものの、日銀は2%インフレ目標が安定的・持続的に達成されたという勝利宣言にまで踏み込んではいない点である。25年度以降のインフレについては、まだ相当に不確実性が高く、下振れのリスクがあると判断しているとみられる。 もし、勝利宣言を行うのなら、オーバーナイト金利は、筆者の推計するマイナス0.5%の自然利子率と2%インフレの和である1.5%に早い段階で引き上げなければならない。確信には至っていないから、現在も緩和的な金融環境を維持することが可能だと日銀は判断しているわけである。 とはいえ、一方で、現状の金融緩和を継続すれば、インフレ期待が2%を超えるリスクや円安などの弊害が生じ得ることを、政策判断の上で考慮し始めた可能性がある。 細かな点だが、前述した通り、付利の適用が翌営業日からのスタートになったことや、部分撤廃にとどまると考えていたYCCが完全に撤廃されたことなど、筆者が見通しを外したのは、いずれもタカ派サイドであった。 何より、一部のハト派のボードメンバーに反対者が存在する中で、今回、植田総裁が異次元緩和の解除に踏み切ったのは、円安インフレの個人消費への悪影響など副作用が意識され、利上げを「待つことのコスト」が無視し得なくなっているのだと思われる。 インフレ期待が着実に上がっているのなら、実質金利の一段の低下で金融緩和度が強まることを避けるため、名目金利を引き上げなければならない。金利リスクはアップサイドだと思われる』、「今回、植田総裁が異次元緩和の解除に踏み切ったのは、円安インフレの個人消費への悪影響など副作用が意識され、利上げを「待つことのコスト」が無視し得なくなっているのだと思われる。 インフレ期待が着実に上がっているのなら、実質金利の一段の低下で金融緩和度が強まることを避けるため、名目金利を引き上げなければならない。金利リスクはアップサイドだと思われる」、その通りだ。
次に、3月27日付けダイヤモンド・オンライン「日銀マイナス金利解除でメガバンクに“うれしい誤算”、中小地銀はジリ貧の分かれる明暗」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341161
・『日本銀行の17年ぶり利上げ決定による恩恵を受け、今後の株価上昇の期待を集めるのが銀行業界だ。金利が復活し、利ざや拡大が見込めるマイナス金利解除は、銀行業界にとって朗報のはず。だがメガバンクや地銀、ネット銀行の状況をつぶさに見ていくと、そうとも言い切れない』、どういうことなのだろう。
・『マイナス金利解除で収益拡大期待 3メガ首脳は日銀の政策変更を歓迎 「ゲームチェンジ」。みずほフィナンシャルグループ(FG)の木原正裕社長は、日本銀行が決めたマイナス金利政策の解除について、そう語って歓迎した。 これまでの「金利のない世界」で銀行が戦ってきた“ゲーム”は、為替業務や投資信託などの金融商品の販売、M&A(企業の合併・買収)アドバイザリー業務などで、ひたすら手数料を稼ぐもので、それが唯一の勝ち筋だった。 だがそれも、マイナス金利解除でゲームセット。金利が復活すれば、企業への貸し出しなどの運用と、預金などの調達の金利差である利ざやの改善が見込め、金利収益の拡大が期待できる。銀行の本業である金利差で稼ぐという、本来のゲームに変わるというわけだ』、「金利が復活すれば、企業への貸し出しなどの運用と、預金などの調達の金利差である利ざやの改善が見込め、金利収益の拡大が期待できる。銀行の本業である金利差で稼ぐという、本来のゲームに変わるというわけだ」、なるほど。
・『日銀マイナス金利解除でメガバンクに“うれしい誤算”、中小地銀はジリ貧の分かれる明暗 金利上昇により本業が復活すれば、銀行の収益力は格段に増す。日銀の政策転換前から、こうした期待が銀行株の堅調を支えていた。 実際、2022年3月からの米国での金利上昇、さらに23年7月のYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)柔軟化をきっかけとした国内金利の上昇により、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)と三井住友フィナンシャルグループ(FG)、みずほFGの3メガバンクの業績は劇的に改善。中でも三菱UFJFGは、23年度第3四半期の時点で純利益が1兆2979億円に到達し、通期目標の1兆3000億円をわずか9カ月間でほぼ達成してしまうほどの爆発力を見せた。 マイナス金利解除に対する反応を取材していくと、銀行業界の中でも悲喜交々が見えてきた。次ページでは、今回の日銀の政策変更で想定以上の業績上振れが期待できそうな“うれしい誤算”があったメガバンクと、金利復活でジリ貧に陥りそうな地銀の明暗に迫る』、「今回の日銀の政策変更で想定以上の業績上振れが期待できそうな“うれしい誤算”があったメガバンクと、金利復活でジリ貧に陥りそうな地銀の明暗に迫る」、なるほど。
・『日銀の当座預金全体に0.1%の付利 “うれしい誤算”に金融市場も反応 マイナス金利の解除が決まり、3メガの業績がより一層押し上げられることは間違いない。さらに言えば、業績上振れ幅が想定以上になることも考えられる。 銀行各行が日銀に持つ当座預金は、マイナス金利導入で3層(基礎残高、マクロ加算残高、政策金利残高)になっており、3層目の政策金利残高にマイナス0.1%の金利が適用されていた。 三菱UFJ銀行とみずほ銀行は、マイナス金利が解除され、円金利が上昇した際の利益影響を試算していたが、そこでは2層目のマクロ加算残高はこれまで通り付利0%で変わらないという前提を置いていた。 ところが今回の政策変更では、3層構造そのものを1層にした上で、日銀当座預金全体に0.1%の付利を適用する決定がなされた。つまり“うれしい誤算”だったわけだ。 (図表:3カ月TIBORと無担保コールレートの推移 はリンク先参照) これに金融市場は敏感に反応。ゴールドマン・サックス証券の黒田真琴アナリストが「市場でも十分に認識されていなかった」と話すように、無担保コールレート翌日物が急上昇した。さらにそれと連動するTIBOR(タイボー、東京銀行間取引金利)も急騰した(上図参照)。岡三証券の田村晋一アナリストは「日銀当座預金全体へ0.1%の付利が適用されることが、TIBOR上昇を後押しした」と話す。 TIBORは一般的な大企業向け貸し出しの基準金利だ。3メガは金利がTIBORと連動する貸出金の割合が高く、TIBORが上昇したことで利ざやの拡大は確実に期待できる。3メガは今まさに、貸出金利上昇から利ざや拡大へとつながる、好循環の入り口に立っているのだ。 もっとも、全ての銀行が3メガのような好循環に突入できるわけではない。横浜銀行や千葉銀行などの規模の大きな地方銀行を除く中小の地銀は、金利復活をむしろ苦々しく思っているはずだ。 地銀は3メガと違い、金利がTIBORと連動する貸出金の割合が小さい。そのため、足元で金利が上昇し始めていても、その影響は限定的なのだ』、「TIBORは一般的な大企業向け貸し出しの基準金利だ。3メガは金利がTIBORと連動する貸出金の割合が高く、TIBORが上昇したことで利ざやの拡大は確実に期待できる。3メガは今まさに、貸出金利上昇から利ざや拡大へとつながる、好循環の入り口に立っているのだ。 もっとも、全ての銀行が3メガのような好循環に突入できるわけではない。横浜銀行や千葉銀行などの規模の大きな地方銀行を除く中小の地銀は、金利復活をむしろ苦々しく思っているはずだ。 地銀は3メガと違い、金利がTIBORと連動する貸出金の割合が小さい。そのため、足元で金利が上昇し始めていても、その影響は限定的なのだ」、「メガ」は「好循環に突入」できるが、「中小の地銀」は「金利復活をむしろ苦々しく思っている」、なるほど。
・『重要度増す預金、各行金利引き上げへ ネット銀行が競争をリード 地銀は貸出金利を上げたければ、貸出先の中小企業と直接交渉する必要がある。だが、中小企業の多くは人件費や原材料費の高騰などにさらされており、金利負担増を簡単にのむことはできない。ある中堅規模の地銀幹部は「市場金利が上がったから貸出金利を上げさせてくれと頼んでも、『銀行がもうけたいだけだろう』と門前払いを食い、他行に乗り換えられる」と苦しい胸の内を明かす。 一方、そんな状況とは無縁の3メガは、早速次の一手を打った。他行に先手を取られぬよう、普通預金金利を0.001%から0.02%へ、17年ぶりに引き上げたのだ。金利が復活した世界では、預金は銀行にとって利益を生む原資であり、重要度が増すからだ。 地銀は置かれた状況が苦しくても、3メガに追随せざるを得ない。預金金利の引き上げを見送れば、個人顧客の流出を招いてしまうからだ。前出の田村氏は「預金は金利が0.001%高いだけでも、そこに流れる。他行に預金を奪われないためにも、金利は早めに上げる必要があった」と指摘する。こうしてマイナス金利解除決定から3営業日後の3月25日時点で、普通預金金利の引き上げを決めた地銀は実に43行に上った(下表参照)。 (図表:銀行各行の普通預金金利 はリンク先参照) 地銀にとってさらに頭が痛いのは、インターネット銀行のSBI新生銀行とPayPay銀行が、普通預金金利を3メガや地銀よりも高い0.03%に引き上げたことだろう。 金利差はわずか0.01%だが、その差は数字以上だ。ネット銀行には3メガや地銀が一朝一夕には追い付けない、スマートフォンアプリの使い勝手の良さがある。 あるネット銀行幹部は「金利が少し高いことは、アプリの使いやすさや便利さを知ってもらうためのきっかけにすぎない。今回の金利引き上げで金融に対する意識が高くない人もそれに気付き、多くのユーザーを獲得できるだろう」と自信を見せる。 金利復活にもかかわらず、貸出金利は上げられず、預金金利は引き上げざるを得ない。今後はむしろジリ貧になる──。マイナス金利後に始まる新たなゲームは、地銀にとってこれまでにない過酷なものとなりそうだ』、「金利復活にもかかわらず、貸出金利は上げられず、預金金利は引き上げざるを得ない。今後はむしろジリ貧になる──。マイナス金利後に始まる新たなゲームは、地銀にとってこれまでにない過酷なものとなりそうだ」、「TIBOR連動貸出」が少ないことで、「中小地銀」は苦戦を強いられるようだ。
第三に、3月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したみずほリサーチ&テクノロジーズ調査部プリンシパルの小野 亮氏による「パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか、高まる“タカ派転換ショック”リスク」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341204
・『1、2月と続くインフレ率の上振れに「過剰反応はしない」と静観の構えを見せた3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でのパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長に対し、米株式市場は上昇という形で万雷の拍手を送ったようだ。パウエル議長は米景気・雇用の強さを軽視してはいないのか』、興味深そうだ。
・『インフレ見通し上振れもFOMCは年内3回の利下げ予想を維持 3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、最近のCPI(消費者物価指数)統計に見られるインフレ率の上振れに対して顕著な警戒感の強まりを見せることはなかった。 市場参加者の間で最も関心を集めていたとみられる、ドットチャート(FOMC参加者による政策金利であるFF(フェデラルファンド)レートの水準予想)が示す年内の利下げ幅(現状水準と参加者の予想値の中央値との差)は、前回12月と同様の0.75%(通常は1回につき0.25%なので3回の利下げに相当する)となった。 まず、声明文では雇用情勢の強さを強調する最小限の修正が施されただけにとどまり、最近のインフレ率の上振れに関する文言はない。 次に、声明文と同時に発表された物価見通しでは、2024年末のコアインフレ率が前年比2.4%から2.6%へと0.2ポイント上方修正されたが、12月会合から足元までの実績を反映したゲタ(編集部注:直近の水準がそのまま続いたと仮定した場合の上昇・下落幅)に相当する修正幅にとどまった。 FOMC参加者が、最近のようなインフレ率の上振れが今後も続くとは考えていないことの表れである。その結果、「26年末までのインフレ2%達成」という見通しも維持された。 「物価安定への道は外れていない」という物価見通しと整合的なように、米政策金利については前回と同様「24年内は3回相当の0.75%の利下げ」というシナリオもそのままで、米株式市場は歓喜に沸いている。 しかし、ドットチャートやFOMCの経済・物価見通しを子細に見ていくとそのシナリオの危うさが浮かび上がる。次ページ以降、検証していく』、「「物価安定への道は外れていない」という物価見通しと整合的なように、米政策金利については前回と同様「24年内は3回相当の0.75%の利下げ」というシナリオもそのままで、米株式市場は歓喜に沸いている」、マ―ケットが好感するのは当然だが、果たして大丈夫なのだろうか。
・『経済・物価見通し上振れで米政策金利は「より高く、より長く」維持される方向に 米政策金利は「より高く、より長く」維持される方向に微修正された。 FOMC参加者らの政策金利(現在の水準は5.25~5.5%)見通しの分布(中央値で示される。たとえば5.25~5.5%の場合は5.375%)を見ると、前回ドットチャートが示された23年12月のFOMC時に「24年内に3回を超える利下げが適切」と考えていたハト派のほとんどが「せいぜい3回の利下げ」という考えに変化し、「4.5~4.75%」を底辺とするピラミッド型の分布となった(図表1参照)』、「米政策金利は「より高く、より長く」維持される方向に微修正された・・・23年12月のFOMC時に「24年内に3回を超える利下げが適切」と考えていたハト派のほとんどが「せいぜい3回の利下げ」という考えに変化し、「4.5~4.75%」を底辺とするピラミッド型の分布となった」、なるほど。
・『パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか、高まる“タカ派転換ショック”リスク
また、25年内の利下げ幅(予想値の中央値の24年末と25年末の差)が1.0%(4回の利下げ)から0.75%(3回の利下げ)に縮小し、26年末時点の政策金利の水準(予想値の中央値)は前回より0.25%高い3.0~3.25%となった。長期(Longer run)の政策金利も0.125%上昇している。 小幅ながらも政策金利の分布やパスが上方シフトしたのは、これまで以上に強いペースでの景気拡大と良好な雇用情勢が続きそうだという見通しのためである。成長率見通しは、26年までの3年間にわたって上方修正され、潜在成長率(1%台半ば)を上回るペースの景気拡大が持続する見通しとなった。 失業率に関しても、見通しはほぼ変わらないが、先行きについて「上振れ(悪化)リスク」を挙げる参加者が減り、「リスクは均衡している」と考える参加者が大勢となった。FOMC参加者らが3カ月の間に雇用の先行きに自信を深めた様子がうかがえる』、「25年内の利下げ幅(予想値の中央値の24年末と25年末の差)が1.0%(4回の利下げ)から0.75%(3回の利下げ)に縮小し、26年末時点の政策金利の水準(予想値の中央値)は前回より0.25%高い3.0~3.25%となった。長期(Longer run)の政策金利も0.125%上昇している。 小幅ながらも政策金利の分布やパスが上方シフトしたのは、これまで以上に強いペースでの景気拡大と良好な雇用情勢が続きそうだという見通しのためである・・・FOMC参加者らが3カ月の間に雇用の先行きに自信を深めた様子がうかがえる」、なるほど。
・『景気・雇用の強さを問題視しないパウエル議長 インフレ上振れ時のタカ派転換リスク高まる 印象的だったのは、パウエル議長が足元のインフレ率の上振れに動じない姿勢を見せたことだ。 パウエル議長がインフレ率の推移に関して使うことが多い「6カ月前と比較したインフレ率」で見ると、昨年後半はCPI、PCED(個人消費支出デフレーター)のいずれも落ち着いていた(図表2参照)』、「景気・雇用の強さを問題視しないパウエル議長」、何故なのだろう。
・『パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか、高まる“タカ派転換ショック”リスク
しかし24年に入り、特にCPIが上振れている。米景気が好調な結果、ディスインフレの動きが反転・再加速している恐れがあることを示す動きだ。 ところがパウエル議長は、インフレ率には「年前半に強く、年後半に弱い」という癖があることや、新規契約の賃貸料の動きを踏まえれば、コアインフレ率の中で大きなウエートを占める住宅サービスのインフレ率は今後着実に鈍化すると見込まれることなどを理由に挙げながら、「過剰反応はしない」と述べるにとどまった。 「(1月と2月の)2つの数字を総合してみると、インフレ率が2%に向けて、時には飛び跳ねるような道(bumpy road)を進みながら徐々に低下していくという全体的なストーリーは変わっていない」とパウエル議長は語った。これは「足元の動きは想定の範囲内」という意味である。 パウエル議長のコミュニケーションは、FOMC後の上昇からわかるように米株式市場から万雷の拍手をもって迎えられたようだが、気掛かりなことがある。パウエル議長が、景気や雇用、賃金の強さを無条件に受け入れているように映る点だ。米株式市場が沸くのも当然だろう。 パウエル議長は、最近のインフレ率の上振れが「1回の出っ張り(bump)なのか、それ以上の何かなのかはわからない。それを見極める必要がある」「今後発表されるインフレ率とその内容、そしてそれが何を物語っているのか」を丁寧に見ていく姿勢を強調している。 であれば、インフレ率が再加速する原因となり得る強い景気・雇用・賃金にもっと警戒してもよかったはずだ。ところがパウエル議長は1月会合以降、「これらの強さ自体は問題ではない」と繰り返すようになった。 コロナ禍前のFOMCは、幾度となく、景気・雇用・賃金が強まる度に「予防的利上げ」を行い、結果として、インフレ率が低下し2%のインフレ目標達成を逃してきてしまった。その苦い経験が「景気や雇用の強さ自体は問題ではない」という最近の発言につながっている。 しかし、インフレ率の上振れがこれ以上続けば、パウエル議長はタカ派的姿勢をより鮮明にするはずだ。パウエル議長自身は首尾一貫したコミュニケーションのつもりでも、金融市場参加者にとっては大きなbumpとなり得る。今後はパウエル・ショックへの警戒が必要だろう』、「インフレ率が再加速する原因となり得る強い景気・雇用・賃金にもっと警戒してもよかったはずだ。ところがパウエル議長は1月会合以降、「これらの強さ自体は問題ではない」と繰り返すようになった。 コロナ禍前のFOMCは、幾度となく、景気・雇用・賃金が強まる度に「予防的利上げ」を行い、結果として、インフレ率が低下し2%のインフレ目標達成を逃してきてしまった。その苦い経験が「景気や雇用の強さ自体は問題ではない」という最近の発言につながっている。 しかし、インフレ率の上振れがこれ以上続けば、パウエル議長はタカ派的姿勢をより鮮明にするはずだ。パウエル議長自身は首尾一貫したコミュニケーションのつもりでも、金融市場参加者にとっては大きなbumpとなり得る。今後はパウエル・ショックへの警戒が必要だろう』、「今後はパウエル・ショックへの警戒が必要だろう』、「パウエル議長」が「景気や雇用の強さ自体は問題ではない」との考え方にしがみつく理由は、不明だが、確かに彼の見方が外れた場合の「パウエル・ショックへの警戒が必要だろう」、同感である。
タグ:利上げペースが加速するリスクがあり、その場合、25年末の政策金利は1.0%かそれ以上となるだろう。また、今後の為替レートや4月以降の人件費の価格転嫁次第では、2度目の利上げが7月に前倒しで行われるリスクもあるだろう」、なるほど。 小野 亮氏による「パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか、高まる“タカ派転換ショック”リスク」 「金利復活にもかかわらず、貸出金利は上げられず、預金金利は引き上げざるを得ない。今後はむしろジリ貧になる──。マイナス金利後に始まる新たなゲームは、地銀にとってこれまでにない過酷なものとなりそうだ」、「TIBOR連動貸出」が少ないことで、「中小地銀」は苦戦を強いられるようだ。 地銀は3メガと違い、金利がTIBORと連動する貸出金の割合が小さい。そのため、足元で金利が上昇し始めていても、その影響は限定的なのだ」、「メガ」は「好循環に突入」できるが、「中小の地銀」は「金利復活をむしろ苦々しく思っている」、なるほど。 「筆者が市場やほかのエコノミストに比べてタカ派的な政策金利の予想を立てているのは、政府・日銀、市場が想定するよりも、日本経済の需給ギャップがタイト化していると考えていることがある。政府・日銀は需給ギャップがゼロ近傍にあるとしているが、筆者の推計では、既に前回の景気サイクルのピークである18年末のレベルまでタイト化している・・・ (注)オーバーシュート型コミットメント:日銀が物価安定の目標とする消費者物価指数(CPI、除く生鮮食品)の前年比上昇率2%を一時的に上回ってもすぐに金融緩和政策をやめるのではなく、同実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベース(資金供給量)の拡大を継続すること。 物価安定実現を目指し、物価上昇率が目標値を行き過ぎる(オーバーシュートする)まで金融緩和の継続を公約する(コミットメントする)日銀の強い姿勢を示している(野村証券証券用語解説集)。 「TIBORは一般的な大企業向け貸し出しの基準金利だ。3メガは金利がTIBORと連動する貸出金の割合が高く、TIBORが上昇したことで利ざやの拡大は確実に期待できる。3メガは今まさに、貸出金利上昇から利ざや拡大へとつながる、好循環の入り口に立っているのだ。 もっとも、全ての銀行が3メガのような好循環に突入できるわけではない。横浜銀行や千葉銀行などの規模の大きな地方銀行を除く中小の地銀は、金利復活をむしろ苦々しく思っているはずだ。 河野龍太郎氏による「日銀次回利上げは「9月」で25年末政策金利は0.75%か、働き方改革が需給ギャップをタイト化」 ダイヤモンド・オンライン (その45)(日銀次回利上げは「9月」で25年末政策金利は0.75%か 働き方改革が需給ギャップをタイト化、日銀マイナス金利解除でメガバンクに“うれしい誤算” 中小地銀はジリ貧の分かれる明暗、パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか 高まる“タカ派転換ショック”リスク) 金融政策 しかし、インフレ率の上振れがこれ以上続けば、パウエル議長はタカ派的姿勢をより鮮明にするはずだ。パウエル議長自身は首尾一貫したコミュニケーションのつもりでも、金融市場参加者にとっては大きなbumpとなり得る。今後はパウエル・ショックへの警戒が必要だろう』、「今後はパウエル・ショックへの警戒が必要だろう』、「パウエル議長」が「景気や雇用の強さ自体は問題ではない」との考え方にしがみつく理由は、不明だが、確かに彼の見方が外れた場合の「パウエル・ショックへの警戒が必要だろう」、同感である。 「インフレ率が再加速する原因となり得る強い景気・雇用・賃金にもっと警戒してもよかったはずだ。ところがパウエル議長は1月会合以降、「これらの強さ自体は問題ではない」と繰り返すようになった。 コロナ禍前のFOMCは、幾度となく、景気・雇用・賃金が強まる度に「予防的利上げ」を行い、結果として、インフレ率が低下し2%のインフレ目標達成を逃してきてしまった。その苦い経験が「景気や雇用の強さ自体は問題ではない」という最近の発言につながっている。 「今回の日銀の政策変更で想定以上の業績上振れが期待できそうな“うれしい誤算”があったメガバンクと、金利復活でジリ貧に陥りそうな地銀の明暗に迫る」、なるほど。 「2%のインフレ目標の実現が見通せる状況になったとする中で、具体的な数値のキャップを長期金利に残すのは、不自然と日銀は判断したのだろう」、なるほど。 「人口動態と働き方改革による労働供給の限界が需給ギャップをタイト化。2025年以降の賃上げ圧力となり、インフレを上向かせる。25年末には政策金利は0.75%に達するとみている」、0.25%ずつとすれば、利上げは3回だ。 ダイヤモンド・オンライン「日銀マイナス金利解除でメガバンクに“うれしい誤算”、中小地銀はジリ貧の分かれる明暗」 「今回、植田総裁が異次元緩和の解除に踏み切ったのは、円安インフレの個人消費への悪影響など副作用が意識され、利上げを「待つことのコスト」が無視し得なくなっているのだと思われる。 インフレ期待が着実に上がっているのなら、実質金利の一段の低下で金融緩和度が強まることを避けるため、名目金利を引き上げなければならない。金利リスクはアップサイドだと思われる」、その通りだ。 「金利が復活すれば、企業への貸し出しなどの運用と、預金などの調達の金利差である利ざやの改善が見込め、金利収益の拡大が期待できる。銀行の本業である金利差で稼ぐという、本来のゲームに変わるというわけだ」、なるほど。 「米政策金利は「より高く、より長く」維持される方向に微修正された・・・23年12月のFOMC時に「24年内に3回を超える利下げが適切」と考えていたハト派のほとんどが「せいぜい3回の利下げ」という考えに変化し、「4.5~4.75%」を底辺とするピラミッド型の分布となった」、なるほど。 「「物価安定への道は外れていない」という物価見通しと整合的なように、米政策金利については前回と同様「24年内は3回相当の0.75%の利下げ」というシナリオもそのままで、米株式市場は歓喜に沸いている」、マ―ケットが好感するのは当然だが、果たして大丈夫なのだろうか。 どういうことなのだろう。 「景気・雇用の強さを問題視しないパウエル議長」、何故なのだろう。 FOMC参加者らが3カ月の間に雇用の先行きに自信を深めた様子がうかがえる」、なるほど。 「25年内の利下げ幅(予想値の中央値の24年末と25年末の差)が1.0%(4回の利下げ)から0.75%(3回の利下げ)に縮小し、26年末時点の政策金利の水準(予想値の中央値)は前回より0.25%高い3.0~3.25%となった。長期(Longer run)の政策金利も0.125%上昇している。 小幅ながらも政策金利の分布やパスが上方シフトしたのは、これまで以上に強いペースでの景気拡大と良好な雇用情勢が続きそうだという見通しのためである・・・
個人債務問題(その4)(若者が陥る不動産投資のワナ 「フラット35」の不正利用が相次ぐ(テレ東BIZ)、「国が認めた借金減額」SNS広告で若年層を食い物に!経営コンサルと弁護士事務所の深い闇、住宅ローンのフラット35 金利「独歩高」の忍耐期 機構が「身銭」を切り 変動金利型に対抗へ) [金融]
個人債務問題については、2021年2月5日に取上げた。今日は、(その4)(若者が陥る不動産投資のワナ 「フラット35」の不正利用が相次ぐ(テレ東BIZ)、「国が認めた借金減額」SNS広告で若年層を食い物に!経営コンサルと弁護士事務所の深い闇、住宅ローンのフラット35 金利「独歩高」の忍耐期 機構が「身銭」を切り 変動金利型に対抗へ)である。
先ずは、昨年8月7日付けGirls Channelが転載したテレ東BIZ「若者が陥る不動産投資のワナ 「フラット35」の不正利用が相次ぐ(テレ東BIZ)」を紹介しよう。
・『佐藤さんが購入した物件は、都心の最寄り駅から徒歩1分の1LDK(約45平方メートル)。築15年(購入時)で4900万円でした。 物件自体に問題はありませんでしたが、「投資用のローンではなく、住宅居住用の『フラット35』を使用してしまった。不動産会社とやり取りをしていて、投資用ローンで購入しているものだと思っていた」(佐藤さん)といいます。 「フラット35」は、最長35年間、一定の金利で借りられる住宅ローン。 問題は、このローンを利用できるのは、本人や親族が住むための物件を購入する場合に限られていることです。佐藤さんのように、投資用物件で使うと、不正利用にあたります。 購入から1年後、佐藤さんの元に届いたのは、住宅金融支援機構からの居住確認でした。 「不動産会社に手紙が来たということを言ったときに、アンケートのようなものだから答えなくていいと言われ、私もそういうものなのかと楽観的に捉えてしまった」(佐藤さん) 最終的に居住実態がないことが確認され、佐藤さんは住宅支援機構から残ったローンの一括返済を求められました。その後、物件を販売した不動産会社とは、連絡が取れなくなったといいます。 「不動産のプロは詐欺のようなことはしないだろうと思っていた。後悔している」(佐藤さん) 実は今、佐藤さんのように、知らずにフラット35の不正利用をしてしまう事例が相次いでいます』、「購入から1年後、佐藤さんの元に届いたのは、住宅金融支援機構からの居住確認でした。 「不動産会社に手紙が来たということを言ったときに、アンケートのようなものだから答えなくていいと言われ、私もそういうものなのかと楽観的に捉えてしまった」(佐藤さん) 最終的に居住実態がないことが確認され、佐藤さんは住宅支援機構から残ったローンの一括返済を求められました。その後、物件を販売した不動産会社とは、連絡が取れなくなったといいます」、「物件を販売した不動産会社」も「連絡が取れなくなった」とは無責任の極みだが、「アンケートのようなものだから答えなくていいと言われ、私もそういうものなのかと楽観的に捉えてしまった」、という佐藤さんにも責任がある。「一括返済」要求に応じる必要がある。
次に、 3月13日付けダイヤモンド・オンライン「「国が認めた借金減額」SNS広告で若年層を食い物に!経営コンサルと弁護士事務所の深い闇」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339691
・『“カジュアル”な債務整理――。本来、債務整理は、貸金業者などと和解して利息を減額してもらうなど“重たい”ものだが、最近では「国が認めた借金減額」などのSNS広告に釣られ、気軽に利用する若年層が急増。しかしその裏には、債務整理をエコシステム化した経営コンサルティング会社や弁護士事務所が存在する。特集『激変!3大士業の仕事&稼ぎ方』(全12回)の#8では、最新の債務整理ビジネスのスキームを明らかにする』、「最新の債務整理ビジネスのスキーム」とは興味深そうだ。
・『「国が認めた借金減額」など 債務整理に誘導する広告が跋扈 「国が認めた借金減額」「借金救済措置」「借金減額シミュレーター」――。スマートフォンでSNSやニュースサイトなどを見ていると、次から次へとこうした広告が目に入る。 しかも、異なる弁護士事務所や司法書士事務所の広告にもかかわらず、似たような文言が書かれているのに加え、色が違うだけで同じ広告としか思えない誘導画面がずらりと並んでいる。 要は、借金救済制度をうたったテンプレートを経営コンサルティング会社や広告会社が用意し、それを多くの士業が利用しているわけだ。そして今、こうしたサイト経由で気軽に債務整理を申し込む若年層が増えている。 ある貸金業者の調査によれば、「20代の若年層が利用者の約30%を占め、特定の経営コンサル会社の案件に限って見れば、若年層が約45%を占める」という。 スマホ経由で手軽なため、ちまたでは「カジュアルな債務整理」と呼ばれており、その裏には、債務整理をエコシステム化した経営コンサル会社や弁護士事務所が存在している。しかも、「かなりずさんな運用がなされているケースが少なくない」と弁護士業界や貸金業界でささやかれている。 では、いったい何が問題なのか。次ページでは、「カジュアルな債務整理」と呼ばれる、このスキームの全貌を明らかにしていこう』、「債務整理」とは暗いイメージだが、「カジュアルな債務整理」には「暗さ」がなく、言い得て妙だ。それにしても「借金救済制度をうたったテンプレートを経営コンサルティング会社や広告会社が用意し、それを多くの士業が利用」、とは恐れ入る。
・『カジュアルな債務整理 高額な弁護士報酬が発生 まずは、下図をご覧いただきたい。カジュアルな債務整理の仕組みを図解したものだ。 (図表:SNS広告を多用した債務整理ビジネスのスキームはリンク先参照) 士業専門の経営コンサル会社や広告会社が、弁護士事務所や司法書士事務所などと手を組み、SNSなどで「国が認めた借金減額」などの不当な広告を大量に打つ。国が新たに多重債務者を救済する制度を作ったかのようにアピールし、その広告を見た多重債務者は、サイト経由で借金額や個人情報を入力し、弁護士事務所などに債務整理を依頼するという流れだ。 最近の若年層は、昔のように遊興費のための借金ではなく、「生活費の補填のための借金が多い」と貸金業者たちは言う。収入が低く増えない中、高額なスマホをBNPLと呼ばれる後払い決済で購入したり、不足した生活費をカードローンや消費者金融などの借金で補填したりして、月々の支払いが10万円を超えてしまうケースが多いのだという。 このように借金に苦しむ若者たちからすれば、国が認めた制度で借金が減額できるならばありがたいが、実はそう単純な話ではない。 一口に債務整理と言っても、任意整理や自己破産、民事再生など複数の方法があり、くだんの債務整理で主に利用されているのが任意整理だ。任意整理とは、弁護士事務所が貸金業者と交渉することで将来発生する利息や遅延損害金を免除してもらい、借金を分割払いにすることで月々の支払いを減額するというものだ。 これならば借金が大きく減りそうだが、実際にはそうとは言い切れない。長期分割払いは認められたとしても、債務者の資産状況によっては利息を減免する必要がないケースもあるからだ。 また、改正貸金業法が本格施行され、貸金業各社が上限金利を引き下げた2010年より前(実際には07年ごろから引き下げている)の借り入れならば、過払い金があるため借金は大きく減るが、それ以降の借り入れならば元本が減ることはない。 しかも、弁護士事務所に債務整理を依頼するには高額な手数料がかかる。着手金が5万円で成功報酬が2万~3万円というのが相場だが、5社から借り入れしていれば計35万~40万円にもなる。 加えて、和解が成立して長期分割払いになった場合には、返済代行に関わる送金管理手数料として、1回当たり約1100円を上乗せした金額を弁護士事務所に支払うことになる。60回払いならば計6万円となり、5社から借り入れがあれば総額30万円にもなる。 要は、着手金と成功報酬に送金管理手数料を足し合わせれば、65万~70万円もの費用がかかる計算だ。故に、「債務整理をしても、実際に支払う総額は減らないか、もしくは借金額が少なければ、弁済総額が増えることすらある」と、別の貸金業者は明かす』、「カジュアルな債務整理 高額な弁護士報酬が発生」、なるほど。
・『経営コンサルが弁護士を主導し「非弁行為」に手を染める例も そもそも債務整理は、過払い金返還請求とは大きく異なるもの。過払い金返還請求は、過去に返済した借金に対する超過利息分を取り返すものだが、債務整理は、借金額や借り入れ社数、現在の収支のバランスや資産額、借り入れに至った理由や今後の見通しなどさまざまな要素を検討した上で、判断しなければならない。 なぜなら、債務整理を行えば、その情報は信用情報機関に登録されることになるからだ。完済してから5年間は登録情報が消えないため、60回払い(5年間)にした場合、合計10年間はクレジットカードの利用や新規発行、住宅ローンなどの借り入れができなくなる。 故に、弁護士事務所が債務整理を受任する際には、「債務者と面談を行い、債務の内容や生活状況等を聴取しなければならない」と、日本弁護士連合会の規定で決められている。ところが、昨今はやりの債務整理では、「弁護士による面談が行われていないと思われるケースが多い」と複数の貸金業者は話す。 というのも、弁護士が少人数しかいない事務所が、24時間フル稼働しても面談し切れないほど多数の債務者を全国から集めている事例があるからだ。こうした事務所では事務員が対応しているもようで、いわゆる「非弁行為」に当たる可能性が高い。 実際、18年に弁護士法違反の容疑で弁護士法人のあゆみ共同法律事務所が大阪地方検察庁特捜部の捜索を受け、所属していた弁護士たちが罪に問われた。経営コンサル会社HIROKEN(ヒロケン)が派遣した事務員に、弁護士の名義を利用させて債務整理を行っていたためだ。 まさに、非弁行為があったわけだが、この事件のポイントは経営コンサル会社が主導していたとみられる点だ。司法制度改革によって弁護士の数が激増し、過当競争により仕事にあぶれる弁護士が急増した。それを機に、非弁行為に取り込まれた可能性が高い。 今はやりのカジュアルな債務整理の激増も、これと似た構図だ。最近、勢力を拡大しているある士業専門の経営コンサル会社は、「送金管理手数料だけで毎月1.5億円を稼ぎ、それを傘下の弁護士事務所と経営コンサル会社で分け合っている」とのうわさもある。 これは弁護士職務基本規定に反する行為であり、債務整理ビジネスをエコシステム化し、生活費に困窮している若年層を食い物にしていると言わざるを得ない。弁護士としての矜持が問われている』、「最近、勢力を拡大しているある士業専門の経営コンサル会社は、「送金管理手数料だけで毎月1.5億円を稼ぎ、それを傘下の弁護士事務所と経営コンサル会社で分け合っている」とのうわさもある。 これは弁護士職務基本規定に反する行為であり、債務整理ビジネスをエコシステム化し、生活費に困窮している若年層を食い物にしていると言わざるを得ない。弁護士としての矜持が問われている」、ここまで酷いビジネスを展開しているとは、初めて知ると同時に、驚いた。
第三に、3月26日付け東洋経済オンライン「住宅ローンのフラット35、金利「独歩高」の忍耐期 機構が「身銭」を切り、変動金利型に対抗へ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/743427
・『住宅金融支援機構が提供する、長期固定金利の住宅ローン「フラット35」の利用が低迷している。2023年度の利用戸数は、2008年度以来15年ぶりの低水準となる見通しだ。見かねた機構は「身銭」を切って金利を引き下げ、根強い人気を誇る変動金利型との競争に参戦し始めた。 「昨今の金融情勢が続く限り、落ち込みは避けられない」。機構の幹部は肩を落とす』、「長期固定金利の住宅ローン「フラット35」の利用が低迷・・・見かねた機構は「身銭」を切って金利を引き下げ、根強い人気を誇る変動金利型との競争に参戦し始めた」、「機構」が「「身銭」を切って金利を引き下げ」とは驚かされた。
・『足元は変動金利型が優勢 フラット35の利用戸数は、2023年4~12月の累計で約2.5万戸だった。2024年に入って復調しているものの、通期でも4万戸をやや超える程度となる見通しだ。5万戸割れは2008年度以来となる。 足元の住宅ローン市場は、低金利が売りの変動金利型が優勢だ。機構の調査によれば、2023年4~9月に住宅ローンを利用した人の74.5%は、変動金利型を選んだ。前年同期の69.9%から上昇している。) かつてフラット35は、金利の先高観を懸念する顧客からの底堅い需要があった。ところが、2022年からフラット35の金利が目に見えて上昇し始め、今年3月時点での最頻値は1.84%(返済期間21年〜35年)。0.5%前後で横ばいを保つ変動金利との差が鮮明となり、顧客に敬遠されている。 フラット35の独歩高の背景にあるのが長短金利差だ。固定金利型の住宅ローンは長期金利を、そして変動金利型は短期金利を参照する。 長期金利は2022年から上昇が顕著になり、2022年末や2023年7月、10月と日本銀行が長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の運用を柔軟化し、長期金利の上昇を容認したことで拍車がかかった。対照的に、短期金利はマイナス圏に抑え込まれ続け、長短金利差は拡大の一途をたどる』、「短期金利はマイナス圏に抑え込まれ続け、長短金利差は拡大の一途をたどる」、なるほど。
・『固定と変動の金利差は縮まりそうにない 日銀はこのほど、マイナス金利政策の解除を決断したものの、固定と変動の金利差は当分縮まりそうにない。 住宅ローン比較サイト「モゲチェック」を運営するMFSの塩澤崇取締役COO(最高執行責任者)は、「変動金利は競争が激しく、各行は金利を上げられないだろう。一方、フラット35のような長期固定金利も、アメリカの利下げが始まるまでは高止まり状態が続く」と話す。 3月21日には、SBI新生銀行が住宅ローンの変動金利を年0.42%から0.29%へと引き下げるキャンペーンを打ち出した。 金利上昇が機構にもたらす影響は大きい。機構は銀行のように預金を集めておらず、代わりに金融機関から買い取った住宅ローン債権を担保に債券(MBS)を発行し、資金を調達している。満期までの期間が長いMBSは、投資家から求められる利回りも長期金利の動向に左右される。 機構が発行するMBSの表面利率は、2022年の秋口までは0.5%前後で推移していたが、2022年末には1%を突破。2024年3月発行分は1.14%にまで上がっている。資金調達費用が上昇した分はフラット35の金利に転嫁せざるを得ず、競争の激しい変動金利型との差は広がる一方だ。 フラット35の退潮は、金融機関側にも対応を迫る。主要取扱金融機関であるSBIアルヒは、2023年8月に変動金利型の新たな住宅ローン商品を投入した。同社の融資実行件数は近年落ち込んでおり、変動金利型の商品で埋め合わせたい考えだ。 こうした「フラット離れ」を、機構も指をくわえて見ているわけではない。2022年秋には、機構の発行するMBSの利率が上昇したにもかかわらず、フラット35の金利をむしろ引き下げた。自らの利ザヤを削って、金利上昇の影響を抑える動きだ』、「「フラット離れ」を、機構も指をくわえて見ているわけではない。2022年秋には、機構の発行するMBSの利率が上昇したにもかかわらず、フラット35の金利をむしろ引き下げた。自らの利ザヤを削って、金利上昇の影響を抑える動きだ」、「機構」も「自らの利ザヤを削って、金利上昇の影響を抑える」とは苦しい対応だ。
・『新商品投入だが「時間稼ぎ」との側面も そして2024年2月、機構が満を持して投入したのが「フラット35子育てプラス」だ。子育て世帯を対象に金利を優遇する新商品で、子どもの人数が多かったり、省エネ住宅の取得や地方移住などの条件を満たしたりすると、借り入れ時から5年間、金利が最大で1%下がる。 変動金利型にも対抗できる優遇幅が奏功してか、機構によれば、子育てプラスの投入後、フラット35の利用件数は回復基調にあるという。 とはいえ、大胆な金利優遇は両刃の剣でもある。子育てプラスによる金利優遇の原資としては、2023年11月に成立した補正予算で国から約15億円が拠出される。ただし全額が賄われるわけではなく、一部は機構の持ち出しとなる。「(子育てプラスは)いつまでも続けられる施策ではない」(機構幹部)とし、予算が尽きた時点で受け付けを終了する。 新商品は子育て世帯の住宅取得支援という意味合いに加えて、長短金利差が縮むまでの「時間稼ぎ」との側面もにじむ。2024年も、機構にとって我慢の年となりそうだ』、「「(子育てプラスは)いつまでも続けられる施策ではない」(機構幹部)とし、予算が尽きた時点で受け付けを終了する。 新商品は子育て世帯の住宅取得支援という意味合いに加えて、長短金利差が縮むまでの「時間稼ぎ」との側面もにじむ。2024年も、機構にとって我慢の年となりそうだ」、「機構」も大変なようだ。
先ずは、昨年8月7日付けGirls Channelが転載したテレ東BIZ「若者が陥る不動産投資のワナ 「フラット35」の不正利用が相次ぐ(テレ東BIZ)」を紹介しよう。
・『佐藤さんが購入した物件は、都心の最寄り駅から徒歩1分の1LDK(約45平方メートル)。築15年(購入時)で4900万円でした。 物件自体に問題はありませんでしたが、「投資用のローンではなく、住宅居住用の『フラット35』を使用してしまった。不動産会社とやり取りをしていて、投資用ローンで購入しているものだと思っていた」(佐藤さん)といいます。 「フラット35」は、最長35年間、一定の金利で借りられる住宅ローン。 問題は、このローンを利用できるのは、本人や親族が住むための物件を購入する場合に限られていることです。佐藤さんのように、投資用物件で使うと、不正利用にあたります。 購入から1年後、佐藤さんの元に届いたのは、住宅金融支援機構からの居住確認でした。 「不動産会社に手紙が来たということを言ったときに、アンケートのようなものだから答えなくていいと言われ、私もそういうものなのかと楽観的に捉えてしまった」(佐藤さん) 最終的に居住実態がないことが確認され、佐藤さんは住宅支援機構から残ったローンの一括返済を求められました。その後、物件を販売した不動産会社とは、連絡が取れなくなったといいます。 「不動産のプロは詐欺のようなことはしないだろうと思っていた。後悔している」(佐藤さん) 実は今、佐藤さんのように、知らずにフラット35の不正利用をしてしまう事例が相次いでいます』、「購入から1年後、佐藤さんの元に届いたのは、住宅金融支援機構からの居住確認でした。 「不動産会社に手紙が来たということを言ったときに、アンケートのようなものだから答えなくていいと言われ、私もそういうものなのかと楽観的に捉えてしまった」(佐藤さん) 最終的に居住実態がないことが確認され、佐藤さんは住宅支援機構から残ったローンの一括返済を求められました。その後、物件を販売した不動産会社とは、連絡が取れなくなったといいます」、「物件を販売した不動産会社」も「連絡が取れなくなった」とは無責任の極みだが、「アンケートのようなものだから答えなくていいと言われ、私もそういうものなのかと楽観的に捉えてしまった」、という佐藤さんにも責任がある。「一括返済」要求に応じる必要がある。
次に、 3月13日付けダイヤモンド・オンライン「「国が認めた借金減額」SNS広告で若年層を食い物に!経営コンサルと弁護士事務所の深い闇」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339691
・『“カジュアル”な債務整理――。本来、債務整理は、貸金業者などと和解して利息を減額してもらうなど“重たい”ものだが、最近では「国が認めた借金減額」などのSNS広告に釣られ、気軽に利用する若年層が急増。しかしその裏には、債務整理をエコシステム化した経営コンサルティング会社や弁護士事務所が存在する。特集『激変!3大士業の仕事&稼ぎ方』(全12回)の#8では、最新の債務整理ビジネスのスキームを明らかにする』、「最新の債務整理ビジネスのスキーム」とは興味深そうだ。
・『「国が認めた借金減額」など 債務整理に誘導する広告が跋扈 「国が認めた借金減額」「借金救済措置」「借金減額シミュレーター」――。スマートフォンでSNSやニュースサイトなどを見ていると、次から次へとこうした広告が目に入る。 しかも、異なる弁護士事務所や司法書士事務所の広告にもかかわらず、似たような文言が書かれているのに加え、色が違うだけで同じ広告としか思えない誘導画面がずらりと並んでいる。 要は、借金救済制度をうたったテンプレートを経営コンサルティング会社や広告会社が用意し、それを多くの士業が利用しているわけだ。そして今、こうしたサイト経由で気軽に債務整理を申し込む若年層が増えている。 ある貸金業者の調査によれば、「20代の若年層が利用者の約30%を占め、特定の経営コンサル会社の案件に限って見れば、若年層が約45%を占める」という。 スマホ経由で手軽なため、ちまたでは「カジュアルな債務整理」と呼ばれており、その裏には、債務整理をエコシステム化した経営コンサル会社や弁護士事務所が存在している。しかも、「かなりずさんな運用がなされているケースが少なくない」と弁護士業界や貸金業界でささやかれている。 では、いったい何が問題なのか。次ページでは、「カジュアルな債務整理」と呼ばれる、このスキームの全貌を明らかにしていこう』、「債務整理」とは暗いイメージだが、「カジュアルな債務整理」には「暗さ」がなく、言い得て妙だ。それにしても「借金救済制度をうたったテンプレートを経営コンサルティング会社や広告会社が用意し、それを多くの士業が利用」、とは恐れ入る。
・『カジュアルな債務整理 高額な弁護士報酬が発生 まずは、下図をご覧いただきたい。カジュアルな債務整理の仕組みを図解したものだ。 (図表:SNS広告を多用した債務整理ビジネスのスキームはリンク先参照) 士業専門の経営コンサル会社や広告会社が、弁護士事務所や司法書士事務所などと手を組み、SNSなどで「国が認めた借金減額」などの不当な広告を大量に打つ。国が新たに多重債務者を救済する制度を作ったかのようにアピールし、その広告を見た多重債務者は、サイト経由で借金額や個人情報を入力し、弁護士事務所などに債務整理を依頼するという流れだ。 最近の若年層は、昔のように遊興費のための借金ではなく、「生活費の補填のための借金が多い」と貸金業者たちは言う。収入が低く増えない中、高額なスマホをBNPLと呼ばれる後払い決済で購入したり、不足した生活費をカードローンや消費者金融などの借金で補填したりして、月々の支払いが10万円を超えてしまうケースが多いのだという。 このように借金に苦しむ若者たちからすれば、国が認めた制度で借金が減額できるならばありがたいが、実はそう単純な話ではない。 一口に債務整理と言っても、任意整理や自己破産、民事再生など複数の方法があり、くだんの債務整理で主に利用されているのが任意整理だ。任意整理とは、弁護士事務所が貸金業者と交渉することで将来発生する利息や遅延損害金を免除してもらい、借金を分割払いにすることで月々の支払いを減額するというものだ。 これならば借金が大きく減りそうだが、実際にはそうとは言い切れない。長期分割払いは認められたとしても、債務者の資産状況によっては利息を減免する必要がないケースもあるからだ。 また、改正貸金業法が本格施行され、貸金業各社が上限金利を引き下げた2010年より前(実際には07年ごろから引き下げている)の借り入れならば、過払い金があるため借金は大きく減るが、それ以降の借り入れならば元本が減ることはない。 しかも、弁護士事務所に債務整理を依頼するには高額な手数料がかかる。着手金が5万円で成功報酬が2万~3万円というのが相場だが、5社から借り入れしていれば計35万~40万円にもなる。 加えて、和解が成立して長期分割払いになった場合には、返済代行に関わる送金管理手数料として、1回当たり約1100円を上乗せした金額を弁護士事務所に支払うことになる。60回払いならば計6万円となり、5社から借り入れがあれば総額30万円にもなる。 要は、着手金と成功報酬に送金管理手数料を足し合わせれば、65万~70万円もの費用がかかる計算だ。故に、「債務整理をしても、実際に支払う総額は減らないか、もしくは借金額が少なければ、弁済総額が増えることすらある」と、別の貸金業者は明かす』、「カジュアルな債務整理 高額な弁護士報酬が発生」、なるほど。
・『経営コンサルが弁護士を主導し「非弁行為」に手を染める例も そもそも債務整理は、過払い金返還請求とは大きく異なるもの。過払い金返還請求は、過去に返済した借金に対する超過利息分を取り返すものだが、債務整理は、借金額や借り入れ社数、現在の収支のバランスや資産額、借り入れに至った理由や今後の見通しなどさまざまな要素を検討した上で、判断しなければならない。 なぜなら、債務整理を行えば、その情報は信用情報機関に登録されることになるからだ。完済してから5年間は登録情報が消えないため、60回払い(5年間)にした場合、合計10年間はクレジットカードの利用や新規発行、住宅ローンなどの借り入れができなくなる。 故に、弁護士事務所が債務整理を受任する際には、「債務者と面談を行い、債務の内容や生活状況等を聴取しなければならない」と、日本弁護士連合会の規定で決められている。ところが、昨今はやりの債務整理では、「弁護士による面談が行われていないと思われるケースが多い」と複数の貸金業者は話す。 というのも、弁護士が少人数しかいない事務所が、24時間フル稼働しても面談し切れないほど多数の債務者を全国から集めている事例があるからだ。こうした事務所では事務員が対応しているもようで、いわゆる「非弁行為」に当たる可能性が高い。 実際、18年に弁護士法違反の容疑で弁護士法人のあゆみ共同法律事務所が大阪地方検察庁特捜部の捜索を受け、所属していた弁護士たちが罪に問われた。経営コンサル会社HIROKEN(ヒロケン)が派遣した事務員に、弁護士の名義を利用させて債務整理を行っていたためだ。 まさに、非弁行為があったわけだが、この事件のポイントは経営コンサル会社が主導していたとみられる点だ。司法制度改革によって弁護士の数が激増し、過当競争により仕事にあぶれる弁護士が急増した。それを機に、非弁行為に取り込まれた可能性が高い。 今はやりのカジュアルな債務整理の激増も、これと似た構図だ。最近、勢力を拡大しているある士業専門の経営コンサル会社は、「送金管理手数料だけで毎月1.5億円を稼ぎ、それを傘下の弁護士事務所と経営コンサル会社で分け合っている」とのうわさもある。 これは弁護士職務基本規定に反する行為であり、債務整理ビジネスをエコシステム化し、生活費に困窮している若年層を食い物にしていると言わざるを得ない。弁護士としての矜持が問われている』、「最近、勢力を拡大しているある士業専門の経営コンサル会社は、「送金管理手数料だけで毎月1.5億円を稼ぎ、それを傘下の弁護士事務所と経営コンサル会社で分け合っている」とのうわさもある。 これは弁護士職務基本規定に反する行為であり、債務整理ビジネスをエコシステム化し、生活費に困窮している若年層を食い物にしていると言わざるを得ない。弁護士としての矜持が問われている」、ここまで酷いビジネスを展開しているとは、初めて知ると同時に、驚いた。
第三に、3月26日付け東洋経済オンライン「住宅ローンのフラット35、金利「独歩高」の忍耐期 機構が「身銭」を切り、変動金利型に対抗へ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/743427
・『住宅金融支援機構が提供する、長期固定金利の住宅ローン「フラット35」の利用が低迷している。2023年度の利用戸数は、2008年度以来15年ぶりの低水準となる見通しだ。見かねた機構は「身銭」を切って金利を引き下げ、根強い人気を誇る変動金利型との競争に参戦し始めた。 「昨今の金融情勢が続く限り、落ち込みは避けられない」。機構の幹部は肩を落とす』、「長期固定金利の住宅ローン「フラット35」の利用が低迷・・・見かねた機構は「身銭」を切って金利を引き下げ、根強い人気を誇る変動金利型との競争に参戦し始めた」、「機構」が「「身銭」を切って金利を引き下げ」とは驚かされた。
・『足元は変動金利型が優勢 フラット35の利用戸数は、2023年4~12月の累計で約2.5万戸だった。2024年に入って復調しているものの、通期でも4万戸をやや超える程度となる見通しだ。5万戸割れは2008年度以来となる。 足元の住宅ローン市場は、低金利が売りの変動金利型が優勢だ。機構の調査によれば、2023年4~9月に住宅ローンを利用した人の74.5%は、変動金利型を選んだ。前年同期の69.9%から上昇している。) かつてフラット35は、金利の先高観を懸念する顧客からの底堅い需要があった。ところが、2022年からフラット35の金利が目に見えて上昇し始め、今年3月時点での最頻値は1.84%(返済期間21年〜35年)。0.5%前後で横ばいを保つ変動金利との差が鮮明となり、顧客に敬遠されている。 フラット35の独歩高の背景にあるのが長短金利差だ。固定金利型の住宅ローンは長期金利を、そして変動金利型は短期金利を参照する。 長期金利は2022年から上昇が顕著になり、2022年末や2023年7月、10月と日本銀行が長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の運用を柔軟化し、長期金利の上昇を容認したことで拍車がかかった。対照的に、短期金利はマイナス圏に抑え込まれ続け、長短金利差は拡大の一途をたどる』、「短期金利はマイナス圏に抑え込まれ続け、長短金利差は拡大の一途をたどる」、なるほど。
・『固定と変動の金利差は縮まりそうにない 日銀はこのほど、マイナス金利政策の解除を決断したものの、固定と変動の金利差は当分縮まりそうにない。 住宅ローン比較サイト「モゲチェック」を運営するMFSの塩澤崇取締役COO(最高執行責任者)は、「変動金利は競争が激しく、各行は金利を上げられないだろう。一方、フラット35のような長期固定金利も、アメリカの利下げが始まるまでは高止まり状態が続く」と話す。 3月21日には、SBI新生銀行が住宅ローンの変動金利を年0.42%から0.29%へと引き下げるキャンペーンを打ち出した。 金利上昇が機構にもたらす影響は大きい。機構は銀行のように預金を集めておらず、代わりに金融機関から買い取った住宅ローン債権を担保に債券(MBS)を発行し、資金を調達している。満期までの期間が長いMBSは、投資家から求められる利回りも長期金利の動向に左右される。 機構が発行するMBSの表面利率は、2022年の秋口までは0.5%前後で推移していたが、2022年末には1%を突破。2024年3月発行分は1.14%にまで上がっている。資金調達費用が上昇した分はフラット35の金利に転嫁せざるを得ず、競争の激しい変動金利型との差は広がる一方だ。 フラット35の退潮は、金融機関側にも対応を迫る。主要取扱金融機関であるSBIアルヒは、2023年8月に変動金利型の新たな住宅ローン商品を投入した。同社の融資実行件数は近年落ち込んでおり、変動金利型の商品で埋め合わせたい考えだ。 こうした「フラット離れ」を、機構も指をくわえて見ているわけではない。2022年秋には、機構の発行するMBSの利率が上昇したにもかかわらず、フラット35の金利をむしろ引き下げた。自らの利ザヤを削って、金利上昇の影響を抑える動きだ』、「「フラット離れ」を、機構も指をくわえて見ているわけではない。2022年秋には、機構の発行するMBSの利率が上昇したにもかかわらず、フラット35の金利をむしろ引き下げた。自らの利ザヤを削って、金利上昇の影響を抑える動きだ」、「機構」も「自らの利ザヤを削って、金利上昇の影響を抑える」とは苦しい対応だ。
・『新商品投入だが「時間稼ぎ」との側面も そして2024年2月、機構が満を持して投入したのが「フラット35子育てプラス」だ。子育て世帯を対象に金利を優遇する新商品で、子どもの人数が多かったり、省エネ住宅の取得や地方移住などの条件を満たしたりすると、借り入れ時から5年間、金利が最大で1%下がる。 変動金利型にも対抗できる優遇幅が奏功してか、機構によれば、子育てプラスの投入後、フラット35の利用件数は回復基調にあるという。 とはいえ、大胆な金利優遇は両刃の剣でもある。子育てプラスによる金利優遇の原資としては、2023年11月に成立した補正予算で国から約15億円が拠出される。ただし全額が賄われるわけではなく、一部は機構の持ち出しとなる。「(子育てプラスは)いつまでも続けられる施策ではない」(機構幹部)とし、予算が尽きた時点で受け付けを終了する。 新商品は子育て世帯の住宅取得支援という意味合いに加えて、長短金利差が縮むまでの「時間稼ぎ」との側面もにじむ。2024年も、機構にとって我慢の年となりそうだ』、「「(子育てプラスは)いつまでも続けられる施策ではない」(機構幹部)とし、予算が尽きた時点で受け付けを終了する。 新商品は子育て世帯の住宅取得支援という意味合いに加えて、長短金利差が縮むまでの「時間稼ぎ」との側面もにじむ。2024年も、機構にとって我慢の年となりそうだ」、「機構」も大変なようだ。
タグ:「カジュアルな債務整理 高額な弁護士報酬が発生」、なるほど。 個人債務問題 「債務整理」とは暗いイメージだが、「カジュアルな債務整理」には「暗さ」がなく、言い得て妙だ。それにしても「借金救済制度をうたったテンプレートを経営コンサルティング会社や広告会社が用意し、それを多くの士業が利用」、とは恐れ入る。 「最新の債務整理ビジネスのスキーム」とは興味深そうだ。 ダイヤモンド・オンライン「「国が認めた借金減額」SNS広告で若年層を食い物に!経営コンサルと弁護士事務所の深い闇」 「物件を販売した不動産会社」も「連絡が取れなくなった」とは無責任の極みだが、「アンケートのようなものだから答えなくていいと言われ、私もそういうものなのかと楽観的に捉えてしまった」、という佐藤さんにも責任がある。「一括返済」要求に応じる必要がある。 「購入から1年後、佐藤さんの元に届いたのは、住宅金融支援機構からの居住確認でした。 「不動産会社に手紙が来たということを言ったときに、アンケートのようなものだから答えなくていいと言われ、私もそういうものなのかと楽観的に捉えてしまった」(佐藤さん) 最終的に居住実態がないことが確認され、佐藤さんは住宅支援機構から残ったローンの一括返済を求められました。その後、物件を販売した不動産会社とは、連絡が取れなくなったといいます」、 「若者が陥る不動産投資のワナ 「フラット35」の不正利用が相次ぐ(テレ東BIZ)」 テレ東BIZ「若者が陥る不動産投資のワナ 「フラット35」の不正利用が相次ぐ(テレ東BIZ)」 Girls Channel (その4)(若者が陥る不動産投資のワナ 「フラット35」の不正利用が相次ぐ(テレ東BIZ)、「国が認めた借金減額」SNS広告で若年層を食い物に!経営コンサルと弁護士事務所の深い闇、住宅ローンのフラット35 金利「独歩高」の忍耐期 機構が「身銭」を切り 変動金利型に対抗へ) 「「(子育てプラスは)いつまでも続けられる施策ではない」(機構幹部)とし、予算が尽きた時点で受け付けを終了する。 新商品は子育て世帯の住宅取得支援という意味合いに加えて、長短金利差が縮むまでの「時間稼ぎ」との側面もにじむ。2024年も、機構にとって我慢の年となりそうだ」、「機構」も大変なようだ。 「「フラット離れ」を、機構も指をくわえて見ているわけではない。2022年秋には、機構の発行するMBSの利率が上昇したにもかかわらず、フラット35の金利をむしろ引き下げた。自らの利ザヤを削って、金利上昇の影響を抑える動きだ」、「機構」も「自らの利ザヤを削って、金利上昇の影響を抑える」とは苦しい対応だ。 「短期金利はマイナス圏に抑え込まれ続け、長短金利差は拡大の一途をたどる」、なるほど。 「長期固定金利の住宅ローン「フラット35」の利用が低迷・・・見かねた機構は「身銭」を切って金利を引き下げ、根強い人気を誇る変動金利型との競争に参戦し始めた」、「機構」が「「身銭」を切って金利を引き下げ」とは驚かされた。 東洋経済オンライン「住宅ローンのフラット35、金利「独歩高」の忍耐期 機構が「身銭」を切り、変動金利型に対抗へ」 「最近、勢力を拡大しているある士業専門の経営コンサル会社は、「送金管理手数料だけで毎月1.5億円を稼ぎ、それを傘下の弁護士事務所と経営コンサル会社で分け合っている」とのうわさもある。 これは弁護士職務基本規定に反する行為であり、債務整理ビジネスをエコシステム化し、生活費に困窮している若年層を食い物にしていると言わざるを得ない。弁護士としての矜持が問われている」、ここまで酷いビジネスを展開しているとは、初めて知ると同時に、驚いた。
株式・為替相場(その21)(ついに4万円突破!日経平均株価が大台に乗った意味と「続伸の条件」とは?、株価最高値の陰で「スタグフレーション」に落ち込んだ日本 春闘高賃上げは“悪循環”?、株高は「日本を見る目が変わった」論の正体 株価上昇は“中進国降格”を織り込み始めた?) [金融]
株式・為替相場については、本年3月2日に取上げた。今日は、(その21)(ついに4万円突破!日経平均株価が大台に乗った意味と「続伸の条件」とは?、株価最高値の陰で「スタグフレーション」に落ち込んだ日本 春闘高賃上げは“悪循環”?、株高は「日本を見る目が変わった」論の正体 株価上昇は“中進国降格”を織り込み始めた?)である。
先ずは、本年3月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載sた多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「ついに4万円突破!日経平均株価が大台に乗った意味と「続伸の条件」とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339838
・『3月4日、日経平均株価の終値が史上初めて4万円を超えた。主に海外投資家の積極的な日本株買いによって、株価だけは“失われた30年”の出口にたどり着きつつある。問題は、わが国の実体経済を前に進められるか否かだ。さらなる株価上昇に必要な取り組みとは?』、興味深そうだ。
・『34年ぶり高値更新!4万円台突入の意味 日経平均株価が連日、最高値を更新している。背景にはまず、世界的な金融市場の“カネ余り”がある。米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げへの期待も、株価が上昇する支えになっている。わが国だけでなく、景気がかなり厳しいドイツなど欧州諸国の株価も上昇している。一方、不動産バブル崩壊で景気低迷が深刻な中国の株価は下落し、中国から逃避した投資資金がわが国やインド株に流れている。 また、海外投資家の日本経済の見方が変化してもいる。高い賃金を提示し中途採用を増やす企業が増えるなど、日本の労働市場にも徐々に変化が見られ始めたからだ。東証が株価純資産倍率(PBR)1倍割れの企業に、成長戦略の提示と説明などを求めたことも、日本経済の変化への期待につながった。 政府の産業政策の修正も追い風だ。今のところ、米欧以上にわが国の半導体関連の助成金支給スピードは速い。台湾の半導体ファウンドリーTSMCが熊本県に大型工場を開所したことを呼び水に、同県内では半導体および製造装置、関連部材メーカーなどが積極的に設備投資を実施している。自動車けん引型の日本の産業構造が変わると期待する、欧米の機関投資家は増えている。 23年初旬から日本株を購入したある海外投資家は、「インフレ傾向の中、賃上げに対して企業が積極的な姿勢を強めていることや、産業政策の変化で日本経済と日本株は長期停滞から脱却する入り口に到達した」と指摘していた。 米国経済の想定以上の成長も重要だ。米国では労働市場の需給がタイトに推移し、賃金上昇の勢いは強い。それは個人消費の増勢を支えている。生成AIの需要が急増したことで米国の半導体関連株が上昇していることも、日本株上昇にプラスに作用している』、「海外投資家は、「インフレ傾向の中、賃上げに対して企業が積極的な姿勢を強めていることや、産業政策の変化で日本経済と日本株は長期停滞から脱却する入り口に到達した」と指摘」、なるほど。
・『デフレからインフレへ経済環境の変化 株高と併せて何といっても見逃せない変化の一つは、経済がインフレ傾向に変わっていることだ。わが国のインフレは、基本的に円安と資源や食料の価格上昇(コストプッシュ型)ではあるものの、デフレからインフレへと変化したことは事実。ここ数年、企業は収益を守るために値上げを実施していて、家計はそれを受け入れざるを得ず、消費者物価指数の上昇率は2%を上回った。 日経平均株価は、1989年末に当時の高値(3万8915円87銭)を付けたが、90年の年初から下落し、資産バブルは崩壊した。90年以降の経済環境を改めて振り返ると、バブル崩壊により企業は急激な資産価格下落と景気悪化に直面し、極端なリスク回避に傾いた。政府は不良債権処理を加速するよりも、97年度までは公共事業関係費を増やした。こうしてバブルの後始末は遅れ、97年には金融システム不安が起きた。 不良債権問題が深刻化すると、デフレ圧力が高まった。さらに2008年9月のリーマンショックも、景気低迷を長引かせた。賃金水準は低迷して需要が減少し、持続的に物価が下落するという負の循環にわが国は陥った。また、電機産業などで国際分業への対応が遅れたことで、デジタル化への対応も遅れ、企業業績への懸念から国内の株価は低迷した。 ちなみに米国は、1929年の大恐慌で株価が暴落した後、当時の高値更新に約25年かかった。一方、わが国の高値更新に要した34年の歳月は、米国に比較してはるかに長い。それだけ80年代後半のわが国では、大規模な資産バブルが発生し崩壊の負の影響も深刻だったということだ。 デフレから脱しつつあるのと時を同じくして、新卒一括採用・年功序列・終身雇用の雇用慣行が徐々に崩れ、実力に応じた賃金制度を採用する企業が増えている。労働市場の流動性は高まっており、賃上げできなければ淘汰(とうた)される企業も増えるだろう。 労働市場の流動性が高まり、生産性の高い分野に経営資源が再配分されるようになることは、経済の本来あるべき姿であり、そこにわが国も向かい始めた。「現状維持を優先するだけでは成長は難しい」と考える経営者は増えている。 収益性の向上に取り組み、株主への価値還元やさらなる賃上げ、研究開発体制の強化など成長戦略を強化する企業も増えている。こうした結果、やっとのことで“失われた30年”から抜け出す入り口に日本はたどり着いたといえるだろう』、「米国は、1929年の大恐慌で株価が暴落した後、当時の高値更新に約25年かかった。一方、わが国の高値更新に要した34年の歳月は、米国に比較してはるかに長い。それだけ80年代後半のわが国では、大規模な資産バブルが発生し崩壊の負の影響も深刻だったということだ・・・収益性の向上に取り組み、株主への価値還元やさらなる賃上げ、研究開発体制の強化など成長戦略を強化する企業も増えている。こうした結果、やっとのことで“失われた30年”から抜け出す入り口に日本はたどり着いたといえるだろう」、その通りだ。
・『実体経済の回復なき株価上昇、課題は? 株価が最高値を更新する一方、わが国では「景気回復を感じない」との声が多い。「実体経済の力強い回復なき株価上昇」の様相を呈していることは注目すべきだ。今後は、わが国が“失われた30年”から本当に抜け出せるかが重要なポイントとなる。少子高齢化、人口の減少、社会保障関係費の増大による財政悪化など、状況は厳しい。 ただ、希望はあるはずだ。企業で賃上げの重要性が高まっている。賃上げは、従業員の生活の安定のみならず、学び直しやリスキリングへの意欲も支える。これは、企業が成長性を高めることや、雇用の流動化、本来あるべき経済の循環の実現に必要だ。 政府や企業は、限りのある人材が実力を高め、さらに高い賃金を手にできる環境を整備することに注力すべきだ。それは、先端分野へ経営資源を再配分する促進となり、より高付加価値のモノやサービスの創出を支える。こうした変化が本格化すると、今のようなインフレではなく、安定的な物価上昇の可能性が高まり、真の意味でデフレマインドを根本から克服するチャンスとなる。 また、国を挙げて成長産業を育成することは欠かせない。米エヌビディアの好決算を見ても、世界中で生成AIの需要が急増していることは明らかだ。AIチップを製造するTSMCの熊本工場に続けと言わんばかりに、関連する精密機械、パワー半導体などの分野でも工場建設が相次ぐ。北海道ではラピダスが回路線幅1ナノ(ナノは10億分の1)メートルのチップ生産を計画する。わが国で半導体産業が復活を遂げる可能性に期待が高まっている。 23年7~9月期、10~12月期、国内のGDP成長率はマイナスだった。1~3月期もマイナス成長に陥る可能性は高い。中国経済が低迷する懸念が追加的に高まれば、設備投資の下ぶれリスクも上昇する。 今後、海外投資家がわが国経済に一段と期待を高めるか否かは、政府や企業のやり方次第だ。決して株高を楽観視せずに、政府は半導体分野などで民間企業のリスクテイクをサポートする。企業はより積極的に収益性の向上を実現する。世界経済の変化を迅速に捉えつつ、この両輪を回すことこそ、わが国経済が真の意味で生まれ変わり、さらなる株価上昇に必要な取り組みである。 【訂正】記事の初出時より以下の通り訂正します。 8段落目:日経平均株価は、1987年末に→日経平均株価は、1989年末に(2024年3月5日13:21 ダイヤモンド編集部)』、「今後、海外投資家がわが国経済に一段と期待を高めるか否かは、政府や企業のやり方次第だ。決して株高を楽観視せずに、政府は半導体分野などで民間企業のリスクテイクをサポートする。企業はより積極的に収益性の向上を実現する。世界経済の変化を迅速に捉えつつ、この両輪を回すことこそ、わが国経済が真の意味で生まれ変わり、さらなる株価上昇に必要な取り組みである」、同感である。
次に、3月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「株価最高値の陰で「スタグフレーション」に落ち込んだ日本、春闘高賃上げは“悪循環”?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340415
・『1月も消費者物価2%上昇、実質GDPは低迷 定義どおりのスタグフレレーション 日本の消費者物価上昇率は、一時よりは低下したものの、依然として高い。 2024年1月の生鮮食品を除く総合指数の前年同月比は2.0%だった。日本銀行も現在の状況はインフレーションだと認めている。 他方で、23年10~12月の実質GDP(国内総生産)速報値(1次)は前期比0.1%減(年率0.4%減)となった。3月11日に公表された2次速報では、同0.1%増(同0.4%増)と修正され2四半期連続のマイナス成長は免れたものの、低迷していることは間違いない。 経済が成長せずに物価が上昇するのだから、これは定義どおりの明白なスタグフレーションだ。 日経平均株価が史上最高値を更新しつつあったことから、日本経済が新たな発展の局面に入ったという意見がある。これから新しい発展の時代が始まるという見方だ。 しかし実際に起きているのは、それとは全く逆であり、日本経済がスタグフレーションという「深刻な病」に落ち込んでいることなのだ。 春闘の主要製造業の集中回答日だった13日には、トヨタ自動車や新日本製鉄などで「満額回答」や「最高水準」の賃上げ回答が目立った。 春闘などでの賃上げが経済停滞を抜け出す糸口になることへの期待もあるが、今の状況では賃上げが“逆効果”になることもあり得る』、「経済が成長せずに物価が上昇するのだから、これは定義どおりの明白なスタグフレーションだ。 日経平均株価が史上最高値を更新しつつあったことから、日本経済が新たな発展の局面に入ったという意見がある。これから新しい発展の時代が始まるという見方だ。 しかし実際に起きているのは、それとは全く逆であり、日本経済がスタグフレーションという「深刻な病」に落ち込んでいることなのだ」、その通りだ。
・『さまざまな指標が経済活動停滞を裏付け 家計消費や鉱工業生産も減少 経済活動の停滞は、GDP以外にもさまざまな指標で確かめることができる。 家計調査によると、23年12月の家計消費支出(2人以上の世帯)の実質増減率は、前年同月比で2.5%の減少だった。24年1月は同6.3%減とさらに落ち込んだ。 輸出でも同様の傾向が見られる。22年の輸出額は、円建てでは前年比18.2%増となったものの、ドル建てでは同0.9%の減少となった。輸出数量で見ても、同0.6%減と落ち込んだ。23年も同様の結果で、円建ての輸出額は同2.8%増だったものの、ドル建てでは4.3%減と2年連続で減少。輸出数量も同3.9%減と落ち込んだ(ジェトロの統計による)。 輸出数量が増えないため、国内の生産活動も増加しない。生産活動の落ち込みは鉱工業生産指数で確かめることができる。21年に新型コロナウイルスの感染拡大による落ち込みから回復して以来、指数は104~105程度でほとんど変化がない(2020年=100、季節調整済み)。 最近の計数をみると、1月の鉱工業生産指数速報値は97.6となり前月比で7.5%低下した。低下幅はコロナの感染が広がった20年5月以来の大きさだ。これには、品質不正による自動車メーカーの工場停止が影響しているが、生産は全15業種のうち14業種で下がったので、自動車だけが問題であるわけではない。 なお、円安が輸出数量や鉱工業生産指数に影響を与えないのは、過去の円安局面でも起きていることだ』、「1月の鉱工業生産指数速報値は97.6となり前月比で7.5%低下した。低下幅はコロナの感染が広がった20年5月以来の大きさだ。これには、品質不正による自動車メーカーの工場停止が影響しているが、生産は全15業種のうち14業種で下がったので、自動車だけが問題であるわけではない」、確かに1月の落ち込みは深刻だ。
・『輸出企業の利益増は円安効果 円高になれば反転する現象 一方、企業の利益は円安によって増大している。 企業全体としてはあまり大きな増加でないのだが、一部の企業、とくに輸出関連の大企業で利益が顕著に増えている。 その典型がトヨタ自動車だ。22年3月期の営業利益は対前年比36.3%増の2兆9956億円と3兆円に迫った。23年3月期の営業利益は原材料高の影響でやや落ち込んだものの、24年3月期は過去最高の4.9兆円に達する見通しだ(トヨタ自動車、業績ハイライト・財務指標)。 円安が経済活動の実態を変化させずに企業利益だけを増加させるのは、従来の円安局面と同じ現象であり、新しいことではない。輸出数量が増えなくても円安によって円ベースの輸出額が増え、他方で、円安による原材料価格の上昇は製品価格に転嫁するからだ。 24年になってからの円安についても、同じことが起きるとの期待があり、これが株価が上昇している一因と考えられる。だがこれは、円高になれば反転する現象であり、永続的なものでない』、「円安が経済活動の実態を変化させずに企業利益だけを増加させるのは、従来の円安局面と同じ現象であり、新しいことではない。輸出数量が増えなくても円安によって円ベースの輸出額が増え、他方で、円安による原材料価格の上昇は製品価格に転嫁するからだ・・・24年になってからの円安についても、同じことが起きるとの期待があり、これが株価が上昇している一因と考えられる」、なるほど。
・『輸入物価下落しても消費者物価は上昇 価格転嫁のメカニズムが変化? 現在の局面が従来と大きく違うのは、輸入物価と消費者物価の関係だ。 従来の円安局面では、円ベースの輸入物価は上昇することが多かった。しかし、現在は世界的なインフレが収束しつつあるので、契約通貨ベースの輸入物価が下落している。このため、円安が進行しているにもかかわらず、円ベースの輸入物価の対前年同月比が2023年4月以降、下落を続けているのだ。 また輸入物価と消費者物価の関係も従来と違ってきている。 これまでの日本では、消費者物価の動向はほぼ円ベース輸入物価の動向によって決まっていた。具体的には、消費者物価の対前年上昇率は半年ほど前の円ベース輸入物価の対前年上昇率の10分の1程度の値になっていた。 これは、輸入物価の上昇が取引段階ごとに製品価格に転嫁されていくが、下流に行くにしたがってその影響が薄められることから、当然の現象だ。 もしこのメカニズムがいまも働いているとすれば、消費者物価はいま下落しているはずだ。なぜなら、前述のように円ベースの輸入物価指数は2023年4月から、対前年比でマイナスに転じているからだ。 しかし、実際には、消費者物価上昇率は対前年比2%という、かなり高い値だ。だから、従来の価格転嫁メカニズムに変化が生じたと考えざるを得ない。 なぜ変わったのか?その理由として第1に考えられるのは、この数年の輸入物価上昇率があまりに高かったため、転嫁に時間がかかっていることだ。 第2に考えられるのは、賃金上昇の影響だ。実際、調理食品(6.6%)や宿泊費(26.9%)などいくつかの品目で消費者物価の対前年上昇率が高い(2024年1月)。そして、この分野で賃金が上昇している。 毎月勤労統計調査によると、飲食サービス業の現金給与総額の対前年増加率は8.5%というかなり高い値になっている(一般労働者、2023年速報)。だから賃金上昇が価格に転嫁されている可能性がある。 ただし、これが永続的なものなのか一時的なものなのかはわからない』、「従来の価格転嫁メカニズムに変化が生じたと考えざるを得ない。 なぜ変わったのか?その理由として第1に考えられるのは、この数年の輸入物価上昇率があまりに高かったため、転嫁に時間がかかっていることだ。 第2に考えられるのは、賃金上昇の影響だ。実際、調理食品(6.6%)や宿泊費(26.9%)などいくつかの品目で消費者物価の対前年上昇率が高い(2024年1月)」、なるほど。
・『生産性上昇しないコストプッシュインフレで 賃金と物価の「悪循環」が生じるおそれ 日本銀行は、金融政策の正常化の条件として、2%を超える消費者物価上昇率を望んでいる。しかし、重要なのは物価上昇率が2%を超えるかどうかではなく、物価上昇がどのようなメカニズムで起きるかだ。 生産性の上昇に基づいて賃金が上昇し、そのために家計の消費需要が増え、そのために物価が上昇するというルートでなければならない。 しかし、生産性上昇を伴わずに賃金が上昇し、それが売上げ価格に転嫁されるというコストプッシュインフレであれば、賃金上昇も物価上昇も望ましくない現象だということになる。そうしたメカニズムが、少なくとも経済の一部で進行している可能性がある。 今春闘については政府や日銀は高い賃上げを期待しているが、こうした状況下で、春闘などを通じて賃金を無理矢理に引き上げれば、それが物価に転嫁され、コストプッシュインフレが経済全体に広がる危険がある。 つまり、賃金上昇と物価上昇の「悪循環」が始まるわけだ。 その一方で実体経済がマイナス成長を続ければ、日本経済はスタグフレーションの罠から抜け出せなくなるおそれがある』、「春闘などを通じて賃金を無理矢理に引き上げれば、それが物価に転嫁され、コストプッシュインフレが経済全体に広がる危険がある。 つまり、賃金上昇と物価上昇の「悪循環」が始まるわけだ。 その一方で実体経済がマイナス成長を続ければ、日本経済はスタグフレーションの罠から抜け出せなくなるおそれがある」、その通りだ。
第三に、3月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したみずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏による「株高は「日本を見る目が変わった」論の正体、株価上昇は“中進国降格”を織り込み始めた?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340555
・『年初からの株高で「日本を見る目が変わっている」論が幅を利かせている。日本経済、日本企業の変革が期待されているというわけである。しかし、株高の実態は、円安から波及してきたインフレと輸出企業の業績向上に過ぎない。実質成長率は低迷している。これは、日本が「先進国」ではなく「中進国」であると、見る目が変わってきている証左ではないだろうか』、「株高の実態は、円安から波及してきたインフレと輸出企業の業績向上に過ぎない。実質成長率は低迷している。これは、日本が「先進国」ではなく「中進国」であると、見る目が変わってきている証左ではないだろうか」、由々しい出来事だ。
・『年初からの株高はインフレのおかげ 普段、筆者は為替市場を中心とした経済・金融分析を中心としており、株式の専門家ではないが、今年に入ってから日本が直面している株高の真因を問われた場合は「インフレのたまもの」と回答するようにしている。 現在の日本は株や不動産の価格が上がり、自国通貨の値段が下がり、高級外車や高級時計のような輸入品の価格も押し上げられている。それら全てを説明できるフレーズはインフレである。植田日銀総裁を筆頭に日銀から物価目標達成をにおわせるような情報発信が相次ぎ、遂に政府・与党がデフレ脱却宣言に踏み切るという観測報道まで出ている。 これまで慢性的な円高や上がらない株価、低位安定する円金利や停滞する名目賃金などはデフレの象徴のように忌み嫌われてきた。裏を返せば、デフレ脱却の暁にはそれらの現象は逆転しても不思議ではない。 現に、円安は終わらず、株価は急伸、円金利も(政策的に抑えているので、わずかだが)浮揚が見られ、名目賃金も続伸している。もちろん、日本企業の業績改善を織り込んだ部分もあろうが、デフレ脱却というパラダイムシフトを前提として、日本経済に対する「見る目が変わっている」という評価はできる。 だが、「見る目が変わっている」が良い意味とは限らない。次ページ以降、その正体について検証していく』、「円安は終わらず、株価は急伸、円金利も(政策的に抑えているので、わずかだが)浮揚が見られ、名目賃金も続伸している。もちろん、日本企業の業績改善を織り込んだ部分もあろうが、デフレ脱却というパラダイムシフトを前提として、日本経済に対する「見る目が変わっている」という評価はできる。 だが、「見る目が変わっている」が良い意味とは限らない」、どういうことだろうか。
・『「中進国」容疑をかけられる日本 GDPの名実格差が意味するもの 下表は日経平均株価が初めて4万円台に乗せた2024年3月4日について、過去1年間の主要株価指数の上昇率トップ10と当該国通貨の対ドル変化率を並べたものだ。 (図表1:世界の主要株価指数(上昇率トップ10) はリンク先参照) 対ドル変化率に関し、上位10カ国平均が約マイナス26%、上位5カ国平均が約マイナス40%にもなる。また、見ての通り、上位10カ国において先進国は日本だけだ。また、対ドル変化率について、日本より下落幅が小さい国は4カ国、大きい国が5カ国である。濃淡はあるものの、いずれの国も対ドルで下落しているという事実は共通する。 インフレ体質の国では自国通貨が減価しやすく、それにより自国通貨建てで見た株価指数の水準も押し上げられやすくなる。それは理論的に言って正しい姿だ。そのような症状は途上国に多く見られるが、日本のような先進国ではあまり見られるものではない。 結局、日本経済に対する「見る目が変わっている」というのは先進国や途上国といった所属する国グループについて猜疑(さいぎ)心が向けられているという意味ではないか。 発展途上国から脱し、先進国に至る途上にある国を中進国と呼ぶことがあるが、その容疑がかかっている可能性もある。 株高にもかかわらずそれを喜ぶ議論があまり見られず、実体経済の弱さばかりに焦点がいくのはそもそも日本の家計部門において株式・出資金の保有比率が低いという以前に、インフレになった分が、十分家計部門に分配されていないという根本的問題があるだろう。 「株式・出資金保有比率が低い」という点については目下、「資産運用立国」論を旗印として対処中であり、良しあしは別として、今後は違った姿に変わっていくことが期待される。この点は時間の問題であり、待つしかない。 しかし、株高(や円安や不動産価格上昇など)がインフレ由来のものであったと考えた場合、当然、実体経済を分析する上ではGDP(国内総生産)の名実格差に触れないわけにはいかなくなる。 デフレ下の日本ではGDPの名実逆転(実質GDP>名目GDP)が象徴な事実として取り上げられてきた。しかし、インフレ社会となれば、通常想定される姿(実質GDP<名目GDP)が定着することになる。 既に政府見通しが出ているように、24年度の日本経済は第2次安倍政権が掲げていた「GDP600兆円」という目標達成が視野に入るといわれている(※安倍政権が「2020年度までに600兆円」と掲げたのが2015年だ)。この点、好意的な報道が多いと感じるが、そもそも600兆円は名目ベースの目標であり、実質ベースの目標には何も言及されてこなかったことには注意を要する。 周知の通り、インフレになれば名目GDPは当然膨らむ。本質的に重要になるのはインフレを除いた部分、端的には実質GDPでどの程度の伸びを実現しているかという点だ。実質GDPが成長を伴わず、名目GDPだけが600兆円を達成しても景気実感は生じにくい。 例えば22年から23年にかけて名目GDPは約560兆円から約591兆円へ、約31兆円増えた。しかし、同じ期間に実質GDPは約548兆円から約559兆円へ約11兆円しか増えていない。つまり、残る約20兆円がインフレによる上乗せであり、これは日本国民にとって成長とは言えない。このような状況もあって2023年の日本経済では名目GDP成長率5.7%に対し、実質GDP成長率は1.9%にとどまった。 (図表2:日本のGDP はリンク先参照)』、「インフレになれば名目GDPは当然膨らむ。本質的に重要になるのはインフレを除いた部分、端的には実質GDPでどの程度の伸びを実現しているかという点だ。実質GDPが成長を伴わず、名目GDPだけが600兆円を達成しても景気実感は生じにくい」、なるほど。
・『輸出企業はインフレを価格転嫁 中進国へのステップダウンが始まったか 身近な例で言えば、家計最終消費は名目ベースでは約11.4兆円伸びているが、このうちインフレによる上乗せは約9.4兆円で、実質ベースでは約2兆円しか増えていない。成長率で見れば、3.8%に対し0.7%なので、ほとんどの消費行動がインフレに食われていることが分かる(下図参照)。 (図表3:日本のGDP はリンク先参照) 当然、インフレになれば短期的には売り上げや利益は増えて、株価も押し上げられやすくなる。しかし、それは消費者が「無い袖を振って」消費している結果でもある。結果、「株高にもかかわらず内需の勢いに乏しい」という今の日本のような状況が生まれる。基本的に「無い袖は振れない」ので、長期的には名目GDPと実質GDPの乖離(かいり)は広がっていく。 ちなみに図表1を見ても分かるように、実質GDPの中でも、輸出だけは健闘しているように見える。名目ベースで約8.1兆円増加しているのに対し、実質ベースでは約3.3兆円、インフレによる上乗せ分は約4.8兆円とやはりインフレ部分が大きいものの、家計最終消費や設備投資と比較すれば相対的にましという印象を受ける。 これは輸出企業が海外においてインフレ部分を価格転嫁できている証拠でもある。関連統計からも確認可能だ。2023年7月以降、輸出物価指数は契約通貨建て(いわゆる現地通貨建て)で見ても上昇基調に入っており、内外のインフレ圧力と整合的に価格転嫁を実現している様子が透ける。 (図表4:輸出物価指数の前年比変化率 はリンク先参照) 理論上、円安が輸出企業に与える影響は「契約通貨建て価格の引き下げ→輸出数量増加」という経路だ。例えば、実勢相場が「1ドル100円」の時に1ドルでボールペンを輸出していたとする。ここから「1ドル=120円」に円安が進めば0.83ドル(0.83×120円≒100円)で輸出しても円建て売上高を維持できる。 しかし、統計を見る限り、今の日本の輸出企業がやっていることはボールペンを1.2ドルや1.5ドルなどに引き上げる動きである。当然、円建て売上高も大きく膨らむ(例:1.2ドル×120円≒144円)。もっと言えば、この例よりもはるかに円安は進んでいるので、輸出企業の円安による業績改善幅はさらに大きいものになる。 結果、輸出企業は実質ベースでの成長も相応に確保できているのだとすると、それを国内の家計部門(≒名目賃金)に還元できるかが焦点になる。 結局、「賃上げはあるのか」といういつも通りの話に戻ってきてしまうわけだが、それが十分ではないからこそ実質ベースで見た家計最終消費がほとんど伸びていないという実情は認めざるを得ないだろう。 日本銀行の言葉を借りれば、賃金・物価の好循環(≒第2の力)が発揮されているとは残念ながら言えない。株高の背景にあるものが「インフレに押し負ける実体経済情勢」であり、それが先進国から中進国へステップダウンを織り込む相場だとすれば、まだ、この円安・株高には先があるようにも読める。残念ながら、そのような仮説を覆すだけの十分な材料が無いのが実情ではないか』、「日本銀行の言葉を借りれば、賃金・物価の好循環(≒第2の力)が発揮されているとは残念ながら言えない。株高の背景にあるものが「インフレに押し負ける実体経済情勢」であり、それが先進国から中進国へステップダウンを織り込む相場だとすれば、まだ、この円安・株高には先があるようにも読める。残念ながら、そのような仮説を覆すだけの十分な材料が無いのが実情ではないか」、「この円安・株高には先があるようにも読める」、どんな先なのだろうか、直ちには思い浮かばないので、じっくり考えてみたい。
先ずは、本年3月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載sた多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「ついに4万円突破!日経平均株価が大台に乗った意味と「続伸の条件」とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339838
・『3月4日、日経平均株価の終値が史上初めて4万円を超えた。主に海外投資家の積極的な日本株買いによって、株価だけは“失われた30年”の出口にたどり着きつつある。問題は、わが国の実体経済を前に進められるか否かだ。さらなる株価上昇に必要な取り組みとは?』、興味深そうだ。
・『34年ぶり高値更新!4万円台突入の意味 日経平均株価が連日、最高値を更新している。背景にはまず、世界的な金融市場の“カネ余り”がある。米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げへの期待も、株価が上昇する支えになっている。わが国だけでなく、景気がかなり厳しいドイツなど欧州諸国の株価も上昇している。一方、不動産バブル崩壊で景気低迷が深刻な中国の株価は下落し、中国から逃避した投資資金がわが国やインド株に流れている。 また、海外投資家の日本経済の見方が変化してもいる。高い賃金を提示し中途採用を増やす企業が増えるなど、日本の労働市場にも徐々に変化が見られ始めたからだ。東証が株価純資産倍率(PBR)1倍割れの企業に、成長戦略の提示と説明などを求めたことも、日本経済の変化への期待につながった。 政府の産業政策の修正も追い風だ。今のところ、米欧以上にわが国の半導体関連の助成金支給スピードは速い。台湾の半導体ファウンドリーTSMCが熊本県に大型工場を開所したことを呼び水に、同県内では半導体および製造装置、関連部材メーカーなどが積極的に設備投資を実施している。自動車けん引型の日本の産業構造が変わると期待する、欧米の機関投資家は増えている。 23年初旬から日本株を購入したある海外投資家は、「インフレ傾向の中、賃上げに対して企業が積極的な姿勢を強めていることや、産業政策の変化で日本経済と日本株は長期停滞から脱却する入り口に到達した」と指摘していた。 米国経済の想定以上の成長も重要だ。米国では労働市場の需給がタイトに推移し、賃金上昇の勢いは強い。それは個人消費の増勢を支えている。生成AIの需要が急増したことで米国の半導体関連株が上昇していることも、日本株上昇にプラスに作用している』、「海外投資家は、「インフレ傾向の中、賃上げに対して企業が積極的な姿勢を強めていることや、産業政策の変化で日本経済と日本株は長期停滞から脱却する入り口に到達した」と指摘」、なるほど。
・『デフレからインフレへ経済環境の変化 株高と併せて何といっても見逃せない変化の一つは、経済がインフレ傾向に変わっていることだ。わが国のインフレは、基本的に円安と資源や食料の価格上昇(コストプッシュ型)ではあるものの、デフレからインフレへと変化したことは事実。ここ数年、企業は収益を守るために値上げを実施していて、家計はそれを受け入れざるを得ず、消費者物価指数の上昇率は2%を上回った。 日経平均株価は、1989年末に当時の高値(3万8915円87銭)を付けたが、90年の年初から下落し、資産バブルは崩壊した。90年以降の経済環境を改めて振り返ると、バブル崩壊により企業は急激な資産価格下落と景気悪化に直面し、極端なリスク回避に傾いた。政府は不良債権処理を加速するよりも、97年度までは公共事業関係費を増やした。こうしてバブルの後始末は遅れ、97年には金融システム不安が起きた。 不良債権問題が深刻化すると、デフレ圧力が高まった。さらに2008年9月のリーマンショックも、景気低迷を長引かせた。賃金水準は低迷して需要が減少し、持続的に物価が下落するという負の循環にわが国は陥った。また、電機産業などで国際分業への対応が遅れたことで、デジタル化への対応も遅れ、企業業績への懸念から国内の株価は低迷した。 ちなみに米国は、1929年の大恐慌で株価が暴落した後、当時の高値更新に約25年かかった。一方、わが国の高値更新に要した34年の歳月は、米国に比較してはるかに長い。それだけ80年代後半のわが国では、大規模な資産バブルが発生し崩壊の負の影響も深刻だったということだ。 デフレから脱しつつあるのと時を同じくして、新卒一括採用・年功序列・終身雇用の雇用慣行が徐々に崩れ、実力に応じた賃金制度を採用する企業が増えている。労働市場の流動性は高まっており、賃上げできなければ淘汰(とうた)される企業も増えるだろう。 労働市場の流動性が高まり、生産性の高い分野に経営資源が再配分されるようになることは、経済の本来あるべき姿であり、そこにわが国も向かい始めた。「現状維持を優先するだけでは成長は難しい」と考える経営者は増えている。 収益性の向上に取り組み、株主への価値還元やさらなる賃上げ、研究開発体制の強化など成長戦略を強化する企業も増えている。こうした結果、やっとのことで“失われた30年”から抜け出す入り口に日本はたどり着いたといえるだろう』、「米国は、1929年の大恐慌で株価が暴落した後、当時の高値更新に約25年かかった。一方、わが国の高値更新に要した34年の歳月は、米国に比較してはるかに長い。それだけ80年代後半のわが国では、大規模な資産バブルが発生し崩壊の負の影響も深刻だったということだ・・・収益性の向上に取り組み、株主への価値還元やさらなる賃上げ、研究開発体制の強化など成長戦略を強化する企業も増えている。こうした結果、やっとのことで“失われた30年”から抜け出す入り口に日本はたどり着いたといえるだろう」、その通りだ。
・『実体経済の回復なき株価上昇、課題は? 株価が最高値を更新する一方、わが国では「景気回復を感じない」との声が多い。「実体経済の力強い回復なき株価上昇」の様相を呈していることは注目すべきだ。今後は、わが国が“失われた30年”から本当に抜け出せるかが重要なポイントとなる。少子高齢化、人口の減少、社会保障関係費の増大による財政悪化など、状況は厳しい。 ただ、希望はあるはずだ。企業で賃上げの重要性が高まっている。賃上げは、従業員の生活の安定のみならず、学び直しやリスキリングへの意欲も支える。これは、企業が成長性を高めることや、雇用の流動化、本来あるべき経済の循環の実現に必要だ。 政府や企業は、限りのある人材が実力を高め、さらに高い賃金を手にできる環境を整備することに注力すべきだ。それは、先端分野へ経営資源を再配分する促進となり、より高付加価値のモノやサービスの創出を支える。こうした変化が本格化すると、今のようなインフレではなく、安定的な物価上昇の可能性が高まり、真の意味でデフレマインドを根本から克服するチャンスとなる。 また、国を挙げて成長産業を育成することは欠かせない。米エヌビディアの好決算を見ても、世界中で生成AIの需要が急増していることは明らかだ。AIチップを製造するTSMCの熊本工場に続けと言わんばかりに、関連する精密機械、パワー半導体などの分野でも工場建設が相次ぐ。北海道ではラピダスが回路線幅1ナノ(ナノは10億分の1)メートルのチップ生産を計画する。わが国で半導体産業が復活を遂げる可能性に期待が高まっている。 23年7~9月期、10~12月期、国内のGDP成長率はマイナスだった。1~3月期もマイナス成長に陥る可能性は高い。中国経済が低迷する懸念が追加的に高まれば、設備投資の下ぶれリスクも上昇する。 今後、海外投資家がわが国経済に一段と期待を高めるか否かは、政府や企業のやり方次第だ。決して株高を楽観視せずに、政府は半導体分野などで民間企業のリスクテイクをサポートする。企業はより積極的に収益性の向上を実現する。世界経済の変化を迅速に捉えつつ、この両輪を回すことこそ、わが国経済が真の意味で生まれ変わり、さらなる株価上昇に必要な取り組みである。 【訂正】記事の初出時より以下の通り訂正します。 8段落目:日経平均株価は、1987年末に→日経平均株価は、1989年末に(2024年3月5日13:21 ダイヤモンド編集部)』、「今後、海外投資家がわが国経済に一段と期待を高めるか否かは、政府や企業のやり方次第だ。決して株高を楽観視せずに、政府は半導体分野などで民間企業のリスクテイクをサポートする。企業はより積極的に収益性の向上を実現する。世界経済の変化を迅速に捉えつつ、この両輪を回すことこそ、わが国経済が真の意味で生まれ変わり、さらなる株価上昇に必要な取り組みである」、同感である。
次に、3月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「株価最高値の陰で「スタグフレーション」に落ち込んだ日本、春闘高賃上げは“悪循環”?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340415
・『1月も消費者物価2%上昇、実質GDPは低迷 定義どおりのスタグフレレーション 日本の消費者物価上昇率は、一時よりは低下したものの、依然として高い。 2024年1月の生鮮食品を除く総合指数の前年同月比は2.0%だった。日本銀行も現在の状況はインフレーションだと認めている。 他方で、23年10~12月の実質GDP(国内総生産)速報値(1次)は前期比0.1%減(年率0.4%減)となった。3月11日に公表された2次速報では、同0.1%増(同0.4%増)と修正され2四半期連続のマイナス成長は免れたものの、低迷していることは間違いない。 経済が成長せずに物価が上昇するのだから、これは定義どおりの明白なスタグフレーションだ。 日経平均株価が史上最高値を更新しつつあったことから、日本経済が新たな発展の局面に入ったという意見がある。これから新しい発展の時代が始まるという見方だ。 しかし実際に起きているのは、それとは全く逆であり、日本経済がスタグフレーションという「深刻な病」に落ち込んでいることなのだ。 春闘の主要製造業の集中回答日だった13日には、トヨタ自動車や新日本製鉄などで「満額回答」や「最高水準」の賃上げ回答が目立った。 春闘などでの賃上げが経済停滞を抜け出す糸口になることへの期待もあるが、今の状況では賃上げが“逆効果”になることもあり得る』、「経済が成長せずに物価が上昇するのだから、これは定義どおりの明白なスタグフレーションだ。 日経平均株価が史上最高値を更新しつつあったことから、日本経済が新たな発展の局面に入ったという意見がある。これから新しい発展の時代が始まるという見方だ。 しかし実際に起きているのは、それとは全く逆であり、日本経済がスタグフレーションという「深刻な病」に落ち込んでいることなのだ」、その通りだ。
・『さまざまな指標が経済活動停滞を裏付け 家計消費や鉱工業生産も減少 経済活動の停滞は、GDP以外にもさまざまな指標で確かめることができる。 家計調査によると、23年12月の家計消費支出(2人以上の世帯)の実質増減率は、前年同月比で2.5%の減少だった。24年1月は同6.3%減とさらに落ち込んだ。 輸出でも同様の傾向が見られる。22年の輸出額は、円建てでは前年比18.2%増となったものの、ドル建てでは同0.9%の減少となった。輸出数量で見ても、同0.6%減と落ち込んだ。23年も同様の結果で、円建ての輸出額は同2.8%増だったものの、ドル建てでは4.3%減と2年連続で減少。輸出数量も同3.9%減と落ち込んだ(ジェトロの統計による)。 輸出数量が増えないため、国内の生産活動も増加しない。生産活動の落ち込みは鉱工業生産指数で確かめることができる。21年に新型コロナウイルスの感染拡大による落ち込みから回復して以来、指数は104~105程度でほとんど変化がない(2020年=100、季節調整済み)。 最近の計数をみると、1月の鉱工業生産指数速報値は97.6となり前月比で7.5%低下した。低下幅はコロナの感染が広がった20年5月以来の大きさだ。これには、品質不正による自動車メーカーの工場停止が影響しているが、生産は全15業種のうち14業種で下がったので、自動車だけが問題であるわけではない。 なお、円安が輸出数量や鉱工業生産指数に影響を与えないのは、過去の円安局面でも起きていることだ』、「1月の鉱工業生産指数速報値は97.6となり前月比で7.5%低下した。低下幅はコロナの感染が広がった20年5月以来の大きさだ。これには、品質不正による自動車メーカーの工場停止が影響しているが、生産は全15業種のうち14業種で下がったので、自動車だけが問題であるわけではない」、確かに1月の落ち込みは深刻だ。
・『輸出企業の利益増は円安効果 円高になれば反転する現象 一方、企業の利益は円安によって増大している。 企業全体としてはあまり大きな増加でないのだが、一部の企業、とくに輸出関連の大企業で利益が顕著に増えている。 その典型がトヨタ自動車だ。22年3月期の営業利益は対前年比36.3%増の2兆9956億円と3兆円に迫った。23年3月期の営業利益は原材料高の影響でやや落ち込んだものの、24年3月期は過去最高の4.9兆円に達する見通しだ(トヨタ自動車、業績ハイライト・財務指標)。 円安が経済活動の実態を変化させずに企業利益だけを増加させるのは、従来の円安局面と同じ現象であり、新しいことではない。輸出数量が増えなくても円安によって円ベースの輸出額が増え、他方で、円安による原材料価格の上昇は製品価格に転嫁するからだ。 24年になってからの円安についても、同じことが起きるとの期待があり、これが株価が上昇している一因と考えられる。だがこれは、円高になれば反転する現象であり、永続的なものでない』、「円安が経済活動の実態を変化させずに企業利益だけを増加させるのは、従来の円安局面と同じ現象であり、新しいことではない。輸出数量が増えなくても円安によって円ベースの輸出額が増え、他方で、円安による原材料価格の上昇は製品価格に転嫁するからだ・・・24年になってからの円安についても、同じことが起きるとの期待があり、これが株価が上昇している一因と考えられる」、なるほど。
・『輸入物価下落しても消費者物価は上昇 価格転嫁のメカニズムが変化? 現在の局面が従来と大きく違うのは、輸入物価と消費者物価の関係だ。 従来の円安局面では、円ベースの輸入物価は上昇することが多かった。しかし、現在は世界的なインフレが収束しつつあるので、契約通貨ベースの輸入物価が下落している。このため、円安が進行しているにもかかわらず、円ベースの輸入物価の対前年同月比が2023年4月以降、下落を続けているのだ。 また輸入物価と消費者物価の関係も従来と違ってきている。 これまでの日本では、消費者物価の動向はほぼ円ベース輸入物価の動向によって決まっていた。具体的には、消費者物価の対前年上昇率は半年ほど前の円ベース輸入物価の対前年上昇率の10分の1程度の値になっていた。 これは、輸入物価の上昇が取引段階ごとに製品価格に転嫁されていくが、下流に行くにしたがってその影響が薄められることから、当然の現象だ。 もしこのメカニズムがいまも働いているとすれば、消費者物価はいま下落しているはずだ。なぜなら、前述のように円ベースの輸入物価指数は2023年4月から、対前年比でマイナスに転じているからだ。 しかし、実際には、消費者物価上昇率は対前年比2%という、かなり高い値だ。だから、従来の価格転嫁メカニズムに変化が生じたと考えざるを得ない。 なぜ変わったのか?その理由として第1に考えられるのは、この数年の輸入物価上昇率があまりに高かったため、転嫁に時間がかかっていることだ。 第2に考えられるのは、賃金上昇の影響だ。実際、調理食品(6.6%)や宿泊費(26.9%)などいくつかの品目で消費者物価の対前年上昇率が高い(2024年1月)。そして、この分野で賃金が上昇している。 毎月勤労統計調査によると、飲食サービス業の現金給与総額の対前年増加率は8.5%というかなり高い値になっている(一般労働者、2023年速報)。だから賃金上昇が価格に転嫁されている可能性がある。 ただし、これが永続的なものなのか一時的なものなのかはわからない』、「従来の価格転嫁メカニズムに変化が生じたと考えざるを得ない。 なぜ変わったのか?その理由として第1に考えられるのは、この数年の輸入物価上昇率があまりに高かったため、転嫁に時間がかかっていることだ。 第2に考えられるのは、賃金上昇の影響だ。実際、調理食品(6.6%)や宿泊費(26.9%)などいくつかの品目で消費者物価の対前年上昇率が高い(2024年1月)」、なるほど。
・『生産性上昇しないコストプッシュインフレで 賃金と物価の「悪循環」が生じるおそれ 日本銀行は、金融政策の正常化の条件として、2%を超える消費者物価上昇率を望んでいる。しかし、重要なのは物価上昇率が2%を超えるかどうかではなく、物価上昇がどのようなメカニズムで起きるかだ。 生産性の上昇に基づいて賃金が上昇し、そのために家計の消費需要が増え、そのために物価が上昇するというルートでなければならない。 しかし、生産性上昇を伴わずに賃金が上昇し、それが売上げ価格に転嫁されるというコストプッシュインフレであれば、賃金上昇も物価上昇も望ましくない現象だということになる。そうしたメカニズムが、少なくとも経済の一部で進行している可能性がある。 今春闘については政府や日銀は高い賃上げを期待しているが、こうした状況下で、春闘などを通じて賃金を無理矢理に引き上げれば、それが物価に転嫁され、コストプッシュインフレが経済全体に広がる危険がある。 つまり、賃金上昇と物価上昇の「悪循環」が始まるわけだ。 その一方で実体経済がマイナス成長を続ければ、日本経済はスタグフレーションの罠から抜け出せなくなるおそれがある』、「春闘などを通じて賃金を無理矢理に引き上げれば、それが物価に転嫁され、コストプッシュインフレが経済全体に広がる危険がある。 つまり、賃金上昇と物価上昇の「悪循環」が始まるわけだ。 その一方で実体経済がマイナス成長を続ければ、日本経済はスタグフレーションの罠から抜け出せなくなるおそれがある」、その通りだ。
第三に、3月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したみずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏による「株高は「日本を見る目が変わった」論の正体、株価上昇は“中進国降格”を織り込み始めた?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340555
・『年初からの株高で「日本を見る目が変わっている」論が幅を利かせている。日本経済、日本企業の変革が期待されているというわけである。しかし、株高の実態は、円安から波及してきたインフレと輸出企業の業績向上に過ぎない。実質成長率は低迷している。これは、日本が「先進国」ではなく「中進国」であると、見る目が変わってきている証左ではないだろうか』、「株高の実態は、円安から波及してきたインフレと輸出企業の業績向上に過ぎない。実質成長率は低迷している。これは、日本が「先進国」ではなく「中進国」であると、見る目が変わってきている証左ではないだろうか」、由々しい出来事だ。
・『年初からの株高はインフレのおかげ 普段、筆者は為替市場を中心とした経済・金融分析を中心としており、株式の専門家ではないが、今年に入ってから日本が直面している株高の真因を問われた場合は「インフレのたまもの」と回答するようにしている。 現在の日本は株や不動産の価格が上がり、自国通貨の値段が下がり、高級外車や高級時計のような輸入品の価格も押し上げられている。それら全てを説明できるフレーズはインフレである。植田日銀総裁を筆頭に日銀から物価目標達成をにおわせるような情報発信が相次ぎ、遂に政府・与党がデフレ脱却宣言に踏み切るという観測報道まで出ている。 これまで慢性的な円高や上がらない株価、低位安定する円金利や停滞する名目賃金などはデフレの象徴のように忌み嫌われてきた。裏を返せば、デフレ脱却の暁にはそれらの現象は逆転しても不思議ではない。 現に、円安は終わらず、株価は急伸、円金利も(政策的に抑えているので、わずかだが)浮揚が見られ、名目賃金も続伸している。もちろん、日本企業の業績改善を織り込んだ部分もあろうが、デフレ脱却というパラダイムシフトを前提として、日本経済に対する「見る目が変わっている」という評価はできる。 だが、「見る目が変わっている」が良い意味とは限らない。次ページ以降、その正体について検証していく』、「円安は終わらず、株価は急伸、円金利も(政策的に抑えているので、わずかだが)浮揚が見られ、名目賃金も続伸している。もちろん、日本企業の業績改善を織り込んだ部分もあろうが、デフレ脱却というパラダイムシフトを前提として、日本経済に対する「見る目が変わっている」という評価はできる。 だが、「見る目が変わっている」が良い意味とは限らない」、どういうことだろうか。
・『「中進国」容疑をかけられる日本 GDPの名実格差が意味するもの 下表は日経平均株価が初めて4万円台に乗せた2024年3月4日について、過去1年間の主要株価指数の上昇率トップ10と当該国通貨の対ドル変化率を並べたものだ。 (図表1:世界の主要株価指数(上昇率トップ10) はリンク先参照) 対ドル変化率に関し、上位10カ国平均が約マイナス26%、上位5カ国平均が約マイナス40%にもなる。また、見ての通り、上位10カ国において先進国は日本だけだ。また、対ドル変化率について、日本より下落幅が小さい国は4カ国、大きい国が5カ国である。濃淡はあるものの、いずれの国も対ドルで下落しているという事実は共通する。 インフレ体質の国では自国通貨が減価しやすく、それにより自国通貨建てで見た株価指数の水準も押し上げられやすくなる。それは理論的に言って正しい姿だ。そのような症状は途上国に多く見られるが、日本のような先進国ではあまり見られるものではない。 結局、日本経済に対する「見る目が変わっている」というのは先進国や途上国といった所属する国グループについて猜疑(さいぎ)心が向けられているという意味ではないか。 発展途上国から脱し、先進国に至る途上にある国を中進国と呼ぶことがあるが、その容疑がかかっている可能性もある。 株高にもかかわらずそれを喜ぶ議論があまり見られず、実体経済の弱さばかりに焦点がいくのはそもそも日本の家計部門において株式・出資金の保有比率が低いという以前に、インフレになった分が、十分家計部門に分配されていないという根本的問題があるだろう。 「株式・出資金保有比率が低い」という点については目下、「資産運用立国」論を旗印として対処中であり、良しあしは別として、今後は違った姿に変わっていくことが期待される。この点は時間の問題であり、待つしかない。 しかし、株高(や円安や不動産価格上昇など)がインフレ由来のものであったと考えた場合、当然、実体経済を分析する上ではGDP(国内総生産)の名実格差に触れないわけにはいかなくなる。 デフレ下の日本ではGDPの名実逆転(実質GDP>名目GDP)が象徴な事実として取り上げられてきた。しかし、インフレ社会となれば、通常想定される姿(実質GDP<名目GDP)が定着することになる。 既に政府見通しが出ているように、24年度の日本経済は第2次安倍政権が掲げていた「GDP600兆円」という目標達成が視野に入るといわれている(※安倍政権が「2020年度までに600兆円」と掲げたのが2015年だ)。この点、好意的な報道が多いと感じるが、そもそも600兆円は名目ベースの目標であり、実質ベースの目標には何も言及されてこなかったことには注意を要する。 周知の通り、インフレになれば名目GDPは当然膨らむ。本質的に重要になるのはインフレを除いた部分、端的には実質GDPでどの程度の伸びを実現しているかという点だ。実質GDPが成長を伴わず、名目GDPだけが600兆円を達成しても景気実感は生じにくい。 例えば22年から23年にかけて名目GDPは約560兆円から約591兆円へ、約31兆円増えた。しかし、同じ期間に実質GDPは約548兆円から約559兆円へ約11兆円しか増えていない。つまり、残る約20兆円がインフレによる上乗せであり、これは日本国民にとって成長とは言えない。このような状況もあって2023年の日本経済では名目GDP成長率5.7%に対し、実質GDP成長率は1.9%にとどまった。 (図表2:日本のGDP はリンク先参照)』、「インフレになれば名目GDPは当然膨らむ。本質的に重要になるのはインフレを除いた部分、端的には実質GDPでどの程度の伸びを実現しているかという点だ。実質GDPが成長を伴わず、名目GDPだけが600兆円を達成しても景気実感は生じにくい」、なるほど。
・『輸出企業はインフレを価格転嫁 中進国へのステップダウンが始まったか 身近な例で言えば、家計最終消費は名目ベースでは約11.4兆円伸びているが、このうちインフレによる上乗せは約9.4兆円で、実質ベースでは約2兆円しか増えていない。成長率で見れば、3.8%に対し0.7%なので、ほとんどの消費行動がインフレに食われていることが分かる(下図参照)。 (図表3:日本のGDP はリンク先参照) 当然、インフレになれば短期的には売り上げや利益は増えて、株価も押し上げられやすくなる。しかし、それは消費者が「無い袖を振って」消費している結果でもある。結果、「株高にもかかわらず内需の勢いに乏しい」という今の日本のような状況が生まれる。基本的に「無い袖は振れない」ので、長期的には名目GDPと実質GDPの乖離(かいり)は広がっていく。 ちなみに図表1を見ても分かるように、実質GDPの中でも、輸出だけは健闘しているように見える。名目ベースで約8.1兆円増加しているのに対し、実質ベースでは約3.3兆円、インフレによる上乗せ分は約4.8兆円とやはりインフレ部分が大きいものの、家計最終消費や設備投資と比較すれば相対的にましという印象を受ける。 これは輸出企業が海外においてインフレ部分を価格転嫁できている証拠でもある。関連統計からも確認可能だ。2023年7月以降、輸出物価指数は契約通貨建て(いわゆる現地通貨建て)で見ても上昇基調に入っており、内外のインフレ圧力と整合的に価格転嫁を実現している様子が透ける。 (図表4:輸出物価指数の前年比変化率 はリンク先参照) 理論上、円安が輸出企業に与える影響は「契約通貨建て価格の引き下げ→輸出数量増加」という経路だ。例えば、実勢相場が「1ドル100円」の時に1ドルでボールペンを輸出していたとする。ここから「1ドル=120円」に円安が進めば0.83ドル(0.83×120円≒100円)で輸出しても円建て売上高を維持できる。 しかし、統計を見る限り、今の日本の輸出企業がやっていることはボールペンを1.2ドルや1.5ドルなどに引き上げる動きである。当然、円建て売上高も大きく膨らむ(例:1.2ドル×120円≒144円)。もっと言えば、この例よりもはるかに円安は進んでいるので、輸出企業の円安による業績改善幅はさらに大きいものになる。 結果、輸出企業は実質ベースでの成長も相応に確保できているのだとすると、それを国内の家計部門(≒名目賃金)に還元できるかが焦点になる。 結局、「賃上げはあるのか」といういつも通りの話に戻ってきてしまうわけだが、それが十分ではないからこそ実質ベースで見た家計最終消費がほとんど伸びていないという実情は認めざるを得ないだろう。 日本銀行の言葉を借りれば、賃金・物価の好循環(≒第2の力)が発揮されているとは残念ながら言えない。株高の背景にあるものが「インフレに押し負ける実体経済情勢」であり、それが先進国から中進国へステップダウンを織り込む相場だとすれば、まだ、この円安・株高には先があるようにも読める。残念ながら、そのような仮説を覆すだけの十分な材料が無いのが実情ではないか』、「日本銀行の言葉を借りれば、賃金・物価の好循環(≒第2の力)が発揮されているとは残念ながら言えない。株高の背景にあるものが「インフレに押し負ける実体経済情勢」であり、それが先進国から中進国へステップダウンを織り込む相場だとすれば、まだ、この円安・株高には先があるようにも読める。残念ながら、そのような仮説を覆すだけの十分な材料が無いのが実情ではないか」、「この円安・株高には先があるようにも読める」、どんな先なのだろうか、直ちには思い浮かばないので、じっくり考えてみたい。
タグ:(その21)(ついに4万円突破!日経平均株価が大台に乗った意味と「続伸の条件」とは?、株価最高値の陰で「スタグフレーション」に落ち込んだ日本 春闘高賃上げは“悪循環”?、株高は「日本を見る目が変わった」論の正体 株価上昇は“中進国降格”を織り込み始めた?) 株式・為替相場 「海外投資家は、「インフレ傾向の中、賃上げに対して企業が積極的な姿勢を強めていることや、産業政策の変化で日本経済と日本株は長期停滞から脱却する入り口に到達した」と指摘」、なるほど。 真壁昭夫氏による「ついに4万円突破!日経平均株価が大台に乗った意味と「続伸の条件」とは?」 ダイヤモンド・オンライン 「米国は、1929年の大恐慌で株価が暴落した後、当時の高値更新に約25年かかった。一方、わが国の高値更新に要した34年の歳月は、米国に比較してはるかに長い。それだけ80年代後半のわが国では、大規模な資産バブルが発生し崩壊の負の影響も深刻だったということだ・・・収益性の向上に取り組み、株主への価値還元やさらなる賃上げ、研究開発体制の強化など成長戦略を強化する企業も増えている。こうした結果、やっとのことで“失われた30年”から抜け出す入り口に日本はたどり着いたといえるだろう」、その通りだ。 「今後、海外投資家がわが国経済に一段と期待を高めるか否かは、政府や企業のやり方次第だ。決して株高を楽観視せずに、政府は半導体分野などで民間企業のリスクテイクをサポートする。企業はより積極的に収益性の向上を実現する。世界経済の変化を迅速に捉えつつ、この両輪を回すことこそ、わが国経済が真の意味で生まれ変わり、さらなる株価上昇に必要な取り組みである」、同感である。 野口悠紀雄氏による「株価最高値の陰で「スタグフレーション」に落ち込んだ日本、春闘高賃上げは“悪循環”?」 「経済が成長せずに物価が上昇するのだから、これは定義どおりの明白なスタグフレーションだ。 日経平均株価が史上最高値を更新しつつあったことから、日本経済が新たな発展の局面に入ったという意見がある。これから新しい発展の時代が始まるという見方だ。 しかし実際に起きているのは、それとは全く逆であり、日本経済がスタグフレーションという「深刻な病」に落ち込んでいることなのだ」、その通りだ。 「1月の鉱工業生産指数速報値は97.6となり前月比で7.5%低下した。低下幅はコロナの感染が広がった20年5月以来の大きさだ。これには、品質不正による自動車メーカーの工場停止が影響しているが、生産は全15業種のうち14業種で下がったので、自動車だけが問題であるわけではない」、確かに1月の落ち込みは深刻だ。 「円安が経済活動の実態を変化させずに企業利益だけを増加させるのは、従来の円安局面と同じ現象であり、新しいことではない。輸出数量が増えなくても円安によって円ベースの輸出額が増え、他方で、円安による原材料価格の上昇は製品価格に転嫁するからだ・・・24年になってからの円安についても、同じことが起きるとの期待があり、これが株価が上昇している一因と考えられる」、なるほど。 「従来の価格転嫁メカニズムに変化が生じたと考えざるを得ない。 なぜ変わったのか?その理由として第1に考えられるのは、この数年の輸入物価上昇率があまりに高かったため、転嫁に時間がかかっていることだ。 第2に考えられるのは、賃金上昇の影響だ。実際、調理食品(6.6%)や宿泊費(26.9%)などいくつかの品目で消費者物価の対前年上昇率が高い(2024年1月)」、なるほど。 「春闘などを通じて賃金を無理矢理に引き上げれば、それが物価に転嫁され、コストプッシュインフレが経済全体に広がる危険がある。 つまり、賃金上昇と物価上昇の「悪循環」が始まるわけだ。 その一方で実体経済がマイナス成長を続ければ、日本経済はスタグフレーションの罠から抜け出せなくなるおそれがある」、その通りだ。 唐鎌大輔氏による「株高は「日本を見る目が変わった」論の正体、株価上昇は“中進国降格”を織り込み始めた?」 「株高の実態は、円安から波及してきたインフレと輸出企業の業績向上に過ぎない。実質成長率は低迷している。これは、日本が「先進国」ではなく「中進国」であると、見る目が変わってきている証左ではないだろうか」、由々しい出来事だ。 「円安は終わらず、株価は急伸、円金利も(政策的に抑えているので、わずかだが)浮揚が見られ、名目賃金も続伸している。もちろん、日本企業の業績改善を織り込んだ部分もあろうが、デフレ脱却というパラダイムシフトを前提として、日本経済に対する「見る目が変わっている」という評価はできる。 だが、「見る目が変わっている」が良い意味とは限らない」、どういうことだろうか。 「インフレになれば名目GDPは当然膨らむ。本質的に重要になるのはインフレを除いた部分、端的には実質GDPでどの程度の伸びを実現しているかという点だ。実質GDPが成長を伴わず、名目GDPだけが600兆円を達成しても景気実感は生じにくい」、なるほど。 「日本銀行の言葉を借りれば、賃金・物価の好循環(≒第2の力)が発揮されているとは残念ながら言えない。株高の背景にあるものが「インフレに押し負ける実体経済情勢」であり、それが先進国から中進国へステップダウンを織り込む相場だとすれば、まだ、この円安・株高には先があるようにも読める。残念ながら、そのような仮説を覆すだけの十分な材料が無いのが実情ではないか」、「この円安・株高には先があるようにも読める」、どんな先なのだろうか、直ちには思い浮かばないので、じっくり考えてみたい。