金融業界(その19)(ドル建て債権の“逆ざや”が銀行を襲う 損切りもできない悪循環に(編集部)、預かり資産は652兆円…日本カストディ銀行前社長の不正とは) [金融]
金融業界については、本年6月12日に取上げた。今日は、(その19)(ドル建て債権の“逆ざや”が銀行を襲う 損切りもできない悪循環に(編集部)、預かり資産は652兆円…日本カストディ銀行前社長の不正とは)である。
先ずは、本年6月16日付けエコノミストOnline「ドル建て債権の“逆ざや”が銀行を襲う 損切りもできない悪循環に(編集部)」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230704/se1/00m/020/060000c
・『新型コロナウイルス禍がようやく収束に向かい、経済活動に明るさが見え始めた矢先。銀行業界を大きなショックが襲っている。外国債券を中心とした保有債券に多額の含み損が生じているのだ。 「有価証券運用について、もう少し、うまくやる余地はあったと思うのですが……」。地銀などに資産運用を助言する和キャピタル(東京都)の伊藤彰一専務取締役は首をかしげる。 「外債ショック」。こうした表現が当てはまるほど、2023年3月期の銀行決算では、保有する外債の価格が下落し、含み損を抱えたり、損失処理をする内容が目立った。各社の決算資料(単体)を分析すると、外国証券を含む「その他の証券」(株式や国債、社債などの債券以外)の項目では、3メガバンクでは三菱UFJ銀行が8569億円、みずほ銀行が6676億円、三井住友銀行が3961億円の含み損を抱えていた。 また、地銀では、山陰合同銀行(島根県)808億円▽横浜銀行(神奈川県)671億円▽第四北越銀行(新潟県)551億円▽南都銀行(奈良県)450億円▽肥後銀行(熊本県)395億円──の順で含み損が大きかった。 背景には、23年3月期に米国など海外で進んだ急激な金利上昇の影響がある。金利が上昇すると債券価格は下落するため、外債を保有していた銀行は含み損を抱えることになる。多くの金融機関は、これまでの資産運用で米国債について、比較的安定した資産として保有額を増やしてきていたが、収益源を金利上昇が直撃した。 なぜ、国内の銀行はそれほど外債を持っていたのか。要因の一つには、本業の顧客向けサービスで利益が上げられなくなっている現状がある。顧客への貸し出しは、日銀の低金利政策や銀行同士の金利引き下げ競争で利回り低下が続く。そこで、各銀行は収益向上を求めて有価証券運用に注力してきた。地銀の有価証券保有残高は、00年代前半のは50兆円台からじわじわと増加し、14年度には100兆円近くまで膨らんだ(図)』、「外国証券を含む「その他の証券」(株式や国債、社債などの債券以外)の項目では、3メガバンクでは三菱UFJ銀行が8569億円、みずほ銀行が6676億円、三井住友銀行が3961億円の含み損を抱えていた。 また、地銀では、山陰合同銀行(島根県)808億円、横浜銀行(神奈川県)671億円、第四北越銀行(新潟県)551億円、南都銀行(奈良県)450億円、肥後銀行(熊本県)395億円──の順で含み損が大きかった」、「顧客への貸し出しは、日銀の低金利政策や銀行同士の金利引き下げ競争で利回り低下が続く。そこで、各銀行は収益向上を求めて有価証券運用に注力してきた。地銀の有価証券保有残高は、00年代前半のは50兆円台からじわじわと増加し、14年度には100兆円近くまで膨らんだ」、なるほど。
・『マイナス金利で投資加速 有価証券運用の内訳も徐々に変化した。銀行経営に詳しい杉山敏啓・江戸川大学教授は「外債の比率は日銀の黒田東彦・前総裁の下で始まった異次元緩和や、マイナス金利政策開始でさらに増えた」と指摘する。地銀が保有する有価証券残高のうち、外債を含む「その他の証券」の割合は、11年度には00年度以降で最少の11%だったが、徐々に増え、足元の23年3月期では全体の約3分の1近い32%まで膨張していた。 日本国債の利回りが低下する中、少しでも高いリターンを求めて、外債などのリスク証券に活路を求めていった結果だった。しかし、外債投資は、日本国債をはじめとする円建て債券のように、含み損を抱えていても満期まで保有すれば額面で償還される(全額が払い戻される)ような単純な性質の投資ではない。米国債に投資するなら、米ドルを市場から調達する必要があることが話をさらに複雑にする。 保有する円貨を米ドルに両替して米国債に投資するのでは、為替の変動リスクをもろに受けてしまう。そこで、特に地銀では為替の変動リスクを避けるため、同額を米ドル建ての負債という形で保有する「スクエア・ポジション」を取るのが一般的だ。その米ドル建て負債は通常、期間の短い低めの金利で調達し、満期までの期間が長く金利が高めの米国債に投資することで、その利ざやが得られる仕組みだった。 だが、こうした形で投資していた銀行にとって誤算となったのは、22年初からの急激な米短期金利の上昇だった。米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制のために一気に利上げしたことで、短期金利が10年債金利(長期金利)を上回るような状態となった。すでに購入した米国債の運用利回りは一定だが、米ドル建て負債の調達利回りがそれ以上に急上昇したことで、運用するだけ損失が発生する「逆ざや」に陥ったのだ。 各行の23年3月期決算では「これ以上、損失が膨らむのであれば、早めに損切りをした方がまし」と考えた銀行による外債の損切りが相次ぐことになった。しかし、損切りができる銀行はまだましなのかもしれない。経営体力が弱く、損切りによる多額の損失計上もできない銀行は、逆ざやによる損失がさらに体力を奪う悪循環に陥っていく』、「為替の変動リスクを避けるため、同額を米ドル建ての負債という形で保有する「スクエア・ポジション」を取るのが一般的だ。その米ドル建て負債は通常、期間の短い低めの金利で調達し、満期までの期間が長く金利が高めの米国債に投資することで、その利ざやが得られる仕組みだった。 だが、こうした形で投資していた銀行にとって誤算となったのは、22年初からの急激な米短期金利の上昇だった。米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制のために一気に利上げしたことで、短期金利が10年債金利(長期金利)を上回るような状態となった。すでに購入した米国債の運用利回りは一定だが、米ドル建て負債の調達利回りがそれ以上に急上昇したことで、運用するだけ損失が発生する「逆ざや」に陥ったのだ」、「「これ以上、損失が膨らむのであれば、早めに損切りをした方がまし」と考えた銀行による外債の損切りが相次ぐことになった。しかし、損切りができる銀行はまだましなのかもしれない。経営体力が弱く、損切りによる多額の損失計上もできない銀行は、逆ざやによる損失がさらに体力を奪う悪循環に陥っていく』、「経営体力が弱く、損切りによる多額の損失計上もできない銀行」にとって「悪循環」とは悲劇的だ。
・『ぜい弱すぎる運用体制 一方で、日銀総裁が黒田氏から植田和男氏に代わった後も、銀行収益の源泉となる国内の金利はなかなか上昇する気配を見せない。日銀が昨年12月、政策目標として誘導する10年物国債金利(長期金利)の変動幅の上限を従来の「0.25%程度」から「0.5%程度」に引き上げた際には、市場は今後も金利上昇が続くと予想し、銀行株の急騰につながった。 しかし、今年4月に就任した植田氏は大規模な金融緩和について「継続する」と明言し続け、関係者の期待をしぼませた。それでなくとも、大半の銀行が上場する東京証券取引所は、PBR(株価純資産倍率)で1倍割れの企業に対して経営の改善を求めており、PBR1倍割れが大半の銀行にとって風当たりは強まる一方。ある証券アナリストは「銀行収益の鍵を握る金利上昇がなければ、PBR1倍の実現も難しい」とも指摘する。 期待された国内の金利上昇もすぐには見込めない以上、今後の銀行にとって有価証券運用の巧拙が大きなカギを握る。運用人員が数百人に上るメガバンクに対し、小規模な地銀では10人にも満たない担当者で運用するところもある。和キャピタルの伊藤氏は「有価証券運用に携わる人員が少ない地銀は、特に運用力を磨く必要がある」と指摘する。 伊藤氏は一部の地銀について、長期保有を行うことを前提とした投資手法(バイ&ホールド運用)が染みついていることに警鐘を鳴らす。金利が動く局面では、機動的な対応が求められるためだ。すでに運用に関わる人員を減らしてきているような小規模な地銀にとっては、態勢の立て直しも容易ではない。ある投資ファンド幹部は「運用を外部に委ねることも選択肢になる」と指摘する。 銀行が外債運用で体力をすり減らせば、地域に資金を融通する余力もなくなり、コロナ禍から明けた地域経済の回復に水を差しかねない。逆風の中でいかに態勢を立て直すのか、銀行経営はこれから大きな正念場を迎える』、「一部の地銀について、長期保有を行うことを前提とした投資手法(バイ&ホールド運用)が染みついていることに警鐘を鳴らす。金利が動く局面では、機動的な対応が求められるためだ。すでに運用に関わる人員を減らしてきているような小規模な地銀にとっては、態勢の立て直しも容易ではない・・・「運用を外部に委ねることも選択肢になる」と指摘する」、「逆風の中でいかに態勢を立て直すのか、銀行経営はこれから大きな正念場を迎える」、その通りだろう。
次に、7月15日付け日刊ゲンダイ「預かり資産は652兆円…日本カストディ銀行前社長の不正とは」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/326056
・『ドラマ「半沢直樹」さながらの銀行トップの不正が金融界の話題となっている。日本カストディ銀行は、昨年12月に退任した元取締役について、社内調査で不正があったと6月9日に公表した。リリースでは名前は伏せられているが、この元取締役とは前社長の田中嘉一氏であることが明らかになっている。 同銀行は、三井住友トラストHD、みずほFG、りそな銀行などが出資する資産管理信託銀行で、生保や運用会社などの機関投資家が運用する有価証券の決済や保管・データ管理等を担当しており、その預かり資産は652兆円にも及ぶ。生保などを介しているものの、実質的には国民の資産である。事態を重くみた金融庁は銀行法24条に基づいて報告徴求命令を出した。不正の詳細や原因分析、再発防止策、経営管理態勢などについて、8月末を期限に報告するよう求めている。 田中氏は昨年12月末に任期満了で退任したが、その直後の今年1月に同社は不正事案を検知、すぐさま外部弁護士を中心とする調査委員会を設置し、調査を行ってきた。その結果、「外部委託業務に関連して、元取締役による利益相反や任務違背などの不正行為が認められた」と公表とした。 関係者によると、「すでに木目田裕弁護士(西村あさひ法律事務所)を委員長とする調査委員会は約50ページにわたる報告書をまとめている」という。その中身は、まさにドラマ「半沢直樹」を彷彿とさせる内容だという。 「業務を外部委託する際に、田中氏の知り合いのコンサル会社を間に入れることで、中抜きしようとしたとみられています。だが、不正は未遂に終わったようです」(関係者) また、「報告書には透かしが入り、外部に流出した場合、誰から漏れたか分かるようになっており、外部への流出をチェックする委員会も設置されている」(関係者)という念の入れようだ。 田中氏は、「不正は行っていない」と反論しており、調査委員会の聴取には応じず、資料の提出も拒んでいる。だが、日本カストディ銀行は田中氏について、「法律上の対応を適切に講じていく方針であり、刑事上の扱いにつきましても、現在、捜査機関に相談を実施している」として、刑事訴追も視野に入れている。 まさに身から出たサビと言わざるを得ない』、「田中氏は昨年12月末に任期満了で退任したが、その直後の今年1月に同社は不正事案を検知、すぐさま外部弁護士を中心とする調査委員会を設置し、調査を行ってきた。その結果、「外部委託業務に関連して、元取締役による利益相反や任務違背などの不正行為が認められた」と公表とした。 関係者によると、「すでに木目田裕弁護士(西村あさひ法律事務所)を委員長とする調査委員会は約50ページにわたる報告書をまとめている」という。その中身は、まさにドラマ「半沢直樹」を彷彿とさせる内容だという』、「業務を外部委託する際に、田中氏の知り合いのコンサル会社を間に入れることで、中抜きしようとしたとみられています。だが、不正は未遂に終わったようです」(関係者)、「調査委員会を設置し、調査を行ってきた。その結果、「外部委託業務に関連して、元取締役による利益相反や任務違背などの不正行為が認められた」と公表」、同行のコーポレートスローガンは、The Reliable Bank、実に皮肉である。株主は、三井住友トラストHD33.3%、みずほFG27.0%、りそな銀行16.7%、第一生命8.0%、朝日生命5.0%、明治安田生命4.5%、かんぽ生命3.5%、富国生命2.0%となっているので、少なくとも第二位、第三位の株主には気を遣う必要がある筈だ。今回の不正がどのように他の株主の監視の目を逃れたのかは不明だ。いずれにしても三井住友トラストHDは、筆頭株主として責任をもって全貌を明らかにする必要があるだろう。
先ずは、本年6月16日付けエコノミストOnline「ドル建て債権の“逆ざや”が銀行を襲う 損切りもできない悪循環に(編集部)」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230704/se1/00m/020/060000c
・『新型コロナウイルス禍がようやく収束に向かい、経済活動に明るさが見え始めた矢先。銀行業界を大きなショックが襲っている。外国債券を中心とした保有債券に多額の含み損が生じているのだ。 「有価証券運用について、もう少し、うまくやる余地はあったと思うのですが……」。地銀などに資産運用を助言する和キャピタル(東京都)の伊藤彰一専務取締役は首をかしげる。 「外債ショック」。こうした表現が当てはまるほど、2023年3月期の銀行決算では、保有する外債の価格が下落し、含み損を抱えたり、損失処理をする内容が目立った。各社の決算資料(単体)を分析すると、外国証券を含む「その他の証券」(株式や国債、社債などの債券以外)の項目では、3メガバンクでは三菱UFJ銀行が8569億円、みずほ銀行が6676億円、三井住友銀行が3961億円の含み損を抱えていた。 また、地銀では、山陰合同銀行(島根県)808億円▽横浜銀行(神奈川県)671億円▽第四北越銀行(新潟県)551億円▽南都銀行(奈良県)450億円▽肥後銀行(熊本県)395億円──の順で含み損が大きかった。 背景には、23年3月期に米国など海外で進んだ急激な金利上昇の影響がある。金利が上昇すると債券価格は下落するため、外債を保有していた銀行は含み損を抱えることになる。多くの金融機関は、これまでの資産運用で米国債について、比較的安定した資産として保有額を増やしてきていたが、収益源を金利上昇が直撃した。 なぜ、国内の銀行はそれほど外債を持っていたのか。要因の一つには、本業の顧客向けサービスで利益が上げられなくなっている現状がある。顧客への貸し出しは、日銀の低金利政策や銀行同士の金利引き下げ競争で利回り低下が続く。そこで、各銀行は収益向上を求めて有価証券運用に注力してきた。地銀の有価証券保有残高は、00年代前半のは50兆円台からじわじわと増加し、14年度には100兆円近くまで膨らんだ(図)』、「外国証券を含む「その他の証券」(株式や国債、社債などの債券以外)の項目では、3メガバンクでは三菱UFJ銀行が8569億円、みずほ銀行が6676億円、三井住友銀行が3961億円の含み損を抱えていた。 また、地銀では、山陰合同銀行(島根県)808億円、横浜銀行(神奈川県)671億円、第四北越銀行(新潟県)551億円、南都銀行(奈良県)450億円、肥後銀行(熊本県)395億円──の順で含み損が大きかった」、「顧客への貸し出しは、日銀の低金利政策や銀行同士の金利引き下げ競争で利回り低下が続く。そこで、各銀行は収益向上を求めて有価証券運用に注力してきた。地銀の有価証券保有残高は、00年代前半のは50兆円台からじわじわと増加し、14年度には100兆円近くまで膨らんだ」、なるほど。
・『マイナス金利で投資加速 有価証券運用の内訳も徐々に変化した。銀行経営に詳しい杉山敏啓・江戸川大学教授は「外債の比率は日銀の黒田東彦・前総裁の下で始まった異次元緩和や、マイナス金利政策開始でさらに増えた」と指摘する。地銀が保有する有価証券残高のうち、外債を含む「その他の証券」の割合は、11年度には00年度以降で最少の11%だったが、徐々に増え、足元の23年3月期では全体の約3分の1近い32%まで膨張していた。 日本国債の利回りが低下する中、少しでも高いリターンを求めて、外債などのリスク証券に活路を求めていった結果だった。しかし、外債投資は、日本国債をはじめとする円建て債券のように、含み損を抱えていても満期まで保有すれば額面で償還される(全額が払い戻される)ような単純な性質の投資ではない。米国債に投資するなら、米ドルを市場から調達する必要があることが話をさらに複雑にする。 保有する円貨を米ドルに両替して米国債に投資するのでは、為替の変動リスクをもろに受けてしまう。そこで、特に地銀では為替の変動リスクを避けるため、同額を米ドル建ての負債という形で保有する「スクエア・ポジション」を取るのが一般的だ。その米ドル建て負債は通常、期間の短い低めの金利で調達し、満期までの期間が長く金利が高めの米国債に投資することで、その利ざやが得られる仕組みだった。 だが、こうした形で投資していた銀行にとって誤算となったのは、22年初からの急激な米短期金利の上昇だった。米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制のために一気に利上げしたことで、短期金利が10年債金利(長期金利)を上回るような状態となった。すでに購入した米国債の運用利回りは一定だが、米ドル建て負債の調達利回りがそれ以上に急上昇したことで、運用するだけ損失が発生する「逆ざや」に陥ったのだ。 各行の23年3月期決算では「これ以上、損失が膨らむのであれば、早めに損切りをした方がまし」と考えた銀行による外債の損切りが相次ぐことになった。しかし、損切りができる銀行はまだましなのかもしれない。経営体力が弱く、損切りによる多額の損失計上もできない銀行は、逆ざやによる損失がさらに体力を奪う悪循環に陥っていく』、「為替の変動リスクを避けるため、同額を米ドル建ての負債という形で保有する「スクエア・ポジション」を取るのが一般的だ。その米ドル建て負債は通常、期間の短い低めの金利で調達し、満期までの期間が長く金利が高めの米国債に投資することで、その利ざやが得られる仕組みだった。 だが、こうした形で投資していた銀行にとって誤算となったのは、22年初からの急激な米短期金利の上昇だった。米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制のために一気に利上げしたことで、短期金利が10年債金利(長期金利)を上回るような状態となった。すでに購入した米国債の運用利回りは一定だが、米ドル建て負債の調達利回りがそれ以上に急上昇したことで、運用するだけ損失が発生する「逆ざや」に陥ったのだ」、「「これ以上、損失が膨らむのであれば、早めに損切りをした方がまし」と考えた銀行による外債の損切りが相次ぐことになった。しかし、損切りができる銀行はまだましなのかもしれない。経営体力が弱く、損切りによる多額の損失計上もできない銀行は、逆ざやによる損失がさらに体力を奪う悪循環に陥っていく』、「経営体力が弱く、損切りによる多額の損失計上もできない銀行」にとって「悪循環」とは悲劇的だ。
・『ぜい弱すぎる運用体制 一方で、日銀総裁が黒田氏から植田和男氏に代わった後も、銀行収益の源泉となる国内の金利はなかなか上昇する気配を見せない。日銀が昨年12月、政策目標として誘導する10年物国債金利(長期金利)の変動幅の上限を従来の「0.25%程度」から「0.5%程度」に引き上げた際には、市場は今後も金利上昇が続くと予想し、銀行株の急騰につながった。 しかし、今年4月に就任した植田氏は大規模な金融緩和について「継続する」と明言し続け、関係者の期待をしぼませた。それでなくとも、大半の銀行が上場する東京証券取引所は、PBR(株価純資産倍率)で1倍割れの企業に対して経営の改善を求めており、PBR1倍割れが大半の銀行にとって風当たりは強まる一方。ある証券アナリストは「銀行収益の鍵を握る金利上昇がなければ、PBR1倍の実現も難しい」とも指摘する。 期待された国内の金利上昇もすぐには見込めない以上、今後の銀行にとって有価証券運用の巧拙が大きなカギを握る。運用人員が数百人に上るメガバンクに対し、小規模な地銀では10人にも満たない担当者で運用するところもある。和キャピタルの伊藤氏は「有価証券運用に携わる人員が少ない地銀は、特に運用力を磨く必要がある」と指摘する。 伊藤氏は一部の地銀について、長期保有を行うことを前提とした投資手法(バイ&ホールド運用)が染みついていることに警鐘を鳴らす。金利が動く局面では、機動的な対応が求められるためだ。すでに運用に関わる人員を減らしてきているような小規模な地銀にとっては、態勢の立て直しも容易ではない。ある投資ファンド幹部は「運用を外部に委ねることも選択肢になる」と指摘する。 銀行が外債運用で体力をすり減らせば、地域に資金を融通する余力もなくなり、コロナ禍から明けた地域経済の回復に水を差しかねない。逆風の中でいかに態勢を立て直すのか、銀行経営はこれから大きな正念場を迎える』、「一部の地銀について、長期保有を行うことを前提とした投資手法(バイ&ホールド運用)が染みついていることに警鐘を鳴らす。金利が動く局面では、機動的な対応が求められるためだ。すでに運用に関わる人員を減らしてきているような小規模な地銀にとっては、態勢の立て直しも容易ではない・・・「運用を外部に委ねることも選択肢になる」と指摘する」、「逆風の中でいかに態勢を立て直すのか、銀行経営はこれから大きな正念場を迎える」、その通りだろう。
次に、7月15日付け日刊ゲンダイ「預かり資産は652兆円…日本カストディ銀行前社長の不正とは」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/326056
・『ドラマ「半沢直樹」さながらの銀行トップの不正が金融界の話題となっている。日本カストディ銀行は、昨年12月に退任した元取締役について、社内調査で不正があったと6月9日に公表した。リリースでは名前は伏せられているが、この元取締役とは前社長の田中嘉一氏であることが明らかになっている。 同銀行は、三井住友トラストHD、みずほFG、りそな銀行などが出資する資産管理信託銀行で、生保や運用会社などの機関投資家が運用する有価証券の決済や保管・データ管理等を担当しており、その預かり資産は652兆円にも及ぶ。生保などを介しているものの、実質的には国民の資産である。事態を重くみた金融庁は銀行法24条に基づいて報告徴求命令を出した。不正の詳細や原因分析、再発防止策、経営管理態勢などについて、8月末を期限に報告するよう求めている。 田中氏は昨年12月末に任期満了で退任したが、その直後の今年1月に同社は不正事案を検知、すぐさま外部弁護士を中心とする調査委員会を設置し、調査を行ってきた。その結果、「外部委託業務に関連して、元取締役による利益相反や任務違背などの不正行為が認められた」と公表とした。 関係者によると、「すでに木目田裕弁護士(西村あさひ法律事務所)を委員長とする調査委員会は約50ページにわたる報告書をまとめている」という。その中身は、まさにドラマ「半沢直樹」を彷彿とさせる内容だという。 「業務を外部委託する際に、田中氏の知り合いのコンサル会社を間に入れることで、中抜きしようとしたとみられています。だが、不正は未遂に終わったようです」(関係者) また、「報告書には透かしが入り、外部に流出した場合、誰から漏れたか分かるようになっており、外部への流出をチェックする委員会も設置されている」(関係者)という念の入れようだ。 田中氏は、「不正は行っていない」と反論しており、調査委員会の聴取には応じず、資料の提出も拒んでいる。だが、日本カストディ銀行は田中氏について、「法律上の対応を適切に講じていく方針であり、刑事上の扱いにつきましても、現在、捜査機関に相談を実施している」として、刑事訴追も視野に入れている。 まさに身から出たサビと言わざるを得ない』、「田中氏は昨年12月末に任期満了で退任したが、その直後の今年1月に同社は不正事案を検知、すぐさま外部弁護士を中心とする調査委員会を設置し、調査を行ってきた。その結果、「外部委託業務に関連して、元取締役による利益相反や任務違背などの不正行為が認められた」と公表とした。 関係者によると、「すでに木目田裕弁護士(西村あさひ法律事務所)を委員長とする調査委員会は約50ページにわたる報告書をまとめている」という。その中身は、まさにドラマ「半沢直樹」を彷彿とさせる内容だという』、「業務を外部委託する際に、田中氏の知り合いのコンサル会社を間に入れることで、中抜きしようとしたとみられています。だが、不正は未遂に終わったようです」(関係者)、「調査委員会を設置し、調査を行ってきた。その結果、「外部委託業務に関連して、元取締役による利益相反や任務違背などの不正行為が認められた」と公表」、同行のコーポレートスローガンは、The Reliable Bank、実に皮肉である。株主は、三井住友トラストHD33.3%、みずほFG27.0%、りそな銀行16.7%、第一生命8.0%、朝日生命5.0%、明治安田生命4.5%、かんぽ生命3.5%、富国生命2.0%となっているので、少なくとも第二位、第三位の株主には気を遣う必要がある筈だ。今回の不正がどのように他の株主の監視の目を逃れたのかは不明だ。いずれにしても三井住友トラストHDは、筆頭株主として責任をもって全貌を明らかにする必要があるだろう。
タグ:「為替の変動リスクを避けるため、同額を米ドル建ての負債という形で保有する「スクエア・ポジション」を取るのが一般的だ。その米ドル建て負債は通常、期間の短い低めの金利で調達し、満期までの期間が長く金利が高めの米国債に投資することで、その利ざやが得られる仕組みだった。 だが、こうした形で投資していた銀行にとって誤算となったのは、22年初からの急激な米短期金利の上昇だった。米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制のために一気に利上げしたことで、短期金利が10年債金利(長期金利)を上回るような状態となった。 金融業界 (その19)(ドル建て債権の“逆ざや”が銀行を襲う 損切りもできない悪循環に(編集部)、預かり資産は652兆円…日本カストディ銀行前社長の不正とは) エコノミストOnline「ドル建て債権の“逆ざや”が銀行を襲う 損切りもできない悪循環に(編集部)」 「外国証券を含む「その他の証券」(株式や国債、社債などの債券以外)の項目では、3メガバンクでは三菱UFJ銀行が8569億円、みずほ銀行が6676億円、三井住友銀行が3961億円の含み損を抱えていた。 また、地銀では、山陰合同銀行(島根県)808億円、横浜銀行(神奈川県)671億円、第四北越銀行(新潟県)551億円、南都銀行(奈良県)450億円、肥後銀行(熊本県)395億円──の順で含み損が大きかった」、 「顧客への貸し出しは、日銀の低金利政策や銀行同士の金利引き下げ競争で利回り低下が続く。そこで、各銀行は収益向上を求めて有価証券運用に注力してきた。地銀の有価証券保有残高は、00年代前半のは50兆円台からじわじわと増加し、14年度には100兆円近くまで膨らんだ」、なるほど。 すでに購入した米国債の運用利回りは一定だが、米ドル建て負債の調達利回りがそれ以上に急上昇したことで、運用するだけ損失が発生する「逆ざや」に陥ったのだ」、「「これ以上、損失が膨らむのであれば、早めに損切りをした方がまし」と考えた銀行による外債の損切りが相次ぐことになった。しかし、損切りができる銀行はまだましなのかもしれない。経営体力が弱く、損切りによる多額の損失計上もできない銀行は、逆ざやによる損失がさらに体力を奪う悪循環に陥っていく』、「経営体力が弱く、損切りによる多額の損失計上もできない銀行」にとって「 「一部の地銀について、長期保有を行うことを前提とした投資手法(バイ&ホールド運用)が染みついていることに警鐘を鳴らす。金利が動く局面では、機動的な対応が求められるためだ。すでに運用に関わる人員を減らしてきているような小規模な地銀にとっては、態勢の立て直しも容易ではない・・・「運用を外部に委ねることも選択肢になる」と指摘する」、「逆風の中でいかに態勢を立て直すのか、銀行経営はこれから大きな正念場を迎える」、その通りだろう。 日刊ゲンダイ「預かり資産は652兆円…日本カストディ銀行前社長の不正とは」 「田中氏は昨年12月末に任期満了で退任したが、その直後の今年1月に同社は不正事案を検知、すぐさま外部弁護士を中心とする調査委員会を設置し、調査を行ってきた。その結果、「外部委託業務に関連して、元取締役による利益相反や任務違背などの不正行為が認められた」と公表とした。 関係者によると、「すでに木目田裕弁護士(西村あさひ法律事務所)を委員長とする調査委員会は約50ページにわたる報告書をまとめている」という。その中身は、まさにドラマ「半沢直樹」を彷彿とさせる内容だという』、「業務を外部委託する際に、田中氏の知り合いのコンサル会社を間に入れることで、中抜きしようとしたとみられています。だが、不正は未遂に終わったようです」(関係者)、 「調査委員会を設置し、調査を行ってきた。その結果、「外部委託業務に関連して、元取締役による利益相反や任務違背などの不正行為が認められた」と公表」、同行のコーポレートスローガンは、The Reliable Bank、実に皮肉である。株主は、三井住友トラストHD33.3%、みずほFG27.0%、りそな銀行16.7%、第一生命8.0%、朝日生命5.0%、明治安田生命4.5%、かんぽ生命3.5%、富国生命2.0%となっているので、少なくとも第二位、第三位の株主には気を遣う必要がある筈だ。 今回の不正がどのように他の株主の監視の目を逃れたのかは不明だ。いずれにしても三井住友トラストHDは、筆頭株主として責任をもって全貌を明らかにする必要があるだろう。
暗号資産(仮想通貨)(その23)(価格固定のはずが-暗号資産ステーブルコインを暴落させた不安の増幅ブロックチェーンゆえの振幅の大きさ、米検察 経営破綻のFTX創業者を贈賄罪で追起訴 中国当局者へ約52億円を不法に送金) [金融]
暗号資産(仮想通貨)については、昨年6月4日に取上げた。今日は、(その23)(価格固定のはずが-暗号資産ステーブルコインを暴落させた不安の増幅ブロックチェーンゆえの振幅の大きさ、米検察 経営破綻のFTX創業者を贈賄罪で追起訴 中国当局者へ約52億円を不法に送金)である。
先ずは、昨年6月17日付け現代ビジネスが掲載した博士(経済学)で帝京大学経済学部教授の宿輪 純一氏による「価格固定のはずが-暗号資産ステーブルコインを暴落させた不安の増幅ブロックチェーンゆえの振幅の大きさ」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/96328?imp=0
・『株価より高い暗号資産の暴落率 一般的な暗号資産(仮想通貨)の価格が“乱高下”するのは、法定通貨ではなく単なる金融商品であることを考えれば、当たり前といえば当たり前である。暗号資産の代表銘柄、ビットコインは、最高値6万7000ドル超(2021年11月)まで行ったが、6月中旬、“3分の1”の2万2000ドルあたりまで暴落した。 ちなみに、IMFの注意にも関わらず、ビットコインを通貨としたエルサルバドルや中央アフリカはこの急落で「通貨危機」という皮肉な状況になっている。 第2位のイーサリアムもピークから5割下落している。ハイテク株が多いナスダックでも約2割の下落となっており、暗号資産の暴落幅はいかにも大きい。 今回の下落の主因は、株式市場と同じく、米国の中央銀行、連邦準備制度理事会(FRB)のハイペースな利上げである。今回FRBは高いインフレ率に基づいて判断している。そのため、FRBは経済成長率以上にハイペースで利上げを行っている。株式市場はFRBの利上げと先行きの利上げ継続ムードと合わせて不安定化した。 この不安定な暗号資産の市場が、もともとある金融システムに悪影響を与えるのではないかと懸念されている。しかしこれは、新しい金融商品が登場するときには通る道であり、仕方ないステップである。 奇しくも、6月3日、暗号資産の一種であり資産の裏付けなどで価格固定を謳った「ステーブルコイン(StableCoin)」を対象とする「改正資金決済法」が制定され、裏付け資産の国内保管義務が発生するなど、投資家保護の規制も巡らされてきている』、「IMFの注意にも関わらず、ビットコインを通貨としたエルサルバドルや中央アフリカはこの急落で「通貨危機」という皮肉な状況になっている」、@「IMFの「注意」を無視した自己責任だ。「暗号資産の一種であり資産の裏付けなどで価格固定を謳った「ステーブルコイン・・・」を対象とする「改正資金決済法」が制定され、裏付け資産の国内保管義務が発生するなど、投資家保護の規制も巡らされてきている」、なるほど。
・『ステーブルコインは価格が固定的なはずだが 変動する暗号資産に対して、ステーブルコインは価格が固定されている暗号資産である。例えば1ドル=1ステーブルコインと固定されている。 暗号資産を中心に取引する投資家は、変動する暗号資産の取引を一旦止めるときに、暗号資産取引の外に出すよりも、暗号資産取引の中で、固定的なステーブルな暗号資産に移すことがある。外の他の金融資産に移すのはいろいろと手間が掛かるためである。 般的な暗号資産の変動下落は当たり前であるが、ところが最近、価格が固定されているステーブルコインが大幅に暴落するという、暗号資産の仕組み全体を揺るす事件が発生している。 ステーブルコイン「テラ」(テラ:Terraはもともとは「兆」の意味)の取引量は、185億ドルある。ステーブルコインの取引量で、テザー、USDコインに続き第3位であった。それほどの取引量を誇っていた。 ステーブルコインには担保でその価値を保証する「担保型」と「無担保型」がある。今回の「テラ」はその無担保型にあたり、供給量をコントロールすることで価格を安定させる「アルゴリズム型」だった。 しかも、テラは、独自の貸借市場メカニズム「アンカープロトコル」を持ち、運営者はそのメカニズムで年20%の利回りを得ることが出来るとして、資金を集めていた』、「ステーブルコイン「テラ」・・・の取引量は、185億ドルある」、「ステーブルコインには担保でその価値を保証する「担保型」と「無担保型」がある。今回の「テラ」はその無担保型にあたり、供給量をコントロールすることで価格を安定させる「アルゴリズム型」だった。 しかも、テラは、独自の貸借市場メカニズム「アンカープロトコル」を持ち、運営者はそのメカニズムで年20%の利回りを得ることが出来るとして、資金を集めていた」、なるほど。
・『「テラ」暴落のメカニズム・疑心暗鬼 この20%の利回りというメカニズムは、現在の金融経済情勢で、通常の仕組みでは到底、維持可能とは考えられない。暗号資産の暴落が始まって、このメカニズムをもつテラからも、引き出しが相次ぎ、取り付け騒ぎのようになり、固定価格が耐えられなくなり、暴落したということである。 ステーブルコインであるにも関わらず、一般の暗号資産の暴落に連られ、安定的な価格を維持できなくなり、9割以上暴落した。その売られ方はさながら通貨危機の状況であった。 さらにマズいのは、相場としての取引というよりは、そのステーブルコイン自体の「仕組み」にまで疑念が及んでしまったことである。投資家は「なにか知らされていないリスクがあるのでは」という疑心暗鬼の状況になってしまった。この状態は、新しい金融商品にとって非常にまずい。特に暗号資産全体の評価にも影響を及ぼすことになった。 ブロックチェーン技術を使用した「デジタル金融資産」の範疇には、暗号資産に加えて「NFT」もある。NFTとはNon-Fungible Token(非代替性トークン)のことである。もっとわかりやすい言い方をすれば「デジタル権利書」のことである。筆者は今後、一般化・発展してくるものと考えている。 ところがその、NFTも今回の仮想通貨やステーブルコインの暴落の時期に合わせ、その平均価格が8000ドルから1000ドルまで大幅下落してしまった。つまりは「デジタル金融資産」全体が残念な状況となってしまっている』、「この20%の利回りというメカニズムは、現在の金融経済情勢で、通常の仕組みでは到底、維持可能とは考えられない。暗号資産の暴落が始まって、このメカニズムをもつテラからも、引き出しが相次ぎ、取り付け騒ぎのようになり、固定価格が耐えられなくなり、暴落したということである。 ステーブルコインであるにも関わらず、一般の暗号資産の暴落に連られ、安定的な価格を維持できなくなり、9割以上暴落した。その売られ方はさながら通貨危機の状況であった。 さらにマズいのは、相場としての取引というよりは、そのステーブルコイン自体の「仕組み」にまで疑念が及んでしまったことである。投資家は「なにか知らされていないリスクがあるのでは」という疑心暗鬼の状況になってしまった」、なるほど。
・『不安増幅-ブロックチェーン型プログラムの問題 昨今のデジタル金融商品は、ブロックチェーン技術をベースとしたものが主流であるが、そこで使われる技術がDAO(Decentralized Autonomous Organization)である。日本語訳すると「自律分散型組織」となる。 そもそもデジタルの世界は、発展したIT技術によって、中央集権的に情報を集め、早く確実に判断を下す仕組みとして普及した。 それに対して、DAOは中央管理者が介在せず、当事者だけで判断を下し実現する自立稼働するプログラムである。いわゆる分散型金融(DeFi:Decentralized Finance)であり、今までのデジタル化された中央集権型のシステムと比べると分散していることもあり、サーバー攻撃も相次ぐという問題も発生している。 最近ではDAOは導入が結構進んでいる。一言でいうと、シンプルでコストが安いシステムということもできるかと考えている。さまざまな取引システムにも取り入れられている。 ところが実はそのことが、最近の為替相場の動きのように、相場の波の振れが大きくなるという現象につながっている様である。管理者という冷静な第三者的な視点が存在せず、取引当事者の個別の判断だけで動くので、不安心理などに歯止めがかからない事態も起きやすいと考えられる。 安定した運用のためには、システム自体の役割、そして基本的な目的の確認が必要となる。すべての参加者が善人であるとは限らず、この分野でもガードレールが必要となる』、「管理者という冷静な第三者的な視点が存在せず、取引当事者の個別の判断だけで動くので、不安心理などに歯止めがかからない事態も起きやすいと考えられる。 安定した運用のためには、システム自体の役割、そして基本的な目的の確認が必要となる。すべての参加者が善人であるとは限らず、この分野でもガードレールが必要となる」、確かに「ガードレール」は安定化のためには必要なようだ。
・『今後の対処法として 筆者は、暗号資産よりも「デジタル権利書」としてのNFTに将来性があると考える。新たな金融市場を形成していくことになろう。 残念なことであるが、暗号資産の業界には、ハッキング(詐欺)の事件が多い。現在、暗号資産やNFTの取引をするのは、暗号資産交換業者である。現在、日本の登録業者は30社ある。 金融機関の決済を始めとしたネットワークは、各金融機関をつなぎ共有されたインフラとなっている。例えば、日本が世界に誇る「全銀システム」は、銀行、信用金庫、信用組合など、現在、937機関を繋いでいる、大きなデジタル化した組織となっている。その最終決済は日本銀行である。今後、仕組みとしてCBDC(Central Bank Digital Currency :中央銀行デジタル通貨)も検討されている。 ハッキング事件の対応として、暗号資産交換業者は“それぞれ”に堅固なシステムを構築した。その全体の状況は、その基本機能である「ブロックチェーン」のような個別の塊がいくつもあるような形状であり、一体化することはない。金融システムのような相互のネットワークを作り上げていくことが大事なことと考える。 新しい金融商品の業界が立ち上がっていくときに、大事なのが「業界の自主規制団体」である。現在、急ピッチで統合が進んでいる。現在では、暗号資産やNFTを決済手段とし、また取引の場となるであろうメタバースの業界は、「日本デジタル空間経済連合」と「メタバース・ジャパン」の2つの団体にまとまりつつある。これは極めて重要なことである。 今後、デジタル金融商品の世界は、犯罪への個々の守りを固め、横のネットワークを繋ぐ段階を迎える。特に社会全体に対するリテラシー(知識)教育を実施することが最も大事と考えている。そうすれば、市場が成熟する前の取引量が薄い市場においても、その暗号資産やNFTを始めとしたメタバースで使用され取引される商品の価格の不安定性への耐久力が付く。 そして、何よりも、詐欺をはじめとした犯罪の発生可能性を低下させるものと信じている。筆者も微力であるが、最大限協力していきたいと思っている』、「今後、デジタル金融商品の世界は、犯罪への個々の守りを固め、横のネットワークを繋ぐ段階を迎える。特に社会全体に対するリテラシー(知識)教育を実施することが最も大事と考えている。そうすれば、市場が成熟する前の取引量が薄い市場においても、その暗号資産やNFTを始めとしたメタバースで使用され取引される商品の価格の不安定性への耐久力が付く。 そして、何よりも、詐欺をはじめとした犯罪の発生可能性を低下させるものと信じている。筆者も微力であるが、最大限協力していきたいと思っている」、決済システムの第一人者の筆者の見解は、現実を踏まえたもので、同感である。
次に、本年3月29日付けNewsweek日本版がロイター記事を転載した「米検察、経営破綻のFTX創業者を贈賄罪で追起訴 中国当局者へ約52億円を不法に送金」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2023/03/ftx52.php#:~:text=%E7%B1%B3%E6%A4%9C%E5%AF%9F%E5%BD%93%E5%B1%80%E3%81%AF28,%E3%81%8C%E6%8C%81%E3%81%9F%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82
・『米検察当局は28日、経営破綻した暗号資産(仮想通貨)交換業者FTXの創業者、サム・バンクマンフリード被告(31)を、中国当局者への贈賄罪で追起訴した。自身のヘッジファンド取引口座の凍結を解除するため、4000万ドル(約52億6,246万円)相当の暗号資産を不法に送金した疑いが持たれている。 バンクマンフリード被告はすでに、FTXの破綻に関連した13件で起訴されている。同被告の広報担当者はコメントを控えた。 同被告は30日、新たな起訴状に関する罪状認否を行う予定。関係筋によると、無罪を主張する方針だ。 起訴状によると、同被告は10億ドル以上の暗号資産を持つヘッジファンド「アラメダ」の口座凍結解除を中国政府当局に依頼するため、アラメダのメイン取引口座からプライベートウォレットに4000万ドルの暗号資産を支払うよう命じたとされる。 検察当局によると、アラメダの口座はある取引先に関する調査の一環で凍結されており、同被告が事前に中国当局者に凍結解除を働きかけたが、失敗に終わっていた。 また、同被告は2021年11月ごろ、賄賂を「完了」させるために数千万ドルの追加暗号資産の送金を許可したという。 ロイターは中国外務省にコメントを求めたが、業務時間外のため回答を得られていない。在ワシントンの中国大使館からも現時点でコメントを得られていない』、「同被告は10億ドル以上の暗号資産を持つヘッジファンド「アラメダ」の口座凍結解除を中国政府当局に依頼するため、アラメダのメイン取引口座からプライベートウォレットに4000万ドルの暗号資産を支払うよう命じたとされる」、全貌が見えないが、かなり危ない橋を渡ろうとしていたようだ。「暗号資産」の取引では、まだこうしたいかがわしい取引も少なくないようだ。
先ずは、昨年6月17日付け現代ビジネスが掲載した博士(経済学)で帝京大学経済学部教授の宿輪 純一氏による「価格固定のはずが-暗号資産ステーブルコインを暴落させた不安の増幅ブロックチェーンゆえの振幅の大きさ」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/96328?imp=0
・『株価より高い暗号資産の暴落率 一般的な暗号資産(仮想通貨)の価格が“乱高下”するのは、法定通貨ではなく単なる金融商品であることを考えれば、当たり前といえば当たり前である。暗号資産の代表銘柄、ビットコインは、最高値6万7000ドル超(2021年11月)まで行ったが、6月中旬、“3分の1”の2万2000ドルあたりまで暴落した。 ちなみに、IMFの注意にも関わらず、ビットコインを通貨としたエルサルバドルや中央アフリカはこの急落で「通貨危機」という皮肉な状況になっている。 第2位のイーサリアムもピークから5割下落している。ハイテク株が多いナスダックでも約2割の下落となっており、暗号資産の暴落幅はいかにも大きい。 今回の下落の主因は、株式市場と同じく、米国の中央銀行、連邦準備制度理事会(FRB)のハイペースな利上げである。今回FRBは高いインフレ率に基づいて判断している。そのため、FRBは経済成長率以上にハイペースで利上げを行っている。株式市場はFRBの利上げと先行きの利上げ継続ムードと合わせて不安定化した。 この不安定な暗号資産の市場が、もともとある金融システムに悪影響を与えるのではないかと懸念されている。しかしこれは、新しい金融商品が登場するときには通る道であり、仕方ないステップである。 奇しくも、6月3日、暗号資産の一種であり資産の裏付けなどで価格固定を謳った「ステーブルコイン(StableCoin)」を対象とする「改正資金決済法」が制定され、裏付け資産の国内保管義務が発生するなど、投資家保護の規制も巡らされてきている』、「IMFの注意にも関わらず、ビットコインを通貨としたエルサルバドルや中央アフリカはこの急落で「通貨危機」という皮肉な状況になっている」、@「IMFの「注意」を無視した自己責任だ。「暗号資産の一種であり資産の裏付けなどで価格固定を謳った「ステーブルコイン・・・」を対象とする「改正資金決済法」が制定され、裏付け資産の国内保管義務が発生するなど、投資家保護の規制も巡らされてきている」、なるほど。
・『ステーブルコインは価格が固定的なはずだが 変動する暗号資産に対して、ステーブルコインは価格が固定されている暗号資産である。例えば1ドル=1ステーブルコインと固定されている。 暗号資産を中心に取引する投資家は、変動する暗号資産の取引を一旦止めるときに、暗号資産取引の外に出すよりも、暗号資産取引の中で、固定的なステーブルな暗号資産に移すことがある。外の他の金融資産に移すのはいろいろと手間が掛かるためである。 般的な暗号資産の変動下落は当たり前であるが、ところが最近、価格が固定されているステーブルコインが大幅に暴落するという、暗号資産の仕組み全体を揺るす事件が発生している。 ステーブルコイン「テラ」(テラ:Terraはもともとは「兆」の意味)の取引量は、185億ドルある。ステーブルコインの取引量で、テザー、USDコインに続き第3位であった。それほどの取引量を誇っていた。 ステーブルコインには担保でその価値を保証する「担保型」と「無担保型」がある。今回の「テラ」はその無担保型にあたり、供給量をコントロールすることで価格を安定させる「アルゴリズム型」だった。 しかも、テラは、独自の貸借市場メカニズム「アンカープロトコル」を持ち、運営者はそのメカニズムで年20%の利回りを得ることが出来るとして、資金を集めていた』、「ステーブルコイン「テラ」・・・の取引量は、185億ドルある」、「ステーブルコインには担保でその価値を保証する「担保型」と「無担保型」がある。今回の「テラ」はその無担保型にあたり、供給量をコントロールすることで価格を安定させる「アルゴリズム型」だった。 しかも、テラは、独自の貸借市場メカニズム「アンカープロトコル」を持ち、運営者はそのメカニズムで年20%の利回りを得ることが出来るとして、資金を集めていた」、なるほど。
・『「テラ」暴落のメカニズム・疑心暗鬼 この20%の利回りというメカニズムは、現在の金融経済情勢で、通常の仕組みでは到底、維持可能とは考えられない。暗号資産の暴落が始まって、このメカニズムをもつテラからも、引き出しが相次ぎ、取り付け騒ぎのようになり、固定価格が耐えられなくなり、暴落したということである。 ステーブルコインであるにも関わらず、一般の暗号資産の暴落に連られ、安定的な価格を維持できなくなり、9割以上暴落した。その売られ方はさながら通貨危機の状況であった。 さらにマズいのは、相場としての取引というよりは、そのステーブルコイン自体の「仕組み」にまで疑念が及んでしまったことである。投資家は「なにか知らされていないリスクがあるのでは」という疑心暗鬼の状況になってしまった。この状態は、新しい金融商品にとって非常にまずい。特に暗号資産全体の評価にも影響を及ぼすことになった。 ブロックチェーン技術を使用した「デジタル金融資産」の範疇には、暗号資産に加えて「NFT」もある。NFTとはNon-Fungible Token(非代替性トークン)のことである。もっとわかりやすい言い方をすれば「デジタル権利書」のことである。筆者は今後、一般化・発展してくるものと考えている。 ところがその、NFTも今回の仮想通貨やステーブルコインの暴落の時期に合わせ、その平均価格が8000ドルから1000ドルまで大幅下落してしまった。つまりは「デジタル金融資産」全体が残念な状況となってしまっている』、「この20%の利回りというメカニズムは、現在の金融経済情勢で、通常の仕組みでは到底、維持可能とは考えられない。暗号資産の暴落が始まって、このメカニズムをもつテラからも、引き出しが相次ぎ、取り付け騒ぎのようになり、固定価格が耐えられなくなり、暴落したということである。 ステーブルコインであるにも関わらず、一般の暗号資産の暴落に連られ、安定的な価格を維持できなくなり、9割以上暴落した。その売られ方はさながら通貨危機の状況であった。 さらにマズいのは、相場としての取引というよりは、そのステーブルコイン自体の「仕組み」にまで疑念が及んでしまったことである。投資家は「なにか知らされていないリスクがあるのでは」という疑心暗鬼の状況になってしまった」、なるほど。
・『不安増幅-ブロックチェーン型プログラムの問題 昨今のデジタル金融商品は、ブロックチェーン技術をベースとしたものが主流であるが、そこで使われる技術がDAO(Decentralized Autonomous Organization)である。日本語訳すると「自律分散型組織」となる。 そもそもデジタルの世界は、発展したIT技術によって、中央集権的に情報を集め、早く確実に判断を下す仕組みとして普及した。 それに対して、DAOは中央管理者が介在せず、当事者だけで判断を下し実現する自立稼働するプログラムである。いわゆる分散型金融(DeFi:Decentralized Finance)であり、今までのデジタル化された中央集権型のシステムと比べると分散していることもあり、サーバー攻撃も相次ぐという問題も発生している。 最近ではDAOは導入が結構進んでいる。一言でいうと、シンプルでコストが安いシステムということもできるかと考えている。さまざまな取引システムにも取り入れられている。 ところが実はそのことが、最近の為替相場の動きのように、相場の波の振れが大きくなるという現象につながっている様である。管理者という冷静な第三者的な視点が存在せず、取引当事者の個別の判断だけで動くので、不安心理などに歯止めがかからない事態も起きやすいと考えられる。 安定した運用のためには、システム自体の役割、そして基本的な目的の確認が必要となる。すべての参加者が善人であるとは限らず、この分野でもガードレールが必要となる』、「管理者という冷静な第三者的な視点が存在せず、取引当事者の個別の判断だけで動くので、不安心理などに歯止めがかからない事態も起きやすいと考えられる。 安定した運用のためには、システム自体の役割、そして基本的な目的の確認が必要となる。すべての参加者が善人であるとは限らず、この分野でもガードレールが必要となる」、確かに「ガードレール」は安定化のためには必要なようだ。
・『今後の対処法として 筆者は、暗号資産よりも「デジタル権利書」としてのNFTに将来性があると考える。新たな金融市場を形成していくことになろう。 残念なことであるが、暗号資産の業界には、ハッキング(詐欺)の事件が多い。現在、暗号資産やNFTの取引をするのは、暗号資産交換業者である。現在、日本の登録業者は30社ある。 金融機関の決済を始めとしたネットワークは、各金融機関をつなぎ共有されたインフラとなっている。例えば、日本が世界に誇る「全銀システム」は、銀行、信用金庫、信用組合など、現在、937機関を繋いでいる、大きなデジタル化した組織となっている。その最終決済は日本銀行である。今後、仕組みとしてCBDC(Central Bank Digital Currency :中央銀行デジタル通貨)も検討されている。 ハッキング事件の対応として、暗号資産交換業者は“それぞれ”に堅固なシステムを構築した。その全体の状況は、その基本機能である「ブロックチェーン」のような個別の塊がいくつもあるような形状であり、一体化することはない。金融システムのような相互のネットワークを作り上げていくことが大事なことと考える。 新しい金融商品の業界が立ち上がっていくときに、大事なのが「業界の自主規制団体」である。現在、急ピッチで統合が進んでいる。現在では、暗号資産やNFTを決済手段とし、また取引の場となるであろうメタバースの業界は、「日本デジタル空間経済連合」と「メタバース・ジャパン」の2つの団体にまとまりつつある。これは極めて重要なことである。 今後、デジタル金融商品の世界は、犯罪への個々の守りを固め、横のネットワークを繋ぐ段階を迎える。特に社会全体に対するリテラシー(知識)教育を実施することが最も大事と考えている。そうすれば、市場が成熟する前の取引量が薄い市場においても、その暗号資産やNFTを始めとしたメタバースで使用され取引される商品の価格の不安定性への耐久力が付く。 そして、何よりも、詐欺をはじめとした犯罪の発生可能性を低下させるものと信じている。筆者も微力であるが、最大限協力していきたいと思っている』、「今後、デジタル金融商品の世界は、犯罪への個々の守りを固め、横のネットワークを繋ぐ段階を迎える。特に社会全体に対するリテラシー(知識)教育を実施することが最も大事と考えている。そうすれば、市場が成熟する前の取引量が薄い市場においても、その暗号資産やNFTを始めとしたメタバースで使用され取引される商品の価格の不安定性への耐久力が付く。 そして、何よりも、詐欺をはじめとした犯罪の発生可能性を低下させるものと信じている。筆者も微力であるが、最大限協力していきたいと思っている」、決済システムの第一人者の筆者の見解は、現実を踏まえたもので、同感である。
次に、本年3月29日付けNewsweek日本版がロイター記事を転載した「米検察、経営破綻のFTX創業者を贈賄罪で追起訴 中国当局者へ約52億円を不法に送金」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2023/03/ftx52.php#:~:text=%E7%B1%B3%E6%A4%9C%E5%AF%9F%E5%BD%93%E5%B1%80%E3%81%AF28,%E3%81%8C%E6%8C%81%E3%81%9F%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82
・『米検察当局は28日、経営破綻した暗号資産(仮想通貨)交換業者FTXの創業者、サム・バンクマンフリード被告(31)を、中国当局者への贈賄罪で追起訴した。自身のヘッジファンド取引口座の凍結を解除するため、4000万ドル(約52億6,246万円)相当の暗号資産を不法に送金した疑いが持たれている。 バンクマンフリード被告はすでに、FTXの破綻に関連した13件で起訴されている。同被告の広報担当者はコメントを控えた。 同被告は30日、新たな起訴状に関する罪状認否を行う予定。関係筋によると、無罪を主張する方針だ。 起訴状によると、同被告は10億ドル以上の暗号資産を持つヘッジファンド「アラメダ」の口座凍結解除を中国政府当局に依頼するため、アラメダのメイン取引口座からプライベートウォレットに4000万ドルの暗号資産を支払うよう命じたとされる。 検察当局によると、アラメダの口座はある取引先に関する調査の一環で凍結されており、同被告が事前に中国当局者に凍結解除を働きかけたが、失敗に終わっていた。 また、同被告は2021年11月ごろ、賄賂を「完了」させるために数千万ドルの追加暗号資産の送金を許可したという。 ロイターは中国外務省にコメントを求めたが、業務時間外のため回答を得られていない。在ワシントンの中国大使館からも現時点でコメントを得られていない』、「同被告は10億ドル以上の暗号資産を持つヘッジファンド「アラメダ」の口座凍結解除を中国政府当局に依頼するため、アラメダのメイン取引口座からプライベートウォレットに4000万ドルの暗号資産を支払うよう命じたとされる」、全貌が見えないが、かなり危ない橋を渡ろうとしていたようだ。「暗号資産」の取引では、まだこうしたいかがわしい取引も少なくないようだ。
タグ:暗号資産(仮想通貨) (その23)(価格固定のはずが-暗号資産ステーブルコインを暴落させた不安の増幅ブロックチェーンゆえの振幅の大きさ、米検察 経営破綻のFTX創業者を贈賄罪で追起訴 中国当局者へ約52億円を不法に送金) 現代ビジネス 宿輪 純一氏による「価格固定のはずが-暗号資産ステーブルコインを暴落させた不安の増幅ブロックチェーンゆえの振幅の大きさ」 「IMFの注意にも関わらず、ビットコインを通貨としたエルサルバドルや中央アフリカはこの急落で「通貨危機」という皮肉な状況になっている」、@「IMFの「注意」を無視した自己責任だ。「暗号資産の一種であり資産の裏付けなどで価格固定を謳った「ステーブルコイン・・・」を対象とする「改正資金決済法」が制定され、裏付け資産の国内保管義務が発生するなど、投資家保護の規制も巡らされてきている」、なるほど。 「ステーブルコイン「テラ」・・・の取引量は、185億ドルある」、「ステーブルコインには担保でその価値を保証する「担保型」と「無担保型」がある。今回の「テラ」はその無担保型にあたり、供給量をコントロールすることで価格を安定させる「アルゴリズム型」だった。 しかも、テラは、独自の貸借市場メカニズム「アンカープロトコル」を持ち、運営者はそのメカニズムで年20%の利回りを得ることが出来るとして、資金を集めていた」、なるほど。 「この20%の利回りというメカニズムは、現在の金融経済情勢で、通常の仕組みでは到底、維持可能とは考えられない。暗号資産の暴落が始まって、このメカニズムをもつテラからも、引き出しが相次ぎ、取り付け騒ぎのようになり、固定価格が耐えられなくなり、暴落したということである。 ステーブルコインであるにも関わらず、一般の暗号資産の暴落に連られ、安定的な価格を維持できなくなり、9割以上暴落した。その売られ方はさながら通貨危機の状況であった。 さらにマズいのは、相場としての取引というよりは、そのステーブルコイン自体の「仕組み」にまで疑念が及んでしまったことである。投資家は「なにか知らされていないリスクがあるのでは」という疑心暗鬼の状況になってしまった」、なるほど。 「管理者という冷静な第三者的な視点が存在せず、取引当事者の個別の判断だけで動くので、不安心理などに歯止めがかからない事態も起きやすいと考えられる。 安定した運用のためには、システム自体の役割、そして基本的な目的の確認が必要となる。すべての参加者が善人であるとは限らず、この分野でもガードレールが必要となる」、確かに「ガードレール」は安定化のためには必要なようだ。 「今後、デジタル金融商品の世界は、犯罪への個々の守りを固め、横のネットワークを繋ぐ段階を迎える。特に社会全体に対するリテラシー(知識)教育を実施することが最も大事と考えている。そうすれば、市場が成熟する前の取引量が薄い市場においても、その暗号資産やNFTを始めとしたメタバースで使用され取引される商品の価格の不安定性への耐久力が付く。 そして、何よりも、詐欺をはじめとした犯罪の発生可能性を低下させるものと信じている。筆者も微力であるが、最大限協力していきたいと思っている」、決済システムの第一人者の筆者の見解は、現実を踏まえたもので、同感である。 Newsweek日本版 ロイター 「米検察、経営破綻のFTX創業者を贈賄罪で追起訴 中国当局者へ約52億円を不法に送金」 「同被告は10億ドル以上の暗号資産を持つヘッジファンド「アラメダ」の口座凍結解除を中国政府当局に依頼するため、アラメダのメイン取引口座からプライベートウォレットに4000万ドルの暗号資産を支払うよう命じたとされる」、全貌が見えないが、かなり危ない橋を渡ろうとしていたようだ。「暗号資産」の取引では、まだこうしたいかがわしい取引も少なくないようだ。
資本市場(その10)(東証プライムからスタンダードへ「降格ラッシュ」 「骨抜き」批判から1年、始まったプライムの選別、悲劇の舞台は「仕組み債」から「永久劣後債」へ 富裕層らが2.4兆円の大損!海外債券投資の罠、仕組債問題で批判殺到…金融庁監督局・伊藤豊局長に浮上した「別のスキャンダル」、業績不振・不正で「基準不適合」入りの68社リスト 東証スタンダード・グロース市場の基準に抵触、米国債「格下げ」は想定内でも 警戒すべき投資家の“世界的な思考変化”とは?) [金融]
資本市場については、本年2月6日に取上げた。今日は、(その10)(東証プライムからスタンダードへ「降格ラッシュ」 「骨抜き」批判から1年、始まったプライムの選別、悲劇の舞台は「仕組み債」から「永久劣後債」へ 富裕層らが2.4兆円の大損!海外債券投資の罠、仕組債問題で批判殺到…金融庁監督局・伊藤豊局長に浮上した「別のスキャンダル」、業績不振・不正で「基準不適合」入りの68社リスト 東証スタンダード・グロース市場の基準に抵触、米国債「格下げ」は想定内でも 警戒すべき投資家の“世界的な思考変化”とは?)である。
先ずは、本年5月8日付け東洋経済オンライン「東証プライムからスタンダードへ「降格ラッシュ」 「骨抜き」批判から1年、始まったプライムの選別」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/670115
・『「スタンダード市場上場の選択申請の決定に関するお知らせ」。2023年3月、スマホゲーム開発企業のマイネットがリリースを公表した。同社は東証プライム市場に上場しているが、近くスタンダード市場に移行すると表明したのだ。 プライム市場を捨て、自らスタンダード市場に「降格」する――。マイネットを皮切りに、こうした宣言をする企業が相次いでいる。4月末時点で、スタンダードへの移行を宣言したプライム上場企業は9社にのぼる。突如訪れた「降格ラッシュ」の背景に何があるのか』、興味深そうだ。
・『プライム市場「背伸び組」 発端は、2022年4月の市場区分見直しにさかのぼる。プライム市場は3つの区分のうち最も上場基準が厳しく、高い流動性やガバナンスが求められる市場として発足した。 ところが、旧東証1部から横滑りでプライム市場入りした企業のうち、296社は時価総額や流動性などの上場維持基準を下回っていた。東京証券取引所は経過措置を設け、改善計画の策定を条件にプライム市場への移行を許可した。 「背伸び」をしてプライム市場に移った企業群の位置づけは曖昧だった。経過措置の期間は「当分の間」とされており、いつまでプライム市場に残れるのかはわからなかった。改善計画を達成できなかった場合にスタンダード市場へ自動的に移れるのか、改めてスタンダード市場の上場審査が必要なのかも不明確だった。「後者の場合、一斉に移行されると審査の人手が足りなくなる」。証券業界からはこんな悲鳴も上がった。 そこで東証は2023年1月の上場規則改正時、背伸び組に「2択」を迫った。3月期決算企業の場合、2026年3月末時点で上場維持基準に適合しなければ、上場廃止予備軍である「監理銘柄」に指定され、最短で同年9月にも上場廃止となる。スタンダード市場に移る場合には、一度上場廃止してから再度審査を受ける必要がある。 その代わりの選択肢として、早々にプライム市場の上場維持を断念した企業には「特例」を設けた。2023年4月から9月末の間であれば、申請書の提出だけでスタンダード市場に移れるのだ。「上場廃止にならないための、いわば『温情』だ」。東証関係者はこう話す。) 冒頭のマイネットをはじめ、スタンダードへの移行を発表した企業はこの「特例」を選んだ企業たちだ。では、どんな企業が特例を利用したのか。以下は、4月末時点でスタンダード市場への移行を表明した企業の一覧だ。いずれの企業もプライム市場の要件である「流通株式時価総額100億円」を満たしていない。 各社は旧東証1部からプライム市場に移行するにあたり、東証の指示によって流通株式時価総額を引き上げる計画を策定していた。ところが、業績や株価の低迷によって達成の見込みが立たず、およそ1年で撤回したことになる。 土壌汚染調査や産業廃棄物処理を手がけるダイセキ環境ソリューションは2021年末、3年間で純利益を3倍にする中期経営計画を策定した。ところが、首都圏での大型案件受注が想定を下回り、翌2022年に業績予想を2度下方修正。このまま流通株式時価総額が伸び悩めば上場廃止となるリスクを考慮し、スタンダード市場への移行を決めたという。 東洋経済が試算したところ、プライム市場上場企業の中で流通株式時価総額が100億円を下回る企業は203社存在する(ランキングはこちら)。背伸び組のほか、プライム市場への移行当初は基準を満たしていたが、その後株価が下落し100億円を割ってしまった企業も少なくない』、「東洋経済が試算したところ、プライム市場上場企業の中で流通株式時価総額が100億円を下回る企業は203社存在する・・・背伸び組のほか、プライム市場への移行当初は基準を満たしていたが、その後株価が下落し100億円を割ってしまった企業も少なくない」、203社とはかなり多い。
・『「6月」が分水嶺? 降格ラッシュは今後も続くのか。みずほ信託銀行の八木啓至・企業戦略開発部次長は、「6月までにスタンダード市場への移行表明が増えるのではないか」と推測する。 スタンダード市場に無条件で移行できるのは、前述のとおり2023年9月末が期限だ。一方、3月期決算企業の場合、流通株式時価総額などの上場維持基準は3月末時点の数値を基に審査され、未達の場合は6月末までに改善計画を提出ないし更新する必要がある。 スタンダード市場への移行表明が7月以降にずれこむと、それまでにプライム市場への上場を維持するための計画を公表する必要があり、矛盾が生じる。そのため、スタンダード市場を選ぶ企業は改善計画の期限までに移行方針を発表し、定時株主総会で株主に説明するという見立てだ。 ほとんどの企業が旧東証1部から横滑りしたことから「骨抜きの改革」とやゆされたプライム市場。2022年4月の発足から1年を経て、ようやくプライムの名にふさわしい企業の選別が始まろうとしている』、「2022年4月の発足から1年を経て、ようやくプライムの名にふさわしい企業の選別が始まろうとしている」、踏みとどまれる企業はどの程度あるのだろうか。
次に、6月19日付け東洋経済オンライン「悲劇の舞台は「仕組み債」から「永久劣後債」へ 富裕層らが2.4兆円の大損!海外債券投資の罠」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/679779
・『優雅に達観した生活を送っているように見える富裕層。ただ陰では投資や税金対策に頭を抱え、時にもがき苦しむ様子が垣間見える。6月19日発売『週刊東洋経済』の特集「富裕層のリアル国内150万世帯、受難の時代」では、富裕層の偽らざる実像に迫った。 「こちらがドル建て債券に関する資料です。足元で金利が軒並み上昇している状況なので、円債に比べて高い利回りを確保できます」 今年初め、ある国内証券会社の営業マンは富裕層の顧客にそう言って1枚のリストを見せていた。提示したリストに載っているのは、海外の銀行などが発行するドル建ての「永久劣後債」だ。 劣後債は発行した企業などが倒産した場合に、弁済する優先順位が普通社債などに比べて後回しになる(劣後する)債券のことだ。 中でも永久劣後債は、5年後や10年後といった満期の定めがない。そのため、投資家にとってはかなりリスクが高く、その分利回りも相対的に大きいハイリスク・ハイリターンの商品だ』、発行体は「クレディ・スイス」と信用力はあっても、「劣後」条件に応じて「高」「利回り」という「ハイリターン」になる。
・『投資リスクが高いAT1債 先ほどのリストには6?7%台の商品がずらりと並んでいるが、その中で10%超というひときわ高い利回りを示していた債券がある。スイス金融大手クレディ・スイス・グループの永久劣後債だ。別名「AT1(その他ティアワン)債」とも呼ばれる。 クレディ・スイスといえば、富裕層でなくとも投資家であれば誰でも耳にしたことがある、世界的な金融グループだ。その債券で10%もの利回りを得られるとあって、多くの富裕層が飛びつくようにして購入していった。 それが一転して、紙くずになってしまったのは今年3月のこと。クレディ・スイスは経営不安が一気に高まり、同国金融最大手のUBSグループと株式交換による救済的な買収で合意。さらに、中央銀行のスイス国立銀行から流動性支援(臨時の資金供給)を受けた。 スイス連邦金融市場監督機構はそうした支援策が、クレディ・スイスのAT1債が規定する「元本削減条項」に抵触するとして、無価値化すると判断したわけだ。 紙くずになったAT1債の総額は約160億スイスフラン。日本円に換算すると約2.4兆円にも上る。金融庁の調べでは、日本では富裕層を中心に約1400億円分が販売されていた。そのうち約950億円分を販売していた、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対しては、金融庁が顧客対応などについて報告するよう命令を出すなど、騒動は広がるばかりだ』、「約950億円分を販売していた、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対しては、金融庁が顧客対応などについて報告するよう命令」、リスクをきちんと説明した上で販売していたことを祈りたい。
・『仕組み債でも損失の悲劇 急転直下の事態を受け、4月に入ると日本でも企業や富裕層から悲鳴が次々と上がった。 ゲームソフトなどの開発を手がけるコーエーテクモホールディングスは、AT1債への投資によって41億円の損失を計上。「箱根駅伝」で名をはせた青山学院大学陸上競技部の原晋監督は、「平均年収のウン倍」を失ったとインターネット番組で嘆き、大きな話題になった。 足元では金融分野に強い弁護士事務所の間で、被害を受けた富裕層に広く声をかけて集団訴訟に持ち込もうとする動きが広がり始めている。 訴訟に向けて弁護士らが着目しているのが、販売していた証券会社が元本削減条項などのリスクについて、どれだけ説明責任を果たしていたかという点だ。 実際のところはどうなのか。ある証券会社が作成した契約締結前交付書面を見てみよう。 同書面を見ると、元本削減条項という欄に「CET1(普通株等ティアワン)比率が7%を下回ったとき」「公的機関による支援を受け入れたとき」という2つの条件が書いてある。今回はこのうちの後者(支援の受け入れ)がトリガーを引いたことになり、書面上は問題がないように見える。 一方で、大手証券会社の幹部は「販売している側は、CET1比率の部分しか気に掛けていなかったというのが実態だろう。公的機関の支援うんぬんの部分まで、きっちり説明した営業マンは少ないのではないか」と声を潜める。 つまり、販売する側すら目を向けていなかった条項を、顧客にしっかりと説明し理解させていたかと問われると、苦しい立場に置かれるということだ』、「販売する側すら目を向けていなかった条項を、顧客にしっかりと説明し理解させていたかと問われると、苦しい立場に置かれる」、苦しいところだ。
・『仕組み債でも大きな損失 金融庁の幹部は、AT1債で被害を受けた顧客の中には「仕組み債においても、大きな損失を被った人が一定数いる」と明かす。 仕組み債とは、債券と金融派生商品(デリバティブ)取引を組み合わせた金融商品のこと。デリバティブ取引は個別株価や株価指数、為替相場などに連動しており価格変動が大きいことから、債券ではあるもののかなりハイリスクな商品だ。商品設計が複雑なため、投資初心者はリスクの認識が難しい。 それを地方銀行などが「高利回り商品」などとして販売。富裕層や高齢者に過剰なリスクを取らせていたことが問題となり、規制が強化されてきた経緯がある。 その規制の抜け穴として、証券業界で脚光を浴びたのが、まさにAT1債だった。そこで大きな悲劇が発生するのは、もはや時間の問題だったのかもしれない』、「規制の抜け穴」までなくなってしまった。今後はリスクを粛々と説明して販売していかざるを得ないだろう。
第三に、6月19日付け現代ビジネス「仕組債問題で批判殺到…金融庁監督局・伊藤豊局長に浮上した「別のスキャンダル」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/111927
・『証券取引等監視委員会が、リスクの高いデリバティブ(金融派生商品)を使った複雑な仕組債を "素人” に売りつけたとして、千葉銀行と傘下のちばぎん証券などを行政処分するよう金融庁に勧告した』、興味深そうだ。
・『金融機関になめられている金融庁監督局 仕組債の危険性はかねて指摘されており、対応が不十分だったとして金融庁監督局の伊藤豊局長への批判も高まっている。金融庁の締めつけで販売自粛する金融機関がある一方、無視して継続するメガバンク系証券もあり「局長はなめられている」(金融庁関係者)という声も上がる。 伊藤氏は出世コースの財務省大臣官房秘書課長を経たエリートで、自他共に認める金融庁長官候補となった。 仕組債問題は汚点だが、伊藤氏には別のスキャンダルもある。 医療ベンチャー「テラ」を巡る金融商品取引法違反事件の法廷で、竹森郁被告が「高額接待をしたうえ1本5万円の高級ワインを贈った」と爆弾発言したのだ。竹森被告は有罪判決を受けたが、当時、「永田町のフィクサー」として知られる矢島義也氏の側近として政官要人の接待係を務め、資金も負担していた。 それだけに証言には真実味がある。加えて「国家公務員倫理規程違反の告発も考えています」(竹森被告)と、まだ終わった話ではない。仕組債問題と接待疑惑―。金融庁のエリート官僚に荒波が押し寄せている』、「金融庁長官候補」に2つも問題が出てきたとは大変だ。
第四に、7月18日付け東洋経済オンライン「業績不振・不正で「基準不適合」入りの68社リスト 東証スタンダード・グロース市場の基準に抵触」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/686508
・『東京証券取引所のスタンダード・グロース市場に上場する企業のうち少なくとも68社が今年1月から6月末までに新たに上場維持基準に抵触し、計画書を提出したことが東洋経済の集計でわかった。 2022年4月に新市場区分に移行して約1年が経過。移行当初は基準を満たせたものの、業績悪化や不正会計の発覚などで株価が下落し基準を満たせなくなる例が続出している。プライム市場では57社が基準未達になった(東証プライムから新規50社超の「脱落危機」リスト)。 スタンダード市場への移行、という救済措置が用意されているプライム市場とは異なり、スタンダードやグロース市場の上場企業には、逃げ道がない。 例えば3月末決算企業の場合、2026年3月までに基準を満たせない場合は上場廃止基準に該当する可能性があるとして監理銘柄に指定される。その後も基準を満たせない場合は最終的に上場廃止となる。 そもそも、スタンダード市場の上場維持基準は流通株式時価総額が10億円とプライム市場が要求する100億円より格段に低い。流通株式比率も同様で、プライム市場が35%以上を求めるのに対し、スタンダードでは25%以上でいい。グロース市場の基準はさらに低く、流通株式時価総額は5億円以上を求めている』、「スタンダード市場への移行、という救済措置が用意されているプライム市場とは異なり、スタンダードやグロース市場の上場企業には、逃げ道がない」、もともとは「逃げ道がない」のが普通だ。真剣勝負で臨んでもらいたいものだ。
・『安定株主への対応に苦慮 各社が開示した計画書には、担当者の苦悩が滲む。 「安定株主の皆様に対し、これまでの保有に感謝申し上げるとともに、今後、当社株式の市場への放出にご協力いただけるよう要請してまいります」 消防・防災関連など各種ゴム製品の専業メーカー、櫻護謨は6月29日に東京証券取引所スタンダード市場の基準に適合していないことを適時開示した。流通株式時価総額と流通株式比率の2つで基準未達となった。大株主に売却を依頼する企業は多いが、感謝のコメントを添えた開示はめずらしい。) 「役員及び役員の2親等以内の親族」に対して保有株の売却を促すとしたのはヒューマンホールディングス(スタンダード市場上場)だ。開示によれば流通株式比率が20.85%となり、新たに基準に抵触した。 同社の大株主欄には佐藤耕一会長をはじめ、社長の佐藤朋也氏など佐藤姓の株主が並ぶ。3月には新たに佐藤姓の個人が「安定株主として保有」目的で9.1%の大量保有を報告している。はたして2025年3月末までに売却は進むのだろうか。 ほかにも「特定の元従業員の不正行為」に言及し「かかる事案の及ぼす影響も考慮すべきである」とした会社や、「普通銀行に売却を打診」すると記載した企業など、各社各様の工夫で上場維持基準の適合に向けた計画を公表している』、「普通銀行に売却を打診」がどのように「上場維持基準の適合に向けた計画」に相当するのかは不明だが、各社とも知恵を絞っているようだ。
・『基準未達企業がすがる意外な逃げ道 こうした基準未達企業は今後も増え続ける可能性がある。ただ、東証が市場区分の移行に際して用意した経過措置の適用を受けられるのは2025年2月まで。それ以降は上場維持基準に抵触した場合、監理銘柄となり、それでも基準を満たせない場合は上場廃止となる。 プライム市場の上場企業であれば、経過措置終了後も再度上場審査を受けることで、スタンダード市場へ鞍替えすることができる。ではスタンダードやグロースの上場企業は座して上場廃止を待つほかないのか。 市場関係者の間で上場廃止を回避する秘策として噂されているのが、地方市場への上場だ。札幌、名古屋、福岡などの証券取引所が想定されている。 上記の3市場では、東証などほかの証券取引所で上場している企業が新規に上場する場合、証券会社による上場審査を実質的に免除する仕組みがある。元々は東証や旧大阪証券取引所などとの重複上場を促すための制度だが、上場維持基準もスタンダードやグロースよりさらに低く、東証からの移行がしやすくなっている。 ある地方市場関係者は「東証がダメならうちで、という営業はしていないが、市場なので品物は多いほうがいい。上場してくれる企業が増えること自体は歓迎」と話す。 ただ、現時点で東証の市場再編を理由に地方市場に上場した企業はまだない。逃げ道を確保するよりもまずは業績の改善や流通株式比率の向上など、目の前の課題解決を図るほうが先決だ。(▽基準未達なら「上場廃止」の可能性もー新たに上場維持基準不適合となった東証スタンダード・グロース市場上場企業ーの表はリンク先参照)』、「現時点で東証の市場再編を理由に地方市場に上場した企業はまだない。逃げ道を確保するよりもまずは業績の改善や流通株式比率の向上など、目の前の課題解決を図るほうが先決だ」、その通りだ。
第五に、8月15日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「米国債「格下げ」は想定内でも、警戒すべき投資家の“世界的な思考変化”とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/327512
・『信用格付けサービス3位のフィッチによる米国債格下げは、想定の範囲だった。今回の格下げは、短期的にみると、日本株が下落するきっかけになったことは否めない。ただ、中長期的にみると、米国債の格下げが日本株の下落につながるかは不透明だ。むしろ、フィッチの判断は、投資家が主要国の物価や財政問題などを背景とする金利上昇のリスクを再確認・再評価するきっかけになった』、興味深そうだ。
・『「米国債格下げ」のタイミングで長期金利が上昇の波紋 8月1日、大手信用格付け会社のフィッチ・レーティングスは、米国債の格付けを最上位のAAA(トリプルエー)からAA+(ダブルエープラス)に引き下げた。見通しは「安定的」だ。 既に、同じく有力格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、2011年に米国債をAA+に格下げしている。大手格付け会社のうち、AAA(Aaa)格はMoody’s(ムーディーズ)を残すのみだ。 フィッチは格下げ要因として、主に三つを指摘した。(1)今後3年間での米財政の悪化懸念、(2)高水準かつ増加する公的債務、(3)債務上限を巡る政治対立の激化など債務管理体制の不安――だ。コロナ禍をきっかけに米国で財政支出圧力は強まった。フィッチの指摘は周知の事実ではある。 注目すべきは、格下げとほぼ同じタイミングで、金利とリスク資産の関係に変化の兆しが表れたことだ。米国をはじめ各国で長期金利は上昇し、世界的に株価は下落した。その勢いが強まれば、世界経済は減速に向かうだろう。となると、新興国から資金を引き揚げる投資家も増えるはずだ。フィッチによる米国債の格下げは、予想外の形で世界経済の不安定さを増すことになるかもしれない』、「米国をはじめ各国で長期金利は上昇し、世界的に株価は下落した。その勢いが強まれば、世界経済は減速に向かうだろう。となると、新興国から資金を引き揚げる投資家も増えるはずだ。フィッチによる米国債の格下げは、予想外の形で世界経済の不安定さを増すことになるかもしれない」、既に「S&P」が「格下げ」をしているとはいえ、かつて最上格の「米国債」の「格下げ」はやはり影響が大きい。
・『フィッチが格下げに踏み切った経緯と背景 振り返れば5月、フィッチは米国の信用格付けの見通しを「ネガティブ」(信用力は下向き)に修正していた。背景として、政府債務上限を巡る民主党と共和党の対立激化は大きかった。長期的な財政運営の不透明感は増し、米財務省は一部の公的年金基金の新規の投資をストップするなど臨時措置を取ったが、それは長く続けられる措置ではない。 期日までに、与野党が債務上限の引き上げなどに合意できないリスクもあった。長期的な財政運営の安定性、予見性、財政再建に向けた政治的リーダーシップへの不安などを背景に、フィッチは米国債の信用格付けを最上位のAAAから引き下げる可能性を示唆していた。 6月初旬、米上院は債務上限の効力を2025年1月まで停止する法案を可決した。前回のピンチ(11年)に比べれば幾分か時間はあったが、今回も米連邦政府は資金の枯渇を土壇場で回避した。 こうした背景もあり、フィッチが米国債の格付けを引き下げたことは、5月の見通し修正に沿ったものだった。大手の信用格付け業者が米国債を格下げするのは、今回が初めてではない。11年の債務上限問題では与野党が合意した後に、S&Pが米国の格付けをAA+へ1段階引き下げた。 S&Pは世界の信用格付けサービスの最大手である。米証券取引委員会(SEC)によると21年、世界全体の信用格付け(国債、非国債、証券化商品などが対象)のうちS&Pの割合が50.4%、ムーディーズが31.6%、フィッチが12.4%だった。3社の中でフィッチの規模は小さく、格下げのインパクトも限られる。残るは、ムーディーズが米国の格付けをどうするかだ。8月10日時点で、ムーディーズは米国債をAaa格(S&PなどのAAAと同じ)で維持している。 5月の見通し修正、その後の米債務上限問題の推移を踏まえると、フィッチによる格下げは想定の範囲だった。今回の格下げは、短期的にみると、日本株が下落するきっかけになったことは否めない。ただ、中長期的にみると、米国債の格下げが日本株の下落につながるかは不透明だ』、「米証券取引委員会(SEC)によると21年、世界全体の信用格付け(国債、非国債、証券化商品などが対象)のうちS&Pの割合が50.4%、ムーディーズが31.6%、フィッチが12.4%だった」、S&Pのシェアが想像以上に大きいことに驚かされた。
・『徐々に進む金利上昇リスクの再確認 むしろ、フィッチが米国債の格下げを発表したことは、投資家が主要国の物価や財政問題などを背景とする金利上昇のリスクを再確認・再評価するきっかけになった。その点を冷静に考えることが重要だ。 11年にS&Pが米国債を格下げした時と今回を比べると、世界経済の環境は異なる。リーマン・ショック後、日米欧の中央銀行は金融緩和を強化した。世界経済の回復ペースは緩慢であり、物価も上昇しづらかった。「中央銀行が景気減速に配慮して金融緩和を強化する」と予想する投資家は増えた。こうした認識が、世界中の投資家の記憶に強く刷り込まれた。 ユーロ圏やわが国ではマイナス金利政策も実施され、金融緩和は強化された。「低金利環境は続くはず」といった主要投資家の思い込みは強まった。主要国の財政悪化に対する投資家の警戒感、関心は薄れた。 しかし、20年以降の世界はコロナ禍をきっかけに一変した。各国で財政支出は増大し、物価は上昇。短中期を中心に金利も上昇した。 世界的に現金の給付や、失業保険の特例措置が実施された。現在、米国では家計が過剰な貯蓄を抱え消費は減少していない。旺盛な需要を背景に、インフレ率は2%を上回っている。22年3月以降は急速に利上げが進み、短中期を中心に金利は上昇した。それでも株価は高い。大規模な財政支出により、経済はゆがんだ。 ウクライナ紛争も、財政支出圧力を高めた。1970年代半ばにベトナム戦争が終結して以来、約50年ぶりに、かつての東西陣営を巻き込んだ戦争が長期化している。 ウクライナ紛争が起きて以降、各国で国防関連の支出は増えた。ドイツは国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上に引き上げた。台湾を取り巻く危機意識に対応するために、日米欧の政府は産業政策の方針も転換した。戦略物資として重要性が高まる半導体の自国内生産を増やすために、補助金を積み増す動きが顕著になっている』、「ウクライナ紛争が起きて以降、各国で国防関連の支出は増えた。ドイツは国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上に引き上げた。台湾を取り巻く危機意識に対応するために、日米欧の政府は産業政策の方針も転換した。戦略物資として重要性が高まる半導体の自国内生産を増やすために、補助金を積み増す動きが顕著になっている」、なるほど。
・『金利と株式などリスク資産の関係に変化の兆し 理屈で考えると、財政支出の増加によって、長期、超長期の金利は上昇する。今回の格下げは、主要投資家がそうしたリスクを冷静に考える機会になった。 格下げとほぼ同じタイミングで、世界的に金利と株価の関係は徐々に変化し始めている。7月26日まで、ニューヨークダウ工業株30種平均株価は13連騰を記録していた。生成AIの登場が大きなインパクトとなり、IT産業への成長への期待が膨らんでいる。米連邦準備制度理事会(FRB)が、景気の減速に配慮して秋口にも利下げに転じるとの見方も高まった。米国の2年金利は低下し、株価上昇は勢いづいた。 他方、7月28日、日本銀行はイールドカーブ・コントロール(YCC)政策を修正し、10年金利の上限を1.0%に引き上げた。「米財務省が国債の発行を増やす」との見方も増えた。フィッチの米国債格付け判断を、見極めようとする警戒感も高まっただろう。一般的に信用格付け業者は見通しを修正した後、2カ月程度で新たな格付けを付与することが多い。 米国経済が過熱気味であることも、金利上昇の警戒感を高める要因になった。4~6月期、実質GDPの成長率は予想を上回った。物価安定のためにもFRBは金融引き締めを続けなければならない。8月に入ってからの世界的な株価下落は、金利上昇リスクに身構える投資家の増加に影響された部分が大きい。 8月10日時点で、ムーディーズは米国の信用格付け見通しを修正していない。ごく短期間で米国が最高位の格付けを失うことは考えづらい。また、世界の金融環境は緩和的な部分を残している。短期的には、世界の株価は相応の値動きを伴いつつ、高値圏を維持する可能性はある。 しかしその後、金融市場の不安定感は増すだろう。中期的には、米国の長期金利は上昇し、株や商業用不動産などの価格が下落する恐れがある。それが現実となれば、世界的にリスクを削減する投資家が増えるはずだ』、「短期的には、世界の株価は相応の値動きを伴いつつ、高値圏を維持する可能性はある。 しかしその後、金融市場の不安定感は増すだろう。中期的には、米国の長期金利は上昇し、株や商業用不動産などの価格が下落する恐れがある。それが現実となれば、世界的にリスクを削減する投資家が増えるはずだ」、なるほど。
なお、明日は、更新を休む予定である。
先ずは、本年5月8日付け東洋経済オンライン「東証プライムからスタンダードへ「降格ラッシュ」 「骨抜き」批判から1年、始まったプライムの選別」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/670115
・『「スタンダード市場上場の選択申請の決定に関するお知らせ」。2023年3月、スマホゲーム開発企業のマイネットがリリースを公表した。同社は東証プライム市場に上場しているが、近くスタンダード市場に移行すると表明したのだ。 プライム市場を捨て、自らスタンダード市場に「降格」する――。マイネットを皮切りに、こうした宣言をする企業が相次いでいる。4月末時点で、スタンダードへの移行を宣言したプライム上場企業は9社にのぼる。突如訪れた「降格ラッシュ」の背景に何があるのか』、興味深そうだ。
・『プライム市場「背伸び組」 発端は、2022年4月の市場区分見直しにさかのぼる。プライム市場は3つの区分のうち最も上場基準が厳しく、高い流動性やガバナンスが求められる市場として発足した。 ところが、旧東証1部から横滑りでプライム市場入りした企業のうち、296社は時価総額や流動性などの上場維持基準を下回っていた。東京証券取引所は経過措置を設け、改善計画の策定を条件にプライム市場への移行を許可した。 「背伸び」をしてプライム市場に移った企業群の位置づけは曖昧だった。経過措置の期間は「当分の間」とされており、いつまでプライム市場に残れるのかはわからなかった。改善計画を達成できなかった場合にスタンダード市場へ自動的に移れるのか、改めてスタンダード市場の上場審査が必要なのかも不明確だった。「後者の場合、一斉に移行されると審査の人手が足りなくなる」。証券業界からはこんな悲鳴も上がった。 そこで東証は2023年1月の上場規則改正時、背伸び組に「2択」を迫った。3月期決算企業の場合、2026年3月末時点で上場維持基準に適合しなければ、上場廃止予備軍である「監理銘柄」に指定され、最短で同年9月にも上場廃止となる。スタンダード市場に移る場合には、一度上場廃止してから再度審査を受ける必要がある。 その代わりの選択肢として、早々にプライム市場の上場維持を断念した企業には「特例」を設けた。2023年4月から9月末の間であれば、申請書の提出だけでスタンダード市場に移れるのだ。「上場廃止にならないための、いわば『温情』だ」。東証関係者はこう話す。) 冒頭のマイネットをはじめ、スタンダードへの移行を発表した企業はこの「特例」を選んだ企業たちだ。では、どんな企業が特例を利用したのか。以下は、4月末時点でスタンダード市場への移行を表明した企業の一覧だ。いずれの企業もプライム市場の要件である「流通株式時価総額100億円」を満たしていない。 各社は旧東証1部からプライム市場に移行するにあたり、東証の指示によって流通株式時価総額を引き上げる計画を策定していた。ところが、業績や株価の低迷によって達成の見込みが立たず、およそ1年で撤回したことになる。 土壌汚染調査や産業廃棄物処理を手がけるダイセキ環境ソリューションは2021年末、3年間で純利益を3倍にする中期経営計画を策定した。ところが、首都圏での大型案件受注が想定を下回り、翌2022年に業績予想を2度下方修正。このまま流通株式時価総額が伸び悩めば上場廃止となるリスクを考慮し、スタンダード市場への移行を決めたという。 東洋経済が試算したところ、プライム市場上場企業の中で流通株式時価総額が100億円を下回る企業は203社存在する(ランキングはこちら)。背伸び組のほか、プライム市場への移行当初は基準を満たしていたが、その後株価が下落し100億円を割ってしまった企業も少なくない』、「東洋経済が試算したところ、プライム市場上場企業の中で流通株式時価総額が100億円を下回る企業は203社存在する・・・背伸び組のほか、プライム市場への移行当初は基準を満たしていたが、その後株価が下落し100億円を割ってしまった企業も少なくない」、203社とはかなり多い。
・『「6月」が分水嶺? 降格ラッシュは今後も続くのか。みずほ信託銀行の八木啓至・企業戦略開発部次長は、「6月までにスタンダード市場への移行表明が増えるのではないか」と推測する。 スタンダード市場に無条件で移行できるのは、前述のとおり2023年9月末が期限だ。一方、3月期決算企業の場合、流通株式時価総額などの上場維持基準は3月末時点の数値を基に審査され、未達の場合は6月末までに改善計画を提出ないし更新する必要がある。 スタンダード市場への移行表明が7月以降にずれこむと、それまでにプライム市場への上場を維持するための計画を公表する必要があり、矛盾が生じる。そのため、スタンダード市場を選ぶ企業は改善計画の期限までに移行方針を発表し、定時株主総会で株主に説明するという見立てだ。 ほとんどの企業が旧東証1部から横滑りしたことから「骨抜きの改革」とやゆされたプライム市場。2022年4月の発足から1年を経て、ようやくプライムの名にふさわしい企業の選別が始まろうとしている』、「2022年4月の発足から1年を経て、ようやくプライムの名にふさわしい企業の選別が始まろうとしている」、踏みとどまれる企業はどの程度あるのだろうか。
次に、6月19日付け東洋経済オンライン「悲劇の舞台は「仕組み債」から「永久劣後債」へ 富裕層らが2.4兆円の大損!海外債券投資の罠」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/679779
・『優雅に達観した生活を送っているように見える富裕層。ただ陰では投資や税金対策に頭を抱え、時にもがき苦しむ様子が垣間見える。6月19日発売『週刊東洋経済』の特集「富裕層のリアル国内150万世帯、受難の時代」では、富裕層の偽らざる実像に迫った。 「こちらがドル建て債券に関する資料です。足元で金利が軒並み上昇している状況なので、円債に比べて高い利回りを確保できます」 今年初め、ある国内証券会社の営業マンは富裕層の顧客にそう言って1枚のリストを見せていた。提示したリストに載っているのは、海外の銀行などが発行するドル建ての「永久劣後債」だ。 劣後債は発行した企業などが倒産した場合に、弁済する優先順位が普通社債などに比べて後回しになる(劣後する)債券のことだ。 中でも永久劣後債は、5年後や10年後といった満期の定めがない。そのため、投資家にとってはかなりリスクが高く、その分利回りも相対的に大きいハイリスク・ハイリターンの商品だ』、発行体は「クレディ・スイス」と信用力はあっても、「劣後」条件に応じて「高」「利回り」という「ハイリターン」になる。
・『投資リスクが高いAT1債 先ほどのリストには6?7%台の商品がずらりと並んでいるが、その中で10%超というひときわ高い利回りを示していた債券がある。スイス金融大手クレディ・スイス・グループの永久劣後債だ。別名「AT1(その他ティアワン)債」とも呼ばれる。 クレディ・スイスといえば、富裕層でなくとも投資家であれば誰でも耳にしたことがある、世界的な金融グループだ。その債券で10%もの利回りを得られるとあって、多くの富裕層が飛びつくようにして購入していった。 それが一転して、紙くずになってしまったのは今年3月のこと。クレディ・スイスは経営不安が一気に高まり、同国金融最大手のUBSグループと株式交換による救済的な買収で合意。さらに、中央銀行のスイス国立銀行から流動性支援(臨時の資金供給)を受けた。 スイス連邦金融市場監督機構はそうした支援策が、クレディ・スイスのAT1債が規定する「元本削減条項」に抵触するとして、無価値化すると判断したわけだ。 紙くずになったAT1債の総額は約160億スイスフラン。日本円に換算すると約2.4兆円にも上る。金融庁の調べでは、日本では富裕層を中心に約1400億円分が販売されていた。そのうち約950億円分を販売していた、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対しては、金融庁が顧客対応などについて報告するよう命令を出すなど、騒動は広がるばかりだ』、「約950億円分を販売していた、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対しては、金融庁が顧客対応などについて報告するよう命令」、リスクをきちんと説明した上で販売していたことを祈りたい。
・『仕組み債でも損失の悲劇 急転直下の事態を受け、4月に入ると日本でも企業や富裕層から悲鳴が次々と上がった。 ゲームソフトなどの開発を手がけるコーエーテクモホールディングスは、AT1債への投資によって41億円の損失を計上。「箱根駅伝」で名をはせた青山学院大学陸上競技部の原晋監督は、「平均年収のウン倍」を失ったとインターネット番組で嘆き、大きな話題になった。 足元では金融分野に強い弁護士事務所の間で、被害を受けた富裕層に広く声をかけて集団訴訟に持ち込もうとする動きが広がり始めている。 訴訟に向けて弁護士らが着目しているのが、販売していた証券会社が元本削減条項などのリスクについて、どれだけ説明責任を果たしていたかという点だ。 実際のところはどうなのか。ある証券会社が作成した契約締結前交付書面を見てみよう。 同書面を見ると、元本削減条項という欄に「CET1(普通株等ティアワン)比率が7%を下回ったとき」「公的機関による支援を受け入れたとき」という2つの条件が書いてある。今回はこのうちの後者(支援の受け入れ)がトリガーを引いたことになり、書面上は問題がないように見える。 一方で、大手証券会社の幹部は「販売している側は、CET1比率の部分しか気に掛けていなかったというのが実態だろう。公的機関の支援うんぬんの部分まで、きっちり説明した営業マンは少ないのではないか」と声を潜める。 つまり、販売する側すら目を向けていなかった条項を、顧客にしっかりと説明し理解させていたかと問われると、苦しい立場に置かれるということだ』、「販売する側すら目を向けていなかった条項を、顧客にしっかりと説明し理解させていたかと問われると、苦しい立場に置かれる」、苦しいところだ。
・『仕組み債でも大きな損失 金融庁の幹部は、AT1債で被害を受けた顧客の中には「仕組み債においても、大きな損失を被った人が一定数いる」と明かす。 仕組み債とは、債券と金融派生商品(デリバティブ)取引を組み合わせた金融商品のこと。デリバティブ取引は個別株価や株価指数、為替相場などに連動しており価格変動が大きいことから、債券ではあるもののかなりハイリスクな商品だ。商品設計が複雑なため、投資初心者はリスクの認識が難しい。 それを地方銀行などが「高利回り商品」などとして販売。富裕層や高齢者に過剰なリスクを取らせていたことが問題となり、規制が強化されてきた経緯がある。 その規制の抜け穴として、証券業界で脚光を浴びたのが、まさにAT1債だった。そこで大きな悲劇が発生するのは、もはや時間の問題だったのかもしれない』、「規制の抜け穴」までなくなってしまった。今後はリスクを粛々と説明して販売していかざるを得ないだろう。
第三に、6月19日付け現代ビジネス「仕組債問題で批判殺到…金融庁監督局・伊藤豊局長に浮上した「別のスキャンダル」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/111927
・『証券取引等監視委員会が、リスクの高いデリバティブ(金融派生商品)を使った複雑な仕組債を "素人” に売りつけたとして、千葉銀行と傘下のちばぎん証券などを行政処分するよう金融庁に勧告した』、興味深そうだ。
・『金融機関になめられている金融庁監督局 仕組債の危険性はかねて指摘されており、対応が不十分だったとして金融庁監督局の伊藤豊局長への批判も高まっている。金融庁の締めつけで販売自粛する金融機関がある一方、無視して継続するメガバンク系証券もあり「局長はなめられている」(金融庁関係者)という声も上がる。 伊藤氏は出世コースの財務省大臣官房秘書課長を経たエリートで、自他共に認める金融庁長官候補となった。 仕組債問題は汚点だが、伊藤氏には別のスキャンダルもある。 医療ベンチャー「テラ」を巡る金融商品取引法違反事件の法廷で、竹森郁被告が「高額接待をしたうえ1本5万円の高級ワインを贈った」と爆弾発言したのだ。竹森被告は有罪判決を受けたが、当時、「永田町のフィクサー」として知られる矢島義也氏の側近として政官要人の接待係を務め、資金も負担していた。 それだけに証言には真実味がある。加えて「国家公務員倫理規程違反の告発も考えています」(竹森被告)と、まだ終わった話ではない。仕組債問題と接待疑惑―。金融庁のエリート官僚に荒波が押し寄せている』、「金融庁長官候補」に2つも問題が出てきたとは大変だ。
第四に、7月18日付け東洋経済オンライン「業績不振・不正で「基準不適合」入りの68社リスト 東証スタンダード・グロース市場の基準に抵触」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/686508
・『東京証券取引所のスタンダード・グロース市場に上場する企業のうち少なくとも68社が今年1月から6月末までに新たに上場維持基準に抵触し、計画書を提出したことが東洋経済の集計でわかった。 2022年4月に新市場区分に移行して約1年が経過。移行当初は基準を満たせたものの、業績悪化や不正会計の発覚などで株価が下落し基準を満たせなくなる例が続出している。プライム市場では57社が基準未達になった(東証プライムから新規50社超の「脱落危機」リスト)。 スタンダード市場への移行、という救済措置が用意されているプライム市場とは異なり、スタンダードやグロース市場の上場企業には、逃げ道がない。 例えば3月末決算企業の場合、2026年3月までに基準を満たせない場合は上場廃止基準に該当する可能性があるとして監理銘柄に指定される。その後も基準を満たせない場合は最終的に上場廃止となる。 そもそも、スタンダード市場の上場維持基準は流通株式時価総額が10億円とプライム市場が要求する100億円より格段に低い。流通株式比率も同様で、プライム市場が35%以上を求めるのに対し、スタンダードでは25%以上でいい。グロース市場の基準はさらに低く、流通株式時価総額は5億円以上を求めている』、「スタンダード市場への移行、という救済措置が用意されているプライム市場とは異なり、スタンダードやグロース市場の上場企業には、逃げ道がない」、もともとは「逃げ道がない」のが普通だ。真剣勝負で臨んでもらいたいものだ。
・『安定株主への対応に苦慮 各社が開示した計画書には、担当者の苦悩が滲む。 「安定株主の皆様に対し、これまでの保有に感謝申し上げるとともに、今後、当社株式の市場への放出にご協力いただけるよう要請してまいります」 消防・防災関連など各種ゴム製品の専業メーカー、櫻護謨は6月29日に東京証券取引所スタンダード市場の基準に適合していないことを適時開示した。流通株式時価総額と流通株式比率の2つで基準未達となった。大株主に売却を依頼する企業は多いが、感謝のコメントを添えた開示はめずらしい。) 「役員及び役員の2親等以内の親族」に対して保有株の売却を促すとしたのはヒューマンホールディングス(スタンダード市場上場)だ。開示によれば流通株式比率が20.85%となり、新たに基準に抵触した。 同社の大株主欄には佐藤耕一会長をはじめ、社長の佐藤朋也氏など佐藤姓の株主が並ぶ。3月には新たに佐藤姓の個人が「安定株主として保有」目的で9.1%の大量保有を報告している。はたして2025年3月末までに売却は進むのだろうか。 ほかにも「特定の元従業員の不正行為」に言及し「かかる事案の及ぼす影響も考慮すべきである」とした会社や、「普通銀行に売却を打診」すると記載した企業など、各社各様の工夫で上場維持基準の適合に向けた計画を公表している』、「普通銀行に売却を打診」がどのように「上場維持基準の適合に向けた計画」に相当するのかは不明だが、各社とも知恵を絞っているようだ。
・『基準未達企業がすがる意外な逃げ道 こうした基準未達企業は今後も増え続ける可能性がある。ただ、東証が市場区分の移行に際して用意した経過措置の適用を受けられるのは2025年2月まで。それ以降は上場維持基準に抵触した場合、監理銘柄となり、それでも基準を満たせない場合は上場廃止となる。 プライム市場の上場企業であれば、経過措置終了後も再度上場審査を受けることで、スタンダード市場へ鞍替えすることができる。ではスタンダードやグロースの上場企業は座して上場廃止を待つほかないのか。 市場関係者の間で上場廃止を回避する秘策として噂されているのが、地方市場への上場だ。札幌、名古屋、福岡などの証券取引所が想定されている。 上記の3市場では、東証などほかの証券取引所で上場している企業が新規に上場する場合、証券会社による上場審査を実質的に免除する仕組みがある。元々は東証や旧大阪証券取引所などとの重複上場を促すための制度だが、上場維持基準もスタンダードやグロースよりさらに低く、東証からの移行がしやすくなっている。 ある地方市場関係者は「東証がダメならうちで、という営業はしていないが、市場なので品物は多いほうがいい。上場してくれる企業が増えること自体は歓迎」と話す。 ただ、現時点で東証の市場再編を理由に地方市場に上場した企業はまだない。逃げ道を確保するよりもまずは業績の改善や流通株式比率の向上など、目の前の課題解決を図るほうが先決だ。(▽基準未達なら「上場廃止」の可能性もー新たに上場維持基準不適合となった東証スタンダード・グロース市場上場企業ーの表はリンク先参照)』、「現時点で東証の市場再編を理由に地方市場に上場した企業はまだない。逃げ道を確保するよりもまずは業績の改善や流通株式比率の向上など、目の前の課題解決を図るほうが先決だ」、その通りだ。
第五に、8月15日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「米国債「格下げ」は想定内でも、警戒すべき投資家の“世界的な思考変化”とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/327512
・『信用格付けサービス3位のフィッチによる米国債格下げは、想定の範囲だった。今回の格下げは、短期的にみると、日本株が下落するきっかけになったことは否めない。ただ、中長期的にみると、米国債の格下げが日本株の下落につながるかは不透明だ。むしろ、フィッチの判断は、投資家が主要国の物価や財政問題などを背景とする金利上昇のリスクを再確認・再評価するきっかけになった』、興味深そうだ。
・『「米国債格下げ」のタイミングで長期金利が上昇の波紋 8月1日、大手信用格付け会社のフィッチ・レーティングスは、米国債の格付けを最上位のAAA(トリプルエー)からAA+(ダブルエープラス)に引き下げた。見通しは「安定的」だ。 既に、同じく有力格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、2011年に米国債をAA+に格下げしている。大手格付け会社のうち、AAA(Aaa)格はMoody’s(ムーディーズ)を残すのみだ。 フィッチは格下げ要因として、主に三つを指摘した。(1)今後3年間での米財政の悪化懸念、(2)高水準かつ増加する公的債務、(3)債務上限を巡る政治対立の激化など債務管理体制の不安――だ。コロナ禍をきっかけに米国で財政支出圧力は強まった。フィッチの指摘は周知の事実ではある。 注目すべきは、格下げとほぼ同じタイミングで、金利とリスク資産の関係に変化の兆しが表れたことだ。米国をはじめ各国で長期金利は上昇し、世界的に株価は下落した。その勢いが強まれば、世界経済は減速に向かうだろう。となると、新興国から資金を引き揚げる投資家も増えるはずだ。フィッチによる米国債の格下げは、予想外の形で世界経済の不安定さを増すことになるかもしれない』、「米国をはじめ各国で長期金利は上昇し、世界的に株価は下落した。その勢いが強まれば、世界経済は減速に向かうだろう。となると、新興国から資金を引き揚げる投資家も増えるはずだ。フィッチによる米国債の格下げは、予想外の形で世界経済の不安定さを増すことになるかもしれない」、既に「S&P」が「格下げ」をしているとはいえ、かつて最上格の「米国債」の「格下げ」はやはり影響が大きい。
・『フィッチが格下げに踏み切った経緯と背景 振り返れば5月、フィッチは米国の信用格付けの見通しを「ネガティブ」(信用力は下向き)に修正していた。背景として、政府債務上限を巡る民主党と共和党の対立激化は大きかった。長期的な財政運営の不透明感は増し、米財務省は一部の公的年金基金の新規の投資をストップするなど臨時措置を取ったが、それは長く続けられる措置ではない。 期日までに、与野党が債務上限の引き上げなどに合意できないリスクもあった。長期的な財政運営の安定性、予見性、財政再建に向けた政治的リーダーシップへの不安などを背景に、フィッチは米国債の信用格付けを最上位のAAAから引き下げる可能性を示唆していた。 6月初旬、米上院は債務上限の効力を2025年1月まで停止する法案を可決した。前回のピンチ(11年)に比べれば幾分か時間はあったが、今回も米連邦政府は資金の枯渇を土壇場で回避した。 こうした背景もあり、フィッチが米国債の格付けを引き下げたことは、5月の見通し修正に沿ったものだった。大手の信用格付け業者が米国債を格下げするのは、今回が初めてではない。11年の債務上限問題では与野党が合意した後に、S&Pが米国の格付けをAA+へ1段階引き下げた。 S&Pは世界の信用格付けサービスの最大手である。米証券取引委員会(SEC)によると21年、世界全体の信用格付け(国債、非国債、証券化商品などが対象)のうちS&Pの割合が50.4%、ムーディーズが31.6%、フィッチが12.4%だった。3社の中でフィッチの規模は小さく、格下げのインパクトも限られる。残るは、ムーディーズが米国の格付けをどうするかだ。8月10日時点で、ムーディーズは米国債をAaa格(S&PなどのAAAと同じ)で維持している。 5月の見通し修正、その後の米債務上限問題の推移を踏まえると、フィッチによる格下げは想定の範囲だった。今回の格下げは、短期的にみると、日本株が下落するきっかけになったことは否めない。ただ、中長期的にみると、米国債の格下げが日本株の下落につながるかは不透明だ』、「米証券取引委員会(SEC)によると21年、世界全体の信用格付け(国債、非国債、証券化商品などが対象)のうちS&Pの割合が50.4%、ムーディーズが31.6%、フィッチが12.4%だった」、S&Pのシェアが想像以上に大きいことに驚かされた。
・『徐々に進む金利上昇リスクの再確認 むしろ、フィッチが米国債の格下げを発表したことは、投資家が主要国の物価や財政問題などを背景とする金利上昇のリスクを再確認・再評価するきっかけになった。その点を冷静に考えることが重要だ。 11年にS&Pが米国債を格下げした時と今回を比べると、世界経済の環境は異なる。リーマン・ショック後、日米欧の中央銀行は金融緩和を強化した。世界経済の回復ペースは緩慢であり、物価も上昇しづらかった。「中央銀行が景気減速に配慮して金融緩和を強化する」と予想する投資家は増えた。こうした認識が、世界中の投資家の記憶に強く刷り込まれた。 ユーロ圏やわが国ではマイナス金利政策も実施され、金融緩和は強化された。「低金利環境は続くはず」といった主要投資家の思い込みは強まった。主要国の財政悪化に対する投資家の警戒感、関心は薄れた。 しかし、20年以降の世界はコロナ禍をきっかけに一変した。各国で財政支出は増大し、物価は上昇。短中期を中心に金利も上昇した。 世界的に現金の給付や、失業保険の特例措置が実施された。現在、米国では家計が過剰な貯蓄を抱え消費は減少していない。旺盛な需要を背景に、インフレ率は2%を上回っている。22年3月以降は急速に利上げが進み、短中期を中心に金利は上昇した。それでも株価は高い。大規模な財政支出により、経済はゆがんだ。 ウクライナ紛争も、財政支出圧力を高めた。1970年代半ばにベトナム戦争が終結して以来、約50年ぶりに、かつての東西陣営を巻き込んだ戦争が長期化している。 ウクライナ紛争が起きて以降、各国で国防関連の支出は増えた。ドイツは国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上に引き上げた。台湾を取り巻く危機意識に対応するために、日米欧の政府は産業政策の方針も転換した。戦略物資として重要性が高まる半導体の自国内生産を増やすために、補助金を積み増す動きが顕著になっている』、「ウクライナ紛争が起きて以降、各国で国防関連の支出は増えた。ドイツは国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上に引き上げた。台湾を取り巻く危機意識に対応するために、日米欧の政府は産業政策の方針も転換した。戦略物資として重要性が高まる半導体の自国内生産を増やすために、補助金を積み増す動きが顕著になっている」、なるほど。
・『金利と株式などリスク資産の関係に変化の兆し 理屈で考えると、財政支出の増加によって、長期、超長期の金利は上昇する。今回の格下げは、主要投資家がそうしたリスクを冷静に考える機会になった。 格下げとほぼ同じタイミングで、世界的に金利と株価の関係は徐々に変化し始めている。7月26日まで、ニューヨークダウ工業株30種平均株価は13連騰を記録していた。生成AIの登場が大きなインパクトとなり、IT産業への成長への期待が膨らんでいる。米連邦準備制度理事会(FRB)が、景気の減速に配慮して秋口にも利下げに転じるとの見方も高まった。米国の2年金利は低下し、株価上昇は勢いづいた。 他方、7月28日、日本銀行はイールドカーブ・コントロール(YCC)政策を修正し、10年金利の上限を1.0%に引き上げた。「米財務省が国債の発行を増やす」との見方も増えた。フィッチの米国債格付け判断を、見極めようとする警戒感も高まっただろう。一般的に信用格付け業者は見通しを修正した後、2カ月程度で新たな格付けを付与することが多い。 米国経済が過熱気味であることも、金利上昇の警戒感を高める要因になった。4~6月期、実質GDPの成長率は予想を上回った。物価安定のためにもFRBは金融引き締めを続けなければならない。8月に入ってからの世界的な株価下落は、金利上昇リスクに身構える投資家の増加に影響された部分が大きい。 8月10日時点で、ムーディーズは米国の信用格付け見通しを修正していない。ごく短期間で米国が最高位の格付けを失うことは考えづらい。また、世界の金融環境は緩和的な部分を残している。短期的には、世界の株価は相応の値動きを伴いつつ、高値圏を維持する可能性はある。 しかしその後、金融市場の不安定感は増すだろう。中期的には、米国の長期金利は上昇し、株や商業用不動産などの価格が下落する恐れがある。それが現実となれば、世界的にリスクを削減する投資家が増えるはずだ』、「短期的には、世界の株価は相応の値動きを伴いつつ、高値圏を維持する可能性はある。 しかしその後、金融市場の不安定感は増すだろう。中期的には、米国の長期金利は上昇し、株や商業用不動産などの価格が下落する恐れがある。それが現実となれば、世界的にリスクを削減する投資家が増えるはずだ」、なるほど。
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バブル(歴史、一般)(その1)脱獄犯から財務大臣に! 天才ギャンブラーの末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折、シュンペーターも絶賛!「脱獄した天才経済学者」の末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折) [金融]
今日は、バブル(歴史、一般)(その1)脱獄犯から財務大臣に! 天才ギャンブラーの末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折、シュンペーターも絶賛!「脱獄した天才経済学者」の末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折)を取上げよう。
先ずは、やや古いが、2019年5月9日付け日経ビジネスオンラインが掲載した元外国為替ディーラー・ジャーナリストの玉手 義朗氏による「脱獄犯から財務大臣に! 天才ギャンブラーの末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19nv/00046/050700009/
・『脱獄したお尋ね者が、なんとフランス財務大臣に! 驚きの成り上がり人生を歩んだギャンブルの達人、ジョン・ロー。しかし、自ら生み出した世界最大級のバブルが弾けた後、流浪の末に無一文で死を迎える――。経済学の巨人シュンペーターが絶賛し、ガルブレイズをもうならせた奇才の、鮮やかすぎる経済理論と転落劇。 一七二九年三月二十一日、男はイタリア・ヴェネチアで五十八年の生涯を終えた。 男はかつてフランスの「財務大臣」と「中央銀行総裁」、そして巨大国営企業のトップを兼任する経済界の支配者だった。パリ中心部にあるヴァンドーム広場の三分の一は男のもので、この他にも数多くの不動産を保有する大金持ちでもあった。 我が世の春を謳歌していた男だったが、ある日突然にフランスを追われ、放浪の末にヴェネチアにたどり着いた。死期が迫る中、男は遺言状を作るようにと促された。しかし、「自分の財産は全てフランスにあって、債権者に差し押さえられている。遺言状を作っても無意味だ」と語ったという。 男の名前はジョン・ロー(John Law)。 その経済政策は窮地にあったフランス経済を劇的に回復させると同時に、数多くの大金持ちを生み出した。「ミリオネア」という言葉が誕生したのもこのときで、ローの経済政策の恩恵を受けて、大金持ちになった人々を呼ぶためのものだった。後にこの男は、経済学者シュンペーターから賛辞を受け、ガルブレイズをもうならせることになる』、「ジョン・ロー」は「かつてフランスの「財務大臣」と「中央銀行総裁」、そして巨大国営企業のトップを兼任する経済界の支配者だった。パリ中心部にあるヴァンドーム広場の三分の一は男のもので、この他にも数多くの不動産を保有する大金持ちでもあった。 我が世の春を謳歌していた男だったが、ある日突然にフランスを追われ、放浪の末にヴェネチアにたどり着いた」、なるほど。「ミリオネア」という言葉が誕生したのもこのときで、ローの経済政策の恩恵を受けて、大金持ちになった人々を呼ぶためのものだった」、「ミリオネア」の語源を初めて知った。
・『世界初の「ミリオネア」 しかし、ローとミリオネアたち、そしてフランス国民も突如として奈落の底に突き落とされる。ミリオネアたちは全財産を失い、経済は大混乱に陥り、非難の的となったローはフランスを逃げ出したのであった。 ミリオネアを生んだ経済政策とは何なのか。なぜ、人々は奈落の底に落とされることになったのか。一度はフランス経済を支配し、巨万の富を獲得した男は、どのような失敗を犯して、一文無しで生涯を終えることになったのだろう。) 一六七一年四月二十一日、ローはイギリス(スコットランド)・エディンバラの裕福な金匠(Goldsmith Banker:金を扱う金融機関の一種)の家に生まれた。 中等学校に入る直前に父親は他界するが、ローは巨額の遺産を相続し、ロンドンに出て放蕩三昧の生活を始める。長身で端正なマスク、愛想が良くて会話も知的だったローは、上流階級の貴婦人たちと浮き名を流す一方で、ギャンブルに興じる日々を送った。 しかし、程なくしてローはギャンブルに大負けして破産してしまう。更に一六九四年四月、ローは女性を巡ってある男と決闘して刺し殺してしまった。殺人罪で死刑判決を受けたロー。人生もこれで終わり……と思われたが、ローは仲間の手助けを受けて脱獄に成功する。看守を薬で眠らせ、密かに持ち込んだノコギリで窓の鉄格子を切断し、窓から飛び降りて待機させていた馬車に飛び乗って、逃げ去ったという。(*1)』、「ローは女性を巡ってある男と決闘して刺し殺してしまった。殺人罪で死刑判決を受けたロー。人生もこれで終わり……と思われたが、ローは仲間の手助けを受けて脱獄に成功する」、血の気が多かったようだ。
・『「お尋ね者」が一転、「気鋭の経済学者」に 「キャプテン・ジョン・ロー、スコットランド人、殺人の罪で最近まで当王座裁判所の監獄に収容中の囚人。年齢二六歳。背が非常に高く色黒、やせぎすで姿勢よき男……この者当監獄より脱走。右の男を捕らえて当監獄に引き渡す者に対して、即刻五十ポンドの賞金を与える」 各地に配られた手配書をあざ笑うかのように、「お尋ね者ロー」は完全に姿を消してしまう。 それから二十年が経過した一七一四年、ローは突如としてフランス・パリに現れた。「お尋ね者」ではなく、大金持ちで、フランス政府が信頼を寄せる気鋭の経済学者としてだ。 ローは逃亡生活の間に、独自の確率論を駆使したギャンブル勝利法を会得し、各地の賭博場を渡り歩いて大儲けしたという。その経験と理論を基に、言葉巧みにフランス政府に、独自の経済政策を売り込んだのだ。 時のフランスはルイ十五世が王位を引き継いだばかり。政府は度重なる戦争と王室の浪費で財政難に喘ぎ、経済は深刻な不況に陥っていた。ところがローは、この危機的な状況を改善する経済政策があると、ルイ十五世の摂政だったオルレアン公フィリップに持ちかけたのだ。) ローはフランス経済が「デフレ状態」にあると考えていた。当時のフランスの貨幣システムは、政府の管理下にある正貨(金貨と銀貨)を使ったもの。政府が財政難になれば、貨幣の流通量が減少する。これによって物価が下落し、収益の悪化から消費が低迷し、これが景気を悪化させて所得が減少し、更なる物価下落と消費の低迷を生む。当時のフランスは、典型的なデフレ不況に陥っていたのである。 デフレ対策には、どんどん紙幣を刷って貨幣供給量を増やす金融緩和政策があることは、今なら誰でも知っているだろう。ところが、当時のフランスには紙幣が存在していなかった。あるのは自由に増やすことができない正貨だけであり、金融緩和政策の概念すらなかったのである。 では、どうすればよいのか。ローの答えは簡単だった。 紙幣を発行すればいい』、「「ローは逃亡生活の間に、独自の確率論を駆使したギャンブル勝利法を会得し、各地の賭博場を渡り歩いて大儲けしたという。その経験と理論を基に、言葉巧みにフランス政府に、独自の経済政策を売り込んだのだ。 時のフランスはルイ十五世が王位を引き継いだばかり。政府は度重なる戦争と王室の浪費で財政難に喘ぎ、経済は深刻な不況に陥っていた。ところがローは、この危機的な状況を改善する経済政策があると、ルイ十五世の摂政だったオルレアン公フィリップに持ちかけたのだ。) ローはフランス経済が「デフレ状態」にあると考えていた。当時のフランスの貨幣システムは、政府の管理下にある正貨(金貨と銀貨)を使ったもの。政府が財政難になれば、貨幣の流通量が減少する。これによって物価が下落し、収益の悪化から消費が低迷し、これが景気を悪化させて所得が減少し、更なる物価下落と消費の低迷を生む。当時のフランスは、典型的なデフレ不況に陥っていたのである」、「当時のフランスには紙幣が存在していなかった。あるのは自由に増やすことができない正貨だけであり、金融緩和政策の概念すらなかったのである。 では、どうすればよいのか。ローの答えは簡単だった。 紙幣を発行すればいい」、なるほど。
・『お金がないなら、刷ればいい ローは摂政オルレアン公フィリップから、紙幣となる銀行券が発行できる「バンク・ジェネラル」の設立許可を得た。 この銀行はローが保有していた正貨を元手に設立されたもの。バンク・ジェネラルが発行する銀行券は、求められればいつでも正貨に戻すことが約束された「兌換(だかん)紙幣」だったため、高い信用力を得ることができた。更にローは政府に働きかけて、この銀行券で納税が可能になるようにし、貿易取引の決済にも使えるようにした。 度重なる改鋳で金や銀の含有量が低下し、価値が低下していた正貨に嫌気がさしていた人々は、使い勝手の良いローの銀行券を大歓迎した。 一七一六年五月に設立されたバンク・ジェネラルが発行する銀行券は瞬く間に普及し、これによって貨幣供給量が大幅に増加する。フランス経済を苦しめていたデフレは解消に向かい、景気は驚異的な回復を見せた。 ローは「金融緩和策の発明者」であり、人類史上初めてこれを実施して、フランス経済を救った「天才」だったのだ。 絶大な信頼を勝ち取ったバンク・ジェネラルは、一七一八年に国有化され、「バンク・ロワイアル」となる。 「お尋ね者」だったローは、自らの手で「中央銀行」を創設して「総裁」に就任したというわけだ。 しかし、ローの金融緩和策には限界があった。) ローの金融緩和策の限界とは何か。銀行券が兌換紙幣であったため、保有している正貨以上の発行ができなかったのだ。 そこでローは次のステップへ踏み出す。 ローは銀行券を正貨の交換を保証しない「不換紙幣」に変えたのだ。これによってバンク・ロワイアルは、正貨保有量に関係なく、好きなだけ銀行券を発行できるようになる。 正貨という後ろ盾を失ったものの、バンク・ロワイアルが発行する銀行券の信用力が揺らぐことはなかった。銀行券が更に発行されたことで金融緩和策が強化され、フランス経済はより一層の好景気に沸き立つことになる』、「ローは「金融緩和策の発明者」であり、人類史上初めてこれを実施して、フランス経済を救った「天才」だったのだ。 絶大な信頼を勝ち取ったバンク・ジェネラルは、一七一八年に国有化され、「バンク・ロワイアル」となる。 「お尋ね者」だったローは、自らの手で「中央銀行」を創設して「総裁」に就任したというわけだ」、「ローは銀行券を正貨の交換を保証しない「不換紙幣」に変えたのだ。これによってバンク・ロワイアルは、正貨保有量に関係なく、好きなだけ銀行券を発行できるようになる。 正貨という後ろ盾を失ったものの、バンク・ロワイアルが発行する銀行券の信用力が揺らぐことはなかった。銀行券が更に発行されたことで金融緩和策が強化され、フランス経済はより一層の好景気に沸き立つことになる」、なるほど。
・『バブルがやってきた ローは膨大な財政赤字の削減にも取り組んだ。「ミシシッピ会社」という国営企業を創設、その株式を売り出すことで財政赤字を埋めようと考えたのだ。(*2) ローは政府に働きかけて、当時のフランスが所有していた、ミシシッピを中心とするアメリカ植民地の開発や貿易の権利をこの会社に集約した。目玉の事業は「金の採掘」。ミシシッピには金鉱があり、株式を購入した人には大きな利益がもたらされると宣伝したのだ。 更にローは、ミシシッピ会社の株式を購入しやすくするために、購入代金を国債で支払えるようにした。 これは現代の「債務の株式化」(Debt Equity Swap)の原型となる手法だ。銀行などが保有する貸出債権を、その会社の株式と交換することによって借金の負担を軽減し、経営再建を進めやすくする。 債務の株式化が、日本で本格化するのは二十一世紀に入ってからのこと。ダイエーやシャープなど、巨大企業の経営再建で適用されるようになった高度な手法だ。 現代の最先端の再建手法を先取りするようなアイデアを考案し、財政赤字で苦しんでいたフランス政府に適用したロー。ミシシッピ会社の株式が売れれば売れるほど、政府の財政赤字は減少していくという妙案だったのだ。 売り出されたミシシッピ会社の株式は、投資家の大きな人気を集めた。当時の国債は返済されるはずなどないという思惑から、額面五百リーブルの国債が、百五十~百六十リーブル程度の安値で取引されていた。そこでローは、ミシシッピ会社の株式を国債で購入する場合には、額面の五百リーブルで引き取るとしたのだ。 ここからバブルが発生する。) 「価値の下がった国債で、金鉱を持つミシシッピ会社の株式が買える! しかも額面価格で!」と投資家は大喜び。額面五百リーブルだったミシシッピ会社の株価は、一七一九年の十二月には一万リーブルを突破する大暴騰を演じる。 ミシシッピ会社の株式を買ったことで、一夜にして大金持ちになった人が続出する。「ミリオネア」と呼ばれるようになった彼らは、儲けたお金を不動産や宝石、貴金属などへ投資したため、それらの価格も三倍、四倍と跳ね上がった。 ミリオネアになりたいと押し寄せた人々で、ミシシッピ会社の株式が売買されていたカンカンポア通りは、連日大混雑となった。周辺のアパート家賃は跳ね上がり、靴店は店内で椅子や筆記用具を提供する「貸しオフィス」で大儲け、猫背だった男は背中を机代わりに使わせるだけで稼ぐことができたという。 ミシシッピ会社の株価暴騰に呼応する形で、銀行券の発行も急増していった。これが株式市場へ流れ込んだ結果、更なる株価上昇を生み、銀行券の増発を招くというスパイラルを生み出す』、「額面五百リーブルの国債が、百五十~百六十リーブル程度の安値で取引されていた。そこでローは、ミシシッピ会社の株式を国債で購入する場合には、額面の五百リーブルで引き取るとしたのだ。 ここからバブルが発生する。 「価値の下がった国債で、金鉱を持つミシシッピ会社の株式が買える! しかも額面価格で!」と投資家は大喜び。額面五百リーブルだったミシシッピ会社の株価は、一七一九年の十二月には一万リーブルを突破する大暴騰を演じる」、なるほど。
・『株式バブルで、財政再建! その一方で、ミシシッピ会社の株式が飛ぶように売れたことから、政府の財政赤字も激減していった。「ロー・システム」と呼ばれた「中央銀行」と「巨大国営企業」のコラボレーションであった。 ミシシッピ会社は明らかに過大評価されていたが、株価暴騰に浮かれていた人々にとっては、どうでもよいことだったのだ。 景気回復と財政赤字削減を成し遂げたローは、一七二〇年一月に財務総監に任命される。首相の地位に匹敵する要職だった。「財務大臣」、「中央銀行総裁」、そして巨大国営会社ミシシッピ会社のトップを兼任する「経済界の巨人」が誕生したのだ。 各地に広大な地所を所有するなど、ローの個人資産も膨れ上がった。貴族の称号を与えられたローは、その端正な姿と相まって社交界の花形となる。「お尋ね者」として追われていた男が、流れ着いたフランスで銀行を設立してから、わずか三年でつかんだ栄光であった。 ロー・システムがもたらした華々しい成果に政府は狂喜し、フランスは諸外国の羨望の的となった。しかし、その成果はバブルがもたらした一時的なものであり、その崩壊は驚くほど早く始まるのである。 次回は後編。ローが生み出した「ミシシッピバブル」のあっけなくも、騒々しい幕切れ。さらに、ローが発明した「リフレ政策」の功罪を考察する。 *1 ジョン・ローの決闘のエピソードは、創作であるとする説もある *2 ミシシッピ会社の正式名称は「西方会社」。のちに「インド会社」となる(参考文献の紹介は省略)』、「景気回復と財政赤字削減を成し遂げたローは、一七二〇年一月に財務総監に任命される。首相の地位に匹敵する要職だった。「財務大臣」、「中央銀行総裁」、そして巨大国営会社ミシシッピ会社のトップを兼任する「経済界の巨人」が誕生したのだ。 各地に広大な地所を所有するなど、ローの個人資産も膨れ上がった。貴族の称号を与えられたローは、その端正な姿と相まって社交界の花形となる。「お尋ね者」として追われていた男が、流れ着いたフランスで銀行を設立してから、わずか三年でつかんだ栄光であった」、「ロー・システムがもたらした華々しい成果に政府は狂喜し、フランスは諸外国の羨望の的となった。しかし、その成果はバブルがもたらした一時的なものであり、その崩壊は驚くほど早く始まるのである」、次回の「崩壊」の姿が楽しみだ。
次に、この続きを2019年5月10日付け日経ビジネスオンラインが掲載した元外国為替ディーラー・ジャーナリストの玉手 義朗氏による「シュンペーターも絶賛!「脱獄した天才経済学者」の末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19nv/00046/050700010/
・『お尋ね者の脱獄犯から、フランス財務大臣と中央銀行総裁を兼任するまで成り上がった、ジョン・ロー(詳しくは、前回を参照)。経済学の巨人シュンペーターも絶賛した奇才は、いかにして破滅したのか。 ギャンブルで荒稼ぎしたローには、天性の経済学的センスがあり、冷え切ったフランス経済をバブルの熱狂に導いた。だが、その末路は――。 18世紀を鮮やかに彩った「ミシシッピバブル」と、昭和の「NTT株」をめぐる狂騒が重なる。 十八世紀のフランスで、今でいう「リフレ政策」を展開したロー。紙幣をどんどん発行することでデフレ不況を克服し、国営企業ミシシッピ会社の株式売却で、国家財政の赤字を削減すると同時に、景気をさらに浮揚させた。 ローが編み出した金融緩和策「ロー・システム」がもたらした華々しい成果に政府は狂喜し、フランスは諸外国の羨望の的となった。しかし、その成果はバブルがもたらした一時的なものであり、その崩壊は驚くほど早く始まるのである』、「バブル」の「崩壊」とは興味深そうだ。
・『「素朴な疑問」が、崩壊の始まり 「ローの銀行券って、本当に信用できるの?」 「いざとなったら、本当に金貨か銀貨に換えてもらえるの?」 「ミシシッピ会社って、何をする会社なんだっけ?」 「金を採掘するって言っていたけど、金は出たんだっけ?」 ロー・システムの崩壊は、こうした素朴な疑問から始まった。 一部の貴族たちが、銀行券をバンク・ロワイアルに持ち込んで、金貨や銀貨に交換をし始める。これを知った他の人々も不安心理に駆られ、我先にと銀行券を正貨に交換しようとした。「取り付け」が起こったのだ。しかし、バンク・ロワイアルが発行する銀行券は不換紙幣であり、その全てを正貨に交換することは到底できない。 一七二〇年七月、バンク・ロワイアルは、正貨への交換を求める人々の激しい取り付けに対応できずに大混乱となり、十五人もの死者が出る事態となる。 激怒した七千人を超える人々が、担架に乗せた遺体と共にパレ・ロワイヤルの庭園までデモ行進し、ローやオルレアン公フィリップに惨状を見せつけようとした。ローが乗っていた馬車を破壊するなど、群衆の一部が暴徒化したことから軍隊が出動、オルレアン公フィリップが出てきて、遺体を責任を持って埋葬すると約束したことでようやく沈静化した。 バンク・ロワイアルの取り付けに合わせるように、ミシシッピ会社の信用も急速に失われ、株価の急落が始まった。少し前まではミシシッピ会社の株式を手に入れようと血眼になっていた人々は、大慌てで売り始め、本当に価値がある金貨や銀貨を手に入れようとしていた。 こうした状況を見たローは、驚きの株価対策を打ち出した。) ローが編み出した、驚きの株価対策とは何か。 パリにいた数千人ものホームレスを集め、シャベルなどの道具を持たせて港まで行進させたのだ。「ミシシッピに金が見つかりました。これから掘りに行きます!」と、ミシシッピ会社による開発計画が順調であることをアピールし、信用を取り戻そうとしたのである』、「一部の貴族たちが、銀行券をバンク・ロワイアルに持ち込んで、金貨や銀貨に交換をし始める。これを知った他の人々も不安心理に駆られ、我先にと銀行券を正貨に交換しようとした。「取り付け」が起こったのだ。しかし、バンク・ロワイアルが発行する銀行券は不換紙幣であり、その全てを正貨に交換することは到底できない。 一七二〇年七月、バンク・ロワイアルは、正貨への交換を求める人々の激しい取り付けに対応できずに大混乱となり、十五人もの死者が出る事態となる」、「バンク・ロワイアルの取り付けに合わせるように、ミシシッピ会社の信用も急速に失われ、株価の急落が始まった。少し前まではミシシッピ会社の株式を手に入れようと血眼になっていた人々は、大慌てで売り始め、本当に価値がある金貨や銀貨を手に入れようとしていた」、「ローが編み出した、驚きの株価対策とは何か。 パリにいた数千人ものホームレスを集め、シャベルなどの道具を持たせて港まで行進させたのだ。「ミシシッピに金が見つかりました。これから掘りに行きます!」と、ミシシッピ会社による開発計画が順調であることをアピールし、信用を取り戻そうとしたのである」、「ホームレスを」使って嘘をつくのは頂けない。
・『ホームレスを動員した“株価対策” ところが、ホームレスたちは途中で行進を止めて逃げだし、渡されていた道具は換金されてしまった。ローの弥縫(びほう)策はミシシッピ会社の惨状を物語るものであり、その信用は更に失われる事態となった。 ローはその後も様々な株価維持策を打ち出したが効果は全くなく、むしろ株価の下落を加速させてしまう。一七二〇年一月に最高値の一万八千リーブルをつけていたミシシッピ会社の株価は、十月には二千リーブルにまで大暴落し、株式市場は人々の阿鼻叫喚(あびきょうかん)で覆われた。バンク・ロワイアルの銀行券の信用も完全に失われ、誰も受け取ろうとはしなくなったため、経済取引は元の金貨と銀貨の取引に逆戻りしてしまう。ロー・システムは完全に崩壊し、フランス経済は未曾有(みぞう)の大混乱に陥ったのである。 このときの状況を風刺した詩が残されている。 月曜日には株を買い、 火曜日には大儲け。 水曜日には家財道具をそろえ、 木曜日には身なりを整えた。 金曜日には舞踏会、そして土曜日には病院行き』、「一七二〇年一月に最高値の一万八千リーブルをつけていたミシシッピ会社の株価は、十月には二千リーブルにまで大暴落し、株式市場は人々の阿鼻叫喚(あびきょうかん)で覆われた。バンク・ロワイアルの銀行券の信用も完全に失われ、誰も受け取ろうとはしなくなったため、経済取引は元の金貨と銀貨の取引に逆戻りしてしまう。ロー・システムは完全に崩壊し、フランス経済は未曾有(みぞう)の大混乱に陥った」、なるほど。
・『死刑を求める大衆を前に、国外逃亡 一七二〇年十二月、死刑を求める民衆の叫び声に生命の危険を感じたローは、命からがらパリを脱出する。財産の大半はフランス国内の不動産であったこともあり、持ち出すことはできなかった。ローの出国後、保有していた不動産などは全て没収され、残された妻子は年金証書まで取り上げられてしまったという。 再びお尋ね者となったローは、ベルギーのブリュッセル、ドイツのハノーバー、デンマークのコペンハーゲンなど、およそ八年もの間ヨーロッパ各地を転々とした。そして、たどり着いたヴェネチアで死を迎えたのだった。 その墓碑銘にはこう記されていた。 高名なるスコットランド人、ここに眠る。 計算高さでは天下一品、 訳の分からぬ法則で、フランスを病院へ送った。 人類史上初めてとなる金融緩和策を、「訳の分からぬ法則」と批判されたロー。失われた栄光を取り戻すことなく、フランス経済の破壊者という汚名を着せられたまま、生涯を終えることになってしまったのである』、「フランス経済の破壊者という汚名を着せられたまま、生涯を終えることになってしまった」、「フランス」も「ロー」に乗せられたとは不名誉なことだ。
・『リフレ政策の発明者、バブルに飲まれる ジョン・ローは驚くほど短期間にフランス経済を回復させた。ところが、その状態を維持できず、更に深い傷を負わせることになってしまう。その原因はローが自ら発明したリフレ政策の制御に失敗したことと、それによってバブルを発生させたことにある。 失敗の本質 ① デフレ対策が暴走(ローが打ち出した金融緩和政策は、大量の紙幣を発行して意図的にインフレを起こすリフレーション、いわゆる「リフレ政策」だ。 物価を建物の「室温」と考えるとインフレは「異常な高温」、デフレは「異常な低温」と考えられる。当時のフランスは深刻なデフレ状況にあり、冷え切った部屋で経済活動が鈍り、国民は凍死寸前に追い込まれていたのだ。 そこでローは、部屋を暖めるための政策を打ち出した。それがリフレ政策だ。バンク・ロワイアルを通じて、紙幣である銀行券を大量に発行し、それを燃料にした「たき火」を始めたのだ。売り出したミシシッピ会社の株価が急上昇、これに対応するための紙幣発行が増加したことで、火の勢いは更に強まる。ロー・システムを使ったリフレ政策によって、フランス経済の室温は瞬く間に上昇、見事にデフレを克服してみせたのだ』、「ジョン・ローは驚くほど短期間にフランス経済を回復させた。ところが、その状態を維持できず、更に深い傷を負わせることになってしまう。その原因はローが自ら発明したリフレ政策の制御に失敗したことと、それによってバブルを発生させたことにある」、なるほど。
・『ガルブレイズをもうならせた才能 ところが、ローはやり過ぎてしまう。デフレが克服された後もリフレ政策を継続した。これが必要以上の紙幣が供給される「過剰流動性」を招く。行き場を失った紙幣は、株式市場をはじめとした資産市場に流れ込み、ミシシッピ会社の株式を中心とした資産価格を押し上げてバブルを生み出したのだ。膨れ上がったバブルは遂に破裂して、経済は大混乱に陥ってしまう。部屋が十分に暖まったにもかかわらず、大量の燃料を供給し続けた結果、たき火がバブルとなって爆発し、フランス経済を炎上させてしまったのだ。 「ローがもしそこに留まっていたならば、彼は銀行業の歴史にささやかな貢献をしたという程度に記憶されただろう」と指摘するのは、経済学者ジョン・ガルブレイズ。 ローはデフレが解消された時点で「留まり」、リフレ政策を収束させるべきであったのだ。 人類史上初めてとなるリフレ政策を断行、フランス経済を立ち直らせたロー。しかし、その後は制御に失敗してバブルを生み出し、その崩壊が経済を破壊してしまった。これがローの失敗の第一の本質なのである。) 失敗の本質 ② 政治的圧力に負けてコントロールを失う(ジョン・ローのリフレ政策によってもたらされたミシシッピ会社の株価暴騰は「ミシシッピバブル」と呼ばれ、オランダの「チューリップバブル」、イギリスの「南海バブル」と並ぶ世界三大バブルの一つに数えられている。しかし、その規模と影響の大きさにおいて、ミシシッピバブルは、ずば抜けて巨大なバブルであったといえるだろう。 バブルは崩壊する運命にあることは、今でこそ多くの人が認識している。しかし、当時は「バブル」という言葉すらなかった時代であり、こうした知見も経験も乏しかった。人々は知らず知らずのうちに、バブルの熱狂の渦に巻き込まれてしまったのである』、「人類史上初めてとなるリフレ政策を断行、フランス経済を立ち直らせたロー。しかし、その後は制御に失敗してバブルを生み出し、その崩壊が経済を破壊してしまった。これがローの失敗の第一の本質なのである」、「ミシシッピ会社の株価暴騰は「ミシシッピバブル」と呼ばれ、オランダの「チューリップバブル」、イギリスの「南海バブル」と並ぶ世界三大バブルの一つに数えられている。しかし、その規模と影響の大きさにおいて、ミシシッピバブルは、ずば抜けて巨大なバブルであった」、なるほど。
・『危険を察知しても押し切られる ロー自身はその危険性を認識していた。ミシシッピ会社の株価上昇に危機感を持ったローは、株価抑制策を数度にわたって打ち出している。その一つが「プレミアム」の販売だ。株式を購入できない人のために、株式購入の権利だけを売るという現代のオプションに類似したデリバティブ商品で、株式の追加発行に代わる手段として販売したのだ。ところが「プレミアム」は、権利だけではあっても、わずかな金額で購入できることから、その価格は販売直後に二倍に跳ね上がり、結果的に株価の上昇に拍車をかけてしまった。 ローは紙幣を発行しすぎると、信用力が低下することも認識していた。設立当初のバンク・ロワイアルは、銀行券を保有している正貨の範囲に収める兌換(だかん)紙幣とすることで、発行の上限を設定していた。「紙幣を良質の硬貨で償還するのに十分な支払い準備を保有しない銀行家は死に値する」。そんな信念を語っていたというロー。これが守られていたからこそ、人々は紙切れにすぎないローの銀行券に資産価値を認めていたのだ。 もし、ローが兌換紙幣にこだわり続けていれば、過剰流動性が生まれることはなく、バブルが発生することも、銀行券の信用が失われることもなかっただろう。しかし、兌換紙幣に固執し続ければ、経済成長の足かせになることも事実であり、いずれは不換紙幣に移行せざるを得なくなる。 そこで重要になるのが紙幣発行量の調整、つまり金融政策だ。経済の成長に合わせて適切な紙幣の発行量を維持し、過剰流動性を生まないように金融政策を遂行していく。これを実現するためには、紙幣を発行する中央銀行の独立性が求められる。政府は景気対策や財源の確保などの目的から、紙幣の発行量を増やすことを求めてくることが多い。しかし、これに安易に応じると、過剰流動性が生まれて、インフレ、さらにはバブルを生み出す恐れがある。こうした事態を避けるために、中央銀行は確固とした独立性を持つことが必要となるのだ。 中央銀行総裁であったローは、この独立性を守ることができなかった――。 ここに第二の失敗の本質がある。) バンク・ロワイアルの成功に気をよくしていた政府は、ローに更なる銀行券の発行を迫った。ローはこの圧力に耐えきれず、不換紙幣に切り替えた上に、銀行券の大量発行に踏み切ってしまう。この結果、銀行券の信用力が失われると同時に、巨大なバブルが生み出されてしまったのである。 しかし、ローはリフレ政策や債務の株式化を発明した天才であったことは間違いない。優れた洞察力で知られる経済学者のジョセフ・シュンペーターも、「あらゆる時代の貨幣理論家のなかで、最上の貨幣理論を構築した人物である」と、ローに賛辞を贈る。また、新古典派経済学の基礎を築いた経済学者アルフレッド・マーシャルも、「向こう見ずで、並外れた、しかし最も魅力的な天才」と、ローを高く評価しているのだ。 リフレ政策という画期的な金融緩和策を編みだしたものの、そのコントロールに失敗して沈んでしまったジョン・ロー。あまりに惜しまれる天才の過ちであった。 ローが作り出した人類史上最大のバブルであるミシシッピバブルだが、人類は同じような失敗をその後何度も繰り返してきた。一九二九年の「暗黒の木曜日」で破裂したアメリカの株式バブルは、全世界を巻き込む大恐慌を招いた。その後もITバブルなど、人類は幾度もバブルを生み出し、その崩壊によって辛酸を嘗めてきた』、「政府は景気対策や財源の確保などの目的から、紙幣の発行量を増やすことを求めてくることが多い。しかし、これに安易に応じると、過剰流動性が生まれて、インフレ、さらにはバブルを生み出す恐れがある。こうした事態を避けるために、中央銀行は確固とした独立性を持つことが必要となるのだ。 中央銀行総裁であったローは、この独立性を守ることができなかった――。 ここに第二の失敗の本質がある」、「ローはリフレ政策や債務の株式化を発明した天才であったことは間違いない。優れた洞察力で知られる経済学者のジョセフ・シュンペーターも、「あらゆる時代の貨幣理論家のなかで、最上の貨幣理論を構築した人物である」と、ローに賛辞を贈る。また、新古典派経済学の基礎を築いた経済学者アルフレッド・マーシャルも、「向こう見ずで、並外れた、しかし最も魅力的な天才」と、ローを高く評価しているのだ」、確かに偉大な人物のようだ。
・『NTT株とミシシッピ会社の重なり 一九八〇年代後半、プラザ合意に伴う急激な円高による景気悪化に対応して、日本銀行は通貨供給量を急激に増やす金融緩和政策を展開した。あふれ出したマネーは、株式や不動産に流れ込み、価格を押し上げていった。その象徴が、政府が売り出したNTT株の株価暴騰だった。バンク・ロワイアルを日本銀行に、NTTをミシシッピ会社に置き換えれば、その構図が全く同じであったことが分かる。また、政府がNTT株式の売却代金を、歳入の足しにした点でも同じといえるだろう。 「バブルの恩恵を一番受けたのは誰だと思う? それは政府だよ」。こう語ったのは、筆者がテレビ局で記者をしていた時代に知り合った大蔵官僚だ。バブル景気のおかげで所得税や法人税、固定資産税などの税収が急増したことで、一九九一年度からの三年間は赤字国債の発行がゼロになっている。大蔵省がローと同じく、財政赤字削減のためにバブルを起こしたのかと疑いたくもなる。 ジョン・ローはギャンブルの天才であった。「儲けたい!」という人の心理を巧みに読み取り、確実に勝利をものにしてきたのだ。そのローが仕掛けたとてつもなく大きなギャンブルがロー・システムであり、ミシシッピバブルだったのかもしれない。デフレ不況が長引く日本では、ジョン・ローのようにリフレ政策からバブルを起こしてその解消を図るべきとの声もある。その理非はさておき、ジョン・ローの亡霊は、今も世界各地に出没し、人々の心を揺り動かしているのである。(参考文献は省略)』、「デフレ不況が長引く日本では、ジョン・ローのようにリフレ政策からバブルを起こしてその解消を図るべきとの声もある」、「ロー」は「制御」に失敗したが、現在の中央銀行システムは「制御」できると楽観的に捉えるリフレ派もいる。しかし、現在の金融政策の「制御」能力には限界があることを考慮すれば、慎重に考えるべきだろう。
先ずは、やや古いが、2019年5月9日付け日経ビジネスオンラインが掲載した元外国為替ディーラー・ジャーナリストの玉手 義朗氏による「脱獄犯から財務大臣に! 天才ギャンブラーの末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19nv/00046/050700009/
・『脱獄したお尋ね者が、なんとフランス財務大臣に! 驚きの成り上がり人生を歩んだギャンブルの達人、ジョン・ロー。しかし、自ら生み出した世界最大級のバブルが弾けた後、流浪の末に無一文で死を迎える――。経済学の巨人シュンペーターが絶賛し、ガルブレイズをもうならせた奇才の、鮮やかすぎる経済理論と転落劇。 一七二九年三月二十一日、男はイタリア・ヴェネチアで五十八年の生涯を終えた。 男はかつてフランスの「財務大臣」と「中央銀行総裁」、そして巨大国営企業のトップを兼任する経済界の支配者だった。パリ中心部にあるヴァンドーム広場の三分の一は男のもので、この他にも数多くの不動産を保有する大金持ちでもあった。 我が世の春を謳歌していた男だったが、ある日突然にフランスを追われ、放浪の末にヴェネチアにたどり着いた。死期が迫る中、男は遺言状を作るようにと促された。しかし、「自分の財産は全てフランスにあって、債権者に差し押さえられている。遺言状を作っても無意味だ」と語ったという。 男の名前はジョン・ロー(John Law)。 その経済政策は窮地にあったフランス経済を劇的に回復させると同時に、数多くの大金持ちを生み出した。「ミリオネア」という言葉が誕生したのもこのときで、ローの経済政策の恩恵を受けて、大金持ちになった人々を呼ぶためのものだった。後にこの男は、経済学者シュンペーターから賛辞を受け、ガルブレイズをもうならせることになる』、「ジョン・ロー」は「かつてフランスの「財務大臣」と「中央銀行総裁」、そして巨大国営企業のトップを兼任する経済界の支配者だった。パリ中心部にあるヴァンドーム広場の三分の一は男のもので、この他にも数多くの不動産を保有する大金持ちでもあった。 我が世の春を謳歌していた男だったが、ある日突然にフランスを追われ、放浪の末にヴェネチアにたどり着いた」、なるほど。「ミリオネア」という言葉が誕生したのもこのときで、ローの経済政策の恩恵を受けて、大金持ちになった人々を呼ぶためのものだった」、「ミリオネア」の語源を初めて知った。
・『世界初の「ミリオネア」 しかし、ローとミリオネアたち、そしてフランス国民も突如として奈落の底に突き落とされる。ミリオネアたちは全財産を失い、経済は大混乱に陥り、非難の的となったローはフランスを逃げ出したのであった。 ミリオネアを生んだ経済政策とは何なのか。なぜ、人々は奈落の底に落とされることになったのか。一度はフランス経済を支配し、巨万の富を獲得した男は、どのような失敗を犯して、一文無しで生涯を終えることになったのだろう。) 一六七一年四月二十一日、ローはイギリス(スコットランド)・エディンバラの裕福な金匠(Goldsmith Banker:金を扱う金融機関の一種)の家に生まれた。 中等学校に入る直前に父親は他界するが、ローは巨額の遺産を相続し、ロンドンに出て放蕩三昧の生活を始める。長身で端正なマスク、愛想が良くて会話も知的だったローは、上流階級の貴婦人たちと浮き名を流す一方で、ギャンブルに興じる日々を送った。 しかし、程なくしてローはギャンブルに大負けして破産してしまう。更に一六九四年四月、ローは女性を巡ってある男と決闘して刺し殺してしまった。殺人罪で死刑判決を受けたロー。人生もこれで終わり……と思われたが、ローは仲間の手助けを受けて脱獄に成功する。看守を薬で眠らせ、密かに持ち込んだノコギリで窓の鉄格子を切断し、窓から飛び降りて待機させていた馬車に飛び乗って、逃げ去ったという。(*1)』、「ローは女性を巡ってある男と決闘して刺し殺してしまった。殺人罪で死刑判決を受けたロー。人生もこれで終わり……と思われたが、ローは仲間の手助けを受けて脱獄に成功する」、血の気が多かったようだ。
・『「お尋ね者」が一転、「気鋭の経済学者」に 「キャプテン・ジョン・ロー、スコットランド人、殺人の罪で最近まで当王座裁判所の監獄に収容中の囚人。年齢二六歳。背が非常に高く色黒、やせぎすで姿勢よき男……この者当監獄より脱走。右の男を捕らえて当監獄に引き渡す者に対して、即刻五十ポンドの賞金を与える」 各地に配られた手配書をあざ笑うかのように、「お尋ね者ロー」は完全に姿を消してしまう。 それから二十年が経過した一七一四年、ローは突如としてフランス・パリに現れた。「お尋ね者」ではなく、大金持ちで、フランス政府が信頼を寄せる気鋭の経済学者としてだ。 ローは逃亡生活の間に、独自の確率論を駆使したギャンブル勝利法を会得し、各地の賭博場を渡り歩いて大儲けしたという。その経験と理論を基に、言葉巧みにフランス政府に、独自の経済政策を売り込んだのだ。 時のフランスはルイ十五世が王位を引き継いだばかり。政府は度重なる戦争と王室の浪費で財政難に喘ぎ、経済は深刻な不況に陥っていた。ところがローは、この危機的な状況を改善する経済政策があると、ルイ十五世の摂政だったオルレアン公フィリップに持ちかけたのだ。) ローはフランス経済が「デフレ状態」にあると考えていた。当時のフランスの貨幣システムは、政府の管理下にある正貨(金貨と銀貨)を使ったもの。政府が財政難になれば、貨幣の流通量が減少する。これによって物価が下落し、収益の悪化から消費が低迷し、これが景気を悪化させて所得が減少し、更なる物価下落と消費の低迷を生む。当時のフランスは、典型的なデフレ不況に陥っていたのである。 デフレ対策には、どんどん紙幣を刷って貨幣供給量を増やす金融緩和政策があることは、今なら誰でも知っているだろう。ところが、当時のフランスには紙幣が存在していなかった。あるのは自由に増やすことができない正貨だけであり、金融緩和政策の概念すらなかったのである。 では、どうすればよいのか。ローの答えは簡単だった。 紙幣を発行すればいい』、「「ローは逃亡生活の間に、独自の確率論を駆使したギャンブル勝利法を会得し、各地の賭博場を渡り歩いて大儲けしたという。その経験と理論を基に、言葉巧みにフランス政府に、独自の経済政策を売り込んだのだ。 時のフランスはルイ十五世が王位を引き継いだばかり。政府は度重なる戦争と王室の浪費で財政難に喘ぎ、経済は深刻な不況に陥っていた。ところがローは、この危機的な状況を改善する経済政策があると、ルイ十五世の摂政だったオルレアン公フィリップに持ちかけたのだ。) ローはフランス経済が「デフレ状態」にあると考えていた。当時のフランスの貨幣システムは、政府の管理下にある正貨(金貨と銀貨)を使ったもの。政府が財政難になれば、貨幣の流通量が減少する。これによって物価が下落し、収益の悪化から消費が低迷し、これが景気を悪化させて所得が減少し、更なる物価下落と消費の低迷を生む。当時のフランスは、典型的なデフレ不況に陥っていたのである」、「当時のフランスには紙幣が存在していなかった。あるのは自由に増やすことができない正貨だけであり、金融緩和政策の概念すらなかったのである。 では、どうすればよいのか。ローの答えは簡単だった。 紙幣を発行すればいい」、なるほど。
・『お金がないなら、刷ればいい ローは摂政オルレアン公フィリップから、紙幣となる銀行券が発行できる「バンク・ジェネラル」の設立許可を得た。 この銀行はローが保有していた正貨を元手に設立されたもの。バンク・ジェネラルが発行する銀行券は、求められればいつでも正貨に戻すことが約束された「兌換(だかん)紙幣」だったため、高い信用力を得ることができた。更にローは政府に働きかけて、この銀行券で納税が可能になるようにし、貿易取引の決済にも使えるようにした。 度重なる改鋳で金や銀の含有量が低下し、価値が低下していた正貨に嫌気がさしていた人々は、使い勝手の良いローの銀行券を大歓迎した。 一七一六年五月に設立されたバンク・ジェネラルが発行する銀行券は瞬く間に普及し、これによって貨幣供給量が大幅に増加する。フランス経済を苦しめていたデフレは解消に向かい、景気は驚異的な回復を見せた。 ローは「金融緩和策の発明者」であり、人類史上初めてこれを実施して、フランス経済を救った「天才」だったのだ。 絶大な信頼を勝ち取ったバンク・ジェネラルは、一七一八年に国有化され、「バンク・ロワイアル」となる。 「お尋ね者」だったローは、自らの手で「中央銀行」を創設して「総裁」に就任したというわけだ。 しかし、ローの金融緩和策には限界があった。) ローの金融緩和策の限界とは何か。銀行券が兌換紙幣であったため、保有している正貨以上の発行ができなかったのだ。 そこでローは次のステップへ踏み出す。 ローは銀行券を正貨の交換を保証しない「不換紙幣」に変えたのだ。これによってバンク・ロワイアルは、正貨保有量に関係なく、好きなだけ銀行券を発行できるようになる。 正貨という後ろ盾を失ったものの、バンク・ロワイアルが発行する銀行券の信用力が揺らぐことはなかった。銀行券が更に発行されたことで金融緩和策が強化され、フランス経済はより一層の好景気に沸き立つことになる』、「ローは「金融緩和策の発明者」であり、人類史上初めてこれを実施して、フランス経済を救った「天才」だったのだ。 絶大な信頼を勝ち取ったバンク・ジェネラルは、一七一八年に国有化され、「バンク・ロワイアル」となる。 「お尋ね者」だったローは、自らの手で「中央銀行」を創設して「総裁」に就任したというわけだ」、「ローは銀行券を正貨の交換を保証しない「不換紙幣」に変えたのだ。これによってバンク・ロワイアルは、正貨保有量に関係なく、好きなだけ銀行券を発行できるようになる。 正貨という後ろ盾を失ったものの、バンク・ロワイアルが発行する銀行券の信用力が揺らぐことはなかった。銀行券が更に発行されたことで金融緩和策が強化され、フランス経済はより一層の好景気に沸き立つことになる」、なるほど。
・『バブルがやってきた ローは膨大な財政赤字の削減にも取り組んだ。「ミシシッピ会社」という国営企業を創設、その株式を売り出すことで財政赤字を埋めようと考えたのだ。(*2) ローは政府に働きかけて、当時のフランスが所有していた、ミシシッピを中心とするアメリカ植民地の開発や貿易の権利をこの会社に集約した。目玉の事業は「金の採掘」。ミシシッピには金鉱があり、株式を購入した人には大きな利益がもたらされると宣伝したのだ。 更にローは、ミシシッピ会社の株式を購入しやすくするために、購入代金を国債で支払えるようにした。 これは現代の「債務の株式化」(Debt Equity Swap)の原型となる手法だ。銀行などが保有する貸出債権を、その会社の株式と交換することによって借金の負担を軽減し、経営再建を進めやすくする。 債務の株式化が、日本で本格化するのは二十一世紀に入ってからのこと。ダイエーやシャープなど、巨大企業の経営再建で適用されるようになった高度な手法だ。 現代の最先端の再建手法を先取りするようなアイデアを考案し、財政赤字で苦しんでいたフランス政府に適用したロー。ミシシッピ会社の株式が売れれば売れるほど、政府の財政赤字は減少していくという妙案だったのだ。 売り出されたミシシッピ会社の株式は、投資家の大きな人気を集めた。当時の国債は返済されるはずなどないという思惑から、額面五百リーブルの国債が、百五十~百六十リーブル程度の安値で取引されていた。そこでローは、ミシシッピ会社の株式を国債で購入する場合には、額面の五百リーブルで引き取るとしたのだ。 ここからバブルが発生する。) 「価値の下がった国債で、金鉱を持つミシシッピ会社の株式が買える! しかも額面価格で!」と投資家は大喜び。額面五百リーブルだったミシシッピ会社の株価は、一七一九年の十二月には一万リーブルを突破する大暴騰を演じる。 ミシシッピ会社の株式を買ったことで、一夜にして大金持ちになった人が続出する。「ミリオネア」と呼ばれるようになった彼らは、儲けたお金を不動産や宝石、貴金属などへ投資したため、それらの価格も三倍、四倍と跳ね上がった。 ミリオネアになりたいと押し寄せた人々で、ミシシッピ会社の株式が売買されていたカンカンポア通りは、連日大混雑となった。周辺のアパート家賃は跳ね上がり、靴店は店内で椅子や筆記用具を提供する「貸しオフィス」で大儲け、猫背だった男は背中を机代わりに使わせるだけで稼ぐことができたという。 ミシシッピ会社の株価暴騰に呼応する形で、銀行券の発行も急増していった。これが株式市場へ流れ込んだ結果、更なる株価上昇を生み、銀行券の増発を招くというスパイラルを生み出す』、「額面五百リーブルの国債が、百五十~百六十リーブル程度の安値で取引されていた。そこでローは、ミシシッピ会社の株式を国債で購入する場合には、額面の五百リーブルで引き取るとしたのだ。 ここからバブルが発生する。 「価値の下がった国債で、金鉱を持つミシシッピ会社の株式が買える! しかも額面価格で!」と投資家は大喜び。額面五百リーブルだったミシシッピ会社の株価は、一七一九年の十二月には一万リーブルを突破する大暴騰を演じる」、なるほど。
・『株式バブルで、財政再建! その一方で、ミシシッピ会社の株式が飛ぶように売れたことから、政府の財政赤字も激減していった。「ロー・システム」と呼ばれた「中央銀行」と「巨大国営企業」のコラボレーションであった。 ミシシッピ会社は明らかに過大評価されていたが、株価暴騰に浮かれていた人々にとっては、どうでもよいことだったのだ。 景気回復と財政赤字削減を成し遂げたローは、一七二〇年一月に財務総監に任命される。首相の地位に匹敵する要職だった。「財務大臣」、「中央銀行総裁」、そして巨大国営会社ミシシッピ会社のトップを兼任する「経済界の巨人」が誕生したのだ。 各地に広大な地所を所有するなど、ローの個人資産も膨れ上がった。貴族の称号を与えられたローは、その端正な姿と相まって社交界の花形となる。「お尋ね者」として追われていた男が、流れ着いたフランスで銀行を設立してから、わずか三年でつかんだ栄光であった。 ロー・システムがもたらした華々しい成果に政府は狂喜し、フランスは諸外国の羨望の的となった。しかし、その成果はバブルがもたらした一時的なものであり、その崩壊は驚くほど早く始まるのである。 次回は後編。ローが生み出した「ミシシッピバブル」のあっけなくも、騒々しい幕切れ。さらに、ローが発明した「リフレ政策」の功罪を考察する。 *1 ジョン・ローの決闘のエピソードは、創作であるとする説もある *2 ミシシッピ会社の正式名称は「西方会社」。のちに「インド会社」となる(参考文献の紹介は省略)』、「景気回復と財政赤字削減を成し遂げたローは、一七二〇年一月に財務総監に任命される。首相の地位に匹敵する要職だった。「財務大臣」、「中央銀行総裁」、そして巨大国営会社ミシシッピ会社のトップを兼任する「経済界の巨人」が誕生したのだ。 各地に広大な地所を所有するなど、ローの個人資産も膨れ上がった。貴族の称号を与えられたローは、その端正な姿と相まって社交界の花形となる。「お尋ね者」として追われていた男が、流れ着いたフランスで銀行を設立してから、わずか三年でつかんだ栄光であった」、「ロー・システムがもたらした華々しい成果に政府は狂喜し、フランスは諸外国の羨望の的となった。しかし、その成果はバブルがもたらした一時的なものであり、その崩壊は驚くほど早く始まるのである」、次回の「崩壊」の姿が楽しみだ。
次に、この続きを2019年5月10日付け日経ビジネスオンラインが掲載した元外国為替ディーラー・ジャーナリストの玉手 義朗氏による「シュンペーターも絶賛!「脱獄した天才経済学者」の末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19nv/00046/050700010/
・『お尋ね者の脱獄犯から、フランス財務大臣と中央銀行総裁を兼任するまで成り上がった、ジョン・ロー(詳しくは、前回を参照)。経済学の巨人シュンペーターも絶賛した奇才は、いかにして破滅したのか。 ギャンブルで荒稼ぎしたローには、天性の経済学的センスがあり、冷え切ったフランス経済をバブルの熱狂に導いた。だが、その末路は――。 18世紀を鮮やかに彩った「ミシシッピバブル」と、昭和の「NTT株」をめぐる狂騒が重なる。 十八世紀のフランスで、今でいう「リフレ政策」を展開したロー。紙幣をどんどん発行することでデフレ不況を克服し、国営企業ミシシッピ会社の株式売却で、国家財政の赤字を削減すると同時に、景気をさらに浮揚させた。 ローが編み出した金融緩和策「ロー・システム」がもたらした華々しい成果に政府は狂喜し、フランスは諸外国の羨望の的となった。しかし、その成果はバブルがもたらした一時的なものであり、その崩壊は驚くほど早く始まるのである』、「バブル」の「崩壊」とは興味深そうだ。
・『「素朴な疑問」が、崩壊の始まり 「ローの銀行券って、本当に信用できるの?」 「いざとなったら、本当に金貨か銀貨に換えてもらえるの?」 「ミシシッピ会社って、何をする会社なんだっけ?」 「金を採掘するって言っていたけど、金は出たんだっけ?」 ロー・システムの崩壊は、こうした素朴な疑問から始まった。 一部の貴族たちが、銀行券をバンク・ロワイアルに持ち込んで、金貨や銀貨に交換をし始める。これを知った他の人々も不安心理に駆られ、我先にと銀行券を正貨に交換しようとした。「取り付け」が起こったのだ。しかし、バンク・ロワイアルが発行する銀行券は不換紙幣であり、その全てを正貨に交換することは到底できない。 一七二〇年七月、バンク・ロワイアルは、正貨への交換を求める人々の激しい取り付けに対応できずに大混乱となり、十五人もの死者が出る事態となる。 激怒した七千人を超える人々が、担架に乗せた遺体と共にパレ・ロワイヤルの庭園までデモ行進し、ローやオルレアン公フィリップに惨状を見せつけようとした。ローが乗っていた馬車を破壊するなど、群衆の一部が暴徒化したことから軍隊が出動、オルレアン公フィリップが出てきて、遺体を責任を持って埋葬すると約束したことでようやく沈静化した。 バンク・ロワイアルの取り付けに合わせるように、ミシシッピ会社の信用も急速に失われ、株価の急落が始まった。少し前まではミシシッピ会社の株式を手に入れようと血眼になっていた人々は、大慌てで売り始め、本当に価値がある金貨や銀貨を手に入れようとしていた。 こうした状況を見たローは、驚きの株価対策を打ち出した。) ローが編み出した、驚きの株価対策とは何か。 パリにいた数千人ものホームレスを集め、シャベルなどの道具を持たせて港まで行進させたのだ。「ミシシッピに金が見つかりました。これから掘りに行きます!」と、ミシシッピ会社による開発計画が順調であることをアピールし、信用を取り戻そうとしたのである』、「一部の貴族たちが、銀行券をバンク・ロワイアルに持ち込んで、金貨や銀貨に交換をし始める。これを知った他の人々も不安心理に駆られ、我先にと銀行券を正貨に交換しようとした。「取り付け」が起こったのだ。しかし、バンク・ロワイアルが発行する銀行券は不換紙幣であり、その全てを正貨に交換することは到底できない。 一七二〇年七月、バンク・ロワイアルは、正貨への交換を求める人々の激しい取り付けに対応できずに大混乱となり、十五人もの死者が出る事態となる」、「バンク・ロワイアルの取り付けに合わせるように、ミシシッピ会社の信用も急速に失われ、株価の急落が始まった。少し前まではミシシッピ会社の株式を手に入れようと血眼になっていた人々は、大慌てで売り始め、本当に価値がある金貨や銀貨を手に入れようとしていた」、「ローが編み出した、驚きの株価対策とは何か。 パリにいた数千人ものホームレスを集め、シャベルなどの道具を持たせて港まで行進させたのだ。「ミシシッピに金が見つかりました。これから掘りに行きます!」と、ミシシッピ会社による開発計画が順調であることをアピールし、信用を取り戻そうとしたのである」、「ホームレスを」使って嘘をつくのは頂けない。
・『ホームレスを動員した“株価対策” ところが、ホームレスたちは途中で行進を止めて逃げだし、渡されていた道具は換金されてしまった。ローの弥縫(びほう)策はミシシッピ会社の惨状を物語るものであり、その信用は更に失われる事態となった。 ローはその後も様々な株価維持策を打ち出したが効果は全くなく、むしろ株価の下落を加速させてしまう。一七二〇年一月に最高値の一万八千リーブルをつけていたミシシッピ会社の株価は、十月には二千リーブルにまで大暴落し、株式市場は人々の阿鼻叫喚(あびきょうかん)で覆われた。バンク・ロワイアルの銀行券の信用も完全に失われ、誰も受け取ろうとはしなくなったため、経済取引は元の金貨と銀貨の取引に逆戻りしてしまう。ロー・システムは完全に崩壊し、フランス経済は未曾有(みぞう)の大混乱に陥ったのである。 このときの状況を風刺した詩が残されている。 月曜日には株を買い、 火曜日には大儲け。 水曜日には家財道具をそろえ、 木曜日には身なりを整えた。 金曜日には舞踏会、そして土曜日には病院行き』、「一七二〇年一月に最高値の一万八千リーブルをつけていたミシシッピ会社の株価は、十月には二千リーブルにまで大暴落し、株式市場は人々の阿鼻叫喚(あびきょうかん)で覆われた。バンク・ロワイアルの銀行券の信用も完全に失われ、誰も受け取ろうとはしなくなったため、経済取引は元の金貨と銀貨の取引に逆戻りしてしまう。ロー・システムは完全に崩壊し、フランス経済は未曾有(みぞう)の大混乱に陥った」、なるほど。
・『死刑を求める大衆を前に、国外逃亡 一七二〇年十二月、死刑を求める民衆の叫び声に生命の危険を感じたローは、命からがらパリを脱出する。財産の大半はフランス国内の不動産であったこともあり、持ち出すことはできなかった。ローの出国後、保有していた不動産などは全て没収され、残された妻子は年金証書まで取り上げられてしまったという。 再びお尋ね者となったローは、ベルギーのブリュッセル、ドイツのハノーバー、デンマークのコペンハーゲンなど、およそ八年もの間ヨーロッパ各地を転々とした。そして、たどり着いたヴェネチアで死を迎えたのだった。 その墓碑銘にはこう記されていた。 高名なるスコットランド人、ここに眠る。 計算高さでは天下一品、 訳の分からぬ法則で、フランスを病院へ送った。 人類史上初めてとなる金融緩和策を、「訳の分からぬ法則」と批判されたロー。失われた栄光を取り戻すことなく、フランス経済の破壊者という汚名を着せられたまま、生涯を終えることになってしまったのである』、「フランス経済の破壊者という汚名を着せられたまま、生涯を終えることになってしまった」、「フランス」も「ロー」に乗せられたとは不名誉なことだ。
・『リフレ政策の発明者、バブルに飲まれる ジョン・ローは驚くほど短期間にフランス経済を回復させた。ところが、その状態を維持できず、更に深い傷を負わせることになってしまう。その原因はローが自ら発明したリフレ政策の制御に失敗したことと、それによってバブルを発生させたことにある。 失敗の本質 ① デフレ対策が暴走(ローが打ち出した金融緩和政策は、大量の紙幣を発行して意図的にインフレを起こすリフレーション、いわゆる「リフレ政策」だ。 物価を建物の「室温」と考えるとインフレは「異常な高温」、デフレは「異常な低温」と考えられる。当時のフランスは深刻なデフレ状況にあり、冷え切った部屋で経済活動が鈍り、国民は凍死寸前に追い込まれていたのだ。 そこでローは、部屋を暖めるための政策を打ち出した。それがリフレ政策だ。バンク・ロワイアルを通じて、紙幣である銀行券を大量に発行し、それを燃料にした「たき火」を始めたのだ。売り出したミシシッピ会社の株価が急上昇、これに対応するための紙幣発行が増加したことで、火の勢いは更に強まる。ロー・システムを使ったリフレ政策によって、フランス経済の室温は瞬く間に上昇、見事にデフレを克服してみせたのだ』、「ジョン・ローは驚くほど短期間にフランス経済を回復させた。ところが、その状態を維持できず、更に深い傷を負わせることになってしまう。その原因はローが自ら発明したリフレ政策の制御に失敗したことと、それによってバブルを発生させたことにある」、なるほど。
・『ガルブレイズをもうならせた才能 ところが、ローはやり過ぎてしまう。デフレが克服された後もリフレ政策を継続した。これが必要以上の紙幣が供給される「過剰流動性」を招く。行き場を失った紙幣は、株式市場をはじめとした資産市場に流れ込み、ミシシッピ会社の株式を中心とした資産価格を押し上げてバブルを生み出したのだ。膨れ上がったバブルは遂に破裂して、経済は大混乱に陥ってしまう。部屋が十分に暖まったにもかかわらず、大量の燃料を供給し続けた結果、たき火がバブルとなって爆発し、フランス経済を炎上させてしまったのだ。 「ローがもしそこに留まっていたならば、彼は銀行業の歴史にささやかな貢献をしたという程度に記憶されただろう」と指摘するのは、経済学者ジョン・ガルブレイズ。 ローはデフレが解消された時点で「留まり」、リフレ政策を収束させるべきであったのだ。 人類史上初めてとなるリフレ政策を断行、フランス経済を立ち直らせたロー。しかし、その後は制御に失敗してバブルを生み出し、その崩壊が経済を破壊してしまった。これがローの失敗の第一の本質なのである。) 失敗の本質 ② 政治的圧力に負けてコントロールを失う(ジョン・ローのリフレ政策によってもたらされたミシシッピ会社の株価暴騰は「ミシシッピバブル」と呼ばれ、オランダの「チューリップバブル」、イギリスの「南海バブル」と並ぶ世界三大バブルの一つに数えられている。しかし、その規模と影響の大きさにおいて、ミシシッピバブルは、ずば抜けて巨大なバブルであったといえるだろう。 バブルは崩壊する運命にあることは、今でこそ多くの人が認識している。しかし、当時は「バブル」という言葉すらなかった時代であり、こうした知見も経験も乏しかった。人々は知らず知らずのうちに、バブルの熱狂の渦に巻き込まれてしまったのである』、「人類史上初めてとなるリフレ政策を断行、フランス経済を立ち直らせたロー。しかし、その後は制御に失敗してバブルを生み出し、その崩壊が経済を破壊してしまった。これがローの失敗の第一の本質なのである」、「ミシシッピ会社の株価暴騰は「ミシシッピバブル」と呼ばれ、オランダの「チューリップバブル」、イギリスの「南海バブル」と並ぶ世界三大バブルの一つに数えられている。しかし、その規模と影響の大きさにおいて、ミシシッピバブルは、ずば抜けて巨大なバブルであった」、なるほど。
・『危険を察知しても押し切られる ロー自身はその危険性を認識していた。ミシシッピ会社の株価上昇に危機感を持ったローは、株価抑制策を数度にわたって打ち出している。その一つが「プレミアム」の販売だ。株式を購入できない人のために、株式購入の権利だけを売るという現代のオプションに類似したデリバティブ商品で、株式の追加発行に代わる手段として販売したのだ。ところが「プレミアム」は、権利だけではあっても、わずかな金額で購入できることから、その価格は販売直後に二倍に跳ね上がり、結果的に株価の上昇に拍車をかけてしまった。 ローは紙幣を発行しすぎると、信用力が低下することも認識していた。設立当初のバンク・ロワイアルは、銀行券を保有している正貨の範囲に収める兌換(だかん)紙幣とすることで、発行の上限を設定していた。「紙幣を良質の硬貨で償還するのに十分な支払い準備を保有しない銀行家は死に値する」。そんな信念を語っていたというロー。これが守られていたからこそ、人々は紙切れにすぎないローの銀行券に資産価値を認めていたのだ。 もし、ローが兌換紙幣にこだわり続けていれば、過剰流動性が生まれることはなく、バブルが発生することも、銀行券の信用が失われることもなかっただろう。しかし、兌換紙幣に固執し続ければ、経済成長の足かせになることも事実であり、いずれは不換紙幣に移行せざるを得なくなる。 そこで重要になるのが紙幣発行量の調整、つまり金融政策だ。経済の成長に合わせて適切な紙幣の発行量を維持し、過剰流動性を生まないように金融政策を遂行していく。これを実現するためには、紙幣を発行する中央銀行の独立性が求められる。政府は景気対策や財源の確保などの目的から、紙幣の発行量を増やすことを求めてくることが多い。しかし、これに安易に応じると、過剰流動性が生まれて、インフレ、さらにはバブルを生み出す恐れがある。こうした事態を避けるために、中央銀行は確固とした独立性を持つことが必要となるのだ。 中央銀行総裁であったローは、この独立性を守ることができなかった――。 ここに第二の失敗の本質がある。) バンク・ロワイアルの成功に気をよくしていた政府は、ローに更なる銀行券の発行を迫った。ローはこの圧力に耐えきれず、不換紙幣に切り替えた上に、銀行券の大量発行に踏み切ってしまう。この結果、銀行券の信用力が失われると同時に、巨大なバブルが生み出されてしまったのである。 しかし、ローはリフレ政策や債務の株式化を発明した天才であったことは間違いない。優れた洞察力で知られる経済学者のジョセフ・シュンペーターも、「あらゆる時代の貨幣理論家のなかで、最上の貨幣理論を構築した人物である」と、ローに賛辞を贈る。また、新古典派経済学の基礎を築いた経済学者アルフレッド・マーシャルも、「向こう見ずで、並外れた、しかし最も魅力的な天才」と、ローを高く評価しているのだ。 リフレ政策という画期的な金融緩和策を編みだしたものの、そのコントロールに失敗して沈んでしまったジョン・ロー。あまりに惜しまれる天才の過ちであった。 ローが作り出した人類史上最大のバブルであるミシシッピバブルだが、人類は同じような失敗をその後何度も繰り返してきた。一九二九年の「暗黒の木曜日」で破裂したアメリカの株式バブルは、全世界を巻き込む大恐慌を招いた。その後もITバブルなど、人類は幾度もバブルを生み出し、その崩壊によって辛酸を嘗めてきた』、「政府は景気対策や財源の確保などの目的から、紙幣の発行量を増やすことを求めてくることが多い。しかし、これに安易に応じると、過剰流動性が生まれて、インフレ、さらにはバブルを生み出す恐れがある。こうした事態を避けるために、中央銀行は確固とした独立性を持つことが必要となるのだ。 中央銀行総裁であったローは、この独立性を守ることができなかった――。 ここに第二の失敗の本質がある」、「ローはリフレ政策や債務の株式化を発明した天才であったことは間違いない。優れた洞察力で知られる経済学者のジョセフ・シュンペーターも、「あらゆる時代の貨幣理論家のなかで、最上の貨幣理論を構築した人物である」と、ローに賛辞を贈る。また、新古典派経済学の基礎を築いた経済学者アルフレッド・マーシャルも、「向こう見ずで、並外れた、しかし最も魅力的な天才」と、ローを高く評価しているのだ」、確かに偉大な人物のようだ。
・『NTT株とミシシッピ会社の重なり 一九八〇年代後半、プラザ合意に伴う急激な円高による景気悪化に対応して、日本銀行は通貨供給量を急激に増やす金融緩和政策を展開した。あふれ出したマネーは、株式や不動産に流れ込み、価格を押し上げていった。その象徴が、政府が売り出したNTT株の株価暴騰だった。バンク・ロワイアルを日本銀行に、NTTをミシシッピ会社に置き換えれば、その構図が全く同じであったことが分かる。また、政府がNTT株式の売却代金を、歳入の足しにした点でも同じといえるだろう。 「バブルの恩恵を一番受けたのは誰だと思う? それは政府だよ」。こう語ったのは、筆者がテレビ局で記者をしていた時代に知り合った大蔵官僚だ。バブル景気のおかげで所得税や法人税、固定資産税などの税収が急増したことで、一九九一年度からの三年間は赤字国債の発行がゼロになっている。大蔵省がローと同じく、財政赤字削減のためにバブルを起こしたのかと疑いたくもなる。 ジョン・ローはギャンブルの天才であった。「儲けたい!」という人の心理を巧みに読み取り、確実に勝利をものにしてきたのだ。そのローが仕掛けたとてつもなく大きなギャンブルがロー・システムであり、ミシシッピバブルだったのかもしれない。デフレ不況が長引く日本では、ジョン・ローのようにリフレ政策からバブルを起こしてその解消を図るべきとの声もある。その理非はさておき、ジョン・ローの亡霊は、今も世界各地に出没し、人々の心を揺り動かしているのである。(参考文献は省略)』、「デフレ不況が長引く日本では、ジョン・ローのようにリフレ政策からバブルを起こしてその解消を図るべきとの声もある」、「ロー」は「制御」に失敗したが、現在の中央銀行システムは「制御」できると楽観的に捉えるリフレ派もいる。しかし、現在の金融政策の「制御」能力には限界があることを考慮すれば、慎重に考えるべきだろう。
タグ:玉手 義朗氏による「脱獄犯から財務大臣に! 天才ギャンブラーの末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折」 日経ビジネスオンライン バブル(歴史、一般) (その1)脱獄犯から財務大臣に! 天才ギャンブラーの末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折、シュンペーターも絶賛!「脱獄した天才経済学者」の末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折) 「ジョン・ロー」は「かつてフランスの「財務大臣」と「中央銀行総裁」、そして巨大国営企業のトップを兼任する経済界の支配者だった。パリ中心部にあるヴァンドーム広場の三分の一は男のもので、この他にも数多くの不動産を保有する大金持ちでもあった。 我が世の春を謳歌していた男だったが、ある日突然にフランスを追われ、放浪の末にヴェネチアにたどり着いた」、なるほど。 「ミリオネア」という言葉が誕生したのもこのときで、ローの経済政策の恩恵を受けて、大金持ちになった人々を呼ぶためのものだった」、「ミリオネア」の語源を初めて知った。 「ローは女性を巡ってある男と決闘して刺し殺してしまった。殺人罪で死刑判決を受けたロー。人生もこれで終わり……と思われたが、ローは仲間の手助けを受けて脱獄に成功する」、血の気が多かったようだ。 「「ローは逃亡生活の間に、独自の確率論を駆使したギャンブル勝利法を会得し、各地の賭博場を渡り歩いて大儲けしたという。その経験と理論を基に、言葉巧みにフランス政府に、独自の経済政策を売り込んだのだ。 時のフランスはルイ十五世が王位を引き継いだばかり。政府は度重なる戦争と王室の浪費で財政難に喘ぎ、経済は深刻な不況に陥っていた。ところがローは、この危機的な状況を改善する経済政策があると、ルイ十五世の摂政だったオルレアン公フィリップに持ちかけたのだ。) ローはフランス経済が「デフレ状態」にあると考えていた。当時のフランスの貨幣システムは、政府の管理下にある正貨(金貨と銀貨)を使ったもの。政府が財政難になれば、貨幣の流通量が減少する。これによって物価が下落し、収益の悪化から消費が低迷し、これが景気を悪化させて所得が減少し、更なる物価下落と消費の低迷を生む。当時のフランスは、典型的なデフレ不況に陥っていたのである」、「当時のフランスには紙幣が存在していなかった。あるのは自由に増やすことができない正貨だけであり、金融緩和政策の概念すらなかったのである。 では、 どうすればよいのか。ローの答えは簡単だった。 紙幣を発行すればいい」、なるほど。 「ローは「金融緩和策の発明者」であり、人類史上初めてこれを実施して、フランス経済を救った「天才」だったのだ。 絶大な信頼を勝ち取ったバンク・ジェネラルは、一七一八年に国有化され、「バンク・ロワイアル」となる。 「お尋ね者」だったローは、自らの手で「中央銀行」を創設して「総裁」に就任したというわけだ」、 「ローは銀行券を正貨の交換を保証しない「不換紙幣」に変えたのだ。これによってバンク・ロワイアルは、正貨保有量に関係なく、好きなだけ銀行券を発行できるようになる。 正貨という後ろ盾を失ったものの、バンク・ロワイアルが発行する銀行券の信用力が揺らぐことはなかった。銀行券が更に発行されたことで金融緩和策が強化され、フランス経済はより一層の好景気に沸き立つことになる」、なるほど。 「額面五百リーブルの国債が、百五十~百六十リーブル程度の安値で取引されていた。そこでローは、ミシシッピ会社の株式を国債で購入する場合には、額面の五百リーブルで引き取るとしたのだ。 ここからバブルが発生する。 「価値の下がった国債で、金鉱を持つミシシッピ会社の株式が買える! しかも額面価格で!」と投資家は大喜び。額面五百リーブルだったミシシッピ会社の株価は、一七一九年の十二月には一万リーブルを突破する大暴騰を演じる」、なるほど。 「景気回復と財政赤字削減を成し遂げたローは、一七二〇年一月に財務総監に任命される。首相の地位に匹敵する要職だった。「財務大臣」、「中央銀行総裁」、そして巨大国営会社ミシシッピ会社のトップを兼任する「経済界の巨人」が誕生したのだ。 各地に広大な地所を所有するなど、ローの個人資産も膨れ上がった。貴族の称号を与えられたローは、その端正な姿と相まって社交界の花形となる。「お尋ね者」として追われていた男が、流れ着いたフランスで銀行を設立してから、わずか三年でつかんだ栄光であった」、 「ロー・システムがもたらした華々しい成果に政府は狂喜し、フランスは諸外国の羨望の的となった。しかし、その成果はバブルがもたらした一時的なものであり、その崩壊は驚くほど早く始まるのである」、次回の「崩壊」の姿が楽しみだ。 玉手 義朗氏による「シュンペーターも絶賛!「脱獄した天才経済学者」の末路 「リフレ政策」発明者の栄光と挫折」 「バブル」の「崩壊」とは興味深そうだ。 「一部の貴族たちが、銀行券をバンク・ロワイアルに持ち込んで、金貨や銀貨に交換をし始める。これを知った他の人々も不安心理に駆られ、我先にと銀行券を正貨に交換しようとした。「取り付け」が起こったのだ。しかし、バンク・ロワイアルが発行する銀行券は不換紙幣であり、その全てを正貨に交換することは到底できない。 一七二〇年七月、バンク・ロワイアルは、正貨への交換を求める人々の激しい取り付けに対応できずに大混乱となり、十五人もの死者が出る事態となる」、「バンク・ロワイアルの取り付けに合わせるように、ミシシッピ会社の信用も急速に失われ、株価の急落が始まった。少し前まではミシシッピ会社の株式を手に入れようと血眼になっていた人々は、大慌てで売り始め、本当に価値がある金貨や銀貨を手に入れようとしていた」、「ローが編み出した、驚きの株価対策とは何か。 パリにいた数千人ものホームレスを集め、シャベルなどの道具を持たせて港まで 行進させたのだ。「ミシシッピに金が見つかりました。これから掘りに行きます!」と、ミシシッピ会社による開発計画が順調であることをアピールし、信用を取り戻そうとしたのである」、「ホームレスを」使って嘘をつくのは頂けない。 「一七二〇年一月に最高値の一万八千リーブルをつけていたミシシッピ会社の株価は、十月には二千リーブルにまで大暴落し、株式市場は人々の阿鼻叫喚(あびきょうかん)で覆われた。バンク・ロワイアルの銀行券の信用も完全に失われ、誰も受け取ろうとはしなくなったため、経済取引は元の金貨と銀貨の取引に逆戻りしてしまう。ロー・システムは完全に崩壊し、フランス経済は未曾有(みぞう)の大混乱に陥った」、なるほど。 「フランス経済の破壊者という汚名を着せられたまま、生涯を終えることになってしまった」、「フランス」も「ロー」に乗せられたとは不名誉なことだ。 「ジョン・ローは驚くほど短期間にフランス経済を回復させた。ところが、その状態を維持できず、更に深い傷を負わせることになってしまう。その原因はローが自ら発明したリフレ政策の制御に失敗したことと、それによってバブルを発生させたことにある」、なるほど。 「人類史上初めてとなるリフレ政策を断行、フランス経済を立ち直らせたロー。しかし、その後は制御に失敗してバブルを生み出し、その崩壊が経済を破壊してしまった。これがローの失敗の第一の本質なのである」、「ミシシッピ会社の株価暴騰は「ミシシッピバブル」と呼ばれ、オランダの「チューリップバブル」、イギリスの「南海バブル」と並ぶ世界三大バブルの一つに数えられている。しかし、その規模と影響の大きさにおいて、ミシシッピバブルは、ずば抜けて巨大なバブルであった」、なるほど。 「政府は景気対策や財源の確保などの目的から、紙幣の発行量を増やすことを求めてくることが多い。しかし、これに安易に応じると、過剰流動性が生まれて、インフレ、さらにはバブルを生み出す恐れがある。こうした事態を避けるために、中央銀行は確固とした独立性を持つことが必要となるのだ。 中央銀行総裁であったローは、この独立性を守ることができなかった――。 ここに第二の失敗の本質がある」、 「ローはリフレ政策や債務の株式化を発明した天才であったことは間違いない。優れた洞察力で知られる経済学者のジョセフ・シュンペーターも、「あらゆる時代の貨幣理論家のなかで、最上の貨幣理論を構築した人物である」と、ローに賛辞を贈る。また、新古典派経済学の基礎を築いた経済学者アルフレッド・マーシャルも、「向こう見ずで、並外れた、しかし最も魅力的な天才」と、ローを高く評価しているのだ」、確かに偉大な人物のようだ。 「デフレ不況が長引く日本では、ジョン・ローのようにリフレ政策からバブルを起こしてその解消を図るべきとの声もある」、「ロー」は「制御」に失敗したが、現在の中央銀行システムは「制御」できると楽観的に捉えるリフレ派もいる。しかし、現在の金融政策の「制御」能力には限界があることを考慮すれば、慎重に考えるべきだろう。
決済(その10)(「改悪」と呼ばれたPayPayのサービス変更 お得さを失ったQRコード決済の今後は、「ペイペイ」が他社クレカを締め出した本当の理由…「顧客離れ」のリスクを冒してでも) [金融]
決済については、本年4月16日に取上げた。今日は、(その10)(「改悪」と呼ばれたPayPayのサービス変更 お得さを失ったQRコード決済の今後は、「ペイペイ」が他社クレカを締め出した本当の理由…「顧客離れ」のリスクを冒してでも)である。
先ずは、本年6月5日付け日経ビジネスオンラインが掲載したフリーライターの佐野 正弘氏による「「改悪」と呼ばれたPayPayのサービス変更、お得さを失ったQRコード決済の今後は」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00297/052400126/
・『2023年5月1日、スマートフォン決済の「PayPay」がクレジットカードの新規登録および利用を停止するなどいくつかの変更を発表し波紋を呼んでいる。 だがクレジットカードに関する制限やポイント付与の縮小などは、ここ最近他のスマートフォン決済でも見られる。お得さを武器に利用者を増やしてきたQRコードベースのスマートフォン決済が曲がり角に差しかかっている様子が見えてくる』、興味深そうだ。
・『クレジットカードの利用停止などで批判が噴出 ゴールデンウイークに入った2023年5月1日、PayPayが提供するスマートフォン決済の「PayPay」がSNSを大きくにぎわせることとなった。その理由は同社が発表したサービス内容の変更にある。 1つは2023年8月1日以降、クレジットカードを利用した決済が使えなくなるというもの。PayPayは事前に料金をチャージして決済する方法だけでなく、登録したクレジットカードを使い、ある意味クレジットカードのスマートフォン決済インターフェースとして使うことも可能だった。だが2023年7月初旬にクレジットカードの新規登録を停止し、8月以降は登録自体が解除され、この使い方が利用できなくなる。 PayPayのWebサイトより。2023年8月以降「PayPayカード」などの例外を除いて、PayPayにクレジットカードを登録して利用することは基本的にできなくなるという (出所:PayPay) 一方、PayPayの子会社が提供する「PayPay カード」「PayPayカード ゴールド」は、7月初旬までに登録済みの場合継続利用が可能であるほか、それ以降も利用した金額を翌月にまとめて支払う「PayPayあと払い」に登録すれば利用できるという。グループのサービスは優遇する方針のようだ。 そしてもう1つは、同じく2023年8月1日より、「ソフトバンク・ワイモバイルまとめて支払い」でPayPayに残高をチャージする際、今まで不要だった手数料がかかるようになるというもの。 これはソフトバンクやワイモバイルの通信料金と合算で支払う、いわゆる「キャリア決済」と呼ばれるものだ。8月以降は毎月初回のチャージに手数料はかからないものの、2回目以降は2.5%の手数料がかかるようになる。 これら一連の措置は、率直にいってしまえば利用者にはデメリットしかない。それだけに一連の発表以降、SNSでは「PayPay改悪」との声が相次ぎ大きな注目を集めることとなった』、「PayPayにクレジットカードを登録して利用することは基本的にできなくなる」、「キャリア決済」「2回目以降は2.5%の手数料がかかる」、なぜ「PayPay改悪」が行われたのだろうか。
・『親会社の成長のため規模拡大から利益重視へ 今回変更されたサービスは、いずれも決済時に手数料を支払う必要がある。このため一連の措置は、PayPayが手数料の支出を抑える狙いが大きいだろう。 クレジットカードでの決済はキャンペーンなどを含めポイント還元の対象外となることが多かったし、ソフトバンク・ワイモバイルまとめて支払いも対象が各サービスの利用者に限られることから、いずれもPayPay利用者全体に占める割合は小さいと考えられる。 そうしたことからPayPayは、一連の変更を打ち出しても利用者に大きな影響は出ないとみていたかもしれない。これだけネガティブな反応が起きたことはPayPayとして想定外だっただろうが、少なくとも記事執筆時点(2023年5月3日)では何らかの緩和策が打ち出される様子はない。 利用者から反発を受けてもなお、手数料を削減し利益重視へとかじを切っている理由は、PayPayの業績を黒字化するためだろう。PayPayはこれまで顧客や加盟店の拡大のための投資で赤字が続いていたが、最近その赤字を抑制する動きが強まっている。 PayPayは2022年度時点で連結決済取扱高が10兆円を超えており、登録利用者も2023年4月時点で5700万人を突破。加盟店数も登録箇所数が累計で410万超に達するなど、QRコードベースのスマートフォン決済サービスでは頭一つ抜きんでた存在となっている。規模の面で他社に優位性を獲得したこともあって、投資から回収へとかじを切りつつあるのではないだろうか。 Zホールディングスの2022年度通期決算説明会資料より。急成長を遂げたPayPayは2022年度で連結決済取扱高が10兆円を超え、スマートフォン決済の中でも大きな存在感を示している (出所:Zホールディングス)) 特に現在は、PayPayの親会社であるソフトバンクが政府主導による携帯料金引き下げで厳しい状況にある。もう1つの親会社であるZホールディングスも、LINEとの経営統合による事業整理が進まず低迷が続いている。 それだけにグループ全体での成長を実現するべく、PayPayが黒字化を急ぐ必要に迫られたといえそうだ』、「利用者から反発を受けてもなお、手数料を削減し利益重視へとかじを切っている理由は、PayPayの業績を黒字化するためだろう。PayPayはこれまで顧客や加盟店の拡大のための投資で赤字が続いていたが、最近その赤字を抑制する動きが強まっている。 PayPayは2022年度時点で連結決済取扱高が10兆円を超えており、登録利用者も2023年4月時点で5700万人を突破。加盟店数も登録箇所数が累計で410万超に達するなど、QRコードベースのスマートフォン決済サービスでは頭一つ抜きんでた存在となっている。規模の面で他社に優位性を獲得したこともあって、投資から回収へとかじを切りつつあるのではないだろうか」、なるほど。
・『他のスマートフォン決済サービスでも進む「改悪」 ただスマートフォン決済サービスの動向を見るに、クレジットカードなどの手数料がかかるサービス利用時の「改悪」が進んでいるのはPayPayだけではない。 同じソフトバンクのグループ内のサービスでいえば、LINEの「LINE Pay」も2023年に「Visa LINE Payクレジットカード」での利用特典を変更。LINE Payにこのカードを登録して残高をチャージせずに支払う「チャージ&ペイ」利用時のポイント還元特典を、2023年4月に終了している。 他社の最近の事例では、KDDIの「au PAY」もクレジットカードに関連した変更を行っている。具体的には、「au PAYカード」を使って残高をチャージした際に従来は100円ごとに1ポイント還元されていたのが、2022年12月より還元の対象外となり、「au PAYゴールドカード」でチャージしたときの特典も縮小されている。 「au PAY」も2022年末にクレジットカード利用に関する変更が行われ、「au PAYカード」を利用して残高をチャージした際もポイント還元の対象外となった (出所:auフィナンシャルサービス) これについてもソフトバンクやZホールディングスと同様に、グループ会社の業績不調が影響しているといえよう。PayPayだけでなく他のスマートフォン決済も、基本的には携帯電話会社やその傘下の企業が提供、あるいは携帯電話会社と提携している。このため携帯電話会社とそのグループがスマートフォン決済の中心となっていることは間違いない。 そして携帯4社のうち、楽天モバイルは先行投資による大幅な赤字に苦しんでいるし、NTTドコモやKDDIもソフトバンクと同様政府主導の料金引き下げに加え、最近では電気代高騰が業績に大きな影響を与えるようになっている。 それ故各社とも利益重視の守りの戦略を重視するようになり、スマートフォン決済にもその影響が及んだ結果、利用者からして見れば「改悪」につながる変更が相次いでいるのではないだろうか。 それでも以前は、利用者を囲い込むため自社系列のサービス利用時はお得さを維持することに重点を置いてきた。だがau PAYやLINE Payの事例を見るに、系列のサービスを利用してもお得にならないケースが増えているのは気になる。 それだけ各社の経営状況が厳しいのだろうが、このことは複数サービスの利用によるお得さで利用者を囲い込む、いわゆる「経済圏ビジネス」を根幹から揺るがすことにもつながってくる。 確かにスマートフォン決済は、短い期間でお得なキャンペーンを連発したことで消費者に定着したが、電子マネーやクレジットカードのタッチ決済などと比べた場合、利用するのに手間がかかり不便な部分が多い決済手段でもある。 それだけにお得さを大きく打ち出せなくなった今後も、他の決済手段と比べ優位性を保てるのかは気がかりなところだ。 [日経クロステック 2023年5月15日掲載]情報は掲載時点のものです』、「確かにスマートフォン決済は、短い期間でお得なキャンペーンを連発したことで消費者に定着したが、電子マネーやクレジットカードのタッチ決済などと比べた場合、利用するのに手間がかかり不便な部分が多い決済手段でもある。 それだけにお得さを大きく打ち出せなくなった今後も、他の決済手段と比べ優位性を保てるのかは気がかりなところだ」、「優位性を保」つのは相当難しそうだ。
次に、6月14日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「「ペイペイ」が他社クレカを締め出した本当の理由…「顧客離れ」のリスクを冒してでも」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/111622?imp=0
・『不自然に見える急なコスト回収 スマートフォン(スマホ)決済最大手のPayPay(ペイペイ)が、8月から他社クレジットカードの利用を停止する。自社カードへの誘導が目的だが、他社カードを使う顧客を多数失う可能性がある。それでも他社カード排除に踏み切った背景には、親会社であるZホールディングス(ヤフーやLINEなどを運営)の成長鈍化と、ライバルである楽天の危機が密接に関係している。 PayPayはスマホ決済を実行するにあたり、銀行口座からのチャージ、クレジットカード払いなど、複数の手段から選択できるようになっている。これまでは、どのクレジットカード会社のカードでも登録できたが、8月以降はPayPayが発行するPayPayカード以外は利用できなくなる。 スマホ決済は同社が大規模なキャンペーンを展開したことで、すでに5700万人の利用者を獲得しており、ほぼ独走状態となっている。しかしシェア獲得に費やしたコストも大きく、それをどのように回収するのかが最大の課題となっていた。 利用者が他社クレジットカードを使う場合、同社が手数料を支払わなければならず、このコストが同社の収益を圧迫している。他社カードを締め出せば、当該コストを削減できるのは間違いないが、一方で大事な顧客を他社に奪われ、シェア低下を招く危険性がある。 すでに高いシェアを獲得している同社としては、顧客の囲い込みを行ったとしても、他社サービスへの流出は最小限に食い止められるとの判断があったことは想像に難くない。 また、カードが使えなくなっても、銀行からのチャージにすれば引き続き決済は可能であることから、それほど大きな影響はないとの見方もある。しかしながら、他社カード締め出しによって一定数の顧客が同社から離れてしまうのは確実だろう。 巨額の先行投資が必要であることや、シェア獲得後は、手数料の引き上げなどを通じて、初期投資を回収する必要があることは当初から想定済みだったはずだ。ここに来て、シェア低下のリスクを冒してまで、収益改善フェーズにシフトしたことは少々不自然に見える』、「ここに来て、シェア低下のリスクを冒してまで、収益改善フェーズにシフトしたことは少々不自然に見える」、なるほど。
・『急転換の「2つの理由」 同社が方針を急転換した背景には2つの理由があると考えられる。 ひとつは同社の業績が伸び悩んでおり、ソフトバンクグループ内での立ち位置が急速に悪化していること。もうひとつはEC(電子商取引)分野での最大のライバルである楽天が危機的状況に陥っており、楽天の牙城を崩す千載一遇のチャンスとなっていることである。 Zホールディングスは、傘下にヤフーやLINE、PayPayなど持つソフトバンクグループの企業である。LINEが持つ9000万人の顧客層を原動力に、EC(電子商取引)の分野で楽天を追い越し、グローバル市場に進出するというのが同社の基本戦略であった。 だが現実はかなり厳しい。 同社の国内物販系の取扱高は、2020年は2兆6712億円、2021年は2兆9525億円、2022年は2兆9880億円と伸び率の鈍化が鮮明となっており、しかもショッピング事業に至っては、前年比マイナスを記録した。 一方、2022年における楽天の国内EC流通総額は5.6兆円と1.8倍もの差がついている(厳密に言うと、両者の定義は同一ではないが、おおよその事業規模比較には十分と考える)。 金融事業でも楽天との差が際立つ。 PayPayは2023年4月、2022年度における決済取扱高が10兆円を突破したと発表したが、これはPayPayカード分(2.3兆円)とPayPay(7.9兆円)を合算した数字である。 これに対して、楽天はカードの取扱高だけで年間18兆円を超えており、これに楽天Edyの決済が加わる。楽天Edy単体の決済額は不明だが、PayPayに次ぐシェアがあることを考えると、さらに数字が上乗せされる』、「PayPay」の業績が伸び悩んでおり、ソフトバンクグループ内での立ち位置が急速に悪化していること。もうひとつはEC(電子商取引)分野での最大のライバルである楽天が危機的状況に陥っており、楽天の牙城を崩す千載一遇のチャンスとなっていることである」、「楽天」の「金融事業」ははるかに規模が大きいようだ。
・『創業以来の危機に瀕する楽天 PayPayの利用者自体は5700万人と飽和状態となりつつあるため、ここからさらに業容を拡大するには、ライバルである楽天から顧客を奪うしか方法がない。 インフラ系のビジネスはシェアが絶対的な意味を持っており、後れを取っている企業がシェアを挽回することは容易ではない。加えて、自社カードへの誘導を強めれば、それに反発する利用者も出てくるため、マイナスの影響も大きくなる。 それにもかかわらず同社がカード利用者の囲い込みを決断したのは、ライバルの楽天が、創業以来、最大の危機に直面しているからである。 1997年に創業した楽天は、国内EC事業者としては圧倒的な地位を確保してきた。2000年に上場した際には、当時としては過去最高額の資金を調達し、自己資本比率95.2%という圧倒的な財務体質を誇っていた。 同社はグローバル戦略を掲げ、豊富な資金を背景に次々と諸外国のネット企業を買収したが、一連の買収はあまりうまくいかなかった。 同社は当初の理想とは正反対に、楽天市場を中心に、楽天証券や楽天銀行など国内EC市場や金融市場で商圏を拡大する純然たるドメスティック企業になった。 だが日本は今後、急激な人口減少が予想されており、国内市場は縮小する一方である。成長鈍化という問題に直面した楽天は2017年12月、とうとう携帯電話事業への新規参入を決断してしまう。 携帯電話は巨額の設備投資を必要とする典型的なオールド・ビジネスであり、しかもNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの寡占状態となっており、新規参入にとっては圧倒的に不利な市場環境にある』、「楽天」は「2000年に上場した際には・・・自己資本比率95.2%という圧倒的な財務体質を誇っていた」。しかし、「2017年12月、とうとう携帯電話事業への新規参入を決断してしまう。 携帯電話は巨額の設備投資を必要とする典型的なオールド・ビジネスであり、しかもNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの寡占状態となっており、新規参入にとっては圧倒的に不利な市場環境にある」、本当に馬鹿げた意思決定をしたものだ。
・『ライバルのピンチがチャンス 同社が携帯電話市場に打って出たのは、成長鈍化への焦りが理由であることは確実だが、案の定、携帯電話事業は軌道に乗らず、楽天は4期連続の最終赤字を計上。資金も枯渇し、親子上場にもかかわらず楽天銀行の上場を強行すると同時に、3000億円の公募増資に踏み切った。 楽天は、アマゾンなど外資系の競合他社と異なり、AIを駆使した販売促進ではなく、高額なポイントを付与するという単純な手法で顧客の囲い込みを行ってきた。ポイント獲得に慣れてしまった利用者に消費を拡大してもらうには、さらに高額なポイントを付与するしかなく、キャッシュアウトの大きな要因になっている。 同社の財務体質は急激に悪化しており、もし今回の増資で携帯電話事業を軌道に乗せられなかった場合、大判振る舞いだったポイント制度を含め、大きな方向転換を迫られる可能性が高い。Zホールディングスにとっては、楽天からシェアを奪う最大のチャンスであり、自社カードへの誘導という強硬手段に打って出た。 この施策が功を奏するのかは、現時点では何とも言えない。だが最終的な成否のカギを握っているのは、PayPay側の戦略というよりも、相手方である楽天の経営状態かもしれない』、「楽天は、アマゾンなど外資系の競合他社と異なり、AIを駆使した販売促進ではなく、高額なポイントを付与するという単純な手法で顧客の囲い込みを行ってきた。ポイント獲得に慣れてしまった利用者に消費を拡大してもらうには、さらに高額なポイントを付与するしかなく、キャッシュアウトの大きな要因になっている。 同社の財務体質は急激に悪化しており、もし今回の増資で携帯電話事業を軌道に乗せられなかった場合、大判振る舞いだったポイント制度を含め、大きな方向転換を迫られる可能性が高い」、「大きな方向転換」には「ポイント制度」のような生易しいものだけでなく、ビジネス自体の売却も含まれるだろう。
先ずは、本年6月5日付け日経ビジネスオンラインが掲載したフリーライターの佐野 正弘氏による「「改悪」と呼ばれたPayPayのサービス変更、お得さを失ったQRコード決済の今後は」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00297/052400126/
・『2023年5月1日、スマートフォン決済の「PayPay」がクレジットカードの新規登録および利用を停止するなどいくつかの変更を発表し波紋を呼んでいる。 だがクレジットカードに関する制限やポイント付与の縮小などは、ここ最近他のスマートフォン決済でも見られる。お得さを武器に利用者を増やしてきたQRコードベースのスマートフォン決済が曲がり角に差しかかっている様子が見えてくる』、興味深そうだ。
・『クレジットカードの利用停止などで批判が噴出 ゴールデンウイークに入った2023年5月1日、PayPayが提供するスマートフォン決済の「PayPay」がSNSを大きくにぎわせることとなった。その理由は同社が発表したサービス内容の変更にある。 1つは2023年8月1日以降、クレジットカードを利用した決済が使えなくなるというもの。PayPayは事前に料金をチャージして決済する方法だけでなく、登録したクレジットカードを使い、ある意味クレジットカードのスマートフォン決済インターフェースとして使うことも可能だった。だが2023年7月初旬にクレジットカードの新規登録を停止し、8月以降は登録自体が解除され、この使い方が利用できなくなる。 PayPayのWebサイトより。2023年8月以降「PayPayカード」などの例外を除いて、PayPayにクレジットカードを登録して利用することは基本的にできなくなるという (出所:PayPay) 一方、PayPayの子会社が提供する「PayPay カード」「PayPayカード ゴールド」は、7月初旬までに登録済みの場合継続利用が可能であるほか、それ以降も利用した金額を翌月にまとめて支払う「PayPayあと払い」に登録すれば利用できるという。グループのサービスは優遇する方針のようだ。 そしてもう1つは、同じく2023年8月1日より、「ソフトバンク・ワイモバイルまとめて支払い」でPayPayに残高をチャージする際、今まで不要だった手数料がかかるようになるというもの。 これはソフトバンクやワイモバイルの通信料金と合算で支払う、いわゆる「キャリア決済」と呼ばれるものだ。8月以降は毎月初回のチャージに手数料はかからないものの、2回目以降は2.5%の手数料がかかるようになる。 これら一連の措置は、率直にいってしまえば利用者にはデメリットしかない。それだけに一連の発表以降、SNSでは「PayPay改悪」との声が相次ぎ大きな注目を集めることとなった』、「PayPayにクレジットカードを登録して利用することは基本的にできなくなる」、「キャリア決済」「2回目以降は2.5%の手数料がかかる」、なぜ「PayPay改悪」が行われたのだろうか。
・『親会社の成長のため規模拡大から利益重視へ 今回変更されたサービスは、いずれも決済時に手数料を支払う必要がある。このため一連の措置は、PayPayが手数料の支出を抑える狙いが大きいだろう。 クレジットカードでの決済はキャンペーンなどを含めポイント還元の対象外となることが多かったし、ソフトバンク・ワイモバイルまとめて支払いも対象が各サービスの利用者に限られることから、いずれもPayPay利用者全体に占める割合は小さいと考えられる。 そうしたことからPayPayは、一連の変更を打ち出しても利用者に大きな影響は出ないとみていたかもしれない。これだけネガティブな反応が起きたことはPayPayとして想定外だっただろうが、少なくとも記事執筆時点(2023年5月3日)では何らかの緩和策が打ち出される様子はない。 利用者から反発を受けてもなお、手数料を削減し利益重視へとかじを切っている理由は、PayPayの業績を黒字化するためだろう。PayPayはこれまで顧客や加盟店の拡大のための投資で赤字が続いていたが、最近その赤字を抑制する動きが強まっている。 PayPayは2022年度時点で連結決済取扱高が10兆円を超えており、登録利用者も2023年4月時点で5700万人を突破。加盟店数も登録箇所数が累計で410万超に達するなど、QRコードベースのスマートフォン決済サービスでは頭一つ抜きんでた存在となっている。規模の面で他社に優位性を獲得したこともあって、投資から回収へとかじを切りつつあるのではないだろうか。 Zホールディングスの2022年度通期決算説明会資料より。急成長を遂げたPayPayは2022年度で連結決済取扱高が10兆円を超え、スマートフォン決済の中でも大きな存在感を示している (出所:Zホールディングス)) 特に現在は、PayPayの親会社であるソフトバンクが政府主導による携帯料金引き下げで厳しい状況にある。もう1つの親会社であるZホールディングスも、LINEとの経営統合による事業整理が進まず低迷が続いている。 それだけにグループ全体での成長を実現するべく、PayPayが黒字化を急ぐ必要に迫られたといえそうだ』、「利用者から反発を受けてもなお、手数料を削減し利益重視へとかじを切っている理由は、PayPayの業績を黒字化するためだろう。PayPayはこれまで顧客や加盟店の拡大のための投資で赤字が続いていたが、最近その赤字を抑制する動きが強まっている。 PayPayは2022年度時点で連結決済取扱高が10兆円を超えており、登録利用者も2023年4月時点で5700万人を突破。加盟店数も登録箇所数が累計で410万超に達するなど、QRコードベースのスマートフォン決済サービスでは頭一つ抜きんでた存在となっている。規模の面で他社に優位性を獲得したこともあって、投資から回収へとかじを切りつつあるのではないだろうか」、なるほど。
・『他のスマートフォン決済サービスでも進む「改悪」 ただスマートフォン決済サービスの動向を見るに、クレジットカードなどの手数料がかかるサービス利用時の「改悪」が進んでいるのはPayPayだけではない。 同じソフトバンクのグループ内のサービスでいえば、LINEの「LINE Pay」も2023年に「Visa LINE Payクレジットカード」での利用特典を変更。LINE Payにこのカードを登録して残高をチャージせずに支払う「チャージ&ペイ」利用時のポイント還元特典を、2023年4月に終了している。 他社の最近の事例では、KDDIの「au PAY」もクレジットカードに関連した変更を行っている。具体的には、「au PAYカード」を使って残高をチャージした際に従来は100円ごとに1ポイント還元されていたのが、2022年12月より還元の対象外となり、「au PAYゴールドカード」でチャージしたときの特典も縮小されている。 「au PAY」も2022年末にクレジットカード利用に関する変更が行われ、「au PAYカード」を利用して残高をチャージした際もポイント還元の対象外となった (出所:auフィナンシャルサービス) これについてもソフトバンクやZホールディングスと同様に、グループ会社の業績不調が影響しているといえよう。PayPayだけでなく他のスマートフォン決済も、基本的には携帯電話会社やその傘下の企業が提供、あるいは携帯電話会社と提携している。このため携帯電話会社とそのグループがスマートフォン決済の中心となっていることは間違いない。 そして携帯4社のうち、楽天モバイルは先行投資による大幅な赤字に苦しんでいるし、NTTドコモやKDDIもソフトバンクと同様政府主導の料金引き下げに加え、最近では電気代高騰が業績に大きな影響を与えるようになっている。 それ故各社とも利益重視の守りの戦略を重視するようになり、スマートフォン決済にもその影響が及んだ結果、利用者からして見れば「改悪」につながる変更が相次いでいるのではないだろうか。 それでも以前は、利用者を囲い込むため自社系列のサービス利用時はお得さを維持することに重点を置いてきた。だがau PAYやLINE Payの事例を見るに、系列のサービスを利用してもお得にならないケースが増えているのは気になる。 それだけ各社の経営状況が厳しいのだろうが、このことは複数サービスの利用によるお得さで利用者を囲い込む、いわゆる「経済圏ビジネス」を根幹から揺るがすことにもつながってくる。 確かにスマートフォン決済は、短い期間でお得なキャンペーンを連発したことで消費者に定着したが、電子マネーやクレジットカードのタッチ決済などと比べた場合、利用するのに手間がかかり不便な部分が多い決済手段でもある。 それだけにお得さを大きく打ち出せなくなった今後も、他の決済手段と比べ優位性を保てるのかは気がかりなところだ。 [日経クロステック 2023年5月15日掲載]情報は掲載時点のものです』、「確かにスマートフォン決済は、短い期間でお得なキャンペーンを連発したことで消費者に定着したが、電子マネーやクレジットカードのタッチ決済などと比べた場合、利用するのに手間がかかり不便な部分が多い決済手段でもある。 それだけにお得さを大きく打ち出せなくなった今後も、他の決済手段と比べ優位性を保てるのかは気がかりなところだ」、「優位性を保」つのは相当難しそうだ。
次に、6月14日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「「ペイペイ」が他社クレカを締め出した本当の理由…「顧客離れ」のリスクを冒してでも」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/111622?imp=0
・『不自然に見える急なコスト回収 スマートフォン(スマホ)決済最大手のPayPay(ペイペイ)が、8月から他社クレジットカードの利用を停止する。自社カードへの誘導が目的だが、他社カードを使う顧客を多数失う可能性がある。それでも他社カード排除に踏み切った背景には、親会社であるZホールディングス(ヤフーやLINEなどを運営)の成長鈍化と、ライバルである楽天の危機が密接に関係している。 PayPayはスマホ決済を実行するにあたり、銀行口座からのチャージ、クレジットカード払いなど、複数の手段から選択できるようになっている。これまでは、どのクレジットカード会社のカードでも登録できたが、8月以降はPayPayが発行するPayPayカード以外は利用できなくなる。 スマホ決済は同社が大規模なキャンペーンを展開したことで、すでに5700万人の利用者を獲得しており、ほぼ独走状態となっている。しかしシェア獲得に費やしたコストも大きく、それをどのように回収するのかが最大の課題となっていた。 利用者が他社クレジットカードを使う場合、同社が手数料を支払わなければならず、このコストが同社の収益を圧迫している。他社カードを締め出せば、当該コストを削減できるのは間違いないが、一方で大事な顧客を他社に奪われ、シェア低下を招く危険性がある。 すでに高いシェアを獲得している同社としては、顧客の囲い込みを行ったとしても、他社サービスへの流出は最小限に食い止められるとの判断があったことは想像に難くない。 また、カードが使えなくなっても、銀行からのチャージにすれば引き続き決済は可能であることから、それほど大きな影響はないとの見方もある。しかしながら、他社カード締め出しによって一定数の顧客が同社から離れてしまうのは確実だろう。 巨額の先行投資が必要であることや、シェア獲得後は、手数料の引き上げなどを通じて、初期投資を回収する必要があることは当初から想定済みだったはずだ。ここに来て、シェア低下のリスクを冒してまで、収益改善フェーズにシフトしたことは少々不自然に見える』、「ここに来て、シェア低下のリスクを冒してまで、収益改善フェーズにシフトしたことは少々不自然に見える」、なるほど。
・『急転換の「2つの理由」 同社が方針を急転換した背景には2つの理由があると考えられる。 ひとつは同社の業績が伸び悩んでおり、ソフトバンクグループ内での立ち位置が急速に悪化していること。もうひとつはEC(電子商取引)分野での最大のライバルである楽天が危機的状況に陥っており、楽天の牙城を崩す千載一遇のチャンスとなっていることである。 Zホールディングスは、傘下にヤフーやLINE、PayPayなど持つソフトバンクグループの企業である。LINEが持つ9000万人の顧客層を原動力に、EC(電子商取引)の分野で楽天を追い越し、グローバル市場に進出するというのが同社の基本戦略であった。 だが現実はかなり厳しい。 同社の国内物販系の取扱高は、2020年は2兆6712億円、2021年は2兆9525億円、2022年は2兆9880億円と伸び率の鈍化が鮮明となっており、しかもショッピング事業に至っては、前年比マイナスを記録した。 一方、2022年における楽天の国内EC流通総額は5.6兆円と1.8倍もの差がついている(厳密に言うと、両者の定義は同一ではないが、おおよその事業規模比較には十分と考える)。 金融事業でも楽天との差が際立つ。 PayPayは2023年4月、2022年度における決済取扱高が10兆円を突破したと発表したが、これはPayPayカード分(2.3兆円)とPayPay(7.9兆円)を合算した数字である。 これに対して、楽天はカードの取扱高だけで年間18兆円を超えており、これに楽天Edyの決済が加わる。楽天Edy単体の決済額は不明だが、PayPayに次ぐシェアがあることを考えると、さらに数字が上乗せされる』、「PayPay」の業績が伸び悩んでおり、ソフトバンクグループ内での立ち位置が急速に悪化していること。もうひとつはEC(電子商取引)分野での最大のライバルである楽天が危機的状況に陥っており、楽天の牙城を崩す千載一遇のチャンスとなっていることである」、「楽天」の「金融事業」ははるかに規模が大きいようだ。
・『創業以来の危機に瀕する楽天 PayPayの利用者自体は5700万人と飽和状態となりつつあるため、ここからさらに業容を拡大するには、ライバルである楽天から顧客を奪うしか方法がない。 インフラ系のビジネスはシェアが絶対的な意味を持っており、後れを取っている企業がシェアを挽回することは容易ではない。加えて、自社カードへの誘導を強めれば、それに反発する利用者も出てくるため、マイナスの影響も大きくなる。 それにもかかわらず同社がカード利用者の囲い込みを決断したのは、ライバルの楽天が、創業以来、最大の危機に直面しているからである。 1997年に創業した楽天は、国内EC事業者としては圧倒的な地位を確保してきた。2000年に上場した際には、当時としては過去最高額の資金を調達し、自己資本比率95.2%という圧倒的な財務体質を誇っていた。 同社はグローバル戦略を掲げ、豊富な資金を背景に次々と諸外国のネット企業を買収したが、一連の買収はあまりうまくいかなかった。 同社は当初の理想とは正反対に、楽天市場を中心に、楽天証券や楽天銀行など国内EC市場や金融市場で商圏を拡大する純然たるドメスティック企業になった。 だが日本は今後、急激な人口減少が予想されており、国内市場は縮小する一方である。成長鈍化という問題に直面した楽天は2017年12月、とうとう携帯電話事業への新規参入を決断してしまう。 携帯電話は巨額の設備投資を必要とする典型的なオールド・ビジネスであり、しかもNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの寡占状態となっており、新規参入にとっては圧倒的に不利な市場環境にある』、「楽天」は「2000年に上場した際には・・・自己資本比率95.2%という圧倒的な財務体質を誇っていた」。しかし、「2017年12月、とうとう携帯電話事業への新規参入を決断してしまう。 携帯電話は巨額の設備投資を必要とする典型的なオールド・ビジネスであり、しかもNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの寡占状態となっており、新規参入にとっては圧倒的に不利な市場環境にある」、本当に馬鹿げた意思決定をしたものだ。
・『ライバルのピンチがチャンス 同社が携帯電話市場に打って出たのは、成長鈍化への焦りが理由であることは確実だが、案の定、携帯電話事業は軌道に乗らず、楽天は4期連続の最終赤字を計上。資金も枯渇し、親子上場にもかかわらず楽天銀行の上場を強行すると同時に、3000億円の公募増資に踏み切った。 楽天は、アマゾンなど外資系の競合他社と異なり、AIを駆使した販売促進ではなく、高額なポイントを付与するという単純な手法で顧客の囲い込みを行ってきた。ポイント獲得に慣れてしまった利用者に消費を拡大してもらうには、さらに高額なポイントを付与するしかなく、キャッシュアウトの大きな要因になっている。 同社の財務体質は急激に悪化しており、もし今回の増資で携帯電話事業を軌道に乗せられなかった場合、大判振る舞いだったポイント制度を含め、大きな方向転換を迫られる可能性が高い。Zホールディングスにとっては、楽天からシェアを奪う最大のチャンスであり、自社カードへの誘導という強硬手段に打って出た。 この施策が功を奏するのかは、現時点では何とも言えない。だが最終的な成否のカギを握っているのは、PayPay側の戦略というよりも、相手方である楽天の経営状態かもしれない』、「楽天は、アマゾンなど外資系の競合他社と異なり、AIを駆使した販売促進ではなく、高額なポイントを付与するという単純な手法で顧客の囲い込みを行ってきた。ポイント獲得に慣れてしまった利用者に消費を拡大してもらうには、さらに高額なポイントを付与するしかなく、キャッシュアウトの大きな要因になっている。 同社の財務体質は急激に悪化しており、もし今回の増資で携帯電話事業を軌道に乗せられなかった場合、大判振る舞いだったポイント制度を含め、大きな方向転換を迫られる可能性が高い」、「大きな方向転換」には「ポイント制度」のような生易しいものだけでなく、ビジネス自体の売却も含まれるだろう。
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投資(商品販売・手法)(その3)(商業用不動産ファンドが「次の危機」の震源地に?空室率上昇と利上げで警戒感、金融庁が問題視、「投資家のコスト」が増える背景 投資信託を取り巻く課題をレポートで指摘、社長の7割が「親会社出身」、運用成績が業界平均を下回ってもクビにならず… 日本の資産運用業が「草食系」である理由とは、セゾン投信の「積立王子」こと中野晴啓会長退任の裏にスルガ銀行あり) [金融]
投資(商品販売・手法)については、昨年6月3日に取上げた。今日は、(その3)(商業用不動産ファンドが「次の危機」の震源地に?空室率上昇と利上げで警戒感、金融庁が問題視、「投資家のコスト」が増える背景 投資信託を取り巻く課題をレポートで指摘、社長の7割が「親会社出身」、運用成績が業界平均を下回ってもクビにならず… 日本の資産運用業が「草食系」である理由とは、セゾン投信の「積立王子」こと中野晴啓会長退任の裏にスルガ銀行あり)である。
先ずは、本年4月18日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「商業用不動産ファンドが「次の危機」の震源地に?空室率上昇と利上げで警戒感」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/321432
・『最近、資金運用に行き詰まる投資ファンドが増えている。コロナ禍を経た「働き方の変化」で、オフィスビルの空室率が上昇していることが関係している。加えて金利が一時上昇したこともあり、商業用不動産の価値下落によって顧客への資金返還が難しくなるファンドが出ているのだ。金融専門家の中には、次の危機の震源地として「商業用不動産などに投資するファンド」への警戒を強めている向きがある。 2023年3月、欧州では金融大手のクレディ・スイスが経営危機に陥り、同じく金融大手のUBSに救済買収された。また、米国では中堅銀行の破綻が立て続けに複数件発生した。4月中旬現在、世界の金融市場はひとまず落ち着きを取り戻している。ただ、危機的な状況がすべて去ったと判断するのはやや尚早だろう。米国の中堅銀行の経営不安はまだくすぶっている。加えて、一部の大手ファンドが厳しい状況に追い込まれつつあるとの見方もある。 それは、新型コロナウイルス感染拡大による「働き方の変化」で、オフィスビルの空室率が上昇していることが関係している。加えて金利が一時上昇したこともあり、商業用不動産の価値下落によって顧客への資金返還が難しくなるファンドが出ているのだ。金融専門家の中には、次の危機の震源地として「商業用不動産などに投資するファンド」への警戒を強めている向きがある。 もう一つ懸念されるのは、投資家の間で「年央から米FRB(連邦準備制度理事会)が利下げを行う」との期待が出ていることだ。一連の銀行破綻で景気後退の懸念が高まり、「FRBは物価より景気の下支えを優先する」との見方だ。しかし、冷静に考えると、世界的にインフレは高止まりしている。短期的に、FRBやECB(欧州中央銀行)の金融政策が緩和に転じるとは考えづらい。 今後の資産価格の展開次第では、一部の投資ファンドが過剰なリスクを抱え、業況が悪化する可能性がある。それが現実のものになると、世界的に金融システムの不安定感を高める要因になるだろう』、「金融専門家の中には、次の危機の震源地として「商業用不動産などに投資するファンド」への警戒を強めている向きがある」、「今後の資産価格の展開次第では、一部の投資ファンドが過剰なリスクを抱え、業況が悪化する可能性がある。それが現実のものになると、世界的に金融システムの不安定感を高める要因になるだろう」、なるほど。
・『厳しい状況に向かう一部の投資ファンドとは 最近、資産価値の下落や、それに伴う市場流動性の低下などによって、資金運用に行き詰まる投資ファンドが増えている。資産分類(アセット・クラス)の中でも、オフィスビルなど「商業用不動産」を対象にした一部の大手ファンドの苦境が鮮明だ。 現在、米国では、資産運用大手の商業用不動産ファンドが焦点となっている。22年11月頃から、投資家の解約請求が急速に増えたようだ。一方、ファンド側は運営を維持するため解約を制限した。「自分の投資が解約できなくなる」との不安から、投資家は連鎖反応のように解約請求に走ったとみられる。その結果、23年3月まで5カ月連続で、当該ファンドの返金は制限された。 また、3月、フィンランドの商業用不動産を裏付けに発行された証券化商品が「デフォルト」と判定された。類似の事例が世界で増えている。 リーマンショック後、多くのファンド勢にとって商業用不動産の重要性は高まった。特に、投資銀行などと異なり、ファンド運営会社に対する規制は相対的に緩い環境が続いた。投資銀行にとって、ファンド向けの貸し出しは高い利益を生むため、重要性が増した。 また、GAFA (Google、Apple、Facebook〈現Meta〉、Amazon)などIT先端企業の急成長、さらにはスタートアップ企業やシェアオフィスの利用が急速に増えた。データセンターの建設も急増した。そうした需要の増加に支えられ、商業用不動産市場は成長した。 低金利環境が続くとの見方を背景に、より高い利得が期待できる商業用不動産に資金を振り向ける投資ファンドは増えた。3月に破綻した米シグネチャー銀行、救済された米ファースト・リパブリック銀行に関しても、IT企業のオフィスが入る不動産向けの融資を積み増した。しかし不動産価格の下落によって、そうした状況が急速に悪化している』、「リーマンショック後、多くのファンド勢にとって商業用不動産の重要性は高まった。特に、投資銀行などと異なり、ファンド運営会社に対する規制は相対的に緩い環境が続いた。投資銀行にとって、ファンド向けの貸し出しは高い利益を生むため、重要性が増した」、「IT先端企業の急成長、さらにはスタートアップ企業やシェアオフィスの利用が急速に増えた。データセンターの建設も急増した。そうした需要の増加に支えられ、商業用不動産市場は成長した」、なるほど。
・『資金運用行き詰まり「3つの要因」 資金運用に行き詰まるファンドが急増している要因として、大きく3つ指摘できる。まず、米欧でオフィスの空室率が上昇している。テレワークや在宅勤務が増加し、かつてのように毎日オフィスに通勤する必要性が低下した。加えて、米国や中国ではリーマンショック後の景気回復をけん引したIT先端企業の業績が悪化し、リストラが進んでいることもオフィス需要を低下させている。 次に、不動産の価値そのものも下落している。22年3月以降、米国ではインフレ鎮静のためにFRBが利上げを進めた。世界的に金利は上昇したことで、長期的に不動産が生み出すと期待される価値は押し下げられる。そのため、米国やユーロ圏では商業用不動産の市況が悪化している。中国やシンガポールでも、商業用不動産の価格下押し圧力が高まっている。 さらに、多くの投資ファンドは、多額の借り入れによる運用を行ってきた。例えば不動産に1億円を投資し、10%のリターンが得られるとする。その場合の利益は1000万円だが、自己資金1億円に加えて10億円を借り入れ、10%のリターンが得られた場合には、計11億円の10%、1億1000万円の利益が手元に残る。それを狙って、多くのファンドが借り入れによってレバレッジをかけた。 しかし、米欧の中央銀行が政策金利を引き上げるにつれ、資金借り入れコストは増える。加えて、商業用不動産などの価値が下落してもいる。ファンドからの資金流出も増える。 一方、商業用不動産の流動性は低い。こうして、資金の調達(短期)と運用(長期)のミスマッチが深刻化し、資金運用に行き詰まるファンドが急速に増えているのだ』、「米欧の中央銀行が政策金利を引き上げるにつれ、資金借り入れコストは増える。加えて、商業用不動産などの価値が下落してもいる。ファンドからの資金流出も増える。 一方、商業用不動産の流動性は低い。こうして、資金の調達(短期)と運用(長期)のミスマッチが深刻化し、資金運用に行き詰まるファンドが急速に増えている」、なるほど。
・『「危機の火種」は依然残っている 金利上昇によって資産価値が下落し、投資ファンドが苦境に陥る――こうした事態は、過去も繰り返されてきた。リーマンショック以前、証券化商品に投資を行うファンドが急増した。多くが短期で資金を借り入れ、満期償還までの期間が長い資産に資金を投じた。金融市場が安定している間は、さほど大きな問題は起きない。 しかし、07年の年初以降、米国の住宅価格下落が鮮明化し、同年8月には「パリバショック」(仏金融大手BNPパリバ傘下の投資ファンドの運用行き詰まり)も発生した。世界的に、「売るから下がる、下がるから売る」といった負の連鎖が鮮明となり、金融市場は混乱した。その結果としてリーマンショックが発生した。 商業用不動産ファンドが一斉に苦境に追い込まれ、世界経済と金融市場が大きく混乱するリスクは、23年4月上旬の時点ではそれほど高くはない。しかしながら、危機の火種が残る中、世界的にインフレは高止まりしている。一例としてサウジアラビアの追加減産により、原油価格にも押し上げ圧力がかかりやすくなった。 インフレ懸念が残る中で、FRBやECBなど中銀が短期間で金融緩和に動くことは難しいだろう。むしろ米国では政策金利の高止まりが続く可能性が高い。それに伴い、景気後退の懸念が高まり、貸倒引当金の積み増しによって業績が悪化する金融機関が増える可能性がある。 そうした状況下、米国をはじめ商業用不動産市場の下落が鮮明化し、多くの投資ファンドが厳しい状況に追い込まれる可能性は否定できない。4月3日、ECBは「商業用不動産ファンドの増加は、ユーロ圏における潜在的な金融システムの不安定性を高める恐れがある」との懸念を表明した。 米欧の金融機関に対する不安は取り敢えず後退したかにみえる。ただ、商業用不動産などの投資ファンドが、今後の金融危機の火種になるリスクは頭に入れておいた方がよいだろう』、「米国をはじめ商業用不動産市場の下落が鮮明化し、多くの投資ファンドが厳しい状況に追い込まれる可能性は否定できない」、「商業用不動産などの投資ファンドが、今後の金融危機の火種になるリスクは頭に入れておいた方がよいだろう」、その通りだ。
次に、5月9日付け東洋経済オンラインが掲載した金融ジャーナリストの川辺 和将氏による「金融庁が問題視、「投資家のコスト」が増える背景 投資信託を取り巻く課題をレポートで指摘」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/670248
・『証券会社などの投資信託の管理システムを、一部事業者が寡占化していることが、投資家のコスト負担につながっている――。 金融庁は今年4月、投資信託の現状について課題を整理した、「資産運用業高度化プログレスレポート2023」において、冒頭のような問題認識を提示した。 システム会社間の競争がない状況では金融機関側のコストが押し上げられ、その負担は最終的に一般利用者に転嫁されかねない。金融庁が直接の管轄ではないシステム領域の課題に踏み込んだ背景には、政府が打ち出したNISA拡充策をめぐって証券界や銀行界で渦巻く不満がある』、「投資信託の現状」について、「システム会社間の競争がない状況では金融機関側のコストが押し上げられ、その負担は最終的に一般利用者に転嫁されかねない」、確かにその通りだろう。
・『シェア7割を占める 投信システムの寡占化とは、どういうことか。 投信業界はおおざっぱにみると、個々の商品のメーカーにあたる運用会社と、銀行や証券会社などの販売会社で構成される。運用会社と販売会社は日々、投信の運用状況などに関する膨大な量のデータを「公開販売ネットワーク」と呼ばれる仕組みを通じてやりとりする。さらにこの公販ネットワークは、基準価額(投信を売買する際の価格)を算出する「計理システム」という別の仕組みとつながっている。 この計理システムにおいて、金融庁調査では残高、件数ベースでトップの事業者のシェアが約7割を占める(下図参照)。ベンダーごとの仕様の違いのせいで、異なる会社のシステムをつなぐには追加的な手数料を求められるケースが多く、結果的に公販ネットワークでも寡占状態が広がっているとみられる。(※外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)) 当局内には、「システムのコストは結果的に、投資家への負担増加につながり、『貯蓄から投資へ』の流れを阻害する要因となりかねない」(金融庁職員)という懸念がある。 レポートは、各種システムにおける寡占化の結果として事業者間の競争が働かず、それが金融機関側のコスト高の原因になっていると指摘。投資信託協会に対し、システムの仕様統一などを通じた寡占状況の解消を促している。 公表資料では事業者の社名こそ伏せられているものの、投信まわりの各種システムの分野では野村総合研究所(NRI)など証券会社系の存在感が強いことで知られる』、「計理システムにおいて・・・トップの事業者のシェアが約7割を占める」、「システムにおける寡占化」は顕著なようだ。
・『仕方がないと黙認された過去 システム分野の寡占状態については過去にも水面下、何度か金融庁内で議題に上っていた。ある事情通の金融庁関係者によれば、森信親元長官の時代にもシステムの寡占化について正式に問題提起すべきという声が上がったものの、「それが彼らの商売なら仕方ない」と幹部からの意見で頓挫した経緯があるという。 別の関係者によれば中島淳一・現金融庁長官は就任後、「こういう市況で一部システム会社の業績だけが好調というのは違和感がある」と周囲に話した。制度上は直接的な監督の権限をもたないはずの金融庁が、このタイミングでなぜシステム分野の寡占化という問題に足を踏み入れたのか。) その背景のひとつに、2024年1月に予定されているNISA制度の刷新がある。 NISA拡充は、岸田政権が昨年11月の資産所得倍増プランで掲げた看板施策だ。ただ、実際のNISAの買い付けは手数料水準の低いインデックス型投信に集中しがちで金融機関側にとって“うまみ”は小さく、システム整備の負担増に対する不満が根強い。 「結局、NISAで口座が増えるのは一部のネット証券だけ。ほとんどの証券会社にとっては割に合わない負け戦だ」(有力証券会社)、「金融庁が制度改正に動くたびに改修で儲かるシステム業界は、当局とグルではないのかと疑いたくなる」(地銀)といった恨み節が聞こえる。 一方、システム会社側からは「金融分野は特に高い安全性が求められるため、コストの削減幅には限度がある」(システム会社幹部)という意見も聞こえる』、「実際のNISAの買い付けは手数料水準の低いインデックス型投信に集中しがちで金融機関側にとって“うまみ”は小さく、システム整備の負担増に対する不満が根強い。 「結局、NISAで口座が増えるのは一部のネット証券だけ。ほとんどの証券会社にとっては割に合わない負け戦だ」(有力証券会社)、「金融庁が制度改正に動くたびに改修で儲かるシステム業界は、当局とグルではないのかと疑いたくなる」(地銀)といった恨み節が聞こえる」、なるほど。
・『システム業界をスケープゴートに? NISA口座倍増という政府目標に向けた取り組みに事業者間の温度差も目立つ中、金融庁は足元、現行一般NISA枠の機能を引き継ぐ「成長投資枠」の対象商品選定をめぐって業界側との折衝に苦戦している。システム業界をスケープゴートとして槍玉に挙げた今回のレポートには、資産運用業界全体の“ガス抜き”的な狙いも透ける。 単に金融機関のコスト削減にとどまることなく、一般利用者である国民の利益追求につながる改革を実現できるかどうか、金融庁の調整力が問われている』、「システム業界をスケープゴートとして槍玉に挙げた」のはともかく、「一般利用者である国民の利益追求につな」げてほしいものだ。
第三に、6月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したニコンやMUFGのCFOの徳成旨亮氏による「社長の7割が「親会社出身」、運用成績が業界平均を下回ってもクビにならず… 日本の資産運用業が「草食系」である理由とは」を紹介しよう。
・『毎年平均100名近い海外機関投資家と面談しているニコン現CFOの徳成旨亮氏によると、海外機関投資家との面談で、頻繁に「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」と問い質されてきた、という。 海外投資家は、日本の社会や企業経営を、血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態にあると見ている。結果、日経平均は1989年の最高値を未だ更新できておらず、水準を切り上げ続けている欧米株と比べて魅力がないと言われても仕方がない状況だ。 この現状を打破するにはどうしたらいいか? 徳成氏は、「CFO思考」が「鍵」になるという。 朝倉祐介氏(アニマルスピリッツ代表パートナー)や堀内勉氏(元森ビルCFO)が絶賛する6/7発売の新刊『CFO思考』では、日本経済・日本企業・日本人が「血気と活力」を取り戻し、着実に成長への道に回帰する秘策が述べられている。本書から、一部を特別に公開する』、「海外機関投資家との面談で、頻繁に「君たち・・・には『アニマルスピリッツ』はないのか?」と問い質されてきた」、「海外投資家は、日本の社会や企業経営を、血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態にあると見ている」、いずれも的確な指摘だ。
・『日本の上場企業すべてを買収できる資金力を持つ世界最大の資産運用会社とは 私は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の役員として、さまざまな国際的な金融のフォーラムや会議などに参加してきましたが、「会議の中心」が10年単位で変わってきたという印象を持っています。 すなわち、2000年より前は商業銀行が中心的立場にいました。米国ではシティバンクやJPモルガン・チェース、英国ではバークレイズやHSBCなど商業銀行の経営者が会議で基調講演をしたり、パネルディスカッションにも登壇したりしていました。 2000年前後からはM&Aなどの投資銀行ビジネスが花形となり、投資銀行(インベストメントバンク。日本で言えば証券会社)が金融界で主要な立場を占めるようになってきました。ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、リーマン・ブラザーズといった金融機関の発言力が大きくなっていったのです。 そして、世界は2008年、日本ではリーマンショックと呼ばれる世界金融危機を迎え、商業銀行や投資銀行は大きく傷つきました。 その後の世界経済の回復と世界的な株高局面で、金融機関の序列はがらりと変わりました。すなわち、これまでの銀行、投資銀行に代わって、資産運用会社が金融界の中心的役割を担うようになってきているのです。 資産運用会社の雄である米国のブラックロックがその代表選手であり、同社CEOのラリー・フィンク氏が金融業界で最もその発言の影響力がある人物と目されるようになりました。 グローバルな会議、たとえば毎年1月下旬にスイスのリゾート地で開かれるダボス会議では、「ラリーが何を言うか」に、金融界、さらには経済界の注目が集まるようになっています。 米国ブラックロックの運用資産残高は8.6兆ドル(約1118兆円)。世界最大のアセットマネジメント会社です[*1]。 東証の時価総額が5兆ドル、上海証取と香港証取を足した中国上場企業の時価総額が11兆ドル、GAFAに代表されるテック企業が多数上場しているNASDAQの時価総額が18兆ドル[*2]。ブラックロック1社で、日本企業のすべて、または中国企業の約8割、あるいはNASDAQ上場企業の半分近くの株を買えるわけですから、その巨大さと影響力がおわかりいただけるかと思います』、「これまでの銀行、投資銀行に代わって、資産運用会社が金融界の中心的役割を担うようになってきている」、「米国ブラックロックの運用資産残高は8.6兆ドル(約1118兆円)・・・1社で、日本企業のすべて、または中国企業の約8割、あるいはNASDAQ上場企業の半分近くの株を買えるわけですから、その巨大さと影響力がおわかりいただけるかと思います」、全く凄い規模だ。
・『資産運用業が金融界で覇権を握るのは歴史の必然 銀行から投資銀行、そして資産運用会社へという金融界の覇権の移行は、歴史の必然である、と私は考えています。すなわち、資本主義が高度に発展・進展すると、金融資本主義に進み、そこでは富の蓄積が行われ、最も効率的な利益創出である資産運用が行われるようになります。 ピケティ氏の「r>g」という不等式において、「r」を受け取ることができるのは投資のリスクを取っているファミリーオフィス、ソブリンウエルスファンド、年金基金、大学基金などのアセットオーナーです。そして、セームボートマネー(注)やプロフィットシェアリングの形で(欧米の)資産運用会社もその「r」の成長の恩恵に与ることができる立場にいます。 同じ金融機関でも、経済成長「g」を裏で支える銀行業は金利という定額の収入しかなく、それを超える上振れメリット(アップサイド)を享受することはできません。 また、証券会社は、企業の成長率「g」が株式や債券という有価証券に形を変えていくプロセスには株式増資や債券発行の引き受けという形で関与しますが、その株式や債券が生み出すリターン「r」を受け取る立場にはありません。 実は、資産運用業が金融機関の序列の最上位にいる状況は欧米先進国だけに限りません。 中国や中東の諸国も早くから「r>g」の不等式に気づき、ソブリンウエルスファンドという名の国営の資産運用会社を立ち上げ、最優秀の人材をここに投入して国富を増やしてきました。 たとえば、シンガポールの国家予算の4分の1は、同国のソブリンウエルスファンドの1社であるGICによる運用収益で賄われている状況です。つまり、シンガポールでは政府そのものがアセットオーナーとなって、「r」のメリットを享受し、国家予算を厚くしています。その結果、シンガポール国民も「r」の恩恵に与っている、と表現することもできます。 このように、欧米先進国や一部中進国においては、「r>g」という「ピケティの不等式」のメリットを貪欲に追求するアセットオーナーやそのおこぼれに与ろうとするアセットマネージャーがおり、各企業はこうした機関投資家から選ばれようと成長戦略を磨き、ROE(自己資本利益率)などの資本効率を高める努力をしています。 これが、金融資本主義が発展した社会の姿です』、「ソブリンウエルスファンド」の意味がより深く理解できた。
(注)セームボート(出資):不動産投資法人(リート)の資産運用会社のスポンサー(資産運用会社の大株主)が当該投資法人の投資口を購入・保有することを言います。セイムボート出資は、不動産投資法人の投資主、資産運用会社、スポンサーの利害を一致させる取り組みの一つです。投資口価格が下落して投資主が損をすれば、スポンサーも損をする仕組みです。セイムボート出資は不動産投資法人、資産運用会社、スポンサーの利害を一致させることで、投資家の信頼の獲得にも資する(投信資料館)。
・『日本の資産運用業界は平均並みのリターンでよしとする「草食系」がほとんど 一方、日本の機関投資家の行動様式や業界構造はほかの先進国とは異なる状況にあります。 すなわち、金主であるアセットオーナーは多様性が乏しく年金性資金が主流です。また、資産運用会社もTOPIXなどベンチマークに追随する運用が多く、どこも似たり寄ったりで特徴がありません。 まず、金主から見てみると、日本における最大のアセットオーナーは年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)という政府系機関です。GPIFは日本国民の国民年金や厚生年金を管理・運用する世界最大の年金基金です。その他、共済年金や各企業の年金などが日本における主な資金の出し手です。年金基金に匹敵する1000億円以上を運用するファミリーオフィスや大学基金などはほとんどありません。 日本の年金性資金のアセットオーナーは、リスク許容度が小さく、いわば「安全運転」の運用をアセットマネージャーに指示します。 すなわち、運用対象資産は流動性のある株式や債券などが中心で、不動産やPE(プライベート・エクイティ)など低流動性の資産への投資は限定的です。たとえば、GPIFの運用対象資産は、「伝統的4資産」と呼ばれる「国内株式」「海外株式」「国内債券」「海外債券」の4つであり、これらに25%ずつ投資する基本的ポートフォリオを組んでいます。 GPIFに代表される公的年金および企業年金の運用では、TOPIXやS&P500といったベンチマークよりも高い運用利回りを求めるアクティブ運用の割合が年々減少し、市場平均並みのリターンでよしとする草食系のインデックス運用(パッシブ運用)の割合が年々増加しています。 また、資産運用会社サイドも、欧米のようなセームボートマネーやプロフィットシェアリング方式の運用を採用している会社は少なく、AUM(アセット・アンダー・マネジメント。運用残高)に一定の料率をかけた金額を運用報酬として受領する、という手数料体系が一般的です。 この方式に従えば、ある運用機関の運用成績が業界平均を下回っても、相場自体が堅調で資産の時価が増えれば、得られる手数料も増えることになります。 セームボートマネーやプロフィットシェアリングがない以上、同業他社と同じような運用成績をあげておけば、AUMを削られることもなく、業界標準並みの報酬を得られます。つまり、アップサイドもないかわりにダウンサイドリスクも限定的です。 日本では、資産運用会社のファンドマネージャーがクビになるといった例はきわめて稀です。この点で、運用成績が振るわなければ市場から淘汰される欧米のファンドマネージャーとは大きく異なります。 もっと言えば、日本の運用機関で資産運用をしている大多数が「サラリー・ファンドマネージャー」であり、毎月、定額の給料を得ながら運用し、運用が上手くいっても失敗してもボーナスが若干上下する程度という報酬体系のなかで働いています。 また、日本では資本主義の歴史の違いや資本市場の厚みの違いから、欧米では主流の独立系資産運用会社は少数派です。その多くは銀行や証券会社などの子会社であり、経営者も資産運用の経験のない人物が天下りで派遣されるケースも見られます。 2023年4月に金融庁が公表した「資産運用高度化プログレスレポート2023」によれば、海外の大手資産運用会社の経営トップの約6割は20年以上の運用経験があり、内部昇格者が半分であるのに対し、日本では4割弱が運用経験3年未満で、さらに約7割が親会社などのグループ会社の出身者です[*3]。 このレポートでは、こうした人事は「顧客の最善の利益や資産運用会社としての成長よりも、グループ内の人事上の処遇を重視しているのではないかと一般に受け止められるおそれがある」と指摘しています。また、欧米の資産運用会社では、誰が責任を持ってファンドや投資信託を運用しているのかがわかるようにファンドマネージャーの個人名が開示されていますが、日本では運用担当者の氏名開示が進んでおらず、ファンドの本数に占める開示割合は、世界各国の中でも最低水準だと指摘しています。 このように、日本の資産運用業界は、資金の出し手や金主も、運用者やファンドマネージャーも双方が安定志向の「草食系」なのです』、「海外の大手資産運用会社の経営トップの約6割は20年以上の運用経験があり、内部昇格者が半分であるのに対し、日本では4割弱が運用経験3年未満で、さらに約7割が親会社などのグループ会社の出身者です。 このレポートでは、こうした人事は「顧客の最善の利益や資産運用会社としての成長よりも、グループ内の人事上の処遇を重視しているのではないかと一般に受け止められるおそれがある」、「日本の資産運用業界は、資金の出し手や金主も、運用者やファンドマネージャーも双方が安定志向の「草食系」なのです」、皆が「草食系」とはやれやれだ。
・『【著者からのメッセージ】 私は国内外あわせて毎年平均100名前後の機関投資家の方々と、直接もしくはネット経由で面談し、自社の株式への投資をお願いしてきました。これら多くのグローバル投資家から、私が繰り返し言われてきた言葉があります。それは、 「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」 というフレーズです。 経済学者のジョン・メイナード・ケインズによれば、アニマルスピリッツとは、「実現したいことに対する非合理的なまでの期待と熱意」を意味します。海外の投資家たちは、日本の社会全体や企業経営から血気と活力が衰えている、つまり「アニマルスピリッツ」が日本経済から失われていると見ているのです。 この現状を覆すにはどうすればよいか? それが本書のテーマです。その答えは「CFO思考」にあると私は考えています。 「CFO(Chief Financial Officer、最高財務責任者)」と聞くと、数字のプロであり経理や資金調達に責任を負っている「経理・財務担当役員」が思い浮かぶ方も多いと思います。 しかし、欧米で「CFO」といえば、CEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)とともに3名で経営の意思決定を行う「Cスイート」の一角を占める重要職です。CFOは、投資家をはじめとする社外の多くのステークホルダー(利害関係者)に対しては、会社を代表してエンゲージメント(深いつながりを持った対話)を行い、社内に対しては、ROE(自己資本利益率)に代表される投資家の期待・資本の論理や、ESG投資家や地域社会など、異なるステークホルダーの要望を社員にもわかるように翻訳して伝え、その期待を踏まえた経営戦略を立て、それを実践するよう組織に影響を与え行動を促す、という役割を担っています。 そして、「アニマルスピリッツ」をCEOなどほかの経営陣と共有し、「数値をベースにした冷静な判断力」を持って考え、企業としての夢の実現に向け行動する、いわば企業成長のエンジンの役割を果たしています。 本書では、従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべきだ」という考え方を「金庫番思考」、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」という考え方を「CFO思考」と呼びます。「『CFO思考』こそが、企業のパーパス(存在意義・目的)を実現させる」。これが本書の結論です。 本書でお話する内容には、企業経営に関するテーマが多く含まれています。同時に、現在、各企業において、経理、予算、財務、税務、IR、サステナビリティ・ESG、DX・ITといった分野で働くビジネスパーソン、もしくはそのような分野に興味がある方々も意識して書き下ろしました。皆さんが担当しておられるこれらの業務において、どのように「CFO思考」を発揮すればよいのかをご紹介しています。 こうした実務に携わっておられる皆さんには、グローバルで活躍できる人材として、将来日本企業と日本経済の成長のエンジンになっていただきたいと考えています。 CFOという仕事の魅力と楽しさが、一人でも多くの読者の皆さんに伝われば、それに勝る喜びはありません』、「従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべきだ」という考え方を「金庫番思考」、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」という考え方を「CFO思考」」、「CFO思考」が広がってほしいものだ。
第四に、6月10日付け日刊ゲンダイが掲載した金融ジャーナリストの小林佳樹氏による「セゾン投信の「積立王子」こと中野晴啓会長退任の裏にスルガ銀行あり」を紹介しよう。
・『セゾン投信は5月31日の取締役会で、6月1日付で創業者の中野晴啓会長の退任を決めた。中野氏は、親会社のクレディセゾンのドン・林野宏会長と経営の路線を巡り対立したとされ、「不本意な退任だ」(中野氏)との言葉を残し会社を去る。 中野氏は東京都出身で、1987年に明治大学商学部を卒業し、クレディセゾンに入社。同グループの金融子会社で資金運用業務を担当、2006年にセゾン投信を設立し社長に就任した。2014年には日本郵便の資本参加を受け入れ、2017年からゆうちょダイレクトへの商品提供を開始している。「中野氏は金融庁の金融審議会『市場ワーキング・グループ』の中核メンバーで、投資信託協会副会長も務めている。投信業界のカリスマの一人だ」(市場関係者)とされる。 投資哲学は、積み立て投資を長期的に続けることによる資産形成の素晴らしさを主張しており、「積立王子」と称される。長期投資の普及を目指し、日本全国でセミナー活動を精力的に展開している。また、2010年には、コモンズ投信会長の渋沢健、レオス・キャピタルワークスCIO(最高運用責任者)の藤野英人と「草食投資隊」を結成し、話題を集めた。) セゾン投信の運用資産残高は6000億円超で口座保有者は15万人を超える。自社で投資信託商品を設定・運用し、インターネットなどを通じて購入手数料のかからないノーロード型、信託報酬の低い投資信託として販売している。 そのカリスマ退任に業界では激震が走っている。 「中野氏は今の積み立て投資ブームをつくった立役者の一人。セゾングループ内で何度も反対に遭いながらセゾン投信を設立、自ら伝道師となって休日も全国を駆け巡り、積み立て・世界分散投資の意を若い投資家に説き続けてきた。販路をやみくもに広げず、投資家との顔の見える関係にこだわったことが成長のエンジン。中野会長だからこそセゾンでの積み立てを続けてきた個人投資家も多く、大きな落胆と資金流出にもつながりかねない」(市場関係者)というのだ。 中野氏退任の背景にはグループの販売戦略の転換も指摘されている。 「クレディセゾンによるスルガ銀行の持ち分法適用会社化の動きと関係しているのでしょう。セゾングループのドン・林野氏にしてみればセゾン投信は総合金融グループ化のための重要なエンティティーであり、スルガ銀を通じた窓口販売で預かり資産を一挙に増やしたいと考えている」(別の市場関係者)という』、「中野氏は今の積み立て投資ブームをつくった立役者の一人。セゾングループ内で何度も反対に遭いながらセゾン投信を設立、自ら伝道師となって休日も全国を駆け巡り、積み立て・世界分散投資の意を若い投資家に説き続けてきた。販路をやみくもに広げず、投資家との顔の見える関係にこだわったことが成長のエンジン。中野会長だからこそセゾンでの積み立てを続けてきた個人投資家も多く、大きな落胆と資金流出にもつながりかねない」、「資金流出」といっても、中野氏が独自の「投信」を立ち上げた訳でもないので、流出規模は知れているだろう。ただ、「ファン」心理は合理的に動くとは限らないだけに、不確定要素も大きいようだ。
・『顧客離れの懸念も だが、セゾン投信の顧客はほぼイコール積立王子ファンであり、中野氏の退任で顧客離れも懸念される。また、セゾン投信の株主はクレディセゾン(所有比率60%)と日本郵便(同40%)。日本郵便がどう判断するかも注目点だ』、「ファン」心理については、上述と同様なので、不確定要素も大きいとみておくべきだろう。
先ずは、本年4月18日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「商業用不動産ファンドが「次の危機」の震源地に?空室率上昇と利上げで警戒感」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/321432
・『最近、資金運用に行き詰まる投資ファンドが増えている。コロナ禍を経た「働き方の変化」で、オフィスビルの空室率が上昇していることが関係している。加えて金利が一時上昇したこともあり、商業用不動産の価値下落によって顧客への資金返還が難しくなるファンドが出ているのだ。金融専門家の中には、次の危機の震源地として「商業用不動産などに投資するファンド」への警戒を強めている向きがある。 2023年3月、欧州では金融大手のクレディ・スイスが経営危機に陥り、同じく金融大手のUBSに救済買収された。また、米国では中堅銀行の破綻が立て続けに複数件発生した。4月中旬現在、世界の金融市場はひとまず落ち着きを取り戻している。ただ、危機的な状況がすべて去ったと判断するのはやや尚早だろう。米国の中堅銀行の経営不安はまだくすぶっている。加えて、一部の大手ファンドが厳しい状況に追い込まれつつあるとの見方もある。 それは、新型コロナウイルス感染拡大による「働き方の変化」で、オフィスビルの空室率が上昇していることが関係している。加えて金利が一時上昇したこともあり、商業用不動産の価値下落によって顧客への資金返還が難しくなるファンドが出ているのだ。金融専門家の中には、次の危機の震源地として「商業用不動産などに投資するファンド」への警戒を強めている向きがある。 もう一つ懸念されるのは、投資家の間で「年央から米FRB(連邦準備制度理事会)が利下げを行う」との期待が出ていることだ。一連の銀行破綻で景気後退の懸念が高まり、「FRBは物価より景気の下支えを優先する」との見方だ。しかし、冷静に考えると、世界的にインフレは高止まりしている。短期的に、FRBやECB(欧州中央銀行)の金融政策が緩和に転じるとは考えづらい。 今後の資産価格の展開次第では、一部の投資ファンドが過剰なリスクを抱え、業況が悪化する可能性がある。それが現実のものになると、世界的に金融システムの不安定感を高める要因になるだろう』、「金融専門家の中には、次の危機の震源地として「商業用不動産などに投資するファンド」への警戒を強めている向きがある」、「今後の資産価格の展開次第では、一部の投資ファンドが過剰なリスクを抱え、業況が悪化する可能性がある。それが現実のものになると、世界的に金融システムの不安定感を高める要因になるだろう」、なるほど。
・『厳しい状況に向かう一部の投資ファンドとは 最近、資産価値の下落や、それに伴う市場流動性の低下などによって、資金運用に行き詰まる投資ファンドが増えている。資産分類(アセット・クラス)の中でも、オフィスビルなど「商業用不動産」を対象にした一部の大手ファンドの苦境が鮮明だ。 現在、米国では、資産運用大手の商業用不動産ファンドが焦点となっている。22年11月頃から、投資家の解約請求が急速に増えたようだ。一方、ファンド側は運営を維持するため解約を制限した。「自分の投資が解約できなくなる」との不安から、投資家は連鎖反応のように解約請求に走ったとみられる。その結果、23年3月まで5カ月連続で、当該ファンドの返金は制限された。 また、3月、フィンランドの商業用不動産を裏付けに発行された証券化商品が「デフォルト」と判定された。類似の事例が世界で増えている。 リーマンショック後、多くのファンド勢にとって商業用不動産の重要性は高まった。特に、投資銀行などと異なり、ファンド運営会社に対する規制は相対的に緩い環境が続いた。投資銀行にとって、ファンド向けの貸し出しは高い利益を生むため、重要性が増した。 また、GAFA (Google、Apple、Facebook〈現Meta〉、Amazon)などIT先端企業の急成長、さらにはスタートアップ企業やシェアオフィスの利用が急速に増えた。データセンターの建設も急増した。そうした需要の増加に支えられ、商業用不動産市場は成長した。 低金利環境が続くとの見方を背景に、より高い利得が期待できる商業用不動産に資金を振り向ける投資ファンドは増えた。3月に破綻した米シグネチャー銀行、救済された米ファースト・リパブリック銀行に関しても、IT企業のオフィスが入る不動産向けの融資を積み増した。しかし不動産価格の下落によって、そうした状況が急速に悪化している』、「リーマンショック後、多くのファンド勢にとって商業用不動産の重要性は高まった。特に、投資銀行などと異なり、ファンド運営会社に対する規制は相対的に緩い環境が続いた。投資銀行にとって、ファンド向けの貸し出しは高い利益を生むため、重要性が増した」、「IT先端企業の急成長、さらにはスタートアップ企業やシェアオフィスの利用が急速に増えた。データセンターの建設も急増した。そうした需要の増加に支えられ、商業用不動産市場は成長した」、なるほど。
・『資金運用行き詰まり「3つの要因」 資金運用に行き詰まるファンドが急増している要因として、大きく3つ指摘できる。まず、米欧でオフィスの空室率が上昇している。テレワークや在宅勤務が増加し、かつてのように毎日オフィスに通勤する必要性が低下した。加えて、米国や中国ではリーマンショック後の景気回復をけん引したIT先端企業の業績が悪化し、リストラが進んでいることもオフィス需要を低下させている。 次に、不動産の価値そのものも下落している。22年3月以降、米国ではインフレ鎮静のためにFRBが利上げを進めた。世界的に金利は上昇したことで、長期的に不動産が生み出すと期待される価値は押し下げられる。そのため、米国やユーロ圏では商業用不動産の市況が悪化している。中国やシンガポールでも、商業用不動産の価格下押し圧力が高まっている。 さらに、多くの投資ファンドは、多額の借り入れによる運用を行ってきた。例えば不動産に1億円を投資し、10%のリターンが得られるとする。その場合の利益は1000万円だが、自己資金1億円に加えて10億円を借り入れ、10%のリターンが得られた場合には、計11億円の10%、1億1000万円の利益が手元に残る。それを狙って、多くのファンドが借り入れによってレバレッジをかけた。 しかし、米欧の中央銀行が政策金利を引き上げるにつれ、資金借り入れコストは増える。加えて、商業用不動産などの価値が下落してもいる。ファンドからの資金流出も増える。 一方、商業用不動産の流動性は低い。こうして、資金の調達(短期)と運用(長期)のミスマッチが深刻化し、資金運用に行き詰まるファンドが急速に増えているのだ』、「米欧の中央銀行が政策金利を引き上げるにつれ、資金借り入れコストは増える。加えて、商業用不動産などの価値が下落してもいる。ファンドからの資金流出も増える。 一方、商業用不動産の流動性は低い。こうして、資金の調達(短期)と運用(長期)のミスマッチが深刻化し、資金運用に行き詰まるファンドが急速に増えている」、なるほど。
・『「危機の火種」は依然残っている 金利上昇によって資産価値が下落し、投資ファンドが苦境に陥る――こうした事態は、過去も繰り返されてきた。リーマンショック以前、証券化商品に投資を行うファンドが急増した。多くが短期で資金を借り入れ、満期償還までの期間が長い資産に資金を投じた。金融市場が安定している間は、さほど大きな問題は起きない。 しかし、07年の年初以降、米国の住宅価格下落が鮮明化し、同年8月には「パリバショック」(仏金融大手BNPパリバ傘下の投資ファンドの運用行き詰まり)も発生した。世界的に、「売るから下がる、下がるから売る」といった負の連鎖が鮮明となり、金融市場は混乱した。その結果としてリーマンショックが発生した。 商業用不動産ファンドが一斉に苦境に追い込まれ、世界経済と金融市場が大きく混乱するリスクは、23年4月上旬の時点ではそれほど高くはない。しかしながら、危機の火種が残る中、世界的にインフレは高止まりしている。一例としてサウジアラビアの追加減産により、原油価格にも押し上げ圧力がかかりやすくなった。 インフレ懸念が残る中で、FRBやECBなど中銀が短期間で金融緩和に動くことは難しいだろう。むしろ米国では政策金利の高止まりが続く可能性が高い。それに伴い、景気後退の懸念が高まり、貸倒引当金の積み増しによって業績が悪化する金融機関が増える可能性がある。 そうした状況下、米国をはじめ商業用不動産市場の下落が鮮明化し、多くの投資ファンドが厳しい状況に追い込まれる可能性は否定できない。4月3日、ECBは「商業用不動産ファンドの増加は、ユーロ圏における潜在的な金融システムの不安定性を高める恐れがある」との懸念を表明した。 米欧の金融機関に対する不安は取り敢えず後退したかにみえる。ただ、商業用不動産などの投資ファンドが、今後の金融危機の火種になるリスクは頭に入れておいた方がよいだろう』、「米国をはじめ商業用不動産市場の下落が鮮明化し、多くの投資ファンドが厳しい状況に追い込まれる可能性は否定できない」、「商業用不動産などの投資ファンドが、今後の金融危機の火種になるリスクは頭に入れておいた方がよいだろう」、その通りだ。
次に、5月9日付け東洋経済オンラインが掲載した金融ジャーナリストの川辺 和将氏による「金融庁が問題視、「投資家のコスト」が増える背景 投資信託を取り巻く課題をレポートで指摘」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/670248
・『証券会社などの投資信託の管理システムを、一部事業者が寡占化していることが、投資家のコスト負担につながっている――。 金融庁は今年4月、投資信託の現状について課題を整理した、「資産運用業高度化プログレスレポート2023」において、冒頭のような問題認識を提示した。 システム会社間の競争がない状況では金融機関側のコストが押し上げられ、その負担は最終的に一般利用者に転嫁されかねない。金融庁が直接の管轄ではないシステム領域の課題に踏み込んだ背景には、政府が打ち出したNISA拡充策をめぐって証券界や銀行界で渦巻く不満がある』、「投資信託の現状」について、「システム会社間の競争がない状況では金融機関側のコストが押し上げられ、その負担は最終的に一般利用者に転嫁されかねない」、確かにその通りだろう。
・『シェア7割を占める 投信システムの寡占化とは、どういうことか。 投信業界はおおざっぱにみると、個々の商品のメーカーにあたる運用会社と、銀行や証券会社などの販売会社で構成される。運用会社と販売会社は日々、投信の運用状況などに関する膨大な量のデータを「公開販売ネットワーク」と呼ばれる仕組みを通じてやりとりする。さらにこの公販ネットワークは、基準価額(投信を売買する際の価格)を算出する「計理システム」という別の仕組みとつながっている。 この計理システムにおいて、金融庁調査では残高、件数ベースでトップの事業者のシェアが約7割を占める(下図参照)。ベンダーごとの仕様の違いのせいで、異なる会社のシステムをつなぐには追加的な手数料を求められるケースが多く、結果的に公販ネットワークでも寡占状態が広がっているとみられる。(※外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)) 当局内には、「システムのコストは結果的に、投資家への負担増加につながり、『貯蓄から投資へ』の流れを阻害する要因となりかねない」(金融庁職員)という懸念がある。 レポートは、各種システムにおける寡占化の結果として事業者間の競争が働かず、それが金融機関側のコスト高の原因になっていると指摘。投資信託協会に対し、システムの仕様統一などを通じた寡占状況の解消を促している。 公表資料では事業者の社名こそ伏せられているものの、投信まわりの各種システムの分野では野村総合研究所(NRI)など証券会社系の存在感が強いことで知られる』、「計理システムにおいて・・・トップの事業者のシェアが約7割を占める」、「システムにおける寡占化」は顕著なようだ。
・『仕方がないと黙認された過去 システム分野の寡占状態については過去にも水面下、何度か金融庁内で議題に上っていた。ある事情通の金融庁関係者によれば、森信親元長官の時代にもシステムの寡占化について正式に問題提起すべきという声が上がったものの、「それが彼らの商売なら仕方ない」と幹部からの意見で頓挫した経緯があるという。 別の関係者によれば中島淳一・現金融庁長官は就任後、「こういう市況で一部システム会社の業績だけが好調というのは違和感がある」と周囲に話した。制度上は直接的な監督の権限をもたないはずの金融庁が、このタイミングでなぜシステム分野の寡占化という問題に足を踏み入れたのか。) その背景のひとつに、2024年1月に予定されているNISA制度の刷新がある。 NISA拡充は、岸田政権が昨年11月の資産所得倍増プランで掲げた看板施策だ。ただ、実際のNISAの買い付けは手数料水準の低いインデックス型投信に集中しがちで金融機関側にとって“うまみ”は小さく、システム整備の負担増に対する不満が根強い。 「結局、NISAで口座が増えるのは一部のネット証券だけ。ほとんどの証券会社にとっては割に合わない負け戦だ」(有力証券会社)、「金融庁が制度改正に動くたびに改修で儲かるシステム業界は、当局とグルではないのかと疑いたくなる」(地銀)といった恨み節が聞こえる。 一方、システム会社側からは「金融分野は特に高い安全性が求められるため、コストの削減幅には限度がある」(システム会社幹部)という意見も聞こえる』、「実際のNISAの買い付けは手数料水準の低いインデックス型投信に集中しがちで金融機関側にとって“うまみ”は小さく、システム整備の負担増に対する不満が根強い。 「結局、NISAで口座が増えるのは一部のネット証券だけ。ほとんどの証券会社にとっては割に合わない負け戦だ」(有力証券会社)、「金融庁が制度改正に動くたびに改修で儲かるシステム業界は、当局とグルではないのかと疑いたくなる」(地銀)といった恨み節が聞こえる」、なるほど。
・『システム業界をスケープゴートに? NISA口座倍増という政府目標に向けた取り組みに事業者間の温度差も目立つ中、金融庁は足元、現行一般NISA枠の機能を引き継ぐ「成長投資枠」の対象商品選定をめぐって業界側との折衝に苦戦している。システム業界をスケープゴートとして槍玉に挙げた今回のレポートには、資産運用業界全体の“ガス抜き”的な狙いも透ける。 単に金融機関のコスト削減にとどまることなく、一般利用者である国民の利益追求につながる改革を実現できるかどうか、金融庁の調整力が問われている』、「システム業界をスケープゴートとして槍玉に挙げた」のはともかく、「一般利用者である国民の利益追求につな」げてほしいものだ。
第三に、6月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したニコンやMUFGのCFOの徳成旨亮氏による「社長の7割が「親会社出身」、運用成績が業界平均を下回ってもクビにならず… 日本の資産運用業が「草食系」である理由とは」を紹介しよう。
・『毎年平均100名近い海外機関投資家と面談しているニコン現CFOの徳成旨亮氏によると、海外機関投資家との面談で、頻繁に「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」と問い質されてきた、という。 海外投資家は、日本の社会や企業経営を、血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態にあると見ている。結果、日経平均は1989年の最高値を未だ更新できておらず、水準を切り上げ続けている欧米株と比べて魅力がないと言われても仕方がない状況だ。 この現状を打破するにはどうしたらいいか? 徳成氏は、「CFO思考」が「鍵」になるという。 朝倉祐介氏(アニマルスピリッツ代表パートナー)や堀内勉氏(元森ビルCFO)が絶賛する6/7発売の新刊『CFO思考』では、日本経済・日本企業・日本人が「血気と活力」を取り戻し、着実に成長への道に回帰する秘策が述べられている。本書から、一部を特別に公開する』、「海外機関投資家との面談で、頻繁に「君たち・・・には『アニマルスピリッツ』はないのか?」と問い質されてきた」、「海外投資家は、日本の社会や企業経営を、血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態にあると見ている」、いずれも的確な指摘だ。
・『日本の上場企業すべてを買収できる資金力を持つ世界最大の資産運用会社とは 私は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の役員として、さまざまな国際的な金融のフォーラムや会議などに参加してきましたが、「会議の中心」が10年単位で変わってきたという印象を持っています。 すなわち、2000年より前は商業銀行が中心的立場にいました。米国ではシティバンクやJPモルガン・チェース、英国ではバークレイズやHSBCなど商業銀行の経営者が会議で基調講演をしたり、パネルディスカッションにも登壇したりしていました。 2000年前後からはM&Aなどの投資銀行ビジネスが花形となり、投資銀行(インベストメントバンク。日本で言えば証券会社)が金融界で主要な立場を占めるようになってきました。ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、リーマン・ブラザーズといった金融機関の発言力が大きくなっていったのです。 そして、世界は2008年、日本ではリーマンショックと呼ばれる世界金融危機を迎え、商業銀行や投資銀行は大きく傷つきました。 その後の世界経済の回復と世界的な株高局面で、金融機関の序列はがらりと変わりました。すなわち、これまでの銀行、投資銀行に代わって、資産運用会社が金融界の中心的役割を担うようになってきているのです。 資産運用会社の雄である米国のブラックロックがその代表選手であり、同社CEOのラリー・フィンク氏が金融業界で最もその発言の影響力がある人物と目されるようになりました。 グローバルな会議、たとえば毎年1月下旬にスイスのリゾート地で開かれるダボス会議では、「ラリーが何を言うか」に、金融界、さらには経済界の注目が集まるようになっています。 米国ブラックロックの運用資産残高は8.6兆ドル(約1118兆円)。世界最大のアセットマネジメント会社です[*1]。 東証の時価総額が5兆ドル、上海証取と香港証取を足した中国上場企業の時価総額が11兆ドル、GAFAに代表されるテック企業が多数上場しているNASDAQの時価総額が18兆ドル[*2]。ブラックロック1社で、日本企業のすべて、または中国企業の約8割、あるいはNASDAQ上場企業の半分近くの株を買えるわけですから、その巨大さと影響力がおわかりいただけるかと思います』、「これまでの銀行、投資銀行に代わって、資産運用会社が金融界の中心的役割を担うようになってきている」、「米国ブラックロックの運用資産残高は8.6兆ドル(約1118兆円)・・・1社で、日本企業のすべて、または中国企業の約8割、あるいはNASDAQ上場企業の半分近くの株を買えるわけですから、その巨大さと影響力がおわかりいただけるかと思います」、全く凄い規模だ。
・『資産運用業が金融界で覇権を握るのは歴史の必然 銀行から投資銀行、そして資産運用会社へという金融界の覇権の移行は、歴史の必然である、と私は考えています。すなわち、資本主義が高度に発展・進展すると、金融資本主義に進み、そこでは富の蓄積が行われ、最も効率的な利益創出である資産運用が行われるようになります。 ピケティ氏の「r>g」という不等式において、「r」を受け取ることができるのは投資のリスクを取っているファミリーオフィス、ソブリンウエルスファンド、年金基金、大学基金などのアセットオーナーです。そして、セームボートマネー(注)やプロフィットシェアリングの形で(欧米の)資産運用会社もその「r」の成長の恩恵に与ることができる立場にいます。 同じ金融機関でも、経済成長「g」を裏で支える銀行業は金利という定額の収入しかなく、それを超える上振れメリット(アップサイド)を享受することはできません。 また、証券会社は、企業の成長率「g」が株式や債券という有価証券に形を変えていくプロセスには株式増資や債券発行の引き受けという形で関与しますが、その株式や債券が生み出すリターン「r」を受け取る立場にはありません。 実は、資産運用業が金融機関の序列の最上位にいる状況は欧米先進国だけに限りません。 中国や中東の諸国も早くから「r>g」の不等式に気づき、ソブリンウエルスファンドという名の国営の資産運用会社を立ち上げ、最優秀の人材をここに投入して国富を増やしてきました。 たとえば、シンガポールの国家予算の4分の1は、同国のソブリンウエルスファンドの1社であるGICによる運用収益で賄われている状況です。つまり、シンガポールでは政府そのものがアセットオーナーとなって、「r」のメリットを享受し、国家予算を厚くしています。その結果、シンガポール国民も「r」の恩恵に与っている、と表現することもできます。 このように、欧米先進国や一部中進国においては、「r>g」という「ピケティの不等式」のメリットを貪欲に追求するアセットオーナーやそのおこぼれに与ろうとするアセットマネージャーがおり、各企業はこうした機関投資家から選ばれようと成長戦略を磨き、ROE(自己資本利益率)などの資本効率を高める努力をしています。 これが、金融資本主義が発展した社会の姿です』、「ソブリンウエルスファンド」の意味がより深く理解できた。
(注)セームボート(出資):不動産投資法人(リート)の資産運用会社のスポンサー(資産運用会社の大株主)が当該投資法人の投資口を購入・保有することを言います。セイムボート出資は、不動産投資法人の投資主、資産運用会社、スポンサーの利害を一致させる取り組みの一つです。投資口価格が下落して投資主が損をすれば、スポンサーも損をする仕組みです。セイムボート出資は不動産投資法人、資産運用会社、スポンサーの利害を一致させることで、投資家の信頼の獲得にも資する(投信資料館)。
・『日本の資産運用業界は平均並みのリターンでよしとする「草食系」がほとんど 一方、日本の機関投資家の行動様式や業界構造はほかの先進国とは異なる状況にあります。 すなわち、金主であるアセットオーナーは多様性が乏しく年金性資金が主流です。また、資産運用会社もTOPIXなどベンチマークに追随する運用が多く、どこも似たり寄ったりで特徴がありません。 まず、金主から見てみると、日本における最大のアセットオーナーは年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)という政府系機関です。GPIFは日本国民の国民年金や厚生年金を管理・運用する世界最大の年金基金です。その他、共済年金や各企業の年金などが日本における主な資金の出し手です。年金基金に匹敵する1000億円以上を運用するファミリーオフィスや大学基金などはほとんどありません。 日本の年金性資金のアセットオーナーは、リスク許容度が小さく、いわば「安全運転」の運用をアセットマネージャーに指示します。 すなわち、運用対象資産は流動性のある株式や債券などが中心で、不動産やPE(プライベート・エクイティ)など低流動性の資産への投資は限定的です。たとえば、GPIFの運用対象資産は、「伝統的4資産」と呼ばれる「国内株式」「海外株式」「国内債券」「海外債券」の4つであり、これらに25%ずつ投資する基本的ポートフォリオを組んでいます。 GPIFに代表される公的年金および企業年金の運用では、TOPIXやS&P500といったベンチマークよりも高い運用利回りを求めるアクティブ運用の割合が年々減少し、市場平均並みのリターンでよしとする草食系のインデックス運用(パッシブ運用)の割合が年々増加しています。 また、資産運用会社サイドも、欧米のようなセームボートマネーやプロフィットシェアリング方式の運用を採用している会社は少なく、AUM(アセット・アンダー・マネジメント。運用残高)に一定の料率をかけた金額を運用報酬として受領する、という手数料体系が一般的です。 この方式に従えば、ある運用機関の運用成績が業界平均を下回っても、相場自体が堅調で資産の時価が増えれば、得られる手数料も増えることになります。 セームボートマネーやプロフィットシェアリングがない以上、同業他社と同じような運用成績をあげておけば、AUMを削られることもなく、業界標準並みの報酬を得られます。つまり、アップサイドもないかわりにダウンサイドリスクも限定的です。 日本では、資産運用会社のファンドマネージャーがクビになるといった例はきわめて稀です。この点で、運用成績が振るわなければ市場から淘汰される欧米のファンドマネージャーとは大きく異なります。 もっと言えば、日本の運用機関で資産運用をしている大多数が「サラリー・ファンドマネージャー」であり、毎月、定額の給料を得ながら運用し、運用が上手くいっても失敗してもボーナスが若干上下する程度という報酬体系のなかで働いています。 また、日本では資本主義の歴史の違いや資本市場の厚みの違いから、欧米では主流の独立系資産運用会社は少数派です。その多くは銀行や証券会社などの子会社であり、経営者も資産運用の経験のない人物が天下りで派遣されるケースも見られます。 2023年4月に金融庁が公表した「資産運用高度化プログレスレポート2023」によれば、海外の大手資産運用会社の経営トップの約6割は20年以上の運用経験があり、内部昇格者が半分であるのに対し、日本では4割弱が運用経験3年未満で、さらに約7割が親会社などのグループ会社の出身者です[*3]。 このレポートでは、こうした人事は「顧客の最善の利益や資産運用会社としての成長よりも、グループ内の人事上の処遇を重視しているのではないかと一般に受け止められるおそれがある」と指摘しています。また、欧米の資産運用会社では、誰が責任を持ってファンドや投資信託を運用しているのかがわかるようにファンドマネージャーの個人名が開示されていますが、日本では運用担当者の氏名開示が進んでおらず、ファンドの本数に占める開示割合は、世界各国の中でも最低水準だと指摘しています。 このように、日本の資産運用業界は、資金の出し手や金主も、運用者やファンドマネージャーも双方が安定志向の「草食系」なのです』、「海外の大手資産運用会社の経営トップの約6割は20年以上の運用経験があり、内部昇格者が半分であるのに対し、日本では4割弱が運用経験3年未満で、さらに約7割が親会社などのグループ会社の出身者です。 このレポートでは、こうした人事は「顧客の最善の利益や資産運用会社としての成長よりも、グループ内の人事上の処遇を重視しているのではないかと一般に受け止められるおそれがある」、「日本の資産運用業界は、資金の出し手や金主も、運用者やファンドマネージャーも双方が安定志向の「草食系」なのです」、皆が「草食系」とはやれやれだ。
・『【著者からのメッセージ】 私は国内外あわせて毎年平均100名前後の機関投資家の方々と、直接もしくはネット経由で面談し、自社の株式への投資をお願いしてきました。これら多くのグローバル投資家から、私が繰り返し言われてきた言葉があります。それは、 「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」 というフレーズです。 経済学者のジョン・メイナード・ケインズによれば、アニマルスピリッツとは、「実現したいことに対する非合理的なまでの期待と熱意」を意味します。海外の投資家たちは、日本の社会全体や企業経営から血気と活力が衰えている、つまり「アニマルスピリッツ」が日本経済から失われていると見ているのです。 この現状を覆すにはどうすればよいか? それが本書のテーマです。その答えは「CFO思考」にあると私は考えています。 「CFO(Chief Financial Officer、最高財務責任者)」と聞くと、数字のプロであり経理や資金調達に責任を負っている「経理・財務担当役員」が思い浮かぶ方も多いと思います。 しかし、欧米で「CFO」といえば、CEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)とともに3名で経営の意思決定を行う「Cスイート」の一角を占める重要職です。CFOは、投資家をはじめとする社外の多くのステークホルダー(利害関係者)に対しては、会社を代表してエンゲージメント(深いつながりを持った対話)を行い、社内に対しては、ROE(自己資本利益率)に代表される投資家の期待・資本の論理や、ESG投資家や地域社会など、異なるステークホルダーの要望を社員にもわかるように翻訳して伝え、その期待を踏まえた経営戦略を立て、それを実践するよう組織に影響を与え行動を促す、という役割を担っています。 そして、「アニマルスピリッツ」をCEOなどほかの経営陣と共有し、「数値をベースにした冷静な判断力」を持って考え、企業としての夢の実現に向け行動する、いわば企業成長のエンジンの役割を果たしています。 本書では、従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべきだ」という考え方を「金庫番思考」、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」という考え方を「CFO思考」と呼びます。「『CFO思考』こそが、企業のパーパス(存在意義・目的)を実現させる」。これが本書の結論です。 本書でお話する内容には、企業経営に関するテーマが多く含まれています。同時に、現在、各企業において、経理、予算、財務、税務、IR、サステナビリティ・ESG、DX・ITといった分野で働くビジネスパーソン、もしくはそのような分野に興味がある方々も意識して書き下ろしました。皆さんが担当しておられるこれらの業務において、どのように「CFO思考」を発揮すればよいのかをご紹介しています。 こうした実務に携わっておられる皆さんには、グローバルで活躍できる人材として、将来日本企業と日本経済の成長のエンジンになっていただきたいと考えています。 CFOという仕事の魅力と楽しさが、一人でも多くの読者の皆さんに伝われば、それに勝る喜びはありません』、「従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべきだ」という考え方を「金庫番思考」、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」という考え方を「CFO思考」」、「CFO思考」が広がってほしいものだ。
第四に、6月10日付け日刊ゲンダイが掲載した金融ジャーナリストの小林佳樹氏による「セゾン投信の「積立王子」こと中野晴啓会長退任の裏にスルガ銀行あり」を紹介しよう。
・『セゾン投信は5月31日の取締役会で、6月1日付で創業者の中野晴啓会長の退任を決めた。中野氏は、親会社のクレディセゾンのドン・林野宏会長と経営の路線を巡り対立したとされ、「不本意な退任だ」(中野氏)との言葉を残し会社を去る。 中野氏は東京都出身で、1987年に明治大学商学部を卒業し、クレディセゾンに入社。同グループの金融子会社で資金運用業務を担当、2006年にセゾン投信を設立し社長に就任した。2014年には日本郵便の資本参加を受け入れ、2017年からゆうちょダイレクトへの商品提供を開始している。「中野氏は金融庁の金融審議会『市場ワーキング・グループ』の中核メンバーで、投資信託協会副会長も務めている。投信業界のカリスマの一人だ」(市場関係者)とされる。 投資哲学は、積み立て投資を長期的に続けることによる資産形成の素晴らしさを主張しており、「積立王子」と称される。長期投資の普及を目指し、日本全国でセミナー活動を精力的に展開している。また、2010年には、コモンズ投信会長の渋沢健、レオス・キャピタルワークスCIO(最高運用責任者)の藤野英人と「草食投資隊」を結成し、話題を集めた。) セゾン投信の運用資産残高は6000億円超で口座保有者は15万人を超える。自社で投資信託商品を設定・運用し、インターネットなどを通じて購入手数料のかからないノーロード型、信託報酬の低い投資信託として販売している。 そのカリスマ退任に業界では激震が走っている。 「中野氏は今の積み立て投資ブームをつくった立役者の一人。セゾングループ内で何度も反対に遭いながらセゾン投信を設立、自ら伝道師となって休日も全国を駆け巡り、積み立て・世界分散投資の意を若い投資家に説き続けてきた。販路をやみくもに広げず、投資家との顔の見える関係にこだわったことが成長のエンジン。中野会長だからこそセゾンでの積み立てを続けてきた個人投資家も多く、大きな落胆と資金流出にもつながりかねない」(市場関係者)というのだ。 中野氏退任の背景にはグループの販売戦略の転換も指摘されている。 「クレディセゾンによるスルガ銀行の持ち分法適用会社化の動きと関係しているのでしょう。セゾングループのドン・林野氏にしてみればセゾン投信は総合金融グループ化のための重要なエンティティーであり、スルガ銀を通じた窓口販売で預かり資産を一挙に増やしたいと考えている」(別の市場関係者)という』、「中野氏は今の積み立て投資ブームをつくった立役者の一人。セゾングループ内で何度も反対に遭いながらセゾン投信を設立、自ら伝道師となって休日も全国を駆け巡り、積み立て・世界分散投資の意を若い投資家に説き続けてきた。販路をやみくもに広げず、投資家との顔の見える関係にこだわったことが成長のエンジン。中野会長だからこそセゾンでの積み立てを続けてきた個人投資家も多く、大きな落胆と資金流出にもつながりかねない」、「資金流出」といっても、中野氏が独自の「投信」を立ち上げた訳でもないので、流出規模は知れているだろう。ただ、「ファン」心理は合理的に動くとは限らないだけに、不確定要素も大きいようだ。
・『顧客離れの懸念も だが、セゾン投信の顧客はほぼイコール積立王子ファンであり、中野氏の退任で顧客離れも懸念される。また、セゾン投信の株主はクレディセゾン(所有比率60%)と日本郵便(同40%)。日本郵便がどう判断するかも注目点だ』、「ファン」心理については、上述と同様なので、不確定要素も大きいとみておくべきだろう。
タグ:ダイヤモンド・オンライン 「投資信託の現状」について、「システム会社間の競争がない状況では金融機関側のコストが押し上げられ、その負担は最終的に一般利用者に転嫁されかねない」、確かにその通りだろう。 投資(商品販売・手法) 「リーマンショック後、多くのファンド勢にとって商業用不動産の重要性は高まった。特に、投資銀行などと異なり、ファンド運営会社に対する規制は相対的に緩い環境が続いた。投資銀行にとって、ファンド向けの貸し出しは高い利益を生むため、重要性が増した」、「IT先端企業の急成長、さらにはスタートアップ企業やシェアオフィスの利用が急速に増えた。データセンターの建設も急増した。そうした需要の増加に支えられ、商業用不動産市場は成長した」、なるほど。 (その3)(商業用不動産ファンドが「次の危機」の震源地に?空室率上昇と利上げで警戒感、金融庁が問題視、「投資家のコスト」が増える背景 投資信託を取り巻く課題をレポートで指摘、社長の7割が「親会社出身」、運用成績が業界平均を下回ってもクビにならず… 日本の資産運用業が「草食系」である理由とは、セゾン投信の「積立王子」こと中野晴啓会長退任の裏にスルガ銀行あり) 東洋経済オンライン 「米国をはじめ商業用不動産市場の下落が鮮明化し、多くの投資ファンドが厳しい状況に追い込まれる可能性は否定できない」、「商業用不動産などの投資ファンドが、今後の金融危機の火種になるリスクは頭に入れておいた方がよいだろう」、その通りだ。 「米欧の中央銀行が政策金利を引き上げるにつれ、資金借り入れコストは増える。加えて、商業用不動産などの価値が下落してもいる。ファンドからの資金流出も増える。 一方、商業用不動産の流動性は低い。こうして、資金の調達(短期)と運用(長期)のミスマッチが深刻化し、資金運用に行き詰まるファンドが急速に増えている」、なるほど。 「金融専門家の中には、次の危機の震源地として「商業用不動産などに投資するファンド」への警戒を強めている向きがある」、「今後の資産価格の展開次第では、一部の投資ファンドが過剰なリスクを抱え、業況が悪化する可能性がある。それが現実のものになると、世界的に金融システムの不安定感を高める要因になるだろう」、なるほど。 真壁昭夫氏による「商業用不動産ファンドが「次の危機」の震源地に?空室率上昇と利上げで警戒感」 川辺 和将氏による「金融庁が問題視、「投資家のコスト」が増える背景 投資信託を取り巻く課題をレポートで指摘」 「計理システムにおいて・・・トップの事業者のシェアが約7割を占める」、「システムにおける寡占化」は顕著なようだ。 「実際のNISAの買い付けは手数料水準の低いインデックス型投信に集中しがちで金融機関側にとって“うまみ”は小さく、システム整備の負担増に対する不満が根強い。 「結局、NISAで口座が増えるのは一部のネット証券だけ。ほとんどの証券会社にとっては割に合わない負け戦だ」(有力証券会社)、 「金融庁が制度改正に動くたびに改修で儲かるシステム業界は、当局とグルではないのかと疑いたくなる」(地銀)といった恨み節が聞こえる」、なるほど。 「システム業界をスケープゴートとして槍玉に挙げた」のはともかく、「一般利用者である国民の利益追求につな」げてほしいものだ。 徳成旨亮氏 「社長の7割が「親会社出身」、運用成績が業界平均を下回ってもクビにならず… 日本の資産運用業が「草食系」である理由とは」 「海外機関投資家との面談で、頻繁に「君たち・・・には『アニマルスピリッツ』はないのか?」と問い質されてきた」、「海外投資家は、日本の社会や企業経営を、血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態にあると見ている」、いずれも的確な指摘だ。 「これまでの銀行、投資銀行に代わって、資産運用会社が金融界の中心的役割を担うようになってきている」、「米国ブラックロックの運用資産残高は8.6兆ドル(約1118兆円)・・・1社で、日本企業のすべて、または中国企業の約8割、あるいはNASDAQ上場企業の半分近くの株を買えるわけですから、その巨大さと影響力がおわかりいただけるかと思います」、全く凄い規模だ。 「ソブリンウエルスファンド」の意味がより深く理解できた。 (注)セームボート(出資):不動産投資法人(リート)の資産運用会社のスポンサー(資産運用会社の大株主)が当該投資法人の投資口を購入・保有することを言います。セイムボート出資は、不動産投資法人の投資主、資産運用会社、スポンサーの利害を一致させる取り組みの一つです。投資口価格が下落して投資主が損をすれば、スポンサーも損をする仕組みです。セイムボート出資は不動産投資法人、資産運用会社、スポンサーの利害を一致させることで、投資家の信頼の獲得にも資する(投信資料館)。 「海外の大手資産運用会社の経営トップの約6割は20年以上の運用経験があり、内部昇格者が半分であるのに対し、日本では4割弱が運用経験3年未満で、さらに約7割が親会社などのグループ会社の出身者です。 このレポートでは、こうした人事は「顧客の最善の利益や資産運用会社としての成長よりも、グループ内の人事上の処遇を重視しているのではないかと一般に受け止められるおそれがある」、 「日本の資産運用業界は、資金の出し手や金主も、運用者やファンドマネージャーも双方が安定志向の「草食系」なのです」、皆が「草食系」とはやれやれだ。 「従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべきだ」という考え方を「金庫番思考」、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」という考え方を「CFO思考」」、「CFO思考」が広がってほしいものだ。 日刊ゲンダイ 小林佳樹氏による「セゾン投信の「積立王子」こと中野晴啓会長退任の裏にスルガ銀行あり」 「中野氏は今の積み立て投資ブームをつくった立役者の一人。セゾングループ内で何度も反対に遭いながらセゾン投信を設立、自ら伝道師となって休日も全国を駆け巡り、積み立て・世界分散投資の意を若い投資家に説き続けてきた。販路をやみくもに広げず、投資家との顔の見える関係にこだわったことが成長のエンジン。中野会長だからこそセゾンでの積み立てを続けてきた個人投資家も多く、大きな落胆と資金流出にもつながりかねない」、 「資金流出」といっても、中野氏が独自の「投信」を立ち上げた訳でもないので、流出規模は知れているだろう。ただ、「ファン」心理は合理的に動くとは限らないだけに、不確定要素も大きいようだ。 「ファン」心理については、上述と同様なので、不確定要素も大きいとみておくべきだろう。
資本市場(その10)(簿価割れが約5割という日本企業の“異常事態”、東証プライムからスタンダードへ「降格ラッシュ」 「骨抜き」批判から1年、始まったプライムの選別、PBR1倍割れ多発 東証プライム「テコ入れ」の難路 投資家は早くも改善要求、独り歩きする指標、千葉銀など3社で露見した「仕組み債」乱売の実態 銀証連携で生じた「歪み」が処分勧告で明るみに、悲劇の舞台は「仕組み債」から「永久劣後債」へ 富裕層らが2.4兆円の大損!海外債券投資の罠) [金融]
資本市場については、本年2月3日に取上げた。今日は、(その10)(簿価割れが約5割という日本企業の“異常事態”、東証プライムからスタンダードへ「降格ラッシュ」 「骨抜き」批判から1年、始まったプライムの選別、PBR1倍割れ多発 東証プライム「テコ入れ」の難路 投資家は早くも改善要求、独り歩きする指標、千葉銀など3社で露見した「仕組み債」乱売の実態 銀証連携で生じた「歪み」が処分勧告で明るみに、悲劇の舞台は「仕組み債」から「永久劣後債」へ 富裕層らが2.4兆円の大損!海外債券投資の罠)である。
先ずは、本年4月27日付け日経ビジネスオンラインが掲載したUBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントのエクイティ・リサーチ・ヘッドの居林 通氏による「簿価割れが約5割という日本企業の“異常事態”」を紹介しよう。Qは聞き手の質問。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00130/00026/
・『居林:「市場は『晴れ、ときどき台風』」を長きにわたって連載させていただきましたが、次回をもって最終回となります。 Q:2016年2月15日の「大荒れ相場? いえ、これって“普通”です。」で始まって、まる7年を越えましたね。長い間ありがとうございました。それではラストは何のお話を。
・最後のテーマは「日本企業の将来」 居林:株価は市場の誤解による変動の波こそあれ、最終的には業績予想の関数として説明できる、と、この7年間ずっとご説明してきましたよね。 Q:はい。だから「市場が現状を誤解して」、その企業の業績予想に対して高すぎる、あるいは安すぎる株価を付けているときに、周囲の流れに逆らって、胃薬を飲みながら投資しましょう、と。 居林:はい(笑)。長年にわたり日本株を見てきた投資家として、最後に語りたいのは「日本企業の将来」についてです。前半は企業視点、後半は投資家視点となります。今回はボリューム多めです。さて、まずは日本企業の時価総額の変遷を見てみましょう。 各国のトップ100社の時価総額(兆円、中央値)のグラフはリンク先参照) 居林:日本企業の時価総額(中央値)は、2010年の1.3兆円から22年に2.9兆円まで復活しました。しかし、米国の19.6兆円と比べると、この差は一体何なんだと言いたくなりますよね。 Q:何がこの差を生んだのでしょう。 居林:2000年ごろの日本企業には「六重苦」がありました。(1)円高、(2)高い法人税率、(3)厳しい労働・解雇規制、(4)経済連携協定の遅れ、(5)厳しい温暖化ガス削減目標、(6)電力不足です。 このうち、円高と高い法人税率についてはある程度緩和されました。不採算部門の閉鎖を行ったことで利益水準も純利益率で5~6%程度まで戻ってきました。しかし、利益は一定水準出るようになったのですが、日本企業の経営、事業展開、バランスシート、事業価値創造にはまだまだ課題が多いです。 Q:具体的な数字では何がそれを物語っていますか? 居林:それが顕著に表れているのが、日本の上場株の半分程度が簿価割れ(株価純資産倍率=PBRが1倍以下)で取引されているという事実です。 純資産は、企業が「今すぐ負債を返済し終わったとして、会社に残る資産」、いわゆる解散価値ですね。それを発行済み株式数で割ると「1株当たり純資産(BPS)」になる。PBRは株価をBPSで割ったもの。それが1倍以下というのは、「今、株を全部買い占めて会社を買い取って潰すと儲かる」ってことですから、投資家から見れば「この会社は、事業を続けるより売却したほうがいいんじゃないか」という……』、確かに「日本の上場株の半分程度が簿価割れ(株価純資産倍率=PBRが1倍以下)で取引されている」というのは極めて深刻な事態だ。
・『上場企業の約5割が簿価割れ 居林:株価=株主資本+将来の付加価値と考えれば、株価が1株当たり純資産=株主資本よりも下で取引されているということは、投資家はその企業の将来の付加価値がマイナスであると考えていることになります。これは日本企業の低いROE(株主資本純利益率)の結果でもあり、「伊藤リポート」(14年8月、伊藤邦雄一橋大学教授(当時)を座長とする経済産業省の「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」の最終報告書の通称。これに盛り込まれたROE目標水準は8%だった)が鋭く指摘したところです。 なぜこんな事態になったのか。2000年代初めの日本の銀行の不良債権危機、08年のリーマン・ショック、11年の東日本大震災、20年の新型コロナ危機など、予想外のネガティブイベントが次々と起こったため、企業は生き残ることを第一に考え、成長戦略に二の足を踏むことになりました。兎にも角にも負債を減らし、自己資本(株主資本)を積み上げて、その結果、日本企業は大きすぎる自己資本、多すぎる現金を抱え込むようになった。ある程度の安定はもちろん必要ですが、現状維持にきゅうきゅうとしている……かのように見える企業もいくつもある。というのが私の推察です。 しかし、この状況は変わりつつあると考えます。そのきっかけは外圧です。「アクティビスト」と呼ばれる投資家集団が日本の経営陣により効率的な経営を求め始めました。 Q:えっ、アクティビスト。 居林:渋い顔をしましたね(笑)。アクティビストというと、目先の利益しか考えず、日本的経営の美点を破壊する連中、というイメージがあります。00年代のスティール・パートナーズとブルドックソース、英ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンドと電源開発(現Jパワー)のケースを覚えておられる方も多いと思います。 Q:そうそう、もっと遡るとブーン・ピケンズ氏と小糸製作所とか。 居林:アクティビストの提案全てが正しいわけではもちろんありません。しかし、日本市場に上場している企業の50%程度がPBR1倍割れ、つまり簿価割れで取引されているという事態は、どう考えても異常です。 Q:投資家が将来性を見限っている企業が半分って、確かにおかしいですね。 居林:23年に入って東京証券取引所がPBR1倍割れ企業に対して、「対応策を強く要請」するという事態になっているほどです』、「企業は生き残ることを第一に考え、成長戦略に二の足を踏むことになりました。兎にも角にも負債を減らし、自己資本(株主資本)を積み上げて、その結果、日本企業は大きすぎる自己資本、多すぎる現金を抱え込むようになった。ある程度の安定はもちろん必要ですが、現状維持にきゅうきゅうとしている……かのように見える企業もいくつもある。というのが私の推察です。 しかし、この状況は変わりつつあると考えます。そのきっかけは外圧です。「アクティビスト」と呼ばれる投資家集団が日本の経営陣により効率的な経営を求め始めました」、なるほど。
・『アクティビストが決断を迫る 居林:そのため、ここにきて日本的経営の良いところは残しつつも、直すべきところは直そう、という機運が高まっています。14年に導入された機関投資家向けの行動規範である「スチュワードシップ・コード」は、それまで物言わぬ株主であった機関投資家を、「責任ある投資家」に変貌させるという大きな転機になり、投資先の企業の株主総会の議案について一定の基準を持って、賛成・反対意見を表明するようになりました。端的に言えば、アクティビストの提案であっても「企業のためになる」と考えれば、国内の機関投資家が賛成に回るケースが出てきたのです。これによって、日本企業の経営は、今まさに大きく変化しようとしています。 Q:具体例では。 居林:オリンパスの例が分かりやすいかもしれませんね。 日経ビジネスでも記事にしていました(「物言う株主味方に最高益へ オリンパス 反骨・竹内改革の内幕」)。 居林:オリンパスは、祖業である顕微鏡や映像事業(デジタルカメラ)と収益源の内視鏡のビジネスの間にシナジーがないので、これを切り分けることで、ディスカウントが減少しました。ロジックはシンプルですが、注意すべきは、なかなか意思決定ができなかった会社が、アクティビストに背中を押してもらうことで、決断できるようになったというところだと思います。 日本の企業の最大の問題は、決められないことだと思います。アクティビティストが入ることで、そこを変えられる可能性がある。 Q:日本企業は変わる余地があるということだと思いますが、実際にどんなことが変わるのでしょうか? 居林:よく聞かれるのが「終身雇用制度はなくなるのか」ですが、中長期的にはそうなるだろうと思いつつ、なかなか急には難しいだろうと思いますので、そこは当面の論点ではありません。そして、それよりも重要なことがあるのです。 Q:何でしょう。 居林:それは、投資家と企業との目的の共有です。これがなければ、日本企業の経営のコペルニクス的転回はないと私は思います。逆に、これができれば、簿価を大きく割りこんでいた企業の価値が上がり始めるはずです』、「日本の企業の最大の問題は、決められないことだと思います。アクティビティストが入ることで、そこを変えられる可能性がある」、「投資家と企業との目的の共有です。これがなければ、日本企業の経営のコペルニクス的転回はないと私は思います。逆に、これができれば、簿価を大きく割りこんでいた企業の価値が上がり始めるはずです」、なるほど。
・『「コングロマリット・ディスカウント」は大企業に限らない Q:目的の共有でそこまで可能になるんですか。でも目的の共有って、当たり前のような、あり得ないような。これまで共有が難しかったのだとしたら、それはなぜなんでしょうか。 居林:そのからくりはこうです。そもそも日本の企業は、一体何の事業をやっているのか、理解するのが大変です。例えば、業種が化学であったとしても、実際の事業領域は石油化学から特殊化成品や医薬品、繊維まで多岐にわたることが多い。投資家は企業をどのように評価してよいか分かりにくくて、いわゆる「コングロマリット・ディスカウント」に陥ってしまいます。 Q:株価は1つなのに、携わる事業範囲が広すぎて、しかもそれぞれの関連性が低い、ってやつですね。でもそれは大企業に限ったお話では。 居林:ではないのです。コングロマリット・ディスカウントは、祖業から枝分かれして様々な事業を展開する多くの日本企業に当てはまるのです。 コングロマリット・ディスカウントとその解消例としては大企業、例えばオリンパス、ソニーグループ、日立製作所の例がよく出ますが、もう少し小さい企業の例ではJSRが目を引きます。JSRはもともとJapan Synthetic Rubberという名の通り合成ゴムをつくる企業でしたが、その祖業とも言える合成ゴムのエラストマー事業を売却してしまいました。そして、新しく投資をしているのがバイオテックのビジネスです。こんなダイナミックな動きをしている日本企業がいくつか現れています。 一つひとつの事業を切り出したり、他社の同じ事業と合併したりという経営判断をすることで、会社の注力する分野を明確にして、投資・開発リソースを集中する。それによって競争力も上がります。 社員の方も投資家も今後の事業方針を理解しやすくなり、経営・事業に対する理解の解像度が大幅に上昇する、という道筋を描けます。すでに申し上げましたが、株価=企業価値=株主資本+将来の付加価値と分解すれば、簿価割れというのは、「将来の価値がマイナスである」ということを意味しているわけです。企業はプラスの将来価値をつくり出すことができると会社側は投資家に(そして社員、取引先にも)納得してもらう必要があります。日本企業の経営が大きく変わる必要があるとしたら、まずここです。 Q:なるほど。そういう意識でニュースを見ると、「なるほど」と思えるものが出てきていますね。 居林:しかしまだまだこれからです。例えば「スピンオフ(事業を新会社として独立させた後、既存の株主にその株式を交付すること)」への課税繰り延べ制度が17年に整備され、その後改正も加えられたのですが、実績は2件しかありません。これではいけません。 米国では多くのアクティビストが企業の再編の提案をして、実際にそれが行われています。その全てが成功しているとは言えませんが、投資家と経営陣の対話が実際の経営に反映されており、投資家としては評価しやすい。 企業価値は事業利益と投資家の評価の結果のはずです。日本企業は一定水準の事業利益は達成できましたが、手元資金を厚めにするほうに熱心で、将来への投資に及び腰になっている。現状維持に見えては投資家から高い評価を得るのは難しい。) Q:「成長したい」という意志と、それを社内外に分かりやすく伝えることが必要だと。 居林:その通りです。そのためには大胆な事業再編と組織運営の変更は避けて通れないでしょう。これはアクティビストのみならず、日本の機関投資家、個人投資家、東証など各方面から要請されていると言えます』、「「スピンオフ・・・」への課税繰り延べ制度が17年に整備され、その後改正も加えられたのですが、実績は2件しかありません。これではいけません」、「日本企業は一定水準の事業利益は達成できましたが、手元資金を厚めにするほうに熱心で、将来への投資に及び腰になっている。現状維持に見えては投資家から高い評価を得るのは難しい」、なるほど。
・『利益率が低く、将来への投資を株主還元に回している Q:ちなみに、伊藤リポートで指摘されたROEですが、近年、それなりに上昇しているのではありませんでしたっけ。 居林:はい、ROEは利益÷株主資本ですから、文字通り「株主が預けた資本に対して、どれだけの利益を生んでいるのか」を示します。会計上の株主資本に対する利回りとも呼べるもので、これが高い方が株主としては好ましいわけです。しかし、ROEは比率ですから、分子が大きくなるだけでなく、分母が小さくなっても上昇します。 日本企業のROEは低いと言われますが、よく見ると日本企業は利益率が低いのです。利益額が小さい、ということに目が行きがちですが、実は利益「率」が低いほうがはるかに大きな、構造的問題なのです。 なぜなら、企業の利益率が低いということは、売り上げが減少するとすぐに利益がなくなってしまう、ということを意味するからです。このため、利益率の低い企業、利益額が安定しない企業は、利益率の改善よりも、即効性がある方法、バランスシートに余分に現金を保有しようという動機が生まれます。これがROEの分母を大きくすることにつながるわけです。そして、海外投資家に「日本企業は不況に弱い」といわれる最大の理由だと思います。 結局、将来への不安から財務健全性を高めようとして、負債をどんどん返済し、確かに財務的には健全になった。でも、根本原因の事業の利益「率」は改善していない、厚みを増した手元資金で、自社株買いや増配(株主還元)をすることで株主資本を小さくして、ROEの数値を改善しようとしている、ここまでが日本企業の現状です。 居林:コングロマリット・ディスカウントで「どこに投資すれば成長できるのか」が分かりにくくなり、そもそも投資を行わないことで、将来への期待が持ちにくい。これが日本企業の多くが陥っている状態です。加えて、この負債返済とその後の自社株買いが、将来への投資が不足している状態を引き起こしてしまう、というさらに悪い循環に今日本企業は入ろうとしているように見えます。) Q:株価が業績予想の関数であるならば、将来への投資が足りないし方向性も見えなければ、そりゃ、上がるわけはないですね。 居林:ROEを上げるには分母の株主資本を減少させるという自社株買いや株主還元も確かに有効ですが、本来、重要なのは利益「率」を上げるというところです。ならばどうすれば上がるのか。そのコミュニケーションを投資家と企業が取るためには、「投資家と企業との目的の共有」が必要です。 Q:目的というのは……。 居林:基本的に経営の目的は事業の継続と成長、そしてその存在によって社会に何らかの貢献をなすことでしょう。そのどれにも前向きな投資は欠かせない。日本企業の財務体質はこの10年強で大きく改善しました。手元に現金もたっぷりある。今こそ、技術、設備、人材に投資をすべきタイミングです。 Q:「何に投資して、生き残り、成長して、社会に貢献するか」を、経営者は積極的に、明確に、投資家に、世の中に対して語るときがきましたよ、と。 居林:「成長して社会に役立ちたいと考えているよね」と投資家から聞かれれば、どんな経営者も「もちろん」と答えるでしょう。だけどそこに行動が伴わなければコミュニケーションに必要な信頼が生まれません。この場合の行動とは、コングロマリット・ディスカウントの解消と、成長の目標、そのための手段を経営者がしっかり語ること、だと思います』、「企業の利益率が低いということは、売り上げが減少するとすぐに利益がなくなってしまう、ということを意味するからです。このため、利益率の低い企業、利益額が安定しない企業は、利益率の改善よりも、即効性がある方法、バランスシートに余分に現金を保有しようという動機が生まれます。これがROEの分母を大きくすることにつながるわけです・・・結局、将来への不安から財務健全性を高めようとして、負債をどんどん返済し、確かに財務的には健全になった。でも、根本原因の事業の利益「率」は改善していない、厚みを増した手元資金で、自社株買いや増配(株主還元)をすることで株主資本を小さくして、ROEの数値を改善しようとしている、ここまでが日本企業の現状です」、「手元に現金もたっぷりある。今こそ、技術、設備、人材に投資をすべきタイミングです」、なるほど。
・『リーマン・ショック時クラスの長期的なチャンス Q:上場企業の半分程度が簿価以下で取引されている市場というのは、普通に考えておかしな状態ですよね。 居林:はい、非常に特異な事態だと思います。データを振り返るとこんなに多くの企業が簿価割れで取引されているのはリーマン・ショックのときに近いです。ということは、日本の投資家にとっては長期的なチャンスだと思います。 Q:おお、なるほど! 居林:日本企業は変化の岐路に立っています。中には、事業の選択と投資の集中によって、ポジティブな方向に大きく変化する企業があるでしょう。そうした企業を見つけることができれば、長期視点で投資するという個人投資家の強みを発揮することができるはずです。 Q:さて、企業側の話はここまでにして、これからは投資家としての話をしましょうか。 では、そちらは次回に伺いましょう』、「こんなに多くの企業が簿価割れで取引されているのはリーマン・ショックのときに近いです。ということは、日本の投資家にとっては長期的なチャンスだと思います・・・日本企業は変化の岐路に立っています。中には、事業の選択と投資の集中によって、ポジティブな方向に大きく変化する企業があるでしょう。そうした企業を見つけることができれば、長期視点で投資するという個人投資家の強みを発揮することができるはずです」、前向きな気分になった。
次に、5月8日付け東洋経済オンライン「東証プライムからスタンダードへ「降格ラッシュ」 「骨抜き」批判から1年、始まったプライムの選別」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/670115
・『「スタンダード市場上場の選択申請の決定に関するお知らせ」。2023年3月、スマホゲーム開発企業のマイネットがリリースを公表した。同社は東証プライム市場に上場しているが、近くスタンダード市場に移行すると表明したのだ。 プライム市場を捨て、自らスタンダード市場に「降格」する――。マイネットを皮切りに、こうした宣言をする企業が相次いでいる。4月末時点で、スタンダードへの移行を宣言したプライム上場企業は9社にのぼる。突如訪れた「降格ラッシュ」の背景に何があるのか』、興味深そうだ。
・『プライム市場「背伸び組」 発端は、2022年4月の市場区分見直しにさかのぼる。プライム市場は3つの区分のうち最も上場基準が厳しく、高い流動性やガバナンスが求められる市場として発足した。 ところが、旧東証1部から横滑りでプライム市場入りした企業のうち、296社は時価総額や流動性などの上場維持基準を下回っていた。東京証券取引所は経過措置を設け、改善計画の策定を条件にプライム市場への移行を許可した。 「背伸び」をしてプライム市場に移った企業群の位置づけは曖昧だった。経過措置の期間は「当分の間」とされており、いつまでプライム市場に残れるのかはわからなかった。改善計画を達成できなかった場合にスタンダード市場へ自動的に移れるのか、改めてスタンダード市場の上場審査が必要なのかも不明確だった。「後者の場合、一斉に移行されると審査の人手が足りなくなる」。証券業界からはこんな悲鳴も上がった』、「旧東証1部から横滑りでプライム市場入りした企業のうち、296社は時価総額や流動性などの上場維持基準を下回っていた。東京証券取引所は経過措置を設け、改善計画の策定を条件にプライム市場への移行を許可した。 「背伸び」をしてプライム市場に移った企業群の位置づけは曖昧だった」、なるほど。
・『スタンダード移行特例の資料 そこで東証は2023年1月の上場規則改正時、背伸び組に「2択」を迫った。3月期決算企業の場合、2026年3月末時点で上場維持基準に適合しなければ、上場廃止予備軍である「監理銘柄」に指定され、最短で同年9月にも上場廃止となる。スタンダード市場に移る場合には、一度上場廃止してから再度審査を受ける必要がある。 その代わりの選択肢として、早々にプライム市場の上場維持を断念した企業には「特例」を設けた。2023年4月から9月末の間であれば、申請書の提出だけでスタンダード市場に移れるのだ。「上場廃止にならないための、いわば『温情』だ」。東証関係者はこう話す。) 冒頭のマイネットをはじめ、スタンダードへの移行を発表した企業はこの「特例」を選んだ企業たちだ。では、どんな企業が特例を利用したのか。以下は、4月末時点でスタンダード市場への移行を表明した企業の一覧だ。いずれの企業もプライム市場の要件である「流通株式時価総額100億円」を満たしていない。 (流通株式時価総額が鬼門 ースタンダード選択企業の上場維持基準の適合状況ーの表はリンク先参照) 各社は旧東証1部からプライム市場に移行するにあたり、東証の指示によって流通株式時価総額を引き上げる計画を策定していた。ところが、業績や株価の低迷によって達成の見込みが立たず、およそ1年で撤回したことになる。 土壌汚染調査や産業廃棄物処理を手がけるダイセキ環境ソリューションは2021年末、3年間で純利益を3倍にする中期経営計画を策定した。ところが、首都圏での大型案件受注が想定を下回り、翌2022年に業績予想を2度下方修正。このまま流通株式時価総額が伸び悩めば上場廃止となるリスクを考慮し、スタンダード市場への移行を決めたという。 東洋経済が試算したところ、プライム市場上場企業の中で流通株式時価総額が100億円を下回る企業は203社存在する(ランキングはこちら)。背伸び組のほか、プライム市場への移行当初は基準を満たしていたが、その後株価が下落し100億円を割ってしまった企業も少なくない』、「早々にプライム市場の上場維持を断念した企業には「特例」を設けた。2023年4月から9月末の間であれば、申請書の提出だけでスタンダード市場に移れるのだ。「上場廃止にならないための、いわば『温情』だ」。東証関係者はこう話す。) 冒頭のマイネットをはじめ、スタンダードへの移行を発表した企業はこの「特例」を選んだ企業たちだ」、なるほど。
・『「6月」が分水嶺? 降格ラッシュは今後も続くのか。みずほ信託銀行の八木啓至・企業戦略開発部次長は、「6月までにスタンダード市場への移行表明が増えるのではないか」と推測する。 スタンダード市場に無条件で移行できるのは、前述のとおり2023年9月末が期限だ。一方、3月期決算企業の場合、流通株式時価総額などの上場維持基準は3月末時点の数値を基に審査され、未達の場合は6月末までに改善計画を提出ないし更新する必要がある。 スタンダード市場への移行表明が7月以降にずれこむと、それまでにプライム市場への上場を維持するための計画を公表する必要があり、矛盾が生じる。そのため、スタンダード市場を選ぶ企業は改善計画の期限までに移行方針を発表し、定時株主総会で株主に説明するという見立てだ。 ほとんどの企業が旧東証1部から横滑りしたことから「骨抜きの改革」とやゆされたプライム市場。2022年4月の発足から1年を経て、ようやくプライムの名にふさわしい企業の選別が始まろうとしている』、「「骨抜きの改革」とやゆされたプライム市場。2022年4月の発足から1年を経て、ようやくプライムの名にふさわしい企業の選別が始まろうとしている」、望ましいことだ。
第三に、5月8日付け東洋経済オンライン「PBR1倍割れ多発、東証プライム「テコ入れ」の難路 投資家は早くも改善要求、独り歩きする指標」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/670458
・『東京証券取引所が3月に発表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」が波紋を呼んでいる。プライム・スタンダード市場に上場する全企業に対し、年に1回資本コストや資本収益性、市場評価について取締役会で分析・評価をすることや、改善に向けた計画の開示などを要請した。 東証は現状分析にROE(自己資本利益率)やWACC(負債・株式の加重平均資本コスト)、PBR(株価純資産倍率)といった指標を使うことを例示する。中でも、最も問題になったのはPBR1倍未満の会社への対応だ。 PBRが1倍を割っているということは、時価総額が純資産の大きさを下回っている状態ともいえる。時価総額は、その会社の成長性などを加味した上で、市場がつけた評価だ。つまり市場が、「事業をやめて資産を株主に分配した方が合理的だ」と評価していることを意味する。 地方銀行など、構造的に低いPBRにあえぐ企業にとっては東証の掲げる「1倍」という数字は、すぐに達成できる現実的な数字でもない。PBRがおよそ0.5倍のある上場企業幹部は「株主還元でどうにかなる話ではない。結局地道に利益を積み上げていくしかないが、それでも限界がある」と嘆く』、「PBRが1倍を割っているということは、時価総額が純資産の大きさを下回っている状態ともいえる。時価総額は、その会社の成長性などを加味した上で、市場がつけた評価だ。つまり市場が、「事業をやめて資産を株主に分配した方が合理的だ」と評価していることを意味する」、厳しい評価だ。
・『「共通言語」がずれていた 東証の要請はPBRだけに着目した取り組みを求めているわけではない。今回開示を求めた意図について、東証上場部の池田直隆課長は「それぞれの企業に資本コストやマーケットからの評価を意識してもらって企業価値の向上に取り組んでほしい。そのための『共通言語』がずれていた」と説明する。業界内順位や売上といった指標だけでなく、株主が意識する指標を使った対話を促したいというわけだ。 東証にとって「PBR1倍」はあくまで「ひとつの目安」(池田課長)に過ぎない。PBR1倍を割っているからといって上場廃止になることもないという。 それでも、PBRにばかり注目が集まるのは、今回の要請に至るまでの経緯が関係している。 この議論は、2022年4月の市場区分見直しが上場企業の価値向上につながっていないという問題意識から始まったものだ。経営者や学者などで作る「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」は同年7月から議論を重ね、1月30日に論点整理を発表。市場区分について「全上場会社の約半数がPBR1倍割れの状況にメスを入れない限り意味がない」と断じた。 日本は、PBR1倍割れの企業の数が際立って多い。「多くの機関投資家の投資対象となるのにふさわしい」とされているプライム市場においても、上場する企業のおよそ半数が1倍割れとなっており、テコ入れは急務だ。比較対象として挙げられたアメリカでは、PBR1倍を割っている企業は2割程度だという。 東証を運営するJPX(日本取引所グループ)の清田瞭CEO(最高経営責任者、当時)は3月30日の記者会見で「1倍割れの銘柄が世界的に見ても飛び抜けて多い。直していかなければいけない。資本のコストを意識したリターンを上げる経営に取り組めば十分可能だという企業はたくさんあると思う」と語った。こうした背景が3月末の要請につながったのだ。 それでも、東証はPBR1倍の改善のみを強調はしなかった。それによって小手先のPBR向上策が蔓延することを懸念したからだ。 PBRは、分母である純資産を自社株買いや増配で減らすことで向上させることができる。ただ、これでは本質的な企業価値向上とは言えない。本来は、その企業自身が優れた業績を上げ、株価を向上させる必要があるのだ。東証としては各社が安易に自社株買いなどに走るといった事態は避けたかった。 その結果、PBRのみを明確に示すこともなく、その手法も縛らないという今回の要請の内容に至ったわけだ。具体的な経営指標によって線引きをしなかったことで、企業にとっては「何をすればいいかわからない」(上場企業幹部)要請になった。目指すべき「資本コストや株価を意識した経営」を達成できている企業が何社あるのかも東証は示していない。このあいまいさが、今回の要請の難しさだろう』、「東証としては各社が安易に自社株買いなどに走るといった事態は避けたかった。 その結果、PBRのみを明確に示すこともなく、その手法も縛らないという今回の要請の内容に至ったわけだ」、なるほど。
・『PBRにフォーカスした新指数 要請ではあいまいな表現を使うことになったが、その裏でPBRにフォーカスした取り組みも出てきた。JPX総研が新たに発表した「JPXプライム150指数」だ。 この指数に採用されるには、プライム上場企業のうち時価総額上位500位に入っていなければならない。その上で、推定エクイティスプレッド(ROE-株主資本コスト)上位75社と、PBR上位75社が選ばれる。こちらは明確にPBRを基準に採用した。 5月末までに詳細な選定方法を公表し、7月3日から算出することになっている。この指数が投資信託などに採用されれば、選ばれた銘柄にとっては株価上昇のチャンスになる。指数作成を担ったJPX総研の三浦崇宏インデックスビジネス部長は「指数に選ばれるために上場企業には経営努力をしてもらい、市場全体の底上げになるようにしたい」と話す。) JPXの一連の取り組みに対して、投資家や企業は早くも反応を示した。もの言う株主(アクティビスト)として知られる投資会社シティインデックスイレブンスはコスモエネルギーホールディングスに対して2月22日、東証の取り組みを理由としてPBRを上げるために大規模な株主還元を求めた。 岡三証券グループも3月24日、PBRが1倍を超えるまで年間10億円以上の自己株買いを継続的に実施すると発表した。表向きは「ひとつの目安」としたPBRは、すでに独り歩きを始めている。今後、企業は、PBR1倍を意識しないわけにはいかなくなるだろう』、「表向きは「ひとつの目安」としたPBRは、すでに独り歩きを始めている。今後、企業は、PBR1倍を意識しないわけにはいかなくなるだろう」、なるほど。
・『上場企業へ増え続ける要求 上場企業に求められる取り組みはPBRだけに止まらない。東証は「PBR1倍」要請を出した3月31日に、プライム市場の上場企業に対して株主との対話状況を公開するよう要請した。このほか、投資家との対話において説明が不十分な例を出して、注意を促した。 要求が増えるにつれて、プライム市場の上場維持コストは増えていく。実際、そのコストに耐えられない企業も出てきている。 「プライム市場の上場維持を選択した場合、2032年までの累計で、約2億円の費用が発生すると試算している。そのコストを負担するよりも、将来の事業拡大に向けた成長投資に資金を振り向けることが、企業価値向上に資する」。 システム開発・運用を手がけるODKソリューションズは3月29日、プライム市場からスタンダード市場に移ることを選択したと発表した。理由は上述のとおり、プライム市場に適合するにはコストがかかりすぎるということだ。 こうした取り組みは、本来プライム市場かどうかに関係なくすべての上場企業が達成できていることが望ましい。区分を変えてスタンダードに行けば、取り組まなくていいというものではないだろう。市場区分の変更を通じて市場全体を底上げするという、東証の目標が達成されるには、まだまだ遠い道のりが待っている』、「「プライム市場の上場維持を選択した場合、2032年までの累計で、約2億円の費用が発生すると試算している。そのコストを負担するよりも、将来の事業拡大に向けた成長投資に資金を振り向けることが、企業価値向上に資する」。 システム開発・運用を手がけるODKソリューションズは3月29日、プライム市場からスタンダード市場に移ることを選択したと発表した。理由は上述のとおり、プライム市場に適合するにはコストがかかりすぎるということだ」、賢明な選択だ。こうした企業がもっと増えてほしいものだ。
第四に、6月15日付け東洋経済オンライン「千葉銀など3社で露見した「仕組み債」乱売の実態 銀証連携で生じた「歪み」が処分勧告で明るみに」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/679601
・『仕組み債の販売からいち早く撤退した「優等生」が、まさかの「問題児」だった。 証券取引等監視委員会は6月9日、ちばぎん証券や親会社の千葉銀行などの3社に対し、仕組み債を顧客に十分な説明なく販売していたとして、行政処分するよう金融庁に勧告した。勧告を受けて金融庁は、業務改善命令など行政処分を検討する。 ちばぎん証券と提携し顧客を紹介していた武蔵野銀行も勧告の対象になった。3社は「厳粛に受け止め、改善・再発防止に取り組む」とのコメントをそれぞれ発表した。 仕組み債はこれまでも個人投資家に販売するには適さないと指摘されてきた商品だ。デリバティブ(金融派生商品)を使うことで、高い利回りを可能にする反面、株価や為替に連動して償還条件が変動するなど商品性は複雑。通常の債券とは異なるリスクがあるうえに手数料も不透明だった。 金融庁は昨年5月に公表したリポートで、仕組み債の1つであるEB債(他社株転換可能債)を「購入する意義はほとんどない」と断じたほどだ』、興味深そうだ。
・『販売をいち早く中止したちばぎん証券 2022年8月、金融庁は仕組み債の販売状況について実態把握に乗り出す。地方銀行系証券会社はとくに仕組み債の販売に積極的だったが、強まる逆風を前に販売を次々と取りやめた。その結果、仕組み債を取り扱う地銀の数は2022年3月末に100行中77行あったが、11月末には33行と激減した。 この流れにいち早く反応していたのが、ちばぎん証券だった。金融庁の実態調査前の6月、他社に先駆けて仕組み債の販売を中止した。 親会社の千葉銀頭取は、業界団体である全国地方銀行協会の会長。「協会長として金融庁とやりとりする中で、調査の実施を事前に知ったのでは。抜け駆けだ」(ある地銀関係者)。そんな恨み節まで漏れていた。 ところが、そのちばぎん証券で無理な販売が横行していた。監視委によると、2022年6月末に仕組み債を保有していた約8400人の顧客のうち、3割が同社の基準でも仕組み債の販売に適さない「低リスク投資」の意向を持っていた。また、顧客の多くは70代以上だったほか、投資経験がまったくなかった例もあった。) 仕組み債で生じた損失について苦情も出ていた。証券会社でつくる自主規制法人の日本証券業協会は、3度にわたってちばぎん証券に注意喚起をしていた。ところが顧客からの苦情を「一方的申し出」として真摯に対応してこなかったという。 銀行が注力してきた銀証連携で生じた「歪み」も、今回の勧告を通じて浮き彫りになった。 監視委によると、千葉銀、武蔵野銀は顧客をちばぎん証券に紹介する際、その顧客の投資知識や経験、投資目的などを十分に考慮しないまま、仕組み債の購入を勧めていたという』、「千葉銀、武蔵野銀は顧客をちばぎん証券に紹介する際、その顧客の投資知識や経験、投資目的などを十分に考慮しないまま、仕組み債の購入を勧めていた」、証券販売の基本中の基本が出来ていなかったようだ。
・『武蔵野銀は役員が支店長に積極仲介を指示 証券会社が仕組み債を販売して受け取った手数料の一部は、紹介した銀行の収益になる。銀行の営業職員にとっては自分の実績になるため、手数料の高い仕組み債は、「効率がよい」商品だった。 武蔵野銀に至っては、役員が支店長に対し店別の「仕組み債収益実績表」を送付して、積極的に仲介をするよう指示していた。行員に対しても投資信託や個別株の販売ではなく、仕組み債の販売に特化した研修を行っていた。 ちばぎん証券にとっても、銀行経由の仕組み債販売は大きな収益源だった。監視委によると、同社の営業収益のうち銀行経由の収益は70~80%。そのうちの多くが仕組み債関連で、2021年3月期には営業収益全体の約半分を占めた。 仕組み債の販売をやめた2023年3月期のちばぎん証券の業績は、純営業収益が39億7700万円と前年同期比で39・1%減となり、11億3700万円の営業赤字に沈んでいる。 「地銀が証券子会社をつくる目的は、リスク許容度の高い顧客の大手証券会社への流出を防ぐことだった。ただ、そうした顧客はすでにほかの証券会社と取引しており、もくろみどおりの顧客は想定より少なかった」 金融庁でかつて主任統括検査官を務めた日本資産運用基盤グループの長澤敏夫主任研究員は、地銀系証券が高リスク商品の販売に走る背景を解説する。そのうえで「親会社から早期黒字化を求められ、銀証連携の掛け声の下、金融機関の都合で、本来仕組み債を販売するべきではない顧客に販売を進めたのではないか」と指摘する。 千葉銀は2022年度、有価証券運用を除く本業利益で518億円を稼いだ。地銀99行のうち3位という優等生だった。融資一辺倒では稼げない危機感が招いた顧客軽視の「ツケ」は、大きな痛手となって回ってきた』、「「親会社から早期黒字化を求められ、銀証連携の掛け声の下、金融機関の都合で、本来仕組み債を販売するべきではない顧客に販売を進めたのではないか」と指摘する」、これでは処分されても当然だ。
第五に、6月19日付け東洋経済オンライン「悲劇の舞台は「仕組み債」から「永久劣後債」へ 富裕層らが2.4兆円の大損!海外債券投資の罠」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/679779
・『優雅に達観した生活を送っているように見える富裕層。ただ陰では投資や税金対策に頭を抱え、時にもがき苦しむ様子が垣間見える。6月19日発売『週刊東洋経済』の特集「富裕層のリアル国内150万世帯、受難の時代」では、富裕層の偽らざる実像に迫った。 「こちらがドル建て債券に関する資料です。足元で金利が軒並み上昇している状況なので、円債に比べて高い利回りを確保できます」 今年初め、ある国内証券会社の営業マンは富裕層の顧客にそう言って1枚のリストを見せていた。提示したリストに載っているのは、海外の銀行などが発行するドル建ての「永久劣後債」だ。 劣後債は発行した企業などが倒産した場合に、弁済する優先順位が普通社債などに比べて後回しになる(劣後する)債券のことだ。 中でも永久劣後債は、5年後や10年後といった満期の定めがない。そのため、投資家にとってはかなりリスクが高く、その分利回りも相対的に大きいハイリスク・ハイリターンの商品だ』、「永久劣後債」は「かなりリスクが高く、その分利回りも相対的に大きいハイリスク・ハイリターンの商品」、なるほど。
・『投資リスクが高いAT1債 先ほどのリストには6?7%台の商品がずらりと並んでいるが、その中で10%超というひときわ高い利回りを示していた債券がある。スイス金融大手クレディ・スイス・グループの永久劣後債だ。別名「AT1(その他ティアワン)債」とも呼ばれる。 クレディ・スイスといえば、富裕層でなくとも投資家であれば誰でも耳にしたことがある、世界的な金融グループだ。その債券で10%もの利回りを得られるとあって、多くの富裕層が飛びつくようにして購入していった。 (投資リスクが高いAT1債の図はリンク先参照)) それが一転して、紙くずになってしまったのは今年3月のこと。クレディ・スイスは経営不安が一気に高まり、同国金融最大手のUBSグループと株式交換による救済的な買収で合意。さらに、中央銀行のスイス国立銀行から流動性支援(臨時の資金供給)を受けた。 スイス連邦金融市場監督機構はそうした支援策が、クレディ・スイスのAT1債が規定する「元本削減条項」に抵触するとして、無価値化すると判断したわけだ。 紙くずになったAT1債の総額は約160億スイスフラン。日本円に換算すると約2.4兆円にも上る。金融庁の調べでは、日本では富裕層を中心に約1400億円分が販売されていた。そのうち約950億円分を販売していた、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対しては、金融庁が顧客対応などについて報告するよう命令を出すなど、騒動は広がるばかりだ』、「日本では富裕層を中心に約1400億円分が販売されていた。そのうち約950億円分を販売していた、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対しては、金融庁が顧客対応などについて報告するよう命令」、「三菱UFJモルガン・スタンレー証券」が多くを販売していたとは、やれやれだ。リスクをきちんと説明していたことを願うのみだ。
・『仕組み債でも損失の悲劇 急転直下の事態を受け、4月に入ると日本でも企業や富裕層から悲鳴が次々と上がった。 ゲームソフトなどの開発を手がけるコーエーテクモホールディングスは、AT1債への投資によって41億円の損失を計上。「箱根駅伝」で名をはせた青山学院大学陸上競技部の原晋監督は、「平均年収のウン倍」を失ったとインターネット番組で嘆き、大きな話題になった。 足元では金融分野に強い弁護士事務所の間で、被害を受けた富裕層に広く声をかけて集団訴訟に持ち込もうとする動きが広がり始めている。 訴訟に向けて弁護士らが着目しているのが、販売していた証券会社が元本削減条項などのリスクについて、どれだけ説明責任を果たしていたかという点だ。 実際のところはどうなのか。ある証券会社が作成した契約締結前交付書面を見てみよう。) 同書面を見ると、元本削減条項という欄に「CET1(普通株等ティアワン)比率が7%を下回ったとき」「公的機関による支援を受け入れたとき」という2つの条件が書いてある。今回はこのうちの後者(支援の受け入れ)がトリガーを引いたことになり、書面上は問題がないように見える。 一方で、大手証券会社の幹部は「販売している側は、CET1比率の部分しか気に掛けていなかったというのが実態だろう。公的機関の支援うんぬんの部分まで、きっちり説明した営業マンは少ないのではないか」と声を潜める。 つまり、販売する側すら目を向けていなかった条項を、顧客にしっかりと説明し理解させていたかと問われると、苦しい立場に置かれるということだ』、「「販売している側は、CET1比率の部分しか気に掛けていなかったというのが実態だろう。公的機関の支援うんぬんの部分まで、きっちり説明した営業マンは少ないのではないか」と声を潜める」、そうであれば、問題は深刻だ。
・『仕組み債でも大きな損失 金融庁の幹部は、AT1債で被害を受けた顧客の中には「仕組み債においても、大きな損失を被った人が一定数いる」と明かす。 仕組み債とは、債券と金融派生商品(デリバティブ)取引を組み合わせた金融商品のこと。デリバティブ取引は個別株価や株価指数、為替相場などに連動しており価格変動が大きいことから、債券ではあるもののかなりハイリスクな商品だ。商品設計が複雑なため、投資初心者はリスクの認識が難しい。 それを地方銀行などが「高利回り商品」などとして販売。富裕層や高齢者に過剰なリスクを取らせていたことが問題となり、規制が強化されてきた経緯がある。 その規制の抜け穴として、証券業界で脚光を浴びたのが、まさにAT1債だった。そこで大きな悲劇が発生するのは、もはや時間の問題だったのかもしれない』、「利回り」追及の余り「過剰なリスクを取らせていた」のであれば、大問題だ。
先ずは、本年4月27日付け日経ビジネスオンラインが掲載したUBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントのエクイティ・リサーチ・ヘッドの居林 通氏による「簿価割れが約5割という日本企業の“異常事態”」を紹介しよう。Qは聞き手の質問。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00130/00026/
・『居林:「市場は『晴れ、ときどき台風』」を長きにわたって連載させていただきましたが、次回をもって最終回となります。 Q:2016年2月15日の「大荒れ相場? いえ、これって“普通”です。」で始まって、まる7年を越えましたね。長い間ありがとうございました。それではラストは何のお話を。
・最後のテーマは「日本企業の将来」 居林:株価は市場の誤解による変動の波こそあれ、最終的には業績予想の関数として説明できる、と、この7年間ずっとご説明してきましたよね。 Q:はい。だから「市場が現状を誤解して」、その企業の業績予想に対して高すぎる、あるいは安すぎる株価を付けているときに、周囲の流れに逆らって、胃薬を飲みながら投資しましょう、と。 居林:はい(笑)。長年にわたり日本株を見てきた投資家として、最後に語りたいのは「日本企業の将来」についてです。前半は企業視点、後半は投資家視点となります。今回はボリューム多めです。さて、まずは日本企業の時価総額の変遷を見てみましょう。 各国のトップ100社の時価総額(兆円、中央値)のグラフはリンク先参照) 居林:日本企業の時価総額(中央値)は、2010年の1.3兆円から22年に2.9兆円まで復活しました。しかし、米国の19.6兆円と比べると、この差は一体何なんだと言いたくなりますよね。 Q:何がこの差を生んだのでしょう。 居林:2000年ごろの日本企業には「六重苦」がありました。(1)円高、(2)高い法人税率、(3)厳しい労働・解雇規制、(4)経済連携協定の遅れ、(5)厳しい温暖化ガス削減目標、(6)電力不足です。 このうち、円高と高い法人税率についてはある程度緩和されました。不採算部門の閉鎖を行ったことで利益水準も純利益率で5~6%程度まで戻ってきました。しかし、利益は一定水準出るようになったのですが、日本企業の経営、事業展開、バランスシート、事業価値創造にはまだまだ課題が多いです。 Q:具体的な数字では何がそれを物語っていますか? 居林:それが顕著に表れているのが、日本の上場株の半分程度が簿価割れ(株価純資産倍率=PBRが1倍以下)で取引されているという事実です。 純資産は、企業が「今すぐ負債を返済し終わったとして、会社に残る資産」、いわゆる解散価値ですね。それを発行済み株式数で割ると「1株当たり純資産(BPS)」になる。PBRは株価をBPSで割ったもの。それが1倍以下というのは、「今、株を全部買い占めて会社を買い取って潰すと儲かる」ってことですから、投資家から見れば「この会社は、事業を続けるより売却したほうがいいんじゃないか」という……』、確かに「日本の上場株の半分程度が簿価割れ(株価純資産倍率=PBRが1倍以下)で取引されている」というのは極めて深刻な事態だ。
・『上場企業の約5割が簿価割れ 居林:株価=株主資本+将来の付加価値と考えれば、株価が1株当たり純資産=株主資本よりも下で取引されているということは、投資家はその企業の将来の付加価値がマイナスであると考えていることになります。これは日本企業の低いROE(株主資本純利益率)の結果でもあり、「伊藤リポート」(14年8月、伊藤邦雄一橋大学教授(当時)を座長とする経済産業省の「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」の最終報告書の通称。これに盛り込まれたROE目標水準は8%だった)が鋭く指摘したところです。 なぜこんな事態になったのか。2000年代初めの日本の銀行の不良債権危機、08年のリーマン・ショック、11年の東日本大震災、20年の新型コロナ危機など、予想外のネガティブイベントが次々と起こったため、企業は生き残ることを第一に考え、成長戦略に二の足を踏むことになりました。兎にも角にも負債を減らし、自己資本(株主資本)を積み上げて、その結果、日本企業は大きすぎる自己資本、多すぎる現金を抱え込むようになった。ある程度の安定はもちろん必要ですが、現状維持にきゅうきゅうとしている……かのように見える企業もいくつもある。というのが私の推察です。 しかし、この状況は変わりつつあると考えます。そのきっかけは外圧です。「アクティビスト」と呼ばれる投資家集団が日本の経営陣により効率的な経営を求め始めました。 Q:えっ、アクティビスト。 居林:渋い顔をしましたね(笑)。アクティビストというと、目先の利益しか考えず、日本的経営の美点を破壊する連中、というイメージがあります。00年代のスティール・パートナーズとブルドックソース、英ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンドと電源開発(現Jパワー)のケースを覚えておられる方も多いと思います。 Q:そうそう、もっと遡るとブーン・ピケンズ氏と小糸製作所とか。 居林:アクティビストの提案全てが正しいわけではもちろんありません。しかし、日本市場に上場している企業の50%程度がPBR1倍割れ、つまり簿価割れで取引されているという事態は、どう考えても異常です。 Q:投資家が将来性を見限っている企業が半分って、確かにおかしいですね。 居林:23年に入って東京証券取引所がPBR1倍割れ企業に対して、「対応策を強く要請」するという事態になっているほどです』、「企業は生き残ることを第一に考え、成長戦略に二の足を踏むことになりました。兎にも角にも負債を減らし、自己資本(株主資本)を積み上げて、その結果、日本企業は大きすぎる自己資本、多すぎる現金を抱え込むようになった。ある程度の安定はもちろん必要ですが、現状維持にきゅうきゅうとしている……かのように見える企業もいくつもある。というのが私の推察です。 しかし、この状況は変わりつつあると考えます。そのきっかけは外圧です。「アクティビスト」と呼ばれる投資家集団が日本の経営陣により効率的な経営を求め始めました」、なるほど。
・『アクティビストが決断を迫る 居林:そのため、ここにきて日本的経営の良いところは残しつつも、直すべきところは直そう、という機運が高まっています。14年に導入された機関投資家向けの行動規範である「スチュワードシップ・コード」は、それまで物言わぬ株主であった機関投資家を、「責任ある投資家」に変貌させるという大きな転機になり、投資先の企業の株主総会の議案について一定の基準を持って、賛成・反対意見を表明するようになりました。端的に言えば、アクティビストの提案であっても「企業のためになる」と考えれば、国内の機関投資家が賛成に回るケースが出てきたのです。これによって、日本企業の経営は、今まさに大きく変化しようとしています。 Q:具体例では。 居林:オリンパスの例が分かりやすいかもしれませんね。 日経ビジネスでも記事にしていました(「物言う株主味方に最高益へ オリンパス 反骨・竹内改革の内幕」)。 居林:オリンパスは、祖業である顕微鏡や映像事業(デジタルカメラ)と収益源の内視鏡のビジネスの間にシナジーがないので、これを切り分けることで、ディスカウントが減少しました。ロジックはシンプルですが、注意すべきは、なかなか意思決定ができなかった会社が、アクティビストに背中を押してもらうことで、決断できるようになったというところだと思います。 日本の企業の最大の問題は、決められないことだと思います。アクティビティストが入ることで、そこを変えられる可能性がある。 Q:日本企業は変わる余地があるということだと思いますが、実際にどんなことが変わるのでしょうか? 居林:よく聞かれるのが「終身雇用制度はなくなるのか」ですが、中長期的にはそうなるだろうと思いつつ、なかなか急には難しいだろうと思いますので、そこは当面の論点ではありません。そして、それよりも重要なことがあるのです。 Q:何でしょう。 居林:それは、投資家と企業との目的の共有です。これがなければ、日本企業の経営のコペルニクス的転回はないと私は思います。逆に、これができれば、簿価を大きく割りこんでいた企業の価値が上がり始めるはずです』、「日本の企業の最大の問題は、決められないことだと思います。アクティビティストが入ることで、そこを変えられる可能性がある」、「投資家と企業との目的の共有です。これがなければ、日本企業の経営のコペルニクス的転回はないと私は思います。逆に、これができれば、簿価を大きく割りこんでいた企業の価値が上がり始めるはずです」、なるほど。
・『「コングロマリット・ディスカウント」は大企業に限らない Q:目的の共有でそこまで可能になるんですか。でも目的の共有って、当たり前のような、あり得ないような。これまで共有が難しかったのだとしたら、それはなぜなんでしょうか。 居林:そのからくりはこうです。そもそも日本の企業は、一体何の事業をやっているのか、理解するのが大変です。例えば、業種が化学であったとしても、実際の事業領域は石油化学から特殊化成品や医薬品、繊維まで多岐にわたることが多い。投資家は企業をどのように評価してよいか分かりにくくて、いわゆる「コングロマリット・ディスカウント」に陥ってしまいます。 Q:株価は1つなのに、携わる事業範囲が広すぎて、しかもそれぞれの関連性が低い、ってやつですね。でもそれは大企業に限ったお話では。 居林:ではないのです。コングロマリット・ディスカウントは、祖業から枝分かれして様々な事業を展開する多くの日本企業に当てはまるのです。 コングロマリット・ディスカウントとその解消例としては大企業、例えばオリンパス、ソニーグループ、日立製作所の例がよく出ますが、もう少し小さい企業の例ではJSRが目を引きます。JSRはもともとJapan Synthetic Rubberという名の通り合成ゴムをつくる企業でしたが、その祖業とも言える合成ゴムのエラストマー事業を売却してしまいました。そして、新しく投資をしているのがバイオテックのビジネスです。こんなダイナミックな動きをしている日本企業がいくつか現れています。 一つひとつの事業を切り出したり、他社の同じ事業と合併したりという経営判断をすることで、会社の注力する分野を明確にして、投資・開発リソースを集中する。それによって競争力も上がります。 社員の方も投資家も今後の事業方針を理解しやすくなり、経営・事業に対する理解の解像度が大幅に上昇する、という道筋を描けます。すでに申し上げましたが、株価=企業価値=株主資本+将来の付加価値と分解すれば、簿価割れというのは、「将来の価値がマイナスである」ということを意味しているわけです。企業はプラスの将来価値をつくり出すことができると会社側は投資家に(そして社員、取引先にも)納得してもらう必要があります。日本企業の経営が大きく変わる必要があるとしたら、まずここです。 Q:なるほど。そういう意識でニュースを見ると、「なるほど」と思えるものが出てきていますね。 居林:しかしまだまだこれからです。例えば「スピンオフ(事業を新会社として独立させた後、既存の株主にその株式を交付すること)」への課税繰り延べ制度が17年に整備され、その後改正も加えられたのですが、実績は2件しかありません。これではいけません。 米国では多くのアクティビストが企業の再編の提案をして、実際にそれが行われています。その全てが成功しているとは言えませんが、投資家と経営陣の対話が実際の経営に反映されており、投資家としては評価しやすい。 企業価値は事業利益と投資家の評価の結果のはずです。日本企業は一定水準の事業利益は達成できましたが、手元資金を厚めにするほうに熱心で、将来への投資に及び腰になっている。現状維持に見えては投資家から高い評価を得るのは難しい。) Q:「成長したい」という意志と、それを社内外に分かりやすく伝えることが必要だと。 居林:その通りです。そのためには大胆な事業再編と組織運営の変更は避けて通れないでしょう。これはアクティビストのみならず、日本の機関投資家、個人投資家、東証など各方面から要請されていると言えます』、「「スピンオフ・・・」への課税繰り延べ制度が17年に整備され、その後改正も加えられたのですが、実績は2件しかありません。これではいけません」、「日本企業は一定水準の事業利益は達成できましたが、手元資金を厚めにするほうに熱心で、将来への投資に及び腰になっている。現状維持に見えては投資家から高い評価を得るのは難しい」、なるほど。
・『利益率が低く、将来への投資を株主還元に回している Q:ちなみに、伊藤リポートで指摘されたROEですが、近年、それなりに上昇しているのではありませんでしたっけ。 居林:はい、ROEは利益÷株主資本ですから、文字通り「株主が預けた資本に対して、どれだけの利益を生んでいるのか」を示します。会計上の株主資本に対する利回りとも呼べるもので、これが高い方が株主としては好ましいわけです。しかし、ROEは比率ですから、分子が大きくなるだけでなく、分母が小さくなっても上昇します。 日本企業のROEは低いと言われますが、よく見ると日本企業は利益率が低いのです。利益額が小さい、ということに目が行きがちですが、実は利益「率」が低いほうがはるかに大きな、構造的問題なのです。 なぜなら、企業の利益率が低いということは、売り上げが減少するとすぐに利益がなくなってしまう、ということを意味するからです。このため、利益率の低い企業、利益額が安定しない企業は、利益率の改善よりも、即効性がある方法、バランスシートに余分に現金を保有しようという動機が生まれます。これがROEの分母を大きくすることにつながるわけです。そして、海外投資家に「日本企業は不況に弱い」といわれる最大の理由だと思います。 結局、将来への不安から財務健全性を高めようとして、負債をどんどん返済し、確かに財務的には健全になった。でも、根本原因の事業の利益「率」は改善していない、厚みを増した手元資金で、自社株買いや増配(株主還元)をすることで株主資本を小さくして、ROEの数値を改善しようとしている、ここまでが日本企業の現状です。 居林:コングロマリット・ディスカウントで「どこに投資すれば成長できるのか」が分かりにくくなり、そもそも投資を行わないことで、将来への期待が持ちにくい。これが日本企業の多くが陥っている状態です。加えて、この負債返済とその後の自社株買いが、将来への投資が不足している状態を引き起こしてしまう、というさらに悪い循環に今日本企業は入ろうとしているように見えます。) Q:株価が業績予想の関数であるならば、将来への投資が足りないし方向性も見えなければ、そりゃ、上がるわけはないですね。 居林:ROEを上げるには分母の株主資本を減少させるという自社株買いや株主還元も確かに有効ですが、本来、重要なのは利益「率」を上げるというところです。ならばどうすれば上がるのか。そのコミュニケーションを投資家と企業が取るためには、「投資家と企業との目的の共有」が必要です。 Q:目的というのは……。 居林:基本的に経営の目的は事業の継続と成長、そしてその存在によって社会に何らかの貢献をなすことでしょう。そのどれにも前向きな投資は欠かせない。日本企業の財務体質はこの10年強で大きく改善しました。手元に現金もたっぷりある。今こそ、技術、設備、人材に投資をすべきタイミングです。 Q:「何に投資して、生き残り、成長して、社会に貢献するか」を、経営者は積極的に、明確に、投資家に、世の中に対して語るときがきましたよ、と。 居林:「成長して社会に役立ちたいと考えているよね」と投資家から聞かれれば、どんな経営者も「もちろん」と答えるでしょう。だけどそこに行動が伴わなければコミュニケーションに必要な信頼が生まれません。この場合の行動とは、コングロマリット・ディスカウントの解消と、成長の目標、そのための手段を経営者がしっかり語ること、だと思います』、「企業の利益率が低いということは、売り上げが減少するとすぐに利益がなくなってしまう、ということを意味するからです。このため、利益率の低い企業、利益額が安定しない企業は、利益率の改善よりも、即効性がある方法、バランスシートに余分に現金を保有しようという動機が生まれます。これがROEの分母を大きくすることにつながるわけです・・・結局、将来への不安から財務健全性を高めようとして、負債をどんどん返済し、確かに財務的には健全になった。でも、根本原因の事業の利益「率」は改善していない、厚みを増した手元資金で、自社株買いや増配(株主還元)をすることで株主資本を小さくして、ROEの数値を改善しようとしている、ここまでが日本企業の現状です」、「手元に現金もたっぷりある。今こそ、技術、設備、人材に投資をすべきタイミングです」、なるほど。
・『リーマン・ショック時クラスの長期的なチャンス Q:上場企業の半分程度が簿価以下で取引されている市場というのは、普通に考えておかしな状態ですよね。 居林:はい、非常に特異な事態だと思います。データを振り返るとこんなに多くの企業が簿価割れで取引されているのはリーマン・ショックのときに近いです。ということは、日本の投資家にとっては長期的なチャンスだと思います。 Q:おお、なるほど! 居林:日本企業は変化の岐路に立っています。中には、事業の選択と投資の集中によって、ポジティブな方向に大きく変化する企業があるでしょう。そうした企業を見つけることができれば、長期視点で投資するという個人投資家の強みを発揮することができるはずです。 Q:さて、企業側の話はここまでにして、これからは投資家としての話をしましょうか。 では、そちらは次回に伺いましょう』、「こんなに多くの企業が簿価割れで取引されているのはリーマン・ショックのときに近いです。ということは、日本の投資家にとっては長期的なチャンスだと思います・・・日本企業は変化の岐路に立っています。中には、事業の選択と投資の集中によって、ポジティブな方向に大きく変化する企業があるでしょう。そうした企業を見つけることができれば、長期視点で投資するという個人投資家の強みを発揮することができるはずです」、前向きな気分になった。
次に、5月8日付け東洋経済オンライン「東証プライムからスタンダードへ「降格ラッシュ」 「骨抜き」批判から1年、始まったプライムの選別」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/670115
・『「スタンダード市場上場の選択申請の決定に関するお知らせ」。2023年3月、スマホゲーム開発企業のマイネットがリリースを公表した。同社は東証プライム市場に上場しているが、近くスタンダード市場に移行すると表明したのだ。 プライム市場を捨て、自らスタンダード市場に「降格」する――。マイネットを皮切りに、こうした宣言をする企業が相次いでいる。4月末時点で、スタンダードへの移行を宣言したプライム上場企業は9社にのぼる。突如訪れた「降格ラッシュ」の背景に何があるのか』、興味深そうだ。
・『プライム市場「背伸び組」 発端は、2022年4月の市場区分見直しにさかのぼる。プライム市場は3つの区分のうち最も上場基準が厳しく、高い流動性やガバナンスが求められる市場として発足した。 ところが、旧東証1部から横滑りでプライム市場入りした企業のうち、296社は時価総額や流動性などの上場維持基準を下回っていた。東京証券取引所は経過措置を設け、改善計画の策定を条件にプライム市場への移行を許可した。 「背伸び」をしてプライム市場に移った企業群の位置づけは曖昧だった。経過措置の期間は「当分の間」とされており、いつまでプライム市場に残れるのかはわからなかった。改善計画を達成できなかった場合にスタンダード市場へ自動的に移れるのか、改めてスタンダード市場の上場審査が必要なのかも不明確だった。「後者の場合、一斉に移行されると審査の人手が足りなくなる」。証券業界からはこんな悲鳴も上がった』、「旧東証1部から横滑りでプライム市場入りした企業のうち、296社は時価総額や流動性などの上場維持基準を下回っていた。東京証券取引所は経過措置を設け、改善計画の策定を条件にプライム市場への移行を許可した。 「背伸び」をしてプライム市場に移った企業群の位置づけは曖昧だった」、なるほど。
・『スタンダード移行特例の資料 そこで東証は2023年1月の上場規則改正時、背伸び組に「2択」を迫った。3月期決算企業の場合、2026年3月末時点で上場維持基準に適合しなければ、上場廃止予備軍である「監理銘柄」に指定され、最短で同年9月にも上場廃止となる。スタンダード市場に移る場合には、一度上場廃止してから再度審査を受ける必要がある。 その代わりの選択肢として、早々にプライム市場の上場維持を断念した企業には「特例」を設けた。2023年4月から9月末の間であれば、申請書の提出だけでスタンダード市場に移れるのだ。「上場廃止にならないための、いわば『温情』だ」。東証関係者はこう話す。) 冒頭のマイネットをはじめ、スタンダードへの移行を発表した企業はこの「特例」を選んだ企業たちだ。では、どんな企業が特例を利用したのか。以下は、4月末時点でスタンダード市場への移行を表明した企業の一覧だ。いずれの企業もプライム市場の要件である「流通株式時価総額100億円」を満たしていない。 (流通株式時価総額が鬼門 ースタンダード選択企業の上場維持基準の適合状況ーの表はリンク先参照) 各社は旧東証1部からプライム市場に移行するにあたり、東証の指示によって流通株式時価総額を引き上げる計画を策定していた。ところが、業績や株価の低迷によって達成の見込みが立たず、およそ1年で撤回したことになる。 土壌汚染調査や産業廃棄物処理を手がけるダイセキ環境ソリューションは2021年末、3年間で純利益を3倍にする中期経営計画を策定した。ところが、首都圏での大型案件受注が想定を下回り、翌2022年に業績予想を2度下方修正。このまま流通株式時価総額が伸び悩めば上場廃止となるリスクを考慮し、スタンダード市場への移行を決めたという。 東洋経済が試算したところ、プライム市場上場企業の中で流通株式時価総額が100億円を下回る企業は203社存在する(ランキングはこちら)。背伸び組のほか、プライム市場への移行当初は基準を満たしていたが、その後株価が下落し100億円を割ってしまった企業も少なくない』、「早々にプライム市場の上場維持を断念した企業には「特例」を設けた。2023年4月から9月末の間であれば、申請書の提出だけでスタンダード市場に移れるのだ。「上場廃止にならないための、いわば『温情』だ」。東証関係者はこう話す。) 冒頭のマイネットをはじめ、スタンダードへの移行を発表した企業はこの「特例」を選んだ企業たちだ」、なるほど。
・『「6月」が分水嶺? 降格ラッシュは今後も続くのか。みずほ信託銀行の八木啓至・企業戦略開発部次長は、「6月までにスタンダード市場への移行表明が増えるのではないか」と推測する。 スタンダード市場に無条件で移行できるのは、前述のとおり2023年9月末が期限だ。一方、3月期決算企業の場合、流通株式時価総額などの上場維持基準は3月末時点の数値を基に審査され、未達の場合は6月末までに改善計画を提出ないし更新する必要がある。 スタンダード市場への移行表明が7月以降にずれこむと、それまでにプライム市場への上場を維持するための計画を公表する必要があり、矛盾が生じる。そのため、スタンダード市場を選ぶ企業は改善計画の期限までに移行方針を発表し、定時株主総会で株主に説明するという見立てだ。 ほとんどの企業が旧東証1部から横滑りしたことから「骨抜きの改革」とやゆされたプライム市場。2022年4月の発足から1年を経て、ようやくプライムの名にふさわしい企業の選別が始まろうとしている』、「「骨抜きの改革」とやゆされたプライム市場。2022年4月の発足から1年を経て、ようやくプライムの名にふさわしい企業の選別が始まろうとしている」、望ましいことだ。
第三に、5月8日付け東洋経済オンライン「PBR1倍割れ多発、東証プライム「テコ入れ」の難路 投資家は早くも改善要求、独り歩きする指標」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/670458
・『東京証券取引所が3月に発表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」が波紋を呼んでいる。プライム・スタンダード市場に上場する全企業に対し、年に1回資本コストや資本収益性、市場評価について取締役会で分析・評価をすることや、改善に向けた計画の開示などを要請した。 東証は現状分析にROE(自己資本利益率)やWACC(負債・株式の加重平均資本コスト)、PBR(株価純資産倍率)といった指標を使うことを例示する。中でも、最も問題になったのはPBR1倍未満の会社への対応だ。 PBRが1倍を割っているということは、時価総額が純資産の大きさを下回っている状態ともいえる。時価総額は、その会社の成長性などを加味した上で、市場がつけた評価だ。つまり市場が、「事業をやめて資産を株主に分配した方が合理的だ」と評価していることを意味する。 地方銀行など、構造的に低いPBRにあえぐ企業にとっては東証の掲げる「1倍」という数字は、すぐに達成できる現実的な数字でもない。PBRがおよそ0.5倍のある上場企業幹部は「株主還元でどうにかなる話ではない。結局地道に利益を積み上げていくしかないが、それでも限界がある」と嘆く』、「PBRが1倍を割っているということは、時価総額が純資産の大きさを下回っている状態ともいえる。時価総額は、その会社の成長性などを加味した上で、市場がつけた評価だ。つまり市場が、「事業をやめて資産を株主に分配した方が合理的だ」と評価していることを意味する」、厳しい評価だ。
・『「共通言語」がずれていた 東証の要請はPBRだけに着目した取り組みを求めているわけではない。今回開示を求めた意図について、東証上場部の池田直隆課長は「それぞれの企業に資本コストやマーケットからの評価を意識してもらって企業価値の向上に取り組んでほしい。そのための『共通言語』がずれていた」と説明する。業界内順位や売上といった指標だけでなく、株主が意識する指標を使った対話を促したいというわけだ。 東証にとって「PBR1倍」はあくまで「ひとつの目安」(池田課長)に過ぎない。PBR1倍を割っているからといって上場廃止になることもないという。 それでも、PBRにばかり注目が集まるのは、今回の要請に至るまでの経緯が関係している。 この議論は、2022年4月の市場区分見直しが上場企業の価値向上につながっていないという問題意識から始まったものだ。経営者や学者などで作る「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」は同年7月から議論を重ね、1月30日に論点整理を発表。市場区分について「全上場会社の約半数がPBR1倍割れの状況にメスを入れない限り意味がない」と断じた。 日本は、PBR1倍割れの企業の数が際立って多い。「多くの機関投資家の投資対象となるのにふさわしい」とされているプライム市場においても、上場する企業のおよそ半数が1倍割れとなっており、テコ入れは急務だ。比較対象として挙げられたアメリカでは、PBR1倍を割っている企業は2割程度だという。 東証を運営するJPX(日本取引所グループ)の清田瞭CEO(最高経営責任者、当時)は3月30日の記者会見で「1倍割れの銘柄が世界的に見ても飛び抜けて多い。直していかなければいけない。資本のコストを意識したリターンを上げる経営に取り組めば十分可能だという企業はたくさんあると思う」と語った。こうした背景が3月末の要請につながったのだ。 それでも、東証はPBR1倍の改善のみを強調はしなかった。それによって小手先のPBR向上策が蔓延することを懸念したからだ。 PBRは、分母である純資産を自社株買いや増配で減らすことで向上させることができる。ただ、これでは本質的な企業価値向上とは言えない。本来は、その企業自身が優れた業績を上げ、株価を向上させる必要があるのだ。東証としては各社が安易に自社株買いなどに走るといった事態は避けたかった。 その結果、PBRのみを明確に示すこともなく、その手法も縛らないという今回の要請の内容に至ったわけだ。具体的な経営指標によって線引きをしなかったことで、企業にとっては「何をすればいいかわからない」(上場企業幹部)要請になった。目指すべき「資本コストや株価を意識した経営」を達成できている企業が何社あるのかも東証は示していない。このあいまいさが、今回の要請の難しさだろう』、「東証としては各社が安易に自社株買いなどに走るといった事態は避けたかった。 その結果、PBRのみを明確に示すこともなく、その手法も縛らないという今回の要請の内容に至ったわけだ」、なるほど。
・『PBRにフォーカスした新指数 要請ではあいまいな表現を使うことになったが、その裏でPBRにフォーカスした取り組みも出てきた。JPX総研が新たに発表した「JPXプライム150指数」だ。 この指数に採用されるには、プライム上場企業のうち時価総額上位500位に入っていなければならない。その上で、推定エクイティスプレッド(ROE-株主資本コスト)上位75社と、PBR上位75社が選ばれる。こちらは明確にPBRを基準に採用した。 5月末までに詳細な選定方法を公表し、7月3日から算出することになっている。この指数が投資信託などに採用されれば、選ばれた銘柄にとっては株価上昇のチャンスになる。指数作成を担ったJPX総研の三浦崇宏インデックスビジネス部長は「指数に選ばれるために上場企業には経営努力をしてもらい、市場全体の底上げになるようにしたい」と話す。) JPXの一連の取り組みに対して、投資家や企業は早くも反応を示した。もの言う株主(アクティビスト)として知られる投資会社シティインデックスイレブンスはコスモエネルギーホールディングスに対して2月22日、東証の取り組みを理由としてPBRを上げるために大規模な株主還元を求めた。 岡三証券グループも3月24日、PBRが1倍を超えるまで年間10億円以上の自己株買いを継続的に実施すると発表した。表向きは「ひとつの目安」としたPBRは、すでに独り歩きを始めている。今後、企業は、PBR1倍を意識しないわけにはいかなくなるだろう』、「表向きは「ひとつの目安」としたPBRは、すでに独り歩きを始めている。今後、企業は、PBR1倍を意識しないわけにはいかなくなるだろう」、なるほど。
・『上場企業へ増え続ける要求 上場企業に求められる取り組みはPBRだけに止まらない。東証は「PBR1倍」要請を出した3月31日に、プライム市場の上場企業に対して株主との対話状況を公開するよう要請した。このほか、投資家との対話において説明が不十分な例を出して、注意を促した。 要求が増えるにつれて、プライム市場の上場維持コストは増えていく。実際、そのコストに耐えられない企業も出てきている。 「プライム市場の上場維持を選択した場合、2032年までの累計で、約2億円の費用が発生すると試算している。そのコストを負担するよりも、将来の事業拡大に向けた成長投資に資金を振り向けることが、企業価値向上に資する」。 システム開発・運用を手がけるODKソリューションズは3月29日、プライム市場からスタンダード市場に移ることを選択したと発表した。理由は上述のとおり、プライム市場に適合するにはコストがかかりすぎるということだ。 こうした取り組みは、本来プライム市場かどうかに関係なくすべての上場企業が達成できていることが望ましい。区分を変えてスタンダードに行けば、取り組まなくていいというものではないだろう。市場区分の変更を通じて市場全体を底上げするという、東証の目標が達成されるには、まだまだ遠い道のりが待っている』、「「プライム市場の上場維持を選択した場合、2032年までの累計で、約2億円の費用が発生すると試算している。そのコストを負担するよりも、将来の事業拡大に向けた成長投資に資金を振り向けることが、企業価値向上に資する」。 システム開発・運用を手がけるODKソリューションズは3月29日、プライム市場からスタンダード市場に移ることを選択したと発表した。理由は上述のとおり、プライム市場に適合するにはコストがかかりすぎるということだ」、賢明な選択だ。こうした企業がもっと増えてほしいものだ。
第四に、6月15日付け東洋経済オンライン「千葉銀など3社で露見した「仕組み債」乱売の実態 銀証連携で生じた「歪み」が処分勧告で明るみに」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/679601
・『仕組み債の販売からいち早く撤退した「優等生」が、まさかの「問題児」だった。 証券取引等監視委員会は6月9日、ちばぎん証券や親会社の千葉銀行などの3社に対し、仕組み債を顧客に十分な説明なく販売していたとして、行政処分するよう金融庁に勧告した。勧告を受けて金融庁は、業務改善命令など行政処分を検討する。 ちばぎん証券と提携し顧客を紹介していた武蔵野銀行も勧告の対象になった。3社は「厳粛に受け止め、改善・再発防止に取り組む」とのコメントをそれぞれ発表した。 仕組み債はこれまでも個人投資家に販売するには適さないと指摘されてきた商品だ。デリバティブ(金融派生商品)を使うことで、高い利回りを可能にする反面、株価や為替に連動して償還条件が変動するなど商品性は複雑。通常の債券とは異なるリスクがあるうえに手数料も不透明だった。 金融庁は昨年5月に公表したリポートで、仕組み債の1つであるEB債(他社株転換可能債)を「購入する意義はほとんどない」と断じたほどだ』、興味深そうだ。
・『販売をいち早く中止したちばぎん証券 2022年8月、金融庁は仕組み債の販売状況について実態把握に乗り出す。地方銀行系証券会社はとくに仕組み債の販売に積極的だったが、強まる逆風を前に販売を次々と取りやめた。その結果、仕組み債を取り扱う地銀の数は2022年3月末に100行中77行あったが、11月末には33行と激減した。 この流れにいち早く反応していたのが、ちばぎん証券だった。金融庁の実態調査前の6月、他社に先駆けて仕組み債の販売を中止した。 親会社の千葉銀頭取は、業界団体である全国地方銀行協会の会長。「協会長として金融庁とやりとりする中で、調査の実施を事前に知ったのでは。抜け駆けだ」(ある地銀関係者)。そんな恨み節まで漏れていた。 ところが、そのちばぎん証券で無理な販売が横行していた。監視委によると、2022年6月末に仕組み債を保有していた約8400人の顧客のうち、3割が同社の基準でも仕組み債の販売に適さない「低リスク投資」の意向を持っていた。また、顧客の多くは70代以上だったほか、投資経験がまったくなかった例もあった。) 仕組み債で生じた損失について苦情も出ていた。証券会社でつくる自主規制法人の日本証券業協会は、3度にわたってちばぎん証券に注意喚起をしていた。ところが顧客からの苦情を「一方的申し出」として真摯に対応してこなかったという。 銀行が注力してきた銀証連携で生じた「歪み」も、今回の勧告を通じて浮き彫りになった。 監視委によると、千葉銀、武蔵野銀は顧客をちばぎん証券に紹介する際、その顧客の投資知識や経験、投資目的などを十分に考慮しないまま、仕組み債の購入を勧めていたという』、「千葉銀、武蔵野銀は顧客をちばぎん証券に紹介する際、その顧客の投資知識や経験、投資目的などを十分に考慮しないまま、仕組み債の購入を勧めていた」、証券販売の基本中の基本が出来ていなかったようだ。
・『武蔵野銀は役員が支店長に積極仲介を指示 証券会社が仕組み債を販売して受け取った手数料の一部は、紹介した銀行の収益になる。銀行の営業職員にとっては自分の実績になるため、手数料の高い仕組み債は、「効率がよい」商品だった。 武蔵野銀に至っては、役員が支店長に対し店別の「仕組み債収益実績表」を送付して、積極的に仲介をするよう指示していた。行員に対しても投資信託や個別株の販売ではなく、仕組み債の販売に特化した研修を行っていた。 ちばぎん証券にとっても、銀行経由の仕組み債販売は大きな収益源だった。監視委によると、同社の営業収益のうち銀行経由の収益は70~80%。そのうちの多くが仕組み債関連で、2021年3月期には営業収益全体の約半分を占めた。 仕組み債の販売をやめた2023年3月期のちばぎん証券の業績は、純営業収益が39億7700万円と前年同期比で39・1%減となり、11億3700万円の営業赤字に沈んでいる。 「地銀が証券子会社をつくる目的は、リスク許容度の高い顧客の大手証券会社への流出を防ぐことだった。ただ、そうした顧客はすでにほかの証券会社と取引しており、もくろみどおりの顧客は想定より少なかった」 金融庁でかつて主任統括検査官を務めた日本資産運用基盤グループの長澤敏夫主任研究員は、地銀系証券が高リスク商品の販売に走る背景を解説する。そのうえで「親会社から早期黒字化を求められ、銀証連携の掛け声の下、金融機関の都合で、本来仕組み債を販売するべきではない顧客に販売を進めたのではないか」と指摘する。 千葉銀は2022年度、有価証券運用を除く本業利益で518億円を稼いだ。地銀99行のうち3位という優等生だった。融資一辺倒では稼げない危機感が招いた顧客軽視の「ツケ」は、大きな痛手となって回ってきた』、「「親会社から早期黒字化を求められ、銀証連携の掛け声の下、金融機関の都合で、本来仕組み債を販売するべきではない顧客に販売を進めたのではないか」と指摘する」、これでは処分されても当然だ。
第五に、6月19日付け東洋経済オンライン「悲劇の舞台は「仕組み債」から「永久劣後債」へ 富裕層らが2.4兆円の大損!海外債券投資の罠」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/679779
・『優雅に達観した生活を送っているように見える富裕層。ただ陰では投資や税金対策に頭を抱え、時にもがき苦しむ様子が垣間見える。6月19日発売『週刊東洋経済』の特集「富裕層のリアル国内150万世帯、受難の時代」では、富裕層の偽らざる実像に迫った。 「こちらがドル建て債券に関する資料です。足元で金利が軒並み上昇している状況なので、円債に比べて高い利回りを確保できます」 今年初め、ある国内証券会社の営業マンは富裕層の顧客にそう言って1枚のリストを見せていた。提示したリストに載っているのは、海外の銀行などが発行するドル建ての「永久劣後債」だ。 劣後債は発行した企業などが倒産した場合に、弁済する優先順位が普通社債などに比べて後回しになる(劣後する)債券のことだ。 中でも永久劣後債は、5年後や10年後といった満期の定めがない。そのため、投資家にとってはかなりリスクが高く、その分利回りも相対的に大きいハイリスク・ハイリターンの商品だ』、「永久劣後債」は「かなりリスクが高く、その分利回りも相対的に大きいハイリスク・ハイリターンの商品」、なるほど。
・『投資リスクが高いAT1債 先ほどのリストには6?7%台の商品がずらりと並んでいるが、その中で10%超というひときわ高い利回りを示していた債券がある。スイス金融大手クレディ・スイス・グループの永久劣後債だ。別名「AT1(その他ティアワン)債」とも呼ばれる。 クレディ・スイスといえば、富裕層でなくとも投資家であれば誰でも耳にしたことがある、世界的な金融グループだ。その債券で10%もの利回りを得られるとあって、多くの富裕層が飛びつくようにして購入していった。 (投資リスクが高いAT1債の図はリンク先参照)) それが一転して、紙くずになってしまったのは今年3月のこと。クレディ・スイスは経営不安が一気に高まり、同国金融最大手のUBSグループと株式交換による救済的な買収で合意。さらに、中央銀行のスイス国立銀行から流動性支援(臨時の資金供給)を受けた。 スイス連邦金融市場監督機構はそうした支援策が、クレディ・スイスのAT1債が規定する「元本削減条項」に抵触するとして、無価値化すると判断したわけだ。 紙くずになったAT1債の総額は約160億スイスフラン。日本円に換算すると約2.4兆円にも上る。金融庁の調べでは、日本では富裕層を中心に約1400億円分が販売されていた。そのうち約950億円分を販売していた、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対しては、金融庁が顧客対応などについて報告するよう命令を出すなど、騒動は広がるばかりだ』、「日本では富裕層を中心に約1400億円分が販売されていた。そのうち約950億円分を販売していた、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対しては、金融庁が顧客対応などについて報告するよう命令」、「三菱UFJモルガン・スタンレー証券」が多くを販売していたとは、やれやれだ。リスクをきちんと説明していたことを願うのみだ。
・『仕組み債でも損失の悲劇 急転直下の事態を受け、4月に入ると日本でも企業や富裕層から悲鳴が次々と上がった。 ゲームソフトなどの開発を手がけるコーエーテクモホールディングスは、AT1債への投資によって41億円の損失を計上。「箱根駅伝」で名をはせた青山学院大学陸上競技部の原晋監督は、「平均年収のウン倍」を失ったとインターネット番組で嘆き、大きな話題になった。 足元では金融分野に強い弁護士事務所の間で、被害を受けた富裕層に広く声をかけて集団訴訟に持ち込もうとする動きが広がり始めている。 訴訟に向けて弁護士らが着目しているのが、販売していた証券会社が元本削減条項などのリスクについて、どれだけ説明責任を果たしていたかという点だ。 実際のところはどうなのか。ある証券会社が作成した契約締結前交付書面を見てみよう。) 同書面を見ると、元本削減条項という欄に「CET1(普通株等ティアワン)比率が7%を下回ったとき」「公的機関による支援を受け入れたとき」という2つの条件が書いてある。今回はこのうちの後者(支援の受け入れ)がトリガーを引いたことになり、書面上は問題がないように見える。 一方で、大手証券会社の幹部は「販売している側は、CET1比率の部分しか気に掛けていなかったというのが実態だろう。公的機関の支援うんぬんの部分まで、きっちり説明した営業マンは少ないのではないか」と声を潜める。 つまり、販売する側すら目を向けていなかった条項を、顧客にしっかりと説明し理解させていたかと問われると、苦しい立場に置かれるということだ』、「「販売している側は、CET1比率の部分しか気に掛けていなかったというのが実態だろう。公的機関の支援うんぬんの部分まで、きっちり説明した営業マンは少ないのではないか」と声を潜める」、そうであれば、問題は深刻だ。
・『仕組み債でも大きな損失 金融庁の幹部は、AT1債で被害を受けた顧客の中には「仕組み債においても、大きな損失を被った人が一定数いる」と明かす。 仕組み債とは、債券と金融派生商品(デリバティブ)取引を組み合わせた金融商品のこと。デリバティブ取引は個別株価や株価指数、為替相場などに連動しており価格変動が大きいことから、債券ではあるもののかなりハイリスクな商品だ。商品設計が複雑なため、投資初心者はリスクの認識が難しい。 それを地方銀行などが「高利回り商品」などとして販売。富裕層や高齢者に過剰なリスクを取らせていたことが問題となり、規制が強化されてきた経緯がある。 その規制の抜け穴として、証券業界で脚光を浴びたのが、まさにAT1債だった。そこで大きな悲劇が発生するのは、もはや時間の問題だったのかもしれない』、「利回り」追及の余り「過剰なリスクを取らせていた」のであれば、大問題だ。
タグ:「「プライム市場の上場維持を選択した場合、2032年までの累計で、約2億円の費用が発生すると試算している。そのコストを負担するよりも、将来の事業拡大に向けた成長投資に資金を振り向けることが、企業価値向上に資する」。 「日本の企業の最大の問題は、決められないことだと思います。アクティビティストが入ることで、そこを変えられる可能性がある」、「投資家と企業との目的の共有です。これがなければ、日本企業の経営のコペルニクス的転回はないと私は思います。逆に、これができれば、簿価を大きく割りこんでいた企業の価値が上がり始めるはずです」、なるほど。 「東証としては各社が安易に自社株買いなどに走るといった事態は避けたかった。 その結果、PBRのみを明確に示すこともなく、その手法も縛らないという今回の要請の内容に至ったわけだ」、なるほど。 「PBRが1倍を割っているということは、時価総額が純資産の大きさを下回っている状態ともいえる。時価総額は、その会社の成長性などを加味した上で、市場がつけた評価だ。つまり市場が、「事業をやめて資産を株主に分配した方が合理的だ」と評価していることを意味する」、厳しい評価だ。 東洋経済オンライン「PBR1倍割れ多発、東証プライム「テコ入れ」の難路 投資家は早くも改善要求、独り歩きする指標」 「「骨抜きの改革」とやゆされたプライム市場。2022年4月の発足から1年を経て、ようやくプライムの名にふさわしい企業の選別が始まろうとしている」、望ましいことだ。 「早々にプライム市場の上場維持を断念した企業には「特例」を設けた。2023年4月から9月末の間であれば、申請書の提出だけでスタンダード市場に移れるのだ。「上場廃止にならないための、いわば『温情』だ」。東証関係者はこう話す。) 冒頭のマイネットをはじめ、スタンダードへの移行を発表した企業はこの「特例」を選んだ企業たちだ」、なるほど。 「旧東証1部から横滑りでプライム市場入りした企業のうち、296社は時価総額や流動性などの上場維持基準を下回っていた。東京証券取引所は経過措置を設け、改善計画の策定を条件にプライム市場への移行を許可した。 「背伸び」をしてプライム市場に移った企業群の位置づけは曖昧だった」、なるほど。 東洋経済オンライン「東証プライムからスタンダードへ「降格ラッシュ」 「骨抜き」批判から1年、始まったプライムの選別」 「こんなに多くの企業が簿価割れで取引されているのはリーマン・ショックのときに近いです。ということは、日本の投資家にとっては長期的なチャンスだと思います・・・日本企業は変化の岐路に立っています。中には、事業の選択と投資の集中によって、ポジティブな方向に大きく変化する企業があるでしょう。そうした企業を見つけることができれば、長期視点で投資するという個人投資家の強みを発揮することができるはずです」、前向きな気分になった。 でも、根本原因の事業の利益「率」は改善していない、厚みを増した手元資金で、自社株買いや増配(株主還元)をすることで株主資本を小さくして、ROEの数値を改善しようとしている、ここまでが日本企業の現状です」、「手元に現金もたっぷりある。今こそ、技術、設備、人材に投資をすべきタイミングです」、なるほど。 「企業の利益率が低いということは、売り上げが減少するとすぐに利益がなくなってしまう、ということを意味するからです。このため、利益率の低い企業、利益額が安定しない企業は、利益率の改善よりも、即効性がある方法、バランスシートに余分に現金を保有しようという動機が生まれます。これがROEの分母を大きくすることにつながるわけです・・・結局、将来への不安から財務健全性を高めようとして、負債をどんどん返済し、確かに財務的には健全になった。 「「スピンオフ・・・」への課税繰り延べ制度が17年に整備され、その後改正も加えられたのですが、実績は2件しかありません。これではいけません」、「日本企業は一定水準の事業利益は達成できましたが、手元資金を厚めにするほうに熱心で、将来への投資に及び腰になっている。現状維持に見えては投資家から高い評価を得るのは難しい」、なるほど。 しかし、この状況は変わりつつあると考えます。そのきっかけは外圧です。「アクティビスト」と呼ばれる投資家集団が日本の経営陣により効率的な経営を求め始めました」、なるほど。 「表向きは「ひとつの目安」としたPBRは、すでに独り歩きを始めている。今後、企業は、PBR1倍を意識しないわけにはいかなくなるだろう」、なるほど。 (その10)(簿価割れが約5割という日本企業の“異常事態”、東証プライムからスタンダードへ「降格ラッシュ」 「骨抜き」批判から1年、始まったプライムの選別、PBR1倍割れ多発 東証プライム「テコ入れ」の難路 投資家は早くも改善要求、独り歩きする指標、千葉銀など3社で露見した「仕組み債」乱売の実態 銀証連携で生じた「歪み」が処分勧告で明るみに、悲劇の舞台は「仕組み債」から「永久劣後債」へ 富裕層らが2.4兆円の大損!海外債券投資の罠) 資本市場 「企業は生き残ることを第一に考え、成長戦略に二の足を踏むことになりました。兎にも角にも負債を減らし、自己資本(株主資本)を積み上げて、その結果、日本企業は大きすぎる自己資本、多すぎる現金を抱え込むようになった。ある程度の安定はもちろん必要ですが、現状維持にきゅうきゅうとしている……かのように見える企業もいくつもある。というのが私の推察です。 確かに「日本の上場株の半分程度が簿価割れ(株価純資産倍率=PBRが1倍以下)で取引されている」というのは極めて深刻な事態だ。 居林 通氏による「簿価割れが約5割という日本企業の“異常事態”」 日経ビジネスオンライン 東洋経済オンライン「千葉銀など3社で露見した「仕組み債」乱売の実態 銀証連携で生じた「歪み」が処分勧告で明るみに」 システム開発・運用を手がけるODKソリューションズは3月29日、プライム市場からスタンダード市場に移ることを選択したと発表した。理由は上述のとおり、プライム市場に適合するにはコストがかかりすぎるということだ」、賢明な選択だ。こうした企業がもっと増えてほしいものだ。 東洋経済オンライン「悲劇の舞台は「仕組み債」から「永久劣後債」へ 富裕層らが2.4兆円の大損!海外債券投資の罠」 興味深そうだ。 「千葉銀、武蔵野銀は顧客をちばぎん証券に紹介する際、その顧客の投資知識や経験、投資目的などを十分に考慮しないまま、仕組み債の購入を勧めていた」、証券販売の基本中の基本が出来ていなかったようだ。 「「親会社から早期黒字化を求められ、銀証連携の掛け声の下、金融機関の都合で、本来仕組み債を販売するべきではない顧客に販売を進めたのではないか」と指摘する」、これでは処分されても当然だ。 「永久劣後債」は「かなりリスクが高く、その分利回りも相対的に大きいハイリスク・ハイリターンの商品」、なるほど。 「日本では富裕層を中心に約1400億円分が販売されていた。そのうち約950億円分を販売していた、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対しては、金融庁が顧客対応などについて報告するよう命令」、「三菱UFJモルガン・スタンレー証券」が多くを販売していたとは、やれやれだ。リスクをきちんと説明していたことを願うのみだ。 「「販売している側は、CET1比率の部分しか気に掛けていなかったというのが実態だろう。公的機関の支援うんぬんの部分まで、きっちり説明した営業マンは少ないのではないか」と声を潜める」、そうであれば、問題は深刻だ。 「利回り」追及の余り「過剰なリスクを取らせていた」のであれば、大問題だ。
株式・為替相場(その18)(家計が「円売り」に動くとき円安の本番が到来する 資産防衛としての「円から外貨へ」という必然、日経平均「3万8915円超え」は必然!その先に迫る上場企業の“大・不安時代”とは?、それでも「日経平均の上昇は危うい」と言える理由) [金融]
株式・為替相場については、昨年8月16日に取上げた。今日は、(その18)(家計が「円売り」に動くとき円安の本番が到来する 資産防衛としての「円から外貨へ」という必然、日経平均「3万8915円超え」は必然!その先に迫る上場企業の“大・不安時代”とは?、それでも「日経平均の上昇は危うい」と言える理由)である。
先ずは、本年6月8日付け東洋経済オンラインが掲載したみずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏による「家計が「円売り」に動くとき円安の本番が到来する 資産防衛としての「円から外貨へ」という必然」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/677793
・『ドル円相場は年初来の円安圏で取引が続いている。この原因をどこに求めるかは識者により見方が異なるものの、筆者は円相場を取り巻く基礎的需給環境の変化から目をそらすべきではないという立場を続けている。 需給環境といった場合、象徴的には国際収支統計を軸に議論を展開するのが基本だが、家計の金融資産構成の動きに着目する価値も大きい。日本の家計金融資産は2000兆円にも及ぶため、多少の構成変化でも大きなインパクトになりうる。 日本の家計金融資産は現状、97%が円建て、しかも55%が現預金という保守的な構成にある。 (家計金融資産グラフはリンク先参照) リスクテイクに動く余地という意味では相当に大きい状況にあり、それが外貨だった場合の為替への影響は気がかりである』、「日本の家計金融資産は現状、97%が円建て、しかも55%が現預金という保守的な構成」、「リスクテイクに動く余地という意味では相当に大きい状況にあり」、確かにその通りで、要注意だ。
・『若年層ほど外貨建て投資 この点、気になる報道も断続的に見られている。 例えば、1カ月前の日本経済新聞(2023年5月1日)は「外貨資産『増やした』4割若手投資家、日本より米国株」と題し、若年層ほど外貨建て資産の比率を増やしていることを報じた。 かねて筆者はこうした「家計の円売り」こそ円相場、ひいては日本経済が抱える最大のリスクではないかと考えてきた。 上記の日経記事の中で紹介されていたアンケート結果に目をやると、「外国企業の方が日本企業よりも期待リターンが高いから」「右肩上がりの成長が不可能となり、日本株を長期で保有するにはリスクがある」など、内外の成長格差への意識が透ける。 これから投資をする個人にとって、国内よりも海外という志向はおおむね共通する志向だろう。) こうした「国内から海外へ」という資産運用の動きは今に始まったものではなく、過去数年の潮流である。 例えば投資信託経由の株式売買動向に目をやると、2015年以降じわじわと買いが積み上がる外国株式に対して国内株式の取得意欲は非常に弱く、2019年以降は国内から海外への代替が進んでいるかのような構図にも見える。 (投資信託経由の株式売買グラフはリンク先参照) 同統計からでは為替ヘッジの有無までは判別できないものの、こうした外国株式(おそらく多くは米国株式)への投資を通じた円売りも、今の円安局面に寄与しているのではないかと推測される』、「これから投資をする個人にとって、国内よりも海外という志向はおおむね共通する志向だろう」、「投資信託経由の株式売買動向に目をやると、2015年以降じわじわと買いが積み上がる外国株式に対して国内株式の取得意欲は非常に弱く、2019年以降は国内から海外への代替が進んでいるかのような構図にも見える」、「かねて筆者はこうした「家計の円売り」こそ円相場、ひいては日本経済が抱える最大のリスクではないかと考えてきた」、いよいよ「家計の円売り」が始まったのかも知れない。
・『空気で一気に動くおそれ もっとも、上述した通り、家計金融資産の半分以上はまだ円建ての現預金に集中している。よって、外国株式への投資などが過去に比べて盛り上がっているのは事実としても、そうした「日本人の円売り」が資金循環構造を根本的に変容させるような状況にはまだない。 しかし、任意となっても大多数が続けているマスク着用のように、日本人は合理性よりも「皆がやっているから、やる」という空気で意思決定を下しやすい。冒頭の日経報道で指摘されたように、外貨建て資産を増やす層がこのまま増えていけば、どこかでそれが多数派として空気を形成することになる。 もはや窓口で高い手数料を払って外貨を購入する必要はなく、スマートフォン操作で簡単に外貨建て資産を購入できてしまうのだから、「動く時は一気に動く」というおそれは常にある。) 実際、「半世紀ぶりの安値」が続く実質実効為替相場(REER・物価格差を考慮し、主要貿易相手国に対する通貨の実力を測る指標)が象徴するように、日本が海外に対して持つ購買力はこの上なく弱まっている。 (円の実質実効為替相場のグラフはリンク先参照) よって外貨運用を増やすこと自体に相応の合理性もある。円の購買力が弱いからこそ海外から輸入される財の値段が押し上げられ、毎日のように値上げが報じられる状況に直結する。 片や、海外から日本へやってくる訪日外国人観光客(インバウンド)は「弱い円」の裏返しである「強い外貨」を背景として旺盛な消費・投資意欲を発揮し続けている』、「外貨建て資産を増やす層がこのまま増えていけば、どこかでそれが多数派として空気を形成することになる。 もはや窓口で高い手数料を払って外貨を購入する必要はなく、スマートフォン操作で簡単に外貨建て資産を購入できてしまうのだから、「動く時は一気に動く」というおそれは常にある」、その通りだ。
・『「弱い円」と「強い外貨」に諦観 日本人の多くは「こんな高いホテル誰が泊まるのか」「こんな高い鮨、誰が食べるのか」「どうせインバウンド向けでしょう」という会話をしたことがあるのではないか。これは「弱い円」と「強い外貨」に対する諦観に基づいた会話であり、「もう円で買えるものは少なくなっている」という日本人の胸中が透ける。 こうした状況に対し名目賃金が上昇してくればよいが、大きな望みは持てない。 6月6日に発表された4月の実質賃金は、前年比マイナス3.0%と13カ月連続でマイナスだった。日本人の懐事情は確実に貧しくなっている。 このような状況が極まっていった場合、合理的な経済人ならば、資産を「弱い円」ではなく「強い外貨」で持つという意欲は強まるはずである。毎日のように「円は安い(≒外貨は高い)」という情報にさらされれば、自国通貨の脆弱性に愛想を尽かす向きは増えて当然である。 事実、円の対ドル相場は2019年12月から足元までの間に、1ドル=110円から140円へと30%弱も下落している。これまで一番安全だと考えられていた「自国通貨建ての現預金」に置くだけでこれほど目減りしてしまった以上、何らかの形で対策を打とうと考えるのは普通である。) 円安が2022年の一過性の動きで終わればそのような心配もなかったかもしれないが、2023年に入ってからもしっかり持続している。必然的に「円から外貨へ」という投資意欲を持つ層は増えてくるだろう。 こうした動きは広義には「貯蓄から投資へ」という意味合いをはらむが、筆者は若干異なるように思っている。 「貯蓄から投資へ」のスローガンが企図するのは、資産運用を通じて保有資産を増やしていこうという「攻め」の姿勢転換だろう。だが、上述のような諦観に起因する「弱い円」から「強い外貨」へという動きは資産運用というより資産防衛であり、保有資産が減らないようにしようという「守り」の姿勢転換といえる。 高度経済成長以降、日本人は円高に悩んだことはあっても円安に悩んだことはなかった。だからこそ、今後起きることも未知の展開になる可能性があると筆者は危惧している』、「上述のような諦観に起因する「弱い円」から「強い外貨」へという動きは資産運用というより資産防衛であり、保有資産が減らないようにしようという「守り」の姿勢転換といえる。 高度経済成長以降、日本人は円高に悩んだことはあっても円安に悩んだことはなかった。だからこそ、今後起きることも未知の展開になる可能性があると筆者は危惧している」、確かに「円安に悩む」のは未知の展開だ。
・『1ドル=152円は序章にすぎないかもしれない 2022年12月末時点で日本の家計が保有する円の現預金は約1110兆円だった。この10%が「強い外貨」に移ろうとするだけでも110兆円規模の円売りが起きる。5%なら55兆円だ。 2022年の経常黒字(海外との貿易や投資で稼いだ額)が約11兆円なので、日本の年間経常黒字の5~10年分が家計の外貨シフトで相殺されるイメージになってしまう。 ちなみに、その経常黒字自体も第一次所得収支黒字を主軸としているため、実需としての円買いは乏しいという実情もある(この点は別の機会に深く議論させていただきたいが、同黒字の半分近くは円に転換されていない可能性が高い)。 このような需給環境の下で「日本人の円売り」がたきつけられた場合、円相場は相当にまとまった幅で下落する懸念があるのではないか。 裏を返せば、2022年に直面した113円付近から152円付近までの円急落は「日本人の円売り」を抜きにして起きた現象であり、その意味で限定的な円安相場だったという見方もできる。 本当の円安リスクはまだ顕在化していないという目線を持ちたい』、「2022年12月末時点で日本の家計が保有する円の現預金は約1110兆円だった。この10%が「強い外貨」に移ろうとするだけでも110兆円規模の円売りが起きる。5%なら55兆円だ。 2022年の経常黒字(海外との貿易や投資で稼いだ額)が約11兆円なので、日本の年間経常黒字の5~10年分が家計の外貨シフトで相殺されるイメージになってしまう」、これは私が異次元緩和の副作用として懸念していた円大暴落シナリオだ。植田新総裁が余りに慎重過ぎる政策運営をしていることが、「本当の円安リスク」「顕在化」につながる可能性がある。
次に、6月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「日経平均「3万8915円超え」は必然!その先に迫る上場企業の“大・不安時代”とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/324520
・『日経平均は、年内にバブル期の最高値3万8915円を抜く――。私はそう確信しています。日経平均を押し上げる「三大要因」が強力に作用しているからです。しかし、「そのあとの世界」はどうなるのでしょうか。実は、上場企業の過半数が足をすくわれる「大・不安時代」がやってくるかもしれません。3メガバンクやオリックス、三井不動産や野村不動産ホールディングス(HD)、日本郵船や商船三井、鹿島建設や大林組、東レや旭化成、日本製鉄やJFEHD、ホンダにSUBARUなど……日本を代表する上場企業も例外ではないのです』、「日経平均は、年内にバブル期の最高値3万8915円を抜く」が、「その先に迫る上場企業の“大・不安時代”」、とは興味深そうだ。
・『日経平均は今年中にバブル最高値を抜くだろう 経済評論家の鈴木貴博です。未来予測を専門にしているせいで最近よく聞かれるテーマが、AIと日経平均です。日経平均は、バブル期の過去最高値(終値)の3万8915円87銭を今年中に抜く可能性が高まってきました。もう一歩踏み込んで予測すると9月までに一度、3万8000円台に到達する可能性も高いと思っています。 そこまで到達するのには、日経平均があと16%も上がる必要があります。株価の平均が16%上がるというのは相当なことなので、「年内に」と区切ればそのような予測をしている専門家は少数です。それでも、私は「たぶんそうなる」と確信しています。 今回の記事では、その根拠もお話しします。さらに、もう一つ問題にしたいのが「そのあとの世界」です。 日本経済にとって日経平均3万8915円という数字は呪いのような性格をもっていて、過去30年にわたって「われわれの成績はここを超えることができない」という目印になっていました。「もしそれを超えたらその先は?」というと、ここが問題で日本人にはイメージしづらい未知なる世界が待っているわけです。 ということで、今回の記事では「なぜ日経平均は3万8915円を超えるのか?」という話と、「超えた後、日本企業はどうなっていくのか」について、予測とその根拠を書いていきたいと思います。 まず、日経平均がなぜ上がっているのかですが、大きく三つ理由があります』、「日本経済にとって日経平均3万8915円という数字は呪いのような性格をもっていて、過去30年にわたって「われわれの成績はここを超えることができない」という目印になっていました」、確かにその通りだ。
・『日経平均の上昇要因は「異次元緩和」「円安」「地政学リスク」 一つ目に、日銀が相変わらず異次元緩和を継続していることです。もう1年以上、利上げによる引き締めを行っているアメリカやEUとは対照的な状況です。お金がじゃぶじゃぶ集まる場所では投資が過熱するわけですが、その場所が世界の中でも日本に限られているため日本が過熱しやすい。これが、一つ目の理由です。 二つ目に、円安です。今、都心に戻ってきたインバウンド消費で外国人がこれほど日本旅行を楽しんでいる最大の理由が、「日本は安い」からです。この日本が安いという感覚は観光客だけでなく外国人投資家にとっても同じで、日本企業は割安とその目に映っているのです。 円安は昨年と比べるとマイルドな形におさまっています。しかし、もしこの夏、円ドルレートが1ドル=160円台に突入したとしたらどうでしょう。 アメリカ人にとって「160円台での日経平均3万8915円」という価格は、「1ドル=140円での3万3500円」とドル建てで見れば同じ数字です。 冒頭で申し上げた今年9月までに日経平均が3万8000円台もありうるという予測の前提の一つが、「もしこの夏に円安進行の事態になれば」という懸念とつながっているのです。 そして三つ目が、地政学的リスクの高まりです。アメリカと中国の対立が深まってきたせいで、今年に入って棚ぼたで中国、台湾への投資分を日本へ振り替える動きが加速しています。たとえば今、熊本と北海道に急ピッチで半導体工場の建設が進められていますが、稼働は先でも当然、建設需要から半導体製造装置の受注まで経済を押し上げる動きが活発になっていきます。 関連して、世界の製造業にもそれまでのサプライチェーンを見直して日本に軸足を移す動きが出てきています。金融緩和、円安、サプライチェーンの見直しの3要因はどれも日本の製造業にとってはラッキーチャンスです。 ですからこの先、決算発表の記者会見の内容が悪くなるはずはない。全体的に明るいニュースが増え、投資家心理も「買い」に向かっていくでしょう。 ということで私は経済評論家の中では楽観的に「年内3万8915円超え」を予測しているのですが、一番の問題はその先です』、「地政学的リスクの高まりです。アメリカと中国の対立が深まってきたせいで、今年に入って棚ぼたで中国、台湾への投資分を日本へ振り替える動きが加速しています。たとえば今、熊本と北海道に急ピッチで半導体工場の建設が進められていますが、稼働は先でも当然、建設需要から半導体製造装置の受注まで経済を押し上げる動きが活発になっていきます」、確かにその通りだ。
・『日本の上場企業の大半は「たたんだほうが株主が喜ぶ」会社 よく、長年のゴールを達成した後に虚脱状態になるアスリートがいらっしゃいますが、私は「たぶん日本経済は3万8915円超えをした後に虚脱状態になる」と危惧しています。来年にかけてはコロナやウクライナのようなサプライズなマイナス要因が出現しない限り、日経平均が4万2000円ぐらいまでは余裕でいくと思うのですが、それが長くは続かないという予測です。 先に根拠を示しましょう。投資家界隈で問題になっていることの一つが、日本企業のPBR(株価純資産倍率)の低さです。PBRとは企業の時価総額を純資産、言い換えると会社の資産を全部売り払った後に残る価値で割ったもので、このPBRが1よりも低い会社は株主から見れば「ここでもう活動をやめちゃった方が、利益が出る会社」を意味しています。 今、問題になっていることは東証のプライム市場とスタンダード市場に上場する3274社のうち、過半数にあたる1728社がPBR1倍を割り込んでいることです(2023年6月14日時点)。 直近のデータで銘柄スクリーニングをしてみると、時価総額5000億円以上の超優良銘柄の中にも「会社をやめちゃったほうがお得な」PBR1倍以下の企業が79社あります。 主な企業名を挙げると、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)、三井住友FG、みずほFGの3メガバンクやオリックス、SBIホールディングス(HD)のような金融関連の企業、三井不動産や野村不動産HD、日本郵船や商船三井、鹿島建設や大林組、東レや旭化成、日本製鉄やJFEHD、ホンダにSUBARUといったような会社の名前がずらりと並びます。 ちなみに13日、トヨタがPBR1.03倍と1倍以上のグループに昇格したことが経済ニュースになりましたが、それまでのトヨタも会社をたたんだほうが、株主が喜ぶ側の一員だったわけです。 このことの何が重要なのかというと、これらの会社はお金があるのに投資をしていない会社なのです。経営者目線で考えるとわかりやすいのですが、経済の先行きが不透明で不安な場合、内部留保を増やしてこれから先に備えようとします。何に備えるかというと、従業員の給料が払えなくなることがないように備えるわけです』、「「たぶん日本経済は3万8915円超えをした後に虚脱状態になる」と危惧」、「投資家界隈で問題になっていることの一つが、日本企業のPBR(株価純資産倍率)の低さ」、なるほど。
・『日本企業はチャンスがあっても「投資」を十分に行わない 日本人経営者から見れば「年功序列はもうすたれたにせよ、終身雇用は依然残っていて、正社員は家族のようなものだからそれを守る責任がある」と考えるので、お金を手元にためる性向があるのです。「会社は、本当は従業員のもの」という昔の経営哲学が、上場企業の半数以上でいまだに続いているのです。 これが海外の投資家から見ると不満なところです。日本企業は海外の投資家から見ると現金の保有比率が高いのです。その状況を「目の前にものすごく投資チャンスがあるのに投資をしていない」と受け止めるのです。 わかりやすい例を若干デフォルメしながらお伝えすると、金融業界は少なくともアメリカの場合は、AIの台頭を大チャンスだと捉えています。実際に、ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーといった会社では従業員の3分の1がITエンジニアやデータサイエンティストに置き換わり、内部は実質的にIT企業と呼ぶべき状態になっています。 かたや日本のメガバンクはAIやDX化の流れを受けて2017年頃から大規模な行員のリストラ計画を発表して、人員削減には邁進(まいしん)しています。 人件費という固定費を削減するのはリスクにはならないので、経営者も自信をもって進められるのですが、投資の側がわからない。いまだにITは情報システム部が担い、経営の下請け業務の域を出ていません。あくまでデフォルメですが、外国人投資家からはその姿勢が疑問視されます。 そうなると、海外の投資家から見れば日本のメガバンクが成長するイメージがわかない。業績相応の株価しかつかず、結果として日本の銀行のPBRは1を大幅に割り込みます。 自動車会社も同じで、今、業界としては脱炭素とAIのダブルチャンスが起きていて、仕事の領域を「自動車製造」から「モビリティービジネス全般」ないしは「エネルギービジネスへの進出」まで、いくらでも投資を広げられる状態にあります。 にもかかわらず、トヨタが3兆円近い利益をたたき出しているのを筆頭に、自動車業界全般で過少投資の状態が続いています。これが海外の投資家にとっては不満で「利益を出さずに投資を3兆円増やせ」という怒号となり、ひいては株主総会で会長の不信任案がとりざたされるようになっている背景なのです。 まあ、「日本企業なんだし、外国人投資家のためにビジネスをやっているわけじゃないですから」という意見もわかります。 ただそれでも不安なのは、だからといって日本企業が投資を十分に行っていないことであり、そしてもっと恐ろしいことを言えば、それはアメリカ企業も実は同じなのです』、「日本のメガバンクは・・・いまだにITは情報システム部が担い、経営の下請け業務の域を出ていません。あくまでデフォルメですが、外国人投資家からはその姿勢が疑問視されます。 そうなると、海外の投資家から見れば日本のメガバンクが成長するイメージがわかない。業績相応の株価しかつかず、結果として日本の銀行のPBRは1を大幅に割り込みます。 自動車会社も同じで・・・トヨタが3兆円近い利益をたたき出しているのを筆頭に、自動車業界全般で過少投資の状態が続いています。これが海外の投資家にとっては不満で「利益を出さずに投資を3兆円増やせ」という怒号となり、ひいては株主総会で会長の不信任案がとりざたされるようになっている背景なのです」、なるほど。
・『大半の上場企業が日経平均を「押し下げる」時代が来る 日経平均と同じようなアメリカの株式インデックスがS&P500という上位500社の平均株価なのですが、このS&P500はリーマンショック以降、やはり右肩上がりでの上昇を続けています。 しかしその内訳をGAFAM5社、つまりグーグル、アップル、メタ、アマゾン、マイクロソフトと、それ以外の495社に分けて計算し直すと、前者がめちゃくちゃ成長している一方で、後者の株価は停滞しています。 495社からさらにエヌビディア、テスラ、ネットフリックスを除いたら、状況はもっと悲惨なことになるはずです。 つまりアメリカでも、機会への十分な投資ができていない企業の株価は伸びていない。だとすれば日本企業もマクロ要因で3万8915円超えを達成した後、その後でも成長を続けていくことができるのは、ほんのごく一部のチャレンジングな企業だけということになると予測されます。 具体的にはソニーグループ、キーエンス、ファーストリテイリング、信越化学、東京エレクトロン、三菱商事、伊藤忠、三井物産、任天堂あたりが「日本のGAFAM」を形成して、日経平均の成長をけん引するでしょう。その一方で、リスクをとらない過半数の上場企業群が平均点の足を大きく引っ張る構図が、「日経平均3万8915円のあとの世界」での不安材料です。 少子高齢化、人手不足、脱炭素、コスト高、エネルギー不足、防衛問題――何を考えてもこの先の日本経済には不安材料がめじろ押しだというのも事実です。 一方で、それを乗り越えるためには本質的には投資しかない。それができない企業が居座り続けることができる日本経済の構造自体に、大きな未来の不安材料があるのかもしれません』、「S&P500はリーマンショック以降、やはり右肩上がりでの上昇を続けています。 しかしその内訳をGAFAM5社、つまりグーグル、アップル、メタ、アマゾン、マイクロソフトと、それ以外の495社に分けて計算し直すと、前者がめちゃくちゃ成長している一方で、後者の株価は停滞・・・つまりアメリカでも、機会への十分な投資ができていない企業の株価は伸びていない」、「ソニーグループ、キーエンス、ファーストリテイリング、信越化学、東京エレクトロン、三菱商事、伊藤忠、三井物産、任天堂あたりが「日本のGAFAM」を形成して、日経平均の成長をけん引するでしょう。その一方で、リスクをとらない過半数の上場企業群が平均点の足を大きく引っ張る構図が、「日経平均3万8915円のあとの世界」での不安材料です」、「この先の日本経済には不安材料がめじろ押しだというのも事実です。 一方で、それを乗り越えるためには本質的には投資しかない。それができない企業が居座り続けることができる日本経済の構造自体に、大きな未来の不安材料があるのかもしれません」、なるほど。
第三に、6月19日付け東洋経済オンラインが掲載したブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリストの馬渕 治好氏による「それでも「日経平均の上昇は危うい」と言える理由」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/680453
・『日本株が続騰基調にある。代表的な指標である日経平均株価は反落も交えたものの、6月16日にはザラ場高値(3万3772円)と終値(3万3706円)がともに平成バブル崩壊後の最高値を更新した。 同日のアメリカではシカゴ日経平均先物は3万3675円で引けたが、これは現物指数に換算すると3万3750円辺りに相当する。今週(19~23日)も勢いだけの上振れが続くことで、「3万4000円超え」の局面到来を否定できない』、興味深そうだ。
・『相場予測は大外れ、率直にお詫びす 当コラムでは「今年前半は投資環境の悪化による株価下落が優勢になる」と唱え続け、安値のメドとして現時点では2万7000円を提示している。だが、実際の市況はこれとは真逆の株価暴騰となっており、筆者の見通しは大外れだ。 筆者は種々の機会において、専門家の予想数値だけを取り上げることは有益ではなく、その背景となる分析のほうがはるかに重要だと主張してきた。また、投資家の方々が自分自身で投資戦略を立案するうえで、専門家の主張や見解を丸ごと信じるのではなく、それを踏み台として、それらを上回り、高みに立つような展望を構築してほしい、とも述べてきた。 とはいっても、市況の予測数値は筆者から提示する情報の重要な一部であり、それが大外れであることは専門家として重責だ。すでに多くの叱責を頂戴しているが、そうした声をいただく以前から、筆者の予測の誤りが投資家の判断に悪影響を与え、投資収益面でご迷惑をおかけしているという点に日頃から思いを巡らせている。 実際、毎日胃が痛い思いをし、眠れない日も少なくない。当コラムの執筆だけでなく、雑誌、電子媒体などへの寄稿、テレビやラジオへの出演も「投資家にさらにご迷惑をおかけするばかりではないか」との恐怖にとらわれる。 だが、筆者が心痛を覚えても、皆さんに及ぼしたご迷惑は消えてなくならない。実際に投資成績に悪影響を被った投資家の方々のほうが、筆者の何倍も辛い思いだと拝察する。この場を借りて、心よりお詫び申し上げたい。) 筆者は、証券会社の調査部門に勤務した期間が長い。市場見通しを誤った際には、上司から「お前の軽い頭を下げて詫びられても、投資家の収益が改善するわけではない、そんな役に立たない謝罪をしている暇があったら、分析を再点検することに時間を使え」と諭された』、「上司」のアドバイスももっともだ。
・『日本への知見が浅い「ツーリスト投資家」が今の主役 当時の上司の教えに従って、現在の日本株暴騰の背景を再点検したい。その結論は、読者の方々は「懲りないやつだな」とあきれるだろうが、やはり世界の投資環境は悪化し続けており、日本を含む世界主要国の株価下落が示唆されているということだ。 投資家動向から述べると、5月以降の日経平均暴騰の主役は海外投資家の買いだ。ただし、筆者自身が情報交換している海外投資家から得られる感触では「日本株投資の経験が長く、日本を熟知している長期投資家は本格的な買いは行っていない」というものだ。 こうした感触は、海外投資家と接しているほかの多くの証券関係者からも寄せられる。加えて、日本株を大いに買っているのは「ツーリスト投資家」が中心だ、との言葉もよく聞く。 観光業界ではその国を団体旅行で初めて訪問したり、「単なる旅行者」として訪れるよう人を「ツーリスト」と呼ぶ。「ツーリスト投資家」はそれと同様、日本株への投資経験がないかほとんどない状態で「試しに日本に資金を投じるような投資家」を指す。ツーリストが短期間の旅行で本国に帰るのと同様に、ツーリスト投資家も日本株投資が短期間となる場合が多い。 こうした投資家について、豊島&アソシエイツ代表の豊島逸夫氏が、14日付の日本経済新聞電子版で披露していた見解が興味深いので、一部を引用したい。 「すでに日本株を購入した投資家は、日本株保有の『初体験組』が多いので、その決断が正しかったのかどうか、不安な心理状態にいる。そのため、日本株についての好意的な記事をあさるように探している。マーケティング理論でいうところの『認知的不協和』を最小限に抑えるように行動しているのだ」) ここで言う「認知的不協和」とは、自身の中に2つの矛盾する認識があることを意味する。人はその矛盾が不快なので、何かのこじつけでもそれを解消しようとする。 有名なのは「すっぱいブドウ」の逸話だ。キツネは、高い場所にブドウを見つけ、食べたいと思った。しかし、高すぎて手に取って食べることができない。「食べたい」という気持ちと「食べられない」という現実との矛盾を解消するため、キツネは「どうせあのブドウはすっぱくてまずい」といった、真実かどうかわからない言い訳で気持ちを落ち着かせる。 それと同様に、ツーリスト投資家も「自分は日本株を買った、儲かりたい」という願望と「自分は日本株投資の経験がなく、日本のこともよくわからないので、買いは失敗だったのでは」との不安が、矛盾しているのだろう。 その矛盾解消のため、「円安で日本株は上がる」「ウォーレン・バフェット氏が日本株に前向きだから上がる」「東京証券取引所が低PBR(株価純資産倍率)企業に改善を求めているから上がる」といった、確固たるものか定かではない報道にすがって、自身の投資判断を正当化しているのだろう』、「日本株を大いに買っているのは「ツーリスト投資家」が中心だ、との言葉もよく聞く・・・「ツーリスト投資家」は・・・日本株への投資経験がないかほとんどない状態で「試しに日本に資金を投じるような投資家」を指す。ツーリストが短期間の旅行で本国に帰るのと同様に、ツーリスト投資家も日本株投資が短期間となる場合が多い」、「「円安で日本株は上がる」「ウォーレン・バフェット氏が日本株に前向きだから上がる」「東京証券取引所が低PBR(株価純資産倍率)企業に改善を求めているから上がる」といった、確固たるものか定かではない報道にすがって、自身の投資判断を正当化しているのだろう」、「ツーリスト投資家」とは言い得て妙だ。
・『海外投資家のレベルを知り、椅子から転げ落ちそうに 「海外投資家」と聞くと、そのすべてが高度な投資手法を駆使し、知識も見識もすばらしい投資家だと、誤解しているかもしれない。 だが、日本を知らない海外投資家は本当に多い。最近、「ある豪州の機関投資家が日本株に関心があり、とくに日本の政治について知りたがっている」と知人から紹介され、メールで解散総選挙の可能性を中心に、政治情勢について質問を受けた。多くの質問のあと、最後のメールの末尾の文章を読んで、椅子から転げ落ちそうになった。 「ハル(筆者のニックネーム)、詳細に教えてくれてありがとう。衆議院の解散について、とてもよくわかったよ。ところで、参議院の解散についてはどう思う?」 日本の国会制度などをきちんと説明したが、その程度の投資家も今は日本株買いに多く参戦していると考えたほうがよい。) 世界の金融・経済環境も再点検しよう。金融政策については、最近2週間だけでも、ユーロ圏、カナダ、豪州で利上げが行われた。ユーロ圏では、昨年10~12月期、今年1~3月期と、実質経済成長率(前期比)が「景気後退の目安」とされる2四半期連続のマイナスとなった。それでも、根強いインフレを抑え込むため、景気をさらに押し下げ、株価には逆境となる政策が進行し続けている。 また、アメリカではFED(連銀)が、13~14日のFOMC(連邦公開市場委員会)でこそ利上げを見送ったものの、年末の政策金利予想値を0.5%幅引き上げた。アメリカの資金面では、経済全体の資金量を測るM2(現預金合計)の前年同月比は、昨年12月から直近の4月分(4.6%減)まで5カ月連続の減少だ。M2が前年同月比でマイナスとなるのは1960年1月以来初めてで、アメリカの景気や株価を締め上げていくだろう。 さらに中国でも、経済統計は4月以降、不振が目立つ。ゼロコロナ政策解除による景気押し上げが期待されたが、空振りに終わっている。確かに足元で中国は政策金利引き下げの姿勢を強めているが、景気悪化に歯止めがかかるかは心もとない。 こうした世界経済の悪化は、日本からの輸出に影を落としている。15日に公表された5月の貿易統計では、輸出数量は8カ月連続の前年同月比マイナスだ。 円安が外貨建て輸出の円換算値を膨らませていることで、輸出金額は増加してはいるが、5月の前年同月比はわずか0.6%増にすぎず、今後マイナス圏への転落もありえよう。 「円安だから輸出株中心に日本株は買いだ」などと楽観できる状況ではない。しかも、何とか増加している輸出金額でも、中国向けは6カ月連続の減少だ。中国と地理的・経済的に関係が深い日本への悪影響が強く懸念される事態で、「中国がダメだから日本株に資金が逃避する」などという主張は夢物語だろう』、「世界経済の悪化は、日本からの輸出に影を落としている。15日に公表された5月の貿易統計では、輸出数量は8カ月連続の前年同月比マイナスだ。 円安が外貨建て輸出の円換算値を膨らませていることで、輸出金額は増加してはいるが、5月の前年同月比はわずか0.6%増にすぎず、今後マイナス圏への転落もありえよう。 「円安だから輸出株中心に日本株は買いだ」などと楽観できる状況ではない」、その通りだ。
・『「長期展望は悲観せず」も不変 ただ筆者は、長期的には日本株に悲観ではない。長期展望を丁寧に解説するのには一定の分量が必要だ。また、筆者の予想では株価上昇は、いったん株価が下振れしたあとになる。よって、こうした長期予想はまたあらためて解説しよう。ただし『週刊東洋経済』(6月17日号)の40ページではその背景に簡単に触れているので、お読みいただければ幸いだ。 また、筆者が主催しているセミナーの参加者の方々には「日経平均はいったん下落したあと、今年末までには再度3万円の大台を奪回すると見込むし、2024年はさらに株価が上がるだろう。日本株を購入するなら、株価がいったん下振れすることを覚悟しつつ、じっと現物株やファンドを持ち続ければよい」と解説している。 避けるべきなのは、今後日経平均が2万7000円程度に「下がってから」、怖くなって株式などを思いっきり売却してしまうことだ。逆に、この水準に近いところまで下がったら買い場だ」とも伝えている。 今回コラムでは冒頭でお叱りの声があると述べたが、それ以上に激励や応援のメッセージを多く賜り、うれしさで涙することもある。そうしたご厚意に甘えてはいけないと自身を戒めつつも、この場を借りて心より御礼申し上げたい』、「筆者は、長期的には日本株に悲観ではない。長期展望を丁寧に解説するのには一定の分量が必要だ。また、筆者の予想では株価上昇は、いったん株価が下振れしたあとになる。よって、こうした長期予想はまたあらためて解説しよう」、短期悲観・長期楽観と分けるのも1つの考え方だ。
先ずは、本年6月8日付け東洋経済オンラインが掲載したみずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏による「家計が「円売り」に動くとき円安の本番が到来する 資産防衛としての「円から外貨へ」という必然」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/677793
・『ドル円相場は年初来の円安圏で取引が続いている。この原因をどこに求めるかは識者により見方が異なるものの、筆者は円相場を取り巻く基礎的需給環境の変化から目をそらすべきではないという立場を続けている。 需給環境といった場合、象徴的には国際収支統計を軸に議論を展開するのが基本だが、家計の金融資産構成の動きに着目する価値も大きい。日本の家計金融資産は2000兆円にも及ぶため、多少の構成変化でも大きなインパクトになりうる。 日本の家計金融資産は現状、97%が円建て、しかも55%が現預金という保守的な構成にある。 (家計金融資産グラフはリンク先参照) リスクテイクに動く余地という意味では相当に大きい状況にあり、それが外貨だった場合の為替への影響は気がかりである』、「日本の家計金融資産は現状、97%が円建て、しかも55%が現預金という保守的な構成」、「リスクテイクに動く余地という意味では相当に大きい状況にあり」、確かにその通りで、要注意だ。
・『若年層ほど外貨建て投資 この点、気になる報道も断続的に見られている。 例えば、1カ月前の日本経済新聞(2023年5月1日)は「外貨資産『増やした』4割若手投資家、日本より米国株」と題し、若年層ほど外貨建て資産の比率を増やしていることを報じた。 かねて筆者はこうした「家計の円売り」こそ円相場、ひいては日本経済が抱える最大のリスクではないかと考えてきた。 上記の日経記事の中で紹介されていたアンケート結果に目をやると、「外国企業の方が日本企業よりも期待リターンが高いから」「右肩上がりの成長が不可能となり、日本株を長期で保有するにはリスクがある」など、内外の成長格差への意識が透ける。 これから投資をする個人にとって、国内よりも海外という志向はおおむね共通する志向だろう。) こうした「国内から海外へ」という資産運用の動きは今に始まったものではなく、過去数年の潮流である。 例えば投資信託経由の株式売買動向に目をやると、2015年以降じわじわと買いが積み上がる外国株式に対して国内株式の取得意欲は非常に弱く、2019年以降は国内から海外への代替が進んでいるかのような構図にも見える。 (投資信託経由の株式売買グラフはリンク先参照) 同統計からでは為替ヘッジの有無までは判別できないものの、こうした外国株式(おそらく多くは米国株式)への投資を通じた円売りも、今の円安局面に寄与しているのではないかと推測される』、「これから投資をする個人にとって、国内よりも海外という志向はおおむね共通する志向だろう」、「投資信託経由の株式売買動向に目をやると、2015年以降じわじわと買いが積み上がる外国株式に対して国内株式の取得意欲は非常に弱く、2019年以降は国内から海外への代替が進んでいるかのような構図にも見える」、「かねて筆者はこうした「家計の円売り」こそ円相場、ひいては日本経済が抱える最大のリスクではないかと考えてきた」、いよいよ「家計の円売り」が始まったのかも知れない。
・『空気で一気に動くおそれ もっとも、上述した通り、家計金融資産の半分以上はまだ円建ての現預金に集中している。よって、外国株式への投資などが過去に比べて盛り上がっているのは事実としても、そうした「日本人の円売り」が資金循環構造を根本的に変容させるような状況にはまだない。 しかし、任意となっても大多数が続けているマスク着用のように、日本人は合理性よりも「皆がやっているから、やる」という空気で意思決定を下しやすい。冒頭の日経報道で指摘されたように、外貨建て資産を増やす層がこのまま増えていけば、どこかでそれが多数派として空気を形成することになる。 もはや窓口で高い手数料を払って外貨を購入する必要はなく、スマートフォン操作で簡単に外貨建て資産を購入できてしまうのだから、「動く時は一気に動く」というおそれは常にある。) 実際、「半世紀ぶりの安値」が続く実質実効為替相場(REER・物価格差を考慮し、主要貿易相手国に対する通貨の実力を測る指標)が象徴するように、日本が海外に対して持つ購買力はこの上なく弱まっている。 (円の実質実効為替相場のグラフはリンク先参照) よって外貨運用を増やすこと自体に相応の合理性もある。円の購買力が弱いからこそ海外から輸入される財の値段が押し上げられ、毎日のように値上げが報じられる状況に直結する。 片や、海外から日本へやってくる訪日外国人観光客(インバウンド)は「弱い円」の裏返しである「強い外貨」を背景として旺盛な消費・投資意欲を発揮し続けている』、「外貨建て資産を増やす層がこのまま増えていけば、どこかでそれが多数派として空気を形成することになる。 もはや窓口で高い手数料を払って外貨を購入する必要はなく、スマートフォン操作で簡単に外貨建て資産を購入できてしまうのだから、「動く時は一気に動く」というおそれは常にある」、その通りだ。
・『「弱い円」と「強い外貨」に諦観 日本人の多くは「こんな高いホテル誰が泊まるのか」「こんな高い鮨、誰が食べるのか」「どうせインバウンド向けでしょう」という会話をしたことがあるのではないか。これは「弱い円」と「強い外貨」に対する諦観に基づいた会話であり、「もう円で買えるものは少なくなっている」という日本人の胸中が透ける。 こうした状況に対し名目賃金が上昇してくればよいが、大きな望みは持てない。 6月6日に発表された4月の実質賃金は、前年比マイナス3.0%と13カ月連続でマイナスだった。日本人の懐事情は確実に貧しくなっている。 このような状況が極まっていった場合、合理的な経済人ならば、資産を「弱い円」ではなく「強い外貨」で持つという意欲は強まるはずである。毎日のように「円は安い(≒外貨は高い)」という情報にさらされれば、自国通貨の脆弱性に愛想を尽かす向きは増えて当然である。 事実、円の対ドル相場は2019年12月から足元までの間に、1ドル=110円から140円へと30%弱も下落している。これまで一番安全だと考えられていた「自国通貨建ての現預金」に置くだけでこれほど目減りしてしまった以上、何らかの形で対策を打とうと考えるのは普通である。) 円安が2022年の一過性の動きで終わればそのような心配もなかったかもしれないが、2023年に入ってからもしっかり持続している。必然的に「円から外貨へ」という投資意欲を持つ層は増えてくるだろう。 こうした動きは広義には「貯蓄から投資へ」という意味合いをはらむが、筆者は若干異なるように思っている。 「貯蓄から投資へ」のスローガンが企図するのは、資産運用を通じて保有資産を増やしていこうという「攻め」の姿勢転換だろう。だが、上述のような諦観に起因する「弱い円」から「強い外貨」へという動きは資産運用というより資産防衛であり、保有資産が減らないようにしようという「守り」の姿勢転換といえる。 高度経済成長以降、日本人は円高に悩んだことはあっても円安に悩んだことはなかった。だからこそ、今後起きることも未知の展開になる可能性があると筆者は危惧している』、「上述のような諦観に起因する「弱い円」から「強い外貨」へという動きは資産運用というより資産防衛であり、保有資産が減らないようにしようという「守り」の姿勢転換といえる。 高度経済成長以降、日本人は円高に悩んだことはあっても円安に悩んだことはなかった。だからこそ、今後起きることも未知の展開になる可能性があると筆者は危惧している」、確かに「円安に悩む」のは未知の展開だ。
・『1ドル=152円は序章にすぎないかもしれない 2022年12月末時点で日本の家計が保有する円の現預金は約1110兆円だった。この10%が「強い外貨」に移ろうとするだけでも110兆円規模の円売りが起きる。5%なら55兆円だ。 2022年の経常黒字(海外との貿易や投資で稼いだ額)が約11兆円なので、日本の年間経常黒字の5~10年分が家計の外貨シフトで相殺されるイメージになってしまう。 ちなみに、その経常黒字自体も第一次所得収支黒字を主軸としているため、実需としての円買いは乏しいという実情もある(この点は別の機会に深く議論させていただきたいが、同黒字の半分近くは円に転換されていない可能性が高い)。 このような需給環境の下で「日本人の円売り」がたきつけられた場合、円相場は相当にまとまった幅で下落する懸念があるのではないか。 裏を返せば、2022年に直面した113円付近から152円付近までの円急落は「日本人の円売り」を抜きにして起きた現象であり、その意味で限定的な円安相場だったという見方もできる。 本当の円安リスクはまだ顕在化していないという目線を持ちたい』、「2022年12月末時点で日本の家計が保有する円の現預金は約1110兆円だった。この10%が「強い外貨」に移ろうとするだけでも110兆円規模の円売りが起きる。5%なら55兆円だ。 2022年の経常黒字(海外との貿易や投資で稼いだ額)が約11兆円なので、日本の年間経常黒字の5~10年分が家計の外貨シフトで相殺されるイメージになってしまう」、これは私が異次元緩和の副作用として懸念していた円大暴落シナリオだ。植田新総裁が余りに慎重過ぎる政策運営をしていることが、「本当の円安リスク」「顕在化」につながる可能性がある。
次に、6月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「日経平均「3万8915円超え」は必然!その先に迫る上場企業の“大・不安時代”とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/324520
・『日経平均は、年内にバブル期の最高値3万8915円を抜く――。私はそう確信しています。日経平均を押し上げる「三大要因」が強力に作用しているからです。しかし、「そのあとの世界」はどうなるのでしょうか。実は、上場企業の過半数が足をすくわれる「大・不安時代」がやってくるかもしれません。3メガバンクやオリックス、三井不動産や野村不動産ホールディングス(HD)、日本郵船や商船三井、鹿島建設や大林組、東レや旭化成、日本製鉄やJFEHD、ホンダにSUBARUなど……日本を代表する上場企業も例外ではないのです』、「日経平均は、年内にバブル期の最高値3万8915円を抜く」が、「その先に迫る上場企業の“大・不安時代”」、とは興味深そうだ。
・『日経平均は今年中にバブル最高値を抜くだろう 経済評論家の鈴木貴博です。未来予測を専門にしているせいで最近よく聞かれるテーマが、AIと日経平均です。日経平均は、バブル期の過去最高値(終値)の3万8915円87銭を今年中に抜く可能性が高まってきました。もう一歩踏み込んで予測すると9月までに一度、3万8000円台に到達する可能性も高いと思っています。 そこまで到達するのには、日経平均があと16%も上がる必要があります。株価の平均が16%上がるというのは相当なことなので、「年内に」と区切ればそのような予測をしている専門家は少数です。それでも、私は「たぶんそうなる」と確信しています。 今回の記事では、その根拠もお話しします。さらに、もう一つ問題にしたいのが「そのあとの世界」です。 日本経済にとって日経平均3万8915円という数字は呪いのような性格をもっていて、過去30年にわたって「われわれの成績はここを超えることができない」という目印になっていました。「もしそれを超えたらその先は?」というと、ここが問題で日本人にはイメージしづらい未知なる世界が待っているわけです。 ということで、今回の記事では「なぜ日経平均は3万8915円を超えるのか?」という話と、「超えた後、日本企業はどうなっていくのか」について、予測とその根拠を書いていきたいと思います。 まず、日経平均がなぜ上がっているのかですが、大きく三つ理由があります』、「日本経済にとって日経平均3万8915円という数字は呪いのような性格をもっていて、過去30年にわたって「われわれの成績はここを超えることができない」という目印になっていました」、確かにその通りだ。
・『日経平均の上昇要因は「異次元緩和」「円安」「地政学リスク」 一つ目に、日銀が相変わらず異次元緩和を継続していることです。もう1年以上、利上げによる引き締めを行っているアメリカやEUとは対照的な状況です。お金がじゃぶじゃぶ集まる場所では投資が過熱するわけですが、その場所が世界の中でも日本に限られているため日本が過熱しやすい。これが、一つ目の理由です。 二つ目に、円安です。今、都心に戻ってきたインバウンド消費で外国人がこれほど日本旅行を楽しんでいる最大の理由が、「日本は安い」からです。この日本が安いという感覚は観光客だけでなく外国人投資家にとっても同じで、日本企業は割安とその目に映っているのです。 円安は昨年と比べるとマイルドな形におさまっています。しかし、もしこの夏、円ドルレートが1ドル=160円台に突入したとしたらどうでしょう。 アメリカ人にとって「160円台での日経平均3万8915円」という価格は、「1ドル=140円での3万3500円」とドル建てで見れば同じ数字です。 冒頭で申し上げた今年9月までに日経平均が3万8000円台もありうるという予測の前提の一つが、「もしこの夏に円安進行の事態になれば」という懸念とつながっているのです。 そして三つ目が、地政学的リスクの高まりです。アメリカと中国の対立が深まってきたせいで、今年に入って棚ぼたで中国、台湾への投資分を日本へ振り替える動きが加速しています。たとえば今、熊本と北海道に急ピッチで半導体工場の建設が進められていますが、稼働は先でも当然、建設需要から半導体製造装置の受注まで経済を押し上げる動きが活発になっていきます。 関連して、世界の製造業にもそれまでのサプライチェーンを見直して日本に軸足を移す動きが出てきています。金融緩和、円安、サプライチェーンの見直しの3要因はどれも日本の製造業にとってはラッキーチャンスです。 ですからこの先、決算発表の記者会見の内容が悪くなるはずはない。全体的に明るいニュースが増え、投資家心理も「買い」に向かっていくでしょう。 ということで私は経済評論家の中では楽観的に「年内3万8915円超え」を予測しているのですが、一番の問題はその先です』、「地政学的リスクの高まりです。アメリカと中国の対立が深まってきたせいで、今年に入って棚ぼたで中国、台湾への投資分を日本へ振り替える動きが加速しています。たとえば今、熊本と北海道に急ピッチで半導体工場の建設が進められていますが、稼働は先でも当然、建設需要から半導体製造装置の受注まで経済を押し上げる動きが活発になっていきます」、確かにその通りだ。
・『日本の上場企業の大半は「たたんだほうが株主が喜ぶ」会社 よく、長年のゴールを達成した後に虚脱状態になるアスリートがいらっしゃいますが、私は「たぶん日本経済は3万8915円超えをした後に虚脱状態になる」と危惧しています。来年にかけてはコロナやウクライナのようなサプライズなマイナス要因が出現しない限り、日経平均が4万2000円ぐらいまでは余裕でいくと思うのですが、それが長くは続かないという予測です。 先に根拠を示しましょう。投資家界隈で問題になっていることの一つが、日本企業のPBR(株価純資産倍率)の低さです。PBRとは企業の時価総額を純資産、言い換えると会社の資産を全部売り払った後に残る価値で割ったもので、このPBRが1よりも低い会社は株主から見れば「ここでもう活動をやめちゃった方が、利益が出る会社」を意味しています。 今、問題になっていることは東証のプライム市場とスタンダード市場に上場する3274社のうち、過半数にあたる1728社がPBR1倍を割り込んでいることです(2023年6月14日時点)。 直近のデータで銘柄スクリーニングをしてみると、時価総額5000億円以上の超優良銘柄の中にも「会社をやめちゃったほうがお得な」PBR1倍以下の企業が79社あります。 主な企業名を挙げると、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)、三井住友FG、みずほFGの3メガバンクやオリックス、SBIホールディングス(HD)のような金融関連の企業、三井不動産や野村不動産HD、日本郵船や商船三井、鹿島建設や大林組、東レや旭化成、日本製鉄やJFEHD、ホンダにSUBARUといったような会社の名前がずらりと並びます。 ちなみに13日、トヨタがPBR1.03倍と1倍以上のグループに昇格したことが経済ニュースになりましたが、それまでのトヨタも会社をたたんだほうが、株主が喜ぶ側の一員だったわけです。 このことの何が重要なのかというと、これらの会社はお金があるのに投資をしていない会社なのです。経営者目線で考えるとわかりやすいのですが、経済の先行きが不透明で不安な場合、内部留保を増やしてこれから先に備えようとします。何に備えるかというと、従業員の給料が払えなくなることがないように備えるわけです』、「「たぶん日本経済は3万8915円超えをした後に虚脱状態になる」と危惧」、「投資家界隈で問題になっていることの一つが、日本企業のPBR(株価純資産倍率)の低さ」、なるほど。
・『日本企業はチャンスがあっても「投資」を十分に行わない 日本人経営者から見れば「年功序列はもうすたれたにせよ、終身雇用は依然残っていて、正社員は家族のようなものだからそれを守る責任がある」と考えるので、お金を手元にためる性向があるのです。「会社は、本当は従業員のもの」という昔の経営哲学が、上場企業の半数以上でいまだに続いているのです。 これが海外の投資家から見ると不満なところです。日本企業は海外の投資家から見ると現金の保有比率が高いのです。その状況を「目の前にものすごく投資チャンスがあるのに投資をしていない」と受け止めるのです。 わかりやすい例を若干デフォルメしながらお伝えすると、金融業界は少なくともアメリカの場合は、AIの台頭を大チャンスだと捉えています。実際に、ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーといった会社では従業員の3分の1がITエンジニアやデータサイエンティストに置き換わり、内部は実質的にIT企業と呼ぶべき状態になっています。 かたや日本のメガバンクはAIやDX化の流れを受けて2017年頃から大規模な行員のリストラ計画を発表して、人員削減には邁進(まいしん)しています。 人件費という固定費を削減するのはリスクにはならないので、経営者も自信をもって進められるのですが、投資の側がわからない。いまだにITは情報システム部が担い、経営の下請け業務の域を出ていません。あくまでデフォルメですが、外国人投資家からはその姿勢が疑問視されます。 そうなると、海外の投資家から見れば日本のメガバンクが成長するイメージがわかない。業績相応の株価しかつかず、結果として日本の銀行のPBRは1を大幅に割り込みます。 自動車会社も同じで、今、業界としては脱炭素とAIのダブルチャンスが起きていて、仕事の領域を「自動車製造」から「モビリティービジネス全般」ないしは「エネルギービジネスへの進出」まで、いくらでも投資を広げられる状態にあります。 にもかかわらず、トヨタが3兆円近い利益をたたき出しているのを筆頭に、自動車業界全般で過少投資の状態が続いています。これが海外の投資家にとっては不満で「利益を出さずに投資を3兆円増やせ」という怒号となり、ひいては株主総会で会長の不信任案がとりざたされるようになっている背景なのです。 まあ、「日本企業なんだし、外国人投資家のためにビジネスをやっているわけじゃないですから」という意見もわかります。 ただそれでも不安なのは、だからといって日本企業が投資を十分に行っていないことであり、そしてもっと恐ろしいことを言えば、それはアメリカ企業も実は同じなのです』、「日本のメガバンクは・・・いまだにITは情報システム部が担い、経営の下請け業務の域を出ていません。あくまでデフォルメですが、外国人投資家からはその姿勢が疑問視されます。 そうなると、海外の投資家から見れば日本のメガバンクが成長するイメージがわかない。業績相応の株価しかつかず、結果として日本の銀行のPBRは1を大幅に割り込みます。 自動車会社も同じで・・・トヨタが3兆円近い利益をたたき出しているのを筆頭に、自動車業界全般で過少投資の状態が続いています。これが海外の投資家にとっては不満で「利益を出さずに投資を3兆円増やせ」という怒号となり、ひいては株主総会で会長の不信任案がとりざたされるようになっている背景なのです」、なるほど。
・『大半の上場企業が日経平均を「押し下げる」時代が来る 日経平均と同じようなアメリカの株式インデックスがS&P500という上位500社の平均株価なのですが、このS&P500はリーマンショック以降、やはり右肩上がりでの上昇を続けています。 しかしその内訳をGAFAM5社、つまりグーグル、アップル、メタ、アマゾン、マイクロソフトと、それ以外の495社に分けて計算し直すと、前者がめちゃくちゃ成長している一方で、後者の株価は停滞しています。 495社からさらにエヌビディア、テスラ、ネットフリックスを除いたら、状況はもっと悲惨なことになるはずです。 つまりアメリカでも、機会への十分な投資ができていない企業の株価は伸びていない。だとすれば日本企業もマクロ要因で3万8915円超えを達成した後、その後でも成長を続けていくことができるのは、ほんのごく一部のチャレンジングな企業だけということになると予測されます。 具体的にはソニーグループ、キーエンス、ファーストリテイリング、信越化学、東京エレクトロン、三菱商事、伊藤忠、三井物産、任天堂あたりが「日本のGAFAM」を形成して、日経平均の成長をけん引するでしょう。その一方で、リスクをとらない過半数の上場企業群が平均点の足を大きく引っ張る構図が、「日経平均3万8915円のあとの世界」での不安材料です。 少子高齢化、人手不足、脱炭素、コスト高、エネルギー不足、防衛問題――何を考えてもこの先の日本経済には不安材料がめじろ押しだというのも事実です。 一方で、それを乗り越えるためには本質的には投資しかない。それができない企業が居座り続けることができる日本経済の構造自体に、大きな未来の不安材料があるのかもしれません』、「S&P500はリーマンショック以降、やはり右肩上がりでの上昇を続けています。 しかしその内訳をGAFAM5社、つまりグーグル、アップル、メタ、アマゾン、マイクロソフトと、それ以外の495社に分けて計算し直すと、前者がめちゃくちゃ成長している一方で、後者の株価は停滞・・・つまりアメリカでも、機会への十分な投資ができていない企業の株価は伸びていない」、「ソニーグループ、キーエンス、ファーストリテイリング、信越化学、東京エレクトロン、三菱商事、伊藤忠、三井物産、任天堂あたりが「日本のGAFAM」を形成して、日経平均の成長をけん引するでしょう。その一方で、リスクをとらない過半数の上場企業群が平均点の足を大きく引っ張る構図が、「日経平均3万8915円のあとの世界」での不安材料です」、「この先の日本経済には不安材料がめじろ押しだというのも事実です。 一方で、それを乗り越えるためには本質的には投資しかない。それができない企業が居座り続けることができる日本経済の構造自体に、大きな未来の不安材料があるのかもしれません」、なるほど。
第三に、6月19日付け東洋経済オンラインが掲載したブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリストの馬渕 治好氏による「それでも「日経平均の上昇は危うい」と言える理由」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/680453
・『日本株が続騰基調にある。代表的な指標である日経平均株価は反落も交えたものの、6月16日にはザラ場高値(3万3772円)と終値(3万3706円)がともに平成バブル崩壊後の最高値を更新した。 同日のアメリカではシカゴ日経平均先物は3万3675円で引けたが、これは現物指数に換算すると3万3750円辺りに相当する。今週(19~23日)も勢いだけの上振れが続くことで、「3万4000円超え」の局面到来を否定できない』、興味深そうだ。
・『相場予測は大外れ、率直にお詫びす 当コラムでは「今年前半は投資環境の悪化による株価下落が優勢になる」と唱え続け、安値のメドとして現時点では2万7000円を提示している。だが、実際の市況はこれとは真逆の株価暴騰となっており、筆者の見通しは大外れだ。 筆者は種々の機会において、専門家の予想数値だけを取り上げることは有益ではなく、その背景となる分析のほうがはるかに重要だと主張してきた。また、投資家の方々が自分自身で投資戦略を立案するうえで、専門家の主張や見解を丸ごと信じるのではなく、それを踏み台として、それらを上回り、高みに立つような展望を構築してほしい、とも述べてきた。 とはいっても、市況の予測数値は筆者から提示する情報の重要な一部であり、それが大外れであることは専門家として重責だ。すでに多くの叱責を頂戴しているが、そうした声をいただく以前から、筆者の予測の誤りが投資家の判断に悪影響を与え、投資収益面でご迷惑をおかけしているという点に日頃から思いを巡らせている。 実際、毎日胃が痛い思いをし、眠れない日も少なくない。当コラムの執筆だけでなく、雑誌、電子媒体などへの寄稿、テレビやラジオへの出演も「投資家にさらにご迷惑をおかけするばかりではないか」との恐怖にとらわれる。 だが、筆者が心痛を覚えても、皆さんに及ぼしたご迷惑は消えてなくならない。実際に投資成績に悪影響を被った投資家の方々のほうが、筆者の何倍も辛い思いだと拝察する。この場を借りて、心よりお詫び申し上げたい。) 筆者は、証券会社の調査部門に勤務した期間が長い。市場見通しを誤った際には、上司から「お前の軽い頭を下げて詫びられても、投資家の収益が改善するわけではない、そんな役に立たない謝罪をしている暇があったら、分析を再点検することに時間を使え」と諭された』、「上司」のアドバイスももっともだ。
・『日本への知見が浅い「ツーリスト投資家」が今の主役 当時の上司の教えに従って、現在の日本株暴騰の背景を再点検したい。その結論は、読者の方々は「懲りないやつだな」とあきれるだろうが、やはり世界の投資環境は悪化し続けており、日本を含む世界主要国の株価下落が示唆されているということだ。 投資家動向から述べると、5月以降の日経平均暴騰の主役は海外投資家の買いだ。ただし、筆者自身が情報交換している海外投資家から得られる感触では「日本株投資の経験が長く、日本を熟知している長期投資家は本格的な買いは行っていない」というものだ。 こうした感触は、海外投資家と接しているほかの多くの証券関係者からも寄せられる。加えて、日本株を大いに買っているのは「ツーリスト投資家」が中心だ、との言葉もよく聞く。 観光業界ではその国を団体旅行で初めて訪問したり、「単なる旅行者」として訪れるよう人を「ツーリスト」と呼ぶ。「ツーリスト投資家」はそれと同様、日本株への投資経験がないかほとんどない状態で「試しに日本に資金を投じるような投資家」を指す。ツーリストが短期間の旅行で本国に帰るのと同様に、ツーリスト投資家も日本株投資が短期間となる場合が多い。 こうした投資家について、豊島&アソシエイツ代表の豊島逸夫氏が、14日付の日本経済新聞電子版で披露していた見解が興味深いので、一部を引用したい。 「すでに日本株を購入した投資家は、日本株保有の『初体験組』が多いので、その決断が正しかったのかどうか、不安な心理状態にいる。そのため、日本株についての好意的な記事をあさるように探している。マーケティング理論でいうところの『認知的不協和』を最小限に抑えるように行動しているのだ」) ここで言う「認知的不協和」とは、自身の中に2つの矛盾する認識があることを意味する。人はその矛盾が不快なので、何かのこじつけでもそれを解消しようとする。 有名なのは「すっぱいブドウ」の逸話だ。キツネは、高い場所にブドウを見つけ、食べたいと思った。しかし、高すぎて手に取って食べることができない。「食べたい」という気持ちと「食べられない」という現実との矛盾を解消するため、キツネは「どうせあのブドウはすっぱくてまずい」といった、真実かどうかわからない言い訳で気持ちを落ち着かせる。 それと同様に、ツーリスト投資家も「自分は日本株を買った、儲かりたい」という願望と「自分は日本株投資の経験がなく、日本のこともよくわからないので、買いは失敗だったのでは」との不安が、矛盾しているのだろう。 その矛盾解消のため、「円安で日本株は上がる」「ウォーレン・バフェット氏が日本株に前向きだから上がる」「東京証券取引所が低PBR(株価純資産倍率)企業に改善を求めているから上がる」といった、確固たるものか定かではない報道にすがって、自身の投資判断を正当化しているのだろう』、「日本株を大いに買っているのは「ツーリスト投資家」が中心だ、との言葉もよく聞く・・・「ツーリスト投資家」は・・・日本株への投資経験がないかほとんどない状態で「試しに日本に資金を投じるような投資家」を指す。ツーリストが短期間の旅行で本国に帰るのと同様に、ツーリスト投資家も日本株投資が短期間となる場合が多い」、「「円安で日本株は上がる」「ウォーレン・バフェット氏が日本株に前向きだから上がる」「東京証券取引所が低PBR(株価純資産倍率)企業に改善を求めているから上がる」といった、確固たるものか定かではない報道にすがって、自身の投資判断を正当化しているのだろう」、「ツーリスト投資家」とは言い得て妙だ。
・『海外投資家のレベルを知り、椅子から転げ落ちそうに 「海外投資家」と聞くと、そのすべてが高度な投資手法を駆使し、知識も見識もすばらしい投資家だと、誤解しているかもしれない。 だが、日本を知らない海外投資家は本当に多い。最近、「ある豪州の機関投資家が日本株に関心があり、とくに日本の政治について知りたがっている」と知人から紹介され、メールで解散総選挙の可能性を中心に、政治情勢について質問を受けた。多くの質問のあと、最後のメールの末尾の文章を読んで、椅子から転げ落ちそうになった。 「ハル(筆者のニックネーム)、詳細に教えてくれてありがとう。衆議院の解散について、とてもよくわかったよ。ところで、参議院の解散についてはどう思う?」 日本の国会制度などをきちんと説明したが、その程度の投資家も今は日本株買いに多く参戦していると考えたほうがよい。) 世界の金融・経済環境も再点検しよう。金融政策については、最近2週間だけでも、ユーロ圏、カナダ、豪州で利上げが行われた。ユーロ圏では、昨年10~12月期、今年1~3月期と、実質経済成長率(前期比)が「景気後退の目安」とされる2四半期連続のマイナスとなった。それでも、根強いインフレを抑え込むため、景気をさらに押し下げ、株価には逆境となる政策が進行し続けている。 また、アメリカではFED(連銀)が、13~14日のFOMC(連邦公開市場委員会)でこそ利上げを見送ったものの、年末の政策金利予想値を0.5%幅引き上げた。アメリカの資金面では、経済全体の資金量を測るM2(現預金合計)の前年同月比は、昨年12月から直近の4月分(4.6%減)まで5カ月連続の減少だ。M2が前年同月比でマイナスとなるのは1960年1月以来初めてで、アメリカの景気や株価を締め上げていくだろう。 さらに中国でも、経済統計は4月以降、不振が目立つ。ゼロコロナ政策解除による景気押し上げが期待されたが、空振りに終わっている。確かに足元で中国は政策金利引き下げの姿勢を強めているが、景気悪化に歯止めがかかるかは心もとない。 こうした世界経済の悪化は、日本からの輸出に影を落としている。15日に公表された5月の貿易統計では、輸出数量は8カ月連続の前年同月比マイナスだ。 円安が外貨建て輸出の円換算値を膨らませていることで、輸出金額は増加してはいるが、5月の前年同月比はわずか0.6%増にすぎず、今後マイナス圏への転落もありえよう。 「円安だから輸出株中心に日本株は買いだ」などと楽観できる状況ではない。しかも、何とか増加している輸出金額でも、中国向けは6カ月連続の減少だ。中国と地理的・経済的に関係が深い日本への悪影響が強く懸念される事態で、「中国がダメだから日本株に資金が逃避する」などという主張は夢物語だろう』、「世界経済の悪化は、日本からの輸出に影を落としている。15日に公表された5月の貿易統計では、輸出数量は8カ月連続の前年同月比マイナスだ。 円安が外貨建て輸出の円換算値を膨らませていることで、輸出金額は増加してはいるが、5月の前年同月比はわずか0.6%増にすぎず、今後マイナス圏への転落もありえよう。 「円安だから輸出株中心に日本株は買いだ」などと楽観できる状況ではない」、その通りだ。
・『「長期展望は悲観せず」も不変 ただ筆者は、長期的には日本株に悲観ではない。長期展望を丁寧に解説するのには一定の分量が必要だ。また、筆者の予想では株価上昇は、いったん株価が下振れしたあとになる。よって、こうした長期予想はまたあらためて解説しよう。ただし『週刊東洋経済』(6月17日号)の40ページではその背景に簡単に触れているので、お読みいただければ幸いだ。 また、筆者が主催しているセミナーの参加者の方々には「日経平均はいったん下落したあと、今年末までには再度3万円の大台を奪回すると見込むし、2024年はさらに株価が上がるだろう。日本株を購入するなら、株価がいったん下振れすることを覚悟しつつ、じっと現物株やファンドを持ち続ければよい」と解説している。 避けるべきなのは、今後日経平均が2万7000円程度に「下がってから」、怖くなって株式などを思いっきり売却してしまうことだ。逆に、この水準に近いところまで下がったら買い場だ」とも伝えている。 今回コラムでは冒頭でお叱りの声があると述べたが、それ以上に激励や応援のメッセージを多く賜り、うれしさで涙することもある。そうしたご厚意に甘えてはいけないと自身を戒めつつも、この場を借りて心より御礼申し上げたい』、「筆者は、長期的には日本株に悲観ではない。長期展望を丁寧に解説するのには一定の分量が必要だ。また、筆者の予想では株価上昇は、いったん株価が下振れしたあとになる。よって、こうした長期予想はまたあらためて解説しよう」、短期悲観・長期楽観と分けるのも1つの考え方だ。
タグ:株式・為替相場 (その18)(家計が「円売り」に動くとき円安の本番が到来する 資産防衛としての「円から外貨へ」という必然、日経平均「3万8915円超え」は必然!その先に迫る上場企業の“大・不安時代”とは?、それでも「日経平均の上昇は危うい」と言える理由) 東洋経済オンライン 唐鎌 大輔氏による「家計が「円売り」に動くとき円安の本番が到来する 資産防衛としての「円から外貨へ」という必然」 「日本の家計金融資産は現状、97%が円建て、しかも55%が現預金という保守的な構成」、「リスクテイクに動く余地という意味では相当に大きい状況にあり」、確かにその通りで、要注意だ。 「これから投資をする個人にとって、国内よりも海外という志向はおおむね共通する志向だろう」、「投資信託経由の株式売買動向に目をやると、2015年以降じわじわと買いが積み上がる外国株式に対して国内株式の取得意欲は非常に弱く、2019年以降は国内から海外への代替が進んでいるかのような構図にも見える」、「かねて筆者はこうした「家計の円売り」こそ円相場、ひいては日本経済が抱える最大のリスクではないかと考えてきた」、いよいよ「家計の円売り」が始まったのかも知れない。 「外貨建て資産を増やす層がこのまま増えていけば、どこかでそれが多数派として空気を形成することになる。 もはや窓口で高い手数料を払って外貨を購入する必要はなく、スマートフォン操作で簡単に外貨建て資産を購入できてしまうのだから、「動く時は一気に動く」というおそれは常にある」、その通りだ。 「上述のような諦観に起因する「弱い円」から「強い外貨」へという動きは資産運用というより資産防衛であり、保有資産が減らないようにしようという「守り」の姿勢転換といえる。 高度経済成長以降、日本人は円高に悩んだことはあっても円安に悩んだことはなかった。だからこそ、今後起きることも未知の展開になる可能性があると筆者は危惧している」、確かに「円安に悩む」のは未知の展開だ。 「2022年12月末時点で日本の家計が保有する円の現預金は約1110兆円だった。この10%が「強い外貨」に移ろうとするだけでも110兆円規模の円売りが起きる。5%なら55兆円だ。 2022年の経常黒字(海外との貿易や投資で稼いだ額)が約11兆円なので、日本の年間経常黒字の5~10年分が家計の外貨シフトで相殺されるイメージになってしまう」、これは私が異次元緩和の副作用として懸念していた円大暴落シナリオだ。植田新総裁が余りに慎重過ぎる政策運営をしていることが、「本当の円安リスク」「顕在化」につながる可能性があ ダイヤモンド・オンライン 鈴木貴博氏による「日経平均「3万8915円超え」は必然!その先に迫る上場企業の“大・不安時代”とは?」 「日経平均は、年内にバブル期の最高値3万8915円を抜く」が、「その先に迫る上場企業の“大・不安時代”」、とは興味深そうだ。 「日本経済にとって日経平均3万8915円という数字は呪いのような性格をもっていて、過去30年にわたって「われわれの成績はここを超えることができない」という目印になっていました」、確かにその通りだ。 「地政学的リスクの高まりです。アメリカと中国の対立が深まってきたせいで、今年に入って棚ぼたで中国、台湾への投資分を日本へ振り替える動きが加速しています。たとえば今、熊本と北海道に急ピッチで半導体工場の建設が進められていますが、稼働は先でも当然、建設需要から半導体製造装置の受注まで経済を押し上げる動きが活発になっていきます」、確かにその通りだ。 「「たぶん日本経済は3万8915円超えをした後に虚脱状態になる」と危惧」、「投資家界隈で問題になっていることの一つが、日本企業のPBR(株価純資産倍率)の低さ」、なるほど。 「日本のメガバンクは・・・いまだにITは情報システム部が担い、経営の下請け業務の域を出ていません。あくまでデフォルメですが、外国人投資家からはその姿勢が疑問視されます。 そうなると、海外の投資家から見れば日本のメガバンクが成長するイメージがわかない。業績相応の株価しかつかず、結果として日本の銀行のPBRは1を大幅に割り込みます。 自動車会社も同じで・・・トヨタが3兆円近い利益をたたき出しているのを筆頭に、自動車業界全般で過少投資の状態が続いています。これが海外の投資家にとっては不満で「利益を出さずに投資を3兆円増やせ」という怒号となり、ひいては株主総会で会長の不信任案がとりざたされるようになっている背景なのです」、なるほど。 「S&P500はリーマンショック以降、やはり右肩上がりでの上昇を続けています。 しかしその内訳をGAFAM5社、つまりグーグル、アップル、メタ、アマゾン、マイクロソフトと、それ以外の495社に分けて計算し直すと、前者がめちゃくちゃ成長している一方で、後者の株価は停滞・・・つまりアメリカでも、機会への十分な投資ができていない企業の株価は伸びていない」、 「ソニーグループ、キーエンス、ファーストリテイリング、信越化学、東京エレクトロン、三菱商事、伊藤忠、三井物産、任天堂あたりが「日本のGAFAM」を形成して、日経平均の成長をけん引するでしょう。その一方で、リスクをとらない過半数の上場企業群が平均点の足を大きく引っ張る構図が、「日経平均3万8915円のあとの世界」での不安材料です」、 「この先の日本経済には不安材料がめじろ押しだというのも事実です。 一方で、それを乗り越えるためには本質的には投資しかない。それができない企業が居座り続けることができる日本経済の構造自体に、大きな未来の不安材料があるのかもしれません」、なるほど。 馬渕 治好氏による「それでも「日経平均の上昇は危うい」と言える理由」 「上司」のアドバイスももっともだ。 「日本株を大いに買っているのは「ツーリスト投資家」が中心だ、との言葉もよく聞く・・・「ツーリスト投資家」は・・・日本株への投資経験がないかほとんどない状態で「試しに日本に資金を投じるような投資家」を指す。ツーリストが短期間の旅行で本国に帰るのと同様に、ツーリスト投資家も日本株投資が短期間となる場合が多い」、 「「円安で日本株は上がる」「ウォーレン・バフェット氏が日本株に前向きだから上がる」「東京証券取引所が低PBR(株価純資産倍率)企業に改善を求めているから上がる」といった、確固たるものか定かではない報道にすがって、自身の投資判断を正当化しているのだろう」、「ツーリスト投資家」とは言い得て妙だ。 「世界経済の悪化は、日本からの輸出に影を落としている。15日に公表された5月の貿易統計では、輸出数量は8カ月連続の前年同月比マイナスだ。 円安が外貨建て輸出の円換算値を膨らませていることで、輸出金額は増加してはいるが、5月の前年同月比はわずか0.6%増にすぎず、今後マイナス圏への転落もありえよう。 「円安だから輸出株中心に日本株は買いだ」などと楽観できる状況ではない」、その通りだ。 「筆者は、長期的には日本株に悲観ではない。長期展望を丁寧に解説するのには一定の分量が必要だ。また、筆者の予想では株価上昇は、いったん株価が下振れしたあとになる。よって、こうした長期予想はまたあらためて解説しよう」、短期悲観・長期楽観と分けるのも1つの考え方だ。
金融業界(その18)(「アップル預金」年利4.15%の衝撃 日本でのサービス開始に待望の声も 立ちはだかる意外な障壁、金融界で囁かれる「トヨタ銀行創設」の現実味 名古屋市長選に意欲の大塚耕平議員が過去に発言、SBI新生銀 TOBでも簡単ではない公的資金返済 少数株主との平等性を保ちつつ返済は可能か、三菱UFJ みずほFG 三井住友銀行の「出戻り社員」対策が想像以上においしいワケ) [金融]
金融業界については、本年4月22日に取上げた。今日は、(その18)(「アップル預金」年利4.15%の衝撃 日本でのサービス開始に待望の声も 立ちはだかる意外な障壁、金融界で囁かれる「トヨタ銀行創設」の現実味 名古屋市長選に意欲の大塚耕平議員が過去に発言、SBI新生銀 TOBでも簡単ではない公的資金返済 少数株主との平等性を保ちつつ返済は可能か、三菱UFJ みずほFG 三井住友銀行の「出戻り社員」対策が想像以上においしいワケ)である。
先ずは、本年4月24日付けデイリー新潮「「アップル預金」年利4.15%の衝撃 日本でのサービス開始に待望の声も、立ちはだかる意外な障壁」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/04241102/?all=1
・『米IT大手のアップルが「金利4.15%」の預金サービスに乗り出したことが話題になっている。“雀の涙”以下の預金金利に慣れきった日本人にとっては夢のような話のため「上陸」を待ち望む声も多いが、コトはそう簡単でないという。 4月17日から始まったアップルの新しい預金サービスは、同社のクレジットカード「アップルカード」の利用者を対象としたものだ。提携する米ゴールドマン・サックスの普通預金口座を利用し、Walletアプリで開設可能。またアカウントに紐づけされた銀行口座やApple Cashの残高から入金や送金が無料でできるという。 「金利4.15%は、米連邦預金保険公社(FDIC)に加盟する金融機関の平均預金金利0.37%の10倍以上、日本のメガバンクの普通預金金利0.001%と比べると4000倍以上になります。口座維持手数料や最低預金額などの条件はない一方で、残高の上限はFDIC保護対象の25万ドル。新サービスの前提となるアップルカードは米国在住者向けサービスのため、日本のiPhoneユーザーらは利用できません」(米在住ジャーナリスト) アップルが2月に発表した決算(2022年10~12月期)では、中国でのコロナ感染再拡大を受けたiPhone減産などによって、19年以来となる減収減益を記録。そのためモバイル決済部門の伸長が経営課題に浮上していたという。 ITジャーナリストの三上洋氏の話。「アメリカの地方銀行やネットバンキングでは年利3~4%の預金金利はそれほど珍しくなく、また“アップル預金”の金利は4月の米FRB政策金利5%を下回るものです。それでも新サービスが与えるインパクトは大きく、金利面の魅力だけでなく、既存のiPhoneユーザーの利便性向上に直結することから、顧客の囲い込み効果は非常に大きいと見られています」』、「同社のクレジットカード「アップルカード」の利用者を対象としたものだ。提携する米ゴールドマン・サックスの普通預金口座を利用し、Walletアプリで開設可能。またアカウントに紐づけされた銀行口座やApple Cashの残高から入金や送金が無料でできる」、「新サービスの前提となるアップルカードは米国在住者向けサービスのため、日本のiPhoneユーザーらは利用できません」、「「アメリカの地方銀行やネットバンキングでは年利3~4%の預金金利はそれほど珍しくなく、また“アップル預金”の金利は4月の米FRB政策金利5%を下回るものです」、なるほど。
・『「アップル内ですべて完結」 三上氏が続ける。 「もともとアップルは、iPhoneならOSから端末、アプリなどのコンテンツまで“アップル内ですべて完結させる”との企業理念のもと事業を展開してきました。そんななか、iPhoneに唯一欠けていたのが銀行機能だった。電子決済ではアップルカードのほか、iPhoneの支払い機能もありますが、これまで支払い口座は別の銀行でした。新サービスの開始によって“アップル内ですべてお金が回る”仕組みが完成したことになります」 アップルの具体的な狙いについては、 「クレジットカード事情が日米では異なっており、アメリカでは“ミニマムペイメント”と呼ばれる、日本でいう“リボルビング払い”が主流でアップルカードも同様です。またアップルは『Apple Pay Later』というApple Payでの後払いサービスも先行して始めていました。いずれも手堅い手数料収入が見込め、利用者がカードを使うほどアップルの収益に繋がる仕組みとなっています」(三上氏) 顧客の囲い込みだけでなく、収益向上にも資する“一石二鳥”のサービスだという』、「新サービスの開始によって“アップル内ですべてお金が回る”仕組みが完成したことになります」、「顧客の囲い込みだけでなく、収益向上にも資する“一石二鳥”のサービスだという」、なるほど。
・『「日本上陸」が簡単でない理由 他国と比べてiPhone(OS)シェア率の高い日本はアップルにとっても重要市場とされ、今後「アップル預金」が日本に上陸する可能性も指摘されている。 しかし話はそう簡単ではないとの声も。 「携帯キャリアでいえば、日本でもauのじぶん銀行やソフトバンク系のpaypay銀行などがありますが、いずれも普通預金金利は0.001%と、金利だけを単純比較すれば日本勢はとても太刀打ちできない。しかしアップルが同様のサービスを日本で展開するには越えなければならないハードルが幾つかあり、その一つが日本の場合、大手キャリアがiPhoneの販売代理店も兼ねている点です。アップル側も本気で“潰し合い”になるようなサービス展開は避けると見られ、仮に日本で預金サービスを開始するとしても、大手キャリアとの“棲み分け”を模索する可能性が指摘されています」(ITジャーナリストの井上トシユキ氏) 経済評論家の荻原博子氏もこう言う。「アップルの新サービスが日本で話題になっているのは、それだけ日本の銀行の預金金利が低すぎることの裏返しです。長く続いたゼロ金利政策で、お金を預け入れるメリットがない状況に慣れきった日本人からすれば、“上陸”を待望する声が上がるのも当然。ただしアップルが日本の銀行と提携するなどして預金サービスを日本で始めるとなっても、為替リスクや資金の調達・運用面での課題から、アメリカと同程度の金利はとても望めないでしょう」 「異国の夢物語」と考えたほうがいいのかも』、「大手キャリアがiPhoneの販売代理店も兼ねている点です。アップル側も本気で“潰し合い”になるようなサービス展開は避けると見られ、仮に日本で預金サービスを開始するとしても、大手キャリアとの“棲み分け”を模索する可能性が指摘」、「アップルが日本の銀行と提携するなどして預金サービスを日本で始めるとなっても、為替リスクや資金の調達・運用面での課題から、アメリカと同程度の金利はとても望めないでしょう」、やはり「異国の夢物語」なのだろう。
次に、5月13日付け日刊ゲンダイが掲載した金融ジャーナリストの小林佳樹氏による「金融界で囁かれる「トヨタ銀行創設」の現実味 名古屋市長選に意欲の大塚耕平議員が過去に発言」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/322866
・『参議院の愛知選挙区選出の大塚耕平議員(63)が次の名古屋市長選に立候補する意向を表明した。大塚議員は1959年、名古屋市生まれ。旭丘高校、早稲田大学政治経済学部を卒業後、日本銀行の職員を経て、2001年の参院選に当時の民主党から立候補し初当選した。 民主党政権時代は、内閣府の副大臣や厚生労働副大臣を歴任。民主党から民進党に変わった後の17年、総選挙の際に衆院議員が「希望の党」と「立憲民主党」に分かれて党を出ていく中で、民進党の代表に就いた。現在4期目で、国民民主党の代表代行と政調会長を務めている。学生時代や日銀時代はバレーボール部所属で、スキューバダイビングのインストラクターという一面もある。 大塚議員は出馬の動機について、「経済界や地元議員らから出馬の要請があり、統一地方選直後に市長選への立候補の意思を固めた」と語り、「日本全体が非常にさまざまな課題を抱えて低迷しているという実感を私は持っていますので、そういう中で名古屋というのは非常に重要な位置づけにあると思っています。国政の課題は十分理解しているつもりでありますし、貢献できる潜在的なスキルを持っていると思いますので」と抱負を語った。名古屋市長選挙は25年4月に行われる予定だ。) 市長選は2年後だが、早くも大塚氏が名古屋市長になれば動き出すのではないかと金融界で囁かれている構想がある。名古屋市に本店を置く大手銀行の創設だ。大塚氏は「名古屋の経済規模にふさわしい大手銀行が必要」と語ったことがあるためだ。 名古屋にはかつて東海銀行という都銀があったが、幾度かの再編を経て三菱UFJ銀行となっている。名古屋を本店とする都銀は今はなく、第二地銀以下の中小金融機関の牙城となっている。このため東海銀行以上の規模の大手銀行を創設すべきというのが大塚氏の主張だった。 その有力候補とみられているのがトヨタ自動車だ。トヨタの財務基盤はメガバンクをしのぐ。金融界では大塚氏が名古屋市長になれば、「トヨタ銀行の創設も絵空事ではなくなる」との声が漏れ始めた』、「名古屋市長選挙」では、2009年に民主党推薦の河村たかし氏が当選、その後は減税日本推薦として、民主党や自民党・公明党が推薦する候補を破って勝ち続けている。大塚氏はさわやかな印象で、十二分に河村氏に対抗し得る。推薦母体は未定だが、国民民主党、立憲民主党、自民党・公明党などが推薦すると思われる。「「トヨタ銀行の創設も絵空事ではなくなる」との声が漏れ始めた」、「トヨタ」はいまさら銀行経営などに興味を示す筈はないとみるべきだろう。
第三に、5月26日付け東洋経済オンライン「SBI新生銀、TOBでも簡単ではない公的資金返済 少数株主との平等性を保ちつつ返済は可能か」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/674481
・『4半世紀にわたって未解決だった公的資金の返済はすんなりと進むのか。 SBIホールディングス(以下、SBI)は5月12日、50.04%の株式を保有するSBI新生銀行をTOB(株式公開買い付け)によって非公開化すると発表した。子会社であるSBI地銀ホールディングスを通し、政府系株主である預金保険機構と整理回収機構が保有する22.98%を除くすべての株式を買い取る。TOB価格は1株当たり2800円で、総額は約1542億円になる。 5月15日に始まったTOBの期限は6月23日。東証スタンダード市場に上場しているSBI新生銀は、TOB後上場廃止になる。TOBに応じなかった少数株主に対しては、同じく2800円で強制的に株式を買い取るスクイーズアウト(締め出し)を行うことから、SBI新生銀の株主はSBIと政府系株主のみになる。 今回のスクイーズアウトでは、株式併合で株式の単位を切り下げ、少数株主の保有株を1株未満とすることで強制的に買い上げる手法をとる。株式併合には臨時株主総会で3分の2の賛成が必要だが、SBIと政府系株主を合わせて考えれば、議決権を7割超保有している。このためTOBに応じる株主がゼロでもスクイーズアウトは必ず成功するという仕組みだ』、「北尾社長」らしい実に巧妙なやり方だ。
・『SBI北尾社長の狙い 2019年以来、SBIは新生銀をグループに引き入れるために心血を注ぎ、銀行業界初ともいわれた敵対的TOBを2021年に成功させた。SBIの北尾吉孝社長は側近である川島克哉氏をSBI新生銀の社長として送り込むなどしてきた。 同行がSBI傘下に入ったことによるシナジーは徐々に発揮されつつある。法人向けビジネスでの連携などの施策が寄与。2022年度はSBI新生銀の純利益を50億円押し上げた。 SBIは上場廃止によって、より積極的なシナジーを狙った施策が可能になると主張する。一時的なコスト増になる先行投資など中長期的な取り組みについても、意思決定を迅速に行えるようになるという。北尾社長はこの日の会見で「少数株主がいなくて(株主が)われわれと政府系だけになれば、経営の自由度が高まっていくから、それだったらいろいろやり方があるんじゃないか」と狙いを語った。) SBI新生銀にとって、かねて懸案だったのは前身の旧日本長期信用銀行が破綻した1998年に国から注入された公的資金の返済だ。現在、未回収の額は約3500億円。その返済は進むのだろうか。 公的資金の返済には、これまでも難しい壁が立ちはだかっていた。返済すべき公的資金の裏付けとなっているのは、政府系株主が保有する22.98%(約4900万株)の株式。政府系株主が保有分を売却すればその分が「回収額」となる。 ところが、新生銀の株価は2000円近辺で推移しており、政府系株主の持分では1000億円程度の価値しかない。3500億円を回収するためには単純計算で株価が3倍超に上がる必要があり、7000円を超える水準にならないといけない。このことが足かせになり、政府系株主は新生銀の株式をいつまでも手放せない袋小路に陥っていた』、「新生銀の株価は2000円近辺で推移しており、政府系株主の持分では1000億円程度の価値しかない。3500億円を回収するためには単純計算で株価が3倍超に上がる必要があり、7000円を超える水準にならないといけない」、「このことが足かせになり、政府系株主は新生銀の株式をいつまでも手放せない袋小路に陥っていた」、打開しようとするのが今回の動きだ。
・『少数株主との不平等 逆に言えばSBI新生銀の株式は、将来の返済に伴って「7000円」を超える価値になりうる株式だ。今回のTOBは、その株を「2800円」で買うということになる。少数株主から見れば、不平等ともとられかねない。 非公開化すれば、市場での株価はつかなくなり、政府系株主が持つ株式の価値は明確には見えなくなる。しかし、不平等になる懸念を考慮すれば、政府系株主が持つ4900万株に要回収額である3500億円をすぐさま払うわけにもいかないだろう。 SBIはこの問題をどう考えているのか。TOB開始を知らせる公表文によると、「持株比率に応じた配当を行う方法等により公的資金の返済を行う」としている。要するに、今は2800円が適切であるSBI新生銀の企業価値を、時間をかけて向上させ、配当の形で返済していくということだ。) ところが、ここにひとつの問題が立ちふさがる。TOBに際して、SBIと政府系株主、そしてSBI新生銀との間で交わされた「公的資金の取扱いに関する契約書」だ。 契約書では、回収すべき公的資金の額を3493億円と確認。そのうえでSBI新生銀は「可能な限り早期に要回収額を返済するよう努める」としている。ただ、具体的な方法については2025年6月末までに政府系株主と具体的仕組みについて合意するとした』、「具体的な方法については2025年6月末までに政府系株主と具体的仕組みについて合意するとした」、なるほど。
・『「可能な限り早期」どのように 「可能な限り早期」の具体的な時期は不明だ。配当により返済するにしろ、SBI新生銀の直近2023年3月期の純利益は427億円。政府系株主に回せる配当金は数十億円程度とみられる。これでは、全てを返済するのに20年以上かかってしまい、到底「可能な限り早期」とは言えない。 実際SBIは、SBI新生銀が設置したTOBの是非を諮る特別委員会に対し、配当が公的資金の残額に達するには「相応の期間」がかかることを説明したという。結局、公的資金返済の期間が明確にならないことから、SBI新生銀の社外取締役の1人はTOB賛同決議に反対した。 「可能な限り早期」と「相応の期間」。この2つの期間の矛盾を解決しない限り、公的資金の返済は実現しない。2025年6月末という期限について、北尾社長は「返し方の道筋について合意するということであって、いついつまでに返すという話ではない」と予防線を張った。 TOB発表の翌5月15日のSBI新生銀の終値は2806円と、TOB価格の2800円を上回った。予定通りTOBが行われればこの価格で購入した株主は損をすることになる。投資家がこうした事情を見て、TOBまでにはまだ一波乱があると踏んだ可能性もある。SBIとSBI新生銀、そして政府系株主を巡る問題はまだ一筋縄ではいかないようだ』、「「可能な限り早期」と「相応の期間」。この2つの期間の矛盾を解決しない限り、公的資金の返済は実現しない。2025年6月末という期限について、北尾社長は「返し方の道筋について合意するということであって、いついつまでに返すという話ではない」と予防線を張った」、今後の展開が要注目だ。
第四に、5月26日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「三菱UFJ、みずほFG、三井住友銀行の「出戻り社員」対策が想像以上においしいワケ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/323454
・『メガバンク3行(三菱UFJ銀行、みずほフィナンシャルグループ〈FG〉、三井住友銀行)が、退職者交流サイトの立ち上げと出戻り社員の採用に踏み切りました。ついに「中途退職者=裏切り者」の意識を変えようとしているのです。「人手不足なんだから当たり前でしょ」と思った銀行業界以外の方、実は、あなたにとっても「おいしい話」かもしれません』、興味深そうだ。
・『中途退職者=「裏切り者」は時代遅れ! ついにメガバンクも姿勢をチェンジ メガバンク3行(三菱UFJ銀行、みずほFG、三井住友銀行)が相次いで退職者の交流サイトを立ち上げ、また、一度退職して銀行を離れた人を再び採用するカムバック採用(いわゆる“出戻り採用”)が活発になってきました。このことが銀行業界の常識を覆す施策として話題になっています。 というのもメガバンクを中途で退職して外資系金融機関に移籍した行員は、これまで「裏切り者」呼ばわりされてきたからです。 メガバンク以外でも、退職者のネットワークが活発な会社とそうではない会社があります。日本の大企業も退職者について「もう外部の他人だ」と冷たく捉える風土の会社と、離職した後も仲間だと考える会社に分かれるのです。 退職者の交流ネットワークは、日本でもアルムナイ(卒業生)ネットワークと呼ばれることが定着しています。 実は、「アルムナイネットワークが強いかどうか」が企業の命運を分ける時代がすぐそこまできています。さらに、アルムナイネットワークは個人が自分自身の転職を「成功」させるためにも重要なのです。) 今回の記事では、日本社会で退職者を裏切り者と考える会社と大切に考える会社がある理由とその変化、そして転職が当たり前になった時代のアルムナイネットワークの意味についてまとめてみたいと思います。 私の個人的な経験からお話しすると、私が最初に所属したコンサルティングファームでは、少なくとも25年前までは他のコンサルティングファームに転職した人間は裏切り者と認定されていました。 外資のコンサルファームなので社員の大半は日本の大企業からの転職者です。当時は日本企業は終身雇用が当たり前の時代で、コンサルファームに転職してきた段階で前の会社からは裏切り者扱いされた社員も少なくなかったと記憶しています。このあたりはその会社の社風もありますが、本人が辞めた際の経緯によるケースも多々あったようです。 特に印象に残っているのは中堅社員で比較的後輩の面倒見もよく、周囲から慕われていたコンサルタントが競合他社に転職したときのことです』、「私が最初に所属したコンサルティングファームでは、少なくとも25年前までは他のコンサルティングファームに転職した人間は裏切り者と認定されていました。 外資のコンサルファームなので社員の大半は日本の大企業からの転職者です。当時は日本企業は終身雇用が当たり前の時代で、コンサルファームに転職してきた段階で前の会社からは裏切り者扱いされた社員も少なくなかったと記憶しています」、当時は「裏切り者扱い」が普通だったようだ。
・『コンサル業界は90年代後半から「アルムナイ歓迎」にチェンジ 私がまだ20代だった頃の話です。 その直後の社員集会で幹部から、「個人的な知り合いも多い業界ではあるけれども、プロフェッショナルとして仕事をする以上、競合するコンサルティングファームの社員とプライベートで食事をしたりするのは気をつけるように」とお達しがありました。 その際に、「付き合い方次第では自分の評価に影響する」とまで言われたので、あとでこっそりとどういう意味なのかをパートナーの一人に尋ねたところ、「あいつとはもう付き合うなという意味だ」と厳しく言われたことを覚えています。 90年代後半になって、わたしのいた会社ではグローバル本社のお達しで日本でもアルムナイパーティーが開催されるようになりました。その時も当初は裏切り者をパーティーに呼ぶか呼ばないか幹部が議論したぐらい、競合への転職についてはピリピリした空気がありました。 最終的には、その議論をしていた幹部たちがごっそりと移って新しいコンサルファームを立ち上げたうえで、堂々とアルムナイパーティーに顔を出すようになり、今では当時の空気はなくなったようです。 私もその時期にアルムナイになったのですが、退社して初めて知ったのは競合コンサルのアルムナイネットワークがとても強固だということでした。ちなみに競合コンサルとは、アクセンチュアのことです。 当時の私はネットベンチャーに転職して、その仲間にはコンサルファーム出身者が何人かいました。そのひとりがアクセンチュア出身だったのですが、彼がこっそりアクセンチュアのアルムナイネットワークの画面を見せてくれたうえで、アルムナイネットワークの意義について熱く語ってくれたことがあります』、「退社して初めて知ったのは競合コンサルのアルムナイネットワークがとても強固だということでした。ちなみに競合コンサルとは、アクセンチュアのことです」、なるほど。
・『アクセンチュア、ソニー、リクルートはアルムナイのおかげで成長した そこでは退職者同士、お互いの悩みを打ち明けあい、ビジネス上で困っていることを助け合っている実態がありました。 「会社を離れると肩書も通用しなくなる。それでもアクセンチュア出身者がビジネス界で成功する事例が増えれば力になる。こうやって元仲間が助けてくれる風土を意図的につくりあげることは重要なのだ」 これは西暦2000年頃の話なのですが、それをWeb上で当時のアクセンチュアが行っていたのです。「ずいぶん違うな」と感心したものです。 その当時の日本では、アルムナイネットワークが強いことで知られる会社は数えるほどでした。アクセンチュアはそのひとつで、他に名前がよく挙がるところとしては、リクルートとソニーがアルムナイの絆の強さで有名でした。 ソニーには当時、ソニーを退社した人たちのソバの会という組織がありました。ソバとはSONYのOBのASSOCIATIONの略だと言われたのですが、もし間違っていたらごめんなさい。 私によくしてくれた先輩がちょうどソニーOBで、転職した上場企業の常務まで上り詰めたうえで自分の会社を立ち上げた人だったのですが、彼はソバの会に出るたびに元気をもらっていたようで、直後に会ったりするとその場でどんなことがあったのかよく話してくれました。 伝聞ではありますが、その雰囲気を解説すると、その頃のソバの会にはよくソニーの現役のトップが来たそうなのです。テレビのWBSとかでよく見かけるぐらい偉い人です。 その人がソバの会では「偉くない」ところがポイントで、社外で成功している人の方が偉い雰囲気がある。だからみんな後ろを振り返らずに元気をもらって帰ってくるという話です。あくまで個人の感想かもしれませんが、雰囲気の伝わるエピソードだと思います。 リクルートでは元リクと呼ばれる人的ネットワークがあって、何百人もいる伝説の元社員を中心に、巨大な交流ネットワークが出来上がっています。それが公式な組織ではなく、無数に存在する個人同士がつながるアメーバのようなネットワークになっているところが面白い。 離れていても「元リク」だとわかるだけで急に打ち解けるような、不思議な資格にもなっています。 さて、これら3社は今でも存在感の強い大企業です。何かと不安定な要素が多く人材流出の激しい現代でも3社がトップ企業の座を守ることができている理由の一つは、「アルムナイネットワークの強さ」ではないかと思います。 一方、前述した3社のアルムナイネットワークと比較すると、冒頭でお話ししたような銀行のアルムナイネットワークは構築しはじめたばかりの新参者です。報道によれば、みずほFGではカムバック採用も10人規模で行われているようですが、ある意味その程度の規模でもあります。 こういった状況の日本企業は、これからアルムナイネットワークをどうしていくべきなのでしょうか? 三つのポイントがあると思います』、「アクセンチュア」では、「「会社を離れると肩書も通用しなくなる。それでもアクセンチュア出身者がビジネス界で成功する事例が増えれば力になる。こうやって元仲間が助けてくれる風土を意図的につくりあげることは重要なのだ」」、「ソニーには当時、ソニーを退社した人たちのソバの会という組織がありました・・・私によくしてくれた先輩がちょうどソニーOBで、転職した上場企業の常務まで上り詰めたうえで自分の会社を立ち上げた人だったのですが、彼はソバの会に出るたびに元気をもらっていたようで、直後に会ったりするとその場でどんなことがあったのかよく話してくれました。 伝聞ではありますが、その雰囲気を解説すると、その頃のソバの会にはよくソニーの現役のトップが来たそうなのです。テレビのWBSとかでよく見かけるぐらい偉い人です。 その人がソバの会では「偉くない」ところがポイントで、社外で成功している人の方が偉い雰囲気がある」、「社外で成功している人の方が偉い雰囲気がある」とは凄い。「リクルートでは元リクと呼ばれる人的ネットワークがあって、何百人もいる伝説の元社員を中心に、巨大な交流ネットワークが出来上がっています。それが公式な組織ではなく、無数に存在する個人同士がつながるアメーバのようなネットワークになっているところが面白い。 離れていても「元リク」だとわかるだけで急に打ち解けるような、不思議な資格にもなっています」、「リクルート」もさもありなんだ。
・『アルムナイ同士が結束するほど自分自身が「転職で成功」する 一つは「一度同じ釜の飯を食ったことがある仲間」の結束を強めるということは、本人たちにとってものすごく重要なサポートになるということです。 20代、30代の転職が当たり前になった日本社会ではありますが、本人にとって転職は相変わらず大きなチャレンジです。確率でいっても転職で成功する人と失敗する人の比率は、事後の調査などを見る限り半々だと思われます。 「会社の常識は他社の非常識」と言われるくらい、前の組織の経験が新しい会社では通用しないことも少なくありません。一方で、アルムナイネットワークの仲間はその点で同じような苦労をし、同じようなチャレンジをしてきています。そして一人で挑戦するよりも大勢で力を合わせたほうが挑戦は成功しやすいものです。 アルムナイネットワークに積極的にかかわることは、自分自身の転職を「成功」させるためにも重要だというのが一つ目のポイントです』、「「一度同じ釜の飯を食ったことがある仲間」の結束を強めるということは、本人たちにとってものすごく重要なサポートになるということです・・・本人にとって転職は相変わらず大きなチャレンジです。確率でいっても転職で成功する人と失敗する人の比率は、事後の調査などを見る限り半々だと思われます」、「転職で成功する人」の「比率」は「半々」とは予想以上に高いようだ。
・『アルムナイは会社の「顔」 企業側もサポートするほど得をする 二つ目に、退職者の中に成功者が多いことはその会社にとっても重要だということです。ソニーやリクルート、アクセンチュアはその退職者の評判が高いことで、新卒や中途の採用において競合する他社よりも有利な状況にあります。 もし仮に、メガバンクを退職した社員たちが新しい職場で「使えない」などという評判が立ってしまうとしたら、それはそのまま銀行の評判に跳ね返ってくることは明らかでしょう。 そう考えたら、新しくアルムナイネットワークを作り始めた会社こそ、その構築やサポートに相応の力を入れるべきなのです。少なくともネットワークというものは、自走し始めるまではものすごく大きなエネルギーを必要とするものなのですから』、「退職者の中に成功者が多いことはその会社にとっても重要だということです。ソニーやリクルート、アクセンチュアはその退職者の評判が高いことで、新卒や中途の採用において競合する他社よりも有利な状況にあります」、「新しくアルムナイネットワークを作り始めた会社こそ、その構築やサポートに相応の力を入れるべきなのです。少なくともネットワークというものは、自走し始めるまではものすごく大きなエネルギーを必要とするものなのですから」、その通りだ。
・『競合からの出戻り人材は企業にとってイノベーションの特効薬になる そして三つ目に、カムバック人材は会社にとってさらに使える人材だということです。 別に他社の企業秘密を知っているからということではありません。 単純にゴールドマン・サックスからみずほ銀行に戻ってくる人材や、テスラからトヨタ、グーグルからソニー、TSMCからNECに戻ってきた人材をイメージしてみればわかります。 みずほ銀行の仕組みを知ったうえで、違う仕組みを持つ外資系金融機関で何年か働き、そのうえでまた戻ってくる人材はそもそも有能な人材だというだけでなく、企業にイノベーションをもたらしてくれる人材です。 これはメガバンクだけの話ではありません。中国、韓国、台湾、そして欧米などまったく違う仕組みをもった競合企業と戦わなければならないという点では金融業界も製造業もIT業界も環境は同じです。そういった外部を知るカムバック人材が、まったく違う他業界からの転職者よりも、重要な人材であることは間違いないでしょう。 だとしたら問題は「受け入れるかどうか」ではなく、「現状、10人ぐらいしかカムバック人材がいない状況を、いかに速いスピードで年間数十人規模に拡大できるか」が課題のはずです。 そうなるためにはどうすればいいでしょうか? 要点はシンプルです。アルムナイネットワークが強固になればいいのです。日本企業は令和に入り、もはや昭和のようなよそ者意識や裏切り者意識は薄れてきたとは思います。 ただ、企業風土に基づく意識というものはそう簡単に変わるものではないことも事実。それを考えるとアルムナイネットワークの拡充は、人為的に力を入れていかなければならない重要経営課題だと考えるべきでしょう。 メガバンクを筆頭に第2次アルムナイブームが来れば、転職時代を生きる私たち個人にとっても「おいしい話」になるかもしれません』、「みずほ銀行の仕組みを知ったうえで、違う仕組みを持つ外資系金融機関で何年か働き、そのうえでまた戻ってくる人材はそもそも有能な人材だというだけでなく、企業にイノベーションをもたらしてくれる人材です」、「これはメガバンクだけの話ではありません。中国、韓国、台湾、そして欧米などまったく違う仕組みをもった競合企業と戦わなければならないという点では金融業界も製造業もIT業界も環境は同じです。そういった外部を知るカムバック人材が、まったく違う他業界からの転職者よりも、重要な人材であることは間違いないでしょう。 だとしたら問題は「受け入れるかどうか」ではなく、「現状、10人ぐらいしかカムバック人材がいない状況を、いかに速いスピードで年間数十人規模に拡大できるか」が課題のはずです」、「アルムナイネットワークが強固になればいいのです。日本企業は令和に入り、もはや昭和のようなよそ者意識や裏切り者意識は薄れてきたとは思います。 ただ、企業風土に基づく意識というものはそう簡単に変わるものではないことも事実。それを考えるとアルムナイネットワークの拡充は、人為的に力を入れていかなければならない重要経営課題だと考えるべきでしょう。 メガバンクを筆頭に第2次アルムナイブームが来れば、転職時代を生きる私たち個人にとっても「おいしい話」になるかもしれません」、同感である。
先ずは、本年4月24日付けデイリー新潮「「アップル預金」年利4.15%の衝撃 日本でのサービス開始に待望の声も、立ちはだかる意外な障壁」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/04241102/?all=1
・『米IT大手のアップルが「金利4.15%」の預金サービスに乗り出したことが話題になっている。“雀の涙”以下の預金金利に慣れきった日本人にとっては夢のような話のため「上陸」を待ち望む声も多いが、コトはそう簡単でないという。 4月17日から始まったアップルの新しい預金サービスは、同社のクレジットカード「アップルカード」の利用者を対象としたものだ。提携する米ゴールドマン・サックスの普通預金口座を利用し、Walletアプリで開設可能。またアカウントに紐づけされた銀行口座やApple Cashの残高から入金や送金が無料でできるという。 「金利4.15%は、米連邦預金保険公社(FDIC)に加盟する金融機関の平均預金金利0.37%の10倍以上、日本のメガバンクの普通預金金利0.001%と比べると4000倍以上になります。口座維持手数料や最低預金額などの条件はない一方で、残高の上限はFDIC保護対象の25万ドル。新サービスの前提となるアップルカードは米国在住者向けサービスのため、日本のiPhoneユーザーらは利用できません」(米在住ジャーナリスト) アップルが2月に発表した決算(2022年10~12月期)では、中国でのコロナ感染再拡大を受けたiPhone減産などによって、19年以来となる減収減益を記録。そのためモバイル決済部門の伸長が経営課題に浮上していたという。 ITジャーナリストの三上洋氏の話。「アメリカの地方銀行やネットバンキングでは年利3~4%の預金金利はそれほど珍しくなく、また“アップル預金”の金利は4月の米FRB政策金利5%を下回るものです。それでも新サービスが与えるインパクトは大きく、金利面の魅力だけでなく、既存のiPhoneユーザーの利便性向上に直結することから、顧客の囲い込み効果は非常に大きいと見られています」』、「同社のクレジットカード「アップルカード」の利用者を対象としたものだ。提携する米ゴールドマン・サックスの普通預金口座を利用し、Walletアプリで開設可能。またアカウントに紐づけされた銀行口座やApple Cashの残高から入金や送金が無料でできる」、「新サービスの前提となるアップルカードは米国在住者向けサービスのため、日本のiPhoneユーザーらは利用できません」、「「アメリカの地方銀行やネットバンキングでは年利3~4%の預金金利はそれほど珍しくなく、また“アップル預金”の金利は4月の米FRB政策金利5%を下回るものです」、なるほど。
・『「アップル内ですべて完結」 三上氏が続ける。 「もともとアップルは、iPhoneならOSから端末、アプリなどのコンテンツまで“アップル内ですべて完結させる”との企業理念のもと事業を展開してきました。そんななか、iPhoneに唯一欠けていたのが銀行機能だった。電子決済ではアップルカードのほか、iPhoneの支払い機能もありますが、これまで支払い口座は別の銀行でした。新サービスの開始によって“アップル内ですべてお金が回る”仕組みが完成したことになります」 アップルの具体的な狙いについては、 「クレジットカード事情が日米では異なっており、アメリカでは“ミニマムペイメント”と呼ばれる、日本でいう“リボルビング払い”が主流でアップルカードも同様です。またアップルは『Apple Pay Later』というApple Payでの後払いサービスも先行して始めていました。いずれも手堅い手数料収入が見込め、利用者がカードを使うほどアップルの収益に繋がる仕組みとなっています」(三上氏) 顧客の囲い込みだけでなく、収益向上にも資する“一石二鳥”のサービスだという』、「新サービスの開始によって“アップル内ですべてお金が回る”仕組みが完成したことになります」、「顧客の囲い込みだけでなく、収益向上にも資する“一石二鳥”のサービスだという」、なるほど。
・『「日本上陸」が簡単でない理由 他国と比べてiPhone(OS)シェア率の高い日本はアップルにとっても重要市場とされ、今後「アップル預金」が日本に上陸する可能性も指摘されている。 しかし話はそう簡単ではないとの声も。 「携帯キャリアでいえば、日本でもauのじぶん銀行やソフトバンク系のpaypay銀行などがありますが、いずれも普通預金金利は0.001%と、金利だけを単純比較すれば日本勢はとても太刀打ちできない。しかしアップルが同様のサービスを日本で展開するには越えなければならないハードルが幾つかあり、その一つが日本の場合、大手キャリアがiPhoneの販売代理店も兼ねている点です。アップル側も本気で“潰し合い”になるようなサービス展開は避けると見られ、仮に日本で預金サービスを開始するとしても、大手キャリアとの“棲み分け”を模索する可能性が指摘されています」(ITジャーナリストの井上トシユキ氏) 経済評論家の荻原博子氏もこう言う。「アップルの新サービスが日本で話題になっているのは、それだけ日本の銀行の預金金利が低すぎることの裏返しです。長く続いたゼロ金利政策で、お金を預け入れるメリットがない状況に慣れきった日本人からすれば、“上陸”を待望する声が上がるのも当然。ただしアップルが日本の銀行と提携するなどして預金サービスを日本で始めるとなっても、為替リスクや資金の調達・運用面での課題から、アメリカと同程度の金利はとても望めないでしょう」 「異国の夢物語」と考えたほうがいいのかも』、「大手キャリアがiPhoneの販売代理店も兼ねている点です。アップル側も本気で“潰し合い”になるようなサービス展開は避けると見られ、仮に日本で預金サービスを開始するとしても、大手キャリアとの“棲み分け”を模索する可能性が指摘」、「アップルが日本の銀行と提携するなどして預金サービスを日本で始めるとなっても、為替リスクや資金の調達・運用面での課題から、アメリカと同程度の金利はとても望めないでしょう」、やはり「異国の夢物語」なのだろう。
次に、5月13日付け日刊ゲンダイが掲載した金融ジャーナリストの小林佳樹氏による「金融界で囁かれる「トヨタ銀行創設」の現実味 名古屋市長選に意欲の大塚耕平議員が過去に発言」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/322866
・『参議院の愛知選挙区選出の大塚耕平議員(63)が次の名古屋市長選に立候補する意向を表明した。大塚議員は1959年、名古屋市生まれ。旭丘高校、早稲田大学政治経済学部を卒業後、日本銀行の職員を経て、2001年の参院選に当時の民主党から立候補し初当選した。 民主党政権時代は、内閣府の副大臣や厚生労働副大臣を歴任。民主党から民進党に変わった後の17年、総選挙の際に衆院議員が「希望の党」と「立憲民主党」に分かれて党を出ていく中で、民進党の代表に就いた。現在4期目で、国民民主党の代表代行と政調会長を務めている。学生時代や日銀時代はバレーボール部所属で、スキューバダイビングのインストラクターという一面もある。 大塚議員は出馬の動機について、「経済界や地元議員らから出馬の要請があり、統一地方選直後に市長選への立候補の意思を固めた」と語り、「日本全体が非常にさまざまな課題を抱えて低迷しているという実感を私は持っていますので、そういう中で名古屋というのは非常に重要な位置づけにあると思っています。国政の課題は十分理解しているつもりでありますし、貢献できる潜在的なスキルを持っていると思いますので」と抱負を語った。名古屋市長選挙は25年4月に行われる予定だ。) 市長選は2年後だが、早くも大塚氏が名古屋市長になれば動き出すのではないかと金融界で囁かれている構想がある。名古屋市に本店を置く大手銀行の創設だ。大塚氏は「名古屋の経済規模にふさわしい大手銀行が必要」と語ったことがあるためだ。 名古屋にはかつて東海銀行という都銀があったが、幾度かの再編を経て三菱UFJ銀行となっている。名古屋を本店とする都銀は今はなく、第二地銀以下の中小金融機関の牙城となっている。このため東海銀行以上の規模の大手銀行を創設すべきというのが大塚氏の主張だった。 その有力候補とみられているのがトヨタ自動車だ。トヨタの財務基盤はメガバンクをしのぐ。金融界では大塚氏が名古屋市長になれば、「トヨタ銀行の創設も絵空事ではなくなる」との声が漏れ始めた』、「名古屋市長選挙」では、2009年に民主党推薦の河村たかし氏が当選、その後は減税日本推薦として、民主党や自民党・公明党が推薦する候補を破って勝ち続けている。大塚氏はさわやかな印象で、十二分に河村氏に対抗し得る。推薦母体は未定だが、国民民主党、立憲民主党、自民党・公明党などが推薦すると思われる。「「トヨタ銀行の創設も絵空事ではなくなる」との声が漏れ始めた」、「トヨタ」はいまさら銀行経営などに興味を示す筈はないとみるべきだろう。
第三に、5月26日付け東洋経済オンライン「SBI新生銀、TOBでも簡単ではない公的資金返済 少数株主との平等性を保ちつつ返済は可能か」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/674481
・『4半世紀にわたって未解決だった公的資金の返済はすんなりと進むのか。 SBIホールディングス(以下、SBI)は5月12日、50.04%の株式を保有するSBI新生銀行をTOB(株式公開買い付け)によって非公開化すると発表した。子会社であるSBI地銀ホールディングスを通し、政府系株主である預金保険機構と整理回収機構が保有する22.98%を除くすべての株式を買い取る。TOB価格は1株当たり2800円で、総額は約1542億円になる。 5月15日に始まったTOBの期限は6月23日。東証スタンダード市場に上場しているSBI新生銀は、TOB後上場廃止になる。TOBに応じなかった少数株主に対しては、同じく2800円で強制的に株式を買い取るスクイーズアウト(締め出し)を行うことから、SBI新生銀の株主はSBIと政府系株主のみになる。 今回のスクイーズアウトでは、株式併合で株式の単位を切り下げ、少数株主の保有株を1株未満とすることで強制的に買い上げる手法をとる。株式併合には臨時株主総会で3分の2の賛成が必要だが、SBIと政府系株主を合わせて考えれば、議決権を7割超保有している。このためTOBに応じる株主がゼロでもスクイーズアウトは必ず成功するという仕組みだ』、「北尾社長」らしい実に巧妙なやり方だ。
・『SBI北尾社長の狙い 2019年以来、SBIは新生銀をグループに引き入れるために心血を注ぎ、銀行業界初ともいわれた敵対的TOBを2021年に成功させた。SBIの北尾吉孝社長は側近である川島克哉氏をSBI新生銀の社長として送り込むなどしてきた。 同行がSBI傘下に入ったことによるシナジーは徐々に発揮されつつある。法人向けビジネスでの連携などの施策が寄与。2022年度はSBI新生銀の純利益を50億円押し上げた。 SBIは上場廃止によって、より積極的なシナジーを狙った施策が可能になると主張する。一時的なコスト増になる先行投資など中長期的な取り組みについても、意思決定を迅速に行えるようになるという。北尾社長はこの日の会見で「少数株主がいなくて(株主が)われわれと政府系だけになれば、経営の自由度が高まっていくから、それだったらいろいろやり方があるんじゃないか」と狙いを語った。) SBI新生銀にとって、かねて懸案だったのは前身の旧日本長期信用銀行が破綻した1998年に国から注入された公的資金の返済だ。現在、未回収の額は約3500億円。その返済は進むのだろうか。 公的資金の返済には、これまでも難しい壁が立ちはだかっていた。返済すべき公的資金の裏付けとなっているのは、政府系株主が保有する22.98%(約4900万株)の株式。政府系株主が保有分を売却すればその分が「回収額」となる。 ところが、新生銀の株価は2000円近辺で推移しており、政府系株主の持分では1000億円程度の価値しかない。3500億円を回収するためには単純計算で株価が3倍超に上がる必要があり、7000円を超える水準にならないといけない。このことが足かせになり、政府系株主は新生銀の株式をいつまでも手放せない袋小路に陥っていた』、「新生銀の株価は2000円近辺で推移しており、政府系株主の持分では1000億円程度の価値しかない。3500億円を回収するためには単純計算で株価が3倍超に上がる必要があり、7000円を超える水準にならないといけない」、「このことが足かせになり、政府系株主は新生銀の株式をいつまでも手放せない袋小路に陥っていた」、打開しようとするのが今回の動きだ。
・『少数株主との不平等 逆に言えばSBI新生銀の株式は、将来の返済に伴って「7000円」を超える価値になりうる株式だ。今回のTOBは、その株を「2800円」で買うということになる。少数株主から見れば、不平等ともとられかねない。 非公開化すれば、市場での株価はつかなくなり、政府系株主が持つ株式の価値は明確には見えなくなる。しかし、不平等になる懸念を考慮すれば、政府系株主が持つ4900万株に要回収額である3500億円をすぐさま払うわけにもいかないだろう。 SBIはこの問題をどう考えているのか。TOB開始を知らせる公表文によると、「持株比率に応じた配当を行う方法等により公的資金の返済を行う」としている。要するに、今は2800円が適切であるSBI新生銀の企業価値を、時間をかけて向上させ、配当の形で返済していくということだ。) ところが、ここにひとつの問題が立ちふさがる。TOBに際して、SBIと政府系株主、そしてSBI新生銀との間で交わされた「公的資金の取扱いに関する契約書」だ。 契約書では、回収すべき公的資金の額を3493億円と確認。そのうえでSBI新生銀は「可能な限り早期に要回収額を返済するよう努める」としている。ただ、具体的な方法については2025年6月末までに政府系株主と具体的仕組みについて合意するとした』、「具体的な方法については2025年6月末までに政府系株主と具体的仕組みについて合意するとした」、なるほど。
・『「可能な限り早期」どのように 「可能な限り早期」の具体的な時期は不明だ。配当により返済するにしろ、SBI新生銀の直近2023年3月期の純利益は427億円。政府系株主に回せる配当金は数十億円程度とみられる。これでは、全てを返済するのに20年以上かかってしまい、到底「可能な限り早期」とは言えない。 実際SBIは、SBI新生銀が設置したTOBの是非を諮る特別委員会に対し、配当が公的資金の残額に達するには「相応の期間」がかかることを説明したという。結局、公的資金返済の期間が明確にならないことから、SBI新生銀の社外取締役の1人はTOB賛同決議に反対した。 「可能な限り早期」と「相応の期間」。この2つの期間の矛盾を解決しない限り、公的資金の返済は実現しない。2025年6月末という期限について、北尾社長は「返し方の道筋について合意するということであって、いついつまでに返すという話ではない」と予防線を張った。 TOB発表の翌5月15日のSBI新生銀の終値は2806円と、TOB価格の2800円を上回った。予定通りTOBが行われればこの価格で購入した株主は損をすることになる。投資家がこうした事情を見て、TOBまでにはまだ一波乱があると踏んだ可能性もある。SBIとSBI新生銀、そして政府系株主を巡る問題はまだ一筋縄ではいかないようだ』、「「可能な限り早期」と「相応の期間」。この2つの期間の矛盾を解決しない限り、公的資金の返済は実現しない。2025年6月末という期限について、北尾社長は「返し方の道筋について合意するということであって、いついつまでに返すという話ではない」と予防線を張った」、今後の展開が要注目だ。
第四に、5月26日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「三菱UFJ、みずほFG、三井住友銀行の「出戻り社員」対策が想像以上においしいワケ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/323454
・『メガバンク3行(三菱UFJ銀行、みずほフィナンシャルグループ〈FG〉、三井住友銀行)が、退職者交流サイトの立ち上げと出戻り社員の採用に踏み切りました。ついに「中途退職者=裏切り者」の意識を変えようとしているのです。「人手不足なんだから当たり前でしょ」と思った銀行業界以外の方、実は、あなたにとっても「おいしい話」かもしれません』、興味深そうだ。
・『中途退職者=「裏切り者」は時代遅れ! ついにメガバンクも姿勢をチェンジ メガバンク3行(三菱UFJ銀行、みずほFG、三井住友銀行)が相次いで退職者の交流サイトを立ち上げ、また、一度退職して銀行を離れた人を再び採用するカムバック採用(いわゆる“出戻り採用”)が活発になってきました。このことが銀行業界の常識を覆す施策として話題になっています。 というのもメガバンクを中途で退職して外資系金融機関に移籍した行員は、これまで「裏切り者」呼ばわりされてきたからです。 メガバンク以外でも、退職者のネットワークが活発な会社とそうではない会社があります。日本の大企業も退職者について「もう外部の他人だ」と冷たく捉える風土の会社と、離職した後も仲間だと考える会社に分かれるのです。 退職者の交流ネットワークは、日本でもアルムナイ(卒業生)ネットワークと呼ばれることが定着しています。 実は、「アルムナイネットワークが強いかどうか」が企業の命運を分ける時代がすぐそこまできています。さらに、アルムナイネットワークは個人が自分自身の転職を「成功」させるためにも重要なのです。) 今回の記事では、日本社会で退職者を裏切り者と考える会社と大切に考える会社がある理由とその変化、そして転職が当たり前になった時代のアルムナイネットワークの意味についてまとめてみたいと思います。 私の個人的な経験からお話しすると、私が最初に所属したコンサルティングファームでは、少なくとも25年前までは他のコンサルティングファームに転職した人間は裏切り者と認定されていました。 外資のコンサルファームなので社員の大半は日本の大企業からの転職者です。当時は日本企業は終身雇用が当たり前の時代で、コンサルファームに転職してきた段階で前の会社からは裏切り者扱いされた社員も少なくなかったと記憶しています。このあたりはその会社の社風もありますが、本人が辞めた際の経緯によるケースも多々あったようです。 特に印象に残っているのは中堅社員で比較的後輩の面倒見もよく、周囲から慕われていたコンサルタントが競合他社に転職したときのことです』、「私が最初に所属したコンサルティングファームでは、少なくとも25年前までは他のコンサルティングファームに転職した人間は裏切り者と認定されていました。 外資のコンサルファームなので社員の大半は日本の大企業からの転職者です。当時は日本企業は終身雇用が当たり前の時代で、コンサルファームに転職してきた段階で前の会社からは裏切り者扱いされた社員も少なくなかったと記憶しています」、当時は「裏切り者扱い」が普通だったようだ。
・『コンサル業界は90年代後半から「アルムナイ歓迎」にチェンジ 私がまだ20代だった頃の話です。 その直後の社員集会で幹部から、「個人的な知り合いも多い業界ではあるけれども、プロフェッショナルとして仕事をする以上、競合するコンサルティングファームの社員とプライベートで食事をしたりするのは気をつけるように」とお達しがありました。 その際に、「付き合い方次第では自分の評価に影響する」とまで言われたので、あとでこっそりとどういう意味なのかをパートナーの一人に尋ねたところ、「あいつとはもう付き合うなという意味だ」と厳しく言われたことを覚えています。 90年代後半になって、わたしのいた会社ではグローバル本社のお達しで日本でもアルムナイパーティーが開催されるようになりました。その時も当初は裏切り者をパーティーに呼ぶか呼ばないか幹部が議論したぐらい、競合への転職についてはピリピリした空気がありました。 最終的には、その議論をしていた幹部たちがごっそりと移って新しいコンサルファームを立ち上げたうえで、堂々とアルムナイパーティーに顔を出すようになり、今では当時の空気はなくなったようです。 私もその時期にアルムナイになったのですが、退社して初めて知ったのは競合コンサルのアルムナイネットワークがとても強固だということでした。ちなみに競合コンサルとは、アクセンチュアのことです。 当時の私はネットベンチャーに転職して、その仲間にはコンサルファーム出身者が何人かいました。そのひとりがアクセンチュア出身だったのですが、彼がこっそりアクセンチュアのアルムナイネットワークの画面を見せてくれたうえで、アルムナイネットワークの意義について熱く語ってくれたことがあります』、「退社して初めて知ったのは競合コンサルのアルムナイネットワークがとても強固だということでした。ちなみに競合コンサルとは、アクセンチュアのことです」、なるほど。
・『アクセンチュア、ソニー、リクルートはアルムナイのおかげで成長した そこでは退職者同士、お互いの悩みを打ち明けあい、ビジネス上で困っていることを助け合っている実態がありました。 「会社を離れると肩書も通用しなくなる。それでもアクセンチュア出身者がビジネス界で成功する事例が増えれば力になる。こうやって元仲間が助けてくれる風土を意図的につくりあげることは重要なのだ」 これは西暦2000年頃の話なのですが、それをWeb上で当時のアクセンチュアが行っていたのです。「ずいぶん違うな」と感心したものです。 その当時の日本では、アルムナイネットワークが強いことで知られる会社は数えるほどでした。アクセンチュアはそのひとつで、他に名前がよく挙がるところとしては、リクルートとソニーがアルムナイの絆の強さで有名でした。 ソニーには当時、ソニーを退社した人たちのソバの会という組織がありました。ソバとはSONYのOBのASSOCIATIONの略だと言われたのですが、もし間違っていたらごめんなさい。 私によくしてくれた先輩がちょうどソニーOBで、転職した上場企業の常務まで上り詰めたうえで自分の会社を立ち上げた人だったのですが、彼はソバの会に出るたびに元気をもらっていたようで、直後に会ったりするとその場でどんなことがあったのかよく話してくれました。 伝聞ではありますが、その雰囲気を解説すると、その頃のソバの会にはよくソニーの現役のトップが来たそうなのです。テレビのWBSとかでよく見かけるぐらい偉い人です。 その人がソバの会では「偉くない」ところがポイントで、社外で成功している人の方が偉い雰囲気がある。だからみんな後ろを振り返らずに元気をもらって帰ってくるという話です。あくまで個人の感想かもしれませんが、雰囲気の伝わるエピソードだと思います。 リクルートでは元リクと呼ばれる人的ネットワークがあって、何百人もいる伝説の元社員を中心に、巨大な交流ネットワークが出来上がっています。それが公式な組織ではなく、無数に存在する個人同士がつながるアメーバのようなネットワークになっているところが面白い。 離れていても「元リク」だとわかるだけで急に打ち解けるような、不思議な資格にもなっています。 さて、これら3社は今でも存在感の強い大企業です。何かと不安定な要素が多く人材流出の激しい現代でも3社がトップ企業の座を守ることができている理由の一つは、「アルムナイネットワークの強さ」ではないかと思います。 一方、前述した3社のアルムナイネットワークと比較すると、冒頭でお話ししたような銀行のアルムナイネットワークは構築しはじめたばかりの新参者です。報道によれば、みずほFGではカムバック採用も10人規模で行われているようですが、ある意味その程度の規模でもあります。 こういった状況の日本企業は、これからアルムナイネットワークをどうしていくべきなのでしょうか? 三つのポイントがあると思います』、「アクセンチュア」では、「「会社を離れると肩書も通用しなくなる。それでもアクセンチュア出身者がビジネス界で成功する事例が増えれば力になる。こうやって元仲間が助けてくれる風土を意図的につくりあげることは重要なのだ」」、「ソニーには当時、ソニーを退社した人たちのソバの会という組織がありました・・・私によくしてくれた先輩がちょうどソニーOBで、転職した上場企業の常務まで上り詰めたうえで自分の会社を立ち上げた人だったのですが、彼はソバの会に出るたびに元気をもらっていたようで、直後に会ったりするとその場でどんなことがあったのかよく話してくれました。 伝聞ではありますが、その雰囲気を解説すると、その頃のソバの会にはよくソニーの現役のトップが来たそうなのです。テレビのWBSとかでよく見かけるぐらい偉い人です。 その人がソバの会では「偉くない」ところがポイントで、社外で成功している人の方が偉い雰囲気がある」、「社外で成功している人の方が偉い雰囲気がある」とは凄い。「リクルートでは元リクと呼ばれる人的ネットワークがあって、何百人もいる伝説の元社員を中心に、巨大な交流ネットワークが出来上がっています。それが公式な組織ではなく、無数に存在する個人同士がつながるアメーバのようなネットワークになっているところが面白い。 離れていても「元リク」だとわかるだけで急に打ち解けるような、不思議な資格にもなっています」、「リクルート」もさもありなんだ。
・『アルムナイ同士が結束するほど自分自身が「転職で成功」する 一つは「一度同じ釜の飯を食ったことがある仲間」の結束を強めるということは、本人たちにとってものすごく重要なサポートになるということです。 20代、30代の転職が当たり前になった日本社会ではありますが、本人にとって転職は相変わらず大きなチャレンジです。確率でいっても転職で成功する人と失敗する人の比率は、事後の調査などを見る限り半々だと思われます。 「会社の常識は他社の非常識」と言われるくらい、前の組織の経験が新しい会社では通用しないことも少なくありません。一方で、アルムナイネットワークの仲間はその点で同じような苦労をし、同じようなチャレンジをしてきています。そして一人で挑戦するよりも大勢で力を合わせたほうが挑戦は成功しやすいものです。 アルムナイネットワークに積極的にかかわることは、自分自身の転職を「成功」させるためにも重要だというのが一つ目のポイントです』、「「一度同じ釜の飯を食ったことがある仲間」の結束を強めるということは、本人たちにとってものすごく重要なサポートになるということです・・・本人にとって転職は相変わらず大きなチャレンジです。確率でいっても転職で成功する人と失敗する人の比率は、事後の調査などを見る限り半々だと思われます」、「転職で成功する人」の「比率」は「半々」とは予想以上に高いようだ。
・『アルムナイは会社の「顔」 企業側もサポートするほど得をする 二つ目に、退職者の中に成功者が多いことはその会社にとっても重要だということです。ソニーやリクルート、アクセンチュアはその退職者の評判が高いことで、新卒や中途の採用において競合する他社よりも有利な状況にあります。 もし仮に、メガバンクを退職した社員たちが新しい職場で「使えない」などという評判が立ってしまうとしたら、それはそのまま銀行の評判に跳ね返ってくることは明らかでしょう。 そう考えたら、新しくアルムナイネットワークを作り始めた会社こそ、その構築やサポートに相応の力を入れるべきなのです。少なくともネットワークというものは、自走し始めるまではものすごく大きなエネルギーを必要とするものなのですから』、「退職者の中に成功者が多いことはその会社にとっても重要だということです。ソニーやリクルート、アクセンチュアはその退職者の評判が高いことで、新卒や中途の採用において競合する他社よりも有利な状況にあります」、「新しくアルムナイネットワークを作り始めた会社こそ、その構築やサポートに相応の力を入れるべきなのです。少なくともネットワークというものは、自走し始めるまではものすごく大きなエネルギーを必要とするものなのですから」、その通りだ。
・『競合からの出戻り人材は企業にとってイノベーションの特効薬になる そして三つ目に、カムバック人材は会社にとってさらに使える人材だということです。 別に他社の企業秘密を知っているからということではありません。 単純にゴールドマン・サックスからみずほ銀行に戻ってくる人材や、テスラからトヨタ、グーグルからソニー、TSMCからNECに戻ってきた人材をイメージしてみればわかります。 みずほ銀行の仕組みを知ったうえで、違う仕組みを持つ外資系金融機関で何年か働き、そのうえでまた戻ってくる人材はそもそも有能な人材だというだけでなく、企業にイノベーションをもたらしてくれる人材です。 これはメガバンクだけの話ではありません。中国、韓国、台湾、そして欧米などまったく違う仕組みをもった競合企業と戦わなければならないという点では金融業界も製造業もIT業界も環境は同じです。そういった外部を知るカムバック人材が、まったく違う他業界からの転職者よりも、重要な人材であることは間違いないでしょう。 だとしたら問題は「受け入れるかどうか」ではなく、「現状、10人ぐらいしかカムバック人材がいない状況を、いかに速いスピードで年間数十人規模に拡大できるか」が課題のはずです。 そうなるためにはどうすればいいでしょうか? 要点はシンプルです。アルムナイネットワークが強固になればいいのです。日本企業は令和に入り、もはや昭和のようなよそ者意識や裏切り者意識は薄れてきたとは思います。 ただ、企業風土に基づく意識というものはそう簡単に変わるものではないことも事実。それを考えるとアルムナイネットワークの拡充は、人為的に力を入れていかなければならない重要経営課題だと考えるべきでしょう。 メガバンクを筆頭に第2次アルムナイブームが来れば、転職時代を生きる私たち個人にとっても「おいしい話」になるかもしれません』、「みずほ銀行の仕組みを知ったうえで、違う仕組みを持つ外資系金融機関で何年か働き、そのうえでまた戻ってくる人材はそもそも有能な人材だというだけでなく、企業にイノベーションをもたらしてくれる人材です」、「これはメガバンクだけの話ではありません。中国、韓国、台湾、そして欧米などまったく違う仕組みをもった競合企業と戦わなければならないという点では金融業界も製造業もIT業界も環境は同じです。そういった外部を知るカムバック人材が、まったく違う他業界からの転職者よりも、重要な人材であることは間違いないでしょう。 だとしたら問題は「受け入れるかどうか」ではなく、「現状、10人ぐらいしかカムバック人材がいない状況を、いかに速いスピードで年間数十人規模に拡大できるか」が課題のはずです」、「アルムナイネットワークが強固になればいいのです。日本企業は令和に入り、もはや昭和のようなよそ者意識や裏切り者意識は薄れてきたとは思います。 ただ、企業風土に基づく意識というものはそう簡単に変わるものではないことも事実。それを考えるとアルムナイネットワークの拡充は、人為的に力を入れていかなければならない重要経営課題だと考えるべきでしょう。 メガバンクを筆頭に第2次アルムナイブームが来れば、転職時代を生きる私たち個人にとっても「おいしい話」になるかもしれません」、同感である。
タグ:「北尾社長」らしい実に巧妙なやり方だ。 東洋経済オンライン「SBI新生銀、TOBでも簡単ではない公的資金返済 少数株主との平等性を保ちつつ返済は可能か」 「名古屋市長選挙」では、2009年に民主党推薦の河村たかし氏が当選、その後は減税日本推薦として、民主党や自民党・公明党が推薦する候補を破って勝ち続けている。大塚氏はさわやかな印象で、十二分に河村氏に対抗し得る。推薦母体は未定だが、国民民主党、立憲民主党、自民党・公明党などが推薦すると思われる。「「トヨタ銀行の創設も絵空事ではなくなる」との声が漏れ始めた」、「トヨタ」はいまさら銀行経営などに興味を示す筈はないとみるべきだろう。 小林佳樹氏による「金融界で囁かれる「トヨタ銀行創設」の現実味 名古屋市長選に意欲の大塚耕平議員が過去に発言」 日刊ゲンダイ 「大手キャリアがiPhoneの販売代理店も兼ねている点です。アップル側も本気で“潰し合い”になるようなサービス展開は避けると見られ、仮に日本で預金サービスを開始するとしても、大手キャリアとの“棲み分け”を模索する可能性が指摘」、「アップルが日本の銀行と提携するなどして預金サービスを日本で始めるとなっても、為替リスクや資金の調達・運用面での課題から、アメリカと同程度の金利はとても望めないでしょう」、やはり「異国の夢物語」なのだろう。 「新サービスの開始によって“アップル内ですべてお金が回る”仕組みが完成したことになります」、「顧客の囲い込みだけでなく、収益向上にも資する“一石二鳥”のサービスだという」、なるほど。 「「アメリカの地方銀行やネットバンキングでは年利3~4%の預金金利はそれほど珍しくなく、また“アップル預金”の金利は4月の米FRB政策金利5%を下回るものです」、なるほど。 「同社のクレジットカード「アップルカード」の利用者を対象としたものだ。提携する米ゴールドマン・サックスの普通預金口座を利用し、Walletアプリで開設可能。またアカウントに紐づけされた銀行口座やApple Cashの残高から入金や送金が無料でできる」、「新サービスの前提となるアップルカードは米国在住者向けサービスのため、日本のiPhoneユーザーらは利用できません」、 デイリー新潮「「アップル預金」年利4.15%の衝撃 日本でのサービス開始に待望の声も、立ちはだかる意外な障壁」 金融業界 (その18)(「アップル預金」年利4.15%の衝撃 日本でのサービス開始に待望の声も 立ちはだかる意外な障壁、金融界で囁かれる「トヨタ銀行創設」の現実味 名古屋市長選に意欲の大塚耕平議員が過去に発言、SBI新生銀 TOBでも簡単ではない公的資金返済 少数株主との平等性を保ちつつ返済は可能か、三菱UFJ みずほFG 三井住友銀行の「出戻り社員」対策が想像以上においしいワケ) 「新生銀の株価は2000円近辺で推移しており、政府系株主の持分では1000億円程度の価値しかない。3500億円を回収するためには単純計算で株価が3倍超に上がる必要があり、7000円を超える水準にならないといけない」、「このことが足かせになり、政府系株主は新生銀の株式をいつまでも手放せない袋小路に陥っていた」、打開しようとするのが今回の動きだ。 「具体的な方法については2025年6月末までに政府系株主と具体的仕組みについて合意するとした」、なるほど。 「「可能な限り早期」と「相応の期間」。この2つの期間の矛盾を解決しない限り、公的資金の返済は実現しない。2025年6月末という期限について、北尾社長は「返し方の道筋について合意するということであって、いついつまでに返すという話ではない」と予防線を張った」、今後の展開が要注目だ。 ダイヤモンド・オンライン 鈴木貴博氏による「三菱UFJ、みずほFG、三井住友銀行の「出戻り社員」対策が想像以上においしいワケ」 「私が最初に所属したコンサルティングファームでは、少なくとも25年前までは他のコンサルティングファームに転職した人間は裏切り者と認定されていました。 外資のコンサルファームなので社員の大半は日本の大企業からの転職者です。当時は日本企業は終身雇用が当たり前の時代で、コンサルファームに転職してきた段階で前の会社からは裏切り者扱いされた社員も少なくなかったと記憶しています」、当時は「裏切り者扱い」が普通だったようだ。 「退社して初めて知ったのは競合コンサルのアルムナイネットワークがとても強固だということでした。ちなみに競合コンサルとは、アクセンチュアのことです」、なるほど。 「アクセンチュア」では、「「会社を離れると肩書も通用しなくなる。それでもアクセンチュア出身者がビジネス界で成功する事例が増えれば力になる。こうやって元仲間が助けてくれる風土を意図的につくりあげることは重要なのだ」」、 「ソニーには当時、ソニーを退社した人たちのソバの会という組織がありました・・・私によくしてくれた先輩がちょうどソニーOBで、転職した上場企業の常務まで上り詰めたうえで自分の会社を立ち上げた人だったのですが、彼はソバの会に出るたびに元気をもらっていたようで、直後に会ったりするとその場でどんなことがあったのかよく話してくれました。 伝聞ではありますが、その雰囲気を解説すると、その頃のソバの会にはよくソニーの現役のトップが来たそうなのです。テレビのWBSとかでよく見かけるぐらい偉い人です。 その人がソバの会では「偉くない」ところがポイントで、社外で成功している人の方が偉い雰囲気がある」、「社外で成功している人の方が偉い雰囲気がある」とは凄い。「リクルートでは元リクと呼ばれる人的ネットワークがあって、何百人もいる伝説の元社員を中心に、巨大な交流ネットワークが出来上がっています。それが公式な組織ではなく、無数に存在する個人同士がつながるアメーバのようなネットワークになっているところが面白い。 離れていても「元リク」だとわかるだけで急に打ち解けるような、不思議な資格にもなっています」、「リクルート」もさもありなんだ。 「「一度同じ釜の飯を食ったことがある仲間」の結束を強めるということは、本人たちにとってものすごく重要なサポートになるということです・・・本人にとって転職は相変わらず大きなチャレンジです。確率でいっても転職で成功する人と失敗する人の比率は、事後の調査などを見る限り半々だと思われます」、「転職で成功する人」の「比率」は「半々」とは予想以上に高いようだ。 「退職者の中に成功者が多いことはその会社にとっても重要だということです。ソニーやリクルート、アクセンチュアはその退職者の評判が高いことで、新卒や中途の採用において競合する他社よりも有利な状況にあります」、「新しくアルムナイネットワークを作り始めた会社こそ、その構築やサポートに相応の力を入れるべきなのです。少なくともネットワークというものは、自走し始めるまではものすごく大きなエネルギーを必要とするものなのですから」、その通りだ。 「みずほ銀行の仕組みを知ったうえで、違う仕組みを持つ外資系金融機関で何年か働き、そのうえでまた戻ってくる人材はそもそも有能な人材だというだけでなく、企業にイノベーションをもたらしてくれる人材です」、 「これはメガバンクだけの話ではありません。中国、韓国、台湾、そして欧米などまったく違う仕組みをもった競合企業と戦わなければならないという点では金融業界も製造業もIT業界も環境は同じです。そういった外部を知るカムバック人材が、まったく違う他業界からの転職者よりも、重要な人材であることは間違いないでしょう。 だとしたら問題は「受け入れるかどうか」ではなく、「現状、10人ぐらいしかカムバック人材がいない状況を、いかに速いスピードで年間数十人規模に拡大できるか」が課題のはずです」、 「アルムナイネットワークが強固になればいいのです。日本企業は令和に入り、もはや昭和のようなよそ者意識や裏切り者意識は薄れてきたとは思います。 ただ、企業風土に基づく意識というものはそう簡単に変わるものではないことも事実。それを考えるとアルムナイネットワークの拡充は、人為的に力を入れていかなければならない重要経営課題だと考えるべきでしょう。 メガバンクを筆頭に第2次アルムナイブームが来れば、転職時代を生きる私たち個人にとっても「おいしい話」になるかもしれません」、同感である。
バブル崩壊(その他、その2)(バブルの狂乱 いま明かされる銀行と権力の「すさまじい暗闘」の全深層、投資額は2兆7700億円 江本孟紀が初めて明かす“女帝相場師・尾上縫”の素顔、「バブル」に踊らされた経営者に共通する考え方 EIEインターナショナルとバブル紳士に学ぶ) [金融]
バブル崩壊については、2021年3月8日に取上げた。久しぶりの今日は、(その他、その2)(バブルの狂乱 いま明かされる銀行と権力の「すさまじい暗闘」の全深層、投資額は2兆7700億円 江本孟紀が初めて明かす“女帝相場師・尾上縫”の素顔、「バブル」に踊らされた経営者に共通する考え方 EIEインターナショナルとバブル紳士に学ぶ)である。
先ずは、2021年3月20日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの児玉 博氏による「バブルの狂乱、いま明かされる銀行と権力の「すさまじい暗闘」の全深層」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/80850?imp=0
・『「賭け麻雀」騒動が投げかけた問い その人事は「賭け麻雀」が発覚し、あっけなく幕引きとなったのが安倍政権下で行われようとしていた検事総長人事だった。昨年5月のことだ。 官僚人事を掌握し、その人事権で官僚を統治した安倍政権。その象徴でもあったのが東京高検検事長の黒川弘務を検事総長にするために、検事長の退官を63歳と定めた検察庁法を改め、退官年時を半年間延長した、いわゆる“定年問題”だった。この“定年問題”は、賭け麻雀で一気に終息したが、この問題は改めて政治と検察との在りようを問うこととなった。 かつて検察庁はロッキード事件(1976年)では元首相、田中角栄を逮捕した。検察庁は行政機関に組み込まれた一組織であることに変わりはない。 けれども、このロッキード事件に国民の多くが喝采を送ったのは、たとえ元首相であろうとも逮捕に踏み切った政治からの独立性だった。当時、主任検事だった吉永祐介(後の検事総長)は、“ミスター特捜”とも呼ばれ、ドラマの主人公となるほどその検察官としての高潔さを讃えられた。 しかし、検察と政治家など権力者との距離感は常に微妙な問題を孕んでいる。 筆者はかつて住友銀行(現、三井住友銀行)の伝説の“MOF(大蔵省担当)担”と呼ばれ、住友銀行を窮地に追いやったイトマン事件では、救世主となり、事件の元凶であった“住友銀行の天皇”磯田一郎(当時、会長)とその取り巻きを一掃するきっかけを作り出した国重惇史(元丸の内支店長)が、20数年間、秘匿し続けたメモを託された。 かつて、1986年に住友銀行により吸収合併された平和相互銀行という銀行が存在していた。後に金屏風事件など数々の事件を引き起こすきっかけとなったこの合併劇に深く関わっていたのが國重だった。その国重が合併劇の内幕を一部始終を書き残したのが“國重メモ”だ』、「住友銀行により吸収合併された平和相互銀行・・・この合併劇に深く関わっていたのが國重だった。その国重が合併劇の内幕を一部始終を書き残したのが“國重メモ”だ」、「伝説の“MOF担”」による「メモ」とは興味深そうだ。
・『国重メモとは何か 筆者はそのメモを元に『堕ちたバンカー 國重惇史の証言』という本を上梓した。 国重は39歳ながらこの合併劇に立役者の1人だった。大蔵省、日銀、竹下登(当時、大蔵大臣)、そし検察庁幹部などに接近しては、住友銀行に吸収合併させて行く様を克明に描いた“國重メモ”の迫力、詳細さは圧巻だった。この“國重メモ”が明らかになったことにより、長らく日本金融史史の闇とされていた、合併劇の内幕、金屏風事件の内幕などがすべて明らかとなったのである。 このメモの中で、筆者を驚愕させた1つが住友銀行と検察幹部との関係だった。 そもそも、住友銀行が、検察・国税との関係が深まるきっかけとなったのは、検事総長だった安原美穂(戦後12代目。1981〜1983)を顧問弁護士に迎えたことだった。安原を囲む現役検察幹部らの親睦の会ができ、それを住友銀行が支えた。 当初、大阪で始まり、その宴席が料亭「花月」で行われたことからその会は「花月会」と呼ばれた。料亭「花月」は後に東京にも出店し、その後は東京での会合が主になっていった。どの金融機関も検察、警察との関係を築いてはいる。けれども、住友銀行のそれは他の金融機関を圧するほどのものだったことが“国重メモ”からはうかがえる』、「住友銀行が、検察・国税との関係が深まるきっかけとなったのは、検事総長だった安原美穂・・・を顧問弁護士に迎えたことだった。安原を囲む現役検察幹部らの親睦の会ができ、それを住友銀行が支えた」、「親睦の会」の費用も「住友銀行」が負担したのだろうか、当時だったらあり得る話だ。
・『平和相互銀行をめぐる暗闘 当時は、“住友銀行の天皇”と呼ばれていた会長、磯田一郎の号令一下始まった「平和相互銀行」の吸収合併工作が行われていた。 住友銀行の水面下での工作は、大蔵省(現財務省)、日本銀行、蔵相、竹下登(後の総理大臣)、そして検察庁と多岐に渡った。しかも、工作する相手は幹部ばかり。“国重メモ”を読めば読むほど、住友銀行という一民間金融機関に過ぎない銀行が、金融当局のみならず、政界、検察の最深部にこれほどの人脈を築きあげていることにまず驚かされる。 “国重メモ”の中身を見ていこう。 まず昭和60年11月22日の項には次のように記されている。面談をしているのは、住友銀行取締役、松下武義。国重の上司であり、当時、住友銀行の“政治部長”と言われていた人物。この松下に相対している人物の名前は、伊藤栄樹。この時、東京高等検察庁検事長だった。検察庁ナンバー2の座にあった伊藤は、誰もが認める次期検事総長候補だった。 「平和相互銀行」の吸収合併を目論む住友銀行には1つの大きな障害があった。それは、「平和相互銀行」内で合併に強行に反対している勢力の存在だった。その筆頭が元東京地検特捜部の検事で“カミソリ伊坂”とも異名をとった監査役、伊坂重昭だった。伊坂を筆頭に同銀行幹部3人は合併に反対しており、特に伊坂の存在は悩ましかった。そんな折に実現したのが、松下と伊藤との宴席だった。 松下から聞き取った“国重メモ”はこう記している。 〈伊藤 心配するな。自分が(検事)総長になるであろう。12月下旬以降、1月か2月には必ずなる。あの銀行は年々1000オク(億円)悪くなっている。今やらねばならない。MOF(大蔵省)はだらしない。自分は第一相互の時の主任検事だったが、その時もMOFをギュギュやった。MOFに再建プランを出せと言ってある〉 伊藤栄樹は“ミスター検察”と呼ばれたほど、誰もが認めるエースだった。伊藤自身が就任時の訓示で吐いた「巨悪は眠らせるな」のフレーズは余りに有名だった。 退官後、「秋霜烈日」という回想録を記した伊藤は、その中で検察と政治との微妙な距離感について触れ、検事といえども行政官であることの苦渋を遠回しな表現ながら吐露している。その“ミスター検察”が、住友銀行側に「心配するな」「大蔵省には言ってある」などと発言をしているわけだ。 同年12月19日、松下から国重への電話での会話は次のようにメモされていた。 〈検察に行って話を聞いた。「騒がしくなる」 伊坂の逮捕は間違いないだろう〉 松下は直接、東京地検に出向き、そこで東京地検幹部と面談。事件の感触を掴み、それを国重に伝えている。このように松下、つまり住友銀行の検察担当は捜査当局に入り込み、情報を入手していた。もちろん、捜査当局側とて微妙な駆け引きはしていただろうが』、「「平和相互銀行」内で合併に強行に反対している勢力の存在だった。その筆頭が元東京地検特捜部の検事で“カミソリ伊坂”とも異名をとった監査役、伊坂重昭だった。伊坂を筆頭に同銀行幹部3人は合併に反対しており、特に伊坂の存在は悩ましかった」、これに対し、「伊藤 心配するな。自分が(検事)総長になるであろう。12月下旬以降、1月か2月には必ずなる」、「「騒がしくなる」 伊坂の逮捕は間違いないだろう〉 松下は直接、東京地検に出向き、そこで東京地検幹部と面談。事件の感触を掴み、それを国重に伝えている。このように松下、つまり住友銀行の検察担当は捜査当局に入り込み、情報を入手していた。もちろん、捜査当局側とて微妙な駆け引きはしていただろうが」、反対派をそれを上回る「検察の序列」を通じて潰すとは、凄い工作だ。
・『自宅への電話 これ以前の「国重メモ」にも東京地検特捜部と住友銀行との関係が伺える部分が見られる。 たとえば昭和60年6月25日、地検内部の声を次のように記している。 〈H(平和相互銀行)の職員を呼んで事情聴取することは消極的。「やる時は一斉にバサッとやる」「そのためにOBらと極秘裏に会いたい。仲介を頼みたい」 さらにメモは続く。〈同年7月12日 今日、検察に追加資料を持っていった。地検は「何かスパッとどぎついのはないか」。 同年7月18日 地検に行く。「パンチのきいた材料が欲しい」〉 最終的に平和相互銀行は、こうした昭和61年(1986年)10月1日をもって住友銀行に吸収合併され、その名前は日本の金融史から消える。が、実質的に平和相互銀行が住友銀行の軍門に降るのは同年2月6日、合併反対を唱え続けていた伊坂ら反対派の幹部が辞任した時だったといえるだろう。 そんな折の昭和61年1月9日、松下は検事総長、伊藤と面会する。メモはこう記している。 〈伊藤栄樹に会った。「金繰りピンチ。早く動いてくれないとパンクしてしまうかも」と言ったら、「わかった」と。1月中に動くかもしれない。〉 平和相互銀行の信用不安が株式市場に流れ始め、同銀行からの預金流失が続いている状況を松下は「金繰りピンチ」と訴えたのである。 同年1月14日、松下の動きを国重はこうメモしている。 〈昨日、地検の吉永部長と会った。「総長の陣頭指揮で危なくて、情報が取れない。ただそんなに早くやれるとは思えない」〉 この吉永部長というのは、ロッキード事件で名を馳せ、“ミスター特捜”とも呼ばれたあの吉永祐介だ。吉永はこの時、最高検公判部長の職にあった。その吉永が、平和相互銀行事件は検事総長、伊藤の直轄で捜査をしていた。〈同年1月24日 今朝、吉永公判部長より自宅から(松下の)自宅に電話あり。「昨日、次席検事と会った。その話では本件大きくならない。伊坂についてのデータ、集まりが悪い。地検も急いではいないようだ。但し、地検は仲間内でもウソあり」と〉』、「松下は検事総長、伊藤と面会する。メモはこう記している。〈伊藤栄樹に会った。「金繰りピンチ。早く動いてくれないとパンクしてしまうかも」と言ったら、「わかった」・・・「平和相互銀行の信用不安が株式市場に流れ始め、同銀行からの預金流失が続いている状況を松下は「金繰りピンチ」と訴えた」、「吉永公判部長より自宅から(松下の)自宅に電話あり。「昨日、次席検事と会った。その話では本件大きくならない・・・」、「住友銀行」の情報網は、驚くほどしっかりしていたようだ。
・『メモが投げかける「大きな意味」 結局、先にも触れたように吸収合併を画策する住友銀行の最大の障害であった伊坂らは2月6日に銀行をさり、さらにおよそ5ヶ月後の7月6日、特別背任容疑で東京地検特捜部の手によって逮捕される。 “国重メモ”が明らかにされるまで、こうした事実は一切明らかにあることはなかった。 “国重メモ”は、ひとつの銀行が、大蔵省、日銀、政治家などに広く、そして深くかかわっていた時代の現実を詳らかにした。そんな“国重メモ”が投げかける意味は今も変わらない――』、住友との合併に反対していた検察OBで平和相互銀行監査役の「伊坂」を「特別背任容疑で東京地検特捜部の手によって逮捕」とは、単に反対していただけでなく、どこかから裏金でも受け取っていたのかも知れない。「検察」をここまで利用し尽くしたとは、さすが住友銀行だ。
次に、2021年11月26日付けデイリー新潮「投資額は2兆7700億円 江本孟紀が初めて明かす“女帝相場師・尾上縫”の素顔」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/11261057/?all=1
・『店のテーブルには金融関係者がずらりと陣取り、奥の庭からは時折、どんな銘柄が上がるのか占うご託宣が聞こえる。2700億円をだまし取ったとして浪花の料亭経営者「尾上縫」が摘発されて30年、彼女がベタ惚れしたプロ野球解説者・江本孟紀氏(74)が振り返る。 内閣府のレポートには、かつて日本中を狂奔させたバブル経済は、1991年3月をもって“崩壊”が始まったとある。ちょうど30年前のことだが、人々に宴の終りを感じさせたのは、その5カ月後の出来事だったに違いない。 同年8月13日の早朝、大阪地検特捜部は大阪・千日前の料亭「恵川」のおかみ・尾上縫(61)=当時=を有印私文書偽造などの容疑で逮捕する。東洋信用金庫に巨額の預金があるように見せかけ、それを担保に大手金融機関から2700億円もの金をだまし取っていたのだ。 詐欺そのものは複雑ではなく、端緒は日本興業銀行が発行していたワリコー(割引金融債)を大量に買ったことだった。 奈良の貧困家庭の出身だった尾上は、ミナミの料亭で仲居だった時、大手住宅メーカーの会長が“旦那”になり、恵川を開店。会長からもらった三十数億円を元手にワリコー10億円分を買い付ける。それを担保に興銀が融資し、さらにワリコーを買い増した。いつしかワリコーの額が膨れ上がると興銀の黒澤洋頭取が、夫婦連れで恵川を表敬訪問したこともあった。 一介の料亭経営者ながら天下の興銀が融資している。それを知った他の大銀行も競うように金を貸し、5年間で彼女に貸し付けられた金は延べで2兆7736億円にものぼった。これは本州と四国を結ぶ瀬戸大橋を含む本四架橋の総工費に匹敵する。さらに尾上はこの金でNTTや新日鉄の株を買い漁ったものだから、北浜の証券界では「謎の女相場師」として名を馳せたのだ。だが、所詮は借金をぐるぐる回すだけの錬金術である。怪しんだ銀行が資金を引き揚げると、彼女が手を染めたのが架空預金証書による詐欺だったというわけである』、超大企業としか取引しない「興銀」の「黒澤洋頭取が、夫婦連れで」、「料亭「恵川」のおかみ・尾上縫」、「を表敬訪問」、との事実は国会喚問で明らかにされただけに、全国に大きな衝撃を与えた。
・『江本氏が特ダネを取れた理由 尾上逮捕の一報に新聞・テレビは料亭に押しかけ、連行される姿を追いかけた。が、地検に入る彼女はただの地味な老女にしか見えない。女傑からはほど遠いイメージに誰もが首をひねった。ところが、その日のニュースで、すぐさまフジテレビだけが、彼女の生々しい“素顔”を流す。株の注文欲しさに料亭に蝟集する大手証券マンや、融資話を持ち込んでくる大銀行の幹部。そして数千万円の着物を身にまとい、満面の笑みで株券の束をわし掴みにしてみせる尾上。その様子は、歪み切った世相そのものだったといえよう。 ネタを明かせば、同局が尾上の映像を流すことができたのは、逮捕の2年前に運よく恵川や姉妹店「大黒や」の奥までカメラを入れ、彼女のインタビュー映像を撮っていたからだ。フジテレビに、この特ダネを提供したのは、株や金融の世界には門外漢のはずの、あのエモやんこと江本孟紀氏である。当時の江本氏は阪神のピッチャーを引退して、著書『プロ野球を10倍楽しく見る方法』が大ヒット。野球解説者のほか、ドラマの役者、歌手などマルチタレントとして活動していた。 その江本氏が言う。 その頃、私はフジの『なんてったって好奇心』という番組の司会を三田寛子さんと一緒にやっていたんです。当時、プロデューサーだった太田英昭さん(後のフジ・メディア・ホールディングス社長)に“大阪にすごいオバさんがいる”って教えてあげたら、ぜひ会って取材したいという。それで尾上のおばちゃんに電話で聞いてみたら“ええよ”って二つ返事でOKだったのです」 謎の女相場師を登場させた番組は、ゴールデンタイムに放送されたが、その時点で錬金術の正体を知る者は誰もいなかった。それにしても、株取引もせず、酒も飲まない江本氏と、尾上には、どんな接点があったのだろうか』、「江本氏と、尾上には、どんな接点があったのだろうか」、確かに不思議だ。
・『江本氏に入れ込んでいた尾上 「もともと尾上さんを私に紹介してくれたのは、日本リスクコントロールという会社を経営している寺尾文孝さんという人なのです」 と江本氏。ここで寺尾氏のことを説明しておこう。寺尾氏は、警察官出身で、警視総監、法務大臣を歴任した秦野章氏の秘書を務めたのちに日本リスクコントロールを設立。政界・警察・芸能界に顔が利くことで知られた人物だ。今年6月に寺尾氏が半生を振り返って出版した『闇の盾』(講談社)には、寺尾氏が対峙してきたバブル紳士に並んで、 〈尾上縫がベタ惚れした男〉として、江本氏が登場する。 それによると、寺尾氏から江本氏を紹介された尾上は、初対面からすっかり彼のことを気に入ってしまう。当時40歳前後の江本氏は188センチのすらりとしたスタイルに端正な甘いマスク。人当たりが良くて話も面白く、おまけに有名人である。江本氏が豪華客船でディナーショーを開くと聞けば、チケットを数十枚も買い証券会社や銀行の幹部らを引き連れて観に行くほどの入れ込みようだった。そんな江本氏の頼みだからと、テレビの取材も快諾したのだろう。 改めて江本氏が尾上との出会いを話す。 「私の父親が高知県で警察官をしていたことから、寺尾さんとは気が合って昭和51年ぐらいからの付き合いでした。年に数度食事に行くような関係だったのですが、その寺尾さんが日本ドリーム観光という会社の副社長に就いて大阪に行くことになった。私も大阪で阪神戦の野球解説があるので、向こうで会う約束をしたのです。その際、寺尾さんと待ち合わせしたのが料亭『恵川』でした」』、「尾上は、初対面からすっかり彼のことを気に入ってしまう。当時40歳前後の江本氏は188センチのすらりとしたスタイルに端正な甘いマスク。人当たりが良くて話も面白く、おまけに有名人である。江本氏が豪華客船でディナーショーを開くと聞けば、チケットを数十枚も買い証券会社や銀行の幹部らを引き連れて観に行くほどの入れ込みようだった」、大いにあり得る話だ。
・『特別な客 日本ドリーム観光とは、大阪の新歌舞伎座や横浜ドリームランドなどを経営していた老舗の興行会社。だが、当時、元暴力団組長で、株の仕手戦で巨額の金を動かした「コスモポリタン」の会長・池田保次氏に“食い物”にされており、経営陣の内紛も勃発していた。寺尾氏は立て直しのため、87年、日本ドリーム観光に乗り込む。 大阪に常駐するようになった寺尾氏は、自分の友人・知人も連れて恵川に通った。江本氏のほか、勝新太郎、当時の大阪府警本部長や刑事部長もその中にいた。上客ばかりを紹介してくれる寺尾氏は、尾上にとって特別な客だったに違いない。当時、銀行から湯水のように金を引き出していた彼女は、寺尾氏に「新歌舞伎座を600億円で私に売ってほしい」と持ち掛けたこともある。 江本氏が続ける。 「でも、実をいえば私は和食が嫌いだったんです。酒も飲まないし、寺尾さんに誘われただけなら、彼女の店に行くのは、その一回だけで終わっていたかもしれません」』、「江本氏・・・「でも、実をいえば私は和食が嫌いだったんです。酒も飲まないし、寺尾さんに誘われただけなら、彼女の店に行くのは、その一回だけで終わっていたかもしれません」、「江本氏」も無理をして付き合ったのだろうか。
・『NTT株の束 会食当日、寺尾氏から教えてもらった住所を頼りに繁華街のミナミに出かけた江本氏は、とある木造3階建ての小料理屋の前で、打ち水をしている女性従業員に「この辺で恵川って店知りません?」と尋ねる。 「すると、その人が“あんた江本さんやないの!? うちの板前が、あんたのこと懐かしがってたわ”と言うではありませんか。聞けば、私が以前、贔屓にしていた料理人が、その小料理屋にいるという。彼はもともと北新地の料亭にいて、和食嫌いの私でも美味しく食べられる料理を作ってくれた。鴨料理やカツオのたたきなどが絶品なのです。ところが、ある日突然、料亭は閉店。料理人もぷっつりと連絡がつかなくなっていました。それが、たまたま道を聞いた従業員の店にいるというではありませんか。偶然の再会とはこのこと。その小料理屋の名が『大黒や』だったのです」 前述のとおり、大黒やは恵川の姉妹店で店もすぐ裏手にあった。尾上は“旦那”の住宅メーカー会長からもらった三十数億円を、しばらく大黒やの3階にある箪笥の引き出しに現金のまま保管していたこともある。 とまれ、この日を境に江本氏は大阪に行くたび大黒やを訪れるようになる。江本氏からすれば、板前の料理が目当てだった。 「恵川はちゃんとした料亭でしたが、大黒やは小料理屋。玄関を入るとカウンターがあって、20人も入ればいっぱいになるような店だった。料金も1人7千~8千円と安めでしたが、店に顔を出すと必ずといっていいほど、尾上のおばちゃんがやってきて私のテーブルについたんです」』、「和食嫌いの私でも美味しく食べられる料理を作ってくれた。鴨料理やカツオのたたきなどが絶品なのです。ところが、ある日突然、料亭は閉店。料理人もぷっつりと連絡がつかなくなっていました。それが、たまたま道を聞いた従業員の店にいるというではありませんか。偶然の再会とはこのこと。その小料理屋の名が『大黒や』だったのです」、「この日を境に江本氏は大阪に行くたび大黒やを訪れるようになる。江本氏からすれば、板前の料理が目当てだった」、「店に顔を出すと必ずといっていいほど、尾上のおばちゃんがやってきて私のテーブルについたんです」、「「和食嫌いの私でも美味しく食べられる料理を作ってくれ」る「料理人」が「目当てだった」とは面白いものだ。
・『怪しげな儀式を行う尾上 尾上は、隣に来ると、なぜか箸の柄にガーゼを巻いて水で濡らして眼を何度も拭いていたという。何のおまじないだったのか?と江本氏は今でも首を傾げるのだが、そこでさらに奇妙な光景を目にする。 「目立たない店でしたが、大黒やはびしっとスーツを着込んだお客さんでいつもいっぱいでした。また店の奥には坪庭があって、そこに仏像が鎮座していたのが印象的だった。スーツのお客さんたちは、店に来ると皆、おかみさんに言われて仏像を拝むんです。さらに、坪庭の奥には事務所があって、男性が2人ほど常駐していました。お客さんの中には野球ファンもいるので、プロ野球の話をしているうちに何となく彼らの職業が分かってきた。スーツ姿の客は全員が銀行員か証券マン。それも支店長とか部長といった役職者ばかりだったのです」 恵川が尾上の「表向きの顔」なら、大黒やは「本業」の投資ビジネスを行う場所だった。だが、彼女のやることはすべて神がかりである。毎週日曜日の夕刻には、坪庭に金融マンを集め、尾上は「行(ぎょう)」に入る。頃合いを見計らって証券マンが「〇×株はどうでしょうか?」と聞くと、彼女の口から「この株、上がるぞよ~」とか「売りじゃ」とご託宣が降りてくる。株をやらない江本氏にはピンとこないシーンだが、大黒やの中で行われていることは世間の常識からも大きく外れており、異様な世界だった。 「ある時などは、大黒やの事務所にNTT株が束になって積んであるのを見ました。100枚以上あったと思います。同社の株は86年に初めての売り出しがあって、翌年2月の上場後数カ月で株価が3倍近くまで上がった。当時、公募株は抽選になり、一般の人にはなかなか手に入りにくかったはず。それが事務所の机に山のように積んである。これには、さすがに驚きました」』、「毎週日曜日の夕刻には、坪庭に金融マンを集め、尾上は「行(ぎょう)」に入る。頃合いを見計らって証券マンが「〇×株はどうでしょうか?」と聞くと、彼女の口から「この株、上がるぞよ~」とか「売りじゃ」とご託宣が降りてくる」、「ご託宣」が外れる場合も多いだろうが、どうするのだろう。
・『「チケット買うたる」 銀行・証券マンたちと話していると、尾上が彼らを引き連れてパチンコに出かけることがあると聞かされた。 「私はパチンコをやらないんだけど、尾上は“ここでやりなさい”などと台を指示するそうなのです。すると、ジャンジャカ出るという。そんなことってあるのかと思いました」 当時、ワイドショーの司会を始めていた江本氏にとって、尾上は格好の取材先だったのである。 寺尾氏の著書にも出てくるように、尾上は江本氏のために大サービスもしてくれた。大阪港に寄港していた豪華客船、クイーン・エリザベス2でのショーだ。 「それはね、ある時、大阪で僕のトークショーがあると大黒やで飯を食っているとき話をしたんです。そうしたら尾上のおばちゃんが“じゃあチケット買うたるから”と言う。チケットが売れても私が儲かる仕組みではなかったのですが、彼女は店に来ている客たちを10人かそこら連れて、来てくれたんですよ」 江本氏が本拠地の東京から大阪に行くのは、年に数度。プロ野球解説の合間に大黒やを訪れていたが、91年になると、店にもバブル崩壊の足音が聞こえはじめた。 「途中から店をとりまく雰囲気が変わってきましてね。何だか事件になるような話がマスコミから流れてきたりしたのです。それで、行きにくくなり、大阪で用があっても大黒やを訪れることはなくなりました」』、「大阪港に寄港していた豪華客船、クイーン・エリザベス2でのショーだ・・・尾上のおばちゃんが“じゃあチケット買うたるから”と言う。チケットが売れても私が儲かる仕組みではなかったのですが、彼女は店に来ている客たちを10人かそこら連れて、来てくれたんですよ」、「途中から店をとりまく雰囲気が変わってきましてね。何だか事件になるような話がマスコミから流れてきたりしたのです。それで、行きにくくなり、大阪で用があっても大黒やを訪れることはなくなりました」、「江本氏」はバブル崩壊は経験せずに済んだようだ。さすがだ。
・『尾上から影響されたこと すでに、大阪ではイトマン事件が表面化し、同社の河村良彦元社長や伊藤寿永光元常務が大阪地検特捜部に特別背任容疑で逮捕されていた。そしてマスコミ関係者の間では「イトマンの次は、尾上縫」と囁かれていたのだ。どこからか、それを聞きつけた尾上は、精神的に追い詰められるようになり、最後は自殺しかねない様子だったという。そのため大阪地検は捜査を早め、急遽、奈良地検から応援人員を頼んで、彼女の逮捕に踏み切る。 事件後、江本氏は彼女について人に話すことはほとんどなかった。一方、実刑判決を受けた尾上は出所後、2014年に亡くなり、生前に建てた高野山の墓所に葬られる。 当時、尾上との会話で印象に残っている言葉があるか、江本氏に聞いてみた。 「店の中で尾上のおばちゃんとは、世間話ぐらいしかしませんでした。でも彼女が“朝はちゃんと仏壇に線香と蝋燭を立てて、花の水も毎日替えてあげなアカンよ”とよく話していたのを覚えています。やることが神がかっていたのは確かだけど、昔の女性らしく親や先祖のことは大事にしていました。そう言われてから、私も先祖供養をきちんとやるようになった。彼女の言葉に影響されたのかもしれません」 30年という年月は長い。だが、つわものどもが徒花として散ったバブルの記憶は昨日のことのようでもある。 (江本氏の略歴はリンク先参照) 週刊新潮 2021年11月25日号掲載 特集「バブル崩壊から30年 不思議なめぐり逢いでベタ惚れされて…『江本孟紀』が初めて明かす“女帝相場師”『尾上縫』という徒花」より』、「江本氏」とのつながりは、今回の記事で初めて知った。最後は距離を置いたとは、「江本氏」はさすがだ。
第三に、本年5月27日付け東洋経済オンラインが掲載した作家・ジャーナリストの金田 信一郎氏による「「バブル」に踊らされた経営者に共通する考え方 EIEインターナショナルとバブル紳士に学ぶ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/673654
・『「景気が良くなんねえなあ」 そう嘆く社長は多い。いや、社長だけではない。大企業から中小企業まで、50代後半以上のオヤジ(私も含む)は、高い確率で「経済状態が悪い」と思っている。 昔はタクシーがつかまらなくて、1万円札をヒラヒラさせて止めたよなあ」 彼らの頭に焼き付いているのは、1980年代のバブル景気である。 だが、残念ながら、いくら待っても、そんな大波はやってこない。バブル景気とは、一般の景気循環とまったく違う。実質価値より価格が大きく超えて上昇している状態を指すものであり、そうなると皆が「われ先に」と買いに走るので、さらに価格が高騰する。そして、いつか夢がはじけ、経済が壊滅的な打撃を受ける。バブルは順ぐりに巡ってくるものではないし、そもそも巡らせてはならない』、興味深そうだ。
・『「バブル四天王」の多くの逸話 私はかつて『真説 バブル』(共著)を書くため、1年半にわたってバブル経済について調査・取材をした。バブル経済はカオスであり、集団的陶酔状態でもある。人々は正常な判断ができない。そして、そこには必ず、異常な状態に導いている人物がいる。 経済学者のガルブレイスもバブルを検証し、先導者の存在を指摘した。カネ集めに長けた「悪魔の錬金術師」が登場するというのだ。 80年代の日本のバブル経済にも、そんな男たちがいた。 「バブル四天王」。そう呼ばれたのは、麻布自動車の渡辺喜太郎氏、第一不動産の佐藤行雄氏、秀和の小林茂氏、そしてEIEインターナショナルの高橋治則氏だ。 彼らはそれぞれ数千億円から兆円単位のカネを動かしていた。不動産を転がし、銀行を手玉に取った彼らは多くの逸話を残している。 「社員旅行先はサイパン。専用ジェットを飛ばし、日本から花火師まで連れていった」「銀座のクラブを200万円で貸し切りにして、ママと風呂に入っていた」 中でも伝説的な男は高橋氏だろう。長銀などの金融機関から2兆円ものカネを借りて、世界の高級リゾートや一流ホテル、大学、ゴルフ場などを買いあさった。 慶応大学卒で、日本航空に入社、血縁に元長銀頭取がいたこともあって、バブル紳士の中では毛並みが良い人物とみられた。 だから、80年代後半、高橋氏が株式上場を目指すと、銀行がこぞってメインバンクの座を狙った。結果は、慶大出身の長銀マンが高橋氏に食い込んで勝利する。その頃、栃木に高橋氏のゴルフ場が完成、会員権は450万円から3000万円に跳ね上がった。その後、国内に次々とゴルフ場を造り、そのたびに会員権が数千万円で売れていった。 「日銀は1万円札しか刷れない。でも、私は1億円札が刷れるんですよ」。高橋氏はそう豪語した。 その1億円札こそが「環太平洋リゾート会員権」だった。EIEのリゾートを使える会員権を、億単位の価格で売り出す計画だった。そのため3機の自家用ジェットを購入。豪華な内装の中、シャンパンを飲みながら南の島に飛ぶ。このホテル買い占めツアーに、金融関係者や政治家が同行した。そして、即決に近い形で100億円単位の買い物に融資をしていった。 サイパンの最高級ホテル、ハイアット・リージェンシー・サイパンを皮切りに、「南太平洋最高のリゾート」と称された豪サンクチュアリー・コーブ、ハワイ高級リゾートなどを手にしていく。80年代後半だけで長銀は約5000億円を高橋氏のグループに注ぎ込む。 要するに、カネは膨らませたもの勝ちなのだ。リゾート構想なる大風呂敷を広げて、金額を膨らませていく。倍々ゲームである。どこの銀行も、貸し出し競争に負けじとマネーを注ぎ込んでいった。 だが中身は空っぽだった。高橋氏の部下にこっそり資産一覧を見せてもらったことがある。そこには物件名と買収額こそ記載されていたが、売上高や利益の数字が見当たらない。部下はこう解説した。 「それは、はっきり言って売上高がほとんどないからです。あれば書きますよ」 え、売り上げがない……。2兆円を使って買いあさった施設が、最盛期でも売上高は数十億円……。ということは、巨額の借金の利払いすらできないのでは』、「「日銀は1万円札しか刷れない。でも、私は1億円札が刷れるんですよ」。高橋氏はそう豪語」、「その1億円札こそが「環太平洋リゾート会員権」だった。EIEのリゾートを使える会員権を、億単位の価格で売り出す計画だった。そのため3機の自家用ジェットを購入。豪華な内装の中、シャンパンを飲みながら南の島に飛ぶ。このホテル買い占めツアーに、金融関係者や政治家が同行した。そして、即決に近い形で100億円単位の買い物に融資をしていった」、「2兆円を使って買いあさった施設が、最盛期でも売上高は数十億円……。ということは、巨額の借金の利払いすらできないのでは」、返済のことを考えずに借金するムードも確かにあった。
・『「責任」を負わない高橋兄弟 そして90年代、バブル経済が崩壊する。慌てた長銀はEIEグループに役員を送り込み、資産売却を進めるが、価格暴落でほとんど回収できなかった。結果、名門バンクの長銀は、98年にあえなく破綻し、高橋氏の会社も破産宣告を受け、自身も背任の罪に問われることになる。 だが当時、高橋氏を訪ねて元赤坂のオフィスに行くと、彼は悠然とデスクにふんぞり返っていた。 「あれは、銀行が勝手に貸し付けてきたものですからね」 はあ。でも、借りたのは高橋さんですよね? 当時、兄の高橋治之氏にも会いに行った。場所は築地の旧電通本社ビル。そう。五輪汚職事件で受託収賄罪に問われている電通元専務が実兄である。 治之氏はこう弟をかばった。 「周囲にはめられただけだ」 え、はめられた? だって、銀行から借りたのは事実であり、その経営トップは治則氏では? だが、この兄弟に「責任」という文字はない。今回の五輪の贈収賄事件もそうだ。公職の立場にありながらスポンサー選定で便宜を図り、見返りにカネを受け取っていた。なのに「関わっていない」「公職とは知らなかった」という。 おそらく、スポーツの世界大会を日本に引っ張ってきてやったんだ、という思いが強いのだろう。 スポーツにカネを出せ、と。 誰が払うって、スポンサーになりたい大企業だよ、大企業! テレビ局も、もっと放映権料を出せよ。じゃないと、ほかの局に持ってくぞ。今はアマゾンやネット放送だってあるんだからな! この豪腕によって、五輪やワールドカップなどの国際スポーツ大会は費用が吊り上げられている。つまり、バブル状態なのだ。 これからも、巨額の放映権料をテレビ局が払えず、視聴者である我々は、その都度、アマゾンプライムやらWOWOWやらに加入するかどうか、迷うことになる。 「地上波で流せるように、テレビ局が払えよ」という声もある。だが、問題はそう単純ではない。テレビ局が放映権を買うということは、広告を出している大企業が払っている構図なのだ。だから、商品価格が上がるなどして、結局は国民が「高すぎるスポーツ放映権料」を払うことになる。 その上、高橋氏は各企業にコンサルティング料を5000万円とか7000万円とか払わせている。やはり、バブルってやつが巡ってきてはいけないのである。 【情報提供をお願いします】東洋経済ではあなたの周りの「ヤバい会社」「ヤバい仕事」の情報を募っています。ご協力いただける方はこちらへ』、「兄の高橋治之氏にも会いに行った・・・五輪汚職事件で受託収賄罪に問われている電通元専務が実兄である。 治之氏はこう弟をかばった。 「周囲にはめられただけだ」 え、はめられた? だって、銀行から借りたのは事実であり、その経営トップは治則氏では? だが、この兄弟に「責任」という文字はない。今回の五輪の贈収賄事件もそうだ。公職の立場にありながらスポンサー選定で便宜を図り、見返りにカネを受け取っていた。なのに「関わっていない」「公職とは知らなかった」という。 おそらく、スポーツの世界大会を日本に引っ張ってきてやったんだ、という思いが強いのだろう」、それにしても、兄弟揃って、無責任なのには呆れる。「スポーツにカネを出せ、と。 誰が払うって、スポンサーになりたい大企業だよ、大企業! テレビ局も、もっと放映権料を出せよ。じゃないと、ほかの局に持ってくぞ。今はアマゾンやネット放送だってあるんだからな! この豪腕によって、五輪やワールドカップなどの国際スポーツ大会は費用が吊り上げられている。つまり、バブル状態なのだ。 これからも、巨額の放映権料をテレビ局が払えず、視聴者である我々は、その都度、アマゾンプライムやらWOWOWやらに加入するかどうか、迷うことになる」、「国際スポーツ大会」では「バブル状態なのだ」、とはやれやれだ。
先ずは、2021年3月20日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの児玉 博氏による「バブルの狂乱、いま明かされる銀行と権力の「すさまじい暗闘」の全深層」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/80850?imp=0
・『「賭け麻雀」騒動が投げかけた問い その人事は「賭け麻雀」が発覚し、あっけなく幕引きとなったのが安倍政権下で行われようとしていた検事総長人事だった。昨年5月のことだ。 官僚人事を掌握し、その人事権で官僚を統治した安倍政権。その象徴でもあったのが東京高検検事長の黒川弘務を検事総長にするために、検事長の退官を63歳と定めた検察庁法を改め、退官年時を半年間延長した、いわゆる“定年問題”だった。この“定年問題”は、賭け麻雀で一気に終息したが、この問題は改めて政治と検察との在りようを問うこととなった。 かつて検察庁はロッキード事件(1976年)では元首相、田中角栄を逮捕した。検察庁は行政機関に組み込まれた一組織であることに変わりはない。 けれども、このロッキード事件に国民の多くが喝采を送ったのは、たとえ元首相であろうとも逮捕に踏み切った政治からの独立性だった。当時、主任検事だった吉永祐介(後の検事総長)は、“ミスター特捜”とも呼ばれ、ドラマの主人公となるほどその検察官としての高潔さを讃えられた。 しかし、検察と政治家など権力者との距離感は常に微妙な問題を孕んでいる。 筆者はかつて住友銀行(現、三井住友銀行)の伝説の“MOF(大蔵省担当)担”と呼ばれ、住友銀行を窮地に追いやったイトマン事件では、救世主となり、事件の元凶であった“住友銀行の天皇”磯田一郎(当時、会長)とその取り巻きを一掃するきっかけを作り出した国重惇史(元丸の内支店長)が、20数年間、秘匿し続けたメモを託された。 かつて、1986年に住友銀行により吸収合併された平和相互銀行という銀行が存在していた。後に金屏風事件など数々の事件を引き起こすきっかけとなったこの合併劇に深く関わっていたのが國重だった。その国重が合併劇の内幕を一部始終を書き残したのが“國重メモ”だ』、「住友銀行により吸収合併された平和相互銀行・・・この合併劇に深く関わっていたのが國重だった。その国重が合併劇の内幕を一部始終を書き残したのが“國重メモ”だ」、「伝説の“MOF担”」による「メモ」とは興味深そうだ。
・『国重メモとは何か 筆者はそのメモを元に『堕ちたバンカー 國重惇史の証言』という本を上梓した。 国重は39歳ながらこの合併劇に立役者の1人だった。大蔵省、日銀、竹下登(当時、大蔵大臣)、そし検察庁幹部などに接近しては、住友銀行に吸収合併させて行く様を克明に描いた“國重メモ”の迫力、詳細さは圧巻だった。この“國重メモ”が明らかになったことにより、長らく日本金融史史の闇とされていた、合併劇の内幕、金屏風事件の内幕などがすべて明らかとなったのである。 このメモの中で、筆者を驚愕させた1つが住友銀行と検察幹部との関係だった。 そもそも、住友銀行が、検察・国税との関係が深まるきっかけとなったのは、検事総長だった安原美穂(戦後12代目。1981〜1983)を顧問弁護士に迎えたことだった。安原を囲む現役検察幹部らの親睦の会ができ、それを住友銀行が支えた。 当初、大阪で始まり、その宴席が料亭「花月」で行われたことからその会は「花月会」と呼ばれた。料亭「花月」は後に東京にも出店し、その後は東京での会合が主になっていった。どの金融機関も検察、警察との関係を築いてはいる。けれども、住友銀行のそれは他の金融機関を圧するほどのものだったことが“国重メモ”からはうかがえる』、「住友銀行が、検察・国税との関係が深まるきっかけとなったのは、検事総長だった安原美穂・・・を顧問弁護士に迎えたことだった。安原を囲む現役検察幹部らの親睦の会ができ、それを住友銀行が支えた」、「親睦の会」の費用も「住友銀行」が負担したのだろうか、当時だったらあり得る話だ。
・『平和相互銀行をめぐる暗闘 当時は、“住友銀行の天皇”と呼ばれていた会長、磯田一郎の号令一下始まった「平和相互銀行」の吸収合併工作が行われていた。 住友銀行の水面下での工作は、大蔵省(現財務省)、日本銀行、蔵相、竹下登(後の総理大臣)、そして検察庁と多岐に渡った。しかも、工作する相手は幹部ばかり。“国重メモ”を読めば読むほど、住友銀行という一民間金融機関に過ぎない銀行が、金融当局のみならず、政界、検察の最深部にこれほどの人脈を築きあげていることにまず驚かされる。 “国重メモ”の中身を見ていこう。 まず昭和60年11月22日の項には次のように記されている。面談をしているのは、住友銀行取締役、松下武義。国重の上司であり、当時、住友銀行の“政治部長”と言われていた人物。この松下に相対している人物の名前は、伊藤栄樹。この時、東京高等検察庁検事長だった。検察庁ナンバー2の座にあった伊藤は、誰もが認める次期検事総長候補だった。 「平和相互銀行」の吸収合併を目論む住友銀行には1つの大きな障害があった。それは、「平和相互銀行」内で合併に強行に反対している勢力の存在だった。その筆頭が元東京地検特捜部の検事で“カミソリ伊坂”とも異名をとった監査役、伊坂重昭だった。伊坂を筆頭に同銀行幹部3人は合併に反対しており、特に伊坂の存在は悩ましかった。そんな折に実現したのが、松下と伊藤との宴席だった。 松下から聞き取った“国重メモ”はこう記している。 〈伊藤 心配するな。自分が(検事)総長になるであろう。12月下旬以降、1月か2月には必ずなる。あの銀行は年々1000オク(億円)悪くなっている。今やらねばならない。MOF(大蔵省)はだらしない。自分は第一相互の時の主任検事だったが、その時もMOFをギュギュやった。MOFに再建プランを出せと言ってある〉 伊藤栄樹は“ミスター検察”と呼ばれたほど、誰もが認めるエースだった。伊藤自身が就任時の訓示で吐いた「巨悪は眠らせるな」のフレーズは余りに有名だった。 退官後、「秋霜烈日」という回想録を記した伊藤は、その中で検察と政治との微妙な距離感について触れ、検事といえども行政官であることの苦渋を遠回しな表現ながら吐露している。その“ミスター検察”が、住友銀行側に「心配するな」「大蔵省には言ってある」などと発言をしているわけだ。 同年12月19日、松下から国重への電話での会話は次のようにメモされていた。 〈検察に行って話を聞いた。「騒がしくなる」 伊坂の逮捕は間違いないだろう〉 松下は直接、東京地検に出向き、そこで東京地検幹部と面談。事件の感触を掴み、それを国重に伝えている。このように松下、つまり住友銀行の検察担当は捜査当局に入り込み、情報を入手していた。もちろん、捜査当局側とて微妙な駆け引きはしていただろうが』、「「平和相互銀行」内で合併に強行に反対している勢力の存在だった。その筆頭が元東京地検特捜部の検事で“カミソリ伊坂”とも異名をとった監査役、伊坂重昭だった。伊坂を筆頭に同銀行幹部3人は合併に反対しており、特に伊坂の存在は悩ましかった」、これに対し、「伊藤 心配するな。自分が(検事)総長になるであろう。12月下旬以降、1月か2月には必ずなる」、「「騒がしくなる」 伊坂の逮捕は間違いないだろう〉 松下は直接、東京地検に出向き、そこで東京地検幹部と面談。事件の感触を掴み、それを国重に伝えている。このように松下、つまり住友銀行の検察担当は捜査当局に入り込み、情報を入手していた。もちろん、捜査当局側とて微妙な駆け引きはしていただろうが」、反対派をそれを上回る「検察の序列」を通じて潰すとは、凄い工作だ。
・『自宅への電話 これ以前の「国重メモ」にも東京地検特捜部と住友銀行との関係が伺える部分が見られる。 たとえば昭和60年6月25日、地検内部の声を次のように記している。 〈H(平和相互銀行)の職員を呼んで事情聴取することは消極的。「やる時は一斉にバサッとやる」「そのためにOBらと極秘裏に会いたい。仲介を頼みたい」 さらにメモは続く。〈同年7月12日 今日、検察に追加資料を持っていった。地検は「何かスパッとどぎついのはないか」。 同年7月18日 地検に行く。「パンチのきいた材料が欲しい」〉 最終的に平和相互銀行は、こうした昭和61年(1986年)10月1日をもって住友銀行に吸収合併され、その名前は日本の金融史から消える。が、実質的に平和相互銀行が住友銀行の軍門に降るのは同年2月6日、合併反対を唱え続けていた伊坂ら反対派の幹部が辞任した時だったといえるだろう。 そんな折の昭和61年1月9日、松下は検事総長、伊藤と面会する。メモはこう記している。 〈伊藤栄樹に会った。「金繰りピンチ。早く動いてくれないとパンクしてしまうかも」と言ったら、「わかった」と。1月中に動くかもしれない。〉 平和相互銀行の信用不安が株式市場に流れ始め、同銀行からの預金流失が続いている状況を松下は「金繰りピンチ」と訴えたのである。 同年1月14日、松下の動きを国重はこうメモしている。 〈昨日、地検の吉永部長と会った。「総長の陣頭指揮で危なくて、情報が取れない。ただそんなに早くやれるとは思えない」〉 この吉永部長というのは、ロッキード事件で名を馳せ、“ミスター特捜”とも呼ばれたあの吉永祐介だ。吉永はこの時、最高検公判部長の職にあった。その吉永が、平和相互銀行事件は検事総長、伊藤の直轄で捜査をしていた。〈同年1月24日 今朝、吉永公判部長より自宅から(松下の)自宅に電話あり。「昨日、次席検事と会った。その話では本件大きくならない。伊坂についてのデータ、集まりが悪い。地検も急いではいないようだ。但し、地検は仲間内でもウソあり」と〉』、「松下は検事総長、伊藤と面会する。メモはこう記している。〈伊藤栄樹に会った。「金繰りピンチ。早く動いてくれないとパンクしてしまうかも」と言ったら、「わかった」・・・「平和相互銀行の信用不安が株式市場に流れ始め、同銀行からの預金流失が続いている状況を松下は「金繰りピンチ」と訴えた」、「吉永公判部長より自宅から(松下の)自宅に電話あり。「昨日、次席検事と会った。その話では本件大きくならない・・・」、「住友銀行」の情報網は、驚くほどしっかりしていたようだ。
・『メモが投げかける「大きな意味」 結局、先にも触れたように吸収合併を画策する住友銀行の最大の障害であった伊坂らは2月6日に銀行をさり、さらにおよそ5ヶ月後の7月6日、特別背任容疑で東京地検特捜部の手によって逮捕される。 “国重メモ”が明らかにされるまで、こうした事実は一切明らかにあることはなかった。 “国重メモ”は、ひとつの銀行が、大蔵省、日銀、政治家などに広く、そして深くかかわっていた時代の現実を詳らかにした。そんな“国重メモ”が投げかける意味は今も変わらない――』、住友との合併に反対していた検察OBで平和相互銀行監査役の「伊坂」を「特別背任容疑で東京地検特捜部の手によって逮捕」とは、単に反対していただけでなく、どこかから裏金でも受け取っていたのかも知れない。「検察」をここまで利用し尽くしたとは、さすが住友銀行だ。
次に、2021年11月26日付けデイリー新潮「投資額は2兆7700億円 江本孟紀が初めて明かす“女帝相場師・尾上縫”の素顔」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/11261057/?all=1
・『店のテーブルには金融関係者がずらりと陣取り、奥の庭からは時折、どんな銘柄が上がるのか占うご託宣が聞こえる。2700億円をだまし取ったとして浪花の料亭経営者「尾上縫」が摘発されて30年、彼女がベタ惚れしたプロ野球解説者・江本孟紀氏(74)が振り返る。 内閣府のレポートには、かつて日本中を狂奔させたバブル経済は、1991年3月をもって“崩壊”が始まったとある。ちょうど30年前のことだが、人々に宴の終りを感じさせたのは、その5カ月後の出来事だったに違いない。 同年8月13日の早朝、大阪地検特捜部は大阪・千日前の料亭「恵川」のおかみ・尾上縫(61)=当時=を有印私文書偽造などの容疑で逮捕する。東洋信用金庫に巨額の預金があるように見せかけ、それを担保に大手金融機関から2700億円もの金をだまし取っていたのだ。 詐欺そのものは複雑ではなく、端緒は日本興業銀行が発行していたワリコー(割引金融債)を大量に買ったことだった。 奈良の貧困家庭の出身だった尾上は、ミナミの料亭で仲居だった時、大手住宅メーカーの会長が“旦那”になり、恵川を開店。会長からもらった三十数億円を元手にワリコー10億円分を買い付ける。それを担保に興銀が融資し、さらにワリコーを買い増した。いつしかワリコーの額が膨れ上がると興銀の黒澤洋頭取が、夫婦連れで恵川を表敬訪問したこともあった。 一介の料亭経営者ながら天下の興銀が融資している。それを知った他の大銀行も競うように金を貸し、5年間で彼女に貸し付けられた金は延べで2兆7736億円にものぼった。これは本州と四国を結ぶ瀬戸大橋を含む本四架橋の総工費に匹敵する。さらに尾上はこの金でNTTや新日鉄の株を買い漁ったものだから、北浜の証券界では「謎の女相場師」として名を馳せたのだ。だが、所詮は借金をぐるぐる回すだけの錬金術である。怪しんだ銀行が資金を引き揚げると、彼女が手を染めたのが架空預金証書による詐欺だったというわけである』、超大企業としか取引しない「興銀」の「黒澤洋頭取が、夫婦連れで」、「料亭「恵川」のおかみ・尾上縫」、「を表敬訪問」、との事実は国会喚問で明らかにされただけに、全国に大きな衝撃を与えた。
・『江本氏が特ダネを取れた理由 尾上逮捕の一報に新聞・テレビは料亭に押しかけ、連行される姿を追いかけた。が、地検に入る彼女はただの地味な老女にしか見えない。女傑からはほど遠いイメージに誰もが首をひねった。ところが、その日のニュースで、すぐさまフジテレビだけが、彼女の生々しい“素顔”を流す。株の注文欲しさに料亭に蝟集する大手証券マンや、融資話を持ち込んでくる大銀行の幹部。そして数千万円の着物を身にまとい、満面の笑みで株券の束をわし掴みにしてみせる尾上。その様子は、歪み切った世相そのものだったといえよう。 ネタを明かせば、同局が尾上の映像を流すことができたのは、逮捕の2年前に運よく恵川や姉妹店「大黒や」の奥までカメラを入れ、彼女のインタビュー映像を撮っていたからだ。フジテレビに、この特ダネを提供したのは、株や金融の世界には門外漢のはずの、あのエモやんこと江本孟紀氏である。当時の江本氏は阪神のピッチャーを引退して、著書『プロ野球を10倍楽しく見る方法』が大ヒット。野球解説者のほか、ドラマの役者、歌手などマルチタレントとして活動していた。 その江本氏が言う。 その頃、私はフジの『なんてったって好奇心』という番組の司会を三田寛子さんと一緒にやっていたんです。当時、プロデューサーだった太田英昭さん(後のフジ・メディア・ホールディングス社長)に“大阪にすごいオバさんがいる”って教えてあげたら、ぜひ会って取材したいという。それで尾上のおばちゃんに電話で聞いてみたら“ええよ”って二つ返事でOKだったのです」 謎の女相場師を登場させた番組は、ゴールデンタイムに放送されたが、その時点で錬金術の正体を知る者は誰もいなかった。それにしても、株取引もせず、酒も飲まない江本氏と、尾上には、どんな接点があったのだろうか』、「江本氏と、尾上には、どんな接点があったのだろうか」、確かに不思議だ。
・『江本氏に入れ込んでいた尾上 「もともと尾上さんを私に紹介してくれたのは、日本リスクコントロールという会社を経営している寺尾文孝さんという人なのです」 と江本氏。ここで寺尾氏のことを説明しておこう。寺尾氏は、警察官出身で、警視総監、法務大臣を歴任した秦野章氏の秘書を務めたのちに日本リスクコントロールを設立。政界・警察・芸能界に顔が利くことで知られた人物だ。今年6月に寺尾氏が半生を振り返って出版した『闇の盾』(講談社)には、寺尾氏が対峙してきたバブル紳士に並んで、 〈尾上縫がベタ惚れした男〉として、江本氏が登場する。 それによると、寺尾氏から江本氏を紹介された尾上は、初対面からすっかり彼のことを気に入ってしまう。当時40歳前後の江本氏は188センチのすらりとしたスタイルに端正な甘いマスク。人当たりが良くて話も面白く、おまけに有名人である。江本氏が豪華客船でディナーショーを開くと聞けば、チケットを数十枚も買い証券会社や銀行の幹部らを引き連れて観に行くほどの入れ込みようだった。そんな江本氏の頼みだからと、テレビの取材も快諾したのだろう。 改めて江本氏が尾上との出会いを話す。 「私の父親が高知県で警察官をしていたことから、寺尾さんとは気が合って昭和51年ぐらいからの付き合いでした。年に数度食事に行くような関係だったのですが、その寺尾さんが日本ドリーム観光という会社の副社長に就いて大阪に行くことになった。私も大阪で阪神戦の野球解説があるので、向こうで会う約束をしたのです。その際、寺尾さんと待ち合わせしたのが料亭『恵川』でした」』、「尾上は、初対面からすっかり彼のことを気に入ってしまう。当時40歳前後の江本氏は188センチのすらりとしたスタイルに端正な甘いマスク。人当たりが良くて話も面白く、おまけに有名人である。江本氏が豪華客船でディナーショーを開くと聞けば、チケットを数十枚も買い証券会社や銀行の幹部らを引き連れて観に行くほどの入れ込みようだった」、大いにあり得る話だ。
・『特別な客 日本ドリーム観光とは、大阪の新歌舞伎座や横浜ドリームランドなどを経営していた老舗の興行会社。だが、当時、元暴力団組長で、株の仕手戦で巨額の金を動かした「コスモポリタン」の会長・池田保次氏に“食い物”にされており、経営陣の内紛も勃発していた。寺尾氏は立て直しのため、87年、日本ドリーム観光に乗り込む。 大阪に常駐するようになった寺尾氏は、自分の友人・知人も連れて恵川に通った。江本氏のほか、勝新太郎、当時の大阪府警本部長や刑事部長もその中にいた。上客ばかりを紹介してくれる寺尾氏は、尾上にとって特別な客だったに違いない。当時、銀行から湯水のように金を引き出していた彼女は、寺尾氏に「新歌舞伎座を600億円で私に売ってほしい」と持ち掛けたこともある。 江本氏が続ける。 「でも、実をいえば私は和食が嫌いだったんです。酒も飲まないし、寺尾さんに誘われただけなら、彼女の店に行くのは、その一回だけで終わっていたかもしれません」』、「江本氏・・・「でも、実をいえば私は和食が嫌いだったんです。酒も飲まないし、寺尾さんに誘われただけなら、彼女の店に行くのは、その一回だけで終わっていたかもしれません」、「江本氏」も無理をして付き合ったのだろうか。
・『NTT株の束 会食当日、寺尾氏から教えてもらった住所を頼りに繁華街のミナミに出かけた江本氏は、とある木造3階建ての小料理屋の前で、打ち水をしている女性従業員に「この辺で恵川って店知りません?」と尋ねる。 「すると、その人が“あんた江本さんやないの!? うちの板前が、あんたのこと懐かしがってたわ”と言うではありませんか。聞けば、私が以前、贔屓にしていた料理人が、その小料理屋にいるという。彼はもともと北新地の料亭にいて、和食嫌いの私でも美味しく食べられる料理を作ってくれた。鴨料理やカツオのたたきなどが絶品なのです。ところが、ある日突然、料亭は閉店。料理人もぷっつりと連絡がつかなくなっていました。それが、たまたま道を聞いた従業員の店にいるというではありませんか。偶然の再会とはこのこと。その小料理屋の名が『大黒や』だったのです」 前述のとおり、大黒やは恵川の姉妹店で店もすぐ裏手にあった。尾上は“旦那”の住宅メーカー会長からもらった三十数億円を、しばらく大黒やの3階にある箪笥の引き出しに現金のまま保管していたこともある。 とまれ、この日を境に江本氏は大阪に行くたび大黒やを訪れるようになる。江本氏からすれば、板前の料理が目当てだった。 「恵川はちゃんとした料亭でしたが、大黒やは小料理屋。玄関を入るとカウンターがあって、20人も入ればいっぱいになるような店だった。料金も1人7千~8千円と安めでしたが、店に顔を出すと必ずといっていいほど、尾上のおばちゃんがやってきて私のテーブルについたんです」』、「和食嫌いの私でも美味しく食べられる料理を作ってくれた。鴨料理やカツオのたたきなどが絶品なのです。ところが、ある日突然、料亭は閉店。料理人もぷっつりと連絡がつかなくなっていました。それが、たまたま道を聞いた従業員の店にいるというではありませんか。偶然の再会とはこのこと。その小料理屋の名が『大黒や』だったのです」、「この日を境に江本氏は大阪に行くたび大黒やを訪れるようになる。江本氏からすれば、板前の料理が目当てだった」、「店に顔を出すと必ずといっていいほど、尾上のおばちゃんがやってきて私のテーブルについたんです」、「「和食嫌いの私でも美味しく食べられる料理を作ってくれ」る「料理人」が「目当てだった」とは面白いものだ。
・『怪しげな儀式を行う尾上 尾上は、隣に来ると、なぜか箸の柄にガーゼを巻いて水で濡らして眼を何度も拭いていたという。何のおまじないだったのか?と江本氏は今でも首を傾げるのだが、そこでさらに奇妙な光景を目にする。 「目立たない店でしたが、大黒やはびしっとスーツを着込んだお客さんでいつもいっぱいでした。また店の奥には坪庭があって、そこに仏像が鎮座していたのが印象的だった。スーツのお客さんたちは、店に来ると皆、おかみさんに言われて仏像を拝むんです。さらに、坪庭の奥には事務所があって、男性が2人ほど常駐していました。お客さんの中には野球ファンもいるので、プロ野球の話をしているうちに何となく彼らの職業が分かってきた。スーツ姿の客は全員が銀行員か証券マン。それも支店長とか部長といった役職者ばかりだったのです」 恵川が尾上の「表向きの顔」なら、大黒やは「本業」の投資ビジネスを行う場所だった。だが、彼女のやることはすべて神がかりである。毎週日曜日の夕刻には、坪庭に金融マンを集め、尾上は「行(ぎょう)」に入る。頃合いを見計らって証券マンが「〇×株はどうでしょうか?」と聞くと、彼女の口から「この株、上がるぞよ~」とか「売りじゃ」とご託宣が降りてくる。株をやらない江本氏にはピンとこないシーンだが、大黒やの中で行われていることは世間の常識からも大きく外れており、異様な世界だった。 「ある時などは、大黒やの事務所にNTT株が束になって積んであるのを見ました。100枚以上あったと思います。同社の株は86年に初めての売り出しがあって、翌年2月の上場後数カ月で株価が3倍近くまで上がった。当時、公募株は抽選になり、一般の人にはなかなか手に入りにくかったはず。それが事務所の机に山のように積んである。これには、さすがに驚きました」』、「毎週日曜日の夕刻には、坪庭に金融マンを集め、尾上は「行(ぎょう)」に入る。頃合いを見計らって証券マンが「〇×株はどうでしょうか?」と聞くと、彼女の口から「この株、上がるぞよ~」とか「売りじゃ」とご託宣が降りてくる」、「ご託宣」が外れる場合も多いだろうが、どうするのだろう。
・『「チケット買うたる」 銀行・証券マンたちと話していると、尾上が彼らを引き連れてパチンコに出かけることがあると聞かされた。 「私はパチンコをやらないんだけど、尾上は“ここでやりなさい”などと台を指示するそうなのです。すると、ジャンジャカ出るという。そんなことってあるのかと思いました」 当時、ワイドショーの司会を始めていた江本氏にとって、尾上は格好の取材先だったのである。 寺尾氏の著書にも出てくるように、尾上は江本氏のために大サービスもしてくれた。大阪港に寄港していた豪華客船、クイーン・エリザベス2でのショーだ。 「それはね、ある時、大阪で僕のトークショーがあると大黒やで飯を食っているとき話をしたんです。そうしたら尾上のおばちゃんが“じゃあチケット買うたるから”と言う。チケットが売れても私が儲かる仕組みではなかったのですが、彼女は店に来ている客たちを10人かそこら連れて、来てくれたんですよ」 江本氏が本拠地の東京から大阪に行くのは、年に数度。プロ野球解説の合間に大黒やを訪れていたが、91年になると、店にもバブル崩壊の足音が聞こえはじめた。 「途中から店をとりまく雰囲気が変わってきましてね。何だか事件になるような話がマスコミから流れてきたりしたのです。それで、行きにくくなり、大阪で用があっても大黒やを訪れることはなくなりました」』、「大阪港に寄港していた豪華客船、クイーン・エリザベス2でのショーだ・・・尾上のおばちゃんが“じゃあチケット買うたるから”と言う。チケットが売れても私が儲かる仕組みではなかったのですが、彼女は店に来ている客たちを10人かそこら連れて、来てくれたんですよ」、「途中から店をとりまく雰囲気が変わってきましてね。何だか事件になるような話がマスコミから流れてきたりしたのです。それで、行きにくくなり、大阪で用があっても大黒やを訪れることはなくなりました」、「江本氏」はバブル崩壊は経験せずに済んだようだ。さすがだ。
・『尾上から影響されたこと すでに、大阪ではイトマン事件が表面化し、同社の河村良彦元社長や伊藤寿永光元常務が大阪地検特捜部に特別背任容疑で逮捕されていた。そしてマスコミ関係者の間では「イトマンの次は、尾上縫」と囁かれていたのだ。どこからか、それを聞きつけた尾上は、精神的に追い詰められるようになり、最後は自殺しかねない様子だったという。そのため大阪地検は捜査を早め、急遽、奈良地検から応援人員を頼んで、彼女の逮捕に踏み切る。 事件後、江本氏は彼女について人に話すことはほとんどなかった。一方、実刑判決を受けた尾上は出所後、2014年に亡くなり、生前に建てた高野山の墓所に葬られる。 当時、尾上との会話で印象に残っている言葉があるか、江本氏に聞いてみた。 「店の中で尾上のおばちゃんとは、世間話ぐらいしかしませんでした。でも彼女が“朝はちゃんと仏壇に線香と蝋燭を立てて、花の水も毎日替えてあげなアカンよ”とよく話していたのを覚えています。やることが神がかっていたのは確かだけど、昔の女性らしく親や先祖のことは大事にしていました。そう言われてから、私も先祖供養をきちんとやるようになった。彼女の言葉に影響されたのかもしれません」 30年という年月は長い。だが、つわものどもが徒花として散ったバブルの記憶は昨日のことのようでもある。 (江本氏の略歴はリンク先参照) 週刊新潮 2021年11月25日号掲載 特集「バブル崩壊から30年 不思議なめぐり逢いでベタ惚れされて…『江本孟紀』が初めて明かす“女帝相場師”『尾上縫』という徒花」より』、「江本氏」とのつながりは、今回の記事で初めて知った。最後は距離を置いたとは、「江本氏」はさすがだ。
第三に、本年5月27日付け東洋経済オンラインが掲載した作家・ジャーナリストの金田 信一郎氏による「「バブル」に踊らされた経営者に共通する考え方 EIEインターナショナルとバブル紳士に学ぶ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/673654
・『「景気が良くなんねえなあ」 そう嘆く社長は多い。いや、社長だけではない。大企業から中小企業まで、50代後半以上のオヤジ(私も含む)は、高い確率で「経済状態が悪い」と思っている。 昔はタクシーがつかまらなくて、1万円札をヒラヒラさせて止めたよなあ」 彼らの頭に焼き付いているのは、1980年代のバブル景気である。 だが、残念ながら、いくら待っても、そんな大波はやってこない。バブル景気とは、一般の景気循環とまったく違う。実質価値より価格が大きく超えて上昇している状態を指すものであり、そうなると皆が「われ先に」と買いに走るので、さらに価格が高騰する。そして、いつか夢がはじけ、経済が壊滅的な打撃を受ける。バブルは順ぐりに巡ってくるものではないし、そもそも巡らせてはならない』、興味深そうだ。
・『「バブル四天王」の多くの逸話 私はかつて『真説 バブル』(共著)を書くため、1年半にわたってバブル経済について調査・取材をした。バブル経済はカオスであり、集団的陶酔状態でもある。人々は正常な判断ができない。そして、そこには必ず、異常な状態に導いている人物がいる。 経済学者のガルブレイスもバブルを検証し、先導者の存在を指摘した。カネ集めに長けた「悪魔の錬金術師」が登場するというのだ。 80年代の日本のバブル経済にも、そんな男たちがいた。 「バブル四天王」。そう呼ばれたのは、麻布自動車の渡辺喜太郎氏、第一不動産の佐藤行雄氏、秀和の小林茂氏、そしてEIEインターナショナルの高橋治則氏だ。 彼らはそれぞれ数千億円から兆円単位のカネを動かしていた。不動産を転がし、銀行を手玉に取った彼らは多くの逸話を残している。 「社員旅行先はサイパン。専用ジェットを飛ばし、日本から花火師まで連れていった」「銀座のクラブを200万円で貸し切りにして、ママと風呂に入っていた」 中でも伝説的な男は高橋氏だろう。長銀などの金融機関から2兆円ものカネを借りて、世界の高級リゾートや一流ホテル、大学、ゴルフ場などを買いあさった。 慶応大学卒で、日本航空に入社、血縁に元長銀頭取がいたこともあって、バブル紳士の中では毛並みが良い人物とみられた。 だから、80年代後半、高橋氏が株式上場を目指すと、銀行がこぞってメインバンクの座を狙った。結果は、慶大出身の長銀マンが高橋氏に食い込んで勝利する。その頃、栃木に高橋氏のゴルフ場が完成、会員権は450万円から3000万円に跳ね上がった。その後、国内に次々とゴルフ場を造り、そのたびに会員権が数千万円で売れていった。 「日銀は1万円札しか刷れない。でも、私は1億円札が刷れるんですよ」。高橋氏はそう豪語した。 その1億円札こそが「環太平洋リゾート会員権」だった。EIEのリゾートを使える会員権を、億単位の価格で売り出す計画だった。そのため3機の自家用ジェットを購入。豪華な内装の中、シャンパンを飲みながら南の島に飛ぶ。このホテル買い占めツアーに、金融関係者や政治家が同行した。そして、即決に近い形で100億円単位の買い物に融資をしていった。 サイパンの最高級ホテル、ハイアット・リージェンシー・サイパンを皮切りに、「南太平洋最高のリゾート」と称された豪サンクチュアリー・コーブ、ハワイ高級リゾートなどを手にしていく。80年代後半だけで長銀は約5000億円を高橋氏のグループに注ぎ込む。 要するに、カネは膨らませたもの勝ちなのだ。リゾート構想なる大風呂敷を広げて、金額を膨らませていく。倍々ゲームである。どこの銀行も、貸し出し競争に負けじとマネーを注ぎ込んでいった。 だが中身は空っぽだった。高橋氏の部下にこっそり資産一覧を見せてもらったことがある。そこには物件名と買収額こそ記載されていたが、売上高や利益の数字が見当たらない。部下はこう解説した。 「それは、はっきり言って売上高がほとんどないからです。あれば書きますよ」 え、売り上げがない……。2兆円を使って買いあさった施設が、最盛期でも売上高は数十億円……。ということは、巨額の借金の利払いすらできないのでは』、「「日銀は1万円札しか刷れない。でも、私は1億円札が刷れるんですよ」。高橋氏はそう豪語」、「その1億円札こそが「環太平洋リゾート会員権」だった。EIEのリゾートを使える会員権を、億単位の価格で売り出す計画だった。そのため3機の自家用ジェットを購入。豪華な内装の中、シャンパンを飲みながら南の島に飛ぶ。このホテル買い占めツアーに、金融関係者や政治家が同行した。そして、即決に近い形で100億円単位の買い物に融資をしていった」、「2兆円を使って買いあさった施設が、最盛期でも売上高は数十億円……。ということは、巨額の借金の利払いすらできないのでは」、返済のことを考えずに借金するムードも確かにあった。
・『「責任」を負わない高橋兄弟 そして90年代、バブル経済が崩壊する。慌てた長銀はEIEグループに役員を送り込み、資産売却を進めるが、価格暴落でほとんど回収できなかった。結果、名門バンクの長銀は、98年にあえなく破綻し、高橋氏の会社も破産宣告を受け、自身も背任の罪に問われることになる。 だが当時、高橋氏を訪ねて元赤坂のオフィスに行くと、彼は悠然とデスクにふんぞり返っていた。 「あれは、銀行が勝手に貸し付けてきたものですからね」 はあ。でも、借りたのは高橋さんですよね? 当時、兄の高橋治之氏にも会いに行った。場所は築地の旧電通本社ビル。そう。五輪汚職事件で受託収賄罪に問われている電通元専務が実兄である。 治之氏はこう弟をかばった。 「周囲にはめられただけだ」 え、はめられた? だって、銀行から借りたのは事実であり、その経営トップは治則氏では? だが、この兄弟に「責任」という文字はない。今回の五輪の贈収賄事件もそうだ。公職の立場にありながらスポンサー選定で便宜を図り、見返りにカネを受け取っていた。なのに「関わっていない」「公職とは知らなかった」という。 おそらく、スポーツの世界大会を日本に引っ張ってきてやったんだ、という思いが強いのだろう。 スポーツにカネを出せ、と。 誰が払うって、スポンサーになりたい大企業だよ、大企業! テレビ局も、もっと放映権料を出せよ。じゃないと、ほかの局に持ってくぞ。今はアマゾンやネット放送だってあるんだからな! この豪腕によって、五輪やワールドカップなどの国際スポーツ大会は費用が吊り上げられている。つまり、バブル状態なのだ。 これからも、巨額の放映権料をテレビ局が払えず、視聴者である我々は、その都度、アマゾンプライムやらWOWOWやらに加入するかどうか、迷うことになる。 「地上波で流せるように、テレビ局が払えよ」という声もある。だが、問題はそう単純ではない。テレビ局が放映権を買うということは、広告を出している大企業が払っている構図なのだ。だから、商品価格が上がるなどして、結局は国民が「高すぎるスポーツ放映権料」を払うことになる。 その上、高橋氏は各企業にコンサルティング料を5000万円とか7000万円とか払わせている。やはり、バブルってやつが巡ってきてはいけないのである。 【情報提供をお願いします】東洋経済ではあなたの周りの「ヤバい会社」「ヤバい仕事」の情報を募っています。ご協力いただける方はこちらへ』、「兄の高橋治之氏にも会いに行った・・・五輪汚職事件で受託収賄罪に問われている電通元専務が実兄である。 治之氏はこう弟をかばった。 「周囲にはめられただけだ」 え、はめられた? だって、銀行から借りたのは事実であり、その経営トップは治則氏では? だが、この兄弟に「責任」という文字はない。今回の五輪の贈収賄事件もそうだ。公職の立場にありながらスポンサー選定で便宜を図り、見返りにカネを受け取っていた。なのに「関わっていない」「公職とは知らなかった」という。 おそらく、スポーツの世界大会を日本に引っ張ってきてやったんだ、という思いが強いのだろう」、それにしても、兄弟揃って、無責任なのには呆れる。「スポーツにカネを出せ、と。 誰が払うって、スポンサーになりたい大企業だよ、大企業! テレビ局も、もっと放映権料を出せよ。じゃないと、ほかの局に持ってくぞ。今はアマゾンやネット放送だってあるんだからな! この豪腕によって、五輪やワールドカップなどの国際スポーツ大会は費用が吊り上げられている。つまり、バブル状態なのだ。 これからも、巨額の放映権料をテレビ局が払えず、視聴者である我々は、その都度、アマゾンプライムやらWOWOWやらに加入するかどうか、迷うことになる」、「国際スポーツ大会」では「バブル状態なのだ」、とはやれやれだ。
タグ:「和食嫌いの私でも美味しく食べられる料理を作ってくれた。鴨料理やカツオのたたきなどが絶品なのです。ところが、ある日突然、料亭は閉店。料理人もぷっつりと連絡がつかなくなっていました。それが、たまたま道を聞いた従業員の店にいるというではありませんか。偶然の再会とはこのこと。その小料理屋の名が『大黒や』だったのです」、「この日を境に江本氏は大阪に行くたび大黒やを訪れるようになる。江本氏からすれば、板前の料理が目当てだった」、 「江本氏」とのつながりは、今回の記事で初めて知った。最後は距離を置いたとは、「江本氏」はさすがだ。 「住友銀行が、検察・国税との関係が深まるきっかけとなったのは、検事総長だった安原美穂・・・を顧問弁護士に迎えたことだった。安原を囲む現役検察幹部らの親睦の会ができ、それを住友銀行が支えた」、「親睦の会」の費用も「住友銀行」が負担したのだろうか、当時だったらあり得る話だ。 「大阪港に寄港していた豪華客船、クイーン・エリザベス2でのショーだ・・・尾上のおばちゃんが“じゃあチケット買うたるから”と言う。チケットが売れても私が儲かる仕組みではなかったのですが、彼女は店に来ている客たちを10人かそこら連れて、来てくれたんですよ」、「途中から店をとりまく雰囲気が変わってきましてね。何だか事件になるような話がマスコミから流れてきたりしたのです。それで、行きにくくなり、大阪で用があっても大黒やを訪れることはなくなりました」、「江本氏」はバブル崩壊は経験せずに済んだようだ。さすがだ。 「住友銀行により吸収合併された平和相互銀行・・・この合併劇に深く関わっていたのが國重だった。その国重が合併劇の内幕を一部始終を書き残したのが“國重メモ”だ」、「伝説の“MOF担”」による「メモ」とは興味深そうだ。 児玉 博氏による「バブルの狂乱、いま明かされる銀行と権力の「すさまじい暗闘」の全深層」 「大阪港に寄港していた豪華客船、クイーン・エリザベス2でのショーだ・・・尾上のおばちゃんが“じゃあチケット買うたるから”と言う。チケットが売れても私が儲かる仕組みではなかったのですが、彼女は店に来ている客たちを10人かそこら連れて、来てくれたんですよ」、 「毎週日曜日の夕刻には、坪庭に金融マンを集め、尾上は「行(ぎょう)」に入る。頃合いを見計らって証券マンが「〇×株はどうでしょうか?」と聞くと、彼女の口から「この株、上がるぞよ~」とか「売りじゃ」とご託宣が降りてくる」、「ご託宣」が外れる場合も多いだろうが、どうするのだろう。 「江本氏・・・「でも、実をいえば私は和食が嫌いだったんです。酒も飲まないし、寺尾さんに誘われただけなら、彼女の店に行くのは、その一回だけで終わっていたかもしれません」、「江本氏」も無理をして付き合ったのだろうか。 「尾上は、初対面からすっかり彼のことを気に入ってしまう。当時40歳前後の江本氏は188センチのすらりとしたスタイルに端正な甘いマスク。人当たりが良くて話も面白く、おまけに有名人である。江本氏が豪華客船でディナーショーを開くと聞けば、チケットを数十枚も買い証券会社や銀行の幹部らを引き連れて観に行くほどの入れ込みようだった」、大いにあり得る話だ。 「兄の高橋治之氏にも会いに行った・・・五輪汚職事件で受託収賄罪に問われている電通元専務が実兄である。 治之氏はこう弟をかばった。 「周囲にはめられただけだ」 え、はめられた? だって、銀行から借りたのは事実であり、その経営トップは治則氏では? だが、この兄弟に「責任」という文字はない。 そのため3機の自家用ジェットを購入。豪華な内装の中、シャンパンを飲みながら南の島に飛ぶ。このホテル買い占めツアーに、金融関係者や政治家が同行した。そして、即決に近い形で100億円単位の買い物に融資をしていった」、「2兆円を使って買いあさった施設が、最盛期でも売上高は数十億円……。ということは、巨額の借金の利払いすらできないのでは」、返済のことを考えずに借金するムードも確かにあった。 「「日銀は1万円札しか刷れない。でも、私は1億円札が刷れるんですよ」。高橋氏はそう豪語」、「その1億円札こそが「環太平洋リゾート会員権」だった。EIEのリゾートを使える会員権を、億単位の価格で売り出す計画だった。 金田 信一郎氏による「「バブル」に踊らされた経営者に共通する考え方 EIEインターナショナルとバブル紳士に学ぶ」 「店に顔を出すと必ずといっていいほど、尾上のおばちゃんがやってきて私のテーブルについたんです」、「「和食嫌いの私でも美味しく食べられる料理を作ってくれ」る「料理人」が「目当てだった」とは面白いものだ。 「江本氏と、尾上には、どんな接点があったのだろうか」、確かに不思議だ。 超大企業としか取引しない「興銀」の「黒澤洋頭取が、夫婦連れで」、「料亭「恵川」のおかみ・尾上縫」、「を表敬訪問」、との事実は国会喚問で明らかにされただけに、全国に大きな衝撃を与えた。 デイリー新潮「投資額は2兆7700億円 江本孟紀が初めて明かす“女帝相場師・尾上縫”の素顔」 住友との合併に反対していた検察OBで平和相互銀行監査役の「伊坂」を「特別背任容疑で東京地検特捜部の手によって逮捕」とは、単に反対していただけでなく、どこかから裏金でも受け取っていたのかも知れない。「検察」をここまで利用し尽くしたとは、さすが住友銀行だ。 「松下は検事総長、伊藤と面会する。メモはこう記している。〈伊藤栄樹に会った。「金繰りピンチ。早く動いてくれないとパンクしてしまうかも」と言ったら、「わかった」・・・「平和相互銀行の信用不安が株式市場に流れ始め、同銀行からの預金流失が続いている状況を松下は「金繰りピンチ」と訴えた」、「吉永公判部長より自宅から(松下の)自宅に電話あり。「昨日、次席検事と会った。その話では本件大きくならない・・・」、「住友銀行」の情報網は、驚くほどしっかりしていたようだ。 「「騒がしくなる」 伊坂の逮捕は間違いないだろう〉 松下は直接、東京地検に出向き、そこで東京地検幹部と面談。事件の感触を掴み、それを国重に伝えている。このように松下、つまり住友銀行の検察担当は捜査当局に入り込み、情報を入手していた。もちろん、捜査当局側とて微妙な駆け引きはしていただろうが」、反対派をそれを上回る「検察の序列」を通じて潰すとは、凄い工作だ。 「「平和相互銀行」内で合併に強行に反対している勢力の存在だった。その筆頭が元東京地検特捜部の検事で“カミソリ伊坂”とも異名をとった監査役、伊坂重昭だった。伊坂を筆頭に同銀行幹部3人は合併に反対しており、特に伊坂の存在は悩ましかった」、これに対し、「伊藤 心配するな。自分が(検事)総長になるであろう。12月下旬以降、1月か2月には必ずなる」、 東洋経済オンライン これからも、巨額の放映権料をテレビ局が払えず、視聴者である我々は、その都度、アマゾンプライムやらWOWOWやらに加入するかどうか、迷うことになる」、「国際スポーツ大会」では「バブル状態なのだ」、とはやれやれだ。 「スポーツにカネを出せ、と。 誰が払うって、スポンサーになりたい大企業だよ、大企業! テレビ局も、もっと放映権料を出せよ。じゃないと、ほかの局に持ってくぞ。今はアマゾンやネット放送だってあるんだからな! この豪腕によって、五輪やワールドカップなどの国際スポーツ大会は費用が吊り上げられている。つまり、バブル状態なのだ。 今回の五輪の贈収賄事件もそうだ。公職の立場にありながらスポンサー選定で便宜を図り、見返りにカネを受け取っていた。なのに「関わっていない」「公職とは知らなかった」という。 おそらく、スポーツの世界大会を日本に引っ張ってきてやったんだ、という思いが強いのだろう」、それにしても、兄弟揃って、無責任なのには呆れる。 現代ビジネス (その他、その2)(バブルの狂乱 いま明かされる銀行と権力の「すさまじい暗闘」の全深層、投資額は2兆7700億円 江本孟紀が初めて明かす“女帝相場師・尾上縫”の素顔、「バブル」に踊らされた経営者に共通する考え方 EIEインターナショナルとバブル紳士に学ぶ) バブル崩壊